テイルズオブフィナーレ ~未来を形作るRPG~ (モニカルビリッジ)
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幕はまだ上がらない

 人
 人とは何者だろうか。
 太古から紡がれてきた歴史で進化してきた最果ての霊長類か。
 あるいは神が作り出した自らの分身か。
 それともただなんの意味もなく現れた偶然の産物か。
 


 いずれにせよ答えなど何者が持っていようか。


 彼らが何者なのかは彼ら自信も知らないのだから…。
 


 僕の名前はカオス=バルツィエ。

 この星デリス・カーラーン、マテオ王国の東の果ての小さな村に住む農民だ。

 

 現状王国は海を跨いで隣にあるダレイオス帝国と数百年に及ぶ領土争いで険悪な仲にあり、ある程度はおさまったが今もお互いの大陸の何処かで小規模な小競り合いが頻繁に起こっている……らしい。

 

 らしいというのは僕の住む村が敵国どころか自国の王国、いや近くの村ですら滅多に交流がないというほど秘境の地にあり外の情報は全くと言っていいほど入ってこない。恐らく最後に交流があったのはほんの1()0()0()()()()()()()()()()まだ僕は生まれてないけども。

 

 そんなわけで僕の村は農業で自活していけるため何処かで戦がおころうとも「それがどうした?」を貫き通している。一応○○王国の領土圏内の村ではあるが何代目かの村長が税としてお金と育てた作物を無駄に徴収していく王国騎士を毛嫌いして勝手に人里離れた誰も寄り付かない山奥の秘境の地に村人ごと引っ越ししてしまった。

 

 当時はもぬけの殻になった村を見て徴収しに来た騎士達も驚いていたようだ。

 その騎士達も手ぶらでは帰れぬと思い消えた農民達を探すが一人も見つからず、代わりに廃墟の村のエサを漁るモンスターの群れと遭遇してしまう。

 不意をつかれた騎士達は隊列もうまく組ませてもらえずにモンスターの餌食になり逃げおおせたのは当時の隊長だったものだけ。

 土地勘のない隊長は三日三晩闇雲に走り続けてとうとう疲労で力尽き倒れてしまう。

 そこへ廃墟の村に忘れ物を取りに行った村人に見つけられ隊長は保護される。

 

 

 

 ………話が長くなったな。なにを隠そう、モンスターに襲われて村人に助けられたその情けない隊長こそ僕の祖父だよ!堅苦しい家名も祖父譲りさ!

 祖父は村人達が移り住んだこの村で保護されてから無断で騎士を辞めて農民として生活している。

 祖父いわく「王国はもう部隊と村は盗賊かモンスターに襲われて全滅した、と判断しているだろうから今更帰っても俺の席ねーよ」とのこと。

…随分と自分勝手なもんだな。それでも元隊長かよ。

 

 まぁ、なんだかんだ言って僕も祖父が嫌いにはなれない訳でむしろ幼いときから聞かされてきた王国の話を聞いて騎士だった祖父に強い憧れをいだいていた。今となっては祖父よりも騎士だが。

 何一つ変わらず作物を育てて生きるだけの退屈なこの村では聴くことの出来ない世界の話はとても冒険心を掻き立てられる。

 王国にいた頃の簡単な任務の話や敵国との会談ときに戦闘、教皇カタス様の神木収集、巨大モンスターの討伐、闘技場挑戦、盗賊団アジト襲撃、オルウェイ医師の特別依頼…。

 数々の思出話を聞かされたけど中でも王女様誘拐事件の話が一番好きだ。

 戦いが好きって訳ではないけど誰かを守るために体を張れるのはなんかカッコいい。そんな場面一度でいいから経験してみたい。そして本当の騎士になるんだ!

 税の徴収は置いといて。

 

 「いつか、いつか絶対そんな世界に行ってみたい」

 言葉にしてみたら自分の心にしっくりくるようでこれが自分の夢なんだと自覚出来る。

 この想いが僕の気持ちだ、道だ、全てなんだ!

 この胸の高鳴りは何があってももう止められないところまで来てる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「騎士になりたいっていうけどお前魔術使えんの?」

 

 胸の高鳴りが止み代わりに痛みが走る。

 

「騎士ってのはまず単純に強さがあるやつがなれる職業じゃねぇの?」

 

 村に住む同い年か若干年上かもなザックがからかうようにそう指摘してきた。

 そんなことは百も承知だ。

 

「うっせぇなぁ、だからこうして毎日畑仕事しながら剣術磨いてんだろ!」

 

「ンッフフ、剣術磨いてるって、ただ鉈を振り回してるだけじゃねぇか。」

 

「村の大人達も刃物振り回す頭のオカシー奴だから相手すんなって言ってるぞ。」

 

 

 ザックと一緒にからかいに来たその回りの連中が笑いだす。

 

 ………腹がたって集中出来ない。

 

「笑いに来ただけならどっか行けよ!あとこれは振り回してるんじゃなくて素振りしてんだよ!いつか騎士にスカウトされるために!」

 

「だからぁ!おめぇは魔術使えるのかって聞いてんだよ!」

 

 またそこを衝かれる。

 

「………!」

 

「普通、魔術くらい使えるだろ!人【エルフ】ならよぉ!」

 

「体の中にあるマナを大気中の五大元素にに干渉させて起こす術だよ!」

 

「こんなん俺らより下のガキどもでも出来るぜ!?おめぇ本当は亜人【ドワーフ】なんじゃねぇのか?」

 

「ガキどころか世界中の人からモンスターまで少なくとも一つくらいは扱えるはずだぜ!ドワーフは使わねぇだけだろ。」

 

 

 

 そう、このムカつく連中の言う通り僕は(エルフ)として生まれたが人として当たり前に持っている筈の魔力を持っていなかった。

 

 別に先天的になかった訳ではない。

もう記憶の切れ端程度だが物心つく辺りで魔術を使えたような………願望だったかな?思い出せない。それほど昔ということだ……うん。

 

 冒頭で村が秘境の地に引っ越してきたと言っていたけど、当時の村長はただ見つかりにくいだけでここを選んだ訳じゃない。ここには、

 

 

 

 

“殺生石”がある。

 

 

 

 

 

 文字通り触れた生き物を殺す石である。石なんて言ってるが実際は三階建の家くらいはある大きな岩だ。

 この岩の数㎞周辺には野生の生き物やモンスターは近寄ってこない。

 触れるとどうなるか?触ると生物が生きていく上で水や空気、熱よりも大切な“生命(マナ)”が一瞬にして枯渇しこれを失った人は意識を失いやがて生命活動を止めてしまう。

 

 

 

 僕は昔これに触ったらしい…。

 

 当然意識を失い、気付いた村のみんなは僕の運命に悲観していたがその後奇跡的に目覚め、触れしものを殺す石に初の例外が現れた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな大したことのない奇跡の話もここまで、今ではただの障害者だ。

 当たり前のことが当たり前に出来ない欠陥をかかえた人生。

 他の人は簡単に出来るのに僕はどう頑張っても出来ない。

 治す方法を探して歴史上の最高の人体学者オルウェイの医学の本を読んだよ、今自分がどういう状況下にあるかを。

 それによると先天的に体内のマナが稀にごく僅かしかない状態で生まれる人がいるらしい。

 その人は魔法も使えず20歳前後辺りまでは普通に成長するけどそこから10倍のペースで成長し寿命も6()0()()8()0()()()()()()()()()()()()()()()()普通は1000年くらい生きられるのにな。

 

 

 

 

 さて、困ったことに先天的か後天的かの違いがあるがどうやら僕はこの症状が最も近いようだ。

 多分僕のマナはもう寿命手前のよぼよぼしたお爺ちゃんくらいしか残ってないんだろうね。

 

 今年で10歳、後10年前後で僕は周りよりも早くに成長し始める。短いんだろうなぁ、人生。

 

 そんなわけで僕は魔術が使えない。使わなくても生きていけるが多分長生きはできないだろう。症例あるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いてんのか?このゾンビ!」

 

 おっと悪口に反応してしまった。せっかく自分の世界に籠っていたのに。

 

「おめぇが騎士になって剣振ったところで敵を斬る前に精々ウィンドカッターでひき肉になるだけだよ!」

 

「ファイヤーボールで焼肉になるかもよ?」

 

「敵に近寄れずにライトニングで一発だろ!」

 

「そしたら俺がストーンブラストで墓石建ててやるよ」

 

「ハハッ、じゃあ命日にはその墓石にアクアエッジで水ぶっかけにいってやんよ!」

 

 

 ………このクソどもは本当に言いたい放題だな!

 閉鎖的な村のスペース上他に娯楽がないのも仕方ないがだからといってこうイジッ……いや遊びの相手をしてほしいなんて!なんて構ってちゃんなんだろう!

 うんうん優しいカッコいい騎士道な僕もそろそろ本格的に人が斬りたくなってきたよ。おいおい人が必死に耐えてる間に随分と笑ってくれるねぇ。こちとら好きでこんな体質してんじゃねえぞ!ガキィッそこんとこ配慮できねぇのか!おっ!丁度いぃぃぃぃところに鉈があるじゃないか!最近素振りだけじゃなんか物足りなくなってきたからなぁ!いっぺん赤い血が流れるとこッ…ってまだ悪口続けてん#%@◯∞&▽↑↓←→♂♀……!!!!!

 

 

 

 

 

「ウルセェェェ!!!テメェーらにカン、ケーねェーだろ黙ってロォォォォ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 目の前が真っ赤に染まる。もう止められない、もう許さない、この沸騰した熱はコイツラをヤらないと治まらない!

 騎士見習いカオス!ここで悪を討つ!

 心の楔を解放した僕は手元にあった鉈を持ち一直線にザックに突進する!

 

「ウワッ!っなんだこいつ!マジか!!」

 

「ザック逃げろ!」

 

「やっぱりアブねーやつじゃんかぁ!」

 

「バラけろ!散れ!」

 

 ハハッ今頃そんなことに気づいてももう遅い。ガキどもめッ!最初から狙いは大将だって決まってんだよ!!!

 

 

 

 

「おいおいおい!止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ねェェェェェェ!!!ザックゥゥゥゥゥ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




初投稿です。優しい目で見てくれたら嬉しいです。暴走しすぎて書いてる間に主人公がとんでもないことになってしまいました。

この作品は登場した用語で分かる通りあるテイルズオブシリーズに関係した物語をイメージして書きました。



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友とのふれ合い

 惑星デリス・カーラーン、マテオ王国領秘境の村にて騎士を目指して畑仕事をしながら剣術を磨く少年カオス。

 だが彼は騎士を目指す上で必要な力を持っていなかった。




 それでも彼は夢を諦めきれずただひたすらに努力を続ける。


 そんなカオスは今、












 騎士どころか人としての道徳を踏み外そうと、

 凶器の刃を守るべき民に振り上げていた……


 

「痛ってぇぇぇ!あんにゃろうども散々人のこと見下しておいて5人で袋叩きかよ!タイマン張れっつーの!こちとら障害者だぞ?オラッ!!」ガスッ

 

 

 

 結局あの後魔術で反撃され至近距離でしか攻撃を加えられないカオスはイジめッ子5人衆に鬱憤を晴らすことなく返り討ちにあい村の外れにある河原で汚れた服を洗いに来ていた。

 

「ったく!マナが少ねぇって言ってんだからテメーらみてーなガキの魔術喰らってもシャレにならねぇってこと何回言えばわかんだ!?あの豚どもォッ!!」

 

 そう、マナは人エルフにとって寿命の長さであると同時に魔術的攻撃の鋭さと魔術的強度の堅さの面もあわせ持つ。

 単純にマナが多ければ多いほどこの二つは高くなる。魔術的攻撃は攻撃性の密度とその範囲を拡げ、魔術的強度は敵から受ける魔術をある程度緩和出来る。

 

 僕カオスにはそのどちらもなんら縁もない話になるが。

 殺生石にマナをほとんど吹き飛ばされた僕は今や軽めの魔法一つ射つだけであの世に召されてしまう可能性すらある。

 死ぬ間際のラストショット…、なかなか燃えるシチュエーションではあるが僕程度が放った魔術では村の周辺に住む小型のラビット一匹を驚かすのが関の山だろう。当然魔術攻撃も死にかける。

 つくづく嫌な体質だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、やられたのかいカオス?君もよく熱くなるもんだねぇ。あんな連中ほっときゃいいのに。」

 

 

 

 

 そう言って話しかけてきたのは同い年の幼馴染みのイケメン、ウインドラだった。

 昔は体質のせいもあってなかなか周りの連中に馴染めずにいたがコイツだけは僕をバカにしないで一緒にいてくれる最高の友達だ。

 たびたびひねくれた思考に陥る僕だが絶望せずに立ち上がれるのはウインドラがそばにいてくれるからだ。何よりウインドラは

 

 

 

 

「そんな有り様じゃぁ先に騎士になるのは俺の方かもなぁ」

 

 

 

 

 同じ目標を持つ同志でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラが騎士を目指すキッカケは僕と同じで祖父の昔話の影響だ。

 仲良くなったウインドラを家に招き入れ祖父と引き合わせてからスッカリ外の世界に魅了されてしまったらしい。

 閉ざされた空間だからこそ危険があると知ってても好奇心が外に向く。

 この村だけがこの世界じゃない。見渡せば遠く見える山や谷の向こう、この村以外にも数多く存在する街や港、古代の遺跡後から前人未踏の地……あっ、それこの村のことだった。知らぬ間に踏破してたわ。

 そして国をもしくは国民を守るため勇敢に戦う王国の騎士達!今でもウインドラとは祖父が森の木々で作ってくれた模擬刀でよく遊ぶものだ。

 

 

 

 

 多分この村でも騎士になりたいと思ってるのは僕とウインドラだけだろうしね。

 

 

 

 

「まぁ、口は悪かったけどアイツらが言っていたことはついさっき十分身にしみたぜ」

 

 この国の騎士は武術、そして魔術も磨かなければならない。

 戦場では弓や魔術が広範囲にわたって飛び交うため戦闘が始まったらまず撃ち合いが始まり、そこから膠着していきお互いの進軍具合で徐々に近づいて、ようやく武術に入る。

 

 つまるところ、カオスが武術だけで敵陣にダッシュしたら敵軍の集中砲火を浴びることになる。

 軍としてもわざわざそんなやられるだけの騎士は必要としないだろう。囮専属ならともかく。

 

 騎士は直接戦うだけが仕事ではない。後方支援として治癒術や耐性付加といった援護部隊も存在するらしい。適正によってはあらゆる仕事をこなさなければならない。

 

 

 

「魔術はなくても弓兵として戦場に出る道はあると思うけど。」

 

「それも考えたけど弓に関してはどうにも安定しなくてね。」

 

 僕には魔術どころか魔術を使わない弓の才能もなかった。ようするにノーコンである。

 

 戦場に出るにはあまりにもハンデを負いすぎている騎士。騎士になれたとしてもその先は長くは続かないだろう。それでも、

 

 

 

 

 

憧れた夢は止まらない、子供の見る夢だと笑われてもがむしゃらに努力してればいつかは報われる時が来ると信じて突き進んでみたい。

 

 

「カオスは凄いなぁ」

 

「急に何だよ、別に凄くないよ。」

 

 いきなり褒められると照れるがなんなんだ。

 

「いや、やっぱりカオスは凄いと思うよ。自分の不得意を認めながらそうやって頑張り続けられるなんて。」

 

「……」

 

「確かに魔術は出来ないけど、その代わり剣術や武術では多分村のみんなの中では一番強いと思うよ。」

 

 そう言われても僕にはこれしかないからこの長所で抜かされるようなら塞ぎこんで引きこもってるだろう。

 

 「まぁ、引退したとはいえ騎士の家系だしね。じいちゃんが時々剣術稽古つけてくれるし、ウインドラも相手してくれるからだよ。そんなこと言ったらウインドラも凄いじゃないか。」

 

「うぅん、俺はそんなに凄くないよ。剣術じゃぁ、未だにカオスに勝ったことないし。」

 

「何言ってるんだよ、魔術や弓の腕前は村の中では一番じゃないか。それに剣術だって他のやつら相手にしてるから分かるけど僕にとっては一番キツイ相手だよ。」

 

 この気さくで男前のイケメンの友ウインドラは総合的に見れば村一番の優秀なやつだと思う。女の子たちにもモテモテだし。

 

 こんな都会から外れた村ではあるがウインドラが騎士を目指すのはみんな納得するだろうな。ウインドラ自身はみんなに公表してないけど。

 

「俺は弓と魔術が他の人よりほんの少し上手いだけだよ。大人になれば特に目だった長所にもならないと思う。」

 

 相変わらず謙虚なやつだ。自分のことに自信がないようだ。村一番と評判なのに。

 

「こらこら、そんなこと言ったら目立つ短所を持つ僕に失礼じゃないか!」

 

「アッハハ、ごめん。」

 

「おう。」

 

 お互いに気が合う間柄だからこそこんな会話でもなんだか居心地がいい。ウインドラがいてくれるからこそ僕は僕に絶望しないですむのかもしれない。

 

「そういえばウインドラは僕と同じで騎士になるんだよね?」

 

「うん、そのつもりだよ?」

 

「村長のとこのミシガンとはどうなってるの?」

 

「………あぁ、うん。」

 

 ウインドラは苦い顔をする。この話題は失敗したか。

 

 村の空間が閉鎖的だからこそ将来を見越して一部の意識の高い親たちが子供同士を作為的にくっつけようとする許嫁制度がこの村にはあったりする。

 

 ウインドラはその制度で村長に目をつけられ村長のとこの僕たちより少し下のミシガンという娘さんと許嫁関係にある。次期村長との婚姻は凄いことだと思う。

 羨ましいと思うがウインドラなら仕方ない。

 

「やっぱり連れていくんだろ?」

 

「どうかな、まだ分からないよ、先のことだし…。」

 

「これだから何でも出来る何でも屋は将来有望すぎて色々選べて羨ましいぜ!」

 

「茶化すなよ、そんなこと言われても彼女が将来俺についてきてくれるか分からないし、正直村の村長とかは俺には荷が重すぎて想像できないよ。」

 

「だからミシガンとは結婚しないの?」

 

「………………………………………………しないんじゃないかな。」

 

 まぁ、確かに日頃の村長を見てると何でもハキハキとしてみんなを取りまとめてしまう姿は尊敬は出来るがかといってあれの次代を担うのは少し躊躇うな。いや、大分躊躇うな。

 

「ふぅん、そんなもんなんかなぁ?」

 

「そんなもんだよ、それにやっぱり俺は騎士になりたいからさ。村をいつかは出ていくよ、カオスと一緒に。」

 

 ……顔のニヤケが抑えられない!嬉しいこと言ってくれるぜ相棒!

 

「そっか!じゃあこのままじいちゃんとこで剣術稽古つけてもらいにいくか?」

 

「あぁ!!」

 

 

 

 

 これが僕たちの日常。

 

 農業仕事を手伝いながら空いた時間でしたいことをする。仲の良い友達と遊んだり親の仕事を手伝ったり。

 

 僕たちは剣術の稽古。元騎士様から直々に修行を積ませてもらうんだ。将来のことを考えるとこの時間が楽しみで堪らない。

 

 

 

 

 

僕たちはそのまま祖父………もうおじいちゃんでいいや、おじいちゃんのいる僕の家へと向かった。

 

 

 




2話目投稿です。

書いてるとどんどん筆が進みますね。

暖かい目で読んでくれたら幸いかと。


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祖父の教え

 騎士を目指す少年カオスは危うく騎士になる前に犯罪者になりかけたが、なんとか事なきを得る。

 その場をしのいだカオスは友人ウインドラと合流し将来の夢を語る。

 そしてより現実なものとするため祖父のもとへと向かう。


「ほう、また俺に稽古をつけてほしいと」

 

 

 家について早速僕とウインドラはじいちゃんに剣術の稽古のお願いをした。

 

 僕のおじいちゃんは剣術の稽古をいつも快く引き受けてくれる。

 

 おじいちゃんは僕との剣術稽古はいつも楽しみだと言って毎日暗くなるまでつき合ってくれるからこっちもやる気がわいてくるぜ!

 

 「アルバさん、よろしくお願いします!」

 

 「おう、ウインドラも来たのか。ちょっと待ってろ直ぐに支度して二人まとめて相手してやるからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 僕たちは稽古用の木刀を持ち裏庭でおじいちゃんを待つ。

 

「さぁて、今日こそおじいちゃんから1本取るぞ!」

 

「気合い入ってるねカオス、どうしたの?」

 

「今日の僕はいつもの僕と違うんだよ、何でか分からないけど身体中から力が湧いてくるんだ!今日はなんだか勝てそうな気がするんだ!」

 

 不思議なものだ。昼間に魔術で受けた傷辺りから体が熱くなり痛みも感じなくなる。今日に限っては自分が自分じゃないと思ってしまうくらいに感覚が研ぎ澄まされている。これはあれかな?目覚めたかな。フッ…

 

「それって昼間にアイツらにやられて興奮してるだけじゃないの?」

 

 

 ……なるほど、道理ではらわたから1番力が溢れてくるわけだ。この感じは……怒りからか!

 

「イライラする気持ちも分かるけどそれで剣の筋が荒くなって痛い目見ても知らないぞ?」

 

「」

 

 ごもっともだ。

 稽古といっても僕たちがやってるのはウインドラと2人でおじいちゃんに木刀をもって斬りかかり、それをおじいちゃんが剣さばきで防ぎ反撃する、の繰り返しである。

 この稽古の始めた最初の頃は2人してもうコテンパンに叩きのめされたね。まだ最初の一太刀目だけだったのに。

 その頃はおじいちゃんも引退して長いせいか加減を間違えたと言っていた。長い割には凄い動きしてたぞ?

 

 あれから3年たつけど今では2人がかりだが10太刀前後までは防げるようになった。

 ウインドラがいないときは1人だけでおじいちゃんに挑むけど3太刀防ぎきるのがやっとだな。仲間がいるのは本当に頼もしい。そして10歳児にもたまには遠慮してくれませんかねおじいちゃん?気分落ち目の時は泣いちゃうぞ。

 

 

 

 

 

「なんだカオス、今日は機嫌が悪いのか?」

 

 と、ようやくおじいちゃんが準備を済ませてやって来た。

 

「いやいや、今日はすんごい調子よくてねぇ!体がいつもより動くからじっとしてられないんだよ。もしかしたら今日おじいちゃんに初勝利出来るかも、そのときはおじいちゃんごめんね!」

 

「やけに饒舌じゃないか本当に何があった?いろいろとケガしてるみたいだが。」

 

「昼間に村のザック達とちょっとぉ…」

 

「……あぁ、それでか。おいおい、何があったかはだいたい分かるがその鬱憤で立ち向かって来んなよ…。」

 

「まぁ、悪い目にあっても不貞腐れない不屈なところがカオスの良いところでもありますから。」

 

「不屈か。」チラッ

 

「?」

 

「バカなだけじゃねぇか?」

 

「(^-^;」

 

「ほんにん目の前にして何堂々と悪口かましてんだ、

オラァッ!!」ビュッ、

 

 興奮してるからか目の前で文句を言ってくるおじいちゃんに不意打ちの一閃!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 そんな一撃も難なく木刀で受け止められてしまう。

 

「チョロいなぁ、カオス。この程度か?」

 

 ぐっ!腹の立つ挑発である。

 

「甘いなぁ、カオス。この一回を誘われてるとも気付かずにぃ。」

 

 クソッ!自分の迂闊さにも腹が立つ!

 

「チョロアマだなぁ、カオス!そんな君が俺は大好きだぁぁぁ!!(≧▽≦)カモ過ぎて!」

 

「ドゥハァァ!!キレていいのか喜んでいいのか分からねぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「いや完全におちょくられてるじゃないか、そこは素直にキレていいんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、その場には木刀を構えた1人の大人と1人の子供、そして、

 

 

 

 

 

 散々遊ばれて力尽きた少年の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、日頃からあれほど剣を握るときは冷静になれと教えてるだろうにぃ。」

 

 おじいちゃんはそう呆れたように言うが顔は満面の笑みだ。殴って良いですか?

 

「戦場じゃぁ冷静に己の立ち位置を把握するのが長生きの秘訣だぞ?さっきみたいに少しつつかれた程度で躍起になってるようじゃぁ騎士としてまだまだだな。」

 

 時間がたって頭が冷えたのかな。今日1日を振り返ると酷い有り様だな。ちなみにウインドラはもう家に帰った。今はじいちゃんと家で晩御飯の時間だ。

 

「騎士に限らず外にいるモンスターと戦う猟師や冒険者なんかでも大切なことだぞ?感情を抑えきれずに突っ走ると必ずその先の落とし穴にハマることになるぞ。」

 

 もうこの有難いお言葉はは耳タコである。頭に血がのぼっていたせいで忘れていたが。

 

「でもおじいちゃん、やっつける敵を前にして冷静になれって無理じゃない?僕この間森でボアチャイルドに逢ったんだけどちょこまか動きまわって突進してくるから冷静になんてとてもなれなかったよ。あれがボアだったらと思うとやっぱり無理だよ。」

 

「なんだ、また森に行ったのか?あそこは大したモンスターはいないとはいえモンスターはモンスターだ。調子こいて村の警備隊の俺のマネしてると大ケガするぞ。」

 

「ウインドラもいたからヘッチャラだったよ。」

 

「子供が2人になったところで安全性が万全になる訳じゃないんだよアホ。それに危ないのはそういうことじゃねぇ。」

 

「え?」

 

「ハプニングってのは突然起こるんだ。この場所にはこういう生き物しかいない。なら大丈夫なんて決めつけた考えだとまさしく大ケガ確定だな。」

 

「何でだよぉ、森のボアチャイルドやラビットくらいなら僕達でも倒せるよ!」

 

「ならボアは倒せるか?他にもあの森ではベアが生息してるぞ。」

 

「うっ」

 

 言葉が詰まる。ボアチャイルドは僕よりも小柄で突進されてもすっごく痛いがなんとか対処できるモンスターではある。

 だがボアに関しては前に1度村近くでおじいちゃんが他の警備隊の人と力をあわせて倒したやつを見たことあったがそのボアはじいちゃん達よりも高く、軽く大人5人は入るんじゃないかというくらいの胴廻りもしていた。

 

「ここで答えられないようなら森には入らずにもう少し大人になるまで村の中で稽古をつけてた方がいいぞ。第1ボアなんて出たら大人でも1人じゃあ簡単には倒せん。」

 

 そうなのか、出会わなくて良かった。

 

「それに俺が本当に言いたかったのはそう言うこっちゃねぇ。」

 

 ん?違うのか。

 

「モンスターってのは森にでも草原にでも砂漠にでも海でも空にでもいるもんだ。人らと同じで世界中どこにでもいる。いろんなとこを住みかにしてるが中には時季によって住みかを変えるやつもいる。この村の連中が前の場所からここに移り住んだようにな。」

 

「ヘェー、そんなモンスターがいるんだ。」

 

 世界も広ければそんなモンスターもいるんだなぁ、そういうのは知らなかった。ってかちゃっかり村のみんなをモンスターと同列にしてなかったか。というより村のみんなはおじいちゃんを含めた王国騎士の徴収が嫌で隠れすんでるんじゃなかったか?よく村のみんなはこんなアホ騎士を助けたね。

 

「幸いこの村の周辺は年中、気候差が殆どないからそういった例は聞かないが確実にないとは断言できない。あり得ねーとは思うが今この瞬間にも村の周囲の草原や森にドラゴンが来ることだってあるかもしれないんだ。」

 

 ドラゴン。今まで1度も見たことはないけどおじいちゃんは過去に騎士の任務としてドラゴン討伐に参加したことがあると言っていた。なんでもこの村の殺生石よりも大きかったとか。よくそんな狂暴そうなやつの討伐に参加出来たね。したっぱじゃなかったの?したっぱだからか。

 

「そこんとこ頭にいれとけよ?ボアやボアチャイルドならまだまずくなったら逃げればいいがそうさせてくれない執念深い手強いモンスターに遭遇したら頭の中真っ白になって動けなくなることもあるからな。そう言うときこそ落ち着いて判断しなきゃならん。」

 

「けどおじいちゃんたちは魔術があるから大丈夫じゃないの?」

 

「モンスターをなめたらいかんぞ?同じモンスターでも中には魔術が使えるやつもいる。生物である限りマナを保有してるから気を付けとけ。滅多にいないがな。」

 

 確かに森でときどき遭遇する強い個体のワイルドラビットが水の魔術攻撃アクアエッジなんか飛ばしてくるときがある。ただでさえ人より強いのに魔術まで使われたら勝てないじゃないか。

 

「そんなのが出てきたらいつもおじいちゃん達はどうしてるの?」

 

「罠を張ったり、隠れながら狙撃して攻撃する。そしてあらゆる手を使って倒す。モンスターは単純な力押しを武器にして襲いかかってくるだろ?俺達人はそういった手合いを相手にするときは知略を張り巡らせて対応すんのさ。弱ったら全員で集団攻撃で止めを刺す。」

 

 途中まではかっこよかったけど最後はようするにリンチな訳か。それってなんだが

 

 

 

 

「なんかズルじゃない?みんなでいじめてるみたいでさ。騎士道に反するよ!」

 

 

 

 それを聞いたおじいちゃんは

 

「………」

 

 一瞬僕が何をいっているのか分からないという顔をして見つめてきた。理解出来なかったのか?

 

「だからぁ、たった一匹をみん「んフッ!!ッッッァアッ!ハッハッッッッハハッハッハッハッハッwww!!!!」!!」

 

 僕がもう一度言おうとしたら突然おじいちゃんが笑いだす。どうしたんだ?

 

「ハッハッハッw!!モンスター相手にも騎士道を持ってくるなんてお前ぇッw!!本当にすげぇなぁ!筋金入りだわwもしかして森でウインドラと一緒に行ってるときもボアチャイルドとかに正々堂々と一対一の決闘挑んでるのかw?」

 

…………なるほど今これはバカにされてますね?そうなんですね?

 

「なんだよ!当然だろ!男と男の闘いなんだろ!?わりーかよ!?」

 

 アンタから聴いた騎士の戦いのための騎士道精神だよ!

 

「プグフッッフッフw!!いやいやおもしれーやつだな!本当に!純粋に純水ッつーかぁw!聞き齧りをそのままスポンジみたいに吸収しやがる!根が優しいからそういう感じになっちまうんだろうなぁ…w。」

 

このジジィ、最後までずっと笑い続けてたな。そんなにおかしいことだろうか?もしかして今まで変なことしてたのだろうか。なんだか恥ずかしくなってきた。

 

「なぁカオス、そういう騎士道ってのは公式の試合や決闘なんかでのお互いがルールを決めそれを認めた上でのものなんだ。野生のモンスターなんかにそんなの分かると思うか?」

 

「そんなの…!」

 

 ……言われてハッとなる。

 

「野生のモンスターが俺たち人を見つけたら草食のモンスターならまず縄張りから追い出そうとする。肉食のモンスターなら俺たちを問答無用で狩りにくるぞ。そこに今から貴方と戦います、いいですか?はい、いいえなんてあるわけないだろw?騎士と騎士の闘いならそれでいいがモンスターに騎士道なんてねえよw!アイツらは腹が減ってるから襲ってくるんだぞ?」

 

「くゥゥッ!!」

 

 今まで自分と騎士道しか見えてなかった。笑われて悔しいがその通りすぎて言い返せない。理由は違うが僕は家でも外でも笑われるようだ。

 

「だって…!」

 

「そんなお前のその槍のように真っ直ぐなとこが俺やウインドラは気に入ってんだけどな。」

 

「!」

 

 からかっていると思ったら真顔でそんなことを言い出す。急になんだ。止めろよ笑われて頭にきていたのに怒れなくなるじゃないか。

 

「剣術も真面目に取り組んでるみたいだからみるみるうちに上達するしな。」

 

「本当!?」

 

「あぁ、まだまだ弱っちぃが最近は俺も相手すんのがしんどくなってきたぞ。そろそろ本気で相手しないとそのうち1本とられちまうなぁ。」

 

「…へへっ!」

 

「そんでどんなに怒っててもほんのちょこっとおだてただけで機嫌直しちまうお前のその単細胞なとこも良いとこだな。」

 

「よせよぉ、褒めても嬉しくねぇよ(*´∀`)」

 

 そう言いつつも顔のニヤケが治まらない。

 

 

 

 

 

 

「…将来が心配になるな、今のはそういう反応するところじゃない筈なんだが。」

 

「え?なんか言った?」

 

「いや、何でもない、気にするな。そろそろ飯にするか大分話し込んでたしな。」

 

 そういえばご飯食べてなかったな。話に夢中で忘れていた。

 

「明日も畑仕事あるから飯食ったら歯ぁ磨いて早く寝ろよ?」

 

「はぁーい。」

 

 

 そういって僕は長話で少し冷えた晩御飯を掻き込む。



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その娘、ミシガン

 騎士を目指す少年カオスは友人ウインドラとともに祖父の剣術指南を受けるがやられてしまう。

 その夜カオスは戦闘における基本的な心構えと世界中に生息するモンスターについて話したところで就寝。

そして朝日課の畑仕事にて、


「ねッ、ねェ!…カオスくん。」ボソッ

 

 日課の畑仕事の手伝いの時間、今は皆で昼食休憩をとっているのだがそのタイミングで1人の少女が話しかけてきた。

 

「今ァ…ちょっといいかな?」

 

 そう言って話しかけてきたのは村長のとこの女の子ミシガンだった。

 

 

 

 彼女の顔を見た瞬間一気に顔どころか身体中が熱くなって緊張して震えてしまう。

 

「あッ、!うっうん…な、にィかな!?」

 

 ヤバイ、まともに喋れない!何なんだこれはッ!!?

 

「えっと………。」ジリッ

 

 おっと、不審すぎて警戒させてしまったか。泣きそうな顔をしている。一端、落ち着かなければ!

 

「ンンッ!オッホン!!………どーしたんだい?おっ、おにーさんに何かよーかい?」ハァハァ

 

 フッ、言えたぜ!若干棒読みだった気がするが会話は成りたつ筈だ!顔を見て喋れなくなるなら顔をみなけりゃいいんだ!働くのに忙しいイケメンは女の子なんかにゃ興味ないアピールだぜ!今の爽やかにクールだったろ!?ねぇ!!

 

「あっ、あぁあぁの!……私ィ、ソッチじゃないィィ…。」ボソボソッ

 

 分かってるよ!分かってて顔見ないようにしてんだよ!!作戦が通じないよ!!!どうすればいいんだ!

 

「ごッ、ゴメンね!ち、よっとサギョウにボットウしてたよ!」

 

 とりあえず謝罪と仕事人アピール作戦決行だ!これでなんとか持つだろう。

 

「え…?今ぁ、お昼ご飯…じゃない…のぉ?」

 

 オフッ!流石ミシガンだ!どんな作戦も1発で見破られてしまう!あの村長のとこの娘さんなだけはあるぜ!村長様々だなぁ!

 

「よく、わっ、わきゃっ…ね!」

 

 渾身の作戦を見抜かれてもう満身創痍である。

 

「おっ、おにぎりィ、…持ってた、からァ!」

 

「おにィ!?うぇっ!?…あッ…うん、ソンだね!」

 

 何がソンだよ!作戦が筒抜けじゃねぇか!もうこれ詰みだよ詰み!昼飯時だから作業してるわけねぇじゃねぇか!

 

「………」

 

「………」

 

 重く冷たい沈黙。たまに大人とかが怖い顔してこんな空気出してるときあるけど子供でも出せるもんなんだね。で?

 

「ええっとぉ?」

 

「!う、うん!」

 

「……………………………………何か、ご用でございますか?」

 

 重い空気になってようやくまともに喋れた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程のやり取りでいろいろと手こずったが何とかミシガンに質問できた。頑張った御褒美に今日はおじいちゃんに何か美味しいものを作ってもらおう。

 

「んンッ!…えっ、えぇとぉ!」アセアセ

 

 ミシガンが吃りながらもアマァい声で何か言おうとする。可愛い!

 

「うッ、うんとねぇ…!」モジモジ

 

「う、うん!」

 

 何だ?ミシガンはあの村長とは正反対の人見知りで臆病な性格をしてると日課のミシガンウォッチングで調査済みだがこんなミシガンは初めて見る。可愛い!

 

 

 

「………ごめん、なさいィ~…(T_T)」メソメソ

 

「あっ!いや、コッチコソゴメンね!!」

 

 謝るなよ!ミシガンは何も悪くないじゃないか!悪いのは全部僕だ!僕が悪いからいけないんだ!可愛い!

 

「実はァ、」オドオド

 

 ん?もしかしてもしかするとこの挙動具合からして俺の時代がスタートする前兆じゃないか!?

 

「あっ!大丈夫だよ!?焦らなくてゆっくりでいーからね!」

 

 時間はまだたっぷりある。なんならこのまま夜になっても構わない。ここまで接近してしかも自然(?)な会話をするなんて初記録だ。僕は今日という日を忘れない。僕の物語はここから始まるんだ!可愛すぎる!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ……知らない?」

 

 

 

 

 

 僕の人生は今終わったかもしれない。憎いぜ可愛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやぁー、なんだったんだろうなぁーさっきまでの胸の高揚感はー。気のせいだったのかなぁー。てっきり体の中で炎でも噴いてるんじゃないかと思ったのになぁー。今じゃ冷たすぎて氷でも入ってんのかなぁー。はぁー帰っていいですか?

 

 そうだよ失念していたよ。ミシガンはウインドラの許嫁じゃないか何舞い上がってんだよ現実見ろって。

 

「あっウインドラね、うんウインドラかぁー。」

 

「今日はァ、ウインドラいないのぅ?」

 

 ……さっきは絶望しすぎて気付かなかったけどさりげなく呼び捨て…だと!?あの野郎、結婚しないとかほざいておきながらチャッカリ仲は進めてるんですね!

 

「そっ、そっかぁ、ミシガンちゃんはウインドラと仲がいいもんねぇ…。」

 

「!………(//////)」

 

 なっ何だこの破壊力は!!今までこんな凄まじい力は見たことがない!これが………愛か!!!

 

「ぼぐもぉッ、キョッ、キョーはみてないよぉー。」

 

 いかん、さきほどの攻撃でまた調子が狂いだした!

 

「……?そぅなの?」ボソッ

 

 凄ぇなぁこの一挙手一投足爆弾、僕の急所を的確に破壊してくる。

 

「ん!」

 

「じゃあ、……カオスくんまた、ね。」

 

 そう言って僕のメガミッ、………じゃないミシガンは去っていく。

 

「はぁ~、だよねぇ。ウインドラだよねぇ時代は。」

 

 初恋は叶わないって言うしなぁ。これで僕も大人の階段を1つ昇ったと思えばいい経験だぜ!

 

 

 

 

 

「おぉ~い!アルバさんとこのボウズゥ!そろそろ飯の時間終わるからさっさっと食っとけぇー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 畑の作業も終わり、今日も夜までおじいちゃんと剣の鍛練でもしようかと家に帰りつくとウインドラが先に待っていた。

 

「あれ?どうしたんだウインドラこんなところで。そういえば今日畑にいなかったけどサボり?」

 

 おかげでミシガンに話し掛けられたじゃないか有り難う!

 

「やぁカオス昨日ぶり。ゴメンね畑仕事出れなくて、今日は父さんに連れられて村の警備隊の見学に行ってたんだ。」

 

「あぁ~それでかぁ。」

 

 僕は将来騎士を目指していることを村でも公表している。大半は白い目で見られるが。

 

 そしてウインドラは同じく騎士を目指しているが村のみんなにはぼかしている。ウインドラのお父さん、ラコースさんが村の警備隊の副隊長をになっているからウインドラもそれを継ぐもんだとみんなは思っているらしい。

 

 ちなみに警備隊の隊長はおじいちゃんだったりする。それで僕たちは隊長副隊長の家の子供どうしで仲がいいのかもね。恋敵だが。

 

「いつか来るものだとは思ってたよ。それが今日だったんだ。」

 

 そのわりには何だか暗いなぁ、どうしたんだ?

 

「何かあったのか?」

 

「え?」

 

「顔に申し訳ないって書いてるぞ?」

 

 そう言われてウインドラは驚いていたがやがて隠しきれないと悟ったのか口を開く。

 

「父さんもみんなも何だか俺が大人になったら警備隊として働くことを期待してるみたいなんだ。だから今日みたいに見学に来いってついていったけど、俺騎士になりたいんだ!………だから期待に応えられないのに良いとこ取りしてるみたいな気分で申し訳なくて…。」

 

 あぁ~、なるほどコイツはいかんせんこの村では子供とはいえ他より出来すぎるからなぁ。注目の的なんだろう。警備隊も人材を欲してるからウインドラを狙ってる筈だ。そのうえミシガンとも将来結婚する可能性が1番高いから村長候補でもある。おまけに農作業も器用にこなすし。選り取り緑という訳だ。

 

 多才な人材だからこそ皆の視線を独り占めしてるがその視線がウインドラを期待という見えない縄で縛っているのだろう。そんな視線受けたことないから分からないけど受けている本人を見ると苦しそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そんなちいせぇこと気にすんなよ!」

 

「え?」

 

「ウインドラがなりたいものやりたいことなんて誰かが決められるものじゃないだろ?誰かの期待なんてなんの効力もねぇよ!」

 

「カオス…。」

 

「そんなに回りの期待に応えられなかったときのことが恐いなら僕がこう期待してやるよ!僕はウインドラはウインドラが将来なりたいものに自信をもってなれると期待している!これでいいだろう!」

 

「…………」

 

「……(ドヤァ)」

 

「ウッフフ!何それ!言葉遊びみたいw!」

 

「おいおい、僕今結構良いこと言ってなかった!?ねぇ!」

 

「フフッさぁてねぇw」

 

 

 

 

 

「騒がしいと思ったら随分と恥ずかしいことを大声で叫んどるガキがいるな。ちゃあんと周りに人がおらんこと確認しないとダメだろう。」

 

 家の中からおじいちゃんが出てきた。

 

「アルバさん、先程はどうもありがとうございました。いい経験になりました。」

 

「おう、またいつでも見学しに来い!」

 

「遅いぞ!おじいちゃん、遅刻だぞ!」

 

「おうおう、粋のある孫だなぁ、こっちはさっきまでモンスターの警戒任務で疲れてんのにぃ。」

 

「態々仰々しく言うなよ。どうせ草原や森を見て回って帰ってきただけでしょ?」

 

「このバカタンがぁ…、そんな遊びに行って帰ってきたみたいに言うなよ。これがどれ程大事な仕事か………分かってねぇんだろうなぁ」チッ

 

「そんなことより早く稽古しようぜ!日が暮れるよぉ!」

 

「分かった分かった、後でな。」

 

「早くしてよぉ!?」

 

「おう、 あっそうそうそういえばさっき帰ってくるとき聞いたんだが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おめぇ今日、なんか畑で村長のとこの嬢ちゃんに変なことしてなかったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 せっかく忘れていた黒歴史を思い出させんなよ。

 

 

 



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なにゆえザック

 騎士を目指す少年カオスは秘かに気になっている女の子ミシガンとお近づきになるも即座に失恋する。

 その後将来に板挟みで気落ちするウインドラを励まし彼の憂いを晴らしてみせた。

さてそれから、


 ここ最近ウインドラが畑の手伝いに来ない日が何度かあった。多分例の警備隊の見学とかだろう。

 

 その度にミシガンが話しかけてくるようになって僕は幸せです。こんなに幸福で良いのかしら?お空のお星さまになった、お父様お母様。僕はもうあなたたちと再開する日が近いのかもしれません。

 

 いやいやまだ王都に行って騎士になるまでは行けないな。幸せすぎて夢を忘れかけたわ。だってミシガンちゃん可愛すぎるんだものね。清楚というかおしとやかというか…。それでいて、

 

「でね?そしたらウインドラが…」

 

 

 

 

 恋する乙女だもの…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どぉしたのぉ?カオスくん?」

 

 あれから何度か話してるうちに心を開いてくれたのか最初の吃りも少しずつ無くなっていった。アレはアレでよかったのだが…。

 

 

 

 そういえば、ミシガンについては僕の人生において重要人物なのに大した話をしてなかったな。今更恥ずかしいけど別にいいよね。僕の大切な人さ。あとは分かるだろ?

 

「いや、別に何もないよ、ちょっと考え事してただけだよ。大丈夫だからね。」

 

 大切な人と言ったな!アレは願望だ!このままだと彼女とは全く浮いた話もなく終わりそうだよ。父さん母さんアンタ達のとこへはまだまだ行けそうにないよ!後100年くらいかな?短いぜ。

 

「そう、ならいいけど…。」

 

 しかしすっかりなつかれたなぁ。おかげで僕の方も楽に話せるようになったよ。こうなれるんだったらもう少し早くに話しかけられとくんだったよ。

 無理か。ミシガンから用事がないとね。こうしてお昼の空いた時間で話すことが出来るのもウインドラと繋がりがあってのことだし。

 

「もぉ~、また上の空!ちゃんと聞いてるのカオスくん!!」

 

「あぁっと!!ゴメンゴメン、ちゃんと聞いてるよミシガンちゃん!怒らないで下さい!」

 

 いかんな、年下の美幼女に完全にお熱のようだ!相手は幼女だぞ?僕も幼児なら大丈夫かな。それでいこう採用で!

 

「分かってるよウインドラが最近忙しくてなかなか遊べないってことでしょ?」

 

「そうなの~、お野菜や木の実のシューカクとケービタイのお仕事で夕方からヒマな筈なのになかなかお家に帰ってこないから遊ぶ時間が全然ないの!」

 

 あぁ、その時間帯は僕と一緒におじいちゃんと稽古つけてもらってるから、そりゃぁ、遊べないわな。ハハッ、ゴメンねミシガン。

 …………おっと、そんなどうでも良いことよりも今聞き捨てならないことを言わなかったか?

 

「え?お家に帰ってこない?どういうこと!?2人は一緒に住んでるの?もう許嫁の話って婚約が結婚して離婚に遺恨なの!?」

 

 慌てて喋ったせいで自分でも何言ってるのか分からなくなってきた。後半だったら嬉しいな。

 

「んとね~、お父様がラコースおじ様とお友達だからぁ、たまぁ~に泊に行ったり来たりしてる~。」

 

 ハァハァ、相変わらずの舌足らずな喋り口調に思わずまたドキッとさせられる。全く幼女は最高だぜ!これだから幼女は辞められない!

 

 そっかぁ~、嬉しいなような哀しいような気分になるなぁ。割と順調なんですねウインドラさん野郎。

 

 そんな和やかな空気でミシガンとお話してると

 

 

 

 

「おい、死に損ない!なにヘラヘラしてんだよ!」

 

 

 

 

 お邪魔虫さんがお邪魔しに来た。ザックだ。今日は1人か。

 

「今ミシガンちゃんと大事な話してて忙しいんだよ。あっち行っててくれる?」

 

「おめぇ、女子なんかと話しててかっこわりぃw友達いないもんなぁ!」

 

 何だよまたつまらない絡みかよ。お昼休憩は有限なんだ、後にしてくれる?ミシガンちゃんも人見知りモードじゃないか、恐がらせんなよ。

 

「うんそうなんだぁー。分かったよー。ミシガンちゃんあっちで食べよっか!」

 

「う…うん。」ボソッ

 

 そういって僕達はザックをその場に残してお弁当を持って去ろうしたが、

 

「待ッ、待てよ話の途中だろ!?逃げんなよ!」

 

 まわりこまれてしまった。その話の先って本当に言う必要性あるの?

 

「忙しいって言ってるだろ?友達じゃないっていうなら話しかけんなよ。」

 

 これ以上ミシガンとの限られたお食事の時間を阻害するといい加減僕も怒るぞ?

 

「負け犬が偉そうに女の前だからってかっこつけんじゃねぇぞ!?」

 

「この間は結局僕1人に5人だったじゃないか!フェアに戦えよ!それも遠くからストーンブラストとか痛かったぞこんチクショー!!」

 

「そんなの魔術を使えねぇお前が悪いんだろーがぁ!それで騎士騎士言ってるからバカにされんだぞ!?」

 

「騎士目指すのが悪いかぁ!お前にゃ関係ねーだろォ!!」

 

「ヒッ!」

 

 おっとマズイな、白熱し過ぎて後ろのミシガンが怯えてる。抑えなければ…。

 

 

「……」

 

「……」

 

 ん?ザックも黙ってしまったぞ?どうした?

 

「とっ、とにかくミシガンはこんなムノーよりも俺…俺たちと一緒にいた方がいいんだよ!」

 

「はぁあ!!?」

 

 何だよその暴論は!いきなりの無根拠な発言に大きな声が出てしまった。

 

「コッ、コイツと一緒にいると変なやつって思われるからお、おう、俺と飯食わねぇか?ミシ、ミシガン……。」

 

 おい……おいおいおいおいおいおいおいオオォイィィッ!!!友達少ないって言ってんだろ!?これ以上孤立させんなや?だいたい何だよその吃り具合はミシガンの真似してんなら全然可愛くねぇぞ!?

 

「あっ、おっ俺ザックって言うんだ……よろしくぅ……。」

 

「……そっそう。」キョドキョド

 

 しかもちゃっかり自己紹介までしやがってぇ!!さっきまで女子のことや僕のことをさんざん悪く言ってたのに!一体何が狙いなんだ!その殊勝な態度はどこから出てくるんだ!?

 

「恐がってるだろ!?アッチ行ってろって!」

 

「うるせぇ!、お前みたいな魔力障害者こそ消えろ!」

 

「何だとォッ!!?」

 

「やんのかァッ!!」

 

 僕はお弁当をおいて仕事用の鍬を構える。

 

「いい加減お前の嫌がらせにはうんざりなんだ!ケリをつけてやる!」

 

「ムノーのくせになれるわけねぇことほざくお前の方が目障りなんだよ!!ファイヤーボーッ「騒がしいぞッ!ガキどもぉッ!!畑で火ぃつけんなぁっ!!火遊びするんなら他所でやりやがれぇっ!!!アクアエッジィィィッッッ!!」!!?」

 

 

 

 

 

 ザックとヒートアップしてたら近くにいたおじさんに文字通り水をさされてしまいそのまま追い出された…。僕が火を出した訳じゃないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いッ、つつー!、派手に転ばされて痛いんだけど!お前のせいで!」

 

「ふざけんなよ!おめぇが粋がるからからだろうが!!」

 

 畑仕事を追い出されてから前にザックたちにやられたときに来た村の河原に来ている。水の魔術を浴びて派手に転んだから服がまた汚れたので洗いに来たのだ。

 

「だぃじょぅぶぅ?」オドオド

 

 2人で服を洗ってたら一緒に付いてきたミシガンが心配そうに聞いてくる。フワァー、なんだこのカワイイ生き物はぁ!

 

「ァッ、アッハハハハ!!大丈夫だよこんくらい!いつもコイツらにやられてるから平気さ!」

 

「ソレ大丈夫なのぉ?」

 

 そういって首を傾げるミシガンの愛らしさには先ほどうけた擦り傷の痛みすら癒してしまうほどのものがあった。

 

「でもいちおー……ハーストエード!」パァッ

 

 そういってミシガンは僕に治療魔術を掛けてくれる。擦り傷がみるみるうちに治っていく。あぁー効くなぁ~この感じいいねぇ!疲れ果てた身体中が暖まって気持ちぃ~なぁ~。このまま眠りそうだよ。

 

 魔術効果がきれて目を空けるとミシガンが僕に手を向けながら一生懸命力んでいる。まだかけようとしてくれているのかな。

 

「んんん……!」フルフル

 

「………」ボトホトッ

 

「おい、鼻血出てんぞ。」

 

「え!?」

 

「なっなに!?もしかしてハーストエード失敗?」アセアセ

 

「ぁ、んにゃっ!そんなことはないよ!ちゃんと効いてた効いてたから!」

 

 おっと、あんまり可愛い仕草してたからついつい…。それにしてもハーストエードかぁ、相変わらず発音がちょっとへ……個性的だよなぁ。正しくはファーストエイドだった筈だが。けど傷も治せてたし僕の鼻にもダメージ与えてたからちゃんと成功してたよな(意味不明)。可愛いは正義で正しいんだよ!察しろ!

 

 

「……」

 

 ふと視線を感じて顔をあげるとザックが羨ましそうにこっちを見ていた。仲間になりたいのかな?でもさっきは友達じゃないって言ってきたしどうしよっかなぁ~。

 

 ………仕方ないなぁ、あんまりセコいこと言うのも印象悪いしなぁ。

 

「ミシガンちゃん、あっちのザックにもハーストエードかけてあげてくれる?」

 

「え?うん、えっとォ分かったぁ。」キョトン

 

「なッ!?おまッ!!?」

 

「我慢しないで受けときなよ。痛むんだろ?」

 

「ハーストエード!」パァッ

 

 ザックにも治療魔術がかかり傷が癒されていく。

 他人の受けているところはあまり見たことがなかったがこんな感じなんだな。気持ち良さそうだ。顔が真っ赤だし。

 

 そして魔術が終わり再びミシガンの力み姿。最高ですね!

 

「んんん…!」フルフル

 

「……」ボトホトッ

 

「おい、お前も鼻血出てんぞ。」ボトホトッ

 

「お前こそ」ボトホトッ

 

「え!?また失敗!!?」

 

 

 

 

 フフッ確信したぜ!どうやらコイツはお仲間のようだぞ?

 

「ザックまさかお前…。」ニヤニヤ

 

「!?」

 

 一瞬驚いた顔をしてから真っ赤になったザックが僕の口を手で塞いでくる。

 

「バカッ言うな!」

 

「おヒッ!!ほら離せッ!」

 

「?」キョトン

 

 何だよ今回はそういう訳かよ。

 要するに好きな子の気を引きたくて自分を上げて僕を引き立て役にしてミシガンに絡みたかったわけね。

 最近仲がいい僕とミシガンが話してるときの方が話しかけやすいもんなぁ。思春期男子め。

 僕もミシガンに初めて話しかけられるまではそうだったから分かるよ。

 

「……いいか?余計なことは言うなよ!」

 

「余計なことって?」

 

「だからァッ!分かってんだろォッ!?お前と同じだよ!」

 

 

 

 

 

 

「ふぅーん?同じねぇ。一緒にされたくないなぁ。」

 

「何がだよ!お前だってミシガンのこと……!」

 

「わたし?」

 

「………ッ!!」

 

 頭に血がのぼってたせいでミシガンを忘れていたのだろう。

 危ないとこだったな。そうかっかすんなよ。

 

「ちょっとミシガンちゃん離れててくれるかい?ザックとこれから簡単なゲームをしようと思うんだ。」

 

「?また…ケンカじゃないのぉ?」

 

 不安そうに問いかけてくるミシガン。本当可愛いなぁ、抱き締めて安心させてあげたいぜ!

 

 

 

「大丈夫だよ、安心して!これからやるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



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敗北の糧に得た経験

 騎士を目指す少年カオスは日課の畑仕事中ミシガンと交流を深めていたがザックによってその場から追い出されてしまう。

 その後ザックの日頃の絡みをなんとかしたいと思うカオスはザックに決闘を挑むのだった。


「おい出来損ない何のつもりだよ!決闘ってよぉ!」

 

 

 

 

 

 日課の畑仕事をザックと一緒に追い出された僕はザックに決闘を挑む。

 

 

 

 

 

「何のつもりかって?いい加減下らないお前とのじゃれあいを終わらせるつもりだよ。」

 

 毎度毎度集団リンチ食らうこっちの身にもなってみろ!あんなもん1回でいいんだよ1回で!頻繁にはいらん!

 

「それで受けるのか受けないのか?」

 

「…グッ、クハハハハハァ!お前今までどんだけ俺らにやられてきたと思ってんだよ?」

 

「……」

 

「まさか毎日やられたことを寝て起きたら忘れてんじゃないだろうなぁw今までファイヤーボール一発あたっただけで終わるだけのお前が何でこのタイミングで決闘なんだよw!?」

 

「それは今日が色々と都合が良いからかな。」

 

「ハァ?何がいいってんだぁ?」

 

「で?」

 

「どうせ決闘っていっても魔術なしとかそんなアホなこ「ありだよ。」。」

 

「決闘始まったら相手を魔術でもなんでもいいから攻撃して戦闘続行不可能にすること。時間はもうすぐ日も暮れるから10分でいいかな。いつもお前が僕にやってることだ簡単だろ?」

 

「………いいのかよ?魔術が使えないお前じゃぁそのルールだと不利にしかおもえねぇぞ。」

 

「僕から提案したのにルールを翻す訳ないだろ?騎士道精神に反する。」

 

「何か企んでんのか?そこら辺にでも落とし穴掘ってるとかか?」

 

「今日この場に来るかどうかも分からないのにそんなもの用意できる訳ないだろう?それに魔術を使わずに直接叩きに行く僕の方がそういった罠に引っ掛かりやすいと思うけど?」

 

 疑り深いなぁ、それもそうか。

 今までカモにしてたオモチャが自信満々に刃向かってくるんだもんなぁ。

 何かないかと不審に思っても当然か。

 特にタネも仕掛けもないんだが。

 

「ハッキリしろよ。ミシガンが飽きて帰っちゃうぞいいのか?」

 

「!」

 

 今この場には仕事場を追い出された僕達の他に村長の娘さんのミシガンが来ている。

 最近ウインドラを通じて距離が縮まってたんだが今日はザックの横槍でオドオドしっぱなしだ。そんな仕草も天使のようだ。

 

 さっきもケンカの空気を感じて震えてたんだけども会話だけしかしない僕達を見て安心したのかハシっこの方で小さな虫を追いかけ回して遊んでいる。……スゲーなあの幼女。

 

 

 

 

 

「………分かったよ、受けてやるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ………あっごめん何だって!?今ミシガンウォッチングで忙しいんだけど!何の話だっけ?あらザックいたの。

 

 そうだ決闘だすっかり忘れてたわ。コイツ考え込むの長いからつい余所に気が行ってたわ。

 だってミシガン可愛いんだもの。全くミシガンのせっ……いやミシガンのおかげで僕は今日前に進めるんだ有り難うミシガン!

 

「そうか、じゃぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとにこんなんでいいのかよ!」

 

 僕達は決闘のため2人とも河原の水を横にしてお互いの距離は30メートルくらいに空けている。

 

「あぁ、問題ない!!」

 

 距離があるからいちいち大声で返事をしないといけない。

 

「お前のそれなんだよ!鉈や桑じゃなくていいのかぁ!」

 

 ザックが僕の持っている得物に疑問を感じているようだ。

 

 それもそうだろう。僕は角・材・を・2・つ・装・備・し・て・い・る・。・

 

「いいに決まってんだろ!分かりきったこと聞くんじゃねぇ!」

 

 特にこれといった特徴のない角材。強いて言うなら家などの建物を組むときに使われてた木材の廃棄だ。探せばもっとでてくる。

 

「ますます分からねぇなぁ!勝負捨ててんのかぁ!鉄の武器の方が強ぇだろぉ!!」

 

「それ使ったらお前死んじまうかもしれねぇじゃねぇかぁ!仮にも騎士目指してる僕がぁお前みたいなやつなんかでも一応王国民だから殺したりして捕まりたくねぇよぉ!」

 

 ハァハァ、あいつどんだけ質問してくるんだよ。大声で返事する身にもなれ。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁああのぅ!準備ィいいィ?」プルプル

 

 僕達が質疑応答してると審判役を頼んだミシガンが確認をとる。レディーを待たせちゃいけないな。

 

「ミシガンちゃ~ん!こっちは準備OKだよぉ!」ニコッ

 

「おッ!俺も問題ないよ~!始めて大丈夫だよ~!」キラキラ

 

 コイツゥ、今ミシガンに色目使いやがったな?やっぱり包丁持ってくるべきだった!!

 

 

 

「それじゃぁ「ああっと!ちょっと待ってミシガンちゃんもひとつ忘れてた。ゴメンねぇ」。」

 

 いっけねぇ、勝った後のこと決め忘れてた。後で言っても突っぱねられそうだから先に約束させないと!

 

「おい、ザック!この決闘僕が負けたらサンドバッグでも何でも好きにしていいけど勝ったら金輪際僕に関わるなよ!!後ミシガンちゃんにもッ!」キッ

 

「あ、ハァァ!?お前は分かるが何でミシ「えぇい!うるさぁい!何でもかんでも質問すんなよどうなんだ!」……!」

 

 暫くザックは考えてたようだが顔をあげて

 

 

 

「まぁ、お前が俺様に勝つなんざ都合のいいマグレでも起こらない限り無理だがな。」

 

「僕を相手にしてマグレがあるんじゃぁお前も大したことないんじゃないか?」

 

「」ピキッ!

 

 ほう、どうやらあちらさんに火が付いたようだ。

 

「いいぜ!その条件で!始めてくれ!」

 

「ミシガンちゃん!頼むよ~。」サワヤカ~

 

「はぉ~い。」

 

 可愛いお返事テンション上がるぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではぁ、両者ァ、………えっとぉ、何だっけ?」

 

「両者ともに己が手に待つ剣に誇りと覚悟を乗せて戦うことを大樹カーラーンに誓え」コソコソッ

 

「両者ァ、ともに斧が手に持つ件に埃と覚悟をのせて叩くことを大樹カーラーン近ェ!」カッ!

 

 

 ゴメンねミシガン、【騎士の決闘の誓い】長すぎたよね。でも可愛いから大丈夫だよ!とりあえず、

 

「誓います!」 

 

「ソナタはァ?」ジー

 

「ち、誓います?」

 

 悪いなぁ、ザック!色々と騎士について吹き込みすぎたよ!でもいいもん見れたから満足だろ?

 

「それでは構えェ!」ノリノリ

 

「」グッ

 

「」ジリッ

 

「……はじめ?」クビカクッ?

 

 天使のコールで決闘が始まる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファイヤーボール!」

 

 開戦直後ザックからの無詠唱で火の魔術ファイヤーボールが飛んでくる。村でガキ大将やってるだけのことはありそれなりに速い火球が飛んでくる。だが、

 

「ッよっと!」

 

 こんな開けた場所で10メートル以上も離れた距離からの遠距離魔術など本の少し横にずれるだけでかわせる。こんなのキャッチボールで飛んでくるボールの方がまだ早いだろう。所詮は子供の魔力程度だ。

 

「へへーん、このくらい楽「アクアエッジ!!」うぉっとぉ。」

 

 避けたところに今度は水の魔術アクアエッジの刃が迫る。一発避けたら次が来る当然だ!それも地面にしゃがみこんでかわす。今度は少し危なかった。

 

「ストーンブラスト!!」

 

「!!」

 

 今しがたしゃがみこんだ地面が揺れだし僕の立つ位置を中心にして爆発する。

 

 僕は上空に放り出される。

 

「ハッハーァ!!一丁上がりィィー!!これで俺の「まだだ!」!?」

 

「いつもこんなくらいじゃぁ終わらないだろ?」クルッシュタッ

 

 僕は空中で身を翻す技法リカバリングで吹き飛びながらも体勢を立て直す。

 

「言っとくけどおじいちゃんだけじゃなくお前らのおかげで体の頑強さには自信あるんだ!1発当てたくらいで勝ったと思わない方がいいぞ!」

 

「ハッ!そうみたいだな有り難く思えよ!だけど状況的にはお前がただ攻撃食らって耐えただけじゃねぇか!これからお前に何が「10発!」!」

 

「魔術を使ったことは覚えてる限りないけど魔術を使うと生命力のマナを消費することは知識として知っている。だから当然お前が1日に使える魔術回数にも限界がある。」

 

「!!」

 

 ザックは気付く。僕の狙いがなんなのか。

 

「僕はお前が1日に10発以上魔術を放つところを見たことがない。」

 

 いつもオモチャにされている僕だからこそわかる。コイツはいつも5発目以降は苦しそうにする。恐らくマナが少なくて枯渇仕掛けるのだろう。だから8発目あたりからは子分に任せる。

 

「魔術さえなければお前は常日頃体だけを鍛えてる僕には敵わない。今日はあと7回かな?」

 

 そういえば畑でも最後にファイヤーボールを撃ってたな。……残り6回撃たせればコイツは魔力が使えなくなる。

 

「それがなんだ!お前だってたまに耐える程度でそこまで魔力耐性高くねぇんだろ!後2発もいれりゃ確実にお前は終わりなんだよ。」

 

 その通りだ。僕は今までコイツらとのケンカでま・と・も・に・食・ら・っ・た・魔・術・で・2・回・ま・で・し・か・耐・え・た・こ・と・が・な・い・。・

 

 さっきのやりとりそのままであとアイツが6回魔術を使えるならギリギリ僕はザックに負けてしまう。いや、10回というのも僕が日頃観察してこのくらいが限界だろうと大雑把に感じた予想だ。もし11回目があればキツイかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~ん?そうなのかなぁ?」

 

 

 

 

 

 

「……お前理解出来なかったのか?」

 

 ザックがバカにしたように聞いてくる。

 

「理解はしてるぞ。ただそれがなんでこの勝負の決め手になるかがサッパリだ。」

 

「痩せ我慢してっけど本当は結構効いてるんだろ?足下ふらついてるぞ?今すぐ楽にしてやろうか?」

 

 

 

 ……見抜かれてたか、長話して体力回復の時間を稼ぐチャンスだったんだけどなぁ。仕方ない。

 

「そっかぁ、じゃあ一思いにやってくれ。」

 

「結局こうなるんだろうがよぉ!いったい何が狙いの決闘だったんだぁ!ファイヤーボールゥ!」

 

 

 また火の魔術が飛んでくる。今度は

 

 

「」クルッ、シュタッ!!

 

 

 火の魔球を横にかわしながらザックに走り出す。当初の予定通りザックを直接叩きに行く。

 

「!?」

 

 ザックは驚いた表情を見せる。魔術を全てかわしてマナが枯渇してから攻めてくると思ってたようだ。

 

「誰も魔術切れまで待つと言ってないけど!!」ダダダッ

 

 ザックまで一直線!後10メートル圏内に入る。

 

「!!調子に乗るなァ!ストーンブラスト!!」バッ

 

 先程の地の魔術を発動させる。だがその魔術は…。

 

 

 

 走る僕の後方で地を爆発させるだけで終わる。

 

「!???クソガッ」ガッ!!

 

 そう魔術にも特性がある。火の魔術ファイヤーボール、水の魔術アクアエッジのように術者から直接放たれる魔術があれば術の対象の回りから発生させる魔術もある。今回は後者の方で地の魔術ストーンブラストは対象のいる地面に魔術をかけるものだ。

 

 魔術は物理攻撃と比べて遥かに威力が高いがが対処するのは案外容易い。

 

 そう敵から直線的にくるファイヤーボール等は左右に、そしてストーンブラストのようにこちらをマーキングして放つだけの魔術は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………ただどの方向にでも動くだけでかわせるのだ。

 

 

 

 

 

 

「ウインドカッター!!ファイヤーボール!!アクアエッジィ!」

 

 次々と魔術を避けながら接近してくる僕に対してザックはただ魔術を放つことだけしかしない。ってかバリエーションすげェなぁ。いつもファイヤーボールしか使ってないからそれだけなのかと思ってたぜ。でもこれで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザックとの距離、2メートル。手には角材を持ち、

 

「ほら、どうする?後1発くらい撃てるんじゃないか?」

 

「………!!」グググッ!

 

 僕に角材を突き付けられながらザックは苦虫を噛み潰す表情だ。

 

「こんな筈じゃなかったか?いつもこの逆だもんなぁ。どうしてこうなると思う?」

 

「てめぇ、…普段は手加減してたって言うのかよ!!」ゴホッ

 

 ザックが苦しそうにそう言ってくる。マナが限界近いのだろう。それに対して僕は、

 

「んな訳ないだろ?仕事も稽古もお前らとのいざこざも常に全力だよ!どれ一つ手を抜いたこともないし隠れて特訓してるわけでもない。」

 

「じゃぁ何で俺は今魔術を1つも使えない能無しでいじめられッ子なお前ごときにッィ!」ハァァッ!!

 

 

 

 

 

「単純な話だよ」

 

「……?」ハァハァ…

 

「お前が今ようやく誰かと本気でケンカをした素人だからさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がケンカをしたことない素人だとおっ!?じゃあ、普段のてめぇとのアレは何だってんだ!!」ォッホ!!

 

 咳き込みながらも反論してくるザック。けどそんなものは決まってる。

 

「ケンカだね。」

 

「じゃあお前がいう話が「僕にとってはケンカだけど、お前がやってたのはケンカじゃなくて弱いモノイジメだろ?」!!?」

 

「常に僕はお前達に1人全力で立ち向かっていった。けどお前達からしたら孤独性で魔術を使えない上に畑仕事中に鉈や桑を振り回すおかしなやつにでも見えたんだろうな。はぐれモノが1匹いるからちょっとちょっかいかけてみようぜ、くらいの浅はかな考えから始まったんだろう!」

 

「…。」フゥフゥ…

 

「そしてそれから僕に子分達と一緒になって遊び感覚でからかいに来たなぁ。それも毎日と言っていいほど。気付かなかったか?お前らの無茶な遊びに誰も大人達が止めに入らないことを?別に大人達はお前らが恐いとかじゃねぇぞ?」

 

「はぁ?んなもんおめぇが大人達からもハブ「僕が修行の相手をしてもらってるって言ってたからだよ!」」

 

 いちいち期待通りのことを言ってくるのでついつい喋ってる途中で自分のセリフを被せてしまう。

 

「基本的に暇なときは僕を虐めるくらいしかしない連中どもだ。いつもは集団で向かってくるから勝てる訳がなかったけどバラけさせてみると案外こんなもんなんだな。そのお山のトップがお前だよザック。」

 

「…」フゥ…

 

「確実に自分よりも格下で弱くて勝てるやつしか相手に出来ないんだろ?プライドは高いけど実力は精々平均前後くらいしかないから自分より弱い連中集めて偉ぶってアピールしてないと落ち着かねぇんだろ?」

 

「……」フゥ…

 

「今日のこの結果も日頃お前がどれだけ不真面目な奴か顕著に出るな。ウインドラなんかは僕につき合っていろんなことしてるからその差が「結果ッてなんだ!」る。…」

 

 僕が喋ってるときに被せてきた。さっきの仕返しか?何をいまさら。

 

「まさかもう勝った気でいるのか?」フッ…

 

 ここに来てさっきまでの慌てようから急に不敵な態度をとるザック。

 

「…もう次の1手で決まりそうなんだけど。」

 

「俺がここからもう脱せないと思ってんのか?」

 

「強がるなよ、この距離でもお前の下手な魔術は避けられるぞ?第1魔力もそろそろ限界だろ?ここで降参するなら怪我しなくて済むぞ?」

 

「そうなのか?それじゃぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

避けてみろよォッ!!!アイシクルゥッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突に僕の体が凍った。



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因縁の終わり

 騎士を目指す少年カオスは因縁の相手ザックに決闘を挑む。

 カオスは後一手というところまで追い詰めるがザックの反撃を許してしまいそして、


 急激に辺りが冷え、体が震えだすほどに寒くなる。時間を与えすぎたか?これまでの鬱憤がたまっていたせいで少々長話しすぎたらしい。いつでも避けられる体勢をとっていたのに僕はどうなったんだ。

 

 目を開けるとそこには下半身を氷付けにされた僕と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じく凍り付いたザックの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」ハァーッ、ハァーッ!!

 

「何してんだお前、これじゃぁお前も動けないじゃないか!」

 

「黙れッ!………これでッ……い、いんだよ!」ハァーッ!

 

 息絶え絶えだが大丈夫か?もう降参して帰った方がいいんじゃないか?僕も体が冷たいし終わりにしたいんだが。

 

 まさかこのタイミングで氷の魔術が来るとはな。上下左右に避けても当たるわけだ。コイツはザックの回りを中心に凍り付いてるようだ。

 自分を巻き込む形でなら当たるとふんで放ったのだろう。ザックにそんな度胸があったとは。

 

「この状態なら……ハァッ、…………………確実に次が当たる!」ハッハッハッ!

 

「!!!」

 

「残念だったなぁ!!…次で、、、止めの3撃目だぁっ!!!次は詠唱かけて終わりにしてやるよ!」ハァッ

 

 マズイ!ただでさえ先程の氷が大分体にきてるのに次の1撃を詠唱込みの増幅した威力で放たれたら耐えきれるか分からない!

 

「そんなことしたらお前まで被爆するぞ!?」

 

「お前よりかは魔術耐性は高いつもりだァ!!既に2回耐えきってるお前は終わりだが俺はある程度は我慢できる筈だ!」

 

 筈だ!つって試したことねぇのかよ!?だがある意味説得力はある。

 

「クソッ!!そんなことォ!させるかァァァァ!」ブンブンッ!!

 

 僕は角材をザックに振り回す。……

 

 ブン!ブンッ!

 

 角材は空しくも空を斬るばかり。後数センチが届かない!!

 

 

 

「!!だったら!!!!」

 

 僕は持っていた角材をおもいっきり振りかぶりそして

 

 

 

 

「オラァァァァァァッッッ!!!!」ブオォンッッ!

 

 

 

 

 ザックに向けて投擲した。

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッ!?!???!」

 

 ザックは僕の勢いにビビって避ける体勢をとろうとするが僕と同じで下半身が凍っていて動かないので上半身をほんの少し屈めるしかできなかった。

 

 おいおい、その程度でこの距離から放たれる角材をどう避けるっていうんだい?さっさッと降参しておかないから痛い目に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 フルフルフルフルフル、ッコン!コッコッコッ、カラン………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「」

 

「」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………やッべェ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この状況で外してもうた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ、何故今この距離で外れたんだ!?身動きとれなかったからか?寒さで手の力の入れ具合を計算出来なかったか?焦ってすっぽ抜けたのか?もしかしてコイツまだ11発目の魔術が残ってたとか?風の魔術ウインドカッターならあるいは…

 

 

 

 

 

「フッフッフ、ウハッハッハッハハハハハハ!!!」

 

 唐突にザックが笑いだす。やっぱりお前が何かして

 

「せっかくの攻撃出来るチャンスを放り投げるとはなぁ!とんだお人好しだぜお前は!!それともただのバカかぁ?そういえばお前が弓でマトモに当ててるところ見たことないぜ!?お前、この距離ですらノーコンなんだな!!」

 

 

 

 

 

 

 外した原因は僕だった。

 悪いねザック。お前が何かしたのかと思ったよ、日頃の行いだな。

 

 そういえば僕は遠くにあるものに対して弓でもボールでも当てられた記憶がない。

 自分でもノーコンだとは思ってたがまさか、この土壇場で1メートルもある角材を2メートル程離れた相手にぶつけることが出来ないほどのノーコンだったとは!

 ザック、君のおかげで新しい自分を見つけることが出来たよ!ピンチにピンチの拍車がかかる訳だけど!

 さて考えろ!この動けない状況下でどう切り抜ける!武器は………そういえば今日は……。

 なんて考えてる間にザックが

 

 

 

 

 

 

「『火炎よ、我が手となりて敵を焼き尽くせ…』」ニヤァ

 

 

 

 

 

 

 勝利を確信して詠唱を始める。もう時間はないようだ。だったら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっ飛べ!!ファイヤーボール!!!」カッ

 

 

 

ドゴォォォォォォォオォ!!!!

 

 

 

 直後、火の魔術の爆発によって僕達は吹き飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」グッタリ

 

 

「…」ハァッ…ハァッ

 

 

 爆発に吹き飛ばされて地面を転がる2人は。

 かたや沈黙かたや息も上がっているが意識はある。この決闘の結果が決まったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ!!」スクッ

 

 

 

 立ったのは…………ザックだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、…………クッククククク、ハァッ、ハァッ、」

 

 マナの減少に呼吸もままならないが勝利を確信してザックが笑う。

 

「ハァッ、ハァッ、フックククク、アッハッハッハッハッ!!!何が決闘だ!!何が都合がいいだ!!結局いつものザマじゃねぇかァ!アッハッハッハッハッッハッハッハッハッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせぇよ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」ビクッ

 

 ザックが驚愕の表情を浮かべて声の方向を凝視する。そこには

 

 

 

 

 

 

「何…勘違いしてんだ?……まだ終わってねぇぞ……。」

 

 

 

 

 

 

 予測された3撃目を耐えた自らの敵が立ち上がる姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で、何で…何で立てるんだよ!!今のは確実に入ってたろ!?いったい何しやがったんだ!出来損ないのお前がファイヤーボールをッ……!!?」ゴホッゴホッゴホッ

 

 驚愕過ぎて自分がどういう状況か忘れていたらしい。このままだとマナ欠乏症で倒れるんだぞ?ちゃんと脳にも酸素送ってやれよ。

 

 

「いったいどうして!?」ハァッハァッ

 

「さぁなぁ?戦闘中にワザワザ偉そうに自己解説して痛い目見るのはさっきので、懲りたからかな!!!」ダッ

 

「!!!」ハァッハァッ

 

 僕はザックに向けて走り出す。

 休む時間は与えない、こっちだってもう足の感覚が無くなってきてる。マナを回復される前にここで勝負を決める!!

 正直身体中がヒドイ痛みで今にも崩れそうだ。だが今日この1回を逃したら次はもっと勝ちにくいものになるだろう。だから今日だけは死んでも止まらない!

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!!」ダダダダダッ!

 

 

「待っ、待てェッ!!!来るなぁ!!」ハァッハァッ

 

 爆風に飛ばされて空いた距離が再び縮まる。

 

 

 

 

 

「終わりだぁ!ザックゥゥゥ!!!」ダダダダダ!

 

 接敵まで後5メートル。

 

「うっうわぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてなwライトニングッ!!」ハァッハァッ、ピカッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう来ると思ってたよ。」

 

 僕はとっさに持っていた角材を地面に突き刺し、体勢を角材よりも低くして転がる。ザックが最後の秘策にとっておいた雷の魔術は

 

 

 角材に命中していた。

 

 

 

 

 

 

「なっ!!??」ブハァッ

 

 

 信じられないものを見たという顔をするザック。それもそうだろう。

 まさか武器と思っていた角材を避雷針にして避けるとは思うまい。最初からこのつもりだったんだよ。

 

 ザックとの今までのこともあって僕はコイツが使える魔術を知っていた。アイシクルは想定外だったが。

 今日の決闘でザックは地水火風氷雷の攻撃魔術をどれも使える事が分かった。流石にガキ大将やってるだけあって優秀だなぁ。

 村でも全部使える子供なんてウインドラくらいだと思ってたわ。

 

 だけどウインドラに比べてザックはただ使える魔術をただ放つだけのお粗末な戦い方だ。だからこんなふうに魔術の弱点を突かれる。

 これがウインドラだったらもう少し工夫して僕に勝つだろう。

 本気の勝負じゃウインドラにはかなわない。けどコイツには

 

 

「……ッ!!!……!??」アフッ!ブホォッ!

 

 渾身の12撃目を無効化され慌てふためくザックは次の魔術を放とうとするも欠乏症による不調で声が出せない状態だ。自業自得のサイレンスと言うわけだ。僕は躊躇なくその

 

 

 

 

「フッ!」ガッ!

 

 

「ハガッ!!?」

 

 

 

 ザックの喉に手をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハガッ、アアッ!ハァッ、フッハッ!!」ジタバタ!!

 

 ザックが必死にもがく。

 だがもがいたところで僕のホールドは解けない。もとより子供とはいえ筋力差があるのだ。

 日頃木刀や鉈を本気で振り回す僕だ。畑仕事をテキトウにこなして僕をおちょくりに来るザックとでは軍配はこちらに上がって当然だろう。

 

「どうしたの?またこっちが優勢みたいだけど?」

 

「ヒッヒッヒッ!!」

 

 答えるどころではないようだ。そりゃそうか喉を握られてるんだもんなぁ。

 

「フッハッフッ!!」ガスッガスッ!

 

 抵抗のつもりなのか、ザックが蹴りを入れてくる。

 

「……苦しそうだなザック?それがお前の自慢の魔法か?」

 

「!!?」ガスッガスッガスッガスッ

 

 おじいちゃんに木刀で斬り飛ばされたり魔術で、吹き飛ばされたりして鍛えられてる僕にとってその蹴りは何の妨げにもならない。

 

「常日頃散々カモにしている騎士が目の前にいるんだぞ?カモらなくていいのか?」

 

 初めてここまで追い詰めたことに調子付いて嫌味なセリフが出てくる。おっとここにはミシガンもいるんだった。

 

「ハガガガッ!!!」

 

 そろそろ限界が近いのかザックはツバを吐き出しながら白目を剥きそうであった。ツバが手にかかって汚いな。ではそろそろ、

 

 

 

 

 

 

 

「これで、……お仕舞いだァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」ダダンッ!!

 

「ボハァッ!!!」ゲフッ!

 

 そのままザックを地面に思いっきり叩きつける。

 後頭部を打ち付けてザックは気を失う。今辺りどころが不安だったが多分大丈夫だろう多分。

 

「」ピクピク

 

 うん、生きてる大丈夫!早くこの場を去らなければ!

 

 

 

 

 

「終わったのぉ~?」トテトテ

 

 そう言ってミシガンが近寄ってくる。はい、終わりましたよ。貴女のための勝利です!

 

「じゃぁ、ハーストエードかけるぅ?」

 

 おおぅ、そういえばミシガンは治療魔術使えるんだった。いつもケガしても放置してるから気が付かんかった。

 ゴメンねミシガン、ケガしないとか言っておきながら結局傷だらけになっちゃったよ。

 

「あァ、うんお願いしてもいいかなぁ?」ニコニコ

 

 実はもう立ってるだけで限界。膝が1ミリも動かないんだよね。有り難うミシガン。君は僕が必要とするときに現れる女神様だったんだね。

 

「じゃぁ、ハース…」

 

「ちょい待ったァ!」

 

「またなのぉ?」

 

「ゴメンねミシガンちゃん、でもその前に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからミシガンに治療魔術をかけてもらい傷を治してもらった。あとついでにザックも

 

 

 手足を後ろに縛り上げてから。

 

「…んんん?」

 

 気が付いたようだ。目を開けて辺りを見てから自分の動けない状況を確認する。

 

「……そうか負けたのかよ、クズがぁっ」

 

 それは僕にではなく自分に言い聞かせているようだった。

 

「で?これからどうするんだ?もうチョッカイかけてくんなって約束すりゃいいのか?それとも俺をボコ殴りにすんのか?それかこのまま俺を引き摺って村中に俺をやったアピールでもすんのか?」

 

 

 

 

 

 

 ………その手があったか!

 勢いで決闘組んじゃったから最初の約束くらいしか考えてなかったけどそんな魅力的な案があったなんてなぁぐへへへへっ!そんじゃあさっそく積年の怨みをぉ……。

 

 

 

「そんなことしないよぉ?」キョトン

 

 

 

 はい、しません!代わりにミシガンが答えちゃったよ!?どうしてぇ?

 

「カオスくんはねぇ…!騎士になりたいんだよ?だからァ終わったら笑って握手の有り難うなんだよ?そうだよねカオスくん。」

 

 

 

 

 ………そうだったな。この決闘ももとはただ僕に対しての扱いの改善を謀ってのことだしな。それ以上を求めるのは無しにしておこう。

 今はまだ騎士ではないけどいつか成れたときに胸張って自慢できる過去にしとこう。

 今のうちから腐ってたらまともな大人になれないしな。

 

「フフッ!そうだねミシガンちゃん。ザック、僕はただお前に今後関わってこなければこれ以上なにも入らない。どうだ?」

 

「ハハッ!アマちゃんだなぁ本当に良いのかよ!?それで!」

 

 コイツ、この場面で挑発かよ。もしそれにコッチが乗ってきたらお前は今からボロ雑巾にされたあげく村中引きずり回されてからモンスターのエサにして世界の食物連鎖の環に循環させるとこだぞ?それがお望みか?

 

「いいんだよ!この決闘では絶交するのが目的だしな。もう近づいてくんなよ?」

 

「それを俺が守ると「守るしかないだろ?」?」

 

 またもや僕は被せていう。

 

「お~い、ミシガンちゃん!今までの決闘見てたよね~?ザックが決闘前に言った漢と男の約束を破ろうとするんだ!どう思う?(おちゃらけて)」

 

「!?(焦り)」

 

「守らないのぉ?(小動物ふうに)」

 

「グゥゥッ!(困惑)」

 

「いやぁ~酷いなぁ!こんなボロボロになるまでやったのに終わった後に無かったことにされるなんて、いや全く酷いなぁ~?(嬉しそうに)」

 

「ザックくんヒドイ?(悲哀顔)」

 

「うんひどいひどい(満面の笑顔)」

 

「うぐぅぅぅぅ!!!(鬼の形相)」ダンダンダンダンッ

 

 そうだ、コイツも先程までの流れでミシガンにホノジなのは間違いない。僕と同じだ。

 ミシガンの前ではかっこつけたい思春期少年その2だ!

 正直ミシガンを利用するようで心が痛いですはい。けど恋敵に手加減は出来ねぇ!

 生命的には止めはさせなくても青春的には貴様にあの世に行ってもらおう!

 

 

「アレアレ~?もしかしてザックくんはこの程度の約束も出来ないお子様なのかなぁ~?(悪党顔)」

 

「ザックくんお子さまなのぉ?」

 

「」プルプル

 

「ザックくん~?」

 

「?」

 

「分かったよ…」ボソッ

 

 おっ、ようやく返事が来たぜ!

 

「え!!何だって!!!聞こえないんだけどぉぉぉ!!!!」

 

「分かったッ!つってんだろ!!約束してやるよ!もうお前なんか相手にしないってよぉ!!これでいいんだろぉっ!」

 

 よし、これで当初の予定通りだ。

 

「ハハッ!やったね!ミシガンちゃん!ザックくん約束を守ってくれるみたいだよ!」

 

「やったやったぁ。」

 

 僕と一緒に喜ぶミシガン、多分よく分かってないんだろうなぁこの約束の内容。

 

「……!」キッ

 

 それを見て睨み付けてくるザックくん(笑)。お疲れさまでした~!さて終止符だな。

 

「じゃぁ、ミシガンちゃん今日帰ったらお父さんに今の決闘のことを詳しく話してごらんよ?」

 

「お父さんにぃ~?」キョトン

 

「は?」

 

 ザックが何を言い出すんだコイツという顔だ。

 

「いやぁ~素晴らしいものだったなぁ~、漢(自分)と男(ザック)がお互いの負けられないもののために死力を尽くして戦いあう決闘劇!」

 

「ワァォ…。」

 

「お互いに熱くなる戦いに持てる力全て出しきり得た結果!2人の間には熱くかたい絆と友情が結ばれて芽生える友情!!」

 

「ホォォァッ…」

 

「『お前の気持ち確かに受け取ったぜ!』ザックくんはそう言って誓いあった約束を胸に刻み2人は別々の方向へと足を「そんなこと言ってねぇぇぇぇ!!!!」。」

 

 なんだよまた横槍入れんなっつーの。せっかくミシガンが

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァァ……」キラキラキラ

 

 恍惚の表情を浮かべて聴いているのに。

 

 

 

 

 

 



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この手にあった幸せ

 騎士を目指す少年カオスはザックとの決闘中、予想外の反撃を許すもそこから逆転し無事勝利を果す。

 その後ミシガンを仲介に挟んで約束を取り付けるのだった。

 さて今日は、


「それで、その後どうなったの?」

 

 

 あの決闘の翌日、僕は畑仕事の休憩中に昨日あった出来事を今日は出勤してきたウインドラに話して聞かせた。ミシガンも一緒だ。

 

「なんかねぇ!魔法でばぁーってなってぇ、ばばっとよけて走ってたよぉー!ウインドラも見ればよかったのにぃ!」キラキラ

 

 …ゴメンねミシガン。言いたいことを分かってあげたいのに分からない僕を許して!

 しっかし、ミシガン今日はよく喋るなぁ。いつもは人見知りでボソボソッと近寄らないと聴こえないくらいの声量なのに、馴れたら意外と大きな喋るんだなぁ。この場に3人しかいないからかな。

 

 

 

「ハハハッ、俺は昨日また見学に行ってたからね。惜しいものを見逃しちゃったかなぁ。」

 

 そうウインドラは最近頻繁に警備隊の見学に行くようになった。3日に1回の割合だ。

 

「そんなに警備隊忙しいのか?」

 

「そこまで忙しい訳じゃないみたいだよ?死骸や爪痕足跡を見てこの辺りにはどのモンスターがいるかとか調査してるんだ。それの時間がかかるだけで。後は周辺に仕掛けてある罠の補強や点検かな。」

 

「へぇ~、そんなことしてたんだなぁ警備隊って。モンスター追い払ってるだけかと思ってたよ。」

 

 単純に僕が森に行ってボアチャイルドと格闘してるようなことをしてるのかと思ってた。

 

「うん、それもあるんだけどね。ただ最近はモンスターの生息域が安定しなくて大人たちがピリピリしてるみたいなんだ。」

 

「安定しない?」

 

「しない?」キョトン

 

 僕につられて首かしげなミシガン……あるとおもいます!

 

「そう、ここ最近この辺じゃぁ見たことないモンスターが出没してるらしくてね。モンスター図鑑で見たけどグリーンローパーっていうやつらしい。主に湿った洞窟とかにいる生物らしいよ。」

 

 ふむ、確かに生息域を変えるモンスターがいる話はおじいちゃんからこの間聞いたばかりだから分かる。時季って言ったっけな?ここら辺は年がら年中寒いままなんだけどなぁ。

 

「なにか大変なことが起こってなきゃいいけどね。警戒にはこしたことないって父さんが警備隊の方に来いッっていうんだ。」

 

「なるほど、じゃぁ、別に騎士目指してるのがバレた訳じゃないんだな?」

 

「キシ?」

 

「……んんん!!!ちょっとカオスコッチ来てくれないかい!!」ガシッ

 

 そう言ってウインドラが僕を引っ張っていく。

 

「?」

 

 その場に残されたミシガンが不思議そうにこちらを見ている。

 

 

 

 

 

「ちょっとカオス!迂闊だよ!?ここにはミシガンもいるんだからそういうのはアルバさんと君だけがいるとこで話そうよ!父さんと村長にバレたら俺はすんごいどやされるんだぞ?」

 

 悪い悪いついうっかりしてた。昨日の勝利が嬉しくて口が軽くなってるのかもしれない。抑えなければ!

 

「スマンスマン、でもミシガンはよく分かってないみたいだからいいじゃないか。」

 

「全く君っていう奴は……」ハァ…

 

 ウインドラが諦めたようにため息をつく。

 

「まぁ、君の懸念は最もだけど別に騎士のどうこう

に関してはバレた訳じゃないよ?むしろバレるバレない以前にそれどころじゃないってくらい慌ただしいみたいだよ。」

 

「そんなに緊急事態なのか?」

 

「この村が出来て以来こんなにここらじゃ見掛けないモンスターが発見されるのは初めてらしいよ?」

 

「それってつまり50年住んでて初めてってこと?」

 

「うん!」

 

 なにやら村の周囲に不穏な動きがあるらしい。もしや…

 

 

 

 

「僕がザックに勝ったからか!?」

 

 

 

 

「………関係ないだろ?どんだけ嬉しいんだよ!」

 

 だってお前初勝利だぞ?初勝利!それもいろいろともめてた相手に!そして今後リベンジもないだろうしなぁ。

 

 

 

「そういえば勝った後どうなったんだっけ?」

 

「ん勝った後?僕との間に鎖国を成立させたけど?」

 

「そうじゃなくてその後だよ。」

 

 あぁ、そこが聴きたいわけね。良いだろう、聴かせてやろう約束を結ばせてからどうなったかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はザックに約束を取り付けた後、ミシガンに言って治療魔術ファーストエイドをかけてもらった。癪だがザックにもだ。

 

「で?俺は何時になったら解放されるんだよ。まさかこのままなのか?」

 

 さっきまで調子に乗ってからかってたため多少不機嫌なザック。

 僕なんかいつもこれより酷い扱い受けてんだからこの程度我慢しやがれ!

 

「心配しなくても後で外すよ、でもその前に…」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日お前が負けた理由を教えてやるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けた理由……だと?」

 

 訝しそうな視線を向けてくるザック。この展開は思い付かなかったようだ。

 

「そう、さっきの決闘の反省さ。いつもウインドラと稽古した後はやってんのさ。」

 

「それに何の意味があるっていうんだ!」

 

「まぁ、聞けよ。ためになるかもだろ?」

 

「…チィッ」

 

 手足が動かないため大人しく聴きにてっすることにしたザック。よろしいでは、

 

「この決闘始まる前からお互いにこういう展開になって自分はこう勝つって予測がついてたとおもう。」

 

「…。」

 

 ザックは何も言わないがその視線の動きが肯定ととらえてよさそうだ。

 

「ザックの考えではテキトウに魔術撃てば僕が倒れると思ってたんだろう?」

 

「…あぁ。」

 

「けど実際は魔術を耐えるうえに魔術が当たらない、けっこうギリギリの決闘に焦ったろ?」

 

「…」

 

「おまけに角材を武器にして突っ込んで来るかと思ったらその角材を利用して魔術を避けて向かってくる。」

 

「なんだ、自分を褒め称えてほしいのか?あぁすげぇすげぇ。」

 

 可愛くない称賛だなぁ、ミシガンを見習いやがれ。なにもしていなくてもお前の数億倍は可愛いぞ?流石ミシガンタン!

 

「大雑把に言えば今日の決闘はこんなかんじだったわけだが。この結果どう思う。」

 

「油断大敵だって言いたいんだろう?忠告されなくても「それだけじゃないぞ」」

 

「それだけじゃない、お前の敗因は」

 

「?」

 

 本気で分からないって顔してるなぁ。

 

「お前が負けた本当の敗因は決闘の中でも言ったことだ。」

 

「俺がケンカの素人だっていってたことか?一体何を根拠にいってんだ?」

 

「さっきの決闘中僕はお前が魔法を10回使えると予測した。対してお前は僕が魔術3回で倒せるとふんだ。けど決闘の成績を見ればお前は僕が予測した10回をこえて魔術を使用した。そして僕はお前の魔術に3回耐えきった。」

 

「……」

 

「僕が言いたいことが分からないか?」

 

「なに言いてぇのかサッパリだな。2人して限界を超えて成長していたとでもいうのか?」

 

「………まだ分かってないようだな、この流れでこの成績の内容の意味が」

 

「だからなんだッつーんだよ!勿体ぶらずに言えば、いいだろ!?」

 

「言っておくけど僕が予想したお前の魔術使用限界は10回、これは今でも僕はそうだと思ってる。」

 

「ハッ!じゃあ何で俺はお前の予想した回数よりも多く使えたんだよ!おかしいじゃねぇか!成長してマナの貯蓄要領が増えた以外に理由が「なんもしてねぇお前にそんなもんある分けねぇだろうが!」」

 

 それに子供の努力なんて五十歩百歩だ。僕でさえずっと木刀を振り続けてるのに成果が出せないでいる。何も努力をしないザックにそんなことでパワーアップされてたまるか。

 

「さっき言った僕とお前の予測を超えた結果は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…なにを!?」

 

「お前、決闘中、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徐々に魔術が弱くなっていってたぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の魔術が……弱く?」

 

「そうだ、決闘始まって最初に受けたストーンブラストは凄い痛かったけど、その後に受けたアイシクルとファイヤーボールは大したことなかった。多分ストーンブラスト以降からは半分の威力も出てなかったんじゃないか?確実に当たるかどうかも分からない魔術に最初から本気で撃ちすぎなんだよ」

 

「…そんなことが…」

 

「普段他の取り巻きがいるから僕に攻撃するときは1、2発程度軽く撃つくらいなんだろう?なんせ自分がやらなくても取り巻きが僕を倒してくれるからな。それ以外だととくに実戦してる訳じゃぁ無さそうだし。」

 

「…!」

 

 心当りが有りすぎるのか目を白黒させて聞いているザック。

 

「自分のペース配分が分からない上に魔術を避けて向かってくる僕。冷静さをかいてしまい焦って威力の抜けた無駄弾連発。それのおかげで僕はお前の3撃を耐えられたし、お前も無駄に魔術の回数が多かった訳。お前は自分が放つ魔術すらろくに見えなくなるほど回りが見えてなかったんだ。」

 

「…」

 

「要するに僕は投擲とか遠くのものを狙うノーコンだけどザックは身近な自分の魔力を制御出来ないノーコンだったってのが真相かな。」

 

「」

 

 

「ノーコン?」カクッ

 

 君は成長せずにそのままでいてくれミシガン。その愛らしいままに。

 

 

 

 

 

 

「そんなこと」

 

 

 

「ん?」

 

 縛られてるザックが何か言ってる。そういえばまだ縛ってたな。

 

 

「そんなこと俺に教えていいのかよ?」

 

 縛られながらもまた挑発してくる。お前こそこのタイミングで挑発でいいのかよ?素直にほどいてください、だろ?

 

 

 

「んなもん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいに決まってんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてだよ、お前に教えられた弱点を克服して次は挑んでくるかもしれないぞ?今度は今日みたいにはいかねぇぞ?まぐれは1回きりだ!」

 

格好よく悪党が言いそうなセリフ吐いてもその芋虫みたいな姿じゃぁしまらないなぁ。いい加減立てよ?

 あっ、立てねぇのか!

 

「そのための誓いを決闘前に誓ったはずだけどなぁ」

 

「俺は騎士者じゃねぇ!お前もだ!こんな口約束どうってこと…」

 

「…」ジー

 

「」ビクッ

 

「…」ジー

 

「…」タラタラ

 

「…」ジ~

 

「どうって…こと……」

 

 もう最後の方は聞き取れなかった。

 

「ん~?何かなぁ?この口約束どうなっちゃうのかなぁ?ねぇミシガンちゃんどうなると思う~?」

 

「ん~?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この性悪野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 失礼なお前ほどではない。

 

 このあとちゃあんと足の紐と()()()()()だけ切って解放してあげたじゃないか。

 

 あっ、切る紐間違えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで今朝からザックが妙によそよそしい訳か。」

 

 まだまだザックには他に言わなければならないこともあったがあんまり言い過ぎると逆上して仕返しに何してくるか分からないからなぁ。

 今日は大人しくはしっこの方で作業してたからミシガンの前で約束を反故にすることはないと思うが。

 昨日は後ろ手に縛られて村中を駆け回ってたみたいだから村のみんなからも変な目で見られたようだ。

 

「呆れた、それってミシガンとザックの関係を悪用してるだけじゃないか?」

 

 うぐっ、ウインドラに痛いところを突かれる。

 

「そ、それでも約束は約束だ!別にミシガンが被害を受ける訳じゃないからいいんだよ。」

 

「ミシガンがよく分かってないからまだよかったものの。それってかなり最低なことしてるよ?騎士を目指すものとして村民に守られるってどうなの?」

 

「……」シュン

 

 言われてから自分が好きな子を利用してるのがなんだか後ろめたくなってきた。どうしよう今さら約束を撤回するのもなんだか…。

 

「カオスもザックもそういう単純なとこあるからこの先心配だよ。」

 

 おう親友こんな僕を心配してくれるのかい?なんていいやつなんだ君は。それに比べて僕は………はぁ。

 

「フフッ、けどこれでようやくカオスと安心して一緒にいられるわけだから別にいいけど」

 

 な、なんだ?下げたと思ったらここで急に上げてくる。やめてくれよ、僕には今好きな人がいるんだ!そうやってイケメンフェイスで誘惑してくるのは!僕はお前のことを友人以上にはぁっ…!

 

「カオスに止められてたから何も出来なかったけど本当は心苦しかったんだよ?近くで君がやられてるのを黙ってみてるの。」

 

 あーぁ、至極まっとうな意見でした。なんだよウインドラルートに入ったのかと思ったじゃないか。ちょっぴり期待しちゃったぞ?全く別に勘違いしたわけじゃないんだぞ?

 

「あぁ、けどあれって僕のケンカだからさ。僕はこんな体質だから何か言われても馴れてるけどそれにウインドラを巻き込むのはちょっとねぇ。」

 

 僕は人より何か特別に自慢できるものも大事な人も少ない。むしろないと言っていいほどに。

 だから大切なものは絶対に守りたいんだ。

 

 こんな僕を友達と言ってくれるウインドラやミシガンを傷付けたくない。

 僕が何かされてもこの大切な友人たちには迷惑かけたくない。

 

 

 大切な人達が傷付くなら僕が盾になって守らなくちゃ…!

 

 

 

 

「そうやって強がって、何でも1人で抱え込まなくてもいいのに。」

 

「強がってないさ!これが僕の考えで生き方なんだ。こうでなきゃいられないよ。」

 

「ミシガンを巻き込んでるのに?」

 

「その件は勘弁してください。何かあったら僕がミシガンとウインドラを守るからさ!騎士として。」

 

 思慮の浅さが僕の欠点だな。そこは反省しよう。

 

「フフッ有り難う、なら俺も何かあったらカオスを守るよ。騎士として」

 

 …またウインドラは僕にとって嬉しいことを言ってくれる。よせやい照れるって。

 

「あぁ~パクったぁ!」ハハッ

 

「パクってねぇし、これも俺だから!」フフッ

 

 

 

 

 

 こんな風に将来の夢を語りながらも冗談を言い合える友がいる。

 

 これだけで僕は満足だ。

 

 後はこのままこの気持ちが風化せずに永く続いてそれぞれの思う未来へと歩いていけたらいいなと思う。

 

 ウインドラが隣にいてミシガンが隣にいて、あとおじいちゃんも近くで見守っていてこの幸せがあれば僕は大丈夫だ。

 

 もう他には何もいらない。人より凄い力なんていらない。ただ穏やかなこの時をずっとずっと先に繋げていけたら…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このときの僕は、この幸せがもうすぐそこで終わってしまうことを夢にも思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村長邸宅裏、殺生石前にて

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさかとは思ったがやはりそうだったか。」

 

「触るもの全てを死に至らしめる殺生石」

 

「どうしたというんだ。ずっと我らを護り続けていた殺生石が…。」

 

「だが最近のモンスターの変則的な出現も頷ける。」

 

「モンスターは本能的にこの石に近寄らないとふんでこの地に村をかまえたというのに。」

 

「一体何時からなんだ!?何時から殺生石は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その力を失ってしまったんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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胎動の歴史

 騎士を目指す少年カオスはザックとの決闘を勝ち友人のウインドラとミシガンに事後報告をすます。

 今後ザックと不干渉を取り付けることに成功したカオスはよりいっそう友人たちとの時間を大切にしようと心に決めるのだった。

 一方で村のある場所では不穏な空気が漂う…。


 

村長邸宅裏 殺生石前

 

 

 

 

「原因は何なのだ!?何故こうなった!」

 

「そんなもの分かるわけがない!調べようにもこの石は触れると死んでしまうだろう!?これまでも何人犠牲になったと思ってるんだ!」

 

「有力ゆえに害悪…、この石は凄まじいまでの力を持つがために我らはここを拠点に村を築き上げてきたが本来はモンスターが自然とそうしているように近付くべきものではないのだ。」

 

「我等はこの石が何物なのかまるで知らない。石などと呼んでいるが見た目がそうであるだけで、これはこの周辺にあるあらゆる鉱物との質の違いを見せさらには魔術すらうけつけぬ物だ。」

 

「この状態は一時的なものなのか、それとも永久に戻らぬのか。」

 

「最後に効力を発揮したのは何時なんだ?」

 

「それは確か……5年前にアルバさんとこの子供が最後に、あの例の。」

 

「無敵の殺生石に唯一の例外が出来たときだな?………なるほど、もうその時の前後辺りから殺生石は綻びだしていたのだな。石にも寿命があったというわけだ。」

 

「もう直す手立てはないのですか!?」

 

「そんなものがあったらこんなところで焦っておらぬわ。」

 

「いずれにせよこのままだと村の安全面の確保は難しいのでは…。」

 

「分かっておる。殺生石が死んだ今、時季によって表れるモンスターのことを懸念しておるのだろう?それはもう未知の領分じゃな。」

 

「これまで以上に村の警備を堅くしなくては!」

 

「気候が一定のこの土地に他所から来るモンスターがいないことを祈るばかりだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の村の畑

 

「ねぇ、ミシガンちゃん、ウインドラ好き?」

 

 僕はずっと思ってたことをミシガンに訊いてみる。

 

「エヘヘェ、好きィ!」ニパァッ

 

 おっ、おぉぉぉぉ!、天使や!いや女神や!いやいやそれ以上の何かやぁー!

 この照れながらも素直に朗らかにそして美しく可愛く愛らしく凄まじいまでの笑顔で答えるミシガンはなんていとおしいんだろう!

 これはもう村の宝だ!宝人だ!エバーライトだ!!こんな素晴らしい宝がある村に生まれて僕はなんて幸運なんだろう!まさに世界の宝!

 

 ウインドラの許嫁なのは残念だが。

 

 だからさりげなく僕は本命を訊いてみた。

 

「じゃ、っじゃぁぼっぼぼぼぼ、ぼぼ僕のことはァ?」

 

 いかん、初めて話した頃に逆戻りしている!

 

「?好き?分かんない。」キョトン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アァー!!訊いてみるだけでも体力使ったのに返答聴くのもなにか持ってかれそうだわぁー!!

 結構仲良くしてるつもりだったんだけどそこ疑問系なんですねミシガンさん!

 僕はあとどのくらい頑張れば君を振り向かすことが…!

 

 

「幼い子に何訊いてるんだよカオス。」

 

 ミシガンの返答に悶えてると隣にいたウインドラが僕を現実に引き戻す。

 

「ミシガンはまだ幼いんだからそんなこと訊いても分からないだろう?」

 

 えぇ~?そうかなぁ?少なくともさっきウインドラのこと訊いたときは乙女の顔してたぜ~?

 

「ちょっ、ちょっぴり気になっただけだよ!ほんの出来心というか…」

 

「それって何か変な考えからきてない?」

 

 ドキッ!なっ、なにを根拠に!

 

「なにを根拠に!」

 

「君は態度で分かりやすいからね。さっきの質問もそういうことなんだろ?」

 

 バレバレのようですね。流石僕の友人を名乗るだけのことはある。褒めてやろう!

 

「流石僕の友人を名乗るだけのだけのことは「カオスは」」

 

「騎士になるんだよね?」

 

 

 

 

 

 なにを今さら

 

「あぁ、当然だろ?ウインドラもだよな?」

 

「……そのつもりだけど、でもミシガンは」

 

 そういってミシガンを見るウインドラ。

 

「ミシガンは村長の娘さんだから……」

 

「?」キョトン

 

 もうミシガンと言ったらキョトン顔だよね!危うく真面目な話っぽいのに聞き逃しそうになるよ!

 

 その先は分かるよ。ミシガンの前じゃぁ言いにくいことだって。けど

 

 

 

「またそうやって暗くなるなよ!ウジウジ悩んでたって1人じゃぁ解決しないぞ!生まれなんて関係ないだろ?やりたいことをやるのが人生だぞ?」

 

「え?」

 

「ねぇ、ミシガンちゃんおっきくなったら何になりたい?」

 

「えぇ~?、んっとね~、えっとねぇ~」

 

「カオス何を…?」

 

「黙って聴いてろって。ねぇ、ミシガンちゃん何でもいいんだよ?こういう仕事したいとかこういうふうに過ごしてみたいとか」

 

「んんん~~?」

 

 しばらく考えてたミシガンは

 

「あぁあったぁ~、アレになりたい!」

 

「何かな?」

 

「おヨメさん!」

 

 そしてウインドラを見ながらそう答える。

 また失恋したぜ、僕はあと何回失恋しなきゃならないんだ。

 

「じ、じゃぁさ、騎士についてどんなイメージかな?」

 

「!」

 

「騎士?」キョトン

 

「そう、騎士!僕さそれを目指してるんだ。騎士はいいよ?味方や臣民のみんなを守るために勇敢に敵に立ち向かっていく勇者!まさに最高に理想の戦士だね!」

 

 全て小さいときに聞いたおじいちゃんの受け売りだけど。

 僕はおじいちゃん以外の本物の騎士を知らないから本当かどうかは分からない。

 だけど僕の心を一番熱くさせたのは間違いなく騎士だ。

 

「将来さ僕もウインドラも騎士になりたいんだ。」

 

「…」

 

「だから僕達が騎士になるときさ、ミシガンちゃんもそのぅ……一緒に来ない?」

 

「…!」

 

「う~んと、うん行くぅ!」

 

「本当!」

 

「カオスくんもぉウインドラも行くなら私も行くぅ!」

 

 やベーなぁテンション上がるぜ言質はとったぞ!

 

「そうこなくちゃ!僕達はさ日頃騎士になるために森で訓練積んだりしてるんだ!今日このあと良かったら一緒に行ってみない?」

 

「ぇえと、えとねぇ、お父さんが森には近づいちゃダメってぇ」

 

 テンション上げすぎて余計なこと言っちゃったか。まぁ、そうだよね普段は森って弱いとはいえモンスターでるからなぁ。

 

「そ、そっかぁ、じゃあまた今度かな。」

 

 この話はここまでにしとこう。ザックに勝って解放されたからか最近はついつい調子に乗って変なことを言ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後畑仕事を終えて先ほどの通り森に遊びに行こうとしたとき

 

「カオス、ミシガンには黙っててほしかったな。」

 

 ウインドラに注意を受けてしまった。

 

「ゴメンゴメン、つい口が滑って。」

 

「ミシガンから村長に伝わって村長から僕の父さんにでも話が流れたら僕はきっと騎士目指すどころじゃなくなるんだぞ?」

 

「悪かったって!本当すみませんでした!」

 

 おっとまた冷静さをかいていたようだな。そのことを考えてなかった。抑えなければ!

 

 

 

「全く、それで今日はどうするの?アルバさんとこ?それとも本当に森に行くの?」

 

 僕は少し考えて

 

「今日は森かな、最近は行ってなかったし久々にこの間のボアチャイルドにリベンジしたいんだ!」

 

「そう、なら支度してくるよ。」

 

「おう、じゃあ30分後に集合な!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっそいなぁ、ウインドラ、何してるのかな?」

 

 30分後に約束したいつもの待ち合わせ場所についてもウインドラがいっこうに来ない。どうしたのだろうか?

 

「何かあったのかな?」

 

 まさかミシガンからもう村長伝ってラコースさんに先ほどの話がバレてるのかも。

 …ちょっと様子見にいって見るか。

 

 僕はウインドラの家に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は行けない?何かあったのか?」

 

 ウインドラの家に行くと急なウインドラからドタキャンを受けた。

 

「そうなんだゴメンよ?なんか大人達が騒いでて村長が明後日に村中の人を集めて何か話をするみたいなんだ。それの用意を手伝ってくれって。」

 

 そっかぁなら仕方ないなぁ。

 

「そういうことなら今日はやめとくかぁ、ウインドラいないとつまんないしな。」

 

「そのことなんだけど、最近の森はなんか危ないっていうらしいから森に子供だけで近づくのはやめといた方がいいって父さんが。」

 

 危ない?いつものことじゃないか。

 

「ふぅん?なんか出たのかな?」

 

「分からないけどそうとうなことがおこってるのは確かみたいだよ?」

 

 ………へぇ~。

 

「分かったよ、今日は大人しく帰るとするよ。」

 

「そうした方がいいみたいだね、じゃぁ、また明日ねカオス。」

 

 そういって僕はウインドラと別れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ないかぁ、何が出るのかなぁ?」

 

 あぁは言ったけど僕はなんだか森の異変に興味が湧いた。

 

「最近の僕は調子がいいんだ!ちょっと調べにいってみっか!」

 

 

 

 

 危ない行くなと言われるほどその禁忌を犯したくなる。子供だからこそ理性よりも好奇心を優先させてしまう。

 

 

 

 この時の僕は不屈と言われる自分は頑張れば何でも出来るとそう信じていた。

 

 いや、

 

 そう思い込みの勘違いをしてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だよ、何もいないじゃんか!」

 

 宣告通り森に来た僕は周辺でボアチャイルドとボアくらいしか見かけないことに不満をこぼす。

 ちなみに追い回されて終わった。これでまた黒星記録再開だ。ザックのようにはいかないようだ。

 

 いつものことなので気にしない。

 

「これならおじいちゃんと稽古してた方がよかったかもな。」

 

 これまでに来た森の様子との違いが見られないことに退屈を感じ1人森の中を歩く僕はもうそろそろ帰ろうかと思い始めていた。

 

「今日はウインドラもいないしそろそろおしまいにしようかなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガサッ

 

 

 

 

 

 

 ふと茂みの奥から物音がする。

 またボアチャイルドが来たのかと思って木刀を構える。

 

 が、いつまでたっても現れないので気が急いて見に行ってみる。

 

 そこには

 

 

 

 

 

 見慣れない格好をした若い男が傷だらけで倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰だ、この人?」

 

 カオスは男に歩みより顔を確かめる。

 見かけない男だった。こんな顔の人は村では見たことがない。

 別の村の人が森に迷って行き倒れたのかと思ったがもともとこの周辺は人気がないという理由で移り住んできた土地である。近くに村はない筈だ。60年ほどたってるから今はどうかは定かではないが。

 

 となるとこの男はいったいどこの誰で何をしていたのだろうか。

 

 

 

 

「…た、……いちょう……。」

 

 男が何かを喋った。意識が微かに残っている、まだ生きているようだった。

 

「お、おじさん!どうしたの!?何があったの!?どこか痛いの!?」

 

「み、……水をぉ……。」

 

 なるほどどうやら喉が渇いていて苦しそうだ。

 みたところ何も水や食料らしいものを持っていない。

 

 ふと腰についている棒状のものが目に入る。

 

「何だこれ?」

 

 そう思い掴んでみるとそれはするりと男の腰から抜けて手に重みが乗る。

 

 

 

「………これってもしかして……剣!?」

 

 それは銀色に長く伸びる刃物だった。

 

 

 

「スッゲェェ!本物の剣だァ!!」

 

 村では農機具や弓矢くらいしかないから初めてみる武器に興奮する。

 いや、そういえばおじいちゃんが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あれに比べれば装飾も少なくてシンプルなデザインだ。

 曲がりなりにも隊長をやってたと言っていたし違いがあるようだ。

 

 おじいちゃんは民間の出で応募して騎士になったと聞いている。

 そこで長年一般騎士を務めて小隊長までが限界だったらしい。

 恐らくはこの男もそうなのだろうか?

 本当に騎士だったらいろいろと訊けそうだ。

 

 

 

 もしかしたら騎士ではないのかもしれない。

 世の中には各地を転々とする冒険者という人達がいるそうだ。この人もあるいは…。

 

「水ぅぅ……。」

 

 再び水の催促をされる。

 おっといけない。緊急事態なのすっかり忘れていた。

 

 僕は持っていた水を男に与える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうボウヤ、助かったよ。」

 

 男はお礼を言ってくるがその顔からは深い疲れを感じる。

 

「うん、どういたしまして。ところでおじさんは誰?どこから来たの?」

 

「私はクレベストン、マテオ王国騎士団の隊員だ。」

 

 ……やっぱりこの人は騎士だった。

 その返答を期待していた僕は

 

「わぁ~、やっぱり騎士なんだぁ!凄いやぁ、本物に逢えるなんて感激だよ!もしかして任務で来たの!?他にも騎士がいるの!?騎士ってええっと、何を食べるの!?」

 

 一気に質問を捲し立てる。あっ、最後は別に要らなかったか。

 

「期待してるところ悪いんだが私は任務ではなく、個人的な人探しのためにこの地を訪れたのだよ。あと食べ物は普通のつもりだが。」

 

 律儀に質問に答えてくれた。いい人そうだ。

 自分のこと私って言ってるけど女の子みたいだな。そういえば村長とか偉い人とかも私って言うな。この人って結構偉い人?

 

「人探し?それって誰か迷子になってるの?」

 

 村の住人ならともかくこんなところで迷子になったらモンスターに襲われて大変だ。

 戦えるなら心配はないが、長くさ迷うと疲労で倒れてしまうかもしれない。

 

「迷子……か。確かに迷子だな。もう100年近くになるか。」

 

「100年!?」

 

それはまた随分と長く迷子を続けてるなぁ。

 子供だったら大人になってしまう。

 

「あぁ、この森から少し離れた場所にある廃村ではぐれてからそれくらいになる。とある貴族の当時隊長だったお方でね。あのとき私達の部隊をモンスターの群れから逃がすために1人で囮になってそれっきりなんだがあの方がそう簡単にやられる筈はない。今もどこかで生きているに違いないと私は信じている。」

 

 よっぽどその人のことが大事なんだな。

 話を聞く限り時期的にも合うのでもしかしておじいちゃんかな?とも思ったがおじいちゃんの話ではおじいちゃんの部隊は全滅しておじいちゃんが1人で逃げてきたと言っていたからこの人の部隊とは違うだろうと思ったので口には出さなかった。

 第一、貴族でもないぞ。

 うちのおじいちゃんそんなに人から尊敬されるような質じゃないし。

 

「でもなんでここに探しに来たの?その村とは若干遠いと思うんだけど。」

 

 もともとの村はここから10キロは離れている。何か理由がなくてはここまで来ないだろう。

 

「あの村から王国までの街や村は全部回ったさ。それでも見つからない。だからあの村から徐々に遠くそして人の住めそうなところをくまなく探してここで君と出会ったというわけだ。」

 

 既にしらみ潰しの様子。頑張るねこの騎士様。

 

「でもあの村の様子だとその探してる人も…、とかは思わなかったの?」

 

 よくその探し人を無根拠に探せるものだ、普通は諦めてるだろうに。すると、

 

「私も最初はそう思った。しかし住人の消えた村を探索してるとモンスターに襲われた形跡が全くないことに気付いたんだ。それに生活用品もところどころなくなってる。まるで住人がまるごと何処かへ移動したかのように。」

 

 そんなことまで分かるのか。流石騎士様だ。

 

「だからあの村からそう遠くない位置に住民が移動したんだとふんで私はずっと探し続けていた。」

 

 それで100年も探し続けられるってことは本当に会いたいんだろうなぁ、その人に…。

 その人も幸せだろうな、こんなに想ってくれる人がいて。

 

 

「そういえば君はどうしてこんなところにいるんだい?子供だけでも危険だろうに。」

 

 話を聴くのに夢中になってると今度はクレベストンさんの方から質問がくる。

 

「僕は大丈夫だよ。この近くに村「村があるのかい!?」が」

 

 

 

 

 あ、この流れ……マズイかも。

 

 

 

 

「私を是非そこへ案内してくれないかい?」

 

 そう来ると思ったよ。

 

 どうしようか、というのも僕は大好物だから別にいいんだけどもともと僕の村の人達は騎士様達を毛嫌いして村を移動したのだ。

 

 そこへクレベストンさんを案内するってのも難しい話である。

 

「うぅ~ん、えっとぉー案内はちょっとぉ…。」

 

「……どうやら事情があるみたいだね。私の予測になるが騎士には教えられないというような…。」

 

「え!?何で分かるの!?」

 

「村の団体移動は他でもよく聞く話さ。税の取り立てを拒むという理由でのね。大概は見つかるんだが。」

 

「他でもあるんだ!」

 

 「あぁ。だが安心してくれ!私は君達の村の存在を王国の誰にも知らせない!剣に誓って!」

 

 お、お、おおぉーーー!!そのセリフは昔おじいちゃんが言ってた騎士の誓いだ!!まさしく騎士のセリフだよぉぉー!

 

「で、でも僕はぁ、えっとぉぉ……教えてあげたいのはあるんだけど……。」

 

 確かに剣の誓いを見て信じる気にはなってるんだけど、大人達が後でなんていうか……。

 

 

 

 

「なんならこの剣と鎧は君にあげるよ。」

 

 

 

 

 クレベストンさんがとんでもないことを言ってきた。

 

「えぇぇぇぇぇ!!!?いいのぉぉぉぉ!!!?」

 

 どうしたと言うんだ、大切な剣と鎧をこんな子供に授けて大丈夫なのだろうか?

 

「いいとも私はあの方が不在かどうかを確認できたらそれで満足だ。」

 

「けどそれじゃぁ、どうやって帰るの!?武器も持たないで王国に帰れるの!?」

 

 この周辺は弱くてもモンスターの生息地だ。油断してると足下を掬われかねない。

 クレベストンさんは

 

「大丈夫だよ、私にはもう必要ない。このナイフさえあれば。」

 

 そういって懐から10センチ程度の小さなナイフを取り出す。

 

 ……それで身を守れるの?今だって身体中傷だらけのボロボロなのに?

 まぁ、くれるというなら有り難くありがとうございます!

 

 

 

 

 

「それに私にはもう時間が……」

 

 

 

「なんか言った?」

 

「いや何でもない。それとさっきから気になってたんだがボウヤは騎士について随分興味がある様子みたいだね。誰かに騎士について教わったのかい?」

 

「うん!実は僕のおじいちゃんも昔騎士をやってたんだぁ!おじいちゃんからよく騎士について教えてもらっててね。それからずっと騎士になりたくて毎日剣術の稽古もしてるんだよ?」

 

「それは一騎士として勤勉な後輩に巡り会えたことに感謝せねばな。」

 

 そう言われると照れくさいな、へへっ。

 

「ねえ、クレベストンさんって普通の隊員なの?それとも隊長か何か?」

 

「?私はこれでも一応中隊長職には就いてるがどうして?」

 

「え?中隊長なの?けどこの剣、おじいちゃんの持ってる剣と比べるとなんかシンプルだね。」

 

「ボウヤのお祖父様も剣を?しかし先ほどの話からすると退役したんじゃないのかい?その際には剣は返納する決まりになってる筈だが…。」

 

「アッハハ違う違う!仕事中に自分の部隊ほっポリだして逃げてきたんだって!こんなアブねぇ仕事やってられるかあ~ってね。村が移動する辺りの話だよ?」

 

「……」

 

「だからそのまま剣も持って行っちゃって今の村に住んでるんだ。たまにその剣を手入れしてるときに見せてもらうんだけど変な動物のマークがついててね。」

 

「動物のマーク!!?」

 

「わっ、急にどうしたのさ!?」

 

「ボウヤ!君のお祖父様はなんて名前なんだ!?」

 

 突然クレベストンさんが僕の肩にてをおいて強く掴んでくる。

 

「名前?あっ、まさかとは思うけど僕のおじいちゃんが探してる人かって思ってる?残念だけど多分別の人だよ。おじいちゃん平民の出身って言ってたから逃げ出すときに誰かの剣を間違えて持ってきちゃったんだと思う。」

 

「平……民?」

 

「そうそう、人違いなんてよくある話でしょ?おじいちゃん部隊全滅してて生き残ってるのは俺だけだーって言ってたし、その隊長さんの剣を持ってきちゃったんだよきっと。」

 

 まったくおじいちゃんは!黙って騎士を辞めるだけじゃなくそんな偉い人から盗みまでしてたなんて!

 なんだか隊長職に就いてたってのも妖しくなってきたぞ?

 帰ったら問い詰めてきっちり…。

 

「100年前のあの当時、あの周辺は騎士の税の徴収部隊は私達の隊のみでそれ以外の部隊の話は聞いたことがない。」

 

「え?」

 

 内心おじいちゃんに対して腹を立ててるとクレベストンさんが何かを語り出す。

 

「さらにあの村であったモンスターの襲撃に関しては絶望的な状況に陥りながらも被害は奇跡的に1人のみ。そう隊長だ。」

 

 クレベストンさんは僕に言い聞かせるように話す。

 

 1人

 

 そこから考えられることは1つしかない。

 

 けどいやこの人とおじいちゃんの言ってることの食い違いは何だ?

 

 100歩譲っておじいちゃんがその隊長さんだったとしても部隊が全滅した話や平民だったってのはなんなんだ。

 

 まさかクレベストンさんは僕に嘘を?

 

 だがいくら考えてもその嘘がこの場で必要とは思えない。むしろありのままを語っているとしか…。

 

 じゃぁ、

 

 

 

 じゃぁ、嘘をついているのはおじいちゃん?

 

 何でそんな嘘を?

 

 みんなは知ってるの?

 

 おじいちゃんは本当は一体何者なの?

 

 おじいちゃんは本当におじいちゃんなの?

 

 ダメだ疑い出したらキリがない。

 

 と、僕が疑心暗鬼に陥ってると

 

「それ以後の被害は多少の負傷はあっても隊員の誰かが行方不明になるほどの報告は受けていない。事件もその一件限りだ。異動で別の部隊に移ることはあったが。」

 

 クレベストンさんがもはや確信したかのように言う。

 

 

 

「あの事件で消えた隊長と隊長の剣、そして同時期に同じ現場で辞めた君のお祖父様と()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逢わせてくれないかボウヤ、君のお祖父様、

 

()()()()()=()()()()()()()()()()()隊長に。」

 

 

 

 

 



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きっかけ

 騎士を目指す少年カオスはウインドラと森に行く約束をするが都合により断られてしまう。

 好奇心に突き動かされたカオスは1人で森に向かいそこで1人の騎士と出会う。

 その騎士はかつてアルバが救った騎士だった。


「アルバート=ディラン・バルツィエ?」

 

 

 

 その名前に僕は疑問を持った。

 

「どうしたんだい?君のお祖父様の名前じゃないのかい?」

 

 クレベストンが尋ねる。

 ところどころ似かよっているというかその名前の上下だけなら分かるのだが…。

 

「なんか違うよ?僕のおじいちゃんは()()()=()()()()()()って言うんだ。」

 

 

 

 名前が違うので人違い

 

 と言うにはこの2つの名前は重なるところがある。

 

 アルバート=ディラン・バルツィエ

 

 そしてアルバ=バルツィエ

 

 ファミリーネームが同じ時点で既に少なくとも他人の筈がない。

 

 クレベストンさんの言う通り同一人物なのだろうか?

 

 ………もしかしたらおじいちゃんはそのアルバートなんとかと言う人に成り代わった盗賊の類いかもしれない。

 

 相手は貴族とか言ってたしその貴族の名を名乗って………

 

 

 

 

 いや、やはりこの案はあり得ないし無意味だ。

 

 貴族に成り代わったと言うならこんな村で農業してる訳がない。

 それだったら他人の名を名乗らずに自分の名前で十分な筈だ。

 

 倉庫に置いてある剣も相場は分からないけど素人目にもそれなりにいい剣だと思う。

 盗賊だったらそんなものを売らずに残しておくだろうか?

 

 

 

「アルバ=バルツィエか、なるほど。」

 

 名前を聞いてクレベストンさんは1人で納得している。

 

「何か分かったの?」

 

「十中八九君のお祖父様は私の捜している隊長だ。名前を変えているのは地方によっては貴族を嫌う平民がいるからだろうね。」

 

 そうなのか、名前だけでも嫌われるなんて不便だな。

 

「けどそれならファミリーネームを変えないのは不味いんじゃない?貴族って有名なんでしょ?」

 

 名前だけ変えてもファミリーネームが一緒じゃ即バレしそうなもんだが。

 

「この地域はあまり王国の貴族の勢力とかは詳しくないんじゃないか?だからファミリーネームは変える必要ないと考えたんだろうね。ボウヤも貴族とかって他にどんな家があるか分かるかい?」

 

「貴族ぅ?………知らないなぁ。」

 

 言われてみると貴族についてそれっぽい名前とある程度の権力があるくらいしか知らない。関わりがないと情報なんて入ってこないからだ。

 

 

 

 

 ここまで聞いていてどうやらおじいちゃんは嘘つきだけど悪い人じゃぁなさそうだな。

 

 さっきまでおじいちゃんが何者で何を目的に僕にまで嘘をついてたのかは分からないけど、身元は王国の元貴族様だったらしい。

 

 どうして黙ってたんだろう。

 

 黙る理由、……貴族でも下の方過ぎて自慢にもならいから恥ずかしかったとかかな?

 

 なんだよそういうことだったら素直に言ってくれてもいいのに。

 

 けどそう考えると僕って実は一応どこかの貴族様の血筋になるわけだから、………僕も貴族!?

 やベーなぁ、今までにないくらいワクワクするぞ?僕が貴族なら騎士になるのももしかするとそう難しくないんじゃないないかな!

 

 頭のなかを夢でいっぱいにしてると

 

 

 

「ゴホッ!ガフッ!」

 

 苦しそうに咳き込む。そういえば長話してたけどクレベストンさんはさっきまで倒れてたんだ。休ませてあげないと。

 

「クレベストンさん大丈夫?なんだか苦しそうだけど村まで案内してあげようか?」

 

 騎士を案内するのはいけないことだとは思ってたけど緊急事態だし騎士を目指すものとして困ってる人を見捨てておけないよ!

 

 それに剣も貰っちゃったしね!鎧は体に合わなくて断念したけど。

 

「あ、あぁすまないね有り難う。まだ名前を聞いてなかったね。ボウヤはなんてうんだい?」

 

「僕?僕はカオス!カオス=バルツィエだよ!」

 

「そうか、カオスと言うのか。大きくなったら騎士になりたいのかい?」

 

「うん!そして王国や村のみんな、世界中のみんなを守るんだ!」

 

「ハハハ、世界中かぁ、広いとこまでいくつもりなんだな。将来の有望な後輩君だ。」

 

「へっへへ!あっ、だけどおじいちゃんが言ってた騎士って本当に全部正しいのかな?おじいちゃん名前からいろいろ嘘つきみたいだし。」

 

 憧れの騎士像が曖昧になりそうで恐くなる。すると

 

「大丈夫だよ。アルバート様は昔から嘘つきだったけどあの人がつく嘘に人を傷付けるようなものはなかった。あの方がつく嘘は本の些細な悪戯ごころからだし、後から嘘がバレて人を傷付けるような嘘はつかない。そこはしっかりと弁えてる方だ。」

 

 クレベストンさんが僕の心の不安を悟り補強してくれる。

 

「えっへへ、有り難う!それじゃ行こっか!」

 

 僕達はそのままおじいちゃんのいる家に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 クレベストンさんは朗らかに話をしてくれてたがどこか焦燥感が見える様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだカオス君、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「聞きたいこと?なぁに?おじいちゃんのこと?」

 

「その村で密閉………、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?もし本当にアルバート様だったら少し長くなる話をするかもしれないから夜遅くまで話してるとご近所の方々に迷惑をかけてしまうからね。あとなるべく人目に付かないとことかがいいんだが。もし私が騎士だとバレるとカオス君も怒られてしまうんだろう?」

 

「あぁ~確かに!ん、と~……あるよ!ちょうど僕とおじいちゃんの家の地下に倉庫が!そこにおじいちゃんの剣も置いてあるんだ!」

 

「………流石アルバート様、()()()()()()()()()()()()。」

 

「ん?おじいちゃんがどうしたの?」

 

「何でもないよ、()()()()()()()()()()()()()()()()()。早くお逢いしたいなぁ。」

 

「もうすぐ逢えるよ。急ごう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時のクレベストンさんの妙なところに納得する会話は大分後になってその意味がようやくわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村の入り口付近カオス邸宅前

 

 

 辺りはもう暗くなり始めようとしていた。

 

 

「ここにカオス君とアルバート様が住んでるのかい?随分と他の家から離れてるようだが…。」

 

「そうだよ?おじいちゃんは元々余所者だから家建てるのもみんなの近くに建てさせてもらえなかったんだって。ここに来たときは村でもしたっぱだったって言ってたし、なんせ騎士だったからね。」

 

「……。」

 

「だから殺生石の恩恵を受けるのも一番遠いこの位置にあるんだよ。」

 

「殺生…石?随分と物騒な名前の石だな。一体なんなんだいそれは?」

 

「村の御守りだよ。あそこの奥の方に村長の家があってその裏にあるんだ。この石の近くってモンスターが寄り付かないみたいでね?村を引っ越すときもこの石があったからここに移ってきたんだ。」

 

「……確かにこの付近は森林生い茂る危険地帯だから村を構えるなんて自殺行為だとは思ったがそんなものがあるなら納得だな。恐らく天然のホーリーボトルなんだろう。」

 

「ホーリーボトル?お酒?」

 

「いろんな街で買える薬品だよ。これを振りかけるとモンスターがよってこなくなるんだ。」

 

「なにそれ持ち運び出来る殺生石ってこと!?すごぉい!」

 

 そんなものまで外の世界にはあるんだな。騎士になるだけじゃなく他のことにもいろいろな期待ができそうだ!

 

「その殺生石ってのは具体的にどんなものか判明してるのかい?」

 

「多分何も分かってないと思うよ?触ると死んじゃうし調べられないんだ。僕もそれでひどい目にあったし…。」

 

「ひどい目……?そういえば出会ったときからいつまでたっても君の体内のマナが回復する様子が感じられないんだが大丈夫なのか?」

 

「実は僕、殺生石にマナを消し飛ばされてこうなっちゃったんだ。体的には問題ないんだけどマナが本の少ししか残ってないから魔術が使えないんだ。使うと今度こそ死んじゃうし。」

 

「恐ろしい石があったもんだな。その見恵みを受けてはいるが触れると命を失う石か…。」

 

 

 

 そんな村の世間話をしてると家の中からおじいちゃんが出てきた。

 

「何だ、玄関から話し声が聞こえるのにいつまでたってもは入ってきやしねぇから見に来てみれば見掛けねぇ奴と一緒だな。」

 

「あっ、おじいちゃん只今!」

 

「おう、お帰り。で、こちら………さんは……!?」

 

「この人はね森で「バッキャロー、村に騎士連れてきてどうすんだ!」」

 

ゴチンッ!!

 

 頭に拳骨が落ちる。スンゲー痛い。

 

「待ってっておじいちゃんこの人は…」

 

「待っても何もあるか!オメーこの村の成り立ち知ってんだろ!」

 

 ダメだ言うことを聞いてくれない、どうすれば。

 

「オメーが1人で王国に向かうってんなら構わねぇがなぁ、この非常事態に村に連れてきちゃこの村ももう「アルバート様!」」

 

 

 

 

 

 

「ご無沙汰しております!アルバート様!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういってクレベストンさんはおじいちゃんの前で膝をつく。

 これは膝まずく、って格好でいいのかな。確か男の子が女の子にプレゼントを渡すときがこんな渡し方するって前におじいちゃんが…。

 

 また嘘だったのおじいちゃん?

 

 

 

 

 

「オメェさん、もしかして…。」

 

「はい!100年前にあの村であなた様にこの命を救われた騎士クレベストンです!ずっと他の隊員と各地をお捜ししておりました。今はアルバート様の後を継いで()()()()()()()()()()!」

 

 そういってクレベストンさんは静かに涙を溢す。

 

 大人でも涙は出るんだな。

 

「もう再会出来ることは叶わぬと諦めかけたときにアルバート様のお孫様に救って頂きこうして悲願を果たすことが出来ました!」

 

 お孫様って仰々しい態度にさらに拍車がかかったな。そんなにおじいちゃん見つけられたことが嬉しかったのかな。

 まぁ、なんでもよかったよ。

 

「……。」

 

「残された僅かな時間であなた様と再会を果たせたことを心から神に感謝します!」

 

「よせや、神さんは何もしてねぇだろ。オメェさんが頑張ったから果たせたんだろ。その悲願ってやつが。」

 

「相変わらずですねアルバート様は、1人1人のことを大切にして貰えるそんなあなた様だから私達は今日まで諦めずに捜してこれました。」

 

「たかが一言にどれだけ感激してるんだよ。そんな深いこと言ってねぇよ。」

 

 おじいちゃん照れてるな。照れてるときブスッとした顔で否定し続けるのがおじいちゃんの癖だ。

 

 

 

「私はこれでもう思い残すことなく旅立てます!」

 

 

 

 旅立てる?おじいちゃんを見つけるまで旅をしないとかそんなふうに考えてたのだろうか?上司を差し置いて部下が旅立てるかぁーみたいな?

 

 

 

 

 その一言を聞いておじいちゃんがクレベストンさんの体を見回し傷のあるところを凝視する。

 

 そういえば怪我人だったな。早く手当てをしてあげなくては。

 

 嬉しそうだが顔色も悪いし、よく見ると涙だけじゃなくて汗も凄い掻いてる。

 

 本格的に倒れそうだぞ?早く座れるところへ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス、今日はもう早めに寝ろ。もしかしたら明後日村で集会が行われるから朝早くに村長のとこにいって手伝いに行ってこい。」

 

 

 

 クレベストンさんを休ませようと手を引こうとした瞬間後ろからおじいちゃんにそう言われる。

 

「えぇ~!?クレベストンさんに休んでもらってからいろいろと騎士について聞きたいことあるのに~!」

 

「ばぁ~か、そんなん後にしろ~。今からおじいちゃんはこのクレベストンと積もる話があるからお前の時間はないんだよ。さっさと寝とけ。」

 

「えぇぇぇぇぇぇえ?」

 

 なんだよ自分が話したいだけじゃんか!

 

「もう!今日のとこは譲っとくけど明日は僕の番だからね!クレベストンさんも覚えといてよ?」

 

「あぁ、絶体に忘れないよ。」

 

「よぉ~し、じゃぁちょっくらこの近くの穴場で昔話で花でも咲かせてくらぁ。」

 

 そういっておじいちゃんとクレベストンさんは背中を向けて何処かに行ってしまう。

 

 

 

 

 

「はぁ~、明日が待ち遠しいな!クレベストンさんになに聞こうかなぁ?あぁぁぁ!!」

 

 おじいちゃんとクレベストンさんが何処かに歩いていった後、家の中で僕は本当に世界には騎士がいてしかもその騎士がおじいちゃんの知り合いで部下だったことに興奮してベッドで悶える。

 

 礼儀正しくて剣を持っていて臣民を守る。そして格好いい!

 

 いろいろクレベストンさんから聞いておじいちゃんがたくさんの嘘をついてる可能性が浮上してきたが騎士のとこだけは真実のようだ。

 

 僕の夢は守られたのだ!

 

 早く明日になってお手伝いを終わらせたら戻ってクレベストンさんの話を聞きたい。そしておじいちゃんがどんだけ嘘ついてたかチェックするぞ!もう騙されてやらないんだからな!

 

 

 

 けどクレベストンさんは一体いつまでいられるのだろうか?

 前に世界地図を見たことあったけどここから前の村までも半日はかかる。

 さらにそこからいくつもの街を通ってようやく王都だ。 そうとう時間がかかる筈なのによくここまで来れたなクレベストンさんは。村だってあるかどうか分からなかっただろうに。

 戦争中って聞いてるけど今は暇なのかな?

 

 

 

 まぁ、それだけおじいちゃんを必死に捜してたってことでいいかな。

 命救われたって言ってたし。

 形見くらいは見つけたかったのかもね。

 それなら貴族って言ってたからお屋敷とかで貰えなかったのかな?

 おじいちゃん不在で潰れちゃったとか。

 

 

 

いくら1人で考えても答えは返ってこない。待ちきれなかった僕は明日の支度をしてもう寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 そしたら庭の方から

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャン…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベッドの上で、ほんの微かにだったが外の庭の方で音がした。

 

 「ん?まだ出ていってから10分もしてないのに戻ってきたのかな?」

 

 音には聞き覚えがあった。だからその音でおじいちゃんが帰ってきたと思った。

 

 クレベストンさんが体調悪そうだから帰ってきたのかな?

 

 それならなんで家に入らないんだろう?

 

 何か用事でも…。

 

 

 

 

 

 

 

 あ、なるほどそういうことか。だからねぇうんうん。

 

 アレを見せにいったんだろうなぁ。だから戻ってきたんだ。

 

 そういえばクレベストンさんも森で昔なくしたーって言ってたしせっかくの再会の記念にでも見せてあげてるんだろう。

 

 そういうことなら大丈夫か。

 

 元々アレはおじいちゃんのものだし。

 

 捜してた人と物だから帰るまえに見ておきたかったんだなクレベストンさん。

 

 

 

 ……それにしても長すぎないかなぁ?いつまで掛かってるんだ?

 

 また感激して長話してるんじゃないか?涙もろそうな人だったし。

 

 ベッドの上で庭の音に耳を澄ませていたがいっこうにもう1度鳴る筈の音が聞こえない。

 

 なんだか落ち着かないなぁ、それほど長く話すことがあるものだろうか?

 

 

 

 そんなふうに思考をこらしてると僕はいつの間にか眠ってしまっていた。

 

 

 

 

 この日はいつもの仕事に加えて、嬉しいことがたくさんあった。

 

 それで気分は高まっていたが体の方は疲れが限界だったのだろう。

 

 クレベストンさんが明日話してくれる王都についていろいろ知りたいと思った。

 

 行く行くは自分が勤めることになる街はどんなものがあってどんなことが普段起きるのか、想像が出来ない!

 

 

 

 

想像が出来ないことは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これから起こると言うのに……。

 

 

 



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誇り

 騎士を目指す少年カオスは森で騎士クレベストンと出逢い、そこから祖父アルバの過去を知る。

 クレベストンをアルバのもとへと連れていったカオスだが2人はそのまま何処かへ行ってしまう。

 しかしその後2人の不審な行動を訝しく思うがカオスはそのまま眠りについてしまう。


村のとある???

 

 

 

 

「お前、大丈夫なのか?その傷。」

 

「今は平気ですけど、いずれは…。」

 

「そうか。」

 

「……。」

 

「すまなかったな勝手にいなくなってテキトーな隊長で苦労してたろ?」

 

「いえこうしてご無事な姿を一目見れただけでも私は…、このことをダリントンにも伝えてあげたいです。」

 

「あぁまぁ~、……アイツか。」

 

「隊長が生きていたと知ったらすぐにでも飛んでくるでしょう。私以上に隊長の捜索に力を入れていましたから。」

 

「よせって、その格好を見るに今はお前がお隊長なんだろう?」

 

「ダリントンも別部隊ではありますが同じく隊長職ですよ。」

 

「後続が出世していくなぁ、出世コースから外れた俺としてはもう関係ないがな。」

 

「……隊長。」

 

「何だ?」

 

「もうお戻りになる気はないのですか?」

 

「……。」

 

「隊長がいなくなってからは王都では表面上は平穏ですが裏では()()()()()が非道の限りを尽くしていますです。」

 

「そうか…。」

 

「隊長の…、マテオの救世主とまで言われたあなた様さえお戻りになられればバルツィエは」

 

「今さら腰抜けが戻ったところでなんの歯止めになるってんだ?」

 

「隊長は腰抜けなどでは…」

 

「1度失った信頼を回復するのは不可能だ。もうお家騒動で俺に勝つ手段はねぇ。俺の席にゃとっくに誰か座ってんだろ?それに俺は現実に直面して折れたんだよ。」

 

「それでも王都の民はあなたを…。」

 

「最初から救世主なんていなかったんだ。いたのはもてはやされて調子に乗ってずっこけたバカな理想掲げた英雄志願者だ。」

 

「…。」

 

「俺に出来たのは最前線で戦うことだけだったろ?」

 

「私はあなたを尊敬していた。あなたこそがこの世界を救ってくれると。」

 

「こうしてこれから逝ってしまうお前1人さえ救えない俺にか?」

 

「…この世界に足を踏み入れてからはいつか来るものと覚悟しておりました。」

 

「………いつやられたんだ?この辺りにいたんだろ?」

 

「ワクチンは打ったつもりでしたが、どうやら手遅れのようです。少々やつらに使いすぎました。討ち漏らしはないとは思いますが…。」

 

「万が一って場合もあるな。ったく、守り神が死んだと思ったら最悪な悪魔が近くに現れたもんだ。これならドラゴンが来てくれた方がまだマシだぜ。」

 

「ゴホッ!」

 

「!」

 

「…どうやら限界が近いようです隊長。」

 

「そのようだな。介錯は必要か?」

 

「いえ、この場をお借りできるだけでも幸いです。ワザワザ隊長を私の血で危険にさらすこともないでしょう。」

 

「すまないな。」

 

「謝らないでください。私の最期が隊長の下で迎えられること私にとっては光栄です。」

 

「まさかこの部屋の最初の使用者がかつての部下のお前だとはな。」

 

「もしダリントンが訪れたら伝えてもらえますか?」

 

「なんだ?」

 

「私の最期はとても幸せなものだったと。」

 

「俺の口から出せる言葉にしてくれよ。」

 

「そこは譲歩してもらえますか?」

 

 

 

 

 

 

「それじゃあな、クレベストン=ケルク」

 

「短い期間でしたがお世話になりました。

 

アルバート=ディラン・バルツィエ様。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日のカオス宅

 

 

 

「起きろ~カオス。昨日言った手伝いに行ってこい!」

 

 

 

ガツン

 

 

 

「いってぇ~!何すんだクソジジィ!」

 

「お前がいつまでも寝てるからだ。さっさと行ってこい。」

 

「はぁ~い!あれ?クレベストンさんは?」

 

「アイツなら疲れたから休みたいって寝てるぞ。起こしてやんなよ?」

 

 なぁんだ、朝くらいちゃんと挨拶したかったんだけどなぁ。

 

「それじゃぁ行ってきま~す!」

 

 僕はクレベストンさんとまた話がしたかったので早めに手伝いを終わらせるため村長の家に向かった。

 

「……。」

 

 ふと家を出て視線を感じ振り替える。

 

 おじいちゃんが窓から僕を見ていた。

 

 …? 

 

 まぁ、いっか。

 

 僕はそのまま気にせずに歩きだす。

 

 

 

 

 

 

「悪いなカオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長邸宅

 

 

「すみませ~ん!」

 

 村長の家に着いて家の住人を呼ぶ。中から

 

「あれカオスどうしたの?」

 

 ウインドラが出てくる。

 

 ミシガンを期待してたんだが。

 

「ウインドラじゃんか、何してるの?」

 

「何って昨日言ってたろ?村長が何かやるらしいからその手伝いって。ミシガンは畑に行ったよ。」

 

 そういえばそうだった。

 

「んじゃぁ僕と同じだね。」

 

「ってことはカオスも?」

 

「うん、おじいちゃんに言われてさ。」

 

「アルバさんかぁ、なら納得だね。」

 

 アルバさん……か。

 

 昨日はそれが本当の名前じゃないことに驚かされた。

 

 しかも貴族だと言う。どうせ貴族でも大したことなさそうだけど。

 

 

 

 

 そうだ!

 

 

「ねぇウインドラ、昨日ねあの後森に行ったんだよ。」

 

「え?でも昨日はやめとくって。」

 

「なんか急に行きたくなったんだよ。今日はなんかありそうだなー、って思ってさ。」

 

「カオス、あんまり無茶してると本当にケガするよ?」

 

「ごめんって前にも聞いたよそれ。」

 

「その様子見る限りじゃぁ、ケガはしてなさそうだけどどうしたの?」

 

「とくにそういったことは無かったよ。けど代わりに凄いもの発見しちゃったんだ。」

 

「凄いもの?」

 

「ここだけの話なんだけど、本物の騎士様がいたんだ!」

 

「本物の………騎士様!?」

 

「ちょっと、声大きいよ!」

 

 慌てて周囲を確認する。

 

 

 

 

 ………聞いている人はいなさそうだ。僕らは声をひそめながら

 

「………本物の騎士様だよ。鎧って言うの着ててこんな長い剣も持ってた。前におじいちゃんの倉庫で見せたことあるやつに似てるの。」

 

「なんで、こんな村に騎士様が来てたの?」

 

「なんでも人を捜してたら森に迷い込んじゃったみたいで、倒れてたんだ。介抱してあげたんだけどそれで話を聞いてたらビックリ!なんとその捜してた人がおじいちゃんだったんだ。」

 

「アルバさんが?」

 

「そう、だけど最初はなんか話が違ったんだけど、聞いていくうちにおじいちゃんしかいなくてでも名前が違ってて、でおじいちゃんに会わせてみたら、おじいちゃんの名前アルバじゃなかったんだ。」

 

「え?アルバさんがアルバさんじゃない。」

 

「そうなんだよ、なんでもアルバートなんとかバルツィエって名前らしくて平民の出っていってたのにおじいちゃん貴族様だったんだ。」

 

「アルバさんが貴族!?」

 

「僕も最初は驚いたよー。まさかおじいちゃんが僕にいろいろ隠してるなんて思わなかったからさ。もしかしたら昔から聞いてた騎士の話も嘘なんじゃないかと思ったくらいだよ。」

 

「そりゃぁ、そう思うよね。」

 

「でしょ?でもその騎士様クレベストンさんって言うんだけど騎士の話は本当みたいだったよ?そんときは安心したなぁ、」

 

「アルバさんにもいろいろあるんだね。それでアルバさんは何故そんなことを?」

 

「ん?」

 

「どうしてアルバさんは偽名…、というよりそんな愛称みたいな名前を名乗ってたの?」

 

 

 

 訊かれてから僕はその理由をまだおじいちゃんから訊いていないことに気付いた。

 

「訊くの忘れてた…。」

 

 あのときはクレベストンさんとおじいちゃんが本当に知り合いだったことに驚いてたし、おじいちゃんに早く寝ろって催促されてから長くは喋ってなかったな。

 

 クレベストンさんのインパクトが強すぎておじいちゃんにかんじんなことを訊くのが頭から抜けていた。

 

「そこ大事だろ?カオス」

 

「う…、だって昨日はほんとうにいろいろありすぎて優先順位がごちゃごちゃになっちゃってて…。」

 

「帰ったら訊いて教えてくれよ?あとそのクレベストンさんのことも。」

 

「そうするよ。今は手伝いを終わらせることにするか。」

 

 僕はまだおじいちゃんとクレベストンさんの2人がどんな仲だったのかまだよく知らない。

 

 口ぶりからするとおじいちゃんが上司でクレベストンさんが部下みたいな感じだった気がする。

 

 

 

 深く考えても分からないや、後で教えてもらえばいいんだ。

 今は作業を終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だったんだろうなぁ、今日の仕事。」

 

 終わってみてから今日したことを振り返ると何かおかしい。

 

 ウインドラも呼び出されてたみたいだから2人して待ってたら大人達が集まってきていた。

 

 そのメンバーのほとんどが警備隊の人達だった。

 

 それも恐らくおじいちゃんを除いて村中の全員だと思う。

 

 最近何かを警戒してるって話だったからよほどのことなのだろう。

 

 そして今日やった作業といえば村を囲う塀の補強作業だった。

 

 今まであった塀は大人より少し高いくらいの塀だ。

 質も木材で出来てたし、子供の僕から見てもボアなんかが突進しただけで突発されそうな塀だ。

 不思議とそんなことは今まで1度もなかったが。

 多分殺生石があるからそんなことをするモンスターもいなかったのだろう。

 

 何故今になって塀を補強するのだろうか。

 

 殺生石さえあればモンスターは近寄ってこないという話の筈である。

 むしろ今までの簡易的な塀ですら不要な程に。

 

 あるにこしたことはないがこれから塀を補強するようなことでも起きるというのだろうか。

 

 

 

 僕の村は比較する対象がないので分からないが穏やかな村だと思う。

 

 みんなが畑仕事をして、みんなでお喋りなんかして、帰ってご飯を食べて寝てまた起きる。

 

 そんな日常をずっとずっと続けている。

 

 毎日毎日同じことを繰り返し繰り返し続けている。

 

 

 

 だから今日みたいないつもしない仕事をするのはなんだか新鮮だ。

 

 昨日から僕は新鮮続きだ。

 

 

 

 そう、僕はもしかして近々何か大きな事件でも起きるのかと期待していた。

 

 僕は同じことの繰り返ししかしない村に退屈していたんだ。

 

 

 

 その退屈な時間こそが本当に大切なものだと気付くにはまだ僕は幼すぎたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス宅

 

「ただいま~!」

 

 ……

 

 …あれいないのかな。

 

 出掛けてるみたいだ。

 

 返事がないってことはクレベストンさんもだろう。 

 

 おじいちゃんは大丈夫だと思うけどクレベストンさんは出歩いても大丈夫なのだろうか?

 

 ケガをしていたからモンスターのいる森に行ったとは思えない。

 

 なら村の中?

 

 けど見馴れない人が歩いてたら村のみんなは妖しく思うだろう。

 

 そこにおじいちゃんがいて昔の知り合いだー、とでも言えばみんなは騎士としか思わないんじゃないか?

 

 おじいちゃんのことだからそんな危ないマネはさせないだろうが。

 

 

 

 それにしてもおじいちゃんとクレベストンさんもいないと退屈だなぁ。

 

 せっかく帰ったらおじいちゃんの名前のことや貴族だったときのこととかをクレベストンさんに検証してもらいながら話を訊こうと思ったのに……。

 

 散歩でもしてこようかな。

 

 

 

 退屈解消に外出しようとしたらあるものが目に入る。

 

 

 

 

 昨日貰ったクレベストンさんの剣だった。

 

 

 

「そういえばこれ持ってきちゃってたなぁ。」

 

 昨日クレベストンさんは僕にあげるとは言ってたけど、流石に道案内をしただけでこんな騎士の魂みたいなものを頂いてもいいのだろうか?

 

「ん~、家の中にあってもよごしちゃいそうだなぁ。」

 

 仮に本当に貰えたなら大事にしたい。

 

 僕にとってはこれが初剣となる。

 

 木刀とは違うこの鉄の重みに心の底から込み上げてくるものを感じる。

 

 

 

 やっぱりこれは返そう。

 

 これがないとクレベストンさんはあんな短いナイフだけで帰ることになる。

 

 本当は凄く強いのかもしれないけどそれでもナイフだけでは心許ないだろう。

 

「よし!…とは言ったもののこの剣どこにおこうか。」

 

 大切な預かりものをこんな生活感溢れる空間に置いておいても汚したり最悪壊してしまうかもしれない。

 

 良い置き場を探しているとふと庭の地下倉庫を思い出す。

 

 あそこなら大してものも多くないし、おじいちゃんの剣だって置いてある。

 僕もおじいちゃんもそんなに行くことがないから安全だ。

 

 

 

 よしあそこにしよう!

 

 僕はクレベストンさんから渡された剣を地下倉庫に持っていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 庭に出て地下倉庫の前に来る。

 普段は地下に雨水が浸水しないように小屋があってその中にいきなり階段が出てくる。

 たまにこの階段をころげおちるときがある。

 

 

 

 そういえば昨日おじいちゃんとクレベストンさんは()()()()()()()()()()()

 

 この倉庫の小屋の扉を開けるとき決まって

 

 

 

 

ガチャン!。

 

 

 

 

 この音だ。

 

 昨日聞いた音はこの音である。

 

 昨日は何故か音をたてないように静かな開け方をしていたようだが。

 

 

 

 扉を開けると中から()()()()()()()()()()()()()()

 

 この倉庫はここから部屋まで全部金属で出来ている。

 

 恐らく地下に空間を作るために耐久性を考えて頑丈にしたかったんだろう。

 

 昔おじいちゃんが魔術を使いながら1人で作ったといっていた。

 

 

 僕はクレベストンさんの剣を持って階段を降りる。

 

 

 

 

 結局昨晩は何をしてたんだろうなぁ。

 

 ここに下りてきてから随分長くいたみたいだけどワザワザこんな場所で長話しなくてもいいのに……。

 

 

 

 あっ、今思い出したけどクレベストンさん言ってたな。

 

 この地下倉庫みたいなとこで話がしたいって。だからここに入っていったんだろう。

 

 目的は剣だけじゃなかったみたいだ。

 

 ここで今までを語り合ってたんだな。

 

 長い間離れ離れになってた知り合いだもんね。

 

 

 

 

 

 

 そうして考えているうちに目的の倉庫の空間に辿り着くが様子がいつもと違うことに疑問を覚える。

 

 

 

 何でおじいちゃんは剣を部屋の外に出してるんだろう。

 

 これも目的の1つの筈だ。

 

 一目見てから語り合ううちに邪魔になったのだろうか?

 

 中にはこの剣以外には何もない広い空間だというのに。

 

 

 

 昨日はあれからクレベストンさんを見ていない。

 

 おじいちゃんは寝ているから起こすなと言っていたが今になって思えば、何処で寝ていたのだろうか?

 

 家のなかにはいなかった気がする。

 

 とするとこの中だ。

 

 ここにこうして剣が置いてあるのも中で寝るためにどかしているだけとかそんな理由からか。

 

 仮にそうだとしたら家から近いようでこの遠い空間で1人でか?

 

 布団とかも中にはなかった筈だ。

 

 ここにいるのかは定かでは……いや、これを見ればここにいるとしか考えられない。

 

 確信を持って言える。

 

 

 

 

 

 

 クレベストンさんはこの中にいる。

 

 

 

 

 

 

 この倉庫の扉は室内含めてとても硬い金属を使っていて扉自体も何故そこまでして作ったのか分からないような厚みをしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今その扉の取っ手に何重にも重ねた鎖が巻き付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この扉は押して中に入るタイプのものである。その取っ手に鎖が巻きついて、扉の壁のフックに繋がっている。

 

 これでは中に人がいた場合、閉じ込められて出られない。

 

 

 魔術もダメだ。この扉は火の魔術で加工してあるので扉を熱せれば扉は溶かせるだろうがそれは解放してある状態でのことだ。

 

 このスキマ1つない空間の内側で火の魔法を使ったら一気に酸素がなくなってしまう。

 

 使わなくても時間の問題でもある。いずれ酸欠になって最悪の事態になる。

 

 

 

 こんな鎖は今まで見たことがない。

 

 そこのフックですらこんな使い方だと初めて知った。

 

 もう中に誰かがいるとしか思えない。

 

 ……何だか怖くなってきてる。

 

 

 昨夜の語らいで何かがあったのだ。

 

 クレベストンさんとおじいちゃんとの間に大きな何かが。

 

 普段はものぐさだけどやるときはやるおじいちゃんで怒ったりするのもたまにある程度だけど、まさかここまでするとは思わなかった。

 

 一体何があったのだろうか?

 

 紳士的な人に見えたがおじいちゃんの逆鱗に触れるような何かを言ってしまったか。

 

 

 

 

 

 ……中を見てみよう。

 

 そうすれば真実が見えてくる。

 

 

 

 

 

 

 僕は鎖を外す。

 

 随分と長い鎖だ。

 

 ここまでする必要があるのだろうか?

 

 中にいる人が閉じ込められてからどれだけ時間がたったのか分からないがこんなところにいたら肉体的にも精神的にも死んでしまう。

 

 鎖を外し終わる。

 

 そして扉を開けようとして体が固まる。

 

 

 

 

 

 

 閉じ込めていたということはこれを開けてしまってもいいのだろうか?

 

 いくらおじいちゃんでも怒ったくらいで人を閉じ込めるのだろうか?

 

 本当は中にクレベストンさんはいなくて別の何かをここに閉じ込めていただけなのかもしれない。

 

 きっと今頃どこかでおじいちゃんとまた話でもしてるんだろう。

 

 自分はただ考えすぎてただけで扉を開けてみれば何てことはない肩透かしをくらうだけだろう。

 

 

 

 

 

 僕はそう自分に言い聞かせてこの正体の分からない恐怖を振り払おうとした。

 

 この扉の向こうには最悪の事態なんておこってない。

 

 あるのは森で捕まえた珍しいモンスターかなにかだろう。

 

 鎖までかけて扉を閉めていたのはおじいちゃんとクレベストンさんが2人がかりで捕まえて運んだからだろう!

 

 と、次々とそれらしい理由を考えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

ギギィ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重苦しい空気に鈍い音が響いて扉を開ける。

 

 そこで僕が見たものは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸から血を流して死んでいるクレベストンさんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ヴェノム

 騎士を目指す少年カオスは祖父アルバの言いつけで村長の手伝いをしに村長邸宅に向かう。

 その後家に戻って騎士クレベストンを探しているうちに地下倉庫へとくる。

 いつもと違う様子に不審を感じながらも扉を開けて中に入るとそこには

 騎士クレベストンの変わり果てた姿があった。


 

 

 

 まず目に入ったのは赤い色。

 

 そして水のように滴る液体。

 

 それは日常で目にすることあるもの。

 

 それを目にするさいはなんとも思わない。

 

 よくみる色だから。

 

 

 

 

 普段農機具を使うとたまに出てくる赤。

 

 それは頑張った証だから。

 

 自分が真面目に取り組んでる証だから。

 

 

 

 それが目の前にいる男から流れている。

 

 これほどまでに多く流れている光景は今までに見たことがない。

 

 

 

 

 

 

 これはこんなに多く流れ出るものだったのか。

 

 これはこんなに赤く綺麗なものだったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これはこんなにも、怖いものだったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クレベストン………さん?」

 

 

 

 カオスは問いかける。

 

 

 

「………。」

 

 

 

 

 男は応えない。

 

 胸には昨日のナイフが刺さっている。

 

 

 

 

 

 カオスは本能的に分かっている。

 

 男がもう応えないことを。

 

 男がもう2度と動き出すことはないただのものに変わり果ててしまったことを。

 

 

 

 生き物にはいつかこういうときが来ることは分かっている。

 

 自分も後100年もすればこんな風になってしまうことも。

 

 頭では分かってても心と体が震えることを止められない。

 

 いつも冷静を保つことに気を付けているのにこの時ばかりは冷静になろうとすればなるほど、頭で考えようとすればするほど焦る気持ちが抑えられない。

 

 目の前のものはもう身動きすらしないのに何故こんなにも恐怖が込み上げてくるのか。

 

 何故自分はここから逃げ出したいのに体は云うことを利いてくれないのか。

 

 

 

 カオスにはもうこの場でただ立ち尽くすしか出来ないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッ。

 

 

 

 

 後ろで物音がした。

 

 その音でカオスはようやく体の自由を取り戻す。

 

 振り返るとそこには

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもとは違う何処か悲しそうな顔でカオスを見つめる祖父の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お………じいちゃん……?」

 

「カオス……。」

 

 祖父が自分を呼ぶ。

 

 その声からは怒りとも悲しみともつかない感情が込められていた。

 

 

 

「見てしまったのか、カオス。」

 

「…………なんなのこれ。」

 

「なぁカオスこれは」

 

「どうしてクレベストンさんがこうなってるの!!昨日まで疲れてたけど別になんともなかったのに!!」

 

「カオス、今はここから」

 

「昨日あの後何があったの!!おじいちゃんとクレベストンさんは知り合いだったんでしょ!?それがどうしてこうなるの!?」

 

「カオス話は上で」

 

「おじいちゃんがクレベストンさんをやったの!?あんなに仲良さそうだったのに何で!?」

 

「いいからいうことを」

 

「答えてよ!!おじいちゃん!!!」

 

「カオス!!!!」

 

ビクッ

 

 

 

 

 

「カオス。」

 

「……。」

 

「落ち着ける訳ねぇが、今は聞け。」

 

「……。」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。話はここを出てからしてやる。全部な。」

 

「……おじいちゃんはやってないの。」

 

「………。」

 

「……。」

 

「……俺がやったようなものだ。」

 

「それって……どういうこと?」

 

「クレベストンは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…。…!」

 

「おじいちゃん?」

 

「カオス!!伏せろ!!」

 

 

 

 

 突然おじいちゃんが持っていた剣を振りかぶって向かってくる。

 

「う、ウワァァァァァァァァァァ!!?」

 

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…。」

 

 何がおこった。

 

 おじいちゃんがいきなり剣を持って僕を…?

 

 目を開けてみると、

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんが立ち上がったクレベストンさんに剣を突き刺していた。

 

 

 

「おじいちゃん、何してるの?」

 

 今クレベストンさんは起き上がっていた。

 

 顔色は白く無表情だが目を開けている。

 

 まだ生きていたのだ。

 

「おじいちゃん!クレベストンさん生きてたよ!?何でまたそんなことを」

 

「コイツはもうクレベストンじゃねぇ!!別の化け物に変わっちまってるんだ!!」

 

「何をいって」

 

「クレベストンは死んだんだ!!」

 

 訳が分からない。

 

 何故おじいちゃんはクレベストンさんを殺そうとするんだ。

 

「アァァッ…」

 

「!!」

 

「おじいちゃん!クレベストンさん苦し…」

 

「下がってろ!!カオス!!」

 

 おじいちゃんがクレベストンさんから剣を引き抜き僕を引っ張って倉庫から出る。

 

 

 

ガダンッ!ザララララララララ!ガコッ!

 

 

 

 倉庫から出たおじいちゃんは急いで扉を閉めて最初に僕が外した鎖を巻き付けて再び開かないようにする。

 

 

 

「おじいちゃん!!一体何してるの!?クレベストンさんを早く手当てしないと!!」

 

「さっきも言ったろ!!アイツはクレベストンなんかじゃなくなったんだ!!」

 

「何言ってるんだよ!!現に今部屋の中で動いて」

 

「見ろ!!」

 

 おじいちゃんはそういって一緒に持ってきた剣を見せる。

 

「……黒い?」

 

 剣についていた血は……血ではなく何か黒い液体がついていた。

 

 それは見るからにネバネバしてそうな半液状のものだった。

 

「何……これ?」

 

 おじいちゃんは先程この剣をクレベストンさんに突き刺した。

 

 それを引き抜いてきたということはこの黒い粘液はクレベストンさんの体の中から出てきたということである。

 

 その正体不明の粘液を気になって触ろうとしたら

 

「触るな!!」

 

 

 

ビクッ

 

 

 

 おじいちゃんが僕から剣を遠ざける。

 

「……よく見とけ。」

 

 おじいちゃんがまた僕に剣を見せる。

 

 すると

 

 

ジュゥゥゥゥゥ!!

 

 

 剣から蒸気が湧いたと思ったら剣が溶けだす。

 

 

 

「触るなよ。強い酸性を持ってる。」

 

「!?」

 

「コイツに一滴でも触れたら終わりだと思え。」

 

「これはなんなの!?血じゃないよね!?どうしてクレベストンさんから」

 

 人の体の中にこんなものがあるなんて聞いたことがない。

 

 胃酸でもここまで剣を溶かすものなのか。

 

「クレベストンは昨日の時点でコイツが繁殖していた。」

 

「繁殖?」

 

「俺も詳しくは知らねぇ。コイツは100年前にはもうすでに世界中のあちこちにいた。モンスター図鑑でスライムって見たことあるだろ?あれの突然変異した奴だと王都の研究者は言っていたがその危険性は現存するどのスライムをも凌いで遥かに高い。」

 

「スライム!?」

 

 確かに見た目はゼリー状で図鑑で見た特色通り酸性のようだが。

 

「それが何でクレベストンさんから?」

 

「昨日お前と会う前にコイツに遭遇してたみたいでな。その時にやられたんだ。コイツは感染性繁殖魔法生物であらゆる生物に寄生してはその内側から侵食していきやがて全身をスライムに変えちまう。もちろんスライムだから分裂もするし頭なんてものもないから急所自体もねぇ。」

 

「……!」

 

「おまけに例外なく生物に寄生できることも確認済みだ。コイツのせいでいろんな村の人や家畜や森が犠牲になった。」

 

「そんな生物聞いたことないよ!」

 

「コイツの凄まじいところはその不死性だ。魔法生物のくせにスライムと違って魔術を受け付けねぇ。お前が聞いたことないのも仕方がない。コイツが出た地域は基本的にまず全滅するからな。地方の村に情報は出回ることもない。未だに世界が人の社会で続いていることが奇跡だぜ。」

 

「不死性……魔法が効かない?」

 

 何だそれは。それでは一体どうやって倒せばいいというんだ。こうして武器までも溶かしてしまうのでは人が太刀打ち出きる訳が……。

 

 

 

 

ドンッ、ドンッ、ドンッ

 

 

 

 

部屋の中から扉を叩く音がする。

 

「クレベストンさんが

!?」

 

『アアア』

 

 ただでさえ胸から大量に血を流していてそれで先程おじいちゃんにも刺されたというのに扉の中からはクレベストンさんの声がする。

 

 普通の人があんな状態で扉をこうも強く叩ける筈がない。

 

 部屋の中の彼は本当に別の何かになってしまったようだ。

 

「クレベストンさんはもう助からないの?」

 

「1度ああなっちまったらもう戻れねぇ。ただひたすらに他の奴を襲って食って増えるしか能がねぇ怪物だ。完全にスライムに移り変わったらこの扉が溶けねぇで持つことを祈るばかりだ。」

 

「じゃぁクレベストンはこのまま……?」

 

「……さっき言った不死性だが物理的な攻撃で死なないってだけで殺す方法が無いわけじゃねぇ。」

 

「なんなのその方法って?」 

 

「コイツ……俺たちは【ヴェノム】って呼んでるんだが存在が不安定らしく他の生き物を襲わずに時間がたつと飢餓でくたばる。」

 

「飢餓って何も食べずにいることでしょ?どのくらいかかるの?」

 

「1日前後だ。それでヴェノムは固形化はする。この倉庫ももともとそういう理由で作った。」

 

 やけに地下深くに作った上に部屋も広いとは思ったが、この倉庫にそんな理由が隠されていたなんて…。

 

「クレベストンさん…。」

 

 昨日話してみて親しみやすいいい人だと思ってたのにこんな、あの玄関での会話が最後になるなんて思わなかった。

 

 なんとか助けてあげたいけど…。

 

「クレベストンは死んだ。アイツは既にゾンビみたいなもんだ。」

 

 ゾンビ……。前に言われたことがあったな。殺生石のおかげでこの周辺じゃ見たことなかったけどいざ目にすると体がすくんでしまう。

 

 それが知り合いであればなおさらだ。

 

 

 

 

「……!!そうだ、おじいちゃん!!殺生石は!?」

 

「……。」

 

「殺生石があるならそれでヴェノムって奴だけをさ!」

 

 都合のいい考えだとは分かってる。

 

 過去に自分も死にかけた。

 

 それまで自分以外の触れた者を確実に葬ってきた殺生石。

 

 そのヴェノムという奴がなんなのか分からないが殺生石には敵うまい。

 

 それに可能性は低くてももしかしたらクレベストンさんだけは助かるかも。

 

「クレベストンさんを殺生石のとこに!」

 

「……そのことなんだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャアアアアア

 

ドゴォォォォォォ!!!

 

アアアアアアッ!!

 

ウウウッ

 

 

 

 

 

 地下でそのまま話し込んでたら何やら地上が騒がしい。

 

 何だ?

 

 この騒音具合からして誰かが魔術を放っている。

 

 何をしているんだ?

 

 

 

 

 

 

「!?カオス!一旦話は終わりだ!先ずは上にあがるぞ!!」

 

 おじいちゃんがそういって階段をかけ上がる。

 

「え!?おじいちゃん!」

 

 僕も慌ててついていく。

 

 

 

 

 そして地上に出たら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の至るところが焼けていた。

 

 

 

 



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勇気

 騎士を目指す少年カオスは自宅の地下倉庫で騎士クレベストンがな亡くなっていることに気付く。

 そして祖父アルバを問い詰めるがクレベストンが動きだして2人を襲う。

 アルバからクレベストンがヴェノムというモンスターにやられていたことを知る。

 未知のモンスターに驚愕していると地上で轟音が聞こえ駆けつけてみると……。


「遅すぎたのか…!」

 

 

 

 

 

 

「キャァァァ!!」

 

「ウアァァァァ!!」

 

「来るなぁぁ!!」

 

「ふぁ、ファイヤーボール!!」

 

「痛い!痛いィィィィ!!やめろぉぉ!!」

 

「アアア」

 

 

 

ガブッ、シャムシャム、トガンッ!!

 

 

 

 

 

 辺りから悲鳴と怒号、そして魔術の爆音。

 

 逃げ惑う村人たち。

 

 それを焼かれながらも追いかける同じく村人。

 

 捕まったものは貪られやがて息絶える。

 

 

 

 

 いつからだろう。

 

 いつから僕はこんな地獄にいたんだろう。

 

 僕の村はいつからこんな地獄のようなところに変わってしまっていたのだろう。

 

 

 

 

 

「カオス!しっかりしろ!」

 

 おじいちゃんが僕に呼び掛ける。

 

「…おじいちゃん?」

 

 隣にはおじいちゃんがいた。

 

 僕はこの光景に思考を止めていた。

 

「俺は無事な奴等かき集めてくるからお前は何処か安全な場所に隠れてろ!」

 

 安全な場所?

 

 何を言ってるんだ?

 

 この村が安全な場所じゃないか。

 

 ここ以外に何処に安全な場所があるというんだ。

 

「奴等は動きがのろい!奴等を避けながら安全な場所を探せ!絶対に奴等や怪我してる奴に触るんじゃねぇぞ!いいな!」

 

 そういっておじいちゃんは僕を置いて走り出す。

 

 

 

 待ってよ。

 

 

 

 どうして僕を置いていくのさ。

 

 

 

 僕は1人じゃ何も分からないのに。

 

 

 

 おじいちゃんがいないと1人じゃ何も出来ないのに。

 

 

 

 

 

ザッ、ザッ

 

 

 

 

 背後で足音がする。

 

 そこには

 

 

 

「アァァ」

 

 

 

 身体中血を吹き出しながら呻き声をあげて近づいてくる

 

 

 

 

 いつも畑でお世話になっている人

 

 

 

「ァァッ!」

 

 

 

 知り合いのヒュースさんがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの……ヒュースさん?」

 

「アア、ウ?」

 

 僕の問い掛けに反応するヒュースさん。

 

 

 

「…いっぱい怪我してるよ?」

 

「…」

 

「早く手当てしに」

 

「…」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒュース」

 

「ガァァァッ!!!」

 

 

 

 ヒュースさんが飛びかかってくる。

 

「何するの!?ヒュースさん!!やめてよ!!」

 

「バァァァッ!!」

 

 僕はとっさにヒュースさんから離れようとし

 

 

 

 足をすくませ転ぶ。

 

 

 

カチャン

 

 

 

「!」

 

 転んだ拍子に僕は今までずっとクレベストンさんの剣を握りしめていたことに気付いた。

 

 急いで剣を鞘から抜きヒュースさんに向ける。

 

「こっ、来ないで…!……けっ、剣だよ!?」

 

「カァァァッ!!」

 

 駄目だ!?止まらない!!

 

 

 

「やめて……やめてよ!………来るなって言ってるだろぉぉぉ!!!?」

 

 もうヒュースさんの耳には何も届かないのに叫ばずにはいられない。

 

「アァァァッ!!!」

 

 僕はクレベストンさんの剣を握って

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

 

 

 

 

 

 

ウァァァ

 

キャァァァ

 

オァァァ

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガブッ

 

ブチッ

 

ジュゥゥゥ

 

 

 

 

 

 

 

 通り過ぎるみんなが次々に襲われている。

 

 囲まれて押し倒されて後は……。

 

 そしてやられた人も立ち上がって生きている人を襲い始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ごめんなさい。

 

 魔術も使えない僕にはどうすることも出来ない。

 

 僕はまだ子供だから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何でこうなるんだ。

 

 昨日までは何も変わらなかったんだ。

 

 どうして村がこんなふうになるんだ。

 

 殺生石があるのにモンスターが現れるなんて!

 

 

 

 

 

 

 …殺生石?

 

 そうだ殺生石だ!

 

 あそこが一番安全な筈!

 

 僕は殺生石のある村長の家に向けて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!」

 

 村長の家につくとそこには先に避難してきた人達がいた。

 

 その中からウインドラが僕を見つけて声をかけてくる。

 

 後ろにはミシガンもいる。

 

 よかった。

 

「ウインドラ、ミシガン今どうなってるの!」

 

「分からない。俺も父さんと家に帰ったら辺りから叫び声が聞こえて外に出たらこうなってたんだ。」

 

 状況はみんな同じか。

 

 みんな殺生石の近くが安全だと思ってここに集まってる。

 

 今まで村の中までモンスターが入ってくることはなかった。

 

 この先どうなるのだろう。

 

 嫌な想像が膨らむばかりでなにも考えたくない。

 

「カオス?…それって?」

 

 ウインドラが疑問を口にする。

 

「これはクレベストンさんの」

 

 

 

 

 

「みんな聞いてくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 奥の方から村長の声がする。 

 

 隣にはラコースさんとおじいちゃんもいる。

 

「これからみんなに大事な話がある!」

 

 すると村長が下がっておじいちゃんが前に出る。

 

 

 

 

「今、村はヴェノムというモンスターに襲われている!このモンスターは生物を操って他の生物を襲わせるモンスターだ!操られている奴等には絶対に触られるな!すぐに奴等と同じになるぞ!」

 

 おじいちゃんが先程説明したことをみんなに伝える。

 

「今のとこ村にはこのモンスターに友好打はない!

 

 そこで

 

 

 

 

 今ここに集まってるものたちで村を脱出する!村を出たらまっさきに森を抜けて昔の村に集まってくれ!」

 

 村を脱出?この村はどうなるんだ?

 

 他の人達もざわめき出す。

 

「このヴェノムは繁殖力が凄まじい!それも動物だけじゃなく植物にも感染する!この村の食物はもう全滅したものと思ってくれ!!」

 

 

 

 

 

「そんなこと急に言われても無理だろ!!」

 

「あっちの村についても食糧が持たないぞ!!」

 

 村人達が騒ぐ。

 

 自分達の村を棄てて出ていくなんて言い出すから当然の心境だろう。

 

 そして

 

 

 

「殺生石は!?モンスターなら殺生石でなんとかならないのか!?」

 

「殺生石ならどうにかしておびきだして魔術を使って押し込めば!」

 

「流石にモンスターなら殺生石には敵わないだろ!」

 

 ガヤガヤと村人達が案を出していく。

 

 ここに集まったのはみんな殺生石をあてにしてきたんだろう。

 

 これならなにもしなくても大人たちが解決して…

 

 

 

 

 

 

 

「殺生石は死んだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 突如誰かが叫ぶ。

 

 

 

 ラコースさんだ。

 

「殺生石は死んだ!」

 

 先程と同じセリフを繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺生石が死んだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつからか分からないが殺生石の効力が最近なくなっていることに気付いた。明日の集会ではそのことを伝えるつもりだった。」

 

 ラコースさんが淡々と述べる。

 

「恐らくこの騒動は殺生石の効能が失われたことによって外にいたモンスターがここを攻めてきたのだろう。もうこの村に安全な場所などない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよそれ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でそんな大事なことに気付かなかったんだよ!!」

 

「…。」

 

「それが分かってたらもっと早くにいろいろと対策立てられてただろうが!何で今なんだよ!!」

 

「そうよ!手遅れになってから教えられても何も出来ないじゃない!」

 

「警備隊はなにやってたんだ!!職務怠慢じゃないか!!」

 

 みんなが好き勝手なことをいい始める。

 

「殺生石はこの百年機能し続けてた。ここ数年で力がなくな」

 

「それがなんだってんだ!!今動かねぇと意味ねえだろ!」

 

「…。」

 

「殺生石の管理は村長と警備隊の仕事だろうが!何してたんだお前ら!!」

 

 責任の擦り付けあいがヒートアップしていく。

 

 このままだと正常な人どうしでも暴動が

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんが魔術で地面に穴を開けた。

 

 

 

「……今さら手遅れになったならなかった言ってもどうしようもねぇ。こうして時間を無駄にしている間にも奴等がここを嗅ぎ付けてくる。それでもいいやつはここで好きなだけ無駄口叩いとけばいいさ。」

 

「……」

 

「話を戻すが今村で暴れてるヴェノムは非常に危険だ。間違っても応戦するなよ。粘膜感染だから返り血浴びるとヤバイ。なんなら奴等の手汗ですら感染する恐れがある。」

 

「あのアルバ…さん」

 

「なんだまだ文句あるなら話を聞くやつだけ連れていくが?」

 

「その……感染する可能性はどのくらい…高いんですか?」

 

「…」

 

 おじいちゃんが少し考え込むそぶりをしてから

 

「襲ってくるやつの症状にもよるが意識がねぇ時点で身体中がヴェノムに侵されている。ソイツに掠り傷でもつけられたら100%感染する。」

 

「そんな…」

 

「なんて危険なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おいこのガキ!怪我してるぞ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 僕達から少し離れたところで声が上がる。

 

 そこにいたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…!?………ち、ちげぇよ!!これはさっき転んだだけで…!」

 

 ザックの取り巻きの一人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルバさん!ここに!ここに怪我してるガキがいます!」

 

「だから俺はちげぇって!!関係ないんだこれは!」

 

 

 

 

 おじいちゃんが取り巻きに詰め寄る。

 

「ボウズ、傷を見せてみろ。」

 

「これは、やられたとかじゃ…」

 

「見せてみろ。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「ボウズ…。」

 

「な、なに…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかったな、本当に掠り傷みてぇだ。」

 

「……ハ、ハハハ…。ほ、ほら見ろだからあれほど俺がいっ」

 

 

ザシュッ、ゴッ、ココッ

 

 

 

 

 え?

 

 一瞬取り巻きが消える。

 

 何が起こったのか思考が停止するがよく見たら取り巻きはその場から動いていなかった。

 

 首だけがない状態だが。

 

 

 

 

 

「へ?う、うぉぉぉぉぉ!!」

 

「アルバさん!?アンタ何やって…!?」

 

「こんな子供を何も斬りつけなくても!」

 

 突然子供を斬り殺したおじいちゃんにみんな動揺を隠せない。

 

 僕ですら怖い。

 

 こんな、

 

 こんなことするおじいちゃんははじめてだ。

 

 

 

「いいか!お前らぁ、これから先、脱出して無事を確認するまで何があっても走れ!途中転んだり怪我したりしたやつは放っておくんだ!そうでないとこのボウズみたいになるぞ!」

 

 おじいちゃんがみんなに呼び掛けるが反応に困っているようだ。

 

 目の前で子供を斬り殺すような人にはついていきたくない。

 

 口にしたわけではないが僕にはみんながそう言ってるように見える。

 

 本当に取り巻きは感染していたのだろうか。

 

 本当に取り巻きをやる必要があったのか。

 

 もっと調べてからでもよかったのではないか。

 

 そんな考えでみんなはいっぱいのようだ。

 

 取り巻きの体は頭が取れても立ったままだった。

 

 おじいちゃんの剣撃が綺麗に切断したからだろう。

 

 体はまだ頭がなくなったことに気付いてない。

 

 そんな印象のする光景だ。

 

 だから

 

 

 

 

 取り巻きの体が動き出したことを視界に捉えながらも反応が遅れてしまった。

 

 

 

ガシッ

 

 

 

「え?」

 

 取り巻きの怪我を告知した男が首のない体に捕まる。

 

 回りもその光景に目を奪われる。

 

 ほんの一瞬だけおじいちゃんが本当は殺さずにいてくれたのかと甘い思考に囚われる。

 

 が、見返してみてもやはり首が地面に転がっている。

 

 取り巻きは死んだんだ。

 

 その筈なのにあそこで体だけが動き始めた。

 

 そして

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥ!!!

 

「うぁぁぁぁぁ!!!熱い熱い痛い!!なんだこれはぁぁぁぁ!!」

 

 取り巻きの体が切断面を男にくっつけた途端蒸気が沸き上がる。

 

 男は悲鳴をあげるが振りほどけずそのまま小さな子供の体に飲み込まれていった。

 

 男を飲み込んだ取り巻きの体は切断面から蒸気の上がる液体を溢れさせ徐々に融解していく。

 

 やがて全身が溶けきり、後には昔モンスター図鑑で見たスライムの姿が現れる。

 

「…………!!?」

 

 誰もがその光景に目を奪われる。

 

 

 

 

 

「ボサッとするな!村の入り口まで走れ!!」

 

 おじいちゃんがみんなに指示を出す。

 

 それを聞いて村の人達は我先にと駆け出す。

 

「「「「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」

 

 僕もウインドラも吊られて走り出す。

 

 

 

 あれがヴェノム。

 

 

 

 あんな化物が世界にいたなんて。

 

 

 

 

 

 恐怖で体が竦み上がりそうなのを必死にこらえる。

 

 大丈夫だ。

 

 大人たちはまだこんなにたくさんいる。

 

 この人達に着いていけばなんとか村の外まで辿り着ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

バヒュッッ!!ビシャシャシャシャッ!!

 

 

 

 走っていると前の方から魔術の破砕音が聞こえる。

 

 

ジュゥゥゥゥゥ!!!

 

ウァァァッ!!

 

 そのすぐ後に悲鳴があがる。

 

 誰かが襲われたのだろうか。 

 

 直後、前方を走っていた大人たちが突然引き返してくる。

 

「どけぇ!邪魔だぁッ!!」

 

「早くいけよぉ!!」

 

 僕はそのうちの誰かに突き飛ばされた。

 

「イタッ!」

 

トスッ

 

 いったい何があったんだ。

 

 村の入り口はそのまま向こうの方なのに大人たちは何故逆走しだしたのだ。

 

 起き上がって前を見ると先頭を走っていたと思われる人達が苦しそうに転げ回っている。

 

 体からは蒸気が吹き上がっていた。

 

 その様子から先程の魔術でヴェノムを攻撃した際にヴェノムが飛び散って被ったようだ。

 

 悶え苦しむ大人達。

 

 このままじゃいづれこの人達も…。

 

 

 

 予測通り苦しんでいた大人達は立ち上がってこちらに向かってくる。

 

 逃げなきゃ!

 

 そう思い立ち上がろうとするも足に激痛が走りかが見込んでしまう。

 

 痛い…!さっきの大人達に突き飛ばされたから…!

 

 足を抑えるがそれで痛みは治まらない。

 

 こんなときに治療魔術が使えたら…。

 

 眼前にはもうヴェノムに侵されたゾンビが迫る。

 

 もうおしまいだ…!

 

 

 

 

 

「「アクアエッジ!!」」

 

 後1歩までゾンビが差し掛かろうとしたとき背後からアクアエッジが飛んできてゾンビを押し飛ばす。

 

「大丈夫か!カオス!」

 

「足を挫いてるみたいだねファーストエイド!」

 

 そう話し掛けてきたのはラコースさんとウインドラだった。

 

 

 

 

 

 

「ありがとう…」

 

「気にするな。お前達を安全なとこまで逃がすのも私の仕事だ。」

 

「カオス、村の人達はパニックを起こして散り散りに逃げたり感染を恐れて同士打ちしたりしてる。僕達は一緒になってここを出よう。」

 

「奴等の動きをよくみれば魔術などなくとも逃げ切れる。安全なとこまで出たらお前達が他に逃げてきた人達を誘導してくれ。私は逃げ遅れてる人を救助しにいく。」

 

 こんな状況なのに慌てずに辺りを見回し冷静に各々がやれることを語っていく2人。

 

 凄いなこの2人は…。

 

 僕なんかと違って怖くなんかないんだな。

 

 2人とも魔術を使えるから。

 

 この2人と一緒なら無事に村を抜けられる。

 

 その後は……今はよそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか出られたね。」

 

「よし、このまま廃村まで走れ!私は他に無事な人を探す。

 

「父さん!無茶はしないでね!父さんがいないと俺は。」

 

「分かっている。私の腕前は知ってるだろ?」

 

「そうだけど!今回のモンスターは!!」

 

「お前が素直に継いでくれるって言うなら私も無茶をしないで済むんだがな。騎士になりたいというのは驚いたぞ。」

 

「どうして!?」

 

「お前の父親は私だぞ?お前が警備隊に乗り気でないことぐらい分かってたさ。」

 

「父さん…。」

 

「その話はまた後でゆっくり話してやる。ではな。」

 

 そういってまた村の中へと入っていくラコースさん。

 

 

 

「……カオス。」

 

「ウインドラ?いかないの?」

 

 早く森を抜けないとここもいつゾンビやヴェノムが来るかわからない。

 

 いない今が抜けるチャンスなのだが。

 

「先にカオスは森を抜けてて僕もすぐいくから。」

 

「抜けててって、ウインドラはどうするんだよ?」

 

「……俺は父さんを置いていけないよ。」

 

 急にどうしたんだ。

 

「何いってるんだよ!ラコースさんに言われたろ!?先に抜けろって!」

 

「そんなことわかってるよ。でもダメなんだ。」

 

「ダメってなんだよ!ウインドラは怖くないのか!?」

 

 子供の僕達に出来ることなんてたかが知れてるじゃないか。

 

 ワザワザ危険に足を突っ込んだところで他の人の邪魔にしか…。

 

 それに魔術を使えるのはウインドラしか…。

 

「怖いに決まってるじゃないか。

 

 けど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は騎士になりたいから。子供の俺でもみんなの盾になって守ってあげたいんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………キシ?………………騎士……………。

 

 そう騎士!!

 

 

 何故今まで忘れていたんだ。

 

 

 

 自分は人を守る騎士になりたかったのだ。

 

 

 

 祖父に憧れて自分も騎士にと。

 

 

 

 それがどうしたことか。

 

 

 

 子供だから魔術を使えないからと理由をつけて逃げてばかりで人任せ!

 

 

 

 何のために日頃バカにされながらも剣術や戦闘訓練を積んできたのだ。

 

 

 

 今日このときのためじゃないのか?

 

 

 

 自分がやらなくてもやってくれる人はいる。

 

 

 

 だからなんだ!

 

 

 

 それが僕がやらなくていい理由になるか!

 

 

 

 僕と同じ筈のウインドラさえ他の人を気にかけてるのに僕はどれだけ自己保身に走っていたんだ!

 

 

 

 

「カオス、また後」

 

「ウインドラ!……僕も行くよ。村の人をほうっておけない。」

 

「!!でも君は魔術を…」

 

「魔術なんかなくても僕にはこの騎士様の剣があるから平気さ!」

 

「……」

 

「ゴメン、ウインドラ、さっきまで本当に足引っ張ってた。けど次はもう大丈夫!早く村の人達を助けよう!!」

 

「…」

 

「…」

 

「どうやら普段の君に戻ってるようだね。俺も1人じゃ本当は怖かったんだ。ありがとう。」

 

「礼はみんなを助けてからだよ!」

 

「うん!行こう!」

 

 

 

 

 

 僕とウインドラはもう一度村の中へと入っていった。

 

 

 




主人公の心情風景難しいですね。屍鬼の作家先生の気持ちが分かる気がします。


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助けたい人

 騎士を目指す少年カオスは自宅の地下倉庫で変わり果てたクレベストンを見つけるが彼はヴェノムというモンスターに既にやられていたことを知る。

 その後地上に出てみるとクレベストンをころしたモンスターヴェノムが村を襲っているようでカオスは恐怖で竦み上がる。

 だがこんな状況でも冷静に皆を助けようとするウインドラにカオスは自分の本文を思いだし、村へと駆け出す。


「カオス、上だ!」

 

「…!」

 

 それを聞きとっさに前の方へ飛ぶ。

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥ

 

 

 

 今まで僕がいたところにヴェノムが降ってくる。

 

 

 

 近くの建物から落ちてきたのだろう。

 

 周辺にはゾンビもいる。

 

 左右前後だけじゃなく上にも気を配らねばならないか…。

 

「ウインドラサンキュー!」

 

「どうってことないよ!アクアエッジ!」

 

 ウインドラが進行を遮るヴェノムを押し飛ばす。

 

 どうやら火や地の魔術で攻撃すると破裂して飛散るので危険らしい。

 

 相手はこちらを攻撃する以外にもこちらが攻撃するというアクションで追い詰めてくる。

 

 だったら

 

「ウインドラ!そのまま走って!」

 

「!」

 

 ウインドラが走る。

 

 そこを

 

「ガアアッ!!」

 

 村人の成れの果て、ゾンビが掴みかかろうとして空を空振る。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 そのゾンビを鞘に差したままの剣で峰打ちを決める。

 

「ボアッ…」

 

 そのままゾンビが転ぶ。

 

 剣は………無事のようだ。

 

「カオスありがとう!」

 

「お互い様だよ。」

 

 なんだ、こうして対処できれば案外このヴェノムも大したことないな。

 

 水や風の魔術で相手の進行を遅らせれば捕まることはない。

 

 ウインドラが後衛を張ってくれるのも視界が利いて助かる。

 

 ゾンビに関しては剣で斬ると体液で溶かされて使い物にならなくなり武器を失う。

 

 だったら斬撃ではなく打撃で体液に触れることなく押し飛ばせばいい。

 

 よく見ると動きも遅いしこちらが焦って対処を間違えなければ十分子供でも対応できるようだ。

 

 

 

「この調子で残りの村の人達を外に逃がすんだ!」

 

 僕達がこうして救助に駆け付けてから30人程は脱出に成功したようだ。

 

 僕達の連携を見てそれを真似してくれる人達もいた。

 

「カオス!あっちに人がいるよ!」

 

「分かった!」

 

 僕達で村の人達を全員助けるんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ僕たちも危なくなってきたな。」

 

「……そう…だね。ハァッ、ハァッ」

 

 あれからまた10人ばっかし助けたがそろそろ潮時のようだ。

 

 僕は剣で村の人達を押し飛ばしてるだけだがウインドラはここに来て魔術を連発している。

 

 消耗は僕よりも激しいんだろう。

 

 辺りはヴェノムやゾンビ、そして混乱した村人が放った火で覆われている。

 

 水の魔術が使えるとしても危険に変わりはない。

 

 脱出のことを考えるとここは引くべきか。

 

「ハァッ、ハァッ!…よし、…俺は大丈夫…だよ。」

 

「……。」

 

「カオス…行こう。」

 

「ウインドラ、もうこのくらいにしよう!」

 

「!!何いって…」

 

「このまま村の外に向かおう。後はラコースさんとおじいちゃん達に任せて出よう。」

 

「……」

 

「それに僕もそろそろ体力の限界みたいなんだ。このままだとキツイよ。」

 

「…ゴメン。」

 

「……行こう。」

 

 

 僕達は村の入り口を目指して走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の入り口について

 

 

「思ってたよりも無事な人が多いようだね。これなら村から出てもなんとかなるかな。」

 

「そうだな、それにしても皆何で止まってるんだ?」

 

 せっかく逃げきれたのにこのままだとヴェノムに追い付かれてしまう。

 

「みんなどうしたの?」

 

 進まない村人に声をかける。

 

「おぉ、アルバさんとこの!さっきは助かったよありがとう!」

 

「どういたしまして。」

 

先程助けたうちの1人だったらしい。

 

「みんな何してるの?」

 

 ウインドラが問いかける。

 

「まだラコースさんと村長が出てきてないようなんだ。それからアルバさんも」

 

「それならまだ他の人を助けに出てるんだよ!」

 

 3人とも強い。万が一も考えられないくらいに。

 

 仮にこの3人がピンチに陥るなんてこともないだろう。

 

 もし陥るんだとしたら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そういえばミシガンはどこだ。

 

「ウインドラ……ミシガン見てない……?」

 

「………そういえば村長の家を出てから見てないな。村長の横にいたから村長とは一緒だとは思うけど。」

 

「………」

 

 嫌な想像がまた膨らんでいく。

 

 もし3人の誰かが感染していたら……。

 

 ラコースさんと村長が感染していたらおじいちゃんは迷いなく斬るかもしれない。

 

 さっき見ていたから。

 

 でももしおじいちゃんか感染なんてしていたら……他の2人は攻撃出来るのか?

 

 僕もさっきまで剣で突き回っていたが僕の心の中では斬ると武器が溶かされる以上に見知った顔を斬りつけないですんでよかったというのが殆どだ。

 

 あの3人はよく一緒にいるのを見かけていた。

 

 もしかしたらもう3人とも………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ、みんなを連れて先に行って!僕はおじいちゃん達を捜すよ!」

 

 そういってまた村の中へと駆けていった。

 

「え!?ちょっ、カオス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村に入るともう辺りはゾンビとヴェノムだらけで人の悲鳴も聞こえなくなっていた。

 

 通りすぎる僕を見てヴェノム達が僕に向かってくる。

 

 動きは遅いが後ろからはどんどんヴェノムが集まってくる。

 

 

 

 

 

 こんなにヴェノムになった村人がいたのか。

 

 うようよと動いては向かってくるそれらにはもう村人だった頃の面影も消え悪食のスライムの習性通り生物を捕らえて食べて増える。

 

 もうそれしかないように思えた。

 

 目からは少し雫が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ!!」

 

 ヴェノムに追われながらも走り続けるがいっこうにおじいちゃん達が見つからない。

 

 入れ違いになったか、あるいはもう既に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 また負の思考にとらわれようとしたとき、前方遠くに見えるヴェノムが村の奥へと向かってるのが見えた。

 

 こちらには気付いてないようでヴェノムはまっすぐ目的あって進んでるように見える。

 

 あの方角は…………1奥のの村長の家だ。

 

 あの家にまだ人がいるのか?

 

 

 

 

 

 

 考えられる可能性で1番高いのは村長かミシガンだ。

 

 なんせその家の主である。

 

 いてもおかしくない。

 

 まだ誰がいるのか分からないが。

 

 

 

 

 

 

 

 こうしているうちにもあのヴェノムは村長の家に着きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 行くっきゃない!

 

 

 

 もとよりおじいちゃんや逃げ遅れている人を助けに来たんだ。

 

 どうせ後ろはヴェノムだらけで逃げられないんだ。

 

 ならすぐにあよ家いる人と合流してこの状況を突発するしかない!

 

 僕はそのまま駆け出し村長の家の方へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「油断したか……ぐぅぅッ…!!」

 

「ラコース…。」

 

「さぁ、さっさとしてくれよアルバ…、意識があるうちに逝っときたいんだ。」

 

「スマン!ラコース!私を庇ってこんなことに……!」

 

「村長、アンタは村の連中を引っ張ってかなきゃならん。アンタを守るのは当然だ。私がドジをしただけ

……ぶほぁっ!!」

 

「おじ様……。」

 

「待てミシガン。私に触ってはダメだ…。」

 

「……。」

 

「君にはウインドラとこの村を託したかったんだがな。ハァ…!あの馬鹿息子めが、そこの不良に唆されやがって…。」

 

「……誰が不良だ。」

 

「まさか、殺生石が死んでいつかお前が言ってたモンスターがいきなり来るとはな……ハァッハァッ!!なるほど確かに恐ろしい化け物だ!今にも私の体を乗っ取ろうとしてくる!体の中が燃えるように熱い!!……ブフッ!!」

 

「ラコース……!!なんとかならんのかアルバ!!」

 

「…俺にはコイツの意識を今すぐ楽にしてやるくらいしか出来ん。」

 

「そんな……。」

 

「アルバ、……やってくれ。」

 

「…他に言っておくことはないな?」

 

「言っておくことかぁ…。お前がいるなら何も心配はいらないだろう。」

 

「そうか

 

 

 

   

 

 

 

 ではまた逢おうラコース=ケンドリュー!」

 

 

 

 

 

 

 

ザシュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!!」

 

「片付いたぞ、村長。ここも直に奴らが来る。そろそろ出るぞ。」

 

「分かった…。」

 

「……。」

 

 

 

ジュゥゥゥ

 

 

 

 

 

 

「ハッ…、剣が持たねぇなこりゃぁ…。」

 

 

 

 

 

ガラッ!!

 

 

「村長!ミシガン!!」

 

 

 

 

ブンッ!!!

 

 

 

 

 村長の家に来て玄関の扉を開けたらいきなり剣が迫ってきた。

 

「ウォワァァァ!?」

 

 

 

ピタッ!

 

 

 

 

「…!?」

 

「…なんだ、カオスか驚かせんなよ…。」

 

 大して驚いてもいない様子でそんなことを言ってくるおじいちゃん。

 

「ごめんなさい…?」

 

 驚いたのはこっちの方だと思うんだが。

 

 

 

 おじいちゃんの後ろから村長と村長におんぶされたミシガンが出てくる。

 

 心配していた3人は無事のようだ。

 

 これで後は…

 

「おじいちゃん!ラコースさん知らない!?」

 

「……。」

 

「さっきまで村の入り口にいたんだけど帰ってこないんだ!」

 

「……アイツなら今は安全なところ見つけてそこで他の奴等と隠れてる。」

 

「え!?そうなの?じゃぁ早くその人達も連れてここから出よう!」

 

「待て待て!そいつらんとこに今向かったらゾンビどもにバレちまうだろ?今は俺たちだけでここから脱出するぞ。」

 

「その人達はどうするの!?」

 

「おめぇの後ろにたくさんヴェノムがいるじゃねぇか。アイツらを撒いてからまた戻ってきて回収する。いいな?」

 

「分かった!」

 

「……。」

 

 僕達はそのまま4人でヴェノムから逃げることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の入り口付近にきてゾンビが減ってヴェノムが増えてきた。

 

 ゾンビだったら剣で突き飛ばせるのだが時間が経ってヴェノム化したか、ヴェノム自体に食べられたか。

 

 体が強酸性のスライムに変化したら後は触ることは出来ない。  

 

 ここは引き返して別の道から外に出ようか…。

 

 

 

 だが

 

「後ろから来たぞ!」

 

 村長が叫ぶ。

 

「どうやら囲まれたようだな。」

 

 いつの間にか大分近くまでヴェノムが接近していた。

 

「「アクアエッジ!!」」

 

 おじいちゃんと村長が同時に魔術で前方側のヴェノムを押し退ける。

 

 イケる!

 

 このまま押し退けて入り口まで行けそうだ!

 

「アクアエッジ!」

 

「アクアエッジ!」

 

「アクアエッジ!」

 

 

 

 

 いいぞ!もう少しだ!

 

 もう少しで村の外に……!!

 

 

 

 

「アクアッ……カハァッ!!」

 

「!!」

 

 突然村長が咳き込み出す。これはっ

 

「チィッ!魔力欠乏症だな!平和ボケしてっからぁ…。ゴホッ」

 

 どうやら村長のマナが突きかけているようだ。

 

 おじいちゃんも悪口を叩いているがキツそうな顔だ。

 

 限界が近いのだろう。

 

 外までは後1歩だというのに。

 

 ミシガンは……恐らく攻撃魔術を使えない。

 

 村長は次撃ったら動けなくなりそうだ。

 

 おじいちゃんも動くのが精一杯に見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 じゃぁ後は僕が……撃つしかない。

 

 

 

 

 

 僕が撃てば他の3人は逃げられる。

 

 

 

 

 

 僕が撃てば3人は助かる。

 

 

 

 

 

 どうせ皆死ぬんなら

 

 

 

 

 

 僕1人だけでいい。

 

 

 

 

 

 ウインドラに言われるまで忘れていたけど

 

 

 

 

 

 僕も誰かを守れる騎士になってみんなの盾になってあげたいから。

 

 

 

 

 皆より少ない命を使えるのはもうこの瞬間だけだから。

 

 

 

 

 最期は大切な人の盾になって死にたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……流水よ」

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

「我が手となりて敵を押し流せ…。」

 

 呪文の詠唱が完了する。

 

 

 

「待て!カオス何をするつもりだ!」

 

「そんなことしたらお前はっ!!」

 

 おじいちゃんと村長が止めに入ろうとする。

 

 だがもう遅い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクアエッジ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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籠城戦

 騎士を目指す少年カオスは凶悪なモンスター、ヴェノムの襲撃で村が壊滅的危機に陥り1人逃げ惑う。

 しかし友の言葉により己の信条を思い出し村の人々を救うべく立ち上がる。

 だが後1歩のところでヴェノムに囲まれ窮地に追い込まれるも使うことを禁じられた魔術で皆を救おうとする。


 

 

『また…ヴェノムが暴れだしたようじゃな。』

 

 心の中で声がした気がした。

 

『また…ワシが屠らねばならぬのか。』

 

 心の中の声はどこか悲しげな声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!起きろカオス!」

 

 村長の僕を呼ぶ声で目を覚ます。

 

「カオス!よかった無事だったんだな!?」

 

 無事?なんのことだ。

 

 ここは……森の中?

 

 何をしていたんだろう。

 

 何か懐かしい声を聞いたような……。

 

 

 

 そうだ。

 

 ヴェノムだ。

 

 今村は大変なことになっている最中だった。

 

 僕はおじいちゃん達を見つけて村から出ようとしてそれから…。

 

 

 

 僕が魔術を使った。

 

 禁止されている魔術を。

 

「そうだ、村長!あれからどうなったの!?ヴェノムは」

 

「落ち着けカオス!ここにこうしているというだけでどうなったか分かるだろう?」

 

「…。」

 

「お前の魔術がなかったら私たちは今頃あのモンスターに食い尽くされていただろう。ありがとうカオス。」

 

 どうやら僕の魔術で危機を脱せたようだ。

 

「よかった…。」

 

「全くお前は自分にもしものことがあったらどうする気だったんだ!お前のマナはギリギリで命を繋いどるというのに!」

 

 村長が僕を叱る。

 

 本当なら死んでたかもしれない。

 

 それでも構わなかった。

 

 おじいちゃん達が無事なら……。

 

 

 おじいちゃん?

 

「ねぇ、村長。おじいちゃんは?」

 

「……。」

 

「村長?」

 

「……。」

 

 村長が村の方を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故だ。

 

 僕はおじいちゃんや村長を助けたいと思って死ぬ気で魔術を撃った。

 

 なのに生きているのは意識を失った僕でおじいちゃんが……。

 

 

 

「アルバは……お前が魔術を放って意識を失った後、私たちを逃がそうとして…。」

 

 なんだそれは?

 

 そんなのどうだっていいのに。

 

 おじいちゃん達が逃げられるように僕は死のうとしたのに!

 

 おじいちゃんがいないんじゃ、僕は何のために…

 

 

 

「今頃は囮になって村の中で…。」

 

 

 

 …!

 

「村長!まだおじいちゃんは生きてるの!?」

 

「お前が開けた穴から抜け出した後はヴェノムを撒くために再び村の中を駆けずり回ると言っておった。」

 

「!!有り難う!村長ここまで運んでくれて助かったよ!」

 

「カオス!どこに行く!?そっちは村だぞ!戻れ!!」

 

「おじいちゃんを置いてはいけないよ!村長は先に森の外へ向かってて!」

 

 僕はそういって村に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの馬鹿は無茶なとこが祖父にそっくりだ!」

 

 カオスがいなくなった森の中で眠るミシガンを背中に乗せながら村長が愚痴を溢す。

 

「まぁ、あの2人なら大丈夫だと思うが。」

 

 

 

 

ガサガサッ!!

 

「今度はなんだ!?」

 

 森の茂みから音が聞こえそこから飛び出てきたのは……。

 

「お前はっ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ふぅ、ふぅ、…」

 

 ヴェノムに追い回されながらもなんとか紙一重でかわしていたがそろそろ体力が尽きかけている。

 

 もうそろそろカオス達も逃げきれたことだろう。

 

 アルバは村の入り口まで向かう。

 

「流石に疲れたな。こんなに魔術を使いながら駆け回るなんざ何10年ぶりだ?」

 

 肉体の限界に伴って精神もまいっているのだろう。

 

 誰に聞かせるわけでもない1人ごとがでてくる。

 

「ふぅ~、まだまだ年齢じゃぁ若い方なんだがなぁ。動かねぇと落ちちまうもんだなぁ。」

 

 軽口を叩けるだけの余裕は出来てきた。

 

 後はカオスが無事なのを確認できれば…。

 

 

 

「ふんッ!死にかけギリギリのマナしかないくせに生意気にも俺達を助けようとしやがって。あの馬鹿がっ…。」

 

 口では悪く言ってても実際のところは嬉しそうなアルバ。

 

「アイツなら………カオスならこの国を変えられるかもな。俺が出来なかったことを。」

 

 

 

「おじいちゃ~ん!」

 

「!!」

 

「(この声はまさか!)」

 

 声の先にはカオスがいた。

 

 

 

 

「おじいちゃ~ん!!」

 

 必死になっておじいちゃんを捜す。

 

 まだ生きているならそう簡単にやられる筈がない。

 

 僕はおじいちゃんに生きていてほしいんだ!

 

 囮なんて馬鹿な真似するなと怒ってやる。

 

 残り90年くらいしか生きない僕よりもおじいちゃんの方が生きていた方がいいに決まっている。

 

 僕は村の中を捜し回る。

 

 

 

 

「おい!カオス!!」

 

 いた!

 

 おじいちゃんだ。

 

「おじいちゃん!!」

 

 再会を喜びたいがまず先に。

 

「「おらぁぁぁぁぁ!!!」」

 

ドゴォッ!!

 

 お互いの拳がクロスする。

 

「痛ってぇなぁ、何すんだよ!クソジジィ!!」

 

「この馬鹿が!!何のために俺が時間稼ぎしてヴェノムを引き付けてたか分からねぇだろうが!!こんなとこまで戻ってきやがって!」

 

「そんなもんおじいちゃんも一緒だろ!せっかく僕が魔術で道を開けたのにワザワザ残ってかっこつけやがって! 」

 

「お前こそあれほど魔術使うなって言ってたのに使いやがって!生きてたからよかったもののお前はもしかしたら死んでたかもしれないんだぞ!?」

 

「そんなこといちいち考えてた訳ないだろ!あのままなにもしなかったら4人とも終わってたとこなんだぞ!」

 

「「このぉぅぅぅ…!」」

 

 2人して怒声の掛け合い。

 

 やがて

 

「カオス…マナは大丈夫なのか?」

 

「マナ?とくに問題ないと思うけど。」

 

「さっきは魔術を1回使っただけで気絶したんだ。また奇跡に助けられたと思え。次はないぞ?」

 

 そういえば、魔術を使ってから体の感覚がふわふわしてる気がする。

 

 数年ぶりの魔術に体が驚いているのかな。

 

 まぁ、なんにしてもこれで

 

「おじいちゃん、とりあえずは外へ出よう!」

 

「そうだな、ここも危ない。」

 

 僕達はそういって村の入り口まで向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入り口までたどり着いて

 

「何匹か着いてきちまったがもうこの際仕方ないだろう。こっから森を抜けるぞ!」 

 

 おじいちゃんがそう言う。

 

 もとよりそのつもりだ。

 

「分かったよ!それじゃあい……!?」

 

 

 

 

タタタタタッ!

ガササササッ!

ザッザッザッ!

 

 

 

 

 森の奥から何かがこちらに向かって走ってくる。

 

 それもたくさん。

 

「カオス!気を付けろ!」

 

「!!」

 

 そして森の奥から向かってきたもの正体は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先に逃げているはずの村人達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!?アルバさん!!」

 

「なんだお前ら!何故戻ってきたんだ!?」

 

 戻ってきたのは僕とウインドラが最初にここに来たときにいた人達やその後助けた人たちもいる。

 

 一体何があったんだ。

 

 

 

「カオス!!」

 

 そのとき村人の中からウインドラが出てくる。

 

「ウインドラ!?何があったの!廃村はこっちじゃないよ!?」

 

「森を抜けようと皆で向かってたんだけど進んだ先の方からヴェノムが出てきたんだ!それもたくさん。」

 

 何だって!?

 

 じゃぁ、

 

「それで逃げられなくて戻ってきちまったか。」

 

 表情が暗いおじいちゃん。

 

 それもそうだ。

 

「もう何処にも逃げられないよ…。」

 

 怯え出す村人達。

 

 逃げ場と思って走った先にヴェノムが待ち構えてトンボ返りだ。

 

 精神も崖っぷちまで追い詰められて今にも堕ちてしまいそうなのだろう。

 

 

 

 

 

「!?そうだおじいちゃん!ラコースさん達が隠れてる場所は?そこでヴェノムがいなくなるまで待とうよ!」

 

「……。」

 

「父さんが…?」

 

 ウインドラがラコースさんの名前に反応する。

 

「どうしたの?おじいちゃん?もしかして人数が多すぎるとか?だったら行ける「カオス」?」

 

 

 

「悪いなカオス、そんな都合のいい場所はないんだ。」

 

 

 

 

「都合のいい場所?なかった…。どういうこと?じゃあラコースさんはどこに…」

 

「ラコースは……死んだ。」

 

「!!」

 

「父さんが………死んだ?」

 

「済まないウインドラ…。」

 

「村長?」

 

「ラコースは私たちを庇ってヴェノムに触ってしまったんだ。それで感染してしまい…。」

 

「……。」

 

「私達にはどうすることも出来なかった。死にいく彼を安らかに逝かせるく「それで?」」

 

「それで誰が父さんをやったんですか?」

 

「……。」

 

「……。」

 

「わた「俺だ」」

 

 ウインドラが声のした方へと向く。

 

 おじいちゃんだ。

 

「ラコースを最期に看取ったのは俺だ。」

 

「……アルバさん。」

 

 ウインドラがゆっくりとおじいちゃんに近づく。

 

 そして

 

 

 

「今は……緊急時で逃げるの第一ですから何も聞きませんが……後でお話お聞かせ願えますか?父さんの最期を。」

 

 そういったウインドラは今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況は最悪だな。前方にも後方にもヴェノム。引くも押すも出来ない八方塞がりだ。」

 

 人数が増えたとはいえ使える選択肢が少なすぎる。

 

「水で押し流せばなんとか抜けられるんじゃないか?」

 

「アクアエッジで飛ばすのも限界近いんじゃないか?この場にいるやつで後何人魔術が使える?」

 

 …そう言われて手をあげたのは全体の4分の1くらいだった。

 

「ダメだな。この人数をカバーするには少なすぎる。途中で力尽きるのがおちだろう。」

 

「じゃあどうすればいいんだ!?他に手立てはないんだぞ!?」

 

「……。」

 

 他の手など考え付く筈がない。

 

 ただでさえ殺生石のおかげで戦闘からは遠い村の人々。

 

 魔術をろくに使ったことがないものもいる。

 

 言うなれば武器を持っただけの素人集団だ。

 

……

 

……

 

……

 

 先ほど手をあげた人達が集まって何か話している。

 

 何か策でも考え付いたか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダダダダダッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

「まぁ、そうなるわな。」

 

 魔術を使える人達が一斉に森へと駆け出した。

 

 まさか

 

「僕達を見捨てて…!?」

 

「アイツら…。」

 

「他に手立てがないんじゃ生き残れる手を選ぶだろう。連中を恨んでやるなよ。」

 

「じゃぁ、俺たちはどうなるんだ。」

 

「……今の連中についていけばなんとかなるんじゃないか?」

 

「……!?」

 

 それを聞いて駆けていく人達。

 

 残ったのはもう走る気力さえ残ってないもの達だけだった。

 

 

 

「アルバ、どうするんだ?」

 

 村長がおじいちゃんに問う。

 

「……奴等は特性状上下の段差には不向きな体をしている。普通のスライムだったら壁に張り付いたり出来るんだろうが奴等の強力な鉄すら溶かす体質のせいで壁を登れねぇ。つまりここより下に落っことせばいいんだ。」

 

「それっておじいちゃんの!?」

 

「地下倉庫に落っことせば下に落ちた奴等は這い上がれねぇ。それで村のヴェノムはいいだろう。ヴェノムは単純な食欲しか持ってねぇから落とすのはそう難しくない筈だ。」

 

「それで行こう。後のことはそれから考えよう。」

 

 僕らはおじいちゃんの地下倉庫のある庭へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、小屋は外したな。」

 

 庭についてから雨が入ってこないように建てた小屋を解体して地下への階段をむき出しにする。

 

 下を覗きこむと1匹のヴェノムが階段を登ろうとしてたが1段目と2段目が溶けていて上がれないようだ。

 

 …このヴェノムは恐らく。

 

「クレベストン、また会ったな。」

 

 おじいちゃんがしみじみと言った。

 

「クレベストンさん…。」

 

 さっきまではゾンビとはいえ人の形はしていたのに。

 

「ここに落とせばいいんだな。」

 

 他に集まっていた人が言う。

 

「あぁ、こんなときのために中は結構深く広く造ってある。村にいる分だけでも十分に入る筈だ。」

 

「よし、手分けしてヴェノムを誘い込もう。」

 

 みんな積極的に動いてくれる。

 

 もうこれしか手がないと分かると必死だ。

 

「カオス俺達も行こう!」

 

 ウインドラが駆け出していった。

 

 僕も出来ることをやらなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからみんなで動いたら結構早くに終った。

 

「もう村の中のヴェノムは粗方片付いたみたいだ。」

 

 地下倉庫はもう階段自体が溶けてなくなり階下の方にはまるで井戸の水のようにヴェノムがひしめいている。

 

「まだ結構入るな。これからどうすればいいんだ?」

 

「奴等は他にエサがなければそのうち溶けきって消える。後は時間を待つしかねぇ。今のうちに腹減ってるやつは飯でも食っとけ。」

 

 どうやら一応の安全は保てるようだ。

 

 村はどうなるかは分からないが生き残れただけでも幸いだろう。

 

 後は、

 

「森にどのくらいヴェノムがいるかが気になるな。逃げてった奴等がそのまま引き連れて逃げ延びてくれればいいが…」

 

 先に森の外へと向かった人達が今どうしてるかがこれからを左右するらしい。

 

 無事に逃げてくれればいいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウァァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調度森の人たちのことを考えてたら森の方から声がした。

 

 見れば先ほど逃げていった人達だ。

 

「…どうやら無事だったみたいだがな、ヴェノムまで連れてやがる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァ!!も、森に逃げたらヴェノムが…!!」

 

「お前ら!!さっきはよくも!」

 

「し、仕方ないだろ!生き残るのに必死なんだよ!」

 

「まぁ待て待て。で状況は?」

 

 おじいちゃんが冷静に聞き出す。

 

「森に逃げたら他のモンスター達が襲ってきて、なんとかかわしてきたんだけど、攻撃を受けた奴等がヴェノムにぃ…!」

 

「なるほど、ヴェノムが出たからもしやとは思ったんだがな。そこまで酷くなってたのか。」

 

「アルバさん!この森はもう…!」

 

「あぁ、言いたいことは分かる。既に奴等の縄張りになっちまってるだろ?」

 

「!!アンタまさか知っていて俺達を止めなかったのか!?」

 

「何言ってんだお前ら!お前らが勝手に逃げ出したのが悪いんだろうが!アルバさんは具体策を用意していたのに!」

 

「何だとこのぉッ!」

 

「よせ。仲間同士で割れてる場合じゃねぇだろ。責任の擦り付けあいがどんな解決策に繋がるんだよ?」

 

「「……。」」

 

「俺も全てを把握してる訳じゃねぇ。もしかしたら森に逃げたやつらがそのまま脱出出来てたらその後に続いて俺達も逃げれた筈だしな。それができなくなった。それが分かっただけでも進展だ。」

 

「ではこのあとは?」

 

「俺と一緒に残ってたやつらは分かるな?森にどれだけヴェノムがいるか分からねぇ。あとヴェノムがどのくらいいるのか判断つかねぇが落とせるだけ落とすぞ。」

 

「落とす?」

 

「アルバさんとこの倉庫に落として消えるまでやり過ごすんだよ。」

 

 

 

 凄いなおじいちゃんはさっきまでの険悪なムードからもう皆をまとめている。

 

 ブランクがあるとはいえこれが戦場で戦ってきた戦士のカリスマ性なのか。

 

 ザックに勝った程度の僕ではまだまだ遠く及ばないなぁ。

 

 おじいちゃんについけいけば村のみんなは大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「森の中に入るとヴェノム化してねぇゾンビにやられる!ここは奴等が出てくるだけ出てきてから誘き出せ!」

 

 僕達の長い長い籠城戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今どれくらい入った?」

 

「最初の村の中にいた両の10倍は落ちました。」

 

「あとどれくらい入る?」

 

「入っても後20体くらいが限界かとこれ以上落とすと溢れてきそうです。」

 

「そうか、多分まだ森にいる奴等、100体はいると思うんだがな。」

 

「…そんなに!?」

 

「この村なんざ森のほんの少し程度の広さしかねぇんだ。そのくらいは想定しとかねぇとあとで痛い目見るぞ?」

 

「ではどうすれば?」

 

「籠城戦は気長に待ってるだけじゃねぇよ。マナが回復してきたやつはこことおんなじように穴を掘れ。」

 

「はい!」

 

「回復しきってないやつは飯の確保と森の見張りだ。交代制なんてしてる暇はねぇからな。ファーストエイドで騙し騙しやってくぞ。」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからどれくらいたったのだろうか。

 

「「「「「……… 。」」」」」

 

 皆はとっくに疲労が限界だ。

 

 ヴェノムは時間問わずに責めてくる。

 

 1人犠牲になるだけでその補充はとてつもなく皆にのし掛かる。

 

 それが分かっているから皆も誰も犠牲にしないよう努力はする。

 

 けどそれもそろそろ限界だ。

 

 

 

 

 

「もうそろそろいなくなったんじゃないか?」

 

 誰かがそう言った。

 

「……確かに最後にヴェノムが来てから半日はたってる。」

 

 皆ももう終わりたがってる。

 

 僕ですらそれを願っている。

 

「まだだ。この程度の筈がねぇ。」

 

「でもアルバさん!もう村にはこれ以上ヴェノムを入れられるような穴は…。」

 

「……。」

 

 ヴェノムを落とす穴は村の中に10は出来ていた。

 

 どれももう満杯まで来ている。

 

「俺が…見てきましょうか?」

 

「…まて早まるな。」

 

「でも誰かが確認しないと!」

 

「……だったら俺がいく。」

 

「アルバさんが…?」

 

「俺だったら他の連中よりかはヴェノムに精通している。奴等が何処にいるか探すんなら俺が直接行くのが効率的だろ?」

 

「そうですが…」

 

「…ちょっくら行ってくるぜ。」

 

 そう言っておじいちゃんは森に向かう。

 

「おじいちゃん!」

 

「カオス。」

 

「おじいちゃんだけだと心肺だよ!僕も行くよ!」

 

「ダメだ。」

 

「なんで!?」

 

「…後ろを見てみろ。」

 

 おじいちゃんに言われて後ろを見ると

 

「「「「「………。」」」」」

 

 村の皆が僕らを見ていた。

 

「アイツら俺達が行くと全員付いてくるぞ?お前は俺の家族だからな。」

 

「え?」

 

「俺達がそのまま逃げちまうか疑ってんだよ。お前と俺が一緒にいけばそのままふけちまうかもしれねぇからな。」

 

「……。」

 

「皆助かりてぇんだよ。誰を差し置いてもな。なら家族がいる俺がお前を置いていけば俺は戻ってこなければならない。分かるなカオス。」

 

「…でも「だったら俺が一緒に付いていくよ」」

 

「俺だったら子供だから大して村の皆からは注目されないだろう?アルバさんが心配なら代わりに俺がいくよ。」

 

 そういってかって出たのはウインドラだった。

 

「ウインドラ…。」

 

「どのみち誰かが見に行かなければならない。けど安全とはいえない森を皆で見に行って全滅を避けたい。なら確実に戻ってくる人と村の戦力外の俺なら皆も納得だしカオスもそれでいいだろ?」

 

「…。」

 

「俺がアルバさんを守るよ。だから安心して。」

 

「…分かった。」

 

「ありがとうカオス、じゃぁ行きましょうアルバさん。」

 

 そう言っておじいちゃんとウインドラは森中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅すぎないか?」

 

「森に入ってから大分たつ。何かあったか。」

 

「まさか逃げたんじゃ…」

 

「けどアルバさんとこの孫が…」

 

「魔術も使えないガキなんてほっといて逃げるだろ…」

 

 大人達が口々に好き勝手なことを言う。

 

 そんなわけないだろう。

 

 引退したとはいえおじいちゃんは騎士だ!

 

「……。」

 

 それをこいつらに言ってやりたい。

 

 

 

 言ってやりたいけど我慢だ。

 

 ここで僕が言ったところでこいつらは信じない。

 

 なら僕がおじいちゃんの信用のためにここで大人しく待っているしかない。

 

 煽ったところで暴動の誘発になるだけなら僕が我慢すればいい。

 

「カオス…。」

 

 村長が僕をよぶ。

 

「こんな子供でも立派に使命を果たそうとしてるのに…何も出来ない自分が心苦しいよ。」

 

「…。」

 

「アルバは必ず戻ってくる。今はあっちの方で休んでおけ。お前はよくやってるよ…。」

 

「…。」

 

 よくなんてやってない。

 

 僕は子供だからって逃げ出そうとした弱虫なんだから。

 

 人より出来ない僕は誰よりも頑張らなくちゃいけなかったのに!

 

 

 

 

 

 

 

 

ガサッ!

 

 

 

 

 

 

「!!何かいるぞ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声で皆構える。

 

 そして

 

「ハァハァ…!!」

 

 出てきたのはウインドラ1人だった。

 

「ウインドラ!大丈…」

 

「待て!ソイツ感染してるかもしれないぞ!」

 

 僕はその肥を無視しウインドラに駆け寄る。

 

「ウインドラ!何があったの!?おじいちゃんは」

 

「ハァ…ハァ…アルバさんは…」

 

 なかなか息が調わない。

 

 余程急いでここまで来たようだ。

 

「ウインドラ落ち着いて!ゆっくりでいいんだ。」

 

 僕の声を聞いてウインドラが少しずつ落ち着いていく。

 

 

 

「アルバさんと2人で森の奥まで行ったんだ。そしたらそこにここよりも更に多くのヴェノムがいたんだ。俺はそれを見て驚いて逃げてきたんだけど途中アルバさんが囮になるって言ってはぐれたんだ。」

 

 

 

「何だって!?」

 

「ここより更に多いだと!?」

 

「そんな…」

 

「じゃぁ、今まで俺達がやってきたことは無駄だったのか…?」

 

「せっかくここまできたのに…まだそんなにいるのか…。」

 

 大人達が次々と絶望を吐露していく。

 

「もう無理だよ…。」

 

「マナはとっくの昔に尽きている。」

 

「俺達はあの化物に喰われるしかないのか…。」

 

「なんか虚しくなってきた…。」

 

「どうせ頑張ってもあの化物共が押し寄せてお仕舞いだよ…。」

 

 皆連日の奇襲で疲れはてている。

 

 気力も体力も限界をとうに越えている。

 

 そこに来てこの報せはあまりにも酷だった。

 

「俺……森に行くよ…。」

 

「俺も…」

 

「私も…」

 

 どうせこのまま抵抗したところで結局喰われるのなら今楽になろう。

 

 村人達からはそんな空気が漂ってきた。

 

 

 

 

 

「ウインドラ!おじいちゃんはまだ諦めてないんだろ!?」

 

「カオス…。」

 

「諦めてないんだろ!?」

 

「う、…うん。」

 

「だったら僕が諦めるわけにはいかないじゃないか!」

 

 おじいちゃんはここまで皆のために体を張って戦ってきたんだ!

 

 最初はクレベストンさんを刺したり、取り巻きを斬ったりして驚いたけど、おじいちゃんはずっと皆のためだけに動いてたんだ。

 

 今ここでコイツらを死なせたら汚れ役をかって出たおじいちゃんの努力が無駄になる!

 

 

 

「ウインドラ!僕はおじいちゃんを探しに行くよ!」

 

「か、カオス!?」

 

「ウインドラはそこのソイツら繋ぎ止めといて!」

 

 そう言って森へと駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんならなんとかしてくれる。

 

 おじいちゃんなら何か策をくれる。

 

 おじいちゃんは僕にとって最高の騎士だから。



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歴史の始まり

 騎士を目指す少年カオスは村を襲撃するモンスター、ヴェノムに立ち向かう。

 その戦いは数日にもおよび村人も疲れが見えてくる。

 そんなときアルバはウインドラとともにヴェノムの潜む森へと向かい様子を窺いに行くが焦る村人たちを留めるためカオスは1人森へと突入するのだった。


 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、!!」

 

 ここ連日は常に走りっぱなしだ。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、!!」

 

 心の中ではもう走ることを止めたくて仕方ない。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、!!」

 

 だけど今走らないと取り返しのつかないことになる気がする。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、……ハァ、!!」

 

 だから辛くても泣きたくても走ることをやめられない。

 

 止めたら後で泣くことになると思うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~、ついてねぇなぁこりゃぁ。」

 

 アルバは1人で愚直を溢す。

 

「かっこつけて出張ってみたがアイツら行かせないでよかったぜ。」

 

 安心したかのようなセリフを吐くが内心は途方にくれている。

 

「おかげでこんな化物に出くわしちまうんだからな…。」

 

 

 

 

 

 

 アルバの目の前には6メートルはある巨大なヴェノムがいる。

 

「こいつぁブルータルでも感染しちまったか?」

 

 このヴェノムを村に連れていく訳には行かない。

 

 ただでさえ村人達は疲れている。

 

 これ以上は穴は掘れないだろう。

 

 そこに来てこの巨大ヴェノムである。

 

 恐らく今まで掘らせていた穴では落としたとしてもこいつは出てくる。

 

「ったく、こういうやつが出てくることなんざ予測はついてたんだがなぁ。」

 

 今度こそお手上げである。

 

「すまねぇなぁ、カオス。ここで詰まされたらしい。」

 

 今までは村の中の使えるものを全て使って凌いできたがこのヴェノムは何をしても防ぎようがない。

 

 目の前の怪物の触手がアルバに迫る。

 

 

 

「………昔の夢なんざ見るもんじゃねぇな。諦めていたのによぉ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじいちゃん!」

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

ジュッ!

 

 

 

 

 

 横から別の何かがぶつかってきた。

 

 それによってアルバは触手をかすらせる程度ですんだ。

 

 

 

 

「何やってんだよおじいちゃん!避けろよ!?」

 

「カオス…。」

 

 そこには村に置いてきた筈の孫が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でこいつは何!?」

 

 カオスは祖父を襲おうとしていたヴェノムを見て苛立ちながらも問う。

 

「…恐らく、森の主にでも感染しちまったんだろう。ここまででかいのはそうとういろんな奴取り込んでるぞ。」

 

「森の主!?そんな奴がいたの!?」

 

「いたんだろうな。殺生石に守られて知ることもなかったが。」

 

 そうか、そんな奴がいたのか。

 

「出切ればヴェノムに感染する前に見たかったな。」

 

「バカ野郎…。そしたらこんなノロマじゃねぇかもしれねぇぞ?お前なんかすぐ追い付かれてパクっと丸飲みコースだ。」

 

「嫌な言い方するなよ…。」

 

 こんなときに冗談言う余裕はあるのか。

 

「こいつはどうすればいいの?」

 

「…俺1人だったら諦めてたんだがな…。」

 

「え?なに?」

 

「何でもねぇ。諦められねぇ理由が出来ちまったじゃねぇか畜生!」

 

「諦めさせる訳ないだろ!死ぬ気で考えやがれクソジジィ!」

 

 調子に乗って暴言を吐く。

 

 おじいちゃんが無事でよかった。

 

 そのことだけでここまで走ってきてよかった。

 

 後悔しないですんで本当によかった。

 

 

 

 

 

 

「カオス!こんなときになんだが俺はお前に戦う時いつも何に気を付けさせている?」

 

「本当にこんなときにだな!冷静に己の立ち位置を把握して状況を判断することだろ!?」

 

 急に日頃の訓練のお復習してなんなんだ。

 

「そうだいつもいつも言い聞かせてるんだがボアと同じで猪突猛進なお前には学習してもらえなくて手を焼かされてるわ。」 

 

「説教は後にしろよ!」

 

「バカ野郎今から大事な事言うんだから黙って聞いとけ!」

 

 なんなんだよ、何が言いたいんだ。

 

「このデカイの見てどう思う?」

 

「どう思うってデカイとしか…。」

 

「そうだデカイな。こいつ、村の穴に入ると思うか?」

 

「…どうだろう。」

 

「このサイズは流石に無理だ。穴から出てきちまうぞ。」

 

「じゃぁどうすればいいんだよ!」

 

「考えてみろ!」

 

「考えてみろって…」

 

 僕はコイツらのことを最近初めて知ったんだぞ?

 

 分類的にはスライムなんだろうが普通のスライムと違って水は押し飛ばせるだけで効かない、風で切っても再生する、地で突き刺しても同じ、雷と火を受け付けない液状の体。氷で冷やしても即熔ける。

 

 魔術自体が効かないのか。

 

 なら物理攻撃は……いやもっとダメだろう。

 

 斬った剣が溶けるのは確認済みだ。

 

 ましてや他のものを使ったところで同じ結果だろうな。

 

 ならどうすればいい。

 

「……。」

 

「そんなに難しく考えるな。何もこっちの攻撃が全てじゃねぇ。相手の習性が弱点に繋がることもあるんだ。」

 

 相手の習性?

 

 スライムであらゆる生物に感染して増殖してとても強い酸性の体で魔術が効かない物理攻撃が効かない獲物に真っ直ぐ突き進むため誘導しやすい他には分裂するくらいしか…………分裂!?

 

「そうか分裂か!?」

 

「よし、先ずは及第点だな。」

 

「それって何点なの?」

 

「ヒント言うまでこんな簡単なことに気付かなかったから30点だな。」

 

「低くない?」

 

「これから上げるんだよ。じゃあ、分裂させるにはどうすればいい?」

 

「どうすればって…」

 

 どうすればいいんだ?

 

 こんなデカイんじゃぁ風で斬ったりも出来ないし…

 

「木に誘導してぶつけるとか?」 

 

「木が溶けて終わるだけだろうな。」

 

 じゃあどうすればいいんだ?

 

「まだまだお前には戦眼は早いってこったな。とりあえず今回は俺が答えてやる。次からはお前が1人で考えてみろよ?」

 

 どうしたんだ?

 

 こんな状況で勉強している余裕があるのか?

 

「カオス、こいつを引き付けてろ。その間に俺がストーンブラスト、アクアエッジ、アイシクルで土の山を作る。」

 

「土の山!?」

 

「コイツらは最も近くにいる奴に直進していくんだ。そこを利用してコイツには俺の作る山で自分で自分を斬ってもらうのさ。」

 

「でも山が溶けたりは…」 

 

「それで溶けきってたらコイツらはもとよりこうして地面を這って移動すらできねぇよ。」

 

 確かに言われてみればそうだ。

 

「一応は軽く地面も溶けてはいる。だが原理は分からねぇが生物に比べてコイツの酸が大して働いてないようにも見える。意識的にか無意識か使う酸を分けてるんだ。」

 

 そんなとこまで観察するとは…。

 

 僕は落とすことしか頭になかった。

 

 おじいちゃんへの道は果てしなく遠いことをまた改めて認識し直した。

 

「始めるぞカオス!」

 

 僕達はそれぞれの役割を果たすことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、ハァ、ハァ、これくらいでハァ、いいだろう…。」

 

 僕達はあれから作戦通りこなし、ジャイアントヴェノムを4つまで分裂させた。

 

「このくらい分裂させとけば後は大丈夫だね!おじいちゃん!」

 

「あぁ、ハァ、ハァ、そうハァ、だな…。」

 

「おじいちゃん?」

 

 疲労困憊な時に偵察と魔術の連続使用で苦しいのだろうか?

 

「ハァ、ハァ、……ッフゥー、大丈夫だ。コイツら連れて…村へ戻るぞ…。」

 

 息を調えてはいるが顔色は優れない。

 

 早く休ませてあげなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからしばらくして村につく。

 

「カオス!アルバさん!」

 

 ウインドラが出迎えてくれた。

 

 

 

「おいアイツら帰ってきたぞ…?」

 

「ヴェノムも一緒だ。早く空いた穴に落とせ!」

 

 村人達もなんとか気力を繋いだらしい。

 

 僕たちの代わりにヴェノムを引き付けてくれた。

 

 正直助かる。

 

 村に付いた途端緊張の糸が切れたのか今にも倒れそうだ。

 

 

 

 

 

 

ドサッ

 

 

 

 

 こんな風に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森で1晩中走り回ったおじいちゃんと僕は村に付いてから直ぐにでも休もうと村の中に入ろうとした。

 

 だが村に入る直前でおじいちゃんが倒れた。

 

 体力の限界が来てしまったのか。

 

 

 

 

「おじいちゃん!?」

 

「アルバさん!」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」

 

 僕は倒れたおじいちゃんの体を抱き起こす。

 

 だが

 

「あつっ…!」

 

 抱き起こそうとした体からはとても人の体温とは思えないほどの熱が伝わってきた。

 

 なんだこれはおじいちゃんの体で何が起こっているんだ?

 

 

 

 まさか

 

「ヴェッ…ヴェノムに感染してるんじゃないか!?」

 

 村人の誰かがそう言う。

 

「ソイツから離れろ!お前らも感染するぞ!?」

 

 

 

 そんな筈はないだろう。

 

 おじいちゃんはずっと僕と一緒にいたんだ。

 

 おじいちゃんがヴェノムに触ったとこなんて見てないぞ!?

 

 触ったとこなんて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのとき…!?

 

 僕がおじいちゃんを突き飛ばしたときまさか触っていたのか!?

 

 けどあの後特にそれらしい様子を見せなかったから触れなかったんだと思っていたのに何で!?

 

「ハァ、ハァ、カオス……俺から…ハァ、離れろ…。」

 

 おじいちゃんが今にも死にそうな声で言う。

 

「待って!嫌だよおじいちゃん!何でだよ!?さっきまで元気だったじゃないか!?」

 

「アルバさん!?しっかりしてください!貴方からはまだ父さんのことを聞いてないのに!」

 

「ハァ、ハァ、悪いなウインドラ…ハァ、ハァ、今の俺がそのままハァ、ハァ、ラコースそのものだったよ…ハァ、ハァ、。」

 

「!!」

 

「おじいちゃん!風邪何だろう!?ただ疲れて倒れただけなんだろう!?早くベッドに連れていくからね!?」

 

 僕はおじいちゃんに肩を貸して連れていこうとする。

 

 ウインドラも反対側から手伝ってくれる。

 

 

 だが

 

「離せって……ハァ、ハァ、言ってんだろ…。」

 

 

 

 

 

ドンッ

 

 

 

 

 

 おじいちゃんに僕とウインドラは突き飛ばされてしまう。

 

 

 

ドサッ

 

 

 

 そして再びおじいちゃんが倒れる。

 

「おじいちゃん!何するんだよ!?早く休もうぜ!?意地張ってないでさ!?」

 

「……。」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。」

 

「そんなに息があがるほど疲れてんなら部屋でグッスリ眠れよ!連れてくからさぁ!」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。」

 

「別に風呂入ってないから臭うとか気にしない増加僕は!」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじいちゃん…?」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな…。

 

 どうしてだよ…。

 

 あれほど後悔しないように頑張ったじゃないか。

 

 子供だから出来ないからって言い訳しないって。

 

 僕は人に比べて出来ないことが多いから誰よりも頑張らなくちゃって。

 

 おじいちゃんを迎えに行ったのだって必死だったんだ。

 

 

 

 どうしてあのとき…後1秒早く助けられなかったんだ。

 

 どうしてあのとき…後1秒が届かなかったんだ。

 

 僕が……いろいろ足りないせいでおじいちゃんは……………。

 

 

 

 こうして涙が出たところで何も戻りやしないのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、カオス。」

 

「!!」

 

 おじいちゃんが僕を呼ぶ。

 

「おじいちゃん!」

 

「ハァ、ハァ、気に病むなよ…?これは別に…ハァ、ハァ、お前が悔やむ必要なんかねぇんだ…ハァ、ハァ、。」

 

「だけど!」

 

「ハァ、ハァ、本当はあのときお前に助けられなかったら……ハァ、ハァ、あの場で……俺は終わってたんだ。ハァ、ハァ、」

 

 え?…

 

「あの時点で俺はなハァ、ハァ、…生きる自信を無くしちまってたんだハァ、ハァ、」

 

「……。」

 

「あんなハァ、ハァ、バカでけぇハァ、ハァ、ヴェノムを見て俺はぁっ…ガハァ!!」

 

 おじいちゃんが血を吐く。

 

 その血からは蒸気が沸く。

 

「ハァ、ハァ、お前が現れたからハァ、駆け付けてくれたからハァ、ハァ、ハァ、ハァ、助かった…!」

 

 なんだ?

 

 僕はただ駆けつけただけだ。

 

 何かしたわけじゃない。

 

 むしろ何も出来なかったのに。

 

 こうして目の前で苦しむおじいちゃんに何もしてあげられないのに。

 

 

 

 

 

 

「俺はハァ、ハァ、騎士になりたかったんだ…ハァ、ハァ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 騎士…?

 

 突然何を言って…?

 

 おじいちゃんは騎士だったのではないのか?

 

 

 

「ハァ、ハァ、当然、王都でハァ、ハァ、騎士には、慣れたんだハァ、ハァ」

 

「俺はハァ、ハァ、昔から、ある騎士に憧れてハァ、ハァ、それを目指していたハァ、ハァ、。」

 

「ハァ、ハァ、フぅッ、グゥゥゥ!!その騎士は俺の、ハァ、ハァ、師匠でなハァ、ハァ、いろんなことを教えてもらったハァ、ハァ。」

 

「そのうちぃ…ハァ、…ハァ、いろんな武勲を、ハァ、ハァ、取ったりして順調に、ハァ、ハァ、進んでたんだ。ハァ、。」

 

「だが…ハァ、ハァ、あるときからハァ、ハァ、ヴェノムが溢れだしてハァ、ハァ、街や村をハァ、ハァ、救えねぇ時があった。」

 

「ハァ、ハァ、悲しくてなハァ、ハァ、俺の力が足りないばっかりにハァ、ハァ、死なせちまってハァ、ハァ」

 

「そして、ハァ、ハァ、俺は…ハァ、ハァ、盾となって臣民を守るとハァ、誓ったのに、ハァ、」

 

「ハァ、いつの間にかハァ、ハァ、感染した臣民をハァ、斬ることの方がハァ、多くなった。」

 

「ハァ、ハァ、俺は英雄だハァ、なんだと持て囃されていたが実際はハァ、ハァ、その英雄と言ってくれるハァ、ハァ、臣民をハァ、斬り殺す殺人鬼ハァ、ハァ、だった。」

 

「ハァ、ハァ、俺は皆ハァ、ハァ、の期待に応えたかったハァ、ハァ、皆の信用をハァ、ハァ、裏切りたくなかったハァ、ハァ、。」

 

「ハァ、ハァ、そうしているうちになハァ、ハァ、昔なりたかったハァ、ハァ、俺がハァ、俺の中からいなくなってたハァ、ハァ、」

 

「何もかもハァ、虚しくなってなハァ、ずっと逃げることばかり考えてたハァ、ハァ。」

 

「悪かったなハァ、ハァ、貴族だったこと黙っててハァ、ハァ、俺はこんな半端者だからよハァ。」

 

「ハァ、ハァ、名前の件だってそうだ。ハァ、ハァ、嘘の名前で通してハァ、ハァ、」

 

「俺はハァ、昔の自分とハァ、ハァ、別人になりたかったんだハァ、ハァ。だから名前をハァ、ハァ、変えようとした。」

 

「ハァ、けどもし名前を変えたことをハァ、ハァ、昔の俺を知ってるハァ、ハァ、奴が知って訪ねてきたらハァ、ハァ、思うと怖くて、変えきれなかった。」

 

「結果ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、本名を弄ったハァ、ハァ、だけの偽名になったんだ。」

 

「ハァ、ハァ、なんてことはない!只の臆病者を100年続けてたんだよハァ、アッハハッハッハっ!」

 

「お前がハァ、俺に憧れて騎士をハァ、目指すっつーんならハァ、ハァ、ハァ、止めとけ…。半端者が移る。」

 

「ハァ、ハァ、だがら!ハァ、お前はッ!ハァ、そのままのお前になれ!他の誰でもない!お前だけのその真っ直ぐなお前に!」

 

 

 

「おじ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前なら世界を、……バルツィエを変えられるかもな……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんは僕に僕が嘘だと気付かない嘘をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大抵はそのあと他の人からそれが嘘だと知らされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前の件だってそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まんまと今までの人生まるごと騙された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これも嘘だったらよかったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして世界は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなにも僕に冷たいんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして世界は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなにも僕を孤独にするんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな世界に生まれて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は何をしたら幸せになれたんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラが何か言ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうでもいいや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほっといてくれよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕のことなんか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕とおじいちゃんを暗い世界に閉じ込めるのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けどもういいや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このまま溶けて消えてしまいたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな僕とおじいちゃんに残酷なこの世界から

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 消えて、しまい、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『また…ヴェノムが暴れだしたようじゃな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『また…ワシが屠らねばならぬのか。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都の某所

 

『……何のようだ?』

 

「よう、久しぶりだな、元気にしてたか?」

 

『……』

 

「こっちは今明け方なんだがそっちはどうだ?」

 

『…こちらも先程朝をむかえた。』

 

「そうか、前は大分ずれてたのにな。」

 

『…そんなことを確かめるために態々連絡をよこしたのなら切るぞ。』

 

「慌てんなよ、せっかちな弟だな。」

 

『……』

 

「私達が探していたものが見つかったぞ。」

 

『!』

 

「どうやらこっちの方にいるみたいだ。それも私の国にな。今朝がた反応があった。」

 

『……』

 

「永年探していたものが見付かったのに無愛想なやつだなお前は。」

 

『…今どこにある?』

 

「これから捜索させるからそれまで待っとけよ。それかこっちに来ねぇか?」

 

『…お前が持ってこい。』

 

「どんだけ偉そうな弟何だろうな姉に向かって持ってこいとは。」

 

『……』

 

「これでようやく計画を前進させられるんだ。有り難く思えよ?」

 

『……取り逃がすなよ。』

 

「分かってるよ、ずっと探していたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの()()()の精霊をな。」

 

 

 

 

 

 

 

 



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開幕

 騎士を目指す少年カオスは村を襲うモンスターヴェノムに立ち向かう。

 森の奥で巨大なヴェノムを分裂させることに成功したが祖父アルバが感染してしまい命を落としてしまう。

 その後カオスは…。


かつて、

 

世界は高度な文明を築いた1つの国があった

 

しかし、文明の発展はマナの貧窮を招き

 

人々が力でマナを奪い合う戦乱の時代が始まる

 

争いを望まぬもの達は安寧を求め天を目指した

 

 

 

 

そして神の怒りに触れてしまう

 

怒れる神は雨を降らせ大地を引き裂き国を滅ぼした

 

人々が神の存在を忘れるとき

 

神は災厄をもってその姿を再び現すだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神の怒り、か

 

 世界を壊したのは人でもなく国でもなく自然ということなのだろう。

 

 人にはそれぞれ踏み出していい世界の限界がある。

 

 それを勘違いして自らの領域を広げすぎた結果足元を掬われた。

 

 このお話は、人が何かを始めるとき自らを見つめ直せ。とどかぬものはとどかない、と伝えたいのかもしれない。

 

 確かに人の欲は果てしない。

 

 手を伸ばした指先までが世界だというのにその遠くが欲しくなる。

 

 限界を越えて得られるものなどまやかしに過ぎないのに。

 

 世界は広がらない、始めから長さは決まっている。

 

 限界を越えた気になるのはそれまでが本当の限界にすら達してなかっただけ。

 

 人が己よりも外の世界にいるのならその世界に己も行きたいと憧れ、願い、手を伸ばす。

 

 そうして掴めるのは指先から内側の世界だけ。

 

 指先から先の異世界はずっと異世界のまま。

 

 人はそれを知って現実を目の当たりにする。

 

 

 

 随分と子供に厳しい話だな。

 

 教えたところで納得する子供などいるのだろうか。

 

 少なくとも自分は納得しない子供だったろう。

 

 

 

 今では自らの世界を悟ってしまったが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 どうやら自分は眠っていたみたいだ。

 

 子供の頃に読んだことのある懐かしい本を見付けたので手にとったとこまでは覚えている。

 

 あの頃は何のことだかサッパリだったが今になって成熟してきた価値観で読むと新たな側面が見えてくる。

 

 この本が伝えたいことは理解した。

 

 要するに、あまり調子に乗ると思わぬしっぺ返しにあうぞ。分不相応を弁えろ!身の程を知れ、ということだと思う。

 

 

 

 言葉にしてみるとなるほどその通りだと自分の中で納得する。

 

 子供に読ませるにしては難しいような気がしたがこの本は今こうして読むことによってその内容が現れてくるのだ。

 

 一度目は通過儀礼、二度目に理解する。

 

 そんな伝え方があるんだな、勉強になる。

 

 この本を手に取ったとき妙に関心を惹くと思ったらそういうことか。

 

 改めて読んでしっくり来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさに僕のことだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス」

 

 

 

 そういえば誰かの声がして起きたんだった。

 

 ここ最近誰とも会ってないから気のせいだと思って放置していた。

 

 部屋のベッドから起きるとそこには

 

「おはようカオス。」

 

 幼馴染みのミシガンが立っていた。

 

「おはようミシガン、久し振りだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、探してたんだよ?前に住んでた家にいないからどこに行ったんだぁーって。そしたら違う人の家で寝てるし。」

 

「ゴメンゴメン、なんかあっちも良かったんだけどこっちの人の家も気になってね。」

 

「そうやってフラフラしてると癖になるよ?早く直さないとそのうち入っちゃいけない家まで入っていきそうで心配だよ。」

 

 相変わらずミシガンは表情豊かで可愛いな。

 

 そのうえ世話焼きなとこもあるようで僕の様子もこまめに聞いてくるし。

 

 

 

「そういえばミシガンは最近どう?」

 

「最近?ん~と子供たちの教育任されちゃっていろいろと苦労してるってとこかな~。」

 

「みんなの先生は大変だねぇ。」

 

「そう思うんならお手伝いに来てほしいんだけど。」

 

「僕は…僕の仕事があるから。」

 

「…そう。」

 

「アイツとは連絡とってるの?」

 

「うぅん。あれから何の連絡もないよ。」

 

「アイツのことだから元気ではいるんだろうな。」

 

「あの人のことなんて知らないよ。私達を置いていっちゃったんだし。」

 

「…」

 

「今はカオスがいるから平気。淋しくないよ」

 

「……そろそろ仕事に行くよ。」

 

「また…行くの?一人で…。」

 

「そうだよ。ミシガンは先に帰ってて。」

 

「……私も一緒に行くよ!私ならファーストエイドが使えるから…。」

 

「…ゴメン連れていけない。」

 

「…どうして。」

 

「ミシガン達を守るのが僕の仕事だから。」

 

「そうやって一人で抱え込まなくてもいいのに!」

 

「僕の責任だから…。」

 

「けど!カオス一人じゃ何かあったとき…。」

 

「大丈夫だよ。昔ほど弱くはないし身の程を弁えてるつもりだよ。」

 

「カオス…。」

 

「それにまた昔のようにヴェノムが現れたら戦えるのは僕だけだからミシガン達を捲き込みたくないんだ。」

 

「…」

 

「村の皆がヴェノムにならないように僕がしっかり森を見張っておかないとね。」

 

「……いつまでこんなことを続けるの?」

 

「…僕の責「いつまでこんなところでこんなことを続けるの!?」」

 

 

 

「もう十年だよ!?あれから十年!あの事件からみんなおかしいよ!?何でカオスが責任をとらないといけないの!?何でカオスは一人で戦い続けてるの!?何で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオスはこんな誰もいない捨てられた村で一人で住まなくちゃいけないの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここには僕が自分で来たんだ。」

 

「嘘!!知ってるもん!あの事件の後みんながカオスを責め立てて追い出したんでしょ!?」

 

「そんなことは」

 

「あったんでしょ!!そんなことが!!むしろカオスはみんなを救おうとしてたのに!!」

 

「僕はただ走り回ってただけだよ。」

 

「そんなことない!!現に今ああしてミストの村があるのはカオスがヴェノムを追い払ったからだよ!?」

 

「元々を辿れば僕のせいなんだ。それを村のみんな知っているから僕は今ここにいる。ここに住んでるのを黙認してもらってるだけでも満足だよ。」

 

「それだって!物心つく前の子供のときの話でしょ!?そんなのカオスを見ていなかったカオスの「ミシガン!」!!」

 

「父さんと母さんの悪口は…やめてくれ。父さんと母さんを殺したのも僕なんだから二人に責任はないよ。」

 

「…ゴメン。」

 

「いいんだ。」

 

「……本当にいつまでこんな生活を続けるの?」

 

「…」

 

「事件からミストの村が王都に見つかって最近までよく騎士が出入りするようになったの…。」

 

「…」

 

「王都ではヴェノムに関する研究が進んでてヴェノムを街や村に寄せ付けなくする封魔石って言うのが開発されててそれがあるところはヴェノムは近づけないんだって…。」

 

「…」

 

「今度それがミストにも置かれることになってヴェノムによる被害は心配なくなるの。王国の統治下には戻っちゃうんだけど…。」

 

「…」

 

「……だからカオスも村に。」

 

「…ゴメン、出来ないよ。」

 

「…理由を聞いてもいい?」

 

「………子供が犯したとはいえ罪は罪だ。罪は償わなければならない。」

 

「けどヴェノムを心配する必要性はもう!」

 

「それでもだよ。それでも僕はここで村を守らなくちゃならない。もし王都の技術の抜け穴でもあったら大変だから。それに罪は誰かに洗い流されるものじゃない。例え安全が保証されてても僕はここにいるべきなんだ。」

 

「…その罪は一体いつになったら綺麗に洗い落とせるの?」

 

「僕が死ぬまでかな。村のみんなが成長して、ミシガンが他の誰かと幸せになってずっと平和に過ごせるときになるまで…。」

 

「…ッ!!」

 

 

 

パチンッッ!!

 

 

 

「…」

 

「アンタ、自分に酔いしれるのもいい加減にしなさいよ!!そんな自分が与えたみたいな平和を生きてくれなんて言われても大きなお世話よ!!

 

 カッコつけてるつもり!?そんなにカッコつけたいならこんなところで一人で黄昏てないで堂々とみんなにアピールすればいいじゃない!!

 

 アンタ昔騎士になりたいって言ってたよね!!だったら今度ミストが統治下になったら騎士団の募集に応募して騎士になんなさいよ!!

 

 そんなに罪が気になるんなら私がアンタを裁いてやるわ!!アンタは騎士になって居たくもないミストでこれからずっと村のみんなに監視されて凶暴な森のモンスターと戦って生きるの!!」

 

「…」

 

「今度また来るからそのときは全身縛り上げてでも連れていくわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…フフッ。」

 

 ミシガン、君のそういう悪い女になりきれないところが好きだよ。

 

 また泣かせちゃったな。

 

 いつも泣きそうになると感情を爆発させてから涙が目から落ちる前に帰るとこは可愛いんだけど。

 

 昔の舌足らずな人見知りしてた頃がひどく懐かしい。

 

 今では村長のようにハッキリとものを言う。

 

 

 

「年下の女の子に元気付けられてる場合じゃないな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストの森

 

 

 

「ガルルッ!!」

 

「ウウウッ!!」

 

「バウッ!!バウッ!!」

 

 森に入ってしばらくしたらウルフの群れに囲まれてしまう。

 

 全部だ六匹か。

 

「ガアッ!!」

 

 一匹が喉元目掛けて飛んでくる。

 

 それを後ろに仰け反りながら地に手をつき足でウルフの腹を蹴り上げる。

 

「ボフッ!?」

 

 飛んできたウルフが思わぬ反撃に奇妙な声をあげて飛んでいく。

 

 蹴り上げた足はそのまま正面から真後ろまで三六〇度円を描く。

 

「ガハアッ!」

 

「ブゥゥゥッ!」

 

 必然的に背後を取り囲んでたウルフ二匹と距離が縮まり二匹が襲いかかる。

 

「…」

 

 片方を避けもう片方の頭を掴んで思いっきり顎を地面に叩きつける。

 

「ギャンッ!?」

 

 悲鳴をあげて動かなくなる二匹目。

 

「バウッバウッ!!」

 

「グアウッ!!」

 

「ハフーッ!!」

 

「ォォォォッ!!」

 

 今度は残りの四匹が一斉に飛びかかる。

 

 それを

 

 

 

ズブンッ!!

 

 

 

 

 持っていた木刀で横凪ぎ一閃。

 

 木刀とは思えぬ切れ味でウルフ達が半分になっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルルルッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやらボスのご登場だ。

 

 毛並みがさっきの六匹とは少し違う。

 

 こいつは確かブラックウルフ。

 

「ブルァッ!!」

 

「!!」

 

バフンッ!!

 

 突如ブラックウルフがライトニングを放つ。

 

 それを僕はまともに食らった。

 

 そうそうモンスターが魔術を使ってくることはないため油断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが

 

 僕は無傷だ。

 

「バルルッ!!」

 

 こちらにダメージがないと分かるやブラックウルフが突っ込んでくる。

 

 やはりモンスター、力は脅威だが動きが読みやすい。

 

 ブラックウルフの飛び掛かりを難なく避けて真横から

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャヒアッ!?」

 

 ブラックウルフが地を這う衝撃波に切り裂かれて息絶える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 戦闘が終わってから先程倒したウルフ達を見ると体が溶けていった。

 

「どうやらヴェノムだったみたいだな。」

 

 この辺りにまたヴェノムが現れたようだ。

 

「村長に書き置きしておくか。」

 

 村長はミシガンと一緒で僕のことを理解してくれる人だ。

 

 村のみんなには隠れて村長と書き置きの手紙を村の入り口付近の場所に残してやり取りをしている。

 

 これを定期的に行っているため村の内省的なことは把握している。

 

「よし、今日はヴェノム狩りだな。」

 

 一晩中退屈はしない一日にはなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は昔、後天的にマナが薄れ魔術を使えなくなる病気にかかってた。

 

 

 

 一度でも魔術を使えば体内のマナが枯渇し死んでしまう奇病。

 

 

 

 寿命は百年前後、人種エルフには短い時間である。

 

 

 

 先天的か後天的かの違いがあったが症状は同じであったためこの先天性魔力欠損症に掛かってたんだと思っていた。

 

 

 

 そう思い込んでた時期があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は大罪人だ。

 

 僕のせいで大勢の人が犠牲になる事件が起こった。

 

 だから僕は例え失った命が取り返せなくても失う前と同じ環境を作り続けなければならない。

 

 僕がその環境を壊したから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕が村の護り岩、殺生石の力を奪ったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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出逢い

 村を襲った悲劇から十年、大人になったカオスは一人誰もいない旧ミストの村で生活していた。

 心配したミシガンが村に戻るようカオスを説得するが彼の決意は変わらず孤独の道を進む。

 そして森には再びヴェノムが現れるもカオスの前に倒される。


 

お前、感染してないのか!?さ、触るな!!

 

な、何だその力は!?

 

化け物!!寄るな!!

 

それは殺生石の!?

 

お前が奪ったのか!?おまえのせいで村は!!

 

お前がいるから村はこんなふうになったんだ!!

 

出ていけ!!この疫病神!!

 

出ていけ!!

 

出ていけ!!

 

消えろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 あの日のことは鮮明に覚えている。

 

 今でもこうして夢に見るくらいだ。

 

 

 

 昔騎士になりたかった自分が招いたこと。

 

 あのときは弱いことが許せなかった。

 

 人より力のない自分が認められなくて。

 

 それでも僕は特別なんだとどこかで思い込む自分がいて。

 

 だから馬鹿にされながらも真面目に特訓して稽古もしていた。

 

 いつか努力したらおじいちゃんのようになれる気がして。

 

 そうして強くなって本当に騎士になれたらおじいちゃんに見てもらって誉められたかっただけの薄っぺらな子供心。

 

 

 

 僕は忘れちゃいけないんだ。

 

 あの日のことを。

 

 僕が殺した人達をいなかったことにしないためにも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秘境の村ミスト

 

 

 

「カオスはいつになったら戻ってこれるの?」

 

「それはカオスが戻りたくなったらいつでも…」

 

「そう言って、お父さんはカオスと会おうとしないじゃない!!」

 

「ミシガン、彼は自分を戒めているんだ。それを邪魔してはいけない。彼が自分を許さない限りここには戻ってこない。今は彼の気持ちが安らぐまでそっとしておいてあげなさい。」

 

「そんなの待ってたらいつになるか分からない!カオスは十年前にみんなに追い出されてから変わってない!!ずっとだよ!?カオスはずっとこのまま村のみんなのためにモンスターと一人で戦い続けるつもりなんだよ!?」

 

「…」

 

「みんな知らないと思うけどあれから何度か森でヴェノムが現れたときがあったの。その時もカオスが一人で解決したんだよ?」

 

「それは感謝しているよ…。私達にはヴェノムをどうすることもできない。本当は村のみんなも分かっているんだ。幼かったカオスには何の非もないことを。」

 

「だったら!」

 

「理性では分かっているんだ。だが一度心にしこりができると後々それがふとした拍子に出てきてしまう。今すぐカオスが村に戻ってきてもそれはきっと彼を傷付ける結果にしかならないだろう。」

 

「どうすればそのしこりは消えるの?」

 

「分からない、今はまだカオスと村人達の傷が癒えるのを待つしかないんだミシガン。時期に王都からも騎士団の使節が来て状況も変わる。封魔石とやらが届いて安全が保証されてからみんなで話し合ってカオスを迎えにいくかどうか決めよう。」

 

「……こんな村、あのときに滅びればよかったんだ!」

 

「…」

 

「そう言って村の恩人を蔑むだけ蔑んだあげくにカオスの良心を利用して一人で危険なモンスターの相手させて突き放す村の大人達なんかヴェノムに食い殺されればいいんだ!!」

 

 

バタンッ!!

 

タッタッタッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないミシガン、私には中立を保つことしか出来ないんだ。

 

 アルバやラコース達がいなければ何もできない肩書きだけの村長でしかないんだ…。

 

 こんな臆病者な父親ではお前が呆れはてるのも無理はないな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都の某所

 

 

 

『それで?なにか進展はあったのか?』

 

「現在調査中だっつーの!こっちもいろいろごたついてんだよ!」

 

『星砕きを見つけたのではなかったのか?』

 

「私はあくまで反応があったと言っただけだが!?」

 

『…その様子じゃ見失ったようだな。』

 

「悪いのか?ゴラァッっ!!!?

 

 反応があった付近は探させたよ!精霊石を見付けるまでは出来たんだぞ!?だが脱け殻だったんだ!!とっくの昔にいなくなってやがる!!住人の話によると十五年前くらいかららしい!!」

 

『では他の場所に逃げられたか。』

 

「そんな筈はねぇんだよ!反応があったのは十年前だ!そのタイミングで確かにあの付近でマナ感知に引っ掛かってんだ!」

 

『…つまり「つまりぃ!!」』

 

「誰かが持ち逃げしてんだよ!それか星砕き自体がソイツに隠れてんのかもな!」

 

『……やることは分かってるだろうな?』

 

「分かってるから黙って吉報を待ってな!私に恥をかかせて逃がすわけねぇだろ?周辺の村焼き払わせてでも炙り出す!」

 

『……』

 

「そぅだ!あの女を使おう!あの女の眷属としての能力が開花すれば星砕きもなにかしら反応を示すだろう?」

 

『!……彼女には手荒なマネはするなよ。まだ目覚めてすらいないんだぞ。やるにしても護衛付きだ。』

 

「ハハッ、おいおい随分と過保護だなぁ!血の繋がった姉よりも大事なのかい!?」

 

『……お前の失態を私にぶつけるな。』

 

「なんにせよ、あの女は使わせてもらう!手っ取り早いからなぁ。安心しなよ、護衛なんか用意しなくたって死にはしねぇだろ?」

 

『ふざけるなよ?』

 

「こっちにも事情があるんだよ。掛け持ちが多すぎて手がまわらねぇんだよ。突然現れた謎の女になんて言って護衛付けるんだよ?」

 

『ではその案は却「却下しねぇぞ?」』

 

「他に具体的な代案があるんなら聞くがこれ以上の最善策でないならそれこそ却下だ!」

 

『私の部隊を送ろうか。』

 

「そしたらそっちの計画に遅れが生じるんじゃねぇのか?」

 

『……』

 

「私の案で可決のようだな。任せろ。」

 

『勝手に決め「よし!そうと決まれば」』

 

プチンッ

 

 

 

「早速眠り姫をはたき起こしにいかねぇとなぁ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捨てられた村旧ミスト

 

 

 

「また懐かしい本が出てきたな。」

 

 一人で村を徘徊してるとたまに掘り出し物を見付ける。

 

 そのほとんどは昔読んだことのある本だ。

 

 朝目が覚めてこうして散策してから森に向かい、家に帰るのが日課である。

 

「(大樹カーラーン伝説かぁ…。無限にマナを生み出す生命の木…。)」

 

 無限のマナ。

 

 そう言われてもピンとこない。

 

 ただでさえ世界デリス・カーラーンにはマナが溢れている。

 

 そこにこの木が存在したとして何の意味があるのだろうか。

 

 生物には個体差はあるがおおよそのマナの内包する量は決まっている。

 

 マナが多い生物は寿命は長く魔力も高い。

 

 大半はその生物の肉体的な大きさに比例している。

 

 中には例外もいるが基本はその筈だ。

 

 

 

「さて他に目ぼしい物もないし今日は技の練習でもするかな。」

 

 一人言を言いながら指南書を持って森へと向かう。

 

 この指南書はミストから出る際おじいちゃんの書斎から見付けたものだ。

 

 この本には剣術についての技術について書かれていた。

 

 子供の頃は基本的な太刀筋についてしか教わらなかったがこの本はその先の技術が載せてある。

 

 主にマナを使った剣術で幼いころは先天性魔力欠損症に掛かってたと思ってたからおじいちゃんも教えられなかったのかもしれない…。

 

 そんなところでも迷惑を掛けてたと思うと申し訳ないな。

 

 指南書にはバルツィエ流剣術指南書魔神剣と書かれている。

 

 位の低い貴族様が作ったわりには綺麗に細かく記してある。

 

 恐らくは他にもいろいろあったのだろう。

 

 この一冊だけで十分賄えてるので必要なさそうだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストの森

 

 

 

「魔神剣!魔神剣!魔神剣!」

 

 ただひたすらに魔神剣の練習。

 

 言葉に乗せて撃つとマナを込めやすいので魔神剣の発声も付けて行うのがいいらしい。

 

 これを魔神剣が出なくなるまで続ける。

 

 昔はこうやって一人で素振りの練習をしていたから慣れたものだ。

 

 この技はここに来てから習得したが当時はマナをかなり消費した。

 

 今では大分威力を保ったままマナを抑えて撃てる。

 

 このまま夕方までしよう。

 

「魔神剣!魔神剣!魔神剣!……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣!………ふぅ、こんなものか。」

 

 すっかり日が暮れてしまった。

 

 途中魔神剣を撃ってたらモンスターが出てきたので討伐する。

 

 

 

 今でこそマナを使えるようになって他の人やモンスターのマナを感じ取れるようになったが僕のマナは異質だ。

 

 普通はマナを消費するとそれにともなって体力や精神力を消費する。

 

 そこは同じだ。

 

 昔からの直らないノーコンのせいで普段は使わないがファイヤーボール等の魔術を使うとそうなる。

 

 違うのは質。

 

 

 

 どういう原理かは自分でも分からない。

 

 僕は物理的には不死身に近いヴェノムを殺すことが出来る。

 

 おまけにヴェノムに触れても感染しないどころか殺すこともある。

 

 ヴェノムはどうやら生物の持つマナに引き寄せられて行動するようだ。

 

 具体的にはその生物が持つマナに感染して増えていく。

 

 マナは生物にとってのすべての核であり源。

 

 それを根本からつくりかえてしまうヴェノム。

 

 そしてそれを殺す僕。

 

 

 

 結局僕は誰かを守るのではなく殺すことの方が得意らしい…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ帰るか。」

 

 いつもの練習を終えて戻る支度をする。

 

 そういえばミシガンが言ってたな。

 

 封魔石とかいうヴェノムを寄せ付けない殺生石の代わりになるものが届くと。

 

 そうなると僕はいよいよもってミストからは要らない存在となる。

 

 辞めるつもりはないがそうなった場合僕はどうしたらミストに償いを続けられるのだろうか。

 

「平和になるのならそれでいいのかな…。」

 

 ミストには僕が傷付けてしまった大切な人達がいる。

 

 その人達が幸せならそれで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 何だ?

 

 森の奥から不思議なマナを感じる。

 

 普通の人と…ヴェノム!、それと何かがいる。

 

 戦ってるのか!?

 

 まさか村の人が!

 

 何でこんな村から遠くまで!?

 

 行かなければ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ!ハァ!」

 

 遅かった。

 

 辺りにはヴェノムとゾンビ化した誰かがいた。

 

 村の人じゃない。

 

 風貌からして他所の村人だろう。

 

 

 

「ごめんなさい。」

 

 後少し早くつければ助けられたのに。

 

 …まずは

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムと感染者を始末する。

 

 こうしてまた誰かを殺してしまう。 

 

「……」

 

 子供の頃自分がしたかったことを思い出す。

 

 世界中の人を守れる騎士。

 

 その夢がどれだけ困難なことか実感する。

 

 こんなに近くにいる人すら救えない。

 

 十分に手の届く距離にいた人ですら救えない。

 

 何故子供の頃は何でも出来ると思えてしまうんだろうなぁ。

 

 自分の夢もウインドラもミシガンも何もかもを強欲に手に入れられるわけないじゃないか。

 

 たかが人殺しの僕が…。

 

 

 

パァァッ

 

 

 

「!」

 

 そういえば先程感じた不思議なマナは?

 

 今倒したヴェノムのものじゃなかった。

 

 じゃあ一体…

 

 回りを見渡すと先程の人達の乗り物と思われる亀車があった。

 

「この中から?」

 

 新型のヴェノムでも現れたのかと思ったが亀車の中にあるということは違うようだ。

 

 もしや封魔石というものを運んでいたのでは?

 

 …それはなさそうだ。

 

 ヴェノムに襲われている時点で話に聞く代物じゃない。

 

「一体何が…」

 

 意を決して中を確認する。

 

 そこには一つの棺があった。

 

 その中から感じる。

 

「まさか生きた人を入れてるのか!」

 

 一体何故そんなことをするのか。

 

 いくら考えても分からないがもしかしたら誘拐か殺人が行われていようとしていたのではないか?

 

「とにかく先ずは中の確認だ。」

 

 棺の蓋を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中には

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とても美しい身分の高そうな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでいてまた心の奥深くで何かを感じさせるような

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな女の人が眠っていた。

 

 

 

 



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アローネ

 青年カオスは十年前の事件から村を一人守り続けていた。

 森でヴェノムを発見し撃退するがそこで謎のマナを放つ女性を見つける。


ミストの森

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おっと見惚れてる場合じゃない。

 

 ヴェノムを倒したとはいえ安全とはいえここに長居するのは得策じゃない。

 

「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」

 

「……スゥ」

 

 いくら揺さぶってみても起きる気配がない。

 

 気絶してるのか寝ているだけなのか判別がつかないが彼女に自分で移動してもらうことは期待できなさそうだ。

 

「旧ミストに運ぶか…。」

 

 棺の中で眠る女の人を背負い亀車を出る。

 

「……スゥ」

 

「……」

 

 こうして直接触れてみたら分かる。

 

 服の上からでも伝わってくる女の人特有の香りとむ……ではなく、

 

 先程感じた不思議なマナはこの女の人から感じる。

 

 何者なんだ。

 

 風貌からして普通の人じゃない。

 

 質のいいポンチョからしてどこかのお嬢様とかそういった類いの出生だろう。

 

 そんな人が何をしにこんな森奥に?

 

 ミシガンの話からして騎士団関係者なら分かる。

 

 近々ミストに騎士団が在住するからそういう理由でミストに向かっていたという可能性も。

 

 だが騎士団だったらもっと纏まって来るのではないのか。

 

 倒したヴェノムとゾンビからしても人数は精々6人程度。

 

 そんな少人数で行動するだろうか。

 

 昔、本の少しだけ知り合った騎士のクレベストンは一人でいたのでもしかしたら騎士団自体が小数で行動するのかもしれないと思ったが違うだろうな。

 

 第一ヴェノムに対抗できてない状況からしてその線はない。

 

 

 

「……」

 

 考えても分からない。

 

 見聞がミスト以外にないため自分の知識だけじゃ判断材料が少なすぎる。

 

 ただの物見遊山の可能性もあるがそれは彼女が起きてから聞くことにしよう。

 

 この不思議なマナも他の村や街では珍しくないのかもしれない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捨てられた村旧ミスト

 

 

 

 考え事をしているうちに村に付いたので一番綺麗に整ってる家のベッドに寝かせる。

 

「こういう時のためにこまめに掃除しておいてよかったな。」

 

 村には自分一人しかいないが長く住めるように十年前から各家々を大掃除してきた。

 

 流石に古くなりすぎて崩れた家もあるが幸い木材には困らない環境で拙いながらも雨風を凌げる程度の補強は出来ている。

 

 おかげで裁縫や建築技術には自信がある。

 

 仮にこの女の人が本当にお嬢様だった場合このようなところに連れてきてもよかったのか心配にはなる。

 

 起きた瞬間に汚い!とでも言われてしまうかもしれない。

 

 そうなったらどうすればいいだろうか。

 

 ……安全を考えて連れてきたはいいがこのあとこの人をどうするのかも考えないと。

 

 僕はこの村から動くわけにもいかない。

 

 なら必然的にミストの人を頼ることになるのだが。

 

「そのうちミシガンがまた様子を見に来るだろうからその時にあっちの村で預かってもらおう。」

 

 あちらの村ならそのうち騎士団が来る。

 

 そうなってから事情を話してこの人を家まで送ってもらえる筈だ。

 

 考えがまとまったら後は彼女が起きるのを待つだけだな。

 

 そのうち目を覚ますだろう。

 

 今のうちに食事と風呂を済ませないとな。

 

 今日も技の練習で疲れたから汗で服が…。

 

 

 

 …こんな汗かいた体で背負っちゃったけど大丈夫かな?

 

 もし僕の汗とか移ってたら…

 

 意識を取り戻したら素直に謝ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………さい」

 

 

 

 ……?

 

 

 

「……ください」

 

 

 

 ……何だ知らない声?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きてください!」

 

 

 

「!?」

 

 誰かの声で眠りから覚めた。

 

 こんな廃れた村に来るのはミシガンくらいしかいない。

 

 だが声からしてミシガンではない人物だ。

 

 誰だ!?

 

 驚いてベッドから跳ね起きる。

 

「目が覚めましたか?」

 

 そこにいたのは昨日森の中で亀車から運んできた女の人だった。

 

 そういえば別室で寝かせていたのを思い出す。

 

「あっ、とっ、気が付いたんですね!」

 

 驚きすぎて変な飛び起きかたをしてしまったが彼女は動じることなく、

 

「貴方は…どちら様でしょうか?」

 

 当然の質問をしてくる。

 

「僕はカオス=バルツィエ。一応猟師だとは思います。」

 

「りょうし?」

 

「そうですね。この近くに森があってそこでモンスターを倒して生計を立ててます。」

 

「モンスターを…?、盗賊の類いではないんですね。」

 

「盗賊では……ないと思います。」

 

 いきなり失礼な人だな。

 

「それで何故私はここに…?」

 

「昨日森の中で襲われているのを発見して連れてきました。他の人達はそのときに…」

 

「………」

 

「……?」

 

「………」

 

 何だろう。

 

 反応が薄いというか状況が分からないとかそんな感じに見える。

 

「他の人達とはどのような方々でしたか?」

 

 ようやく口を開いたと思ったらゾンビ化した昨日の人達のことを聞いてくる。

 

 ん?

 

「どのようなって…どこかの村の人だとは思いますけど…。」

 

 何故そんなことを聞いてくる?

 

 一緒にいたのはこの人の筈なのに。

 

 

 

 まさか…

 

「もしかして誘拐されている途中だったとかですか?」

 

 そう考えると昨日何故この人が棺に入っていたかも納得がいく。

 

 都会では誘拐だの身代金だのが頻繁にあると昔おじいちゃんが言っていた。

 

 この人も何かしら事件に巻き込まれて棺に隠されて連れ去られていたところだったのかもしれない。

 

「………」

 

 女の人は何やら考え込んでいる。

 

「……あのぅ。」

 

「……はい?」

 

「お名前お聞きしてもいいですか?」

 

「名前?」

 

 先程名前を訊かれたがあちらからはまだ名乗ってもらっていない。

 

「………」

 

 また沈黙。

 

 ここまで考え込むのが多いと記憶喪失なのではないかと疑う。

 

「……貴方は盗賊の方ではないようですね。ここには他のお仲間の方もいないようですし。」

 

 まだそこ疑ってたのか。

 

 誘拐されてたかもな訳だし仕方無いのか。

 

「私は………アローネと言います。」

 

「アローネさんですね。アローネさんはどちらにお住まいなんですか?」

 

「私は………王都です。」

 

 やはり都会、それも王都か。

 

 ミストでも見ない綺麗な服を着てるからあちらでのファッションというやつなのだろう。

 

「カオスさん?」

 

「あいえ何でもありません!」

 

 あまり女性をジロジロ見るものではないな。

 

 不審者と間違われてしまう。

 

「アローネさん、僕自身は仕事で王都まではお送りできないんですけど、代わりに僕の知り合いの村がこの近くにあってそこでなら安全に王都に帰れるかもしれませんよ?」

 

「知り合いの村ですか?」

 

「はい!そこの村に近々王都から騎士団が派遣されてくるらしいので少し時間はかかると思うんですけど騎士団が到着次第アローネさんの事情を話して送ってもらえると思います。」

 

 本当に出来るかは分からない。

 

 騎士については実際に見たことがあるのはおじいちゃんとクレベストンさんくらいしかいない。

 

 その二人の印象で騎士なら任せられるとは思うのだが。

 

「有り難うございます、カオスさん。」

 

「気にしないでください。人として当然のことですよ。では昼頃にでも行きますか?」

 

「はいお願いしますね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼になって僕はアローネさんとミストに向かうために森を歩いていた。

 

「……フゥ。」

 

「大丈夫ですか?村までもう少しありますし休憩にします?」

 

「……すみません。」

 

 アローネさんの調子が悪いためここらで休むことにする。

 

「カオスさん少しよろしいでしょうか?」

 

「何です?」

 

「今から向かう村はどのようなところなのですか?」

 

 そんなことを聞いてくるアローネさん。知らないところに連れてかれるんで緊張してるのだろうか。

 

「人口は100人前後の村でみんな農業で生活していますよ。」

 

「へぇ~農業…。」

 

「今日はそこの村の村長にアローネさんをお願いしようと思ってます。そこにはアローネさんと同じくらいの女の子もいるので安心かと。」

 

「……。」

 

「他にも村には何人か若い人達もいてみんな畑仕事したり服や農機具とか作ったりでチームワークの取れた仲の良い人達なんで心配しなくていいですよ。」

 

「……。」

 

「あとは村長の家の裏「カオスさん。」」

 

 

 

「カオスさんはさっきいた村でお一人で住んでるんですか?」

 

「!」

 

「今朝カオスさんを起こす前にあの村を少し見て回ったんです。あの村は本当は廃村なんじゃないですか?」

 

「……そうですね。」

 

 疑問に思うのも当然か。

 

「ですから最初カオスさんのことを廃村を根城にする盗賊だと思いました。」

 

 なるほど、やけに盗賊を推すなとは思ったがあの村に住むとそういう風に捉えられることもあるのか。

 

「今日話してみてそんなことはないとは思いました。カオスさんにも話せない事があるんですよね。」

 

「……」

 

「今は聞きませんが私がいる間にその辺りお話しできたらと思います。短い時間ですけどカオスさんは私にとって恩人ですから。」

 

 恩人か…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はそんな大層な人間じゃないのに。



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貴族の娘

 青年カオスは森で訓練中、不思議なマナを放つアローネを見つける。

 翌朝になって簡単な紹介を済ませた二人はアローネを元の住んでいた王都にかえすべく森を歩く。


秘境の村ミスト 入り口

 

 

 

「ここがミストです。」

 

「ここが…」

 

 あれからしばらく森を進みアローネさんを無事ミストまで案内出来た。

 

「この村の一番奥の家が村長の家でそこに向かってもらえますか?」

 

「…はい。カオスさんは?」

 

「僕は……この村へは入れないんです。」

 

「…。」

 

「昔いろいろありまして………すみません!」

 

 とりあえず村の入口の見張りに声をかける。

 

「……お前がこの村に何のようだ?」

 

「森でこの女の人がモンスターに襲われていたんですけど帰り方が分からないということなので騎士団の方に保護してもらいたくて。」

 

「騎士団はまだ当分来ないぞ。」

 

「分かってますよ。それまで村長のところにでもお世話になれないか話を通してもらえますか?」

 

「待て、森でモンスターと言ったな。ヴェノムはいなかったのか?」

 

「…ヴェノムは僕が倒したんで大丈夫です。」

 

「本当か?感染してる疑いのあるものを村に入れることは出来んぞ。」

 

「彼女は感染していません!昨日保護して連れてきたんでヴェノムだったら今頃スライム状になっている筈です!」

 

「信用できんな。お前のような化け物が連れてきたというなら尚更だ。」

 

「それは関係ないじゃないですか!」

 

「帰れ。いちいち我々の手を煩わすんじゃない。また村を滅ぼしたくないからな。」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみませんアローネさん……こんなとこまでついてきてもらったのにこんなことになって。結局無駄足を踏ませてしまいました。」

 

「お気になさらないでください。カオスさんは私のために手を尽くしてもらっている立場ですので文句なんてありませんよ。それに事情を知らないとはいえカオスさんには辛い想いをさせてしまったようで私の方こそ謝らないといけません。」

 

「僕は大丈夫ですよ。さっきのことは自分の身から出た錆ですから。」

 

「…すみません。」

 

「いいですって、けどどうしましょう…。こっちの村がダメとなると最悪あっちの村で騎士団が来るまで生活してもらうしかないんですけど…。」

 

「私はそれで構いませんよ?」

 

「いいんですか?」

 

「私を助けてくれたのはカオスさんですから、カオスさんとなら安心できます。」

 

「そう言っていただけると有り難いです。」

 

「それでは戻りましょうか。」

 

「えぇ。」

 

 僕達は来た森を引き返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストの森

 

 

 

「そういえば先程門番の方と話していたとき…」

 

「はい?」

 

「ヴェノム……と仰っていましたが、この森にも現れるのですか?」

 

 森の中を歩いてるとアローネさんがそんなことを訊いてきた。

 

「そうですね、ヴェノムが出現してもう十年くらいになります。それまではいなかったんですけど。」

 

「十年…。」

 

「どうかなさいましたか?」

 

「それにしてはこの森は穏やかですね。」

 

「といいますと?」

 

「ヴェノムは多くの生物に寄生し体を乗っ取り変化するものと聞いています。それが人、モンスター、植物でさえも…。」

 

「え?植物にも感染するんですか?」

 

「私がいたところではそうお伺いしておりました。」

 

「そうなんですか。けどずっとこの森を見てきたんですけどこの森ではそんなヴェノムは見ませんでしたよ?」

 

「それを不思議に思います。」

 

「多分優先順位みたいなものでもあるんでしょうね。ヴェノムにも。人やモンスターを狩り尽くしてから最後に植物にって。」

 

「……」

 

「しっかし、アローネさんもご存知と言うことはやはりヴェノムはいろんな場所に出現するんですね。十年前を思い出すと納得しますけど、あんな生物いたら世界があっという間にヴェノムで多い尽くされて滅びちゃうんじゃないかと心配になりますよ。」

 

「………その通りの筈なんです。」

 

「え?」

 

「王都は……一度ヴェノムの侵攻によって滅びかけたことがあります。王都だけじゃなくたくさんあった村や街、大勢の人々がヴェノムによって亡くなりました。」

 

「そんなことが……」

 

「えぇ、突如発生したヴェノムには王国はなすすべもなく蹂躙され生き残った人達もなんとか逃げ出そうとしましたがヴェノムはどこまでも追ってくる…。」

 

「……」

 

「だから世界がこうしてまだ人の世界を保ち続けていること、それが不思議でなりません。それまで存在した生態系を大きく塗り替えるモンスター…。物理的な力も魔術的な力も受け付けない無敵の悪魔。増えるだけ増えて飢餓によってしか死滅しないあの悪魔達が何を考えて動いているのか…。」

 

「……」

 

「……すみませんカオスさん。何だが愚痴みたいになりましたね。ヴェノムのことになるとついつい感情的になってしまって。」

 

「いえ、アローネさんにもいろいろ悲しいことがあったんだと思います。経緯はよく分かりませんがヴェノムに対して感じるものは同じだと思います。僕もそうですから。」

 

「カオスさん…。」

 

「…ちなみにアローネさんってどこか有名な豪商の娘さんとかだったりします?」

 

「何故それをお聞きに?」

 

「物腰というか雰囲気というかそういったものが他の人達と違うなぁと思いまして。昔あったことのある騎士の方のような礼儀ただしさを持ち合わせているそんな感じがします。」

 

「……」

 

「あ!?不味いことなら言わないで結構ですよ?誘拐されていたってことは多分そうなんでしょうけど、王都のことはそんなに訊いてもよく分からないので!」

 

「………カオスさんには話しておきましょう。これからお世話になるのですし。」

 

「え!?いいんですか?大丈夫ですよ?」

 

「私を助けてくれた恩人に隠し事はしたくありませんから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はアローネ=リム・クラウディア。王都で貴族クラウディア家の次女に生まれました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きっ、貴族様なんですか!?アローネさん!」

 

 想像以上に偉い人なのかもしれません。

 

「はい。黙っていて申し訳ありません。家柄か昔からよく誘拐等は日常茶飯事でして、始めカオスさんにお会いしたときも身分を明かせばそこから第二の被害にあうことを危ぶんでおりました。」

 

 確かにそんな人ならそういった危険性もあるのかもしれない。やはりよく分からないのだけど。

 

「でっ、ではアローネさん!いやアローネ様は一刻も早く王都にお返しした方がよいのでございますか!?」

 

「そう固くならないでください。私に対しては先程のように……いえ先程よりも近しいくらいでいいですよ?」

 

「そんな訳には…!」

 

「カオスさん………カオスさんは私の恩人なんですよ?カオスさんがいなかったらどうなっていたか検討もつきません。」

 

「そんな大したことしてませんよ!」

 

「それでもです。私は善くしてくれた方に上下関係を作りたくないです。」

 

「……ではアローネ…さんで。」

 

「アローネと呼び捨てにしてもらってもいいですよ?」

 

「それはハードルが高いと思います。」

 

「アローネ。」

 

「うっ…。」

 

「アローネ。」

 

「あっ…。」

 

「あ?」

 

「アローネ…。」

 

「パチパチ」

 

「(///)」

 

「よく言えましたね。誉めてあげます。」

 

「は、はぁ……ではこちらもカオスでいいですよ… 。」

 

「そうさせていただきますね。ではカオス。」

 

「どうしましたアローネ。」

 

「フフッ。」

 

 名前を呼びあうだけなのにアローネさん……アローネは笑っている。

 

 

 

 なんだろう、この感じは…。

 

 この心の暖かくなるような感覚は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうか…、久しく忘れていた。

 

 昔この暖かさを感じたことがある。

 

 昔ウインドラと始めて友達になったとき感じたぬくもりだ。

 

 魔力欠損症で障りものを扱うような目で見られて孤独を感じていたとき、ウインドラが手を差し伸べてくれた。

 

 そのときもこんな暖かさを感じていた。

 

 魔術不安定な僕でも優しくしてくれた。

 

 何も出来ない僕を友達といってくれた。

 

 彼がいたから僕は僕を支えてこれたんだ。

 

 彼がいなかったら僕はなにも出来ずに凍んでいただろう。

 

 

 いつかウインドラはミストに戻ってくるかもしれない。

 

 そのときまで僕は彼の戻れる家を守らないといけない。

 

 ラコースさんもおじいちゃんももういないけどウインドラだけは絶対に守りたいから。

 

 今度こそ失っちゃいけないから。

 

 ウインドラは僕の恩人だから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス?」

 

「!」

 

 呼び掛けられて気がつく。

 

 どうやら昔を思い出してぼーっとしていたようだ。

 

「カオス?涙が…。」

 

「…!何でもないですよ!ちょっと昔のことを思い出してただけで!」

 

「……何か悲しいことでも思い出させてしまいましたか?」

 

「いえその逆です。こうして友達みたいな感じで名前を呼び会うことが本当に久々で…、って言っても昔もそんなに多くはないんですけどね。」

 

「そうなのですか?」

 

「はい!アローネで三人目です!」

 

「三人目…ですか。」

 

「すみません!自虐的に聞こえるかもなんですがボクにとっては記録をできて嬉しいんです!」

 

「そうなんですね、お役に立てて何よりです。」

 

 朗らかに微笑むアローネ。

 

 ミシガンとは違ったタイプの女性だ。

 

「実はですね。私にとっては初めてなんですよ。」

 

「そうなんですか?アローネ程の人なら人気ものになれると思うんですけど…。」

 

「貴族というものは何よりも家柄と階級を気にしますからね。私の家は王家に最も近しい家で、クラウディアの周りにはそれにあやかろうとすり寄ってくる家の人達ばかりでした。」

 

「……。」

 

「そんな人達しかいない世界にいたので友達という関係は私にとって私を利用しようとする人達の常套句のようなものだと思っていました。」

 

「アローネも随分と独りの時代を生きて来たんですね。」

 

「そうかもしれませんね。けど全然寂しくはなかったんですよ?私には兄と姉がいましたから。寂しいときには二人に構ってもらっていたんで。」

 

「お兄さんとお姉さんがいらっしゃるんですね。そういえばさっきクラウディア家の次女と言ってたし、三人兄弟なんですか?」

 

「いえ、姉が一人で兄は姉の夫でしたから義理の兄になりますね。大変仲も良かったので娘もいたんですよ?」

 

「アローネはその義兄さんとお姉さんと娘さんが大好きなんですね。」

 

「はい。三人とも大好きでした!」

 

 …でした?

 

「そのお義兄さんも貴族の方なんですか?」

 

「義兄は……臣民の出身です。」

 

「臣民?普通の平民と言うことですか?」

 

「大まかに言えばそうなるんですけど、義兄の場合は最も低い地位になります。

 

 

 

 義兄はハーフエルフでしたから。」



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ヴェノム殺し

 青年カオスは森で見つけた娘アローネをミストの村に案内するも門番に断られてしまう。

 その後森を引き返しているうちにアローネが貴族の生まれと知るがアローネからは現状維持を求められカオスは旧ミストへと案内を続ける。


 

 

 

「ハーフ……エルフ?」

 

「そうです。」

 

 ………?

 

「あのアローネ。」

 

「はい。」

 

「ハーフエルフって…………何?」

 

 僕は初めて聞くその言葉に疑問を無視できなかった。

 

 ハーフ?

 

 人=エルフだからそれは分かる。

 

 ハーフってなんだろう?

 

「?カオスはハーフエルフをご存知ないのですか?」

 

「……すみません、田舎者でして街や王都の知識とかはほとんどないんです。なんせ王都からは最も遠い村ですからね。この周辺。戦争自体が本当に続いているのかも分からないんですよ。」

 

「そうなんですか。……ハーフエルフというのは敵国の人種ヒューマとの間に生まれた子供達のことを言います。」

 

「ヒューマ、敵国……ですか?」

 

「王都と言っても臣民達には綺麗なところを見せて見えない裏側で奴隷として敵国の民を拉致しては働かせたり慰みものにしたりしてます。」

 

「そんなことが…。」

 

 騎士を目指していたものとしてはあまり聞きたくない話だったかもしれない。

 

 もうどうでもいい夢だが。

 

「実際にあることなんです。」

 

「そのヒューマというのも初めて聞きました。どういった特徴の人達なんですか?」

 

 このデリス=カーラーンにエルフ以外の人種がいたことに驚きを隠せない。

 

 おじいちゃんからもそんなこと聞いたことはない。

 

「ヒューマはマナをほんの少ししか持ち合わせていない種族です。寿命は五十から長くても百年程で魔術も使えなません。」

 

 ………それって、

 

「そのかわり彼らには豊富な知識とドワーフを越える機械と呼ばれる鉄を扱う技術があります。」

 

「機械?」

 

「私も戦場に出たことがないので知りませんが私達エルフの魔術に匹敵…もしくはそれを凌駕する程の力があるらしいです。」

 

 魔術を凌駕?

 

 そんなことが可能なのか?

 

 どういった世界の情勢かは曖昧にしか伝わらない。

 

 話を聞くにこの国マテオと相手国ダレイオスは単純な領土争いをしてるのではなく障害者差別の争いをしてるのではないか?

 

 魔術を使えない人種ヒューマ。

 

 恐らく先天性魔力欠損症の人達をそう読んでいるのだろう。

 

 遺伝によって起こることもあると医学書に書いてあったしダレイオスはそういった人達の国なんだな。

 

 

 

 そんな人達と戦うマテオ。

 

「なんだかこの国に住んでるのが嫌になってきますね。」

 

「カオス?」

 

「実は……僕もそのヒューマというのに掛かってた時期があるんです。」

 

「ヒューマに……掛かってた?それはどういうことですか?」

 

「はい、昔ある事件を切っ掛けに体内のマナが著しく低下して魔術が支えない常態になりまして。医学書でもそういった人の寿命もそれくらいになると書いてありました。」

 

 当時は本当に死のうかと思うくらいに絶望した。

 

 周りよりも先に死ぬ自分。

 

 人より何もできなくてすぐに死んでしまう自分に一体何の価値があるのだろうかと。

 

 

 

 ダレイオスの人達は凄いなぁ。

 

 自分達に能力がないことを認めて他に何が出来るかを探しだしたのだろう。

 

 そうして魔術に対抗する手段を得た。

 

 前の僕は自分の体を鍛えるしか考えられなかったのに。

 

 

 

 

 

 

「すみませんカオス。勘違いしているようなので説明を捕捉させていただきますね?」

 

「え?」

 

「ヒューマは歴とした人種そのものであって、先天性魔力欠損症とは違いますよ?」

 

「違うんですか?どう聞いても魔力欠損症だと思ったんですけど…。」

 

「人は生きているうちに種族が変わることなんてありませんよ。ヴェノムはともかくとして。」

 

 …それもそうだな。症状と特徴が同じだったんでヒューマをただのスラング用語だと思ってしまった。

 

「カオスはエルフです!貴方からは普通の人と違った魔力を感じますがそこは一緒の筈ですよ?」

 

「まぁ、両親はエルフでしたからね。」

 

「こうして魔力欠損症も直っているってことはアイオニトスを使われたんですよね?」

 

「アイオニトス?」

 

 初めて聞く名前だ。

 

 薬か何かなのだろう。

 

「アイオニトスをご存知ないんですか?魔力欠損症の治療には欠かせない鉱石ですよ?」

 

「………魔力欠損症って治療方法見付かったんですか!?」

 

「?魔力欠損症は昔からアイオニトスと決まってる筈ですが。」

 

 そんなものがあったのか。

 

 とすると昔読んだ医学書は相当古いものだったんだな。

 

 不治の病だと思っていたがこんなあっさり言うくらいだからもう出来てから長いのだろう。

 

 何故おじいちゃんは治療方法があることを教えてくれなかったんだろう。

 

 王都にいたというなら魔力欠損症の治し方も知っていそうなものだが…。

 

 そこまで医学に詳しくなかったのかそれかおじいちゃんがいなくなってから治療方法が出来たのか。

 

「アイオニトス自体は希少鉱石なのでそこまで市場には流通していないとは思いますが結構有名な話だと思いますよ?」

 

 そうなるとおじいちゃんがいなくなってから治療方が見つかったという線で正解のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何の話しをしていましたっけ?」

 

「なんだったっけなぁ…。確かヒューマとか機械とかは聞いたんですけど。」

 

「!思い出しました!ハーフエルフです!」

 

「!そう!ハーフエルフ!」

 

 つい僕に関係ありそうな魔力欠損症の話で脱線してしまった。

 

「義兄がハーフエルフなのですが…。」

 

 

 

ガサッ!!

 

 

 

 「「!!」」

 

 このマナの不安定な感じはまさか、

 

 

 

「シュウウウゥ」

 

 

 

「「ヴェノム!!」」

 

 こんなときに出てきたか。でも…、

 

「アローネ!貴女は「逃げてください!!」」

 

「カオスは逃げてください!ヴェノムは私が引き付けます!恩人をヴェノムに殺らせるわけにはいきません!」

 

「アローネ!大丈夫だよ!ここは僕が!」

 

「何を言ってるんですか!?ヴェノムには何も効きませんよ!?貴方だけでも遠くの方へ!」

 

 興奮して話が通じないなぁ。

 

 まぁ、いいか見せてあげれば。

 

「……!」

 

タッ!!

 

「カオス!?ヴェノムに触ってはいけま…!」

 

「魔神剣!!」

 

ザシュゥゥゥッ!!

 

 至近距離で放つ魔神剣がヴェノムを浄化する。

 

「!?その技は!?」

 

「こんなものですよ。ヴェノムは」

 

「……!?ヴェノムが再生しないで溶けていく!」

 

「なんとかなりましたね。」

 

「カオス…貴方は一体……。」

 

 ヴェノムを倒して一安心かと思いきや、

 

 

ガサッ

 

ザッザッ

 

ガササッ

 

サササッ

 

 

 

「「!」」

 

 今度はヴェノムとゾンビに囲まれる。

 

 これではアローネを!

 

「アローネ!僕の後ろに付いてきてください!囲まれてちゃ守り辛い。前方の動きの遅いゾンビを斬り伏せて一気に駆け抜けましょう!」

 

「!え、えぇ!分かりました!」

 

タタタッ

 

ズパンッ!!

 

 僕は木刀でゾンビを斬りつける。

 

「アアアッ………。」

 

 斬られたゾンビはそのまま溶けいく。

 

 よし、作戦通りに抜けれた。

 

 後は、

 

「アローネ!そこに隠れていてください!コイツらはここで倒します!」

 

「!カオス!?ヴェノムを相手にするなんて無茶です!逃げないんですか!?」

 

「心配は要りませんよ、ずっとやって来たことですから!」

 

 そのまま残りのヴェノムを倒す。

 

ザシュッ!

 

ザクッ!!

 

スパンッ!!

 

ジュゥゥゥゥ…

 

 

 

「………。」

 

「片付け終わりましたね。ここも危ない村の方へ急ぎましょう。」

 

「カオスは……カオスは何者なんですか?」

 

「……」

 

「ヴェノムは……あの怪物はいくら攻撃しても死なない不死の悪魔です。次から次へと現れて人々を殺していく悪魔…。」

 

「そうですね…十年前からそういう奴等でした。」

 

「それをこんなあっさりと倒せる訳が……。」

 

 

 

「アアアッ!!」

 

ガシッ

 

「…!?」

 

 しまった!

 

 油断して捕まった!

 

「ウカカカカッ!!」

 

「ぐぅぅ!!」

 

 なんとか噛みつかれないように顎を抑えるがこの態勢ではこのゾンビの方が有利だ!

 

「……チィッ!」

 

 一端噛まれてから顎を外すか。

 

 そう思ったとき…。

 

 

 

「ウインドカッター!!」

 

 僕を掴んでいたゾンビが切り裂かれる。

 

 力の緩んだゾンビを押し飛ばす。

 

「アローネ!戦えるんですか!?」

 

 そうか魔術で援護してくれたのか。

 

 基本的に戦うのが一人だったからアローネがいるのを忘れていた。

 

「はい!出来るのは時間稼ぎまで……ですけど……。」

 

 援護しようと構えていたアローネが攻撃したゾンビを見て言葉を途切れさせる。

 

 アローネに切り裂かれたゾンビはそのまま

 

 溶けて消えていった。

 

「この力は!?アローネも持っているんですか!僕と同じ力を!」

 

「……」

 

「アローネ?」

 

「とうして…?」

 

 アローネの様子がおかしい。

 

 倒したゾンビの姿を眺めている。

 

 まるでこんなふうになるとは思っていなかった。

 

 そんな顔をしている。

 

「……考えるのは後で。今はここから離れて先を急ぎましょう。」

 

「……」

 

 僕はアローネの手を引いて森を歩く。

 

 本当にどうしたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捨てられた村旧ミスト

 

 

 

「カオス。」

 

 あれから森を歩いて村へと戻ってきた僕達。

 

 村に付いてから家に入ろうとしたときにそれまでずっと黙っていたアローネに呼び止められる。

 

「どうしました?」

 

「先程のヴェノムは………何故倒せたのですか?」

 

「……」

 

「ヴェノムは不死身でどんな生物も対抗できない。だから騎士団も国も滅ぶ手前まで追い詰められたのに…。それを一人で四匹も…。」

 

「……僕も始めからこの力があった訳じゃないですよ。ある時偶然手に入れたんです。」

 

「偶然手に?」

 

「僕が魔力欠損症になってたとさっき言ってたと思うんですけどそれには原因があるんです。」

 

「原因ですか?」

 

「はい、あっちの村には殺生石と呼ばれるモンスターを寄せ付けない大きな岩があるんですよ。……あったんですよ。」

 

「殺生石?随分と物騒なお名前ですね?」

 

「それには訳があるんですよ。この殺生石は触れたものを即死させる力がありました。触れたもののマナが一瞬で吸いとられてしまうんです。」

 

「マナを吸いとる…。」

 

「僕や村人は最初マナを吹き飛ばすと思っていたんですがこの力を手に入れて分かるんです。殺生石はマナを吹き飛ばしているんじゃなくて吸収していたんだと。」

 

 この力に目覚めてからは人よりもマナについて深く感じることができるようになった。

 

 モンスターや人のマナの色、使える魔術。

 

「その力があるということは…」

 

「僕は唯一殺生石を触れて生き残った例外です。触れた直後はしばらく魔術を使えませんでしたけど。」

 

「ですから魔力欠損症について色々と言っておいででしたんですね。」

 

「後天的なものは滅多にないと聞きますから自分でも自分の症状を調べ回りました。アイオニトスというのは初耳でした。」

 

 そんな便利なもの早く知っておけば小さいときは悩まずに済んだかもしれない。

 

 原因は違ったが。

 

「殺生石に触れたと同時に僕の中には殺生石の中にあった何かが流れ込んだ。それがずっと眠り続けて僕の本来あったマナを吸い続けていたんです。」

 

「……」

 

「僕の中にはヴェノムすら殺せるもっと恐ろしい怪物の力が流れています。あるときこの力に目覚めてからはこの特殊なマナを自在に操れるようになりました。木刀に込めるだけで本来の切れ味以上の威力を発揮出来ます。」

 

「ヴェノムを倒したのはその力なんですね。」

 

「その通りです。けどこの力はもともとあの村の物ですからこの力はあの村を守るために使っています。………本当はこの力を殺生石に返すのが一番いいんですけど、どうしても返し方が分からずそのままに。」

 

 返せる方法があるというなら返したい。

 

 この力がなかったせいで村は壊滅しかけた。

 

 村を守る外壁を盗ったのは僕だ。

 

 だったら僕が外壁になるしかない。

 

「……その力が…」

 

「え?」

 

「その力が王都にもあったなら……」

 

「アローネ…」

 

「すみませんカオス。それが貴方とあの村の方へ確執だったのですね。余計なことを聞いてしまいました。」

 

「いいんですよ。僕も自分の罪はちゃんと受け止めて進ん出ますから。」

 

「お強いんですねカオス。」

 

「そんなんじゃないですよ…人として当然の意識です。」

 

「その意識を持てる人はそう多くはないと思いますよ。誰しも自分の悪いところからは目を背けたいものですから。」

 

 

 

「……今日はもう疲れましたのでそろそろ寝ますね。アローネは昨日の部屋を使ってもらえますか?僕はこの一階の部屋で十分なんで」

 

 そう言って話を終えようとする。

 

「カオス。」

 

「…?」

 

「お休みなさい。」

 

「……………………………………お休みなさい。」

 

 挨拶を返すとアローネは部屋の階段を上がっていく。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば誰もいないからお休みなんて言うのは久しぶりだな。

 

 ミストに住んでた時はおじいちゃんがいたから寝るときに言っていた……ような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃん…。



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夢の声

 青年カオスは森でアローネという女性を見つけ保護する。

 彼女は王都出身らしく一人じゃどうしようもないカオスはミストに送り届けようとするが断られてしまう。


捨てられた村旧ミスト

 

 

 

『また…ヴェノムが暴れだしたようじゃな。』

 

 

 

 ………?

 

 

 

『また…ワシが屠らねばならぬのか。』

 

 

 

 ………この声は。

 

 

 

 またこの声だ。

 

 

 

 あの時も聞いた誰かの声。

 

 

 

 誰なんだ。

 

 

 

 あの時もこの言葉を言っていた。

 

 

 

 ヴェノムを………屠らねば。

 

 

 

 何を言ってるんだ。

 

 

 

 ヴェノムを屠る?

 

 

 

 そんなの僕にしか出来ないのに。

 

 

 

『………シ……ル………』

 

 

 

 !

 

 

 

 今何か言っていた。

 

 

 

 今まで聞いたことなかったセリフとは違う何かを。

 

 

 

 何だ

 

 

 

 何を伝えたいんだ?

 

 

 

『…………………』

 

 

 

 もっと、もっと何か言ってくれ

 

 

 

 君は一体誰なんだ。

 

 

 

 君は一体何を僕に伝えたいんだ。

 

 

 

 僕は………どうすればいいんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……………ハァ、ハァ、ハァ、ハァ!」

 

「どうしたの?魘されてたよ?」

 

「ハァハァ………何か夢を見ていたみたい。」

 

「夢?」

 

「何の夢か思い出せないけど何か大切なことを忘れているような……そんな夢だった。」

 

「そう、だからそんなに涙が出てるの?」

 

「涙?」

 

 顔を触ると水滴が手につく。

 

 寝ながら涙を流していたようだ。

 

「悪い夢でも見てたの?」

 

「いや、そうじゃない、そうじゃないけど………分からない。」

 

「ふ~ん?悪い夢じゃないけどそこは分からないのね?」

 

「あぁ」

 

「じゃあ、いい夢だったのかな?」

 

「………」

 

「まぁ、何でもいいや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おはよう、カオス。」

 

 

 

「おはよう、ミシガン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝起きるとミシガンが来ていた。

 

「昨日警備隊の人が来てカオスが来たからって追い払っておきました!って言ってきたのその場でその人ぶっ飛ばしたわ!」

 

 どうやら昨日の件でミシガンが様子を見に来てくれたらしい。

 

「あんまり責めないであげてよ。当番の人も安全のためにやったことだよ。」

 

「それでも普段カオスのおかげで助かってる村だよ?とんだ恩知らずだわ。」

 

 ミシガンどうしてこんなに暴力で解決するような娘になっちゃったんだろう。

 

 環境が悪いのかな。

 

 僕のせいか。

 

 ゴメンね。

 

「それで昨日はなんでわざわざ村まで来たの?」

 

「そこは警備隊の人言ってなかったの?」

 

「カオス追い払ったって言ったから聞けなかったんだよ!」

 

 それは君がぶっ飛ばしたからだろう…。

 

「そっか、じゃあ会ってほしい人がいるんだ。」

 

「会ってほしい人?」

 

「そう、ミシガンには是非ね。」

 

 もともとミシガンの家で面倒見てもらおうと思ってたし丁度良いだろう。

 

「今二階にいるんだけど…」

 

トントントンッ

 

 噂をすればだ。

 

 僕達の話し声で起きたのだろう。

 

 二階から降りてくる足音が聞こえてくる。

 

「……誰かいるの?」

 

「その会ってほしい人だよ。」

 

 

 

「お早う御座います、カオス。」

 

「お早う御座います、アローネよく眠れました?」

 

「お陰様で、それでカオス、そちらの方は?」

 

「あぁ、昨日言ってた…「ガシッ」」

 

 紹介しようとしたらミシガンが僕の顔を掴んで引き寄せる。

 

 あの、近いし痛いです。

 

「ミシガン?どうしたの痛いんだけど、痛たたたたっ!!」

 

「カオス!?」

 

 アローネが僕たちを見て悲痛に叫ぶ。

 

「貴女はどなたですか!?カオスに何を!?まさか盗賊!?」

 

 アローネさん本当に盗賊好きですね。

 

 こんな女の子に捕まったことあるんですか。

 

「………カオス、この人をつかまえていきなり盗賊呼ばわりしてくる女の人はアンタの何!?」

 

「さっき言ったじゃないか!この人がぁぁぁぁぁ!」

 

 言おうとしてるのにどうして力入れるの!?

 

「カオスを離してください!カオスを…「ガシッ」?」

 

「カオス?」

 

「だからカオスをぁぁぁ!!」

 

「ちょっ!?ミシガン僕はいいけどこの人はぁぁぁ!!」

 

「うるさぁい!黙れ!」

 

 ミシガンさんどうしてそんなに理不尽なの!

 

 話くらい聞いてくれてもいいじゃないですか!

 

「あ、頭がぁぁぁ!!」

 

「ミシガン止めてえぇぇぇぇ!!」

 

「「うあぁぁぁぁ!!!」」

 

 ミシガンその細腕のどこにそんな力がぁぁぁ…

 

 僕は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?」

 

 あれからミシガンによって気絶させられた僕達は今ミシガンの尋問を受けている。

 

 ミシガンこんなに怖い子だったんだね。

 

 床が冷たいです。

 

「何?」

 

「何って?」

 

「どうしてこんなところに女の人がいるの?」

 

「どうしてって言われても…。」

 

 何故僕はこんなにきつく問い詰められてるんだろう。

 

 何も悪いことはしてないと思うんだけど。

 

「あのカオスだけは助けてもらえませんか?人質なら私だけで「私は盗賊でも山賊でも海賊でもないぃ!!」ヒッ!」

 

 ここまで怒ったミシガンは初めてだ。

 

 一体何にここまで感情を剥き出しにしているんだ。

 

「私はミシガン!ミシガン=リコット!普通の農家よ!」

 

 普通の農家にしてはさっきのアイアンクローとこのプレッシャーは異様だ。

 

 アローネも顔には出してないが足が震えている。

 

「農家?」

 

「そうよ!そこにいるカオスは私の家族!弟よ!」

 

「弟ってミシガン僕の方が年「アンタは黙ってなさい!」はい。」

 

 ずっと妹のような可愛い子だと思ってたらいつの間にか弟にされていた。

 

「あのお姉さん、カオスは私を助けてくれたんです!」

 

「助けた?」

 

「はい!私もよく分からないのですが眠っている間に誘拐されていたみたいで…。」

 

「誘拐?眠っている間にって貴女よく起きなかったわね。」

 

「……面目もございません。」

 

「そこはどうでもいいわ。それで何処から来たの?」

 

「王都です。」

 

「王都!?遠いわね!?」

 

「……はぁ。」

 

「でどうやって帰るの?」

 

「……」

 

 アローネが段々泣きそうになってくる。

 

 ここらで助け船くらいは許してくれるよね?

 

「その事なんだけど昨日村に行ったのはミシガンにアローネの……アローネさんの保護をしてもらいたくて行ったんだよ。」

 

「うちに?」

 

「そう、そのうち騎士団の使節が来るんだろ?こっちじゃ風邪引かせちゃうかもしれないし。だからそれまで村長の家で預かってもらいたくて話に行ったんだよ。門前払いだったけど。」

 

「それは………悪いことしたわね。」

 

「気にしないでいつものことだから。」

 

「……。」

 

 急にいつものミシガンに戻る。

 

 ふぅ、危機は去ったようだな。

 

「つまりこのアローネさんをうちで預かって騎士団の使節の人が来たらそのまま連れて帰ってもらえばいいのね?」

 

「そう!それが言いたかったんだよ!」

 

 やっと伝わって嬉しくなる。

 

 どうして無駄にアイアンクローを食らわなきゃならなかったんだ。

 

 アローネも被害を受けたみたいだし。

 

「……」

 

 ?

 

 アローネが何だか考え込んでる。

 

「そう言うことなら早く言ってよ!女の人連れ込んでるからもしかしてこういう目的でここに住んでるのかと思っちゃったじゃない!」

 

「そんなわけないだろう。ここへは十年前から住んでるんだから。」

 

「それもそうよね。」

 

「僕はここから村を守ると決めてるんだ。女の人目的じゃないよ。」

 

 そこをミシガンに誤解されると何だか悲しいな。

 

「………分かってるよカオスがそういう人だってこと。」

 

「…うん。」

 

 

 

「あのぅ。」

 

「?どうしたんですかアローネさん。」

 

「私、やっぱりカオスとここにいようと思います。」

 

 不意にアローネがそんなことを言ってくる。

 

「え?どうしたんですか!?アローネ……さん。」

 

「そうです!何言ってるんですか!?」

 

「……私も王都には帰りたいとは思うんですけどここにカオスを…恩人を一人で残して行くのは何だか申し訳なくて。」

 

「僕のことなら気にしないでいいですよ!馴れてますし!」

 

「そうですよ!こんな誰もいないところに男女で一緒に住むなんて認められません!ましてやカオスと!」

 

 ミシガンさっきから僕のこと変な風に疑ってない?

 

「私がそうしたいんです。カオスは一人でいるといけない気がして…。」

 

「アローネ…さん。」

 

「ダメったらダメ!何かあってからじゃあダメなんだから!」

 

「でも…。」

 

「ほら行きますよ!アローネさん!」

 

 そう言ってアローネの手を引っ張っていこうとするミシガン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってミシガン。」

 

 部屋から出ていこうとするタイミングでミシガンを呼び止める。

 

「僕は構わないよ残ってもらっても。」

 

「はぁ!?何言い出すのカオス!」

 

「門番の人が言ってたんだ。ヴェノムに感染してないか怪しいって。そんな疑い持たれたままで村で過ごすのは気が休まらないと思うんだ。だから騎士団が来るまではここにいても大丈夫だよ。」

 

「あの人そんなこと言ってたの!?後でもう一発…!」

 

「それに今更だけど村の人を頼るのも悪い気がしてきた。僕なんかの頼みを本当は聞いてもらうのも烏滸がましいし。」

 

「そんなの一々気にしなくても!」

 

「ミシガン、アローネは僕が責任持って送り届けるからミシガンは騎士団が来たら知らせてほしい。そしたら村の入り口までまた行くから。」

 

「カオス…。」

 

「僕を……僕を信じてほしいんだミシガンだけには。」

 

「………分かったわよ、そこまで言われちゃ引き下がるしかないじゃない。」

 

「有り難う。」

 

「…どういたしまして。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秘境の村ミスト 入り口

 

 

 

「ここまでで良いわ。本当によかったの?私に任せればこの村にも入れると思うんだけど。」

 

「いいんだよ。騎士団の人に伝えてもらえるだけで有り難いよ。」

 

「そこは別に構わないんだけど…二人きりだからって変なことしないようにね!」

 

「変なことって何だよ…。信用ないなぁ。」

 

「信用はこれでもしてるつもりだよ?」

 

「それっぽっちしかないんですねミシガンさん。」

 

「それっぽっちでもあるだけましでしょカオス君。」

 

 

 

 ……。

 

 

 

「「フフフフッ!」」

 

「それじゃああっちの村でアローネ待たせてるし行くね。今日は楽しかったよ有り難う。」

 

「まったくぅ、知り合って間もないってのに呼び捨てで呼びあってるみたいだし心配になるんだから。」

 

「それを言ったらミシガンとも呼び捨てで呼びあってるじゃないか?」

 

「私はいいの!家族で弟なんだから!」

 

「さっきも思ったけどなんで弟なの?ミシガンより三つ上の二十歳なんだけど。」

 

「カオスはアルバおじさんがいなくなってからはリコット家の養子扱いなの!後から入ってきたんだから私の方が上なの!年上だけど弟なの!」

 

「横暴だな。」

 

「何?文句ある?」

 

「いやないよそれじゃあ。」

 

 

 

「カオス!」

 

 帰ろうとしたらミシガンに呼び止められる。

 

「どうかした?」

 

「この間のことなんだけど………殴ってゴメンね!」

 

「そのことか。気にしてないからいいよ。」

 

「それでもだよ!カオスは真面目に自分と向き合ってただけなのに。」

 

「ミシガンが僕のことを想って言ってくれてたのは伝わってたからむしろ嬉しかったよ。」

 

「え!?殴られて嬉しかった!?」

 

「そこを拾うなよ…。」

 

 この子は本当に教師として大丈夫なのだろうか。

 

「それじゃあ騎士団が来たら真っ先に知らせに行くから!」

 

 

タッタッタッ…

 

エッミシガンサンッ、ナッナニヲ!?

 

ドゴオッ!!

 

アアッー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 



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義理の兄

 青年カオスはミストの村にアローネを連れていくが断られる。

 翌日村に帰りミシガンとアローネの紹介を終え、ミシガンをミストの村に送り届ける。


捨てられた村旧ミスト

 

 

 

「お帰りなさい。」

 

 村に帰ると家でアローネが出迎えてくれた。

 

「……」

 

「カオス?」

 

「あ、う、うんただいまアローネ。」

 

「どうなさったんですか?」

 

「えぇっとぉ、ここ十年で誰かが僕の帰りを待ってたことなんてなかったからなんかお帰りって言われると変な感じで…。」

 

 一人言を呟くことはあっても誰かと連日して話をすることなどなかった。

 

 こうして十年ぶりに誰かと過ごすのは嬉しいようなくすぐったいような気分になる。

 

「そうなんですね。ではどのくらい入られるかは分かりませんがそれまでは私がカオスのことを待ってますね。」

 

「……えと」

 

「ご迷惑でしたか?」

 

「………」

 

「カオス?」

 

「………」

 

「………」

 

「………!」

 

「カッ、カオス!?」

 

 何でだろう。

 

 涙は子供のときもそんなに出なかった筈なのに。

 

 辛いこと悲しいことはあっても泣かないように堪えきれてたのに。

 

 自然と大人になったらなくなるものだと思ってたのに。

 

 どうして今こんなに溢れてくるんだろう。

 

「……くぅ……ズッ!!」

 

「何かあったのですか!?お気に障ることでもしましたか!?」

 

 目の前でアローネがあたふたしている。

 

 申し訳ない。

 

 そういうことじゃないんだ。

 

 そういうことじゃあ。

 

「………ズズッ!!すみませんアローネ。」

 

「はい!?私は何も悪いこととは感じてませんが!?」

 

「………フゥ、フッフフフ!何だか初めて涙を流したような……ズズッ!気がします。」

 

「初めて?」

 

「こんな気持ちでも……涙が流れることがあるんですね。勉強になります。」

 

「?」

 

「涙って子供だけの特権だと思ってたんです。子供なら何時でも泣けるから。でも今こんな大人になっても出るもんだとは思いませんでした。」

 

「それは……大人でも辛いことがあれば涙は流れますよ。」

 

「違うんです。今は悲しくて泣いてるんじゃなくて幸せで涙が溢れてきちゃって!」

 

「幸せ?」

 

「はい。今僕は幸せなんです。」

 

 ずっと昔にはあった幸せ。

 

 あの時は幸せだなんて感じなかった。

 

 当たり前に持っていたから。

 

 その幸せから離れて長い間感じることがなかったから分かる。

 

 この幸せが自分の心を暖めてくれたことを。

 

 ずっと寒かったのかもな。

 

 僕は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみませんアローネ。帰ってきてすぐおかしなことになってしまって。もう落ち着きました。」

 

「いいえ、何事もなくてよかったです。」

 

 アローネはまだ心配そうにしている。

 

 僕がこんなんじゃぁダメだな。

 

「今日は村の掃除でもしようかな。」

 

「村の掃除ですか?」

 

「はい、村といっても結構広いんで定期的に掃除をしてるんですよ。一日一軒ですけど。」

 

「そうなんですね。それでは私もお手伝いしますよ?」

 

「大丈夫ですよ。一人でも十分時間ありますしアローネはゆっくり休んでもらってても…。」

 

「そう言われましても一人では特に何もすることがないのでカオスのお役にたてればと。」

 

「アローネはお客様ですし貴族のお嬢様にそんなことさせられませんよ。」

 

「むっ!もしかして私のことを清掃もできない子だと思ってます?」

 

「そういう風には…」

 

 割りと全力で思ってる。

 

「分かりました!では私の力をお見せします!カオス案内してください!」

 

「……えー。」

 

「行きますよ!」

 

 どうしたものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

「村の集会所だった場所ですね。この間はここを掃除しようと思ってたんですけど置いてある本を興味本意で読んでいるうちにやり忘れてて…。」

 

「カオスも人のこと言えないんじゃないですか?」

 

「……はい、ごもっともです。」

 

 ミシガンは仕方ないけどアローネも少しずつ逆らえなくなってる。

 

 会って間もないのに女性は強いなぁ。

 

「それでは手分けして行いましょう!」

 

「は、はい!」

 

 もうこの時点でアローネがこの空間を支配してしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、こんなものかな。」

 

 おおよその埃をはたき出し一ヶ所に纏める。

 

 半日かけて室内は大分綺麗にはなった。

 

「アローネ、終わりましたか?」

 

「こちらももう少しで片付きまーす。」

 

 アローネが室内の椅子や机を磨きあげていく。

 

 ずっと見ていたが手際よくこなしていた。

 

「驚きました。アローネは清掃作業得意なんですね。」

 

「はい、王都ではよく行っていましたから。」

 

「貴族様でもご自分でなさるんですね。祖父の話ではそういうのを専門的にしてくれる方がいると聞いておりましたが。」

 

「祖父?カオスのお祖父様は王都にお詳しいんですか?」

 

「うちはずっと前に祖父が王都で貴族だったらしいんですよ。本人は平民上がりの騎士だーって言ってたんですけど、貴族だったときの祖父の部下の人が来て祖父の内情を色々詳しく聞かせてもらって。」

 

「まぁ!お祖父様は貴族でらしたんですね。お名前はなんというのでしょうか?」

 

「アルバ……なんだっけなぁ。………アルバート=ディラン・バルツィエ………確かそんな名前だったと思います。」

 

「アルバート=ディランバルツィエ?バルツィエ家………聞いたことのない名ですね。爵位は?」

 

「そこら辺もよく分からないんですよ。貴族と教えてくれた部下の人もすぐにいなくなってしまって。」

 

「それではどのような方だったのかは……」

 

「いいんですよ。そんなに大した貴族でもないと思いますし祖父も今頃なくなってるだろうといなくなる少し前に言ってましたし。」

 

「そうそう無くなる貴族というのもないと思いますけど…」

 

「祖父については僕のなかで凄い強くてみんなを守った騎士ということで完結してるんですよ。だからもうその先を知りたいとは思いません。アローネも王都に帰ってバルツィエを探したりしないでいいですからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当はおじいちゃんのことをもっと知りたかった。

 

 おじいちゃんが何を思って僕に貴族ということを隠していたか。

 

 おじいちゃんが何故貴族を捨ててまでミストの村にこだわったのか。

 

 おじいちゃんには謎が多すぎる。

 

 けどそんなことを調べたところで僕はこの村を離れられない。

 

 知ったところで僕の自己満足しか得られないならその先は知らなくていい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の集会所の掃除を終えた僕らは次に食事やお風呂の用意をした。

 

「……」

 

「これで一通り終わりですね。」

 

「アローネ。」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「貴族のお嬢様ってこういうことが得意って思わなかったからまだ驚いてます。家事上手なんですね。」

 

「まだ疑ってらしたんですか?私だって女の子ですよ?このくらいは必要スキルです。」

 

「ずっと貴族の方は家事とか家の中のことはメイド?とかいう人たちが担当してると認識してたんですよ。だからこういうスキルを持ってるのが不思議で。」

 

「王都の貴族の家は大半はその認識で合ってますよ?私の家が特別……と言うよりも私と姉が特別こういったスキルを持ってるだけだと思います。」

 

「特別なんですか?」

 

「昨日も話してたんですけど私の義兄の影響なんです。義兄はハーフエルフなので身分が低く姉の家庭教師から専属医師、武術、華道……そういった習い事や管理を全て任されていました。」

 

「そんなに多くのことを?流石にそのお義兄さんハイスペック過ぎませんか?」

 

「ハイスペック………その言葉だけでは足りないほどの能力を持っていたと思います。あの義兄が誰かに何かの腕で負けるようなことはありませんでしたから。」

 

「そんなに凄いんですか。」

 

「義兄の知らない世界だとその限りではありませんが義兄が一度それを学ぶとどんな達人や偉人でも越えてしまう程には力もありました。」

 

 凄い人がいたんだなぁ。

 

 噂に聞く天才っていう奴か。

 

「………唯一つ義兄には越えられない欠点がありました。」

 

「欠点?」

 

「はい。義兄は出生が敵国の血を持つハーフエルフ。唯一つそれだけで国から奴隷としての烙印を押されました。いくら後学に残る程の医学や技術に貢献しても変わらない周囲の評価。私の両親も最初のうちは義兄を軽蔑していました。」

 

 ……なんだそれは。

 

「なんか頭に来る話ですね。努力しても報われないなんて。僕そういう話分かります。」

 

「カオスは分かるんですか?」

 

「僕も昔魔力欠損症で辛いときがあったんですけどそこを堪えて必死に頑張って騎士になってやる!と鍛練してた時期がありました。だからお義兄さんのように頑張ってるのに報われないなんて聞くと許せないですね王都の人達が。」

 

「そこは仕方ないのかもしれませんね。義兄が直接何かをしたわけではありませんが敵国の機械兵器に家族を奪われた方々も多くいる筈ですから。」

 

「そうやって壁を作って同じ国に住む人達を認められないなんて間違ってますよ。」

 

「カオスは本当にお優しいんですね。」

 

「世間知らずなだけかも知れませんが。」

 

「フフフッ、でも義兄はそうした苦境も乗り越えて姉と結婚するに至りましたから少しは報われたのではないでしょうか。」

 

「ご両親はさっき軽蔑してたと言ってましたけどご結婚認めてもらえたんですか?」

 

「姉は優秀な人でしたが体が弱く十五年前までは治療方法がまだ見つかっていない病にかかっていました。」

 

「え?」

 

「その病気にかかったら十五までは生きられないだろう、そう言われている病気でした。」

 

「そんな病気に…。」

 

 もしかしてお姉さんは…。

 

 だけど確か昨日は、

 

 

 

「義兄はそんな姉の病、先天性魔力機能障害を治療しました。」

 

「先天性……魔力機能障害?」

 

「貴族や王族などの強い遺伝子を持つものに希におこるもので体内のマナの量が肉体の強度を越えて暴走してしまう病気です。姉はそれこそ王族に匹敵する程の力を持っていましたが肉体は並の人程度でした。器に入りきらないマナは常に姉の体を蝕んでいました。」

 

「先天性魔力欠損症の逆みたいな病気ですね。」

 

「その通りです。姉はマナが人より多すぎたために死にかけていました。」

 

「単純にマナを使うということでは解決しないんですか?」

 

「……私も最初はそういう話かと思いました。けどこの病気を持つ人はマナを放出する量よりも回復する量が上回るため一日中寝る時間もないくらいに放出し続けなければなりません。」

 

「……」

 

 途方もない病気だな。

 

 強すぎるマナのせいで逆に自らを苦しめるとは。

 

 マナが無くて辛かった時にはそんなものがあるなんて考えもしなかった。

 

「義兄は姉の症状をひたすらに研究しその症例から僅か三年で治療方法を見つけました。王国が出来て数百年見付からなかった治療方法を。」

 

「三年で!?」 

 

「義兄は他にも先天性魔力欠損症などの治療方法も見付けた有名な方なんですよ。その事があって私の両親から認められて姉と結婚出来ました。」

 

「なんというか……とても追い付けない人ですねお義兄さん。」

 

 唯でさえ多才なのにそんなドラマまであるなんて。

 

「そんな義兄を持つと自然とこういう家事スキルも上がってしまうんですよ。義兄がやること一つ一つを真似していくうちに。」

 

 

 

 アローネはお義兄さんのことが大好きなんだろうなぁ。

 

 僕が昔おじいちゃんを追いかけていた頃のように。

 

 憧れから始まってそうなりたいと思い始めて次第に真似してみたくなって…。

 

 越えられないと分かっていても手を伸ばしてみたくなる衝動が抑えられない。

 

 まさに自分が思い描く理想の人だから。

 

 

 

 

 

 

 



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到着の知らせ

 青年カオスはミシガンをミストの村に送り届けた後、旧ミストへのアローネのもとへと戻る。

 それからアローネに過去にあった出来事を聞く。


捨てられた村ミスト

 

 

 

 ミシガンに騎士団の到着の知らせをお願いしてから数日が立った。

 

 アローネと一緒に生活してていろんな場面で助けられてる。

 

 一人だったときには考えなかった食事の献立や民家の家財の整理整頓。

 

 一人でいたときには得られなかった世界が広がっていく。

 

 このままアローネにはずっとここで…

 

 なんて思い始めてしまったくらいだ。

 

 そんなあるとき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「森に行きたい?」

 

「はい。いつもカオスが森に行くときは私は留守を任されていたので今日は一緒に。」

 

 どうしたんだ。

 

 森に行ったところで普通のモンスターかヴェノムくらいしかいないんだが。

 

「僕のことを案じているなら心配要りませんよ?」

 

「それもありますけど今回はそうじゃないんです。」

 

「何か別に目的があってのことと言うことですか?」

 

「はい、お願いできませんか?」

 

「う~ん。」

 

 ここ数日ずっと村の中にいたからなぁ。

 

 もしかしたらストレスでも溜まってるのかもしれない。

 

 家事の能力は高いけど元々はお嬢様だからそろそろ限界なのかな。

 

「分かりました。僕と一緒ならいいですよ?」

 

「ありがとうございます。」

 

 嬉しそうなアローネ。

 

 付いてくるのを許可しただけでここまで喜ぶとは

 

 

 

 刺激がなくてここの生活に飽きちゃったとか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストの森

 

 

 

「それにしても何故急に?」

 

「ずっと確かめたいことがあったのですけど遠回しにしているうちに時間が経ってしまって…。」

 

「確かめたいこと?」

 

 森に何かあったかな?

 

 そんなことを考えているうちに

 

 

 

ガササッ

 

 

 

「「!!」」

 

 

 

「シュウゥゥゥゥ。」

 

「ヴェノム!アローネ下がって「ここは私に任せてください!」」

 

「私がヴェノムの相手をします。」

 

 そういってアローネが前に出る。

 

 前に戦ってるところを見たから大丈夫だとは思うけど。

 

「ウインドカッター!」

 

 アローネの風の魔術がヴェノムを切り裂く。

 

 ヴェノムは切り裂かれて再生…

 

 

 

 しなかった。

 

 

 

ジュゥゥゥ!!

 

 

 

 切り裂かれたヴェノムが溶けていく。

 

「お疲れさまですアローネ。」

 

「……」

 

「アローネ?」

 

 アローネが前に見たときと同じ反応をする。

 

 どうしたのか?

 

「この森の…」

 

「はい?」

 

「この森のヴェノムはこんな風に魔術一つでやられてしまうのですか?」

 

「いえそんなことはないですよ?僕は殺生石の力で倒してますけど村の人達はいくら攻撃しても再生するんで手を焼いています。」

 

「……」

 

「どうかなさったんですか?」

 

「私も……私もそうでした。」

 

「アローネも?どういうことです?」

 

「前に王都にヴェノムが現れた時があってその時私もヴェノムに攻撃したんです。けどヴェノムには利かなくて逃げるしか出来なくて…。」

 

「アローネのその力は最初からあった訳ではないんですか?」

 

「誘拐される前は私も普通の人より少し魔力が高いくらいでヴェノムに対抗なんてとても…。」

 

「誘拐されてここに来てからその力が備わったと言うことですか…」

 

 とするとアローネを誘拐していたあの人達が怪しいんだがもう………

 

 

 

 いや待て。

 

「アローネ、僕がアローネを助けた場所まで行ってみませんか?何か分かるかもしれませんよ?」

 

「助けた場所?」

 

「もう少し先にいった場所に亀車が放置してあるんでそこに行きましょう!」

 

「……はい。」

 

 僕とアローネはアローネを最初に見付けた場所へと歩きそうだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これに………私が?」

 

 亀車はそのまま残っていた。

 

 あの日から雨が降ったりしたからところどころ汚れてきているが内装は無事だった。

 

「はい、この中の棺で眠っていました。」

 

「ここに……」

 

「何か思い出せそうですか?」

 

「いえ……」

 

「そうですか…」

 

「ですがこの棺には高度な術式が組み込まれています。」

 

「術式?」

 

「はい、魔術には簡単に言いますと六属性の攻撃魔術と支援、回復魔術があるのをご存知ですか?」

 

「ファイヤーボールとかの他にあるファーストエイドとかですよね?」

 

「そうです、基本的にはその範囲なんですが魔術には呪術と呼ばれるものがあります。」

 

「呪術ですか?怖そうな話ですね。」

 

「大丈夫ですよ。呪術というのは人に掛けたりしたら厄介ですがこういった棺とかのの施錠に用いられたりしてることの方が多いんです。」

 

「物に呪いを掛けられるんですか?」

 

「魔術や呪術は発動するにはマナを消費しますよね?自然エネルギーを使用して発動する攻撃魔術は発動してから飛ばすまでにマナを使いきりますが物体に魔術を掛ける場合はその物体が破壊でもされない限り残り続けます。」

 

「それは流動する自然エネルギーを維持するのはマナを逐一補充しないといけないけどそれとは関係ない普通の物質には微量のマナで事足りると言うことですね?」

 

「その認識で間違いありません。施錠系の呪術は魔術を使えば簡単に開けられますから大したものではないんですけど。」

 

「ではこの棺もそうだと?」

 

「いえ、この棺には更に上の呪術が組み込まれています。」

 

「更に上の呪術?」

 

「棺には特定の条件を満たさない限り棺を解除出来ないようになっていて、支援魔法も一通掛かっていますね。他にも魔術を寄せ付けない………」

 

「寄せ付けない?」

 

「これは………」

 

「アローネ?」

 

「……この棺は一種のシェルター化しています。」

 

「シェルターってあの災害の時とかに隠れる建物ですよね?」

 

「そう、都市を破壊しかねない程の災害を予見して回避するために作られるもの。棺にはその際に組み込まれる術式と他にも生命維持装置といったものがあります。」

 

「生命維持装置!?こんな棺に!?」

 

「原理は中の生命体を眠らせて外部から生きるのに必要なマナやエネルギーを取り込むのでしょう。これを使えば数百年先まで安全に生きられますよ。」

 

「安全にって…この中で過ごさなきゃいけないんですよね。流石にそれは……。」

 

「この術式は治療方法の見付からない病気を治すために時間を越えて発展した未来で治療するという延命が目的のものです。完全なタイムカプセルとでも言いましょうか…。」

 

「タイムカプセル………そんなものにアローネは。」

 

「私自身はこれといった重い病気に掛かったことはありませんが何故これに私が入れられていたかも分かりません。」

 

「最後の記憶とかは……」

 

「最後……?」

 

「誘拐される前の記憶ですよ。」

 

「………思い出せません。」

 

「その辺りから記憶がないんですね?」

 

「王都があんなことになってからは………とても。」

 

「王都で何かあったんですか?」

 

「………王都は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェノムに襲撃され王都の半分がなくなりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王都が半壊した……のですか?」

 

「私の記憶ではそうでした。王城から近い屋敷だったので王都を見渡せるほどの景色から見たので間違いありません。」

 

「では………今度来るミストの騎士団は…。」

 

「それも分からないのです。王都がほぼ壊滅状態にあったのにこんな短期間で立て直して遠方に使節を送るなど…。」

 

「………」

 

「私にとってはついこの間の出来事………に思えるのですがもしかしたらこの棺で私はとても永い間眠っていたのかもしれません。

 

 今だって思い返してみれば大切な思い出以外のことがもやが掛かったように思い出せないのです。

 

 何故私がこの棺に入っていたのか。何故私にはヴェノムを倒す力があるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は一体何をされたのか。」

 

 

「……」

 

「考えれば考えるほど私は今の私が分からない。

 

 この体の中にあるものはもしやとんでもない「アローネ。」」

 

「落ち着いてアローネ。」

 

「カオス…。」

 

「アローネはアローネだよ。ここ数日間ずっと見てきた僕が保証する。

 

 僕もこの力に目覚めたときは怖かったけど長く付き合ってみるとこの力は使い方によって人のためにもなるし自分のためにもなる。

 

 アローネが自分を見失わなければ何も怖いことなんてないんだよ。」

 

「自分を見失わない……」

 

「今回はアローネのルーツが見付かっただけでも前進したんだ。」

 

「そうなのでしょうか?」

 

「そうなんだよ。だからこれからは一悩まないで「オーイ!!」」

 

 

 

「カオスゥゥゥ!!アローネさぁん!!」

 

 

 

「ミシガン!」

 

「お姉さん。」

 

「探したよ?こんなとこで二人でなにやってたの?」

 

「アローネと少しね…。」

 

「少し…何?言ってよ?」

 

「えぇと…ちょっと難しい話なんだけど…」

 

「難しい話?」

 

「そのことはいいじゃないか。ミシガンはどうしてここへ?」

 

「あぁそうだった!例の知らせを持ってきたんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騎士団がミストに来たんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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再会の約束

 青年カオスは森で見つけた女性アローネと生活をしていた。

 二人はアローネのルーツを探すためアローネの運ばれていた亀車を調べに森に向かうがその後ミシガンから騎士団到着の知らせを受ける。


ミストの森

 

 

 

「騎士団が着いた!?」

 

「そう!本当はもっと早くに着いてたんだけど忙しそうだから事情を話してアローネさんを送迎できる日を教えてもらったの!そしたら今日王都に報告の隊がいるみたいだからそのついでに連れてってくれるって!でもあっちの村に行ったらカオス達いなかったから騎士の人達に待ってて貰って探しに来たんだよ!」

 

 

「ゴメンねミシガン。手間取らせちゃったかな。」

 

「本当だよ!でも私もサプライズにしようかなぁーって思ってたからおあいこだよ。」

 

「お姉さんはご無事なんですか?」

 

「へ?」

 

「この数日で森にはヴェノムが棲息しているのを確認しているのですが。それなのに何度も森を行き来しているようですし。」

 

「あぁ、そのこと?平気ですよ。打ちの村の人達はみんなヴェノムに抗体があるみたいなんで。」

 

「抗体?ヴェノムにですか。」

 

「そうそう。」

 

「ヴェノムに抗体……そんな訳…」

 

「撃退は一人じゃ出来ないんですけどね。十年前から村のあちこちにヴェノム用の穴も掘ってますし大丈夫ですよ!さぁ、行きましょう!早くいかないと騎士団の人達帰っちゃいますよ?」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捨てられた村旧ミスト

 

 

 

「ミシガンちゃん遅いなぁ~。」

 

「さっき行ったばかりだからまだ掛かるんだろもう少し待ってようぜ。」

 

「それもそうだなぁ」

 

「あんな子がこんな王都から離れた村にいるなんて想像も出来なかったぜ。まだあっちの村にも掘り出し物が多くあるのかもよ?」

 

「ハハッ!楽しみだな。」

 

「それにしてもよくこんな廃れた村に住んでる奴がいたなぁ。俺はてっきりあっちのミストみたいにもう一つ王都の知らない村があるんだと思ってたがここはもうほぼ無人みたいじゃないか。」

 

「無人じゃないぜ。一人変わり者がいるんだろ。こんなところに住める変わり者が。」

 

「ここも元々はあっちの村の人達が住んでたらしいけどヴェノムに襲われてあっちに移り住んだみたいだぞ?」

 

「あぁ~やっぱり?そんな気がしてた。」

 

「ヴェノムに襲われてよく生き残れたな。大抵は全滅するだろ?ここの他に潰れた村なんか数えきれない程あるぞ。」

 

「何でもヴェノムの対応に詳しい人がいたらしい。もういないって話だがな。」

 

「ってことはそいつも……」

 

「あぁ、ヴェノムにやられたんだろう。殺し方知ってたのに可哀想だなぁ。」

 

「村を救った英雄なのになぁ。スカウトしたらいい線行ってたんじゃないか?」

 

「生きてたらな。」

 

「じゃぁ無理か!」

 

「「「「アッハハハハハハハハ!!」」」」

 

 

 

「王都の臣民がこんなところまで誘拐かぁ。」

 

「あ、それ俺も!俺も思ってた!」

 

「一体こんなところまで誘拐して何がしたかったんだろうなぁ。」

 

「身代金用意だけさせて受け取ったら足ついてもばれにくいようにこの辺りで殺す手筈だったんじゃねぇか?」

 

「それだったらどれだけ用心深いんだそいつ。」

 

「けどミシガンちゃんが言うにはソイツらもういないみたいだぞ?ヴェノムに襲われたとかで」

 

「え?だったらこれから来るその人もヤバイんじゃぁ…」

 

「数日前の話らしいぜ?まだヴェノムになりきってないんだったら感染はしてないだろ。」

 

「それもそうだな。」

 

「どんな人が来るんだろうなぁ。」

 

「誘拐されるくらいだから小さい子どもじゃないか?」

 

「王都じゃ日常茶飯時だからなぁ。被害届だけでも確認しとくか。」

 

「うわっ、数えきれない程あるぜ!」

 

「面倒くさいなぁ、名前だけでも分かればやり易いんだが。」

 

「なんにしても先ずはミシガンちゃんが連れてきてからだな。」

 

「大丈夫かなぁ、ミシガンちゃん封魔石も持たずに森に入ってったし。ヴェノム出るんだろ?」

 

「大丈夫なんじゃないか?ここらよく来るって行ってたしヴェノムを避けて通れるんだろうよ。」

 

「けど万が一見付かったらここに連れてきちまうだろ?」

 

「その時はこの王都が開発した対ヴェノム用ワクチン剤で消すから安心しろよ。心配なら先にお前に射っとくが?」

 

「おぉ~、ありがてぇ!新型じゃんかよぉ!頼むぜ!」

 

 

プシュッ

 

 

「ほっほっ~!!体の中が浄化されていくみたいだぁ~!」

 

「ハハッやべぇ薬やってるみたいだな。」

 

「何言ってるんだよ。こんな素晴らしい薬に向かって!コイツさえあればこの森のヴェノムなんか俺一人で片つけられるぜ!」

 

「そうか、じゃあ行ってらっしゃい!」

 

「……冗談だってよ、一人じゃ無理だってこんな広い森の中は。」

 

「ヴェノムは倒せても遭難して帰れなくなりそうだな。」

 

「そうなるって確実に……おっ!帰ってきたみたいだぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スミマセ~ン!お待たせしました~!」

 

「お帰り~!その人達が例の人達だね?」

 

「はい!」

 

 ミシガンと鎧を来た六人の男が話をする。

 

 クレベストンさんとはデザインが違うが

 

 この人達が、本物の

 

 騎士。

 

 

 

ドクンッ!ドクンッ!

 

 

 

 ………

 

 

 

ドクンッ!ドクンッ!

 

 

 

 落ち着け。

 

 もうそういう夢は見ないと決めたろ。

 

 

 

ドクンッ!ドクンッ!

 

 

 

 僕はもう騎士になんて馴れないんだ!

 

 僕は多くの人を殺した悪人なんだ!

 

 

 

ドクンッ!ドクンッ!

 

 

 

 今更憧れたって僕は……

 

 もう遅いのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして!私は王国騎士団バベル隊隊長のブラム=バベルです。以後お見知りおきを。」

 

「はい、よろしくお願いします。私はアローネと申します。」

 

「アローネさんですね。ではこのまま我が隊が貴女を「少し待っていただけますか?」」

 

「はい?いかがなさいました?」

 

「少々お世話になったカオスにお礼を言いたいのです。」

 

「……承知しました。では私どもはあちらの方でお待ちしております。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス。」

 

「あれアローネさん話は終わったの?出発は何時くらいになりそう?」

 

「それはまだ…、少しカオスとお話がしたくて…。」

 

「……」

 

「カオス?」

 

「……」

 

 

 

ゴンッ!

 

 

 

「……どうしたのミシガン。」

 

「アローネさんが話があるみたいだよ。カオスぼーっとしてたから起こしてあげたの。」

 

「……ありがとう。」

 

「カオスどうなさいました?」

 

「あぁ、スイマセン。考え事をしていたもので。」

 

「考え事を?」

 

「騎士団を初めて見て感慨深いものがありまして。」

 

「騎士に?」

 

「はい、祖父が騎士を続けていたらあんな感じの人達を率いて……」

 

「カオスは騎士に思い入れがあるのですね。」

 

「……まぁ小さいときの夢だったんですよ、騎士は。」

 

「夢……。」

 

「と言ってもあの人達みたいに礼儀正しく規律を守るとかそんなのから遠い祖父を見て憧れてただけなんですけどね。」

 

「カオスは本当にお祖父様が大好きだったんですね。」

 

「大好きでしたよ……おじいちゃんに憧れて騎士を目指していたくらいに。おじいちゃんは俺みたいにはなるなって言われましたけど。」

 

「俺みたいにはなるな?」

 

「多分騎士の良いところ悪いところを知って逃げ出した自分のようになるんじゃないぞ、ってことだったんじゃないですかね。昔の僕は長所しか見てませんでしたし。」

 

「それは……悪いことなのでしょうか?」

 

「え?」

 

「興味をもつことはまず良いところから目に入るんだと思います。そこから徐々に全体を見て聞いて感じていって良いところも悪いところも受けとめられること、それが本当に好きになることだと思います。」

 

「本当に…………好きになる。」

 

「カオスはお祖父様のことがお好きなんですよね?」

 

「………はい。」

 

「お祖父様もカオスのことがお好きだったんだと思います。」

 

「おじいちゃんが…」

 

「お祖父様はカオスにご自分を越えてほしかったのではないでしょうか。」

 

「僕がおじいちゃんを………。」

 

「私も家族から可愛がられていましたからなんとなくですけど分かる気がします。」

 

「アローネ。」

 

 

 

「本当はもう少しちゃんとカオスとはお別れしたかったのですけど。」

 

「僕も………同じかな。」

 

「私は帰らねばなりません。あの棺のこともあって家族が心配です。恐らく家族も私のことを…。」

 

「それなら…仕方ないね…。もっとずっと一緒にいたかったけど。」

 

「カオスもですか?」

 

「アローネも?」

 

「はい。カオスは義兄にとてもよく似ておいでなので。」

 

「話に聞く世界一のお義兄さんかぁ。そんなに凄くはないと思うんだけど。」

 

「そういうところじゃありませんよ。カオスが似ているのは不屈なところです。」

 

「……」

 

 不屈…… 。

 

 昔誰かにそう言われたことがある。

 

 誰だっただろうか。

 

「義兄は常に差別と理不尽に晒されながらも耐え抜き、自国のため、敵国のためにその才能を捧げ続けました。

 

 その姿勢が今の貴方によく重なります。」

 

 

 

 ………そんなに凄い人と僕が重なる、か。

 

 そんなつもりはないんだけどここまで言ってくれるアローネのことを信じてみようかな。

 

「アローネ、ここから離れて暮らすことは出来ないけど………そのうち王都に会いに行ってもいいかな?」

 

「!はい!その際は私が王都の中を案内いたします!」

 

「お嬢様の直々の案内かぁ。一緒に拐われたりしないよね?」

 

「カオスは私をなんだと思っているんですか。」

 

「フフッそれはね。」

 

「何を笑っているんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、アローネまた今度必ず会おう!」

 

「はい!約束ですよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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国家反逆罪

 青年カオスは森であった女性アローネと騎士到着を待つ日々を送っていた。

 そしてようやく騎士団が到着しカオスはアローネを騎士団に届けることに成功する。


 

 

 

「いいの?もう少しお話しなくてアローネさん行っちゃうよ?」

 

 アローネが騎士団のもとへ行くとミシガンが話し掛けてきた。

 

「いいんだ。もう話せることは話したし、また会う約束もしたしね。」

 

「会う約束?アローネさんまたここに来るの?」

 

「いや、僕が行くんだよ。王都にね。」

 

「え!?じゃあ!?」

 

「すぐには無理だけどここも騎士団が常駐する。そう遠くない未来にこの森からヴェノムがいなくなったら一度王都へ遊びに行こうかなって。」

 

「カオス!ここから離れていいの!」

 

「ミストの安全が確立されてからだけどね。それまではまだこうしてここで頑張るよ。」

 

「カオス……ここから出るんだぁ。」

 

「すぐに帰って来るけどね。」

 

「……」

 

「ミシガン?」

 

「うぁぁぁぁん!カオス!やっと前に進むことが出来たんだねぇ!!」

 

 ミシガンが泣きながら抱きついてくる。

 

「カオスがヴェノムがいてもいなくても守り続けるっていうから本当は死にたいんじゃないかって心配だったんだよぉ!!」

 

「み、ミシガン!まだ人がいるんだけど!?」

 

「ようやく!ようやくカオスが生きる目標をぉぉぉ!!」

 

「落ち着いてミシガン!」

 

「落ち着けるか馬鹿ぁ!」

 

 

 

 本当は死にたい、か。

 

 もしかしたらそうだったのかも。

 

 僕がここでいくらヴェノムを倒してもあの時死んだ皆は帰ってこない。

 

 それなのに僕が生きててよかったのか。

 

 僕は本当は死んで地獄で皆に謝らないといけないのかな。

 

 そう思ってた時もあったから。

 

 アローネが来て家族の温かさに触れてなんだか心の氷がほんの少しだけ溶けた気がした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「微笑ましい光景ですねぇ!軍人としてこの光景を守りませんとな!それではアローネさん参りましょう!」

 

「はい。」

 

「ところでアローネさんはどのような家柄なのですか?誘拐されるくらいですからさぞや名のある豪商のお嬢様なのでは?」

 

「はい、私はクラウディア家です。」

 

「クラウディア?」

 

「代々王族を側で支える貴族の生まれです。」

 

「……」

 

「?」

 

「クラウディア、クラウディア……残念ながらそのような名の貴族は我が国の貴族にはおりませんなぁ。被害届もございませんし。」

 

「!?そんな!わ、私は!」

 

「本当に貴族のご出身なのですか?」

 

「間違いありません!」

 

「それは困りましたねぇ。貴族様であることは間違いないとそう仰られるということはー。」

 

「……?」

 

 

 

「我が国マテオ王国の貴族ではなく敵国ダレイオスの貴族ということになりますなぁ。」

 

 

 

「……マテ……オ王国?……………ダレイ…オス?」

 

「貴女様はダレイオスの貴族様と言うことで間違いありませんね?」

 

「ち、違います!!私はウルゴス王国の!!」

 

「ウルゴスですか?」

 

「はい…。」

 

 

 

「そのような国はこの惑星デリス=カーラーンの歴史上どこにも存在致しませんが?」

 

 

 

「デリス……カーラーン……どういう…こと?アインスではなく?」

 

「なんと!星の名前も違うと!貴女様は何処から来たのでしょうか?もしや宇宙人ですか!宇宙からやって来たのですか!」

 

「ば、馬鹿にしないで下さい!そんなわけ!」

 

「………いずれにしろ貴女様が何処の誰であろうと構いませんが我等と国民を謀ろうとしたことは見過ごせませんねぇ。ダレイオスのスパイにしては粗が目立ちますが。」

 

「た、謀る!?」

 

「貴女!お名前をどうぞ!」

 

「あ、アローネ=リム・クラウディアです…。」

 

「そうですかぁ、貴族様らしく立派なお名前ですねぇ。

 

 

 

 ではアローネ=リム・クラウディアさん

 

 

 

 我が国民と部隊を謀ろうとした偽証罪及び敵国ダレイオスのスパイ容疑で貴女を逮捕します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?騎士団の人達どうしたのかな?」

 

 一通り泣きとおしたミシガンが騎士団の方を見て言う。

 

「事情聴取でもしてるんじゃないかな。」

 

「けどもう話はつけたんだけどなぁ。」

 

「アローネにも直接聞いときたいことでもあるんじゃないかな?」

 

 アローネは貴族のお嬢様だしそれにあの棺のこともあるし家族のことを騎士達に確認してるんだろう。

 

「見送りに行こうよ!騎士様達が村を出るみたいだからさ。」

 

「そうだねそうしよっか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大人しくしてください。手荒な真似は国民の前であまりしたくはないのです。」

 

「離して下さい!これは何かの間違いで!」

 

「貴女の事情は国に帰ってからゆっくりお話下さいまし。もともとそう言う話でしたよね?」

 

「ですが私は!」

 

「行きましょう。」

 

 

 

「え!?何してるんですか!?」

 

「アローネさん!?」

 

 騎士団の人達を見送ろうとしたらアローネが手枷を付けて連れていかれようとしている。

 

「カオス!!」

 

「アローネ……!待って下さい!これはどういうことですか!?何故彼女は拘束されてるんですか!?」

 

「そうですよ!私は誘拐された人がいるから保護してあげて下さいって言った筈ですよ!?これじゃあ、アローネさんが悪い人みたいじゃないですか!」

 

「……この方はダレイオスのスパイの可能性があります。貴殿方はこちらのご婦人に騙されていたのですよ。」

 

「騙す?アローネが何でですか!?」

 

「我が国マテオは近頃頻発するヴェノム大量発生の原因がダレイオスにあると睨んでいます。ですから敵国の貴族がこの場にいる以上その疑いがあるのは彼女ということになります。ですからこうして参考人として連行しようとしているのですよ。」

 

「そんな!?でも彼女はただ亀車に連れていかれようととしていただけで…」

 

「それにつきましては後程追って詳しくお聞きします。あぁと、別に貴殿方を疑っているわけではないのですよ?貴殿方は大切な大切な大切な我が国の臣民でありますからね。」

 

「カオス、私は…私の国はぁ…」

 

 アローネが目に見えて怯えている。

 

 何を言われたんだ。

 

「彼女は人を騙すような人じゃない!何か事情があるんです!」

 

「そう申されましても現に私共がこうして事情を聞いたところによるとダレイオスと思われる国の貴族みたいですし…。」

 

「違います!私はアインスにあるウルゴスの…!」

 

「アインス?ウルゴス?」

 

「このように訳の分からない星の名前と国名を言うのですよ。恐らく頭でもうって混乱しているだけでしょう。」

 

「頭でもって!そんな適当に!!」

 

「それだけではありませんよ。この方から感じるマナは我々とは異質のものです。ダレイオスで何やら恐ろしい実検でも受けてこうなったのでしょう…。あ!っと貴方のマナは事前にミシガンさんから事情をお聞きしているので心配ありませんよぉ!お辛い人生でしたねぇ。お一人様でヴェノムを!我々が来たからにはもう安心ですから!」

 

「……ミシガン!話しすぎだよ。」

 

「だってぇ…。」

 

「何にしてもこのご婦人に関する謎は明かされぬままです。ですから我々がこうして安全を確保するまで拘束しているのですよ。」

 

「女性の扱い方ではないと思いますが。」

 

「申し訳ありませんミシガンさん。すぐに我等退却致しますのでそれでは…。」

 

「カオス!お姉さん!私は……!」

 

 

 

 アローネが連れていかれる。

 

 さっきまで気持ちのいい別れ際だったのに。

 

 目には涙を浮かべている。

 

 あのアローネがダレイオスのスパイ?

 

 そんなの信じられない。

 

 信じられるわけがない!

 

 ここ数日だけだったけどアローネのことを見てきた。

 

 物腰は柔らかでおっとりしてるけど、

 

 家事や掃除、洗濯から何から何までも懸命にこなして

 

 意外と負けず嫌いなとこがあって、

 

 それでいて優しくて、

 

 綺麗に笑うあの人が、

 

 僕達を騙してヴェノムを……?

 

 

 

 何だそれは?

 

 こじつけにも程があるだろ。

 

 ヴェノムは十年前からいるんだぞ。

 

 最近来たアローネには関係なんてない。

 

 だったらやることは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って下さい!」

 

「カオス!何やってるの!?」

 

「カオス!」

 

 

 

「……いかがなさいましたか?臣民様?」

 

「アローネは置いていってください。このまま僕が預かります。」

 

「!」

 

「それは一体どうして?」

 

「アローネは短い間しか過ごしてないけど僕の……僕の家族です!家族が不当に扱われて黙って見過ごせません!」

 

「はぁ…もしや絆されましたかな?確かに美人ではありますからねぇ。」

 

 そういってアローネを触るブラムさん。

 

「……!」

 

「若い人は一時の感情に流されてしまうんですよ。それで正しい道が分からなくなる。貴方もそういうご経験がおありでしょう?」

 

 確かに僕は昔から感情に突き動かされて生きてきた。

 

 それで失敗したこともよくある。

 

 けれど

 

「正しい道と言うなら今の僕にとってアローネを助けるのが正しい道だ!」

 

「弱りましたねぇ~。通していただけないとなると少々手荒なことをしなければなりませんか。」

 

「アローネを返してください!」

 

「それは出来ませんねぇ。

 お前達軽くお相手しておあげなさい!ケガをさせてはいけませんよ!相手は一人なんですから威かすだけで結構です!」

 

 そう言うとブラムさんはアローネを連れて下がり他の五人の騎士が出てくる。

 

「ふぅ~、勘弁してくれよボウズ。」

 

「こっちはこれから王都まで長い道のりを帰らないといけないんだ。」

 

「手早く終わらせるからじっとしてろよ?」

 

「あんな女くらい村にいんだろ。ミシガンちゃんとかよ。」

 

「ケガしないうちに帰った方がいいぞ?」

 

 五人がそれぞれ勝手なことを言ってくる。

 

「忠告ありがとうございます。けどこっちも引き下がれないので。」

 

「女の前だからなぁ、分かるぞ~。俺も昔…ガッ!」

 

 一番近くにいた騎士に素早く接近し顎を打ち上げる。

 

「「「「!!!!」」」」

 

 それだけで他の騎士達の顔色が変わる。

 

「コイツ!?」

 

「強いぞ!」

 

「ずっと一人で戦ってきたんです。多対一の勝負は得意ですよ?」

 

 とは言ったものの初撃のラッキーパンチで一人はのしたものの、他がそう易々とそれを許してくれはしないだろう。

 

「おらぁぁぁ!!」

 

「おおぉぉぉぉ!!」

 

 スライディングと正拳突きがくる。

 

「……フッ!!」

 

 相手の動きに合わせてスライディングをすれ違い様に顔面に蹴り入れ、正拳突きにはフックをお見舞いする。

 

「ガホォッ!」

 

「ハガアッ!」

 

 そのまま動かなくなる二人。

 

 ……何だまたラッキーが入ったのか?

 

「後二人ですね!」

 

「くっ!」

 

「調子に乗りやがって!」

 

「行きます!」

 

 そう言って駆け出すと横から不意に

 

 

 

ドゴォォォンッ!!!

 

 

 

「すみませんねぇ!臣民様。貴方の動きを見るに私の部下達では敵わないと思いまして不意打ちにはなりますがこうして仕留めさせてもらいました。」

 

「カオス!」

 

「ちょっとブラムさん!ケガさせないんじゃなかったの!?」

 

「その予定でしたがこちらも三人のされているので手をうたせてもらったのです。ミシガンさん我々が去った後で彼にファーストエイドをお願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、口でこちらを油断させる作戦、昔おじいちゃんによくやられましたよ。」

 

「「「!!!」」」

 

「貴方のその口調はそういう作戦からきてるんですね。こちらの身を案じているようで意識の範囲外から容赦ない一撃。」

 

「完璧なタイミングでクリティカルヒットしたと思ったんですけど浅かったですか?」

 

「いえ、なかなかにえげつない威力だったと思いますよ?普通だったら今のでノックアウトでしたね。」

 

「お褒めに預かり光栄です。やはり魔術が効かないようですね。」

 

「ミシガンから聞いたんですか?」

 

「いえいえ、ただの観察眼から来るハッタリですよ。どうやら剣を使った方がよろしいみたいです。」

 

「いいんですか?僕は魔術よりも接近戦の方が得意なんですよ?」

 

「臣民様もかなりの手練れのようですが私共は日々上を目指して訓練に励んでるんですよ。そうして培ったセンスは少々自慢なんですよ。………ではいざ!!」

 

 

「!」

 

 

 

キキィンッ!!!

 

 

 

 

 帯刀していた木刀を抜いて受け止める。

 

 ブラムはそこから更に連撃を放つ。

 

 

 

キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!

 

 

 

「クッ!」

 

 剣撃が早い。

 

 受け止めるだけで精一杯だ。

 

 そういえば誰かと剣で斬りあうのなんて初めてだ。

 

「おや!臣民様もやはり剣術の覚えがあるようですね!」

 

「幼い頃に祖父からかじっていたくらいですからね!騎士様の剣技程ではないですよ!」

 

「謙遜しなくてもいいですよ!私は王国のとある剣術専門の部隊に所属していたこともあるのですから!」

 

「剣術専門の?」

 

「万年したっぱではありましたがね!」

 

 

 

キキィンッ!!

 

 

 

「剣の斬りあいでは互角といったところでしょうか。実に惜しい人材です。貴方なら騎士団でも上に登れそうですね。」

 

「嬉しいお誘いではあるんですが僕はもう騎士にはなりませんよ。」

 

「ほう!騎士になりたいと思う時期があったということですか?」

 

「昔の話ですよ。今は!」

 

 

 

キキィンッ!!

 

 

 

「!?」

 

「村の用心棒です!」

 

「(………剣筋が段々と鋭くなって受けづらくなってきましたねぇ。斬りあいに馴れさせてはこちらが不利か。それではそろそろ…。)」

 

 

 

ジリッ

 

 

 

「?」

 

 距離をとった?

 

 何をするつもりだ?

 

 魔術は利かないとさっき見切った筈だが?

 

「臣民様が想像以上にお強いので私も奥の手を出さねばなりませんなぁ。」

 

「奥の手?」

 

「先程申した部隊に所属していたときに私が研鑽に研鑽を重ねて習得した剣技です。」

 

「………そんな奥の手をハッキリと予告していいんですか?」

 

「この技は応用が利くので問題ないのでございますよ。では失礼して。」

 

カチンッ

 

 ブラムが剣を鞘に納める。

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣ッ!!!」

 

 

 

ザザザザザッ!!!

 

 

 

「!!この技はッ!?」

 

 地を這う衝撃波が高速で迫る!

 

「アレ!カオスの!?」

 

ズザンッ!!

 

 砂埃をたてて吹き飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

「ンッフフフフフ!!!どうですか!?私が二十年かけて体得した奥義、魔神剣の切れ味は?魔術にも劣らぬ威力とその速度!!そうそう拝見出来るものではないのですよ!」

 

「ブラムさん!カオスが死んじゃうよ!?」

 

「安心なさい。手加減はしてありますよ。一日くらい起きられないでしょうがね。それでも魔神剣は流石にやり過ぎましたか。これで終わりに「魔神剣!!」!」

 

 

 

ズザザザザサザッ!!!

 

 

 

「これは!?私の!!馬鹿な!!」

 

ザシュウッ!!

 

「ウゴアッァァッ!!!!」

 

「「隊長ッ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元々騎士団の技でしたから使える人はいるとは思ってたんですけど失念してましたね。自分が魔神剣を受けることになるなんて…。」

 

「な、お前!!」

 

「隊長の魔神剣を食らったのに!?」

 

 

 

 

「スミマセン、魔神剣に関しては僕の方が上みたいですね。」

 

「カオス!」

 

「貴様!!何故魔神剣を使える!!?」

 

「その技は我が騎士団の最高機関の剣技だぞ!!」

 

「最高機関?よく分かりませんがこの技は祖父から譲り受けたものですよ?勝手にですけどね。」

 

「何を馬鹿なことを!?素人がそう容易く扱うことなど!!「お黙りなさい!!」」

 

 

 

「グフゥッ!!何処か骨折したみたいですね。大声などあげるものではありませんか。………臣民様は凄まじい剣術の才をお持ちのようだ。」

 

「隊長!」

 

「お身体に障ります!ここは退いて…」

 

「そのつもりですよ。ですが最後に………臣民様、そのご婦人はお渡ししますが、腑に落ちないことを二件程お訊きしてもよろしいでしょうか?」

 

 ボロボロになったブラムが訊ねる。

 

「………いいですよ。」

 

「そのご婦人は少なくともこの国のものではありません。長く王国を守ってきた私が言うのです。装いと当人からは何か異質と一言では語りきれない何かを感じます。自然のものではないのでしょう。」

 

「……」

 

「そんな得体の知れないものを庇ってもいいのですか?もしかしたらあのミストの村にも危険が及ぶかもしれないのですよ?」

 

「……そうだとしても僕はこの数日の間の彼女を知ってます。彼女はそんなことを望むような人じゃない。少なくとも今こうして捕まるような悪い人では。」

 

「望む望まないは関係ないのです。爆弾が爆発したくないと望んだところで導火線の火には逆らえないのですよ?」

 

「だったら僕が何度でもその火を消しますよ!アローネに降りかかるのなら何度だって!」

 

「……臣民様のご意志は分かりました。ならばそのことにはもうふれません。ですがそれを野放しにするわけではないのでお忘れなく。」

 

「分かってます。」

 

「よろしい!では最後に、臣民様!お名前をどうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は……カオス。カオス=バルツィエ!」

 

 

 

「「「!!!!」」」

 

「!?バルツ…ィエ!?」

 

「嘘だろ!?こんなところにいるわけが…!」

 

「だがさっきの剣技は紛れもなく……!」

 

「バルツィエ………魔神剣………本物なのか?」

 

 

 

 何だ?

 

 名前を言ったらざわめきだしたぞ?

 

 貴族とは聞いていたが有名な名前なのか?

 

 

 

「これは………どうしたものでしょうな。」

 

 

 

 ブラムが何かを考えている。

 

「恐らくは偶然名前が同じ………というものではなくまさしくあの家のものなのでしょうなぁ。先程の撃ち合いはまだまだでしたがそれも発展途上故でしょう。しかしどういうわけかは存じませんがこのような場所にいる!これは使えますね。」

 

「何をいって!?」

 

「アローネ=リム・クラウディアさん、カオス=バルツィエさん貴殿方を国家反逆罪で指名手配する旨をこれから上にご報告いたします!!」



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旅の始まり

 青年カオスは騎士団に森で出逢った女性アローネを届ける。

 だが騎士団から不穏な空気を感じカオスはアローネを取り返すことにする。

 騎士団はカオスとアローネに国会反逆罪を言い渡す。


捨てられた村旧ミスト

 

 

 

 あれからブラム達は去りアローネとミシガンが残る。

 

 アローネが手枷に繋がれていたので手枷を切り落とす。

 

「カオス!スミマセン!私のせいでカオスが!」

 

「アローネのせいじゃないよ。悪いのはあの人達だったんだから。」

 

「でもカオスは騎士団に…」

 

「もう諦めた昔の夢だって言ったでしょう?そんなに大袈裟にしないで。」

 

「カオス…。」

 

 想像していたよりもショックは受けなかった。

 

 全くない訳じゃないけど自分が思っていたよりはあまり未練はないようだ。

 

 あれほどなりたかった騎士に剣を向けてその夢に自ら終止符をうつ。

 

 本当はもっと昔に終わっていたのかもしれないな。

 

「それにしても何があったの?アローネ。」

 

「そうですよアローネさん!騎士団の人達となにをもめていたんですか?」

 

「私にもよく分からないのです。」

 

「「分からない?」」

 

「はい…。私は………この国の貴族ではないようなのです。」

 

「この国ってことは………ダレイオスってこと?」

 

「え!?ダレイオスって戦争相手国じゃない!?何でそんな国の!?ってか貴族!?」

 

 そういえば貴族ってことはミシガンには話してなかったな。

 

「いいえ、ダレイオスでもありません。私の国の名は……ウルゴスと言います。」

 

「ウルゴス?」

 

「聞いたことない名前ですね…。」

 

「騎士の方々にもそう言われました。この星が出来てからずっとそのような国は聞いたことがないと…。」らないんだけど前はもっとたくさん国があったそうですよ?戦争で無くなったり合併したりして名前が変わっちゃったみたいですけど。」

 

「………」

 

「もしかしてアローネさんの国はこの周辺にあったウルゴスって名前の国なんじゃないですか?」

 

「そうなのかもしれませんが、だとしたら私は……」

 

 

 

 確かにその線でいくとあの棺のことも納得できる。

 

 アローネがあの棺で眠っている間に国が滅たか合併してマテオの一部になったということに。

 

 時間がたちすぎて国が変わったのならあの騎士達も情報の食い違うアローネを不審に思ったのかもしれない。

 

 ならアローネは何故あの場所にいたのだろうか。

 

 あの亀車のあった場所は前にも僕が行ったことある場所だった。

 

 あの亀車は最近になって来た。

 

 何が目的で何のために来たんだろう。

 

 

 

『望む望まないは関係ないのです。爆弾が爆発したくないと望んだところで導火線の火には逆らえないのですよ?』

 

 

 

 あのブラムが言ってたことが気になる。

 

 アローネが………爆弾?

 

 そんな馬鹿な。

 

 アローネはヴェノムを殺せる力があるだけで他は普通の人だ。

 

 どこもおかしいところはない。

 

 ただの女の人。

 

「……」

 

 こんな今にも壊れてしまいそうな姿を見るととてもそうには思えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからどうするの?」

 

「「………」」

 

「今ならまだ間に合うかもしれないよ!?さっきのブラムさん達に追い付いかけてさ、謝ってきなよ!指名手配なんて間違ってるよ!」

 

「ミシガン…。」

 

「カオスが指名手配なんてことになったらもうミストの村に入れなくなっちゃうよ!?いいの!?騎士団の人達だってもう村にいるんだよ!?ブラムさん達に追い付けないってんならミストの村の人達に言って取り消ししてもらいに行こうよ!!」

 

「いいんだミシガン…。」

 

「何がいいの!?指名手配だよ!?いろんな賞金稼ぎから狙われるかもしれないんだよ!?誰も守ってくれないんだよ!?」

 

「大丈夫だよ分かってる。」

 

「分かってないよ!カオス!この村でずっとヴェノムと戦ってたから感覚がおかしいんだよ!どうやってこの先ここで生きていくの!?」

 

「………頃合いだったんじゃないかなぁ。」

 

「頃合い?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕はこの村を出るよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今なんて言ったの?」

 

 

 

 ミシガンが問いかけてくる。

 

 

 

「僕は村を出るよ。」

 

 

 

「何で!!」

 

 

 

「ずっと考えてたんだ。どうしたら僕はミストの村に償えるかを。」

 

 

 

「そうだよね!カオスはずっと頑張ってきた!それが何で村を出るって話になるの!?」

 

 

 

「騎士団が来てミストもヴェノムに怯えずに住む。だったら僕はもうこの村には必要なくなるんだ。」

 

 

 

「必要だとか必要じゃないとかそんなの考えなくてもいいじゃん!カオスはここにいてもいいんだよ!?」

 

 

 

「全ての人が僕を許せる訳じゃないんだよミシガン。僕がいるだけで嫌な想いをする人だっているんだ。」

 

 

 

「そんなの勝手に思わせとけばいい!!カオスは何も悪いことなんてしてない!!堂々としてればいいのに!!」

 

 

 

「どっちにしても僕は指名手配犯になるんだ。もうこれ以上は村に迷惑は掛けられないよ。ミシガンにも。」

 

 

 

「その思い込みが迷惑よ!何で!?何で伝わらないの!?私はカオスに戻ってきてもらうためにやってきたのにどうしてカオスは遠ざかって行っちゃうの!?あの人みたいに村や私たちを置いていくの!?」

 

 

 

「ゴメン、ミシガン。もう決めたんだ。」

 

 

 

「ねぇ~、どぉしてぇ?どぉしてそんなに私のことから逃げるの?」

 

 

 

「……」

 

 

 

「どうして一人で何でも決めちゃうの?カオスがいなかったら私は………」

 

 

 

「………ゴメン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス。私のために……スミマセン。」

 

「もう僕が決めたことだからいいんだよアローネ。」

 

「ですがお姉さんのことは!」

 

「こうなるってのは分かってたんだ。ミシガンは僕を家族みたいに思ってるから。」

 

「私が……私一人が出ていくだけでいいのでは。」

 

「アローネは地図とか分かる?」

 

「それは……」

 

「一人じゃ心配だよ。飢えて倒れちゃいそうだし。」

 

「それは私の事情であって…。」

 

「乗り掛かった船だ。このまま一緒に行こう。もとから僕はあの村にいないも同然なんだ。」

 

「カオス…。」

 

「それに僕も目的があって出るんだ。アローネがいたから切っ掛けになってよかったよ。」

 

「……貴方は優しい人だと思っていましたが強引なところもあるのですね。」

 

「そうかな?そうなのかも。」

 

「けど私の国が何処にあるのかも分からないのに…」

 

「それはさ、他の街をまわって少しずつ情報を集めて行こうよ。そうすれば何処かでウルゴスのことが分かるかもしれないよ?」

 

「カオスはいいんですか?私にはカオスに何かお返しするものもないのに…。」

 

「お返しなら前払いでもう貰ってるよ。」

 

「貰ってる?」

 

「この数日間、本当に楽しかったんだ。こんな人殺しに生きる活力が貰えただけで満足だよ。」

 

「私は別に…。」

 

「あと、一人旅ってなんか勇気湧かなくてさ。誰か一緒に着いてきてくれたら物凄く助かるんだけど。」

 

「……」

 

「ダメかな?僕と一緒じゃ!」

 

「……こんな私でよろしければ喜んで。」

 

「ありがとう!アローネが一緒にいてくれるだけで心強いよ。」

 

「私も同じです。カオスと一緒ならウルゴスも見つかると思います。」

 

「じゃあ、まず始めに出発の準備して近くの街へと行こう!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都 宿

 

 

 

「で、今ある情報は何処まで調べてる?」

 

「奴等が王城の何処かでヴェノムの研究をしているということを掴んでいます。出処は奴等の息のかかった研究者を追ったところ研究資料を屋敷から王城へと運び出していたので間違いないかと。」

 

「奴等め、これ以上権力を欲して何がしたいんだ!」

 

「ダレイオスとの停戦が続いてからは大人しくしてると思ったらまた戦争の準備を始めていると聞きます。このまま行けばいずれは…。」

 

「そうなった場合、奴等は邪魔な部隊を真っ先に前線に立たせるぞ!我等も例外ではない!」

 

「我々がいなくなればマテオは奴等の手に落ちたも同然…。」

 

「あの方さえ戻られたら…。」

 

「……」

 

「すまない、お前はその場にいたのだったな。」

 

「いえ…」

 

「だが王妃様に奴等の暴走を止めるすべなど…」

 

「ならどうする!?この先に見える未来は確実に奴等の独裁だぞ!そうなればこの国は滅ぶ!」

 

「滅びはしない。滅びはしないが奴等に逆らうことすら出来ない奴隷国家として繁栄していくだろう。」

 

「そうならないためにも奴等の研究資料だけでも奪取しなければならない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダリントン隊長、その任務引き受けます!バルツィエを必ず倒しましょう!」

 

「ウインドラ、アルバート様の弟子である君がこちらについてくれて心強いよ。」



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戦闘について

 青年カオスはブラム達騎士団を撃退し拘束されたアローネを解放する。

 その一件からカオスは村を発つことを決めるがミシガンと決別してしまう。


捨てられた村旧ミスト

 

 

 

「よし、アローネ準備は出来た?」

 

「えぇ、もう出来ました。ですがこれから何処へ向かうのですか?」

 

「村に残ってた地図を頼りに一番近い街から情報を探していこうと思うんだ。古い地図だけど二人ともこういうことに関しては初心者だから手探りでいくしかないしね。」

 

「そうですね。私も土地勘もないですし。」

 

「ここからだと……少し遠いけど森を抜けてこのムスト平原を通るとリトビアってとこにつくみたいなんだ。そこを目指そう。」

 

「分かりました。」

 

「食事とか寝るとこは野営になるんだけどアローネは平気?」

 

「平気ですよ。こう見えても義兄のおかげでいろいろなことを知ってるんです。」

 

「お義兄さん、野営とかの経験あるんだ!?」

 

「小さいときは屋敷から出してもらえなかったのですが私が退屈してると義兄がこっそり連れ出してくれたんです。日帰りではありましたが義兄が王都の周辺でキャンプに使っていた場所に行き野営の仕方も教えていただきました。」

 

「話には聞いてたけどお義兄さん、何でもやってるんだね。家庭教師とか医学とか…」

 

「多才な人ではあったんですよ?本当に多才な人ではあったのです…。ですがそれを認めない人が大勢いて義兄も相当な苦労をしてきたんです。」

 

「力があるのにそれを認めないだなんて間違った世の中だね。」

 

「私もそう思います。」

 

「じゃあ、このまま森に進んでも大丈夫そうだね。」

 

「えぇ、行きましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストの森

 

 

 

「ふぅ…、やはりこう要り組んだ場所ですと少々疲労を感じますね。」

 

「アローネはお嬢様なんだもんね。仕方ないよ。」

 

「屋敷では義兄と姉の教練に私も参加させてもらって魔術の勉強をしていたんですよ?体力には自信あります!」

 

「そうみたいだね、この間も魔術でヴェノムを撃退してたし。どのくらい使えるの?」

 

「基本六元素は全て使えますよ?」

 

「へぇ~、ウルゴスではみんな使えるの?」

 

「騎士団や戦闘に関係した職の方々は使えたと思いますよ。それぞれ属性に不得意があるので基本は一、二属性を極めるのが通例です。」

 

「そうなんだね。ミストの村では三つか四つ使えるのが普通だったよ。」

 

「属性は六つありますがそれぞれに攻撃系と補助回復系があるのはご存知ですか?」

 

「補助回復系?ファーストエイドのこと?」

 

「そうですね。それも補助回復系の一つです。無属性の回復魔術になりますね。」

 

「無属性?」

 

「単純に基本六元素の枠組みに当てはまらない属性のことです。」

 

「七番目の属性ってことだね。」

 

「はい、私はその中でも風の魔術が得意のようです。」

 

「風の魔術かぁ。後衛タイプ?」

 

「どちらかというとそうですが前衛も出来ますよ。カオスは両方出来ますか?」

 

「………僕は前衛だけかな。魔術は使えないんだ。」

 

「魔術が使えない?」

 

「そのかわり魔神剣が使えるからそこまで遠くでなければ離れた距離からも攻撃できるよ。」

 

 

 

ガササッ!!

 

 

 

「分かりました。それでは私が状況を見て両方を務めますのでカオスは前衛に従事してくださいますか。」

 

「あぁ、それで行こう。さっそくモンスターも来たみたいだしね!」

 

 

 

「「ガアアッ!」」

 

 

 

「こいつらは………トレントだ!僕が引き付けるからアローネは離れて魔術を!」

 

「はい!」

 

 

 

「えいやぁぁぁぁ!!」

 

 接近して一体のトレントを斬りつける!

 

 

ザシュッ!

 

「…ゴアッ!?………アアアッ!」

 

 

 

 植物系のモンスターだけあって一撃じゃ決められない。

 

 

 

「『烈風よ、我が手となりて敵を切り裂け』……ウインドカッター!」

 

 

 

ザッ!ザッ!ザッ!

 

 

 

 仕留めそこなったトレントをアローネが空かさず追撃を加える。

 

 

 

「ありがとう!アローネ!」

 

 

 

「まだ終わってませんよ!後もう一体です!」

 

 

 

 アローネの指摘通りもう一体が迫る。

 

 

 

「間に合わない!ウインドカッター!」

 

 

 

ザザザッ!

 

 

 

 アローネがウインドカッターを放つが詠唱なしでは先程の威力は出ず枝を切り落とすだけで終わる。

 

 

 

「グアオッ!」

 

 

 

「…ッ!」

 

 

 

 トレントがアローネに突進する。

 

 

 

「アローネ下がって!魔神剣!」

 

 

 

スパァンッ!!

 

 

 

 アローネとトレントが接触する寸前に魔神剣でトレントを斬り飛ばすことに成功する。

 

「これで全部片付いたね。」

 

「えぇ、もう安全ですが。」

 

「どうしたの?」

 

「カオスはエルブンシンボルかエルブンリングを装備していますか?」

 

「エルブンシンボル?とエルブンリング?」

 

「そのご様子では装備していないのですね。ではどうやって闘気術を…。」

 

「闘気術?」

 

「それもご存知ないのですか?」

 

「もしかして魔神剣のこと?そういう種類とかあるの?」

 

「先程のエルブンシンボルとエルブンリングは紋章や指輪の形をした装備品です。これを装備すると装備者の能力を上昇させる効果がありましてウルゴスでは皆がこれを装備していたのでカオスもかと思ったのですが。」

 

「僕は特に着けてないよ?」

 

「無装備ということですか……先程の魔神剣も?」

 

「え?魔神剣は昔から練習してたら出来るようになったんだけどマナを消費すれば誰でも出来るもんじゃない?ブラムさんだって使ってたし。」

 

「捕まってから分かったのですがあの騎士の方々は皆エルブンシンボルを装備していたので使えても不思議ではありません。」

 

「ってことは普通は使えないの?」

 

「魔術は通常ならエルブンシンボルを利用しなくても人なら誰でも使えます。ですが闘気術に関してはよほどの特殊な例でない限りエルブンシンボルやエルブンリングなしで使える例は聞いたことがありません。マナを扱うことは本来呪文や魔法陣を作ってから行うのが効率的なので時間がかかるものなのです。」

 

「魔神剣ってそんなに難しいものだったのか…。それが使えるってことはこれも殺生石の力なのかな。アローネもそのエルブンシンボルって言うの装備しているの?」

 

「えぇ、今は服の中なのでお見せできませんが装備はしています。」

 

「服の中?」

 

「肌に直接触れさせた方が効能が高まるのです。」

 

「ふ~ん?そういえばアローネは前衛も出来るって言ってたけど武器とかは持たないの?」

 

「武器ですか。実は今既に装備しているんですよ?」

 

「………何処にあるの?」

 

「これです。」

 

「上着?」

 

「はい、これは特注で大気中のマナに干渉する術式を施しています。これを装備しているだけで通常よりも魔術を効率よく使用できます。」

 

「通りでよく光る服だと思ったらそんな凄い服だったんだね。」

 

「それを言うならカオスのその木刀もかなりの業物だと思いますよ?」

 

「木刀が?」

 

「木刀がモンスターを切り裂いたり鉄の剣と斬りあえるなんて想像できませんもの。」

 

「おじいちゃんが木刀作ってるのを見よう見まねで作っただけの簡単なやつだよ。」

 

「ではこれといった特殊な加工をしているということではないんですか?」

 

「敵を切り裂いてるのは木刀にマナを纏わせて斬りつけてるからだよ。そうした方が威力上がるしね。」

 

「……簡単に言ってますがそういうことは通常戦闘用の装飾品を装備して可能なのであって素で出来る人はいませんよ。」

 

「アローネはお嬢様なのに戦闘に詳しいね。」

 

「こういうのはむしろ貴族の方が詳しくなくてはいけないのですよ。日頃から敵国だけでなく同じ国の身内同士で命を狙われたりするので。私もよく狙われました。」

 

「結構危ない内容だと思うんだけどさらっと言ったね。大丈夫だったの?」

 

「大丈夫です!困ったときは義兄に助けてもらいましたから。この魔導服も義兄の作品の一つなんですよ!」

 

「……最初は面倒見のいいお義兄さんの話だったんだけど何だか不憫に思えてきたよ。働きすぎでしょ。」

 

「言われてみれば……義兄は常に何かしら研究と私達姉妹の相手をしていましたね。」

 

「そんなに働きづめだと体壊したりしないか家族とかも心配だったんじゃない?」

 

「義兄は天涯孤独の身で家族はいませんでしたよ。いるとしたら結婚して身内となったクラウディア家のみ。」

 

「……聞いちゃ不味い話かな。」

 

「不味くはないですよ。義兄のお母様はヒューマで義兄を産んでから亡くなっています。お父様は誰なのかは知らないそうです。」

 

「話してよかったの?」

 

「私は義兄の、ハーフエルフのことをもっと世界の人に知ってほしいのです。ハーフエルフはこんなにも優秀で朗らかなのにどうして差別されなければならないのか。恐らく皆が周りに流されてよく知らないのに差別しているだけだと思うのです。私はそれを消し去りたい。」

 

「差別か…酷い話だね。」

 

「ハーフエルフを知ってもらえたらそんな意識は無くなると思います。そうしてエルフもヒューマも自分を見つめ直してみて悪いのはハーフエルフではなくその差別をする人の心だということを私は世界に伝えたいです。」

 

「悪いのは……人の心か。」

 

「カオスはハーフエルフに出逢っても優しくしてあげてくださいね。彼等は愛情に飢えていますから。」

 

 

 

 愛情に飢えている。

 

 そのフレーズを聞いて自分も昔はそうだったと思う。

 

 無能な僕は人から相手にされなくなるのが怖くて何でも全力だった。

 

 僕が真面目と言うことを知ってもらえれば周りの皆は僕のことを構ってくれるから。

 

 それでも限界はあった。

 

 魔術を使えば簡単に火をおこしたり、服を洗ったりと生活には便利である。

 

 それが出来なかった。

 

 優しいのは最初だけ。

 

 僕が出来ないことはたくさんあった。

 

 皆はそれが出来る。

 

 僕が出来ることは少しだけだった。

 

 皆はそれが出来て当たり前。

 

 年を重ねるごとに自然と周りは少なくなる。

 

 甘えてられたのは本当に小さい子供のときだけなんだ。

 

 そうして僕はウインドラやおじいちゃんくらいしか相手にしてもらえなくなった。

 

 本当はもっと多くの人に構ってほしかった。

 

 ウインドラが誰かの相手をしてるとそれを見て嫉妬したりもした。

 

 けど不満は漏らせなかった。

 

 その不満をぶちまけてしまうとウインドラも僕から離れていってしまうと思った。

 

 

 

 何故今こんなに昔の自分を思い出すのだろう。

 

 ハーフエルフが僕に重なって聞こえるからかな。

 

 実際のとこは僕の幼少期はそのハーフエルフよりも救いがなかった。

 

 魔術を使えただけましだろうに。

 

 

 

 ………ダメだ、何を知らない人達に嫉妬してるんだ僕は。

 

 こんな思考ではアローネの言う心の悪い人ではないか。

 

 痛みを知っている僕がこんなんではいけないな。

 

 先ずはその人達を知ってからでないと。

 

 

 

 

 

 

 



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本当の自己紹介

 青年カオスはアローネと二人で旧ミストを離れることを決意する。

 モンスターとの戦闘も交えてカオスはアローネから戦闘の知識をおしえてもらう。


ムスト平原

 

 

 

「おぉ~、森を抜けたぁ~。」

 

「長かったですね。途中何度もモンスターに襲われたので疲れました。」

 

「じゃあ今日はこの平原で野宿しようか。」

 

「はい、そうしましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「薪はこのくらいでいいかな。」

 

「では火をつけますね。ファイヤーボール!」

 

 

 

ボッ!パチパチッ!

 

 

 

「有り難うアローネ。」

 

「このくらいいいですよ。」

 

「アローネがいなかったら火を起こすのも一苦労だよ。」

 

「カオスは本当はマナを扱えるのでしょう?何故使わないのですか?」

 

「アローネは結構深いとこまで聞いてくるね。」

 

「私は義兄のように偏見で見られたりすることが嫌ですから。これから旅をする貴方のことを何が良くて何が良くないかはもっと知っておきたいのですよ。」

 

「そうなんだ。……まぁ話すけど僕は前に魔術を使ったら大変なことになったんだ。」

 

「大変なことに?」

 

「前にも言ったけどあの当時は自分が魔力欠損症で少し魔術を使うだけで限界を簡単に越えてしまう………そう思ってたんだ。」

 

「でも違ったのでしょう?」

 

「うん違った。村にヴェノムが現れて一度魔術を使ったんだけどその時は気絶しちゃって覚えてないんだ。そしてもう一度使ったときはハッキリ覚えてる。」

 

「その時はどうなったのですか?」

 

「僕はその時………ヴェノムに食いつかれていた。身体中をヴェノムに包まれて体がバラバラに溶かされようとしてた。周りは見てなかったけど一斉にヴェノムが襲いかかってきたらしくて僕以外にも襲われている人は大勢いたんだ。」

 

「よくぞご無事で……。」

 

「もう痛みとかそんなのどうでもよかったんだ。おじいちゃんも僕が襲われる前にヴェノムに感染して苦しんだ末にいっちゃって……。」

 

「………」

 

「そうしてヴェノムに包まれて意識を失いかけたときにね。声が聞こえたんだ。」

 

「声?それは村の人達のですか?」

 

「分からない。村の人じゃないかもしれない。その声は今でも眠っているときとかに聞くことがあるんだ。その声は何だか悲しそうな声で何かを言うんだ。なんて言ってるかは毎回忘れちゃうんだけどその声を聞いたら僕がなんとかしなくちゃって思って、それで無意識のうちに魔術を使ったんだ。」

 

「……それで村は助かったのでしょう?今こうしてあのミストがあるということは。」

 

「そうだね。僕が発動した魔術でミストと森の広範囲にいたヴェノムを消し去ったよ。」

 

「なら何故カオスはあの村から批難されているのですか?」

 

「………」

 

「カオス?」

 

「………さっき僕が襲われているときに他にも襲われている人がいたって言ったよね。」

 

「……まさか!?」

 

 

 

 

 

 

「その時発動した魔術でヴェノムとゾンビだけでなくほんの少し掠り傷をおった人達も一緒に消し飛ばしたんだ。」

 

「……」

 

「まだ意識があった人もいた。必死にヴェノムから逃げ惑う途中の人もいた。その人達も消したんだ。」

 

「それがカオスが頑なに魔術を使わない訳…。」

 

「僕が救う救わないで救えなかったとかいう比喩の話じゃないんだ。単純に僕が殺した。僕が発動した魔術で。」

 

「スミマセン…カオス。そんな話だとは…。」

 

「いいんだよ。別に隠してたんじゃない。むしろ知って欲しかった。僕は魔術を制御できないから次に発動したとき抗体を持ってる人も巻き添えにしてしまうかもしれないからね。」

 

「それは私も………ということですか?」

 

「僕の見立てではアローネも抗体持ちだと思う。とにかく僕の力はヴェノムとヴェノムを触ったことがある人も影響下にあるから村の人からしたらヴェノムも怖いけど僕も怖いんだよ。」

 

「………もういいです。」

 

「気にしなくていいよ。人に話せばしっかりと自分の罪と向き「もういいのです!」」

 

 

 

「今日までのカオスを見てきて分かりました!カオスはずっとその事を後悔していることを!カオスがずっとその事を負い目に感じて村の人と同じように自分を責めているということも!」

 

「アローネ…。」

 

「本当は貴方はミストの村から離れたくなかったのではありませんか?貴方が村を離れる決意を決めたのは私に気を使って着いてきてくれたのもあるのでしょうが、本当はミストから離れたくなかった。だから私に着いてきた。」

 

「!」

 

「そうすることで貴方は貴方が苦しむ事を望んだから。」

 

「僕は………そんな風に………思って……なんて。」

 

「カオスは優しいところと強引なところもあります。それ以上に今の話を聞いて自己顕示欲が強いのかもしれません。そうした幼少期の心の傷が貴方を子供のまま成長させてしまった。」

 

「僕が………子供…?」

 

「自己顕示欲が自慢話とかであれば良かったのですが今の貴方からは贖罪だけしか感じません。

 

 貴方の贖罪と顕示欲が合わさってそんなトラウマのようなことをを何でもないようなことみたいに話せるのですね。」

 

 

 

 贖罪に顕示欲か。

 

 確かにそうだったのかもしれない。

 

 僕は罪を償っているつもりでいたが周りから見たらそんな自己満足に見えてたのかも。

 

 だったら僕はどうしたら罪を償えたのだろうか。

 

 僕のしてきたことが自己満足で何の償いにもなっていなかったなら今まで僕は何もしていなかったのではないか。

 

 

 

「アローネ、有り難う。」

 

「………どうしたのですか?」

 

「アローネに指摘されるまで全然自分のことを見つめ直すことが出来なかったよ。僕がどんな気持ちで臨んでいたかを見直すことが出来た。僕はアローネのおかげで前に進めるんだ。」

 

「それほどのことは言ってませんが……カオスは怒らないのですね。」

 

「怒る?」

 

「私は出逢ってから昨日までカオスに助けられっぱなしでその上で先程のような偉そうな指摘を…。」

 

「大丈夫だよ。アローネは昨日捕まりかけたんだ。それで不安定になってたのかもしれないし。言われたことに関しては素直に受け止めたよ。」

 

「……スミマセン、カオス、私は本当は嫉妬していたのです。」

 

「嫉妬?」

 

「私は、私のウルゴスは昨日の騎士団の話でこのデリス=カーラーンにはないと聞いて私は心の支えを失いました。

 

 棺のこともあってすんなりとその事実は受け止められました。

 

 ですが心の中では、

 

 何故こうなってしまったのか。

 

 私は何故私の最後を思い出せないのか。

 

 と焦りで情緒不安定になっていました。

 

 私にはもう居場所はないのかとストレスがあったのかもしれません。

 

 

 

 そんな私にカオスはカオスの居場所を捨てて私についてきてくれると言ってくれました。

 

 私は嬉しさと同時に嫉妬したんです。

 

 貴方が貴方の居場所を放り捨てることに。」

 

「……」

 

「本当に申し訳ありません。カオス初日の夜からこんなに最悪な空気にしてしまって…。私がでしゃばるからこんなことに…。もしカオスが私と行動するのが嫌になったのなら「安心した。」」

 

「安心したよアローネ。」

 

「安心……何故?」

 

「僕は一人だったから子供のままじゃいけないと思ってしゃべり方とか生活とかを自分なりに気を使ってた。

 

 けど今指摘されたみたいにそれにも限界があったんだ。

 

 やっぱり中身は子供なんだと思う。

 

 それが恥ずかしいとも感じる。

 

 だけどアローネも完璧じゃないんだって聞いて安心した!

 

 アローネは同じくらいの年に見えるのに口調から動作まで何でも大人みたいで差を感じてた。」

 

「私はそんなに大層なものでは…。」

 

「僕の主観で見た印象だよ。

 

 アローネは貴族のお嬢様で家事や料理何でも出来て完璧な理想の大人だった。

 

 それでも僕見たいに感情を吐き出すこともあるんだって知れて良かったよ!」

 

「……私だって普通の人のつもりです!それくらいありますよ!」

 

「初日からアローネとこう言い合えて良かったよ!

 

 アローネの本音を聞けた気がするよ。」

 

「………それほどのことは言ってませんよ。」

 

 



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盗賊の襲撃

 青年カオスは森で出会った女性アローネと村を出ることを決意する。

 森を抜けてムスト平原に着いた二人はほんのささいな衝突をする。


ムスト平原 夜

 

 

 

「今日はいろいろ収穫だったよ。アローネ。」

 

「貴方といると本当に暗い悩みも吹き飛んでいきますね。」

 

「ん?褒めてる?」

 

「最高に褒めているつもりですよ。」

 

「アローネ何だか雰囲気変わってきたね。

 

 口調は変わらないんだけど言うことが家族みたいに近いというかえぐいと言うか。」

 

「それは褒めてます?」

 

「え?正直な感想だけど?」

 

「そこは嘘でも褒めてるというんですよカオス…。」

 

「?」

 

「まぁ、お互いに親睦を深められたと感じられたなら今日が今日のままで良かったと思います。」

 

「そうだね。出逢って数日だけどまだ知らないことも沢山在るようだからこれから知っていこう。」

 

「フフッ、そうしましょう。それでは今日はもうこのまま明日に備えましょうか。」

 

「そうだね、もう日も落ちてから時間経つし明日も移動だけだから「ガサッ!!」!!」

 

 

 

「アローネ。」

 

「はい気付いてます。」

 

 話に夢中になる間に敵の接近を許してしまったようだ。

 

「モンスターでしょうか。」

 

「この感じは………モンスターではないな。」

 

「分かるのですか?」

 

「森に長らくいたから野生の生物の気配の消し方は知ってるよ……………おい!隠れてる奴等出てこい!」

 

「「「「………」」」」ザッザッザッ

 

「四人か。」

 

「この方達は………風貌からして盗賊でしょうか?」

 

 その場に現れたのは三人の男と一人の子供だった。

 

 

 

「こんな平原に火を焚いてる奴がいると思ったらガキが二人で何してんだぁ?」

 

「まさか旅行で回ってんじゃねぇんだろ?」

 

「まぁ、そんなこと聞いても興味はねぇがな。」

 

「……」

 

 

 

「……それで僕達に何の用ですか?」

 

「用だと?分からねぇか?つってもお前らハブり悪そうだな。」

 

「金も持ってなさそうだし女だけ回収しとくか。」

 

「おい!お前は今すぐ痛い目見たくなかったら女置いて消えな!」

 

「…」

 

「やっぱり盗賊だったね。」

 

「そのようですね。どうしましょう。」

 

「そんなの決まってるでしょ?」

 

「そう言うと思ってました。」

 

 

 

「相談してんじゃねぇ!ファイヤーボール!」

 

 

 

ボォォォッ!

 

 

 

「ハッハァァァ~ッ!!さっさと消えねぇからそうい「ドスッ!」」バタッ

 

「「「!!!」」」

 

「後三人だね。」

 

「バーラァ!!」

 

「テメェ!」

 

「攻撃してきたのはそっちだろう?狩られることも念頭に入れときなよ。」

 

「ふざけんじゃねぇ!ウインド「ウインドカッター!」」ザクザクザクザク!!

 

「ギャァァァァ!!」

 

「女と思って油断しましたね。私も戦えるのです!」

 

「これで二対二だね。」

 

「クッ!タレス!!ここはお前に任せる!」

 

 そういって残った一人の男が駆け出す。

 

 

 

「逃げた?」

 

「ですが一人残ってます!」

 

 二人は気絶させた。

 

 後はこの鎖鎌を構える少年だけだった。

 

「君も戦うの?」

 

「…」

 

「何もしないならこのまま見逃すけど?」

 

「…」

 

「…」

 

「…………………………………」

 

 

 

ブンッ!!!!

 

 

 

「!!」

 

 突如少年が鎖鎌をこちらに投げる。

 

 

 

キキィッン!!

 

 

 

 一瞬反応が遅れるが木刀で弾く。

 

 殺意のこもった鋭い一撃だった。

 

「…」

 

 タレスと呼ばれていた少年は虚ろな目でこちらを見る。

 

 その目は黒く深い闇を映していた。

 

「何があったらそんな目が出来るんだよ……。」

 

「……」ブンッブンッブンッ!!

 

 鎖鎌を振り回し始める。

 

 回旋する鎖鎌はタレスから半径三メートルの草を刈り取る。

 

 その様からは遠心力によって相当な運動エネルギーが込められていることが分かる。

 

 まともに当たったら相当のダメージになる。

 

 

 

 

 

「……」ビュッ!!

 

 

 

「!」

 

 その鎖鎌は前方の僕ではなくその後ろにいたアローネに向けて投擲された。

 

「アローネ!!」

 

「…!」

 

 

 

 僕はその一撃を横から突き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タレスはその隙を見逃さなかった。

 

 いつの間にかタレスは僕の懐にまで接近していた。

 

 そして、

 

 

 

「…」シュッ!!

 

 

 

 手甲の鉤爪で斜め一閃に振り切る!

 

 

 

スパッ!ビシャシャシャッ!!

 

 

 

「カオス!?」

 

 辺りに鮮血が飛び散る。

 

 鉤爪は左肩から右脇腹を切り裂きカオスは全身が赤に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで…もう終わりかな?」

 

 

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

「今日はもう休みたいんだけどまだ続ける?」

 

「か、カオス!?無事なのですか!?血が!血が出血してますけど!?」

 

「血が出血?あぁ、このくらいの怪我なら森でモンスターと戦ってたときにしょっちゅうしてたよ。」

 

「ですが……痛くはないのですか?」

 

「痛くないわけじゃないけどまだまだ許容内だよ。……で君はまだ………?」

 

 

 

「……!???」

 

 さっきまで無表情で攻撃してきたタレスは顔を青ざめさせて狼狽している。

 

 血を見るのは初めてか?

 

 いや、さっきの鎖鎌の躊躇のない一撃からして殺すのは馴れてそうだが。

 

 そうしているうちにタレスは戦意喪失したように腰を抜かしている。

 

 何に脅えてるんだ?

  

「どうしたの君?」

 

「……」フルフルッ

 

 様子がおかしい。

 

「何を怯えているんだ?」

 

「……!!!?」ズリッズリッ

 

 タレスが後ずさる。

 

「?」

 

「……!!」ズリッズリッ

 

 このまま逃げるのだろうか。

 

「立って逃げた方が早いと思うんだけど。」

 

「カオス、血塗れの貴方が怖くて立てないんでしょう。」

 

「え!?」

 

「こんな小さな子供を脅しているようにしか見えませんよ?」

 

「そんなつもりは…。」

 

「後ろから見てたらそうとしか見えないのです。下がっててください。」

 

「はい…。」

 

「コホン、…貴方お名前は………あら?」

 

 

 

 

 

 タレスは急に地面に踞って小刻みに震える。

 

 これは……

 

「降参ってことでよろしいみたいですね。」

 

 タレスのその土下座を見て僕達はそう受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで貴殿方は何者なのですか?」

 

 さっきタレスが投げた鎖鎌で気絶していた男二人とタレスを縛り上げる。

 

 当然鉤爪やその他の武器も押収しておいた。

 

「俺たちゃこの周辺を根城にしてる盗賊団ダークディスタンスの一員だ。」

 

「ダークディスタンス?」

 

「知らねぇのかよ!前に近くの街を襲ったせいで王都から頭が札付きになった手配書が回ってんだぞ!?」

 

「知らないなぁ。」

 

「知りませんねぇ。」

 

「へっ!とんだ田舎者だな!お前ら街とかに行ったことあんのか!あぁ!?」

 

「…」ゲシッ!

 

「へぶぅっ!?」

 

 縛られて動けないのにどうしてこんなに態度がでかいんだろうなぁ。

 

「そのブラックディスターがどうして僕達のとこへ?」

 

「ブラックディスターじゃねぇ!ブラックディスタンスだ!舐めてんのか!?」

 

「…」ゲシッ!

 

「うぶぅッ!?」

 

「どうして僕達のとこへ?」

 

「うおぉぉっ……、いてぇ。お前らのとこに来たのはこんな夜中に火付けてたから旅商人でもいるのかと思って襲いに行ったんだよ。」

 

「ふ~ん、旅商人ねぇ。でこうなったわけだ。」

 

「へっ!こんな金も持ってなさそうなガキ二人に当たった上にやられるなんざついてねぇぜ!」

 

「…」

 

「!?」ビクッ

 

「ねぇ」

 

「な、何だよ!?蹴るのか!?」

 

「そうじゃないよ一つ聞いていいかな?」

 

「んだよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「金って何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「は?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやだから金って何なのかな~って…。」

 

「か、カオス?」

 

「金は金だろ?」

 

「そうだ、そこら辺の奴等なら皆持ってんだろ?それを俺らが奪って…」

 

「その金っていうのは何か畑の肥料にでもなるとかかな?」

 

「なるわけねぇだろ!何言ってんだお前!?」

 

「土に撒いてどうすんだよ!?」

 

「…」ゲシッ!ゲシッ!

 

「「グオッ!」」

 

 

 

「…で?」

 

「はい?」

 

「その金っていうのを何に使うつもりなんだ?」

 

「な、何って…」

 

「あ、あれば困らねぇし多いにこしたことはねぇよな?」

 

「だから何に使うんだ?」

 

「沢山集めるんだよ!?」

 

「沢山あれば一生暮らせるだろ!?」

 

「………察するにそれはとても重要なアイテムのようだね。」

 

「重要なって…。」

 

「そりゃあ国で生きていく上では重要なアイテムと言えなくもねぇが…。」

 

「フム、なるほど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 要するに食材のことだね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「違ぇぇぇよ!!」」

 

 

 

「え!?マジか!?マジなのかコイツ!?本気で言ってるのか!?」

 

「じょっ、冗談だろ!?何で金を知らねぇんだよ!?」

 

「ん?食材じゃないの?」

 

「カオス、お金は食材ではありません…。」

 

「アローネは知ってるの?お金?金?」

 

「お前!その服とか木刀はどうやって手に入れたんだ!?本当はお前も盗賊とか追い剥ぎなんじゃねぇのか!?だから金のこと知らねぇんだろ!?」

 

「…また盗賊か。二度目だぞ。」

 

「何だよそれだったら早く言えよ!同業者かよ!驚かせやがって!お前らはなんて名前の盗賊団なんだ?」

 

「「盗賊じゃない!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かりましたかカオス。」

 

「お金って大事なものなんだね。村じゃ全く見ないから知らなかったよそんなのがあるなんて。」

 

 村の外の世界ではお金というものをまわして服や食材をもらえるのか。

 

「そうです。資本は大事ですよ。街に泊まったりするときや物を購入したりするときに必要でお金がないとなにもできなくなったりすることもあるんです。」

 

「そうなんだ。お金ってどんなのか分かる?」

 

「お金は…」

 

「何だお前!金すら見たことねぇんだな!どんだけ田舎者なんだよ!仕方ねぇな!このバーラ様の金をちょっくら見せてやるよ!おい!俺様の腰に付いてる袋を開けてみな!」

 

 そう言ってバーラと名乗る盗賊が腰を浮かす。

 

「どれどれ……。」

 

 バーラの腰の袋を漁ると中には軽めの円い何かがぎっしりと入っている。

 

「これが……お金?」

 

「そうだよ!この間成功して儲けがいいからなぁ!二万ガルドはあるぜ!」

 

「……ガルド。」

 

 お金とやらを観察しているとアローネもお金を凝視している。

 

「どうしたのアローネ?」

 

「いえ、私の知っているお金と形が違ったので…。」

 

「形が違うだぁ?女ぁ、もしかしてお前もダレイオスの奴隷ってんじゃねぇんだろうなぁ?」

 

「お前も?私の他にもいるのですか?」

 

「一緒に縛られてるこのガキもダレイオスから拉致ってきた奴隷だよ!」

 

「……」

 

「この子が?」

 

「そうさ。前に襲った街の領主んとこにいた奴隷でな。領主の所のガキと勘違いして連れてきちまったんだよ!」

 

「どうやら魔術で抵抗出来ねぇように喉を潰されてるみてぇでな!コイツ声も出せねぇし魔術使えねぇ能無しなんだよ!」

 

「「!!」」

 

「最初は身代金にもならねぇから放り出そうとしたんだけどな。コイツ泣きそうな顔でスケッチブックに何でもするから捨てないで下さいって書いて見せてきたんだよ。そしたらお頭が捨て駒にでもとっとけって言うから俺達が使ってやってんだよ。」

 

「「……」」

 

「ガキの腕力じゃ話にならねぇからってこの振り回せる鎌持たせてたが結局ダメだったな。ゴミはゴミ程度しか働かねぇ。」

 

「大体ダレイオスから拉致られてきた時点で生きるの諦めろっつーの。何が捨てないで下さい、だ。どうせ長生きしたところでこのガキはろくな目にしかあわねぇんだからよ。」

 

「そこら辺に捨てとけばヴェノムに食われてお仕舞いだしな。誰かが生かしといてやんないとダメなクズなんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、アローネ。お金って使ったら無くなるよね?どうやって増やせばいいの?」

 

「「は?」」

 

「そうですね。一般的には仕事というものをしてお給料をもらうか、物を売ったりしてその対価を得たりですね。」

 

「そうなんだ。じゃあ物を売るってのはどういったものが売れるの?」

 

「鉱物や素材といったものを高値で取り引きして貰える市場もありますよ。」

 

「へぇ~、だったらこの盗賊っていくらぐらいで売れるの?」

 

「「!?」」

 

「先程この盗賊団のお頭様が手配書を作られたらしいのでそれなりに高値で引き取って貰えるでしょう。」

 

「そっかぁ~嬉しいなぁ。お金は沢山あった方がいいんだもんね?」

 

「勿論です。お金が沢山あれば一生暮らしていけるそうですからね。」

 

「お、おいおい!何言ってんだよ!?俺達を突き出せばダークディスタンスが黙っちゃいねぇぞ!?四六時中狙われることになるぞ!?」

 

「俺たちゃダークディスタンスだぞ!?そんじょそこらの下級盗賊じゃねぇんだ!?まさかボス達にまでケンカ売る気じゃねぇだろうなぁ!?」

 

「あいにくと放浪旅でね。どうやら僕達、暇とお金に困ってるらしいんだ。」

 

「長旅には旅費が掛かるんですよ?」

 

「お前らおかしいって!たった二人でどうすんだよ!?悪いことは言わねぇ!さっきの金やるからここは俺達を逃がしてお互い見なかったことにしようや?」

 

「貰えるのなら有り難く貰っておくよ。但し戦利品としてだけどね。」

 

「き、汚ねぇぞ!俺の二万ガルド!」

 

「開放してほしいのならそれなりの物と交換していただかないといけませんね。」

 

「それなりって…もうなんも持ってねぇよ!」

 

「もう一人の方お金持ってない?」

 

「探してみますね。えぇっ、とこの辺りかしら。」

 

「や、止めろ!姉ちゃん!俺は別に持ってな………あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「お財布見つけました!」

 

「俺の一万ガルドがぁぁぁぁぁ!!」

 

「全部で三万かぁ。相場が分からないから多いのか少ないのか分からないね。」

 

「少ないのではないでしょうか?盗賊という不安定職をしてますと一定のお金は入ってこないと思うので。」

 

「そうなのかぁ、残念だなぁ。おじさん達これじゃ足りないってさ。」

 

「ふざけんなこら!!有り金全部掠め取ってまだ足りねぇってのか!?」

 

「もう服ぐらいしかねぇよ!!ひん剥くのか!?あぁあん!?」

 

「もう一つあるだろ?情報をくれよ。」

 

「じょ、情報だと!?」

 

「私達貴殿方のことをよく知らないんですよ今日ここまで来たものでして。ですからその……盗賊団ダークタンスという方々の住んでいる場所を、教えてほしいのです。」

 

「盗賊団ダークディスタンスだ!!」

 

「そう、それを教えて欲しいんだ。そいつらは何処にいけば会えるの?」

 

「二人しかいねぇのに乗り込むのか!?命がいくらあっても足りねぇぞ!?」

 

「君らみたいな小悪党がいくら束になったところでモンスターやヴェノム以下だと思うんでね。」

 

「拝見しましたところ貴殿方は三人ともエルブンシンボルも装備していないようですし大して危険は無さそうですね。」

 

「エルブンシンボル?そんな高価なもん騎士団くらいしか付けてねぇだろ!?」

 

「なら僕達だけで十分だね。」

 

「調子に乗るのも大概にしろよ!?うちには三十人のメンバーがそれぞれ魔術を三種前後マスターしてんだ!お前らみたいな田舎者がたった二人張り切ったところで返り討ちになるのが落ちだろ!」

 

「普通だったらそうなんだけど僕達ちょっと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通じゃないんだ。」



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盗賊サハーン

 青年カオスはアローネと共に旅を始める。

 森を抜け平原へと出た二人を待っていたのは盗賊の襲撃であった。


ムスト平原 南西 魔界の森

 

 

 

「ここは……!?」

 

「………!」

 

 ここに来るまでに遠くから見て不審に思ったが近づいて確信に変わる。

 

 この森は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムの森だ。

 

 

 

「この奥に俺らのアジトはあるんだよ。」

 

「……よくこんなところで生活できるね。周りの木々や土を見て分からないの?もうここの森、死んでるよ?」

 

「やはりヴェノムは自然を破壊し尽くしてしまうのですね。ここのヴェノムは全て死んでしまった後のようですが。」

 

「ミストの森はこうはならなかったけど他じゃこうなのかな?」

 

「あの森が本当なら異例なのですよ?ヴェノムが現れた森はこのような風景になるのが普通なのです。」

 

「……この臭いってヴェノムが死んだときの!?」

 

「はい、これは障気と呼ばれるものでして生物にとっては有害です。長く吸っていたら後遺症が残るほどに。」

 

「盗賊団よくこんなところに住めるなぁ。」

 

「そこら辺の街には封魔石ってのがあんだろ?俺達盗賊は街には入れねえからよ。こんなとこでも住んでないと生きていけねぇんだよ。」

 

「どういうこと?」

 

「ヴェノムは生物のマナに引き寄せられて行動してます。そして障気はマナを寄せ付けない特性があるのでこの森にはヴェノムが近寄らないのでしょう。」

 

「そういうこった。そこらの木々さえ触らけりゃここらは空気がヤベぇだけのヴェノム避けになんのさ。」

 

「盗賊って大変なんだな。今からでも転職したら?」

 

「それができんならとっくにしとるわ!余計なお世話だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えたぞ。あそこがうちのアジトだ。」

 

 森の中を歩いていくと奥に大きな屋敷が見えてきた。

 

「随分と豪勢だね。よくこんなの作れたもんだ。」

 

「別にダークディスタンスがこの屋敷を立てたんじゃねぇぞ?この屋敷は捨ててあったんだ。」

 

「捨ててあった?」

 

「あぁ、それを俺達が拾っただけだ。こんな森だから誰も近寄らねぇし盗賊のアジトにはもってこいだったから使ってんだよ。」

 

「いいの?空気悪いんでしょ?そのうち倒れたりしたら…」

 

「そんなもん盗賊始めた時点で知ったこっちゃねぇんだよ!捕まって退屈な余生を送るくらいなら好き勝手に暴れて死ぬほうがいいに決まってんだろ!」

 

「人に迷惑かけないならそれでもいいと思うんだけど…。」

 

 

 

「おら、アジトに付いたんだ!さっさとこの鎌外せよ!いつまで三人で巻き付けたままなんだ!?歩き辛ぇぇよ!」

 

「そうだった。………アローネ入り口の方に行ってて貰える?」

 

「?分かりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だよいつまで時間かけてんだよ!鎌外すだけだろうが!」

 

「……」

 

「何だ!まだ情報が欲しいのか?何だよ何が知りてぇんだ!?」

 

「服ってさ」

 

「あん?服だぁ?服がどうしたんだ!?」

 

「…………服ってさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お金になるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盗賊団ダークディスタンス アジト入り口

 

 

 

「遅かったですね。どうかなさったんですか?」

 

「ちょっと野暮用でね。聞きたいことは聞けたからもういいよ。」

 

「聞きたいこと?」

 

「パンツは残しといたから大丈夫だよ。」

 

「はい?」

 

「何でもないよ、行こう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中は綺麗なものだね。」

 

「障気は…中には入ってないようですね。」

 

「換気はしてあるみたいだ。団員達は何人か一階にいるね。」

 

「こういうときは………どうすればいいんでしょう?」

 

「手当たり次第しかないんだけどなぁ。囲まれたりしたら厄介だし。」

 

「……」

 

「どうしたものか…。」

 

「カオスはこんな危険なことしてよかったんですか?」

 

「ん?」

 

「先程は私もカオスの口に乗ってここまで来ましたけど盗賊のアジトの情報を知っておくだけでもよかったのでは?」

 

「……」

 

「私は今更ですがカオスを無茶なことに引き入れてしまったのではないかと…」

 

「違うよ。これはアローネが気にすることなんて何もない。僕がやりたいだけなんだ。」

 

「ですが…」

 

「あの盗賊達と一緒にいたタレスって子いたよね。」

 

「あの子ですか?」

 

「なんか他人な気がしなくてね。放っておけないんだ。」

 

「確かに境遇は可哀想ではありましたがそれも街についてから警備に任せればいいのでは?」

 

「それじゃダメなんだ。それだとあの子は盗賊達と一緒に捕まるかもしれない。最悪盗賊達のボスにでもしたてあげられてね。」

 

「流石にあの年齢の子でそこまでは無理がありません?」

 

「どっちみちこのまま通報したらあの子はずっと人生を流されて終わってしまう。あの子は昔の僕みたいだから助けてあげたいんだ。」

 

「……カオスは優しくて強引で罪の意識と自己顕示欲が高くて陽気で前向きで、優しいのですね。」

 

「どんどん増えていくね。同じの二回言ってなかった?」

 

「同じでも意味は違いますよ。」

 

「そうなんだ。じゃあそろそろ行こう。ここにいると見つかっちゃうよ。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盗賊団ダークディスタンス 五階屋上

 

 

 

「………たまには屋上に出てみるもんだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく屋敷の中を探索した。

 

 途中現れた盗賊達は気絶させたあとにそれぞれの部屋でロープで縛って放置しておいた。

 

「ふぅ、二人でもなんとかなるもんだね。」

 

「それはやはり私のエルブンシンボルの影響もありますね。」

 

「それってそんなに違うものなの?」

 

「これがあるのとないのとでは大分違いますよ。カオスも………カオスはないのにお強いですよね。」

 

「僕はほら、小さいときから体を鍛え続けてたのと殺生石があるからね。」

 

「その殺生石の力はどのように使っているのですか?」

 

「戦ってるときに体の中のマナを体の表面に纏わせてるんだよ。木刀にも流れるから切れ味もあがるみたいで。」

 

「それですとエルブンシンボルと差は無さそうですね。」

 

「そうなの?なんかあったら面白そうだったんだけどなぁ。」

 

「それでしたら見つけ次第回収してお試しになります?」

 

「そうだね。強くなれるならそれにこしたことはないし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ~う、侵入者ぁ~!こんなところで何してんだ?」

 

 

 

「「!」」

 

 

 

「さては賞金稼ぎか?よくこんなところまで来たもんだなぁ。ヴェノムの森ならいい隠れ蓑だと踏んでたんだがなぁ。雑魚どもを着けてきたのか?」

 

 階上からの声に反応して上を見上げると大きな曲刀を持った男がこちらを見下ろしていた。

 

「お前は…誰だ!」

 

「はぁ?惚けてるのか。ここに来たってことは俺の手配書くらい見て来たんだろ。」

 

「悪いね、お前の部下が言っていた手配書につられて直で来たんだ。実は名前すら知らない。」

 

「ハハッ!ってこたぁここへは雑魚どもと来たわけだ!雑魚は雑魚なりに有能ぶってりゃいいってのに結果無能を晒したわけか。」

 

「口が悪いな。お前の仲間だろ?」

 

「仲間?仲間ってのは俺と同格に殺りあえるくれぇ有能なやつのことだろ?ここにいる奴等は全部俺の駒でしかねぇカスどもだ。」

 

「お前……。」

 

「貴方は本当にそう仰っているのですか?」

 

「当然だろ?それと俺はお前でも貴方でもねぇよ。俺の名はサハーンってんだ。以後それで呼びな。」

 

「サハーン。サハーンにとって他の盗賊達やタレスは駒と本気で言ってるんだな?」

 

「あ?タレス?誰だそりゃ?雑魚どものことか?いちいち名前を覚えちゃいねぇよ。」

 

「……よくわかった。それを聞いて安心したよ。」

 

「彼を連れていっても良さそうですね。」

 

「何のことかはよく分からんが雑魚どもは俺の名声によってくる。代わりの聞く連中だから好きにつれていっていいぞ。お前らがそれを気にする必要があるとは思えねぇがな!」

 

 

 

タッ!

 

 

 

 

「「!!」」

 

 飛び降りた!?

 

 

 

 

 

「ヒヤッハァァァァァァ!!!ファイヤーボール!!」

 

 

 

 

 

ボオォォォォッ!!

 

 

 

 

 

 

「(攻撃と同時に着地の緩和か!?)アローネ下がって!受け止める!」

 

「はい!」

 

 

 

ギキィィィィィィィィィィン!

 

 

 

「ハッハー!!この程度はあるよなぁ!!オラッ!!」

 

 

 

ギキィィィン!ギキィィィン!ギキィィィン!!

 

 

 

「どうしたんだサハーン。このくらいなら他の盗賊達と同じだぞ。」

 

「言うねぇぇぇ!!どうやらお前は雑魚どもよりは有能見てぇだ「ウインドカッター!」!」

 

 

 

ザザザザザッッッ!!

 

 

 

「おっとぉ!!」タッ!

 

 

 

「身軽だね。今のタイミングは際どかったと思うけど。」

 

「動きが早いですね。」

 

 

 

「雑魚どもと同じ扱いしてると一瞬で終わらせちまうぞ?」

 

 

 

 上から飛び降りたのと今の引き下がり、常人とは思えない動きだった。

 

 こいつ、何か特殊な能力を持ってる!

 

「カオス、彼は体の何処かにエルブンシンボルを装備しています。」

 

「エルブンシンボル?」

 

「先程の飛び降りたときのリカバリングとウインドカッターを避けたときのバックステップはエルブンシンボルを介して装備したレンズのものです。」

 

 

 

「お?詳しいなぁ、お前。そんなこと知ってんのは騎士どもと決まってんだがな。その通りだ、騎士どもに捕まって隙を見て奪ったんだよ。お陰で手配書が出回ることになったがな。」

 

 

 

「カオス、サハーンのあの手に付いているものがそうです。あれを外せますか?」

 

「あの円い石みたいなものが…。」

 

「あれさえ外せればサハーンは運動能力が低下します。」

 

「分かった!」

 

 僕はサハーンに向けて駆け出し木刀で斬りつける。

 

 

 

ガキィィィィィィン!!

 

 

 

「ハッ!こいつのこと知ってんならどうせここ狙ってくるんだろ?動きが素人過ぎて読みやすいぜ!」

 

 

 

ギキィィィン!クォォォォンッ!ギキィィィン!!

 

 

 

「グッ!」

 

 盗賊団のボスだけあって強いな。 

 

 斬り込んでも斬り込んでも止められる。

 

「『落雷よ、我が手となりて敵を打ち払え!ライトニング!』」

 

「ちょれぇって言ってんだよ!ライトニング!」

 

 

 

バチバチバヂィィィィィッ!!!

 

 

 

「うっ!?」

 

「アローネ!?」

 

 二体一なのにこちらが圧されている!?

 

 サハーンは今のライトニングもかわした。

 

 それだけサハーンとの差が大きいのか!?

 

 

 

「おいよぉ?二人だけで来たからどんな粒かと楽しみだったんだがなぁ、まるでダメだな!!退屈で仕方ねぇ!所詮は無能なのかぁおい!そろそろ殺しちまうぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直なめていた。

 

 盗賊のボスがこれほど手こずる相手だとは思わなかった。

 

 おじいちゃんの話ではもっと簡単な感じで捕まえていたから僕も出来ると思っていた。

 

 だがコイツは予想以上に強い!

 

 このままではアローネもやられてしまう。

 

 どうすればいい!?

 

 ここは引くか?

 

 いやダメだ!さっきの動きを見る限り足の早さはサハーンが上だ!

 

 僕が囮になればなんとかいけるか?

 

「アローネ。僕が時間を稼ぐからアローネは森を出て逃げるんだ。」

 

「!?何を言ってるんですか!?」

 

「コイツは強い!多分僕達二人かがりでも勝てないくらいに!だから一旦引いて体勢を立て直そう!先ずはアローネから先に逃げて!」

 

 

 

 

 

 

「嫌です!!」

 

「アローネ!?今は我が儘を言ってる場合じゃ!」

 

「カオスを置いて逃げるなんて出来ません!逃げるなら一緒にです!」

 

「アローネ!さっきのコイツ見てたろ!?サハーンは相当に俊足だ!二人で逃げてたら追い付かれるよ!!」

 

「それでも嫌です!カオスは私を助けてくれました!恩人を一人残して自分だけ逃げるなんて真似は死んでもしません!」

 

「いい加減にしてよ!本当に死ぬかもしれないんだぞ!?」

 

「カオスと一緒になら本望です!」

 

「ふざけるなよ!何のために僕がいると思ってるんだ!」

 

 

 

「カオスこそ私のことを甘く見ないでください!私のことを信じられないんですか!?仲間ですよね!?」

 

 

 

「!?」

 

 

 

「カオスは一人で戦わなくてもいいんですよ!貴方は私を守ろうとしてくれますけど私だって貴方を守りたいんです!貴方の背中には私がいるんです!

 

 私を信じてください!貴方は私が絶対に守ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言われてから気付いた。

 

 

 

 僕はまた一人で突っ走っていたみたいだ。

 

 

 

 またアローネに迷惑をかけた。

 

 

 

 どうして二体一なのに勝てないんだろう。

 

 

 

 そんなもの単純にサハーンが強いからだ。

 

 

 

 経験の差や技術が大きいのだろう。

 

 

 

 けど勝てない理由はそれだけじゃない。

 

 

 

 もっと大事なことがあった。

 

 

 

 この戦いは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネゴメン。また独り善がりだったみたいだ。もう逃げるなんて言わないよ。」

 

「カオス大丈夫ですか?」

 

「頭は今の渇で覚めたよ。もう大丈夫。」

 

「……」

 

 

 

「アローネ頼みがあるんだ。」

 

「何でしょう?」

 

「僕と一緒に……戦ってくれないか。」

 

「!………はい!!」

 

「よし行こう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相談は終わったか?次から殺せる隙あったら殺すから覚悟しとけよ?」

 

「もうそんな隙はないぞ!」

 

「どうだか!」

 

 

 

ギキィィィン!ギキィィィン!ギキィィィン!………

 

 

 

 

「打ち合ってるだけじゃさっきみたいになるって学習し「ファイヤーボール!」ファイヤーボール!」

 

 

 

ボボッ!ボボッ!ボフゥゥゥゥゥン!!

 

 

 

 アローネが出したファイヤーボールを空かさずファイヤーボールで返すサハーン!!

 

 二人のファイヤーボールが衝突し爆発を起こす。

 

 サハーンの対応力には驚きを隠せない。

 

 

 

 だが今回は攻撃が目的じゃない。

 

 むしろこれを狙っていた。

 

 

 

 爆発で砂煙が舞う。

 

 そこから

 

 

 

 

 

 

 僕とアローネが同時にサハーンに迫る!

 

「あぁ!?」

 

「魔神剣!」

 

 サハーンに迫りながらも魔神剣を放つ。

 

「チイッ!」

 

 サハーンが魔神剣を曲刀で受ける。

 

 その隙に僕が木刀を叩き込む。

 

「うっ!オッ!ハッ!さっきより!マシになったが!」キン!キン!キン!キン!

 

 サハーンに見切られて木刀の連撃をことごとく防がれる。

 

 そして

 

 

ガンッ!!

 

「よ~し、覚悟はいい「アローネ!!」ファイヤーボール!」

 

「アクアエッジ!!」

 

 木刀と曲刀の剣が止まった隙にアローネがサハーンの至近距離で魔術を発動する!

 

「グオアッ!!」

 

 流石のサハーンもこの距離からでは間に合わないらしい。

 

「魔術剣!」「ライトニング!」

 

 吹き飛んでいったサハーンにだめ押しの一撃を放つ。

 

 

 

「オァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 サハーンが一際大きな悲鳴をあげる。

 

「アッ……アアッ………バハッ!」

 

 変な声をあげたあと床に倒れこむサハーン。

 

 

 

 どうやら勝利したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか勝ったみたいだね!」

 

「はい!あんな凄い人に私達勝ちました!」

 

「強かったね!勝てないと思ったよ。そうだ!エルブンシンボル回収しないと。」

 

「そうでした!起き上がらないうちに外しときましょう!」

 

 倒れているサハーンからエルブンシンボルをとる。

 

「これで気が付いても大丈夫だね。油断は出来ないけど。」

 

「気絶している間に他の人達みたいにロープで縛っておきましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで起きても危険は無さそうだね。」

 

「エルブンシンボルを取り上げたうえに両手が使えないとなるともう襲ってはこれないでしょう。」

 

「後はリトビアって街に行ってここのことを知らせるだけでいいんだよね?」

 

「はい。情報が正しいと確認してもらえれば謝礼が頂けると思いますよ。街での一先ずの生活は保証されましたね。」

 

「………アローネ。」

 

「はい?」

 

「さっきは本当にご免なさい!」

 

「………どういうことだったのか私に話してみてもらえますか?」

 

「………僕、ずっと、ずっと一人でモンスターと戦ってきたから仲間で戦う連携とか全然分からなくて焦ってたんだ。」

 

「……」

 

「サハーンに会うまでは敵が一人でも倒せるようなのばっかりだったから問題なかったんだけどサハーンと対峙した瞬間頭の中がアローネを守らくちゃっていっぱいいっぱいで…。」

 

「それで貴方は私を真っ先に下がらせてサハーンが私に近づかないような立ち回りをしていたんですね。」

 

「僕そんなことしてた…?」

 

「後ろから見てたら分かります。

 カオスは私に戦闘をさせないようにしてました。」

 

「ご免なさい。」

 

「貴方は何でも一人で抱えすぎです。私は前に前衛も出来ると言っておいたでしょう?」

 

「……」

 

「サハーンが降りてきたとき、…いえそれ以前からモンスターとの戦いの際は常に私を下がらせて貴方が前に出ていましたね。」

 

「……」

 

「貴方が私を信頼して頼ってくれないと本来の二人いるという武器を生かしきれません。そこが今回の苦戦の原因です。」

 

「…うん。」

 

「カオス、私のせいで貴方まであの村を出ることになりました。そのことについてはとても私は感謝しています。感謝してもしきれないほどです。」

 

「別に大したことは…。」

 

「私にとっては大きなことでした。ですから私はカオスをどんなことがあっても守りたいとは思います。そして信頼もしています。」

 

「……」

 

「カオスは……カオスを守ってあげてください。」

 

「…え?」

 

「貴方の戦い方は貴方自身を盾のように扱ってる。そんな戦い方は仲間としてしてほしくありません。貴方を傷つけてまで私は貴方に守ってほしくありません。」

 

 

 

 僕が僕を盾として……?

 

 それは………いけないことだったのか?

 

 

 

「カオス、貴方は貴方の大切な人が傷付くところを見たいですか?」

 

「そんなの、見たくないに決まっている!」

 

「私もそう思います。私は大切なカオスが傷付くところを見たくない。」

 

 

 

 大切?

 

 

 

「私達が今後上手く戦えるようになるにはもっともっとお互いのことを知る必要があります。出逢ってから十日から二十日程経ちますがお互いの知らないことや不満に思っていることはあると思います。それを後程話し合いましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔から好かれるよりも嫌われることの方が多かった。

 

 

 

 特に何かしたという訳じゃない。

 

 

 

 逆に何も出来なかったからだ。

 

 

 

 何もしなかったをしたとも言えるのかな。

 

 

 

 そんなやつが口だけは偉そうなことをほざくから嫌われる。

 

 

 

 だから誰かから嫌われることには馴れている。

 

 

 

 今更何とも思わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネは僕を大切と言った。

 

 

 

 小さいときはそれを言われたいがために頑張った。

 

 

 

 おじいちゃんやウインドラはよくいってくれたな。

 

 

 

 あのときは嬉しかった。

 

 

 

 けどどうしてかな。

 

 

 

 あのときは純粋に嬉しかったのに。

 

 

 

 何で今は

 

 

 

 心がこんなに落ち着かないのかな…。



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盗賊団壊滅

 青年カオスはアローネと共に旅をしている。

 盗賊の襲撃を受けた二人は逆に盗賊を退治しに赴くことにした。

 しかし盗賊のボス、サハーンは想像以上に強く苦戦を強いられるのだった。


盗賊団ダークディスタンス アジト

 

 

 

「今後の私達の課題は連携戦です。同じフィールドにいるのに個人で戦っていては二人の利点に繋がりません。私達はまだお互いの動きの癖を把握できていないことがこれからポイントになってくるでしょう。」

 

「分かった。次に戦うときはアローネをよく見て戦うようにするよ。」

 

「お願いしますね。貴方のそういう反感せずに素直に受け止められるところはいい長所です。この分ではすぐに連携もこなせるようになると思います。」

 

「僕は完璧じゃないからね。正しいこと間違ってることを理解して身に付けることが僕に必要なんだ。」

 

「……本当は二日続けて険相な空気にするつもりはなかったんですけど。」

 

「仕方ないよ。足りてないことがまだまだ多いんだ。僕も性格的にアローネと相性がいいと思ってたけど実はアローネに甘えて自分を通してたことを確認できたんだ。至らないところがあったらどんどん言い合って行こう。アローネも僕に悪いところがあったらズバッと言っちゃっていいから!」

 

「それはカオスもですよ。遠慮なさらずにいきましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お勉強会は済んだか?」

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

 この声はサハーン!?

 

 そこに………いない!?起きたのか!

 

 何処に?

 

 

「油断しちまったぜ。こんな素人どもの即席コンビにやられるなんざ俺も無能になったもんだな。」

 

 少し離れた位置の窓からサハーンが話しかけてくる。

 

「サハーン!」

 

「だかまぁいい線いってたと思うぜ?その女が前衛もできるとは予測出来なかった俺の落ち度を踏まえても。次はもっと強くなってこいよ。」

 

「それはどうも。だがお前に次はないぞ。ここで他の盗賊達と一緒に捕まるんだからな。」

 

「あの状況で俺を殺さなかったお前らにはもう俺を捕らえることは出来ねぇよ。俺から奪った装備はくれといてやる。」

 

「後ろ手に縛られながらなに言ってるんだ。それじゃあ戦えないだろ!」

 

「盗賊ってのはな、盗むこと、気配を消すこと、殺すこと、そして何よりも逃げ足がねぇと務まらねぇんだ。足を縛るか潰しておけば逃げられずに済んだのにな。教訓にしとけ。」

 

 

 

 それを言うのと同時にサハーンは窓を突き破り外へ飛びでて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファイヤーボール・追連!!」

 

 

 

 

 後ろ手にファイヤーボールの火球を六つ屋敷に放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

 

 

 

「なっ、アイツ!あんなにファイヤーボールを!?」

 

 

 

「カオス!それどころではありません!屋敷が燃えています。消しにいかないと!」

 

 

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクアエッジ!!」

 

 

 

 僕とアローネは外にでて火のもとへと向かい鎮火しようとする。

 

 

 

 だが火の手はなかなか消えてはくれない。

 

 

 

 それどころかここ以外の五ヶ所の火が激しさをまして屋敷を焼き尽くしていく。

 

 

 

 サハーンは何がしたかったんだ!?

 

 

 

 このままではアイツの気絶した部下達が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッチィィィ!!何事だ!?」

 

 

 

「バーラ!アジトが!アジトが燃えてる!?」

 

 

 

「……!?」

 

 

 

 入り口から少し離れた陰から道案内させた盗賊達の声が聞こえる。

 

 

 

「貴殿方!無事だった……キャァァァァ!!?何て格好してるんですか!?変態!!」

 

 

 

「ハァァァァァ!!?誰が変態だ!!バーラ様だって言っただろうがぁぁぁ!!」

 

 

 

「どうしてそのような格好をしているのですか!?」

 

 

 

「お前の相方に縛り上げられたまま服を剥ぎ取られたンだよぉ!!」

 

 

 

「そういえばそうだった!」

 

 

 

「カオス!?どうしてそのようなことを!?」

 

 

 

「そんなことはどうでもいい!今は火を消すのを早くしないと!魔神剣!!」

 

 

 

「は、はい!アクアエッジ!」

 

 

 

「お、お前ら!これやったのお前らなのか!?」

 

 

 

「残念ながらこれをやったのはお前達のボスサハーンだよ!」

 

 

 

「ボスが!…何で自分の城にこんなことを!?」

 

 

 

「そんなの知らないけど、捕まるくらいなら捨てるとかそう思ったんじゃない!」

 

 

 

「貴殿方!アクアエッジは使えますか!?私一人では火の廻りに追い付きません!協力してください!」

 

 

 

「わ、分かった!じゃあ、コイツ外してくれ!このままじゃ撃ちにくい。」

 

 

 

「これでいいか!」

 

 

 

 盗賊達三人を纏めていた鎌を外す。

 

 

 

 そして、

 

 

 

「オラァッ!!」ドゴォッ!!

 

 

 

「ウアッ!!」

 

 

 

「カオス!?貴殿方何を!?」

 

 

 

「ヘヘッ!!どうせこのあと俺達ぶちこむ予定なんだろ!?ならこの隙に逃げるんだよ!」

 

 

 

「こんな簡単な手に引っ掛かるなんざお人好し通り越してバカだな!!ハハハッ!!」

 

 

 

「待ってください!!この屋敷の中にはまだ貴殿方のお仲間が残っているのですよ!?」

 

 

 

「そんなの知るかよ!逃げられねぇ奴等が悪いんだろ!じゃあな!!」

 

 

 

「そんな…お仲間を見捨てて…?」

 

 

 

「痛てて、……アローネ、今は出来ることをやろう!このままだと盗賊達が!」

 

 

 

「………はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ダメだったか。」

 

 結局屋敷は全焼し中にいた盗賊達は皆………。

 

 サハーンと案内役の盗賊達にも逃げられ後味の悪い事件になった。

 

「あの時サハーンを止められてれば……。」

 

「カオス………恐らく……それは無理だった…でしょう。」

 

「無理だった?」

 

 アローネは魔術の使いすぎで疲労している。

 

 安全なところで休ませてあげないと。

 

「サハーンが……屋敷に放ったファイヤーボール……。サハーンはまだ……力を隠していたんだと……。」

 

「縛られながらもまだ僕たちより上なのか。」

 

 サハーン、

 

 強いだけじゃなく残虐非道で自分のためなら仲間も犠牲にする男。

 

「……戦利品はこれだけか。」

 

 サハーンから回収したエルブンシンボルと盗賊達の三万ガルド。

 

 これを手にするだけでこの屋敷と盗賊達が灰になった。

 

 悪人でも目の前で死なれるのはキツいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界の端で何かが音をたてた。

 

 そちらを見ると盗賊達と一緒にしていたタレスが膝をついて焼けた屋敷を見ていた。

 

「……」

 

 言葉は話せないがその様子からは絶望が伝わってくる。

 

「貴方、タレスって……言いましたね。どうなさったのですか。」

 

「……」

 

 返事はない。

 

 喋れないのだから当然だ。

 

「アローネ、ここも敵がいないとはいえ危ない。一旦離れよう。」

 

「そうですね…。タレス……歩けますか?」 

 

「……」

 

 返事はないが一応はついてこれるみたいだ。

 

「それじゃあ行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムスト平原

 

 

 

「「「……」」」

 

 何とか森からは抜けたが今回は失敗続きで空気が重い。

 

 アローネに指摘されてサハーンを倒すまでは良かった。

 

 そこで今後のことを話している最中にサハーンを見失い気付けば他の盗賊団をまるごと消されていた。

 

 アイツは、アイツだけは許しちゃいけない。

 

 悪人とはいえアイツは仲間を捨て駒にして逃げた最低野郎だ。

 

 次にあったときは容赦はしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タレス、少しお話いいですか?」

 

 無言で歩いているとアローネがタレスに話しかける。

 

「……」

 

 タレスは話しかけられてアローネを見るが顔は暗い表情のままだ。

 

「タレスは先の盗賊団……ブラックディスタンスに捕らわれていた訳ですがブラックディスタンスは壊滅し貴方は解放されたようです。よろしければ貴方をもといたところへお連れしますがどうでしょうか。」

 

「……」

 

 タレスは暗い表情でそれを聞いていたがやがて懐から手帳を取り出して文字を書き始める。

 

【ぼくはダレイオスからつれさられてマテオにきました。おとうさんおかあさんはもういません。ぼくにはかえるところはありません。】

 

 タレスは手帳に書いた文章を見せてくる。

 

 どうやら帰る宛先がないらしい。

 

「盗賊団に捕まる前はどこかの領主のもとにいたんじゃないの?」

 

【そこはもうヴェノムによってつぶれました。つぶれてなかったとしてもながいじかんもたってぼくのかわりがいることでしょう。まじゅつがつかえないぼくではもうどこにもいばしょはない。】

 

「……」

 

 この顔は………幼いときの自分に重なる。

 

 回りと比べて劣等感を感じて塞ぎ混んでいた時期の僕に。

 

 あのときはおじいちゃんやウインドラがいたから立ち直れた。

 

 けどこの目の前のタレスにはそんなものはいない。

 

 もとよりダレイオス出身となるとこの国には味方などいないのは当然だ。

 

 見た目や能力はこの国とも変わらない。

 

 それなのに出身だけで差別される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、僕達と一緒に行かない?」

 

 

 

 

 

「…!」

 

「……」

 

「僕達は今旅しているんだけどよかったら来ない?二人旅だからいろいろと危なっかしくて仲間が欲しいんだ。」

 

「…!」

 

 タレスがまた手帳に文字を書きなぐっている。

 

【どうしてぼくを?ぼくはおふたりをさくばんおそったばかりですよ?ぼくにはなんのりようかちもないんですよ?】

 

「利用価値とか襲ったとか関係ないよ。僕は君が僕達に必要だと思ったから誘っているんだ。」

 

「カオスならそう言ってくれると思ってました。」

 

「……」

 

【ぼくはこえもだせないしまじゅつもつかえない。おかねももっていない。それでもいいんですか? 】

 

「僕達は君が、タレスがいいんだ。タレスは僕達と同じだから。」

 

「…?」

 

【おなじ?ぼくはあなたたちとおなじなんですか?】

 

「そういえば名前を言ってなかったね。僕はカオス。」

 

「私はアローネです。タレス私達はただ旅をしている訳ではないのです。私は故郷を探しているんです。」

 

「僕は……僕の持つ力をあの村に返したい。その方法を探しているんだ。」

 

「?」

 

「カオス、貴方はその力をミストにお返しになるのですか?」

 

「アローネにはまだ言ってなかったね。この力は最初から僕のものじゃない。借り物なんだ。だから返したい。あの村に留まってても力を戻すことは出来ないし、この力が他に前例があるなら知りたい。」

 

「ですが村には騎士団がいるのでもう必要ないのでは?」

 

「あの村の人達はもともと国に縛られることを嫌ってあそこにいるんだ。今騎士団があそこにいるのは僕のせいだ。殺生石さえ復活すれば騎士団は必要なくなる。あの村を元に戻したい。」

 

「カオスは騎士を追い出したいとそう言ってるんですね?」

 

「……騎士は好きだよ?それは昔から変わらない。けどそれを村の人たちに押し付ける気はない。村の人達が騎士が嫌なら僕は殺生石をなんとしても復活させないと!」

 

「カオス…。」

 

「そんな訳でホームレスの旅なんだ。タレスも加わってくれると有り難いよ。」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

「!?どうして泣くんですか!?」

 

「…!」

 

【わからないです。わからないけどなみだが】

 

「そっか。けどその涙は悲しい訳じゃないんだろ?」

 

「…」

 

【はい。】

 

「ならこのまま好きなだけ流そう!最近僕もその体験したから分かるよ!」

 

「あの時のですか!?おかえりなさいで泣いたときですよね!?」

 

「アローネ慌てすぎだよ。そんな大袈裟なことじゃないから。」

 

「…」

 

 僕達が話してたらタレスが何かを書き出した。

 

 それには

 

【これからよろしくおねがいします。】



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最初の街

 青年カオスはアローネと共に旅をしている。

 盗賊団ダークディスタンスのアジトへと乗り込みサハーンを倒す二人だったが一瞬の隙を突かれサハーンに逃げられてしまう。

 その後、盗賊団は壊滅しカオス達は盗賊団のタレスを仲間に迎え入れる。


ムスト平原

 

 

 

「………スミマセン、時間が経ちすぎているようでこれは…。」

 

「…」

 

【ありがとうございます。ためしてもらえただけでもうれしいです。】

 

「タレス…。」

 

「……」

 

 あれからタレスの喉を治せないか試してみたが結果は失敗だった。

 

「…」

 

【こえがだせないのはざんねんですがおふたりのやくにたつためならぬすみでもころしでもなんでもしますよ。】

 

「「……」」

 

「…?」

 

「タレス、少しずつ、少しずつ僕達と分かりあっていこうか。」

 

「盗みなんてすることないんですよ?そんなことしなくても大丈夫です。大人の私達がなんとかしますからね。」

 

「?」

 

【ではぼくはなにをすれば?ざつようですか?それともていさつですか?】

 

「……よほど酷い扱いを受けてきたようですね。役に立とうとしてくれるのはありがたいのですが思い付くことが子供の発想とは思えません。」

 

「役に立つことで自分の存在意義を保とうとしてるんじゃないかな。」

 

「カオスが二人いるみたいですね。」

 

「端から見るとこうなんだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっかり夜だな。今日はこの辺りで休憩しよう。」

 

「そうですね、まだ街まで距離がありますし夜営の準備をしましょう。」

 

「…」

 

【わかりました。ではカオスさんとアローネさんのねどことしょくじのじゅんびをします。】

 

「タレスそれは僕もするから一人でやろうとしなくてもいいよ。」

 

「タレスも疲れてると思いますし私達に任せてここで座っててもいいですよ。」

 

「!」

 

【いけません!それではぼくがいるいみがありません!】

 

「いる意味とかそんなのはいらないよ。」

 

「仲間なんですから一人でしなくていいんですよ。分担してやればすぐに終わります。」

 

【ではしょくじのためにそのあたりからラビットでもかりにいきましょうか?】

 

「率先して危ないことをしてくれるのは助かるけど。」

 

「タレスは気負いすぎですよ。モンスターなら三人でやります。」

 

【ではようどうはまかせてください。】

 

「あくまで自分が危険なポシションをするのは譲らないんだね…。」

 

 

 

 

 

 

 

「タレスはあの盗賊団にどのくらいいたの?」

 

【ながいとはおもいます。かまをわたされてからつかいこなすまでかかりましたしひづけもよくわからなくなりました。】

 

「鎌だけで戦ってたんですか?」

 

【けんとかおのとかもあったんですけどおもたくてつかいこなせなくてにげるときもじゃまになるのでかるくてふりまわせばおとなにもたいこうできるこのかまにおちつきました。】

 

「ってことは鎌だけしか装備してないんだね。」

 

【はい。ほかのそうびひんはほかのひとがつかっていましたから。】

 

「そうなのか。じゃあ丁度いいしこのエルブンシンボル装備してみない?」

 

「サハーンから回収したものですね。」

 

「!?」

 

【そんなこうかなものぼくにはわるいですよ。】

 

「大丈夫だって、サハーンから盗ったものだから。」

 

【それでもですよ!】

 

「サハーンも盗んだものみたいですよ。気兼ねなく使っても良いのではないですか?」

 

【ではカオスさんかアローネさんがそうびしたほうが。】

 

「僕はさ………魔神剣!」ザザッ!

 

「このようにカオスはエルブンシンボル無しでも闘気術が使えるのです。ちなみに私は装備済みです。」

 

「…」

 

「危険な旅だけど誰も欠けることなく旅していたいんだ。だからこれはタレスに受け取ってほしい。」

 

「…」

 

「う~ん、まだなんか理由が必要かな?」

 

「タレスが強くなると私達も安心してタレスに背中を任せられるんですよ。」

 

「そ、そう!タレスが強くなるならその分戦闘も楽になるからね。勿論任せっきりにはしないけど!」

 

「……」

 

【そういうことでしたらおかりします。ひつようになったらおかえしします。】

 

「よし、これで正式に僕達は皆同列だからね。」

 

「タレスもかしこまったりしなくていいんですよ。カオスの悪いところは指摘してあげてくださいね。」

 

「僕が悪い前提なんだね。」

 

「タレスは一人で独走するときがありますからね。」

 

「…」

 

【なんだかマナのあつかいがしやすくなったきがします。】

 

「エルブンシンボルはマナのコントロールを簡易化する作用があるので術技やスキルを発動しやすくなるのですよ。」

 

「…」

 

【そういえばカオスさんきのうはごめんなさい。ケガはだいじょうぶですか?】

 

「そのことなら平気だよ。傷も残ってないし。」

 

「あれほど出血していたのにもう治ったのですか?」

 

「これも殺生石の力なのかな。傷の治りが早いんだ。」

 

「カオスは……異常ですね。」

 

「僕もそう思うよ。タレスも気にしないでね。」

 

【カオスさんをまもるのにぼくはひつようないのですか?】

 

「そんなことないさ、こう見えて僕もアローネもまだまだ戦闘は初心者さ。」

 

「私達もタレスと差は無いんですよ。」

 

【ですがきのうのせんとうでいちばんおくれているのもじじつです。おふたりにおいつけるようしょうじんします。】

 

「今後は三人の連携だね。予定では明日にはリトビアにつくからタレスも一緒に頑張っていこう。」

 

【はい。】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑園の都市リトビア

 

 

 

「やっと着いたね!ミスト以外の街なんて初めてだよ!ミストよりもおっきいなぁ!」

 

「フフッ、はしゃいじゃって、カオスまるで子供みたいですね。タレスでも落ち着いているのに。」

 

「仕方ないじゃないか本当に初めてなんだよ!ミストから出るなんてことなかったからこういうところに来たら落ち着いてられないよ!」

 

【カオスさん、まちははじめてなんですか?】

 

「そうなんだよ、僕がいたところは村と畑とかしかないし本で街の風景を想像するくらいしかしたことないんだ!」

 

【それならまずはまちをまわってなにがあるかをたんけんしましょう。】

 

「そうだね。こういう時何をすればいいのかも分からないし。」

 

「では宿の場所を確認してそれからまわりませんか?」

 

「そうしようか。じゃあ宿探しだね。あっちの方に行ってみよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、兄ちゃん達!見かけない顔だね。冒険者かい?」

 

 

 

「え?はい。」

 

 宿を探して歩いていたら知らない人に声をかけられる。

 

 冒険者か。

 

 まぁ、間違ってはいないよな。

 

「そうかぁ!ってこたぁ来たばっかりかい?アイテムは補充しといた方がいいんじゃねぇかぁ?安くしとくぜぇ!」

 

「アイテム?」

 

「旅してんならアップルグミとか足りなくなるだろ?うちゃ道具屋だ!」

 

「カオス、どうやらお店のようですね。」

 

「お店?お店って屋外でもやってるようなもんなの?」

 

「大きいお店は大概が屋内ですが扱うものによってはこうして外でも開いているお店があるのですよ。」

 

「なんだ兄ちゃん、店も知らんのか?どっから来たんだい?」

 

「はぁ、まぁ田舎育ちなもので。ミストと言うところから来ました。」

 

「ミスト?どこだそりゃ。」

 

「地図じゃ一番近い村の筈なんだけどな。百年も隠れてたらそりゃ誰も知らなくなるよね。」

 

「店員さんウルゴスと言う街は知っていますか?」

 

「ウルゴス?そっちも知らねぇな。その村だか街だかはこの辺りにあるのかい?」

 

「……空振りですね。」

 

「そう簡単に見つからないみたいだね。」

 

「悪いねぇ兄ちゃん達、力になれねぇようで。そのかわりこっちのアイテムでお助けすっから多目に見てくれや!」

 

「アローネ、もしかしてここがガルドを使うって言ってた…。」

 

「そうです。こういう場で道具や武器、アクセサリーを得られる代わりにこの方に対価であるお金を支払わなければなりません。」

 

「丁度お金持ってるしなんか買っていこうか。おじさんどんなのがあるんですか?」

 

「冒険者には欠かせないアイテムが揃ってるぞ!回復アイテムのアップルグミから始まってオレンジグミ、ライフボトル、パナシーアにモンスター図鑑揃えるのに必要なスペクタクルズも置いてらぁ!」

 

「どれも聞いたことないアイテムだなぁ。」

 

「ウルゴスではアップルグミは聞いたことありますね。」

 

「兄ちゃん達、アップルグミ初めてかい?よくやってこれたな!冒険者の必需品だぜ?これ一個で戦況を変えるっつってもいいくらいだ!」

 

「そこまで!?」

 

「アップルグミは消耗品だが使えばファーストエイドと同じ効果を得られる。使い方は簡単!そのまま食べればいいのさ!そうすりゃ即体力を回復してくれる!詠唱込みのファーストエイドと同等に効力を発揮してくれるから皆買ってくぜ!」

 

「凄いアイテムのようだね。」

 

「その話が本当なら大きな戦力にはなりますが…。」

 

「なんだ疑ってんのか?じゃあこの三個のアップルグミやるから試しに食ってみな!俺の言ってることが間違ってねぇって信じるからよぉ!」

 

「後からお代を請求したりはしませんよね?」

 

「その三個は試食だよ!どうせそれ食ったらアップルグミを買うことになるから構わねぇぜ!」

 

「自信あるみたいだね。」

 

「ここまで仰るのなら期待は出来そうですね。タレス貴方にも。」

 

「…」

 

【ありがとうございます。】

 

「では」パクッ

 

「「「モグモグモグモグ」」」

 

「どうだ?」

 

 

 

 

 

「「うん!美味しい!」」

 

「何だろう!体の疲れが飛んでいった気がするよ!」

 

「この味と食感、癖になりますね!女性の私でも食べやすい大きさですしこれなら戦闘中に素早く取り出して食べることも出来そうです!」

 

「な?言った通りだろ?冒険者は皆街についたらこれを確実に購入するんだ!コイツぁ食いもんだが状況を見極めて使えば大きな武器になる!買っといても損はねぇぞ!」

 

「アローネ!これは持っといた方がいいよ!買い物をする練習がてらにここで買ってみよう!」

 

「そうですね。買っておいて使わないということはなさそうですし購入しましょう。」

 

「おじさんアップルグミ三個ほしいんだけどいくら?」

 

「よしきた!値段は一個2千ガルドの合計六千ガルドだ!」

 

 

 

「!?」

 

 

 

「六千ガルドかぁ。結構かかるんだなぁ、はい六千ガルド。」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

「え!?あ、あぁ!ま、まいどあり……!」

 

 

 

「戦闘に使える道具ならそのくらいかかるのでしょうね。安全を心掛けるなら安いものでしょう。」

 

 

 

「!!!??」

 

 

 

「そ、そうだとも!!モンスターと戦って生き残るためならみんなこの値段でも大漁に買ってくぜ!」

 

「他の冒険者もたくさん買うんだなぁ。アローネもう三個買っとかない?」

 

「えぇ、他の冒険者の方々に習って安全第一です。」

 

「へ、ヘヘヘヘ!兄ちゃん達いい買い物したねぇ!どうだい他にもお勧めのアイテムがあるんだが!」

 

「う~ん、買いたいのは山々なんだけど後一万八千ガルドしかないからなぁ。宿代がいくらぐらいなのかも分からないからちょっとぉ…。」

 

「宿についてから余裕があれば買いに来ますね。」

 

「宿代だってぇ?そんなもん精々三人で千ガルド前後だぜ?気にするほどのもんでもねぇって!」

 

「そうなんですか?」

 

「おうよ!まだ一万あるんだろ?旅してると何があるか分からねぇ!要心するにこしたこたぁねぇぞ?」

 

「と言われても…。」

 

「今ここで買っとかないと後で後悔するかもしれねぇぞ?その時になって後悔したくねぇだろ?」

 

「後悔は……………したくないけど。」

 

「兄ちゃん、仲間が大事じゃねぇか?」

 

「大事ですよ!」

 

「なら買っておいた方がいい!こういうもんは後々に効いてくるもんだ!ここぞというときに持っといて良かったと思えるときが必ずやってくるんだよ!保険として持っていれば仲間も救える!精神的にも余裕ができる!まさに一石二鳥!」

 

「………」

 

「兄ちゃん、仲間を助けられるのは兄ちゃん次第だぜ?」

 

「……買い「ガシッ」!!」

 

「……」

 

「タレス?どうしたの?」

 

「何か気になることでもありましたか?」

 

「…」カキカキ

 

【カオスさん、アローネさんほんきなんですか?】

 

「「本気?」」

 

【ほんきでそのアイテムをかうつもりなんですか?】

 

「ん?あ、あぁ買うつもりだけど。」

 

「皆の安全を守るためと思えば先行投資のようなものですよ。」

 

「…」

 

【わかりました。ならかうことにかんしてはなにもいいません。】

 

「う、うん」

 

【しかし!さきほどのこうぜつにはいちぶまちがいがあります。】

 

「ドキィッ!?」

 

「え!?間違い!?」

 

「どういうことですか店員さん!?」

 

「な、なんのことかな!?アップルグミはさっきの説明で何も間違っちゃいないぜ!?」

 

【たしかにアップルグミのせつめいはあれでいいとおもいます。いわれてみればアップルグミもそうつかえないアイテムでもないですしね。】

 

「説明はあってるのか。」

 

「では何が気になるのですかタレス。」

 

【アローネさんにはきづいてほしかったです。ふつうアップルグミはいっこ2000ガルドもしませんよ?】

 

「二千もしない?」

 

「本当なんですか?」

 

【はい、おみせでかうときはいっこ100から200ガルドがいいとこです。2000ガルドもあったら10こはかえますよ。】

 

「と僕の仲間が言ってるんですけど。」

 

「店員さん嘘を付いたんですか?」

 

「い、いやぁ……ま、まいったねぇ冗談のつもりだったんだけど気付かなかったみたいだな!アップルグミ!ほら残りの27個!後から渡すつもりだったんだよぉ!ボウヤにネタバラシされちゃったなぁ!ハハハッ!」

 

「「「……」」」ジトー

 

「ハハハ…」

 

「「「……」」」ジトー

 

「…」

 

「「「……」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪かったよ!ボウヤのメモ通りが相場で合ってるよ!」

 

「タレスが言わなかったらそのまま通すつもりだったんじゃない?」

 

「私達が無知なのをいいことに騙してお金を巻き上げようとしてたんですね。」

 

「最初はボケてツッコミ待ちしてたんだよ!けどいつまでたってもツッコんでくれないからちょっとイタズラしたくなったんだよ!」

 

「イタズラでやっていい範疇を越えてませんか?お金のことに関しては世界共通で法が黙っていないと思いますよ?」

 

「だぁ~!それだけは勘弁してくれよ!?こうして金額通りにアップルグミ渡してんだからよ!?」

 

「おじさん詐欺師だったんだね。」

 

「分かった!分かったから!アップルグミはそのままで金は半分でいいから!ほら三千ガルド返すよ!」

 

「いいの?アップルグミ百ガルド計算になるけど。」

 

「悪い冗談のお詫びだよ!それで通報だけは待ってくれよ!」

 

「けどタレスのメモにはアップルグミ百ガルドともあるんだよなぁ。これってそのまま買っただけになるんじゃない?」

 

「悪いことを反省したと言うわりには誠意が感じられませんね。」

 

「おいおい…しょうがねぇやつらだなぁ。ライフボトル一本持ってきな!」

 

「「有り難うございました。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…たくっ、本当に知らなかったのか?逆にカモにされた気分だぜ。」

 

 

 



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酒場での情報集め

 青年カオスはアローネと共に旅をしている。

 盗賊団ダークディスタンスを倒し新しい仲間タレスが加わりカオス達はようやく街にたどり着く。


緑園の都市リトビア

 

 

 

「有り難うタレス。タレスがいなかったらあっというまにお金をなくすところだったよ。」

 

「タレス貴方がいて本当に良かったです。」

 

【はなしからしてアローネさんはしってそうだとおもったんですけど】

 

「そうだよ!アローネお金とかお店とか知ってたのに値段は分からなかったの?」

 

「……お恥ずかしながら私の知識は義兄の体験話によるところが多く私の体験は殆どないのです。義兄はお店に行って道具を買うという話をしてはくれましたが具体的な値段とかは……。」

 

【あに?】

 

「タレスには話してなかったね。アローネのお姉さんの旦那さんのことで話を聞く限り凄い人らしいんだ。アローネもそのお義兄さんのこと尊敬してるみたいなんだけど若干ブラコン?っぽい。」ボソボソッ

 

「ブラコンって何ですか!!」

 

「あっ、ゴメン、聞こえた?」

 

「目の前で言っておいて何言ってるんですか!!」

 

「ハハッゴメンね。」

 

「もう!!」

 

【……ではカオスさんもアローネさんもおかねのことにかんしてはまったくのむちということですね。】

 

「うん、ガルド自体最近知ったからね。タレスも僕が知った現場にいたろ?」

 

【あの時ですか。】

 

「あれは別に冗談とかで言ってたんじゃないんだ。本当に知らなかった。」

 

「私も世間知らずではあると思いますがカオスはそれ以上でしたね。」

 

「僕にとっての世間はミストだからね。」

 

【おふたりはどのようにすごしてきたのですか?】

 

「私は屋敷に軟禁されていましたのでお金を直接使うことはありませんでした。欲しいもの義兄が買ってきてくれましたから。」

 

「僕の村は皆でものを共有してたからお金がかかるものなんてなかったよ。」

 

【おふたりがおかねのかんりにたずさわってこなかったことはわかりました。ではおかねをつかうさいはぼくにひとことおねがいします。】

 

「頼める?」

 

「私達ではどう管理すればいいか分かりませんからね。使えば増えるとは聞きますが。」

 

【なにもしないでふえるということはありえませんよ。しごとをしたりものをうったりしてふやすんです。】

 

「物を売る?じゃあここに来るまでに取ったモンスターの毛皮とか爪とか売れるかな。」

 

【これはぼろぼろでよごれているのでうりものになりませんね。モンスターからはぎとるさいはきれいにはぎとりませんと。】

 

「スミマセンカオス。私もこうした物を取っておいた方がいいとは知っていたんですが保管方法はあまり…。」

 

「タレスはモンスターから素材を集めたり出来る?」

 

【ぼくはこのてのことにかんしてはいろいろとやらされてきたのでできますよ。つぎにそとへおもむくさいはおおしえします。】

 

「有り難うタレス!君がいて本当に助かるよ!」

 

「これからはタレス先生と呼びましょう。」

 

【おふたりのおやくにたてたのならほんもうです。それとせんせいはやめてください。】

 

「じゃあさっそく素材集めに街の外に行こう!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

【やどのほうはとらなくていいんですか?カオスさん!タレスさん!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ~、すっかり目的を忘れて素材集めしてたよ。」

 

「私達は情報を得るために街を訪れたのでしたね。」

 

【おかねをかせぐことはいいことなのでなりゆきにまかせていましたがこんごはどうするおつもりなのですか?】

 

「ん~。知ってるひとがいれば聞きに行きたいんだけどそれがどこにいるのかも分からないしなぁ。」

 

「街に来ていきなり詐欺を働こうとした人に捕まってしまいましたしその情報が確かなのか判断がつけばいいのですが。」

 

【それではぼうけんしゃがたまりばにつかってるさかばとかはどうですか?】

 

「さかば?」

 

「お酒を飲むところですね?」

 

【さかばはいろんなばしょからぼうけんしゃたちがおとずれるのでじょうほうがほしいならうってつけですよ。】

 

「その冒険者達って一目で分かるかな?」

 

「それに関しては私達と同じような格好をしている人を探せばいいのではないでしょうか?」

 

【ぼうけんしゃはけんやつえをもっていますからみつけやすいですよ。】

 

「よし決まりだね。その酒場ってところに行ってみよう。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑園の都市 リトビア 酒場

 

 

 

「ここが酒場?」

 

「思ってたよりシックなお店ですね。」

 

【ここへはおさけをのむいがいにもギルドをやっていたりするんでないそうはひかえめなんですよ。】

 

「ギルド?」

 

「ここにギルドがあるんですね。ギルドとは街の人や国から仕事の依頼を受けその仲介をしてくれる人達の集まりのことですよ。依頼はモンスターの討伐や素材の採集、護衛と様々な種類がありますがクリア出来れば必ず報酬が貰えます。ですよねタレス。」

 

【アローネさんのせつめいどおりです。ただほうしゅうがおかねのときもあれば武具や防具といったかんせつてきなものもあります。もしかしたらぼくたちにはつかえないものだったりするのでいらいをうけるさいはほうしゅうのかくにんもひつようです。】

 

「お金が貰えるのかと思ってクリアしたら全然お金に関係ないものだったとか?」

 

「報酬の武具が欲しいのならそれでいいですけどそうでないのならお金が報酬の依頼を受けた方が良さそうですね。」

 

【いらいのけいじばんがあっちのほうにあるのでみにいきませんか?】

 

「そうだねどんなのがあるか見てみようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【キラービーの巣を発見し焼却せよ】【下水道のマウス退治】【新薬の治験】………。」

 

「どれも……なんか嫌ですね。」

 

【このようにできるけどじぶんじゃやりたくないといったしごとがメインのいらいです。だれでもできるのでほうしゅうもそこそこといったがくです。】

 

「よく考えたらここに来る冒険者に依頼を出すくらいだからそんな緊急性のある依頼はないのかもね。」

 

「生活するうえでそのうち解決してくれたらいいといった内容のものなのでしょう。」

 

「ウルフとかトレントみたいなそこら辺にいるモンスターの討伐とかはなさそうだね。」

 

【そういったものはいらいをださずにじぶんでたいじするのでしょう。かりにそういういらいがきてもすぐだれかにとられちゃいますよ。】

 

「う~ん、何か気軽に出来そうな依頼とかはないのかな………………………………ん?」

 

「どうしました?」

 

「これは………。」

 

「どの依頼ですか?………【盗賊団ダークディスタンスの情報求む】…。」

 

「…」

 

「これって依頼主がこの街の騎士団になってるね。」

 

「騎士団………ですか。」

 

「この間のこともあるから騎士団とは関わり持つのは気が引けるな。」

 

【騎士団と何かあったのですか?】

 

「………そのうち分かると思うよ。」

 

「あの言葉通りならそうなるのでしょうね。」

 

「?」

 

「ああいうのってすぐに張り出したりしないのかな。」

 

「彼等は王都に帰ると言ってましたよね。私達のことは王都に戻って報告してからになると思いますよ。私達がリトビアに到着する前にこの街を訪れたのだとしても騎士団の隊長一人の独断で手配書を作ったりは出来ない筈ですから。」

 

「作れないの?」

 

「作れるとは思います。作れはしますけどそのさいの手配書の賞金は国からではなくブラムさん個人のものになります。そうなった場合ブラムさんは訪れる街々で出費しなければなりません。」

 

「なるほど、ならこの街で僕達の手配書が作られてることはないんだね。」

 

「ブラムさんが余程の大富豪で、出張する度に大金を持ち歩く人でなければ安全ですよ。」

 

「よかった。ならこの依頼、直接騎士団にのところに行こうかな。」

 

「カオス?ダークディスタンスはもう…。」

 

「分かってるよ。ダークディスタンスがもう首領以外は全滅してるって教えにいくだけだよ。」

 

【このいらいしょはきしだんからせいしきにいらいされているためあのやけたアジトがダークディスタンスのアジトだったとしょうめいできなければふとうなクエストクリアとみなされてさいあくばっきんもありえます。】

 

「ばっきん?僕はダークディスタンスがもういないからこの依頼は必要ないですよって伝えにいくんだよ?」

 

「どういうことですか?」

 

 

 

「この依頼書って騎士団が盗賊達を捕まえたくて出してるんでしょ?その手助けが出来ればいいなぁとは思ったけど盗賊達はもういない。いない盗賊達を追い掛けてるのはなんか虚しいなって。そんなことしてるくらいなら他に誰かの為に頑張ってほしいんだ。だから騎士団にアジトのことを確かめてもらって依頼を取り下げてもらおうよ。」

 

「!?」

 

「そうしますと報酬は受け取らないということですか?」

 

「うん。だって盗賊達捕まえられなかったしね。それで貰ったらズルいだろ。」

 

【このいらいしょはあくまでじょうほうがほしいというだけでたいほするかしないかはぼくたちにはかんけいないんですよ?】

 

「それでもさサハーンはまだ逃げてるわけだし、アジトには死体が転がってるだけでどうすればいいのか騎士団も困るだろ。」

 

「「……」」

 

「早いとこ言ってこよう。これくらいしかできそうな依頼ないみたいだし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス………貴方は正直者でもあるのですね。」



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ギルド

 青年カオスはアローネと共に旅をしている。

 盗賊団を壊滅させタレスという仲間を得て無事リトビアについたカオス達は質の悪い商人から洗礼を受けかけるもタレスのおかげで難を逃れる。


緑園の都市リトビア

 

 

 

「有り難うタレス。タレスがいなかったらあっというまにお金をなくすところだったよ。」

 

「タレス貴方がいて本当に良かったです。」

 

【はなしからしてアローネさんはしってそうだとおもったんですけど】

 

「そうだよ!アローネお金とかお店とか知ってたのに値段は分からなかったの?」

 

「……お恥ずかしながら私の知識は義兄の体験話によるところが多く私の体験は殆どないのです。義兄はお店に行って道具を買うという話をしてはくれましたが具体的な値段とかは……。」

 

【あに?】

 

「タレスには話してなかったね。アローネのお姉さんの旦那さんのことで話を聞く限り凄い人らしいんだ。アローネもそのお義兄さんのこと尊敬してるみたいなんだけど若干ブラコン?っぽい。」ボソボソッ

 

「ブラコンって何ですか!!」

 

「あっ、ゴメン、聞こえた?」

 

「目の前で言っておいて何言ってるんですか!!」

 

「ハハッゴメンね。」

 

「もう!!」

 

【……ではカオスさんもアローネさんもおかねのことにかんしてはまったくのむちということですね。】

 

「うん、ガルド自体最近知ったからね。タレスも僕が知った現場にいたろ?」

 

【あの時ですか。】

 

「あれは別に冗談とかで言ってたんじゃないんだ。本当に知らなかった。」

 

「私も世間知らずではあると思いますがカオスはそれ以上でしたね。」

 

「僕にとっての世間はミストだからね。」

 

【おふたりはどのようにすごしてきたのですか?】

 

「私は屋敷に軟禁されていましたのでお金を直接使うことはありませんでした。欲しいもの義兄が買ってきてくれましたから。」

 

「僕の村は皆でものを共有してたからお金がかかるものなんてなかったよ。」

 

【おふたりがおかねのかんりにたずさわってこなかったことはわかりました。ではおかねをつかうさいはぼくにひとことおねがいします。】

 

「頼める?」

 

「私達ではどう管理すればいいか分かりませんからね。使えば増えるとは聞きますが。」

 

【なにもしないでふえるということはありえませんよ。しごとをしたりものをうったりしてふやすんです。】

 

「物を売る?じゃあここに来るまでに取ったモンスターの毛皮とか爪とか売れるかな。」

 

【これはぼろぼろでよごれているのでうりものになりませんね。モンスターからはぎとるさいはきれいにはぎとりませんと。】

 

「スミマセンカオス。私もこうした物を取っておいた方がいいとは知っていたんですが保管方法はあまり…。」

 

「タレスはモンスターから素材を集めたり出来る?」

 

【ぼくはこのてのことにかんしてはいろいろとやらされてきたのでできますよ。つぎにそとへおもむくさいはおおしえします。】

 

「有り難うタレス!君がいて本当に助かるよ!」

 

「これからはタレス先生と呼びましょう。」

 

【おふたりのおやくにたてたのならほんもうです。それとせんせいはやめてください。】

 

「じゃあさっそく素材集めに街の外に行こう!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

【やどのほうはとらなくていいんですか?カオスさん!タレスさん!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ~、すっかり目的を忘れて素材集めしてたよ。」

 

「私達は情報を得るために街を訪れたのでしたね。」

 

【おかねをかせぐことはいいことなのでなりゆきにまかせていましたがこんごはどうするおつもりなのですか?】

 

「ん~。知ってるひとがいれば聞きに行きたいんだけどそれがどこにいるのかも分からないしなぁ。」

 

「街に来ていきなり詐欺を働こうとした人に捕まってしまいましたしその情報が確かなのか判断がつけばいいのですが。」

 

【それではぼうけんしゃがたまりばにつかってるさかばとかはどうですか?】

 

「さかば?」

 

「お酒を飲むところですね?」

 

【さかばはいろんなばしょからぼうけんしゃたちがおとずれるのでじょうほうがほしいならうってつけですよ。】

 

「その冒険者達って一目で分かるかな?」

 

「それに関しては私達と同じような格好をしている人を探せばいいのではないでしょうか?」

 

【ぼうけんしゃはけんやつえをもっていますからみつけやすいですよ。】

 

「よし決まりだね。その酒場ってところに行ってみよう。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑園の都市 リトビア 酒場

 

 

 

「ここが酒場?」

 

「思ってたよりシックなお店ですね。」

 

【ここへはおさけをのむいがいにもギルドをやっていたりするんでないそうはひかえめなんですよ。】

 

「ギルド?」

 

「ここにギルドがあるんですね。ギルドとは街の人や国から仕事の依頼を受けその仲介をしてくれる人達の集まりのことですよ。依頼はモンスターの討伐や素材の採集、護衛と様々な種類がありますがクリア出来れば必ず報酬が貰えます。ですよねタレス。」

 

【アローネさんのせつめいどおりです。ただほうしゅうがおかねのときもあれば武具や防具といったかんせつてきなものもあります。もしかしたらぼくたちにはつかえないものだったりするのでいらいをうけるさいはほうしゅうのかくにんもひつようです。】

 

「お金が貰えるのかと思ってクリアしたら全然お金に関係ないものだったとか?」

 

「報酬の武具が欲しいのならそれでいいですけどそうでないのならお金が報酬の依頼を受けた方が良さそうですね。」

 

【いらいのけいじばんがあっちのほうにあるのでみにいきませんか?】

 

「そうだねどんなのがあるか見てみようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【キラービーの巣を発見し焼却せよ】【下水道のマウス退治】【新薬の治験】………。」

 

「どれも……なんか嫌ですね。」

 

【このようにできるけどじぶんじゃやりたくないといったしごとがメインのいらいです。だれでもできるのでほうしゅうもそこそこといったがくです。】

 

「よく考えたらここに来る冒険者に依頼を出すくらいだからそんな緊急性のある依頼はないのかもね。」

 

「生活するうえでそのうち解決してくれたらいいといった内容のものなのでしょう。」

 

「ウルフとかトレントみたいなそこら辺にいるモンスターの討伐とかはなさそうだね。」

 

【そういったものはいらいをださずにじぶんでたいじするのでしょう。かりにそういういらいがきてもすぐだれかにとられちゃいますよ。】

 

「う~ん、何か気軽に出来そうな依頼とかはないのかな………………………………ん?」

 

「どうしました?」

 

「これは………。」

 

「どの依頼ですか?………【盗賊団ダークディスタンスの情報求む】…。」

 

「…」

 

「これって依頼主がこの街の騎士団になってるね。」

 

「騎士団………ですか。」

 

「この間のこともあるから騎士団とは関わり持つのは気が引けるな。」

 

【騎士団と何かあったのですか?】

 

「………そのうち分かると思うよ。」

 

「あの言葉通りならそうなるのでしょうね。」

 

「?」

 

「ああいうのってすぐに張り出したりしないのかな。」

 

「彼等は王都に帰ると言ってましたよね。私達のことは王都に戻って報告してからになると思いますよ。私達がリトビアに到着する前にこの街を訪れたのだとしても騎士団の隊長一人の独断で手配書を作ったりは出来ない筈ですから。」

 

「作れないの?」

 

「作れるとは思います。作れはしますけどそのさいの手配書の賞金は国からではなくブラムさん個人のものになります。そうなった場合ブラムさんは訪れる街々で出費しなければなりません。」

 

「なるほど、ならこの街で僕達の手配書が作られてることはないんだね。」

 

「ブラムさんが余程の大富豪で、出張する度に大金を持ち歩く人でなければ安全ですよ。」

 

「よかった。ならこの依頼、直接騎士団にのところに行こうかな。」

 

「カオス?ダークディスタンスはもう…。」

 

「分かってるよ。ダークディスタンスがもう首領以外は全滅してるって教えにいくだけだよ。」

 

【このいらいしょはきしだんからせいしきにいらいされているためあのやけたアジトがダークディスタンスのアジトだったとしょうめいできなければふとうなクエストクリアとみなされてさいあくばっきんもありえます。】

 

「ばっきん?僕はダークディスタンスがもういないからこの依頼は必要ないですよって伝えにいくんだよ?」

 

「どういうことですか?」

 

 

 

「この依頼書って騎士団が盗賊達を捕まえたくて出してるんでしょ?その手助けが出来ればいいなぁとは思ったけど盗賊達はもういない。いない盗賊達を追い掛けてるのはなんか虚しいなって。そんなことしてるくらいなら他に誰かの為に頑張ってほしいんだ。だから騎士団にアジトのことを確かめてもらって依頼を取り下げてもらおうよ。」

 

「!?」

 

「そうしますと報酬は受け取らないということですか?」

 

「うん。だって盗賊達捕まえられなかったしね。それで貰ったらズルいだろ。」

 

【このいらいしょはあくまでじょうほうがほしいというだけでたいほするかしないかはぼくたちにはかんけいないんですよ?】

 

「それでもさサハーンはまだ逃げてるわけだし、アジトには死体が転がってるだけでどうすればいいのか騎士団も困るだろ。」

 

「「……」」

 

「早いとこ言ってこよう。これくらいしかできそうな依頼ないみたいだし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス………貴方は正直者でもあるのですね。」



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封魔石

 青年カオスはアローネとタレスと共に旅している。

 三人は街で情報を集めるため酒場を訪れそこでギルドの存在を知る。

 情報を集めることをすっかり忘れて遂行不可能の依頼書を見つけお節介を焼こうと騎士団の在留地に向かう。


緑園の都市リトビア 騎士団停留所

 

 

 

「どうやらここに在留しているようですね。」

 

「なんだか思っていたより小さい建物だね。民家二つぶんくらい?」

 

【ここらにくるきしはおうとでもかいきゅうがひくいきしがおおいようです。なのでたてものもこのおおきさになるのでしょう。】

 

「階級が低い?」

 

「ウルゴスでもあったことなのですが主都から離れると情報や物資の流通が遅くなります。それは戦時ですと大きなリスクを負うのです。ですから階級の高い方は主都から離れず階級の低い方は遠方にまわされることがあるのです。」

 

【とおいむらやまちにぶっしをおくってもモンスターやとうぞくにおそわれてとどかないことがあるのでそうなるのでしょう。】

 

「そうなんだね。僕は遠いところまで行く人の方がカッコいいと思うけど。」

 

「騎士という職業上何処にいても危険はありますからね。王都のように堅牢な城壁で固められているところよりモンスターのいるフィールドを往復する騎士の方々が戦馴れしてそうです。」

 

「よし、じゃああの門のところにいる人に伝えようか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、こんにちは。いかがなさいました?」

 

「こんにちは、酒場のダークディスタンスの依頼書を見てやって来ました。」

 

「あぁ、あれの!貴方達は情報提供者ということですか?」

 

「はい。」

 

「分かりました。では中の方でお名前、ご住所、ご職業、それから依頼書の情報をお教え願えますか?」

 

「その件なんですけど!」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……既に盗賊団はボスを残して壊滅している、ということですね。」

 

「はい、この街から南西にあるヴェノムに汚染された森の奥に屋敷があったんですけどサハーンが燃やして団員達は皆…。」

 

「そうですか…。」

 

「なので森に行って確認をしてほしいのと、この依頼書の回収をしてください。」

 

「回収?」

 

「僕達はたまたま現場に居合わせただけなのでお金は入りません。本当なら捕まえてた方がよかったんですよね?」

 

「……捕まえられるのならそれにこしたことはないですが…。」

 

「サハーンはまだ生きています。サハーンに逃げられたままその報酬を受けとるなんて出来ませんよ。」

 

「……」

 

「それでは僕はこれで。」

 

 

 

「………ちょっ、ちょっとお名前を!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうでしたか?」

 

「やっぱり森のアジトの調査に向かって確認してかららしいよ。」

 

「これであの依頼書はクリアですね。」

 

「報酬は……この前の盗賊から先に貰ってたからいいよね。」

 

「えぇ。ではこの後はどうしましょうか。」

 

「何してたんだっけ?」

 

【さかばでじょうほうをさがすのでは?】

 

「そうだったね。あ!アローネ。今思い付いたんだけど情報探すなら僕達もあのギルドでウルゴスと殺生石のことを依頼に出してみない?」

 

「私もそうしようとしたのですがあの依頼書を見ていったら依頼者の方々は名前と報告と居住地とも載せていました。私達はこれから各地を回ることになるので一定の資金と報告先が必要になります。そうしますと先の件で…」

 

「依頼じゃなくて騎士団がくるかもしれないなぁ。聞き込みして回るしかないのか。」

 

【なにかふつごうでも?】

 

「僕達少し不味いことしたんだよね。」

 

「あくまでも私達は冒険者でいきましょう。」

 

「そうだね。聞き込みだけにしとこうか。殺生石といえばこの街ってヴェノムとかの対応はどうしてるのかな。」

 

「言われてみればあの森もヴェノムの痕跡がありましたからこの街の周辺にもいそうなものですが、」

 

【しらないのですか?このまちのがいへきにはふうませきがせっちしてあるんですよ?】

 

「封魔石?確かそんな名前の石がミストにも届いたってミシガンが言ってたなぁ。」

 

「ヴェノムを近寄らせない結界のようなものですか。そんなものが存在していたなんて知りませんでした。」

 

【ふうませきはむかしおうとでかいはつされたものですよ。ふうませきはしゅういのマナのけはいをけしてヴェノムにきづかれないようにするものらしいです。】

 

「マナの気配を消す?………本当だ、この街の中人がたくさんいるのにマナを感じないな。」

 

「たしかにマナ………は感じませんね。こんなことが…。」

 

【まちのちゅうおうにもおおきなせきぞうがみえますよね。あれもふうませきなのでみにいってみますか?】

 

「行ってみようかどんなものか気になるし。」

 

「急ぎの用事もないですし見物してみましょうか。」

 

【ではまいりましょう。】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが封魔石ですか?何か特別なものは感じませんけど。」

 

【あまりちかづきすぎないほうがいいですよ。これにさわるとしばらくまじゅつをつかえなくなりますし。ひとによってはそのまましょうがいがのこったりします。】

 

「障害ですか?そんな危険なものが剥き出しでおいてあっていいのですか?」

 

【まちのひとはにちじょうでまじゅつをつかうきかいがほとんどないのでさしてきけんとはおもってないんですよ。ぼうけんしゃもふうませきがそういうものだとしっていますしわりとゆうめいなんですよ?】

 

「ウルゴスではこんなものを見たことありませんでした。」

 

【そのウルゴスというまちではまだふきゅうされてないんですね。】

 

「ウルゴスは街ではなく国ですよ。」

 

【マテオとダレイオスいがいにまだのこっているくにがあるのですか?】

 

「………やはり誰もウルゴスのことを知らないのですか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

「カオス?」

 

【どうしました。】

 

 

「……」

 

 

「「?」」

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは………殺生石だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故だか分かる。

 

 

 

 これが殺生石だと感覚的にわかる。

 

 

 

 殺生石がこんなに早く見つかった。

 

 

 

 この街には、いやこの国には殺生石が多くあるのか?

 

 

 

 こんな簡単に見つかるのならミストはもっと早くにこの石をみつけておけば…。

 

 

 

 最初は半信半疑だったけどこれならヴェノムを遠ざけられる。

 

 

 

 ………だけどこの殺生石はミストのものと何か違う。

 

 

 

 何だ?

 

 

 

 何が違う?

 

 

 

 何故それが分かる?

 

 

 

 この石は一体……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はいつの間にか封魔石に触れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……は逝ってしまったのか……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まただ。

 

 

 

 また夢の声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!」

 

 

 

「!」

 

 

 

 何だ?

 

 今何が起こっている?

 

 力が…

 

 体の中から力が溢れてくる。

 

 

 

「カオス!マナを!マナを抑えてください!!このまま解放すれば街がっ!」

 

「…!?体がぁっ!体が熱いぃィィッ!!うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!」

 

「…!?」

 

「カオスゥゥゥ!」

 

「…!!」

 

「タレス!離してください!カオスが!カオスがぁっ!!」

 

「ぐぅぅぅぅぅッッ!!これはぁぁぁっ!!?」

 

 

 

 この感覚は……十年前の!

 

 いや、それよりもマナが多い!!

 

 既に余波だけで破壊されている!

 

 このマナが爆発すればヴェノム関係なく街を吹き飛ばす!

 

 どうにかしないと!

 

 

 

「落ち着いて下さい!カオス!どうしたのですか!?」

 

 

 

 そんなの僕にも分からない!

 

 この封魔石に触れた途端体の中のマナが封魔石を全力で攻撃しようと暴れている!

 

 抑えるだけで精一杯だ!

 

 とにかくこの封魔石から離れないと!

 

 

 

「んんんッ………!!」

 

 

 

 駄目だ!

 

 体のコントロールが利かない!

 

 動こうとしても体が吸い寄せられるように封魔石に向かっていく!

 

 

 

ナンノサワギダッ!?

 

アイツナニヤッテルンダ!?

 

フウマセキコワソウトシテナイカ?

 

ソンナコトシタラマチガ!

 

ダレカヤメサセロ!

 

ダメダアツクテチカヨレネェ!!

 

 

 

 騒ぎを聞き付けて街の人が集まってくる。

 

 

 

「止せッ!来るなぁぁ!逃げろォォォォォォォォ!!」

 

 

 

 僕にはもう叫ぶことしか出来ない。

 

 力が……マナが………決壊する。

 

 

 

 また僕は誰かを殺してしまうのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!」

 

 

 

「アロー…!!ネェ!!」

 

 いつの間にかアローネが僕のそばまで来ていた。

 

 さっきの余波で所々怪我をしている。

 

 

 

「アローネ!……今すぐッ!!………離れてもう持ちそうにない!」

 

 

 

「カオス……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうか落ち着いて下さい。」

 

 

 

「アローネ……ッ?」

 

「落ち着いて………貴方なら出来ます。マナを押さえ込むのではなく循環させてください。大気のマナと一体になってその力を少しずつ解放してください。」

 

「無理だ!前にこの力で僕はッ…!」

 

「大丈夫です。カオスはそのことを悔やんできた。貴方はそれが間違いだと知っているんです。間違いを知っているのなら………貴方は次は間違えない。」

 

「!」

 

「カオスはカオスを信じてあげてください。」

 

 

 

 そう言ってアローネは僕の手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生きていたか……よ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 !

 

 

 

 これは…。

 

 

 

 荒ぶっていたマナが急速に静まる。

 

 

 

 力が抜けていく。

 

 

 

 感情が流れてくる。

 

 

 

 暖かな心が流れ込んでくる。

 

 

 

 



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旅の進路

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 最初についた街リトビアにて情報集めの途中封魔石に興味を示し向かうが封魔石に触れたとたんカオスが暴走してしまう。


緑園の都市 リトビア

 

 

 

「大丈夫ですかカオス?」

 

「……もう収まったみたい。」

 

「よかった。カオスが無事でなによりです。」

 

「有り難うアローネ。アローネが……アローネが僕のマナを静めてくれて、僕はまたたくさんの人を殺すところだった。」

 

「カオスはそんなことしませんよ。貴方はそんなことが出来る筈がありません。貴方は人の命の大切さを知っている人ですから。」

 

「アローネ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナンダッタンダ?

 

アイツナンカヤバクナイカ?

 

キシヲヨンデクルヨ!

 

マタアバレダシタラテニオエネェ。

 

 

 

「カオス騒ぎが大きくなりそうです。ここは一旦離れましょう。タレスも。」

 

「うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムスト平原

 

 

 

「ごめん、二人とも、僕のせいで一日もしないうちに街から出ることになって。」

 

「いいのですよカオスはなにも悪くありません。」

 

【ぼくはもりやそうげんになれています。】

 

「有り難う、本当にごめんね。」

 

「もういいですってば。それよりも」

 

【カオスさんさっきはどうしたのですか?】

 

「……自分でもよく分からない。あの封魔石を見てたらなんだか気持ちが悪くなって。」

 

「封魔石を?」

 

「あの石は何か殺生石に近い……けど何か嫌なものを感じたんだ。嫌というか苦しいというか……悲しいというか。」

 

【せっしょうせきとはどんなものなのですか?はなしにはきいていましたけどふうませきとどのようなかんけいが?】

 

「殺生石は僕がいた村にあった護り石でモンスターを寄せ付けない力があったんだ。」

 

【よせつけない?】

 

「殺生石は触った生物のマナを消滅……違うな触った生物のマナを吸い付くす力があって、敏感な生物はそれを気取って村に近づかない。そんな石があったんだ。」

 

【ふうませきのこうのうににていますね。】

 

「何故だかあの封魔石を見てると意識が遠退いて気がつけば手を伸ばしていた。そしたらさっきみたいにマナが暴走して。」

 

【カオスさんやアローネさんのマナがほかのひとたちとちがうものをかんじるのはどうしてですか?】

 

「……」

 

「その殺生石は十五年前までは機能していたんだけど最後に僕が触れてから力をなくしてしまったんだ。そのときに殺生石の力が僕の中に流れ込んでいたせいで。」

 

【カオスさんはぶじだったんですか?】

 

「マナが消し飛んだけど奇跡的に助かったと思い込んでたから平気だったよ。タレスと違う症状で五年くらい魔術が使えない期間があったね。」

 

【カオスさんも…。】

 

「いろいろあって今こうしてマナは戻ったんだ。質は他の人達と違うらしいけど詳しくは僕でも分からない。恐らく殺生石の中にあった何かがまだ僕の中にあるんだと思う。」

 

【カオスさんの中に?】

 

「そう、体の中に何か別のものがいてそれがさっき暴れだして…。」

 

【このまえはそれをそとにだしたいといっていたんですね。】

 

「この何かがあるおかげでヴェノムと戦えるけど本当だったら今でもミストで村のみんなを守り続けていなきゃいけないんだ。だからこれを調べるために旅をしようと思ったんだけどさっきみたいに暴走すると止められなくなる。」

 

「それももう収まったようですね。」

 

「さっきアローネが手を握ってくれたとき夢の声が聞こえてそこからマナの暴走が止まったんだ。」

 

【アローネさんに?】

 

「アローネかな。もしかしたらアローネのマナかなにかに反応したんだろうね。」

 

「私のマナで…。」

 

【アローネさんのマナがちがうのはいったい?】

 

「実は私もよく分からないのです。ウルゴスがヴェノムに侵攻されてそれからの記憶がないのです。それまでは他の人達とかわりないマナをしていたのですけど…。目覚めてからはカオスと同じくヴェノムを倒せる力が備わっていました。」

 

【おふたりのちからはよくわかりませんがヴェノムをちょくせつたおすほうほうはおうとのかがくしゃがつくったワクチンいがいではきいたことありませんね。】

 

「ワクチン?」

 

「ヴェノムに対抗する手段が他にあるのですか?」

 

【はい、ヴェノムはせかいでしられるかぎりさいきょうのウイルスをもっています。ぞくにいうヴェノムウイルスというものでおうとのけんきゅうしゃたちがそのヴェノムウイルスのワクチンをかいはつしたんです。それをつかえばヴェノムのぞうしょくをおさえることができるんですよ。】

 

「それはどう使うの?」

 

【かなりおかねがかかるらしくてぼくもひとづてにしかきいたことないんですがそのワクチンをひとにうつとしばらくのあいだかんせんもしないうえにそのひとのまじゅつにヴェノムをたおすふかこうかがつくそうですよ。ふうませきもそのけんきゅうしゃたちがつくったんです。】

 

「封魔石とワクチン……。」

 

「カオスの力もその研究者の方々に調べてもらえれば何か分かるのでしょうか。」

 

「もし分かるのなら行ってみる価値はある。街を回って情報を集めていずれは、って思ってたけどこの際真っ直ぐ王都に行かない?」

 

「直接王都へ?

 ですが私たちはもうじき……」

 

「それはどこにいても同じことになると思うよ。

 今回みたいな発作がいつ起こるか分からない。

 なら極端に一番大きくて人の多いところへ行くのがウルゴスの件も含めて解決に手っ取り早いんじゃないかな。」

 

「ではこれから王都へ向けて出発ですね。」

 

「街で休む暇もなくて申し訳ないんだけどよろしく頼むよ。」

 

【ひろわれたみなのでかまいませんよ。やどもとってなかったですし。】

 

「そうだったね。街の中が珍しくて後回しにしてたのが幸いだったかな。」

 

「フフッ、いきなり口車にのってお金を失いそうになったりもしましたけどね。」

 

「あれはあれで勉強にはなったよ。」

 

【おうとへむかうのならきょうはムストへいげんをもうすこしほくじょうしましょう。】

 

「あぁ、そうしよう、じゃあ出発しようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都の某所

 

 

 

『その後成果はどうだ?』

 

「私の予測通りだ。あの女を使って正解だったよ。やはりあの村の住人だったようだ。今日の昼頃女がいる街で反応があった。一緒にいるみたいだぞ?」

 

『それが分かっているのなら早く彼女を迎えに行け。』

 

「急かすなよ。下手なことして星砕きに逃げられたくねぇだろ。さっきだってとんでもねぇ高濃度のマナが集約してたんだ。危うく大陸が吹き飛ぶところだったぜ。心配しなくてもあいつらこっちに向かってるさ。今は久方ぶりの自由を満喫させてやろうぜ。」

 

『……』

 

「心配しなくてもいいと思うぞ?あの女がどういう役割しているのかハッキリしたからな。星砕きはあの女がいるなら力を封印するだろう。待ってれば来るのならこちらは万全の体制で歓迎してやるつもりさ。」

 

『護衛の件はどうなった。』

 

「無理だって言ったろ?それに星砕きがついてるならそうそう滅多なことにはならねぇよ。星砕きとあの女なら確実にここまで来る。お前のお人形に狙われでもしねぇかぎりな。」

 

『……逐一彼女の所在地は掴んでおけ。』

 

「常にやってるっての。」

 

『星砕きを迎えるにいたって私も準備をしなければならない。絶対に逃がすなよ。』

 

「逃がした場合は私が星砕きかお前のどちらかに殺されるんだろ?慎重にことを進めるさ。」

 

『頼んだぞ。』

 

「あいよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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スペクタクルズ

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 最初に立ち寄った街リトビアにてカオスが暴走してしまったため街にいられなくなりカオス達は急ぎ次の街へと向かう。


ムスト平原 北

 

 

 

「ここから北上してトーディア山脈を越えて三つほど街を通り抜けたら王都につくね。」

 

【ヴェノムがあらわれてからはひとのこうつうがすくなくなりましたからモンスターとヴェノムがあふれかえってるそうですよ。

 ていきてきにぼうけんしゃやきしがかりにでているみたいですがだいじょうぶでしょうか?】

 

「ヴェノムが出たら僕とアローネに任せてよ。タレスはモンスターが出たらひきつけててくればいいからさ。」

 

「本当は子供の貴方に戦闘はさせたくないんですけど。」

 

【そんなわけにはいきません。

 おふたりのたすけになれなければぼくにはいみなんてありませんから。】

 

「前もいったけどそんなこと気にしなくていいんですよ。タレスはリトビアで活躍してくれましたから。」

 

「そうだよ。タレスがいなかったら僕達はここまでこれなかったんだから。」

 

「(ただ一般常識を教えただけでこのいわれよう…。)」

 

「それにしてもモンスターって時間帯によってかわるもんなんだね。」

 

「夜行性のモンスターもいますから眠る際には気を付けないといけませんね。」

 

【ぼくがよるはみはりをしましょうか?】

 

「タレスだけにはまかせないよ。交代でしよう。」

 

「私もしますよ。」

 

【おふたりにはヴェノムをたいおうしてもらいますしこのふきんはずかんによるとそんなにつよいモンスターはでないのでひとりでもできますよ?】

 

「図鑑?図鑑持ってるの?」

 

【はい、ぼくはじぜんにしらべておかないとあぶないときがあるのでモンスターにかんしてはしたしらべはにゅうねんにします。これがずかんです。】

 

「どれどれ?」

 

「……ほとんど情報が載ってませんね。」

 

【あまりとちをいどうしませんのでこのあたりのモンスターしかのってないんですよ。】

 

「これって記入式?」

 

【スペクタクルズをつかってにゅうりょくされたせいたいをこのずかんにセットするとずかんがこうしんされますよ。】

 

「へぇ~、面白そうだねこれ。」

 

【スペクタクルズはきのうのしょうにんとおなじようにかくまちでとりあつかっていますよ。かかくもやすいです。】

 

「ではこれから街を訪れる際は購入しておきましょう。」

 

【じつはいまひとつだけもってますよ?つかってみます?】

 

「これがスペクタクルズ?」

 

「虫眼鏡のような形ですね。」

 

【つかいかたはしらべたいあいてにむけてスイッチをおすだけです。モンスターとそうぐうしたらつかってみてください。】

 

「ふ~ん…。」

 

「カオス?モンスターに向けるのですよ。私に向けてどうするんですか。」カチッ

 

「あ」

 

「カオス!」

 

「ゴメンゴメン、つい使っちゃったよ。」

 

「もう!」

 

【ひとにむけてつかってもモンスターずかんにはきさいできませんよ?】

 

「本当だ。簡単な特徴だけで他のモンスターみたいに詳しくかかれてないなぁ。」

 

「私はモンスターではありません!」

 

「分かってるって冗談だよ。」

 

「まったく!」

 

【いまのでスペクタクルズがなくなりましたね。】

 

「カオスが無駄遣いするからですよ!」

 

「悪かったよ。次はちゃんとすらからさ。」

 

「次から気を付けてください!」

 

 

 

【アローネさんおこっちゃいましたね。】

 

「ゴメンねタレス。」

 

【どうしてあんなことを?】

 

「…ここ数日さ。毎日真面目にアローネに叱られてるんだ。」

 

【アローネさんにですか?そんなにおこるようなひとにはみえないんですけど。】

 

「アローネは僕に対して頭が上がらないというか上げられないというか…。

 色々あってね。

 アローネしゃべり方も丁寧だからストレス溜めてないか心配なんだ。短い間でいろいろあったし。」

 

【それがアローネさんをおこらせることとどうかんけいが?】

 

「もう少しアローネには肩の力を抜いてほしいんだ。

 僕は正義でも聖人でもなんでもないそこらへんの普通の人……とはちょっぴり違うけど中身はそのつもりだよ?

 笑ったり泣いたり怒ったりもする普通の人。

 だからさっきみたいに自分の身を省みず危険なことをしてほしくない。

 一歩間違えてたら死んでたかもしれないんだ。

 アローネはいい子だよ。

 僕なんかのために死んでいい子じゃない。」

 

【それでおこらせてきょりをおこうと?】

 

「その逆にしたかったんだけどなぁ。」

 

「?」

 

「怒らせて距離をおくんじゃなくてより近づきたくて怒らせた…そんな感じ。

 アローネとは恩人とか上下関係みたいなのじゃなくて冗談言い合える友達になりたいんだ。」

 

「(カオスさん…。)」

 

「って言うのは実は建前なんだ。

 本当はアローネを怒らせるのが楽しくてやってたりする。」

 

「…」

 

【どうしたんですかカオスさん。こどものようなことをいって。】

 

「やった後になってそれに気付いたよ。

 けどさ、アローネとこうしてバカなことしてるのがとても楽しく感じるんだ。

 アローネはどうなのか分からないけど家族みたいになったような気持ちになってね。」

 

「(カオスさんは…もしかして。)」

 

「昔おじいちゃんに散々からかわれていたのが懐かしく思えるな。アローネはそれを咎めてくれるお母さんかな。」

 

「(ボクとそんなに精神年齢変わらない?)」

 

「僕に対してあんなに真剣になって怒ってくれる人はミストでも一人くらいしかいなくて新鮮なんだよ。

 それが面白くて楽しくて……嬉しくて。

 アローネとは対等でいたいんだ。」

 

【それってさっきいったことをうやむやにするためのてれかくしですか?】

 

「指摘するなよ…。今言ってて恥ずかしいんだから。なんでこんなこと言ったんだろ。」

 

【アローネさんにいってみてはどうですか?】

 

「タレスだから言えるんだよ。本人になんて言えないよ。」

 

 

 

「何が言えないんですか?」

 

「うぉわっ!?アローネ!先に行ってたんじゃないの!?」

 

「カオス達が何時までたっても来ないから迎えに来たんですよ。」

 

「あ……ハハハゴメンすぐ行くから。」

 

「ちゃんと来てくださいよ。

 ……変に気を使わなくても私達は対等ですからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いてたんじゃん。」

 

【カオスさんがはなしにむちゅうになっているさいにうしろできいてましたよ。】

 

「なんでおしえてくれないんだ。」

 

【スミマセン、おしえようとおもったのですがアローネさんにジェスチャーでとめられました。】

 

「アローネ…、まぁもう怒ってないみたいだからいいか。」

 

【カオスさんのきづかいをアローネさんはわかっているんですよ。】

 

「…そうみたいだね。」

 

【おふたりともかんがえはおなじなのでないですか?】

 

「え?」

 

【カオスさんとアローネさんはおなじかんがえだったということです。】

 

「前後逆にしただけじゃない?」

 

【おふたりをみているとこのひょうげんがいちばんてきしているかと。】

 

「…アローネと同じ考えか。」

 

【ではそろそろアローネさんがまたよびにくるのでいきましょう。】

 

「そうだね、そうしようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(アローネと同じ…。)」

 

 最初は誰かが傷つくのを見たくなかった。

 

 目の前で傷つく人がいたらあの光景がよみがえる。

 

 絶対に忘れてはいけない記憶。

 

 あんなことが二度と僕の前で起こってほしくない。

 

 だからアローネも助けなきゃって思ってた。

 

 でも今回はアローネに助けられてしまった。

 

 アローネがいなかったらあの悲劇を繰り返すところだった。

 

 アローネは僕のことをなんか変に持ち上げて見ている。

 

 今はアローネが僕を救ってくれたことの方が大きい気がするのに。

 

 恩人には気負わずに前を向いていてほしい。

 

 アローネもそんな風に考えていたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、合流しないとな。」ポトッ

 

 ?

 

 あぁさっきのスペクタクルズか。

 

 さっき使ったときは冗談のつもりだったけどこれでアローネのことが分かれたらアローネの体のことも診てあげられたのに。

 

 書かれていることは……他を知らないから分からないけど多分一般的なことがかかれているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名称 エルフ

 

攻撃 ???

 

防御 ???

 

魔攻 ???

 

魔防 ???

 

種族 魔法生物



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再戦ジャイアントヴェノム

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 先日の一件から気負いがちなアローネに気を使ってカオスは彼女をからかい距離を縮めることに成功する。


トーディア山脈 麓

 

 

 

「大きい山だねぇ。」

 

「ウルベスタ山よりも大きいかもしれませんね。」

 

「ウルベスタ山?」

 

「ウルゴスではそう読んでいる山があるのですよ。ウルゴスからも見える大きな山です。登ったことはありませんけどね。」

 

「アローネは山道辛くない?」

 

「気を使いすぎですよ。ここまで来たのですからこんな山こえるくらいなんともないです。」

 

「アローネは無理でも無理って言わなさそうだしなぁ。ミストの森でもそうだったし。」

 

「あのとき疲れたと言っていたのはカオスではありませんでしたか?」

 

「そうだったね、じゃあ途中で休憩挟んで登っていこうか。」

 

【にんずうがいるばあいはたいりょくがばらつきますからそのほうがよさそうです。】

 

「疲れたら遠慮なく言っていいですからね。」

 

「モンスターもいるようだし気を付けていこう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーディア山脈 中腹部

 

 

 

「ここらで休憩しようか。丁度それらしいポイントみたいだ。」

 

「分かりました。タレス疲れていませんか?」

 

【だいじょうぶですよ。たいりょくにはじしんがあるのです。】

 

「一旦荷物おろして休んでてよ。その辺り見回ってくる。」

 

「カオス、それは私が…。」

 

 

 

「…」

 

【いっちゃいましたね。】

 

「カオスはなんでも一人でやろうとしますから…。私達のことを甘く見すぎです。」

 

【それがカオスさんのいいところなのではないですか?】

 

「いいえ!カオスの悪いところです!カオスにばかりああいうことされては私達の能力が育ちません!パーティを組むからには能力は平均的に上げていかなければならないのに!」

 

【アローネさんはあんがいかっぱつてきですね。どこかのごれいじょうのようなかただとうかがえるのですけど。】

 

「私はウルゴスと言う国の貴族ですよ。

 戦いの基本に関しては義兄から教わっていたんです。」

 

【うわさにきくおにいさんですね。きしかなにかだったのですか?】

 

「義兄は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま。」

 

「それでですね。義兄が…お帰りなさいカオス。」

 

【おかえりなさい。】

 

「なに話してたの?」

 

「少し昔の話をしていました。」

 

【カオスさんがアローネさんをブラコンといっていたわけがわかりました。】

 

「アローネ話始めると止まらないでしょ?」

 

【しゅうしおにいさんのことをはなしていましたよ。】

 

「まぁ!私が義兄のことを話して何か問題でも?」

 

「別にないけどお義兄さんが好きなんだなって。」

 

「?私はハーフエルフだからと言って差別することはないので義兄のことは好きですよ?」

 

「堂々とハッキリ言ったね。」

 

【さべつ?】

 

「僕達エルフとヒューマって種族の間に生まれた種族のことを言うらしいんだ。

 ヒューマはマナの変わりにキカイっていう道具が使えるんだって。」

 

【ヒューマ?ダレイオスでもきいたことありませんね。】

 

「私の前ではハーフエルフの差別は許しませんからね。」

 

「そんなつもりはないよ。

 けど話に聞く分にはハイブリッドな種族でとても優秀な種族だと思うんだけどなぁ。」

 

「プライドの高いエルフは自分達より優れた種族を認めようとはしないのです。」

 

「エルフが優れているか…そんなことないよなぁ。

 僕みたいなモンスターと戦うくらいしか出来ないのもいるし。」

 

【ぼくにいたってはだれかといっしょじゃなきゃいきていけないものもいますし。】

 

「それを素直に認められない人達がいるのですよ。

 自分達は他者などに頼らずとも生きていけるのだと、私も義兄に会うまではそうでした。」

 

「アローネが?献身的なアローネからは想像つかないなぁ。」

 

「貴族社会は常に能力を求められます。

 それ相応の態度と志向を持たなければならなかったのです。

 私は病弱で大人しい姉の代わりにまわりの人を牽制してました。

 それも義兄が来てからはやめましたけど。」

 

「お義兄さんが来てから?」

 

「いくら能力を誇示しても誰も義兄に敵う人などいません。

 それなのに誰も認めようとしない。

 そんな背景を見ていますとその人達と同じことをしているのが嫌になったんです。」

 

【よわいもの……ではなくつよいものをなかまはずれにするのがみっともないと?】

 

「私からはそう見えました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仲間外れ。

 

 子供のときの僕を思い出す。

 

 子供の頃の僕はお義兄さんとは違って弱いだけだった。

 

 1度勝ったくらいで強くなった気になるような子供だった。

 

 実際はまだまだ弱いままの子供で。

 

 

 

 アローネは僕をお義兄さんと似ていると言った。

 

 本当にそうなのだろうか。

 

 お義兄さんはどんな気持ちだったのだろうか。

 

 どんなに頑張っても誰に勝ててもいっこうに認めてもらえないそんな環境でお義兄さんはどう自分を保てたんだろう。

 

 僕がそんな環境におかれたら…。

 

 子供のときは報われることを目指して努力は出来た。

 

 じゃあ報われないことが分かってるのなら…。

 

 僕はお義兄さんのようになれるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーディア山脈 峠

 

 

 

「ふぅ、やっと登りきったね。あとは降りていくだけだから気が楽だね。」

 

「そのようですね。ここまでモンスターと戦いながらでしたから思ったより体力を使いましたね。」

 

【きをぬかないでください。やまみちはのぼりもくだりもたいりょくをけずられます。】

 

「そうだね。気を抜かないでいこうか。

 まだ半分きった辺りだから何が出るかわからないからね。」

 

【きゅうにおおがたモンスターとであったりするかもしれません。】

 

 

 

 

 

ダダンッ!

 

 

 

 

「こんな大きな足音が聞こえてくるかもしれないしね。」

 

【はい、きをつけていきましょう。】

 

 

 

ダダンッッ!!

 

 

 

「……気を付けるもなにももうこちらに向かってきているようですよ?」

 

「この方向は……進路から来てるね。」

 

【かくれます?】

 

「この気配は……ヴェノム!?」

 

「タレス下がっていてください。」

 

「…!」

 

ダダンッ!

 

「遅かったか、大股だね。」

 

「この爬虫類は…。」

 

【ダイナソーです。】

 

「ダイナソー?」

 

「ドラゴンの一種で翼はありませんが地上でのスピードはドラゴン系でもトップクラスです。」

 

「そんな強そうなのがヴェノムにまで感染したら手強いなんてものじゃないなぁ。」

 

「!来ます!」

 

 

 

 

グオアアアアアアアアアァァァァアァ!!!!

 

 

 

 

「「「!!!!」」」

 

 

 

 こんな巨大なモンスターはおじいちゃんと一緒に戦ったあのジャイアントヴェノム依頼だな。

 

 こいつもそのうちあれみたいになるんだろうけど。

 

 

 

「魔神剣!!」ザザッ!!

 

 

 

グアォォォッ!!

 

 

 

 一々雄叫びが響くな!

 

 

 

 それだけで体が空くんでしまいそうになる。

 

 

 

 一撃じゃ決めきれないか!

 

 

 

「アローネ!攻撃は僕が受ける!援護をお願い!」

 

 

 

「はい!疾風よ我が手となりて敵を切り裂け!ウインドカッター!」ザシュッ!

 

 

 

ゴアアッ!

 

 

 

 よし、両足を………切断したら中から液状化した体液が出てくる。

 

 

 

 これだけでかけりゃ簡単には終わってくれないよね。

 

 

 

オアアアッ!!

 

バスッ!バスッ!バスッ!

 

 

 

 口から体液の弾を発射してきた!

 

 

 

「グウッ!」ガスッ!

 

 

 

 感染はしないがそれなりに痛い!

 

 

 

「うっ!!」ガスッ!

 

 

 

「アローネ!」

 

 

 

「大丈夫です!私もヴェノムは効かないようです!」

 

 

 

 一瞬ヒヤッとした。

 

 

 

 攻撃したことはあってもアローネが攻撃を受けたことはなかったから焦った。

 

 

 

「タレスは!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」ザンッザンッザンッ!

 

 

 

 後ろの方で別のモンスターと戦っている。

 

 

 

 このダイナソーの雄叫びで別のモンスターが集まってきたんだろう。

 

 

 

 早くコイツを倒して加勢してあげなければ!

 

 

 

ゴアアッ!ジュゥゥゥゥゥ!!

 

 

 

 足から出てきたヴェノムがダイナソーを覆いっていく。

 

 

 

 

 久し振りに見たな。

 

 

 

 

 ジャイアントヴェノム。

 

 

 

 おじいちゃんを死なせるキッカケになった敵。

 

 

 

 あの時のやつとは違うけどコイツは、コイツらはあってはならない存在なんだ!

 

 

 

 体の力が溢れてくる。

 

 

 

 コイツなら遠慮はいらない。

 

 

 

 本気で全部弾き飛ばしてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣!!!!」ザザザザザザザザッ!!

 

 

 

 地を這う衝撃波が駆け抜けた後それを追って更に衝撃波が発生する。

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥ!?

 

 

 

 衝撃波はジャイアントヴェノムを達磨落としのように削り斬っていった。

 

 

 

 ……………今のは?

 

 

 

 一振りで今までよりも多くの魔神剣が出せた。

 

 

 

「カオス!今の魔神剣はッ!?」

 

 

 

 アローネが話し掛けてくる。

 

 

 

「…分からないけどいつもよりマナが手に集約して出せるような気がしたんだ。」

 

 

 

「マナを集約…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」ザンッ!

 

 

 

「おっとこうしてる場合じゃない!タレスを助けないと!」

 

「えぇ!」



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感染する仲間

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 旅の途中辿り着いたトーディア山脈でヴェノムに感染したダイナソーと戦いカオスとアローネはなんとかこれを撃破する。

 一方でタレスは…


トーディア山脈 峠

 

 

 

「タレス!」

 

 

 

「……!」

 

 

 

 タレスがサイノッサスと戦っている!

 

 

 

 !

 

 

 

 コイツは!?

 

 

 

 「タレス離れて!魔神剣!!」

 

 

 

 魔神剣がサイノッサスを吹き飛ばす!

 

 

 

「タレス!」

 

 

 

「…」

 

 

 

 無表情だが足が震えている。

 

 

 

 立っているのがやっとのようだ。

 

 

 

 

 

 

 やっぱり………感染している!

 

 

 

ブルルッ!

 

 

 

 さっきのサイノッサスが立ち上がって向かってくる!

 

 

 

「『疾風よ!我が手となりて敵を切り裂け!ウインドカッター!』」ザシュッ!

 

 

 

ブル!

 

 

 

「アローネ!有り難う!」

 

 

 

「そんなことよりもタレスがっ!」

 

 

 

ドサッ

 

 

 

「「タレス!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タレス!タレス!!」

 

「しっかりしてください!タレス!」

 

 タレスの体が凄く熱い!

 

 感染したサイノッサスの攻撃を受けたんだろう。

 

 あの雄叫びで寄ってきた時点でヴェノムだと気づくべきだった。

 

 タレスにはヴェノムを判別できないことを忘れていた。

 

 作戦通り対応させてしまった。

 

 僕が!

 

 僕がもう少し冷静に対応していれば!

 

 こんなことには!

 

 

 

「…。」

 

「カオス!タレスの意識が…!?」

 

「!?」

 

 下らないことを悔いているうちにタレスが…!

 

 このままではタレスもおじいちゃんのように!

 

 どうすればいい!

 

 どうすればタレスを救える!

 

 

 

「傷口はどこ!?」

 

「どうやらこの脇腹のようです!」

 

 脇腹をやられているのか。

 

 脇腹では手足のように切り落とすことができない。

 

 素人が下手なところを傷つければそれだけでヴェノムとは無関係にショック死させてしまう。

 

 この間にもタレスの体の中ではヴェノムが繁殖していく!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またなのか。

 

 

 

 また僕は救えないのか。

 

 

 

 結局僕は誰も救うことが出来ないのか。

 

 

 

 大人になって現実を見て世界中の人を救うことも騎士になることも諦めてせめて目の前の人だけは救おうと妥協したのに。

 

 

 

 妥協した目標ですら僕には不可能なのか。

 

 

 

 僕にはヴェノムに抗う力があるのに。

 

 

 

 僕がダメだから救えないのか。

 

 

 

 僕以外の人が使えてたらもっと上手く使えたのだろうか。

 

 

 

 僕が持っているからいけないというなら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ウゴァァァ!」

 

 

 

「!」

 

 

 

「タレス!声が!」

 

 

 

「ヴェノムは高い再生能力を持っています。

 このタイミングでタレスの喉を再生させたのでしょう。」

 

 

 

「……でもこのままじゃタレスがゾンビに…。」

 

 

 

 死の間際に声が戻るなんて酷い皮肉だ。

 

 

 

 命あってのものだねだろう。

 

 

 

 神なんてものがいるのならこれが救いだとでもいうのか。

 

 

 

 こんな小さな命にはこれがやっとの救いなのか。

 

 

 

 タレスをが何をしたっていうんだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス……さん、………」

 

 

 

「タレス!」

 

 

 

「さ……いごに……こえ…がもどっ…てよかっ…た。」

 

 

 

「最期だなんて言うなよ!何か!何か手はある筈だから!」

 

 

 

「もう……いいん……です。

 ……マテオに……つれてこられてから……さんざん……悪いことを……したから……そのむくい……なんでしょう。」

 

 

 

「そんなのタレスが望んでやったことじゃないじゃないか!タレスは本当だったらダレイオスで!」

 

 

 

「いいんです………これが…戦争だった……んです。

 ……自分の声で……お礼を……いえるだけで…僕の…人生は。」

 

 

 

「タレス!」

 

 

 

「喋るな!今街に連れていくから!」

 

 

 

「間に合…せんよ……僕が……ヴェノムに……なったら……お願いし……ます」

 

 

 

「嫌だ!僕にタレスを殺せっていうのか!そんなこと出来るわけないだろ!」

 

 

 

「僕は………僕を……人扱いしてく……二人を…………傷つけた……ない……。

 この国に……来て………初めて優しくしてくれた……二人だから。」

 

 

 

「そんなの当たり前だろう!タレスは人なんだ!これからだってずっと!」

 

 

 

「短い間……でしたけど……敵国の……奴隷………の僕を人にして……くれて…………………………………ありがとう…………………………………。」

 

 

 

「「タレス!!」」

 

 

「」

 

 

 

「…………クソッ!!またっ!僕のせいで!僕が連れ出したから!」ガッ!

 

 

 

「カオス…。」

 

 

 

「なんなんだよ!?こんな力があっても役にたたないじゃないか!?ふざけるな!誰が誰を助けられるって!?くっだらない夢をみるんじゃねぇよ!?消えてしまえ!!」ザシュッ!

 

 

 

「!?カオス何をッ!?」

 

 

 

「こんな無能の俺なんか殺してやる!!生きてたって人を不幸にしかしない俺なんて!」

 

 

 

「止めてください!自分を斬りつけてもなんの解決にもなりませんよ!」

 

 

 

「こんな痛みタレスや死んでいった人に比べればぁっ!」

 

 

 

「貴方には旅をする目的があったのではないですか!?」

 

 

 

「どうせそんなもの!出来るわけないんだよ!俺が死なないと!!」

 

 

 

「カオス!!!」

 

 

 

「!!」

 

 

 

「カオス!また貴方は自分を見失ってますよ!貴方はいなくなった人のために生きなければなりません!」

 

 

 

「…」

 

 

 

「カオスは誰も不幸になどしてません!タレスも!」

 

 

 

「でも!タレスが…!」

 

 

 

 

 

 

「自棄を起こしたところで問題は解決しません!それにまだ終わってません!」

 

 

 

「!」

 

 

 

「貴方の村の人達は抗体があると仰っていましたね。

 あのミストの森も。」

 

 

 

「う、うん…。」

 

 

 

「通常では考えられません。ヴェノムは無差別に生物に感染して増殖していき村や森……最終的には国が滅ぶほどのウイルスです。」

 

 

 

「それは……殺生石の。」

 

 

 

「それです。

 その殺生石の力を受けてあの村は助かったのです。」

 

 

 

「そんなの分かってるよ!それが今なんの関係があるのさ!」

 

 

 

「十年前からヴェノムに感染した話は聞きましたか?」

 

 

 

「……他所から移動してきたモンスターだけだと思う。

 それ以外ではもとからいたモンスターもいるからそのモンスターも。」

 

 

 

「貴方のその殺生石の力を一度受けるとどういう原理かは判明しませんが抗体とやらがが出来るのです。

 その後もずっと。」

 

 

 

「………アローネはタレスに力を使えって言ってるの?」

 

 

 

「………はい。それがタレスを救う方法かと。」

 

 

 

「この力は十年前に使ってからまともに使ってない。

 コントロールも出来ない。

 第一あの時はヴェノムに感染した人ごと殺したんだ。使えばタレスだって…。

 もしかしたらアローネも。」

 

 

 

「気付いてませんか?貴方はごく最近その力をコントロールしたのです。」

 

 

 

「!あの時は………!それにたまたまかもしれないし!アローネがいたかもしれないし!」

 

 

 

「たまたまでもなんでも貴方がコントロールしたことに変わりありません。

 それにあの時も今も私がついています。」

 

 

 

「失敗したらアローネも吹き飛ぶかもしれないんだよ!?」

 

 

 

「ここでカオスがカオスを殺そうとするのならそれでもいいのかもしれません。

 私はカオスにブラムさん達から助けていただきました。 あのまま連れていかれて異国の犯罪者がどういう扱いを受けるのかは想像できます。

 私の命はカオスとともにあります。」

 

 

 

「どうしてそんな簡単に命を捨てられるんだ!せっかく助かった命をそんなに軽く…!」

 

 

 

「貴方に救われた命です。

 貴方の為に使ってこそ恩が返せるというものでしょう?」

 

 

 

「僕は……恩とかそんなもののためにアローネを助けたんじゃ!」

 

 

 

「早くしてください!ここで時間を潰していたら助けられるかもしれないタレスを助けられなくなるかもしれませんよ!今ならまだゾンビ化していないので体はタレスのままです!」

 

 

 

「!」

 

 

 

「貴方がその力を使うのが怖いということも伺っています。

 ですがここにいるのはそんなことを気にする必要のない人しかいません。」

 

 

 

「アローネ…!僕は……。」

 

 

 

 

 

 

「カオスはカオスを信じてあげてください。貴方が救いたいと願えば救われるものもいるのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………………………………………………………………やるよ。もうそれしかないのならやるしかない。」

 

 

 

「はい。」

 

 

 

「失敗したら一緒に死んでくれ!」

 

 

 

「はい!」



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助けられた命

 青年カオスはアローネとタレスとともに旅をしている。

 王都へ向かう途中トーディア山脈でヴェノムに感染したダイナソーに襲われ撃退するもその間に別のヴェノムがタレスを襲いタレスは感染してしまった。


トーディア山脈 岬

 

 

 

「アローネ……どうすればいい?」

 

 

 

「マナを掌に集めてタレスに送り込むのです。ファーストエイドは使えますか?」

 

 

 

「習ったことはあったけど僕は……使ったことがない。」

 

 

 

「ではマナを集めることだけに集中してください。やり方は私が見せます。癒しの力よ、ファーストエイド!」パァァ

 

 

 

 アローネが掌にマナを集めて僕にかけて見本を見せてくれる。

 

 この感覚は………ミシガンが昔かけてくれたものを思い出す。

 

 懐かしい……ミシガンもこうやってかけてくれたっけ。

 

 

 

「アローネ…有り難う、なんとか分かったよ。やってみる。」

 

 

 

 掌にマナを………なんだなマナの扱いがさっきの戦闘から、いやあの街の封魔石に触れてからしっくりくる。

 

 あれで僕の中の何かが解放されたようなそんな感覚を覚える。

 

 

 

「出来たよ!これをタレスに!?」

 

 

 

「はい!なるべくタレスに直接流し込むようにしてください!癒しの力は魔術と違ってただ放てばいいのではありません!直接かけなければ拡散して効力が薄れていきます。タレスに触れて体内に送り込むのです。」

 

 

 

「こんなふうかな?」

 

 

 

 タレスに触れてマナを掛けようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここまでヴェノムが寄ってきたか。』

 

 

 

「!アローネ!何か言った!?」

 

 

 

「いえ、私は何も言ってませんよ。それよりも術に集中を。」

 

 

 

「う、うん。」

 

 

 

 今ハッキリ聞こえた。

 

 あの夢の声だ。

 

 アローネの声じゃない。

 

 嗄れたお爺さんのような声だった。

 

 とうとう夢の中だけじゃなく現実でも聞こえ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォオォォォォオォォォ!!!!!

 

 

 

「!カオス、マナを抑えてください!そのマナからは破壊滴な力を感じます!」

 

 

 

「ア、アローネ!まただ、またマナが熱くなってきた!」

 

 

 

「コントロールに集中してください!タレスごと辺り一面吹き飛びますよ!」

 

 

 

「やってる……やろうとしてるんだけど力が大きすぎて…………!!」

 

 

 

「カオス!」

 

 

 

 アローネが僕の手を上から握る。

 

 

 

「大丈夫です、落ち着いてください。私がついています。」

 

 

 

「アローネ。」

 

 

 

『シ………フ、そなたか。』

 

 

 

 !

 

 マナが収縮していく。

 

 アローネが触れたらまたマナが…。

 

 

 

「アローネ!なんとか収まったよ!このままやろう!」

 

 

 

「はい、このまま握っているのでカオスはタレスに!」

 

 

 

 凄い。

 

 こんな大きなマナなのに今では体の一部かのように操れる。

 

 これなら……

 

 

 

 目の前で意識を失ったタレス……。

 

 失敗したらタレスは…。

 

 果たして本当に僕に出来るのだろうか。

 

 マナを操りやすくなったとはいえ人を治すなんて初めてだ。

 

 一歩踏み外したらタレスだけじゃなくアローネも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスは何も心配することはないんですよ。」

 

 

 

「……。」

 

 

 

「貴方がいなければなかった命、ここで失ってもそれは貴方のせいではありません。

 貴方のおかげでここまで長らえたのです。

 カオスはカオスのやりたいようにやればいいんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ、

 

 

 

 僕の負担を無くそうとしてくれてるのは分かる。

 

 

 

 けどその言い方だとどうなっても言いように聞こえるぞ。

 

 

 

 信じてくれてるって言ったじゃないか!

 

 

 

 だったら必ず成功しますって言ってくれよ。

 

 

 

 そんなふうにせっかく助かった命を僕の匙加減で拾ったり捨てたりするみたいに言われちゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対に死なせるわけにはいかないじゃないか!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファーストエイドォォォォォォォォッッ!!」パァァァァァァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………う、うぅん?」

 

 

 

「タレス!」

 

「気が付いたのですね!タレス!」

 

「ここは……?……!ボクはヴェノムに……?」

 

「助かったんですよタレス!カオスがタレスを治してくれたんです!」

 

「カオスさんが……?」

 

「どこか体の痛いところとかない?初めての治療魔術だから上手く作用したか……。」

 

「………どこにも異常は感じられません。それどころか声まで出るようになってさっきまでの疲労もなくなっています。」

 

「やりましたねカオス!」

 

「あぁ!タレスが無事で本当に善かったよ!」

 

「何があったのですか?ボクはヴェノムに感染して死んだ筈では?」

 

「カオスの殺生石の力を使ってタレスに治療魔術を施したんです!そのおかげでタレスのヴェノムは消え去ったんですよ!」

 

「治療魔術で?」

 

「うん!アローネがミストの人達のことを思い出してそこからタレスに…!」

 

「?」

 

「要するにですね……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェノムに村ごと抗体を持った人達が……。」

 

「そうなんだよ!アローネがいなかったら考えもつかなかったよ!アローネのおかげだな。」

 

「何を言ってるんですか。カオスがこの力を持ってたからこそタレスを救えたんですよ!カオスの功績です。」

 

「そんなことないさ!アローネがいなかったら僕はまた暴走してたし、この方法だって行きつかなかったよ!」

 

「カオスがいたことこそがこの結果に繋がるのですよ。」

 

「いやアローネが!」

 

「カオスが!」

 

「アローネ!」

 

「カオス!」

 

 

 

「お二人がボクを救ってくれたんですね。」

 

「……そうなるのかな。」

 

「そういうことにしときましょう。」

 

「拾っていただいただけではなく命も救っていただいて何をお返しすればいいのか……。」

 

「そんな深く考えるようなことではないさ。」

 

「そうですタレスはそのままのタレスでいいんです。

 こうして喉までも治ったのですから。」

 

「タレスってそんな声してたんだね。」

 

「お恥ずかしながらこの年になって声変わりもまだなのであまりお聞きにならないでください。」

 

「なんだよ、せっかく喉が治ったのにあんまり嬉しそうじゃあないなぁ。」

 

「まだどこか悪いところでもあります?それなら治療を試みてみますが?」

 

 

 

「助かったことは嬉しいんです。

 嬉しいんですが理解が追い付かないんです。

 今なんともなく生きているのが不思議で喉の方も。」

 

「どうして?」

 

「ヴェノムは触れたら感染率、致死率百%のウイルスです。感染したらまず諦めろというのがヴェノムの常識でした。万が一腕や足に負傷して感染したら即切り落とすのが唯一助かる道と言われるほどに。」

 

「そうでしたね私もそう聞いていました。」

 

「お二人がヴェノムに抗体を持つと言われたとき半信半疑だったんです。前に話になったワクチンかそれに類する何かを使っているだけかとそう思っていました。」

 

「僕達はとくにそういったものは使ってないよ?」

 

「それが有り得ないんです。お二人はヴェノムに触っても感染しないどころかヴェノムを殺すことが可能でなおかつボクのような感染者を治療…、いえ感染だけではありませんね。

 さっきボクは死んでいたのですから。」

 

「けどこうして生きているじゃないか。」

 

「カオスさん達は死者を蘇らせることが出来るということになります。これがどれほど不可能なことか……。」

 

「それは……。」

 

「スミマセン、せっかく助けていただいたのに問い詰めるようなことを。

 本当は嬉しいんです。

 感染したというのに死なずに済んで声まで取り戻して……人の扱いを受けて………けどボクはこの気持ちを素直に表現することが出来ないようです。」

 

「タレスは正の感情を失っているようですね。」

 

「正の感情?」

 

「嬉しいや楽しいといった明るい感情のことです。

 タレスは長い間酷い扱いを受けてそういった正の感情を表現出来なくなっているのです。」

 

「スミマセン、今は言葉でお礼を言うだけしか出来ません。

 カオスさん達に会ってから急にいろんなことが起こりすぎて。

 久しぶりに喋るので気持ちを上手く伝えられません。」

 

「タレス…。」

 

「…」

 

【いまはかんがえがまとまらないのでもうすこしおじかんをください。

 そしたらちゃんとおふたりにはかんしゃのきもちをすなおにつたえられるとおもいます。】

 

「なんで手帳に戻ったの?」

 

【こっちのほうになれてしまって。】

 

「タレスがそうしたいと言うならいいですけど。」

 

【かんじょうをうまくひょうげんできるようになるまではこれでいきたいとおもいます。】

 

「……声が出せるようになったんなら前進したってことでいいんだよね。」

 

「はい、後はタレスの心のケアでどうになかなりますよ。」

 

【いったんこしをすえられるばしょについてからまたおはなししてもいいですか?】

 

「いいよ、じゃあタレスも助かったことだしこのまま一気に山を降りよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーディア山脈 岬 カオス達から少し離れた上空

 

 

 

「いつの間にマテオは一般人がヴェノムを撃退できるようになったの?」



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戦闘について2

 青年カオスはアローネとタレスとともに旅をしている。
 
 トーディア山脈でタレスがヴェノムに感染するもカオスとアローネの能力で一命をとりとめる。


ルルカ街道

 

 

 

「山を降りてみたら随分道が整った場所に出たね。」

 

「このルルカ街道は王都の統治下に入ってから長いので商人や騎士が舗装しているんですよ。」

 

「あれ?手帳は?」

 

「事実を述べるだけなら感情は込めなくてもいいですから。」

 

「……タレスが喋れるようになってから逆に淡々としてて冷たくない?」

 

「あの年頃の子供はもう少しはしゃいでいるのが普通ですからそう感じるのでしょう。

 それだけタレスが心を殺して過ごしてきたということです。

 今は様子を見てあげてください。

 タレスも悪気があってあのしゃべり方ではないのですから。」

 

「どうしました?」

 

「なんでもないよ。」

 

「カオスが疲れたから休もうと提案してきたんですよ。」

 

「分かりました。夜営の準備をします。」

 

「……馴れないなぁ喋れるようになったのに無感情な口調だから。」

 

「ダメですよ!タレスだって練習中なんですからそんなふうに言ってはいけません!」

 

「分かってるんだけどなぁ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【カオスさんはぼくがしゃべらないほうがいいとおもいますか?】

 

「え!?どっ、どうしてそんなこと思ったの!?」

 

「そうですよ!カオスはただ戸惑ってるだけで怖がってなんて…!」

 

【マテオにきてからおとなをおこらせないようにしてきました。

 なのでひとのかんじょうのきふくをよみとるのにはなれています。

 カオスさんはぼくがしゃべるたびになにかおもうところがあるのではないですか。】

 

「カオス!」

 

「ご、ゴメン!そんなに露骨だった!?別にタレスのことが悪いとかじゃないんだ!」

 

「では何を考えていたんですかカオス!」

 

「大したことじゃないんだよ?本当に!

 ただ…、タレスの口調が………ミストの村の人達にそっくりだったからさ、それだけのことなんだ。」

 

「!」

 

【ミストのむらのひとたちと?】

 

「うん、ちょっとした………知り合いと喋ってる気分になっただけなんだ。

 そのうち馴れるからタレスはどんどん喋ってもいいんだよ。」

 

「…」

 

「……分かりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス。」

 

「うん?」

 

「スミマセン。」

 

「どうして謝るのさ。」

 

「私は……貴方とミストの方々の会話を聞いておきながら気付けませんでした。」

 

「アローネが謝ることじゃないよ。

 アローネだって聞いていたのはあの見張りとのほんの一、二分程度の会話だけだし。」

 

「あの方のようにカオスに向けられる無機質な言葉をタレスと重ねてしまうのも無理はないことです。

 思えば確かにタレスの喋り方はあの方と……恐らくあの村の殆どがあの口調なのでしょう。」

 

「…」

 

「やはりそうなのですね。

 私は愚か者ですね…。

 幼いタレスのことばかり気にかけてすぐ隣にいる貴方の心の傷に気付かずに……。」

 

「ダジャレ?」

 

「話をそらそうとしなくてもいいのですよ。

 貴方はそうやって自分よりも誰かを優先しようとすることは今日まで一緒に過ごしてきて分かっています。

 タレスの心のケアの他にもカオスのケアも必要です。」

 

「僕は別にケアなんて……」

 

「カオスは隙を隠そうとしますから気付けませんでした。

 カオスもタレスや義兄と同じ孤独を味わっていることを。」

 

「タレスの方がもっと辛い目にあってるよ。

 お義兄さんだってそうでしょ?

 僕だけが辛いんじゃない。」

 

「……あのトーディア山脈でタレスが死にかけてカオスが自分を傷つけたとき。」

 

「…」

 

「カオスの絶望を知りました。

 貴方の心の闇が相当なレベルにまで膨れ上がっていることに。」

 

「そんな大層なものじゃないよ。」

 

「いいえ、とても大事なことです。

 カオスの心の中が……いつも悠然としていた貴方が初めて見せた本当の弱音。」

 

「あの時は………見苦しいものを見せちゃったね。

 謝るよ。」

 

「そんなことはいいんです。

 おかげでカオスをまた一つ見つけてあげられたのですから。

 カオスが心のうちではあのようなことを考えていてああいう喋り方をするのだと知ってあげられたのですから。」

 

「…」

 

「あの喋りでもいいんですよ?

 私達に合わせて朗らかにしなくても男性なら少しくらいワイルドな方がいいです。」

 

「……もうこの口調に馴れちゃったから今更かな。」

 

「まだまだ貴方との仲が浅いということですね。

 いつか本当な貴方を見せてください。」

 

「………その時が、きたらね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お話は終わりましたか?」

 

「はいお待たせしてしまいましたねタレス。」

 

「いえ、いい練習の時間になりました。」

 

「練習ですか?」

 

「さっきモンスターが一匹現れたので退治しておきました。」

 

「まぁ、お一人でですか?」

 

「お二人がお話中だったので。」

 

「言ってもらえたら私達も加勢しましたのに。」

 

「危ないことはしちゃダメだよタレス。

 タレスは昼間死にかけたんだから。」

 

「大丈夫です。

 試したいことがあったので。」

 

「試したいこと?」

 

「声が出せるようになったので魔術が発動するかどうか気になったんです。

 結果は問題ありませんでした。」

 

「魔術?タレス魔術使ったの?」

 

「まだ大した威力はだせませんが一応は発動できました。これでお二人を御守りする力が上がりました。

 それから魔技も使えます。」

 

「「魔技?」」

 

「魔技は魔術の接近専用に編み出された技です。アローネさんもご存知なかったのですか?」

 

「初めて聞く技法ですね。」

 

「お義兄さんからは教えてもらわなかったの?」

 

「義兄は過保護でしたから私が屋敷を外出するのも心配してました。

 接近専用と聞く限り義兄は私にモンスターに近付き過ぎないように魔術だけを教えたのかもしれませんね。」

 

「サハーンのときはアクアエッジを間近で撃ってたけどね。」

 

「遠距離用の魔術を間近で?」

 

「私は集中力があるので詠唱を邪魔されても平気なんですよ。

 ですから前衛にでてもいいんです。」

 

「アローネさんはあまりうたれづよいようには見えませんけど…。」

 

「それでその魔技ってどう使うの?」

 

「使える魔術によって変わるんですけどボクは地属性のストーブラストが得意なのでまず地属性の詠唱を唱えてからそれを手に集約して大地に放つだけです。

 このように…グレイブ!」ドゴォッ!!

 

「「!!」」

 

「これはグレイブという技で地にマナを送り込んで操り相手を串刺しにする技です。」

 

「こんな技が……!」

 

「これはどこで覚えたんですか?」

 

「魔技はダレイオスにいた頃は皆使ってましたよ?

 この技自体はサハーンが使ってたのを見て見よう見まねでやってみました。」

 

「見よう見まね……ってことは僕たちに会う前から使えたの?」

 

「いえ、魔技と魔術はあくまでも声に出して呪文を唱える必要があるのです。

 大気中に含まれるマナ……属にいう精霊と言われるものに干渉させなければならないので。」

 

「精霊?」

 

「基本六元素のそれぞれを司る六体の霊的存在のことですね。」

 

「はい、ウンディーネ、ヴォルト、シルフ、ノーム、イフリート、セルシウスの六の精霊がいるとされていてその精霊の力を借りてボク達は魔術を使えると言われています。」

 

「そんなのがいるんだね。」

 

「実際に存在するかは定かではありませんけどね。」

 

「精霊は昔からの神話やお伽噺の存在とされています。

 ですから本当にそんな精霊達に力を借りているかどうかも判明していません。

 話を戻しますがそういうわけでボクは先程ストーブラスト、グレイブを使えることが分かりました。」

 

「この短時間でそんなすぐに技が使えるなんてタレス凄いね。」

 

「……」

 

「どうしました?」

 

「ボクはこんな生い立ちですが特別才能があったとかではないんです。

 回りと比べても埋もれてしまうような凡人で……。」

 

「そうは思わないけどなぁ。」

 

「そうです、タレスは優秀な子ですよ。」

 

「……この技は恐らく魔術を使える人がエルブンシンボルを装備すれば誰でも使えます。」

 

「え?そうなの?」

 

「魔術を覚えてさえいれば出来ますよ。

 ボクが出来たくらいですから。」

 

「アローネも?」

 

「は、はい、ではやってみますね。……グレイブ!」ドゴォッ

 

「出来た!……けどタレスよりも迫力がないね。」

 

「人には得意系統があるんですよ。

 ボクは地属性で、アローネさんは…」

 

「私は風属性です。」

 

「今後ボクは地属性の能力を高めていこうと思います。」

 

「私は一応は六属性使えますが…。」

 

「時間がおありでしたらそれでもいいのですがアローネさんも得意の風属性を極めていった方がいいですよ。」

 

「そ、そうなのですか?」

 

「一つのことに集中して鍛えていけば成長も早いですしマナの消費も抑えられますよ。

 得意系統の属性とそうでない属性とでは火力、速度、効力、燃費、操作性、発展性といったステータスに開きが出ます。

 なのでバランスよく全てを鍛えるよりかは一つに絞って上限を伸ばしていくのがいいでしょう。」

 

「……なんかタレス戦闘マニアだね。」

 

「戦闘を学ぶことは生きることに繋がっていましたからね。

 魔術もなしに武器だけで戦っていましたから、戦いの知識と工夫に関しては自信あります。」

 

「そ、そうだね、この話の時えらく饒舌だったもんね…。」

 

「私も戦闘知識は義兄から教わっていましたがタレスはそれ以上ですね。」

 

「……才能が無かった分、強さへの憧れが大きかったんですよ。

 知識だけはどんどん吸収していってそれに対して実力が伴わない。」

 

「何を言っているんですか!タレスは戦えているじゃないですか!」

 

「ボクの力はこのエルブンシンボルの力が大きいです。

 これがあるから戦える。

 これがなければ魔技だって……グレイブ!」ドゴォッ!

 

 

 

「……今エルブンシンボル外したけどさっきと変わってなくない?

 さっきと違った?」

 

「……?」

 

「タレスはエルブンシンボルなしでも強いってことですね。」

 

「……おかしいです。」

 

「おかしいって、何か変なところでもあった?」

 

「エルブンシンボルを外したのに……術が使えた………。」

 

「!?」

 

「術を?

 それってつけてないと使えなくなるものなの?」

 

「一度これを装備したら分かります。

 体の中にあるマナをまるで手足のように……むしろ新しく手足が生えたかのように扱うことが出来てました。

 これを装備したらそれまでの自分は丸腰で戦っていたんだなと思えてしまうほどに。

 」

 

「…」

 

「今はエルブンシンボルを外しても何も感じない。

 それどころかエルブンシンボルを外した方がマナを操りやすい気がします。」

 

「……タレスもなんですか。」

 

「アローネ?」

 

「カオスには言ってませんでしたね。

 私もエルブンシンボルを装備していたんですが今は外しています。」

 

「エルブンシンボル装備してなかったの?」

 

「はい、あの日目覚めてからずっと着けていたのですけどある時私は私の成長具合を知りたくなって一度外して術を発動させました。

 そしたら……。」

 

「今のタレスのようにない方が強かった?」

 

「…はい。」

 

「どうしたんでしょうか…?

 カオスさん達に助けられてから自分の体が自分のものじゃないように錯覚してしまいます。」

 

「けど今は特にどこか困るとか言うことでもないんでしょ?」

 

「それはそうですが。」

 

「僕達も僕達の異変について調べるために旅をしているんだ。

 そのうちいいお医者様のところに行って診てもらうつもりでいるから今は強くなって助かったくらいに思っとこうよ。」

 

「……そうですね、今は体に不調どころか絶好調ともいえるくらいですしね。」

 

「カオスのいう通りですね。

 私も後々でいいと思います。

 私達だけで考えても先に進めないでしょうから。」

 

「今はもう休もうよ、今日も忙しかったからね。」

 

「そうしましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 



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次の街へ

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 トーディア山脈で感染したタレスを助け、タレスはヴェノムによって回復した声で術技の練習を始めアローネが新しい技を習得する。


ルルカ街道 夜

 

 

 

「アローネ。」

 

「カオス…、タレスとの特訓はもういいのですか?」

 

「それはもう一段落したから。

 昼頃から元気ないね、どうしたの?」

 

「……」

 

「浮かない顔してるけど何か気になることでもあったの?」

 

「いえ……、何でもありません……。」

 

「そう?それにしてはなにか思い悩んでいるように見えるよ?」

 

「……」

 

「アローネにはいつも助けられてばかりだからたまには相談にのるよ。」

 

「……」

 

「もしかして話せないこと?」

 

「……カオスは。」

 

「ん?」

 

「カオスは……ウルゴスが本当に何処かにあると………そう思いますか?」

 

「何言ってるんだよ。

 アローネはウルゴスからきたんだろ?

 ウルゴスはあるに決まってるじゃないか。」

 

「ウルゴスというのも私が一人であると言っているだけなのですよ?」

 

「それじゃあ、アローネはウルゴスがないと思ってるの?」

 

「そうではありません!

 ウルゴスは確かに実在して今も何処かに……」

 

「ならあるんだよウルゴスは。」

 

「………どうしてカオスは私のことを信じられるんですか?

 私は……」

 

「アローネは僕のことを頼ってくれた。

 一緒にいてくれた。

 それだけで信じられるのは十分だよ。」

 

「それだけで?」

 

「あの日アローネが森にいて、ミストに行ったとき僕を選んでくれた。

 あの短い時間だったけど……あの日から僕にとってアローネは家族みたいなものだよ。

 家族を信じるのは当然じゃないか。」

 

「カオスが……家族……。」

 

「僕はアローネのことをそう思ってるよ。」

 

「私は……」

 

「アローネはどう思ってるかは分からないけど僕はアローネの助けになりたい。」

 

「私だってカオスの助けになりたいと思ってますよ!

 ですが!」

 

「それが聞けてよかった。」

 

「カオス…。」

 

「どんな悩みかは聞けなかったけど話せるようになったらいつでも言ってね。

 それまでは僕とタレスがアローネを支えるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……本当はカオスにも打ち明けたいんです。

 私が思っていることを。

 けれどそれを言ってしまったとき返ってくる答えが違ってしまったら私は……

 

 

 

 私の旅は………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルカ街道

 

 

 

「地図によるとこの先にパルコーって街があるみたいだけど今日中にはつくかな。」

 

「パルコー?

 少し地図を見せてもらっていいですか?」

 

「いいけどどうしたの?」

 

「………随分古い地図ですね。

 今は街の名前が変わってカストルになっている筈ですよ。」

 

「そうなの?」

 

「カオスさん達はずっとこの地図で旅してきたんですか?」

 

「ミストにはこれしかなくてね。

 これを頼りに進んでたんだよ。」

 

「……ボクが一枚持参してるので今度からこれを使ってください。

 三年前に更新されたもののようですからその地図よりかはあてにはなります。」

 

「有り難うタレス。

 ………なんだかこっちの地図と比べると街は大きくなってるけど全体的に数は少なくなってるね。」

 

「それも仕方ないことなんです。

 ダレイオスでもマテオでもヴェノムの襲撃で多くの街が無くなっているみたいですから。」

 

「おじいちゃんの話には聞いていたけどそんなに酷いんだね。」

 

「未だ停戦中とはいえ両国が敵国を放置してもヴェノムへの対策に手が追い付いてない状況にあるので封魔石の建設に間に合わない村や街はそうなってしまうんです。」

 

「ヴェノムは世界規模にまで上ってあるんだね。

 ダレイオスでもやっぱりいるんだ。」

 

「ダレイオスではヴェノムによって人のいる街だけではなく森林や川などの自然もダメージを受けて生態系が大きく崩れ荒れ果てた荒野が国の四分の一にも広がっています。

 」

 

「そこまでヴェノムの影響を受けているの!?」

 

「ダレイオスでは当初ヴェノムに対してマテオからの生物兵器作戦とも言われていたくらいです。」

 

「マテオが!?

 そんな筈ないよ!

 おじいちゃんも百年前にはヴェノムと戦っていたって言ってたからマテオもヴェノムに被害を受けているんだよ!」

 

「分かってますよ。

 リトビアでも封魔石というヴェノムに対する処置がなされているのでこっちにきて知りました。

 ヴェノムが現れたのはもっと昔ともされています。

 マテオで判明しているだけでもこのデリス=カーラーンが出来た原初時代からです。」

 

「そんな大昔から?」

 

「一部の科学者では隕石が落ちてそこに含まれたウイルスがそのまま在留して後にデリス=カーラーンに生物が生まれてから漏れだして今に至るという人もいるそうです。」

 

「そんなに昔からあるのによく滅びなかったね。」

 

「いえ、何度か滅んだそうですよ?」

 

「滅んだの!?」

 

「大昔の祖先の遺跡が見つかって文明を築き上げてはいたようですがその辺りにヴェノムの遺骸から発生する障気が充満していたみたいです。」

 

「あれかぁ、盗賊のいた森にも漂ってたね。」

 

「そうですね。

 本来は有害性気体なので近づいてはならないんですがそのお陰でいい隠れ蓑にしてました。

 障気のせいで詳しくは調べられなかったそうですが今の文明を遥かに凌ぐ科学技術を持っていたみたいです。」

 

「遥かに凌ぐ技術かぁ。

 そんなに凄い文明だったらヴェノムを世界から消すことも出来なかったのかなぁ。」

 

「世に出ているあらゆる技術は全てその時代にいる一人の天才から広まっていくそうですよ。

 そこを最先端にしてから少しずつ開発が進みます。

 最初の延び上がりは急上昇してある段階から平面に近い状況を続けるようで。

 ですから原初時代もヴェノム対策は今とそう変わらなかったのではないですか?」

 

「だから何処かでヴェノムにやられて滅んだと…」

 

「それが今想定できる当時の状況ですね。」

 

「ヴェノムかぁ。

 僕やアローネのような力はなかったのかなぁ。」

 

「無かったのではないですか?

 あったとしても一人二人いるかいないかでヴェノムの駆逐よりも先に人類が駆逐されてしまったとしか。

 カオスさんとアローネさんは特別な存在だと思いますよ?

 その力はダレイオスでもマテオでも聞きませんから。」

 

「僕はともかくアローネの力は誰かに与えられたものだと思うんだよなぁ。」

 

「アローネさんの力がですか?」

 

「僕はこの力を手にする切っ掛けがあったんだけど、アローネには空白の時間があってその際に誰かが何かしたみたいでね。

 だからそんなことが出来るならアローネの他にも同じような人がいるかもしれないよ。」

 

「それでしたらもっと多くいそうな気がしますけど。」

 

「できない理由があったとか?」

 

「適正があるか、その処方に限度回数があるか、もしくは……」

 

「もしくは…?」

 

「実験の段階で現実的な段階には至ってないとか…。」

 

「けどアローネは特に悪いところなんて無さそうだけど…。」

 

「それはボクにも分かりませんよ。

 偶然の産物でたまたま成功しただけでこれから徐々に実験を重ねていくんではないですか?」

 

「嫌な話だね。

 アローネが実験動物みたいで。」

 

「それもどうかは分かりませんよ。

 何処の誰がやってる実験なのかも判明しませんし。

 アローネさんが成功例なのか、実験段階なのか、それすら分かりませんし。」

 

「分からないことだらけだね。」

 

「ボク達では限界がありますね。

 少なくともアローネさんに力を与えたという人がいるのならその人は相当の生体学者だということがうかがえます。」

 

「生体学者?」

 

「今マテオにあるワクチンや封魔石は王都の……ある貴族がお抱えの生体学者達が百年前に少しずつ開発したんですよ。

 その学者たちでさえも一時的なワクチンを作るのがやっとなんです。

 それを凌ぐ能力を人に付与出来るとなるとその人は生体学者以外には考えられません。」

 

「もしかしてその王都の生体学者の人達がアローネを…。」

 

「今このデリス=カーラーンでは最もヴェノムに精通している人達です。

 可能性は高いですがそれだとアローネさんのような対ヴェノム要員となりうる人をこのような辺境の地に送る理由がありませんよ。」

 

「……ということはウルゴスの誰かってことなのかな。」

 

「アローネさんに心当たりはないのですか?

 今日はあまりお話になりませんが。」

 

「昨日の昼からなんだか思い詰めてるようでね。

 アローネも分からないんだって。

 街につくまでそっとしておこう。」

 

「そうですね……大きい街ですしそろそろ見えてくる頃ですが……。」

 

「あ!あれがそうじゃない?」

 

「地図だと………丁度あれですね。

 あれが旅人が絶対に訪れる旅の安らぎの街カストルです。」



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バルツィエ家

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 調子の悪いアローネの様子を気にかけるカオスだったが原因がよく分からずそのまま進み三人はようやく次の街へとたどり着くのだった。


王都 とある貴族邸

 

 

 

「みんな集まってっか?

 いねぇのもいるな。

 今朝方面白そうな二人組が全国氏名手配されていたぞ?」

 

「面白そうなヤツ?」

 

「先日遠方に出ていたブラムがマテオに逆らうダレイオスの手先が見つかりましたって届け出があったらしくてな。」

 

「何故その場で捕まえないんだアイツは。」

 

「何でも返り討ちにされたんだとさ。」

 

「二人がかりでか?何人か部下もいたんだろ?」

 

「いや片方に部下もろともやられたって。」

 

「ダッセーヤツだなアイツも。」

 

「うちがせっかくみてやったのに…」

 

「アイツもその辺の石ころ程度だったと言うわけか。」

 

「んなもん最初から分かりきってたことだろ?

 下げてやんなよ。」

 

「フェデール、貴様が一番蔑んでると思うが。」

 

「所詮ヤツは四天王でも……最弱だっけ?」

 

「二番手か三番手じゃなかったっけ?」

 

「ってか残ってる他の隊長は何人いるんだ?」

 

「半数減った辺りまでは数えてたんだけどなぁ。残りは………四天王でいいんじゃね?」

 

「誰か覚えてるヤツいないのかよ?」

 

「………十年前にクレベストンが死んで三人になった。」

 

「じゃあ三天王だね。

 やはり最弱か!

 面汚しめ。」

 

「全然見ないと思ったらいなかったんだなクレベストンのヤツ。」

 

「もともとよくどっか出掛けてたヤツだからなぁ。」

 

「アルバートの伯父さん探しに行ってたんだとよ。」

 

「は?とっくに死んでたろ!

 未練ったらしいヤツだなぁ。

 死んだヤツなんか追いかけて。」

 

「クレベストンの補充は出来てんのか?

 いずれは騎士団を掌握するにしても遠方までまわるのめんどくせぇだろ。

 そこら辺の雑草にでも行かせとけよ。」

 

「そう言うわけにはいかん。

 反乱分子は早めに粛清しておかねばならんのだ。

 補充は我等の傘下から出しておいただろう。」

 

「そういや俺の配下から出したな。

 前任者とか興味なかった。」

 

「あんたの大好きだった兄貴を探していたヤツの穴だぜ?

 なんとも思わねぇのか?」

 

「いないものを追い続ける程私も暇ではない。

 クレベストンには私も世話にはなったがそれだけだ。」

 

「冷たいねぇご当主様は。」

 

「この家に暖かさなどあったか?」

 

「ねぇな。

 あるわけねぇ。」

 

「本当だったら今頃その席にはアルバート=ディランが座ってたんだろうになぁ。」

 

「口を慎め。

 私に対する無礼は許さんぞ。」

 

「堅苦しいこと言うなよ。

 そんなもん外面だけ整えときゃいいだろ。」

 

「図に乗るなと私は言ってるんだが。」

 

「アレックス様よぉ、ちょいとばっかしハメ外してもいいだろう?」

 

「………どうやらこの中に粛清しなければならない者がいるようだな。」カチャン

 

「おっとよせよせ悪かったよ。

 つい退屈で調子にのっちまったぜ。」

 

「アレックス怒らせると止まらねぇぞ。」

 

「俺達でも命拾いすることがあるんだな。」

 

「貴様等も私に剣を握らせることのないようにしておけ。」

 

「ハーイ」

 

「返事もろくに出来ない駄目な大人がいるとはな。

 えぇ?貴様達?」

 

「はいはい肝に命じておきますよ。

 ご当主様。

 ったくラーゲッツのせいで下げたくねぇ頭下げちまったじゃねぇか。」

 

「お前も下げてねぇだろ!」

 

「うち関係ねえし。」

 

「……で?話が逸れたがその手配書の奴等がどうしたんだ?

 石ころがやられた程度の話なのか?」

 

「見れば分かるさ。

 コイツらだよ。」ピラッ

 

「……アローネ=リム・クラウディア。

 …………美人だなぁ。」

 

「かなりレベル高くね?

 いけるっしょ?」

 

「氏名手配犯だぜ?」

 

「知るか!

 犯罪者なら何しても構わねぇだろ!?

 俺が拾ってもいいよな!?な!?」

 

「何でもいいのかよお前。」

 

「犯罪者にしておくには勿体ねぇよ。

 俺がもらうぜ。

 エコ精神だよ。」

 

「俗物が。」

 

「何かあんのか?ダイン。

 国が入らねぇもん貰って誰が困るんだよ?」

 

「家名に泥を塗るような真似は止めとけよ。」

 

「今更綺麗さを取り繕ったところで格が落ちるような家じゃねぇだろ。

 多少の汚れなんざどこの家にだってある。

 文句言われるんなら握り潰しちまえよ。

 そんくらいできんだろ。」

 

「お前のケツを何回拭けばいいんだよ。」

 

「常習犯のくせにウゼー。」

 

「ケツの汚ねぇ野郎だな。

 拭き方教えてやろうか?」

 

「んだと!ゴラァッ!!」バンッ!

 

 

 

「お前らそっちの女に注目しすぎだろ。

 注目してほしいのはこっちだって!」

 

「コイツがうちのブラムを……!」

 

「男になんか興味ねぇよ。

 女捕まえたらソイツは殺すだけだ。」

 

「どれどれ……カオス?カッコつけたつもりの名前…………これは!?」

 

「ご当主。」

 

「……」

 

「コイツらがブラムをやったのは丁度アルバート=ディランがいなくなったあの辺りの村だそうだ。

 死んだと思ってたが生きていた。

 生きて子供がいた、もしくは本人か。

 そういうことだろ?」

 

「同姓なだけか、それか俺達の威光にすがろうとそう名乗っただけの可能性は?」

 

「それで氏名手配されてちゃ馬鹿だろ。

 おかしなヤツだぜこいつは。」

 

「この村は数年前まで存在が知られていなかった村だ。

 生計も作物を育ててたてていたような。

 そんな村にいた奴が威光にすがるとして何になる?

 俺達を知っていて家名を名乗るのならもっと大きな都市でやる筈だ。

 これは間違いなく本名ととっていいだろう。」

 

「俺達の家名を名乗った奴なら前にもいたぞ。

 即刻捕らえて薬の被験体にしたがな。」

 

「アルバート=ディランの死んだと思われていた地点、その付近で見つかったコイツ。

 十中八九アルバート=ディランの血筋だぞコイツは。」

 

「その村にいるんじゃねぇかアルバート=ディラン。」

 

「そんな報告は受けてないが…。」

 

「受けてたら俺達の耳に届くだろ。」

 

「……さらにもう一つこの手配書には嬉しい話がある。」

 

「嬉しい話?なんだよそれ。」

 

「手配書をよ~く見てみろ。」

 

「何があるってんだ………一千万ガルドの生け捕りか。

 ダレイオスの手先って書いてるしまぁまぁの額だな。」

 

「手配書の裏を読めよ。」

 

「裏?」

 

「何も書いてねぇぞ?」

 

「かぁ~……、お前達に読解力があることを期待した俺が浅はかだったぜ。

 これが分からないとかどんだけ計算狂わせてくれるんだよ。

 戦闘と家の名前しか取り柄のねぇバカばっかだもんなお前等。」

 

「それは俺達に宣戦布告ととっていいんだよな。フェデール。」

 

「ラーゲッツの悪口はいいが俺の悪口は許さん。」

 

「俗物のラーゲッツと調子乗りのユーラスはディスってもうちをディスるのは許さん。」

 

「コイツらと同じ括りとかマジ許さん。」

 

「お前ら皆俺の敵なんだな!」

 

 

 

「貴様等のその暑苦しいところはどうにかならんのか。

 いい加減この手が握りどころを探しているのだが…?」

 

「「「「スミマセンでした!!」」」」

 

「フンッ………してフェデールよ。

 お前はこう言いたいんだな?

 この手配書は我々への果たし状であると。」

 

「どこに書いてある?」

 

「駄目だ見つからねぇ!」

 

「流石アレックス!

 こんな廃れ脳筋どもとは出来が違うねぇ!

 そう!そう言いたかったんだよ!」

 

「つまりこのカオスが俺達にケンカ売ってやがんだな?

 買うぜ!」

 

「廃れ脳筋黙って聞いてろ。

 それかどっか行け。」

 

「何でだよ!?」

 

「うちがブラムの仇を…!」

 

「ダイン、話が続けられない。

 それとこの果たし状はそのブラムからだぞ。」

 

「ハァァ?ブラムからだと?

 傘下とはいえねぇがこっちよりだろアイツ。」

 

「何でブラムが…?」

 

「賊の名前。

 記載事項にダレイオス。

 額の割には生け捕りのみ。

 この三つだけでもこの家に対していい攻撃材料だ。」

 

「言われてみれば…?」

 

「本当に理解してんのか?」

 

「この手配書を作る前に我々に報告を入れていない。

 それが疑わしいというのだろう。」

 

「その通り。

 例えコイツがアルバート=ディランとは無関係だったとしても賊が俺達と同じ名を名乗ること。

 それがどういう影響を受けるか天才的でカリスマ性を感じないこともなくはない凄まじくごくごく並の知能を持つお前ら程のもの達なら分かるだろ?」

 

「お、おう?」

 

「今誉められてた?」

 

「誉めてるに決まってんだろ? 天才的だぜ?お前ら。」

 

「フフン、ようやくお前にも分かってきたようだな俺達の偉大さが!」

 

「本当に天才的だぜ。」

 

「二つ目までは分かるがよ。

 三つ目が何で攻撃材料になるんだ?」

 

「その点は天才的な俺達でも分からなかったぜ。」

 

「天才には凡人の考えが理解出来ないようだな。

 いいだろうこの俺様が天才様に教えてやる。

 生け捕り………騎士隊をまとめて倒すような奴にそこらの雑草に出来ると思うか?

 生け捕りってのは殺すことよりも難しいってのはよく聞く話だぜ。」

 

「あぁ~」

 

「生け捕り難しいよなぁ。

 俺も何度失敗して殺しちまったか。」

 

「手を抜いて戦うってのはどうにもなぁ。」

 

「うち手加減出来んくて前にいた弟子達も…」

 

「お前がブラム気に入ってるのってそういうことなのか?」

 

「天才様と一緒にすんじゃねぇよ。

 借りにも騎士だぜ?

 玩具つけてた奴に勝ったってこたぁこのカオスって奴も玩具持ってるに決まってんだろ。

 そこらの雑草に敵うわけがねぇ。」

 

「集団でかかれば行けんじゃねぇのか?」

 

「並がいくら揃えられたところで警戒させちまう。

 そうなりゃ逃げられんのが関の山だ。

 捕まらねぇ前提の手配書なんだよこれは。」

 

「考えすぎじゃねぇか?」

 

「そうでもねぇさ。

 コイツとブラムは恐らくグルだな。

 未だに俺達の所にブラムから報告がねぇのは不自然だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコンッ

 

「入れ!」

 

「失礼いたします。」

 

「!…ブラム。」

 

「噂をすればだな。

 ようやく来やがったか。」

 

「ほらやっぱりブラムはうちらの味方じゃん。」

 

「はて?私目について議論がなされていたご様子ですが何か?」

 

「……御苦労だったなブラム。

 何用で参った?」

 

「はい、先日このようなものの手配書をお作りしましたので皆様に御報告致したく参上いたしました。」

 

「丁度その話で盛り上がってたとこさ。

 派手にやられたようだなブラム。」

 

「流石でございますねフェデール様。

 お耳にするのが早いようで。

 いやはやお恥ずかしい。

 私がついておきながら賊をとらえられぬなど皆様になんと申し開きをしたらいいのやと。」

 

「壊れてないならいいよブラム。」

 

「私目へのご配慮の言葉有り難き幸せでございますダイン様。」

 

「アンタはうちのお気にだからね。」

 

「……で本当のところはどうなんだ?」

 

「と申されますと?」

 

「これを手配する前に俺達に知らせるのが先じゃねえか?

 下手したらこの家に泥を塗っちまうかもしれねぇ。

 危うくお前の背信行為とコイツらが受けとっちまうところだったんだぜ?

 俺が庇っといたがな。」

 

「は?フェデールしかそんな「どうなんだブラム?」」

 

「それは私の考えが及びませんでした。

 一刻も早く皆様の名を騙る賊を捕らえようと急ぎ手配したのですがそのような不敬なことはありえませんよ。」

 

「ほらこう言ってんだろフェデールは疑り過ぎなんだよ。」

 

「本日は皆様にこの一報をお伝えする為参りましたので私目はこれにて失礼させていただきます。」

 

「おう、また今度な。」

 

「次はうちと遊んでね。」

 

「……その際はよろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて今のをどう捉えたらいい?」

 

「白だろ?」

 

「黒だな。」

 

「黒。」

 

「うちのブラムが……黒。」

 

「あんな用意しといたようなこと吐いて白なわけがねぇだろ。」

 

「ブラムは裏切ったか。」

 

「最近研究所を嗅ぎまわってるやつらもブラムと繋がってそうだ。

 ブラムは問い詰めても無駄話になるだけだな。」

 

「そうまでしてヴェノムの研究資料が欲しいかね?」

 

「それが手に入れば国を傾けられるからな。

 引っくり返るのは俺等だぜ?

 だからあそこには誰も近づけないようにしてんだろ。」

 

「ちっとぐらい侵入された方が面白そうだがな。」

 

「ラーゲッツ、

 あまり不用意なことをほざいてると八つ裂きにされんぞ。」

 

「おーこわ。」

 

 

 

「研究所のゴキブリはそのうち潰すにしてコイツはどうする?」

 

「単純なことだ。

 他の連中に捕まるよりも先に俺達で首をはねあげればいい。

 ゴキブリ共の思惑通りにさせてやるかよ。」

 

「そうだなそれでいい。

 フェデール、全国の親戚と傘下に報せろ。」

 

「生け捕りって書いてるぜ?」

 

「賞金首にそんなこと気にすんなよ。

 コイツは家族の内で片付ける必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺等バルツィエの名を騙る罪は極刑以外にあり得ねぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁアレックス。」

 

「なんだ。」

 

「アンタの兄貴なんだが……」

 

「無論だ承知している。

 アルバートは……死んだ。」

 

「やっぱ行き着いていたか。」

 

「これがブラムの作戦としてあのお人好しが他人にこのような危険な役目を許すとは思えん。

 これが通ったということは…。」

 

「そうなるな。

 後このガキについてなんだが恐らくブラムに利用されてるだけだろうな。」

 

「……」

 

「さっきはああ言ってたがこのカオスは傘下連中の方には生け捕りで伝えとくよ。

 アルバートの血筋なのは可能性が高いからな。」

 

「……スマヌ。」

 

「気にするなよ。

 俺だって色々されたがまだそのくらいの心は残ってるつもりだ。

 暴君を演じるのも楽じゃないよな。」

 

「人の世を守るためだ。

 それくらい耐えて見せる。」



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到着カストル

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 トーディア山脈を越えてルルカ街道まで来たカオス達はとうとう次の街カストルにたどり着く。


安らぎの街カストル 夜

 

 

 

「結局夜になっちゃったなぁ。」

 

【きょうはやどにとまってたんさくはあすにしましょう。】

 

「あれ?また手帳になってる。」

 

【カオスさんたちだけのときはいいんですけどまちのひとたちのまえではまだこえをだすのになれてないんです。】

 

「そっか、なら街にいる間はそれでいこうか。」

 

【はい。】

 

「…」

 

「アローネも疲れてるみたいだね。

 ずっとあの調子だし。」

 

【ながたびでひろうがたまっているのでしょう。】

 

「リトビアでは僕のせいで全然休めなかったからなぁ。

 あの時みたいにならないようにしないと。

 あの奥にあるのが封魔石だよね?」

 

【そうですね。

 ふうませきはまちのちゅうおうとがいへきにせっちするのがきほんなんでそのとおりだとおもいます。】

 

「リトビアのやつみたいになんか嫌な波動を感じるけど近付きさえしなければ大丈夫みたいだ。」

 

【ではさっそくやどをさがしましょうか。】

 

「うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 宿

 

「これが宿?大きい建物だねぇ。

 リトビアでも大きな建物は見たけどここはもっと大きいなぁ。」

 

【あのまちよりもひとのいききがよういなのでこのまちはぼうけんしゃがおおいんでしよう。

 そのためこうしたりようできるやどもはってんしつづけてこうなったんだとおもいますよ。】

 

「……」

 

「何にしてもアローネが塞ぎ勝ちだし早くベッドで休ませてあげよう。」

 

 

 

 

 

「ごめんください!」

 

【カオスさん、そういうことはいちいちいわなくてもいいんですよ】チョイチョイ

 

「そうなの?

 けど人の家に入るならこれが礼儀って…」

 

【みんかならそうですがここはそういうのいりません。

 うけつけにもひとがいますし。】

 

 

 

ナンダアイツ?

 

ドコノイナカモノカシラ?

 

ゴメンクダサイナンテヒサシブリニキイタゾ

 

 

 

「……///」

 

【カオスさんうけつけをすませてはやくはなれましょう。

 ほかのりようしゃにわらわれていますよ。】

 

「そうしようか///」

 

 

 

「いらっしゃいませ、三名様でよろしいでしょうか?」

 

「は、はい!三名様です!」

 

「一泊の予定ですか?」

 

「あっ、はい!」

 

「こちらは一泊千ガルドで三名様ですと三千ガルドになっております。」

 

「それでいっ、いいです!」

 

「お部屋の方は只今個室の方が満室でして…こちらのご家族様のお部屋でしたらお通し出来ますがよろしいでしょうか?」

 

「それで!」

 

「ではこちらの方に御名前をお願いいたします。」

 

「はい!」

 

 

 

【きんちょうしすぎですよカオスさん。】

 

「は、始めてなんだから仕方ないだろう!」

 

【そんなにかたくならなくてもいいですよ。

 あちらも、しょうばいなんですから。】

 

 

 

「お客様、こちらの記載はお客様の御氏名でよろしいでしょうか?」

 

「は、はい!僕がカオスで、アローネと、タレスです!」

 

「申し訳ありませんが代表者のフルネームでお願いいたします。」

 

「す、スミマセン!」

 

 

 

ブッアイツゼンインノナマエカイタノカヨ

 

アノトシデハジメテナノカシラ

 

アーハズカシイナアンナパーティダト

 

 

 

「………」カキカキ

 

「///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プッ!………ウフフフフ………!」

 

 

 

「「!」」

 

「フフフ………、カオスってそういうところが本当に面白いですよね。」

 

「ちょっ……アローネまで笑わないでよ!」

 

「だって可笑しいんですもの。

 氏名の記入に三人の名前を書くなんて!…フフッ!」

 

「知らなかったんだから仕方ないだろう!

 それならそうと言ってくれなかったし!」

 

「普通は一人の名前ですよ?

 全くカオスは天然ですね。」

 

「もういいだろう!

 そのことは!?」

 

 

 

 

 

【アローネさんすこしちょうしがもどったみたいですね。】

 

「こんなことで戻られても僕は恥ずかしいんだけど!」

 

 

 

「お客様…!?」

 

「はい!?

 今度は何ですか!?

 何か間違ってましたか!?」

 

「カオス挙動不審ですよ。」

 

「お客様は……あの……王都のご出身ですか!?」

 

「へ?違いますよ?」

 

「しかしこの御名前は………。」

 

「名字がたまたま同じだけなんだと思います。

 僕は王都からはずっと遠い村の出身ですから。」

 

「……畏まりました。

 それではお部屋の方へご案内致します。」

 

「お願いします。」

 

 

 

キゾクッツッタカ

 

ソンナワケナイダロ、アンダケイナカモノクサイヤツガ

 

キゾクダッタラコンナヤドジャナクテシチョウノゴウテイトカニトオサレルンジャネェ?

 

ソレニシテモバカナヤツダッタナァ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お部屋はこちらの方になります。

 お荷物はこちらの方でよろしいでしょうか?」

 

「はっ、はい。」

 

「明日のお昼がチェックアウトのお時間ですので………ではごゆっくりどうぞ。」バタンッ

 

 

 

「ふぅ~やっと終わったぁ。」

 

「フフフ、カオス上がりっぱなしでしたね。」

 

「カオスさんはテンパりすぎですよ。」

 

「……もういいだろう。

 今だって顔が熱いんだから///」

 

「フフフッカオスといると飽きませんね。」

 

「こんなことで評価あげられてもね。」

 

 

 

「宿なんて久しぶりですね。」

 

「こんなに広いもんなんだな。

 部屋の中にベッドが四つもあるし。」

 

「ボクもダレイオスで家族に連れていってもらって以来だす。」

 

「タレスの家族は………!スミマセン……!」

 

「いいんですよ。

 もう随分昔の話ですし。

 両親の顔も思い出せませんしね。」

 

「そういえばリトビアからドタバタし過ぎてタレスからは一般常識や戦闘の話しかしてなかったなぁ。」

 

「カオス!何も思い出させるようなことは…」

 

「構いませんよ。

 家族とは一緒にいて楽しかったけどそんな大した話ではありませんし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあダレイオスではいくつもの部族がいてそれぞれの村長みたいな人が取りまとめているんだね。」

 

「村長……とは違いますね。

 マテオのような一つの大陸全て支配している国ではな くダレイオスは複数の国からなる連合国です。

 ボクのいた街は東の方にあってマテオからは最も近いので軍の攻撃を受けてその時に奴隷として拉致されました。」

 

「タレスは故郷に帰りたいよね?」

 

「帰りたいとは思ってましたがカオスさんとアローネさんと別れるのは寂しいです。」

 

「(……そんなに寂しそうには見えないけど。)」

 

「カオス余計なことを考えてませんか?」

 

「そんなこと……ないよ。」

 

「どうだか……。」

 

「それにこうしてカオスさんたちに喉を治してもらえてボクにもやりたいことが見つかりました。」

 

「やりたいこと?」

 

「ボクの街を襲ったマテオの騎士を探しだしたいんです。」

 

「まさか復讐!?」

 

「……そこまでは出来ませんよ。

 一緒にいるカオスさん達に迷惑がかかります。

 それに返り討ちにされるだけですよ。」

 

「よかった…。」

 

「最終的には王都に向かうんですよね?

 そこで見付けられなかったら諦めますよ。」

 

「どんな騎士か聞いてもいい?」

 

「……強い騎士達でした。」

 

「強い騎士?」

 

「軍を率いて攻撃はしてきましたが攻撃していたのはほんの二十人くらいの集団です。

 魔術の破壊力がケタ違いでおまけに闘気術も武身技も街の兵士達では話しにならないほど圧倒されました。」

 

「そんなに戦力差があったの?」

 

「奴等は堂々と海を渡ってきて正面から街を破壊していきました。

 あの光景はボクにとっては……まさに地獄そのものでした。」

 

「タレスよくぞ無事で…」

 

「……有り難うタレス話してくれて。」

 

「いえ、ボクこそこういう話を出来る人がいてよかったです。

 カオスさんたちはボクの恩人ですから。」

 

「……またアローネと同じこと言うのが増えたな。」

 

「そうですね、カオスは私の恩人でもありますから。」

 

「///……ちょっと風に当たってくるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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久方ぶりのベッド

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 到着が夜ということもあって一行は宿に泊まることにする。


安らぎの街カストル

 

 

 

「ふぅ~!

 久々にベッドで寝れるのはいいもんだね。

 なくして初めて有り難みを知ったよ。」

 

「旧ミスト以来ですものね。」

 

「ボクは床でもよかったんですけど。」

 

「せっかくベッドがあるのに何で!?」

 

「さて朝にはなりましたがこれからどうしましょう?」

 

「前回の街では………ゴメン。」

 

「それはもういいですってば。」

 

「アイテムの補充のために道具屋を訪れるのと酒場のギルドで資金調達でしょうか。」

 

「そうだね、それが「カオス!タレス!見てください!あちらに商店街がありますよ!見に行きましょう!」」タッタッタッ

 

「先ずはアローネさんを追いかけましょうか。」

 

「……そうだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 商店街エリア

 

 

 

「見てくださいよ!色んなお店がありますよ!」

 

「賑やかな所だね。

 リトビアも賑やかな街だったけどここはそれ以上だよ。」

 

「さっき配っていたガイドブックによりますとこのカストルはマテオでも多くの冒険者が訪れる街なのでこうした雑貨商店が栄える都市として有名だそうです。」

 

「そうなんだ……あっ!あの店剣があるよ!?

 あんなもの売っていいの!?」

 

「冒険者の街なので売っているのは普通ですが…?」

 

「カオスは武具店は初めて見るのでしたね。」

 

「騎士しか持っちゃいけないんじゃないの?」

 

「知識が偏ってますねぇ。」

 

「なにも武器は騎士だけが取り扱っている訳ではないのですよ。

 世界各地にはモンスターが生息しているのでその土地で対応しなければなりません。

 ですから剣に限らず武具を取り扱っているところは数多くありますよ。」

 

「そういうばリトビアの酒場にもそれらしい武器を持っている人がいたなぁ。」

 

「どうしてその場で疑問に思わなかったのですか。」

 

「とりあえず道具屋を探しましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リトビアのときと変わらなかったね。」

 

「アップルグミはあの値段が普通なんです。」

 

「多く買っちゃったけどお金はあと少ししか残ってないなぁ。」

 

「それならばギルドに行きましょうか。

 目的が二つになりましたし頃合いでしょう。」

 

「カオス!タレス!まだ全部見て回ってませんよ!?

 いいのですか!?」

 

「もうお金ないって…。」

 

「ウィンドウショッピングだけでも…!」

 

「そうやってリトビアでは目的を忘れてあっちこっち行ってましたね。」

 

「ウッ!!………タレスが辛辣です。」

 

「目的を果たしてから余裕が出来てからゆっくり見て回りましょう。」

 

「残念だけどタレスの言う通りだよアローネ。

 お金稼いでからまた来よう?」

 

「………そうですね分かりました。

 そうと決まれば早く終わらせましょう!」

 

「急に切り替えたな。」

 

「カオスさんとアローネさんの目的なんですけどね。」

 

「タレスは何か余裕がないね。」

 

「……この数年ずっと余裕などない生活をしてましたからね。」

 

「タレスは大人びてみえるなぁ。

 僕よりも年下なのに。」

 

「嫌でも精神年齢が上がっていく環境にいましたから。」

 

「今いくつ?」

 

「14です。」

 

「え?

 もっと下だと思ってた。」

 

「身長が低いのは食生活によるものだと思います。」

 

「何も言ってないよ…。」

 

「失礼、そう言われるのかと先走りました。」

 

「タレスも喋れるようになってからは前ほど難くなくなりましたね。」

 

「そうだね、前は僕達に異常なくらい気を使ってたもんね。」

 

「お二人が領主や盗賊達と違って怖い人ではないと気が緩んでいるのかもしれません。」

 

「心を開いてくれたって言うなら嬉しい限りだよ。」

 

「あまりボクを甘やかさないでください。

 まだまだお二人のお力にはなっていませんから。」

 

「タレスは子供心がありませんね。

 嘆かわしいことです。」

 

「アローネは段々子供っぽくなってきたよね。」

 

「それは私がカオスに言いたかったセリフです!

 最初の頃と比べると人違いと思えるくらい幼くなっています!」

 

「初対面だとそんなもんだろ!?」

 

「そろそろ行きませんか?

 道を塞いでますよ?」

 

「え!?あっ!スミマセン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……変な奴ら。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 酒場

 

 

 

「街自体もそうだけどリトビアよりも大きな酒場だね。」

 

「騎士団が在留しているようですがカストルの発展に大きく貢献しているのは冒険者のようですからね。

 ここが自然と大きくなるのも当然なんですよ。」

 

「どうして当然なんですか?」

 

「このカストルは大陸の中央に位置する街でして人の流通だけでなく季節で移動するモンスターの行路にも重なるようなので武器や文芸品の素材集めが盛んなんです。

 ですからモンスターを狩りに来る冒険者が後を絶たないとか。」

 

「なるほど、それで冒険者の多い街になるのですね。

 武器や防具の素材目的で。」

 

「素材品収集の依頼はどの街でもやってますからね。

 大陸でも生息するモンスターの種類が特に多いカストル周辺では素材集めに最適でそういった依頼がギルドに毎日来るそうですよ。」

 

「要は依頼もモンスターも素材も冒険者も多いから街も大きくなったってことでいいのかな?」

 

「大まかにはそうです。」

 

「じゃあ、掲示板見に行ってみようよ!

 何をするにしてもお金が必要になるんでしょ?」

 

「そうですね、早く街を探索して情報を得ないと。」

 

「ショッピングも忘れずに…」ボソッ

 

「アローネ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ないね。」

 

「朝ですしまだ張り出してないのではないですか?」

 

「けどこんなに多くの人が酒場内にいるよ?」

 

「この人達は依頼で生計を立てているので他に行くところがないんでしょう。

 張り出しまで待ってるんですよ。」

 

「なんだかご飯を待ってる子供のようですね。」

 

「可愛い例えだね。」

 

「可愛いようで本人達に聞かせたら乱闘騒ぎが起こりそうなこと言ってますよ。」

 

「まさかそんな直ぐに怒るわけないだろ?」

 

「冒険者と言うのは案外そんなもんですよ。

 彼等は真面目に働くのが嫌で定職にも付かずに好きなときに好きなだけ遊んでたまにお金を稼ぎに来るフリーターのようなものですから。

 人付きいに関しては誰かに矯正されたり貶されたりしてストレスを与えられることを何よりも嫌う人種です。

 怒らせたら拳が飛んでくるのは早いですよ。」

 

「そこまで!?」

 

「冒険という素敵な響きなのに……。」

 

「彼等の言う冒険は危険なダンジョンを探検することではなく自分達の人生をどう面白可笑しくしていけるかを探検することなのです。」

 

「タレス……冒険者と何があったんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「只今から今日の依頼書を案内いたしまーす!!」

 

 

 

「お?ようやく来たみたいだね。

 それじゃあさっそく……」

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッ!!!

 

オレコレウケルゾ!

 

コイツァオレガモラッタ!

 

バカソイツァオレガネラッタエモノダヨコセ!

 

フザケンナ!カミガヤブケタダロウガ!?

 

オイ!ソッチノトコウカンシネェカ?ヤッパムリダワコレ!?

 

ンダコラァオスンジャネェヨ!

 

アァ!モウネェジャネェカ!?

 

モタモタシテッカラダヨ!

 

ソコノオマエモウイッペンイッテミロヨ!

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何だったんだ今のは?」

 

「凄い勢いでしたね。」

 

「依頼は多かったですがそれ以上に冒険者が多かったようですね。

 今のもこの酒場のギルドだと他では見られない風物詩だとガイドブックに書いてありました。」

 

「先に言っといてよ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう依頼書残ってないなぁ。」

 

「そんなぁ…。

 それではショッピングがぁ…。」

 

「また次来ようよ。

 あと何日かは宿に泊まれるくらいはあるからさ。」

 

「……はい。」

 

「じゃあ後は情報を聞いて……ん?」

 

 

コノイライショウケマス。

 

カシコマリマシタ、カードヲハイケンシテモヨロシイデショウカ?

 

ハイ。

 

ミノスサマデスネ、ゴトウロクカンリョウイタシマシタ、カードオカエシシマス。

 

アリガト、コレモッテタカライイ?

 

カクニンシマス…ハイイライカンリョウデスネオメデトウゴザイマス。

 

オシ。

 

コチラガホウシュウニナリマス、コンゴトモヨロシクオネガイイタシマス。

 

サ-テナニクオッカナァ?

 

 

 

「……ねぇタレス、あの人が持ってるあのカードは何?」

 

「カード?」

 

 

 

「あぁ、あれはギルドカードですよ。」



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ギルドカード

 青年カオスさんはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 ようやく街にたどり着いた一行は街の中を回り最終的に酒場でクエストを受けようとするのだが…。


安らぎの街カストル 酒場

 

 

 

「ギルドカード?」

 

「何ですかそれは?」

 

「そう言えば説明してませんでしたね。

 ギルドカードとはギルドで依頼を請ける際に作らなくてはならない身分証のことです。

 依頼自体はクエストと呼ばれています。

 これがあればトラブル防止にも繋がるので冒険者の人は皆これを作るんですよ。」

 

「へぇ~身分証かぁ。」

 

「そのトラブル防止というのはどう言うことでしょう?」

 

「昔ギガントモンスターの討伐クエストがあったらしいのですがそれに赴いた冒険者達が大勢いて何とか倒せたものの誰が止めを刺したかで揉めたことがあったんですよ。」

 

「そんなことが…」

 

「分け合うという発送は無かったんですか?」

 

「一攫千金を狙うのは盗賊だけではないということです。

 皆一人占めしたい気持ちは同じだったんです。」

 

「誰も譲る気配がなかったと…」

 

「楽したくて冒険者をしている人達ですからね。

 そのクエストの賞金は後に分配が決まりそれ以降はあのギルドカードが作られました。

 このカードでクエストを登録すればその人個人がクエストの報酬の受取人になります。

 他の冒険者はその人がクエストを受けている間はそのクエストを請けることが出来なくなります。」

 

「なるほどそれなら余計な争いは避けられる訳だね。」

 

「でもそれですとクエストの達成率が低くなるのではないですか?」

 

「確かに当初はその問題も出てきました。

 そこでギルドは新たにランク制を実施しました。」

 

「ランク制?」

 

「クエストの難易度をギルドで考慮し簡単なものから難しいものまでを十段階で分けランクに合わせて冒険者達が請けられる仕組みです。

 ランクは零から九までありクエストの達成回数によってランクが上がっていきます。

 ランクが上がれば難易度は上がりますが報酬額も上がるので冒険者達は躍起になってクエストをクリアします。」

 

「もしクエストを登録してもクエストをクリア出来なかったり投げ出したりする人がいたら?」

 

「その際はペナルティとして報酬額の半分を支払って貰うか二回の失敗でランクが一つ下がります。

 クエストには達成期限もあるのでそれを過ぎて達成出来なかった場合は今言ったような処置をとられます。

 ランク零は永久的なギルドカードの抹消です。」

 

「うへぇ~、何だか厳しそうだね。」

 

「ギルドも信用業ですからね。

 クエストを請けるからにはクリアしていただかないといけませんからペナルティが重くなってしまうのは仕方がないことなんです。」

 

「一度始めたら辞められなくなりそうな話ですね。」

 

「大丈夫ですよ。

 ギルドカードのランクはあくまでも達成回数と失敗回数で左右されるので登録した後はそのまま放っておいてもランクに影響は出ませんから暇なときに請けるくらいでいいんですよ。

 ここにいた人たちみたいに。」

 

「そ、そうだね。」

 

「タレスの物言いにはヒヤヒヤさせられますね。

 乱闘騒ぎが起こると言っていたのはタレスですよ?」

 

「誰も聞いてないよね?」

 

「大丈夫ですよ。

 ここまでで何か質問ありますか?

 無ければカードを作りにいきましょうか。」

 

「最後に一つだけいいかな。

 ここまでの話だとあのカードでランクの請けられるクエストが決まっているようだけど、それならカードの盗難とかはないの?」

 

「カオスの言う通りですね。

 盗んでしまえばランクの高いクエストも請けられるのでは?」

 

「その点はご安心を。

 これを見てください。」

 

「あ!さっきの人が持っていたカードだ。

 名前が………あれ!?」

 

「タイタン………!?

 タレスどう言うことですか!?貴方は誰かから盗んだのですか!?」

 

「違いますよ。

 これはただのハンドルネームです。」

 

「「ハンドルネーム?」」

 

「人によっては家等を特定されたり個人情報漏洩を防ぐためにこうして名前を変更することが出来るんですよ。

 ボクも三鬼神物語の一人からこの名前をとっています。」

 

「な~んだビックリした。」

 

「タレスはあの人たちと一緒にいたからつい……」

 

「(……危ない危ない。)このギルドカードはスペクタクルズと同じ人の発明で一度入力した情報がそのままずっと半永久的に書き込まれるんです。

 ですからこのカードにはボクの情報が入力されていてボクが持つと……」

 

「緑に光ってるね。」

 

「カオスさん持ってみてください。」

 

「ん?分かった。」

 

「あ!カオスが持ったら赤に変わりました。」

 

「本当だ!どうして!?」

 

「このカードは触れている人のマナに反応して色を変えるんですよ。

 このカードにボクが触れると緑でボク以外が触ると赤になります。

 誰も触れてなければ無色です。」

 

「便利なものだね。」

 

「これは本当に本人だけにしか緑に反応しないんですか?」

 

「これが発明されてからそのような話は聞きませんね。

 発明者いわく顔や指紋のように生物のマナは微妙に違いがあるため登録者以外に反応することは有り得ないだそうです。」

 

「それならこのカードが盗難の心配はなさそうですね。」

 

「本人にしか反応しないなら誰も盗まないよね。」

 

「では試しにあそこの受付でアローネさん達も作ってみて下さい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい。

 あっちの毒舌坊やと一緒にいた人達だね。

 ギルドは初めてなんだろう?」

 

「聞いてたんですね…。」

 

「なぁに、ここへは毎日冒険者が来るからね。

 掲示板に乗り遅れる奴は逆に目立つからそうなんだろうと思っただけさ。」

 

「ハハハ…。」

 

「あたしは耳が良いから聞こえてたんだけどあの毒舌坊やには気を付けるように言っておいてくれよ。

 ここには子供でも容赦しない連中がゴロゴロいるから。」

 

「スミマセン…。」

 

「最近あの調子でして…。

 環境が悪いところにいたので丁寧に毒を吐く癖が付いてしまったんです。」

 

「アッハハハ!なんだいそりゃ変な坊やだねぇ。

 でお二人さんはさっきの説明を受けてたってことはここへはギルドカードを作りに来たんだろ?」

 

「はいそうです。」

 

「じゃあここにカードに書く名前を書いとくれ。

 本名でも何でもいいよ。」

 

「……カオス。」

 

「なに?」

 

「後々のためにこの名前は本名で書かない方がいいですよ。」

 

「どうして?」

 

「忘れたのですか?

 私達はもしかするとブラムさん達から……」

 

「あぁ……ごめん忘れてた。

 でもハンドルネームかぁ直ぐには思い付かないなぁ。」

 

「では私に任せてください。」

 

「?いいけど。」

 

 

 

「………さて、サタンさんとアルキメデスさんだね。

 後はこのスペクタクルズで………ほい完了。」パシャ

 

「「有り難う御座います。」」

 

「これがあんたらのカードだよ。

 次から受付する際はこれを見せればいいから。」

 

 

 

「ねぇ、アローネ。

 この名前って何からとったの?」

 

「………義兄と姉の名前です。」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブラシスコン…」ボソッ

 

 

 

「///」パンパンッ!!

 

「痛い痛い。

 何も言ってないじゃないか。」

 

「聞こえていましたよ!

 しっかりと!この耳に!」

 

「聞き間違いじゃないの?」

 

「では何と仰ったんですか!?」

 

「ブラシスコン。」

 

「当たっているじゃないですか!?」パンパンパンパンッ!

 

「まさかこんなところまでお義兄さんの名前を出すなんて思わなくてさ。

 つい本音がポロッと…。」

 

「非道いですカオス!」

 

「ゴメンって、

 それにしてもどっちがお姉さん?

 どっちも男みたいな名前だけど。」

 

「私のアルキメデスの方が姉の名前ですよ。」

 

「何でそんな名前なの?」

 

「上流社会には色々とあるのですよ。

 跡取り問題が………女性が男性の名を授かることはそう珍しいことではないのです。」

 

「旅の途中お義兄さんの話はよく聞かされてきたのにここに来てようやくお姉さんが出てきたね。」

 

「私話してませんでしたっけ?」

 

「サタンさんのことしか聞いてないよ?」

 

「そうでしたか、それはスミマセンでした。」

 

「いや別にいいんだけど……。」

 

「姉は姪を産んで亡くなりました。」

 

「あぁ、そうなんだぁ……え!?」

 

「姉は姪を産んで亡くなったのです。」

 

「お姉さんが亡くなったって…、

 そんなしれっと何でもないことのように言えること!?

 え!?冗談!?」

 

「はい。」

 

「何だ冗談か…。」

 

「姉はもともと体が弱くもっと早くに亡くなっていてもおかしくなかったのです。」

 

「(冗談じゃないのか…?)」

 

「それが大好きな人と結ばれ子宝にも恵まれ幸せな最期でした。」

 

「………聞いてもいい?」

 

「何でしょう?」

 

「悲しくはなかったの?」

 

「悲しかったですよ?」

 

「………にしてはそんな……明るく話せるないようじゃあ……。」

 

「あぁ、気にしないで下さい。

 姉が亡くなって悲しいとは思いましたけどもう何年も前の話ですし、それに。」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉は満面の笑顔で幸せだったと言って旅立ったんです。

 姉には死への絶望はなく希望を残して終えることが出来たことへの喜びのみがありました。

 

 その顔を見たら私も義兄も寂しさはありますけど不思議と辛さは感じないんです。」



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ヴェノムクエスト

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カストルについた一行は酒場のギルドでクエストに挑戦しようとするが名物のクエストダッシュにあい、あえなく断念。

 他の冒険者の持っていたギルドカードを作りこの日は帰るだけとなる予定だったが…。


安らぎの街カストル 酒場

 

 

 

「受付は済みましたか?」

 

「うん、何とか終わったよ。」

 

「お待たせしてスミマセン、タレス。」

 

「いえこのくらい別に。」

 

「ほらこれが僕達のギルドカード。」

 

「私のはこれです。」

 

「………サタンとアルキメデス?

 ハンドルネームで登録したんですね。」

 

「どうもアローネのお義兄さんとお姉さんの名前らしいよ。」

 

「タレスのものを見ましたら私達もハンドルネームと言うものを名乗ってみたくなりまして。」

 

「それでご兄姉のお名前を選んだんですね。」

 

「……」

 

「それでどうします?

 今日のところはクエストもないようですし……」

 

「そうだなぁ……。」

 

「では先程の商店街へ。」

 

 

 

「おや、どうしたんだいアンタ達?」

 

「あ、さっきの受付の…」

 

「今日はもう依頼はないよ。

 明日また来ておくれよ。」

 

「はい、それでは……」

 

【カオスさん、目的の一つを忘れていますよ。】

 

「あ、っと忘れてた。

 受付さんちょっと聞きたいことあるんですけど?」

 

「何だい?

 急にそっちの毒舌坊やは手帳に文字を書き出して。

 それで何を聞きたいんだい?」

 

「殺生石………封魔石についてなんですけど。」

 

「封魔石?

 街の真ん中にある王国から運ばれてきた柱のことかい?」

 

「誰か詳しい人を知りませんか?」

 

「詳しい人ぉ………

 何でそんなこと知りたがるのか気になるけど騎士団には聞いてみたのかい?」

 

「それは…」

 

「私達の住んでいた村に先日封魔石が持ち込まれたのです。

 封魔石は初めてなものでどういったものか知りたくなって調べようと騎士の方に聞いてみたのですが専門用語が多くて概要がつかめなかったのでこうして知っていそうな人に聞き回っているだけですよ。

 特に重要ということではなく只の興味本意ですよ。」

 

「あぁ、そういうことかい。

 それならそう言ってくれよ。

 と言ってもあたしらも細かいことは知らないよ。

 あれの近くにいるととヴェノムに狙われなくなるってくらいなもんだしねぇ。」

 

「そうですか…。」

 

「悪いねぇ、力になれなくて。」

 

「いいんですよ。

 焦っているようなことでもないですからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「率直すぎますよカオスさん。

 アローネさんのフォローでなんとか空気は悪くならずに済みましたが。

 封魔石は時折外壁の小さなものが盗難にあったりするので不審な人を見かけたら即通報されたりするんですよ。」

 

「私もああいった空気を読むのは得意なのでなんとかごまかせました。」

 

「よくアローネさんあの一瞬で判断できましたね。」

 

「国の上層部の内情に関しては少々聞き知っているのですよ。

 ですから騎士団が扱っているものはあまり一般の方々に情報を公開してはならないことも。

 恐らく封魔石も世間では一般市民が深入りしてはならないことですよね。」

 

「その通りです。

 下手して封魔石が機能不全に陥ったら街が滅びますからね。

 素人には触らせてはならない、どの街でもそう通っています。」

 

「ゴメン…。

 そんなこととは知らずに。」

 

「大丈夫ですよカオス。

 もうすんだことですし。」

 

 

 

ピラッ

 

 

 

「ん?」

 

「あぁ、すまないねぇ。

 その紙返してくれるかい?」

 

「……はい。」

 

「ありがとさん。」

 

「………」

 

 

 

「カオス?」

 

「どうしたんですか?

 街を見るだけ見て回るのでは?」

 

 

 

「………受付さん。

 今の紙ってクエストですよね?」

 

「あ?あぁこれかい?」

 

「今日のクエストはもう終わったんじゃなかったんですか?」

 

「これは一般の人達の依頼じゃなくてうちが出すギルド直々の依頼だよ。」

 

「ギルド直々?」

 

「ここらへんモンスターが多いだろ?

 だからつい最近ヴェノムが出ちまったのさ。

 対応が早かったからなんとかその時いた騎士さんの連中に頼んで東の方にある洞窟まで追い込んだはいいんだけどそこで騎士さんの薬が切れちまったようでね。

 その時から洞窟の中にヴェノムが大量発生しちまってるよ。

 幸い騎士さん達のおかげで簡易版封魔石を洞窟の外に置いてるから今のところ出てくることはないんだろうけど、穴でも掘られて出てこられたら不味いから一応依頼書だけ作って置いてあるのさ。」

 

「薬があるのなら直ぐには騎士団は動けないんですか?」

 

「薬も多くある訳じゃないらしくてね。

 一度切らしたら次を発注して五日はかかるようだよ。」

 

「そんなに掛かるんですか?」

 

「薬は王都から取り寄せてるからそんな直ぐには補充できないんだよ。

 封魔石があるこの街に直接被害はないだろうが、モンスターの生息圏で利益を得ているこの街からしたらヴェノムで街の周囲を荒らされちゃ興行収入に関わるからね。

 アタシらギルドが解決するしかないんだよ。」

 

「その依頼書はあっちの掲示板には?」

 

「あれはギルドが仲介している依頼用だよ。

 でこっちは掲示板じゃなくて騎士団に提出するもんさ。

 ヴェノムの案件だからあっちに張っても誰もクリア出来ないだろうしね。」

 

「誰もクリア出来ない……」

 

「騎士団の薬が届くのを気長に「受付さん!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのクエストやらせていただけませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それでそのクエストを受けたと?」

 

「ダンジョンに巣食うヴェノム討伐ですか…

 お二人向きではありますがよく受けられましたね。」

 

「受けられた訳じゃないよ。

 受付さんもヴェノム退治なんて一般冒険者には危険だから任せられないって言ってたし。

 ヴェノムを退治出来るなんて言っても信じてくれないだろ。」

 

「?ではどうするんですか?」

 

「実績を出せばいいんじゃないかな。

 五日後に騎士団に例のワクチンってのが届くらしい。

 ならそれまでに僕達で倒しきってしまえば…。」

 

「依頼完了と?」

 

「そういうこと。」

 

「ですが退治するだけ退治して信じてもらえなければ無駄骨ですよ?」

 

「そのダンジョン、ヴェノムが大量発生する前までは普通のダンジョンだったんだけど奥の方にそのダンジョンだけでしか取れない鉱石があるんだ。

 それを大量に持って帰って見せればいいよ。」

 

「……それなら格段に退治したと言う信憑性が上がりますね。

 例え信じて貰えなくてもその鉱石を売ってお金に変えられれば……。」

 

「どっちにしてもお金は手に入りそうじゃない?

 どうせお金を稼がなきゃいけないんなら明日まで待って取れるか分からないクエストに期待するよりも今日行動して明日にはお金が手に入るようにするのが建設的だと思うんだ。」

 

「そうですねカオスの言う通りです。」

 

「ボクは構いませんがその鉱石が素人のボク達に見付けられるかどうか…。」

 

「別に見付からなくてもヴェノム退治が出来たら街の人達のためにもなるしね。」

 

「カオスは本当はそれが一番の目的なのではないですか?」

 

「カオスさんならそう言っても不思議はありませんね。」

 

「今回の件はヴェノム退治と鉱石二つ目的が重なってるし受付さんの言う通りそのヴェノムが出てきて感染が広まれば皆困るだろうからヴェノムと戦える僕達にはうってつけなんじゃないか。」

 

「昨日来たばかりですけどお金がなければ何も出来ませんものね。

 そうと決まれば向かいましょう。」

 

「さっきアイテムも補充しましたから準備は万端です。

 いつでも行けますよ。」

 

「善は急げだ!

 ならこのまま行こう!」

 

「では地図とダンジョン用の道具を貰ってきますね。」

 

「なら私はお昼用に持ち運べるバスケットでも買ってきます。」

 

「頼むよ。

 僕はその鉱石のこととどう掘り出せばいいか聞いてくる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クエストも受けずにどこに行こうってんだ?」



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ネイサム坑道

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カストルのギルドでクエストを受けられなかった一行は次の日に備えて宿で休もうとするのだがヴェノムのクエストの存在を知り騎士団よりも先にクリアすることに決める。


ルルカ街道 カストル東

 

 

 

「タレス!」

 

「はい!飛燕脚!」ゲシッ!

 

 

 

「ゴアアァァァッ!!」

 

 

 

ドスッ!!

 

 

 

「よし!このままもう一体も「ブルルルッッ!!」グッ!!」ガガガガッ!!

 

「カオスさん!「魔神剣・槍波!!」」ザザザザザザッ!!

 

 

「ブルッフ!」フラァッ…

 

 

ドスンッ

 

 

「片付けたか!アローネそっちに行ったぞ!」

 

 

 

「ガアァァッ!」タッタッタッ!!

 

「任せてください!『我らに力の加護を!シャープネス!』」ガシッ

 

 

 

「キャインッ!?」

 

 

 

「そのまま押さえてて今行くから「『疾風よ我が手となりて敵を切り裂け!ウインドカッター!』」!」ザシュッ!

 

「キャフッ……」

 

「!」

 

 

 

「終わったようですね。」

 

「そうだね……。」

 

「?どうしました?」

 

「何でもないよ…。」

 

「?」

 

「モンスターで栄える地域なだけあってモンスターと多くエンカウントしますね。」

 

「連繋の練習にもなって丁度いいですね。」

 

「アローネ、その術使えるようになってから調子いいね。」

 

「はい、私には相性がいいようでマナもそんなに消費しないんですよ。」

 

「アローネさんにお教えして正解でしたね。

 術が増えただけで幅が広がって前ほど苦戦しません。」

 

「マナはただ内包しているだけでは意味がありませんからね。

 効率的に使っていかないと。」

 

「それにしてもアローネモンスターを押さえ込むなんて凄い腕力だね。」

 

「何言ってるんですか、支援魔術があったからこそですよ。」

 

「さっきのモンスターを組伏せていたアローネさんは前衛と言われてもおかしくないオーラを放っていました。」

 

「前から言ってるではないですか。

 私は前衛もできますって。」

 

「それはそうなんですがアローネさんはそんなに打たれ強くないですよね?」

 

「攻撃に自信はありますが守りはそうですね。」

 

「ならこのままアローネさんはモンスターが接近したらカウンター式に今のような戦いでいきましょう。

 術技のバランス的にはそれがボク達のパーティで問題ない筈です。」

 

「余裕があるのでしたら私も前に出ることも出来ますよ?」

 

「それはあくまでもモンスターが弱いときのみにしましょう。

 この周辺のモンスターはムスト平原やトーディア山脈よりも活気付いてるようなので。」

 

「けれど私が何もせずにカオスとタレスだけで戦闘が終わってしまうこともあるじゃないですか。

 何だか申し訳ないです。」

 

「それが後衛というものですよ。

 後衛にまで敵を回さないのがよいパーティの基本です。

 後衛は遠くから支援してくれるだけでいいんですよ。」

 

「それが申し訳ないのですよ。

 私一人が傷を負わないで戦うことが。」

 

「アローネは回復もしてくれるじゃないか。

 アローネがいなかったら僕達はじり貧で戦わなくちゃいけなくなるからね。」

 

「カオスはそんなに怪我をしていませんよね。」

 

「え?それはそうだけど…」

 

「やはり私が何もしない戦闘が増えてきています。

 何とかして下さい!」

 

「何とかって…」

 

「こればっかりはボク達が強くなっていく上で仕方のないことだと思いますよ。」

 

「私も二人と共に戦いたいのです。」

 

「そういえばアローネってこういうところあったな。

 すっかり忘れていたよ。」

 

「お嬢様なんですから本来は戦わせること自体間違っているような…。」

 

「その逆です!

 貴族として民を守らねばならないのです!

 悠々と後ろで構えて誰が救えますか!」

 

「十分助けられてるよ。」

 

「もっとです!」

 

「………戦闘がスムーズになってから好戦的な性格になっちゃったなぁ。

 ミシガンみたい。」

 

「これがアローネさんの真の姿なのかもしれませんよ。」

 

「このままアローネが強くなったらとんでもないことにならないかな。

 そのうち自己支援だけでモンスターに突貫して殴りにいかないか……」

 

「聞こえていますよ!カオス!」ガシッ!

 

「あいたたたた!!ちょっとまだシャープネスの効力解けてないって!?」

 

「問答無用です!

 私がそんな粗暴に見えますか!!?」

 

「今まさにそう見えます!!」

 

「言いましたねぇ!!!」

 

「いたたたた!!タンマタンマ!ギブだ!ギブだって!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、モンスターよりもダメージ負った気がするよ。」

 

「カオスが変なこと言うからですよ。」

 

「カオスさん口は災いの元ですよ。」

 

「最近のタレスにその言葉を送りたい。」

 

「ボクは別にトラブルは起こしてないですよ?」

 

「うんそうだね。

 起こしそうでヒヤヒヤするけどね。」

 

「それはそうとタレスさんさっきの戦闘で使っていた技は…。」

 

「あぁ、魔神剣・槍波?」

 

「いつも使っている魔神剣とは違いましたね。

 いつの間にそんな技を?」

 

「トーディア山脈のダイナソーの時に一度使ってましたよね。

 名前を付けたのですか?」

 

「そうそう、魔神剣と少し出し方が違うから区別しようかなって。」

 

「地面をより深く抉って魔神剣の威力と追々する衝撃波を連続的に出していますね。」

 

「その分飛距離は縮んで接近専用になったけどね。」

 

「武身技兼闘気術になるんでしょうか。」

 

「そういうくくりを意識して編み出した訳じゃないけどな。」

 

「何故急にそんな技を?」

 

「リトビアで暴走してからマナを放出するのがやり易くなった気がしてね。

 試しに撃ってみたら出来たんだ。

 単純な考えだからそれまでも何度か魔神剣の威力向上のためにやってみたことはあったんだよ。

 成功したのはトーディア山脈でコツを掴んでからかな。」

 

「名前はどうお決めになったのですか?」

 

「最初に飛ばす魔神剣と後を追う魔神剣が繋がって槍のように見えるからかな。」

 

「シンプルで分かりやすいですね。」

 

「でしょ?」

 

「では魔神剣とはどういう意味なのですか?」

 

「ゴメン、それは僕にも分からないよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネイサム坑道 入り口

 

 

 

「ここが目的地だろうね。

 入り口にヴェノムの警告あるし。」

 

「ネイサム坑道というのですね。」

 

「坑道かぁ、ダンジョンって聞いていたから只の洞窟みたいなのを想像してたよ。

 中は案外整備されてて崩れたりとかはしなさそうだな。」

 

「ガイドブックによりますと古い話ですがここはもともと発掘場として機能してたみたいですよ。

 今は捨て置かれてますが。」

 

「何で捨てたんだろう?」

 

「モンスターが住み着いてしまったからでは?」

 

「ヴェノムかぁ、なら有りうるな。」

 

「いえ、それは最近の話で元々捨てられた理由にはゴーレムやエレメントと言ったモンスターを掘り出してしまったことにあるそうですよ。」

 

「ゴーレム?」

 

「エレメント?」

 

「古代の技術で作られたと言われる生物で通常の生物とは異なり肉体ではなく土や氷や火などのそれだけでは生物足り得ないもので体が構成されています。

 ゴーレムは岩や鉄、エレメントは基本六元素それぞれで。」

 

「自然エネルギーで体が出来ているってこと?

 それって急所がないってことなんじゃ…」

 

「エレメントは相反する属性をぶつければいいみたいですよ?

 そうすればエレメントと相殺されて倒せるそうです。」

 

「よかった、不死身とか言われてたらどうしようかと思ったよ。」

 

「魔術が有効ならなんとかいけそうですね。」

 

「お二人は常日頃不死身の魔物を倒してるじゃないですか。」

 

「「あ。」」

 

「あんな怪物と比べたらエレメントなんて可愛いものですよ。」

 

「それもそうか。」

 

「それでは行きましょう。

 ここにいても外のモンスターが嗅ぎ付けてくるだけなので。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に入っていきやがったな…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネイサム坑道

 

 

 

「ゴーレムにエレメントかぁどんなモンスターなのかな。

 早く遇ってみたいなぁ」

 

「体の構造が一つの元素で作られているなんて凄そうなモンスターですね。

 ヴェノムと同じで不定形のモンスターなのでしょうか?」

 

「そうではないですよ。

 ゴーレムはあらかじめ形を作っておいて術式を施して動かしているようです。

 エレメントも形を作る術式と動かす術式と元素術式を組み合わせて作り上げたもののようです。」

 

「術式ってアローネの棺にあったやつだよね。」

 

「確かにあれも術式でしたが……

 術式で動いていると言うことは操作している人がいると言うことでもあるのではないですか?」

 

「ここにいるゴーレムやエレメントは原初時代の遺産でそういう人がいるのなら数億年生きていることになりますよ。」

 

「それは……生きてられないね。」

 

「この現代の人の寿命は千年前後です。

 ゴーレム達は術者の手を離れて自律稼働しているんでしょう。」

 

「ってことはずっとここでゴーレム達は…。」

 

「切なくなる話ですね。」

 

「もとはどこかの王朝の警備にでも配置していたのでしょうが訪れた文明の滅びに取り残されてしまった哀れな兵士達なんでしょうね。」

 

「可愛そうですね、ずっと術者が帰るのを待っているのでしょうか。作った親はもういないというのに。」

 

「子はいつかは親から飛び立たなければなりません。

 唐突に離れ離れになったとしてもいづれ来る運命だったんですよ。

 ボクのように。」

 

「タレス…。」

 

「モンスターに情けは無用です。

 襲ってくるのなら返り討ちにしてやりましょう。

 出てきたらゴーレムはボクが引き付けておくのでお二人はヴェノムを退治してください。」

 

「分かった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所々障気が漂ってるからヴェノムがいた形跡はあるんだけど……なかなか出てこないね。」

 

「ヴェノムも坑道に追い詰められて他の生物を取り込む前に飢餓で死んでしまったのでしょうか?」

 

「この坑道にはゴーレムやエレメントの他にもバットやジャイアントスネイルといったモンスターはいたみたいですがそれらが出てこないとなるとその可能性はありますね。」

 

「てことはもうヴェノムはもう退治しなくても安全ということですか?」

 

「ここまで進んできてモンスターもヴェノムも出てこないなんておかしいですね。」

 

「いや、坑道の奥からヴェノムのマナを感じる。

 どうやら生き残っている個体もいるみたいだよ。」

 

「奥から?」

 

「………ずっとその場を動かない。

 何しているんだ?」

 

「とにかく行ってみましょう。

 そこに鉱石もあるようです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネイサム坑道中間

 

 

 

「灯りがなくなってきたね。

 ほとんど真っ暗だ。」

 

「気を付けてください。

 道が凸凹しているので躓きやすいですよ。」

 

「ダンジョン用にランタンを持ってきましたが照らせる範囲が限られてます。

 離れずに行きましょう。」

 

 

 

ザッザッザッ

 

 

 

コツッ

 

 

 

ザッザッザッ

 

 

 

カサッ

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……何かに後をつけられてますね。」

 

「ヴェノム……だったら襲ってくるよね。」

 

「モンスターではないでしょうか?」

 

「ここまで一本道で進んできました。

 隠れられるような所もなかったのでこの坑道のモンスターでは無さそうです。」

 

「こういう場所だと音が響くから近くに何か来ても音で分かるね。」

 

「油断せず慎重に進みましょう。

 モンスターがよってくるのは分かっても見通しが悪いので何が起こるか分かりません。

 今のところは襲ってくる気配はありませんが近くにいることは確かです。」

 

「確かめに行こうか?」

 

「今は進みましょう。

 引き返した時に遭遇しますから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネイサム坑道最深部

 

 

 

「ここは……建物?」

 

「遺跡のようですね。」

 

「さっき話した王朝がここなんでしょう。

 大陸の中央地ですしここにあってもおかしくはないです。」

 

「ボロボロだねぇ。」

 

「長い年月でここまで原型を保てているのならまだいい方でしょう。」

 

「ヴェノムはいませんでしたがここに鉱石はありそうですね。」

 

「……」

 

「大きな都市だったのでしょうか?

 土に埋まって全体は分かりませんがこの造りはお城の門ですよね。」

 

「そうですね。

 この中央に建っている像もオブジェのようですし。」

 

 

 

「タレス!アローネ!

 そこを離れて!」

 

「はい?」ゴゴゴ

 

 

 

ゴゴゴゴゴ!

 

 

 

「像が!?」

 

「これは!?」

 

「どうやらこれがゴーレムってやつみたいだね。

 しかも………ヴェノムに感染した。」



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強襲ガーディアント

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カストルについた一行は旅の路銀集めにギルドでクエストを探すがその日は請けられず帰ろうとした矢先に騎士団が請け負うヴェノムクエストの存在を知る。


ネイサム坑道最深部

 

 

 

「ゴァァァァァァッ!!」

 

 

ズズーーーーーーンッッッ!!

 

 

 

「うわっ!凄い一撃だねっ!」

 

「ギガントモンスター並のサイズでこの機動力…!

 カオスさん!あまり接近し過ぎるとやられちゃいますよ!」

 

「そうだね!魔神剣!」ザザザッ!カシュッ!

 

 

 

「オォォォッ!」

 

 

 

「あまり効いてないみたい!?」

 

「相手は鉄製です!衝撃波じゃあ通じにくいですよ!」

 

「じゃあどうすれば「オォォォォォォ!」うわっとぉ!!?」ズバンッ!

 

 

 

「ボクが鎌で剣を止めます!その隙に懐へ!」ブンブンッ!

 

「分かった!!」

 

「『我らに力の加護を!シャープネス!』カオス!」パァァッ

 

「ありがとう!」

 

「ゴォォォォッ!!」ブンッ!

 

「そこだ!」シュッ!

 

 

 

カラララララ!ガコッ!

 

 

 

「今です!」

 

「おぉぉぉぉ!!魔神剣・槍波!」ザザザザザッ!!

 

「オオオッ!?」ガガガガガッ!!

 

「おしっ!ナイスヒット!ナイスタイミング!」

 

「やりましたか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴアァァァァァァァァァァァァァァァァァァォッ!!!!」

 

 

 

「傷が浅いようです!」

 

「………参ったなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなに硬い敵は初めてだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タレス!危ない!」

 

「!「ゴオォアッ!」クッ!」ブオンッ!!カスッ!

 

「無事ですか!?タレス!?」

 

「…傷は浅いです!まだいけます!」

 

「よかった!にしても硬いなぁ!コイツ!

 もう結構撃ち込んでいるのに!

 何か弱点はないのかな!?」

 

「長年の老朽化で所々傷んではいますが間接をヴェノムが補強しているようです!

 間接を狙いましょう!」

 

「間接かぁ、けどこう素早い上に暗いんじゃあ狙いにくいよ。」

 

「一旦退きますか!?」

 

「ここまで戦って今更逃げるなんて出来ないよ!」

 

「ですがこのコンディションではどちらが先にやられても…。」

 

「なんとか灯りを…付けられない!?

 火とか!?」

 

「洞窟の中で火は酸素を一気に消耗しますよ!」

 

「それならどうしたら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「灯りが欲しいなら任せな!!」パァァァァァァ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!!」」」

 

「これでいいんでしょ!」

 

「誰!?」

 

「誰かは分かりませんけどこれなら…。」

 

「カオスさん今はこのゴーレムに集中しましょう!」

 

「あ、あぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴアァァァァ!」

 

「これで終わりだぁぁ!魔神剣!飛燕連脚!!」ザシュッ!ガガガガッ!!

 

「ゴアッ……」

 

 

 

ダダーーンッ!!

 

 

 

「なんとかなったなぁ、フゥ、フゥ!」

 

「こんなに長い戦いは経験ありませんね。」

 

「カオス大丈夫ですか?ファーストエイド。」パァァ

 

「ありがとうアローネ。」

 

「どういたしまして。タレスは無事ですか?」

 

「さっき掠めましたが感染はしてないようです。」

 

「よかったです。」

 

「それで………貴女は?」

 

「……その前にアンタ達から名乗って欲しいね。

 アタシのおかげで助かったんだから。」

 

「……僕はカオス。」

 

「私はアローネです。」

 

【ボクはタレスです。】

 

「カオスにアローネね…………で?アンタは何で紙で書いてんのさ?さっき喋ってたろ?」

 

「タレスは…「まぁ、どうでもいいけど。」……」

 

「先程は助かりました。

 あの場で灯りが無かったらどうなっていたか…。」

 

「本当にな。

 こんな暗い中であんなおっかないの相手にしてたらいくつ命があっても足りないよ?感謝しな。」

 

「はい。」

 

「……貴女が僕達の後をつけていたんですね。」

 

「「……」」

 

「そうだな。」

 

「何故そんなことを?貴女は一体何者なんですか?」

 

「何者か………それはこっちのセリフだわ。」

 

「こっちのセリフ?」

 

「ちょっと待ってな。」パシャ

 

「それはスペクタクルズ?」

 

「………やっぱりだ。

 今のゴーレム、ヴェノムだったんだろ?」

 

「「「!」」」

 

「もともとここは立ち入り禁止の警告があった時点でヴェノムまみれなのは分かっていたろ。

 なのに構わず入っていって。」

 

「それは…。」

 

「……そう!私達はワク「ワクチンは持ってないよね?」」

 

「アンタらはさっきのカストルでクエスト探してたくらいだし金に困ってるやつがワクチンなんてバカ高い薬を持ってるはずがない。」

 

「「「!?」」」

 

「持っていたとしてここまでの道中それらしい薬を使った素振りもない。」

 

「……貴女は何時から僕達を追っていたんですか?」

 

「トーディアででかいヴェノムをアンタらが狩っていた辺りからだよ。」

 

「そんな前から…!?」

 

「私達に何の用があると言うのですか?」

 

「それよりいいの?その子供。」

 

「子供?」

 

「見てたけどさっき攻撃食らってたろ?

 ソイツヤバイんじゃないの?」

 

「…!」

 

「タレスは大丈夫です!」

 

「感染は免れました!」

 

「ソイツぁおかしな話だねぇ。」

 

「おかしな話?」

 

「ヴェノムウィルスは掠り傷一つですら見逃してくれない恐ろしいウィルスなんだよ。

 さっきの戦闘中その子供だけじゃなくアンタやアンタも攻撃を食らっていた。

 本当だったら今頃三人揃ってそこでぶっ倒れてるゴーレムのお仲間入りの筈なんだけどねぇ。」

 

「……」

 

「トーディアでヴェノムをぶっ倒して、カストルからここまで真っ直ぐヴェノムの巣窟に入っていってこの有り様。

 まるでヴェノムなんかその辺のモンスターと変わらないような動向だったね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でアンタらは何者なの?

 どうしてヴェノムを感染もしないで真正面から殺せる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕達は……」

 

「カオス!良いのですか!?こんな不躾な人に!」

 

「助けてもらったことにかわりはないし問い詰めるような言い方されて戸惑ったけどもともと僕達も隠してる訳じゃないからね。

 言うよ。」

 

「おぉ、いいねぇ恩情を大切にするやつはアタシ好きだよぉ!

 アタシは誰かに恩を感じたりはしないけどね。」

 

「……」

 

「ほらこんな人ですよ!?」

 

【ボクたちをずっとつけてきていたようですしあやしいですよこのひと。】

 

「いいんだよ。

 僕達の知りたいことは多分知っている人はほんの僅かにしかいない。

 なら小さな可能性を信じて誰かに知ってもらうのも悪くない筈だ。」

 

「カオス………………分かりました。」

 

【カオスさんがそういうなら。】

 

「話はまとまった?

 そろそろ聞かせてくれない?

 アンタらの秘密を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、殺生石ねぇ。

 封魔石と何が違うんだ?」

 

「それは僕達にも分かりません。

 僕達はそれを知るために旅をしているんですから。」

 

「はぁ~ん?

 ま、そんなもん見つかるとは思えないけどね。」

 

「(イラッ)………それはどうしてですか?」

 

「アタシが聞いたことないから。」

 

「貴女が知らないだけで他の人は知ってるかも知れないじゃないですか!?」

 

「いや~、絶対誰も知らないって本当に。」

 

【どうしてそこまでだんげんできるんですか?

 なにかこんきょでも?】

 

「だから読みにくいって!

 もっと字を丁寧に書け!

 お仲間も困ってるだろ!」

 

「!?」

 

「いや!全然困ってないよタレス!?」

 

「そうですよ!私達はそれでも十分読めますから!?」

 

「字が汚いってのは認めるんだな。」

 

「貴女は黙っててください!」

 

「ほ~い。」

 

「………スミマセンカオスさん、アローネさん。ボクは………。」

 

「喋れるんじゃねぇか。

 最初ッからそうしとけ!

 まどろっこしい。」

 

「黙っててくださいよ!!?」

 

「五月蝿いな!?

 響くんだからもっと静かに出来んのか!?」

 

「誰のせいで!!」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

「で何の話してたっけ?」

 

「貴女が誰も知らないって言う根拠は何ですか?」

 

「……」

 

「無いんですか?」

 

「……」

 

「無いんですね、じゃあもう僕達は帰「あっ!喋ってよかったん!?」」

 

「何で今そこを気にするんですか!?

 アンタさっきから喋ってたでしょう!?」

 

 

 

「そんなら言うけどアタシが封魔石を作ったから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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封魔石の建造者

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 ヴェノムクエストを無断でクリアしようとする一行だったが訪れたネイサム坑道の奥で強力なガーディアントとの戦闘で苦戦を強いられる。

 だがその時一人の女性が一行の危機を救うのだった。


ネイサム坑道最深部

 

 

 

「「は?」」

 

「?」

 

「聞こえなかったのかよ!?

 二度は言わねぇぞ?

 アタシが封魔石を作ったんだよ。」

 

「いや二度目普通に言ってるし!」

 

「どういうことですか!?

 貴女があの石を!?」

 

「より正しくはアタシのいた研究チームが開発した、かな。」

 

「貴女があの封魔石を…!?

 でも本当なんですか!?」

 

「疑り深いなぁ…

 本当に決まってんだろ?

 ほら!」

 

「!」

 

「指輪?」

 

「これが何の証拠になるのですか?」

 

「あぁん?コイツを知らねぇのかよ!

 どっから来たんだよお前ら!」

 

「な、失礼な!?」

 

「ウルゴスです!」

 

「どこの田舎だそりゃ!」

 

「王国です!」

 

 

 

「その人の言っていることは本当かもしれませんよ。」

 

 

 

「タレス?」

 

「こんな怪しくて胡散臭くて失礼な人があんな人のためになるようなものを造るチームにいたとは到底思えません!」

 

「そうだな。」

 

「ほら本人もこう言ってますし!」

 

「その人がどんな人なのかはともかくその指輪はソーサラーリングと言って高貴な身分の人か学界で表彰された人にしか渡らない希少な指輪です。」

 

「ガキの方が話が早いってのも変なこったよな。」

 

「学界!?」

 

「そんなに偉い人なの?」

 

「前にも言った通り文明科学の発展はある天才から始まりその天才から学んで少しずつ上昇していくんですがそこから進歩させていくことは至極至難で数百年前から差があまり無いんですよ。」

 

「あぁ、この前言ってたやつだね?」

 

「今この時代で学界に研究成果を認めさせることは不可能に近いとまでされているんです。

 その人が持っている指輪はそんな世界で認められた人に贈られる指輪なんです。」

 

「そ、そこまで凄い指輪なんだ……。」

 

「売ろうとしても並のお店では用意しきれない程のお金になりますよ。」

 

「ただ盗んだだけなのでは?」

 

「その線はないと思います。

 そのソーサラーリングは授与されるときにその人個人にのみ使える術式が施されるため今こうして使っているということは……… 。」

 

「指輪の持ち主だってこったな。」

 

「こんな人が………義兄と同じ世界の………!?」

 

「誰と比べてんのか知らねぇがアタシは歴とした魔科学のそれも功労者なんだよ。

 その辺頭にいれてろ!」

 

「こんなストーカーが………!?」

 

「随分嫌われたもんだな。

 泣きそうになっちまうぜ。」

 

「その満面の笑顔のどこからそんな気持ちが湧いてるんですか?」

 

「ハハッ!まぁ、何でもいいさ!

 そんな世界にいたアタシが言うんだ!

 殺生石なんてものは聞いたことも見たこともない!

 王都のモヤシ共もヴェノムの習性についてしか研究してないからな。

 王都に行こうってんなら無駄だぜ?」

 

「そんな……」

 

「そう言われても貴女の言い方じゃ素直に納得できませんよ!」

 

「頭の働かねぇ奴等だなぁ。

 アタシが人にイジワルするように見えんのか?」

 

「見えます!えぇ!バッチリと!」

 

「封魔石がどう作られてるのか知りたくねぇか?」

 

「「「!?」」」

 

「一般の奴等には極秘事項なんだがなぁ。

 封魔石なんかよりよっぽどすげぇもん見せてもらったから餞別に教えてやるよ。」

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ本当だ。

 取り合えずアンタらは用事済ませてこいよ。

 ここで待っててやるから。

 話は長くなるから街に戻ってからゆっくりしてやるよ。

 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なんでしょうかあの人は!?」

 

「落ち着いてアローネ。

 あの人に聞こえちゃうよ。」

 

「聞こえるように言ってるんです!」

 

「アローネさんが珍しく怒るなんて………

 頻繁に怒ってますね。」

 

「タレス!?」

 

「まぁ、あんな人を食ったような人はそうそういないよね。」

 

「サハーンも大概な性格してましたがあの人はそれ以上を感じさせます。」

 

「全く!どういう環境にいたらあんなふうになるんですか!」

 

「それは想像もできないね。

 学界にいたって言ってたからあの人みたいなのがうじゃうじゃいるんじゃないかな。」

 

「そういえばさっきアローネさん、お義兄さんが学界にいると「止すんだ!タレス!」」

 

 

 

「あんな人と義兄を一緒にしないでください!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウッセーゾ!サワガネェトシゴトモデキネェノカ!?

 

 

 

「ほらあんなこと言われちゃったよ。」

 

「貴女なんか義兄の足元にも及びません!!」

 

 

 

サッキカラアニアニアニアニナニイッテンダ!ブラコンカヨォ!キメェナァ!

 

 

 

「……私少しあちらの方に用事ができました。

 カオス達は先に行っててください。」

 

「待ってアローネ。

 何をしにいくのかな?

 言わなくていいけどね。」ガシッ

 

「あちらの方で雑音がしたのでモンスターがいないか確認を…」

 

「そっちはあの人しかいないよ。

 今は作業に集中しよう。」

 

「離してください。

 あそこにいるモンスターが倒せないではないですか。」

 

「あれはどう見ても人だからね。

 倒さなくていいんだよ。」

 

「先程私はあのモンスターに精神攻撃を受けました。

 つまりあれは敵ですモンスターですやりましょう。」

 

「何をやるんだよ!?」

 

「カオス私は………どうしてもあのモンスターを殺らなくてはならないのです!『我らに力の加護を!シャープネス!』」

 

「おぉいぃぃ!!本気でやるつもりか!?止せぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったくアンタらは一々一々騒がしいぞ!

 ここを何処だと思ってんだ?」

 

 

 

「あっ!来ましたね!?今度こそ終わりにします!」

 

「あ?何盛ってんだよ二人で?

 ガキが見てんだろ?」

 

「………!!!!貴女は何処までも私をぉぉ!!」

 

「アローネ!………何だこの力は!?

 アンタ逃げた方がいいって!?今すぐに!!」

 

「あぁん?逃げるって何処にだよ?」

 

「何でワザワザこっちに来たんだよ!?今アンタは命の危機に去らされてるんだぞ!?もう抑えきれそうにないんだ!!」

 

「あ~。

 そうだな、命の危機かもな。」

 

「何でそんなに落ち着いてられるんだよ!?

 やられちゃうかもしれないんだぞ!?」

 

「カオスゥゥゥ!離してください~!!」

 

「何でってそりゃあ既に命の危機だからな。」

 

「は?」

 

「アタシの後ろを見てみな。

 アンタらがあんまり騒がしくするからほら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出口が感染したゴーレムやエレメント達の群れに塞がれちまったじゃねぇかよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「すみませんでした!」」

 

「だからもう遅ぇーんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴアァァァァォ!!」「オォォォッ!!」「カァァァァァッ!!」「キュゥゥゥゥゥゥンッ!!」「コォォォォッ!!」

 

 

 

「はぁ~、面倒くせぇ事態だなぁこれは。」

 

「下がっていて下さい!ここは僕達で対応します!」

 

「あぁ、そうさせてもらうわ。」

 

「アローネ!シャープネスを!」

 

「はい!『我らに力の加護を!シャープネス!』」パァァ

 

「よし行ける!魔神剣!」ザザザッ!

 

「グレイブッ!」ガシュッ!

 

「ゴアァォッ!」

 

「さっきのよりかは小さいけど硬さは変わらないか…!」

 

「『疾風よ我が手となりて敵を切り裂け!ウインドカッター!』」ザクッ!

 

「ゴォォォッ!!」

 

「魔術は効くようですけど薄いですね。」

 

「カオスさん伏せてください!」ブンブンッシュッ!

 

「おわっ!!」サッ

 

「ゴガッ!?」

 

「危なかったぁ!タレス有り難う!」

 

「安心するのはまだ早いです!次来ます!」

 

「キュゥゥンッ」パァァァァッ

 

「!?アイツ何か唱えてる!?」

 

「キュゥン」バァァァッ!

 

「うあっ!?」

 

「カオスさん!!」

 

「いったいなぁ!?ストーンブラスト!?」

 

「カオスさんが魔術でダメージを!?」

 

「二人とも気を付けて!あのエレメント達の魔術かなり威力があるよ!」

 

「分かりました!「ゴァァッ!!」!?」バガンッ!!

 

「タレス!!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

 

「おいおい、そんなに後衛が動き回るもんじゃねぇぞ?

 そうやって不用意に間に入ると……」

 

 

 

「!?アローネ!?」

 

「!?「ガァァッ!!」」

 

 

 

「そうやって空いた穴に突っ込まれるんだから。」コォォッ!

 

 

 

カチンッ!!

 

 

 

「!!」

 

「今のは氷の魔技アイスニードル!?」

 

「貴女は…。」

 

「危なっかしいからつい手が出ちまった。

 さっさと体制を建て直しな。

 アタシもまだ死にたくはないから足止めくらいはしてやるよ。」

 

「あっ、有り難うございます…。」

 

「礼ならそいつにくれてやれよ。」

 

「!は、はい!ウインドカッター!」ザクッ!

 

「ォォ……」ドスッ

 

「動けないやつに一撃くれてやる気分はどうだ?」

 

「貴女!こんなときに何を言って「お喋りすんな!まだ敵がゴロゴロしてんだろ。」何なんですかもう!!」

 

 

 

「はぁ、助かったようだね。」

 

「スミマセン、カオスさん不意を突かれました。」

 

「あ、あぁ心配ないよ。あの人がアローネの傍にいてくれてるようだし僕達も残りを片付けていこう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調子がよくなってきたね。

 このまま押しきろう!」

 

「焦んなよ!

 コイツらは一定の動きしかしねぇからこのままでいいッ!」

 

「え?「余所見すんな!」は、はい!」

 

「アタシはコイツらに止めはさせねぇ。

 アンタらがやってくれ。『氷雪よ我が手となりて敵を凍てつくせ!アイシクル!』」コォォッ

 

 

 

カッ!カッ!

 

 

 

「敵が凍っていきます……!」

 

「氷の魔術はこんなに威力があるのか!?」

 

「まだ殺してねぇ!動けねぇだけだ!やれ!!」

 

「おぉぉぉぉぉッ!魔神剣・鎗波!!」ザザザザザザッ!!!

 

「ゴアァッ!」「ガア!」「キュアッ!」

 

 

ドダダダダダンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュゥゥンッ」パァァ、バシュッ!

 

「危ない!」

 

「まだ残ってやがったか。…ッツ!」ガスッ

 

「このォッ!魔神剣!」ザザッ!

 

「キュッ…!」ガンッ!

 

 

 

「大丈夫ですか!?もういいですから引いてください!」

 

「貴女……今ので!?」

 

「あぁまぁ感染しちまってんなぁ。」

 

「……!?」

 

「……でもまぁ出し惜しみしてる場合じゃねぇなぁ、勿体ないが使うしかねぇなぁ。」カチッ

 

「何を言って!?……それは?」

 

「こいつか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コイツがワクチンだよ。」パァァ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

「『氷雪よ我が手となりて敵を凍てつくせ!アイシクル!』」

 

 

 

 

 

 

 



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ワクチン

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 ネイサム坑道で無断でヴェノムクエストに挑んだ一行はガーディアントに襲われるが謎の女性に助けられる。

 その後ゴーレムやエレメントの群に囲まれ女性が負傷してしまうが…。


ネイサム坑道最深部

 

 

 

「終わったようだな。」

 

「えぇ、でも貴女ヴェノムウィルスに……。」

 

「んなもんとっくに治ってるよ。

 ワクチン使ったって言ったろ?」

 

「じゃあさっき砕いていた粉末が…。」

 

「あぁ、あれがワクチンの使用方法だ。

 見るのは初めてだったか?

 そりゃ一般には高過ぎて出回ることも珍しいからなぁ。」

 

「どうしてそれを持って…?」

 

「いつまで頭休ませたんだ?

 さっきの話から察しろよ!

 アタシは封魔石の開発者チームだぞ!?

 ヴェノム避けくらいどうとでもなる。」

 

「では本当に貴女は…。」

 

「っても残り一つしかねぇけどな。」

 

「そんな大事なものをこんなところで…。」

 

「あぁ、アンタらがヴェノムを誘きだしたせいで使っちまったなぁ。」

 

「スミマセン……。」

 

「でももとはといえば勝手についてきた貴女が…。」

 

「細けぇこたぁどうだっていいんだよ!

 さっさとこんなところから出るぞ。

 また使うハメになったら困るからな。」

 

「分かりました。」

 

「そうと決まればカストルに戻るぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 宿 夜

 

 

 

「んじゃあ、アタシはこの部屋だからな。

 お休み。」

 

「ちょっ、ちょっ、待ってください!

 まだ話は済んでないですよ!?」

 

「そうです!貴女の話を聞かせてもらえるって話だったではないですか!?」

 

「んだよせっかちな連中だなぁ。

 アタシはもう疲れた!

 話は明日してやるよ。

 アンタらもフラフラだろ?」

 

「それはそうですが……。」

 

「そういうこった。

 じゃあな。」ガチャッ

 

「待ってください!」

 

「何だよ!

 しつけぇなぁ!?

 まだ文句あんのか?」

 

「貴女の……お名前を聞いても!?」

 

「まだ覚えられないのかよ!?

 記憶力ねぇなぁ!

 何度言わせるんだよ!?」

 

「いえ………一度も聞かせて貰ってないのですが……。」

 

「………そうだっけか?」

 

「そうですよ!!

 それなのにこの謂われよう、非道いのではないですか貴女は!」

 

「そいつぁ悪かったなぁ。

 

 

 アタシはレイディーってんだよ。

 よろしくなお休み。」バタンッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に何なのですかあの態度は!?」

 

「アローネととことん合わないみたいだね。」

 

「あんな強烈なマイペースボクも苦手です。」

 

「………僕も話してて疲れるかなぁ。」

 

「明日になったら一言言ってあげます!」

 

「アローネさん是非お願いします。」

 

「タレスも言ってさしあげればいいのに!」

 

「ボクは………。」

 

「話すのも嫌なんだね。」

 

「早く明日になるのが待ち遠しいですね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 宿

 

 

 

「………いませんね。」

 

「どこに行ったんだろうね。」

 

 

 

「あの人はぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、いないならいないでしょうがないよ。」

 

「あんな人に会わないで済むだけ助かったと思って今日の予定を終わらせましょう。

 昨日の件を酒場のギルドに報告に行きますか。」

 

「ですが!………いいのですかそれでカオスは?」

 

「こういうこともあるって経験だよ。

 あんな人でも助けられた訳だし。

 それでおあいこってことで。」

 

「カオスがそういうのならいいですけど…。」

 

「今日のギルドに報告して確認してもらえれば今日の夜か明日には依頼完了には………なるのでしょうか?」

 

「事後報告になっちゃうけど………大丈夫だよね?」

 

「今それを言っても………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 酒場

 

 

 

「遅ーぞ寝坊助共!

 昨晩はお楽しみしてましたってか!?」

 

「「「……」」」

 

「どうしてレイディーさんがここに………。」

 

「あぁん?

 昨日の件を先に報告してやったに決まってんじゃねぇか。

 もうギルドがネイサムに確認しにいったぞ?

 昼頃には戻るってよ。」

 

「何で貴女がそんなことを?」

 

「馬鹿ばっかりだなぁ。

 アンタらだけで報告したってギルドがはい分かりましたって言って通してくれる訳ねぇだろ?

 アタシが指輪とワクチン見せたら一発でOKだわ。

 信憑性抜群だな。

 日頃の行いがいいからだろうなぁ。」

 

「それは分かりましたが……。」

 

「分け前は半々でいいだろ?

 アタシが五、アンタらも五。

 な?」

 

「何がな?ですか!?

 四人いるのですから四分割でしょう!?」

 

「お楽しみで頭がまだお疲れのようだなぁ。

 アタシとアンタらのパーティで半分だろうが!」

 

「どうして貴女がそんなに多いのですか!?」

 

「アタシがいなかったら分け前どころかアンタら無駄骨だったんだぞ?

 手数料だと思えばこれくらい安いもんだろ。」

 

「そんなことを貴女に「言われなくても分かってるって?」決めつけられたくありません!」

 

「おや?外しちまったか。」

 

「人が話しているときに割り込まないで下さい!」

 

「あんまりカッカするもんじゃねぇよ?

 せっかくの美人が曇っちまう。」

 

「貴女のせいなんですけどね!?」

 

 

 

「アローネさんまたあの人のペースに乗せられてますね。」

 

「レイディーさんアローネみたいな人おちょくるの得意そうだね。」

 

 

 

「それで?

 封魔石の話が聞きたいんだろ?」

 

「そうです。あの石の建造について知っていること「一旦待ってもらえますか?」」

 

「タレス?」

 

「どうしたのですか?」

 

「おいこのガキ今話に割り込んだぞ?

 どやさなくていいのか?」

 

「貴女とタレスでは話の真面目さが違います!!」

 

「何だよアタシに対してやけに当たりが強いな。

 なんかしたか?」

 

「胸にあてて振り返ってはどうですか?」

 

「胸に?こうか?」

 

「キャァ!?

 私の胸を触ってどうするのですか!?

 ご自分のを触りなさい!!」

 

「昨晩揉まれた具合が気になってな。

 ほうほう……アンタ固いな。

 ちゃんとほぐしてやらねぇとつれぇぞ?」

 

「……!『我らに力の加護を!シャープネス!』」パァァ

 

「待って!?ここじゃ不味いってアローネ!?」

 

「いい加減貴女のその不真面目な態度には目を瞑ることが出来ません!

 ここで性根を正してさしあげます!」

 

「アローネ!抑えて目立ってる!目立ってるから!?」

 

「おいおい彼氏ぃ。

 ちゃんと夜は可愛がってあげたのか?

 独り善がりじゃ女もストレス溜まるんだぜ?」

 

「貴女はこれ以上煽るようなことは言わないで下さいよ!?」

 

「その口を先ずは開かなくしてあげますよ!!」

 

「やれやれだぜ、『我らに守りの加護を、バリアー。』」パァァ

 

「「!」」

 

「あいにく足止めや時間稼ぎは得意中の得意でな。

 身の危険を感じるんでこれを挟んで話させてもらうぜ。」

 

「足止めに時間稼ぎって対して意味変わらないんじゃ…。」

 

「これを解きなさい!

 貴女にはお説教しなければなりません!!」ダンッダンッ

 

「うわっ!?

 美人かと思ったらオークじゃねぇか!?

 盛りがついて手におえねぇ。」

 

「貴女は!?もう貴女は!!?」ダンッダンッ!

 

「貴女貴女って耳障りだな!

 レイディーと名乗った筈だが?」

 

「貴女なんかに指摘などされたくあ「あの~…」」

 

 

 

「お騒ぎになるようでしたら彼方の方でお願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 裏路地

 

 

 

「申し訳ありません。カオス、タレス私達のせいで…。」

 

「気にしないでいいよ。

 そのくらいどうってことないから。」

 

「出禁にならずに済んでよかったですね。」

 

「どっかの誰かさんのせいで追い出されちまったじゃねぇか!

 ったく発情期のメスはヒステリックでいけねぇ。」

 

「貴女がその原因の一因ですけどね!」

 

「一番騒ぎ立ててたのはアンタじゃねぇか。」

 

「アンタではありません!

 昨日お教えした通り私にはアローネと言う名前があります!」

 

「はいはい!アローネね分かった分かった。

 なんて種族のオーク?」

 

「何故そこを聞くのですか!?

 人に決まっているじゃないですか!?」

 

「人があんな鬼の形相でバリアーを破壊しようとするかよ。

 破られそうになって一瞬人生の終わりを覚悟したぜ。」

 

「破れる訳ないじゃないですか!?」

 

「いや~そんぐらい鬼気迫る勢いだったぞ?

 あの店員が止めてくれて助かったわ。」

 

「確かにさっきのアローネ今までで見たことないくらい怖かったね。」ボソッ

 

「あのまま続いていたら破壊出来ていたかもしれませんよ?」ボソッ

 

「カオス!!タレス!!」

 

「「はい何でしょう!!」」

 

「どうして貴方達まで私をとぼしているのですか!!!?」グググッ!

 

「あぁ!!本当にごめん!?」

 

「そんなつもりではなかったんですアローネさん!!」

 

「言い訳は結構!!」

 

「「あぁぁぁ!!」」

 

 

「静かにすることを知らねぇのか。」



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封魔の構造

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 ネイサム坑道で謎の女性に救われた三人はその後大量のゴーレム達に襲われる。

 その後レイディーと名乗る女性から封魔石の情報を聞き出そうとするが…


安らぎの街カストル 裏路地

 

 

 

「それで坊やは何を聞きたいんだい?」

 

「レイディーさんは「どうした?紙に書かなくていいのか?」」

 

「……」

 

【レイディーさんはどうしてこんな「しゃらくせぇ!喋った方がはぇ早ーんだから喋れ!」】

 

「なら紙に書けなんて……」グスッ

 

「タレス!?」

 

「タレス!………貴女はよくも!!!」

 

「何だ話はもういいのか?」

 

「レイディーさん話が進まないんでちょくちょくツッコミ入れるの止めてもらえますか!?アローネもタレスも大変なことになってるんですけど!?」

 

「……ふぅ、ちったぁ感情を沈めて人の話を聞くことも覚えた方がいいぞ?

 そいつら。」

 

「レイディーさんに言われたらお仕舞いですね。」

 

「そうか、

 じゃあアタシはこれで、

 達者でな。……んだよ離せよセクハラか?」ガシッ

 

「ここまで荒らしといて何も言わずに行くなんてよくできますね。

 僕の仲間達もリーチかかってるんですが?」

 

「アンタ潰せばビンゴってか?

 頑張らねぇとな。」

 

「頑張るなら僕を怒らせる方ではなく話をする努力をお願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイディーさんはどうしてこんなところにいるのですか?」

 

「それはアタシがここにいることが不自然だとでも言いたいようだな。」

 

「そのソーサラーリングを贈られる程の魔科学者なら今頃貴女の言う研究チームと協力して研究を重ねなければならないのではないですか?」

 

「!………言われてみればそうですよ!」

 

「封魔石については分からないけどそれに携わるような職業ならもっと改良したりだとか………こんな遠くまで来ないんじゃないですか?」

 

「……」

 

「答えられないんですか?「辞めた!」なら貴女の………はい!?」

 

「辞めたっつってんだろ?

 あんな息の詰まる空間にいたらヴェノムとは違う別のもんに体をやられそうになってよぉ。

 金とワクチンだけ持って飛び出して来たわ。」

 

「「……」」

 

「貴女は国の人々を救う研究をしていたのにそんな理由でそこを抜け出したのですか!?」

 

「抜け出すも何もアタシが何をしようがアタシが決めることだ。

 国に命令されたところでそんなもんどっかの誰かにでもさせてろって。」

 

「レイディーさんは何故その研究室にいたのですか!?」

 

「んあ?

 そんなもんアタシより他の奴等が底辺だったからとしか言えねぇなぁ。

 何せアタシに首席とらせちまうような連中だからよぉ。

 仕方なくアタシが研究室主任してやってたんだ。」

 

「……だったら、貴女の下で働いていた方々は悔しい想いで研究していたでしょうね。」

 

「そんなん考えたことねぇなぁ。

 悔しいんならアタシを越えて見せろっての。

 こちとら別に抜かれたっていいんだぜ?

 どうぞどうぞ右からでも左からでもお先にどうぞってんだ!」

 

「………貴女のことは分かりました。

 一先ず貴女が研究者だったと言うのは信じます。」

 

「めんどくせぇ手順踏ませやがって、

 シンプルに聞いてこいよ!」

 

「………では封魔石のことをお願いします。」

 

「そいつだよな。

 そいつを聞きたかったんだもんな。

 いいぜ教えてやる。」

 

「………」

 

「吠えない犬はあまり好きじゃないんだがなぁ。」

 

「もう何も言いませんので続きを。」

 

「楽しくねぇなぁ。

 辛気くさい話をすんだから盛り上げてくれよ?」

 

「辛気くさい?」

 

「そうさ。

 

 封魔石ってのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムをかき集めて造ってるんだからよぉ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェノムをかき集めて!?」

 

「ではあの中にはヴェノムが………!?」

 

「少し違うなぁ。

 ヴェノムが飢餓で死んだ後障気が発生するだろ?

 あれを何倍にも薄めて閉じ込めたのが封魔石さ。

 実はあの石の中にヴェノムが溶けた痕が入ってんのさ。

 それを定期的に交換している。

 ただそれだけの作りさ。」

 

「そんなものでヴェノムが防ぎきれるわけが……。」

 

「現に出来てんだから頷けよ。

 たったそれだけの構造物に守られてるんだぜマテオは。」

 

「どうしてヴェノムはそれだけで寄ってこなくなるんですか?」

 

「ヴェノムが生物のマナに引き寄せられて動くのは常識だよな?

 このマナを仮にプラスのマナとする。

 逆にヴェノムが死んで発生する障気をマイナスのマナと呼んだとする。

 障気はマナを汚染するからな。

 そしてヴェノム自信は常にプラスのマナを求め続ける。

 この時の奴等は体内で猛烈にプラスのマナを消費していく。

 だからプラスのマナを求めてさ迷うがその付近にマイナスのマナがあった場合、ヴェノムはマイナスのせいで弾きだされちまうんだ。」

 

「まるで磁石のようですね。」

 

「ですがそんな単純な話なら国でなくとも誰かが「思い付かねぇよ。」」

 

「話す分には簡単な話だがそれを思い付くためには出だしで挫かれる。

 先ずどうやってヴェノムの習性を調べる?」

 

「それは……」

 

「ヴェノムが現れた時点で村や街が無くなるほどの災害だ。

 一匹見つけたらもう大勢に囲まれちまってるのが奴等だ。

 そんな奴等を捕獲しようものなら半端な檻じゃ入りきらねぇ!

 それに捕獲するにも協力者は必要になってくるがあんな危険な奴等に好んで近づくようなもの好きはその計画を立てるやつくらいだろう。

 とても参道者が集まるとは思えねぇ。」

 

「「「……!」」」

 

「まだ他にも難しいなポイントはあるぜ?

 協力者が集まったとしてそいつらに全員死ぬ覚悟があるかってこった。

 雨の日に傘さしても足元は水滴がかかるだろ?

 掠り傷一つで一撃必殺のモンスターだ。

 ヴェノムを相手にするにはその水滴すらかかっちゃいけねぇのさ。

 捕獲の途中で仲間がヴェノム化したら捕獲どころじゃなくなる。

 つまり捕獲さえできりゃ習性を調べたい放題なのに捕獲が並程度の街じゃ出来ねぇってこった。

 それこそ一人二人死んだくらいで大騒ぎするような街じゃあなぁ。」

 

「………レイディーさんは……」

 

「なんだ?」

 

 

 

「その捕獲の計画者だったのではないですか?」

 

 

「……」

 

「……」

 

「そうだな。」

 

「だからそんなに…

 もしかしてレイディーさんの街も…」

 

「勘違いしてるところ悪いんだがアタシは人のために何かをしようと思って捕獲しようとしたんじゃない。

 単なる知的好奇心だ。

 それにアタシの村はアタシが知らないうちにヴェノムに攻め落とされていたよ。

 アタシはそん頃研究室で働いていた。

 家族なんてもう六十年くらい会ってなかったなぁ。」

 

「そ、そうなんですね。」

 

「だからよぉ、要点をまとめると封魔石なんてのはただのヴェノム入れた棺桶みたいなもんで大したもんじゃないんだ。

 殺生石なんて微塵も関係ねぇ。

 外側の壁もどっかから適当に持ってきたもんだしな。」

 

「封魔石に触れるとマナを吸いとられるのは何故ですか?」

 

「内側にマナ流動の術式を施してるんだよ。

 術式はマナを操作するためのものだからな。

 そんくらい余裕で彫れるのさ。」

 

「何故そんな術式を?」

 

「一応国が権力誇示のために高レベルの知識と技術で建造したことになっている。

 それがそんなアホみたいな構造と知られちゃ不信感を持たれちまう。

 だから誰にも触れさせないようにするのは当然だろ。

 それにあの中は薄めたとはいえ障気が蔓延してるからな。

 岩で囲っちまってるが触れたら万が一が起こる可能性もある。」

 

「その術式は街の人に二重の意味で触れさせないようにしているのですね。」

 

「その認識で間違いない。

 触ったら中の障気で異常を来すかもしれないし石を調べられても困る。

 結局のところ王都でヴェノムを興味本意で調べようなんて奴は死んでいったよ。

 気を付けて触らないようにしたところでアクシデントが起こる。

 奴等ゼリー状だから閉じ込めることは出来ても拘束は出来ねぇ。

 解剖しようにも調べられないのがヴェノムだ。

 王国の研究室も実は精々外から眺めて絵日記を書くのがやっとなのさ。」

 

「それでは王都の研究者もヴェノムについて「ところがだ!」」

 

 

 

「ある連中が唐突にワクチンなんてものを作り出しやがった。」

 

「「!?」」

 

「レイディーさん達の研究室が作ったのではないのですか!?」

 

「残念ながらうちじゃないな。

 何度ワクチンを作ろうと成分を調べようとしてもその度に死者が出る。

 死者が出すぎて今ではワクチンを作ることよりヴェノムに感染しない方法を研究しているみたいなもんだ。

 結論はヴェノムにはなにもしないことになっちまうが。

 そのワクチンにはマジでヴェノムの感染を治す効能までありやがったからな。

 うちの研究室も存在意義を無くしちまったよ。」

 

「その人達は一体何者なんですか?

 ワクチンを開発できるのなら国を、……いえ世界を救えるような人達ですよね!?

 ワクチンが作られてからそんな人達がいたなんて知らされてませんよ!」

 

「………連中にとってはそんな名誉なんざどうだっていいのさ。」

 

「素晴らしい方々なのですね。

 貴女と違って。」

 

「素晴らしい方々か………

 連中の顔を見てそうほざけるかこの目で見てみたいもんだな。」

 

「「?」」

 

「どういう意味でしょう?」

 

「マテオにいるのなら一度は聞く名だ。

 なんならダレイオスなら二度三度と聞かされる名前でもある筈だ。

 忌避すべき名としてな。」

 

「!?」

 

「忌避すべき名?」

 

「勿体振らずに仰ってくださいよ!

 そのワクチンを開発した方々のお名前を。」

 

 

 

「さっき奴等は名誉なんざどうだっていいと言ったがそうじゃねぇなぁ。

 そんなもん最初から持ってるんだよ。

 ついでに相当な地位も。

 奴等に迂闊にな口を叩いただけでその場で極刑されても不思議じゃねぇそんな連中だ。

 そいつらは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエと言う名でこの国の最高貴族だ。」



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アルバートの家

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カストルへと戻りレイディーから封魔石の情報を聞き出していると思わぬ名前が上がり…


安らぎの街カストル 裏路地

 

 

 

「え!?」

 

「バルツィエ……?」

 

「あの最悪の………!?」

 

「田舎者でもやっぱ聞いたことあるようだな。

 あのバルツィエだよ。

 奴等が薬の開発者だ。

 極刑されたのも嫉妬心に刈られて下手なことを呟いたうちの研究仲間だった。」

 

「………実は。」

 

「………タレス?」

 

「どうした泣き虫。」

 

「………ボクの村を襲ったのもバルツィエと名乗っていました。」

 

「!?」

 

「おうおうお前の村はバルツィエを怒らせるような何をしたのかねぇ?

 と言っても気に入らねぇ端の村を掃除することなんかバルツィエにとっては日常茶飯事だ。

 バルツィエにとっちゃお前の村も今まで潰した村の一つにしか過ぎねぇだろうよ。」

 

「!?………ボクの村は………。」

 

「いいのですよタレス無理をしなくて。

 話は私達で聞きますから。」

 

「いえ………ボクも聞きます。

 バルツィエはボクにとって………。」

 

「ハハハハハ!

 復讐心に燃える熱き少年だなぁ!

 返り討ちにされて打ちきりだろうが。」

 

「レイディーさん!無神経ですよ!」

 

「無神経だろうが神経があろうがそれが事実それが未来だ。

 ワクチンを作れるだけあって奴等には怖いものなしだ。

 今のこの国の王が誰か知ってるか?」

 

「そんなの……知りませんよ…。」

 

「ダメだなぁお前ら。

 いいかガキ?

 よく聞いとけ。

 今のこの国の王はもとは女王からの婿取りだがそれでも女王と同等に権力はある。

 そしてその王は………バルツィエの出身でもあるんだ。」

 

「!」

 

「王がバルツィエ!?」

 

「当然今は名字は変わってるがな。

 それでも奴等に王家への強い繋がりがあるのは確かだ。

 バルツィエはこの国の古くから存在する武装専門の一団だ。

 強いうえに権力もあっておまけに薬までも作れちまう。

 薬を独占されたら誰も逆らえねぇのさ。

 そうヴェノムでさえもな。」

 

「ですがそんな横暴民が反発しない訳が…」

 

「流石にまだ独占はしてないがな。

 だが奴等を頭から押さえ付けられるような奴はいねぇ。

 なんせこの国の頭が奴等だからな。

 民衆の方が頭を押さえ付けられてるようなもんだ。

過去にバルツィエの素行に文句たれた奴はいたよ。

 そいつらみんな消されちまって終わったけどよ。」

 

「そのバル………その方々はどうしてそこまで非道な行いを?」

 

「非道だって分からないんじゃないか?

 叱ってくれる先生でもいたら子供だったら学ぶことも出来そうだがあいにくとそんな出逢いもなく奴等は大人になっちまった。

 今更誰に何を言われようが煙たいとしか感じられない大人にな。

 

 

 

 いずれにしても仕方のないことなのかもな。

 強いってことは戦争の世の中唯一の正解だ。

 奴等が増長したところでそれを咎められるような奴でも現れない限りこのままだろ。

 百年ほど前にバルツィエにもそんな奴が現れたんだけど臆病風に吹かれてどっかに逃げ出しやがった。

 

 

 

 マテオに生まれたならバルツィエには逆らうだけ無駄だと弁えとけ?

 もしかしたら連中だけでダレイオスと戦争出来るくらいには強いって噂だ。

 ダレイオスよりも先にワクチンも作った今バルツィエがいつダレイオスに宣戦布告してもおかしくはねぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 酒場

 

 

 

「学者様の仰る通りネイサム坑道のヴェノムは退治してありました。

 これは謝礼金です。

 受け取ってください。」

 

「ハハッ!儲けもんだぜ!

 いっちょ一杯ぐいっと行ってみようかね!?」

 

「………してそちらの方々は今朝学者様と………」

 

「あぁ、気にすんな。

 ただの連れとのじゃれあいだったんだよ。

 ちっとばっかしレベルが高いとそっちも派手にやらかしちまうから加減を覚えねぇとな!」

 

「学者様のお連れでしたか。

 それではなるべく他のお客様もございますのでお静かにお願いしますね?」

 

「おう!迷惑かけたな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつが報酬金だ。

 有り難く受け取りな。」

 

「………どうしてレイディーさんがそのように偉そうなんですか!?」

 

「?

 アタシ偉いだろ?」

 

「今の貴女は研究者ではなく只の一般人です!」

 

「まぁそうなるな。」

 

「レイディーさんはこれからどうするんですか?」

 

「何だよ女の予定を知りたいなんて惚れちまったかアタシに?」

 

「カオスが貴女を好きになるわけないじゃないですか!!」

 

「分からねぇぞ~?

 こんなキーキー五月蝿い女よりかはアタシの溢れんばかりの大人の魅力がこの坊やには眩しく映ってるかもだぜ。」

 

「何を仰って!?………それは私には大人の魅力がないということですか!!?」

 

「あぁ、固いしな。」

 

「貴女は人に対して言ってはならないことがあると言うことをお教えしなければなりませんね!」

 

「止めとけってまた追い出されるぞ?」

 

「……!後で貴女には付き合ってもらいます!」

 

「気が向いたらな。

 アタシは後明明後日にはアンタらが言っていたその殺生石とかいうののところに行く予定になった。」

 

「殺生石に?」

 

「アタシの知的好奇心をくすぐんのさ。

 ヴェノムの感染を防ぐだけでなく殺す力まで持つ力。

 そいつの解明をしてみたいねぇ。」

 

「殺生石はもう機能してませんよ?」

 

「んなこたぁ聞いたよ。

 だがその石があるところはアンタらと同じでヴェノムに感染しないって奴等がいるんだろ?

 十分研究材料にはなるさ。」

 

「レイディーさんは研究を辞めたんじゃ…」

 

「辞めたのは研究室でヴェノム自体の研究は辞めたつもりはねぇよ。

 あそこにはこれ以上次に進むステップは踏めねぇからな。

 アタシ自身研究しといて途中で放り出すのも目覚めが悪い。

 アタシはアタシでヴェノムを追いかけるよ。」

 

「その言い方ですとミストの人達に何かするみたいですけど…。」

 

「あぁ、採血くらいはするかもな。

 かもじゃねぇや。

 採血するぜ?」

 

「無理矢理ですか?」

 

「アタシもただで採血しようって思っちゃいねぇさ。

 金ぐらいははずむ。」

 

「あの村はお金で動くような人はいませんよ?」

 

「故郷愛が重てぇなぁ。

 そんなん人の心のうちなんか見抜けねぇだろ。

 仲のいい奴等が善人と信じたい気持ちは分からんでもないが所詮金を積めば「あの村はお金とは無縁の地なのでお金の価値なんてありませんよ。」」

 

「そういえばそういう話してたな。

 じゃあどうすっかなぁ…」

 

「……ミストに行くのならミシガンという女の子を探してください。

 僕の名前を出せば協力はしてくれると思いますから。」

 

「ミシガン?

 お前の何だよそいつは?」

 

「幼なじみです。」

 

「はぁん?連れてる女じゃ飽きたらず故郷にも女がいるのか。

 奥手そうで出すとこ出してんだなぁ。

 人は見掛けだけじゃねぇなぁ。」

 

「レイディーさん!口が悪すぎますよ!?

 カオスがせっかく教えてあげたのに!」

 

「情報はありがとよ、それじゃあこっちも助言入れとくぜ?」

 

「助言ですか?」

 

 

 

「お前らのその力、誰彼構わず聞き回ってるみたいだが人は選んだ方がいいぞ?

 とくに王都付近じゃあなぁ。

 そのヴェノムに対抗できる力、聞けば聞くほどバルツィエの連中に都合が悪い。

 連中が知れば迷わずお前らを消しに来るぞ。

 あの遺跡にいたガーディアントに苦戦してるようじゃ尚更だ。

 消されたくなけりゃ大人しく地道に他の類いを探し歩きな。

 この大陸はそうとう広いがな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからどうしますかカオスさんアローネさん。」

 

「掲示板は朝追い出されたのでもうクエストは残ってませんね。」

 

「そうではなくこれからの旅の予定です。」

 

「予定?」

 

「レイディーさんの話が真実なら封魔石のことはもう進展は無理そうですし王都にいく理由も…。」

 

「……」

 

「いや、このまま王都に行こう。」

 

「カオスさん?」

 

「何も封魔石のことだけじゃないだろ?

 アローネの国を探すことやタレスもバルツィエを捜すって目的もあるんだ。

 僕の目的はなかったみたいだけど何か手掛かりがあるかもしれないしね。」

 

「カオス…。」

 

「今日はクエストないみたいだし明日まで自由時間にしない?

 お金も丁度あるから三人で分けて夜までフリーにしよう。」

 

「ボクは食事さえ出来れば…」

 

「何言ってるんだよタレスは同じ仲間なんだから分けるのは当然だよ。」

 

「そうですよタレス私達の仲なんですから遠慮は不粋ですよ。」

 

「お二人とも………有り難うございます。」

 

「じゃあちょっと僕見て回りたいところあるから!」タッタッタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス……」



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憧れた存在

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カストルでレイディーから話を聞くうちに封魔石とバルツィエのことを知る。

 それを聞いたカオスは…。


安らぎの街カストル 宿

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんの昔のいた家が……。

 

 

 

 王国でも名を馳せた貴族………。

 

 

 

 そんな高い地位の家の出身だったなんて………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんは大したことない騎士の家だと言っていたけどレイディーさんの話ではどう聞いても王国の一番大きな一族。

 

 

 

 ということはバルツィエがこのマテオの騎士そのもの。

 

 

 

 そのバルツィエがタレスの故郷を………。

 

 

 

 それだけじゃない。

 

 

 

 レイディーさんはバルツィエが他にも逆らう村や街を襲ったとも言っていた。

 

 

 

 騎士は民を守る誇り高いものなんじゃないのか?

 

 

 

 強いものから弱きものを守るのが僕の憧れた騎士道精神なんじゃないのか?

 

 

 

 おじいちゃん。

 

 

 

 これじゃあ、まるっきり話が逆だよ。

 

 

 

 力に任せて弱きものを屈伏させるのが本当の騎士なの?

 

 

 

 これじゃあ子供の苛めと変わらないよ。

 

 

 

 どうしておじいちゃんは僕に騎士になれって言ったの?

 

 

 

 おじいちゃんは僕にそんな弱いもの苛めのようなものになって欲しかったの………?

 

 

 

 おじいちゃんは僕にそんな薬で弱味を握るような騎士になって欲しかったの?

 

 

 

 おじいちゃん………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コン、コン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コン、コン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………はい。」ガチャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?」

 

「カオスこそどうなさったのですか?

 自由時間で見て回りたいものがあると仰っていたのはカオスですよ?

 それなのに宿にこもって………。」

 

「宿に忘れ物をして取りに来ただけだよ。

 これから出るところ。」

 

「隠さなくてもいいのですよ?」

 

「………少し考え事をね。」

 

「バルツィエのことですか?」

 

「……………うん。」

 

「驚いてしまいますよね。

 カオスはお祖父様から普通の騎士だとお聞きしていたのですから。」

 

「………そう…………だね。」

 

「貴方が衝撃を受けるのも無理はありません。

 お聞きしていた話とまるで正反対のような家だったのですから。」

 

「………うん………全然違うイメージだった。」

 

「それにタレスのことも知らなかったとはいえ悩んでいるのではないですか?」

 

「………。」

 

「タレスを襲った襲撃主がまさか貴方のお祖父様の御家族だったとは…。」

 

「………アロー…ネ?」

 

「タレスにはなんて言えばいいのでしょうか…。

 こんなことがタレスに伝わればタレスは……。」

 

「アローネ………もういい。」

 

「もしお祖父様の御家族がお祖父様がいなくなってどうなっていたか、本当はそれを知る旅でもあったのですよね?」

 

「!?………アローネ……止めてくれ。」

 

「私の為ではなくカオスはカオスの為だけに村を出た。

 それはいいのです。

 私も貴方に助けられて私の為に貴方を付き合わせていることが心苦しかったから。」

 

「もういいんだ!アローネ!もうそれ以上聞きたくない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方は騎士などではない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「辞めろって言ってるだろぉ!!!?」ズバッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………夢?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて嫌な夢だ。

 

 

 

 こんなに苦しいのはおじいちゃんがいなくなって依頼だ。

 

 

 

 あの後宿に戻って気分が悪くなってベッドに横になっていたらそのまま眠ってしまったのだろう。

 

 

 

 どうしてだろう。

 

 

 

 今まで散々嫌なことはあった。

 

 

 

 その度に耐え続けて乗り越えてきた。

 

 

 

 今度の件もそうだ。

 

 

 

 いつもと同じでまた乗り越えればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乗り越えればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近涙脆いのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネにあの村でお帰りと言われてから泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時は感動の涙なんてあるんだなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大人になったら悲しみの涙は枯れるって思ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから今流れているこの涙は多分感動の涙なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんの家族が生きていたという感動の涙なんだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダメだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな馬鹿な強がりが何になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余計惨めになるだけじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 惨めに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 惨めか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなにも悲しくて空しい気持ちが僕の中にもあったんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決してへこたれない不屈の心。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな訳ないじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕だって人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殴られたり人扱いされないと辛くて泣きそうになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けど絶対に泣きたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 泣けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも僕が泣きそうになると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心の中にいるヒーローが僕を励ましてくれたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねぇヒーロー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は君みたいになりたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君みたいに弱い人達を助け悪を倒し世界を救う何でも出来るヒーローに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな空想のヒーローなんていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな都合のいいヒーローなんてこの世にはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いたのは自分達に刃向かうものを斬り捨てる悪と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな悪に憧れて無情な仕打ちにも我慢してきた、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不様で滑稽な僕だけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねぇヒーロー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪者だったんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 



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 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 レイディーから聞かされた話に絶望したカオスは…。


安らぎの街カストル 宿

 

 

 

「何なんだよ騎士って……………………………………!!」

 

 イライラが止まらない。

 

 この怒りを何かにぶつけたくて仕方がない。

 

 今までの自分の人生は何だったのか?

 

 思い返してみれば馬鹿丸出しで笑い飛ばしたくなり、その後そんな自分に絶望して泣き出し、最後にはなにも知らなかった自分にまた怒りが込み上げてくる。

 

 感情のトライアングルが止まらない。

 

 何が騎士道精神だ。

 

 そんなもの虐げられている弱者が考え付く強者への願望なだけじゃないか!

 

 本当の強者は弱者になんて気兼ねなんてしないから強者なんだろ!?

 

 今の今まで子供のお伽噺のような話をずっと信じ続けて生きてきた自分は何なんだよ!?

 

 きっとアローネやタレスも俺のことを陰で笑っていたに決まってる!

 

 そんなことにも気付かずに俺は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「畜生がッ!!畜生がぁぁぁっ!!!……………うぅぅぅぅ………アッハッハッハッッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ………。」

 

 

 

 何だこれ。

 

 

 

 怒っているのに涙が流れながら笑っている。

 

 

 

 何だか楽しくなってきた。

 

 

 

「ハッハッハッッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッッハッハッハッハッハッハッハッハ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空しい。

 

 

 

 さっきまで感情が爆発していたのに急に冷めた。

 

 

 

 今まで何やってたんだろうなぁ。

 

 

 

 努力したって世界なんて救えるわけないのに。

 

 

 

 俺一人が頑張ったところで世界は変わるなんて筈ないのに。

 

 

 

 タレスの件どうしよっかなぁ………。

 

 

 

 なんて言うのがいいのかなぁ………。

 

 

 

 お前の村襲ったの俺の親戚なんだ!ゴメンね。

 

 

 

 こんなもんでいいか。

 

 

 

 大体親戚ってっても俺とは関係ないんだ。

 

 

 

 タレスの村が無くなったのだって別に俺は悪くない。

 

 

 

 戦争なんだから我慢しやがれ。

 

 

 

 俺なんかずっと人生を我慢してきたんだ。

 

 

 

 俺の不幸に比べりゃお前の人生なんて幸福みたいなもんだろ。

 

 

 

 なんか言いに行くのもダルいな。

 

 

 

 ってかこの旅もダルくなってきたぜ。

 

 

 

 俺がアイツらと一緒にいる意味なんてもうねぇーようなもんだからここらでお別れしても………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コン、コン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス?帰ってますね。

 入っても宜しいでしょうか?」

 

「う、うん、いいよ!」

 

「失礼します。」

 

「どうしたの!?

 三人部屋だから普通に入ってくればいいのに!」

 

「少しカオスのことが気になって…。」

 

「僕の………こと?」

 

「実は……………少し前から帰っていたのです。」

 

「少し前から帰っていた?

 じゃあ部屋に入ってくればいいのに。」

 

「その……… 部屋に入ろうとしたら外からでも聞こえるくらいの大声が中から……………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

「カオス、何か溜め込んでいませんか?」

 

 

 

「………………」

 

 

 

「………………」

 

 

 

「どうしてそう思った?」

 

 

 

「カオス?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして俺がそんな風に溜め込んでると思ったか聞いてるんだよ!!」ドンッ!!

 

 

 

「…!?」

 

 

 

「俺がお前を助けてからずっと俺のことを何だと思ってた!?嫌なことを嫌と言わずに何でもするお人好しだとでも思ってたか!?そんな奴がいる分けねぇだろ!!!」ガッ!

 

 

 

「カオス!落ち着いてくだ……」ググッ

 

 

 

「お前が偉そうに説教垂れてくんのも正直耳障りで仕方なかったんだ!!」

 

 

 

「!」

 

 

 

「お前はお前で俺のことを嘲笑ってたんだろ!!?」

 

 

 

「何のことですか!?私はカオスのことを笑ったりなどは……!」

 

 

 

「恩人とでも言っておけば調子に乗って自分のために動いてくれる駒みたいに見てたんだろ!?」

 

 

 

「一度だって貴方のことをそのようには「黙れ!!」」

 

 

 

「お前は俺が騎士を知らずに知ったかぶりで語っていたのを馬鹿にしていたんだろう!!!!?」

 

 

 

「………。」

 

 

 

「………。」

 

 

 

「カオス。」

 

 

 

「何だよ?」

 

 

 

「私は貴方のことを今日の今まで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まともに見ようとしてませんでした。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………眼中にも止まらねぇ奴だって言いてぇのか?」

 

「そうではありません。

 私は貴方のことを

 

 

 

 ずっと義兄と重ねて見ていました。」

 

 

 

「!!」

 

 

 

「私にとって義兄は頼り甲斐があって私の知らないことを何でも知っていて努力家で強くて優しいそんな理想の義兄でした。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「私が助けを求めたとき義兄は必ず私を助けに来てくれました。

 

 

 

 カオスはそんな義兄とよく似ています。

 

 

 

 いえ!よく似ていました。」

 

 

 

「………?」

 

 

 

「有り難うございましたカオス。

 私はカオスのことをそんな義兄に重ねて見ていてカオスなら、と知らず知らずに思っていたのかもしれません。」

 

 

 

「………。」

 

 

 

「失礼な話ですよね。

 相手の目を見て話すようにと注意したりする私が一番カオスの目を見て話をしていなかったなんて…。

 

 そうして私はカオスに義兄と同じものを求めて接していたんでしょうね……。

 カオスはカオスなのに………。

 

 レイディーさんを最低な人なんて言えませんね。

 仲間に義兄の幻想を押し付ける私こそが最低な人です。」

 

 

 

「……………違う。」

 

 

 

「違いませんよ。

 私はカオスに助けられておきながら貴方に私の理想を押し付けるような女なのですから。」

 

 

 

「違う!………僕は………!?」

 

 

 

「もう私に対して遠慮なんて入りませんよ。

 私はカオスの全てを受け止めます。」

 

 

 

「お、………俺は!アローネが俺が騎士になりたかったことを知っていて騎士の本質も知らずに下らない幻想を持っている俺を馬鹿にしている「下らなくなんてありませんよ!」」

 

 

 

「馬鹿にだってしていません。

 貴方の思い描く騎士像はとても素晴らしいものです。

 世界には必要な像です。

 その想いを捨てないでください。」

 

 

 

「けど聞いてたろあのレイディーの話を!?

 俺のジジィの一族がこの国の騎士代表なんだ!

 俺の想像とは完全に別の方向だ!

 俺がなりたかった騎士なんてこの世にはいなかったんだよ!」

 

 

 

「他にいなかったから貴方は貴方の理想を諦めるのですか?」

 

 

 

「そうするしかないじゃないか!!」

 

 

 

「カオスがしたかったことは何なのですか?

 世界を救いたかったのではなかったのですか?」

 

「救いたかったよ!!?

 けど騎士は世界を救うようなものじゃなかった!」

 

「家系が何ですか!

 騎士が何ですか!

 世界を救いたいのなら世界に流されてどうするのですか!!!」

 

「!!」

 

「前例がないのならカオスが最初の騎士になればいいんですよ!

 

 

 

 

 少なくとも貴方のお祖父様は貴方にその理想の騎士を目指すように仰った筈です!!」

 

 

 

「!」

 

 

 

「この国にはバルツィエの騎士の他にカオスという理想の騎士を追い求める人がいた。

 

それだけです!

 

 カオスはバルツィエとは違います!

 

 貴方はカオスという騎士なのですから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………………………………………有り難うアローネ。おかげで俺、思い出したよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺のなりたかった騎士を。」



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変わらない仲

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 レイディーの話を聞いて絶望したカオスはアローネに諭され憧れた騎士の有り様を思い出す。


安らぎの街カストル 宿

 

 

 

「さっきはゴメンアローネ。」

 

「いいのですカオス。

 私こそカオスに義兄の陰を押し付けていました。

 私こそ謝罪します。」

 

「アローネは悪くないよ。

 手を出しちゃったのは僕だから…。」

 

「それでもカオスを追い詰めていたことに変わりはありません。

 カオスのその心の痛みに気付いてあげられずにずっと貴方をここまで連れてきました。

 私の方が悪いのです。」

 

「僕は勝手についてきただけだよ。

 本当は只あの村から逃げ出したかっただけなんだ。

 そうすれば嫌なことを続けないで済むしアローネを守る騎士にでもなれると思って…。」

 

「貴方はもう立派な騎士の心をお持ちです。

 胸を張っていいのですよ。」

 

「僕は何もしてないよ。

 アローネの側にいただけ。」

 

「今私がこうしてここにあるということはカオスのおかげです。

 貴方が私を守ってくれたから。」

 

「僕は別に…。」

 

「もう俺とは言わないのですか?」

 

「いやそれは………。」

 

「貴方がずっと被り続けてきたその仮面はもう私の前では被る必要はありませんよ?

 貴方は貴方です。

 礼儀正しくあることが騎士なのではありません。」

 

「………。」

 

「どうですか?」

 

「急に自分の呼び方を変えるのも恥ずかしいものだね………。」

 

「仕事とプライベートのオンオフは騎士でもつけてます。

 騎士モードは私達の仲で使わなくてもいいのです。

 いい人でも悪い人でもカオスはカオスなのですから。」

 

「そうするよ。」

 

「はい。」

 

「………俺、タレスに全部話すよ。」

 

「はい。」

 

「俺の家のことも………。

 俺達の置かれている状況も。」

 

「そうですね。

 仲間の間で秘密ごとはない方がいいでしょう。」

 

「タレス離れていかないかな?」

 

「そうなっても………私はカオスの側にいます。

 どんなときも…。」

 

「アローネ…。」

 

「貴方の罪は私の罪ですから。」

 

「有り難う。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 宿カオス部屋前

 

 

 

「随分と恥ずかしい会話してんなぁ。

 まるで結婚式の誓いを聞いてる気分だぜ。

 誰かに聞かれたらアタシだったらダレイオスまで逃げてるな。」

 

「だったらそのままダレイオスに逃げてもいいんですよ?」

 

「アタシがあの立場ならな。

 幸いなことに今は聞いてる立場だ。

 アイツらが逃げねぇように見張ってなよ?」

 

「カオスさん達は逃げませんよ。

 レイディーさんと違って。」

 

「ははッ言うねぇ。

 生意気なガキだ。」

 

「レイディーさんほどではないです。」

 

「アタシが生意気ってか?

 それもそうだな。」

 

「カオスさんがバルツィエ……。」

 

「どうすんだお前?

 お前の村を潰した仇の家のもんが目の前どころかずっと隣ににいたんだぜ?

 騙され続けてきたと思わねぇか?」

 

「カオスさん達はボクを騙してなんていません。

 お互いに事情を知らなかっただけですよ。」

 

「冷めたガキだなぁ。

 暴れだしたりしたいと思わねぇのか?」

 

「カオスさんはあの家とは関係ありません。

 ボクの村を襲ったバルツィエとはカオスさんは血筋がおなじだったとしても無縁ですから。」

 

「大人びてんなぁお前。」

 

「レイディーさんは子供っぽいですね。」

 

「やっぱお前ガキだわ。」

 

「レイディーさんに対して憎しみをぶつけてもいいんですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 宿

 

 

 

「そういえばアローネは自由時間にしてたけど何か見て回った?」

 

「はい、服の洗濯をしてから少々買い物を。」

 

「何買ったの?」

 

「秘密です。」

 

「ふ~ん?」

 

「カオスは?」

 

「俺?」

 

「カオスは何か買いたいものはないのですか?」

 

「買いたいものかぁ…。

 特に何か欲しいものは思い付かないなぁ。」

 

「それでは一緒に見てまわりませんか?

 タレスが帰ってくるまで時間もありますし。」

 

「アローネと?

 けどアローネもう買い物は終わったんじゃ…。」

 

「私はもう済ませて来ました。」

 

「何買ったの?」

 

「ここに来るまでに買い物が出来ませんでしたからね。

 女性には必需品の道具を取り揃えました。」

 

「あぁ、これって化粧道具?」

 

「はい、カオスに出会ってからは最低限のメイクしか出来ませんでしたので。」

 

「ミシガンも村ではいろいろ顔に塗ってたなぁ。

 いい香りとかも漂ってて。」

 

「カオスもお化粧しますか? 」

 

「僕………俺はいいよ。」

 

「カオスならそのもう少しで肩に届きそうな長い髪があるのですから綺麗様変りしますよ?」

 

「これは自分で定期的に切ってるからとくに伸ばしてる訳じゃないんだ。

 旅に出てから伸びたから後ちょっと伸びたら切るかな。」

 

「勿体無いですね。」

 

「そうかな。」

 

「そうですよ。

 なんなら私が後でカオスにメイクしてあげます。」

 

「いや遠慮しておくよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 商店街

 

 

 

「たくさん店があるだけあって売ってるものは全部違うんだねぇ。」

 

「同じものを扱っていたらお店が一つあれば十分ですよ。」

 

「そっか。

 それもそうだね。」

 

「カオスは何か気になるものでもあります?」

 

「気になるものねぇ……

 何があるのかまだ把握できてないから分からないよ。」

 

「あそこのお店はどうですか?

 昨日カオスが言っていた剣がありますよ?」

 

「剣かぁ………

 僕には木刀があるからなぁ。」

 

「試しに使ってみてはどうですか?

 木刀よりも切れ味はあると思いますよ?」

 

「いや、鉄の剣ってなんだか重そうだし振りが遅くなりそうだよ。

 それに俺の木刀はマナで強くしてるからあんまり関係ないよ。」

 

「カオスは実用性重視なんですね。」

 

「流石に必要ないものは持っててもねぇ。」

 

「では装飾などはいかがですか?」

 

「装飾って?」

 

「木刀を使い続けるのでしたらその木刀に改造を施して性能を強化するのですよ。

 先程タレスもあのお店でお持ちの鎖鎌に火の属性を付加して切れ味をあげてもらってましたよ。」

 

「そんなこと出来るんだねぇ。

 お金だけで出来そう?」

 

「お金の他に素材も必要みたいですよ?

 ここに来るまでにタレスはモンスターから剥ぎ取りをしていましたので。」

 

「火属性かぁ。

 タレスは何で火属性にしたんだろう?」

 

「それはレイディーさんが………」

 

「あぁ、氷だからか…。」

 

「レイディーさんも明明後日には別れるのですけどね。」

 

「まぁそれでもパーティに多く属性を使える人が増えるのは助かるけどね。」

 

「カオスが前衛、タレスが前衛の地と火、私が後衛の風とその他。」

 

「俺だけ無属性ってのも悪い気がするなぁ。」

 

「カオスは一番多く戦っているのでいいのですよ。

 私達はカオスのお手伝いのようなものですからそれで対等でしょう。」

 

「俺も何か木刀につけようかなぁ…。

 氷とか。」

 

「氷ですか。

 何故氷に?」

 

「レイディーさんの氷の力を見たら敵を足止めしてたでしょ?

 それを見てあれなら皆を効率的に守れんじゃないかなぁって。」

 

「カオスはいつも人のことばかり気にしてますね。」

 

「戦闘に関係することなんだからそれを意識しないとね。」

 

「カオスらしいですね。」

 

「僕は…俺だからね。」

 

「何ですか、それ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 宿 夜

 

 

 

「「ただいま」」

 

「お帰りなさい、有意義な時間を過ごせたようですね。」

 

「あぁ、おかげでな。」

 

「?」

 

「タレス、話があるんだ。」

 

「何でしょう?」

 

「実は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうなのですね、分かりました。」

 

「……何も言わないのか?」

 

「カオスさんのお祖父さんがバルツィエだったのは驚きましたが時系列的にボクの村を襲った人達とは別の人でしょう。

 それならボクからカオスさんに対して言うことは何もありません。

 これからも旅にご同行させてください。」

 

「けど僕、………俺はずっとタレスに嘘をついて………。」

 

「嘘?

 何も嘘をつかれたとは思いませんが…?」

 

「俺はバルツィエだって言わなかったぞ?」

 

「最初の出会いがあれでしたからあの時はボクの方がカオスさん達に対して謝らなければならない立場です。

 過ぎてしまったことですからしょうがないですよ。

 それにフルネームでの自己紹介なんてこんな仲になるって分かってない限りそうそうしませんしね。」

 

「そういうものなのかな?」

 

「ボクは一緒にいたサハーン一味の人達の名字はいっさい知りませんよ?

 皆名前だけで呼びあってましたし。」

 

「そういうものなんだ…。」

 

「それに…」

 

「それに?」

 

「ボクの村を襲ったのはバルツィエでしたが、ボクの喉が治る切っ掛けはカオスさん達ですからね。」

 

「タレス…!」

 

「足を引っ張ることもあるかもしれませんがこれからも宜しくお願いします。」

 

「あぁ!こちらこそだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかったですねカオス。」

 

「あぁ!アローネのおかげだよ。」

 

「違いますよ、カオスが正直者なだけです。」

 

「いや、アローネがいなかったらとても言い出せなかったよ。」

 

「それでもお話出来たのですからカオスの行いの成果です。」

 

「ボクもカオスさんがカオスさんでよかったです。」

 

「タレス?」

 

「カオスさんはバルツィエでもいいバルツィエですから。」

 

「………有り難う。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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アルバートの過去

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 レイディーにバルツィエのことを聞き絶望したカオスだったがアローネに諭され希望を取り戻す。

 タレスにも事情を話し三人の絆はより深まった。


安らぎの街カストル 宿 夜

 

 

 

コンコンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?どなたでしょう?」

 

「親睦会は済んだようだな、邪魔するぜ?」ガチャッ

 

「レイディーさん!?」

 

「不用心な奴等だな、鍵くらいかけろ。

 誰に盗み聞きされるか分からねぇぞ?

 アタシみたいなやつとかさ。」

 

「何しにきたんですか……?」

 

「お?歓迎されてなくね?」

 

「歓迎するとお思いですか?」

 

「思うねぇ、アタシの情報のおかげでお前らの仲が深まった訳だろ?

 感謝してくれたっていいんだぜ?」

 

「貴女が何を言うんですか!?」

 

「会う度うるせぇ女だな。

 程度が知れてくるぞ?

 な?お前もそう思わねえか?

 バルツィエの坊や。」

 

「!」

 

「………聞いてらしたんですね。」

 

「安心しな、アタシ以外は聞いてねぇから。」

 

「それが一番不安なんですが……。」

 

「そういうなって、アタシ達の仲だろ?」

 

「どんな仲なんでしょうかね…。」

 

「学者様とその他助手。」

 

「いつから貴女の助手になったのですか!?」

 

「んなこたぁどうだっていいだろ!

 それよりもお前ら王都に行くんだろ?」

 

「………その予定ですが。」

 

「だったらここである程度金稼いでから北西にある連絡港に向かいな。」

 

「連絡港?」

 

「お前ら地図頼りに移動してるみたいだからこっからまたオリュンポス山越えるつもりだったんだろ?

 だったら船に乗って行けば王都まで近道だ。

 そっから北東に向かえば街があってその次が王都だ。

 船賃は高いからなぁ。

 金持たねぇで乗ろうとしたら門前払いくらうぞ。

 して王都に着いたら騎士隊長のダリントンって奴を訪ねてみろ。

 そいつならお前らに手を貸してくれる筈だ。」

 

「どうしてそんなこと教えてくれるんですか?」

 

 

 

「アルバート=ディラン・バルツィエ。」

 

「……」

 

「坊やの祖父さんらしいじゃねぇか。」

 

「………そうですが。」

 

「とんだ有名人の孫が彷徨いてたもんだなぁ。

 マテオは狭いぜ。」

 

「祖父を知っているんですか?」

 

「逆に知らねぇ奴はいないんじゃないか?

 なんせこのマテオの王になっていたかもしれない男だ。

 そうなるとお前は生まれない訳だが。」

 

「祖父が王様に…?」

 

「何も知らないようだな。

 多分ダレイオスでもその名が知れ渡っている筈だぜ?

 あの伝説の男のことはな。」

 

「………レイディーさん、貴女は祖父に会ったことがあるんですか?」

 

「直接顔を見合わせたことはねぇよ。

 だが遠くにいても聞こえちまうんだよ。

 奴が残した数々の名跡は今でも語り継がれるくらいには残っているのさ。

 バルツィエに生まれた奇跡の聖人だってな。」

 

「奇跡の………聖人?」

 

「生まれながらに地位の高いやつは基本平民共を見下すのさ。

 貴族にとっては平民なんぞ取るに足らねぇ無限に湧く虫くらいにしか思ってねぇんだよ。

 一人二人死んだくらいじゃ騒ぎ立てることもねぇ。」

 

「………」

 

「………!」

 

「だからアタシら平民が何処でどんな目にあってても見向きもしない。

 税収はきっちり盗るくせにな。

 例えモンスターの群れやドラゴンが街に襲ってきたところで出す兵は零だ。

 貴族ならそれが常識だ。」

 

「おじいちゃんはそんな人達と「だが!!」」

 

 

 

 

 

 

 

「たった二人いたんだよ。

 モンスター被害を聞き付ければ剣一つで駆け付け立ち向かいドラゴンが現れたら町人を先導して打ち倒す二人が。

 

 貴族の、それも王国最高貴族にして歴代当主最強の力を持ちながら平民を見捨てず平民の為にその力を振るい続けた正にマテオの民にとって英雄とも呼ばせるそんな二人が!」

 

「「!!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の祖父アルバート=ディラン・バルツィエとその弟、現国王で当時の名はアレックス=クルガ・バルツィエだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじいちゃんが………英雄だって………!?」

 

「バルツィエの虎牙破斬と言えば王都じゃあ誰だって知ってる通称だ。

 なんせその片割れが現王なんだからな。

 生きた伝説だからよ。」

 

「バルツィエの虎牙破斬………。」

 

「その虎牙破斬とは何ですか?」

 

「バルツィエにはバルツィエ流剣術ってのがあってその中の技名からつけられた俗称だ。

 上下に斬りつける技だが二人の連携で繰り出した一撃が鋼鉄並の鱗をほこるドラゴンの首を斬り跳ねたっていう伝説もある。」

 

「ドラゴンの首を?」

 

「ドラゴンをですか!?

 それはとても快挙なことですよ!?」

 

「そうだろうなぁ。

 ドラゴンが現れた日にゃあ街ごと滅ぼされることを覚悟しなきゃならんというのが通だし。」

 

「おじいちゃんはドラゴン討伐は騎士の見習いの時に何度か参加したことがあるって言ってた……。」

 

「は?見習い?参加した?

 その言い方だと騎士団でドラゴンに対応したみたいに聞こえるな。」

 

「違うんですか?

 ドラゴン討伐は騎士団の任務じゃ……?」

 

「ドラゴン討伐は特別に任務放棄が出来るんだ。

 勝てるなんて思わねぇからな。

 死ぬ確率が非常に高い。

 あのバルツィエの親戚連中もそうだった。

 それなのにあの二人は………いや五人だな。

 五人がドラゴンが出る度に飛び付いて倒してくる。

 アタシ自身その時代に生きてたことが誇りに思えてたよ。」

 

「五人?」

 

「後の三名は誰なんですか?」

 

「アルバート=ディランが特別可愛がってた弟子三人だ。

 アルバートは貴族も平民も差別しなかったから部下の中で才能を見抜いたやつをいつも連れ歩いていた。

 そいつらまとめてマテオのバスターズとも名付けられてたっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そいつらは三人とも平民の出身でダリントン、クレベストン、ヒューストンって名の騎士だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クレベストンさん……!」

 

「ん?なんだ?クレベストンの話は祖父さんから聞いてたのか?

 ダリントンはお前らが訪ねる予定の奴な。

 この三人は虎牙破斬とは別におまけ三人衆やトントントリオ、トン(騎士)とか言う名前で括られてた。

 アルバートは才能を見抜いて選んだとか言ってたらしいが単に覚えやすい三人だったからとも熱狂的なファンから推測されていた。」

 

「「(汗)」」

 

「おじいちゃん……………大雑把なとこあったから(汗)」

 

「最初はアルバートとおまけ三人衆がつるんでたんだがそれにアレックスが加わって五人になってからはよくニュースにはなってたな。

 あれを倒しただのこれを倒しただの。

 あの五人の話題は当時は毎日飛び交ってたぞ。

 その時いた伝説的人気アイドルのリリス=レスなんて目じゃないくらいにな。

 とにかく広報は五人の記事で持ちきりだった。」

 

「おじいちゃん………嘘つきすぎだよ。」

 

「カオスの話ではそんなに目立った人ではなかった筈ですが………。」

 

「カオスさんのお祖父さんはダレ………ボクの村でもそんな人がいるというくらいには聞こえてました。

 とんでもなく強い武人がいたと。」

 

「そうだな、戦いに関して究極的なまでに洗練された術技と謎に包まれた医療術でマテオでも比肩を赦さない集団のそのトップを張る男だったやつだ。

 行方不明にならなければ王女フィレスと結婚して今頃蛮族集うダレイオスとも停戦条約じゃなく友好条約を結んでいたかもしれねぇ。

 そうなってたらお前は………さっき言ったか。」

 

「おじいちゃんがそこまで凄い人だったなんて………

 だったらどうしておじいちゃんはミストに残ったんだろう?」

 

「さぁな。

 孫のお前が知らねぇことは流石にアタシでも分からねぇよ。

 バルツィエの公式にはアルバート=ディランは死亡扱いだったんだからよ。

 祖父さんに聞けばいいんじゃないのか?

 あ!もういねぇのか!

 わりーわりー!」

 

「………レイディーさんはいい話をしに来たんですか?悪い話をしに来たんですか?」

 

「それは坊やのこれからする話の受け取り次第さ。

 まぁ、時期を追ってみれば自然と推測は出来るがな。」

 

「推測?」

 

 

 

「ヴェノムさ。」

 

 

 

「「「!?」」」

 

「あいつが死亡、いや失踪した時期は少し前にヴェノムが世界に現れた時だった。

 それまで多くの村や街を救ってきた英雄達は当然ヴェノムを狩りに行った。

 だが結果は敗走。

 それどころか守る筈だった村の人々はヴェノムにやられて全滅。

 英雄達に初めて黒星がつく瞬間だった。」

 

「ヴェノムがおじいちゃん達に………。」

 

「それからというもの、英雄達は欠かさずモンスターを狩りに行ったがヴェノムの事件だけは解決出来ず英雄と呼び慕ってきた臣民達はヴェノムの餌食にされていった。

 

 ここまで言いやぁ分かるだろ?

 お前の祖父さんが何故田舎の村に隠居したか。」

 

「………」

 

「アルバートがいなくなる前にワクチンもバルツィエが開発してたんだがなぁ。

 アイツも平民よりだったが貴族なりにプライドはあったんだろう。

 完璧な自分は自分だけで物事を解決しなければならない。

 ワクチンなど不要だ、ってな。

 結局それが出来なくて民衆の期待に応えきれない自分に対する失望の眼差しが怖くなって誰も自分のことを知らない田舎にでも消えたかったんだろう。

 皮肉な話、坊やの存在がいい証拠だ。」

 

「………!?」

 

 

 

「人に話を聞かせたきゃ、美味しい話で釣って適度にパンチを挟み更に旨いとこを用意して本題を話すのが基本だぜ?

 どうだ?

 お前の知らない祖父さんの勇ましい歴史が聞けて。

 ついでにお前の存在する意味も知れて。

 いい情報が聞けてよかっただろ?」



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レイディー

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 アローネ、タレスと絆を深めたその夜、レイディーが再び話を聞く。

 その内容は祖父についてのもので…


安らぎの街カストル 宿の外

 

 

 

「………」

 

「おはようございますカオス。」

 

「おはようございますカオスさん。」

 

「………ん?あぁ、おはよう二人とも。」

 

「カオスは本当に早いですね。

 どのくらい前から起きていたのですか?」

 

「ん~と、一時間くらい前かな。

 二人とそんなに変わらないよ。」

 

「それにしては外に出るのが早くないですか?」

 

「ちょっと考え事をね。」

 

「考え事………昨日のレイディーさんのお話ですよね?」

 

「うん、少し思うところがあってね。」

 

「カオスにとってはショックなお話でしたから無理もありません。」

 

「え?いや今は別にそんなに深刻に捉えてないから大丈夫だよ。」

 

「本当ですか?無理なさってませんか?」

 

「平気だって!

 本の少し寝るのが遅かっただけだから。」

 

「ほら!やはり考えすぎて眠れなかったのではないですか!」

 

「アッハハ、本当に平気だよ。」

 

「まったくレイディーさんは!

 明後日までにもう会わなければいいのですけど。

 同じ宿ですからなるべく会わないようにしましょう!

 鍵もかけて!」

 

「その件ならもう大丈夫だよ。」

 

「大丈夫?

 どういうことですか?」

 

「さっきそのレイディーさんと話をしてたんだ。」

 

「!!また何か彼女に嫌なことを言われたのではないですか!?」

 

「いや、普通の世間話。」

 

「彼女が世間話?」

 

「後、ちょっと気になったことをね、聞いてみた。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 宿 一時間前

 

 

 

「………」

 

 

 

「よう、バルツィエの坊や。

 随分早いなぁ。」

 

「お早うございます。」

 

「衝撃的な話を聞かされて眠れなかったか?

 それとも能天気に猿としけこんでたか?

 ん?」

 

「……」

 

「黙りってコタぁ肯定ととっちまうぞ?

 いいのか?」

 

「」

 

「………レイディーさんは………」

 

「ん?」

 

「レイディーさんはバルツィエが嫌いなんですね。」

 

「はぁ?何今更言ってんだ。

 話聞いてたら分かるだろそんくらい察しろ!

 聴力足りてねぇのかお前は?

 この国にバルツィエのことを好きになるヤツなんざ…」

 

「そして………。」

 

「んあ?」

 

 

 

「貴女はおじいちゃんのことが大好きだったんですね。」

 

 

 

「………どうしてそうとった?」

 

「昨日の夜の話を聞いてたらそう感じました。

 一見俺達に対して皮肉を言っているかのようにも聞こえましたがレイディーさんがおじいちゃんの話をしているときは何だかレイディーさんの心に熱いトキメキのようなものを感じました。」

 

「トキメキだぁ?

 曖昧な言い方だなぁ。」

 

「アローネに励まされてなければ気付かなかったと思います。

 俺が昔夢中になってた騎士という職業はおじいちゃんは誰かを守る為にあるものだと言ってました。

 確かに貴方の言う通りバルツィエは皆に酷いことをする人達なのかも知れません。

 ですがおじいちゃんはそんな風潮を無視して皆と仲良くやっていたのでしょう?」

 

「……」

 

「おじいちゃんがヴェノムに敗けたという話には正直、心を抉られるような痛みがありました。

 けど、おじいちゃんは俺がいた村で村の皆をまとめて勇敢にヴェノムと戦っていた。

 当事者の俺だから分かります。

 おじいちゃんは敗けても戦うことを辞めなかったんだと。」

 

「アルバートが………。」

 

「おじいちゃんもレイディーさんの言う通り逃げ出したくなったのかもしれません。

 マテオの皆から期待されていたならそれが重荷になって。

 おじいちゃんがレイディーさんの期待に応えられなくて申し訳ないとは思います。」

 

「ふん!じゃあ奴は推測通り期待外れの英「そんなの」」

 

「そんなの誰だって立場が同じなら一緒だったと思いますよ?

 おじいちゃんはバルツィエで英雄である前に普通の心を持った人なのですから。」

 

「!」

 

「おじいちゃんだって英雄だなんだと持て囃されても人は人です。

 辛くなるときもあります。

 人が見る幻想はいつだって現実よりも大きく輝いています。

 だけど実際は誰とも変わらない普通の人。

 自分の実力以上を求められても応えることなんて出来ない。

 いつか崩れる。

 それを見越しておじいちゃんは故郷の王都から離れたんだと思いますよ。

 自分は誰とも変わらない人なんだって伝えたくて。」

 

「自分の実力以上ねぇ………。

 だが奴は不可能とされたドラゴンの討伐を成し遂げたぞ?」

 

「それは仲間がいたからでしょう。

 仲間がいたから出来たんです。」

 

「仲間が?」

 

「はい、おじいちゃんは村でも皆を大切にする優しい人でした。

 俺にはよくイタズラを仕掛けてきましたけどそれ以外では毎日欠かさず剣術の指導をしてくれました。

 俺が騎士になりたいって言ったからそうなれるように。

 そんな優しいおじいちゃんです。

 仲間の為なら多少の不可能も可能にしてしまえたんでしょう。」

 

 

「じゃあ何故ヴェノム討伐の不可能は可能に出来なかったんだ?」

 

「単純な話です。

 ヴェノムが強すぎただけですよ。

 ですからおじいちゃんはヴェノムに対して逃げの一手を使うしかなかったんでしょう。

 不可能を可能にしろと催促してくるこの国から。」

 

「それが英雄と呼ばれたヤツの義務だろう?」

 

「義務でもないし英雄でもありません。

 おじいちゃんはおじいちゃんです。

 村の皆はおじいちゃんのことを一人の人として見ていました。

 それならおじいちゃんがあの村に残るのも頷けますね。

 おじいちゃんはレイディーさん達のような理想や幻想を押し付けてくる人達に見切りをつけて新しくおじいちゃんをおじいちゃんとして見てくれる人たちのところに行ったんですきっと。」

 

「職務怠慢じゃねぇか?」

 

「もう十分働いていたでしょう?おじいちゃんは村では誰よりも働いていました。

 自分に責任がなくても。

 そこは認めてあげてください。  

 おじいちゃんはそういう人だから。」

 

「居心地のいい村に逃げたやつをか?」

 

「それは誰もが望むことです。

 居心地のいい場所があるのならは誰だって飛び付きたいでしょう?」

 

「じゃあ王都はやつにとって地獄だったとでも言いてぇのか?」

 

「望まないことを望まれればそうなりますよ。

 理想は自分の中だけにあって人に望むものじゃない。」

 

「アタシはアルバートに幻想を抱いてたってことか。」

 

「過度な期待はレイディーさんだってされたくないでしょう?」

 

「ちげえねぇなぁ。

 

 

 

「なぁ、坊や。」

 

「何ですか?」

 

「お前の祖父さんは………アルバートはアタシ達のことを嫌いだったと思うか?」

 

「………」

 

「アタシやアタシのような期待だけして本人を知ろうともせずアルバートなら出来て当たり前と勝手に勘違いしてた押し付けがましく勝手に失望していったファンは。」

 

「さぁ、どうなんでしょうか。

 でもおじいちゃんは嫌いな人のために何かをしてあげようとするほどお人好しではなかったと思いますよ?」

 

「本当か?」

 

「ずっと側で見てきた孫の言葉ですから。」

 

「………ハハッ。」

 

「?」

 

「そりゃあ、信憑性抜群だな。

 アタシみたいなにわかなファンの考察よりも信じ甲斐があるぜ。」

 

「でしょう?」

 

「最もお前が本当にアルバートの孫かどうか不透明なとこだがな。」

 

「そこは信じてくださいよ。」

 

「仕方ねぇだろ。

 アタシは誰かを本気では信じたことがなかったんだ。

 アルバートに会うまではな。」

 

「おじいちゃんに会ったんですか?」

 

「昨日も言ったろ?

 アタシはただ遠くで眺めてた追っ掛けだったんだよ。

 モンスター狩りに忙殺されてる本人と顔合わせするなんざアタシみたいなはしっこの研究者じゃとても出来なかったんだ。」

 

「おじいちゃんなら会ってくれたかもしれませんよ。」

 

「あ?どうしてだ。」

 

「誰かの為に何かをしてあげられることが俺やおじいちゃんの生き甲斐でしたから。

 俺はそうおじいちゃんに教えられてきました。」

 

「………そうか。」

 

 

 

「なぁ、坊やこの街が何で安らぎの街なんて言われてるか知ってるか?」

 

「いえ知りませんけど…。」

 

「この街はな、王都の統治下にありながらあまり騎士も来ない程よく王都に近い位置にあってな。

 冒険者達が気を休めるのにうってつけの街なんだよ。

 アルバートも遠征したときはよくこの街を拠点にしていた。」

 

「おじいちゃんが…。」

 

「王都が国の中心ではあるが大陸的にはここが中央だ。

 ここからならマテオのどこにだって行ける。

 でかい街だからな。

 王都からワザワザ移住してくるやつもいるくらいだ。」

 

「確かに賑わい方が凄いですからね。」

 

「坊やも疲れたときにはここに休みに来ればいいさ。」

 

「そうしますね。」

 

「アタシも十分羽を伸ばしたしそろそろ行くか。」

 

「?出発は明日では?」

 

「丁度リトビアへの亀車が来ててよ。

 これ逃すと次は来週になるんだ。

 山越えするなら亀車が安全だぜ?

 小さいが封魔石積んでるおかげでヴェノムに襲われねぇし。

 まぁ、お前らには関係ないか。」

 

「お一人で大丈夫何ですか?」

 

「心配してくれるのかい?

 嬉しいねぇ。

 けど甘く見んなよ?

 アタシにはこの指輪とワクチンがあるからな。」

 

「指輪が?」

 

「ガキや猿も装備してたエルブンシンボルと同じで装飾者のステータスを底上げしてくれるんだ。

 おまけに魔力の増幅もするしよ。

 燃費は上がっちまうがそこは気にしねぇ。

 ここまで一人で旅してきたんだ。

 なんとかなるさ。」

 

「ではお元気で…。」

 

「………もう一ついいか?」

 

「何ですか?」

 

「お前のその力、バルツィエには邪魔くさいがお前もバルツィエなら連中がどう動くか分からねぇ。

 連中には要心しとけ。」

 

「………そうします。」

 

「………アルバートは世界を救えなかったが、………ヴェノムに勝てるお前ならアルバートに遂げられなかった世界統合も果たせるかもな。」

 

「おじいちゃんの出来なかったことを…。」

 

「坊やは別にアルバートにならなくてもいい。

 奴の名は偉大だ。

 仮に坊やがバルツィエに祭り上げられても最初は鬱陶しく感じると思う。

 追い越すには相当苦労するぜ。

 

 

 

 でももしお前がアルバートを越えたい、世界を救いたいなんて思うならば、アルバートの血を継いだお前がその力を使いこなせば民衆は必ずお前を認めてくれる。

 

 坊やは第二のアルバートじゃあなく第一のカオスに慣れる筈だぜ?」

 

「あまり期待はしないで下さいよ?

 俺は道のりで困っている人がいたら助けたいだけですから。」

 

「坊やはそれでいいさ。

 アルバートもそうだったからな。

 おっとワリーな。

 つい奴と重ねちまった。」

 

「別にいいですよ。

 気にしませんから。」

 

「それじゃあな。

 元気でやれよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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助手クエスト

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 明朝レイディーと二人で話しレイディーがアルバートの信者であったことをしる。

 去り行くレイディーに己の未来を突き進むことを命じられたカオスは…


安らぎの街カストル 宿の外

 

 

 

「彼女がそんなことを………」

 

「レイディーさんもそんなに悪い人では無かったんじゃないかなぁ。」

 

「カオスは人が良すぎです!

 悪い人でないならあんな言い方しなくてもいいではないのですか!?」

 

「それがレイディーさんの個性なんだよ。」

 

「あんな個性では孤立してしまいます!」

 

「レイディーさんもそこは分かってると思うよ。

 だからあんな言い方しか出来ないんだろうね。」

 

「いつかまたお会いしたら今度こそ矯正させます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 酒場

 

 

 

「ん?これは………?」

 

「これはこの街付近に潜伏していると思われる犯罪者の手配書ですよ。」

 

「手配書かぁ………俺達大丈夫かなぁ。」

 

「カオスさん達は特に何か悪いことはしてないので大丈夫ですよ。

 リトビアで封魔石の前で騒ぎを起こしたくらいですからそれくらいなら手配書を作ることはありません。」

 

「………実はね。」

 

「私達指名手配されるかもしれないのです。」

 

「え!?」

 

「前に騎士団の人ともめちゃってね。

 タレスと会う前に。」

 

「私が原因なのですが………。」

 

「騎士団と何があったんですか?」

 

「ちょっとアローネが連れ去られそうになってね。

 それを俺がぶっ飛ばしちゃったんだ。」

 

「………やっぱりカオスさんですね。」

 

「何でだよ!」

 

「カオスさんらしいってことです。」

 

「………お、おう。」

 

「ちゃんとタレスも分かってますよ、カオスのことを。」

 

「照れるんで止めてくれる?」

 

 

 

「………この手配書見てみてよ。」

 

「誰かお知り合いでも?」

 

「二人とも知ってるのがいるみたいだよ。

 最近更新したみたいだし。」

 

「私達も?」

 

「それって………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指名手配犯

盗賊団首領

百面相のサハーン

 

懸賞金五百万ガルド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

「五百万………」

 

「ギルドクエストの百倍はありますね。」

 

「盗賊団の首領ということもあって知名度はそれなりに高い盗賊ですよ。

 実力も頭脳もそこらの犯罪者とは格がが違いますし。」

 

「けどエルブンシンボルはもう取り上げたから弱体化したんじゃないかな。」

 

「そうですね。

 そのうち捕まりますよきっと。」

 

「あの男が何を考えているか分からない以上警戒はしておきましょう。

 潜伏や逃亡、そして変装はサハーンの得意分野ですからその辺に隠れているかもしれません。

 お二人が見つかったら何をされるか………。」

 

「変装まで出来るのかあいつ!?」

 

「盗賊を始めてからかなりのキャリアがある人です。

 影に身を隠すことに関しては一流とも呼ばれた男ですよ。」

 

「それじゃ何処に潜んでいるか分からないじゃないか。」

 

「サハーンらしき男を見掛けたら慎重に探りましょう。

 変装するくらいですから自分からは正体を掴ませない筈です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、助手さん達じゃないか!

 さっそく来てくれたのかい?」

 

「はい?」

 

「学者様がヴェノム退治なら助手さん達がやってくれるって昨日言ってたからさ。

 ここに来たってことはクエスト受けに来たんだろ?」

 

「レイディーさんが……?」

 

「騎士団に頼むとワクチン代出せとかいって高くつくからね。

 助手さん達なら学者様がワクチン持たせてあるからワクチン代は気にしなくていいって言ってたから助かるよ。

 普通のクエストよりかははずむからさっそく請けてくんないかい?

 今回は西にある林道に現れて困ってんだよ。」

 

「………いいよね?二人とも。」

 

「私達にしか出来ないのならお請けいたしましょう。」

 

「ボクはカオスさん達がいいのなら。」

 

「よし決まりだ!

 分かりました!

 そのクエスト俺たちで引き受けます!」

 

「ホホッ!

 そう言ってくれるのを待ってたんだ!

 それじゃあ手続きしようか!」

 

 

 

「じゃあ気を付けて行っといで!」

 

「はい!」

 

「必ず退治してきます。」

 

「ボク達はその手のプロですから。」

 

「頼もしいねぇ!

 頑張っとくれよ。

 いつ頃終わりそうかい?」

 

「今日の夜には帰ってきますよ。」

 

「そんなに早いのかい?

 プロは仕事が上手いんだろうねぇ。

 林道の周辺には封魔石で囲ってそれ以上は繁殖しないようにしてあるから焦らず頼むよ。

 ええっと………サタン君とタイタン君と………何て言ったかな?」

 

「私は………アルキメデスです。」

 

「そう!アルキメデスちゃん。

 しっかりね!頼んだよ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい子達が街に来てくれたもんだね。

 このままここにいてくれたら助かるのに。

 そうもいかなそうだけどね。」

 

「どうしたんですか?」

 

「さっきの子達前に来た学者さんの助手さんみたいなんだよ。」

 

「あぁ、あのトーディア山に出たヴェノム退治に向かってくれた人ですよね?」

 

「そうそう!

 何でもワクチンの研究で別行動してた助手の人と合流できたから次の街に向かったみたいだけどね。

 助手さん達は研究成果を届けるために一旦王都に帰るらしいから駄賃稼ぎにヴェノム関連のクエスト請けさせといてくれって昨日言われてさ。」

 

「それは助かりますね!」

 

「だろう?

 騎士団は税だけでもうざいのにヴェノムの依頼も値上げしてくるから嫌になるよまったく!」

 

「なんて人達だったんですか?」

 

「サタン君とタイタン君とアルキメデスちゃんだよ。」

 

「サタン?

 それって………

 

 

 土星の原初名ですか?」

 

「そう!

 だから覚えやすくていい名だろ?」

 

「そうですねぇ。」

 

「こうやってあたし達が困ってるところに助けに来てくれるなんてまるで昔いたバルツィエの………

 なんて人だっけ?」

 

「アルバート様ですか?」

 

「よく覚えてるねぇ。

 そうその人みたいだよ。

 顔もそっくりだったし。

 今頃生きてたらあんな息子でもいたんじゃないかねぇ。」

 

「アルバート様はもういないんじゃあ…。」

 

「そうなんだけどねぇ、

 あんたはまだ生まれてなかったから知らないだろうけどあの人は昔ここに駐在してたことがあったんだよ?」

 

「知ってますよ。

 ここがアルバート様の街だったってお父さんやお母さんにも聞きました。

 二人とも世代でしたし。」

 

「ふふふっ!

 何だか昔が懐かしくなってきたよ。

 アルバさんがここによく顔を出していた時のことを。」

 

「アルバさん?」

 

「あんたに言われて思い出したんだよ。

 あの人ここではアルバって名前でギルドカード作ってたからさ。」

 

「カード作ってたんですか?

 騎士団所属だったのに?」

 

「アルバさんは騎士団でクエスト請けると動きづらいからってよく後輩達と来てたんだよ。

 弟のアレックスも連れてね。」

 

「陛下も?」

 

「今の陛下からは考えられないだろう?」

 

「陛下がそんなことをするなんてとても……。」

 

「昔はそうでもなかったんだよ。

 どうして変わっちまったんだろうねぇ。」

 

「陛下ってどんな感じだったんですか?」

 

「アレックスは………なんというかお兄ちゃんっ子だったねぇ。

 いつも文字通り振り回されてたけど最後はやっぱりお兄ちゃん大好きだったよ。」

 

「そんな一面があの陛下に?」

 

「今でこそ厳格な鬼陛下になっちまったがあの当時は可愛いげのある真面目な少年騎士だったね。

 礼儀正しくて人に優しくて温厚で…。」

 

「そんな人があんな方針を…。」

 

「兄が亡くなってからいろいろあったんだろう。

 バルツィエももともとあんなんだからさ。

 また昔のように戻ってくれたら………いいんだけどねぇ。」



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林道エサーリ

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 レイディーの助手としてヴェノムクエストを受けられるようになった三人はさっそくクエストを申し込む。


林道エサーリ

 

 

 

「ここがクエストの場所みたいだね。」

 

「酒場のおばさんが言っていた封魔石がありますね。」

 

「ではさっそく中へ進んでみましょう。

 封魔石があるとはいえヴェノムの繁殖率は凄まじいものがありますから。」

 

「じゃあ討伐クエスト開始だね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴルルルッ!!」

 

 

 

「魔神剣ッ!」ザシュッ!

 

 

 

「ゴルッ!?」カチャンッ!

 

 

 

「凍った!?」

 

 

 

「カオスが出した技なのにどうして貴方が驚いているのですか!?」

 

 

 

「いや!?こうなるって思わなくて…。」

 

 

 

「氷の魔神剣………衝撃波に氷の属性が付加されてますね。」

 

 

 

「ゴルッ!!」パキンッ!

 

 

 

「あ!砕いた!?」

 

 

 

「止められるのは一瞬のようですね!

 カオス隙を見てもう一度凍らせて下さい!」

 

 

 

「分かった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、馬型のゾンビは機動力高すぎて手こずるよ。」

 

「ゾンビということはまだこの林道もそんなに多くは繁殖してないのかもしれませんね。」

 

「足が早いのでヴェノムからは逃げられるからではないですか?

 今の個体は感染してしまったようですが。」

 

「本当に早かったね。」

 

「先程の魔神剣で止められなければどうなっていたか…。」

 

「カオスのお手柄というものですね。」

 

「たまたまだよ。」

 

「それにしてもカオスさんは木刀に氷の属性を付加させたんですね。」

 

「うん、レイディーさんの見てたら使い勝手良さそうだなって思ってね。」

 

「相手の動きを制限出来るのは強みですね。」

 

「レイディーさんをヒントにしてしまったんですか…。」

 

「あれでも一人旅でやってきてる人だよ?

 学べるところは学んでおこうよ。」

 

「そうは言いますが…。」

 

「タレスもレイディーさんのことは苦手なのは分かるけどね。」

 

「あの人が得意という人はどんな人なんでしょう。」

 

「いないんじゃない?」

 

「そうですね。

 あの人が誰かに言い負かされてるところなんて想像できません。」

 

 

 

「カオスさんさっきの魔神剣はどうやって出したんですか?」

 

「魔神剣?

 普通に魔神剣を放ったつもりだけど…。」

 

「それであの氷が…?」

 

「それがどうかしたの?」

 

「ボクも今までいろんな属性付加を見てきましたがカオスさんのように技そのものを氷に変えるようなのは知りません。」

 

「そうなの?」

 

「カオスのはもう別の技に変わってましたね。」

 

「確かに………氷魔神剣ってところかな?」

 

「そのままの名前ですね。」

 

「技自体があっさりしてるから凝った名前にしても言いづらいよ。」

 

「ではボクは………孤月閃!」シュッ!

 

「おぉ!」

 

「鎖鎌の新技ですか!?」

 

「………戦闘中に何度かお出ししてます。」

 

「………こっちこそごめん。」

 

「私も気付いてあげられなくてスミマセン。」

 

「いいんですよ。

 最近は声が出せるようになって技名を叫ぶことより上手く戦う方に意識を集中させてましたから。

 単純に鎖鎌を伸ばして切り上げてるだけですし。」

 

「孤月閃かぁ、

 オリジナル?」

 

「はい。

 この技は瞬間的に鎖を伸ばして斬り上げますからこうして背後に鎌が戻ってくるので効率的かと。」

 

「へぇ~タレスは鎌の扱いが上手いね。」

 

「もうボクの体の一部のようなものですから。」

 

「それでタレスは何を言おうとしてたのですか?」

 

「あ!そうだった。」

 

「ボクの鎌や他の人の属性付加についてなんですがカオスさんの氷魔神剣のように技をまるごと変えてしまうような力は普通はないんですよ。」

 

「そうなの?」

 

「私もそれは聞いたことがあります。

 属性付加はマナを使った攻撃時に本の些細なものを付け足す程度でそれ相応に使い分ける必要があると。」

 

「それをあそこまで変えてしまうということはカオスさんはマナ伝導力が高いということです。」

 

「マナ伝導力?」

 

「マナに限らずエネルギーが作用する場合、そのエネルギーは実際のエネルギーよりも下回る力しか発揮しません。

 場合によっては力は作用せず零にも。」

 

「簡単に言いますと仮にカオスさんとボクで魔神剣を放った場合、筋力や体格、放ち方、使用するマナなどの条件を同じにしてもカオスさんの技の方がマナの浸透率が高いってことです。

 これもバルツィエ由縁なのでしょうか。」

 

「それは分からないけど………

 バルツィエって関係あるの?」

 

「バルツィエの家のものは生まれながらにして高い魔力を持ちマナの操作能力はマテオ一と聞きます。

 いえ、ダレイオスでもあの人達に叶うものはいないでしょう。

 未だにダレイオスがバルツィエに攻め滅ぼされていないことが不思議なくらいです。」

 

「バルツィエがそこまで強いの?」

 

「バルツィエの血を引くものは今までも例外なく騎士団隊長クラスかそれ以上の力を保有してきてます。

 それも代を重ねるごとに強く…。

 狙われたら災害と思って諦めるのがダレイオスでの常識です。」

 

「………」

 

「レイディーさんの言葉ではありませんがバルツィエには気を付けましょう。

 マテオならどこで遭遇するか分かりません。

 知能がある分ヴェノムより厄介な存在には違いないでしょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バイコーンです!カオス!」

 

「分かってる!氷魔神剣!」ザシュッ!

 

「ブルルッ!?」パキンッ!

 

「替わります!孤月閃!」ザンッ!

 

 

 

「ブルッ…!」バタッ。

 

 

 

「………あれ?今… 。」

 

「タレスの攻撃で倒せましたね?」

 

「ボクの攻撃で……?どうなっているのでしょう?」

 

「そういえばタレスをトーディア山脈で助けてからヴェノムやゾンビの止めは俺達が刺してたから。」

 

「いつの間にかタレスもヴェノムを倒せるようになったのですね。」

 

「………ボクがカオスさん達と同じ力を?」

 

「ここまでで戦闘もこなしてきたからタレスも相当強くなってるんだね。」

 

「………ボクはお二人に助けてもらわなければここにはいない存在なのでこの力のことは素直に喜びます。

 ですがカオスさんの話ではミストの人達も同じ力を?」

 

「いや、ミストの人達は違うよ?

 どうして?」

 

「カオスさん達に助けられたのは今のところボクとその人達だけですからこの力に目覚めたのは他にもいるのではないかと。」

 

「タレスだけだね。

 今のところは。」

 

「ボクだけ……。」

 

「何か思うところでもあるのですかタレス?」

 

「………この力を使える理由は間違いなくカオスさんとアローネさんのおかげです。

 ヴェノムに対する免疫とヴェノムに通用する力の発現。

 ですが同じ状況なのにボクと村の人達で違いがでるということは……。」

 

「でると何でしょう?」

 

「カオスさんはこのエサーリまでで何度か戦闘をこなしてボクも夜の特訓に付き合っています。

 何が原因でそうなっているかは分かりませんがカオスさんの持つその力は徐々に強まっているのではないでしょうか?」

 

「俺の力が!?」

 

「戦闘による修練なのか、それとも他に………そう、ボクを助けたような力を使うことによって強まったか………。」

 

「カオスの力が何かに目覚め始めているということですか!?」

 

「ボクも推測の域を出ないのでどうなるかは分かりませんがボクに起こっている変化とミストの村の人達に起こっていた変化の違いは説明を求められるとそうとしか考えられません。」

 

「………」

 

「その力の覚醒には何が関係しているかは分かりませんがカオスさんのその力はもっと解放すべきだと思います。」

 

「俺にあの力を使えってこと?」

 

「タレスそれは………。」

 

「助けられたボクが差し出がましいとは思いますがカオスさんがその力を完全に使いこなせれば恐らくボクのようにヴェノムに対して一方的だった戦況を逆転させられます。

 カオスさんが魔術を使うことがトラウマだというのはモチロン知っています。

 ですがカオスさんがその力を広められれば世界はヴェノムが現れてから近々訪れると言われる黙示録を回避することが出来るかもしれません。」

 

「………それは後でまた考えよう。

 今はクエスト中だよ。」

 

「ですが「タレス。」!」

 

「カオスもそれが本当ならする価値はあるのでしょう。

 けれど人の心の傷はそう簡単には癒せないのですよ。

 タレスは助けられましたがあの力は不安定なのは変わりません。

 次がタレスと同じようになるとは限らないのですから。」

 

「……そうですが。」

 

 

 

「今は分からないことだらけですし、落ち着いてゆっくり進んでいくだけでいいのですよ私達は。」



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バルツィエの奥義書

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 レイディーのおかげでヴェノムクエストを受けられるようになった三人は早速新たなクエストに挑むのだった。


林道エサーリ 泉

 

 

 

「シュゥゥゥ!!」シュッ!シュッ!

 

 

 

パチィィィン!パチィィィン!

 

 

 

「タレス!コイツはどうやって倒せばいい!?」

 

 

 

「待ってください!アローネさんこれを!」パシャッ

 

 

 

「受けとりました!今調べます!

 ………このモンスターはキャニバラスプラント、長い触手で獲物を巻き付け消化液で溶かす!

 弱点は火のようです!

 あとヴェノムにも感染してしまっているようです!」

 

 

 

「火か。見た目通りだな。

 ならタレス頼む!」

 

 

 

「任せて下さい!

 孤月閃!」ボシュッ

 

 

 

「シュゥゥゥ………ジュゥゥゥゥゥ!」

 

 

 

「よし!ヴェノム化したな!

 後は任せろ!!魔神剣・槍波!!」ザザザザザッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また久し振りにジャイアントヴェノムだったなぁ。」

 

「これで二度目ですね。」

 

「いや三度………あぁ、あのときはアローネもタレスもいなかったね。」

 

「お一人で挑んだことがあるのですか?」

 

「子供の時にね。

 あのときは分裂させたり穴に落っことして餓えさせたりして倒してたけど。」

 

「ヴェノムはその倒しかたが普通なんですよ。」

 

「今ならヴェノムが現れたら十分以内には倒せるからね。」

 

「十分も必要でしょうか?」

 

「そうだよ。

 それにしてもヴェノムに感染してても今の奴みたいに溶けてヴェノム化するゾンビもいればネイサム坑道にいたゴーレムやエレメントみたいに感染はしてても溶けてヴェノム化しない奴がいるのは何でだろう?」

 

「そういえばそうですね。

 レイディーさんも坑道では攻撃を受けて感染したといっていたのであのゴーレム達がヴェノムだったのは間違いない筈ですが………。」

 

「それは………何なんでしょうか?」

 

「今までゾンビは見てきたけどほぼ全部ヴェノム化する生物だったよ。」

 

「私は………カオスに起こされるまではヴェノムに近づくことすらなかったので………。」

 

「ボクもそうですね。

 というよりヴェノムを倒せる人がそういないからではないですか?」

 

「さっきアローネ戦闘中タレスにスペクタクルズ渡されてモンスター図鑑にセットしてたよね?

 ちょっと見せてくれる?」

 

「はい、いいですよ?」

 

「………」ペラペラペラペラ

 

「何か分かりましたか?」

 

「駄目だ!

 何も分からない!

 そもそもヴェノム自体が図鑑に登録不可生物だ!」

 

「それはヴェノムはウィルスそのものですからね。」

 

「肉眼で見える生物ではないのでヴェノム自体は詳しく調べられませんよ。」

 

「それもそうだけど………ん?」

 

「何か気付きました?」

 

「最後にセットしたキャニバラスプラントだけど………図鑑の一覧ページとスペクタクルズをセットしたデータが微妙に違うな?

 ヴェノムに感染した方が大分ステータスが高いよ?」

 

「その図鑑の一覧の方は平均的な通常の個体が載るんでしょうね。

 セットした方は状態や推定レベルも調べてくれるので特殊な個体に出会った時用でしょう。」

 

「特殊な個体?」

 

「同じ種族のモンスターでも大きさや色が違う個体が時折現れます。

 それらと遭遇したときに調べるといいと思いますよ?」

 

「そうだね、そんなモンスターがいたらやってみようか。」

 

「結局ゾンビがヴェノム化するものとしないものの違いが分かりませんね。」

 

「どうなんだろうね。

 坑道みたいに暗いところとかにいるからかな?」

 

「その線はないでしょう。

 ヴェノムは夜にも現れます。」

 

「じゃあ違いって………物を食べるか食べないか?」

 

「食べるか?」

 

「食べないかですか?」

 

「うん、だってヴェノム化するモンスターって草食にしろ肉食にしろ何かしらご飯を食べる生物でしょ?

 その点坑道のゴーレムやエレメント達は………何も食べないよね?」

 

「食べないのではないでしょうか?

 土や石ころの塊ですし。」

 

「確かにヴェノムは雑食性の生物ですから消化器官がある生物がゾンビからヴェノム化してますね。」

 

「そうだよ!元はスライムの亜種なんだから食べるか食べないかの違いだったんだよ!?

 言っててだんだんそう思えてきた!」

 

「ヴェノムを倒せる私達にしか知りえない情報ですね。」

 

「ヴェノム化するのは補食性生物だけ………ほぼ世界の生物の全てがそうなのでは?」

 

「………それも言ってる途中に気付いたよ。」

 

「ヴェノムの情報はそのくらいでしょうか?」

 

「進んだようであまり進んでないよねこの情報。」

 

「ヴェノムが現れたら倒すのは一緒ですからね。」

 

「とりあえず今ので最後のヴェノムみたいだからカストルに戻ろうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 酒場夜

 

 

 

「スミマセ~ン!クエスト完了しました!」

 

「おや、御苦労様!

 さっそく明日確認に向かわせるよ!

 昼には完了の手続きが出来るよ!」

 

「有り難うございます。」

 

「いいんだよ!

 サタン君達がヴェノムを引き受けてくれるだけでこっちは助かってンだ。

 このまま専属になってほしいくらいだよ。」

 

「それは……。」

 

「分かってるよ。

 王都に帰らなきゃならないんだろ?

 その間だけでいいからさ。」

 

「は、はぁ…。」

 

「あんたらは今ギルドでは話題の三人組だからね!

 あたし達も応援してンのさ。」

 

「え!?俺達まだここに来て三日ですよ!?」

 

「あんたらはあの学者様の助手だからね。

 そりゃあ有名になるよ。

 あの人いい噂も悪い噂も聞くから。」

 

「………それは先生がスミマセンでした。」

 

「いいんだよ、うちはトーディア山のヴェノムを格安で退治してもらったんだ。

 お礼がしたりないよ。」

 

「レイディーさんがそんなことを…。」

 

「あんたらにも何かお礼したいんだけど…。」

 

「それは明日の完了の確認してからでもいいですよ。」

 

「う~んと、………そうだ!いいものがあるんだ!」

 

「いいもの? 」

 

「サタン君見たところ剣を使って戦っているようだね?」

 

「そうですけどそれが何か?」

 

「こういう本とかは読んだりしないかい?」

 

「本ですか…………それは!!?」

 

「昔ある人がここに来て忘れていってね。

 有名な人だったからそのまま取りに来るのを待ってたんだけどとうとうその人はこの忘れ物を取りに来ることはなくてね。

 ここでそれを預かってンのさ。」

 

「その人はなんて人ですか?………。」

 

 

 

「サタン君の世代だと名前くらいしか聞いたことないんじゃないかな?

 アルバート=ディラン・バルツィエって言う王国の騎士団長だった人だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「いなくなる前はよくここでクエストを請けに来てたんだ。

 アルバートが暇してたら陛下とここに来てたからね。

 その時忘れてったもんだよ。

 人の物勝手にどうこうするのは気が引けるけどもう本人はいないみたいだしね。」

 

「………バルツィエ流剣術指南書魔神剣その二。」

 

「まぁ、バルツィエの作った本なんてとか思うかもだけどその本を持ってきたアルバートは気さくでいい奴だったし本の中身も戦闘一族なだけあってキッチリしたところまで書いてるよ。

 その技が使えるかは別だけどね。」

 

「貸してもらえるんですか?」

 

「ん?別に持ってってもいいよ?

 どうせ扱いこなす人なんていないし、助手さん達みたいにヴェノムとも戦える人に使って貰えんならその本も幸せだろう。」

 

「………」ペラペラペラペラ

 

「どうだい?

 何か参考になったかい?」

 

「店員さん………。」

 

「なんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この本は俺には難しすぎて使いこなすことは無理そうですね。」

 

「おやぁ、やっぱり無理そうかい?」

 

「はい、ちょっとこれは普通の人には出来そうにありませんね…。

 それこそバルツィエの人達でもないと。」

 

「あらら、バルツィエの作った本なだけあってバルツィエ以外には実践的じゃなかったみたいだね。」

 

「けど参考になりました。

 有り難うございます。」

 

「いいんだよ読みたくなったら何時でもおいで。」



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新技習得

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 林道エサーリでクエストを終わらせた三人はカストルの酒場で奥義書を渡される。

 それはかつてカオスが使用していた奥義書の続編であった。


安らぎの街カストル 酒場 夜

 

 

 

「報告終わったよ。

 明日の昼には確認して貰えるってさ。」

 

「そうですか。

 それにしても長く掛かっていましたが何を話し込んでいたのですか?」

 

「ちょっとね、そうだタレス。

 この後また特訓しない?」

 

「えぇ、いいですが…?」

 

「よし、じゃあ外に行こうか!」

 

「分かりました。」

 

「カオス?

 もう行かれるのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルカ街道 夜

 

 

 

「では手合わせいたしましょう。」

 

「よし!全力で来い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣・双牙!!」ザシュッ!ザシュッ!

 

 

 

「!?……魔神剣の二連撃!?

 槍波とは違う!?」バッ

 

 

 

「やっぱり動かれるね!氷魔神剣!!」ザシュッ!

 

 

 

「当たりません!!それ!!」タッタッタッ、ヒュッ!

 

 

 

「こっちもパターンはお見通しだよ!」カンッ!

 

 

 

「今です!孤!「(孤月閃か!!)」」ヒュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「円閃牙!!」ブンブンブンッ!

 

 

 

「うおっと!?」カンッカンッカンッ

 

 

 

「グレイブ!!」ドガァッ!

 

 

 

「こんなもの!効かないよ!剛魔神剣!!」バキィィンッ!!

 

 

 

「!二つ目の新技!?グッ!」ガガガッ

 

 

 

「決まりだね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またボクの負けのようですね。」

 

「タレスとやると楽しいなぁ。

 動き方が参考に出来るよ。」

 

「それはボクも同じです。

 カオスさんは強いですからね。」

 

「それほどでも。」

 

「しかしカオスさん、今の手合いの中で新しい技を二つも使ってましたね。」

 

「タレスも使ってたじゃないか。

 孤月閃が来ると思って驚いたぞ。」

 

「ボクの技は単純なものですよ。

 初動は同じで鎖の中間値点を掴むだけで鎌が円上に振り回しているだけですから。」

 

「なるほど、それで孤月閃の連撃のような技になるんだね。」

 

「一人で連携する場合は連撃も入れないといけないと思いまして。

 それでカオスさんの新技はどうなさったんですか?

 技名も既にあるようですし。」

 

「実はさ、さっき酒場で店員さんから懐かしい本のシリーズ物を見せてもらってさ。

 この本の続きなんだけど。」

 

「バルツィエ流剣術指南書魔神剣?

 これって………バルツィエの奥義書ですか?

 どうしてカオスさんが?」

 

「おじいちゃんがいなくなったときに部屋で見つけたんだよ。

 おじいちゃんの形見のようなものだね。

 これには魔神剣しか書いてないんだけど、店員さんから見せてもらった本には接近専用の魔神剣と遠距離用の魔神剣の次の段階の技が載ってあったんだ。」

 

「載ってあったって………それをもう使えるようになったんですか!?」

 

「魔神剣はもうマナを消費しなくても出せるくらいには馴染んでるからね。

 その次の魔神剣を使ってみるのなんて楽だったよ。

 技もそんなに難しいモーションじゃないしさ。」

 

「ですがカオスさんが読んでいたのはほんの五分くらいでしたよね。

 受け付けのときでしょう?」

 

「そうだけど、魔神剣なら楽勝だよこれくらい。」

 

「その奥義書はどうしてギルドにあったのですか?」

 

「あぁ、あれおじいちゃんが昔置いていったやつだったよ。」

 

「カオスさんのお祖父さんがあのギルドに?」

 

「話を聞く限りおじいちゃんも昔ギルドでクエスト請けに来てたことがあったみたいでね。

 その時の忘れ物だって。」

 

「ではその奥義書はカオスさんが引き継ぐのが正しいのではないですか?」

 

「どうして?」

 

「その本はアルバートさんの形見なんでしょう?

 だったらカオスさんが受け取るのが筋だと思いますよ。」

 

「あぁ、別にいいんだよ。

 あの本はあそこにあったままで。」

 

「形見の一つじゃないんですか?」

 

「あの本のことはもう全部学んだよ。

 俺が独占したところで俺以外読まないだろ?

 本は誰かに読まれるためにあるものなんだから。

 あの本が誰かのためになるんならあのギルドにあったままでいい。

 それに俺がアルバート=ディラン・バルツィエの孫だって証明出来ないしね。」

 

「カオスさん………。」

 

「俺にはこの二つの技とクエスト代だけで満足だ。

 これ以上は貰いすぎだよ。」

 

「クエスト代と言ってもヴェノムの案件は普通なら騎士団の相場が正しいんですよ?

 ワクチン代が高いと言うのは本当の話ですから、もっと貰ってもいい筈ですが。」

 

「別に俺はお金持ちになりたくて旅をしているんじゃないんだ。

 いつかはミストにも戻るし、そうなるとお金なんて必要ないんだよ。

 世界が経済で回っているのなら無駄に持ってても必要ないし。」

 

「ミストに?

 でもカオスさんは指命手配されたんじゃ?」

 

「あぁ、そうだよ?

 だからアローネの旅を終わらせてから殺生石をどうにかしたら罪を償ってからミストに戻るんだ。」

 

「!!」

 

「指命手配の犯罪者のままじゃあミストに迷惑がかかるからね。

 一旦手配書を取り下げてもらうには捕まって罪を償うのが手っ取り早いだろ?」

 

「カオスさんは牢獄に入るおつもりなんですか!?」

 

「そうだね。

 罪を犯したのならそれがルールらしいからね。」

 

「カオスさん、でもそれは…。」

 

「ルールを知らなかったとかそんなのは関係ないんだ。

 破ってしまったならそこから学んで次に繋げていかないと。」

 

「牢獄に入れられたら簡単には出られませんよ!?

 毎日ずっと同じ空間に閉じ込められて誰とも会えず地獄のような生活になるんですよ!?」

 

「覚悟してるよ…。

 地獄がその程度ならなんとかやっていけるさ。

 そんなのはもうこの十年でやってきたことだ。」

 

「カオスさんが牢獄に入ったらボクは………ボクはどうすればいいんですか!?」

 

「タレスは………ダレイオスに返すさ。」

 

「え?」

 

「ダレイオスに故郷があるんだろ?」

 

「故郷はもう………。」

 

「そっか、悪いね。

 でもこのままマテオに居続けるよりかはずっと安全に暮らせるだろ?

 タレスはマテオの人じゃない、ダレイオスの人なんだから。」

 

「ダメです………。」

 

「タレス?」

 

「ボクはカオスさんとアローネさんの助けになれるためにご一緒しているんです!

 そんな形で終わるのはダメです!」

 

「………じゃあタレスはどうしたいんだ?」

 

「アローネさんのウルゴスは必ずや見つけ出しましょう!

 そしてカオスさんが捕まると言うのならボクも一緒に捕まります!

 そうです!自主します!」

 

「おいおい、タレスは何もしてないだろ?」

 

「いいえ!しました!

 サハーンの盗賊団に入って沢山悪いこともしました!

 ボクだって立派な犯罪者です!」

 

「胸を張って言うようなことじゃないだろう…。」

 

「その犯罪者のお頭が捕まると言うのならボクも捕まります!」

 

「犯罪者のお頭?」

 

「カオスさんです!カオスさんが捕まるときはボクも捕まりますよ!」

 

「タレスを巻き込むつもりはないんだけどなぁ。」

 

「もう関係者です!

 カオスさんはボクにとってお兄ちゃんのような人ですから。」

 

「お兄ちゃん………。」

 

「否定はしなくてもいいですよ。

 ボクが勝手にそう思っているだけですから。」

 

「そっか。」

 

「決まりですね!

 ボクはお頭にずっと着いていきます!」

 

「お頭は止めてほしいなぁ…。」

 

「ではお兄ちゃんですか?」

 

「それもいいけど今まで通りで頼むよ。」

 

「はい!」

 

「さて今日はもう宿に帰ろっか?

 明日もまた疲れるだろうから。」

 

「そうですね。

 今日はこのくらいにしときましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん………か、いいな。」

 

 

 

 

 



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好調な出だし

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カストルの酒場で奥義書を拝見したカオスは早速タレスとの特訓でその技を披露する。

 


安らぎの街カストル 酒場

 

 

 

「ほいこいつが今回の報酬金ね。

 近いから今朝早くに済ませちまったよ。」

 

「有り難うございます。」

 

「助手さん達はあとどのくらいいられるんだい?」

 

「そうですねぇ、具体的には決まってませんけど………なるべく早くに帰れって先生に言われているのでここでのクエストでもう少し貯めてからここを発とうかな、と。」

 

「そうなのかい、それじゃあここにいる間はじゃんじゃんヴェノムを頼んでもいいんだね?」

 

「そうして貰えると助かります。」

 

「それじゃあ、さっそく言ってもらおうか!

 こいつなんだけどさ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝のクエストダッシュに巻き込まれないでクエストを請けられるなんていいですね。」

 

「そうだね、初日は驚いたよ。

 あんな取り合い掴み合いの激しい中に飛び込んでいくのはゴメンだからね。」

 

「カオスさんならあの中に飛び込んでもクエストを取れそうなものですけど………。」

 

「モンスター相手なら遠慮はいらないけど流石に同じ冒険者の人達を相手にするのはなぁ。」

 

「!?そういえばボク達冒険者なんですね!?」

 

「そうだよ?」

 

「旅人なのでは?」

 

「え?一緒じゃないの?

 ここに来る人達と俺達同じことをしているように思えるんだけど。」

 

「旅人です!ボク達は旅人なんです!」

 

「タレス必死すぎだよ。」

 

「そこまで冒険者と言われるのが嫌なんですね。」

 

「そりゃああれだけディスってたらねぇ。

 本当に冒険者と何があったんだ。」

 

 

 

「そうです!ボク達には旅の目的があります!

 冒険者達のように娯楽で生きている人達とは違います!」

 

「おい、タレス!?」

 

「クエスト請けることに集中してましたがウルゴスの情報も集めましょう!

 レイディーさんだけの情報では偏りが出来ますからね!」

 

「それはそうだけど…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!!テメェら!!!」ガタンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!」」」

 

 

 

「ちっと騒ぎすぎじゃねぇか?

 ここはテメェラらの遊び場じゃねぇんだぞ?」

 

「………はい。」

 

「クエスト請けたんならさっさと行きゃいいだろうが!

 ここでおれ達にけんか売ってる暇があんならよぉ。」

 

 

 

「ワルディーさん!店の中でケンカはゴメンだよ!

 やるなら外行っとくれ!」

 

 

 

「分かってんだよチーフ。

 おれはこの世間知らずどもにここでのルールを教えてやろうとしてたとこだ。

 おい、テメェらあんまり迂闊なことは口にしない方がいいぞ?

 こうしておれみてぇなのに絡まれるからなぁ。」

 

「スミマセンでした。」

 

「………。」

 

「タレスも、ほら謝って!」

 

「何だ?

 話しかけられるとは思わなくて固まっちまったのか?

 今度からは気を付けろよガキがぁっ!!」ブンッ!

 

 

 

「!!?」パシッ

 

 

 

「ん?何だテメェ?

 その手を離せよ!」

 

「身内の毒舌は謝ります。

 けどこんな小さな子供相手に大人が本気で殴り掛かるのは見過ごせません。」

 

「口の悪いガキはこうやって躾てやんのが大人って「…」あだだだだだだだッ!!!?」ギュウゥゥゥゥゥゥ!

 

「大人が子供に本気でいいのかよ?」

 

「ぐあぁぁぉぁっ!?まいった!!おれの負けだぁっ!!」

 

「まったく。」パッ

 

「はぁっ………はぁっ………。

 はぁっ………はぁっ………、

 

 

 

 シャープネス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて言うわけねぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ぐわっ!

 

 

 

「そうですか…。」クルンッ、バンッ!!

 

 

 

「おぉッ!!?へぶぅ!!」

 

 

 

「そんな人同士の争いに騙し討ちをするなんて見苦しいとは思わないのですか?」

 

「んだぁ!?この怪力ゴリラ女はぁ!!?「…」ぉごごごごごごご!!???」グググググッ

 

「怪力なのは私が貴方と同じ術を使っているだけです。

 ゴリラ要素は関係ありません。」ググッ

 

「いてぇぇぇぇぇぇぇ!!!?

 悪かった!!おれが悪かったから腕を離してくれ!!」

 

「素直で宜しいですね。」パッ

 

 

 

「ふぅ………ふぅ………、

 ふぅ………ふぅ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よくもやりやがったなぁ!!?

 このワルディー様に恥を掻かせやがっ「飛燕脚」プゥ!!!」ゲシッ

 

 

 

「これだから冒険者は嫌いなんですよ。

 盗賊と同じで気分と力で物事を判断するので。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワルディーガマタヤラレタゾ!?

 

コレデコンゲツはニカイメか!?

 

イヤ、イマノデサンカイブンダカラヨンカイメダゼ!

 

ダレダアイツラ!?

 

ギルドランクヨンヲシュンサツダト!?

 

ドクゼツナダケハアルナ!

 

サイショニワルディーヲブットバシタレイディーミタイダ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スミマセン店員さん。

 すぐ散らかしたところは片付けますので…。」

 

「いいんだよ!

 このバカは最近ギルドランクが上がって天狗になってたとこだからいいお灸をすえてもらってよかったよ。

 ま、学者様達が全員で叩きのめしてくれたんだ。

 ワルディーも暫くは真ん中で酒は飲めないだろう。」

 

「あ、やっぱりさっきのは聞き間違いじゃなかったんだ。」

 

「レイディーさんもこのワルディーさんと?」

 

「学者様ってそこのタイタン君よりも猛毒舌だろう?

 ランク上がって自慢してたワルディーにそれは耳を塞ぎたくなるようなそんな罵倒の嵐だったねぇ。

 逆上した………逆上と言っていいものか分からんがワルディーが学者様につかみかかって助手さん達と同じ目にあわされたのさ。」

 

「レイディーさんならやりかねないね。」

 

「あれでもこの店の常連じゃあワルディーはトップに立つ男だからねぇ。

 ランク四以上なんて旅人くらいしか見たことないからね。

 それでボスにでもなったつもりだったんだろうこいつは。」

 

「そういえば俺達のランクって………。」

 

「済まないんだけどね。

 ヴェノムの案件を請け負ってもらってるのは助かるんだがこれに関してはギルドランクに反映出来ないんだ。」

 

「えぇ!?

 じゃあ俺達はずっとランク零のままなんですか!?」

 

「ヴェノム自体冒険者の人達にクリアできることじゃないからそういう制度は出来てないんだ。

 今度本部の方に連絡してヴェノム災害クエストもランクに影響あるようにするから待っといてくれよ。

 ギルドカードには仮クリア扱いにしとくから。

 申請が通ったら晴れてランクアップだよ。」

 

「なぁんだ、ビックリした。

 なら俺達はこのままヴェノムのクエストをクリアし続ければいいんてすね?」

 

「そうしとくれよ。

 ヴェノムの報告は山程上がるからね。

 それにヴェノムのクエストなら普通のクエストよりも高く評価される筈だから助手さん達もすぐに上がるだろうよ。」

 

「分かりました!

 ではこのまま続けますね。」

 

「あぁ、宜しくね。

 けどまだワクチンはあるのかい?

 ネイサム坑道とエサーリ林道で大分使ったんじゃないのかい?」

 

「え、えぇ!レイディー先生が人数が多いから余分に持たせて貰ったんですよ。

 ですからまだクエスト受ける分には余裕がありますから。」

 

「でもいいのかい?

 薬ってクエストの報酬金よりも高いって聞くけど?」

 

「あ、そ、それは………先生が困っている人がいたら助けなさいって言われてるので…。」

 

「そうなのかい?

 あの人が………。」

 

「だからワクチンの数は気にしないでください!俺達ならここで使いきるつもりでクエスト受けますから!」

 

「でもそうするとあんたらは王都へと安全に帰れないんじゃ………。」

 

「………亀車!亀車ならなんとか、帰れそうですよ!?」

 

「亀車か!

 なら安心だね。」

 

「はい、安心なんです!」

 

「じゃあクエストの方も頑張っとくれよ!」

 

「はい、任せてください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 裏路地

 

 

 

「おい、今の聞いたか?」

 

「あいつらワクチン持ってるらしいな。」

 

「ワクチンは売ったら何処でも高い値で買ってくれるぞ。」

 

「だったらやることは決まってるだろう。」

 

「ワクチンをあいつらから奪う!」

 

「ワルディーのおかげでいいこと知れちまったぜ。」

 

「どうやる?

 今やっちまうか?」

 

「今ついてったところでヴェノムの巣に入られたらやベーだろ。」

 

「あぁ、決行はあいつらが帰ってきてからだ。

 早目に動かねぇとワクチンがどんどん少なくなるぞ。

 そうなると分け前が減っちまう。」

 

「誰が持ってんだろうなぁ。」

 

「どいつでも構わねぇさ。

 一人押さえりゃいいんだよ。」

 

「人質か。

 悪だねぇ、俺ら。」

 

「そんなもん俺らなら当然だろ。

 なんせ俺達は悪名高い………」

 

 

 

「「「漆黒の翼!!!」」」



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新バルツィエ登場

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カストルにてクエストの報酬を貰った三人は別の冒険者に絡まれてしまう。

 がここまでの経緯で力をつけた三人はその冒険者をそれぞれの力で追い払った。


オリュンポス山 麓

 

 

 

「また山でヴェノム退治かぁ…。」

 

「トーディア山脈程ではないですけど大きな山ですねぇ。」

 

「この山は元マテオ一高い山として有名だったようですよ?」

 

「元マテオ一?」

 

「今はトーディアの方が高いですが昔ヴェノムが繁殖した時にバルツィエが討伐に向かいその際の戦闘で山が崩れてここまで低くなったようです。」

 

「え!?」

 

「バルツィエとの戦闘で山が?」

 

「その時の高さは頂上からマテオを一望出来るほどだったらしいですが今では精々王国が見えるぐらいだとか。」

 

「山を削る戦闘ってどうなんだ…。」

 

「それくらい激しい戦いだったのか。

 それともバルツィエの戦闘力が高すぎたのか。

 詳しくはボクもよく知りません。」

 

「人の力でそこまでのことが出来るものなのでしょうか?」

 

「バルツィエは人にあって人にあらず…。

 力の強大さも、人としての人格も…。」

 

「……」

 

「カオスさんはバルツィエとは別ですよ?」

 

「そうですよ、カオスはちゃんと人の心を持っています。」

 

「………有り難う。

 けど俺もその血が流れてるって思うと…。」

 

「カオスさんはバルツィエのように暴走したりしません。

 力の使い方を分かっている人ですから。」

 

「強い力は人の為に使われるべきなのです。

 カオスは誰かの為に力を使える善の心の持ち主ですから。」

 

「………そう言ってもらえると助かるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリュンポス山 中腹部

 

 

 

「ここまでヴェノムを倒してきてまだ半分なのかぁ。」

 

「後もう半分ですね。

 今回のクエストは長くなりそうです。」

 

「そうなんだけど流石に三人で倒し回るのは大変じゃないかなぁ?」

 

「と言われましてもボク達以外ではカストルには今クエストを請けられる人はいませんから。」

 

「この山って反対側にもう一つ街ないのかなぁ。

 その街の人達と協力してやれば短縮出来そうなもんだけど。」

 

「ボク達以外でこのクエストを請けられるのは騎士団の人達だけですよ?

 そうしますと騎士団と協力することに。」

 

「騎士団は………不味いよねぇ。」

 

「本来は騎士団がワクチンを駆使して討伐するクエストですからね。

 私達が協力するにしても私達の能力のことを話さなければなりません。」

 

「街はありますがいつ討伐に向かってくれるかはあちら次第です。」

 

「そっかぁ………今日は一日コース………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!?」」」

 

 

 

「今のは!?」

 

「膨大なマナ!?」

 

「奥の方から感じましたね!」

 

「行ってみよう!!」

 

「「はい!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリュンポス山 峠

 

 

 

「はぁ~、面倒くさいなぁ。

 何でぼくだけでこんなことをしなければならないんだろう。

 一人じゃあ詰まらないよ。」

 

 

 

ゴルルッ。

 

 

ジュゥゥゥ…。

 

 

キィー!

 

 

バゥゥゥッ…。

 

 

ジィィィ…。

 

 

 

「そんなに睨まなくても相手してやるよ。

 さっさと終わらせて帰りたいからね。

 まとめて掛かってきてよ。」

 

 

 

ギィィィイィァァァァァァァァァァァォォォオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、兵隊連れてきたところで邪魔なだけなんだけどね。」ピョンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いきなりだけど止めだよ!昂龍礫破!!」

 

 

 

ドゴォォォォォォオォォォォォッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パラパラッ…。

 

 

 

「こんなものかな。

 ワザワザこんなことするためだけに山に登らされるなんて。

 

 

 

 ………そしてそに隠れているの。バレバレだよ?

 出てきてよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………別に隠れているつもりはなかったんだけど…。」

 

「大量のマナが一気に拡散するのを感じて駆けつけてきました。」

 

「貴方は一体?」

 

 

 

「ぼく?

 ぼくはこう見えても貴族の騎士だよ。

 ぼくの名はニコライト=ゼン・バルツィエ男爵さ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

「バルツィエ!?」

 

「お兄さん達は冒険者?

 ダメだよ~?

 ここら辺スライム出るからやられちゃうよ~?」

 

「スライム?」

 

「ヴェノムだよ~?

 ぼく達にとってはスライムと変わらないからスライムって呼んでるの。」

 

「スライムと変わらない?」

 

「ぼく達にはこれがあるからね。」サッ

 

「それは…レイディーさんが持ってた!」

 

「ワクチン!」

 

「そう!

 これさえあればスライムなんてイチコロだよ~。」

 

「イチコロって君一人で!?

 他の人はいないの!?」

 

「いないよ?

 ぼくだけでこの山は十分だからね。

 ほらこのマナボムさえあればヴェノムが寄ってくるんだよ。」

 

「マナボム?」

 

「これ使えばスライム達が磁石みたいに飛んでくるんだよ。

 だから今山を掃除してるとこなの。」

 

「清掃って………。」

 

「あんなにたくさんいたヴェノムをたった一人で!?」

 

「こんな子供が………君いくつ?」

 

「今年で………いくつだったかなぁ。

 九才くらい?」

 

「九才!?

 九才で男爵の称号をお持ちなのですか!?」

 

「?

 普通はみんな持ってるものじゃないの?」

 

「貴族と言っても相応の功績をあげねば爵位はいただけない筈ですが…。」

 

「そうなの?

 この間、うちのおじさん達と一緒に隣の国の紛争止めさせてきたときに男爵って名乗りなさいっておじさん達から言われたの。」

 

「「!?」」

 

「紛争って………。」

 

「貴方が戦場に赴いたのですか!?」

 

「バルツィエじゃあみんな普通だよ?」

 

「そんな………。」

 

「それから大変なんだよね~。

 こっちの街を統治しなさいって言われてずっとこんなことばっかり。

 スライムなんてもううんざりだよ。」

 

「統治ってニコライト君はどこから来たの!?」

 

「ニコラでいいよ。

 そう呼ばれてるし。

 お兄さん達はあっちから来たってことはカストルから来たんだよね?

 ぼくは反対側の街のイクアダって街から来たんだよ。

 お兄さん達、スライムに襲われなかったの?」

 

「それは………」

 

「感染してないよね?

 感染してたらお兄さん達を掃除しないといけないんだけど?」

 

「俺達は感染してないよ!?」

 

「そうですよ、

 私達はここに来るまでにヴェノムは見ませんでした!」

 

「そうみたいだね。

 さっきので全部だったのかな?

 まぁ、いいやお兄さん達はこのあとどうするの?」

 

「俺達は………一応ここでの目的は果たせたからカストルに戻らないと!」

 

「え?登ってきたんだからイクアダに行かないの?」

 

「この山の景色を見たかっただけなんだ。

 本当それだけだから!」

 

「そうなんだ、冒険者ってよく分からないなぁ。

 じゃあ麓までぼくが護衛してあげるよ!」

 

「え!?」

 

「ぼくも一応スライムが掃除できたか見て回らないといけないの。

 一人じゃ詰まらないから降りるまで話し相手になってよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリュンポス山 麓

 

 

 

「う~ん、本当にいなかったねスライム。」

 

「でしょ?

 俺達は特に危険もなく登ってこれたんだ。」

 

「モンスターは何匹かいましたけど大丈夫でしたよ?」

 

「冒険者ならそれくらいなら倒せるんだね。

 ならあとぼくもそろそろ帰らないといけないから、イクアダに行くことがあったらまた遊んでよ、お兄さん達。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………凄い子だったね。」

 

「あの幼さで爵位とそれに恥じぬ力を持っていました。」

 

「動きは洗練さに欠けますがそれを補って余りあるマナの内包と放出力。」

 

「聞いていた話ほど凶悪さはなかったね。」

 

「分かりませんよ?

 あの純朴さで後数年もすればサハーンに劣らない邪悪な本性が育っていくんですよ。」

 

「あんな子供が………。」

 

「レイディーさんの話は本当のようですね。」

 

「バルツィエの戦闘力は子供でも油断ならない力があります。

 カオスさんは………ごめんなさい。」

 

「いいよ、俺があの年の頃はそこら辺にいた子供よりも全然弱いくらいだったよ。」

 

「カオスはそのままでよかったです。

 優しいまま育って。」

 

「ですがもしカオスさんが殺生石に触らなかったらあのぐらい強かったのかが気になりますね。」

 

「カオスならそれでも変わらずに育っていたでしょう。」

 

「俺は………俺のままだったんじゃないかな。」

 

「そうですね、カオスさんは優しいからこそカオスさんですから。」



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誘拐されるアローネ

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カストルでクエストを受けた三人はオリュンポス山へと赴く。

 そこでは幼いながらも強力なバルツィエの少年がヴェノムを殲滅していた。


安らぎの街カストル 宿 夜

 

 

 

「今日で五日目かぁ。」

 

「旅人ともなるとそろそろ次の場所に移るべきですが…。」

 

「なんだかこの街は居心地がいいのでもう少しゆっくりしたいですねぇ。」

 

「いいんですか?

 カオスさんは殺生石の手懸かりはレイディーさんのお話である程度情報を得ましたがアローネさんのウルゴスはまだ情報どころか何の手懸かりも見つかっていませんのに。」

 

「それは………。」

 

「焦ったって仕方ないよタレス。

 カストルには多分知っている人はいないんじゃないかなぁ。」

 

「そのようですがアローネさんはあまり聞き込みに積極的ではなさそうですよ?」

 

「そうなのアローネ?」

 

「………私の推察ではこの近辺の方はお聞きしても恐らく得られる情報は何もないのではないかと思います。」

 

「どうして?」

 

「カオスとタレスが特訓をしている際は私もギルドでお話を伺ったりもしているのです。

 ですが………。」

 

「誰も知らなかったってことか………。」

 

「そのようです………。」

 

「このまま王都に行ってみてからの方がいいのかなぁ。」

 

「大きい街とは言っても王都に比べますと情報の遅れなどが生じていますからどこかでウルゴスの情報が途絶えているのかもしれませんね。」

 

「私の件に関しましてはまだそんなに急ぐ用でもありませんのでもう暫くはこのままでいいですよ。」

 

「アローネ………無理してない?」

 

「………何のことでしょうか?」

 

「気のせいだったらいいんだよ。

 それとさ、ヴェノムクエストってかなり報酬が多いから一度宿も個室に変えてもらわない?」

 

「個室ですか?」

 

「個室にしますと料金が嵩みますよ?」

 

「一日二日じゃあ、そんなに大したことないでしょ。

 最近じゃあずっと一緒に行動してるから一人になる機会も少ないしたまには俺も寝相を気にしないで寝てみたいよ。」

 

「ボクは気になりませんよ?」

 

「え!?

 俺って寝相悪かった?」

 

「カオスが言ったことではないですか。」

 

「そうなんだけど、

 今更になって言うのもなんだけど女性と同じ部屋というのもなんかいけないような気がするんだ。」

 

「夜営で何度も御一緒だったではありませんか?」

 

「アローネ、少しは気にしようよ………。」

 

「………そうですね、気分を変えてみるのもいいのかもしれません。」

 

「お二人がそれでいいのなら。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスさん。」

 

「ん?なに?」

 

「アローネさんに気を使ったんですか?」

 

「あれ?バレバレだった?」

 

「あそこまであからさまでは逆に疑われてしまいますよ?」

 

「………今度からもうちょっと上手くやってみるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 宿 深夜

 

 

 

「カオスさん!」ドンッドンッ!!

 

 

 

「………んん?どうしたのタレス。

 こんな夜更けに?」

 

 

 

「さっき起きたらドアにこんなものが!」

 

 

 

【お前達の仲間の女は預かった。

 返してほしければワクチンを持って一時間後に街の外へと来い。

 ワクチンを持って来なければ女の命はない。  漆黒の翼】

 

 

 

「これって誘拐!?」

 

 

 

「アローネさんの部屋も確認しに言ったんですけど鍵が掛かったままで、中からは物音一つしませんでした!」

 

 

 

「どうやら悪戯じゃあなさそうだな。

 ワクチンを持ってこいだって!?」

 

 

「昼間ギルドでボク達のことを盗み聞きしてた人の犯行だと思います。

 ワクチンの話しはあそこ以外ではしていませんから。」

 

 

 

「何でワクチンを催促するんだ?」

 

 

 

「ワクチンは高額で取り引きが行われます。

 この犯人はワクチンを手に入れて売るつもりなんですよ。」

 

 

 

「なるほど………、けど俺達はワクチンを持ってないぞ!?」

 

 

 

「犯人はワクチンを持ってると勘違いしているみたいですね。」

 

 

 

「クソッ!この手紙が来てからどのくらいたった!?」

 

 

 

「分かりません…。

 ボクもトイレで目が覚めたらドアに挟んであったので…。「……!!」」ダダダッ

 

 

 

「カオスさん何処に行くんですか!?」

 

 

 

「今から騎士団の駐在所に向かう!

 そこで事情を話してワクチンを借りてくるんだ!」

 

 

 

「そんなこと無理ですよ!

 ワクチンは只でさえ管理が厳しいんですから!?

 それにカオスさんとアローネさんは騎士団とは…!」

 

 

 

「人命が掛かっているんだ!!

 そんなこと言ってられないだろ!」

 

 

 

「待ってください!カオスさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 街の外

 

 

 

「………。」

 

 

 

「クククッ…お前の仲間は手紙を読んでどうすると思う?」

 

 

 

「お姫様の為ならワクチンを持ってくるしかないよなぁ?」

 

 

 

「それともワクチン惜しさに見棄てちまうかなぁ?」

 

 

 

「そしたらどうなるんだろうなぁ?」

 

 

 

「………カオス、タレス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 騎士団駐在所

 

 

 

「スミマセン!!」

 

 

 

「何だ?こんな遅くにどうしたんだ?」

 

 

 

「これを見てください!!」

 

 

 

「………!」

 

 

 

「さっき俺達の宿にこの手紙があって俺達の仲間の一人がいなくなっててそれで………!」

 

 

 

「………。」

 

 

 

「仲間が誰かに連れていかれてしまって、

 犯人がワクチンを持ってこいって指示してたんですけど、ボク達ワクチンを持ってないんです!」

 

 

 

「だから!だから俺達にワクチンを貸して貰えませんか!?

 すぐ返しますから!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「お願いします!仲間の命が掛かっているんです!

 一粒だけでいいんです!

 どうかお願いします!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目だ。」

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

「ど、どうして!?」

 

 

 

「フン!こんな紙切れ一枚だけじゃあとても信じられんなぁ。

 本当にその仲間が誘拐されているのかどうか怪しいものだ。」

 

 

 

「な!?俺達が嘘を付いてるって言うんですか!?」

 

 

 

「よく探したのか?

 そのうちひょっこり顔を見せるかもしれんぞ?

 散歩でもしてるんじゃないのか?」

 

 

 

「そんなわけないだろ!?

 じゃあこの手紙は何なんだよ!?」

 

 

 

「さぁな。」

 

 

 

「この…!!」

 

 

 

「それに仮にその誘拐が本当だとしてお前達に何故そのようなワクチンを持ってこいなどという手紙が届く?

 お前達はワクチンを持っているからではないのか?」

 

 

 

「!それは………。」

 

 

 

「答えられんのか?

 持っていたとしたらここに来る必要はないよな?」

 

 

 

「………使ったんでなくなったんです。」

 

 

 

「苦しい言い訳だな。

 いい加減嘘を認めたらどうだ。」

 

 

「嘘!?」

 

 

 

「お前達の装いからして冒険者だろう?

 ちょっとギルドカード見せてみろ。」

 

 

 

「そんなことしてる場「早く。」」

 

 

 

「はい………。」スッ

 

 

 

「………」スッ

 

 

 

「ふむふむ、やはりか。」

 

 

 

「何なんですか!?

 早くしてくださいよ!」

 

 

 

「どうしてこのクエストのクリア数でお前達はランク零と一なんだ?」

 

 

 

「………!?」

 

 

 

「カオスさんは………。」

 

 

 

「口が動かんなぁ。

 やましいことがあるやつの特徴そのものだぞ?

 おおかた初級のクエストをクリアするのがやっとと見える。

 他は失敗続きか?

 装備もそんな木の棒だしな。」

 

 

 

「俺達はそんなんじゃぁ………。」

 

 

 

「クエストをクリア出来ない冒険者がワクチンなんて高い薬を持ってる筈ないよなぁ。

 金持ってる訳ないし後先考えないで冒険者なんてやってるからそういう詐欺を働こうなんて考え付くんだろうなぁ。」

 

 

 

「は?俺達を詐欺師だと言いたいんですか?」

 

 

 

「他に考えられんなぁ。

 この手のやり口のパターンは決まっているんだよ。

 仮におれが直接ワクチンを持ってこの場に行って犯人にワクチンを渡したとしても裏でお前達とそいつらが繋がってたらお前らの計画通りになってしまうだろう?」

 

 

 

「………もういいです!分かりました!騎士には失望しました!

 俺達が直接ワクチンを買います!いくらですか!?」

 

 

 

「どうした?

 詐欺は初めてか?

 苦し紛れにこの場で財布を取り出してあくまで共犯じゃないアピールか?」

 

 

 

「いくらか答えてください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五十万ガルドだ。」

 

 

 

「五十………!?」

 

 

 

「残念ながらこれが最低価格だ。

 払えるのか?」

 

 

 

「………なんとかギリギリだけど俺とタレスの分を足したら買える金額だ。

 買います!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、明後日にならないと納品されないの忘れてた。

 また明後日来てくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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誘拐されるアローネ…?

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 クエストをクリアしてカストルに戻るとその夜にアローネが何者かに誘拐されてしまう。

 カオスとタレスは犯人の要求通りにしようとワクチンを探すが…


安らぎの街カストル 入り口

 

 

 

「クソッ!なんだよあいつは!?

 ないなら最初からそう言えよ!」

 

「仕方ありませんよカオスさん。

 あの人の言い方は酷かったですけど言っていることは間違いではないですから。

 ワクチンを手に入れようとしてボク達と似たようなことを言って騙しとる人も世の中には大勢いるんです。」

 

「それはそうだけど!

 けどあの言い方はないだろう!?

 あれが本当に騎士なのか!?」

 

「冒険者の多いこのカストルではそうした詐欺が横行しているらしいのであの騎士も安易にボク達を信じられなかったのでしょう。」

 

「………だったらどうすればいい!?

 このままだとアローネが!」

 

「落ち着いてください、カオスさん。

 ワクチンがない以上、ボク達が出来ることは一つだけです。」

 

「………犯人達をとっちめて直接アローネを救いだす!」

 

「幸いこの街は出口が複数あります。

 犯人らしき人を遠目に見つけましたら一旦下がって他の出口から回って隙をうかがいましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 街の外

 

 

 

「フッフッフ!来ないなぁ、お姫様の連れは。」

 

 

 

「おいおい本当にお前ら仲間だったのか?

 助けにすらこねぇのかよ。」

 

 

 

「所詮冒険者の仲間意識などその程度よ。」

 

 

 

「………二人は昼間のクエストで疲れて眠っているのかもしれませんね。」

 

 

 

「じゃあ後どのくらい縛られてりゃいいんだろうなぁお姫様。」

 

 

 

「それよりも質問に答えてください!貴女方は何処でその名前を知ったのですか!?」

 

 

 

「おいおいおい!質問出来る立場かよ!?あぁぁん!?」

 

 

 

「舐めてんのかお姫さん!?」

 

 

 

「俺達が本気になったらなぁ、これくらい…!」

 

 

 

「どうだと言うのですか?」

 

 

 

「ちっ!………。」

 

 

 

「女だからって調子に乗るんじゃねぇぞ?」

 

 

 

「可愛いからって俺達が何でも答えるとでも?」

 

 

 

「本気になってみてはいかがですか?」

 

 

 

「言うねぇお姫様は。

 どうなっても知らないぜ?」

 

 

 

「俺達を怒らせたことを後悔させてやろうか?」

 

 

 

「素直に大人しくしていればいいものを…フッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、タレス。」

 

 

 

「何でしょう。」

 

 

 

「………あれ………だよな?」

 

 

 

「アローネさんがいますのであれなんでしょうね。」

 

 

 

「………そっかぁ、あれかぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちは三人だ、一人でいいのかい?」

 

 

 

「謝るなら今のうちだぜ?」

 

 

 

「今夜は満月だ。

 力が溢れて抑えきれねぇぜ?」

 

 

 

「どうぞどうぞその力を開放してください。」

 

 

 

「あぁ~あ、どうなっても知らないぜ?本当に知らないんだぜぇ?」

 

 

 

「今謝ってこのことを無かったことにすれば俺の怒りは直ぐにでも収めてやってもいいぜ?」

 

 

 

「こんな綺麗な月が輝いている夜に血は見たくないんだけどなぁ、お姫様もそう思わねぇか?」

 

 

 

「ですから何度もいいと申していますが?」

 

 

 

「お姫さんよぉ!三と一ってどっちが数が多いか分からねぇのか!?

 俺達の方が有利な筈だったんだよぉ!普通に考えたらよぉ!」

 

 

 

「謝ればそれでいいんだから謝れよ!

 そうすりゃ直ぐに帰ってやるからさぁ!?」

 

 

 

「止めようぜ!?

 もうこんな下らない争いは!

 お月様が見てんだろ!

 怪我したとこバイ菌入ったらどうすんだよ!?」

 

 

 

「貴殿方が私をここへ連れてきたと思うのですが…?」

 

 

 

「それがどうしたってんだよ!?」

 

 

 

「お姫さんは人質だよ!」

 

 

 

「大人しくしてやがれよ!?」

 

 

 

「貴殿方は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして縛られているのにそこまで高圧的なのでしょう………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、……………アローネ。」

 

「こんばんはカオス、それにタレスも。」

 

「こんばんはアローネさん。」

 

「えっと………この人達は?」

 

「私を連れ去ろうとした人達です。」

 

「それって誘拐されそうになったってこと?」

 

「はい、手紙がありませんでしたか?」

 

「あったっちゃあったけど………。」

 

「あの手紙の内容ですとアローネさんが誘拐されたように記載してあったんですが。」

 

「この現状見ると………。」

 

「アローネさんが人拐いのように見えますね。」

 

「あぁ、それはこの方々が私の部屋に来てワクチンについて話があると仰っていたのでついていったのですが鎖で縛られそうになったのでシャープネスで抜け出してこのように。」

 

「誘拐しようとしたら逆に捕まっちゃったのかぁ…。」

 

「相手を見るべきでしたね。」

 

「私も誘拐される経験は何度もあったので大人しくしていようと思ったのですが聞き捨てならない名前をお聞きしたのでいてもたってもいられずに鎖から抜け出して先ずはお話を聞いてもらえるよう鎖で縛ってみました。」

 

「そんな簡単に出来るようなこと?」

 

 

 

「畜生!なんて女だよ!?

 鎖で縛ってたのに!」

 

「お姫様かと思ったらゴリラ様だったよ!?

 ついてねぇ!」

 

「満月で力が増すなんて、まるで狼女だ!!」

 

 

 

「ずっとこの調子なんです。」

 

「話が進んでないようだね。

 ………さっきの俺達の苦労はなんだったんだ。」

 

「アローネさんが無事だったんですからそれでいいじゃないですか。」

 

「………そうなんだけど腑に落ちない!」

 

 

 

「で、貴殿方は………漆黒の翼さん達?」

 

 

 

「おうよ!」

 

「俺ら三人揃って!」

 

「悪名高き!」

 

「「「漆黒の翼!!」」」

 

 

 

「そう!それです!その名前なんです!」

 

「?」

 

「名前?」

 

 

 

「俺らのチーム名がどうしたってんだ?」

 

 

 

「貴殿方のチーム名は一体何からとった名前なのですか?」

 

 

 

「なんだこのイカス名前が気になるのか?」

 

「無理もねぇぜ。

 俺らもこの名前を思い付いたとき震えが止まらなかったからな。」

 

「姉ちゃん、アンタはこの名前のクールさに酔っちまったようだな。」

 

 

 

「そうではありません!

 貴殿方はウルゴス出身なのではありませんか!?」

 

 

 

「ウルゴス?」

 

「どこの街だ?」

 

「ウルゴス………クールな名前だぜ。」

 

 

 

「………そうですか。

 有り難うございました。」ザッザッザッ

 

「あ、アローネ?」ザッザッザッ

 

「この三人は………待ってくださいよ。」ザッザッザッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!これほどいていけよ!」

 

「こんなところでほったらかしにされたら風邪引くだろうが!」

 

「ってちょっ!もういねぇし!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 入り口

 

 

 

「どうしたのさアローネ!

 急に歩きだして!」

 

「さっきのあの三人組がどうかしたんですか?」

 

「………いえ、何でもなかったようです。」

 

「あの三人組がウルゴスの出身だと思ったの?」

 

「………はい。」

 

「それはまたどうして?」

 

「私の国………ウルゴスに………私の知り合いに漆黒の翼を名乗る三人組がいたのです。」

 

「え!?あの三人の他にも漆黒の翼が!?」

 

「名前と三人組、そしてキャッチフレーズ………。

 偶然にしては重なりすぎてて……… 。

 私の知り合いの漆黒の翼は一人女性でしたがそれを抜きにしても………。」

 

「あの三人組がアローネの知り合いの漆黒の翼に似ていたと?」

 

「………あの方々がもしかしたら何処かでウルゴスの三人組を見掛けてそれを参考にしていたのかもしれません。

 ですがあの三人組は何も知らない様子でした。

 彼等のオリジナルだったのでしょう…。」

 

「またあの人達に聞いてみたら………。」

 

「いえ、彼等はウルゴスを知らないと仰いました。

 なら彼等からはもう有用な情報は聞き出せないでしょう。」

 

「………本当にいいの?」

 

「彼等のおかげでウルゴスがそんなに遠くにはないように思えてきました。

 今はこの気持ちだけでいいのです。」

 

「アローネ…。」

 

「本当に………ウルゴスはあるのですから。

 今はこれだけで………。」



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スーパースター

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 漆黒の翼を名乗る三人組に誘拐されたアローネを助け出すため手紙に所載してあった場所に向かうカオスとタレスの二人。

 そこでは想像してなかった展開が待っていた…。


安らぎの街カストル ギルド

 

 

 

「ほいこれが今回の報酬だよ!

 持ってきな。」

 

「あれ?昨日よりも多くないですか?」

 

「そりゃ今回のオリュンポス山は範囲も広いし、それにイクアダとの交通の弁もよくなったからね。

 その分色もつけるさ。」

 

「………」

 

「ん?どうしたんだい?」

 

「いえ、この報酬少し多すぎるんで半分だけ貰っていきますね。」トンッ

 

「おや、本当にどうしたんだい?

 あたしは全部貰ってもいい働きをしてくれたと思うんだけどねぇ。」

 

「山は広かったですが数はそこまで多くはなかったのでこのくらいが丁度いいんですよ。」

 

「サタン君がそう言うんなら仕方ないねぇ。

 じゃあ、次のクエストなんだけどさ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の報酬と次のクエスト取ってきたよ。」

 

「……」

 

「今回は………少し少ないですね。

 それでも多いくらいですが。」

 

「あぁ、それはさ。

 あの山半分だけしか俺達ヴェノム退治してないだろ?

 だから報酬も半分だけでいいかな~って。」

 

「……」

 

「律儀ですねカオスさん。

 それでこそボクのお兄ちゃんです。」

 

「ハハッ、タレスも明るくなったなぁ。

 昨日は大丈夫だった?」

 

「……」

 

「駐在所のことですか?」

 

「緊急時とはいえタレスに知らない人と話をさせちゃったからさ。

 まだそんなに馴れてないよね?」

 

「……」

 

「いいんですよ、レイディーさんに注意されてからボクも甘えてばっかりではいけないので手帳は封印します。」

 

「そんな無理することじゃないのに。」

 

「……」

 

「無理なんてしてませんよ。

 それに声を出してた方が気分が良くなるんです。」

 

「そうなの?」

 

「……」

 

「そうですよ、せっかくカオスさんとアローネさんに治していただいたのでこれからは自分で何でもやってみようと思います。」

 

「気負いすぎだって、そんなに頑張らなくてもいいよ、程々で。」

 

「……」

 

「……ボクは要らない子ではありませんよね?」

 

「久々だなそれ。

 タレスは俺達に必要だよ。

 ずっと助けられてるからね。

 このままずっといてくれると有り難いさ。」

 

「……」

 

「カオスさん。」

 

「タレスは俺の弟だからね。」

 

「……」

 

「カオスさん!」

 

「なんだいタレス?」

 

「……」

 

 

 

「アローネさんはどうしたのでしょう?さっきから一言も喋りませんが。」

 

「昨日からこんな調子なんだよ。

 あの漆黒の三人組に連れていかれてから。」

 

「漆黒の名乗る割りには全身赤青緑と派手な色の三人組ですか?」

 

「暗くて服装までツッコミ入れる余裕もなかったな。」

 

「何者だったのでしょうか?

 ウルゴスとは関係なかったようですが。」

 

「ウルゴスに似たような人達がいたらしいんだよ。

 それからアローネもこんな感じになっちゃってさ。」

 

「ウルゴスの手懸かり何でしょうか?」

 

「いや、三人の話具合からしてそうでもないみたいなんだ。

 けどウルゴスに関係してそうな話は昨日の一件で初めてだからね。

 アローネがウルゴスに帰れる兆しがでてきたんじゃないかな。」

 

「本当にそうなのでしょうか?」

 

「どう言うこと?」

 

「ただ単に発送が偶然同じだっただけでは?」

 

「まぁ、その可能性が高そうだけどさ。

 かするくらいの情報でも希望が見えてきそうでいいだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルゴスは………あるのでしょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーゾアナ海 浜辺

 

 

 

「うわぁ…………凄い水がたくさん!」

 

「?カオスさんは海は初めてですか?」

 

「ずっと内地育ちだったからね。地図とか見たり話には聞いていたけどこんなに大きいなんて知らなかったよ!」

 

「ここはリーゾアナ海と言ってこの海の向こうにダレイオスがあるんですよ。」

 

「海の向こう?

 全然見えないよ?」

 

「ここからでは肉眼じゃ見えませんよ。

 大陸の北部にいけば一本道で繋がっていますが一応この西の方には大合衆国ダレイオスがあるんですよ。。」

 

「この海の先にダレイオスが………。」

 

「ダレイオスはいいところですよ。

 多種多様な民族が住んでいて喉かで自然も多くて………。」

 

「村やその他の街の話では近付いたら襲われるって聞いていたけど。」

 

「それは当然ですよ。

 ダレイオスでは海を渡ってくると言うことはマテオの敵人なんですから。

 バルツィエが来るかもしれないんで常に警戒はしています。

 それに両国を知った今ではお互いに情報に誇張があるのも分かります。」

 

「誇張?」

 

「停戦中ですがやはり仇同士。

 仇に対して流れる情報は大袈裟に全国に伝えられるものなんです。

 ダレイオスでもマテオの人は全員バルツィエのように好戦的だと教えられてきましたから。」

 

「えぇ!?そんな風に言われてるの!?」

 

「カオスさんもダレイオスの人はそうなんだと聞かされませんでしたか?」

 

「………言われてみればそんなことも聞いたかな。」

 

「平和が続けば文句を言ってくる人も少なくありません。

 そうした不満を敵国に向ければ民は一時的にはそちらに目を向けてくれるので国がまとまりやすいのでしょう。」

 

「嫌な一面を聞いちゃったなぁ。」

 

「内情を知らなければ全てアイツが悪いアイツのせいだ、とそこにいない人に責任を擦り付けられますからね。

 一方的に被告人の弁を聞かない裁判のようなものです。

 その裁判は常に有罪確定なんですよ。」

 

「タレス、世間に揉まれてるなぁ。」

 

「そういう人生でしたから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………まだ調子は戻らないね。」

 

「ウルゴスのことを考えているのでしょうか?」

 

「飛んできたと思った情報が空振りだったから無理もないよ。」

 

「戦闘はキッチリしていますが終わるとこうしてまた物憂げに考え事をしていますね。」

 

「ウルゴスを早く見つけてあげたいんだけどそれがなぁ…。」

 

「カストルは大きいですが知っている人がいませんからね。」

 

「酒場でも聴き込みしていたようですが何も得られなかったようです。」

 

「アローネ見たの?」

 

「人の多いところでいろいろと回っているようでした。」

 

「そうかぁ………ねぇ、タレス、このクエスト終わったらさ。

 俺達もウルゴスについての情報集めてみない?

 カストルに来てからクエストばかりで録に手伝いも出来なかったしさ。」

 

「そうですね。

 ガルドも集まってきてるようなのでアローネさんのことも手助けしてあげませんと。」

 

「よし、そうと決まればさっさと終わらせよう!」

 

「えぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーゾアナ海 沿岸部

 

 

 

「魔神剣!!」ザザッ!!

 

 

 

「ピィッ!!」タタタッ!

 

 

 

「あぁ、クソッ!また避けられた!?」

 

 

 

「ピィッ」「ピィッ」「ピィッ」「ピィッ」「ピィッ」

 

 

 

ゲシゲシゲシゲシゲシッ!!

 

 

 

「うおっ…!?

 なんだこのヒトデ!?

 すばしこっこい上にパンチがやたら強いんだけど!?」

 

 

 

「気を付けて下さい!

 こいつらはスペクタクルズによるとスーパースターと言って素早い動きと特徴的な寄生!

 それから…!」ザリンッ!

 

 

 

「ピィッ!?」

 

 

 

「ナイスだタレスよく当てたね!」

 

 

 

「ピィッ…」グググッ!

 

 

 

「ん?様子が?」

 

 

 

「ピィッ」ニョキニョキ

 

 

 

「切れた足?が再生した!?」

 

 

 

「このように再生力が高い魔生物型のモンスターです!

 倒すのならなるべく中心部を狙った方が効果的です!」

 

 

 

「厄介すぎるだろ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネ!下がってて!

 ここらいったいを凍らせてみる!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「アローネさん!?」

 

 

 

「!あ、アクアエッジ!」

 

 

 

「ピィッ?」「ピィッ!」「ピィッ!」「ピィッ!」「ピィッ!」

 

 

 

「ダメですよ!アローネさん!ヒトデに水属性は!?

 活性化してしまいます!」

 

 

 

「いや!これでいい!

 氷魔神剣!!」パキンッ!!

 

 

 

「ピィッ…」

 

 

 

「!?地面だけじゃなくスーパースターも凍った!?」

 

 

 

「今のうちだ!急いで核を!」

 

 

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面倒な相手だったなぁ。

 小さくて早くて力強くて再生するなんて。」

 

 

 

「ネイサムにいたガーディアントは大きくて手こずりましたがスーパースターは小さすぎて攻略に手間取りましたね。」

 

 

 

「あれでヴェノムに感染してるってんだから一般の人が出会ったりなんかしたら怖いだろうね。」

 

 

 

「ヴェノム形態は相変わらず動きが緩慢ですがスーパースターのゾンビは一瞬で懐まで入ってくるので非常に危険ですね。」

 

 

 

「スミマセン………私が余所見なんてしていたから…。」

 

 

 

「いいんだよそんなこと。

 アローネが水を出してくれたおかげでスーパースターごと氷付けに出来たんだから。」

 

 

 

「勝利できたのはアローネさんの魔術の功績ですよ。」

 

 

 

「ですが私は相性も考えず水属性の相手に水で攻撃を…!?」

 

 

 

「こういう応用が出来るって分かっただけさっきの戦闘は勉強になったってことでいいじゃないか。」

 

 

 

「それでも!」

 

 

 

「痛たたたッ!

 ちょっとお腹にいいもの貰って倒れそう…。」

 

 

 

「!大丈夫ですか!?ファーストエイド!」パァァ

 

 

 

「………大分持ち直してきたよ。

 有り難うアローネ。」

 

 

 

「このくらいのこと………。」

 

 

 

「タレスもお願いできる?

 タレスもさっき飛び蹴りくらってたから。」

 

 

 

「………アローネさん、ボクもお願いします。」

 

 

 

「分かりました!ファーストエイド。」パァァ

 

 

 

「アローネさんのおかげですっかり楽になりました。

 アローネさんがいてくれて助かります。」

 

 

 

「…!

 お二人とも有り難うございます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………重症だね。」

 

 

 

「ダメージを負ってないボクにも気付きませんでしたね。」



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四人のリベンジャー

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カストルでの誘拐騒ぎを終えてから再びクエストに向かう。

 そこでアローネが戦闘中の失敗から落ち込んでしまう。


安らぎの街カストル 夜

 

 

 

「さて、アローネは部屋に戻ったみたいだね。」

 

「今日の失敗が堪えてるようですね。」

 

「そんなに大きく捉えなくてもいいのになぁ。」

 

「本人が責任を感じている以上、ボク達がどういっても晴れはしないでしょう。」

 

「カストルに来た日とおんなじになっちゃったなぁ。」

 

「あの時も少し落ち込んでいましたね。

 今ほどではありませんが。」

 

「あの日は何で落ち込んでたのかな?」

 

「何か思い当たることでもないですか?」

 

「俺もよく分からないんだよなぁ。

 あの時はタレスを助け出して、タレスと戦いのテクニックを教えてもらったくらいしか話をしてなかったし。」

 

「何か気に障ることでも言ってしまったのでしょうか?」

 

「そんなことはないと思うけど…。

 最近はお義兄さん………サタンさんのことも話さなくなったし…。」

 

「もしかしたら…」

 

「何か分かった?」

 

 

 

「ホームシックなだけかもしれませんね。

 ボクもマテオに来たときはホームシックで悩みましたから。」

 

「ホームシック?」

 

「旅に夢中になっていたせいで故郷のことを思い出したのでしょう。

 昨日の一件まではウルゴスに関連した話はアローネさん以外からは聞けませんでしたから。」

 

「………思い返してみればアローネは眠っている直前まではウルゴスにいたようだし目覚めてからもう十日以上たつしなぁ。」

 

「住んでいた所を急に離れて頭が追い付いてなかったのかもしれませんね。

 それが昨日の三人組に出会ってからウルゴスのことを思い出して…。」

 

「こればっかりはどうしようもないなぁ。」

 

「ボク達もウルゴスがどこにある国なのか分かりませんからねぇ。」

 

「早く見つけてあげないとね。」

 

「成り行きでカストルまで来ましたが旅を急ぐ必要がありますね。」

 

「………」

 

「カオスさん?」

 

「これからの旅なんだけど一応王都までは行くけどさ。

 ウルゴスメインでいかない?」

 

「ボクはそれでも構いませんが…。

 カオスさんは宜しいのですか?

 殺生石の力をミストに返すのがカオスさんの目的なのでは?」

 

「俺の目的は急がなくてもいいんだ。

 ミストには騎士団がいるし封魔石がある間は多少寄り道しても間に合うからね。

 それよりウルゴスだよ。

 アローネの話じゃあヴェノムに襲われたみたいだからさ。

 アローネも心配してるよきっと。」

 

「そうですね。

 ヴェノムの被害例を考えると心配にもなるでしょう。」

 

「明日からウルゴス捜索に本腰いれて行こう!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 宿

 

 

 

「おはよう、アローネ!」

 

「!カオス…、昨日は「今日はさ。」」

 

「今日は一日クエストはなしにしない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 酒場

 

 

 

「店員さん!」

 

「おや、あんた達かい。

 仕事が早いねぇ。

 リーゾアナの件だろう?

 こっちも終わったところさ。

 これが今度の報酬だよ。」

 

「有り難うございます。」

 

「あんた達は本当によく働くねぇ。

 何か買いたいものでもあるのかい?

 王都の方は物価が高いって言うからねぇ。」

 

「いえ、研究の資料を届けないといけないのでそれまでの路銀ですよ。」

 

「そうなのかい?

 もう十分貯まってると思うけど…。」

 

「装備を整えるのもあるので余分に持っておきたいんです。」

 

「そうかい、そういうことならいいんだけど今日ワクチンが港から届くから騎士団がまた明日からうちの仕事を請けに来るからなるべく早くに来とくれよ。

 あんた達に回したいからさ。」

 

「分かりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ。」

 

「本当に宜しいのですか?

 私の聞き込みは一人でも出来ますよ?」

 

「こんな広い街で一人でなんて大変でしょ?

 俺もタレスもしないとウルゴス見つけてあげられないからね。」

 

「そうは言いますが…。」

 

「アローネさんはいつも通り聞き込みしてください。

 ボクとカオスさんは商店街や騎士団に聞き込みしますから。」

 

「………」

 

「それでいいよねアローネ。」

 

「私のせいですみ「謝るのはもうなしだよ。」」

 

「俺達もアローネの住んでいたウルゴスに行ってみたいからね。

 もう俺達の目的でもあるんだ。

 アローネ一人の目的じゃないんだよ。」

 

「それでは行きましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルゴスは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 商店街

 

 

 

「やっぱりどこもそんな国知らないって一点張りだね。」

 

「長らくマテオとダレイオスの二大国家の時代が続いてますからその間になくなった国や統合された国は覚えている人も少ないのでしょう。」

 

「アローネの話では統合されたなんて聞いてなかったけど…。」

 

「最近なくなった国………アローネさんの国はマテオとダレイオスにはないのかもしれませんね。」

 

「?それって?」

 

「二つの大陸の他にもいくつか世界には小さな島が点在しています。

 アローネさんはそこから来たのではないでしょうか?」

 

「それだと何でアローネはミストの森に誘拐されてたんだよ?」

 

「それは………マテオが国を侵略する人質としてその国から拉致してきたのでしょう。」

 

「それだったら王都に連れていかない?」

 

「王都に連れていく途中だったのかもしれませんよ?ミストに連れて行ったのではなく只の通過地点だったとか…。」

 

「ってことは俺達ウルゴスとは逆方向に進んでることになるな。

 どうしよう…。」

 

「まだそうと決まってませんよ。

 ボクは可能性の話をしているのです。」

 

「そうだけどその可能性があるならって思うと…。」

 

「今はどうしようもありませんよ。

 聞き込みを続けましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 夜 裏路地

 

 

 

「全然手懸かりが掴めないよ。

 先は長そうだなぁ。」

 

「この街で掴めないとするともっと北上する必要がありますね。」

 

「けど北上して逆方向に進んでいたとなると…。」

 

「そもそもボク達はウルゴスがどこなのか分からないので闇雲にこの広い世界を探すとなると時間がいくらあっても辿り着けません。

 知っている人を探すのが一番です。」

 

「最終的に今に戻ってくるんだなぁ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっへっへ。」

 

 

 

「「!」」

 

 

 

「てめぇらこの間はよくもやってくれたなぁ。

 てめぇらがふざけたことをするから俺がしばらく出禁くらったじゃねぇか?

 んん?どうしてくれんだ?あぁ?」

 

 

 

「お前は…。」

 

「この間のワルディーとか言う荒くれものですね。」

 

 

 

「まこの間は油断したが今日はそうはいかねぇぜ。

 おいお前ら!」

 

 

 

「手下でも連れてきたのか………あれ?」

 

 

 

「よう、一昨日はお前達のボスにさんざんな目にあったから仮を返しに来たぜ?」

 

「あんな状態で放置されたから騎士団に見つかって連れてかれただろうが。」

 

「ずっと取り調べられて今日まで出られなかったんだぜ?」

 

 

 

「………漆黒の翼………。」

 

「アローネさんが塞ぎこむ原因衆ですね。」

 

 

 

「ヘヘヘ、この人数と俺様が相手だ。

 抵抗しても無駄だぜ!?」

 

「この間の女の借りはお前達に返させてやる!」

 

「女がいない今がチャンス!」

 

「ここでくたばりやがれ!」

 

 

 

「………お前達捕まってたのによく出てこられたね。

 悪名高い漆黒の翼じゃなかったの?」

 

「恐らくこの三人はなんちゃって悪なんですよ。

 悪ぶってはいますがそんなに大したことはしてない………出来ないのでしょう。」

 

 

 

「聞こえてるぞ!?坊主!」

 

「俺達をなんちゃって悪だと!?」

 

「そんな可愛い……………おかしな悪呼ばわりするとは許せねぇ!!」

 

 

 

「………会話が疲れるね。」

 

「言った言葉に逐一逆上されるとそうもなります。」

 

 

 

「この人数相手に余裕寂々だなぁ。おい!」

 

 

 

「もっと多い数に囲まれたこともあるからね。

 お前らくらい囲まれたってなんともないよ。」

 

 

 

「たった二人で何が出来る!?」

 

「取っ捕まえてワクチンを絞り出してやる!」

 

「ここがお前達の墓場だ!」

 

「あの世に行って後悔するんだな!?」

 

 

 

「これって殺人予告だよね?」

 

「そう聞こえますね。」

 

「そっか、

 

 

 

 じゃあ、手加減はいらないね!」



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手配書の発行

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 リーゾアナ海にてクエストを終わらせた三人はカストルへと戻る。

 そこで漆黒の翼とワルディーの四人に絡まれてしまう。


安らぎの街カストル 裏路地

 

 

 

「こんなもんだろ。」

 

「ほとんどカオスさんが痛め付け………倒しましたね。」

 

 

 

「「「「や…やられたぁ………。」」」」

 

 

 

「さて、俺達が勝ったんだから何かいただかないとね。」

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

 

「ワクチンを奪おうとしてきたんだから奪われる覚悟くらいしてきてるよね?」

 

「(ワクチンなんて持ってませんけどね。)」

 

 

 

「お、おれは何も持ってねぇよ!?

 そ、そうこのフォースリングなんてそんな値打ちもんじゃねぇし!?」

 

「俺様のリフレクトリングなんて属性を半減するだけだぞ!?」

 

「俺が嵌めているフェアリィリングはただマナの消費を抑えられる程度のもんなんだよ!?」

 

「止めろ!このパラディンマントを剥ぎ取られたらその下はぁ!!?」

 

 

 

「盗人が盗まれるとは思わなかったの?」

 

「(なんで自分からそんなことを言っちゃうんだろう。)」

 

 

 

「よ、よせ!?

 何か別のものとか、ほら耳寄りな情報とかなら教えてやってもいいぜ!?」

 

 

 

「耳寄りな情報?

 どんな?」

 

 

 

「王都の消えた貴族達の隠し財産の在りかを示した地図の在りかとか、大怪盗カリスの盗み出した盗品があったと思われる廃墟とか、海賊王アイフリードの亡霊船が現れる海の海域とか!!」

 

 

 

「どれも曖昧だし俺達には必要ない情報だね。」

 

「素直に装飾品を頂戴しましょうか。」

 

 

 

「待て待て待て!?

 真面目に!次は真面目に言うから!!

 速報だぜ!?

 この街にも関係してることだ!

 明日新しい指名手配犯が張り出されるんだ!

 懸賞金一千万ガルドの大物の旨い話が!!」

 

 

 

「「!」」

 

 

 

「何でも騎士団だけじゃなくバルツィエの連中も動き出すほどの凶悪犯でソイツがこの付近に潜伏しているらしいんだ!

 一千万ガルドだぞ!?

 そうそうこんな高額な奴がこの近くに潜んでるなんて誰も思わねぇだろ!?

 嘘じゃねぇからな!?

 さっき捕まってたときに騎士の奴等が話してるのを聞いたんだ!」

 

 

 

「指名手配!?………だけど………。」

 

「お二人のお話ではそこまで高くつくとは思えません。

 お二人とは別の人でしょう。」

 

「ちょっと小突いただけだしそんな凶悪犯なんて言われるほどじゃあ………。」

 

「それでその指名手配犯はなんて名前なんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かカオスなんとかとアロなんとかの二人組だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「はぁ………、なんでそんなに高いんだよ(汗)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソイツらを捕まえればおれ達のこんな指輪なんていくらでも買えるぜ!?

 なぁ、おれ達で先にソイツらを捕まえねぇか?」

 

 

 

「簡単に言ってるけどその人の顔とか分かってる?」

 

 

 

「顔は分からねぇがおれ達が手を組めばそんな凶悪犯直ぐに捕まえて懸賞金もがっぽりだ!

 このギルドランク四のおれ様が特別にお前らを手下に加えてやるよ!

 悪い話じゃねぇだろ!?」

 

 

 

「どこにそんな自信が………。」

 

「行き当たりばったりとはまさにこのこと…。」

 

「この有り様で随分と上から目線だな。」

 

「しかももう捕まえたつもりでいますよ。」

 

「ていうか負けたのにボスの座は自分なんだね。」

 

 

 

「この時代情報が早い奴が勝つんだ!

 今からソイツを探し始めれば絶対におれ達が捕まえられる!

 だからこの指輪だけは勘弁してくれよ!?

 この指輪手に入れるのに何人から金を巻き上げたと思ってんだよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………情報有り難う。

 おかげさまで助かったよ。

 急ぐ用事が出来た。

 でも…。」

 

「有り難く指輪とマントは頂戴致します。」

 

 

 

「「「「イヤァァァ!!!!ヤメロォォォォォオオオォ!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 宿 夜

 

 

 

「…と言うわけなんだ。」

 

「私達にそんな高額が………。」

 

「だからカストルは今日まででレイディーさんの言う通り次の連絡港に向かおうと思うんだ。」

 

「ここにいてはいずれ手配書で捕まってしまいます。

 その前に明日一番でここを発つべきでしょう。」

 

「そうですね………その方がいいようですし。」

 

「ウルゴスは次の場所でも探そう。

 この街では何も見つからなかったけど次は絶体見つけよう!」

 

「………」

 

「捕まってしまったら終わりです。

 今は明日すぐ発てるように準備を急ぎましょう。」

 

「………二人共。」

 

「大丈夫だよ、三人で力を合わせれば見つかるから!

 俺達が絶対にアローネをウルゴスへ送り届けるから!」

 

「アローネさんのいたウルゴスはボク達の目的地でもあるんです。

 諦めずに頑張りましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!………そうですね!」

 

 

 

「「!」」

 

 

 

「何時までもぼーとしてるだけでは見つかるものも見つかりません!

 お二人がやる気を出しているのに当の本人がやる気を見せなければ示しがつきません!

 分かりました!

 次こそウルゴスを見つけるつもりで私も気合いを入れます!」

 

 

 

「アローネ!

 元気になったんだね!?」

 

「お二人のおかげです。

 私はずっと深く考えすぎてました。

 考えても私一人ではどうにもならないと言うのに。」

 

「そうだよ!

 考える前に先ず俺達を頼ってよ!

 俺達はいつだってアローネの味方なんだからさ。」

 

「何か思い悩むことがあるのなら力の及ぶ限りボクらがアローネさんをお助けします。」

 

「行きましょう!

 この街は名残惜しいですがもう十分分かりました。

 この街にはウルゴスの手懸かりはないのだと。

 

 

 

 ならば次に向かいましょう!

 たった一度探した街がダメでも世界のどこかに必ずウルゴスはありますから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても一千万ガルドですか………。」

 

「何を間違ったらこんな高額になるんでしょう?」

 

「騎士団とは揉めたけどそんなに悪いことはしてないよね?」

 

「私達はただあの場で捕まりそうになってそれを…。」

 

「騎士団とケンカしちゃっただけだよね。」

 

「あのワルディーとか言う男の聞き間違いなんじゃないでしょうか?」

 

「聞き間違いかぁ、あり得るね。」

 

「一千万も聞き間違い………一千万………一千万……………………一千億ガルド?」

 

「それだと上がっちゃってるよ!?」

 

「なら一千ガルド?」

 

「たかだかその程度の賞金首に手配書なんて作りませんよ。

 それにあのワルディーがあそこまで興奮して話すくらいです。

 高額なのは間違いないでしょう。」

 

「一千万から………間違いそうな………千万ガルド!」

 

「それだ!」

 

「だからそれだと懸賞金換わらないですって!?

 一千万が千万になって何が違うと言うんですか!?」

 

「そ、そうですね。」

 

「お二人のことですよ!?

 そんなのんきに額を気にしてても進展しません!

 問題なのは明日の朝刊でお二人がどれ程の情報を掴まれているかですよ!?」

 

「どれ程って?」

 

「カオスなんとか、アロなんとか………恐らく名前はフルネームでしょう。

 そして二人の顔も明日から全国的に広まるでしょう。

 もしかしたらここから王都までの街では既に知れわたっている可能性も。」

 

「顔なんてあの時の状況じゃあ分からないよ。」

 

「騎士団は未知のモンスターと遭遇することに備えてスペクタクルズは常備しています。

 お二人がそれで撮られていたのなら写真くらいは用意できている筈ですよ。

 それに指名手配犯は今まで例外なく写真はついています。」

 

「そうなの!?」

 

「そうです!

 ですからお二人は明日から外に出た際は顔を隠して歩かなければすぐに賞金稼ぎや騎士団に追い掛けられるはめになりますよ。」

 

「顔を隠すって………帽子でも被る?」

 

「それも手ですがどの程度の写真にもよりますね…。」

 

「顔………ですか?

 それでしたら問題は些細なものですね。」

 

「アローネさん?」

 

「私はあの村にいたときは少し髪形を変えていましたし化粧もしてませんでしたから人相はよく見なければ判別出来ませんよ。

 それに実はこの服には光の魔術の処方がされていて着ている人の人相を変化させるディープミストというものがかけられています。」

 

「!

 そう言えばアローネここに来てから少し変わったね。」

 

「………そうですか。

 そこまで自信があるのでしたら………残る問題はカオスさんですね。」

 

「俺は………どうしよう?」

 

「女性と違って男性のカオスさんは化粧しても変化は薄いですし例え化粧で変わっても化粧をしている男性は目立ちますよ。」

 

「注目を集めてしまいそうですね。」

 

「ならどうしたら………。」

 

「……!」

 

「いっそのこと髪を切ろうかな。」

 

「確かにカオスさんのその長い髪を切るのは手っ取り早いですが…。」

 

「そろそろ切ろうと思ってたからいい機会だよ。

 よし!早速鋏を「待ってください!」」

 

 

 

「カオスの顔ならなんとかなると思いますよ?」



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次の街へ2

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カストルでカオスとアローネの手配書が発行されることを知った三人はカストルを出ることを決めるがこのままでは捕まってしまうことを危惧する。

 そこでアローネが秘策を思い付くが…。


安らぎの街カストル 宿 早朝

 

 

 

「お待たせしました。

 朝刊ではカオスさんとアローネさんの顔写真が大々的にあげられてます。」ピラッ

 

「ごめんなタレス。

 こんなお使いみたいなこと朝から頼んで。」

 

「いいんですよ、これからの旅で大事なことですし、ボクから言い出したことです。」

 

「………写真はやはりミストにいたとき撮られたもののようですね。」

 

「あの時のアローネかぁ、こうして見ると随分変わって見えるねぇ。」

 

「女性は日進月歩変化しているものなのです。

 あの時の私とは違いますよ。」

 

「?

 髪や顔は変わってるけど?」

 

「………まぁ、いいでしょう。

 カオスにそういうところを期待しても仕方がありません。」

 

「それでアローネさんどうします?

 この写真ではカオスさんだと一目で気付かれますよ?」

 

「やっぱり髪を切った方が………。」

 

「安心してください!

 カオスの顔をたった一つのアイテムで変えて見せます!」

 

「「?」」

 

 

 

「これです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オハヨー

 

オースッ

 

キョウノニュースミタァ?

 

ニュース?

 

サイキンコノマチデミタヒトデテハイハンガイルッテ

 

テハイハン?

 

イッセンマンガルドノトウボウハンダッテ!

 

ホント!?コノマチニソンナヒトガイタノ!?

 

ソウ!シカモコノヤドニトマッテルッテ!

 

マジカヨ!?ダッタラヒトアツメテサァ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルカ街道 北部

 

 

 

「何の問題なく外に出られましたね。」

 

「だから言ったではないですか!

 私に任せれば何も心配はいらないと!」

 

「アローネの機転のおかげだね。」

 

「まさかこんな道具でこんなに印象が変わってしまうとは。」

 

「そうですよ!

 道具一つだけでも甘く見てはいけません!

 この道具だけで誰もカオスをカオスと分からなくなるのですから。」

 

「やり方は単純だけどそれだけでこんなにも効果があるなんてね。」

 

「人は意識して誰かを見ない限り人の記憶にはそうは残りませんから、あのギルドの店員さんと漆黒の翼以外の人がカオスに気付くなんてことはあり得ませんよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 宿 昨晩

 

 

 

「カオスの顔ならなんとかなると思いますよ?」

 

「アローネ?」

 

「何か秘策でも?」

 

「これです!」

 

 

 

「輪ゴム?」

 

「これをどうするのですか?」

 

「決まっているではないですか!

 輪ゴムの使い方といえば髪を纏めることです!」

 

「それはそうだけど…。」

 

「このようなものでは流石にそこまで印象は変わらないのでは?」

 

「まぁ、見ていてください。

 カオス、洗面台の方に行きましょう。」

 

「え?うん。」

 

 

 

「では少し頭を下げてもらえますか?」

 

「こう?」

 

「………アクアエッジ!」バシャァッ

 

「え!?うぼっ…!」

 

「やはり髪が濡れていると印象が大分変わりますね。」

 

「いきなり何するんだよ!?

 ってかアクアエッジじゃなくて洗面台の水かけただけじゃないか!?」

 

「動かないでください。

 こうして髪を一つに纏めて………。」

 

「?」

 

「おでこを出して後ろで髪を留めれば………ほら鏡を見てください!」

 

「?…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルカ街道 北部 現在

 

 

 

「まさかこんな簡単な手で誰にも分からなくなるなんて思わなかったよ。」

 

「カオスさんが出てきたときはボクも一瞬誰か判別出来ませんでした。

 オールバックで厳つい見た目になりましたね。

 それまでは田舎にいそうな、髪だけ長く伸ばした人の特徴でしたのに。」

 

「………田舎者で悪かったな。」

 

「この方がカオスのお顔もはっきりしますし今度からはこのスタイルで行きましょう!」

 

「それで助かるなら仕方ないか。

 ちょっと慣れなくて恥ずかしいし、髪が若干痛いけど。」

 

「今までのように髪でカーテンをつくるよりかはこちらの方がいいですよ?」

 

「アローネがそう言うなら………。」

 

「カオスさん、本当に別人ですね。」

 

「そう?」

 

「これならカオスさんをよく知る人でないと分かりませんよ。」

 

「そうだといいけど…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都 宿

 

 

 

「どうだった?ウインドラ。」

 

「………申し訳ありません。」

 

「そうか…。」

 

「お前が帰ってこれただけでもなによりだ。

 これ以上仲間を失うわけにはいかないさ。」

 

「あそこでは一体何があった?」

 

「奴等がひた隠しにする研究所にはダクトを通じて中には潜入できました。

 ですがそこでは行方不明になった囚人や奴等が捕らえたと思われる手配書の犯罪者やらが大勢檻に容れられていてワクチンの研究資料は発見できず………。

 それどころかあの地下にはワクチンを製造しているような施設は何処にも見当たりませんでした。」

 

「見当たらないだと……!?」

 

「あったのは多種多様に集められた生物の生態系を記した資料とそれに纏わる分布図、それから古い文献やマテオ、ダレイオスでもない何処かの国の言語で書かれた書籍本ばかりでした。

 ヴェノムに関する資料は残念ながら………」

 

「なら奴等は一体何処で研究をしているのだ!?」

 

「入念に練った作が空振りとなるともう打つ手がないぞ!?」

 

「奴等め!

 そんなものを秘密にして何がしたかったんだ!?」

 

「どうする?

 ダリントン。」

 

「………その生態系の資料は記録は撮ってあるか?」

 

「一応スペクタクルズにデータは録っておきました。」

 

「何も発見できなかった以上関連性のありそうなこれだけが頼りだ。

 現像して詳しく調べてくれ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バルツィエめ!

 ワクチンは一体何処から仕入れてくるんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが最後に知りたいことでいいの?

 ダリントン君?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと他の奴等も解散したね。

 働き蟻が家の周りをうろうろしていたから警戒はしていたんだ。

 仕事が終わったらやっぱり巣穴に帰るよね。」

 

 

 

「お前は!?

 フェデール=フォア・バルツィエ!?」

 

 

 

「詰めが甘いよ。

 お前達は常に一人一人に家の者から監視がついてるんだ。

 下らないことを画策したところでこういう事態を招くことは頭に入れておかないと。」

 

 

 

「くっ………!」

 

 

 

「ブラムがそっちについたようだけどだからと言ってお前達が動きやすくなる訳じゃないんだよ。

 暇な連中は沢山いるんだ。

 そいつらけしかけりゃお前らの同行くらい手に取るように分かる。」

 

「最初から全て読まれていたということか…!」

 

「そうだね。」

 

「一体いつからだ?」

 

「お前達と俺達に境界線が引かれた時からさ。

 まぁ、でもお前達はよくやった方だよ。

 そこは誇ってもいいぜ。」

 

「手のひらで踊らされて誇るも何もないだろう!」

 

「フフッ、悔しいかい?

 でもこれでお前達にいいアドバンテージを頂いちゃったね?

 お前の駒の行動はバッチリと監視カメラにも映ってるし研究所から出て下水道から出てきたところなんて………ほら。」

 

「!!………何だこの映像は!?

 何処から録っているんだ!?

 こんな近くで録られて気付かない訳が…!?」

 

「よく録れてるだろ?

 録られてる本人は録られてるとも知らずにねぇ。

 あぁ、気にしないで。

 これはお前の駒が鈍かったとかじゃないよ?

 例え誰であってもこれには気付かないよ。」

 

「何だと言うんだ!?

 オリジナルの知覚魔術でも編み出したか!?」

 

「これにはマナなんて使ってないよ。

 

 

 

 使っているのは機械という鉄屑さ。」

 

「キカイ………?」

 

「教えたところで理解はしないだろうね。

 そんなことより知りたいのはワクチンの製造場所だろ?」

 

「!」

 

「残念ながらお前らがいくら地上や地下を探し回ったところで見付かることはないよ。

 なんせ俺達はそんなところで薬を造っていないからね。」

 

「………まるで空にでも製造所があるような言い方だな。」

 

「その通りさ。」

 

「!?………だとしたら「だとしたら辿り着ける?」」

 

 

 

「人が空を飛ぶなんて爆風にでも乗らない限り無理。

 ついでに言うとそれで届くような場所にはないさ。

 なんならトーディアの頂上からトラクタービームで飛ばしてあげてもいいよ?

 最後のフライトになるけどね。」

 

「………それが俺の処刑方法か?」

 

「いいや?」

 

 

 

ドスッ

 

 

 

「………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この剣がお前を殺すのさ。」

 

 

 

「ゥ………ッ………どうして……おまえたち……は?

 アルバ………。」ガタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして…………か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてだろうね………」



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悪、再び

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 アローネの策によって無事脱出できた三人はレイディーから教えられた通り王子へと向かう。


オーギワン港 南

 

 

 

「ここがレイディーさんの言っていた連絡港だね。」

 

「連絡港と言うだけあって民間人は少ないですね。」

 

「ここには王都のある北部とカストルのある南部の物流地点なので運送業者の亀人達が多くいますね。」

 

「亀人?」

 

「あそこにいる甲羅を背負った人のことですよ。」

 

 

 

ウイッス、マイドドーモアリガトウッス

 

コンチワース、キョウハドンナモノヲオトドケデ?

 

オキャクサン、ソレハキノウトドイタバカリデシンピンッスヨ?

 

コレヲリトビアマデッスネ?ワカッタッス

 

オキャクサーン!オカネオカネー!?

 

 

 

「慌ただしい人達だね。」

 

「あの特徴的な口調は皆さん同じなんですね…。」

 

「あれが彼等の会社で統一されている喋り口調らしいですよ。

 マテオでは彼等の信頼できる営業とその徹底した口調スタイルから絶大な人気を誇り王都でも多くの人から支持されているそうです。」

 

「そりゃあんだけ特徴的なら覚えやすそうだしね。」

 

「インパクトはありますが馴れてしまえば可愛く見えてきますね。」

 

「実はカストルにもいましたが彼等は道具屋も営んでいるようなので街を訪れた際は彼等からアイテムは購入しましょう。」

 

「え?あの街に?」

 

「レイディーさんに会った次の日にボクが確認しました。」

 

「タレスはアイテムを補充に行ってましたね。」

 

「あぁ、あの日か………。」

 

「亀人の会社は横領の話が一切上がらないクリーンなグループなので何か運んでほしいものがあったら頼んでみるのもいいですよ?」

 

「けど大丈夫なの?

 なんか………山賊とかに襲われそうな緩さがあるけど。」

 

「その点は心配ないですよ、彼等は………」

 

 

 

ドゴーン!!

 

 

 

オキャクサン、オカネハラワナイトダメッスヨ?

 

 

 

「彼等はこのように山賊ぐらい追い払えるくらい強いですから。」

 

「そうなんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「船にはどう乗るんだろう?」

 

「受け付けが何処かにあるのではないですか?」

 

「こればかりは探さないといけませんね。」

 

「とりあえず船の近くまで行ってみようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、乗船なさるのですか?」

 

 

 

「え?は、はい。」

 

「ではあちらの方で手荷物の検査をしましょうか?」

 

「検査?」

 

「貴方は?」

 

「この度亀人グループで新人採用れた亀人のハンキチです。

 どうぞハンキチとお呼びください。

 まだ研修中なので船の乗組員ではありませんが検査員としてこの持ち場を任されているんですよ。」

 

「そうなんですか。」

 

「貴方は他の亀の方と違って喋り方が普通ですね。」

 

「へ?あ、そ、そうなんっすよ!

 まだ採用されて日が浅いので馴れてないんすよ!」

 

「(カメキチ………?)」

 

「さぁさ!此方の方へどうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「どうしたのタレス?」

 

「いえ、気のせいだといいのですが………。」

 

「どうかなさったのですか?」

 

「タレスが気になることがあるって。」

 

「タレスが?」

 

「………何でもありません。

 検査を受けに行きましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「船から離れていますけどこんなところで検査するんですか?」

 

「人も少ないようですが……。」

 

「検査要員は雑用みたいなもので他の雑………先輩方は」向こうの方で他の仕事をしてるっす。」

 

「あぁ、そうなんですね。」

 

「(………ザ?)」

 

「ではお持ちものをこちらへっす。」

 

「持ち物って木刀とかもですか?」

 

「船内へは危険物の持ち込みは禁止してるっす。

 あちらの港へ着いたらまとめてお返しするっす! 」

 

「そっか、じゃあはい。」ガラガラ

 

「私も。」トッ

 

「………」ガタッ

 

「………ではこのゲートを潜ってもらえるッすか?」

 

「?この四角いのを潜ればいいの?」

 

「はいッす。」

 

「じゃあ…」

 

 

 

「………OKっっすね、………(チッ!)」

 

「では私も………」ビィィィィ

 

 

 

「お客様、何か武器になるようなものをお持ちでないッすか?」

 

「え!?もう何も持ってませんよ!?」

 

「このマナ検知器はエルブンシンボルやその他の装備品も関知するんすよ。

 申し訳ないッすけど外してまた潜り直していただけやす?」

 

「………そういうことでしたら………分かりました。

 あの、………着替え室とかありますか?」

 

「え?着替え室?」

 

「服の中に着けているものに反応しているので……。」

 

「………あ!あぁ、なるほど!

 ここにはそういうのないんであっちの物陰で外してきてもらえまっす?」

 

「(この声………!)」

 

「誰も覗かないように見張ってるから安心してアローネ。」

 

「………では。」

 

「アローネさん。」

 

「どうしましたタレス?」

 

 

 

「少し時間をかけて戻ってきてもらえますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではボクも……ダメみたいですね。」ビィィィィ

 

「そうっすね。

 ではお手のエルブンシンボルをこちらに。」

 

「………」ガタッ

 

 

 

「これで武器類は全部っすか?」

 

「はい。」

 

「ボクもです。」

 

「そうっすかぁ………それではこちらは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 有り難く頂いていくぜ!!」バリッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!」」

 

 

 

「おっと、動くな?

 こっちにはエルブンシンボルと武器があるんだ。

 二人がかりだろうが俺様の方が優位だ。」

 

 

 

「お前は…サハーン!?

 どうしてここに!?」

 

「聞き覚えのある声だと思ったら………やっぱり!」

 

 

 

「決まってんだろ。

 俺も北に向かうからだよ。」

 

 

 

「北に?

 お前も船に乗るってことか!?」

 

 

 

「あぁ、誰かさんのせいで南の方の警戒網が手厚くなっちまったからなぁ。

 ここらで騎士団の連中撒くにゃあ北の方がやり易いんだよ。」

 

 

 

「警戒網?それって………。」

 

 

 

「そうだ、お前のせいだよ。

 カオス=バルツィエ。」

 

 

 

「!」

 

 

 

「何でお前がバルツィエを名乗っているかは知らねぇがこっちはいい迷惑だ。

 騎士団連中に付け狙われてるってのにエルブンシンボルも奪っていきやがってよぉ。」

 

 

 

「それはお前が悪党だからだろ!?」

 

 

 

「それを言うならお前らも相当なもんだぜ?

 この俺を越える一千万の賞金首様よぉ。」

 

 

 

「俺達は………。」

 

 

 

「お前らの事情なんざ知ったことか。

 髪型変えたくれぇじゃあ俺の目はごまかせねぇぜ素人共。

 大人しく捕まりやがれ。」

 

 

 

「俺達をどうするつもりだ!?」

 

 

 

「決まってんだろ?

 こうして目の前に大物が釣り上がったんだ。

 てめぇらを騎士団にくれてやるんだよ。」

 

 

 

「そんなことしたって同じ賞金首のお前も捕まるだけだぞ!」

 

 

 

「そこは気にするとこじゃないぜ?

 なんせ俺は『百面相のサハーン』。

 パンピーに成り代わるなんざお手のものよ。

 テメェラも見抜けなかったろうが。」

 

 

 

「変装するつもりなのか!」

 

 

 

「さて!知らねぇガキがいるようだが………

 おいガキ!お前がコイツでその男を縛れ!

 妙なこと考えるなよ!」ジャラッ

 

 

 

「………」ハシッ

 

 

 

「よしさっさと「孤月閃!」ガッ!?」ブン

 

 

 

「タレス!」

 

「カオスさん木刀です!」ホイ

 

「助かる!」

 

 

 

「………痛ぇな。

 ガキ、何で技を使える?」

 

 

 

「浅かったようですね。」

 

「これで形勢は五分だ!」

 

 

 

「お前ら………どっかイカれてねぇか?

 今の斬撃はマジックアイテム並の力を感じたぞ。」

 

 

 

「ワザワザ教えてあげる仲でもないだろ?」

 

「貴方はここで倒します。」

 

 

 

「舐めやがっ「ウインドカッター!」」ザシュッ

 

ガタタタンッ

 

 

 

「もう一人お忘れではなくて?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつどうする?」

 

「武器も装備品も取り返しましたし人目につくところに置いておけば誰かが騎士団に連れていきますよ。」

 

「貴方もこれで改心していただけると此方も手を下さずに済むのですが………。」

 

 

 

「ちょっと見ない間に化け物染みたなぁ。

 この俺が反応できなかったとは。

 あのド素人共がここまで腕を上げてるなんてなぁ………。」

 

 

 

「ある意味じゃあお前のおかげだよ。」

 

「それでは大通りの方へと連れていきましょう。」

 

 

 

「まぁ、待てよお前ら。」

 

 

 

「何だ?

 今更止めてくれとか言わないよな?」

 

「もう貴方には騙されませんよ?」

 

 

 

「俺を連れていったところで俺がお前らのことを周りの奴等に白状したらどうなると思う?」

 

 

 

「それは…。」

 

 

 

「最悪船が出なくなるぜ?

 お前らもあっちに渡りてぇんだろ?」

 

 

 

「脅すつもりか!?」

 

「だったらこの場に置いていくだけですよ。」

 

「貴方にはもう悪事をさせません!」

 

 

 

「そうかっかすんなよ。

 別に俺も本気でそうしてぇんじゃねぇんだ。

 素直に話を聞いた方が全部上手くいくんだよ。」

 

 

 

「何が言いたいんだお前は。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と手を組まねぇか?」



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オーギワン港横断

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 オーギワン港についた三人は船に乗ろうとするがそこで怪しげな亀人に出会う。

 その亀人はかつて戦いを挑んだサハーンであった。


オーギワン港 南

 

 

 

「お前と手を組むだって?」

 

 

 

「そうだ、悪くねぇ話だと思うがな。」

 

 

 

「そんなことをして俺達にどんなメリットがあるというんだ。」

 

「貴方のように仲間を屋敷ごと葬るような人を信用出来ません。」

 

 

 

「だから言ってんじゃねぇか。

 手を組むだけだって。」

 

 

 

「………どういうことだ?」

 

 

 

「このままお互いに睨みあってても埒があかねぇ。

 お前らだけ得するようなことすりゃ俺は迷わずお前らをこの港の騎士団にバラす。」

 

 

 

「コイツ………。」

 

 

 

「要はお互いにデメリットの解消するんだよ。

 俺は向こうに渡りたい。

 お前らもあっちに行きたい。

 なら別に俺とお前らで争うようなコタぁねぇ筈だ。」

 

 

 

「よく言えるねそんなことを。」

 

「さっきまでボク達を売り飛ばそうとしていた人のセリフとは思えませんね。」

 

 

 

「お前らが俺に食われちまうような雑魚だったらこんな話をしねぇさ。

 だがお前らくれぇ強いなら話は別だ。」

 

 

 

「どうして強いと別なんだ?」

 

 

 

「言ったろ?

 お前らがこの辺りにいるせいで賞金稼ぎや騎士団がピリピリしてんだ。

 もしそいつらに見つかった場合戦闘は避けられねぇ。」

 

 

 

「なるほど、お前は僕達を囮にして逃げるつもりなんだな。」

 

 

 

「俺が見つかった場合お前らが逃げればいい。

 船の中でバレたらどっちかがそうなる。

 つまりは保険の掛け合いってこったなぁ。」

 

 

 

「お前が俺達だけを戦わせたいように聞こえるんだけど?」

 

 

 

「俺も賞金首だ。

 そんな手使える訳ないだろ。

 それに賞金の額から言ってお前らよりも俺の方が簡単に捕まえ易いと狙ってくる奴は多いだろ。」

 

 

 

「そんなのお前の想像じゃないか。」

 

「貴方がいつ組んだ手を外すか分かったものじゃありません。」

 

 

 

「いいのか?

 ここで船に乗れなかったらもう王都には行けねぇぜ?

 オリュンポスから回るつもりならそれこそバルツィエが通さねぇぞ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「あっちに渡りたいと言うのならお前らは俺と手を組むしかねぇンだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーギワン港 船内

 

 

 

「それではしばし船の旅をお楽しみください。」

 

 

 

「………案外普通に乗れたね。

 手荷物検査なんてなかったじゃないか………。」

 

「貴方が変装の名人だと言うことは分かりました。」

 

「ふん、お前ら髪型と化粧程度でよくバレねぇなんて思ったな。

 俺がいなかったらそのうち捕まってるぞ?」

 

「だからって服装まるごと買わされるなんて………。」

 

「テメェラの服装なんだから文句言うな!

 手配書をよく見やがれ。

 服装も変えねぇと何が引っ掛かるか分からねぇ。

 別人を装うなら一転でも同じところを残しちゃいけねぇのさ。」

 

「それはそうですが………。」

 

「幸い手配書が作られてるのはお前ら二人だけだ。

 こっちのガキの分が作られてなくてよかったな。

 ったくどこでこんなガキ拾ってきたんだか。」

 

「………ボクのことを覚えてませんか?」

 

「あぁ?お前みてぇな強いガキなんざ知るか。

 初対面だろ。」

 

「そうですか………。」

 

「「………」」

 

「それより船にも乗れたことだしここからは別行動だ。

 騒ぎを起こすんじゃねぇぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか船には乗れたけどこう緊張した状況だと素直に楽しめないね。」

 

「周りの視線が気になって海を眺める隙もありません。」

 

「あまり視線を気にしていてもかえって怪しまれます。

 堂々としていればバレませんよ。」

 

「そうかな?」

 

「そうです。

 お二人とも手配書の顔とは完全に別人ですよ。

 これでバレるとしたらお二人のことを知っている人だけですよ。」

 

「それならいいんだけど………。」

 

「それよりもサハーンが気になります。」

 

「………あの方が大人しくしていてもらえると助かりますが。」

 

「あの人のことですから船を降りるまではなにも起こさないでしょう。

 降りてからは警戒しておいた方がいいですよ。

 さっきまではボク達を捕まえて騎士団に引き渡す計画を立ててましたからそれを素直に諦めるとは思えません。」

 

「とすると………。」

 

「降りるまではなるべくサハーンの同行を見張っておくべきでしょう。」

 

「じゃあ、サハーンを追い掛けないと…。」

 

「手分けして探そう。

 あいつを一人にしておくとだれに迷惑をかけてるか分からない。」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サハーンいた?」

 

「どこにもいませんね。」

 

「私も探してみましたが見付かりませんでした。」

 

「まったくどこに行ったのやら…。」

 

「もう陸も見えてきたというのに………。」

 

「………探して見つからないのならそれでいいじゃないか。

 今はこのあとのことを考えよう。」

 

「それもそうですが………。」

 

「あの男がこのまま何もトラブルを起こさず隠れてるなんてありえません。

 何か妙な企てを計画しているはずです。」

 

「どうしてそんなことが分かるの?」

 

「え!?どうしてって…。」

 

「タレスはあの男のもとにいたのですよ。

 それくらい想定できて当然です。」

 

「そ、そうなんだぁ、へぇ…。」

 

「カオスさん?」

 

「な、何でもないよ。

 一先ずは何もなさそうだし、このままでいいんじゃない?」

 

「そうだといいんですが………。」

 

「………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ付きますね。」

 

「………」

 

「サハーンは出てきませんでしたね。」

 

「そうみたいだね。

 ところで二人ともちょっと付いてきてほしいところがあるんだ。」

 

「付いてきてほしいところ?」

 

「どうしたのですか?」

 

「………サハーンらしき男を見つけたんだ。」

 

「え!?」

 

「しッ!

 気取られるとまずい。

 視線をこのままにしてて。」

 

「は、はい。」

 

「………どの人がサハーンですか?」

 

「確証がない。

 このまま船を降りるまではそのままでいて。」

 

「はい………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーギワン港 北

 

 

 

「もう降りましたけど。」

 

「カオス、一体どなたがサハーンだと言うのですか?」

 

「………」

 

「カオス?」

 

「カオスさん?」

 

「それは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガァァァァァァァァォァァン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

「何事ですか!?」

 

「チィッ!あの野郎!」タッタッタッ!

 

「どこに行くのですか!?カオス!」

 

「待ってください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナンダ、ナニガバクハツシタッスカ?

 

キュウニカモツシツガ!

 

カモツシツッスカ!?

 

ナカニダレカイルッスヨ!?

 

イソイデヒヲケスッス!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体何が起こったのですか!?」

 

「まさか、サハーンが?」

 

「騒ぎを起こしたくないと言っていたのは彼ですよ!?」

 

「………」

 

「とりあえず火を!

 アクアエッジ!」バシュッ

 

「……!」ガッ

 

「カオス!?どうして止めるのですか!?

 このままでは船が!」

 

「いや、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これでいいんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネ伏せて!魔神剣!」ザザッ!

 

 

 

「「!!」」

 

「おっと、アブねぇなぁ。」スッ

 

 

 

 

 

「え!?カオスが二人!?」

 

「サハーン!?」

 

 

 

「………大人しく縄にくるまってりゃいいものを………。」

 

 

 

「そう言うわけにはいかないさ。

 まさかこの短時間で俺にも変装されるとは思わなかったよ。」

 

 

 

「ハハッ、お前が俺の後を付けてくるのが悪ぃのさ。

 

 

 

「どうやらまだ二人は無事のようだね。」

 

 

 

「あぁ、お前が暴れなけりゃこのままつきだしてたとこだったんだがな。」

 

 

 

「俺がそんなことさせる訳ないだろ?」

 

 

 

「………まぁ、いい。

 お前らを捕まえるのはまたにしといてやる。」ザッ

 

 

 

「待て!何処にいくつもりだ!?」

 

 

 

「お前らも逃げた方がいいぞ?

 亀共と騎士団二つを相手にするのは骨が折れるぞ。」タッタッタッ!

 

 

 

「クソッ!

 二人とも大丈夫!?」

 

「え、えぇ、私達は大丈夫ですが…。」

 

「いつの間にサハーンと入れ替わってたんですか?」

 

「その話は後だ!

 ここにいたらサハーンの言う通り捕まッちゃうよ!?」

 

「わ、分かりました。」

 

「それでは港を離れましょう!」



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要塞都市イクアダ

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 オーギワン港にてマテオの北側へと到着するがその過程で騒ぎを起こしてしまい三人はオーギワン港から脱出するのであった。


トボール道

 

 

 

「ハァ、ハァ…!」

 

「ハァ、……ここまで来れば安全ですね。」

 

「ハァ、ハァ、………そうだね。」

 

「一体何があったんですかカオス?」

 

「………サハーンを探そうって話になった後、すぐにサハーンを見つけたんだけど、サハーンが貨物室に逃げ込んでそれで………。」

 

「それで?」

 

「気が付いたら貨物室に閉じ込められててサハーンはいなくなってたんだ。

 どうしようかと迷ってたんだけど変な音がする荷物を見つけてね。

 それを調べようとして持ち上げたらうっかり手を滑らせて………あぁなった。」

 

「荷物が爆発したのですか!?」

 

「………よく無事でしたね。」

 

「自分でも不思議だよ。

 手を滑らせようとしたときに膝で蹴っちゃって外の扉にぶつけちゃったんだけどその瞬間その荷物が爆発したんだ。」

 

「何故荷物が………?」

 

「恐らくはサハーンでしょう。

 ボク達がこの港を通らなかった場合、予めセットしていたのでしょう。」

 

「そうだと思うけど何でサハーンはあんなものを持ってきてたんだ?」

 

「あれが本当のサハーンの保険というやつだったんでしょう。」

 

「……そうか、騎士団に正体がバレたときにあの荷物の爆発に乗じて逃げる手筈だったんだな。」

 

「それをカオスが爆発させてしまったと?」

 

「そういえばオーギワン港でサハーンがボク達を売り渡す話をしてましたよね。

 さっきカオスさんに成り済ましてたのは………。」

 

「そこまで言えば私でも分かります。

 私達は危うく彼に投獄させられるところだったのですね。」

 

「アイツ………油断も隙もないな。」

 

「手を組むと言った矢先にアイツに踊らされてるなんて………。」

 

「今度からは奴の口車には乗らないようにしましょう。

奴が現れそうなところでもなるべく離れないように。」

 

「それがいいね。

 まさかあんな短時間で変装まで出来るなんて。」

 

「最初に服を一新させたのもそのためだったのでは?」

 

「言ってたことは正論だったから気付けなかったよ。

 そんな魂胆があったなんて。」

 

「それにしてもこれからどうなりますかね。

 あのオーギワン港の一騒ぎがどのようにこの北部に伝わるのかが。」

 

「?」

 

「さっきの一件でカオスさん達の顔がおおやけにならないかが心配です。

 あれだけのボヤ騒ぎの現場にいたんですから真っ先にカオスさんがあの火元の犯人だと疑われてしまいます。」

 

「あぁー………やっぱりそうなる?」

 

「事情が事情なためあの場に残って説明も出来ませんでしたからあの火事の容疑者として亀人達には伝わっていると思います。」

 

「そうなりますと暫くあの港へは近付けそうにありませんね。」

 

「もう南部へは戻れないってことか。」

 

「………よろしいのですかカオス?」

 

「もともとこっちに来たくて来たんだ。

 今は別に戻る理由もないしいいさ。

 そのうち戻るのならその時考えよう。」

 

「………そうですか。」

 

「それよりもこれからだよ。

 タレス、ここから王都まではどのくらい?」

 

「そうですね、………地図によりますと一つ街を挟んで、そこから二日くらいでたどり着きそうです。」

 

「そうか、なら先ずはその街に向かう必要があるわけだね。」

 

「はい。」

 

「その街はなんという街なのですか?」

 

「えっと………あっ。」

 

「タレス?」

 

「………アダです。」

 

「え?」

 

 

 

「………イクアダです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

要塞都市イクアダ 南門

 

 

 

「ここがイクアダ?」

 

「そのようですね。

 要塞都市らしい立派な壁があるのでここがイクアダで間違いありません。」

 

「………」

 

「アローネ?」

 

「………似ています。」

 

「似ている?」

 

「ここは………ウルゴスに似ています。」

 

「!………だったら!」

 

「いえ、似ているだけでよく見れば違います。

 作りも違いますし城もないようですし。」

 

「………そっかぁ。」

 

「………ですが、この………何でしょう。

 何か………何か感じるのです。

 この都市の作りが私の………ウルゴスと近しい何かを。」

 

「近しい何か?」

 

「ダレイオスでもこのような堅牢な要塞はありますからね。

 国の砦は何処も同じような建て方になると思いますよ。」

 

「………」

 

「ここを抜ければ次はいよいよ王都です。

 お二人は手配書のこともあるので長居は危険です。

 アイテムの補充をしたら直ぐにでもここを発ちましょう。」

 

「その方が良さそうだね。

 ゆっくりとウルゴスについて聞く暇もないけど………。

 アローネもそれでいい?」

 

「………はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………何故でしょう。

 私の推測が正しければウルゴスは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのにどうしてこんなにもアインスと………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

要塞都市イクアダ 中央部

 

 

 

「もうここには用はないよね?」

 

「はい、今のところ追手もありませんし。」

 

「カオスさん達は手配書とは雰囲気が違いますからそうそう誰も気付かなかったようですね。」

 

「そうだと嬉しいんだけど………。」

 

「………この街にはあの子がいましたから早くに通りすぎたいですね。」

 

「………ニコライト=ゼン・バルツィエ………。」

 

「この街にいる人の中でお二人と唯一面識がある子です。

 あの本の少しの時間で今のお二人を見抜くことは出来ないとは思いますが………。」

 

「彼の街らしいからね。

 出来ればいろいろな意味で戦闘にはなりたくないんだけど………。」

 

「彼の戦闘力は目を見張るものがありますからね。

 話せば朗らかな少年ですが、戦うとなると………。」

 

「相当に強いだろうね。」

 

「バルツィエですし、それは間違いないかと。」

 

「………けどさ、どうしてあんなに強いんだろうね。」

 

「?………どういうことですか?」

 

「だってさ、子供なのにたくさんのモンスターやヴェノムを一撃で倒すなんて大人でも出来る人なんてそうはいないよ?」

 

「それはまぁそうですがバルツィエだからとしか………。」

 

「どうしてバルツィエの関係者はあそこまで強くなるのさ?」

 

「………修練の結果身に付けた強さだと………。」

 

「!、いえ、タレスも前に言っていたではないですか。

 あのニコラという少年のことを!

 動きに無駄があるようなことを!」

 

「言いはしましたけど…。」

 

「タレスの街を襲った方々は皆大人だったのですよね?」

 

「……記憶にある限りは。」

 

「………血縁がいいからとしてもなんか異常じゃないか?

 俺もバルツィエのことをよく知らないけどいくらなんでも人が持つ力を越えすぎている気がするよ。」

 

「そうですね。

 ブーストアイテムを付けてたとしても常人には追い付けない力………。

 何か異様なものを感じます。」

 

「この国ではバルツィエは強くて追い付けない存在として常識化されてますからね。

 言われてから気付きましたが確かにあのニコライトとかいう子は他のバルツィエよりも不自然です。」

 

「高過ぎる武の才能か………。」

 

「バルツィエの内情も気になりますけど今は出会わないことを祈るばかりですね。」

 

「それなら助かるんだけどなぁ。

 どこで見られてるか分からない。

 一応はアローネも気を付けてて。」

 

「はい、私とカオスはなるべく誰とも揉め事を起こさないように端の方を歩きましょう!」

 

「その方が良さそうですね。

 ではボクがお二人の前で先導します。」

 

「有り難うタレス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?あの三人組は………。」



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バルツィエの剣

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 王都に向かうためオーギワン港を抜けイクアダを通り過ぎようとするが…


要塞都市イクアダ 北門

 

 

 

「後はあの門を抜けるだけです。

 そうすれば出口ですよ。」

 

「ニコライトはいなかったみたいだね………。」

 

「これだけ大きな街です。

 そうそう子供の目に見付かるようなこともないでしょう。」

 

「どうやら何事もなく抜けられそうだね………。」

 

「………おかしいです。」

 

「どうしたの?」

 

「いくら国内と言ってもここは要塞都市として有名な場所です。

 それなのに見張りがいません。」

 

「………確かに。」

 

「見張りどころか通行人もいませんね。」

 

「街の中にはいるようだけど………

 何かあるのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ!この間ぶりだね。

 お兄さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひどいなぁ、せっかくイクアダに来たのにぼくに会わずに行こうとするなんてぇ。」

 

 

 

「ニコライト!?」

 

「どうして貴方が………!?」

 

「………!」

 

 

 

「お兄さんもバルツィエだったんだね。

 ならぼくのお兄ちゃんってことになるのかな?」

 

 

 

「!………変装は完璧だったはず………。」

 

「どうして私達が手配書の人物だと分かったんですか?」

 

 

 

「え?

 だってそこのお兄ちゃんがいるってことはこの間の人達でしょ?

 それくらいぼくにも分かるよ。」

 

 

 

「そこの………?」

 

「お兄ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ボクですか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この間は三人でオリュンポスにいたよね。

 最初は人違いかと思ったけどそこの小さなお兄さんだけは変わってなかったから直ぐにそっちの二人もあの時のお兄さん達だって分かったよ。」

 

 

 

「………盲点だったな。」

 

「手配書に気をとられてこういう偶然があることを見落としてました………。」

 

「スミマセン、ボクも変装すべきでしたね。」

 

「………いいよ、もともと追っ手がいるのは俺達だからね。」

 

「タレスはする必要はなかったですからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてニコライト、

 そこを通して欲しいんだけど?」

 

 

 

「どうして?」

 

 

 

「私達は王都に向かわねばなりません。

 その門を通りたいのです。」

 

 

 

「ん~?

 そうなんだぁ~。

 

 

 

 けどダメだなぁ。」

 

 

 

「………何故でしょうか。」

 

 

 

「この間言ったよね?

 イクアダに来たらぼくと遊んでって!

 それにねお兄さん達を見つけたらぼくのお兄ちゃん達から言われてるんだ。

 逃がすなって。」

 

 

 

「!………俺達を捕まれるつもりか!?」

 

 

 

「違うよぉ~?

 ぼくが言われてるのはやっつけろって言われてるんだぁ~。

 

 お兄さん達ぼくの家を潰そうとするとんでもない悪者だってね。」

 

 

 

「手配書は生け捕りだけだと記載されてますが?」

 

 

 

「ん~、よく分からないなぁ。

 ぼくも前に聞いてみたけどやっつけた方が街の人達も安心だって言われててねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それにねぇ、今日は一人で来てるんだけど、お兄さん達をここでぼく一人で倒せたらお兄ちゃん達からいっぱい誉めてもらえると思うんだぁ~!」チャキッ

 

 

 

「「「!!」」」

 

 

 

「だからさぁ、お兄さん達もぼくにやっつけられてね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神拳!」ザザザザッ!

 

 

 

ザザザッ!

 

 

 

「まさかとは思ったけど肉弾戦タイプか!

 素手で魔神剣を撃つなんて!」ガッ

 

 

 

「カオス!『我らに力の加護を!シャープネス!』」パァァ

 

 

 

「有り難う!

 ………子供相手に剣を抜きたくないんだけど!」

 

 

 

「そんなことを言ってられません!

 そこらの子供とは比べ物にならないくらいの戦闘力です!

 油断してるとこっちがやられますよ!」

 

 

 

「分かってるよ!」ダッ

 

 

 

「カオス!?」

 

 

 

「こうして捕まえてしまえば「ダメです!カオスさん!」………」ガッ

 

 

 

「何してるのお兄さん?」

 

 

 

「何って!これなら技なんて使え「軽岩砕落撃!!」うぉぉお!!?」ブンッ

 

 

 

 

ドゴォォォォォオオオォォォオオオオオオッッッ!!!

 

 

 

「……ッッッハ!………」

 

 

 

「「カオス!」さん!」

 

 

 

「あれぇ?お兄さん、本当にバルツィエの人なの?

 こんなの家のお兄ちゃん達なら余裕で受け身とれるよ?」

 

 

 

「………ッフゥ………。」バッ

 

 

 

「なんか期待してたほど強くないんだねお兄さん。」

 

 

 

「………そりゃゴメンね。

 何分君達と違ってデキが悪い生まれなんでね。」

 

 

 

「そんなんでバルツィエを名乗ってるの?」

 

 

 

「………別に君達を意識して名乗ってる訳じゃないよ。

 この苗字は家族譲りだ。」

 

 

 

「ふ~ん、じゃあその家族が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弱かったんだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「」ダッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッキィィィィィンッ!!

 

 

 

「お?

 急に速くなったね?」

 

 

 

「君は大切な人を馬鹿にされて嫌になったりしないの?」

 

 

 

「?

 馬鹿にするならぶっ飛ばしちゃえばいいんじゃないの?」

 

 

 

「………そうか、君達バルツィエは本当にそんな考えしかないんだね。

 

 

 

 だったらもう手加減は、しない!!魔神剣!!」ザザザッ!

 

 

 

「!魔神剣………?

 やっぱりお兄さんはバルツィエなんだね?

 ハハハ嬉しいなぁ。」ザンッ!

 

 

 

「カオスの魔神剣を斬った!?」

 

 

 

「カオスさん!助太刀します!」ブンブン、シュッ

 

 

 

「おわ!ちょっと!邪魔しないでよ!」ジャララララッ!ガッ!

 

 

 

「そういう訳にはいきません!

 このまま孤月閃!」ブンッ

 

 

 

「おぉ~、っと!

 今の面白いねぇ!」スタッ

 

 

 

「肉弾戦タイプですので空中のリカバリングは軽くこなしてきますね。

 ウインドカッター!」シュバッ!

 

 

 

ザンッ!

 

 

 

「魔術を斬った!?」

 

 

 

「こんな弱っちぃマナじゃあ全然つまらないよ。

 もっと激しく出来ないのお姉さん?」

 

 

 

「私の力では傷一つつけられないようですね………。」

 

 

 

「………なんか剣のお兄さん以外は大したことなさそうだね。

 邪魔だし先に終わらせよっか。」

 

 

 

「「!」」

 

 

 

「アローネ!タレス!下がって!!!」

 

 

 

「遅いよ?」ヒュッ

 

 

 

「なッ「ほい!」」ズバッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

「タレス!?」

 

 

 

「は……………………………い…………………?」

 

 

 

「タレスゥーーーーーーーー!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後もう一人だね。」

 

 

 

「………!!お前ェェッ!!なんてことをォォォッ!!」

 

 

 

「えぇ?

 一人減らしただけじゃ~ん?

 そんなに怒ること~?」

 

 

 

「タレス!?しっかりして下さい!

 タレス!!

 ………『癒しの加護を我らに!ファーストエイド!』」

 

 

 

「ありゃ?

 ………なんだ、これで一対一になったね。

 やろうか?

 お兄さん?」

 

 

 

「お前ェェェェッッッ!!!」ダダダッ!

 

 

 

「お?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隙だらけだよお兄さん?」ヒュッ

 

 

 

「アァァァァッッ「ほら?」ァァァッ………」ザンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス!?

 

 

 

カオスゥゥゥーーーーーーーーーーーーーー!!!?」



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初めての剣術

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 イクアダへと到着しいざ出口へと差し掛かろうとしたときオリュンポス山で出会ったニコライトに止められ戦う。

 だがニコライトの素早さに翻弄されカオスは…。


 

 あれ?

 

 

 

 今何をしてたんだってけ?

 

 

 

 ……………

 

 

 

 思い出した。

 

 

 

 これから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんと稽古する予定だったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秘境の村 ミスト 十三年前

 

 

 

「何?

 剣術を習いたいだぁ?」

 

 

 

「うん!」

 

 

 

「急にどうしたんだよカオス。」

 

 

 

「おれ強くなりたいんだ!

 誰にも負けないくらい強く!」

 

 

 

「………まぁた回りの連中にいじめられたのか?」

 

 

 

「………うん。

 アイツらおれのことを使えない弱虫だって言って………!

 何度も何度も………!」グスッ

 

 

 

「そうかぁ………。」

 

 

 

「だからおれおじいちゃんみたいに騎士なりてぇ!

 強くなって騎士になってアイツらをボコボコにしてやる!」

 

 

 

「カオス、そこは間違えるなよ?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「騎士ってのは皆を守るのが仕事だ。

 いじめられたからってお前をいじめるザック達をボコボコにしていいものじゃない。」

 

 

 

「けどアイツは悪いやつだぞ!?」

 

 

 

「人生そのうち気に入らねぇやつなんてゴロゴロ出てくる。

 俺はお前の味方のつもりだが、かといって何でもかんでもお前とケンカしてるだけのやつを悪者だとは思わねぇ。

 単純にお前が右で相手が左を向いてたっつーだけだ。

 その逆かもな。」

 

 

 

「でもぉ………。」

 

 

 

「まだ子供のお前には早すぎたか。

 納得はしないでいいぜ、そのうち分かるようになる。

 今はお前がどうするかだったな。

 ………剣術やってみるか?」

 

 

 

「………うん。」

 

 

 

「カオス、お前はザック達が言うようにマナが殆どない。

 剣術を身に付けたところで戦闘には不向きかもしれない。

 ………それでもやるか?」

 

 

 

「やるよ。」

 

 

 

「本当か?」

 

 

 

「やるよ………

 

 

 

 だっておれはおじいちゃんのように強くて優しくて皆を守れるようになりてぇんだよ!」

 

 

 

「………!」

 

 

 

「ムカつくけどザック達も守ってやるくらい強くなればいいんだな!

 そうすればおれのことをいじめてこなくなるし!」

 

 

 

「そうか………分かった。

 動機は不純だが切っ掛けはなんだっていい。

 

 

 

 剣術指南してやるよ…。」

 

 

 

「ほんとか!?」

 

 

 

「あぁ、だが俺の教えはちっとつれぇーぞ?

 お前の親父も昔俺のとこに来て教えてくれって頼み込んできたが途中で折れちまったよ。」

 

 

 

「お父さんが?」

 

 

 

「やるからには生半可にはしないつもりだ。

 覚悟しとけよ?

 ザック達よりも酷いことになるかもな?」

 

 

 

「お、男に二言はねぇ!

 おれだったらやってみせるし!

 ザック達なんかぶっ飛ばしてコテンパンにしてやるぜ!」

 

 

 

「………生意気な口をききやがって、先ずはその汚ねぇ口調から矯正だな。

 教える気が失せてくるぜ。

 それじゃあ敵をつくるばかりだぞ?」

 

 

 

「え?

 これって普通じゃねぇの?

 おじいちゃんと同じじゃねぇ?」

 

 

 

「………俺の影響だったか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ。

 

 

 

 このあと、

 

 

 

 おじいちゃんと初めて稽古して、

 

 

 

 おじいちゃんのとんでもなく早い走りに翻弄されて、

 

 

 

 翻弄されて………

 

 

 

 ?

 

 

 

 何でこの先のことが分かるんだ?

 

 

 

 ………

 

 

 

 まぁいいや、

 

 

 

 今は稽古の方が先だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ木刀を構えろ。」

 

 

 

「う、は、はい!」

 

 

 

「そのまま俺に降り下ろしてこい。」

 

 

 

「降り下ろすって………おじいちゃんは木刀持たないの?」

 

 

 

「舐めるなよ?

 お前ごときに木刀なんざいるか素手でも勝てるわ。」

 

 

 

「何だとこのぉ!?」

 

 

 

「おいおい!

 喋り方がもう戻ってるぞ?

 さっき教えたばっかじゃねぇか。

 今度からは村長みたいに丁寧な言葉を使えって。」

 

 

 

「だってぇ!」

 

 

 

「だってじゃない!

 口が曲がってると考えもおんなじように曲がってくるぞ!」

 

 

 

「なんでおれだけなんだよ!?

 おじいちゃんはいいのかよ!?」

 

 

 

「ばっか!

 これは訓練だッつーの!

 俺みたいなゴロツキに絡まれたときに以下に冷静な対処が出来るかの訓練だ。

 俺はあえて悪ぶってこういう口調してんだよ。」

 

 

 

「いつもと同じじゃねぇか!だったらおれも!」

 

 

 

「相手に合わせるんじゃねぇ!

 相手をお前に合わさせろ!

 それから『おれ』じゃねぇ!『わたし』だ!!」

 

 

 

「わ、わたし………女の子みたいで恥ずかしいわ!」

 

 

 

「チッ!仕方のねぇやつだな。

 騎士になるんなら皆一人称は私だぞ?」

 

 

 

「うぅ………。」

 

 

 

「だったら『ぼく』でいい!

 今度からそれでいけ!

 それなら最低限礼儀は通る!」

 

 

 

「ぼ、………ぼく?」

 

 

 

「そうだそれでいい!

 さぁ、どっからでもかかってこい!!」

 

 

 

「………ぅう、おらぁぁぁぁぁぁぁ!!」ブゥンッ

 

 

 

「腕だけで木刀を振るな!

 腰と足も使え!

 そんなんじゃあ全然力が入ってねぇぞ!?」

 

 

 

「こ、こうか!」ブゥンッ!

 

 

 

「違う!馬鹿!

 そうじゃない!

 貸せ!

 こうやるんだ!」ブンッ!!

 

 

 

「こ、こう!?」ブンッ!

 

 

 

「おし、いい子だ!

 それだ!それを覚えとけ!?

 それを俺に打ってこい!」

 

 

 

「お、おらぁぁぁぁぁぁぁ!!」ブンッ!ヒュッ

 

 

 

「よし!今度はこっちだ!

 次!」

 

 

 

「えぇ!?

 今どうやって後ろに回ったの!?」

 

 

 

「そんなこたぁどうだっていい!

 さっさと次を打て!」

 

 

 

「お、おらぁぁぁ!」ブゥンッ!パシッ

 

 

 

「バカ野郎!

 木刀の振り方が戻ってるじゃねぇか!?

 後、声も出てねぇぞ!?

 もっと全身で力入れやがれ!!」

 

 

 

「そ、そんなずっと続けるなんて無理だよ………。」

 

 

 

「強くなりぇんだろ!?

 こんなことで弱音を吐いてどうする!?

 もう降参か!!?」

 

 

 

「い、嫌だ!!」

 

 

 

「よぉーし!それでいい!!

 次からは声出しと振りが下手くそだったらパンチが飛んでくるからな!?

 ついでに百回連続で斬りかかってこい!

 途中で休んでもパンチだからな!!?」

 

 

 

「えぇ~!!!?」

 

 

 

「ほら、最初の一丁目!!」

 

 

 

「お、おらぁぁぁぁぁぁぁ!!」ブンッ!

 

 

 

「一回!次!……………」ヒュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなことあったっけなぁ。

 

 

 

 この時は結局十回がやっとで、それ以上は出来なかったなぁ。

 

 

 

 おじいちゃん、ずっと的になり続けてくれて………

 

 

 

 一回もまともに当てられなかったけど今思えばあの時のあの稽古は俺を怒らせて本気で斬りつけるためにあんなに荒い口調だったのかな。

 

 

 

 結局おじいちゃんの動きについていけなくて残像を追うので精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だろう。

 

 

 

 またこの感じだ。

 

 

 

 何か心に引っ掛かるものがある。

 

 

 

 僕は何かを見落としている?

 

 

 

 やらなければならないことがあった筈なんだ。

 

 

 

 何をやらなければならない?

 

 

 

 僕は何を………。

 

 

 

 『僕』?

 

 

 

 あぁ、違った。

 

 

 

 今は昔に戻って『俺』にしてるんだった。

 

 

 

 アローネに言われて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ?

 

 

 

 そうだアローネ!

 

 

 

 思い出した!

 

 

 

 今俺は………!



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新術、飛葉翻歩

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 イクアダにて凶刃にさされ意識を失ったカオスは昔のアルバートとの剣術の夢を見る。


要塞都市イクアダ 北門

 

 

 

「カオス!?あぁ…!カオスまで!!」

 

 

 

「あ~あ、一撃で終わるなんて面白くないなぁ。

 こんなにあっけないと楽しくないよ。」

 

 

 

「貴方、今の動きは………。」

 

 

 

「動き?

 あぁ、これのこと?」ヒュッ

 

 

 

「!?」

 

 

 

「これは『飛葉翻歩』って言ってね。

 風のマナを足の裏に集中させて走る技なんだよ。

 バルツィエの人以外には使える人はいないけどね。」

 

 

 

「それで二人を………。」

 

 

 

「さてお姉さん一人になっちゃったけどどうしよっか?

 降参する?」

 

 

 

「降参したとして私達はどうなるのですか?」

 

 

 

「う~ん、そうだねぇ。

 お姉さんは………

 ねぇ、お姉さん、王都に行ってみない?」

 

 

 

「王都へ?」

 

 

 

「ぼくの家でお姉さんみたいな綺麗な人が大好きなのがいてさ。

 その人にお姉さん会わせたら喜ぶと思うんだ!

 だからさ一緒に王都へ行ってくれない?」

 

 

 

「………そうしますとこの二人は………。」

 

 

 

「その二人?

 う~ん、別にいらないから殺しちゃおっか?」

 

 

 

「!………私がここで大人しく従ってもですか?」

 

 

 

「だって、そっちのお兄さんは殺せって言われてるしね。

 あ!そっちの小さいお兄さんはどうでもいいよ?

 逃げても。」

 

 

 

「………分かりました。」

 

 

 

「ほんと!?じゃあ「貴方とは一緒には行けません。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この二人を見捨てるような真似は例え殺されてもお断りします!」

 

 

 

「………そっかぁ、せっかく片方は助けてあげてもよかったのにね。

 それじゃあ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイバイお姉さん。」ヒュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッ

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「させないよ。

 その人に手出しはさせない。」ググッ

 

 

 

「カオス!?」

 

 

 

「へぇ~、あの怪我で動けるんだねぇ~。」バッ

 

 

 

「アローネ、タレスの治療を続けてて、

 コイツは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が止めるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄さんがぼくを止めるだって?

 もしかして一人で?

 ぼくは別に二人でもいいんだよ?」

 

 

 

「君は俺一人で十分だよ。」

 

 

 

「へぇ~、自信あるんだぁ。

 さっきやられたのに。

 じゃあ、止めて見せてよ。」ヒュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンッ!!

 

 

 

「あれ?」

 

 

 

「………」ブンッ!

 

 

 

「うアッ!?」

 

 

 

「もう君の動きには馴れたよ。

 君は、うちのおじいちゃんよりも遅いからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスの攻撃が………!?」

 

 

 

「痛~、何するんだよ!

 うわ、血がでてるじゃないか!?」

 

 

 

「君が向かってくるんだから返り討ったまでだよ。」

 

 

 

「……!クソ~、

 たまたま当たっただけの癖に!!魔神拳!」ザザザッ!

 

 

 

「フンッ!」ザンッ

 

 

 

「!?

 魔神拳を!?」

 

 

 

「俺だって魔神剣使いだ。

 魔神剣なら簡単に防げる。」

 

 

 

「…このぉ!だったら」ヒュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ!!!!

 

 

 

 

 

「これは………!?」

 

 

 

「どう!?

 このスピードなら捉えきれないでしょ!?

 バルツィエを舐めるからこんな風に「もう見切ったよ。」ウハッ!?」バンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうその速度じゃ俺はやれないぞ。」

 

 

 

「………ッあ………痛い、何で………?」

 

 

 

「俺は君より早く動く人を知っている。

 君なんか足元に及ばないそんな強い人を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうする?

 まだ続けるなら相手になるけど。

 このままやるならお仕置きしなきゃね。」チャツ

 

 

 

「ヒッ………!?」

 

 

 

「………謝るならならこのまま出ていくよ。」

 

 

 

「!?だ、誰が謝るか!!」

 

 

 

「………そうか、じゃあ。」ギュッ

 

 

 

「う、わ、まっ、待って謝る!

 謝ります!

 ごめんなさい!!」

 

 

 

「………アローネ、タレスを連れてここを離れよう。」

 

 

 

「は、はい。」

 

 

 

「もう向かってくるなよ。」ザッザッザッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っのぉ!!」ギリッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アローネ、ちょっとタレス持って先に行っててくれる。」

 

 

 

「?わ、分かりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………何でぼくが謝らなければならないんだよ。

 

 

 

 ぼくはバルツィエだぞ?

 

 

 

 何でこんなゴミみたいなやつらにこんな目にあわされなきゃならないんだ。

 

 

 悪いのはアイツらだろ?

 

 ぼくは何も悪いことなんてしてないのに。

 

 こんなの理不尽だ!

 

 絶対におかしい!!

 そうに決まってる!!

 ふざけるなよ!?

 ぼくはコイツらを倒してお兄ちゃん達にご褒美をもらうんだ!なんで邪魔するんだよ!?大人しく倒されとけよ!?ぼくがそこらのゴミに負けるなんて有り得ない!何かズルしたんだろ?そうとしか思えない!卑怯者め!!こんなのお兄ちゃん達に報告できないよ!負けたなんて言えるはずない!そうだ!ぼくは常に勝つのが当たり前なんだ!さっきのは偶然剣が当たっただけ!あいつなんかいつも通り斬って終わるだけ!今ならいける!後ろ向いてる今がチャンスだ!ほらいけよ!それで終わりなんだ!今なら殺せる!)」ヒュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!?後ろです!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッハハハハ!!!遅いよ!?昇龍礫破ァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴォォォォォォォォォォォオオォォォォォォオォォォォォォォオォォォオォォッッッッッ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスゥッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ン、フフフフフフフ!!!ウッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

 バ~カ!バ~カ!

 お前が悪いんだぞ~?

 ゴミ平民の分際で男爵のぼくに手を出すから!!

 ウフフフフフフフ!!アッハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、こうやってやるんだね。」ヒュッ

 

 

 

「ハハハハハ………ハ?」

 

 

 

「ご丁寧に技の解説までしてくれたから真似しやすかったよ。

 おじいちゃんはこんな風に動いてたんだな。」

 

 

 

「あ、あぁあぁあぁ………………お、お前ぇ!!?」

 

 

 

「技が派手だから止めをさした相手に確認をしないのは注意した方がいいよ。

 視界が悪いから仕方ないんだろうけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、今回は素直に負けときな。」ガンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘブッ…!?」

 

 

 



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成長と勝利

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 イクアダにてニコライトから深傷を負わされるがそれを乗り越えてカオスは降参させる。

 降参したニコライトはプライドを傷つけられ追い討ちをかけるがそれをカオスは…。


要塞都市イクアダ 北門

 

 

 

「カオス、今貴方はあの子の技を………?」

 

「飛葉翻歩って言ってたね。

 昔おじいちゃんと剣術の稽古してたときにおじいちゃんが使ってたのを見たことがあったんだ。

 あの時はどうやってるのか知らなかったけどニコライトが調子に乗って教えてくれたから直ぐに真似できたよ。

 もういつでも使えるさ。」

 

「見ただけで使えるものなのでしょうか?」

 

「俺もよく分からない。

 難しそうな技ではあったけど、何故だか不思議と体に馴染みやすかったんだ。

 ニコライトもあれだけ見せてくれたからね。」

 

「………カオスは相手の体術を盗めるのですね。」

 

「流石にモンスターとかは無理だけどね。

 人の形をしていたらなんとかなりそうだよ。」ツー

 

「!?それよりもカオス血が………!?」

 

「え?あ、本当だ。

 またたくさん出たな。

 タレスにやられたときよりも出てるね。」

 

「平気なのですか?」

 

「………ちょっとギリギリかも。

 このリングがなかったら終わってたな。」

 

「リング………?」

 

「カストルにいたときに漆黒の四人がくれたんだ。

 フォースリングっていって物理ダメージを減らしてくれるマジックアイテムらしいよ。」

 

「それのおかげでカオスは無事だったのですね。」

 

「そうそう、このリングもらったときは手配書のことでいっぱいいっぱいだったからすっかり装備してたの忘れてたよ。

 そうだこのリフレクトリングとフェアリィリングはアローネが装備した方がいいよ。」

 

「リフレクトリングとフェアリィリングですか?」

 

「片方は属性攻撃を、もう片方はマナの消費を削減してくれるアイテムなんだ。

 二つとも俺よりもアローネの方が効率的だしね。

 魔術を使うからマナも俺達よりも多く減るだろうし後衛だから魔術から狙われやすいだろうし。」

 

「そう言うことでしたら私がいただきますが………。

 カオスは直ぐに治療を!」

 

「助かるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニコライトは………」

 

「大丈夫だよ、気絶させただけだから。」

 

「そうですか。

 とてもお強い子でしたね。」

 

「あぁ、今までの中でも一番強い強敵だった。

 戦いで死にかけるなんて十年ぶりだな。」

 

「これがバルツィエの………

 いえ、子供ですからこのニコライトよりもさらに強い方々がバルツィエには………。」

 

「そうなるのかな。

 お兄ちゃん達がいるようだし。」

 

「このまま王都に向かってもいいのでしょうか………。」

 

「………今はその話は後回しだよ。

 人は少ないようだけどこのニコライトを見たら騎士が直ぐにでも飛んでくる。

 タレスも気絶してるし戦いになったらヤバイ。

 イクアダが見えなくなるくらいには離れよう。」

 

「そうですね。

 分かりました。」

 

「俺もタレスを担ぐよ。

 反対側の肩を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!!?」バッ

 

 

 

「カオス?どうなさいました?」

 

「………今誰かに見られていたような………?」

 

「先程の戦闘で都市の中にいる何方かが此方を窺っておいでなのではないでしょうか?」

 

「………そうかもね。」

 

「そんなことよりもタレスを早く安全なところへ

 まだ治療は途中ですから。」

 

「…そうしよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

要塞都市イクアダ 北門上部

 

 

 

「ニコライトの奴やられたんだなぁ、アイツらに。」

 

「宜しいのですか?」

 

「ん?何がだい?

 セバスチャン。」

 

「あの三人のうちの二人は手配書のカオス=バルツィエとアローネ=リム・クラウディアとお見受けします。

 追手を放った方が宜しいのではないでしょうか。」

 

「何言ってるんだよ。

 ここは要塞都市でその領主様がこの北門を人払いさせたから俺達しかいないんだろ?

 領主様が直々に賊を捕らえに行ったんだ。

 邪魔しちゃ悪いって。」

 

「ですがニコライト男爵は。」

 

「あぁ、やられちまったな。

 城主としての判断がまだまだってこったな。

 こんなときのことを考えてねぇ。

 でもいいんじゃないか?

 こういう経験も後々必要だろうしな。

 いい薬になったと思うぜ?

 今まで負け知らずのバルツィエが初めての敗北でどう変わるかが今後の期待だな。

 プライドが粉々だろうぜ。」

 

「幼いとはいえバルツィエの騎士を討つ程の手練れ。

 疲弊している今が捕らえるチャンスかと。」

 

「余計なことすんなって。

 俺達は運よくこの都を訪れて運よく面白いものを見学出来たんだ。

 これ以上望むと運がいつひっくり返るか分かったもんじゃねぇ。

 ………フッ、まぁオーギワンのボヤ騒ぎを聞き付けてもしやと思って張っていた甲斐があったからそれでいいじゃないか。」

 

「畏まりました。

 それでは賊はこのまま野放しということで。」

 

「安心しなって、どうせアイツら王都に向かってるからそこでブラムと落ち合うつもりなんだろう。

 亀車で先回りしちまえば問題ないだろ。」

 

「彼等は王都へ進行しているのですか?

 しかし王都は…。」

 

「彼処は俺達バルツィエの巣窟だ。

 一度罪人が入ったら二度と出られねぇよ。

 そうとは知らずにノコノコと入り込もうとしてるアイツらは………フフフ。

 それにしてもあの身のこなし、

 間違いなくバルツィエの………アルバートの子供だな。」

 

「これからどうなさるおつもりですか?

 フェデール侯爵。」

 

「もうこの都での用事は済ませた。

 後は帰るしかないだろ?

 俺もお前も。

 さっさと亀車手配してこい。」

 

「御意に…。」カツカツカツ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(アイツのあの瞬時にマネして見せる技量………。

 詰め込めばとてつもない化け物が出来上がるかもな。

 ………その機会が来ることを楽しみに待つとするか。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラース国道

 

 

 

「………う、ううん?」

 

「お?

 起きた?

 タレス?」

 

「………ここは?」

 

「イクアダから北に歩いてったところだよ。」

 

「イクアダ………?

 ………!

 ボクは…!?」

 

「安心してください。

 ニコライトはカオスが倒しました。」

 

「あのニコライトを………?」

 

「えぇ。」

 

「それよりもタレス、ちょっと地図見てくれない?

 どこ歩いてるのか全然分からないんだ。」

 

「………待ってください、今…。」ゴソゴソ

 

「………タレス………地図が。」

 

「スミマセン、

 ボクの血がついてて見えにくいですね。」

 

「先程は非常時でしたので仕方ありませんよ!

 タレスが無事生きてたことが救いです。」

 

「………それについてはどうして………?

 こんなに血が出てたのに…。」

 

「私の治療魔術とカオスの機転で助かりました。」

 

「カオスさんの………?」

 

「これだよ。」

 

「これは………リトビアでの。」

 

「あぁ、いい思い出だったからとっておいたんどけど使うなら今しかないって思ってね。

 使わせてもらったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライフボトル。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

「いやぁ~、これがなかったらどうしようかって困ってたよ。

 気絶してるからアップルグミは食べられないし傷口はアローネの魔術とパラディンマントで塞いだけどタレスの体温がどんどん下がっていって焦ったしで。」

 

「それでこのマントが……。」

 

「まだ病み上がりですからそれで体温が下がるのを防げますよ。

 一応血は一度洗い落としましたが完全に綺麗にはとれませんでした………。」

 

「いえ、今回はボクがまた足を引っ張ってしまったようで申し訳ありません。」

 

「何言ってるんだよ。

 さっきのアイツはみんなしてヤバかったじゃないか。

 足を引っ張る引っ張らないじゃないぞ。」

 

「お守りすると言っておきながらいつも守られてばかりでボクは………。

 今回もカオスさんがあのニコライトを倒したようですし。」

 

「俺とニコライトは相性が良かっただけだよ。

 今回のはただそれだけだって。」

 

「ニコライトと相性がいい………?」

 

「といっても油断したところに一発入れて気絶させただけなんだけど。

 子供だったから簡単に気を失ったし。」

 

「子供とはいえバルツィエを………。」

 

「次も上手くいくかは分からないからね。

 俺がやったのはこんな………」ヒュッ!

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

「後ろから当てたくらいなんだよ?」

 

「え!?今のはボクがやられた……!?」

 

「飛葉翻歩って技だよ。」

 

「どうしてカオスさんが使えるんですか!?」

 

「なんか真似してみたら出来るかなぁ~てさ。

 思った以上に使いやすいんだよこれが。

 足の裏にマナを集中させてさ。

 スッ!って。」

 

「足の裏に………?」

 

「簡単でしょ?」

 

「………無理ですよ。」

 

「私も風属性の技らしいのでやってはみましたが体のバランスが上手くとれずに転んでしまいます。」

 

「そっかぁ、みんな使えたら楽しそうだったのになぁ。」

 

「よくこんな技を真似できましたね。」

 

「………ちょっと昔のことを思い出してさ。」

 

「昔?」

 

「そう、

 

 

 

 この技を見た瞬間昔にやってた剣術の稽古の時を………。」



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消えた友の行方

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 イクアダにてバルツィエの子供ニコライトを退けた三人は王都へと急ぐ。

 それを亀車にて見張る影が…。


グラース国道

 

 

 

「魔神拳!…あだっ!?手がぁッ!!?」ザザッ!

 

 

 

「ジュゥゥゥ………」バシュッ

 

 

 

「今のが最後のようですね。」

 

 

 

「お疲れさまでした。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス、先程は何故素手で魔神剣を?」

 

「飛葉翻歩が真似できたから魔神拳も真似できるかなって、思ったんだよ。

 いきなりは無理だったか。」

 

「衝撃波は出てましたよ。」

 

「自分にもダメージが入るならまだ練習しないとね。」

 

「魔神剣が撃てるのならそもそも必要ないのでは…?」

 

「カオスは人の技術を見ただけで使いこなせるのですね。」

 

「見るだけじゃないよ。

 そういう技があって原理を知れば出来るってだけだよ。

 相手の筋肉の動きを見て次にどう動くか観察すれば先読み出来るでしょ?

 その応用だよ。」

 

「筋肉の動き…?」

 

「剣士や格闘家なら初撃は予測できますがそれは…」

 

「?

 俺達だけだったのかな?

 ウインドラと特訓してたときはおじいちゃんの動きを再現しようと頑張ってたけど。」

 

「ウインドラ?」

 

「何方ですか?」

 

「俺が小さいときにおじいちゃんと一緒に稽古つけてもらってた友達だよ。

 二人でよく木刀で練習しててさ。

 もう随分会ってないなぁ。」

 

「と言うことはその方もミストの人なのですね?」

 

「そうだねぇ、今頃どうしてるのかなぁ…。」

 

「ミストにいらっしゃるのではないですか?

 もしかしたら私もあの時お世話になっていればお会いできたのでしょうか。」

 

「いや、あの村にはもういないよ?」

 

「あの村にはいない?

 何処かへ引っ越したのですか?」

 

「違うんだ、ウインドラは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 失踪したんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失踪!?

 何があったのですか?」

 

「俺もよく分からない。

 十年前にがミストを飛び出してからしばらくして騎士がやって来てそれから急にいなくなったらしいんだ。」

 

「それではその騎士に付いていって………?」

 

「村の人達はもしかしたら森に出てヴェノムに感染したかもしれないって話にはなってたらしいよ。

 ミシガンがそう言ってたから。

 ………でもアイツも俺と一緒で騎士になりたいって言ってたから生きてるのなら今頃………。」

 

「………これから向かう王都にいるかもしれないですね。」

 

「そうであってくれると嬉しいけど、

 騎士はあっちこっちの街にいるみたいだからそんな都合いい話はないだろうね。

 下手したら会わずに何処かの街で通りすぎてたかも。」

 

「心配ですか?」

 

「そりゃあね。

 もう会わなくなって大分たつけど生きてくれているなら何処かで頑張ってくれていると嬉しいし、

 そうでなかったら俺がこの十年の間に知らないうちにミストの森で………。」

 

「カオス………。」

 

「時期的にも失踪と騎士団の到着と被るんですよね?

 ご家族は騎士団に聞いたりしなかったんですか?」

 

「ウインドラの家族はお父さんがいだけど、そのお父さんも十年前にヴェノムに………。

 村の皆は家族みたいなものだったけど、捜索にはあまり積極的じゃなかったみたい。

 当時はまだヴェノムが森を彷徨いてたからね。」

 

「天涯孤独………今の私達と同じですね。」

 

「………同じじゃないだろ?

 俺達には俺達がついてるじゃないか。」

 

「………そうでしたね。」

 

「きっとそのウインドラさんも生きてますよ。」

 

「タレス?」

 

「森にヴェノムがいた状況でなんの考えもなく飛び出したりしないでしょう。

 何を思って外に出たのかは知りませんがそのウインドラさんも騎士になりたかったのですよね?

 ではこれから向かう王都に一度は向かう筈ですよ。」

 

「………そうだといいけど。」

 

「ウルゴスについて調べるついでに騎士についても調べればウインドラさんの行方も分かるかも知れませんよ?」

 

「殺生石、ウルゴス、バルツィエ………そしてウインドラさんの捜索。

 これだけ目的があれば解決できるものもありそうですね。」

 

「また一つ難しいものが増えたけどね。」

 

「いいじゃないですか、

 長い旅になりそうですし目的が多ければ達成できるものも増えますよ。」

 

「………俺の事情だからそんな大袈裟なことにしなくてもいいよ。」

 

「いいえ、私達もウインドラさんの捜索をお手伝いしますよ。」

 

「目的地はすぐそこなんですから一つやることが増えても問題ないですよお兄ちゃん。」

 

 

 

「………………いい仲間に出会えて嬉しいよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタガタガタッ!!

 

 

 

「ん?」

 

「後ろから何か来ますね。」

 

「追手か…!?」

 

「いえ、違うでしょう。

 あれは………亀車ですね。」

 

「亀車?

 あれが………。

 大きいね。」

 

「ここは国道ですし道を譲りましょう。

 あれは上流階級の人が使っている高級亀車のようです。

 おそらく何処かの豪商が乗っている筈です。」

 

「そっか、じゃあ」サッ

 

「えぇ、」サッ

 

「…」サッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタタタタタタタッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

「はぁ~、亀なのに早かったねぇ。」

 

「あれならすぐに街と街を往復出来そうですね。」

 

「今は手配書でどこで俺達がバレるか分からないけどいつか乗ってみたいね。

 ………?

 タレスどうしたの?」

 

 

 

「………今のは………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラース国道 亀車内

 

 

 

「フェデール候のおっしゃる通りでしたね。

 王都へ向かっているようです。」

 

「だろ?

 このまま先回りして来たところを追いかければブラム達に合流する筈さ。」

 

「それでは私が新しい似顔絵の手配を…。」

 

「必要ねぇよ。

 俺が監視しとくからお前は先帰っとけ。」

 

「フェデール候が直々に追跡なさるのですか?」

 

「あぁ、これから暇だしな。

 退屈凌ぎにはもってこいだ。」

 

「ですが彼らのペースですと後数日はかかりますが。」

 

「口説いぞ?

 俺がやるっつったら俺がやるんだ。

 余計な口出しは慎め。」

 

「これは差し出がましい真似をしてしまいました。

 申し訳ありません。」

 

「セバスチャンはニコライトがやられたことだけをふれまわっとけ。

 それが終わったら屋敷に戻ってな。」

 

「よいのですか?

 末席とはいえニコライト様もバルツィエに名を連ねる御方。

 そのようなことを世間に曝すとなればバルツィエの威光に傷が付いてしまわれますぞ?」

 

「構うかよ。

 情報を揉み消した方が後々めんどくさい。

 それよかバルツィエのものを倒す程の奴を王都で潰した方が箔が付きそうなもんだろ。

 この件はこの俺が取り仕切る。

 セバスチャンは俺の言った通りにしてくれ。

 分かったな。」

 

「畏まりました。」

 

「情報ってのは常に最新を得てこそ参謀が活きるんだ。

 最前線で俺が見張ってこそこのエモノを最高に尖らせられる。」

 

「そこを狙って一網打尽にするのですな。」

 

「…そういうこった。

 他の奴等には必要以上のことは話すなよ。

 俺とお前がアイツらの顔を知ってればそれでいい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(とは言ったものの、あのカオスとか言うのが本当にブラムの差し金かは曖昧だ。

 このままセバスチャンが本家に伝えたら最悪尻尾を掴むどころの話じゃなくなるな。

 ………そうなったら少し手助けしてやるか。)」



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またもや漆黒

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 イクアダを抜けグラース国道へと出た三人は王都へと向かう。

 王都を目前にしたカオスは昔失踪した友を思いだし…。


グラース国道

 

 

 

「ガアァッ!!」パァァッ!バシュッ

 

 

 

「ストーンブラストだ!アローネ!」

 

 

 

「大丈夫です!この程度なら………!」ガガガッ!

 

 

 

「ガウッ!?」

 

 

 

「よし今だ!魔神剣・槍破」ヒュッ、ザザザザザッ

 

 

 

「キャインッ!」

 

 

 

ドサッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だんだん戦闘が終わるのが早くなってきたね。」

 

「装備品を効率的に使うのが上手になってきてますからね。」

 

「それだけではありませんよ。

 カオスの戦い方が格段に向上しているのもあります。」

 

「そう?」

 

「そうですよ。

 あのニコライトと戦ってた時からカオスは動きが変わりましたもの。」

 

「カオスさんの動きはニコライトよりも早く見えますよ。

 あのバルツィエもカオスさんには勝てませんでしたし。」

 

「それでもまだまだニコライトよりか技の威力が低いけどね。」

 

「あれは………普通じゃありませんから。」

 

「子供だと言うのにあの火力は高すぎます。

 エルブンシンボルと何か別のマジックアイテムを装備している筈です。」

 

「それでもさ。

 これからバルツィエのいる巣穴に潜り込もうってんだからもう少し技の威力を上げたいな。」

 

「それには技の反復か、実戦しかないですね。」

 

「けどこの辺あんまりモンスターがいないね。」

 

「それはそうですよ。

 ここは王都が近いので騎士団が直接モンスター退治に来ますからこの国道は粗方駆除されてると思いますよ。」

 

「う~ん、平和なのはいいことだと思うけどなんかねぇ。」

 

「モンスターがいなくて逆に困るなんて贅沢ものですねカオスは。」

 

「技の練習にはモンスターがいいからね。

 どっかに転がってないかなぁ。」

 

 

ガタガタッ

 

 

 

「あ、また亀車が来たみたいですよ。」

 

「おっと避けないとね。」サッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタタッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?止まったね?」

 

「何かあったのでしょうか?」

 

「中の人が降りてきますよ。」

 

 

 

ココデイインスカ?

 

オウヨ、アイツラニヨウガアルンダ!

 

デモトチュウゲシャハコマルッスケド…

 

ツベコベイワズオロセ!カネハハラッテヤルヨ!

 

ワカッタッス!デハマタノゴリヨウオマチシテルッス!

 

 

 

…アレダヨナ?マチガッテナイヨナ?

 

エ!?キュウニソンナコトヲイワレテモ…

 

ヒトリカミガタガチガウゾ?ドウナッテンダ?

 

マサカヒトチガイ!?

 

ドウスンダヨ!?カメシャイッチマッタゾ!?イマサラモドッテコイナンテイエネェヨ!?

 

コノアイダトフンイキチゲェシチガッテタナラ…

 

…エエイ!コノママオシキルゾ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何処かで見たことある人達ですね。」

 

「アイツらここまで来たんだ。」

 

「何しに降りたのでしょう。」

 

「それは決まってるよ。

 

 アイツらが俺達に最初に手配書の話をしてきたんだからね。

 ってことは…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと見つけたぜ!極悪人アローネ=リム・クラウディア!!とカオス=バルツィエ!!………とその他一匹!!」

 

「まんまと騙されたぜ!

 まさか手配書の一千万ガルドが既に出会っていたなんてなぁ!」

 

「ここであったが百年目!

 覚悟しろ!」

 

「俺達は決してお前らから受けた仕打ちを許さない!」

 

「我等、正義の名のもとに貴様等をどこまでも追っていく!」

 

「例えトイレに逃げ込んでも息の根を止めてやる!」

 

「そう!我等こそ!」

 

 

 

「「「漆黒の翼!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら。」

 

「そのようですね。」

 

「……ハァ。」

 

「もうアイツらめんどくさいからさ、

 アイツらの目的が………しない?」ボソボソッ

 

「……それで行きますか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?

 今日は何のよう?」

 

「私達先を急いでるのですけれど。」

 

 

 

「!(よし!人違いじゃなかった!)

 知れたこと!お前達を捕まえて正義を示すのだ!」

 

 

 

「この間は悪名高い漆黒の翼じゃなかった?」

 

 

 

「一体いつの話をしている?

 我等はこの前とは別の組織だ!

 改めて名乗ろう!!

 そう我等は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燃える情熱の男!

 ヘッドのクレ「魔神剣!」ブハッ!?」ザザッ、ガッ!

 

 

 

「クールに勝利を決める!

 ライトアーム!ロイ「孤月閃!」ゴアッ!!?」ブンッ、ザシュッ!

 

 

 

「お天道様に代わって悪を裁く

 レフトアーム!ユー「ウインドカッター!」ギャァァ!?」ザンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良い練習にはなったよ。」

 

 

 

「経験値が足りませんよ。」

 

 

 

「私一人でも貴殿方には負けません。」

 

 

 

 

 

「「「せ………せめて名乗らせろ………よ………。」」」バタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………案外バレやすいのかな。

 この格好。」

 

「手配書ではもう判別出来ないとは思いますけど…。」

 

「ボクも髪型を変えるべきでしょうか?」

 

「タレスはいいよ。

 そのままで。

 多分アイツらみたいに俺達が変装する前に会った人くらいしか分からないと思うし。」

 

「私がいけないのでしょうか?

 手配書の写真とは顔を変えているつもりですが………。」

 

「アローネさんも一目では気付かれないと思いますよ?」

 

「まぁ、俺達のことを知ってる人が現れなきゃいいだけだもんな。」

 

「カストルやリトビア以外では特に目立ったことはしてませんが私達三人を覚えている人など…。」

 

「さっきの漆黒の三人とサハーン、ニコライト、カストルのギルドの人達………。

 挙げられるのはその人達だけでしょう。」

 

「そういえば漆黒の方は四人いるのではなかったのですか?」

 

「あ、確かに一人いなかったね。

 何処に行ったのかな?」

 

「もともと三人だったんじゃないですか?」

 

「そうだっけ?」

 

「さぁ、私も詳しくは…。」

 

「あんなのはそのうちまた出てきますよ。

 

今度現れたらその時に聞けばいいですよ。」

 

「それもそうだね。」

 

「今は王都に向かうのでしたね。」

 

「あぁ、またいつあんな連中が出てくるか分からない。

 ここからは用心して進もう。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都 城壁門

 

 

 

「お帰りなさいませ!フェデール侯爵!」

 

 

 

「ただいま、

 お勤めご苦労。

 

 ようやく帰ってこれたね。

 セバスチャン。

 後は手はず通りに頼むよ。」

 

「畏まりました。

 それでは私はこれで…。」カツカツカツ

 

 

 

「あぁん?

 おぉ~、

 偉そうな亀車が来たから誰かと思えばフェデールじゃねぇか。

 何処行ってたんだ?」

 

「よう、ラーゲッツ。

 相変わらず女っけがねぇとだらしなさそうだな。

 戦闘しか出来ないお前と違って俺は忙しいんだ。

 昨日まではイクアダに行ってたんだよ。」

 

「イクアダに?

 何しに行ってたんだ?」

 

「例のカオス=バルツィエについて傘下の奴等にいろいろ流してたとこだ。

 もうすぐ大陸の南部にも伝わる筈だぜ。」

 

「あ~あ~、

 またお前の訳の分からねぇ情報戦ってやつか。

 そんなことして何になるんだよ。

 下らねぇ。

 敵なら全部殺せばすむ話だろ。」

 

「馬鹿だなぁ、

 本当に馬鹿だなぁ~。

 その全部を叩きのめすために一ヶ所に集めて纏めて消却するのがいいんだろうが。

 発生源を徹底的にな。

 小さな花火じゃつまらねぇだろ?」

 

「ハンッ!

 俺は敵は見つけ次第踏み潰すんだよ。」

 

「蟻を一匹潰した程度で満足かい?

 巣穴を見付ければ何百倍もスッキリするぞ?」

 

「目に見える埃は掃除すんだよ。

 俺はお前と違って綺麗好きなんだ。」

 

「それなら手の届かない埃も掃除しねぇとよ。

 俺様はお前ごときと違って超綺麗好きなんだ。」

 

「ケンカだよな?

 ケンカ売ってんだよな!?

 そりゃぁよぉ!!?」

 

「おやおや、

 俺としたことが子蟻を見逃してたよ。

 巣穴はなさそうだしここで踏み潰しとくか。」

 

 

 

「こ、困りますフェデール侯爵、ラーゲッツ伯爵!

 城門でお二方に騒ぎを起こされますと!?」

 

 

 

「引っ込んでろ!

 門番!!」

 

「飼い犬に手を噛まれたんだ。

 その場で叱ってやらねぇと何に怒っているのか学習しねぇんだよ。」

 

 

 

「しっ、しかし……!?」

 

 

 

「うざってぇな!?

 先にテメエからぶっ殺すぞ!!?

 ああぁん!!!?」

 

「ほらな?

 こういう犬は叩きのめして大人しくさせるのが「フェデール団長!」…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お止めくださいフェデール団長、ラーゲッツ隊長。」

 

 

 

「何だテメーは………?

 何処の隊だ?」

 

「………今はプライベートだ。

 俺もラーゲッツも騎士じゃないよ。」

 

 

 

「失礼しました。

 ではフェデール侯爵、ラーゲッツ伯爵。

 自分はダリントン隊所属隊員のウインドラ=ケンドリューであります。」

 

「ダリントンの隊だと?」

 

「………それで何の用かな?」

 

 

 

「お二人にお聞きしたいことがあります。

 四日程前からダリントン隊長の行方が分からないのです。

 侯爵か伯爵は隊長の行方を御存知ではありませんか?」

 

 

 

「知らねぇよ、

 家で寝てるんじゃねぇのか?」

 

「………悪いね。

 俺も特に任務は与えてないよ。」

 

 

 

「そうでありますか。

 お時間いただき有り難う御座いました。では自分はこれで…。」カッ、カッ、カッ…

 

 

 

「………なんだぁ?

 ダリントンのヤツいなくなったのかよ?

 ん?

 何ニヤけてんだテメェ。」

 

「………ッフフッ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(何処に行ってしまわれたのですか?

 隊長………。

 都の噂が最高潮の今、

 もう少しで作戦が決行出来るところまできているというのに………。)」



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王都

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 グラース国道の道中再び漆黒の翼と対峙した三人は即座にこれを打ち倒す。

 一方、これから向かう王都では…。


王都 孤児院

 

 

 

「こんにちは。」

 

「こんにちは、あら?

 貴方は………。」

 

「お久し振りです。

 カタスティア教皇。」

 

「確かうちのダリントンの部下の………

 そう、ウインドラね。

 お久し振りねぇ。」

 

「教皇もお元気そうでなによりです。」

 

「それはどうも。

 今日はどうなさったの?」

 

「はい、

 先日から隊長が行方不明でして、

 それでここに参っていないか確認で。」

 

「ダリントンが行方不明?

 ここには来てないようだけど…

 遠征か何かではないの?」

 

「いえ、団長にもお訊きしたのですがそのような使令は出してないと。」

 

「そう…、

 あの子のことだから何も心配は要らないと思うけど…。

 ダリントンはうちの孤児院でもやんちゃッ子だったから、そのうち帰ってくるわよ。」

 

「隊長はよく行方不明になることはありましたが…

 誰にも何も言わずにいなくなって数日、

 流石に心配になってきました。

 他の隊員にも王都の中を捜索しています。」

 

「そうなの?

 何だか悪いわね。

 うちの子のためにそこまでしてもらうなんて…。」

 

「そんなことはありません。

 隊長は立派な方ですから。

 私も騎士に着任前はなにかとお世話になりました。」

 

「いつの日だったか貴方もダリントンに連れられてここへ一度来たのよね。

 懐かしいわぁ。」

 

「もう十年は経ちますからね。」

 

「もうそんなに?

 貴方、ウインドラも大人になったわねぇ…。

 昔連れられて来たときはここの子達と同じくらいのまだ小さな子供だったのに…。

 最初見たときはダリントンが戦災孤児を連れてきたんだと思ってたけど、まさか騎士志願の子とは思わなかったわ。

 今の王都では珍しいものねぇ…。」

 

「私は騎士になる目的で故郷を捨てて王都へやって来ましたから。」

 

「故郷を捨ててねぇ…。

 貴方が故郷にいたときはアルバートもご存命だったのでしょう?

 今でもたまに思い出すの。

 アルバートのことを。

 惜しい人を亡くしたものねぇ…。」

 

「………あの時は誰もヴェノムに太刀打ち出来ませんでしたから…。」

 

「貴方を見てるとどことなく彼の面影があるわねぇ。

 剣術が彼のものにそっくりなんですもの。」

 

「私はアルバート様の弟子でありましたから…。」

 

「それを抜きにしても似ているわよ。

 行動的というかなんというか…。

 もし彼に息子がいたのなら貴方のように逞しく育っていたでしょうねぇ…。」

 

「カタスティア教皇、アルバート様にはご子息はいませんよ。」

 

「えぇ、分かっているわ。

 貴方が言うのならそうなんでしょう?

 最近この都でもそんな話が流行っているから。

 あの手配書の彼が現れてからは秘かにアルバートが生きていて王都に帰ってくるんじゃないかって皆が噂していますもの。」

 

「………カオス=バルツィエですか。」

 

「そう!確かそんな名前だったわね。

 彼がアルバートの息子だって聞いたわ!

 ………そんな盛り上がるような真実はないのでしょうけど…。

 貴方はそのカオスさんのことを何かご存知ない?」

 

「いえ自分とは関わりない人物です。

 ましてやダレイオスの手先などとは。」

 

「それもそうよね。

 御免なさいね?

 私も昔はアルバートファンクラブに入っていたからついそんな期待しちゃったわ。」

 

「教皇はアルバート様の御友人だったのでは?」

 

「そうよ?

 友人兼アルバートのファンだったの。

 彼はホントに凄かったのよ?

 御使いを頼んだら直ぐに終わらせて帰ってきてね。

 神木を持ってきてほしかったんだけど神木が生っている場所はギガントモンスターの生息地で危険な場所だったの。

 そんなところへ彼と今の王様が二人で向かってついでにそのギガントモンスターも一匹倒して来たのよ。

 あの時代は何もかもが上手くいってたわ。

 彼があのまま王様になっていれば…。」

 

「………」

 

「今のバルツィエは………ちょっと怖いじゃない?

 アルバートさえ生きていてもらえたらあの時代も終わりを迎えることもなかったのに…。」

 

「教皇はアルバート様に御執心だったようですね。」

 

「そりゃそうよ。

 アルバートがいた頃は男女問わずファンが大勢いたのよ。

 それこそストーカーがたくさんいて、

 初代ファンクラブの会長なんて正にそれだったわ。」

 

「まぁ、里でも人に好かれる方でしたからね。」

 

「フフフッ私もその一人だったけどね。」

 

「教皇!?」

 

「冗談よ。

 悪いわねなんだか長い話になっちゃって。

 ダリントンを捜しているのでしょう?

 私のところに来たら私から連絡するわよ。」

 

「有り難う御座います。」

 

「いいのよ、

 大事な息子達の大切な部下なんですもの。

 貴方も私の子供みたいなものよ。」

 

 

 

カタスセンセー!

 

ゴハンノジカンダヨー!

 

 

 

「あら?

 丁度子供達から呼ばれちゃったわね。

 じゃあ話の途中だけど失礼するわね。」

 

「いえ、お忙しい中お時間いただき感謝いたします。」

 

「また今度ゆっくりお話しましょう?

 それじゃあね。」

 

「是非とも。」ペコッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都 バルツィエ邸

 

 

 

「「「「「お帰りなさいませラーゲッツ様。」」」」」

 

「おう、お疲れさん。

 今俺だけか?」

 

「先程テナール執事がお見えになりました。」

 

「セバスチャンが?

 そういやフェデールの野郎が一人でいたな。

 いつも外出するときはつるんでんのに。」

 

「フェデール様とは先程まで御一緒だったそうですよ。」

 

「そうか、じゃあちっと挨拶してくっか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、セバスチャン。」ガチャッ

 

 

 

「これはこれはラーゲッツ男爵。

 お帰りなさいませ。」

 

「何処行ってたんだ?

 ラーゲッツ?」

 

「ユーラスしかいねぇのか?

 他の連中は?」

 

「他の方々はフェデール侯爵が任務をお与えになられました。」

 

「だからいねぇのか。」

 

「で何処行ってたんだ?」

 

「セバスチャン、なんか腹にいれられるもん作ってくれよ。

 歩き疲れて死にそうなんだ。」

 

「畏まりました。

 しばしお待ちを。」カツカツカツ…

 

 

 

ガンッ!

 

 

 

「………三回も言わせるなよラーゲッツ男爵さんよぉ…。」

 

「机壊すんじゃねぇよ。

 セバスチャンが片付けるの大変だろうが、

 ユーラス子爵殿ぉ?」

 

「テメェが質問にさっさと答えねぇからだろうが。」

 

「お前に言って何になるってんだ?

 あぁん!!?」

 

「そのくれェ教えてくれたっていいんじゃねぇのか?

 恥さらし男爵が!」

 

「んだとゴラァ!!?

 今、虫の居所が悪ぃって察してくんねぇかなぁ!?」

 

「知るか!

 お前の御機嫌なんか窺うほどのもんでもねぇだろぅが!」

 

「表出な!

 階級が上でも実力は俺の方が上だってこと教えてやるよ!」

 

「お前なんぞにいちいち教えてもらわなくてもいいっつーの!

 ってか間違ってんぞ?

 階級も実力も俺の方が上だろうが。」

 

「…そうかよ。

 だったらここで「騒がしいぞ!」」

 

 

 

「屋敷の中で暴れるなうつけ共。」

 

 

 

「おう、お帰り!」

 

「早いなアレックス

 今日は。」

 

「貴様らを放っておくとこの屋敷が壊されかねん。」

 

「何言ってんだよ。

 それくらい俺達も弁えてるって。

 な?」

 

「………今こいつここで暴れようとしたぜ?」

 

「おい!!

 ふざけたことぬかすんじゃねぇよ!!?

 お前が挑発してきたからだろうが!」

 

「俺は何処行ってたか聞いてただけだぜ?

 それなのにコイツが一人でキレだしてよ。

 …ったく辞めてほしいわぁ。

 ケンカもバルツィエも人生も。」

 

「ほらな!?

 こんな感じでウゼェんだよコイツが!!」

 

「ウゼェのはお前の全てだよ。

 みんなそう思ってるぞ?」

 

「そうやっていねぇヤツらを巻き込むなよ!

 根暗野郎!!」

 

 

 

「………分かった。

 貴様ら二人を屑ればいいのだな?」

 

「待て待て!?」

 

「どう聞いても悪いのはラーゲッツだろ!?

 俺は関係ねぇ!」

 

「どの口がそれを言うんだ!!?」

 

 

 

「静まれ!!!」

 

 

 

「「!?」」ビクッ

 

 

 

「公爵様。」ガチャッ

 

「セバスチャンか…何用だ?」

 

「フェデール侯爵からご報告が御座います。

 つい先日イクアダの砦にてニコライト男爵が決闘にて打ち負かされました。

 相手は例の手配書の冒険者でございます。」

 

「あぁん?

 ニコライト?

 何処の誰だそれ?」

 

「ニコライト男爵は遠縁のバルツィエの血筋の方です。」

 

「お前も昔会ったことあるだろうが。

 何忘れてんだよ。」

 

「そうだっけか?

 うちってひい祖父さんひい祖母さん以上は地方に飛んでくから覚えてらんねーよ。

 ってか何代前まで生きてんだよ?」

 

「戦場に飽きたら引退して角地の統治にまわるんだよ。

それぐらい覚えとけ。

 今んとこ五代前くらいは生きてる筈だぞ?」

 

「そんなもんだっけか?」

 

「ヴェノムが現れてからはバルツィエでも対応に苦戦したって話だからな。

 ヴェノムが出る前は十代前辺りまでは生きてたようだぞ?」

 

「ハッ!

 長生きなこって。」

 

 

 

「今はそんなことを復習する話ではない。

 してセバスチャン。

 フェデールはどうだと?」

 

「はっ…。

 侯爵はその冒険者一行が反逆者の一味で間違いないとのことです。

 先日侯爵が直々に調査なさった件からしても時期的には調度…。」

 

「実力はどうだったんだ?

 強かったのか?」

 

「子供とはいえバルツィエの者を打ち倒す程の手練れ。

 申し分ないほどのものはお持ちかと。」

 

「ハンッ!

 つってもガキを殺した程度だろ?

 俺達と渡り合えるかはまた別の話「いいえ、」」

 

 

 

「ニコライト男爵は生きておられます。」

 

 

「どう言うことだ?」

 

「奴等は一人でも多く俺達の戦力を削りたい筈だろ?

 何故殺さなかった?」

 

「子供を殺すのを躊躇った。

 もしくは殺してしまっては民衆に悪印象を与えてしまうのではないかと判断したのだろうと侯爵が。」

 

「あぁ………だろうな。」

 

「あめぇ考えの奴か。

 殺しとけるうちに殺しときゃいいのにな。」

 

「………イクアダから帰還する際も一行は真っ直ぐ王都へと向かっているご様子。

 侯爵は一行が着き次第、例の式を挙げるとのことです。」

 

「分かった………。」

 

 

 

「例の式?

 聞かされてねぇぞ?」

 

「何が始まるんだ?

 セバスチャン。」

 

 

 

「侯爵の言い付けですので私の口からはなんとも。」

 

 

 

「ケッ!

 秘密主義が…。

 アレックスは知ってるのか?」

 

「俺も聞かされてねぇぞ?

 何が始まるか教えてくれよアレックス。」

 

 

 

「………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反逆者共の一掃だ。」



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到着、レサリナス

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カオス達が王に向かう一方で王都ではなにやら怪しげな計画が進行している様子で…。


王都 城壁門 夜 数日後

 

 

 

「………な、長かった~。」

 

「ここまでで野宿ばかりで街までなかなかたどり着けませんでしたからね。」

 

「けどなんとか着きましたね。

 ………ここがこのマテオの主都

 

 

 

 王都レサリナスです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「亀車が何度も通るから近いんだろうなぁって何度思ったことか…。」

 

「その度に隠れてはやり過ごす繰り返しでしたね。

 それももう終わったのですね…。」ハァ…

 

「早いとこ宿に入って休もう!

 こんなに長く何もない道を歩いたのは初めてだよ。

 足がもう動かないよ…。」

 

「近いと期待させられると気持ちが先走って余計に疲労を感じますからね。

 私ももう足を休ませたいです。」

 

「………ではお二人とももう少し頑張って下さい。」

 

「「?」」

 

「どうやら検問をしいているようです。」

 

「検問?」

 

「妖しい人が入ってこないか検査してるんですよ。

 オーギワンでサハーンがしていたことです。」

 

「え!?

 アイツが妖しい人物だったよね!?」

 

「あれとは違い今度のは正規のもののようです。

 騎士達が通る人一人一人確認してますよ。」

 

「………どうすればいいかなぁ。

 もうさっさと通りたいけど…。」

 

「堂々としていればバレないのでは?」

 

「だといいけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこの三人止まれ!」

 

「お前達………冒険者だな?

 何故亀車を使わない?

 ここまでの道中それなりに距離はあると思うが…。

 何か乗れなかった理由でもあるのか?」

 

 

 

「え、ええっとぉ、たまたま亀車の便が無くてここまで歩いてきたんですよ。

 次の便まで長いって聞いていたので…。」

 

「それは何処の情報だ?

 大陸の南部と違って王都への便は周辺の街からは頻繁に出ているが?」

 

「え!?

 そ、そうなんですか!?

 いやぁ、南部から来たもんで亀車の乗り方よく分かってなくて歩いて来ちゃったなぁ!アッハハハ。(やっべェ、レイディーさんの言ってたこと聞いて勘違いしてたわ。そんなに多く出てるもんなの!?)」

 

「………」

 

「…ハハハ…。」

 

「それで?

 王都へは何しに来たんだ?」

 

「た、ただの旅ですよ?

 本当です!」

 

「………本当かぁ?

 レサリナスは近頃犯罪が多くてなぁ。

 物騒なものを持ち込む輩が多いんだ。

 お前達の荷物も点検させてもらうぞ?」

 

「い、いいですよ?

 特に怪しいものは持ってませんし?

 ほら二人とも!こっち来て。」

 

 

 

「はい。」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素材品に消耗品アイテム………本当に冒険者のようだな…。」

 

「だから何度も言ってるでしょう?

 俺達は普通の…「おい、これはなんだ?」」ビィィィィ

 

 

 

「エルブンシンボルだよなこれ?

 どうしてお前達はこんなものを持っているんだ?」

 

「へ?

 別に盗賊が持ってたくらいだし普通なんじゃ…?」

 

「盗賊…だと?

 それはどんな盗賊だ?」

 

「さ、………サハーンって盗賊が持ってました。

 それを倒して「倒した?」………こっそり盗みました。」

 

「………そうかそれではこれはこちらで没収させてもらう。

 これはもともと国で扱ってるものだ。

 素人が使っていいものではない。」

 

「そんな横暴な…。」

 

「何か文句でも…?」

 

「いえ…。」

 

 

 

「ほう、お前もか女冒険者。」ビィィィィ

 

「………」

 

「ではさっさとエルブンシンボルをこちらに「嫌です」」

 

「このエルブンシンボルは私のものです。

 貴殿方とは一切関係ありません。」

 

「何を言っている?

 お前もどうせ盗賊から盗み出したものなんだろう?」

 

「このエルブンシンボルは私が国から直接授かった大切なものです。

 渡すわけにはまいりません。」

 

「国からだと?

 お前は貴族か騎士だとでも言うのか?」

 

「………」

 

「あ、アローネ?」

 

「私は………貴族ではありません。」

 

「だったら何故所有しているんだ?

 答えろ。」

 

「………」

 

「ま、待ってください!

 彼女の言い分は本当なんです!

 ただ色々事情がありまして…。」

 

「事情だと………?

 お前達ギルドカードを見せてみろ。」

 

「「「………」」」スッ

 

「サタン、アルキメデス、タイタン…。

 どいつもランクゼロ………と一か。

 エルブンシンボルを国からねぇ。

 そんなに大物そうには見えないがな。」

 

「まぁ、そうですね…。」

 

「どれ?

 一応エルブンシンボルがあることだけを確認する。

 出せ。」

 

「………今服の下に装備しています。」

 

「そうか、

 じゃあ取り出して見せろ。」

 

「…!」

 

「女性にここで服を脱げと!?」

 

「ここは検問だぞ?

 妖しいものは出させるに決まっているだろう。

 さぁ、すぐに出せ。」

 

「………ではあちらの木陰で。」

 

「おっと!

 そうやって不審物を隠す気だな?」ガシッ

 

「!?

 な、何するんですか!?

 離してください!」

 

「いいからここで出せ!

 服の中にあるんだな?

 俺が直接取り出してやろう。」

 

「い、いや!

 止めてください!」

 

「何してるんですか!?

 彼女ちゃんと出すって言ってるじゃないか!?

 乱暴は止めろ!」ガッ

 

「おい!

 何だこの手は!?

 冒険者風情が騎士に手をあげていいのか!?

 んん?」

 

「お前の何処が騎士なんだ!?」

 

「よし、貴様達!

 公務執行妨害で逮捕してやるぞ!」

 

「こんなふざけた検査があってたまるか!?

 アローネを離せ!!」

 

「慌てなくてもお前も一緒に………」カラーン

 

 

 

カラーン、カラーン、カラーン

 

 

 

「「こ、この音は!!?」」

 

「鈴の音?」

 

「城門の上からです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を騒いでいる!!」

 

 

 

「「も、申し訳ありません!!」」

 

 

 

「貴様らが騒ぎを起こして星に逃げられたらどう責任を取るつもりだ!!

 大人しく仕事をしていろ!!」

 

 

 

「畏まりましたぁ!!」ビシッ

 

 

 

「………上に誰かいるようですね。」

 

「結構偉そうな人みたいだね。」

 

「…!」

 

 

 

「星は既に昼間城下内に潜伏したとの報告があった!!

 後はただの一般人だろう!!

 余分なものは返して通していいぞ!!」

 

 

 

「し、しかし!?

 この者達は公務の妨害を!?」

 

 

 

「貴様らがたった今この俺の公務執行妨害をしているが…!?

 なんならこの場で断罪してもいいんだぞ!!」

 

 

 

「も、申し訳ありませんでしたぁ!!」タッタッタッ

 

「ほ、ほら!

 通りたきゃ通れ!

 さっさといっちまえ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………通れましたね。」

 

「何だったんだあの人は…?」

 

「おかげでレサリナスの中には入れましたけど気になりますね。

 星とは一体…?」

 

「俺達………のことじゃないよね?」

 

「それはないでしょう。

 昼間に潜伏していたと申していたので私達とは別の人を警戒していたのでしょう。」

 

「………あの人は………。」

 

「どうしたのタレス?」

 

「何かあの方について気になることでも?」

 

「………いえ、先ずは宿を探すことから始めましょう。

 ボクもそろそろ立っているのが辛いです。」

 

「そうだったね。

 緊迫した空気になりかけたから忘れていたよ。」

 

「全く!

 あんな騎士がいるなんて思いませんでした!」

 

「酷い目にあったね。

 アローネ。」

 

「えぇ!

 本当に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス城壁門 上部 夜

 

 

 

「ったく!

 のんびりしやがって!

 二日歩けば着く距離を何日かけて歩いてんだアイツら!?

 遅すぎて知らないうちに城壁内に入られたのかと疑っちまったよ!」

 

 

 

「あ、あの~、騎士団長。

 先程申していた星が昼間に潜伏していたと言うのはいつ頃入った情報でしょうか~?」

 

「あ?

 !………悪ぃな。

 ありゃ俺の勘違いだったわ。」

 

「勘違い!?」

 

「後、もう俺ここいなくなるから後宜しく。」ザッザッザッ…ガチャッ。

 

 

 

「………何だったんだ?」

 

「自由な方だなぁ。」

 

「そりゃあバルツィエだからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ~て、どう動くのやら………。」



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調査開始

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 三人はグラース国道を抜けて対に当初の目的の地王都レサリナスへと辿り着いた。

 そこでは騎士団による検問がしかれていて…。


王都レサリナスホテル 朝方

 

 

 

「………ねぇ。」

 

「何ですかカオス?」

 

「この宿の部屋どうだった?」

 

「!?」

 

「この宿の全部凄くなかった?」

 

「………はい。

 それはもう………。」

 

「………信じられる?

 昨日疲れて眠かったからから荷物置いて直ぐにベッドにダイブしたんだけど………ベッドが…ベッドが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スッゴい柔らかかった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今でもあの感動が忘れられない!

 体を預けた瞬間全身を包み込むような包容………そして植物の………なんかよく分からないけどとてもいい香りのする芳香、更にはベランダから見える景色がなんとも美しい輝きを………。」

 

「カオスが美しいなんて言葉を使うのに違和感があります………。」

 

「………オホン!

 あのベッド凄かったよな!?

 寝転んだ瞬間一メートルは下に沈んだぞ!?

 空間どうなってんだよ!ってベッドの下覗き込んじゃったよ!

 マジで!」

 

「確かにベッドはカストルにはなかった材質のものが使われていましたね。

 ………ウルゴスの私の家でもあんなものは使われてないというのに………。」

 

「やっべーなぁ!

 もうあのベッド以外ベッドと思えないなぁ!

 何だよこの街は!?

 こんなものを独占してるのか!?

 この街は!?」

 

「独占はしてないと思いますが………(汗)」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これからどうしよう?」

 

「待ってください。

 まだタレスが起きてきてませんよ?」

 

「あれ?

 本当だ。

 いつもなら一番早くに起きるのに…。」

 

「きっと長旅のせいで疲れが一気に来たのでしょう。

 タレスもまだ子供の年ですからね。」

 

「そうだね。

 まだ俺と六つしか変わらないしね。」

 

「あら?

 私とは七つ違いですけど?」

 

「え?アローネって年上だったの?

 しかも大分近いね。」

 

「………私が年上で何か問題が?」

 

「アローネ子供っぽいから年上に見えないなぁ。」

 

「………前にも言いましたけど子供っぽいのはカオスの方だと思いますよ。

 それも段々と若返ってます。」

 

「そう?」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スミマセン!

 遅くなりました!」ガチャッ

 

 

 

「おはようタレス。」

 

「おはようございますタレス。

 昨晩はゆっくり眠れましたか?」

 

「はい。

 なんとか…。」

 

「それにしては浮かない様子ですが大丈夫ですか?

 何処か調子が悪いところでも…。」

 

「別になんともないですよ。

 気にしないでください。」

 

「そうですか…。」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。

 これがこの王都の見取図です。」

 

「………」

 

「………」

 

「どうしました?」

 

「色々ありすぎてどこにいけばいいのか分からない。」

 

「私もこういったものはよく分かりません。」

 

「アローネはウルゴスでは王都の中を回ったりはしなかったの?」

 

「私は………ほぼ軟禁状態でしたから。」

 

「そうだったね………。

 タレス、

 この丸い場所は何?」

 

「これは闘技場ですよ。」

 

「闘技場………って?」

 

「簡単に言うと人やモンスターと戦う場所です。」

 

「え!?

 何それ!?」

 

「己の技術に自信のあるものが武器を取り競い会う大会が行われる場所ですよ。

 ウルゴスでも在りました。」

 

「へぇ~、面白そうだなあ。

 出てみたいなぁ。」

 

「ダメですよ?

 カオス、私達の置かれている現状を忘れたのですか?」

 

「そんな目立つ大会に出場したら手配書のカオスさんだとバレてしまうかもしれません。」

 

「うッ…それもそうか………。」

 

「今は私達のここへ来た目的を終わらせましょう。」

 

「そうしようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「情報を集めるとなると何処がいいんだろうなぁ…。」

 

「ウインドラさんのこと、殺生石のこと、ウルゴスのこと、バルツィエのこと………。」

 

「人に聞ければ直ぐなんですけどね。」

 

「これまでの経験上、どれも下手に聞くと妖しまれますね

 」

 

「ギルドは後に行くとしてもこの街ですと聞きにくいかもしれませんね。」

 

「この街だと?」

 

「この王都レサリナスは王族からバルツィエが取り仕切る都です。

 バルツィエの息のかかった者は大勢いる筈ですよ。

 迂闊にバルツィエの悪口を言おうものなら即首はねの刑です。」

 

「そんなまさか…。」

 

「それがバルツィエですよ?」

 

「「………」」

 

「カオスさんのことではありませんがバルツィエと言うのは戦闘力以上にプライドの高い一族で組織です。

 昔地方で奴隷をしてたときに気に入らないという理由で消された人がいました。」

 

「そんな理由で!?」

 

「…!」

 

「この街にいる間は最小限に人との関わりを抑えるべきです。

 なるべく話もしないように。」

 

「じゃあどうやって情報を集めるんだ?」

 

「人とお話しできないのなら情報は集まりませんよ?」

 

「………何も人に聞くだけが情報を集める手段ではありませんよ。」

 

「「?」」

 

「人に聞く以外の方法………これです!」バッ

 

「これって………?

 さっきから見てるガイドブックじゃないか。」

 

「これで何を………なるほど………。」

 

「え?

 何?」

 

「察しが悪いですねカオス。」

 

「これですよカオスさん。」

 

「これ?

 だからガイドブックじゃないか?」

 

「ガイドブックではなく、

 これに載ってる地図を見てください。」

 

「地図を?

 ………ここは!」

 

「はい、人に聞く以外で知る方法

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 図書館です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北東部 図書館前

 

 

 

「ここが図書館………なの?」

 

「大きいですねぇ………。

 私のお屋敷と同じくらいでしょうか?」

 

「このレベルのお屋敷に住んでたんですかアローネさん。」

 

「私のお屋敷はもっと高い場所に建ってましたけどね。」

 

「これって入っていいの?」

 

「図書館は誰でも入館出来ると思いますが………。」

 

「じゃあ入ってみようっか。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北東部 図書館

 

 

 

「………」

 

「図書館って何するところだっけ?」

 

「本を読むところです。」

 

「そっかぁ………。」

 

「「………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあこの天井まで伸びる本棚と先の遠い本棚の行列を調べていくしかないんだね?」

 

 

 

「はい、それしかないかと………。」

 

 

 

「トホホ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ガサゴソ、カザゴソ

 

「………」ペラペラペラ…

 

「……?」スッ、スッ、スッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ペラペラペラ

 

「………」スッ、スッ、スッ

 

「………」ガサゴソ、カザゴソ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」スッ、スッ、スッ

 

「………」ガサゴソ、カザゴソ

 

「……Zzz」スピー

 

「………」ペラッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………今どのくらいまで調べ終わった?」

 

「二割程かと………。」

 

「え?二割?

 じゃあ後四日掛ければ全部「いえ」」

 

 

 

「このフロアの二割です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、このフロア………?」ガクガクガクガク

 

「はい、この図書館には後フロアが………九つ程………。」

 

「………」

 

「……Zzz」

 

「………」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「」バタリ

 

「カオス!?

 カオスどうなさったのですか!?

 カオス!!!」

 

 

「図書館ではお静かに。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふあっ、そろそろ休憩しよう………。」

 

「そうですね、私も目が疲れてきました。」

 

「……Zzz」

 

「タレスも…あっ、寝ちゃってるね。」

 

「調べてる途中からこうでしたよ?

 お疲れのようですね。」

 

「………タレスには俺達の事情に巻き込んでる形だからね。

 もう少し寝かせてあげよう。」

 

「それもそうですね。

 タレスもあそこで本を読んでいる子達と変わらない子供ですもの。」

 

「そうだね…。

 あのくらいの年……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ペラ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなさいました?」

 

「………あの子いつの間にあそこにいたの?」

 

「はい?」

 

「俺、他に図書館に入ってきた人には気付いたけどあの子は全く気付かなかった…。」

 

「?

 集中していて気付けなかっただけなのでは?

 カオスはずっとあちらを向いておりましたし…。」

 

「いや、それにしては気配がなさすぎるよ!?

 一体あの子は………。

 !?」

 

「?

 何かありましたか?」

 

「ない………。」

 

「ない?

 何がないのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子からマナを全然感じない………。」



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元貴族の少年

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 王都へ来た目的を果たすため三人は情報収集のために
図書館へと向かう。

 そこで一人の少年を見つけ…。


王都レサリナス 北東部 図書館

 

 

 

「マナを感じない………?」

 

「うん、………やっぱり感じないな。

 もしかしてあの子…!」

 

「マナ欠損症………でしょうか。」

 

「そうだと思う。

 どうしてこんなところに………。」

 

「都会は人が多く集まるところです。

 人が多いのならそういった方も多くなりますよ。」

 

「でもマナ欠損症は治る病気なんだよね?」

 

「えぇ、大分前に治療法は見つかった筈ですが…。」

 

「じゃあ、あの子はどうしてそのままにしてるんだ?」

 

「恐らく治療するのにお金が必要なのかと…。」

 

「お金が?

 親はお金を出してくれないのかな…。」

 

「ご両親もお金を工面なさっているのではないでしょうか?

 治療法があるといってもお金は相当かかりますから。」

 

「………お金かぁ。

 皆で助け合いって出来ないのかなぁ。」

 

「人が皆、善人というわけではないですから誰かの為に何かをするのは余程の方でないとあり得ません。

 むしろ蹴落とそうとする方も。

 ………この街のような大都会ではそれが顕著に表れます。」

 

「競争社会ってやつ?」

 

「えぇ、

 ですから対価なくしては人のために動くということはそうそうないのですよ。」

 

「………なんだか都会って冷たいところなんだね。

 街の景色は明るくて暖かそうなのに。」

 

「そういった理想を求めて都会に来る方は大勢いますよ。

 そして都会に来て落胆する方も。」

 

「………」

 

「都会と言っても所詮は人の住む街。

 全てが万能には出来てないのです。

 あの子のように治療したくてもできない子も沢山……?

 カオス?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ君?

 一人で来たの?」

 

 

 

「…え…?。」

 

 

 

「カオス!?」

 

 

 

「君ってマナ欠損症?

 ご両親は一緒じゃないのかな?」

 

「え、…あ、あの?」

 

「カオス、急すぎますよ!

 スミマセン、連れのものがご迷惑をお掛けして…。」

 

「……うぅ、」

 

「ほら怯えさせてしまったではないですか!」

 

「あっと、ゴメンよ!?

 別に俺達怪しいものじゃないんだ。

 ちょっと一人でいる君が気になってね。」

 

「………そのぉ…。」

 

「御名前お聞きしてもよろしいでしょうか?

 私はアロー………コホン、

 私はアルキメデス、こちらはサタンと申します。

 私達は旅人なのです。

 こちらがギルドカードです。」

 

「…?

 ぼくはダニエル。

 ぼくに何のよう?」

 

「貴方のその症状が気になりまして声をお掛けしたのですよ。」

 

「ぼくの………?」

 

「そうそう。 

 君が一人で本を読んでたからさ。

 それでご両親は今どうしてるのかなぁって。」

 

「………」

 

「あ、別に深いことを聞くつもりはないんだ!

 ほんの興味本意って言うか…「お母さん達は…」」

 

 

 

「お母さん達はもういないよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん達がいない?」

 

「それは………!」

 

「お母さん達は………死んじゃった。」

 

「死んだ!?

 どうして!?」

 

 

 

「図書館ではお静かに!!」

 

 

 

「「す、スミマセン~!」」

 

「………」

 

「………ちょっと場所変えようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北東部 図書館前

 

 

 

ザワザワザワザワザワザ………

 

「うわ!?

 人がこんなに沢山…。」

 

「丁度お昼頃ですから都会ですとこれくらいが普通ですよ?」

 

「そういえばアロー…、アルキメデスは都会にいたんだったね。」

 

「えぇ、ですからこうした風景には馴れています。」

 

「なるほど、

 ………それでダニエル君だったね。

 さっきの話聞いてもいいかな。」

 

「…いいよ。

 バルツィエの話は誰かに聞いてもらいたかったし。」

 

「え?バルツィエ?」

 

「ご両親がバルツィエと関係が………こういった話をお聞きしても大丈夫なのでしょうか?」

 

「………ぼくの家、実は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元貴族なんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元貴族!?」

 

「貴方が…!?」

 

「そうなんだ。

 て言ってもぼくがもっと小さかったときに貴族じゃなくなって家も取り壊されてこうして一人になったんだ…。」

 

「一人って………ダニエル君はどこに住んでるの?」

 

「ここから街の出口の方に行ったら孤児院があってそこで皆で暮らしてるの。」

 

「孤児院?」

 

「事情があってご両親と離れ離れになった子供達が預けられる施設ですね。

 でもどうして?」

 

「ぼくのお父さんは騎士のお仕事をしてたんだけど…

 何か悪いことをしたとかで連れてかれちゃったんだ。

 お母さんも貴族だったんだけどそのせいで両方の家がなくなってお母さんも何処かにいっちゃって…。

 多分二人とももう…。

 いつの間にか孤児院に住むことになってるし…。」

 

「(ハードな話だな…。)」

 

「それとバルツィエがどう繋がるのですか?」

 

「お父さんを捕まえていったのはバルツィエの人なんだ。

 お父さんは絶対悪いことなんてしてないのに…。

 他のお家もバルツィエが次々に…。

 数えるだけでも十はあるよ。」

 

「いくらなんでもそんなに多くの家が不正を働くなど…。」

 

「そうだよ。

 バルツィエのやつらは言うことを聞かない人達を無理矢理捕まえてるんだ。

 あいつらが一番悪いのに。

 あいつらが王様になったからなんでもかんでもやりたい放題なんだ。

 バルツィエがお父さんを捕まえてなければぼくはまだ家にだっていれたんだ。

 バルツィエが「ダニエル!」」

 

 

 

「図書館の前で騒いでは回りの方にご迷惑ですよダニエル。」

 

 

 

「先生…。」

 

「そろそろ食事の時間なので帰りますよ?」

 

「………はい。」

 

「スミマセン、うちのダニエルが何か失礼なことを…。」

 

「いえ、全然そんなことないですよ。

 話しかけたのは俺達からですし。」

 

「そうですよ。

 私達は何も迷惑だなんて思ってませんから。」

 

「有り難うございます。

 …それで貴殿方は?」

 

「俺はカ…サタン、こっちがアルキメデスです。

 図書館の中で調べものをしてたらダニエル君が一人でいたのでちょっと気になって…。」

 

「はぁ…?」

 

「ダニエル君って…魔力欠損症ですよね?」

 

「!」

 

「…その通りです。

 ダニエルは精神的なものから来る後天性のもので…。」

 

「治せないんですか?」

 

「治るかどうかは…。

 なにぶん孤児院も寄付で成り立っているものでして、お金もそう裕福な方ではなく…。

 こういったものにも余り詳しくなくて…。」

 

「いいんだよ…

 どうせぼくなんか治らなくたって…。」

 

「こら!

 貴方はどうしてそう卑屈なの!

 心配してくれている方に向かって!

 スミマセン!

 後で言って聞かせるので。」

 

「構いませんよ。

 俺達も不躾だったと思いますし。」

 

「子供の頃は何かと多感ですから。

 こういう時期も御座いますよ。」

 

「…そう言っていただけると助かります。

 申し遅れました。

 私はメルザと申します。

 この子のいる孤児院で働いているものです。」

 

「…メルザさん。

 その孤児院って今からでも行っていいですか?」

 

「構いませんが…。」

 

「カオス…?」

 

「ちょっと気になるんだ。

 ダニエル君もだけどこの王都でどのくらいバルツィエの被害にあってる子がいるのか。」

 

「一重にバルツィエの……という訳ではありませんが、

 関係している子は数多くおりますよ。」

 

「そうですね、

 ここまでお話を聞いてしまっては何かお力添え出来ることがあるかもしれませんね。

 私も行ってみます。」

 

「そうと決まればさっそく行こうか。」

 

「分かりました。

 それではこちらです。」

 

「うんじゃあ…。」

 

「ちょっと待ってください!

 タレスがまだ寝てますよ!?」

 

「………そうだった。」

 

 

 

 

 

 

 

 



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アイオニトスを求めて

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 王都へと辿り着いた三人は先ず情報を得るために図書館へと向かう。

 そこで魔力欠損症のダニエルという少年と出会う。


王都レサリナス 南東部 孤児院前

 

 

 

「ここがうちの孤児院です。」

 

「………(年期の入った建物だなぁ。まるで旧ミストの廃屋みたいだ。)」

 

「ここにはどのくらいの子供がいらっしゃるのですか?」

 

「このダニエルを含めまして三十人はおりますよ。」

 

「三十人!?」

 

「そんなに子供が…。」

 

「皆、戦災やご両親の都合でここへと回されてきた子達で、殆どが少し前まではここにに来るなんて想像もできなかったような子達ばかりです。」

 

「ここの子達は最終的にはどうなるのですか?」

 

「さぁ……。

 里親が見つかれば引き取られていきますし、

 そうでなかったら働ける年まではここで過ごしますし…。

 この施設もカーラーン教会の教皇の善意で建てられてますから。」

 

「カーラーン教会?

 教皇?」

 

「ご存知ないですか?

 格街に教会はあると思いますが…?

 まぁ信仰している人も多くではないですからね。」

 

「カーラーン教会はリトビアやカストルにもあったみたいですね。

 知らないうちに通りすぎていたようです。」

 

「何をするところなの?」

 

「神に祈りを捧げて救いを求める………大雑把にはこんな認識の場所です。

 トップはその教皇と呼ばれる方のことですよ。」

 

「祈りを…?」

 

「善行について、正直者、よい行いをしなさいだとかそういった綺麗な話を弘めるそんな人達の集団が教会なんです。」

 

「カーラーン………なんか子供の時に読んだ本にそんな名前の本があったような……。」

 

「カオスもカーラーンをご存知なのですか?」

 

「カーラーンについては先程の図書館にもいくつか書本がありますよ?」

 

「そうなんですか?

 じゃあ明日探してみようかな。」

 

「…カオスさん、あの中から探しだすのは時間が掛かりますよ?」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 南東部 孤児院

 

 

 

「ただいま帰りました。」ガチャッ

 

 

 

アッセンセーカエッテキタァー。

 

オカエリナサイセンセー!

 

マタダニエルガヒトリデドッカイッテタノ?

 

アイツホントウニボッチダヨナ。

 

アレシラナイヒトガイル?

 

ダレー?

 

 

 

「はいはい、それじゃあダニエル手を洗ってきなさい。」

 

「…はい。」トボトボ

 

 

 

「あの子達がここで預けられている子達なんですね。」

 

「はい、皆元気があっていい子達ですよ。

 ここでは前の家の事情も関係なく仲良く過ごしています。」

 

「あんなに多くの子供がご両親と…。」

 

「大半は両親が亡くなったり蒸発したりで行き場のなくなってしまった子達ですから、ここではそれを忘れさせてあげられる環境をつくろうと努力はしています。」

 

 

 

ダニエルオセェーゾ?

 

マタヒトリデホンデモヨンデタノカ?

 

ウ、ウルセェヨ!?オマエラニハカンケーナイダロ!?

 

ナンダヨ、ナマイキイイヤガッテ。

 

オマエノセイデゴハンガオクレタンダゾ?

 

マジュツモツカエナイクセニ。

 

…!!

 

 

 

「………ダニエル君は。」

 

「皆元の家柄関係なく仲良くさせたいのですがあの子は他の子と比べても事情が複雑でしてここでも馴染めずにいるんです。」

 

「例の症状ですね。」

 

「それも一つの要因ですね。」

 

「例の症状?」

 

「タレスには後で話すよ。」

 

「元々貴族と言うこともあってプライドも高く回りと壁をつくりがちで、それでいてあの症状ですから回りからは下に見られるような感じなんです。」

 

「(魔力欠損症か………懐かしいな。

 俺の時もそんな空気だったな。)」

 

「あの子の性格と症状があの状況を形成していて、

 前にも回りの子達とのケンカが何度かあったんです。

 その時は収められたのですけどそれからも度々起こり…。」

 

「……」

 

「彼があの状況から脱せないということですね。」

 

「はい…。

 根はいい子なんですよ?

 機嫌がいいときは私や他の人といると甘えてきたりして、

 ですけど他の子供達といるときはあのように窮屈な思いをしているようで…。

 私達もどうすればいいのか。」

 

「……それは「その件なんですけど」」

 

 

 

「俺に任せてもらえませんか?」

 

 

 

「え!?」

 

「カオス?

 何を…?」

 

「全部は解決出来ないけど欠損症だけならなんとか出来るかもしれません。」

 

「それは………こちらとしては助かりますがよろしいのでしょうか?」

 

「話だけ聞いておいて知らんぷりなんて出来ませんよ。

 ここまで聞いたんならダニエル君の病気の件ご協力します。」

 

「ですがうちはお金はあまり………。」

 

「お金はいりません。

 俺もダニエル君のことなんだか助けてあげたくなったんです。」

 

「…本当にいいんですか?」

 

「はい、任せてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 南西部 商店街

 

 

 

「カオスさん、よかったのですか?

 事情は知りませんが何か安請け合いしてませんでした?」

 

「あんな子供が困っているなら助けてあげるのが大人だろ?」

 

「困っていたとは思いますがいいのですか?

 ボクたちにはボクたちのやらなければならないこともありますし後回しにしてると時間がとても掛かりますよ?」

 

「大丈夫だって!

 昨日来たばっかりだし三人で終わらせれば直ぐに済むって。」

 

「ボク達も頭数に入ってるんですね…。」

 

「カオスがこう言うと本当にそう思えますね。」

 

「………そう言うなら一応手はお貸ししますがカオスさん達はバルツィエから命を狙われている身なんですよ?

 この間のニコライトの件で分かった筈です。

 ここはバルツィエのホームグラウンドでいつ襲われてもおかしくありません。

 そうでなくともカオスさん達は賞金首なんですから冒険者達に正体がバレでもしたら…。」

 

「分かってるって心配性だなタレスは。」

 

「カオスは苦境に立たされている人を見過ごせないのですよ。

 私の時もそうでしたから。」

 

「今のボクたちも十分苦境ですよ。」

 

「ダニエル君はもっと苦境なんだよ。」

 

「「……?」」

 

「あの症状は俺みたいな特殊なことでも起こらない限り一人じゃどうにもならない。

 かと言ってあの孤児院でも対処するのは難しいらしい。

 だったら事情を知って手を貸せる俺達がダニエル君を救えるんじゃないかな。」

 

「ですが症状を治療したところで回りとの溝を取り除くことが出来るかどうか……。」

 

「それはそうだけど………。

 でも…。」

 

「?

 そこまでして助けてあげたい何かがあるのですか?」

 

「………ダニエル君はあんまり気にしてないようだけどさ。

 俺はどうしてもあの子の力になってあげたいんだ。」

 

「どう言うことです?」

 

「今のダニエル君が越えないきゃいけないことは多いんだと思う。

 症状だけじゃなく生まれの違いとかで出来た溝やケンカして出来た溝…。

 その溝が原因で本人は自分を守るために強がってるだけだと思うんだ。」

 

「一度作ってしまった自分を変えられずにいるんですね。」

 

「………多分。

 だからダニエル君がもしあの状況が嫌だったんなら最初の一歩だけでも後押ししてあげたい。」

 

「気持ちは分かりますが孤児院ですらお金に困っているんですよ?

 ボク達もカストルで稼いでいたとはいえこんなところで消費してしまうのはこれからの生活費にも影響が出ますが…。」

 

「薬を作るのってそんなにお金がかかるの?」

 

「作る?」

 

「アローネ前に言ってたよね?

 アイオニトスって鉱石から薬を作れるって。」

 

「よく覚えていましたね。

 あれからかなり経つというのに…」

 

「昔の俺と同じ症状だからね。」

 

「カオスさんと同じ…?

 それって………。」

 

「確かにアイオニトスから薬は作れますがそれがどこにあるかは調べないといけませんね。」

 

「…鉱石のことなら武具屋にでも行けば教えてもらえるとは思いますよ?」

 

「よし、なら行ってみようか。

 ………最悪お金がかかるようなら俺が出すから。」

 

「そこまで高く値ははらないと思いますよ。

 あくまで薬の材料ですし。」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 南西部 商店街 武器屋

 

 

 

「アイオニトス?

 あぁ、知ってるよ。」

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ、原産地も知ってるよ。

 ただ………。」

 

「ただ?」

 

「アイオニトスが採れる採掘場は王様にの管轄でね。

 アイオニトスは貴重な鉱石だからなかなか手に入らないんだ。

 王国が武器の資源として管理しているから一般でも殆ど出回らないんだよ。

 流れてきたらそれはもう面白味のある武具が出来上がるんだが…。

 お客さん達もその噂を聞いて来たんだろ?」

 

「そんな…

 他に手に入れる方法はないんですか?」

 

「今のところ東にある洞窟でしか分からないねぇ。

 海を越えた南側ならあると思うけど…。」

 

「確かネイサム坑道では………採れなかったよね。」

 

「そうですね。

 あそこで入手した鉱石はカストルで鑑定してもらいましたがアイオニトスはありませんでした。」

 

「とするとその採掘場でしかないですね。」

 

「そこで分けてもらうことって出来ないんですか?」

 

「そりゃ無理だろうね。

 なんせ今は戦争が始まるかもしれないから採掘場の鉄資源は騎士団が独占しちまってるから。」

 

「戦争が始まる?」

 

「おや冒険者さん達知らんのかい?

 今王国では戦争に向けて武器や資源を騎士団が集めてるところなのさ。

 そのせいかここら辺はちょくちょくそういったものを買い集めていく騎士達がよく来るのさ。」

 

「………」

 

「鉱石のことはまたチャンスが来たときにでも探しに行くことだね。

 もしかしたらどっか騎士団が知らないところで採れるかもしれないし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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鉱石について

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 ダニエルを救うために鉱石を探す三人は街で情報を聞くことにする。

 どうやらアイオニトスは一般にはてに入らないようで三人は…。


王都レサリナスホテル 夜

 

 

 

「困ったなぁ。

 鉱石が手に入りにくいところにあるなんて。」

 

「騎士団が囲っているとなると手を出せませんね。」

 

「カオスさん達のこともあるので騎士団やバルツィエには余り関わることも出来ませんし。」

 

「どうしたらいいかなぁ………」

 

「「………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一先ずは明日アイオニトスってどんなものか調べてみない?

 そういえば俺達アイオニトスがどんなものなのか知らないし。」

 

「そうですね。

 また明日図書館に行って探してみましょう。」

 

「………またあの本の山から探すんですね。」

 

「「………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北東部 図書館

 

 

 

「う~ん、ここにもないなぁ。」

 

「昨日調べたところにはありませんでしたよね?」

 

「………スミマセン、覚えていないです。」

 

「本が多すぎるよ…。

 これじゃあまた最初からやり直しだなぁ。」

 

「そうですねぇ………。

 あら?」

 

「どうしたのアローネ?

 ………あっダニエル君。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「おはようダニエル君。」

 

「おはようございます。」

 

「………」

 

 

 

「………何を調べてるの?」

 

 

 

「ちょっと鉱石についてね。

 調べているところなんだ。」

 

「貴方も調べものですか?」

 

「ぼくは普通の本を読みに来ただけだよ。

 ………サタンさん達、なに見てるの?」

 

「え?

 どの本が鉱石について載ってるか探してるんだよ。」

 

「この本棚は歴史の本関係だからここにはないよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「あっちの奥の方にあると思うよ。」

 

「あっち?」

 

「本棚の上の方に書いてあるでしょ?」

 

「………本当だ。」

 

「気付きませんでしたね…。」

 

「これだけ多くあるんだから種類で分けられてて当然でしょ?

 バカじゃないの?」

 

「………そうみたい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これだ!

 あったよ!」

 

「どれですか…?

 ………アイオニトス………

 これで間違いなさそうですね。」

 

「カオスさん達これを探してたの?」

 

「そうだよ、これがあれば君の症状を治せるかもしれないんだ…。」

 

「………そう。」

 

「待っててね。

 これを必ず持ってくるから。」

 

「いいよ、別に…。」

 

「………どうしたの?」

 

「どうせ治ったってお父さんやお母さんが帰ってくる訳じゃないんだ。」

 

「………」

 

「あの孤児院でずっといきていくしかな

 いんだ

 ぼくなんて生きてたって………」

 

「そんな悲観的にならなくても…。」

 

「いいんだよ………。

 もう何も楽しくないしぼくはここで大人しく本を読むしかないんだ…。」

 

「ダニエル君…。」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北東部 図書館前

 

 

 

「ダニエル君…。」

 

「俺も最初の頃はあんなだったなぁ…。

 体質のことや家族関係のこととかで。」

 

「カオスもですか?」

 

「そう、物心ついたとき始めに記憶にあるのが回りの子達に馴染めない自分だった。

 今でもハッキリと思い出せるよ。

 あの時の記憶を。

 ダニエル君の今と全く同じだった。」

 

「カオスさんがダニエル君と同じ体験をしていたんですか?」

 

「そうだよ。

 まるで鏡に映った自分を見ている気持ちになるね。

 ………だからダニエル君には俺と想いをしていると思うと助けてあげたいなぁ。」

 

「そうですね。

 ではこれからどうします?」

 

「鉱石の採掘場は分かっていますがそこには入れないんですよね?」

 

「あの武器屋の人がそう言ってたから間違いないんだろうね。」

 

「………戦争が始まるとも言ってましたね。」

 

「ダレイオスとの戦争か………。」

 

「本当なのでしょうか?

 この街を見ててもそんな雰囲気には見えませんが…。」

 

「バルツィエの戦力を考察するとこの空気でも仕方ないのかもしれませんね。

 戦場にバルツィエがでばるだけで一騎当千の力を振るいますから。」

 

「そうなるとまた孤児院にいた子達みたいな親がいない子が出てくるんじゃないか?」

 

「戦争をするとなるとそれも考えられます。

 死者は両軍ともに出ますから…。」

 

「「………」」

 

「………今は戦争のことなんて考えても分からないよ。

 俺達は俺達に出来ることだけを考えよう。」

 

「そうですね。

 直接徴集された訳でもないのに先のことを考えても仕方ありません。」

 

「………では鉱石の入手をどうするかですね。」

 

「武器屋の人が言っていた採掘場以外にはないのかなぁ…。」

 

「あったとしても昨日の図書館のように分類も分からないまま探すのは無謀ですね。」

 

「騎士団の人に分けてもらう………というのは無理そうですね。」

 

「ボクもそう思います。

 カオスさん達はなるべく騎士団と接触を避けるべきですし、ボクが行くとしても子供のボクではろくに話も出来ないでしょう。」

 

「………どうしたら………。」

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………手詰まりだね。」

 

「そもそも素人のボク達が鉱石を集めると言うのが無茶な話なんですよ。」

 

「そうは言いますがそれさえあればダニエル君は救えるのですよ?」

 

「思い付く方法が採掘するしかないのに、唯一ある場所が入れないなんて…。」

 

「そこ以外を探すとなると何年かかるのやら…。」

 

「地質研究は数十名が長年かけてようやく一部の土地を攻略するらしいですから。」

 

「たった三人だとどのくらいかかるんだろうな。」

 

「想像したくありませんね…。」

 

「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、………無理なのかな俺達じゃあ。」

 

「ある場所は分かっているんですけどねぇ………。」

 

 

 

「いっそのことその採掘場の近くに穴を掘って中の鉱石だけ頂いちゃいます?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

「………!」

 

「?

 どうしました?」

 

「タレス今なんて…!?」

 

「はい?

 ですから穴でも掘って中の鉱石を「それだ!」」

 

「どうして気付かなかったんだ!

 そういう手もあったな!」

 

「タレスお手柄ですね!」

 

「へ!?

 まさか本当に今の案を採用するつもりなんですか!?」

 

「あぁ、もうそれしかないだろ!?」

 

「無茶ですよ!?

 冗談で言ったつもりなんですから!

 それにこの手の話はよくあるものなんですよ!?

 ですから騎士団も周囲に穴を掘る人がいないか警戒してる筈ですし!」

 

「だったらその警戒してる範囲から外で穴を掘ればいいんだよ!」

 

「それなら私もお手伝い出来ますね。」

 

「それこそ何ヵ月もかかりますよ!?」

 

「もうこれしかないんだしやってみようよ!」

 

「地属性の得意なタレスがいてくれたらすぐに終わりますよ。」

 

「そんな当てにされても………。」

 

「頼むタレス!

 この通りだ!」ペコッ

 

「私からもお願いします!」ペコリ

 

「えぇと………。」

 

「「………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………分かりましたよ。

 案を出したのはボクなんでご協力します。」

 

「有り難うタレス!」

 

「タレスがいてくれて本当に心強いです。」

 

「………では早速作戦を練りましょうか………。」

 

「あぁ!」

 

「穴堀なんて初めてです。」

 

「皆そうだと思いますよ?

 ではまず現地にてなんですけど………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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騎士団との乱闘

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 魔力欠損症の少年ダニエルを救うために三人はアイオニトスを探すがアイオニトスは騎士団の管理する鉱山にしかないという…。


リプット鉱山 入り口前 明け方

 

 

 

「ここが目的の場所か…。」

 

「想定はしていましたが騎士団が入り口で見張っていますね」

 

「………三人ですか。

 思ったより少ないですね。

 これなら穴を掘るのはそんなに遠くなくてもいいかもしれません。」 

 

「本当に!?」

 

「といってもここから最低半径一キロは遠くにしますよ。」

 

「そこまで遠くにするの?」

 

「ボク達はこれから術技を駆使して穴を掘っていきます。

 なので大きな音をたてると即見付かってしまうのでなるべく騎士団から聞こえない程の位置で穴を掘らなければなりません。」

 

「そうかそういうことも考えないといけないのか。」

 

「後、魔術を使う際はもう少し明るくなってからですよ。」

 

「?

 何でそんな時に?」

 

「真っ暗だと魔術の光で騎士団が寄ってきます。

 なので明るくなっても目立たないかつ気付かれたとしても素早く逃げ出せる位置にしなければなりません。」

 

「なるほど…」

 

「………それではもう少し時間がたってから作業を開始しましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リプット鉱山 最奥部

 

 

 

「ハァ、疲れるなぁ。」

 

「言うな、余計疲れるぞ。」

 

「だってよぉ…。

 こんな洞窟の中でひたすら石ころ探してるだけの作業なんて詰まらねぇだろ?」

 

「それもそうだけどよ。

 後もう少しで裏番の奴等と交代なんだから我慢しろよ。」

 

「それにしてもよ。

 何で騎士の仕事がこんな石ころ探しなんだよ。」

 

「仕方ねぇだろ。

 上の連中の命令なんだから。」

 

「こんな石ころが何の役に立つってんだ。」

 

「石ころじゃねぇよ。

 こん中にはマナが多く含まれてんだ。

 これを沢山集めて魔法剣を作ったり封魔石の素材にしたりしてんだ。

 きびきび働けよ。」

 

「ヘイヘイ、

 真面目なこって。

 ………なんか面白いことでもおこらねぇかな。」

 

「起こるわけないだろ。

 こんな穴蔵の中でなにが何があるってんだ。」

 

「………一攫千金のお宝でも出てきてくれりゃやる気出てくるんだがなぁ。」

 

「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ。

 あるわけないだろそんなこと。

 あったとしても持ち出せねぇよ。

 入り口は他の奴等がいるんだから。

 どうやって運び出すんだよ。

 ここで出てきたもんは全部持ってかれるぞ。」

 

「夢がねぇなぁ。

 っとに。」

 

「そんな下らないこと言ってないで手を動かせ手を。」

 

「ハイハイ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーイ、そろそろ交代するぞ~、

 上がっていいぞ~。」

 

 

 

「ふぅ、漸く終わりだな。」

 

「結局何も出てこなかったなぁ。」

 

「そう都合よく出てくるわけないだろ…。

 さっさと帰って寝るぞ。」

 

「あいよ。」

 

 

 

「お疲れさん、後は俺達が………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「今何か音がしなかったか?」

 

「あぁ、でかい音が…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシッ……ピシピシピシ……ガラ!ガラガラガラガラガラ…!!

 

 

 

「おい!やべぇぞ!?

 天井が崩れる!!」

 

「逃げろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ!!

 

 

ドダァァァァァンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!?」」」

 

「何かが落ちてきたぞ!?」

 

「何だ!?

 モンスターか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったたた………!

 大丈夫二人とも。」

 

「ゴホゴホッ!

 ………砂煙が喉に…ゴホッ!!」

 

「ボクは平気です。

 ………少し掘りすぎましたね。」

 

「そうみたい。

 だけどなんとか空洞には出てこれたな。

 後は騎士に見つからずに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、遅いみたいだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だお前達は!!?」

 

「採掘泥棒か!?

 ここは王国の統括地だぞ!?」

 

 

 

「い、いや俺達は…!」

 

 

 

「お、お前達は手配書の…!?

 カオス=バルツィエ!!?」

 

「何ィ!!?

 どうしてこんなところに!?」

 

 

 

「ウゲッ…!?

 何で正体までバレたの!?」

 

「カオス!

 輪ゴムが取れてます!」

 

「え!?

 そうか!

 今のでゴムがどこかに行っちゃったんだ!」

 

 

 

「ということはもう一人はアローネ=リム・クラウディアだな!?」

 

「子供もいるぞ!?

 一家犯だったのか!?」

 

 

 

「………変な誤解されているようだけどどうする?」

 

「ここまで来たら鉱石を手にいれて逃げるしかありませんよ。」

 

「手っ取り早く気絶させてずらかりましょう。」

 

「そうするしか無さそうだね。」

 

 

 

「大人しく投降しろ!

 この中は完全に包囲されて「魔神剣!」うわぁ!」ザザザッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなの言われなくても知ってるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ぐぅ………ッ」」」

 

 

 

「取り合えず倒しちゃったけど。

 幸い気付かれたのはこの騎士達だけみたい。

 どうしよっか?」

 

「鉱石は………見てくださいあそこ!」

 

「どうやらここでそこの騎士達が採掘していたもののようですね。

 アイオニトスは………ありました。

 これです。」

 

「見つける手間が省けて助かるよ。

 後はこれをもって帰って…」

 

「………出口が天井に…。」

 

「これでは出られませんね…。」

 

「ん?

 壁に見取り図があるよ?

 今いるところは………。」

 

「………最深部にいるようですね。」

 

「………張り切りすぎたか………。

 バレずには帰れそうにないね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タッタッタッタッタッ!

 

 

 

「魔神剣!魔神剣・双牙!!」ザンッ!ザンッ、ザンッ!

 

 

 

ウォワッ!

 

グアッコレハ!?

 

 

 

「孤月閃!」ブンッ!

 

 

 

ウァッ…!

 

 

 

「ウインドカッター!」シュッ!

 

 

 

ガラガラガラッ

 

 

 

ミチガ!?

 

イソイデガレキヲドケロ!

 

ゼッタイニニガスナ!

 

オエ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう随分と大事になったなぁ。

 これはこっそり鉱石だけいただいて帰るなんて話じゃないな。」

 

「始めからこうなることは予測できてました。

 後はもうここを切り抜けるしかないですよ。」

 

「大勢騎士がいますけど地形を利用すれば足止めも難しいものではないですね。」

 

 

 

イタゾ!コッチダ!

 

 

 

「………瓦礫でまた新しいのも来たけどね。」

 

「しょうがないです。

 素早くたたいてここを抜けましょう!」

 

「そうします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リプット鉱山 入り口

 

 

 

「ハァ、なんとか出られたな。」

 

「あら?

 警備の方がいませんね。」

 

「ボク達が暴れたので中の方に向かったんではないですか?」

 

「ならばカオス今のうちにゴムを…。」

 

「有り難う。

 何にしても今のうちに街の方へと逃げよう。

 ぐずぐずしてたら中の騎士が戻ってくるよ。」

 

「「はい。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしてるんだ奴らは………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナスホテル  昼前

 

 

 

「ふぁ~、やっと帰ってこれたぁ~。」

 

「私ももう立っているのがやっとです。」

 

「………徹夜ですし今日は夜までホテルで就寝します?」

 

「そうしよう、鉱石は手に入れたわけだし起きてから薬にしよう。」

 

「そうですね………。

 では私はこれで…」バタンッ

 

「………」

 

「?

 タレスどうしたの?

 部屋に戻らないの?」

 

「いえ、気になることがあるのですが………。」

 

「何?」

 

「アイオニトス………

 薬の材料にするのですよね?」

 

「?

 その予定だけどそれがどうかした?」

 

「それは誰から教わったんですか?」

 

「アローネからだけど…?

 魔力欠損症を治すにはこのアイオニトスが必要なんだって………。」

 

「魔力欠損症を…治すですって………?」

 

「それがどうかしたの?」

 

「いえ、ボクも薬医学に詳しい訳ではないので確証がないので今は何も………。」

 

「!

 もしかして何か問題でもあった!?」

 

「何でもありませんよ。

 夜になったらアイオニトスを薬にしてもらえるところに行きましょう。

 そこはぼくが調べておきます。」

 

「あぁ、頼んでいい?」

 

「はい。」

 

「じゃあ悪いね。

 また夜になったら迎えにいくよ。」

 

「分かりました、

 ではお休みなさい。」ガチャッ、バタンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ、流石にこの時間まで起きているのは体が重たいな。

 

 

 

 ………

 

 

 

 流れで戦っちゃったけど俺、騎士とやりあったんだなぁ。

 

 

 

 別に今回が初めてじゃないけど、なんかこう………思ったより騎士団が強くなかったな。

 

 

 

 殺生石のおかげで戦えてるってのもあるけどあのくらいなら魔術なんてなくても武身技だけで………

 

 

 

 ………駄目だな。

 

 

 

 疲れて思考がおかしくなってる。

 

 

 

 調子に乗ったら駄目だ。

 

 

 

 調子に乗ってタレスやアローネを危険な目に会わせたらもともこもない。

 

 

 

 騎士の道はもう諦めたんだ。

 

 

 

 アローネがカストルで言ってたじゃないか。

 

 

 

 俺は俺の目指す騎士道を貫く。

 

 

 

 俺以上や俺以下なんて関係ない。

 

 

 

 あの騎士達だって頑張ってたんだ。

 

 

 

 そこは認めないと。

 

 

 

 さっきまでのは地形を利用してただ逃げるのが上手くいっただけ。

 

 

 

 それに仮に騎士になるんだとしてもニコライト、あんな小さな子供に苦戦しているようじゃ世界をどうにかするなんて出来る筈がない。

 

 

 

 俺の強さなんてまだまだ地の底の方だ。

 

 

 

 おじいちゃんぐらい強くならないと世界なんて………。

 

 

 

 少なくともウインドラと二人で戦っても勝てなかったようでは救える筈がない。

 

 

 

 本当に救える訳ではないけどマテオを支配しているバルツィエと戦うことにでもなれば…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は本当におかしいな。

 

 

 

 運よく成功しただけなのに嬉しくて揚がっている。

 

 

 

 騎士をいなしたのがこんなに嬉しいなんて…。

 

 

 

 昨日………いや、日付的には今日なのか。

 

 

 

 今日のリプット鉱山でのことが頭から離れない。

 

 

 

 なんだか無性に戦いたい。

 

 

 

 それも強い人と。

 

 

 

 調子に乗っちゃいけないけど、あの場にバルツィエがいたらどうなっていただろうか…。と言うか何故いなかったんだろう。

 

 

 

 互角に戦えたか、それか苦戦して逃げていたか。

 

 

 

 

 

 

 ………それかもしかしたら勝てたんじゃないか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今後手配書のことやニコライトの時殺されそうになったことを考えてもバルツィエと戦う可能性はあるよな。

 

 

 

 その時になって対応するよりも先にバルツィエのことを調べておいた方がいいかな。

 

 

 

 いざバルツィエと戦うときにスムーズに動けるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエと戦える機会があれば………。



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行き詰まり

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 アイオニトスを求めてリプット鉱山へと来た三人は騎士団に見付かってしまい成り行きで戦ってしまう。

 なんとか鉱山から抜け出した三人は王都へと戻り薬の調合の前に体を休めることにする。


王都レサリナスホテル 夜

 

 

 

コンコンッ

 

 

 

「はい…」ガチャッ

 

「おはよう、じゃないねこんばんわタレス。」

 

「こんばんわタレス。」

 

「お待ちしてました。

 この時間まで開いている薬屋を調べておいたのでそこに行きましょう。」

 

「有り難うタレス。

 調べておいてくれたんだね。」

 

「そう言いましたからね。」

 

「どの辺りなのですか?」

 

「街の北にある王城側の近くです。

 時間もギリギリなのですぐに向かいましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北西部 貴族街 薬局

 

 

 

「ここなんだか他の所よりも綺麗だね。

 あの大きなお城が近くにあるせいかもしれないけど。」

 

「…ここは恐らく貴族が密集して住んでいる区域なのでしょう。」

 

「貴族が?」

 

「ウルゴスでもこうした街並みのある場所はありましたから分かりますよ。

 私の家もこのような建て方をしてました。」

 

「へぇ~、

 それにしても何でこんな住宅地に薬局だけあるんだろ?

 他のお店はもう少し下の方にあるよね。」

 

「それは…」

 

 

 

アハハ、キョウハアリガトー

 

ラーゲッツサマトイルトキブンガイイワー

 

ダロ!?オレサマガマタパーティーヲヒライテヤルカラソントキハヨロシクナ!

 

ハーイ!

 

ソレデハラーゲッツサマオキヲツケテー。

 

ツギノトキモヨロシクオネガイシマスー。

 

マタナー!

 

チョットノミスギタワネイグスリデモカッテカヨウカシラ…。

 

 

 

「………あのようにお酒を飲む会の帰りに胃薬等を買うからなのでしょうね。」

 

「貴族は利用者も多いですからそれでこの付近に設置しているのですね。

 怪我をしたときとかに駆け込み易いように。」

 

「だからこの薬局も他の家と同じくらいこんなに大きいのか…。」

 

「今はこの鉱石を薬にしてもらいましょう。

 薬局なら誰でも入れますから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ~。ちっと飲みすぎたか。

 視界がぼやけてくらぁ…。

 ん?」

 

 

 

アレ?オミセノソトニモナニカオイテアルヨ?コレハ?

 

ナカニハイリキラナイモノヤセンデンヨウニオイテイルノデハナイデスカ?

ミズトカモアリマスシ。

 

ソッカ、ジャアカンケイナイノカ。アトデミズダケカッテコウカナ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ…中々の上物だなぁ、ありゃあ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネさん、薬を作って貰うのって具体的にはどうするのですか?」

 

「私もよく知らないのですが昔、義兄がよく薬学の本を片手に調合して作っていましたのでそこまでは難しくはないと思いますよ。」

 

「お義兄さんは何でもやってたんだったね。」

 

「はい、義兄の薬は専門家に確認してもらっても問題ないものを作っていたのでここでも「おい!」」

 

 

 

「そこのお前!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、俺達に何か?」

 

 

 

「お前じゃねぇよ!

 そこの女!」

 

 

 

「………私ですか?」

 

 

 

「あぁ、お前どっかで見たことあんなぁ…。」

 

 

 

「「「!!?」」」

 

 

 

「この俺が女の顔を忘れるなんてそうはねぇんだがな…。

 どこで見たんだろうなぁ…。

 まぁそんなこたぁどうでもいいか。

 ちょっと付いてこいよ。」

 

 

 

「な、何なんですか貴方は!?

 人を呼びますよ!?」

 

 

 

「へぇ、それは怖いなぁ。

 そんなに警戒すんなよ。

 なぁ、このあと俺とどっか飲みにでもいかねぇか?」

 

 

 

「な、何を言ってるんですかいきなり!?

 貴方とは初対面ですよね!?」

 

「そうですよ!

 俺達に何の用なんですか!」

 

 

 

「あぁん?俺を知らねぇのか?

 ………そうかその身なり。

 お前ら余所者の冒険者だな?」

 

 

 

「それが何ですか!?」

 

 

 

「貧乏くせぇ服装だなぁ。

 そんなんでよく女を連れ歩けるな。

 俺だったら恥ずかしくて外も歩けねぇよ。」

 

 

 

「何ィ…!」

 

 

 

「こんな貧乏物件捨てて俺と一緒に高い酒でも飲みに行こうぜ?

 奢ってやるからよほら。」ガッ

 

 

 

「あのちょっと…。」グググッ

 

 

 

「黙ってついてくりゃいいん「待てよ。」だよ。」ガッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何だよこの手は?

 テメーはお呼びじゃねぇんだよ。」

 

 

 

「無理矢理連れていくなんてどうかしてるぞお前。

 だいたい誰だよお前は。」

 

 

 

「俺か?

 ゴミクズが俺に名前聞いてんのか?

 そりゃ命令か?」

 

 

 

「誰かも分からない人にアローネは預けられない。

 それに俺達はこれから用事があるんだ。

 遊びなら他を誘ってくれ。」

 

 

 

「平民風情が偉そうに指図すんなよ。

 何様だテメーはよぉ。」

 

 

 

「何者か分からないお前にそんなことを言われる筋合いはない。」

 

 

 

「………よぉし、いい度胸だ。

 そんじゃあテメーにを直接刻んでやろうか。

 この俺の名前をよぉ………」チャキッ

 

 

 

「!?

 街中だぞ!?

 剣を抜いたら…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺様はラーゲッツ=ギルト・バルツィエ!

 テメーの死因はこの俺に逆らった「このボケがッ。」ブハァッ!?」ゴスッ!

 

 

 

「「「…!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「家のもんが済まないねぇ。(遅かったか。)

 酒癖と女癖が悪くて手を焼いてんだ。」

 

 

 

「い、いえ…。」

 

「あ、有り難う御座います…。」

 

「…!」

 

 

 

「コイツは連れて帰るからゆっくり観光してってくれよ。

 それじゃあな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だったのでしょうか今の方は…?」

 

「さぁ…。

 でもあの剣を抜いた男、バルツィエって名乗った………。」

 

「!

 それではあの男性が…!?」

 

「あぁ、………こんなに早くに次のバルツィエに会うなんて…。

 当然か、ここはバルツィエのホームグラウンドらしいからいてもおかしくない。」

 

「………あの止めに入った男もバルツィエでしょうね。

 あのラーゲッツとか言う男を担いで行きましたから。」

 

「………そうだね。」

 

「そしてあの男………この街に来たときに検問で上から声をかけてきた男と同じ声でした。」

 

「………!

 あの時の!」

 

「気のせいだとは思いますがあの男達にも今度あったときには用心しておきましょう。

 ひょっとするとボク達は見張られているかもしれません。」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北西部 貴族街 薬局内

 

 

 

「薬の調合ですか?」

 

 

 

「はい、お願いしたいんですけど………。」

 

 

 

「症状の方は分かりますか?」

 

 

 

「はい、材料ももう調達してます。」

 

 

 

「そうですか。

 今からですともう閉店なので明日の予約という形でなら受付できますよ。」

 

 

 

「はい、それで構いません。

 ではそれでお願いします。」

 

 

 

「有り難う御座います。

 それでは手続きだけ済ませてしまいましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日にはなったけどこれでなんとかなったね。」

 

「早く明日になるのが楽しみですね。」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お客さま、症状の方はどういったご様子ですか?」

 

 

 

「え?症状?」

 

「後天性の魔力欠損症です。」

 

 

 

「魔力欠損症………ですか?」

 

 

 

「そうです、薬の材料もアイオニトスを入手してあります。」

 

 

 

「…それはそのぉ………。」

 

 

 

「何か足りませんでしたか?

 それでしたらその材料も調べて集めますが…。」

 

 

 

「いえ、そうではなくてですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔力欠損症は現在治療方法が見つかってない不治の病なんですよ。」



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不治の病

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 魔力欠損症の少年ダニエルを救うためにアイオニトスを手に入れた三人は薬局へと赴くが…。


王都レサリナスホテル 夜

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、………どうすればいいのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北西部 貴族街 薬局内少し前

 

 

 

「魔力欠損症の………治療方法がない?」

 

「そ、それはどういうことですか!?

 魔力欠損症は十数年前に治療方法が確立された治療可能な病の筈です!

 世界的にも公表された医術の筈ですよ!?」

 

 

 

「と言われましてもこのレサリナスですらそのような話は聞いたことありませんし…。」

 

 

 

「…!

 では魔力欠損症は今までどう対処なさってきたのですか!?」

 

 

 

「現状ですとなんとも…。」

 

 

 

「………そんな…。」

 

「アローネ…。」

 

「そんな筈はありません…!

 治療方法は確かにあるのです。

 

 

 そうでなければメルは………!?」

 

「アローネ、落ち着いて。

 ここは一旦出直そう。」

 

「カオス、信じてください!

 私は決して嘘などは…!?」

 

「分かってるよ、だからここを出て…。」

 

「ウルゴスでは治療出来たのです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうすればいいか…

 

 

 

 そんなもの分かりきってるじゃないか。

 

 

 

 材料はあるんだ。

 

 

 

 なら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナスホテル ロビー

 

 

 

「………」

 

「おはよう、アローネ。」

 

「………カオス…。」

 

「元気ないね、どうかした?」

 

「………ウルゴスは…。」

 

「ん?」

 

「この世界に本当にあるのでしょうか…?」

 

「?

 何言ってるんだよ?

 ウルゴスがあるからアローネはそこから来たって言ってたんだろ」

 

「………ですがこの世界で誰もウルゴスを知りません。

 知っているのは………私一人………。

 ………そんなの在るなんて言えるのでしょうか…?

 そんなの私の只の妄想だけの話かもしれませんよ…?」

 

「………どうしちゃったんだよ…?

 昨日からおかしいぞ?」

 

「………おかしくもなりますよ………。

 ウルゴスを求めてやって来たのに宛にしていた場所では結局何も見付けられず、治してあげると言った子には期待だけさせて何も解決してあげられない………。」

 

「………治すって言ったのは俺だから俺の責任だよ………。」

 

「………それも前に私が治療可能な病とカオスに告げたのが原因ですよね………。」

 

「………」

 

「私はとんだ大嘘つきですね………。

 在りもしない国を貴方に探させて治療出来ない病を治療出来ると言って………。

 何も出来ないのに………。」

 

「…!

 今更何言ってるんだよ!?

 アローネはウルゴスから来たんだろ!?

 それがたった数回ない………じゃない知らないって言われただけで何諦めてるんだよ!?

 ウルゴスに帰りたいんだろアローネは!?」

 

「………それは帰りたいですよ!!

 帰りたいに決まってるじゃないですか!?

 帰って家族の身の安否を確かめたいです!

 出来るのなら今すぐにでも帰って………。

 ………けれどウルゴスは何処にも無いのです!!

 私の国はこの世界の何処にも無いのです!

 帰る国など何処にも………。」

 

「そんなの少し国をまわったくらいだろ!?

 そんなんでこの世界の何処にもないなんて「カオスは!」」

 

 

 

「カオスは………『アインス』………と言うのがなんのことだか分かりますか?」

 

 

 

「『アインス』?………それって………?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………ごめん、初めて聞く名前だ。」

 

 

 

「………そうですか。

 そうですよね。

 やはり『知らない』のではなく『ない』のですねウルゴスは。」

 

「ま、待ってよ!?

 どうして今の質問でそう結論付けるのさ!?

 あれだけでないとは判断できないだろ!?」

 

「いいえ、もう十分です。

 その答えだけで私には全てが分かりました。」

 

「分かったって何が…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の全てが出鱈目の塊だということがです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北東部 図書館内

 

 

 

「(これでもない、これでもない、これじゃない、これも違う………。)」

 

「………」ペラッ

 

「………はぁ~、本がどこに在るかの調べ方は分かっても多いことに変わりはないなぁ。」

 

「………そうですねよね。

 医学に関してはてんで素人ですからどれが必要でどれが必要じゃないかも分かりませんし。」

 

「全くだよ。

 どうしてこんなに多いんだぁ?

 殆ど書いてること同じなのに…。」

 

「医学に関わっていないボク達だから違いが分からないだけで本職の方からしたら全然違うように書いてあるんじゃないですか?」

 

「それだったら一つ一つの本をもう一度読み直す必要があるな。」

 

「………本当に薬を自作なさるんですか?」

 

「当然だろ?

 医者が宛てに出来ないのなら俺が作るしかないだろ?」

 

「ですがボク達は医学知識零からの勉学になりますよ?

 時間がどのくらいかかるかも分からないですしお金だってかかります。

 その上逃亡中の身ですから余り悠長に構えていられません。

 この王都ですらたまたま立ち寄った一つの街に過ぎませんのにその中のほんの一人を助けるのにどれだけ必死なんですか。」

 

「………それでもさ。

 同じ気持ちを味わっている子を放っておけないんだよ。

 俺は…。」

 

「カオスさん…。」

 

「俺も同じだったから。」

 

「………ですがやはりこの計画には無理がありますよ。

 只でさえ知識が足りない未経験だというのに現段階で現役の医学者ですら治療方法が見付けられない病を治すなど不可能です。」

 

「不可能じゃないさ。

 こっちにはこのアイオニトスがある!

 これさえあれば魔力欠損症も治せるんだ!」

 

「それもアローネさんが言っていたことなんですよね。

 孤児院で自信満々に治せると言っていたから何かあると思ったら発端はカオスさんではなくアローネさんだったと…。」

 

「それはそうどけど。

 受けたのは俺だよ。」

 

「あまり抱えすぎるのもよくないですよ。

 無理なら無理とハッキリ言えば今ならそんなに傷つけずに済みますよ。」

 

「………いや、諦めないよ俺は。

 もうこの件はダニエル君を治すだけの問題じゃないんだ。

 これにはウルゴスの存否も関係してきてるんだ。

 このアイオニトスで魔力欠損症を治せれば少なくともアローネが言っていたことの証明にはなる。

 ウルゴスが本当にあるんだってことを…。」

 

「昨日の件でですね。

 それでアローネさんがあっちで意気消沈してるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………今アローネは昨日ので気がまいってるみたいなんだ。

 今はそっとしておこう。

 この件は俺達………いやタレスは関係してないな。

 この件は俺がなんとしてでも解決して見せる!」

 

「………いろんなことをこなしてきたカオスさんでも今回の件は流石に無理だと思いますよ?

 ヴェノムの件を抜いたらあくまでもボク達は誰かが出来ることをこなしてきただけですから。」

 

「………」

 

「ここに来て誰にでも出来ない病気を治すとなると知識、技術、設備といった面でも現実的ではないかと。」

 

「それでも………材料はあるんだ………。

 薬学を学んでいけばいずれは…。」

 

「この街にはそこまで長居は出来ないんですよ?

 知識をつけていくうちに必ず捕まってしまいますよ。」

 

「じゃあタレスはダニエル君がこのままでもいいのか!?」

 

「お二人が捕まるくらいならあの少年のことなどどうなってもいいですよ?」

 

「!?

 本気で言ってるのか!?」

 

「そうです。

 ボクにとってはお二人こそがボクの全てです。

 お二人の為ならボクはあんな子供切り捨てられます。」

 

「タレス!

 馬鹿なことを言うんじゃない!

 俺達はそんなこと望んだりしない。」

 

「お二人の目的の障害となるのならあの少年はボクにとっては敵です。

 そもそもマテオの貴族というだけでも憎らしい存在なのですから。」

 

「!」

 

「何もボクはバルツィエだけを憎んでいる訳では無いのです。

 本当だったらマテオの全てが憎かった。

 ………ですがそんな毒気もお二人に出会って大半は抜けていきました。

 それでもなくならないものはありますよ?

 ボクは今マテオにいる貴族以上の位に立つものが全て憎いんです。

 この街に来てようやく確信できました。」

 

「タレス…。」

 

「お二人に救われなかったらこんな感情も持てないままずっと奴隷として過ごしていたのでしょうね。

 ですからカオスさんとアローネさんには感謝しています。

 ボクのこの憎しみを取り戻してくれて………

 あの時からはボクは『人』に戻れた気がします。」

 

「タレス………俺達はそんな復讐心を持ってもらうために助けたんじゃない。」

 

「分かってますよ。

 お二人はボクに同情して助けてくれたってことも。

 そのお二人を邪魔するのならボクはお二人の手足となってこの先も戦いますよ。

 例えバルツィエでも。」

 

「そんなこと続けていたらタレスがいつか死ぬかもしれないんだぞ?

 俺達は戦うために旅をしているんじゃない。」

 

「ダレイオスの民は仲間のためならなんだって出来ます。

 ………少し熱くなりました。

 頭を冷やしてきます。」

 

「………」

 

「この街に来てボクも興奮しているようですね。

 ですが今言ったことは本気ですよ、

 気絶してなかったらボクはニコライトを殺していました。」

 

「………」

 

「それからアローネさんの件ですが、ボクもアローネさんのことは信じたいです。

 信じたいですけど少なくとも今のままでは何の根拠もありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 せめてその治療方法さえ知ってる人がいてくれたら話は別ですけど。」



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目的を見失わないで

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 魔力欠損症の少年ダニエルを救うために薬を調合してもらおうと薬局まで来た三人だったがそこで思わぬ壁に衝突してしまう。


王都レサリナス 北東部 図書館 夕方

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はこれくらいにしとこうか…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナスホテル 夜

 

 

 

「………」ガチャ

 

スタスタスタ、

 

「………」ドサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思ったより難しいんだな。

 

 

 

 こんなに学ぶことが多いなんて………。

 

 

 

 材料はある。

 

 

 

 それが本当に安全なのかが問題だ。

 

 

 

 ただそれだけ。

 

 

 

 それだけを調べるのにこんなに調べなきゃいけないことが多いなんて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それもそうか。

 

 

 

 こんな初めての人が少しかじった程度で出来るなら絶対誰かが結果を出してる。

 

 

 

 そもそも医学に精通した人にすら辿り着いてない俺がその先にいけるなんて思い上がりもいいところだ。

 

 

 

 やっぱり俺には………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いや、アローネが言っていたじゃないか。

 

 

 

 世界を救いたいと宣うのなら世界に流されるなって…。

 

 

 

 誰かが出来なかったからって俺が諦めるなんて………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけどそう言ってくれたアローネも今では………。

 

 

 

 俺は………どうしたらいい………。

 

 

 

 せめてタレスの言う治療方法を知っている人でも出てきてくれれば………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 東北部 図書館

 

 

 

「………じゃあ今日も勉強するか………。」

 

「………」

 

「………あの。」

 

「何?」

 

「………申し訳ないんですけどボクはこの方面ではお役に立てそうにありません。

 なのでボクは当初の予定通りカオスさんのこととバルツィエのことを探ってきていいですか?」

 

「…!」

 

「…そうか

 分かった。

 じゃあそっちを頼むよ。」

 

「はい。」スタスタ…

 

 

 

「タレス…。」

 

「仕方ないさ。

 もともとの目的を放っておいて俺が勝手にやることを増やしたのがいけなかったんだ。」

 

「いえ、私が「アローネ」」

 

 

 

「やめよう。

 今はアイオニトスをどうやって薬に調合できるかを調べよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 東北部 図書館 夕方 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス………」

 

「………」

 

「今からでも私が………

 ………なんでもありません。」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナスホテル 夜

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだまだ先は長いな。

 

 

 

 アイオニトスを薬にするにしても処方を間違って薬とは別の有害物質を精製しても困る。

 

 

 

 単純に材料を混ぜ合わさるだけじゃないんだな。

 

 

 

 薬は毒からも作られるというし、ここに来てからそんなこと初めて知ったよ。

 

 

 

 昔は村の本を読みまくって調べたこともあったけど、ここにある知識はそれ以上に奥が深い。

 

 

 

 それはもう奥が深すぎて手が届かないほどに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナスホテル ロビー

 

 

 

「カオスさん、アローネさん。」

 

「ん?」

 

「どうしました?」

 

「これを見てください。

 先日のリプット鉱山での件が載ってますよ。」

 

「なになに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【例の賞金首カオス=バルツィエ リプット鉱山に出現 王国管理の資源物資を盗掘 王都内に潜伏している可能性浮上】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりこうなったね。

 これで大々的に俺達のことが広まるわけか。」

 

「こうなってしまうと私達も動きにくくなりますね。」

 

「あぁ、まだ来てから何も目的を果たしてないからね。」

 

「これに関しては想定の内です。

 ………問題なのはこの文です。」

 

「「?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【南方のイクアダにてニコライト=ゼン・バルツィエを撃破!

 噂のアルバート=ディラン・バルツィエの息子説は濃厚か!?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?

 噂の………息子?」

 

「まぁ………孫がいるくらいですからね。

 息子がいてもおかしくはないですけど………。」

 

「でもうちはどっちかって言うと父さんは婿養子だったと思うんだよなぁ。

 母さんはおじいちゃんの娘だった筈だし…。」

 

「それはこの記事を書いた広報部が適切な情報を掴んでないということです。

 そんなことよりも問題なのはこの部分です。」

 

 

 

【噂の】【息子説】

 

 

 

「………この文から推察するにカオスさんのことはこの手配書が出回りだしてからかなりの注目を浴びていたようです。

 今回のこの朝刊でも表紙を飾っていますし。後ろのページにも載っています。」ペラペラッ

 

 

 

【カオス=バルツィエ バルツィエの御家騒動】

 

【バルツィエの名を騙る少年 バルツィエを挑発か?】

 

【出生は最近騎士団が見付けた遠方の小さな村…】

 

【格地を回って王国重要拠点を襲撃】

 

【ダレイオス軍を率いて近々マテオ国土に侵略しに…】

 

【先日のオーギワン騒動も関連している可能性が…】

 

【北方の砦で大きな変化有り 国内に潜伏している多数のスパイが動き出す恐れが…】

 

 

 

【英雄アルバート=ディラン・バルツィエの後継者現るのか!?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなに………たくさん………。」

 

「どれも日付は違いますがカオスのことを中心とした記事ばかりですね。」

 

「この王都では今この『バルツィエの名を騙る少年』という話題が持ち上がっているようです。

 それもあらゆる見識が飛び交うほどに。

 賞金首と悪いイメージはありますが名前と出生地からカオスさんには肯定的な意見と否定的な意見が別れています。

 この王都に革命を起こす勇者となるか、ただの賞金首として何も変えられずに捕まって終わるだけの犯罪者か。」

 

「肯定的な意見?

 どういうことですか?」

 

「勇者………。

 俺がそんな大層なものな訳ないだろう。」

 

「大衆の中にはそう思ってない人達がいるみたいです。

 このことからカオスさんは今この国で最も注目度の高い有名人と言えます。

 この国はレイディーさんが言っていたようにバルツィエが暴虐な振る舞いをしているようです。

 この間のラーゲッツのようなことが色々なところで起こっているようです。

 

 

 

 カオスさんは………ニコライトを倒したのもあってこの街の人からそんなバルツィエに反旗を翻す勇者だと思われているんですよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「つまりはこの街の人達はカオスさんに対して特別視しているということです。

 それだけカオスさんのことを気にしているということはその分カオスさんの正体がバレやすいということですよ。」

 

「髪型が違うだけじゃダメなのか…。」

 

「大半の人は髪型だけで誤魔化せてきました。

 ですがそれもこの街程注目が集まってなかったからの話です。

 今回の朝刊で話題の謎のバルツィエがこの王都に潜伏しているとハッキリ載せられています。

 今までは手配書が出回る前に逃げ出していたのでボク達が居なくなった後の街がどうなっていたか分かりません。

 それが正に今一番この国で注目の的のこの都市ではどうなるか………。

 言わずとも分かりますね?

 

 

 

 この間のラーゲッツはともかくその後に来たバルツィエはタイミングからしてカオスさんとアローネさんを監視していた可能性があります。

 こんな朝刊が出回るのならそれも高い可能性で。

 想像しているよりも世間の目は目敏いですよ。

 ボク達にはボク達の目的があります。

 どこの誰とも知れない人の為に時間を使っている場合ではありませんよ?」

 

「そんな言い方……。」

 

「時間が掛かればかかるほど正体がバレる可能性も高くなります。

 ボク達は目的があってこの街に来た筈です。

 

 

 

 それなのにいつまでも他人のお節介を焼いてばかりで何をしてるんですかカオスさん達は!?」ドンッ!

 

「「!?」」

 

「甘いですよ!?

 お二人は…!

 救えない人なんてこの世には沢山いるんです!

 あの少年もその一人だったにすぎない…。

 解決方法が途絶えた以上もう諦めて次に進むべきなんです!

 ボク達には呑気に勉強なんてしている暇なんて無いんですよ!?

 お二人はもう少し危機感を持ってくださいよ!!」

 

「も、持っているさ…。

 こうして二人とも服装も変えて「それはサハーンのおかげですよね。」」

 

「二人は当事者の筈なのにどうしてそんなに御自分を後回しにするんですか!?

 カオスさんもアローネさんもここに来てからずっとダニエル君のことばかりで…!

 彼だって誰かに救われることなんて望んでいません!

 それなのに救おうとするなんて越権行為ですよ!」

 

「言い過ぎだぞ!タレス!

 越権行為だなんてそんなの気にしてたら誰がダニエル君に手を差し伸べられるんだ!?

 俺は目の前の困っている人を放っておくなんて出来ない!

 お前だって盗賊のしたっぱにひどい目にあわされてたじゃないか!?

 誰かを助けるのにそんな下らないことを持ち出すんじゃない!」

 

「カオスさん…カオスさんはそう言って全ての人を救っていくんですか!?

 カオスさんは人を救うことに必死過ぎませんか!?

 人を救うことはカオスさんの義務では無いんですよ!?

 英雄と呼ばれたおじいさんを気にしてそうしているのなら今すぐ辞めましょう!

 ボク達とおじいさんとでは立場が全然違います!」

 

「どうしてそこでおじいちゃんが出てくるんだ!?

 おじいちゃんは関係ないだろ!?」

 

「関係ありますよ!

 カオスさんはどうしてそこまで人のために何でもかんでも背負おうとするのですか!?

 何か聖人のようにでもなりたいものがあるのですか!?

 おじいさんのようにでもなりたいんじゃないですか!?」

 

「何だとコイツ!

 俺がいつおじいちゃんになりたいなんて言った!?」ガッ

 

「あんな何も見返りのない子供を救おうとするところがそうだと言っているんですよ!

 御自分の現状を考えてください!

 貴方達は賞金首なんですよ!?

 あのようなお金に困っていそうな人達からすればカオスさん達はまさに滑降の獲物です!

 お金に目が眩めば人が人を裏切ることだってあるんですよ!?」

 

「……!!」

 

「今は誰も信用しないでボク達はボク達の目的に専念すべきです!

 そうしなければいつまでたって先に進みませんよ!?」

 

「………」

 

「………ボクは引き続きバルツィエの動向と殺生石について調査します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お二人はそろそろ何をすべきか決断なさって下さい。」



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決断

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 魔力欠損症の治療法方がないと告げられた三人は絶望にくれる。

 仕方なく自分達で治療法を探すことにするがその席でタレスが…。


王都レサリナス 東北部 図書館

 

 

 

「………」

 

「タレス………怒ってましたね。」

 

「………」

 

「無理もありませんね。

 私達の事情に付き合わせてここまで来たというのに私達が目的を忘れて人助けなどしているからタレスは呆れてあぁ言ってくれたのでしょうね。

 私達に緊張感が足りないから…。」

 

「………」

 

「明日、孤児院に行って謝ってきます。

 そもそも私が蒔いた種ですから私が収拾をつけてきます。」

 

「………」

 

「………カオスももう勉強などしなくてもいいのですよ?

 私がいけないのですから………。」

 

「………違う、」

 

「?」

 

「悪いのは俺だ…。

 旅が上手く行きすぎて何でも出来るんだって思い上がってた。

 頑張れば出来ないこともないなんて思ってた俺の責任だ。

 謝るのなら俺が謝る。」

 

「いえ、そう思わせたのも私が魔力欠損症を治る病だと言わなければこんな人騒がせなことは起こらずに………」

 

「違うよ!

 そもそも今回の件は俺が安請け合いしたから始まったことなんだ!

 だからアローネは何も「図書館ではお静かにお願いします!」……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一度出ましょうか?」

 

「…そうだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 南西部 商店街

 

 

 

「「…… 」」

 

 

 

「………どうしてこんなところに?」

 

「スミマセン………気分が落ち込み気味なので少しでも明るいところに行こうと思ったのですが、

 少々落ち着きませんねここは。」

 

「………そうみたいだね。」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「…タレスの仰っていたことも間違ってはいません。

 当事者である私達よりも私達のこと心配してタレスはあそこまで必死だったのでしょうね。

 タレスが内心で心配して下さってたのにそれに気付かずに私達は安易な気持ちで人助けなんて………

 人助けしている状況でもないというのに…。」

 

「………

 アローネ、聞いてほしいことがあるんだ。」

 

「………場所を変えます?」

 

「いや、ここでいい。」

 

「………何でしょう?」

 

 

 

「………俺って間違ってたのかな………?」

 

「………どうしてですか?」

 

「俺があんなできもしないことを簡単に請け負ったから今タレスも………アローネもそんな顔をさせてるから………。」

 

「………私はそんなに酷い顔をしてますか?」

 

「………なんだか辛そうにしてる。」

 

「それはカオスのせいではありません。

 私のことは気にしないで下さい。」

 

「俺が………俺が………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私からもいいですか?」

 

「?」

 

「………カオスは今でも私のことを信じられますか?」

 

「…何言ってるんだよ、そんなの当たり前じゃないか。」

 

「無理なさらなくていいのですよ。

 私の言うことは何一つその証拠がありません。

 カオスが信じられなくなっても仕方がないのです。」

 

「どうしてそんなこと言うんだよ。

 俺はアローネを信じて…」

 

「カオスの信頼は有り難いです。

 ですが私のウルゴスのことは………もういいのです。」

 

「もういいって何だよ?

 俺がちゃんと探しだして見つけて「私は」」

 

「カオスに何もお返しするものがありません。

 ウルゴスがこの世にない以上探したところで無意味なのです。」

 

「………どうしたんだよ。」

 

「………スミマセン、今日のところはもう帰りましょう。

 明日になったらダニエル君のことは私から断りを入れておきます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなってるんだよ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナスホテル 次の日の朝

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お早う御座います。」

 

 

 

「タレス………お早う。」

 

「アローネさんはまだ?」

 

「………まだ寝てるようだね。」

 

「そうですか、ではボクは昨日の続きをしますね。

 今日は雨も降るようなので早めに帰ってきますよ。」

 

「………そうだね、今日は夜頃から天気が崩れるみたいだし。

 ………じゃあ頼むよ。」

 

「………昨日の調査で分かったんですけど、」

 

「ん?」

 

「バルツィエの暴走はダニエル君が言っていた通り王都民、貴族関係なく逆らう者を粛清しているようです。

 今のマテオの王国貴族は半分以上がバルツィエの家とその傘下の者で占められていて、残っている者は少しの反抗勢力でレイディーさんが言っていたダリントンと言う騎士とその部下の騎士くらいしかいないそうです。」

 

「ダリントン………!」

 

「レイディーさんの言っていたことを信じるならカオスさんのお祖父さんと既知の仲のダリントンを訪ねてみるのも手ですがそのダリントンも先日から行方不明だそうです。

 恐らく粛清されたのかと思います。」

 

「!

 ………そうか。」

 

「………それではボクはこれで………。」

 

「なぁ、タレス。」

 

「はい?」

 

「タレスは昨日は………悪かったね。

 キツく言い過ぎた。」

 

「………それはボクもですよ。

 スミマセンでした、。」

 

「………うん。」

 

「ですがボクの考えは変わりませんよ。

 ボクはお二人の為になるのならどんなことでもしますが見ず知らずの少年のために働かされるのはごめんです。

 それではこれで………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナスホテル アローネの部屋前

 

 

 

コンコンッ

 

 

 

「アローネいる?」

 

 

 

………

 

 

 

「(いないのか?

 もしかして昨日の件もう先に行っちゃったのかな。)」

 

 

 

………

 

 

 

「(一人で先に行ったのなら俺も謝りにいかないと。

 ぬか喜びさせてしまったかもしれないし。)行くか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 南東部 孤児院 アローネサイド

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私のせいでカオスには恥をかかせてしまいました。

 

 

 

 それならば私が全て終わらせなければなりません。

 

 

 

 私が謝ればそれで済む話なのです。

 

 

 

 ダニエル君を治す治療方法がなかったと言えばそれで………

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 治療方法がなかった。

 

 

 

 ウルゴスの知識は全くの嘘だった。

 

 

 

 私以外誰も知らない全て私の妄想………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことはない。

 

 

 

 そんな筈がない。

 

 

 

 そんな筈がないと私は知っている。

 

 

 

 知っているけどもそれを信じてもらえるだけの証拠が私には何もない。

 

 

 

 証拠がないのならウルゴスは始めからなかったと言うしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルゴスがないのなら私は………

 

 

 

 ウルゴスがないのなら私は何処から来たのでしょうか?

 

 

 

 ウルゴスが私だけの中にしかないのならこの記憶は思い出は………?

 

 

 

 私は一体何物なのでしょうか?

 

 

 

 このカオスと同じくヴェノムを倒す力を持つ私は本当に人なのでしょうか?

 

 

 

 ヴェノムを倒せるなんてまるでヴェノムそのもの………。

 

 

 

 私はもしや誰かに創られた存在なのでは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうであってくれたらこんなに思い悩むこともないのに………。

 

 

 

 こんなにも自分という存在が不確かなことが苦しいなんて………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰か………

 

 

 

 誰か助けてください。

 

 

 

 誰か私に私を教えてください。

 

 

 

 私は一体誰なんですか?

 

 

 

 私は何のために生まれたのですか?

 

 

 

 誰かに創られたのならどうしてこんな記憶があるのですか?

 

 

 

 どうしてこんな世界に私は生まれてしまったのですか?

 

 

 

 私は何処へと向かえばいいのですか?

 

 

 

 誰か………

 

 

 

 誰か答えを下さい!

 

 

 

 誰か答えを………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「答えを………下さい………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰か………」ポロポロ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久し振りですねアローネ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女は………!」



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かつての友との再会

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 ダニエルの一件で三人の心はばらばらになりそれぞれが意気消沈している中アローネは謎の声に呼び止められる。


王都レサリナス 南東部 孤児院 カオスサイド

 

 

 

「スミマセン………」ガチャ

 

「はい?

 あら貴方は………。」

 

「メルザさんこの間はどうも…。

 あの、アロ…アルキメデス来てますか?」

 

「?

 いいえ、今日は来てませんが…?」

 

「そうですか…。」

 

「あの?

 何かあったんですか?」

 

「いえ、特にはなにも………。」

 

「では本日は子供達に会いに来たということでしょうか?」

 

「………その(今ここでやっぱり言った方がいいよな。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これ以上先伸ばしにしたところで後が困るだけだ。

 

 

 

 アローネはまだ来ていないようだし、俺が言い出したことなんだ。

 

 

 

 俺がケジメをつけなければ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…「スミマセン。」」ザッ

 

 

 

「え……?

 ………!?」

 

 

 

「………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?

 今日はお客さんが多いですね。

 貴方は確か騎士団のウインドラさんでしたね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「ウインドラさん、

 スミマセンねぇ。

 ダリントンさんのことはまだ何も連絡来てないんですよ。

 カタス様もよく来てくれるんですけど何も来てないって…。」

 

 

 

「!

 …そうですか。

 ではまた日を改めてお伺いします。」

 

「忙しいようでなければうちでゆっくりしていきませんか?」

 

「残念ながらこれから急用がありまして、

 私はこれで失礼します。」ザッ

 

 

 

「またお越しくださいね。」

 

 

 

「あっ!あの今のって!

 なんて人ですか!?」

 

 

 

「はい?

 今の方はうちによく来る騎士でウインドラさんという方ですよ?

 うちの出身のダリントンって騎士の部下でたまに子供達のに遊び相手をしてくれるんです。」

 

 

 

「ウインドラ…!?」

 

 

 

「最近はダリントンがいなくなったとかでよくここへ訪ねて来るんですけど何かあったんでしょうかね…。」

 

 

 

「………スミマセン、訪ねておいてなんなんですけど少し俺も用事が出来ました。

 失礼します…!」タッタッタッ!

 

 

 

「あ、サタンさん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラ、

 

 

 

 間違いない。

 

 

 

 アイツはあのウインドラだ。

 

 

 

 大人になって大分雰囲気が変わっているけど子供のときの面影がまだ残っている。

 

 

 

 まさかこんな偶然に巡り会えるなんて…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いなくなってからずっと探していた。

 

 

 

 もしかしたらもう生きてないんじゃないかって心配してた。

 

 

 

 あの事件以来顔をあわせることもなく別れちゃったからずっと会いたかった。

 

 

 

 もし生きていたとしたらウインドラなら絶対に王都に向かった筈…。

 

 

 

 生きているのなら俺達の子供のときの夢を叶えるために王都へ。

 

 

 

 ほんの微かな望みだった。

 

 

 

 出会えなかったらそれでキッパリ諦めるつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 だけど…!

 

 

 

 ウインドラは生きていた!

 

 

 

 生きて

 

 

 

 騎士になっていた!

 

 

 

 これは夢なんかじゃないよな?

 

 

 

 夢だったら今だけは覚めないでくれ。

 

 

 

 俺はウインドラと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラーーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 南南東部 貧民街奥地

 

 

 

「………」

 

 

 

「待って!

 待ってくれ!

 ウインドラ!」ハァハァ

 

 

 

「………」

 

 

 

「君は………君はあのウインドラなんだろ!?

 昔ミストにいた!

 子供のときのあの…!?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「こんなところにいたんだね!

 俺だよ!

 カオスだよ!?

 昔ミストにいたときにいつも一緒にいて遊んだあのカオスだ!

 覚えてない?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「あの事件以来会えなくなってずっと捜していたんだ!

 ミシガンからはいきなりいなくなったって聞かされて俺もウインドラのことをずっと捜していたんだよ!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「どうして急にいなくなったりしたんだ!?

 俺も…村の人達も皆捜してたんだぞ!?

 こんなところで何してるんだよ!

 もう!………ハハハッ!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「ウインドラ騎士になったんだってな!

 子供のとき一緒になって騎士になるって言ってたもんな!

 今振り替えってみると俺が騎士のことを煩いくらいに口にしてたからウインドラも俺に合わせて騎士になるって言ってたんじゃないかって不安だったよ。

 それも杞憂だったんだなぁ!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「悪いね!

 なんだかウインドラに会えたことが嬉しすぎて少し可笑しくなってるみたいだよ!

 色々言いたいことや聞きたいことが多すぎて考えが纏まらないや!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「俺もあの事件からさ、

 長い間頑張って村の為に戦ってきたんだ!

 騎士になる夢は叶えられなかったけどちょっとした切っ掛けがあってこうして村を出て旅をすることになったんだ!

 他に後二人仲間がいるんだよ!

 ウインドラの話もしてあるから会って欲しいなぁ。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「村のことは心配だけどウインドラとは別の部隊の騎士団が派遣されることになってヴェノムの心配は要らなくなったんだ!

 だから俺も安心して村をでることが出来たんだよ!

 ミシガンには怒られたけどね。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「ミシガンと言えばウインドラのことずっと怒ってたぞ?

 何も言わずに勝手にいなくなってもう知らないって。

 今度会ったらどうするんだよウインドラ。

 ミシガンおっかなくなってるぞ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「なぁ、なんか口数少なくないか?

 さっきまではメルザさんと昔の村長が集会とかで話してたみたいに敬語で普通に喋ってたじゃないか?

 調子でも悪いのか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「…な、なぁウインドラ…?

 もしかしてもう昔のことは忘れて覚えてないとか…か?

 それか………人違い………してたのかな?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「ハハハ………

 だ、だったら…!

 ゴメン……………なさい。

 勘違い………してたみたい………ですね。

 スミマセン…でした。」サッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス。」

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大人しくあの村に引き込もっていればよかったものを………。

 何故王都まで来たんだ。

 カオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 君はやっぱりあのミストのウインドラで間違いないんだな!?」

 

 

 

「俺の顔も忘れたのか?

 お前のことは忘れたくても忘れられないくらいだったんだけどな。」

 

 

 

「そりゃあの時と見た目も雰囲気も全然違うから分からなくても仕方ないだろ?

 ウインドラ一言も喋らないし…。」

 

 

 

「当然だろ。

 俺は今任務中だ。

 お前に構っている暇はない。」

 

 

 

「あ、そりゃそうか。

 捜してる人がいるって言ってたなさっき。

 ダリントンって人なんだろ」

 

 

 

「そうだ。

 それじゃあな。」ザッザッザッ

 

 

 

「え!?

 ちょっ、待って!」タタタッ

 

 

 

「………邪魔だ。

 どけ。」

 

 

 

「十年ぶりに会ったんだからさ。

 任務が終わった後でいいから話せる時間ない?

 ウインドラとはもう少し話がしたいんだ。

 ………あの事件のこととか。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「ウインドラが最初に会ったときから俺と分かっていて俺と話したくないってことは分かった。

 だけどウインドラにお願いがあるんだ。

 ある人に言われてダリントンって人に会えば俺達に協力してくれるかもしれないって言われてさ。

 今はいないだろうけど見つかったら俺達にも会わせてほしいんだ。」

 

 

 

「どうして俺がそんなことをしなければならない?」

 

 

 

「それにウインドラには聞きたいこともある。

 何故突然ミストから出ていったのかも。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「なぁ、どうして村の皆に何も言わずに出ていったんだ?

 ミシガンなんて泣いてたんだぞ?

 ウインドラがいなくなって寂しいって…。」

 

 

 

「俺には関係ない。」

 

 

 

「関係なくはないだろ!?

 ウインドラはミシガンとずっと一緒で家族みたいなものだったじゃないか!?

 それを…!?」

 

 

 

「そんなもの親同士が子供を縛り付けるために勝手に仕組んだことだろ。

 俺は誰かに縛られる人生なんて望んじゃいなかった。

 俺は俺の人生を歩みたかった。

 それだけだ。

 父さんの思い通りになるなんてはなからゴメンだ。」

 

 

 

「ウインドラ………。

 お前ラコースさんのことをそんな風に思ってたのか…?

 昔はあんなに仲が良かったのにどうして…。」

 

 

 

「どうして…だと?

 それをお前が訊くのか?

 カオス。」

 

 

 

「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が殺生石を無力化したせいでミストはあんな被害を受けたんだぞ?

 そのお前が………父さん達を殺したお前が俺に人徳でも説こうってのか!?」

 

 

 

「……!?

 俺はそんなつもりじゃ………。」

 

 

 

「………もういい、お前は早くこの街から去れ。

 こんなところを賞金首が彷徨いていたら目障りだ。」

 

 

 

「ウインドラ、俺はあの時のことを「カオス!」!?」

 

 

 

「済まないと思う気持ちがあるのなら頭ぐらい下げだらどうだ?」

 

 

 

「……!

 ゴメン!」スッ

 

 

 

「………」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………頭をそのままにして聞け。」

 

 

 

「?」

 

 

 

「お前はさっさと出ていけ。

 街から出ていったらそのままミストへ戻れ。

 いいな?」

 

 

 

「!

 ………それは出来ない。」

 

 

 

「………何故だ?」

 

 

 

「俺はもうあの村には戻れないし、

 それに仲間の………アローネとタレスを故郷に帰してあげないといけないから。」

 

 

 

「お前は自分の立場が分かっているのか?」

 

 

 

「………それ最近タレスにも言われたよ。

 人のことを気にかける前に自分のことをどうにかしないとってね。」

 

 

 

「………いい仲間じゃないか。

 能天気なお前にはピッタシだな。」

 

 

 

「そうだね。

 タレスには出会ってからずっと危ないところを助けられてきたから。」

 

 

 

「そうか………

 じゃあそのお仲間が気にしていた危ないことってのは………」ガッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

「こういうことじゃないのか?」パサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポトッ

 

 

 

「髪が……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぞ!!

 一千万の賞金首カオス=バルツィエ!!」



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友の憎しみ

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カオスは魔力欠損症の治療法が見つけられず謝罪しにいこうと孤児院に向かうがそこで偶然にも昔の友人ウインドラと再会する。

 落ち込み気味のカオスはウインドラに出会って気持ちが昂るもその直後ウインドラから非情な仕打ちを…。


王都レサリナス 南南東部 貧民街奥地 カオスサイド

 

 

 

「なっ!?

 ウインドラ!

 何を言って…!?」

 

 

 

ナニッ!?ウワサノショウキンクビ!?

 

マジダゾ!?テハイショトオナジカオダ!?

 

オウトニイルッテハナシダッタガコンナトコロニキテヤガッタノカ!

 

キシモイルゾ!

 

キシナンゾニトラレタラセッカクノタイキンヲエルチャンスガキエチマウ!

 

アノキシヨリモサキニツカマエロ!

 

オレガサキダー!

 

 

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!

 

 

 

「ほら、早く逃げないとあの賞金稼ぎ達に捕まってしまうぞ?

 ここら一帯はああいう奴等の根城なんだよ。」

 

 

 

「ウインドラ………

 何でこんなことを…。」

 

 

 

「最初に言ったろ?

 お前は大人しく引き込もっていればよかったんだって。」

 

 

 

「ウインドラ…。

 そんなに俺のことを憎んでいたんだね。」タタタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのまま地の果てにでも消えてくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 南西部 商店街 裏路地

 

 

 

「………」

 

 

 

イタカ!?

 

コッチニハイネェゾ!

 

ナンダナンノサワギダ?

 

シラネェノカ?キョウヒンミンガイデレイノカオス=バルツィエガアラワレタンダッテヨ!

 

エェ!?アノバルツィエノハグレモンガカ!?

 

ソウ!ツイサッキオイカケテタラコッチニニゲテッタンダ!

 

ホントカ!?コッチデハミカケナカッタゾ!?

 

オレアッチノホウサガシニイクゼ!

 

ジャアオレハコッチノホウナ!

 

ミツケタラスグニシラセナ!ツヨイッテハナシダカラカコンデフクロダタキニスルンダ!

 

オオオーーーーー!!!

 

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(不味いことになったな………。

 俺が安易にウインドラに付いていったから………。

 輪ゴムは拾ったけどさっきのやつらには服装までバレている。

 アローネもタレスもいないこんなときに………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラ………。

 

 

 

 こんなことをするくらい俺のことを………。

 

 

 

「………急いで二人を見つけてこの街から出ないと………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北西部 貴族街 ???

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………

 

 

 

「(………なんとか人目を避けてこの住宅地のどこかの家の塀の中まで来たけどこの辺りも騒がしくなってきた。

 暫く動けそうにもないな。

 二人は無事だといいけど………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オイマダミツカラネェノカ!?

 

ニゲアシノハヤイヤツダナ!

 

アッチノホウハシラベタノカ?

 

イヤマダダ!

 

オシイクゾ!

 

 

 

「(ヤバイ………!?

 こうなったら!)」

 

 

 

「五月蝿いぞ!

 ゴラァ!!!」バァンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あれは………この間の……!?)」

 

 

 

 

 

「オイ!

 人んちの敷地内に入って何バカ騒ぎしてんだ!!?

 殺すぞ!!」

 

 

 

ヒッ、ヒィ…オレタチハタダコノフキンニカオス=バルツィエガデタカラオッテタダケデ…。

 

ソ、ソウデスヨ、ベツニワザトハイッタワケジャア…。

 

 

 

「言い訳なんざ聞かねぇなぁ!

 俺の安眠妨害は断じて許さねぇ!!

 蜂の巣にでもなってろ!!」ヂャキン!

 

 

 

ウ、ウワ!?ウソダロ!?

 

ニゲローーーー!!

 

 

 

「千裂浄破ァ!!」ササササササササッ!!

 

 

 

ウォアァァァァァァァァ………!!!

 

 

 

「消えろ!」バフゥゥゥウン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおやラーゲッツ様、少々加減をしてほしいですな。

 隣の家の敷地まで被害を受けているではありませんか。」

 

「ハハッわりぃな!セバスチャン。

 あんまり五月蝿い蚊がいたもんで思わず焼いちまったぜ!」

 

「今度からは私が叩きますよ。

 後の始末は私がやっておくのでラーゲッツ様はお戻りください。」

 

「…いや、俺も出掛けてくるわ。

 何か蚊共が極上の血を見付けたらしいな。

 俺の舌に合うか味見してくるぜ。

 セバスチャン、他の奴等にも伝えといてくれよ。」

 

「はて、何と?」

 

「カオス=バルツィエが出たんだとさ!」

 

「ほう…。

 畏まりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 あのラーゲッツって男。

 

 

 

 レイディーさんが言っていたバルツィエだけあってかなりの強さだ。

 

 

 

 こうして遠くから見てただけでも分かる。

 

 

 

 練度もマナもニコライトとは比べ物にならないくらい上だ。

 

 

 

 あのニコライトが可愛く見えてくるな。

 

 

 

 あの連続突き一つ一つにニコライトの昂龍礫破並の威力がありそうだ。

 

 

 

 あんなの食らったら俺も一撃でやられるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけどニコライトより強そうなのに

 

 

 

 仮にあの男が襲ってくると想像してみてもあまり恐怖心が湧いてこない。

 

 

 

 ………性格的に小物臭がするからかな。

 

 

 

ってかここ、バルツィエの屋敷だったのか。

 

 

 

 とにかくここに騒ぎが収まるまで隠れとくしかない。

 

 

 

 アローネもタレスもどうか無事でいてくれ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北西部 貴族街 夜

 

 

 

「………(ようやくこの辺りも落ち着いてきたな。

 今のうちに二人を探しにいかないと…。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 南西部 孤児院 夜

 

 

 

「(ホテルに行ってみたら人が沢山いたから思わずこっちの方に来てみたけどまさかここにはいないよな…。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうも悪い方向にばっかりいくんだろうな。

 

 

 

 俺はただウインドラと話がしたかっただけなのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今はそんなことを考えていても仕方がない。

 

 

 

 早くアローネとタレスがいるか確認しないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『見付けたぞ!!

 一千万の賞金首カオス=バルツィエ!!』

 

 

 

「」ビクッ

 

 

 

 ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラ………

 

 

 

 駄目だ、またウインドラのことを考えてる。

 

 

 

 どうしてもウインドラのことが頭から離れない。

 

 

 

 ウインドラに言われたあの言葉がどうしても甦ってくる。

 

 

『大人しくあの村に引き込もっていればよかったものを………。

 何故王都まで来たんだ。

 カオス。』

 

 

 

『お前のことは忘れたくても忘れられないくらいだったんだけどな。』

 

 

 

『お前が殺生石を無力化したせいでミストはあんな被害を受けたんだぞ?

 そのお前が………父さん達を殺したお前が俺に人徳でも説こうってのか!?』

 

 

 

『能天気なお前にはピッタシだな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 

 

ポタッ、………ポタッ、ポタッポタポタッタポタポァァァァァァァァァァ………

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そのまま地の果てにでも消えてくれ。』

 

 

 

 ここで…ウインドラに会ったんだったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうも………

 俺は不幸なんだろうな…。」



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二人目のウルゴス出身者

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 王都レサリナスにてカオスは旧友ウインドラと再開するもそのことをウインドラに口外され窮地に陥る。


秘境の村 ミスト 十三年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………スンッ………スンッ」

 

 

 

「ハハハッコイツ泣いてるぜ!?

 騎士の孫の癖に泣き虫かよ!

 ダセーなぁ。」

 

 

 

ハハハハハ!!

 

 

 

「お、おれは………おじいちゃんとは違うもん………。

 きしなんておれにはかんけーないんだもん!」

 

 

 

「ハハッ!

 もんだなんて女みてーだなぁ!

 かぁわいい!」

 

 

 

ハハハハハ!

 

ヤメロッテザック!

 

ハラガヨジレルッテ!

 

 

 

「………」ダダダッ!

 

 

 

「おい、逃げんなよ!」ガッ

 

 

 

「離せ!離せぇーーー!!!」ガジッ

 

 

 

「イッタァ!?

 この野郎!!」ドンッ

 

 

 

「ッ…ハ………

 ………うぁあぁあぁあぁあぁあぁ……!!」

 

 

 

「うっわぁ、きったねぇ~、鼻水垂れてんぞ~?

 気色割りぃ~なぁ、ハハハハハ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何してんだよお前ら!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はぁ~、

 せっかく楽しんでたのに邪魔すんなよウインドラ。

 あっち行ってろよ!」

 

「こんな趣味の悪いことしてて楽しいのかザック?

 村長に言いつけてやろうか?」

 

「あぁ~、ヤダヤダ!

 すぐそうやって大人を頼ろうとする。

 お前は自分では何も出来ないのかよ?」

 

「そういうお前は大勢で弱いもの苛めしか出来ないよな。」

 

「調子乗んな!

 カスが!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、大丈夫?

 ザック達は追い払ったよ?」

 

 

 

「………スンッ………。」

 

 

 

「誰か読んでこよっか?

 アルバさんとか。」

 

 

 

「……」ブンブンッ

 

 

 

「え~と………どうしよっかぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「泣き止んだね?

 痛いとことかない?」

 

 

 

「……ない。」

 

 

 

「そっかぁ、ならもう安心だね。

 俺はウインドラ。

 君はカオスだったよね。

 よろしく。」

 

 

 

「………うん。」

 

 

 

「実は君のことは父さんから聞いて知ってたんだ。

 アルバさんはよく家に来るからね。

 父さんによく君のことを話してるよ。」

 

 

 

「おじいちゃんが?」

 

 

 

「うん、

 殺生石に触っちゃって魔術が使えなくなった子がいるってさ。」

 

 

 

「………君もおれを苛めにきたの?」

 

 

 

「違うよ、

 俺はカオスと友達になりに来たんだ。」

 

 

 

「おれと友達に?」

 

 

 

「そう、父さんに聞いてから気になってたんだ。

 友達になりたくて。

 それで来たんだよ。」

 

 

 

「じゃあ友達になってくれるの?」

 

 

 

「うん、俺もザックとかよりかはカオスみたいな大人しい子と友達になる方が落ち着くからね。」

 

 

 

「?

 ありがとう。」

 

 

 

「どういたしまして。

 じゃあ今日から俺達は友達だね。」

 

 

 

「うん、友達!」

 

 

 

「だけどね?

 友達って言うくらいだからさ。

 おんなじところにいなきゃいけないんだ。」

 

 

 

「おんなじところに?

 今いるよ?」

 

 

 

「そうじゃなくてさ。

 俺がカオスを助けたようにさ。

 カオスも俺を助けてほしいんだ。」

 

 

 

「え…

 おれには出来ないよ…。

 おれ弱いし…」

 

 

 

「魔術なんて必要ないだろ?

 筋肉をつければいいんだよ。」

 

 

 

「筋肉なんかつけたところでまじゅつに勝てないよ。」

 

 

 

「そんなことないさ。

 この間うちの父さんとアルバさんがケンカしてたんだけどアルバさんが父さんをぼこぼこにしてたんだ。」

 

 

 

「え!?」

 

 

 

「他にもね、一度アルバさんと父さんが森に連れていってくれたんだけどそのとき大きなボアがいてさ。

 アルバさんが木刀でやっつけてたよ。」

 

 

 

「本当!?」

 

 

 

「本当さ。

 父さんよりもあんなに強い人がいるなんて知らなかったよ。

 それ見てさ、

 それまでは父さんと同じ警備隊こそ最強だって思ってたけど騎士こそがこの世界の最強なんだって思い知ったね。」

 

 

 

「世界の最強?」

 

 

 

「俺さ、

 誰よりも強くなりたいんだよ。

 父さんみたいにボア一匹にやっと勝つんじゃなくてさ。

 アルバさんみたいにあっという間に勝てるくらいに。」

 

 

 

「どうしてそんなに強くなりたいの?」

 

 

 

「強ければさ。

 皆に凄いって言われるだろ?

 大きくなって強くなったらさ俺、

 父さんに誉めてもらいたいんだ。

 強くなったなって。」

 

 

 

「………?」

 

 

 

「カオスだって嫌だろ?

 ザック達に苛められ続けるのは。」

 

 

 

「うん………!」

 

 

 

「じゃあ一緒に強くなるしかないね。」

 

 

 

「おれも強くなれるのかな?」

 

 

 

「なれるよ、

 だって君はアルバさんの孫なんでしょ?」

 

 

 

「そうだけど…。」

 

 

 

「じゃあどっちが先にアルバさんと同じくらい強くなれるか競争だな。」

 

 

 

「競争…?」

 

 

 

「俺も今日から強くなるために頑張るからカオスも頑張って強くなろう?

 一人だと頑張るの大変だけど二人いるならなんとかなるさ。

 だからさ、

 強くなってザック達を見返してやろうよ。

 そうすればカオスも努力してよかったなって思えるから。」

 

 

 

「……… そうだね。

 おれもやってみるよ!

 今はまだウインドラ君よりも弱いけど

 ウインドラ君が頑張るならおれも頑張るよ!」

 

 

 

「そうこなくっちゃ!

 それなら今日から早速トレーニングしよう!

 早く強くなって強い大人になってやろうぜ。

 約束だよ。」

 

「うん!

 約束だよ!

 おれも諦めずに強くなるからウインドラ君ももっと強くなろう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラ、

 

 

 

 君がずっと俺を支えてくれたから俺は努力を続けてこれたんだ。

 

 

 

 君が頑張ってたから俺は不幸でもやってこれたんだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、こんなところにいたぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 (マズい!!)」ダッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 東北部 図書館前

 

 

 

「………ここは…

 もう閉まってる…!」

 

 

 

 クソッ!

 

 

 

 早く見付けてここから離れないといけないのに!

 

 

 

 もう二人が行きそうな場所を思い付かない!!

 

 

 

 もっと考えろ!

 

 

 

 二人が行きそうな場所を………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかもう捕まったのか?

 

 

 

 アローネは多少髪型や服装を変えているから手配書の人物とは結び付かない筈…。

 

 

 

 けどこの騒ぎでアローネも俺の仲間として注目を浴びて見つかってしまっていたら…。

 

 

 

 タレスは………そもそも手配書もないから安心か?

 

 

 

 いや、万が一アローネと合流しているところを誰かに見られていたら同じ仲間として捕まっているかもしれない。

 

 

 

 そうなってたらどうすれば………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サッキコノアタリニニゲタハズダゾ!サガセ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「考える時間もくれないようだね…。

 これからどうしたら………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アローネ!

 よかった無事だったん「話は後です!付いてきてください!」う、うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

「ここまで来ればもう追手は入ってはこれないでしょう。

 この中なら安全です。」

 

「う、うん、

 そうだね…。」

 

「驚きましたよカオス、

 朝方急に街の中で貴方を捜す人が騒ぎ出すものですからずっと心配してたんですよ?

 無事でいてくれたのは幸いでした。」

 

「それはちょっといろいろあってね…。」

 

「まぁ、貴方が簡単に捕まる訳ありませんよね。

 一体何があったのですか?」

 

「………実は今朝………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、御友人は無事に見付かったのですね。」

 

「…そうなんだけど、

 そのせいでこんな事態になっちゃって…。

 ゴメンアローネ俺が迂闊だったよ。

 タレスに注意されたばかりなのに…。」

 

「いいのですよ。

 私もカオスも何もなかったのですから。」

 

「そういえばアローネはどうしてたの?

 今朝からずっと姿が見えなかったけど…。」

 

「私は………

 一人であの孤児院に向かいました。」

 

「孤児院に?

 俺も行ったけどアローネは来てないってメルザさんが言ってたよ?」

 

「そのことについてなんですが…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方がアルバートの………孫なのですね。」

 

 

 

「「!」」

 

 

 

「………確かに彼の面影があるわ。

 彼の孫がいるというのも本当の話だったのね。

 アルバートが永い時をへてようやく帰ってきてくれたようで嬉しいわぁ…。」

 

 

 

「だ、誰!?」

 

 

 

「カタス!」

 

 

 

「アローネ、貴女が言っていたこと、

 本当だったのね。」

 

 

 

「疑ってたんですか?

 本当にもう…。」

 

 

 

「だって信じられないんですもの。

 アルバートが生きていたという話も生きていて家族がいたということも。」

 

 

 

「私が嘘をつくように見えますか?」

 

 

 

「そうね、

 貴女は嘘はつかないわね。

 嘘はつかないけど不確かなことをそのまま聞いたらそれを信じ込む癖があるからね。」

 

 

 

「それはそうですけど…。」

 

 

 

「今度からちゃんと本当のことか確かめてから信じなさい

 …ダニエルのことはもう遅いですが。」

 

 

 

「はい…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネ、この人は………

 アローネの知り合いなの?」

 

 

 

「あら自己紹介がまだだったわね。

 その通りよ。

 

 

 

 初めましてカオスさん。

 私はカタスティアといいます。

 このカーラーン教会の教皇職に就いているわ。」

 

 

 

「教皇………?

 

 

 

 

 

 

 って確かおじいちゃん話に出てきたあのカタス様…!?」

 

 

 

「あらアルバートが私の話をしていたなんて

 何か変なことを吹き込んでないかしら。」

 

 

 

「そんなことはありませんよ!

 おじいちゃんの話ではよくお世話になってたって聞いてました。」

 

 

 

「そう

 ならよかったわ。」

 

 

 

「…でもそんな人とアローネにどんな繋がりがあるんですか?」

 

「この人は…

 話しても構いませんか?」

 

 

 

「いいのよ。

 アローネを無事ここまで連れてきた方ですもの。」

 

 

 

「…分かりました。

 

 

 

 カオス、

 この人はカタスティア=クレベル・カタストロフ。

 このマテオ国のカーラーン教会の教皇。

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルゴスの第一王女です。」



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教皇カタスティア

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 王都でウインドラから正体をばらされたカオスは街の中を逃走しながらアローネとタレスを探す。

 そして…。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

「ウルゴスの第一王女!?

 ってことはこの人もウルゴスの出身!?」

 

「はい、

 と言っても私の上に六人の兄と二人の弟がいて私の王位継承権は真ん中よりも下ですしそもそも今は“元”なんですけどね。」

 

「元?」

 

「彼女とは幼少の頃からの付き合いになります。

 彼女とは年は大分離れてはいますが。」

 

「年齢のことを出すことまでは許可していないわよ?」

 

「……?

 でもどうしてそんな人がマテオにいるの?

 ウルゴスはどうなったんですか?」

 

「………。」

 

「それはね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルゴスが………もうない!?」

 

 

 

「えぇ、既に滅びさりました。

 それも遥か昔に………。」

 

「一体何があったんですか!?

 ウルゴスに…!?」

 

「………」

 

「それはもう一人の子が来てからお話します。」

 

「タレスは今メルザさんに探してもらっていますよ。」

 

「タレス…

 タレスは無事なの?」

 

「彼のことですからきっと無事ですよ。」

 

「メルザが戻ってくるのが遅いようなら私も探しにいきます。

 鎖鎌を持った十歳前後の少年でしたよね?」

 

「そうです。

 ですがよろしいのですか?

 貴女にそのようなことをしていただくのは…。」

 

「無礼なことなど何もありませんよ。

 それに私は“元”王女です。

 人探しくらい私にも出来ます。

 他ならぬ妹のためですもの。」

 

「カタス、その話は…。」

 

「アローネが妹?」

 

「………」

 

「どういうこと?

 アローネは“クラウディア“って名前の貴族だったんじゃないの?

 それにお姉さんは確かアルキメデスさん一人の筈じゃ…?」

 

「それは…

 そうなんですけど…。」

 

「誤解させてしまったわね。

 本当の妹という意味ではないのよ。

 そういう風に育ったから妹のように思っているということなの。

 

 

 

 ………もっとも、将来的には義妹、もしくは義姉にはなっていたでしょうけどね。」

 

 

 

「?」

 

「…もう無くなった話ですよ。」

 

 

 

「アローネは私の兄弟との縁談があったの。」

 

 

 

「!?

 それってアローネがウルゴスの王族になってたってことですか!?」

 

「…本当は姉のメデスがその候補だったのですけどね。

 それもメデスが別の人と結婚してしまったからアローネが次に選ばれたの。

 どちらにしても私の義理姉妹にはなっていたでしょう?」

 

「そうかもしれませんが………。」

 

「…アローネはその縁談には乗り気じゃなかったの。」

 

「それは…。」

 

「アローネはヒューマとハーフエルフを軽視する風潮が嫌いだったからでしょうね。

 兄弟達もそうでしたから。」

 

「!

 前にアローネが話していた人達のことですね?」

 

「その辺りの事情も知っているようね。」

 

「はい、

 アローネからヒューマという人達と戦争している話も聞きました。

 その過程でハーフエルフという人種が誕生したことも。」

 

「アローネも最初は将来軍師になって戦争に勝利することを望んでいたのですよ。」

 

「アローネが戦争に積極的だったんですか?」

 

「アローネは………ウルゴスの民を傷つけるダンダルクが許せなかったのでしょうね。

 アローネはとても心の優しい子だったから。」

 

「ダンダルク?」

 

「機械技術で世界を掌握しようとしたヒューマの人達の国のことですよ。」

 

「カタス、世界を掌握しようとしていたのはダンダルクだけではありません。

 ウルゴスも魔科学で同じことをしようとしていしていたのですから。」

 

「そうね、ウルゴスも似たようなものですね…。

 ダンダルクだけが世界の“毒”ではないわね。」

 

「毒って何のことですか?」

 

「「………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました!

 タレス君見つけましたよ。」ガチャ

 

「!

 カオスさん、アローネさん探しましたよ!」

 

 

 

「「タレス!」」

 

「これで全員集まったわね。」

 

 

 

「お二人とも何処に行ってたんですか!?

 今街中お二人のことで凄いことになってましたよ!」

 

 

 

「それは……」

 

「スミマセン、タレスには心配をおかけしましたね。

 私達は大丈夫です。」

 

「お二人が捕まっていなくてなによりです。」

 

「ありがとう。」

 

 

 

「タレス君、お城の方にいたんですよ?

 サタンさん………カオスさんとアローネさんが捕まってしまったらここに連れていかれる筈だって言ってて。」

 

「!?

 名前…?」

 

「メルザさんには私達の事を伝えてますよ。

 その上で協力して下さりました。」

 

「サタン………。

 アローネはカオスさんにそう名乗らせていましたね。

 やはりアローネはあの人のことを…。」

 

「…他に名前が思い付きませんでしたので…。」

 

「いいのよ、

 私もアローネと同じでハーフエルフに嫌悪感をもっていないわ。」

 

「カタス様、

 今どういう状況ですか?」

 

「少しアローネの昔話をしていたところよ。

 カオスさんにはウルゴスのことを話さないといけないから。」

 

「あ~、

 カタス様の長年の出生の謎が明かされていたんですね。

 このメルザもお聞きしてもいいですか?

 カタス様他に証人がいないからって秘密にしていましたし。」

 

「そうね、

 アローネもいることだしこれで私の話にも説得力がつくでしょう。」

 

「カタス様の仰ることなら疑いませんのに、

 全然話してくれないんですから。」

 

「私にもね、

 話をする心の準備がいるのよ。

 ………私一人ではただの妄言ととられてしまったらそれで終わってしまいますし。」

 

「そんな風に思いませんよ~?

カタス様はうちの孤児院の出資してくれている大切な金づ………神様なんですから~。」

 

「メルザ!?」

 

「孤児院の出資?」

 

「カタス様はいろんな人のところに援助なさっているんですよ。

 他にも医療設備や街の商業などにも貢献されててうちの孤児院もその一つです。」

 

「大したことないわよ。

 少しウルゴスの知恵を借りてお金を稼がせてもらっただけだからそれをこのマテオの人々に分け与えられるなら喜ばしいことですもの。」

 

「ウルゴスの知恵?」

 

「ウルゴスにいた時の先人の書とでもいうべきかしらね。」

 

「!

 そうです、カオス!

 ダニエル君です!」

 

「!

 …まだ断りの連絡してなかったね。

 メルザさんもいるし丁度よか「そうではないです!」…?」

 

 

 

「ダニエル君の病気、

 治りますよ!

 カオス!」

 

「!?

 どういうこと!?

 治療方法がみつからなかったんじゃ!?」

 

「治療方法があったんですよ!

 カタスが義兄の残した医学書を持っていたんです!」

 

「サタンさんの医学本を!?」

 

「はい!

 薬の材料も調合方法も載っていたのでこれで薬が作れますよ!」

 

「貴方達がアイオニトスを調達してくれたおかげで薬の材料は揃いました。

 後は私が調合してダニエルに処方します。」

 

 

 

「………じゃあダニエル君は治療できるの!?」

 

「だからさっきからそう言っています!」

 

「本当に………?」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ツー

 

「カオス!?」

 

 

 

「………よかった…。

 ………………俺ダニエル君を助けたくて………

 でも治すって言ったのに………その方法も分からなくて………、

 もうどうしたらいいか………。」

 

 

 

「カオス………。」

 

 

 

「本当によかった………。

 この街に来れば全部が全部解決するだろうって思ってたけどそうもいかなくて。

 ………俺にはやっぱり無理だったんじゃないかなってまた思いはじめて………。

 俺には戦う力しかなくて………。

 おじいちゃんのようになるなんて………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスさんは本当にアルバートに似ていますね。」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「アルバートもこの街にいたときはそのように誰かを救える力を欲していました。

 自分には戦う力しかないからそれで人が救われるのならこの力を人のために使いたいと。

 バルツィエの畏怖の印象を覆したいと。

 それはもう毎日がむしゃらに走り続けていました…。

 時折私にも相談するくらいでしたからね。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「確かに貴方の持つ強さでは救えない者もいるでしょう。

 不治の病に侵された人もいればその国にある身分制度で奴隷にされた人も…。

 それは世の摂理や人の定めた法の基に定められたルール上仕方のないことです。

 全てを救える道はこの世にはないのです。

 

 

 

 ですがそのうえで誰かを救いたいと思う貴方の在り方には私は感銘を受けますよ。」

 

 

 

「!」

 

 

 

「時に無駄だと人が決めつけ諦めることを貴方は率先して解決しようとするその姿勢、

 アルバートと同じです。

 貴方はアルバートと同じ心をお持ちのようですね。」

 

 

 

「おじいちゃんと同じ…?」

 

 

 

「人を救う道で大切なのはその人の味方になってあげられること、強者であるのなら弱者の心を分かってあげられる心です。

 貴方はこの世界で一番重要なものを持っています。」

 

 

 

「心が………世界で重要なもの…。」

 

 

 

「貴方はアルバートとは違い社会的に高い地位とは無縁の人生を歩んできたのでしょう?

 バルツィエの血筋でありながらその心を得られたのなら貴方はこのマテオの全てに触れることが出来る。

 このマテオの………古き過去のレールに縛り続けられる歴史の全てに…。」



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アインス

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 王都でウインドラと再開したカオスはウインドラに街中で正体をばらされ追われることに…。

 そして教会へと駆け込みそこでアローネに次ぐウルゴスの人を見つける。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではお話ししましょう。

 少し長くなるけど私とアローネの国、ウルゴスのことを…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔、この星はアインスと呼ばれる時代がありました。

 

 アインスでは様々な人種がそれぞれの国を作り暮らしていました。

 

 ですが長い時間で人が増えすぎた国々は他国を侵略し国の領土を拡げようとし長い戦乱の世が訪れました。

 

 百を越える国々は戦争に勝利し大きくなる国もあれば戦争に負け国そのものを勝った国に乗っ取られて無くなってしまった国もありました。

 

 そうした争いが続いて最終的に残った国が自然と共に生きマナを重んじる国ウルゴスと自然を破壊し機械技術に心酔するダンダルク…。

 

 ウルゴスは圧倒的な魔術で他国を蹂躙する侵略国家。

 

 ダンダルクは魔術を扱えない代わりに科学兵器を開発し他国を攻め落としてはその国の人々を使った人体実験を行う非人道国家。

 

 そして二つの国がそれぞれの大陸を統一したときアインス上最大の世界大戦が始まりました。

 

 その戦争でウルゴスは更なる魔術の発展でヒューマを攻撃しダンダルクは新たに開発した爆術兵器でウルゴスの地を焼き払い続けました。

 

 大きすぎる大陸と多すぎる人口とお互いのそれまでの常勝国としての威光を保つプライドをかけた大戦は終わりの見えない戦いとなり両国はいつしか互いの大陸を殲滅するだけの泥沼の殺戮試合となっていったのです。

 

 戦いが長期化すればするほど両国の攻撃しあう矛は鋭さを増し進化していく戦術は互いの特色を吸収しあって、あるとき戦場に『魔科学』と呼ばれる術が生まれてそれによって作られた兵器は人や動物だけでなく自然…いえ、星そのものを破壊していきました。

 

 魔科学がもたらした大戦への影響は凄まじく数年で世界の総人口の半数近くを消し去る程のものでしたが終止符のない戦争に終わりの兆しが見えました。

 

 ウルゴスでは父の…、王の勅命を受け私を含めた九人の王子女やクラウディア率いる上流貴族も戦場で直接指揮をとりダンダルクへと進行したりもしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなとき、戦場で『ヴェノム』が現れました。

 

 突如現れたヴェノムはウルゴス、ダンダルクを襲いそこに住んでいた人々を次々と怪物へと変えていきました。

 

 やがてヴェノムの被害は大戦を越え両国は戦争どころではなくなりヴェノムへの対応に追われるようになりました。

 

 国全土の優秀な医学者を集い早期解決に臨みましたがヴェノムの浸食はついに王都まで伸びてきて………。

 

 

 

 国は悟りました。

 

 このままでは大戦に勝つどころではない、

 

 世界の存亡の危機だと。

 

 

 

 突如現れた伝染病ヴェノムに打ち克つにはどうればいいかウルゴスの首脳陣は話し合いの場を設けそこで出した答えは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全人類のために世界を見捨てること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルゴスは地中深くへと避難しそこで人の中に宿るマナを人ごと凍結させて成長を止め、ヴェノムが世界を飲み込んでから消滅するのを待ちました。

 

 ヴェノムは放っておけば障気だけを残し溶けて消えてしまうのでウルゴスはこの選択を取りました。

 

 

 

 ウルゴスは…、世界はヴェノムに白旗を挙げたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルゴスは早急に地下へと潜る用意をして生き残っている人々を集めました。

 

 集めた人々を地下で眠らせてヴェノムが消えるまで永い永い時を待ち続けました。

 

 次に目覚めるときは戦争もヴェノムもない新しい世界に目覚めることを願って………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまでが私の知る全てです。

 後は永い時を経て私達アインス時代の人が眠っていた間にこのデリス=カーラーンの新しい人類の文明が築かれて今に至ります。」

 

「アインス………この前アローネが訊いてきたのって…。」

 

「…そうです。

 国ではなく星の名前でした。

 私達のウルゴスがあった当時の呼び名でした。」

 

「カストルまでの道やこの間、どうしてその時に言ってくれなかったの?」

 

「カオスは…この星の名前は何ですか?

 と聞かれてどう思いますか?」

 

「それは…、

 なるほど………。」

 

「常識を聞くことは場合によってはその質問者が異常者と捉えられてしまうことがあります。

 アローネも聞くに聞けなかったのでしょう?

 この星の名前はアインスですか?と。

 今の社会ではこの星の名前は『デリス=カーラーン』

 それが当たり前です。

 私達ウルゴス時代の人はアインスと読んでいたのです。」

 

「………」

 

「アローネはカオスさんを信じられなかったのではありません。

 アローネはこのデリス=カーラーンの常識を信じられなかったのですよ。」

 

「スミマセン、カオス。

 カタスの言う通りです。

 私は私の知る知識がこの世界デリス=カーラーンとアインスとのズレにずっと疑問を抱き続けていてそれを貴方に打ち明けられませんでした。」

 

「………それは仕方ないよ。

 そういう事情なら一人じゃ分からないこともあるし…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にアインスという時代があったんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!」」

 

 

 

「貴方は………タレスさんでいいのよね?」

 

「はい。」

 

「どうしたのですかタレス?」

 

「何か気になるところでもあった?」

 

「………このデリス=カーラーンに昔アインスと呼ばれる時代があったのは分かりました。

 ネイサム坑道でもそれらしい跡地がありましたし。

 しかしアインスと呼ばれる時代はこのデリス=カーラーンに至るまでに果てしない時間が流れて築かれてきたんですよね?

 

 ではアローネさんや貴方と話が通じるのは何故ですか?」

 

「言葉?」

 

「………ボクの事情はアローネさんから伺っていますか?」

 

「えぇ、

 貴方はこことは別の国………

 ダレイオスの人なのですよね。」

 

「えッ!?

 タレス君がダレイオス人!?」

 

「メルザには……

 まだその辺りの話は言ってなかったわね。

 彼はバルツィエに連れてこられた拉致被害者なのよ。」

 

「………」

 

「バルツィエは………

 力を付けすぎてしまったから捕虜の扱いも酷いものだからねぇ……。

 タレスさんのような子がいても不思議ではないわ。」

 

「味方にするには心強いですけど………

 あまり共感できませんね。

 こんな子供まで拉致してくるなんて…。」

 

「それでタレス君は私達がこのデリス=カーラーンの言葉を使えることに疑問を抱いたのよね?

 ダレイオスとマテオですら文字が違うのに時代を越えた私達とこの時代の言葉が何故通じるのか?

 でしょう?」

 

「………はい。

 ボクがダレイオスにいたときこのマテオとは違う文字を使っていました。

 それまで使っていた文字がこのマテオでは全く通じなくてウルゴス文字を覚えるのに苦労しました。」

 

「え!?

 ダレイオスとマテオって文字違うの!?」

 

「カオスさん達には機会がなくてダレイオスで使われている文字をお見せしたことありませんでしたね。」

 

「言葉は通じているから文字が違うなんて思いもしなかったよ。」

 

「…確かに変ですね。

 時が経過してできた全く違う文化の言葉と文字が同じなんて………。

 カタスどういうことなのでしょうか?」

 

「………『星の記憶』…。」

 

「え?」

 

「皆さんはこの星を動物と仮定したとき、何の動物に近いと思いますか?」

 

「動物ですか?」

 

「んん?

 ………何だろう。」

 

「……?」

 

「はい!

 私は「メルザは静かにしてなさい。今大事な話の途中だから。」………はい。」

 

 

 

「………スミマセン、考えたこともありませんでした。」

 

「人ですか?」

 

「ボクは………ボクも分からないです。」

 

「そうね。

 普通はこんな質問されることもないでしょうからね。

 アローネは人なのね。

 それはどうして?」

 

「………特にはないです。

 ただの当てずっぽうです。」

 

 

 

「この質問はあくまで仮定の話なので正確な答えはないの。

 でもさっきのタレスさんの問いに答えるのなら私はこの星は『スーパースター』」だと思うわ。」

 

「?」

 

「超星?」

 

「………ヒトデと言うことですか?」

 

「察しがいいわねタレスさんは。

 その通りよ。

 貴方達はスーパースターと呼ばれるヒトデはご存じ?」

 

「!

 それって確か…。」

 

「………リーゾアナ海にいたあの素早いヒトデさん達のことですね。

 あのときのことは覚えています。」

 

「あぁ、アローネが漆黒の翼に会ってからの話だったよね。」

 

「漆黒の翼………

 懐かしいですね。

 再びその名前が出てくるなんて…。」

 

「?

 カタスさん漆黒の翼を知っているんですか?」

 

「カオスさん達が出会ったその漆黒の翼とは別の漆黒の翼のことを知っていますよ。

 もう古い話ですが…。

 立派な方々でしたね。」

 

「カタス、

 知っているも何も貴女がその」パシッ

 

 

 

「アローネ、

 人の黒歴史をそう易々と話すのは感心しませんよ?」

 

「………はい。」

 

「………まぁ、今のでもう察したでしょうね。

 私はかつて身分を偽って臣民に混じりギルドで冒険者をしていた時期がありました。

 その時に同じパーティメンバーで名乗っていたのが『漆黒の翼』なのです。」

 

「カタスさんが…

 アローネの言っていた噂の漆黒の翼?

 でもどうしてギルドで?」

 

「王族というものはいろいろと複雑なのですよ。

 私の兄弟は私を除けば八人の兄弟がいますが父は同じで母はそれぞれ違う民族の優秀な血筋のものから生まれました。」

 

「!?

 兄弟でお母さんが違う!?

 それって許されることなの!?」

 

「王族の歴史を辿れば何処も似たようなことがあるのですよ。

 王が側室と呼ばれる囲いで妻を何人も持つことなど。

 性別が逆の場合もあります。」

 

「………想像つかないなぁ。

 どんな感じなんだろ?」

 

「私の体験談では仲のいい兄弟達も入ればそうでないものもいました。

 上の五人の兄達とは王位継承争いで暗殺者を送りあうほど仲の悪い間柄でした。」

 

「兄弟で殺しあってたんですか!?」

 

「これについても王族の歴史の一つですね。

 母達が部族の代表として王に嫁いで来ていますから時期王位は自分等の部族の血を持つ我が子から………と考えて行動していたようです。

 私は王位継承権は女性ということもあって弟よりも低い九番目ではありました。

 ですがこの順位を引っくり返すのは容易なことではなく王族に生まれた兄弟達は皆あらゆる面で一級品の才能を持っていました。

 統率力、頭脳、魔術開発、地学研究、戦術、政治、舞踊、戦闘技術………私にも交渉術と呼ばれるものはありましたがそんなものを持っていても性別や生まれた順番で圧倒的不利は覆すことは叶いませんでした。

 それでも母の一族のため努力を止めることは許されない。

 そうした日々を一時でも忘れるために私は一つ上の兄と一つ下の弟と共に普通の人の変装をしてよく下町等に出向いてました。

 いわば漆黒の翼はストレスの解消のためでしたね。」

 

「(ストレスの解消で王族がギルドに………。)」

 

「先程の話に戻りますが世界がスーパースターである根拠は………。

 カオスさん、スーパースターはあの五指を切り落とすとどうなります?」

 

「切り落とすとですか?

 ………そうですね。

 普通にまた生えてくるんじゃないですか?」

 

「そうですね。

 あの生物は代用するエネルギー源さえあれば死なない限りあの体が無限に生えてきます。

 体の中心の心臓部さえ生きていれば…。

 

 

 

 この星も同じです。」

 

 

 

「「「この星が同じ?」」」

 

 

 

「いくら時間が経とうともそこにあった環境が同じなら同じ種族同じ人類が生まれます。

 例えヴェノムに世界を汚染されようが核………

 大樹カーラーンさえ無事ならこの星は時間をかけて再生するのです。

 大樹カーラーンが生み出す全ての源のマナはこのデリス=カーラーン文明が開かれる以前のアインスから変わらないのだから。」

 

「大樹カーラーン?

 それは『アインスの木』と同じものですか?」

 

「そうね。

 アインスではそう読んでいたわね。

 ………つまり時間が流れはしたけどこの星で生まれたウルゴス………いえ『原初の民』は今のこのデリス=カーラーンの民と似通った特徴を持つと言うこと。

 ヴェノムによってダメージは受けたけどこのデリス=カーラーンはまた同じ人類を生み出したということよ。

 さっきの漆黒の翼の件も同様。

 一度滅びても時が流れればまた同じような世界に戻る。

 

 

 

 この、星の回復機能のことを私は『星の記憶』と読んでいるわ。」



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タレスの出逢い

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 王都レサリナスの教会で二人目のウルゴス出身者と出会った三人はウルゴスがどうなったかを聞くことになる。

 その最中にタレスがウルゴスに一つの疑問を抱くが…。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

「………にわかには信じがたいですが貴女達が嘘をついているようには見えませんね。

 アインスの存在………、

 信じることにします。」

 

「突拍子もなくこんな話をされても信じられないのも無理はないわ。

 貴方が先程抱いた疑問だけどダレイオスに関してはマテオに作戦が漏洩するのを妨害するために歴史の何処かで文字を大きく変えたタイミングがあったわ。」

 

「星の記憶か………。

 まるで星が生きているみたいだな。」

 

「まさしくその通りだと思うわよ。」

 

「はい?」

 

「この星は生きているの。

 私達エルフが生きているように、このデリス=カーラーンも生きている。

 私達は一つの大きな生命体の中で生きているようなものなのよ。」

 

「…そういった話も義兄から聞いたことありますね。」

 

「そうだったわねこの説ももとは貴方のお義兄さんから聞かされたことだったわね。」

 

「サタン義兄様は………

 今どうしているのでしょうか?」

 

「私にもそれは分からないわ。

 ウルゴスで開発したタイムカプセル『アブソリュート』は永い時によって地中でバラバラになってしまったから私や貴女がこうしてこの時代の同じ場所で目覚めることができたのは奇跡のようなものだもの。」

 

「それって………!?

 どういうことですかカタスさん!

 ってことはウルゴスの人達はまだこの地面の何処かにいるってことですか!?」

 

「そうなるわね。

 アブソリュートは頑丈に出来ているから中の人達は安全なのだけど見付けてあげないことには何時までも地中で眠ったままなのよね…。」

 

「「!!?」」

 

「私自身もこのマテオ建国の際偶然見付けてもらってそれからこの国に仕え続けているわ。

 幸いにも私はウルゴスの本を多く所持していたからね。

 それを頼って今の仕事を続けられているわ。」

 

「ではカタスさんとアローネ以外にはウルゴスの人は見付かっていないんですか!?」

 

「今のところは確定しているのは私とアローネだけね。」

 

「じゃあ早く探してあげないと!」

 

「カオスさん、どこを探すと言うのですか?」

 

「どこをって………

 どこにいるんでしょうか?」

 

「………せっかちさんね。

 それは私にも分からないのよ。

 ウルゴスの民がどうなってしまったかは。

 私達のように眠りから覚めて何処かで生きているか、まだ地中で眠り続けているかもしくは最悪のパターンに陥ったか………。」

 

「それって………。」

 

「この時代に来るまでに地殻変動は何度か起こっているの。

 想定していたアブソリュートの耐久度を越えたところまで埋まってしまっているか、火山の噴火に捲き込まれたりしているか、………ないと信じたいけど地中までヴェノムが追ってきて感染してしまったか。

 今の段階では想像することしか出来ないのよ。

 私やアローネのように誰かに掘り起こしてもらうしか見つけられる方法はないわ。」

 

「ということはあの日アローネが棺………

 今にして思えばあれがアブソリュートだったんですね。

 あれで運ばれていたのは誘拐されていたんじゃなくて…。」

 

「私を見付け出してくれていた方々だったのですね…。」

 

「………ごめん、

 あの時俺がもっと早くに駆けつけていればあの人達は助かっていたかもしれないのに…。」

 

「カオスが謝るようなことではありませんよ。

 私がすぐに目覚めていればその方々も………。」

 

「私もその方々に謝罪と感謝がつきませんね。

 アローネを見付け出していただいたのに…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからどうしますか?」

 

「どうって…。」

 

「アローネさんの目的地ウルゴスはカタス教皇の話によればもう存在しない。

 カオスさんは殺生石を調べるどころではありませんよ。」

 

「タレスは………どうしたい?」

 

「ボクは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一刻も早くこの王都から出るべきだと思います。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 王城前 朝 タレスサイド

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてカオスさん達はあそこまで見ず知らずの子供のために頑張れるんだろう。

 

 

 

 治療方法が無いと分かった時点で助けられる訳がないと分かっているのに………。

 

 

 

 それをムキになって助けようとするなんてどう考えても無駄としか思えない。

 

 

 

 助けられるのならとっくに誰かが助けている。

 

 

 

 あの少年も元貴族ならそれなりに伝ぐらい持ってただろうに。

 

 

 

 それが無いと言うことは治療出来ないということか、もしくは………

 

 

 

 ボクのように孤独なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、君。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 ……!?」

 

 

 

「今どこに向かっているの?」

 

 

 

「(コイツは…!!)」

 

 

 

「やぁ、最近よく会うね。

 誰かを探しているんじゃないのかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(近頃何度も見掛けるバルツィエの男………。

 ここで接触してきたってことはやはり監視されていたか…!)いいえ、別に…。」

 

 

 

「フフッ…、隠さなくてもいいよ。

 君が探している男は………ブラムって言うんじゃないのかい?」

 

 

 

「(ブラム…?

 何処かで聞いたような…。)」

 

 

 

「あいつも慎重な奴だねぇ。

 連絡役にこんな小さな子供を使うとは………。

 それも当然か。

 手配書の男と一緒にいるところでも見られたら大事だからね。」

 

 

 

「………何を言っているのか全く理解できませんが?」

 

 

 

「…直球に聞いてやろうか?

 いつ騎士団に合流するんだ?」

 

 

 

「(騎士団に合流?)」

 

 

 

「お前達の考えに何も気付かない筈がないだろう?

 反逆者の浅知恵なんて当に見抜いているんだよ。」

 

 

 

「(反逆者?

 浅知恵?

 コイツはさっきから何を言っているんだ?

 誰かと勘違いしていないか?)」

 

 

 

「…子供にしては躾られているね。

 必要なこと以外は喋る気はないってことかい?

 ………だけど口を割らせることなんて簡単に出来るんだよ?」スチャッ

 

 

 

「!?

 (クソッ!

 この勘違い野郎!

 街中でも御構い無しなのか!?)」チャキッ

 

 

 

「俺を相手に武器を構えるところは減点だなぁ。

 この場合は背中を向けて俺から逃げることが正解なんだよ坊や?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガヤガヤガヤガヤガヤ………

 

ダダダダダダダダダダッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?

 何だ、偉く騒がしいな?

 何事だ?」

 

 

 

「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス=バルツィエが現れたぞォォーーー!!」

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

「(カオスさん!?)」

 

 

 

「………どうやら相方がヘマをやらかしたようだね。

 ククッ………勝手に自爆でもしたか?」

 

 

 

「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェデールッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

「(!?

 フェデール!?

 ということはコイツはナタムの………!!)」

 

 

 

「何だラーゲッツ。

 今取り込み中だ。

 消えろ。」

 

 

 

「今ここらにあのカオスがいるようだぞ?

 探しだしてぶっ殺すんじゃねぇのかよ。

 こんなところで何油売ってやがる。

 テメーもさっさと働け!

 このウスノロ!!」

 

 

 

「………ハァ。」

 

 

 

「何溜め息ついてん………」グラッ…ドサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り込み中だと言ってるだろ?」

 

 

 

「(!?

 今!?

 何をした!?

 いつのまにアイツの後ろに!?)」

 

 

 

「………たく、

 ん?

 あぁ、今のは飛葉翻歩って言ってね。

 高速で滑り込む技なんだ。

 初めて見たかい?」

 

 

 

「(今のが飛葉翻歩………!?

 カオスさんの飛葉翻歩とは別のものじゃないのか!?

 全く………………見えなかった!?)」

 

 

「さて、続きを聞こうか?」

 

 

 

「(コイツには………勝てない!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か言うことはないのかい?」

 

 

 

「貴方は………。」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「………貴方はダレイオスの、ナタムの村を攻撃したあのバルツィエなんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………へぇ、

 あながちダレイオスの犬というのも間違いじゃないんだな。」スチャッ

 

 

 

「?」

 

 

 

「邪魔が入って興が削がれた。

 君達は………このまま野放しの方が面白そうだ。

 その様子だとブラムとは関係なさそうだしね。

 今日のところは帰るとするよ。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「君も相方を探した方がいいよ?

 このままだと捕まるぜ?」スッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」ダッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だあれは?

 

 

 

 あれがバルツィエ?

 

 

 

 あれが………?

 

 

 

 バルツィエが強いのは知っていた。

 

 

 

 とてつもない魔力で破壊し尽くす悪魔のような奴等だと。

 

 

 

 魔術にまかせて遠くから破壊砲を撃つような連中だと………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 認識が甘かった!

 

 

 

 アイツらは………魔術だけじゃない!

 

 

 

 接近戦も化物染みている!!

 

 

 

 ニコライトはともかく他のバルツィエなら油断させて近付き不意をつけるかと思ってた。

 

 

 

 子供のボクでも殺すチャンスがあると思ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あんなの無理だ!

 

 

 

 あんなの不意を突くとかいう話じゃない!

 

 

 

 殺す殺せないとかでもない!

 

 

 

 殺されるか、気分で見逃されるかだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなりに強いあの二人をバルツィエにぶつけて復讐してもらおうと考えていたけど………。

 

 

 

 あんな怪物勝てる訳がない!!

 

 

 

 戦っても死ぬだけだ!

 

 

 

 それどころじゃない!

 

 

 

 あのフェデールはボク達を監視していた!

 

 

 

 何か勘違いしてボクを見張っていたようだけど、今アイツはカオスさん達がどこにいるか把握していない!

 

 

 

 なら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げ出すチャンスは今しかない!



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教会の庇護下へ

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 王都で二人目のウルゴスの人物、カーラーン教会の教皇カタスティアと出逢った三人はウルゴスの消滅を聞かされ、今後どのように動くかを検討する。

 タレスは一刻も早く王都を去ることを進言するが…。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

「今日の昼頃、カオスさんが街の人達に追われている間にボクは………この間のバルツィエに会いました。」

 

「この間の………?

 ラーゲッツか!?

 また因縁付けてきたのか!?」

 

「いえ………

 その後に来たフェデールという男です。」

 

「フェデール?

 あのラーゲッツを止めた人か。」

 

「あの男は………異常です。

 とても人とは思えない強さでした。

 奴は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それって騎士団長フェデールのことかしら?」

 

 

 

「騎士団長?」

 

 

 

「このマテオの騎士団で一番上の位に立つ人よ。

 フェデールなら異常と言われても納得ね。

 彼は歴代のバルツィエでもアルバートやアレックスに匹敵する程の強さを持つと言われているくらいだから。」

 

「おじいちゃんに!?」

 

「アレックスが玉座に座ってからはバルツィエのまとめ役を担っていて彼自身も侯爵の称号を持っているから政治方面にも口出しできるの。

 アレックスへの忠義心も高く懐刀として戦場にも赴いていて数年ほど前のダレイオス侵攻作戦では街を一つ壊滅させて来たとも聞いてるわ。

 策略と惨殺を得意とし狙われたら厄介よ。

 彼の恐ろしいところは彼が直接担う暗殺の任務遂行率が彼が騎士に就任してから未だに百パーセントから落ちたことがないところなの。」

 

「そんな奴と会ってきたのか!?

 タレス!

 何かされなかったのか!?

 怪我とかは…!?」

 

「怪我とかはありませんがフェデールはボク達のことを知っていました。

 今からでもこの王都から逃げ出した方がいいですよ。

 そうしないと殺されてしまいます!」

 

「………何があったの?」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………という具合にその場は凌ぎました。

 ………いえ、逃がされました。」

 

「目で追えない程のスピードの飛葉翻歩………。」

 

「カオスよりも素早かったのですか?」

 

「…視界にいた筈のフェデールが音もなくラーゲッツの背後をとって気絶させました。

 王都に着くまでの数日、カオスさんの飛葉翻歩は何度も見させてもらいました。

 そのおかげでボクも飛葉翻歩の動きを目で追い掛けるくらいにはなりました。

 ………けどアイツの………、

 フェデールのそれはカオスさんの技術とは一線を画するもので、

 もしアイツの気まぐれでまた襲いかかってきたら…

 ボク達は一撃を入れるどころか戦いに敗れたことも気付かずに殺されてしまうかも………。」

 

「………随分と怖い目にあったみたいだね。」

 

「フェデール騎士団長はバルツィエの中では温厚な方だけど敵は容赦なく切り捨てる人ですから…。

 対峙したのならそれは相当なプレッシャーだったのでしょう。」

 

「プレッシャー………

 そんな一言では言い表せない何かを感じました………。

 あれは………。」

 

「………もし出会ってもなんとか、話し合いとかで修められたりは…。」

 

「それはよした方がいいでしょうね。

 あくまでも温厚と言ってもカテゴリーは『バルツィエの中では』なの。

 彼が出張ってきた時点で惨いことになることは確実よ。」

 

「………」

 

「カオスさん、

 あれは敵として出会ってはならないものです。

 今ボク達は奴のマークから外れている筈です。

 今のうちにここを出ましょう!

 この街はボク達にとって最悪に危険なんです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは難しいわね。」

 

 

 

「「「!」」」

 

 

 

「………ということはやはり…?」

 

「はい、私タレス君を探して街を走り回ってたんですけど今王都の入口は昼間の騒ぎで騎士団だけじゃなく賞金稼ぎや一般の人達も目を光らせていますよ。

 いくら手配書とは髪型を変えたりしてても今の状況でにどこかで誰かに気付かれますよ。

 皆普段より人の顔を観察していますから。」

 

「………逃亡は不可能か。」

 

「………既に退路が絶たれているのですね。」

 

「悪い、タレス。

 俺がウインドラに会ったばかりに………。」

 

「ウインドラ…?

 会ったのですか?」

 

「あぁ、実は…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「ウインドラがまさかあんなことをするなんて思わなくて…

 二人には重々迷惑をかけて…

 ごめん。」

 

「ウインドラさんは何故そんなことを…?」

 

「アイツは………俺のことを恨んでいるから…。」

 

「………それだけですか?」

 

「え?」

 

「直前の会話を聞く限り単に恨みだけでこんな事態を招いたとは思えません。

 何かカオスさんを遠ざけたい訳があったんじゃないですか?」

 

「そんなこと………。

 ………!」

 

「街の人達がカオスさんを追い掛け始めるまではカオスさんを街から追い出そうとしていたんですよね

 ………今となってはこんな街はさっさと出たいんですけど…。」

 

「そうだけど…。

 俺が鬱陶しい以外には思い付くことなんて…。」

 

「というよりウインドラさんは何をしていたんですか?」

 

「何って………

 隊長のダリントンさんを探していて………!

 そうだ!

 アイツ、ダリントンって人を探していた!」

 

「ダリントン?

 レイディーさんが仰っていた人のことですか?

 確か騎士団に所属していたと聞きましたがどうしたのでしょうか…?」

 

 

 

「ダリントンは数日前から行方不明なのよ。」

 

 

 

「ダリントンさんが行方不明?」

 

「………ちゃん」ボソッ

 

「この王都ではよく人がいなくなってしまうの。

 大半がバルツィエに反抗的な人達だからバルツィエが誘拐して粛清しているんじゃないかって噂なのよ。

 ダリントンも表面上はバルツィエに従ってはいたけど今度ダレイオスに特攻することを命じられていてね。

 何度も抗論を重ねていたみたいなのよ。

 そんな作戦は無意味だってね。

 けどバルツィエはその作戦を推し進めて終いには部隊全員最前線に張らせるつもりでいるそうよ。

 それも少数でね。」

 

「そんなの!

 死ににいくようなものじゃないですか!?」

 

「そうね。

 それが目的なのかもね。」

 

「死ぬのが目的?」

 

「バルツィエは………騎士団を完全にバルツィエとバルツィエの息のかかった集団だけにしたいみたい。

 そのためにはダリントンは………過去の栄光を持つダリントン達は邪魔だから………。」

 

「過去の栄光………

 バスターズって言うヤツですよね?」

 

「そう、バスターズのアレックスを抜いたらダリントンは最後の一人だからなんとしても消したいようね。」

 

「最後の一人………?

 後もう一人ヒューストンって人がいたんじゃあ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ヒューストンはずっと前にその命令がきて亡くなっているわ。」

 

「…!」

 

「特攻を命じたのは現王にしてかつての友アレックス。

 彼がフェデール団長の作戦を推し進めたみたいでそれでヒューストンは………。」

 

「友達を死地に行かせることを許可したんですか!?」

 

「そうなるわね。

 ………アルバートがいなくなってからアレックスは人が変わったようになってしまって…。」

 

「………そんなこと絶対に考えられない。

 友達を危ないところに行かせるなんて………。」

 

 

 

「ウインドラさんはどうなんですか?」

 

 

 

「!」

 

「カオスさんを曝すようなことをして下手したらバルツィエに見つかって殺されてたかもしれないんですよ?」

 

「………」

 

「そんなの友達なんて呼べますか?」

 

「ウインドラは…

 俺のせいだから………。」

 

「………ここまで来たら後はこの街からどうやって脱出するかだけを考えましょう。

 ウインドラさんが何をしたかったのか不明ですがこの事態を招いた以上は敵として認識しておきます。」

 

「………そうだな。」

 

「………カオス…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方達は暫くはここにいなさい。」

 

 

 

「「「!」」」

 

 

 

「この教会にいれば安全だから騒ぎが修まるまではここにいなさい。

 この中にいてさえしてくれたら私も騎士団から貴方達を守れるわ。」

 

「よろしいのですかカタス?」

 

「他ならぬアローネのためですもの。

 アローネをここまで導いてくれた恩人をわざわざ危ない所へ放り出すなんてできないわ。」

 

「そうなるとカタス様も俺達の共犯になってしまうんじゃあ…。」

 

「そういう細かいことは気にしなくていいのよ。

 私だって考えがあっての提案なのよ。」

 

「何か考えがあるんですか!?」

 

「まだ確約は出来ないけどね。

 今出ていくよりかは安全だと思うわ。」

 

「アローネさんはともかくボク達はバルツィエから狙われているんですよ?

 そんなのを匿ってるなんて知られたらいくら教会のトップでもただでは済まされないと思いますよ…?」

 

「それなら知られなければいいのよ。

 教会へは騎士団関係者は入れないようにしたりなんかして。」

 

「できるんですか!?

 そんなことが…!?」

 

「出来るに決まっているじゃない。

 私はここでは一番上なのだから。」

 

「こうなるとカタスは止められませんよ。

 ここはお言葉に甘えるとしましょう。」

 

「アローネがそう言うんだったら…。

 ………いつまでいるかは分かりませんがよろしくお願いします。」

 

 

 

「任せなさい。

 貴方達を絶対に悪いようにはさせないから。」



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心の内

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 ウインドラとの一件で街中を追われたカオスはカーラーン教会のカタスティアのもとへと辿り着く。

 そこで暫く教会で身を隠すことになり…。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会 数日後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………よっこらせッと。

 こんなもんでいいですか?」ガタッ

 

「それでいいわよ。

 人手があると助かるわね。

 こうして模様替えまで出来ちゃうんだから。」

 

「お世話になっている身ですからこれくらい当然ですよ。」

 

「カオスさんは紳士的でいいわね。

 こんな息子がいたら私も楽しくなるわ。」

 

「………有り難うございます。」

 

「それじゃあさっさと済ませちゃいましょうか。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………。」

 

「御苦労様、お茶でもどうかしら?」

 

「…いただきます。」

 

「では入れてくるわね。

 少し待っていて。」

 

「はい…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、紅茶でよろしかったかしら?

 今これしかなかったのを忘れていたわ。」

 

「大丈夫です。」

 

「そう。」カタッ

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「カオスさんは何か思い詰めてることでもあるのかしら?」

 

「え?」

 

「そんな顔をしているわよ?

 ここに来てからそんな顔ばかりしてるから私も気になってたのよ。」

 

「………ここに匿ってもらっているのは助かりますが本当にこのままでいいのかなって…。」

 

「カオスさんは教会がお嫌いかしら?」

 

「そんなことはありません。

 ここには善良な方が集まってきますからそれを見て俺もここの人達を見習わなければならないなって思いますし。」

 

「それでは別のことで悩んでいるのかしら?」

 

「………俺は………昔たくさん人を死なせたから、

 誰かに迷惑をかけた分これからの人生を誰かの助けになれる人生にしようって決めてました。

 

 けどアローネに出会って思い付きで旅をしてきたけど俺がやって来たことなんてモンスターと戦ってたくらいで………。

 

 アローネやタレスと上手くやって来たつもりだったけど俺は………

 無責任に出来ないことを引き受けて、二人に迷惑をかけて…

 自分ではその問題を解決できなくて………

 無力感が心の中を駆け巡るようで………

 もうこの先どうしたらいいのか………。」

 

「大分堪えているようね。

 この街の人達に追い回されたことが…。

 それとも…ウインドラのことかしら?」

 

「…はい。」

 

「人の罪というものはそう簡単には消えないわよね。

 罪を犯した本人がこうして後悔の念に苛まれているのですもの。

 ウインドラが貴方を許していなかったのはそれほどのことだったのでしょうね。」

 

「そうですね………」

 

「一体何があったのか私にも話してもらえるかしら?

 貴方とウインドラの間で起こったことを。」

 

「あまり聞いてても楽しい話ではないですよ…。」

 

「これは別に興味本意ではないわ。

 私が知るウインドラのイメージと貴方への報復………と呼んでいいのかしら?

 私の中の彼への印象がなんだか結び付かないわ。

 とにかく彼の何がこの事態を引き起こしたのかを知りたいのよ。」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そう言うことだったの………。

 貴方達の村でそんなことが………。」

 

「それ以来ウインドラとは会っていなくて………。

 この間会ったのが嬉しすぎて昔のことがすっかり頭から抜けていました…。

 俺はミストの人達に散々なことを仕出かしたというのに………。

 ウインドラだけは俺のことを無条件に許してくれていたと勘違いしていたんです。

 ウインドラもあの時のミストの………被害者だってことを忘れていたなんて………。

 馬鹿なんです俺は…。」

 

「カオスさん………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュッ

 

 

 

「…!」

 

 

 

「貴方は………よく今日この日まで一人で頑張ってこれたわね。

 偉いわ。」ナデナデ

 

 

 

「え?

 あの…?」

 

 

 

「貴方だってその時大切な人を失ったというのに…、

 今まで一人で孤独を抱えながら戦ってきたのでしょう?

 十歳の少年がそんな考えに至れるなんて大したものだわ。

 世の中には人を殺めても何とも思わない人達がいるというのに…。

 貴方は自らの罪を真摯に受け止め償おうと懸命に頑張っている…。

 カオスさん程罪と向き合える人は見たことがないわ。」

 

 

 

「………俺は取り返しのつかないことをしてしまったんだから当然です。

 そこに子供だの大人だのは関係ありませんよ。」

 

 

 

「タレスさんもだけど貴方も少し早熟なのかしらね。

 誰も頼れなかった独りの環境がそうさせてしまったのでしょう。

 アローネは貴方のことを最初に話したときは落ち着いた大人の男性のような人だと思ってたらしいけど接していくうちにその認識が全く逆のものだったと言っていたわ。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「カオスさんは………

 

 

 

 誰かに甘えたことはあるのかしら?」

 

 

 

「………甘える…?」

 

 

 

「ご両親は既に他界なさっていて幼い頃からアルバートと二人っきり………。

 そのアルバートも亡くなってしまった………。

 アルバート以外で貴方が心の拠り所にしていたウインドラとそのミシガンという子も疎遠になってしまって………。

 貴方は心休まる環境とは程遠い人生をおくっている…。

 

 貴方の話を聞いているととてもまともな人の精神が耐えられるような人生ではないわ。」

 

 

 

「それは………俺がまともじゃないってことですか?

 殺生石に触れてからヴェノムに触れても感染もしない俺が化け物だって………。」

 

 

 

「………そう卑屈になるのは止しなさい。

 私はそうは言っていないわよ。

 

 私が言いたかったのはカオスさん、貴方が今まで出会ってきた人の中で誰よりも強い人だってことよ。」

 

 

 

「俺が………強い?」

 

 

 

「私はそう感じたわ。

 人はね、一人になるとそれはもう弱くなる生き物なのよ。

 仲間がいると強気にはなるけど一人になった途端それまで出来ていたことが出来なくなるものなの。

 人が本当に力を発揮できるのは誰かがいてくれるから、

 その誰かがいなくなると人はなんの力も出せなくなるわ。

 

 カオスさんはそんな孤独な環境におかれながらも一人で戦い続けてきた。

 ミストの人達を陰ながら支えてきた。

 その努力を私は賞賛するわ。」

 

 

 

「別にそんな凄いことはしてないですよ…。

 俺のせいで村が襲われたんですから、

 俺が村のために戦わないといけなかったんです。」

 

 

 

「そう考えられることが凄いのよ。

 普通の人ならその力を利用して善からぬことを画策するもの…。

 今のバルツィエのようにね。

 貴方は見返りもなしにひたすら人のために使おうとする………。

 最もその心の内は罪を犯したことへの償いなどではないみたいですがね。」

 

 

 

「!」

 

 

 

「そこだけはまだ幼さが残っているようね。

 アローネが言っていたのでしょう?

 顕示から来るものだと…。」

 

 

 

「………そうですね。

 旅を始めたときにアローネに言われました…。」

 

 

 

「子供は叱られてでも構ってほしいというような子がいます。

 貴方の場合だと悪戯ではなく人助けでそうしているのでしょう?

 素直に甘えられないから人助けをして人に構ってほしい…。

 違うかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうしてそこまで分かるんですか?」

 

 

 

「この数日観察していれば自然と見えてきたわ。」

 

 

 

「………そこまで分かりやすいのかな俺。」

 

 

 

「さぁねぇ…、

 それは貴方を見ていた人だけにしか分からないと思うわ。

 それに気付いたのはアローネと私だけでしょう?」

 

 

 

「………そうですね。」

 

 

 

「貴方の在り方は純粋で真っ直ぐなもの………

 それこそが貴方の強み。

 しかしそれが貴方の弱いところでもありますよ。

 

 人に頼らずに力を発揮出来ること。

 けれども貴方が力を発揮するのは誰かがいてこそ…。

 

 カオスさん、貴方はもう少し自信を持ちなさい。

 

 貴方に救われた人は必ずいるわ。

 

 現にあの二人がそうでしょう?

 

 救えなかった人は貴方一人が抱え込む必要なんてないの。

 

 報われないこともこの世の中には多くあるわ。

 

 

 

 それよりも先ず貴方は貴方を救ってあげなさい。」



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バルツィエ誕生

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カーラーン教会に匿われることになったカオスはカタスティアの手伝いをすることに。

 その間カタスティアとの話で…。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………スミマセン、昼間から暗い話をして。」

 

「いいのよ。

 教会に来た人の話を聞くのも私の仕事だしおかげでカオスさんのことがよく分かったわ。」

 

「俺も自分を見つめ直すいい機会でした。」

 

「人生を振り返ることもたまには必要でしょ?

 これからのことを調整出来るし。」

 

「………と言っても今はカタス様に匿ってもらってる身ですし、この先どうすればいいのかはまだ…。」

 

「そこはまだ早くに決める必要はないわ。

 もう少ししたら往来を出歩けるようにしてあげるから。」

 

「?

 どうするのですか?」

 

「私がアレックスに面会してマテオに配布されている手配書を撤回してもらうわ。」

 

「!

 そんなことが出来るんですか?」

 

「教会をあまくみちゃ駄目よ?

 私はこれでもそれなりに顔がきく方なのよ。

 貴方とアローネのことくらいどうとでも出来るわ。」

 

「………けどあの手配書は俺が騎士団を妨害したからであって。」

 

「そんなの貴方達をダレイオスのスパイと勘違いした騎士達が悪いのよ。

 むしろこれだけ騒ぎを大きくした騎士団の失態だわ。

 カオスさんは捲き込まれた被害者よ。」

 

「それでも…

 そんなことまでしてもらうのは悪い気がしますが…。」

 

「ごちゃごちゃと言わないの!

 子供は素直に大人の言うことを聞いてなさい!」

 

「俺はもう子供という年では…(汗)」

 

「私からしたら二十歳の貴方なんてまだまだ子供だわ。

 私なんてもう貴方の百倍以上は生きているのよ。」

 

「え!?

 そんなに若々しいのに!?」

 

「…ウルゴスがあった時代から数えたら数億は越えているわね。」

 

「あぁ、それでですか…。

 ………実際のところは活動していた時期換算ではおいくつなんですか?」

 

「こらこら、

 そんなことを女性に詳しく訊くものではありませんよ?

 まぁ、どうしても聞きたいというのならウルゴスで眠りにつくまでとこの国が建国された二百年前くらいから目覚めたのを足して三百前後ということだけかしらね。」

 

「そんなに離れているんですね………。」

 

「なんにしても貴方達はもう私の息子も同然よ。

 アローネとは義妹のようなものだけどマテオのアルバートの家族というのなら貴方は私の子供のようなものだわ。

 お母さんが絶対に貴方達を助け出して見せるわ。」

 

「お母さん………?」

 

「この教会では時々孤児院の子達も招いているのよ。

 あそこはもともと私が出資しているのもあるからね。

 だからここに住む子は私の子として受け入れているのよ。

 カオスさん………カオスも私のことを母だと思って頼ってくれてもいいのよ?」

 

「カタス様がお母さん………。」

 

「幼いときにご両親の愛情を受けられなかったのですものね。

 私が代わりになるかどうかは分からないけど貴方の心を癒せるだけの相応のもてなしはするつもりよ。

 これからのことが決められないのならいつまでもここにいてくれてかまわないわ。

 丁度人手が欲しかったところだし、こんなにいい子ならずっとここにいてほしいくらいだわ。」

 

「………ちょっとそれにはすぐには答えることが出来ません…。

 タレスとは話し合ってみないと………。」

 

「いいのよ。

 まだ騒ぎが修まってはいないし手配書の件もあるわ。

 時間はまだまだかかるからそれまでゆっくり考えてね。」

 

「…アローネはこのことについて何か話をしました?」

 

「アローネにはまだ話してないわ。

 けどウルゴスはもうどこにもないしあの子がここにいてくれるのなら私も嬉しい限りよ。

 あの子がここに住むと言ってくれたら直ぐにでも家を用意できるわ。

 勿論貴方達二人のもね。」

 

「そこまでしてもらわなくても………。」

 

「いいえ、大事なことよ?

 手配書が無くなるにしても貴方達は顔が残ると思うわ。

 そうなったとき物見遊山で貴方達にちょっかいをかけに来る人達もいると思うの。

 その際に住居や敷地を固定していたらそういった人達を取り締まるのに有利になるから貴方達を守る意味でも必要な措置だわ。」

 

「そこまで考えてくれていたんですね………。」

 

「物騒な世の中だからこういうルールには詳しいのよ。

 私も一時期そういうのがあったから。」

 

「………」

 

「強制するつもりはないけどここに住むという件考えていてほしいわ。

 ここにはウルゴスの時代の書物が多く残っているからもしかしたら貴方のその殺生石の能力についても詳しく調べることが出来るかもしれないし。」

 

「!

 ここに殺生石について書かれている本があるんですか!?」

 

「私も全てを読んだ訳じゃないから分からないけど、ここにはダニエルの症状を治すことの出来るようなこの時代よりも進んだ情報があるわ。

 なら殺生石についても何か近い情報が載ってある本がどこかにあると思わない?

 可能性としてはこのまま宛のない旅に出るよりかはここでその力のことを調べる方が建設的だわ。」

 

「………!

 それは確かに………。」

 

「私も仕事が忙しいから余り助けにはなれないけどもし時間が空いたら貴方のお手伝いをしてもいいわ。

 息子の助けになれるのなら頑張って仕事も終わらせてくるから。」

 

 

 

「………カタス様は」

 

「様なんて他人行儀にしなくてもいいわ。

 お母さんでもいいのよ?」

 

「ハハッ…、グイグイ来ますね…。」

 

「私は気に入った子にはそうなっちゃうのよ。」

 

「………ではカタスさんで…。」

 

「まぁ、いいでしょう…。」

 

「カタスさんは人と接するのが好きなんですね。」

 

「教会のトップを張るのだから同然よ。

 世話焼きじゃなければ勤まらないわ。」

 

「………そんないい人にこんな質問するのも失礼になるかもしれないんですが……。」

 

「構わないわ、

 なにかしら?」

 

「さっきの話を聞いてカタスさんがこの国でも偉い人なんだと分かりました。

 そして人に親切なのも………。

 だからこそ一つ気になることがあるんです。」

 

「あら私のことが気になるの?

 何か変なこと言ったかしら?

 長い間眠っていたとはいえこれでも普通の人のつもりなんだけど。」

 

「そのことについてではないです。

 気になっているのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダニエル君のことです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダニエル?

 薬の件なら心配要らないわよ?」

 

「それは有り難うございます。

 

 ………ではなくてですね。

 さっきカタスさんは手配書の件でこの国の王様に面会すると言ってましたよね?」

 

「あぁ、

 アレックスとは仕事上、月に何度か顔をあわせるからねぇ。

 会いに行くのなんてしょっちゅうあることなのよ。」

 

 

 

「………カタスさんはダニエル君の症状を治せたんじゃないですか?」

 

「………」

 

「アイオニトスはリプット鉱山で手に入れてきましたけどカタスさんならアイオニトスを手に入れることも出来たんじゃあ………。」

 

「そうね…。

 私が一声かければ手に入ったかもしれないわね。」

 

「だったら「でも」」

 

 

 

「私にはダニエルを救うことは出来なかったの。」

 

 

 

「?」

 

 

 

「……私やアローネ、原初の民は本来このデリス=カーラーンの文明の人ではないからよ。」

 

「それはどういう…?」

 

「私達の…アインスの文明はこのデリス=カーラーン文明よりも何もかもが遥か先に進んでいたわ。

 それによって戦争が拡大して滅んだ国が多くあった。

 進みすぎた技術はそれだけ多くの人を殺すのよ。

 

 私も最初は私の持つ本の知識を使っていろんな人を助けたわ。

 それによってこの位まできたのだからね。

 

 あるとき私はこのウルゴスの知識がもっと多くの人達に提供できないかと考えてマテオ建国時に身近にいた方に私の魔術本を数冊貸してあげたの。

 

 その人こそ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今この国を牛耳っているバルツィエの初代当主だったわ。」

 

 

 

「!」

 

「貴方のご先祖様に当たる方ね。

 今はもう亡くなってしまったけども…。

 

 彼は本の知識を使ってみるみる力を付けていった。

 始めはどこにでもいる冒険者のような人だった…。

 それが世代を変えるごとに別の生き物にでもなったかのように力をつけ始めとうとうこのマテオを支配下におくまでになったわ。」

 

「バルツィエは………カタスさんが作ったんですか!?」

 

「そうよ…。 

 私が不用意に技術を提供してしまったばかりに今のバルツィエが出来上がってしまったの。

 バルツィエはこれまでの歴史で世界最多と言われるほどに殺戮を繰り返している…。

 バルツィエに殺された人達は皆私が殺したようなものよ………。

 貴方のことを息子のように思えてくるのもそういうところからかしらね。」

 

「カタスさんにそんな過去が…。」

 

「私はダニエルを救う術は持ってはいたわ。

 けどその術を安易に使ってしまうとバルツィエのような輩が生まれてしまう危険性があるの。

 この時代にはない技術があることが弘まってしまうと私のところには多くの人が押し寄せてくるでしょうね。

 

 それによりまた第二第三のバルツィエが現れてしまう可能性があるのよ。」

 

「……!」

 

「鉱山にアイオニトスを取りに行くことは出来たわ。

 けど今この戦争が始まりそうな時期に戦に使う鉱石を求めれば疑いがかかるわ。

 アイオニトスを何に使うのかと。

 

 だから私がアイオニトスを手にすることは出来なかったのよ。

 アイオニトスさえあればダニエルを治せるというのに…。

 

 大元を辿ればダニエルを追い詰めたバルツィエの存在そのものが私が原因だというのに………。」

 

「………カタスさんも俺と同じ思いをしていたんですね…。」

 

「私と貴方では物心があったかの違いがあるわ。

 ただ私は私の行いの終着点が見えてなかった。

 情報によってもたらされる恐ろしさはウルゴスでも理解していた筈なのに…。

 

 私は………元王族として私の生きる世界を救いたかった。

 それだけだったわ。

 それだけで数えきれない人がバルツィエによって殺されてしまった…。

 私は一生をかけても償いきれない罪を背負っている。

 

 単純に数を数えるのは今まで犠牲になった人に対して軽んじているみたいで嫌なのだけれど少なくとも私は貴方よりは大量に人を死なせているわ。

 それも未だに増え続けている。

 

 貴方に対してこうも世話をやいてしまうのは貴方がアローネの恩人だからというだけではないの。

 貴方が私と同じ道を歩く人だからよ。

 だから私は貴方を救ってあげたいの。

 

 私と同じ境遇に至った貴方だから…。」

 

「カタスさん………。」

 

「貴方がこの街に来てくれて助かったわ。

 たまたまこの街に来た人が持っていた薬でダニエルを救えた。

 それならば貴方が捕まらない限り薬の所在を特定出来ない。

 バルツィエのように過ぎた技術を利用しようとする不貞の輩など現れることもないわ。

 貴方はダニエルを救うだけではなく新たなバルツィエが現れるのを防いだ救世主となったのよ。」

 

「そんな大事にしないでください。

 俺はアイオニトスを持ってきただけなんですから。

 薬を作れるのはカタスさんだけですし。

 

 それにカタスさんが本当にいい人でよかった。

 アローネの知り合いを疑っていた訳ではないですけど俺と同じ境遇で同じ考えを持つ人の役に立てたのならそれで満足です。」

 

「お互い様よ。

 私はアイオニトスを調達出来なかった。

 貴方はアイオニトスを調合できなかった。

 私達が手を組むことで救えた人がいたのだから。」

 

「カタスさんは不思議な人ですね。」 

 

「私が不思議?」

 

「こうして話しているとなんだか落ち着くって言うか安心出来るって言うか………。

 俺も言葉に説明出来ない居心地のよさを感じます。」

 

「私達は似通った部分があるからかしらね。」

 

「それだけではないと思います。」

 

「他に何かあるかしら?」

 

「………何て言うかこう…

 大人の人というか………

 よく考えたら今までこうして大人の人と話す機会がなかったからかな。

 他人なのに他人のような感じがしない人に会うのは初めてで言葉がまとまりませんね。」

 

「いいのよ無理しないで。

 少しずつ馴れていけばいいわ。

 私はいつまでもここにいるから。」

 

「言葉がまとまったらまたお話してもいいですか?」

 

「遠慮しなくていいのよ。

 貴方はもう私の身内のようなものだから。」

 

「いきなりはまだちょっと…。」

 

「………ずっと人と距離を置いて過ごしてきたのですものね。

 その心の傷が癒えないままではまだ早いようね。」

 

「スミマセン………。」

 

「そんなに畏まらなくてもいいのよ。

 もうここに来て数日は経ったでしょう?

 もう少し歩み寄ることも大事よ?」

 

「…努力はしてみます。」

 

「フフッ…お願いね。」



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アブソリュートの呪い

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カーラーン教会で匿われていることになったカオスはカタスティアからバルツィエの原点を知ることになる。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれから十日、街の様子もすっかり落ち着いてきましたね。」

 

「もう俺達を探している人はいなくなってるかな。」

 

「油断は出来ませんがそろそろこの街を出る準備はしていた方がいいでしょうね。

 バルツィエの縄張りで彷徨いているのが知られたら奴等どんな凶行に出るか………。」

 

「………そのことについてなんだけど…。」

 

「「?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カタスがそのようなことを?」

 

「うん、この喧騒が修まったら王様に俺達の誤解を説いてもらえるらしいんだ。」

 

「………交渉の上手いカタスならこの騒動もなんとか鎮めていただけそうですね。」

 

「交渉?」

 

「カタスは昔から他国の大使との講話の席にはいつも呼ばれていましたから。

 カタスは人の心を掴むのが上手で話し合いはいつもカタスの進める通りいってたんですよ。」

 

「確かに…。

 話を聞いてるとなんか安心感があるからね。」

 

「カタスに任せるのなら手配書のことも解決できるでしょうね。」

 

「………そううまくことが運ぶでしょうか…。」

 

「カタスを信じてあげてくださいタレス。

 カタスはやるときは必ずやってくれる人ですよ。」

 

「いえ、その事ではなくバルツィエの動向についてです。」

 

「バルツィエ?」

 

「カタスさんとバルツィエの関係には驚きましたがそのことについてはおいておきましょう。

 恨むべきはバルツィエですから。

 ………ですがボクが遭遇したあのフェデールは手配書が無くなったくらいでそう易々とボクらを見逃してくれるでしょうか…?」

 

「手配書が無くなったら俺達を狙う理由は無くなるんじゃないのか…?」

 

「フェデールのあの口ぶりですと何か別の思惑のもと動いているように感じました。

 ボク達がまだ知らない何か別の組織の企みがあるようで…。」

 

「それって………?」

 

「…考えてみれば手配書の件も不自然ですよね。

 額の高さが異常に高かったですし、唐突にダレイオスのスパイ扱いさていますしそれに………手配書は騎士団から発行されているものですよね?

 バルツィエを通して発行されているのならニコライトが私達を襲ってきたとき殺すつもりで襲ってきたのは何故でしょうか?

 手配書には生け捕りと記載されていました。

 最初から殺すつもりならわざわざ生け捕りと記載する必要がないと思いますが…。」

 

「あの時のニコライトは他のバルツィエから言われて攻撃をしてきたようだったね。」

 

「騎士団の中で何か食い違いが発生していますね…。」

 

「騎士団が俺達を捕まえるように手配書を作ったのにバルツィエは俺達を捕まえずに殺そうとした………?」

 

「ボクらを狙っているのがバルツィエの他にもいるのだとしたらその敵の狙いが分からない以上この街に留まるのは得策とは言えません。」

 

「そうだけど出るとしたらカタスさんには一言声をかけてからでないと心配させることになるよ。」

 

「………この街を出るのですか?」

 

「アローネさんには申し訳ないですけど手配書がそう簡単に無くなるとは思えません…。

 待つだけ待って出来ないようなら今のうちに脱出した方がいいですよ。」

 

「ですが………。」

 

「………アローネさんはこの街に残りたいんですか?」

 

「それは………。」

 

「今思えばウルゴスがこの世界から無くなってしまったのならアローネさんが旅をする理由がありませんね。

 このままカタスさんと一緒にいるのがいいのでしょう。」

 

「タレス、

 私は………。」

 

「カオスさんはどうですか?」

 

「俺?」

 

「アローネさんの目的はウルゴスを見つけることだった筈、

 その目的を失った今、アローネさんはここに残してボク達だけで殺生石のことを調べませんか?」

 

「………タレスはもういいの?」

 

「ボクの目的は…

 今だからお話ししますが本当ならこの街でバルツィエに一矢むくいる覚悟でした。

 …ですがそれもあのフェデールに会って無意味なことだと悟りました。

 バルツィエにはどうあがいても勝てない。

 だからボクはいっそダレイオスへと渡るのがいいと思います。」

 

「!

 ダレイオスへ…!?」

 

「…!」

 

「ここから北西に向かえばマテオとダレイオスが陸づたいに繋がる細い海道があります。

 今日まででボクは図書館に通い詰めてましたが殺生石を記述する資料は見つけ出せませんでした。

 それなら一度ダレイオスも調べに行くことを提案します。」

 

「ダレイオス………、

 だけど………。」

 

「?

まぁ、マテオの民ならダレイオスに渡るのは抵抗あると思いますがボクが一緒ならどうになかなると思います。」

 

「………それは「今慌てて出ていくことはありませんよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話の途中口を挟んで悪いわね。

 けど貴方達は考えが浅いわよ。」

 

 

 

「カタスさん。」

 

「こんにちは…。」

 

「こんにちは、

 ………で?

 貴方達は今後のことを話していたのよね?」

 

「………そうです。

 ここにいてもいつ敵が襲いにくるか分かりません。

 そうなった時カタスさん達にはご迷惑をお掛けしてしまうので早々にここを離れようかと。」

 

「そう、

 これからのことを話し合うのは大切よね。

 ここに来て各々目的を果たしたり果たせなかったりしたのだからそうするわよね。

 でもね、

 その話し合いの前にこれをご覧なさい。」ピラッ

 

 

 

【王都に出没した賞金首カオス=バルツィエ、アローネ=リム・クラウディア

 ダレイオスへと逃亡】

 

 

 

「これは………朝刊ですか?」

 

「!?

 この内容はッ!?

 こんなこと今朝は何も…!」

 

「私とカオスがダレイオスへ?」

 

「知らないのも無理はないわ。

 これは明日配られる予定のものだもの。

 報道に問い合わせていただいてきたのよ。」

 

「報道へ直接掛け合ってきたんですか。

 でもこれってどういうことですか?」

 

「ウフフ、

 私は貴方達がここで過ごしているうちにいろいろとしてきたのよ。

 これでもう貴方達が街の人に付け狙われる心配はないわ。

 この国にはいない手配犯を探し回る人なんていないもの。

 手配書の方は撤回は出来なかったけど後は貴方達の服飾を変えればそうそう気付くことはないと思うわ。

 この教会にも修道用の服もあるから今度からそれを着なさい。」

 

「こんなことしたら………、

 これでカタスさんは完全に俺達の共犯関係になりますよ?」

 

「そんなの今更じゃない。

 覚悟の上だわ。」

 

「…どうしてそこまでしてくれるんですか?」

 

「それは………、

 貴方達が私と同じだからよ。」

 

「同じ?」

 

 

 

「…私はね。

 長い間この世界で孤独だったの。

 目覚めたはいいものの私の知る人達は誰もいない…。

 目覚めてから変わってしまった世界、滅びてなくなってしまった故郷、

 そして………私の体に起こった異変も………。」

 

「異変………?」

 

「…カタスは私やカオスと同じでヴェノムを浄化する力を持っているんです。」

 

「「!」」

 

「この力がなんなのか貴方達が来るまで分からなかった…。

 周りの人と違う力…。

 私だけがヴェノムによって死ぬことはない…。

 私だけが周りから仲間はずれ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私だけがヴェノムすらも越えた別の怪物に変化してしまったようで怖かった…。」

 

 

 

「「!」」

 

「そう感じても仕方ないでしょう?

 こんな能力前例がないのだから。

 私だけがヴェノムによって死ぬことはない。

 私だけが生き残る力…。

 

 

 

 私だけが周りに置いていかれる………。」

 

「………私もこの世界のカオス以外の人を知ったときはそう思いました。

 カオスの事情を聞き私とは違うことを知ってからはますますそう思い込むようになり、この世界での私は一体何者なのか?

 どうして自分にこういう変化が起こったのか不安でした。

 カタスは私と同じだったのです。」

 

「アローネが私のもとへ来てくれて心が軽くなったわ。。

 他のウルゴスの生き残り………そして私以外の例に出会えたこと。

 …恐らく私達は永き時を渡ったことにより体質が変化してしまったのでしょうね。」

 

「体質の変化? 」

 

「ヴェノムはとても強いウイルス………アインスでは世界中に蔓延してしまい何処に避難しても危険な状況だったわ。

 基本的には接触感染だったけどヴェノムが自然消滅する際に放たれる障気を体の中に取り込んでしまったせいで永い時の中でこのように体の組織が変化………いえ進化したのでしょうね。

 アローネと私が同じ時代に目覚めたからこそこの事実が分かったわ。

 それまでの私はこの秘密を一人で抱えながら生きてきたの。

 ………後この体質のことなんだけど…。」

 

「?

 何か他にもあるのですか?」

 

 

 

「私の体は………

 成長が非常に緩やかに変化しているわ。」

 

「成長が…?」

 

「私は目覚めてから二百年はたつわ。

 それなのに肉体はアインスで眠りについた時からあまり変わっていない。

 ………いえ、変わったわね。

 私の体はむしろ前よりも若返っているわ。

 一億を越える時を眠っていたのに活動を開始してからリハビリもなしに私の肉体は動かせた。

 そんなこと普通ではありえない。

 アブソリュートに入るとき次の世界では戦争のない世界を願っていたわ。

 けど入るとき不安もあった。

 そんな果てしない時間の先に自分が本当に生きられるのか…。

 人は数日動かないだけでも体がいうことを聞かなくなる。

 これから眠った先、目覚めたら私の体はどうなってしまうのか…。

 そんなことを考えたりもしてそれでも入ったけど目覚めたときの私は…。」

 

「カタスさんの話ではマテオ建国から既に目覚めていたんですよね?」

 

「そうよ、その時から私の体は異常だったの。」

 

「その時からずっと一人で…。」

 

 

 

「…貴方達に必要以上に構ってしまうのは善意だけじゃない。

 私がまた一人にならないように繋ぎ止めておきたい私の我儘からなの。

 せっかく………この二百年ずっと待ち続けたかつての同胞がどこかへ行ってしまわないためのね…。」



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定まらない逝く末

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カーラーン教会で教皇カタスティアの保護を受ける三人はそこでカタスティアの心の内を聞かされる。

 それはどこまでも暗い孤独の過去であった…。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

「………カタスさんがどういう考えでいたのかは分かりました。

 ですがカオスさんには目的があって旅をしているんです。

 ここにいるだけでは目的は果たせませんよ?」

 

「そのことについてはもうカオスには話は通してあるわよ。」

 

「カオス?」

 

「この間少し話してね。

 お世話になってるしそう呼んでもらった方がいいかなって。」

 

「そうですか…?」

 

「カオスさん、何か窺っていますか?」

 

「………殺生石の件なんだけどここにウルゴスの時代の資料があるからその中から調べてみようと思うんだ。」

 

「!

 殺生石のことが書かれている資料があるんですか!?」

 

「それは私にも分からないけど…。

 量が多くてまだ全てに目を通した訳ではないの

 カオスのような事例は聞いたことがなかったから私もそこまでは自信ないわ。

 でもこの国にはない欠損症の書があるくらいだからこの国の知識よりかは遥かに進んでいる筈よ。

 地下に置いてあるから自由に見ていいわよ。」

 

「………それならすぐに脱出する必要もないですけどもしここにいることが敵に知られでもしたら安全とは言えなくなりますよ?

 そうなるとボクらはここにいない方がカタスさんも危険な目にあうこともありませんよ。」

 

「もしそうなったら大丈夫よ。

 私が戦うから。」

 

「カタスさんが?」

 

「こう見えても私は戦えるのよ?

 アインスの時からアローネよりも強かったんだから。」

 

「そうなの?」

 

「カタスは秘密で冒険者をしていたというのもありますがそれよりも王族の血の方が濃いですから。」

 

「王族って強いの?

 王族が戦うなんて聞いたことないけど…。」

 

「ウルゴスの王族や貴族層は代々強い戦士の血を家系に取り入れるならわしで千年の歴史が続く中で誕生した者達は皆生まれながらにして平民の方達と一線を引く魔力を持っていました。

 カタスの御兄弟はその歴史の中でも最優クラスとされていたのです。」

 

「もう昔の話だけどね。

 この教会の中にいる限り私が守ってあげられるわ。

 物理的にも権力的にもね。

 だから安心なさいな。」

 

「…それは心強いですがボクは………。」

 

「タレスさんはダレイオスの出身なのよね?

 どこに住んでいたの?」

 

「ボクは………ナタムという今はもうバルツィエに滅ぼされた村の出身です。」

 

「そう…。

 ならダレイオスが母国といっても宛があるわけではないのね。

 …そんなにマテオにいることが安心できないかしら?」

 

「………はい。」

 

「それなら貴方は二つの道をが選べるわ。

 ここにアローネやカオスと残って過ごすか、

 ………どうしてもダレイオスに帰りたいというのなら今度私が船で送っあげる。」

 

「船が使えるんですか?」

 

「カーラーン教会は一応中立の立場なの。

 私は一年の大半はこのレサリナスにいるけど何度かダレイオスに行く予定がある。

 今度行くのは三日後だけど数日滞在したらすぐに戻ってくるの。

 その時に私の同行者として船に乗ることができるわ。

 行き先はダレイオスの首都だからそこからどの街にも行くことができる。

 北から回るよりかは早いし安全よ。

 タレスさんはどうしたい?」

 

「急にそんな選択肢を言われてもすぐには…。」

 

「そうよね。

 こんなこと言われてもすぐに答えは出せないわよね?

 なら今回は私だけで行くわ。

 私が帰ってきたときにに答えをいただけるかしら?」

 

「…」

 

「焦らなくていいのよ。

 時間は沢山ある。

 それこそいつだってダレイオスには帰れるわ。

 あちらに渡っても私のもとを訪ねてくれたらマテオに戻ることも出来るし、

 それに………教会の伝で仕事もあるしなんなら私の養子に迎え入れることも可能よ。」

 

「!」

 

「カタスさんの養子…!?」

 

「私はこういう仕事をしてるからそういった手も使えるの。

 私の養子になるのなら例えここでダレイオス人だと知られても危険はないわ。

 マテオで仕事をしてもらっているダレイオス人もいるのよ。

 ダレイオスの仲間はここにも多くいるの。

 それならタレスさんも寂しくないでしょ?」

 

「………ボクは。」

 

「すぐに答えは求めてないわ。

 よく考える時間も必要よね。

 今度いい返事を期待しているわよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスさん………。」

 

「どうしたの?」

 

「カオスさんは………ボクにここに残って欲しいですか?」

 

「…タレスはどうしたいの?」

 

「………分かりません。

 カオスさんはどうですか?」

 

「………俺にも分からない…。

 タレスを本来の場所に帰すつもりだったけど…。

 その村が無いんじゃ…。」

 

「カオスさん…。」

 

「………この街で現実を見たら努力じゃどうにもならないことがあるって分かって、俺は俺の考えに自信を持てなくなって…。

 それなら誰かに頼ることも一つの道なんじゃないかって思い出してさ。」

 

「カタスさんの条件は魅力的ですが…。

 それに頼りきるのもどうかと…。」

 

「分かってるさ。

 …だけど分からずに闇の中の答えを突き進むよりかは光明が見えてきそうで…。

 それもいいかなって。」

 

「………人任せですね。」

 

「そうかもね。

 だから俺達は代わりに何か他のことで助けにならないか探すのもいいんじゃないか?」

 

「ボク達に出来ることって何かありますかね?」

 

「それは今後探していけばいいよ…。

 今は無闇に迂闊なことは出来ない。

 俺達を狙う人達がいなくなった後それについては一緒に考えよう。」

 

「………はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネ。」

 

「何でしょうか?」

 

「カタスさんはどうしてあんなに俺達に献身的につくしてくれるの?」

 

「…それは今日の話の通りですよ。

 元王族で人の為に何かをすることを生き甲斐にしていた彼女の人格と数百年の寂しさから来るものなのでしょう。

 私が感じていたほんの数十日の孤独感なんて彼女に比べたら烏滸がましいにも程がありますね。」

 

「…アローネは俺達と一緒にいても孤独だった…?」

 

「そんなことは…!

 ………いえ、取り繕っても仕方がありませんね。

 貴方達には何度かそういうところもお見せしてしまったのですから。」

 

「…ゴメンね。

 アローネをウルゴスに送り届けるって約束してたのに出来なかったよ。」

 

「カオスが謝る必要はありません。

 これは私の心の中の問題だったのですから…。

 それに無いものを求めても仕方ありませんよ。」

 

「………変わったねアローネ。

 この街に来るまではあれほどウルゴスに帰ることに失着してたのに。」

 

「ウルゴスはもういいのですよ…。

 アインスがもう無くなってしまったというのは、

 …正直ショックですがそれほど落ち込みはしませんでした。

 スケールが星一つ分の文明なのでぼんやりとして頭で整理しきれないからでしょうか…?」

 

「混乱してるのかな?」

 

「………何にしてももうウルゴスのことはいいのです。

 私にはウルゴスのことを共有するカタスがいたのですから。

 ウルゴスが無くても私はカタスがいてくれるだけで心を落ち着かせることが出来ます。

 彼女が私をアローネ=リム・クラウディアと証明してくれました。」

 

「?

 アローネはアローネだろ?」

 

「私一人では何の信憑性も持たない夢物語を語る女でした。

 私の中だけにしかない世界を説いて誰が信じますか。」

 

「俺は信じていたよ?」

 

「そうですね、

 カオスは出会った始めから私のことを信じ続けてくれていましたね。

 どこにあるともしらない国を共に探していただいて…。

 それももうこの街に来てようやく果たすことが出来ました。」

 

「カタスさんのおかげだね…。」

 

「はい。

 私はやっと貴方にウルゴスの存在を証明出来て嬉しく思います。

 ずっと信じて付いてきてくれた貴方にウルゴスがあったことを伝えられて…。

 これからは貴方の目的に専念できますね。」

 

「?

 アローネは手伝ってくれるの?」

 

「何を当たり前のことを聞いているんですか?」

 

「だってアローネの目的はもう解決………じゃないか。

 解消したじゃないか?

 後は俺が殺生石について調べていくだけで…。」

 

「そんな水くさいことを言わないでくださいよ。

 私もお手伝いしますよ?

 ここまでカオスにはいろいろと助けられてきたのですから今度からは私がカオスの助けになります。」

 

「…有り難う。

 ならこの街にいる間はよろしくね。」

 

「この街にいる間?

 カオスはここで殺生石の手懸かりを探さないのですか?」

 

「勿論探すよ。

 その間にもカタスさんのお手伝いをするし。

 だけどもしここで見付からなかったら何処か別のところも行ってみようと思うんだ。

 それこそダレイオスとかにも。」

 

「ダレイオスですか。

 危険ではないのですか?」

 

「危険………だとは思うけどね。

 それでも探さないとミストに戻れないから。」

 

「そうですか…

 それならその際は私もお供しますよ。」

 

「!

 アローネはここに残りなよ!?

 せっかくカタスさんに出会えたんだからまた外に行かなくてもいいじゃないか!?」

 

「いいのですよ。

 カタスに会いたくなったらまたここへ戻るだけですから。

 それにカタスのお手伝いもしないとです。」

 

「俺についてくることがカタスさんのお手伝い?」

 

「カタスが先ほどタレスに仰っていたじゃないですか。

 教会のお仕事でダレイオスに渡ることもあると、

 私もこの教会に入ります。」

 

「アローネが教会の仕事をするの?

 でも貴族のお嬢様がそんなことしていいの?」

 

「そんなのはここまでの旅で冒険者をしていたのですから今更じゃないですか。

 それに私なんかよりも王族だったカタスが働いているんです。

 そちらの方が大きな問題でしょう?」

 

「確かに…。」

 

「ですがそんなのは関係ないですよ。

 私達は“元”王族と貴族なのですから。」

 

「明るく話せることかな?」

 

「それもそうですね。

 と言うことでダレイオスに渡る時は私の同行者として行動してもらいます。

 それならカオスも安全に旅が出来ますよね?」

 

「それはそうだけど…、

 わざわざ俺だけの目的でアローネをつれ回すのはちょっと…。」

 

「それだけではありませんよ?

 私にも仕事のお手伝いの他に目的はあります。」

 

「ダレイオスに何かあるの?」

 

「………私は私やカタスのようなウルゴスの生き残りを探したいと思います。」

 

「!」

 

「カタスの話では私のように何処かに埋まってしまっている人達が大勢いると思うんです。

 その人達を見つけてあげないといけません。」

 

「………考えただけでも難しそうな話だね。」

 

「カオスの問題も負けていないと思いますけど?」

 

「そっか、

 それもそうだね。

 もしここで俺の目的が達成できたらアローネの同胞探し俺も手伝うよ。」

 

「そうなりますとカオスの方が私に付き合わせているようで心苦しいのですが?」

 

「アローネだけじゃないよ。

 カタスさんのためでもあるんだ。

 だから心配しないで。」

 

「カタスの…。

 それならば仕方ありませんね。

 早速明日からにでも資料探しを始めましょうか。」

 

「あぁ!」



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祖父の復活?

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カーラーン教会で教皇カタスティアからそれぞれが抱える問題の解決案を提示された三人はそのまま居座ることになったが…。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会 地下倉庫

 

 

 

「「「………」」」

 

「ウルゴスの本は全部まとめてここに置いてあるから好きに使ってね。」

 

「分かりました………。

 けどこれって………。」

 

「悪いわねぇ、

 前にも話してたと思うけどこの本たちは易々と人に見せるわけにはいかなかったの。

 私一人で管理しなくちゃいけなかったから余り整理はされてなくてね。

 ………それでね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………後は頑張ってね?」ガチャン!タッタッタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………さて、何処から手を付けようか。」

 

「その前に先ずは分類訳をするべきでは?」

 

「そうしよっか………。」

 

「先が長そうです………。」

 

 

 

 

 

本×数千冊………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは………料理本?」

 

「こっちにはコレクター図鑑がありますよ。」

 

「これは何でしょう…?

 !?

 こっ………これはッ!?」

 

「?

 どうしたんですかアローネさん。

 何の本ですか?

 それは。」

 

「!!

 いけませんッ!

 子供にはまだ早いです!!

 見てはダメですよ!?」サッ

 

「?」

 

「こっ…こっちにはないようですね!

 私はあっちの方を整理してきます!」タタタッ

 

「…何だったんだろう?

 急に大声で…。」

 

「あの様子…。

 もしかすると………。」

 

「もしかすると?」

 

 

 

「ウルゴスの極秘事項でも記載していた本を見付けてしまったのかもしれませんね。」

 

「ウルゴスの極秘事項!?」

 

「これだけ多くの本があるんです。

 一冊混じっててもおかしくはありませんよ。」

 

「何が書いてあったのかな?」

 

「さぁ………

 でもあの慌て様からすると一般の人には見せられない黒い何かが…。」

 

「流石にそれは考えすぎじゃないか?

 ウルゴスはもうないんだぞ?

 カタスさんの倉庫に未だに見せられないようなものがあるなんて…。」

 

「カタスさんも王族だったんですよ?

 トップシークレットの一つや二つあってもいいくらいです。」

 

「こら!

 あんまり本人のいないところで悪口言うなよ。

 今だって俺達あの人に世話になってるんだから。

 この倉庫だってそのうちの一つなんだぞ?」

 

「スミマセン、

 軽薄でした。」

 

「全く…、

 まぁ、そういうのがあったとしてもアローネが見ちゃいけないものは判断してくれるだろうから何か重要そうなのがあったらアローネにパスしようか。」

 

「そうですね。

 それで。」チラッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(こんな………こんな破廉恥なものがカタスの本の中にあるなんて………王族として許されることではありません!

 ………これは私が責任を持って処理しなければ!)」ゴソゴソ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………見間違えでしょうか。

 アローネさんがさっきの本を懐に仕舞いこんでいるようにみえるのですが…。」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ポキポキ

 

「お疲れのようですね。

 骨などならして肩がこりますか?」

 

「この間から本を読む作業ばかりだからね。

 こう続くと体が鈍りそうだよ。」

 

「図書館の本は種別に分かれていましたから探すのも楽でしたけどここの本は全部調べないといけませんね。」

 

「一日じゃあ終わらないだろうなこれは…。

 どのくらいかかることやら。」

 

「砂漠の一粒の砂から公園の砂場の一粒に変わっただけマシとしましょう。」

 

「………そうだね。

 カタスさんの好意で使わせてもらってるんだから張り切って探そうか。」

 

「でもその前に一旦休憩してからにしませんか?

 もうそろそろお昼頃ですよ。」

 

「そうだね。

 ご飯を食べてからもう一回探そうか。」

 

「はい、

 では上に上がりましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

「………なので。」

 

「そうでございまするか…。

 久し振りに語り合いたかったのでござるが…。」

 

「申し訳ないわねぇ。

 私も多忙なものでね………。」

 

「ではまた今度にしておくでござるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?

 誰かお客さんが来てるようだね。」

 

「カタスの同業者の方でしょうか?」

 

「…いえ、あの格好はどう見ても違いますよ?

 この街の人ではあると思いますけど。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 そっ、そこの御人はもしや…!?」

 

 

 

「「「!?」」」

 

「(不味い気付いたのか!?)」

 

「(髪留めはしてあ………作業で汗をかいて前髪がおりている!?)」

 

「(安全地帯で正体が発覚するなんて不覚にも程がッ…!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムムムッ!?

 …少し前に話題になったカオス様にそっくりな牧師殿でござるなぁ!

 いやぁ実に似ているでござる!

 新しい牧師でござるか?

 カタスティア同志?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「………フフフフフ!

 そうなの!

 貴方にはまだ会わせたことはなかったわね。」

 

「我輩もここへ来るのは久方ぶりでありますからなぁ!

 

 これはお初にお目にかかりまする!

 我輩の名はトーマスといいまする。

 以後お見知りおきを!」

 

「は、はぁ……。

 俺はカオ………じゃなくてサタンと言います。」

 

「私はアルキメデスです。」

 

「………タレスです。」

 

「サタン殿にアルキメデス殿にタレス殿…。

 よい名前でござるなぁ!

 今後ともよろしくでござる!」

 

「こちらこそ…?

 …カタスさんこちらの方は一体…?」

 

「彼はトーマス、

 この王都で薬剤師をしてる方なの。」

 

「ヤクザイシ…?」

 

「薬を扱っている人のことですよ。」

 

「薬を………?

 ってことは!?」

 

「お察しの通りよ。

 はいこれ。」トサッ

 

「これが………欠損症の薬…?」

 

「そうでござる!

 特に危険な成分は検出されなかったでござるよ!」

 

「本当はもっと早くに出来ていたのだけれど私も初めて調合したからね。

 トーマスに安全かどうか検査を頼んだの。」

 

「そうだったんですか。

 トーマスさん、有り難うございます!」

 

「なぁにこれくらい日頃お世話になっているカタスティア同志の為ならどうってことありませぬよ!」

 

「カタスティア…同志?」

 

「そこはどうでも「何もご存知ないでござるか?」」

 

「カタスティア同志は我々『バルツィエファンクラブ』の会員なのでござるよ!」

 

「バルツィエファンクラブ……!?」

 

「バルツィエですって…?」

 

「あいや!?

 誤解なさるな!

 我々はバルツィエ本家のファンなどではござらん!

 我々はかの英雄アルバート様のファンクラブなのでありまする!」

 

「「「!」」」

 

「少し前までは『アルバート様ファンクラブ』という名称を最近になって『バルツィエファンクラブ』変更したのでござる!

 決してバルツィエ本家とは無関係でござるゆえ…!」

 

「カタスさん…?」

 

「…バレてしまっては仕方ないわね。

 そうよ、私もそのクラブの会員なの。」

 

「会員とは謙遜を!

 カタスティア同志は二代目会長だったではありませんか!」

 

「「「………」」」

 

「このア………トーマスお黙りなさい。

 人のことをべらべら喋るものではありませんよ。」

 

「何を隠す必要がありまするか!

 カタスティア同志は我等の憧れの的でしたぞ?

 アルバート様が当時カタスティア同志と会合なされたときどれ程の羨望と嫉妬を集めたことやら………。

 おのれぇ……!!」ギリッ

 

「ただの公務の打ち合わせだったのよ!」

 

「だまらっしゃい!!

 職権乱用、越権行為でござったぞ!!」

 

「越権はしていないつもりだったのだけど…。」

 

「グヌヌ………!

 フッ、フン!

 だがこうしてアルバート様が復活なさったのだ!

 我もこうして家業を継いだ以上いづれアルバート様のお力になれるよう新薬開発には御協力なさろう!」

 

「おじ…アルバートが復活………!?」

 

「何ですかその話は…?」

 

「………トーマスはあの手配書のカオス=バルツィエをアルバート本人だと思ってるのよ。」

 

「「「………は?」」」

 

「フフフ…!

 とうとう我輩にも付きがまわってきたのだ!

 カタスティア同志!

 御自分だけがアルバート様の隣に立ったなどと愉悦に浸れるのもこれまで!

 ソナタの時代は終わるのだ!!

 これからは我輩が天に立とうぞ!!」

 

「………どうしてアルバートが復活したなんて…?」

 

「そんなものはファンにならば推測に難しくないでござるよ!

 先日に触れ回った手配書の相貌………微妙に顔を変えてはいるでござるが間違いなくアルバート様のお顔!!

 そして百年前にアルバート様が消えたとされる村にて目撃されたという!

 これは間違いなくかの御方に違いはない!」

 

「そんなものはただの偶然でしかないわよ。」

 

「それだけではない!

 目撃されてからアローネ婦女を騎士団から守るために応戦したという!

 恐らくこのアローネ婦女は何かの手違いで巻き込まれただけのそこらの村娘であろうな。

 実に過去の我輩と同じである!」

 

「トーマスさんと同じ?」

 

「…彼、最初はバルツィエ嫌いだったのだけれど昔他のバルツィエや騎士団に街中で絡まれてるところをアルバートに助けられたことがあるのよ。

 それ以来彼に盲信してるの。」

 

「あの時のアルバート様はなんと誇り高き騎士の鑑たるや……!

 我はあの時のご恩を生涯忘れたりはせぬ!」

 

「そんなことがあったんですか…。

 それでここまで熱く…。」

 

「更にアルバート様と思われる点は他にもござるぞ!?

 つい最近のことイクアダ砦のバルツィエが敗れたのである!

 これはもう間違いない!!

 こんな諸行はあの御方にしか出来ない!

 まさしくアルバート様御本人であるという何よりの証拠!!!」

 

「………」

 

「全く何度言えば分かるのかしら…。

 あのバルツィエはまだ子供で未熟だから一度くらいそういうこともあるわよ。

 期待しすぎだわ。」

 

「いいぃやぁ!!

 それだけではござらん!!

 この時期!このタイミングで現れたのも確証的でござる!!

 このマテオがダレイオスとの戦争を始めようと準備している今!!

 この状勢で名乗りを挙げたことが動かぬ証拠ォォォッ!」

 

「いい加減教会の中でそんな大声を出すのは大変遺憾なのだけど?

 このバ………トーマス。」

 

「カタス?

 それでは名前で罵倒しているように聞こえますよ?」

 

「………失礼した。

 ついアルバート様のことになると咽に力が入ってしまうでござる。」

 

「分かればいいのよ。」

 

「………アルバート様は昔から戦争には反対的であった。

 戦争を始めるくらいなら講話でケリをつけようとそういう御方であった。

 ヴェノム騒ぎで戦争どころではなくなったアルバート様は一旦かの秘境にて修業に入ることにしたのでござる。

 『再び戦乱の世が訪れたときのために俺は力に磨きをかける!』

 そして公には死亡したことにし身を隠したのでござるよ。」

 

「憶測が過ぎるわよ。

 アルバートはそんな人じゃないわ。」

 

「だがこうして秘境の地から王都までお越しなさっているではござらんか。

 目撃のあった地では特に窃盗行為や国民への暴力行為もない。

 敵対していたのは全て王国の騎士団関係だけですぞ?

 これはつまりこの国の調子に乗ったバルツィエをお仕置きしに戻ってきたとした思えぬでござる。

 『俺がいない間にまた腐りやがってからに………

 俺がいねぇと駄目みたいだなぁ、この国はよぉ。』

 まさしくその通りでござるゥゥゥゥゥ!!!」

 

「今のは貴方の妄言じゃない…。」

 

「以上のことからしてこの手配書のカオス=バルツィエはアルバート=ディラン・バルツィエ様御本人と裏付けできるのでござる!!」

 

「声が大きい!

 このバッ………アッ………ボケェッ!!」

 

「とうとう取り繕わずに言いきりましたね…。」

 

「フヒヒヒ…!

 カタスティア同志の罵声はいつも冴え渡って気持ちいいでござる。」

 

「日常茶飯事なんですね…。」

 

「…ゴホフッ…!

 エフッエフッ………!」

 

「わざわざ喘息なのにかっこつけて一息つけようとして咳き込むなんて無様ねトーマス。」

 

「もう流れるように貶している…。」

 

「こっ、こんな苦しみももうじきアルバート様、改めカオス様が終わらせてくれる!

 文字通り!『バルツィエを混沌』へと誘っ「ナイトメア。」スピー………」

 

 

 

「そんなに苦しいのなら私が止めてあげるわ。」



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不穏な未来の始まり

 青年カオスはアローネとタレスと共に旅をしている。

 訳あってカーラーン教会に匿われた三人は殺生石のことを調べるためカタスティアに書庫へと通される。

 調べものの途中休憩しに来た三人はカタスティアと話をするトーマスと言う男に出会う。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

「グー、グー………スピー…。」

 

「ようやく五月蝿いのが静かになったわね。」

 

「カタス…

 今の魔術は…?」

 

「簡単な睡眠魔術よ。

 後で教えてあげましょうか?」

 

「………はい、お願いします。」

 

「息子の次はおじいちゃん本人ときたか………。

 ………ハハッハハハハハッ…。」

 

「カオスさん?」

 

「カタスさん、今の彼の話は彼一人が言っていることなんですか?」

 

「……いえ、

 彼一人だけではないわ。

 バルツィエファンクラブの殆どがアルバート生存説を推しているわ。」

 

「その殆どってどれくらいの数なんですか?」

 

「アルバートがいなくなってから退会者も出たけど未だに一万は切ってないはずよ。」

 

「………それだけいて否定する人はいなかったんですか?」

 

「否定派も勿論いたけどトーマスの話した通りアルバートの生存説肯定派が抽象的にも拘わらず大多数を締めているわ。

 皆本当は推理なんかじゃなくて純粋にアルバートに生きていてほしいって切望が強いのよ。

 それくらい彼は偉業者にして皆の憧れの勇者だったから。」

 

「おじいちゃんに生きていてほしい………か。

 もうおじいちゃんはいないのになぁ………。

 どうして百年も立つのにそんなに多いんだよ………。」

 

「彼と同じ時代に生きた人は皆彼がモンスターに襲われて亡くなったなんて信じられなかったのよ。

 そんなものよりも何処かで生きていて修業して強くなって帰って来たって方がアルバートとしては説得力があるわ。

 それで彼のような熱狂的なファンも最近興奮していて王都が騒がしいの。

 実はこの間の騒ぎでも貴方を追いかけ回していた人達は賞金稼ぎよりもうちの会員達の方が多かったのよ?

 アルバートのことを確かめたいって想いでね。」

 

「………そんなことになっていたなんて…。

 ………捕まらなくてよかったよ。

 捕まってたらどれだけの人を失望させていたか…。」

 

「…!

 ごめんなさいねカオス。

 うちの会員達が勝手に盛り上がってるようで…。

 私も本当のことを言えればいいのだけど…。」

 

「いいんですよカタスさん。

 ここで匿ってもらってるだけでカタスさんには苦労をお掛けしています。

 カタスさんだけが真実を知っていてもらえればいいんですよ。

 それにカタスさんが事情を話せば何故それが分かるのかって話になることも承知しています。

 俺はこのままで大丈夫ですよ。」

 

「カオス…。」

 

「手配書のカオス=バルツィエにかけられている期待は計り知れない程にまで膨れ上がっているんですね。」

 

「そうねぇ。

 名前が変わったのもそれが一因なの。

 アルバートからバルツィエに変わったのは百年経って生まれ変わったアルバート様に追い付くため我等も生まれ変わるべきだ、と会員の幹部達で決めたことなの。

 カオスファンクラブとならなかったのは否定派の幹部が本当に本人かはまだ分からなかったから本人か確認してからまた改めて名称を変更する予定なのよ。

 それまでは二人に共通した名前バルツィエで通してるのよ。

 皆名前が気に入らないから早く彼の詳細が判明するのを待ち望みしてるわ。

 ………私だけがその詳細を独り占めしてるのだけれどね。」

 

「………」

 

「それにね?

 彼等がこうして活気づくのも仕方がないことなのよ。

 近々何かが絶対に起こるから。」

 

「?

 カタスは何か知らされてるのですか?」

 

「明明後日………

 私がダレイオスに向かう次の日になんだけどね。

 王国が王都民を集めて王城前で何か発表するらしいわ。

 私も詳細が知らされていないことを。

 恐らくダレイオスへの再戦宣言だと思うわ。」

 

「「!!?」」

 

「………」

 

「最近噂にもなってたのよ。

 王国が武器や食料品をかき集めているって…。

 十中八九戦争の準備よ。

 ダレイオスが未だに原始的な方法でしかヴェノムに対応できない今、早くに体制を整えたマテオ上部は長年の仇敵にいよいよ決着を着ける気なのよ。」

 

「…!

 今ダレイオスがマテオに襲われたら………!?」

 

「えぇ、タレス、

 その考えの通りになってしまうわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスは確実に敗ける。

 この戦争は既に戦う前から白旗が上がるのが見えている。」

 

「…ダレイオスはどうなってしまうんですか!?

 マテオはダレイオスをどうするつもりなんですか!?」

 

「そこまではマテオがどうするかは分からない。

 圧倒的火力を見せ付けて降伏勧告を言い渡すか、

 ………そのままその力でダレイオス人を攻め滅ぼすか………。」

 

「!?」

 

「ダレイオス人を殲滅してしまうのですか!?

 マテオが!?」

 

「アローネはまだ知らないと思うけど今の王アレックスはそういう人よ。

 言うことを聞かないものは例え自国の民でも貴族でも………バルツィエですら斬り殺す。

 そんな人………。

 もし戦争が始まってダレイオスが降伏勧告を突っぱねたらその時は………。」

 

「………ダレイオスは降伏勧告を受け入れるでしょうか?」

 

「…戦争が始まらないことにはどうにもね………。

 ダレイオスにとっては受け入れがたいとは思うけど…。

 それにこの戦争に勝つことはダレイオス人だけでなくマテオ人にも被害者が出てしまう。」

 

「?

 戦争をするのですからそのようなことは想定の範囲内なのでは?」

 

「違うわ、そういう意味ではないの。

 戦争をしたらヴェノム対策で守りに徹しているダレイオスはマテオに進軍出来ない。

 戦争中は常時ダレイオスの地のみが戦場になるわ。

 マテオには一兵も侵入することなどない。」

 

「それではマテオ人は逆に安全なのではないですか?」

 

「アローネ、

 私が話しているのはその戦争に勝った後の話のことよ。

 戦争に勝った場合マテオはデリス=カーラーン上、敵がいなくなる。

 そうなったら事実上バルツィエが世界を征服したようなものよ。」

 

「!」

 

「ダレイオスのように多くの拮抗した部族が統合して出来た国なら下に着いたライバル部族の牽制でどうにか平均的に保つことが出来るわ。

 でもこのマテオではそれがない。

 バルツィエ一族のみが国を全て総轄している。

 これがどういうことだかお分かり?」

 

「独裁政権………。」

 

「そう、

 天敵のいない生物はどこまでも、どこまでも増長を繰り返す。

 ダレイオスという目の前の障壁があるからその増長は食い止められていた………。

 それももう終わりを迎えるかもしれない。」

 

「ですがウルゴスでもそんな独裁国家は過去にもありました!

 そうした国は例外なく国民に反旗を翻される結果に終わりました!

 バルツィエがいくら強くてもダレイオス国民とマテオ国民が結束すれば「今回はそうはならないわ。」!?」

 

 

 

「今回だけはその例とは違うの。

 ただでさえ海を越えた大陸と大陸の国民同士が結束できるかどうかの問題もあるけどそれよりももっと根本的な原因があるのよ。」

 

 

 

「………ヴェノムですね。」

 

 

 

「そうよ、

 この世界で初めてヴェノムに対して正面から挑める『ワクチン』の開発に成功したのもバルツィエよ。

 

 強さと今世界を蔓延るヴェノムに対抗する手段を独占する彼等に逆らえる者は誰もいない。

 その二面性が揃ったバルツィエには例え世界が彼らの思うようにされても誰も文句を言えない世界になる。

 もう絶対に何があっても覆されることのない世界に。」

 

「………他にワクチンを開発する機関はないのですか!?」

 

「貴方は研究者じゃないから知らなかったのでしょうけどヴェノムはこの星の接触禁止の危険害悪生物の頂点よ。

 成分を調べることなんて不可能。

 ヴェノムの残り香からも有害反応が出て精神に異常をきたすと言うのがこの王都の調査できる限界よ。」

 

「「(レイディーさんの言っていたことその通り!)」」

 

 

 

「今マテオの人達は

 明明後日の宣言が再戦宣言でないこと、

 開戦した暁にはどうにかダレイオスに勝ってもらうか出来なくても戦争を長期化してほしいこと、

 ………そしてアルバートのような世界が認める救世主の登場を待ち望むことよ。

 どれも願ってばかりで現実を見ていないものなのだけれどね。」



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アルバート再来預言

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カーラーン教会で殺生石について調べているとトーマスと言う人物に出会う。

 トーマスの話ではカオスの祖父アルバートが未だに信仰されているらしいが…。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

「救世主アルバート様と聞いて!!」バッ

 

 

 

「「!?」」ビクッ

 

「カタスティア同志!

 やはりソナタもアルバート様の御帰還を信じているのでござるな!?

 それならそうと何故我輩達に「ナイトメア」スピー…」

 

 

 

「やだわ、最近起きるのが早くなってきて困るわ。

 抵抗でもできてるかしら?」

 

「「………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「そんな訳で今この街はこのトーマスのような御花畑の住人や戦争が始まるかもしれないと不安と恐怖にかられてピリピリしている人が多いのよ。

 トーマスは薬を届けに来てくれただけだったけどその他にもここへやって来る方は多いわ。

 この礼拝堂へと入る場合は慎重に行動なさい。」

 

「「はい…。」」

 

「………」

 

「カオス?

 返事は?」

 

「…はい。」

 

「どうしたんですか?

 カオス。」

 

「………先程の話の時から大人しかったわね。

 アルバートの生存説辺りからかしら?」

 

「………皆が俺をおじいちゃんだと勘違いしてる………。

 皆が大好きだったおじいちゃんはもういないのに…

 俺はミストでも嫌われものの人殺しなのに…。

 それを打ち明けられないし打ち明けたところで俺はおじいちゃん程の期待をかけられるような存在じゃない…。

 俺には時間が経っても忘れられずに待ち続けてくれる人なんて……」

 

 

 

「カオス………

 カオスは「カオスはカオスじゃない。」」

 

「貴方はカオス…。

 それだけでいいじゃない。

 周りが何て言おうが気にすることはないわ。

 アルバートは実績でいろんなことを言われてきたけどそれはどれも本人の中身を知らずに想像で語った薄っぺらいものよ。

 本当のことを言っている人なんて少ないわ。」

 

「…前にも言いましたよね。

 カオスは称号や職業で人を判断しないと。

 今のカオスはその時に戻ってますよ。

 肩書き等で人の中身は計れない。

 貴方は貴方を本当に見てくれる人に対してもそうした態度で臨むつもりですか?」

 

「アローネは………いいよね。

 最初からアローネとして出てて…。

 俺は………俺の筈なのに俺じゃない………。

 なのに、俺じゃないのに期待だけは本物で………。

 あの日の王都が俺にそんなに注目していたなんて…。」

 

「カオス………。

 そこまで落ち込まなくても………。」

 

「……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまりはそういうことなのね?

 カオス。」

 

 

 

「「?」」

 

 

 

「そういうことを気にしているのなら貴方は明日その薬を届けに行くといいわ。

 明日なら明明後日の準備で騎士団も暇して外を出歩いてないでしょうし。」

 

「?

 カタスさんは一緒に行かないんですか…?」

 

「私は明後日の準備をしないといけないから忙しくてね。

 貴方が用意したものなんだから貴方が届けてちょうだい。」

 

「でも薬を作ったのはカタスさんだし…。」

 

「私が一緒に行くと私の功績になりそうじゃない?

 一番頑張ったのは貴方達なんだからその努力の恩恵は貴方達が受けるべきよ。」

 

「………分かりました。」

 

「子供に会いに行くのに大勢は必要ないでしょう。

 あの子のところに行くのならカオスさんかアローネさんお願いします。」

 

「タレス………

 やはり元貴族でも嫌なんですね。

 相手は子供ですよ?」

 

「子供もいつかは大人になります。

 貴族のまま育っていたらダニエル君のご両親の道を辿って成長しダニエル君のご両親の後を継いでマテオの貴族に………ゆくゆくはダレイオスの敵になってたでしょう。

 …ボクはダレイオスの敵になってたかもしれない子を助けるようなことはしたくありません。」

 

「タレスはもう………。」

 

「タレスさんは早熟と言ってもまだ幼いわ。

 そういうことを考えてしまうのも頷けるわね。

 なら明日はカオスとアローネで行ってらっしゃい。」

 

「…はい。」

 

「そうしますか…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは我輩はこれで………

 カタスティア同志………少しは加減してくだされェ…。

 我輩夜眠れなくなってしまうでござるぅ…。」

 

「トーマスが静かに話すことを覚えたら考えてもいいわ。」

 

「我輩もそこは重々承知しているでござるぅ…。

 でありますがアルバート様の話をしているとどうにも口が「なら喋らなければいいのよ。」カタスティア同志ィ………。」

 

「あのぅ…

 トーマスさんはどうしてそういう口調なのですか?」

 

「…昔私がアルバートに本を貸したらそれに影響されてね。

 その本の登場人物の口調を真似していた時期があったの。

 トーマスはその時期のアルバートに助けられてからこうなったわ。

 余程その時のアルバートが彼にとってはヒーロー的だったのでしょう。」

 

「本?

 ………このような特徴的な口調の本など思い当たりませんね。

 どこの本なのですか?

 ダレイオス?」

 

「いえダレイオスでも聞いたことない口調ですよ。

 マテオなのでは?」

 

「マテオでもダレイオスでもないわよ。

 あの本は確かジ………ッ!」

 

「「ジ?」」

 

「………いえ忘れてしまったわね。

 この二百年の間にも色々と国が出来ては無くなったりしたから。」

 

「そうですか………。

 その本はまだありますか?」

 

「ごめんなさい、あの時から色々とあって今はどこにあるのか分からなくなってしまったの。」

 

「そうなんですか………。

 読んでみたかったです…。」

 

「今度もし見つけたら貴方達にも見せてあげるわ。

 とっても面白い話なのよ?」

 

「へぇ~、どのようなことが書かれている本なのですか?」

 

「それは……、

 内容を披露すると面白さが半減してしまうわ。

 あの本は真っ白な状態で見た方が面白いから今ここでは言わないでおいた方がいいわよ。」

 

「………それもそうですね。

 それでは見付かったときのお楽しみに取っておきましょう。」

 

「そうしてちょうだいね。

 それではトーマス、貴方も早く帰りなさい。

 今日は十分貴方の談義を聞かせてもらったわ。

 おかげでこの子達も良い話が聞けて喜んでるわよ。」

 

「そうでござったか!

 我輩もアルバート様を暑く語れて楽しかったでござるよ!

 これも何かの縁!

 どうでござるか!?

 サタン殿!アローネ殿!タレス殿!

 我輩が所属するバルツィエファングラブに入会なされないか!?

 今ですと動き出す歴史の最初の入会者として名を残せるでござるよ!?」

 

「動き出す歴史?」

 

「明明後日にある王城前での会合の話………。

 どうもきな臭いのでござる!

 王達は再戦宣言の他にも何かよからぬことを企んでると見た!

 その企みを実行に移す段階に至ったので再戦宣言に出るのであろう!」

 

「再戦の他にも何か計画があると?」

 

「そうでござる!

 そうでなければわざわざ騎士団だけでなく国民までよんで開戦するなどと意味のないことはせんでござるよ!」

 

「トーマスの言う通りだわ。

 私もその可能性に同意なの。

 明明後日の集会では王都で任務についている騎士達を全て集めて開かれる予定らしいの。

 それも明明後日だけは外壁の見張りすらその日は無人になるのよ。

 これから戦争をしようって国が敵が侵入してくるかもしれないのに見張りを無くすなんて油断もいいとこだわ。

 余程攻め混まれても追い返す自信があるのか………戦争よりも何か重大なことを発表するのか………。」

 

「確かに怪しいですね…それは。」

 

「ダレイオスを舐めているとしか思えませんがヴェノムに逐われている以上それでいいのかもしれません。」

 

「王様達の企みは長年この国に住んでいる私にも分からないわ。

 無闇に行動するのは危険よ。

 貴方達は当日はここで本でも読んで大人しくしてなさい。

 いいわね?」

 

「は、はぁ………、

 ですがトーマスさんはその騎士団の企みについて歴史の最初の入会者になると仰られたのですか?」

 

「とんでもござらん!!

 我輩はアルバート様がいない騎士団などなんの興味も湧かない!!

 騎士団が我輩の知らぬところでおかしなことをするのであればどうぞご勝手に!でござる!」

 

「それでは何があるのですか?」

 

「よくぞ聞いてくれた!

 我輩は断言しよう!

 明明後日の会合で騎士団達は必ずや何かこの国にとってよからぬ政策を立ち上げるであろう!!

 税収を上げる政策か都民を戦場へと送り出すような政策か………

 一体何が起こるのかは我輩にも分からぬ…!

 だがそんな我輩にも一つだけ分かることがある!!

 宣言しよう!

 それは………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その明明後日の会合にてアルバート様が颯爽と現れ!軍を率いてマテオ騎士団を一網打尽にするのである!!」

 

 

 

「「!?」」

 

「そんな訳ないでしょう?

 カオス=バルツィエはダレイオスに渡ったとされているのよ?

 そんな彼がどうして都合よくその会合に現れるのよ?

 あくまでも明明後日の集会で招集されているのは王都の中だけの話なのよ?

 ダレイオス軍が攻めて来たら他の騎士団が応戦して王都へなんて辿り着けないわよ。

 戦場の戦いって結構長引くものなのよ?

 明明後日の集会にダレイオス軍が来たいのならもう既に海上での戦闘が始まっている筈だわ。

 第一、彼がダレイオスに渡った後に明明後日の集会があると公表したのよ?

 どうやってそんなことがあるって分かるのよ?」

 

「甘いなぁカタスティア同志………!

 アルバート様………もといカオス様は事前にこの日を察知して動き出したのでござる!

 カオス様には何もかもお見通しなのであろう!

『弟アレックスの考えなど兄には筒抜けよ…!

 何年兄弟してると思ってんだ…?』

 そう!

 カオス様は全てをお知りなのだ!

 なんという御方だ!?

 この日のために全てが繋がっていたのでござるか!?」

 

「貴方の中のカオス=バルツィエは凄い能力の持ち主なのね。

 未来予知なんてどう修行したら身に付けられるのかしら?」

 

「そんなものはアルバート様にとっては赤子の手を捻るよりも簡単なことよ!

 アルバート様の観察眼は百年前でもモンスターに猛威を振るっていたでござろう!?

 とうとうアルバート様はその域を越えて未来を見る力を得たのだ!

 アルバート様ならそれも可能なのであろう!

 多分!」

 

「多分…(汗)」

 

「トーマスさんはいなくなった人にここまで御執心でいられるんですね。」

 

「トーマスにとってアルバートは神様のようなものなのよ。

 現に昔はいたのだからトーマスにとってはアルバートがどんなことを成し遂げてくれると疑わないのでしょうね…。」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何が未来予知だ。

 

 

 

 何が神様だ。

 

 

 

 おじいちゃんは………普通の人だったんだぞ?

 

 

 

 それをこんな風に何でもできる見たいに言われて………

 

 

 

 そんな訳ないだろう…

 

 

 

 おじいちゃんだってレイディーさんの言う通り逃げ出したくもなるよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでか………。

 

 

 

 おじいちゃんがミストに来たのはこういう人達がいたからミストに逃げたんだね。

 

 

 

 人が背負える物なんて限度があるのにこういう人に理想を押し付ける人達はおじいちゃんに無限に理想を背負わせる………。

 

 

 

 それはおじいちゃんも逃げ出すさ。

 

 

 

 こんな風にまるで人扱いされてないのなら…。

 

 

 

 これなら始めから腫れ物扱いされた方がマシじゃないか?

 

 

 

 こんな風に神格化したイメージを持たれてもどうせ後になって失望させてしまうのは分かりきってる………。

 

 

 

 期待してもらえるのは嬉しいことだろうけど度が過ぎるのはただの無理難題の押し付けにしかならない…。

 

 

 

 おじいちゃんは………ずっとそれに応え続けてきたんだろうなぁ………。

 

 

 

 人の想像はどこまでも大きくなって雲の上の見えないところにまで登っていくのに………。

 

 

 

 おじいちゃんはそのことに……後から気付いたのかな?

 

 

 

 ………それなら未来予知なんて能力はおじいちゃんにはないだろうな。

 

 

 

 ただその時その時を全力だっただけ………。

 

 

 

 おじいちゃんも俺も皆の中の人物とは別人の中身は普通の人なのに………。



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いざ薬を届けに

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カーラーン教会にて調べものの最中にトーマスという薬剤師と出会う。

 その薬剤師が言うには祖父アルバートが明明後日の開戦宣言に現れるというが…。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会 地下倉庫

 

 

 

「………」ボー

 

「カオス?

 手が止まってますよ?」

 

「………」ボー

 

「カオス?」ポンッ

 

「………!

 うわっとアローネ!

 いつの間に!?

 どうしたの!?」

 

「…カオスがボーっとしてたので声をお掛けしたのですが…。

 どうかなさったのですか?

 集中出来てないようですが?」

 

「………何だろう…。

 ………本当に何なんだろうね………。

 何でかな?

 ちょっと自分でも分からないや。」

 

「何ですかそれは?」

 

「気分でも悪いのかな?

 あんまり目や頭を使うような作業はしてこなかったから頭の中がパンクしてるのかもね………。」

 

「はぁ………?

 今日はこのあとダニエル君にお薬を届けることになってますがカオスの方が調子が悪そうですね?」

 

「大丈夫だよこれくらい。

 平気平気!

 イケるイケる!」

 

「とてもそうとは思えませんが…。」

 

 

 

「カオスさん用事なら早めに済ませてきた方が良いですよ?

 『二兎追うものは一兎も得ず』

 ………どこかの国で使われている格言だかがあるくらいですから。」

 

「………そうだね、先ず追いかけるのなら一つに絞らないとね。」

 

「ボクは特に孤児院には用事もないのでここでカオスさんの資料を探しておきます。」

 

「………うんありがと。」

 

「………」

 

「それでは一言カタスに言ってから向かいましょう…。」

 

「………そうしようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「孤児院に向かうの?

 そう…、

 ダニエルのことをよろしくね?」

 

「はい………。」

 

「?

 何か浮かない顔ね?

 どこか調子でも悪くしたのかしら?」

 

「…得にそういったことはないですよ。」

 

「…昨日からカオスがこの調子なのです。」

 

「………なるほどあの時からね。

 全くトーマスには困ったものね。

 本人を前にしてあんな妄想を垂れ流して………。」

 

「トーマスは悪くありませんよ…。

 言い出せない俺が悪いんですから…。」

 

「貴方は騎士団の誤解を受けた被害者でしょう?

 ここまで話が膨れ上がったのも騎士団せいよ。

 貴方は一切被を認めることはないわ。」

 

「………俺が軽はずみなことをしたせいで話がこんなにも大事になったんですよ?

 多少なりとも責任はありますよ。」

 

「カオスは知らなかったのでしょう?

 ファンクラブが言う戯れ言なんて放っておきなさい。

 貴方は………

 

 

 

 貴方を真に見てくれる人のところに向かうべきよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 南東部 孤児院

 

 

 

「あっ!

 カオ……

 サタンさん!アローネ!

 お久し振りです!」

 

「お久し振りですメルザさん。」

 

「お久し振りです…。」

 

「今日はどのようなご用件ですか?

 お二人は………あまり出歩くのは控えないといけないのに。

 もしかしてカタス様のお使いか何かですか?

 あの人もお二人のことを分かっている筈なのに何を考えているんだか…。」

 

「いえ、今回はそうではないのですよ。」

 

「え?

 じゃあ…、

 私のお手伝いに来てくれたんですか!?

 子供達が気になったんでしょう?

 最近は外も空気が張りつめてますからねぇ。

 明後日のことで街も慌ただしいすし。」

 

「明後日というとやはり…? 」

 

「私は事情を知ってますからそこまでは興味ありませんけど今バルツィエファンクラブでは明後日の件で話が持ちきりですよ?

 明後日の王城にカオスさんが現れるのか、本当にアルバート様が現れるのかって…。

 ………そんなことはあり得ないんですけどね。」

 

「………」

 

「メルザさんもファンクラブの人なんですか?」

 

「それはそうですよ。

 大好きなカタス様がよく話してくれますからねぇ。

 昔話を聞くうちに私も好きになっちゃいましたよぉ!

 お伽噺のような騎士様で…。

 その騎士様は既に売約済みなんですけどね…。」

 

「…スミマセン。

 生まれてきて…。」

 

「そ、そんな意味で言ったんじゃないですよ!?

 私こそ空気が読めなくてスミマセン! 」

 

「いいんですよ…。

 メルザさんには助けられている身の上ですから。」

 

「………でも本当にどうなっちゃうんでしょうかねぇ?

 マテオは。

 このまま本当に戦争が始まっちゃうんですかねぇ…。」

 

「それは…

 私達にはなんとも…。」

 

「会員達の話では明後日の会合に救世主が現れるなんて話にはなってますけど私はお兄ちゃん………

 ここ最近顔を見せないうちのダリントンが現れると思うんですよ…。」

 

「お兄ちゃん?」

 

「…私も実はもともとはここの孤児院に拾われて育っててダリントンもここの出身ですから私にはお兄ちゃんのような人なんです。

 クソ真面目で会う度に小言を言ってきますけどね。

 ………粛清されたなんて話も聞きますけど私はお兄ちゃんは今もどこかで生きてて…

 明後日の会合ではお兄ちゃんがアルバート様の変わりにバルツィエの暴走を止めてくれると信じています。

 あれでもお兄ちゃんは王アレックス様と同じバスターズの一人ですから…。

 アルバート様がいない今アレックス様を止められるのはかつての友の………お兄ちゃんしかいないと思うんです。」

 

「(この人はそのダリントンさんのことを………。)」

 

「ダリントンさんは………生きていますよきっと。」

 

「…そうですよ。

 あんなんでもこの王都では『希望の星』なんです。

 他のバスターズがいなくなった今アレックス様を止められるのはお兄ちゃんだけ…。

 暫く見ないのも明後日の為に何か準備をしていてそれで姿を隠しているだけなんです…。

 お兄ちゃんの部隊はバルツィエが何か悪さをする都度止めに入るアルバート様の意思を継いだ騎士団の良心部隊ですから。」

 

「………」

 

「…なんだか湿っぽくなっちゃいましたね。

 今日は…何でしたっけ?」

 

「今日は………ダニエル君に会いに来たんですよ。」

 

「ダニエル君に?

 あの子なら図書館に行ってますよ?」

 

「そういえば始めにあったときからあそこにいましたね。」

 

「…未だにここの子達とは馴染めなくて…。

 あの子にはいくつかの障害がありますから。

 元々はバルツィエの部隊にいたお父さんと………

 彼の体質が…。」

 

「ダニエル君のお父様はバルツィエの隊に所属なさってたのですか? 」

 

「そうですよ。

 バルツィエは気性が荒い部隊ですけどそれと同時にずば抜けた医療技術のある隊ですからお父さんもダニエル君をバルツィエなら治せるのかもと入隊したんです。」

 

「そんな目的の人が不正を働くなど考えられませんね…。」

 

「私もそう思いますよ。

 それでもバルツィエは彼のお父さんを…。」

 

「それなら…

 彼のお父様の無念を晴らすためにも私達がダニエル君を治さないといけませんね。」

 

「!?

 と言いますと薬が出来たんですね!?」

 

「はい、

 トーマスさんと言う方にも安全性を確かめてもらったので問題ないそうですよ。

 今日はこの薬を届けに来たのです。」

 

「そうですか!

 なら中の方へどうぞ!

 ダニエルが帰ってきたら渡してあげてくださいよ!」

 

「あ、あの私達は薬を届けに来ただけで…。」

 

「薬を持ってきてくれた本人が薬だけ渡して帰るなんて水臭いですよ!

 ここでゆっくり子供達と遊んでいってください!

 話したいこともまだまだ沢山あるんですから!

 カタス様のこととか!」グイグイ

 

「あ、あのぅ…!」

 

「…アローネはここにいてよ。

 俺が直接薬を渡しに行ってくるよ。」

 

「カ、カオス!?」

 

「ならアローネさんだけでも頂いていきまよ!

 今日は私一人で忙しくて大変なんです!」

 

「そ、それが本命なのでは…!?」

 

「それじゃあ…帰り道だし俺は行くね………。」ザッ

 

「カ、カオス~~~!」

 

「街中でそんなに叫んでは他の人達に気付かれちゃいますよ!

 早く中に入って!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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真実を見抜く目

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カーラーン教会でカタスティアに依頼していた薬が完成しカオスとアローネは孤児院へと届けに行く。

 アローネはメルザに連れていかれ子供達の世話をすることになりカオスは一人で図書館へと向かう。


王都レサリナス 東北部 図書館

 

 

 

「………」

 

 

 

「(いた………)」

 

 

 

「………」ペラペラッ

 

 

 

「(何て声をかけようか…

 ここはあの時からいい思い出がないからなぁ。)」

 

 

 

「………」ペラペラッ

 

 

 

「(………何をあんなに夢中になって読んでいるんだろ?

 本も山積みにして)」ソー

 

 

 

「………」ペラッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【格闘技をするのなら】、【剣術本】、【近接格闘術】、【人体の急所】、【魔術の基本】、【コーネリアス枢機卿の修道騎士の心得】………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ダニエル君はバルツィエと戦うつもりなの?」

 

 

 

「…!

 ………いきなり後ろから話しかけないでよ。

 驚くじゃないか。」

 

「ねぇ………

 どうなの?」

 

「………」

 

「危険だよ?

 あいつらは皆普通の人と比べて桁違いの魔術が使えるし剣術だってそうだ。

 そんなやつらに一人で挑むつもりなの?」

 

「………そうだよ。」

 

「何で?」

 

「二日後の集まりでこの街のバルツィエが皆揃う。

 それを一気にやっつけるチャンスなんだ。

 今のうちに強くなる勉強をしないと。」

 

「それでどうにかなると思ってるの?」

 

「………」

 

「馬鹿な真似はよした方がいい。

 君は魔術も使えない子供じゃないか。

 そんな子が一人で大人に立ち向かったところで誰も止められるとも思ってないし誰も期待もしない………。

 仮に期待されたとしてもそれは本人の能力を見ずに無責任に評価されたりするんだ。

 そんなの実際にされたらたまったもんじゃないよ。

 下手に注目を浴びるような真似は…「さっきからなんなの?」」

 

 

 

「いきなり話しかけてきたと思ったら説教を始めてさ。

 そんなこと最初から分かってるよ。」

 

「………分かってるならどうしてそんな無駄なことをしようとしてるの?」

 

「そんなのやってみないと分からないだろ。」

 

「…?

 勝てないと分かってるのにやってみないと分からない?

 よく理解できないな。

 何がしたいの?」

 

「ぼくは………一人ででもバルツィエと戦いたい。

 でも勝てないってのは分かってるよ。

 でもそんな周りが無理だって言ったことに素直に納得なんて出来ないよ。

 やってもいないのに。」

 

「…周りは自然と分かるんだよ。

 そういうのが、

 客観的に見て勝敗が分かる。

 だから君とバルツィエが戦ったところで君が一方的にやられるのは目に見えている。

 大人しくしているのがいいよ。」

 

「助言のつもり?

 余計なお世話だよ。」

 

「俺は親切のつもりだよ。

 バルツィエの力を間近で見た経験談としてのね。」

 

「だったらいらないお節介だよ。

 ぼくは一人でだってやってやるさ。」

 

「どうしてそこまで拘るの?

 誰も味方なんてしてくれないよ?」

 

「味方なんて必要ないよ。

 ぼくのことを馬鹿にするような味方なんか。」

 

「人の助け合いってのは大切だよ?

 俺も最近はカタスさんにお世話になってるし…。」

 

「ぼくはあんたみたいにはならない。

 あんたみたいにはなりたくない。」

 

「君だって同じようなものじゃないか。

 あの孤児院にいるってことはカタスさんの「そういうことじゃない。」」

 

「あんたみたいに人を気にして生きてるような人にはならないって意味だよ。」

 

「………大人になるとこうなるんだよ。」

 

「あんたはずっと友達がいたからそんな風になったんだ。

 ぼくは友達なんかいなくたっていいさ。

 友達がいるとあんたみたいに弱くなる。」

 

「友達は………関係ないさ。

 俺はずっと俺一人で強くなろうと努力してきた。」

 

「けど今のあんたからはあまり強そうだとは思えないよ。」

 

「…俺は別に強くなんて………。」

 

「まぁそうだろうね。

 そんな風に人ありきでバルツィエにびびっているんなら仕方ないんじゃない。」

 

「………」

 

「ぼくは一人で強くなるんだ。

 強くなってバルツィエを倒して皆に知らしめるんだ。

 弱い出来ないって言ってた連中を見返してやるんだ。」

 

「………結局君も人のことを気にしてるじゃないか。」

 

「いちいち小さいことをうるさいな。

 どうだっていいだろぼくのことなんて。

 それにぼくは一人でも強い人を知ってるよ。」

 

「一人でも強い人?」

 

「あぁ、最近一人でバルツィエに立ち向かって行って剣術だけで勝った人がいるんだよ。

 そんな人がいるんならぼくだって魔術が使えなくても強くなれる筈さ。

 魔術がダメなら他のことで挑めばいいんだよ。」

 

「(………魔術がダメなら………、

 どこかで聞いたことが…。)」

 

「その人は多分凄い努力を積み重ねてきたんだろうなぁ…。

 ぼくも一人になってからは努力をしてきたつもりだけどバルツィエどころか他のやつらの魔術すら避けるのが精一杯だよ。

 普通に魔術を使えそうなあんたにも無理だろうけどね。」

 

「俺もそれくらいなら………。」

 

「出来るの?

 出来たとしても避けるだけで反撃なんて出来ないでしょ?」

 

「君の言うその人ってなんて人なの?

 俺もバルツィエと………バルツィエが戦っているのは見たことあるけど三人くらいで逃げ出すのがやっとだったよ。」

 

「フン、

 偉そうに人に無理だなんて言うわりにはただの傍観者だったんじゃないか。

 そんなんで偉そうに指図するなんて烏滸がましいよ。

 自じゃ何もしないくせに。」

 

「…!

 俺だって………もっと力があれば皆を守れるくらいになって…!」

 

「それじゃあこんなとこにいていいの?

 あんたがダラダラしてるうちにぼくがあんたを追い抜いてバルツィエを倒してるかもしれないよ?」

 

「ダラダラって………、

 別に俺はなにもしてない訳じゃ………。」

 

「大体、図書館に何しに来たの?

 …前は薬を作ってくるとか言ってたくせに…。」

 

「…君を探してたんだよ…。」

 

「ぼくを…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「薬が出来たの?」

 

「あぁ、

 これがそうだよ。」トサッ

 

「これが………。」

 

「君は精神的な後天性の症状だから治りやすい筈だよ。

 一応薬の効果も実証性あるみたいだし安全も確認されている。

 これを飲めば君も魔術を使えるようになる筈………。」

 

「………」

 

「これでバルツィエに挑むってんなら少しは役に立つさ。

 最も魔術が使えるようになったところで付け焼き刃だからお勧めしないけど。」

 

「……とう。」

 

「?」

 

「ありがとう…。」

 

「………お礼は言えるんだね。」

 

「ぼくもそこまで子供じゃないから。

 あんたにはこれで借りが出来たんだし。

 お礼ぐらい言っとかないとね。」

 

「生意気な子供だな。」

 

「…でもこれでようやく戦える。」

 

「………さっきも言ったけど止めといた方がいいよ。

 君一人じゃどうにもならない。」

 

「………それでもいいさ。

 ぼくはあの人の助けにさえなれればそれで………。」

 

「………さっきから言っている人って誰?

 一人でバルツィエに勝ったなんて聞いたことがないけど。」

 

「聞いたことないの?

 友達のいないぼくですら耳にはいるくらいなのに。」

 

「悪かったな。

 世間に疎くて。」

 

「まぁ、直に知ることになるさ。

 多分その人はぼくと同じ病気だけどそれでもぼくの世界を変えてくれた人だから。」

 

「?

 そんな人の話なんて…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス=バルツィエっていうこの間この街のバルツィエに宣戦布告しにきた人さ。」

 

 

 

「………」

 

「あの人はイクアダでバルツィエと戦って勝ったんだ。

 魔術も使わずにね。

 カオスは………ぼくの考えではぼくと同じ病気なんだと思う。」

 

「…自分の都合で考えすぎだろ。

 本人を知りもしないでどうしてそんなことが言えるの?」

 

「分かるよ。

 カオスの記事は少ないけど全部集めたもん。

 手配書とかも見たけど普通賞金首になるとその人が使える魔術とか詳しく載せられちゃうんだよ?」

 

「…!」

 

「それを見ても一切カオスに関しては魔術を使っている話がない。

 使わないんじゃなくて使えないんだよ。

 何か訳があってね。」

 

「…子供にしてはよく調べてるな。」

 

「そうでしょ?」

 

「けど一つ間違いがあるな。

 そのカオスは一人で立ち向かったと言ってたけど彼には二人の仲間がいるって話だよ。

 一人で戦っている訳じゃない。」

 

「………そうだけどこの間のイクアダのバルツィエの戦いでは少なくとも一人で戦っていたのは確実だよ。」

 

「根拠は…?」

 

「カオスが騎士だからさ。」

 

「?

 そんなことどこに書いてあった?」

 

「最初の事件のときに書いてあったじゃないか。

 逮捕しようとした騎士団を一人で倒したって。」

 

「それがなんだって言うんだよ?」

 

「アローネって人を助けようとしたことがこの話の切っ掛けなんだよ?

 カオスはこのあとのカオスの話にも街の人や仲間を守るためだけにしか騎士団と戦っていない。

 そんなのお父さんと同じ本当の騎士そのものじゃないか。」

 

「!」

 

「他の人はアルバートって人って言ってるけど流石にそんな竜を倒すような人ではないよ。

 そんなに強かったら最初の時点で騎士団が殺されちゃってると思うし。」

 

「………」

 

「それにね。

 カオスはこの間リプット鉱山でも一暴れしてきたけど騎士団の人達を気絶させる程度で留めていたようだよ。

 あくまで敵はバルツィエなんだよ。」

 

「君は………バルツィエが嫌いなんじゃないの?

 カオスもバルツィエを名乗っているけど。」

 

「何言ってるんだよ。

 バルツィエと戦っているだけでカオスがバルツィエじゃないのは明白じゃないか。

 本当は別に名前があるんだよ。

 バルツィエを名乗っているのはこの国のバルツィエに堂々とケンカを売るってカオスの覚悟の表れなのさ。」

 

「覚悟………か。

 そんなものがいるなんて思っちゃいなかったんだけどな。」ボソッ

 

「ん?

 何て言ったの?」

 

「いや、何も?

 ………一つ聞かせてくれないかダニエル君。」

 

「何?」

 

「君にとってカオスはどんな存在だと思う?」

 

「カオスが?

 ………そうだね。

 彼は目の前で傷つけられている人を放っておけなくてその人を助けようと戦う人かな。

 でもバルツィエを倒せるくらいには強いけどそこまで極端に強い訳じゃない。

 後、お金はそんなに持ってないんじゃないかな?

 街の噂では南の街では普通にギルド受けてたっていうしね。

 その時は何か別の名前名乗ってたらしいよ?

 何て言ったっけなぁ………。」

 

「……」

 

「とにかくカオスは昔いたアルバートなんかじゃないよ。

 そんなに強かったら逃げ出したりしないで正面から叩き潰すと思うし。

 カオスも完璧じゃないんだよ。

 だからぼくがカオスの助けになりたいんだ。

 明後日は本当に出てくるかわからないけど出てこなかったらぼくが代わりにバルツィエに挑むんだ。

 そしてカオスに伝えるんだよ。

 バルツィエと戦っているのはカオスだけじゃないぼくだっているんだぞって。

 それからカオス一味にスカウトされたいんだよ。

 アローネってのは懸賞金は高いみたいだけど最初の事件で戦いは出来ないみたいだから。

 カオス一味はカオスとぼくで戦っていくんだ。」

 

「………」

 

「ぼくのカオスに対するイメージはこんなとこかな。

 ぼくの中では今一番の注目株だよ。

 あんたもカオスみたいになりなよ?

 ひねくれてばっかりじゃなくてさ。

 見てる人は見てるんだからね。」

 

「………そうだね。

 そうしてみるよ。

 ………そろそろ俺は帰るとするかな。」

 

「そういえばあんた名前なんだっけ?

 もう十日以上くらいたつから忘れちゃったけど…。

 たしか覚えやすい名前だったと思うんだけどなぁ。」

 

「俺は………誰だろうね…?」

 

「何だよそれ。

 教えていけよ。」

 

「大した名じゃないよ。

 むしろ恥ずかしい名前かな。

 俺にはピッタシだけど人に聞かせるには恥ずかしすぎる名前。」

 

「?

 この間は普通に名乗ってなかった?」

 

「そうだったかな…。

 ダニエル君いい話を聞かせてくれてありがとう。

 明後日はどうなるかは分からないけど少なくとも今のこの心の隙間は埋まった気がするよ。」

 

「何であんたが…?」

 

「そういうことだからまたな。

 あと、明後日は本当にバルツィエにケンカなんて吹っ掛けるなよ?」

 

「ちょっと…!

 名前聞いてないんだけど!」

 

 

 

トショカンデハシズカニー!

 

 

 

「ご免なさい!

 ………図書館で怒られるなんて初めてだな。

 こんなに声出るんだなぼく。」



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再び会う友

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カタスティアに言われ孤児院のダニエルに薬を届けに行ったカオスはアローネと別れて一人で図書館へと向かう。

 ダニエルを見つけたカオスはそこで…。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会前

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し気分が晴れた気がする。

 

 

 

 我ながら単純なものだな。

 

 

 

 この王都に来て初めて自分がしてきたことをまともによかったと思えたな。

 

 

 

 別に誰かに俺を見てほしくて始めた旅じゃないけどそれでも必要のない過大評価じゃない目で見てくれてる人はいたんだ。

 

 

 

 ダニエル君の憶測は所々間違ってたけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …いや、これも違うな。

 

 

 

 俺はやっぱり誰かに見てほしかったんだ。

 

 

 

 俺のことをちゃんと見て正当な評価が欲しかったんだ。

 

 

 

 おじいちゃんの昔話に影響された色眼鏡でじゃなくてそのままの俺を。

 

 

 

 随分と自分勝手だな、俺は。

 

 

 

 昔は嘗められたくなくて人前でプライドもなにもかも捨てて色々やってたのに今は行き過ぎた評判に文句を言っている。

 

 

 

 正しい評価なんて俺をよく知らなければできる筈ないのに。

 

 

 

 本当はそんなものを他人に求めるのもおかしいんだよな。

 

 

 

 自分を正しく評価出来るのはその本人しかいないのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この考えもよくないな。

 

 

 

 自分を評価しても自分で出した評価に満足したらそれ以上先には進めなくなってしまう…。

 

 

 

 それなら自分と周りの評価を総合的に見て………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺って少し我が儘なのかな。

 

 

 

 俺は俺が自分に付ける点数と周りが俺に付ける点数が同じでないといけないと思ってた。

 

 

 

 それって大抵の人が無理なんじゃないか?

 

 

 

 そんな当たり前のことでこの前から悩んでいたなんて俺って馬鹿だよな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………やはりまだ王都から出ていなかったか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

「忠告した筈だぞ。

 この街から出ていけと。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんな目に遇わされても懲りんらしいな。

 カオス。」

 

 

 

「………俺にはまだやらなきゃいけないことがある。

 ここを今出るわけにはいかないよ。」

 

 

 

「…そうか、

 俺もな本当なら他にやらなきゃならないことがあるんだよ。

 ………だが目の前に犯罪者がいるのなら先にお前を片付けないといけなくなった。」

 

 

 

「見逃しては……くれないようだね。

 俺を探してた訳じゃないんだろ?」

 

 

 

「お前を探すほど俺も暇じゃないんだ。

 俺の手を煩わせたくなければこの街から消えるかここで俺に大人しく捕まるかだ。」

 

 

 

「どっちも断ると言ったら…?」

 

 

 

「それに答える必要があるか?」

 

 

 

「………本当に変わったな。

 昔の君はもうどこにもいないんだね。」

 

 

 

「昔の俺なんてとうにいない。」

 

 

 

「昔はあんなに優しくて………親友だと思ってたのに。」

 

 

 

「それを壊したのはお前だ。

 カオス。

 忘れたのかお前がしたことを。」

 

 

 

「忘れられるわけないじゃないか。

 忘れていいことじゃない。

 俺の過ちはこの先もずっと忘れたりはしない。」

 

 

 

「忘れないでいるだけなら誰にでも出来るぞ。」

 

 

 

「そうだな。

 だから俺は昔の俺がしてしまったことが二度と起きないように今日まで生きてきたんだ。

 殺生石の復活のために。

 そして君のような人を出すことのないように。」

 

 

 

「俺のような………か。

 そもそもお前が俺の何を知っている?」

 

 

 

「?」

 

 

 

「昔の俺を知ったように口を利くがお前は昔の俺を本当に理解していたのか?

 俺が昔何を考えてお前に接していたかを?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「…お前には分からないだろうな。

 分かっていたら俺のことを親友だなどと口にはすまい………。

 ………お喋りはここまでにして今ここでお前を。」チャキッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「剣を修めなさいウインドラ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!」」

 

 

 

「ここは神聖なるカーラーン教会の門前ですよ。

 平和を象徴するこの場所で剣を抜くとは何事ですか!」

 

 

 

「カタスさん…。」

 

 

 

「カタスティア教皇………。」

 

 

 

「いくら有事だからといって民間人のいるこの街中で剣を抜くのは許しませんよ。

 貴方はこの場に血を流させるおつもりですか?」

 

 

 

「教皇、この者は犯罪者です。

 騎士が犯罪者を捕らえずして国の平和は保たれませんよ。」

 

 

 

「犯罪者だから剣を抜くのですか。

 法に乗っ取った掟に従わない者には慈悲もなく切り捨てるのですか?

 それならば私は非戦闘を掲げる教会の敷地内で戦闘行為を行おうとする貴殿方を止めなくてはなりませんね。」

 

 

 

「「!!」」

 

 

 

「このまま剣を修めるのなら双方不問にしましょう。

 私も力で押さえ付けるようなことはしたくありません。」

 

 

 

「………ではこの者は手錠をかけて連行することにします。」ヂャリン

 

 

 

「ウインドラ、この方は私の客人です。

 無礼な振る舞いは慎みなさい。

 今ここで彼を連行するということは私への冒涜と見なしていいのですね?」

 

 

 

「!

 ですがそれでは納得できません。

 この者はマテオでの重犯罪者ですよ!

 犯罪者の処理は騎士団で行う任務に含まれています!

 それをそのように庇いだてするなど中立の立場を何だと思っているのですか!?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「今は退きなさい。

 貴方には別の任務があってここを訪れたのでしょう?

 最優先に行うべきは先ずそちらの筈…。

 貴方は頼まれたお使いも出来ないのですか?」

 

 

 

「………分かりました。

 これ以上は無駄のようですね。

 ここは教皇の顔を立てて退くことにします。

 失礼しました。」ザッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おかげで助かりました。

 カタスさん。」

 

「いいのよ。

 なんだか外で話し声が聞こえてきたから見に来ただけですもの。

 それよりも大丈夫だったの?

 怪我はない?」

 

「何か起きる前に止めてもらえたので大丈夫です。」

 

「そう、それは良かったわ。

 こんな時に外に出すものじゃないわね。

 まだ貴方達を監視している人がいるのかしら。」

 

「いえ………今回はたまたまだったみたいですし。」

 

「そう?

 ………でもこれで分かったでしょう?

 貴方達はまだ安静にしておくべきよ。

 外に出るとしたら戦争が始まって騎士達が少なくなるのを待つ他ないわ。」

 

「そうですね。

 それまでは大人しくしておきましょう。」

 

「………この間も彼に通報されての騒ぎだったけどヤッパリ貴方達は知り合いだったのね。」

 

「カタスさんはウインドラのことを知ってるんですか?」

 

「昔騎士が連れてきた子だったのよ。

 その時にダリントンを紹介してから頻繁に話すようになったの。

 騎士団に入隊したこととか彼の故郷の話とかね。」

 

「ウインドラは………何か俺のことを言ってましたか?」

 

「…いいえ、何も聞いてないわ。

 彼は一言も貴方の話題は出さなかった。」

 

「…!」

 

「貴方と彼の話を聞いたらすんなり納得はするけど

 それまでは彼はミストという村でアルバートの一番弟子で修業していたこととそのアルバートが例の事件で亡くなったから師の後を継いで剣術の道を極めるために王都へと来たとしか聞かされてないのよ。

 すっぱりと貴方のことだけが彼の話からは消されているの。」

 

「ウインドラは俺のことを恨んでるから…

 俺を話に出すのも嫌だったんですね。」

 

「それはどうかは私にも分からない…。

 彼が何を考えて貴方のことを秘密にしたのかも彼の心のうちを覗かないことにはどうにも言えないわ。」

 

「あいつ………。」

 

「今はそんなことよりも早く教会の中に入りましょう?

 こんな目立つところにいたらまた他の騎士達に見付かっちゃうわよ。」

 

「………はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラはあの時何を言おうとしたんだ?

 

 

 

 俺はウインドラのことを親友………友達だとは思っていた。

 

 

 

 だからミストにいたときもウインドラは俺のことを少なくとも友達だとは思ってくれていたと思ってた。

 

 

 

 あの事件があって俺とは絶交したくなってこうなってしまったのは分かるけどあの口ぶりだと事件とは無関係に俺を友達とは思ってなかったみたいに聞こえた。

 

 

 

 俺はウインドラに何か他にやらかしてしまったのか?

 

 

 

 事件直前のことなんて今更思い出せないけど俺は何かウインドラに謝らなければならないことがあるんじゃないか?

 

 

 

 それを俺は忘れてるんじゃないか?

 

 

 

 一体何をしたんだ俺は…?

 

 

 

 あの時なんて仕事以外ではザック達と絡む以外ではとくにケンカとかもしてなかった。

 

 

 

 思えばウインドラとケンカなんて一度もしたことないんじゃないか?

 

 

 

 アイツはいつも優しかったから俺の言うことを真面目に聞いてくれて………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしかしてそれが原因なのか?

 

 

 

 あの頃は俺もちょっと強気な態度を取ってたからどこかでウインドラをイライラさせるようなことをしてしまったんじゃ…。

 

 

 

 それでウインドラはずっと俺のことを心の中では嫌な奴だと思ってたのにかもしれない。

 

 

 

 それでかな。

 

 

 

 ウインドラがあんな風に俺のことを言ったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 済まないウインドラ………。

 

 

 

 俺はずっと君のことを不快にさせてたのかな。

 

 

 



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ウルゴスのアルバム

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カタスティアの進言でダニエルに薬を渡しに行ったカオスはダニエルから『カオス=バルツィエ』の話を聞き自分のことを見てくれている人もいるのか、と少しだけ吹っ切れることができたのだった。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

「………それじゃあくれぐれも私のいない間は大人しくしているのよ?

 私がいない間は私も貴方達のことを守ってあげられないから…。

 食事のことなら他の侍祭に任せてあるからそれを。

 後は怪しい人なんかが外にいてもついていっちゃダメよ?」

 

「カタス、

 私達はもう子供ではありませんよ?

 それくらい自分達で判断できます。」

 

「俺達のことは心配しないでください。

 カタスさんが帰ってくるまでは殺生石のことを調べて待ってますから。」

 

「そう?

 ………なんだか不安だわ。

 昨日のこともあるし…。」

 

「昨日のことというとカオスのご友人の?」

 

「そうよ、

 なんだかあの雰囲気じゃ私のいないうちに彼がここへ来そうで…。

 彼も私が今日ダレイオスへ出発することは把握してる筈だし…。」

 

「………大丈夫ですよ。

 ウインドラが来ても応対しないようにしますから。」

 

「出来るのカオス?」

 

「………なんとか。」

 

「はぁ~、やっぱり心配ね。

 そうだわ!

 旅立つ前に貴方達に渡したいものがあるのよ。」

 

「渡したいもの?」

 

「アローネにはこれを。」スッ

 

「?

 これって………魔術書ですか!?」

 

「そうよ、その術を使いこなせば貴方も自分だけじゃなくカオス達も守ってあげられるわよ。

 私が帰ってくるまでに修得しておきなさいね。」

 

「でもこの術………ウインドカッターなら基本的な魔術の書ですから私はもう修得していますよ?」

 

「魔術も極めれば色々な効果が望めるわ。

 貴方が使用するウインドカッターなんて単発式でしょ?」

 

「そうですけど………。」

 

「それならこの魔術書をよく読んでから『追撃』というものを修得してみせなさい。

 ウインドカッターにはそれより先の段階があるの。」

 

「追撃………?」

 

「私が手本を見せるわね。

 ………『火炎よ、我が手となりて敵を焼き尽くせ。ふファイヤーボール』」ボボボッ

 

「カタス!?

 こんなところでファイヤーボールなど使ったら建物が…!?」

 

「………?

 発射されない?」

 

 

 

シュボッ、シュボッ、シュボッ、シュボッ、シュボッ、シュボッ、シュボッ!

 

 

 

「火球が増えた!?」

 

「これは…!?」

 

「…その反応を見る限り貴方達も旅のどこかで見たことがあるようね。

 これが『追撃』という術よ。」フッ

 

「ファイヤーボールが消えた………。」

 

「貴女にはウインドカッターでこれを出来るようになってもらうわ。

 その本のことをしっかり理解できれば修得も可能な筈。

 貴女には『クラウディア』の血が流れているのですもの。」

 

「………はい。」

 

「頑張りなさい。

 カオスにはこの本ね。」スッ

 

「これは何の技ですか?」

 

「それには防御の技『粋護陣』が書かれているの。

 その技が出来ればあらゆる攻撃を跳ね返すことも出来るわ。

 一番狙われやすい貴方にはそれがいいわね。」

 

「…有り難うございます。」

 

「どういたしまして、

 そしてタレスさんにはこのレンズを。」

 

「これはスキル用のレンズですか?」

 

「ええ、

 それには『バックステップ』、『エアリアルジャンプ』というものが入ってるの。

 戦闘中の機動力は大事だから貴方にはそれを渡すわ。」

 

「………」

 

「戦闘になるようなことは起こらないと思うけど一応ね。

 貴方達はそれでもし戦闘になったら逃亡できる可能性が上がるわ。

 無くさずに持っておきなさい。」

 

「なんだかカタスが本当の母のように思えてきますね。」

 

「長生きすると自然とこうなるわよ。

 アローネもいつか私と同じようになるときがくるわ。

 もう結婚できる年にもなったのですし。」

 

「それは………そうですけど…。」

 

「まぁ、私の兄や弟達との縁談は流れてしまったけど貴女は私の義妹よ。

 私と同じ道を辿ることは決定しているわ。」

 

「なんですかそれは…。」

 

「ただの予言よ。

 それじゃあそろそろ行ってくるわね。

 気を付けるのよ?」

 

「それはこちらが言うセリフじゃあ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…行ってしまいましたね。」

 

「まぁ、すぐに帰ってくるんでしょ?

 それまでは静かに作業してるかこの本のことを勉強してみようよ。」

 

「そうですね。

 では少ししたら地下へ行きましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王都レサリナス 東北部 カーラーン教会 地下倉庫

 

 

 

「………ここに来るとどうしても気が重たくなるね。」

 

「この量を私達だけで調べあげるのも時間がかかりますからね。」

 

「せめてこの本達が整理されていたらどれが必要ない本か分かるんですけど。」

 

「カタスさんが一人で管理してたんだしそれも出来なかったんじゃないかな。

 ここが誰にも邪魔されない場所なだけマシな方だと思うよ。」

 

「それもそうですね。

 それでは今日も始めますか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ペラペラッ

 

「………」ペラペラッ

 

「………」ジー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ペラペラッ

 

「………」パタンッ

 

「………」ジー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」ジー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アローネ何を読んでるの?」

 

「………え!?

 はい、何か言いました?」

 

「ずっとその本を読んでるみたいだけど…。」

 

「これですか?

 ………スミマセン、

 なんだか懐かしいものを発見しましたのでつい…。」

 

「懐かしい?

 読んだことある本だったの?」

 

「これは………ただの本ではありません。

 この本は『思い出の記憶』です。」

 

「記憶?」

 

「………変なことを言ってスミマセン。

 本当はただのアルバムなんです。

 ウルゴスの………私がまだ小さいときの写真とかが載ってるものだったので。」

 

「へぇ~、

 アローネの写真があるの?

 見せてもらっていい?」

 

「どうぞ。」スッ

 

「……これは小さいときの写真?」

 

「はい、私がまだ世間をよく知らずにいた時期のものです。

 カタスはこんなものまで大切にとっておいてくれたんですね…。」

 

「この一緒に写っているのはアローネのお姉さんのアルキメデスさん?

 今のアローネとそんなに変わらないね。」

 

「そう言ってもらえると嬉しいです。

 私も姉のような人になりたかったですから。」

 

「へぇ~、

 結構沢山あるね。

 家族の写真が。

 こっちに写ってるのはお父さんとお母さんでしょ?

 優しそうな人達だね。」

 

「はい、

 二人とも私達のことを凄い可愛がってくれて…

 本当にいい時代でした…。」

 

「………会いたくなった?」

 

「そうですねぇ…。

 出来るのならもう一度あの時間を過ごしたいです。」

 

「そっかぁ………。

 ………あれ?

 お姉さん急に椅子に座ってる写真が多くなったね?」

 

「姉はこの頃から体調を崩すようになりまして…

 暫くは立つのもキツそうにしていました。」

 

「…今の俺達とそんなに変わらないのに………

 ………ん?

 この一人で写っている眼鏡を掛けてる人は誰?

 急にこの人の写真が出てきたけど?」

 

 

 

「あぁ、その人がよく私が話していた姉の夫のサタン義兄様です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この人が?

 ………アローネ達と比べると少し地味な格好してるね?」

 

「この頃の義兄はまだ姉を診に来たお医者様という立場でしたから。

 それに彼はハーフエルフ。

 ウルゴスでは最下級の人種とされていて彼のおかれていた状況はかなり酷いものでした。

 この写真では普通の方に見えますが私達には見えないところでは傷身体中傷だらけのようでした。」

 

「奴隷ってやつだったんだよね?」

 

「…その通りです。

 サタン義兄様は将来的には親戚になるクラウディアのために王家から派遣された王家の奴隷でした。」

 

「そんな上の階級の人達から直接支配されていたら逆らうことなんて出来なかったろうなぁ。

 このマテオを見てるとそのサタンさんのことも分かる気がするよ。

 目の前でバルツィエの殺人が堂々と行われているのにそれに対しては誰も何も言わない…。

 あれが『権力者』だって言うんだから困ったもんだよね。

 そんな奴隷なんて制度作った人には…。」

 

「………スミマセン。」

 

「へ?」

 

「………私の家もウルゴスでは権力者でした。

 それはもう王家に次ぐほどの………。」

 

「あ………(汗)」

 

「私の両親もサタン義兄様のことを知りながら遣わせていましたので同罪ですね。」

 

「…ゴメン、

 そんなつもりで言ったんじゃないんだ…。」

 

「えぇ、分かっています。

 サタン義兄様を慮っての言動なのですよね。」

 

「そうだけど………

 別にクラウディア家を悪く言ってる分けではないからね?」

 

「はい、

 カオスのことですからそこは気にしてませんよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………この辺りからアルキメデスさんベッドに寝ている姿が多くなったね。」

 

「この時期はメデス姉様も魔力機能障害で体が疲弊しきってましたから。

 度々倒れることもありました。」

 

「………そんなに悪かったの?」

 

「メデス姉様が仰るには風邪などで熱が出たときの状態が平熱らしいです。」

 

「そんな状態が平熱って………。

 それじゃあ立てなくなるのも無理はないな。」

 

「そうですよね。

 それでもメデス姉様はなんとか体を動かそうとはしてました。

 私達に心配をかけまいと。」

 

「立派なお姉さんなんだねぇ………。

 ………ってんん?

 こっちのページではさっきの写真とはうってかわって元気になってない?

 普通に立ち上がってるし、

 もしかして…?」

 

「その頃にはサタン義兄様がメデス姉様の病状を治療し終わっていたのでそれで元気になったのですよ。」

 

「ここでか。

 なんだかアローネ達もこの人と一緒に写る写真が増えてきたね。」

 

「初めの頃はメデス姉様を診に来る多くのお医者様のうちの一人とくらいしか家族もおもってませんでしたがサタン義兄様を通わさせているうちに私も家族もこの人は他のお医者様とは何か違うものを感じました。

 それもそうですよね。

 私の家族はそれまでの経緯でメデス姉様の症状を緩和させるだけだと思っていたのにサタン義兄様は完全に解消するつもりで姉を診ていたのですから。」

 

「それでその通りアルキメデス………メデスさんを治してサタンさんとアローネの家族が仲良くなったんだね?」

 

「お父様もサタン義兄様のことをすっかり気に入ってしまって王家に直接奴隷の権利を引き渡してもらいに行ってました。

 サタン義兄様はそれほどまでに手離すのが惜しい人で、幸い王家はサタン義兄様の力を軽視していたのですんなりとことが運びました。」

 

「そこから後はサタンさんとメデスさんの…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここから先は二人の話になりますね。

 二人が育んだひとときの愛の………。」

 



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マテオ建国の謎

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 殺生石のことを調べようとカタスティアの書庫に行くとそこでウルゴスのアルバムを見つける。

 それには幸せそうな日々のアローネの家族の写真があった………。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

「ここが最後かな?

 ………これは。」

 

「姉の葬儀の時の写真ですね。」

 

「この辺りは………。」

 

「気を使ってもらわなくてもいいですよ?

 姉のことはもうこの頃から受け止めてはいましたので。」

 

「………」

 

「姉は最期まで幸せだったんです。

 それなら私はそれをおくってあげられればそれでいいです。」

 

「そっか………、

 ………?

 また新しい子が出てきたね。

 このアローネよりも小さいこの子は?」

 

「それはサタン義兄様とメデス姉様の娘のメルクリウスです。

 私はメルと呼んでいました。」

 

「二人の子供ってことは…

 ハーフエルフになるのかな?」

 

「いえ、彼女の場合ですとエルフ寄りの『クォーターエルフ』になりますね。」

 

「クォーターエルフかぁ、

 この後の写真はないみたいだけどこの子もアローネ達と一緒に家族として暮らしてたんだよね?

 奴隷としてではなく。」

 

「そうですけど?」

 

「それからどう育ったの?」

 

「………」

 

「?」

 

「分かりません。」

 

「分からない?」

 

「私はここより先の記憶が途絶えていてこの先どうなったかは。

 メルが姉と同じで体が病弱だったのは思い出せるのですが…。」

 

「メルちゃんも同じ病気を?」

 

「いえ、同じ様で別のものらしかったです。

 エルフとハーフエルフ、クォーターエルフでは体の遺伝子構造が根本から違うようでしてエルフに効く薬もハーフエルフ、クォーターエルフには効果が薄いようでした。

 当時はハーフエルフ自体がいつ死んでしまってもよかったというような時代…。

 そんな時代にハーフエルフに効く薬の処方などはなくサタン義兄様は一からハーフエルフとクォーターエルフの医学を研究しました。

 その間にもメルはいろんな合併症を引き起こしたりして………、

 魔力欠損症も発症した時がありましたがそこだけはエルフと同じくアイオニトスで完治しました。」

 

「それでアローネがやたらとそういう話に詳しかったんだね。」

 

「身近な存在にそういった人がいますと私の耳にも話が伝わるので。

 それから彼女がどうなったかは………。

 メルの治療を行っている際に世界にヴェノムが現れたので………。」

 

「そこから先は思い出せないんだね。」

 

「残念ながら………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構長く見ていたね。

 殺生石のことも調べないといけないのに。」

 

「カタスが私の家のアルバムを持っていたことには驚きました。

 きっとここにある本も含めて王家で管理してくれていたのですね。

 それがカタスが眠りについたタイムカプセルと一緒に保管されていたのでしょう。」

 

「久々に家族の顔を見れてよかったね。

 今日これを見るまで家族と一度も会えなかったんだし。」

 

「そうですね。

 言われてみればそうなりますね。

 

 私は家族と一度も………。

 

 

 

 一度も………」ツー

 

「!!」

 

「スッ、スミマセン!

 なんだか家族の写真を見ていると涙が出てきてしまって…!」

 

「そ、そりゃあアローネの事情なら泣いても仕方ないよね!

 だってもう一月以上は会ってないんだし!」

 

「いえ…。

 そうではありません。

 …このアルバムを見てたら懐かしさと寂しさの他にも………、

 私が本当にウルゴスで生まれたのだと思いまして…。」グスッ

 

「?

 アローネはウルゴス出身なんでしょ?」

 

「そうですけど…

 今まで私を証明してくれるものはこの王都に来てカタス以外にはありませんでした。

 カタスがいたことが勿論証明にもなりますけども…

 このアルバムのように私自身の過去が実在したことを証明するものはこれの他にはありません。

 ………私は本当に人だったんですね…。」

 

「そこが不安だったんだ…。」

 

「そうですよ。

 私はこのマテオで私の常識が通じないことにずっと恐怖していたのですから…。」

 

「じょあ…

 これでその恐怖もなくなった?」

 

「はい、

 私はこれでようやく私自身になれたのですから。」

 

「ここに来て正解だったわけか。」

 

「あの時カオスが一緒に王都へと付いてきてくれて本当に良かったです。」

 

「俺もアローネがここに来て良かったんならそれでいいさ。」

 

「カオス………、

 この街に連れてきて下さって有り難うございます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お二人とも、ボクにだけ作業させてたら終わりませんよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここにある本は凄いですね。」

 

「?

 どうしたのタレス。」

 

「ここの本に書かれていることはマテオでもダレイオスでも見たことも聞いたこともない技術や魔術などが載っています。

 このデリス=カーラーンに実在するものと比べ全ての文明レベルが遥かに上です。」

 

「そうなのですか?

 私にはそこまで違いが分かりませんけど?」

 

「例えばこの魔術本…

 基本六元素の魔術…

 どうやらこれよりも更に上の術があるようなんです。」

 

「ウインドカッターやアクアエッジの上があるのですか?」

 

「そのようです。

 カタスさんが言っていた追撃はあくまで応用、

 その上の術はそれよりも更に先に行った魔術のようです。」

 

「そのなものがあるなど私も知りませんでした。

 ウルゴスでも聞いたことありませんよ?」

 

「この本達は………

 本当にウルゴスだけの本なんでしょうか?」

 

「?

 ダンダルクの本もあったの?」

 

「アローネさんはこの本の文字に見覚えありますか?」

 

「ダンダルクの文字ですか?

 私も多少見たことはありますけど読めるかどうかは……

 …………………………。」

 

「………?

 どうしたの?」

 

「この文字は………

 私も見たことがありません。

 ダンダルクの文字はこの字ではありませんよ…。」

 

「………アインスでは他に文字の種類は?」

 

「私もアインスの全てを把握は出来ていませんが少なくとも私の知る限りでは他には………。」

 

「ここにある本は他にもいくつかの言語文字が使われている本がありました。

 ボクが数えただけでも十程………。」

 

「どう言うことでしょうか?

 カタスが目覚めたのは二百年前………

 その時からこのデリス=カーラーンにあった他の国の本も集めてここに保管していたのでしょうか? 」

 

「その線は無さそうです。

 どの本も読めはしませんがこの時代のものとは思えないレベルの本ばかりでした。」

 

「そんな本が何故ここに…?」

 

 

 

「………多分カタスさんのことだからアインス以外にも技術の進んだ時代の本があってそれを集めてるんだよ。」

 

「カタスが?」

 

「この間の話を聞くとあまり一つの場所で力が大きくなるのはまずいんでしょ?

 だったらそうならないようにカタスさんが見付けだしてここに持ってきたんだよ。」

 

「それではアインスからデリス=カーラーンに移る際の時間の中に他にも高度な文明が存在していたと?」

 

「そうなるんじゃないかな。

 カタスさん達が眠っていたのは数奥年以上なんでしょ?

 その中にも出来ては滅んだいくつかの時代があったんだよ。」

 

「それではこの言語文字の本はその時の?」

 

「多分ね。」

 

「何故その時はアインスの文字と重ならなかったのでしょうか?」

 

「………アインスとデリス=カーラーンの発展の仕方が同じで、それ以外の時代がそうじゃなかったとか。

 星の記憶ってのも完全に一致する訳じゃないんだと思うよ。

 過去と未來でたまたま同じになることもあれば違うときもある。

 そんな感じなんじゃない?」

 

「………辻褄が合いますかね?」

 

「星の記憶ってのも俺達は完璧には理解出来てないだろ?

 本当にそんなものがあるのか。

 けどアローネと俺達は同じエルフだし同じ言葉を使っている。

 それに漆黒の翼だってアインスにもデリス=カーラーンにもいたんだ。

 理解は出来なくてもそういうものがあるってことは確かだろ。」

 

「………ボクには何か………

 どこかがおかしいように思えます。」

 

「………まぁ、俺もなんかしっくりこないとこはあるよ。

 でもカタスさんの言うことだし…。」

 

「その星の記憶というものがあるのは分かりますが同じ環境ですから同じ人種が誕生することはあるとは思いますが流石に言語まで同じというのは話が出来すぎなのではないですか?

 この本達もアインスの次に出来た文明の本だというのは問題ないでしょう…。

 ………ですがそこから色々あってからのデリス=カーラーンになるとしたらアインスの文字に戻ってはこれないでしょう。」

 

「それは………『バタフライエフェクト』があるからですか?」

 

「バタフライエフェクト?」

 

「物事の原点は同じでもそこから始める角度が少しでも違ったら最終的な結末が大きく変化してしまう現象のことです。」

 

「………ウルゴスとマテオの言葉が同じなのは単なる偶然なのでしょうか?

 それとも星の記憶が関係して…。」

 

「…もしくはこのマテオが誕生したとき意図的に言語と文字をアインスから引っ張ってきた人物がいるか、です。」

 

「「!?」」

 

「何の目的でアインスと同じ言語に設定したかは分かりませんが可能性があるとしたらこのマテオに最初に文字の概念を作った人………。

 アローネさんやカタスさんよりも前に他にもアインス人がいたのかもしれません。」

 

「私やカタスの他のアインス人………。

 一体誰が………。」

 

「カタスさんの話では二百年前に目覚めてからずっと一人だったようですがもしかしたらこのデリス=カーラーンには歴史のどこかにアインスの人達が複数はいるんじゃないでしょうか。」

 

「その人達がタイムカプセルから出てきてこの世界の基礎を作ったってこと?」

 

「ボクはそう思います。

 カタスさんは星の記憶と言っていましたがいくらなんでも数億年の時を越えて言葉が完全に同じだというのは無理な話ですよ。

 それよりかは誰かがアインスの知識を流した人がいたと言った方が話は通ります。」

 

「………もしそれが本当なのなら私は………、」

 

「アローネ?」

 

「………私は………その方にお会いしたいです。」

 

「同じアインス人だから…?」

 

「その気持ちもありますけどアインスでは私達王族貴族はその方をヴェノムから守りきることが出来なかったのですから今も生きているのならその方達にお会いして謝罪がしたいのです。」

 

「…それは仕方ないよ。

 今ですらヴェノムは普通の人には倒せないんだから。

 アローネ達が責任を感じることなんて…。

 それにアローネはタイムカプセルに入ったことだって記憶にないんでしょ?」

 

「そうですけども…。」

 

「その人達も納得した上で入ったんだと思うしアインスの知識があったんならそれを利用して普通の暮らしくらいは出来てたんじゃない?」

 

「アローネさんはアインスの平民前提にしてますけどその人達は同じ守る立場の貴族かもしれませんよ。」

 

「…例え平民だろうと貴族だろうと私はその方にお会いしてみたいです。」

 

「と言ってもマテオが出来るよりも大昔の話じゃあ今はもう生きては………。」

 

「カタスは………私達は不老になったと仰っていました。」

 

「「…!」」

 

「それなら今でもその方が生きている可能性もありますよね…?」

 

「…その人も不老になってるならそうだけど…。」

 

「…私、カタスの仕事をお手伝いする合間にその方達を探します!

 他にまだタイムカプセルで眠る方々を探すと同時に!」

 

「…大変だよ?

 こんな広い世界で探すのは。

 時間だってかかるし。」

 

「いいのですよ。

 私は目覚めたばかりで不老になっているのかは分かりませんがカタスがいますから。

 それに私にも会いたい人達がいますから…。」

 

「アローネの家族…?」

 

「はい、

 私は家族を…

 まだ眠り続けているかもしれない両親と義兄と姪を探します。

 あの人達も私を待っているかもしれませんから。」

 

「………分かったよ。

 なら俺も協力する。」

 

「カオス?

 けど貴方には殺生石の件を解決してミストに戻るのでは…?」

 

「そうする予定だったけどアローネには助けられてばかりだしね。

 ここまで一緒にやって来たんだから放っておけないよ。」

 

「………」

 

「今更俺一人だ目的を達成して帰るなんて出来ないよ。

 またミシガンに怒られちゃうよ。」

 

「お姉さんは既に怒ってらっしゃいますよ?」

 

「なら全部終わらせてからまとめて怒られようか。」

 

「…有り難うございますカオス。」

 

 



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衝突する剣

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カタスティアの好意で使わせてもらっている書庫でアローネの過去の姿を知る。

 そこでマテオの建国にウルゴスの民が関わっていることを疑う。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会 地下倉庫

 

 

 

コンコンッ

 

 

 

「はぁーい?」

 

 

 

「お忙しいところ失礼します。」ガチャッ

 

 

 

「?

 牧師さん、どうしました?」

 

 

 

「今教会の入り口に騎士ウインドラ様という方が来られてましてカオス様をお呼びです。」

 

「「「!!」」」

 

「ウインドラ……!」

 

「カオスの友人の方ですね…。

 何しに来たのでしょうか…?」

 

「これだけの騒ぎを起こしたのにカオスさんを呼び出すなんて何を考えているか…。」

 

「………ウインドラは悪くないよ。

 俺が恨まれているのも仕方ないんだ。

 アイツがしたことは俺の自業自得なんだよ。」

 

「…ですが。」

 

「…牧師さん、ウインドラは何て言って来たんですか?」

 

「ウインドラ様はカオス様とお話がしたいそうです。

 先程のご様子ですと剣などの武器はお持ちではないようでしたよ?

 お一人で来られました。」

 

「そうですか…。

 ………俺ちょっと行ってくる。

 二人はここで待ってて。」

 

「カオスさん!

 これは罠ですよ!

 行ってはいけません!」

 

「そうです!

 またこの間のような目にあわされるかもしれませんよ!?」

 

「分かってるよ。

 けどウインドラが会いに来たのなら行かなくちゃいけないんだ。」

 

「どうして!?」

 

「それが俺のミストの人達に対する贖罪………というほどのものではないけど、俺はミストの人からは逃げちゃいけないんだ。

 ウインドラが呼んでるなら応じないと。」

 

「また同じ目にあわされるかもしれませんよ!?

 それでもいいんですか!?」

 

「ここで会わなかったらウインドラ………騎士団は俺を捕まえるためにこの教会の中まで乗り込んでくるかもしれない。

 そうなったら匿ってもらってるここの人達にも迷惑がかかるよ。」

 ウインドラにはもうここにいることが知られてるんだ。

 犯罪者なんかに肩入れしてるのがおおやけになったらカタスさん達もどうなるか分からない。」

 

「カタスに………。」

 

「ですがカオスさんが捕まってしまうかもしれませんよ?

 カタスさんが帰ってきたときになんて言うか…。」

 

「大丈夫だよ。

 ウインドラは話をしに来たんだろ?

 明日は例の開戦で騎士団も忙しかったみたいだし今日一人で来たんなら直ぐに捕まるなんてことはないと思う。」

 

「ではこのタイミングで何しに…?」

 

「ウインドラはどうもこの街に俺がいるのが目障りらしいんだ。

 だからそのことで話があるんじゃないかな。」

 

「わざわざ明日の行事の前にですか?」

 

「昨日の今日知られたばかりだからね。

 不安の芽はなくしておきたいとかじゃない?

 ………とにかく行ってみるよ。」

 

「………お気をつけて。」

 

「ボクが一緒について行きましょうか?」

 

「いや、アイツは俺だけを呼んでるんだ。

 二人じゃないと話せないことなのかも。

 それにあっちが一人なのにこっちが二人なんて話しづらいだろ。」

 

「では影から何かあったときのために見張っておきます。」

 

「本当にいいって。

 二人は俺が帰ってくるのを待ってて。

 じゃあ行ってくる。」ザッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 東北部 カーラーン教会前 夜

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「……………来い。

 ここでは人目につく。」

 

 

 

「………分かった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城東 騎士団修練場

 

 

 

「………ここは?」

 

 

 

「ここは騎士団が日頃訓練する場だ。

 寄宿舎も近くにある。」

 

 

 

「…!

 ってことは…!」

 

 

 

「安心しろ。

 今日は俺以外は来ないことになっている。」

 

 

 

「………そう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス、今すぐこの街から出ていけ。」

 

 

 

「………やっぱりその件か。

 この間も言ったけど俺はまだこの王都でやることがあるんだ。

 今出ていく訳にはいかない。」

 

 

 

「この街にいる限り俺はお前を見逃すことはないぞ?

 それでもか?」

 

 

 

「それでもだ。

 俺は殺生石に力を返さなくちゃいけないんだ。

 その返す方法が見つからないと分かるまでこの街からは出られない。」

 

 

 

「俺に負い目のあるお前への命令でもか?」

 

 

 

「あぁ、

 今はな。

 ………今は少しだけ待っててくれないか?

 殺生石に力を返す方法がないと分かれば直ぐにでもここを引き上げるよ。

 それまで「それでは駄目だ。」」

 

 

 

「お前が一秒でもこの街にいることは許さない。

 即刻消えてもらいたい。」

 

 

 

「ウインドラ………

 ………俺が見えなくても近くにいること事態許してくれないんだね。」

 

 

 

「そうだ、

 お前がこの街にいては俺も気が散って作戦に集中出来ない。

 明日の朝までには出ていってくれないか?」

 

 

 

「………悪い………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「俺は………

 どうしても殺生石の手懸かりだけでも見付けなきゃならないんだ。

 可能性が少しでもあるならそれにかけたい。

 例え君に嫌われようとも…。」

 

 

 

「どうあっても曲げないか?

 それを。」

 

 

 

「どうあっても曲げることは出来ない。

 それが俺の出来るミストへの償いの最初の一歩だから…。」

 

 

 

「そうか………。

 なら致し方ない。」ザッ

 

 

 

「…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言って聞かないなら俺が直接叩き出してやろう。」チャキッ

 

 

 

「………武器を持ってなかったから話し合いだけだと思ったんだけどここに置いてから教会に来たんだね。」

 

 

 

「当たり前だ。

 剣を持っていけばお前が誘いに乗ってこない可能性があるからな。」

 

 

 

「そんな用意しなくても俺は君からは逃げないよ。」

 

 

 

「どうだかな。

 ミストから逃げ出したお前のことだ。

 元ミストの俺からも逃げ出していたかもしれん。」

 

 

 

「こうしてついてきたじゃないか。」

 

 

 

「そうだな。

 その点は俺の作戦通りかそれか…、

 

 

 

 お前が昔のまま成長しないお人好しの馬鹿だったかだな!!」ブンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィンッ………!!!

 

 

 

「結局君とはこうなるんだな………。」

 

 

 

「十年ぶりに剣を合わせるんだ。

 お互いどれだけ腕を上げたのか確かめてみようじゃないか。」

 

 

 

キィィンッ…………!

 

 

 

「こんな形で君と剣は合わせたくなかったよ。」

 

 

 

「お前が素直にミストへ帰っておけば俺も剣を抜くことはなかったがな。」

 

 

 

「言っただろ。

 帰れないって…!」スッ

 

 

 

「…!」ブンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィンッ…!

 

 

 

「…飛葉翻歩か。

 お前もバルツィエの血筋なだけはある…。」

 

 

 

「凄いね。

 修得して日は浅いけどこれ初見を止められたのは初めてだ。

 そう軽々と対応出来る技じゃないと思うんだけどな。」

 

 

 

「ここを何処だと思っている。

 バルツィエの総本山だぞ?

 そんな技は日頃奴等の悪行を観察していれば嫌でも目が馴れる!」ザンッ!

 

 

 

「クッ…!?」スッ…

 

 

 

 

 

 

「………逃げるのが上手いな。

 その技を覚えてから余計に臆病さに拍車がかかったんじゃないか?」

 

 

 

「そうだね。

 俺はずっと逃げてきた。

 ミストの人からも………

 君からも………

 でも!」タッ

 

 

 

キィィィィンッ………!

 

 

 

「………君はどうなんだ!」

 

 

 

「何がだ?」

 

 

 

「…確かに俺はあの日村の人が怖くなって村から逃げ出した。

 それでも村の人達を守るため村の外から戦ってきた。

 それが最善だったとは言わない。

 もっと他に償いの仕方はあっただろう。

 けど!

 ミストの人に!

 ミシガンに何も告げずにいなくなった君はどうなんだ!!

 君こそ自分のことに決着も付けられずに逃げ出した腰抜けなんじゃないか!?」

 

 

 

「…!」

 

 

 

「泣いていたんだぞ!?

 ミシガンがッ!!

 ウインドラを探しても探しても見つからなくてッ!

 森で死んだか!

 もしくは自分のことが嫌いになって何処かに行ったんじゃないかって!!

 何度も俺の所に来たッ!

 一人でずっとだッ!!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「俺にはもう家族は一人もいない…。

 いるのはこの国の人達から嫌われる親戚連中だけだ。

 …君は違うだろ?

 君はお父さんがいなくなっても村長やミシガンがいた。

 一緒にいてくれる家族がいた。

 支えあって生きてく家族が…。

 それを…、

 お前は裏切ったんだッ!!」

 

 

 

「お前が俺を責めるのかッ!?

 村にヴェノムを招きあの日全てを破壊したお前がッ!!?」

 

 

 

「責めるさッ!

 これだってミシガンへの償いなんだッ!!」

 

 

 

「…!?」

 

 

 

「お前が俺のせいで出ていったんなら俺はお前をミシガンの所へ殴り倒してでも連れていって謝らせないといけない!

 

 

 ウインドラッ!

 これで俺が負けたら大人しく捕まるなり出ていくなりしてやるさ。

 ただし!

 俺が勝ったらお前を引き摺ってでもミストへと連れ帰る!」

 

 

 

「俺をあの村へと連れ帰るだと?」

 

 

 

「そうだ!

 そしてお前をミシガンの元へ連れていく!

 そこでお前はミシガンに謝罪するんだ!

 長い間家出して御免なさいってな!」

 

 

 

「何が家出だ!

 俺はあの村を捨てたッ!

 あの村に俺の帰る家などないッ!

 この俺に全てを押し付け!

 縛り付け!

 自由を奪うような一人じゃ守ってもらうしかない女のいる家などッ!!」

 

 

 

「ミシガンのことをそういう風にしか見てなかったんなら益々お前を連れて帰りたくなった…。

 昔のままの記憶しかないお前に今の彼女を見せてあげたいよ!」

 

 

 

「要らん気遣いだ!

 俺があの女の元へ戻ることなどないッ!」

 

 

 

「だったら無理矢理にでも帰らせるまでだッ!

 今のお前がそうしているように!」ブンッ

 

 

 

「甘いッ!」ガツッ!

 

 

 

「!」

 

 

 

「この十年で力を付けたのはお前だけじゃない…。

 俺は誰にも敗けぬようにここへと来たんだ。

 俺を連れ帰るなどとほざいているがこの程度では勝ちを譲ることは出来んな。」

 

 

 

「もともと譲る気なんてないだろうが。

 全力で撃って来てるのが剣から伝わって来るぞ?」

 

 

 

「それはお前にも言えることだ。」

 

 

 

「敗けられない理由があるからな。」

 

 

 

「………ここらで昔話は勝敗が決するまでお預けといこうか。

 今はそんな話よりも目の前の敵に集中するとしよう。」

 

 

 

「まだまだ言いたいことはあるんだけどな。」

 

 

 

「それはお前を倒した後に聞いてやろう。」

 

 

 

「聞いてくれるのは有り難いけどその勝敗は間違ってるぞ。

 …この勝負、

 勝つのは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「この俺だッ!!」」



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成長した二人

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 カーラーン教会にてウインドラに呼び出されたカオスは一人でついていくことに。

 そこで話は拗れ戦闘になる…。


王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

「カオスは大丈夫でしょうか…?」

 

「…なんとも言えませんね。

 この間はあんな目にあわされたのにのことことついていくなんて…。」

 

「……少し前はなんだか心ここにあらずな感じでしたのがようやく戻ったと思ったのに…。」

 

「ボクがやっぱりついていけばよかったです…。」

 

「いえ、私達がここから離れますとそれこそこの間のような事態になった場合カオスの逃亡の足手まといになります。

 ………今はここでお待ちしましょう。」

 

「分かりました…。」

 

「…きっと大丈夫ですよね。

 カオスはウインドラさんと話をするだけと仰っていましたから直ぐに戻ってきますよ。」

 

「………話し合いから拗れて争い事になってなければよいのですが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城東 騎士団修練場 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンッ!

 

 

 

キンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィンッッッ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれからウインドラ、

 大分強くなったね。」ググッ…

 

 

 

「それはお前にも言えることだ。

 村一番の出来損ないがこの俺に追い付くとは生意気な奴だ。」ググッ…

 

 

 

「…やっぱりそう思ってたか。

 ヘヘッ…。」

 

 

 

「何がおかしい?」

 

 

 

「そんな風に馬鹿にされることは昔からしょっちゅうだったし悔しい気持ちはあるよ。

 …だけど!」

 

 

 

キンッ!

 

 

 

「…!」サッ

 

 

 

ガスッ…!

 

 

 

「………」ツー

 

 

 

「ずっと下から眺めていた人達に追い付くってのは嬉しいものだね。」

 

 

 

「………言うようになったな。

 だが!」タタッ

 

 

 

「!」

 

 

 

「『落雷よ、我が手となりて敵を撃ち払え!ライトニング!』」パァァッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシャァッ……!!

 

 

 

「…!」バンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手数が剣術とその足しかないのなら勝機は俺の方にある。」バッ

 

 

 

「………何だよその盾?」

 

 

 

「お前相手に剣術勝負じゃ埒が明かないようだからな。

 俺は俺の武器でやらせてもらう。」

 

 

 

「その盾で戦うようになったの?

 けどそれでどうやって攻撃を…?」

 

 

 

「こうするんだよ。」スチャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュッ…!

 

 

 

「…!?」バッ…

 

 

 

「…外したか。」

 

 

 

「………盾から槍が出るようになってるのか。

 攻守一体の武器ってこと?」

 

 

 

「そうだ。

 俺は王都に来てからこのガードスピアを手に入れた。

 これこそが俺のスタイルに最も適合した武器だ。」

 

 

 

「………何が臆病さに拍車がかかるだ。

 そんな槍で遠くから突ついて盾に守られて…。

 チキンさに研きがかかってるのはお前じゃないか?」

 

 

 

「そう思うのならお前はこの武器の性能を理解してはいないようだ。」

 

 

 

「そんな受け身主体そうな武器に何があるって…「瞬迅槍!」」ズアッ…!!

 

 

 

「…ぉおッ!?」ガッ…!

 

 

 

「…よく防げたな。

 この槍は見ての通り矛先の後ろについた盾で敵の攻撃を防ぐと同時に攻撃が出来る。

 俺一人で特攻が仕掛けられるようになっているんだ。」

 

 

 

「その武器だけで単身で挑めるってことか。

 臆病さからその武器を選んだんじゃないんだな。」

 

 

 

「当然だ。

 これは対バルツィエ用に俺が編み出した武具だ。

 この武器は更に…。

 旋月刃ッ!」ブンッ

 

 

 

「よっと…!」バッ

 

 

 

「このように盾という硬い重りを持つことで槍の弱点である懐へ入られても押し返すことも出来る。

 この武器に死角はない。」

 

 

 

「そうかよ、だったら…

 魔神剣・槍破!!」ザザザザザッ!

 

 

 

「…!!」ガガガガッ!!

 

 

 

「こんな風に後ろに入られたらッ!」スッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神月烈破ッ!」ドスッ…!

 

 

 

「グアッ…ッハ!?」ガクッ…。

 

 

 

「死角はないと言った…。

 この先端の重い槍を振り回している時点で気付かなかったか?

 この槍は重心のバランスをとるために持ち手の石突きも重くしてある。

 重みは立派な武器だ。

 背後をとられたところでこの槍の脅威からは逃げられん。」

 

 

 

「………フゥ、

 突進するだけじゃないんだな。」

 

 

 

「特攻をかけるのなら敵に背後を狙われることなども想定しなければな。

 そういう点ではお前はまんまと策に嵌まったわけだ。

 教科書のお手本そのままに向かってきてくれていい練習台だ。」

 

 

 

「………さっきからいちいち細かいとこまで気を回した戦い方をするなぁ。

 そんなに攻撃されることが怖いのか?」

 

 

 

「逆に訊くが攻撃を受けないよう守りながら戦うというのは間違いなのか?

 敵の攻撃を喰らい続ければいつかは倒されるぞ。」

 

 

 

「そっちばかり守りながら攻撃を仕掛けてくるなんてフェアじゃないと思うんだけどなぁ。」

 

 

 

「お得意の騎士道精神か…。

 それを言うならお前の親戚なんかはどうなってる?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「この王都まで来れば嫌でも耳に入るだろう。

 バルツィエがこの国でどういう奴等なのか。

 奴等は権力を盾に従わない市民、市民、非統治の村を一方的に焼き払い全てを奪っていくクズ共の集団だ。

 そんな奴等に比べれば俺の盾なんてまだ赦される方だろ?」

 

 

 

「…俺はアイツらとは違う!」

 

 

 

「そうだな。

 お前は奴等とは違う。

 騎士道精神をモンスター相手にも持ち出して一対一の勝負を挑むような愚か者のお前とはな。」

 

 

 

「…嬉しくないフォローをありがとう…。」

 

 

 

「フォローしたつもりはないが?」

 

 

 

「それでも卑怯者扱いされないだけまだマシさ。」

 

 

 

「負け犬根性にかけては本当に一級品だな。」

 

 

 

「そういう人生を歩んできたからな。」

 

 

 

「それならばなおのこと聞いておきたいことがある。」

 

 

 

「何をだ?」

 

 

 

「お前はその力、

 何故手放そうとする?」

 

 

 

「!」

 

 

 

「お前は昔あの村で悲惨な時間を過ごした。

 周りからは馬鹿にされ蔑まれ辱しめられそして力を手に入れた途端に忌み嫌われた…。

 俺がお前の立場ならあんなクソな村の連中に義理立てなどせずにその力を俺の物として出ていっただろう。

 …その力はずっとお前が誰よりも喉から手が出るほどに欲していた力なんじゃないのか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「ようやく人として一人前に慣れたというのにお前はそのヴェノムすら打ち払う力を手放していいのか?

 お前が今まで受けてきた苦痛を思えばそれを我が物としてしまってもいいんじゃないか?」

 

 

 

「………何なんだよさっきから。

 俺のことが憎いのかそうじゃないのか全然分からないぞ!?

 お前は俺にどうしてほしいんだ!?」

 

 

 

「お前は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その力で世界をとろうとは思わないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はぁ?」

 

 

 

「別にふざけて言っているんじゃない。

 至極真面目な話だ。

 このヴェノムが蔓延している世界、

 最終的に世界を手にするのは奴等に対抗する術を持つものだ。

 その点ではお前はその候補と言えよう。

 お前はその力で世界を救ってみる気はないか?」

 

 

 

「急にスケールが大きくなったな。

 俺がこの力で守りたいのはミストの人達だよ。

 もともとはあの村を守る力なんだから。」

 

 

 

「なら世界ごとミストを救えばいいだろう?」

 

 

 

「そんな大それたこと夢見る程子供のつもりはないよ。

 ここまでで沢山失敗してきたんだ。

 俺一人が力を使ったところで出来ることなんて本の些細なことだけだ。」

 

 

 

「あれほどの力を内包していて使う気はないということだな?」

 

 

 

「俺を何かに利用しようとしてるみたいだけど残念ながら俺はこの力を一人ではコントロール出来ないんだ。

 そんな不確かな状態で宛にされてもお前達騎士団の邪魔になるだけだよ。」

 

 

 

「………お前の意思はよく分かった。

 お前はどうあってもミストの奴等のことだけにしか動かないんだな。」

 

 

 

「人の出来ることには限界がある。

 いくら強大な力を持ったところで俺一人では世界なんて救えないさ。

 俺は自分という存在を理解している。」

 

 

 

「もしお前が動くというのなら民衆が味方につくかもしれんのだぞ?」

 

 

 

「不確定なことに巻き込むなんて出来ないさ。

 そういうことは確実に出来ると分かってからおこさないと。」

 

 

 

「目の前で民や大事な仲間がバルツィエに襲われたとしたらお前は助けないのか?」

 

 

 

「そんなことがこれからおこるのか?」

 

 

 

「可能性はある。」

 

 

 

「………その時はその時になってみないと分からない。」

 

 

 

「そうか…。

 また無駄話が過ぎたな。

 そろそろケリをつけるぞ。」

 

 

 

「…何するつもりだ?」

 

 

 

「さっきまでの斬り合いでお前の動きは十分に馴れた。

 昔から癖がそのままだな。」

 

 

 

「早いな。

 こっちもお前の槍のスピードを掴んできたところだよ。」

 

 

 

「………ではこれはどうだ?」スゥゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァッ………!

 

 

 

「!!?」



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雷槍

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 ウインドラの訪問でカオスは一人で彼と話をすることになった。

 そこで彼の要求を断ると戦闘になり…。


技の王都レサリナス 城東 騎士団修練場 夜

 

 

 

「………何だその光は?」

 

 

 

「これは騎士団では『オーバーリミッツ』と言われている技だ。

 この闘気をまとえば身体能力が格段に上がる。

 騎士団でも使えるものが少ない技だ。」

 

 

 

「今よりも強くなるのか。

 厄介な技を覚えたな。」

 

 

 

「…この技が使えるのもお前のおかげだがな。」

 

 

 

「俺の?」

 

 

 

「俺はあのミストでの災厄の日、お前がヴェノムに放った光を浴びた。

 その日から俺の体には異変が起こった。」

 

 

 

「ヴェノムに感染しなくなったとかか?」

 

 

 

「それもある。

 それの他に俺のマナはあの時からし通常の人とは比べ物にならないくらいに増幅した。

 マジックアイテムになぞ頼らずとも武身技や闘気術を使える。」

 

 

 

「それくらい俺にだって出来るぞ。」

 

 

 

「さっきの魔神剣か…。

 バルツィエなら誰でも使える基本技。

 出来損ないとはいえお前もバルツィエの一員ということか。

 だったら………」ググッ

 

 

 

「…!」

 

 

 

「お前がバルツィエだと言うのなら肩慣らしには丁度いい!!

 衝破一文字ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズァァァァァァァァッッッッッ………!!!

 

 

 

「うぐぅっ………!!?」ガガガガッ!!

 

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」ズズズズッ!!

 

 

 

「くぅぅぅ………このぉっ!!」ガンッ

 

 

 

「弱い!!へぁぁぁっ!!」バンッ

 

 

 

「うあっ!?」ダンッ………ズザザザザッ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お前のおかげで俺はここまで強くなれた。

 そこだけはカオス、

 お前に感謝しておこう。」

 

 

 

「………っててぇ…、

 モンスター以外で力負けすることなんてなかったんだけどなぁ…。」

 

 

 

「この十年で振ってきた武器の差が出たな。

 腕力では俺に分があるようだ。」

 

 

 

「………なら俺はスピードで戦う。」

 

 

 

「速いだけでは俺には勝てんぞ?

 もともと俺は素早いバルツィエと戦うことを想定して訓練を積んできたんだ。」

 

 

 

「バルツィエと…?

 同じ騎士団じゃないのかよ?」

 

 

 

「あんな非道な奴等と一緒にするな。

 アイツらは俺達ダリントン隊を排除しようと計画している。

 俺達がいなくなればこの国は終わりだ。」

 

 

 

「じゃあこんなところで俺とやりあってていいのかよ?

 隊長さんは見付かったのか?」

 

 

 

「…隊長は明日の徴集に必ず来る。

 問題はない。

 それに明日の徴集には

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前も来ることになっている。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?

 別にそんな予定はないけど?

 俺は大人しくしとくぞ。」

 

 

 

「いや、お前は絶対に明日の徴集に現れる。

 そういうことになっているんだ。」

 

 

 

「………じゃあ何で俺を追い出そうとする?

 俺が出ていけばその徴集には参加出来ないんじゃないのか?」

 

 

 

「だからだ。

 だからお前はこの街にいてはいけないんだ。

 お前がいると作戦の邪魔になる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………明日のその徴集…、

 お前達何かするつもりなんだな?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「何をするのか知らないけどこっちはいい加減お前達騎士団のせいで迷惑してるんだ。

 アローネを捕まえようとしたり国中に俺達が動きにくくなるような変な額の手配書をばら蒔いたり…、

 しまいには明日の集まりに俺が行ったり行かなかったりとか訳の分からないことを言い出す…。

 俺はお前達騎士団の思い通りにはならない!」

 

 

 

「お前の意思がどうであろうとこれは決まっていることだ。

 明日はお前がバルツィエの前に立つことになった。

 ………だからお前は早くにここを去らなければならない。」

 

 

 

「訳が分からないんどけど…?」

 

 

 

「お前が理解する必要はない。

 この件は俺達の部隊の極秘事項だ。

 それに………!」ダッ

 

 

 

「…ッ!」ガキンッ

 

 

 

「カオス…、

 お前では世界は救えない。

 お前では英雄アルバートの高みには昇れやしないさ。

 この俺に一敗喰わされているようなお前じゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ハァハァ

 

 

 

「もうお前の動きは十分に把握した。

 間合いの取り方、技のタイミング、技のレパートリー………。

 この勝負は既に決した。

 素直に敗けを認めろ。」

 

 

 

「……もう勝った気でいるのかよ。

 決着はまだ立ち上がれるぞ。」ハァ………

 

 

 

「戦いが始まって一時間…。

 お前は一度も俺に一撃を入れられていない。

 対してお前は俺の攻撃を受け続け疲労が見え始めている。

 このまま続けてもジリ貧になるだけだ。

 立っているのもやっとだろう。」

 

 

 

「そいつはどうかな…?」

 

 

 

「見え見えの強がりはよせ。

 このまま根性比べをしたところで俺が倒れることはない。」

 

 

 

「その言葉………これを受けきってからもう一度言ってみろ!

 魔神剣・槍破!!」ザザザザッ!

 

 

 

「どうした!

 最初の一撃よりも精度が落ちてるぞ!」ガガガッ!

 

 

 

「…!」スッ

 

 

 

「またその技か!

 背後をとったところで神月「魔神剣・槍破!」…!?

 旋月刃!!」ザンッ

 

 

 

「……チッ!」

 

 

 

「……狙いはよかった。

 魔神剣を囮にして先程とは距離をとったところで本命の魔神剣…。

 浅知恵を利かせたところまでは褒めてやるが所詮お前に出来るのは足の速さで翻弄するのみ。

 これまで程度の低い連中しか相手にしていなかったのが目に浮かぶようだ。」

 

 

 

「…これでもバルツィエの一人は仕留められたんだけどな。」

 

 

 

「バルツィエなど生まれもった強大な火力で弱者をいたぶるだけの殺戮者だ。

 あんなものは強者ではない。

 強者なら常に己より上の存在との戦いを想定し続けねばならない。

 俺はここで俺を越える強者から散々敗北を味わわされてきた。

 その都度それを俺の糧とし強くなってきた。」

 

 

 

「………まるで自分だけが本当の訓練を積んで俺は何もしてなかったみたいな言い方だな。」

 

 

 

「この結果が何よりの証だ。」

 

 

 

「結果を急ぐなよ。

 まだやれるって言ってるだろ。」

 

 

 

「敗北を認めるのも強さへの一歩だと学習しろ。」

 

 

 

「それを認めたら俺はここから出ていかなきゃならないんだろ。

 …そんなの今まで俺に付いてきてくれた二人に申し訳がたたない。」

 

 

 

「お前のその弱さが原因だ。

 お前が俺に勝てていたらそうはならなかった。

 お前がこの国の本物の騎士というものを知ってさえいれば他の二人もここで旅を諦めずに済んだのにな。

 現実は甘くはないということだ。

 じゃあな…。

 瞬迅槍ッ!」シュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッ!

 

 

 

「………諦めの悪い奴だ。

 まだ抵抗するか?」

 

 

 

「諦められないって言ってんだよ。

 俺は二人やミストの責任を背負ってる限り止まれないんだ。」

 

 

 

「そんなものはお前が勝手に背負い込んでるだけだろ。

 無理して背負ったところでいつかは抱えきれなくなるぞ。

 今のこの状況こそがそれだ。」

 

 

 

「………お前ってそんなに皮肉屋だったか?

 人の頑張りや努力を無意味だったみたいに言って…。」

 

 

 

「俺は昔からこうだった。

 口に出さなかっただけだ。」

 

 

 

「そうかよ…。

 心の中では見下してたってか。」

 

 

 

「分からなかったか俺が何故お前と一緒にいたか。

 お前のような格下と一緒に入れば村での俺の評価が上がったからだ。

 それが俺と友達ごっこをしていた理由だった。」

 

 

 

「………そうだったのか………。

 それがお前の本音だったのか…。」

 

 

 

「そうでなければお前と一緒にいる利点がないだろう?」

 

 

 

「………俺はそれだけの存在だったのか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツー…

 

 

 

「………ハハハッ」

 

 

 

「ショックを受けたか?

 十年たってようやく真実を知れたことに。」

 

 

 

「………納得がいっただけだよ。

 ウインドラが俺と一緒にいたことに。

 お前がどうして他の連中と一緒になって俺を苛めたりしなかったのか。

 ………お前はやっぱりお前だったわけだ。」

 

 

 

「………何?」

 

 

 

「お前はずっと周りにいい子ぶってただけだったんだな。

 回りの人からの視線を気にしてないと生きていけない弱い子供だったんだ。

 十年間変わってなかったのはお前の方だったんだ。」

 

 

 

「!?

 黙れ!!」ガンッ

 

 

 

「図星をつかれてムキになるなよ。

 この程度の弱点誰もついてくれなかったのか?」

 

 

 

「お前が俺を弱いなどとほざくなぁぁぁぁぁぁッ!!」ガンッガンッ

 

 

 

「感情を抑えなよ。

 おじいちゃんがいつも言ってたろ。

 戦闘ではいつも『冷静に』ってな。

 お前の挑発は俺を揺さぶる作戦だったってことか。」

 

 

 

「…!?」

 

 

 

「敗北を知れば強くなれるんだろ?

 一歩強くなれたじゃないか。

 ウインドラ。」

 

 

 

「減らす口を…!

 この一撃で終わらせてやるッ!

 『落雷よ!我が手となりて敵を撃ち払え!ライトニング!』」パァァッ…ピシャッ!

 

 

 

「自分の槍に雷撃を…?」

 

 

 

「これは俺が編み出したオリジナルの技だ!

 魔術の攻撃はお前には薄いようだがこの雷槍の一撃は耐えられまいッ!

 行くぞッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬雷槍ッ!」バァァァァンッ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァンッ!!

 

 

 

「な………に………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敗北で強くなるのはお前だけじゃない。

 この戦闘中に観察されていたのはお前だったんだよ。」

 

 

 

「………お前のどこにそんな力が残って…!」

 

 

 

「魔術が効きにくいところは見破られたけどそれ以外にも俺はダメージの回復が早いんだよ。

 勝った気になって長話してくれたおかげでこのくらいなら受け止められるまでには回復した。

 久し振りに会って言いたいことでも溜まってたか?」

 

 

 

「ぐっ…!

 だが!」ブンッ!

 

 

 

「おっと…」スッ

 

 

 

「たかが一撃防いだ程度で調子に乗るな!

 お前が俺に一撃も入れられないことに変わりはないぞ!!」

 

 

 

「………だったら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の一撃で終わらせてやるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ウインドラとの決着

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 ウインドラとの戦闘に突入しウインドラから奥義瞬雷槍が放たれる。

 それを難なく受けとめたカオスは次の攻撃で終わらせるようだが…。


王都レサリナス 城東 騎士団修練場 夜

 

 

 

「一撃で終わらせるだと…?

 この戦況を見て本気でそんなことを言っているのか!?」

 

 

 

「本気だよ。

 散々槍に突き飛ばされてお前のスタイルは理解した。

 後はもうお前を倒すのに躊躇いはない。」

 

 

 

「………聞き間違いか?

 それとも言い間違いか。

 それではまるで俺をいつでも倒せるように聞こえたが?」

 

 

 

「聞き間違いでもないし言い間違ってもいない。

 ウインドラ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう君の力は見切った。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………フッ、」

 

 

 

「………」

 

 

 

「フッフッフッ、ハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ…!!」

 

 

 

「笑いすぎだよ。」

 

 

 

「フフフッ…!

 たった一度上手く防いだだけでどれだけお前は思い上がっているんだ!

 そんなに俺の会心の一撃を防いだのが嬉しかったか!?

 止めの一撃を止めたのがそこまでお前に自信を与えたか!?

 あんなものはまだ何度でも撃てるぞ!」

 

 

 

「そうだろうね。

 でも次で終わることに変わりはないよ。」

 

 

 

「………よかろう。

 ではその思い上がりがどれ程のものか試してやる!

 瞬雷槍ッ!」バァァァァンッ!

 

 

 

「…」スッ

 

 

 

「またお得意の逃げ足戦法か!

 撹乱するだけではこの槍には勝てんぞ!?」

 

 

 

ササササササササササササササササササササササッ………!

 

 

 

「…!

 いつまで俺の回りを走り回るつもりだ!

 体力の無駄遣いだぞ!

 不意をつこうと言うのだろうが…!」

 

 

 

ダンッ!

 

 

 

「やはり背後か!?

 旋月刃ッ!」ブンッ

 

 

 

スッ

 

 

 

「また背後!?

 だが神月烈破ッ!」シュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ!

 

 

 

「…!?」

 

 

 

「………やっぱりこの技が一番隙が大きいね。

 後ろを見ないで石突きを突き出してるからそれもそうか。」

 

 

 

「貴様…!

 敢えて神月烈破を受けて止めたのか!?」

 

 

 

「そうでもしないとお前のガードの中に入れないからな。」

 

 

 

「クソッ!!

離せッ!」ブンッブンッ!

 

 

 

「お!?おおう!?

 やっぱり力強いな!!?

 …だけど!!」ギリギリッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァッ!!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

「マナにこんな使い方があるんだな。

 これがオーバーリミッツって言うんだっけ?」

 

 

 

「馬鹿な!?

 お前もオーバーリミッツを!!?」

 

 

 

「君の力は十分に見させてもらった。

 この技の使い方も!!

 もう腕力で押し敗けることはない!!

 これで終わりだッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 剛・魔神剣!!」ザザンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

 

 

 

「………」

 

「気絶したか………、

 これで俺は自由にさせてもらうよ。」

 

「………」

 

「………まさか死んじゃいないよな?

 ブラムよりか強かったから手加減は出来なかったけど………?」

 

「………」

 

「おい、ウインドラ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

「ウインドラ!?」

 

「…まさか本当に一撃で気を失ってしまうとはな…。

 どのくらい気絶していた?」

 

「…ほんの一分くらいだよ。」

 

「一分………か。

 戦場では致命的な時間だな。

 この試合………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前の勝ちだカオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それなら手を離してくれないか?

 握力が強くて痛いんだが…?」

 

「それはすまなかった…。」

 

 

 

ガチャンッ

 

 

 

「本当にな…。」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、何だよこれ!?」

 

「それは罪人を捕らえるときに使う手錠だ。

 装着した相手を強制的に封印状態にする術式が施してある。」

 

「何ッ!?

 …!

 ………このッ!

 マナが………力が出せない!!」ガチャガチャ!

 

「暴れるな。

 これよりお前を拘束させてもらう。」

 

「何だとッ!?

 おい!!

 約束が違うじゃないか!?」

 

「…このような結果に終わったにもかかわらずお前を捕らえてしまうのは心苦しいがそうも言ってられない事態だ。

 とうとうお前は明日までに王都を出ることはなかった…。

 このまま命令したところでお前は聞かないだろ。

 ならばもうこういう手を使うしかない。」

 

「勝ったのは俺だろうがッ!!?

 こんな卑怯な手を使って勝つことが騎士のやり方なのかおいッ!! 」

 

「非常に耳が痛いな。

 だがあまり騒がない方がいいぞカオス?

 ここは城からすぐの場所にあるんだ。

 日頃訓練で喧しいとはいえこの時間まで訓練はしない。

 見回りが来たら困るのはお前だ。」

 

「!!」

 

 

 

「賞金首カオス=バルツィエ!

 ダリントン隊ウインドラ=ケンドリューが貴様の我々騎士団への敵対行為を国家反逆と見なし、現行犯逮捕する!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城東奥 騎士団修練場物置小屋 夜

 

 

 

「離せッウインドラ!

 俺をどうするつもりだッ!?」

 

「今はどうもしない。

 お前は明日の徴集が終わるまでここで待機していろ。」

 

「待機って…!?

 いつまでかかるんだよその徴集!?」

 

「さぁな?

 明日になるまでそれは分からんさ。」

 

「飯とかトイレとかどうすればいいんだよ!?」

 

「心配するな。

 人は一日二日飯を食わなくても生きているさ。」

 

「クソッ!!

 こんな枷さえなけりゃ…!!」

 

「無駄だ。

 それは決して一人じゃ外せないようになっている。

 それではな。」ガラッ

 

「待てよ!?

 何処にいくんだよ!!

 俺一人置いていくのか!!

 おいったら!」

 

「何度も言うがここは騎士団関係者しか来ない。

 煩くしたところで助けなどは来ない。

 来るのは俺と同じ騎士団のものだけだ。

 お前がそいつらに見つかったらどうなるか分かるな?」

 

「…!!」

 

「分かったのならここで静かにしていろ。」ピシャンッ

 

「ウ、ウインドラァァァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………許せ。

 カオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!

 …!

 ………何だよこの枷!?

 どれだけ硬いんだ!!」ガンガンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クソッ!

 

 

 

 俺が安易にウインドラと話し合いで解決すると言ったばかりにこんなことに…!

 

 

 

 どうする!?

 

 

 

 この手と足に付いた枷は頑丈すぎて外れない。

 

 

 

 扉は………外から鍵がかけられてる。

 

 

 

 自力じゃどうも抜け出せないようだ。

 

 

 

 せめてこの枷さえなければ…!!

 

 

 

 ウインドラめ……!

 

 

 

 こんなものを用意してるなんて………!!

 

 

 

 これじゃあどんな奴も一発でお仕舞いだ!

 

 

 

 これを用意してたってことはウインドラの奴、始めからこうするつもりだったんだな!

 

 

 

 とにかくこのことをアローネ達に伝えなきゃ………!!

 

 

 

 でもどう伝えれば………!?

 

 

 

 こんな密室でアローネ達にこの状況を伝えるには………!?

 

 

 

 いっそ暴れて扉を破壊して………。

 

 

 

 駄目だ!

 

 

 

 いくら夜だからって人が通らないとは限らない。

 

 

 

 この枷は悪人を捕まえるときに使用するって言ってた。

 

 

 

 もし扉を破壊出来たとしてもこんなものを付けて外に出るのは危険だ。

 

 

 

 何か他に策はないか!?

 

 

 

 何かアローネ達にこのことを伝える策は………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナスホテル とある部屋にて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ねぇ、本当にやるの?」

 

 

 

「あぁ?

 今更何言ってるんだよ?

 怖じ気付いたのか?」

 

 

 

「当然でしょ!?

 あんなおっきい家の中に入って盗みをするなんて!!」

 

 

 

「馬鹿ッ!?

 声が大きいッ!

 ………家っつーかありゃ城って言うんだよ。

 とんだ田舎者を連れてきちまったもんだぜ。

 常識を知らねぇ奴を連れてると疲れるぜ。」

 

 

 

「またそう言って人を…。」

 

 

 

「オメーも無理言って付いてきたんなら少しはアタシを楽させてくんねぇかねぇ?」

 

 

 

「んん?

 何か言ったぁ?」ガッ、メキメキッ

 

 

 

「オッ、オォォォォオッ!!?」

 

 

 

「その辺にしとかないとこのまま口が一生閉じなくなるわよ?」メキメキッ

 

 

 

「オオッオ!オオッオオオ!?」パシパシッ

 

 

 

「何言ってるのか分からないわよ。

 普通の言葉喋りなさいよ。」メキメキッ

 

 

 

「オオ~~~~~ッ!

 ハァ………ハァ………。

 さっさと手を離せッ!!

 顎が外れ懸けたわ!!」バッ

 

 

 

「アンタがまた余計なことを言い出そうとするからよ。」

 

 

 

「ったく!

 ここまで誰が運賃払ってやったと思ってんだ!?」

 

 

 

「何よッ!

 村で研究とかいうの手伝ってあげたでしょ!?」

 

 

 

「血ィ抜いたくらいで何言ってやがる!?」

 

 

 

「血を取るなんて普通の人が協力してくれる筈ないでしょ!?」

 

 

 

「献血なんてこっちじゃどこでもやってんだよ。

 別に異常でもないんだぜ!?」

 

 

 

「こっちの事情なんか知らないったら!!」ガッ、メキメキッ

 

 

 

「や、ヤメォォォォォ………」ジタバタ

 

 

 

「フンッ!

 …待ってなさいカオス!

 こんな失礼なおばさん寄越したこと後悔させてやるわ!」



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監禁と救出

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 かつての友ウインドラと戦い戦闘中にオーバーリミッツを取得したカオスだったが勝利後に彼からマナを封じる手錠をかけられ捕まってしまう。

 なんとか手錠を外して脱しようとするカオスだったが…。


王都レサリナス 城東 騎士団修練場 物置小屋 明朝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからどのくらい経った…?

 

 

 

 陽射しが入り込んできたってことは外はもう朝なのか。

 

 

 

 扉は依然として固く閉ざされている。

 

 

 

 枷がどうにもならないと悟って扉だけでも壊そうとしたけど駄目だった。

 

 

 

 破砕音なんて気にせず破ろうとしたけどこの状態じゃどうにもならなかった。

 

 

 

 アローネ達には俺がどうなってしまっか伝えられなかった。

 

 

 

 今頃どうしてるだろうか…?

 

 

 

 心配して探し回ってるだろうか?

 

 

 

 素直に二人の忠告を聞いてさえいれば………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局俺は何をやってもこうなるんだな。

 

 

 

 やることやることがどうしてこうも裏目に出るのか………。

 

 

 

 どんなに良いことがあってもそれを塗り替えるような不幸がその後にやって来る………。

 

 

 

 どうして俺はこうなってしまうのか………。

 

 

 

 嘆いたところでここから抜け出すことは出来ない…。

 

 

 

 ここで時間が立つのを待って騎士団の誰かに見つかるかウインドラが戻ってきて連れていかれるかしか出来ない…。

 

 

 

 次に扉が開くとき、俺の運命が決まるだろう。

 

 

 

 そうなったら俺にはもう成り行きに任せるしかない。

 

 

 

 アローネ達は怒っているだろうか…?

 

 

 

 こんな馬鹿な俺を………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フ~、ネミィナァ…カエリテェ。

 

チョット!イイダシタノハアンタナンダカラシッカリシナサイヨ!

 イマワルイコトシヨウトシテルンデショ!?

 

ソウハイウケドヨォ、コノジカンニオキトクノキツクネ?

 

アタシダッテソウソウコノジカンマデオキテナンカナイカラキツイワヨ!デモタイセツナコトナンデショ!?

 

ソウナンダケドヨォ…、トシヨリニハキツイゼ。

 

タイシテカワラナイデショウガ!?ガマンシナサイ!!

 

ハァ!?アタシ、アンタノゴバイハトシクッテルンデスケド!?モットイタワッテホシインデスケド!?

 

ジャアオバアチャンモウスコシガンバロウネ?

 

ダレガオバアチャンダ!コムスメガッ!

 

アンタドノクライニミラレタイノヨ!?

 

ソンナモンミタメドオリデイインダヨ!

 

………オバサン?

 

ダレガオバサンダァ!?オネェサントイエオネェサントォッ!!

 

………キッツ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かが来たみたいだな…。

 

 

 

 女性みたいだけど…?

 

 

 

 恐らく騎士団の人なんだろうな。

 

 

 

 こんなところに来るなんてそれしか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタガタッ!

 

 

 

カギガカカッテヤガンナァ…。ジョシュ!チョットマワリミハットケ!カイジョウシテミル。

 

?コンナトコロアケテドウスルノ?

 

ココハナァ、ムカシアタシガモノヲカクスノニツカッテタコヤナンダヨ。イマデモノコッテンジャネェカナァ。

 

ジャアココニワクチンガ?

 

アァ~、ソンナモンジャネェカラ………

 

ガチャリッ

 

ヨシヒライタ!!ジャアサッソク………。

 

 

 

ガラッ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

「んあ!?

 ………お前は?

 こんな所で何してやがんだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 東北部 カーラーン教会

 

 

 

「………帰ってきませんでしたね…。」

 

「やはり………あのご友人に連れていかれて………。」

 

「だから言ったんですよ…!

 ボクが付いていきますと…!

 カオスさんは……!」

 

「………探しにいきましょう…。」

 

「…それは今は止めた方がいいですよ。

 さっきから外が騒がしいですからこの間言っていた集会か始まるんたと思います。

 この中で人一人見付けるなんて無理ですよ。」

 

「ではどうすれば…!?」

 

「人がいなくなってから探すしかありません。

 それなら探しやすい筈です。」

 

「カオス………

 どうか無事で………「頼もォォォォッ!!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや?

 カタスティア同志は御不在ですかな?」

 

 

 

「トーマスさん?」

 

「今日はどうなさったのですか?」

 

 

 

「おぉ、お二人はこの間の!

 おはようさんでござる!

 して、どうなさったとはおかしなことを…。

 本日はこの間から待ちに待ったアルバート様が降臨なされる日ですぞ!

 教会の方々は見に行かぬのでござるか!?」

 

 

 

「いえ私達は………。」

 

「カタスさんから留守番を頼まれているんです。

 ですからその集会は参加できないんです。」

 

 

 

「ムムゥ…、

 そうであったか…。

 ですがこの機会は一生に一度しかないのでござるよ!?

 よいのでござるか!?」

 

 

 

「…と申されましても…。」

 

「今ちょっと取り込んでてそれどころじゃないんです。」

 

 

 

「んん?

 何かお困り事でも?」

 

 

 

「え、えぇ…

 カオ………サタンが昨日から帰ってこなくて。

 それでサタンを探しに行こうかここで待っていようか迷ってまして………。」

 

 

 

「あのオールバック牧師殿でござるか?」

 

 

 

「………そうです。」

 

 

 

「ほむぅ…、

 では我も協力するゆえ捜索いたしましょうぞ!」

 

 

 

「「え!?」」

 

 

 

「安心なされよ!!

 サタン殿は直ぐ様見つけて参ろう!!

 集会が始まるのはもう少し先のことである。

 その間に我輩のファンクラブの同志達を募りサタン殿を見つけてしんぜよう!!」

 

 

 

「…そこまでしてもらわなくても…(汗)」

 

「そうですよ、そのうち帰って来るかもしれないですし。」

 

 

 

「何を悠長なことを!!

 この街では人斬りや誘拐など日常の一つかのように起こるのですぞ!?

 そんな場所で座して待つなど油断もいいところ!!

 人がいなくなったのなら早期解決に臨むのが賢明な判断でござる。

 では我輩はファンクラブに伝えて来るでござる!

 お二人はここにて待たれよ!!」

 

 

 

「それは助かりますが…、

 どうしてそこまでしてくれるんですか?」

 

「そうですよ、

 私達はこの間一度お会いしただけの仲でしかないのに…。」

 

 

 

「何を他人行儀なことを…。

 この教会におると言うことは三人ともカタスティア同志に何かしら縁のある間柄なのでござろう?

 それならば三人は我らとも同志でござる!」

 

 

 

「「え?」」

 

 

 

「我等ファンクラブは元々は初代会長と二代目元会長カタスティア同志の発足で集まった者達でござる!

 カタスティア同志にはその過程で何かと助けられてきたのでござるよ!

 アルバート様とカタスティア同志は何の見返りもなく我等に手を差しのべてくださった!

 なれば今度は我等がカタスティア同志にそのご恩をお返しする番でござる!

 カタスティア同志のお客人ならカタスティア同志にお返しするも同然!

 我等ファンクラブ一同はサタン殿捜索にご助力いたそう!!」

 

 

 

「トーマスさん…。」

 

 

 

「騎士団は今日の集会で宛には出来んのでござろう?

 ………普段からそういったことを宛に出来ん輩であるからして、こういったことは我等が動くしかないのでござる!

 我等の結束力は騎士団を越えるものなので宛にしてくれてよいでござるよ!

 では行ってまいる!!」ガチャンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カタスは本当に慕われていますね…。」

 

「…ボクも最初は疑っていましたけど信じてもよさそうな人ですね。

 あんなに慕われる人なのなら。」

 

「カタスはウルゴスでもそうでしたから…。

 疑うなんてしなくてもいいんですよ。」

 

「………養子の件…

 考えてもいいかもしれませんね。

 あの人の息子になれると言うのなら。」

 

「そうなったらタレスは私の甥になりますね。」

 

「アローネさんはカタスさんの御兄弟とはまだ籍は入れてなかったんでしょう?」

 

「籍は入れてませんでしたが私の姉のような存在には変わりありませんから………。」

 

「………これでカオスさんが見付かるといいんですけど…。」

 

「そうですね…。

 今どこにいるのやら………。」



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学者との再開

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 ウインドラに監禁されたカオスは明朝になっても抜け出せず一人で後悔に苛まれているとそこに誰かが現れ…。


王都レサリナス 城西 研究所 カオスサイド

 

 

 

「よし、ワクチンは持てるだけ持ったな?

 撤収するぞ。」

 

「………いいんですか?

 これだって騎士団がヴェノム対策に用意したものなのに…。」

 

「何言ってやがんだ。

 ここはワクチンの製造所だぞ?

 ちっとくらい無くなったってまた補充できんだよ。」

 

「多ければ人のものを盗っていいって訳じゃないと思うんですけど…。」

 

「もうここに来てる時点で手遅れだ。

 今更善人ぶっても傍から見たら立派な泥棒だ。

 だったら盗みに失敗した泥棒よりも盗みに成功した泥棒になろうぜ?」

 

「そんなところで高いところみなくても…(汗)」

 

「諦めなよカオス。

 レイディーの屁理屈は今に始まったことじゃないでしょ?」

 

「そうなんだけどさぁ…。」

 

「ちんたらしてんなよ?

 見つかる前にずらかるぞ。」

 

「………はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「さて、後は人目につかないところに隠れてあの政をやり過ごすだけだな。」

 

「政?

 …ってえぇ!?

 もうこんなに人が沢山…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だよ。

 知らなかったのか?

 今日ここで開戦宣言が出されるって新聞にも載ってたぞ?」

 

「それは知ってたんですけどこんなに人が集まってるのは初めてで…。」

 

「私もここまで多いのは…。

 何か恥ずかしい…。」

 

「安心しな。

 こんな舞台袖誰も見ちゃいねぇから。

 メインはあっちの指令台だ。」

 

「あそこで開戦を?」

 

「通例ではそうなるな。

 …だが様子が少し違うな。」

 

「何か違うところがあるんですか?」

 

「見てみろよ。

 ギャラリーと台との距離を。

 離れすぎだろ?

 前に別の催しで開いたときはもっと前までギャラリーを引き寄せてたが今回は随分遠ざけてるな。

 これは何かイベントでもやんのかな。」

 

「………まぁ何でもいいですけどそれよりもレイディーさんさっきの話の続きですけどどうして王都に戻ってきたんですか?

 それもミシガンも連れて。」

 

「そりゃおめぇ、

 アタシの調査が一段落したからだよ。

 もうあの村のことは調べ尽くしたからここまで帰ってきたんだ。

 そしたらコイツがついていくって聞かなくてよぉ。」

 

「だってレイディーの話だけじゃ本当にカオスと知り合いなのかどうか妖しかったんだもん。

 急に村に来てカオスの知り合いだって言ってきて…。」

 

「坊や、

 あの村では嫌われものらしいな。

 コイツ以外皆非協力的だったぜ?」

 

「………」

 

「アンタはまたそうやって余計なことを言う…。」

 

「それで坊やの方はどうだったんだ?

 アタシと別れた後騎士団の連中がお前を宣伝してたみたいだがこの街に辿り着けたってことは何か進展あったのか?

 ダリントンとは会えたのか?」

 

「………いえ、

 何も。」

 

「ハハッ、

 そうかよ。

 じゃあ進展したのはその髪型と服装だけってことか?

 手配書出されたからってそんな様変わりしちまってよぉ。」

 

「確かに!

 カオス前と髪型が違うじゃない!」

 

「これはアローネに言われてゴムでまとめてるだけだよ。

 こうすれば手配書と大分顔が違うでしょ?」

 

「………そう?

 あんまり変わってないけど…。」

 

「よくもまぁそんな単純な手で欺いてこれたなぁ。

 坊やと顔見知りでもない限り分からねぇとは思うが。」

 

「二、三度話をしたことある人にはばれました。」

 

「だろうな。

 その髪の弄りも完璧じゃないと言うことだ。」

 

「髪型も変わったけど…

 カオスその服はどうしたの?」

 

「この服?

 これは教会で貰ったものなんだよ。」

 

「教会?

 何それ?」

 

「…ほらな?

 コイツ連れて歩くの超疲れたぜ。

 こんな風に逐一常識を説明してやらねぇといけねぇからよ。

 坊やの言ってた通り村全体で金という概念がどっかで抜け落ちちまってたからここまでで何回アタシが常識を叩き込んでやったことか………。」

 

「それくらい教えてくれてもいいでしょ?」

 

「アタシはお前のガイドじゃねえっての!

 だいたいここまでの賃金払ってやったのアタシだぞ!?

 もうちっと敬ってくれてもいいんじゃねぇのか!?」

 

「よくレイディーさん連れてきましたね。」

 

「しょうがねぇだろ。

 コイツやたらと足が早くて直ぐに追い付かれるんだからよ。

 かといってついてきた以上放っておくのも寝覚めが悪ぃし。」

 

「何だかんだ言ってレイディーは面倒見がいいからね。」

 

「本当にね。」

 

「………教会ってのはあれだ。

 人は救いあってこその人だとか理念を掲げて人助けする団体のことだ。

 つまり坊やのような物好き集団ってこった。」

 

「ふぅん?

 カオスにピッタリなんじゃないの?」

 

「この服は借りてるだけなんだけどね。」

 

「おい坊や、

 まだそんな木刀ぶら下げてんのか?

 そろそろ新しいのに取り替えた方がいいんじゃねぇのか?」

 

「これですか?

 ………折れるまでは使うつもりですけど…?」

 

「お前自分の立場分かってんのか?

 アタシは同じお尋ね者だから取っ捕まえたりしねぇがそんな木刀じゃそのうちキツくなるぞ?」

 

「…大丈夫ですよ。

 もう必要以上に戦ったりしませんから。」

 

「そうは言うけどな。

 お前がそれを望まなくても向かってくる奴は出てくるだろ?

 そんときになって後悔することになるぞ。」

 

「その時は………逃げ出しますよ。」

 

「…また逃げんのか?」

 

「!?」

 

「ミシガンから聞いたぜ?

 お前のこと。

 大分やらかしたみてぇじゃねぇか。」

 

「………」

 

「アタシが言うのもなんだけどなぁ。

 それじゃあアルバートと変わらねぇぜ?

 状況が悪くなって逃げ出すのなんざ、

 …まだ戦場で最善を尽くしたアルバートの方がマシだがな。」

 

「けど俺はおじいちゃんとは違うんですよ。

 俺は皆が知ってるおじいちゃんを知らない…。

 おじいちゃんと同じことをしてるつもりは…。」

 

「まぁそうだよな。

 お前は別に貴族の家系に生まれたただの平民だ。

 なんの使命もないただの平民。

 …けどな、お前はあの猿女を騎士達から救ったんだろう?

 お前がなりたかった騎士をぶったおしてまで。

 一度剣を握ったんならもう離れちゃくれねぇぞ?

 お前が手放そうが剣がお前を離しちゃくれない。

 この先何度でもその剣はお前を戦いに巻き込む。」

 

「………」

 

「…だったらどうせなら掴む剣は強い方がいいだろ?

 強ければお前が守りたい人達も一緒に守ってくれる。

 坊やも自分の好きな人達が傷つくのは嫌だろ?

 そうならないためにも剣ぐらいは選んどきな。

 手配書がある限りお前はいつだって戦う運命にあるんだから。」

 

「………分かりました。

 今日にでも新しいのに取り替えます。」

 

「それでいいさ。

 自分が災いの元なのなら自分でそれを祓えるくらい身なりは整えときなよ。」

 

「…アンタ普通に言えないわけ?」

 

「普通に言っても聞かねぇ奴がいるだろうが。

 こんくらい教えてやらなけりゃ坊やは置かれている状況に気付かないだろう。」

 

「そうみたいですね…。」

 

「そういやあの猿とチビガキはどこにいんだ?

 あんまり焦ってないとこみるとその教会にでもいんのか?」

 

「俺が捕まってるってまだ連絡はしてないんですけど一応教会で留守番はしてる筈ですよ。」

 

「さっきからどうでもいい話ばっかしてるが坊やはどういう流れであそこにいたんだ?」

 

「そうだよ!

 王都に行ったって聞いてたけど何で捕まってるの!?」

 

「それは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ!?

 ウインドラがこの街にいたの!?」

 

「ミシガンには昔一度だけ言ったことあったけど俺と同じでウインドラも騎士を目指してたんだ。」

 

「それでいなくなったの…?」

 

「そうらしいけど…。」

 

「ウインドラが………。」

 

「なんか知り合いがいる見てぇだがそろそろ政が始まるようだぞ。

 見てみろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより!

 マテオ国家によるダレイオスへの再戦の儀を行う!!」



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レイディー&ミシガン?

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ウインドラに監禁されてからカオスは丁度王都を訪れていたレイディーとミシガンに助け出される。

 そして運命の日が始まる…。


王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「済まぬ!

 お二人!

 サタン殿は見付けられなかったでござるぅ…!」

 

「気にしないで下さい。

 私達も頼りきりになってしまったので…。」

 

「この時間まで現れないってことは確実にトラブルに巻き込まれてますね。」

 

「そうでなければいいのござるが…。

 何分サタン殿はカオス様にお顔がそっくりでござるからして、

 バルツィエにでも因縁付けられてはいないか心配でござる!」

 

「「………」」

 

「先日のカオス様騒動ではバルツィエの一人が市民に向けて攻撃を仕掛けるなんて事件もござったので尚更怪我でもして動けないでいるのかが気にかかりますなぁ…。」

 

「バルツィエが攻撃を?」

 

「何でもバルツィエの敷地近くで騒がしくしていただけで攻撃されたらしいでござるよ。」

 

「その攻撃された方々はどうなったのですか?」

 

「…バルツィエの攻撃は一般人にはとても耐えられるようなものではないのでその者共は…」

 

「…酷い…。

 そのバルツィエの方は何も処罰はされなかったのですか!?」

 

「残念ながらこの国はバルツィエが権力を握っている所以、

 その程度のことなら風に流されてしまうのでござる。」

 

「そんなことって…。」

 

「この国ではそれが当たり前のように通っているのでござるよ。

 バルツィエはそれほどまでに力を持ってしまった一団でござる。

 王様ですらバルツィエのものであるからして。」

 

「そんな国は間違っています!

 国の物事を一つの家だけでいいように動かしていい筈がありません!」

 

「そうは申されてもバルツィエに意見して無事だった者などおらんのでござる。」

 

「ではサタンは………

 そんな方々が上にいる騎士団に襲われてしまったかもしれないのですね………。」

 

「まだそうと決まった訳ではないですよ。」

 

「どういった経緯でサタン殿が行方不明になったかは存じ上げませぬがまだ希望を捨てることはないでござる!

 今日こそアルバート様が腐れ切ったバルツィエに裁きの鉄槌を下してくださるでござる!」

 

「それこそ確証のない願望だと思いますけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスは………トーマスさんの仰るような登場はしませんよね?」

 

「それはないでしょう…。

 こんな公の場で登場なんかしたらカタスさんに匿ってもらっている意味がありませんから…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城東 騎士団修練場

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「どうした?」

 

 

 

「あそこ空いてねぇか?」

 

 

 

「あそこ?

 ………本当だ。

 誰か中にいるんじゃないか?」

 

 

 

「そうだな。

 ちっと見てくるわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?

 誰もいねぇぞ?」

 

 

 

「じゃあ誰か閉め忘れてったんだな。

 ったく、鍵くらい閉めてけっての。」

 

 

 

「だよな。

 ………後で鍵借りてくッか。」

 

 

 

「そうしろ。

 そろそろ式が始まるぞ。

 先に行っとくからな。」

 

 

 

「待て待て。

 俺も行くっての。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャリッ!

 

 

 

「おーし、前のまんまの暗証番号で助かるぜ。

 おら、入るぞ?」

 

「アンタここ辞めたって言ってたのに入っていいの?」

 

「気にすんな、

 ちょっと忘れ物を取りに来ただけだよ。

 そのくらい許してくれんだろ?」

 

「忘れ物…。

 ならいいんじゃない…?

 ダメかな?」

 

「いいんだっての。

 だいたいセキュリティを定期的に変えねぇここのバカタンがいけねぇんだよ。

 そうしねぇからアタシみたいな忘れ物取りに来た奴が出てくるんだよ。」

 

「忘れ物って本当に忘れ物なの?」

 

「あぁ、

 前に貰う筈だったワクチンを貰い忘れててな。

 手持ちも少ねぇしその時の分をこうしてきっちり貰いに来たんだよ。

 利子つけてな。」

 

「それって…

 要は勝手に持っていくってことじゃないの?」

 

「そう思うんなら別に降りてもいいぜ?

 アタシは一人の方が動きやすいしな。」

 

「ここまで来た以上私もやるわよ。」

 

「そりゃそうだよな。

 なんせ後から入るところにはもっとすげぇ忘れ物があるんだからな。」

 

「素直に泥棒しに行くって言いなさいよ。」

 

「シィー!

 どこで誰が聞いてるか分からねぇんだからこんなとこで泥棒なんて言うなよ。

 アタシ達はアタシ達の忘れ物を取りに来たって体を装おっときゃいいんだよ。」

 

「そんなの、なんか泥棒される側が不公平だわ。

 泥棒をするなら堂々とするって言わないと。」

 

「どこの世界に泥棒を公言する奴がいるんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうしてこうなった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城東 騎士団修練場物置小屋 少し前

 

 

 

「!?」

 

 

 

「んあ!?

 ………お前は?

 こんな所で何してやがんだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 その声は………レイディーさん!?」

 

「よう、久し振りだな。

 そっちは………新しい趣味の真っ最中か?」

 

「そんな訳ないでしょう!?

 捕まってるんですよ!

 騎士団に!」

 

「そうみたいだな。

 でも何でこんなとこに放置されてんだ?

 ここは騎士団が物置に使ってる小屋だぞ?」

 

「それは………。」

 

「まぁ、大方坊やのことだから入ったはいいが中にいることに気付かれずに鍵かけられて出られなくなったって落ちか?」

 

「捕まったって言ってるじゃないですか!?

 そんな子供みたいなことしませんよ!」

 

「そんくらいその有り様を見りゃ分かるって冗談だよ。」

 

「まったく………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中に誰かいるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え………?

 ミッ、ミシガン!?」

 

 

 

「え!?

 カオス!?」

 

 

 

「なっ、何でミシガンがここにッ!?」

 

 

 

「こっちのセリフよ!」

 

 

 

「おうおうおう!

 坊やこの野郎!

 よくもアタシにこんなじゃじゃ馬当て付けしてくれやがったな!

 おかげでアタシはあの村からここまで大変だったんだぞ!?」

 

「誰がじゃじゃ馬よ!?」

 

「お前だよお前!」

 

「人をじゃじゃ馬呼ばわりする悪い口はこの口かァァァッ!!」ガッ

 

「ぐおぉぉぉっ!!?」メキメキッ

 

「…相変わらず痛そうな技だね。」

 

「それで?

 何でカオスはこんなところにいたの?

 それも一人で。

 アローネさんはどうしたの?」

 

「…一先ずここを離れない?

 落ち着いた場所で話すよ。」

 

「それもそうね。」

 

「オオォォッ!?」バシバシ

 

「いい加減離してあげなよ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所 カオスサイド現在

 

 

 

「で?

 坊やは何で一人で捕まってたんだ?」

 

「そうだよ。

 何があったの?」

 

「そのことについて話す前に二人は何で自然にここに入ったの?

 落ち着ける場所でって言ったよね?」

 

「あぁん?

 んなもんここに用事があるからに決まってんだろ?

 さっきの話の流れで分かれ!」

 

「いや、何となく分かってはいるんですけど…。」

 

「私達はこれからここにあるワクチンってのを取りににいくんだよ。」

 

「ふぅ~ん、

 盗りにね…。」

 

「何か含みのある言い方だな。

 誰のおかげで自由になれたと思ってんだ?」

 

「それは…、

 助かりましたけど…。」

 

「そう思うんなら坊やもキリキリ働け。

 とにかくあるだけかっぱらうぞ。」

 

「盗みに加担するのはちょっと…。」

 

「今更罪状が一つ増えたくれぇ気にするなよ。

 大物賞金首が。」

 

「うぐっ…!?」

 

「そう!

 それだよカオス!!

 どうなってるの!?

 旧ミストで騎士団のちょい邪魔した程度でどれだけ大事になってるのよ!?

 また何か悪いことでもしたの!?」

 

「したような、しなかったようなぁ~かな…。」

 

「何それ!?」

 

「あの手配書見たんならあれが相当おかしなこと書かれてるって分かるだろ?

 俺達が何かする前にもうあの手配書はあの額だったんだよ。」

 

「ん?俺?」

 

「…そこはつっこんでほしくないかなぁ。」

 

「まぁ、いいわ。

 なんか妙にかっこつけだしたのはともかくアンタがこの国でとんでもなく注目を集めてる人物だと言うのもここまでの道中で知ってるから!」

 

「………ミシガンの方は何で村を出たの?

 ってか出てよかったの?」

 

「………いいのよ。

 私のことは。」

 

「…村長に許可取ってないのか!?」

 

「取れるわけないでしょ!?

 アンタを連れ戻しに行こうだなんて言ったって反対されるだけだし!!」

 

「そりゃそうだろ!

 俺はあの村では追放者なんだから!!」

 

「そんなのアンタが勝手にそう振る舞ってるだけじゃない!」

 

「そうするしかないだろ!?」

 

「そう考えてるのはアンタだけよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

「………落ち着けお前ら。

 ここで言い争ってると人が来ちまうだろうが。」

 

 

 

「「スッ、スミマセン…。」」

 

 

 

「話は後だ。

 とにかくここでの目的を果たしてから外で続きをしろ。

 今は政でここも手薄になってんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旧交を温めるのはサクッと仕事を終わらせてからだ。」



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開会

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レイディーとミシガンに救出されたカオスはなにやらレイディーの用事に付き合わされることになったが…。


王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「…聞け我が国民よ!

 我等マテオは今日より宿敵ダレイオスへの再戦を宣言する!

 

 準備は整った!

 ダレイオスとは建国以来長きに渡る争いを繰り返してきたがそれも今日この開戦で終わりを迎えることになる。

 これまでの戦いの歴史で失ってきた多くの同胞達もこの日を待ちわびてきたであろう!

 

 我等はこれよりダレイオスを討つ作戦に出る!

 ダレイオスの兵士には国民一人たりとも傷つけさせはしない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「百年前からダレイオスよりもお前らバルツィエに殺されてる数の方が多いんだけどな。」

 

「レイディーさん、

 あそこで話してる人って…。」

 

「あぁ、お察しの通りだ。

 あれがお前の大叔父にしてこの国のトップ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレックス=クルガ・マテオだ。」

 

 

 

「あれがおじいちゃんの………。」

 

「その隣にはお飾りの女王クリスタル、

 ………壮観だなぁ。

 後ろにはこの王都の豪華隊長陣が揃ってやがる。」

 

「…!

 あの人は!?」

 

「?

 顔知ってる奴でもいたのか?」

 

「あの騎士団の一番前にいる人…、

 確かフェデールって。」

 

「フェデールを知ってるのか?

 奴には極力近づかねぇ方がいいぞ。」

 

「えぇ知っています。

 教会で聞きました。」

 

「そうなのか?

 ………奴はアレックスに次いで強いらしいからな。

 まさかお互いに顔見知りじゃねぇよな?」

 

「………」

 

「おいィッ!!?」

 

「五月蝿いよレイディー!」

 

「…チッ!

 ………それにしても妙だな。」

 

「何がですか?」

 

「騎士団の隊長達が全員じゃねぇ…。

 こういう政には全員出席する筈なんだがな。

 ブラムはいるようだが………、

 ダリントンの部隊が隊長不在とは………。

 坊やはダリントンに会えたのか?」

 

「いえ、俺達がこの街に来たときには既にいなかったみたいです。」

 

「………やられちまってるかもな。」

 

「ダリントンってアルバさんとあの王様の昔部下だった人なんでしょ?

 ここに来るまででレイディーからいろいろアルバさんの家のこととか聞いたけど友達だった人を殺したりはしないんじゃ…。」

 

「言ったろ?

 もう奴等は既にヒューストンって前例を作っちまってるんだよ。

 それにここにはつい昨日のうちに友達にはめられたどじっ子もいるんだ。

 昔友達だったとか関係ねぇんだよ。」

 

「………」

 

「でもそれって騎士団の任務中の事故だったんでしょ?

 それなら殺しってことにはならないんじゃないの?」

 

「…そういう話だったらよかったんだけどよ。

 ヒューストンに始まって騎士団だの評議会だのバルツィエに対して反抗的な奴等が次々と謎の失踪が続いた。

 そしてその後釜にはどれもバルツィエの家系やその手下についた奴等が宛がわれた。

 ………まるで最初からそいつらがいなくなることを知ってて用意されていたようにな。」

 

「…!

 じゃあ…!」

 

「………ダリントンは今のバルツィエにはあまり友好的とは言えない態度をとっていた。

 ここにいないってことは最近になって消された可能性がある。」

 

「………!

 でも!」

 

「ん?」

 

「昨日ウインドラが言っていたんです!

 ダリントン隊長が今日来るって!

 ウインドラ達は今日この集まりで何かをするみたいなんです!

 だからダリントンさんも後から来るんだと思います!」

 

「ウインドラが…?」

 

「………それが本当ならダリントンはこの日までに消されねぇように身を隠していたのかもしれねぇな。

 だが一体何をするつもりなんだ?

 あいつ一人が体張ったところであのバルツィエの連中には………………どういうこった?」

 

「今度は何ですか?」

 

「ダリントンがいねぇと思ったらよく見りゃ隣の部隊の隊長もいねぇぞ?

 いるのはバルツィエとその手下のブラムだけだ。

 どうなってやがる………。」

 

「…き、きっとウインドラの言っていた作戦か何かでいないだけなんじゃ…。」

 

「………だといいが………

 何だか胸騒ぎがする…。

 

 

 

 何か………もう取り返しのつかない事態に陥っているようなそんな嫌な予感が…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

ナァ、ダリントンタイチョウキョウドウシタンダ?

 

サァ?サイキンミネェトハオモッタガキョウモイネェナァ。

 

ドッカエンセイニデモイッテルンジャ…。

 

ソレダッタラタイインタチモツレテイクダロ。

 

タイインハイルノニタイチョウダケガイナイ?

 

ホカノブタイノタイチョウモイナクネェカ?

 

エ?、ア!、ホントウダ!

 

ドウシタンダタイチョウタチハ…。

 

コレジャアバルツィエダケノシュウカイダヨナァ…。

 

タイインダケシュッセキッテドウナンダ…。

 

………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?

 皆さんどうなさったのでしょうか?」

 

「フムゥ、

 どうやら騎士団の非バルツィエ傘下の隊長二人が不在のようでござる。」

 

「隊長がですか?」

 

「あの左端の方の部隊なんでござるが間から見えるでござるか?

 左から三番目以降の先頭にいるマントを着けたのがそれぞれの部隊の隊長なんでござるが…。」

 

「…左二列の隊の先頭の人達はマントを着けていませんね。」

 

「よく見たら他の隊よりも先頭の人が後ろに下がってます。」

 

「そうなんでござる!

 この会合は騎士団発足の元行われるゆえこの街にいる騎士は全員召集がかかる筈なんでござるが………。」

 

「何か別の用事とかなのでは?」

 

「それはないでござるよ。

 一人ならまだしも二人の隊長が揃って用事などと…。

  我々にも数日前にこの会合が開かれると知らせがあったてこざるから騎士団所属者ならばもっと前に連絡は行き届いていたでござろう。

 こんな日に用事を入れるなどバルツィエを挑発しているようなもの…。」

 

「…トーマスさんその非バルツィエ傘下の隊長二人はなんという方々なんですか?」

 

「へ?

 確かバーナン会長と「ダリントンです。」そう!

 ダリントン!」

 

 

 

「メルザさん!?」

 

「………やっぱりお兄ちゃんは来てないようですね。」

 

「…と言うとメルザさんのところにも…。」

 

「はい…。

 ………本当何してるんだか…。」

 

「…極秘の任務中とかでは?」

 

「この日にそういった任務は流石にないですよ…。

 …今日はカオ…サタンさんは来てないんですか?」

 

「………こちらも昨日から行方が分からなくなってしまって…。

 本当は来ないつもりだったのですけど…。」

 

「メデスさん達も探しに来たんですね…。」

 

「はい…。」

 

「何やら行方不明が続出しているでござるな。」

 

「…トーマスさんも来てたんですね。」

 

「当然でござる!

 今日という日をずっと心待ちにしていたのでござる!

 今日この会合で颯爽とアルバート様が「お兄ちゃんです!」」

 

 

 

「今日ここに来るとしたらお兄ちゃんなんです…。

 アルバート様じゃなくてお兄ちゃんが…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「…フェデール、後は任せたぞ。」

 

「御意に…。

 さて親愛なるマテオの民達よ!

 今日!

 この場に集まってもらったのはただ開戦の狼煙を上げる為…

 だけではない!

 この場に集まってもらった多くの民には伝えておかねばならぬことがある!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「?

 開戦だけではないのですか?」

 

「もう一つ別の理由が?」

 

「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「今日我等は宿敵ダレイオスへと攻めいる前に………

 王国貴族、騎士、国民と心を一つにしなければならない!

 皆が同じ目標を掲げ共にダレイオスの強国に立ち向かいそして討つ!

 

 

 

 

 その大願を成し遂げる為にもそれを阻害する王国内へ潜入していたダレイオスの犬を今日この場で…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 処刑する!!」



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式の本当の目的

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 いよいよ開戦宣言を噂された集会が始まる。

 噂通りの開戦のようだったが騎士団長フェデールがそこで処刑を執り行うと宣言した…。


王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「処刑だと………。」

 

「こんな大勢の前で処刑を!?」

 

「処刑って………誰か殺されちゃうの…!?」

 

「そうだな。

 どうもこっちの処刑の方が本命らしい…。」

 

「ダレイオスの犬…。

 タレスの他にもダレイオスの人が捕まっていたのか…。」

 

 

 

「…まさかとは思うがこの処刑………、

 殺されるのは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………。

 

 

 

「処刑…!?」

 

「何もこんな場でやらなくても!」

 

「いえ、こういう場だからかもしれませぬ。

 衆目に晒すことによってダレイオスへの明確な敵意をアピールして士気を高めようということなのであろう。

 ………軍事ごととはいえ悪趣味なことを………。」

 

「…ダレイオス………?

 …捕虜でもいたでしょうか…?」

 

「………マテオの奴等…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは…?」

 

「恐らく処刑台でしょう…。

 布を被せてありますが話の流れからしてそうとしか…。」

 

「何故剥き出しで運ばないのでしょうか…?」

 

「…さぁ?

 新しい処刑台でも作ったのでそのお披露目とかでは?」

 

「そんな華々しい行事ではなさそうですけど…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「さて…

 本日行われる処刑はダレイオスの犬、

 …と言ったが処刑されるのはダレイオスのものではない!

 

 実はこの国の内部にダレイオスと内通していたものが先日調査で明らかになった!

 当然その者等も全員判明している!

 本日の処刑はその者等のリーダーをこの場で断罪するものだ!

 現在も他に裏切者が潜伏していないか調査を続けているが今日においてはこの向こうに繋がれている者のみ処刑することとする!

 これによりこのマテオ国家に仇なす者達がどういう末路を辿るのか、見せしめとしよう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「内通者のリーダー…?」

 

「それって………まさかお兄ちゃんじゃ…。」

 

「まだそうと決まった訳ではありませんよ。」

 

「だけど………。」

 

「…カオスさんの話ではその隊長さんまだ見つかってないんですよね。

 だったら処刑されるのは………。」

 

「タレス!」

 

「………。」

 

 

 

「………ん?

 カオス?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「………レイディーさん。」

 

「あぁ、あの話ぶりじゃあどうにもその可能性が浮上してきた。

 あの幕の中にいるのは…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………では国民達よ!

 ご紹介しよう!

 本日この場で処刑されるこのマテオの恥さらし者を!」バッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「「「!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「この者がこのマテオを危険に曝した大罪人………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーナン騎士隊長だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「あの方は…?」

 

「バッ、バーナン会長ッ!?」

 

「あの人があそこの隊長不在の隊の隊長なんですか?」

 

「そっそんな…バーナン会長が何故…!?」

 

「会長…?」

 

「あの御仁はバルツィエファンクラブの現会長のバーナン同志でござる!

 何故会長が処刑台にッ!!?」

 

 

 

「………よかった…。」

 

「よくないでござる!?

 メルザ同志!!」

 

「…殺されるのがお兄ちゃんじゃなくて本当によかった…。」フラッ

 

「会長が殺されるのはよくないことでござるぞ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 隊長サイド

 

 

 

「なぁ…。」

 

「…何だよラーゲッツ。

 黙って立ってろ。」

 

「…ッ!

 ………ユーラスの奴はどこ行ったか知ってるか?

 こういうイベントにはあいつ必ず来ると思ったんだが。」

 

「はぁ…?

 お前何言って………、

 …あぁ、そうだったな。

 お前は知らねぇんだったな。」

 

「何をだ。」

 

「何でもねぇよ。

 ユーラスならそのうちお前のところに来るから待ってな。」

 

「あ?

 あいつ俺に何か用でもあんのか?」

 

「今に分かる。

 お前はいつも通り自然体でいればいいんだ。

 自然体でな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「………そっちの方だったか…。

 ダリントンが来るとは思ってたんだがな…。

 いや、ある意味じゃこっちの方がヤベェか…。」

 

「バーナン騎士隊長………?

 それってさっき隊長がいなかった部隊の人ですか?」

 

「そうだ。

 バーナン=ムル・ゴールデン、

 建国当時からバルツィエに並ぶマテオの重鎮大貴族ゴールデン家の現当主で聞いてた通り騎士団の隊長だ。

 リカルデン家はこれまで歴代当主が数々の功績を叩き出してるのもあって政治の面でも発言力か大きい。

 …バーナン自身は騎士団ではバルツィエに目立った反抗はしてなかったと思うが…。」

 

「あの人がダレイオスと内通してるって話は本当なんですか?」

 

「アタシが知ってるのはあのバーナンが騎士団ではバルツィエの方針には無関心を通していて政治では口煩く意見していたってことだけだ。

 バルツィエからしたら十分ウザい奴だとは思うが何もこんな大仰に処刑してやらんでもなあ。」

 

「何かここで処刑しなきゃいけない理由があるんじゃないの?」

 

「バーナンにか?

 あいつは他には何故かアルバートファンクラブに入会していたくらいしかアタシも知らねぇんだよなぁ…。」

 

「え!?

 あの人もおじいちゃんのファンクラブに!?」

 

「あぁ、

 入ったのはアルバートが王都からいなくなってからなんだけどな。

 それまではそんな素振りを見せたこともなかったぞ。」

 

「何それ?

 アルバさんがいなくなったのにファンになったの?」

 

「本人がいるところじゃ照れくさくてファンクラブに入りにくかったとか?」

 

「どうなんだろうなぁ…。

 バーナンはアルバートはともかくバルツィエを嫌っていた筈なんだが………。」

 

「…けどあのバーナンって人があそこにいるんならダリントンって人は大丈夫なんだよね?」

 

「!

 そうだよ!

 さっきはダリントンさん捕まってたのかと思ってたけど違っていたんだ!

 ダリントンさんは無事だったんだよ!」

 

「ウインドラが言ってたんでしょ?

 作戦か何かで今日その人が現れるって。

 あの人を助けるのがその作戦なんじゃないの?」

 

「…そうだとしたら何が狙いなんだ?

 ここであいつ一人助けるのにバルツィエを敵にまわすだけの価値があるとは思えねぇが…。

 

 

 

 ………第一処刑されるのがバーナンだからと言ってダリントンが無事だなんて根拠はどこにもねぇぞ…

 結局のところ奴は今どこにいるってんだ?。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「これから黄泉路へと旅立つところを大衆に見送られる気分はどうだい?

 バーナン。」

 

「…そんなことを私に聞くのかフェデール。

 屈辱としか感想がでてこないことは分かっているだろ。」

 

「気持ちを口にすることによってお前の感情を検査してあげてるのさ。

 こういうところに立たされた死刑囚は恐怖のあまり頭が可笑しくなって逆に楽しそうに笑い出したりする奴がいたりする。

 普通は逆に泣き叫んで許しをこうものなのにね。

 そういう点ではちょっとお前も異常かなぁ?

 無感情っぽくて。」

 

「………覚悟をしているだけだ。」

 

「素直になりなよ?

 怖いなら怖いって。

 最期くらいお前の頭が正常のまま見送ってあげたいじゃないか。」

 

「頭の中が不健康なのは貴様らの方だと思ってたがな。

 このマテオで増税と王族制度強化などと…。

 貴様らはそんなに多くの奴隷が欲しいのか?

 今ですら相当な身分だというのに…。」

 

「強大な力を持っている俺達が今ぐらいの身分で満足していると思う?

 俺達は誰にも口答えすらされたくないんだよ。

 ダレイオスにも国民にも………お前達同じ貴族にも。」

 

「だから殺すのか?

 貴様らの言うことだけを聞く操り人形にならぬものを。」

 

「そういうこと。

 俺達バルツィエは神に選ばれた一族だからね。

 虫一匹の抵抗も許すつもりはないよ。

 勿論お前の組織しているファンクラブもね。」

 

「…気付かれてたか。」

 

「堅物のお前があんな俗物の集団に混じって密かにバルツィエに対するレジスタンスを作り上げていたことはお見通しなんだよ。

 数だけは多いしな。

 小賢しく名前も変更してたみたいだけどそれがかえって怪しかったぞ。」

 

「…例え無意味だったとしても私の計画に巻き込む以上安全性を考慮した組織にせねばなるまい。

 いつまでもアルバートを追い掛けている集団に私が参入したのだ。

 それだけで疑われてしまうからな。

 表面上はお前らに友好的ととってもらう名前に変えたつもりだったんだが…。」

 

「お前がトップの時点で不審さが際立ってたけどな。」

 

「そうらしいな…。」

 

「…残念だけどそろそろ時間だ。

 国民を待たせちゃ悪いしな。

 

 

 

 ここらでお別れといこうか…。」



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ダリントン

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 開戦式から途中処刑を行うことになり処刑台に上がったのはどうやらファンクラブの会長バーナン=ムル・ゴールデンという騎士団の隊長らしいが…。


王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「それじゃあ逝こうかバーナン。」

 

「………国のこんな思い半ばで貴様に殺られてしまうとは………。」

 

「…勘違いをしているようだけどお前を殺すのは俺じゃないよ?」

 

「どうせ誰に殺られようと同じことだ。

 貴様等バルツィエの者の手にかかるのならな。」

 

「………本当にお前を殺すのは俺達かなぁ?」

 

「?

 それはどういう…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュッ!

 

 

 

「おやぁ?」パシッ

 

「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バルツィエ………

 いい加減にしろよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「………今だれか石を投げつけましたね。」

 

「誰がそんなことを…?

 !?

 あれは…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダニエルッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「何だぁ?

 ガキがフェデールに石ころ投げやがったぞ?

 死にてぇのか。」

 

「!?

 ダニエル君!?」

 

「カオスの知り合いの子?」

 

「…う、うん、

 一応は知ってる子だけど…。」

 

「このままじゃ不味いぞ…。

 あのガキ、

 

 

 

 殺されちまう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「…段取りではこの坊やの乱入は予定にはなかったが…。

 

「そこの少年!

 何をしている!?

 私のことはいいから下がっていなさい!

 そんな小石で追い払える連中ではない!」

 

 

 

「………」フルフルッ

 

 

 

「フェデール!

 子供の悪戯だ!

 見逃してやってくれ!」

 

「………

 それは出来ないねぇ…。

 さっきも言ったが俺達はこういう反逆も許したくないんだ。

 

 坊や?

 これは何かな?

 まさかこんなとこまで来て戦争を始める俺達に素晴らしい贈り物ということじゃないんだろ?

 こんなもの普通の人に当たったら怪我をしちゃうじゃないか。

 君のご両親はどこにいるんだい?」

 

 

 

「お母さん達は………。」

 

 

 

「…!

 バーナン隊!

 何をしている!?

 早くその少年を連れていけ!!」

 

 

 

「たッ、隊長!?

 しかし…!」

 

 

 

「おっとバーナン隊諸君!

 何もするな。

 君達の隊長は死刑囚だ。

 言うことを聞くというのなら君らも一緒にこの台の上に登ることになるよ?」

 

「フェデール!?

 相手は子供なんだぞ!?

 国民の前で殺したりなどしたらバルツィエの家名にまた傷がつくことになるぞ!?」

 

「俺達が家の傷なんか気にするように見えるか?

 ここでお前を潰すことによってもうバルツィエは絶対的な地位を獲得することが決定しているのさ。

 ………コイツと親はその前の前菜にしようか。」

 

「よせッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!

 バルツィエ!

 ぼくの名前はダニエル=ディムド・カラサス!

 お前達に連れていかれた父さんと母さんの仇をとるため!

 今日ここでお前達バルツィエを倒す!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カラサス…?」

 

「!

 カラサス家の…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 隊長サイド

 

 

 

「カラサス?

 カラサスって言やぁユーラスの隊にいた奴じゃなかったか?」

 

「そういやそうだな。

 息子を治したくて入ってきた奴がいるってユーラス言ってたな。」

 

「確か………

 研究所の情報こそこそ調べてたから捕まえたんだったな。」

 

「あッ!

 ソイツ殺ったの俺だったわ。

 すっかり忘れてた。

 アイツがそうだったのか。」

 

「おいおい忘れてやんなよ。

 ま、俺も女じゃなかったら覚えてないと思うが。」

 

「つってもよぉ?

 変にこそこそしてたから不審者と間違っても仕方ねぇじゃん。

 不審者なら殺すよな?」

 

「そうだな。

 その後はそいつ調べて家まるごと潰したんだったよな。

 …であのガキはその復讐に来たってことか。

 いいなぁフェデールの奴は。

 向かってきたのが俺だったらよかったのに。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「…フーン、

 カラサスって前に潰した家だったね。

 ってことは君一人か。

 なら話は早い。」チャキッ

 

 

 

「!?」

 

 

 

「フェデール!?」

 

「どうせ君が独断でケンカ売りに来たんだろ?

 なら別にここで殺っても構わないさ。

 家族がもう死んでるのならコイツを殺って今度こそカラサスは全滅だな。」

 

 

 

「お、お前なんか怖くないぞ!

 …やっやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」ヒュッ

 

 

 

「………」パシッ

 

 

 

「こ、このぉっ!」ヒュッ

 

 

 

「………」ペシッ

 

 

 

「く、クソッ!」

 

 

 

「………ケンカ売りに来た割りには小石を投げるしか手がないのか?

 そんなんでよくこの場に来れたな?

 カラサス男爵?」

 

 

 

「お、お前なんかに男爵だなんて言われたくない!」

 

 

 

「こんな小石に頼るしか出来ないんだね。

 君程度じゃ俺達バルツィエにはこのぐらいしないと届かないのか…。

 俺達なら、」スッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲシッ!!

 

 

 

「うぶぅ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなに簡単に君達の命に足が届くのにね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「ダニエル君ッ!!」バッ

 

「待て!」ガシッ

 

「!?

 レイディーさん!

 離してください!

 ダニエル君が…!」

 

「あのガキを助けようってのか?

 

 

 

 それがどういうことかお前分かってるのか?」

 

「あんなの放っておけませんよ!?」

 

「何故そう思う?

 あのガキはどうやら騎士団の隊員の息子らしいぞ?

 お前騎士団と敵対してんだろうが。

 そりゃつまりお前の敵と敵が潰しあってるってこったろうよ。

 お前からしたらどうなろうがいいことだろうがよ?」

 

「ダニエル君のお父さんはバルツィエに連れていかれたって言ってました!

 ってことはもうダニエル君のお父さんは…。

 だからダニエル君は騎士団とは関係ありません!」

 

「だから助けるのか?

 あのガキを?

 お前に何のメリットも無さそうなあの命知らずのバカタレを?」

 

「何が問題なんですか!?」

 

「………じゃあよぉ?

 あのガキを助けたいってんなら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この女を殺せるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え?

 私!?」

 

 

 

「どうしてミシガンを…?

 レイディーさん今はふざけている場合じゃないんですよ!?」

 

「真面目な話だボケ!

 ………どうなんだ?

 殺せるのか?」

 

「………殺せる筈ないじゃないですか。」

 

「そうか…

 じゃああのガキを助けるのは止めとけ。」

 

「今の質問に何の意味があったんですか!?」

 

「…お前があのガキを助けたら奴等は必ずお前を殺しにかかる。

 ………そしてお前と関わり合いのある奴等も同じように狙われる。」

 

「…!」

 

「そうなった場合コイツなんかはお前を誘き出すためのエサなんかに使われるな。

 でお前を殺し終わったらコイツも殺されるかもしくはバルツィエの一部の奴等に慰みものとして扱われる。

 そこまでいったら女として生まれたことを後悔するほどの地獄が待っているだろうな。」

 

「…!?

 ミシガンを…!?

 そんなことは俺がさせません!」

 

「させるさせないとか簡単に言ってるが坊やは一人しかいないんだぜ?

 お前の知り合いは何人いるんだ?

 そいつら全員守りきれるのか?

 そいつら全員一ヶ所にまとめて置いておけるのか?」

 

「………出来ません。」

 

「…正義感のある奴ぁ好きだが責任のとれねぇ奴は嫌いだな。

 お前の軽はずみでどこまで火の粉が飛び火するか考えてから行動しろ。

 誰かと敵対するってのはそういうこった。

 この場合守りきるだけじゃなく守りきれない場合のことを言ってるんだからな?

 無茶なことに巻き込む前にそいつら全員に遺書を書かせてからにしな。

 で?お前遺書書く気ある?」

 

「ある訳ないじゃない!?

 まだ死にたくないわよ!?」

 

「だそうだ。

 お前が行くのは駄目だってよ?」

 

「でも…ダニエル君が………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「ダニエルッ!?」

 

「落ち着きなされ!

 メルザ同志!」

 

「トーマスさん…!

 でもダニエルがこのままじゃ…!!」

 

「確かに目を背けたくなるような惨い光景でござる…!

 バルツィエの奴等め!

 子供にも容赦なく蹴りを入れるとは…!」ギリッ

 

「トーマスさん!

 どうすれば…!?」

 

「ぐむぅ…!

 会長が捕まっておるがこれはやむを得ないでござるか………。」

 

 

 

「タレス!

 あの子をあの騎士の方からお守りしますよ!」

 

「待ってください!

 アローネさん!

 ボク達はカタスさんのおかげで今日まで生き延びたんですよ!?

 ここであの場に出向いたらバルツィエの連中に敵対行動とみなされて殺されます!」

 

「敵対行動が何ですか!?

 そんようなものは最初からでした!

 私はあの子を助けるだけです!」

 

「カタスさんのもとにいられなくなりますよ?」

 

「!?

 カタスの…?」

 

「ボク達が飛び出せばバルツィエはボク達にも攻撃してきます。

 そうなったらボク達がそのままバルツィエを全滅させないと奴等はどこまでも追ってきます。

 そしたら巻き込まないためにもカタスさんとはもう…。」

 

「カタスと………。」

 

「知り合いが目の前でいたぶられるのは見ていて辛いとは思いますが今は堪えて下さい。」

 

「………ダニエル君…。

 スミマセン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「…今の感触…。

 骨でも折れたかな?」

 

 

 

「ハァ……ッ………ッ!!」

 

 

 

「まったく…、

 自分が俺達と比べてどのくらい弱い存在なのか分からなかったのかな?

 こんな小石なんかでどうするつもりだったんだ?

 あ…そうか!」ピンッ!ビュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうするつもりだったんだよな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「何だ今のは!?

 小石が破裂した!?

 あんなの喰らったらダニエル君は…!!」

 

「何てことはない。

 ただマナを込めて放っただけの簡単な術さ。

 …あんなに威力の高いのは初めて見るがな。」

 

「今わざと外したの…!?

 弄ぶために!?」

 

「レイディーさん!

 誰か他にいないんですか!?

 ダニエル君を救ってくれるような人は!?」

 

「…いたらもう駆け付けてるだろうが。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「ほらほら早く立って避けないと当たるぞ?」

 

「フェデール!

 悪趣味が過ぎるぞ!?

 もうその辺でいいだろう!?」

 

 

 

「………ッ………!」ブルブル

 

 

 

「………、

 そうだね。

 あんまり君を待たせるのも悪いしな。

 それじゃあ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これで終わりにするか。」ビュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おまえは…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………待たせたな。

 皆のもの。

 遅れてすまない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダリントンッ!!?」



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処刑執行

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 処刑台にバーナンが上がり執行される直前孤児院のダニエルが妨害する。

 だがフェデールに蹴り飛ばされ殺されそうになった瞬間ダリントンが現れる…。


王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「お兄ちゃんッ!

 無事だったんだね…!?」

 

「あれは…!?

 アルバート様………ではない!?」

 ………だがこの期を逃せば後は何時になるか分からぬでござる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聴くのだッ!!

 皆のものッ!!今こそッ!!

 今こそ立ち上がるときだッッ!!

 我等が立ち上がらずしてこの好機は二度と回っては来ぬぞッ!?

 我等がアルバート様は今にやって来るッ!!

 それまでにあの子供にすら容赦のない腐りきったバルツィエの連中に今こそ裁きの鉄槌を下すのだッ!!!

 あの騎士はアルバート様に仕える騎士でござるッ!!

 彼がアルバート様がやって来るまで援護するのだッ!!

 そうすればアルバート様が必ずや我等のもとへと救いの手を差しのべてくださるッ!!

 この場にいるファンクラブの全員は全力で奴等を倒すのだッ!!

 そしてバーナン会長をお助けしろォォォォォッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「なっ、何だッ!!?」

 

「街の人達が…!?」

 

「…こんだけ集まりゃバルツィエに反感抱く奴が触発されて暴れだすのも頷けるがこりゃやべぇな。」

 

「レイディーさん!

 一体何が起こってるんですか!?」

 

「前にも言ったろ?

 バルツィエってのはこの国でも嫌われものなんだって。

 奴等の暴力政治には我慢してる奴等が沢山いるのさ。

 それが数を集めちまったせいで噴火しちまってんだよ。

 今起こってる事態はその結果だ。」

 

「大丈夫なんですか!?

 これ!?」

 

「大丈夫な訳ねぇだろ。

 目の前で反バルツィエ勢力のトップが殺されそうになってたんだ。

 それを止めるために今コイツら躍起になってやがる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この場にいる奴等全員殺される理由を自分達で作りやがった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「みっ、皆さんどうなさったのでしょう!?」

 

「アローネさん!

 ここにいると巻き込まれてしまいます!

 教会の方へ戻りましょう!」

 

「ですがここにはカオスがいるかもしれませんのに…!」

 

「今はそんなことを言っている場合ではありません!

 急いで避難しましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「騎士団を倒せぇぇぇぇ!!

 バルツィエの暴走を許すなぁッッ!!

 バーナン会長をお助けしろォオオォォッ!!」

 

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 隊長サイド

 

 

 

「コイツら…!

 何してんだ馬鹿共ッ!!

 さっさとあの民衆共を静めろッ!!」

 

「ですがラーゲッツ隊長!!

 我々だけではこの数はッ!?」

 

「口答えするなッ!!

 そんなもん魔術でも使って応戦しろッ!!」

 

「!?

 かっ畏まりました!!

 ファイヤ「コノヤロッ!!」グワァッ!!」ドゴッ!!

 

 

 

「オイッ!!?

 野郎共がァッ!!

 役に立たねぇ奴等だなァッ!!!?」

 

 

 

「………セバスチャン、

 配置の方はどうなってる?」ピッ

 

『はっ。

 フェデール様の申し付け通り三方は固めております。』

 

「よし…、

 ではあれを使え。」

 

『承知しました。』ピッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「ウインドラ!

 俺達も隊長をお守りするぞ!!」

 

「!

 はっ、はい!!」

 

「予定を変更していたが隊長がお戻りになられたので一旦当初の計画に戻す!!

 お前はこのまま伏せておけ!」

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!

 

 

ファイヤーボール!ボォォォッ!!

 

アクアエッジ!ザバァンッ!

 

ライトニング!ピシャアァァッ!!

 

ストーンブラスト!ボコボコボコボコッ!

 

ウインドカッター!スパンッ

 

アイスニードル!!ツァツァツァンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「戦争が始まる前に王都で紛争騒ぎかよ。

 力で押さえ付けてた政府への反発がここまでとはな。

 都民を一ヶ所に集めたバルツィエの失態だな。」

 

「レイディーさん!

 これはいつまで続くんですか!?」

 

「知らねぇよ。

 全員がくたばるまでじゃねぇか?」

 

「この街の人達が全員!?」

 

「一度火のついた導火線は止まりゃしねぇだろ。

 それこそ水でもぶっかけねぇ限りな。

 つまり都民達が騎士団をぶっ飛ばすか、

 騎士団が都民達を虐殺するかしかねぇ。」

 

「そんな…。」

 

「…この暴動の切っ掛けは反政府側のバーナン達が発端だ。

 早ぇ話アイツらが死んだらあの都民共も収まるかもな。」

 

「!?」

 

「どうした?

 止めてぇならそうするしかねぇぞ?

 逆にあそこにいるアレックスでも押さえるか?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレックス陛下!

 もう少しお下がりください!

 ここもいつ攻撃を受けるやもしれません!」

 

「よい、

 私はここで見学させてもらおう。」

 

「………」

 

「クリスタル陛下もここは危険です!

 急ぎ城の中へ!」

 

「私も結構です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな近くにまで来るのは早々ねぇだろうな。

 あの二人を捕まえたらこの暴動も収まるぞ?

 どうする?」

 

「どうするって…。」

 

「あの二人を捕まえた場合お前はこの国の全てを敵に回すことになるがな。

 いや、賞金首なら元々か。」

 

「レイディー!

 カオスはなりたくて賞金首になったんじゃないんだよ!?」

 

「そんな気持ちなんざどうだっていいんだよ。

 現状がそうだって言ってんだ。

 でどうする?

 この暴動を止めるんならお前にはこの策か最善だろう。

 この国の全てを敵に回すと言ってもあそこでバルツィエに反旗振ってる奴等ぐらいは味方になってくれるかもしれねぇぞ?」

 

「………なら「よく考えてから行動しな。」」

 

 

 

「最善と言っても本来はお前はこの件には無関係だ。

 お前が何かする必要性はない。

 例えお前がバルツィエの血筋のものだったとしてもだ。

 この暴動は奴等自信が招いた身から出た錆でもある。

 お前が背負ってやる義理もねぇ。

 それでもお前はこれを止めたいのか?」

 

「………」

 

「さっきも言ったがお前がこれを止めると巻き込まれる奴等はどうするってんだ?

 さっきはたった一人のガキだったが今度のこれは数十万人にも及ぶスケールだ。

 こいつらに肩入れしようものならバルツィエは確実に総力をもってお前やお前の関係者を排除しにくる。

 

 お前は結局のところ曖昧な存在だ。

 バルツィエの血を持ちながらバルツィエには属さずそれでいてバルツィエではないにしても一般人とも言えない…。

 ましてやその一般人にも狙われるような存在だ。

 

 そんなお前が何故アイツらの為にリスクを負おうとする?

 お前の正体を知ったら両方とも敵になるかもしれない陣営同士だぞ?」

 

「………」

 

「…こんなことも答えられねぇような奴が無闇に首を突っ込むなや。

 お前の知り合いがピンチに見舞われた訳でもねぇんだ。

 正義感なんざゴミ箱にでも捨てろ。

 何も背負えねぇ奴に任せられる物なんざ何もねぇんだよ。

 今は事の顛末を見届けな。」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ダリントン………

 どう動くんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

「私のせいで皆が………。」

 

「………バーナン。」

 

「済まないダリントン、

 私がバルツィエに捕まってしまったばかりに事態を悪くしてしまったようだ…。

 だがこうなってしまった以上私も立ち上がるしかないようだな。

 今こそこの国をバルツィエの手から救おう。

 私も君の計画に全面的に支援することにする。

 ………彼を宣伝するいい機会だ!

 先ずは私が陛下達を押さえるとしよう。

 申し訳がないがこの枷を斬ってもらえないか?」

 

「…分かった。

 今解放しよう。」スウッ…

 

「…?

 ダリントン?

 お前香水でもつけるようになったのか?

 戦闘マニアのお前にしては珍しく…、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブザンッ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?

 ………!?

 …っぁぁあッ!!?」ブシュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッフフ。」ニヤリ

 

 

 

「……アァァァァッッ!!!

 ダリントン!?

 何をするんだッ!!?」

 

 

 

「何って………?

 解放してやるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この地獄のような退屈な世界からなぁ。」ザンッ………!



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筋書き通りの台本

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 開戦宣言の広場にダリントンが現れダニエルを守る。

 その後騎士団の部隊と交戦になるがそれすら突破しダリントンがバーナンのもとへとやって来る。

 そして彼を救出するかと思いきや…。


王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタンッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………は?」

 

「………フフッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………隊長?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………お兄…………ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何を、

 ………してるんだあの人?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城入口 アレックスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………バッ………………バーナン隊長ォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!?」

 

 

 

「バーナン隊長………!!!?

 ……………きっ、貴様ァァァッ!!!!

 ダリントォォンンンッッッ!!!!!!」ダダダダダダダッ!!

 

 

 

「………まっ、待て!!

 行くなッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダリントンッ!!

 貴様ッ!!

 何故ッ………!?

 何故バーナン隊長を刺したァァッ!!」

 

 

 

「………」チャキンッ

 

 

 

「貴様ァッ!!

 よくも隊長を!!

 殺したなぁぁぁぁぁっ!!!!」ブンッ

 

 

 

「………」ブンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………たい………ちょうをっ………。」バタンッ

 

 

 

「………」バタンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴロンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「………相……討ち?」

 

「………どうなってるの?

 あのダリントンって人あの隊長さんを助けに行ったんじゃないの?」

 

「………あれはもしや………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「どうなっているんだ!?

 ダリントン隊!!?

 何故我が隊長を殺したんだ!!?

 貴様らは我等と秘密裏に同盟を組んでいたのではなかったのか!!?」

 

「貴様らの隊長はどうしてバーナン隊長を殺したんだ!!?

 まさかバルツィエに魂を売った訳じゃないよなぁッ!!?」

 

「奴等の軍門にでも下ったというのか!!?」

 

 

 

「そっ………それは我等にも何が何やら…!?」

 

「隊長が独断であのような行動に………!!」

 

 

 

「惚けるなぁッ!!

 貴様らバルツィエの手先になったのだろう!!?

 これは何かの演出かッ!!?」

 

「我等と共にバルツィエと戦おうと言ってきたのは貴様らではないか!!?

 なのにこの始末ッ!!

 どう落とし前をつけるつもりなのだ!!」

 

 

 

「それは………だから………。」

 

 

 

「問答無用ッ!!

 バルツィエの前に貴様ら裏切者を成敗してくれる!!

 かかれッ!!」チャキンッ!

 

 

 

「まっ!

 待ってくれッ!!?

 私達もこの状況が「セイヤァッ!!」ウァァッ!!」ズバッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「何だァッ?

 ダリントンがバーナン刺したと思ったらダリントンの部隊とバーナンの部隊が殺り始めたぞ?

 フェデール!

 どうなってんだこりゃあ?」

 

「………見てれば分かるさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………いッ、

 嫌ァァァァァッ!!!?

 お兄ちゃん!!?

 何でぇぇぇッッッ!!!?」ガクガクッ

 

「メルザさん落ち着いてッ!!」

 

「何で!?

 何でお兄ちゃんが!!?

 せっかく生きて戻ってきたのにッ!!

 どうしてェェェッ!!!!?」

 

「………やむを得ませんね。

 ナイトメア。」パァァッ

 

「!?

 ………お兄………ちゃん。」ガクッ

 

「メルザさん!

 ………カタスからこの術を教わっていて正解でした。」ハシッ

 

「………どうなっているのでしょうか?

 話ではあの人はバルツィエと対立していた筈。

 それなのにこの状況は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オイッ!ダリントンガカイチョウヲヤリヤガッタゾ!?

 

ダリントンノブタイハオレタチノミカタシテクレルンジャナカッタノカ!?

 

ヤツラ…マサカバルツィエトテヲクミヤガッタノカ!?

 

ダリントン………ユルセネェ!!

 

カイチョウヲコロシヤガッテ!

 

アノゲドウブタイガァッ!!

 

ヤツラヲユルスナ!!

 

バルツィエノマエニヤツラヲチマツリニアゲロ!!

 

オオオオオオオッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………周りも混乱しているようですが敵意を向ける相手が変わりましたね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「待ってくれ!!

 本当に私達は何も知らないんだッ!?

 さっきのだって何かの「死ねェッ!!」グアッ!!?」ブスッ!!

 

 

 

「殺せッ!!

 ダリントン隊を皆殺しにしろォッ!!」

 

「奴等に明日の日の出を拝ませるなァァァッ!!!」ダダダッ

 

 

 

「止めろォォォ「くたばりやがれッ!!」ッ!!!」ズバッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ………!

 このままでは………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「全軍聞けェッ!!

 ダリントン隊とバーナン隊が交戦を始めた!!

 奴等には近付くな!!

 貴様らは民衆の方を収めろ!!」

 

 

 

「「「「「はっ!!」」」」」

 

 

 

「何だよフェデール。

 アイツらほったらかしていいのかよ?」

 

「いいんだよ、時期決着がつくさ。」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「大変だッ!?

 ウインドラの部隊がッ!!?」

 

「あの中にウインドラも…!?

 ウインドラが殺されちゃう…!?」

 

「………あの死体…?」

 

「レイディーさん!

 死体なんて気にしてる場合じゃないでしょう!?」

 

「そうよレイディー!?

 皆死んじゃうかもしれないのよ!!?

 こんなときにどこ見てんのよ!?」

 

「黙れッ!!

 ………あのダリントンの死体、

 変じゃねぇか?」

 

「変?」

 

「見ろよ…。

 さっきバーナンの隊のとこの隊員と相討ちになって首を切り落とされたのに血が全然出てねぇ。

 隊員の方は剣が突き刺さったままなのにもかかわらず流血してるってのに。

 普通逆じゃねぇか?」

 

「………確かにあのダリントンさんの死体…

 体の方からは血が一滴も出てないように見えますね…。」

 

「えぇ!?

 でも頭のある方からは少しだけど血が出てるよ?」

 

「…どうやら相当な悪趣味な奴がいたようだな。」

 

「悪趣味な人?」

 

「あの体の方………どうやらまだ生きてるぜ?」

 

「首を切り落とされたのに生きてる………?

 まさかゾンビ!?

 ヴェノムがこの中に!?」

 

「それだったら今頃起き上がってそこらの連中襲ってるだろうが。

 ………生きた誰かがダリントンの首を乗っけてたんだよ。

 あのゴツい鎧は首との接着面をカモフラージュしてたってこったな。

 簡単なトリックに皆騙されちまってまぁ………。」

 

「!?

 ってことはダリントンさんは!?」

 

「とっくの昔に死んでたってことになるな。

 あの首も前に殺した死体から回収してきたんだろ。

 血が出てるのは血糊でも使ってんだろうな。

 道理でカウンター戦法のダリントンにしてはおかしな動きをすると思ったぜ。

 あんな素早い動きしてたからまるで別人にでもなったのかと思ったがマジで別人だったようだ。」

 

「…!?

 じゃあ早くあの騎士達に教えないと!?」

 

「全員目の前の出来事ではパニック状態だ。

 こんなん死体調べる奴が一人でもいりゃ一発で分かるのにな。」

 

「だったら皆何で…!?

 ………!!」

 

「ほう………、

 この胸糞わりぃ悪戯はやっぱりアイツの差し金だった訳か。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「(…馬鹿だねぇ、

 こんなの死体調べれば一発で気付くのにねぇ。

 まぁ、この死体の前に俺が立ってれば誰も調べられないんだろうけどね。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「フェデールの野郎………。

 よくこんなことを思い付くな。

 感性を疑うぜ。」

 

「あのフェデールって人の周りに皆近付こうとしませんね。」

 

「あの糞騎士団長は実力も伴う本物だからな。

 頭に血が登っているとはいえアイツには皆近寄れねぇのさ。」

 

「あの人があそこにいる限り誰も死体を調べられないってこと!?」

 

「そうだ。

 アタシ達は上から立体的に見て一目瞭然だったがあの位置は下にいる騎士達からは処刑台が平面的に見えるから分かりにくい。

 おまけに調べようにもフェデールが陣取ってるから近付けない。

 ダリントンの部下達は味方同士の部隊で潰しあって詰みだな。」

 

「…!

 ………ウインドラ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「…!

 ライトニングッ!!」ピシャァァッ!!

 

 

 

「おやぁ?」バシッ

 

 

 

「…!

 チイッ!!」

 

 

 

「君は…この間の…、

 どうやら気付いてるようだね?」

 

 

 

「………俺はダリントン隊長に直接指導を受けたんだ!!

 隊長の剣技はあんなものではない!!」

 

 

 

「そうだね。

 長い付き合いの君達なら分かる人がいても不思議じゃないよね。

 けどさっきのダリントンが皆の予想外にラーゲッツや俺に善戦しちゃったから皆この嘘に呑まれちゃってるねぇ。

 人ってのは自分に都合のいいことを信じやすいからねぇ。

 結果が良ければそれまでの不自然な過程が頭からすっぽぬけちゃってるんだよ。」

 

 

 

「おのれェッ!!

 皆ァッ!!聞いてくれ!!

 あの死体は「消えろッ!!ダリントン隊!!」グッ!!」ガキンッ!!

 

 

 

「あらら~、

 皆怒りで我を忘れてるね~?

 話を聞かせるどころではないようだよ?

 そんな分らず屋殺しちゃったらァ?」

 

 

 

「ググッ!!

 ハァッ!!「オアッ!?」

 出来る訳ないだろ!?

 同士を手にかけるなど!!」

 

 

 

「ハハハッ紳士だねぇ。

 でもそんな甘いこと言ってると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全滅しちゃうよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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フェイクの死体

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 開戦宣言の広場でバーナンがダリントンに処刑されダリントンとバーナンの部隊が同士討ちを始める。

 ダリントンも騎士の一人と相討ちになり倒れるが…。


王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「ウインドラ…!?

 ウインドラはあの死体に気付いたみたいです!!」

 

「ウインドラ!?

 あの騎士が…!?」

 

「…気付いたのはいいがあれじゃあどうすることも出来ねぇだろうな…。

 声をいくらあげたところで周りにかき消されちまう。

 かといって直接死体を叩き起こそうにもあれじゃあフェデールが自分の身を守っただけにしか見えない。

 単純な作戦だが奴等いいように操られてやがる。」

 

「どうにかして皆にあの死体に目を向けてもらわないと…!?」

 

「………あれが坊やの言っていた知り合いかい?」

 

「はい!

 でも………。」

 

「…坊やはアイツに痛い目にあわされたんだろう?

 なのに何でアイツを心配するんだ?」

 

「それは………。」

 

「アイツがいるってことはダリントンの部隊は確実に坊やの敵だ。

 敵の心配なんざするだけ徒労だろうに。」

 

「ウインドラは…!!

 ………敵ではありません!

 俺の友達なんです…。」

 

「ほ~ん?

 友達ねぇ~。

 あんなふうに捕まえられるのが友達のやることかねぇ~?」

 

「………友達です。」

 

「友達を助けたいか?」

 

「………はい。」

 

「お前やお前と一緒にいる奴を捕まえに来るような奴でも?」

 

「はい。」

 

「向こうは友達とは思ってなくても?」

 

「はい。」

 

「………ここででしゃばって助けたとしてもアイツが後日お前らの敵になるかもしれないのに?」

 

「はい。」

 

「なんならさっきの話の通りお前がいないところでお前の身内の村を襲うような連中が敵になるかもしれないのに?」

 

「………それでも助けたいです。」

 

「お前のそれは何だ?

 正義感か?

 それとも昔迷惑をかけた贖罪か?

 どういう気持ちで助けたいなんて言ってるんだ?」

 

「俺は………。」

 

「答えられねぇとかは「分かりません!」…あ?」

 

 

 

「俺は………正義感とか騎士道とかそんな考えはもう十年前に捨てました。

 俺は馬鹿だから難しいことは分かりません。

 けど俺は俺が友達を見捨てたくないと言うことだけは分かります。」

 

「………分からねぇなぁ。

 どうしてそこまでしてあのお友達に固執する?

 お前ぐらいいい奴なら名を伏せとけば友達なんざいくらでもできるだろ?」

 

「友達は………俺にとって友達はそんなんじゃない。

 そんな他に変わりができるからとかじゃない…。

 ウインドラは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺にとって初めてできた最初の友達だから…、

 例え何度酷い目にあわされてもそれは変わりません。」

 

 

 

「………よく理解できねぇな

 お前のそれは。

 一度剣を向けられたらそこからは敵になんだろうに…。」

 

 

 

「俺は剣を向けられるぐらいじゃ友達を辞めたりしませんよ。

 俺はずっと一人だったから友達の定義とかは知りませんけど。」

 

 

 

「孤独性がッ…。

 それはただ単にお前が友達が少ねぇから必死こいて友達っていうレッテルを守ってるだけじゃねぇのか?

 お前にとってはあのお友達が宝石類のように大切なのかねぇ。」

 

 

 

「宝石の価値は分かりませんけど俺にとっては宝石よりも生きている友達の方が大事です。」

 

 

 

「………お前は見ず知らずのそこらの他人のためじゃなくあの友達を救いたいんだな?」

 

 

 

「はい。」

 

 

 

「命………かける覚悟はあるか?」

 

 

 

「はい。」

 

 

 

「お前の命じゃねぇぞ?

 お前の周りの奴等の命だ。」

 

 

 

「はい。」

 

 

 

「物好きだなぁ。

 そんなに誰かを助けたいかねぇ…?」

 

 

 

「俺は昔から人の役に立ちたいとおもってましたから。」

 

 

 

「ありきたりの回答だな。

 就活でそんなこと言ったら一発で不採用だ。」

 

 

 

「………スミマ「だが、」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「短い付き合いだがお前がどういうやつなのかは理解しているつもりだ。

 まだまだ未熟な思考を拭えてねぇようだがそこまで言うのなら今回は及第点として採用してやろうか。」

 

 

 

「レイディーさん!」

 

 

 

「今回はアタシが手を貸してやる!

 アタシが一発であの状況をアイツらに伝えてやる策を考えてやるよ。」

 

 

 

「!!

 有り難うございます!!」

 

 

 

「礼言う前にお前はしっかり今後のことを対策しとけ!

 本格的にバルツィエにケンカ売るんだ。

 お前はお前が大切で守りたくても手の届かねぇ奴等をどうするかはちゃんと考えとくんだな。

 アタシはそいつらがどうなっても知らねぇぞ?」

 

 

 

「分かりました!」

 

 

 

「よしよく言った!

 じゃあアイツらに教えてやろうじゃねぇか。

 お前らがどうしようもなく不毛な争いをしてるってことをよぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「くっ!「オラッ!」

 このっ!「死ね!」

 止めろ!!「ゲスがぁっ!!」

 聞けェェェッ!!」ザンッ!!

 

「ウインドラ!

 もう半数が殺られたぞ!?

 このままでは作戦もあったもんじゃない!!

 どうにかできないか!?」

 

「アレを見てください!!

 あの隊長の死体を!!

 アレを調べればこの状況は「何してんだコラァッ!?」ブッ!?」

 

「ウインドラ!?

 ………あの隊長の死体を調べればいいのか!?

 分かった!!

 俺に任せろ!!」ダダッ!!

 

「お願いします!!」

 

「よし!

 ………これ「はい邪魔ァ~!」は…?」ザンッ!

 

「ナフトさん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここから先は通さないよ?」

 

 

 

「貴様!

 フェデール!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「不味いな。

 もうウインドラの隊が半分くらいになってる。」

 

「ウインドラは………

 まだ無事ね。」

 

「レイディーさん!

 ここからどうすれば…!?」

 

「………今日は快晴か。」

 

「快晴!?

 天気がどうしたんですか!?」

 

「なぁ、坊や。

 空って青いよなぁ。」

 

「は!?

 ………はぁ?

 それはそうですけど?」

 

「よし、閃いた!」

 

「え!?

 もう思い付いたの!?」

 

「あぁ、

 天才のアタシな任せな。

 あの死体を皆に伝える方法が出来たぜ!!」

 

「流石レイディーね!

 でどうするの!?」

 

「その方法俺に任せてください!」

 

「いんや?

 別に何もしなくてもいいぜ?

 それでも何かしたいんなら今からアタシがやることでここに注目が集まったらアタシの変わりに出ていって俺がやったんだぞアピールしてきな。」

 

「!

 分かりました!」

 

「レイディー!?」

 

「いいんだよミシガン!

 それでウインドラが救えるのなら。」

 

「カオス…。」

 

「………レイディーさん、

 やってください。」

 

「おうよ!

 ………つってもアタシがやることッて言ったら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイスニードル!!」パキパキパキッ

 

 

 

「?

 上空に氷を?」

 

 

 

「…後は…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

『フェデール様。』ピッ

 

「!

 何だい?

 セバスチャン。」

 

『たった今、研究所付近からフェデール様のいる辺りの上空に向けて何者かの極小規模な魔術が発動したもようでございます。』

 

「研究所から?

 で?

 それがどうかしたの?

 どうせここまで届く前に消えてるでしょ?

 今俺ここ守るのに忙しいからその程度の報告ならしなくていいよ?

 そいつは後で調べる。」

 

『いえですが…。』

 

「?

 何だよ?」チラッ

 

 

 

ピカッ

 

 

 

「(まぶし………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッ、ザッ、ザッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウォオオォォォッ!!!?」

 

 

 

「なっ!?

 ユーラス………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「まっ!

 こんな感じかな?」

 

「あの死んだフリしてた人が起き上がった!!」

 

「これで騎士団の人達もこの戦いを止めてくれるでしょうね。」

 

「そうだな。

 連中には残酷なことも伝えちまうがこれなら流石に言い訳は出来ねぇだろうよ。

 なんたってダリントンの体だと思ってた死体が動き出したんだ。

 あそこで踊らされてる連中も自分達がしなくていい戦いをしてたことに気付く筈さ。」



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仲間割れ

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 遂に始まった開戦式にて騎士団長フェデールが処刑を執り行うことになりそれを止めに入ろうとダリントンが現れる。

 そしてそのダリントンが騎士と相討ちになるがダリントンの死体が不自然なことにカオス達が気付く。

 カオス達はそれを伝えようとするが…。


王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「なっ、何だ!?

 ダリントンの体が動いているぞ!?」

 

「どうなってるんだ!?

 まさかヴェノム!!?」

 

「たっ、隊長!?

 生きてらし………!?」

 

「くっ、首がないままさっき声出したよな!?

 あれ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………誰の援護かは分からないが事態を伝えることができたのは有り難い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「何だと!?

 ダリントンの体が動きやがった!?

 アイツ不死身だったのか!?」

 

「………」

 

「…死に損ないがぁっ!!

 俺が火葬してやるよ!

 とっととくたばりやがれ!!

 千裂浄破ッ!!」ビシュシュシュシュ!!!

 

 

 

「!!

 馬鹿辞めろォッ!!?」ササササッ

 

 

 

「首なしの癖に大した動きだなッ!!

 だが「こ~ら。」いて!?」ポコン

 

 

 

「あんまり皆を驚かせるようなことしちゃ駄目じゃないか二人とも。」

 

 

 

「テメェッ!

 フェデール!

 首無しを庇うのか!?」

 

「…お前はこの期に及んでもまだ察せないのかい?

 馬鹿と天才は紙一重ってのはお前のためにあるような言葉だよな。」

 

「何言ってやがんだ!?

 ってかこの首無しダリントンは一体何だ!?」

 

「…もういいよ。

 

 

 

 ユーラス。」

 

「あぁ?

 ユーラスだぁ?

 ユーラスがどこにいるってんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プハァッ!!

 あぁ~キツかった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「あれは…!?

 バルツィエの隊長ッ!!?

 ユーラス=オル・バルツィエ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「そうか、奴がダリントンに成り代わってたんだな。

 アタシとしたことがバルツィエの隊長が一人いないことに気付かなかったとは…。

 今やバルツィエの勢力の方が数が多いからダリントン側の方に目がいっちまってたわ。」

 

「レイディーさん!

 あの人もバルツィエの…!?」

 

「あぁ、ユーラス=オル・バルツィエ、

 バルツィエの隊長だ。

 道楽好きで有名な奴で腕もかなりのものだ。」

 

「あの人が………

 ダリントンって人の頭を…?」

 

「あの野郎ならそんくらいやるだろうな。

 目立ちたがりやで人を驚かせるのが趣味みてぇなやつだから。

 …今度のこれは驚くなんてもんじゃねぇが…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「はぁ!?

 テメェッ!?

 ユーラスッ!!?

 いねぇと思ったら何してんだテメェッ!!?」

 

「はぁ~ッ!!

 ようやく窮屈な体制から解放されたぜ。

 いや~、頭が冷たかったなぁ~。

 凍った頭をずっと首の上に乗せてたから~、

 フェデール、俺の首元どうかなってない?」

 

「う~ん、

 ちょっと痕がついてるねぇ。」

 

「やっぱし~?

 ラーゲッツ、ちょっと首元温めてくれ。」

 

「ちょっと待てェッ!!?

 フェデール!

 ユーラス!

 まさかとは思うがこれは始めから計画されてたことなのか!?」

 

「?

 今更何言ってるんだよ?

 聞いてなかったのか?」

 

「聞いてねぇよ!?

 何で俺だけ知らされてねぇんだ!!?」

 

「?

 フェデール~?」

 

「…何も知らずにいつも通り素で動いてくれる奴がいた方がギャラリーも吊られて騙されてくれるだろう?

 お前はいい働きをしてくれたよラーゲッツ。

 お前があんまりにも思い通りに動いてくれるから俺も途中笑いだしそうになったがな。」

 

「……ッ!!?

 始めから俺はテメェらにコケにされてたってことかぁッ!!?

 この性悪共がァッ!!!」

 

「まぁまぁ、落ち着けって。

 今回の作戦はお前がいてくれたおかげで成功を納められたんだ。

 誇れよラーゲッツ。」

 

「こんのォォッ!!?

 道理で俺の隊以外がやけに関わってこねぇ上にダリントンが異常に強いしフェデールもあっさり吹っ飛ばされてると思ったら最初からこうなるって皆して知ってやがったんだな!!?

 クソ共が俺を道具に使いやがってッ!!」

 

「まぁまぁ抑えて抑えて。

 ご褒美に残った残党はお前に譲ってやるからそのイライラはアイツらにぶつけてやんなよ?

 どうせ大した数残っちゃいねぇけど。」

 

「……!!

 まぁそれで許してやるッ!!

けど後でキッチリ、テメェらには話を聞かせてもらうからな!!?」

 

 

 

「………さぁて?

 宛にしていたお山の大将が片方は始めからいなくてもう片方はたった今死んだけどまだやる気のある奴等はいるのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な………!?

 さっきまでのダリントンがユーラス=オル・バルツィエの擬装だっただと…!?」

 

「隊長は…!?

 隊長は今どこに…!?」

 

 

 

「ん~ん?

 あぁ~!

 まだ分かってない奴がいるらしいな。

 ほらっ」ゲシッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴンッ!ゴロゴロゴロッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「体は別人だけど首から上は本人だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっ………そんな!?」

 

「ダリントン隊長が既に死んでいた…!?」

 

「ダリントンが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らせが遅れて申し訳ないねぇ。

 ダリントンはとっくに処刑済みだったのよ~ん♪

 ………でも薄々感ずいてたろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「なんとか下の混乱は収まったが…、

 固まっちまって士気は最悪だな。

 つい今しがた騙されていたとはいえ味方同士で殺し合いしちまったんだから無理もないが。」

 

「………大分ウインドラの部隊の人が減りましたね。

 これじゃあ………。」

 

「どうにかならないの!?

 せっかく誤解が解けたのに!!」

 

「嘘に騙されていたとはいえ本来無実の味方を殺しちまったんだ。

 殺し合いは収まっても統制を取るのは難しい。

 対してあちらは都民達を抑えるのに手間どってるようだが所詮素人の乱撃なんざ掠り傷負うことはあっても死ぬようなものじゃねぇ。

 はなっから数で圧倒されてるのにそれを自分達で減らしちまってんだ。

 残っちまったあの隊員達の心の中はまさに絶望の闇だな。」

 

「………こんな騙すようなやり方、

 とても騎士なんかじゃない!!」

 

「…残念だがその認識は違うな。

 あのダリントンやバーナンの隊も数を補うために不意打ちかまそうとしてたみたいだ。

 そう言ったとこは両軍とも差はねぇ。

 差があったのは数と策略の効率性だ。

 この催しは最初から主導権はバルツィエ側にあった。

 そこを上手く使われてこの結果に終わった。

 ただそれだけだ。

 ここから巻き返すのはもう不可能だ。」

 

「!

 まだ終わってないですよ!?

 あっちにいる街の人達も含めればバルツィエの騎士団よりも…!」

 

「前にも言ったろ?

 バルツィエはバルツィエだけでダレイオスと戦争が出来るって。

 この場にいるバルツィエは数人くらいしかいねぇがそれらは未だに健在だ。

 一人も削れてねぇ上にダリントン達の部隊は主力としていた将が共に死んだ。

 後に待っているのはただの残党狩りだ。

 それに将がいなくてあっちの都民共も活気が無くなってきてるぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「会長が………亡くなられた…?」

 

「ダリントンも…。」

 

「じゃ、じゃあ………誰がバルツィエを倒すんだ…?」

 

「ひっ、怯むな!?

 数で圧せばバルツィエだって…!!」

 

「ならお前が先に行けよ!?」

 

「何で俺が!?」

 

「数で圧せばバルツィエに勝てるんだろ!?

 なら先にお前が先陣きれよ!!」

 

「いっ嫌だ!?

 俺はまだ死にたくないッ!!」

 

「じゃあどうすんだよ!?

 会長やダリントンがバルツィエと戦うって言うからこの流れに乗ったのに!?」

 

「知らねぇよ!?

 誰が何とかしてくれよッ!?」

 

「み、皆のもの!!

 静まるでござるッ!!」

 

 

 

ワァァァァァァァァァァァァァァッ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん!

 落ち着いて…!

 落ち着いて下さいッ!!」

 

「ちょっ、押さないで下さい!!

 …ッてッ!

 アローネさんッ!!」

 

「………メルザさんだけでもここから避難させたいのに…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「ダリントン隊長が………死んでいたってことは…。」

 

「………俺達の仲間は無意味にバーナンの隊の奴等に……。」

 

「バーナン隊の奴等めッ!!」

 

 

 

「おっ、俺達はダリントンが…………!

 隊長を殺したとばかり…!?」

 

「そっ、そうだ!?

 俺達も騙されたんだッ!!

 バルツィエの奴等に!?」

 

「俺達は悪くねぇっ!!?

 悪いのはバルツィエの奴等だ!!?

 俺達だって被害「煩い黙れッ!!」ぬあぁっ!!?」ズバッ!!

 

 

 

「よくも俺達の仲間を殺してくれたなバーナン隊ッ!?」

 

「貴様らに殺られた仲間の無念ッ!!

 貴様らの命で晴らさせてもらうぞッ!!」

 

 

 

「うっ、うわぁぁぁっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着けッ!!

 落ち着くんだッ!!?

 仲間同士でもう争うなァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ラーゲッツ進撃

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 開戦式にて偽物の死体を見抜いたカオス達はレイディーの機転により虚実を大衆に知らせることに成功するがそれでも剣は修まらず…。


王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「とうとうダリントンとことバーナンのとこが敵味方関係なくやりあい始めたな…。」

 

「何をしてるんだ…!?

 誤解は解けたのにどうして?」

 

「連中らは両方ともバルツィエに敵対してたようだがその前に互いに剣を向けあったことでその意識が上書きされたんだ。

 ………フェデールが関わってるだけあってそう易々と状況は覆せねぇか。

 こういうとこは流石としか言いようがねぇな。」

 

「敵の目の前で味方同士がやりあっても意味ないのに…!」

 

「アタシ達は外野だからそんなことが冷静に判断できるが向こうの奴等はそうも言ってられないんだろ。

 自分達に剣を向ける一番近い敵から排除しようといっぱいいっぱいなんだろうさ。

 なんせ統率者が両軍共にいないんだ。

 各々が身を守るために戦うしか出来ないんだろ。」

 

「…こんな状況になってまで…、

 ウインドラ達の作戦はまだなのか…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「死ねえッ!

 バーナン隊ッ!!」ザンッ!

 

 

 

「地獄に落ちろッ!

 ダリントン隊!!」ズバンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!!

 ………何か!

 何か皆を落ち着かせる方法は………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒイィィイヤッハハハハハハハハハッッッ!!!

 オラオラオラアッ!!

 ハーッハッハッハッハッッ!!!」シュシュシュシュシュシュッ!!!

 

「ぐあっ!?」「グハッ!!」「なっ…!?」「やっ、やめ…!?」「「うっウワァァァッ…!!?」………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 ………ラーゲッツ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファァァァァッ!ハハハッ!!!

 こんなもんかぁ!?

 こんなもんかよテメェらっ!!

 こんだけ弱いんなら纏めてかかってきた方がいいんじゃねぇかァッ!!!?

 同士討ちなんて下らねぇことしてねぇでよぉっ!!?」シュシュシュシュシュシュッ!!

 

 

 

「うっ…!?

 ダッ、ダリントン隊ッ!

 奴を止めろォォッ!!」

 

「バーナン隊ッ!!

 一旦俺が指揮を取るッ!!

 ラーゲッツをやれェッ!!」

 

 

 

オオオオオオオッ!!

 

 

 

「ハハハッ!!

 気分がいいぜッ!!

 こんなに大量の獲物!!

 俺一人で相手していいなんてよォッ!!」

 

 

 

「ファイヤーボールッ!!」ボシュッ!

 

 

 

「ケッ…!!」バフッ!

 

 

 

「!?」

 

 

 

「欲を言いやぁもちっと歯応えのある獲物を喰いたいもんだがなぁっ?」ザクッ

 

 

 

「ブッ…!?」ドサッ…

 

 

 

「おいおいおいッ!?

 もっと強い奴はテメェらの中にはいねぇのかッ!?

 こんなんじゃあ、不眠症になっちまうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラーゲッツめ……!

 ………俺がやるしかないのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「…!?

 あの方はこの間の…!?」

 

「ラーゲッツとかいうバルツィエの奴です…!」

 

「カオスの友人の部隊が殺られていきます…!

 あの中にはウインドラさんも………!?」

 

「あの突進力には誰も手に負えないんでしょう!

 あれを止められる人なんてバルツィエ以外にはいませんよ!」

 

「あのままでは部隊が全滅してしまいます……!?」

 

「何か騎士達に手は………。」

 

「!

 見てくださいタレス!

 あの先を………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウッハハハハハッ!!

 この勢いで皆殺しにしてやるぜッ!!

 反逆者共ッ!!」

 

 

 

「そうはさせんぞ!

 バルツィエ!」バッ

 

 

 

「何をさせねぇんだ?」シュッ!

 

 

 

「……うっ!」バタンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………テメェらはいつまで寝ぼけてんだ?

 ちったぁやる気出せよ?

 殺しに来てる相手に手を抜いてる場合じゃねぇだろ?

 それともこの程度が本気だとでも言うのかよ?

 どいつこいつも兵隊のくせして民衆どもと変わらねぇだろ。

 よくそれで…

 ………あぁ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ゲホッ………。」

 

 

 

「………テメェはさっきのカラサスのガキ…。

 何の真似だ?

 俺を止めようってのか?」

 

 

 

「もう………止めろよ。

 お前達がやってるのは…

 ただの殺人だ。

 お前達こそが悪い奴等じゃないか。

 お前達が死ぬべきなんだ!」

 

 

 

「………ハハハッ!

 まさかこんなガキが今日一番威勢がいいなんてなぁ!

 おい?

 俺の前に立つってことがどういうことか分かってんだろうなぁ?」

 

 

 

「………お前をこれ以上好きにはさせない。」

 

 

 

「さっきまでブルブルブル震えてたのにフェデールに蹴り入れられてどっかおかしくなったのか?

 テメェに止められる程俺は弱く見えるか?

 …フェデール!

 コイツ………俺が殺ってもいいんだよな!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、殺しても問題ないよ。

 カラサスの血が残っていたなんて俺の名に傷がつく恥だ。」

 

 

 

「だそうだ。

 侯爵様からお許しが出たぜぇ?

 カラサス男爵さんよぉ?

 それじゃあ本日最高の粋のある獲物みてぇだが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あばよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「ダニエル君っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「ダニエル君がッ…!?」

 

「!

 あいつは………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィンッ………………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あぁん?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「テメェは…?

 ………この前門のとこにいた兵隊…?」

 

 

 

「これ以上は俺が許さんぞ。

 バルツィエ…。」

 

 

 

「………横からしゃしゃり出てきてたまたま俺の一撃を止められたくれぇでいい気になんなよ。

 テメェもユーラスの真似事かぁ?

 うっとおしいんだよ!!」シュッ!

 

 

 

「フンッ!」キィンッ!

 

 

 

「あぁ?」

 

 

 

「掌底破ッ!!」ドンッ!

 

 

 

「おぶふっ!?」ドフッ!…ゴロゴロゴロッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「有り難う…、

 少年………。

 君のおかげで機会が回ってきた。

 

 

 

 後は俺に全て任せろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「何やってんだラーゲッツの奴。

 ぶっ飛ばされてやんの。」

 

「…アイツはダリントンの部隊の騎士……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「………助かった。

 ウインドラがダニエル君を救ってくれたみたいだ。」

 

「今あの人の攻撃を防いだよね!?

 ウインドラが…!?」

 

「………お前の友人ちっとは腕に覚えがあるようだな。

 ここからどうするつもりだ?

 大衆がこの後に期待してるぜ。」

 

「!

 いつの間にか街の人達や騎士の人達が静かになってる…!?」

 

「カオス!

 皆ウインドラ達を見てるよ!?」

 

「お前の友人はそれくらいのことをしてんだよ。

 あのラーゲッツはバルツィエでも突貫力が随一と言われてるような奴だ。

 それを止めるどころか逆に突き飛ばしやがった…。

 

 

 

 皆気になんのさ。

 ダリントンとバーナン以外でバルツィエに対抗できる奴が現れたことに。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………、

 

 

 

「あの騎士の方がダニエル君を守ってくれました!」

 

「…またバルツィエの作戦ではないでしょうか。

 このように注目を集めてまたふざけた遊びでも…。」

 

「あそこまで追い込みながらそれは無いでしょう…。

 あの騎士の方は………、

 きっとダニエル君の味方です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 西部 ???

 

 

 

「………とうとう動かれるのでございますね臣民様。

 そうでなくては私がお膳立てした意味がございません。」

 

「ブラム………?」

 

「………一人言でございますよダイン様。」

 

「そう………。」

 

「………しかしこの状況は一体…?」

 

「フェデールの作戦…。」

 

「フェデール様の………?

 !?

 もしやまだ何かおするつもりで…!?」

 

「そうみたい…。

 なんでも…

 こっちの方に来る反逆者を殺してって…。」

 

「と言うことはフェデール様の作戦ではこちらの方に反逆者を追い込む作戦を計画しているのございますか?

 ですが今中央には国民の皆さま方がお集まりしているご様子。

 あの中に紛れられては手の出しようが…。」

 

 

 

「大丈夫…。

 フェデールの計画には抜かりがない…。」

 

「それはどういった……?」

 

「………ここから先は疑いのある人には教えられない…。」

 

「………私は謀反の嫌疑がかけられているのでございますか?」

 

「うちは信用はしてる…。」

 

「…この場にいてはあちらにいる方々と連絡の取りようがございません。

 このような配置で疑いも何もないのでは?」

 

「それを証明するために今日うちがブラムを監視することになってる…。

 だから…、

 何もしないでね…?

 ブラムはうちの隣にいればいいの…。」

 

「………隊長職が二人もこのような所にいてよいのでしょうか?

 城の方が乱闘騒ぎがあったと先程「いいの」」

 

 

 

「そんなこと気にしなくていいの…。

 うちらはここで待ってればいいの…。

 ブラムの容疑はここで何も無ければ晴れるんだから…。」

 

「…そうでございますね。」

 

「忘れないでね…。

 もしブラムが黒だったら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時はうちがブラムを殺るんだから…。」



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カオス=バルツィエ

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 開戦式にて暴れだしたラーゲッツを止めるためウインドラが応戦する。

 果たしてウインドラは…。


王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「………何だこりゃぁ…?

 この俺がスッ転ばされるなんざ何年ぶり………、

 そういやぁ最近はフェデールに気絶させられまくってんなぁ。

 ………だが俺に片膝つかす奴はバルツィエ以外では初めてだ。

 テメェ何者だ?

 ただの雑魚じゃねぇな。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「そこらの雑魚どもにこんな力は出せねぇが…。

 そんなことよりも…」スッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィンッ!!

 

 

 

 

 

「…!」

 

 

 

「テメェはこの俺の進撃を止めたッ!

 こんな屈辱はあってはならねぇッ!!

 テメェが何者かは知らねぇが俺達バルツィエに刃向かったことを後悔させてやらねぇとこの俺の気が済まねぇッ!!」

 

 

 

「おかしなことを言うな?

 先程までは手応えのある相手を求めていたのではないのか?

 俺に対して何故そこまで激昂する?」

 

 

 

「雑草が俺に口答えするんじゃねぇぇぇッ!!」スッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スサササササササササササササササササササササササササササササササササササササササササササササササササササササササササッ!!!!!!

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「ハハハハハハッ!

 止められるものなら止めてみな!

 この速度についてこれるならな!?

 このまま蜂の巣にしてやるぜ!

 秋沙雨ッ!!」スサササッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここだッ!!

 神月烈破ッ!!」ドンッ!!

 

 

 

「うおあっ…!?」ザザッ…!

 

 

 

「何度やっても無駄だ。

 お前達の動きは既に予習済みなんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、おい!

 あの騎士…!

 バルツィエの攻撃を停めたぞ!?」

 

「それだけじゃねぇ!

 あの駿足に反応して攻撃を当てやがったッ!?」

 

「何なんだあの騎士は………!?

 あんなに強い奴がダリントンやバーナンの他にいたのか!?」

 

「一体誰なんだあの騎士は…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの騎士の方………どことなくカオスの容姿に似ています。」

 

「動きもバルツィエ達………どちらかと言うとカオスさんにそっくりですね。」

 

「まさか………あの方がウインドラさん…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「ウォォオォォォォォォオォォオオッッッ………!!」

 

 

 

「吼えるな。

 煩いぞ?」

 

 

 

「オオオオオ……!!

 ………フゥ…。

 そいつぁ悪かったな。

 なんせこの高揚が抑えられなくてよォ?

 雑魚共の中にこんな粒がいたとは…。

 バルツィエでもねぇクセにやるじゃねぇか。

 名を聞いとこうか。」

 

 

 

「………バルツィエでもない…か。」

 

 

 

「あぁ?

 そうだろうがよ?」

 

 

 

「まだ気付かないのか…?

 俺の使う剣技に…。」

 

 

 

「剣技が何だってんだ?

 そんなもん………、

 ………よく見てりゃ俺達の剣技に似てはいるが………。」

 

 

 

「………ハッキリと教えてやらねば分からんらしいな。

 ならば教えてやろう。

 俺の名は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス=バルツィエだッ!

 貴様らと同じくバルツィエの血を引く者ッ!!

 父に代わり貴様らバルツィエの悪行を聞き付け断罪しに参ったッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は!?

 ウインドラ………!?」

 

「今ウインドラ…………カオスの名前を………?」

 

「何だどうなってんだ?

 アイツお前の友人のウインドラって奴じゃなかったか?

 まさかお前………偽者か?」

 

「そんな訳無いでしょう!?」

 

「カオスはカオスだよ!

 あっちがウインドラ!

 ウインドラ=ケンドリュー!」

 

「…だがよ?

 アイツ、カオス=バルツィエって名乗ったぜ?

 アタシはどっちを信じたらいいんだ?」

 

「私達の方だよ!?

 ここまで一緒だったのにどうして私たちを疑うの!?」

 

「いやぁ………つわれてもアタシはお前らの村に行っただけで事情なんかよく知らねぇしよ。

 アイツとコイツが同じ名前名乗ったところでどっちが正しいのか分からねぇんだよ。

 ………どっちもカオス=バルツィエって名前なのかもしれねぇしな。」

 

「同時期に同じ村に同じ家から同じ名前の人がいる訳無いでしょう!?」

 

「いるかもしれねぇぞ?

 仮にも貴族の家なら息子が誘拐されないために影武者をたてることだってあるくらいだからな。」

 

「うちはそんなことしてませんよ!

 アイツは………ウインドラ=ケンドリュー。

 影武者でもなんでもない俺の友達です…。」

 

「そうだよ………、

 私達はずっと一緒だった友達で家族…。

 誰が誰の代わりだったなんて有り得ない…。」

 

「ふ~ん?

 そうか。

 だが現に目の前でアイツはお前の名前を騙ってるぞ?

 アイツは何がしたくてお前の名前を騙ってんだ?」

 

「それは俺にも………。」

 

「………今は様子を見るしかねぇか。

 どうやらラーゲッツ相手にも善戦してるようだしな。

 お前のお友達が何をしてぇのかはそれからだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「え!?

 カオス!?」

 

「…あの人が?」

 

「でもあの人はカオスではありませんよ…?」

 

「何を言っているのでしょうか…?

 どうしてあの騎士はカオスさんの名前を………?」

 

「まさかまたサハーンと同じで誰かが変装を!?」

 

「………いえそれは無いです。

 あの格好は全然カオスさんとは違いますし何よりこの場にいる人がカオスさんのことを知っている限りあの人がカオスさんに変装しても意味がありませんよ。」

 

「この街にいる方は手配書で皆さんはカオスの顔を知っている筈です。

 ということはあの方がカオスと名乗っても直ぐに嘘だと発覚してしまうのでは…?」

 

「…あの騎士がどういう考えでカオスさんの名を名乗ったのかは分かりませんが今はあの戦いを見届けるしかありません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んだとぉ?

 テメェがカオス=バルツィエだぁ?

 手配書と全然顔が違うじゃねぇか!?

 下らねぇ冗談言ってんじゃねぇぞッ!!」

 

 

 

「別に冗談は言ってない。

 これが俺の本来の名前だ。

 この街に来て身分を隠す必要性があったので友人の名前を借りて騎士には入隊はしたが間違いなく俺はカオス=バルツィエだ。」

 

 

 

「友人だァ!?

 じゃああの手配書の男は誰なんだよ!?」

 

 

 

「奴こそが俺がこの王都で名を借りているウインドラ=ケンドリューだ。

 アイツが何故俺の名を使っているのかは知らないがそんな些細なことは今この時の俺には関係ない。

 

 

 

 ここで貴様らバルツィエを倒せば俺が俺という証明になるだろう。」

 

 

 

「………複雑な事情があるようだがそんなこたァテメェの実力を計りゃ見えてくるこったな。

 テメェが本当に“バルツィエの血を引く者”だってなぁ!!」スッ

 

 

 

「こちらこそ!

 それを望むところだッ!!」



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曖昧な事実

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 開戦式の途中暴れだしたラーゲッツを止めるためウインドラがラーゲッツに攻撃を仕掛ける。

 そしてウインドラは自らのことをカオスだと名乗るが…。


王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギキィィィィンッ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「あのカオス………と名乗った方………。

 あのバルツィエの方と互角に剣を交わしている…。」

 

「凄い………。

 カオスさん以外にバルツィエとまともに戦える人がいただなんて………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、何だあの騎士は………。」

 

 

 

「バルツィエの………、

 ラーゲッツと対等に戦ってる奴なんざ初めて見たぜ………。」

 

 

 

「まさか………、

 本当にバルツィエの…………!?」

 

 

 

「じゃああの手配書の奴は………誰なんだ!?」

 

 

 

「手配書の奴もイクアダでバルツィエを倒したって話だぜ!?」

 

 

 

「けどあれは子供のバルツィエだったんだろ!?

 こっちのカオスは………本物のバルツィエと戦ってんだぞ!?」

 

 

 

「それでこんな戦いが出来るなんて………!!」

 

 

 

「まさか本当に………バルツィエの………。

 アルバート様の御子息………!?」

 

 

 

「どうなってるんだ!!?

 カオス=バルツィエが二人いるなんて!?」

 

 

 

「アルバート様の子供が………二人いたってことか!?」

 

 

 

「馬鹿言うなよ!

 兄弟だって言うならなんで別々のところにいるんだよ!?」

 

 

 

「どちらかが偽者ってことか…!?」

 

 

 

「………俺はこっちのカオス様が本物のアルバート様の御子息だと思う………。」

 

 

 

「何でだよ!

 手配書のカオス様の方が本物だろ!?

 あっちはアルバート様が行方不明になった辺りにいたって話だぞ!?」

 

 

 

「だがよ!?

 こんな戦闘間近で見せられちゃこっちが本物のアルバート様の子供だとしか思えねぇぜ!?

 あっちの手配書の方はイクアダ以外ではそんな対したことしてないしよ!

 今こうして戦ってるあの人が………アルバート様の子供だったって言う方が納得がいくぞ!?」

 

 

 

「………言われてみれば。」

 

 

 

「…ってことは本当にアルバート様の………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう言うことでござるか!?

 あの騎士殿は我輩に今日のことをいろいろ伝えてきた騎士殿でござるぅ!?

 それがどうしてこんなことに!?

 あの騎士殿がカオス様でアルバート様の御子息だったのでござるかぁ!?

 そんなこと一言も聞いてはおらんでござるぞぉ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「………そういうことか。」

 

「レイディーさん?」

 

「どうやらあの騎士はお前に成り代わろうとしてたようだな。」

 

「俺に?」

 

「どうしてウインドラがそんなことを…!?」

 

「ながらくこの国にはアルバートのような英雄が不在だった。

 それでお前の名を利用したのさ。

 アルバートが死んだ今…、

 代わりに名が上がる奴の名を。

 それがお前だったのさ。」

 

「何故俺なんですか!?」

 

「この国を救おうってからにはそれなりに強さと信憑性が必要になる。

 血筋や強さへの説得力がな。

 その点に関してはアルバートなら皆信用がきく。

 昔のアルバートならこの国のピンチには必ず現れるだろうってな。

 だがそのアルバートは失敗者だ。

 アルバートが出てきたところでまた逃げ出すかもしれねぇ…。

 そこでその息子が候補に上がったんだろう。

 息子なら潔白だしな。

 ここでバルツィエを倒そうものなら民衆は皆お前の名を使うあの騎士を支持するだろう。」

 

「潔白って………。

 …潔白のつもりですけど俺は一応騎士団に手をあげた賞金首なんですよ?

 そんな俺の名前が民衆に支持される訳が…。」

 

「悪党にもいろいろあるがな。

 金目的の強盗やイカれた殺人狂…。

 お前と合流するまでに『カオス=バルツィエ』のことは結構調べたがそのどれもがお前のことを王国に仇なすテロリストと教えてくれた。

 お前が動く事件は少ないが全部王国に対して敵対するもの。

 それ以外はカストルで普通にギルドに通うものだった。

 王国………つまりバルツィエに敵対的な犯罪者だ。

 民衆はバルツィエに喧嘩吹っ掛けるお前みたいなテロリストが大好きなんだよ。」

 

「テロリストって………(汗)」

 

「でもそれならカオスが直接戦ってくれってお願いされるんじゃないの?」

 

 

 

「…!」

 

 

 

「…その反応だとアイツから進言されたらしいな。

 それを拒否ったか。」

 

「………はい。」

 

「そりゃ頷けるな。

 アイツらの作戦だとお前はアルバートの後任をしろってことになるからな。

 あんな大衆の前でアルバートと同じレベルを求められるなんざ田舎者には荷が重たすぎる。」

 

「レイディー、

 言い方!」

 

「………」

 

「…どっちみちお前が拒否ろうが受け入れようが関係なかったろうな。

 お前はただ名前が売れてくれるだけでよかったんだから。」

 

「名前が売れる?」

 

「お前を賞金首にした連中も一枚噛んでそうだな。

 先ずアルバートが生存していたと言う事実をマテオ全土に知らしめないといけねぇ。

 その為にもお前という存在を国中に広めて尚且つ現バルツィエと敵対関係にあることを示しておく。

 ………この作戦を即興で考え付いた奴はどんな野郎なんだろうな。」

 

「………ブラム=バベル!」

 

「そう!

 ブラムさんだよ!

 カオスの手配書作ったの!

 絶対そう!」

 

「ブラムかぁ…。

 バルツィエの手下だと思ってたがその認識を改めねぇとな。

 ブラムはバルツィエの敵対側だったか。

 潜入班ってとこか。」

 

「ブラムがバルツィエに敵対?

 どうしてそこまで言えるんですか?」

 

「なぁ、ミシガン。

 アタシ達結構ミストにいたけどあの村にも外の情報とかは流れてきてたよな?」

 

「そうだけど………?」

 

「この坊やのことは何か載ってる記事は騎士団の奴等から渡されたか?」

 

「そういえば…カオスの記事は読んだことなかったね。

 一歩村を出て他の街に行ったらカオスのことがびっしり書かれてた新聞とかあったのに…。」

 

「え…?」

 

「そうなんだよ。

 新聞ってのは時折情報を見落としちまうことがあるから手に入れたら暫く持ち歩くようにしてるんだがリトビアって街に配られてた新聞は数日前からお前の情報を載せてたにも関わらずミストに届いていた新聞は編集されて一切坊やの事が載ってなかった。

 まるでミストにだけは坊やの事を伝えないようにな。」

 

「なんでそんなことを…?」

 

「ここまで言って分からねぇのか?

 坊やは名前を上げてくれるだけでいい。

 それだけしてくれりゃ後は用無しってこった。

 名前さえ上げてもらえりゃ後は民衆が勝手に盛り上がってくれる。

 坊やが途中で捕まったりすりゃその上がった熱を下げちまうだろうが。

 坊やはそのままミストにいてさえしてくれりゃ安全だったんだよ。

 あんなド田舎にはそうそうブラムの騎士団以外に来ねぇし情報も操作できる。

 それに万が一、賞金首の話が漏れてもあのミストには金なんてもので目が眩むような奴はいねぇ。

 最初から坊やの事をどうこうしようって話じゃなかったってこった。」

 

「そんな!?

 じゃあカオスは始めから出ていかなくてもよかったってことなの!?」

 

「そういうこったな。」

 

「何よそれぇ!!」

 

「………いえ、切っ掛けはどうあれ俺は出ていってたと思います。」

 

「カオス?」

 

「あの時はアローネを犯罪者みたいに連れていかれそうになってそれを邪魔しちゃったから出ていくことになったけど…

 俺はミストから解放されたかったから…

 今こうして外の世界に出ていくことになったのも俺の意思です。」

 

「カオス…。

 ミストのことをそんな風に…。」

 

「外の世界を知ってどうだ?

 アルバートの偉大さが分かったか?

 あの民衆はアルバートがあったからこそああしてあのお前の友人に目を向けてんだぜ?」

 

「そうですね……。」

 

「一度はアイツの誘い蹴ったんだろ?

 また乗って見る気はねぇか?」

 

「?

 何を言ってるんですか?」

 

「ここまでの作戦の流れで気付いたがアイツらは二つの誤算があるようだ。

 一つはお前が旅に出たこと。

 そしてもう一つは………。」



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奥義衝突

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 開戦式にてバルツィエのラーゲッツとダリントン隊のウインドラが戦うことになった。

 ウインドラが自らをカオス=バルツィエと名乗ったことにより広場全体が混乱を起こすが…。


王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!

 楽しいねぇ!

 楽しいぜぇ!!

 こりゃあ!!

 こんな強敵が騎士団の中に隠れてたなんてなぁ!!」スサササッ!!

 

 

 

「………クッ!!」キンキンキンッ!!

 

 

 

「どうしたどうしたぁ!?

 それが限界かぁッ!!?

 まだ序の口程度しか力は出してねぇんだけどなぁ!!」スッスッスッ!!

 

 

 

「…!

 瞬迅剣ッ!!」シュッ!

 

 

 

「オラッ!」バキンッ!

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルクルクルッ…カラーン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素直に槍を使えよ?

 そっちがお前のメインなんだろ?」

 

 

 

「………ではそうさせてもらおうか!!

 瞬迅槍ッ!!」シュッ!!

 

 

 

「ほいきたぁッ!!」スッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スサササササササササササッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………この俺にはもうその速度は通用しないぞ?

 俺の回りを駆け回ったところで………。

 ………!?」キィィンッ!!

 

 

 

「防がれたか。

 俺もお前と同じで突き専門なんだがな。

 どうやら体術では決着が付かんらしい……。

 だったら…!!」バッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」ググッ

 

 

 

「ここはバルツィエならバルツィエらしく火力勝負といこうじゃねぇか!!

 テメェもバルツィエなら見せてみろよ!!

 テメェの最大火力をよぉ!!?」

 

 

 

「………受けてたとう!!」

 

 

 

「そう来ねぇとなぁ!!

 バルツィエを名乗るんならこれぐらい張り合ってもらわないと詰まらねぇぜ!!

 行くぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「オーバーリミッツ!!」」パァァッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど!!

 バルツィエを名乗るからにはこれぐらいマスターして来てたか!

 それなら俺も遠慮なく撃てそうだぜ!!」

 

 

 

「貴様の攻撃などこの俺が撃ち抜いてくれる!!

 このカオス=バルツィエがな!!」

 

 

 

「テメェがバルツィエかどうかなんてもうどうだっていい!!

 テメェが俺と対等に戦える戦士だってのは認めてやるよ!!

 だがそいつはこの一撃を耐えてからの話だがなぁ!!」

 

 

 

「無論貴様の攻撃ごと跳ね返してやるさ!!」

 

 

 

「大口叩くねぇ!!

 かかってきなぁ!!」

 

 

 

「いざ参るッ!!

 『落雷よ!我が手となりて敵を撃ち払え!ライトニング!!』」パァァッ…ピシャァァ!!

 

 

 

「へぇ!

 そうやって槍に電気を流すのか!

 じゃあこっちも準備させてもらおうか!!

 『火炎よ!我が手となりて敵を焼き尽くせ!ファイヤーボール!!』」シュボボボボボボボボボッ!!

 

 

 

「ファイヤーボールの八連追撃か…!

 そのくらいなら…!」

 

 

 

「まだ終わりじゃねぇぜ!

 こいつを………!」グググ…

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボオオォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(巨大な火球に………!?)」

 

 

 

「これが俺の最大出力!!

 『グレムリンフレア』だ!!

 俺はこの技でダレイオスの街を一つ焼き払ったことがあるぜ!!」

 

 

 

「………大した火力だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラーゲッツの馬鹿が…。

 そんなもん撃ったら街が半壊するだろうが…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おいヤバくねぇか!?

 あんなもん発射されたら俺達も巻き添えに!!?」

 

「はっ、早く逃げるぞ!?

 ここにいたら危険だ!!」

 

「おっ、おう!

 じゃ、じゃあ怪我人を連れて離れよう!!」

 

「そうだな!

 よし、逃げるぞ!」ガッ

 

「おい!

 お前起きろ!

 ここにいたら危ない!

 避難するぞ!!」ガッ

 

「…すっ、すまない………

 俺はもう………。」

 

「諦めるな今すぐ助けて」ドンッ!

 

「おい何を立ち止まって…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「騎士団長………フェデール………!?」

 

 

 

「………………ん?

 あぁ、君達はバーナン隊の………。

 逃げるんならさっさと行きなよ?

 俺は別に追いかけたりしないからいいよ?」

 

 

 

「なっ、何ィッ!?」

 

 

 

「君らみたいなチリは放っておいてもいいからさ。

 好きなところに行きなよ。」

 

 

 

「貴様!?

 我等を侮辱…「待て!!今は怪我人を手当てするのが先だ!見逃してもらえるのなら有り難い!」」

 

「………そうだな。

 騎士団長、我々バーナン隊は本日より騎士団を辞職致します!

 それでは………。」ザッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「さぁ!!

 お互い準備も整ったところで力比べと行こうか!!」

 

 

 

「そんな火花に俺が止められるとでも?」

 

 

 

「俺のグレムリンフレアを甘く見てると火傷じゃすまねぇぜ!!

 

 

 

 喰らいな!!

 カオス=バルツィエ!!」ゴォォォォォッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……瞬雷槍ッッッ!!!」バァァァァァァァァン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォォオオオォォンッ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ィッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりだ!!

 バルツィエ!!」シュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グサッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐぉぉぉぉああああああああああああっ!!?」バリバリバリバリバリバリッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「やっ!?

 やりおった!!?

 やりおったでござる!!?

 あの騎士殿がぁッ!!?」

 

「バルツィエが………倒された…!?」

 

「ラーゲッツ=ギルトが倒されたァ~!!!」

 

「いける!!

 いけるぞあの騎士!!」

 

「やっぱりアルバート様のご子息様だったんだぁ~!!!」

 

「この調子で他のバルツィエもやっちまってくれぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの方がバルツィエの一人を撃ち取ったようですね…。」

 

「信じられません………。

 この世にバルツィエを倒せる人がいたなんて………。」

 

「あのカオスと同じ名前の方は一体………?」

 

「それよりもあの人が次に他のバルツィエを………、

 ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ハァ…ハァ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、

 偽者のカオス君こんにちは。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」バッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処を向いているんだい?

 俺はこっちだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?

 貴さ「はいストップ。」ぐあっ!?」ドスッ

 

 

 

「よくラーゲッツを倒したね?

 アイツはあれでも魔力だけなら俺と同じくらいはあるんだけどねぇ。

 それを倒したとなると君は俺達にとって十分驚異だよ。」ゲシッ

 

 

 

「騎士団長!

 フェデール………!!」グググッ

 

 

 

「まさかダリントン達がこんな隠し玉を持ってたなんて思わなかったよ。

 実際のところはあの手配書の彼こそが本命だと思ってたんだけどねぇ。

 してやられた気分だよ。

 おめでとう。

 君達は俺の裏をかくことに成功したわけだ。」

 

 

 

「貴様なぞに誉められたところで…!!」

 

 

 

「有り難く受け取っておきなよ。

 俺が人を誉めるなんて滅多にないことだからさ。

 君達は相応に見合ったことをしでかしたんだ。

 俺も少し舐めてたとこがあったよ。

 反省しなくちゃね。」グリグリ

 

 

 

「ぐぅぅ………!」

 

 

 

「………でも君らの作戦にはダリントンとバーナンっていう手駒があってこそだろ?

 君がどういう経緯でそこまでの力を付けたかは知らないけど流石にラーゲッツとの戦いで疲弊しているね。

 君を休ませてくれるダリントンとバーナンっていう兵隊がいてくれたら君も………

 ユーラスくらいまでなら撃ち取れただろうに。」

 

 

 

「お、俺が貴様をォッ!!」

 

 

 

「何?

 俺まで倒そうっての?

 欲張りだなぁ。

 けど君には無理だよ。

 君のような紛い物じゃあ…。」

 

 

 

「…!?」

 

 

 

「誰も君とカオス君を知らないのをいいことにバルツィエのスキルを真似てカオス君に成りきってたようだけど長年いろんな奴を見てきた俺から言わせてもらえば君の動きは俺達バルツィエの動きを模倣しちゃいるが体に相当負担かけてるだろ?

 無理に再現しようとしているのが見え見えだよ。

 俺達バルツィエの体術は普通の奴等には決して真似できない。

 そういう仕組みになってるから。」

 

 

 

「俺は…!

 バルツィエだ!!」

 

 

 

「違うだろ?

 その証拠に君は飛葉翻歩すら使えない。

 あれはバルツィエの血筋を持つ者ならやり方さえ分かれば誰でも最初に簡単に身に付けられる初歩だ。

 魔神剣なんかよりもね。」

 

 

 

「…!?」

 

 

 

「バルツィエは何も火力だけじゃないんだ。

 君はどうしてもバルツィエになりたかったみたいだけど君は出だしで挫かれてるんだよ偽者君?

 いや………ウインドラ=ケンドリュー隊長補佐?」

 

 

 

「クソッ…!!

 こんなことで俺が……!!」

 

 

 

「ラーゲッツを倒した功績を讃えてもう一つ君には教えてあげようか。

 君達が敗けた答え合わせを…

 それはね………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前達のような有象無象の劣等種がいくら積んだところで俺達バルツィエのような選ばれた“本物の人間”には勝てないってことさ。」



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ウインドラの限界

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 開戦式にて突如始まったウインドラとバルツィエ、ラーゲッツとの戦いでウインドラは勝利するが…。


王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「このぉッ………!!

 足を退けやがれッ!!

 フェデール!!」

 

「ん~?

 どうしよっかぁ…。

 無謀にも一人で粋がったウインドラ君にはこの先は必要かな?

 君がその特殊な魔力をどうやって手にしたかは気になるけど所詮はラーゲッツを殺すだけで手一杯みたいだしなぁ。」

 

「貴様らバルツィエはそういって何もかもを斬り殺すのか!!

 アルバさんは…!!

 アルバート=ディランは貴様らがそんなだから………!!」

 

「おぉ?

 ここでその名前出しちゃうの?

 いいのかなぁ。

 そんなこと言って…。

 君のその剣術はアルバートから直接学んだんだろ?

 道理で君の動きがバルツィエのものに近いわけだ。」

 

「アルバート=ディランは貴様らの暴虐を決して許しは「許さないとどうなるの?」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「許さなかったからってどうにも出来ないんだろ?

 ほらほら皆に教えてやんなよ。

 君の義理のお父さんがどうなったかをさ。

 皆そこが気になってるんだよ?」

 

 

 

「!!

 フェデール何を!!?」

 

 

 

「正直に言いなよ。

 この場にアルバートじゃなくて君が来たことで察しはついてる奴もいるだろうさ。

 アルバート=ディランが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうこの世にはいないってことをさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルバート様がいない………?」

 

 

 

「いない………、

 死んだってことか………?」

 

 

 

「アルバート様が………?」

 

 

 

「嘘だろ………?

 あの人が………。」

 

 

 

「俺達を残して………

 死んだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何だか街の方達の様子が…。」

 

「どうしたのでしょうか?

 アルバート=ディランは元々そういう話だったのでは…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「見てごらんよアイツら。

 すっかり覇気が無くなっちゃったね。

 君達が希望を持たすようなことをするからあんなことになっちゃったんだよ?

 どうするのあれ。」

 

 

 

「フェデール!!

 お前はなんてことを!!」グググッ!

 

 

 

「何ってこれがお前達の作戦だったんだろ?

 潰すのは当たり前じゃないか。

 『アルバート=ディラン生存説の後押し』

 あれほどの男がそう簡単に死ぬ訳がない。

 きっとまだ何処かで生きている。

 だがそれを肯定する材料がない。

 ならそれを用意すればいい。

 それを用意すれば俺達バルツィエに反感を持つ連中を焚き付けて共にバルツィエを倒す為に立ち上がってくれる筈だ。

 数を集めればバルツィエにだって敵うだろう多分、

 ってね。

 

 残念だったねこうなって。

 このゲームは俺達の勝ちだ。

 後はバルツィエのワンサイドゲームにしかならないよ。

 君達の作戦は見事バルツィエ組が打ち砕いたってことだ。」

 

 

 

「畜生!!

 ここまで来て………!!」

 

 

 

「ここまで来てなんなのさ?

 バルツィエには俺を始めユーラスやダイン、ランドール、アレックス………

 他にも俺達の側にはセバスチャンとかもついてる。

 君一人じゃ到底捌ききれない猛者がゴロゴロいるんだ。

 ここで嘆いたところでいつか同じ結果が待ち受けてただけさ。

 早めに次に進めて良かったじゃない?

 次をやる機会はもうないけどね。」

 

 

 

「おのれぇ………!!」

 

 

 

「まぁ、君達が早めにことを起こしてくれてよかったよ。

 これからダレイオスを攻め込む前に国内の反乱者を清掃できて。

 おかげでダレイオスに勝利した後に控えている『世界統合計画』がやり易くてすむ。」

 

 

 

「何が世界統合計画だ!!

 そんなものはただの自分達を神格化してその他の人々をバルツィエに隷属させるだけのただの妄言だ!!

 そんなお前達に都合のいい世界を本当に作るつもりなのか!!」

 

 

 

「作るつもりなのかと聞かれたら作るつもりだけどそれがなにか?」

 

 

 

「!?」

 

 

 

「………この世界を手にするのは最終的に力を持つものだけさ。

 俺達にはその力がある。

 それを実行に移すのに何のためらいがある?

 お前達劣等種だって俺達が他国を侵略するとき喜んで戦場に送るじゃないか。

 行って帰ってくるか分からない場所へとね。

 そんな場所にお前達を代表して行ってやってるんだ。

 多少権力の幅を広げても文句は言わせないよ?

 それにこの国が今まで平和だったのも俺達のおかげなんだ。

 俺達がいなかったら今頃マテオはヴェノムに支配されていただろうに。」

 

 

 

「だからと言って貴様達の都民への暴力や誘拐を見逃せと言うのか!!?」

 

 

 

「そこは目をつぶってほしいな。

 俺やアレックスだってちゃんと他の馬鹿共には言ってあるんだよ?

 あんまし人様に迷惑をかけるなって。

 でもさぁ、なまじ権力のある家に生まれて好き勝手やってきた連中だからさぁ、

 俺達も抑えきれないんだよ。

 分かる?

 この苦労が?

 お前達の方こそちょっかいかけられないように気を付けて欲しいなぁ。」

 

 

 

「それが出来ていたら今頃お前らに殺されたりするような人は…!!」

 

 

 

「ほら?

 お前らだってちゃんとしてないだろ?

 だから馬鹿共にいいようにされちゃうんだよ。

 俺達ばかり責めないでほしいねぇ。

 肉食モンスターが肉を前にして食らい付かない訳ないだろうが。」

 

 

 

「バルツィエなぞの自分勝手な理屈でぇッ!!」

 

 

 

「………君とこれ以上押し問答しても仕方ないね。

 勝負は付いているんだから。

 君もダリントンに会いたくなってきたんじゃないか?」

 

 

 

「……!?」

 

 

 

「じゃあ民衆に君との決着を見せつけてやろうぜ?

 やっぱり俺達バルツィエが絶対的に無敵だったってさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外 カオスサイド

 

 

 

「…!!」バッ

 

 

 

「カオス!?

 まさか行くの!?」

 

 

 

「行くに決まってるだろ?

 ウインドラが殺されてしまう。」

 

 

 

「でもカオスが行ったってあんな化け物染みた人達には………!」

 

 

 

「それでも行くんだよ!

 目の前でウインドラが…!

 親友が殺されようとしてるんだ!

 ここでじっとしてなんていられない!」

 

 

 

「でもぉ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………レイディーさん?」

 

 

 

「行くのか?

 あの中に。」

 

 

 

「…はい。

 俺はウインドラを見捨てることなんて出来ない。」

 

 

 

「あのやり取りを見てお前がどういう背景で賞金首になってそれを知って………、

 それでも行くのか?

 アイツらはお前を利用してたんだぞ?」

 

 

 

「それでも行きます。

 俺を利用してたとしてもウインドラがやろうとしてたことは街の人達のためだった。

 アイツは俺と昔目指していた騎士そのものだったんです。

 そのために俺を利用してたんなら俺がアイツに腹を立てるようなことは何もありません。」

 

 

 

「………いいのか?

 ここで出ていくとお前が一度拒否した対バルツィエ用の対抗馬にされちまうんだぞ?

 あんなに大勢の奴等の前に出ちまったらもうお前は英雄に祭り上げられちまって二度と平穏な世界から帰ってこれなくなる。

 それでもか?」

 

 

 

「それでもです。

 俺にとってそれがどういうことなのかいまいち理解出来てないですけど俺は今行かないときっと後悔する。」

 

 

 

「決意は固いか………。

 なら最後にもう一つ聞かせてくれ。」

 

 

 

「………何ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お前は逃げないか?」

 

 

 

「…逃げる?」

 

 

 

「お前は………あの場を納められるかどうかは分からねぇがこれから英雄に祭り上げられてバルツィエの対抗馬にされてそれが窮屈になって逃げ出したりしねぇか?

 もし途中で嫌になったりして逃げ出すようなら………あの友人は諦めてくれ。

 そんな半端な奴が出ていってあの………、

 あのアルバートが未だに生きていたと信じていた信者共に余計な期待を抱かせないでくれ。

 ………長い間期待だけさせて放置されるのなんて残酷だ。」

 

 

 

「レイディー………さん。」

 

 

 

「お前が出ていってどうしてもプレッシャーに耐えられないのなら戦いの中で死んでくれ。

 いい加減なところで抜け出されても今のアイツらのように振り回されるだけだ。

 そんな思いはアタシだけで十分だ。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………お前が選ぶ選択肢は二つ…。

 ここで何事もなく隠れてやり過ごすか、

 今出ていって逃げずに戦い続けて戦場で死ぬかだ。

 どっちを選ぶ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は………。」



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友の危機

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 開戦式にてラーゲッツを破ったウインドラだったが直後に騎士団長フェデールに捕まってしまう。

 その時カオスは…。


王都レサリナス 北部 城前広場 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの騎士………カオス様じゃなかったのか………。」

 

 

 

「俺達を騙してたのか………?」

 

 

 

「なら………本物のカオス様はどこにいるんだ………?」

 

 

 

「………新聞にはダレイオスに逃げたってあったぞ。」

 

 

 

「で、でもそれは!

 今日のこの式をぶち壊すために流したデマだったんじゃ………。」

 

 

 

「どうしてデマだって分かるんだよ?

 デマだったらあの手配書のカオスは新聞社と繋がってることになるぞ………?」

 

 

 

「………本当にダレイオスに逃げたのか?」

 

 

 

「よくよく考えたらあんな噂あやふやだしアルバート様の息子がいたなんて話どうやって確かめるんだよ。

 アルバート=ディランは本当に死んでたんだろ?」

 

 

 

「………そう都合よくアルバート様に息子がいてこの国を救いに来るなんて話ある訳無かったんだ………。」

 

 

 

「じゃああの手配書のカオスも………。」

 

 

 

「あの騎士みたいに俺達が信じきってた姿を見て嘲笑う為にそう名乗ってただけの偽物だったんじゃないか………?」

 

 

 

「………アルバート様のような………

 アルバート様の意思を継いだ救世主なんていなかったのか………。」

 

 

 

「これじゃあ何のために百年もの長い間アルバート=ディランを待ち続けたのか………。」

 

 

 

「あの騎士がラーゲッツを倒せたのはまぐれだったんだな………。」

 

 

 

「………もうこの世界は終わりなのかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「なぁ、フェデールゥ?」

 

「ユーラス、

 何の用だ?」

 

「その偽カオスさぁ。

 俺に殺らせてくれねぇ?」

 

「………何?」

 

「今日一番の美味しい配役をさせてもらってなんだけどよぉ。

 俺今日あそこのバーナンとこの奴一人しかやってねぇじゃん?

 なんかもの足りねぇわ。」

 

「こいつはもうラーゲッツとの戦いで力を使い果たして虫の息だぞ?

 まだそこらのダリントンかバーナンのとこの騎士相手にしてたほうがいいと思うが…?」

 

「あんな顔以外全く同じような連中の相手しても詰まらねぇよ。

 それよかそっちの偽カオス殺った方が後々いい話題になりそうじゃん?」

 

「…お前がそうしたいのなら別に譲ってあげてもいいぞ。

 ほらよ。」ドスッ

 

「うぐっ!?」

 

「ほいありがとさん。

 ………さぁてぇ、

 偽カオスかぁ…。

 お前とは一本突き使い同士手合わせしてみたかったがラーゲッツに持っていかれたからなぁ…。

 お前をどう料理してやろうかなぁ…?」ゲシッゲシッ!

 

「…!

 …!

 ……うっ!」

 

「ラーゲッツを殺すほどの奴だからなぁ…。

 そんなお前を殺ったとなると親戚とかの集まりでいい自慢になるぜ。

 ラーゲッツには悪いがなぁ。」

 

「…!

 貴様らは………!」ピタッ

 

「あん?」

 

「………貴様らは、貴様らの仲間が俺に殺られたというのにそんなくだらないことしか頭にないのか…!?」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶはぁっ!!?」ドサッ…

 

 

 

「………お前さぁ…?

 仮にも俺達と同じ職に就いてたんだろ?

 ならさぁ…。

 そんな人一人死んだくらいでゴタゴタ言うなよ。

 目の前で親族が死んだからなんだってんだ。

 そんなことはこの世界いくらでも聞く話だろ?

 だったらさぁ?

 そいつの死をどうやって華々しい話に出来るかどうか考えろよ。

 そっちの方が死んだ奴も浮かばれるし喜びそうだろ?」

 

 

 

「…!!

 ………貴様らバルツィエはそんな血も涙も感じられない考え方しかしないのか…。

 そんなふうに人の命を軽々しく散らして良いような物のようにしか扱えないのか!?

 貴様らはぁッ!!」

 

 

 

「熱くなるなって。

 どうせラーゲッツなんか死んだってこの世界のどっかには代わりの命が生まれてんだろ?

 今この瞬間にいくつもの命が生まれては死んでいく。

 ラーゲッツもそのうちの一つだったってだけさ。」

 

 

 

「人の命に…!!

 代わりなんていない!!

 誰かの代わりなどある訳がないだろうッ!!」

 

 

 

「価値観なんて人それぞれさ。

 オタクがいくら弁舌説いたところで俺達には馬耳東風ってやつだし俺達の考えなんてオタクも理解出来ないんだろ?

 なら最終的な価値観は力で押し通した方が正解者なんだよ。

 俺達を説得したいのなら俺達を力で捩じ伏せてから従わせてみな。

 そうすりゃ聞く耳くらいなら生えてくるかもな?」

 

 

 

「…人の命を粗末に扱ってきたバルツィエには何を言っても無駄のようだな。

 俺達人とお前達人格破綻者とはこの先一生相容れないのだろう。」

 

 

 

「何?

 俺達と分かりあおうとしてたの?

 お前達のような劣等種が?

 俺達と同じ席について会談でも開きたかったの?

 御笑い草だねそりゃあ。」

 

 

 

「……バーナン隊長は最後までお前達がアルバさんのように分かりあえると信じていたのに…!」

 

 

 

「あのおっさんそんなこと考えてたんだぁー。

 興味無さすぎて全然気付かなかったぜぇー。

 …アルバさん?

 アルバートおじさんのこと?

 あのおじさんそんなふうに呼ばれてたんだなぁ。

 お前の武器の扱い方っておじさんに習ったんしょ?」

 

 

 

「………教えてやる義理はない。」

 

 

 

「それってもう答え言ってるようなもんじゃね?」

 

 

 

「貴様に話すことなど何もない………。

 貴様らのような人として大切なものが欠如したような人種達とは。」

 

 

 

「………あっそ?

 じゃあ逝っとく?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハシッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お?

 何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………止めてくれよ!

 その人はぼくを守ってくれた人なんだ。

 殺さないでよ………。」

 

 

 

「はぁ~ん、

 このガキまだいたのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐっ………!」バタバタッ!

 

 

 

「劣等種の分際でこの俺に指図してくるなんてなぁ。

 子供だからって俺達が手を出さないなんてことないって学べねぇのか?」

 

 

 

「止めろ!

 ユーラス!

 子供にムキになるなんて大人気ないぞ!!?」

 

 

 

「………そういうさぁ?

 うざったい価値観なんとかならない?

 子供だから大人だからとかどうだっていいだろ?

 子供なんて何も出来ない弱い存在だから甘くしてあげるなんて考えなんなんだよ?

 刃向かってくるなら平等に相手すんのが当然だろ。

 弱いってんなら俺達バルツィエからすればお前ら劣等種は均等に弱いんだからいちいちお前らが噛みついてくる度にバルツィエは大人の対応をしなきゃいけねぇのか?

 そんな周りの視線に踊らされて対応を変えるなんて弱者みたいで嫌だね。

 俺は俺のやりたいように振る舞うのが好きなんだ。

 だから俺に刃向かうこのガキはこうやって一突きしてぶっ殺してやらなきゃ…「ユーラス!!後ろだ!!」ごはぁっ…!?」ドンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズザザザザァッ…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………………カオス?



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真のカオス=バルツィエ参戦

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 開戦式にて不意をつかれたウインドラが騎士団長フェデールに捕まりユーラスがウインドラに止めを刺そうとする。

 そこに現れたのは…。


王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………!」

 

 

 

「………また誰か乱入してきたぞ?」

 

 

 

「どうせあの騎士の仲間だろう………?」

 

 

 

「あの格好は………カーラーン教会の牧師か?」

 

 

 

「カーラーン教会の牧師がバルツィエをぶっ飛ばした………?」

 

 

 

「!?

 ………牧師がバルツィエに攻撃をしただと………!?」

 

 

 

「そんなことしたらカーラーン教会がバルツィエと敵対することになるぞ?」

 

 

 

「どういうことだ………?

 カーラーン教会は国事には不介入を貫くんじゃなかったのか………?」

 

 

 

「あの道徳だとか人道だとか胡散臭い世迷い事言ってる連中がどうして………?」

 

 

 

「俺達がバルツィエにいいようにされそうになってるのを見て助けに来てくれたのか?」

 

 

 

「カーラーン教会がそんなことする筈ないだろうけど………。」

 

 

 

「あの牧師の独断か………?」

 

 

 

「今更牧師一人がしゃしゃり出てきてどうにかなるとは思えないが………。」

 

 

 

「あの牧師………こりゃ死んだな。」

 

 

 

「牧師なんかがバルツィエに勝てる訳がない………。」

 

 

 

「勝てたところであの騎士の二の舞になるオチだろう………。」

 

 

 

「どうせ出てくるのならカオス連れて来いっての………。」

 

 

 

「カオス連れて来てどうなるってんだよ。

 あの手配書の男があのバルツィエの隊長達より強いなんて保証は無いんだぞ?」

 

 

 

「そうだけどよぉ………

 ただ殺されるくらいなら何か役にたつことして死んでくれよ………。」

 

 

 

「そうそう、

 あんな牧師一人がこの状況をどう変えられんだよ?」

 

 

 

「あの牧師のせいでカーラーン教会も終わったな………。

 バルツィエがダレイオスに戦いを仕掛けるより先にダリントンとバーナンの部隊とカーラーン教会が粛清されちまうな。」

 

 

 

「バルツィエがダレイオスを倒すまでの時間稼ぎにはなるが………。」

 

 

 

「そんなの大した時間もかからねぇだろ。

 ダレイオスが滅びきるまで数日延びる程度にしかならねぇよ。」

 

 

 

「はぁ………、

 何しに来たんだよあの牧師………。

 格好つけて出てきて殺られるだけだなんてダサすぎるわ。」

 

 

 

「そんなふうに出ていって何ができるのかねぇ…、

 牧師さんよぉ…?」

 

 

 

 

 

 

「………サタン殿!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス………!?

 どうして貴方が出てくるのですか!!?

 大人しく殺生石のことを調べるのではなかったのですか!?」

 

 

 

「………カオスさん。

 バルツィエとはもう戦わなくていいと思ってたのに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(アイツは………!?

 何故お前が出てくる……!?

 お前はブラム達に利用されてただけじゃなかったのか!?

 第一お前は今ダレイオスにいるとカタスティアが………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城西 研究所外

 

 

 

「行っちまったか………。

 アイツ…、

 これがどういうことか本当に理解してんのかねぇ………。」

 

「カオスは………理解してないと思うよ?」

 

「ハァ………、

 そんな奴があんな所に行くなっつーのに………。」

 

「カオスにとってはそんなスケールの大きなことは考えられないよ。

 カオスはいつだって小さなことを全力でやるだけだもん。」

 

「小さなことねぇ…。

 アイツにとってはあの場に出ていくことが小さなことかぁ…。」

 

「そうだよ。

 カオスはこの街の人のためにバルツィエと戦うんじゃない。

 カオスは友達のためだけにバルツィエと戦うんだよ。」

 

「………いいのか?

 カオス死んじまうかもしれねぇんだぞ?」

 

「さっきまでカオスに出ていくのなら戦いの中で死んでくれとか言ってた人がそれを言う?」

 

「アタシは覚悟を確めただけだ。

 後になって後悔させないように。」

 

「カオスが後悔するとしたら…、

 それは守りたい人を守れなかった時だけだよ。

 自分が死ぬことで誰かを守れるのなら率先して誰かの盾になる。

 守れるのが大勢だろうが………たった一人だろうが………。」

 

「割に合わねぇ傾向思考だな。

 大も小も等感覚ってか?

 いつか損をするぜ?

 アイツ。」

 

「損だなんてカオスは思ってないよ。

 カオスにとってはほんの小さな命でも守れるのならカオスは全力でその命を守る。

 そういう人だったから…。」

 

「ほんの小さな命ねぇ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は………、

 今ウインドラを助けてバルツィエとも戦ってそれで生きぬく道を選びます!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな選択肢が選べるなんてなぁ…。

 ………アタシはとことん根暗な考え方しか出来なかったんだな。」

 

「それは今に始まったことじゃないでしょうが…。」

 

「違ぇねぇ………。

 よし、行くか!」

 

「え!?

 レイディーも行くの!?」

 

「人を戦場に送り込んだ奴がヌクヌクと安全圏に居座ってるなんざ無責任にも程があるだろ。

 アタシも戦ってやるさ!

 バルツィエとな!

 あの坊やには一人じゃ荷が重たすぎんだろ?」

 

「………それなら私も!」

 

「ミシガン…

 お前ならさっきの質問どういう選択をする?」

 

「さっきの?

 そうだねぇ………。

 私なら………こんな大勢の人達のために立ち上がるなんて出来ないわねぇ。

 ………けど、大事な家族のために戦うカオスの側にいてあげるくらいならするかもね。」

 

「…お前らは本当に人の出した選択肢を無視する奴等だな。」

 

「当然よ。

 私達の道は私達が決めるわ!

 他の誰かの期待や責任なんて重すぎ!

 背負うのなら家族が抱えた問題だけで十分でしょ。」

 

「へっ…!

 そう軽いもんのように言えたらよかったんだけどな。

 早く坊やを追い掛けるぞ!」

 

「うん!

 ってカオス早ぁッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたは………。」

 

 

 

「大丈夫?

 ダニエル君。」

 

 

 

「………平気………だけど………?」

 

 

 

「そうか、よかった。」

 

 

 

 

 

 

「………カオス?

 どうしてお前が出てくるんだ。」

 

 

 

「どうしてって君を助けに来たんだよウインドラ。

 君に死なれると俺やミシガンが悲しむからね。」

 

 

 

「お前は………バルツィエとは戦わないんじゃなかったのか?

 俺を助ける為にこんなことをして………、

 お前がどうなるか分かっているのか!?」

 

 

 

「………よく分からないな。」

 

 

 

「何んだと………!?」

 

 

 

「俺は君の言う世界をとるとか守るとか言われてもピンとこない。

 

 おじいちゃんがこの国ではどういう存在だったのかは知ってる………。

 俺がおじいちゃんと同じようになることを期待されていることも知ってる………。

 俺にはヴェノムに対抗できる力があるからおじいちゃん以上になれるってことも言われた………。

 そうなればこの国が救えるかもしれないってことも………。

 

 

 

 だけどそんなことはどうだっていい。」

 

 

 

「…どうでもいいだと?」

 

 

 

「そんなことはどうだっていいんだ。

 俺は誰かを守りたかっただけで英雄になるとかおじいちゃんを越えるだとかはどうだっていい。

 

 

 

 俺がしたかったのは俺の世界を守ることなんだ。」

 

 

 

「世界を守る…?

 この国を救うことと何が違うと言うんだ?」

 

 

 

「俺が守りたい世界は………

 ウインドラやミシガンがいたあのミストの人達だよ。

 あの村の人達を守りたい。

 あそこだけが俺の世界………、

 だから俺は君を守りに来たんだ。」

 

 

 

「………ミストを離れて十年は経とうというのにお前はこの俺も守ろうと言うのか?」

 

 

 

「そうさ、

 離れて暮らそうとも君もミストの住人なんだ。

 それなら俺が守らないといけない。

 それが十年前からの俺の償いだから………。」

 

 

 

「その償いのせいでお前は今バルツィエを完全に敵にしたんだぞ!?

 お前はバルツィエがどういう奴等なのか知っているだろ!?」

 

 

 

「知っているよ。

 俺の親戚で、

 俺の大事なものを傷付ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪い奴等だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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VSユーラス開始

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 開戦式にてウインドラの危機を救うためカオスが広場へと赴きユーラスを突き飛ばす。

 大衆も突然のカオス参上に戸惑うが…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

「イッテーなぁ。

 人の取り込み中に後ろからどついてくるとかせこいことしやがってぇ…。」スクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………!」」

 

 

 

「それで?

 お前誰?

 見たところ教会の奴みたいだけど何してんの?

 今良いところだったんだけど?

 何で邪魔するの?

 え?」

 

 

 

「………ダニエル君、ウインドラ

 下がってて…。」

 

「う、うん…。」

 

「カオス、こいつはバルツィエの…!」

 

「分かってる。

 ずっと見てたから。」

 

 

 

「カオス…?

 お前が?

 ………まぁ~たカオスかよ。

 何人いるんだよカオスが。

 どうせお前らが用意した偽物だろ?

 カオスがこんなとこにいる筈ないだろうが。

 カオスは今ダレイオスにいるんだぜ?」

 

 

 

「偽物も何も俺にはカオスという名前以外にはないけど?」

 

 

 

「はいはい、

 そんなこと言って教会の連中は優しいねぇ。

 そんなゴミをかばっちゃって。」

 

 

 

「こいつは俺の友達なんだ。

 庇うのは当然だよ。」

 

「………カオス?

 この人は………サタンさんじゃないの?」

 

 

 

「ハハッ!

 段取りはしっかりしとけよ!

 さっそく嘘が露見してんじゃねぇか!

 サタン君?

 カオスじゃねぇじゃねぇかお前の名前!?

 嘘つきたいんならもう少し上手くやれよ!

 ボケがッ!」

 

 

 

「カオス、今更退けとは言わない…。

 奴はユーラス=オル・バルツィエ。

 バルツィエの中ではそこまで強くはない方だがさっき俺が倒したラーゲッツよりかは実力は上だ。

 俺と実力の差が少ないお前では厳しい相手だぞ?」

 

「そうなのか?

 俺にはそこまでラーゲッツと変わらない気がするけど。」

 

「油断するなよ。

 お前が倒したニコライトのように生易しい相手ではない。

 気を抜くと一瞬で殺られるぞ。」

 

 

 

「こんなところで作戦会議たぁ、随分余裕だなぁ。

 フェデール!

 こいつら纏めて俺がいただくぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうしたってんだフェデールは?

 まあ何か文句言ってきたところで俺に一発ぶちかましたサタンだけは貰っていくがな。」チャキッ

 

 

 

「…!」ギュッ

 

 

 

「は?

 なんだそりゃあ。

 そんな木の棒構えて俺とやり合おうってのか?

 舐められたもんだなぁこのバルツィエが。

 イクアダのガキとそこのラーゲッツがやられたからって俺達のこと見誤ってねぇか?

 そんな棒切れで俺が倒せるかよ。」

 

 

 

「カオス、

 奴の言う通りだ。

 バルツィエ相手に木刀など無謀すぎる。

 あそこにある俺の剣を貸して「瞬迅剣ッ!!」」「!!」シュッ!!ガスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「木刀にヒビが…。」

 

 

 

「…お前マジックアイテムでも装備してるのか?

 俺の突きを受け止めて砕け散らねぇなんてその棒切れ結構マナ込めてたんだな。

 それも後一回受け止めりゃ折れちまいそうだが。」

 

 

 

「早い…!?

 ラーゲッツよりも…!?」

 

「ウインドラ、

 ダニエル君を連れてここから離れてて。

 守りきりながらはキツそうだ。」

 

「分かった。」

 

 

 

「馬鹿がッ!

 逃がす訳ねぇだろ!

 お前ら三人とも俺の獲物なんだからよぉ!!」スッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッッ………………!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!

 これでは退避できない!?」

 

「…バルツィエの連中は人の回りを旋回するのが好きなんだなぁ。」

 

「暢気に言っている場合じゃないぞ!

 このスピードは………、

 俺でも見切るのが難しい!!」

 

 

 

「せっかくの獲物をそう易々と逃がすかよ!

 お前らは三人とも俺が殺すんだ!

 一匹も逃がさねぇぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス。

 済まない。

 俺達の巻き添えにしてしまう形になってしまって…。」

 

「?

 どうして謝るんだ?

 まだやられた訳じゃないだろ?」

 

「だがこいつユーラスにはとても俺達では敵いそうにない。

 今のうちに謝っておきたかった。」

 

「別にいいさ。

 俺が勝手に飛び込んで来ただけだし。」

 

「その事じゃない。

 ………この戦闘を見ていたのならもう気付いているんだろ。

 俺達がお前の存在を利用していたことに。」

 

「…それならさっき知らされたよ。

 君達が俺の名を国中に広めた理由も。」

 

「本当だったらお前の代わりに俺が各地でバルツィエに対する反抗的な擬装工作を行う予定だった…。

 お前の名を借りたのはどうしても信憑性が欲しかったからだ。

 お前の名前ならミストが王国管轄になった時に村長が住民名簿に登録していたから決して架空の人物ではなく実在する人物だということも踏まえて都合がよかった。

 俺達は『カオス=バルツィエ』というバルツィエの対抗勢力を作るためにお前を犯罪者に仕立て上げてしまったんだ…。」

 

「…犯罪者かぁ。

 元より俺はミストでは犯罪者みたいなものだから気にしてないよ。」

 

「昔のあれはお前には何の非もない。

 あのおかげでミストは全滅から逃れられたんだ。

 アルバさんにすらあの状況は時間稼ぎしか出来なかった。

 お前はあの村の生き残った住人にとって命を救われた大恩人だ。」

 

「そんなふうに考えてたの?

 この間はこの街から追い出そうとしていたのに?」

 

「あの時は俺達の作戦にとってお前がこの街にいることが非常にまずかったんだ。

 俺がここで『カオス=バルツィエ』となる前にお前が現れてしまっては俺がカオスを名乗っても街の住人には疑われてしまう。

 だからお前を急いで追い出すことにしたんだ。」

 

「それで俺がもし捕まってたらその作戦破綻してたんじゃない?」

 

「イクアダで駿足のバルツィエを倒したようなお前にこの街の住人や賞金稼ぎ共が捕まえられる筈ないだろう。

 俺の計算ではバルツィエの屋敷からも一番遠いところで通告したからな。

 お前が無事街を出られる可能性は十分にあった。」

 

「けどこの街の門は検問しかれてたぞ?

 あそこを突破出来るとは思えなかったけど。」

 

「あの騒ぎの前まではあの検問は街に入ってくるものだけにしかしてなかったんだ。

 出ていく分には何も言われなかっただろう。」

 

「あの一瞬でそこまで考えてたのか。

 ウインドラはやっぱり凄いな。

 昔からそうだったしな。」

 

「…俺など回りと比べて少し能力が高かっただけだ。

 騎士になった今でもそれは変わらない。

 お前のように剣術一本で突き進むような生き方をする奴にはとてもとどかなかった。

 ある程度何でも出来たからこそ俺は一つの道を極めることも出来ない半端者になってしまったんだ。

 俺はお前がずっと羨ましくて嫉妬していた。」

 

「ウインドラが俺に嫉妬だって?」

 

「お前のように家族に強い祖父を持ち、好きに剣術を学べる環境。

 そしてお前がその方向に向かって突っ走っても誰も何も止めたりはしないあの村の住人との関係性。

 俺の辿ってきた道はお前の真っ直ぐな道と違って酷く蛇行した長く険しい回り道だったよ。

 結局俺はお前には慣れなかったな。」

 

「………君が俺になる必要はないだろ。

 君は君なんだから。」

 

「俺達の作戦ではそうも言ってられなかった。

 バルツィエの力を恐れてあちら側につく人々の勢いを止めるためには俺がカオスになりきるしかなかった。

 このままバルツィエに流れが傾けばバルツィエは『王』を越えて『神』にのしあがるだろう。

 そうなってしまえばこの世界の人々は奴等に死を望まれたら自ら進んで死を受け入れねばならなくなる世界になってしまう。

 奴等の粗暴性を考慮したらそれだけはなんとしても阻止せねばならない!」

 

 

 

 

 

 

「ウインドラは…、

 俺が背負っていたものよりももっと大きなものを背負わされていたんだな。」

 

「…そうだったんだが俺にはとても背負いきれるようなものではなかったらしい。

 こうして利用するだけ利用して差し伸べてきた手を払い除けた俺のために駆け付けてくれた友を死なせてしまうのだから。」

 

「何悟ってんだよ。

 まだ戦えるぞ?」

 

「だがこのユーラスはどう見ても昨日のお前のスピードよりも早い。

 直接お前と対決した俺だから分かる。

 お前がまだユーラス程の練度に達していないことも。

 もう少し時間さえあればお前だけでも逃げられただろうに………。」

 

「そうだなぁ。

 確かにこいつは俺よりも走るのが上手いみたいだね。」

 

「………一か八か。

 俺がユーラスの剣の突きを受けて奴の動きを止めてみる。

 意識が持てばいいが………。

 お前はその隙にこの少年を連れて逃げろ。」

 

「それだと俺が何のために出てきたか分からなくなるだろ。

 俺は君達を死なせたくなくて出てきたのに。」

 

「この際だ。

 俺がやろうとしていたことをお前が引き継いでくれ。

 お前さえ生きていればこの国の人々にもまだ希望が湧いてくる。

 だからお前を死なせる訳にはいかない。」

 

「俺だってウインドラを死なせるつもりはないぞ。

 お前は絶対にミストに連れ帰るんだ…。」

 

「…死ぬ前にミストにもう一度だけ帰ってみたかったが未来の英雄カオスを守って死ねるのなら本望だ。

 それでお前への仕打ちへの償いとさせてくれ。

 

 カオス、生き延びることが出来たら力を付けてまたバルツィエに挑んでくれ!

 そうしてお前は世界を救うんだ!

 そうすればお前はアルバさんを越えた存在になれる!

 その為ならこの命!

 喜んで…」ゴンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………何をするんだカオス。」

 

「ウインドラ………

 お前さっきから覚悟しすぎ!

 どれだけ絶望してるんだよ!?

 まだ俺がやれるって言ってんだろうが!!?」

 

「だからユーラスには今のお前じゃ勝てないって言ってるだろ!?

 お前はさっさと逃げのびて修行して強くなってから出直してこい!!」

 

「そうしたらお前が殺されるだろうが!!」

 

「どこまでも緊張感の無い奴だな!?

 そうしないと三人とも死ぬって言ってるだろ!?」

 

「だから俺が守るって言ってんだろ!?」

 

「俺と力が変わらないお前には守りきれるなんて思えないんだが!?」

 

「ハンッ!

 昨日は俺がウインドラをボコボコにしたじゃないか!

 それで負けた人に力が変わらないなんて言われたくないんだけど!?」

 

「何がボコボコだ!?

 お前が俺を攻撃したのは最後の一発以外だけだっただろう!?

 それ以外は全部俺がお前をボコボコにしてたと記憶してるが!?」

 

「たった一発で負ける騎士とかどんだけ弱いんだよ!?

 そんなだからこんな奴のスピード見せられただけで戦意喪失しちまうんだな!?

 相変わらず精神がついてこない奴だねぇお前は!」

 

「昔の俺と「もういいよ!!」」

 

 

 

「後は俺がやる!

 お前は隅っこで震えてていいぞ?」バッ

 

「カオス!

 止めろ!

 俺がユーラスを引き付けるから「大丈夫だって言ってるだろ!!」!」

 

 

 

「俺は………

 必ず勝つから!!」

 

 

 

 



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困惑する民衆

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 開始式にてウインドラの危機を救うためカオスがユーラスと戦闘を開始する。

 カオスがは強気に勝つつもりでいるが…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後の語らいは終わったか?

 俺を前にしてなかなか楽しいお話し合いをしてたようだがあんまり待たせるなよ。

 分かりきった舞台の結末を焦らされるのは外野もめんどいだけだろ?

 お前らが死ぬことは決定事項なんだからパパッと終わらせようぜ?」

 

 

 

「そう焦ることもないんじゃないかな?

 物語は長い方が楽しめるでしょ?」

 

 

 

「長すぎると途中で眠くなるんだよ。

 だいたいが同じことの繰り返しでさぁ。」

 

 

 

「そうかな?

 物語ってのは同じようでいて細かいところで小さな違いがあったりするんだ。

 この十年で何度も本を見返したからそういうことがあるって知ったよ。」

 

 

 

「本~?

 ますます眠くなりそうなもん読んでんなぁ。

 俺本読まねぇんだわ。

 舞台一筋でよぉ。

 座ってるだけで自動的に話が進んでくれるんだぜ?

 見たことねぇか?」

 

 

 

「あいにくと本しか読めない環境にいてね。

 話には聞いたことあるけどまだ一回も見たことないんだ。」

 

 

 

「そうかよ。

 王都にいるんなら死ぬ前に一本くらい見ときゃよかったのにな。

 本読むくらいなら俺と同じで暇人なんだろ?」

 

 

 

「残念ながらこの街に来てからはそんな暇はなかったな。

 いろいろと忙しくて。」

 

 

 

「教会の仕事なんてそんな大したことしてねぇだろ?

 ゴミ虫共と遊んでるだけだろうし。

 舞台はいいぞぉ?

 ゴミ虫共が強者のふりして演じてる姿が滑稽でよ?

 それ見て思うんだわ。

 こんな奴等が演じる役よりも現実の俺の方が絶対に強ぇってさ。

 一度やってみたかったんだよなぁ。」

 

 

 

「…それでアンタはあんなことをしたのか。

 死んだ人の頭を使ってダリントンって人になってこんな人の希望を打ち砕くような真似を…。」

 

 

 

「他人のふりするのは初めてだったがなかなか楽しいもんだったぜ。

 フェデールがどうすれば俺達に逆らう奴等を一網打尽に出来るか作戦を持ちかけられてな。

 そんとき昔見た悲劇『雷神インディグネイト』を思い出してな。

 それそのまんまやってみた方が効果的なんじゃないかって思って俺が作戦出して役にも立候補したんだ。

 傑作だっただろ?

 俺の名演技っぷりはよぉ。」

 

 

 

「………あれが舞台の良さだって言うんなら舞台演劇が嫌いになる程だったよ。」

 

 

 

「だろ?

 俺はゴミ虫共にそう思ってほしくて演じたんだよ。

 あの役をよ。」

 

 

 

「どういうことだよ?

 いい演技を披露したかったんじゃないのか?」

 

 

 

「ゴミ虫共の演劇はそうらしいけどな、

 俺が伝えたかったのはゴミ虫共が必死こいて空想の話の中で強い奴の真似したところで現実の俺にクオリティが追い付いてないんじゃいくら頑張ったところで奴等の技術は猿芝居もいいとこなんだってことだよ。

 もう少し観客を楽しませるレベルのクオリティの劇を作りやがれってんだ。」

 

 

 

「そんな遊び感覚でアンタはあんなことを仕出かしたんだな…。

 アンタ達バルツィエのせいでこの騎士達………この人達が犠牲になったのにそれをそんなことのために…。」

 

 

 

「間違えるなよ。

 俺は実質一人しか殺してねぇんだぞ?

 それにこいつらだって俺達に逆らって何かするつもりだったし死んだのだってこいつらが自爆っただけだ。

 後はそこで転がってる乱れ突き野郎がやったこと…。

 俺自身はこいつらの死には殆ど関わってねぇ。」

 

 

 

「そう仕組んだのはアンタなんだろう。」

 

 

 

「まぁ、計画を立案したのは俺だが。」

 

 

 

「俺は………、

 アンタがこの場にいるバルツィエの中で一番許せない。」

 

 

 

「………またそれかよ。

 お前達雑草共はいつだってそれを口癖のように言ってくるな?

 お前らの力の無さを棚上げにして俺達バルツィエを悪者扱いする。

 何を許さねぇってんだ?

 仕方ねぇだろ?

 俺達だって何も無抵抗で殺られたくはねぇんだ。

 敵が襲ってくるなら返り討ちにする。

 これ当たり前。

 これの繰り返しでバルツィエはここまで権力を手にしてきたんだ。

 マテオの住人ならその俺達の功労の恩恵を多少なりとも受け取ってる筈だぜ?

 それならこんな悪ふざけしたくらいでとやかく言うんじゃねぇよ。」

 

 

 

「その悪ふざけが後で謝って済む程度のものなら俺もぐちぐち言ったりはしない…。

 けどアンタの悪ふざけで沢山の人の命が無くなってしまった。

 この責任をアンタはどうとるつもりなんだ?」

 

 

 

「どうもしねぇよ。

 責任なんて知らねぇし。

 死体を誰かに片付けさせるくらいか?」

 

 

 

「………それを聞いて安心した。」

 

 

 

「ハハハッ!

 いいのかよこれで?」

 

 

 

「それを聞いて命を粗末に扱うお前を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心置き無くぶっとばせる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺をブッ飛ばすだと…?

 牧師風情が俺を?

 どっからその自信が湧いてくるんだお前は?

 さっきの戦闘見てなかったのかお前。

 俺はそこの乱れ突き野郎よりも遥かに強いんだぜ?

 お前はそこの偽カオスとどっちが強いんだ?」

 

 

 

「それはお「あぁ!やっぱいいわ答えなくて!」」

 

 

 

「どうせ後からのことこと出てくるような補欠君だ。

 本命の偽カオス君より弱くて宛にならないから今頃出てきたんだろ?

 そんくらい俺でも理解できる。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「それによぉ…?

 ラーゲッツの野郎にやっとこさ勝ったソイツを生かすためにお前が出張ってきたんだろ?

 偽カオス二号君?

 そんな役しか貰えないお前が俺に楯突いただなんてよっぽどの馬鹿なんだなお前は。

 教会の連中は貧乏性だから金で雇われたか?

 ちょっと腕に自信があるからって無謀な役を買ってでたなおい。

 俺の思い描く理想の舞台にはお前のような補欠野郎は不採用だ。

 とっとと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死に様を晒せッ!!」シュッ!!

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキッ……!ザスッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パサッ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…大丈夫だよ。

 木刀は折れたけど髪の毛切られただけだから。」

 

 

 

「んあ?

 お前………、

 手配書のカオスに似てんな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの後から出てきた奴…?」

 

 

 

「………似ている。」

 

 

 

「髪をおろしたら…、

 手配書のカオス様にそっくりだ…!」

 

 

 

「だがカオスは旅人の筈だろ?

 何で修道服なんか着てるんだ?」

 

 

 

「………他人の空似を連れてきただけだろ?

 この後の結果が目に見えている。」

 

 

 

「空似だけであそこに出ていくなんてあいつ…。

 度胸があるのか、それかただの馬鹿だろ。」

 

 

 

「本物のカオスは………出てこないのか。」

 

 

 

「まだそんなことを言ってるのか?

 カオスはバルツィエと敵対してるだけで俺達の味方かどうか分からないんだぞ?

 俺達の危機だからって出てきてくれるなんてのは願望に過ぎない。」

 

 

 

「この国は………、

 バルツィエに服従する未来は変えられないのか………。」

 



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バルツィエの汚点

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスと戦闘をすることになったカオスだがユーラスに木刀を破壊されてしまう。

 その余波で髪ゴムもとれてしまい…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「………」ジー

 

 

 

「どうした?

 自慢の棒切れ砕かれて自信喪失しちまったか?

 そいつは悪いことをしたな。

 だがそんな玩具で出てきたお前が悪いんだぜ?

 バルツィエを舐めてかかるからそういうことに「違うよ?」!!」スゥ…

 

 

 

 

 

 

「ウインドラこれ借りるね。」スタッ

 

 

 

 

 

 

「構わん。

 使え。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のは飛葉翻歩………?

 ………そいつが使えるってことはどうやらマジでカオスらしいな。

 ダレイオスにいる筈のお前が何故王都にまだいる?

 それもそんな玩具で出てきて…?」

 

 

 

「いろいろと事情があってね。

 実はダレイオスにすら行ってなかったんだ。」

 

 

 

「………ってことは教会の連中が匿ってたのか。

 物好きな奴等だよな。

 こんな爆弾抱え込んでからに。」

 

 

 

「カタスさん達には悪いけど大切な人達が目の前で傷つけられているのを見たら俺ももう黙っていられなくなったんだ。」

 

 

 

「物好きな連中は物好きな奴が好きなのかねぇ…。

 くっさい友情ごっこ見せ付けるためにそこの雑魚を庇ってこうして自分の身を危険に曝してしまうなんてよぉ。

 どうかしてるぜ。」

 

 

 

「一度ウインドラと手合わせしたから分かる。

 ウインドラは雑魚なんかじゃない。

 お前達なんかとは違う強くて立派な騎士だ。

 それに一戦交えて疲労したところに連戦をしかけたお前達がウインドラを雑魚呼ばわりするなよ。

 まともに戦ってすらいないくせに。」

 

 

 

「戦わなくてもそんなことは計れるんだよ。

 そいつがラーゲッツと遊んでるところを見てたがバルツィエの剣術を参考にしてるようだが突きの出し方がまるでなっちゃいねぇ。

 あんなとろくさい突きじゃ俺の剣と突き合わせても負ける要因が見当たらねぇなぁ。」

 

 

 

「お前の突きがどれ程のものだって言うんだ。

 あんな軽い突きウインドラの突きに比べれば大した威力じゃない。」

 

 

 

「たった今棒切れを突き砕かれた奴のセリフじゃねぇなぁ。

 台本通りに言い返すだけが演劇じゃねぇぞ?

 少しは自分なりにアレンジを加えろ。」

 

 

 

「お前の戯れ言に付き合う気はないぞ。」

 

 

 

「監督の言うことは第一に受け止めねぇといけねぇなぁ…。

 つったところで三流役者共には分からねぇかな?」

 

 

 

「分からないね。

 お前達の自己中心的な話は何も共感できる所がない。

 本当にお前達がおじいちゃんと同じバルツィエの血が流れてるのかすら信じられないよ。」

 

 

 

「おじいちゃんだぁ?

 ………お前………アルバート=ディランの?」

 

 

 

「孫さ。

 何故か息子って話が触れ回ってるけど俺はおじいちゃんの息子じゃない。

 おじいちゃんには俺のお母さんが娘にいて俺はその次の世代に生まれたんだ。」

 

 

 

「………道理でアルバートの血筋が出てくるのに時間がかかる訳だ。

 二つも世代を跨いじゃそりゃ長くかかるよな。

 フェデールの考察も案外宛にならねぇな。」

 

 

 

「お前達がどういう思惑で考えてたのかは知らないけど俺がお前達の敵だってことは確かだよ。」

 

 

 

「ふぅん?

 でアルバートとその娘はどうしたんだ?

 ここには来てねえみたいだが?」

 

 

 

「………亡くなったさ。

 十年と十五年前に二人共それぞれね。」

 

 

 

「なんだ死んでたのかよ。

 だらしねぇ。

 もともといなかったが。

 となるとアルバートの血筋はお前しかいねぇのか?」

 

 

 

「そうだ。

 俺一人でお前達を倒しに来たんだ。」

 

 

 

「こりゃとんだ頭の中がハッピーな奴が出てきたもんだ。

 たった一人で俺達バルツィエに挑んでくるなんてな。

 どっかそこら辺にでも援軍を呼び集めて来るのかと勘違いしちまったぜ。」

 

 

 

「援軍なんていないから気にしなくていいよ。

 いるのは俺一人しかいない。」

 

 

 

「人望もねぇのかよ。

 …あったとしても俺達に戦争申し込むって知ったら逃げ出すだろうな。

 お前もそういう口じゃねぇのか?

 確かアローネとかもう一人ガキがいたってセバスチャンが言ってたしよぉ。

 セバスチャンってのはうちの執事やってる奴のことさ。

 セバスチャンがお前達がイクアダでガキと戦闘してるのを見てたんだよ。

 それ聞いてラーゲッツの野郎はお前とやりあいたくて躍起になってたがな。

 お前を殺して女をいただく腹積もりだったみたいだがカオスに会う前に死んでりゃ世話ねぇなぁ。」

 

 

 

「…アローネと一緒じゃなくてよかったよ。

 そんな危ない奴のところには連れてこれない。」

 

 

 

「能天気なこと言ってるがお前がその服でここに来たところでそのアローネとか言う女の所在もバレてるんだってこと分からなかったか?

 どうせその女も教会にいるんだろ?

 お前が死んだらその女も教会捕まえに行くんだぜ?

 …俺はお前らには興味がねぇが。」

 

 

 

「イクアダでのニコライトやこの間のラーゲッツの様子見た限りじゃバルツィエは俺を殺したくて仕方ないんじゃないの?

 お前は違うのか?」

 

 

 

「俺はそこまでお前に積極的にはなれねぇよ。

 セバスチャンの話だとイクアダのガキにようやく勝てたらしいし今の飛葉翻歩を見ればお前がよくてラーゲッツと同じくらいか…それより下だってことが分かる。

 さっきも言ったがお前はそこの騎士より弱いから作戦に参加させてもらえなかったんだろ?

 そんな補欠にどう興味持てってんだ。

 お前もそこらの騎士と変わらねぇ雑魚だってのによ。」

 

 

 

「まだお前には俺の全てを見せてないけど?」

 

 

 

「見なくても分かるさ。

 そこの偽物を強いなんて言っちまうお前の力量ぐらい。

 フェデールじゃねぇが相手の口々にする情報には気を配ってんのよ。

 だからお前がラーゲッツと同等の偽物よりかも弱いってことが認識できる。

 もう一つ追い討ちをかけるならそこの偽物君はしっかり俺達を勉強してきてたぜ?

 お前はさっきの棒切れで挑んでくる辺りまともに俺達の情報も知らされてねぇんだろ?」

 

 

 

「………確かにお前達については何も知らない。

 知っているのはお前達がこの国でどういう奴等なのかっつことだけだ。

 だけどそれだけで俺が戦うには十分だ。」

 

 

 

「俺達バルツィエが世界を支配しようとしてる悪者とでも聞いてたか?

 そいつぁ間違いだぞ?」

 

 

 

「間違い?」

 

 

 

「人ってのは欲がある生物だ。

 それぞれ欲しいものは違うだろうが欲は平等に誰しも持っている。

 俺達も欲があるんだ。

 世界が欲しい。

 そして今まで消えてった国やダレイオスの奴等も同じく世界が欲しい。

 だが世界は一つしかない。

 ならどうする?

 戦うしかねぇだろ?

 戦って世界を勝ち取るだけなのさ。

 俺達もアイツらも。

 バルツィエはそうして戦ってきただけの一団になっただけだ。

 どこの誰とも変わらない普通の人だ。

 ただちっとばかし人より負けないってだけで。

 お前らゴミ虫共はそうして勝ち続ける俺達を妬む敗北者達の集まりなんだよ。

 俺達を妬むあまり剣を向けてくるどうしようもない負け犬共。」

 

 

 

「お前達は………、

 同じ国に住んでる人をそんなふうにしか見てないんだね。」

 

 

 

「同じ国なんて言うがもとは違う国の連中の方が多いぜ?

 俺達に負けて吸収された国の哀れな負け犬共が行き場を失ったから慈悲深い俺達がワザワザこの国の住民として生かしてやってんのさ。」

 

 

 

「生かしてやってるだって?

 飼い慣らして遊び道具に使っているようにしか見えないんだけど?」

 

 

 

「見る角度変えりゃそういう一面も見えてくらぁな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お前達は一度敗北者の気持ちを知るべきだ。」ギュッ…

 

 

 

「お?

 もうやんのか?

 まだ話しててもいいんだぜ?

 力で勝てないお前らが口でならバルツィエに勝てるかもしれねぇんだぜ?

 せっかく勝てるチャンスをお前の方から棒に振っていいのか?」

 

 

 

「これ以上お前達とは話していたくない。

 おじいちゃんとの騎士の思い出が汚される。」

 

 

 

「そうかい?

 アルバートはどんなふうに俺達のことを綺麗にまとめて話してたか興味あるなぁ。

 それぐらいやる前に教えてくれねぇか?」

 

 

 

「…お前達のことは………

 一言も話には出なかった。」

 

 

 

「あのおっさん………、

 俺達のことを汚点扱いしてやがったんだな。

 異端なのはあのおっさんの方だったのによ。」

 

 

 

「………最後に俺からも一つだけ聞いておきたいことがある。」

 

 

 

「命乞いならもう間に合わないぞ?」

 

 

 

「お前達は………どうして俺を殺そうとするんだ?」

 

 

 

「そんなことかよ。

 決まってんだろ?

 バルツィエに汚点は要らねぇんだ。

 俺達から逃げ出すようなアルバートのような汚ならしい地を持った汚点は。

 お前らの作戦通りにいきゃ俺達の株を下げるためにバルツィエのお前を野に放ったんだろうが俺達がお前を消して解決すれば汚名は返上出来るんだよ。

 それだけだ。」

 

 

 

「そうだったのか。

 納得がいくな。」

 

 

 

「じゃあおっ始めるか?

 カオス。

 お前の最後の時間を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お仕舞いにしようや!」



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バルツィエ集合

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスと戦闘になり木刀を折られてもウインドラの剣を借りて応戦するカオスだが…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「瞬迅剣ッ!!」シュッ!

 

 

 

「…!」ガスッ

 

 

 

「よく防げたな。

 俺の突きが軽いとかほざいていたから少し強めに撃ったんだが。

 ならこいつはどうだ!?

 衝破一文字ッ!!」ゴウッ!!

 

 

 

「!?

 この技は…!?」サッ…

 

 

 

「今度はかわしたか!

 正解だ!

 見たことでもあったのか?

 そういやそこの偽物も俺と同じ技を使ってたな。

 大方そいつの物真似でも拝見させてもらったんだろうな。」キキィッ…!

 

 

 

「………」

 

 

 

「…どうしたよ?

 俺の一文字とそこのパクり野郎とじゃ精度の違いが出てビビっちまったか?

 まだまだこんなもんじゃねぇぞ?」

 

 

 

「………今の技。」

 

 

 

「あん?」

 

 

 

「………確かにウインドラの技よりも威力もスピードもあった。

 ウインドラの突きよりかも初動作も早いし突き抜けていく距離もある。

 何もかもが上位互換に感じた………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだろう?

 本物の俺の突きと紛い物との突きじゃあキレにも差が出て「けど!」?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の突きの方が何だか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 来るのが分かりやすくて避けやすかったし単純に突っ込んでくるしかしないからお前の方が対処しやすいな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピキッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうかいそうかい。

 それは俺の突きの動きがあまりに洗練されていて美しすぎてそう捉えちまったのかもなぁ。

 だがよ!!」スッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!」キンッ…!

 

 

 

 

 

 

「俺には突き技の他にもこの脚があるッ!

 お前なんかよりも素早く走れるこの脚が!!

 このスピードだけでもお前にとっては十分過ぎるくらい脅威だろう!?」ザザザッ!!

 

 

 

「………!!」キンキンキンッ!!

 

 

 

「どうしたどうしたぁ!?

 避けるか防ぐしか出来ねぇのかぁ!?

 反撃してこいよオラァ!!」シュシュシュシュ!!

 

 

 

「!

 だったら!!「おっとォ危ねぇなぁ!!」」ブンッスカッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「攻撃に対する反応速度はまぁまぁだが俺のスピードにまるで追い付いてねぇなぁ。

 そんな鈍足でどうやって俺をぶっ飛ばすことが出来るんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュンッ…!シュンッ…!キンッ!!シュンッ…!シュンッ…!キンッ!!

シュンッ…!キンッ!!キンッ!!キキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハハハハハハハッ!!

 どうしんだぁ!?

 ボーっと突っ立ってぇ!!?

 そんな棒立ちじゃあいい的にしかならねぇぞ!!?

 どうした?

 撃ってこいよぉ?」シュンッ…!!

 

 

 

「………」

 

 

 

「今頃になって腰が引けてきたかぁ!!?

 もう剣を振ることも出来ねぇのか!?

 それとも俺の剣を見切ろうとしてんのか!?

 そんな甘くねぇぞ俺のスピードは!」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スッ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅ぇッ!!」シュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ピタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに遅くちゃ話にならねぇなぁ。

 一辺死んでから出直してくるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

 

 

 

「………なぁアイツの動き見たか?」

 

 

 

「さっき一瞬だけバルツィエの奴等と同じ動きしてたよな…?」

 

 

 

「………ってことは…?」

 

 

 

「まさか本当にカオスが来たのか…?」

 

 

 

「あれが………カオス…?」

 

 

 

「カオス様がこの街にいたのか………?」

 

 

 

「この街を救いに来てくれたのか…?」

 

 

 

「………だけど………。」

 

 

 

「…押されてないか?」

 

 

 

「押されてるどころか完全に遊ばれてるぞ?

 アレ。」

 

 

 

「カオス様が来てくれたのは嬉しいけど…

 でも………。」

 

 

 

「あのままじゃ殺られてしまうぞ?」

 

 

 

「どうしたんだろう…。

 攻撃もしないで守ってばかりで…。」

 

 

 

「………アレが限界なのか?」

 

 

 

「そんな………。」

 

 

 

「…バルツィエの一人にも勝てやしないのか?」

 

 

 

「アルバート様の子供でアルバート様直々に深いもりの奥地で修行をつけてもらってたって話は…?」

 

 

 

「………きっとデマだったのかもな。」

 

 

 

「待ち望んだカオスがこんなに弱かったなんて…。」

 

 

 

「もう俺達に希望はないのか…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(どうしたんだカオス!?

 なぜ剣を振らない!?

 攻撃が当たらないからと言って攻撃をしなければ倒せる筈がない!

 そのまま守り続けているだけではジリ貧だぞ!?

 何を考えているんだお前は!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッザッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ~うフェデール。

 反逆者共は片付いたのかぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ランドール?

 何故ここに戻ってきた?」

 

 

 

「何故って…、

 もう終わったんじゃないのかよ?

 さっきここら辺でラーゲッツのでかい炎が上がってたろ?

 それで全部終わったもんだと思って様子を見に来たんだよ。」

 

 

 

「………何のためにお前らを配置したと思ってるんだ。」

 

 

 

「そう怒るなって。

 俺の部隊の奴等はそのまま置いてきたからよ。」

 

 

 

「そういう問題じゃ「フェデール。」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう終わったんでしょ…?

 帰っていい…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ダインまで来たのかよ。」

 

 

 

「フェデールの作戦通り逃げて来る裏切者を討とうと待ってたけど誰も来ないんだもん…。

 それにラーゲッツが火柱上げてたし…。」

 

 

 

「…ハァ、ダインもそれかよ。

 とするともう一人も「あの!」ほらな来たよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦が完了したならイクアダに帰りたいんですけど。

 この街には一秒たりともいたくないんで。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ニコライト。」

 

 

 

「お久し振りですさようなら。」

 

 

 

「おぉ!?

 ニコライトじゃん久しぶりだな!?

 お前だったのか!

 もう一人呼んであるって言ってたスケットは!」

 

 

 

「ランドール兄さん久しぶり。

 それじゃあまた会う日までお元気で。」サッ

 

 

 

「待て待てって!

 どうしたんだよ連れないな?

 何をそんなに急いでるんだよ?」ガッ

 

 

 

「手を離してください。

 ぼくにはやらなきゃいけない仕事があるんです。

 なので帰りますよ。」

 

 

 

「仕事なら今日ここに呼ばれてる奴は全員他の仕事は免除されている筈だが?」

 

 

 

「例え免除されていたとしてもぼくはイクアダで領主としての仕事に従事している方が落ち着くので。」

 

 

 

「お前そんな奴だったか?

 嫌々仕事してるような奴だったと思ってたけど。」

 

 

 

「うちもニコラはそうだったと思う…。」

 

 

 

「…いろいろとやることが沢山あるんですよ。

 だから早く帰りたいんです。」

 

 

 

「帰りたい帰りたいってさてはお前…

 仕事は関係なくて王都か嫌いなだけなんだな!?

 そうだろ!?」

 

 

 

「いえ………

 王都が嫌いな訳ではないですけど…。」

 

 

 

「じゃあ何だってんだ?」

 

 

 

 

 

 

「………この街に今カオス=バルツィエがいるって専らの噂じゃないですかぁ…。

 だからぁ………早く帰りたいなって。」

 

 

 

「ハァ?

 何でカオスがいたら帰りたいんだ?」

 

 

 

「それはそのぅ………。」

 

 

 

「ニコラは前にカオスに痛い目にあわされたから嫌いなんでしょ…?

 うちも同じ…。

 カオスが嫌い…。

 ブラムがやられたから…。」

 

 

 

「ダイン姉さん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どいつもこいつも勝手に動きやがって…。」

 

 

 

「かてぇこと言うなよフェデール。

 暇で暇で退屈だったんだよ。

 部下達は残してきてるんだから良いだろ?」

 

 

 

「うちもブラム置いてきた…。」

 

 

 

「ぼくもです………。」

 

 

 

「…それなら文句は………山程あるが後にしようか。

 今は大事な時だからね。」

 

 

 

「大事な時?」

 

 

 

 

 

 

「…お前達が苦手だったり嫌いだったりするカオス君がお見えになってるんだよ。

 今はユーラスの相手をしてもらってるが。」

 

 

 

「カオスですって!?」

 

 

 

「カオス…!

 ブラムの仇が…!?」

 

 

 

「俺は別に苦手でも嫌いでもねぇぞ?

 それよりユーラスってどういうことだよ?

 この場はラーゲッツにやるんじゃなかったのか?」

 

 

 

「その予定だったけど…、

 あそこでくたばっちまったよ。」

 

 

 

「ん?

 うわっ!?

 マジだ!?

 ラーゲッツがマジで殺られてる!?」

 

 

 

「ヒャアッ!!?

 やっぱりカオスはごめん被りますぅ!!」ビクビクッ

 

 

 

「カオスゥ…!!

 ブラムに続いてラーゲッツまでぇ…!!」

 

 

 

「そう慌てなさんな。

 カオスは何もしちゃいないよ。

 殺ったのはあそこで………いややっぱカオスだったわ。」

 

 

 

「どっちだよ!?」

 

 

 

「カオス……!

 殺す…!」

 

 

 

「待てっつーの!

 ユーラスが戦ってるって言ったろ?

 アイツが殺られてから好きなだけ挑め。

 戦闘が終わるまでは大人しくしていろ。」

 

 

 

「………分かった…。」

 

 

 

「それにしてもあれがカオスかぁ………。

 ユーラスが言ってた通りそこまで強いって訳じゃなかったんだなぁ。

 スピードも遅いし。」

 

 

 

「あれがカオス…?

 ………あれならうちでも殺れる…。

 ユーラス早く負けて代わって…。」

 

 

 

「あれに負ける方が難しくないか?

 ユーラスだって余裕綽々のようだし。」

 

 

 

「カオスは…、

 うちが殺りたい…。」

 

 

 

「残念だがお前まで順番は回ってこねぇよ。

 ユーラスが殺して終わりだ。」

 

 

 

「なら…

 援護に魔神剣でも…。」

 

 

 

「余計なことはするなダイン。

 俺だけじゃなくユーラスにもどやされるぞ?」

 

 

 

「………解せない。」

 

 

 

「ぼくには順番は回さなくていいですからね?」

 

 

 

「そんなに怯える相手かぁ?

 見ろよアレを。

 ユーラス兄ちゃんが善戦してるじゃねぇか。

 お前はそこで何もしないでカオスが殺られるところを見てればいいんだよ。」

 

 

 

「…分かりました。」

 

 

 

「…にしてもどうしてあんなのがアルバートの再来とか言われちゃうのかねぇ。

 てんで技量が足りてねぇじゃねぇか。

 ラーゲッツとどっこいどっこいってとこだろう?

 どう見ても。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………確かにその通りだ。

 この数週間姿を眩ませて出てきたと思ったら特別あの時から力を付けて来た訳じゃないらしい…。

 何か秘策が有るということでもなさそうだ。

 ………そんな様ではユーラスの勝ちは揺らがない。

 万が一勝てたとしてもその先にはコイツらが待ち構えているし街の三方にはコイツらの部隊を配置している。

 長期戦になればなるほど体力を削られてしまう…。

 とてもじゃないがユーラスに圧勝するくらいしてもらわないとこの街からは抜け出せないぞカオス。

 ………アルバートの血は………、

 アルバートの教えはそんなものだったのか?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今思ったんだがあのカオスの飛葉翻歩よぉ。

 ………なんか変っつーか下手くそっつーか可笑しくね?」

 

 

 

「それうちも思った…。

 なんかどこか変………?」

 

 

 

「歩き方を知らない赤ん坊のような…、

 未熟な所があるよな?」

 

 

 

「未熟………、

 確かにそうかも…。」

 

 

 

「けどどっかで見たことあるんだよなぁ…。

 誰かのに似てるって言うか…。

 

 

 

 あぁ~!!

 こう頭の中には漠然と思い浮かぶのに顔が出てこねぇ!!

 誰のに似てんのかなぁ!?」

 

 

 

「うちも今同じ状況…。」

 

 

 

「誰かいないかなぁ!?

 あの飛葉翻歩と同じことしてる奴………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ~~~~~~~~~~~~~~~!!!?」

 

 

 

「ランドール五月蝿い…!」

 

 

 

「何だよ!

 いるじゃねぇか!?

 ここに!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前の飛葉翻歩と似てるって言うか同じなんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニコライト!!」



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旗色の悪い戦況

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 城前広場で始まったカオスとユーラスの戦闘でカオスはユーラスから罵られる。

 カオスには剣術としての腕が足りないと指摘するユーラスだが…。


王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「え!?

 ぼくですか!?」

 

 

 

「そうだよお前だよニコライト!

 お前とアイツが同じなんだよ!

 脚の滑らし方が!」

 

 

 

「…言われてみればそんな気もする…。」

 

 

 

「気がするどころじゃねぇよ!

 マジで同じなんだって!

 ほらやってみろよ?」

 

 

 

「………こうですか?」スッ…

 

 

 

「そう!

 正にそれだ!」

 

 

 

「本当…、

 ニコラがカオスと同じ動きしてる。」

 

 

 

「……それはぼくが未熟だって言うことですよね?

 不愉快です!

 帰ります!」スッ…

 

 

 

「だから待てって言ってんだろ?

 悪かったって。

 そうどさくさに紛れて帰ろうとしないでくれよニコライト。」シュンッ!ハシッ…

 

 

 

「………次ぼくをバカにするようであれば問答無用で帰ります。」

 

 

 

「ハハッ気を付けるよ。

 …しっかしあのカオスって奴はとことん不器用だな?

 あのくらいの年になってまでまともに飛葉翻歩すらなっちゃいないとは。」

 

 

 

「流石に子供のときはうちもあぁだったかもだけど長年続けてたら…

 ねぇ…?」

 

 

 

「子供の頃身に付けたにしてもアルバートがどっかで矯正してやらなかったのかよ?

 息子の教育もろくに出来ねぇのかあのおっさんは?」

 

 

 

「…才能が無かったとか…?」

 

 

 

「ハハハッ!

 その線が濃厚かもな!

 あの年であんな動きしか出来ねぇんならそうとしか考えられねぇ!

 よくもまぁあの程度の奴が俺達にケンカ売ってきたよなぁ。

 とんだ世間知らずの田舎者がいたもんだぜ。

 俺達バルツィエがアイツと比べてどれ程の技量を持ってるかここに来るまでで誰も教えてくれなかったのか?」

 

 

 

「田舎者は人と話すのが苦手なんだよ…。」

 

 

 

「なら知る機会が作れなかったんだな!

 可哀想に!

 田舎者には人見知りが多いからなぁ!

 都会育ちの同じバルツィエはそんなことないのになぁ!」

 

 

 

「田舎者にして無能で人見知り…、

 いいとこなし…。」

 

 

 

「ハハハハハハ!!

 無能はちょっと言い過ぎだぜ!

 こう言ってやれよ!?」

 

 

 

「何て…?」

 

 

 

「ガキレベル。」

 

 

「ウフフッ…!

 そっちの方が悪意詰まってる…。」

 

 

「けどしっくりくるだろ?

 今のアイツ見てるとガキと同じレベルだ。」

 

 

「帰ります。」シュンッ!

 

 

 

「早ッ!?

 待てって!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「(今のカオスでは………、

 バルツィエにぶつけるのは早すぎたか………。

 ここは俺がどうにかするしか………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨォ~ウフェデール

ハンキャクシャドモハカタズイタノカ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(!?

 あれは他のバルツィエの体長達…!?

 ………なるほど、民衆を抑えるのは他の隊に任せて自分達は別の場所に部隊を配置させに行っていたのか。

 となるとこの辺りは既に包囲網が敷かれているだろうな…。

 とすれば………。)カオス!」タタッ!

 

 

 

「………」

 

 

「カオス、

 ここは俺が引き受ける。

 お前は今すぐここを脱出しろ。」

 

 

 

「………何で?」

 

 

 

「あそこを見てみろ。

 あそこにいるのはバルツィエの体長達だ。

 アイツらは今街の南と西と東から来た。

 この付近は既に奴等の包囲網が整っている可能性がある。」

 

 

 

「………なら脱出できないってことじゃないの?」

 

 

 

「いや…、

 包囲網が出来上がっているのなら厳しいが逆にチャンスだ。

 奴等バルツィエがこの場に集まっているということはすなわちその街の包囲網は手薄の筈。

 お前のその飛葉翻歩さえあれば並みの騎士団なら突破出来るだろう。

 お前はこの隙にそこを抜け出ろ。」

 

 

 

「ウインドラはどうするんだよ?」

 

 

 

「この騒ぎを起こしたんだ。

 無事に済むとは思っていない。

 もとより覚悟のうえだ。

 俺が死んでも脱出させてやる。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「聞いているのかカオス。」

 

 

 

「………」

 

 

「おいカオ「ウインドラ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔しないでくれないか?」

 

 

 

「…邪魔だと!?

 カオス!

 何を言っているんだ!?」

 

 

 

「今は戦闘中だよ。

 集中したいんだ。

 気が散るから話しかけないでくれる?」

 

 

 

「集中したい…?

 何か勝てる策でも見つけたのか!?」

 

 

 

「それは特にはないけど…。」

 

 

 

「ならこれ以上消耗するのは無駄だ。

 どのみちお前では勝てない。

 今のうちに引いておいた方が後々逃げ切れる確率が上がる。

 ここは俺に任せておけ。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「勢いよく飛び出てきて何もせずに退きづらいのは分かる。

 だがよく考えろ!

 ここでの経験を次に生かすことが今のお前のそのとれる最善の策ではないのか!?

 みすみすここで命を捨てるようなことはない。

 ………お前は後で俺達の無念を晴らしてくれればいい。

 だからカオス今は退くんだ!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「カオス………

 言うことを聞いてく…うっ!?」ドンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………邪魔が入って悪かったね。

 続きをしようか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………カオス………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「………もういいのか?」

 

 

 

「あぁ。」

 

 

 

「そうか。

 別に二人で挑んできてもいいんだぜ?

 そんな無抵抗じゃ萎えてくるしよぉ。」

 

 

 

「アンタが一人なのに俺達が二人がかりなんてルール違違反だろ?」

 

 

 

「はぁ?

 いつからルールなんて出来たんだ?

 これは殺し合いだぜ?

 ルールなんざねぇよ。

 何でもありだ。

 それにここで俺がお前を見逃してもその他の奴等はお前らを見逃しちゃくれない。

 数でいやぁお前らは俺達に圧倒的に不利だ。

 それならちょっとくらいハンデやってやってもいいんだぜ?」

 

 

 

「ハンデなんていらない。

 全員が向かってくるなら全員倒していくまでだ。」

 

 

 

「大きくでたなぁ!

 俺達全員を倒すだって?

 俺一人に手こずってるようなお前がどうやってこの国の騎士団を倒せるってんだ?

 頭の計算が狂ってやがる。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「それによぉ?

 俺が強いからって俺さえ倒せばいいとか思ってんじゃねぇか?

 言っておくがそこで転がってる馬鹿よりかは強いが別に俺は騎士団の最強って訳じゃねぇんだぜ?

 俺より強い奴はまだいるんだ。

 すぐそこにいるフェデールって奴は俺の倍は強いぜ?

 それなのにお前、俺に手も足も出ないってどうなのよそこんところ。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「今頃になって自分がどれだけ無力なのか思い知ったか?

 これだから田舎で育ったような学のない能天気野郎は…「ッ!!」!」ブンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お喋りはしなくていい。

 喋っている暇があったらもっと畳み掛けてこい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………へぇへぇ。

 田舎者はコミュニケーションの大切さを知らないねぇ。

 こうして細かく情報を教えてやってんのに無下にしちまうとは。

 それでも吹っ掛けられたからにはやってやろうじゃん!

 精々長生きできるようにしっかりガードを緩めるなよ?

 行くぜ!」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(カオスは何を狙っているんだ?

 油断させてから隙が出来た時に仕留める作戦なのか?

 だとしてもユーラスを倒したところで終わりではない。

 また次の奴が出てくる。

 そう何度も使える作戦ではないぞ!?

 この状況をどう切り抜けるんだカオス!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンッ!!



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疑われる出生

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスとの戦闘でカオスが自分の技量が低いことを指摘され後に集まってきたバルツィエもそこを認める。

 戦況が悪いことにウインドラも不安を抱くが…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「なぁ?

 お前って本当にアルバートの血筋なのか?」ピタッ

 

 

 

「………急にどうしたの?」

 

 

 

「お前があんまりにも弱すぎるから疑問に思ってよ。

 お前がアルバートの孫なのかどうか妖しくなってきた。」

 

 

 

「…俺はそう言った筈だけど…?」

 

 

 

「それが嘘臭いんだよなぁ!

 孫を偽るなんざ誰だって出来る。

 そこのカオス擬きにも出来るくらい「魔神剣ッ!」よっと。」ザザッ!!スッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これじゃあ証拠にならない?」

 

 

 

「ならねぇなぁ!

 そんくらいならバルツィエの血を持ってりゃ誰にだってできんだよ。」

 

 

 

「………何が言いたい?」

 

 

 

「お前ってよぉ?

 単に俺達バルツィエの誰かがどっか遠征行ったときにそこら辺の女を孕ませて出来ただけのガキなんじゃねぇか?」

 

 

 

「そういうことがあるのか?」

 

 

 

「あるぜぇ?

 例えばそこのラーゲッツなんか遠征行く度しょっちゅうだ。

 そいつの息子や娘なんかそこら中にいると思うぜ?

 なんならダレイオスにすらいるかもな。」

 

 

 

「お前達はその女の人の責任をとるつもりはなかったの?」

 

 

 

「あると思うかぁ?

 俺達ゃどっか行く時はワンナイトラブが基本なのよ!

 俺達の名を聞けば喜んで抱かれる奴もいれば震え上がってから体を差し出すような女が巨万といるんだ。

 いちいち責任なんかとってると嫁が百人越えちまうぜ。」

 

 

 

「…バルツィエってゲスの集まりなんだね。」

 

 

 

「英雄色を好むって言ってくれよ。

 ってかお前にもその血が流れてんだぜ?

 誰の血なのか知らねぇけど。

 もしかしたらそこにいるラーゲッツが父親だったりするのかもな。」

 

 

 

「俺にはお父さんもお母さんもいた。

 それはあり得ないよ。」

 

 

 

「再婚したってこともあるんじゃないか?

 親父の方はワザワザ身籠った女とくっつく変人かもしれねぇが。

 それか母親が親父にお前の存在を伏せて結婚したってことも考えられるぜ?

とにかくお前の存在はあやふやだ。

 アルバートの孫だとはとても信じられねぇ!

 アイツの力はこんなもんじゃねぇんだからよぉ!!」シュッ!

 

 

 

「…お前はおじいちゃんを知っているのか?」ガスッ!

 

 

 

「たりめぇだろ!

 今の俺達世代はアルバートとは従兄弟や再従兄弟関係だ!

 昔のアイツのこともよく知ってる!

 アイツはお前のような正義面したウザい奴だったぜ!

 とても素晴らしく着飾った奴だったよ!

 気取りすぎて俺達の評判を陥れる糞野郎としか感じなかったがなぁ!

 オラァッ!!」シュシュッ!!

 

 

 

「………!」ザシュッ!

 

 

 

「おぉッ?

 とうしたぁ!

 集中力切れてないかぁ!?

 ガード緩めるなって言ったよなぁ!?

 初弾貰っちまったぜ?

 疲れてきたんじゃないか?

 なぁ?」

 

 

 

「………少し早く反応しすぎただけさ。

 このくらい何でもない。」

 

 

 

「ハハハハハッ!

 もう強がりしか言えないんじゃねぇのかぁ?

 お前の魂胆は見えてるぜ?

 俺を挑発して喋らせたり走らせたりして疲れさせたところを狙ってくるんだろ?

 そうなんだろ?

 考えが浅はか過ぎるぜ!

 俺の本気はまだまだこんなもんじゃねぇんだからよぉ?

 スピード上げていくぜぇ!!」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュシュシュシュシュシュシュシュシシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュュシュンッ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだぁこのスピードォ!!

 さっきまでの俺はただ軽く歩いてただけなんだよ!

 このスピードに反応が追い付いてこれるかァッ?

 この速度を維持しながら十分は走り続けられるぜ?

 それまでお前の体力がもつかなぁ?

 そらそらそらッ!」シュシュシュッ!!

 

 

 

「くっ…!?」ガスッ!ガスッ!ガスッ!

 

 

 

「この調子で一気にフィニッシュだ!

 それまでに最後の散り様をどうするかよ~く考えて決めときな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

「…決着が近いみたいだな。」

 

 

 

「もうカオスもお仕舞いかぁ…。」

 

 

 

「何だったんだろうな。

 アルバート伝説は…。」

 

 

 

「もうバルツィエを止められる奴なんて誰もいないんだな…。」

 

 

 

「あのカオスもよく頑張ったけど………。」

 

 

 

「ユーラスのスピードに対応出来なくなっていってる…。

 ここからの逆転は不可能だ。」

 

 

 

「マテオがバルツィエの完全支配下に置かれる前にいい決闘を見られてよかったよ………。」

 

 

 

「やっぱり願うだけで叶うことなんてないんだな。」

 

 

 

「カオスには………、

 もう何もなさそうだね………。」

 

 

 

「アイツはよくやったさ…。

 こんな大衆の前によく出てきてくれた…。

 俺達の為にバルツィエと戦ってくれた………。

 もういいんだよ頑張らなくて…。」

 

 

 

「せめて最後の時は苦しまずに彼が逝けますように………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「そろそろ幕引きの時間だ!!

 楽しい楽しい夢のような時間はもう終わりだ!

 次に会うときは天国でまたお会いしようぜカオス!

 俺の天国行きは当分回ってこないがなぁ!!!」シュシュシュシュ!

 

 

 

「………」ガガガガッ!

 

 

 

「最後くらい何か辞世の句でもねぇのか?

 あるなら聞いといてやるぜ?

 忘れねぇようにメモっといてやってもいいぜ?」シュシュシュシュ!

 

 

 

「………」ガガガガッ!

 

 

 

「何もねぇのかよ?

 最後まで黙りとか詰まらねぇ奴!

 とっとと殺してやろうか?

 あぁん?」ピタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ツー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アッッッッッッハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!

 何泣いてんだよお前ェッ!!

 今更死ぬのが怖くなって泣いたってどうにもなんねぇだろうがぁ!!

 死ぬと分かって我慢の限界が来たのかぁッ!?

 役になりきれねぇ三流だなぁテメェはよぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「カオス…!

 だから俺があれほど………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「おいおい泣いちゃったのかよカオスは!」

 

 

 

「泣くぐらいなら最初から出てくるなし…。」

 

 

 

「ざっ、様ぁみろですね!

 兄さん達に逆らうからそういう目に遇うんですよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(こんなところで終わってしまうのか?

 カオス…。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

「カオスが………泣いている。」

 

 

 

「きっとここに出てくるだけでも相当緊張してたんだろうな。

 それがユーラスに決着を突き付けられて決壊したんだろう。」

 

 

 

「あんな怪物達に立ち向かって行っただけ凄い奴だよ彼は。」

 

 

 

「俺達は………お前のその勇気を乏したりはしない………。」

 

 

 

「有り難う………、

 カオス………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「………カオスさん!

 諦めちゃダメだ…!!

 まだ…!

 まだどうにか出来る方法が…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスが………感泣してる…?」

 

 

 

 

 

「………え?」

 

 

 

「カオスが………何か………

 ………何かを思い出して泣いています………。

 あの涙はそういう涙です。」

 

 

 

「この場面で何を…!?

 ………殺される前に昔の記憶のことでも思い出しているのでしょうか…?」

 

 

 

「昔………?

 ………そう。

 …カオスは昔を思い出しているんですよ。

 昔お祖父様と過ごした日々のことを………。」

 

 

 

 

 

 



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心境の異変

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 カオスがユーラスと戦っているとユーラスからカオスがアルバートの血筋なのか疑われる。

 民衆もそのことを疑い始め…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「それじゃあそろそろ逝ッてみようかぁ!!?

 『岩石よ!我が手となりて敵を押し潰せ!ストーンブラスト!』」パァァァァッ

 

 

 

「(追撃……!)」

 

 

 

「俺の追撃は最高十五連撃まで可能だ!

 この連撃を全て俺の剣に込める!

 そこのカスの雷撃野郎のパクリとは段違いの威力の魔技をお見舞いしてやるぜ!!

 跡形なく消し潰してやるから覚悟しな!!」パァァァァッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「この魔力は………俺の瞬雷槍よりも上………!?

 バルツィエの本気はこれ程までなのか…!!?

 カオス!!

 逃げるんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「あぁ~あ、

 これで終わりかぁ…。」

 

 

 

「うちらまで回ってこなかったし…。」

 

 

 

「これでやっと帰れるんですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(もう何も打つ手がないのか…?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「おッシャアァァ!!

 準備オッケーだぜ!

 何時でもお前を消し飛ばせすことができるくらいに力が溜まったぜ!?

 お前ももう恥をさらさなくて済みそうだ!

 喜べ!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「こんな状況になっても対抗魔術の一発も放たずに何を考えているのか知らねぇが全てはお前のそのバルツィエの血を持ちながら無能に生まれてきたのが失敗だったなぁ!!

 まさか飛葉翻歩だけじゃなく魔術も満足に撃てないのかぁ?

 どれだけ駄目な奴なんだよお前は?

 それもできないようじゃお前が負かしたイクアダのガキの方が才能に恵まれてんじゃねぇか?

 アイツがお前くらいの年になったら完璧にお前より強くなるぞ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「言われっぱなしで悔しくねぇのかよ?

 もう口も開かなくなっちまってんのか?

 泣いちまうくらいだからそれもそうか!

 自分が無能だってこと認めて言い返すことも出来なくなってんだな!

 俺なんか才能溢れすぎて七歳くらいでもう今くらい飛葉翻歩も瞬迅剣も追撃も出来るようになってたんだぜ?

 どうだ?

 今のお前はその時の俺に敵いそうか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………つまんねぇなぁ。

 こんな無気力野郎とっとと消しちまおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 派手な演出で決めてやるんだから最後くらいいい声で鳴いてくれよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とうしてだ。

 

 

 

 やられているのに。

 

 

 

 こいつらと戦っていると…、

 

 

 

 そこまで恐くないのは…。

 

 

 

 それどころかもっと戦っていたくなる…。

 

 

 

 こいつらともっと剣を交えていたくなる…。

 

 

 

 この気持ちは何だろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この気持ちは何だったか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この感覚には覚えがある。

 

 

 

 ずっと前に同じ気持ちになったことがある…?

 

 

 

 いつだっただろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネイサムのガーディアント戦だったかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………違う。

 

 

 

 あの時もガーディアントは強かったけどこんな気持ちにはならなかった。

 

 

 

 他に強敵と戦ったのは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニコライト!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でもない………。

 

 

 

 近いけどニコライトよりももっと強い相手だった気がする。

 

 

 

 俺の相手で他に強い相手なんていただろうか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ………。

 

 

 

 いた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一番忘れてはいけない人を忘れていた。

 

 

 

 俺が今まで戦った中で一番強くて一番勝ちたかった人………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんを………。

 

 

 

 ………そうか。

 

 

 

 この気持ちが何なのか分かった。

 

 

 

 これは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 懐かしさだ。

 

 

 

 とても大切だった時間を思い出した………。

 

 

 

 ウインドラと稽古をつけてもらっていたときの時間…。

 

 

 

 この感情はあの時のことを思い出して切なくなってるんだ。

 

 

 

 どうして今思い出したのだろうか………?

 

 

 

 今戦っているのはおじいちゃんじゃないのに………。

 

 

 

 今戦っているのはおじいちゃんとは違う別の………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!

 

 

 

 おじいちゃん…?

 

 

 

 おじいちゃんが………近くにいるような気がする………!?

 

 

 

 どこだ………?

 

 

 

 どこにおじいちゃんがいるんだ………?

 

 

 

 おじいちゃんがこの街のどこかに………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな筈はない。

 

 

 

 おじいちゃんは死んだ。

 

 

 

 それは俺がよく知ってる。

 

 

 

 おじいちゃんが死んだとき一番近くにいたのは俺だ。

 

 

 

 俺がおじいちゃんを看取ったんだからそんなことはあり得ないと分かっている。

 

 

 

 おじいちゃんが生き返ることがないということは俺が誰よりも理解している。

 

 

 

 おじいちゃんがこの場にいる筈なんてない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………なのになんだ?

 

 

 

 何故おじいちゃんがまだ近くにいるように感じるんだ?

 

 

 

 一体どこからこの感じが伝わってくるんだ?

 

 

 

 回りには街の人とウインドラの部隊の人と………

 

 

 

 ………目の前のこのユーラスとかいうおじいちゃんの従兄弟のバルツィエしかいない………。

 

 

 

 今から俺はこいつに殺されるからおじいちゃんの魂が俺を一足先に迎えに来たのかな…?

 

 

 

 俺は今からこいつの剣で………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カオス!

 剣の握りが甘いぞ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!?

 

 

 

『基本をしっかりおさえねぇと次の段階に行くなんて百年早い!!』

 

 

 

 ………おじいちゃん?

 

 

 

 おじいちゃんの声が聞こえる!

 

 

 

 おじいちゃんが俺に語りかけてくる!

 

 

 

 おじいちゃんがどこかから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前に技を教えるのは基本をしっかり身に付けてからだ!!

 それまではお前には基礎の基礎しか教えてやらんからな?』



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十三年の剣術

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスとの戦闘で劣性ながらも耐え続けるがユーラスが本気で止めにかかりに来る。

 その時カオスはどこからともなく祖父の気配を感じて…。


秘境の村 ミスト 十年前

 

 

 

「技を教えてほしいだと?

 なんで急にまた…。」

 

 

 

「俺はウインドラやミシガンを守れるくらいに強くなくちゃいけないんだ!

 それなのにウインドラは魔術も使えるし一緒に剣術もつけてもらってる。

 俺はどんどん引き離されちゃうよ!」

 

 

 

「人には人のペースがあるだろ?

 お前はお前のペースで力をつけていくのが最も最短な強者へのルートなんだぞ?」

 

 

 

「でも俺には剣術しかない!

 だったらどんどん剣術だけででもウインドラに追い付くくらい強くならないと!」

 

 

 

「何をそんなに焦ってるんだ?」

 

 

 

「ウインドラやザックは魔術を教えてもらえばすぐにそれを覚えられる。

 すぐに魔術が増えて対応が難しくなってくる。

 この間せっかくザックに一勝したのにまた追い抜かされて前と同じ状態に戻っちゃうんだ!

 そんなの嫌だ!

 ザックが強くなるんなら俺も強くならなきゃ!」

 

 

 

「………そんなことかよ。

 あのなぁ、ザックやウインドラが身に付けていってるのは技は技だがそれを使いこなせるかは本人の基礎次第だ。

 ザックなんかお前とかに威張り散らしたくて身に付けてるだけのスッカスカなもんだぜ?

 あんなもんお前が基礎を疎かにしなければいつだって勝てるようになる。」

 

 

 

「基礎って………、

 筋肉なんかつけたって魔術一つだけで吹き飛ばされるだけじゃないか!

 それだったら俺も先手必勝の何か凄い技を「カオス」!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「武術の道に近道なんてないんだ。

 地道に鍛え上げていってその都度己を見つめ直し限界の幅を拡げていくこと。

 その過程で急に強い技なんか身に付けたってそれに頼りっきりになって勝ち続けていけば人は強くなるための努力を忘れてしまう。

 楽して勝つこと………。

 それこそが最も人の努力を腐らせる一因だ。

 お前に教えられる技でマナを使わなくても使える技はある。

 だがお前が俺に追い付くくらい強くなるまで俺は一つもお前に技を教える気はないぞ?

 お前はただひたすら地道を行け。」

 

 

 

「そんなこと言って俺に技を教えたらすぐに強くなって追い付かれちゃうから教えたくないだけじゃないの?」

 

 

 

「ば~か、お前に教えたとしてもお前が使いこなすレベルに至ってないから教えられねぇだけだよ。」

 

 

 

「じゃああとどのくらい強くなったらいいの?

 おじいちゃんを倒せるくらい?

 それっていつ?」

 

 

 

「いつになるかは分からねぇし俺を倒した程度じゃあまだまだだな。

 王都に行けば俺なんかより強いやつは山程いる。

 そこで騎士になるからには俺なんか簡単にいなすくらいやってくれなくちゃな。」

 

 

 

「えぇ~!?

 大人になるまで無理だよ!」

 

 

 

「お?

 目標が出来たな。

 大人になってまだお前の知らない奴等を倒せるくらいにまで基礎を積みまくったらそしたら技を教えてやるよ。」

 

 

 

「………そしたらおじいちゃんはまだまだ半人前で技に頼ってるってことにならない?」

 

 

 

「俺は技は知ってるが技に頼ったところなんてみたことあるか?」

 

 

 

「………ない。」

 

 

 

「だろう?

 俺は技なんかに頼らずとも鍛えに鍛え上げた腕があるからな。

 技なんか必要としねぇんだよ。」

 

 

 

「それはここら辺のモンスターが弱いからじゃないの?」

 

 

 

「それもあるな。

 だからお前はまだまだずっと上を見上げて積んでかなくちゃいけない。

 王都付近のモンスターは俺より強い奴でも苦戦するんだ。

 お前には越えなきゃいけない壁が沢山ある。

 果てしない壁が連続して通せんぼしている。

 お前はそれらを越えるためひたすら訓練を続けろ。」

 

 

 

「………そんなに多くの壁が………。

 俺に出来るの?

 魔術も使えなくて剣術だけの俺が?」

 

 

 

「出来るって言ってるだろ?

 お前は俺の孫だぜ?

 俺の立つ地点には届く可能性もあるしそれを遥かに越えていく可能性もある。

 お前が諦めなければ俺より強い奴等にも勝てるようになるさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからよ?

 お前は何がなんでも諦めるな。

 

 

 

 体質のハンデなんてものは先入観でしかない。

 お前が出来ないと諦めればそこで道は途絶えるがお前が諦めなければお前はどこまでも上っていける。

 俺の教えを信じてくれるなら俺はお前をどこまでも応援するさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前のような泣き虫で才能のないバルツィエは不要なんだ!!

 消えてなくなれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地針衝ッッッ!!!」ゴォォォオォッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスさんッ!!!」

 

 

 

「………(カオス………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 王城前 アレックスサイド

 

 

 

「下らん嘘をつくものがいたものだな。

 兄の息子に孫などと………。

 あの程度で烏滸がましく、そして忌々しい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………

 

 

 

 そうか。

 

 

 

 やっと分かった。

 

 

 

 俺が感じていたこの違和感が。

 

 

 

 おじいちゃんは生き返った訳じゃない。

 

 

 

 おじいちゃんは最初からいなかったんだ。

 

 

 

 なのに感じていたこの懐かしさ…。

 

 

 

 この懐かしさは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この目の前のユーラスから感じていたんだ。

 

 

 

 こいつの剣は………、

 

 

 

 おじいちゃんの剣に似ている。

 

 

 

 こいつの剣技は昔のおじいちゃんに近いんだ。

 

 

 

 だから俺はこいつと戦っているとおじいちゃんを思い出すんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃん………、

 

 

 

 やっとおじいちゃんの考えが理解できたよ。

 

 

 

 おじいちゃんが全然技を教えてくれない訳が。

 

 

 

 俺の体質のこともあったんだろうけど。

 

 

 

 おじいちゃんは、

 

 

 

 ただ俺の我儘に付き合ってただけじゃなかったんだね。

 

 

 

 おじいちゃんは俺との稽古をテキトウにやっていたんじゃなかったんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんは本気で俺を強くしようとするのを諦めたりはしてなかったんだね………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんの教えは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッッ!????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間違ってなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!!??

 ……………………………ッゥゥうぅぉ、おォッ、俺の腕がァァァァァァァァァァッッッ!!!???」



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模倣剣技

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスとの戦闘中祖父アルバートとの稽古を思い出しユーラスにその面影があることに気付く。

 そしてカオスは…


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?!!?

 ………ッ!!

 ……………腕が。

 …腕がァァァァッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………

 …………………!

 …カオスが反撃したのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 え!?

 今何が起こったんだ!?」

 

 

 

「ユーラスがカオスに止めの一撃を決めたと思ったら…?」

 

 

 

「逆にユーラスが喰らってるようだぞ?」

 

 

 

「どうなってんだ…?

 全く見えなかったぞ?」

 

 

 

「あのカオスがやったのか…?」

 

 

 

「そうとしか考えられねぇけど…。

 でも…。」

 

 

 

「さっきまでサンドバッグだったのにどうやって…?」

 

 

 

「まさかこの瞬間を狙ってたのか!?

 ユーラスが大振りの一撃を叩き込んでくる瞬間を!?」

 

 

 

「ユーラスですら反応しにくい最速の一撃を予見してこの一撃を浴びせるために!?」

 

 

 

「………ってことはこっから畳み掛けていくのか!?」

 

 

 

「そうだ!

 そうに決まってる!

 こっから一気に攻めていくんだ!」

 

 

 

「行くのかカオス!

 行くんならユーラスが痛がってる今が「ファーストエイドッ!!」!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ………ハァ!

 ………ンハァ!

 ハァ…。

 ………治癒魔術なんて随分使ってなかったんだがなぁ。

 こんなとこで使っちまうことになるとは………。

 痛みなんて久しく忘れていたぜぇ…。

 ………お前ェ………、

 この時を待っていたのか?

 俺が最大の技で決めにかかるのを。

 ………残念だったなぁ。

 今の一瞬で追い打ちをかけねぇとは。

 絶好のチャンスを棒に振っちまったなぁ。

 俺の様子でも見てたのか?

 それとももう今の一撃入れるだけで力使い果たしちまったのかぁ?

 俺に向かってきてもらうしかないんだろ?

 おいよぉカオスさぁん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「………おぉ!

 やっとユーラスに当てやがったなぁカオスゥ!!

 こうも一方的じゃあ面白みがねぇよなぁ!

 最後の最後にどんでん返しを見せてくれようとしたのか?

 楽しませてくれるじゃねぇかぁ!」

 

 

 

「けど今ので決められなかったのは大きな痛手…。」

 

 

 

「………違います。」

 

 

 

「「ん?」」

 

 

 

「カオスは………、

 カオス=バルツィエは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決まったと思ったここからが恐いんです。」ブルブル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「カオスさん!?

 何故今のタイミングで決めに行かなかったんですか!?

 ………皆呆気に取られてはいましたが戦闘をしているカオスさんまで自分の攻撃が決まったことに驚いて止まってしまうなんて!!?

 もう相手は迂闊に近づいては来ませんよ!?」

 

 

 

「それは違いますよタレス。」

 

 

 

「違う?」

 

 

 

「カオスは呆気に取られていたんじゃありません。

 カオスは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ご自分の力を自覚したんです。

 ここからはもうカオスに任せておけば大丈夫でしょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「…ハァ。

 どうするよ?

 もうこっからお前にチャンスは回ってこねぇぞ?

 さっきのは油断しちまったがもう気は抜かねぇ。

 これから時間をかけて追い詰めて追い詰めて追い詰めてから止めを刺す。

 それまでお前はそこで立ち往生してるしかでき「有り難う」………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前………

 ユーラスって言ったな?

 ユーラスのおかげで俺は成長出来た…。

 だから有り難う。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………今のカウンターだけで成長したつもりならお前はその年まで全然成長出来てなかったんだな。

 冥土の土産に学習していけ。

 魔術合戦では敵が攻撃を受けても即回復してくるなんてよくある話だ。

 ラッキーパンチだけで勝てるほど戦場は甘くねぇんだ。

 敵が次に何をどうするか予測して予測するのが生き残れる秘訣なんだよ。

 お前は一発入れただけで止まっちまった。

 もう生き残ることは出来ねぇ。

 これで………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当の最後になったんだ!!

 魔神剣・双牙!!」ザン!ザン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣・双牙ッ!!」ザン!ザン!「貰ったァッ!!」シュンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空破絶掌……!からの五天絶掌撃ッ!!」ガガガガガッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「!?

 何しているんだ!

 カオス!?

 その手はお前が俺に使ってきた手じゃないか!!?

 それなら自分がやられることも考えられただろう!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「ハーッ!

 ハッハッハァ!!

 俺がカウンター喰らったからってすぐには接近しないとでも思ったかァ?

 そんなことを思ってたんな………らぁ!!?

 ……うぁ………ッ…………!!??」ザシュシュシュシュ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成長したって言ったのはそう言うことじゃないよ。

 俺が成長したって言ったのは俺の剣術のことさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!!!!!?????」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!?」

 

 

 

「………カオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「ぐぅぅぅ………!!

 ファッ!

 ファーストエイドッ!!

 ………うぅう………!?

 何だ!?

 どうしたんだ!?

 この俺が連続で当てられただと!?

 しかも見切られないように初見の技を使ったというのに!!?」

 

 

 

「初見でもお前の技は突撃してくるしかしないしそのスピードもさっきの魔技よりも遅い。

 対応するのは簡単だったよ。」

 

 

 

「馬鹿を言うな!?

 五天絶掌撃は瞬間的に衝破一文字を五連続で突き抜け様に放つ技だ!!

 お前にさっきから撃ってた衝破一文字から繋げられるなんてお前には想像もつかなか「想像ならついてたさ。」…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の言動と動きをよくし見てたらお前が手を抜いて戦っていたことも。

 お前がまだその技の先を持っていることも筋肉の動きでね。」

 

 

 

「筋肉の動きだと!?

 全然手を出してこないと思ったら俺の動きを観察してやがったのか!!

 猪口才なことを!!

 だが……!!」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣!魔神剣!魔神剣!魔神剣!魔神剣!魔神剣!魔神剣!魔神剣!魔神剣!魔神剣!魔神剣!魔神剣!魔神剣!魔神剣!魔神剣魔神剣!魔神剣!魔神剣!魔神剣!魔神剣!」ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が俺のスピードに反応しようが俺のスピードについてこれねぇことに変わりはねぇ!!

 この状態で俺の攻撃だけを放ち続ければいずれお前に「ここだ!」ぐわぁッ!!?」シュンッ!ドスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドタンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!?」

 

 

 

「何度も何度もお前の飛葉翻歩を見せてくれたおかげで俺もどうすればもっと早くなれるかコツが掴めたよ。

 どうやら今まで使っていたのは飛葉翻歩じゃなかったんだね。

 これで俺も本当の飛葉翻歩を習得出来た訳か。」

 

 

 

「………今のは!?

 俺の……!?」

 

 

 

「そう…。

 お前の飛葉翻歩だ。

 今までニコライトのを参考にして使ってたけど俺にはお前の飛葉翻歩の方が使いやすい。」

 

 

 

「俺の技を盗みやがったのか!?

 この戦闘の間に!!?」

 

 

 

「盗んだんじゃないよ。

 教えてもらったんだ。

 お前は俺にとって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりの剣術の稽古相手だ。」



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逆転劇

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスとの戦闘中に相手の剣技を咄嗟に真似しカオスはユーラスに痛恨の一撃を加える。

 そこからはカオスがユーラスが繰り出す技を次々と盗みカオスは…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「この俺を前にして稽古だと………!?

 ふざけたことをぬかしやがってぇ!!」

 

 

 

「次はどんな技を見せてくれるんだ?

 先生?」

 

 

 

「野郎ォォッ………。

 だったらこれは真似出来るか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーバーリミッツ!!」パァァァァァッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「(………この数分の中で流れが変わった…!

 先程までの劣勢からカオスが追い上げてきている。

 この勝負………、

 まだどちらが勝つか分からない。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「これは………。」

 

 

 

「ユーラスの奴………、

 マジになってねぇか?」

 

 

 

「決め技で決めきれなかったからイラついてる…。」

 

 

 

「………ここからのユーラス兄さんの勝ちは無くなりましたよ。

 ぼくもこの流れでやられたんですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか………、

 カオスが盛り返してないか?」

 

 

 

「………俺にもそう見えるな。」

 

 

 

「急にカオスが攻めだしたぞ?」

 

 

 

「それになんだか余裕そうだ。」

 

 

 

「ユーラスも様子がおかしい………。」

 

 

 

「本気で焦ってないか?」

 

 

 

「あのユーラスがそんな………。」

 

 

 

「あのバルツィエのことだから何かまたふざけた演出か何かじゃないか?」

 

 

 

「………あいつらの動きに目が追い付かねぇから分からねぇ………。」

 

 

 

「今どういう戦況になってんだ?」

 

 

 

「さぁ………?」

 

 

 

「………カオスが押してないか?」

 

 

 

「そうか………?」

 

 

 

「そんなすぐ強くなるものなのか?」

 

 

 

「命懸けの戦いだからってそれはないと思うが………。」

 

 

 

「どうなってるか誰か分からないのか………?」

 

 

 

「今俺達の………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 希望はまだ生きてるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだぁ!!

 オーバーリミッツ!!

 これは真似できまい!!

 俺達ですらこいつを習得するのには数ヵ月はかか「なんだその技か。」…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーバーリミッツ。」パァァァァァッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だろォッ!!?」

 

 

 

「この技なら昨日ウインドラのを見ていたからもうできるんだけど?」

 

 

 

「昨日見ただと………!?

 見ただけでオーバーリミッツを!?

 馬鹿な……!?

 この技はかなりの時間をかけて肉体を酷使する修行を積まねぇと体得できねぇ筈…!?

 それがこんなあっさりと使える訳が「積んできたさ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「修行ならたくさん積んできた。

 それこそ数ヶ月と言わず十三年間、

 欠かさずに積んできた。

 ひたすらに応用の技を使いこなすためのバルツィエ流………アルバート流剣術の基礎の反復を延々と。

 モンスターと戦うときも基本を忠実にこなして戦い続けてきた。

 気が遠くなるような長い時間一人で戦ってきたんだ。

 俺が守りたい人を守るために、

 そして俺自身が強くなるために。

 この世界には俺の村の周りにはいないような見たこともないすごく強い人やモンスターがいると聞いていた。

 おじいちゃんでも勝てないと言うほどの人やモンスターが…。

 俺はそいつらに出会ってしまっても勝てるように上を目指して修行に励んできた。

 もしあの村の悲劇の時のように何も出来ずに皆を死なせてしまうのが怖くて………。

 また俺は誰かを死なせてしまうんじゃないかって………。

 無我夢中で強さを求めて剣を振ってきた。

 

 

 

 ………けど俺はずっと幻想を追い掛け続けていたんだ。

 俺が想像するおじいちゃんを越える怪物………。

 俺がいくら努力を重ねて強くなろうがそれすら軽く越えていく怪物を………。

 その怪物を目指して毎日毎日来る日も来る日も剣を振り続けた。

 その怪物の正体がこんな………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 技の強さに傲って基礎が杜撰な連中だったんだね。」

 

 

 

「!?」

 

 

 

「こんな態度が大きいだけの技に頼った素人を目標にしていたなんて………。

 その甲斐あってここまで強くなれたけど………。

 この分じゃまだまだ世界にはいそうだな。

 俺が目標とするまだ見ぬ幻想のような強さを持つような人達が。」

 

 

 

「…!

 みっ!

 見下してんじゃねぇぞ!!?

 田舎者の分際でぇッ!!

 世間知らずも大概にしろよ!!

 そんな奴がいる訳が「いちいちそんなことで怒鳴るなよ。」!!」

 

 

 

「分かってるさ。

 俺が田舎者だってことも。

 俺が世間知らずだってことも。

 俺には世の中の仕組みがよく分からなくてタレスやレイディーさんとかに教えてもらわないと何も分からないなんてことが多々ある。

 それからどうするのかも他の人に頼りっぱなしさ。

 俺には皆の考えを聞いてそれに賛同するしかできない。

 俺が昨日までで学べたことは俺が思い付きで行動したら必ず上手くいかないってこと。

 それだけだ。

 俺は基本的な物事が分からないから感情で動きやすい。

 だから失敗するんだ。

 俺が考えずに出来ることなんて戦うことだけ。

 戦う………そう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前達バルツィエと戦うことだけ。」

 

 

 

「!?

 俺達と正面切って戦争しようとでも言うつもりか!?」

 

 

 

「そうだよ。

 お前ら相手なら俺は負けない自信がある。

 

 

 

 

 

 

 下手くそだのなんだの言われたけど実は俺、

 ニコライトに会うまで飛葉翻歩すら使えないどころかそういう技術が存在することすら知らなかったんだ。」

 

 

 

「…!?

 飛葉翻歩を知らない…!?」

 

 

 

「うん、

 俺が初めて使ったのはニコライトと戦ったときだ。

 そのときニコライトの飛葉翻歩を見て俺にも出来そうだと思ったから試しに真似してみたらすんなりできたよ。

 案外簡単だった。

 真似するまでに一発もらっちゃったんだけどね。」

 

 

 

「戦闘中に飛葉翻歩を習得したってのか!?

 いくら飛葉翻歩が初級技術だからってそんな短時間で覚えられる技じゃねぇんだぞ!?

 存在も知らなかったような奴が相手の動きだけで物真似なぞ………!!」

 

 

 

「俺はアルバート流剣術者だ。

 お前達、修行不足の剣技を摸倣することくらいわけないんだ。

 そう言う点ではパワーだけの初心者感が抜けきらないニコライトよりかは若干技の洗練さだけがあるお前の剣術は俺に巧くフィットする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここから先はもうお前の攻撃は一太刀もあびない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュンッ!ザスッ!ザスッ!キンッ!ザスッ!ザスッ!ザスッ!シュンッ!シュンッ!ザスッ!

 

 

 

「うごぁっ!?」ザスッ!?

 

 

 

「魔神剣ッ!!」ザザッ!!

 

 

 

「ガッ…!?」ザスッ!

 

 

 

「瞬迅剣ッ!!」シュッ!!

 

 

 

「うぉあッ!!」ザクッ!!

 

 

 

「衝破一文字ッ!!」ズザザザッ!!

 

 

 

「ぐぉおあああああっ…!!?」バスッ!!

 

 

 

「剛・魔神剣ッ!!」ザザンッ!!

 

 

 

「ウァァァァァァァァッ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (……なっ、なんなんだこいつ!?

 

 なんなんだこいつの強さは!?

 

 さっきまでは俺が勝っていたじゃねぇか!

 

 それなのに今は俺が斬りつけられている…、

 

 話が違うじゃねぇかセバスチャン!

 

 

 

 こいつ!

 

 メチャクチャ強いじゃねぇか!?

 

 何がイクアダのガキと同格レベルだ…、

 

 こいつは………、

 

 下手したらフェデールと並ぶ勢い…、

 

 それにこの俺の剣技を盗むスキル………、

 

 見ただけでパクられる………、

 

 しかも俺の技なのに俺よりキレがやべぇ………、

 

 こいつはまだまだ発展途上だ。

 

 こいつがこのままいったら………

 

 

 

 アレックスに剣が届く!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五天一文字ッ!!」シュシュシュシュシュンッ!!

 

 

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁアァッ!!!?」ザザザザザスッ!!



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ユーラス陥落

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 劣性だった状況から一変カオスはユーラスを圧倒し始める。

 回復魔術も駆使して持ち直そうとするユーラスであったがカオスは…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「ファッ!

 ファーストエイド…ッ!

 ハァ………ハァ………ッ!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「ハァ………ハァ………!

 まっ!

 まだまだァッ!

 俺はやれるぜ!

 俺には治癒魔術がある!!

 お前が何度斬りつけて来ようが際限なくッ………!

 ハァ………ハァ!!」

 

 

 

「………それってさ。

 アンタが俺に指摘した………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強がりってやつじゃないの?」

 

 

 

「!?

 何言ってんだ!?

 強がりな訳ねぇだろうが!!

 まだまだやれるって言ってんだろうがァッ!!?」

 

 

 

「………それはよかった。

 何度でも回復出来るなら………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 技の練習に丁度いい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?

 (この俺が技の練習台にされているだとッ!?

 こいつ!?

 完全に舐めきってやがるッ!?

 俺をいつでも仕留められるとそう言いてぇのか!?

 こんなッ!?

 こんなことがあっていい筈がねぇッ!!

 こんなどこの馬の骨とも分からねぇような奴に俺が遊ばれていい訳がねぇッ!!)

 畜生ガァッ!!」

 

 

 

「魔神剣!瞬迅剣ッ!!」ザザッシュッ!!

 

 

 

「グアッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………もう少し早く繋げられるかな?

 魔神剣の後に体に捻りを加えて瞬迅剣を出せば遠心力も重なって威力も上げられそうだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「あのユーラスが………負けている………?」

 

 

 

「あのカオスに………。」

 

 

 

「………カオスはユーラスの様子見でもしていたのか?

 最初からは考えられない追い上げだ………。」

 

 

 

「このまま行けるんじゃないか………?」

 

 

 

「バルツィエに勝利しちまうのか!?」

 

 

 

「行ける!

 行けるぞ!?」

 

 

 

「ラーゲッツに続いてユーラスもやっちまえッ!!」

 

 

 

「そしてそのまま他のバルツィエも………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「なぁフェデール………、

 あれ………、

 いいのか?

 助太刀しなくて。

 俺が行ってもいいんだが………。」

 

 

 

「二人がかりでいいのならうちがでるし…。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………止めておけ。

 ユーラスがやるって言ったんだ。

 アイツにやらせておけばいいさ。」

 

 

 

「けどよぉ………。

 大分旗色悪くないか?」

 

 

 

「………いいんだ。

 このままで。」

 

 

 

「見殺しかよ………。

 ユーラスのやつ。

 お気の毒に………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(そんなことはどうでもいい。

 今はそんなことよりも民衆の方に気を回すべきだ。

 ユーラスのやつがやられ始めたことにより民衆の意見が動き始めた。

 いつ暴動が再発するか分からない。

 この流れでは調子にのった奴等がバルツィエにも歯向かって来るかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイツは間違いなくアルバートの孫だ。

 アイツの強さはどことなくアルバートの剣技に近い。

 民衆もそれを信じ始めている。

 先ずはそこをどうにかするか手をうたねば………。)

 セバスチャン、指示を頼みたい。」ピッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「ぐっあぁぁぁぁぁっ!!

 糞がァァァァァァッ!!!

 調子に乗ってザクザク斬りつけてんじゃねぇぇぇッ!!?

 『我らに守りの加護を!バリアー!!』」パァァァッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!」ブンッ!バキンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?

 ブッ!

 ………アーハハハッ!!

 剣が折れやがったァッ!!?

 そんな支給剣でさっき俺の連撃を受け止めてたから俺の硬さに耐えきれなかったんだなぁ!?

 ドジ踏んじまったなぁお前!!」

 

 

 

「………ごめんウインドラ。

 君の剣折って…。」

 

 

 

「さぁ!

 どうする!?

 俺はまだ武器を持ってるぞ!?

 そこらに剣は落ちてるがそれを使っても俺の守りは斬りつけられやしねぇぞ!?

 瞬迅剣ッ!!」シュッ

 

 

 

「………だったら!」パシッ

 

 

 

「!?

 受け止めた!?」

 

 

 

「こうやって」グイッ

 

 

 

「なっ!?」クルッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うげっ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の剣が!?」

 

 

 

「アンタのこの上物そうな剣を使わせてもらおうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「カオスさんが圧倒している………。

 バルツィエを………。」

 

 

 

「だから言ったでしょう?

 カオスに任せておけば心配はないと。

 今のカオスはニコライトと戦ったときと同じです。

 また強くなりました。」

 

 

 

「ですがこの短時間でここまで強くなるものなのでしょうか…?」

 

 

 

「それは違いますよ。

 強くなったんじゃありません。

 カオスはもともと強かったんです。」

 

 

 

「カオスさんがバルツィエを圧倒できるほどにですか?

 ですけどニコライトの時は………。」

 

 

 

「あの時はまだカオスがご自分の力の使い方を知らなかったのです。

 カオスはこの戦いでそれを知った。

 それだけです。

 

 

 

 私達二人は共に世界を知りませんでした。

 自分達の小さな世界だけしか知らずずっと何も知らないままに生きてきた。

 そんな日常から飛び出た今、

 私達は多くのことを経験し学んで旅をして来ました。

 だから私達はもっともっと強くなれる。

 それはこれから先もずっと………。

 

 

 

 カオスはその一歩を今、踏み出したのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファースト「もういいや。」ギァッ!?」ザスッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタからはもう何も学べなさそうだ。

 そろそろけりをつけよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………まだだ。」

 

 

 

「終わりだよ。これで「まだ終わりじゃねぇぞォォォッ!!」。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『岩石よ!!我が手となりて敵を押し潰せ!!ストーンブラスト!!』」ズドドドドドドドドドドドトドドドッッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「カオスッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「………あの馬鹿がッ。

 そいつがそれまで真似することができたらどうするんだよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「どうだァッ!!?

 俺のストーンブラストの破壊力のお味はァッ?

 俺の残りのマナ全部つぎ込んだぜ!!

 この魔術の威力こそがバルツィエが畏怖とされる所以だぁッ!!

 バルツィエ同士でも本気の魔術は禁止されるほどの威力がでるんだ!!

 この岩に潰されるか窒息させてこれをそのままお前の墓石にしてやるぜ!!

 これは流石に………!?」ピシッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシピシッ!!………ドゴォォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いんだけど魔術の類いは効かない体質なんだ。

 俺の力じゃないんだけどね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………化け物が………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「化け物だって自覚してるよ。

 昔から言われ馴れた。

 人に戻れるのなら戻りたいさ。

 だけど今はこの力に感謝してる。

 この力があればお前らを倒せる。

 だから今はお前を………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これで倒す!!

 魔神剣・槍破ッ!!」ザザザザッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐふぅ……!!

 ………………俺がこんな化け物にぃ………」ズサァ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 王城前 アレックスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………あれが………。

 兄上の………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄上………。」



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フェデールの策略

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスとの戦闘中に飛躍的に力をつけたカオスはユーラスの全力の一撃を受け流しユーラスに打ち勝つ。

 そんなカオスに…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズサァ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………殺したりはしないから安心しな。

 俺は人殺しのやり方までは教えてもらってないんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優しいこと言ってるなぁ!

 感動して涙が出てくらぁ!!」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユーラスを倒したんなら次はうちらが相手する…!」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今度は二人が相手か。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「!?

 バルツィエが二人も…!?

 流石にカオス一人では部が悪い!

 俺もたたか」

 

 

 

 

 

ガクッ…。

 

 

 

 

 

 

「…!?

 (流石にまだ体力が戻ってないか…!

 瞬雷槍である程度は相殺したがそれでもバルツィエの最大の魔術に突進したんだ。

 体がまだ思うように動かせないか………!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また俺は………もうただ見ているだけではいかんというのに!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ウインドラ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 (その声は…!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「へっへへ…。

 悪く思うなよ。

 敵を前に今まで手を出さなかったんだ。

 お礼を言ってほしいくらいだぜ。」

 

 

 

「アンタがブラムをやったんならうちはブラムの仇を討つ…!」

 

 

 

「………ブラムは殺した覚えはないけど?」

 

 

 

「ブラムと戦って負かした…。

 それだけでうちがアンタを殺す理由にはなる…!」

 

 

 

「そんなことで殺意を剥き出しにされても…。

 そもそもはアイツが原因だし…。」

 

 

 

「こういう奴なんだ。

 弟子思いなんだが過度に過ぎて敬遠される可哀想な女なんだよ。

 多目に見てやってくれ。

 ………殺すってのは俺も同じなんだがよ。」

 

 

 

「次は二人同時にってことでいいの?」

 

 

 

「そうだ。

 ユーラスをやるくらいだからお前超強いんだろ?

 このくらいハンデしてくれよ。」

 

 

 

「うちらがアンタを殺す…!」

 

 

 

「そう………。

 たった今剣の稽古を終えたばかりなんだけどな。」

 

 

 

「疲れてるとこ狙ったようですまんがこうなることも頭にはあっただろ?

 ユーラスにかなり時間かけて遊んでたみたいだがそれがアダになったな。

 こっからは俺達が最初から手加減なしで飛ばしていくぜ!

 ユーラスのようにはいかねぇ!!

 ダインッ!!」

 

「分かってる…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「オーバーリミッツ!!」」パァァァァァッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バルツィエの二人がカオスに襲いかかったぞ!?」

 

 

 

「連戦になるとカオスは体力的にキツいんじゃ…!?」

 

 

 

「さっきの戦いで一発だけユーラスから攻撃を受けてたしな…!?」

 

 

 

「バルツィエの一人は倒せたが二人となると………。」

 

 

 

「また相手の技を真似するんじゃねぇのか!?」

 

 

 

「今度はバルツィエの二人も最初から本気のようだぜ?

 しかもまだカオスはあの二人の技を何も見ちゃいない。

 真似する前に殺されるんじゃないか!?」

 

 

 

「これは………逃げるしかないだろ。」

 

 

 

「逃げて一人ずつ倒していけばいつかは………。」

 

 

 

「頼むカオス………逃げてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミシガンすまなか」パチンッ!

 

 

 

「………」

 

 

 

「………今はこれで許したげる。

 それよりも傷の手当てをするわ。

 ファーストエイド。」パァァッ

 

 

 

 

「………すまなかった。

 俺は………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっておき行くぞォォォッ!!

 『流水よ!我が手となりて敵を押し流せ!アクアエッジ!』」パァァァッ

 

 

 

「『氷雪よ我が手となりて敵を凍てつくせアイシクル』」パァァァッ

 

 

 

「これはさっきの…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水蓮旋流閃!!」ブァァァ!!

 

 

 

「霰車輪!!」パサパサパサパサッ!!

 

 

 

 

 

 

「(水と氷を纏った横と縦の回転斬り…!)」

 

 

 

 

 

 

「この挟撃はどうコピーするんだ!!

 カオス=バルツィエ!!」

 

 

 

 

 

 

「うちらの攻撃で…!

 全身をくまなく切削してやる…!」

 

 

 

 

 

 

「(二人を同時には相手できない…。

 だったら…。)」シュンッ!

 

 

 

「!?

 消え………うっ!?」ドスゥッ!!

 

 

 

「ダインッ!?」

 

 

 

「空中縦回転なんて側面狙ってくれって言ってるようなものじゃないか。」

 

 

 

「ダインがやられたか…!

 だが俺にはダインのような攻撃できる隙間は「ほら!」…ダインッ!?」ポイッ!ピタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ

 

 

 

「危ねぇっ!!?

 (危うくダインを斬るとこだった!!)

 このガキッ!?

 真似するにしても卑怯な真似すんじゃ「瞬じ…魔神剣ッ!!」ゴハァッ…!?」シュン!ザザンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二対一なのには何も言わなかったんだ。

 それくらい多目に見れるよね?」

 

 

 

「俺が………こんな二番………煎じみたい………に………。」バタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…すげぇ………。」

 

 

 

「バルツィエが二人も続いたのにそれを倒しやがった………。」

 

 

 

「今度は攻撃を一撃も受けてないぞ…?」

 

 

 

「どれだけ強いんだよ!?

 アイツは………!?」

 

 

 

「この次はフェデールまで行くのか…!?」

 

 

 

「フェデールを倒しちまうのかカオスは………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そこまで行くとなんか嘘臭くないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………カオス。」

 

 

 

「終わったよ。

 ウインドラ。」

 

 

 

「………終わったのなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そいつらに今すぐ止めを刺せ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………終わったって言っただろ?

 これ以上はやるつもりはない。」

 

 

 

「コイツらがこの国でどういう連中なのかは理解しているだろう。

 コイツらが上にのさばっていてもこのマテオには未来はない。

 殺せるうちに殺しておくべきだ。

 ………お前にできないのなら俺が………。」スタスタ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そこをどくんだ。

 カオス。」

 

 

 

「どかないよ。

 コイツらとの勝負は俺が勝ったんだ。

 君にどうこうする権利なんてない。

 俺が殺さないと言ったら殺さないんだ。」

 

 

 

「そいつらが生きている限りこの国の治安は良くならない。

 ここで殺さなければそいつらが他の人に手をかけるかもしれない。

 いや!手にかける!

 それをこの場で防ぐんだ!

 民衆もそれに同意してくれる!」

 

 

 

「そう言われても俺はそれには同意しないよ。

 誰かの命を奪うようなことはもう二度とゴメンなんだ。

 それはウインドラが誰かを殺すことも同じだよ。」

 

 

 

「俺は大衆の願いをお前が叶えないのならお前に代わって叶えるだけだ。」

 

 

 

「言い換えたって同じは同じだ。

 俺は誰も殺さないし殺させもしない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スチャッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お前は昔からそうだったな。

 誰かを守れるのならそんな害悪者共でも守るのか。」

 

 

 

「一度殺してしまったらもう二度と戻ってこない。

 命のやりとりなんて俺達には似合わないよ。

 俺が殺すと決めてるのはヴェノムだけだ。」

 

 

 

「バルツィエは知能が働く分ヴェノムなんかよりも最悪だ。

 お前はこの世界がバルツィエに掌握されてしまうことを想像できてない。」

 

 

 

「そのときはまた俺が倒しに来る。」

 

 

 

「一度破られた相手がそう易々とそれをゆるしてくれる訳ないだろ。

 次にお前が一人で挑んだところで勝ち目があるとは限らない。」

 

 

 

「だったら俺はまだまだ強くなる。」

 

 

 

「お前一人が強くなってもバルツィエは軍単位で戦力を上げてくる。

 個人のお前など簡単に追い抜かされるぞ。」

 

 

 

「それでも殺しはよくない。」

 

 

 

「………平行線のままでは拉致があかない。

 ここは強引に行か「どきなよ。」……うぁ!?」ドゴォッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一介の騎士がこの場を仕切るな。

 身の程を知れ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ!?

 ……アンタはフェデールって言ったか…!?

 アンタもやるってのか!?

 だったら………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何をしてるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これまでの数々の我が騎士団の非礼を深くお詫びします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス様。」



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無知な人々

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レサリナスでユーラスを撃破したカオスに続けざまダインとランドールが襲い掛かる。

 カオスはそれらすらも打ち破るがフェデールがカオスに対して…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス様…?」

 

 

 

「私の部下が行った貴方様への傷害行為は後程私の方から厳罰を与えておきます。

 今はどうかこれで剣をお納めください。」

 

 

 

「………戦わないのか?」

 

 

 

「とんでもない。

 貴方様は我等と同じくバルツィエのもの。

 剣を交える必要がおありでしょうか。」

 

 

 

「そこの人達は俺に向かってきたけど…?」

 

 

 

「それは貴方様のお顔を拝見して始め、我々の知るカオス=バルツィエ様と結び付かなかったためそこの反逆者共の手の者かと誤解してしまったのでしょう。

 そんなことがある筈はないというのに。」

 

 

 

「………確かに俺はこの人達とは無関係だけど…。」

 

 

 

「こうして貴方様が我々の前にお出になられたのも貴方様が正式なバルツィエの剣士だと言うことを表明されようとなさったからなのでしょう?

 我々は貴方様を心より歓迎致します。

 ようこそ我らが街へ。

 遠方より御足労いただき深く感謝いたします。」

 

 

 

「歓迎か。

 それは変な話だな。

 俺がバルツィエって言ったらって殺そうとしてきたのに。

 ここにきて手のひら返しだなんて虫が良すぎるよ。」

 

 

 

「………そのことについては申し開きもございません。

 しかし、先程の華麗な剣技を拝見し貴方様が我らバルツィエの名を騙る不敬な輩ではなくあのお方の御孫様だと確信がつき、このように謝罪させていただきました。」

 

 

 

「俺がおじいちゃんの孫って分かって戦わないのか?」

 

 

 

「その通りでございます。」

 

 

 

「………戦わないにこしたことはないけど、

 おじいちゃんの孫だからってそんなこと関係ないと思うけど。」

 

 

 

「いいえ、大変重要なことでございますよ。

 カオス時期当主。」

 

 

 

「当主?」

 

 

 

「何も間違ってなどございませんよ。

 貴方様は我らがバルツィエの時期当主でございます。

 そう貴方様は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我等が王…

 アレックス様の御子息なのですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド数分前

 

 

 

「セバスチャン、指示を頼みたい。」ピッ

 

 

 

『畏まりました。

 どのように致しましょうか?』ザザッ…

 

 

 

「今広場にカオス=バルツィエが来ている。

 民衆がそれによって興奮状態だ。

 そこで………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奴を此方側に引き入れる。」

 

 

 

『はい?

 その様なことが可能なのでございますか?』

 

 

 

「今ユーラスの野郎とカオスが戦ってるんだ。

 奴がユーラスをかなり追い込んでる。

 此方に招き入れられたら即戦力として数えられるくらいには役に立ちそうだ。」

 

 

 

『いえ、そうではなく…。』

 

 

 

「味方に引き込めるかどうかってことだろ?

 いいんだよどっちでも。

 目的はそこじゃねぇ。

 引き込めた場合は儲けものだが引き込めなかったらなかったでも今から俺がやる芝居を大衆が見ればカオス=バルツィエがあちら側なのかが揺らぐ。

 そうなれば例えカオスがユーラスをうまく倒したところで大衆が波に乗らなくなってくる。

 だからセバスチャン。

 セバスチャンは民衆の中に何人か部下を紛れ込ませてカオスが不利になるような煽りを入れさせてくれ。

 それだけでいい。」

 

 

 

『………承りました。

 その様に手配いたします。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェデールが………、

 騎士団長がカオスに跪いている………?」

 

 

 

「何故カオスに………?

 敵同士ではないのか?」

 

 

 

「まさか戦わずに降伏か?」

 

 

 

「カオスの強さに恐れをなしたか!?」

 

 

 

「あれだけの強さを見せ付けられればフェデールでも勝てないと思ったんじゃ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これはフェデールの演出だったんじゃねぇのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「演出?」

 

 

 

「だってそうだろ!

 今日だけで何回信じられないようなことが起こった!?

 バーナン会長が捕まったと思ったらそれを助けにダリントンが現れてラーゲッツやフェデールを押し退けた直後に会長が助け出される……のかと思ったら会長は殺されダリントンはユーラスの変装だったじゃねぇか!?」

 

 

 

「………それだけじゃねぇぞ。

 あのカオスとかいう奴。

 あぁしてバルツィエの隊長を三人も倒すなんて現実的に考えてあると思うか?」

 

 

 

「それは………アルバート様のご子息だからじゃあ…?」

 

 

 

「強いのもアルバート様のご子息だったらそれくらいは………。」

 

 

 

「………そう解釈してしまうのも無理はないが俺はあれが全部仕組まれたことのように思えるね。」

 

 

 

「仕組まれただって!?」

 

 

 

「確かにあのカオスは強かった。

 だがユーラスとの最初の方は防戦一方で負けそうになってたが突然流れが変わりはじめただろ?

 不自然すぎやしないか?

 強かったんなら始めからぶっ飛ばせてた筈だろ?

 まるでピンチをよそおってそこから逆転するヒーロー劇みたいに!」

 

 

 

「ヒーロー劇………?

 !

 劇と言えば…!?」

 

 

 

「あのユーラスが関わってるならそういうことも有り得る。」

 

 

 

「けどカオスはどっか遠くの村の出身なんだろ!?

 そんで手配書もあるんだぞ!?

 カオスは騎士団とは敵対関係にある筈だ!

 これが作為的なものだったとしても彼は関係してない筈だ!」

 

 

 

「手配書事態は騎士団が発行してるんだぞ?

 そんなものはどうとでもできる。」

 

 

 

「そうだが………

 何のために…?」

 

 

 

「ダリントンをヒーローのように見せてから実際はユーラスだったというような俺達国民に絶望劇を見せるような連中だぞ?

 あの手配書話はあいつらのことだからまだ何か俺達に更なる絶望を突き付けたいんじゃないか?」

 

 

 

「まだ何かあるのか………!?」

 

 

 

「俺達を絶望させるようなことなんて他に何が………!?」

 

 

 

「………あれ見れば分かるだろ?

 絶望はもう目の前にあるぞ。

 救世主のように現れたあのカオスが本当は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前の通りバルツィエの仲間だったって事実がな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスがバルツィエ側だって…!?」

 

 

 

「そんな嘘だ………。

 だってさっきダリントンの部下を助けに入ったんだぞ!?」

 

 

 

「それを言うならユーラスもあそこの子供を助けたぞ?」

 

 

 

「それはダリントンに変装してたからであって…。

 第一、あの偽騎士はラーゲッツを殺したんだぞ!?

 あの死体の傷を見るに心臓か肺は貫いている!

 バルツィエの作戦だって言うならラーゲッツを殺してまでするような作戦なのか!?」

 

 

 

「ラーゲッツは日頃街中でも暴れまわる問題児だからなぁ。

 バルツィエもこの機に乗じて殺したんじゃないか?

 あのラーゲッツにはユーラスの変装を伝えてなかったようだし…。

 バルツィエの奴等ならそれくらいするだろ。」

 

 

 

「!?

 ………アルバート様がいなくなった後捜しもせずにあっさりと死亡扱いする奴等なら………。」

 

 

 

「それにラーゲッツを殺したのは偽カオスだ。

 対してカオスは三人もバルツィエを倒したが誰も殺しちゃいない。

 あそこまで圧倒したにも関わらずだ。

 これはもうカオスがバルツィエ側と結託している証拠だろ!?」

 

 

 

「で………でもそうなるとあのカオスと偽カオスの関係はどうなるんだよ!?

 さっきは知り合いみたいなやり取りをしてたぞ!?」

 

 

 

「………ってことはだ。

 あいつら全部が演出なんじゃねぇか?」

 

 

 

「でもあいつはダリントンの部隊の………。」

 

 

 

「そのダリントンは死んでたんだ。

 部隊もダリントンとバーナンの奴等が入り交じってメチャメチャ。

 そんな中にバルツィエの手先がいても誰も気付けねぇ。」

 

 

 

「それはないだろ!!

 自分の部隊の奴だぞ!?

 気付かない訳がない!」

 

 

 

「じゃあなんだと言うんだ!

 あいつらは一体誰が味方で誰が敵なんだ!?」

 

 

 

「バルツィエ側は全員が敵なのは分かっている………!!

 だがあの二人は………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かあの二人を知らないのか!?

 あれだけの強さを持つ二人のことが!?

 誰か真実を知るものはいないのか!?」



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引き込み

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラス、ダイン、ランドールを打ち勝つカオスだったがその直後フェデールがカオスが王アレックスの息子だと言う。

 困惑するカオスだったが民衆もその様子を受け…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「アレックス………?

 何を言ってるんだ。

 俺はおじいちゃんの………。」

 

 

 

「時期の剣術は若き日のアレックス王のお姿を想わせるような大変素晴らしきものでした。

 アレックス王の血が世代を越えても色濃く残っているのですね。

 時期のお顔もよく拝見させていただくとアレックス王の面影がございますよ。」

 

 

 

「それは王様は俺のおじいちゃんと兄弟だからで…。

 それに王様にはお妃様がいるし俺が子供な訳がないだろ。」

 

 

 

「…貴方様はアレックス王が王となられる前の遠征でお付き合いなされた女性の方との御子息なのです。

 てすからアレックス王の御子息であるならば貴方様は我らが同胞も同然。

 あのクリスタル王妃一筋のお堅き方でも多少のお遊びは経験なさっていたのですね。

 いやはやこれはすぐにでも時期の所在を明らかにして我等が宮殿へ迎え入れる準備を早急に執り行わなければなりません。」ニヤァ

 

 

 

「話が噛み合ってないぞ…?

 何をしようと「皆のものッ!!」!?」バッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先程の剣客としての腕前をご覧いただいたであろう!!

 この御方は我らが偉大な王!

 アレックス王の血を継ぐカオス=バルツィエ子息である!!

 機密情報につき報告が遅れてしまいこのような騒ぎを起こしてしまったが時期は間違いなく我らバルツィエの貴族の資格を持つ御方だ!!」

 

 

 

「!?

 何言って…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックスオウノ?

 

ッテコトバルツィエガワジャネェカ!?

 

アルバートサマノコドモナンジャ…?

 

ドウイウコトダ?

 

ナゼイマニナッテソンナヤツガデテクルンダ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆この王都で報道が流した情報を既知だと思うが我らバルツィエも流出した情報を抑えるのに尽力していた!

 だが一度流れた情報を完全に無かったことにはできずこの時になってまでそれを放置してしまったことをここに謝罪しよう!

 

 

 それによって我らの知らぬところで国家転覆を謀るこの者達により子息の手配書が出回るという悪質な事態を招いた。

 そのことから極秘にしていた御子息の出自をこのような場でかわさなければならぬことを深く反省する。

 侯爵として返す言葉もない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エ!?

アノテハイショッテバルツィエヲトオシテダサレタモノジャナカッタノ!?

 

ダリントンタイノヤツラガカッテニツクッタッテコト!?

 

ソンナコトガデキタノカ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの手配書に関してはバルツィエは全くの無関係だ。

 我らが承認する前にあの手配書を今日この場で暴動を起こした部隊が独自にばら蒔いたのだ。

 何故そんなことをしたか。

 

 それは我らバルツィエの名を陥れるためバルツィエの名を持つ時期の存在を調べ凶行に及んだと推測する。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………

 

 

 

デモナゼゴクヒダッタンダ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御子息の存在を極秘にしていたのには理由がある。

 知っての通りアレックス王にはクリスタル王妃がいる。

 極秘にしていたのは御子息はクリスタル王妃と婚姻を結ぶ前に王と南方のとある国の非管理下にあった村にいる女性との間に生まれたからだ。

 通常なら側室として迎え入れることも可能なのだが王妃との婚姻を前に先に側室がいると言うのは体裁が悪く公表出来なかった。

 なので御子息の存在は伏せておくしかなかったのだ。

 時が来ればいづれは女性と御子息をレサリナスに招き入れる準備はしていた。

 そして王の血を受け継ぐ御子息をそこでバルツィエに迎え入れることになっていた。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………だが十年前!

 女性と時期のいるその村にヴェノムが押し寄せ村は国に助けを求めた。

 それにより村は正式に国の管理下に置くことになった。

 その際、この反逆者共に御子息の存在を嗅ぎ付けられ御子息は我々への攻撃材料にされてしまったのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我々バルツィエは必死になって対策を考えた。

 極秘にしていた御子息の存在の情報を漏洩させてしまった上に犯罪者として公表されてしまったことにどう講じればいいのかと!

 

 

 

 そして出した結論は何も出来ないということ!

 我々バルツィエが大形に動けば時期の真実を知られてしまう!

 それだけは正式な場で公表するまで避けたかった!

 御子息がレサリナスに招かれるまでは何としても御子息が王妃以前の子だという不名誉を暴かれてしまうことは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし先日のこと我々はイクアダにて反逆者共の愚行で追われる御子息と接触に成功した。

 そこで我々バルツィエは御子息と共に反逆者達を一掃することと反逆者共によって貶められた御子息の名誉の回復と………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この場を借りて御子息を国中に知らしめる紹介の席とする作戦を考案した。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて紹介しよう!!

 この御方こそが我らバルツィエを率いるアレックス王の後を継ぐべき御方カオス=バルツィエ時期当主だ!!

 反逆者一掃も私と時期が策を練り工作した。

 今日の時期の乱入も時期の真の戦士としての力を皆に知ってもらう為に時期が画策なさったのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回時期は長き間バルツィエの当主と王を兼任なさっていたアレックス王の当主としての任を受け継ぐためレサリナスへと参上したのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!

 

 

 

ソンナコトガ………?

 

カオスハバルツィエガワノヒトダッタ………?

 

ハジメカラコウイウコトヲシクンデイタノカ?

 

オレタチノキボウハサイショカラソンザイスラシテナカッタノカ………?

 

アイツハ………アルバートサマノムスコナンカジャナクアレックスノ………。

 

………フェデールナラソルクライノコトシコンデテモオカシクナイナ。

 

アイツナラサッキノヨウナザンコクナゲンジツヲツキツケテクルヨウナコトスルダロ。

 

アンナニツヨイヤツガマタアラタニバルツィエニクワワッタノカ………。

 

コレジャアダリントンタチニキタイスルダケムダダッタンダナ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ククク………、

 よくこんな出任せに騙されるな。

 普通に考えたら穴だらけの計画だというのに………。

 それも日頃の俺を知るからこその反応だが。

 

 この場において必要なのは真実などではなく真実みを味を帯びた虚実だ。

 それらしいことさえ言ってれば俺の知名度が後は勝手に脳内補完して大衆を納得させられる。

 対してこの男はあくまで街の外での噂でしか人物像を描くしかない。

 

 こいつがどんな存在なのか?

 それは誰にも分からない。

 主役かのように登場はしたが直前のユーラスの茶番がいい具合に働いて民衆は疑心暗鬼を起こしている。

 一体何が事実なのか?

 そんなものは誰にも定義できない。

 俺の芝居でこいつはあちら側にもこちら側ともとれる存在となった。

 

 

 

 一度疑いの目がかかればどんな純白でも段々と汚く見えてくる。

 こいつをこちら側のように語れば民衆はもうこいつを完全には信用しなくなる。

 そうなったらカオスはこの場において孤立する。

 

 そこまでいけばカオスを手にするのは容易だろう。

 ………ラーゲッツじゃないが民衆が不要なものは俺達が手にしてしまっても文句はないよな。

 家の連中は説得するのは面倒だがこいつの力………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なかなかに使えそうだ。)」



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不明なカオス

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レサリナスでフェデールがカオスに対し王アレックスの隠し子であると同時にバルツィエの時期当主と民衆に発表する。

 その発表で大衆がカオスを見る目が変わり…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「何を勝手なことを言ってるんだ!?

 俺はバルツィエの当主なんて…!?」

 

 

 

「!

 ここでカオス時期から皆にご挨拶があるそうだ!

 ………では時期どうぞ。」

 

 

 

「え………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前、感染してないのか!?さ、触るな!!』

 

『な、何だその力は!?』

 

『化け物!!寄るな!!』

 

『それは殺生石の!?』

 

『お前が奪ったのか!?おまえのせいで村は!!』

 

『お前がいるから村はこんなふうになったんだ!!』

 

『出ていけ!!この疫病神!!』

 

『出ていけ!!』

 

『出ていけ!!』

 

『消えろ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『消えろ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この視線は………。

 

 

 

 あの時の………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 違う!

 

 

 

 俺はバルツィエの時期当主なんかじゃない!

 

 

 

 否定するんだ!

 

 

 

 否定………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナンダ?

ナニカイウノカ?

 

ジブンガバルツィエノヤツダッテミトメチマウノカ?

 

ドウナンダ?

ホントウニソウナノカ?

 

ヒテイシナイッテコトハソウナノカ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………申し訳ない!

 カオス時期はなにぶんこういう大勢の場で話すのは不馴れで揚がってしまっているようだ!

 私としたことがうっかりしていた!

 時期には後々こうした場に馴れていくよう時期の補佐役として私の方から教育していこう。

 

 では時期。

 この場は私に任せてお戻りください。

 後は私の方から収集をつけさせておきます。

 フェデール隊!

 時期をお連れしろ!」

 

 

 

「「「はっ!!」」」タタタッ

 

 

 

「!

 俺は………!?」

 

 

 

「さぁ、時期殿こちらへ。」

 

「我らと共に下がりましょうか。」

 

 

 

「待ってくれ!

 俺は別にバルツィエの仲間じゃ…!?」

 

 

 

 

 

 

「そもそもアレックス王が当主の座を降りなかったのは時期の存在があったからで私はそのことを王から直接聞かされていたのだ。

 私が当主に選ばれなかったのはそういった事情があったからであって……」

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………?

 思ったよりも効果覿面のようだな。

 居住地の経緯から察して大衆の前に出て戦闘は行うことはできてもこうした場での発言は不馴れと踏んで危うい賭けだったが項をそうしたようだ。

 大概の奴がそうだがこんな疑惑の目を向けられて晒し者のような状態で意見を述べることなど馴れていようが萎縮してしまう。

 こいつは特にそうらしい。

 何があったかは知らないがこれでカオス=バルツィエは完全にこちら側の人として認知されてしまった。

 

 ダインやユーラスには悪いが俺もこのアルバートの孫を殺させるわけにはいかないんでね。

 味方に引き込めれば奴等も手が出せまい。

 

 後はこの場でカオスの嘘歴史を大衆に吹き込めばカオスはこの国での居場所が俺達バルツィエの城にしか無くなる。

 

 悪く捉えるなよカオス。

 考えなしにこの場で顔を出してしまったお前の失態だ。

 酷いようにはしない。

 お前にはこの先バルツィエの人間として本当に裕福な暮らしを与えるつもりなんだ。

 貧乏臭い田舎から出てきた奴にとっては夢のようなシンデレラストーリーだろう?

 それまでお前にはバルツィエの人間としてのノウハウを叩き込む予定だから覚悟しておけ。

 

 ………善人に世界は救えないんだ。

 民衆なんて俺達の苦労を知らずに文句ばかり言って過ごす愚かなものだ。

 それを知ればお前もこんなゴミ共の為に出てきたことを考え直すだろう。

 それまでは俺がお前を全力で守ってやるから安心しな。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス=バルツィエは………

 

 

 

 アルバート様ではなくアレックスの隠し子だったのか………。」

 

 

 

「この集会もそれを公表するために仕組まれたものだったのか…?」

 

 

 

「それにしては流れが不確実な感じがしなかったか?

 アレックスの子供だなんて急に出てきてもなんて反応したらいいか………。」

 

 

 

「フェデールが出鱈目言ってるだけじゃないのか?

 さっきの戦いとか見ても不自然すぎるだろ?」

 

 

 

 

 

「フェデールなら………それくらい読んでたのかもしれねぇぞ?」

 

 

 

「は?」

 

 

 

「政界や軍師としても頭のキレる男だ。

 今日の流れも奴なら仕組めただろうな。」

 

 

 

「………そうなのかもしれねぇが………。」

 

 

 

「カオスだって目の前にいたのにフェデールの言ったことを否定しなかったぜ?

 つまりそういうことだったんだろ。

 カオス=バルツィエはアレックスの息子だったんだよ。」

 

 

 

「俺達はそうとも知らずにアルバートの息子だと勘違いしちまってたんだな。」

 

 

 

「勘違いするのも無理はねぇぜ。

 同じ剣術で弟の息子なんだ。

 偶然にもアルバートがいなくなった辺りで見つかったってんならそう思っても仕方ねぇ。」

 

 

 

「そうそう、

 アルバートの息子なんて最初からいなかったってことだな。」

 

 

「変だとは思ったぜ。

 何度も状況が二転三転するからおかしいなぁって。」

 

 

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………カオスのお祖父様はアルバートさんなのに………!

 何故カオスは何も言わないでのしょう…!?」

 

「フェデールの言っていたことは間違いだらけでしたけど恐らくカオスさんは萎縮して固まってしまったんだと思います。」

 

「萎縮?」

 

「こんな大勢の人達から睨まれてカオスさんは喋れなくなっているんですよ…。」

 

「…!

 ………でしたら私があそこに出てカオスのことを話してきます!」

 

「無理ですよ!

 アローネさんが出ていってもカオスさんがアルバート=ディランの孫だと証明するような根拠と証拠がないと!

 それに忘れたんですか!?

 お二人は懸賞金がかけられた賞金首なんですよ!?

 カオスさんはバルツィエ時期当主というカードとして取り上げられましたがアローネさんには何もない!

 あそこに出ていったところで即刻処刑されてしまうかもしれません!」

 

「ですがこのままではカオスがバルツィエに取り込まれて街の人達から批難されてしまうのですよ!?」

 

「………ボク達ではどうすることもできません。

 カオスさんがアルバート=ディランの孫だということを証明するにはそれなりの知名度と発言力があって説得力のある人に弁護してもらうしか………。」

 

「そんな方がどこにいると「動くな。」…!?」ボソッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「団長の指示通りだな。

 やはり近くにいたか。

 指名手配中のアローネ=リム・クラウディア。

 それと共謀者の子供。

 貴様らはここで大人しくしていてもらおうか。」スッ

 

 

 

「(ナイフ…!?)」

 

「(バルツィエ側の手先か…!?)」

 

 

 

「貴様らが何を話したところで無駄だとは思うが団長からは念押ししろとのご命令だ。

 ここでカオス=バルツィエが正式なバルツィエの一員となるのを黙って見ているがいい。」

 

 

 

「くっ……!

 カオスが………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(このまま弁解もできずにこの式が終わってしまったらカオスは本当に国中の人々から怨まれる家の後継ぎにされてしまう!

 カオスは………!

 国中が嫌う弟アレックスの息子ではなく国中が待ち望んだ兄アルバート様の孫だというのに…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故真実を伝えられる術を私は持っていないのですか!?

 何故真実はこうも伝えることが難しいのですか!?

 あのような虚実が何故あぁもまるで真実かのように伝えることができるのですか!?

 

 私の前で何故またしても偽の情報で苦しむ優しい人が現れるのですか!?

 この星はアインスの頃から変わらずにそんなところまで星の記憶で引き継いでしまったのですか!?

 

 私の前でまたサタン義兄様のような方がいるというのに私は黙って見ているだけしかできないのですか!?

 

 

 

 

 そんなの………!?

 そんな世界は間違っている…!

 そんな世界は………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな世界消えて無くなってしまえばいいのに!!)」



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スケット登場

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 フェデールの発表で大衆からの信用を無くし疑いの四川を向けられるカオス。

 その視線で幼い頃のトラウマが甦るカオスだったがそこへ…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!?

 ウインドラをどこに連れていくの!?」

 

 

 

 

 

「…!?(ミシガン!)」バッ

 

 

 

 

 

 

「何だ君は?

 こんなところまで一般人が立ちいっちゃいかんぞ!

 関係のないものは今すぐあちらの方に戻りなさい!」ガシッ

 

 

 

「何よこの手は!?

 私をどうするつもり!?

 私あっちの人とその人の関係者なんだけど!?」

 

 

 

「時期と………この男と………?

 ………そうか、なら一緒に来てもらおうか。

 詳しく話を聞かせてもらおうじゃないか。」グクイッ

 

 

 

「嫌よ!

 アンタ達についていったらどこに行くか分かったもんじゃないわ!

 私はその人とカオスを連れてミストへと帰るんだから!」

 

 

 

「それこそどこなのか分からないな。

 時期はバルツィエの屋敷へとお連れするんだ。

 この男の方は策謀につき牢に入らせる。

 この男の仲間というのならお前も同罪だ。

 来いッ!」

 

 

 

「痛ッ!?

 離してよ!」

 

 

 

 

 

「待って!

 その子は!?

 ………!!」カチャッ

 

 

 

「フェデール様の手を煩わせないでください。

 我々もどういうことなのか把握しているんですよ。」

 

 

 

「(これは昨日の…!?

 マナが………!)」

 

 

 

「貴方にはこれからより強いバルツィエとして利用させてもらいます。

 ユーラス様やランドール様達を一辺に倒すほどのお力…。

 国民はいっそうバルツィエへと反抗心を抱けなくなるでしょう。

 カオス様………、

 貴方ほどの力を持つ方が王都へと参られてこの国の未来も明るいものとなるでしょう。」

 

 

 

「俺はバルツィエが目指すような未来になんて…!?」

 

 

 

「貴方と問答するつもりはありません。

 それでは参りますよ。

 これ以上邪魔が入らないように。」

 

 

 

 

 

「カオスッ!

 カオス~ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駄目だ。

 

 

 

 この手錠をされたら俺にはどうすることも。

 

 

 

 昨日は何時間もこれに繋がれていて何も出来なかった。

 

 

 

 これをされたら俺は何もできない。

 

 

 

 目の前でミシガンとウインドラが連れていかれているのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勢いよくでてきたけど俺にはやっぱり無理だったんだ。

 

 

 

 戦うしかできない俺があんな嘘の話に騙されて今………

 

 

 

 こうして捕まってるんだから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイシクル!!」パシュパシュパシュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあッ!?」「何だ?!?うぁ!?」「氷の魔術!?」「ぐわ!?」「これって…!?レイデ冷たッ!?」ザスザスザスザスッ!!

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何してんだよ坊や~?

 バルツィエと戦うって決めたんだろうが。

 あんな嘘八百に気圧されてどうするんだこら。」

 

 

 

「レイディーさん………。」

 

 

 

「すっかり覇気が消えちまってんなぁ。

 そんなに大衆の視線が怖かったか?

 アタシにはどうってこともねぇと思うがな。」バキンッ

 

 

 

「……!?

 ………ありがとうございます。」

 

 

 

「………お前には酷だったか?

 お前がミストから逃げ出したときもあんな視線を浴びせられてたんだろ?

 トラウマでも呼び覚ましちまってんじゃなかったのか?」

 

 

 

「………はい。」

 

 

 

 

 

 

「レイディー!?

 助けるなら私も巻き込まないでよ!?

 冷たかったんだから!?」

 

 

 

「お前なら大丈夫と思ったんだよ。

 頑丈だし騎士連中よりかは効かねぇだろ。

 ………後は日頃の恨みとかだ気にするな。」ボソッ

 

 

 

「レイディー!!」ガッ

 

 

 

「ガッ!?

 こっここで遊んでる暇ないだろうが!?

 離せッ!!

 痛いってごらァッ!!」

 

 

 

「日頃の恨みってのはアンタが原因なんでしょうがぁ!!」グググッ

 

 

 

「分かった分かったって!!?

 もうおふざけはお仕舞いだ!

 とっとと坊やの名誉回復のために動くぞ!?」

 

 

 

「………分かったわ。

 それで何するの?」

 

 

 

「まずこの手を話してくれないか?

 頭捕まれながら話すってのもやりづらいんだが?」

 

 

 

「アンタが馬鹿なことを言わなければ離すわよ。」

 

 

 

「………それまではこのままですかミシガンさん?」

 

 

 

「当たり前でしょ。」

 

 

 

「………そうですか……。

 じゃあ坊や。

 またあの中に入って自分がバルツィエじゃないって否定してこい!」

 

 

 

「でっでも!

 ………バルツィエなのは本当ですよ。

 あの人達の仲間じゃないってだけで………。

 それをどう証明するかも………。」

 

 

 

「………あのフェデールの演説の巧みなところはお前が大衆の前で話せなくなるところも含めて手札を瞬時に組み立てて街の連中にはそれが真実なのかどうかも分からねぇような話を作り上げちまうところだ。

 お前が否定しないから奴等も図に乗るし大衆も乗せられてんぞ?

 フェデールの言ってることもあながち間違いじゃないとこがあるから否定しづらいんだろ?

 だったら一番肝心なとこだけでいい!

 違うって言ってこい!

 お前はアレックスじゃなくアルバート=ディランの孫だってな。

 そこさえどうにかなりゃお前でも喋れるだろ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………しゃーねーぇなぁ!

 アタシが見本を見せてやる!

 アタシが先に行くからお前は後に続け!

 いいな?

 じゃあ行くぞ!

 アイシクル!」パシュパシュパシュッ!

 

 

 

「って魔術だけなの!?」

 

 

 

「仕方ねぇだろ?

 こうしてお前が掴んでちゃ行くに行けねぇんだからよ?」

 

 

 

「………そうだったわね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

「………であるからして時期は「団長!魔術が…!?」ん?」

 

 

 

ザクザクザクッ!

 

 

 

「(この氷はさっきの…?

 そして今カオスがいる方向から………!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

「どうなさったのですか時期?

 (今の氷はカオスが…?

 ………いや違うな。

 こいつの魔術じゃない。

 別に放った奴がいる。

 ………となると………。)」チラッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!

 頑張って~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………(あの女か?

 ………でもなさそうだ。

 あの女のマナは“水”の系統のようだ。

 この氷を撃ったにしては精度が高い。

 なら誰だ………?

 まだ俺の知らない協力者でもいるというのか?

 一体どんな奴が………?

 教会の連中は………無いな。

 修道服は借りているだけだろう。

 奴等が俺達と事を構えるには人材不足だ。

 ………まさかカタスティアか?

 あの女ならこの氷も出せなくはないと思うが………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は………。」

 

 

 

「!

 ………どうされました時期?

 何か言い残したことでも?」

 

 

 

「………あぁ。

 俺は………大事な事を言い忘れていた………。

 俺は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルバート=ディランの孫

 カオス=バルツィエだ!!

 魔神剣ッ!!」



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ムーアヘッド会長

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 フェデールにバルツィエ側だと大衆に発表されたカオスは大衆の視線で凍り付く。

 そこへレイディーが駆け付けカオスに自分を告知してこいと受け…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「…!?

 ………そうでございますよね?

 やはり皆あの流れで私と時期どちらが強いのか気になりますよね?

 時期は皆にそのことを教えてさしあげるために「違う!!」!?」ザスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は!!

 …………カオス=バルツィエだ!!

 アレックスじゃなくアルバート=ディラン・バルツィエの孫!!

 普通の村の育ちでバルツィエの時期当主でもなんでもない!!

 こいつらとは今日初めて話をしたんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!

 

カオスガアルバートノマゴ!?

 

アレックスノムスコデハナクアルバートノ………マゴ!?

 

マタナニカハジメルツモリカ?

 

ココニキテドンデンガエシナンテナニガシタインダ?

 

ドウセバルツィエノオアソビノエンチョウダロ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!」

 

 

 

「貴方に剣を向けていない相手に斬りかかる度胸があるとは思いませんでしたがその宣言も不発に終わりそうですね。

 一瞬肝を冷やしましたが貴方のような新参者にはこの流れをどうすることもできない。

 全てはこの王都に長く在留する私の思うがまま。

 ………どうしましょうか?

 このまま茶番劇を続けましょうか?

 それとも「もう茶番は終わりにしようやフェデール!!」!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『氷雪よ!我が手となりて敵を凍てつくせ!アイシクル!!』」パシュパシュパシュッ!!

 

 

 

「…!?

 (この氷は………!!

 ということはアイツが…、

 ………!?

 あの女は………!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく頑張った坊や。

 それでこそアタシが見越しただけのこたぁある。」

 

 

 

「レイディーさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!

 

コンドハナニヲハジメルンダ?

 

マタバルツィエガヨウイシタナニカダロ?

 

モウバルツィエガツヨイッテコトハワカッタカラハヤクオワラセテクレヨ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスがせっかく勇気を出したのに………!」

 

「………残念だったな。

 フェデール様の計画には何一つ支障はない。

 あの方の妨害などするだけ無意味なのだ。」

 

「カオスさんのことを民衆が信じられなくなってる………。

 ………あの場で誰かバルツィエとは無関係の人がカオスさんがバルツィエとは違うということを証言しないと…!?」

 

「そんな無謀なことする奴が現れると思うか?

 他の方はやられたがあそこにはまだ団長フェデール様が残ってるんだ。

 そんなとこに出ていく奴「アイシクル!!」何だ!?」

 

 

 

「…!?

 まさかカオスさんが魔術を!?」

 

「いえ!

 カオスではありません!

 あの氷は………どこかで………!

 ………まさか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!?

 かっ………会長ッ!?

 あれは初代会長殿~~~~~~~~~~!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「え!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「………出てきて良かったんですか?

 レイディーさん。」

 

「アタシが出てこなかったら名乗るだけしかできねぇお前が何を気にしてるんだよ。」

 

「ですけどこれでレイディーさんは俺と同じで………。」

 

「あぁ、そのことなら気にするな。

 アタシはもともとここのバルツィエからは敵認証されてるんだよ。」

 

「レイディーさんが………? 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイディー=ムーアヘッド………!?

 君が何故ここに………?」

 

 

 

「久し振りだな。

 フェデール騎士団長?

 アタシが留守の間にどんだけややこしい事態になってんだよ。」

 

 

 

「君には関係のないことだ。

 それよりも何故君が時期と一緒にいるんだ…?」

 

 

 

「フフッ…。

 よせって、

 時期なんて言ってもそれがお前の即興で立てただけの配役だってのは分かってんだから。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………坊や、

 コイツを抑えてろ。

 後はアタシがどうにかしてやる。」

 

 

 

「え!?

 どうするんですか!?」

 

「アタシがお前がバルツィエ側じゃないと一言言ってやるだけだ。

 それだけでお前は大衆からバルツィエの一員じゃないことが大衆に伝わる。」

 

 

 

「そんなことさせると思うかい?」ザスッ!!

 

 

 

「!?

 (早い!?)ぐあっ!」バキンッ

 

 

 

「…?

 (固い…、これは…?)」

 

 

 

「………てぇな。

 予めバリアー使ってなかったらやばかったぞ?

 ………坊や!!」

 

 

 

「はい!」シュンッ!ブンッ!

 

 

 

「!

 くっ………。」バッ

 

 

 

「ようしその調子だ。

 じゃあ大衆に真の真実を話すときが来たなぁ!!」

 

 

 

「……!

 ………また俺を妨害するのかい?

 ムーアヘッド。」

 

 

 

「これはアタシのやり方を貫いてるだけだ。

 それをお前らが邪魔してるってだけだよ。

 黙ってみておけ。」

 

 

 

「そうはいかないねぇ。」ザスッ!

 

 

 

「させない!」ザスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギキィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?

 俺の“陽炎”を止めた………?」

 

 

 

「陽炎って言うんだね。

 この技。

 飛葉翻歩よりも早く移動できるなんて便利だな。」

 

 

 

「!?

 (陽炎まで盗むつもりか!?

 これでは迂闊に技が出せん!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らァ!!

 よぉく聞きな!!

 ここにいるこのカオス=バルツィエはなぁ!!

 アレックスの隠し子なんかじゃねぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!

 

ダレダアノヒトハ?

 

シッテルカ?

 

オレシッテルゾ!

 

アノヒトハマエニオウリツケンキュウジョデケンキュウシテタヒトダ!

 

アトダイガクノホウデモキョウインヤッテタナ。

 

ソンナヒトガナンデ………?

 

………イヤ、アノヒトハ………

 

アノヒトハアルバートファンクラブノショダイカイチョウドノデゴザルゥゥゥ!!

 

ナンダッテ!?ショダイカイチョウガキテルノカ!?

 

ショダイカイチョウ!?アノ!?

 

ソウデゴザル!アノマボロシノカイチョウドノデゴザルゥゥゥ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイディーさんが初代会長だって?」

 

 

 

「………坊やには言ってなかったな。

 ってかファンクラブ自体知ってるのか?」

 

 

 

「最近になってそういう人達がいるのだと知らされました………。」

 

 

 

「そうか。

 知ってるんなら話が早い。

 そしてその服を着ているってことはアイツのことも知ってるんだろ?

 アタシとカタスがアルバートファンクラブを作ったんだ。」

 

 

 

「………そうだったんですね。

 アンタあんだけおじいちゃんをディスってたのに………。」

 

 

 

「長くファンしてると欠点が気になってくんのさ。

 好き好き言ってるだけがファンってだけじゃねぇ。」

 

 

 

「ウザいファンだったんですね。」

 

 

 

「………そうだろうな。」



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氷上の華の舞

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 フェデールの策略によって動けなくなったカオスはレイディーによって救われる。

 レイディーはアルバートファンクラブの初代会長とトーマスが騒ぎだし…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「………!

 魔神剣ッ!」「魔神剣ッ!!」ザザバスッ!!

 

 

 

「邪魔はさせないって言ったでしょ?」

 

 

 

 

「何故です時期?

 貴方は私達と共に来ればこの国最高の貴族としてとても幸せな人生を御過ごしできるのですよ?

 その資格をむざむざと投げ棄てるのですか?」

 

 

 

「俺がいつそんな人生を送りたいって言ったんだよ?

 俺は別にそんな人生を与えてほしくはない。」

 

 

 

「何を世迷い事を………。

 では貴方は一体何を欲っしているのですか?

 名声ですか?

 それともお金ですか?

 バルツィエと共にあれば手に入らぬものなどこの国には何もない。

 それこそ何もかもが思うがまま。

 そんな地位を約束されて何が不満だと言うのです?」

 

 

 

「アンタ………フェデールって人だったよね。

 アンタは騎士なら………人から………、

 守るべき人達から化け物扱いされたことはないのか?」

 

 

 

「化け物ですって………?」

 

 

 

「俺はな。

 昔から化け物扱いされてきたんだよ。」

 

 

 

「………バルツィエの血族というのならそれも仕方のないこと。

 それが不満だと仰るのならそれこそ私達と共に「俺はな!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バルツィエとか血族とか関係無しに化け物扱いされてきたんだよ。

 ………それも誰かに与えられた力によってね。」

 

 

 

「……?

 何のことでございますか?」

 

 

 

「………俺は守るべき人達とは友好的に付き合っていきたい。

 バルツィエってのはそういう人達を力で押さえ付けて支配してるんだろ?

 俺はそういうのが嫌だ。」

 

 

 

「何を仰いますやら………。

 国があるのなら当然のことでございますよ。

 力あるものが皆を先導し豊かな暮らしへと導いていく。

 今まで存在していた国はどれも例に漏れずそうした力あるものが国を繁栄させてきたのです。

 バルツィエもその一つの力に過ぎません。

 貴方様はその国の在り方が気に入らないと言うのですか?

 でしたら貴方様が我々のもとで貴方様の思う様に変えて行けば良いのです。」

 

 

 

「そんなんで変われるのか?

 バルツィエが?

 国中の人のヴェノムという弱味につけこんでのしあがった人達が?」

 

 

 

「全ての事柄はその時代に対応できるものたちこそが力を握るのです。

 我々でなくとも我々と同じことをする輩がいづれ現れるでしょう。

 バルツィエは時代を率先しただけの話です。」

 

 

 

「それなら力とワクチンで国の人達を自由にしてもいいってのか?」

 

 

 

「組織が巨大になればそういった者も出てくるでしょう。

 そこにいるラーゲッツ等がいい例です。

 気に入らないのでしたら貴方様が粛清なさっても良いのですよ?

 私が御協力致します。」

 

 

 

「結構だ。

 俺は始めからバルツィエには加わらない。

 俺はただ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大事な人達を守る戦士になりたかっただけなんだ。

 権力者になんか成り上がるつもりはない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このカオス=バルツィエはなぁ!

 アタシが直接ミストって村に行って確かめてきたよ!

 確かにアルバートはいたらしいさ!

 十年前に死んだようだが………。

 だがその孫は生きてたんだ!

 それがコイツ、カオス=バルツィエだ!

 その証がこれだ!!」サッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザ………!

 

ナァアレッテマジナノカ?

 

ソンナンワカラネェヨ。

 

コレモエンシュツナノカ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな筈無かろう~~~~~~~~!!!!」

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!!!?」」」」」」」」」」

 

 

 

「あの御方は我等バルツィエファンクラブ戻してアルバートファンクラブ初代会長殿でござる!!!

 あの御方レイディー殿はアルバート様がご健在であった頃!

 それはもう熱烈にアルバート様の起床から就寝まで追い掛け回すそれはそれは過激な御方であったのだ!!

 アルバート様行くところレイディー殿在りと言っても過言ではないほどでそれはもう正にストー………カーと呼べるような御方だァ!!!」

 

 

 

アレガデンセツノショダイ………カイチョウ!!?

 

ソウイエバオレシッテルゾアノヒト!?

 

アノヒトガファンクラブソウリツシャナノカ?

 

ソンナヒトガドウシテカオスト?

 

 

 

「あのストーカーめぇ!!

 アルバート様を追い掛けるあまり御隠居なされていた地までとうとう突き止めたと言うのでござるなぁ!!?

 レイディー殿ならそれくらいやってのけてもおかしくはない真のストーカーと呼べるべき御方なのだァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………レイディーにそんな過去が………。」

 

 

 

「あれだけアルバート=ディランを貶していた人と同一人物なのか疑いますね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソノアカシガコレダァ!!サッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!?

 あっあれはぁ………!?

 生前アルバート様に授与された聖剣アドバンサー………の柄でござるゥ!!?

 それを見つけたということは本当にアルバート様が!!?」

 

 

 

セイケンアドバンサー!?

 

キイタコトアルゼ!?

 

ソレッテタシカムカシアルバートサマガモッテイタツルギダヨナ!?

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!?

 

ッテコトハカオスハホントウニアルバートサマノ!?

 

マゴノダイマデイタノカ!?

 

ムスコハ!?

 

ムスメハイタノカ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「よくもやってくれたね。

 ムーアヘッド。」ザスッ!

 

 

 

「レイディーさん!?

 そっちに…!?」

 

 

 

「!

 おわっ!?」バッ

 

 

 

「君のせいで俺は赤っ恥だよ。

 あれだけのことを言った後に君がしゃしゃり出てくるからね。」シュシュシュシュッ!!

 

 

 

「口調の割りに必死さが滲み出てるぜ!

 らしくねぇなぁフェデール!

 女相手するときはもう少し紳士的だったと記憶してたが違ったか?」ササササッ!

 

 

 

「君にそんな対応する必要があるのかい?

 これから俺に殺されようとしている君にね。」

 

 

 

「へぇ…。

 だったら………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アタシも久々に自慢の武器を振るえそうだな。」パキパキッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地面が凍った………!?」

 

 

 

「相手が人なら何の遠慮もいらねぇ!

 見せてやるぜこの『氷上の華』と謳われたムーアヘッドの舞を!!」



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カオス=バルツィエという存在

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レサリナスでフェデールによって過去のトラウマを呼び起こされたカオスだったがレイディーの一喝で正気を取り戻す。

 そしてレイディーが大衆に向けカオスがバルツィエとは無関係だと叫ぶ。

 カオスはそれを受けて…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

「アイシクル!!」パキパキッ!

 

 

 

「!?

 自分の靴に魔術を!?」

 

 

 

「坊や!

 御膳立てはしてやったんだ!

 この糞団長はアタシが受け持つ!

 お前はさっさとお前の意思を表明してこい!!」

 

 

 

「なっ、何を言えばいいんですか!?「バッカ!んなもん決まってんだろ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の今日までの人生を言えばいいんだよ。コイツに吹き込まれた嘘をお前が自分の口で正しく皆に伝えてやるんだ!

 お前が一体どこの誰で今日までどう過ごしてきたか。

 そしてお前が一体何をしたいのか。

 何を目的に旅をしてきたのか。

 それを皆に訴えてこい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の………やりたいこと………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人の考えってのはな。

 本人が言葉にして表さないと誰にも伝わらないんだよ。

 だから皆はお前がこれまでしてきたことや誰かの言葉をそのまま鵜呑みにしちまうんだ。

 それらがお前の思ってる門と違うなはお前が直接訂正してやれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 アローネサイド

 

 

 

「騎士団長が………どうすればいいんだ!?

 こんなことになるとは何も聞かされてないぞ!?」

 

 

 

「………でしたら早くそのナイフを下ろしてください。」

 

 

 

「何ィッ!?

 貴様この「フンッ!」グフゥッ!?」ドスッ

 

 

 

「タレス!」「はい!」ザンッ「ぐわっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始めからシャープネスを使っていれば良かったですね。

 ………トーマスさん!!」

 

 

 

「はっはひぃ!?

 …アルキメデス殿…?

 …!?

 アルキメデス殿!!

 サタン殿はカオス様であったのでござるか!?

 それならそうと早く仰って下さればよいものを!

 ということなればアルキメデス殿ももしやアロー「トーマスさん!!」ふやぁッ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メルザさんをお願いします。」

 

 

 

「………わっ、分かりもうした………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タレス、私達もあそこへ行きましょう!」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルキメデス殿~………。」

 

 

 

「………う、うぅん…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ミシガンサイド

 

 

 

「ねぇ………お姉さん。」

 

「ん?

 あれ?

 君はさっきカオスがダニエル君って言ってた………。」

 

「あの人………、

 サタンさんがカオス=バルツィエって………、

 本当なの?」

 

「え?

 サタン?

 誰の名前?

 あのお兄ちゃんはカオスって言うんだよ?」

 

「けど………、

 サタンさんはそう言ってたよ?」

 

「そうなの?

 ………逃亡者だったから偽名だったんだろうけど何でサタンなんだろ?

 まぁいいか。

 ダニエル君、ここは危ないから後はお姉さん達に任せて避難してて。」

 

「カオスは………」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスは貴族の………、

 バルツィエを倒しに来たの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あぁ~。

 そういう話になってるんだっけか。

 ………違うよ。」

 

「!?

 じゃあバルツィエの仲間なの!?」

 

「それも違うよ。」

 

「え………?

 じゃあカオスは何をしに来たの?」

 

「………カオスはね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 友達を助けに来た。

 それだけだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきまでの視線とは違う。

 

 

 

 今度は多少責められるような視線じゃない。

 

 

 

 まだ俺が何者なのか疑ってはいるけど敵意は感じない。

 

 

 

 体の震えもない。

 

 

 

 これなら話ができそうだ。

 

 

 

 レイディーさんがここまでしてくれてるんだ。

 

 

 

 今度こそしっかりしなきゃ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺はカオス=バルツィエ………。

 

 

 

 ここから最南端に位置する村から来ました。

 そこで十年前までおじいちゃん………、

 アルバート=ディラン・バルツィエ………、

 アルバ=バルツィエと住んでいました。

 

 

 

 おじいちゃんは昔したっぱの騎士で部隊がモンスターに襲われて逃げてきてその村に居座ることになったと言っていました。

 そうしてその村にいる間におばあちゃんと出会い結婚して俺の母さんが生まれて母さんもその村にいた父さんと結婚して俺カオス=バルツィエが生まれました………。

 

 

 

 父さんと母さんは俺が小さいときに事故で死んじゃってそれからはおじいちゃんとずっと二人で生きてきました。

 

 

 

 俺はおじいちゃんからこの国の騎士について沢山話を聞かされ俺も将来はこの国の騎士になりたくて強くなろうとおじいちゃんに稽古をつけてもらっていました。

 そこにいる騎士………ウインドラはその時一緒に村にいた友達です。

 

 

 

 そうした日々を十歳の頃まで過ごしていた時、

 俺の村で大きな問題が発生して村がヴェノムに襲われる事件が起こりました。

 

 

 

 おじいちゃんとたまたま居合わせたバスターズのクレベストンさんがそこで死にました。

 

 

 

 その件に関係して俺は村にいられなくなって村の近くにあった廃村でずっと今年まで一人でモンスターを狩って生活してました。

 

 

 

 そんな時俺と同じく指名手配されていたアローネ=リム・クラウディアと出会い数日間一緒に過ごしていました。

 

 

 

 アローネは………とてもいい子で指名手配なんかされるような子ではありません。

 ごくごく普通の子です。

 けどアローネはどこかから連れてこられたようで俺は十年前村が王国の統治下に入って騎士団が在留するようになったもとの村に行って騎士団にアローネの保護を頼みに行きました。

 

 

 

 それで騎士団の人にアローネを王都まで連れていってくれるようになったのですが騎士団の人がアローネと話をしたらアローネが逮捕されそうになってそれを俺が助け出して俺達は騎士団から指名手配されるようになったんです。

 そのせいで俺とアローネは村にいられなくなりこうして旅をすることになりました。

 

 

 

 俺もアローネもダレイオスの手先やバルツィエに敵対するとかでもなくましてやバルツィエの時期当主なんかでもありません。

 

 

 

 普通の村で育ち、誰とも会わずに一人で過ごしてきた人です。

 

 

 

 俺の村はもともと助け合って生活していた農村でお金のこととかも知らずいざ外の世界に出てきたら途端に日々の食べる生活にも困るような世間知らずの田舎者です。

 

 

 

 俺やアローネには誰かと戦うような目的はなくただ俺はアローネをもといた場所に返してあげたい………。

 

 

 

 俺はそれだけを目標にこの王都まで来たんです。

 

 

 

 決してバルツィエを倒したいとかこの国を救いたいとか大義名分のためじゃなく俺は………アローネをもとの国に返してあげたかった。

 

 

 

 俺にあるのはそれだけなんです………。」



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真実の証明

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 フェデールによって虚偽の出生を大衆に伝えられたカオスだったがレイディーの登場で不穏な場の空気を1度零に戻してもらう。

 そしてカオスは自らとアルバートの真実を告げる…。


王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいのかよ?

 こんなとこでアタシを追い掛け回してて。

 時期殿とやらがお前の筋書きを書き換えてんぞ?」サッ…

 

 

 

「あれはもうどうにもならないさ。

 そんなことより君を仕留める方が先決だね。

 君がいるってことは君がカオスやアローネ=リムの頭脳を担ってるんだろう?」ザンッ!!

 

 

 

「そういうことになってるな。

 それで司令塔のアタシを真っ先に消そうってか?」スイ~…!

 

 

 

「それもあるし君はバーナンやカオス擬きが倒れた現時点であのアルバートの傀儡達の長代理でもあるんだろ?

 君さえ倒れてくれれば二つとも纏まりが無くなる。

 一石二鳥ということだ。」シュンッ!

 

 

 

「あ~らら~。

 普段は目立たないように日蔭に隠れているアタシがそんな食べて二度美味しいみたいなことになっちまうなんでなぁ。

 そりゃお前もこうしつこくラブコールを送ってくるわなぁ。

 けどお前みたいな粘着質は趣味じゃねぇんだ。

 お断りしていいか?」

 

 

 

「そう邪険にしないでくれよ。

 君だって同類だと思うが?」

 

 

 

「アタシは追い掛け回したいのであって追い掛け回してくる奴は苦手なんだよ。

 他をあたってくれ。」

 

 

 

「そう言うなって。

 案外お似合いかもしれないぜ俺達。」

 

 

 

「そうかい?

 だったらその物騒な剣をいい加減斬りつけてくるのは止めにしねぇか?

 そんなぶっとくて固いもんアタシの体には入らねぇよ。」

 

 

 

「安心しなよ。

 痛いのは最初の一瞬だからさ。

 すぐ天国へ送ってやるぜ?」

 

 

 

「うわっ、引くわぁ~!

 自分のテクに自信あんのか知らんけどそういうこと言ってくる男って大概が下手くそなんだよなぁ!

 独り善がりで女の具合を全く無視して作業するからよ~。

 本当どっか行ってくれ。」

 

 

 

 

 

 

「………面倒だな。

 そろそろ終わりにしたいんだが。

 厄介なその靴をどうにかしないとな………。」

 

 

 

「アタシの改良したブーツ『スライドランナー』がお気に召さないようだな。

 この高速滑走がやりずれぇのか?」

 

 

 

「スライドランナーだなんて洒落たような名前つけちゃって………、

 要するにその靴は地面を凍らせながら滑るだけのスケートシューズってだけだろ?

 そんなものを使わなくても俺達バルツィエにはそれに追い付くスピードが出せるんだぜ?」

 

 

 

「だったら追い付いて攻撃してくりゃいいさ。

 この氷の上でそんなスピードでバランスがとれるかは知らんがな。」

 

 

 

「………ファイヤーボール!!」ジュワァァァァァァァァァ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「氷を溶かそうとしたんだろうが蒸気が吹き上がることくらい予測できなかったのか?」

 

 

 

「………試しにやってみただけだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーン…………………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッ、カオスハバルツィエガワジャナイッテノハワカッタケド………。

 

イマノジャアベツニカオスハオレタチノミカタッテワケデモナサソウダヨナ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺がこれまで戦ってきた訳は騎士団のある人達から俺とアローネを指名手配したからなんです。

 その人達が流した情報によって俺達は騎士団………バルツィエと戦うことになってこの旅の途中でも何度かその影響を受けました。

 

 俺達を指名手配した人達は俺という存在をこの国の人達に知ってもらってそれで俺が国中の人達から『バルツィエと戦うアルバート=ディランの息子』という救世主と呼ぶに相応しそうな人物がいるという情報を流したかったようなんです。」

 

 

 

ナゼソンナコトヲスルヒツヨウガアッタンダ…?

 

ソレナラベツニシメイテハイナンカシナクテモイインジャナイノカ…?

 

 

 

「俺を指名手配したのには明確にこの国の………バルツィエと敵対関係にあることをアピールすること………。

 

 それとバルツィエの名を持つものが指名手配されることによって政治的な攻撃をしたかったんだと思います。

 

 その情報を流すことによって俺を指名手配計画をたてた人………、

 バーナンさんはバルツィエに対抗するため人数の少ない部隊の数を補おうとして今日街の皆さんに暴動を起こしてもらいバルツィエ側の騎士に対応させてその隙にバーナンさんやダリントンさん、ウインドラがバルツィエを倒す作戦だったようです。

 

 カオス=バルツィエの話が大きくなればなるほどおじいちゃんの………、

 アルバートファンクラブの人達は喜んで騒動を起こすと踏んで………。」

 

 

 

オレタチヲリヨウスルタメニウソノジョウホウヲナガシテタノカ………。

 

ホントウハカオス=バルツィエガバルツィエトタタカウリユウナンテナカッタンダナ……。

 

 

 

 

 

 

「俺は………今日まで自分がそんなことに巻き込まれていただなんて知らなかった………。

 全てを知ったのはついさっきです。

 俺がこの街に来て街の人達からどういう印象を持たれてたのかもバルツィエが街中で堂々と人を襲うような連中だと知ったのも………。

 自分の目で見て知った………。

 

 俺が国の人達からバルツィエを倒すように期待されていたことも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は!!

 

 

 

 そんなの知らない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は誰もいない村で普通に生活していただけなんだ!!

 

 

 

 それなのに指名手配犯にされて追い掛け回されたりおじいちゃんだと間違えられたりこんな親戚連中と戦わされたり時期当主とか言われたり!!

 

 

 

 そんなものは知らない!!

 

 

 

 俺は何も知らない村民だ!!

 

 

 

 誰の敵でもない味方でもない!!

 

 

 

 俺はただ俺の目的があって旅をしているだけなんだ!!

 

 

 

 それを指名手配で捕まえるだのバルツィエの汚点だから殺すだの何なんだよ!?

 

 

 

 そしてそいつらから情報を流されて勝手に俺に期待したり失望してるアンタ達!!

 

 

 

 俺は別に誰の側にもなったつもりはない!!

 

 

 

 この国の反逆者とか言われてた人達でもバルツィエでもない!!

 

 

 

 俺は俺だ!!

 

 

 

 さっきバルツィエの親戚共をぶっ倒したのはウインドラが殺されそうになってたからだ!!

 それを助けたかっただけだ!!

 

 

 

 だからもう俺には何も望むな!!

 

 

 

 俺は見ず知らずのアンタ達の為に何かするつもりはない!!

 

 

 

 俺が戦うとしたら知り合いが目の前で困っていたときか………、

 

 

 

 

 

 

 俺に挑んでくる奴をぶっ飛ばすときだけだ!!

 

 

 

 これが………カオス=バルツィエの正体だ!!!

 

 

 

 何か文句ある奴はいるかぁ!!?」



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終わる虚劇、そして…。

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レイディーの計らいで再び大衆に自らの出生を知ってもらう機会ができカオスは己のこれまでの経緯を話し出す。

 それを聞いた大衆は…。


王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………言いたいことは言えたんだ。

 

 

 

 俺が今までどんな思いで旅をして来たか。

 

 

 

 この旅で俺が自分で思うほど何もできない奴だってのは分かってる。

 

 

 

 だから余計な期待の重圧なんて嫌なんだ。

 

 

 

 街の人達が俺にすごい期待していたのは知ってる。

 

 

 

 けどだからこそ俺はそれに応えられるような器じゃないと言うことを早めに知っておいてほしい。

 

 

 

 俺にあったのは殺生石のこととアローネのことだけ。

 

 

 

 それ以外のことに関しては期待されても叶えられるかどうか分からない。

 

 

 

 不確かなことをできるだなんて言いたくない。

 

 

 

 ならここで最初からできないと言っておきたかった。

 

 

 

 まだ俺に期待を寄せてくれている人を失望させてしまうかもそれないけど。

 

 

 

 悪く思われることには慣れている。

 

 

 

 今ここでブーイングを浴びせられても俺は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでこそアルバート様のお御孫様でござるゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石はアルバート様の御孫様ッ!!

 

 かつてのアルバート様と同じく我が道を行く御仁だァッ!!

 

 そのお姿は在りし日のアルバート様を見ているようで我輩感激でござるぅぅぅぅ!!!!」

 

 

 

ソッソウイエバドコトナクアルバートサマトフンイキガニテルナァ…。

 

セイカクハチガウケドダレカノタメニガンバロウトスルトコロハアルバートサマソックリダ。

 

ムレタリシヨウトシナイトコロガアルバートソノヒトッテカンジダヨナァ。

 

チガウダロ、アレハカオスサマダゾ。

 

………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我らのために参ったのではないのは少々残念でござるがその心意気は正しくアルバート様のものと同じ!!

 我らはそのアルバート様と同じ精神が長いときを経ても失われてはいなかったことを誠に嬉しく思いまする!!

 

 カオス様はこれからもその思いのままでいてくだされ!!

 我らはこれよりバルツィエファンクラブ改め『カオスファンクラブ』としてカオス様の道を応援させていただくでござる!!」

 

ソウダソウダ!!

 

オレタチハカオスサマノコトヲオウエンスルゼェッ!!

 

バルツィエジャナイノナラアンタハキットカナラズデンセツヲツクルオトコニナル!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………皆………どうして………?

 俺は………自分のことしか言ってないのに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは貴方の話を聞いて貴方が皆さんのご想像通りの方だったからですよ。

 カオス。」

 

 

 

「アローネ…!?

 どうしてここに…?」

 

「ずっとカオスを捜してたんですよ?

 昨日はあれから帰ってこないので心配していました。」

 

「………ごめん。

 あれからいろいろあって帰れなくって………。」

 

「ほんとですよ。

 いなくなったと思って今日も捜しに行ってみればこんな乱闘の中に出てきて戦ってるんですもの。

 それにレイディーと一緒にいたようですし。」

 

「ごめん………。」

 

「もういいのです。

 こうして無事だったのですから。」

 

「………それより俺が皆の想像通りってどういう?」

 

「………私も貴方と一緒に事情をうかがっていましたからカオスがこの街の方々にどういうような像を求められていたかは知っています。

 けれどそれは私達が思うような物語に出てくるような英雄像ではなく貴方自身がどのようなスタンスでこの国と向き合っているのか、

 それがこの街の人達には重要だったのでしょう。」

 

「俺のスタンス…?」

 

「………言葉というものは時に必要以上に物事を伝えてしまうのでしょうね。

 街の方々が貴方に求めていたものは強さもそうですが一番大切だったのは貴方が他者のために奉仕ができる優しさだったのですよ。」

 

「…!」

 

「貴方の話を聞いて貴方にはバルツィエにはないそういう人のために働ける姿勢がファンクラブの方々には喜ばしきことだった………。

 

 ………カオス、

 貴方は間違ってなどいなかったのですよ。

 

「………俺はアローネのことだけしか言ってないのに…?」

 

「それだけで十分ではないですか。

 貴方が誰かのために何かが出来る人………。

 それだけで……。」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぁっ…!」ドサッ!

 

 

 

「!?

 レイディーさん!?」「レイディー!?」

 

 

 

「…いててぇ…。

 話の途中で悪いがもう時間稼ぎが限界みたいだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここら辺で君らの話は終わりにしようか。

 これ以上君らに何かされるとは俺も面目が立たないんでね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェデール…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「騎士団全部隊に告ぐ!!

 カオス=バルツィエ時期当主を捕獲し並びにそれ以外の反逆者共を引っ捕らえて抹殺せよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 ウインドラサイド

 

 

 

「………っは!?」ガバッ

 

 

 

「ウインドラ!

 気がついたの!?」

 

 

 

「………今どうなってる!?」

 

 

 

「不味いことになってるわ!

 このままだとカオス達が捕まっちゃう!?」

 

 

 

「!?

 それはいかん…!

 ミシガン!

 一緒に来てくれ!」ダッ

 

 

 

「どこに!?」

 

 

 

「こんな事態になったんだ!

 カオスとお前をこの街から逃がす!」

 

 

 

「逃げられるの!?」

 

 

 

「確実ではないがさっきのカオスとバルツィエとの戦闘で逃亡ルートが確率した!

 そこからお前達を先導する!」

 

 

 

「え!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 カオスサイド

 

 

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「囲まれちまったか………。」

 

「まだこんなにいたのか。」

 

「これでは逃げられませんね…。」

 

 

 

「カオス時期…、

 私と共に来てもらいましょうか?」

 

 

 

「さっきの話で断ったと思うんだけど…?」

 

「こんな時にも勧誘たぁ執念深い野郎だな。」

 

「それほどまでにカオスを欲しているのでしょうか?」

 

 

 

「私も一度発した言葉を撤回するようなことはしたくありませんのでね。

 貴方には宣言通り我々の時期当主になっていただきます。」

 

 

 

「俺がなると思う?」

 

 

 

「余計な雑念を発足させるもの達を排除すれば貴方も気が変わるでしょう。

 先ずはアローネ=リム・クラウディア。

 お前から消さねばならないようだな。」

 

 

 

「アローネをだと!?」

 

「坊やの演説で最優先の標的が変わっちまったか。

 ありがてぇこった。」

 

「レイディー!

 馬鹿なこと言わないでください!

 

 

 

「勿論ムーアヘッド、

 貴様も標的だぞ?」

 

 

 

「おいおい二股はよくないぜ?

 狙うんなら一人にしろよ?

 アタシはお前の本命が駄目だったらでいいからさ?」

 

「レイディー!!」

 

 

 

「よくそんなことがこの状況で言えるな。

 アローネ=リムを処刑したら次はお前なんだよ。

 

 すぐにでも…!「孤月閃ッ!!」?」ブオンッ!!キンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隙を狙ったつもりが防がれましたね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「タレス!?」」「ガキか。」

 

 

 

 

 

 

「………君もいることは忘れてなかったよ。

 とりあえずは最優先に殺さなきゃならないのが三人「衝破一文字ッ!!」…!」シュンッ!バッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで四人だな。

 先ずは俺から殺ってみたらどうだ?

 騎士団長。」

 

「ちょっと何言ってるの!?

 ウインドラ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一気に五人まで増えたか…。

 知らない女まで増えてるが。

 手間がかかるよ。」



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騎士団との対決

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 フェデールによって虚偽の出生を捏造されたカオスは無事に大衆へとそのことを告げた。

 直後、フェデールがカオス達を捕らえようとするが…。


王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

「お姉さん!?

 どうしてここに?」

 

「久しぶりアローネさん。

 元気にしてた?」

 

「えっ、ええまぁ…。」

 

「(お姉さん…?)」

 

「アローネさん、

 この女性は?」

 

「この方はカオスのお姉さんでミシガンさんです。」

 

「カオスさんのお姉さん…?

 …!

 ということはミシガンさんもバルツィエなんですか?」

 

「違うよ?

 十年前にカオスが私のうちに形式上養子として引き取られているから姉弟になったの。」

 

「年は俺の方が上なんだけどね。」

 

「何言ってるの。

 カオスはうちに来てまだ十年でしょ?

 私なんて生まれてから十七年いるんだから私がお姉さんであってるの。」

 

「(そういうことか…。)」

 

「初めましてミシガン=リコットです。

 カオスとそこにいるウインドラとは幼馴染みなの。」

 

「…初めまして、

 タレスと言います。

 カオスさんとアローネさんに救われて旅に同行させてもらっています。」

 

「そうなんだ。

 話では聞いてたけど小さな男の子が一緒にいたってレイディーから聞いてたから貴方のことなのね。

 よろしく。」

 

「よろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

「よう、

 呑気に自己紹介済ませてるようだがこっからどうするのか考えてるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」ズラァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦会議はいいかな?

 それじゃあ大人しく捕まってくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かかれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「オォォォォォォォォッッ!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえずアタシが指揮をとる!

 各自分散して騎士共を蹴散らせ!!」

 

 

 

「「「「はっ、はい!!」」」」

 

 

 

「ミシガン、危ないから俺の側に「おりゃあッ!!」「うぉっ!?」」ドスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か言った?」

 

 

 

「………何も。」

 

 

 

「そう?

 私だって十年間危険な森を一人で抜けてアンタに会いに行ってたんだからこれくらいできるんだから。」

 

 

 

「そうみたいだね。

 けど………。」シュンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ…!?」「ふぐっ…!?」「飛葉翻…ッ!?」「ガァッ!?」「カオ…ッ!? 」「ぬわぁっ!?」「…ッ!!」「早ッ…!?」「やめッ…!」「あがぉ…!?」「ヒッ…!」「まだこれだけの…!?」ザスザスザスザスザスザスザスザスザスザスザスザスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるべく俺が倒すから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ大分変わったわね。」

 

 

 

「そうかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きっ、騎士団長ッ!!

 カオスが!!

 我々の手には負えませんッ!」

 

 

 

「(そう思うんだったら他の奴等を仕留めろよ。)時期は後回しでいい!

 それよりも先に他の奴を包囲しろ!!」

 

 

 

「しっ、しかし「孤月閃ッ!!」うわっ!?」ザスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余所見していると危ないですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダレイオスの子供か。

 先ずは女子供から囲んでしまえ!!」

 

 

 

「紳士的じゃねぇなぁ。

 そういうの嫌われるってことを教えてやらねぇと分からねぇのか?

 『氷雪よ我が手となりて敵を凍てつくせ、アイシクル!』」パキパキッ!

 

 

 

 

 

「こっ、氷の壁!?」

 

 

 

 

 

 

「猿!

 風を出せ!

 ゴリラ!

 氷の向こうに水を撒き散らせ!」

 

 

 

「誰がさ「誰がゴリラよ!ゴラァッ!!」!?」

 

 

 

「口答えすんな!

 さっさとやれ!!」

 

 

 

「…後で覚えていて下さい!

 ウインドカッター!」シュババッ!

「アンタは後で絞めるッ!!

 『流水よ我が手となりて敵を押し流せ!アクアエッジ!』」パシャシャッ!!

 

 

 

 

 

 

「よし!

 坊やと坊や擬き!!

 この氷に飛びっきりの一撃をぶちかませ!!

 坊や擬きは電撃も付与しとけ!!」

 

 

 

「はい!」「坊や擬きだと…?」

 

 

 

「いちいち突っかかるな!!

 アタシが指示したら即座にやるんだよ!!

 ガキ共は中央に寄っとけ!」

 

 

 

「分かりました。」「偉そうにしないでよ!」「………」サッ…

 

 

 

「ウインドラここは指示に従おう!」

 

 

 

「………あぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「剛・魔神剣ッ!!」「瞬雷槍ッ!!」ザザザザンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォッ!!!!バチバチバチバチバチバチバチッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぉぉぁぁぉぉぁっ!!!!!?」」」」」」」」」」」」バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!

 氷と水を伝って電撃が…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「即席のパーティでもこのくらいの連携はこなしてもらわないとな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………やはり君がいると手強いな。

 ったく、

 司令官を動かすなよ。

 雑草兵が…。」パッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタの相手は俺が受け持つよ。」

 

 

 

「時期………。

 あまり手を煩わせないでほしいのですが。」

 

 

 

「時期にはならないって言ったぞ?」

 

 

 

「私も言葉を撤回は致しません。

 貴方には是が非でも時期当主として君臨していただきます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィンッ!キィンッ!シュバッ!ガガッ!

 

 

 

キキィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カッ、カオス…?」

 

 

 

「ミストのにいた頃とはまるで別人ね。」

 

 

 

「(…こんなことならもっと早くにバルツィエとぶつけさせるべきだった。)」

 

 

 

「フェデールと互角に戦うとは…、

 俺の想像よりも遥かに…。」

 

 

 

「ここは坊やに任せて後の騎士団共を片付けるぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きっ、騎士団長と互角だと…!?」

 

 

 

「あんな戦いの中に入っていくなんて無理だ…。」

 

 

 

「他の五人も相当な強さだぞ…!?」

 

 

 

「補給部隊!

 倒れている隊長三人に回復を!」

 

 

 

「りょ、了解!!」

 

 

 

 

 

「おいやべぇって!

 誰かあの他のバルツィエ復活させようとしてる奴止めさせろ!」

 

 

 

「で、ですが騎士団が…!?」

 

 

 

「!

 ボクが行きます!」ピョンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピョンッ!ピョンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっ、この子供!?

 空中でジャンプしたぞ!?」

 

 

 

「スキル持ちか!?」

 

 

 

 

 

 

「ていっ!」ジャラララララララッ!!

 

 

 

「がっ…!?」ザスッ!

 

 

 

 

 

 

「バルツィエの隊長格の復活なんてさせませんよ。」

 

 

 

 

 

 

「こっ、子供の分際で生意気なッ!!

 囲んで串刺しにするぞ!!」

 

 

 

「「「「「おうッ!!」」」」」

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

「「「「「「せやぁッ!」」」」」」シシュッ!!

 

 

 

 

 

ピョンッ、ガキィンッ!!

 

 

 

 

 

「また飛びやがったか!」

 

 

 

 

 

 

「ストーンブラスト!」パァァッ

 

 

 

 

 

「おおっ!?」「地面が!?」

 

 

 

 

 

 

「円閃牙ッ!!」ジャラララララララッ!!

 

 

 

 

 

「「「「「「うわぁっ!!?」」」」」」ザザザザザザッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マテオの騎士を殺すのに遠慮はしませんから。」スタッ…

 

 

 

 

 

 

「怯むな!

 今度は空中に飛び上がったところを狙え!!」

 

 

 

 

 

 

「…!

 しまっ………。」ピョンッ

 

 

 

 

 

「今だや「させるか!!」ぬぁぁっ!?」ザスッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方達は…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは我々ダリントン隊とバーナン隊も助太刀させてもらおう。」



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対戦フェデール

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 カオスが大衆に向けて己の出生を表明した直後フェデールが騎士団を動かしカオス達を捕らえようとする。

 それに対しカオス達は応戦し…。


王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

「あっちの方は坊や擬きの仲間達に任せて良さそうだな。」

 

「こんな状況になれば皆も仲間割れをおこしている時ではないと悟ってくれたんだろう。

 もとは共にバルツィエを討つと誓った皆だ。

 ここに来てようやくその想いが一つになった………。」

 

「バルツィエが再起動しないのはありがてぇ。

 だが勢いで応戦しちまったがこの戦闘、

 区切りがねぇな…。

 敵さんはまだまだ数は多いようだし。」

 

「お前………、

 レイディーといったか?

 この戦闘長引けばこちらが不利だ。

 ミシガンやアローネ=リム・クラウディアも戦っているがこの多人数では徐々に疲れが見え始めるだろう。

 この後の作戦は立てているか?」

 

「そうだなぁ………。

 アタシ的にはもう少し敵の騎士を減らしてから人混みに紛れて中央突破といきてぇとこだが………。」

 

「ということはまだどこに向かうかは決まってないのだな?」

 

「そうなるな。

 何分王都に帰ってきたのはこの二、三日の間なんだよ。」

 

「そうか………「隙あッ…!?」なら俺に考えがある。」ドスッ!!

 

「どこか身を寄せられるとこに宛があるのか?

 ここまでの事態になったんじゃアタシらこの国のどこにも居場所はねぇぞ?」

 

「とすれば行き先は一つしかないだろう?」

 

「………「オラブハッ!?」本気か?」ゲシッ

 

「この計画が始まった当初に皆には伝えてある。

 バルツィエを倒すためならどこにいようと我らは同じだ。

 むしろこれで協力を仰げれば好都合だ。」

 

「そう思い通りに行くのか?

 お前らを信用してくれるかは確証がねぇだろ?」

 

「…そうだな。

 あちらに渡ったと同時に攻撃を受けて全滅するかもしれない。

 ………だがやるしかないんだ。

 我らはこの戦いで多くの同士を失った。

 その同士達の無念に報いるためにも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスへと渡ってダレイオスにマテオとの戦争に向けて我らと手を組むように交渉するのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉さん!」

 

「何?

 アローネさん。」グググッ

 

 

 

「グァァッ………。」

 

 

 

「どうしてお姉さんまで戦闘に参加しているのですか!?

 お姉さんは私やカオスと違って指名手配犯でもないのにこんなことをしては………。」

 

「どうしてって当然でしょ?

 私の家族が悪人に襲われているんだから家族として一緒に戦うことなんて。」

 

「悪人とは言いますがこの方々はこの国の騎士団ですよ?

 この国の決まりを考えれば悪人なのはむしろ私達「それが何よ。」!」

 

 

 

 

 

 

「国が決めたルールだがなんだか知らないけどね。

 そうやって私やミストの人達のいないところで私の家族を一方的に悪者にして巻き込むような奴等は私からしてみればそれこそ悪人よ!

 私は絶対にカオスとアローネさんを悪い人だとは思わないわ!

 悪いのはいつまでもカオスとアローネさんを悪人呼ばわりするこいつらよ!

 そんな奴等はこの私が直接教育してやるわ!」

 

 

 

「お姉さん………。」

 

 

 

「………ぁっ」バタン

 

 

 

「さっさとこんな数だけの人達はお仕置きしないとね。

 まだまだたくさんいるみたいだし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりますね時期…。」ググッ

 

 

 

「アンタもね。

 他のバルツィエは修行不足を感じたけどアンタだけは違うみたいだな。」ググッ

 

 

 

「これでもこの国の最高戦力を担っていますのでね。

 他の家のもののように力に過信して訓練を怠るようなことはなかったのですよ。」

 

 

 

「そうかい………、

 それならアンタの技術が一番お手本になるんだね。」

 

 

 

「そうとも言えますが私の技術は一朝一夕で使いこなすのは難しい話ですよ?」

 

 

 

「大丈夫さ。

 もうだいたい掴めてるから。」

 

 

 

「!

 まさかもう陽炎を………!?」

 

 

 

「後二、三度見せてくれたら俺でもできそうかな。」

 

 

 

「それでしたら足ではなく剣技でお相手させていただきましょう。

 秋沙雨ッ!!」シュシュシュシュシュシュシュッ!!

 

 

 

「!

 この技は!?」ガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!

 

 

 

「これは防ぎますか。

 ラーゲッツ貴方にはこの技は初見の筈なのですが。」

 

 

 

「(ラーゲッツの使っていた技だけどあれよりも鋭いな。)実は何度か見る機会があったんだよ。

 その時は街の人達に放ってたけどね。」

 

 

 

「そんなところで情報の漏洩が………。

 今度ラーゲッツが生まれ変わることでもあったら仕付けておきたいですね。

 そんなふうに手の内をひけらかしては敵に対策を講じられてはいけません。」

 

 

 

「それだったら一般の人に剣を向けないようにって仕付けておいてくれよ。」

 

 

 

「それでしたらもう何度も聞かせているのですよ。

 聞き入れてはくれないですがね。

 瞬迅剣ッ!!「!!」裂空斬!!「うわっ!?」閃空裂破ッ!!「(連撃!?)」魔神連牙斬!!」シュンッ!ザスザズザスッ!シュシュシュンッ!!ザザッザザッザザンン!!

 

 

 

「うぉぉおぉっと!?」

 

 

 

「!!

 トラクタービーム!!」パァァッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 体が浮いた…!?

 何だこの魔術は…!?」フワァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これで私の勝ちですね。」

 

 

 

「!

 何言ってるんだ!

 まだ俺は「これで」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方を抑えて貴方以外が死ねば私の勝ちです。」

 

 

 

「!?」

 

 

 

「何も貴方と決着をつけることもないのですよ。

 貴方を動かす頭さえ消えてもらえればこの戦闘は終わるのです。」

 

 

 

「止めろ!!

 そんなことしたら俺が後でバルツィエを…!!」

 

 

 

「殺せますか?

 貴方に。」

 

 

 

「…!?」

 

 

 

「………普通だったらこの国の国民なら何がなんでも殺しておきたいバルツィエの一族………。

 それを貴方は何度も見逃している。

 ………貴方には人を殺す理由も覚悟もない。

 だから殺さなかったのでしょう?

 貴方の住んでいたミストにはバルツィエの存在が全くもって浸透していなかった。

 それもその筈………、

 もし浸透していたら貴方のお祖父様はあの村にはいられなかったのですから。」

 

 

 

「!!」

 

 

 

「そのせいなのか存じませんが貴方は戦うとき意識的に手加減していますね?

 ユーラス達を相手に手加減というのも称賛すべきですがそれで貴方がどのような性格をしているのか、どのような戦術をとるかは確認がとれました。

 

 

 

 

 

 

 ………貴方は最後まで守る戦いしかしない。

 受け身の戦術しかできないんだ。」

 

 

 

「………それの何が悪いんだ。

 こっちから手を出さなければ何も戦いなんておこらないだろ?」

 

 

 

「そう、

 仰る通り………。

 ですがそれは互いに何の利益もない場合のみ。

 そこに何かしら損得勘定や遺恨があれば片方が剣をとらずとももう片方は剣をとるかもしれない。

 貴方は先程の一撃を除いて常に後攻にしか攻撃を仕掛けられない。

 だからこうやって受けてはならない攻撃も受けてしまうんだ。」

 

 

 

「…!

 こんな魔術!

 時間がたてば解けるんだろ!?

 だったらそれまで…!」

 

 

 

「………残念ですがこのトラクタービームは最長効果時間は一時間な上に貴方一人に絞ればそれ以上に延びる。

 貴方が一時間以上トラクタービームで浮いている間にこの戦況はどうなるでしょうか…?」

 

 

 

「…!?

 レイディーさん達ならこんな騎士団なんかには負けない!!」

 

 

 

「それはどうでしょうか?

 少なくとも彼女らは貴方がいたからこうやって共に戦えていたのだと思いますよ?

 その貴方がこうして私を相手に決着をつけられずに延々と時間を稼がれ続けられればいづれは疲れが見えはじめて捕まるでしょう。」

 

 

 

「…!?」

 

 

 

「………!

 違いますね。

 捕まるのではありませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 処刑でしたね。

 貴方以外には何の利用価値もないので即殺させていただきますよ。

 アローネ=リム・クラウディアもレイディー=ムーアヘッドも反逆騎士もダレイオスの子供もあそこにいるどこかの娘も。」

 

 

 

「………やらせるか。」

 

 

 

「………はい?」

 

 

 

「…そんなことやらせるか!!?」グワングワンッ!!

 

 

 

「無駄ですよ。

 そのトラクタービームは一度捕まれば私の魔力が切れるまではずっと浮きっぱなしで「そんなもの!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなもの!

 魔術ごと切り裂いてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔神剣・槍破ッ!!!」ズバンッ!!!



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逃走の一手

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 フェデールの虚偽を暴いたカオス達は騎士団と対決することになり応戦する。

 カオス達はそれぞれ善戦するがフェデールの魔術に捕まったカオスは…。


王都レサリナス 北部 城前広場

 

 

 

「ぐふっ…!?」ズバンッ!

 

 

 

「魔術が解けた!?

 これなら…!」パッ、スタッ

 

 

 

「(あの不安定な体勢で魔術ではなく闘気術…?

 例え魔術だろうがなんだろうがあのトラクタービーム下で打ち上げられる筈…!

 それを貫通してきたということはこいつの魔力が俺を越えるほどに高いという証拠…。

 だが………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暫く眠っててくれ。」ドスッ

 

 

 

「ガッ!?」ドサッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「騎士団長ッ!?」

 

 

 

「騎士団長をお守りしろッ!!」ダダダダッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスがフェデールを倒した…!?

 なら「待ちな!!」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ以上やってもジリ貧になるだけだ。

 お前も手負いだろ?

 ここは一旦退くぞ。」

 

 

 

「しかし今フェデールを討つ絶好の好機…。

 ここで討たねば…!?」

 

 

 

「あまり深追いすると退路が塞がれちまう。

 それにさっき退散するって行ったろ?

 フェデールが討たれたことで今は逃げる絶好のチャンスなんだよ。」

 

 

 

「………分かった。」

 

 

 

「おい、猿!ゴリラ!ガキ!

 撤収するぞ!!」

 

 

 

「また…!

 ………分かりました!」

 

 

 

「レイディー!

 次はアンタをしばくわよ?」

 

 

 

「………それならこのバルツィエ達に止めを…「魔神剣ッ!」「ぐあっ!」「うわっ!?」!?」ザザンッ!バッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さんたちは殺らせないよ。

 カオスが相手じゃないならそれくらい僕にだってできるんだから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニコライト………そういえばいましたね。」

 

「この子供なら俺でも倒せそうだ。」スチャッ。

 

 

 

「…!

 何だよ!?

 やるのか!?」

 

 

 

「バルツィエの血族なら討伐対象だ。

 他のバルツィエ共々まとめて…「ちょっと止しなさいよ!震えてるじゃない!」「そうですよ、強くても子供なんですから。」しかし戦場に立つ以上子供だからと言って…「だぁ~!!!揉めるんじゃねぇよ!!」!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな奴は後で坊やがいる限りいつでも殺れるんだろ?

 今は他の足手まとい達がいるんだ。

 そいつらを逃がしてからにしろよ。」

 

 

 

「足手まとい…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ………、

 俺達はどうすればいい?」

 

 

 

「ダリントン隊のみんな………。」

 

 

 

「続けるってんならこいつらの方が先に全滅しちまうぞ?

 それよりかは今一緒に逃がしたほうがいいだろ。

 少なくなったとはいえ対バルツィエの精鋭なんだろ?」

 

 

 

「…そうだな。

 皆ここはこのレイディーが指揮下に入ってくれ!」

 

 

 

「「「「「了解ッ!!」」」」」

 

 

 

「あぁ、後バーナン隊の奴等!

 お前らもついてこい!!」

 

 

 

「!

 我らは今回の失態の償いとして殿を務める!

 そなた達は発つというのならそのまま先に「だまらっしゃい!!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの坊やがそんなことを許して逃げられる訳ねぇだろ?

 殿はあの坊やに任せな。」

 

 

 

「我らは…。」

 

 

 

「償いって言うんなら生きて他のことで償え。

 それまではアタシらと一緒にここを出ていくことが先決だ。」

 

 

 

「………了解した。

 皆もそれでいいか?」

 

 

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

 

 

「纏まったようだな。

 坊や!!

 アタシらが出ていくまで兵士共を威嚇しといてくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かりました!!」シュンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、うわっ!?」「カオス=バルツィエ!?」「フェデール騎士団長クラスの強さの奴が来たぞ!?」「誰か!抑えといてくれ!!」「無理だろあんなの!!」………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!魔神剣ッ!」ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「于わぁぁぁぁぁぉあぁぁぁッ!!!!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「威嚇で良いって言ってんのになぁ………。」

 

「カオスはやっと騎士らしいことができて張り切ってるんじゃないでしょうか。」

 

「………昔から騎士には憧れていた奴だったが相手が騎士でもよかったのか…?」

 

「カオスはずっと誰かを守ることを生き甲斐にしてきたんだしそれが今叶って嬉しいんじゃないの?」

 

「ですが流石にカオスさんでも疲れを知らないということはない筈………。

 早々に抜け出なくては…。」

 

「はぁ~…。

 私王都に来たばっかりなんだけどなぁ…。

 全然ゆっくりできなかったわ。」

 

「………スマン。」

 

「そのことは後で纏めて叱ってあげるわ。」

 

「それでこんな騒ぎになった以上私も教会にはいられませんね。

 カタスに何て言えばいいのでしょう…。」

 

「そのことは王都を抜けてからですよ。

 アローネさん。」

 

「………それで坊や擬き。

 このまま真っ直ぐ突っ切ればいいのか?

 民衆が邪魔なんだが?」

 

「………ウインドラ=ケンドリューだ。

 いや、俺達は西門から出ることにしよう。

 それが効率的にいいだろう。」

 

「西門?

 ダレイオスに行くには都合がいいが………。」

 

「それもあるが先程バルツィエの隊長がそれぞれ西門、東門、正門からやって来た。

 その時、

 

 

 

 バルツィエのダインが西門からやって来たんだ。

 だから西門から出ていく。」

 

 

 

「ダインが………?

 ………そういうことか。

 なら行くぞお前ら!

 こっから西門へ出て脱出する!」

 

「え?

 どういうこと?」

 

「西門と東門しか選択肢はないと思いますがどちらも包囲されているのですよね?

 どうして西門一択なのですか?」

 

「………ただの当てずっぽうなのではないですか?」

 

「そう思うんならガキ、

 お前は東門に行ってもいいんだぜ?」

 

「…もう何も言いませんよ。」

 

「しかし、西門に一体何が………?

 騎士は包囲していると言っていましたが………。」

 

「黙ってついてくりゃいいんだよ。

 このまま西門に向かえば運がよけりゃ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰一人戦闘もせずに通れる筈だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「騎士団長ッ!!」「ご無事ですか騎士団長!?」「今治療します!」「治療部隊!治療魔法を!」「了解ッ!『我らに癒しの加護を』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファッ「ファイヤーボールじゃないよな?」…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この機に乗じて俺を殺そうとするスパイがいるかもしれない。

 俺に魔術をかけようなんてしてこなくていいから。

 ………ヒール!」パァァ

 

 

 

「…ぉっ!?」

 

 

 

「ん?

 何か俺が自己回復するのに不都合でもあったかな?」

 

 

 

「………いえ。」

 

 

 

「そう?

 ………で状況はどうなってる?」

 

 

 

「現在カオス一味と反乱を起こしたダリントン隊、バーナン隊が王都を脱出しようと西門へと向かっています。

 それをカオス=バルツィエがサポートして進軍中です。」

 

 

 

「西門?

 あそこは確かダインの部隊と………。

 ………あぁ、だから西門に行ったのか。」

 

 

 

「騎士団長、

 我々ではカオスに対処できません!

 このままでは西門も突破されてしまうでしょう!」

 

 

 

「………だから?」

 

 

 

「はい!?

 ですからこのままでは西門も反逆者共に「だったらさ。」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺に一々指示されずに全軍で止めに入るとかすればいいだろ?

 そんなこともできねぇのか。」

 

 

 

「かっ、畏まりました!

 それでは…!」タタタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何故カオスは魔術を使わない?

 あの状況からなら剣術よりも魔術の方が狙いは正確の筈………。

 それをあえて剣術にしたのは何故だ?

 俺のトラクタービームを貫通するくらいなら魔術でも結果は変わらないと思うが………。

 まさか奴の魔力が高すぎて広範囲に及ぶのを危惧したか?

 仲間も巻き込むのを恐れて…?

 それだったら頷けるが………。

 

 それだったら治療魔術も補助魔術も使わないのはどういうことだ?

 攻撃じゃないのなら関係なく使えるだろ。

 あれほどの模倣性能なら魔術も相当なものだろう。

 それをあえて使わない理由は何だ?

 魔術を使わずとも勝てるから?

 ………いや、

 ユーラスと戦い始めたときの奴は確かにユーラス以下の戦闘力だった。

 あの時にはそんな余裕は感じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 演技か?

 それとも魔術を始めから戦闘に組み入れていない?

 

 

 

 魔術を使わない理由は………。

 

 

 

 

 魔術が使えないから?

 

 

 

 だが奴はユーラスのストーンブラストをほぼ無傷で受けきった。

 

 

 

 闘気術を使う時点でそれはない。

 

 

 

 シンプルに殺傷力が高すぎるからか?

 

 

 

 ならこのまま王都の外まで逃がしてから深追いさせたら騎士団を………。

 

 

 

 それもないな。

 

 

 

 奴はこの俺にすら情けをかけるほどの無殺生主義らしい。

 

 

 

 だったら危惧するだけ無駄だが…。

 

 

 

 このままの状態の俺達では太刀打ちすらできないのは事実。

 

 

 

 放っておけばやがて厄介な火種に変わることは間違いない。

 

 

 

 さて、奴をどうするのが正解なのかな。)」



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レサリナスからの脱出

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 騎士団との戦闘中フェデールに捕まったカオスだったがそれを難なく逃れる。

 だが騎士団の数に呑まれかけカオス達はダリントン隊とバーナン隊の生き残りと共にレサリナス脱出を試みる。


王都レサリナス 西部 西城壁門 カオスサイド

 

 

 

「どけどけどけぇ~!!

 カオス=バルツィエがお通りだ!!」

 

 

 

 

 

 

「カオス=バルツィエだと!?」「先程入った連絡によるとこちらの方に向かってきてるらしい!!」「バルツィエ隊長達がことごとくやられたようだぞ!?」「何だと!?」「しかしここを通すわけには…!?」

 

 

 

 

 

「まどろっこしい!!

 アイスニードル!!」パキパキパキッ!!

 

 

 

 

 

「「「「「おわぁぁぁぁぁぉっ!!?」」」」」ザクザクザクッ!!

 

 

 

 

 

「さっさとやられときゃいいんだよお前らは。」

 

「レイディー悪党みたいだよ。」

 

「悪党みたいと言うより悪党ですよこの人は…。」

 

「悪党か………、

 そうなる覚悟はしていたがこんなふうに悪党のように振る舞うことになるとは………。」

 

 

 

「ウインドラ…、

 そこは俺達がどうこう言える立場じゃないさ。

 彼らのおかげでなんとか生き延びられているのだから。」

 

「だがな………。」

 

「今は俺達が助かっているだけでも有り難い。

 文句なんてないさ。」

 

「………」

 

「……それに当初の予定とは違ったがこちらには期待以上の方が味方してくれているんだ。

 お前!

 カオス=バルツィエと知り合いだったのなら何で俺達に知らせなかったんだ?」

 

「それは………「魔神剣ッ!!」「うわっ!?」!」ザザッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ外に出れてなかったんだね。

 後ろの騎士団はある程度気絶させてきたよ。」

 

 

 

「カオス!」「ご苦労坊や。」「カオスさん!」「早いよカオス!?」

 

「カオスか…。」

 

「後はここを突破するだけなんでしょ?

 早く出よう!」

 

「いいんですかカオスさん?

 教会に黙って出ていっちゃっても…。」

 

「………やむを得ないだろ?

 もうこんなことになってる訳だし。」

 

「カタスには留守番を頼まれていましたが…

 カタスなら分かってもらえるでしょう。」

 

「カタスティア教皇か…。

 申し訳ない事態になってしまったな。

 このままカオスを連れ出せば教会は………。」

 

「大丈夫ですよ。

 カタスは強いですから。」

 

「アローネ=リム・クラウディア………。」

 

「アローネでいいですよ。

 ウインドラさんですよね?

 カオスと一緒にいたということは。」

 

「………そうだ。」

 

「貴方がカオスとお姉さんとミストで過ごしていた……。」

 

「あぁ………。」

 

「………」

 

「何故ウインドラさんは一人でミストをお出になられたのですか?」

 

「………それは、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりましたよ臣民様方々ご一行!」

 

 

 

 

 

 

「!!

 ………お前は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラム=バベル!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久方ぶりでございますねぇ、

 臣民様。」

 

 

 

「どうしてお前がここに…?」

 

 

 

「私はこの国の騎士団の隊長でございますよ?

 どこにいようと不思議ではございません。」

 

 

 

「そうだな………。」

 

「ブラムさん!

 アンタのせいでカオスやアローネさんが大変な目にあったんだからね!?」

 

「…貴方のせいでカオスまで巻き込むことになってしまって………、

 私は………。」

 

 

 

「おやおや、それはそれはご迷惑をおかけしましたねぇ。

 ですが私もこの国の脅威となりうる方々をそのまま野放しにはできなかったのでございますよ?

 そこは悪しからず。」

 

 

 

「何を白々しく…!」

 

「誰かは知りませんがカオスさん達の敵と言うのならボクの敵です。

 殺してでも通してもらいますよ?」

 

 

 

「あれまぁ?

 あまり歓迎される空気ではありませんねぇ?

 そんなお怖い顔をなされると私も畏縮してしまいますなぁ。」

 

 

 

「とりあえずぶっ飛ばしておこうか…。

 こいつなら少しぐらい痛い目にあわせても「ブラム隊長。」」ザッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこを通していただけますか?

 ブラム=バベル隊長。」

 

 

 

「ウインドラ?」

 

 

 

「おや?

 貴方は確か………、

 ダリントン隊の………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラさんではございませんか。

 今はカオス=バルツィエと名乗りをあげたのですよね?」

 

 

 

「………それはもう失敗した作戦です。

 俺はもう普通の騎士ウインドラ=ケンドリューです。」

 

 

 

「おやおやぁ……、

 まぁ、ご本人様が目の前にいらっしゃいますからねぇ……。」

 

 

 

「………?

 ウインドラ………、

 もしかしてブラムも?」

 

 

 

「協力関係にはある。

 ブラム隊長にはバルツィエの情報を流してもらう工作班として潜入してもらっていたんだ。」

 

 

 

「そもそもが私の作戦から始まったことですからねぇ。」

 

 

 

「………そうだったのか。」

 

「それでも私は許しはしないわよ?

 カオスのことはともかくアローネさんのことは絶対にね。」

 

 

 

「嫌われてしまいましたなぁ。

 ミシガン様は私もファンでしたのですが…。」

 

 

 

「べぇ~だ!」

 

 

 

「………コホンッ!

 ですが私にはまだやらなければならぬことが多数ありましてね。

 このまま共に逃げ出すことはできないのですよ。

 そして皆様をお通しすることも。」

 

 

 

「ブラム隊長?」

 

 

 

「ですので………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私を倒してからお通りください。

 それでしたら私の面目もある程度は保てますので。」

 

 

 

 

 

「ブラム隊長それは…。」「分かった魔神剣ッ!」「ウインドカッター!」「ストーンブラスト!」「アイスニードル!」「アクアエッジ!」「オホォッ!?」ザザザザザッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そっ、そんな躊躇なく………」バタンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで恨みっこなしにしといてあげるよ。」「カオスを巻き込んだ報いです。」「味方のようでしたがマテオの隊長なら遠慮しません。」「急いでんのに長話すんじゃねぇよ。」「サイッテー!」

 

 

 

 

 

「そこまで恨まれるような人ではないのだがな………。(もともと対バルツィエ戦闘での手解きもしてくれた人だし。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 北部 城前広場 フェデールサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせーぞユーラス!!

 静かにしろ!!

 傷に響くだろうが!!」

 

「復活して早々喧しい…。」

 

 

 

「カオスは!?

 あの野郎はどこにいる!?

 今度こそぶっ殺してやる!!」

 

 

 

「落ち着けユーラス。

 カオス達ならもう王都を脱出しかけている。」

 

 

 

「あぁ!?

 だったらさっさと追い掛けて殺しにいきゃいいだろうが!!

 お前が何をこんなところでボサッとしてんだ!?

 お前ならあんな奴サクッと殺れるだろうが!!」

 

 

 

「そうもいかなかったさ。

 俺ですら剣を交えてみて一太刀浴びせられちまったからね。」

 

 

 

「お前が…!?

 ………だったら今度は四人で一斉攻撃だ!

 それならあの化け物でも手足の一本くらいとれる筈だろう!」

 

 

 

「そうしてみるのもいいと思うがそういう訳にもいかなくなってねぇ。

 俺はこの騒ぎを修めるのに尽力しないとねぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!!

 

 

 

 

 

「は!?

 こんなんほっときゃいいだろうが!?

 それより今はあの化け物を仕留めに行くのが先だ!」

 

 

 

「そうも言ってられないんだよ。

 俺は俺の失言をフォローしないといかんしな。

 この場を取り締まらねばならねぇんだわ。」

 

 

 

「そんなん必要ねぇだろ!?

 お前の不始末なんざ俺達には「俺はよ!」!?」ドンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の不始末のフォローをして失言しちまったんだよユーラス………。

 まだ俺に尻拭いをさせるか?

 ………お前もラーゲッツと同じ目にあってみるか?」

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「分かったらお前も協力しろ。

 いいな?」

 

 

 

「………あぁ。」

 

 

 

 

 

 

「………だっせぇな。」

 

「ユーラス調子に乗るから…。」



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ウインドラとミシガン

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レサリナスで騎士団と戦うカオス達だったが長期戦では不利と考えレイディー指揮のもと脱出を謀る。

 脱出する際レサリナスの西門へと向かいそこでカオスはブラムと再開しブラムがカオス達の脱出を助けるが…。


グラース国道 北西部 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………よ~し、ここまでくりゃ安全だな、

 点呼をとるぞ~?」

 

「え?急にどうしたんですか?」

 

「一!!」

 

「え!?

 にっ、二?」

 

「さっ、三…。」

 

「……四。」

 

「五……。」

 

「六」「七」「八」「九」「十」「十一」「十「うっせぇ!!何人いやがるんだッつーの!?」二………。」

 

 

 

「………ダリントン隊は……一、二、三………二十人弱か。」

 

 

 

「………バーナン隊は………十五人………。

 三分の一以下か………。

 かなり死んでしまったな。

 それもほぼ味方同士の死闘で………。」

 

 

 

「そうかいそりゃあお辛いこったな。

 死んでったアンタらのお仲間にはご冥福をお祈りさせてもらうぜ。

 残念だったな。

 御愁傷さまさま~。」

 

「レイディーさん、何もそんなふうな言い方しなくても…!」

 

「何だ坊や。

 こいつらはお前を利用しようとしてた奴等だぜ?

 ついでに連れてきてやったが本来ならお前がこいつらをしばき倒しても文句は言えねぇ言わせねぇような立場の連中だ。

 こいつらに遠慮なんてする必要ねぇんだよ。」

 

「俺は別に文句なんて………。」

 

「何もねぇのか?

 こいつらのせいでお前も猿もこんなところまで来て追いかけ回されるハメになってんだぞ?」

 

「私の場合は国の騎士としてはそれが正当な措置だったので………。」

 

「俺は………ブラム達が俺を利用しようとしなくても出ていくつもりだったし………。」

 

「そうか…、

 人に文句も言え「私はあるわよ。」」

 

 

 

 

 

 

「ミシガン………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………アンタ………、

 何でミストを出ていったの………?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「何で何も言わずにいなくなったの………?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「私達がどれだけ探したと思ってるの…!?

 それをこんなところでそんな格好して!

 一体今まで何やってたの…!?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「何も言えないの………?

 その人達と一緒になってカオスのことを悪く触れ回ってたのに………?

 そのことについて何もないの?

 ………アンタは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何がしたくてこんなとこまで来たの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「何も………ないの………?

 私に話すことなんて何も………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺は………。」

 

 

 

「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………解放されたかったんだ………。」

 

 

 

「解放………?」

 

 

 

「………あの村にいる限り、

 あの村の決め事に従って生きる人生が待っていた。

 俺はそれが嫌だった………。

 

 父さんが死んで悲しかったが、

 俺にはそれがチャンスにも思えた。

 

 父さんさえいなければ俺にはあの村にいる理由はない。

 だから隙を見てあの村に来た騎士に混じって俺は念願だった騎士になりに来たんだ。」

 

 

 

「…!!

 村にいる理由は………ない?

 

 

 

 私は………?」

 

 

 

「………お前とは親同士が勝手に決めた仲だ。

 俺は………最初からそれが嫌だった………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!

 ………。」ダッ

 

 

 

「ミシガン!!

 ………ウインドラ、そんな酷い言い方しなくても………。」

 

 

 

「…取り繕っても仕方ない。

 これが俺がミシガンに対する俺の本当の気持ちだ。」

 

 

 

「…お姉さんの方は私が行きます………。」

 

 

 

「………どうしてあんな言い方を?」

 

 

 

「お前だって昔は俺に騎士を薦めていただろ。

 俺はそれを叶えたかっただけだ。

 願望だけで終わるような………

 そんな夢にはしたくなかった………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉さん!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「…大丈夫ですか?

 あのウインドラさんとはカオスと同じでお姉さんとも幼馴染みでいらしたのですよね?

 それがあのようにぞんざいに「幼馴染みなんかじゃない!!」!?」

 

 

 

「私とあいつは…!!

 私とウインドラは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両親達が決めた婚約者だった………。

 けど私は………そんなの関係なく子供の時からウインドラのことを………。」ポロポロ

 

 

 

「………!

 お姉さんとあの方が………!?」

 

 

 

「………ウインドラにとって私は………鬱陶しい存在だったんだ………。

 私は………ずっと………村の皆が探すのを諦めても………きっとどこかで生きていてくれるって信じていたのに………。

 ウインドラにとっては………、

 私は………

 

 

 

 村の中に縛り付ける邪魔者だったんだね………。」

 

 

 

「お姉さん………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………もっと本気で殴り飛ばしてくれてもいいんだぞ?

 俺はそれくらいの迷惑をこの十年でかけ続けたんだ。

 そうしてくれた方がお前も………」

 

 

 

「…本当はそうしたいところだけどミシガンを見ていたらそんな気も失せたよ。

 俺以上にお前を叱ってくれる人がいるならそっちに任せるさ。」

 

 

 

「………すまん。」

 

 

 

「………本当のことを教えてくれないか?」

 

 

 

「本当のこと………?」

 

 

 

「お前が騎士を目指す切っ掛けになった根本だよ。

 俺が昔誘っただけじゃないんだろ?

 その前から何か別のこと言ってたしな。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………話す気がないんならいいんだ。

 そんな無理して聞きたいことでもないし………。」

 

 

 

「………俺は………。」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は強くなりたかったんだ………。

 誰よりも強く………。」

 

 

 

「………それは前にも聞いたさ。

 そのもっと前のことを「俺は!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆を守れるくらいに強くなりたかったんだ!

 

 俺が皆を守れるくらい強ければ俺の母さんのようにモンスターに食い殺されて死ぬ人も出なかった!

 ましてやヴェノムなんかを恐れて王国に泣き寝入りするようなことも!!」

 

 

 

「…!」

 

 

 

「俺は………俺は皆を守れるくらい強くなって村を救いたかった………。

 

 十年前はその力が………俺にはなかった………。

 だから皆を死なせてしまったし………、

 お前が責任を感じて村を離れるようなことにもなった………。

 

 俺は………警備隊の副隊長の息子なのに何も出来なかった………。

 

 十年前のあの事件では俺は己の非力さを痛感したんだ………。」

 

 

 

「あの時は………俺達は子供だったじゃないか………。

 あの時は何もできなくても「俺の中ではしょうがないなんて言葉で片付けられなかったんだ!」」

 

 

 

「あの事件で感じた無力感はあの後村に居続けてもずっと晴れることはなかっただろう!

 

 あの事件を思い返す度俺は非力な自分が嫌になる!

 

 あの村で非力なままなぁなぁに過ごしていたならいつか必ず俺の母さんのような犠牲者が出てくる!

 

 その時になってまたあの事件のようなことを繰り返すことになるのは俺には耐えられない!

 

 だから俺は力を求めて騎士団とともにレサリナスへと上都したんだ!」

 

 

 

「………それがウインドラが失踪した本当の理由なのか。」

 

 

 

「………あぁ、

 俺は俺の目標へと到達するためあの村を捨てたんだ。

 一度何もかもしがらみから解き放たれて己を鍛え上げる時間が欲しかった………。

 アルバさんという例が俺が強くなる確信をくれた。

 それからの俺が村を捨てるのに迷いはなかった。」

 

 

 

「…じゃあミシガンのことは………?」

 

 

 

「………俺が何を言ったところで言い訳にしかならない。

 俺があいつを含めて村を捨てたのは事実だ。

 それだったらあいつの怒りをそのまま受け止めることが俺にできる唯一の贖罪だろう。

 

 もしかしたらあいつは俺が素直に訳を話せば許してくれるかもしれない…。

 ………本当だったらあいつから本気の一発を覚悟してたんだがな…。

 

 それがないのなら俺はあいつの怒りを風化させないように努める。

 

 

 

 あいつも俺も………、

 こんな俺を赦してはいけないんだ………。」



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ウインドラの想い

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レサリナスから脱出したカオス達と謀反を企てた騎士団の生き残り達だったがウインドラとミシガンが再開し話をしている最中ウインドラがミシガンとの中に嫌気がさしていたと言いミシガンがショックでその場から逃げ出してしまう。

 ウインドラは…。


グラース国道 北西部 カオスサイド

 

 

 

「ウインドラは………、

 ミシガンが嫌いだからあんなふうに言ったんじゃないんだな?」

 

「俺は………俺があの村に縛り付けられていたようにあいつも俺が縛るようなことはしたくはなかった………。

 あいつも俺と同じで親同士に決められた将来に憂いていたと思っていたんだ…。」

 

「ミシガンはそんなこと一言も言ってなかったけど…。」

 

「ミシガンと婚約者になったときあいつはまだ物心がつく前だった………。

 そんな幼いときに当たり前のように俺のような男がいた。

 ミシガンには選ぶ権利すら与えられなかった…。

 それも当然だな。

 ミシガンは村長の娘だ。

 大人になったらミシガンともう一人の結婚相手で村を纏めて行くんだ。

 ミシガンには生まれた時から自由はなかった。

 あいつ自身もそのことに疑問も持たず村で過ごしていたんだ。

 

 あいつは俺を選んだんじゃない。

 俺を選ばされていた。

 そういう人生の設計を組まれていた…。

 だから………俺がいなくなることで本の些細なことだが解放されたんだ。」

 

「………いろいろと考えていたようだけど最終的にウインドラの気持ちはどうだったんだよ。」

 

「俺の気持ち?」

 

「ウインドラはミシガンとウインドラがご両親に決められた未来を歩むことが嫌だったんだろ?」

 

「…あぁ、

 あのまま進んでいたら俺は今の俺まで強くなっていたとは思えない。

 そこは間違いではなかった。」

 

「…で、ミシガンとのことも自分の意思が関与してない婚姻は御免だー、ってことだったんだろ?」

 

「それはそうだ。

 そんな決め方で生涯の伴侶など決められるか。」

 

「………ウインドラ自身はミシガンのことを婚約者関係なく見てどう思ってたんだよ?」

 

「俺がミシガンのことを………?」

 

「さっきから何だか難しいこと言ってたけども家だなんだとか言って本人に対してどんな感情を持ってるのか伝わってこなかったぞ?」

 

「………ミシガンは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな俺には勿体無いとても綺麗でいい娘だとは思う………。」

 

「へぇ………、

 それは今のミシガン?

 それとも昔の?」

 

「両方だ。

 幼いときからミシガンは気が弱いながらも俺のあとをついてきて俺を支えてくれた良き家族だった………。

 大人になった彼女は幼いときとは………大分内面の面影は消え失せてしまったがそれはそれで昔の引っ張られるだけじゃない、自らの芯のある女性へと成長したようだな。

 ………俺がいなくなったからあぁいった成長の仕方をしたのかもな。

 俺と一緒だったらミシガンは誰かに流され続けるような女になっていただろう………。

 俺は彼女には相応しくない情けない家出男………村出男だ。

 彼女は………誰か他の男と添い遂げるのが幸せなんだろう………。」

 

「誰かって投げやりだな………。

 ミシガンはずっとウインドラを待ってたんだぞ?

 ミシガンは今でもお前のことを………。」

 

「俺にはミシガンの気持ちに応える資格はない。

 ミシガンに到底釣り合えるような男ではないんだ………。

 それだったらずっとミシガンを見てきたお前の方が相応しい………。」

 

「俺に振るなよ。

 何で俺なんだよ。」

 

「…お前は子供の頃からミシガンのことが好きだったんだろう?

 あの時のお前は分かりやすかったからな。」

 

「…そっ、そうだったかな。

 まぁミシガンのことは好きだったけどそれは家族や友達としてであって………。」

 

「お前にならミシガンは安心して任せられる…。

 カオスになら俺は心配せずに身を引くことができる………。」

 

「そんなこと言われても俺にはそんな気は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ってそうじゃないよ!?

 俺が聞きたいのはウインドラがミシガンのことを好きか嫌いかってことだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きだ………。

 好きだった………。」

 

 

 

「おっ、おう。」

 

 

 

「好きだったからこそ俺は誰かに敷かれた不安定なレールで彼女を守るのではなく俺が敷いた俺のレールで彼女を守っていきたかった………。

 俺が………父さんが母さんを守れなかったようなことが起こらないように強くなってからミストに帰って彼女に自信を持って求婚したかった………。

 親達の意思じゃない、

 俺は俺の意思で全てを決め俺の意思でミシガンを選ぶ。

 それだけを考えて今日まで生きてきた。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「…その成果が今日の有り様だ。

 どうやら俺には誰かを守れるような力は無かったようだ。

 こんな不様を晒すようでは俺はミシガンにあわせる顔がない………。

 十年間努力してきたつもりだったが俺がやって来たことはバルツィエの血を覚醒させたお前には足元に満たない体操みたいなものだったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………結局俺には改革を起こすほどの力もない。

 あったのは田舎の村という狭い範囲で培われた無意味な思い上がりだけだ。」

 

 

 

「…!」

 

 

 

「こんな思い上がりの馬鹿には今更帰れる家なんてない………。

 もともと父さんが死んだときあの村からは俺の居場所は無くなってしまったんだがな。

 俺なんてあの時父さんと一緒に死んでしまった方がよかったんだろうな………。」

 

 

 

「…ウインドラ………、

 お前、俺と同じで………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

 

 

 

 

「ウインドラは王都に来てからずっと頑張ってきたじゃないか!?

 そんなふうに自分を卑下しないでくれ!!」「そうだそうだ!」「お前はダリントン隊長と同じく俺達の希望だったんだ!」

 

 

 

「皆………。」

 

 

 

「貴方達は………。」

 

 

 

「初めましてカオス様!

 自分はダリントン隊副隊長のトラビスといいます!

 ウインドラとはウインドラが十年前に王都にやって来た頃からの仲です!」

 

 

 

「はっ、はぁ………。」

 

 

 

「ダリントン隊はバルツィエの騎士団掌握の為危険な任務につくことが多く入れ替わりが激しくなり自分のような半端者でも副隊長の任に就くことが出来ました!

 けれど実際のところはダリントン隊長を覗けば隊にいるまともな戦力はウインドラのみです!

 ウインドラはこの部隊ではエースだったんです!」

 

 

 

「ウインドラが………?」

 

 

 

「ウインドラは王都に来た当初こそ普通の子供と変わらない程度でしたが年を重ねて体格が大きくなっていくにつれ力をつけていきついにはダリントン隊長に次ぐ程になりました!

 その頃からもうウインドラは今回の作戦を実行に移すためバルツィエに目をつけられぬように力を隠してきました。

 ウインドラはそのことに文句の一つも言わず俺達と任務をこなしてきました!

 ウインドラは努力家で常に向上心があって誰よりも仲間思いの奴です!

 

 ウインドラからはずっとカオス様のことやミシガンさんのことを伺っておりました!

 カオス様のことは………!

 ………今回のことで初めて存在を知りましたがそれまではウインドラはお二人に会うために剣を振ってきたんです!

 お二人にお会いしたときお二人を守れるような騎士になりたいと!」

 

 

 

「!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「ウインドラ!

 お前ずっと気にしてたじゃないか!?

 故郷にいるお二人のことを!

 例のヴェノム事件で王国に秘密にしていた村がバレてしまった故郷のことを!

 お前は騎士団で名を上げて隊長に就任したらミストへと駐留して俺が村を守るんだ、って!

 お前は故郷を守るために頑張ってきたんだろ!?

 そのことは俺達ダリントン隊がよく知ってるさ!」

 

 

 

「…そうだな………。

 今となっては不可能になってしまったが………。」

 

 

 

「本当ならお前だってバルツィエに行けばその願いも簡単に叶っていた筈だろ!?

 それを俺達の作戦に肩入れしてしまって駄目にしちまって………!」

 

 

 

「あんな奴等にくみすれば騎士団に入隊させてくれたダリントン隊長の恩を仇で返すことになる。

 そんな真似ができるか。」

 

 

 

「そのためにお前の夢が犠牲になっちまって俺達はどうお前に報いりゃいいんだよ…!?

 もう今更お前一人引き返させることなんてできねぇんだぞ!?」

 

 

 

「俺が選んだ選択だ。

 俺に後悔はない。

 後悔があるとしたら己の無力加減だ。」

 

 

 

「ウインドラ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と仲がいいんだね………。」

 

 

 

「…皆とはもう長いからな。

 時間だけで言うとお前以上にもなる。」

 

 

 

「そうか………。

 なんか妬けてくるな。」

 

 

 

「…だが俺の中にあった思いはいつもお前たちのことだけだ。

 俺を支えてくれたのはいつだってお前との約束があったからだ。

 それがあったから俺はこいつらと共にやってこれた…。」

 

 

 

「俺?」

 

 

 

「小さいときに約束した………、

 

 

 

 

 共に騎士になろうと約束した思い出………。

 

 お前は騎士にはならなかったがそれなら俺がお前を守ってやろうと思ったんだ………。

 

 ミストから追い出されてしまったお前を俺がミストに帰ってきたときに守るために………。」

 

 

 

「そんなこと考えていたのか………。」

 

 

 

「俺の命は………、

 お前の中にある力に救われた………。

 そして今日までの日々もお前に救われていた………、

 だから俺はお前の居場所を作って恩返しがしたかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それだけが俺の心残りだったから………。」



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逃亡作戦会議

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レサリナスから逃げ延びたカオス達だったがウインドラとミシガンが仲違いをしてしまう…。

 このコンディションのままで話は終わってしまうが………


グラース国道 北西部

 

 

 

 

 

 

「………話は付いたのか?」

 

「!

 レイディーさん…。」

 

「一応はな………。」

 

「………」

 

「お姉さんが………」

 

「今ここで揉めても進まねぇ。

 もう少ししたらここを離れるぞ。」

 

「どこへ行くんですか?

 王都から俺達は一緒に付いてきただけですけど…?」

 

「そのことについてなんだがな。

 ………こいつら北からダレイオスへと行くようだぞ?」

 

「「ダレイオス!?」」

 

「!?

 それって敵国なんでしょ!?

 どうしてウイン………、

 どうしてマテオの部隊がこんな少人数でダレイオスに…?

 開戦するとは言ってたけどこの人達だけじゃとても戦いになんて…!

 それに戦争を始めるのは王国のバルツィエの人達なんでしょ!?

 あんなことがあった後でダレイオスに行く意味なんて!!」

 

「そうですよ!

 貴方がたはあの一件で完全に王国の騎士団からは離反しました!

 今敵国を攻め行ってどうなると言うのですか!?

 そのようなことは命を粗末にするだけです!」

 

「一先ず落ち着いてくれ。

 そんなことは俺達も分かっている。

 俺達は別にダレイオスに戦いを仕掛ける訳じゃないんだ。」

 

「「………?」」

 

「じゃあウインドラ達は何しにダレイオスに行くんだ…?」

 

「俺達はこれからバルツィエと戦っていくために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスへ我々への協力を頼みに行くんだ。」

 

 

 

 

 

 

「協力…?

 そんなことができるの?」

 

「と言っても俺達がダレイオスの傘下に入るという形になるがな。

 通常だったら断られるか門前払いをくらうか、

 最悪その場で殺されてしまうかもしれない………。」

 

「だったらそんな不確かなことはしない方がいいんじゃないか?」

 

「慌てるな、通常だったらと言ったんだ。

 もともとの計画ではダレイオスに行くことは決まっていたんだ。

 上手く交渉の席に付くことができたら俺達には取って置きがある。」

 

「取って置き?」

 

「これだ。」スッ

 

「!

 それって!?」

 

「一般にはあまり流通しないものの筈だがお前達は既に知っているようだな。

 これが俺達がダレイオスと交渉するに至るまでの鍵になる…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワクチンだ。」

 

 

 

 

 

「ワクチン………、

 それなら俺達も持ってるよ。

 ほら。」

 

「昨日坊やの拘束解いてから一緒に研究所からパクッて来たんだよな。

 ほらよ。

 アタシやミシガンも持ってるぜ?」ジャラララッ

 

「…拘束していた筈のカオスが自由になっていたのは貴女が解放したからだったんですね…。」

 

「あんなところにいたから大抵は放っておくんだがな。

 運悪く坊やが知り合いだったからついでに助けておいたんだよ。

 お前らにとっては不都合………には働かなかったから感謝しな。

 お前ら残党騎士団が助かったのは坊やが広場で暴れまわる以前にアタシが坊やを助け出したからなんだよ。

 誉められてやってもいいんだぞ?」

 

「…その節は俺の手錠を外して頂いてありがとうございました………。」

 

「………こちらもそのおかげで全滅を防ぐことができて感謝の極みです………。」

 

「ハッハッハッ!

 止したまえよ!

 当然のことをしたまでのことだ!

 感謝の言葉なんてものよりもアタシは具体的な物が欲しいねぇ。」

 

「物…?

 俺達は剣や防具以外は少しばかりの資金しかありませんが………。」

 

「そんなことぁ分かってんよ。

 アタシが欲しいのはそんなものじゃねぇ。

 アタシが欲しいのは権利だ。」

 

「権利………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達残党騎士団のダレイオス行きにアタシも連れていきな。」

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

「ダレイオスに………ですか?

 それは………何が目的で………?」

 

「レイディーはダレイオスに行きたいのですか!?」

 

「レイディーさん達はつい最近王都に来たんですよね!?

 なんでそれがダレイオスに行くことに…!?」

 

「そうよ!

 カオス達がマテオにいたんだからダレイオスに行く意味なんてないじゃない!

 このワクチンだってそもそもカオス達を探すために持ってきたんじゃないの!?」

 

「おいおい勘違いするなよ?

 アタシは何もゴリラお前のガイドをするために連れて来てた訳じゃねぇんだ。

 アタシにはアタシの目的があってカストルやミストを回ってたんだよ。

 ゴリラとは行き先が一緒だったからあくまで同行していたのみ。

 王都に着いた途端面白そうなことを始めるって言うからその前にワクチンを盗み出すとこまでは一緒にいてやったがそれももうお仕舞いだな。

 アタシはこいつらと共にダレイオスへと向かう。」

 

「ダレイオスに何しに行くのですか?」

 

「そうだなぁ………、

 珍しい地層や生体のお勉強かねぇ。」

 

「はい?」

 

「要するにあれだ。

 観光だよ。

 王都の広場で大々的に顔晒しちまったから暫くはマテオにはいられねぇだろ?

 だからほとぼりが冷めるまではダレイオスに避難しとくんだよ。」

 

「けどダレイオスはこれからマテオが侵攻して来て危ないんじゃ………。」

 

「それを言うならマテオにいてもバルツィエ共に捕まる危険があるだろうが。

 それならまだマテオに支配されきってないダレイオスにいた方が安全だろ。」

 

「ダレイオスに行ってもマテオ人だと知られたら捕まったりするんじゃ………。」

 

「そうパッパッと捕まるかよ。

 アタシは逃亡のプロだぜ?

 捕まりそうになったらこいつら盾にして逃げるからいいんだよ。」

 

「………」

 

「それに危険だ危険だって言うがよ。

 これからマテオは戦争を始める気なんだぜ?

 それならどこにいても対して変わらねぇだろうよ。

 国内外どこも危険で一杯だ。」

 

「でもカタスさんは戦争が始まったらダレイオスのみが戦場になるって言ってましたよ?」

 

「………そうだな。

 そういう予測が立てられてるようだが絶対にそうなるとは限らねぇ………。

 もしかしたらマテオと戦場になるかも知れねぇよ。」

 

「マテオが…?

 ダレイオスがマテオに侵攻してくるかもしれないと言うことですか?」

 

「そうは言ってねぇさ。

 アタシが言いたいのは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、何でもねぇ。

 侵攻もまだ始まってねぇのにここから先を言ってもそうならない方の確率が高い。

 今は言わないでおこう。」

 

「「「(何を言いかけたんだ?)」」」

 

「………レイディーさん、

 同行するのは構いませんが我々はこれから北の砦を越えてから唯一ダレイオスと繋がる陸路を辿ろうと思います。

 少々体力的にキツい旅になりますがよろしいですか?」

 

「アタシをモヤシかなんかだと思ってんのか?

 こう見えても旅慣れはしてるつもりだぜ。

 そんな気遣い無用だ。」

 

「…そうですか………。

 分かりました。

 ………お前達はどうする?」

 

「俺達は………どうしようか。」

 

「どうするもカタスのところから飛び出して来ましたからね………。

 行く宛なんてどこにも………。」

 

「………私はカオスを連れ戻しに来ただけだから。

 カオス?

 この際ミストに帰らない?」

 

「ミストに?」

 

「殺生石のことを調べてたみたいだけど結局見つからなかったんでしょ?

 ならミストに戻ろうよ。

 ミストなら他の街みたいにカオスの手配書なんてないから前と同じように暮らせるよ?」

 

「…!」

 

「それにアローネさんも行くところがないのならまたミストに来ればいいし、私もカオス達の家に遊びに行くしそれで「ごめんねミシガン」え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり俺はミストには帰れないよ。」

 

 

 

「どうしてよ!

 ミストなら前と同じように住めるんだってば!」

 

 

 

「………嬉しい誘いだけど俺はウインドラ達の作った手配書関係なくあの広場で暴れてしまった。

 それでこの国のバルツィエを三人も倒した………。

 もう俺は誤った犯罪者じゃなく立派な犯罪者になったんだ。

 そんな俺のところにミシガンが遊びに来るなんて生活をしてたらミシガンに迷惑がかかる。

 俺は………ミストに住める資格がもう無いんだ。」

 

「そんなこと言わないでよ!

 じゃあカオス達はこれからどうするつもりなの!?」

 

「………坊や達は恐らくあの騒ぎの最中にスペクタクルズで顔を撮られている。

 今度はもっと大掛かりに噂が広まっちまうなぁ………。

 大人しくミストに戻った方がいいんじゃないか?」

 

「………それなら俺も

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスへ行きます!」

 

 

 

「え………?」

 

 

 

「思いきったなぁ…!

 坊やがダレイオスに行って何のメリットがあるんだ?

 殺生石について調べに行くって言うんならそれこそ可能性は低いぞ?

 他の例があるんなら既にマテオが情報を掴んでいる筈だ。

 それがねぇんだ。

 行くだけ無駄かもしれないぞ?」

 

「………そうなのかもしれませんが俺は自分にできることを全部やりきらないと気が済まないんですよ。」

 

「働き者だな。

 ワーカホリッ「それに」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はタレスをダレイオスへ返すって約束しましたからこのまま帰るなんてことはできないんです。」

 

 

 

「ダレイオスに………だと?」

 

「……はい。」

 

「カオス、それは………。」

 

「そうか………、

 猿と坊やのガキにしては全然似てなかったからどっかで誘拐してきたガキだとは思ってたがあのガキ既にダレイオスから拉致されてきたガキだったんだな。」

 

「タレス君が………ダレイオスから来た子供だったの…?」

 

「事情があって俺達と一緒にいたんだ………。」

 

「……奴隷か?」

 

「………」

 

「……そうかよ。

 嫌になるなぁ。

 強者の権利ってのがよぉ……。

 それならアタシやこいつらがダレイオスに送り届けりゃ済む話なんじゃねぇのか?」

 

「俺達がタレスをここまで連れてきたんです。

 ここまで来たのなら最後まで見届けたいです。」

 

「そうかよ。

 単純にミストに帰りたくないとも聞こえるんだがなぁ………。」

 

「…そうとられてもいいですよ。

 俺は自分の責任からは逃げたくないだけですので………。

 そう言われても仕方ないんです。」

 

「…でしたら私もカオスと共にダレイオスへと向かいます!」

 

「!?

 アローネさん…!」

 

「カオスだけに責任なんて背負わせません!

 タレスを連れてきたのは私も同じです!

 最初に旅に同行に誘おうとしたのは私ですから!」

 

「アローネ………。」

 

「……だとよ?

 どうするお前は?

 お前だけミストに帰るか?」

 

「………私は………。」

 

「お前の目的は坊やを連れて帰ることだってんならそれはもうかな「私も行く!」は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私もダレイオスへ行くよ!

 カオスとアローネさんだけじゃ心配だもん!」

 

 

 

「ミシガン………、

 危険な旅になるんだよ?

 俺達が行こうとしてるのは敵国の人達ばかりじゃない。

 ヴェノムがわんさかいるような場所なんだ。」

 

「そんなの知ってるわよ!

 だから行くの!

 そんな危険なところにカオスとアローネさん達だけじゃ不安だもん!

 話聞く限りじゃどうせそこの騎士団の人達とはダレイオスに渡ってから別行動なんでしょ?」

 

「………そうだな。

 俺達はダレイオスへと渡ってから即座にダレイオスの王都へと向かわねばならない。

 共に行けるのは一本道までだけだ。」

 

「………だったら私が付いてなくちゃ心配だよ。

 だから私も行くの!

 私が行けば世間知らずな二人のことだから絶対道に迷うもん!」

 

「ミシガン………。」

 

「お姉さん………。」

 

「な~にが世間知らずだ。

 この間までお前がそうだったじゃねぇか。

 そんなんで人のこと言えあだだだだだ!?」ガッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「文句はないよね二人とも?」

 

「………うんそうだね。」

 

「お姉さんがそれでいいのでしたら………。」

 

「いいこと?

 私は最終的にはカオスとアローネさんをミストに連れ帰ることが目的だから。

 ………カオスが殺生石について調べ尽くしたらミストに二人とも連行するからね。」

 

「いいよもうそれで………。」

 

「ミシガン………、

 お前は帰った方が安全なんじゃないのか…?」

 

「………なんなの?

 アンタには関係ないじゃない。

 私に指図しないで。」

 

「………」

 

「私はカオスとアローネさんの同行者なの。

 私が選んで許可をもらったんだからなにか文句言われる謂れはないわよ。」

 

「………確かにな。」

 

「………それじゃよろしくね。

 二人とも。」

 

「………よろしく………なのかな?」

 

「そうなるのですかね?」

 

「そうなの!

 これからは私も仲間になるんだからアローネさんも私のことお姉さんじゃなくてミシガンって呼んでよ?」

 

「………分かりました。

 ではよろしくお願いしますねミシガン。」

 

「うん!

 任せてよ!

 私がいればマテオでもダレイオスでも誰にも二人を傷つけさせないんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………また人の頭を掴みっぱなしな件、

 どうにかしていただけやせんかねぇミシガンさん………。」



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舵取り

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レサリナスから逃亡したカオス一行と謀反を企てた騎士団の残党はこれからのことを話し合うが満場一致でダレイオスへと亡命することにする。

 騎士団の残党にはダレイオスに対して秘策があるようだが…。


グラース国道 北西部 夜

 

 

 

「皆さん!」

 

「おぉ、戻ったかガキ。

 でどうだった?」

 

「タレス?

 今までどこいってたの?」

 

「そうですよ。

 話にはでてきましたけど王都を抜けてから姿が見えませんでしたが………。」

 

「レイディーさんに言われて王都の様子を窺ってきました。」

 

「まさか一人で様子を見に行ってたのか!?」

 

「タレスダメですよ!

 昼間のあの騒ぎで私達はバルツィエにマークされている筈です!

 タレスだってあの場で戦っていたのですから見つかっていたら捕まっていたかもしれないのですよ!?」

 

「落ち着いてください。

 そのようなことはありませんでしたよ。

 今王都は戒厳令がしかれているらしく門から外まで出たら騎士団はあまり深追いはしてきませんでしたから。」

 

「それでも危ないことに変わりはないだろ!?

 レイディーさん!

 タレスになんてことをさせるんですか!?」

 

「なんてことって言われても斥候の遣いに出したとしか言えねぇな。

 どのみち必要な措置だった。

 誰か行かせなきゃならないんなら一番安全に遂行できる奴に行かせた方がいいだろ。」

 

「だったら俺が行きますよ!」

 

「カオス、

 それは得策ではないな。

 お前は昼間の件で最も注目を集めたんだ。

 お前が出張っていけば騎士団は総力をあげて捕らえに来るだろう。

 ………昼間仕留め損なったユーラス、ダイン、ランドールが復活していると思うからそこにフェデールまで加わったら流石のお前でも捕まってしまうだろう。」

 

「だけど俺昼間はあのフェデールっていう人と戦って対等に戦えてたぞ?」

 

「そうだな。

 そうとも言えるがあれは奴等がお前の力を把握していなかったからだ。

 例えお前がフェデールより強かったとしても昼間の様子を見る限りでは本の少し上というくらいだ。

 そこに他のバルツィエ隊長格が加わったらいかにお前といえどもやられてしまう可能性がある。

 一度お前の実力を体験したんだ。

 今度の奴等はお前を前にしても確実な対処をとってくる筈だ。」

 

「………」

 

「それにお前が行って奴等が過剰反応を起こしてお前を追い掛けてきたらどうするつもりだ?

 お前はともかく他の者はお前ほど素早くは走れないぞ?」

 

「それはそうだけど………。」

 

「アタシは別に坊やのスピード程じゃねぇが逃げ切れる自信はあるな。

 それより坊や擬き!

 その言い方だとお前らは足手まといじゃないように聞こえるぞ?

 お前らだってそんなに早く走れねぇだろうが。」

 

「…そうだが。」

 

「それに昼間お前とラーゲッツの戦いを拝見させてもらったがお前だってカウンタータイプのスタイルでスピードは精々パンピーに毛が生えた程度なんだろ?

 そんな奴が偉そうに語るなよ。」

 

「俺は貴女をフォローしようとしたつもりだったんだが…?」

 

「フォローなんか要らねぇよ。

 アタシが全部解説してやっから。

 ………と言うわけだ。

 アタシやこいつらと坊やじゃフェデール達を刺激しかねない。

 残るは女二人とガキだが三人の中で最も斥候に向いていたガキをアタシがチョイスさせてもらったわけだ。」

 

「それでしたら私でもよろしかったのですけど…?」

 

「馬鹿が。

 女なんか向かわせたら取っ捕まってお仕舞いだろうが。

 騎士団は大半が男なんだぞ?

 こいつらとは別の意味で刺激しちまうぞ。

 それなら対して刺激しない男のそれもガキを行かせるのが効率的なのさ。」

 

「確かにそうなのかもしれませんが………、

 あまりタレスをそういった危険な仕事を押し付けるのは止めてくれませんか?」

 

「あん?

 何でだよ。」

 

「タレスは………、

 俺達と出会うまでずっと奴隷のような生活をたらい回しにされてきたんです。

 今でこそ声が出せるようになってからは普通の生活ができるようになって戦ったりすることもできると思いますけどなるべくタレスにはそういうのからは遠い世界にいてほしいんです。

 もうすぐダレイオスに帰れるんだから………。」

 

「カオスさん………。」

 

「………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 甘いな坊や。」

 

 

 

 

 

「甘い…?」

 

「もうそんな同情抱いてる状況じゃない。

 そのガキ一人の事情なんて四の五の言ってるときじゃないんだ。

 使えるものは全て有効的に使う。

 そうしないと生き残れない。

 そんな状況におかれてるんだよアタシ達は。」

 

「!」

 

「そんなときにそんな感情で動かれちゃ全員が被害を被るだけだ。

 さっきの話聞いてたろ?

 お前やアタシが斥候なんかしたら即座に捕まってこいつらも捕まる。

 はい!終わり!

 ………それだけなんだよ。

 選択ってのは一つ間違えただけで全てが狂う。

 一つ一つ丁寧に選んでいかなきゃならねぇ。

 そんなときにガキが可哀想だからさせたくないなんて言ってられるかよ。

 こちとら命がかかってんだ。

 動ける奴等は全員動かす。

 そこには大人も子供もない。

 マテオもダレイオスもない。

 集団で動いていてそこに使える手がある以上使う。

 そうしなければ後で使わなかったことを後悔することになる。

 お前らは別に後悔してもいいってんならやらなくていい………なんてことは言わねぇぞ?

 アタシがこの集団に所属しているのに最善の方法をとらないということにはさせない。

 アタシがいる以上我が儘なんて許さねぇ。」

 

「レイディーさんは………人の事情というものが考えられないんですか!?」

 

「考えたところで所詮他人事………。

 考慮した上で選択肢を消すような理由にはならん。

 人生なんて人それぞれだ。

 逐一こういったことがあってこれはできないんです~、なんて報告受けてちゃできることなんざ無くなってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いいか?

 この世の中できることの範囲が広い奴が勝つんだ。

 そんな世界でただでさえ人員も能力もない集団が生き残るためには泥水すすってでも生きようとすることが必要なんだ。

 上品な物だけ求めたって手に入らなければ何の意味もない。

 アタシ達は今泥水すすらなくちゃならねぇんだよ。

 もうすぐ帰れるから?

 タレスにはもう酷いことはさせたくないから?

 俺が引き受けるって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バッカヤローがッ!!

 もうすぐだなんだじゃねぇんだよ!!

 もう少しで帰れるならもうさせたくないだ!?

 

 ちげぇだろ!?

 もう少しで帰れるから後本の少しの努力を見せやがれ!!

 そうすりゃ誰も犠牲にならずにすむ可能性が高まるんだよ!

 あくまで可能性の話なんだ!

 絶対じゃねぇ!

 絶対じゃねぇなら少しでも可能性をあげることに貢献しやがれ!!

 このアマちゃん共が!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 

「………話は以上だ。

 ガキ、

 少し時間やるから休んだら情勢を話してくれ。」スタスタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なんですかねあれは………。

 ちょっといい人だと思ったら………。」

 

「そこはレイディーですから………、

 割り切るしかないですよ。」

 

「………スミマセン、

 ボクのことでこんな空気にしてしまって………。」

 

「タレス君は何も悪くないよ。

 悪いのはレイディーの態度だから。」

 

 

 

 

 

 

「あの人は俺達の変わりに場を纏めてくれているんだ。

 本来なら俺達の隊長………ダリントンがしなければならない役を引き受けてくれている。

 それもこんな立場の違う人同士の集まりを嫌われ役を買って出て一纏めにして………。

 彼女は………とても素晴らしい人だな。」

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それは考えすぎなんじゃないかな………。」



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敵の情報分析

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レサリナスから逃亡した一団はダレイオスへと亡命することに決定する。

 だがレイディーが追っ手を気にしてタレスを一人遣いに出したことに怒るカオスだったが…。


グラース国道 北西部 夜

 

 

 

 

 

 

「………という感じで王都は城門二ヶ所を閉じていました。

 今日のところは入退場できないようになっています。」

 

「…とすると今回の件で対策に時間を費やす方針をとってそうだな。

 追っ手の方はあったか?」

 

「追っ手………と言えるかは分かりませんが遠くから見て王都の南西部から北東部にかけて距離を置いて何ヵ所かに分けて騎士団の部隊が配置されていました。

 恐らくボク達を一方に纏めて捕獲しに来る編成を立てていると思います。」

 

「その線で間違いないな。

 ミシガン、

 最初からお前らはミストに帰るなんてこたぁできなかったようだぜ?」

 

「………そうだね。」

 

「坊や擬き、副隊長、

 このまま夜営することになるが食料の用意はしてあんのか?」

 

「そこは心配ないな。

 トラビス。」

 

「あぁ、

 今回は部隊の人数は激減したがここまではおおよそ予定通りなんです。

 食料に関してはもう少し行った先の方に砦までの中継ポイントがあってそこで補充することができます。」

 

「なるほど………、

 そこには他の騎士団の部隊は?」

 

「複数いますがこの人数なら押しきれるでしょう。」

 

「そうか………、

 バーナン隊、

 お前らの方はそれで異存ないな?」

 

「我々もそれで構いません。

 ………現状我々の指揮官は全員昼間殺られてしまったので私達は貴女方の方針に従いましょう。」

 

「…そうしてくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何が従いましょうだ。

 お前らバーナン隊は今回ずっと足引っ張りっぱなしで良いとこ無しだったんだから当たり前だろ…。」ボソッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何か言ったか?

 ダリントン隊。」

 

 

 

「いぃやぁ?

 何も言ってないが!!?」

 

 

 

「何だその角が立つような言い様は?

 何かあるなら言ってみろ!」

 

 

 

「そうだなぁ、

 強いて言うならお前達今日は本当に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 役立たずを晒してばっかだったな。」

 

 

 

 

 

 

「なんだと!?」

 

 

 

「だってそうだろ?

 今日お前らがしてたことって俺達に迷惑をかけることしかしてなかっただろうが!」

 

 

 

「ふざけるな!!

 それを言うならそもそも貴様らの隊長が最初からバルツィエに殺されていたことが起因だろう!

 そのせいでバーナン隊長があんなバルツィエの糞みたいな演劇に利用されて殺されてしまったんじゃないか!!」「おい、止めろ。」

 

 

 

「何を寝言言ってんだ!!

 お前らのドジな隊長だってまんまとバルツィエに捕まっていたじゃないか!!

 うちの隊長を悪く言う前に自分達の隊長の愚かさを反省させとけ!!

 もう地獄に行って猛省してるだろうがな!!」「おい!!」

 

 

 

「言わせておけばダリントン隊がぁ!!」

 

 

 

「来るなら迎え撃つぞバーナン隊!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、ダメだコイツら。

 ミシガン、

 頭冷やしてやれ。」

 

 

 

「………分かった。

 アクアエッジ!」パシャシャシャ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………」」ポタポタ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らよぉ………、

 非常事態で一緒してるがこれでもアタシやこいつらは一応一般人なんだぞ?

 お前らは一般人の目の前で何をしょうもない言い争いしてんだよ?

 そんな下らない争いは他所でやってくれ。」

 

 

 

「しかしこいつらバーナン隊は………。」「ダリントン隊の奴等はバーナン隊長のことを………。」

 

 

 

「お前らは子供か?

 そんな言い訳しか出てこないんならお前らの精神年齢はここにいるガキよりもガキってこったな。」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「…アタシは別に完璧な振る舞いを求めてんじゃねぇ。

 騎士団なんて肩書き持ってても人は人だ。

 人なら当然怒ったり嘆いたりする感情があってもいい。

 ただそれを仮にも守るべき国民の目の前でオープンにするのはいただけねぇ。

 お前らは除隊扱いにはなるだろうがそれでも部隊として纏まっている以上お前らは騎士としての誇りは持ち続けてんだろ?」

 

 

 

「まぁ………。」「それはそうですが………。」

 

 

 

「それならよぉ?

 そんな過ぎたことでケンカなんかしないでこれからのことに目を向けたらどうだ?

 お前らがそんなんだと一般人のアタシらはお前らを信用できなくなるんだぞ?

 それでもいい………なんて言わしてはくれないよな?

 な?」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「何もすぐ完璧にはならなくていいさ。

 大事なのは完璧に程遠い分完璧であろうとする姿勢が必要だって言ってんだ。

 そう努めようとする限りアタシらは安心してお前らを頼ることができる。

 ………できればそうしてくれると有り難い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………先程は見苦しいところを見せてしまい申し訳ない。」「安全になってから今日のことを思い返してみて頭に血が上ってしまいました。」

 

 

 

「よ~し、

 仲直りは………、

 また今度よく話し合うんだな。

 

 

 

 だがまた同じことを蒸し返されても困る。

 お前らが今日計画していたことを詳しく話してくれないか?

 それでこれから先のことも。

 その上で今後のことを決めていこうや。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイディーさん、

 纏めるのが上手いですね。」

 

 

 

「言い方には問題あるけどこういうときに限っては頼もしいんだから…。」

 

 

 

「たりめぇだろ。

 アタシはアタシ以上に出る杭は打つって決めてんだ。

 こんぐらい軽く修めてみせるさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達バーナン隊は先ずバーナン隊長の作戦で情報の操作を行っていました。」

 

「情報の操作?」

 

「報道に掛け合わせて『カオス=バルツィエ』様の記事を大きく取り上げその上でカストルなどでの善良的な面やイクアダ砦のバルツィエとの戦闘での功績を広め都民にその存在をアピールさせました。」

 

「そのカオス………様っていうのは止めてほしいかな……… 。

 俺ってそんな様を付けられるような身分じゃないし…。」

 

「そんなことはありません!

 カオス様は我等アルバートファンクラブの会員にとってはアルバート様と同等に扱うべきお方です!

 これ以下の呼び方などもってのほか!」

 

「あ………、

 それって………もしかして………、

 バーナン隊の人達全員なの………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうなんだぁ………。

 ちっ、ちなみに俺のこと事態が貴方達がいろいろ吹聴してたってことらしいけど、どの辺りで俺のファンになったの…?」

 

 

 

「初めは我等も貴方様のことを半信半疑ではあったのですが昼間の一件で貴方様が我等の情報以上の力と心意気を兼ね備えたお方と知って我等一同はそこから貴方様の真のファンとなりました!」

 

 

 

「へっ、へぇ~………。」

 

「カオスが旅に出たと思ったらいつの間にかこんなにファンなんか作っちゃってからに………。」

 

「俺もこんなことになっていたなんて最近まで知らなかったんだってば………。」

 

 

 

「我等がファンクラブに属していることは心からの本心でほございますがそれによってファンクラブ間での情報の流通はつつがなく行えました。

 ………ファンクラブ会員としてはあまりきの進むことではありませんでしたが………。」

 

 

 

「まぁいい………、

 それで?

 お前達はそれによって街の連中を操作してバルツィエ以外の邪魔な騎士団共を抑えさせる作戦を立ててたんだな?

 騎士団が都民に対して剣を向けないと踏んで。」

 

 

 

「!

 ………その通りです。」

 

 

 

「…少し雑な作戦だな。

 騎士団はともかくバルツィエがそれに対応してたら否応なしに都民が戦火を浴びてたかもしれねぇんだぞ?

 そのことは考えなかったのか?」

 

 

 

「我々も知恵を振り絞って作戦を練ったのですがそれしか思い付かず………。」

 

 

 

「まぁそうだよな…。

 ただでさえ裏でこそこそやるしかねぇんだ。

 そのくらいセコい手しか使えねぇのも分かるぜ。」

 

 

 

「我々にはバルツィエに対抗できるだけの人員が不足していました。

 バルツィエに勝つには擬似的にでも人員が必要だったのです。」

 

 

 

「………まぁ、なぁ…。

 あっちさんは表だって堂々といろいろできるのにお前らはバレないように人を集めるとなるとそうした作戦になってくるわな。」

 

 

 

「………今回のことで都民にも少なからず負傷者が出たことでしょう………。

 そのことにつきましては我等も後ほどお詫びをさせていただきます。

 

 …ですがそれには先ずバルツィエを倒さねばなりません!

 我等はダレイオスへと赴きダレイオスのヴェノムに対抗する技術向上を謀ります!

 そしてダレイオスをなんとかマテオともまともに戦争ができるところまで成長させるのが我々の計画なのです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そう上手くいくのかねぇ………。」



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ダリントン隊がやってきたこと

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レサリナスから逃亡した一団は追っ手を気にしつつ騎士団の謀反を企てていた者達が何を企てていたのかを聞くことにする。

 ダリントン隊は裏で…。


グラース国道 北西部 夜

 

 

 

「………で次はお前らダリントンのとこは何をやっていたんだ?」

 

「俺達は主に表で注目を引き付ける班と裏でバルツィエの技術の秘密を探る班に分かれて活動していた。」

 

「…その表だっての行動にはどんな意味があるんだ?」

 

「バルツィエやその傘下は権力を盾に王都市内で度々暴力行為をしていた。

 奴等は都民から過激な税の取り立てを行い逆らうものには暴力を加え最悪の場合だと死者が出ていた。」

 

「!

 それって昔ミストが村を捨てたときに聞いた話と同じなんじゃ………?」

 

「そうだ。

 一見王都は栄えているようには見えるがそれは表面上の話だ。

 根本では東西に分けて富裕層貧困層と分かれている。

 ………お前と再開したときお前が追い掛けてきた路地にいた連中が正しくそれだな。」

 

「あそこにいた人達が…?」

 

「ただでさえ面倒しか起こさないバルツィエとその傘下は権力にものをいわせ都民から税をむしりとり払えぬものは暴力をもって街の端へと追いやる………。

 

 

 

 

 

 

 あの周辺にはな。

 よく探せば飢餓で亡くなった人の遺体がわんさか出てくるんだ。」

 

 

 

「え!?」

 

「その場所は私も近くを通ったことがありますがそういった場所は遺体から発せられる異臭………腐敗臭が漂ったりして人がいられるような環境ではないのでは?」

 

「あの時は………そんな臭いはしなかったと思うけど………。」

 

「それについては俺達やカーラーン教会のものが定期的にあの周辺を綺麗にしていたんだ。」

 

「ウインドラ達が?

 それって騎士の仕事の内なの?」

 

「…騎士と言っても俺達非バルツィエ傘下は騎士団の中では肩身の狭い………ほとんど雑用係のようなものだった。

 与えられる任務といったら遠方への業務報告の中継やそういった街の中の清掃………。

 俺達は形だけの騎士のようなものだったんだ。」

 

「そうだったのか………。

 騎士と言ってもそういう人達も中にはいるんだね………。」

 

「バルツィエ傘下に入ってるかどうかの違いで変わってくるがな。」

 

 

 

「ウインドラさん達がそうした仕事を請け負っていたのは理解しましたが教会と言うと……、

 カタスもその活動をしていたのですか…?」

 

「………坊やが修道服を着ているときから気になってたがお前ってもしかして教皇カタスティア=クレベルと知り合いなのか?」

 

「そうですよ?

 カタスとは小さなときから仲のいい家族のような存在でした。」

 

「へぇ………、

 あいつにそんなのがいたのか………。

 猿、

 お前アタシよりも若く見えるがもしかして相当歳食ってんのか?」

 

「失礼な!

 私はまだ二十…!

 ………いいえ、何でもありません。

 そういうことになるのでしょうね………。」

 

「あ?

 何だそりゃ?」

 

「何でもないんです!

 ………レイディーはカタスとお知り合いなのですか?」

 

「カタスはアタシが学生のときにしょっちゅう世話になってたんだよ。

 あいつアタシの知らねぇこともよく知ってるから勉強で分からねぇとこがあるとよく聞きに言ってたな。

 カタスは不思議なくらい何でもよく知ってるだろ?

 あいつに聞いて分からなかったことと言えばあいつ自身のことくらいだったな…。」

 

「それは………。」

 

「カタスのことで一つ繋がりが見えたな。

 

 

 

 お前が言ってたウルゴスってのがカタスとお前の国だったんだな?」

 

 

 

「………はい。」

 

 

 

「そうだったのか………。

 ようやくあの女のことを知れた気がするぜ。

 まだ謎は多いがな………。」

 

 

 

「その件は………次にお会いする機会があってもあまり質問しないであげていただけますか?

 …私達にとっては辛いことなので………。」

 

 

 

「………分かった。

 お前らの過去のことについては詮索はしないでおいてやるよ。

 次があるかどうかは分からんがな。

 まだこんな状況だし。

 でどんな話してたっけな?」

 

 

 

「………アローネ=リム・クラウディアがカタスティア教皇が俺達と共に死体の後始末に関わってたかどうかを聞いてきたところだ。」

 

「その………ウインドラさん。

 私のことはアローネと呼んでください。

 そう何度もフルネームで呼ばれますと気になってしまいます。」

 

「………了解した。

 では次からそう呼ばせてもらう。

 ………そうだな。

 カーラーン教会の者達は俺達がやっていた作業の他に死者の弔い等の慈善活動を行っていた。

 俺達は腐敗して汚れた部分を綺麗にし、教会は遺体を別の場所に移して埋葬してもらっていた。

 そんな流れだった。」

 

「カタスは普段そのようなことを行っていたのですね。

 教会に匿われている間は全く知りませんでした。」

 

「忙しそうではあったけど俺達じゃカタスさんの仕事の内容がよく分からなかったしなぁ。

 お城に何度か行ってるとは聞いていたけど…。」

 

「ボク達が来てからはボク達のために情報操作もしてくれましたしね。」

 

「その上で死者の埋葬まで………。」

 

「………ちょっと働きすぎじゃない?

 カタスさん。」

 

「確かになぁ。

 アタシ百年前からカタス見てたけどあいつが暇してるとこなんて見たことないぜ?

 あいつは常に動きっぱなしだ。

 王城から教会を引っ越しさせてからはより磨きがかかってやがった。」

 

「カーラーン教会って王城にあったんですか?」

 

「あぁ、

 昔は王城のすぐ隣の坊やが捕まってた辺りに教会を建ててたのさ。

 それを今ある街の東の方に移したんだ。

 理由は聞いてねぇがなんとなく察してはいる。

 時期的にみてアルバートがいなくなってアレックスが王になってから辺りだ。

 その辺りでバルツィエがまた荒れだしたからバルツィエとケンカして自分から進んで出ていったか追い出されたかのどっちかだな。」

 

「バルツィエは………カタスのおかげで今の地位まで上れたと言うのにそれをそのような恩を仇で返すようなことを……。」

 

「は?

 バルツィエがカタスのおかげでってどういう意味だ?」

 

「!

 失言でした。

 気になさらないでください。」

 

「そんなこと言ったって気になるだろうが。」

 

「本当に何もないのです!」

 

「レイディーさん、

 それもアローネ達の過去に関係することなんで………。」

 

「………そうかい。

 じゃあ聞かなかったことにしといてやるよ。

 

 ………教会が移ったのはバルツィエとの仲違いだろうがそれによってカタスは都民のいる街の方に繰り出した。

 しかも教会を移した場所はさっき一回話に出てきた西高東低の東側だ。

 何で賑わっている西側に建てなかったかは……擬きの話で合点がいった。」

 

「あの方は普段から弱き人のために尽力している…。

 孤児院の経営や食料の配給などそういった活動をするのならそういう人々が多くいる東側に教会があった方が効率的だったからだろうな。」

 

「カタスなりの罪滅ぼしをするためなのでしょうか………。」

 

「多分ね。

 カタスさんの人柄を考えたらそういうことなんだろうね………。」

 

「カタス………。」

 

 

 

 

 

 

「話がしづれぇな。

 あいつの過去ありきでぼやくんじゃねぇよ。

 何も知らないアタシらからするとお前らが何言ってるのかさっぱり分からねぇよ。」



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魔法生物ヴェノム

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レサリナスから逃亡した一団は謀反を企てていた騎士団が何をしようとしていたかを聞き出す。

 その話でレサリナスが東西に別れて貧富の差があることやカーラーン教会のカタスティアがバルツィエと仲違いして城から離れたことを知る…。


グラース国道 北西部 夜

 

 

 

「それで表でそうした活動をしてバルツィエに大人しく従っているフリをする連中がいて………、

 

 裏で動かしていた奴等は具体的に何を探っていたんだ?」

 

「王城の西隣に国の研究機関があるのは知ってるな?」

 

「あぁ、

 そこからワクチンをパクってきてんだからな。」

 

「俺とミシガンもそれに付き合わされたんだよ。」

 

「カオス?

 貴方は本当に盗賊になってしまったのですか?」

 

「たっ、たまたまレイディーさんが俺を助けてくれてその後に付いていったらそういうことになってたんだ…。

 俺もまさか盗みの片棒を担がされるとは思ってなかったんだよ。」

 

「………そういうことでしたら問い詰めはしませんが…。」

 

「そんで成果は上がったのか?」

 

「………内部に侵入することはできたがこれといった情報は掴めなかった………。

 あったのは多分野に渡る医学研究資料や捕らえた虜囚達に行う人体実験の資料等ばかりだった。

 肝心なヴェノム医学に関する資料は発見することはできなかった…。」

 

「人体実験って………、

 それはそれでヤバイものだと思うけど………。」

 

「この国ではその程度のものを持ち出して公表したところでどうにもならない。

 それほどまでにバルツィエの持つ力は広大だ。」

 

「擬きの言う通りだ。

 奴等を出し抜こうとするのなら奴等の足を掬うようなもんじゃなくて奴等と並ぶ技術で対抗しなきゃならねぇ。

 奴等のスキャンダルが発覚したところでバルツィエがワクチンを握っている以上はどんな訴えも押し黙らされるだけだ。」

 

「俺達もそう考えてバルツィエのゆかりのありそうな場所をくまなく調査してみたが………。」

 

「何もなかったんだな?

 そりゃそうだ。

 そんなもんがあったならアタシがとっくに調べあげてる。」

 

「………ワクチンがあるのならその製造方法や使っている材料がある筈なんだ。

 それさえ掴めれば戦力は及ばずとも奴等の絶対的な地位を脅かすことができるんだが………。」

 

「レイディーアンタ前に働いてたんでしょ?

 何か手掛かりでも見つけられなかったの?」

 

「アタシがあそこで何やらされてたか言ったろ?

 アタシがやってたのは精々ヴェノムウイルスを使った動物実験くらいだ。

 そこで研究してたのはどういう動物やモンスターがヴェノムの影響を受けて変化または進化するかだ。」

 

「進化?」

 

「ヴェノムウイルスに感染した生物は一見どれも同じような変化が起こっているように見えるが実は結構な個体さがある。

 同じ種類の生物でもだ。

 

 陸上生物から海洋生物にかけてたくさん実験したがヴェノムに感染してから数分でゾンビになり、そしてスライムに変化して十時間前後で死滅する。

 これが実験の七割。

 それより長くゾンビになるまで数時間かかってそっからまたスライムまでになるのも長い奴が二割。

 これも二十時間前後で死滅。

 その過程でどれも例外なく生物としての能力が知能以外は飛躍的に上昇している。

 これは進化と言ってもいいほどまでにな。」

 

「結局ゾンビになってスライムになるのは変わらないんだね。」

 

「じゃあ残りの一割はどうなるのですか?」

 

「………」

 

「?

 レイディーさん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごくまれにだがヴェノムに感染してもスライムにまで至らない個体がいた………。」

 

「「「「え!?」」」」

 

「それは本当か?」

 

「間違いじゃねぇよ。

 その研究してたときはアタシが主任だったんだ。

 その個体は何時間経ってもスライムに至らなかった。」

 

「それで!?

 その個体はどうなったの!?」

 

「その後は試しにスライムになった別の感染個体と檻を繋げてみたんだが食われて死んじまったよ。」

 

「…なぁんだ………。」

 

「どういう名の由来かは知らねぇがそういった個体のことを何故か研究所の上層部の一部の連中が『アスラの失敗作』と呼んでいるようだ。」

 

「アスラ?」

 

「!

 アスラ…?」

 

「原初の言葉の意味で言うと“非生物”という意味になる。

 もともとヴェノムそのものがアタシらが定義している生物とかけ離れているようなもんだが何故そう分けて呼んでいるかは定かじゃねぇ。」

 

 

 

 

 

 

「非生物………、

 レイディーさん、

 俺達が初めて会った時のこと覚えてます?」

 

「ん?

 トーディアのときのことか?」

 

「それはレイディーさんが俺達を見つけた時でしょう。

 あの時は俺達はレイディーさんのこと気付きませんでしたよ。」

 

「そうだったな。

 とするとネイサム坑道の時だな?

 それがどうした?」

 

「あの時坑道の奥にいたガーディアントとかエレメントとかもそのアスラってのになりませんか?」

 

「よく気付いたな。

 確かにそうなるのかもな。

 だがあいつらは魔法生物であって非生物とは違うな。」

 

「魔法生物………?」

 

「あいつらは古代の人の技術で作り出された人造物だ。

 マナを内包しちゃいるが生物じゃねぇ。

 生物のように動くから生物って名前がついているだけなんだよ。

 構成組織のほとんどが無機物だからスライム形態になることはない。

 スライムに変異するのは全て生物として成長するやつだけだ。」

 

「………」

 

「だからあれらは感染と言うよりヴェノムウイルスが付着していた状態だったってだけだ。

 触られたら感染もするぞ?」

 

「あの時はレイディーも感染していましたね。」

 

「まぁな。

 けどワクチンですぐ治療しただろ?」

 

「そのままその性格も治療できればよろしかったのに………。」

 

「何だよ。

 アタシの性格に問題があるみてぇな言い方すんなよ。」

 

「完全にその通りじゃない。

 一度どっかでも治療してきなさいよレイディー。」

 

「フッ…、

 それもそうだな。」

 

「「え?」」

 

 

 

 

 

 

「アタシもこんな猿に襲われそうになったりゴリラに頭を締め上げられたりなんかしてどっかおかしくなってるのかもしれねぇ。

 本格的に医者に診てもらうのも検討しておこうか。」

 

 

 

「………本当に襲いますよ?」「アンタの頭のネジがブッ飛んでるから絞め直してあげてたつもりだけどまだまだ締めが甘かったみたいね。」

 

「よせよせって、

 そんなことしたってアタシの脳細胞が握り潰されるだけだっての。」

 

「いっそのこと人に対してそんな暴言吐く脳細胞は一気に全部破壊しちゃった方がいいんじゃない… ?」

 

「暴言?

 何の話だ?」

 

「アンタが誰か呼ぶ時の名前とか普段の言葉遣いのことよ!!」

 

「あれか?

 アタシなりにお前らを上手く表現したニックネームだと思うんだが。」

 

「猿やゴリラって呼ばれる人の気持ち考えたことある?」

 

「あるわけねぇだろ。

 アホ臭い。」

 

「アンタねぇ「レイディーさん。」」

 

 

 

「何だ坊や?」

 

「もう少しその………、

 さっき言っていた魔法生物ってやつのこと詳しく教えていただけませんか?」

 

「?

 まだそこが気になるのか?

 そんな大した話でもないと思うんだが………。」

 

「…非生物とか魔法生物とかまだよく分からなくて……、

 魔法生物には他にどんな種類がいるんですか?

 ゴーレムやエレメントの無機物くらいしかいないんですか?」

 

「…大雑把な括りではな。

 

 だがある意味じゃあ魔法生物が最もデリス=カーラーンで最多な種族と言っている奴等もいる。

 とある研究者が書いた論文ではあながち間違いでもないと学会で話題になった研究がある。

 そいつの論文ではそういうゴーレムに限らずアタシら人や動物、モンスターも魔法生物として数えられるのではないかとも言ってたな。」

 

「そっ、そんな人もいるんですね。

 確かに大抵の生物は皆マナを持っていますし魔術も使えるからそうした捉え方も「それは関係ねぇよ。」」

 

 

 

「そんなこと言ったらデリス=カーラーンに生息する全ての生物が魔術が使えるぜ。

 それだったらワザワザ『魔法生物』なんて言い方しねぇで『生物』ってだけでいいだろうが。

 アタシはあながち間違いでもないと言ったんだ。

 面白い論文として持ち上がったが認められた訳じゃねぇんだよそいつのそれは。」

 

「………じゃあどういう意味なんですか?

 さっきの話は………。」

 

「何故この星で魔法生物が最多な種族になるか………。

 それは魔法生物が今も増え続けているからだ。」

 

「?

 誰かがエレメントとかを造り出してるってことですか?」

 

「そんなことはしてねぇさ。

 そんなことしなくても魔法生物は勝手に増えていく。

 何もしなくても自然に増えていく………。

 その勢いは人類を越えて世界一。

 ゆくゆくはこの世界全土を多い尽くすほどに溢れかえり世界を滅ぼす………。」

 

「!

 その生物って………まさか!?」

 

「お察しの通りさ。

 通常のものは無形生物に分類されるんだが奴等だけは例外だ。

 なにせ突然変異のくせしてどんどん手に負えなくなるほど数を増していく異常種だ。

 奴等だけが何故そうなってんのかは知らねぇがスペクタクルズで調べるとそういう体の構造をしてるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法生物………ヴェノム。

 あいつらに感染するとどんな有機生命体も魔法生物に変えられちまう………。

 アタシら人ですら魔法生物と宣った世界の黙示録を予言する頭のおかしな研究者はそういう意味で言っていたんだよ。

 近い未来来るであろう終末の時のことを予見して………。」



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バルツィエが政治に拘る理由

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 謀反を企てていた騎士団の話を聞く途中ヴェノムが魔法生物であるということを聞く。

 それを聞いてカオスは…。


グラース国道 北西部 深夜

 

 

 

「ヴェノムが魔法生物………ですって?」

 

「ん?

 坊やらあんだけの距離歩いてきてスペクタクルズをヴェノムに一度も使ったこと無かったのか?

 そんくらいパッと調べられるだろ?

 図鑑にセットしてみりゃ分かるぜ。

 あいつら魔法生物のカテゴリになるんだ。

 見た目は無形のスライムと大差ないのにな。」

 

「………」

 

「…つっても坊やらはヴェノム相手にも特に苦戦しねぇから使う意味もなかったのか。」

 

「?

 カオス様達はワクチンをお持ちなのですか?」

 

「いやちげぇよ。

 この際だから言っておくがこいつらな、変な体質しててな。

 ヴェノム相手にもワクチン無しでぶちのめせるんだよ。」

 

「!?

 それは真ですか!?」

 

「えぇ、

 ………本当です。

 私達もどういう原理でこの能力を得ているのかは把握できてはいませんが………。」

 

「私は違うけどね。

 感染はしないけど………。」

 

「黙っていたが俺もそうだ………。」

 

「ウインドラも………?」

 

「俺やミシガンは昔ある光を浴びてな。

 それからヴェノムに対して耐性ができているようなんだ。

 それ以上のことは分からん。」

 

「ある光とは…?」

 

「それは………。」

 

「………こいつらの村に昔特殊な岩があってな。

 それに触れると生物のマナをまるごと吸収して殺しちまう恐ろしい化け物岩だったんだ。」

 

「?

 そんな岩がこの世にあったのですか?

 王都でもそのようなものは聞いたことがありませんが………。」

 

「こいつらの村で発見されたのが初だろうからな。

 その岩の周辺にはモンスターやヴェノムが寄ってこねぇからこいつらはそこで静かに暮らしてたんだよ。」

 

「それはまるで封魔石のようですね…。」

 

「効能としては違うんだろうが効果だけ見るならそれだな。

 …その岩がある時能力を発揮しなくなってそんでこいつらの村にヴェノムが押し寄せてきたんだ。

 その時にその殺生石が最後の力を振り絞って発光したんだ。

 それによって村のヴェノムだけを全滅させた。

 その光を浴びてこいつらはそれからヴェノムに対しての能力が付いたようだ。」

 

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 

「そのようなことが………、

 では皆さんの戦闘技術が高いのもその光の影響で?」

 

「そういう訳じゃねぇな。

 こいつらの能力は精々ワクチン要らずな点とマジックアイテムを必要としねぇくらいだ。

 戦闘技術の高さはこいつらの練度が高いだけだ。」

 

「ですがそれですとレイディーさんとタレスさんだけはその能力はお持ちでないと?」

 

「アタシはそうだがガキはこいつらと同じだぜ?」

 

「?

 タレスさんはダレイオスご出身なのですよね?

 その光を浴びた現場に居合わせていたのですか?」

 

「…ボクはカオスさんとアローネさんに助けられてからこうなりました。」

 

「!?

 その力他の者にも反映させられる方法があるのですか!?」

 

「そっ、それは………。」

 

「その方法があるのなら我々には大きな力になる!

 是非とも我々にもその方法をお教えください!」

 

「えとぉ………。」

 

 

 

「止めときな。

 ガキに関してはたまたまその殺生石のところに連れてかれて運よく能力が得られただけの話だ。

 その能力はもう譲渡するのは不可能なんだよ。」

 

 

 

「レイディーさん…?」

 

「ですが我々もその殺生石というもののところに行って…。」

 

「確かにその能力は魅力的だが得るためには殺生石に触れなきゃならねぇ。

 ガキはヴェノムに感染した時たまたまその近くにいてワクチンが無かったからヴェノムを打ち消せるかどうか試しに触らせてみただけだ。

 結果力を得たがそれが最後だったみてぇで対に殺生石は死んじまった。

 もうあの岩にはヴェノムを殺す光を放つ力もマナを吸収して殺す力も残っちゃいねぇ…。」

 

 

「…そうですか………。

 ならば諦めるしかありませんね。」

 

 

 

 

 

 

「レイディーアンタさっきから何をムグッ!?」パッ

 

「これからヴェノム逆巻くダレイオスに向かうから保険が欲しいのは分かるが仮にこいつらの能力が手に入るとしても方向が真逆だ。

 今は放っておくしかねぇ。

 現地に行って能力が得られなかったアタシが言うんだ。

 そう旨い話はなかなか来ねぇさ。」

 

「…いえ、私共にとっては貴女方が昼間に居合わせたことだけでも幸いです。

 これから共にダレイオスへと渡っていただけるのですからこれより先を求めすぎるのは騎士として立つ瀬がありませんね。」

 

「…しっかり心得てるじゃねぇか。

 

 

 

 で話を聞いてるとお前らダリントン隊とバーナン隊はアルバート=ディランの武勇伝から『カオス=バルツィエ』の広告とワクチンの製造情報を調べる班に分かれて動いていて何もしてない余った奴等が注意を引き付けていたって訳だな?」

 

「そうです。」

 

「………バーナン隊の方は上手くいっていたようだがダリントン隊は成果を上げられなかったようじゃねぇか。

 それでよく昼間の作戦を実行に移せたな。

 バルツィエの奴等は大々的にワクチンで脅しをかけるようなことはしてねぇが逆上させてそれをされたら作戦が途切れるんじゃねぇのか?」

 

「…結果的には昼間の件で作戦を急ぐことになってしまいましたので………。」

 

「………ダリントン隊がやはり足を引っ張っているのではないか。

 それでよくこちらを非難できたものだな。」ボソッ

 

「貴様「また水ぶっかけられてぇか?」………いえ。」

 

「バーナン隊も挑発するようなことは言うな。

 お前らの確執はよく分かってる。

 今はそっちの方を水に流せ。」

 

「…分かりました。」

 

 

 

「………けどさレイディー。

 今バルツィエがワクチンで強迫しないとか言ってたけど何でバルツィエの人達はそうしないの?

 そうしたらバルツィエの人達に逆らえる人なんていないんじゃないの?

 …私達を除いて………。」

 

「………アタシもそれを考えたことはあるがどうにも奴等はその手を使おうとしない。

 …最終手段としてとっているだけなのか、貴族としての最低限のラインを守っているのかどっちかだと思うが…。」

 

「でもボク達がカストルで緊急でワクチンが必要になったときに騎士団の人達に分けてもらうようお願いしに行ったら不遜な態度で断られましたけど…。」

 

「遠方のしたっぱとかにはそういう奴等もいるだろう。

 しかしな?

 王都近辺の連中だけはその手を使わないように命令されてるみてぇだぞ。」

 

「その話は俺達の部隊も知っている。

 ワクチンで足下を見るようなことをして余計に反感を食らうようにしないためではないか?」

 

「あの外道連中がそこまで考えてんのかねぇ…。」

 

「反乱を抑えるのはあくまでも力だけで十分ということではないか?

 現にこの国ではバルツィエに反感を抱くもの達はいてもそれを行動に移すものなどいないのだから。」

 

「まぁそうなんだがよぉ………。」

 

「…何かそうしない理由があるとするならば国としての商業の流れを止めさせないようにするためかもしれない。

 奴等も物資が遠方とのやり取りで滞るのは困るだろう。

 

 

 

 物資を得ている以上はどこかしらにワクチンの素材を入手する経路がある筈だが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その線が妥当なのかねぇ………、

 もっと別の理由がある気がするが………。」



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 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 謀反を企てていた騎士団との話でカオス達のことを聞いた騎士団がその力を自分達にもと求めてきた。

 それをやんわりと断るレイディーだったが…。


グラース国道 北西部 深夜

 

 

 

「…もう時間が遅いな。

 今日はもう寝るぞ?

 明日は明朝には発つからな。」

 

「それでは私共が見張りを致します。

 皆様はお疲れでしょうのでご就寝なさってください。」

 

「いいのですかお任せしても?」

 

「昼間は私共は皆様に助太刀いただいてこれといった活躍がなかったのでこのような雑事は引き受けましょう。」

 

「おう、悪いな。

 じゃ任せた。」スタスタ…

 

「………」

 

「どうしたカオス?

 お前は寝ないのか?」

 

「………少し風にあたってから寝ることにするよ。」

 

「…そうか…。」

 

「………」

 

「それではボクも手伝いますよ。」

 

「いえ、

 ここは私共だけで結構です。

 タレスさんもお体をお休めください。

 …摂行の任も疲労は激しいですから。」

 

「…それでは………。」スタスタ

 

「………じゃあ私も寝るねカオス。

 お休み…。」スタスタ

 

「お休み………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……では参りましょうか。」

 

 

 

「…アローネは寝ないの…?」

 

「私もカオスと一緒です。

 まだ少し眠気が浅いので…。」

 

「…そう………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………風にあたりに来ましたけど今日はそこまで風が吹いていませんね…。」

 

「…そうだね………。」

 

「…それで今回はカオスは何が気になっているのですか?」

 

「え?」

 

「先程のお話で何か気になることがあったのでしょう?」

 

「………アローネはお見通しだったんだね。」

 

「カオスのことはよく見ていますし以前と同じようなお顔をしていらしましたから…、

 このくらいのことなら分かるようになりました。」

 

「そう………、

 けどアローネもそうなんじゃない…?」

 

「お気付きでしたか…。」

 

「俺もアローネのこと見てたからね…。」

 

「あら?

 そうだったのですね。

 気づきませんでした。

 ですが私の件はそこまで深いものでもないのですよ?」

 

「ふ~ん?

 ………じゃあアローネの方から言ってみてよ。」

 

「はい、

 では………、

 私が気になったのは“アスラ”という言葉についてです。」

 

「アスラ…?

 アインスで聞いたことがある言葉だったの?」

 

「…アインスではアスラとは“魔人”という意味の言葉でお伽噺などでよく使われている言葉なのです。」

 

「魔人………かぁ。

 非生物といいなんだかおだやかな言葉じゃなさそうだね。」

 

「そうですね……。

 大半の書物では悪役として登場する物語が多かったですから。」

 

「魔人って言うくらいだからね…。」

 

「はい…、

 これもカタスの言う星の記憶と言うものなのでしょうけど………、

 私の方はそのくらいですね……。」

 

「特に深く追求するようなことじゃないの?」

 

「…アインスのことに関してはもうそこまで疑問には思いません…。

 時代が変わってしまったのですから考えても答えはでないのでしょう………。」

 

「そっか…………、」

 

「…ではカオスの方は?」

 

「俺の方は………………………。」

 

「言い出しにくいことでしょうか…?

 カオスにとっては今日の出来事はとても色々なことが起こりすぎて困惑してしまうことなのでしょうが………。」

 

「そんなんじゃないんだ………、

 バルツィエとのことはそこまで大したことだとは思ってないよ。

 イクアダでニコライトと戦ったりしたときからこんな形になるとは思ってたし………。」

 

「それでは………ウインドラさんとのことですか?

 彼と同行することになったことでしょうか?

 それともミシガンと彼の…?」

 

「それも気になることだけど………、

 それも違うんだ…。」

 

「?

 では気になることとは今後のことでしょうか…?」

 

「………いや、

 気になっているのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達のことなんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………と言いますと、

 ………!

 私達の旅のことでしょうか?

 ダレイオスへと向かうことになったのでこれから先のことが「違うんだ。」…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「……それほどまでに言い出しにくいことなのですか…?」

 

「…アローネ、

 俺さ………、

 前にトーディア山脈でタレスと…………。」

 

「タレスと…………?」

 

「…………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………アローネ、これを俺に使ってみてくれない?」スッ

 

 

 

 

 

 

「…?

 これは………スペクタクルズ………?

 ………そういえばカオスは以前に私にこれを使用しましたね。

 私はモンスターではないと言うのに………。」

 

「………」

 

「これがどうなさったのですか?

 これで調べても図鑑には非登録生物としか検出されないと思うのですけど………。」

 

「………試しにやってみるだけでいいんだ。

 もしかしたらかん考えすぎだけなのかもしれないし………。」

 

「…?

 それでは………。」パシャッ

 

「………」

 

「………やはり非モンスター生物ですから図鑑にアップされるようなことは………」

 

「(………)」ホッ…

 

「………!

 これは………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法生物………?」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

「………どう言うことなのでしょうか………?

 カオスのことを調べたら………モンスター図鑑に魔法生物と表示されるのですが………。」

 

「やっぱりか………。」

 

「やっぱり………?

 カオスはこの結果を予見して………?

 ………まさか!?」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだったのか。

 お前ら魔法生物だったのか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

「それなぁ…、

 普通の奴に使っても“生物”としか出ねぇんだわ。

 そんなことは再確認しなくても分かりきったことだしな………。」

 

「レイディーさん…!?

 もう眠ったんじゃ…?」

 

「さっきの話の途中お前らの様子が変だったからいい時間だったし一旦他の連中には散ってもらったんだ。

 ………しかしアタシとしたことがとんだミスを犯したな…。

 こんな摩訶不思議生物達を真っ先に調査し忘れていたとは………。」

 

「……この検出はどう言うことなのでしょうか…?

 カオス、

 あの時の検出では私も魔法生物と表示されていたのですか?」

 

「………うん。」

 

「……それでカオスが魔法生物に反応を………。」

 

「さぁてどう言うことなのかねぇ…。

 お前らが魔法生物かぁ………。

 坊やや擬き、ゴリラ、ガキの件に関しては坊やの中に潜む“別の何か”を検知していると見るが猿に関しては判断に困る。

 お前だけは原因が別だからよぉ…?」

 

「………私達は永き時を越えて人としての性質が変化してしまったのか、

 …やはり私達も………ヴェノムなのでしょうか………?」

 

「アローネ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうじゃねぇだろう。」

 

「はい?」

 

「お前の言う“達”ってのはカタスのことだろうが少なくともアタシの知る限りじゃカタスにはそんな兆候は見られねぇ。

 お前らが魔法生物だって言うんなら考えられる可能性は三つ。

 

 一つはゴーレムやエレメントと同じ無機物型か、

 こいつはねぇな。

 お前らはちゃんとした肉体がある。

 

 二つ目はヴェノムか。

 これも違う。

 肉質的には近いところもあるがお前らには感染性もねぇし人としての形も保っている。

 

 

 

 とすれば三つ目………、

 お前らはただ単に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の進化した先の生物ということなんだろうよ。」

 

 

 

 

 

「人………の先?」

 

 

 

「永き時を越えたかなんか知らねぇが人類………、

 哺乳類にも数多くの種類がいる。

 そいつらは全部時代が変わるごとに様々な進化をしてきたんだ。

 そん中でお前らのように今の人類から先に進んだ奴等も出てくるだろうさ。

 お前らはそういう生物なんだろう………。」

 

「別に進化した人類………。」

 

「どんくらいの時間越えたのかはきいてみたいところだが………、

 聞いたところでそう人に話せることでもないんだろ?

 お前らのいた時代にもヴェノムはいたらしいじゃねぇか。

 その時代からヴェノムと関わってきたんならどこかしらでそうした世界に対応するように進化したのかもな。

 それでヴェノムに対して強い力を得た。

 そんくらいが考えられるものだろう。」

 

「………」

 

「カタスはどこで力を得たかは知らんがお前って坊やの村近くにいたんだろう?

 そしたらどっかで殺生石の力を浴びてそうなったかもしれん。

 あんな岩はそうそこらにねぇからな。」

 

「レイディーは………カタスから私達のことを聞いていたのですか?」

 

「聞いてねぇよ。

 聞いたのはミシガンからお前らがどうしてたかだ。

 後はお前らの会話からそうしたことだと察した。

 アタシは想像力と解釈力には自信あんだ。」

 

「そうですか………、

 

 

 

 レイディーは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達は“人”だと思いますか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そりゃあ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人だろうよ。」

 

 

 

「…それは何故…?

 私達は貴女方とは違う力を持つのに………。」

 

「“人”の定義なんざ個人の考え方次第だ。

 アタシにとって人はコミュニケーションがとれるならそれで十分。

 人類の先にいこうが後にいこうがそれさえできるなら別に何だって構わねぇ。」

 

「「………」」

 

「お前らがこうして一緒にいても脅威性を感じることはねぇな。

 会話はできても一方的に従えさせようとするクズの集団もこの国にはいるからな。

 あいつらの方がよっぽど“人”と呼べるような思考判断じゃねぇよ………。」

 

「………」ポカーン

 

「どうした…?」

 

「………貴女が私にそんな慰めるようなことを仰るので驚きました。

 貴女でもそういうことを言えるのですね…。」

 

「…柄にもねぇこと言っちまったな。

 忘れろ。」

 

「…レイディーさんはたまにこういうことを言うときがあるみたい。

 カストルで別れた時もそうだったよ。」

 

「…カオスが貴女を悪い人ではないと仰っていたことがようやく理解できた気がします。

 レイディーも人に親切にすることがあるのですね。」

 

「…恥ずいこと言ってんな。

 明日はすぐ出発するんだ。

 早く寝ろよ。」スタスタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「照れなくてもいいのに………。」

 

「あれがレイディーさんの良いところなんじゃないかな。」

 

 

 

「………そうですね………。」



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暴動の結果

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 謀反を企てていた騎士団との話も一段落し明日の逃亡に向けて体を休めることにした一行。

 カオスはアローネに魔法生物についての疑問を話すがレイディーがそれを…。


王都レサリナス バルツィエ邸 夜 フェデールサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それで夕方に今日の昼間の緊急議会が行われた訳だが………。」

 

 

 

「あの糞ジジイ共がッ…。

 俺達の出した“バルツィエ天上位昇格議案”を突っぱねやがって………。

 誰のおかげでこの国が大国までのしあがったと思ってんだか………。」

 

「もともとそれはダレイオスとの開戦で勝利してからの話だったからな。

 今日の作戦で反逆者共を一掃できれば先行して受理されてる予定だったんだが。」

 

「途中までは上手く行ってたのになぁ…。

 あのカオスが出てきてから全部おじゃんになりやがった。」

 

「カオス………、

 強かった…。」

 

「そうだな。

 俺とダインの奥義を軽く捌いてからその後フェデールにも一発食らわせたんだろ?

 すげぇ隠し玉持ってやがったんだなダリントン達のとこは。

 あれのせいで反逆者共を完膚なきまでに叩き潰していたっつーのにいざ振り替えってみれば痛み分けってか?」

 

「あのカオスもダリントン隊の騎士だったの…?」

 

「あのタイミングで出てきたってことはそうだろうよ。

 そうでなきゃ騎士団の前になんか出てこられねぇだろうし奴等に肩入れするようなこともしねぇだろ?」

 

「そう………。」

 

「にしても議案を突っぱねた理由がうぜぇよなぁ?

 『たった一人の賊に部隊を荒らされるような武力では絶対的な地位としては磐石な基盤足り得ない。』だとよ。

 あのカオスは間違いなくバルツィエの血族だって言ってんだろうが。

 ただの賊なんかじゃねぇってのに。」

 

「『ではあの賊はバルツィエの家庭事情の問題と言うことですな?それなら昼間の一件はバルツィエの責任ということになりますね。』…。

 …どっちにしても今回の作戦の失敗を俺達のせいにしたいようだ。

 こちらとしては既にそれを認めざるを得ない宣言をしてしまったしな。」 

 

「あ~糞面倒くせぇ………。

 俺達が手を出せねぇからってよぉ。

 あの老害共に一度痛い目見してやりてぇなぁ。

 

 

 

 ………なぁフェデール。

 こんなところで煩わされるんなら一回各地にバラけた親戚達集めて離反興さねぇか?」

 

「…それはどうして?」

 

「一度マテオから出ていったら晴れて世界が敵になる。

 そうなりゃあんな老害達も全部纏めてぶっ潰せるんだぜ?

 おまけにそれで勝ちさえしとけばもう世界中が俺達の軍門に下ることになる。

 結果的に言えばこれからしようとしてることに変わりはねぇしあんな老害達も口出しできねぇようになる。

 どうだ?

 前々からそうすりゃいいんじゃねぇかって思っててよぉ。」

 

「………俺も妙案だとは思うが却下だ。

 アレックスは今のままダレイオスに進軍して既決されることを望んでいる。」

 

「正攻法に拘ってんのか?

 それに何の意味があるってんだ。

 バルツィエの伝統を次の代まで変わらずに守っていきてぇとかか?

 それかクリスタル女王と少し前に生まれた娘のアンシェルのためか?

 玉座に付いて国を乗っ取るつもりが逆に乗っ取り返されてねぇかそりゃあ。」

 

「文句があるなら直接言ってこいよ。

 今日は城の方にいると思うぞ?」

 

「…止めとくぜ。

 ラーゲッツに続きたくねぇからな。」

 

「………そうかい?

 残念だな。」

 

「残念って何だよ。

 俺が死んだ方がいいってか?」

 

「一度くらい死を体験しとくのも悪くないんじゃないか?」

 

「確実に生き返れるんならそうしてみてもいいぜ?

 なんにしても………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どっかのバカタレが飛んだヘマやらかしたせいでこっちまで飼い犬に噛まれた気分だよまったく。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そのバカタレってのは俺のことを言ってるんだよな?

 ランドール。」

 

 

 

「そう言ってんだよユーラス。

 派手にぶちのめされて耳がイカれちまったか?」

 

「………よぉし、

 そこを動くなよ?

 一突きで死亡体験させてやるよ。」チャキッ

 

「お前にそれが出来るのか?」

 

「今に分かるぜ。

 衝破…「止めろ。」!」ガキィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フルフルフルフル………カラーン…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の件………、

 お前のヘマだと言うのは違いねぇんだよ。

 ユーラス。」

 

「………俺一人のせいにしてんじゃねぇよ。

 俺の後にお前らもカオスにぶっ飛ばされてんじゃねぇか。

 それだったら全員同じだろ?」

 

「俺達はお前がチンタラしてたせいで強くしちまったカオスにやられたんだ。

 お前が遊びすぎてたせいで奴の未熟だった技能を手がつけられないまでにしちまったカオスにな。」

 

「仕方ねぇだろ!?

 俺が対峙した時はまだ奴の力はイクアダのガキに少し勝る程度だった!

 そんくらいの奴に本気で殺しにかかる方がどうかしてるだろ!?

 それがまさか戦闘中にあそこまで技術を上げてくるとは思わねぇじゃねぇか!!?

 お前らだって奴と初めに戦ってれば俺と同じように遊んでいた筈だ!!」

 

「って言っても現実問題やらかしたのユーラスだし?」

 

「ユーラス、

 一番目立つ役がやりたいって志願してそうなった…。」

 

「ぐっ…!

 

 ……フェデール!

 お前だって側で突っ立って見てたじゃねぇか!?

 そんなに言うんだったらお前が戦闘に参加してケリつけときゃ良かったんじゃねぇのかよ!?」

 

「………」

 

「ほらな!?

 ぐうの音も『その偽カオスさぁ?俺に殺らせてくれねぇ?』…!?」

 

 

 

「『フェデール!こいつら纏めて俺が頂くぞ?』………、

 そう俺に言ってきたのは誰だったかな?

 俺はその通りにしてやったんだが…。」

 

「フェデールゥ…!

 あの時はお前ェ………終始無言だったくせに…!」

 

「お前が一人で責任をとるって言うから任せておいたのにそれを俺のせいにされてもねぇ…。」

 

「俺達もフェデールに参戦するのは止められてたんだがそんなこと言ってたのかお前?」

 

「それならフェデールが手助けしなかったのも分かる…。」

 

「お前がやられた後こいつらには全力でカオスを討ち取るようにはさせたが時既に遅し。

 お前のせいでカオスがこいつらじゃ掠り傷つけられない程までに強くなった後だった。」

 

「お前が相対した時と俺達がやり合った時じゃ全くの別物だったぜ?

 退屈しのぎに見に行ってみた時はまだ軽く殺せるくらいには弱かったと思うが?」

 

「……!

 カオスの件は俺の責任だってことはお前らの中ではそうなってんのかもなぁ…!

 だがフェデール!

 それ以外のことは全部お前の失敗だろ!?

 反逆者共とカオスの仲間達をみすみす逃がしたのはお前の責任なんだろ!?

 お前程の奴が何故主要人物を一人も捕まえることが出来なかったんだ!?」

 

「苦しい責任転嫁だなぁそれ。

 俺はカオスの対応に精一杯だったって言ったろ?

 そこも含めてやっぱりお前のせいなんだよ。」

 

「ユーラス、

 いい加減認めろよ。

 今のお前はお前が言ってたような一流の物語の主役なんかじゃなくてどっからどう見てもその主役を輝かせる三流の三下にしか見えねぇぞ。

 下手したら補欠要員なんじゃねぇの?」

 

「見ていて痛々しい…。」

 

「なっ……!?」

 

「お前は自分の考えているストーリー通りの役者には成れなかった。

 自分で犯した過ちも自分で拭えないようじゃあとても一流の監督にも主演男優にもなれはしないぜ。

 酔狂も程々にしねぇと火傷負っちまうぞ。」

 

「ユーラス言うほど役者じゃない…。」

 

「そうだよな。

 普段のお前がそれだから何を演じてんのか分からねぇぜ。」

 

「主役ってのは貰いに行くもんじゃない。

 必然的にそういう立ち位置にいるもんだ。

 そこを踏まえればお前の場合は…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めから器じゃねぇってことだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………糞が……、

 糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」



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追撃隊編成

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レサリナスでカオス達が暴れてから逃亡したためバルツィエ邸ではそれに対しての追撃部隊を編成する作戦会議が行われていた。

 どうやら作戦ではフェデールとユーラスの二人と部隊が出向くようだが…。


王都レサリナス バルツィエ邸 深夜 フェデールサイド

 

 

 

 

 

 

「………一通り奇声上げてどっか行きやがったなユーラス。」

 

「うちらに言いくるめられてよっぽど腹を立てたんじゃないの…?」

 

「そうだな。

 ………でもどうするよ?

 奴等の件。

 あいつら追い掛けて始末しねぇとジジイ共が納得しねぇぞ?」

 

「それは明日にでも追撃部隊を向かわせるさ。

 心配ない。」

 

「けどそれ向かわせたところでカオスに返り討ちにされるんじゃないか?

 俺達ですらいなされたんだぞ?

 生半可な部隊じゃどうにも…。」

 

「そこは考えてるさ。

 俺に考えがある。」

 

「どんな作戦だ?

 今度は俺達四人がかりとかか?

 それならいけるとは思うが…。」

 

「あの小部隊に対してそこまでの部隊は出さないさ。

 明日の追撃部隊は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーラスとあいつの隊だけに向かってもらう予定だ。」

 

 

 

 

 

 

「…それだけで足りんのか?

 今日………、

 日付的には昨日の昼になるがあいつ含めて俺達がやられた相手だぞ?

 ユーラスだけじゃ心許ないと思うぜ?」

 

「手のかかる賊が一匹いるだけの連中にそこまでの大部隊は送れないだろ。

 あいつ一人でどうにかしてもらおう。」

 

「…いくらお前が作戦に自信があるからってなぁ………。」

 

「数でどうにかなる相手だとは思えない…。」

 

「ん~、

 どうしてもユーラスができないって言うなら俺も付いていこうとは思うけどな。」

 

「フェデールが行くってんなら問題ないだろうが………。」

 

「どんな作戦…?」

 

「…それはな…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そういう作戦なら誰がやっても同じだな。

 俺はパス。」

 

「うちも…。」

 

「ん?

 お前はいいのか?ダイン。

 あんなにカオスを殺したがってたのに。」

 

「別にもういい…。」

 

「別についてこいなんて言ってないさ。

 お前らは俺達が帰ってくるまでダレイオス戦に備えておけよ。」

 

「ってことはカオス殺してから進軍すんのか。」

 

「…カオスは殺さねぇよ。

 カオス以外は殺すが。」

 

「ややこしいな。

 どうしてカオスだけ生け捕りにしなきゃなんねぇんだ…?

 一緒に殺っちまった方が話が早いだろうに。」

 

「俺が民衆の前で身内だって宣言しちまったんだ。

 奴には何がなんでもこちらに付いてもらう。」

 

「断られたんじゃねぇのか?」

 

「…奴には仲間がいる。

 仲間さえ殺してしまえば奴は引き込みやすいだろう。

 危険を冒してまで仲間を助けに現れるような義理で動くやつだ。

 支えが無くなれば引き入れるのは容易い。」

 

「ハハハッ…、

 そういうこと考えるのは得意だよなお前は。」

 

「それに奴の仲間にはどうしても殺さなきゃならない奴がいる。

 …あのレイディー=ムーアヘッドは必ず抹殺しなければならない。」

 

「そいつがバーナンに変わって大衆を扇動するかも知れねぇからだろ?

 他の騎士共より優先しなきゃいけねぇのか?」

 

「そうだ。

 あの女だけは絶対に殺す。」

 

「………女といえばもう一人殺しといた方がいい奴がいるんじゃねぇか?」

 

「?

 アローネ=リムか?

 確かにカオスに最も近い仲間ではあるがそこまで重視はしていないぞ。」

 

「そいつじゃねぇよ。

 他にいるだろ?

 そいつもムーアヘッド並に人望があってちょっとした軍を作れそうな女が…。」

 

「………、

 駄目だ分からない。

 誰のことを言ってるんだ?」

 

「どうしたんだフェデール。

 いつものお前ならこういう場合思い出せそうなもんなんだが…。」

 

「フェデール?

 らしくない…。

 うちでも思い付いた…。」

 

「…知るか。

 で?

 誰なんだ?」

 

「そうだなぁ、

 ヒント!

 今日現れたカオス!」

 

「カオス…?

 ………女といえばカオスの仲間に一人水の魔術使いがいたな。

 そいつか?」

 

「残念!

 そいつじゃない!

 ってかあの女誰だよ?」

 

「また新しいカオスの仲間じゃない…?」

 

「だな。

 まだ他に何人か潜んでんじゃねぇのか?

 ………ってそんな奴はどうでもいいんだよ!

 フェデール!

 カオスを見て思い付く女だぞ?

 女!」

 

「………降参だ。

 答えを言ってくれ。」

 

「もう少し粘って欲しかったがもう深夜だしここらで発表してやろうか。

 …昼間のカオスを見て何か違和感はなかったか?」

 

「違和感…?

 戦闘中に突然強くなったとくらいしか………。」

 

「そうか!

 そこの印象が強すぎてフェデールでも思い付かなかったんだな!

 お前も珍しくやられたみたいだから逆に解けねぇんだ!

 そうかそうかそういうことかぁ…。」

 

「勿体振りすぎだろ。

 そんな茶番はいらん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カタスティア=クレベル・カタストロフ公爵だよ。」

 

 

 

「!!」

 

「今回の件であの女がカオスを匿っていたのは明らかだ。

 あの年齢不詳のババァがカオスがダレイオスが渡ったと言う情報を流しておきながらカオスが奴の教会の修道服を着ていた点を考えればカタスティアがカオスに関わっているのは確かだ。

 カタスティアもカオス側だとするとカタスティアも始末する対象ということにならねぇか?」

 

「………」

 

「お前らがカオスを追っている間に俺達でカーラーン教会を襲撃しに行ってもいいぜ?

 そうすりゃ暇潰しにもなるだろうし。」

 

「………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは今はしなくていい。」

 

 

 

「…どうしてだ?

 カーラーン教会ならモヤシ連中の集まりだからすぐに終わらせられるぜ?」

 

「…そうは言っても規模はダレイオスにも支部を置く組織だ。

 ダレイオスとカオス達だけで手一杯なのに敵を増やすようなことはしなくていい。

 お前らはそのまま待機しとけばいいさ。

 カーラーン教会を襲うのは時間があるときだけでいい。」

 

「ふ~ん、そうか。

 なら時間が空けば襲いに行くかな。」

 

「そうしとけ。

 戦争前に敵を増やすようなことはしなくてもいいさ。」

 

「あいよ、

 じゃあ

 俺ももう寝るわ。

 明日はニコライトの見送りもあるし。」

 

「うちも眠い…。」

 

「そうだな。

 俺も寝るとするか。」スタスタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………フェデールはあんなこと言ってたが『しなくてもいい』ってことはやってもいいってことだよな。

 ならニコライトを見送ってから部下共をけしかけてカーラーン教会をつぶしにいくか。

 昔の恩情だかなんだかで今まで傘下に加わらなくても大目に見てたがそれも俺達と敵対するようなら今度こそ黙っちゃいられねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 集団を率いるのはバルツィエだけいればそれでたくさんだ。)」



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中継地点

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レサリナスで暴れたカオス一行を追撃する作戦でバルツィエから二人が追ってくるとのこと。

 それを知らずにカオス達は…。


グラース国道 北西部 明朝 カオスサイド

 

 

 

「………全員起きてるか?

 まだ寝ている奴は叩き起こせ。」

 

「バーナン隊問題ありません。」

 

「ダリントン隊も起床済みだ。」

 

「そうか。

 坊や達の方でいないのは………いないみたいだな。

 予定より早いが出発する。」

 

「レイディー、

 これだけ離れているなら普通に向かってもいいんじゃないの?」

 

「そうはいかなくなった。

 さっきガキがアタシらを観察する斥候を発見した。

 位置確認されたってことは奴等の追っ手がすぐにでも追い付いてくるぞ。」

 

「複数斥候がいたみたいで何人かは倒したんですが一人逃してしまいました。」

 

「斥候を派遣してくる辺りバルツィエはアタシらを逃す気はない。

 それと昨日の件で坊やを警戒している筈だ。

 追っ手には大部隊を編成している頃だろう。

 少人数部隊のこっちは身動きはあちらさんよりかはとりやすいとはいえ速度が落ちるのは変わりない。

 予測しか立てられない今は迅速に行動をした方がいいだろう。」

 

「そうですね。

 レイディーの言う通りです。

 地図を確認すると私達の進路は相手にも伝わっていると思いますから。」

 

「というより徒歩じゃ手は一つしかねぇ。

 ときたら敵さんは最短で追ってくる。

 アタシ達は昨日から場所に向かっている得点をリードしたまま保つぞ。」

 

「「「「はい!」」」」「「「「「「「「「了解ッ!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中継地点 食料倉庫

 

 

 

「ここが昨日の夜お前らが言ってたポイントだな?」

 

「はい。

 ここに多くの食料が保存されています。」

 

「…よしそうときたらさっさと補給して「待ってください。」…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~わぁ~………、

 (暇だなぁ~、王都から式終了の連絡が来ねぇけどどうしたんだろう?)」ダラダラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは………、

 グライド=アースト・バルツィエ!?」

 

「はぁ!?

 そいつは確かこの先のシーモス砦の提督じゃねぇか!?

 どうしてこんなとこにいやがる!?」

 

「…それは分かりませんが奴があそこに張っているとなると今回の補給は難しくなりますね。

 まだバルツィエのものでなければ襲撃も容易に済むというのに…。

 見たところ奴を数に入れても十人にも満たないようですが………。」

 

「強行突破………、

 普通ならそうしたいとこだが………。」

 

「レイディーさん、

 何か問題があるんですか?」

 

「…グライドはな。

 バルツィエでいうと坊やが戦ったユーラスやフェデール達の同世代のバルツィエでな。

 バルツィエ連中はある程度騎士団の任を勤めると王都から離れて別の地の領主に修まるんだ。

 ニコライトのような別例もあるがグライドはそれなんだが奴がいるとなると…。」

 

「?

 ………強いんですか?」

 

「当たり前だろバルツィエだぜ?」

 

「それは…昨日のフェデールよりも…?」

 

「流石にそこまでは強くねぇよ。

 奴とアレックスはバルツィエの歴史中断トツクラスだ。

 なかなかあれ以上なんて出てこねぇ。

 …アタシが厄介視してるのはバルツィエの魔術の火力のことだ。」

 

「魔術の火力?」

 

「昨日の王都では街中だったこともあってユーラス共も魔術の範囲を調整してたんだろ。

 その分いりょく重点だったろうが…。

 だが今日のこんな開けた場所では奴等にはそんな気遣いが必要ねぇ。

 遠慮なく広範囲魔術を使ってくるぞ。

 坊やは効かねぇだろうがアタシらは巻き込まれると即致命傷だ。

 そこを考えると迂闊に全員でかかるにゃ厳しいところだ。」

 

「………だったら先ず、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺一人で倒してきましょうか?」

 

 

 

「坊やが一人でか?

 それが友好的な最善策だが………。」

 

「昨日のフェデール達より下だって言うんなら俺一人でいけますよ。」

 

「………じゃあ頼む。」

 

「はい。」スタスタ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス様お一人に向かわせて良いのでしょうか…?」

 

「…今のとこそれが一番の安全策だ。

 これ以外の策では被害が出る。」

 

「ですがカオス様お一人で戦うというのも危険なのではないでしょうか…?」

 

「昨日の坊やの戦闘見ただろ?

 万が一なんておこりゃしねぇよ。

 バルツィエなんざ才能に傲って力圧しの戦闘しかできない連中だ。

 …アタシら平民の努力も虚しく及ばねぇ力でな。

 

 坊やはそんな才能を持ちながらも努力を積んできた猛者だ。

 才能だけしか取り柄のないバルツィエのバカタレ共が才能と努力を持った坊やに勝てる道理はねぇ。」

 

「それは………正に無敵ですね。」

 

「そうだろうよ。

 それに坊やはこういうことで役に立てることが嬉しいようだぜ?」

 

「嬉しい…のですか?」

 

 

 

「…カオスはこれまで誰かの自らに絶望して生きてきました。

 そんな人生を送ってきて自分が誰かのために役に立てることが何よりも生き甲斐を感じられるのでしょう。

 カオスは自分のことを誰かを殺すことしか能力がないと嘆いていましたから。」

 

「カオス様が…?」

 

「坊やの生い立ちは特殊でな。

 本当だったら坊やもバルツィエと同じように育っていたかもしれねぇんだぜ?

 昨日のフェデールの誘いなんかそれこそ乗っていたとも思う。」

 

「!?」

 

「カッ、カオスはあんなの断るに決まってるでしょ!」

 

「…そうだな。

 坊やはそういう奴だ。

 よくあんなふうに育ったと感心するぜ。

 アルバートの見立てが正しかったんだろうさ。」

 

「アルバさんの…?

 アルバさんは普通にカオスを育てただけだと思うけど…。」

 

「その普通の環境が大事だったんだろう。

 今にして思えばアルバートが何をしたくて王都を離れたのか解る気がするぜ。

 

 アルバートは…、

 地位や権力に縛られないバルツィエを作りたかったんだろうな。

 本家で生まれたらどう教育しても腐って育っちまう。

 あそこ自体が腐臭にまみれた汚れきった家だからな。」

 

「俺も…、

 十年前王都に来たときはあれが本当にアルバさんの家だったのか疑うほどに酷いものだった…。

 あのような優しい方が何故あそこで腐らずに育ったのか…。」

 

「アルバートは騎士になる前から頭飛び抜けた変わり者奴だった。

 それが基でバルツィエの風習にも馴染めなかったのかもな。

 だから変えたかった。

 そういう働きをずっと心掛けてた。

 

 …ヴェノムが現れるまではバルツィエもアルバートのやり方に染まりつつあったんだ。

 それがヴェノムが現れてワクチンが開発されてからは元の風習に戻っちまって………。」

 

「アルバート様はずっと孤独だったのかもしれませんね…。

 やり方の違うバルツィエと民衆の期待との圧力で板挟みだったんじゃないでしょうか…?」

 

「…アルバートにとって厄介だったのはバルツィエよりもアタシらだったかもしんねぇなぁ…。」

 

「ふふっ、

 そうだったのかもね。

 私やアローネさんには関係ない話だけど。」

 

「お前らは全然アルバートの過去には関係してねぇもんな。」

 

「まぁね♪」

 

「私もレイディーから聞かされるまでは普通のお祖父様だと思ってましたから。」

 

「フンッ、

 無関係を装える身分が羨ましいぜ。

 こちとらアルバートに重圧をかけてた筆頭なんだからよ!

 

 

 

 …………アルバート。

 お前が王都を去ったのはよぉ。

 あいつみたいなのをバルツィエに欲しかったからなのか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォッ!!!

 

 

 

ナッ!

ナンナンダオマエハ!?

ウワァッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりましたよ!!」

 

 

 

 

 

 

「………あんな平民とも仲良くできるようなバルツィエを………。

 

 

 

 

 よし、坊やに続けお前らぁ!!!」

 

 

 

「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(この先もこんなふうに上手く進んでいけたらいいのにな…。)」



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知らされぬ殺人

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ダレイオスへと亡命することに決めたカオス一行とバーナンとダリントンの部隊の残党は食料の確保のためレサリナスから北部にある砦までの間にある中継地点を襲撃することにする。

 中継地点にはバルツィエの一人がいたようだが…。


中継地点 馬小屋 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁっ!?」ドサッ

 

「カオス!?

 大丈夫ですか!?」

 

「…うん、大丈夫怪我はないよ。」

 

「それなら良いのですが…。」

 

「しっかりしろ坊や。

 これくらいの相手に何手こずってやがる。」

 

「そんなこと言われても…。」

 

「見てみろよ他の連中を。

 こんなんできねぇ男はお前だけだぜ?」

 

「仕方ないでしょ!?

 初めてなんだから!

 それに俺は一人で大丈夫ですよ!」

 

「そうはいかねぇ。

 お前はこの部隊の主戦力なんだ。

 疲労が溜まると後々問題になる。」

 

「けっ、けどこんなことをしてる方が正直疲れると思うんですけど…?」

 

「なぉに寝言言ってやがる。

 これくらいできねぇと将来的に困ることになるぞ?

 女ならまだしも男なら女の上に乗ることだってあるだろうし体力的には男があった方が「何の話をしてるんですか!?」ハハッ!すまねぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………乗馬なんて生まれて初めてなんだから乗れなくてもいいでしょうが。」

 

「騎士になりたかった奴が馬にも乗れねぇってのは痛い話だと思うがな。」

 

「そういう環境じゃなかったんだよミストは。

 カオスや私も未経験なんだよ。」

 

「せっかく馬小屋見つけたんだからそれを活用しようと思ったんだが乗れねぇ奴がいるなんて思わなくてよ。」

 

「レイディーは学者だったのですよね?

 乗馬の体験はしたことがあるのですか?」

 

「アタシは研究所にいた頃に何度か遠方に行かされたからその時にな。

 案外お手のものだぜ。」

 

「私もウルゴスの屋敷では父や母と一緒に乗馬したことがあります。」

 

「…できそうな奴ができなくてできなさそうな奴ができるってのもどうなんだ…。

 坊や、

 昨日のバルツィエの剣術盗んだように回りの奴見て技術を盗め。

 剣術だと思えばできそうだろ?」

 

「これが剣術…?」チラッ

 

 

 

「ブルルッブルッ!!」

 

 

 

「……剣は勝手に動いたり鳴いたりしません。」

 

「そこをどうにか剣に置き換えて考えろ!

 剣=馬だ!

 ほら!

 乗ってみろ!」

 

「はっ、はい!

 よいしょっ…と!「ヒヒィ~ン!」うわっ!?」グワンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ!

 

 

 

 

 

 

「どうにも坊やが物真似できるのは剣術だけに限った話だな。

 …本当に剣術以外には取り柄のない男だぜ。」

 

「カオス…。」

 

「もういい!

 時間もねぇ!

 坊やは誰か上手い奴の後ろに乗せてもらいな!」

 

「………スミマセン。」

 

「いいんだよカオス、

 こんなことできなくても誰も気にしないから。」

 

「騎士の必需スキルなんだがな。」

 

「うぐッ…!?」

 

「レイディー!

 そういうことは言わなくてもいいでしょ!?」

 

「人を慰めてるとこ悪いがお前も乗れねぇってだろ?

 お前だって誰かに乗せてもらいな。」

 

「そうだけど……。」

 

「……ミシガン、

 俺の後ろに乗せ「アローネさん一緒に乗せてくれない?」………。」

 

 

 

「…えぇ、いいですよ。

 ミシガンなら私もご一緒しても構いません。」

 

「本当?

 じゃあよろしくね!」

 

「………」

 

 

 

「おい、どうすんだ?

 誰の後ろに乗せて乗るんだ?

 余ってるのなんてアタシかガキくらいしかいねぇぞ?」

 

「え?

 でもまだ他にもこんなに皆が…?」

 

「男同士で乗ったら流石に馬の負担が大きすぎる。

 馬に乗るときはなるべく軽くしてやるのがいいんだよ。」

 

「…そういうことでしたら…。

 タレス一緒に乗ってもいいかな?」

 

「いいですよ?

 ではボクと一緒に乗馬しましょうか。」

 

「うん、

 頼むよ。」

 

「こちらこそカオスさん。」

 

「ガキに捕まる大人なんてみっともねぇなぁ。

 騎士の風上にもおけねぇぜ。」

 

「放っといてください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!

 積み荷は全部積んだか!?」

 

「はい!」

 

「進路はこのまま真っ直ぐで間違いないな!?」

 

「はい、

 私が先導します!」

 

「人数は全員いるな!?」

 

「全員確認済みです!」

 

「後のやり残しは無いな!?

 じゃ出発「待ってください!」何だ?何が残ってる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだやり残したことがあります。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ…?」

 

 

 

「………何をだ?」

 

「あいつらの始末です。」チラッ

 

「あいつら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「」」」」」」」」」」ボロッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そうだったな。

 積み荷に気をとられてそいつらのこと忘れていた。」

 

「俺がやります。」ザッザッ

 

「あぁ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をするつもりなんだ?

 ウインドラ。

 まさか殺すって言うんじゃないだろうな?」バッ

 

 

 

「………」

 

 

 

「この人達は俺がもう気絶させたんだ。

 手錠をしてあるし縄にも縛ってるから抵抗もできない。

 これ以上のことをするなんて必要ないだろ?」

 

 

 

「………安心しろ。

 殺す訳じゃない。」

 

 

 

「?

 じゃあ何をするんだ?」

 

「ここに置きっぱなしにしておくと人目につきやすい。

 せめてこいつらを人目につかないように草をかけて隠しておくだけだ。

 そうすれば追手がここへ来たときにこいつらを捜す時間が稼げる。」

 

「!

 そうかそういうことなら俺も手伝うよ。」

 

「…助かる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このくらい草をかけとけば直ぐには人が中にいるって気付かないよね?」

 

「上出来だ。

 これならいい具合だと思う。」

 

「そっか。

 でも窒息したりとかは流石にないよね?」

 

「この程度の草で窒息なんかするわけないだろ。

 それより急ぐぞ。

 皆を待たせている。」

 

「あぁ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「」」」」」」」」」」」モッサリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………すまないカオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おし!

 じゃあ出発するぞ!」

 

「「「「「「「「「「はい!!!」」」」」」」」」」

 

「じゃあアタシらから先に向かう。

 擬き案内よろしく!

 後の奴は殿は任せたぞ?」

 

「分かった。」

 

「………」

 

「では俺が先に行くからついてきてくれ。」

 

「はい。」「……」「カオスさん捕まっててください。」「…うん。(ウインドラが先に行くのなら心配はいらないよな。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トラビス準備はしてある。

 いつでも燃やしてくれ。」ボソッ

 

「………」コクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中継地点 馬小屋 数分後

 

 

 

「………、

 んっ、んん?

 なんか重てぇなぁ?

 何だ?

 ってブハァッ…!?

 何だこの草!?

 何でこんなもんが俺の上に!!?」ゴソゴソ

 

 

 

「んん?」「何ですかグライド隊長?」「いてて…。」「おい!踏んでる踏んでる!!」「何だ何がどうなった!?」「あの盗賊はどうなった?」「ぶわ!?草が口に入った!!」「ちょっ!動くな痛いだろうが!」「体が拘束されてんぞ!?」

 

 

 

「お前らも一緒かよ…。

 道理で暑苦しいわけだ。

 

 

 

 (そんなことよりあの盗賊………。

 いきなり襲ってきやがって何だったんだありゃあ…。

 あんな強い盗賊は聞いたことがねぇぜ。

 俺も最前線張ってるといえ滅多に強い奴と戦わねぇから腕が鈍ってる上に油断していたからやられたがありゃあ相当の大物だな。

 今度見つけたら問答無用で叩き斬ってやる…。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何だか煙たくないですか?」

 

「………本当だ。

 何か焦げ臭いような…?」

 

「どこか燃えてるんじゃないか?」

 

「何が燃えてるって言うん………、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボォォォォォォォオオォォォッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!!!?」」」」」」」」」」

 

 

 

パキパキッガダンッ!!

 

 

 

「たっ、隊長!!

 火が…!?

 火が燃えてます!!?」

 

「馬鹿!

 燃えてんのはこの小屋だ!!

 ここは…!?

 馬小屋の中じゃねぇか!!?

 どうしてこんなところに俺達がいるんだ!!?」

 

「あの盗賊の仕業でしょう…!

 とにかく火を消さないと…、

 ……何だこりゃあ!?」グッ

 

「縄が一人一人に縛られている上にそれを全員に繋げられていて身動きがとれません!!」

 

「んだと!?「うわっ!?」うおっと!?

 ………マジか!?

 じゃあ全員で動くぞ!

 一旦入り口の方へ向かうぞ!!」

 

「はっ、はい!!」「分かりました!急ぎましょう!」「いっせーのぉ!!」ズリズリ

 

「遅ーぞ!!

 もっと早く動け!!」ズリズリ

 

「これが精一杯です!!」ズリズリ

 

「奴め!!

 姑息なことをしやがる!?」ズリズリ

 

 

 

「…ここまで来たら足で………」ドンッ

 

「早く開けろ!!」

 

「それが…!

 開けようとしているんですがロックがかかっているようです!!」

 

「周到に塞いでんのか!!

 畜生!!

 もういい魔術でぶっ飛ばせ!!」

 

「はい!

 ストーンブラスト!!

 ………!?」

 

「どうした!?

 早くそのドアを破壊しろ!!」

 

「まっ、魔術が発動しません!!?」

 

「何だと…!?」

 

「おい、お前のその縄の下のって拘束用の手錠じゃないか!?」

 

「ほっ、本当だ!?

 お前らにも付いてるぞ!?」

 

「これで魔術が使えないのか!

 このままじゃ火が回って……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキバキバキッ!!!

 

 

 

ドスゥゥゥンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いっ、嫌だ!!

 こんなところで焼け死ぬなんて…!?」

 

「俺達が何したってんだ!?

 ただ見張りしてただけだろ!?」

 

「ゲホッゲホッ!

 煙が充満してきた…!」

 

「グライド隊長!!

 助けてください!!」

 

「喚くな!!

 俺だって手錠されてんだ!

 俺も魔術が使えねぇんだよ!?」

 

「じゃあどうするんですか!?」

 

「アクアエッジ!アクアエッジ!

 出ろよォォォォォッ!!!?」

 

「こんな縄があるからァァァッ!!」

 

「何か縄を斬れるものは…!?

 剣があっ………!?

 ………鞘から剣が抜かれている!!?」

 

「やべぇよ!?

 馬小屋に縄を斬れるようなものなんて…!?」

 

「見回せ!!

 どっかに何かある筈だ!!

 そいつで先ず俺の縄を斬って俺を解放しろ!!

 そうすれば俺が一発で小屋を吹っ飛ばす!」

 

「手錠はどうするんですか!!?」

 

「それは………、

 どうにかする!

 命令だ!

 俺の縄を最優先に斬れ!」

 

「アンタ…、

 一人だけ逃げるつもりなんでしょう!?

 自分の縄だけ斬らせてドアを蹴破って俺達を見捨てようとしてるんだろ!!?」

 

「隊長!!

 見捨てないでください!!

 俺達まだ死にたくありません!!」

 

「ならさっさと縄を斬れるもん探せよ!?

 誰が最初でもいいからよォ!!?」

 

「そんなもんないって言ってるじゃないですか!!?

 ここにあるのは馬のエサと糞くらいしかないんですよ!!?」

 

「どうすることもできないじゃないか!?

 こんな終わり方はあんまりだァァァァァァァァァッ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラガラッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサドサッ!!ボォォォォォォ!!

 

 

 

「ウァァァァァァァァァァ!!?

 火が、火がァァァァァァ!!!?」ボォォォッ!!

 

「うわぁっこっちに寄るなぁッ!

 ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!?

 ア”ヅイィィィィィィッ!!?」ボォォォッ!

 

「止めろ!!

 止めろォォォォッ!!

 ア”ア”ア”………!?」

 

「どんどん燃え移ってくぞ!?

 そいつらから離れろ!」

 

「できねぇって言ってんだろうが!!」

 

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!」

 

「暴れるなこっちに…ぬぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」ボウッ!

 

「アクアエッジ!!

 アクアエッ…ぶわァァァァァァ!!」

 

 

 

「何とかしろよ!?

 誰か…、

 誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が何したってんだよ。

 

 

 

 俺は最高貴族バルツィエの騎士だぞ?

 

 

 

 そんな俺がこんな仕打ちを受けて良いわけがねぇ。

 

 

 

 こいつらならともかく俺はこんなそこらの虫を潰すような殺され方して良い筈がねぇ………。

 

 

 

 俺はまだ戦争すら始まってねぇのにこんな惨めな死に方をしていいわ………………。



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追撃部隊出動

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 中継地点で食料とついでに足を早くするために馬を見つけて乗ろうとするカオス達一行。

 カオスは乗馬に苦戦した末にタレスと相乗りすることに。

 その後そこにいた敵の騎士達は…。


中継地点 外 昼 フェデールサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「派手に燃えてんなぁ…。」

 

「奴等は物資を補給した後、建物に火を放ったようだな。

 ここ駐留していた奴等がいた筈だがどこに行ったんだ?」

 

「殺したかもしくは捕虜として連れていったか………、

 ………それはないか。

 俺達が追ってくるのに捕虜なんか連れていたら移動の時邪魔にしかならない。」

 

「平隊員共は皆殺しってか…。

 なら死体はどこに…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユーラス隊長!」

 

 

 

「何だどうした?」

 

 

 

「消化活動を行っていたら馬小屋に十名の遺体を発見しました!」

 

 

 

 

 

 

「…ほらな?」

 

「お前の言うことは何でも当たるな。」

 

 

 

 

 

 

「後もう一つ気になる点が…。」

 

 

 

「どうかしたのか?」

 

「遺体の中に一人だけ装飾の異なる遺体が混じっていまして、

 …恐らく隊長方の誰かとは思いますが…。」

 

 

 

「何?

 …馬小屋だな。

 その遺体を見せてみろ。」

 

「………」

 

 

 

「はっ!

 ではこちらの方へ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつは………。」

 

「…装飾品が大分焼けついているが間違いない。

 グライドの奴だな。」

 

「どうしてグライドがここにいるんだ?

 あいつシーモスで提督してなかったか?」

 

「………グライドのことだから退屈で散歩でもしてたんじゃないか?

 シーモス砦はダレイオスから敵が攻めてこない限り暇な拠点だから部下に任せて自分は飯でも集りに来たんだろ。」

 

「飯ってここにある飯は別にシーモスと変わらねぇだろ?」

 

「いや、

 グライドはレサリナスに向かってたんじゃないか?」

 

「レサリナスに?

 けどあいつ昨日の式には出席しないって言ってたと思うが…。」

 

「………本当なら強制的に収集を掛けてたんだがな。

 お前らも含めて俺の指示を蹴ったりする連中がいるから…。」

 

「悪い悪い、

 それでグライドがレサリナスの質のいい飯を食いに行く途中にここで休んでたら奴等と鉢合わせしたんだな。

 運のねぇ野郎だ。」

 

「気の毒としか言いようがないな。

 それでここまで焼肉にされてちゃあ…。

 蘇生するのも不可能だろ。」

 

「………全身延焼………。

 せめて上半身だけでも無事だったらな…。」

 

「…奴等はあのことは知らない筈だが何故こんな全身を黒炭に…?

 …!

 なるほどそういうことか。」

 

 

 

「……なぁ、

 本当にカオスは不殺なのか?

 これ見る限りそうとは思えないんだが…。」

 

「何だよユーラス。

 怖がってんのか?

 お前の名誉挽回の機会を昨日の今日で与えてやってんのに今更そんなこと聞いてどうすんだよ。」

 

「そうだがよ…。

 グライドがこの様じゃカオスが本気で殺しに来たら俺の部隊だけじゃどうにも分が悪くねぇか?

 どうせならお前の部隊も一緒に連れてくればよかったのに。」

 

「朝それはもう話しただろ?

 たかが一匹の手のかかる盗賊がいるくらいで軍は出せねぇ。

 出せてもお前のとこの部隊だけだ。」

 

「そうは言うけどよぉ…。」

 

「何も疑うな。

 俺の指揮に任せとけ。

 それにカオスが不殺ってのは間違ってねぇよ。」

 

「どうしてそんなことが分かるんだよ?」

 

「この遺体連中を見ろ。

 殺されて燃やされたにしては変なポーズしてねぇか?」

 

「ポーズ?

 ………全員後ろ手に組まされてるようだが何を…?

 ………手錠かこれ?」

 

「そうだ。

 これを見る限りだとこいつらは殺されてから燃やされたんじゃない。

 この火で燃やされて死んだんだ。」

 

「それの何が違うんだ?

 生きていたってんなら気絶させてるうちに水巻くんじゃねぇか?

 その前に先に死んじまったんだろうがな。

 確かに死体に手錠をする意味はねぇが殺意があったことに変わりはねぇじゃねぇか。

 焼き殺す分陰湿的な恨みでもこもってそうだが…。」

 

「何故こいつらを縛り上げてから直接殺さなかったか。

 ………昨日の件見る限りだとカオスがごねたんだろう…。

 俺達ですら殺すこともできたのに殺さなかった奴だ。

 カオスは誰かを殺すことに強い抵抗があると見た。」

 

「でも結局焼いてんじゃねぇか。

 そんな大した抵抗でもねぇんだろうよ。

 俺達はこの国では嫌われものだからな。

 他の奴等を説得しきれなかったんだろきっと。」

 

「もしそうだったら剣で一刺しで済む話だろ?

 何故それをしなかった?

 ………カオスが殺すことに最後まで抵抗したんじゃないか?

 それかカオスが知らないうちに殺すことにしたか。」

 

「カオスが知らないうちにだと?」

 

「奴等は俺達に追われている。

 一刻の時間も惜しい。

 なのにカオスがこいつらを殺すとなると揉める。

 けどこいつらは殺しておきたい。

 バルツィエだから後々面倒臭い。

 ならどうするか?

 

 

 

 だったらこいつらは今は殺さない。

 後で殺す。

 けど殺しに戻ってたんじゃ俺達に追い付かれる。

 どう殺せばいいだろうか?

 

 

 

 そうだ!

 火だ!

 こいつらを閉じ込めて魔術も使えないように工作してから火をかければこいつらを確実に殺せる上に焼いている間に奴等は俺達から逃げられる!

 閉じ込めて刃物類を取り上げるだけなら決してこれから焼き殺そうとしてるなんて思わない!

 これから向かう進路とは逆の方角から小さな火をくべれば自分達が逃げている最中には小屋が独りでに焼き落ちて中にいるこいつらも死にその頃にはカオスもこの小屋のことを確かめようがないところまで進んでいる!

 カオスが自分達がこいつらを殺したことには気付かない!

 狼煙が上がったとしてもそれは風に流されてどこから上がっているのかは分からない、そんな作戦なんだろう!

 この作戦はカオスに気付かせないこと、逃亡すること、敵を殺すことを同時に行える正に一石三鳥の策という訳だ!

 アッハハハハハハハ!!

 シンプルな策だというのにこうも上手くハマってちゃ感心しかできねぇなぁ!!」

 

「………駄目だついていけねぇ…。

 お前の推理はどうにもそうであってほしいように聞こえるんだよなぁ…。」

 

「…頭に入れておいてほしいのはカオスが不殺なのは変わりないってことだ。

 それも自分の前では誰にも殺しなんてさせないってくらいに。

 一種のプライドかな。

 あれは。」

 

「まるで本人をよく知っているかのように言うじゃねぇか。

 カオスがそんなことでも言ってたのかよ?」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺が殺さないと言ったら殺さないんだ。』

 

『誰かの命を奪うようなことはもう二度とゴメンなんだ。』

 

 

 

『俺は誰も殺さないし殺させもしない。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「?

 どうした…?」

 

 

 

「あぁ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言ってたなそんなこと………。」

 

 

 

「………そうかい。

 ならそれを信用してやるとするか。

 ………だが本気なのかこの作戦………。

 ダインやランドールは待機させて俺の部隊とお前だけって…。

 昨日俺達がやられたばかりだってのに………。

 大部隊は投入できなくてもあの二人くらいなら連れてこれただろう?」

 

「それがあの二人が即断で拒否したんだよ。

 呼ぼうとは思ったが………。」

 

「まともな戦力の頭数が二人しかいない部隊ってのもおかしな話だよな。」

 

「そんなことはないさ。

 お前の部隊には立派な戦力だ。

 存分に役立ってもらう。

 

「けどこいつらにさせることってったら………、

 あれするだけだろ?

 本当にお前が言う通りになるのか?

 今回ばかりはお前の作戦でも心配になるぜ。」

 

「信用してくれるんじゃなかったのか?」

 

「信用はするけどよ………。」

 

「なら黙って俺の作戦通りに動けよ?

 この作戦の要はお前らがちゃんと俺の指示通りに動くかどうかにかかってるんだから。

 やれるよな?」

 

「あぁ………、

 今回はもう勝手に動くつもりはねぇさ。

 俺も奴等にこいつらみたく焼かれたりしたくねぇからな。」

 

「大丈夫さ。

 今回の戦闘では…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 互いに一太刀も交わさずに魔術だけの攻防戦になるから。」



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国境到着

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レサリナスから亡命することに決めたカオス達一行は急ぎ馬に乗って国境のシーモスに走る。

 それを追うバルツィエの追撃部隊。

 なにやら不穏な話をしているが…。


グラース国道 夕方 カオスサイド

 

 

 

「日が落ち始めてきたな。

 今日中にはシーモスに辿り着きたいとこだが…。」

 

「馬に乗ってるからそんなに焦ることないんじゃないの?」

 

「馬があるってことはあっちも馬があるに決まってんだろ。

 スピードは同じだ。

 それにアタシ達はこの先の砦に付いたら先ずそこを落とさなきゃならん。

 その時間を考えれば速攻で進むしかないんだよ。

 行き先も一つしかないんだ。

 敵は直ぐに追い付いてくる。」

 

「っていってもそんな人達全然影も形も…」ヒュゥゥゥゥゥゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォオォオォンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」

 

 

 

「ほ~ら、

 追い付いてきたぞ。

 遠方からのファイヤーボール投火だ。」ヒュゥゥゥゥゥゥゥ…

 

 

 

ドゴォォオォオォンッ!!!

 

 

 

「スピードを上げろ!

 まだ奴等は見えないくらい遠くにいるだろうが狙える距離までには迫ってきている!

 このペースを維持して突き進むんだ!!」

 

 

 

「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラース国道 夕方 フェデールサイド

 

 

 

「よし、

 そのまま休まず狙い続けろ!」

 

「なぁ、

 フェデール。

 もう少し近くまで行った方がいいんじゃねぇか?

 全然当たらねぇんだが…?」

 

「別に当てるのが目的じゃないさ。

 奴等にはこちらが来ているということを知らせているだけだ。」

 

「そんなの知らせてどうするってんだ?

 余計に奴等が必死こいて逃げ出すんじゃねぇのか?」

 

「逃げ出すってんなら好都合だ。

 むしろそれが狙いでもある。」

 

「…あんま追い詰めすぎてダレイオスまで逃げられたらどうするんだ?

 奴等の首一つでも持ち帰らねぇと奴等を撃ち取ったって証明ができなくなるじゃねぇか。」

 

「それをするには先に敵の数を減らさないといけない。

 だからこうしてファイヤーボールを部隊に撃たせ続けてるんだ。」

 

「?

 だからこれじゃあ距離がありすぎて当たらないって…。」

 

「この距離がいいんだよ。」

 

「距離がか?」

 

「奴等にも頭の切れる奴はいるだろうが見えないところから魔術を撃ち続けられれば奴等も敵がどのくらいで来ているのかは把握できない。

 俺の作戦ではこちらが一部隊で来ていることをあちらに気取られちゃいけないんだ。」

 

「数で圧してるんだから関係なくないか?

 あっちだってこっちの数が多いってことは分かってんだろ。」

 

「軍勢具合を知られたくないんだよ。

 少ないと判断されると逃げずに立ち向かってくる可能性がある。

 それだとただの乱戦になり最悪の場合こちらが敗北してしまう。

 それほどまでにカオスの戦力は大きい。」

 

「じゃあどうすんだよ?

 追い詰めて追い詰めて逃げられるだけじゃねぇか?

 ダレイオスまで逃げられたら手のうちようがねぇだろうが。」

 

「そこは考えなくていい。

 だったら挟み撃ちにすればいいだけなんだから。」

 

「どういうことだ?

 お前の部隊が先回りしてんのか?」

 

「俺の部隊はレサリナスで待機させてるよ。

 援軍なら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスからやって来るんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奇策を狙いすぎて頭おかしくなったか?

 ダレイオスから誰が来るってんだよ?」

 

「お前ぇ………、

 今ダレイオスがどういう状況なのか分かってないのか?」

 

「ヴェノムの対応に追われて俺達に攻めいることができないってんだろ?

 そこをつくための開戦を昨日の式でとりあえず済ませたんだろうが。」

 

「そこまで言えば分かるだろ?

 誰がダレイオスから来るのか。」

 

「ダレイオス軍か?

 確かにこっちな方で火花飛ばしてたらダレイオスも砦の先を守りにくるだろうが…。」

 

「………もういいよ。

 俺の作戦にお前が口を挟まなくていいんだって。」

 

 

 

「………さっぱりだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス砦 外壁 夜 カオスサイド

 

 

 

「………おかしい。」

 

「どうしたんですか?

 これからこの砦を制圧するんですよね?

 何か変なところでもありましたか?」

 

「砦には特別おかしなところは見当たらねぇ。

 グライドの野郎が留守だって分かってるんだ。

 この砦を制圧するのは容易だろうよ。」

 

「じゃあ何がおかしいんですか?」

 

「…追っ手連中が火の粉飛ばしてくるだけで一向に姿が見えない。

 夕方から撃ちっぱなしなんだからアタシらのことを発見してるだろうしそろそろ軍勢の一つでも出てきても不思議じゃない。

 なのに出てくるのはファイヤーボールのみ…。」

 

 

 

「様子を伺っているのではないか?

 昨日はカオスにこっぴどくやられた訳だしな。」

 

 

 

「それも考えられるがそれにしては到着が遅すぎる。

 ………アタシらはもう砦前まで来てるんだ。

 夕方に追い付いてきた速度を計算するととっくにアタシ達に追い付くどころか追い越していることになる。」

 

「軍隊が来てるんでしょ?

 私達と交戦する前に遠くから少しでもダメージを与えたいんじゃないの?」

 

「………」

 

「レイディー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いくら考えても分からん!

 あいつらの考えることなんてごり押しの力業しか見てこなかったんだからな。

 それでこれまでも勝ってきたんだ。

 奴等が直接攻めてこないのは連中にとって坊やを危険視しているからくらいしかこの状況を説明できん。」

 

「!?

 …俺が原因で…!?」

 

「カッ、カオスは別に悪くありませんよ!?

 カオスの力があったからこそ昼の中継地点を占拠できたのですから!」

 

「カオスさんはもうずっと休んでいてもいいくらいの働きをしてもらいました。

 後はボク達でなんとかしますよ。」

 

「アローネ…、

 タレス…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュゥゥゥゥゥゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうしてもらいてぇとこだが逃げるくらいはしてもらわんといけないようだ。」ヒュゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォオォオォンッ!!!ドゴォォオォオォンッ!!ドゴォォオォオォンッ!!ドゴォォオォオォンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急げ!!

 砦の中に飛び込め!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラース国道 夜 フェデールサイド

 

 

 

「………奴等…、

 砦の門まで行ったようだな。」

 

「…忘れてたぜ。

 あそこは確かあの頑丈な門があったな。

 あれさえ破壊できなければここで俺達と門の中の兵士と挟み撃ちにできるって訳だ。

 お前の作戦もなんとなく理解してきたぜ。」

 

「………」

 

「どうだ?

 俺の推測が当たってんだろ?

 お前も単純なことしか考え付かないんだなぁ。」

 

「…門は突破されるだろうよ。」

 

「あぁん?

 何でだよ?

 流石にあの門を破壊なんて「カオスなら」?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突破するだろうさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス砦 外壁 夜 カオスサイド

 

 

 

「!

 門が閉まっている!?

 これでは中には…!?」

 

「どうなってんだ?

 下調べしてこなかったのか?」

 

「ここの門はダレイオス側は常に閉まっているが反対にマテオ側の門は開いている筈なんだ。

 一体何故門が………。」

 

「!

 そうかグライドだ!!

 グライドの奴がここを留守にするから代わりにここの門を閉めてったんだな!?」

 

「そうか!

 普段はバルツィエ一人いれば守りは万全だがそれがいなくなって中の兵士達が守りを固めたんだな!」

 

「…バルツィエがいないからって甘く考えてたぜ。

 逆に今はバルツィエがいてほしかったなんて皮肉な話だ。」

 

「どうすれば……、

 このままでは来た道を引き返すしか…!」

 

「それは無理な話だ。

 魔術の手数からいって後ろには大軍勢が編成されている。

 引き返したところで袋の鼠、飛んで火に入る夏の虫って感じだ。」

 

「…万事休すか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの門を開けてきたらいいんだね?」

 

 

 

「………坊やできるのか?」

 

「…あのくらいの門ならなんとか登れそうです。

 森にいたときは木登りも上手くなりましたから。」

 

「カオスさんだけでは危険です。

 ボクも行きます。」

 

「よし、

 なら二人で行ってこい。」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………本当に我らはカオス様達頼りで立場がないな。」

 

「………そんなことは俺達も同じだ。

 ダリントン隊もここにくるまでに何の役にもたっていない。」

 

「もしこの先我らが足手まといになるようなことがあればその時は………。」

 

「…貴様らも同じ腹積もりか。

 俺達もカオス様とウインドラさえ生き延びてもらえればこの命を喜んで溝に捨てる覚悟をしている。」

 

「仲間達の仇は………、

 グライド一人を討ち取れただけでも幸いだったな。」

 

「我等にはもとより仇をとれるような力はなかった…。

 騙す形にはなったがカオス様にはその機会をいただいてなんと御礼をいったことか…。」

 

「せめて最期の時が来たら存分にこの力!

 どれ程役立てるかは定かではないが惜しみ無く振るわせてもらいましょう!

 アルバート………、

 いや、カオス様のためにも!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しみったれた話すんならもう少し遠くに行ってからやりやがれ。」



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砦侵入成功

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 レサリナスからダレイオスへと亡命することにしたカオス一行はシーモス砦に辿り着くが遂に追っ手に追い付かれてしまう。

 それでもひたすら前進する一行だったが…。


シーモス砦 門内部 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………、

 慌てて門を閉めて正解だったな…。」

 

「なんか遠くで魔術の光が上がってるから何事かと思いきやこっちの方目掛けてファイヤーボールが飛んでくるんだもんなぁ。」

 

「一体何事だぁ?

 山賊でも暴れてるのか?」

 

「それにしてはファイヤーボールの数が尋常じゃねぇぜ?

 きっと王都で噂されてる反逆者でもこっちに攻撃してきてんだろうよ。」

 

「マジか!?

 反逆者にしては多すぎねぇか!?」

 

「バルツィエと渡り合おうってんだ。

 あんくらい数集めてなきゃ話にならないだろ。」

 

「その反逆者達が何でこんなとこでドンパチ始めてんだよ?

 こっち来てもダレイオスか海しかないぜ?」

 

「ケンカしようとして返り討ちにあったんじゃないか?

 それで逃げてきてけど追い付かれたってとこだろ。」

 

「ヒィ~!

 危ねぇなぁ。

 グライド隊長がいない間にやべぇトラブルが舞い込んできたもんだぜ。

 グライド隊長大丈夫かなぁ…?」

 

「あの人もバルツィエなんだ。

 どっかで遠回りしてレサリナスに行ったか、

 もしくはあの中で暴れてるんじゃないか?」

 

「あの退屈退屈言ってた人ならそれもあり得るかもな。

 暇で俺達残して遊びに行くような人だし。」

 

「そうだな。

 グライド隊長が戻ってくるまではここで俺達は待機しとけばいいだろ。」

 

「そうするか。

 この門さえ守っとけば魔術は飛んできても中に人なんて「ゴメンよ!」…!?」ゴスッ!!

 

「!?

 おい!

 どうし「孤月閃ッ!」グァァッ!?」ザスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タレス!

 急いで門を!!」

 

 

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギギィィィィッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「開けましたよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でかした!

 坊や!」

 

 

 

「皆急いで中の方へ!!」ダダダダダダッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バダァァァァァンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォオォオォンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっぶねぇ………、

 危機一髪だったな。」

 

「もう直前までファイヤーボールが迫ってきてましたね。」

 

「この分だと私達の直ぐ近くまで近づいてきてたんじゃない?

 ファイヤーボールが見えてからもうそこまで来てるんだよ。」

 

「………坊や!

 そっから奴等の方は見えてるか!?

 どのくらいの規模の軍団が見える!?」

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

「どうしたぁ!?

 返事しろ!!」

 

 

 

 

 

 

「…それが………。」

 

 

 

 

 

 

「…直接見た方が早いか。

 どれどれ………。」タタタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あのくらいです。」

 

 

 

「………?

 ………少ねぇなぁ。」

 

 

 

「多分昨日のレサリナスで見た限りだと一つの部隊の人数くらいにしか見えませんね…。」

 

 

 

「………あんなもんか…?

 昨日のあれであの人数しか派遣してきてないってのはどういうことだ?」

 

 

 

「…あのくらいなら俺達で倒せそうじゃないですか?」

 

 

 

「………止めといた方がいいだろ。

 そう思わせて誘き出す罠かもしれん。

 きっとあの周辺の奥から他の大部隊が待ち構えている筈だ。

 アタシらが向かっていってそこを囲んで集中砲火かましてくる作戦なんだろ。」

 

 

 

「なら俺が一人で「それも駄目だ。」」

 

 

 

「いかに坊やと言えども今日お前はバルツィエとも戦った後だ。

 それに馴れない馬にも乗って体力も落ちてきてるだろ?

 一日中動きっぱなしなんだ。

 自分の体力には自信あるんだろうが不測の事態ってのはこういう時起こりやすい。

 無理に戦おうとするな。

 捕まって連れていかれたら何もかも終わりだぞ。」

 

 

 

「俺はまだやれますよ。」

 

 

 

「だったらその体力はあいつらじゃなくてこれから向かうゴールにいる奴等に使ってくれ。」

 

 

 

「ゴールにいる奴等…?」

 

 

 

「このシーモスまではマテオの領内だがここから先の一本道はマテオでもダレイオスでもない地帯だ。

 一本道は両国を繋ぐ唯一の道だからこの場所を取り合って未だどちらのものとも言えない状態が続いている。

 つまりこの先に進めばダレイオス軍が待ち構えていることもあり得るんだ。

 坊やにはこの先を突破するのに残りの体力を使ってくれ。」

 

 

 

「…前後に敵がいるってことですね。」

 

 

 

「そうだ。

 ここで無用な戦闘をするよりかは一気に駆け抜けた方がいい。

 ここさえ抜ければ奴等も追ってはこれまい。」

 

 

 

「分かりました。

 そう言うことなら俺は前だけに集中します。」

 

 

 

「いい判断だ。

 そんじゃ先ずはこの中にいる奴等を叩きのめさねぇとな。

 ゆっくり占領している時間はない。

 ここを切り抜けて一本道の門を開いたら直進してダレイオスへと駆け込むぞ!

 

 

 いいか!!?

 お前ら!!」

 

 

 

「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス砦 外壁より離れた地点 夜 フェデールサイド

 

 

 

「あ”!!?

 おい!!

 奴等門の中に入っちまったぞ!?

 どうするんだ!!

 おい!!」

 

「慌てるな。

 これも予定通り範囲内だ。

 ここから奴等を追い詰めていくぞ。」

 

「本当に大丈夫か!?

 中の奴等だけじゃ一本道の門こじ開けられちまうぞ!?」

 

「…うるせぇなお前。

 黙って俺の指示に従うこともできねぇのか?

 俺が予定通りって言ってんだからこれでいいんだよ。」

 

「お前………、

 カオスを生け捕りにするためにわざと逃がそうとしてるんじゃねぇよな?」

 

「………」

 

「お前の口舌だかなんかあったらしいが俺はそんなの関係ねぇ。

 カオスを討ち取れるタイミングがあったらいつだって…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が俺の指示に従えないのならお前を殺してお前の部隊を直接俺が指揮してもいいんだぞ?」

 

 

 

「………!?」

 

 

 

「わざわざ機会を作ってやってるのにそれをあぁだこうだと横でごちゃごちゃ文句を言うなら俺がその生意気なことを言う口にこの剣を捩じ込んでやる。

 それでいいか?」

 

 

 

「……わっ、悪かったよ。

 もう何も言わねぇ………。」

 

 

 

「………、

 お前は部隊に砦の中と砦の向こう側………、

 できるだけダレイオス近くにファイヤーボールを飛ばすよう指示しろ。

 そうすれば後は俺がお前らを門の中へと飛ばす。

 そこからはお前がカオス以外を皆殺しにしていい。」

 

 

 

「…了解………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス砦 門内部 夜

 

 

 

シンニュウシャダ!!

 

ソウインゼンリョクデシンニュウシャヲハイジョニカカレ!!

 

 

 

 

 

 

「魔神剣ッ!!」ザザッ!!グワッ!?

 

 

 

マジンケンダト!?

 

バルツィエノヒギヲツカッテクルゾ!フヨウイニチカヅクナ!

 

 

 

 

 

 

「切りがない…。

 次々と敵が…。」

 

「一々構わなくていい!

 進路にいるやつだけを撃退しろ!」

 

「はい!」

 

「カオス!

 あまり技を使いすぎるな!

 今日のお前は戦いすぎだ!

 俺達の後ろに下がっておけ!」

 

「でも!」

 

「俺達を信じろ!

 お前には及ばないが俺達だって戦える!

 集団の最大戦力はここぞと言うときに働いてくれればいい!」

 

「その通りですカオス様!

 雑用は我等の仕事です!

 貴方様はお下がりください!

 ここは我等だけでも!

 せいやぁっ!!」ズバッ!ウワァッ!?

 

 

 

 

 

 

「………あまり殺しすぎないでね………。」

 

 

 

「敵の出方次第だ。

 俺達もただで殺られる訳には…!!」ヒュゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

 

 

ドゴォォオォオォンッ!!ドゴォォオォオォンッ!!ドゴォォオォオォンッ!!

 

 

 

ナンダ!?ソトカラファイヤーボールガ!?ウワァッ!!

 

タイヒ!タイヒーッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴等め…、

 この砦の部下共を捨てやがったな…。」

 

 

 

「!?

 あいつらこの中に仲間がいるってのに…!?」

 

 

 

「アタシらに侵入を許した時点でここにいる連中は奴等の中では殉職扱いなんだろうよ。

 こうなったら奴等は砦の騎士団もろともアタシらを消すつもりだ。」

 

 

 

「…!?

 なんて酷い奴等だ…。」

 

 

 

「国の軍隊の最優先事項は任務遂行だ。

 任務遂行のためなら部下を見殺しにもする。

 そうして国ってのは大きくなるんだ。

 敵の作戦は特別珍しいことでもない。」

 

 

 

「!

 ………俺達が来たからここの人たちは……。」

 

 

 

「アタシらも生き残るためだ。

 敵と味方に分かたれたこの状況で敵のことを考えてる余裕なんざねぇよ。

 坊やは味方のことだけ考えとけばいい。

 この状況で考えることと言ったらこの飛来してくるファイヤーボールをどう利用するかだ。」

 

「敵の攻撃が無差別的に放たれる以上これはチャンスです。

 この攻撃を受けて砦の中の騎士も混乱しています。

 押し通るのなら今が好機です。」

 

 

 

「今日は運の良いことが続きまくってんな。

 この調子ならそのままダレイオスまで渡れそうだ!

 気を引き閉めて一気に突っ走れ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「オォォォォォォォォォォォォォォォォォオォォ!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………いくらなんでも運が良すぎる。

 昼間のグライドの件は偶然だろうがこの砦までの流れ……、

 アタシらにとっては都合が良いことが起こりすぎている……。

 

 

 

 何か………、

 

 

 

 何か悪い方向に誘われているような気がしてならねぇ………。

 

 

 

 本当に何事もなくダレイオスへと渡れんのか…?)」



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追撃戦開始

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ダレイオスへと亡命することに決めたカオス一行だったが追撃部隊に追い付かれ後方から魔術のファイヤーボールが飛んで来る。

 それを無視しつつカオス達は砦の奥の海道までの扉へと走るのだった…。


シーモス海道 夜 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギギィィィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

「開いたぞ!

 全員海道へ抜けろ!!」ダダダッ!

 

「ガキ!

 砦の入口の門の扉は閉めたか!?」

 

「皆さんが入ってから閉めました!」

 

「それなら入口からは入ってこられませんね。」

 

「いや、

 恐らく時間稼ぎにしかならないだろう。」

 

「何故です?」

 

「向こうに………、

 騎士団長フェデールが来ていれば………。」

 

「それって………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァァ!!

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

「あの光は………。」

 

「やっぱり奴は来てるよな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス砦 外壁 夜 フェデールサイド

 

 

 

「後のことは頼んだよユーラス。」

 

「…本当に俺達はこの後門の中から奴等に向けて魔術を放ってるだけでいいのか?」

 

「お前もくどいなぉ。

 その通りにしとけばお前らとあっちの援軍で挟み撃ちにできるって言ってるだろ?」

 

「そう計画通りにダレイオス軍が現れるとは限らねぇが…。」

 

「…現れるさ。

 とっておきの軍でな。」

 

「ダレイオスに情報でも流してんのか?

 今日ここでマテオが進軍でもするってよ。」

 

「昨日の今日でいつそんな情報を流せるんだよ。

 俺の計画だったら昨日で邪魔な反逆者共を全部排除できる予定だったんだよ。

 こんなところまで手回しなんてしないさ。」

 

「お前だったらこの道を使って侵攻してから集まってきたダレイオス軍を全滅させるようなことでも考えてそうだが。」

 

「奴等は用心深い連中でな。

 あっちの大陸どこを探してもダレイオスの奴等は隠れて出てきやしないんだ。

 見つけられるとしたらヴェノムくらいさ。」

 

「………どういう計画なのかそろそろ教えてくれても…。」

 

「ネタばらしなんてつまらないことは言わないよ。

 さっさとお前らはカオスを捕らえればいいんだ。

 行くぞ?」

 

「…あぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『縛られし因果を解き放たん………トラクタービーム!』」パァァァァァァッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス海道 夜 カオスサイド

 

 

 

「!

 あの光は俺がフェデールに受けた魔術の…!?」

 

「トラクタービームって言うんだ。

 唯一騎士団長フェデールが使えるオリジナル魔術でな。

 無属性魔術で物体を浮きあげる力を持つ。」

 

「俺もあの時浮かされたな…。」

 

「あの魔術は基本六元素全ての魔術を極めしもののみが使えるとバルツィエが豪語している秘術だ。

 豪語している割にはあのトラクタービームを使った奴は歴代でもフェデールだけだがな。」

 

「誰も知らない魔術………。

 義兄ですらあのような魔術は………。」

 

「騎士団長フェデールにはあのトラクタービームでオリュンポス山に生息する数千のモンスターを空中へと拘束した伝説がある。

 …とすれば今回あのトラクタービームを使ったということは…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「擬きがご名答のようだな。

 あいつにかかれば騎士団の部隊くらいまるごと浮かび上がらせるなんて余裕だろ。

 こうしちゃいられねぇ!

 あいつらがマテオの方の門からこっちの門に雪崩れ込んでくる前にダレイオスへと逃げるぞ!」タタタッ!

 

 

 

「門はどうしま「そんなん放っとけ!中からしか開閉できないんだ!奴等が中に入ってきたんなら普通に開けられるだろうが!」はっ、はい!」ダッ!

 

 

 

「こっからは奴等とアタシらの単純な追いかけっこだ!

 アタシらがダレイオスへ逃げるのが先か奴等がアタシらに追い付くのが先かしかねぇ!

 馬に二人乗りしてる分だとスピードはあちらさんに………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギギィィィィッ!!バァァァンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?

 こっちの門を………閉めた………?」

 

「何しているんだ…?

 まだ一騎も門を越えずに扉を閉めて………。」

 

「追い掛けるのを辞めたということか…?

 それとも…?」

 

「………これくらいで諦めるくらいなら最初から軍なんて派遣してこねぇよ。」

 

「これは………、

 私達の退路を絶ちあの門の上から狙撃してくるということなのでしょうか………。」

 

「つまり!

 ここを逃げ切れれば私達の勝ちが決まるってことね!?」

 

「……そう楽観的なことじゃないと思うよ。

 何か考えがあってのことだと………!」ヒュゥゥゥゥゥゥゥ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォオォオォンッ!!ドゴォォオォオォンッ!!ドゴォォオォオォンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局それかい!!」

 

「数ではあちらの方が多いというのに随分と慎重な方達なのですね…。」

 

「虫を棒でつつくような作戦だが地味に効果があるな。

 それだけ坊やとは白兵戦をしたくないと見える…。」

 

 

 

「またカオス様の存在に助けられましたね。

 大部隊との接近戦ともなれば私共がいてもものの数ともなりませんから。」

 

「騎士になってもカオスを頼らなければならないとは…、

 俺もまだまだ強くならなければ………。」

 

「お前ならなれるさ!

 俺達にはできなかったバルツィエの隊長をたった一人で倒したんだから!」「お前がいたから昨日の作戦も実行しようと思ったんだ!」「お前がいてくれることだけでも勇気が湧いてくるぜ!」………

 

「皆………。」

 

 

 

「仲間同士で慰めあってる場合じゃねぇぜ。

 そういうことはここを突っ切ってからやってくれ。

 

 

 

 

 

 

 この追撃がとうやら最後かもしれないしな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス砦 ダレイオス側外壁 ユーラスサイド

 

 

 

「このままファイヤーボールを撃ち続けろ!

 どんどん行きな!!」

 

「…ユーラス隊長…。

 夕刻から交代で魔術を放ち続けているのですが部隊にもマナが枯渇し始めているものが続出しています。

 それに現状賊等にはこの門を越えられた時点で逃亡が成立してしまったようなものですし…。」

 

「俺もそう思うんだがな。

 フェデールの野郎がまだ追い撃ちをかけろってしつこいんだ。

 もう少ししたらダレイオス側から援軍が到着するとかでよ。」

 

「援軍…?

 ダレイオスから…?」

 

「俺もあいつが何を考えてるのか検討もつかねぇ…。

 だがあいつがたてたシナリオではその援軍と俺達で挟撃をしかけてカオス以外を全滅させられるらしい。

 だから後本の少しだけ頑張ってくれねぇか?」

 

「…分かりました…。

 ですが正面に敵軍ともなればカオス………様もいよいよ魔術で応戦なさるのでは………。」

 

「……そこは俺も信用しきれないんだがな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは魔術が使えないらしいぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 今朝 フェデールサイド

 

 

 

「ユーラス、

 今回の追撃はお前とお前の部隊に任せる。」

 

「………だろうな。

 昨日のあれでそう言ってくると思ったぜ。

 俺もカオスにはリベンジしたかったとこだしな。」

 

「リベンジって言ってもお前がまともにやりあったところで力量の差がはっきりしてると思うがな。」

 

「…うるせぇぞ、

 だったら何で俺だけの部隊にそんなこと頼むんだ。

 行って返り討ちくらうだけじゃねぇか。

 あいつはまだ全然魔術すら使ってねぇってのに。」

 

「…そのことなんだが、

 あくまでも俺の推測でしかないが……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは魔術を使えない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ?

 どうしてそんなことが分かるんだよ?

 ってか魔術を使えないってどういうことだ?

 昨日は飛葉翻歩や魔神剣を使ってたじゃねぇか。

 別にマナが少ねぇ訳でもねぇだろ。

 俺のストーンブラスト受けても平然としてたしむしろまだまだ力を隠してそうなもんだが…。」

 

「剣術だけでも俺達と渡り合えると確信していたのかもしくは俺と同じで街中では余計な被災を与えてしまうと思ったのかは不明だったが昨日の戦闘を見直す限り奴は一度も回復魔術も支援魔術も使用していない。

 お前との戦闘後にでもだ。

 お前には何度か手傷を負わされたというのにだ。

 不自然だと思わないか?」

 

「気絶させられた後のことなんて知るわけないだろ。

 奴にとっては俺の攻撃なんて回復するまでもなかったとかじゃねぇのか?

 ………言ってて腹立たしくなるが。」

 

「その後も俺がカオスとやり合うことになったんだけど一度カオスを俺のトラクタービームで捕らえたんだよ。」

 

「!

 ………それが何で今こうして逃げられてんだよ。

 他の奴等にでも邪魔されたのか?」

 

「カオスは………一人で俺のトラクタービームから逃れたよ。

 それも浮かび上がって体勢がままならない状態からの魔神剣でね。」

 

「…どこまでも剣術だけってか。」

 

「そのことから俺はカオスがどういう奴なのかなんとなくだが分かった。

 奴はずば抜けた剣と体術の持ち主だろう。」

 

「んなことはお前に言われんでも「そして」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからお前と俺とで検証しに行くわけだが恐らくカオスは魔術を使う戦術が頭にないか、魔術を使えないかのどちらかが当てはまると思う。」

 

「…魔術に関しては結局思う止まりかよ。」

 

「昨日の一件だけではまだ推測するにしても材料が足りなすぎる。

 カオス達を見つけ次第先ずは遠くから狙い撃ちで様子見といこう。」

 

「…分かった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………魔術に関しては第三の推測に仲間を巻き込みかねない程の強大な魔術範囲を持つことも考えられるがそれほどの力を持っていれば仲間なんて奴にはいない方が強いということにもなるんだがこれはまだこいつには話すべきじゃないだろう。)」



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レイディーの混乱

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 遂に追撃部隊との本格的な衝突が始まったが変わらず一行は逃げの一手をとる。

 シーモス砦の入り口を塞いで時間を稼ぐつもりだったがフェデールの魔術トラクタービームによってあえなく後方の扉を破られ寸前まで追っ手が迫ってくるが…。


シーモス砦 ダレイオス側外壁門 夜 ユーラスサイド

 

 

 

「おらおらッ!

 攻撃の手を緩めるなぁ!

 じゃんじゃん狙っていけ!!」

 

「「「「「「「「「「了解ッ!!」」」」」」」」」」パァァッ!

 

「狙うのはなるべく奴等の最前列よりも前の方だ!!

 フィールドを炎上させて奴等の速度を落とせ!

 奴等の足が止まったときが狙い目だ!

 それまで何がなんでも撃ち続けろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………つってもこんなやり方で奴等の足が止まるとは思えんのだが………。

 

この方法じゃ精々………。

 

………どうでもいいか。

 

これで失敗したのならフェデールが責任を取るっていってたしな。

 

上手くいったのなら俺の手柄だ。

 

カオスとの決着をつけられないのは痛いとこだがフェデールが指揮した以上後で奴を問い詰めればそれで済む話だ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス海道 夜 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュゥゥゥゥゥゥゥ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 道が燃えて……!?」

 

 

 

「私に任せて!

 アクアエッジ!」パシャァァ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュゥゥゥゥッ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな火くらい私が消してあげる!」

 

「では私も!

 アクアエッジ!」パシャァァ!

 

「我々も消化します!

 アクアエッジ!」パシャァァ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュゥゥゥゥゥゥゥ!ドゴォォォンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「アクアエッジ!!!」」」」」」」」」」パシャァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュゥゥゥゥッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「進めぇぇぇ!!」ダダダッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………府に落ちねぇな。

 火の粉飛ばしたところでアタシらにもこうした応対ができることは想定できる筈だ。

 それをこんな短時間の足止めだけで追ってこないとは………。

 それにこの火の玉が追い付いてきたにも関わらず数が減ってきたような………?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぁ坊や………。」

 

 

 

「?

 何ですかレイディーさん。」

 

 

 

「………あそこに見えるフェデールの追撃隊なんだが………、

 

 

 

 どのくらいの数に見える…?」

 

 

 

「どのくらいって………、

 昨日のウインドラの部隊とバーナンさんって人の部隊の騎士団が来てるんじゃないんですか?」

 

 

 

「流石に全部隊じゃねぇ筈だ。

 仮にもレサリナスはマテオの最重要拠点だ。

 一部隊くらいは残してきてるだろうな。」

 

 

 

「そうなんですか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺てっきり騎士団長が来てるから全部の騎士の人が来てるのかとそう思い込んでいましたね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………今なんて言った………?」

 

 

 

「へ?

 だから全部の騎士の人が「その前後だ!」………騎士団長が来てるから………そう思い込んでいた………ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アタシとしたことがとんだ検討違いをしていたかもな………。」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「さっきから飛んでくるファイヤーボール………、

 夕方から飛んできてたのに比べて勢いが落ちてねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュゥゥゥゥゥゥゥ!ドゴォォォンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………微かにですけど威力が弱いですね。

 けど夕方から走りながら撃ち続けてたら魔力も落ちてくるんじゃ…。」

 

 

 

「…そう願いたいところだがもしあれが本の一部隊だけの射撃だったらどう思う?」

 

 

 

「どうって…、

 それは………?

 ………消耗が激しいんじゃ………ないですか?」

 

 

 

「…さっきあいつらマテオの方から飛び越えるやいなやこちら側の門をすかさず閉めただろ?

 アタシはあの時敵国側の門だから閉めたっていうのと同時にアタシらを追い掛けるのを諦めたんだと思った。」

 

 

 

「普通に考えたらそうなんじゃないですか…?」

 

 

 

 

 

 

「いかがなさいましたカオス様…?」

 

 

 

「トラビスさん………、

 ちょっとレイディーさんが追手の人達が何か別の作戦があるんじゃないかって………。」

 

 

 

「別の作戦ですって…?」

 

 

 

 

 

 

「わざわざこんな小人数相手にフェデールが出張ってきてんだ。

 何か良からぬことを企ててるに違いない。

 そう考えたらあの門を閉じた意味も変わってくる…。」

 

 

 

「門を閉めた意味………?

 こちらの退路を絶ったということでしょうか…?」

 

 

 

「猿もさっきそう言ってたな…。

 退路を絶つ………。

 としたらアタシらが逃げられない状況に追い込まれたということになるが…。」

 

 

 

「!

 まさかとは思いますがこの海道に何か罠が…!?」

 

 

 

「それはないだろう。

 奴等が先回り出来るならそのまま前後で囲ってしまえばアタシらはゲームオーバーだ。

 昨日のレサリナスだけ見ても奴等はあそこでお前らを消す予定のようだったしな。」

 

 

 

「………とすると残るは………」チラッ

 

 

 

「………信じられねぇ作戦だがまさかフェデールの野郎、

 ダレイオス軍を宛にしているんじゃねぇだろうな…。」

 

 

 

「ダレイオスって…敵なんでしょう!?

 それがどうしてフェデール達と一緒になって俺達を!?」

 

 

 

「別に共戦張ってる訳じゃねぇだろうさ。

 ダレイオスからしてこの暗い夜中に敵国マテオから魔術攻撃が飛んでくりゃあダレイオス側はどう思う?」

 

 

 

「それは………、

 だけどダレイオスは今それどころじゃないってカタスさんが…!?」

 

 

 

「確かにヴェノムの対応が追い付いていないのはある。

 だがダレイオスにとって一番の敵はマテオだ。

 そのマテオとダレイオスを繋ぐこの一本道だけはダレイオスもヴェノムと同様に警戒している。

 ならこんな攻撃されていると分かりやすい方法をとればダレイオスは軍を動かす。

 軍を動かしてなんとしてもダレイオス側の領内を死守するだろう。

 そしてこの一本道を通ってくる得体の知れないアタシらを見たらダレイオスはマテオから来た侵略者ととる…。」

 

 

 

「そんな…!?

 確かにそう映るかもですけど…!」

 

 

 

「では戻りますか!?

 それですと今ダレイオス側に向かうのは危険なのでは…!?」

 

 

 

「だったら!

 俺がまたマテオに戻って門に飛び乗ってから門を…!」

 

 

 

「冷静によく考えろ。

 今戻るとなるとこの集中砲火の中をどう戻るってんだ。

 飛んでくる方から遠ざかれば当たりにくくなるが近付けば逆に命中しやすくなる。

 戻るなんて選択肢はとっくに消されちまったよ。

 坊やは魔術なんて効かないだろうがアタシらはそうはいかないんだ。」

 

 

 

「では進むしかないのですね。

 この先にダレイオス軍が待ち構えているやもしれぬ場所へと。」

 

 

 

「そういうこったな…。

 魔術攻撃と同時に飛び込んでくる連中なんてダレイオスからしたら敵以外の何者にも映らねぇだろうがな。」

 

 

 

「それでは我々の計画は………。」

 

 

 

「アタシが奴等の作戦にハマっちまったせいだ。

 悪かった…。」

 

 

 

「いえ…、

 私共もレイディー殿がいなくてもここを通り抜ける予定でしたのでレイディー殿が謝罪されることはありませんよ。」

 

 

 

「アタシがもっと早くに気付いていればな。

 思い込みだけで大軍が来ると仮定しちまって………。

 

 

 

 奴等の作戦の巧みなところはこの一本道まで追い詰めれば後は適当に魔術を放つだけでダレイオスが迎え撃ってくれる。

 それだけでアタシらは全滅だ。

 この作戦なら部隊が少数でもこなせる仕事だ。

 門を閉めたのもアタシらが引き返してこれないようにすることと部隊が少数だということをアタシらに悟らせないようにするためだったんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …っとに、

 アルバートのように上手くはいかねぇか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじいちゃんのように…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方のダレイオス側 トリアナス砦 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………ア”ア”ア”………。



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対岸の敵軍

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 亡命を決めたカオス一行はシーモス砦を抜け海道まで来ていた。

 それでも依然として追ってくる追撃部隊。

 そして前方には………。


シーモス海道 夜 カオスサイド

 

 

 

「でもレイディーさん!

 あの門の向こうに本当に昨日の他の騎士の人達が来てないだなんて分からないでしょう!?

 レイディーさんの言う通りのような作戦だなんてまだ分からないじゃないですか!?

 今の状況だって俺達にそう思わせといて向かってこさせる作戦なのかも…!」

 

「励ましてくれるのは有り難いがよく思い出せ…。

 さっきまでのグラースではアタシ達がそう判断すれば向かっていく可能性があるだろう。

 そこを大軍で襲えばいい話だ。

 その作戦でも通る…。

 だが今はどうだ?

 もし本当に大軍で来ていたのならこの状況まで追い詰めれば疲労している部隊と交代でアタシらに魔術を放つ筈だ。

 それをしないということは部隊が始めからそこまで多くはないと言うこと。」

 

「!?」

 

「…夕方からの遠距離放撃で逃げることに専念していたことと放撃の数の多さで敵の数を誤解してしまいましたね…。

 我々もそこを見落とすとは…。」

 

「アタシの先入観で先読みしちまったからこうなったんだ。

 お前らは悪くねぇよ。」

 

「レイディー殿………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが何ですか!?」

 

 

 

 

 

「坊や………。」

 

 

 

「そんなこと今悔やんだってどうにもならないでしょう!?

 ならこれからどうするかですよ!

 相手の方が手段が多くある分いるんな罠を張れるとも思います!

 なら俺達はその作戦にあえて乗りましょう!」

 

「作戦に乗る…?

 カオス様、それは一体…?」

 

「…もう後ろを振り替えるようなことは止めましょう。

 相手が大人数だったとか小人数だったとかはどうでもいいんです。

 どうだったかなんて今日のことを考えればどこにも確かめようがなかったんです。

 ならここでは前を向くしかないんです!」

 

「前を…向くしか?」

 

「トラビスさん、

 本当にマテオはダレイオスとは内通してないんですよね?」

 

「えっ、えぇ…、

 これから戦争を仕掛けようとしていましたし内通しているものがいるのだとしたらそれは自国ごと自殺を謀るようなものです。

 そのようなことは決してないと…。」

 

「だったら!

 誰もダレイオスがどう動くかは分からないんですよね?」

 

「それはそうですが自国に魔術攻撃が飛んできたら普通は……。」

 

「…まだ分からないですよ。」

 

「はい?」

 

「まだ俺達が敵じゃないと報せることはできます!

 俺が先に行ってトラビスさん達がバルツィエとは敵対している勢力でヴェノム攻略の鍵を握っているって教えてくるんです!」

 

「坊や…!

 それはいくらなんでも無謀過ぎる…!

 ダレイオスがそれを信じるかなんて「俺行きますよ!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今はそれしかない筈です!

 引き下がれないこの状況で皆が助かるには俺がやらなくちゃいけないんです!」

 

 

 

「………頼んでもいいのか?

 お前だって危険な目にあうかもしれないんだぞ?

 万全の体力でない状態では例えお前か強かったとしても…。」

 

 

 

「それでも行きたいんですよ。

 俺が行って皆が助かる可能性があるのなら俺はそれに賭けてみたいです。

 ………それにダレイオスが警戒していると言ってもそんなすぐには大軍なんて用意できませんよね?

 ダレイオスとマテオで情報が交錯していたんじゃないのなら。」

 

 

 

「そうだと思うが…。」

 

 

 

「だったらそこまで危険はないんじゃないですか?

 舐めてかかる訳ではないですけどダレイオスは昨日のユーラスとかフェデールとかに昔圧倒されていたんですよね?

 それならダレイオスの軍が来たとしても俺なら死にはしませんよ。」

 

 

 

「………油断するなよ?

 急いでいるこの状況こそ何のドジを踏むか読めない。

 焦らずなるべく気付かれずに近付け。

 そして近場まで来てから交渉してくれ。

 坊やは足が早すぎるからバルツィエと勘違いされても仕方ないんだ。

 アタシらも坊やが先に行っている間に少しずつ進んでいく。

 そうすれば集中砲火もアタシらの方にしか来ないから坊やは安全に走り去れる。」

 

 

 

「!

 …そうでしたね。

 この技術もバルツィエのものでしたね。

 ………分かりました。

 俺行ってきます!」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サササササササッ!

 

 

 

 

 

カッカオス!?オヒトリデドコヘ!?

 

カオスサン!ドウシタンデスカ!?ウマニハノラナインデスカ!?

 

 

 

サキニダレイオスマデイッテクルヨ!

コノママジャミンナガアブナインダ!

 

 

 

アブナイッテナンナノ~!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇敢なか方ですね…。

 カオス様は。

 かつてのアルバート様を見ているようです。」

 

 

 

「そうだな。

 ああいうところはやっぱり血なのかもな。

 アルバートの現役時代そっくりそのままだ。」

 

 

 

「アルバート様と言えば………、

 

 

 

 レイディー殿もアルバート様のような指揮の取り方をなさっていますね。」

 

 

 

「!

 ………アタシのはアルバートの昔の頃を思い出して真似ているだけだ。

 天然の坊やとは違う。」

 

 

 

「流石はアルバートファンクラブ会長と言ったところでしょうか。」

 

 

 

「元だ元。

 最近まではバーナンが受け継いでいたみたいじゃねぇか。」

 

 

 

「…あれは会員達を利用して民衆にバルツィエ以外の障害を抑えさせるものでした。

 真にファンと言えるものでしたらそのような作戦を計画すること自体がファンクラブ失格です。

 貴女のように直接アルバート様のお力になれるような努力など…。」

 

 

 

「…!

 ………知ってるのか?

 アタシが何をしようとしてるのか。」

 

 

 

「レイディー殿がファンクラブを去った当時の者達の話では薄々知っている者達もいるそうですよ…。」

 

 

 

「そうか……。

 まぁ九十年手探りから始めて漸くこの大陸が終わったところだ。

 手馴れてきたとはいえまだちっとかかるぜ?」

 

 

 

「そうですか…。

 では貴女の研究が無事終えられることを心よりお待ちしております。」

 

 

 

「お前らはお前らの計画が成功することを祈ってろよ。

 アタシは誰の応援も要らねぇ。

 アタシが一人で勝手に進める研究だからな。」

 

 

 

「………貴女は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴女とカオス様が二人揃えばかつてのアルバート様を越えられるやもしれませんね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ハァ、ハァ………、

 

 

 

一日中走りっぱなしだなんてあまりミストの森でもしたことないよ…。

 

 

 

走り続けることには馴れていたつもりだったけどこれは体力が持たないかもなぁ…。

 

 

 

……っこの飛葉翻歩でずっと走り続けたことなんて一度もなかったな。

 

 

 

便利なんどけどスタミナを消耗しやすいなこれ。

 

 

 

道理で昼間からあまり動いてないのに息が切れる訳だ。

 

 

 

今度からはペースを考えて………、でも馬より早く走れるとしたらこれくらいしかないからなぁ。

 

 

 

………もう少し頑張ってみるか。

 

 

 

俺の力がまた人の役に立てる。

 

 

 

それだったなら俺ももう少しだけ頑張れる。

 

 

 

ミシガンやウインドラ、タレス、レイディーさん、騎士団の皆………、

それにアローネ……。

皆のピンチなんだ。

 

 

 

俺一人なら魔術攻撃なんて大したことないけど皆にはそれが致命傷になるかもしれない。

 

 

 

つくづく殺生石には助けられてばかりだな俺は。

 

 

 

………いつかミストに返すことになるけど今だけはまだ俺の仲間のために俺に力を貸していてくれ。

 

 

 

皆の命を守るために………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ならぬ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…今………夢の声が………聞こえたような………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾワッ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だこの感じは…?

 

 

 

何か嫌な物が近付いて来ている気がする…。

 

 

 

どこから………?

 

 

 

…違う。

 

 

 

これは近付いて来ているんじゃない…。

 

 

 

俺の方が近付いていっているんだ。

 

 

 

この感じは………ダレイオスの方から…?

 

 

 

ダレイオスの方から何か嫌な感じがする…。

 

 

 

何だろうこの感じは…。

 

 

 

ダレイオスの人に気付かれた…?

 

 

 

けどこの感じはとても人の出す殺気なんかじゃない………。

 

 

 

これは………どこかで………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ………忘れていた。

 

 

 

この殺気はよく感じていた殺気じゃないか。

 

 

 

もう十年も浴び続けてきた殺気なのにどうして気付かなかった!

 

 

 

…この一ヶ月まともに奴等と遭遇することなんて無かった。

 

 

 

だから久し振りの遭遇で勘が鈍ったのか。

 

 

 

剣術の稽古はやっていたけどこいつらとはまともに遭遇してなかったな。

 

 

 

それだけレサリナスの周りが安全だったと言うことか。

 

 

 

いつもなら大量に来ても問題ない相手だ。

 

 

 

なのにこの時間に追われている状況となると最悪の敵にすら見える…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデールの作戦の本当の狙いはこいつらだったのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア”ア”ア”………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェノム…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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予想外のアクシデント

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ダレイオスへと亡命中追撃部隊に追われるカオス達。

 ここでダレイオス軍と追撃部隊が挟み撃ちを狙っているのかと予感するレイディー。

 それを聞いてダレイオス軍をはね除けようと走り出すが出てきたのは…。


シーモス海道 夜 カオスサイド

 

 

 

「ハァァァァァァァァァァァ!!」タッタッタッ!

 

 

 

「ア”ア””………ッ!」ズバンッ!

 

 

 

「後どのくら…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア”ア”ア”…」「ウ”ゥゥゥ」「ア”ァ?」「ブルルッ!」「バァァッ…!!」「ハッ…ハッ…」「………ッ……」「コホォォォッ……!!」「アッ!…アッ!」「シュゥゥゥゥゥ………」「ア…」「…」「オフッ…!」「ギギッ…」「キキキキキッ…」「アア…ア」「ギュルルルルル…」「ガァァァ…」「コフッ!コフッ!」「ギィィィア”ァァァ…」「ジュゥゥゥゥゥ…!!!」………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これじゃあレイディーさん達が駆けつけてくるまでに倒しきれない…!

 こうしてる間にもレイディーさん達が来るって言うのに!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドカッター!」「ストーンブラスト!」「アイシクル!」「ファイヤーボール!」「ライトニング!」「アクアエッジ!」パァァァッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュゥゥゥン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オゥゥッ…」「ゲゲ…?」「ブゥアァ…」バスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?

 皆…!

 もう追い付いてきたのか…。」

 

 

 

「カオス…、

 これはどういう状況なのですか…!?」

 

「ゾンビがこんなに…!」

 

「ダレイオスにヴェノムが蔓延っていることは知っていたがこの海道まで押し寄せてきているとは……。」

 

「カオス大丈夫だったの…!?

 さっきは急に一人で行っちゃうから心配したんだよ!?」

 

「やべぇなぁ…。

 どうもこのゾンビ共………、

 服装や体の劣化具合からして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “アスラの失敗作”のようだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気を付けろ!

 アスラは通常個体のゾンビよりもしぶとい!

 組み付かれたら引き剥がすのは至難の技だ!

 中距離で吹き飛ばして進め!」

 

「バーナン隊!

 ダリントン隊!

 所持しているワクチンを射て!

 全力でここを突き抜けるぞ!」

 

「「「「「「「「「「了解ッ!!」」」」」」」」」」

 

「!

 それってダレイオスとの交渉に使うやつなんじゃ…!」

 

「この大軍団を前に出し惜しみしている場合か!

 人数がいて使わない手はない!

 それに…!」ヒュゥゥゥゥゥ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォンッ!!ドゴォォォォォンッ!!ドゴォォォォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後ろのマテオ軍が進軍を開始したようなんだ。

 ここで歩みを止めるのは危険だ。」

 

 

 

「…こんな狭い道で前と後ろ両方に気を配らなきゃいけないのか…!

 クソッ!

 こんなときに………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス海道 夜 ユーラスサイド

 

 

 

「ア”ッハッハッハッハッハッハッ~!!

 こいつはいいや~!!

 ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

「ファイヤーボール撃てぇ!!」

 

「「「「「「「「「「『火炎よ我が手となりて敵を焼き尽くせ!ファイヤーボール!!』」」」」」」」」」」パァァァ

ヒュゥゥゥゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォンッ!!ドゴォォォォォンッ!!ドゴォォォォォンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかフェデールの言っていた援軍ってのがヴェノムだったとはなぁ~!!

 奴等ヴェノム相手にいつまで持つかなぁー!!?

 そぉら!!

 どんどん焼いてやれェ!!」

 

 

 

「隊長!

 カオス様の方はいかがいたしましょう?

 カオス様もヴェノムに感染してしまっては騎士団長のご命令に背いてしまうのでは…。」

 

 

 

「気にしないで撃ち続けろ!

 連中もワクチンをいくつか持っているようだ。

 今捕まえに行っても抵抗されるだけだ!

 疲れさせて弱ったところを捕まえに行けばいい!

 そのうちワクチンも無くなる!

 そうしたら奴等も投降してくるだろ?」

 

 

 

「はっ!

 ではそのように!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(どうせ奴等の要はカオスだ。

 カオスが最優先に生き残るように手配をしているだろ。

 

 我が身かわいさにワクチンを独占しようとする奴も出てくるだろうがそうなったら奴等の中でも仲間割れを興すことだろう。

 そうなってもカオスには敵わずにワクチンをカオスに奪われるだけだ。

 俺達は最後に残ったカオスをゆっくり料理してから捕獲できる…。

 フェデールの考えることはえげつねぇなぁ…。

 こんな先のことを瞬時に計画しちまうんだから。

 

 

 

 ………昨日の借りはしっかり返させてもらうぜカオス!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス海道 夜 カオスサイド

 

 

 

「…!?

 ワクチンがもう後少ししかない…!?」

 

「こっちも残り少ない!

 これ以上消費するとダレイオスへ渡す分が無くなるぞ!」

 

 

 

「………!

 おい!

 バーナンとダリントン隊!!

 お前らは後ろに下がって飛んでくるファイヤーボールの対処しろ!

前はアタシらがやる!」

 

 

 

「ですがそれでは進行速度が落ちてしまうのでは…!?」

 

 

 

「坊やと猿とガキは天然のヴェノム殺しだ!

 サポートはアタシとゴリラでする!

 いいな!?」

 

 

 

「りょっ、了解です!

 バーナン隊!

 飛んでくるファイヤーボールを消化しろ!」

「「「「「「「「「「了解!!!」」」」」」」」」」

 

 

「ダリントン隊!

 同じく火の消化だ!

 レイディー殿や我等に直撃しそうなやつだけでいい!

 他の炎は気にかけるな!!」

「「「「「「「「「「了解!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス海道 深夜 ユーラスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………奴等………、

 なかなかしぶといな。

 おい!

 まだ数を減らせねぇのか!」

 

 

 

「はっ!

 我等も全力を尽くしているのですが一方のみの魔術放撃となるとどうにも相殺されてしまいますようで…。」

 

 

 

「そうか………。

 だったら部隊の半分はダレイオスに向けて放て!

 もっとヴェノムを呼び寄せるんだよ!」

 

 

 

「…それでは我々も危険なのでは…?」

 

 

 

「俺がいるだろうが!

 こっちに渡ってくるヴェノムなんて俺がこの細道ごと海に沈めてやるよ!

 あとは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ俺も隊列に加わる!」パァァァ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス海道 深夜 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 巨大な魔力反応…!?

 バルツィエの放撃来ます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だと…!?

 ここでか…!」

 

「バーナン隊とダリントン隊の皆さんが…!?」

 

 

 

「…!」ダッ

 

「カオス…!?」「カオスさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス海道 深夜 ユーラスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『岩石よ!我が手となりて敵を押し潰せ!ストーンブラスト!!』」ズドドドドドトドトッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス海道 深夜 カオスサイド

 

 

 

「くっ、来る…!?」「あんなの受けきれねぇよ!?」

 

「…俺が受け止める!」「ウインドラ!だがお前は…!?」

 

 

 

「…一度はラーゲッツの受け止められたんだ!

 それならこんな遠距離放撃など……!」ドドドトドドッ!!シュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バァァァァッ!パラパラパラパラッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………カオス?」

 

 

 

 

 

 

「一度受けきったって………言っても………、

 その後フラフラだったじゃないか………。

 こんな魔術くらい……俺が……止めるから………。」ハァハァ…

 

 

 

「何をしているんだ!?

 お前は前の方だけでいい!

 後ろは俺達に任せておけば「俺がやるんだ!」!」

 

 

 

「俺が………前も……後ろも守りながら………進むからいいんだ………。」ハァ…ハァ…。

 

 

 

「!!

 一人で全てを背負い込むな!

 お前一人が背負ったって必ず限界が来る!

 お前はヴェノムに対する最高の戦力なんだ!

 そのお前が俺達のためなんかにふしょうすることもない!」

 

 

 

「いっ、いいんだよ……!

 こんな攻撃くらいへっちゃらだから………。」

 

 

 

「とてもそうは見えんが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「坊や!」

 

 

 

 

 

 

「レイディー…さん?」……フゥ…

 

 

 

「………」ピタッ

 

 

 

「なっ、何を…?」

 

 

 

「………お前、

 よくこんなマナでさっきの攻撃を受けきったな…。

 常人並みにマナが落ちてるじゃねぇか。」

 

 

 

「カオスのマナが落ちてる…?」

 

 

 

「中継地点に砦の中からここまで坊やは戦い過ぎなんだよ。

 だからあれほどお前は休めと言ったんだ。

 坊や、

 お前は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔力が枯渇しかかっている。」



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一人戦争

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ダレイオスへと亡命作戦中に後方からバルツィエの追撃部隊が攻撃を仕掛けてきて挟み撃ちになるのではと危惧したレイディー。

 だがダレイオスからやって来たのはダレイオス軍ではなくヴェノムの大群だった…。


シーモス海道 深夜 カオスサイド

 

 

 

「カオスのマナが枯渇………だと?」

 

「昨日の活躍撃から調子に乗りすぎたな。

 自分のペースを考えずに前に出過ぎるからこういうことになるんだ。」

 

「でっ!……もっ……!

 俺…は………今までマナが………枯渇なんて………!」ハァ………

 

「もう意識も朦朧としてるな。

 無理もないぜ………。

 お前の口振りだと激しい戦闘をしたのは久し振りだったんだろ?

 それに加えてバルツィエの剣技を使いまくってる………。

 奴等の術がバルツィエ以外に使いこなせないのには身体的な技術の他にも多量のマナを消費するところにある。

 

 

 

 坊やは技術を盗んで強くなったからって使いすぎたんだよ。」

 

 

 

「…!?」

 

「前に出過ぎるなって注意したろ…?

 使えるからといって使い馴れない技を使用しすぎるのは体に負担がもろにかかる。

 坊やは丈夫さに自信があるとしても絶対に体力には底があるんだ。」

 

「………ブラム隊長ですらも魔神剣を習得してから長いが一日に撃てる回数は数回だと聞く。

 お前が使っていた飛葉翻歩や陽炎は短期決戦型の技術だ。

 移動用に多用するものではない…。」

 

「俺が………馬鹿だった……。

 …こんなことで……スタミナを……切らすなんて………。」ハァ…ハァ………

 

「自分の長所を生かせる機会だからっつっても浮かれすぎだ。

 個人と個人の戦いじゃないんだぞ?

 アタシらがやっているのは集団戦なんだ。

 一人で突っ走ったところで即効潰れるだろうさ。

 …それでもここまでよく持った方だとは思うが…。」ドドドトドドッ!

 

「…!?

 また来たか…!?

 今度は俺が…!」ガガガガガガガガッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドトドドッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「擬き!

 平気か…!?」

 

「問題ない……!

 ………とは言いがたいな。

 二撃目で多少の威力は落ちているが後何発もこれを受けきらなければならないとなると…。」

 

「ウインドラ………、

 やっぱり………俺が………!」ハァ…ハァ

 

「そんな状態のお前に任せられるか。

 マナが枯渇しかかっている状態でこんなものを受けたらお前でも危ない。」

 

「そうだぞ坊や。

 マナが無くなったお前は魔術の前ではいわば無防備だ。

 とりあえずオレンジグミでも食って体力の回復に専念しろ。」サッ

 

「……スミマセン………。」パクッ

 

「なぁにお前はここまでよくやったよ。

 後はアタシらが何とかする。

 …擬き、

 坊やが抜けた穴は大きい。

 交渉の為にとっておきたかったとは思うが全滅だけは避けんといかん。

 他の連中にワクチンを全使用して一気にこの海道を突き抜けるぞ。」

 

「…それしかないか。

 俺達が生き残る方法は…。」

 

「!?

 何を言ってるんだ…ウインドラ!!

 それは君達にとって………ッ!!」

 

「生き残る可能性を上げるためだ。

 ダレイオスとの交渉は諦めざるを得ないが身分を隠してダレイオスの隊列に加わることくらいならできるかもしれない。

 今は全員で生き残ることの方が先決だ。」

 

「…俺が………、

 俺に力が………足りないから……。」ハァ…ハァ…

 

「………お前は十分に力を持っているさカオス。

 力が足りないのは俺達の方だ。

 俺達がお前達を守れるほどの力を持たないからこうしてお前が傷ついて倒れることになった………。

 本来ならば騎士になった俺の役割だと言うのに………。」

 

「ウインドラ………。」ハァ…

 

「………ダリントン隊!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワクチンを全て使ってこの海域を突破するぞ!

 全力でこの海道を進むんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス海道 深夜 ユーラスサイド

 

 

 

「どうだ?

 奴等もこの挟撃には手も足も出ねぇんじゃねぇか!?」

 

「隊長!

 奴等は更にワクチンを投与し進軍しているようです!」

 

「ハハッ!

 いい傾向だな!

 カオスはどうなってる?」

 

「カオス様は………、

 先程の隊長の攻撃を受けて沈黙しています!」

 

「何だぁ?

 化け物でも疲れが見え始めたかぁ?

 数はどうなってる…?」

 

「依然として一人も死者は出ておらぬようですが進軍速度は落ちてきています!

 この辺りで我々も停まりますか?」

 

「………そうだな。

 魔術の方は俺に任せろ!

 お前らは全員でダレイオスからヴェノムを引き付けてろ!」

 

「了解です!」

 

 

 

「まだこんなもんじゃないぜカオス?

 お前から受けた屈辱はまだまだこんなもんじゃ収まらねぇ!

 もっとだ!

 もっとお前達を苦しめてやる!

 お前が守りたかったもの全てこの俺が踏みにじってやる!

 最後の最後にはお前をこの俺の前で惨めな引き立て役として不様な格好で引きずり回してやるよ!!

 アハハハハハハ!!

 アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス海道 深夜 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュゥゥゥゥゥ!………………ドゴォン!

 

 

「…?

 ファイヤーボールが急にこちらからダレイオスの方を狙うようになった…?」

 

「奴等め………!

 ヴェノムを更に呼び寄せようとしてやがる!」

 

「!

 となるとこちらへの攻撃は…」ドドドトドド!!

 

 

 

ガガガガガガガガ!!

 

 

 

「バルツィエ一人で十分ということか!!

 このストーンブラストの威力が出せるのは……ユーラス!!

 ユーラスとフェデールの二人で俺達を攻撃するつもりか!?」

 

「……いや、ユーラス一人で攻撃しているようだ。

 魔術の連続使用の低下具合から見て奴一人で間違いない。」

 

「ならフェデールはどこに…!?

 まさかフェデールさえも…この作戦には…!?」

 

「トラクタービームで門を乗り越えたってことはフェデールがいることは確実なんだ。

 今頃あっちの方に隠れてアタシらを観察してるんじゃねぇか?」

 

「………敵が想定よりも少なかったとはいえ敵の懐に行って叩くのは得策ではなさそうだな。

 カオスの力を借りれないのでは俺達に勝ち目はない。」

 

「ヴェノムの群れを抜ける方が安全だなんてどんな状況だよ…。

 ………まさに今そんな状況なんだが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!

 そろそろワクチンが………切れる…!」

 

「皆さん下がってください!

 タレスと私で後は戦いますから!

 ………ウインドカッター!!」ズバッ!

 

「円閃牙!!」シュンシュンッ!!

 

「アクアエッジ!

 …アローネさん!タレス君!

 大丈夫なの!?

 もうずっと二人がメインで戦ってるけど!?」

 

「私なら大丈夫です!

 カオスがずっと頑張ってくれていたのです!

 私もここで頑張らなければ…!」

 

「ボクだって…!

 マテオの騎士なんかには負けませんよ!」

 

「はりきり過ぎだよ!!

 そんなんじゃ持たないよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…カオス様達が戦っていると言うのに我々にはカオス様達の為にできることが………。」

 

「………できることなら………ある。」

 

「………やるのか。」

 

「今やらなければ我々の恩人が我らと共に海に沈められる……。

 そうならないためにも、

 

 

 ここでこの命散らしていこうじゃないか。」

 

 

 

「…………分かった。

 ならバーナン隊は後ろを引き受ける。

 前方のヴェノムは………。」

 

「任せろダリントン隊が特攻をかける。

 それでカオス様たちの道を切り開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日お助けいただいたご恩を今お返しする機会が訪れたようだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ハァ…ハァ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてこんな時に俺は………。

 

 

 

やっと俺でも皆の為にできることが見付かったんじゃないか。

 

 

 

それなのに俺が無駄なマナを使ってしまったせいで………。

 

 

 

俺が………、

 

 

 

俺がもっと回りを見ておけば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『また…ワシが屠らねばならぬのか………ヴェノム。』



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敗残への階段

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ダレイオスへと亡命する途中バルツィエの追撃部隊とダレイオスからのヴェノムの大群に挟まれるカオス一行。

 その状況で遂にバルツィエのユーラスからの魔術が一行に…。


シーモス海道 深夜 ユーラスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゃくせぇな!

 もう待つのが面倒だ!!

 次の本気の一撃で纏めて消し飛ばしてやるぜ!」パァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『岩石よ!我が手となりて敵を押し潰せ!!

 

 

 

 ストーンブラスト!!!』」ズドドドドドトドト!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス海道 深夜 カオスサイド

 

 

 

ズドドドドドトドト!!

 

 

 

「!?

 しまった!

 モタモタしている間に…!?」「今度のは受けきれ…!?」「アッ!アイシクル!!」「…!何ですかれは…!?」「タレス…!」「なっ、何これ!?こんな大きな…ッ」「カオス様!危なッ…!」「え………」「全員海に……」………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドドドドドトドトドドドトドドドドドトドドドドドトドドドドドトドドドドドトドドドドドトドドドドドトドドドドトドドドドドトドド!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………いててぇ………。

 

 

 

身体中が痛いな………。

 

 

 

こんなに痛むのは…………いつ以来だろう………。

 

 

 

魔術ってこんなに当たると痛いんだな………。

 

 

 

 

 

 

………昔ミストで苛められていたときにもこんな痛みだったな………。

 

 

 

もう十年も魔術をまともに喰らったことなんてなかったから忘れていた………。

 

 

 

俺を守るマナが無くなったからこんなふうに魔術をもろに喰らったんだな………。

 

 

 

………今までこんなものを普通に受け止めていたんだ………。

 

 

 

殺生石の力を使えるようになってから一度もマナを切らしたことなんてなかったから自分に限界があったことに驚きだ…。

 

 

 

魔神剣くらいじゃそんなにマナを消費しなかったから王都に来て飛葉翻歩や他の技を使えるようになって………、

昨日から俺がとんでもなく強くなったんだって錯覚していた………。

 

 

 

こんなんじゃ駄目だな………。

 

 

 

こんなんじゃ皆を守れない………。

 

 

 

皆を………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆を………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!

 そうだ!

 皆は……!?」バッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダランッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?

 ………左腕が………動かない………?

 ………折れてるのか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なんてこったこれじゃもう剣を………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス様………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 トラビスさん…!

 無事だった………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありません…………、

 片目と………右足を持っていかれたようです…………。」

 

 

 

 

 

「………大変だ!

 早く治療をしないと…!」

 

 

 

「いいのです………。

 自分はもう…………、

 それよりも………カオス様………、

 貴方様も今の一撃で負傷なさっていますね…………。

 でしたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我等のことは置いておいてウインドラ達とお逃げください………。」

 

 

 

 

 

 

「………何言ってるんですか!?

 そんなこと「お静かに…」………。」

 

 

 

「敵の魔術を受けて我等部隊は半壊………、

 生きているものは…………微かに息遣いが聞こえるので多少は残っているのでしょう………。

 ですがこの戦………既に敵の手中に墜ちました………。

 後は………ユーラスの部隊に蹂躙されるのみです………。」

 

 

 

「喋らないでください!

 今だってキツいんでしょう…!?」

 

 

 

「大丈夫ですよ。

 ウインドラを庇って攻撃を受けたせいなのかそこまで痛覚を感じている訳ではありません………。

 少し………体の感覚がありませんが………。

 

 ………幸いなことに敵の魔術が膨大だったこともあってヴェノムもろとも我等を吹き飛ばし今は土煙が上がっています………。

 敵の視界も見えぬ今………、

 貴方様方が逃げ出すチャンスはここしかありません……。」

 

 

 

「逃げるったって………、

 皆は………!? 」

 

 

 

「アローネ様やミシガン様達は………意識を失ってはいましたが軽傷です………。

 心配ありません………。

 ストーンブラストから離れた位置にいたので………、

 その程度で済みました………。

 ………ウインドラも含めて皆さんは本当に高い魔力をお持ちですね………。」

 

 

 

「アローネ達が………?

 でも…!」

 

 

 

「いいのです………。

 本当だったら………昨日失っていた筈の命………、

 皆さんの………、

 民を守るために使えるのなら………、

 ここで皆さんの盾になって果てることも悪くはありません………。」

 

 

 

「そんなこと言わないでください!

 せっかく生き延びたのに「お聞きください」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方様方には使命があるのでしょう?

 その使命を果たすことなく我等と共に命を捨てることはありません………。

 貴方様方は貴方様方のご使命のためにダレイオスへと渡って下さい………。

 

 我等にも使命はありましたが………、

 我等には使命を果たせるほどの力が無かっただけのこと………。

 ………悔いは残りますがウインドラさえ生きていればいつか必ずウインドラが俺達の使命を代わりに果たしてくれます………。

 それなら俺達は………最後に騎士らしく誇りを失わずに誰かを守れる人であることを望みます………。

 

 それが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が騎士になった理由だからです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かを………守る………?」

 

 

 

「はい、

 それが俺………トラビスの騎士へ志願した志望動機です。

 これはそれらしい志願理由でも………誰かを真似した動機でもありません………。

 俺の………、

 俺だけの騎士を目指した夢です。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………今前方にいたヴェノム達も吹き飛んで道が開けました………。

 お逃げになるのでしたらお急ぎを………、

 先程の魔術で勝利を確信しているでしょうがいつ次の第二波が来るか分かりません………。

 後のことはこのトラビス………いえ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 民を守るためにある騎士団にお任せください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………分かりました………。」

 

 

 

「それで良いのです………。

 人を守るために我等がいるのですから………。」

 

 

 

「俺は………貴方という騎士がいたことを忘れません………。

 貴方のような………、

 人を守った騎士のことを………。」

 

 

 

「なんと光栄なことでしょうか………、

 カオス様にそのように仰っていただくとは………。」

 

 

 

「俺なんて………、

 全然大したことないですよ………。

 騎士を目指して成れなかった半端者だし………。」

 

 

 

「そんなことはありませんよ………。

 貴方様は立派な騎士でございます………。

 この場にいる者は皆貴方様にお救いいただいたのですから………。」

 

 

 

「そんなの………昨日助けて今日助けられてないじゃないですか………。

 そんな無意味な助けなんて………。」

 

 

 

「無意味などではございませんよ………。

 昨日カオス様やレイディー殿があの場にいなければ我等は訳もわからずただ疑問と後悔を残して死んでいたでしょう………。

 今日まで生きられただけでも俺達はカオス様方に………感謝の気持ちでいっぱいです………。

 だから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に恩返しをさせてください………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへへ………、

 これだけ喰らわせれば生きてる奴なんていねぇだろ。

 後はカオスの奴を見つけて痛め付けて連れ帰るだけで任務終了だ…。」ザッザッザッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!

 カオス様…!

 どうかダレイオスでもご武運を!!

 

 

 

 ダリントン隊!バーナン隊!

 残っている者は全力で後方のユーラスを足止めしろ!!

 

 カオス様達の活路を俺達で作るんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「オォォォォォォォオ!!!」」」」」」」」」ガラガラガラッダダダダッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まだこんなに生きてる奴がいやがったか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ストーンブラスト!!!」ズドドドドドトドト!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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レジスタンスルーズ

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ダレイオスへと亡命中追撃部隊ユーラスからの魔術がカオス一行に炸裂。

 カオスはマナが枯渇しその一撃を止められずダリントン隊とバーナン隊の騎士達が…。


シーモス海道 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パラパラパラ………

 

 

 

「こんなもんか?

 呆気ねぇ…。」

 

 

 

「……まだ……、

 終わり………じゃ………ないぞ。」フラァ…

 

「そう……だ、

 我等は………、

 まだ………戦える………。」フラァ…

 

「ここで………、

 バルツィエを………。」フラァ…

 

 

 

「………そうかい、

 まだ…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊んでくれるのかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネ、タレス、ウインドラ、ミシガン、レイディーさん、

 皆起きて………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ぐっ…?

 カオス………か?」

 

「………いっつつ…………、

 ………坊やか………。

 …!

 今どうなってる…?」

 

 

 

「ウインドラ、レイディーさん!

 ………よかった………、

 今トラビスさん達が後ろの追っ手を引き受けてくれています。」

 

「トラビス達が………?

 ………なら俺も助勢に向かわんと…!」

 

「…!

 待ってウインドラ!」

 

「…どうした…?」

 

「トラビスさん達は………、

 俺達にダレイオスに向かえって………言ってた。」

 

「………俺もか?」

 

「………うん。」

 

「…そうか…。

 ………だがトラビス達だけではバルツィエは止められないだろう。

 俺も加勢しにいく。

 ダレイオスにはお前達だけで行ってくれ。」

 

「何言ってるんだよ!?

 トラビスさん達は決死の覚悟で後ろの奴等の足止めを引き受けてくれたんだよ!?

 それなのに君が助けに行ってどうするんだよ!?」

 

「………アイツらは俺の家族だ。

 十年前に俺が騎士になった時から俺を支えてくれた家族なんだ。

 その家族を置いて先になど進めない。

 

 ここで家族が死を選ぶというのなら俺も共に死のう。」

 

「………」

 

「どうしてそうなるんだ!?

 ミシガンはどうするんだよ!?」

 

「ミシガン…!

 ………気を失っているのか………。」

 

「まだミシガンと仲直りしてないよね!?

 そんなんで勝手に死なれちゃミシガンが怒るよ!?」

 

「………ミシガンが気が付いたら彼女に伝えてくれないか?」

 

「………何をだよ?」

 

「俺は………、

 村の………、

 村長や俺の親父達の勝手に決めた許嫁ではなく、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の意思でお前を選びたかった………と。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ………。」

 

 

 

「……湿っぽく終わりたくはなかったがこれが最後と思えば自分の気持ちが素直に口にできるな。

 ではカオス達者で「待て。」…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっ恥ずかしい時世の句を読んでるとこ悪いがちょっといいか…?」

 

 

 

 

 

 

「レイディーさん…?」

 

「…何だ、

 俺はもう「周りをよく見てみろ。」………周りを?」チラッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………気絶した奴が三人ここにはいるよな?」

 

 

 

「………そうだな。」

 

「………」

 

 

 

「そしてここには目が覚めた奴が三人いるわけだ。

 ………何が言いたいのか分かるよな?」

 

 

 

「………しかし俺は………、

 トラビス達の所へ向かわねば「更に!」…今度は何だ?」

 

 

 

「坊やの腕………。」

 

 

 

「カオスの腕………?」

 

「…!」サッ

 

「………カオス、

 見せてみろ。」

 

「………」スッ

 

「!

 ………これは………、

 腕が折れているじゃないかカオス!?」

 

「………さっき吹き飛んだ時にね。」

 

「これでは………。」

 

 

 

「これじゃあ坊やでもこいつらを二人も抱えて進むのはキツいだろ?

 アタシは猿くらいなら肩を貸してやってもいいが流石に二人は無理と言わせてもらう。」

 

 

 

「…それはそうだな。」

 

 

 

「坊やはそのガキを背負いな。

 そんくらいなら出来るだろ?」

 

 

 

「えっ、えぇまぁ…。」

 

「…!

 では俺が………。」

 

 

 

「擬きはゴリラに肩貸してやれよ。」

 

 

 

「俺がミシガンを………、

 だが俺は………彼女に酷いことを言ってしまった………。

 その俺なぞにミシガンは触れてほしくはないだろう………。」

 

「れっ、レイディーさん!

 アローネとミシガンを代わってあげてくれませんか!?」

 

「ふざけたことぬかすんじゃねぇ!

 命がかかった逃亡劇繰り広げてんだぞ!?

 それを気まずいからの一言で選り好みしてんじゃねぇ!」

 

「「………」」

 

「それに擬きはそのゴリラに罪の意識があるんだろ?

 だったらそれを少しでも償えるいいチャンスじゃねぇか。」

 

「レイディーさん………。」

 

「だが俺はトラビス達にも「ウインドラ!」…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トラビスさん達は………、

 今必死の思いで俺達のために敵を食い止めてくれているんだ…。

 その覚悟を無駄な犠牲にしちゃいけない………。」ポロポロポロ………

 

 

 

 

 

「カオス………、

 お前が泣くようなことなんたないんだぞ………?

 俺達はもとより死ぬ覚悟をしていたのだから………。」

 

「そんなこと言うなよ…。

 お前は………皆十年前に死んだと思ってたんだぞ?

 俺だってそうだ………。

 だから生きててくれて嬉しかったのにそれをお前は………、

 簡単に死ぬだなんて………。」

 

「………失言だったな………。」

 

「………そうだよ馬鹿野郎。」

 

 

 

「死ぬ覚悟ができてんならいつだって死ねるだろ?

 なら今は生きてアタシらに協力しろ。

 

 今アタシらに欲しいのは敵を足止めする兵士じゃねぇ。

 お前の肩を貸してほしいんだ。

 それくらいできるよな?」

 

 

 

「………」

 

「ウインドラ、

 一緒に行こう?

 俺も二人を背負ってとなると絶対に追っ手に追い付かれるし前にいるヴェノムとも戦えないんだ。」

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこまで言われては仕方ない。

 俺も手伝おう。」

 

 

 

「ウインドラ!」

 

「………急ごう。

 トラビス達が後方を塞き止めてくれている間に…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………今度こそ虫は沸いてこねぇよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「」」」」」」」」」」シーン………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手間かけさせやがって雑魚が…。」

 

 

 

「ユーラス隊長!

 カオス様が見付かりません!」

 

「あぁ?

 そこら辺にぶっ倒れてねぇか?」

 

「いえ!

 どこにも見当たらないようです!」

 

「………あの化け物が消耗しているとはいえこのくらいでくたばる筈がねぇ…。

 どっかそこら辺にいねぇか?

 海とかに隠れてるかもしれねぇ。」

 

「はっ!

 ではそのように捜索させます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………こいつらがここにいてカオスが見つからねぇってことは………、

 一つしかねぇじゃねぇか。

 カス共めが…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ズリズリ

 

「カオス………、

 もうじきダレイオスが見えてくる。

 それまで頑張ってくれ。」

 

「……うん。」

 

「………さぁて、

 この辺でいいか………。」

 

「レイディーさん?」

 

「急にどうした…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらいつまで寝てんだ猿!

 とっとと起きやがれ!」パシン!パシン!

 

 

 

「ちょっ…!

 レイディーさん!?

 そんな無理矢理起こそうとしなくても…!?」

 

「怪我人を雑に扱うんじゃない!

 下手に動かして大事になったらどう責任をとるんだ!?」

 

 

 

「知るか!?

 アタシだって怪我人だ!!

 怪我人が怪我人に苦労かけさせんじゃねぇ!!」パシン!パシン…バシン!!

 

 

 

「「あ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………んっんん…?

 ………痛いんですけど………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネ!

 気が付いたんだね!?」

 

「………カオス………?

 顔を叩かないでくださいよぉ………?」

 

「それは………、

 俺じゃないんだけど………。」

 

「?

 ではどなたが………?」チラッ

 

 

 

 

 

 

「おうアタシだ。」

 

 

 

「!

 レイディー!

 人を起こすのならもう少しマシなやり方と言うものが「アローネ=リム。」…はい?」

 

 

 

「手荒なお越し方をしてしまったのはすまないが目が覚めたのならミシガンに治療魔術をかけてやってくれないか?」

 

 

 

「ミシガンの…?」

 

 

 

「………調べたところどこにも負傷は見られなかったが魔術で吹き飛んだ衝撃でどこか体の中をやられているかもしれん。

 念のため治療魔術を施しておきたい。

 頼めないか…?」

 

「…それでしたらお安いご「待て待て待て!そいつにかけさせるために起こしたんじゃねぇんだよ!」…。」

 

「何を言うんだ!?

 ミシガンは動かすと危険な容態かもしれんのだぞ!?

 こうして目を覚まさないとなるとどこか深刻なダメージを受けてしまったせいだろう!

 女性は男性よりも華奢なのだ!」

 

「紳士的な考えだがとりあえず待て。

 治療魔術なら後でかけてもらえ。

 今治すべきは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 坊やだ。」

 

 

 

 

 

 

「俺………ですか?」

 

「カオス………は意識はあるぞ?

 ここは怪我人を回復させるのが先ではないか?

 やはりミシガンから…。」

 

「余計なマナを消費するなよ。

 まだ逃げ切れた訳じゃないんだぞ?

 ゴリラを治療するなら安全を確保してからだ。」

 

「安全を確保してもミシガンが死んでしまっては何もかも無意味だ。

 それに意識があるものが四人もいるんだ。

 ヴェノムが現れても二人は戦える。」

 

「あー………、

 ちげぇ。」

 

「「「え?」」」

 

「戦闘できるのは一人だ。

 アタシは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで別行動をとる。」



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逆転の発想

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 遂に追撃部隊から強力な一撃を受けカオス一行は吹き飛ばされる。

 生き残った騎士達はカオス達には逃げるように促すが…。


シーモス海道 深夜

 

 

 

「お前は何をするんだ?」

 

「…アタシはお前らと一旦はぐれる。

 後ろの擬きのお仲間だけじゃ心配なんでな。

 ちょっくらお助けしに行ってやるのさ。」

 

「レイディー!

 貴女が一人が行ったところでどうにかできるのですか!?」

 

「………少なくともお前らが生き残る可能性をあげることはできるだろうさ。

 本の一パーセントくらいだろうがな。」

 

「だったら俺達と一緒に行きましょうよ!?

 そんな上がったかどうか分からないような差なら一緒にいた方がマシですよ!」

 

「………間違えた。

 アタシが生き残る可能性が上がるんだわ。」

 

「レイディーさんの…?」

 

「前にも話した通りアタシは自称逃亡のプロだ。

 お前らといるよりかはアタシが一人でいた方がアタシの生き残れる確率は上がる。

 だからこうするんだ。」

 

「そんなこと言ったってうしろにいるのはユーラスとあのフェデールですよ!?

 レイディーさん、フェデールにやられていたじゃないですか!?」

 

「お前こそ何を見ていたんだ?

 アタシはあのフェデール相手にも逃げ回った女だぞ?

 昨日のアレはちょいと油断しただけだ。

 一度奴の太刀筋を見た。

 今度はもう奴の剣には当たらない!」

 

「…こんな二十メートルに満たない狭い道で上手く攻撃をかわせるのか?」

 

「アタシを誰だと思ってる!

 アタシは氷の魔術使いだぞ?

 その気になれば海を凍らせてフィールドを作るくらいお手の物さ。」

 

「ですがレイディー…、

 相手は大人数いるのですよ?

 海を凍らせてもあの大人数のファイヤーボールで氷を溶かされたら………。」

 

「単純に氷と炎で考えるなよ。

 アタシは氷を作りながら氷の上を走れる。

 とろくさい火の粉が飛んできて氷を溶かしてもその頃にはアタシは水平線の彼方さ。」

 

「………確かにお前だけならそれで逃げ切れそうだな。」

 

「そうだぜ、

 心配なのはスピードの遅いお前らだ。

 さっきの魔術で馬を軒並み狩り尽くされちまったんだ。

 更には負傷者二名を抱えての逃避行………。

 全滅するとしたらアタシらが同行していることの方がまずい………。」

 

「「「………」」」

 

「それによぉ?

 お前らヴェノムが効かねぇんだろ?

 それならうまいことヴェノムの群れの中に紛れて身を隠すんだ。

 アタシがいるとアタシだけがその作戦に参加できねぇ。

 アタシはお前らと違ってヴェノムが効いちまうからな。」

 

「だから一人で行くんですか…?

 敵の懐へと…。」

 

「今いる全員が生き残るために最善の策を考えるのは当然のことだろ?

 

 この作戦に欠陥が生じるとすれば三つ……。

 アタシがさっさと殺られてお前らが見つかるか、

 アタシが上手くやって時間を稼いだものの海を渡航中にマナが切れないか、後は………アタシとお前らが上手くやったとしても奴等がお前らが入っていった後のヴェノムの群れをどうするかで成功か失敗かが決まる。

 ヴェノムの中に入っていったとしても奴等がヴェノムを前に迎撃してきたらとにかく逃げるしかない。

 そうなったら坊や………、

 お前がヴェノムを払い除けて四人を守れ。」

 

「…俺が………この四人を………?」

 

「私もウインドカッターで援護を「馬鹿」!」

 

「身を隠せって言ってんのに魔術みたいな目立つ攻撃技を使ってどうする?

 坊やを回復させたのはこいつが一番強くて早くて静かに目立たぬようにヴェノムに対処できるからだ。」

 

「………!」

 

「………そうと分かったら猿は坊やからガキを引き取ってやんな。

 そしてさっさとこの海道から離脱しろ!

 行け!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイディーさん!」

 

 

 

「…何だ?

 時間はあまりねぇぞ?」

 

 

 

「……有り難うございました………。」

 

 

 

「礼なんてされる覚えはねぇ。

 アタシは最有力な作戦を考えただけだ。」

 

 

 

「…それだけでも俺達には非常に大きな力になりました………。

 レイディーさんを見てると………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで昔のおじいちゃんを見ているようです。」

 

 

 

 

 

 

「………!」

 

 

 

「それでは俺達は行きます…!

 ウインドラ、アローネ急ごう!

 レイディーさんの作戦が失敗しないためにも!」ダッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………坊やのお墨付きまでもらっちゃ…、

 アルバートの真似もいいレベルまで来たってことだな。

 奴を越える日も近いのかもな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰を越える日が近いって?」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

「どこのどいつを越えるのか知らんがそんな日は来ねぇよ。

 お前は今日ここでこの…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーラス=オル・バルツィエに埋められちまうんだからなぁ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ユーラスか。

 お前が来たってことはだ。

 

 ………他の擬きの仲間達は………。」

 

 

 

「殺した。」

 

 

 

「………そうかよ。

 ぼっちでこいつら相手しねぇといけねぇのかよ…。

 一人じゃキツいぜ…。」

 

 

 

「心配しなくてもお前も直ぐに奴等の後を追わせてやるよ。

 俺の手で一瞬だ。」

 

 

 

「………お前と………部下だけなのか?」

 

 

 

「ん?

 そうだが?」

 

 

 

「騎士団長様はどうした?

 奴も来てんだろ?」

 

 

 

「フェデールの奴なら来てないぜ?」

 

 

 

「来てない訳ねぇだろ。

 さっきのトラクタービームは奴の魔術だろ?

 そこら辺にでも隠れてんのか?」

 

 

 

「…この場は俺一人で足りるんだよ。

 フェデールの野郎は俺達を送って早々に帰宅した。」

 

 

 

「………つーことはバルツィエはお前一人なのか?」

 

 

 

「あぁ。

 俺と部下達さえいればお前らを全滅させられるしな。」

 

 

 

「………そうか、

 そいつぁ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 助かるぜ!」パァァッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………本当にレイディーは一人で大丈夫なのでしょうか…?」

 

「…なんとも言えないが昨日の彼女とフェデールの戦いを見る限りだと彼女は一人でいたときの方が戦いやすいだろう。

 地面を凍らせて戦うのなら俺達がいても足を滑らせて邪魔になるだけだ。

 彼女のように滑りなれていないと俺達が敵のいい的になる。

 俺達に気を散らして戦うよりかは彼女に任せた方がいい。

 俺達は………万全な状態とは言いがたい………。」

 

「いえ、そうではなく………、

 レイディー一人で逃亡を謀ったのではないかと………。

 彼女もそのようなことを仰っていましたし…。」

 

「そこは心配いらないんじゃないかな?

 レイディーさんあぁ見えて面倒見もいいし昨日もそんなに悪い人じゃないって思ったでしょ?」

 

「そうですね…。

 前の時の印象ではそうは感じませんでしたが昨日は本当に別人のようでした…。」

 

「…人目では相手の人格など量れるものではないな。

 人の良さそうなものでも腹の内では悪事を企むものもいるしその逆もある。

 彼女は後者なのだろう…。」

 

「悪分っていても心は優しい人………、

 レイディーはそうでしょうけど外も中も人に害を及ぼす方はこの世には大勢いますから…。」

 

「…その筆頭はバルツィエだな。

 奴等が誰かに善行を働くところなど見たことがない…。」

 

「………」

 

「…すまない。

 カオスのことではないんだ。

 カオスやアルバさんはバルツィエとは違う人種だ。

 お前達はそのままでいてくれ。」

 

「カオスは私やタレス、騎士団の皆さんをお助けしました。

 彼等とカオスは別ですよ。」

 

「………有り難う。」

 

 

 

「………見えてきたぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「ア”ア”ア”ア”ア”………」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェノムの群れだ………。」



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ユーラスとレイディーの対話

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 追撃部隊からの攻撃を受けてカオス一行は窮地に陥るが残った騎士とレイディーが時間稼ぎをするうちにカオス達をヴェノムの群れの中まで逃亡させてくれることになった。

 だが騎士達はユーラスに破れ残ったレイディーはユーラスと…。


シーモス海道 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドドドドドドド!!

 

 

ス~!

 

 

 

「どうしたぁ?

 威力ばっかで命中が不安定だな!

 そんな攻撃じゃ当たらねぇぞ?」ス~!

 

 

 

「………」

 

 

 

「そろそろ攻撃に移らせてもらおうかな!

 アタシ一人でもお前らを「お前。」…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さては囮だな…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

「時間稼ぎが目的なんだろ?

 さっきから俺の攻撃を避けてはちょこちょこ攻撃を飛ばしてくるがどうも俺を本気で狙っちゃないねぇ…。

 部下達もなかなかカオス達を連れてこねぇところを見ると残党にでも残りのワクチン掴ませてカオスをダレイオスへ逃がす算段なんだろ?」

 

 

 

「………バレちまったか………。」

 

 

 

「バレバレだっつーの。

 勝ち目のない奴等が次々向かってくるから自棄でも起こしたのかと思ったが全員して殺意が抜け落ちてるんだからなぁ…。

 つまらねぇ小細工に付き合わされたもんだぜ。」

 

 

 

「…それが分かったところでもうカオス達はとっくにヴェノムの群れの中だ。

 今更追いかけてもお前らはヴェノムの中からカオスを捜さなきゃならん。

 ワクチンもなしにどうやってあの群れを「ワクチンならあるぜ?」…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「基はうちで開発しているワクチンだ。

 常備しているに決まってんだろ。」

 

 

 

「………そりゃそうだよな。」

 

 

 

「それに俺はさっきワクチンを使わなくてもお前ら諸ともヴェノムを吹き飛ばしたの見てなかったのか?

 カオスを炙り出すのにワクチンなんて必要ねぇよ。

 いるとしたらオレンジグミだけで事足りる。」

 

 

 

「ヴェノム相手に余裕ぶっ濃き過ぎだろ。

 いかにお前の魔術が強大でヴェノムの群れを吹っ飛ばせるくらい強いのだとしてもヴェノムがそれで死ぬ筈ねぇだろ。

 奴等が何を食ってるのか知ってんのか?」

 

 

 

「マナ………だろ?

 普通の自然のマナ。

 奴等はそれに引かれて動く。

 お前らを身動きできないようにするのにも一役買ってくれたんだ。

 それぐらい知ってる。」

 

 

 

「アタシらを追い詰めるのを手伝ってくれた協力者をぶっ飛ばすのかい?

 冷たい野郎だ。」

 

 

 

「協力者だぁ?

 そいつは違うだろ。

 奴等はこの俺に利用されただけに過ぎない駒だ。

 俺の完璧な作戦でお前らを取り囲み潰す計画のな。」

 

 

 

「…自分のもの顔で語ってるがどうせこの作戦考えたのフェデールの奴なんだろ?

 お前ごときにこんな巧妙な手口を思い付く脳があるかよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そう腹が立つようなことを言うなよ。

 ぶっ殺したくなる。」

 

 

 

「最初からそのつもりのくせにいちいち脅しをかけるなよ。

 口で勝てないことを証明しているようなもんだぜ。」

 

 

 

「力で勝ちゃそんなもんどうだっていいだろうが。

 弱い奴等はそれで圧し黙らせられる。」

 

 

 

「それで圧し黙らせられなかったから反発した連中が出てきたんだろうに。

 力で物事を全て解決するのなんざ不可能だってことをお前らの頭は理解できないのかねぇ?」

 

 

 

「反発しようが逆らおうがどうってことない。

 力でまたねじ伏せて従わせるだけだ。」

 

 

 

「ならその繰返しだな。

 無限にその連鎖が続くだけ。

 お前らが真に世界を統べることなんて一万年経っても無理だ。」

 

 

 

「できねぇと思うか?

 俺達がこんなに強い力を持っているのに。」

 

 

 

「お前らのやり方じゃどんなに頑張っても無理だ。

 そんなやり方じゃ国が滅びる未来しか見えない。」

 

 

 

「どうして国が滅びるんだよ?

 敵を全部ぶっ潰せば滅びる理由が無くなるぜ?」

 

 

 

「子供の理屈だな。

 敵さえいなければだなんてそんな軽い考え止した方がいいぜ?

 国はお前らの他にも国民がいて成り立ってんだ。

 その国民全てがお前らに反抗心を抱いたとして向かってきたらどうすんだ。」

 

 

 

「…そんなもん全部皆殺しにすれば済む話じゃねぇか?」

 

 

 

「そうかいそれでお前らはどうやって食っていくんだ?

 お前らのことを嫌いな奴等全部が消えたらお前らしか残らん。

 そんな世界でお前らはどうやって生きていくってんだ?

 資材は?

 食料は?

 物流は?

 お前らバルツィエみたいな脳筋共が農業なんてできるのか?」

 

 

 

「食うのになんて困らねぇだろ。

 デリス=カーラーンには数多くの生物がいる。

 そいつらが尽きない限り俺達の時代は続くんだよ。」

 

 

 

「そんな時代確実に直ぐ滅ぶさ。

 ヴェノムが近い将来この世界を覆う。

 その時になって残るのはお前らの封魔石で守られた虚しい世界のみだ。

 

 科学だけで世界は支えられない。

 木も森も海も全ての自然がヴェノムに汚染されて砂漠と化す…。

 生きているのはお前らのみ。

 あらゆる調理法もその過程で無くなる。

 閉ざされた世界の中でお前らはお前らとお前らに従う奴等だけで生きていかなくちゃならねぇ。

 そうしたら人口の割合に対して食糧の需給にいつか限界が来る。

 そうなった時こそお前らの最後だ。

 流石にお前らの技術でも存在しなくなった肉や魚を作り出したりは「そうなったら」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうなったら人間を食えばいいだろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それしか肉がないにしてもそれはねぇだろ。

 モンスターじゃあるまいし…。

 仮にも世界を盗ろうって奴等が肉に困って人肉だと?」

 

 

 

「まだ食ったことはねぇがな。

 そうなったら俺達は人肉を食って過ごしていくだろうな。」

 

 

 

「………ダメだ言葉が見つからねぇ。

 …嘘だろ?

 冗談半分で問い詰めたらヤバイもん堀当てちまった気がするぜ。

 本当に人肉を喰らうつもりかお前ら?」

 

 

 

「行く行くはそうなっていくんだよ。

 そのために色々としてんだ。」

 

 

 

「人肉を調理する方法でも探してんのか?」

 

 

 

「どうなんだろうな?」

 

 

 

「………擬きがお前らの施設の奥で人体実験が行われていたとか言ってたな………。

 もしやお前ら………そういう実験でも………?」

 

 

 

「…そこから先はお前には必要ねぇだろ。

 もうそろそろいい時間だ。

 カオスを追い掛けねぇと見失っちまう。」

 

 

 

「!

 もう出遅れだって言ったろ?

 カオスは既にダレイオスへと渡ったんだ。

 追い掛けていっても徒労に終わるだけだ。

 無駄なことは止せ。」

 

 

 

「お前が言い訳がましく必死になって止めてくるあたりまだその辺にいそうだな…。

 馬はさっきの魔術で殆ど潰した。

 ワクチンも残りがないからカオスが一人で使って逃げてんだろ?」

 

 

 

「ワクチンなら………まだアタシが持ってるぜ。」

 

 

 

「ほ~う?

 ってことはもうお前とカオスしか残ってねぇんだな?

 お前レイディー=ムーアヘッドって言うんだろ?

 フェデールが言ってたぜ。

 最優先にカオスの捕獲とお前を殺せとな。

 お前がいると大衆がお前らに引き込まれる可能性があるそうだ。」

 

 

 

「へぇ…

 随分と大物に成り上がったもんだなアタシも。」 

 

 

 

「俺の予測じゃ少ないワクチンを取り合って醜い争いが起こると思ったんだがそうはならずにお前とカオスが逃げることになった。

 そこで小回りのきくお前が足止めに来たんだろ?

 

 

 

 

 

 

 足止めが来るってことはだ?

 カオスがまだ逃げ切れてないってことにならねえか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだな…。」

 

 

 

「当たりじゃねぇかよ。

 ほら見ろ。」

 

 

 

「だが追い掛けて追い付いてお前はどうするんだ?

 昨日の今日でお前がアイツに敵うのか?

 フェデールも帰ってバルツィエはお前一人だ。

 アタシらは大軍で来ると想定して逃げの一手に努めたんだ。

 それがお前一人となるとカオスはお前を踏み倒してからダレイオスに渡るだけだ。

 お前もわざわざ黒星を二日連続でつけたくはないだろ?」

 

 

 

「………やっぱりな。」

 

 

 

「やっぱり?」

 

 

 

「お前が頑なに俺を向かわせたくないようにすることとさっきの魔術で確信した。

 

 

 

 カオスは今まともに戦えない状態にあるんだな?」

 

 

 

「…!

 こいつ…!?」

 

 

 

「昨日のアイツなら俺の魔術を正面から受けて押し返すくらいのことはやったさ。

 それが無かったってことは今日の朝から動き続けてカオスはマナがもう残ってねぇんじゃねぇか?」

 

 

 

「だったらヴェノムの群れを抜けることすらできねぇだろうがよ?

 カオスはまだ健在だぜ?」

 

 

 

「………ならヴェノムの群れを切り抜けるだけの体力は残ってるんだな?

 逆に考えればヴェノムは倒せるが俺と戦うのだけは避けたい程度にしか力が残っていない。

 そう言うことだろ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「来る途中でグライドを見つけたぜ?

 アイツやったのもカオスだろ?

 そんで砦を落としたのもカオスの力があってのことなんだろ?

 ほぼアイツに頼りきってここまで来たんだ。

 そうじゃなければお前らが拠点拠点を抜けるのが早すぎる。

 ずっとカオスは戦いっぱなしってことだ。

 それならマナもそう多くは残っていない筈だ。

 だから俺の連撃を止めきらなかったんだろ?」

 

 

 

「………案外頭は悪くないらしいな。

 そこまで辿りつかれるとはな。」

 

 

 

「話の流れを読むのは得意なんだよ。

 自分で話を作ったりするしな。」

 

 

 

「…一つだけ読みきれなかったところはあるがな。」

 

 

 

「…何をだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アタシがただアイツらの為だけにお前と戦闘してたと思うか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥゥ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェノム…?」

 

 

 

 

 

「ヴェノムは大きなマナに引き付けられる。

 こんなとこでそんな魔力使い続けてればヴェノムはお前へと引き寄せられる。

 カオス達が逃げる時間を稼ぐと同時にアタシはヴェノムがお前に寄ってくる時間も稼いでいたんだ。

 後はそいつらに任せてアタシはずらからせてもらうぜ。」ス~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負け惜しみか。

 こんな奴等に俺が止められる訳ねぇだろうが…。」パァァッ



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切迫

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ダレイオスへと亡命することになっていたダリントン隊とバーナン隊の騎士達は追撃部隊ユーラスの手によって全滅させられてしまった。

 残っているのはカオス、アローネ、タレス、ウインドラ、ミシガン、レイディーの六人だけとなったが…。


シーモス海道 深夜

 

 

 

 

 

 

「ユーラス隊長、

 女が逃げますがよろしいのですか?」

 

 

 

「放っておけよ、

 殺せたら殺しとけって指令だ。

 どうせアイツ一人じゃ何もできねぇよ。

 カオスがいなけりゃ大衆も湧かねぇだろ。

 カオス一人抑えりゃいい。」

 

「ではカオス様の追跡ですね。

 それなら先ずはヴェノムを排除します。」サッ

 

「お前らじゃ時間が掛かりすぎる。

 俺が殺る。」

 

「ユーラス隊長自らですか?

 ではワクチンをどうぞ。」

 

「ワクチンなんか使ったらヴェノムが全部死滅するだろ。

 そうなったらカオスが逃げやすくなるだけだ。」

 

「ですがユーラス隊長の魔術でヴェノムを攻撃してしまっては海にヴェノムが巻き散ります。

 そうなると海洋資源が汚染されてヴェノムの蔓延化が急速に進んでしまいますよ。

 今のご使用した魔術でもかなりのヴェノムが海に…。」

 

「そんなもんどうってこと………、

 

 

 

 あぁいや………、

 それもそうだな。

 お前らは困るんだったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕方ねぇ。

 ワクチン使うか。」プスッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ザンッ

 

「………」ズリズリ

 

「………フゥ」スタスタ

 

 

 

「………二人共大丈夫?」

 

「…お前こそ人の心配してるが剣のキレが落ちてきてるぞ。」ズリズリ

 

「俺は………。」

 

「カオスも本調子ではないのでしょう?」

 

「そうだけど…。」

 

「レイディーが時間を稼いでくれているんだ。

 今は無理をしてでも前に進むしかない。」

 

「………そうだね。」

 

「レイディーは………無事に逃亡できたのでしょうか?」

 

「………」

 

「………分からん。」

 

「…先程まで後ろで魔術の攻防が続いていましたが今は音が聞こえなくなりました…。

 ということは………。」

 

「「………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…レイディーはバルツィエに「アローネ」…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイディーさんは無事だよ。」

 

 

 

 

 

「カオス…、

 ですが…。」

 

「音が聞こえなくなったのはレイディーさんがもう十分に俺達が逃げ切れたと思ったのかそれかマナが少なくなって予定通りに逃げているところなんだよ。」

 

「………だといいのですが…。」

 

「囮を買って出てくれたんだ。

 俺達はダレイオスへと辿り着かねばならん。

 この群れももうじき抜ける。

 そしたらダレイオスで彼女を待つとしよう。」

 

「………はい。」

 

 

 

 

 

ア”ア”ア”………

 

 

 

 

 

「………魔神剣ッ!」ザザッ!

 

 

 

ア”!………ア”ア”ア”…

 

 

 

「…あれ?」

 

「…どうしたカオス?

 ゾンビ程度なら一撃で倒せただろう。」

 

「…そうなんだけど。」ザンッ

 

「…ア”ア”ア”…」ガシッ

 

「うわっ!」ドサッ

 

「カオス!」

 

 

 

「ウインドカッター!」ズバッ!

 

「ア”…!」ドサッ

 

「………あっ、有り難う………。

 アローネ。」

 

「いえ………、

 カオス…?」

 

「………」

 

「…どうやらお前も限界のようだな。

 マナを残り全て使いきったようだな。」

 

「………そうみたい。」

 

「…では私が代わりましょう。

 タレスをお願いします。」スッ

 

「………分かった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………俺は何をしているんだ。

 

 

 

俺には戦う力しかないのに………。

 

 

 

その戦うことすらできなくなるなんて………。

 

 

 

こんなんじゃあの頃と何も変わってない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ダレイオスの砦が見えてきたな。

 あそこまで行ったらマテオのバルツィエも追い掛けては………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…あいつは!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ジャイアントヴェノム………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガガガガガ…………ガシャァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………今度はダレイオスの砦の門が開いたな。

 門を開けてくれたのは感謝したいところだが………。

 そこを退いてほしいな。」

 

「ジュゥゥゥゥゥゥ!!」

 

「………通行料が必要らしいな。」

 

「そんなものはありません!

 退いてくれないのでしたらそこを押し通るだけです!」

 

「………待て!

 アローネ=リム。

 あの大きさのヴェノムは一人では危険だ。

 あそこまで成長したヴェノムはバルツィエの………、

 アルバート=デュランですら苦戦する程だった。」

 

「………小さいときのこと覚えてるんだね。

 おじいちゃんがあれに殺られたって………。」

 

「…俺にとっては忌まわしい記憶だ。

 あいつを前に俺はアルバさんを置き去りにして逃げてしまった…。

 強さを渇望する俺が子供の時とはいえアルバさんを置いて敵前逃亡など………!」

 

「…おじいちゃんはウインドラを逃がしたって言ってたよ。」

 

「…そういうことにしてもらってたのか………?

 

 

 …だが今度はそうはいかない!

 今の俺にはこいつを倒す術がある!

 このワクチンで今度は俺がお前を倒すぞ!

 ジャイアントヴェノム!!

 あの時の個体とは違うだろうがもう俺はお前から逃げない!

 貴様を倒して俺の悪しき記憶を払拭してやる!」

 

「カオス!

 タレスとミシガンをお願いします!」

 

 

 

 

 

 

「二人とも………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 

 

「………くっ…!

 ワクチンがあってもこのサイズではなかなか削りきらないな………。」

 

「以前の時はここまでは苦戦しなかったのですけど…!」

 

「お前達の攻撃がワクチンよりも有効性があるようだがダレイオスから次々ヴェノムが集まってきてはこいつに吸収されていく…!

 この流れを絶ちきらねば………!」

 

「でもどうすれば………!?」

 

「………!

 ………いかん、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワクチンが………切れる………。」

 

 

 

 

 

「「……!?」」

 

 

 

「…まだ最後のワクチンが残ってはいるが……、

 こいつを失うのは………!」

 

「…でしたら私が海を凍らせて皆で遠回りしてダレイオスに…!」

 

「そうするか………、

 氷属性は得意なのか…?」

 

「…魔術は使えますが得意という程では………。」

 

「…だったらあまり遠くの沿岸には行けそうにないな。

 砦を迂回する程度でいい。」

 

「えぇ。」

 

「カオス、

 話が決まった。

 ミシガンとその子を連れて海を渡るぞ。」

 

「うっ、うん………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザリッ、ザリッ、ザリッ……

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥゥ…ボチャンッジュゥゥゥゥゥゥ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………慎重に進め。

 氷の上は滑りやすい上に表面しか凍らせてない。

 滑って氷に衝撃を与えたら海に落ちるぞ。」

 

「ヴェノムも追い掛けてこようとはしていますが氷と接触しても氷を溶かして海に落下していきますね。」

 

「………この周域の海鮮資源が気になるところだがこうもヴェノムが蔓延しているとなるとこの辺り一帯は既に死んでいるようだな…。」

 

「…ヴェノムがいるのに逃げ出すなんて………。」

 

「追われている身なんだ。

 今は駆逐してはいられない。」

 

「……ヴェノムを倒す力があるのに俺は………。」

 

「それを言うのでしたら私もですよ………、

 

 

 

 ………でもこのヴェノムの数………、

 ダレイオスは既にヴェノムで滅びているのでしょうか…?」

 

「…それは………ない………、

 ………と言いたいところだがダレイオスの情報はマテオでも出陣することが許されているバルツィエが全て掌握していた………。

 俺達もダレイオスがここまでの状況に陥っていたとは思わなかった………。」

 

「それじゃあ…、

 俺達はどこに向かえば………。」

 

「……そうだな。

 先ずはダレイオスの王都に「ジュゥゥゥゥゥゥ!!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキンバキンバキン!!ジュゥゥゥゥゥゥ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ジャイアントヴェノムが!?」

 

「あのサイズのくせに氷に乗ろうとしているのか!?」

 

「あの大きさでは私の氷が割れてしまいます!」

 

「それだけではない!

 津波が起こるぞ!?」

 

「急いで陸に…!」ズドドドドド!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥゥ………!!」プシュゥゥゥ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャイアントヴェノムが…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぜ?

 

 

 

 カオス!」



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ユーラスとの駆け引き

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 全滅してしまったダリントン隊とバーナン隊のために自分達だけでも生き延びて見せようするカオス達だったがとうとうユーラスに追い付かれてしまう。

 ユーラスはカオス達に…。


トリアナス砦 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とうとう追い付いたぜカオス!」

 

 

 

「ユーラス!?」

 

「追撃してきていたのはやはりお前だったのか…。」

 

「あの方はカオスに倒された………。」

 

 

 

「昨日の………一昨日の昼間ぶりだなぁ!

 会いたかったぜ?

 カオスさんよぉ?」

 

 

 

「…俺は別に会いたくはなかったけどね………。」

 

「冷たいこと言ってくれるじゃねぇか?

 俺の頭はおかげで逆に燃え上がりそうなんだがよ!

 ストーンブラスト!!」ズドドドドド!!

 

 

 

「まずい!?

 氷が砕けるぞ!

 早く岸に上がれ!」

 

「でもヴェノムが…!?」

 

「構わずに突っ込め!!」タッ!

 

「…ッ!」タッ!

 

「…!」タッ!

 

 

 

「はぁ?

 …ヴェノムに突進しやがった………。

 どれだけ焦ってんだよ。

 

 そんなに俺が恐いのか?

 

 そんなに俺と戦うのが嫌なのか?

 一昨日負かした俺が?

 やっぱ戦えるだけの体力もマナも残ってねぇのかよ。」

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥゥ………

 

 

 

「うぜぇな!

 そこを退け!

 お前ら!」

 

 

 

ジュゥゥゥゥ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「消し飛ばされたいようだな。」パァァッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボチャンッ!ジュゥゥゥ…!!

 

 

 

「あつ…ッ!」バッ

 

「……ッ!

 大丈夫か!?」バッ

 

「私は無事です!

 ミシガンとタレスは!?」バッ

 

「タレスはなんとかヴェノムに触れないようにしたから平気!

 ミシガンは!?」

 

「ミシガンも無事だ。

 それよりも奴め!

 ダレイオスに入ったというのにまだ追ってくるとは…!」

 

「もう見つかってしまいました!

 早く隠れられそうな場所へ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

 

 

ビチャビチャッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうはいかねぇぜ?

 日付も変わってんだ。

 鬼ごっこはもうここらで終わりにして早く帰りてぇんだよ。」

 

 

 

「…カオスに一度倒されたとはいえこいつもバルツィエの一員だったな。

 仕事が早い奴め。」

 

 

 

「………てっきりカオス一人が逃げてんのかと思ったら随分と人数がいるじゃねぇか。

 ひい、ふぅ、みい………五人か。

 騎士じゃねぇな。

 フェデールの奴が言ってたカオスの仲間達とカオスの偽者か。

 殺り甲斐があるじゃねぇか。」

 

 

 

「………レイディーさんはどうしたんだ?」

 

 

 

「レイディー?

 さっきの女ならどっか行ったぜ?

 一時お前らが逃げる時間稼いでな。」

 

 

 

「………よかった。」

 

「レイディーも無事だったのですね…。」

 

 

 

「よく他人の心配してられるな?

 これからお前らが無事じゃなくなるんだぜ?

 少しは怯えたらどうだ?」

 

 

 

「…一昨日のあの戦績でよくそうも威張れるな。

 貴様がカオス一人にどうなったか忘れたわけでもあるまい。」

 

「………」

 

「そうです。

 どうやら貴方以外にはいらっしゃっていないようですが他の方々はどうしたのですか?」

 

 

 

「部下達は置いてきたぜ。

 俺が暴れるのに邪魔だからな。」

 

 

 

「…来ているのはお前一人か。

 バルツィエは能力上連繋をとれないのは痛い弱点だな!

 そのせいでお前らは勝てない相手にも単体で挑まなければならない。」

 

「戦場において数で勝負することは立派な戦術の一つです!

 単騎で挑んでこようとも陣を分けて戦う以上はお互いの総合戦闘力で勝敗が決します!

 今の貴方では………カオス一人にすら劣る!

 ここは退いておくことをお勧めしますよ!」

 

 

 

「おーおー!

 必死だなぁ………。

 そんなに俺に帰ってほしいのか?

 だったら力ずくで帰らせてみろよ?

 俺より上回ってるんだろお前らの総合戦闘力とやらはよぉ?」

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「…来ねぇのか?

 俺なんかカオス一人で倒せるんだろ?

 どうした?

 来いよ?

 ………それとも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう俺と戦えねぇぐらいにへばっちまったのか?」

 

 

 

 

 

 

「…お前………、

 そのことに気付いて………!?」

 

「とうしてカオスのことを貴方が…!?」

 

 

 

「マナ切れだってのはここに来るまでになんとなく分かってたんだよ。

 お前らの仲間の態度や俺のストーンブラストの対処とかでな。

 後はグライドとも戦ってたみたいだしな。

 

 お前らは休まず猛スピードで移動し続けていた。

 そのスピードを維持し続けられた理由はカオスなんだろ?

 カオスが一人で全部片付けちまったからここまで進んでこれた。

 ………だがよぉ?

 お前がどれだけ人の真似が得意ですぐ会得しちまうんだとしてもそれを全部一人でこなしてちゃバルツィエの天才の血を持ってたとしても確実にへばる。

 フェデールですら保険に従者を連れてるんだ。

 お前には保険になる奴がいなかったのか?」

 

 

 

「…俺達ではその保険にはならないと言いたげだな。」

 

 

 

「偽者君よぉ?

 お前が二番手なんだろ?

 俺達を相手にラーゲッツレベルのお前が二番手じゃあ足りねぇも足りねぇ!

 一人だけ飛び抜けた奴がいたって戦争はできねぇんだぜ?

 よくそんなんで俺達に戦争吹っ掛けようと思ったな!」

 

 

 

「…そうせざるを得なかっただろう!

 何もしないで貴様等の家畜になるなどあり得ない!!」

 

「バルツィエは………、

 どうして国の人々から慕われたアルバート様のように成れなかったのですか!?

 貴殿方もアルバート様がいた時代にアルバート様と同じ道を歩んでいたのでしょう!?

 それなら何故!?」

 

 

 

「何もかも思うがままにできる力を持っていてそれを公使しない方が腐るってもんだぜ?

 あいつの時代には俺達はストレスで死にそうになってたんだ。

 むしろ俺達が何故アルバートの時代、そんなゴミ共と同じ目線で生活しなきゃならねぇ?

 それこそあり得ん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………もういいよ。

 おじいちゃんがいなくなっておかしくなったバルツィエに何を言っても分かってもらえない………。

 

 なら戦って勝って分からせるしかないんだ。」

 

 

「カオス………、

 こいつの相手は俺が。」

 

「カオスはまだ腕が………。」

 

 

 

「大丈夫。

 アローネのヒールでもう大分戦えるとこまで回復したから…。

 こいつの相手くらいなら腕が折れてたってできるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………こいつは予想したよりもかなりいい条件だな。

 マナ切れを起こしている上に手負いでおまけに余計なお荷物までいやがる。

 こいつぁ…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺にとって最高の晴れ舞台になるなぁ!!」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィンッ…!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」ググクグ…

 

 

 

「どうした?

 前みたいにカウンターはしないのか?」ググクグ…

 

 

 

「………」ググクグ…

 

 

 

「本当に力がでないらしいな…。

 こっちは補助系魔術も使ってんだぜ?」ググクグ…

 

 

 

「…アンタにはマナなんか使わなくたって勝つ!」ググクグ…

 

 

 

「見上げた目標だな。

 一度俺を倒したからって俺を完全に下に見てんのか?

 その割には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全然手応えを感じねぇぞ!!」グンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?」グワンッ!

 

 

 

「カオスが押されている…!

 俺も助けに入ろう!」ダッ

 

「私も援護します!

 『我らに力の加護を!シャープネス!』」パァァ…

 

 

 

「駄目だ二人共!

 こいつの相手は俺が…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寝てる奴から離れて俺に向かって来てよかったのか?」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?」「飛葉翻歩か…!」「ミシガン!タレス!」

 

 

 

「おっと!

 動くな?

 動くとこの女と子供がどうなるか分からねぇぞ?」

 

 

 

「ユーラス!

 今戦ってるのは俺だろ!?

 二人を開放しろ!」

 

「意識のない方を人質にとるなどなんと卑劣な…!?」

 

「その女性に手をあげれば貴様を殺す…!」

 

 

 

「卑怯だと思うなよ?

 そっちが数で攻めてくるんならこっちもそれなりの対応をさせてもらっただけだ。

 敵の弱点を突くのも戦場での戦術の一つだと思うが?」

 

 

 

「…やり方が汚い!」

 

「なんという卑劣漢なのでしょう…!」

 

 

 

「さて………、

 人質ができると後は………、魔神剣ッ!」ザンッ!

 

 

 

「…ぐっ!」ザスッ

 

「ウインドラ!「動くな!」…!?」

 

 

 

「今からお前らは俺の魔神剣の的だ。

 しっかりと突っ立ってろ。」ザンッ!

 

 

 

「うっ…!?」ザスッ!

 

 

 

「アローネ!?」

 

 

 

「こいつぁ案外といけるな?

 その調子で俺の魔神剣を耐え続ければこいつら開放してやってもいいぜ?」

 

 

 

「………本当だな?」

 

 

 

「あぁ、

 お前らが耐えられればな。」

 

 

 

「………分かった。

 なら俺から的になろう。」

 

「ウインドラ…!

 無茶だ!

 あんな魔神剣を受け続けるなんて!?」

 

 

 

「あぁ、

 確実に罠だが相手から条件を出してくる以上始めのうちはユーラスも条件をすぐには変えないだろう。

 ………奴が魔神剣を撃ち続けてマナが低下するまでの辛抱だ。

 そこが狙い時だ。」

 

「その前に貴方が倒れてしまいます!

 どうかこのような無茶は「無茶でも」…。」

 

 

 

「…無茶でもミシガンを俺の手で守れるんだ。

 このくらいこなすこともできずに彼女を守れるか。」

 

 

 

「ウインドラ……!」

 

 

 

「………ユーラス。

 俺がお前の的になる。

 さぁ、始めてくれ。」

 

 

 

「いいのかよ?

 こんな馬鹿げたルールに正面から乗って。

 お前らの勝機がまるっきり見えねぇと思うが?」

 

 

 

「…何だ、お前が不安なのか?

 お前にとって絶好のゲームじゃないか?

 お前は一切ダメージを負わずに魔神剣を撃ち続けるだけじゃないか?

 それともお前も俺達に追い付いてくるまでにマナを消費し過ぎてもうマナが残ってないのか?」

 

 

 

「すげーな。

 この状況で挑発してくるなんてすげーとしか出てこないぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …いいぜ?

 やってやるよ。

 

 

 

 俺のマナが切れるのが早いかお前らがくたばるのが早いか根比べといこうか!」



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カオス逮捕

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ダレイオスへと渡ることに成功したカオス達だったがそのダレイオスの地にてユーラスに追い付かれてしまう。

 カオス達は手負いしかいない状況でどう切り抜けるのか…


トリアナス砦 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ッ!」ザスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………結構持つんだな。

 もう立ってるのがやっとだろ?」ザンッ!

 

 

 

「……………」ザスッ!

 

 

 

「(ウインドラ………!)」

 

「(もう…喋ることすら………。)」

 

 

 

「………段々飽きてきたなぁ…。

 思ったよりも声を上げねぇしよぉ…。

 そろそろ止めるか…?」

 

 

 

「!

 じゃあ…。」

 

 

 

「…俺の負けだ。

 その偽者野郎には負けたぜ。

 ほらよ。」ポイッ

 

 

 

「タレス!ミシガン!」

 

「では彼にヒールを…!?」ドスッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ッ!!」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウイン………ドラ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ほいっと。」ブシュッ!

 

「………ッハ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ウインドラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」ダダダッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん?

 んんん………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして!?

 ………どうしてウインドラを刺したんだ!!?」ガバッ

 

「」

 

 

 

「あぁ?

 だってもともとこいつらを殺しに来てんだぜ?

 刺すくらいするだろ?」

 

 

 

「あんなに散々切り裂いて苦しませてから止めを刺すなんて………!!」

 

「ウインドラさん!!

 しっかりしてください!!

 『癒しの加護を我らに!ファーストエイド!』

 ………!?」パァァッ

 

「アローネ!

 ウインドラの容態は………!?」

 

「……傷口が塞がりません…!

 傷口が多すぎて治癒術でもこれは………!」

 

「ウインドラは助からないの…!?」

 

「………」

 

「どうなの!!?」

 

「………私の治癒力では………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう手遅れとしか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そんな………、

 ウインドラが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ウインドラ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 ミシガン…!?」

 

 

 

「………ウインドラ………、

 どうしちゃったの………?」

 

 

 

「………ウインドラは………。」

 

 

 

「…!

 ウインドラ怪我してるじゃ…!

 ………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうしたの?

 ウインドラ………、

 何でそんなに怪我してるの………?

 ………私が………、

 知らない間に何があったの………?」

 

 

 

「………それは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「反応の鈍い女だなぁ!

 もっと悲鳴あげたりするとかしたらどうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アンタがやったの………?」

 

 

 

 

 

 

「回り見渡してみろよ。

 他に誰がやるってんだ?」

 

 

 

「………何でこういうことするの………?」

 

 

 

「そいつが俺達の敵だからに決まってんだろ。」

 

 

 

「……同じ国の騎士だったんじゃないの………?

 それをこんな………。」

 

 

 

「そいつらが俺達に牙を剥いた。

 だから殺った。

 殺りに来て殺した。

 そんだけのことだ。」

 

 

 

「………ウインドラや他の人達はもう戦うことを止めて逃げてたんだよ?

 ………それをこんな外国まで追い掛けてくる必要あった………?」

 

 

 

「必要あったからこうして追いかけてきたんだろうが。

 そいつらは前々から俺達に反抗的だったんだぜ?

 目障りなだけならまだしも国の意向に背いて俺達に挑んできたんだ。

 ちょっかいかけるだけかけてトンズラこく馬鹿共にはきっちりとどういうことをしでかしたのか後悔させてやらねぇとな。」

 

 

 

「………それだけ………?」

 

 

 

「………他に理由が要るか?

 それくらいで追撃するには十分な理由だと思うが。」

 

 

 

「………そんな理由でウインドラはこんな目にあわされたの………?」

 

 

 

「………おっ!

 そういやそいつラーゲッツぶっ殺してたな!

 それも追い掛けてきた理由だ!

 カオスばっか意識しててすっかり忘れてたぜ!

 ハハハ!」

 

 

 

「………ないでよ………。」

 

 

 

「あ?

 聞こえね「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」!」ダダダッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このぉッ!!」ブンッ!

 

 

 

「おぉ?

 危ねぇな?」ガシッ

 

 

 

「…!

 離せぇぇッ!!」ググッ

 

「ミシガン!」

 

 

 

「荒々しい女だな。

 嫌いじゃねぇぜ?」

 

 

 

「……アンタなんか!

 …アンタなんかアタシが殺してやる!!」グググ!

 

 

 

「力強ぇなお前。

 けどこのぐれぇじゃ俺の手は振りほどけないぜ?」

 

 

 

「………!!

 この人殺し!!」

 

 

 

 

 

 

「アローネ!

 タレスと………ウインドラを頼む!」ダッ

 

 

 

「カオス…!」

 

 

 

 

 

 

「ミシガンを離せぇぇぇッ!!」ブンッ

 

 

 

「お?」サッ

 

「………いつ…!」グイッ

 

 

 

「くそっ!

 その人を離せユーラス!

 ウインドラは………、

 お前が出したゲームをクリアしたじゃないか!?

 もう俺達のことは放っておいてくれ!!」

 

 

 

「………ゲーム?」

 

「確かにそいつは俺の出した条件をこなしきったが俺はそれで一度こいつを離したろ?

 そんでこいつがまた自分から捕まりに来た。

 俺は何もルールは破ってないと思うが?」

 

 

 

「じゃあもういいだろ!?

 俺達はもうマテオのことなんか知らない!

 お前達にだって二度と逆らったりしない!

 ダレイオスでバルツィエとは関わらずにいるからだから…!」

 

 

 

「二度と逆らわないか…。

 俺達は一度でも逆らった奴を見逃したことはねぇんだよなぁ…。」

 

 

 

「俺やアローネ達は別にウインドラの部隊の人達と共謀してお前らを攻撃した訳じゃない!

 俺が一昨日お前と戦ったのは友達のウインドラが殺されそうになってたからそれを助けに入っただけなんだ!

 そのウインドラの仲間の人達も殺してきたんだろ!?

 だったらもうウインドラにはお前達に…!

 バルツィエに攻撃するようなことはさせない!

 大人しく俺達はどこか…!

 どこか誰も知らないような土地に行ってひっそりとしておく!

 だからもう止めてくれ!!」

 

 

 

「一昨日の面影が全くねぇなぁ。

 これがあの時の男かと思うと泣けてくるようで………、

 やっぱ笑えてくるわ!

 ハハハハハッ!」

 

 

 

「お前………!」

 

 

 

「こんな奴にウインドラを…!」

 

「おいこらっ。

 目の前でお前を必死になって助けようとしてる奴がいんのに俺の機嫌を逆撫でようとすんなよ?

 お前をすぐにそいつの後を追わせてもいいんだぜ?

 それか一発こいつらの前で犯してやろうか?」

 

「アンタなんかに犯されるくらいなら殺された方がマシよ!!」

 

「…どうするカオス?

 こいつ死にたいらしいぞ?

 殺していいか?」

 

 

 

「駄目だ!

 ミシガンを殺すのだけは………、

 止めてくれ!」

 

 

 

「でもこいつ生意気だしなぁ…、

 この五月蝿い口をなんとかしたいんだが?」

 

「だったら!

 アンタが一人で死ねばいいじゃない!!」

 

「………よし殺すか。

 どうせ女なんかには困ってねぇしいっちょさくっと殺って「待ってくれ!」………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミシガンを殺すなら………、

 俺が代わりに死ぬ。

 お前が殺したいのは俺なんだろ…?」

 

 

 

 

 

 

「何言ってるのカオス!?

 こんな奴の言うことなんか「黙っててくれミシガン!!」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それで手をうってくれないか?

 ユーラス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへッ!

 こんな女のために命を差し出そうとするなんざお前も大した役を演じてんじゃねぇか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だがそりゃ駄目だな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうしても皆殺しにしないと気がすまないのか………?」

 

 

 

 

 

 

「いんやぁ?

 こんな奴等特に興味はねぇし殺そうが殺すまいがどうだっていいぜ。

 だがそうだな…。

 この状況は面白そうだし………、

 ………よし!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前らの持ってるワクチンを全部俺に寄越せ。

 そしてカオス。

 お前は俺がマテオに連行する。

 それでこいつらのことは見逃してやろう。」

 



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ミシガンの後悔

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ダレイオスへと亡命することに成功したカオス、アローネ、タレス、ウインドラ、ミシガンだったがユーラスに追い付かれ気絶した仲間を盾にされてウインドラが瀕死の重傷を負ってしまう。

 そしてユーラスは残りの仲間を助ける条件としてワクチンとカオスの身柄を要求し…。


トリアナス砦 深夜

 

 

 

「………俺がお前についていけば………、

 皆は殺さないって約束してくれるのか………?」

 

 

 

「あぁいいぜ?(どうせワクチンまで取り上げちまえばこいつらはこの辺りのヴェノムに囲まれて死ぬだろうがな。)」

 

 

 

「………分かった。

 なら………俺を連れていけ。」

 

 

 

「おう。

 っとその前に。」ドンッ

 

 

 

「痛ッ!」

 

「ミシガン!

 ユーラス!

 手荒にするな!」

 

 

 

「わりぃわりぃ。

 つい放り投げちまったぜ。」

 

 

 

「…!

 カオス!

 今だよ!

 こんな奴さっさとぶっ飛ばしちゃってよ!

 今ならこの間みたいに倒せるでしょ!?」

 

「………」

 

 

 

「ん?

 もしかして俺は今ハメられたのか?

 安っぽい嘘に乗せられちまったか?

 こいつはまいったなぁ!

 ハハハッ!!」

 

 

 

「何よ!?

 余裕ぶっちゃって!!

 今にカオスがアンタを「ミシガン」…カオス?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………もういいんだ。」

 

「………何がよ…?」

 

「もう………戦うことなんてないんだ………。

 俺が………何もしなければミシガン達は戦わなくて済む………。

 これ以上………危ない目にあわなくていいんだ………。」

 

「何よ………どうしちゃったのよ………?

 こいつは………ウインドラを………酷い目にあわせた奴なのよ………?

 ………それなのに降参するの………?

 どうしてよ………?

 ………今こいつは一人じゃない………?

 ……ならカオス一人でだって勝てるでしょ………?

 この前みたいにカオスがやっつけてよ………?

 ねぇ………。」

 

「………」

 

「どうしたのよ!?

 ねぇったら!!」

 

 

 

「寝起きでまだ状況判断ができてねぇのか?

 見ていて恥ずかしい女だな。」

 

 

 

「アンタにそんなこと言われる筋合いなんてない!!

 今にカオスがアンタを叩きのめしてウインドラのことを土下座させて謝らせてやるわ!!」

 

 

 

「…分からねぇ奴だなぁ………。

 なんでこいつが俺についてくるって言ってんのか……。

 

 

 

 こいつはな?

 お前らのせいでこうなってんだよ。」

 

 

 

 

 

 

「…私達のせい………?」

 

 

 

「そうだよ。

 お前らがこいつのお荷物だからこいつは俺に従うしかないんだよ。

 お前らがあんまりにもこいつとレベル差がありすぎてこいつに負担をかけすぎるからこうなってんだ。

 そこんとこ分かってやれよ。」

 

 

 

「私達が………カオスの負担に………?」

 

「………」

 

 

 

「こいつ一人なら今頃このダレイオスに逃げ込まれて俺も追跡のしようがないところまで逃げられていた筈だ。

 それなのにまだこんなところを彷徨いていて俺に追い付かれるってことはだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前らがカオスの足枷にしかなってないってことだろ?」

 

 

 

 

 

 

「…!」

 

 

 

「そのせいで今カオスは俺のいいようにされてんだ。

 戦えば勝てる筈の俺相手の言うことなんて聞いてよぉ。

 お前らなんか気遣って。

 

 もっとも今のこいつならお前らがいなくても俺が勝つだろうがな。」

 

 

 

「カオス………。」

 

 

 

「足枷と言えばそうだな。」ゴソゴソッ

 

 

 

「…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスこれつけろよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手錠………。」

 

 

 

「お前に関してはフェデールの野郎がどうしても拉致ってこいって言うんでな。

 こいつを持たされてたんだ。

 これ嵌めればお前ももう抵抗の余地なんてなくなるだろ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「まぁ、

 こんなもん嵌めなくてもお前にはもうそんな力も残ってなかったようだけどな。

 さっきの鍔迫り合いでそれも分かったしよ。」

 

 

 

「………そこまで知ってるのか。」

 

 

 

「………そうだ!

 その剣返せよ!

 その剣、オレイカルコスは俺のもんだろうが!!」

 

 

 

「………そうだったな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これでワクチンは全部か?」

 

 

 

「…そうだけど…?

 他にはもう持ってないぞ?」

 

 

 

「………いや、

 まぁこんなもんだろ。

 賊共が盗み出してたとしても精々この程度だろうしな。

 ちょっと少ねぇとは思うがそりゃさっきヴェノム蹴散らすのに使っちまったんだろ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「恨むなよ?

 こいつはバルツィエが研究して作り出した薬なんだ。

 それを騎士団に持ってきてるだけなんだよ。

 こいつらを回収するのは当然の権利だろ?」

 

 

 

「………けどそれを持っていかれるとミシガン達が………。」

 

 

 

「知ったことか。

 こいつらは本来なら敵なんだ。

 斬り捨てて奪ってもよかったんだがそれをすると俺が一々探さないといけなくなる手間が面倒だから殺さずにいてやってんだ。

 感謝されこそすれ文句を言われる謂れはねぇだろ?

 それにお前が素直に手錠を嵌めて無力になったってのに律儀にお前の要求を呑んでやってる俺をイラつかせるんじゃねぇよ。」

 

 

 

「………悪かった…。」

 

 

 

「…安心しろよ。

 俺は直接手を下しはしねぇが上手く行きゃこいつらだけでもどっか安全なところに逃げられるだろ?

 子供一人に女二人なら………どうにかできるんじゃねぇか?

 ヴェノムはそこら十にいるだろうが一人くらいなら………感染せずに逃げ通せるだろうよ。」

 

 

 

「………それでいい。」

 

 

 

「(自棄に素直だな?もっと反論すると思ったが…。)それじゃそろそろ行くぞ。

 今日は………シーモスに泊まっていくか。」

 

 

 

 

 

 

「あぁ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネ、ミシガン。」

 

 

 

「カオス………。」パァァッ

 

「………」パァァッ

 

 

 

「ウインドラの調子はどう…?」

 

 

 

「…ミシガンと二人で治療を施していますが………、

 傷口はもう塞がりました。

 ………ですがあまりに出血しすぎて危険な状態です。

 意識が戻るかはまだ………、

 ………最悪このまま………。」パァァッ

 

「………」パァァッ

 

 

 

「そっか………、

 そこまで持ち直してはいるんだね…。

 二人がいなかったらどうすることもできなかったよ。

 有り難う。」

 

 

 

「…私達にできるのはこのくらいしか「どうしてお礼を言うの?」…ミシガン?」

 

 

 

「………お礼を言うのは当たり前じゃないか。

 二人のおかげでウインドラは絶望的な状態からあともう少しってところまで回復でき「違う!」…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラが………!

 ウインドラがこうなったのは私のせいなんでしょう!?

 それなのに何で私にお礼なんて言うの!?

 普通は私を責めたりするでしょ!?」パァァッ

 

 

 

 

 

 

「………ミシガン。」

 

 

 

「私が………!

 私がアイツに捕まったせいでウインドラはこんな………!!

 私が意識さえあったらこんなことにはッ……!」

 

 

 

「それは違「違わない!!」…。」

 

 

 

「私が!

 私がさっきの魔術で意識を失ったりするからアイツに追い付かれてウインドラはッ……!

 それだけじゃない!

 私がついてきたから他の皆もアイツに殺されてしまって…!!」

 

 

 

「それは流石に背負い込み過ぎだよ。

 ミシガンのせいで誰かが傷付く筈ない「あるじゃない!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のせいで!!

 今私のせいでカオスがアイツに連れていかれるんじゃない!!」

 

 

 

「そんなことは………。」

 

 

 

「私がカオスの荷物だから!

 私がカオスの負担になってるから!!

 だからカオスがあんな奴に従わされてるんじゃない!!!

 違わないでしょ!!?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「いつもそう!!

 いつもいつも!!

 いつだってそう!!

 いつだって私は誰かの邪魔にしかならない!!

 いつだって私は大事な時に大事なことを知らない!!

 そのせいで私はいつも誰かの障害にしかなってない!!

 だからウインドラも私のもとから去ったんでしょ!?」

 

 

 

「ミシガン、

 ウインドラは君のことを「だから…。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私がウインドラのお父さんを死なせてしまったからウインドラは私が嫌いになっていなくなったんでしょ?」



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ウインドラとミシガンの和解

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 追ってきたユーラスに仲間の命を盾にとられウインドラが倒れてしまう。

 そしてカオスもユーラスについていくことを決意。

 その時ミシガンが…。


トリアナス砦 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミシガンがウインドラさんのお父様を………?」

 

「……私のせいでラコースさんは………。」

 

「何言ってるんだよ。

 ミシガンはラコースさんが………、

 亡くなった時眠っていたじゃないか。

 ミシガンがラコースさんをどうやって殺したんだよ?」

 

「………私が………。」

 

「…ミシガン?」

 

「………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………私があの事件の日、

 ヴェノムが襲ってきて恐怖で気を失ったりしなければお父さんも早く逃げられたし私とお父さんを助けに来たラコースさんもヴェノムに感染なんてしなくてすんだんだよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ………。」

 

「私がいけなかったの………。

 私が………、

 気弱で守ってばかりいたからあんなことになって………。」

 

「カオスもそうでしたけどミシガンもその当時は子供だったのですよね…?

 それなら大人の方ならそうするのは当然「アローネさんに何が分かるの!?」!?」

 

 

 

「子供だったからなんなの!?

 カオスもウインドラも子供だったのに村の人達を助けようと駆けずり回ってたんだよ!?

 そんな時に私はずっと最初から最後までその場にいながら何もしてない!!

 私はお父さんの背中でずっと気絶していただけ!!

 私だけ何かしていた記憶もない!!

 好きな人達が大切な人を失った中で私だけが何も失ってない守られ続けて甘えていた!!

 だからウインドラも私のことを嫌って村を出ていったの!!

 私のせいでラコースさんを失ったから!

 だから………!!」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「………どうして………、

 ………どうして私は………、

 いつも重要な場面で気を失ってるの………?

 今だって私がちゃんと起きてさえいればウインドラがこんなことには………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなんだからウインドラも私に失望して………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それは………違うぞ………ミシガン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!」

 

「ウインドラ…!」

 

「意識が回復したのですね!

 でもまだ喋っては…!」

 

 

 

「……俺は………、

 お前を………失望してなど………いない。」

 

 

 

「ウインドラ、

 まだ喋らない方がいい。

 ユーラスに気付かれたら…。」

 

 

 

「………いや、

 ……言わせてくれ。

 ゲホッ………。」

 

 

 

「まだ駄目だって!」

 

 

 

「………ミシガン………。」

 

 

 

「………何…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………すまなかった………。」

 

 

 

「…どうしてウインドラが謝るの…?

 ウインドラがそんな重体になったのは私を庇ったからでしょ…?

 私なんかを庇ったから…。

 ………私が謝らないといけないのに…。」

 

 

 

「…こんな怪我………どうってことはない………。

 お前達が………治療魔術を施してくれたおかげで大分………、

 ……楽にはなった………。」

 

 

 

「当たり前でしょ…?

 私が負わせた怪我なんだから私がウインドラを治さないと………。」

 

 

 

「………お前の治療魔術は………、

 昔から………よく効くからな………。

 …懐かしい………。

 昔はよくお前にかけてもらっていたな………。」

 

 

 

「………ウインドラがしょっちゅう怪我して帰ってくるから………。」

 

 

 

「………そうだったな………。

 …あの頃は………カオスと………。」

 

 

 

「(俺はミシガンのファーストエイド二、三回くらいしかかけてもらったことないけど………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それよりも………、

 …俺は………お前に失望して………村を出ていったんじゃない………。」

 

 

 

「…じゃあ………何で村を出たの………?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………はっきり言っていいよ…?

 …私が嫌いだったか「そうではない」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺は………強くなりたくて村を出たんだ………。

 お前を守れるぐらい強くなるために………。」

 

 

 

「………え?」

 

 

 

「決して………お前を嫌いになった訳でも………、

 父さんが死んでお前を恨んだ訳でもない………。

 強くなって………お前を………

 ………ミシガンを何者からも守れるようにと………、

 村を出て騎士になったんだ………。」

 

 

 

「………どうしてそこまで私のことを………?

 私はウインドラの………、

 ラコースさんが死ぬ切っ掛けを作ったんだよ…?

 それなのにどうして………。」

 

 

 

「…お前を守ること………、

 それが………俺の役目だからな………。

 許嫁になった時から俺の………。」

 

 

 

「…ウインドラは………私との許嫁が嫌だったんじゃないの…?」

 

 

 

「…確かに嫌だった………。」

 

 

 

「…嫌なら「あの許嫁は………」…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あの許嫁は………、

 …俺が村の同期の子供達の中で優れていたから村長に選ばれたんだ。

 ……優れていなかったら俺は……お前の許嫁にすらなっていなかった………。

 俺の意思ではなくそんな仕事の能力のような決められ方だったから嫌だったんだ………。

 …お前との仲を………そんな味気のない繋がりだけのものにしたくはなかった…。」

 

 

 

「………!」

 

 

 

「…お前との許嫁は最初は嬉しかったが………、

 それも後になって考えたらそういう理由で選ばれたのならいつ俺よりも優れた奴がでてきてもおかしくはない…。

 贅沢で我が儘な悩みだと我ながら思うが…。

 

 カオスが………マナを失っていなかったらお前の許嫁になっていたのはカオスだっただろうな………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「…だからお前に落ち度なんてないんだ。

 お前を憎んだりしたことなど………一度もない…。

 一度とたりとも……。」

 

 

 

「…じゃあどうして何も言わないで村を出ていったの…?」

 

 

 

「…誰かに村を出ていくことを伝えたら絶対に引き留められると思ったからだ…。

 そうなったら俺は強くなるチャンスを失う………。」

 

 

 

「………強くなるだけなら村でだって………。」

 

 

 

「それでは駄目だったんだ………。

 あの事件のヴェノムのような脅威がある以上、

 村での修練など限界がある……。

 強くなるには………村の外の………、

 アルバさんのような人達がいる世界に出なければならなかった………。」

 

 

 

「アルバさん………?」

 

 

 

「………あの事件で父さんと一緒にアルバさんも亡くなった…。

 俺が強くなるにはどこか強い人達がいる場所で教えを乞う必要があった………。

 それで誰にも言わずに村に来た騎士団についていってレサリナスまで来たんだ…。」

 

 

 

「どうしてそこまでして………。」

 

 

 

「………相応しくなるためだ………。」

 

 

 

「……?」

 

 

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強くなって………ミストに戻って………、

 ………お前に相応しい男になるためだ………。」

 

 

 

 

 

 

「…!?」

 

 

 

「…子供の頃のままの俺では不甲斐なさすぎてお前には相応しくない…。

 

 お前のような美しい花を………、

 他の何物かに散らされそうになるような俺では………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………昨日は突き放すようなことを言ってすまなかった………。

 あれは………両親の決めた話ではなく俺が俺の気持ちだけでお前と一緒になりたかったからあぁ言ったんだ………。

 俺が………お前のことを………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心の底から好きだったから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「だから好きなお前に対して俺はどうしても紳士的でありたかった。

 “誰かに決められたこと”で話を進めたくはなかった………。

 強くなることとお前との仲を一度零に戻してから一からお前とのことを始めたかったんだ………。

 それでお前にも何も言わずに飛び出したんだ………。

 本当につまらない心配をかけた………。」

 

 

 

「………言ってよ。」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…だったら……そう言ってよ………。

 回りくどくて………全然分かんなかったよ………。」ポロポロッ

 

 

 

「…すまない。」

 

 

 

「もう……、

 そんなことを伝えるのに十年も遅れちゃって………、

 まったく………。」

 

 

 

「…時間をかけすぎたな………。」

 

 

 

「そうだよ………。

 もうお互いこんなに大きくなったのに……。

 もし私がウインドラのことを忘れて他の人と結婚とかしてたらどうするつもりだったの………?」

 

 

 

「その時は………諦めてお前が幸せになることを願うだろうな。」

 

 

 

「…何でよ…?

 それじゃアンタが鍛えてきた意味が無くなるじゃない。」

 

 

 

「ミシガンが選んだ男だったなら………、

 きっと……俺なんかより相応しいんだろう……。

 こんな…待たせ男なんかよりも………。

 そんな時が来たならミシガンとその男を含めて俺がミストの皆を守るだけだ…。」

 

 

 

「…その人がまたお父さんとかが決めた許嫁でどうしようもないロクデナシだったら………?」

 

 

 

「………そんな男だったなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がお前をそんな男から奪いにいく。

 奪いに行ってお前を俺が一生守っていく……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………クサすぎるでしょ。

 もう………。」



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後悔する仲間達

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ミシガンはウインドラの負傷を見てその負傷が自分のせいだと思い過去のことも含めて悲嘆する。

 しかしウインドラの必至の訴えにより二人の間にあった十年の壁が砕かれる………。


トリアナス砦 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………よかった………。

 ウインドラとミシガンが仲直りできたみたいで…。

 昨日から二人のことが心配だったけどもうその必要もないようだな。

 

 そりゃそうだよな…。

 二人は最初から両想いだったんだからこうなることだって分かりきってたんだ…。

 最初から俺が介入する余地なんて無かったんだよな…。

 

 

 

 ………ちぇっ、

 告白もしてないのに失恋しちゃったか………。

 最初から諦めてたけど………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、

 待たせたな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!

 ユーラス………。」

 

「アンタ…!」

 

 

 

「お前らから預かったワクチン、

 確かに本物だったな。

 使ってみたら普通にヴェノムぶっ殺せたわ。」

 

 

 

「そんなの当然でしょ…。

 アンタ達の所から盗ってきたんだから…。」

 

 

 

「こそ泥が偉そうにすんなよ。

 お前らみたいな奴等は大概こういうときにパチもん渡して逃げようとするのがいるからな。

 確認って大事だろ?

 それよりお前らよく逃げなかったな?

 俺が確認に行ってる間に逃げれば俺も見失ってたかもしれねぇのにな。」

 

 

 

「それでもし見つかってたら今度こそお前はミシガン達を殺すだろ?

 こんな重傷な仲間がいるのにそんな危ないことができるか…。」

 

 

 

「そうだな。

 その時は確実に殺るだろうな。

 お前だけ残して他の三人を………?

 

 …なんだそいつ。

 もう気が付いたのかよ。」

 

 

「「!?」」

 

 

「!

 ユーラス!

 ウインドラはもう戦うことなんてできない…!

 今更止めを刺すなんてことはしないでくれ!」

 

 

 

「俺に指図………。

 

 …すんなと言いたいとこだが早とちりすんなよ。

 生きてたんならよかったじゃねぇか。」

 

 

 

「………へ?」

 

 

 

「もう今日は沢山殺したし気分が晴れて満足してんだ。

 そいつ一人くらいなら見逃してやってもいいだろう。」

 

 

 

「本当に…?」

 

 

 

「あぁ、

 俺の任務は反逆者共の殲滅とお前の回収だ。

 一人殺しとかねぇといけねぇ奴を殺し損ねたが一人二人殺り損ねたとしてもお前さえ回収できればお咎めはされねぇだろ。」

 

 

 

「ユーラス………。」

 

 

 

「………それに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワクチンも無しにこのヴェノムまみれの土地でそんな死に損ない一匹抱えてどこまで生きてられるかも見物だしな。」

 

 

 

 

 

 

「…とことん性根が腐ってるわねアンタ。」

 

「ミシガン、

 あまりこの人にそういうことを言っては………。」

 

「………こいつらが腐っているのは今に始まったことじゃない………。

 俺が王都に来た時から既にこいつらはこうだったんだ………。」

 

 

 

「それくらいにしとかねぇと本当に皆殺しにしちまうぞ?」

 

 

 

「三人とも…、

 もう本当にその辺で………。」

 

「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

「…静かになったところでそろそろ休憩は終わりにするか。

 俺の隊の奴等を待たせてるしな。」

 

「………あぁ。」

 

 

 

「!

 カオス!」

 

「行っちゃダメだよカオス!」

 

「………」

 

 

 

「…ごめん。

 ………俺は行くしかないんだ………。

 俺がいかないと四人は………。」

 

 

 

「けど………。」

 

「…カオスは本気でこの方についていくおつもりなのですか?

 カオスがこの先どういう扱いを受けるかは………。」

 

 

 

「分かってる………。

 俺も分かっててついていくんだ。

 俺が行けば四人は見逃してもらえるんだから………。」

 

 

 

「………私達は本当にカオスのお荷物にしかなれないのですね………。」

 

 

 

「何言ってるんだよアローネは。

 俺がいつアローネ達をお荷物扱いしたんだよ?」

 

 

 

「現状がそう物語っているではありませんか…!

 私達のせいでカオスは…。」

 

 

 

「大丈夫だよ。

 心配はいらないよ。

 俺はすぐに戻ってくるから…。」

 

 

 

「戻ってこれるのですか…?

 私達のもとへ…。」

 

 

 

「………多分ね…。」

 

 

 

「それは………もしや………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻れる訳ねぇだろうが。」

 

 

 

「「…!」」

 

 

 

「隙を見て手錠の鍵でも奪って逃げようってんなら残念だったな。

 鍵はフェデールの奴が預かってんだよ。

 今頃鍵はフェデールがレサリナスに持って帰ってるだろうぜ?

 ってことはお前はレサリナスまでマナを封じられたまま俺達から逃げなきゃならねぇ。

 飛葉翻歩も無しにそんなことができるか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「これ以上下らん作戦会議なんかさせッかよ。

 おら行くぞ!

 来い!」グイッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………カオス…。」

 

「カオスだけ連れていかれちゃった………。

 これからどうしたら…。」

 

「俺達の為にカオスは身をていして………。」

 

「カオスは………どうなっちゃうの…?」

 

「…分からん………。

 俺達の部隊は全滅させて行ったようだがカオスだけを生け捕りにする理由は………。」

 

「…一昨日の騎士団長、

 フェデールと言う方がカオスをバルツィエの時期当主に、

 と申しておりました。

 ………とすれば………。」

 

「けどそれはカオスとレイディーがそのことを否定したじゃない!

 カオスだってそんなの受け入れる訳…!」

 

「受け入れなかったとしてもそうフェデールは宣言した。

 

 フェデールはどうやらカオスの力を気に入ったらしい…。

 カオスが断ったのならフェデールはカオスを建前だけでも時期当主に仕立てあげるだろう…。」

 

「カオスの意思はどうなるの!?」

 

「そんなものが通じる相手じゃない。

 極秘で人体実験をするような奴等だ。

 カオスが受け入れないのであれば拷問してでもカオスをバルツィエに染め上げるかもしれん。

 いかにカオスでも時間をかけて追い詰めれば…。」

 

「そんなのカオスが可哀想だよ!?」

 

「本人の意思を無視して家の方針に従わせる………。

 カオスは……その強さ故にバルツィエの道具とされてしまうのですね………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………これではまるでウルゴスと同じ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………エフッ!」

 

 

 

 

 

 

「!

 …タレス!?

 気が付きましたか!」

 

 

 

「………ここは…?」

 

「ダレイオスです!

 漸く辿り着いたのですよ!」

 

「…ダレイオスに………ですか………?

 ここが………?」

 

「えぇ。」

 

「………」

 

「大丈夫?

 まだどこか痛む?

 一応治療術魔術使っておくねタレス君。

 ………ファーストエイド!」パァァ

 

「………他の騎士団の人達は…?」

 

「「「………」」」

 

「………そうですか。」

 

「………皆俺達の為によくやってくれた………。

 俺達を逃がすために追手の相手をしてくれたんだ………。」

 

「私達もさっきまで気絶してたの…。

 それをウインドラやレイディー………、

 ………あとカオスが運んでくれたの………。」

 

「カオスさん達が………?

 ………それは………またボクがカオスさん達のお世話になってしまったんですね………。

 カオスさんにはいつも助けられてばかりで………。

 

 ………それでカオスさんとレイディーさんはどこに………?」

 

「レイディーは………恐らく無事でしょう………。

 騎士団の方達が追手と戦ってる際に援護に向かって逃げおおせたようです………。

 カオスは………。」

 

「?

 カオスさんは………どうしたんですか………?」

 

「………カオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達を助けるために………、

 一人で追手に連れていかれました………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………カオスさんが………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「………どうしてカオスさんが………そんなことを………?」

 

 

 

「それが………。」

 

 

 

「………どうしてなんですか!?

 どうしてカオスさんが一人で連れていかれるんですか!?」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「ボク達を助けるためって何ですか!?

 ボク達が…!?

 

 ………ボクが………気絶している間に何で………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………これって………作戦ですか…?

 カオスさんが一人であいつらを倒すためにあえて連れていかれて騎士団を「そんな作戦はない…」………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………カオスは今疲れきってマナが低下していう上にマナを封じこめる手錠をされている………。

 今のカオスは………昔と同じで全くマナを使えない状態なんだ………。

 カオスには人一人倒す力もない……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……では一体何がどうなってカオスさんが追手に………?

 

 

 

 ………まさか………ボクが………気を失っていたからですか………?」

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「………ボクが気を失なって……追手に追い付かれて……人質にとられて………カオスさんは………?」

 

 

 

「………人質にとられていたのは私だよ………。

 私が……あのユーラスっていう人に捕まって……カオスが………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………ごめんね皆……。

 私が……ユーラスなんかに捕まらなければ………。」

 

「ミシガンは何も悪くない……。

 悪いのは俺だ。

 カオスは俺の体を気遣って捕まったんだ………。」

 

「それだって私達を庇ってのことでしょ…?

 ならやっぱり「そもそも」…。」

 

「バルツィエに対抗しようとして俺達の作戦にカオスを利用して巻き込んだことが原因だ。

 この作戦を立ち上げなければカオスは今もミストで「それでしたら!」…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それでしたら私が………、

 ………私がカオスをミストからお連れしたのが始まりです。

 私のことを守ってカオスは追われることになったのですから…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「……カオスにはいつも支えていただいていたのに私は………、

 彼を救うことができない………。

 それどころかカオスの足を引っ張るばかりで………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当にどうしようもない………。

 こんな私が……かつてウルゴスの懐刀と唱われたクラウディアの末裔かと思うと自分が情けない……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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仲間を取り戻せ

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ウインドラとミシガンの仲が昔のように戻ったのと束の間、カオスがユーラスに連れていかれてしまった。

 カオスの仲間達はそれぞれがカオスの責任を感じてしまうが………。


トリアナス砦 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺達が………、

 愚かだった………。」

 

 

 

「どうしたのウインドラ…?」

 

「…俺達の隊は…、

 ダリントン隊長とバーナン隊長とで意見が割れていたんだ………。

 ダリントン隊はバルツィエと武力での戦いの道を選び、バーナン隊はバルツィエと世論での抗戦の道を選んだ………。

 その結果がこれでは………。」

 

「…まだバーナンさんの部隊での道を選んでいた方が良かったと仰るのですか…?

 ですけどそれではバーナンさんのように………。」

 

「………いや、

 そういうことじゃない………。

 

 俺達はバルツィエと戦うこと自体が間違っていたんだ…。

 俺達は権力でも戦力でも数でも奴等に及ばない少数のレジスタンスだった。

 そんな俺達が勝てる筈が無かったんだ。

 …始めから奴等に挑むようなことは考えずにダレイオスに密入国することだけに絞っていれば全滅での敗北という結果に終わることもなかった………。

 バルツィエに…一泡ふかせてやるだなんて俺が計画に乗らなければ…こんなことには………。

 

 

 

 それどころか守りたかった友を犠牲に生き残ってしまうなど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何敗戦ムードかもしだしてんだお前ら。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!

 ………お前は。」

 

「レイディー!

 無事にダレイオスへと渡ってこれたのですね!」

 

「………お前が無事と言うことは俺の部隊は…。」

 

「…一足違いでな。

 駄目だった…。」

 

「………そうか。」

 

 

 

「………遅いよレイディー。」

 

「遅いって何だよ遅いって。

 別にアタシはお前らと合流する気なんてなかったぜ?

 お前らがダレイオスに着いてからは好き勝手にどこへでも「カオスが連れて行かれちゃったんだよ?」…。」

 

 

 

「………カオスが………バルツィエに………連れていかれて………。」

 

「ダレイオスへと到着したというのにバルツィエのユーラスと言う方が………カオスを………。」

 

「………ゴールした瞬間にカオスを奪われるとは………

 情けなさすぎて…己の無力さに嫌気がする……。」

 

「…ボクが………気絶なんてしなければ………。」

 

 

 

「四人でそんなに説明しなくてもいいぜ?

 全部見てたからな。」

 

 

 

「…見てた?」

 

 

 

「あぁ。

 ユーラスがお前らに気をとられてる間に逆側からダレイオスに着いてたんだ。

 ダレイオスに着いたってのにダレイオスの砦付近でユーラスが魔術ぶっぱなしてっから木陰から様子見てたんだよ。

 

 そしたらユーラスがお前らに絡んでるからよぉ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一部始終ずっと見物させてもらった。

 お前らの無様っぷりったらねぇなぁ?

 なぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アンタ煽りに私達に合流したって訳?」

 

「貴女を少しでも見直した私を見直さないといけなくなりましたね。」

 

「レイディーさん………。

 ボク達の為に時間を稼いでくれたのにはお礼を言いますが軽口ならまたにしてもらえませんか…?

 今は………この悔しさのせいで自分を抑えきれそうにないんです………。」

 

「………」

 

 

 

「このアタシが危険を冒してまで逃げる時間を稼いでやったってのに何捕まってんのかねぇあの坊やは…。

 お前らもまんまと操られやがって………。

 …この場合よぉ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文句の一つでも言ってやりたいと思ったアタシは間違ってるか?

 あぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「……!」」」

 

 

 

「アタシは遊びであいつらの相手をしに行ったんじゃねぇぞ?

 気紛れだっが引き付ける役を買いアタシはそれをこなした。

 

 

 

 ………それなのにお前らはユーラスの馬鹿野郎に追い付かれてたった一人にいいように弄ばれ坊やは拉致られあまつさえ自分達の不出来の苛立ちをアタシにぶつけてくる………。

 

 

 

 アタシが助けてやろうとした連中がこんな糞共だったとはな………。

 後悔の念に焼き裂かれそうなのはアタシの方だぜ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」スッ

 

 

 

「…え?」

 

「ウインドラさん…?

 何を…?」

 

「…それは…。」

 

 

 

「………何してんだはぐれ騎士さんよぉ。

 頭を地に付けて…。

 何か落とし物でも探してんのか?

 それとも土竜みたいに地面の中の食える虫でも探してんのか?

 それとも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土下座でもしてんのか?」

 

 

 

「………そうだ。

 俺は今…そのつもりでこうしている…。」

 

 

 

「どうしてウインドラが土下座を………。」

 

「レイディーの言い分も最もですが…。」

 

「…レイディーさんに対して少し言い過ぎたにしても…。」

 

 

 

「んで?

 擬き………。

 ここでその土下座にどういう意味がある?

 さっきのこいつらの不躾な不満事を代わりに謝罪してんのか?」

 

 

 

「………それもある。

 ………ゲホッ!」

 

 

 

「ウインドラさん!

 まだ体調が完全に戻ってはいないのにあまり動かれては…!?」

 

「そうだよウインドラ!

 喋るだけでもキツい筈でしょ!?

 謝るだけならそんなことをしなくても「レイディー………殿…!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………先程はこの三人のこと申し訳ない………。

 それともう一つ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カオスを、

 …友を救いだす策の考案を………いただけないだろうか………?」

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

「…どうしてそれをアタシに頼む?」

 

 

 

「…カオスは………俺達に巻き込まれただけの一般人だ…。

 カオスが危険に曝されているのなら責任は俺にある…。

 俺がカオスを救い出さなければいかん…。」

 

 

 

「…で?」

 

 

 

「…俺にはこの状況を打開できる案が思い付かない…。

 俺はこういったことを考えられるだけの知識がないんだ………。」

 

 

 

「フムフム、

 それでアタシならそれを思い付きそうだと思って土下座までして頼み込んでのか。

 どうしてそう思った?」

 

 

 

「レサリナスでの戦術、

 ここに来るまでの作戦進行と判断力、

 そして敵の戦術を瞬時に見抜く分析力………、

 

 

 

 この場にいる五人の中で一番カオスを救い出す策を考え付きそうなのは貴女だけなんだ……!」

 

 

 

「ほーん?

 アタシだけが頼りってか?

 お前ばっか喋ってっけど他の連中と相談しなくていいのかよ?

 お前が勝手にそんな代表みたいになってるけどアタシが思い付く作戦って言ったらお前ら四人共参加しねぇと先ず成功しねぇぜ?

 お前一人が坊やの為に土下座してっけど他の三人にそれくらいの覚悟が………!」バッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」スッ

 

 

 

「お前達………。」

 

 

 

「レイディー………、

 ……さっきはごめん………なさい………。」

 

「レイディー…さん。

 どうかカオスを救う術を……お願いします………。」

 

「カオスさんが助かるのなら……、

 ボクは……どうなっても構いません……。

 だから………。」

 

 

 

 

 

 

「………へへへへへ。

 気持ちは皆同じってか!

 話がしやすくて助かるぜ。

 言っとくがアタシの策は策っつーよりも賭けみたいなもんだぜ?

 失敗したら誰かは確実に死ぬ!

 最悪お前ら四人共死ぬぜ?

 それも坊やの意思を無視して助けに行って坊やの目の前でな!」

 

 

 

「!?

 ではもうその策があるのか!?」

 

 

 

「アタシがただお前らを煽りに来ただけだと思ったか?

 坊やが捕まってなかったらそのままアタシは一人でダレイオスを徘徊しようとしてたんだ。

 何も策が無くても同じだ。

 策の一つもなしにつまらねぇことはしねぇよ。」

 

 

 

「流石レイディーね!!」

 

「最初からレイディーさんはボク達に協力してくれるつもりだったんですね!」

 

「…有り難うございますレイディー…さん!」

 

 

 

「今更敬称つけんなよ。

 気持ち悪い。

 ………そんなことよりも時間がねぇ。

 坊やを助け出すにはユーラスの野郎が手下共と合流する前にケリをつけなきゃやらねぇ。」

 

 

 

「手下と?」

 

 

 

「…この作戦はぶっちゃけ単純に坊やを取り返しに行くだけだが今あの糞共がこれからどう動くか分かってるからこそできた作戦だ。

 ………二つだけお前らに確認したいことがある。」

 

 

 

「何だ何でも聞いてくれ!」「私に分かることであれば!」「何を聞きたいのレイディー?」「ダレイオスのことであれば多少は。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らは死ぬ覚悟はあるんだな?この作戦が失敗「「「「ある!!!」」」」………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………まだ人が喋ってるだろうが…。」

 

 

 

「その程度のことなら俺はとうにできている!」

 

「カオスに助けられた時から私はカオスの為ならこの命、喜んで差し出します!」

 

「私だってカオスが…!

 今度こそ大切な家族を助けて揚げたい!」

 

「ここで今までの恩を返せるのならそれもいいのかもしれません。」

 

 

 

 

 

 

「………そうか。

 ………お前らはそれなりに死に近い体験を潜り抜けて来たんだな。

 こんなことじゃびびりもしねぇか。」

 

 

 

「…してもう一つの確認事項は何だレイディー殿。

 同じようなことなら必要ないぞ?」

 

「貴女の作戦は時間が経つと不味いのでは…?

 でしたら直ぐにでも決行を…。」

 

 

 

「…二つ目の質問はお前らを試そうってんじゃねぇよ。

 これも一応聞いとかねぇといけねぇからな。」

 

 

 

「何か重要なこと?」

 

 

 

「重要さに関しては………そこまで必要ねぇとは思うがな。

 ………ユーラスについてだ。」

 

 

 

「…あのバルツィエのことですか…?

 ボク達が持ってる情報ですとレイディーさんと然程変わらないのでは…?」

 

 

 

「一つだけアタシにも分からねぇことがあるんだよ。

 お前らなら確実に知っててな。」

 

 

 

「そんなこと………、

 何かあったか………?」

 

 

 

「あいつ………、

 ユーラスとお前らが鉢合った時………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーラスがどういう立ち回りしてたか教えろ。」



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ユーラスとカオスの帰路

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 カオスの仲間達がユーラスに連れていかれてしまい途方に暮れているとそこへレイディーが合流する。

 彼女はカオスを取り戻す策があるようだが………。


トリアナス砦 深夜

 

 

 

「ユーラスの立ち回り…?」

 

「それが………カオスを救うことに必要な情報なのですか…?」

 

 

 

「その情報によってユーラスが手下共と合流する時間が短くなるか長くなるかが予測できそうだ。

 この作戦はユーラスの奴が手下と合流した時点で失敗だからな。

 アタシは実際のところ坊やが連れていかれたところ辺りからしか見てなかったんだよ。」

 

 

 

「ユーラスの立ち回り………、

 って言っても………私とタレス君は………。」

 

「気を失っていてとくにこれといったことは………。」

 

 

 

「そこはアタシも見ていた。

 お前ら二人には期待しちゃいねぇよ。

 猿と擬きに聞いてんだよ!」

 

 

 

「………俺は………ミシガンが人質にとられて意識を失っていた………。

 ミシガン達と入れ換わりになるな………。」

 

「「………」」

 

 

 

「…っつー話ならよぉ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猿、お前だけが終始ユーラスの動向を見ていたことになるな?」

 

 

 

「…はい。」

 

 

 

「…ならお前の見ていた光景を思い出して答えな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーラスの野郎は………、

 お前が見ていた中で坊やをどの程度痛め付けていた………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスを………ですか?」

 

 

 

「あぁ、

 どのくらい弱らせてから連れていかれたんだ?

 あの坊やは。」

 

 

 

「(それが………一体なんだと言うんだ?

 その情報を知って何故手下と合流する時間が変化する…?)」

 

 

 

「………私が見ていた中では………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの剣撃を押し返した以外では一度も………、

 ユーラスは危害を加えてはいませんでした………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうかよ。

 

 よしだったら猿!ゴリラ!

 まだ時間はある!

 擬きを全力で治療魔術で治した後お前ら自身とアタシにも治療魔術をかけろ!」

 

 

 

「え!?

 はっはい!」パァァ!

 

「わっ、分かったわ!

 ウインドラ!

 すぐ治すからね!」パァァ!

 

 

 

「後お前らオレンジグミ持ってるか?」

 

 

 

「グミならボクが持ってますが…?」

 

 

 

「この中で氷系使える奴は!?」

 

 

 

「私が使えます!」パァァ

 

 

 

「ならガキ!

 猿に多くグミを分配しろ!

 その次にアタシで擬き、ゴリラ、お前の順にだ!」

 

 

 

「はっ、はい!」

 

 

 

「私はまだいけますから他の三人にグミを回しても…。」パァァ

 

 

 

「お前には一番頑張ってもらわなきゃ困るんだよ。

 今回の坊や奪還はお前が要だ。

 遠慮してる余裕なんざねぇぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 坊やを助けたいんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はい!」

 

 

 

「…レイディーさん。」

 

 

 

「何だよガキ?」

 

 

 

「レイディーさんも………カオスさん救出に向かってくれるんですか?」

 

 

 

「…話の流れでそう聞こえなかったか?

 アタシはそう言っていたと思ったんだが…?」

 

 

 

「………協力してくれるのは嬉しいですけど…、

 レイディーさんもまた危険を伴うんですよ?

 それなのにどうして…?」

 

 

 

「…アタシにも坊やを助け出すことがメリットになるからだよ。」

 

 

 

「レイディーさんがカオスさんを救うことにメリットが…?」

 

 

 

「そうだな…。

 今は………、

 バルツィエの歴史に人類で初めて黒星をつけられる程度しかねぇがな……。(それだけでも偉大な快挙だが…)

 

 もしかしたら坊やは………、

 このバルツィエとヴェノムに自由にされた世界を引っくり返す………、

 そんな可能性を感じるんだ………。」

 

 

 

「カオスさんが世界を………。」

 

 

 

「…今はまだ危なっかしくて一人で突っ走るし若すぎて自分の思考にエゴが見栄隠れするがな。

 

 

 

 それでも………、

 坊やには何かを感じずにはいられない………。

 そんなアイツだから手を貸したくなるのかもな……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私も………同じです。」

 

 

 

「アローネさん…?」

 

 

 

「…お前もアタシと同じこと感じてんのか?」

 

 

 

「………私は………、

 ………カオスのような方が努力で自らの運命を大きく切り開いたのを見てきました………。

 カオスはその方と似ているのです………。

 ……ですからカオスなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスなら………、

 

 

 

 何か………この世界を良い方向へと変えてくれると信じてみたいのです……。

 

 

 

 この世界が………ヴェノムに支配されたこの世界がかつて存在したアインスの時代の繰り返しにならないような世界へと………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだといいな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーモス海道 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ザッザッ

 

 

 

「………」ザッザッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ザッザッ

 

 

 

「………」ザッザッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ザッザッ

 

 

 

「………おい。」

 

 

 

「………何だよ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………何もないなら話しかけるなよ。

 この道長いんだから歩いて帰ってると夜が明けるぞ?」

 

 

 

「………それなんだがよぉ…。

 ……失敗したなぁ………。」

 

 

 

「?

 何を失敗したんだよ…?

 俺を連れて行くことが任務だったんじゃないのか?

 

 

 

「そうなんだが………、

 ………馬で来ときゃなぁ……。

 お前を引きずってでもさっさと帰れたのになぁ………。」

 

 

 

「…お前が走って来るのが悪いんだろ。

 馬で来れば俺を楽に連れて帰れたんじゃないのか?」

 

 

 

「馬なんかよりも俺達は早く走れるだろうが。

 そのことはお前でも分かってんだろ?」

 

 

 

「………あぁ。」

 

 

 

「…早く帰るにはどうしたらいいと思う?」

 

 

 

「…この手錠を外してくれれば俺とお前の飛葉翻歩で馬のところまで早いんじゃないのか?」

 

 

 

「手錠の鍵は持ってないって言ったろうが。

 それに手錠外したらお前が逃げるかも知れねぇ。

 馬鹿なことは考えるな。」

 

 

 

「…逃げたりなんかしないよ。

 ここからならお前が皆を殺しに行ける距離だからな。」

 

 

 

「俺をアイツらから引き離してからお前はアイツらに合流しようってのか?

 俺の監視の目を掻い潜れる自信があんのか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「…なんか隠してんなお前?

 ワクチンをすんなり渡してきたところを見るとまだ他にもワクチンが「ないよ。」………何が無いんだ。」

 

 

 

「両方ともだよ。」

 

 

 

「両方?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「…なぁ、

 話は聞いていたんだが何について両方っつったのか分からなかったなぁ?

 何の両方が無いんだ?」

 

 

 

「…この状況から逃げ出す方法と………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆に合流する気が無いんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そりゃまたどうしてだ?

 …後日俺達から逃げ出してからダレイオスのどっかで合流する場所でも決めていてそこで落ち合うから今は合流する必要がないってことか?」

 

 

 

「ダレイオスは俺も皆もよく知らないんだ。

 街の名前を言われても俺一人じゃ分からない。

 ずっと地図を調べていてくれたのは他の仲間だったからね。」

 

 

 

「それを信じろってのか?

 地理情報なんて分かるか分からないかなんて調べられねぇだろうが。」

 

 

 

「それもそうだね。

だったら俺が逃げ出さないように手錠だけじゃなく二十四時間監視をつけて尚且つ日の当たらない独房にでも詰め込んどけばいいさ。」

 

 

 

「………自棄に自分を追い込むような提案をするじゃねぇか?

 そんくらいのことはするつもりだったがどうしてそれを自分から言い出すんだ?

 俺達がお前をどういう扱いするか気になってんのか?」

 

 

 

「…興味ないな。」

 

 

 

「興味ないってお前……。

 偉くあっさりと受け入れてんだな。

 普通の奴だったら俺達に捕まれば手首切り落としてでも逃げ出そうとするようなもんだと思うがな。」

 

 

 

「………そんな人がいるんだな。」

 

 

 

「いたっちゃいたな。

 その後はすぐに捕まって今度は足を繋がれて終わったが。」

 

 

 

「お前達相手に無駄なことをする人がいたもんだね。

 …そういう抜け出し方があるなら剣は持ってない方がいいよな?

 ほら。」

 

 

 

「………どうしたんだお前?

 諦め方が尋常じゃねぇぞ?

 潔すぎて気味が悪いぜ。」

 

 

 

「気味が悪くてもいいさ。

 俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局何もできなかった化け物なんだから。」



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ユーラスの鬱憤

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 仲間達がカオス奪還の策を練るうちにユーラスとカオスはシーモス海道を進む。

 ユーラスはカオスの潔さを不審に思うが………。


シーモス海道 深夜

 

 

 

「………お前が化け物ってのには同意してやろう。

 この俺のストーンブラストを直撃して無傷だったんだからな。」

 

 

 

「無傷って訳でもなかったよ。

 ちょっと痛かったかな。」

 

 

「………ちょっとかよ。

 あれでも市街地一つ分消し飛ばす威力を集約させて撃ったんだがな…。」

 

 

 

「そんなものあんな広場で撃つなよ。

 あの場には一般の人達だっていたんだから。」

 

 

 

「別に構いやしねぇだろ?

 民衆なんて国に忠誠を誓ったっつー建前があるんだ。

 俺達の為に巻き添え食って死ねるなら本望だろ。」

 

 

 

「そんな訳ないだろ。

 そんな忠誠だってお前達がそうしろって言うから仕方なく従ってるだけなんだろ。」

 

 

 

「そうだとしても従うしかねぇんだよあいつらは。

 俺達がいなけりゃとっくにマテオなんて国は滅んでんだからよ。

 さっきのダレイオスの砦見ただろ?

 マテオとダレイオスでこうもはっきりと俺達がいるかいないかで違いがまるわかりじゃねぇか。

 この世は持ってる奴等が支配する世界なんだよ。」

 

 

 

「…そうなんだとしてもお前達みたいに人を人とも思わないようなやり方は間違っている。

 もっと…別の………人との接し方だってある。」

 

 

 

「そうは言うけどなぁ。

 俺達は俺達のやり方で国を治めちゃいるが例え俺達でなくても力を持てばこうなるんだぜ?

 たまたま俺達が力を持ってただけで仮にバルツィエ以外の力を持った勢力が上に立てば俺達と同じ政策を取るだろうぜ?

 奴隷制度知ってっだろ?」

 

 

 

「…奴隷がなんだってんだよ…?」

 

 

 

「あの制度は今まで消えてった国でもあったしそれを受け継いでマテオでも残った。

 マテオを実質的に支配してんのはバルツィエだがバルツィエができる前からそういうのは根強くあるんだよ。

 

 …綺麗事なんか訴えたところで人は汚れた種族だ。

 一度でも汚れた奴が上に立てばそれを上塗りした奴が次々と上に立っていく。

 人の歴史ってのはそうした繰り返しの歴史の中に組立ってんだ。

 

 バルツィエはそこから先に進まないように歯止めをかけてんだな。

 お前も後々は俺達と同じに染まるんだから光栄に思うこったな。」

 

 

 

「お前らなんかと同じ血が流れてると思うとどうしようもなく嫌になるね。

 今すぐ別の血と入れ換えたいよ。」

 

 

 

「そんなふうに言う奴は初めてだな。

 他のゴミ共はどんな手を使ってでも家と繋がりを持とうとする奴等だらけだって言うのによ?

 嫌がったってお前にはどうすることもできねぇだろ。

 そんなに嫌なら本当にそこらにいるゴミ共の血を抜いてお前の血と交換してやっても良いぜ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「素直に受け入れとけよ。

 バルツィエに入りゃ何だってできるようになるんだからよ。

 逃げる気がねぇんならどう足掻いたってお前は俺達の一員になるしかねぇんだからな。

 ………たくよぉ。

 フェデールの野郎も余計な仕事押し付けてきたもんだぜ。

 なんだってこの俺をぶっ飛ばした野郎を生け捕りにしてこいなんて命令してくんだか………。」

 

 

 

「………そんなこと俺は知らないよ。

 ……どうせ一昨年の時に一番俺にやられてたとかそういう理由じゃないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ご名答だぜ。

 この俺に赤っ恥かかせただけのことはある。

 よく分かってらっしゃるなぁ本人様はよぉ…?」

 

 

 

「あの広場のことを思い出したらアンタからアンタ達の計画が狂いだしたんだろ?

 アンタがダリントンって人に成りきって登場してから死んだ振りするまでは良かったけどその後声を上げたりなんかするからあの場でバーナン隊とダリントン隊を全滅させられなかったんだろう?

 他にもアンタがでしゃばる度に上手くいったことなんて無かったんじゃないの?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「だからこんな所まで俺達を追わされるんだよ。

 アンタが「偉そうな口叩くのはそこまでにしねぇか?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分の立場分かってねぇのか?

 おいよぉ?

 お前は今この俺の捕虜として捕らえられてんだぜ?

 そんなお前がこの俺を苛立たせるようなこと言ってっとどうなるか分からねぇのか?」

 

 

 

「…殺されたりでもするのか?」

 

 

 

「捕虜だって言ってんだろうがよ?

 ムカツクが俺がお前を殺る訳にはいかねぇんだよ。」

 

 

 

「…なら「だが」…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………バルツィエの先輩として生意気な後輩にバルツィエの流儀を今のうちに叩き込んでやるのもいいかもな…。」

 

 

 

「…そんなことしなくていいよ。

 お前なんかから教わることなんてろくでもないことだろうし。」

 

 

 

「だから!

 断れる立場にねぇんだよ!

 お前は!

 俺の教育を黙って受けやがれ!」

 

 

 

「………何するつもりなんだよ。」

 

 

 

「……お前と話してると段々腹が立ってきたなぁ…。

 話題が暗いし反抗的だし………。」

 

 

 

「…暗くて悪かったなぁ…。」

 

 

 

「…一昨年は恥をかかされるしこんな所まで来るはめになるし帰りはダルいし………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だよ?」

 

 

 

「お前もよ?

 連れていかれるならさっさと連れていかれたいと思わねぇか?

 こんな何もない暗い海なんか眺めて歩くよりかはもっと早く帰れる方法を思い付いたんだが…。」

 

 

 

「………そうだね。

 そんな方法があるならやってみてもいいけど。(それならもうアローネ達の方にこいつが向かうことは無さそうだな。もう大分時間は経ったしアローネ達もこいつが引き返しても見付からないところまで逃げ切れただろうし。)」

 

 

 

「我ながらナイスな方法を思い付いたぜ。

これならお前と嫌味な話をすることもねぇし帰るのも早まるしお前の相手して溜まったストレスも解消できる…。

 ついでにお前にも流儀をご教授できるおまけ付きだ。

 一石で何鳥も落とせるお得な方法だぜ。」

 

 

 

「………何か嫌な予感がするんだけど…、

 普通に連れていってくれた方がいいかな………。」

 

 

 

「もう切符は切っちまったぜ?

 お前はもうこいつに乗ることしかできねぇんだ。」

 

 

 

「…で?

 どんな方法なんだそれは。

 お前が俺を担いで走っていくとかか?

 それとも引きずって行くのか?」

 

 

 

「それだとお前が楽をするだけじゃねぇか。

 ふざけんな。」

 

 

 

「…引きずるってのは割とそうなんじゃないかって思ったけど違ったのか?」

 

 

 

「引きずるにしてもそれだと俺に負担がかかるのは変わらねぇだろうが。

 俺の方法は至ってシンプルだ。

 俺に負担がかからずお前が逃げることもない。

 むしろやればやるほど逃げられなくなっていくな。

 そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術が効きにくいお前だからこそできる裏技だぜ?」パァァッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………魔術…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストーンブラスト!!」ズドドドドドドドッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んあ?

 ………あぁわりぃ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手錠でマナを封じてりゃお前でも魔術は効くんだな。

 そこを見落としてたぜ。」



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危ぶまれる救出

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 カオスを指令通りに連れ帰るユーラスであったがその道中カオスの態度にイラつきユーラスがマナを封じられたままのカオスをいたぶり始める。

 手も足も出せない状況にカオスは………。


シーモス海道 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ!

 

 

 

「ぐっ…!

 いきなりっ……何をするんだ…!?」

 

 

 

「こうすればおれの鬱憤が晴れるのと同時に吹き飛んだ分だけ早く進めるだろ?

 俺の歩くスピードは変わらねぇがお前と話をしながら帰るよりかはマシだ。

 こうすっと石蹴りみたいで楽しみながら帰れるしな。」

 

 

 

「……!

 ……俺は吹き飛ばされて痛い思いをしなきゃならないけどね…!」

 

 

 

「俺はそれでもいいぜ?

 別に俺は痛くねぇし。」

 

 

 

「そりゃお前は「ストーンブラスト。」がっ…!?」ズドドドドドドドッ……………ドサッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「普通の奴なら死んでるとこだがお前ならそう簡単には死なねぇからな。

 お前だけにできる特別な運搬方だ。

 死ぬギリギリまでこれで運んでやるぜ。

 

 なぁに俺の部隊と合流するまでの辛抱だ。

 お前が正式にバルツィエになるまでのちょっとしたサービスだと思えばいいもんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………こういう特別扱いは嬉しくないな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドドドドドドドッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………やっぱあぁなるか。」

 

「………惨い。

 レイディーが仰っていたのはこのことだったのですね…。」

 

「バルツィエならカオスさんをあのように扱うのも頷けます。」

 

「……!

 今すぐカオスを助けてあげたい…!

 けど…!」

 

「抑えるんだミシガン。

 今助けに行ってもさっきの二の舞になる。」

 

「そうだぜ?

 先ずはアイツらにバレずにアイツらの部下達に奇襲をかけることが先決だ。」

 

「…ですがこの方法で気付かれたりはしないのですか?

 こんな遮蔽物もない海の上を渡ったりなど…。」

 

「それはこの暗さと奴の警戒心レベルが低いことを願うしかねぇな。

 仮にアタシらが追い掛けてくるとしたら陸を渡ってくると思って後ろばっかり警戒するだろうしな。」

 

「それにしても凄いなレイディー殿のソーサラーリングは…。

 魔技のアイスニードルを海中で放つことによって海を凍らせるだけでなく魔術光も抑えることができるとは………。

 魔術で海を凍らせていたら発動時の光でこの暗い中では即居所がバレてしまっていただろう。」

 

「アタシがいたからできる作戦だ。

 感謝するなら金くらいなら受け取ってやるよ。」

 

「金って………。」

 

「今は持ち合わせがそうないんだ。

 後に必ず………。」

 

「冗談だっつーの。

 真に受けんなよ。」

 

「…レイディーの冗談は冗談なのか分かりません。」

 

「…それにしてもユーラスが使う魔術がストーンブラストで助かりましたね。

 地属性のストーンブラストでは発動時の魔術光以外では光など放ちませんから。」

 

「そこもでかいな。

 奴自身の魔術がばかでかい範囲で砂埃を巻き上げるから視界を自分で塞いでくれてるのも作戦の成功率に大きく貢献してやがる。」

 

「…では今のうちに早く本隊の方へと奇襲をかけに行きましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………しかし本当にカオスの手錠の鍵をユーラスの部下が持っているのか…?」

 

「ユーラスは………、

 フェデールが持ち帰ったと言ってましたけど………。」

 

「持ってるだろうぜ…?

 ………持ってなきゃ困る………。」

 

「困るって………、

 確証もないのにこんな作戦決行して良いのでしょうか?」

 

「どうして鍵がユーラスの部隊にあるって思うのレイディー?」

 

「お前らは敵の流す情報を鵜呑みにし過ぎだ。

 …手錠ってのは殺傷能力こそないが装着されれば協力な武器になる。

 バルツィエの連中のマナすら封じ込める程にな。

 坊やもそれで半日抗えなかっただろ?」

 

「……そうだな。」

 

「だとしたら手違いで自分に嵌めちまったとしたら鍵が近くにねぇと不味いだろ?

 自分に使用しないとしてもだ。

 バルツィエは国こそ支配しちゃいるが常日頃命狙ってる奴等がわんさかいるんだ。

 そんな連中がどこに潜んでいるとも分からない状態で手錠だけ持ち歩いてるなんざ無用心だろうが。

 鍵は必ず近くにある筈だ。」

 

「それで奴の部下を叩くという作戦なんだな…?

 しかし…。」

 

「ユーラスが直接持ってる可能性もあるのでは…?」

 

「本人が持ってる可能性も捨てきれないが手錠嵌めてすぐお前らに手錠の鍵は自分が持ってるぜ?なんて言う馬鹿たんがどこにいる?

 そんなこと言ったらお前らが躍起になって奪おうとするだろうよ。」

 

「………そう………ですね。」

 

「アイツは殺しを楽しむことも好きだがそれ以上に人の気を逆立てるのも好きな奴なんだよ。

 アイツか部下のどっちかに鍵があると見てもいいだろう。

 アイツの性格の悪さを考慮してだけどな。」

 

「…レイディーさんといい勝負ですね。」

 

「ガキ、

 文句があんならテメェだけ海に突き落とすぞ?」

 

「アンタの普段の行いがそう言わせたんでしょ。

 子供にムキになってどうすんのよ。」

 

「こんな時に戯れは止してください。

 カオスが大変なんですよ。」

 

「…どのみち鍵を探すのなら両方ともぶつかるんだ。

 先ずは奪いやすい方から片付けるのが良策だろ?」

 

「ユーラスの部隊が鍵を持っていたとしてそこからユーラスがカオスを吹き飛ばしたところを取り返すんだな…?」

 

「今できる作戦はそれっきゃねぇ。

 部下が持ってなかったとしたら鍵はユーラスの手にある。

 その場合は………手錠の鍵は諦めて坊やだけかっさらうぞ。」

 

「ユーラス達が海の上まで追い掛けてきたらどうするんですか?」

 

「それは心配ねぇよ。

 一昨日の戦闘で部下達の戦闘力見たろ?

 アイツらじゃ話にならねぇ。

 戦場にバルツィエばっか出てっから経験が全然だ。

 ユーラスに関しては奴は氷の魔術は使えねぇだろう。」

 

「自信もって言い切りますね。

 根拠でもあるのですか?」

 

「バルツィエの連中は火力重視スタイルだ。

 得意系統の属性以外はてんで鍛えようとしないんだ。

 フェデールみたいな例外もいるがユーラスやダイン、ランドール、ラーゲッツが自分の属性以外を使っているところなんざ見たことねぇよ。」

 

「…言われてみれば彼等は一つの属性魔術しか使っていませんね…。」

 

「お前みたいな何でも屋は滅多にいねぇんだよ。

 武器と同じだ。

 使いやすいスタイルオンリーで事足りるんだよ奴等は。」

 

「じゃあ海に逃げればあいつら追ってこれないってこと…?」

 

「そういうことになるな。

 今あいつらはユーラスの指示で攻撃してこねぇだろ?

 奴等ももう勝った気でいやがる。

 今なら横っ腹からキツいもんお見舞いできるぜ。

 あいつらは多分だが火属性だけの人員で固めてる筈だ。

 あいつらさえ倒せばアタシらが海に逃げたとしてもファイヤーボールで氷を溶かされることもない。」

 

「鍵を探すのと追っ手からの追跡と追い討ちを防ぐ効率的な作戦と言う訳だな。」

 

「理想はそうだな。

 上手く運べばそうなる。」

 

「何か問題点でも…?」

 

「奇襲をかけるにはかけるがその間アタシらの使える技が限られてくる。

 ファイヤーボール以外は武身技のみだ。

 だがそれだと時間がかかりすぎる。

 

 

 

 猿、

 ファイヤーボール使えるのはお前だけだ。

 お前が奴等を多く仕留めるんだ。

 やれるか?」

 

 

 

「…それでカオスが救えるのなら。」

 

 

 

「…よし!

期待してるぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (………この作戦…。

 上手くいったとしてもユーラスをどう撒くかが問題になってくる。

 アタシの計算なら奴も海の上まで追ってはこねぇだろうが万が一陸での戦闘になったらカオスが封じられている今こちらに勝ち目はねぇ。

 

 それに……奴が鍵を握っていた場合この作戦自体が無駄な徒労に終わる。

 両軍共に消耗はしているがユーラスは未だ無傷…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝負を決するなら短期だってーのに不利な条件が多すぎるぜ……。)」



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鍵の捜索

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスがカオスに怒りをぶつけているうちにカオスの仲間達はカオス解放のための鍵を探す。

 果たして見つけ出すことなどできるのであろうか………


シーモス海道 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………静かすぎるな。」

 

「静かですか…?

 向こうでカオスさんがユーラスに攻撃をされていますが…。」

 

「そっちの話ではないだろう。

 レイディー殿が言っているのはユーラスの部下達の方だろう。」

 

「………確かに一部隊だけとはいえここまで何の話し声も聞こえないのは変ですが………。」

 

「命令に忠実に従ってるなんて騎士団ってそこまできっちりしてるんだね?」

 

「いえ…、

 百人近くいる部隊がこうも静かなのは流石におかしいですよ。

 何か………、

 良からぬことを企んでいるのでは………?」

 

「…アタシらが近付いてきてることがバレていて辺りを探っているのか…?」

 

「それだったらユーラスもボク達に気付いて攻撃を仕掛けてくるんじゃないですか?」

 

「今のところユーラスにはその様子は見られないが…。」

 

「また罠を仕掛けてるかもしれねぇが、

 もう少し近寄ってみる必要があるな…。」

 

「えぇ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドドドドドドドッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう声をあげる気力もねぇのか!

 一昨日の奴とは思えないぐらい脆いなぁ!!

 ハッハー!!」

 

 

 

「…よく………言うよ。

 ………こんな………道具で………、

 抑制している相手を………痛め付けて………

 ……楽しいの…?」

 

 

 

「楽しいかって…?

 楽しいからやってんだが?」

 

 

 

「そういう………奴等だったな………。

 ………俺には分からないな………。」

 

 

 

「お前に理解なんか求めちゃいないからそのままぶっ飛んでろ。

 このクソッタレが。」パァァッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドドドドドドドッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルルッ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………話し声すら聞こえないと思ったらこういうことか…。」

 

「感染………している…?

 でもどうして…?

 ワクチンは持ってきてるって………?」

 

「元々俺達を殲滅するのが主の作戦だったからな。

 ワクチンを十分には持ってきてなかったんだろう…。

 それに馬に対してはワクチンは射たないから馬から感染して暴れだされたら疲労の溜まった部隊では収めることは難しい…。」

 

「足にしていた馬がヴェノムに感染し部隊を壊滅まで追いやったのでしょう…。

 これは………私達にとっては幸運と捉えるべきなのでしょうか…?」

 

「幸運っちゃ幸運だな。

 知能が欠けた分、

 接近するのが容易だ。

 

 ゴリラと擬き、

 ワクチン分けてやるからこのヴェノム達を葬ってやれ。

 魔術は無しでな。」

 

「……何だか………、

 敵ながら同情しますね…。

 この方々や馬達も私達のせいでこのような死を迎えてしまったのでしたら…。」

 

「…今は生きている奴を優先しろ。

 こいつらはもう屍だ。

 ゾンビになっちまったんなら火葬してやった方が報われるってもんだ。」

 

「それもそうでしょうが………。」

 

「坊や………、

 助けたいんだろ?

 今は坊やのことだけ考えてればいい。

 敵の骸なんかにかけてやる情けは要らねぇ…。」

 

「………そうですね。

 

 

 

 では………私が火葬します…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファイヤーボール!!」ボシュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?

 何やってんだあいつら…?」

 

 

 

「………」ボロッ…

 

 

 

「……なんか俺の隊の奴等が騒いでんな…。

 ヴェノムの掃除がまだ終わらねぇのか…?」

 

 

 

「…気になるんなら………見てくればいいじゃん………。」

 

 

 

「そんなこと言って俺の教育から逃げようったってそうはいかねぇぞ?

 お前にはまだまだたっぷりとお礼参りし足りねぇんだからよ。」

 

 

 

「…もう目的が…………変わってるじゃないか…。」

 

 

 

「変わっちゃいねぇぜ?

 この任務を引き受けた当初はこれが目的だったんだからな。

 それをお前が勝手に勘違いしただけだ。」

 

 

 

「………任務って言うか………、

 完全に私怨………だよね………?」

 

 

 

「そらぁお前よぉ?

 俺が怨むだけのことはしたよなぁ?

 俺をゴミ共の前で喜劇の笑い者にしたよなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この俺を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この俺をお前のシナリオの引き立て役に宛がったよなぁ!!?」ザンッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ない。」

 

「…こっちもだ………。」

 

「………私の方もありません……。」

 

「………」

 

 

 

「そいつで最後か………。

 ここまで探して鍵が無いとなると……。」

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

 

「…ユーラスが持ってるだろうな…。

 あいつは部下にすら信用を置いてなかったってことか…。

 よくよく考えたら部下の中に自分を狙ってくる奴がいるかも知れねぇからな。

 鍵と手錠はセットで持ち歩くか…。」

 

 

 

「…鍵がなくてはカオスを解放してあげられない………。」

 

「どうするのレイディー…?」

 

 

 

「鍵が無いんじゃどうしようもねぇだろ。

 ユーラスから奪う………のは無理だ。

 奪う前に殺される。

 

 なら手錠のことは忘れて坊やを奪い返して逃げた後で手錠を破壊すりゃいい。」

 

 

 

「それならカオスを早く救出しに行こう。

 時間をかけすぎるとカオスの体力が持たない…。」

 

「先程の様子ですと……カオスももう限界が近いでしょう…。

 救助に成功しましたらすぐにでもファーストエイドで回復しましょう。」

 

 

 

「第一目標の追っ手の部隊は全滅させた………。

 正確には全滅していただが………。」

 

「…では隠れますか?

 後ろにいる筈のボク達がユーラスの前にいて壊滅した自分の部隊を目撃したとなると敵認証されるのは免れませんよ。」

 

「うぇ?

 隠れる?

 隠れるってどこに隠れるの?」

 

「海の中は………ないな。

 衣服を着たままでは水を吸って余計に逃亡の妨げになりかねん。」

 

「周りにあるのは………何もありせんね………。」

 

 

 

「何もないってことはねぇだろ?

 よく見渡してみな。

 隠れるのにうってつけの物が転がってるじゃねぇか。」

 

「…やはりそういうことでしたか…。」

 

「この死体の中に身を潜ませるのですね…。

 でも…。」

 

「…あんまり血とかつくのは勘弁だけど…、

 この人達ってさっきまでヴェノムに感染してたんだよね?

 レイディーワクチンの効果もう切れてるんじゃないの?」

 

「お前らに渡したワクチンで機能停止させることには成功したようだがワクチンでも完全にヴェノムウイルスを除去することは難しいだろうな。

 アタシが一緒に隠れてもアタシだけ感染しちまう。

 ワクチンもあまり使いたくねぇし…。

 ここはアタシだけユーラスからギリギリ見えない辺りに海の上まで離れとくことにするか…。」

 

「ではレイディー殿…。

 ここからの作戦は俺達が隠れてカオスが来るのを待ち、カオスが近くまで来た瞬間にカオスと一緒に海へと逃げるということで間違いないな?」

 

「あぁ。

 それで問題ねぇよ。

 ただし役割は各員適格にこなせ。

 

 ゴリラは坊やの瞬時に坊やの確保、

 擬きはユーラスの攻撃をガード、

 ガキは中距離からサポートだ。

 

 そしてアタシが海面に氷を張り擬き達が氷面に飛び移ったら即時猿が氷を溶かして追い討ちされないようにしてくれ。

 

 

 

 ついでに言やぁ猿はユーラスと対峙して魔術の相殺も頼めるか?」

 

 

 

「…はい。」

 

 

 

「ポジション的に言えば魔術を使用するお前が一番失敗率が高い。

 他の三人は身一つで即時動けるがお前だけはどうしても発動に時間がかかる。

 バルツィエの魔術の相殺だけでも一苦労するぞ。

 相殺するときは必ず詠唱も込みで使用しろ。」

 

 

 

「分かっています……。

 私が地属性を相殺するのにもっとも適した属性……、

 風属性の使い手ですから…。」

 

 

 

「危険な役だが他の奴等にそれを任せちまうと相殺できずに奴の魔術に飲まれちまう。

 魔術の衝突は相反する属性でない場合力比べになるからお前以外にはこの役は無理なんだよ。

 ……救うのは坊やだけだがその間はこいつら三人の命もお前に預けることになる。」

 

 

 

「心得ています。

 私がカオスと三人を守って見せます!」

 

 

 

「気合い入ってるな。

 そんなに坊やの役に立つのが嬉しいのかねぇ…。

 ……フフッ、

 頼りにしてるぜ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ。」



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一瞬の出来事

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 カオス解放のための鍵を探すが見つからずカオスの仲間達はユーラスが持っているとふみ不意をつき鍵を奪うことにする。

 そこへ………。


シーモス海道 深夜

 

 

 

「……貴女はここぞと言うときに名前で呼んで下さるのですね。

 ウッフフ…。」

 

「…これから失敗できない作戦結構するってのに笑顔たぁ緊張感の足りねぇ女だなお前は。」

 

「それはレイディーもですよ?

 それに笑ったのでしたら貴女から先ではありませんか。」

 

「おっとこりゃ失礼…。

 アタシも緊張感が足りてねぇようだ。」

 

「…レイディー殿、

 ユーラス達がこっちに来るぞ。」

 

「そうだな。

 お前ら作戦通りに動けよ?

 アタシが離れるからって焦るなよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 検討を祈る…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おい生きてっか?」

 

 

 

「」

 

 

 

「…やっべ、

 やり過ぎたか…。

 ついキレてやっちまったぜ。

 フェデールに叱られるなこりゃあ…。

 

 

 

 ……まぁこうなっちまったらもうどうしようもねぇよなぁ…。

 フェデールに何て言おうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そうだな。

 ヴェノムに感染してゾンビ化したからぶった斬ったとでも報告すりゃあいいか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………死ぬまで俺をイラつかせる野郎だなぁ。

 お前が俺を怒らせるからそういうことになったんだぜ?

 おかげで任務失敗じゃねぇか。

 どうしてくれんだおい。

 なんとか言ったらどうだ…?」

 

 

 

「」

 

 

 

「…はぁぁぁぁぁぁぁ………、

 テメェはよぉ…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んでもイライラさせんなぁ!?

 この田舎者がよぉォォォォッ!!!」ドスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴロゴロゴロゴロゴロッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………カオス?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何だよ。

 隊の奴等全員死んでんじゃねぇか。

 ワクチン持ってたってのに何をヴェノムごときに殺られてんだよ。

 情けねぇ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………丁度良いところに転がってきたな…。

 カオス、迎えに来たぞカオス………。」ボソボソッ

 

「カオス、私達と一緒に逃げよ?ね?」ボソボソッ

 

「…まだユーラスが近くにいますよ。」ボソボソッ

 

 

 

「」

 

 

 

「………」

 

「?

 どうしたんだカオスは…。」ボソボソッ

 

「かなり攻撃を受けてたから喋ることができないのかも…。」ボソボソッ

 

「アローネさん、カオスさんの様子はどうですか…?」ボソボソッ

 

 

 

「………」

 

 

 

「……どうなんだアローネ=リム。

 カオスはどういう様子なんだ…?」ボソボソッ

 

「…語れないくらいに悪いの…?」ボソボソッ

 

「シッ…ユーラスが辺りを巡回しています。

 今は静に…。」ボソボソッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~ぁ、

 全滅かよ…。

 弱い奴等だなぁ………。

 誰も生き残ってる奴はいねぇのか?

 せめて馬ぐらいは確保しとけっての!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これじゃ俺一人でカオスの首持って帰るしかねぇじゃねぇか!

 だりぃったらありゃしねぇよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(…一人言の多い奴だな。)」ボソボソッ

 

「………ねぇ、今アイツさぁ…。

 ………カオスの首を持って帰るって言わなかった…?」ボソボソッ

 

「…ボクもそう聞こえました…。」ボソボソッ

 

「連中は気性と口調の荒い奴等だから大雑把な言い間違いをしたんだろう…。

 あいつは任務でカオスを連れ帰ると言っていた…。

 任務ならカオスを殺すことはないだろう…。」ボソボソッ

 

「…けどここからじゃ頭ぐらいしか見えないけどカオス、

 ピクリとも動かないよ…?」ボソボソッ

 

「アローネさん………、

 カオスさんがどうなってるか分かりますか…?」ボソボソッ

 

 

 

「…………………カオスの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………カオスの両手が………、

 ………ありません………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………両手が……………ない………?」

 

 

 

「………両手が…………って…………え?」

 

 

 

「…………」

 

 

 

「………カオスの手首から先が見当たらなくて…………、

 手首から出血が…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「…………カオスが………、

 ……生きているかは…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お?

 まだゾンビが残ってたか?

 死体を吹っ飛ばすだけじゃ面白くねぇからな。

 通り道の掃除も兼ねて一緒に吹っ飛ばしてやろうか。」パァァッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 まずいぞ!

 ここから離れろ!」バッ

 

「でもカオスが!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストーンブラスト!!」ズドドドドドドドッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドドトドドドドドドドドドドドドドドトトトッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふぅ、

 道が綺麗になったな………。

 なんかゾンビにしては俊敏な動きしてたが何だったんだ…?

 

 

 

 それよりカオスは………と?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「」

 

 

 

「ジュゥゥゥゥ…」

 

 

 

「うわっ…

 小せぇヴェノムに組みつかれてんな………。

 

 

 

 頭に廻る前に首だけ切り取っておくか。」ザッザッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイシクル!!」パァァッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何…?」パキィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「坊や!!」スィ~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「坊や!

 大丈夫か!?

 返事をしろ!!」

 

 

 

「」ダラン…

 

 

 

「………こりゃ手酷くやられたな…!

 中々あいつらに動きがないから見に来てみればこういうことだったか…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 …またお前か…。

 ムーアヘッドとかいう女ァッ!!

 そいつをこっちに寄越しなぁ!!」

 

 

 

「それはできねぇなぁ!

 この坊やはアタシの身内なんでな!

 お前らなんかには渡せねぇ!」

 

 

 

「ぐぅっ!

 おのれぇッ!!」グッグッ…

 

 

 

「暫くそこでもがいてな!

 そんじゃあおさらばだ!

 あばよ!」スィ~…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツめぇ…!!

 こんな氷で俺を止められると思うなよぉ!!」バキバキッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリアナス砦 深夜

 

 

 

「………ここら辺でいいか…!

 おい坊や、しっかりしろ!」

 

 

 

「」

 

 

 

「意識が戻らねぇなぁ…!

 これだけ出血してるとやばいな…。

 傷口の応急処置が先決か。

 

 

 

 アイシクル!」

 

 

 

「」パキィィンッ!

 

 

 

「本当は氷で血を止めるのは駄目なんだがな…。

 体力的には回復の見込みはねぇな。

 さっきグミはあいつらが食ってたし何か坊やが持ってるもので回復できそうなのはないか…?」ゴソゴソッ

 

 

 

「」グッタリ

 

 

 

「………あんまし良いのが見つからねぇなぁ………。

 ん?

 これは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 ライフボトルか…!

 よくこんなもん持ってたな。

 だがこれで助かる!

 坊や!

 何とかこれを飲め!」グイッ

 

 

 

「」トポトポッ…

 

 

 

「………(どうだ…?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………ブフッ!!

 エホッエホッ!!」

 

 

 

「!

 大丈夫か!?」

 

 

 

「ハァ…ハァ……。

 ………はい。」

 

 

 

「そいつぁ良かった!

 お前を見つけたときは肝を冷やしたぜ。

血塗れでぶっ倒れてるわ手首は切断されてるわで死んだかと思ったぞ。」

 

 

 

「………どうしてレイディーさんが………?

 レイディーさんは逃げたんじゃ…?

 ………いつッ!?」ズキッ

 

 

 

「あまり無理はするなよ。

 お前は今死んでてもおかしくねぇ状態なんだからな。」

 

 

 

「………手が………。」

 

 

 

「ユーラスの仕業だな。

 アタシがお前を発見したときには既にそうなってた。

 出血多量で死にそうになってたから出血を止めるために手首の方はアタシが凍らせた。

 冷えるだろうが我慢しろ。」

 

 

 

「それは………有り難うございます…。

 それで……ここは…?

 アローネ達はどこに………?」

 

 

 

「ここはダレイオスの砦だ。

 無人だったからここに連れてきた。

 猿達は………。」

 

 

 

「?

 アローネ達は………?」

 

 

 

「………………猿達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………お前を助けに行ってユーラスの魔術の直撃を受けて吹き飛ばされた………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………アローネ達が………吹き飛ばされた?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………目の前で見ていた。

 お前がユーラスにぶっ飛ばされて傷付き倒れているところを隠れて隙を見て拾って逃げようとしていたんだ。

 ………そしたらユーラスが………。

 …アイツのゾンビ化した部下もろとも吹き飛ばされた………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なん………で………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前を…………、

 坊やを救うためだったんだ………。

 あいつらは………、

 お前が一人であいつらのために犠牲になるのを見過ごせなかったんだ………。

 だからアタシもお前を助ける作戦に一枚噛んだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あいつらは………アタシとお前の為にユーラスに殺された………。」



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戦場の掟

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 カオス奪還の為ユーラスを待ち構えていた仲間達だったが転がってきたカオスの姿を見て呆然としてしまう。

 その隙にユーラスが攻撃を仕掛け………。


トリアナス砦 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………………………………………………………………………………嘘だ………。」

 

 

 

「坊や?」

 

 

 

「…嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ…!」

 

 

 

「…坊やには辛い話だがこれが現実だ…。

 あいつらがユーラスに吹き飛ばされるところをこの目で見てきた…。」

 

 

 

「嘘だ!?

 皆が殺されただなんて嘘だ!!

 そんなの信じられない!!」

 

 

 

「直接見てないから信じがたいのかもしれんがその腕を見てみろよ。」

 

 

 

「…!?」

 

 

 

「坊やを拉致する筈だったユーラスがお前を殺そうとしていた…。

 バルツィエがどういう思考してるか坊やは身をもって知っただろ…?」

 

 

 

「………」ギリッ

 

 

 

「生け捕り予定の坊やですらそうなったんだ。

 …なら生かす必要のないあいつらがユーラスのもとへと向かったらどうなるか…、

 坊やなら分かるよな…?」

 

 

 

「だけど!!

 ………何で皆が…!?

 俺は………皆を助けるためにユーラスについていったのに……!?

 どうして皆は俺なんかを……!?」

 

 

 

「…俺なんか………、

 坊やは自分のことを卑下して見ているようだがあいつらは坊やのことをお前程低くは評価してなかったぞ。

 アタシだってそうだ。

 だからアタシもあいつらが坊やを助けたいって言うからそれに賛同して作戦を立ててやった。

 その結果お前の救出には成功した…。

 

 …だが見立てを謝りあいつらを代わりに犠牲にしちまった………。

 そこは………、

 計算を間違えたアタシに全責任がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すまんかった………。

 アタシがもっと奴等のことを理解していればこうならずには済んだかもしれん………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうですよ。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「…レイディーさんが俺を助けようとなんてしなければ皆は………、

 死なずに済んだんだ………。

 

 アンタが余計なことを皆に吹き込んだから………。

 皆は………、

 俺の代わりに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタのせぇでぇッ!!」グッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタシを責めたい気持ちも分かるがそんな体で無茶をするな…。

 アタシだって自分で自分を殺したくなる…。

 

 だが今は坊やを安全なところまで連れて行って治療するのが優先だ。

 そうしないとアタシのせいで死んでいったあいつらに申し訳が立たない…。」

 

 

 

「俺のことなんてどうだっていいだろ!?

 そんなことするくらいだったら皆を生き返らせてくれよ!?

 アンタに責任があるんだったらそれくらいできるだろ!?

 なぁ!?

 俺なんかの命助けるくらいだったら皆を助けてくれよ!?

 なぁ!!?」

 

 

 

「…どんな世界でも失った命を元通りにすることなんて不可能だ。

 死者が生き返ることはない…。

 一度死んだら二度と帰ってくることはないんだ…。

 アタシのせいで死んでいったんだとしてもアタシにはあいつらを蘇らせることなんてできねぇ………。」

 

 

 

「じゃあどうするんだよ!?

 皆が死んだって言うんなら俺はどうしたらいい!?

 どうしたら皆が帰ってくるんだ!?

 俺は!!

 俺はどうしたらよかったんだ!?

 皆を救いたかったのに俺は…!?

 俺は………どうすれば皆を救えたんだ………!?」

 

 

 

「………その答えをアタシは持ってねぇよ………。」

 

 

 

「………!」

 

 

 

「……だがよ。

 お前はあいつらを失いたくなかったんだろ…?」

 

 

 

「!

 そんなの当たり前じゃないか!?

 何を言って「だったなら…」…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は一昨日のレサリナスで………、

 大人しく黙って何もしなければよかったんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何でそうなるんだよ。

 そしたら…。

 そしたら!!

 ウインドラがユーラスに殺されてたじゃないか!?

 俺はウインドラに死んでほしくなんて「全部を救うなんて無理な話なんだよ。」…!?」

 

 

 

「切っ掛けや動機がなんであれお前の友人は剣を取った…。

 戦う道を選んだんだ………。

 戦いの道に進んで犠牲の無いことなんてあり得ない。

 戦うということは二つの勢力があり共にその代償を払うことになる………。

 戦いに勝つこともあれば負けることだってある…。

 坊やは非殺生主義なんだろうがお前の友人は違う………。

 

 あいつだってここに来るまでに既に殺人を犯している………。

 ラーゲッツを含めて十数人くらいな。」

 

 

 

「十数人………?

 そんなのいつ………?」

 

 

 

「一つしかないだろ…。

 あの中継地点の話だ。」

 

 

 

「あそこで………?

 けどあそこでは………拘束しただけで殺してなんて………。」

 

 

 

「お前がいたから奴は直接は殺さなかったがな………。

 お前に止められると思ったんだろう。

 だからあいつはお前を先に行かせて他の奴等に任せた…。

 擬きの仲間もお前のことは擬きに聞いて把握してたからな。

 そして擬きの仲間は手錠で中継地点の奴等を拘束して坊やと擬き達を先に行かせてから小屋に火を放って殺したんだ。

 草をかき集めてたのは燃えやすくするためだ。

 小さな火でも時間をかければ火が大きくなって小屋の中の連中を焼き殺せるからだったんだよ。

 その方法をとれば先に行ったアタシらにすぐ合流できるし追い付いてきた時間の短さからしてお前達もまさか殺しをしてきただなんて思わない。

 他にもバルツィエの戦力を削ぐのと殺しをしながら逃亡も謀れる。

 

 

 

 実に効率的な作戦だった…。」

 

 

 

「トラビスさん達がそんなことを………、

 

 

 

 …だけどその方法じゃ本当にあのグライド達が死んだかなんて分からないじゃないか!?

 誰も確かめたりなんてできなかったし…!」

 

 

 

「………残念だが確認なんて要らねぇんだよ。」

 

 

 

「………何でだよ………。」

 

 

 

「…あのグライド達が運良くあの小屋から逃げたか助け出されたかしてたんならこの海道でユーラスと一緒に追い掛けてきてただろうぜ?

 あのグライドはシーモスの管轄らしいからな。

 お前にあんな目にあわされたんなら逆上してユーラスに加担するだろう。

 

 

 

 …だがグライドは追っ手の中にはいなかった。

 だとしたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グライドは死んだんだよ。

 擬きと擬きの手によってな。」

 

 

 

「グライドが………死んでいた………?

 ウインドラ達が………殺した………?」

 

 

 

「そう………。

 あいつらはバルツィエと戦争をしてたんだ。

 戦争をしてるんなら殺して当然だ。

 なら殺されても当然と言える。

 

 坊やは擬きを救いたかっただろうがあいつはもう殺される理由を自分で作っちまったんだ。

 あのレサリナスで擬きを救わなければ猿とゴリラとガキはこんなところまで逃げてから殺されることも無かったんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………坊やは剣を握るということがどういうことに繋がるのかこれで分かっただろ?

 戦争では殺さなきゃ殺される。

 これが世界だ。

 お前が人を救うとしてもそれは必ずしも救わないといけない奴なのか見極めなきゃいけねぇ…。

 そうでないと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回のように無駄な犠牲を増やすだけなんだよ………。

 死ななくてもよかった奴が坊やの判断一つで増減するんだ………。

 

 戦える力を持っているからと言ってそれを安易に振るうなよ………。」



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逃れられない敵

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 カオスは自分が気を失っている間に仲間達がユーラスに吹き飛ばされたとレイディーから伝えられる。

 それを信じられずレイディーにあたるが………。


トリアナス砦 深夜

 

 

 

「………」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」クルッ、ザッザッ

 

 

 

「待て。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「どこに行く………?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………」

 

 

 

「……そんなの決まっているじゃないですか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ達を捜しに行くんですよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…猿達が生きている可能性は低いぞ?

 そんなことしてユーラスに見付かったらどうするんだよ。

 今アイツと遭遇しても殺されるだけだ。

 そんな折れた腕と手首じゃ剣すらまともに抜けまい。」

 

 

 

「………折れた腕ならもう治りました。」

 

 

 

「…何?

 そんな訳が………。」

 

 

 

「………」スッ

 

 

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………そんな馬鹿な………。」

 

 

 

「………これでいいでしょう…?

 それじゃ…。」

 

 

 

「待てってよ。」ガシッ

 

 

 

「………」

 

 

 

「……腕が治ったにしてもユーラスと対峙したらその腕でどうするつもりだ…?

 猿達が吹き飛ばされた辺りにまだ奴がいるかも知れねぇんだぞ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「お前の生死を確認しないことには奴もこの海道を離れねぇだろ。

 その辺を彷徨いてる筈だ。

 そんなところにお前がノコノコと出ていったら今度こそ奴はお前に止めを刺すだろう。

 …そんなことを猿達が望むと思うか…?」

 

 

 

「………アローネ達は………。」

 

 

 

「ん…?」

 

 

 

「………いえ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …さっきは生意気な口を聞いて悪かったです…。

 頭を冷やして考えたらレイディーさんには危ないところを助けてもらったのに………。」

 

 

 

「そこは………別に気にしてねぇけど………。」

 

 

 

「………けど…、

 レイディーさんの話には全部納得した訳じゃないんです………。

 ………俺は………、

 もう俺のために………、

 ………俺のせいで誰かが死ぬのは嫌なんです………。

 そんなのは………十年前のミストの村の皆だけで沢山なんだ………。

 俺のせいで犠牲になるんだったら俺は………、

 俺が死にたい………。」

 

 

 

「お前が死にたいって………、

 ……そんなのはなぁ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猿達もおんなじだろうがよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アローネ達が………?」

 

 

 

「誰しも考えることは同じなんだ。

 お前があいつらを犠牲にしたくなかったようにあいつらもお前を犠牲にしたくなかった………。

 だからあいつらはお前を助けに向かったんだ。

 お前が一人で犠牲になろうとしてるのを止めたかったんだよ。

 あいつらはお前にばかり辛い仕事をさせてから命まで救ってもらった………。

 そんなお前だから………、

 あいつらもお前を見捨てきれなかったんだ………。」

 

 

 

「…どうしてこんな俺のために皆がそこまでして………。」

 

 

 

「お前は自分を軽く見過ぎなんだよ。

 もっと自信を持ちな。

 過去の一件で村人達から責められたりはしたんだろうがあんなもん客観的に聞いてみればお前がやったことは村を全滅の危機から救った偉業だ。

 お前が自分を認められなくてもお前を認めてくれる奴は少なからずいるんだよ。

 

 

 

 それがあいつらだったんだ…。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「あいつらが認めているお前をお前は否定なんかするんじゃない…。

 それはあいつらの人格そのものを否定することになるんだぞ?

 そんなことは坊やだってしたくないだろ…?

 あいつらの気持ちも汲んでやんな。」

 

 

 

「………はい。」

 

 

 

「…あいつらが殺されたってのはアタシの早とちりだった…。

 アタシもあいつらが吹っ飛ばされたところを見ただけで死んだのは見ていない。

 心配なのは分かるぜ?

 だけどそんな状態のお前に捜索されてユーラスに捕まりでもしたら猿達にまた無茶させるだけだ。

 

 あいつらだって馬鹿じゃない。

 吹っ飛ばされて生きてるってんならユーラスに見付からないように身を潜めているだろ。

 そこへ戦えないお前が出向いてみろ?

 猿達はお前を全力で守りながらユーラスと戦うぞ?

 勝てない相手と分かっていても坊やを守りながら戦う。

 そうなったら坊やは猿達の邪魔にしかならない。

 だから…、

 

 

 

 お前は今は体を休めてマナが回復するのを待つんだ。

 マナさえ回復すりゃお前も飛葉翻歩で逃げれるだけの力は戻るだろ?

 猿達の捜索はマナが回復して夜が明けてからにしようぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………分かりました。」

 

 

 

「…じゃあ朝の予定も決まったしユーラスの野郎がここを探しに来ないとも限らねぇからどっか隠れられる部屋へ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドドドドドドドドドドドドドッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カオスゥ!!

 ムーアヘッドォォッ!!

 隠れてんのは分かってるぜ!!?

 出てきやがれ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ユーラス!!」

 

 

 

「もうここを突き止めやがったか…!

 坊や、

 早くどこか隠れられそうな部屋に行くぞ。」

 

 

 

「はい『さっさと出てこねぇとお前の大切な仲間を一人一人殺していくぞ!!』……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…アローネ達が…、

 やっぱり生きてたんだ…!!」

 

 

 

「猿達………!

 いやこれは………!?」

 

 

 

「助けに行かなくちゃ…!!」

 

 

 

「待て早まるな!

 猿達があいつの所にいるか見てからだ!」

 

 

 

「アローネ!タレス!ミシガン!ウインドラァァッ!!」ダッ!

 

 

 

「あっ!?

 おい!!

 ………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あいつ…!!

 冷静さを欠いてやがる!!

 世話の焼ける奴め!!」ダッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユーラス!!」

 

 

 

「………よぉ。

 生きてやがったなカオス…。

 ゾンビ化したんじゃないかって心配したんだぜぇ?」

 

 

 

「皆は………!

 皆はどうしたんだ…!?」

 

 

 

「安心しな。

 四人とも生きてるぜ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズタボロにしてゾンビの群れの中に置いてきたがな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてことを……!?」

 

 

 

「今頃ゾンビに食われてるかゾンビの仲間になってるだろうよ。

 見に行ってみねぇか?」

 

 

 

「……!」ダッ!

 

 

 

「おぉ!

 いいねぇ!

 そうこなくちゃ!」ヒョイッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…待っててくれ皆…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハッ!

 あんなに慌てちゃって…!

 どうせ間に合わねぇよ!

 行っても仲間の死に様しか拝めねぇっての!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おいユーラス。」

 

 

 

 

 

 

「………よぉ、お前もいやがるよな…?

 あいつを連れていったのはお前なんだからあいつの側にいるのは当然だよな。」

 

 

 

「………どうして坊や………カオスを行かせたんだ………?」

 

 

 

「あいつは身を呈して仲間を見逃してもらうよう懇願するような奴だ。

 その仲間がまだ死の危険から逃れられていないことを知ると一目散に駆け付けるだろうと予測がつく。

 

 あいつが向かったのは仲間の元なんかじゃねぇ。

 これからレサリナスに戻るまでの帰途で…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 より深い絶望を拝みに行っただけなんだよ。

 帰り道に助けたかった仲間が死ぬ場面くらい見せてやりたい俺の優しさが伝わってくるだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あぁ、

 伝わってきたぜ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱりバルツィエなんかに坊やは渡せねぇってな!」パァァ

 

 

 

 

 

 

「お前がカオスにワクチンを付与してヴェノムから救ったんだろ?

 ならお前をぶち殺してカオスには一切の救助の手をなくしちまうのもいいよな。

 

 

 

 蟻だろうが一匹でも取りこぼしちまうのは無性に気分が悪かったところだ。

 敵は殺り尽くしてこそ“真の勝利”だろ?」



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全滅する仲間達

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 仲間達が全滅したことをレイディーから伝えられるカオスだったがそれを信じきれずカオスは仲間達を案じて探しにいく。

 そこへユーラスが………。


シーモス海道 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タタタッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………どうか皆、無事でいてくれ………。

 

 

 

今………行くから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…マナも回復してきたし一回くらいなら…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………カオ………ス……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネ!?

 よかった生きてたんだね!

 アロー…………………ネ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………私は………自己治癒ができますから………。

 ………それよりカオスはどうして………?

 レイディーが………保護したというのにどうして戻って来たのですか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは…………皆のことを心配して…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうだったのですか………。

 私達は………似た者同士ですね………。

 私達も…一人でユーラスについていったカオスが心配で迎えに行ったのですよ………?

 それで………レイディーはどこへ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………レイディーさんは………ユーラスに見付からないように隠れてる………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうなのですか………?

 …あの人にもここへ来てヴェノムを退ける御手伝いをしてほしかったのですが………仕方ありませんね………。

 カオスは………どこも怪我はありませんか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………カオス?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺は…………どこも怪我はないよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………本当ですか…?

 カオスを救出する際カオスがユーラスに痛め付けられているのを遠くから見ていたのでカオスがまた怪我をしているのではないかと思ってたのですけど………。

 魔術での攻撃だったので見た目ほど傷つけられてはなかったのですね………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よかった…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何がよかったんだ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうしたのですか?

 そんなに怒鳴って………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくよかったなんて言えるな!?

 よかったことなんて何一つ無いじゃないか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありますよ…。

 一つだけ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが無事だったのですから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が無事だからなんだ!?

 アローネや皆に比べたら俺は頑丈だしちょっとくらい怪我しても大丈夫だったんだよ!!

 それなのに………!

 アローネはそんな怪我までして俺なんかを助けようとして……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………この怪我ですか…?

 これは………、

 …他の三人がユーラスに攻撃の手を加えられようとしていたので咄嗟に前に出たらこうなりました………。

 私って普段からカオスやタレスの後ろで守ってもらってばかりだったのでこういうときくらいは私も皆を守らなきゃと思って………。

 私は………ヒーラーだから回復役として前に出るべきではなかったのですが倒れた三人を見て体が自然と動いていてそれでユーラスに一閃………。

 私って………ドジですね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドジなんてレベルの怪我じゃないだろそれは………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!

 でも見た目ほど痛いって訳ではないのですよ?

 ………自分ではどの程度の傷を負ったかは分からないのですけど………、

 

 

 

 ユーラスもこの傷を見て高笑いを上げた後去って行きましたしこの怪我のおかげでミシガンもタレスもウインドラさんも深手は負わされましたが命に別状はない筈です!

 ………手探りで呼吸をしていることは分かったので一先ずファーストエイドで回復はしました。

 その後に私も目「アローネが最初に回復しないといけないだろ!?」…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私は大丈夫ですよ。

 ファーストエイドで完治とまではいきませんでしたが意識を奪われるほどのものではありません。

 動けるのなら…

 私がヴェノムを追い払わなければ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そんな状態でどうして………?

 …真っ先に自分のことを心配してくれよ………。

 俺を助けるためにそんな傷負ってまで………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私はずっと………、

 ………ずっと守られ支えられてきました………。

 傷つきながらも私を支えてくれる家族や義兄や………カオスに………。

 そんな大切な人が大切にしているものを私が守りたかったのです………。

 私は………もう存分に守ってもらったから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな……、

 そんな最後みたいなことを言うなよ………。

 まだこれからじゃないか………。

 俺が……、

 俺がレサリナスで暴れたから離れ離れになることにはなったけどカタスさんにだって出会えたじゃないか………。

 アローネにはまだこれからウルゴスの人達を見つけてあげる次の目標だってできたんじゃないか!

 家族やサタンさんだって見つけてあげるんだろ!?

 それなのにそんな傷を負ってどうするんだよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうでしたね………。

 私にはまだやらなければならないことがありました……。

 世界に眠るウルゴスの民を見つけてあげなければ………。

 

 

 

 

 ……ですがこの傷で私は今まで触れることのできなかった貴族社会と平民との隔たりを知ることができました………。

 ウルゴスでもあった格差社会の………、

 平和の裏の闇を覗けたような気がします……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平和の裏の闇………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルゴスでも………、

 アインスでもこのデリス=カーラーンと同じような社会があったのです……。

 ハーフエルフが登場するまでは……、

 普通の民衆にも剣を向けていた時代が………。

 

 今のマテオは正にその当時のウルゴスの再来です………。

 何千何百の時間を越しても人の文明は進歩しない………。

 人と人が争わなければ進まないようなそんな時代が……。

 

 

 

 私は……、

 そんな時代の剣を持つ側のエルフでした……。

 

 私は生まれながらにして誰かの命を削りながら生活を潤していた貴族側………。

 人からの敵意を常に身に受ける家の子………。

 いつかこのように誰かから剣を向けられる時が訪れるのではないかと覚悟はしていました………。

 

 ………このデリス=カーラーンでは私は何の盾も持たない平民そのもの………。

 この傷負こそが私が義兄のような剣を持つ側から剣を向けられる側になった証だと認識できるのです。

 そう思えば………こんな負傷は喜ばしいことのようにも感じます………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしては…!

 代償が大きすぎるだろ!!

 平民になりたかったんならもっと別の方法だって………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいのですよ………。

 こんな怪我………、

 今まで沢山の人を苦しませた人生を送ってきた私には………、

 この一度の負傷で取り返すことなどできないでしょうけど………、

 このくらいの負傷がないと公平ではありませんから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「公平って…………アローネは………、

 本当に人を傷つけたりなんかはしてなかったんだろ?

 それなのに………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私に人を傷つける意思など無くても階級性社会はそういう仕組みで繁栄しているのです………。

 私は…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの糞野郎………。

 女の顔を………、

 それも目を失明させるとか並外れた畜生だな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!

 レイディーさん!

 アローネが………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………すまんな。

 アタシも人を気遣う余裕が無いんだ………。

 左肩をごっそり持っていかれてな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイディーさんも………!?

 ユーラスが………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだカオス?

 お仲間の最後に立ち会えるように連れてきてやったんだぜ?

 ここまで絶望的だと逆に笑えてこねぇか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぁ?」



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倒れ伏す大切な人達

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスがカオスを呼び出しカオスは仲間達のもとへと駆ける。

 仲間達はまだ死んではいないとユーラスの情報を鵜呑みにし仲間達のもとへ向かったカオスだったが………。


シーモス海道 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ユーラス………。」

 

 

 

「どうやらまだお仲間はヴェノムに喰われてなかったようだな。

 ヴェノムを相手によく頑張るなぁ。

 どっかにワクチンをまだ隠し持ってるみたいだがもうそれも奪う意味もねぇよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦える奴がそんな目の光を失った女一人が残ってるだけなら。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ェェェェェッ!!!!!」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴフッ!?」ゲシッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで!!

 ここまでやる必要があったのか!?

 俺はともかくアローネ達はお前達とは無関係だって言っただろ!?

 

 それを…!!

 こんな一生消えないような怪我をさせてぇっ!!

 

 治せるのか!?

 お前にはアローネの目が治せるのか!!?」ゲシゲシゲシッ!!

 

 

 

「ガッ!?

 グフッ!?

 ゴハァッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス…?

 レイディー………カオスは何を……?」

 

 

 

「…坊やの奴………。

 飛葉翻歩のスピードに乗せた蹴りだけでユーラスに攻撃してやがる………。

 

 

 

 ………たがあれじゃあ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「治せ!!

 お前がアローネやレイディーさん達の怪我を治せ!!」シュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その辺でいいだろ?」ガシッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

「中々いい蹴りだったがバルツィエ流剣術で用いられる蹴りは剣撃の繋ぎに取り入れているだけで主体とした蹴り技はそう多くはねぇ。

 そんなただの蹴りで俺は倒しきれねぇぜ?」

 

 

 

「……!

 離せ!!

 お前のせいでアローネはこれからずっと……!!

 ずっと何も見えない人生を過ごしていかなくちゃならなくなったんだ!!

 お前なんかがアローネをぉッ!!」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

「何とか言えよ!

 お前は何の罪もない人を傷つけたんだぞ!?」

 

 

 

「………くくっ…。」

 

 

 

「…!?

 何が「アッハハハハハハハ!!!」可笑しいんだこいつ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハハハ!!

 可笑しいに決まってんじゃねぇか!!

 蹴られてんのは俺なのに悔しがってんのはお前だ!!

 普通は逆だろ?

 俺がお前に蹴りつけられて憤怒するところなのに逆に気分がいいぜ!!

 

 何でかなぁ!?

 何でこんな気分になるんだ!?

 教えてくれよカオス!

 どうして俺は今こんなに気分がいいんだぁ!!?」

 

 

 

「…人を傷つけて気分がいいだなんて腐っている!!

 人に対してこんな取り返しのつかない怪我を負わせてそんな笑ってられるなんてバルツィエは………!

 おじいちゃんのいなくなったバルツィエは消えるべきだ!!」

 

 

 

「そうたぎるなよ。

 ただのバルツィエが無くなった方が良いって言うのは賛成だぜ?

 俺達はそれ以上になるんだから。」

 

 

 

「バルツィエがそれ以上の存在になったとしても俺が…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が絶対にお前らバルツィエをぶっ潰してやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………嫌われたもんだなぁ。

 お前は特例でバルツィエ入りが決まってるってのによぉ?

 仲良くしようぜ?

 今ならお前でも俺は歓迎するぜ?」

 

 

 

「誰がバルツィエなんか!!

 こんな非道なことができる奴等の仲間なんかに…!!」

 

 

 

「俺なんか間違ったことしたか?」

 

 

 

「そんなことも自分で分からないのか!?

 お前は普通の民間人を斬って…!」

 

 

 

「分からねぇなぁ。

 こいつらはさっき見逃してやった時までは敗残兵だったがお前を取り返す為に俺の妨害をしたってことは間違いなく敵として認定していいだろ?

 俺はそれを斬っただけだ。

 何かおかしなところあったか?」

 

 

 

「……!!」

 

 

 

「一度見逃してまた向かってきたこいつらを斬った俺は何か間違ってるか?

 なぁそこ詳しくどう間違ってるか教えてくれよ?

 なぁ?

 カオス。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「けどよぉ…?

 こいつらが俺に向かってきたのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前を取り返すためなんだぜ?

 それってよぉ、味方を敵に引き寄せたのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前のせいなんじゃないか?

 カオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前は英雄に祭り上げられちまって二度と平穏な世界から帰ってこれなくなる。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………お前は逃げないか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………そんなこと分かってる。

 

 

 

この状況が俺が招いたことだってことも。

 

 

 

俺には………全てを変えるような力も全てを守りきれる覚悟もなかったことも………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスは悪くはありません!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネ…?」「…女ァ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスは何も悪くはありません!

 カオスを取り戻そうとしたのは私達の意思です!

 ですからカオスが悔やむようなことは何も無いのです!!」

 

「そうだぜ坊や。

 お前を助けようとしたのはこいつらと…、

 アタシの意志だ。

 勝手に責任を持ってかれちゃ困るぜ?」

 

 

 

「………そんなこと言っても………、

 俺が捕まったりするから………。

 アローネ達がそんな怪我をして………。」

 

 

 

「烏滸がましいぞ坊や!

 アタシらは一々お前に許可を取らねぇと怪我の一つもできねぇのか!

 アタシらはお前のペットかなんかか!?

 あぁ!?」

 

「カオスは強いです!

 私達の中で誰よりも!

 ですが強いからと言って常に守る側に徹することはありません!!

 貴方だって守られてもいい筈です!!

 私は!

 私達は!!

 いつだって守ってくれる貴方を守りたい!!

 貴方の窮地を救いたい!!

 そう思って私達はユーラスに挑み負傷しただけです!!

 この負傷は………、

 私達が弱かったから負っただけなのです!!

 私達は恨むのなら貴方ではなく私達自身の弱さを恨みます!!

 何度も救ってもらった貴方をただの一度だけでも救うことのできない私達の力を!!」

 

 

 

「アローネ………。

 そんな風に思って………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャキンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ですからカオスは「魔神剣ッ!」…!?」ザスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話の途中だったがカオスを励ますようなこと言うんじゃねぇよ。

 いい具合に締めに入れそうだったのによぉ………。

 こいつには一切の希望を持たせちゃいけねぇんだよ。

 そんなことは俺が赦さねぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「猿ッ「ユーーーーラスゥゥゥゥゥゥゥ!!!」」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ?

 俺に来るのか?

 あの女生きてるか確かめなくていいのか?」

 

 

 

「お前って奴はァァァァァァァァッ!!!」ゲシゲシゲシッ!!

 

 

 

「性懲りもなく蹴りしか出せねぇのかよ?

 そんなもん来ると分かってりゃ対処なんていくらでも…」パンパンパン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガァァァァァッ!!」ガブリッ!

 

 

 

「…!?

 …ッッッッッッッァァァッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(喉に食い付いた!?

 それなら足を封じられようと手が使えなくても殺せる!

 殺れるか!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッッァァァァァアアッ!!!」ドンッ!

 

 

 

「……!

 まだまだァッ!!」パッ

 

 

 

「!!

 この猛獣がぁッ!!

 人の喉を噛み千切ろうとしやがってェェェッ!!!」

 

 

 

「お前は!!

 お前だけはァァッ!!」

 

 

 

「……!

 瞬迅剣ッ!!」シュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ハァ………ハァ………。

 勢い余って刺しちまったか………。

 まぁ………ヴェノムに殺されたって言うつもりだったからいいか………。」ズシュッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プスゥゥゥゥゥゥゥゥ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドタッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「坊…………!

 カオスゥゥゥゥゥッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………何だ………。

 

 

 

胸が………熱い………?

 

 

 

これは………痛い………のか………?

 

 

 

どうなったんだ………?

 

 

 

目の前が真っ赤で………………何も………、

 

 

 

分から………な………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヴェノム………。』



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目覚める何か

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスを振り切って仲間達の元へと駆けつけたカオス。

 しかしそこには瀕死の重症を負って倒れ伏す仲間達と失明しながらも意思を保つアローネの姿が………。


シーモス海道 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………どう………なったんだ………?

 

 

 

………痛みは…………感じない…………。

 

 

 

………俺は…………ユーラスに胸を剣で貫かれて………どうなったんだっけ………?

 

 

 

………それから…………今は………何が………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………思い出せない………。

 

 

 

…自分が何をしていたのかも………。

 

 

 

………俺は刺されてからどうしたんだ………?

 

 

 

気を失って………?

 

 

 

………気を失ったんだよな………?

 

 

 

………気を失って………皆はどうしたんだ………?

 

 

 

ユーラスに殺されたのか………?

 

 

 

俺が………、

 

 

 

皆を守れなかったから………?

 

 

 

俺が弱かったから………?

 

 

 

………俺にマナが足りなかったから………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………俺はやっぱり誰かを守れる存在にはなれなかった………。

 

 

 

騎士だとか戦士だとか………、

 

 

 

形を変えて誰かを守る存在にはなりたかったけど俺じゃあ何者にもなれなかった………。

 

 

 

少しばかり強そうな相手を倒したからと言って俺一人じゃ皆を守ることなんてできなかったんだ………。

 

 

 

誰かを敵に回すってことはその敵の味方が全て敵に回るってことだ………。

 

 

 

俺じゃそんな沢山の相手を一人で相手になんてできなかった………。

 

 

 

 

 

 

そんなこと………、

 

 

 

始めから考え付いていたってよかったことなのに………。

 

 

 

俺はそのことに気が付かなかった………。

 

 

 

力は強いだけじゃ駄目だったんだ………。

 

 

 

使い方も戦術もあってこその強さだ………。

 

 

 

俺一人を攻め落とす方法なんていくらでもある………。

 

 

 

俺が最強の強さを持っていたとしてもそれは一対一の単純な力比べだけの話だ………。

 

 

 

工夫さえすれば俺は誰にだって負けるし誰にも勝てなくなる………。

 

 

 

慢心なんて………、

 

 

 

自分からは遠いことだと思ってたのに………、

 

 

 

本の少しの間に俺は随分と自分の力に溺れていたようだ………。

 

 

 

俺なんかが誰かを救える筈なんてなかったのに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺なんかが世界を変えられる筈もなかったのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥゥ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………この感触は………?

 

 

 

………あぁこれは………。

 

 

 

…これは…………ヴェノムか………。

 

 

 

ヴェノムが………俺に覆い被さってるのか………。

 

 

 

無駄だよ………。

 

 

 

お前達じゃあ………、

 

 

 

俺は殺せない………。

 

 

 

俺には殺生石の加護が………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………?

 

 

 

………………おかしいな………。

 

 

 

俺にはヴェノムの酸性の体が効かない筈なのに………?

 

 

 

今ヴェノムが………俺の体を溶かしている感触がある………?

 

 

 

俺の体はヴェノムに侵されない筈なのにどうして………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そういえばミストの森でもマナを枯渇させてからヴェノムに触ったことなんてなかったなぁ………。

 

 

 

これまで一度もマナを枯渇なんてさせたことなかった………。

 

 

 

マナを枯渇させた時の俺は………ユーラスの魔術を受けて普通に痛かったな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………そうか………、

 

 

 

今の俺は………、

 

 

 

普通の人以下のマナしかないから魔術も食らうしヴェノムも………殺生石のマナの無くなった俺を侵食できるのか………。

 

 

 

………ということは俺はこのままヴェノムに食われるか………、

 

 

 

最悪ヴェノムになって皆を………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………いや、

 

 

 

俺がこんな状態なら皆ももうユーラスに殺されているか………。

 

 

 

俺がヴェノムになってもアローネやタレス、ミシガン、ウインドラ、レイディーさんを殺すことはないのか………。

 

 

 

………なら誰も殺す心配はないのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………だったら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…最後の最後くらい………魔術を使ってみても良かったかもな………。

 

 

 

誰も仲間を殺す心配が無いのなら今ここで魔術を………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………そんな力はもうどこにも残ってなんていないけど………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………結局、殺生石ってのは何だったんだ…?

 

 

 

………どうしてこんな力があるんだ………?

 

 

 

………どうしてこんな力を俺が持てたんだ………?

 

 

 

…教えてくれよ………。

 

 

 

………………夢の中の声………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………もうどうでもいいか………。

 

 

 

………俺の人生はここで………、

 

 

 

………ヴェノムに飲み込まれて終わるんだから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ごめんね皆………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………ごめんね………、

 

 

 

アローネ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワシにまで到達しおったか………。

 じゃが貴様らなぞにワシは穢されはせぬぞ………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅぅっ!!」ギュゥゥゥッ

 

 

 

「どうした?

 もうお前だけしか残ってないんだぞ?

 ムーアヘッド。

 最後のデザートにとっておいてやったんだ。

 もっと美味そうな声を聞かせてくれよ?

 そんな磨り潰したような声じゃこの俺は満足しねぇぜ?」

 

 

 

「テメェを満足なんか……!!

 させるために苦しんでじゃ……!

 ねぇ!!」

 

 

 

「ハハハッ!

 まぁそうだよな!

 それでどうやって死にたい?

 お前を殺すことは確定してんだ。

 最後の死に方くらい選ばせてやるよ。

 ただ出血死するのを待ってるのも長く感じるだろ?

 このまま窒息死するのもいいし剣で斬り殺してやってもいい。

 

 

 

 ………後はそこのそいつらのようにヴェノムに感染してゾンビになって死ぬのもあるぞ?

 そいつらもそのうち起き上がってゾンビになるんだ。

 お仲間と仲良く同じ運命を辿るのも友情的でよくねぇか?」

 

 

 

「………フフッ。

 そうだな。

 それもいいかもな…。

 じゃあ………」スッ

 

 

 

「あぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全部お断りさせてもらおうか!!」ザスッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあっ!?」ザシュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフッ!

 甘いんだよ!

 ユーラス!

 片腕を無くしはしたがアタシにはまだもう一本腕が残ってること忘れてねぇか!?

 片腕さえありゃ懐に入ってテメェを斬りつけることもできるんだぜ!?

 氷の魔術は火や風の魔術と違って氷が残る!

 これでお前も猿と同じように目が…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、痛ぇっ………。

 どうしてくれんだよ?

 

 

 

 顔に傷ができたんじゃねぇかこれぇ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………手元が狂ったか…。

 目を狙ったんだが目の下に一本線書いただけだったか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………この俺が与えてやった選択肢を蹴るとはなぁ………。

 慈悲のつもりだったんだが余計な話だったか………。

 つまらねぇことをしたなぁ?

 

 

 

 だったら俺がお前の運命を選んでやるよ…。

 お前は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムに食われてくたばりやがれ!!」ドスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガフッ…!?」ドサッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁぁぁぁぁっ…!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだぁ?

 ヴェノムの感触は?

 触り心地抜群だろぉ?

 お前もすぐに同じ肌になれるぜ?」

 

 

 

「ぐぅ!!

 お前ェェッ!!!」ジュゥゥゥゥ

 

 

 

「素直に楽な死に方を選んどけばそうならずに済んだのになぁ?

 無駄な抵抗で地獄を味わうこともなかっただろうよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(くそッ………!

 ここまでか………!?

 アタシには………まだやらなければいけねぇことがあるってのに……!)」ジュゥゥゥゥ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」スクッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?

 カオスはもうゾンビになっちまったのか?」

 

 

 

「(坊や………?

 お前はゾンビにならないんじゃ………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」フラァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一歩遅かったみてぇだな。

 もう少し早ければお前お仲間に食われることなくゾンビになれたのになぁ。」

 

 

 

「(………止め……ろ。

 アタシは………まだ………、

 死ぬわけには………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………駄目だ………、

 意識が………………霞む………………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ファーストエイド………。」パァァ……



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剣を納める時

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスによって仲間共々傷つけられたカオスはユーラスに食らい付くも返り討ちにあい剣で貫かれてしまう。

 その時ヴェノムがカオスの体を覆い………。


シーモス海道 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ファーストエイド………。」パァァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

「何だまだ意識があんのかよ?

 だがファーストエイドなんかでヴェノムは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ………………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?

 ヴェノムが………消えていく………!?

 傷も………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………腕が………!?」パァァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 何だと!?

 戦闘不能どころか致命傷レベルの負傷が回復していく………!?

 そんな治癒術聞いたことねぇぞ!?」

 

 

 

「…………腕が………、

 切り落とされた腕が治っていく………?

 こんなのは………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」チラッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「」」」」ジュゥゥゥゥ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 そっ、そいつらはもうゾンビになるぜ!?

 今更治そうったって無意味「ファーストエイド」………!」パァァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「………」」」」パァァ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おいおいまさか………。」

 

 

 

「………………本当に回復させちまうのか………?」

 

 

 

「………」パァァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………うっ、うぅん?

 ………あれ…?

 ボクは………?」

 

「……?

 ………ふぁぁぁ!

 ……何かすごい体が軽いんだけど………。」

 

「………!?

 ミシガン!

 少年!?

 無事か…!?」バッ

 

「………!

 そうでした…!

 今はまだ…!?」

 

「!!

 あのユーラスとかいう奴に私は……!?」

 

「………どこも怪我は………!?

 ………怪我がない………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………マジでやりやがった………。」

 

 

 

「………何しやがったんだカオス!?

 そいつらにはヴェノムに浸からせてたってのにどうやって……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「答えろ!!

 この化け物野郎がッ!!

 ………んっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっ、どうやらその女はさっきので止め刺しちまったようだな!?

 傷は治っちゃいるがそいつだけはどうにも………!?」パァァ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………手酷くやられたようじゃのぅ………。

 今はまだ……器が耐えきれんか………。

 ならばこの術じゃな………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『彼の者を死の淵より呼び戻せ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………レイズデッド………。』」パァァ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイズ………デッド………!?

 何だその魔術は………!?」

 

 

 

「(レイズデッド!?

 確かそれは………古い文献で読んだことがある………!

 昔絶滅したっていう“ユニコーン”の力を借りて使える技だ………!

 それをどうして坊やが………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………まさか坊やに力を与えた殺生石の正体ってのは………!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふぅ………。」

 

 

 

「………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………カオ………ス?」パチッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………よかった………。

 アローネ………、

 

 

 

 完全に治ったみたいだね………。」

 

 

 

「治った………?

 私は………………。

 ………私は確か………ユーラスに………?

 ………目が………?」

 

 

 

「目はちゃんと見える…?」

 

 

 

「………目は見えますけど………、

 これは………カオスが治してくれたのですか………?」

 

 

 

「………俺の力じゃない………。

 殺生石が………アローネを治してくれたんだよ。」

 

 

 

「殺生石が………?

 ………ではやはりカオスが治してくれたのですね………。

 有り難うございます………。」

 

 

 

「気にしないで………。

 俺が巻き込んで負わせちゃった怪我だから………。

 俺が治さないとね………。」

 

 

 

「それは…………そうなのでしょうか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何だ?

 展開についていけてないんだが今どういう状況なんだレイディー殿?」

 

「私達ユーラスに攻撃されてまた気絶してたんだけど………。

 レイディーが私達を治してくれたの…?」

 

「レイディーさん、

 治癒術使えたんですか…?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「レイディーさん…?」

 

 

 

「………アタシじゃねぇよ。」

 

 

 

「レイディー殿ではない………?」

 

「では一体誰が………?

 この中で治癒術が使えるのはミシガンさん以外にはアローネさんと………あのユーラスしか………。」

 

 

 

「………ユーラスがそんなことする訳ねぇだろ。

 今の坊や見てなかったのか?

 

 

 

 ………………そうか。

 お前らが治った時、

 猿もお前らも傷は癒えてたからな。

 坊やが何をしているのか分からねぇか。

 ………信じられねぇがお前らの傷は坊やが治したんだよ。」

 

 

 

「カオスが………?」

 

「でもカオスは魔術を使えないんじゃ…。」

 

「ボクもカオスさんが魔術を使ったところは見たことありませんよ…?」

 

 

 

「アタシだってそうだ。

 坊やが魔術を封印していたのは猿やゴリラから聞いて知っていたがあいつにこんな秘術が使えることは知らなかったぜ。

 そういやあの坊やは使えなかったんじゃなくて使わなかったってだけの話だったな。

 あいつ………、

 すげぇな…。」

 

 

 

「それは………カオスは凄い奴だとは思うが………。」

 

 

 

「言っとくが戦闘能力に関してじゃねぇからな?

 アタシがすげぇって言ってんのはあいつが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あいつの術が歴史上の生物の中で類を見ない異質の性質を持っているってとこだ。

 あれこそ“神の力”と言っても過言じゃねぇだろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神の………力………?

 カオスの術が………?」

 

「カオスにどうしてそんな力が………?」

 

 

 

「そんなもんお前らなら心当たりあるだろうが。

 お前らの村にあった殺生石………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“プロトゾーンの化石”のことだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プロトゾーン………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何が“神の力”だよ!!

 ごらァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなもんがそうそうある筈ねぇだろうが!!

 

 そんな力があったとして!

 何でアルバートの孫のそいつが持ってるんだ!?

 バルツィエの血筋の力だけでなく“神の力”とやらまで持ってるなんて反則だろうが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユーラス………。

 黙って見ていたから戦闘が終わったんだと思ったが………。

 レイディー殿………。」

 

「あぁ…。

 別にこいつとは和解したんじゃねぇ…。

 坊やがお前らを奇跡的な力で治したからそれに呆気にとられてただけだ。

 戦闘が終わった訳じゃねぇ。」

 

「まだこいつと戦わないといけないの!?」

 

「そのようですね…。

 ですがカオスさんの力のおかげで体力は万全にまで回復しました。

 それどころかいつも以上に力が湧いてきます!」

 

「…そうだな…。

 これならこいつとも善戦できそうなくらい力の高まりを感じる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「虫けらが!!

 体力が戻ったからっていい気になるなよ!?

 所詮は俺に敵わねぇ奴等が調子ずいたところで何も状況は変えられねぇさ!

 また地獄に再移送してやるよ!!

 

 

 ストーン「止めろ。」…!?」シュンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう止めろ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決着はついた………。

 この戦いは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 引き分けで幕を下ろそう。」



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殺生石の主

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスに貫かれて致命傷を負ったカオスだったがレイディーの窮地に立ち上がり彼女やアローネ達を瞬時に回復させる。

 そしてカオスはユーラスに引き分けを言い渡すが………。


シーモス海道 深夜

 

 

 

「引き分けで幕………だぁ?」

 

 

 

「そうだ………。」

 

 

 

「………どうしてそうなる?

 俺はまだ殺れるぜ?」

 

 

 

「お前が追っていたウインドラの部隊は壊滅した。

 残っているのは部隊に関係のない俺達だけ。

 俺達はお前らに積極的に攻撃する意思はない。

 これ以上戦っても意味がない。

 だからだ。

 ………お前はこの戦いを止めてさっさと帰れ。」

 

 

 

「意味ならあるだろうが。

 俺はそこのお前の偽物とムーアヘッドを殺してお前を連れ帰らなきゃならねぇ。

 ………まだ俺の目的は果たされてねぇんだよ。

 分かるか?」

 

 

 

「「………」」

 

「お前は二人を殺さない…。」

 

 

 

「そりゃ何でだ?」

 

 

 

「お前が何度二人を傷つけようとも俺が二人を治す。

 ………二人だけじゃない。

 アローネもミシガンもタレスもだ。

 お前には一人も殺させない。

 お前は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここにいる誰一人殺すことができない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「ここから先はその繰り返しになる。

 そうなるとお前は無駄にマナを磨り減らしていくだけだ。

 そうなったら俺はお前を「なるほどそういう作戦か!」………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の言う通り事が運べば夜通しでお前らを追い掛けてた俺もそろそろしんどいぜ?

 持久戦ともなれば俺の方が不利に見える………。

 

 

 

 逆に言えばそれはお前らにとっては有利な状況ってことだよな?

 それなのにどうしてそんな提案をしてくる?

 このままやれば俺はジリ貧になって負けちまうんだろう?

 何故勝利を掴もうとしない?」

 

 

 

「…俺は自分から人を殺すようなこともウインドラ達に人を殺させるようなこともさせたくないだけだ………。

 お前に勝つってことはお前が死ぬってことになるからだよ。」

 

 

 

「お優しい上からの目線発言に歓喜極まりないぜ!

 

 

 

 けどそいつは俺の耳には『さっきの治癒術でもうマナが残り少ないからハッタリで何とかこの場を凌ごう』って聞こえてくんだがよぉ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「実際のところあんな強力な術を何人にも掛けてたらマナも足りなくなってくるだろ?

 その証拠にお前は自分の手をほったらかしに「ファーストエイド。」………!?」パァァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アローネ達を回復させる一心で忘れていたよ。

 自分の怪我のことを………。

 

 

 

 それで?

 何だって………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………流石にもう驚かねぇよ。

 それ以上の傷を治したばっかだからな………。

 

 

 …だがマナが残り少ないってのは確かだろ?

 今お前からはマナをあまり感じねぇ!

 手を治したのも余裕を見せつけて俺をビビらせて帰らせようってんだろ!?

 その手には乗らねぇぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここまで来るとただの意地だな。」

 

「ここで引き返すとユーラスはカオスさんに二度も屈したことになりますからねぇ………。」

 

「何でかなぁ…。

 気絶する前までは怖い人に思えてたんだけど………。」

 

「…お前らよくそんなふうな構えてられるなぁ…。

 あいつの言う通りだったらアタシらはこの後あいつに八つ裂きにされるんだぜ?」

 

 

 

「………そんなことにはなりませんよ………。」

 

 

 

「何でだよ?

 あながちユーラスの言う線も有り得る話だぞ?」

 

 

 

「そんなことにはなりません………。

 カオスがあのように仰る時は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相手に勝つ算段がついた時です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしても帰らないって言うんだな…?」

 

 

 

「当たり前だ!

 勝てそうな勝負を捨てるほど欲は浅かねぇぞ!

 お前が何度回復しようとも俺がまたお前らの四肢を斬り落とすだけだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衝破ッ!一文字!!」シュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なっ…!?」

 

 

 

「これでもか………?」

 

 

 

「新調した俺のオレイカルコスが……!?」

 

 

 

「やっぱりお前も疲れてるんだよ。

 レサリナスで戦ってた時のお前よりスピードが落ちてる………。

 こんなんじゃ俺には勝てない………。」

 

 

 

「何なんだ………!

 どうして今お前にそれほどの力が残ってるんだ!?

 さっきまでは確かにお前は俺の魔術すら跳ね返せない程に弱っていた筈なのに!!?」

 

 

 

「さっきまでの俺と一緒にしないほうがいい。

 今の俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今までで一番強い俺だから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でだ!!?

 どうしてここまで力が膨れ上がる!!?

 そんな力があったんなら最初から俺や俺の部隊を葬れた筈!!?

 それなのに何故!!!?」

 

 

 

「俺は人殺しなんてしたくないって言ってるだろ…?

 お前みたいに戦いたい訳じゃない。

 俺はお前らなんか意に介してないんだ………。」

 

 

 

「……!!

 この…!」

 

 

 

「………まだやるか?

 それとも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺に敗けて死ぬか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?」

 

 

 

「もうお前らの命を気遣ってやれるだけの感情もない。

 遠縁の関係だったからなるべく殺したくはなかったけど…、

 お前らは俺の大事なものを傷つけすぎた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の中ではもうバルツィエがヴェノムと同じで殺してもいいくらいの存在にまで落ちてるよ………。」

 

 

 

「…!!」ギリッ

 

 

 

「死にたくなかったら降参してこのまま帰ってくれないか?

 俺もできれば手を汚したりしたくないんだ。」

 

 

 

「舐めやがって!

 さっきは俺に赦しを請ってた奴が…!!」シュッ!

 

 

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………仕様がないなぁ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ!!

 

 

 

 

 

「ぬぁぁぁぁぁっ!!!?」ドサッ!

 

 

 

「これでも分からないのか?

 剣も折られて魔術も使わせてもらえないお前が俺に勝てる筈がないだろ?」

 

 

 

「………!?

 この俺が二度までもこいつにやられるのか………!!?

 そんなことが………!!」

 

 

 

「力の差が歴然としてるじゃないか。

 お前じゃどこまで行っても俺には勝てないよ。」

 

 

 

「………くそがッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………坊やの奴、

 雰囲気が変わったな………。」

 

「それだけユーラスに怒りを覚えたということなのでは………?」

 

「あんなカオス見たことないよ………。

 あれじゃまるで別人みたい………。」

 

「………カオスに残虐性が付いてきたな………。

 この件でバルツィエに染まってしまわなければいいが………。」

 

「………」

 

「?

 どうした猿?」

 

「………違う………。」

 

「何がだ…?」

 

「あれは………カオスですけど………、

 カオス以外の………何者かが乗り移っています………。」

 

「何?」

 

「………言葉では言い表せませんが何か……、

 カオスの中にある何かが少しずつですけど表に出てきているような………、

 そんな感じがします………。」

 

「…力にに酔って坊やが今まで抑えてきた感情が爆発してるだけじゃねぇか?」

 

「…そんなものでは……ないと思いますが………。」

 

「………(それは恐らく………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 坊やの中に潜んだプロトゾーンが意識を侵食しているんだろうよ。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がッ!!

 俺が完全な状態だったらテメェなんぞにィッ………!!」

 

 

 

「その完全な状態で敗けたのを忘れたのか?

 お前はどうあっても敗けを認められないようだな。」

 

 

 

「俺が同じ奴に二度も敗けることなんてあっちゃならねぇ!!

 あって…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たまるかってんだよぉぉぉぉッ!!!」ガッ

 

 

 

 

 

 

「………やれやれ。

 先に進まない奴だ。

 一度顔洗って出直して来るんだな。」シュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ!!

 

 

 

 

 

「ぐっ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 掛かったな!!?

 間抜けがぁッ!!」ガチャンガチャンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!!!

 ……………ハハハハハハハハッ!!!

 嵌めてやったぜ!!?

 マナ封じの手錠をなぁ!!

 お前の手を斬り落とした時に回収してきたのが項を奏したようだ!!

 これで形勢は俺に傾い「ウインドカッター。」…!?」スパッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………脆い鎖だな。

 これ。」

 

 

 

「……今………どうやった………?

 繋ぎの鎖をどうやって壊した………!?」

 

 

 

「魔術で破壊したんだけど………?」

 

 

 

「そんなことできる訳が…!?

 お前はそれでさっきは通用してたのに………!!?」

 

 

 

「こんな『普通の“人間用“に作られた玩具でワシを捕らえられると思ったか?

 人間風情が。』」

 

 

 

「!?

 お前は誰だ………!

 一体………!?」

 

 

「『どれ………。

 ちとおイタが過ぎた小僧に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワシが直々に懲らしめてやろうかのぅ………。』」



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カオスの中の人物

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 カオスの力によって仲間達が回復し対峙するユーラスは疲労困憊で決着は目に見える状況となったがユーラスは引き分けを受け入れない。

 それでも立ち向かってくるユーラスにカオスが………。


シーモス海道 日の出前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんかカオスの様子がおかしいよ…?」

 

「急に喋り口調が変わった………?」

 

「口調だけではありません。

 声が頭の中に響くような感じが………。」

 

「………カオス………?

 …カオスに身に何が起こって…?」

 

「(これは………テレパシーか?

 プロトゾーンにそんなことができる生物は………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ふむ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お主。』」

 

 

 

「なっ、何だ!?」

 

 

 

「『先程ワシに完全な状態なら勝てると………、

 そう申したな………。』」

 

 

 

「そっ、それが何だってんだ!?

 お前なんかただ回復能力が高いだけの剣使いじゃねぇか!?

 知ってんだぜ!?

 お前が攻撃魔術を使えねぇってことは!!

 どっか欠陥があんだろ!?

 そんな一人前未満が相手なら俺が勝つことも「『ファーストエイド。』」…!」パァァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、……何やってんだお前!?」

 

 

 

「『これならお主の満足のできる勝負とやらも可能じゃろ?

 お主がいつまでも駄々をこねおるからワシの力で条件通りにしてやったわい。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何がしたいんだカオスは!?

 弱らせた敵を回復させてしまうなど…!」

 

「カオスさんがユーラスを殺さないならボクが殺ろうと思ってたのに…。」

 

「カオス………、

 どうしちゃったの………?」

 

「………」

 

「それだけユーラスにハンデを与えても勝つ自信があるってことだろ。

 ………とち狂って奴がアタシらを狙わねぇといいが。」

 

 

 

 

 

 

「『その心配は無用じゃ。』」

 

 

 

 

 

「「「「「…!?」」」」」

 

 

 

 

 

「『すまんがお前さん達には向こう側に行っといてもらおうかの………。

 ここにいるとお前さん達まで巻き添えを食ってしまうからの。

 ほっほ!』」

 

 

 

「カオス…、

 お前どうしたんだ…!?」

 

「いつものカオスさんらしくないですよ!?」

 

「カオス一人でどうするの!?」

 

「てかお前なんかキャラ違うくないか!?」

 

 

 

「『案ずることはない………。

 お前さん達は何もせず身を任せておればよい………。

 

 

 

 では行くぞ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トラクタービーム。』」パァァァァァァァァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 体が浮いて………!?」フワァ…

 

「これは…!?」フワァ…

 

「あのフェデールって人が使ってた技じゃない!?」フワァ…

 

「トラクタービームまで使うたぁ…、

 アタシの知識にもそんなもん使う形態は無かったと思うんだが…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔術は使えないって話じゃなかったのかフェデール!?

 カオスの野郎、

 お前の術まで真似しやがったぞ!!?

 

 何にしてもあいつらを見す見す逃がしたらやべぇ!!

 一人くらい足手まといを残してもらおうか!!」ダッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

 

 

「猿!!」

 

「アローネ=リムが捕まったか!?」

 

 

 

「…!

 離して下さい!!」

 

 

 

「誰が離すかよ!

 お前はここに残って俺の盾として有効活用させて「『グラビティ…。』」……ふがっ!?」ゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『お前さんの相手はワシ一人ですると言っておろう?

 その者に触れるでないぞ。

 大人しく待っておれ。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がはぁッ……………!!!?」ゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユーラスが………、

 地で悶えている………?」

 

「何の術を使ったの!?」

 

「知らない魔術です…。

 あの様子からして地属性か風属性の魔術ではありそうですが………。」

 

「まぁた坊やの謎が増えていくなぁ…。

 あいつどんだけ奥の手を隠し持ってるんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!!」

 

 

 

 

 

「『…何じゃ娘っ子?

 ワシはこやつと遊んでやらねばならんのじゃが………。

 用件なら手短にな。』」

 

 

 

 

 

「カオスは………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………貴方は………カオスですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『………』」

 

 

 

「今の貴方は……本当にカオスなのですか………?

 貴方はカオスの中にいる別の…!!

 殺生石の中の何者かに支配されてしまったのですか!?

 カオスはどうなってしまったの「アローネ。」…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ。

 アローネ。

 俺は誰にも変わってなんかいない………。

 

 

 

 カオス=バルツィエのままだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

「『………』」スッ…

 

 

 

フワァァァァ………

 

 

 

「…!

 離れていく…!」

 

「ダレイオスの方に向かってるみたい…!」

 

「でもカオスさんが残ってますよ………?」

 

「自分を飛ばすことはできないのか…?」

 

 

 

「いえ………、

 カオスは後から私達の元へ来ます………。」

 

「…ユーラスを倒してからか?」

 

「はい。

 カオスなら心配は要らないでしょう………。

 必ず………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達の元へと戻ってきます…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『………あやつらは向こう岸に着いたようじゃな。』」

 

 

 

「ぁ………ッ…………ァァ………!!!??」ゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

 

 

「『さて………。』」パチッ

 

 

 

「………ッ………!」パッ…

 

 

 

「『これで気兼ね無くお主の相手ができるのぉ…。』」

 

 

 

「………ップハァッ!!

 ハァ…!………ハァ……!!

 ハァ………………!!」

 

 

 

「『ワシを前にして他の者に目移りするからそういう目を見る羽目になるのじゃ。

 お主ではワシの相手にすらならんというのに…。』」

 

 

 

「………ッァア!?

 何…………を………!!

 …………!!」

 

 

 

「『………加減を間違えたかのぅ?

 そこまで強くはしておらんかったのじゃがお主には厳しかったかの…?』」

 

 

 

「………ッゼェ…ハァ…ゼェ………。」

 

 

 

 

 

 

「『………ファーストエイド。』」パァァ…

 

 

 

「………!?

 またテメェは……!!」

 

 

 

「『こうでもせんとお主は口も利けんほどじゃったからのぅ。

 お主の自己回復のペースに付き合っていては日が昇ってしまうわい。』」

 

 

 

「………テメェは何だ!?

 カオスじゃねぇことは分かってる!!

 何者なんだテメェは!?」

 

 

 

「『ワシか………?

 ワシは………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワシは何者でもない………。』」

 

 

 

「何者でもないだぁ!?

 テメェみてぇな奴が何でもない筈ねぇだろうが!!」

 

 

 

「『………言い方が悪かったか………。

 

 ワシにはお前が求めるような名など持っておらん。

 故に何者でもない。

 

 

 

 強いてワシを言い表すのならば人の言葉を借りて“自然”、又は“世界そのもの”とでも言ったところじゃろう…。』」

 

 

 

「自然……!?

 世界………!?

 何の話だ!?」

 

 

 

「『主が問うから答えてやったと言うのに理解できんとは誠に残念な奴じゃな…。

 

 ………それでお主はワシと手合わせがしたいのじゃったな…?

 見たところワシと戦う“資格”は無さそうじゃが………。』」

 

 

 

「資格だと…!?」

 

 

 

「『………それもそうじゃなぁ………。

 資格の一つは既に別の者が所有しておる。

 お主が持っておらんのも仕方がない…。

 その程度の器ではなぁ………。』」

 

 

 

「…化け物の分際で随分と人を見下すじゃねぇか!

 資格が何だってんだ!

 俺の力じゃ物足りねぇって言いたげだなぁ!?」

 

 

 

「『足りないどころではない。

 お主程度の力量では無いも等しい。』」

 

 

 

「!?

 俺が………!?」

 

 

 

「『残念じゃのぅ…。

 資格さえあればお主にもワシの力を授けてやっても良かったと言うのに………。』」

 

 

 

「お前が俺に力を…!?」

 

 

 

「『そうじゃ。

 ワシの力の一部………。

 先にお主が受けたような術を授けても構わんよ。』」

 

 

 

「さっきの強力な術をか!?」

 

 

 

「『それだけではない。

 ワシがこの器からお主に鞍替えしてもよいぞ?』」

 

 

 

「鞍替え…!?

 お前が俺の中に移るってのか!?」

 

 

 

「『不服かの?

 ワシがお主と同化すればこの“星屑”など思いのままじゃ。』」

 

 

 

「……テメェが俺に鞍替えしたとしてデメリットは何だ?

 俺の精神がテメェに乗っ取られたりすんのか?」

 

 

 

「『そうはならん。

 ただワシがお主の心の奥底で眠りにつくだけじゃ。

 ワシが眠る数億の月日の間お主がワシの力を継ぐだけじゃ。

 あらゆる魔術から身を守り、この世全ての障害を取り払う力を。』」

 

 

 

「………数億の月日ってのは置いとくとして………、

 

 ………さっきの見てたがお前はヴェノムすら殺せるのか?」

 

 

 

「『無論じゃ。

 あんなワシらを真似て創られた“模造品”など消し去るくらい造作もない…。』」

 

 

 

「………マジかよ………。」

 

 

 

「『ワシは“世界にある全ての物”を司っておる。

 ワシの加護を授かればヴェノムに命を脅かされることもない…。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………へへへ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そいつはすげぇ力だな………。」



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神の試練

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 カオスの中にいる何者かの魔術でカオスの仲間達はダレイオスへと飛ばされる。

 残ったカオス?とユーラスは………。


シーモス海道 日の出前

 

 

 

 

 

 

「お前の力を得れば俺は今よりももっと強くなるんだな!?」

 

 

 

「『その通りじゃが今話した内容はお主が資格を持っていればの話じゃがの。』」

 

 

 

「資格ってのは何だ!?

 強さじゃねぇのか!?」

 

 

 

「『強さも必要じゃが他にもワシの“眷属”に認められた証を見せんといかんのぅ。』」

 

 

 

「眷属…?

 お前みたいなのが他にもいるってのか?」

 

 

 

「『左様。

 本来ワシに挑むには“六の試練”を乗り越えてからと決めておる。

 その六の試練を越えた先にワシへの挑戦権が得られるのじゃ。』」

 

 

 

「………御大層な試練があったもんだなぁ。

 お前は何様のつもりなんだよ…?」

 

 

 

「『人の知識で言うところのワシは“神”と言ったところか…。

 生生世世の時を越して見てきた生き物の思想の中から選べば神という存在がワシに近い…。』」

 

 

 

「(マジで神なのか………?

 …あいつらの治療不可能なレベルの怪我を治したところを見れば頷けるが………。

 

 

 

 ………ってことはカオスの実力はこいつがありきってことか?

 

 あんな田舎から出てきたような奴が強い訳が無かったんだよな。

 一緒にいた偽物の奴も大した強さじゃなかったしよ。

 この自称神さんがカオスに力を与えてたから俺は敗けたってことだよな?

 

 ………そうに決まってる!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぁ!

 神様よ!?」

 

 

 

「『何かの?』」

 

 

 

「アンタのその六の試練とかはよぉ?

 

 カオスはクリアしたのか?」

 

 

 

「『こやつは…試練を乗り越えてはおらんよ。』」

 

 

 

「じゃあ何でそいつの中に入ったんだ?

 試練をクリアしなきゃアンタの力は得られないじゃないのか?」

 

 

 

「『この小僧は例外じゃ。

 四億七千三百二十二万八千七百六十五秒前にワシが自らこやつの中へと入った。

 眠っておるうちにマナを集めておったんじゃがこやつのマナでワシの力も取り戻せた。

 じゃからこの小僧は偶然ワシの力を貸し与えたに過ぎん。

 

 

 

 誰でも良かったのじゃよ。

 ワシの依り代は。』」

 

 

 

「はっ、はあ!?

 四億七千三百何だって…!?」

 

 

 

「『………そこはどうでもよいところじゃ。

 人の定めた年月で言うところの十五年前ぐらいじゃ。』」

 

 

 

「………つまりカオスは十五年前にたまたまアンタ、

 神様の力を手に入れたってだけでアンタとしては誰の中に入っても良かったってことなんだよな?」

 

 

 

「『そうじゃな…。』」

 

 

 

「………なら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の中に入らねぇか神様?」

 

 

 

「『………』」

 

 

 

「誰でも良かったってんなら俺の中でも言い訳だ?

 そんな田舎者よりかは俺の方がアンタを楽しませられるぜ?

 なんたって俺はこのデリス=カーラーンを将来的に支配する一族バルツィエの血筋だ!

 それも正統な貴族のな!

 そんなはぐれの孫よりかはよっぽどマシだぜ!?」

 

 

 

「『………それが何だと言うんじゃ?

 そんなもんは支配してから言え小者が…。』」

 

 

 

「すぐにそうなんのさ!

 今のうちに俺の中に入っておけばアンタだってどんなこともし放題になるんだぜ?」

 

 

 

「『人の価値観でワシが欲するものなど有りはしない。

 それなのにお主はワシの望みを叶えようと言うのかの?

 ワシの望みすら知らぬお主らが?』」

 

 

 

「だから!

 俺の中に入ればアンタの望みも叶えられるって言ってんのさ!?

 アンタは何が望みなんだ!?

 世界を握る一族バルツィエの俺がアンタの望みを叶えさせてやるよ!

 ほら!

 言ってみろ!

 アンタに願いがあるってんなら何だって「『“流れ”じゃ。』」…流れ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ワシの望みは“流れを停めぬこと”じゃ。

 悠久とも言える果てしなき時を存在し続けるワシにとって世界は退屈過ぎる………。

 じゃからワシは移り変わる時の流れを停められると困るのじゃ。

 全く変わらぬ世界………、

 そこにただ存在するだけのワシら………。

 そんなものはお主らの言葉で言う地獄そのもの……。

 ワシの望みは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界を生かし動かし続けること………。

 それだけじゃ………。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「『何も変わらぬ世界の誕生………。

 そうならないようにさえしなければワシはどこの何者が何をしようとも干渉はせん。

 ワシの力をどう使おうがの。』」

 

 

 

「………神様はスケールが違う願いをご所望のようだな。

 アンタの願い通りなら今の世界はどうなんだ?」

 

 

 

「『今はまだこの世界は変化をし続けておる。

 ワシの希望通りのぅ…。』」

 

 

 

「だったらこの俺がアンタの望み通りもっともっと変わりまくる世界に変えてやるよ!

 アンタの力を使ってな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (こいつの力が手に入れば俺は何だってできる!

 ダレイオスを滅ぼすことに始め何だって!!

 

 なんならこの俺がフェデールや………、

 

 

 

 アレックスに変わって世界を手にすることだってできそうだ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このユーラス様が世界の覇権を握ることだって………!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから神様!!

 そんな奴は捨てて俺の中に来い!!

 俺とお前の力で永遠に“進化し続ける完全な世界”に変えていこうぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『………人とはなんと愚かで欲深き生き物なのかのぅ………。』」

 

 

 

「は………?」

 

 

 

「『そこまで言うのならいいじゃろぅ………。

 お主には特別に六の試練を免除してワシへの挑戦権を認めてやろうぞ。』」

 

 

 

「挑戦権だぁ!?

 アンタと戦うって言うのかよ!?

 アンタに勝てる奴なんていねぇだろうが!?

 ただそいつから俺に乗り換えるだけでいいだろ!?

 

 

 

 (さっきの魔術の威力は確実にフェデールやアレックス以上の力を感じた!

 そんな規格外の奴にまともに敵う奴がいるかよ!?

 それにこいつには完全自己回復能力もある!

 総合的な戦闘力は世界一だろう!)」

 

 

 

「『ワシが特別だと言うとろうが。

 順序を飛ばしてお主の望みを叶えてやろうと言うのじゃからこのくらいのことは受けてもらわんとな。』」

 

 

 

「そんなの理不尽すぎるだろうが!?

 カオスはアンタの試練を何一つクリアしてねぇんだろ!?

 そいつにばかり優遇しすぎなんじゃねぇのか神様はよぉ!?

 ちっとぐらい救いはねぇのか!?

 試練をするってんならアンタの力無しでカオスと戦わせろよ!!」

 

 

 

「『………この器との勝負なら等に着いておるだろう?』」

 

 

 

「あんだと!?

 それはアンタの力を借りたカオスとの勝負のことか!?

 あんなもんは無効だ!!」

 

 

 

「『この器に与えておる能力は今のところ魔術耐性とヴェノムに対抗する力のみじゃ。

 お主との勝負には何の影響もなかったぞ。』」

 

 

 

「何ッ!?」

 

 

 

「『それどころかワシがこの器で眠っておる間にマナを吸収させてもらっておった。

 この器の本来のマナはお主と戦っておった際よりももっと高い…。

 

 

 

 ………お主はこの器にハンデをつけても勝てなかったと言うことじゃ………。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この俺が………、

 ハンデを背負わせて敗けた……だと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『…とは言うもののお主の意見にも一理ある。

 この器とお主との差はワシに触れたか否かじゃ。

 早い者勝ちだったと言うのではお主も納得はしまい?』」

 

 

 

「………」

 

 

 

「『この器もお主を再度負かせたいと息巻いておるがワシの見立てでは結果は同じじゃろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこでお主の挑戦は少しだけチャンスを与えようかの。』」

 

 

 

 

 

「チャンス………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『今からワシはお主を一度、

 術で攻撃しよう。

 それに耐えられたならお主の望み通りにワシの力を与えよう。』」

 

 

 

「………一撃耐えりゃいいのか?」

 

 

 

「『そうじゃ。

 簡単じゃろ?

 お主はワシの攻撃を一度耐えれば世界を自由にできる力が手に入るのじゃ。

 この挑戦、

 

 

 

 受けてみるか?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………こいつの力は魅力的だがどうする…?

 

 

 

一撃………。

 

 

 

一撃さえ耐えりゃ俺にこいつの力が………。

 

 

 

 

 

 

だがこいつからはは恐ろしい力を感じる………。

 

 

 

こいつの術に俺が耐えきれるかどうか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『基礎が杜撰な連中だったんだね。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………基礎が何だってんだ。

 

 

 

そんなもんは強い武器や術を持てば関係なくなる。

 

 

 

一個人の技術なんて戦術兵器に比べりゃミジンコみてぇなもんだ。

 

 

 

ズルしたって生き残りさえすればいいんだよこの世界は!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺さえ生きていりゃそれで……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………その挑戦、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 買ったぜ神様!!」



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飛来する巨石

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 別の人格が出てきたカオスとユーラスが対峙しカオスはユーラスに力を得る機会を与える話を持ちかける。

 その話にユーラスは飛び付くが………。


シーモス海道 日の出

 

 

 

「『よくぞ言った。

 人の子よ…。』」サッ

 

 

 

「先に聞いておくがアンタの術が発動してから終わるまで俺が生きてりゃいいんだよな!?

 その間俺が耐えればいいだけの話なんだろ!?」

 

 

 

「『そうじゃよ。

 ワシの術が終わりきった時お主が立っておればよい。

 術を耐えるもよし、かわすもよし、

 お主の術で撃ち消すという手もあるぞ?』」

 

 

 

「!?

 ………完全に受ける体で考えてたぜ!

 それができるんなら俺に有利になるがいいのかよ!?」

 

 

 

「『よい。

 ワシの術をお主が打ち消せればの話じゃしの。』」

 

 

 

「………その言葉、

 後で取り消したりしねぇだろうな?」

 

 

 

「『そんなことはせんよ。

 定めた法則を覆すのはワシの存在意義を否定するも同義。

 ワシは世界の定めに従うのみじゃ。』」

 

 

 

「よく分からねぇが俺にとっては願ったりかなったりだ!

 とっととおっ始めようぜ!

 どこからでもかかってきな!!」

 

 

 

「『もう始まっておるぞ…。』」

 

 

 

「あ?

 それはどういう………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!

 ………何だこの音は………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どっから聞こえて………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!!????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、何だ!?

 ありゃあ!!!!!?」

 

 

 

「『来たのぅ…。

 あれがワシの術じゃ。

 あれを凌ぎきればお主に宿主を変えよう。』」

 

 

 

「!?

 あれがアンタの術だってのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あんな……………バカでけぇ隕石が!!!???」

 

 

 

「『そう。

 あれが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お主に課せられた試練じゃ。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ、ふざけんじゃねぇぞ!?

 どう考えてもあんな隕石受け止められる筈がねぇ!!?

 あんな上空に離れてても分かる!!!

 あの隕石一つでレサリナスの城くらいあるじゃねぇか!!!???

 あんなもん食らってどうやって生き残れるってんだよ!!??

 

 こっ、こんな試練は無しだ!!

 無しだ、無し!!

 中止にしろォッ!!!」

 

 

 

「『それはできんのぅ。』」

 

 

 

「何でだよ!?

 術を発動したらもうアンタの力でも止められねぇってのか!?」

 

 

 

「『お主が申したのじゃぞ?

 “後で取り消すのは無し”じゃとのぅ。』」

 

 

 

「!!??」

 

 

 

「『人の記憶というものは希薄じゃのぅ………。

 お主らの言葉で言うとまだ“三分”も経っておらんというのに自らの発した言を忘却の海へと流してしまうとは………。

 

 移ろぐ世界は素晴らしきものじゃが自分の言ぐらい流さずに留めておれ。』」

 

 

 

「俺が……!?

 ………!!

 …こんな達成不可能な試練だなんて聞いてねぇぞ!?

 お前!!

 最初から俺を殺す腹だったんだろ!!??

 そうなんだな!!!???」

 

 

 

「『そんなことはありゃせんよ。

 ワシが表に出てきてほんの“挨拶”をすればお主がこの器を壊すのを諦めて帰ると踏んでたんじゃ。

 それをお主がしつこく器に迫るからこういうことになった…。

 それだけのことでしかない。』」

 

 

 

「………!!!」ギギギッ!

 

 

 

「『何を悔いておるのじゃ?

 あんな“石礫”に何を驚いておる?

 あれを乗り越えた暁にはあの術すらお主の物となるのじゃぞ?

 受けきる前から不可能だと決めつけるのはいかんのぅ………。』」

 

 

 

「………だが………!

 ………あんな…………………。」

 

 

 

「『自信を無くしたか?

 あれでも大分マナを抑えて発してある。

 それにお主がこの器に取り付けたこの“ワッカ”の力も働いて見た目通りの破砕力は出ておらんぞ?』」

 

 

 

「………(あの巨大な隕石を降らしておいて力を抜いてるってのか!?

 どんだけテメェは高位の存在なんだよ!!?

 あんなんが地上に堕ちたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界中が破壊し尽くされちまうだろうが!!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『どうせ試練は途中放棄もできん。

 放棄したとなるとお主にはワシへの挑戦権が永久に剥奪されてしまうぞ?

 そうなってしまえばお主の野望もお主同様、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “無価値で叶わぬ夢だった”ということじゃな。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(…………なんつった?

 このジジィ口調………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『お主はお主の力を自覚し身の丈に見会った願いだけを叶えればよかろう。

 来世では「うるせぇぞ糞ジジィ!!」』」

 

 

 

 

 

 

「好き放題言ってんじゃねぇぞ!?

 この俺を誰だと思ってる!?

 

 

 

 俺はユーラス=オル・バルツィエ!!

 誇り高きバルツィエの血筋にしてマテオ国騎士団隊長!!

 そして………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “未来の舞台名俳優”になる男だ!!!!

 俺は何もかも最高クオリティの舞台を作るんだ!!

 俺が出演すればどんな作品も輝きを増す作品となるそんな未来の名俳優に!!!

 

 

 

 最高の演技をするには役者は設定だけじゃなく現実でも最高の力を持ってなきゃいけねぇ!!

 

 

 

 その為にお前の力を俺に寄越しやがれ神!!」

 

 

 

「『ホッホ………、

 それはそれは………………、

 ワシの力でそんなことがしたかったのかお主は?』」

 

 

 

「見てな神!?

 俺の野望達成にはアンタの力が必要だ!!

 それが叶えられるってんならこんな逆境くれぇで足踏みしてられねぇんだよ!!

 この試練とやらが終わったときお前は!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の者になってるだろうよ!!!

 そしたら無価値な叶わぬ夢ってやつにどんな価値があったか教えてやる!!!

 必ずな!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『小さき者は小さき者なりのホコリを持っておったか………。

 

 

 

 それではお主の力と夢が均衡を保てておるのか………、

 はたまたや遠大な幻に踊らされて叶わぬ夢となるか………。

 

 

 

 お主の夢への“流れ”が塞き止まるか否か、

 とくと拝見させてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お主にその試練が受けきれるかの?』」



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微かな抵抗

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 突如別の人格が顕現したカオスはユーラスに対して試練を与える。

 ユーラスはその試練を達成した暁にはカオスの持つ強大な力を手にしようと企むが上空から隕石が降ってきて………。


シーモス海道 日の出

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…勢いよく意気込んだはいいがあんなもんどう受け止めりゃいいんだよ………。

 

 

 

どう考えたってあの大きさは人一人が受け止めるにはエネルギーがでか過ぎる………。

 

 

 

最悪俺だけじゃなく………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上全土が焼け野原だ………。

 

 

 

俺の受け答え一つでデリス=カーラーンが灰に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………知ったことか!

 

 

 

こうなるってことは事前には知る由も無かった!

 

 

 

アイツの魔術がこれ程だなんて知る余地すら無かったんだ!

 

 

 

俺のせいなんかじゃねぇ!

 

 

 

魔術を繰り出したのはアイツ、カオスだ!!

 

 

 

星が滅び去ったとしても俺には何の責任もねぇ!!

 

 

 

滅ぼしたんなら俺じゃなくカオスに責任がある!!

 

 

 

アイツが妙な物を隠していたからこうなったんだ!!

 

 

 

アイツが世界を滅ぼす悪魔に………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………今考えるべきなのは滅ぶかどうかじゃねぇ。

 

 

 

あれをどうにかするかだ。

 

 

 

見たところあの巨大な隕石が地上に落ちたらどうなるか………。

 

 

 

間違いなく大爆発を起こしてこの辺り………、

 

 

 

マテオとダレイオスの大陸の半分は消し飛ぶだろうよ。

 

 

 

………………ハハ………ハ…………、

 

 

 

そりゃ………とんでもねぇ威力が期待できるな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで昔フェデールに見せてもらった“核ミサイル”ってやつのような破壊を生むんだろうな………。

 

 

 

そんなもん受けて耐えきるとか人の領域を越えている。

 

 

 

アイツの言う試練をこなせる奴がいたとしたらどんな奴なんだろうか…?

 

 

 

アイツクラスの化け物か………?

 

 

 

アイツクラスって言うと………どんな奴だ?

 

 

 

アイツの他には………?

 

 

 

アイツの“眷属”とか言う奴等か…?

 

 

 

資格がどうのってのの一つを誰かが持ってるとか言ってたな…。

 

 

 

そいつは………、

 

 

 

あの巨大隕石を受け止めきれるのか………………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………無理だ………。

 

 

 

あんなもん受け止めて無事な奴を想像できない………。

 

 

 

どう考えてもアレを受け止めるなんて人間業じゃねぇ………。

 

 

 

俺達バルツィエもそこらのゴミ共から人間離れしてると言われちゃいたがこの局面に立って俺達バルツィエもほんのちょっとゴミ共から逸脱しただけの能力しか無いことが分かる………。

 

 

 

こんな大魔術を前にして自分達で自分達の位を“神の位”にまで昇格させようとしていたことにどうしようもないくらいの面恥を感じる………………。

 

 

 

世界には………、

 

 

 

こんな魔物が住んでいたんだな………。

 

 

 

地上最強の生物は人類かヴェノム………、

 

 

 

その二つを制圧下に置くバルツィエなのかと思ってたぜ………。

 

 

 

テメェのような上越した存在が今頃になって現れるからそつ思い込んじまってただろうが糞神が………。

 

 

 

超絶した最強は最後にご登場ってか…?

 

 

 

マジで何なんだよお前は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうでもいいこと考えてる場合じゃねぇ!!!?

 

 

 

馬鹿か俺は!!!??

 

 

 

何を時間を無駄にして考え込んでんだ!!!!

 

 

 

今はあの隕石をどうにかすることだけを考えろ!!!!

 

 

 

あんなもんの威力想像してる暇があったらアレをどうにかするのが先だろ!?

 

 

先ずはあの核ミサイル級の………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

核ミサイル?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ!!

 

 

 

ミサイルと言えば撃ち落とせる!?

 

 

 

前に見せてもらった映像ならミサイルは飛行中に衝撃を加えれば破壊できた筈だ!!

 

 

 

あの見るからに大爆発を起こしそうな隕石だってある程度の対空術を与えれば空中で拡散して威力を削りることだって………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………正直対空術は得意じゃねぇ。

 

 

 

俺の専門は地属性。

 

 

 

地上で敵を吹き飛ばすことに特化した属性だ。

 

 

 

あんな上空から降ってくる岩石には相性が悪い………。

 

 

 

仮に届く範囲にまで墜ちてきたとしてもその頃には俺の方があの隕石の爆破に巻き込まれるのが早いだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………やってみるしかねぇか。

 

 

 

あまり使ったことはねぇが俺にも他の術がある。

 

 

 

こいつならスピードも早いしあの岩の塊を砕くには火力が足りねぇがなんとか当てることはできる。

 

 

 

こいつに賭けてみるか………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『落雷よ!我が手となりて敵を撃ち払え!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライトニング!!!』」パァァ!!ピシャァァァッ!!!!



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止められぬ未曾有の大災厄

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 別の人格を顕現したカオスの試練を受けて空から巨大な隕石が降ってくる。

 ユーラスは咄嗟に試行錯誤の末に雷の魔術ライトニングで反撃をするが………。


シーモス海道 日の出

 

 

 

 

 

バチバチバチバチバチッ…………………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうだ………!?

 

 

 

これなら貫通力も六属性中抜群だ!!

 

 

 

久々に使ったから火力には乏しいがこれで核さえ撃ち抜ければ多少なりとも………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………?

 

 

 

何だ………?

 

 

 

雷ならもう当たってるだろ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………!?

 

 

 

駄目だ……!!?

 

 

 

全然通らねぇ!!?

 

 

 

俺の雷じゃああの隕石の核どころか表面で消されちまう!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駄目だ…………!

 

 

 

俺は死ぬ………!!

 

 

 

こんなんどうやったって受けきれる訳がねぇんだ!!?

 

 

 

………どうして俺はこんなもん受け止めようとしてたんだ………?

 

 

 

こんな物、人の身でどうこうできる訳が無かった………。

 

 

 

それなのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し考えれば分かることだった………。

 

 

 

こいつは受け構えるでも打ち砕くでもない………。

 

 

 

こいつに対して取るべき行動は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げることだったんだ………。

 

 

 

どうしてそんなことに今俺は気が付くんだ………。

 

 

 

こいつが堕ちてくれば絶命するのは明確だってのに俺は……………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………死ぬんだな俺………。

 

 

 

世界一のアクション舞台を作るっていう夢なんか見るからこんなことに………。

 

 

 

もうどうしようもねぇなぁこりゃあ………。

 

 

 

昔から俺は何にでも飛び付く癖があるからこんなことに………。

 

 

 

『成せばなる。』

 

 

 

昔どっかの馬鹿が言ってた言葉だったが俺の感性に響いてその通りに生きてきた………。

 

 

 

その最後がこれとは………。

 

 

 

もうどう悪足掻きしても逃げ切れねぇなぁ………。

 

 

 

俺の地属性魔術じゃこの隕石から逃げることなんて………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『岩石よ!!我が手となりて敵を押し潰せ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ストーンブラストッ!!!!』」パァァ!!ズドドドドドド………パスッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………



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サビへの手前

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスの真上に突如として降ってくる隕石。

 ユーラスは六属性一貫通力の高いライトニングで爆散させ威力の減少を試みるが隕石はものともせずユーラスへと落ちる………。


シーモス海道 日の出

 

 

 

「『………やはりマナが抑制されて本来の力の一割も出力が出ておらんのぅ………。

 これしきの力ではこの星屑の表面の水を払い除ける程度にしかならんか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 んん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何じゃ?

 あの砂山は………?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パッパッパッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『………何やら出てくるのぅ…。

 もしやあやつ………。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドドドドドトッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ほぅ………。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!?

 ……………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………!

 ブハァッ!!!!」ザザッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『………生きておったか………。』」

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ………!!!!」

 

 

 

「『よくあの一瞬で逃げきれたのぅ…?

 術が着弾する際に咄嗟に地の中へと潜って爆破を逃れたんじゃな。』」

 

 

 

「ハァ!!

 ………むか………し……ッ!!」

 

 

 

「『何じゃ?』」

 

 

「ハァ…!

 ハァーッ!!

 スゥ~………!

 ハァ~………!!

 ………、

 昔………、

 ハァ…!

 ………爆発は………、

 …………ハァ………、

 ………ファーストエイド!」パァァ

 

 

 

「『それで…?』」

 

 

 

「………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発ってのは密閉された空間で生じるときは大爆発を起こすがその空間で出口を用意するとその方向に爆発が逃げて従来の爆発の破壊力よりも威力が減少するって話を聞いたことがあったんだ………。」

 

 

 

「『ほう、

 それで地面の中へと潜れば爆炎から逃れられると思ったんじゃな?

 こう開けた場所では地の中には爆発の影響は受けにくいと思い付いて…?』」

 

 

 

「…俺の得意系統は“地”だ。

 地面を掘り起こすのは得意なんだよ。

 ワクチンが切れたときはこうして穴を掘ってヴェノムを殺している。

 ………俺の魔術が攻撃じゃなくてこんな逃避に使う日

が来るとは思いもしなかったがな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それでも両足と右腕を持っていかれたが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『………そうみたいじゃのぅ………。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………マジで俺には凄まじい“試練”になったぜ!

 魔術をこんな逃げ腰みたいな使い方することになるなんてな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうだァァッ!?

 試練を乗り越えてやったぜ!?

 俺はよぉっ!!?

 

 これでテメェは俺の物になるんだろ!?

 ならさっさと俺の中に入って俺の体を修復しろ!!

 そろそろ傷の痛みが耐えらんねぇんだよ!!」

 

 

 

「『………』」

 

 

 

「どうした!?

 早くしねぇか!!?

 意識がもうやべぇんだよ!!

 痛みでおかしくなっちまうぜ!!

 テメェの出した試練ってやつは乗り越えてやったんだ!!

 これで文句なしにお前は俺の物になるんだ!!

 ハーーーッハッハッハッハッハ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『………はて?

 お主は何を申しておるのじゃ?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『何故にワシがお主に宿らねばならぬのじゃ?』」

 

 

 

「!?

 おいイイイッッ!!

 何言ってやがんだァッ!?

 テメェが言い出したことだろうがァッ!!

 テメェの術を耐えきったらソイツから俺に代わってやるってよォッ!!

 今更その約束を破棄するってのか!!?

 忘れやがったのか糞ジジィッ!!!」

 

 

 

「『うむ………、

 確かにそう約束ごとをしたのぅ………。

 覚えておるよ………。』」

 

 

 

「じゃあ何だってんだ!!?

 俺は生きてテメェの術を耐えきっただろうが!!?

 何が不服なんだ!!?

 もう限界が近ぇんだよ!?

 遊んでないで早くソイツやソイツの仲間を回復したように俺の負傷した箇所を治しやがれ!!!」

 

 

 

「『それはできん相談じゃのぅ…。』」

 

 

 

「何でだよ!?

 テメェの力ならこんくらい治すのなんか屁でもねぇ筈だ!!

 

 

 

 ………まさか足が無くなったからって“術を耐えきってはいたが立ってはいなかった”とかそんなトンチを言い出すんじゃねぇだろうなぁ!!!??」

 

 

 

「『……やれやれ………。

 お主は気が早すぎるやつじゃのぅ……。

 ワシの言葉をもう一度思い出してみろ……。』」

 

 

 

「思い出せって………、

 ………テメェの術を………、 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワシの術を受けた時お主が立っておればよい。

 術を耐えるもよし、かわすもよし、

 お主の術で撃ち消すという手もあるぞ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………このジジィはさっきから何のことを言ってるんだ?

 

 

 

どう考え直しても俺はこいつの出した試練の条件をクリアしてるだろ?

 

 

 

それなのにこいつは………、

 

 

 

何かダメなところあったか?

 

 

 

術を受けずに回避したからとかか?

 

 

 

だが術から逃げたにしても俺はこうして負傷をしている。

 

 

 

それもこいつの術を受けてだ。

 

 

 

逃げはしたがこれも“耐えきった”ということにならねぇか?

 

 

第一こいつは“避けても”“逃げても”良いって言ったんだ。

 

 

 

 

 

 

こいつの術が“終わった時”俺が生きてさえいればいいって。

 

 

 

なら一体何を思い出せってんだ?

 

 

 

こいつは何か重要なことを言って………………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………ヒュゥゥゥゥゥ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュゥゥゥゥゥ!!!!!ヒュゥゥゥゥゥ!!!!!ヒュゥゥゥゥゥ!!!!!ヒュゥゥゥゥゥ!!!!!ヒュゥゥゥゥゥ!!!!!ヒュゥゥゥゥゥ!!!!!ヒュゥゥゥゥゥ!!!!!ヒュゥゥゥゥゥ!!!!!ヒュゥゥゥゥゥ!!!!!ヒュゥゥゥゥゥ!!!!!ヒュゥゥゥゥゥ!!!!!ヒュゥゥゥゥゥ!!!!!ヒュゥゥゥゥゥ!!!!!ヒュゥゥゥゥゥ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュウウウウウウウウウ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そういうことか。

 糞ジジィ………。」

 

 

 

「『合点がいったじゃろ…?

 ワシが何を申したのか………。』」

 

 

 

「………あぁ。

 アンタの言ってた条件………、

 そういうことで合ってるんだよな?」

 

 

 

「『左様。

 ワシはお主との契りを破棄しようと申しておるのではない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お主の試練はまだ終わってはおらんからじゃ。』」

 

 

 

 

 

 

「………そうかよ………。

 俺は………、

 アンタの術を“耐えきった”んじゃなくて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “まだ耐えている途中”なんだな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだよ。

 

 

 

糠喜びしちまったじゃねぇか………。

 

 

 

こりゃあ………、

 

 

 

終わったぜ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一発目が終わって舞い上がっちまってたか………。

 

 

 

あんな隕石一発でも生きるか死ぬかギリギリだってのにそれが………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よく俺はこんなもんを一発でも受けきろうと思ったな………。

 

 

 

こうして見ればそんな無謀なことを考えるだけ俺はどうかしちまってたのか………?

 

 

 

………この二日で色々とあったからなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の晴れの舞台と楽しみにしていた開戦式で思うような結果を残せず突然現れたカオスにぶっ飛ばされて………、

 

 

 

その式で反逆者達を取り逃がした責任を俺に擦り付けられ面倒臭い追走任務を与えられ夜通しで追いかけてやっと追い付いたと思ったら馬が死んで帰りは歩き………、

 

 

 

………更にはストレス解消にカオスの仲間を八つ裂きにしてたらカオスが自称神様になって………、

 

 

 

あの空から………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………ハァ。

 

 

 

ついてねぇなぁ。

 

 

 

俺の人生………。

 

 

 

こんなところで終わるのか………。

 

 

 

こんな終わり方を迎えるんなら始めからアレックスやフェデールに対抗意識なんて持つんじゃなかったぜ………。

 

 

 

あいつらには始めから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

希望を持てないくらいに勝つことに絶望していたんだから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………カオスにもあの二人と同じように勝つことなんて考えなきゃよかったんだな………。



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乗り越えられなかった試練に………

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 舞い落ちる隕石を爆散できずユーラスは隕石で消滅したかに見えたが得意の地属性魔術で難を逃れた。

 ………かに思ったが試練はそれだけでは終わらなかった………。


シーモス海道 日の出

 

 

 

 

 

「『………さぁ、

 人の子よ……。

 我が“試練”を乗り越えて見「いや………。」』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういいわ………。」

 

 

 

「『むぅ?

 どうしたのじゃ人の子よ…?

 あの“流星群”を乗り越えて見せればワシの力がソナタに備わるのじゃぞ?

 万物を統べるワシの力が。』」

 

 

 

「………そうは言うけど俺にはアンタの試練………、

 乗り越えられそうにねぇわ。」

 

 

 

「『…諦めるということかの?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうだな。

 あれを見せられちゃ………、

 

 

 

 諦めるしかねぇだろうなぁ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『潔し………か………。

 それもよかろぅ………。

 お主にはまだこの試練は時期尚早ということじゃったのかのぅ………。』」

 

 

 

「アンタの試練ってさぁ?

 まだ六つ他にもやらなきゃいけねぇことがあったんだろ?

 ………だったらそれを先にこなさなきゃならなかったようだな………。

 

 

 

 ………こなしたところで“あれら”を耐えきれるかどうか知んねぇけど………。」

 

 

 

「『………妙に落ち着き払っておるなぉ………。

 あの流星群が地上に到達すればお主は粉微塵に消え失せるというのに………。』」

 

 

 

「こう………、

 極端な絶望を見せつけられちまうと………、

 なんだかあわてふためくのもアホらしくなってくんだよ。

 ………これが本当の絶望ってやつなんだなぁ………。」

 

 

 

「『お主………、

 絶望を知らんかったのか?

 この世界には絶望などそこらじゅうにまみれておると言うのに………。』」

 

 

 

「俺にとって絶望ってのは誰かに与えるものであって俺が与えられることなんて無かったんだよ………。

 生まれたときから並外れた力を持っていてそれで家の中の順位も決まっていた………。

 それを崩そうとする奴等が“悪”だとそう教わってきた………。

 

 

 

 だから今こうして絶望に対面したことなんて無かったんだ………。

 ………絶望ってのは思ったよりも清々しいものなんだな………。」

 

 

 

「『お主らの言葉で言うと絶望とは“望みが絶えた”と言うことじゃからのぅ…。』」

 

 

 

「そのようだな………。

 これはもうどうしようもねぇ…。

 ……アンタの言う通り俺は次の来世のことだけにしか今は頭にねぇ…。

 次は………、

 どんな人生が待っているのかねぇ………。

 ………どう生まれ変わってもバルツィエ以下の家にしかならねぇだろうが………。」

 

 

 

「『恵まれた環境に生まれてはそれに甘えて“大切な何か”を知れる機会が少なかったじゃろう…?

 お主らは先ず世界そのものを知るとこから始めればよかろう…。』」

 

 

 

「…?

 俺のことを知ってたみたいに言うんだな…?」

 

 

 

「『お主のようなものはこれまでに何度も見てきておる。

 努力もせずに力を持てば生き物というものはそれに頼り牙を腐らせる………。

 どんな生物であろうと努力は必要じゃ………。

 生きるためにのぅ………。』」

 

 

 

「………そこを言われたらソイツなんか正に理想的なんじゃねぇか?

 ソイツは俺達と同じ血を持ちながら劣悪な環境化にいたんだろ?

 そんな理想的なやつには叶わねぇよなぁ…。

 まったく………。」

 

 

 

「『お主………、

 この器を嫌っておったのではなかったかのぅ…?

 じゃからこやつを追ってここまで来たんじゃろ?』」

 

 

 

「嫌いっちゃ嫌いさ。

 そんないきなり出てきて俺達の常識を覆すような野郎は…。

 ソイツみたいな常識破りが“悪”だって聞いてきたんだ。

 悪は俺達でも嫌いさ。

 ………ソイツらにとっての悪は俺達だったんだろうがよ………。」

 

 

 

「『向かい合う正義か………。

 お主はお主の正義があったのじゃろうな。』」

 

 

 

「当然だろ?

 自分を悪と認めて国は運営なんてできねぇんだよ。

 バルツィエは………、

 国中の国民に嫌われちゃいるが正義を掲げて戦ってんだよ。

 敵がふがいなさすぎて弱いものいじめみたいにはなってたがよ………。」

 

 

 

「『最期に自分を見つめ直すいい機会を得たのぅ…。

 それだったらお主の“魂”を輪廻の輪に還すことも悪手ではなさそうじゃ………。』」

 

 

 

「………家の力を借りなくても俺は別の人生を歩んで生き返れるってか………?

 そいつは有り難いぜ神様………。」

 

 

 

「『人に生まれ変われるかはワシも知らんがの………。』」

 

 

 

「………できれば人の人生を歩ませてくれや………?

 せっかくいろんな感情や知識を持つ人に生まれたんだからよぉ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう少しいろんなことを知りたいぜ………。

 “努力”とかってやつをな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………死ぬ前に一つ聞いていいか?

 神様。」

 

 

 

「『どうした?』」

 

 

 

「………アンタの試練………、

 努力すればクリアできたのかな俺は………?」

 

 

 

「『………』」

 

 

 

「………そうかよ。

 俺には無理だったのか………。

 ………なら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタの試練をクリアできる奴なんているのか?

 人に限らず様々な生物が屯するこの世界によぉ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『………質問は一つじゃなかったのか…?』」

 

 

 

「いいだろ?

 別にこれくらい………。

 で?

 どうなんだかみさ」ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『………………おったぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の子に生まれながら全ての法則を網羅し、

 

 

 

 不可能を可能にし………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 可能を不可能に塗り替えるようなそんな人の子が………おったわい………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼にならワシの力………、

 世界を委ねても良かったとさえ思えるような………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなハーフエルフがおった………。』」



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託される神の願い

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスへの試練は上空からの隕石一つだけではなくその後に無数の隕石が続けざまに降り注いだ。

 それを見たユーラスは対に自らの命を諦め過去の自分と来世への想いを吐露してこの世から消えた………。


トリアナス砦 岸辺 日の出

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいっ!?

 猿何してんだ!!?

 早く逃げるぞ!?」

 

「ですがカオスがまだ………!?」

 

「アローネ=リム!!

 カオスも心配だが今はこの“津波”から退避することが先決だ!!」

 

「何だったのさっきの隕石!!?

 何でこのタイミングであんなのが降ってくるの!!?」

 

「カオスさんとユーラスがいた辺りに墜ちたのでカオスさん達は………!」

 

「…!!

 あの爆発ではユーラスも生きてはいまい…!

 

 

 

 だがカオスも……!!」

 

「大丈夫です!

 カオスならきっと…!!」

 

「そう思いたいところだがなぁ…!

 坊やの中の“何か”があったとしても!

 あの隕石に巻き込まれたとなると………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュゥゥゥゥゥ…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また降ってきてんぞ!?」

 

 

 

「えぇッ!?」

 

「どうなってるんだあれは…!?

 何故隕石があんなにも…!?」

 

「また津波が来るぞ!!?

 高台へ急げ!!!

 

 

 

 今度の爆発はもっと高い津波が………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」」」」

 

 

 

「(くぅぅぅっ…!?

 みっ、耳がいてぇっ!!?

 あんだけ離れてんのに…!!!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザザザザアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(やべぇ!?

 波が押し寄せて………!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……………カオス!!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………パァァァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「………………?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザァ…………ッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………今………

 私達………?」

 

「………津波に飲まれたんじゃ………?」

 

「………波が収まった………のか?

 …届かなかった…………ということか………?」

 

「そんな馬鹿な………。

 あんだけの爆発を起こしておいて波が収まる訳が………。

 津波だって砦の高さを越えていた………。

 なのに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザァ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………波は穏やかですね………。」

 

「海道は………粉々に砕かれたようだが………。」

 

「あの爆発じゃそうなってもおかしくないが余波でできた津波が消えることはないだろう………。

 何がどうなってやがんだ………?

 坊やが変になってから異常現象が立て続けに起こってるぞ………?」

 

「!!

 カオス………!?」

 

「………坊やなら………

 さっきの隕石で「カオス!!」」タタタッ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………坊や……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事だったかカオス!!?」

 

「良かったぁ~!

 もう心配したんだよ!?

 カオスが変な感じになって一人でユーラスとあんなところに残るから!!」

 

「カオスさん!

 あの隕石から回避できたんですね!

 ………ユーラスは?」

 

「どこも怪我はありませんよね!?

 怪我をしているようなら私が治療します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どういうこったよこりゃあ………。

 まさかあの隕石は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『………お主らに頼みたいことがある………。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

 

「『この世界を………、

 ワシの代わりに守ってもらえやせんか………?』」

 

 

 

「まだカオス変な人格でてきてるの!?」

 

「これは………殺生石の人格か…!?」

 

「そうとしか考えられません!

 カオスさんとは違う別の人です!」

 

「世界を………守る………?」

 

 

 

「『お主らにはワシの力のごく一部を与えておる。

 その力でこの世界を守ってほしい………。』」

 

 

 

「………何から守るのですか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ヴェノムじゃ………。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!」」」」」

 

 

 

「『あの禍々しき存在からこの“世界”を守っておくれ…。

 あれに世界を奪われてはならぬ………。』」

 

 

 

「……確かにそれはそうですが………。」

 

「この力の源は………、

 殺生石の………、

 お前の力ではないか………?

 お前ならヴェノムを消し去ることも可能なのではないのか………?」

 

「そうです………。

 この力が貴方から流れてきた力なら貴方がヴェノムを滅することもできるのでは…?」

 

 

 

「『ワシは世界の流れの傍観者じゃ………。

 極力世界には干渉せんようになっておる………。』」

 

 

 

「傍観者………?」

 

 

 

「『ヴェノムとは………人が作り出した存在………。

 人が作りし物なら人がそれに対処すべきじゃ………。』」

 

 

 

「人がヴェノムを作り出した………?」

 

「………バルツィエのことだろうな。

 奴等以外には考えられない。」

 

「ですがヴェノムはアインス………、

 ………バルツィエが誕生する以前からこの星には存在していました………。

 バルツィエが作り出したとは………。」

 

「それなら話はこうだ。

 どっかの傍迷惑な奴がヴェノムをなんらかの目的で作り出した。

 それが暴走して世界は滅びた………。

 そしてこの時代に変わってからバルツィエができ、

 バルツィエが何かしらの方法でどっかの傍迷惑野郎が作り出したヴェノムを手に入れ世界にばら蒔いた。

 

 ばらまく際には緻密な研究が行われていたんだろうな。

 バルツィエしかヴェノムのワクチンを作れない現状を考えるとそれで話の筋が通る。」

 

「その傍迷惑な人って何の目的でヴェノムを作ったの?」

 

「そんなことは………知らんが………。

 

 ………今のバルツィエのように世界征服でも企んでたんじゃねぇか?

 自分で凶悪なウイルスを作ってそれを蔓延させて自分だけがワクチンで助かる。

 …そんな奴がいたって話は聞かんから多分ソイツも自分で作ったウイルスで死んだんだろうけどな。」

 

「どうせ死ぬのならヴェノムも一緒に消してくれたらよかったのに………。」

 

「それで消えるようなウイルスだったら誰かがどっかでヴェノムを完全に除去できる方法を見つけてたろうよ。

 それができないくらいにヴェノムウイルスは厄介なんだ。」

 

 

 

「『左様………。

 ヴェノムはどんなに時を経ても消えることのなかった遺産………。

 消し去るには一度全てを無かったことにせねばなるまい………。』」

 

 

 

「全てを………無かったことに………

 どうやって………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ワシがこの世界の全てを無へと帰す………。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!!!!!??」」」」

 

 

 

「何ですって……!?」

 

「お前にそんな力があるというのか!?」

 

「そんな………、

 …それじゃヴェノムなんてまだマシな方なんじゃ………!!」

 

「そんなの嘘よ!?

 殺生石にどうしてそんな力があるって言うの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ソイツにならそんぐらいの力あるだろうな……。」

 

 

 

 

 

 

「レイディー………?」

 

 

 

「………さっきの隕石と津波を止めたの………、

 お前の仕業なんだろ?」

 

 

 

「え!?

 あれが…!?」

 

「そんなまさか…!

 そんな訳………「『そうじゃ…。』」…!?」

 

 

 

「『ワシがあの石ころを降らせた。

 あやつ………、

 ユーラスとかいう小僧を試すためにな………。』」

 

 

 

「…試すだと?」

 

 

 

「『この世界は流れに伴い少しずつじゃが進歩していく………。

 進歩したその先で必ずこの世界の生物はワシやワシの眷属へと辿り着くであろう………。

 そこでワシは辿り着きし者に試練を与える。

 その試練を乗り越えし者にこの世界の全権を渡すのじゃ………。』」

 

 

 

「何のためにそんなことを…?」

 

 

 

「『新たな流れを取り組むためじゃ………。』」

 

 

 

「新たな流れ………?」

 

 

 

「『この世界の生命は時と共に“進化”をしてきた。

 進化とは次の段階へと移行すること………。

 それは永き時をかけて次第に形を変え術を知り徒党を組みいろいろな進化の姿を見せてきた………。

 今もこの時にお主ら生命は進化をし続けておる………。』」

 

 

 

「そっ、そうなんですか………?」

 

「レイディー…?」

 

「何でも間でもアタシに聞くんじゃない!?

 アタシですらコイツの話を整理するのがやっとなんだ!」

 

「…してこの世界の生命が進化していくとお前に辿り着くんだな…?」

 

 

 

「『そうじゃ。

 ………そこに至るには今の生命はまだまだかかるがのぅ………。』」

 

 

 

「………それでお前の試練を何故かユーラスが受けることになってさっきの流星群が降ってきたと………。

 ………お前は何なんだ?

 神か?」

 

 

 

「『お主らの概念とは少々異なるがのぅ………。』」

 

 

 

「フーン…、

 そんな神様が何で世界を滅ぼすっつったりヴェノムから世界を守れって頼んできたりするんだ?

 矛盾してねぇか?

 アタシらなんて自慢にもならないがただのそこら辺の一般人だぞ?」

 

「ボク達ってまだ一般人で通るんですか…?」

 

 

 

「『矛盾なぞしてはおらんよ。

 人の手にあまるようなら最期にワシがそうするだけじゃ。

 じゃからワシが手を下す前に世界からヴェノムを消し去って欲しいと頼んでおる…。』」

 

 

 

「…神さんよぉ……。

 この世界をずっと見てきたってんなら分かるだろ?

 十分手にあまってんだよヴェノムは。

 今最もヴェノムに強いとされているバルツィエでさえヴェノムの繁殖を止められずにいる。

 それでどうやってヴェノムを消し去れって言ってんだ?」

 

「ヴェノムの問題は古くから存在し長くその解決法を編み出せぬまま今の時代まできました。

 私達だけではどうにも………。」

 

「俺達などよりもヴェノムに対して深く研究を進めている機関はいくつかある筈だ。

 その者達を探して協力を仰げと言っているのか?」

 

 

 

「『それはせん方がよいのぅ…。』」

 

 

 

「………どうしてだ?」

 

 

 

「『お主ら人の科学によって生まれたヴェノムを別の災厄に変える恐れが生じる。

 この件はお主らだけに頼みたい。

 “資格”を持つ“古き民”に…。』」

 

 

 

「資格と古き民………?」

 

「………私のことですか?」

 

「アローネさん?」

 

 

 

「『ヴェノムを作り出したのは人………。

 それもヴェノムを作り出した時代の者ならば尚更じゃな。』」

 

 

 

「!?」

 

 

 

「『ヴェノムはお主が生まれた時代に作られた。

 ならばこの時代の者よりもお主の方が精通しておるであろう?』」

 

 

 

「そんな…!?

 私はヴェノムのことなんて何も…!?」

 

 

 

「『お主の中にある“それ”を世界に広めればよい。

 さすれば世界からヴェノムは無くなるじゃろう…。』」

 

 

 

「私の中にある“それ”…?」

 

 

 

「『………そろそろ時間じゃな…。

 こやつが目覚めようとしておるわい…。』」

 

 

 

「!

 待ってくださいまだ聞きたいことが!?」

 

 

 

「『頼むぞ古き民とその従者達よ…。

 お主らにはこの世界のヴェノムを消す鍵は託した………。

 その鍵でこの世界を救うのじゃ………。

 その鍵を使えばお主らのようにヴェノムに対して強い力を持つ者を増やせるじゃろう………。

 一刻の猶予もないぞ…。

 ヴェノムによる世界の滅亡はそう遠くないところまで迫って来ておる…。

 もしそうなってしまえばワシは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 躊躇なくこの世界全てを無へと帰す………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうならない未来になればよいのぅ………。』」



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マテオ バルツィエの編終幕

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしていた。

 ユーラスに降り注いだ隕石の余波を受けダレイオス側にいたアローネ達に津波が押し寄せる。

 アローネ達に津波が被さろうとした瞬間別人格のカオスがそれを防ぎアローネ達にヴェノムの消滅を命じ消えていった………。


トリアナス砦 内部

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「待ってください!

 “資格”とは何ですか!?

 私の中にある“もの”とは何なのですか!?」ガシッ

 

「え!?

 うわっ…!?

 アローネ!?」

 

「………カオス?」

 

「…どうやら本人に戻ったようだな。」

 

「本人…?

 何のことですか…?

 ………それに皆無事だったの!?」

 

「?

 覚えていらっしゃらないのですか…?」

 

「覚えて…?

 何のこと…?」

 

「“アイツ”に代わってる際の記憶は無いようだな………。」

 

「記憶………?」

 

「今ね…。

 カオスが何か変なこと言ってたんだよ?」

 

「俺が………?

 寝言でも言ってた…?」

 

「カオスさんの中の………。

 “殺生石の意識”とでも言ったところでしょうか………。

 殺生石の意識がカオスさんの体で何か異様な話をしていたんです。」

 

「自分は神だとか世界を滅ぼすだとかな…。」

 

「え………?」

 

「詳しく話すとだな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「そんな話をしてたんだよ。

 お前の中の“何か”がな。」

 

「………全く覚えていない………。」

 

「さっきのカオスは何か変だったもん…。

 覚えてないのも無理ないよ………。」

 

「寝言で片付けられるようか話の内容じゃなかったがな。

 あの殺生石にあんな生物の意識があったことに驚きだ。」

 

「“生物”のカテゴリーに入るかどうかは疑問だな。

 奴は自分のことを“世界の傍観者”と語った。

 アタシらのいる世界とは別の世界にいるものと推測できる。」

 

「それにカオスさんの体を借りて話をしていたところを見ると自分の肉体は持っていないようですね…。」

 

「他人の体に宿る“精神だけの神(仮)”………。」

 

「(仮)って………。」

 

「アイツの話し方からして一概に“神”というものでもなさそうだ。

 アタシらでも言い表せない何か………。

 奴はそんな存在なんだろうよ。」

 

「でもレイディー、

 あれのこと別の名前で呼んでなかった?」

 

「別の名前で…?

 何か知ってるんですか?」

 

「それについてはアタシの勘違いだった。

 アタシの思っていたような生物とは違ったようだ。」

 

「何の生物と勘違いしたのですか?」

 

「確か………レイディー殿はプロトゾーンがどうとか言ってたな………。」

 

「プロトゾーン…?」

 

「………“プロトゾーン”

 生物学的名前ではこれで統一されているがこの生物は誕生してから様々な形態をとる生物だ。

 最初は単細胞生物に始まり徐々に海の中を泳ぐ魚や陸を走る馬のような生物になり最終的に人の形をとるらしい。」

 

「そんなに多くの成長をする生物がいるのですか?」

 

「伝説上ではそうなってる。

 プロトゾーンは長命で数万年単位で進化していくんだ。

 全部を確認する奴なんていないさ。」

 

「………それで何故その生物とカオスの中のものを勘違いしたのですか…?」

 

「奴がお前に使った技…、

 “レイズデット”と言う技はユニコーンの力を借りないと使えない代物だったんだ。」

 

「ユニコーンって大昔に絶滅したっていうあの…?」

 

「“死者を蘇らせる術”としてまだ生息していた時代では大人気だったんだろうな。

 狩り尽くされて絶滅したらしい…。」

 

「可哀想な話ですね………。」

 

「…そのプロトゾーンの進化の過程の中にユニコーンが入っていたって学会で発表されたことがあったんだ。

 長命なプロトゾーンは普通の生物よりもマナを保有してるだろうし人には使えないような術も使っていたと聞く………。

 プロトゾーン=ユニコーン説はかなり正解に近いとアタシも思う。」

 

「それでそのユニコーンの力を借りないと使えない術を俺の中の………、

 殺生石の意識が使ってレイディーさんは殺生石がプロトゾーンだと思ったんですか?」

 

「けどレイディー、

 殺生石って石だよ?

 全然生物っぽくないけど………。」

 

「アタシの考えではユニコーンの一匹が大昔に自然死して地層に埋もれ化石化したのが殺生石だと推理したんだがなぁ…。

 流石にいくらプロトゾーンと言えども“隕石を降らすような術”を使えるってんなら全くの検討外れだろう。」

 

「隕石…?」

 

「後ろ見てみろよ…。」

 

「後ろ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザァ~ン………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………海………?

 って言うかここはどこなの…?」

 

「まだ記憶が途切れた辺りのは話をしてませんでしたね。」

 

「ここはな。

 昨日のダレイオスの基地の近くなんだよ。」

 

「ダレイオスの基地の近く………?

 あの海道の近くですか?」

 

「近くっちゃ近くだな…。」

 

「?」

 

「………昨日は夜ということもあって景色が違って見えているようだな…。

 

 

 

 そこの海に昨日俺達が渡ってきた海道があったんだ。」

 

 

 

「え…?

 でも何もないけど………。」

 

 

 

「そりゃそうだろ。

 なんたって昨日、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前がその海道をバラバラに爆砕しちまったんだからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………俺が………?」

 

 

 

「お前というよりもお前の中の殺生石が、だな。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「ユーラスと二人で決着をつけるのかと思ってたがまさかユーラスを海道ごと吹っ飛ばすような隕石を降らせるとは思いもしなかったぜ。

 やり過ぎだっつーの。

 世界地図が変わっちまうわ。」

 

「こちらの方は殺生石が津波を沈めてくれましたがマテオの地はどうなっているのでしょうか………?」

 

「坊やがこっちに来たってことはあっちの方は何もしてねぇんじゃねぇか?

 今まさに津波による水害が発生してるかもな。

 あのシーモス辺りの基地から北部までの街々が沈んでたりとか。」

 

「そんなこと言うものじゃありませんよ。」

 

 

 

「………俺が魔術を………。」

 

 

 

「カオスどうしまし「ブハァッ……!!」」ビシャピシャビシャッ!!

 

 

 

 

 

「どうしたのカオス!?」

 

 

 

「俺が………、

 魔術を………使った………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…また俺が魔術で壊したのか…?

 

 

 

俺の知らない間に魔術が使われて………、

 

 

 

俺のせいでまた何も知らない人達が犠牲に………?

 

 

 

どうして………。

 

 

 

魔術は封印してた筈なのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲボッ…!

 そんな何で……!?

 エホッエフッ!

 俺がまた誰かを………殺したのか…!?」

 

 

 

「カオスさん…?

 具合が悪そうですが大丈夫ですか…?」

 

「…カオスのトラウマが呼び起こされてしまったようですね……。

 

 ……あれはカオスのせいではありませんよ…?」

 

「そうだぞカオス…。

 お前は自分の意思で使ったんじゃない……。

 俺達を助けるために駆け付けて殺生石に精神を支配されていたんだ。」

 

「カオスは何も悪くないんだよ?

 昔のことなんて思い出さなくてもいいの。」

 

 

 

「ハァハァ………。」

 

 

 

「カオス………、

 前よりも悪化してますね………。」

 

「………前からカオスはこうだったのか…?」

 

「以前はボクを助かるために一度だけ魔術を使ったことがあるみたいですがその時はこのようには………。」

 

「…大丈夫だよカオス?

 前みたいに今度は誰も死んだりなんてしてないから…。」

 

「こっちに被害はねぇだろうがマテオではどうだろうかな…?」

 

「レイディー!!?

 余計なこと言わないでッ!!」

 

「………」

 

「坊やの魔術………、

 そういや見たことなかったな。

 レサリナスでもユーラス相手に使ってなかったみてぇだし舐めプしてんのかと思ってたが何故使わない…?

 ファーストエイドくらいなら使えるんだろお前?」

 

「それは………。」

 

「言ったでしょ?

 カオスのことは…。

 カオスはあの事件以来魔術を使わないって…。」

 

「魔術を使わずにカオスは王都まで来たのか…?

 よくそれで………。」

 

「………難儀な話だよなぁ…。

 そんな体質でお前は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また魔術を使わなくちゃならねぇなんてよぉ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…?」

 

「何言ってるのレイディー。

 魔術を使う必要なんて今は無いでしょ?」

 

「お前らの今の旅の目的は何だ?」

 

「旅の目的…?」

 

「ゴリラは坊やと………、

 そこの擬きを連れ帰るってことでいいんだよな?」

 

「そうだけど………?」

 

「擬きはこれからどうすんだ…?

 お前の部隊は壊滅しちまったが?」

 

「………俺は部隊の皆の弔いをした後は………。

 何も無いな………。

 俺一人ではダレイオスに何の交渉もできない………。」

 

「それは目的が無いってことでいいんだな?」

 

「………あぁ。」

 

「猿とガキは?」

 

「私は………カタスのお手伝いをしたかったのですがこうなっては………。」

 

「………ごめん。」

 

「カオスは休んでてください。

 こうなったのも私が選んだ道ですから…。」

 

「ボクは………。」

 

「お前はどこに行く予定なんだガキ。

 もうダレイオスに着いちまったぜ?

 後は好きにどこへでも行けるだろ?」

 

「………」

 

 

 

「話を纏めるとやっぱりお前らミスト組はミストに帰るべきだな。

 今回の件でお前らの旅の理由も無くなるだろうし。」

 

 

 

「………え?

 何で………?」

 

「まだカオスが殺生石のことが残ってるじゃない!?

 それでどうして帰るって話になるの!?

 魔術だって使う必要性なんてどこにもないわ!?」

 

「殺生石のことをどうにかしたいんならダレイオスを回るよりももっと簡単な方法があるじゃねぇか。」

 

「簡単な方法?」

 

「殺生石にも意識があった。

 なら本人に直接聞くのが早いだろ?

 直接聞いて“どうやったら出ていってくれますか?”って聞きゃぁいいだろ?」

 

「直接聞くってどうすればいいのですか…?

 あの方がどのようにしてまた現れるかも分からないのに………。」

 

「だから魔術を使えって言ってるんだよ。」

 

「だから!

 何でそういう話になるのよ!?

 話が全然繋がってないでしょうが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「坊やが魔術でマナを行使してマナがすっからかんになった後ヴェノムを探して触ってみたら出てくるんじゃねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 

 

「何言ってるの!?

 そんなこと…!!」

 

 

 

「アイツを呼び出したいんならアイツが出てきた再現をしてみりゃいい。

 上手くいけばまたアイツが出てくるだろ?

 普段は坊やのマナに守られて出てこねぇようだがマナが枯渇してからヴェノムに触ればアイツも身の危険を感じて出てくると思うぜ?

 アイツ…、

 ヴェノムのこと嫌いらしいからな。

 それで出てきたらその時にお前らが代わりに聞くんだよ。

 それで坊やの旅が終わる。」

 

 

 

「………ですがそれにはカオスがまた魔術を……。」

 

 

 

「人を殺したくないってんなら誰も巻き込まないところでやりゃあいい。

 それで万事解決だろ?」

 

 

 

「………」

 

「ですがあのような世界を破壊する宣言をするようなのをほいほい呼び出しなんてしたら………。」

 

 

 

「そうだな。

 アイツアタシらに頼みごとをしてきたしな。

 それを無視して呼び出しなんてしたら何されるか……。

 

 

 

 だがよ?

 坊やの目的を達成するにはそれが最短ルートだとも思わねぇか?」

 

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

 

「まぁ………、

 これはあくまでもアタシ個人の見解だ。

 出てくるかもしれねぇし出てこないかもしれねぇ。

 出てきたとして何かの手違いで怒らせた日には

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 坊やが世界を破壊し尽くす“魔王”になるかもしれんがな………。

 “バルツィエ”、“ヴェノム”………、

 

 そして坊やの中の“殺生石”………。

 “世界の終末”が訪れる可能性ってのは案外と多いもんだな………。」



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次編開幕

 青年カオスはウルゴス国の貴族嬢アローネ、マテオ国に拉致されたダレイオスの少年タレス、存在することすら知られなかった村の長の娘ミシガン、旧友にしてマテオ国家に背いた騎士ウインドラ、流浪の天才学士レイディーとマテオから脱出しダレイオスへと辿り着く。

 ここから彼等の旅はどうなるのか………。


王都レサリナス バルツィエ邸 数日後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………で、

 開戦は中止か………。

 天上位昇格議案に続いて戦争もかよ………。

 

 予想はしてたが一応どういう流れでそうなったか聞かせてくれよフェデール。」

 

「うちもそれを聞きたい…。」

 

 

 

「先日にシーモス砦からダレイオスの砦までの海道で謎の隕石が降ってきた事件があっただろ?

 あの時に発生した津波でマテオ側の北部はほぼ津波に飲まれて被害が甚大なんだよ。

 議会でその対応に追われて開戦どころじゃねぇってさ。」

 

 

 

「………あん時はビビったなぁ…。

 大きな音に続いて今までで一番とも言えるような地震があったからよぉ…。」

 

「あっちこっちで窓ガラスも割れたり酷いところで建物が倒壊もしてたしみたい…。」

 

 

 

「とにかくあの流星群の一件でマテオは今までに類を見ない痛手を負った………。

 この状況でダレイオスにまで攻めてこられたら一貫の終わりなんだとよ?」

 

 

 

「………何それ…?」

 

「前々からダレイオスと戦争が始まってもこっちの陸にはダレイオス軍は攻めてこられねぇって分析してなかったか?」

 

 

 

「それもそうなんだがあの阿呆共の考えではそうじゃないらしい…。

 

 

 

 なんでもダレイオスの“大魔導士軍団”とやらがいる限りは無闇にダレイオスに戦争吹っ掛けるべきじゃないとか言っている………。」

 

 

 

「大魔導士軍団…?

 なんだそりゃ…?」

 

「初耳…。」

 

 

 

「この間の流星群が唐突に降ってきた件を阿呆共は人為的なものと捉えてるんだよ。

 マナ検知にもその反応が出たからな。」

 

 

 

「…!?」

 

「お前がシーモスで撮ってきた映像のあれが誰かが降らせたもんだってのか!?」

 

 

 

「そうだ。

 そのせいで阿呆共は竦み上がって開戦するのに待ったをかけてきやがった…。

 あんな術を編み出したダレイオスに攻め込むといつまたあの術がマテオに降ってくるか思うと夜も眠れねぇそうだ。」

 

 

 

「そういやあの時間帯たまたま起きてたが一瞬昼間に変わったかと錯覚するほどだったからなぁ…。」

 

「けど…、

 あんな術をそう何度も使えないんじゃない…?

 一度使っただけでマナを消費しすぎてショック死しそう…。」

 

「そうだよな?

 大魔導士軍団とかいう奴等もあれで死んじまったんじゃねぇか?」

 

 

 

「それはないだろ。

 あんな驚異的な破壊力を出す術をマテオじゃなく国境に降らせる余裕があるってことはまだまだ補充要因がいるってことだ。

 恐らく術を編み出した大元を絶たない限り次から次にあの術を使う奴が現れるだろう。」

 

 

 

「そんな奴等が現れたとしてもショック死するのは確実だろ?

 自分から進んで死ぬ術を使う奴なんているのか?」

 

 

 

「ダレイオスは百年前からヴェノムに頭を悩ませてる。

 追い詰められ過ぎてもういつ死んでもいいって奴等が沢山いるんだろうよ。

 そんな奴等が最期に敵国に大打撃を与えて名誉の死を遂げられるなら自分達にも生きてきた意味があった…、

 とかそんな感覚で術を使う奴等がいるんじゃねぇか?」

 

 

 

「自爆する奴等は恐いなぁ………。」

 

 

 

「あっちではそこらじゅうに感染者がいる。

 そいつら見つけて術を付与し最期に良い想いで死なせてやるって話なら………マテオは終わりだ。」

 

 

 

「そういやこっちも津波が凄かったがダレイオスの方はどうなってんだ?

 あんな爆発起こして津波が起こったんならダレイオスも相当な被害が出てるだろ?」

 

 

 

「…残念ながらダレイオスにはあの流星群の被害は全くと言っていいほど無かった。」

 

 

 

「無い…?」

 

 

 

「それもあってダレイオスの大魔導士軍団の存在に拍車をかけてるんだろう。

 一方的な被害を受けたマテオ陣営の阿呆共はすっかりダレイオスとの戦争に反対のようだ。」

 

 

 

「…ってことは戦争はもうしねぇのかよ…。

 楽しみにしてたんだけどなぁ…。」

 

 

 

「ここ最近でバルツィエの戦力が“二人”も削がれたからなぁ。

 阿呆共も俺達の力を信用できないってんで大々的な戦闘は避けるべきなんだと………。

 あんな大術を隠してたとなると自分達も危ないから俺達には何もさせたくないんだな。」

 

 

 

「ただ単に俺達に戦果をあげられるのが困るだけじなんじゃねぇのか?

 戦争で勝ちゃ俺達の天上位昇格議案が決まっちまうってんで戦争させたくねぇだけだろ。」

 

 

 

「この場合両方だろう。

 戦争事態はヴェノム以前から持ち上がってた話だしな。

 アルバートが収めるのなら………と口にしちまった手前今更奴等も戦争は絶対にしない…とは言いきれない。

 何より戦争をしたい俺達の顔を伺うしかねぇ………。

 戦争をさせない口実に必死になってるこのタイミングであの隕石を降らせる大魔導士軍団の登場………。

 いい口実ができちまったなぁ………。」

 

 

 

「これからどうすんだよフェデール?

 ただじっと待っとくだけじゃ何も始まらないぜ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「お前が何も作戦を立てないってんなら俺達は何をすればいいんだ?

 黙って大魔導士軍団とか言う奴等がマテオを攻撃すんのを待っとくのか?

 俺はそんなの御免だぜ?

 殺られるくらいなら殺りに行くぞ?」

 

 

 

「………まぁ待てって。

 俺が何も考えてない訳ないだろ?

 お前らにとってはいい作戦考えてあったからよ。」

 

 

 

「…それでこそフェデールだな………。

 で?

 どんな作戦なんだ?」

 

 

 

「あのジジィ共が懸念してるのは大魔導軍団の存在だ。

 ソイツらが邪魔で俺達は戦争ができねぇんだ。

 だったら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソイツらを消しにダレイオスに向かえばいいんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?

 それって戦争吹っ掛けるのと何が違うんだ?

 結局同じ結論に至ってねぇか?」

 

 

 

 

「そう急ぐなよランドール。

 戦争するのは駄目だってんだ。

 だったら戦争じゃなけりゃいいんだって言ってるんだよ俺は。」

 

 

 

「?

 だからソイツらぶっ殺しにダレイオスを攻め込むって話じゃねぇのか?」

 

 

 

「大部隊を送るとダレイオス側に宣戦布告と見なされる。

 それならそう見なされないようにすればいいだけの話さ。」

 

 

 

「………それってつまり……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達バルツィエだけでダレイオスに潜入しろって言ってるんだな…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうことさ。

 楽勝だろ?

 お前らだけでも。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クフフフフ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 楽勝に決まってんだろ!」

 

「うちらだけで大魔導士軍団とか言うの磨り潰してくる…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼もしい“天才様達”だぜ………。」

 

 

 

「よぉ~し、

 さっさと行って来ようぜ!

 フェデール、

 何時俺達はダレイオスに行けばいいんだ?」

 

 

 

「そうだなぁ………、

 暫くはお前らの部隊は俺が管理するとしていろいろと手続きが必要だからな。

 後その大魔導士軍団がどこにいるかおおよその目安をつけた地図を作るからお前らはそれまで寛いどいてくれ。」

 

 

 

「あぁ、

 手早く作ってくれよ!」

 

「じゃあうちはそれまでブラムとでも遊んでおこうかな…。」 

 

 

 

「そうしな。

 ………ところでランドール。」

 

 

 

「ん

 何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がユーラスとカオスを追いかけている間に勝手にカーラーン教会を襲撃する発令を出した件について話がある。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何だよ?

 あの件は別に俺の独断でも良かったんじゃねぇのか?」

 

 

 

「俺は襲撃しなくてもいいって言わなかったか?」

 

 

 

「襲撃しなくてもいいってことは襲撃してもいいってことにも聞こえるんだが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………下らない屁理屈は「よう。」…」ガチャッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テメェラ何の話をしてるところだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………起きたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツ。」



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蘇生した悪鬼

 カオス等一行がマテオ王国からダレイオス王国へと渡ってから数日後マテオのバルツィエ邸ではユーラスの追撃部隊が謎の隕石によってカオス等とシーモス海道ごと壊滅したとしてダレイオスへの開戦が見送りになった。

 そのことについてバルツィエが話し合いをしてる最中にウインドラに倒された筈のラーゲッツが登場するのであった………。


王都レサリナス バルツィエ邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうよ。」

 

 

 

「体調はどうだ?」

 

 

 

「特に問題はねぇよ。

 それで俺が寝てる間にあれからどうなったんだ?」

 

 

 

「ラーゲッツが寝てる間にいろんなことがあったぜ?

 隕石が降ってきたりとか戦争が取り止めになったりとか「そんなことは聞いてねぇよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツ………、

 俺をぶっ刺したカオス=バルツィエはどうなったんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前をぶっ刺したぁ?」

 

 

 

「俺がこうなった原因の奴は今どうしてんだか聞いてるんだよ…!」

 

 

 

「…………あ!

 あ~あ!

 アイツのことか…!」

 

「ラーゲッツ、

 お前を刺したのはカオス=バルツィエじゃなかったんだよ。」

 

「は?

 何言ってるんだよ。

 俺を負かす奴がカオスじゃねぇ訳が「アイツはな?」」

 

 

 

「カオス=バルツィエの………影武者だったんだよ。」

 

 

 

「影武者?」

 

 

 

「あの後別にカオス=バルツィエが出てきてそっちが本物だったんだ。

 お前はカオスじゃない奴に刺されたんだ。」

 

「ダッセーよなぁ?

 お前。

 並の奴にやられてんだからよぉ?」

 

「………」

 

「お前が刺されて意識を失った後はそのカオスが広場を荒らしてお前を刺した奴と一緒にダレイオスに逃げてったよ。」

 

「…その後は………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっき話に出した隕石ってのがユーラスの部隊ごとカオスとその影武者達を屠ったよ。」

 

 

 

「………何?」

 

 

 

「急に降ってきた隕石がシーモスからダレイオスまでの道に降って辺り一面を爆砕したんだとよ。

 ユーラスの奴外れクジ引いたもんだよなぁ。」

 

「ユーラスの奴死んだのか…?」

 

「あぁ。

 お前と違って肉片一つも残さずにな。

 お前が倒れてなかったらお前があの隕石に殺られてただろうぜ?」

 

「………何でそんなもんが降ってくるんだよ?」

 

「俺が持ち帰った映像を検証したら隕石にはマナが込められていたことが分かってね。

 議会のお偉いさん達にも見せたら大魔導士軍団なるものがダレイオス側にいて俺達の牽制で隕石を降らせる術を使用したんだと。」

 

「隕石を降らせる術………?」

 

「見た目は超巨大なファイヤーボールだったぜ?

 それが海上でドカーンっ!

 って爆発したのさ。

 その爆発で津波が起こって今マテオの北側はパニック状態さ。」

 

「そんでよ?

 それを降らせた奴等を俺達で叩きに行くところなんだ。

 戦争はしないってんで大部隊率いてダレイオスには行くなって言われてるからよ。」

 

「………」

 

「リベンジする相手がいなくなってて清々したか?

 それともやりきれない気持ちで一杯か?」

 

「………そうだな。

 ランドール。

 今はお前をぶっ飛ばしたい気持ちで一杯だ。」

 

「そうなのか?

 俺は今からちょこっと用事思い出したからバイビーだぜ。

 じゃあな。」サッ

 

「待「待てランドール。」」

 

「あ~ん?

 何だい騎士団長?」

 

「俺との話もまだ終わってないが?」

 

「その件はもういいだろ?

 やっちまったもんはもうしゃーねぇだろ?

 ほいじゃあな。」スタスタスタ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何やらかしやがったんだアイツ…?」

 

「ランドールがマテオ全土のカーラーン教会を潰す命令をフェデールに黙って各地に伝えたんだって……。」

 

「カーラーン教会を…?

 何でカーラーンに手を出したんだ?」

 

「カオスが修道服着て出てきたからカオスを匿ってた容疑で制裁してやるって言ってた…。」

 

「………は~ん?

 それでフェデールがとやかく言われてたのか…。

 いいじゃねぇかあんな宗教集団なんか潰しても。

 どうせ残しててもろくなことしかねぇだろ?」

 

「………」

 

「お前のことだからカタスティアのことが気になって今まで手を出さなかったんだろ?

 お前あの女にだけはいい顔してたしよぉ?」

 

「………そんなんじゃねぇよ。」

 

「うちから見てもカタスティアは美人だとは思うけど………、

 あの女はあまり好きじゃない………。」

 

「お前の下心でカーラーンの肩を持ってたってんなら………、

 あんな奴を弁護なんかしたくはねぇがランドールのやったことは責められるようなことじゃねぇだろ。」

 

「フェデール…、

 あの女のこと好きだったの…?」

 

「多分そうなんだぜ?

 あの女の前だけはコイツ猫被るからなぁ。

 女関係については俺の目はごまかせねぇぜ?」

 

 

 

 

 

 

「………お前と一緒にすんじゃねぇよ。」ゴゴゴ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…フェデールをからかうのはこのくらいにしといてやるか。」ガタッ

 

「うちもブラムを呼びにいかないと…。」ガタッ

 

「………」

 

「じゃあ何か用があったら呼べよ?

 それまではゆっくりしとくからよぉ…。」ガチャッ

 

「うちは夜には戻る…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何も知らない奴は気楽で羨ましいな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて………、

 何して過ごすかな………。」

 

 

 

 

 

 

「ようラーゲッツ。」

 

 

 

「………丁度いい遊び相手が見つかったな…。

 ランドール、

 さっきの宣告通りテメェをぶっ飛ばしてやるぜ。」

 

「まぁ落ち着けって。

 お前寝起きだから体もそんなに動かねぇだろ?

 それで俺とやっても結果は………分かるだろ?」

 

「テメェをウォーミングアップに使ってやるから心配するな。

 すぐに丸焼きにしてやるよ。」

 

「だから話を聞けって!

 お前が起きてくる頃だからお前の為に女も用意したんだからよ。」

 

「女…?

 お前が…?」

 

「あぁ、

 お前を喜ばせようと思ってな。

 とびっきりの娼婦をよんであんだ。

 女好きなお前のことだからこれから眠ってた分の遅れを取り戻すつもりなんだろ?」

 

「………」

 

「今お前の部屋で待たせてあるからよ。

 情事が終わったら俺と一緒にカーラーン教会の残骸でもあさくりに「いいわ。」…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今は女を抱く気分じゃねぇわ…。

 てきとうに散歩でもしてくるぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………珍しいな。

 お前が女を抱かねぇなんて……。

 朝昼晩女を抱くことしか頭にねぇお前が………。」

 

「俺にだってそんな時くらいあるんだよ。

 …気分も萎えたしそれじゃあな。」スタスタスタ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どっか頭でも打ったのか?

 アイツ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度死んで蘇ったってのに性欲だけ死んだままになってねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺を殺した奴………、

 アイツだけは絶対に許さねぇ………。

 探しだしてこの俺の手で本物のカオスごと焼き付くしてやる……。

 俺が死んでる間に隕石で全滅しただと?

 そんな嘘で俺は騙されねぇぞ。

 

 

 ………先ずは騎士団の名簿からアイツを割り出すところからだな………。

 影武者野郎………。」



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ダレイオスでの目的

 マテオではダレイオスに潜む謎の組織“大魔導士軍団”なる集団を警戒して開戦が取り止めになった。

 そして開戦式でウインドラに倒されたと思われていたラーゲッツが復活しカオス等に敵意を抱く。

 ラーゲッツは死亡していたかのように見えたのだが………。


ダレイオス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………ザッザッッザッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………どのくらい歩いたのかな………。

 

 

 

ダレイオスに着いてから街一つ見当たらない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………いや、

 

 

 

ダレイオスに着いてから街にはいくつか着いていたんだ………。

 

 

 

着いてはいたんだけど………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダレイオス どこかの街

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そっちはどうだ………?」

 

 

 

「………駄目………。

 全然いない………。」

 

 

 

「こっちにもいません………。」

 

 

 

「カオスの方はどうでしたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………こっちにも人が一人もいないよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………こんな感じに“無人の廃都市”と化した街をいくつも五人で訪れて回っている………。

 

 

 

数日前のあの日から…………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリアナス砦 流星群の降った翌日の朝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんじゃあアタシは行くわ。」

 

 

 

「………本当に一人で行っちゃうの?

 レイディー………。」

 

「こんなヴェノムだらけの地で一人で旅をするとなると危ないのでは…?」

 

 

 

「だからってお前らと一緒に仲良く遠足ゴッコなんてしてられっかよ。

 お前らはお前らでゆっくりとのんびり気長にこれからのことを考えればいいさ。

 

 

 

 アタシは明確な目的がある。

 アタシにしかできないことが。

 お前らとつるんで旅をするってなったらどんどんその目的を達成できる日が遠ざかる。」

 

 

 

「言い方………。」

 

「最後まで素直になれないんだから………。」

 

 

 

「これがアタシだ。

 このスタイルはずっと変えねぇし変えられねぇ。」

 

 

 

「………レイディー殿………、

 レサリナスでの仲間の件……、

 大変世話になった………。」

 

 

 

「別に礼なんて言わなくていい…。

 結局は死なせちまった訳だしな………。」

 

 

 

「それでもだ………。」

 

 

 

「………レイディーさんはどこに向かう予定何ですか…?」

 

 

 

「………そうだなぁ……、

 最初はこっちの王都を目指してみようかと思う。

 ガキは………、

 こっちにいたときは行ったことあったか?」

 

 

 

「いえ………、

 ボクはナタムの村から出たことは無かったので………。」

 

 

 

「それさえできればお前ぐらいは連れていこうかと思ったんだがな。」

 

 

 

「ボクはカオスさん達に着いていくのでそれはちょっと………。」

 

 

 

「だろうな。

 そう言うと思ってたぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 坊や。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はい。」

 

 

 

「……殺生石の手掛かりはお前の中にあるんだ。

 それなのにお前がその目の前にある手掛かりを掴もうとしないのはどうなんだ?

 …お前が魔術を使う勇気さえあればこいつらを無駄な旅に付き合わせなくて済むんだぞ?」

 

 

 

「………それは分かっているんですけど………。」

 

 

 

「何も誰かを殺せとこそんなことを言ってるんじゃないんだ。

 ただ魔術を使うだけ。

 それだけの話だ。」

 

 

 

「………マナを枯渇させるだけなら魔技や武身技でもできますけど………。」

 

 

 

「お前のことだから体術系は得意なんだろ?

 そんなもん何十回と繰り返してたらマナの消費も少なくなってくる。

 それじゃ何時までたってもアイツは出てこねぇ。」

 

 

 

「マナを多く込めて撃ってればそのうち………。」

 

 

 

「戦闘においてマナをいかに少なく込めて術技を発動するのが上手い戦い方だ。

 下手にマナを込めて術技を撃ちまくればその癖がつくぞ?

 お前の長所を腐らせるようなことはするな。

 ………仲間を守りたいなら弱くなろうとするんじゃない。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「お前はやっぱり魔術を使うしか無いんだよ。

 魔術を全く使ってこなかったんならお前の技術力に影響は出ないし魔術のマナの消費率は高いから術技を使うなんかよりもよっぽど早くアイツを呼び出せる。

 それでアイツから情報を聞き出せばすぐにでもお前の殺生石の力を元に戻す方法が分かるかもしれない。

 なんなら明日明後日にでも終われるような目標だ。」

 

 

 

「………そう………ですかね………?」

 

 

 

「アイツを呼び出した時のことを心配してんのか?」

 

 

 

「…それは………ありますけど………。」

 

 

 

「安心しな。

 お前には猿がついてるじゃねぇか。」

 

 

 

「アローネ………?」

 

「私………?」

 

 

 

「アイツの話では猿には“資格”とか言うのがあるらしい。

 何の資格なのかは知らんが多少は融通聞かせていろいろと話してもらえるだろうよ。

 だからアイツを呼び出した後のことは考えるな。

 こいつらが上手くやってくれる。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………トラウマってのはなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつかは乗り越えなきゃいかん壁だ。

 お前の目的の妨げになるのなら必ずだ。

 分かったな………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………分かりました………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それでいい。

 

 

 

 で、

 お前はこれからどうするんだ?

 猿。」

 

 

 

「私ですか…?

 私は………。」

 

 

 

「カタスに黙って出てきたってんなら先にカタスにお前らの近況を伝えた方がいいんじゃねぇか?」

 

 

 

「それはそうなのですがカタスがどこにいるのか………、

 それにもうマテオへと帰還なさっていると思いますし………。」

 

 

 

「ならダレイオスの街を回ってカーラーン教会を探して見たらいいんじゃねぇか?」

 

 

 

「え………?」

 

 

 

「アイツのこと聞いてねぇのか?

 アイツはマテオとダレイオス両方に教会の支部があるんだよ。

 本部はマテオにあるがな。

 カタスはそこを定期的に巡回してんだ。

 迷える子羊とやらを救うとか言ってな。」

 

 

「!

 確かにそう仰ってました!

 ………そのことを失念していました…。

 

 

 

 ………では私はカタスに会いに行きます。

 会って私達がいなくなった理由を報告しないと…。」

 

 

 

「そうしとけ。

 アイツは人一人が失踪したくらいで大騒ぎする奴だからな。」

 

 

 

「レイディーはカタスのことをよくご存知なんですね……。」

 

 

 

「………昔はアイツには沢山世話になったからなぁ……。」

 

 

 

「どういったご関係だったのですか…?」

 

 

 

「レサリナスを出たときに話してたろ?

 ただの学生と何でも知ってる歩く参考辞書の関係だった。」

 

 

 

「カタスが参考辞書………(汗)」

 

 

 

「…それだけじゃねぇな……。

 あっちがどう思ってるかは分からんがアタシにとってカタスはファンクラブを立ち上げる仲間だったり、

 学問の先生だったり、

 

 

 

 ………アタシがレサリナスを飛び出るまでの唯一の親友だったり………かな………。」

 

 

 

「レイディーに親友と呼べる方がいたのですね…。」

 

 

 

「あいつだけはアタシにとっても特別だ。

 あいつだけはアタシよりも上だと認められるやつだ。

 素直に尊敬できる女だな。

 こんなアタシと一緒にいてくれたからな。」

 

 

 

「………本当に意外ですね………。

 レイディーにここまで言わせるなんて………。

 カタスの人柄の良さは私も熟知していましたが………。」

 

 

 

「なぁにが熟知だ。

 アタシの方があいつのことをよく理解してるっつーの。

 食う寝る以外は基本的にカタスと一緒にいたんだぜ?

 カタスが公務の時は流石に一緒にはいなかったが…。

 お前なんかどうせカタスのストーカーかなんかだったんだろ?」

 

 

「フフッ…。」

 

 

 

「何笑ってんだよ?

 ここは張り合うところじゃねぇのか?」

 

 

 

「貴女になら………、

 いつか私達の………、

 ウルゴスのことをお話してもいいかもしれませんね…。」

 

 

 

「………こいつ、

 自分がカタスと同じ国出身だからって偉そうに………。

 ………いつかアタシもウルゴスって国に行ってカタスの過去を調べあげてやる。」

 

 

 

「それだとレイディーの方がカタスのストーカーみたいですね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうだお前ら。」

 

 

 

「何ですか?」

 

 

 

「このダレイオスにいる最中にあの殺生石のことを解決できたらミストに戻るんだろ?」

 

 

 

「その予定だけど…?」

 

 

 

「マテオに帰る道は見ての通り粉砕しちまったからよ。

 帰るってんならずっと西の荒野に向かえ。」

 

 

 

「西の荒野?」

 

 

 

「長い旅にはなるだろうがそれが安全ルートだ。

 西の荒野の果てまで行けばそっから海に出る。

 その海さえどうにかして越えちまえばマテオの反対側………、

 お前らの村のミストに着く。」

 

 

 

「「「!」」」

 

 

 

「マテオの南東側の大陸はダレイオスも攻め込むには不向きだってんでダレイオス軍も手薄だ。

 地図上だと断崖絶壁らしいがそこはお前らでなんとかしろ。」

 

 

 

「そこをどうにかできたらミストに帰れるの!?」

 

 

 

「だからそこを越えたらミストに着くんだって言ってんだろ。

 

 ………だが西の荒野に行く時は気を付けろよ?

 あそこは何十年か前に何があったか知らねぇが大きな“爆発”があって無人地帯だ。

 “放射能”ってのが今でも辺り一面に残ってて病気になりやすくなるってんでまともな人は寄り付かない。」

 

 

 

「放射能?」

 

 

 

「………発癌性が高まるって噂の化学物質だそうだ。」

 

 

 

「ちょっと!

 そんなところに行かせようとしないでよ!?

 本当に病気になったりでもしたら「そこは考えなくてもいいだろう。」…え?」

 

 

 

「数年前に騎士団でも放射能にまみれた洞窟を発見してな。

 その洞窟探索の途中で放射能に汚染されていることが分かったんだがその洞窟を探索していたのがちょうど俺達だったんだ。」

 

 

 

「!

 ウインドラ大丈夫だったの!?」

 

 

 

「その時にいた他の隊員は後に検査をしたら放射能を浴びて陽性だったんだが………、

 

 

 

 俺からは何の異常も検査で示さなかった。」

 

 

 

「何ともなかったの…?」

 

 

 

「不思議なことにな…。

 その隊員と俺との違いはカオスから受けた光の違いくらいだった。

 だから俺からは陰性の反応しかでなかったんだろう。

 あの光を浴びてからの俺はまったく体調を崩したりすることが無くなったからな。」

 

 

 

「………そういえばミストの村の皆もあの事件から風邪を引いたりする話も聞いたことない………。」

 

 

 

「お前達………、

 今やアタシもその範囲かもしれねぇが細菌やそういった病原菌からの抵抗が完璧に強くなってんな。

 むしろ効かないレベルだ。

 最強にして最凶のヴェノムウイルス食らっても平気なんだからそれも当然か。

 ヴェノム以下の病魔を受け付けない体になってやがる。」

 

 

 

「………それでもそんな汚さそうなところ………。」

 

 

 

「そんな体質になったお前らにしか通れねぇルートだ。

 仮に戦争が開始しちまったらマテオはダレイオスの人里しか襲わねぇ。

 お前らの通り道には関わってこねえからそこを通って帰るしか方法はねぇんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこさえどうにかしちまえばお前らは念願のミストへと帰れるんだ。

 

 

 

 だからお前らは戦争が始まる前に何としても殺生石………、

 あの変なのをどうにかしろ。」

 

 

 



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誰もいない街

 ダレイオスに到着したカオス等六人だったがレイディーが目的の違いにより離別する。

 彼女はその際にカオス等にこれからのことを決めるよう指示するが………。


ダレイオス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディーさんはあぁ言ってたけど………。

 

 

 

また俺が魔術を使わないといけないなんて………。

 

 

 

俺が魔術を使ったら誰かが俺の中から出てきて………。

 

 

 

俺の体で魔術を使って………。

 

 

 

この間のシーモスのように………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワシが屠らねばならぬのか………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………多分アイツだ。

 

 

 

アイツが俺の中から出てきて海道ごとユーラスを………。

 

 

 

そして………、

 

 

 

あの海の向こうにいるマテオの人達を………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が魔術を使えばあの夢の声のアイツが出てくる。

 

 

 

出てきてその間にアローネ達にアイツが出ていってくれる方法を………、

 

 

 

できれば元の岩に戻ってもらえる方法を教えてもらって………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………でもそう上手く行くのか………?

 

 

 

アイツは………

 

 

 

アイツの力は前々から強い力を感じてはいたけど………、

 

 

 

それが………、

 

 

 

あの長い海道を破壊するような隕石を降らせる力を持っているんだぞ?

 

 

 

もしそんな力をアローネ達に向けられたりでもしたら………。

 

 

 

第一アイツの力はおじいちゃんを…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

「ウインドラさん達が合流しようと仰ってますが………、

 何か考え事でも………?」

 

 

 

「…うん、分かったよ。

 別に何でもないよ。

 それじゃ皆の所に行こうか。」

 

 

 

「………はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ジュゥゥゥゥ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここの街も捜索してみたがやはり無人都市のようだ…。」

 

「そっか………。」

 

「放棄されてからかなりの時間が経っているようですね………。

 あちらこちらから老朽化による倒壊などが見られます。」

 

「こんなに多くの家があるのに誰もいないだなんて………。」

 

「それについては先程から皆も感じている“気配”が原因だろうな。」

 

「あっ………、

 やっぱりいるんだ…?」

 

「最初はいなかったが俺達がこの無人都市に入った後にどこかからか紛れ込んで来たらしい…。」

 

「となると………、

 皆一ヶ所に集まってた方がいいね………。」

 

「囲まれたら面倒だが今の俺達ならやれるだろう…。」

 

「……一応レイディーから分けてもらってたワクチンが残ってるけど用意してた方がいいよね…?」

 

「いや…、

 それは使わない方がいいだろう。

 レイディー殿が別れる際に最後に言ってたことも気になる………。」

 

「あの“ワクチン”はただの薬じゃないって話ですか?」

 

「そうだ。

 今までのマテオでの話ではヴェノムに対する特効薬にして対抗手段として使われていたがレイディー殿は成分を調べるうちに違う可能性が浮上してきたと言っていた…。

 

 

 

 副作用の話も気になるしな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ア”ア”ア”ア”ア”ア”………

 

 

 

ジュゥゥゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…来たね!

 各自で散開して叩き潰していこう!!」

 

 

 

「あぁ!」「任せてください!」「深追いは禁物ですよ!?」「大丈夫大丈夫!今の私達はこんな奴等になんか負けないんだから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…誰も人が見つからないからってこんなことで元気にならなくても………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では先ず私から行きます!!

 『疾風よ我が手となりて敵を切り裂け………』」パァァッ………ポウ、ポウ…!

 

 

 

「!

 その技は……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「切り裂かれなさい!!

 

 

 

 『ウインドカッター!!』」シュバシュバシュバシュバシュバッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アア”………!?」ザスッ…バタッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりましたね!」

 

 

 

「それって………

 確かカタスさんやラーゲッツ、ユーラスがやってた………?」

 

 

 

「はい!

 ウインドカッターの追撃バージョンです!

 まだ五連しか繋げられませんが…。」

 

 

 

「凄いじゃないか!

 あれからそんなに時間も経ってないし戦闘だって多くしてないのにもう修得するところまで来たんだね!」

 

 

 

「小まめに術は練習していたのですよ?

 せっかくカタスから教えていただきましたしそれにカオスに追い付かないといけないと思って………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア”ア”ア”………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア”ア”ア”!!」ガバッ

 

 

 

「アローネ危ない!」「キャッ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「円閃牙!!」ブォンブォンッ!!

 

 

 

ザスッ!

 

 

 

「ア”…?」ボトッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(倒したか…?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」グググッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(首が取れても動いている…!

 液状化寸前の個体だったか………、

 なら……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残月!!」グワンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ジュゥゥ」ゴロゴロゴロ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なんとか液状化する前にお二人から遠ざけられましたね………。

 お怪我はありませんか…?」

 

 

 

「助かったよタレス。

 でも今の技は………?」

 

 

 

「カタスさんから頂いた魔道具で得たエアリアルジャンプからの

応用技です。

 

 

 

 今のボク………、

 空中で自在に軌道を変えられるんですよ?

 ですから今みたいに空中に飛び上がっての飛び膝蹴りもできるようになりました。」

 

「自身の体重を乗せての一撃………、

 身軽なタレスにうってつけの技ですね!」

 

「この間から体内のマナが増幅したのと制御しやすくなったことでまた新たな戦闘技法が広がりましたね。

 

 今のボクは鎖鎌だけじゃなく自分の体重すらも武器として使えますよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どんどんタレスが普通の子供から遠ざかっていくな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来るなミシガン!!

 こいつらは俺がやる!!」

 

 

 

ジュゥゥゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「旋月刃ッ!!」ズアァァッッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……思った通りだな……。

 ミシガン!

 この間のように密集しているヴェノムのところへ水を降らせてくれ!!」

 

 

 

「えぇ!?

 でも水じゃ一瞬押し退けることはできるけどただ水をかけるだけじゃ水がヴェノムの体に触れた瞬間に蒸発しちゃうよ!!?」

 

 

 

「お前の出す水なら問題ない!

 俺を信じてくれ!!」

 

 

 

「………分かった!!

 『流水よ我が手となりて敵を押し流せ!!

 

 

 

 アクアエッジ!!』」パァァ………パシャァァァッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………よし。」

 

 

 

「水が蒸発しない……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで終わりだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬雷槍ッッッ!!!」バチバチバチバチッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これで全部片付いたようだな………。」

 

「皆………、

 知らないうちに強くなってるね………。」

 

「そうですか………?」

 

「うん………、

 見違えるくらいに動きが違うよ………。」

 

「それはな……、

 皆お前に触発されて強くあろうとしているのもあるが一番の要因は………、

 

 

 

 あの時のお前の術………正確には殺生石の術を受けてからこうなったんだろう………。」

 

「殺生石の術を………?」

 

「私もそうだと思います。

 あれからマナの容量が増えたりマナの操作がしやすく感じますから………。」

 

「………私もね?

 何だか自分の使う術がパワーアップしてるように思う………。」

 

「………俺はその時のことは覚えてないけど………。

 皆が強くなったんなら俺ももっと強くならないとなぁ………。」

 

 

 

「何を言ってるんだ?

 この中で一番強いのは間違いなくお前だろうカオス。」

 

「そうですよ。

 私達のマナが強化されたのは貴方のおかげですから。」

 

 

 

「それにさっきの戦闘だってさ?

 私やウインドラもヴェノムを倒せるようにはなってたけどそれってカオス達ならずっとやって来てたことなんだよね?

 私達はまだまだスタートラインをうろうろしているだけだよ。」

 

 

 

「………そこなんだけど本当に俺の中の……、

 

 

 

 殺生石からの力を受けてそうなったの………?

 元からそうだったんじゃないの?

 アローネみたいにさ………。」

 

 

 

「………もしそうだったなら俺はシーモスで仲間を失うようなことにはならなかっただろうな……。」

 

 

 

「………悪い……。」

 

 

 

「意識の無かったお前なら当然の疑問だ。

 謝るな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…この力が殺生石の言ってた鍵ってやつなの?」

 

 

 

「多分そうなのでしょうけど………。」

 

「この力を使ってあの殺生石は私達に世界からヴェノムを消し去ってほしいって言ってたんだよね?」

 

「…そう記憶してますが………?」

 

「仮に私達五人………、

 レイディーも含めて六人が地道にそこら辺にいるヴェノムを狩っていくとするじゃん?」

 

「………うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それってどのくらい続ければ世界からヴェノムがいなくなるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ………?

 “一匹見つけたら町中に”ってのがヴェノムですからねぇ………。

 ボク達だけで駆除していってもヴェノムが増えていく方が早いでしょうし………。」

 

 

 

「私は皆と違って殺生石の力の付与はマナの増幅くらいしか感じられませんでしたが………、

 それでもこの能力について言えることは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前のヴェノムには強いのですけど目の前にいないヴェノムには何の影響もないので少なくとも私達だけではとても世界からヴェノムを消しきることなんて不可能に近いとしか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………近いって言うか無理だよね?」



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思い返してみれば………

 ダレイオスをさ迷うカオス等一行。

 しかしダレイオスで訪れる街はどこも無人の街しかなく………。


ダレイオス どこかの廃都市 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………フンッ………フンッ!!」ブン、ブンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ。」

 

 

 

「………カオスか…。

 どうした…?」

 

「槍の………練習してるの?」

 

「そうだ………。

 この間のような醜態を晒さぬように訓練を欠かす訳にはいかん。

 俺はまだまだ未熟者だからな。」

 

「ウインドラはもう十分強いと思うけど………。」

 

「そう俺も在りたいがお前のような強者が隣にいては俺も満足はしてられん。

 もしお前のような実力者が敵になったら俺は誰も守ることができない。」

 

「俺は敵になんてならないよ。」

 

「ものの例えだ。

 お前でなくとも別の実力者が現れたら俺はまた敗北するだろう。

 その時が来ないようにこうして力をつけられるときに力はつけとくべきだ。」

 

「熱心なんだね………。」

 

「俺がミストを出たのはそういう理由だからな。

 強くならなければ俺がミストを出た意味がない。

 だから暇があるときはこうして鍛練を積まねばな。」

 

「そっか………。

 じゃあ俺もやろうかな………。

 レサリナスに行ってから忙しくてなかなか剣の稽古をする余裕がなかったし………。」

 

「………それなら。」

 

「うん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と戦ってくれないか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何でだよ?

 君とは敵にならないって言ったばかりだろ?」

 

「そういう意味じゃない。

 昔みたいに俺と剣術の手合わせをしてくれと言う意味だ。」

 

「なんだ。

 そういうことか。

 ………いいけど君が持ってるそれは………。」

 

「俺はこのガードスピアを使う。

 お前はいつも通り剣術でかかってきてくれ。」

 

「分かった。」

 

「手合わせとは言ったがこの間のレサリナスと同じで本気できてくれ。」

 

「本気で………?」

 

「あの時の俺は………、

 十年の時を経てお前に一歩先を行かれる程度だと思っていた。

 ………だがあの王城の広場でお前が見せた動きは………、

 

 

 

 俺の遥か上を行く動きをしていた。

 お前の実力なら直ぐに追えるぐらいのものだと思っていたが全然差が埋まってなかった。

 それどころかあのユーラスとの戦いでお前はもっと先に行ってしまった………。

 俺が目指す最強の騎士になるにはお前と同じステージにまで上らなければならない。

 そのためにもお前には俺を全力で倒しに来る覚悟で挑んでほしい。」

 

「………そういうことなら。」

 

「使えるのならフェデールが使っていた“陽炎”も多用していい。

 

 

 それと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その手錠はいい加減外さないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これを………?」

 

 

 

「両手を結ぶ鎖は外れているとはいえそれはマナを封じる効力がある。

 それだと全力が出しづらいだろう?」

 

「これは………、

 着けたままでいいよ。」

 

「………何故だ?」

 

「これを着けたままでも俺は技は出せるからだよ。

 特に気になったりもしないからこのままで十分だよ。」

 

「………そのハンデを負っても俺には十分だと………、

 そう言ってるのか?」

 

「そういう意味で言ったんじゃないけど………、

 とりあえずこれは外さない。

 このままで戦える。」

 

「そうか………、

 では………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 負けたときにその手錠があったからなどと言い訳をするなよ!」ザッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここまでにしておくか。」

 

 

 

「ギブアップするの?

 まだ早いんじゃない………?」

 

「お互いに一撃も入れられず尚且つ十分も撃ち合った。

 それで決着が着かなかった………。

 この勝負………、

 

 

 

 俺の負けだな。」

 

 

 

「引き分けだと思うけど………?」

 

 

 

「…お前を見てるとつくづく才能の差を感じるよ。

 こうして撃ち合っていくうちにお前の動きを見切ろうと目を凝らしているうちにお前は俺の動きを見るのではなく効率よく技を発動しようとしていた。

 

 お前を負かそうとしている俺と自分の技の練習台に俺を利用していたお前………、

 そこの差で俺が負けていると言っているんだ。」

 

「………」

 

「……俺ではまだまだお前の訓練相手にもならんと言うことか………。」

 

「そんなことは………ないけど………。」

 

「………今はまだお前との差が大きいがそれでも俺は必ずお前に追い付いて見せる。

 追い付くだけじゃなくお前を追い越す。

 お前がバルツィエの血筋だからと言って才能に頼ってしまえば他のバルツィエと同じくその剣が鈍る。

 だからカオス………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 例えお前一人が誰よりも強くともその力………、

 腐らせるんじゃないぞ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………当たり前じゃないか。」

 

 

 

「…今はこのダレイオスに来て俺達を脅かすような敵は出てきてない。

 マテオのバルツィエ然りダレイオス軍も………。

 ダレイオスに渡ってきて出会うのは全てモンスターと今の俺達の敵ではないゾンビやヴェノムだけだ………。

 

 ……生活環境的には悪質だが敵にならない敵しかいないと言うのはお前のような突出した剣士には少々修行相手としては軽すぎる。

 

 だからカオス………、

 お前は暫く自分のこれからについて考える時間をやる。

 戦闘は俺達に任せてくれ。」

 

 

 

「え?」

 

「お前にとってヴェノムやゾンビの相手は日常だったんだろう?

 俺にとっては今まで感染しないにしてもワクチンを与えられずにヴェノムやゾンビと交戦するのはご法度だったんだ。

 だから今この地で力をつけるチャンスがあるのは俺なんだ。

 俺にヴェノムやゾンビの相手をさせてくれ。」

 

「…でも任せっきりなのもなんか悪いよ。

 ウインドラが怪我を負っても怖いし………。」

 

「案ずるな…。

 俺の頑丈さはお前も知ってるだろう?

 ………それにこの話はお前のためでもあるんだ。」

 

「俺のため………?」

 

「………俺がいち早く強くなってお前の修行相手になってやる。

 そのためにも俺はこの機会に誰よりも戦わなければならないんだ。

 俺が強くなったらお前も漸く次のステージへと進めるかもしれない。

 ………今でこそ強いお前だがこの間のように集団戦ともなると頭を使う作戦も考慮した戦い方をしなければならない。」

 

「…そうだね。

 あの時は………、

 いきりすぎちゃって焦ってスタミナ切れおこしちゃって寛仁なときに何もできなかったしね。」

 

「…あの時の失敗はお前だけじゃなく俺にもある………。

 俺にもっと強い力があれば部隊の皆を救えていた筈なんだ………。」

 

「………そうだね。」

 

「敵はでかい……。

 規模も…、

 権力も…、

 技術も…、

 そして一人辺りの戦闘力も………。

 お前一人であの場にいたバルツィエ三人は倒せていたが騎士団長フェデールだけはお前を本気で攻撃しようとはしていなかった………。

 一発食らわせてはいたがあいつの実力はまだまだあんなものじゃないぞ………。」

 

「………うん。

 俺もあの人が本気で俺と戦っていたとは思えない………。

 俺はむちゃくちゃに暴れていたけどあの人は………、

 何だか立ち回りを気にした戦い方をしていてむしろ俺に倒されてもいいみたいな感じだった………。」

 

「騎士団長フェデールの実力はまだまだ俺達では測れんということか………。

 それにバルツィエはあの場にいただけじゃない………。

 奴等の一族だけでも現状数えてみると五十はいる筈だ。

 あの広場にいたのは一番若い世代のバルツィエだけだった。

 全体で言うとほんの十分の一程度だ。」

 

「十分の一かぁ………。」

 

「十分の一を倒したと言っても少し頭の切れる奴がいるだけでこの間のようなバルツィエ一人と一部隊に負けるような結果に変わる。

 

 俺達は自分の力を過信してはならない。

 守るべき人がいるのなら世界を相手にして優位に立てるぐらいの強さを持たなければな。

 そこまで来て余裕を持つことが赦されるだろう。」

 

「果てしなく遠い道のりになりそうだね………。」

 

「バルツィエの連中はその境地に立っているぞ?

 ………力を過信しすぎてその守るべきものを傷付ける側になってるがな………。」

 

「………ならさウインドラ。」

 

「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「必ず俺達でどんな敵からも大切な人を守れるぐらいに強くなろうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺は子供の時からそのつもりだ。」



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情報の整理

 カオス達はダレイオスの不穏な街の空気に触れながらも辺りを捜索していく。

 シーモス海道での失態を反省しつつカオスとウインドラは鍛練を欠かさないのであったが………。


ダレイオス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ダレイオスに着いてから数日経ったな………。」

 

 

 

「「「「?」」」」

 

 

 

「あれからダレイオスを見て回りもうダレイオスの東側から中央付近………、

 ………もうそろそろダレイオスの主都に着くと言うのに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は未だにヴェノム以外の生物と出会わないな………。」

 

 

 

「………そうだね………。」

 

「これだけ歩けば人一人くらいいてもいいと思うけど………。」

 

「街に入っても生活感の感じられないような街ばかりですね………。」

 

「…ダレイオスは十年前はもっと人の流通があったように思いますが………。」

 

「この十年で何かしらの出来事があって街の人がミストのように移動せざるをえなかった………。

 あるいは………。」

 

 

 

「………ヴェノムの襲撃で街の人達も………。」

 

「「「………」」」

 

「…そういうことになるんだろうな………。」

 

「思えば今までの無人の街は………、

 始めにカオスと出会った旧ミストの村に似てますね………。」

 

「………あそこよりももっと酷いと思うよ………?

 あそこは………、

 俺がいたわけだし………。」

 

「それもそうですね………。」

 

「何気にあの旧ミストはカオスが住み始めてからいろいろとリフォームしてて家具とかもオリジナルのものとかあるから最低限住める環境にはなってたけど………。」

 

「ここは………、

 どうにも人が住めるような場所ではないな………。

 辺りどこかしらにヴェノムが死んだ跡が残ってる………。」

 

「障気………ですね………。

 カオスさん達に助けられるまではよく嗅いでいた臭いですが久し振りに嗅ぐとやっぱり臭いですね………。」

 

「これが本当に元々は普通の生物から発せられているものだと思うとどうにも記憶に残りそうだな………。」

 

「人ってここまで臭くなるものなんだね………。」

 

「人に限った話じゃないさ。

 ヴェノムに感染すればどんな生物もこの臭いのように腐ってしまう………。」

 

「………モンスターの肉が食べられなくなりそうだよ………。」

 

「こういった環境には民間人を連れてくることは無いからな。

 すまないミシガン。

 もし気分がすぐれないようなら言ってくれ。

 こういう時のための非常薬なら持っている。」 

 

「ふぇ…?

 あっ、ありがとう………。」

 

「ウインドラさんとミシガンさんは仲がいいですね………。」

 

 

 

「気分がすぐれない………?

 ………今の私達はどういった体質になっているのでしょうか………?」

 

「どうしたのアローネ。」

 

「この前の話で私が並大抵のウイルスに抗体を持っていることは分かりましたけど………、

 それは殺生石の力によるものですよね?

 あの力で私達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どの程度普通の人から遠ざかった存在になったのでしょう………?」

 

「それは………、

 見た目は普通だとは思うけど………。」

 

「単にマナの質が変わっただけではないのか?

 “病は気から”という言葉もあるくらいだ。

 気………=マナ。

 マナが強ければどんな病気にもかからないそんなくらいだ。」

 

「それは………老衰も無くなったということになりませんか?」

 

「………そうだな。

 まだ二十年程度しか生きてはいないが後百年もしたら違いが出てくるんじゃないか………?」

 

「私は………ウルゴスの民ですから元からそういった体質に変化していましたが皆は最近そうなりましたからまだ分かりませんよね………。」

 

「…?

 そのウルゴスの民とは何だ?」

 

「そうだアローネさん!

 故郷は見つかったの!?」

 

「………ウルゴスは………………。」

 

「「……?」」

 

「アローネの故郷についてなんだけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうか。」

 

「アローネさんってそんな昔の人だったの!?

 スッゴい年上!?」

 

「年上と言っても私はそんなに人生経験はしてませんよ。

 生まれてから二十年程経ってこの時代に目覚めましたから………。」

 

「それでカタスティア教皇のようなウルゴスの同胞を探すことにしたのか………。

 カオスやお前がその修道服を着ているのとこの前のレイディー殿の話でも気にはなっていたがそんな繋がりがあったのか………。

 それだと今頃カタスティア教皇はマテオで心配しているのではないか?」

 

「それは心配してはいるとは思いますがカタスはダレイオスでも仕事をしていると仰っていたのでカタスがこちらの教会にいらしたときにでもお話ししようかと………。」

 

「レイディーも話してたけどそのカタスティアって人はどんな人なの?

 私だけ会ったことないんだよねぇ~。」

 

「そうだな。

 確かに彼女の仕事柄ミストとは縁が無かったからミシガンとは面識が無いか。」

 

「俺とタレスとアローネはお世話になってたから知ってるけどウインドラも知り合いなの?」

 

「俺………と言うよりも俺の部隊の隊長………。

 ダリントン隊長が彼女の援助している孤児院の出身だからな。

 隊長と休日の日などによくカタスティア教皇の話を聞かされたものだ。」

 

「あぁ………。

 メルザさんがそんなこと言ってたなぁ。」

 

「あの広場でトーマスさんに預けてきましたけどメルザさんはあの後大丈夫だったのでしょうか………。」

 

「メルザ?」

 

「その孤児院の職員の女性だ。

 彼女も孤児院の出身だからダリントン隊長の妹分だと聞いている。」

 

「………美人?」

 

「ん?

 ………まっ、まぁ普通に美人な人だとは思うが………。」

 

「…もしかしてウインドラその人のことを………。」

 

「ごっ、誤解するな!

 美人だとは思うが俺は別に………。」

 

「本当に?」

 

「本当だ!

 俺を信じろ!?」

 

「ふ~ん?

 その人が目的て頑張ってる訳じゃないんだよね?」

 

「俺は十年前はミストにいて強くなるためにレサリナスまで行ったんだぞ?

 どうやってその女性のことを知るんだ…?」

 

「………だってウインドラ………。

 長い間会ってなかったから彼女とか作ってるのかと思って………。」

 

「考えすぎだ。

 俺はこの十年で彼女など一人もいなかった。

 ………俺にはお前がいたからな………。」

 

「………ウインドラ………。

 ………何をうまいこと言ってるのよ………。

 勝手にいなくなったくせに………。」

 

「それはこの間もいった通り俺はミシガン達を守る力が欲しくて………。」

 

「そんなに強くならなくても私は………。

 皆が一緒にいてくれれば………。」

 

「………すまなかったな………。

 勝手にいなくなって………。」

 

「私こそ………、

 ウインドラやカオスの苦悩を共有してあげられなくてごめん………。」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「………この二人は仲がいいと思ったケンカし始めてまた仲直りして………、

 よく分からない人達ですね………。」

 

「二人は………、

 いろいろと深い事情があるんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………カタスも美人ですよ?」

 

 

 

「今はその情報はいらないよ………。」

 

 

 

「…まぁ、そのカタスティアって人に会ってみたいなぁ!

 レイディーも親しそうだし皆もいい人って言ってるし!

 ………美人らしいしね。」ジロッ

 

「だから俺は目移りなどしてないと「もういいじゃないその話は。」………。」

 

 

 

「カタスさんはいい人だよ?

 美人ってのは合ってるけどどちらというと大人というかお母さんみたいな人だったよ。」

 

「お母さん?」

 

「カタスは私達よりも大人の魅力がありますからね。

 包容力のような………。

 全てを受け入れてくれるような………。」

 

「アローネさんも大人っぽいとは思うけど……?」

 

「こう見えてアローネは案外子供っぽいよ?」

 

「またその話ですか!?

 今はカタスの話でしょう!?」

 

 

 

「それでそのカタスさんも私達と同じようにヴェノムに抗体があるの?」

 

「そうみたいですね。

 カタスはそう仰っていましたけど………。

 カタスもやはり私達と同じで………、

 “魔法生物”化しているのでしょうか………?」

 

「魔法生物………?」

 

「魔法生物化とは何だ…?」

 

「アローネその話は…!?」

 

「いえ………

 この話も三人には知っておいてもらった方が良いでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今私達がどのような状態なのか………。」



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強弱

 ダレイオスを探索して数日が経ちカオス等一行もダレイオスが何かのトラブルに見回れたことを予測する。

 そして自分達の今の現状にも目を向けて………。


ダレイオス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺達が魔法生物………?」

 

「ふ~ん?

 そうなの?」

 

 

 

「あれ?

 思ったより反応薄いね…。

 人じゃないってだけで俺はちょっとショック受けてたのに…。」

 

「その魔法生物ってのになったのも私達が殺生石の恩恵を受けているからでしょ?

 恩恵の大きさを考えたらそれくらいどうってことないでしょ。」

 

「まぁそう言えるけど…。」

 

「それに話聞く限り私達だけじゃなくてそのウルゴスの人達やミストの皆もそうなってるんじゃない?」

 

「…!

 ………確かめてはいないけど多分そうなるね………。」

 

「私達だけだったらちょっと恐ろしいとは思うけど皆が皆同じなら大丈夫でしょ!」

 

「ミシガンは明るいですね。」

 

「明るさだけは取り柄だからね!

 それに魔法生物ってのになってたんだとしてもそれって世界がヴェノムに飲み込まれてもミストだけは無事ってことだよね?

 なら皆でミストに帰ろう?」

 

「ちょっとその考えは………。」

 

「え?

 何かおかしかった?」

 

 

 

「…これはあまりよく考えてないな………。

 しかし………。」

 

「…ウインドラの方は受け止めづらいよね。

 こんな話されてもすぐには………。」

 

「………」スッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………本当のようだな。

 となれば………。」

 

「?」

 

「少し確かめたいことがある。

 アローネ=リム。

 お前は確か風属性の魔術が得意だったんだよな…?」

 

「?

 そうですがそれが何か………?

 それよりも私を呼ぶときはアローネでいいと…。」

 

「こういう癖なんだ。

 ………それでお前が使えていたのは風属性以外にもあったか?」

 

「一通りの六属性とも使えますが…?

 こんなふうに………、

 アクアエッジ!」

 

 

 

「?

 あれ?

 どうしたの?」

 

「変ですね………?

 調子が悪いのでしょうか………?

 ウインドカッター!」シュバッ!

 

「今度は出たね。」

 

「………別に調子が悪いと言う訳でもなさそうですね…。

 ………ライトニング!」

 

「ん?

 もしかしてライトニングも出なくなってる?」

 

「………そのようですね………。

 どうなっているのでしょうか………?」

 

 

 

「そうか………。

 俺の考えが当たっていたか………。」

 

 

 

「アローネが風以外使えなくなったことに心当たりがあるの?」

 

 

 

「………魔法生物とはエレメントやゴーレムのような製造された命もあるがスライムのような自然生物もいる。

 その自然に生まれたスライム等はマナが無くなると肉体ごと消滅するんだ。

 俺達がよく知るヴェノムもその例だな。」

 

 

 

「それで…?」

 

 

 

「スペクタクルズは生物の特徴を読み取って情報を分析するアイテムだがアローネ=リムやお前達はこれまではギリギリで人の割合が多かったから他の術も使えていたんだろう。

 ………それがこの間の件で変質したマナの割合が人の肉体よりも多くなった。

 その変化にともなって他の属性のマナを受け付けなくなったのかもしれん。」

 

 

 

「………どういうこと?」

 

 

 

「魔法生物は大半が一つの属性のマナで機能している。

 俺達にもその変化が現れているんじゃないか?」

 

 

 

「…今まで使えていた属性の術が一つしか使えなくなったと言うことですね?」

 

 

 

「その通りだ。」

 

 

 

「………でも大抵の人って得意な属性の術しか使わないよね?

 それって何か弊害あるの?

 大したデメリットじゃないでしょ?」

 

 

 

「普通の民間人にとってはあまりないだろうな…。

 だが俺達にとっては、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死活問題になる出来事かもな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………?」」」

 

「さっき言ってた魔法生物がマナを失うと肉体ごと消滅ってとこさぁ?

 私達も当てはまるのかな?」

 

 

 

「それは試してみないと分からんが………。

 試すなよ?」

 

 

 

「分かってるわよ!」

 

 

 

「…カオス、

 マナを枯渇させてはいけませんよ?」

 

「………うん。

 そこは………大丈夫だよ。」

 

 

 

「……ハードルがまた高くなってしまったか………。

 こればっかりは検証してみないことには先に進めないな…。」

 

 

 

「他の例があったらいいのですけど………。」

 

 

 

「マナを完全に失えば生物は死ぬ。

 その後の肉体が残るか残らないかなんて考えても答えは出ないだろう。

 今は俺達のことを少し知れただけでも前進だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっそのことカオスさんがそこら辺のモンスターにファーストエイドをかけてみてそのモンスターがマナを使いきるまでいたぶってみてはどうですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

「タレス君………、

 随分と苛烈なことを言うんだね………。」

 

「子供の発言とは思えんほど酷いな………。」

 

「ある程度は癒してきたつもりでしたが………、

 まだこういう面が残ってますねぇ………。」

 

「そう都合よくモンスターなんて………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガサガサッ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!!」」」」

 

 

 

「さっそくお出ましのようですね………。」

 

「こんな時に空気読んで出てこなくても…。」

 

「ヴェノムなのでは………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガルルッ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ただのウルフの群れのようだな。」

 

「カオス………、

 使えますか?」

 

「…………」

 

「………ですよね………。」

 

「検証はしてみたかったがそれ以外でも出てきてくれて有り難い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ持っている食料が底をつきそうなんだ。

 非常食の補充はしないとな!

 ………それに!!」ダッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザクッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャインッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かめたいことが一つある!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全部倒し終わったかな………?」

 

 

 

「………こいつらは使えない個体だったか………。」

 

 

 

「ん?

 何が使えないって…?」ガササッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガルルッ!!」パァァッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 まだ残ってた!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガウッ!!」パシャシャッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルフのアクアエッジです!

 ウインドラさん!

 ミシガン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ないミシガン!」ガバッ!

 

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ!

 

 

 

バシャシャッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫!?

 二人とも!!」ダッ!

 

 

 

ザンッ!

 

 

 

「キャインッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………うわぁ……。

 服がずぶ濡れになっちゃったけど平気だよ。」

 

 

 

「………」

 

「…ちょっと………、

 ウインドラ………?

 服とかも透けちゃってるしそろそろ退いて欲しいんだけど………?」

 

「………ぐっ……」ガバッ…

 

「…えっ!?

 そんな勢いよく退かなくても「ぐあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!??」!!?」バチバチバチバチバチッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!?」」」

 

 

 

「どっ、どうしちゃったのウインドラ!!?」

 

 

 

「うぉぉああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉッッッッッ!!!」バチバチバチバチッ!!

 

 

 

「ウインドラ!?

 どうしたんだ!?」

 

 

 

「ぐぅ…………。」ガクッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタンッ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ!!」

 

 

 

「しっかりして!?

 ウインドラァッ!!」

 

「ミシガン!

 とにかく彼に治療を!!」

 

「うっ、うん!

 分かった!」

 

 

 

「「『癒しの加護を我らに!

 ファーストエイド!!』」」パァァッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふぅ、すまない二人とも。

 助かった。」

 

 

 

「どうしちゃったのウインドラ!?

 自分の雷で感電しちゃったの!?

 あんなただの水なんてなんともなかったじゃない!?」

 

「…まさかあのウルフの魔術……。

 何か特殊な力が込められてたのかな?」

 

「ダレイオスで生き残るようなモンスターですから何か未知の属性の攻撃だったのかもしれませんね………。」

 

「ダレイオスにそんなモンスターがいるなんて聞いたことはありませんが………?」

 

 

 

 

 

 

「………さっきの魔術………。」

 

「ん?」

 

「…さっきの攻撃は恐らく並のモンスターの術程度くらいの威力しかなかっただろう……。」

 

「え…?」

 

「では何故ウインドラさんはあそこまでダメージを受けたのでしょう…?」

 

「………これがデメリット“その二”ということなのだろうな。」

 

「デメリットその二…?」

 

「俺達が見た目は人のままだが魔法生物に種が変わったんだったな………。」

 

「…そうだけど…?」

 

 

 

「………魔法生物と言うのはな………、

 体のほぼ全てがその属性そのもので構成されている。」

 

 

 

「ほぼ全て…?」

 

「!

 ………と言うことは!?」

 

「察したか………。」

 

「何々!?

 何なの!?」

 

「今の俺達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それぞれが得意系統の属性で体が構成されているようだ。

 とすると相反する属性の攻撃を受けると極端にダメージを受けてしまう………。

 そうなってくると通常のモンスターと対峙したときそいつが自分と相反する属性の魔術を使ってきたら絶対にその魔術を避けなければならなくなった。

 

 

 

 ……俺達は今まではなんともなかった攻撃がこれからは一撃で致命傷を負うほどのダメージを負ってしまう体になってしまったんだ……。」



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第二段階への進化

 カオス等一行は全員がモンスター図鑑での分類で言う魔法生物へと変化したことを知る。

 その影響はメリットも存在するが同時にデメリットもあり………。


ダレイオス

 

 

 

「………それってどうなるの…?」

 

「攻撃を仕掛けるのとかわす分には問題ない。

 ………だが………。」

 

「さっきのウルフのように魔術を使う個体が現れたらそのモンスターが使う魔術の属性を見極める必要がある…、

 と言うことですか?」

 

「そうだ。

 俺は“雷”の適性を持っていて相反する属性は“水”だ。

 水の魔術を浴びせられたらひとたまりもない…。」

 

「それならボクは………、

 地属性なので風属性の攻撃を受けてはいけないんですね?」

 

「それですとタレスと私は逆になりますね…。」

 

「…ボク達はあまり近くで戦闘はしない方がよさそうですね…。

 さっきの様子ですと戦闘中にお互いの魔術の余波でもダメージを負いそうですし…。」

 

「…なんだかタレスとの距離が遠くなった気がしますね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………じゃあ私は………。」

 

 

 

「ミシガン?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私はウインドラに近寄らない方がいいの………?

 私の属性は………“水”だから………。」

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダキッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「え”!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そんなことはないさ。

 攻撃を受けると極端にダメージを受けてしまうだけで攻撃じゃなかったらこんなふうに触れ合ってもどうにかなってしまう訳じゃないさ。」

 

 

 

「ウインドラ………。」

 

 

 

「長い間寂しい想いをさせたのなら俺は例えどんな障害が立ち塞がったとしてもお前の側から離れない………。

 決してな…。」

 

 

 

「………もう。

 またキザなこと言ってる………。

 ……そんなんで本当に彼女とかいなかったの…?

 他の人にも同じようなこと言ってたりしない?」

 

 

 

「こんなことを他の女に言うわけないだろ。

 俺はミシガン………。

 お前に相応しくなるためにこの剣と槍を磨きあげてきたのだから………。」

 

 

 

「そんなの口でならなんとだって言えるじゃない………。」

 

 

 

「確かにな………。

 それならこれからの俺を見ていてほしい。」

 

 

 

「これからのウインドラを?」

 

 

 

「俺が今までミストの皆のために鍛え上げてきたものを………。

 

 

 

 一番近くでお前に見ていてほしい。

 俺がお前に会えなかった十年間をそれで取り戻して見せる。」

 

 

 

「………十年間の………か………。

 ………そこまで言っちゃうと後で言い過ぎだったとか言っても遅いんだからね?」

 

 

 

「騎士が一度口にしたことは絶対に守る。

 俺が自分から言い出したことだ。

 期待して見ててくれ。

 俺はお前が期待してくれるのならそれ以上に応えてみせよう。

 

 

 それが俺の騎士道精神だ。」

 

 

 

「…でもこの国の………。

 ってもうダレイオスか…。

 あのマテオの騎士道はレイディーが言ってたけど腐りかけてるって言ってたよ…?」

 

 

 

「それはバルツィエに属する騎士達の話だ。

 俺は誇り高きダリントン隊………。

 そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの祖父アルバートの門下生だ。

 アルバさんの教えには背かないと心に誓ってるんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アルバさんの教えなら………、

 ………いいかもね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………もうすっかり十年分は補充できてるようなイチャツキっぷりだね………。」

 

「この二人は昔からこのように二人の世界に入ってたんですか…?」

 

「昔は………、

 こうではなかったんだけどね………。

 でもなんだかんだで両想いっぽかったしこうなるべくしてこうなったんじゃないかな?」

 

「そう………なんですね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………しかし困った事態になったな。」

 

「…何がだよ…?

 人前でリア充しやがって………。」

 

「…俺のことはどうだっていいだろ。

 困った事態と言うのは俺達のこの性質についてだ。」

 

「これは思ったよりも深刻な弱点かもしれませんね………。」

 

「そうですね。

 今までボク達はモンスターもヴェノムも簡単に相手してきましたがこの弱点がついたことによってヴェノムには強くなりましたが…。」

 

「今度はヴェノムよりも魔術を使ってくる野盗やモンスターの方が脅威になる……。

 ………今はまだ出会ってすらいないが街中で民間人のケンカ騒ぎに巻き込まれても大事だ。」

 

「えぇ…、

 私達がダレイオス人ではなくマテオから来たものと知られるだけでも危険ですね…。」

 

「多用に魔術を使う集団と対峙したときはどれか一つがボク達の弱点に引っ掛かりそうですからね……。」

 

「対ヴェノム戦では有利に戦えそうだが………、

 対ヴェノム以外の魔術を使用してくる敵には注意しなければならんか………。」

 

 

 

「………何だか私達……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弱点ができて弱くなってない………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「けっ、けどそれなら魔術を使う敵が出てきたら俺が相手するから!

 皆はヴェノムを相手にしてくれればいいから!」

 

「この世にヴェノムよりも恐ろしいものがいるとしたらバルツィエぐらいのものだと思っていたがなぁ………。」

 

「………まさか普通の人にすら負けちゃうかもしれないなんて……。」

 

「ウインドラさん、

 さっきのウルフの魔術はどのくらいのものだったんですか?」

 

「………昔キラービーに刺されたことがあったんだがその時の痛みを思い出させるような激痛が走った……。」

 

「あの水が!?

 私には魔術とは思えないくらい優しい攻撃だったけど!?」

 

「同じ属性の魔術ならむしろ吸収して回復効果があるのでしょうか………?」

 

「そこはまた別の敵が現れたときに検証してみる必要があるな。

 水、風、雷、地の属性の魔術を使う敵が来たらそれぞれでどういう反応が起こるか実験してみようか。」

 

「わざわざ攻撃に当たりにいくの?」

 

「俺達の性質を調べるために必要なことだ。

 ………最初に実験するとしたら俺からにするが………。」

 

 

 

「………皆……、

 ごめんね……。

 俺の力の影響でそんな体になっちゃって………。」

 

「そんなのはもう過ぎたことですよカオスさん。

 ボク達は気にしてませんから。」

 

「私達の今があるのはカオスのおかげなんですから。」

 

「私やウインドラは十年前にカオスに助けられてるんだよ?

 それなのにカオスを責めることなんてできないよ。」

 

「状況を分析さえすればこの体質とも上手く向き合っていけるだろう。

 ヴェノムに対して優位に立つと言うのはこの世界では誰もが欲しいものだからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そう言ってもらえるのは嬉しいけど……。」



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改めてのパーティの歪み

 魔法生物とは特定の属性のみで形成された存在。

 エネルギーそのものに命が宿った生物のことをそう呼び物理的な攻撃をものともしないが相反する属性には極端に脆く………。


ダレイオス 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そろそろ就寝するか。

 明日もここから近くの街に向かうから早めに寝るとしよう。」

 

「そうですね…。

 では見張りはボクがしますよ。」

 

「そんなことを子供に任せるわけにはいかないだろう。

 曲がりなりにも俺は騎士だ。

 そういう仕事は騎士である俺の仕事だ。」

 

「…騎士って言ってもここはダレイオスですよ?

 貴方はここでは敵国の兵士です。

 敵国の兵士なんて信用なりません。

 やっぱりボクがやります。」

 

「………少年はマテオの騎士がお気に召さんようだな…。

 君の事情はこの間聞いた………。

 気持ちは分かるが俺はカオスの友人だ。

 君に危害を加えるようなことはしない。

 ………信じてくれないか?」

 

「信じるも何もボクはボクとカオスさんとアローネさんの安全が確保できればそれでいいだけなんです。

 それにはボクが自分で見張りをするのが最適だと思うんですが…?」

 

「だからその役目は俺がすると言っている。

 子供は今のうちに寝ておくんだ。

 君だって朝から歩き疲れて眠くはないのか?」

 

「ご心配せずともボクはそこまで眠い訳ではありません。

 ………眠いのでしたらお早めにご就寝なさっても構いませんよ?

 貴方は昼間にキラービーに刺されるような想いをしてそれこそ眠たいでしょう?」

 

「…どう言えばいいのだろうか………。」

 

 

 

 

 

 

「待って待って!

 二人がケンカするなら見張りは俺がするよ!?」

 

 

 

「カオスさん?」

 

「カオス………。」

 

 

 

「見張りを買って出てくれるのは有り難いけど昼間のことで二人とももし敵が出てきて反対の属性の魔術を喰らったらいけないって分かったでしょ?

 なら特にそういう属性の魔術を警戒しなくてもいい俺が見張りをするよ!

 俺なら先制の一撃を受けてもなんともないしね。」

 

「………ですがカオスさんに頼りすぎるとこの間のようにカオスさんが倒れてしまうかもしれませんよ…?」

 

「そうだぞカオス。

 お前の中にはあの殺生石の精神も宿っているんだ。

 マナが枯渇してそれが出てくると言うのならお前は休めるときに体を休めてマナを高めておけ。

 ………今はまだアイツを呼び出す気は無いんだろ…?」

 

 

 

「…そうだけど………。

 そう直ぐに枯渇する訳じゃないさ。

 まだ余裕あるし最近だと皆が積極的にヴェノムと戦ってくれるからあまりマナも減ったりしてないんだよ。」

 

 

 

「………カオスさんがそう言うのでしたらお言葉に甘えさせてもらいますが………。」

 

「…交代制にするか。

 俺とカオスで見張りをしよう。」

 

「!」

 

「では先ず俺からで「待ってください!ならボクもやります!」」

 

 

 

「タレス………。」

 

「少年………、

 体を休めるのも大切なことなんだぞ?」

 

「二人がやってるのにボクだけが除け者にされるのは納得がいきません。

 ボクにも順番を回してください。」

 

 

 

「あんまり見張りって面白いものでもないと思うんだけどなぁ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三人で何の話をしているのですか?」

 

「!

 アローネ。

 ………今俺達で見張りを誰がするかって話になってるんだけどね…。

 二人がちょっと………。」

 

「「………」」

 

 

 

「見張りを?

 …それでしたら何故三人だけで話をするのですか?

 見張りでしたら私もできますが?」

 

 

 

「騎士として女性や子供に見張りをさせるなどあってはならん。

 …百歩譲ってカオスになら任せてもいいが…。」

 

「子供扱いしないでくださいよ。

 ボクだって一人前の働きぐらいできるんですから。」

 

 

 

「……そういう話でしたか………。」

 

 

 

「アローネは寝てていいんだよ?

 ミシガンももう寝ちゃってるからここは俺達で…。「では。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆で見張りをしてはいかがですか?」

 

 

 

「アローネ=リム、

 それでは満足に明日動けなくなるぞ?

 見張りなら一人で十分だろう。」

 

「だからと言ってウインドラさんが仕切るのは筋違いではないですか?

 ボク達はこれまで自分達でどうにかしてきたんです。

 …後から合流してきた人に仕切られても従いたくないんですけど?」

 

「個人的に俺を嫌うのは構わないがここは意地を張るところではないぞ?

 俺のことが気に食わないのなら俺を利用したと思って少年は素直に「なるほど。」…?」

 

 

 

「アローネ?」

 

「…ウインドラさん…、

 タレス…、

 

 

 

 この際ですから今日はお互いのことをよく知るためにやはり皆で見張りをしましょう?

 ここ数日街を探してはそこで寝ての繰り返しでしたからよく互いのことを知る機会がありませんでした。

 今回はその機会が来たということにして皆でこのまま起きてお話でもしましょうよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「あの日は私達にも受け止める時間が必要でしたので今日までお互いにあまり干渉しようとはしてきませんでしたよね?

 それで今みたいなことがあっても仕方ありませんよ。

 なら今日はここで皆で歩み寄ってみましょうよ?

 その方が明日以降の私達の旅も円滑に進められると思いますし…。」

 

 

 

「しかしそれでは明日の移動に支障が………。」

 

 

 

「今の私達には特に何かを急ぐという目的はありませんよね?

 街を訪れても人がいませんし………、

 それにこの辺りには昼間のように汚染されていない普通のモンスターが生息しているようですし食料の補充のことを考慮すると明日急いで出発することもないでしょうしね。」

 

 

 

「それは…………確かにな。」

 

「モンスターがいるのなら肉は確保できそうですね………。」

 

 

 

「ね?

 ですから今日はゆっくりと皆のことを知れる機会だと思って仲良くお話会ということで。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうだな。

 俺はレサリナスではお前達に迷惑しかかけてなかったからな………。

 そんな俺がこの場を取り仕切るのも変な話だったな………。

 

 

 

 悪かった、少年。

 これまでの経緯で言えばこの中では俺が一番したっぱなのだから俺が何かを提案したりするのはおかしかった。

 今度からは君達の判断を仰いでから行動することにするよ。

 何か雑用事でもあれば何でも言ってくれ。

 俺は何でも引き受けるよ。」

 

「……そうですか………。

 そういうことであれば何かあったときはお願いします………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………凄いね………アローネ。」

 

 

 

「?

 何が凄いのですか?」

 

「俺じゃ二人をこんなふうに宥めることなんてできなかったからさ。

 アローネが入っただけでこうも二人が簡単に引き下がって………。」

 

「こんなものは別に凄くはありませんよ………。

 私ができるのは話の機会を作ったことだけです。

 このお二人が仲良くなれるかはこれからのお二人次第ですから…。」

 

「それでもここまで話を持っていくことなんて俺にはできなかったしさ。

 アローネがいてくれて助かったよ。

 アローネみたいな穏やかな人がいてくれるだけで争いに発展しなくて済んだよ。」

 

「……私にはそんな大きな力なんてありませんよ…。

 ウルゴスにいたときは争いが起きても蚊帳の外から争いが静まるのを傍観していただけだしたから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それに今の私は貴族の権力すら持たないただの小娘でしかありませんから………。」



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ウインドラとタレス

 ダレイオスに渡って放浪を続けるカオス等一行。

 始めはカオスとの繋がりで共に行動していたメンバー達だったが接していくうちに確執が見えてきて………。


ダレイオス 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺はカオスのようになりたかったんだ………。」

 

 

 

「俺のように?」

 

「ウインドラさんがですか?」

 

「あぁ、

 カオスは昔から無茶なことばかりしていた。

 自身のハンデをものともせずひたすらに前だけを見て走り続けるやつだった………。

 俺もそうなりたくてカオスのように自身を甘やかさぬ環境において強くなる道を選びレサリナスへと向かった。」

 

「………」

 

「始めの頃は強さだけを求めて騎士に志願し鍛練を繰り返す毎日だった。

 それだけで充実していた………。

 敵国ダレイオスのことや王都で暴れまわるバルツィエのことも最初は気にもしなかった………。

 俺にとって騎士団は強さとミストに常駐する任務にさえ着くことができればどうでもよかったんだ………。

 ………どうでもよかったんだが………。」

 

「ダリントンさんとその他の部隊の方々と交流していくうちに貴方の中でミストのカオス達以外にもダリントンさん達が大切な方々に変わっていったのですね…?」

 

「父さんから聞いていた話ではカオスの祖父アルバさんのような騎士はごく珍しい方で大概は腐ったような連中だと聞いていたから俺は当初配属された時は回りの騎士達を信用はしてなかった…。

 こいつらもどうせ自分のためだけに騎士になって対した目標もなくただ生きていくだけの金を稼いでいるだけの奴等なんだと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だが違った………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あいつら………、

 俺の仲間達は………、

 

 

 

 本物の騎士達だった………。」

 

 

 

「本物の騎士?」

 

 

 

「あいつらが騎士として働いていたのは全員が家族や恋人達………果ては故郷をヴェノムもしくはバルツィエの脅威から救うためだった………。

 ヴェノムが蔓延るこの世界では誰もがヴェノムから逃れる術を欲している。

 唯一その術を持つバルツィエはあいつらの故郷の弱みにつけ込みいいように振る舞っていた。

 

 

 バルツィエに憎しみを持つ者もいた………。

 その憎しみを抱えた上であいつらは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエと交戦しバルツィエからワクチンの製造方法を入手しそれをマテオ、ダレイオス関係なく世界に広めようとしていたんだ………。

 例え最期にバルツィエの怒りを買って殺されようとも世界中のヴェノム災害に苦しむ村や街の人々を救うために………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「…結果として俺達は戦力としてダレイオス軍にワクチンを持って交渉しに行こうとはしていたがワクチンを研究し量産できる機関があるのならどこだろうとワクチンを渡してそれを世界中に送り届けるつもりだった…。

 泣き言に聞こえるかもしれんがこれは本当だ。

 今なおヴェノムに苦しむ世界各地の村を例外なく救おうとあいつらは必死だった………。

 ちっぽけなミストの村一つが助かればそれでいいと思っていた俺はあいつらの志の高さに感化されいつしかあいつらの希望に賛同し同志として協力を惜しまなくなっていった………。

 そして最終的には、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエに取り込まれてしまったクリスタル王妃を奪還しマテオとダレイオスの平和協定までどうにかしてこぎ着けようとしていた………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダレイオスと……平和協定?」

 

 

 

「世界を掌握しようとしているのはバルツィエだ。

 クリスタル王妃はそれに利用されているだけなんだ。

 あの方がバルツィエから離れられればバルツィエを内乱罪で追放することもできた筈だ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………今ではそれも叶わぬ妄想まで墜ちてしまったがな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………すぐには無理ですけど……。」

 

 

 

「む?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ウインドラさんやこの間亡くなった人達はカオスさんを陥れようとしていたのですぐに貴方に心を開くことはできません………。

 

 

 

 ………けどウインドラさん達にはウインドラさん達なりの大勢の人達のためにやったことだと思います………。

 カオスさんも気にしている様子はないので貴方のことはとりあえず騎士ではなくカオスさんの友人として見ることにします………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………今はそれで一歩進めたということにしよう……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで私達ダレイオスへと来ましたけどタレスはダレイオスで行きたい場所とかは無いのですか?」

 

「行きたい場所ですか…?」

 

「タレスの故郷は………、

 

 

 

 ………スミマセン………。」

 

「いいんですよ。

 ボクの故郷はもう無いって知ってましたから……。

 ………行きたい所は………急には出てきませんねぇ………。

 ダレイオスは広いですし、

 多くの部族が縄張りを主張して衝突したりしてましたから他の部族の村なんかには行きたいとは思いませんからねぇ………。」

 

「カタスさんがそんな話してたね。

 ダレイオスは複数の部族が纏まってできてる国だって。」

 

「ダレイオスにはどのような部族がいらっしゃるのですか?」

 

「そうですね…。

 ダレイオスには大きく分けて“九の部族”があります。」

 

「九の部族………?」

 

「(九………。)」

 

 

 

「はい。

 森や草原に住居を構える“アインワルド族”、

 海で漁をして暮らす“ミーア族”、

 知的好奇心旺盛な“クリティア族”、

 温暖な気候を好み火山地帯に住む“ブルカーン族”、

 逆に雪原のような寒い地方に住む“カルト族”、

 警戒心が強く渓谷のような岩壁の多い場所に家を建てる“アイネフーレ”、

 山等の高い場所で生活する“フリンク族”、

 他の部族にはない褐色の肌を持つ“ブロウン族”、

 

 最後の種族は“スラート族”と言って他の部族とは違いあらゆる環境に適応する能力が高いと言われている部族です。

 ですのでスラート族はこれといった場所が定まって住んでたりはしません。」

 

 

 

「(………)」

 

「結構多いんだね………。

 タレスはどの部族になるの?」

 

「ボクはアイネフーレ族出身です。

 ボクの村はダレイオスの北東側に位置するため数年前のマテオからの奇襲によって村は滅びたようです………。」

 

 

 

「数年前と言うと………、

 バルツィエによるダレイオス偵察の際の話になるのか………。」

 

「ウインドラさんはご存知なんですか?

 その時の作戦を?」

 

「話だけは聞いたことがある。

 俺がまだ士官学校にいた頃だがあの頃はまだマテオでも戦争をするかしないか定まってなかった時期でな。

 早くに戦争への突破口を開こうとしたバルツィエが十数人かそこらでダレイオスへ渡りダレイオス人の奴隷を確保してくることによってダレイオスをマテオが攻め込むに至ってダレイオスがどの程度の戦力で対抗してくるのかを量るものだったらしいぞ…。」

 

「それじゃあボク達の村は………。」

 

 

 

「…その時の戦果ではダレイオスは攻め込んでも難なく勝てる相手だと当時から現在までバルツィエの軍を仕切っていたフェデールが他の政治家達に報告した。

 それによってマテオはそこからダレイオスに戦線を開く準備を着々と進めていったんだ………。」

 

「フェデールがタレスの村を襲ったの!?」

 

「そうなるのだろうな。

 あの当時その作戦を決行したメンバーのリーダーとして報告書を提出していたようだしな。

 思慮深いフェデールが直接作戦に参加しその手で結果を残したのなら政治家達も黙らざるを得なかったのだろう…。

 その作戦自体は政治家達の反対を押し切って強行したものだったが結果を持ち帰ってきたバルツィエには逆らうこと自体が無意味だ。」

 

 

 

「フェデール………、

 やっぱりボクの記憶違いでは無かったんですね………。」

 

「………フェデールと会ったことがあったんだね…?

 タレス………。」

 

「それはありますよ………。

 なんたってあの人は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクの村を襲ってきたメンバーだったんですから………。

 ……あいつにボクのお父さんとお母さんは………。」ポロポロ………



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夜空に光る星

 カオス等一行はダレイオスで夜営をしていたがウインドラとタレスが言い争いになりそうになりアローネの仲介で難を逃れる。

 カオスはアローネを誉めるがアローネは………。


ダレイオス 深夜

 

 

 

「………少年には辛い過去を思い出させてしまったようだな………。

 マテオに何故ダレイオス人がいるのかと疑問を持ったが少し考えたら事情は一つしかないよな………。

 それもあの作戦での被害者だったとは………。」

 

「あの日のことは思い出のように深く記憶に刻み込まれているので忘れたりなんてできませんよ………。

 あの奇襲からボクの人生はバルツィエに狂わされ続けてきたんですからバルツィエが無くならない限りボクは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少年………、

 いや…タレス君だったね。

 君にはカオスの件を含めても悪い気分にさせてばかりだな………。

 本当に申し訳ない………。」

 

「いいんですよ………。

 ボクだって職業だけでウインドラさんを憎むべき敵と一括りにしてたんですから………。

 ボクからも謝ります………。」

 

「………そうか………。

 ではこれからのことよろしく頼む。」

 

「こちらこそ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人のことどうにかなったね。」

 

「お二人ともカオスの友人なのですからこうなるのも必然でしたね。

 二人はともに話せば分かってくださる人達ですから。」

 

「やっぱりアローネのおかげだったじゃないか。

 アローネが仲裁してくれたから二人は分かりあおうって気になったんだよ。」

 

「…そう思いますか?」

 

「だってそうじゃない?

 俺だったら衝突を避けるために自分で仕事をしようとしてたもん。

 それだと話をするのを引き伸ばしてただけだろうし。」

 

「………私なんてカタスの真似事しかできない何の力もない小娘なのですよ?

 私は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラウディアの家の力が無ければ貴方達どころか自分の命すら守れない無力な民でしか………。

 

 私に力があれば………ウインドラさんのお仲間の方達も入寂することも………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それはどうにもならなかったんだよ。

 俺達にはあの場を無傷で乗り切ることなんてできなかったんだから………。

 アローネが一人で悔やむこともないよ……… 。」

 

 

 

「ですがカオス………。

 私は己の無力さをとりとめもなく呪いたい………。

 貴族であった頃の私はこのような逃避行を強いられることなど無かった………。

 貴方達を危険から守ってあげられることも昔の私なら一声でできた筈なのに今私はどうしようもない無力さを感じます………。

 

 

 今の私は………本当に貴族で無くなってしまったことを自覚しました………。」

 

 

 

「別に貴族とかじゃなくたってアローネはアローネのままでもいろんな人の役に立ってると思うけど………?」

 

 

 

「私が………ですか?

 ですが私はレサリナスからは誰の役にも………。」

 

 

 

「アローネは気負いすぎだよ。

 ウインドラの部隊の人達のことは残念だったけど失敗ばかりに目を向けてもどうにもならないよ。

 それよりも俺はアローネが今までいろんな人の助けになってきたところを見てきたからアローネが落ち込むことなんてないと思うよ?」

 

 

 

「………?

 私は何かしましたか?」

 

 

 

「タレスを盗賊団から救ったりタレスの声が出せるようにしてあげたじゃない。

 それとかカストルとかでもギルドでヴェノムのクエストを受けたりとかさ。」

 

 

 

「…あれはカオスの功績ではありませんか。

 それにカストルはそういう仕事の一環でしたし三人で受けたものではありませんか………。」

 

 

 

「それでもタレスの件はアローネがいてくれたから助かったんだよ。

 カストルのことも仕事だったとしてもギルドの人喜んでたじゃない。

 

 

 

 あと、

 リトビアでは封魔石に触れて俺が暴走した時にアローネが止めてくれた………。

 あの時のことは間違いなく俺はアローネに救われたんだ。」

 

 

 

「あの時の………。

 今思い出せばあの暴走は殺生石のあの方が封魔石の中のヴェノムに反応して暴走していたのですね………。」

 

 

 

「ほら!

 こんなにアローネは皆を助けてるんだ。

 落ち込む必要なんてどこにあるの?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「アローネもいろいろ考えすぎてこんがらがってきてたのかもしれないけど俺はアローネがそんなに溜め込むことなんてないと思うな。

 アローネにはいつだって明るくいてほしいし。

 落ち込むよりかは顔をあげて空でも眺めてスッキリしようよ?

 あの綺麗な星空でも見上げてさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………“星”?」

 

 

 

「旧ミストにいた頃は辛いことを思い出したりして泣きたくなったりした時とかは夜に星空を見上げて一人で黄昏たりなんかしてると辛いこともなんだか和らげてくれるような気持ちになるんだ………。

 って言ってもあの頃の辛いことと言ったらミストで俺が消してしまった人達のことばかりだったんだけどね。

 忘れちゃいけないことだからそこはちゃんと忘れずに覚えておくよ。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「どう?」

 

 

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………綺麗な光ですよね………。」

 

 

 

「でしょ?」

 

 

 

「………あの光を眺めていると確かに私の不安な心も癒されて行くような気がしますね……。」

 

 

 

「そうだよ。

 不安になったらいつだって夜に輝く星空を眺めればいいんだよ。

 手配書騒動で旧ミストを出てからはゆっくり眺める暇もなかったけどこうして何も追われることのない時には星空を眺める時間にあてるのも悪くないんじゃないかな?

 

 

 

 星は夜になればずっとあそこで輝いてるんだから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………有り難うございますカオス。

 カオスに励ましてもらえて少し気が張れたと思います。」

 

 

 

「どういたしまして。

 仲間なんだから支えあって当然だよ。」

 

 

 

「…これからも私はまた気を落とすようなことがあるかもしれませんが………、

 ………その時は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また私の話し相手になってもらえますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勿論!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ところでカオス…?」

 

 

 

「ん?

 とうしたの?」

 

 

 

「………一つだけ質問をしてもよろしいでしょうか………?」

 

 

 

「?

 いいけどどうしたの…?」

 

 

 

「………その………。」

 

 

 

「………?」

 

 

 

 ………………この時代では普通の事象なのでしょうがあの空にある光は………、

 先程カオスは“星”と呼びましたよね………?」

 

 

 

「そうだけど…?」

 

 

 

「………と言うことは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの空にある“星”というのは他の惑星………、

 と言うことなのでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?

 え………?」

 

 

 

「ですからあの光はこのデリス=カーラーン以外の惑星があると言うことなのでしょうか………?

 太陽以外にもあんなに数えきれない程の惑星が宇宙には存在するのですね………。」

 

 

 

「んん!!?

 違うよ!?

 星は星でもあの星は惑星とかそんなんじゃないよ!?」

 

 

 

「はい?

 ですがカオスが先程からあの光を星と………?」

 

 

 

「星って言ってもざっくりとそう言ってるだけであの全てが惑星とかじゃないよ!?

 まぁ、惑星もいくつかはあるんだけど………。」

 

 

 

「惑星があるのですか!?」

 

 

 

「アローネは“太陽系”って知らない?」

 

 

 

「太陽系………?」

 

 

 

「俺も詳しく知ってる訳じゃないけどね。

 俺達のいる宇宙には太陽系と呼ばれる太陽の周りを回ってる惑星があるんだけど太陽から近い順番で水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星っていう惑星があるらしいんだ。」

 

 

 

「この宇宙に八つも惑星が…?」

 

 

 

「そう。

 ここからじゃ見えないんだけどね。

 宇宙にはその星々以外にも大きな岩みたいな隕石ってのが漂っててそれらがあの空に光ってるやつさ。」

 

 

 

「隕石………。

 レイディーがこの前の岩をそう呼んでましたね………。

 ………その隕石と惑星はどれほどの大きさなのでしょうか………?」

 

 

 

「昔見た本では隕石は大小様々だったけど惑星はこのデリス=カーラーンと同じくらいの惑星もあれば何十倍って大きさの物もあるらしいよ。」

 

 

 

「このデリス=カーラーンに並ぶ星が他にも………?」

 

 

 

「アローネのいた時代………、

 アインスではあの星については誰かに教わったりとかしたこと無かったの………?」

 

 

 

「私のいた時代ではあの星について習うことはありませんでした………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそもアインスでは夜空にあのような光輝く星などありませんでしたから誰も星についてなど知るよしも無かったのだと思います………。」



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何も無い宇宙

 タレスとウインドラは互いのことを知るために話をし始める。

 カオスとアローネはその様子を見て安心していたがアローネ自身は気が滅入る。

 慰めようも思ったカオスは空の星を眺めるよう勧めるが………。


ダレイオス 深夜

 

 

 

「星が無かったの?」

 

「はい。」

 

「今の時代は曇ってなければ空には星が見えるけど…、

 じゃあ夜が来たらアインスの空はどうなってたの…?」

 

「夜が来たらアインスの空はただただ闇が広がるばかりでした…。」

 

「………月もなく…?」

 

「そうですよ?

 朝と昼は大きな太陽がアインスを明るく照らしてはいましたが夜は静寂の宇宙がどこまでも闇を広げていました………。

 あのように輝く星なんて一つも………。」

 

「………ならアインスだと夜は真っ暗なんだね?」

 

「そうでもありませんでしたよ?

 夜になってお日様が見えなくなったら街は灯りをつけて就寝までの時間を過ごしていましたから………。」

 

「それはデリス=カーラーンと一緒だね。」

 

「そうですね………、

 違うのは夜空の景色だけ………。」

 

「今まで一緒に旅してきて何度もあの星空はあったと思うけど気にならなかったの?」

 

「私はカタスに再開するまではこの時代がアインスだと思っていましたから気にはなってはいましたがあの光は何か技術的なものだと思い込んでおりました………。

 広大な世界にはあのような光を空に放ち夜を照らす場所もあるのだと。

 私は世間知らずの貴族でしたので………。」

 

「あんな高い空に光を打ち上げる技術は俺も聞いたことないよ?

 魔術か何かだったとしてもそれが毎日夜の時間帯だけなんて………。」

 

「そう思ってしまうほど私は外の世界を知りませんでしたし身近なサタン義兄様の環境にすら驚くようなことばかりでしたから………。」

 

「ふぅん………。

 けどあの星空は多分このデリス=カーラーンのどこにいても見える景色だとは思うけど………。」

 

「…私達アインスの民が眠りについている間に宇宙にはあのような星が漂うような時間が過ぎてしまったと言うことですね………。

 あの星々はどこから発生したのでしょう………?」

 

「う~ん………、

 それは俺も分からないなぁ………。

 俺が生まれたときにはもう宇宙はそういうものだったから………。」

 

「アインスでは逆に宇宙にはアインスと太陽と無限の闇の宇宙しか存在してなかったのに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙の景色さえ変わってしまう程の永き時間を私は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サタン義兄様………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダレイオス 朝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ~!?

 私が寝ている間に皆でそんなことしてたの~!?」

 

 

 

「すまん、

 話の流れでそうなった。」

 

「ミシガンその時には寝てたからねぇ………。

 起こすのも悪いと思って………。」

 

「そんな大事な時に私はまたぁ…!?」

 

「まぁまぁ、

 また時間があるときにでもお話をすればいいじゃないですか。」

 

「ミシガンがさっさと寝ちゃうからだよ。」

 

「だってあの時間には皆も寝てるじゃない!?

 ダレイオスに来てからはずっとそんな感じだったから何もないと思ってたのに私だけ除け者にしてぇ………。」

 

「それは本当にすまない…。

 次はミシガンも参加しような?」

 

「………絶対だよ?」

 

「あぁ、

 また昨日みたいな話になったらミシガンも必ず起こす。」

 

「そう約束してくれるならいいけど………。」

 

「次こそはミシガンも呼びますよ。」

 

 

 

「………うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで今日も移動しますか?」

 

「そうする予定だったが………、

 一つ俺から提案してもいいか?」

 

「どうきたのウインドラ?」

 

「昨日の話にも出たがこの周辺はあまりヴェノムウイルスも蔓延していないようだ。

 今日は移動は止めてこの辺りの探索をしないか?」

 

「探索を………ですか?」

 

「探索と言っても………何を調べるのですか?」

 

「この付近の街がどのぐらい前からこんな廃墟となってしまったのかをだ。

 何か日付の書かれている物を手分けして探して皆で見せあってから一番最新の日付から廃墟になった時期を割りだそう。」

 

「割り出すにしてもそれを調べてどうするの?」

 

「最初のダレイオスの砦からここまで来るのに俺達が通ってきた廃墟はヴェノムに汚染されていたところもあればここのようにそうでないところもあった………。

 ヴェノムによるパンデミックで滅びて廃墟と化したのなら分かるがヴェノムがいないのに人がいなくなるのは不自然だ。

 何か別のモンスターや賊の襲撃でもあって全滅してしまったのかとは考えられるがそれにしては争った形跡がこの辺りにはない………。」

 

「…確かにそうですね………?」

 

「ヴェノムで全滅した線は薄い、

 その他のモンスター等でもない………、

 とすれば導き出される答えは一つ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街の住人が集団でどこかへ移動したものと考えられる………。」

 

 

 

「どこかって………どこ?」

 

「それは俺にも分からん。

 それを今から調べるんだ。

 移動したのだとしたら突発的には行動しないだろう。」

 

「もし計画的に移動したのだとしたらどこかにその日付の書かれた計画表のようなものもありそうですね。」

 

「予めそういう計画だったのなら移動先とかも記載されてるんじゃないですか?」

 

「そうだな。

 移動先として考えられるのは中央の王都だとは思うが俺達の村のような例もあるからな。

 殺生石………のようなものがそういくつもあるとは考えにくいがどこかしらにあれと似たようなものを見つけて移動した線も否めない。

 

 

 

 とにかく今このダレイオスで何が起こっているのかを皆で調べようと思うが………、

 

 

 

 カオス、

 俺の提案を結構するでいいか?」

 

 

 

「え?

 ………いいとは思うけど何で俺に聞くの?」

 

「このパーティのリーダーはお前だと思っていたんだが?」

 

「リーダーって………、

 特にアローネ達と一緒にいたときからそういうのは決めてなかったけど……。」

 

「俺やミシガンはお前達に合流した形だ。

 お前達三人の話を聞く限りだとお前がリーダーだと思う。

 最終的な判断はリーダーのお前に任せたい。」

 

「そうですね……。

 カオスさんが決めるのならボクは反対はしません。」

 

「そんなこと言われても………、

 アローネはどう?

 リーダーやってみない…?」

 

「私もカオスに引っ張ってもらってきましたからカオスがリーダーでいいと思いますよ?

 それに男性がいるパーティの中で女性がリーダーというのも難しいものがありますから………。」

 

「……ならタレスは………?」

 

「子供のボクがリーダーは無理がありませんか?」

 

「カオス、

 諦めろ。

 お前しかいない。」

 

「いざというとき一番動けるのはカオスだしね!

 私もカオスでいいと思うよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーダーって柄じゃないと思うんだけどなぁ………。

 どっちかっていうとレイディーさんみたいな人がリーダーをやった方がいいんじゃないかな…?」

 

 

 

「カオス?

 あんな人がこの中にいますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………分かったよ。

 俺がリーダーってことでいいよ………。」

 

 

 

「カオスならそう仰ってくれると信じていました!」

 

 

 

 

 

 

 

「言っとくけど俺そこまで物事をきっちり決めたりとかできないからね?

 アローネとあんまり変わらないレベルで世間知らずだし………。」

 

「昨夜の話で私の方がデリス=カーラーンでの世間知らずのレベルは高いということが判明したではないですか。

 ここはカオスがリーダーをすべきです。」

 

「俺達の体質のことも考慮すればカオスが相応しいだろう。

 リーダーが俺達のように弱点を突かれてすぐに倒れるようなことがあってはいかんからな。」

 

「今のボク達の旅の目的もカオスさんが中心ですからね。」

 

「決まりだね!

 カオスリーダーよろしく!

 姉としてパーティの仲間としてしっかりとカオスのフォローはするから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…皆がそう言うならやるしかないか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…俺にレイディーさんや………、

 

 

 

おじいちゃんみたいに人を引っ張っていくことなんてできるのかな………。



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廃墟探索

 カオス等一行五人がダレイオスについてから半月が過ぎようとしていた。

 一行等は今後の方針を決める際最終的な決定を誰が下すのかを話し合い四人がカオスをリーダーに決めるのであった………。


ダレイオス どこかの廃墟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………皆が集めてくれた資料によるとこの辺りが無人になったのはおおよそ五年ぐらい前になるのかな………。」

 

「くたびれ具合を見てもその辺りだろうな。

 資料も五年前の日付が集中している。」

 

「五年前………。

 ボクがマテオに拉致された時期の後………。」

 

「タレス君五年前にマテオに来たの?」

 

「はい。

 ナタムの村にいてそのまま連れ去られました………。」

 

「奇襲作戦が結構されてすぐ後………。

 定かではありませんがここの住人はマテオの襲撃を一早くに知って避難したのではないでしょうか………?」

 

「そうなると殺生石の類の場所へ向かった訳では無さそうだな…。

 では一体どこへ避難したというのか………。」

 

「…候補としてはダレイオスの王都があげられますね………。」

 

「王都?」

 

「ダレイオスは多民族が縄張りを主張しあって境界を設けているので他の民族の土地へと避難したとは考えにくいです。

 しかし王都になら全民族が居住しているので避難するのでしたらそこしかありません。

 砦からここまではボクの民族アイネフーレの州域ですのでアイネフーレの皆はきっと王都に………。」

 

「アイネフーレ?」

 

「では王都へ向かいますか?」

 

「そうしよっか。

 人がいるならカーラーン教会もあるだろうしカタスさんにも会わないといけないしね。」

 

「ねぇ、

 アイネフーレって何?」

 

「昨日の話に出てきたダレイオスの九つある民族のうちの一つの民族でタレス君もアイネフーレ族だそうだ。」

 

「じゃあ………、

 

 

 

 そのアイネフーレ族の人達がいるところに行ったらタレス君は私達と別れちゃうの?」

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「…ボクは………カオスさん達とまだ一緒にいますよ。」

 

「!

 ならまだずっと一緒に「ですが…」…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………やっぱり同胞達のことも気になります………。

 もしかしたらナタムの村の生き残りがいるかもしれませんしもし生きているのなら会いにいってみたいとも思います………。

 あの日を共有する仲間がいるのなら………。」

 

 

 

「………そうだね。

 タレス以外にも生きて逃げ延びてる人とかもいるだろうしね。」

 

「カーラーン教会とアイネフーレの方達を探しに王都へ向かいましょう!

 行き先が同じなら不都合もありませんものね。」

 

「それじゃあここで補充できそうなものを補充し終わったら王都へ行こうか!」

 

「それなら先ずは食料からだな。

 痛んでいるものは捨ててこの辺りにいるモンスターを狩りに行こう。」

 

「全部終わったら夜にお話会しようよ!

 私だけ皆とお話できなかったし!」

 

 

 

「よし!

 近くのモンスターの巣に行ってから夜にミシガンも入れて昨日の続きしよっか!」

 

「お~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダレイオス 草原

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャインッ!?」ズバッ!

 

 

 

「………こいつで最後か………。」

 

「保存食として持ち歩くにはウルフの数が多かったな…。」

 

「群れで襲って来るので全滅させないといけませんでしたけどあまり狩りすぎると次にここを訪れる時に食料が取れなくなりますね………。」

 

「ニ、三匹回収してもう終わりにする?」

 

「そうしよう。

 長居するとまたモンスターが…!?」ガササッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピチャピチャッ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ヴェノム……!?」」」

 

 

 

「そんな………、

 この辺りはヴェノムがいないと思ってたのに…!」

 

「ここももうヴェノムに汚染されてモンスターがいなくなっちゃうよ…!?」

 

「倒したウルフの肉に付着しては肉が駄目になります!

 このヴェノムは放っておいておきましょう!」

 

 

 

「?

 いや待てこいつは………。」

 

「あれ?

 このヴェノム………色が………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これは………通常のスライムですね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピチャピチャッ!」ピュッ!

 

 

 

「あいた!?」ビチャッ!

 

「カオス!?」

 

「………大丈夫だよ。

 あんまり痛くないから。

 ……っていうかなんかゼリーみたいな感触がする………。」

 

「これが………スライム?

 初めて見たんだけど………。」

 

「俺達も今回が初めてだよ。

 へぇ~………、

 こいつがスライム………。」

 

「スライムは湿地帯や日の当たらない洞窟などのモンスターなのにどうしてこのような場所に………?」

 

「大方ヴェノムにエサとなる小動物を借り尽くされてエサを求めて巣穴から出てきたんだろう。

 ヴェノムが現れてからは純種のスライムは見なくなっていたんだがな。」

 

 

 

「ピチャピチャッ」ピュッ!

 

 

 

「フンッ!」バシッ!

 

「また体を飛ばしてきた!」

 

「どうやら私達を捕食しようとしているようですね…。」

 

「ヴェノムじゃないならこんなモンスターボクが…!」ヒュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピチャッ!」「ピチャッ!」ザスッ

 

 

 

「斬ったら分裂した!?」

 

「元々そういう種ですから………。

 このモンスターは熱に弱いです。

 熱なら………。」

 

「ファイヤーボール!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 

「ピチャッ?」「ピチャッ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今他の属性の魔術が出せないんだった!?」

 

 

 

「え!?

 じゃあこいつどう倒すの!?」

 

「斬っても分裂して増えこちらの魔術は制限されて火を扱える人がいない………。」

 

「私達だけじゃ倒せなくない?」

 

「倒せないのなら逃げますか?

 危険度も高いモンスターではないので放っておいても他のモンスターかダレイオスの誰かが退治してくれますよきっと………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライトニング!」ピシャァッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピ………」「ピ………」バチチッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「熱というのなら雷も通用するだろう。」

 

 

 

「………その手があったんだね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………今後の戦闘で警戒すべきことが増えてしまったな………。」

 

「スライムなんて滅多に遭遇したりはしないと思いますけど今回のようにウインドラさんがいなければ撃破できないような種類のモンスターが現れたら手こずりそうですね…。」

 

「火と氷………。

 この属性でしか倒せないようなモンスター等に遭遇すると撤退せざるをえません……。」

 

「武具屋を見つけられれば武器に属性付与の改造を施すことも可能だろうが先ず人のいる街すら見えてこないのならそういったモンスターに遭遇しないことを願う他ないな。」

 

「ユーラスに折られなければ前の木刀に氷属性は付与されてたけど………。」

 

「カオスはあの氷の魔神剣は使用できなくなったのですか?」

 

「………試してみるか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷・魔神剣ッ!!」ザザッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………普通の魔神剣だな。」

 

「前よりかは威力は上がってますけど氷属性の付与が無くなってますね。」

 

「ヒョウ魔神剣?

 カオス氷出せてたの?」

 

「前はね。

 今は武器が変わって出せなくなってるみたいだ。」

 

「……これは早めに対策を出す必要がありますね………。

 火属性と氷属性の武具の付与を施さなければ先程のスライムのような………、

 あるいは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それ以上のモンスターの群れに遭遇した場合に私達では全滅の可能性が出てきます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火と氷………。

 

 

 

俺の剣術とアローネ達の四つの属性だけじゃ対処できない敵………。

 

 

 

もしそんなモンスターが出てきたらどうすればいいだろう………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………そんなモンスターが現れたらもしもの時は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が皆の代わりに魔術を使うしかない………。

 

 

 

皆と違って俺は多分魔術は………全属性使える………。

 

 

 

俺なら皆のカバーができる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど………。

 

 

 

俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に魔術を使ってもいいのか………?

 

 

 

俺の魔術が発動して………暴走したりしないのか………?

 

 

 

昔からノーコンな上にろくに使ったこともない魔術………。

 

 

 

俺に魔術が使いこなせるのか………?

 

 

 

俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また魔術で大切なものを破壊しつくしたりしないのか………。



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ダレイオスの王

 カオス等一行はダレイオス探索の途中ヴェノム………ではなく通常のスライムに遭遇する。

 魔法生物に変化したことに伴い一行等はそれぞれの得意系統の属性しか魔術を使用できずスライムに苦戦するがウインドラの機転でスライムを倒す。

 今後このようなことが起こった時カオスは自分が魔術を使うしか無いと危惧するが………。


ダレイオス どこかの廃墟

 

 

 

「肉の日持ちを考えて早めに出発した方がいいよね?」

 

「そうですね。

 幸い今の気候は少し寒いですしすぐに肉が痛むということは無さそうですが………。」

 

「氷の魔術を使えない今食料が底を尽きてしまわぬうちに急いで王都へと向かってしまおう。

 この廃墟を探索中に地図を見つけた。

 ここから南西に真っ直ぐ向かえば王都まで行き着く筈だ。」

 

「南西………。

 レイディーも王都に行ったのかな?」

 

「レイディーさん?」

 

「私達がこうして火と氷が使えなくなって困ってるってことは多分レイディーも氷以外が使えなくなってるでしょ?

 私達と違ってモンスターの肉を冷やして持ち運びできそうだけど………。」

 

「レイディーは旅馴れていますからこのような状態でもお一人で解決しているでしょう。

 あの人は何でもお一人でこなせる方ですから。」

 

「逃亡のプロを自称している人だったからな。

 ミシガンもレイディー殿と一時旅を共にしてそこは分かってるだろう?」

 

「そうだけど………、

 心配は心配じゃない………。」

 

「レイディーさんなら心配しなくても大丈夫だよ。

 俺達に会う前からずっと一人で旅をしていたって言ってたし火を起こして肉を焼いたりするのだって魔術を使わなくてもどうにかしてるよ。」

 

「………そうだよね。

 レイディーなら心配要らないよね?」

 

「レイディー殿はともかく今は俺達のことだけを考えよう。

 この辺りもいつヴェノムに汚染されてしまうか分からないしな。

 進路も決まったことだし王都へと足を進めよう。」

 

「………分かった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダレイオス どこかの道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ダレイオスってさ。」

 

「?」

 

「マテオと違って道が舗装とかされてないんだね。

 歩いてて本当に目的地の方向に向かってるのか分からなくなってくるよ。」

 

「…言われてみればそうですね………。

 街はありましたけどそこから道らしい道がありませんね………。」

 

「ダレイオスは大陸全土でダレイオスの名前で統合はされましたが未だ九の民族がそれぞれの元々の領地を国として考えて治めている国家です。

 マテオは全土がレサリナスの一政府に統治されていますがダレイオスは連合国。

 九の小さな国々がマテオのレサリナス政府に対抗するために険悪な民族同士の国を急ごしらえで一つに纏めて作った国ですから境界とかも曖昧で道なんか作っても他の部族に領権侵犯と訴えられて破壊されたりしますから中央の王都以外の場所には道と言う道はありません。

 その他の道が作られない理由に九の民族自体が自分達の土地から出ていったりしないことがあります。」

 

「………それってさ。

 もし俺達がこのアイネフーレの領地から一歩でも他の民族の土地へ侵入したらどうなるの?

 この辺りのアイネフーレ族はいないみたいだから難なくダレイオスに渡れたけど部族間で仲が悪いんなら俺達アイネフーレ族と思われて何かされたりするんじゃない?」

 

「昔そういう例があってその時は侵入した人をその場で焼き殺したようです。

 形式上同国国民ですがマテオが絡まなければ敵国の敵が侵入してきてる訳ですから殺された人は運があるかったとしか………。」

 

「治安悪!?

 焼き殺された部族の人達はその人が殺されて何も抗議とかしなかったの!?」

 

「そういうのは無かったと思いますよ?

 全部族が同じことをしてるのでそれに一々文句を言ってたら紛争事に発展してそこからマテオに攻め入られる可能性がありましたから。」

 

「………ダレイオスって想像以上に野蛮なところなのかな………。」

 

「ボク達の国はこれが普通なんです。

 ボクも生まれたときからこういう常識を教えられてきましたし迂闊に他の部族の領地まで足を運ばなければいいだけだったので何も不便に思ったりしませんでした。」

 

「何も考えずに歩いてきたけど下手に部族の境界に足を踏み入れてたら大変なことになってたかもしれないんだね………。」

 

「地図を見つけてきてよかったね………。

 中央に向かえば向かうほどその部族と部族の境界が狭まってくるから知らないうちに境界を越えてたりなんかしたらと思うとゾッとするな………。」

 

「?

 それなら心配するほどでも無いんじゃないですか?」

 

「何で?」

 

「ボク達は仮にもあのバルツィエから逃れてダレイオスに渡ってきたんですよ?

 そんなボク達が今更そこらの部族に負けたりなんかしませんよ。

 人数は五人しかいないとはいえボク達にはバルツィエの一人を倒したウインドラさんがついてますし何よりバルツィエを同時に四人相手したカオスさんだっているんですから。」

 

「カオスがいるのは戦力的にはかなりのものだと思う………。

 

 

 

 だがなタレス君、

 俺達がいるからと言って絶対に安全だとは言い切れないぞ?」

 

「そうだよ。

 危なくなったら俺も戦うけどだからって戦いたい訳じゃないからなるべく戦わないようにすることが最善だよ。」

 

「今の私達の旅の目的はカオスの力をどうにかすることです。

 無用な争いは少なくするに限りますよ。」

 

「そうそう、

 私だって早く皆でミストに帰りたいからまた変な揉め事になったりしないようにしないとね。」

 

 

 

「………そうですね。

 久々にダレイオスに戻って何だか好戦的になってました。

 昔だったら戦おうとすることなんて考えたりしなかったんですけどバルツィエのいない地に帰ってきて気が大きくなってたんだと思います………。」

 

「タレスにとっては苦い日々だったと思うけどそれによって身に付いた強さがあるもんね。」

 

「私も怖いモンスターとかに遭遇しちゃった後にそれから解放されると途端に自分が凄く思えてきちゃってタレス君みたいになるときがあるよ。」

 

「今の俺達には弱点がある。

 強くもなってはいるだろうが作戦はきっちり立てよう。

 ごり押しで罷り通れるところは通ってそうでない時があるのなら焦らず冷静に、だ。」

 

 

 

「………それで行きましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

「どうしましたか?」

 

「ダレイオスについて沢山の部族があることを聞いて疑問に思ったんだけどダレイオスにも王都があるんなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスの王様ってどの部族の人なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「仮で作った国にしても王様はどこかの部族の人がやってるんでしょ?

 一昨日の話聞いてたら気になってたけど聞くの忘れてたよ。」

 

「俺もそれは気になる。

 マテオにいた時はダレイオスの情報は戦地に赴くバルツィエが掌握していたから騎士団にいながら俺も知らないんだ。」

 

「私も知りたいです。

 九ある部族からどの部族の長が王となったのですか?」

 

「………分かりません。」

 

「分からない?」

 

「ダレイオスの王が誰なのかボクにも分からないんです。

 末端の村にはそういう情報が流れてこなくて………。

 王都は各部族から一部の人だけが移り住んで政府の体形をとっていてその人達からたまにですけど情報は流れてきます。

 大抵の話は大人達だけで対応していたので子供のボクにまでは重要なこととかは………。

 ただアイネフーレ族の人が王になっていたとしたらアイネフーレに有利な政策を進めると思うのでその政策の話が無いってことはアイネフーレ族の誰かが王ではないと思います。」

 

「そういう話になるなら王は自分の部族に有利な政策をとっている部族ということになるのか………。」

 

「ではまだ私達ではどこの部族が王になっているのか判断できかねますね。

 他の部族と交流する機会があればそれも分かりそうなものですけど………。」

 

「無理に知ろうとする必要はない。

 この国の者達が俺達をどう捉えるかすら分からぬ状況で敵になる疑いがある部族のことを詮索しても俺達がかえって妙な疑いを持たれるだけだ。

 俺達はマテオから来たことを隠さなければならないからな。」

 

「…そうだね。

 余計なことに首を突っ込んで痛い目見るのはもう嫌だしここは王都についてから王都の人に聞いてみてもいいんじゃないかな…?」

 

「そうしよっか。

 そのうち知るタイミングとかあるでしょ。

 その時が来るまで今は王都に安全なルートで進むことだけにしようよ。」

 

「そうだね。

 これどねダレイオスも広いなら王都に行くまでにどこかしらの部族の人達とも出会ったりするだろうし上手く戦闘を避けてダレイオスの現状を聞いたりすればいいもんね。」

 

「大陸の外側のアイネフーレはヴェノムによって滅ぼされていましたが内陸部の方々がどこへ向かったのか早めに知っておきたいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………本当に王都にその方々が向かっていれば善いのですが………。」



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ダレイオスの王都セレンシーアイン

 カオス等一行はダレイオス探索で王都に向かうことにする。

 タレス以外はダレイオスの情報を知らずダレイオスの王がどのような者なのかをタレスに聞くが………。


ダレイオス ??? 数日後 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここだよね?」

 

「…ここで間違いないだろう。

 地図ではここになっている。」

 

「………確かに地図だとこの街のようですが………。」

 

「どうなってるの………?

 だってここ………。」

 

「………ここに来るまでの街の様子からして嫌な予感はしてましたが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この王都、

 “セレンシーアイン”も今まで通り無人街になっているようですね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ダレイオスに来てから………、

 誰一人として人に会わなかったね………。」

 

「人が生活していた様子はありましたけどモンスターとヴェノムばかりで人がいる気配がありません………。」

 

「すんなりとこのセレンシーアインまで来れたのはいいんだけどここにも人がいないのっておかしくない………?」

 

「………と言うよりもこのダレイオスに人は住んでいるのでしょうか………?」

 

「それは住んでいる………とは思っていましたけど………。」

 

「流石にここにすら人がいないのはどうも………。」

 

「他の街の情報頼りにここまで来たが………。

 情報が間違っていたか………、

 もしくは………

 

 

 

 ヴェノムに襲撃されて住民が既に全滅してしまったか………。

 ………マテオは………バルツィエは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何と戦争をしようとしていたのだろうな………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「こんな人が誰一人いない地に戦争を仕掛けようとしてたの?

 あのフェデール達は?」

 

「…分からん。

 存在しない敵に戦争をするほどバルツィエの連中も馬鹿だとは思えないが………、

 この様子では俺にも全く検討がつかん。」

 

「ダレイオスは………滅びてしまったのでしょうか………?」

 

「…完全に人がいなくなったとは考えにくい………。

 ここをヴェノムに襲撃されて拠点を別に移したのかもしれん。

 とにかく今はこの街に何が起こったのかを調べることにしよう。」

 

「地図で手分けしようか。

 ある程度時間経ったら街の中央にあるこの大きな建物に集合で。」

 

「王都ってだけあってかなり広いね…。」

 

「それでは………

 私は北区から捜索してみます。」

 

「ならボクは東区を………。」

 

「俺は………中央の建物を調べてみる。

 カオスは西区に行ってくれるか?」

 

「いいよ。

 ミシガンは………。」

 

「南区でしょ?

 オッケー!

 任せといて!」

 

「一時間後に俺がライトニングを打ち上げるからそれで集合でいいよな?」

 

「あぁ、

 そうしよう。

 じゃあ皆何でもいいから人がいた痕跡や争った形跡とかを探してこの街に何があったのか調べよう!」

 

「「はい!」」

 

「人がいたら………どうすればいいの?

 話聞いてみた方がいい?」

 

「それは………」「その際はその方に気づかれずに後をつけてみてください。」

 

「え?

 どうして?」

 

「この街は今は無人ですから私達のような余所者は目立ちます。

 盗賊と思われたりすればどうなるか………、

 最悪その方が盗賊という場合もあります。」

 

「そうだね。

 人気があるかどうかだけ探すといいよ。

 危ない人が彷徨いてたら一人で対処しないように。」

 

 

 

「では探索を始めよう。

 モンスターが出る可能性もある。

 気を引き閉めて取りかかろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 北区 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………特に争った跡はありませんがところどころ屋内にモンスターが通った足跡が………。

 人がいなくなって街にモンスターが出没するようになったのですね………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガササッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ニャアン?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「猫………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………フスゥ………。」

 

 

 

「(………愛らしい猫ですが野良猫でしょうか………?

 住人がいなくなって置いていかれたのでしたら可哀想ではありますが………。)」

 

 

 

「ニャアン………。」スリスリ

 

 

 

「………フフ、

 いい猫さんですね………。」

 

 

 

「ニャア………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!

 この猫は………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 東区 タレスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいない………。

 

 

 

アイネフーレもその他の部族も………。

 

 

 

ここに来ればナタムの生き残りの仲間達に会えるかと思ったけど仲間達どころかここの住民すらいない………。

 

 

 

マテオに拉致されてからダレイオスの話は全然耳に入ってこなかったからダレイオスがどうなってたのか何も知らない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの奇襲作戦でここの街もバルツィエに皆殺しにされたのか?

 

 

 

………それだったら街がこんなに綺麗な筈がない………。

 

 

 

バルツィエが暴れたって言うんならもっと建物とかも倒壊しているだろう。

 

 

 

ヴェノムを警戒して街から避難したか?

 

 

 

だけどここから北東の砦までは海に面した辺り以外はそこまでヴェノムを警戒するほど汚染はされてなかった………。

 

 

 

北東の村や街の人達は必ずここに向かっていた。

 

 

 

ならここに誰かしらいないとおかしい………。

 

 

 

なのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ダレイオスは………マテオと戦争する前に滅んでしまったのか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 南区 ミシガンサイド

 

 

 

「………人っ子一人見当たらないじゃない………。

 ここってもう誰も住まなくなった街なんじゃないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なんか急に一人になると寂しくなるなぁ……。

 ミストから家出した時から誰かが隣にいたから一人になるのがこんなに寂しいものだなんて知らなかったよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………近くにカオスやウインドラがいることは分かってるからまだ寂しくはないけど………。

 

 

 

こんな静かな街で一人でいると世界に自分が一人取り残されたような感覚になるなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………この街もここに来るまでに行った街も………、

 

 

 

カオスがいた旧ミストの村に似ている………。

 

 

 

カオスは………こんな街みたいなところで一人でずっと………。

 

 

 

………よくカオスは一人でいられたね。

 

 

 

私なんて誰かが側にいてくれないとあの日のような恐怖が頭の中に浮かんできて不安で一人でなんていられ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!

 ダメダメ!!

 暗いことばかり考えてる!!

 もう私も大人なんだから一人になったくらいで泣いたりしちゃダメだよ!」パンパンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだよ………。

 

 

 

一人になったから何!?

 

 

 

カオスもウインドラも辛い時にずっと一人で耐えてきたんだから!

 

 

 

私だけが弱音吐いてどうするの!

 

 

 

私は一人でも強くなくちゃいけないんだから!

 

 

 

心を強く持って二人に助けられるような私じゃないことを証明しないと!

 

 

 

二人のお荷物なんかじゃないってことを証明して私は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度こそカオスとウインドラと同じ所に立たないと!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

懐かしいな………。

 

 

 

俺はどうにも旧ミストに長くいすぎたせいでこういう人がいない街の方が落ち着く………。

 

 

 

人の目を気にしなくていいってだけでこんなにも開放的な気分になれるんだ………。

 

 

 

大勢でいることが嫌いな訳じゃない………。

 

 

 

どっちかって言うと好きな方だ。

 

 

 

だけど一人でいることも嫌いじゃない。

 

 

 

ハッキリと好きだと言える………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰も傷つけたりしないから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がしたことは忘れたりできない………。

 

 

 

償いはしっかりとするつもりだ。

 

 

 

俺の一生をかけても………。

 

 

 

それには俺の中の殺生石の………“夢の中のアイツ”を呼び出す必要がある………。

 

 

 

………アイツは俺の意識がないうちに皆にヴェノムを世界から消すように命じたらしいが………。

 

 

 

それが達成できたら俺の中から出ていってくれるのだろうか………?

 

 

 

っていうよりもその命令が達成できない限り俺の中から出ていかないつもりなのだろうか?

 

 

 

………そんな命令実現できる訳がない………。

 

 

 

俺なんかよりもヴェノムに詳しい人達が何千人もいて百年以上も経つのにヴェノムが広まるのを止められないでいる………。

 

 

 

唯一ヴェノムに対抗手段を持つ連中はヴェノムを利用して地位を上げたり力で言うことを聞かせたりするような………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺の遠縁の親戚達………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界からヴェノムを消し去ることなんて絶対に不可能に決まっている………。

 

 

 

ヴェノムはこの瞬間にも増えていってる………。

 

 

 

いつかこの世界を覆い尽くすまでそう遠くないぐらいに………。

 

 

 

俺やアローネ達はヴェノムを消し去る力を与えられたけど六人じゃヴェノムが世界を覆い尽くす方が早いだろう………。

 

 

 

そしてヴェノムが世界を覆い尽くしたらきっと世界中がこの街のように誰もいなくなる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………いっそのことヴェノムが世界を覆い尽くしてからこの力を解放して世界をまるごと破壊し尽くした方がヴェノムをこの世から消し去る方が楽なんじゃないか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………まぁ、

 

 

 

そんな道は選ばないけど………………。



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呼び寄せられた魔獣

 カオス等一行は一ヶ月近くの放浪の末ダレイオスの王都セレンシーアインへと辿り着く。

 …がここまでの道中で見てきた街と同じで無人街と化していた王都。

 一行等は王都があったのかを捜索するが………。


王都セレンシーアイン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシャァァァァァッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!

 もう一時間経ったのか………。

 皆のところに戻らないと………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズゥン………、

 

 

 

ズゥン………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズゥゥゥンッ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フシュルルルル……………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ。」

 

 

 

「皆戻ったようだな………。」

 

「何か収穫はありましたか?」ナデナデ

 

「東区は変わらず無人ということが分かりました。

 これといったことは何も………。」

 

「南区も同じ………。

 モンスターとかの足跡とか見つけたけど他の人はだぁれもいなぁい………。」

 

「………西区もそうだったよ………。」

 

「………。」ナデナデ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうか。

 俺の方はというとここの建物の中を調査したところここがレサリナスで言うところの王城だと言うことが分かった。

 一見しては少し大きめに見えるだけの建物だったがどうやらここを部族間での国会場として使っていたようだ。」

 

 

 

「この建物が………?」

 

「レサリナスのお城のことを思い出すととてもお城になんて見えないよね…?」

 

「レサリナスにあったような貴族街とか見当たらないけどダレイオスって貴族とかいないの?」

 

「ダレイオスはマテオと違い基本的には部族の中で上下は作りませんよ。

 村ごとに族長がいるだけで他の人は皆同列の位になります。

 このセレンシーアインに住んでるのは各村の族長代理やその護衛達が主ですから後は物流業を営んでいる“うさにん”と言う種族くらいなものでしょうかね。」

 

「うさにん?」

 

「かめにんじゃなくて?」

 

「ダレイオスではうさにんと言うラビットに似た人達(?)が商売をしてるんです。

 かめにんよりも仕事は早いですがその分届け物を落っことしたりして信用には欠けますが………。」

 

「客商売としてそれはいかがなものかと……(汗)」ナデナデ

 

 

 

「ラビットとタートルの話は置いておいて………、

 この付近の建物の中を調べて分かったんだがこの中にあるダレイオスに関する書類等は全て持ち運び出されてる。

 ここだけ見れば不自然な点は無かったんだが………。」

 

「何かあったの?」

 

「どこか別の拠点に移動したのなら何もおかしくはない。

 だがこの建物以外の家の中はどうにも様子が違ってな。

 軽めの家具とかはそのままでタンスやベッド類が無くなっていた………。」

 

「言われてみれば私が捜索した北区も重そうな家具類だけが見当たりませんでしたね………。」ナデナデ

 

「調理器具とか武器とかを持っていくなら分かるけど何でそんなものが無くなってるんだろう?」

 

「枕を変えると寝れなくなるとかじゃないの?」

 

「何かを警戒して拠点をずらしたのなら急ぎの移動だったんだろう。

 それなのに寝具やタンスを持ち運びしたと言うのは変な話じゃないか………?

 危険を感じて移動するのならそんなものを持ち運ぶ時間などない筈だ。」

 

「移動したにしてもそんなに遠くには行ってないってことですか?」

 

「この付近に移動したのは間違いない。

 軽めの家具とかは後回しにして最低限の着替えと寝床の確保をして後日ここへと他の雑貨類を取りに戻って来るかもしれん。

 暫くここでようすを見るのも手だな。」

 

「じゃあこの街でゆっくりできそうだね。」

 

「ダレイオスに渡ってからは野宿が殆どでしたから腰を落ち着ける場所で寝泊まりできるのは有り難いですね。」ナデナデ

 

「探索してる途中でシャワーとかベッドのある家見つけたよ!

 今日は皆でそこで寝ようよ!」

 

「水道は使えるの?」

 

「勿論確認したよ?

 大丈夫だったよ!

 普通にお湯も出てきたし。」

 

「それならやはりこの街の住人が戻ってくる可能性が高いな。

 万が一不審者として捕まっては大事だ。

 停泊するにしても俺達も用心しておこう。」

 

「そんな気を張ることもないじゃん!

 せっかく良い所に泊まれるんだからさぁ!

 もっと気を楽していこうよ!」

 

「ミシガンは暢気だねぇ………。」

 

「それがミシガンの可愛いところでもありますよ。」ナデナデ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ところでアローネ。」

 

 

 

「?

 何でしょう?」

 

 

 

「その………、

 さっきから撫でてるそれは………?」

 

 

 

「カオスは見たことないのですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この動物は猫ですよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「それは知ってるけど………。」

 

「見てください!

 なんて愛らしい手をしているのでしょう………。

 これは皆にも是非触らせてあげたくて連れて来てしまいました!」

 

「ニャアン………。」

 

「うん………、

 可愛いは可愛いんだけど………。」

 

「野良猫でしょうか……?

 アローネさんのところで見つけたんですか?」

 

「はい、

 北区の民家で偶然見つけてここへ。」

 

「アローネ=リム、

 俺達は遊びでここまで来ている訳じゃないんだぞ?

 その猫は………、

 元のところへと返してあげるんだ。」

 

「まぁまぁ、

 いいじゃんウインドラ。

 どうせここに滞在する予定ならすぐに離さなくても………。

 こういう癒しが今まで無かったから少し肩の力を抜こうよ。」

 

「そうだよ。

 この後ももう少し探索したら終わりにするんでしょ?

 なら休憩挟んで猫ちゃん撫でてていいよね?」

 

「………ミシガンがそう言うのなら………。」

 

「ねぇアローネさん。

 私にもちょっと撫でさせてもらって良い?」

 

「えぇどうぞ。」

 

「有り難う!

 ………うわぁ………、

 思ったよりも柔らかいんだねぇ……。」ナデナデ

 

「フフフ!

 そうなのですよ。

 この猫見た目通りしなやかで触り心地が良いんです。」

 

「ニャア?」

 

「………それに人懐っこくて………、

 良い匂いがする………。

 この匂いは………、

 

 

 

 ………石鹸の匂いかな?」

 

「石鹸………?」

 

「野良猫から石鹸の匂いが………?」

 

「うっ、うん?

 なんかこの猫ちゃんよく触ってみればあんまり毛並みとかも荒れてないし妙に人に馴れてない?

 野良猫って知らない人とかにこんなに触らせてくれるものかな?」

 

「人に捨てられて時間が経った猫は突然現れた余所者に心を開くことなどないだろう………。

 ……アローネ=リム、

 この猫はどこで見つけた?」

 

「この子は私が民家を捜索している途中で部屋の中にいました。」

 

「部屋の中…?

 こんな無人の街の中で部屋に閉じ込められてたって言うの…?

 ご飯とかは食べられなかったんじゃないの?」

 

「けどこの子そんなに痩せ細ったりはしてないよ?

 それどころかお腹もちょっと大きいし………。」

 

「………その猫の人懐っこさと食事もとれてることからこの街はただの無人街ではなさそうだな………。」

 

「私もそう思いました。

 この子は多分ですけど人の出入りの多い場所で飼われていたんだと思います。

 そしてそれは今でも続いています………。」

 

 

「それって………? 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオォォォッッッッ!!!!!」ビリビリビリビリビリビリッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!!!?」」」」

 

 

 

「こんな街中でモンスターの遠吠え…!?」

 

「ニャアッ!!?」ザリッ!

 

「痛ッ!」

 

 

 

「フシィィーッ!!」タタタッ!

 

「あっ!

 猫が…!?」

 

「驚いて逃げ出したか…、

 そんなことよりも今はあの遠吠えのモンスターの方をどうにかしに行こう!」

 

「人がいないからってこんな大きな街に堂々とモンスターが出てくるなんて……!!」

 

「文句は言ってられないな。

 急いであのモンスターのところまで行こう!

 捨てられた街でも寝るところまで壊されたりしたら面倒だ!」

 

「「はい!」「分かった!」「任せろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ギガントモンスター来襲

 王都へと辿り着いた一行等だったが道中の街と同様の王都を見て何が起こったのか手懸かりを見付けるべく手分けして捜索することにした。

 そしてアローネが一匹の猫を発見し王都の近くに人がいる可能性があると話をした時獣の咆哮が聞こえ………。


王都セレンシーアイン 南区

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!」ビリビリビリビリビリビリ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは………ギガントモンスター!?」

 

「スペクタクルズで詳細を調べます!

 名前は………………ブルータルです!」パシャッ!

 

「大きな猪………。

 あんな大きなモンスター初めて見た………。

 なんであんなのが街中に………?

 ミストでもあそこまで大きなボアなんて見たことないよ………。」

 

「…俺が集合をかけたときに放ったライトニングに反応して呼び寄せてしまったようだな………。」

 

「別にモンスターには集合かけてないから来なくてもいいってのに………。」

 

「勘違いさせてしまったのは仕方がありません。

 ですが招かれざるモンスターにはそれなりのおもてなしをして差し上げなければ………。」

 

「とにかくアイツと戦うんだよね!?

 って言うかあんなに大きなモンスターに勝てるの!?」

 

「一度だけあれくらいのモンスターなら倒したことがあるよ。

 その時は………なんとかなった!」

 

「なんとかって………、

 それじゃ今度も上手く倒せるか分からないじゃない!」

 

「この街はダレイオスに何が起こっているのかを知る大事な拠点だ。

 それを荒らされてはダレイオスの内情が分からなくなる。

 

 

 

 何がなんでも追い払うぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴォオォォォオオオォォォォッッァ!!!」ビリビリビリビリビリビリ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五月蝿い咆哮だな!

 魔神剣ッ!!」ザシュッ!!

 

「援護します!

『疾風よ!我が手となりて敵を切り裂け!ウインドカッター!!』」ザザザザザスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオォォォッッッッ!!!」ビリビリビリビリビリビリ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あまり効果がありませんね………。」

 

「ギガントモンスターって結構固いんだな………。」

 

「皮膚の厚い敵には俺の出番だな!

 『落雷よ!我が手となりて敵を撃ち払え!ライトニング!!』」ピシャアッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルルルッ……!!」バチバチバチ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは効いただろう…!

 今のうちに全員で畳み掛け「ウインドラ!危ない!!」!!」バチバチバチッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルルルァァァァァァッ!!!!」ゴォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雷撃を撃ち返してきた…!?」バッ!

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォォオッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バァァァァァァァンッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パラパラパラパラッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………こいつ………!」

 

「雷は自分も使えると言いたいのか………?

 モンスターの癖に小粋な返しをするじゃないか…。

 

 ならその挑発!

 俺が買ってやる!

 どちらが雷撃使いとして上なのか勝負し「待って!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「電撃を使ってくるなら私の水が効くんじゃない!?

 私が水をかけてあのブルータルとか言う大きなボア追い払ってみるよ!」タッ!

 

 

 

 

 

 

「え!?

 ちょっ!?

 ミシガン!!

 どこにいくの!?」

 

 

 

「ウインドラの近くで魔術を使ったらウインドラに当たるかもしれないしウインドラの邪魔になるでしょ!

 私は反対側から攻撃するよ!」

 

 

 

「待てミシガン!

 一人で動いた………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ!

 これで自分の電気で感電してなさい!

 『流水よ!我が手となりて敵を押し流せ!!

 アクアエッジ!!』」パァァ…バシャァァァァァッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザバァァァァァァ…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」パリッ…………パリパリッ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ………あれ?

 全然………効いて………ない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルルルルラァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」ドドドドド!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヤァァァァァ!!?

 スッゴい怒ってるゥゥゥゥゥ!!!?」ダダダッ!

 

 

 

 

 

 

「電気を纏っているからといって水が弱点というほどモンスター達は単純な仕組みはしてないというのに…!!」

 

「大変です!

 孤立したミシガンにブルータルが…!?」

 

「俺が援護に行くよ!!」シュバッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルルッ!!」グググ!!

 

 

 

「………ぐぅ!?

 これほちょっと………力が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 違いすぎ…………ッ!?」ブォンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス……!?」

 

「あの巨体は人が相手にするには体格差がありすぎます!

 スピードが早くても人の力で止めるのは無理です!

 ここは魔術でターゲットを引きましょう!

 

 

 

 ストーブラスト!!」ズトドドッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ブル?」ボコボコボコッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地属性にも耐性を持ってますね………。

 ボクの魔術ではどうにも………。」

 

「それならば私が………!?」バリバリバリバリッ!!

 

「さっきの雷撃か!?

 あれは今のミシガンには危険だ!!

 避けろミシガン!!」バリバリバリバリッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミシガンンンンッッッ!!!!」ダッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルルルルラァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォォォォォォォォォオォォォォォォォッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………んえ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ウインドラ………?」

 

 

 

「何とか軌道をずらすのに間に合ったな………。」グググ…

 

 

 

「ブルルッ………?」グググッ!

 

 

 

「くっ………!

 この怪力具合は今まで相手にした中でもトップだな………!!」

 

 

 

「ブルルルルルルッ!!」ググググググ……!!

 

 

 

「くぁっ…!?

 これは俺でも………!?」ザザザザ……!

 

「ウインドラ!?

 私のせいで…!!

 私が素人なのに余計なことをしたから………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけません!!

 二人の援護に入ります!!」

 

「ですがあの巨体はボク達ではどうすることも…!?」

 

「ではどうするのですか!?

 あのままでは二人が押し飛ばされて…!?」

 

「いや待って!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラの様子が………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルルルルルル!!」バチバチバチ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またさっきの電気を角に溜めてる………!?」

 

 

 

「俺達を二人纏めて殺るつもりか………!」

 

 

 

「!

 だったらウインドラだけでも逃げて!!

 私のせいでこんなことになっちゃったんならウインドラはあの電撃を受けることないから…!」

 

 

 

「お前を見捨てて逃げられる訳がないだろ!

 お前は俺が守るんだからな!」

 

 

 

「けど!?

 私のせいでウインドラがまた酷い目にあうなんて私は「ミシガン!!」…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が絶対に守る!!

 お前は何も気にしなくていいんだ!!

 こんなボアが少し大きくなった奴なんぞに俺は負け……!?」バチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!



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豪腕の一撃

 王都セレンシーアインで一通り手懸かりを見付け人の気配があることを突き止めるカオス等一行。

 …しかし王都の中でモンスターの咆哮が聞こえ向かって見れば巨大なモンスターブルータルが暴れていた………。


王都セレンシーアイン 南区

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラァッ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!?

 ウインドラ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルルッ……!?」バチバチバチバチバチバチ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!」グググ!!!

 

 

 

「ブルルッ…!?」ズザザザ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラが………ブルータルを押し返してる……!?

 雷撃もウインドラが受け止めたのか…!?」

 

「あの巨体の突進を受け止めて踏みとどまれるだけでも異常なのに……!?」

 

「どこなそんな力が………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」グググ!!!バチバチバチ!!

 

 

 

「…ウインドラ?

 平気なの………?

 帯電してるみたいだけど………。」

 

 

 

「グゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオォォォッッッッ!!!!」ザリザリザリザリッ!!!

 

 

 

「………そういうことか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミシガン。」バチバチバチ!!!

 

 

 

「はっ、はい!?

 何!?」

 

 

 

「お前はさっきこう言ったな………。

 俺の近くで魔術を使っては俺の邪魔になると………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その見解は間違いだ!!!

 お前は…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の側から離れるべきじゃないんだ!!」グググ………、

 

 

 

 フワァ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルータルが………持ち上がっていく………!?」

 

「ギガントモンスターが………たった一人の腕力で………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオォォォッッッッ!!!!??」ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………フフフ………。

 俺には雷撃が通用しないと分からんらしいな!

 お前の雷撃によって俺は更に力が増していくというのに……!!」

 

「雷撃で力が増していく……!?」

 

「………この間のことで俺達は弱点となる属性攻撃を受けると極端にダメージを受けてしまうことは分かったな………?」

 

「うっ、うん……?

 急にどうしたの………?」

 

「…だが逆に自らの得意とする魔術を受けるとどうなるか………?

 ミシガンはこの間は水を本の少し被った程度で分かりづらかったのかもしれんが俺達はどうやら同属性の攻撃を受けると回復するだけでなく………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基礎的な能力も倍増するようだ。

 俺達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムだけでなく同属性を得意とする敵に対して無敵とも言える程に優位に立つようになった!

 こんな雷しか芸のないギガントモンスターなど俺の敵ではない!!

 こいつは!!

 俺が仕留める!!」バチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!!!!!

 

 

 

「ブルルラルルラルル……!!???」バチバチバチバチバチバチ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルータルが………!?」

 

「雷を放つモンスターが雷を受けて逆に苦しそう……!?」

 

「ウインドラさんが電気を発してるんですか…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全力を持って貴様を討伐する!!

 人の領域に足を踏み入れたこと!

 死んだ後で後悔するんだな!!」ズズゥゥゥゥウン!!!

 

 

 

「バルルゥ!?」ドドオォォォォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空破迅雷槍ッッッ!!」バチバチバチバチバチバチ…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオォォォッッッッ…………………!!?

 …………………………………………」ドスゥゥゥゥゥゥンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これが今の俺の全力の一撃か…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………悪くないな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ!!

 大丈夫だった!?

 あんな大きなギガントモンスターなんか持ち上げて腕とか折れたりしてない!?」

 

「それでなくともギガントモンスターの突進を受け止めたのですからどこか負傷してるでしょう…!

 急ぎ治療魔術をかけます!」

 

「………別にどこも負傷はしていない………。

 奴の雷撃を受けて逆に回復もしたようだ………。

 それよりもミシガンは「ウインドラァッ!!」…!?」ガバァッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカッ!!

 バカバカァッ!!

 どうしてあんな無茶したの…!?

 私なんか守るためにあんな大きなモンスターの前なんかに出たりして…!!

 それでウインドラが怪我したら私は……!!

 私は………!!」

 

「待て!

 ミシガン!

 今の俺はまだ体に電気が走ってるかもしれん!

 そんな俺にお前が触れたりなんかしたらお前が…!?」

 

「そんなのどうでもいいでしょ!!

 今はウインドラが無茶したことを怒ってるんだよ!?

 勝手に一人で突っ走った私なんか助けたりして…!!

 あのままやられたりしてたらどうしてたの!?

 私ウインドラに再開してからウインドラが無茶なことをしてるとこしか見てないんだよ!?」

 

「………!

 それは俺も謝罪すべき点があるな………。

 だがミシガン、

 お前も迂闊に一人で飛び出るな。

 俺の行動はお前が一人で飛び出したからだ。」

 

「そうだよミシガン。

 ウインドラも無茶したけどそれはミシガンもだよ?」

 

「水が効くというのはいい着眼点ではありましたがそれを確認するまでは一人で行動してはいけませんよ?」

 

「それは………だって………、

 私の魔術がウインドラに当たっちゃったら………。」

 

「ウインドラさんのことを気にして動くのでしたらウインドラさんが貴女の行動でどう行動するかも思慮にいれませんと………。

 戦闘は連繋が大事なのですよ?」

 

「………はい……。

 皆……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ごめんね……。」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポンポン………。

 

 

 

 

 

「………?」

 

 

 

「もう終わったことだ。

 そんなに辛気に捉えることはない………。

 それに今の戦闘で俺とお前は離れて戦うべきではないと分かった。

 離れるどころかより近くにいた方がいいだろう。」

 

 

 

「「「え?」」」

 

 

 

「雷を扱う敵が現れたら俺が戦う。

 俺がミシガンに………、

 ミシガン達に向けられる雷撃は全て俺が引き受ける。

 俺なら雷撃を受けてもダメージは受けないようだ……。」

 

「けどそれってウインドラを盾にしてるみたいで嫌って「ミシガンは…。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が受け止められない水の魔術を防いでくれ。

 相互的に俺達は互いの弱点をカバーしあえるんだ。

 ………本当ならミシガンを戦わせたくないんだがそれではお前の自由意思を妨害してしまう……。

 ………だからミシガン、

 俺達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お互いがお互いを守り会う対等な関係でいよう。

 お前が倒れるようなことがあればそれは………、

 俺の責任だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

「………騎士としては不甲斐ないことだがな。

 俺もそこまで無理を通すようなことは言わない。

 ミシガンも仲間なのだから前線に出て戦ってもらうことにはなるが力押ししてくる敵なら水を操る相手でも俺が前に出る。

 だから「もういいよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が………ウインドラの側で一緒に戦ってもいいって分かっただけで………。

 今は……それだけでいいよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お前には苦労ばかりかけるな………。」

 

 

 

「(再開してからもうこんなに仲よくなっちゃって………。)」

 

「(度々二人だけの世界に入っていきますねこの二人は………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ブルルッ………」フラァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!?

 皆さん!!

 まだブルータルに息がありますよ!?」

 

 

 

 

 

「「「「…!?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ブルルッ…………」フラフラ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?

 様子が………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ブルルッ……………グゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオォォォッッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………ジュゥゥゥゥゥ!!!」シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「…!!?」」」」

 

 

 

「溶けていく………!?

 これは…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムに感染していた個体だったのか………!?」



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アスラ登場

 カオス等一行はダレイオスの現状を知るために王都へと辿り着くが街の中にまでギガントモンスターブルータルが侵入してきた。

 通常の攻撃だけでは討ち取れそうに無かった一行だったがブルータルから雷撃を受けたウインドラが………。


王都セレンシーアイン 南区

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 

 

 

 

 

「もう!

 なんなのォッ!?

 さっきまで普通だったじゃない!!」

 

「俺達がダメージを与えすぎたせいでゾンビだったのが形体を維持できなくなったようだな!」

 

「しかし一体何時からヴェノムに感染を……!?」

 

「これだけ大きな奴ならどこでヴェノムに感染しても不思議じゃないよ!

 こいつが来てからまだそんなに時間は経ってないけどもうこの辺もヴェノムでいっぱいなんじゃないかな…!?」

 

「ならこのジァイアントヴェノムを倒して周囲の警戒にあたろう!!

 とにかく!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員でこいつの討伐にかかるぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥゥ……………………。」ジュッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………倒したか………。」

 

「ヴェノムになっちゃったら途端に弱くなったね………。」

 

「一息つく暇もありませんよ!

 先ずは街の外の警戒に向かいませんと!」

 

「そうだね!

 他にヴェノムに感染したモンスターが来てないか見に行かないと!」

 

「では始めにそれぞれが探索した地域の確認に行きましょう!

 ボクは東区に戻ります!」

 

「じゃあ俺は西区に!!」ダッ!

 

「私も北区に向かいます!」タッ!

 

「ミシガン!

 俺とお前はこの南区を警戒しよう!

 この南区からこいつが入ってきたのならここにヴェノムが集中しているかもしれない!

 二人で警戒にあたるぞ!」

 

「分かった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン ???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニャア………?」

 

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あの人達………何してるの……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 中央区

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………皆、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムは見つかった………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………北区には異常はありませんでした……。

 モンスターも特には………。」

 

「東区もモンスターもヴェノムの侵入もありませんでした………。」

 

「皆のところもか………。

 西区もそうだったよ……。」

 

「俺とミシガンでこの辺りを捜索してみたがあのブルータル一匹しか見当たらなかった………。

 

 あいつだけがどこかでヴェノムに感染してきてここまで一匹でさ迷いこんで来たようだな………。」

 

「ウインドラ、

 ブルータル………、

 猪系のモンスターって大抵は群れで活動するよね?

 なのにこいつだけがここにやって来るのって変じゃない?」

 

「群れで行動する種なら他の仲間も引き連れて来そうなものですけど………。」

 

「俺の打ち上げたライトニングはかなり広範囲からでも見えただろう。

 それなのにいくら視野が広いからと言ってこいつだけが反応してここに来るのは確かにおかしな話だ。

 こいつが感染していると言うことは少なくとも他のこいつの仲間も感染している筈………。

 知能がないヴェノムが人を警戒してボスのこいつだけ単独で街に入ってくるということはあり得ない………。」

 

「体が大きいからこのブルータルだけが群れを置いて一匹で走ってきたんじゃないの?」

 

「それにしてはこいつが街に侵入してきてから俺達との戦闘の時間と警戒にあたった時間を含めてももう群れの仲間がとっくに着いていていいだろう。

 ………恐らくこの感染個体は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 感染してからかなり長くこのゾンビ形体を維持していたようだな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゾンビからスライム状にならなかったってこと………?」

 

「そうとしか考えられん。

 他の手下共は感染してから数時間でスライム状になり他の生物を捕食できずに飢餓した。

 こいつだけがスライム形体を維持して飢餓から免れたのだろう………。」

 

「通常の個体でも一日以内にはスライム形体に変化しますよね………?

 そんな話は聞いたことが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ある!

 あるよ!

 その話………!?」

 

「レサリナスから脱出した夜にレイディーさんが話していたヴェノムの実験体の中に確かそんな個体が稀に発見されていたそうですね。」

 

「あの時の話では………レイディーはその個体のことを………………“アスラの失敗作”とか仰っていましたね………。」

 

「ってことはこのブルータルがその“アスラ”とか言うやつなの!?

 どうしてそんなのがこんな街中に!?」

 

「聞いていた特徴としてはヴェノムに感染してから自我は失われてはいるがその後もその状態を維持し続けられる個体だったらしいな。

 ………つまりこいつは他の仲間がヴェノム化して消えていく中で一匹だけゾンビ形体であり続けその後もこのダレイオスを徘徊していたのだろう………。

 

 

 

 

 

 ………………こんな巨大で屈強なギガントモンスターがヴェノムウイルスを振り撒き続ければその周辺住民はその地を離れるしかないな………。」

 

 

 

「道中誰にも会わなかったのはこいつがいたからなんだな………。

 こいつがヴェノムをばら蒔いて回ってたからダレイオスの人達は街を捨てなきゃいけなかった………。」

 

「稼働し続ける限りヴェノムの災厄が無限に降りかかる………。

 早めに対処できればそれも防ぎようがあったのでしょうけど………。」

 

「ダレイオスの皆はマテオと違い未だ原始的な方法でしかヴェノムには対処できません。

 ……ギガントモンスターというだけでも脅威なのにそれがヴェノムウイルスを持ったアスラで落とし穴を掘るにしてもこの巨大を上手く落とせる穴など直ぐには用意できないでしょう………。

 それにこいつは雷撃という遠距離攻撃もできますから無策で近付くのはとても危険です………。」

 

「ダレイオスの人達はこいつに手も足も出せなかったんだろうね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………でも私達が倒しちゃったんだしもうこれでこのアスラってのにダレイオスの人達が脅かされることもないよね?」

 

「この一体だけ………でしたらそうでしょうけど………。」

 

「この個体の他にもいたらまだダレイオスも安全とは言えませんね………。

 ………普通のヴェノムですら危ないですし………。」

 

「まだこんなのが他にいるって言うの!?」

 

「まだそうと決まった訳じゃないよ。

 こんな珍しいのだってそう何匹もいないと思うよ?

 マテオでだってこんなアスラなんて……………………………!」

 

「いたの!?

 こんな大きなアスラってのが…!?」

 

「う~ん?

 どうかなぁ………?

 あれは………どうだったんだろう………?」

 

「カオスが思い出してるのはあのダイナソーのことですよね?」

 

「そう。

 あれって俺達と戦ってる間にスライム状にはなったけど俺達が倒さなかったらどうなってたんだろう………?」

 

「それは………あのまま放置する訳にもいきませんでしたが………このブルータルのようになっていたかは………。」

 

「分からないよね………。

 もしかしてマテオって探せばこんなのが他にもいたのかなぁ………?」

 

「レイディーさんも珍しい例と言っていたのでギガントモンスターだからと言ってアスラなのかは判断つきませんよ。

 ジャイアントヴェノムを見かけたという報告記事の多さからしてギガントモンスターも時間が経てばヴェノムに変化する個体もいるようですから………。」

 

「ジャイアントヴェノムって何もギガントモンスターだけがそうなるんじゃないんじゃない?

 沢山他のモンスターを食べたヴェノムが肥大化してジャイアンヴェノム級に大きくなったってのもレイディーが言ってたよ?」

 

「ただのジャイアンヴェノムだったなら死滅するまで待てばいい………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが今回のような“アスラ”と呼ばれる個体が他にもダレイオスのあちこちにいてヴェノムウイルスを振り撒いているのだとしたら避難したダレイオスの人々はどこへ避難したのだろうな………。」



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カオスと対話する存在

 王都セレンシーアインを探索中ギガントモンスターブルータルに遭遇してしまったカオス等一行。

 雷撃を受けパワーアップしたウインドラだったがブルータルが突然体が溶け始めヴェノム化してしまい………。


王都セレンシーアイン 中央広場 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………昼間のブルータルから街を警戒してはいたけどもうモンスターが街に入ってくる気配は無いな………。」

 

「あの一匹だけが今日の収穫ということか………。」

 

「ダレイオスの東側の人達があのブルータルを恐れて避難したのは分かりましたけどそこからどこへ向かったのかは分かりませんでしたね………。」

 

「あれは普通の人が相手するには無理だろうね……… 。

 私もあのブルータルが突進してきた時に足がすくんで動けなかったもん………。

 おまけにあのブルータルはヴェノム持ちでしょ?

 どうすればいいのよ………。」

 

「………?」キョロキョロ…

 

「アローネ何探してるの?」

 

「昼間の猫があれからどこにも見当たらなくて………。

 全区を回って探してはいるのですが………。」

 

「あぁ………、

 いたね猫………。」

 

 

 

「猫か………。

 猫の話をしている時にブルータルが咆哮をあげて話が途切れたのだったな………。」

 

「私達猫ちゃんの何の話してたっけ?」

 

「あの猫が人の多いところで飼われているという話までしましたよ。」

 

「飼われている?

 飼われていたじゃなくて?」

 

「えぇ、

 あの猫は私の推測では現在も誰かがお世話していると思います。

 あの猫の人に対する馴れようは野良猫と比較してみても分かります。

 あれは野良猫の雰囲気ではありませんでした。」

 

「近くに飼い主がいるってこと?」

 

「私の推測ではそれで間違いないかと………。」

 

「アローネ=リムの推測通りだとするならばまだ俺達が捜索していない場所がありそうだな………。

 明日は郊外の方も視点に入れて捜索してみるか?」

 

「そうだね。

 猫が見つかったら着いていってみるのもいいし直接俺達で探すのもありだね。

 明日は猫もしくは人のいる場所を捜索することにしよっか。」

 

「明日は猫ちゃん探しだね!

 頑張るか!」

 

「猫が目的になってません?」

 

「細かいところはどうでもいいでしょ!

 まだ昼間十分撫でられてなかったんだから!

 

 

 

 じゃあ今日も明日早く起きるために早めに寝よっか!」

 

「そうしよっか…。

 幸いにも寝る場所は選びたい放題だしね。」

 

「夜だからと言ってモンスターやヴェノムの警戒は怠るわけにはいかん。

 全員で近くにいた方が何かあったときに動きやすいからなるべく部屋は近くを選ぶか。」

 

「………廃墟とは言え誰かの家を拝借するというのも抵抗がありますね………。

 まだ近くにいるのかと思いますと………。」

 

「寝具とかは無かったけどソファーとかそういうのはあったからそれで何とか寝れる空間を作ろうか。」

 

「それでどこにしますか?

 ボクはどこででも寝られますよ?」

 

「どうせなら一番豪勢そうな中央の建物で寝ようよ!

 見晴らしが………、

 そんなに変わらないけど気分は良くなると思うし!」

 

「そうだな。

 ミシガンがそれでいいなら………。」

 

「よ~し!

 決まりだね!

 じゃあ早く行こうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 中央建築物 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺はここでいいかな………。」

 

「ここですか………?

 でもここは………。」

 

「カオスどうして屋上なの?」

 

「ここの方が………なんか落ち着くんだ………。」

 

「今日は特に雨が降ったりとかはしてないがこんなところで夜をこさなくてもいいんじゃないか?

 せっかく屋内があるというのに………。」

 

「なんか今日はここで過ごしてみたい気分なんだよ。

 この街は………建物とかは違うけど………、

 

 

 

 旧ミストに戻ってきたみたいで………、

 ………この景色を見ながら眠りたいんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 

「………だから今日はここで眠ることにするよ………。」

 

 

 

「…そこまで言うのなら無理に引き止めはせんが………。」

 

「寒くなってきたら直ぐに屋内に戻って来てくださいね?」

 

「外で眠ることに馴れてるとはいえ風邪には気を付けてください。

 睡眠だけが体力の回復を促しはしませんから。」

 

「もう………、

 またカオスは一人になろうとして………。

 どこかにまた行っちゃわないでよ?」

 

 

 

「それはないから安心して。

 それじゃあもう暗いし皆も早めに屋内に戻った方がいいよ。」

 

 

 

「………では。」

 

「お休みなさいカオス。」「お休みなさいカオスさん。」「お休み~。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり一人でいる方が気が楽だな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人の方が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一番安らぐ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………一人は寂しくて嫌だったのに………、

 今は逆に一人になりたいなんて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が儘な悩みだよな………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何故お主は一人になる………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一人になることがお主の望みだったのかのぅ………?

 お主らの時間で言うと十五年の月日共にいるワシから見てもお主の行動は不可解なことばかりじゃのぅ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………誰だ?

 どこから声が………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『見回しても無駄じゃ。

 お主の視線の先にワシを捉えることはできぬ。

 ワシは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お主の中から語りかけておるのじゃからのぅ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は…………!?

 殺生石………!?

 

 

 

 いや………夢の声の………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………それと一々口で会話せずとも良い。

 ワシの言葉はお主にしか届いておらぬし回りに誰もおらぬとはいえ今のお主は一人で虚空と会話をしておるように回りには映る………。

 心に言葉を思い浮かべればワシに伝わるからそれで話をせんか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………分かった………、

それで話ができるのなら………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『理解が早いのぅ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に伝わってるのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『伝わっておるから安心せい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………そうかよ………。

 

 

 

………それで何で急に話しかけてきたんだ?

 

 

 

今まで俺に話しかけてくることなんて無かっただろ?

 

 

 

………夢の声のアンタはてっきりただの俺が作り出した心の中だけの妄想だと思ってたんだけどな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『嘘をつかずともよい。

 お主の心と会話をするということはすなわちお主はワシには嘘をつけんということじゃ………。

 お主もお主の連れもそれは分かっておる筈じゃ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………アンタには隠し事もできないのか………。

 

 

 

ますますアンタが嫌いになるよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『嫌われたものじゃのぅ………。

 ワシの力を利用してその命を拾ったと言うのに………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンタの力を利用……か………。

 

 

 

俺にはそんなつもりはないんだが………。

 

 

 

俺にはアンタの力をコントロールなんてできないんだぞ?

 

 

 

アンタの力が自然に流れ出てくるだけだ………。

 

 

 

おかげで俺は子供の頃はアンタが力を吸いとり続けられて悲惨な毎日だったし、アンタが目覚めてからもそれは変わらなかったよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この時代の風景を拝見すればお主はワシの力でもうちっとよい暮らしができたと思うがのぅ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンタの力を使ってか?

 

 

 

それで手にした暮らしはアンタありきの暮らしだろ?

 

 

 

アンタの力が無ければ俺は何もできない落ちこぼれとしか回りは見ないじゃないか………。

 

 

 

俺は………、

 

 

 

自分の力で何もかもやってみたいんだ………。

 

 

 

自分の力だけで“零”から何もかもを………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お主が息巻いたところで何ができると言うんじゃ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何がって………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お主の中にワシが入らなかったとしてお主は十年前のヴェノムを祓うことができたのか………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワシがいなかったらお主らの村はとうの昔に滅んでおったじゃろう………。

 ワシに憎しみをぶつけるのは筋違いじゃ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煩い!!

 

 

 

お前が俺の中に入らずに今もあのミストで村を守り続けていれば村は壊滅寸前までいかなかっただろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワシがその要望を叶える義理がどこにある?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワシは静かにマナを蓄えておったところにお主らが勝手にやって来てワシに村を守らせておっただけのことじゃ。

 ワシにはエルフが作った村を守る義理はない………。

 ワシがお主に力を与えようが与えまいが関係なくお主らはワシを利用しておった………。

 お主のジジィは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういった生まれ育ちで定められた役割を押し付けられることを何より嫌っておったんじゃなかったかのぅ?

 それをワシには押し付けるのか?

 時代が移り変わっても人という生き物は変わらず傲慢なものじゃ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………で?

 

 

 

結局何の話がしたくてアンタは話しかけてきたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お主はワシを追い出したいようじゃしの………。

 それに応えてやろうと思っただけじゃ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……!

 

 

 

出ていってくれるのか………!?

 

 

 

俺の中から………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………そこまで嬉しそうにされると出ていきたくなくなるのぅ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おいっ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………試練を出す。

 それをこなせばワシはお主の中から出ていこう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試練………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この前のユーラスとか言う小僧にお主が試練をこなさずにワシの力を使うことを不公平だと言われてのぅ………。

 それも一理あると思い今更じゃがお主に試練を言い渡すことにした。

 本来であるならワシの力を行使するなら試練を乗り越えなければならんでの。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな後付けに何で俺が付き合わなければならないんだ?

 

 

 

試練とかってのもどうせヴェノムをデリス=カーラーンから浄化してくれとかそんなんだろ。

 

 

 

今それは無理って話になってんだけど?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お主が諦めるのは仕方ないがそれではワシも手をうたざるを得なくなるんじゃ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?

 

 

 

何のことだよ手をうたざるって………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お主らの時間で言うと半年じゃ。

 半年時間をやろう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半年………?

 

 

 

半年時間をもらってどうするんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『半年以内にこの星屑からヴェノムを浄化する目処が立てばワシはお主の中から去ろう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………半年でどうやってそんなもんが立つんだよ………。

 

 

 

もし半年で目処が立たなかったらお前はずっと俺の中に居座るつもりか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もし半年時間をやってヴェノムを浄化できんとワシが判断を下せば………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワシはやはりこの星屑を無に帰す………。

 この前は時間については何も言ってなかったからのぅ。

 じゃから半年でこの世界からヴェノムをどうにかせい。』



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猶予期間

 王都セレンシーアインでブルータルを倒したウインドラ。

 そのブルータルが突如ヴェノム化したことにより何時感染していたかを疑いカオス等一行はそのブルータルがグラース平原でレイディーから聞かされた“アスラ”と呼ばれる個体なのではないかと推測する………。


王都セレンシーアイン 中央建築物 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、半年でヴェノムをどうにかしないとこのデリス=カーラーンを破壊するのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『左様。

 ワシものんびり見てるだけはできんのでな。

 お主らには頑張ってもらいたい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来るわけないだろ!?

 そんなこと!?

 ただでさえヴェノムのことをあまり知らない上に俺よりもヴェノムを研究してる人達ですら百年以上研究してるのに対した特効薬も作れなくてヴェノムの侵食範囲を広げられて行ってるのに………!?

 それを俺達だけで半年で!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よく連れの者らと相談することじゃな。

 どのようにすればヴェノムをこの世界から消し去れるのかを。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな話信じられるかよ!?

 半年でヴェノムの侵食を止められなかったら世界が破壊されるなんて………!!

 無茶すぎる話だ!!

 それじゃ後半年後にはデリス=カーラーンが………!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『出来ないと言うのであればワシはこの星屑を破壊し尽くすだけじゃぞ?

 ワシの力はお主には見せてはおらんかったがその爪痕は見ておった筈じゃ。

 ワシはこんな星屑………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数刻のうちに消し去ることもできる。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何だよそれ。

 どうしてお前はこのデリス=カーラーンを破壊しようとするんだ!?

 まだ俺達の時代は終わっちゃいない!!

 この星で生まれた生物にどうしてそんな常識はずれな力があるんだよ………!

 お前は一体何なんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………ワシはのぅ………。

 こんな星屑が形できる前より存在してきた者じゃ。

 この星屑の理などワシに当てはまるようなことはない………。

 そして生物という概念もワシにはない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただここに在る………、

 それだけの存在じゃ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「存在してるだけのお前にこの星を破壊させたりなんかするもんか!!

 お前がこの星を破壊しようとするのなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が絶対にそんなことはさせない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ならばこの星屑をワシの手から守って見せよ………。

 ワシが動かずとも滅びに向かって歩むこの星屑をのぅ………。

 

 

 

 これでもワシはお主らエルフには何千の猶予は与えてきた………。

 そしてこの世界を変えられる鍵はお主ら六人に託した………。

 その鍵を使って先ずはこの“半分の地”からヴェノムを浄化して回れ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「半分の地………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お主らがダレイオスと呼ぶこの小島じゃよ。

 半年後までにこのダレイオスに巣食うヴェノムを今よりも減らすのじゃ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「減らせったって俺達がヴェノムを倒して回ってもヴェノムは生物がいる限り無限に増殖していくだろ………。

 たった六人じゃどうしたって増えてく数を止められたりは………。

 

 

 

 他に………、

 このダレイオスの人達皆にお前の力を与えたりすることはできないのか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『出来ないことはない………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 だったら『じゃがそれはできぬ…。』どうしてだよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワシを………、

 ワシの力を追い求める輩がおるのじゃ………。

 その者らにワシの存在を気取られてはならぬからじゃ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前を追い求める輩………?

 お前のことを知ってる奴がいるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そやつらにワシが捕まるようなことになれば世界は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬く間にヴェノムに支配される世界となるであろう………。

 そうなればこの世界はもう何も生み出さぬ死の世界そのものとなる………。

 ワシは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうそんな世界は見たくはない………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『託したぞ小僧………。

 半年後までにワシの試練通りにヴェノムの侵食を止めて見せよ………。

 お主らにしかワシの力を与えることはできぬのじゃ………。

 お主らがやるしかない………。

 お主らならきっとワシの試練を成し遂げてみせるであろう……………………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!

 まっ、待て!!

 話はまだ終わってない!!

 お前を捕まえようとしてる奴って誰なんだ!?

 俺達はどうすればヴェノムをこのデリス=カーラーンから無くすことができるんだ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………それにはお主は自らの闇を振り払う必要があるのぅ………………。

 

 

 

 ワシの力を乗せた魔術をお主が放てばそれだけでヴェノムは消滅する………。

 全エルフの協力を得ることができればこの星屑からヴェノムを消し去ることもできる…………………。

 お主がワシの術を使いこなしてヴェノムを絶やすのじゃ………………………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が魔術を…!?

 でも俺はお前がいる限り魔術なんて使うつもりは…………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先ずはこの術を使いこなしてみよ……………。

 

 

 

 “戒めの楔は深淵へと導く………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラビティ………”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この術でヴェノムを地にひれ伏せさせることができる…………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 期待しておるぞ………。

 バルツィエの小僧………………………………………………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから待てって言ってんだろぉぉぉぉぉぉぉッッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャッ………!?」ガタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 ………アローネ………?」

 

 

 

「どっ、どうしたのですか?

 御一人で大声などあげたりして………。」

 

「………アローネこそどうして戻ってきたの………?

 もう下の階で寝たんじゃ………?」

 

「そうしようと思っていたのですが下の階のベランダに出て風に当たっていたら屋上の方からカオスの声がしたので様子を見に来たのですよ。」

 

「………そうか、

 俺……途中から声を出してたのか………。」

 

「何やら険悪な感じで何方かとお話をしてらしたようですが…………?

 

 

 

 半年がどうだとか………………。」

 

 

 

 

 

「!!」

 

「何方か………ここにいらっしゃったのですか………?」

 

「………何でもないよ………。

 一人言が気付かない内に出てたみたいだ………。」

 

「一人言?」

 

「何でもないことなんだ………。

 ちょっと疲れてて頭の中を整理してたらいつの間にか一人言が出ててね。

 一人言喋り続けてたらヒートアップしてたよ。

 アローネは気にしないでいいから。」

 

「はっ、はぁ………。

 ですが半年とは一体何のことを「それも気にしなくていいから!」…?」

 

 

 

「もう一人言は止めるから!

 アローネももう寝ようよ!

 俺もそろそろ寝るから!」グイグイ

 

「カッ、カオス…!?

 何か悩み事でもあるなら相談に乗りますけど………?」

 

 

 

「本当に何でもないんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………こんなこと相談なんてできないよ………。

 

 

 

後………半年したら………、

 

 

 

デリス=カーラーンが………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしたら………………。



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アローネとウインドラ1

 王都セレンシーアインで夜を明かすことにしたカオス等一行。

 カオスは一人になりたく外で風に当たっていたら殺生石の人格が話しかけてきて………。


王都セレンシーアイン 中央建築物 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何だったのでしょうか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む?

 どうしたアローネ=リム。

 何かあったのか?」

 

 

 

「ウインドラさん………。

 ウインドラさんこそどうなさったのですか?

 今日はもう早くにご就寝なさるのではなかったのですか?」

 

「その予定だったのだがな………。

 昼間のブルータルとの戦闘で俺の力が以前と比べどの程度まで強くなったかを調べるために外へ出ていた。」

 

「あの戦闘でですか?

 私はウインドラさんのことをよく存じ上げていないのですがウインドラさんは元からあのような腕力をお持ちでしたのですか?」

 

「腕力には自信はあったがあのブルータルを持ち上げられる程の力は無かった………。

 あのブルータルを持ち上げられたのは戦闘中に受けた奴の雷撃を受け止めた影響のようだ。」

 

「雷撃で?」

 

「あの雷撃が無ければブルータルの突進に力負けし俺とミシガンは二人揃って奴の餌食になっていただろうな。

 だがそうならなかったのは俺が奴の雷撃を吸収したからだ。」

 

「ウインドラさんはあの雷撃を防いだのではなく吸収なさっていたのですか?」

 

「そうだ。

 俺が雷撃に触れた瞬間に電流が俺の体を駆け巡ったがそれによる激痛は無かった。

 それどころか電流が走ってからはブルータルを受け止めた際の衝撃による痛みが引いていくのを感じた。

 俺は電気を受ければ基礎能力の向上と共に回復もできるようだ。」

 

「と言うことは私達も………。」

 

「俺がそうならお前達も同じだろうな。」

 

「私は風、タレスは地、ミシガンは水………、

 そしてレイデイーは氷属性の攻撃を受ければ強くなる………。」

 

「試してみてからの判断の方がいいがそれで大方間違いないだろう。」

 

「相反する属性の攻撃を受ければ致命傷………、

 同属性からの攻撃は強化になる………。

 これは………今までの戦闘とは違った工夫が必要ですね。」

 

「状況に応じて前線に出るものを変える。

 …俺やカオスは前衛でもいいがタレス君やミシガン、アローネ=リムは前衛向きではないだろう?

 属性攻撃を使わない敵にはなるべく俺が前に出よう。」

 

「侮らないで下さい。

 私も前衛ならできます。」

 

「そうなのか?

 ………一見そうは見えないが………?」

 

「………なら試してみますか?

 貴方と私、

 どちらの方が腕力が強いのか………?」

 

「女性を相手に腕力勝負と言うのは………、

 遠慮したいところなのだが………。」

 

「貴方から言い出したことですよ。

 さぁ、

 いざ………。」スッ…

 

「(押し相撲か………。)

 そこまで言うのなら………。」スゥ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピタッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「………くぅ………!」グググ…

 

 

 

「(………言うほどの力の強さは感じないが………?)

 どうだ?

 これで分かっただろう。

 俺はまだ全然本気は出してないのだが………?」

 

 

 

「………まだです!

 まだ私も本気は…!!」グググッ

 

 

 

「止せ。

 これ以上は怪我をさせてしまう。

 「シャープネス!!」!?」グワンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」パラパラ…

 

 

 

「………」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どっ、どうですか!?

 これで私も前衛でも何の問題も無いと証明されたでしょう!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………思いっきり反則じゃないか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「反則だろうと私の勝ちは勝ちです!

 私はこの魔術でカオスにすら勝ったことがありますよ!

 そうと分かったのなら私を前線から除け者にするようなことは「何故そう前に出たがる?」…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故そうお前は強くあろうとするんだ?」

 

 

 

「何故ってそれは………。」

 

 

 

「お前の話ではかつてのお前は戦闘とは無縁の温室育ちだと聞くが………。

 何故お前はそんなに戦いたがるんだ?」

 

 

 

「………私は家が無くなったとはいえアインスの………、

 ウルゴスの懐刀と呼ばれた“クラウディア”の娘です。

 いずれは私が軍を率いてダンダルクと戦うことになって「それか?」………まだ私が喋っているのですが………。」

 

 

 

「そのクラウディアとか言うかつては存在した家の貴族の令嬢だからか?

 ………今はデリス=カーラーンの時代だ。

 お前が意気込んで戦う理由などアインスの時代と共に終わっている筈だ。

 それなのに何故お前は自らを戦いの中へと置こうとするんだ?」

 

 

 

「………例え私の生きてきた時代が過ぎ去ろうとも私にはあの………、

 アインスから受け継いだ“誇り”があります。

 私が生きている限り誇りも生き続けます。

 誇りが生きているのなら私は戦い続けるだけです。」

 

 

 

「誇りか………。

 要するにお前はアインスという時代に囚われているのだな………。」

 

 

 

「私がアインスに囚われている………?」

 

 

 

「お前はレサリナスに来てカタスティア教皇に再開するまでは自分の存在があやふやで落ち着かないことがあったんだろう?」

 

 

 

「そうですけど………それが何か………?」

 

 

 

「そして教皇によって自分の足場を見たお前は今度はアインスの貴族だった時の過去に縛り付けられている。

 ………過去の栄光にすがり付いているんだ。」

 

 

 

「!?

 そんなことはありません!!

 私はただ私の最善を尽くしたいだけで………!」

 

 

 

「戦闘の知識はあるようだが無理して気負うこともないんじゃないか?

 この時代はお前の育ってきた時代じゃない。

 これまではカオスと共に戦ってきたのだろうが今は俺がいる。

 ミシガンには昼間あぁは言いはしたがなるべく女性子供を戦闘に参加させるのは騎士としては由々しき事だ。

 例え俺達が普通とは違うのだとしてもそれほ変わらない。」

 

 

 

「…貴方こそ過去に囚われているのではないのですか………?

 貴方はもうマテオの騎士ではないただの反逆者です。

 カオスのように貴方達に利用されてそうなったのではなく貴方達は自ら進んで国に剣を向けた立派な反逆者………。

 そんな貴方に騎士道精神を語られても私は受け入れられません。

 第一貴方達のせいで私やカオスは追われる身となったのですよ?

 そんな貴方から指図など「だからこそだ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからこそ俺はお前達に無用な争いはさせたくない………。

 お前やカオスを余計な道に進めたのは俺達の責任だ。

 お前達は本来武器を持ってモンスターや誰かと争い会うことなど不要だったんだ。

 それでお前達が危険な目に会うようであれば武器をとって戦うのは俺の仕事だ。

 お前達はそれぞれ目的があって旅をしている。

 ならそれを補助するのはダリントン隊で唯一生き残った俺の役目だ。

 これは俺の過去や今は関係ない当たり前のことなんだ。

 お前達には安心して旅をしてもらいたい………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!」

 

 

 

「お前は………カーラーン教会を探してカタスティア教皇に会いに行くのだったな。

 この街にはいないようだが教皇が見つかるまでは俺がお前達を守る。

 カオスも。

 お前達を危険なことに巻き込んだ責任は最後まで俺がきっちりととる。

 ………だからお前達は無理して戦闘を行うことなんてないんだ。

 貴族だとか民間だとかの話ではなくな……… 。」

 

 

 

「………遠回しに言い過ぎて否定されているのかと思いましたが貴方は私のことを気遣ってそう仰っていらしたのですね………。」

 

 

 

「?

 始めからそう言ってたつもりだが………。」

 

 

 

「あのような話し方では伝えたいことも伝わりませんよ。

 貴方は少し口調が堅すぎるのです。

 成り行きとはいえこうして旅を共にしているのですからそのように固くならずともよいですよ?

 貴方が私達のことを考えてそう提案なさったのは伝わりましたから。」

 

 

 

「そうか………?

 ………それでお前達は今後無理に戦闘に参加しなくとも「参加はしますよ?」………。」

 

 

 

「私は別に戦闘が好きなのではありません………。

 ですが戦わなければならない時には戦う覚悟はあります。

 アインスの時代が終わってしまったのだとしても私は戦い続けなければならない使命があります。

 アインスで次に目覚めた時より良い世界を夢見て今もどこかの地で眠りにつく同胞達を迎えるため私は誰かに甘えてなんていられません。

 戦闘はその初歩です。」

 

 

 

「………戦いの道へは俺達が引きずり込まずとも選んでいたと言うことか………。

 ………分かった。

 そこまで言うのなら俺も不躾な提案は取り下げよう。

 これこそ余計なことだったようだな………。」

 

 

 

「いえ、

 おかげで貴方のことを掴めたような気がします。

 貴方が私のことを気にかけてくれていたことも………。」

 

 

 

「カオスは利用したがお前はのことに関しては完全に巻き込まれた被害者だからな。

 どう償いをすればいいのかずっと考えていたところだった………。」

 

 

 

「償いなどもういいのですよ。

 貴方達のおかげで私はカタスとも再開できましたしカオスとも旅ができました………。」

 

 



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アローネとウインドラ2

 カオスが殺生石に半年後に世界を破壊し尽くす宣言を受けカオスが戸惑っていたらアローネが様子を見に来ていた。

 カオスは只の独り言と片付けたがアローネはカオスを心配しつつ屋内に戻りウインドラと話をし出す………。


王都セレンシーアイン 中央建築物 夜

 

 

 

「…カオスとお前は一体どういう関係なんだ?」

 

 

 

「カオスとの関係ですか………?

 それはこの前にお話した通りですが………。」

 

 

 

「カオスがお前をミストの森で見つけたにしてそこから俺達がお前達二人を指名手配してミストから故郷の手掛かりを探すためレサリナスまで来たのは聞いた。

 レサリナスに着いてからはウルゴスの情報も見つからずにさ迷い歩いていたところを教皇に発見され保護されたことも聞いた。

 ………カオスとお前とではそこから決定的に違う方向性の目的ができたと思うのだが………。」

 

 

 

「………カオスはミストへといつかは戻ることになるでしょう………。

 私は………世界に散らばる同胞達をカタスと共に見つける………。

 ………そうですね………。

 カオスとは友人という関係だとは思っていますがいずれはお別れすることにはなるのですかね………。

 寂しく感じますが………。」

 

 

 

「その同胞達を探すのは途方もない時間がかかるんじゃないか………?

 教皇と二人と言っても一人見付けるのにも苦労するだろう?」

 

 

 

「例え何百年………何千年かかったとしても私は探しますよ………。

 見付かっていない同胞達の中には私の大切な家族もいますから………。」

 

 

 

「家族か………。

 それは見つけてあげないといけないな………。」

 

 

 

「はい………。

 必ず見つけてあげます………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………もし………。」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

「………………もし………、

 その………協力者……………ではない…………。

 アローネ=リムの………家族…………………。」

 

 

 

「?」

 

 

 

「………………、

 お前と接してるうちにお前が悪いやつではないと分かったからこそなんだが………………。」

 

 

 

「はぁ………………?」

 

 

 

「………………お前と教皇のその同胞達を探す目的についてなんだが………カーラーン教会を拠点にして探すのだろう?」

 

 

 

「そうなるとは思いますけど………?」

 

 

 

「もしその時期が来れば教会の者達は同胞を探すのに協力してくれそうなのか?」

 

 

 

「それはまだ分かりませんよ。

 まだ会ったこともない方々に宛のないことをお願いすることなど考えもしませんでしたし………。」

 

 

 

「………それなら今のうちに協力者を見つけるのも手ではないか?」

 

 

 

「私がまだカタスに相談もしていないのにそんなことは………。

 ………ウルゴスのことも極力秘密にはしたいですし………。」

 

 

 

「それならば事情を知ってる者なら協力者として仰ぐのもいいのではないか?」

 

 

 

「事情を知ってる方ですか?

 私達以外にそのような方はいないと思うのですけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスがいるだろう?」

 

 

 

「カオス?

 カオスは………ミストに戻られるじゃないですか。

 どうしてカオスを………?」

 

 

 

「ミストに戻るのは殺生石のアイツを元の岩に帰した時だ。

 元に帰した後のことは何も決まってはいない筈だぞ。」

 

 

 

「ミシガンはカオスと貴方をミストへと連れて帰ると仰っていましたがそれはどうなさるのですか…?」

 

 

 

「カオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミストに殺生石を戻すつもりはあってもそのままミストに住む気は無いだろう………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?

 カオスはミストにはいずれは戻ると前にタレスが………?」

 

 

 

「ミストに戻るは戻る………。

 それはミシガンや村長達がいる方のミストではなく村長達が昔いた方の………、

 旧ミストの方だろう。

 カオスは殺生石を元に戻したとしてもあそこへ居住まうと思うぞ。」

 

 

 

「そんな………!

 殺生石を元に戻したとしてどうしてそんなことに………!?」

 

 

 

「事件の当事者だったから分かる………。

 あの村の連中はカオスのことを昔から毛嫌いしてたからな………。

 アルバさんがいたとはいえあいつは村の連中とは違った。

 同世代でも仲が良かったのは俺とミシガンくらいなもので俺達以外にカオスと関わろうとしてくれたものはあの事件で皆死んだ……………。

 ミシガンから話を聞かなかったか?

 カオスを擁護するものがあの村の中には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村長とミシガン以外には誰もいないと………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうでしたね………。

 カオスのことを心配して様子を見に来ていたのはあのミストの方々の中ではミシガンだけだったと伺ってます………。」

 

 

 

「ミシガンはカオスを連れ帰るつもりだがあんな村にあいつを連れ帰るのは酷な話だ。

 村の生まれだというのにカオスの場所はどこにも無い。

 カオスの故郷だと言うのにカオスには帰っても安らぐ場所なんてあのミストの中にはどこにも無いんだ………。

 殺生石を復活させて表面的には元に戻ったのだとしてもミストの連中が煙たがるマテオの統治下だけは元に戻せない。

 カオスは………もう昔のようにあの村で生活することは不可能だろう………。」

 

 

 

「………まるで今の私と同じ………。

 ……いえ………、

 私よりも酷いですね………。

 この時代の生まれなのにこの時代に彼が受け入れてもらえる場所が無いのでは………。

 ………ハーフエルフのサタン義兄様ですらクラウディアに迎え入れられたのに………。」

 

 

 

「……そのハーフエルフと言う人種についてはよく知らんがカオスはミストに戻ってもアルバさんが亡くなって天涯孤独の身だ。

 村長が養父とはなってるのだろうが村の連中からは白い目で見られてカオスが傷付くのは想像がつく。

 ミシガンと村長と………、

 俺だけではカオスを守りきることは無理だろうな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だからアローネ=リム………、

 お前にはカオスを………、

 ミストからカオスを解き放ってほしい!」

 

 

 

「私がカオスを………?」

 

 

 

「短い時間でカオスとアローネ=リムとタレス君を観察していたがカオスは二人には心を開いているようだった………。

 昔のあいつしか知らない俺だがカオスが俺とミシガン以外の誰かと普通に接してる所は初めて見た………。

 カオスは劣等感の塊みたいな男でな。

 馬鹿にされたりすると誰かれ構わず噛みついていくような奴だったんだ。

 ………それがお前達と一緒にいる姿はとても落ち着いていて居心地が良さそうな感じだった………。

 子供の時に俺とミシガンが一緒にいる時もそうだった。

 あの時のカオスがお前達と一緒にいても表に出てくるということはお前達二人を心から信頼してる証だ。

 お前達にならカオスを安心して任せられる。」

 

 

 

「まぁ私もカオスのことは信頼はしてますけど………、

 ………それでウインドラさんはカオスを私とカタスの元へと預けたい、と

 そういうことでしょうか?」

 

 

 

「あぁ。」

 

 

 

「宜しいのですか?

 ウインドラさん達がミストにお戻りになられたとしてカオスが私達の元へと来てしまってはカオスとは………その………。」

 

 

 

「カオスに会えなくなるのはミシガンも寂しがるだろうがカオスが幸せな道を歩むにはあいつはあの村にいない方がいいんだ。

 あいつが幸せになれるのなら俺はその後押しをしたい。

 カオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう十分一生分の不幸を味わった………。

 カオスはもう幸せな人生に歩んでもいいだろう………。」

 

 

 

「………友達想いな方ですね。

 貴方は………。」

 

 

 

「友達想いなやつだったら友を利用したりはしないだろう………。

 俺はカオスを指名手配した作戦を実行するようなどうしようもない男だ。」

 

 

 

「そうですね。

 貴方は最低な人です。

 人ではなく人でなしですよ。」

 

 

 

「………確かにな………。」

 

 

 

「…カオスが私と共に来てくれるかはカオス次第ですが旧ミストでまたあのような孤独の生活をされるよりかはどこか別の場所へと連れ出した方が良さそうですね………。」

 

 

 

「カオスの力ならバルツィエさえ気を付けていればどんな所でもやっていけるだろう。

 あいつはミストみたいな小さな村に収まるような器じゃない。

 カオスならより良い環境を見つけられる。

 ここまででそれはよく分かった。

 あいつなら絶対に力の使い方を間違えない。」

 

 

 

「はい………、

 ですが連れ出すにしても同胞を探す目的に付き合わせてしまうという理由では流石にカオスに申し訳ありません………。

 何かよい口実があればとは思いますけどどのようにお誘いしたら………?」

 

 

 

「そこは心配は要らないだろう。」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「カオスは昔騎士を目指していたんだ。

 騎士を目指していたのは子供心の夢でもあったが本心では誰かの役に立ちたいという願望から来ている。

 カオスは誰かから求められればそれに応じるそんなやつだ。

 アローネ=リム、

 お前が頼み込めば奴は断りはしないだろう。」

 

 

 

「それは………、

 カオスの人の良さを利用するようでお誘いしづらいですよ………。」

 

 

 

「ならいっそのことカオスを身内にしてしまうというのはどうだ?

 身内の問題と言うことなら奴も喜んでお前に協力するだろう。」

 

 

 

「身内に?

 どういうことでしょうか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスとお前が結婚すれば解決するのではないか?」



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アローネとウインドラ3

 アローネはウインドラとの話の最中にウインドラがアローネの目的を聞きカオスとの結婚を勧めるがアローネはそれを………。


王都セレンシーアイン 中央建築物 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私とカオスが……………結婚………!?

 ……………ですか………?

 どうしてそのような話に………。」

 

 

 

「お前とカオスが結婚すればカオスもウルゴスの関係者としてお前の同胞を探す目的に積極的に関わりやすくなる。

 身内として妻になるお前の望みを一緒になって叶えさせてくれるだろう。」

 

 

 

「カオスなら………………結婚などせずとも共に同胞の捜索はしてもらえるとは思いますが………。

 婚姻を利用してそのようにカオスに迫るのは…………。

 それに急な話ですし直ぐには理解が追い付きませんよ…………。」

 

 

 

「アローネ=リムはカオスのことをどう思っている?

 悪いやつではないだろ?

 腕も立つ上に努力家で献身的でもある。

 ここまで同行してきたからそれは知ってるだろ?

 生涯の伴侶としては申し分無いやつだと思うぞ?」

 

 

 

「カオスのことは………そのような目で見たことは…………、

 ………カオスの内面性は私の理想のパートナーに近しくはありますけど………。

 カオスも私のことをどう思っているかは分かりませんし………。」

 

 

 

「理想に近しいのであれば考えて見てもいいんじゃないか?

 カオスも少なからずアローネ=リムのことはよく思ってる筈だぞ。」

 

 

 

「でも結婚となると………。」

 

 

 

「何か問題があるのか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私はウルゴスの貴族としては………、

 自分の意思で結婚を決めることなど出来る立場にありませんでしたから………。

 私が私の一存だけで結婚など勝手に行ってもよいのでしょうか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「私は幼いときからウルゴスを導いていくカタスのご兄弟の何方かととの婚姻を言い渡されてきました。

 姉が義兄と結婚してからは私は絶対に王族以外の方と婚姻を結ぶことはあってはならないと難く年押しされてきて………。

 それなのに家族の目が無いところで勝手なことは「アローネ=リム」…?」

 

 

 

「そのウルゴスの貴族や王族と言うのは仮に直ぐ探しだせたとしてお前は即結婚をするのか?」

 

 

 

「直ぐには結婚はしないとは思いますけど………。」

 

 

 

「ウルゴスの王族達を見つけ出してその後は王族達とどうするんだ?」

 

 

 

「………また他の同胞達を探すと思います………。」

 

 

 

「ではウルゴスの王族が復活したとしてウルゴスが復興するというのではないんだな?」

 

 

 

「探し出すにしても一人一人見つけていかなくてはなりませんから………。

 臣下の方達も大勢いるでしょうし………。」

 

 

 

 

 

 

「それならなおのことカオスを身内に引き入れるべきだ。」

 

 

 

「………何故ですか?」

 

 

 

「手探りで同胞を探すのであれば王族が最初に見つかる可能性は高くはないだろ?

 最初に見つけた同胞がお前と同じように他の同胞を共に探してくれるとは限らない。

 この時代のマテオの民間の出だから俺には王族貴族と一般の者との軋轢が生じているのは身に染みている。

 ウルゴスでも同様なのではないか?」

 

 

 

「………私達の時代でもそういう壁はありましたが………。」

 

 

 

「俺達は世界の半分を牛耳る組織を敵に回したんだ。

 お前の目標には数々の険しい壁が立ちはだかっている。

 それに立ち向かいつつ同胞を探すのであるなら強さとそれを手伝ってくれるような人材は必要な筈だぞ?

 やはりカオスが打ってつけなのではないか?」

 

 

 

「………私のことはともかく貴方の方はどうなのですか?

 私にカオスとの婚姻を進める前に貴方はミシガンとご結婚なさるおつもりなのですか?」

 

 

 

「俺か…?

 俺は………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミシガンの安全を確保しつつバルツィエと決着をつけてからミシガンが望むのなら結婚しようとは思う。」

 

 

 

「貴方はまだバルツィエと戦うと言うのですか?」

 

 

 

「当然だろう。

 奴等をどうにかしないとミシガンやカオス達………、

 ミストの村の連中も安全とは言えないんだ。

 ダリントンの生き残りとして俺が生きている限り俺は………バルツィエと戦う。」

 

 

 

「彼等との戦いで貴方が倒れるようなことがあればカオスもミシガンも嘆きますよ?

 嘆く以前に貴方を無謀な争いへ送り出したりもしない………。

 必ず止める筈です。」

 

 

 

「止めはするだろうが止められても俺は戦わなければならない。

 今の俺はダリントン隊の死んでいった仲間達とそれを応援していた家族や関係者達の希望を背負っているんだ。

 ここで諦めてしまっては大勢の人達の期待を裏切る結果を残して全てが終わってしまう………。

 その希望の光だけは潰えさせてしまってはならないんだ。」

 

 

 

「一人ででも戦うのですか?」

 

 

 

「一人ででもだ。」

 

 

 

「貴方が敗れたらミシガンはどうなるのですか?」

 

 

 

「ミシガンは………。」

 

 

 

「貴方が敗れた時、

 ミシガンはまた一人になりますよ?

 私にカオスを勧めるとなるとミシガンには他に誰が隣に居てあげるのですか?

 貴方は御自分がいなくなった時のこととこれからいなくなる可能性のある未来を考えたことはあるのですか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「想定していなかったと言うのであるならそのような結論を出すのはお止めなさい。

 貴方には貴方を大切に想ってくださる方々がいるのですから………。」

 

 

 

「………そうだな。

 俺の考えが浅はかだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すまない………………。」

 

 

 

 

 

「………もうこの話は止めましょう。

 私達はまだ知り合ってから日が浅いですし深い話はまた今度と言うことで………。」

 

 

 

「また俺は下らないことを押し付けようとしていたな………。

 タレス君とのことで失敗したというのに俺は………。」

 

 

 

「気に病むことはありませんよ。

 貴方なりに私のことを思って仰って下さったことですし私もそこまで気を悪くはしてません。」

 

 

 

「………そうか。」

 

 

 

「カオスと旅立った日のことを思い出しますね………。

 始めの頃は貴方と同じようにカオスとも衝突していたのですよ?」

 

 

 

「カオスと………?」

 

 

 

「カオスと貴方は私が女性だから守ろうとはしてくれますがちゃんと私の意見も聞いていただかないといけませんよ?

 二人とも自分を犠牲にすることに厭いませんから後ろで見ている此方が申し訳なくなるのですから………。」

 

 

 

「…気を付けるようにしよう。

 今夜のことは本当にすま「直ぐに謝るところも似ていますね。」………すまん。」

 

 

 

「貴方とカオスは本質的には近いとは思いますが貴方はカオスよりも少々………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………大分不器用な人のようですしね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………昔は言いたいことを言えない質だったが今度は逆に言いたいことを言い過ぎてしまうようになってしまったようだな。

 俺の言ったことは適当に聞き流してくれていい………。」

 

 

 

「えぇ。

 ですが参考として考慮すべきところもありましたのでそこだけは受け取っておきますよ。

 私もまだまだ未熟者ですから。」

 

 

 

「俺のような若輩騎士の意見を参考にとってもらえると言うのならなによりだ。」

 

 

 

「お互いに問題が山積みのようですからね。

 こういった話でも役立てなくては。」



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アローネの焦り

 アローネとウインドラは夜話をすることになったが意見が衝突し険相な雰囲気になる前に話を打ち切ることにする。

 互いの仲を深めるにはまだまだ先が長く………。


王都セレンシーアイン 中央建築物 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ~~~あぁ…………。

 あれ?

 ウインドラ戻ってたの?」

 

 

 

「!

 ミシガン………。

 まだ起きてたのか?」

 

「だって………、

 ウインドラが素振りしにいくって言って出てったからまだ寝ないのかな?って………。」

 

「俺のことは気にせず先に寝ておけばいいものを………。」

 

「あれ?

 アローネさんも起きてたの?」

 

「私は………、

 寝付けなかったので風に当たりに行って戻って来てみたらお戻りになられたウインドラさんとお会いして………。」

 

「アローネ=リムとは少し話をしていたんだ。

 俺もシャワーを浴びて直ぐに寝る。

 お前ももう寝るんだ。」

 

「えぇ~!?

 せっかくウインドラが帰ってくるのを待ってたのに~!」

 

「俺の稽古を待ってても何もないだろう………。

 後はもう寝るだけなんだぞ?」

 

「うぅ………。

 分かったよ。

 じゃあもう寝よっか………。」

 

「そうしてくれ。

 では俺もシャワーを浴びてくる………。」スタスタ…

 

「そうだね………。」スタスタ…

 

「お休みなさい…………。

 ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ピタッ

 

 

「………?

 どうしたのウインドラ?

 シャワー浴びにいくんでしょ?」

 

「そうだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故着いてくる………?」

 

 

 

「え?

 だって………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ部屋で今日は寝ようと思って……。

 ウインドラがどこの部屋に荷物置きに行くのかなって着いていってるだけだけど…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えッッッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブハァッッッ!!?」

 

 

 

「どっ、どうしたの!?」

 

 

 

「ミシガン!?

 お前は俺と同じ部屋で寝るつもりなのか!!?」

 

「そうだけど………?」

 

「そんなこと出来るわけないだろ!!?」

 

「何でぇ!?

 今までだってずっと野宿で皆で一緒に寝てきたじゃん!?」

 

「あれは野宿でそういう環境だったから仕方なくだ!

 こんなに部屋が沢山あるのだから今日は全員個室で寝るんだ!」

 

「けどなんか部屋一つ一つが広すぎて落ち着かないよ?

 二人三人くらいで寝た方が寝やすいよ?」

 

「………ミシガン。

 俺達はもう大人なんだ………。

 大人の男女が易々と同じ部屋で同衾などあってはならない。」

 

「昔はよく同じ部屋で寝てたじゃない。

 そんなこと気にする必要ないでしょ?」

 

「昔の話だろ!?

 俺達は………一度リセットされてだな……。

 再び零からのスタートな訳で………。」

 

「何言ってるの。

 ウインドラが私に側にいろって言ったんじゃない。」

 

「戦闘中の話だ!

 戦闘中は俺達は連繋のために離れない方がいいと言ったんであって「そんな面倒くさいこと言わないの!!」!?」

 

「モンスターと戦う時だけ側にいろだなんてそんな空虚な仲じゃないでしょ!

 外にいる時だってあんまり相手してくれないんだから屋根のあるところでぐらい私の我が儘聞きなさいよ!!」

 

「我が儘ってお前………(汗)」

 

「四の五の言うようなら無理矢理にでも連れていくよ!

 さぁ!

 さっさとシャワーをの仕度してきなさい!!」

 

「………お前が寝付くまでの間同じ部屋にいてやるだけだからな?

 同じ布団では寝ないぞ?」

 

「もうそれでいいよ!

 全く………、

 恥ずかしがっちゃって………。」

 

「それはそうだろ………。

 大人の女と一緒に寝たことなんて無いんだから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私にはあれだけ必要にカオスとの仲を勧めていた割には御自分はミシガンに気圧されているではありませんか………。

 あのご様子では将来ミシガンには逆らえそうにはありませんね………。

 あれでどうして他人のことを構えるのでしょうか………?

 

 御自分がミシガンとの仲を深めることに踏み出す勇気が無くて私とカオスがそういう仲になれば気兼ねすることなくミシガンとの距離を縮められる算段だったのでしょうか?

 

 

 

 ………もしそうなら私の人生に付き合わされるカオスに苦労をかけることになるではないですか………。

 それに結婚の前に先ずは交際するところから始めませんと………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオスと…………結婚………ですか………。

 

 

 

カオスは………、

 

 

 

………優しいですし困っている人を見過ごせないようなそんな人格ある人だとは思いますしクラウディアの家を再興させるのだとしたら申し分無い程の実力は兼ねそろえてはいます。

 

 

 

私自身もそこまでカオスのことは悪くは無いとは思いますが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………まだ私はカオスをサタン義兄様と重ねて見てしまうところがあります………。

 

 

 

カオスが所々義兄様と重なる部分をお持ちでそうした場面でカオスを頼ってしまって………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………こんな気持ちでカオスと恋仲になどなったとしてもカオスを不幸にしてしまうだけ………、

 

 

 

カオスと結婚する目的も同胞探しの為………、

 

 

 

………こんな理由でカオスを私と結婚させて私のいつまで続くか分からない旅に付き合わせていい筈がありません………。

 

 

 

カオスだって………、

 

 

 

そんな理由で結婚などしたくはないでしょう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………それに私はクラウディアの娘………。

 

 

 

達成困難な道だからといって協力者との結婚などという自由は振る舞いはできません………。

 

 

 

私には既に王族の婚約者候補が“八人”もいるのですから………。

 

 

 

カオスとの婚姻は現実にはあり得ないことなのです………。

 

 

 

この件は私の中へと仕舞っておきましょう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『手探りで同胞を探すのであれば王族が最初に見つかる可能性は高くはないだろ?

 最初に見つけた同胞がお前と同じように他の同胞を共に探してくれるとは限らない。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この時代のマテオの民間の出だから俺には王族貴族と一般の者との軋轢が生じているのは身に染みている。

 ウルゴスでも同様なのではないか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………そうですけど………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺達は世界の半分を牛耳る組織を敵に回したんだ。

 お前の目標には数々の険しい壁が立ちはだかっている。

 それに立ち向かいつつ同胞を探すのであるなら強さとそれを手伝ってくれるような人材は必要な筈だぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはりカオスが打ってつけなのではないか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………そんなことを私の一存だけで選択できる訳が無いじゃないですか!!

 

 

 

私はいつかはウルゴスの王族に招かれる身の上………。

 

 

 

私はウルゴス王族の所有物です!

 

 

 

私に他の誰かとの結婚などと身勝手な真似は赦されません!

 

 

 

私がウルゴス王族以外の方と結婚など………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ですが王族を探し出すにしても協力者は不可欠……。

 

 

 

カタスと私の二人だけでは王族どころか臣下………民を一人見付けることすら叶うかどうか………。

 

 

 

カタスは私との再会までで約三百年何方も見付けることもできなかったと仰っていましたが………。

 

 

 

私達二人だけで同胞を効率的に探す方法は無いのでしょうか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………私に力が………、

 

 

 

大きな“権力”があればあるいは可能なのでしょうけど………。

 

 

 

私とカタスだけではどうにも………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルゴスの再興は不可能な夢なのでしょうか………?

 

 

 

私にはそんな力は無いのでしょうか………。

 

 

 

私は………、

 

 

 

………お父様やお母様、家族を見付けることなんて出来ないのでしょうか………。

 

 

 

それでは私の家族はずっとどこかで………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………どこかでもう既にその命が尽きて………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………弱気になっては駄目です!!

 

 

 

家族や王族、臣下や民達が私とカタスが目覚めさせるのを待っているのです!

 

 

 

ヴェノムはまだこの時代には残ってはいますが私やカオス達、それにカタスもいます!

 

 

 

私達に備わった力でなら………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………!!

 

 

 

そうですよ!

 

 

 

私達なら!

 

 

 

この時代に蘇ったウルゴスの民ならヴェノムを倒すことが出来ます!

 

 

 

私達ウルゴスの民が復活できれば大きな力に……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………いえ、

 

 

 

それでもやはり駄目ですね………。

 

 

 

ウルゴスの同胞達の復活は確かに大きな力になりますがその前にそれを実行に移すだけの力すら無い………。

 

 

 

自問自答を繰り返してみても最終的には同じ答えに辿り着く………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はどうしようもなく無力という答えに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何か………、

 

 

 

何かいい方法は無いのでしょうか………?

 

 

 

何か同胞達を探すためにできることは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何か………大きな人力を得られる方法は………………。



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ダレイオスに来てから初の出会い

 アローネとウインドラが会話をすることになりウインドラが提案してきたことをそのまま実行する訳には行かないアローネだったが彼の言う話の内容にも一理あると思い悩むアローネ。

 だが彼女の目的を果たすには彼女だけではどうにもならないことに気付き………。


王都セレンシーアイン 明朝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッザ………

 

 

 

 

 

 

………ホッ、ホントウニアノフシノヴェノムヲタオシタモノガイルノカ?

 

ウン!

ウチノキャロガサンポシニイッテタノツレモドシニウエニキタラアノモンスターガイテアレトタタカッテルヒトタチヲキノウワタシミタンダヨ!

 

ソノモノタチハソノゴドウナッタ………?

 

ソノヒトタチノナカノヒトリガアノモンスターヲヒトリデタオシテカラモンスターガスライムニナッテミンナデタオシテタヨ!

 

スライムトナッタヴェノムニセッショクシタトイウノカ!?

 

ソレナラバソノモノタチモヴェノムヘト………。

 

トクニドウモシテナカッタヨ?

フツウニタオシテソノアトソノヒトタチマチヲミマワッテカライエノナカニハイッテイッテタ。

 

ヴェノムニセッショクシテオキナガラブジダッタノカ!?

 

モシソノハナシガシンジツナノダトシタラ………。

 

ソノモノタチノフウボウハドウダッタ?

ドノヨウナカッコウヲシテオッタンダ?

 

モンスターヲタオシタヒトハヨロイトカヤリトカモッテテヘイシミタイダッタヨ!

アトカーラーンキョウカイノフクキタヒトガオトコノヒトヒトリトオンナノヒトヒトリズツ…。

アトハ………フツウノカッコウシタオンナノヒトトワタシトオナジクライノオトコノコゴイタ!

 

………

 

ヒトリハ………ブソウシタモノトカーラーンキョウカイノフタリ………ソシテオンナトコドモ………コレハ………!

 

オソラクマテオカラノセンペイダロウ。

ヤツラハソウソウニヴェノムニタイコウスルスベヲアミダシテイタトキク。

イツマタマエノトキノヨウニシングンシテキテモオカシクハナカッタ。

 

………ダガアノブルータルヲタオシタトイウノハ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オイ!?

コッチキテミロ!

 

 

 

ナンダ!

ナニヲミツケタ!?

 

 

 

コレダヨ!!

コレミテミロ!

 

 

 

………コレハ………キョダイナヴェノムガショウメツシタアト………!?

 

アァ!

キノウソイツラガタオシタッテイッテタシコノ………ショウキノノコリガカラシテモソウナンダロ………。

 

………ホントウニブルータルヴェノムヲタオシタンダナ………。

 

ソウラシイ………、

コンナコトガデキルヤツナンテセンペイッツッテモカギラレテクルヨナ………?

 

ソウダナ………。

………サネット。

 

ナニ?

 

オマエノミタモノタチハドノヨウニシテブルータルヲタオシタノダ?

ソコノトコロヲクワシクキキタイ。

 

クワシクッテイッテモモウハナシタジャン!

ヤリヲモッタヒトガアノブルータルトカイウモンスターノピカー!ッテヒカルノヲウケトメタトオモッタラソノママモチアゲテカラタタキツケテヤリデツイテオワリダヨ?

ソレカラスライムニナッテゴニンデタオシテタヨ。

 

ブルータルノライゲキヲウケトメタウエデヲモチアゲル………。

ヤハリヤツラシカカンガエラレンカ………。

 

ソンナヒトノワンリョクデデキナイコトヲヤッテノケルマテオノヤツラトイッタラ………。

 

 

 

バルツィエ………カ………。

トウトウコノマチニマデバルツィエガキタノダナ………。

 

ヤリツカイガバルツィエデカーラーンキョウカイノフタリハコウフクカンコクノツカイノモノデソノホカノオンナトコドモハミッテイダロウ。

ワレラダレイオスノジョウホウヲサグルタメアエテソノヨウナフウボウノモノヲツレテオルノダロウナ………。

 

…コノダレイオスニタイシテミッテイカ………。

コレハマタボウジャクブジンナバルツィエニシテハシンチョウナサクセンデキタナ。

 

イツカハクルトオモッテイタガ………。

 

………ダガマテオノ………ソレモバルツィエノセンペイガキタトイウノデアレバ………、

ワレワレノトルシュダンハキマッテオルヨナ?

 

アァ………コノトキヲマッテタクライダ………。

 

バルツィエトタイジシテイキテカエレルトハオモワンガコレモダレイオス………スラートガホロブノヲサケルタメダ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………マイルゾ!!バルツィエノセンペイノモトヘ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 中央建築物 屋上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガヤガヤ………………!!

 

 

 

 

 

 

「………ん、んんん?

 朝から騒がしいな………?

 何の騒ぎだ………?

 

 ………ってここは………?

 ………あぁ、

 あれからそのまま寝ちゃってたのか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!!」「本当にここで夜を明かすとは………。」「大変だよカオス!」「起きてますか!」

 

 

 

「うわっ!?

 どうしたの皆!?」

 

「どうしたのではありません!

 非常事態です!!」

 

「非常事態?

 何があったの?」

 

「とりあえずゆっくりと下の方を見てみろ。」

 

「下?」

 

「あんまり体を出しすぎないでね?

 そーっとだよ?

 危ないから………。」

 

「危ないって………、

 そんな足を滑らせたりはしないよ………。

 子供じゃないんだから………。」

 

「ミシガンさんはそういう意味で言ったんじゃないと思いますよ?」

 

「?

 じゃあどういう意味で………」チラッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガヤガヤガヤガヤガヤガガヤガヤガヤガヤ……………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………人が………いる!?

 それもこんなに沢山………!?」

 

「カオス!

 大きな声で喋っては駄目です!

 下の方達に聞こえてしまいます!」

 

「あっ、…ごっ、ごめん………。

 ………でも何で急にこんなに人が出てきたの………?

 昨日までは誰一人見付けることすらできなかったのに今日になってこんな突然………。」

 

「分かりません………。

 分かりませんが………少々ただ事ではないことは分かっております。」

 

「何で………?」

 

「俺達も起きてから外が騒々しくて二階から見に行ったんだがな、

 どうやら下の連中は俺達を探している様子だ。」

 

「俺達を?

 何でそんなことしてるの?」

 

「下の連中の目的は分からんが恐らくこの街に入ってからどこかで見られていたんだろう。

 連中は大方この街の住人だ。

 俺達を盗賊か何かだと誤解してるのかもしれん。

 それで数を集めて俺達を捕らえるために探している途中と言ったところか。」

 

「私達別に何も悪いことしてないじゃない!

 素直に事情を話せばきっと分かってもらえるよ!?」

 

「………そうもいかないと思いますよ?」

 

「どうして?」

 

「あれは………重量級の武具を扱ってることからしてスラート族です。

 ダレイオスでも最も力があり最も………

 ………分からず屋で通ってる一族ですから話し合いができるかどうか………。」

 

「何でそんな部族がここにいるの!?」

 

「それは………ここが彼等の本拠な訳ですし居て当然かと………。」

 

「逆に私達の方がこの街に相応しくはないでしょうね………。

 彼等が留守の間に彼等の住居を漁るような賊と変わらぬ行動をとる私達は………。」

 

「そんなぁ!?

 何も盗ったりなんてしてないのにィッ!!?」

 

「不法侵入はしてますけどね………。」

 

「ミシガンはレサリナスで研究所からワクチンを盗んできたじゃないか。

 立派な盗賊だよ。」

 

「フンッ!!」バキッ!!

 

「ゲフゥッ!!?」

 

「ふざけてる場合じゃないでしょうが………。」

 

「……そうだね。

 でもどうしよっか………。

 あの様子だと歓迎なんてされてないよね………。」

 

「歓迎してくれると思うか?

 タレス君の話ではマテオのバルツィエに劣らぬ好戦的な奴等のようだ。

 奴等に歓迎されるとしたら俺達を袋叩きに「ここにおったか………」!?」

 

「うわっもうここまで来たの!?」

 

「アローネ!ミシガン!タレス!

 下がってて!!」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「探したぞ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マテオの………、

 バルツィエの騎士よ………。」ザッザッザッザ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッザッザッザッザッザ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「囲まれたか………。」

 

 

 

「そう警戒することはない。

 バルツィエの騎士よ。

 我等はソナタ等と争いに参上したのではない………。

 我等ダレイオスはソナタらマテオ国家に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正式に降伏することを宣言しに参ったのだ。」



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地下都市の存在

 ブルータルを倒して夜を明かすことにしたカオス等一行。

 その翌日カオス達のもとへと現れる怪しげな集団が………。


王都セレンシーアイン 中央建築物 屋上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャンッ!カラカラカラ………!!

 

 

 

スッ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッ…………………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 …………何をしているんだ?

 そのように跪いたりなどして…?」

 

 

 

「マテオ国家に戦闘の意思は無いという証だ。

 武器を所持していたのは我々もこの付近に出没するヴェノムの主を警戒してのことだ。

 ソナタ等を迎え撃つ為に用意してきたのではない。

 剣も………この通りだ。」カランッ…

 

 

 

「………」

 

 

 

「ソナタ等はマテオの騎士なのであろう?

 我々ダレイオスは………スラートはマテオの軍門に下ろう。

 長き停戦からこの日がいつ訪れてもいいようにこの街の“地下”でずっとこの時を待っていた。

 スラートの族長代理として降伏の調印を我が「ちょっと待ってくれ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達はマテオ………から来たけどマテオの騎士じゃない!

 それにどういうことなんだ!?

 ダレイオスがマテオに降伏って…!?

 戦争はまだ始まって無いだろ!?

 ………もしかしてもう攻撃が始まっているのか!?

 それで降伏なんて………。」

 

 

 

「?

 それではソナラ等は一体………?」

 

 

 

「………私達は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ソナタ等はマテオからの亡命者………とな?」

 

 

 

「そうだよ。

 だから俺達に降伏なんかされても困る………。

 そういうのはマテオに言ってくれ………。」

 

 

 

「相手を間違えたようだな………。

 これは失敬した………。」

 

 

 

「何故俺達がマテオの者だと?

 ………昨日俺達はこの街に来たばかりだというのに………。」

 

 

 

「…昨日我等の仲間がソナタ等がこの街を訪れて“ブルータルヴェノム”を討ち取るのを目撃したのだ。

 それでソナラ等をマテオの騎士と錯覚したのだ。」

 

 

 

「仲間………?」

 

「そのような方が昨日いらしていたのですか………?」

 

 

 

「うむ………。

 その者とはこの………。」

 

「わたしとこの子だよ!」

 

「ニャア…?」

 

 

 

「!

 昨日の猫…!?」

 

 

 

「この子がね?

 昨日は日向ぼっこしに外に行ってたの!

 日頃薄暗い地下にいるから空気も悪いしたまには外の空気を吸わせてあげたいなって昨日は一日だけ外に散歩させてあげてたんだけど………。」

 

「外にはヴェノムの主が彷徨いておるから外出禁止を命じておったと言うのに………。」

 

「だって族長!

 ずっと暗い地下にいるのは体に良くないよ!

 キャロだってお日様の光が大好きなのにあんな暗い場所に閉じ込めて………可哀想だよ。」

 

「命あってのことだ。

 我等が引きこもっておる地下ですら安全は確立されてはおらんのだぞ?」

 

「………ごめんなさ~い。」

 

「ニャア~ン………。」

 

「………以後はマテオの使者が来訪するまで気を付けるように………。」

 

「そうしま~す。」

 

「ニャア…。」

 

「………して?

 ソナタ等は何者なのだ?

 我等はあのブルータルヴェノムを討ち取ったことからそこの騎士の風貌をした者をバルツィエの騎士だと伺っておったのだが………?」

 

 

 

「………俺はバルツィエではない………。」

 

 

 

「亡命者と言うのならマテオの騎士では間違いはないのだな?

 ………マテオの騎士は皆あのブルータルヴェノムを討ち取るような戦闘力と感染を防ぐ術を持っておるのか?」

 

 

 

「これは………。」

 

「私達は少し特殊な事情がありまして………。」

 

 

 

「…深くは聞かないことにしよう………。

 亡命するくらいなのだからマテオにも色々とあるのであろうな………。」

 

 

 

「そうしてくれると助かります………。」

 

 

 

「………さて、

 ではソナラ等は如何様でこの街を「待ってください!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダレイオスが………………マテオに降伏って何ですか?

 何で戦いもしないでマテオに降伏なんかしようとしてるんですか!?」

 

 

 

「………君は……?

 マテオの亡命者であろう?

 我々ダレイオス側が降伏するのに何か思うところでもあるのかな?」

 

 

 

「いえ………、

 タレスは………。」

 

「………ボクはマテオに拉致されたダレイオスの………

 アイネフーレ族です。

 数年前にマテオのバルツィエに拉致されてダレイオスに戻って来ました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 

 

ザワザワザワザワザワ………、

 

 

 

「………アイネフーレ族の…………?

 ………これは何とも………。」

 

 

 

「この王都まではアイネフーレ族が担当していた最先端の北東側を辿って来ました。

 他のアイネフーレ族はその降伏に賛同しているんですか?

 降伏がダレイオスの総意なんですか?

 あの侵攻作戦であれだけやられておきながらオメオメとマテオに白旗をあげるのに納得しているんですか!?

 どうなんですか!?

 やられっぱなしで良いと言っているんですか!?

 ダレイオスの誇りはないんですか!!?」

 

 

 

「「「「「………………」」」」」

 

 

 

「ハッキリ言ってくださいよ!?

 今もマテオで他に奴隷にされているフリンク達はダレイオスの反撃を心待ちにしてずっと耐えて「アイネフーレ族はな」…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アイネフーレ族は………あの侵攻作戦の後に出現したヴェノムの主によって種が滅びてしまった………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え?」

 

 

 

「今やダレイオスはどの部族も同じ境遇に陥ろうとしている………。

 突如として各地に現れた“九体のヴェノムの主”によってダレイオスは連合国家としての体制も崩れアイネフーレはバルツィエ、ヴェノムの主の挟撃にあい早くに跡絶えてしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このダレイオスに残っているアイネフーレは………、

 ソナタだけとなるな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイネフーレ族が………、

 ………ボク一人………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ソナタには酷なことだとは思うが我等にはアイネフーレの滅びを防ぐ手立ては無かった………。

 同盟部族としては残念な話だがな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「タレスの部族が………滅んだって………。」

 

「そんな………、

 ではタレスは………!?」

 

「タレス君の故郷の人達は本当に一人も………。」

 

「………ヴェノムによる終末がタレス君の部族に訪れてしまったか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「タレス(君)ッ!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そんな………、

 アイネフーレ族が………。

 ボクの仲間たちが…………滅んだ………?

 ダレイオスが………………マテオに降伏………?

 ………………それじゃあ………今まで何の為にボクは………。

 ダレイオスが………総力をあげてマテオに復讐しに来てくれるのを待ってたのに………。

 何で………?

 何でダレイオスは………戦いもせずに………復讐もせずに敗北を認めようとしてるんだ………?」

 

「タレス!

 お気を確かに!?」

 

「タレスをどこか寝かせられる場所に連れていこう!」

 

「すまないがこの少年を休ませられる場所を借りたい!

 昨日は勝手に空いていた部屋を使わせてもらっていたがいいか!?」

 

 

 

「構わん。

 ソナタ等にはあのブルータルヴェノムを倒してもらったようだからな。

 だが地上では他のヴェノムが徘徊している恐れがある。

 休ませるのならここではない場所にしよう。

 ソナタ等には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特別に我等の移り住んでいる地下都市“シャイド”へと案内しよう。」



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闘技場

 カオス達の前に現れたのは不在だったダレイオスの住人であった。

 彼等はすぐ近くにいたようだが………。


王都セレンシーアイン 西区 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここだ。」

 

 

 

「………ここは?」

 

「闘技場か………。

 レサリナスにも昔はあったがバルツィエの独壇場にしかならないと言うことで詰まらなくなって潰れて取り壊されたらしいがこちらにも同じものがあったのだな………。」

 

「おじいちゃんの話にも出てきてたな………。

 おじいちゃんは闘技場に出場しても俺みたいなしたっぱじゃ初戦敗退しか成績が残せなかったって………。

 でも………。」

 

「アルバさんの話はレサリナスで聞いた話と全然食い違ってたぞ?

 あの人の話はデタラメだらけだった。

 アルバさんがいなくなるまでは闘技場は大人気でマテオ中からアルバさんが出場する大会を見に来る客でいっぱいだったそうだ。」

 

「おじいちゃんを知ってる人の話ではそうみたいだね。

 けどおじいちゃんもバルツィエだったんだよ?

 おじいちゃんがいなくなったからって何でそんなことになるんだ?」

 

「アルバさん以降の後を継いだバルツィエのチャンピオン達は魔術で一方的な試合しかしなかったからだ。

 力の大きさを見せつけるようなそんな試合………。

 嫌味な戦いなぞ見せつけられても民衆は面白くもなんともない。

 バルツィエ事態が嫌われものだったからな。

 潰れても仕方がなかった………。

 だがアルバさんが出場した大会ではアルバさんは魔術を一つも使用せず魔技も封印していた。

 アルバさんは武身技だけで魅せるような試合をしていたそうだ。

 …バルツィエとはいえモンスター相手によくやったものだ………。」

 

「おじいちゃん武身技だけで勝ちあがったの!?」

 

「そうだ。

 それも全試合でな。

 ………俺も直接見たことは無いがアルバート=デュラン・バルツィエの残っていた資料にはどれも同じように記載されてあった。

 真実なのだろう。」

 

「おじいちゃんがねぇ………。

 でも闘技場に出てくるモンスターってどんなのがいたんだろう………?」

 

「小さな大会のものではオーガやトレントといった少し素人が単身で相手するには難しいモンスターを捕獲してきて戦わせていたようだが大きな大会となるとギガントモンスターも用意していたようだ。」

 

「へぇ~、

 ギガントモンスターなんて捕まえてこれたんだ………。」

 

「アルバさんがバルツィエを率いていた際には闘技場を取り上げるためだけに捕獲させていたようだぞ。

 勿論アルバさんも捕獲には関わっていた。」

 

「おじいちゃんも盛り上げるためにワザワザモンスターを捕まえに行ってたのかぁ………。

 ………よく生きて帰ってこれたね………。」

 

「軍を率いたバルツィエには敵無しだ。

 ただのモンスターであったならどんなモンスターも捕獲できたらしいぞ?」

 

「その闘技場の大会って優勝したらどうなるの?」

 

「優勝者には賞金が出るな。

 後は称号や名匠がうった名のある武具とかだ。

 それも一般では先ず手に入らないようなそんな代物だったそうだ。

 

 

 

 ………そして優勝者のみが出場できる対人戦の大会も開かれていた。

 そこで優勝者したものは………。」

 

「優勝者したものは?」

 

「………貴族階級への昇格が約束される。

 更には領地や屋敷など相当な富も贈られていたんだ………。」

 

「そんなのがあるんだ………。

 それで優勝した人ってどんな人たちがいたの?」

 

「アルバさんが参加する大会だぞ?

 優勝者などアルバさん以外にはいなかったな………。

 

 

 

 ………いや、

 一人だけいたな………。」

 

「誰?

 やっぱりバルツィエの人?」

 

 

 

「セバスチャン=ゼパル・ナベリウス侯爵。

 バルツィエの執事でフェデールの側近だ。

 アルバさんが一度だけ出場しなかった大会で奴は優勝しその後貴族の称号を得てバルツィエの傀儡となった。」

 

「セバスチャン=ゼパル………?

 知らない人だな………。

 けどフェデールの側近?

 どんな人なんだ?」

 

「こいつについては俺もよくは知らないんだ。

 突如として闘技場に現れて巧みな技で勝ち進んだ戦士としか………。

 見た目は………白髪だし大分高年齢だとは思うんだがなぁ。」

 

「結局はバルツィエの関係者なんだな………。」

 

「そうだ。

 ………今は確かな実力があることしか教えられんな。」

 

「………でもバルツィエじゃないんなら一度会って戦ってみたいな。」

 

「剣術だけならバルツィエをも凌ぐと言われる男だ。

 お前ですら敵うかな?」

 

「そんなものはやってみなくちゃ分からないだろ?

 強いってんなら俺だって「ちょっと!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男子達ッ!!

 タレス君がこんな状態の時に何下らない話してるの!!?」

 

「………」フラフラ…

 

「今はタレスの精神上そういったお話は控えていただかないと………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだった………。

 すまん………。」

 

「ごめん………。」

 

 

 

「まったく………、

 これだから男子は…!

 こんな物騒な場所見つけたら直ぐ誰が強いだとか自分なら勝てるだとかの話になるんだから!

 そんなことどうだっていいでしょうが……!」

 

「そう無理もない話なのかもしれませんよミシガン。

 闘技場というのは男性にとっては憧れるような場所のようですから………。」

 

「けどアローネさん!

 何もこんな時にそんな話しなくてもよくない!?

 タレス君がこんな不安定な時にそんなモンスターを捕まえてきたとかさぁ!?」

 

「…人が創る時代にはこういった施設が建てられるのも人の文化と言うものですよ。

 ……ウルゴスでもこのような闘いを見世物にした施設がありました。

 ウルゴスのものは罪人同士を殺し会わせるものでしたが………。」

 

「も~う!?

 アローネさんもあの二人と同じなのー!?」

 

「すっ、スミマセン…!

 私の家系もこういう施設に縁ある家系でしたのでつい………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………その少年を休ませるのではなかったのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場地下

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここからが我等の秘密の隠れ家だ。」ガガッ!

 

 

 

「闘技場の地下に更に階段が………?」

 

「こんな場所に街の人達が住んでいるのか………?」

 

 

 

「うむ………。

 決してモンスターやヴェノムに見付からぬためにな。」

 

 

 

「…どうりで地上に人が誰も見当たらない訳だ。

 まさか地面の中に移り住んでいたとはな………。」

 

「どうしてこのような場所へと移ることになったのですか?」

 

 

 

「それは族長のもとへと案内してから話すことにしよう………。」

 

 

 

「族長?

 貴方は………?」

 

 

 

「先程も申した通り我は族長代理だ。

 部族を纏める族長の身に危険が及ぶのを防ぐため地上の様子を見に行くのは我の仕事となっている。」

 

 

 

「族長って………スラート族の?」

 

 

 

「そうだが何か?」

 

 

 

「ここって………王都なんですよね………?

 と言うことは王様がいらっしゃるのでは?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………スミマセン、

 お聞きしてはいけないことだったよう「王は」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうこの国にはいない………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 それは………!」

 

「王様がいないって…!」

 

「まさかダレイオスの王が暗殺にでも………!?」

 

 

 

「そうではない。

 ダレイオスで即位されていた王は今もご健在だ。

 その王こそが我等の族長だ。

 族長は生きていてこれから案内するところなのだ。」

 

 

 

「?

 でしたら何故王ではなく族長とお呼びするのですか?」

 

 

 

「マテオに対抗するためにダレイオスは九の部族を一つの国として建国したと言うのは知っているな?」

 

 

 

「えぇ、

 直前にタレスから聞きましたけど………。」

 

 

 

「ダレイオスの王はその九の部族を一つに纏めあげた我等スラート族の族長の血族から即位させていたのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今ダレイオスの部族は数年前に出現した“九のヴェノムの主”によってそれぞれの部族が根絶の危機に陥りこの街に滞在していたスラート族以外の部族は己が部族の地へと帰郷していった。

 ここに残っておるのはスラート族のみとなる。

 故に族長もダレイオス国の王という任が自動的に退位することとなったのだ。

 ダレイオスは事実上一国としての機能を失っておる状態なのだ。」



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滅びた国

 カオス等一行は遭遇した集団からダレイオスがマテオに降伏する宣言を受けて困惑する。

 更にタレスの同族が全滅したことを聞きタレスが………。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………着いたぞ。

 ここが現在のスラート族が居住している地中の都市シャイドだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スラートの地中都市シャイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に地面の中に都市がある………。」

 

「一つの街の地下にここまで大きな都市がもう一つあるとは………。」

 

「これってどうやって造ったの?」

 

「地の魔術ストーンブラストで穴を掘って出来た空間の壁や天井を火の魔術ファイヤーボールや水の魔術アクアエッジで固めてあるのでしょうね。

 あまり頑丈そうな造りには見えませんが………。」

 

 

 

「族長の住まいは直ぐそこだ。

 先ずはそこで族長にソナタ等を紹介するとしよう。

 ついてきたまえ。」

 

 

 

「「「「はっ、はい。」」」」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スラートの地中都市シャイド 族長邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余がダレイオス国家の元王にして現在のスラートの長ファルバンである。

 お客人よ。

 歓迎するぞ。」

 

「紹介が遅れたが我はスラート族長代理で案内役を勤めるオサムロウだ。」

 

 

 

「はっ、初めまして」「どうも…。」「…オサムロウ?」「初めまして…。」

 

 

 

「客人よ。

 此度は地上にてヴェノムの主の討伐、

 真に感謝いたすぞ。」

 

 

 

「…アイツはたまたま鉢合わせして倒しただけなんで………。」

 

 

 

「それでも我等スラートはあのヴェノムの主に手を焼いていたのだ。

 あの怪物の脅威が去ったことには同族皆がソナタ等に感謝するであろう。」

 

 

 

「まぁ、

 そう言うことなら………。」

 

「…それよりも族長殿、

 この国のことについて詳しく聞かせてくれないか?

 俺達は全員が目的あってダレイオスを訪れたんだ。

 それなのに地上には誰一人として影すら見付けられなかった………。

 このダレイオスは一体「その前に」」

 

 

 

「ソナタ等も名乗ってもらえぬか?

 ヴェノムの主を討伐してもらった恩人とはいえ素性の知れぬ者だということには変わりない。

 サネットからはヴェノムの主を討伐した五人組としか聞いておらぬものでな。

 オサムロウが連れてきたのならマテオからの使者だとは推定できるが………。」

 

「族長、

 この者等はマテオからの亡命者であってマテオ政府とは無関係のようですぞ。」

 

「亡命者か………。

 ならば尚更聞いておかぬと後々面倒なことになりそうだな。

 マテオからの亡命と言うことは少なくともマテオにはいられなくなった罪人やもしれぬからな。」

 

 

 

「ちょっと!?

 よく分からないけどこっちはアンタ達が怖がってたヴェノムの主?とかいうのを倒した恩人になるんでしょ!?

 それなのに罪人扱いは酷くない!?」

 

「罪人なのはあってるとは思うけど………。」

 

「怪しまれるのも当然ですよ。

 私達は普通の人達にはできないことをやったのですから。

 ………私はアローネ=リム・クラウディア。

 ある国の民でマテオとは何の関係もありません。」

 

「…俺はウインドラ=ケンドリュー。

 マテオの元騎士だ。」

 

「………私はミシガン=リコット。

 マテオでは普通の村の出身だったわ。」

 

 

 

「マテオとは違う国?………の民とマテオの元騎士にマテオの村の娘か………。

 亡命する程の理由がありそうではあるな………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………してそこのソナタはどこの者だ?」

 

 

 

「………俺はカオス。

 俺もミシガンと同じ村の出身です。

 こっちの子はタレスといってダレイオスの少年です。」

 

 

 

「ダレイオスの………?

 ………なるほど。

 ダレイオスの少年がマテオから亡命してきたと言うことはマテオに拉致された者なのだな。

 ソナタの装いを見るに教会の者なのであろう?

 教会の者がその少年を保護しダレイオスへと連れ帰ってきてもらったのか。

 元国王として礼を言おうぞ。」

 

 

 

「別に大したことじゃ「それと」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソナタの家名は何と言う?」

 

 

 

「「「…!」」」

 

 

 

「我がダレイオスには家名というものは存在しないがマテオにはそれぞれの家にて家名と言うものがあるのは知っておる。

 有名な名前ぐらいなら余でも聞き届いておるぞ。

 教会の者は身寄りのない者達で構成されてはおるようだがマテオ出身であるなら家名はあるのだろう?」

 

 

 

「………ありますけど………。」

 

 

 

「先程ソナタは他の者が名を申した時少しだけ動揺しておったな。

 何か言えない名でもあるのか?」

 

 

 

「カオスはッ「カオスは私の姉弟だよ!」…!」

 

「だから家の名前はリコット!

 カオス=リコットだよ!」

 

「ミシガン………。」

 

「(その手が使えたな………

 ………だがその手を使うにはもう………。)」

 

 

 

「兄妹………とな?

 ………あまりお主らは似ておらぬが………。

 それに兄妹なら何故兄が修道服を着ていてソナタは着ておらぬのだ?

 兄だけが教会関係者と言うのはおかしな話ではないか?」

 

 

 

「複雑な家庭事情があるんだよ!

 カオスは私の家の養子で私と姉弟になったの!!

 カオスが修道服を着てるのはカオスが勝手に飛び出して行って何でか着てたの!

 それとカオスが後から養子になったから私が姉でカオスは弟!!」

 

 

 

「はて………?

 ソナタの方が年は幼く見えるが………?

 マテオでは養子をとった場合はそのように兄弟の順列が決まっておるのか………?」

 

 

 

「いえ………、

 マテオでも多分普通は年上が兄で年下が妹になると思います。」

 

 

 

「いいでしょ!?

 私が姉でも!?

 カオスが弟になるの!!」

 

「こんなふうに無茶苦茶を言う子なんです………。」

 

 

 

「ふむ………、

 嘘を吐いているようには見えんな………。

 

 

 

 ………しかしそれでもソナタには何か我等に隠し事があるようにも見受ける。」

 

 

 

「だからカオスは「いいよミシガン。」カオス!?だって………。」

 

「別に隠していた訳じゃないんですよ。

 俺の家名は………確かにリコットってことになるのかな………。

 けど形式上養子にはなってはいるけど俺はリコットと名乗ったことはない。

 ………俺の元々の家名は貴殿方も知っている名だ。

 ここに連れてこられるまでにそこのオサムロウさんもその名前を出している。」

 

 

 

「!?

 ………まさか………!」

 

「申してみよ。

 ソナタの本物の家の名を…。」

 

 

 

「はい、

 俺の本名は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス=バルツィエ。

 貴殿方ダレイオス国家と敵対しているマテオのバルツィエの血を受け継いでいま………!」チャキンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この都市までバルツィエの者の侵入を許してしまっていたか。

 不覚………。」

 

 

 

「…………え!?

 カオス!?」

 

「お待ちください!

 カオスはバルツィエとはいっても貴殿方の敵では…!?」

 

「やはりこうなったか…!!

 やむを得ん!!

 暴れさせてもらうぞ!!」

 

 

 

「全員動くな!

 動けばこの首跳ねおと「待つのだオサムロウ!」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オサムロウ!

 カタナをおさむろう(納めろう)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っえ?」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ドヤァ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」エッヘン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 

 

「………」スチャ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 

 

「………」フゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あの………、

 何か………反応してくれぬか?

 余が滑ったみたいな空気になっておるではないか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

 

「………みたいな空気ではない。

 今正にそのように滑った空気になっているんだファルバン………。」



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ダレイオスの現状

 ダレイオスの王都でカオス等一行は謎の集団の一人オサムロウと名乗る者に闘技場地下にあった秘密の都市シャイドへと誘われる。

 そこには用心深いスラート族の長ファルバンがカオス等を向かえるがカオスがバルツィエと名乗った瞬間オサムロウから剣を突き付けられる………。


スラートの地中都市シャイド 族長邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………すまなかったなソナタ等………。

 余がいらんことを口走ったようだ………。」

 

 

 

「いえ………、

 俺達は別に何とも………。」

 

 

 

「ファルバン………、

 我の名でそのギャグは止めろとあれほど注意しただろう………。

 我の名はそんな面白味のないギャグに使われるためにあの方から授けられたのではないのだぞ。」

 

「別に良いではないか!

 そのおかげで先程までの一触即発な緊張を瞬時に断ち切ることができたのだから!

 ソナタの名は戦闘を回避するのに使われるために授けられたのだ!

 正当な利用方法だ!

 余は何も間違ってなどおらぬ!!」

 

「………我が名を愚弄すると言うことはあの方を愚弄するも同義………。

 ファルバン………、

 貴様はあの世で後悔するのだな………。」スチャァ……

 

「だから“刀”を納む「覚悟!!」ロウゥゥゥゥ!!!??」ブンッ!!パシィッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何だこの空気………?」アブナイデハナイカ!?オサムロウ!!

 

「戦闘になるのは回避できたようですけど………。」エエィ!!コシャクナ!!カタナカラテヲハナセファルバン!!

 

「一瞬何か強烈な氷の魔術が放たれたのかと錯覚してしまった………。

 族長殿はとてつもない魔力の持ち主のようだな………。」ハナシタラソナタハヨヲタタッキルダロウ!?

 

「魔力とかそういう話?」キサマガヨケイナダジャレナドクチニスルカラダ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話の途中だぞ!!?

 ………先程は余の家臣が無礼な真似をした。

 赦してほしい。

 この通りだ。」ペコッ

 

 

 

「………気にはしてないんで………。」チラッ

 

 

 

「我も早まったことをしでかしたな。

 すまない。」ペコッ

 

 

 

「驚きはしたが………、

 バルツィエと名を出しただけで剣を抜かれるとは………。

 先程地上ではこちらをマテオの使者と勘違いして降伏を申し出てきたというのに何故今剣を突き付けてきたのだ?」

 

 

 

「…それは「このシャイドと余を守るためだ。」……!」

 

「オサムロウはソナラ等の中にバルツィエがいないものと思ってここへと招いたのであろう?

 マテオに降伏すると言うのは真だがそれは我等一族の安全を確保するためのもの。

 しかしここへ来てバルツィエがソナラ等の中に紛れていた。

 降伏への調印も済ませておらぬのにバルツィエにこの地下都市の存在を知られてしまってはこの都市ごと我等一族がバルツィエに埋葬されてしまうやもしれぬ。

 何せ我等は既に地の底へとおるのだからな。

 ここでバルツィエの大火力魔術が放たれれば一貫の終わりだ。」

 

「…族長の言通りだ。

 地上ではマテオの先兵ではなく亡命者だと聞いたのでな。

 亡命者であるのならバルツィエではないのだと先入観でとってしまい先に何者であるのかを聞き損じた。

 我の失態だな。

 

 ………あのブルータルヴェノムを倒す技量があるなら只者ではないだろうにまさかバルツィエの者が亡命してくるとは………。

 

 …真にバルツィエの亡命者なのか?

 地上に見えぬ我等のことを探し出すためにここまで連れてこさせたと言うのではないのだな?」

 

 

 

「さっきからそう言ってるじゃない!?

 何度言ったら信じるの!?」

 

 

 

「ソナラ等には気を悪くさせて申し訳ないがこれも我が部族の安全を確立するためなのだ。

 疑り深くなってしまい重ねて詫びよう。

 …名も知れたことだしな。

 そこの少年は奥で休ませることにしようか。」

 

 

 

「………はい………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………して全員がこのシャイドに仇なす者等ではないと分かったところで………ソナタ等はどのようにしてここまで辿り着き地上にてヴェノムの主を討伐したのだ?」

 

「大体の検討はつくが大方マテオで早期に開発されたと聞く“ワクチン”とやらが関係しているとは思う。

 …だがギガントモンスターを倒すのには例えエルブンシンボルや質の良い武具を拵えてもそう簡単なことではない。

 たった五人でアレを討ったと言うのは俄には信じられん。

 

 マテオでは………、

 何かまた特殊な武器でも開発されたのか?」

 

 

 

「…俺達の事情………、

 話してもいいのかな?」

 

「信用を得るためには事実をありのままに話すべきだとは思いますよ。」

 

「けど私達の話信じてもらえるかなぁ………?」

 

「また剣を向けられてはかなわん。

 謀るような真似をしたら今度こそ首を跳ねられそうだしな。」

 

「………では話します。

 

 

 

 俺達がどうやってあのブルータルを倒したのか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なるほど、

 ソナタ等はそのマテオの最果ての地にある殺生石とやらの力を旅の経緯で授かったのだな?」

 

 

 

「はい。

 偶然ではあったんですが………。」

 

 

 

「それで亡命してきたのはマテオの………、

 バルツィエの提示する政策に異常性を感じ一部の騎士を引き連れてこの地まで亡命した………と。」

 

「その亡命してきたのは五人だけなのか?

 他に仲間はおらぬのか?」

 

 

 

「他の仲間は「仲間とは追っ手を巻く際にはぐれたんだ。」………ウインドラ。」

 

「…仲間達は恐らくダレイオスの何処かへと辿り着いているだろう。

 その内あいつ等とも運が良ければ合流することになっている。」

 

「「「………」」」

 

 

 

「そうか………。

 それならば良いが………。」

 

「………?」

 

 

 

「…今度は此方から話を聞いてもいいか族長殿?」

 

 

 

「うむ。

 何だ?」

 

 

 

「この国ダレイオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時からこうなっているんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………こうなっているとは具体的にどのことを指して聞いておるのだ?」

 

 

 

「この穴蔵から始まってこの惨状全てのことについてだ。

 マテオではダレイオス全体がこのような状況に陥っていることなど耳に入ることすらなかった。

 バルツィエが躍起になって戦争を仕掛けよう仕掛けようとはしていたから俺達はダレイオスへと亡命しバルツィエからくすねたワクチンをダレイオスで解析してもらいダレイオスの武力向上を狙ってこの地までやって来たんだ。

 

 

 

 ………それだと言うのにこの光景を目にしたらそれも………。」

 

「………」

 

「ワクチンは………まだ残ってはおりますがここで解析など可能なのでしょうか………?」

 

「その前にダレイオスがマテオに敗けを認めるってのもどうなってるの?」

 

 

 

「ワクチンか………。

 それを解析できるとしたらクリティア族なのだが彼等はとうにここにはいない。

 彼等や他の部族達も前のマテオからやってきたバルツィエの襲撃を機に出現したヴェノムの主に故郷の地の同胞達を案じて帰郷していった。

 そのワクチンを渡されても余の同胞に解析できる者などおらんよ………。

 

 マテオに降伏する件についてだが………。」

 

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………もうずっと昔から降伏する予定だったのだ………。

 二十年前この大陸の西側にあった大都市“ゲダイアン”をマテオのバルツィエに攻め滅ぼされた時から………。」



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固く揺るがぬ決意

 カオス等一行はスラート族の隠れ潜む秘密の地下都市シャイドにて先程の降伏宣言と剣を突き付けられたことの顛末を聞く。

 ダレイオスが降伏を決めたのはどうやら過去に存在した都市が関わっているようだが………。


スラートの地中都市シャイド 族長邸

 

 

 

「ゲダイアン………?」

 

 

 

「ダレイオス一大きな都市でな。

 かつてはゲダイアンがこの国の首都だった………。

 今や見る影もなく荒れ地と化したのだが………。」

 

 

 

「西にあった都市で………荒れ地になった………。

 そこって………!」

 

「レイディーが私達に帰る際はそこを通れって言ってた西の荒野のことじゃない?」

 

「その荒れ地と言うのは………マテオの世界地図にも乗ってるこの地図のこの辺りのことか?」ピラッ

 

 

 

「ほう………。

 マテオではダレイオスの地も地図に乗っておるか………。

 ………そうだ。

 この辺りだ。

 このダレイオスの約三分の一を占める荒野の中心にゲダイアンがあった。

 このゲダイアンを中心にしてバルツィエが大火力魔術を放ちこの地方は荒野へと変わったのだ。

 ………あんな魔術を見せつけられてはダレイオスに勝ち目はない。

 だから我等スラート族はマテオに対して抗わずに降伏することを決めたのだ。」

 

 

 

「バルツィエの大火力魔術………?

 そんなものがあるとは聞いたことがないぞ………。

 それに二十年前………?」

 

「あのバルツィエの方々は常人と比べても桁違いの魔力を持っています。

 それに加えてこのような………大陸の一帯を荒野へと変えてしまうような魔術があるのではとても抗うことなど………。」

 

「その大火力魔術って人一人が放つ魔術だったんですか?」

 

 

 

「それを詳しく知るものはもうおらぬ。

 あの大魔術を放たれた際に近場におったものは皆被爆し爆破を逃れた者もとんでもない光に街が包まれたと言い残しその後死に絶えた………。

 あの魔術の恐ろしいところはあの魔術の光を浴びた全ての生物を死の呪いにかけるところだ。

 光を少しでも浴びたらそこから体を蝕みやがて全身に巡り最期には死を迎える………。

 まるでヴェノムが光となって襲い掛かってくるようなものだった。

 その後もあの荒野へと足を踏み入れる者は同じ呪いにかかる。

 あのゲダイアンがあった都市周辺は今も死の都として死を振り撒き続ける恐ろしい土地となっている。

 ………もしあの大火力魔術が今度はこの東側へと放たれれば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスは死の大陸へと変えられてしまうだろう。

 だから我等スラートはマテオと争うことを放棄したのだ。

 スラート一族が一人残らず滅ぼされぬようにな………。」

 

「降伏についてはスラート一族一同が納得した上での決断だ。

 皮肉な話になるが他の部族達がこの地を去ったのもあってこの総意で可決した。

 他の部族は降伏せずダレイオスでマテオを迎え撃とうとしている部族と我々のようにマテオに降伏をしようとする部族の二つに別れたが今はどの部族もここと同じように隠れ潜んでいるだろう。」

 

 

 

「それは地上から話に出ていた“ヴェノムの主”とやらが出没しているからか?」

 

「あれってそんなに危険なの?

 確かに手強かったけど………私達で倒せたくらいだしダレイオスの人達が本気を出したら倒せそうじゃない?」

 

 

 

「………ソナタ等はマテオからの来訪者であろう?

 ダレイオスがヴェノムをどのようにして駆逐しておるか分かるか?」

 

 

 

「ダレイオスの人達が………?

 ……………ワクチンとかも無いって聞くし普通に穴とか掘ってそこへ誘導して飢餓するのを待つだけじゃないの?」

 

 

 

「そう、

 我々はマテオのような高い科学力や薬学を持たぬ。

 ヴェノムが出現したらダレイオスでは魔術で穴を掘りそこで奴等が死ぬのを待つしかない。

 ダレイオス全土がその方法でしか倒せないのだ。

 

 しかし奴等の増殖はそれだけでは止まらぬ。

 ヴェノムはあらゆる生物へと乗り移っては増え生息地を広げていく。

 いくら倒しても奴等が増えるのをダレイオスは止められぬのだ。

 時折ヴェノムを退治しに向かった者でさえ帰ってくる頃には同じくヴェノムに成り果てる始末………。

 

 

 

 ………そこへ来てあのヴェノムの主の出現………。

 奴等の機動力を持ってすれば我々ダレイオスの穴堀など階段の段差をかけ上るかのように越え出てくる。

 あれらをイチかバチか大穴へ落とし飢餓させようとして編成し出撃した我がダレイオス軍が何度全滅させられたことか………。

 その軍ですら他の部族達が帰途したことで瓦解した………。

 後にヴェノムの主にはヴェノムの常識が通用しないことが発覚したことが一国として統一されていた部族達の再分裂の決め手となったのだ。」

 

「我等ダレイオスは何処へ行っても安全な地など存在しない。

 頼みの綱のクリティア族ですらヴェノムの研究を途中で投げ出す程にヴェノムの生態の研究が難しいものらしい。

 

 ダレイオスは何もかもが詰んでおるのだ。

 マテオのような科学技術、軍事力、薬剤学でも無ければ戦争を再開したとして勝ち目などない。

 これがダレイオス国家延いてはスラート族の総意だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝てない勝負に挑み続ける精神などあるだけ無駄なのだ。

 ダレイオス一の戦闘部族スラートですらも上には上がいると言うことはこの百年で十分に身に染みた。

 例え善戦したとしても失うものが多すぎる。

 それでは何の意味もない。

 戦って得るものが何もないのなら我等はどのようにすれば少しでも永く種が存続し続けられるか………

 それは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敗北を認めそこからどう勝者マテオに服従できるかをただ考えるだけだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 

「戦えば敗北は確実。

 なら服従の道ならば種の根絶だけは防げる。

 我等がスラートが生き残る道はその服従の道ただ一つだけだ。

 このままダレイオスとマテオの沈黙が長引くだけ我等にはどんどん事態が悪くなる一方………。

 片やマテオはつい先日になるがアイネフーレ族が構えていたダレイオスとマテオの国境沿いの砦にて大規模な魔術攻撃がマテオから放たれたようだ。

 ソナタ等の話ではもうマテオはダレイオスへと進軍は間近へと迫っておるのであろう?」

 

 

 

「マテオが大規模な魔術攻撃を………?

 そのような話ならレサリナスで俺なら聞くとは思うが………。

 そんな攻撃は開始されてはいなかったぞ?」

 

 

 

「そんな筈はない。

 現に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリアナス砦からマテオまでにあった大陸と大陸を繋ぐ道が粉々に粉砕されておったからな。」

 

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 

 

「放たれた魔術は恐らくゲダイアンを攻撃した魔術とは別種のものだとは思うがあれによりダレイオスは完全に陸路での活路を絶たれた。

 基よりダレイオスには戦う意思はないがこれでは降伏を示そうにもあちら側から出向いて来てもらう他ない。

 我等ダレイオスは二十年前から幾度となく降伏の意を示そうとマテオに白旗をあげてはいるが近場まで我等が出向くとたちまちバルツィエの魔術で撃退されて来た。」

 

 

 

「そんな前からダレイオスはマテオに降伏しようとしていたのか………。

 だが降伏して終わるような話だと思っているのか?

 マテオは………、

 バルツィエは建国当初の小国時代からずっと敵国を殲滅して大きくなっていった連中なんだぞ?

 バルツィエは降伏を受け入れたとしてもその相手側の王や民族の長の家は例外なく処刑してきた。

 …となると族長の命は………。」

 

 

 

「それも覚悟のうちだ。

 スラートが滅びぬためなのなら余の命、

 喜んで差し出そうぞ。

 それで部族がヴェノムの脅威から逃れられると言うのならな。」

 

 

 

「それがどういうことになるのか分かっているのか?

 ヴェノムから逃れられたとしても今度は部族全体がバルツィエの奴隷として酷い扱いを受けるのだぞ?

 そんなことでスラートが生き残ったと本当に言えるのか?」

 

 

 

「それでもだ。

 生きてさえおればいずれは人は己の過ちに気付く。

 バルツィエも世界を掌握してからいつかは改心する時が来るだろう。

 

 一度バルツィエは過ちに気付きかけたのだ。

 再び過ちの道を突き進んでおるのだろうがそれも時が来るのを待てば良い話………。

 

 ソナタ等はダレイオスへと援軍に参ったそうだが遥々とこの地へ訪れたのに悪いが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオス国家の降伏方針は変わらぬ。

 ダレイオスは戦うだけが全てではないと悟ったのでな。

 真に申し訳ないがそのワクチンとやらもソナタ等から受けとるわけにはいかん。

 それを受け取ってしまえばマテオに反抗の意と汲まれるやもしれぬからな。」



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ダレイオスとの共闘に至る理由

 カオス等一行はスラートの族長ファルバンからかつてダレイオスに存在した都市ゲダイアンがバルツィエによって一瞬にして滅ぼされたことを聞く。

 ゲダイアン消滅の際に使用された魔術を恐れてダレイオスは戦意を喪失しているようだが………。


スラートの地中都市シャイド オサムロウ邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソナタ等は今日はこの我の住まいで休むといい。

 地上の家々よりは少し小汚ないがヴェノムの主の出現によってヴェノムが繁殖しているかもしれぬからな。

 地上よりは安全の筈だ。」

 

 

 

「有り難うございます………。」

 

「「………」」

 

「………」

 

 

 

「あぁ、

 それでは我は他の仲間達が今地上の街の周辺を調べておるのでそれの助太刀に「待ってくれ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一つだけ話を聞きたい………。」

 

 

 

「………何だ?

 話してみよ。

 降伏の件ならもう決定事項故我でもうどうにもできんぞ。」

 

 

 

「…ダレイオスはマテオの大火力魔術とやらを恐れて降伏をしようとしているんだろう?

 俺は騎士団に所属していたから分かるんだがバルツィエはそんな魔術を開発したと言うのは聞いたことがないぞ?

 そんな魔術をバルツィエはダレイオスへと放ったりなどはしていない筈だ。

 そういう記録すら残っていない。

 実際にはダレイオスの西側のことについてはだな、マテオでは「それでもだ。」…!」

 

 

 

「…例えバルツィエが大火力魔術を持っていようが持っていなかろうがダレイオスが敗北を認めることに変更はない。

 以上だ。」

 

 

 

「何故だ!?

 何故そうすんなりと受け入れられる!?

 このダレイオスの国全体がバルツィエの支配下に置かれるのだぞ!?

 そうなったら見せしめに殺される者や生きていても死んだ方がマシなようなことをされる!

 前回バルツィエに敗れた小国の連中がどうなったか知ってるか!?

 そいつ等は大した資源も持っていなかったから男は全員危険なモンスターやヴェノムが多く生息している鉱山奴隷で死に、女はバルツィエ傘下の者等に慰み者として扱われ誰の子なのかも分からぬまま孕まされたりして醜くなったら殺され今じゃそんな国の奴等がいたこと事態が記録にすら残されないそんな扱いを受けていた!

 マテオが大きくなるに連れてバルツィエは捕虜に対する扱いに歯止めが効かなくなっている!!

 今現在世界の半分を掌握しきったバルツィエがダレイオスそのものを飲み込めば遂に奴等には誰もが逆らうことすらできない強大な存在へとのしあがる!!

 そんなことを許していいのかダレイオスはッ!?

 次に狙われているのはこの国なんだぞ!?

 今度は捕虜に対してどんな扱いをするか………。

 ヴェノムを恐れて降伏したと言うのであればヴェノムと戦わされたりワクチン開発のために人体実験なども行使するかもな!

 それでも貴様らはマテオへと降伏をしようと言うのか!?」

 

「ウインドラ!

 ちょっと落ち着いて!!」

 

「民を思っての決断なのですよ?

 それこそ想定しての決断なのでしょう………。」

 

「そうだよ!

 この人にどう訴えても部族全体のことを言われたら私達にはどうすることもできないよ!?」

 

「…!!

 だがそれでは俺の仲間達が何のために死んでいったのかが……!!」

 

 

 

「仲間達が死んだ………とは?

 先程の話ではソナタ等の仲間達とははぐれたと申してなかったか?」

 

 

 

「!

 ………レサリナスで逃げる際に犠牲になった仲間達のことだ………。

 あいつ等が犠牲になって俺達の部隊がダレイオスへと渡れたんだ。

 その仲間達ももうじきここへやって来るだろう。

 俺の部隊は強いぞ。

 平隊員の俺でさえバルツィエの一人を討ち取れるほどの部隊だ。

 俺達の部隊がこの街の戦士達に加わればバルツィエにだって勝つ………。」

 

 

 

「バルツィエの一人を討ち取っただと?

 ソナタがか………?」

 

 

 

「あぁ………。

 つい最近な………。」

 

 

 

「………その言に嘘は無さそうだな。

 ………だがそれだけが全てでは無いのだろう?」

 

 

 

「俺の今言った内容が全てだ!

 他に何を疑うんだ!?

 俺達の力をお前達と合わせればきっとバルツィエだけでも「もうよい、休め。」なっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言葉で事実をまくしたてれば我等の気が変わると思っておるのだろうがソナタ等にはまだ我等には話していない別の事実もあるのだろう…。

 そのことについては深く追求はせん………。

 ソナタがバルツィエを討ち倒せるほどの技力を持っておるのはヴェノムの主を倒したことでよく分かっておる。

 

 しかしな、

 我等はもうこの百年でヴェノムとの戦いを嫌と言うほど経験してきた………。

 

 戦いは………、

 もう疲れたのだ………。

 我等の仲間達は戦えば戦うほど数を失っていきヴェノムは逆に増えていく………。

 この国は百年前にヴェノムが現れてからずっと戦いと逃避の時を積み重ねてきた。

 日常のすぐ隣に現れるヴェノムと時折攻撃してくるバルツィエの板挟み………。

 この地獄は一体何時まで続くのか………。

 何時になったらこの地獄は終わってくれるのか………。

 それを考えたときに皆が気付いたのだ………。

 

 

 

 いっそ支配されてしまえばこの地獄から解放されるのではないかと………。

 いつしか皆はそう考えるようになっていった………。

 疲弊した精神によって正常な決断だったとは言えないがこんな我等にまだ戦いを強いるのは冷酷に過ぎないか………?

 我等とて人だ。

 他の種族からはバルツィエのような争いを好む傾向があるように思われておったが我等も争いを回避できるなら回避したいのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スラートの地中都市シャイド オサムロウ邸 部屋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あそこまで言われてしまっては何も言えなくなるが………。」

 

「昔から聞いてたダレイオスの話となんか違うね…。

 私達の村ではダレイオスってもっと戦争がしたい国だって聞いてたのに…。」

 

「戦時中と言うのなら自国の教育では国民を国の不摂生から目をそらさせる為に敵国のことを多少着色して悪く言うものです。

 そうすれば自国の民は戦争に賛同しやすくなり軍の指揮も高まる………。」

 

「けどダレイオスはもう戦うことはしたくないみたいだね………。

 軍隊もあったようなこと言ってたけどそれもないみたいだし………。」

 

「軍が無くなったと言うのは流石に想定外だ………。

 俺達はダレイオスの強力な力と俺達の部隊とでマテオに対抗しようと思っていたんだ。

 …その両方が存在しないだと………。

 これではバルツィエに制圧されるのを待つだけではないか………。」

 

 

 

「………そもそもどうしてダレイオスをそんなに宛にしてたんだ?」

 

「どうして………?」

 

「だってマテオにいた時はダレイオスの情報なんてウインドラ達には入ってこなかったんだろ?

 バルツィエが独占してたとかでさ。

 バルツィエは戦争が始まったら反抗的な部隊を最前線に立たせて戦わせて共倒れを狙っていたって聞いたけどこんな状態のダレイオスと戦わされるんなら別にウインドラ達の部隊は犠牲になんてならなかったんじゃないか?」

 

「!

 そうですよね…、

 ウインドラさんだけでもバルツィエ並みの実力をお持ちのようですし正面きって戦えばやはりマテオ側に軍配が上がると思うのですが………。」

 

 

 

「俺達が何故ダレイオスに対して過大なイメージを持っていたかか………。

 それはダレイオスにいると予見されていたとある“都市伝説の集団”からだな。

 バルツィエも奴等の存在を肯定はしなかったがその話題が出てから戦争に急ぐようになった………。

 そしてその戦争で俺達をそいつらに宛がおうとしていたんだ。」

 

 

 

「とある都市伝説の集団………?」

 

 

 

「あぁ………、

 ダレイオスがマテオに対抗するために作り出された超大規模魔術士組織………、

 レサリナスではそいつらのことをこう呼んでいた………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “大魔導士軍団”………とな。」



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大魔導士軍団

 カオス等一行はファルバン達ダレイオスの部族達がマテオとの戦う意思の放棄を受け困惑する。

 一行の中でもダレイオスの戦力に期待していたウインドラはファルバンから聞かされた話を聞いてマテオでのゲダイアンの情報との食い違いを訴える。

 どうやらマテオではゲダイアン消失の一端はダレイオスにいるとされる大魔導士軍団なる組織が原因だったと言うが………。


スラートの地中都市シャイド オサムロウ邸 部屋

 

 

 

「「「大魔導士軍団………?」」」

 

 

 

「そいつらはある事件が切っ掛けでダレイオスに存在しているとされてマテオとヴェノムに対抗するためにダレイオスが選りすぐりの魔術士を集めて組織された秘密結社のような集まり………と言うように当時はレサリナスでは噂されていたらしいぞ。」

 

「ある事件………?」

 

「何が起こってそのような噂が飛び交っていたのですか?」

 

 

 

「………先程の族長達の話で出てきたゲダイアンと言う大都市のことがあってだ。」

 

 

 

「ゲダイアン?

 それってバルツィエが大火力魔術とかで攻撃して無くなった都市なんだろ?」

 

「何故それでそのような組織の噂が………?

 バルツィエがその都市で何か発見でもしたのですか?」

 

 

 

「違うんだ。

 バルツィエは実際にはそのゲダイアンが無くなった時攻撃などしていない。」

 

 

 

「え?

 けどさっきスラートの族長とオサムロウって人がバルツィエが大火力魔術とかで攻撃してきたって………。」

 

 

 

「その情報が間違っているんだ。

 バルツィエはそんな魔術など持っていない。

 レサリナスでバルツィエの研究所に潜入した俺だから分かる。

 バルツィエは新兵器の開発などはしていたがあくまでもそれはバルツィエに持たせて戦力のアップに繋がる白兵戦の類いのものだけだ。

 そんな大規模破壊兵器のようなものを作って万が一俺達のような内部の敵に渡ってバルツィエが窮地に立たされるような物は開発などは一切禁じている。」

 

 

 

「?

 ではダレイオスのゲダイアンは一体何故無くなってしまったのでしょうか………?」

 

 

 

「そこが俺にも分からないんだ。

 ゲダイアン………と言う名前の都市だったと言うのは初めて聞いたがあそこの都市が大爆発を起こして無くなったことはレサリナスの報道の記録には残っていた。」

 

 

 

「さっき族長達との話で記録には残ってないって言ってなかった?」

 

 

 

「俺が記録に残ってないと言ったのはバルツィエの出撃についてだ。

 バルツィエは数年前に開戦の糸口の為に無断でタレス君の村を襲った件ですら騎士団の記録として残していた。

 ダレイオスが弱りきっていることを評議会に報告して戦争の賛同を得やすくするためにな。

 

 ………なの二十年前のダレイオス西側の大都市消失の件だけは何の記録も残されていない。

 あの当時はダレイオスで何かが起こってダレイオスの約三分の一の地が焼け野原となったと言うことだけ報道で伝えられた。

 

 この件でマテオではダレイオス側に“大魔導士軍団”という連中がいてそいつらが魔術実験のために新術の開発でダレイオスの大都市消滅という事件が起こったと街中が噂していたそうだ。

 だからマテオではダレイオス側の実験の失敗で西側が消滅したのだと思われていた。」

 

 

 

「それでか………。」

 

「でも何で族長達はバルツィエが大火力魔術とかで攻撃してきたと思ったのかな?

 その話が本当ならバルツィエはダレイオスに行ってないんでしょ?」

 

 

 

「この百年でダレイオスの敵と言ったらヴェノムかマテオのバルツィエぐらいしかいなかったからだろう。

 ヴェノムはそんな爆発を起こすような生物ではないがバルツィエならそのぐらいの破壊もやってのけるだろう………と。

 しかし実際にはバルツィエは無関係の筈だ。

 奴等がそんな無差別級の破壊兵器など開発する訳がない。

 奴等はある一定レベルの武具が流通することにすら制限をかけるからな。

 

 

 

 この話を纏めるとダレイオス西側の件についてはダレイオス側はバルツィエの攻撃だと思い込んでいてマテオではダレイオスの自爆だと言う話になっている………。

 俺達はダレイオス軍に大魔導士軍団なる者達がいてそいつらにバルツィエと戦ってもらい代わりに俺達がダレイオスでヴェノムの相手をする交渉をする話になっていた。

 大魔導士軍団の確認だけはレサリナスでの騎士団での都合上無理だったが何とかダレイオスまで辿り着ければマテオで大魔導士軍団と噂されるような部隊でもいるのかと思ってたのだが………。」

 

 

 

「そんな人達はいなさそうだったな………。

 なんせお互いがお互いそのゲダイアン消滅の事件を相手側の攻撃だって言ってるんだから。」

 

「では………?

 大魔導士軍団なる方々は一体どこの所属の組織で何故ゲダイアン周辺を爆撃したのでしょう………?」

 

 

 

「ダレイオスは九ある部族がマテオと戦うために統一したと言っていた。

 そしてその統一された国での権力を持ったのスラートだ。

 となるとそれを面白く思わなかった他の部族が考えられるな。

 この間の夜のタレス君の話を思い返してみれば可能性があるのは生き残っている他の七つの部族達の中のどれか………。」

 

 

 

「ブロウン、アインワルド、ブルカーン、ミーア、アイネフーレ、クリティア、カルトのどれかか………。」

 

「そのどこかの部族がゲダイアンを襲撃………。」

 

「でもそのゲダイアンってところも全部族がいたんでしょ?

 もし爆撃したって言うなら同じ部族の仲間もいたんじゃない?

 仲間がその街にいたなら攻撃なんてできないでしょ普通………。」

 

 

 

「………もう一度話を聞いてみる必要があるな。

 爆撃された当時のことを覚えてるかは分からないがその爆撃の日だけどこかの部族がゲダイアン周辺から離れていたかもしれん。

 もし爆撃の日にゲダイアンから離脱していた部族がいたのなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その部族が大魔導士軍団の可能性がある。

 オサムロウ殿が帰ってき次第また話を聞くとしよう………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ反対ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ミシガン………。」

 

「ねぇ?

 どうしてそんなこと聞く必要があるの?

 その大魔導士軍団とか言う人達って本当にいるのかどうかも分からないんでしょ?

 族長さん達の話じゃあバルツィエの人達がやったって言ってるんだしそれにもう族長さん達もダレイオスの他の部族の人達も争いたく無いって言ってるじゃない?

 だったらもうウインドラがするべきことは何も無いんじゃないの?

 ならもう私達とミストに帰ることだけに集中しようよ?

 ね?」

 

「…俺は皆の仇を討たねばならない。

 ミストに帰ると言うのなら絶対にバルツィエとの戦いは避けては通れないんだ。」

 

「何でよ!?

 ただこのまま東に向かって突き進んでどうにかして海を渡るだけじゃない!!

 バルツィエがいるのなんて逆方向でしょ!?

 何でバルツィエが出てくるの!?

 それに戦いたくない人達に戦いを強いるのなんてそんなの無茶苦茶じゃない!?

 それなのにどうしてまだ戦わせようとするの!!

 ウインドラちょっとダレイオスの人達のことを道具みたいに見てるところあるんじゃないの!!?」

 

「もうこれしか方法が無いんだ!!

 バルツィエを討つには!!

 今この国で!!

 この大魔導士軍団に賭けるしか!!

 これに賭けないと世界は………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエによる独裁政治の歴史が開かれてしまう………。

 そうなってしまえばミストを含めた全世界が奴等の思い通りの世界だ………。

 あんな苛烈な集団が支配する世界などは地獄と何ら変わらない………。

 まだヴェノムに世界が飲み込まれてしまった方がいくらかマシだろう………。」



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バルツィエによる征服の結末

 カオス達はウインドラからバルツィエに反旗を翻したウインドラ達の部隊ダリントン隊はマテオで噂されていたダレイオスの都市伝説組織大魔導士軍団との協力を得てバルツィエと対抗しようとしていたことを聞かされる。

 ゲダイアン消失にはバルツィエは関わっていないためダレイオスには大魔術を駆使する未明の組織が存在している筈だとウインドラは言うが………。


スラートの地中都市シャイド オサムロウ邸 部屋

 

 

 

「ミストが………思い通りって………どういうこと………?」

 

 

 

「ミストは十年前からレサリナスでも既知の村となった………。

 ならそう遠くない未来にミストにはバルツィエの家から誰かが派遣されるだろう………。

 そうなったらミストはもう穏やかな村ではいられなくなる………。」

 

 

 

「何でミストみたいな遠くの村に………?

 だってあそこは何もないただの村なんだよ?」

 

 

 

「ミストの立地的にはあそこがマテオの最南端だと言うことは分かるか?

 つまりあそこに強固な砦にができればレサリナスからその区間までで反乱でも起こった場合レサリナスとミストの砦で反乱を食い止めやすくなる。

 ………ミストはな。

 

 

 

 今バルツィエ達の間では最も拠点を置きたい場所に指名されているんだ。」

 

 

 

「そんな………!

 でもミストは村長達が作り上げた村なのに!?」

 

「そうだよ!!

 お父さん達が作った村をそんな勝手に砦なんかにさせたりしないよ!?」

 

 

 

「十年前にミストはヴェノムの出現によってレサリナスを頼ってしまった………。

 そしてミストには今は騎士団が駐留し封魔石も置かれている。

 その時からもう既にあの村はマテオ国のものとなった。

 バルツィエが全世界掌握仕切ったらもう何者もバルツィエに逆らうことを許されない世界に変えられてしまう。

 ミストはその手始めに利用されるだろう。

 村の連中も強制労働力として使われる。

 封魔の恩恵を受けている義理を押し付けられてな。」

 

 

 

「どうしてそんなことに……!?」

 

「けどマテオの南側は通ってきたけどあの辺りは全然バルツィエとかが支配するとか言う話は出てなかったよ!?」

 

「私達は地図にあるマテオの南半分の街を訪れましたがあの付近は冒険者の賑わう街でした………。

 そこを支配しようとすればマテオ国民から大批難を浴びせられると思いますが………?」

 

 

 

「そんなものは世界の支配者にとって民衆の戯れ言でしかない………。

 自分達の道理をこれまでずっと力で通してきた連中だ。

 今までのバルツィエは強国の地位の高い貴族でしかなかったが世界を手にしてしまえば“世界の権力者”になる。

 そこまで上り詰められてしまっては世界がバルツィエの言いなりだ。

 逆らう者等全てがテロリストだ。

 バルツィエの誰かの一声で誰もがテロリストと称されて一斬りで消されてしまう世の中になってしまうんだ………。

 だから俺達ダリントン隊は何としてもそれを未然に防ぎたかったんだ………。」

 

 

 

「じゃあ私達がミストに帰ってもその頃には………。」

 

 

 

「………まだだ。

 まだ分からない。

 まだダレイオスはマテオに敗北を伝えられてはいない。

 何としてもダレイオス側には降伏を思い止まってもらってから俺達で大魔導士軍団を捜しだし協力を仰ぐんだ。」

 

 

 

「ですが大魔導士軍団が存在したとして自国の領土、それも主都を焼き払うような方々なのですよ?

 そのような方が私達に協力をお願いして引き受けてもらえますでしょうか?」

 

「そいつらがゲダイアンを攻撃したのはスラートがダレイオスの上に立ったからって理由なんだろ?

 そんな奴等と手を組んだりしたらバルツィエの変わりにそいつらが世界を滅茶苦茶にするんじゃないか?」

 

「って言うかそんな人達味方にしてもいいの………?」

 

 

 

「暴走する可能性はあるがバルツィエが支配する世界よりかはまともになる筈だ。

 そいつらがゲダイアンにテロを起こしたのは部族として下に見られたからだと推測できる。

 それほどプライドの高い連中ならバルツィエに対しても同じように爆撃してくれるかもしれん。

 危険な軍団だとは思うがもうバルツィエに勝つにはこいつらをぶつけるしか他に方法はない。

 

 

 

 ………ミストをバルツィエの魔の手から守るためなんだ。

 大魔導士軍団の手掛かりを探すだけでもいいから皆協力してくれないか………。

 この通りだ!」ペコ…

 

 

 

「………」

 

「ミストを守るためって言うのは分かったけどそんな危ない人達のことを捜したりなんかしてアローネ達に何かあったりしたら………その時はどうする?」

 

「私達だけではありませんよ?

 カオスも含めてです。

 それに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方も危険なのですよ?

 ウインドラさん。

 そのようなテロを起こすような方々に自ら近付こうとなんかしたりして………。」

 

 

 

「危険なのは承知している。

 だが俺にできることと言ったらもうこれくらいしか…。

 このくらいでしか………ミストを守れないんだ………。

 ミストを守るために出ていったのに俺はもう皆に頭を下げて頼み込むことしか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………分かったよ。」

 

 

 

「ミシガン………!」

 

「………ミシガンいいの?

 これにつき合ってたらミストに帰るのがもっと先に延びちゃうんだよ?」

 

「どうせミストに帰ってもバルツィエが世界を征服したら私達の村を荒らしに来るんでしょ?

 それだったらそんな人達が来ないように何かできることをできるときにやっておきたいの。

 

 

 

 ………もう蚊帳の外なことは御免だしね。」

 

 

 

「………助かるミシガン。

 だが情報を集めてくれるだけでいいんだ。

 そいつらの所在が分かれば俺が直接交渉する。

 カオスやミシガン達は安全な場所で待機するかミストへと先に「何言ってるんだよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミストのことが関係するなら俺だって無関係じゃないだろ?

 ………元を辿れば俺のせいでミストがバルツィエ達に狙われることになったってんなら一番俺が働かなきゃいけないだろ?」

 

「元を辿るのであれば私の身内がバルツィエを生み出したのです。

 カタスは良かれと思いバルツィエを手を貸したようですがそれが今の世界を揺るがせているのなら私にも鎮めなければならない理由があります。」

 

 

 

「カオス………、

 アローネ=リム………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ボクもお手伝いしますよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!」」」

 

 

 

「タレス!

 起きたのか………?

 まだ休んでてもいいんだよ?」

 

 

 

「いえ………、

 ボクたけダレイオスの為に何もしない訳にはいきません。

 ダレイオスが生きるか死ぬか………、

 今はもうその域です。

 そんな時に落ち込んでばかりはいられません。

 ………アイネフーレ族のことについてはショックでしたが昔からダレイオスでは“バルツィエによる世界統一”と“ヴェノムの世界終末”だけは避けられない未来だと教えられてきたのでそこまで深くはショックを受けませんでした………。

 現実に直面した時は少し受け止めきれませんでしたが………。」

 

 

 

「本当に大丈夫なのか………?」

 

 

 

「大丈夫です。

 問題ありません………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 捜しましょう。

 大魔導士軍団を!

 そんな人達がダレイオスにいると言うのなら捜しだして一緒にバルツィエを倒すんです!

 バルツィエさえ倒せばマテオもダレイオスも平和な世界になるんですから!!

 ボク達とその大魔導士軍団とでこの世界をバルツィエの手から守るんです!!」



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エルフの在り方

 ウインドラは世界がバルツィエの手中に収まればカオス達の故郷ミストも反乱を防ぐためにより強固な砦に改築されてしまう可能性を示唆する。

 カオス等はその流れを阻止すべく大魔導士軍団を見付けるために調査を開始するが………。


スラートの地中都市シャイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あの流れで街の聞き込みをしてみたけど皆どうだった………?」

 

「当時のゲダイアンの様子を知っていた方に会ってお話はできましたが……。」

 

「…その反応だと私も同じような答えだと思う………。」

 

「ゲダイアン消滅時にゲダイアンから離れていた部族が怪しいと踏んで調べ回っていたがもしかしたら俺の推測が外れていたのか………?

 あるいは………。」

 

「思いの外ゲダイアンのことを知ってるスラートの人達が多くいたようですね………。

 ………ですけどこれで逆に分からなくなりました………。

 大魔導士軍団がダレイオスの部族のどれかなのだとしたら一番可能性が高いのが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかアイネフーレだったとは………。」

 

 

 

「何かの間違いだと思ってゲダイアンから距離を置いていた次席の部族も探ったが今度はスラートだった。

 スラート族の生き残りはもうこの街にいるだけらしい。

 そのスラート族が降伏を願い出ているのならスラートは大魔導士軍団ではない。」

 

「スラートとアイネフーレのどちらかが可能性が高いんだろうけど………。」

 

「タレス君、

 アイネフーレってさ………、

 そんな大きな街を破壊できるような部族じゃないよね?」

 

「アイネフーレは潜伏とか警戒とかそういった専門で魔術に関してはあまり他部族の中でも強い方では無いんです………。」

 

「では反対に大魔導士軍団が組織されそうな高い魔力を持つ部族ならどうなのですか?」

 

「高い魔力ならブルカーンとブロウンが上げられますがゲダイアンではその二部族が多かったそうです。」

 

「………そうですか………。」

 

「じゃあさ?

 魔力が高いとかじゃなくて大都市を消滅させるくらいの魔術を開発できそうな部族とかっていないの?」

 

「それですとクリティア族ですが………クリティア族はあまり好戦的な種族ではなく研究熱心な種族でしてゲダイアンでもやはり比較的に多かったそうです………。」

 

「クリティアも違うか………。

 残っているのは後………フリンク、アインワルド、ミーア、カルトの四部族だけか………。」

 

「考えれば考えるほど分からなくなりますね………。

 一体どの部族に大魔導士軍団が所属しているのやら………。」

 

「他の部族のことも俺が聞いておいた。

 そしたらアイネフーレとスラートがダレイオスのそれぞれ北東と東に村が集中しているためゲダイアンでは少なかったらしい。

 他の七部族についてはゲダイアンではほぼ同じくらい数がいたんだそうだ………。

 仮にゲダイアンを攻撃した大魔導士軍団が七部族の中にいるのだったら同族を巻き込んだ大規模なテロを慣行したことになる。

 だがアイネフーレがその大魔導士軍団だった場合は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう大魔士軍団はこのダレイオスにはいないことになる………。」

 

 

 

「………大魔士軍団がいないんじゃバルツィエと戦える組織なんてもう他には………。」

 

「このままじゃお父さん達とミストが………。」

 

「まだ戦いの火蓋が切られてはいませんがこれ以上の捜索ではボク達ではどうにも………。」

 

 

 

「………………その大魔導士軍団の軍団の定義が間違っているのかもしれませんね………。」

 

 

 

「定義が間違っている?

 それは最初から大魔導士軍団がいなかったと言うのかアローネ=リム。

 しかし実際にゲダイアンは何者かの攻撃を受けてダレイオスから消えたのだぞ?

 なら大魔導士軍団たる組織は必ずダレイオスのどこかに「そこですよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大魔導士軍団は本当に部族の階級争いでゲダイアンを爆撃したのでしょうか………?」

 

 

 

「………どういうことだ?

 それ以外にそいつらに何の理由があると言うんだ?」

 

 

 

「私達はその大魔導士軍団が何故ゲダイアンを攻撃したのかはハッキリとは断定できません。

 ゲダイアンが大魔導士軍団にとって何の思惑があったのかも。

 

 

 

 と言うよりも彼等が本当に一部族の集団なのかも………。」

 

 

 

「どこかの部族が集まってできた集団じゃないってこと?」

 

「そうです。

 マテオですら同じ国の国民同士で争っているのです。

 でしたらダレイオスでも同族同士が割れたりすることもある筈です。

 大魔導士軍団とは………どこかの部族の一部が………、

 あるいは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 複数の部族がより集まって組織された集団なのかもしれません………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………もしそうだと言うなら特定の部族には絞れないな………。

 全部族に容疑がかけられるのだからな。

 アローネ=リムの意見通りだとすればそいつらをどうやって割り出せば………。」

 

 

 

「マテオにも盗賊と言った個人で国と対立する者がおりました。

 ダレイオスにもそのような方々が多数在籍しているでしょう。

 その者達を洗い出せればどこかで答えに辿り着くと思います。」

 

 

 

「大魔導士軍団がダレイオスの犯罪者達で組織された集団だってこと?」

 

 

 

「そもそもダレイオスにいてダレイオスの都市を攻撃したのですから犯罪者集団だと言うことは確定していますよ?

 ですから大魔導士軍団をお捜しになるのでしたらそういった方々からの方が見つけ出しやすいと思います。」

 

 

 

「ダレイオスの犯罪者軍の中からか………。

 それでは余計に協力を仰ぎにくいな………。」

 

 

 

「協力を仰げたのだとしても見返りに何を要求されるか………。

 ヴェノムを祓うだけで満足していただけるようなら良いのですが………。

 

 ………この意見ですらまだ仮定でしかありませんし………。」

 

 

 

「……分からない人達のことをいくら考えても分からないことしか分からないんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソナタ等。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オサムロウさん………?」

 

 

 

「地上の警戒から帰って来てみれば何やらゲダイアンの事件のことを調べ回っているらしいな。

 都市の住人等がソナタ等があの事件のことを聞いてきたと言っていたので探していたのだ。

 ………ソナタ等はこのダレイオスの者共を本気でマテオと戦わせたいようだな。

 彼等は既に牙を折られた戦士達だ。

 マテオのバルツィエが攻めてきたとして応戦すら難しいと思うぞ?

 そんな者共に発破をかけてどうすると言うのだ?」

 

 

 

「今のままダレイオスが降伏をしてしまったら世界は最悪の結末が訪れることは目に見えている。

 抗える時に抗わなければ後になって後悔するぞ。」

 

 

 

「後悔か………、

 フフフ………。」

 

 

 

「………何か笑われるようなことを言ったか?」

 

 

 

「元は敵国のマテオの兵士に敗けを認めずにマテオと戦えと言われているこの状況が何とも滑稽でな。

 ついおかしくなってしまったのだ。

 ハハハ………。」

 

 

 

「笑い事ではないんだぞ!?

 マテオにいる国民達もお前達ダレイオスの奮闘に期待しているんだ!

 国民の声を代表して言わせてもらえるならマテオの民は皆ダレイオスがバルツィエを討ち倒すことを望んでいるんだ!

 敵国ダレイオスのことをマテオの教育では悪鬼のように教えてはいるがそれでもマテオの民達はバルツィエを誰かに討ち倒してほしいと願っている!

 それ程までにマテオでのバルツィエの悪行は擁護できないところまできている!!

 それなのにダレイオスときたら「我はな。」……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………我も本当なら族長が決めたダレイオスの降伏には反対なのだ。

 戦わずに降伏するのなら戦って結果を残すことの方が我も良いと思っておる。

 それで敗北を喫したとしても悔いは残らんだろう………。

 

 

 

 それこそが………、

 そういう生き方こそが永き年月を越えてきて我の愛したエルフの生き様だと感じるのだ………。」



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試される力量

 大魔導士軍団の行方を追うためスラートの地下都市シャイドで聞き込みを始めるカオス達だったが有力な情報は得られなかった。

 途方に暮れるカオス達にオサムロウが語りかけてきて……。


スラートの地中都市シャイド

 

 

 

「…何故急にここにきて意見を変えてきたんだ?

 さっきはスラートは戦いなどしたくはないと言ってただろ。」

 

 

 

「あの場で我が申したのはスラート全体での総意だ。

 我の個人的な考えではない。」

 

 

 

「オサムロウさんはマテオとダレイオスが戦争することに賛成なんですか?」

 

 

 

「戦争というもの事態は好かん。

 戦争は戦いを望まぬ者まで巻き込むのでな。

 我が好むのは武と武の衝突だ。

 戦いを望むもの同士の決闘なら各々の自由であろう?」

 

 

 

「それはそうですけどスラートは戦いを望んではいませんよ?」

 

 

 

「例え戦争が始まったとして敵が来て剣を突きつけられるのなら戦いを望まなくともその剣を弾き返すくらいはせねばならぬ。

 今のスラートはそんなことすらしないだろう。

 

 

 

 ………昔のスラートはここまで臆病な種では無かったのだ………。

 ヴェノムが現れたせいでここまで牙をもがれてしまうとは………。」

 

 

 

「ヴェノムが………?」

 

 

 

「先程も申した通りダレイオスはヴェノムの主の出現でこのような地下にまで追いやられてしまった。

 今や地上はヴェノムが支配している。

 取り返そうにも奴等には我々の攻撃は通らない。

 それどころか攻撃をしたつもりが逆にヴェノムに悪魔のウイルスを植え付けられてしまう。

 ダレイオスではマテオとの戦争よりも身近に潜むヴェノムの方が恐ろしいのだ。

 なにせマテオのバルツィエはまだあちら側の陸を縄張りにしているがヴェノムはもうこの地上を埋め尽くしてしまう程にまで増殖してしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオス国家崩壊の原因はヴェノムだ。

 奴等のような倒しても倒しても無限に数を増やし決して勝つことのできない敵がダレイオスに現れたせいでダレイオスの全部族が戦いというものに恐怖してしまった。

 奴等さえいなくなればダレイオスはマテオとも正面切って戦えるだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オサムロウ殿………、

 貴方は俺達にダレイオスにいるそのヴェノムの主を討伐してくれと………、

 そう言ってるんだな?」

 

「私達がヴェノムと戦う力を持っているから私達がヴェノムの主を倒すことができればダレイオスからヴェノムが減少しダレイオスの民が昔の戦士としての誇りを取り戻しマテオとの戦争に積極的に立ち上がると?」

 

 

 

「ソナタ等はダレイオスを利用するつもりであったのであろう?

 ならば我等がソナタ等を利用することにも異議をとなえられまい。

 互いに利用し合おうとする者同士なのだから共生関係とも言えるな。」

 

 

 

「俺達がヴェノムの主を倒してダレイオスからヴェノムを減らす………?

 これって…!」

 

「殺生石のお願いも一緒に叶えられるよカオス!

 そしたら殺生石も元に戻るんじゃないの!!?」

 

 

 

「殺生石のお願いとは………?」

 

 

 

「こっちにも事情があってな。

 ………とにかくその話は本当だな?

 オサムロウ殿。」

 

 

 

「確約とはいかないがダレイオスの民を見てきた我の意見を参考にしてもらえるのならダレイオスの民がマテオとの戦争に意欲的になれないのはヴェノムの主によって国が割れたからだ。

 ヴェノムの主を倒してダレイオスが元通りになれば軍を再編してマテオとの戦争にも挑める。

 バルツィエを倒せるのかどうかは戦況次第だがその折にはソナタ等も隊列に加わってくれるのだろう?」

 

 

 

「あぁ、

 俺達にもバルツィエを倒さなければならない理由があるからな。」

 

「俺達の力で役立てるのなら是非使ってください。」

 

 

 

「それはなんと頼もしい限りだな。

 

 …こうしている間にもいつマテオが戦争を仕掛けてくるか分からん。

 トリアナスからマテオまでの陸路が消え海路でしかマテオの軍がダレイオスに侵入できなくなったことによりマテオの侵攻がより慎重にはなるとは思うが仕掛けてこないとは言いきれん。

 ソナタ等はソナタ等と我の望みを叶えるためにも一刻も早くヴェノムの主の退治に向かってもらいたい………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………が、その前に………。」

 

 

 

「「「「「?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………一つ確かめたいことがある。

 我についてきたまえ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場地下

 

 

 

「確かめたいことって何ですか?」

 

 

 

「先程の話はまだ確定ではない。

 ソナタ等にはヴェノムの主の討伐を頼みはしたいのだが奴等はヴェノムにその体を支配されてはいるとはいえギガントモンスターだ。

 生半可な戦士ではやられてしまうだけだ。」

 

 

 

「………俺達の力を見たいということか………。」

 

 

 

「そうだ。

 我にソナタ等がいかほどの戦士なのかを見せていただきたい。

 それで我がヴェノムの主と戦うに相応しい力量を持ち合わせていると判断できたら改めてヴェノムの主討伐を依頼する。

 既にソナタ等はヴェノムの主ブルータルヴェノムを討伐はしているが我はその現場を目撃してはいない。

 ヴェノムを討ち祓う能力はあってもギガントモンスターを倒す実力があるのかこの目で実際に見ておきたいのだ。」

 

 

 

「オサムロウさん、

 それってどうやって確かめるの?

 地上に向かってるようだけど外に行ってヴェノムを倒すところを見たいってこと?」

 

 

 

「ついてくれば分かる………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場

 

 

 

「ここだ。」

 

 

 

「闘技場………?

 ここで確認するのですか?」

 

「まさかモンスターやヴェノムを捕獲してあるのか?」

 

 

 

「この闘技場は部族が分かれてから機能はしていない。

 捕獲してあったモンスターも貴重な食料として使わせてもらった。

 ヴェノムに関しては捕獲などできる筈もないだろう。」

 

 

 

「じゃあ一体何をするんですか………?」

 

 

 

「ここは闘技場だ。

 闘技場なら戦うに決まっているだろう。

 そしてソナタ等の力量を量るために戦ってもらいたい相手は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この我だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オサムロウさんと………戦う?」

 

 

 

「ヴェノムの主は残り八体が全てギガントモンスターだ。

 この辺りを縄張りにしていたブルータルヴェノムを倒したことについては感謝するが仕事を頼む相手としてはまだまだソナタ等を信用しきれないところがある。

 ヴェノムの主はどれも強敵なのでな。

 まぐれでブルータルヴェノムを倒したとあっては安心して仕事など依頼できんよ。

 故に我が依頼を引き受けられる実力者なのか依頼を任せきれない半端者なのかを試させてもらう。

 

 依頼の途中でソナタ等がヴェノムの主に破れるようなことがあるかもしれんのでな。

 ここで駄目なようならソナタ等は………、

 

 

 

 故郷へと引き返すがいい。

 故郷でダレイオスがマテオに蹂躙される様を大人しく見ていろ。」

 

 

 

「!

 ………俺達を随分と甘くみているようですね。」

 

「言っておくがオサムロウ殿。

 バルツィエを倒したのは俺だけでない。

 ここにいるカオスもだ。

 このチームにはバルツィエ級が二人もいる。

 舐めてかかると痛い目を見るぞ?」

 

「その確認には一人ずつ相手をするということで宜しいのですか………?」

 

「府抜けきったスラートにボクは負けはしませんよ?」

 

「………私ってそんな攻撃したりとかは苦手なんだけどなぁ………。

 私もオサムロウさんと戦わないといけないの?」

 

 

 

「そう慌てるな。

 我は何も全員を確認するのではない。

 全員がヴェノム殺しならば一人の力を確認するだけで良い。

 ………と言うよりも我一人に全員が向かってこられては流石に勝負にならんだろう。

 代表して一人と戦うだけで良い。

 ソナタ等の中で最も力のある武人は誰だ?」

 

 

 

「「「「………」」」」チラッ

 

 

 

「………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺です。」

 

 

 

「ソナタか………。

 確かカオスと言ったな。

 バルツィエの………。

 

 ………宜しい。

 それではソナタの力を量らせてもらうぞ?

 良いな?」

 

 

 

「えぇ………。」

 

 

 

「見たところ………やはりバルツィエの名の通り剣士と見た。

 勝負のルールはどちらかが負けを認めるまでとしようか。

 それで我がソナタを実力者と認めることができたら依頼を頼もう。

 それで良いか?」

 

 

 

「構いません。」

 

 

 

「………よし、

 では………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始めるとするか。

 行くぞ!!!」チャキッ



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カオス対オサムロウ

 ダレイオスをどうにかしてマテオと戦えるだけの力を取り戻させたいカオス等一行はオサムロウからダレイオス各地を徘徊するヴェノムの上位種ヴェノムの主の討伐の話を持ち掛けられる。

 だがオサムロウがダレイオス再建を現実のものにするための協力は力あるものにしか任せられないと試合を持ち掛けられ………。


王都セレンシーアイン 西区 闘技場 カオスサイド

 

 

 

「…!?」バッ!ジャキンッ!!

 

 

 

「………」ピタッ………

 

 

 

「………?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「……剣を抜かないんですか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………………もう始まってるんですよね?」

 

 

 

「……試合は始まってるぞ。

 かかってきたまえ。

 先手は譲ってやろう。」

 

 

 

「…なら遠慮なく………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔神剣ッ!!!」ズザザッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フンッ!」ザザッ!スパンッ!!チャキィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣を斬った………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これくらいは当然できる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 アローネサイド

 

 

 

「あの人………、

 大丈夫なんですかね………?

 カオスさん相手に一対一での決闘なんて…。」

 

「レサリナスからのカオスは万全な体調で臨めばバルツィエにすら負けることはありません。

 問題なのは………。」

 

「あのオサムロウ殿がどれ程の力を持っているかか………。

 こんな試合を申し込んでくるぐらいだから余程腕に自信があるのだろうが………。」

 

「…オサムロウさんが持ってる剣ってなんか普通の剣と形が違わない?

 細いし少し曲がってるし………、

 それに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何で今剣を抜いたのにまた鞘に戻したの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 カオスサイド

 

 

 

「………終わり………ですか?」

 

 

 

「終わりな訳がないだろう。

 勝負はこれからだ。」

 

 

 

「じゃあ………何で剣を鞘に………?」

 

 

 

「この武器は“カタナ”と呼ばれる武器でな。

 ソナタが使っている剣とは異なる。

 これでも構えの型になるんだ。

 勝負がついたからカタナをしまったのではない。」

 

 

 

「剣を仕舞うのが臨戦態勢ってことですか………。

 ………不思議な剣の型があるんですね。」

 

 

 

「この構えと対峙するのは初めてのようだな。

 ではこの試合でこのカタナの切れ味を味わってみるといい。

 我の剣術は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエのそれにも劣らぬぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………バルツィエの現場を剣術と同じくらい強いのか………。

 なんだかオサムロウさん凄い強そうですしここは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全力で倒しに行きます!!」シュンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!

 飛葉翻歩か!!

 バルツィエの基本歩行術で撹乱作戦………!!

 なるほど!

 確かにそれができるのならバルツィエの名は本物で他のバルツィエを倒したというのも合点がいく!!

 相手にとって不足なし!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 アローネサイド

 

 

 

「出たァッ!!

 カオスの速攻!!

 これなら完全にカオスの勝ちだね!!」

 

「カオスの奴、

 前よりも素早くなってるんじゃないか?

 あれなら普段からあの速度に馴れていなければ対応しきれまい。」

 

「オサムロウさんも強そうではありましたがカオスさんの動きを見切るのは至難の技です。

 この試合貰いましたね。」

 

 

 

「………果たしてそうなのでしょうか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 カオスサイド

 

 

 

「………」

 

 

 

「どうですか!?

 これなら俺達がヴェノムの主退治に出ても問題ありませんよね!?」シュンッ!シュンッ!シュンッ!

 

 

 

「………」

 

 

 

「………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (………何をしているんだ?

 ずっと剣と鞘を握りしめたまま微動だにしない………。

 俺の動きを読もうとしてる………ようには見えないな。

 俺が近付いた時に反撃するような体勢はとっているけど剣を鞘に納めたままじゃ振り遅れるんじゃないか?

 

 

 

 ………この人は何を狙っているんだ………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュゥゥゥ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 アローネサイド

 

 

 

「………?

 カオスさんが………攻めませんね………?」

 

「あぁ~!!

 もう!!

 カオスは何をやってるの!!?」

 

「カオスもあんな剣の構えは見たことがないので様子を伺っているのでしょう。

 ………それにしてもオサムロウさんは何をしているのかが気になります。

 カオスに背後をとられても後ろを振り返ろうともせずに………。」

 

「あの構えからして横薙ぎの一閃が来ることは分かっている。

 …だがオサムロウ殿が放つ異様な空気を察知して迂闊に飛び込めんのだろう。

 彼は………一体どんな技を仕掛けてくるのか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まっておったか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 スラートの族長!?」

 

 

 

「ファルバンでよい。

 話はオサムロウから窺っておる。

 ソナタ等にヴェノムの主退治の依頼を持ち掛けたのであろう?

 

 ………仕様もない奴だな。

 素直にバルツィエと戦ってみたいと言えばよかろうに………。

 あの性分には困ったものだ。」

 

 

 

「…最初からカオスと戦うのが目的だったのですか?」

 

「どうしてそんなことを………?」

 

 

 

「奴は昔から大の決闘好きでな。

 強き者がおれば決闘を申し込むのが趣味なのだ。」

 

 

 

「趣味………(汗)。」

 

 

 

「戦況は………膠着しておるのか………。

 オサムロウは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生き生きしておるなアイツめ………。」

 

 

 

「生き生き………?」

 

 

 

「久々の好敵手が現れて喜んでおるのだろう。

 スラートにはもうアイツと手合わせができるような戦士はいなくなってしまったのでな………。

 

 

 

 あのカオスという青年………。

 オサムロウの相手としては申し分ないなかなかの手練れだな。

 バルツィエは伊達ではないという訳か。

 

 ……だがスピードだけが武器だというのならこの試合、

 オサムロウに勝つには厳しいであろうな。」

 

 

 

「カオスさんがオサムロウさんに負けると言うんですか!?」

 

「言っておくがカオスはバルツィエの中でも別格だ。

 先日マテオのレサリナスでは他のバルツィエを同時に三人の相手をして勝ちを収めた強者だ。

 暫定的ではあるが言わばカオスは、

 

 

 

 単騎同士の戦いではマテオ最強のの剣士だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………それはそれは、

 なんとも喜ばしいこと限りないな………。

 今のこの試合はオサムロウの単なる遊びで行われておった試合の筈であったのに………。

 ふむ………。

 ………いやはやこの試合の内容は実に興味深きこととなるだろう。」

 

 

 

「「「………?」」」

 

「何が興味深きこととなるのですか?

 このカオスとオサムロウさんとの試合で………?」

 

 

 

「フッフッフ………、

 マテオ最強の剣士か………。

 この試合の結果に年甲斐もなく胸が踊るようなときめきを感じざるをえんよ。

 オサムロウはただのテストだと言っておったのに………。

 まぁ………、

 実に燦爛たるカードが出揃ったものだ。

 このような試合が余の生涯で見られる機会が訪れるとはな。

 フッフッフッフッフッフッ…………!」

 

 

 

「………どうしたのこの人………。」

 

「この二人の試合に何かがあるのか………?」

 

「カオスがマテオ最強の剣士………。

 そして対戦相手のオサムロウさんは………………、

 

 

 

 ………!

 それはまさか…!?」

 

 

 

「オサムロウはな。

 この都市では最も強き戦士だった………。

 ダレイオスがまだ国として成り立っていた頃のな。

 

 

 

 そしてこの闘技場が運営されていた時期、

 あやつは無敗の剣闘士でもあった………。

 闘技大会が開催される都度優勝を納め続けた歴戦の覇者だった。

 ………分かったかな?

 オサムロウは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオス最強の戦士だ。

 この試合は謀らずして東のマテオ最強と西のダレイオス最強との“世界一決定戦”が繰り広げられているということだ。」



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ダレイオス最強の戦士

 カオス等一行の実力を計るためにオサムロウは闘技場へと案内をする。

 闘技場でオサムロウは一騎討ちの試合を申し込みそれにカオスが応じる。

 試合が始まってもにらみ合いの続く二人をよそに観戦していたウインドラ達だったがファルバンからオサムロウの話を聞いて………。


王都セレンシーアイン 西区 闘技場 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オサムロウ殿が………!?」

 

「ダレイオス最強の………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「剣闘士ィッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それも昔の話になるのだがな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてそんな人がこんなところにいるの!!?」

 

 

 

「ダレイオス最強の戦士がここにいても奇妙なことはなかろう?

 何せこの都市はダレイオスの首都でもあり闘技場もここにあるのだ。」

 

 

 

「でも………、

 オサムロウなんて名前ボク初めて聞きました。

 そんな凄い人ならボクの村でも名前くらいは残ってるのでは………。」

 

 

 

「少年が知らないのはヴェノムの出現で闘技場が運営を停止したこととオサムロウ自身が大会に参加する時に“サムライ”の名で出場していたからであろう。

 オサムロウという名ではダレイオスではどこもあまり認知されておらん。」

 

 

 

「サムライ………?」

 

「サムライとは………何ですか?」

 

 

 

「さぁなぁ………。

 サムライとはあやつが“オサムロウ”の名と“カタナ”を授かった“ある方”からサムライというカタナを持った戦闘スタイルがあると聞いて自身をサムライと称するようになったそうだ。

 ………あんな武具を扱うサムライという戦士はダレイオスでもオサムロウの他には見たことないのだがな。」

 

 

 

「ある方………?」

 

「ご両親でしょうか………?」

 

 

 

「ソナタ………。

 アローネ嬢と言ったな?

 教会の関係者ならそのある方のことも存じているであろう。

 教会のものならば知らない者はおらん筈だ。」

 

 

 

「私が知っている方………?

 私は最近教会に保護された身でして知り合いも少なく私にはあのような武具を扱うような方に心当たりは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カタスティア=クレベル・カタストロフ教皇。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 カタス…!?」

 

 

 

「オサムロウに名とカタナを授けたのはあのお方だ。

 オサムロウにはとある事情で名を持っておらんかったのでな。

 

 

 

 あやつは始めは獣………のようなやつだった。

 平凡な人として我等スラートの民と共に生きるには名と戦うための武器が必要だったのだ。」

 

 

 

「獣のような………?」

 

「オサムロウ殿はスラートの方ではないのか?」

 

 

 

「オサムロウはカタスティア教皇に連れられて余のもとへと参ったのだ。

 オサムロウは余の友ではあるがスラートではない。

 オサムロウは「族長!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カタスをご存知なのですね!?

 カタスは数日前にダレイオスのカーラーン教会を訪問すると仰っておりました!

 

 カタスは…!

 カタスは今どちらにおられるのでしょうか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やはり知っておったか………。

 教皇は数日前にマテオへと帰途なされた。

 次にダレイオスへ参るのは数ヵ月後となる。」

 

 

 

「………そうですか………。」

 

 

 

「アローネ嬢は教皇にお会いするためにダレイオスへと渡ってこられたのか………?

 マテオでは教皇にお会いできなかったのか?」

 

 

 

「私達がダレイオスへと亡命する寸前………、

 カタスがダレイオスへ訪問するまでは一緒にいましたが………、

 私達がレサリナスで暴動に巻き込まれダレイオスへと亡命することになりその事をカタスには何も伝えられないままここまで来てしまったのでどうにかカタスに会う機会を探していました。

 カタスはダレイオスにもカーラーン教会の支部があると仰っていたのでダレイオスの街を訪れればカタスに会えると思っていたのですが………。」

 

 

 

「…それは間が悪かったな。

 教皇が帰途なされたのは五日ほど前だ。

 彼女は今頃マテオへと帰還しているであろうな。」

 

 

 

「………カタスには色々と相談してみたいことがあったのですけど………。」

 

「カーラーン教会と言えば!

 族長!

 この街にも教会ってあるの?」

 

 

 

「この街にはもうないな。

 教会支部はダレイオスの街には置いていない。

 教会支部は全て街とは離れた場所に建てられておる。」

 

 

 

「何故街から離れた場所に…?

 マテオでは街の中にも教会支部は置かれていたぞ?」

 

 

 

「ダレイオスの民はな、

 国が統合したにはしたがとどのつまりは他国の他部族だ。

 九の部族にはそれぞれの習慣や決まりがある。

 それの食い違いでよく衝突が起こり争いが絶えん………。

 

 

 

 教会は救いを求める場だ。

 救いを求める場に争いの火が届くようでは救いは訪れん………。

 そういった思議のもと争いが起こりやすいダレイオスの街の中には教会は建ってはならないそうだ。

 

 “争いがしたければ街で、

 争いから逃れたいのなら教会へ”、

 と教皇のお考えでな。」

 

 

 

「………カタスらしい考えですね………。」

 

「それじゃあこの街に留まっててもカタスさんって人には会えないんだ………。

 教会に行くしかないんだね。

 会ってみたかったんどけどなぁ………。」

 

「会えますよ。

 カタスなら教会を訪れれば必………。」

 

「でも数ヵ月後なんですよね………?」

 

「その数ヵ月の間に私達にはやるべき仕事があるではないですか!」

 

「ヴェノムの主討伐か………。

 ………しかしそれをするにはカオスがダレイオス最強の戦士であるオサムロウ殿を倒さなければ依頼の話は無かったことになる………。」

 

「試合の方は今どうなって「魔神剣ッ!!!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………この人全然動く気配がないな………。

 

 

 

こういう速さに反応しない相手の時はウインドラの時みたいにカウンターを警戒しないといけないけど時間をかけすぎるとこの間のように飛葉翻歩で俺のスタミナが早めに切れる………。

 

 

 

この状態を動かすにはどうすれば………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近付かずに攻撃する方法………、

 

 

 

さっきは斬り裂かれたけど俺にはこの技しかない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣ッ!!」ズザザザッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一度目で防がれた技が二度目には通用するとでも」ザザッ!!スパンッ!!チャキィンッ!!「魔神剣ッ!!」ザザッ!「!!」ザザッ!スパンッ!!チャキィンッ!!「魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣ッ!!!!」ザザザザザザザザッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 アローネサイド

 

 

 

「全方位からの魔神剣の乱れ撃ち!!

 あれなら一振り一振り鞘に剣を納めていてはいずれ振り遅れるだろう!!

 この勝負カオスの」「そんな単純な手で、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスの覇者は倒せんぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そんなに動き回りながらよくこれだけの精度の魔神剣を放てるな………。」スパパパパパパパパパパッ!!!

 

 

 

「この使い馴れた魔神剣ならマナの消費も少ないし貴方の間合いに入ることなく貴方を一方的に攻撃し続けられる!!

 貴方の懐に入るのは危なさそうなんでちょっとズルいかもだけどこれでそのうち貴方に魔神剣が届き「見くびられたものだな。」」ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソナタに我のカタナが届かぬとどこで決めつけた?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…魔術か!?

 だけど魔術なら俺には!?」チャキィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真空破斬。」フォンッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザッ!ザザッ!ザザッ!ザザッ!ザザッ!ザザッ!ザザッ!ザザッ!ザザッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また魔神剣を斬って……!!?「」?」ザザザザザザザザザザッ!!ガガガガガガガガガガッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のを防ぐか………。

 良い反射神経だ。

 技の質も良かった。

 ソナタぐらいの魔神剣でなければソナタに届く前に魔神剣が霧散していただろう。

 ソナタの魔神剣からは血の滲むような修練を積んできたことが窺える。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣が…………俺に返された………?

 今何をしたんだ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何てことはない。

 ソナタの魔神剣の軌道をずらしてソナタに送り返しただけのこと………。

 それしきのこと我には造作もない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣の軌道をずらすだって………?

 そんなことができるのか………!?

 魔神剣を初見の戦闘で………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………初見ではないぞ。

 ダレイオスは百余年の歴史でバルツィエとは何度も戦ってきた。

 バルツィエの戦法はダレイオスの民なら誰もが知っている常識だ。

 バルツィエと遭遇してしまった時の護身用の対バルツィエ教育まであったほどにな。

 ダレイオスの者達は皆がバルツィエに狙われる身にある。

 

 

 

 ダレイオスの民はバルツィエと接触した時を見越して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すべからくして対バルツィエ戦闘のプロへと成長する。

 接近戦戦術に関してダレイオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエを凌駕しているのだ。」チャキィンッ!!



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格上の相手

 オサムロウと試合をすることになったカオスは予想以上に手強いオサムロウに動揺する。

 隙を突こうと魔神剣の連撃を放つも逆に魔神剣を跳ね返されてしまい………。


王都セレンシーアイン 西区 闘技場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………何だこの人は………。

 

 

 

魔神剣を剣で弾き返すなんて………。

 

 

 

そんなこと今までされたことなんて無かったのに………。

 

 

 

って言うか衝撃波をそんな簡単に弾くことなんてできるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………この人は一体何者………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚いているようだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 ………えぇ、

 魔神剣を止めたりかわしたりする人は今までにいましたけど跳ね返してくる人は初めてなもので………。」

 

 

 

「このぐらいのことダレイオスでは後何人もできる者がおるぞ。

 この程度に驚いてどうする?」

 

 

 

「マテオではそんなことする人なんていなかったんですよ。

 皆大抵は攻撃で相殺してたんでね。」

 

 

 

「好戦的なマテオらしいな。

 “攻撃は最大の防御”とはマテオのためにあるような言葉だろう………。

 その最大の攻撃が自らに返ってくることは考えなしということか。」

 

 

 

「普通は自分の攻撃を自分で受けることなんて考えられないでしょう………。

 なんだったんですかさっきのは…?」

 

 

 

「何てことはない。

 直進してくる攻撃は正面以外からの力に弱い。

 なのでソナタの魔神剣を撃つときの角度と強度を観察して側面から威力を削らない程度に我から反らしただけのこと。」

 

 

 

「この短時間でよくそこまで見切って反撃できますね………。」

 

 

 

「魔神剣と飛葉翻歩はマテオと停戦する以前より知っている。

 その技の弱点もな。

 このくらいの芸当なら朝飯前と言うことだ。」

 

 

 

「………なんかオサムロウさん。

 普通にバルツィエの連中よりも強い気がするんですけど………。」

 

 

 

「バルツィエか………。

 ソナタもバルツィエであったな………。

 そして他のバルツィエを相手に勝ったとも………。

 ………奇遇だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我もマテオとダレイオスの戦争が始まって以来バルツィエを倒したことがあるぞ。

 何度もな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方がバルツィエを倒した………!?」

 

 

 

「そう驚愕することでもあるまい。

 ダレイオスの戦士がバルツィエの一人でも撃ち取れないとあればダレイオスはとっくの昔にマテオに支配されているであろう。

 バルツィエの一人を倒すには………………そうだな。

 ダレイオスの戦士が十人も集まれば倒せるだろうな。」

 

 

 

「………その十人にオサムロウさんら入ってるんですか?」

 

 

 

「…我を入れるのなら………ダレイオスの戦士が…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必要ないな。

 我一人でバルツィエはこれまでに数度倒せた。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………貴方もバルツィエを一人で倒せる実力をお持ちなんですね………。」

 

 

 

「信じるか?」

 

 

 

「さっきのあれを見せつけられちゃ貴方の言葉が真実だってことも分かります。

 戦っていて貴方は確かにバルツィエ以上のプレッシャーを感じる。

 ………俺が今まで戦ってきた中でも貴方は最強クラスだ。」

 

 

 

「称賛の言葉はまだ早いだろう。

 我はまだ魔神剣を返すことしかしていない。

 ………そろそろ出したらどうだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエの魔術を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺の魔術を期待しているところ悪いんですけど俺は魔術は使わない。」

 

 

 

「何故だ?

 バルツィエは魔術こそが最大の取り柄。

 その取り柄無くして我に勝つつもりか?」

 

 

 

「俺は魔術を封印したんだ。

 俺の魔術はいつだって敵と一緒に俺の大切なものまで破壊してきた。

 俺は魔術無しでも戦える。

 だからこの試合では魔術は使わない。」

 

 

 

「………魔術を使わぬバルツィエか。

 道理でソナタは他のバルツィエよりも剣の腕前が高いように思える。

 これまで剣一本で戦ってきたのだろう。

 それならば我にとっては、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 他のバルツィエ程に脅威は感じられんな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………皆俺が魔術を使わないからって油断するんですよね。

 昔の俺なら舐められたまま終わってたんですけど今の俺は……!」シュンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」チャキッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな風に武身技だけでも!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………ッ!!?」バッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………勘がいいな。

 今我の懐に入っていたらそれで試合は終わっていたぞ。」スッ………チャキィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………………………今の剣筋………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………全く見えなかった………!

 この人………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺よりも技術が高い………!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………今の一振りは………!」

 

「え!?

 あの人今剣を抜いたのが全然分からなかったよ!?

 何!?

 あの人の振り抜き!?

 早すぎでしょ!?」

 

「咄嗟にカオスもあの剣を見切って避けたようですが………、

 あれではカオスは近付くことができません………。」

 

「かといってカオスさんには遠距離用の魔神剣がありますけどそれもオサムロウさんには効かない………。

 ……ダレイオス最強の戦士は格が違いますね……。

 実質カオスさんのとれる手段を全て封じています。」

 

 

 

「カオス青年も筋は良いが剣術の腕はまだまだオサムロウには届かんなぁ………。

 あやつはあのカタナだけでバルツィエと渡り合ってきた猛者でもあるからな。

 カオス青年がオサムロウに太刀打ちするにはやはり魔術しかあるまいて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣・槍破ッ!!魔神剣・双牙!!」ザザザザッ!!ザザンッ!ザザンッ!!

 

 

 

「魔神剣の亜種か。

 こんなものは魔術と同じ方法で反らせるぞ。」バシュッ!バシュッ!バシュッ!

 

 

 

「くっ…!?」

 

 

 

「どうした?

 もう終わりか?」

 

 

 

「まだまだこんなもんじゃ……!!」

 

 

 

「そうこなくてはな。

 それでなければ話にならん。

 ………それでは今度はこちらから参らせてもらおう。」ザッザッ………。

 

 

 

「…!?」シュンッ!!

 

 

 

「逃げるか…。

 我の間合いに入るのを嫌ったのか………?」ザッザッ………。

 

 

 

「貴方とは鍔迫り合いになるのはまずそうなんでね!!

 距離をとって戦った方がまだ勝算はある!!」シュンッシュンッ!

 

 

 

「その足で逃げられては流石に追い付くのは無理か………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では先ずはその足を動けなくするところからだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『岩石よ我が手となりて敵を押し潰せストーンブラスト』。」ズドドドドドドドドドッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔術か!?

 俺には効か………!?」

 

 

 

「これで準備は整った。

 後は狙い撃つのみ。」

 

 

 

「自分の回りに岩を………!?」

 

 

 

「バルツィエには高い魔力と魔術抵抗があるのは分かっているんだ。

 直接魔術をぶつけるようなことはしない。

 この岩は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こう使うんだ。」ズバァァァァンッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「石弾ッ!?」シュンッ!

 

 

 

「かわしたところで岩はまだまだあるぞ。」ズバァァァァンッッ!!!

 

 

 

「………!!

 所詮魔術ならこんなもの受け止め「足が止まったな。」……!?」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この時を待っていたぞ。」チャキッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!!??」

 

 

 

「バルツィエは飛葉翻歩を通常の移動手段に使用してはいるが本来の飛葉翻歩はこのように戦闘中のほんの一瞬に回り込むのが正しい使い方だ。

 敵との距離がある時に使っても敵に見切られやすくなるだけだぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………オサムロウさんも………飛葉翻歩を………!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………さて………カオス=バルツィエ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これで詰みだな。」



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カオスの本気

 オサムロウと対峙するカオス。

 かつて戦ったことのないレベルの相手に手も足も出ず一瞬のうちに勝負をつけられてしまうが………。

 


王都セレンシーアイン 西区 闘技場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我を相手にしてよく立ち回った方だがこれで試合は終わりだ。

 ソナタの全力を見ぬまま終わってしまうのは心残りだがこれもルールだ。

 ソナタ等に依頼を引き受けてもらえぬのは残念に思うよ。」

 

 

 

「………!?

 なっ、何で………!?

 何で駄目なんですか!?

 俺達に任せてくれればヴェノムの主なんて全部倒して見せるのに!?」

 

 

 

「それがダレイオスの運命だったのだ。

 我等はこのままマテオに支配されるかバルツィエに惨殺されるしか無かった………。

 それだけのことだったのだ。」

 

 

 

「………それじゃ困るんですよ………。」

 

 

 

「困る………?

 マテオ人のソナタが何を困るのだ?

 蹂躙されるのは我等ダレイオスの民だけだ。

 ソナタ等には関係のない話「関係のない話なんかじゃない!!」!」バキィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネ!!タレス!!ミシガン!!ウインドラ!!………それからいつのまにか来てた族長さん!!

 ここから離れてッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス…!?

 何を…!?」

 

「離れてって………ここから………?」

 

「カオスさん何をするつもりなんでしょう………?」

 

「………カオス…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術を使うつもりか………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「えッ…!?」」」

 

 

 

「ほほう………。

 対にバルツィエの魔術を使うのか………。

 あのカオス青年がどれ程の魔力を放つのか見物だな。」

 

 

 

「どっ、どうしてここで魔術を……!?

 何を考えてるのカオスは!?」

 

「今までどんなことがあっても自分から魔術を使おうとしなかったのに何故!?」

 

「カオスが………

 それほどまでにオサムロウさんに追い詰められているのでしょう……!!

 ですが……カオスの魔術は……!?」

 

「カオスの魔術は何が起こるか分からん!

 アイツが魔術を放つ度に凄まじい破壊を生む!!

 下手すればこの闘技場………、

 ………いや!

 セレンシーアインごと崩壊するぞ!!

 止すんだカオス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そこまで凄まじいのか?

 あの青年の魔術は………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」コゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!!

 

 

 

「漸く本気になったか………。

 それでこそ真の決闘と言えよう。

 

 

 

 ………さぁ!

 全力でその力を放つがいい!!

 我はソナタの全てを捩じ伏せて見せようぞ!!」

 

 

 

「………俺はこんなところで躓いてられないんだ。

 俺達は世界からヴェノムを根絶しなければならない………。

 そしてマテオの人達もダレイオスの人達も救わないといけない………。

 そうしないと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界が星ごと無くなってしまうんだ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(…………まだ魔力が増幅するのか………?

 一体どこまで魔力が上昇していくというのだ…………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方を倒さないとダレイオスの皆が立ち上がらないと言うのなら俺は…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方を殺してでも皆を立ち上がらせる!!

 もう俺は後先構ってられないんだよ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!!!??

 

 

 

 何だ……………!?

 この莫大な魔力は…………!?

 こんな力がたった一人のエルフから放たれていると言うのか…!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………『火炎よ我が手となりて敵を焼き尽くせ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファイヤーボール!!!!』」ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(火球が大きい……!?

 だがこの軌道ならギリギリかわせる!)」バッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥゥゥゥ……………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?

 ッッッッ………………ァァァァァッ…………!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コゴゴゴゴゴゴォォォォォォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ……………………!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドオォォオォォオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ…………………!!!!!!!!



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再興宣言

 カオスはオサムロウとの試合でまたもや剣を突き付けられ敗北を言い渡されるがミストのためにもそれを素直に受け入れることが出来ずオサムロウを振り払う。

 そしてカオスは今まで積極的に使うことのなかった魔術を発動させ………。


スラートの地中都市シャイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 何だ地震か…!?」

 

「かなり大きいぞこれは………!?」

 

「…………!

 この揺れは………!?

 

 

 

 

 地上で何かが暴れてるんだ!!」

 

「こんな揺れを起こせるのなんてヴェノムの主くらいだろ!?

 昨日この辺にいたブルータルヴェノムが倒されたばっかりじゃないか!?」

 

「まだ他にヴェノムの主が彷徨いてたのか!?

 そんな報告は聞いてないぞ!?

 地上で今何が起こって………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ……………!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシピシッ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいっ!?

 このままじゃ天井が崩れそうだぞ!?」

 

「はっ、早く地下にいるもの全員に避難勧告を…!?」

 

「けど地上にはヴェノムの主がいるかもしれないのにどうすんだ……!?」

 

「そんなこと後になって対処すればいいだろ!!

 今は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなところで生き埋めになるよりかはマシだ!!」ダダダッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…………ハァ…………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………本当に魔術を撃った…………。」

 

 

 

「カオス………どうして………?」

 

 

 

「………なんて破壊力だ………。

 たった一発の魔術で闘技場………だけじゃないな。

 闘技場の向こうにあった市街地まで吹き飛ばしている………。」

 

 

 

「またあの人格が出てきてる訳じゃないよね………?

 カオスが直接撃ってこんなに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なんという凄まじい力だ………。

 こんな力がたった一人の者から放たれたと言うのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この力はもしやトリアナスを破壊したという………。

 時期的にもこの者等がダレイオスに渡ったのと丁度被る………。

 

 

 

 ………あの者がマテオの………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ッ………!」ドサッ………

 

 

 

「俺の全力を見たがっていましたよね。

 これが俺の全力を込めたまじゅ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………!」ドサッ………

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 アローネサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

「カオスッ!!」タッ!

 

 

 

「………あれだけの魔術………、

 一度放つのが限界のようか………。

 実戦向きの術ではないな………。

 使い時としては………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仲間がおって初めて使い物になるだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あれはダレイオスにとって良い兵器として使えそうだな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「族長ッ!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………来たか………。

 説明する手間が省けた………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 カオスサイド

 

 

 

「ぐっ………!?

 体に力が入らない……!?

 何で………!!」

 

 

 

「………ソナタ、

 とんでもない底力を秘めていたのだな。

 長年生きてきた中でもソナタ程の力を持つものは他にはおらなかった。

 我の中でソナタは最強の魔力を持った戦士だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそれは魔力だけの話だ。

 魔術の扱いに関しては素人のそれだ。」

 

 

 

「何………だと!!」

 

 

 

「ソナタはバルツィエに生まれておきながら何故魔術を封印してきたかが分かった。

 ソナタは魔術の使い方が成っておらん。

 ………見ろ。

 ソナタが放った魔術の爪痕を………。

 我を狙って撃ったのだろうが我の立ち位置から大分逸れておるぞ?

 危うくソナタの仲間にも直撃するところだったではないか。

 以後も今まで通り魔術は封印するのだな。」

 

 

 

「アンタが俺の全力を見たいって言うから「まぁ聞け。」…!」

 

 

 

「ソナタがバルツィエの騎士としては欠陥があるがそれを補って余りある魔力を持っているのは確かだ。

 その魔力があれば数千から数万に渡る戦闘でも活躍を期待できるだろう。

 ………それだと言うのにソナタの戦い方は惜しい!

 惜しすぎる!!

 そんな戦闘の仕方は効率的ではない!

 もっと上手く立ち回るのだ!」

 

 

 

「(………?

 なんだ?

 これは貶されてるのか?)」

 

 

 

「ソナタの力は最終手段として使ってこそだ!

 力の使い方を謝るようならとてもヴェノムの主の討伐を依頼なぞできんな!

 こんな敵味方巻き込むような魔術は慎め!!

 もっと上手に魔術を使いこなせるようになってから戦闘で使用しろ!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………よってソナタにはヴェノムの主討伐の依頼を出すまでの間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が剣術と魔術の稽古をつける。

 それを終えてからヴェノムの討伐の依頼へと出向いてもらおうか。」

 

 

 

「!?

 ………じゃあ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試合は終了だ。

 結果は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合格だな。

 ………先程の魔術の余波で我も立ち上がることができない。

 よってこの試合はソナタの勝ちだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………やった……のか?「カオス!!」」

 

 

 

「無事かカオス!?」「どうしちゃったのカオス!また魔術なんか使っちゃったりして!!」「お怪我は無いようですね………。」

 

 

 

「皆………。」

 

 

 

「カオス………何故魔術を………?」

 

 

 

「それは………。」

 

 

 

「カオスらしくありませんよ?

 いつもなら魔術を使用したりなんかしないのにどうしてこの試合で………?」

 

 

 

「…オサムロウさんにヴェノムの主の討伐を諦めろって言われて………、

 でも俺達がヴェノムの主を討伐しないとミストも………世界も無くなってしまうって思ったら………、

 なんだか余裕が無くなっちゃって………、

 気付いたら魔術を………。」

 

 

 

「………少し焦りすぎですよ。

 殺生石のあの方はヴェノムを滅してほしいとは言ってましたけどそんなすぐに世界を破壊したりなどはしませんよ。」

 

 

 

「…そうじゃないんだ………。

 ……アイツは………、

 ………………殺生石は半年後には………。」

 

 

 

「半年………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諸君。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!」」」」」

 

 

 

「先程の試合は我の負けだ。

 ソナタ等には宣告通りヴェノムの主の討伐を依頼したいのだが、

 ………その前にやらなければならないことがある。」

 

 

 

「やらなければならないことだって……?」

 

「ボク達にまだ何かをやらせるつもりですか………?」

 

「このまま俺達をお前達の言いなりにしようと言うんじゃないだろうな?」

 

「後から条件を増やすなんてそんなの卑怯だよ!!

 これ以上何をやらせようって言うの!?」

 

 

 

「別にソナタ等は何もしなくていい。

 ………あちらの方を見てみよ。」

 

 

 

「あちら………って!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ…………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………こんなにスラートの人が沢山集まって来てたのか………。」

 

「カオス気付いて無かったのですか?」

 

 

 

「それだけ我との試合に集中していたのか。

 あれだけの魔術を使用すれば地下にいる者達も驚いて飛び出してくるだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞けェェェィッ!!!!

 

 

 

 

 

 我が同族の民達よォォォォォッォッ!!!!

 

 

 

 

 

 我等はこの時よりこの者等の協力を得て我が物顔で地上を闊歩するヴェノムの主を討ち滅ぼしダレイオスの地を取り戻すッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 そしてその祈願を成し遂げた暁にはァァァァァッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マテオよりいづる侵略者バルツィエとの因縁を断つべく再戦への狼煙を上げるのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!!!!!」



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再興宣言2

 カオスはオサムロウとの試合で魔術を発動させる。

 狙いは外されるがオサムロウを戦闘不能に追いやりオサムロウから及第点をもらう。

 そしてカオスの魔術によって地震が起き地下にいたスラート族が集まりだして………。


王都セレンシーアイン 西区 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナンダ?ドウシタンダ?

 

オサムロウ………?

 

マテオニサイセン………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このスラートと怨敵マテオの歴史の始まりは今から約二百年程前に遡る!!

 

 当時はまだこの国も部族統合前で他の八部族との領土をめぐった小競り合いを続けていた!!

 

 あの時代は九の部族がそれぞれの地の領有を奪い合う獲得戦争をけしかけ日夜激しい戦闘を行っていた!!!!

 

 この中にもその当時の記憶が残る者もいるだろう!!

 

 戦わなければ殺される!!

 

 戦わなければ大事なものを奪われる!!

 

 奪われないためには戦うしかない!!

 

 我等はそう自らに言い聞かせて戦って来た!!

 

 

 

 そしてある時!!

 

 東の国より勢力を拡大して遂には大陸の統一を果たした軍勢が現れた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう!!マテオだ!!

 

 マテオは急速的に国を発展させ領土を大陸全土まで拡げとうとう我等が地ダレイオスまでへと手を伸ばしてきた!!

 

 この巨大な敵に対抗するため我等九の部族はこれまでの紛争を一旦止め一つの軍勢を作り上げてマテオからの侵略を防ぐ手立てとしダレイオスを、我等が故郷を奪われぬよう剣を握り続けてきた!!

 

 

 

 しかしながら敵の攻撃は凄まじく部族が統合され大国となった我がダレイオスも進軍してくる敵を追い返すのがやっとだった!!

 

 我ですらマテオの軍を率いるバルツィエという名の騎士達には一人を相手にするのが限界だった!!

 

 奴等は常人には計り知れない程のマナを保有しそれでいて一人一人が常人の数倍に及ぶ魔術を駆使する!!

 

 戦況は常に劣勢を強いられてきた!!

 

 

 

 それでも我等は抗い続けてきたのだ!!

 

 如何に強靭な敵とはいえ人の身であるのなら必ず勝つ方法はあると!!

 

 如何なる魔術も底は付き!!如何な戦士であってもどこかに隙ができる!!

 

 敵が我等を圧倒する程の強者であるなら確実に慢心が生まれ我等にもそこに付け入り勝利を勝ち取る機会が訪れると!!

 

 そう信じ不屈の心でダレイオスは一丸となってマテオと戦争を続けてきた!!

 

 

 

 

 

 

 我等はマテオから見れば弱者だ!!

 

 だが心までは奴等には劣らぬ筈だ!!

 

 力で負けようとも心だけはマテオに負けてはならぬと誰もがそう己を戒め戦った!!

 

 

 

 マテオだけではない!!

 

 他の部族にもだ!!

 

 共戦を張っているとしても始めは地を奪い合っていた敵だった!!

 

 敵だというのなら負けてはならぬ!!

 

 共戦している敵がマテオを打ち倒したりなどすればその功績を理由に終戦後は多くの土地を要求してくるだろう!!

 

 

 

 そうはさせまい!!

 

 貴様等他の部族が大きな功績を上げるのならこちらはそれよりも更に功績を上げるのみ!!

 

 更に敵を打ち倒し貴様等他の部族は我等スラートの配下となるのだ!!

 

 

 

 卑しきながらもこのような信念で九の部族がマテオとの戦争に挑んでいたであろう!!

 

 人に誇るような思想では無かったがあの時代はあの時代で九の部族が皆全てが確かに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “誇り”というものがあった!!!!

 あの時代こそがダレイオスが最も輝いていた時代だったと我は本気でそう思う!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………

 

…マァアノコロハワタシタチモミナヲマモルタメニヒッシデタタカッテイタカラ………

 

ホカノブゾクニモマケタクナンテナカッシナァ………

 

デモソレモアトキヲキニ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………だが我の心を奮わせたその時代も奴等がダレイオスの各所に現れてから終わりを告げた………。

 

 今ダレイオスで最も猛威を奮う敵………、

 

 

 

 ヴェノム!!!

 

 ヴェノムの出現によってダレイオスは壊滅的なまでに被害を被った!!!

 

 奴等には通常の攻撃は効かない!!

 

 魔術すら受け付けない!!

 

 それどころか触れれば我々の体を侵食し食い付くしてはまた新たなヴェノムが生まれる!!

 

 我々ダレイオスの戦士の数だけヴェノムは増えていく!!

 

 奴等が死ぬには長時間奴等の生物の捕食の栄養摂取を妨げるしかない!!

 

 ダレイオスの戦士達はその方法を見つけ出しダレイオスの地からヴェノムの対処に急いだ!!

 

 幸いマテオにもヴェノムが出現したらしく奴等とは休戦となりマテオとダレイオスは暫く交戦のない時間が過ぎた………。

 

 ヴェノムが現れてから百年………、

 

 未だにダレイオスではヴェノムを飢餓させることしかできないがどうにかヴェノム出現時の被害を修復する直前までには回復しその内にマテオへの進撃を開始できると………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その指令を出そうとした矢先、

 謎のの大爆発が西の都ゲダイアンを襲った………。

 

 

 

 ダレイオスの第二の都市として繁栄していたゲダイアンは突如どこかしらかの攻撃を受け周辺の山々を飲み込むほどの爆炎と共に消えていった!!

 

 あの爆発は何だったのか!?

 

 あの爆発はどこの攻撃を受けたものだったのか!?

 

 爆発の被害を受けなかったものでさえゲダイアンの近くに向かえば不調を訴え挙げ句の果てには死んでしまう……!!

 

 あそこは一体何だ!!?

 

 何故あのような爆発が起こり爆炎が消え去った後にもその影響が残る!!?

 

 調査しようにも現場は足を踏み入れられない魔窟と化した………!!

 

 原因究明に至れないままその地を封鎖していた直後………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエが現れた!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(…族長の家ではバルツィエがただその時の敵だったからって理由で犯人にしてたみたいだけど………)」

 

「(敵であるバルツィエならダレイオスを攻撃する理由は停戦中でも十分にあり得る………。)」

 

「(そんな事件が起こったタイミングで現れたのならバルツィエが疑われても仕方ないが………。)」

 

「(………この演説ってどういう意図で話してるんだろう?

 これ聞いてるとレサリナスでのこと思い出すなぁ………。)」

 

「(………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソウダ!!

 

ヤツラバルツィエガアラワレテカラダレイオスヲマタコウゲキシテサッテイッタンダ!!

 

ソレデダレイオスハバルツィエニカナワナイトクッシテコウフクスルッテナッタンジャナイカ!!

 

ソンナハナシヲムシカエシテドウスルッテイウンダ!!

 

ダレイオスガヴェノムニモバルツィエニモカテナイコトハモウミンナワカッテルンダヨ!

 

ソレナノニナンデサイセンナンカ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソナタ等はいつからそんな弱腰になったのだッッッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………!!!!???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだヴェノムが現れる前!!

 

 ダレイオスは何度もマテオへ偵察隊を向かわせ敵の内情を調べあげ敵が途方もないくらいの巨大な組織だと言うことは理解していた筈だ!!

 

 それでも我等が地を乗っ取られることだけは阻止しようと応戦してきた!!

 

 

 

 それなのにヴェノムが現れ、逃げの策に徹している間に貴様等はどこで剣を落としてきた!!?

 

 貴様等は本当にあの時代を生き残ってきた戦士か!!?

 

 勝てぬからと敗けを潔く認めて敵に下るのか!!?

 

 確実に勝てる戦いでないと剣を振ることすらできないのか!!?

 

 貴様等はそんなところまで落ちたのか!!?

 

 己の地を奪われまいと懸命に戦ってきたソナタ等はどこへ行ってしまったのだ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………世界はいずれバルツィエの手に渡るか、ヴェノムに飲み込まれる………。

 

 誰かが口にしたこの暗示がソナタ等から誇りを奪ったのだろう………。

 

 今日この日まで我等は何一つヴェノムとバルツィエに対抗する術を編み出せなかった………。

 

 ソナタ等の今の有り様も現状が招いた結果だ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だがそんな今もこれから変わる!!

 

 

 

 我等は今日この瞬間から再び息を吹替えし新たな道を進む時が訪れたのだ!!!!!」



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再興宣言3

 カオスとの試合の終了直後オサムロウが地上へと上がってきたスラート族に国を立て直す宣言をする。

 この宣言にはスラート族もカオス達もただ聞いているだけしか出来ず………。


王都セレンシーアイン 西区 闘技場

 

 

 

………アラタナ………、

 

………ミチ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソナタ等も先日この地を這い回る九体いるヴェノムの主の一体が討伐されたことは知っていよう!!

 

 九体のヴェノムの主はゲダイアン爆撃後再び攻撃してきたバルツィエの後に現れた次なる我等への災厄!!

 

 これまでのヴェノムとは違い時間をかけるだけでは絶対に倒せぬ無敵の刺客!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなダレイオスに蔓延る無慈悲なる無敵の刺客を打ち倒し戦士達がこの者達だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え!?」「大袈裟な紹介の仕方をしますね…。」「そんな見せ物みたいに…。」「ちょっ…恥ずかしいんですけど!?」「この流れは……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ……………

 

アレガサネットガイッテタ………

 

マダワカソウダガ………

 

タッタゴニンデヴェノムノヌシヲ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この者達は先日マテオより亡命してきた者だ!!

 

 亡命してきた理由は近々マテオで遂に我が国ダレイオスへと大々的な進軍が始まるらしい!!

 

 それを止めるべくこの者等と今はまだ合流していない別の部隊がこの地へとやって来て我等と共闘してバルツィエの野望を絶とうと申し出てきた!!

 

 

 

 ダレイオスの民よ!!

 

 この地に戦火が飛ぶ日は近いぞ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…トウトウマテオガホンゴシヲアゲテキタノカ………

 

ワレラガドレダケテイセンヲウッタエテモキクミミモタズニソデニサレテキタガイヨイヨクルンダナ………

 

モウダレイオスハオワリナノカ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりではない!!!

 

 これから始まるのだ!!

 

 我等はこれから始まるダレイオスとマテオの戦争で!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対に勝つのだ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ドウヤッテカツッテイウノダ………

 

ダレイオスガスデニクニトシテホウカイシテイルトイウノニ………

 

ナニカカツサンダンガアッテノハツゲンカ………?

 

ゾクチョウ、オサムロウハナニヲカンガエテ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「族長!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………うむ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………?

 

ゾクチョウ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…皆のもの………。

 オサムロウの話は聞いていたな………。

 オサムロウの言は真のようだ。

 

 先日ヴェノムによった滅び去ってしまったアイネフーレが管轄していたトリアナスで何やら大規模な戦闘の跡が見つかった。

 余はその報せを聞きマテオがいよいよダレイオスを殲滅しに乗り込んで来るのかと予感した。

 現場の状況は酷いものでダレイオスとマテオを繋いでいた海道が微塵もそこには無かったそうだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タシカニトリアナスノバショニアッタホソミチガナクナッテイタナ。

 

バルツィエノシワザダロウ。

 

ワレラガリクヲコエテマテオニコウショウシニムカウノヲハバムタメダロウナ。

 

ワレラガハンゲキスルノヲソシスルイミモカネテソウダ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆が心配する通りあの破壊はマテオのバルツィエが我等が横断するのを阻止し海路にて我等を殲滅しようという作戦に出たものかと思われた。

 海上では魔術戦が主で魔術を使われては我等には勝ち目は無い。

 故にバルツィエは戦争の前に海道を破壊した。

 我等との戦争をより勝率を上げるために………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………しかし真実は少しだけ違う………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンジツガチガウ…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バルツィエは二十年前ゲダイアンを攻撃し消滅させた。

 あの事件があって我等はマテオに降伏をしようとしてきた。

 あのような大破壊を行使する敵にはどれだけ足掻いたところで無意味だと。

 刃向かったところでまたあの大破壊がダレイオスのどこかで起きるのではないかと。

 そう思って我等はマテオに降伏を申し出ようとしてきたのだ………。

 

 

 

 だがゲダイアンの惨劇以降マテオからは大火力魔術は放たれてはいない。

 あの大破壊がマテオの仕業だと言うのならダレイオスを直ぐにでも攻め落としたいバルツィエは何故あの術を行使してこないのだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我等は何か大きな見落としをしているのではないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミオトシ………?

 

ナニヲミオトシテルンダ………?

 

アレハバルツィエガハナッタトシカカンガエラレナイダロウ………。

 

アノジケンガアッタチョクゴニバルツィエモハッケンサレテルシ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれがバルツィエの仕業ならバルツィエは何故我等のもとへ何も言ってこないのだ?

 何故バルツィエは何も盗らずに破壊だけを行った?

 今までのバルツィエであったなら蹂躙した村から民を連れ去ったり虐殺したりしていたであろう。

 蹂躙した村には我等が取り返すまでは滞在したりなどもしていた。

 それなのに何故あのゲダイアンだけは破壊だけを行ったのだ?

 何故破壊だけを行いそのまま立ち去ったのか?

 ゲダイアンはダレイオスの中でも栄えていた都市だ。

 価値のある物は何でも奪っていくバルツィエにとってもあの都市はただ破壊するだけというのはどうにも不自然だ。

 破壊する前に盗れるものは盗れるだけ盗ってから去るのが奴等であった筈………。

 だというのに何故ゲダイアンは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タッ、タシカニソウダナ………

 

アノジケンマデノヤツラダッタナラソウシテイタダロウ………

 

ナゼゲダイアンダケハイキナリコウゲキシタンダ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余は思う………。

 あのゲダイアン消滅は我等が敵として認識していたバルツィエがやったと先入観でとってしまい本当の黒幕を見逃していたのではないか、と。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホントウノクロマク…?

 

ゲダイアンショウメツハバルツィエジャナイノカ!?

 

デハダレガヤッタトイウノダ!?

 

アンナハカイガデキルノナンテバルツィエイガイニハオモイツカナイゾ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなことを言い出してしまっては誰がゲダイアンを消してしまったかを問いたくはなるが今となっては何の証拠も残ってはいまい………。

 バルツィエ………の線が薄いことだけは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………して、

 ゲダイアンの件は置いておくとして………、

 

 そうなってくるとバルツィエは大火力魔術は持っていないことになる。

 

 

 

 ならばあのトリアナスの海道はどうなる?

 あの道は細く破壊するだけなら造作もないが一夜にして端から端までを消滅させるとなればバルツィエといえどもそう容易いことではないだろう。

 

 

 

 ………皆は誰が破壊したのだと思うか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エ………?

 

トリアナスモバルツィエガヤッタンジャナイノカ?

 

デモゾクチョウノハナシヲシンジルナラバルツィエデモムリソウナンダロウ?

 

アンナトコロハカイスルトシタラバルツィエイガイニハイナイダロウ………

 

ダカラソレガムリナンダッテ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まだ皆は分からぬようだな………。

 あの海道を破壊した者が誰なのか………。

 周りを見渡してみよ。

 答えはこの場にあるであろう。

 ソナタ等は何故地上へと集まってきたのだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナゼッテ………、

 

ソリャア………ジシンガオコッテ………、

 

チジョウニマタヴェノムノヌシガアラワレタノカトオモッテ………

 

チカガホウカイシソウダッタカライソイデヒナンシテキタンダケド………

 

………ソウイヤトウギジョウガコワサレテル!?

 

トウギジョウノムコウモダ!?ナンデェッ!?

 

…ヴェノムノヌシハミアタラナイガジュツカナニカデブットバシタヨウナカンジダナ………

 

オレタチヨリサキニゾクチョウタチガトウギジョウニイタミタイダケドナニシテタンダ?

 

ヨウスミルカギリジャトウギジョウデケットウデモシテタヨウダゾ?

 

オサムロウガボウメイシャトタタカッテタノカ………

 

ッテコトハオサムロウガコレヲヤッタノカ!!?

 

オサムロウガコンナマジュツヲ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………我がやったのではない!!

 

 この破壊をやってのけたのは我の決闘相手、

 ここにいるそこの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス=バルツィエだ!!!!」



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畏怖名

 カオスと試合を終えてオサムロウが仲間達にダレイオスを再建することを伝える。

 その話の中でもファルバンやオサムロウもゲダイアン消失の不自然さを訴えてバルツィエがゲダイアン消失に関わってはいないことを考察する。

 しかし最後にカオスがバルツィエだと言うことを話した瞬間………。


王都セレンシーアイン 西区 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バッ…………………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「バルツィエッッッッッ!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう!!

 彼の名はカオス=バルツィエ!!!

 

 

 

 我等がダレイオスにとって最も「うっ!?うわぁぁぁぁぁぁ!!!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、何でバルツィエがここにいるんだ!!?」

 

「この闘技場を壊したのはバルツィエのしわざだったんだな!!?」

 

「ダレイオスに来たのは俺達を皆殺しにするためなんだろ!!?」

 

「おっ、おい!!?

 アイツ等さっき地下の場所教えちまったよな!!?」

 

「まずいぞ!!

 バルツィエの奴に俺達の隠れ家知られちまった!!?」

 

「ここで暴れてたのは俺達スラート全員を生き埋めにするためだったのか!!?」

 

「どうすんだ!!?

 せっかくヴェノムの主から逃れられる空間を手に入れたってのにそれを壊されちまうのか!!?」

 

「この地下都市を埋められたら俺達はどこへ行けばいいんだ!!?」

 

「そんなこと気にしてる場合か!!

 今まさにバルツィエが目の前にいるんだぞ!!?

 それも闘技場を街ごと吹き飛ばすような魔術を使うバルツィエが俺達の前に………!!」

 

「そんな奴を相手になんかできねぇよ!!?

 早く逃げねぇと!!?」

 

「逃げても街の外はヴェノムがいるだろ!!?」

 

「じゃあどうすんだよ!!?」

 

「相手はたったの五人だぞ!?

 五人倒せばそれで収まる話だろ!!?

 それにこっちにはオサムロウだってついてい「オサムロウボロボロじゃねぇか!!?」!?」

 

「オサムロウがあのバルツィエと戦って闘技場をこんなふうにされたんだろ!!?

 オサムロウだって敵わなかったってことだ!!

 俺達じゃどうにまならねぇよ!!?」

 

「だったらどうすりゃいいんだよ!!?

 ここで何もせずに殺されるしかねぇのか!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…俺の名前だけでこんな………。」

 

「ダレイオスでも勇敢さを鼓舞していたスラートが…。」

 

「よっぽどバルツィエが怖いんだね………。

 あの人達のこと思い出したら気持ちは分かるけどでも………。」

 

「このような連中に協力をしてもらうことなんて出来るのか………?」

 

「オサムロウさんは何を………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着かぬかァッ!!!!

 このたわけ者共ッッッッッ!!!!!!」ゴォォォッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「………!!!???」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バルツィエの名を聞いただけでそこまで竦み上がりおってからにィッ!!!

 

 貴様等はそれでもスラートの戦士かッッッ!!!!?

 

 他部族と己の地を奪われまいと勇猛果敢に戦ってきた貴様等はもう死んでしまったのか!!!?

 

 情けない姿を晒しおって!!!!

 

 状況をよく見てみろ!!!

 

 この闘技場を破壊したのは彼カオス=バルツィエだが彼は我等を虐殺しに赴いたのではない!!!

 

 亡命してきたと言うのも本当だ!!!

 

 彼はバルツィエであって我等の知るバルツィエとは違うのだ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャッ、ジャアナンナンダ………?

 

バルツィエガダレイオスニボウメイ………?

 

ゴニンモ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………話を続ける。

 

 彼はカオス=バルツィエ。

 名前の通りバルツィエの生まれのようで実力も他のバルツィエと同等かそれ以上だった。

 先程我との決闘でそれを確認した。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次にカオス=バルツィエの仲間達だが彼等はバルツィエではない。

 素性を聞いてみたらマテオの村の者や騎士、我等の知らぬ国の者、それから先のバルツィエ襲撃で拉致されたアイネフーレの少年もいる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイネフーレ………!?

 

イキノコリガイタノカ!?

 

ソイツガダレイオスヘモドッテキタノカ!?

 

ナラナンデバルツィエトイッショニ………?

 

ドレイトシテツレテキタノカ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼等からマテオが戦争の準備を整えダレイオスに進軍してきつつあることとそれを止めるべくマテオが開発した“ワクチン”なるヴェノムの対抗手段をダレイオスへと持ちより我等ダレイオスも対マテオとの戦争に向けての準備を進めることを申し込まれた………。

 

 

 

 しかしながら我等ダレイオスの情勢はマテオとの戦争どころではなくヴェノムの主による災害で国はマテオとの開戦以前のように再び分散し一堂に介していた他の部族もこの地を離れていき残ったのは我等スラートのみとなった。

 このような情勢ではマテオの軍が押し寄せてきても立ち向かうことなどできはしない。

 マテオの軍がやって来たら我等は一方的に殺られてしまうだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そこで我等はそのような結果で終わらぬようダレイオスを再度建国し直すのだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ダレイオスヲケンコクシナオス………?

 

ドウイウコトダ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我等は地方に散っていった他の部族達をもう一度この地に呼び戻す!!

 

 呼び戻してからこの国を立て直しマテオとの決戦に備え軍を再編するのだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グンヲサイヘンスルッタッテドウヤルンダヨ………

 

ホカノブゾクタチハヴェノムノヌシガイルセイデデテイッタノニドウヤッテヨビモドスンダ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆の懸念は理解している!!

 

 ヴェノムの主がいるせいで他の部族達はそう直ぐには呼び戻せぬだろう!!

 

 ヴェノムがダレイオスを支配している間は外に出ることも叶わぬ!!

 

 先ずはヴェノムの主の問題を解消するのだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼等カオス=バルツィエ等五人の亡命者達にはヴェノムの主討伐の任に就いてもらう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………!!!

 

ヴェノムノヌシトウバツ………!!

 

ヌシヲタオシニイクノカ!?

 

マテオノボウメイシャタチガ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼等はその身にヴェノムを滅ぼす力を宿している!!

 

 彼等がその力でヴェノムの主を全て討伐できればダレイオスのヴェノムはこれ以上増えることは無くなる!!

 

 彼等がその任を達成すればダレイオスは再度全部族をかき集めることができる!!

 

 ダレイオスは………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつての姿を取り戻すことができるだろう!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………!!!!!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ソッ、ソンナニウマクコトガハコブノカ………?

 

ヴェノムノヌシヲタオシテクレルノハアリガタイガ………

 

マダアトハチタイイルシナ………

 

ソレニバルツィエガミカタシテクレルノハココロヅヨイガヒトリシカイナイミタイダシ………

 

ソノマエニバルツィエナンカシンヨウデキナイダロ………

 

オレタチノカクレガヲゼンブシラベアゲテカラコウゲキスルツモリナンジャナイカ………?

 

ソウダヨナ………

 

ブルータルイッタイダケジャマダシンヨウシキレナイゾ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まだ疑う者がいるようだな………。

 

 突然現れた彼等を信じきれないと言うのも納得がいく話だ………。

 

 

 

 

 

 

 だと言うのなら期限を設けよう!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キゲン…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼等が我の指定した期日までにヴェノムの主を全て討伐できなかった場合は今の話は無かったこととする!!

 

 逆に期限までに彼等がヴェノムの主を全て討伐できたのなら族長と我の宣言通り皆はダレイオス再建に勤しんでもらうぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ソレナライイガ………。

 

アマリヘタナコトシテマテオノヤツラヤヴェノムノヌシニミツカリタクネェシナ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決定だ!!!

 

 我等が指定する期日は………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半年だ!!!

 

 半年でヴェノムの主を全て討ち取ってもらおう!!!

 

 半年以内に達成の目処が立たぬようならこれまで通りに地上を捨て我等は暗き地の底で余生を過ごすとしよう!!!

 

 カオス=バルツィエ!!

 

 そういうことだ!!

 

 ソナタ等に託したぞ!!

 

 

 

 我等!!

 

 ダレイオスの命運を!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………とんでもないことになったな………。」

 

「半年でヴェノムの主討伐達成………。」

 

「あのブルータル級のギガントモンスターをあと八体も倒すなんて私達にできるかな……?」

 

「倒すだけではありませんよ。

 ヴェノムの主をボク達の足で探し出さなければなりませんし半年の期限よりもマテオの動向にも気を付けなければなりません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「半年………………。」

 

 

 

「どうしましたカオス?」

 

 

 

「………何でもないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何でも………………。」



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ファルバンの心意

 オサムロウとの試合を経てオサムロウとファルバンはカオス達の目的に賛同はしてもらえたが他のスラート族からは賛同を得られなかった。

 スラート族の皆から賛同を得るには致命的に成果と知名度がないと指摘されカオス達は一先ずヴェノムの主を倒しに行くからから始めることに………。


スラートの地中都市シャイド 族長邸

 

 

 

「地上での話の通りダレイオス復興のためソナタ等には一肌脱いでもらうこととなるが………。」

 

 

 

「それは………、

 こちらもそのつもりではあるが………。」

 

 

 

「皆はまだ余とソナタ等の計画を完全には信用してはおらんようだ………。

 無理もない話だからな。

 マテオとの再戦のためにもう一度ダレイオスを統合するなどと………、

 ヴェノムの主が一体だけ討伐されただけではまだダレイオスはヴェノムが地上を支配しておるのに変わりはないのだから………。

 ソナタ等がこれから少しずつでもヴェノムの主を倒していってもらえれば皆も分かっていってくれるだろう………。」

 

 

 

「………そうですね。

 こんな話されても成果をあげないことには誰も現実味を帯びた話にはとってくれないでしょうし………。」

 

「私達がヴェノムの主を倒して行ければ皆さんもちゃんと受けとめてくれるでしょう………。」

 

「頑張っていくしかないんだね私達が………。」

 

 

 

「…そうだな。

 ソナタ等の働きには期待しているよ。

 我等には到底不可能な仕事であるからな………。

 族長と我はここでソナタ等を陰ながら支援するとしよう。

 ………始めはソナタ等の技術支援をしようとは思うが…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時にカオス=バルツィエ。」

 

 

 

「はい?

 何ですか…?」

 

 

 

「ソナタは………、

 いつまでその壊れた手錠を着けているのだ?

 それがあっては満足に術技も使えないのではないか?」

 

 

 

「!

 ………これのことを知ってるんですか?」

 

 

 

「当然だろう。

 その手錠はマテオが侵攻してきた時に我等の同族や他部族を捕らえる時に奴等が捕虜に使用していた物だ。

 それを取り付けられるとマナを放出できなくなる。

 ………筈だがバルツィエ程の高い魔力を持つものにはあまり意味がないのか?」

 

 

 

「そんなことはないぞ。

 カオスもこの手錠でマナを封じることはできた………。」

 

 

 

「だが先程の試合では普通に術技を使用していたように思えるが………?」

 

 

 

「カオスは特別なんですよ………。

 カオス程の魔力があれば手錠を付けられても完全に封じることはできないようでして………。」

 

 

 

「マテオの技術力を持ってしても封じることができぬマナか………。

 地上での試合で見せたあの魔術はあれで不完全ということか………。

 底が知れんな………。

 あのような威力を発揮しておきながらそれでいてまだ上昇する見込みがあるとは………。」

 

 

 

「カオスが本気で魔術を使ったりなんかしたら闘技場どころか世界が大変なことになるんだから!」

 

 

 

「世界が………?

 地上でも我との試合の最中に世界がどうこうと言っておったな。

 それほどに凄まじいと言うのか?

 ソナタの魔術は………。

 ………もしや他の四人も………?」

 

 

 

「あんなに強い魔術を使えるのはカオスさんだけですよ?

 ボク達は………ちょっと特殊な体質をしてるだけで………。」

 

 

 

「特殊な体質………先程の話のことだな。

 これからの計画のためにそれは詳しく知っておきたいな。

 …マテオがいつ侵攻してくるか分からぬからな。

 

 時間も惜しい。

 早速ソナタ等の技量を見たい。

 ヴェノムの主を相手にするにはそれなりの立ち回りが必要であるからな。

 我がソナタ等の旅を少しばかり助力するとしよう。」

 

 

 

「え?

 それって俺だけの話なんじゃ………?」

 

 

 

「ソナタ等五人に頼むのだ。

 これから最初に討伐してもらうヴェノムの主の情報をレクチャーするのに一人だけと言うのはいささか不十分だろう。

 相手はヴェノムの前にギガントモンスターなのだからな。」

 

 

 

「………確かに私達はあまりギガントモンスターを相手に戦ったことがありませんからね。

 マテオではギガントモンスターはそこまで出没してはいませんでしたから。」

 

 

 

「ダレイオスはマテオよりもギガントモンスターは多いぞ 。

 ギガントモンスターとの戦闘経験が薄いのならそこを重点的に指導していこう。

 覚悟はよいな?」

 

 

 

「………なんか厳しそうだなぁ………。」

 

 

 

「戦闘の指導に優しさなどはないぞ。

 モンスターとの戦闘は命懸けなのだからな。

 ギガントモンスターとなると尚更だ。

 

 ………ではまた闘技場の方へ上がっておいてくれ。

 我も準備をしたら向かう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「はい。」」」」」ザッザッザッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あの手錠をつけたままであれほどの魔術を放つか………。」

 

「オサムロウ、

 これは大いに期待が持てそうだな。

 ヴェノムの主が全て討たれるのもそう遠い話ではあるまい。」

 

「そうだなファルバン。

 あの五人には是非とも我がダレイオスのために尽力してもらいたいところだな。」

 

「あの力がダレイオスの力に加わればマテオとの形勢を巻き返すことも可能だ。

 あの五人………、

 決して他の勢力に引きわたらぬよう注意せねば………。」

 

「ゲダイアンを攻撃したのがバルツィエでない可能性が浮上した以上ダレイオスの他の部族達にも警戒が必要だな。」

 

「ダレイオス再建に至ってまた我等スラートが玉座に付くには力は不可欠。

 だが今の情勢では全部族がほぼ均衡しているだろう。

 ………彼等を率いれた部族こそが玉座に最も近いと言えようぞ。」

 

「彼等が最初にこのスラートの地へと赴いたこと………、

 最早運命がスラートに味方しているとしか思えん。」

 

「あぁ………、

 あれでまだ更に上があるとなると彼等は恐らく化けるぞ………?」

 

「彼等は己の力の強さに溺れる………、

 ………そんな傾向は見られなかった。

 あの強さを持ちながら欲が深いなんてこともない………。

 つまりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼等の機嫌をとって勢力に引き入れたものこそが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真にこの世界を掴む者となる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダレイオス再建の目処が立ち次第我等スラートも立ち位置を定めねばな。

 この地にはスラートが上に立つことを快く思わぬ部族しかいない。

 なれば我等は彼等を頂点に奉り次席に甘んじるとするのが良かろう………。」

 

「それが我がスラートに恩を返すこととなるのなら喜んでこの任を引き受けよう。」

 

「頼んだぞオサムロウ。

 彼等と敵対することのないようにな。

 今の内に友好的に接しておれば彼等もスラートに対して不利になるようなことはせんだろう。

 ………まだまだ彼等は若い。」

 

「若さゆえに利用されやすい………。

 そのことをさとられぬようにせんとな。

 

 ………それでは彼等を待たせてはいかん。

 行ってまいる。」ザッザッザッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (……………しかし…………、

 あのカオス=バルツィエとかいえ青年はどれ程の魔力を蓄えていると言うのか………………、

 マテオで開発された魔術封じの枷を装着しながらあの破壊………。

 あの手錠はある程度の強さの者なら完全に術技を使用できなくするというのに………。

 バルツィエですらあの手錠を嵌めれば常人まで力が落ちると聞く………。

 それを………………。

 ……………それならば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あのお方もその身に纏う封印を解けば彼に匹敵する程の力があるのではなかろうか………?)」



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オサムロウの指導

 カオス等一行はダレイオス再建のためにもダレイオス各地にいるヴェノムの主の全討伐依頼を引き受ける。

 ヴェノムに太刀打ちできる彼等だからこそ成し遂げられる依頼だったが………。


王都セレンシーアイン 西区 闘技場 夕方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………待たせたようだな。」

 

 

 

「いえそんなには………。」

 

「オサムロウ殿………、

 オサムロウ殿程の凄腕の剣士に指導していただくのは願ってもないことだが俺とカオスは既にバルツィエを倒すレベルの腕には達しているぞ?

 そんな俺達にも指導が要るのか?」

 

 

 

「無論だ。

 カオス、

 ソナタが一番腕がたつのであろう?

 そのソナタがあれしきの試合で魔力を一気に出し切るようではこの先いくら命があっても足りん。

 剣術も未熟ときた。

 せめて我とカタナを交えるくらいにはならんとな。」

 

 

 

「それはまぁ………。

 オサムロウさんの間合いに入ったら………、

 それで試合が終わりそうだったんで………。」

 

 

 

「敵の懐に入る前に敵の力量を量り警戒するの結構だ。

 だがそれで間合いにいつまでも入っていかないのは相手に恐怖しているも同然。

 戦場では恐怖に捕らわれたものから死ぬ。

 時には思い切りが大切だ。」

 

 

 

「………はい。」

 

 

 

「………ではカオス、ウインドラ、タレス。」

 

 

 

「「「!

 はっはい!」」」

 

 

 

「ソナタ等には今日残りの時間で模擬刀を使った稽古をしてもらう。」

 

 

 

「模擬刀で稽古を………?」

 

 

 

「相手は………カオスはタレスと、ウインドラは我と組んで稽古だ。」

 

 

 

「模擬刀って………。

 ボクは鎌しか使ったことないんですけど………。」

 

「今日は模擬刀を使え。

 我が鍛えるのは戦闘時の接近戦における瞬時の対応力だ。」

 

 

 

「対応力………?」

 

 

 

「言うよりもやって見せた方がいいか………。

 ………カオス我の前へ。」

 

 

 

「はっ、はい………?」

 

 

 

「よし、

 剣を構えろ。」

 

 

 

「!

 わっ、分かりました。」チャキッ…

 

 

 

「これから我がソナタに斬りかかる。

 防いでみよ。」

 

 

 

「ええっ!?」

 

 

 

「では………

 いざ………」チャキッ…

 

 

 

「ちょっ、近ッ!?

 待って………」ブォンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィィンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 カオスが止めた!!?」

 

「カオスさんでもオサムロウさんの剣を止められるんですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおっっっと!!!?

 ハッ………ハハハ………。

 一発目ならなんと「一度で手が止まる筈なかろう。」ウブッ!?」ドスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我の剣筋を見切ろうとするのなら一手目だけではなく二手三手と先を読んでいけ。

 ソナタが一手目に対応しようとしても我は止められる度にその次その次と手を緩めるようなことはないぞ。」

 

 

 

「はっ、はい………。」

 

 

 

「ソナタ等はバルツィエよりかは上の技量を持ち合わせているようだがあくまでもそれはバルツィエのような一撃決殺型の剣にそっての話だ。

 これから相手をするギガントモンスターは人の剣の一撃程度では戦いは終わらん。

 こちらが小規模な二撃三撃と手を繰り返していく内に敵は強烈な一撃で反撃してくるぞ。

 それを重々頭に入れておけ。」

 

 

 

「はっ、はぁ………?」

 

 

 

「基本は剣で斬りつければあらゆる生物はそれだけで致命傷を負う。

 だがギガントモンスターはその例には当てはまらない。

 手数を増やさねば倒せない相手だ。

 相当にしぶとい。

 おまけにヴェノムが体の中に蔓延しているのならしぶとさも通常の種よりも上だろう。

 だったならソナタ等はその分攻撃の回数を多くせねばなるまい。

 我がこれよりソナタ等に教えるのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人での技の連携だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「一人での技の連携………?」」」

 

 

 

「手数を増やさねばならないとなると戦闘が長期戦になる。

 その間後衛に敵を行き届かせぬように一人一人が時間を稼いで上で敵を攻撃する戦法が効率的だろう。

 後衛には時間をかけて痛烈な一撃を浴びせる術を使用してほしいからな。

 ソナタ等には後衛が魔術を放つ間敵の注意を引き付けておかねばならぬ。

 そのためには技の後の切り返しが必要だな。

 ………手本をお見せしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真空破斬!!邪霊一閃!!裂空刃!!!」シュバンッ!!ザシュッ!!ザザザザザムッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!!」」」

 

 

 

「………このような感じで技を小回りが効く技から少し強めの上位技………、

 そして直前の上位技で相手の体勢を崩せば隙の大きな“奥義”へと繋げられる。

 ソナタ等はこの連撃を習得してもらおうか。」

 

 

 

「連撃に奥義………。」

 

「奥義だなんてまだボクには………。」

 

「奥義か………。

 俺の奥義は瞬雷槍だが………、

 他の技と繋げて放つことはできんな………。」

 

 

 

「それはソナタ等が今まで一撃で倒せるような敵しか相手にしてこなかったいい証拠………、

 この場合は悪い証拠だな。

 奥義習得に関しては戦闘スタイルが違うので手助けはしてやれんぞ。

 奥義だけはソナタ等が自ら剣を学んで習得せねばな。」

 

 

 

「奥義なんてどうやれば………?」

 

 

 

「タレス、

 ソナタは何故鎖鎌を武器にしている?」

 

 

 

「鎖鎌を武器にしている理由………。」

 

「タレスは!」「タレスに聞いておる。」

 

 

 

「………この武器が子供のボクには一番使い物になるからです………。

 振り回して使えばそれなりに威力も出せますし…、

 リーチもありますから大人とも戦えます………。」

 

 

 

「……そういった理由か………。

 言われてみれば納得だ………。

 これで剣を使ったとしても鍔迫り合いになれば筋力で負け斬り殺されて終わる………。

 そういった観点からすれば振り回す遠心力で威力を底上げする鎖鎌は子供のソナタでも扱いやすい武器だったと言うことか………。

 なるほど考えたな………。

 ………奥義についてだが我も鎖鎌を使用したことがないので技を教えることはできぬ。

 

 

 

 だが奥義習得のヒントはある。」

 

 

 

「ヒント………?」

 

 

 

「あらゆる近接戦闘スタイルに共通しているのは一連の動きの流れだ。

 力み過ぎず綺麗な動きで丁寧に技を出すことを心掛けるのだ。

 力みが入っては最初の技の威力は上昇しても次に派生させる技は徐々に精度が落ちていくだろう。

 連撃だろうが奥義だろうが同じだ。

 力まず武器と技の習性を知って自らの得意とする技の先を見据えるのだ。

 自らの体の仕組みを学び技を繰り返していけば自ずと奥義に辿り着くことができよう………。」

 

 

 

「?、?、???」

 

 

 

「………要は自分の技からどのような技に繋がるかを知るために技を出すときは力いっぱい振り切るのでは無く速度とコントロールを重視するのだ。

 大振りな一撃はその後次の動作に移行するのに一瞬の隙ができるであろう?

 それを無くすのだ。

 一撃加えた後の次の動作に、その次の動作、またその次の動作………とな。」

 

 

 

「…!

 それならなんとか分かります………。」

 

 

 

「フッ………、

 ソナタが技量を高めた時はこの中では最も先を読みにくいスタイルとなるかもな………。」

 

 

 

「ボクが………?」

 

 

 

「鎖鎌を扱いきれる者はそうおらん。

 皆その鎖の扱い難さに難航して放り出すような輩が多いのだ。

 故に戦場ではあまり見かけぬ為戦闘中にソナタの技を見切るのは厳しいだろう。

 ………ソナタはもっと強くなれる。」

 

 

 

「!

 はいッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外と本格的に教えてもらえるんだな………。」

 

「俺はてっきりギガントモンスター攻略の戦術を少し指南する程度だと思ったんだが………。」

 

「私達よりも戦闘のいろはを塾知している………。

 学べることは多そうですね………。」

 

 

 

「………でも私達って何するんだろう?

 剣なんて使えないんだけど………。」



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オサムロウの指導2

 ヴェノムの主討伐に向けて旅立つカオス等一行にオサムロウが主との戦闘を踏まえたレクチャーを施してくれると言う。

 カオス達はそれを受けるが………。


王都セレンシーアイン 西区 闘技場 夕方

 

 

 

「奥義………。」

 

「奥義と言ったら………、

 カオスはユーラスの使っていた技以外にあるのか?」

 

「………無い。」

 

「今までどうやって技を習得していたんだ?」

 

「う~ん………。

 戦闘中に思い付きでやってみた技をそのまま使っていたり俺以外のバルツィエ達と戦っているときに相手が使っている技をそのまま使っていたりとかかな………。

 後は奥義書とか読んだり。」

 

「よくそんなぶっつけ本番………にもならないような感覚で技を使えるな………。」

 

「だって人の動きを真似するのがしっくりくるんだからいいだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでいいんだ。」

 

 

 

「………いいのか?」

 

 

 

「他人の動きを見て学べること。

 それすなわち基礎的な筋力が十分に達していると言うことだ。

 基本ができているのなら次は技を学んで取り込んでいく。

 それも自己流のでな。」

 

 

 

「自己流ですか?」

 

 

 

「どんな術技も“開祖”と言う発現者がいるがその技を完全な形にできるのはその開祖だけだ。

 人は皆筋力も魔力もバラバラ。

 完全に開祖と同じになることはない。

 なら開祖に習って技をある程度の技術まで持っていけたら後は自分なりの形を作るのだ。

 一見同じに見える技も威力、初速から終わりまでの時間は人様々だ。

 例え同じ人物が同じ技を使用していてもいきなり試した技や数百に重ねた技、更には数万にまで重ねていけば完全に別の次元の技となる。

 奥義とはその段階のどこかで派生してくるだろう。」

 

 

 

「俺が魔神剣を使い続けていけば勝手に奥義が組上がっていくんですか?」

 

 

 

「そう。

 ソナタ等も経験がある筈だ。

 剣を持ち始めた時と今とで己を比べてみればまるで他人のような成長を感じたことが。」

 

 

 

「まぁ………、

 昔よりかは確実に強くなってるとは思いますけど………。」

 

「過去の自分に負けていては話にならん。

 俺は常に“昨日の自分より強く”だ。」

 

 

 

「精進する心得は見事だ。

 だが強くあろうとするのなら単純な力の強さではなく“洗練さ”を一番に考えろ。

 洗練された技なら武身技、闘気術、魔技を使用してもマナの消費は格段に減らせる。

 その減らしたマナで別の技を組むんだ。

 それが我が教える連携だ。」

 

 

 

「マナを減らすかぁ………。

 魔神剣ならもう何度も使ってるからマナを使わずに出せるけど他の技と一緒に出すとなるとそっちの技の方にマナが持っていかれそうだなぁ………。」

 

「俺は強くなろうとして技を一つ一つ体得はしていったがあまり数の練習はしてなかったな………。」

 

 

 

「今回の我の修練はあまり時間をかけてはいられん。

 ソナタ等の依頼にはいつマテオ進軍が結構されるかが定かではないからな。

 ソナタ等は技の完成度を高めるのと同時にお互いに模擬刀を打ち合い連携に至るコツを掴むのだ。

 勿論打たれる方は相手の剣を防ぎ反撃を試みよ。

 掴むべきは奥義と連携だ。」

 

 

 

「「「分かりました。」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ではソナタ等には何をしてもらうかだが………。」

 

 

 

「私達は何すればいいの?」

 

「カオス達のように武器は持ち合わせてはいませんけど………。」

 

 

 

「ソナタ等は………接近戦は出来るのか?」

 

 

 

「接近戦?

 力にはちょっと自信あるけど?」

 

「私もそれなりには………。」

 

 

 

「そうか………。

 では我にそれを見せてみよ。」

 

 

 

「……分かりました。

 『我らに力の加護を………シャープネス。』」パァァ…

 

 

 

「………」

 

 

 

「ミシガンにも、

『力の加護を我らに…シャープネス。』」パァァ…

 

「有り難うアローネさん!」

 

「これなら私達でもカオス達以上に力が「『力の加護を我らに…シャープネス。』」!?」「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ…、

 かかってこい。」

 

 

 

「オサムロウさんもシャープネスをお使いに…?」

 

「ちょっと!?

 ズルいんじゃないの!?」

 

 

 

「この程度の術を相手に使われてズルいとは………。

 実戦で相手が同じ手を使ってこないとは限らないのだぞ?」

 

 

 

「それはそうだけど………。」

 

「これでは条件は同じ………。

 私達ではこれで手詰まりとなりますね………。」

 

 

 

「接近戦が腕力だけでは到底“できる”とは言えんな。

 ソナタ等はもう少し工夫を凝らしてみる必要がある。」

 

 

 

「工夫………?」

 

 

 

「先程はカオス、ウインドラ、タレスに先に指導をしたが何故ソナタ等とは別にしたのだと思う?」

 

 

 

「そんなの………!

 …………何で?」

 

「男性と女性だから………ですか?

 男性と女性では動作に差があるから………?」

 

 

 

「性別ではない。

 ソナタ等を後に回したのはソナタ等二人が一目で前衛ではなく後衛だと判断できるからだ。」

 

 

 

「前衛と後衛………?」

 

 

 

「カオスは剣、ウインドラは槍、タレスは鎖鎌、

 これだけで前衛と分かるがソナタ等には前衛らしい武器が無い。

 あの三人と共にいて武器を持ってないとすれば二人は後方支援と分かるだろう。」

 

 

 

「…そうですね。」

 

 

 

「敵が戦闘を開始したら先ず誰が狙われるのかは分かるな?」

 

 

 

「私達でしょうね………。」

 

「でも前衛後衛って分かれるならそれが普通なんじゃないの?」

 

 

 

「それが分かるのなら先程ソナタ等は我の一手で終わっていたことも分かるな?」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「戦闘では前衛がなるべくソナタ等を守りはするがそれに甘えていてはいかん。

 ソナタ等も接近戦に持ち込まれたとき自衛ができなくてはな。」

 

 

 

「私は一応これでも魔技くらいなら使えますが………。」

 

「私だって………。」

 

 

 

「詠唱無しの魔技は正直大した威力にはならん。

 かといってソナタ等にいきなり前衛用の武器を使えるようになれと言うのも無茶な話だ。」

 

 

 

「では私達はどうすれば………?」

 

「接近されないようにするしかないんじゃないの?」

 

 

 

「それも大事だが前衛が三人いる以上後衛も必須。

 しかし敵が接近してきた………。

 ………そこで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソナタ等は敵を詠唱込みの魔術で撃退するのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?

 接近されている状態では詠唱している暇が無いのでは………?」

 

「接近されてるってことはそれだけ相手も足が早い敵なんでしょ?

 魔術は攻撃力抜群だけど詠唱してる最中に攻撃されちゃわないかなぁ………。」

 

 

 

「案ずるな。

 ソナタ等はカオス達のような技術を底上げするのではない。

 

 

 

 このレンズのスキルを使いこなしてもらうだけだ。」

 

 

 

「!

 そのレンズは………!?」

 

「あっ!

 レンズ!

 私もつけてるよ!」

 

「ミシガンもレンズを装備していらっしゃるのですか?」

 

「当然でしょ?

 …っていっても村の騎士団の人から借りたエルブンシンボルなんだけどね。」

 

「騎士団から………借りた………?」

 

「………内緒で借りてきたやつなんだけど……。」

 

「ミシガン………。」

 

「だって!

 マジックアイテムも持ってないやつを旅には連れていけないってレイディーが言うから!」

 

「それで盗みを………(汗)」

 

「もう借りてきちゃったものは仕方ないじゃない!

 中身は“ストレングス”とかいうあんまり大した機能じゃないみたいだし。」

 

「効果がない………?

 ………言われてみれば私達はレンズのスキルは習得できるようですが元々のエルブンシンボルの身体能力向上の恩恵だけは非装備時と変わらないですよね………。」

 

「常時潜在能力が最高ってことなんじゃないのかな?」

 

「………そうなのかもしれませんね………。

 殺生石の力が………私達の能力を…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………レンズの説明に移りたいのだが……。」



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オサムロウの指導3

 オサムロウから訓練を受けることになったカオス等一行。

 オサムロウの見立てによるとカオス達の戦い方はギガントモンスターとは相性が悪いようだが………。


王都セレンシーアイン 西区 闘技場 夕方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「スペルチャージ………?」」

 

 

 

「スペルチャージ、

 このスキルは最大限の魔術を放つタイミングが難しい後衛にとっては重宝するスキルだ。

 どういうものかは………、

 『水流よ我が手となりて敵を押し流せ…。』」パァァッ

 

 

 

「………」

 

「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………こういうものだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どういうものなの?」

 

 

 

「………真空破斬!!」ブォンッ!

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『アクアエッジ!!』」バシャァァァッ!!

 

 

 

「……水流がっ!?」

 

「今詠唱無くても発動したよね!?

 どうなってるの!?」

 

 

 

「スペルチャージは予め詠唱込みの魔術を一つだけ留めてから行動できる。

 留めておいた魔術は任意で発動できるのだ。」

 

 

 

「…そのスキルがあれば戦闘中に敵に接近されても瞬時に敵を攻撃し押し返すことが可能ですね。」

 

「そのスキルって留めておいてからもう一回別の魔術を発動することもできるの?」

 

 

 

「できるぞ。

 他にも留めておいた魔術と同時に二番目に詠唱を唱えた魔術と合わせたりもできる。」

 

 

 

「それなら“追撃”と合わせますと後衛の手数が格段に増えますね。」

 

 

 

「追撃を知っているのか。

 その通りだ。

 前衛が二度三度と攻撃を繰り返す内に後衛は詠唱をしなければならぬので前衛に対して手数が減る後衛は追撃とスペルチャージで前衛を補助できる。」

 

 

 

「これって治療魔術も留めておけるの?」

 

 

 

「あぁ。

 『癒しの加護を我らに………。』

 真空破斬!邪霊一閃!!裂空刃!!『ファーストエイド!!』」シュバッ!!ザシュッ!!ザザザザザムッ!!パァァァッ!!

 

 

 

「攻撃しながら回復を…!?」

 

「オサムロウさん何でも使えるんだね………。」

 

 

 

「我のように前衛後衛共に可能であれば一人で攻撃をしながら相手に向かっていける。

 相手は魔術を使わせまいと向かってくるがそこを返り討ちにできると言う訳だ。」

 

 

 

「オサムロウさんのような方が隊列に入れば敵は悠長に構えてはいられませんね………。」

 

「前衛かと思ったら後衛で後衛かと思ったら前衛みたいな剣術………。

 無敵じゃない…!」

 

 

 

「………このダレイオスの地では無敵ではない。」

 

 

 

「「………?」」

 

 

 

「敵が通常のモンスターやマテオのバルツィエと言った攻撃が通る敵ならこれでよかろう………。

 だが今のダレイオスのモンスターは主にヴェノムだ。

 ヴェノム相手にはこの戦法は無意味に等しい。

 何せ攻撃が通らぬのだからな。」

 

 

 

「…そうでしたね………。」

 

 

 

「だからヴェノムを撃退することができるソナタ等には我の戦法をなるべく授ける。

 我がソナタ等の技量を高めれば高めるほどダレイオスは救われる道が見えてくる。

 ソナタ等“五人”とその他の部隊の仲間達には期待しておる。」

 

 

 

「(………五人とその他の仲間………。)」

 

「…!

 そういえばオサムロウさん!」

 

 

 

「何だ?」

 

 

 

「このセレンシーアインに最近来た人って私達だけ?」

 

 

 

「?

 そうだがそれがどうした………?」

 

 

 

「私達の他にもね。

 後一人私達と同じ能力を持っている人がいるんだけど………。」

 

 

 

「真か………?

 そのような者は訪ねてきてはおらんが………?」

 

 

 

「そっかぁ………。

 行き違いになったりはしてなかったみたいだね………。

 でも一応伝えておくね。

 

 

 

 “レイディー”って人がその内訪ねてくるかもしれないし。」

 

 

 

「レイディーだな。

 分かった。

 その者とはどういった仲なのだ?」

 

 

 

「私達の………仲間?」

 

「仲間でしたけど………、

 彼女には私達とは別の目的でダレイオスに渡ってきまして………、

 ダレイオスに入国してから別れました………。」

 

 

 

「別の目的で………?

 それはどういう目的だったのだ?」

 

 

 

「………分からない。

 レイディー私の村に来てから石ころとか集めたり穴掘ったりとかしてて何してるか意味不明だったし………。」

 

「何かの研究をしているのは確かなのですけどそれが何かまでは私達にも話して貰えなかったのです………。」

 

 

 

「研究………と言うとマテオの科学者か何かだったのか………?」

 

 

 

「マテオではヴェノムの研究の第一人者だったようですよ?

 バルツィエの方とも顔見知りなくらいには有名だったようですし。」

 

 

 

「…それほどの研究者がマテオではなくダレイオスで研究を………?

 何を研究しているのだろうか………?」

 

 

 

「レイディーに直接聞かないと分からないよそれは………。」

 

「直接お聞きしても話してくれるかは分かりませんけど………。」

 

 

 

「………とりあえずレイディーだな。

 覚えておく。

 この街に来たのならソナタ等のことも話しくとしよう。

 ソナタ等は引き続きスペルチャージの訓練に勤しめ。」

 

 

「は~い。」

 

「分かりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………少しは身に付くものがあったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…魔神剣の派生技ならなんとか繋げて出せるようになりました。」

 

「俺は少し手こずっている。

 如何せんバルツィエに追い付くよう一撃に力を込めるような修行ばかりだったので連撃となると技の精度が下がってしまう。」

 

「ボクは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 孤月先ッ!!円閃牙ッ!!飛燕連天脚ッ!!」ザスッ!シュンシュンシュンッ!!シュシュッ!シュシュシュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………タレスが一番連繋が整っているようだな。」

 

 

 

「凄いな。

 空中でそんなに蹴りが出せるなんて………。」

 

「スキル、“エアリアルジャンプ”を巧みに使いこなしてるな。」

 

「このスキルがあると空中でいろんな応用に使えますからね。

 今までは鎖鎌を地上で振り回してたからちょっと使いにくかったんですけど空中でなら振り回しても長さを気にしないで使えるんで。」

 

 

 

「武器組は問題無さそうだな。

 ………魔術組はどうだ?」

 

 

 

「私達もスペルチャージをどうにか物にできました。」

 

「オサムロウさんのように接近されたら武身技?とかいうので反撃はできないんだけど………。」

 

 

 

「今日始めたのにそんな直ぐに我の技まで物にされては我の立つ瀬がない。

 今はスペルチャージのタイミングを掴む程度でよいだろう。

 

 

 

 今日のところはお仕舞いだ。

 また明日特訓して後に明後日からの計画を立てるとしようか。

 後でまた我の家に来い。

 我の家で体を休めていけ。」スタスタ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ダレイオスの戦闘技術ってマテオより高いんだね……。」

 

「教わっているとダレイオスの視点は強者に対して弱者がどう立ち向かうか工夫がなされている感じだな。」

 

「マテオでは魔術を重視した戦い方がメインですからね。

 単純で接近戦術の細かい所は軽視しがちなんでしょう。」

 

「両立できたらかなり強くなるんじゃないの?

 私達も。」

 

「どうしてマテオではこういうのを取り入れないんだろう?

 身に付けたら強いと思うのに………。」

 

「それは「どんなに強い技術でも」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どれだけの時を重ねて身に付けた戦士の技術でもそれが生まれて数年の幼子に負けるようでは使えるとは言えん。

 バルツィエが持つ魔力は歴戦の猛者を軽くあしらう。

 ………それだけだろうな。」

 

「……人はその努力が無意味と悟れば他の手段を探します。

 人の力よりも武器が強いのなら武器で、

 武器よりも魔術が強いのなら魔術で………。」

 

「ダレイオスは魔術ではマテオに追い付けません。

 魔術で敵わないのなら………、

 やっぱり人の力に戻ってきただけなんですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それしかマテオの虚をつける隙が無かったんです………。」



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内包するマナ

 オサムロウから訓練を受けることになったカオス等一行。

 オサムロウはカオス、タレス、ウインドラには技の連携を教えアローネとミシガンにはスペルチャージのスキルを教えるが………。


スラートの地下都市シャイド オサムロウ邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ってきたか。」

 

 

 

「はい。

 もう後は特にすることもありませんので。」

 

「明日もまた特訓して、

 それから私達がダレイオスを回らなきゃいけないんでしょ?

 今のうちに休んでおかないとね。」

 

「今日と明日世話になるオサムロウ殿。」

 

 

 

「うむ。

 明日の訓練のためにしっかりと体を休めるがいい。

 我ももう就寝するところだ。」

 

 

 

 

 

 

「………ちょっとまた外に行ってくるよ。」

 

 

 

「カオス?」

 

「どうしたんですか?」

 

 

 

「………何でもないよ。

 また風に当たってくるだけだから………。」

 

 

 

「…ボクも行きます。」

 

「タレスもですか?」

 

「ボクももう少し技の練習がしたいので………。」

 

「………それでしたら私も行きます。」

 

「アローネ=リムもか。」

 

「三人も行くの?

 だったら「ミシガンは休んでおけ。」なんでよ!?」

 

「戦闘訓練なんてあまりやったことがないだろう?

 ここまでの旅で疲労が溜まってる筈だ。

 今日は休むぞ。」

 

「えぇ~!?

 また面白そうなことしようとしてるのに私だけ仲間外れ?」

 

「………俺も休むからな。」

 

「…なら私も休むけど………。」

 

「…カオス達、

 あまり長く出歩くんじゃないぞ。」

 

 

 

「地上に出るのならヴェノムには気を付けておけ。

 ソナタ等には万が一もないのだろうが地下へと連れてこられたら厄介だ。」

 

 

 

「分かってますよ…。

 

 

 

 それじゃあ行ってきます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 中央建築物 屋上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「カオス?

 いかがなさったのですか?

 またこのような場所まで来て………。」

 

「まさかここでまた寝るとか言いませんよね?

 いくらなんでも屋内があるのに「ここで寝るつもりだよ。」」

 

「………」

 

「………」

 

 

 

「………」

 

 

 

「…理由をお聞きしても…?」

 

 

 

「ここの方が………、

 落ち着くからかな。」

 

 

 

「落ち着くにしても………、

 こんな外で一人で寝るなんて………、

 本当に風邪を引きますよ?」

 

 

 

「大丈夫だよ。

 俺は風邪なんて引かないから。」

 

 

 

「………私達が普通の人と比べて丈夫な体をしてるからと言っても精神的なところは何一つ変わらないのですよ?」

 

「どうしてカオスさんはそんなに人と一緒にいるのを避けたがるんですか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 

「………」

 

 

 

「お話していただくまで帰りませんよ?

 昼間のオサムロウさんとの試合で使った魔術の件も含めて。」

 

「なんならボク達もここでカオスさんと一緒に夜を明かしてもいいんですよ?

 外で寝ることについては抵抗なんてありませんし。」

 

 

 

「………それは困ったな………。

 アローネ達もここで寝るとなると俺も外で寝るわけにはいかなくなるな………。」

 

 

 

「何があったのですか?

 昨日のこの時間辺りから変ですよ?」

 

「昨日のこの時間?

 カオスさんが昨日ここで寝ると言い出した時からなんですか?」

 

「カオスが何方かとお話をしていたようですけど………。

 相手は恐らくは………。」

 

「殺生石のあの人ですか………?」

 

「多分ですけど………。」

 

「殺生石のあの人と何をお話になってたんですか?」

 

 

 

「何でもないよ。

 俺だけあの時は意識がなかったから俺にだけ話しかけてきたんだ。

 心の中で。

 話してた内容はアローネ達が知ってる通りさ。」

 

 

 

「わざわざカオスさんにもう一度同じ内容の話を?」

 

 

 

「うん、

 それだけだった。」

 

 

 

「………では、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “半年” と言うのは何のことなのでしょう?」

 

 

 

「………!?」

 

 

 

「半年………?

 それってオサムロウさんが提示してきたヴェノムの主討伐の期限のことじゃないんですか?」

 

「いえ………、

 あの条件を提示する前からカオスは“あの方”に半年以内に何かをしなければならないことを伝えられていた筈です。

 

 カオス、

 何を半年以内に成さねばならないのですか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「カオスが昨日からどことなく焦った様子が見られるのはそのせいなのではないですか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………ちょっと待ってください………?

 殺生石はボク達にデリス=カーラーンからヴェノムを排除してほしいってお願いしてきましたよね?

 あのときは確かお願いだけして特に期限とかは言ってなかったと思うんですけど………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「カオス、

 教えてください!

 

 

 

 そうなのですか!?

 本当にそういうことなのですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………そうだよ。

 殺生石は………後付けで条件を提示してきたんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “半年以内にダレイオスからヴェノムの割合を減らすこと。

 できなかったらその時はこのデリス=カーラーンを殺生石が粉々に破壊する”

 そう俺に言ってきたんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはりそうでしたか………。」

 

「半年………?

 半年でこの世界が………。」

 

 

 

「半年後………、

 アイツの要望通りに今のダレイオスからヴェノムが無くならなければアイツはデリス=カーラーンを消し炭にするつもりなんだ。」

 

 

 

「百年………、

 いえ…、

 数万年から数億年に渡って存在し続けてきたヴェノムを半年で………。」

 

「………半年後にもしあの方の望むような結果にならなければ………、

 カオスはどうなるのでしょう………?」

 

 

 

「分からないよ。

 アイツは俺の中にいるんだから………、

 俺ごとデリス=カーラーンを破壊するのかもしれないし………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺だけ生き残って世界が終わるのを見ているのかもしれないし………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がこの手で世界を破壊してるのかもしれないしね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「どっちにしてもまだ先のことだから分からないけどその日が来たら俺は沢山の人を殺してしまうことになるかもしれないんだ。

 

 

 

 俺はずっと昔から………、

 皆を守れるような騎士を目指してきた………。

 …けどそれは諦めた………。

 俺の考えていた騎士は現実とは違うものだったし俺自身守るべき人を殺してしまうような人が騎士になるなんて許せない………。

 騎士にはなれなかったけど俺は俺の理念のもとに誰かの助けになろうと思ってここまでやって来た。

 アローネがそう教えてくれたから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………でもやっぱり駄目なんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は戦う度に、

 強くなる度にどんどん世界の敵になっていく………。」

 

 

 

「世界の敵に………?」

 

 

 

「………ちょっとさ。

 この手錠………、

 ………ここで外してみてもいいかな?」

 

 

 

「…?

 構いませんが………?」

 

「それ………、

 鍵もなく外せるんですか?」

 

 

 

「外せるよ。

 本当はダレイオスに着いてから意識が戻った時には鍵が壊れてて外せたんだけどあの時はこれ着けてても技は発動できたしいい具合にマナを手加減できると思って着けたままにしてたんだ。

 

 

 

 ………でももうこの手錠も使い物にならなくなってるのかな………。」ガチャッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴトッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………………!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………!!!!????」」

 

 

 

「おっと…。」ガチャンッ…!

 

 

 

「…………!?

 ………カオス………、

 そのマナの量は………!?」

 

「今………!

 とんでもない量のマナがカオスさんから溢れて………!?」

 

 

 

「………殺生石がこの星を破壊する準備をしてるのかもしれないね………。

 ………昼間のファイヤーボールは追い詰められて出したのもあるけど本当は本の少しの魔力で………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 軽く掌に火を灯す程度にする予定だったんだ………。」



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見守ってくれる仲間

 オサムロウとの訓練を終えて休息を取るカオス等一行。

 しかしカオスが何故か一人になろうとして………。


王都セレンシーアイン 中央建築物 屋上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺の魔力はユーラスと戦ってから徐々に膨れ上がっていってる………。

 このままだと本当にデリス=カーラーンを破壊しかねない程に………。

 俺の中のアイツが少しずつ目覚め始めていってるんだ………。」

 

 

 

「…どうしてそんなことに………。」

 

「カオスさんの魔力が………、

 だからマナを封じるための手錠をつけっぱなしにしてるんですか……?」

 

 

 

「これが無かったら軽い弾みで魔術を出してしまいそうなんだ。

 俺は技を繰り出したりダメージを負う度にマナを消費するけどその度に消費した以上のマナを回りから吸収している。

 ………今の俺のマナはかろうじてこの手錠で押さえ込んでる状態なんだ………。」

 

 

 

「………」

 

「そんな危ない状態で………。」

 

 

 

「…だから皆と寝ている最中にもしも俺が寝惚けて魔術なんか発動したらと思うと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識のない状態で誰かと一緒にいるのが怖いんだ………。

 また無意識で誰かを殺してしまいそうで。

 俺は意識が無いときに人を殺してきたからさ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスは誰も殺したりなんかしませんよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アローネ………。」

 

 

 

「カオスは誰も殺したりなんかしません。

 カオスは人を殺めてしまうことの罪の重さを知っていますから絶対にそんなことにはなりません。」

 

「そうですよ。

 ここまで一緒に旅をしてきたボク達ですからカオスさんが不必要な殺人を犯すようなことは無いと断言できます。」

 

 

 

「…だけど………。」

 

 

 

「御自分の在り方を忘れてはなりませんよ?

 カオスが誰かを殺したくなんか無いと仰るのならその通りになるのです。」

 

「早々人が人を殺したりすることなんてありませんよ。

 それこそ自分から望まない限り。」

 

 

 

「俺の魔力は簡単に人の命に手が届くのに………?」

 

 

 

「届いたところで手を伸ばさないのが貴方ですよカオス。」

 

「バルツィエは力を持つと調子に乗り出すのにカオスさんだと逆に力を持つことで苦悩する………。

 カオスさんなら殺生石の力を利用して人殺しなんてしないと分かりますよ。」

 

 

 

「二人とも………。」

 

 

 

「私達の中で最もこの力と向き合うことが難しいのはカオスなんでしょうね………。

 ですけど私達はもう一致団結、一蓮托生の仲間なんです。

 一人で抱え込めないのなら私達が肩をお貸ししますよ。」

 

「ボク達は皆何かを背負っている者同士です。

 それなら誰かが背負いきれなくなったらボク達が一緒に背負います。」

 

 

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ごめん………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから………………、

 ………ありがとう………。」

 

 

 

「大丈夫ですよカオス。

 半年が過ぎたとしてもデリス=カーラーンは無くなったりはしません。

 私達はこれからそのヴェノムを退治しに向かうのですから。」

 

「オサムロウさんの話ではダレイオスのヴェノムの主さえ倒してしまえばこれ以上ダレイオスのヴェノムが増えることは無さそうです。

 主が倒れれば感染源が無くなり他の通常のヴェノム達も死滅するでしょう。」

 

 

 

「………そうだね。

 俺達が上手くやれればそれで済む話なんだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やろう!

 俺達で!

 

 

 ダレイオスからヴェノムを無くすんだ!

 それが達成できたら戦争が始まるけど少なくとも“殺生石による世界の終わり”だけは回避できる!!」

 

 

 

「後はマテオのヴェノムとバルツィエだけですけど………、

 私達がダレイオスと協同で立ち向かえばバルツィエは倒せる筈です!!」

 

「一筋縄ではいかない相手ですがボク達はこれからもっともっと強くなります!

 強くなってバルツィエを倒しましょう!

 バルツィエさえ倒すことができれば世界は安全になるんです!」

 

 

 

「終わらせようか皆で!

 この“バルツィエとヴェノムに支配された”を!!」

 

 

 

「「はいッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………全く、

 カオスめ………。

 様子がおかしいと思ったらそんなことになっていたのか………。」

 

「カオスの中の力がそんなに大きくなっていたなんてねぇ………。

 だから昼間はあんな強力な術が出せたんだねぇ………。」

 

「ミシガン寝なくて平気か?」

 

「ウインドラだって疲れてるでしょ?」

 

「俺はまだそこまで眠くはないが………。

 ………半年か………。

 半年でダレイオスのヴェノムと決着を着けねばならないとは………。」

 

「大丈夫でしょ?

 昨日だってあの一匹倒すのに半日とかからなかったし後八体あれみたいなのがいるなら八日あれば十分でしょ?」

 

「移動の時間や見つけ出すことを考えればそう悠長に考えてはいられん。

 ヴェノムの主が移動することも考慮すれば一月以内に二体は倒したい。

 …が、ダレイオスは広大な大陸だ。

 それこそマテオ以上にな。

 敵がすんなり現れてくれればいいが………。」

 

「細かいことは後で考えればいいよ。

 私達はまだこれからなんだし。」

 

「これから………か。

 ………ミシガン。」

 

「何?」

 

「俺は………、

 絶対にマテオを………、

 ミストを救って見せる………。」

 

「………うん………。」

 

「ミストを何者にも縛られない昔のような村に戻して見せる………。

 そこにはミシガンと俺はいるだろうが………、

 カオスは………。」

 

「カオス………?」

 

「………カオスは………、

 あの村には連れ帰らない方がいいのかもしれない………。」

 

「………どうして………かな………?」

 

「カオスはこれからいろんな人を救って行くだろう………。

 カオスに救われた人はカオスに感謝しカオスもそれがやりがいとなってまた別の人の助けとなる………。

 ………カオスはミスト以外では幸せにやっていけると思うんだ………。

 俺達と一緒にいるよりかはずっと幸せに………。」

 

「………」

 

「…だからカオスはミストには「そんなこと分かってたよ。」…?」

 

 

 

「………カオスはいい子だけどそれをミストの人達は永久に分かろうとはしないってこと………。

 カオスが………本当はあの村にいても幸せになんかなれないって………。」

 

「………」

 

「………だけどね?

 それでも私は………、

 カオスに戻ってきてほしいって思うの………。

 

 カオスとウインドラは私にとって家族だと思ってるから………。」

 

「………ミシガン……。」

 

「………今はまだ………、

 このままでいさせて………?

 カオスにお願いし続けたらいつか気が変わってミストに戻ってきてくれるかもしれないし………。

 ………カオスがどこか別の場所に居たいって言うなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私もそれでいいから………。」



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カオスの系統属性

 カオスはトリアナスでの一件を経て内包するマナが膨れ上がっていっていると聞かされるアローネとタレス。

 このままでは予期せぬ事故を巻き起こすのではないかと危惧するカオスだったが………。


王都セレンシーアイン 西区 闘技場 翌日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日でヴェノムの主に立ち向かうための講習は終わりだ。

 初日と最終日が続くが我もダレイオス復興のため時間を割いてばかりはいられん。

 明日からソナタ等と共に我も各部族達に呼び掛けをするために動かねばならぬ。」

 

 

 

「今日はどのようなことをなさるのですか?」

 

「昨日の前衛向きをしたから今日は後衛の立ち回りだろう。

 そうだな?

 オサムロウ殿。」

 

 

 

「そうだ。

 今日はウインドラ、タレス、アローネ、ミシガンを纏めて行う。」

 

 

 

「………俺は?」

 

 

 

「カオスは四人に課題を出したら我が個人指導だ。」

 

 

 

「そうですか………、

 分かりました。」

 

「カオス。」

 

「ん?

 ウインドラ?」

 

「これをお前に渡しておこう。」スッ…

 

「何?

 ………これは………?」

 

「新しい手枷だ。」

 

「!

 ウインドラ昨日の…!?」

 

「悪いとは思ったが話は聞かせてもらった。

 お前の魔力がそんなことになっていたとはな。」

 

「………」

 

「鎖は邪魔にならないよう外してある。

 今着けているやつよりかは安心だろう。

 鍵はこれだ。

 この手枷がどれだけお前の魔力を封じられるかはこれからの成り行き次第だが一先ずはこれでコントロールしやすくなるだろう。」

 

「………ありがとう。」

 

「チームをサポートするのが俺の役目だ。

 細かいことでもいいから困ったことがあったら相談してくれ。

 できることがあるならそれで解決していこう。

 誰か一人の問題はチーム皆の問題だ。

 問題を抱え次第冷静に対処していこう。」

 

「………うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソナタ等は“魔技”を使えるか?」

 

 

 

「魔技………?」

 

「あまり使ったことはありませんね………。」

 

「ボクは地属性の魔技“グレイブ”は使えますけどそれ以外は………。」

 

「ここにいる四人とも今は一つの属性しか使えない筈だ。

 魔技を教えるのならそれぞれに一つずつ教えることになるぞ。

 ちなみに俺は雷の魔技“バニッシュボルト”なら使える。」

 

 

 

「ふむ………、

 一人一人ずつか………。

 よかろう。

 

 

 

 魔技とは魔術を使用する際に集約した魔力を瞬時に解き放つ技だ。

 威力は詠唱無しの魔術と同等程度だが飛距離が短すぎるために実戦ではあまり使ってこなかったのだろう。」

 

 

 

「確かにな。

 詠唱無しの魔術ですら大分遠くまで届くのに威力が同じで距離が伸びないのでは完全に劣化互換だ。」

 

「私も敵に接近されたら魔技ではなく魔術で対応してました。」

 

「ボクは接近戦の方がやり易かったので。」

 

「私はあんまり戦ったりしなかったから魔術だけでどうにかなってたよ?」

 

 

 

「今日の講習はその魔技を使えるところまでに持っていくぞ。」

 

 

 

「実戦ではあまり使用しない術を何故わざわざ………?」

 

 

 

「戦闘に使えない技術など無い。

 魔技も万が一に備えて訓練を欠かさずに行うことがダレイオスで生き残る術だ。」

 

 

 

「使えるものは全て使う………ですか?」

 

 

 

「そう、

 もしもの時これがしっかりとできていた時とできていない時では戦術のバリエーションが変わってくる。

 この訓練で身につけるのは瞬間的な魔力の集約力を向上することにある。

 今日は一日これだけをマスターしておけ。」

 

 

 

「「「「はいッ!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………してソナタにやってもらうことだが………。」

 

 

 

「………俺は魔術は使えないから武身技か闘気術の訓練がいいんじゃないですか………?」

 

 

 

「いや、

 ソナタにも魔術の訓練を施す。」

 

 

 

「けど俺は昨日みたいな魔術しか撃てないんですけど………。」

 

 

 

「慌てるな。

 ソナタにやってもらうことはただ魔術を放つことではない。」

 

 

 

「じゃあ一体何を………?」

 

 

 

「ソナタにやってもらうことは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術の基礎からだ。」

 

 

 

「魔術の基礎………?」

 

 

 

「昨日の様子を見る限りだとソナタ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今まで魔術を独学でしか学んできたことが無いのだろう?」

 

 

 

「…!」

 

 

 

「昨日の魔術………、

 あの撃ち方は魔術を習って直ぐの子供が放つようなものだった………。

 あれを見て我はソナタが人生で魔術初心者だと窺ったのだが………。」

 

 

 

「………そうですね。

 俺は昔は今みたいにマナが全然無かった。

 “魔力欠損症”のような状態で一度でも魔力が尽きれば死んでしまうかもしれない………。

 そんな状態だったから誰も俺に魔術を教えようとなんてしてなかったんです………。」

 

 

 

「それでか………、

 ソナタが一度の魔術であれだけ全力で全てのマナを使いきる勢いで消費していたのは………。

 何事も全力でやれば良いというものではない。

 破壊力はあるがあれでは仲間にも魔術が飛ぶ恐れがある上にソナタが術発動後に動けなくなってしまうだろう?

 戦場で動けなくなる者は仲間の足を引っ張り最悪見捨てられることもある。

 ソナタは常に全力過ぎるのだ。」

 

 

 

「…そうみたいですね………。

 気を付けます。」

 

 

 

「よろしい………。

 それでは基礎からの勉学になるがソナタには術の詠唱の練習をしてもらう。

 ソナタはファイヤーボールの他に何が使えるのだ?」

 

 

 

「ファイヤーボールの他に………?

 ………試したことはないですけど多分俺は………、

 …六属性全部使えると思います。」

 

 

 

「他の者は一つだけしか使えぬというのにソナタは全て使えるのか………?」

 

 

 

「皆がそうなったのも大元は俺の力が働いてそうなってるんで………。」

 

 

 

「ソナタの中にある殺生石とやらの力が作用してか………。

 ………それならソナタは六属性の中で何が最も発動しやすいのかを探るところからだな。」

 

 

 

「俺の得意系統の属性を………?」

 

 

 

「人にはそれぞれ得意系統がありそれを伸ばすことが効率的な成長に繋がる。

 ソナタは基本から始めるのだから先ずそこだろう。」

 

 

 

「………俺の得意な魔術………。」

 

 

 

「手始めに術の詠唱からだ。

 六属性全ての詠唱を暗記し詠唱してから術を発動せず魔力を留めておくこと。

 留めてからマナを体内で“玉”のような丸いイメージで形作るのだ。

 その玉を収束してから放つのが魔術だ。

 ソナタの魔術は莫大すぎてそれだけでも武器となるが拡散撃ちするよりは凝縮して放つ方が無用な破壊を防ぐことができるだろう。

 

 

 

 ………それでは始めてみよ!」

 

 

 

「はいッ!!

 『火炎よ!!我が手となりて敵を焼き尽くせ…………』」……………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 西区 闘技場 観客席

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ………、

 やっておるな………。

 ああして彼等のためになるような戦術指南をしていれば全てが終わった後彼等はスラートに協力的になる………。

 浅はかな考えだが子供の彼等にはいい好感度稼ぎにはなるだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの者達の力は凄まじいものだ………。

 

 

 

あの者等の力を持ってすればそれこそヴェノムの主を滅することも容易かろう………。

 

 

 

それどころか憎きバルツィエをも殲滅することもできる。

 

 

 

我々と彼等が手を組めばスラートに敵はいなくなる。

 

 

 

オサムロウは生ぬるいとは言っておったがそれほど彼等の技量は低くはない………。

 

 

 

アレ等の力こそがこの世界を“真の救済”へと導いてくれるだろう………。

 

 

 

余が再び玉座に返り咲く日は近かろうて………。

 

 

 

 

 

 

バルツィエよ………。

 

 

 

余はその日が来るのを楽しみに待つとするぞ………。

 

 

 

その日が来たら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バルツィエに代わって余がこの世界の王となるぞ………。



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ダレイオスでの旅の始まり

 オサムロウとの訓練の最終日。

 他の四人とは別にカオスはオサムロウの個人指導を受けることになった。

 オサムロウはカオスの魔術の未熟さを見抜いて………。


王都セレンシーアイン 西区 闘技場 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご苦労であったな。

 今日で我が教えられることは全て教えた。

 後はそれを積み重ねてればヴェノムの主やその他のヴェノムに囲まれても脱していけるだろう。」

 

 

 

「二日間ありがとうございました。」

 

「この二日で戦いの奥深さを学べたような気がします。」

 

「マテオでは知ることのできなかった技術を会得できてより一層俺達は強くなれた………。

 オサムロウ殿、

 感謝する。」

 

「私もこれで少しは皆を守れる力がついたのかな………?」

 

 

 

「ついているとも。

 ソナタ等の力と合わせて我が教えた技術はこのダレイオスでソナタ等の旅に貢献してくれることを信じているぞ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス………。」

 

 

 

「………はい。」

 

 

 

「我の教えでソナタのためになるようなことはあったか………?」

 

 

 

「…はい。

 剣術も魔術もこの二日間でオサムロウさんに教わったことは俺の力に大きく影響を与えてくれたと思います。

 これで俺は………、

 

 

 

 皆を守れる。」

 

 

 

「……フフッ………、

 そうか………。」

 

 

 

「剣術に関しては俺の師匠はおじいちゃんだったけど………、

 魔術に関しては俺の師匠はオサムロウさんです………。

 俺はオサムロウさんのおかげで魔術を克服できそうです。」

 

 

 

「嬉しいことを言ってくれるな………。」

 

 

 

「本当にそう思ってますから………。」

 

 

 

「…ソナタ等がこの街から旅立って余裕ができたなら次は剣術の方も見てやろう。」

 

 

 

「その時はお願いします。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先生。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スラートの地中都市シャイド オサムロウ邸 部屋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………明日からヴェノムの主退治か………。」

 

「この広いダレイオスで八体いるヴェノムの主の討伐………。

 なんだかカストルにいた時のヴェノムクエストを思い出しますね………。」

 

「ヴェノムクエストかぁ………。

 もうあれからかなり時間がたつんだなぁ………。」

 

「そうですね。

 あの時はただ路銀を稼ぐだけのものでしたが………。」

 

「ヴェノムクエスト………?」

 

「…そうか………。

 お前達はそれで金を稼いでいたのだな。

 通常は一般の者は受けられないクエストなんだが………。」

 

「あの時はお金が必要だったからね。

 お金が無いと宿に魔泊まれないようだったし。」

 

「普通のクエストもあっただろうに………。

 よくギルドで取引できたな。」

 

「レイディーが私達がレサリナスの研究者だとギルドの方に報告していただいたおかげでクエストを受けることができました。」

 

「あぁ、

 確かレイディーもカストルで会ったって言ってたなぁ………。

 それでそのギルド?とかでクエスト?っての受けてからお金?を貰ったの?」

 

「ミシガン………。」

 

「最初の頃のカオスそのままですね………。」

 

「アローネさんだってお金のことは知ってても相場の金額は知しませんでしたよね………?

 アップルグミとか通常の十倍以上で購入しようとしてましたし。」

 

「私は………、

 元は上流階級でしたから纏めてその金額なのかと思ったんですよ!

 アップルグミ一つの値段なんて思いもしませんでした!」

 

「本当?」

 

「何ですか!

 カオスは私を疑うのですか!?」

 

「えぇ………、

 だってあの時はタレスが店の人の嘘を見破ってたしアローネだって俺と状況はそんなに変わらなかったんじゃ………。」

 

「……そうですね。

 私とカオスはあの時期はタレスに頼ってばかりでしたし正直なところは二人でタレスに色々と教えていただかなければなりませんでしたね。」

 

「最年少の少年が一番しっかりしていると言うのはどうなんだ………。」

 

「それだけタレス君が二人よりも人生経験が豊富ってことだよね!

 ね!

 タレス君!」

 

「…ボクの人生経験なんてそう誉められるようなものではなかったですよ………。

 バルツィエに襲われて無理矢理マテオに連れ去られて貴族の屋敷の雑用から盗賊のしたっぱにまで堕ちて………、

 カオスさん達に拾われなければ今でもボクは盗賊をしていたかもしくは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのムスト平原で死んでいたかもしれないんですから………。」

 

 

 

「………サハーンとの時のことだね………。」

 

「あの方は………、

 平気で御自分の部下を屋敷もろとも………。」

 

「最初にカオスさん達と出会わなければぼくはあの屋敷でカオスさんとアローネさんを迎え撃っていたでしょうね………。

 ボクではお二人には敵わなかったでしょうけど………。」

 

「その話は緑園都市リトビアでのことだな。

 その話なら王都でも噂になった。

 大物賞金首のアジトを突き止めボス以外は焼死体で発見されたことでニュースとして取り上げられていた。

 その賞金首のアジトを突き止めたのが名もない冒険者として最初は記事になったが後々同じく賞金首として出回ることになったカオスとアローネ=リムだと判明しレサリナスが大騒ぎになっていた。」

 

「そんな頃から俺達の話が持ち上がっていたんだな………。」

 

「最初はただ貴族として“悪”を見過ごせなかっただけだったのですが………。」

 

「レサリナスでは日頃からバルツィエの武勇伝以外の話が無かったからな。

 そんなところへバルツィエの名を持つ謎の賞金首が大物盗賊団を壊滅させたとなれば民衆の関心は大きかった。

 賞金首ということはバルツィエ率いる騎士団の敵、

 敵ではあるがバルツィエの名前を持つ賞金首………、

 その賞金首が民衆の敵である盗賊の撃破。

 お前達二人はそこから話題が大きくなっていった。」

 

「けどそれってウインドラの部隊の人と後………、

 ………何だっけあの人の名前………?

 後もう一人の人の部隊の人が広めてったって………。」

 

「バーナン隊長か。

 バーナン隊長の部隊が情報工作を行って民衆を煽っていた。

 作戦は失敗に終わったがあれはあれで絶望的な空気になることだけは回避できた。」

 

 

 

「…俺がミストを出ていなかったらどうなってたのかな………。」

 

「………」

 

「…私達がミストを出ていなかったら、

 今と同じ状況になってはいなかったと思いますよ。」

 

「けどウインドラの話じゃ俺ってあのまま旧ミストの村に引き込もってた方が良かったんじゃないか………?

 俺がレサリナスまで行ったからウインドラは………、

 いろいろと動きづらかったんじゃ………。」

 

「………お前と再開した当初はそうだったな。」

 

「ちょっとウインドラ「だが今は違うぞ。」」

 

「お前が現れてくれたおかげで“アルバート伝説”に準えた“アルバートの子息存在説”の噂に拍がかかりバルツィエ達はお前のことを躍起になって探していた。

 作戦が失敗したのはお前のせいじゃない。

 俺達の力不足のせいだ。」

 

「………そうだよ。

 カオスが旧ミストを出ていったから私がそれを追い掛けて………、

 ………ウインドラにまた会うことができたんだし。」

 

「カオスさんがいなかったらボクはどうなっていたのか………。」

 

「私もカオスにあの森でお会いして一緒に旅をしていろんなことを知って………、

 カタスにも会えて私の国がどうなったかのかも知るもことができました………。

 

 

 

 カオスが私と旅に出てくれたから私は救われたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありがとうございますカオス。

 これからも私と一緒にいてくださいね…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだね…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありがとう………………。」



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出発

 オサムロウとの訓練も終えてヴェノムの主討伐の旅の出発を翌日に控えるカオス等一行。

 これまでの旅を振り返り皆カオスとの絆を深めあうが………。


王都セレンシーアイン 中央建築物 翌日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「旅の支度はできてるのか?」

 

 

 

「はい。

 昨日のうちに済ませておきました。」

 

「今日これからヴェノムの主を討伐クエストを開始するということでしたので皆で準備はしました。」

 

 

 

「討伐クエスト………?

 ………国が崩壊する前はこの国でも国としての営みがあったが昔使われていた通貨はこの国ではもう意味を成さん。

 ソナタ等に支払える金など我等には………。」

 

 

 

「気にしないでくれ。

 カオス達はダレイオスへ渡る前にギルドで食いぶちを稼いでいたんだ。

 クエストと行ってもノリで言ってるだけなんだ。」

 

「誰かにお願いされてモンスターやヴェノムを狩りに行くとなるとその時のことを思い出してしまってついこの仕事もクエストと同じように感じてしまうんですよ。」

 

「私達がいない時に三人がそんな面白そうなことしてたのはズルいと思うけど今度はこの五人で行くんだね!

 私頑張っちゃうよ!」

 

 

 

「気合いが入っておるようだな。

 頼もしい限りだ。

 無事この仕事を完遂できることを期待しておるぞ。」

 

 

 

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

 

 

「………してソナタ等には先ず始めにここから南側に向かって欲しい。」

 

 

 

「南側?」

 

 

 

「昨日のうちにソナタ等に回って欲しい順路をこの地図に書き記しておいた。

 これに準えて進むがいい。」スッ…

 

 

 

「ありがとうございます。

 えっと………………。」

 

「何て書いてあるんだ………?」

 

「………矢印………?

 の手順通りに進めばいいのは分かるんだけど………。

 ダレイオスの字が……読めない………。」

 

「………本当ですね。

 マテオの時の字と違います………。」

 

 

 

「ソナタ等………、

 どうやってここまで来たのだ………?」

 

 

 

「字は読めなくても地図にはおおよその地形と街の規模で主都だと判別がつくのでな。

 それを頼りに俺達は来たんだ………。」

 

 

 

「………それではダレイオスでの文字の読み書きに苦労しそうだな。

 教本でも持って「見せてください。」」

 

 

 

「…南の………最初はミーア族のヴェノムの主から始まるんですね。

 次にクリティア族の主………。」

 

「タレス………。

 読めるの?」

 

「………当たり前じゃないですか。

 ボクはもともとダレイオスの出身なんですよ?

 こちらの文字の方が国語なんですから。」

 

「タレス君がいたら心配無さそうだね。」

 

「五人中四人がダレイオスとは違う国の出身だからな。

 タレス君がいてくれて本当に良かった………。」

 

 

 

「…教本も案内も必要なさそうだな。

 タレス、

 ソナタに旅の進路をお願いしよう。」

 

 

 

「勿論です。

 カオスさんとアローネさんと旅をしていた時もその役はボクの役目でしたから。」

 

「…オサムロウさん。

 この地図の順路を見ると最初にミーア族のヴェノムの主を倒すために南に向かうのは分かるんですけどどうしてその後北に戻るんですか?

 そのまま南から西を回ってじゃ駄目なんですか?」

 

「…確かにそうですね………。

 この順路………、

 少しジグザグしているようですし………。」

 

 

 

「最初にミーア族のヴェノムの主を倒して欲しいのは南東側のヴェノムを排除できれば海を越えた東からやって来る可能性があるマテオ軍に対する体勢を整えるためだ。

 ソナタ等が北から回り込んでるうちにマテオ軍が押し寄せてきては今の我々では太刀打ちできんのでな。

 一刻も早く南側を解放したいのだ。」

 

 

 

「なるほど………。

 それで………。」

 

「では二番目のこの街をまた経由しての北側なのは………?」

 

 

 

「ソナタ等が所有しているワクチンをクリティア族に届けて欲しいのだ。

 クリティア族ならそのワクチンを解析し複製することもできるやも知れんのでな。

 クリティアが終われば順次マテオから近い順にヴェノムの主を討伐していってくれ。

 そうしてもらえれば我々も安全に他の部族達ともとへとダレイオス再建の交渉へと迎える。」

 

 

 

「そっか!

 ただヴェノムの主を倒すだけじゃないんだな。」

 

「私達がヴェノムの主を倒して行く過程で部族を集める交渉も行わなければなりませんものね………。」

 

「ではオサムロウ殿も俺達と共に………?」

 

 

 

「いや、

 我は先日のブルータルヴェノムの討伐によってこの街から東から北東側がどの程度解放されたかを確かめねばならんのでな。

 他の者達と共に調査隊を組んで調べに向かうのだ。」

 

 

 

「俺達が倒したのは三日前ですよ?

 そんなに変わらないんじゃないですか………?」

 

 

 

「三日も経てば変わるものだ。

 今いるダレイオスの者等はモンスターも含めてヴェノムに対して百年以上も逃げおおせてこれた者達だ。

 危険地帯に足を踏み入れん限り奴等の仲間になったりなぞせんだろう。」

 

 

 

「そういうことなら心配は要らなさそうですね………。」

 

「でも本当に大丈夫なの?

 逃げ続けてきたってことは反撃の手が無いってことじゃ…?」

 

 

 

「我等のことは心配しなくてよい。

 それよりもソナタ等は可及的すみやかに南側のヴェノムの主を討伐しに向かうのだ。

 トリアナスの海道が無くなってからマテオがどう仕掛けてくるのか誰にも予測がつかん。

 海道が無くなったことにより侵攻を延期したのか………、

 

 

 それとも今日明日にはマテオが侵攻してくるのか、

 残された時間が後どれくらいあるのか、

 二日前の闘技場では半年と述べたがあれはあの場に出てきたスラート達にギガントモンスターを討伐するのに現実的な期間を申しただけ。

 何も無ければ半年とダレイオスは待てただろうがマテオが開戦してこようといていたのなら実際の猶予は半分の三ヶ月も無いと思え。

 ………三ヶ月どころではない。

 今この瞬間こそ猶予が無くなってしまうかもしれんのだ。」

 

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

 

「ダレイオスの者としてソナタ等マテオの者にあまり強くは言えぬが我等スラートの盟友ミーアを救ってやってくれ。

 

 

 

 ………ミーアだけではない他の六部族達を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスを救ってくれ!!

 ソナタ等マテオの勇者達よ!!」

 

 

 

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………旅立ったか………。」

 

 

 

「ファルバンか………。

 無事送り出せたよ。

 後は彼等が上手くやってくれるのを待つのみだ。

 我はこれからアイネフーレの住んでいた北東側を調査しに行ってくる。」

 

「はてさて彼等は全主を討伐し終わるのにどの程度時間をかけるだろうか……。」

 

「気が早いな………。

 彼等はつい先程旅立ったばかりだぞ?

 それにもう主を倒しきれると思っているのか。」

 

「あの力を見れば分かるだろう?

 あの力を持ってすれば所詮少しばかり大きいだけのヴェノムのモンスターなぞ軽く一祓いだ。」

 

「そうだといいが……。」

 

「ソチもよくやってくれた。

 余の………、

 スラートのためにご苦労であった。

 これでスラートの未来は一歩明るくなったであろう。」

 

「…スラートとあの方への忠義を尽くせるのならこれくらい………。」

 

「そうか………。

 皆はもう昔からソチをスラートの一員だと思うておる筈だぞ?

 そこまで神妙に受けとらんでもよい。」

 

「………こんな“人外”を仲間と読んでくれる皆にはとても感謝しているよ。

 こんな………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶滅しそこなった種族を………。」



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いなくなった行商人

 いよいよヴェノムの主討伐の旅に出発したカオス等一行。

 カオス達は果たしてヴェノムの主を無事に討伐し終えられるのか………。


フロウス道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここから暫くはこの道が続きそうですね………。

 ミーア族の中心地までは数日はかかりそうです。」

 

「はぁ………、

 やらなきゃいけないことはハッキリしたけどまた長い距離歩かなきゃいけないの……?」

 

「そのようだな。

 ミシガンには辛い道のりになると思うが………、

 

 ミシガンはスラートの街で待っててもいいんだぞ?

 どうせミーア族のヴェノムの主を倒したら一度あの街に戻ることになるんだ。」

 

「ダレイオスはマテオよりも地形が歩きにくいからね。

 ミシガンってレイディーさんと一緒に亀車使ってレサリナスまで来たんだろ?

 そんなに長距離歩くのには馴れてないだろうしウインドラの言う通り街で待ってるのがいいかもね。」

 

「ヴェノムの主は………、

 この間のブルータルヴェノムの時のことを思い返してみれば私達四人でもなんとかなるとは思いますが………、

 どうしますか?」

 

「ちょっと待ってよ!

 何私が一人であのスラートの人達の街に帰る前提で話してるの!?

 戻らないよ戻りません!!

 ここまで着いてきて“やっぱり皆が南の主倒すの待ってます”なんて言って帰れないでしょ!」

 

「…だったら前に進むしかないよ…。

 文句言ってたって始まらないさ。」

 

「そりゃ………、

 そうだけどさ………。」

 

「交通機関か………、

 馬でも借りられれば良かったんだが馬がいそうになかったからな………。」

 

「馬が使えないとなるとダレイオスでは………、

 かめにん………ではなくてうさにんという方々がいるという話でしたが………?」

 

「残念ながらうさにんはダレイオス政府が崩壊してから自分達の島へ帰ったそうですよ。

 商売ができないならもういいやってことで。

 それもダレイオス全土のうさにん全てが。」

 

「島?」

 

「マテオの世界地図で言うとこのダレイオスとマテオの南側を結んだ中央辺りに小さな島々があるじゃないですか?」ピラッ…

 

「この辺り………ですか?」

 

「そうです。

 この辺りの島のどれかに“うさにんの島”というのがあるらしくダレイオスに来ていたうさにん達は皆ここから来ていたらしいですよ。」

 

「よくこんな海を越えた場所から商売しにきてたな。

 それだけ仕事熱心だったということか…… 。」

 

「そんな褒められるような種族では無かったと思いますけどね。

 うさにん達は主に運び屋として仕事していましたけどマテオのかめにんのようにキッチリとしたことが苦手なようで大量の荷物を運ばせたりなんかしたら送り届けた先で半分ぐらい無くなってたりしてたようですよ?」

 

「それは困りますね………。」

 

「何故半分も無くなる事態になるんだ………。」

 

「うさにんはスピードが売りらしいんですが荷物を丁寧には扱ってくれないんです。

 ですから届け先に着くまでの道中で荷物を落っことしても気にしないようなお粗末な業務能力でして………。

 うさにんがいた時は皆荷物の運送よりもその人本人が街を移動したい時とかに利用してました。」

 

「うんまぁ…、

 仕事任せるには少し問題があるようだけどそれで商売できてたってんなら一応は皆そのうさにんのことを頼りにはしてたんだよね………?」

 

「運ぶ荷物が少なければ少ないほど落とす確率は下がりますからね………。

 二つ以上荷物を持たせたら………、

 どっちか必ず落とします。」

 

「そんなポンポン荷物を落とすことなんてできるの?

 って言うか何で運んでるの?」

 

「かめにん達は亀車とか言って手懐けたモンスターのトータス使ってたからうさにんは………?」

 

「え!?

 あのトータスのような大きさのウサギがいるのですか!?」

 

「違いますよ。

 マテオにいるかめにん達は名前の通り亀を使って仕事してますけどうさにんが運び屋として使っているのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何でだよ。」

 

「そこは大きなウサギじゃないと………。」

 

「人参繋がりでしょうか………?」

 

「府に落ちんな………。」

 

「………言われてみれば確かに大きなウサギを使って運送しているところも見てみたいですけどどう想像しても馬の方が早そうですから特に疑問はありませんでしたね。

 もとよりかめにんもうさにんもかめとウサギに近い格好をしてるだけで本物のかめとウサギではありませんからね。」

 

「片方はかめと亀………、

 もう片方はウサギと馬………。」

 

「想像するだけでもシュールな光景が………。」

 

「馬に乗ったウサギ………。

 ちょっと見てみたいかも………。」

 

「…昔は子供のボクでさえアイネフーレの村にやって来たうさにんを見ることもあったんですけどね。

 今のように国が転覆した状況じゃそれを見ることも無いですね………。

 うさにん達を見るには早くこのダレイオスからヴェノムを消さないと………。」

 

「…ヴェノムがダレイオスから消えたらまたうさにんがダレイオスに来てくれるよね………。」

 

「来てくれますよ。

 ヴェノムによって撤退したと言うのならヴェノムの問題さえ解消してしまえば………。」

 

「ただダレイオスを救うだけの話じゃなくなったね。

 私達でそのうさにんとか言うのがまた戻ってこれるようにダレイオスを綺麗にしてあげないと。」

 

「話を聞く限りだとそいつ等がダレイオスに戻ってくるメリットがそんなには無いように思えるのだが………。」

 

「何を言ってるのですか!

 その方々(?)が政府崩壊とヴェノムによって島へ帰ってしまわれたのなら逆にダレイオスへと戻ってきていただけたらダレイオスは完全に元の形へと戻すとができたと証明できるではありませんか!」

 

「………そうですね。

 かめにんもうさにんも知ってるボクだからこんなこと言えるんですけどやっぱりあんなよく分からないような連中でもいないよりかはいた方がマシな気がします………。」

 

「マシって………(汗)

 うさにんよりもかめにん普及させた方がいいんじゃないかダレイオスは………?

 かめなら仕事をキッチリしてくれると思うが………。」

 

「この際かめでもウサギでも何でもいいんだよ。

 今私達はその人達(?)が戻ってこれるようにしなくちゃいけないんだから………。

 

 

 

 そう思ったらちょっとやる気が湧いてきちゃったかなぁ!!

 早いところダレイオスを皆が誰でも大手を振って歩けるような所にしないとね!!」

 

「もしそうなればそのうさにんさん達もダレイオスと帰ってきてくれるでしょうから一度そのうさにんさん達の機関を使用してみたいですね。」

 

「けど馬だよ?

 馬ならこの間乗ったと思うけど………。」

 

「あの時は逃亡中でゆっくり楽しむことが出来なかったではないですか!

 

 

 

 私は今度ゆっくりと落ち着いた時に皆で乗ってみたいのです………。

 何もかも終わらせてから皆で………。」

 

「………、

 そうだね………。

 そのためにも早くこんな仕事終わらせようか!」

 

「この辺り一帯からヴェノムが消えたらヴェノムが消えた州は馬の利用が可能になるだろう。

 足を使っての移動は最初の方だけだ。」

 

「ヴェノムの主を半分程まで減らせたら地下に隠ってると思われる他の街の人達も地上に出てこれるでしょうね。

 その人達が出てきてくれたら馬も借りられると思います。」

 

「それじゃあさっさと南のミーア族の所にいるヴェノムの主を倒しに行くよ皆!」タタタッ

 

「え?

 今から走って行くの!?」

 

「まだまだ距離は遠いぞ?

 今のうちから体力を無駄に………、

 ………もうあんなところまで………。」

 

「ミシガンがやる気になったようですね。

 よかったじゃないですか。」

 

「………今あんなに張り切ってて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大丈夫なのかなぁ………?」



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戦いへの志

 ダレイオスに蔓延るヴェノム駆逐のためヴェノムの主討伐の旅に出発したカオス等一行。

 マテオのように整備されていないダレイオスの道々を見てタレスがかつてはうさにんと呼ばれる商人達が行き来するような国だったと思い出すが………。


フロウス道 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガササッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵か!?」

 

「俺が行くよ!」シュンッ!

 

「カオス!

 待ってください!

 一人で先行しては…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 

 

「ヴェノムか!

 魔神剣ッ!!」ザザザッ!

 

 

 

「ジュゥ………!」ザスッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………終わったか。」ガサッ

 

「!

 まだです!

 ウインドラさん!」

 

「分かっている!

 瞬人槍ッ!」シュッ!

 

「ジュ………」ザシュッ…

 

「今度こそ………」ガサッ

 

「まだ終わってないよ!

 アクアエッジ!」バシャァ!

 

「ジ………」ザバァッ…

 

「………今ので」ガサッ

 

「まだ出てきますね。

 裂空斬ッ!!」シュンシュンシュンッ!!

 

「ジスッ………」ザシュッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで打ち止めのようですね。」

 

「南に移動したら急にヴェノムが多く遭遇するようになったな。」

 

「それだけまだヴェノムが多く蔓延しているのでしょう。

 ブルータルヴェノム一体倒しただけではまだ油断はできませんよ。」

 

 

 

「それにしてもタレス気合い入ってるなぁ。

 今の技って…。」

 

「バルツィエの技ですよ。

 “裂空斬”という技です。」

 

「裂空斬………?」

 

「レサリナスでユーラスの後にカオスが打ち負かしたダイン=セゼア・バルツィエの得意技だな。」

 

「ダインって………?」

 

「カオスがユーラスを叩きのめした後に二人カオスに斬りかかってきた女の人の方でしょ?」

 

「そうその女だ。」

 

「あぁ…あの………。

 …よくタレスそんな人の技が使えるようになったね。

 バルツィエ流剣術って普通の人には使えないって聞いてたのに。」

 

「別に万人が使えないという訳ではないさ。

 数百人………数千人に一人はバルツィエ流剣術の技を体得するものが現れる。

 俺やダリントン隊長、ブラム隊長もその一人だ。」

 

「バルツィエだけが使える剣術ではないのですね?」

 

「一定の才能と長い鍛練を積めばバルツィエ流剣術の基本的な技なら習得可能だ。

 ………最もマジックアイテムあればの話になるがな。」

 

「エルブンシンボルですよね。

 でもボク達はこれの恩恵はあまり効果が薄いようですが。」

 

「このエルブンシンボルって騎士団以外には所由シテルヒト少ないんだよね?」

 

「そうだ。

 この装備アイテムもバルツィエの武器規定違反として所持してるのがバレたら没収物だ。」

 

「マテオでは皆バルツィエに逆らえない訳だよねぇ…。

 こんなものまで持ってるのを制限されてちゃ………。」

 

「これって鍛冶屋の人とかが作れないの?」

 

「作り出す術は昔いたとされるドワーフとともに無くなったそうだ。

 一般の技術者もエルブンシンボルを没収されるのならそれに代わる別のマジックアイテムを開発しようと試みてはいたようだが成果はどれもエルブンシンボル以下の効能しか発揮できなかった。」

 

「エルブンシンボルに代わる別のマジックアイテム?

 そんなものが作り出せるのですか?」

 

「理論的には可能らしいが………、

 今のところエルブンシンボルを越える効能を発揮するためにも相応の鉱石等の材料をかき集めなければならないらしくそれには資金とそれを加工できる工房が必要なんだ。

 それができるのは………バルツィエの監視のある場所だけなんだが………。」

 

「バルツィエの目の届くところでそんなものを作り上げてしまってはバルツィエに利用されてしまいますね。」

 

「そうなんだ。

 バルツィエに打ち勝つために開発したマジックアイテムがそのままバルツィエに流れてしまってはバルツィエを余計に増強させてしまうので“エルブンシンボル代替案”は凍結してしまっている。

 歯痒いところだな。」

 

「…もしエルブンシンボル以上のマジックアイテムが一般の所持人達に普及できればマテオもバルツィエの独裁的な政治を緩衝することができるのかな………?」

 

「出来るだろうな。

 バルツィエは個人の能力は高いが民衆はそれ以上に多い。

 民衆がバルツィエに逆らえないのは武器を取り上げられているからだ。

 現段階では数が多いだけでは民衆がいくら集まろうともバルツィエには勝てん。

 バルツィエに勝つにはそれなりの武器とそれを扱う兵士がいなくてはならない。

 マテオの民衆達はそれを揃えられないからダレイオスの奮闘を当てにしていたんだ。」

 

「では私達に今出来るのはこのダレイオスを戦える地点まで持っていくことだけですね。」

 

「ダレイオスがバルツィエにどの程度抵抗できるかはまだ細かくは判断出来んが俺達だけでバルツィエと戦うよりかはマシだ。」

 

 

 

 

 

 

「殺生石のあの隕石を降らす力が自由に使えたら楽なんだけどなぁ………。」

 

「あれは駄目だよ。

 下手したらバルツィエごと一般の人達も巻き添えにしてしまうような力だし。」

 

「自由に使えないのなら当てにはしない方がいいだろう。

 欲しいのは確かな戦力だ。

 不確定要素を当てにはできん。」

 

「殺生石のあの方が私達の味方とも限りませんからね………。」

 

「地道にダレイオスを強くするしかないようですね。

 ボクたちの手で。」

 

「強くすると言うよりも元の軍事力に戻すという見方だがな。」

 

「とりあえずはヴェノムの主を全部やっつけて私達とダレイオスでバルツィエと戦うんだよね?」

 

「…主討伐後はどうなるかもまだ未確定だな。

 俺はダレイオスの隊列に入る予定だがお前達は………。」

 

 

 

「ボクもダレイオスに加勢しますよ。

 アイネフーレはボク以外は亡くなりましたがボクがまだ残っています。

 同胞達の分までバルツィエと戦います。」

 

「………私もカタスの贖罪のために戦います。

 バルツィエが世界を掌握するようなことになっては私もウルゴスの同胞を捜すことが出来ません。」

 

「私だって!

 バルツィエが戦争に勝つようなことになればミストが危ないんでしょ?

 だったら私も皆と同じだよ!」

 

 

 

「お前達は別に戦争の方には参加しなくても………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めなよウインドラ。」

 

 

 

「カオス………。

 だがな………。」

 

 

 

「もう俺達全員がこのままマテオが勝ったらどうなるかは知ってるんだ。

 なら全員にマテオと戦う理由がある。

 幸い俺達全員がマテオのレサリナスとは縁があんまり無いからレサリナスと戦って打ち負かすことに何の躊躇いもないしね。」

 

 

 

「そうは言うが戦争なんだぞ?

 戦争は両軍に犠牲が付き物だ。

 俺達の体質のことを考えてみれば六属性の魔術が飛び交う戦場にミシガン達を配置するのは………。」

 

 

 

「そう仰るのでしたら貴方も同じことのように思えますが?」

 

「ウインドラも死ぬ可能性があるなら皆立ち位置は同じだよ。

 一人で危険な仕事を引き受けようとするなよ。」

 

「一蓮托生って言ったでしょ?

 ウインドラが戦うなら私達も一緒だよ。」

 

「どうやらウインドラさん一人だけに戦わせようとする人はいないようですよ?」

 

 

 

「………まいったな………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元を辿れば俺と俺の部隊が皆をこの危険な道に引き込んだと言うのに今となっては皆が進んで危険な道を選んで進もうとしているなんてな………。」



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子供の頃の記憶

 先ずもっとも近いミーア族の地方を荒らすヴェノムの主討伐のため南下するカオス等一行。

 やはり道中でもヴェノムが出現するようだが………。


タイヒ山道

 

 

 

ザァザァザァザァ………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………水の音がする………。

 近くに川があるのかな。」

 

「この辺りってミストの森と似てるね。」

 

「ミストと?

 ………そうかな?」

 

「そうだよ。

 ミストの森にも川があったでしょ?」

 

「う~ん………?

 …………外れの方にあったような無かったような………。」

 

「十年間駆けずり回ってたのに覚えてないの?

 川に服とか洗濯しに行かなかったの?」

 

「旧ミストの近くに流れてる川があったからそこで洗濯は済ませてたから………。」

 

「そうその川だよ!

 その川のこと言ってるの!」

 

「え?

 全然場所が違うじゃん。

 あの川森の中じゃないでしょ?」

 

「あの川が上流まで辿っていくと森の中に繋がってるんだよ。

 子供の時にミストの村の川原で遊んでたでしょ?

 あれ全部繋がってるよ?」

 

「へぇ………、

 そこまで気付かなかったよ………。

 あの旧ミストの川ってミストの方から流れてきてたんだなぁ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………懐かしい話をしてるな。

 あの二人は………。」

 

「貴方も話に加われば良いのでは?

 同じ里の御出身ではないですか。」

 

「ボクとアローネさんは三人がどう過ごしていたか知らないので少し疎外感がありますね。」

 

「俺も同じだよ。

 あの二人の話には混ざれない。」

 

「?

 どうしてですか?」

 

「お二人はミストの話をしてるんですよ?」

 

「あの二人が話しているのは子供の時からつい最近までの話だろう?

 俺には………、

 もうあまり子供の時の風景の記憶が無いんだ。

 レサリナスで訓練を受けている内に仲の良かった人達のこととあの日の事件の思い出しか………。」

 

「たった十年で忘れるようなことでしょうか………?」

 

「十年は長いぞ………。

 人の寿命は千年近くはあるがそれに比べれば十年は短い。

 それでも十年の中にはいろいろな経験が詰まっている。

 いろんな体験をしたりいろんな人と出会ったり………、

 誰かを好きになったりもすれば誰かを嫌いにもなったりもする。

 そんな経験を繰り返していればその過程で見た景色など二の次になって記憶の彼方へと消えていくんだ。

 記憶に濃いのは誰かと何かをして遊んだかだけ。

 俺にはあの二人が話す川の風景なんて覚えてはいない………。」

 

 

 

「そんなんでよくカオスさんとまた元通りの関係に戻れましたね。」

 

「カオスが俺のことを覚えてくれていおかげだ。

 俺もカオスのことを忘れてなかった。

 俺がレサリナスへ渡ったのもあいつとの約束事が起源だったからな。

 あいつのことだけはこの先何十年経ったとしても忘れないさ。」

 

「カオスさん程の人は例え仲の良い友人関係じゃなくても忘れられませんよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………記憶………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………記憶………………。

 

 

 

私の記憶は………………、

 

 

 

………私の記憶は確かにこの心の奥深くにまだある………。

 

 

 

カオスとあの森で出会うまでの私は………、

 

 

 

ウルゴスでお母様やお父様、サタン義兄様、メル達と貴族としての生活を送っていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………、

 

 

 

………………いえ、

 

 

 

私の記憶の最後はもっと先………。

 

 

 

ウルゴスがダンダルクとの戦争が過激化する中で私は………、

 

 

 

公爵家クラウディアの跡取りとして成人を期にお父様の指揮する騎士隊の参謀として………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………、

 

 

 

………?

 

 

 

………何か………違和感が………。

 

 

 

私はお父様の指揮する騎士隊へ仮入隊を果たすところまでは覚えている………。

 

 

 

………そこから突然世界中に“ヴェノム”が出現して………………、

 

 

 

………ヴェノムが出現して………?

 

 

 

………………、

 

 

 

………ヴェノムが出現した経緯が思い出せない………?

 

 

 

ヴェノムが突然世界中に現れてからの私は………、

 

 

 

私は………どうしたのでしょうか………?

 

 

 

そこだけが………思い出せない………。

 

 

 

ウインドラさんのように長い時間が経過して忘れてしまった………?

 

 

 

………ですが私はカタス達王族が編み出した魔術術式“アブソリュート”で眠りにつく前の記憶が無いだけでそこより前の日常生活のことは覚えている………。

 

 

 

私の感覚ではカオスと出会うニ、三ヶ月前までは普通の生活を送っていた………。

 

 

 

それは分かる………。

 

 

 

アブソリュートは確実に私の体内時計を停止させていた。

 

 

 

だから私はこの星の風景が変わるほどの時間を眠っていてもウルゴスで生活していたことをついこの間のことのように思い出せる………。

 

 

 

 

思い出せるのですが………、

 

 

 

日常生活が激変した時期のことだけが記憶に靄をかける………。

 

 

 

何故私は忘れるには早すぎる時期の記憶を思い出せないのでしょうか………?

 

 

 

忘れるとしたらもっと昔の記憶からでしょう?

 

 

 

それなのにどうして………?

 

 

 

 

 

 

この疑問を早くに解決しなければ私はこの疑問でさえも忘却してしまう………。

 

 

 

どうやって思い出せば………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネ=リム!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

「どうした?

 足が止まってるぞ?」

 

「アローネさん………?」

 

 

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

 

「アローネ=リムが何やら考え事をしていて歩を止めてしまったんだ。」

 

「考え事?」

 

「アローネさんどうしたって?」

 

「何か考え事しててぼーっとしてたみたいなんだって………。」

 

「何の考え事をしてたの?

 アローネさん。」

 

 

 

「………いえ大したことでは………。」

 

 

 

「…お前達二人を見て昔のことを思い出してたんじゃないか?」

 

 

 

「昔のこと?

 それってウルゴス時代の話かな?」

 

「あぁー!

 それ私気になる!

 まだ私アローネさんがそのウルゴスの時代どう過ごしてたのか聞いてないし!」

 

「ここだと話をするのに向かないからもう少し先に行って休憩できそうな場所を探してからにしようよ………。」

 

「オッケー!

 しゃあちょっと先に行って休憩できそうな場所を探してくる!」タタッ!

 

「おい、

 一人でそんなに先行すると危ないぞ!

 ……カオス、

 ミシガンを頼めるか?」

 

「そうだね。

 分かった!」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュンッ!

ミシガンソンナニハヤクイッテモミンナガツイテコレナイヨ。

 

ウワァッ!?カオス!?ビックリシタ!

ソンナスピードデキュウセッキンシテコナイデヨ!オドロクジャナイ!

 

ミシガンガヒトリデサキニイクカラダヨ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「忙しないやつになったものだな。

 ミシガンは………。」

 

「昔のミシガンさんはあの様子では無かったんですか?」

 

「昔のミシガンは………、

 ……いや、

 元からあんなだったんだろうなミシガンは。

 この十年で素の自分を引き出せるようになって………。

 逞しくなったものだな。」

 

「女性に逞しいって誉め言葉になるんですかね………。」

 

「俺はあれでいいと思うがな。

 

 

 ………アローネ=リム。」

 

 

 

「…何でしょう………?」

 

 

 

「何を考えているのかは知らないが今答えを導き出せないのなら無理して答えを出す必要は無いんじゃないか?」

 

 

 

「答え………?」

 

 

 

「何か思い悩んでることでもあるんだろう?

 それについて考えても進まないようなら一度忘れてしまえばいい。」

 

 

 

「忘れる………?

 ………私は忘れてしまったことを思い出そうとしているのですが………。」

 

 

 

「忘れたことを思い出そうとしているのか…?

 …それなら何か切っ掛けがあればいつか思い出せるんじゃないか?」

 

 

 

「切っ掛け………ですか………?」

 

 

 

「俺はさっきまで昔のことを忘れていたがあのカオスとアローネを見てたら少しだけ思い出せたような気がする………。

 昔三人でよく遊んでいた頃の記憶をな。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「お前が思い出したい記憶はこれから思い出していけば良い。

 何かふとした瞬間に思い出すかもしれんだろう?

 カタスティア教皇とかとまた再会した時とかに。」

 

 

 

「カタスと………再会してですか………。」

 

 

 

「過去を共有する仲間がいるのならお前が忘れてしまったことも時期に思い出すさ。

 俺が思い出せたのだからな。」

 

「カタスさんにもう一度再会できたらアローネさんが思いだしたいこともきっと思い出させてもらえますよ。

 アローネさんのことをよく知ってたカタスさんのことですし。」

 

 

 

「………そうですね。

 今はこの記憶の疑問は私の中へと仕舞っておきます。

 このことだけはどうしても思い出したかったのですけど………。」

 

 

 

「そんなに重要なことなのか?」

 

 

 

「今は………、

 そこまで重要なことでは無いのですが………。

 これを確認しておかねば私の同胞達を発見した時に説明がしやすくなると思うのです。

 ………このことはきっと大切なことだから………。」

 

 

 

「それには先ずカタスさんを探すところからですね。」

 

「数ヵ月待てばレサリナスからこちらへ渡ってくると思が………。」

 

「…それにしてもカタスさんは今更ですけど凄いですよね。」

 

「カタスティア教皇が凄い?

 あの人が凄いのは認めるが急にどうしたんだ?

 タレス君………。」

 

「さっきの話に戻りますけどウインドラさんは十年前のことをよく覚えてなかったんですよね?」

 

「?

 そうだが………。」

 

「ウインドラさんでさえ十年前のことをうろ覚えなのにカタスさんは話に聞くところによるとマテオが建国された当初からマテオにいるんですよね?

 それって………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約ニ、三百年間デリス=カーラーンで多くの人達との交流があった筈なのにアローネさんのことを三百年経った後でも覚えていたなんて………、

 凄い記憶力ですよね………。

 ボクだったら百年以上も会うことが無かったなら名前以外の情報がが分からなくなると思いますから………。」

 

 

 



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長期的記憶

 ダレイオスを南下してフロウス道からタイヒ山道まで来たカオス等一行。

 ミストの風景を思い出したカオスとミシガン、ウインドラだったが過去の記憶の話ということでカタスティアの話になり………。


タイヒ山道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァザァザァザァ………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「ボクでさえもう拉致される前の家族ほんの数年前の知人の顔があやふやになってますからカタスさんがよくレサリナスでアローネさんを見つけられたなって思いますよ。」

 

 

 

「カタスは「それだけカタスティア教皇とアローネ=リムの絆が深いのだろう。」…。」

 

「アローネ=リムの話では二人は只の友人関係よりももっと繋がりが強い仲だ。

 家族同士の縁が普通の家庭と比べても結び付きが強くそれでいて二人も姉妹のように育ったと聞いた。

 例えカタスティア教皇が三百年近くアローネと出会うことがなかったのだとしても家族のことは忘れることが無かった………。

 忘れたくなかったのだろうな………。

 同じ時代の者を………。」

 

「………そうですね。

 私はカタスを三百年も待たせ続けていましたがカタスは今でも私の他のウルゴスの同胞を探し続けています。

 カタスのウルゴスへの想いは今でもまだ強く心にあるようなので時の流れによってその想いが風化することは無かったのでしょう………。」

 

 

 

「………まあボクもカタスさんがとても親切で人に対して慈愛の心が強いのは分かりますよ。

 ボクですら養子に、と言ってくれたのですから。

 …あの人柄を思えばカタスさんのことを好意的に見る人も多いでしょうし三百年の内に数えきれない人がカタスさんに救われてきたと思います。

 カーラーン教会で教皇職という多忙な職に就きながら今でもウルゴスの人達を世界のあちらこちらで捜索し続けているのだとすればカタスさんは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “聖女”の名に恥じない素晴らしい人なんでしょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三人共何してるの?」

 

 

 

「「「!」」」

 

 

 

「ミシガンが休憩するのに良さそうな場所を見つけたからもうそこで待ってるよ?

 早く行ってあげないとミシガンの機嫌が悪くなるよ?」

 

 

 

「…そうだな。

 立ち話するには少し長く話しすぎたようだ。」

 

「直ぐに私達もそこへ向かうのでカオスはミシガンの様子をもう一度見て来ていただけませんか?」

 

 

 

「…?

 分かったけどなるべく早くに来てくれよ?

 ちょっと歩く距離だから。」

 

 

 

「大丈夫ですよ。

 ボク達も丁度話が一段落終えたところですから。

 それではお二人とも行きましょう。」

 

「そうするか。

 ミシガンを待たせると眠ってしまいそうだな。

 あいつはどこででも寝るやつだからな。」

 

「いくらミシガンでもモンスターの生息地帯で睡眠するようなことはないでしょう………。」

 

「分からんぞ?

 昔あいつはミストの森でカオスと俺と三人で遊んだいたら森の開けた場所で疲れて眠りだしたことがあるからな。」

 

「よく無事でしたね………。」

 

「心を開いた相手が近くにいるとミシガンは気が弛むからな。

 あいつはしょっちゅう昔は「また昔話しようとしてるじゃないか。」………つい。」

 

 

 

「そんな話してるとまたミシガンが癇癪起こすよ?

 そういう話するならミシガンがいるところで話してあげないと。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それもそうだな。

 少し急ぐか………。」

 

「そうですね、

 昔の話をするのであれば思い出を共有する人のところでないと………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイヒ山道 川辺

 

 

 

「遅いよ!

 皆いつまで待たせるの!」

 

 

 

「悪かった。

 カオスとミシガンを見てたら少し昔のことを思い出してな。

 三人で話をしてたんだ。」

 

「申し訳ありませんミシガン。

 もう終わったところですから。」

 

「三人でカオスさんのこととカタスさんのことを話してたんですよ。」

 

 

 

「私達と………またそのカタスさんって人のこと?」

 

「どんな流れでカタスさんが出てきたの?」

 

 

 

「カオスとミシガンを見てたら昔の記憶がぼやけてきてるのに気付いてな。

 たった十年時間が空いただけでもミストの記憶を忘れているのにカタスティア教皇は三百年もアローネ=リムのことを忘れずに覚え続けていて記憶力が高いのだな、と話をしてたんだ。」

 

 

 

「確かに凄いな………。

 けど大切な人のことなら忘れたりなんて出来ないんじゃないか?

 

 

 

 俺だって………、

 おじいちゃんのことは今でも忘れずに覚えてる。

 おじいちゃんの顔やおじいちゃんから学んだこともずっと………。

 頭の記憶だけじゃなくこの体が教わったことを覚えている。

 大事な思い出だからこの先もずっと忘れたりなんかしないよ。」

 

「その人にとって大切な方々との思い出はもう言葉のように決して忘れたりなんか出来ない心の深いところに刻み込まれているのですよ。

 私にとってカタスは血の繋がった家族以外では一番の友でしたから………。」

 

「カタスさんは友を越えて本当の姉妹のように育ったとも言ってましたね。」

 

「教皇はレサリナスでも皆から愛される存在だったからな。

 “聖女”と言われたり“聖母”とも言われたり………。」

 

「母………?

 子供がいたの?」

 

「教皇には子供はいなかったぞ。

 誰とも結婚はしていないがあの人は多くの人の出生にも携わる仕事をしてたからな。

 出生に携わった家の者達にとっては教皇は“第二の母”とと呼ばれてるんだ。」

 

「子供がいないのにお母さんなんだ………。

 子供が欲しくなったりはしなかったのかな?」

 

「どうだろうか…?

 あの人自身を母と慕う者が多かったせいで本人もそれに満足していたんじゃないか?」

 

「それか私のようにウルゴスのことを気にしていたのかもしれません………。」

 

「そこは本人に聞いてみないと分からないが彼女のことを本当の母のように思う子供達が多くいるのも事実だ。

 ………あの人がそれで幸せを感じているのならそれにこしたことはない………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもさ?

 カーラーン教会って今どうなってるの?」

 

 

 

 

 

「どうなってるいるとは………、

 何のことを言ってるんだ?」

 

 

 

「今マテオとダレイオスが戦争を始めようとしてるじゃない?

 長い間停戦しててカーラーン教会は中立を守ってきたって聞いてるけど………、

 戦争が始まったらどうなるの?

 簡単にはマテオに行ったりダレイオスに行ったり出来なくなるんじゃない?」

 

 

 

「………そうだね………。

 確かに言われてみればカーラーン教会が戦争中にどうなるか考えたことも無かった………。」

 

「中立の立場ですと………どうなるのでしょう………?」

 

 

 

「恐らくの話だが戦争の結果次第では親を無くした子供達を探して引き取るのではないか?

 教会は戦争には不介入の筈だからこれまでのようにマテオが制圧した土地の子供達を集めていくのかもしれん。

 今回の戦争では………ダレイオスに負けされるつもりはないがな。」

 

「中立なら戦争に巻き込まれることはないでしょうが………、

 その立場を快く思われなければ良いのですね………。」

 

「………カタスは無事なのでしょうか………。

 オサムロウさん達の話ではマテオへ戻られたと仰っていましたが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も問題が起こらなければ良いのですけど………。」



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ミーア族のヴェノムの主

 カタスティアの話になり彼女との思い出を振り返るアローネ。

 カタスティアはマテオへと帰還したという話だったが………。


タイヒ山道 川辺

 

 

 

「よし、

 そろそろ出発しよう。」

 

「そうですね。

 まだ道のりは遠いですし。

 今日の内にこの山道は越えたいですからね。」

 

「ここを越えたら後はなだらかな道を通って海の近くに出る。

 そこなら比較的にモンスターやヴェノムも少なくなるだろう。」

 

「皆元気だね。

 地図ではまだ三分のニに差し掛かってるところだってのに。」

 

「ボク達が早めにヴェノムの主を倒していかないとダレイオスが持ち直すこともできませんからゆっくりなんてしていられませんよ。

 それに旅には馴れていますからそんなに疲れたりはしてません。」

 

「ミシガンはもう疲れちゃったの?」

 

「そんなには疲れてないけど………。」

 

「元々戦いながら旅をすることには馴れていないんだ。

 あまり無理をするな。」

 

「ウインドラ………。」

 

「………それでも歩は進めねばならん。

 荷物があるなら俺が持つからそれで少しは楽になるだろう。」

 

「…ううん、

 そんなの悪いよ。

 自分の分は自分で持つよ。

 私だって馴れていかないとだしね。」

 

「別にまだ俺には他に荷物を持つ余裕があるから遠慮しなくても良いんだぞ?」

 

「大丈夫だってば、

 歩き旅なんだし皆とは同じがいいから。」

 

「しかし………。」

 

 

 

「いざという時にウインドラが荷物の持ちすぎでモンスターに囲まれたりしたら厄介だろ?

 荷物持つ余裕があるならそういった時にミシガンを守れるように身軽に動けるようにしないと。」

 

「カオス………、

 そうは言うがミシガンは、」

 

「戦うって決めたんだよね?

 皆、

 ウインドラもミシガンも。」

 

「………」

 

「………だったら文句は無しだよ。

 ここにいる皆同じなんだから。」

 

「そうですよウインドラさん。

 私達は皆一緒の思いで旅をしているのです。

 ですから余計な気遣いはいりませんよ。」

 

「貴女がミシガンを大切に想っていることは皆私分かっていますよ。

 ですがそのように何でも御自分さえ犠牲になればいいだなんて考えでいるのはいけませんよ?

 トリアナスでのこともミシガンは気にしていらっしゃるのですから。」

 

「………そうなのかミシガン?」

 

 

 

「…あの時のことはそんなには気にしてはいないけど………、

 私のせいで誰かが辛い目にあうのは嫌かな………。

 ウインドラにはあの事件の日から迷惑掛けっぱなしだし。」

 

「俺はお前のことを迷惑には思ったりはしてないが………。」

 

「ウインドラがどう思ってるかとかじゃないの!

 私が人に迷惑をかけるようなことをしたくないからなの!」

 

「………?」

 

「要するに一人前に見てほしいってことだと思うよ?」

 

「………そうだったか……。

 昔を思い出してついミシガンの世話を焼こうとしていたようだ。

 すまない。」

 

「いいんだって。

 私もつい皆の空気を濁すようなこと言っちゃってゴメンね。

 次は絶対にさっきみたいなこと言わないから。」

 

 

 

「………話が纏まったようですね。

 それでは向かいましょうか。

 私達が目指すミーア族の村へ。」

 

「ミーア族か………。

 地図だと海の近くに村があるんだね。」

 

「先ず村に着いたらヴェノムの主の話を聞きに行かねばならんな。

 主がどの辺りに出没しているのか。」

 

「またあのブルータルを倒さないといけないんだね………。

 次は私も上手く立ち回らなきゃ。」

 

 

 

「えっ!?

 またブルータルが相手なの!?」

 

「?

 違うの?

 だってスラートの人達があのブルータルのことヴェノムの主って言ってたじゃない。」

 

「ミシガンは思い違いをしているようですね。

 スラートの人達が仰っていたのはヴェノムに感染したギガントモンスターのことをヴェノムの主と呼んでいたのでヴェノムに感染したブルータルのことを仰っていたのではありませんよ?」

 

「そうなの?

 じゃあ………、

 今から行くミーア族の村の周辺にいるヴェノムの主ってどんなモンスターなの?」

 

「今から討伐しに行くのは………ちょっと待ってくれ。

 王都から出発するときにオサムロウ殿から預かったメモを見てみる。」ゴソゴソ…

 

「いつの間にそんなものを………。」

 

「用意周到ですね。」

 

「危険な仕事を引き受けたのなら情報を集めるのも大事だからな。

 ………ミーア族の州域に屯している主は………、

 

 

 

 ………クラーケンと言うギガントモンスターらしい。」

 

 

 

「クラーケン……?」

 

「海月?」

 

「クラーケンは大きなタコの怪物だ。

 本来であるなら海にいる魔物の筈なんだがこのタコはヴェノムに感染してから陸に上がって他の生物を捕食しているらしいな。」

 

 

 

「「タコ………?」」

 

 

 

「………まさかタコも知らんのか………。」

 

「私はタコは知っていますけどカオスとミシガンは………?」

 

「お二人ともタコを見たこと無いんですか?」

 

 

 

「その魔物って海にいる魔物なんでしょ?

 私とカオスは海なんか全然行ったことないし知らなくて当然じゃない?」

 

「俺もリーゾアナ海ってところでヒトデって言う種類のモンスターがいることすら知らなかったから………。」

 

 

 

「俺はミストにいた頃から古い図鑑で海にどういった生物がいるのかとかなら知ってたが………。」

 

「カオスさんもアローネさんもマテオではずっとこんな感じで意外なことを知らなかったりしてたんですよね………。」

 

「タレス?

 今回私は知っていたのですけど………。」

 

「パーティメンバーの五人の内三人が世間知らずとはこの先の旅の進捗具合の経過が気になるな………。

 主の討伐するペースに差し障りが無ければいいが………。」

 

「今はボクの他にもウインドラさんがいるので三人が知らないことがあったら解説お願いします。」

 

「………そうだな。

 その役目も俺が引き受けよう。」

 

「申し訳ありませんね。

 私達が無知なばっかりに………。」

 

 

 

「………で?

 そのクラーケンとか言うのはどんな生物なの?」

 

「海にいるなら魚でしょ?」

 

「魚かぁ………。

 だったらそんなに倒すのは難しくなさそうだね。

 噛み付いてきたりするのを気を付けていれば横からズバッといけば安全に倒せるんじゃないか? 」

 

「けどギガントモンスターって大きいんでしょ?

 噛み付いて来るのだけじゃなくてジタバタされたりするだけでも危なくない?」

 

「だったら距離をとって魔術で応戦するだけだよ。

 皆遠距離攻撃が出来るんだし。」

 

「…そう聞くと簡単に倒せそうだね。

 ヴェノムだから普通の人達には倒せないだけであって私達なら倒せるわけだし。」

 

「次のクラーケンはブルータルよりかは楽に倒せるかもね。

 海にいた魚なら陸上では動きが遅いだろうし。」

 

「ならさっさと倒しちゃって次の主に行こうよ!

 そしたら後七匹倒すだけなんだしさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「放っておいたらあの二人がよく分からない作戦会議をしてますね………。」

 

「タコは普通の魚とは違うのですけど………。」

 

「まるで生まれたばかりの子供を見てるようだ。

 

 

 

 そんな簡単に行く相手ではないだろう。

 相手は海の中でも捕食者の部類に入るモンスターなのだから………。」



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祖父の弟

 ヴェノムの主討伐に向けてオサムロウから聞き出した主クラーケンについて話すカオス等一行。

 海をまともに知らなかったカオスとミシガンはクラーケンがタコという種族と聞かされても理解できず………。


タイヒ山道 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いいか?

 だからな、

 タコはお前達が考えているような魚ではない。

 魚とは全然違う形をしていて魚には無い八本の触手が頭部から生えていてだな。」

 

「もう分かったって!

 魚じゃないってことは!

 メデューサみたいなモンスターなんだろ?」

 

「メデューサ!?

 石にされちゃうじゃない!?」

 

 

 

「どうしてメデューサを知っててタコを知らないんですか………。」

 

「蛇………?

 陸上にいる生物なら知識があるのでは?」

 

 

 

「クラーケンに石化能力は無い。

 触手もただ獲物を絡めとって捕食するだけだ。

 大型の生物なら毒など無くても力のみで他の生物を捕食出来るから触手にさえ気を付けていれば対処はしやすいだろう。」

 

「って言われても実物を見ないことにはどんなモンスターなのか分からないよ………。」

 

「そんな頭と触手だけのモンスターなんているの………?

 骨格とかどうなってるんだろ?」

 

「骨格がどうこう言うならこの間倒したスライムなんて骨格すら無いだろ………?

 この世界には脊椎動物から無脊椎動物、魔法生物と見ていけばあらゆる種類の形状をした生物がいる。

 共通しているのは生命体なくらいなものだ。

 決して己の知る知識だけが全てではない。

 自分の知っている知識に当てはまる生物だけが生物の定義ではないんだぞ?」

 

「そりゃまぁなんとなく分かるけど………。」

 

「生物って頭と手と足があって生まれてから成長して老衰するだけじゃないんだね。」

 

「陸にいる生物は大雑把に言えばその例で合ってるんだがな。

 お前達がそこまで生物の知識に疎いとは思わなかった………。」

 

「ミストにあった本での情報って偏りがあるからなぁ………。」

 

「私も生物についての本とか読まないし村の人だって知らないでしょ。

 精々ほ乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類、昆虫とかの分類があることくらいしか村では教えられてこなかったんだし。」

 

「カオスさん達の村では世間の知識をどうやって学んでいくんですか?」

 

「大抵は親とかだけどあの村の人達も百年間外の街とかと交流したりしなかったんだし自然と日常で不必要なことは親達が知ってても活用しないってんで子供には教えないんだろうな。」

 

「そうして世間との常識の偏りが生まれたのですね。

 私とは違う理由で知識に偏りが起こる訳です。」

 

「アローネ=リムは家の関係で習う前にこの時代に行き着いたんだろう?

 俺達の村は全体がこの二人のような可能性があるんだ………。」

 

「………ウインドラだってミストから出た時は俺達と同じだったんじゃないの?

 条件は同じだったんだし俺みたいにお金とか持ってなかっただろうし今の俺達と変わらなかったんじゃない?」

 

「そうだよ!

 なんか私とカオスばっかり馬鹿にされてるけどウインドラもミストを出た頃は何も知らない子供だったんだしなんか私達だけこんな風に扱われるのは不公平だよ!?」

 

「俺は………、

 ………確かに最初は少し剣をかじっていただけの何も知らない子供が騎士団についていって騎士にしろだの訴えてもまともに取り合ってはくれなかったが教皇が俺のことを評価してくれてな。

 必要な知識を教会で教わってからダリントン隊長を通じて騎士団に入隊出来たんだ。

 後押しにアルバさんの弟子で剣術に面影があるとも言われたしな。

 俺はそこまで苦労はしなかったぞ。」

 

「おじいちゃんを利用したのか。

 なんかズルいな。」

 

「アルバさんの名前出すだけで騎士団に入隊出来たの?」

 

「普通だったら入隊など出来んらしいがな。

 騎士団に入ると言うことは武器を所持する制限が取り外されるんだ。

 反乱が起こるような施政をとりながら反乱を防ぐルールは設けたバルツィエは自分達に害が及びそうな思想を持つ者が騎士団に入って力をつけることを好しとしない。

 俺が騎士団に入隊出来たのは教皇とダリントン隊長が俺の思想と剣技を見て推薦してもらったからなんだ。」

 

「ダリントン………さんか………。

 クレベストンさんと友達だったみたいだし生きてたなら会って話がしたかったなぁ………。」

 

 

 

「………隊長がお前の存在を知っていたなら隊長もお前と話がしたかったと思うぞ。

 あの人はアルバさんの三人の部下の中で一番アルバさんを慕っていたようだしな。」

 

「もし………、

 ダリントンさんがフェデール達に殺されてなければ………、

 レサリナスで会うことが出来てたのかな………?」

 

「レサリナスでは………、

 ………先に俺がカオスを見つけていなければ………あるいはな。」

 

 

 

「その前にそのダリントンって隊長何で殺されてたんですか?」

 

 

 

「…どこかで俺達の潜入がバレたのか………、

 関係無く殺されてしまったのかだな………。

 バルツィエにとっては俺達は当初から目の敵にされていたから………。」

 

「カオスと私が指名手配された時期からでしょうか………?」

 

「隊長の遺体は冷凍保存されていたから正確な時期は分からん。

 俺が隊長の生存を確認できたのはそれよりも前だ。」

 

「カストルでレイディーさんからダリントンさんに会いに行けとは言われてたけど………、

 その時にはもう既にダリントンさんはフェデールの手で………。」

 

「もう伝説の五人部隊は残り一人になってしまったんですね………。」

 

「…国王アレックス=クルガ=バルツィエ………。

 アルバさんの弟でありながら三人の旧友を死に追いやった男だけか………。」

 

「俺にとっては大叔父だけどあの王様は一体何を考えて世界を支配なんてしようとしてるんだ………?」

 

「昔はその二人のどちらがクリスタル王女と結婚してマテオの王になってもダレイオスとマテオの長く続いている険悪な関係が善くなるとは言われてたんですけどね………。

 いざアレックスが国王となったら………他のバルツィエと一緒になって悪事を働いて………、

 この場合ですと悪政になるんですかね………?」

 

「………カオスの大叔父さんってお兄ちゃんがいなくなってから評判が悪くなったの?」

 

「そうみたいだよ。

 何でかは知らないけど………。」

 

「………お兄ちゃんがいなくなってから今まで良かったのが真逆になった………?

 お兄ちゃんがいなくなってショックだったとか………?」

 

「ミシガン………?」

 

「………それまではお兄ちゃんのアルバさんと同様に皆の評判は良かったんだよね?

 お兄ちゃんがいなくなってから真逆になって………。」

 

「どうしたのですか?

 何かアレックス王の方針変更に心当たりでも………?」

 

「………………それってさ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お兄ちゃんがいなくなったことの不満を政治にぶつけてるだけなんじゃないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 

「カオスもさ?

 あのミストの事件以降騎士になりたいって言わなくなったじゃない?

 騎士になりたいとは言わなくなったけどそれまでの負けず嫌いな性格から一変して何もかも諦めたような感じになってたし自分の体を労らなくなってた。

 自分のことを嫌いになってた………。

 

 アレックスさんもお兄ちゃんがいなくなったことにショックを受けて今まで好きだったものに辛く当たってるだけなんじゃないかなーって………。」

 

「王が好きだったもの………?」

 

「ミシガンにはあの王の好きなものが分かるのですか………?」

 

「?

 え?

 皆分からないの?」

 

「………今までは王は心変わりしたとしか噂が流れなかったからそれを信じてしまっていた………。」

 

「俺とアローネは最近あの人のこと知ったから叔父さんの話事態よく知らないんだ………。」

 

「ボクにとっては憎むべき敵ですからね………。

 何があったかなんて知る必要性を感じませんでした。」

 

「四人とも………、

 私よりもカオスの大叔父さんのこと早くに知ってたのに………。

 

 

 

 なんとなくなんだけどね………?

 カオスの大叔父さん、

 アレックス王は………、

 

 

 

 アルバさんと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達の国のマテオ王国のことが大好きだったんじゃないかなぁって思うの………。」



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祖父は何故………

 クラーケンについてウインドラから説明を受けるカオスとミシガン。

 クラーケンから話が流れて国王アレックスのことについて語るが………。


タイヒ山道 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大叔父さんがマテオを好きだった………?」

 

「私が聞いた感じではなんかそんな風に思うんだけど………。」

 

 

 

「………それは無いだろう。

 国王アレックスは昔はアルバさんとも隊列を組んでいたという話だがそれは兄に追い付くために力をつけて他のバルツィエと結託してアルバさんを何かしらの方法でレサリナスから追い出したと言うのが世間でも噂されているしダリントン隊長もその線で考えていた。

 ダリントン隊長はアルバさんのことをよく知っていたからな。

 俺もそう思うし現に今のアレックス政権は他のバルツィエ達を上手く率いている。

 アルバさんがバルツィエの当主になる前から粗暴な家だったからアルバさんのような思想違いの者はバルツィエにとっても不都合な存在だったんだろう。

 あの王が国を好きだったと言うのなら何故バルツィエ以外の者達から嫌われるようなことを繰り返しているんだ?」

 

「そうですよね………。

 マテオのことを愛していたと仰るのなら何故民衆を蔑ろにしてまで御自分の我を通すようなことを………?」

 

「バルツィエの根本は暴虐武人がモットーです。

 カオスさんのお祖父さんやカオスのような人はレアなケースなんですよ?」

 

 

 

「…けど私はあの王様の話を聞いてたらそう思うんだよ………。

 状況を聞いたらウインドラ達の言うことも最もな話だと思うけどさ?

 私からしたらアレックスさんって人が王様になってから変わった話を聞いてたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………私と同じなんじゃないかって思えて………。」

 

 

 

「アレックスと………ミシガンが同じ………?

 ………どこら辺が同じなんだ………?」

 

「………どこも共通しているところは無いと思うのだが………。」

 

 

 

「もし本当に王様がアルバさんを追い出そうとしてたらそうじゃないんだけどね?

 ………けどもし本当は追い出そうとしたりしてたんじゃなくて何もしてなかったら………。

 ………大好きなお兄ちゃんが突然何も言わずに自分の前からいなくなったりしたんだとしたら………、

 

 

 

 信じていた人に裏切られたんだって思ったら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それまで自分が好きだったものを全て嫌いになって八つ当たりしたくなったりするんじゃない………?

 ぶつけようの無い怒りを何かにぶつけたくなったりとか………。」

 

 

 

「「「………」」」

 

「!」

 

 

 

「王様だって………アルバさんと騎士団で騎士をやっていた頃は他の三人と仲良くやってたんだし強くなってアルバさんを蹴落としたかったんなら別に同じ部隊で騎士をやる意味も無いんじゃないの?」

 

 

 

「そこに関しては評判の良いアルバさんと組んだ方がアレックスも同じように指示を集めやすいとは思うが………、

 真意は誰にも分からんな………。」

 

「アレックス王がどのようなお考えだったのかは同じ仲間であったダリントンさんにも分からず仕舞い………。

 ………彼は始めからマテオで悪政を働くつもりだったのか………、

 もしくはそうではなかったのか………。」

 

「アルバート=ディランはレイディーさんの話では自主的にレサリナスを去ったと言ってました。

 と言うことはアルバート=ディランが去ったことに関しては弟のアレックス=クルガは関与してないんじゃないですか?」

 

「おじいちゃんがいなくなったせいで大叔父さんが今のバルツィエの体制を作ったのか………?」

 

「アルバさんが悪いみたいな言い方したくないんだけど私としては残された側としては気持ちが分かる気がするんだ………。

 カオスとウインドラがいなくなった時に私も悲しくなってからだんだん二人に対して怒りが湧いてきて二人の家を燃やそうとしたりしてたから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………えッ?」

 

「ミシガン………、

 俺達の実家はどうなってるんだ………?」

 

「大丈夫だよ。

 なんとか思い止まって燃やすのは止めたから。

 あの家が無くなったらカオスもウインドラも本格的に帰ってこれなくなるし今もちゃんと残してあるから。」

 

「それなら………助かるけど………。」

 

「それだけミシガンを怒らせるようなことをしてしまった手前燃やされてたのだとしても文句は言えんが………。」

 

「本当に二人にはあの時村で一人にされて泣きたい気持ちでいっぱいだったんだから!」

 

 

 

「………残された人の気持ち………。

 王はそれで国を荒らすような政策を………?」

 

「流石に兄がいなくなっただけでイジけて百年も国に当たり散らすなんて無いんじゃないですか………?

 兄がいなくなってから国王にもなれてプラスな面が多いと思いますし。」

 

「…ミシガンのようにアレックスのことを気にする者などいなかったしな………。

 案外ミシガンの意見は的を射ているのだろうか………?」

 

「国王に即位したというのに何か不満でも………?」

 

「…責任ある立場に就くと言うのはその立場に無い人達から見ると花方かのように思われるでしょうけど実際には色々と気苦労が多いのですよ………。

 貴族と言うだけで様々な仕事を引き受けねばなりませんし結果を出してもそれが当然のこととして感謝もされず挙げ句の果てには立場だけで悪い噂を流されたり………。

 有名になればなるほど民衆からの期待という“束縛”が重くのし掛かるのです………。」

 

「バルツィエに至ってはその束縛なぞ気にせず自分達のしたいようにしてるがな。

 ………だが立場による束縛か………。

 ダリントン隊長も民衆から国を立て直すように期待の声が掛かっていたからな………。

 アレックスは………そのせいで歪んでしまったのか………?」

 

「少なくともそういったケースはありますよ。

 民衆の国の声が立場ある人を悩ませることも。

 私の家クラウディアでさえも歴史ある筆頭貴族として代々国王に仕えることを自らの意思の他にも大衆から強制させられるようなそんな“無意識の圧力”がありましたので………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………大叔父さんは………、

 おじいちゃんがいなくなって歪んでしまったなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………おじいちゃんは大叔父さんを歪めさせてしまったってことになるのか………?」

 

 

 

「…この話が真実だった場合の話ですよ?

 私達だけでは検証が出来ませんしそれが理由で国を自由にしていいという訳ではありません。」

 

「アルバさんは現役の頃は上手く国を纏めていたさ。

 アレックスはそれが出来なかった。

 それだけのことだ。」

 

「カオスさんのお祖父さんなら弟のアレックスよりも良い国に出来ていた筈ですよ。」

 

「ミストでもアルバさんはお父さんの代わりに村長みたいなものだったしね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………責任か………。

 

 

 

何もしていなくても生まれだけでそれを求められる人生だなんて………。

 

 

 

なんだか自由が無くて嫌になりそうだな………。

 

 

 

おじいちゃんがレサリナスから出ていったのは………、

 

 

 

そうした理由からだったんだろうか………?



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人型モンスター

 マテオの国王アレックスの心意について考察するカオス等一行。

 バルツィエの粗暴性から深く考えたことがなかったカオス達だったが………。


サンフ渓谷

 

 

 

「ここを抜けたらいよいよミーア族の住む集落地帯へと辿り着くな………。」

 

「ミーア族の人達はスラート族みたいに街の下に空間を造って暮らしてるの?」

 

「オサムロウさんの話じゃそうらしいけど直ぐに見付けられるかな………?

 スラートの人達も俺達がブルータルを倒したから出てきてくれたけど同じように主を倒さないと地上に出てきてくれないかもね………。」

 

「先にミーア族の方々に主の討伐をスラート族から引き受けたことを報告してからの方が良いのでしょうが何時までもミーア族の方々が見付けられないようでは先に主を討伐してしまった方が私達の都合的には良いでしょうね………。」

 

「ミーア族は全体的に水属性の魔術を得意とした人が多い部族です。

 スラートのようにバランスよく魔術を扱える部族なら地属性の魔術であのような空間を作り出すこともできるでしょうがミーア族は………。」

 

「ミーアはスラートとは違う空間を造ってヴェノムの主から隠れてるってこと?」

 

「ボクの予想ですが……。」

 

「それならミーア族の集落に向かってもミーア族を発見出来ないかもしれないなぁ………。

 どこか地図でミーア族が隠れてそうなところって分からない?」

 

「無茶を言うな………。

 地図で分かるのは上から見下ろした地形だけだ。

 川がどのような経路で流れてるかとか山がどこにあるのかとかぐらいしか判別がつかんぞ?

 この地図でミーア族が隠れ潜んでいるところなぞ予測も出来ん。

 ………強いて挙げるのならこの渓谷が怪しいところだ。」

 

「ここ?」

 

「そう………ここだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァザァザァザァ…………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けどここって硬そうな岩壁だらけで人が隠れられそうな場所なんて無さそうだよ?」

 

「山道から続いている川がある以外には………、

 何も無さそうですね………。」

 

「そうだね………。

 こんな歩くのだけでも大変な地形で人が住んでそうな場所なんて………。」

 

「………始めからここにミーア族がいるとは思ってない。

 所々の木々が異様に枯れているのを見ればここもヴェノムがいたんだろう。

 そんな場所に好き好んで人がいる筈がない。

 ここも早く抜けるとしようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒソヒソ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!」バッ!

 

 

 

「?

 どうしたのアローネ?」

 

「………今川の下流の方から人の声がしたような………?」

 

「えッ!?」

 

「誰かいるのか!?」

 

「こんなところに人がいるの!?」

 

「いえ………、

 話し声のようなものが聞こえた気がしただけですので………。」

 

「………とにかくその声のした方に言ってみようか。

 本当にミーアの人がいるかもしれないし。」

 

「まさかいきなり当たりを引いたのか………?」

 

「ウインドラさんの言った通りでしたね。」

 

「…まだ分からん。

 モンスターかヴェノムがいるということもあるからな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァザァザァザァザァザァザァザァザァザァザァザァ………!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャハァ!キャハァ!キャッキャッキャッ…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれは………?」

 

「………モンスターのアルラウネですね。」パシャッ

 

「森に生息する植物系のモンスターで人に似た容姿で人語のような言葉を喋るが人との意思疏通は図れず普通に人も襲ってくる。

 アローネ=リムはあいつらの出す声を間違えたんだろう。」

 

「…そう上手い話じゃなかったんだな………。

 そんな簡単にミーア族に会えるわけないか………。」

 

「………申し訳ありません………。

 私の聞き間違いで期待させてしまって………。」

 

「いいよアローネさん。

 どうせ通り道にいるんだし誰かが絶対に勘違いしてたよ。」

 

「………それにしてもあのアルラウネ達はあそこで何をしてるんでしょうか?

 滝壺のところに集まってるようですが………。」

 

「植物系のモンスターだから水分補給でもしてるんだろう。

 何にせよ俺達の進路はあいつらの向こう側だ。

 あいつらがいては通れない。

 

 

 

 行く手を阻むモンスターは蹴散らしていくだけだ。」ジャキッ………!!

 

「あんまり人に似たモンスターなんか斬りつけたくないんだけどなぁ………。」

 

「見た目ほどアルラウネは大人しい生物ではありませんよ。

 あれで中々の怪力です。」

 

「植物系のモンスターなら火が使えれば楽そうなんだけどなぁ………。」

 

「スライムの時のようにウインドラさんの雷撃でどうにかなりませんか?」

 

「どうだろうな………、

 スライムは電気の熱を通しやすい体質をしていたから蒸発させられたがあのアルラウネは人の見た目をしているだけの植物だ。

 電気は………通りにくいだろう。」

 

「けど植物だって言うならスライムと違って直接斬りつければダメージは通るよね………?」

 

「物理的に倒せる相手なら属性の弱点は気にしなくても戦えますね。

 ………では。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣ッ!!」「ライトニングッ!!」「ウインドカッター!!」「ストーンブラストッ!!」「アクアエッジ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャハァ……………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「………」」」」ゼェゼェ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………思ったより苦戦したかな………?」

 

 

 

「…なんなのあれ………。

 戦ってる途中奇声上げたかと思ったら………!!」

 

「森の奥から仲間が次から次へと現れてはその繰り返しでしたね………。」

 

「数体だけかと思いきや回りにあれだけの数がいたとは………。

 アローネ=リムが聞き間違えるのも頷ける………。」

 

「通常のモンスターにここまで苦戦させられたのは初めてですね………。」

 

 

 

「………そうだけどさ。

 皆良い具合にモンスターとの立ち回りが上手かったと思うよ?」

 

 

 

「そう?」

 

「………今までは自分達の感覚だけでヒットアンドアウェイで戦ってましたがオサムロウさんの指導でボク達の連携が取りやすくなった感じがしますね。」

 

「戦闘はふとした失敗でピンチを招くが本の些細な上達で優位に傾くことがある。

 あの指導も案外捨てたものじゃないな。」

 

「この調子で集団戦に馴れていければいづれはもっと多くの敵に囲まれても苦戦せずに済みそうですね。」

 

「相手にもよるだろう。

 大群のスライムに囲まれた時俺だけしか戦力に数えられない場合はどうする。」

 

「それは………考えてませんでした………。」

 

「………確かに普通はスライムなんかに苦戦はしないだろうからな。

 スライムの亜種ヴェノムには問題無いと言うのに………。」

 

「本当にそんなことになったらウインドラさんに任せるしかありませんね。」

 

「………火属性の魔術を使える仲間は欲しいところだが俺達に着いてきてくれるような者なぞ「火だったら………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「火だったら………俺が出すよ。」



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発動フレアボム

 ダレイオスを南下しサンフ渓谷まで来たカオス等一行。

 ミーア族の住んでいる場所まであと少しというところで人型モンスターアルラウネと遭遇し………。


サンフ渓谷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………カオスが………………ですか………?」

 

 

 

「どうしたんだ………?

 ここ最近のお前は………?」

 

「カオス………、

 魔術を使うのに躊躇いが無くなって来てない………?」

 

「トリアナスではカオスさんは無意識に魔術を使用したと聞いて吐くほどだったじゃないですか。

 そんな無理して使わなくても………。」

 

 

 

「いや………、

 俺達の今を考えると火と氷が使える人は必要なんだ。

 そうでないとこの間のスライムの時のようなことがあったとき対処方法が全員分からなければ全滅もありうる。

 ………だったら俺が皆の代わりになる。

 火と氷でしか倒せない敵が出てきたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺に任せてくれ。」

 

 

 

「………だがお前はこの前魔術を一度使用しただけでダウンすれすれだっただろう。

 お前の魔術は強力だがそれではお前に身が危ないのじゃないか?」

 

「そうですよね………。

 カオスさんは今のままでも十分に強いですしそんなに気負い込むほどのことではないと思いますけど………。」

 

「二つの属性の穴はその分私達が腕を上げれば良いだけの話ですよ。」

 

「場合によっては逃げれば良いんだよ。

 カオスは剣だけでも強いんだしさ。」

 

 

 

「大丈夫だよ。

 オサムロウさんとの特訓で俺も魔術を教わったんだし。

 それに始めの内は“魔技”から使おうかなって思ってるから。」

 

 

 

「魔技を………?」

 

 

 

「うん、

 魔技なら魔術を使う感じで練習にもなるからこうやった………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フレアボム!!」ゴォォォォッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオォォォォォオオォオオォッッッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザバァァァァァァァァァッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」ビショビショ………。

 

 

 

「…っ、

 こっ、こんな感じで使えるみたいだし………。」

 

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………やっぱり駄目かな………?」

 

 

 

「………気持ち的には有り難いですが………。」

 

「ウインドラ平気………?」

 

「………あぁ、

 どうやらただの水なら安全らしい。

 これが魔術による水だったら死んでいただろうがな。」

 

「…また一つ私達の特性を知ることができましたね。」

 

「“相反する属性による攻撃が危険”………、

 それ以外のマナの込められていない普通の物質は安全、と………。」メモメモ…

 

「カオスのおかげでまた新たな情報が得られました………、

 ですが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはりまだカオスの魔術や魔技はやり過ぎ感が否めませんね………。

 もう少し力加減を抑えませんとこのように被害が甚大です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………実用化にはまだ早すぎるみたいだね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………服も乾いたようだな。

 そろそろ出発するか。」

 

「ゴメン………、

 余計なことして立ち止まらせて………、

 今は早く主を倒さないといけないってのに………。」

 

「カオスも皆のことを思ってやったことなんだし皆気にしてないからいいよ。」

 

「火と氷の穴はカオスさんでカバー出来ることが分かっただけでも収穫ですよ。

 これからは戦闘になって必要な時が来たらお願いします。」

 

「使うタイミングだけは気を付けて下さいね?

 あの威力では私達にも攻撃が及んでしまいますから。」

 

「そこは気を付けるよ。

 もしもの時は………ってことだよね。」

 

「分かっているならいいんだ。

 それじゃ先を急ぐか。」

 

「えぇ、

 それでは出発………」ヒソヒソ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 

「………聞こえましたか? 」

 

「今のは俺にも聞こえた。

 さっきの爆発でまたアルラウネがこの滝のところまで来てるのかもな。」

 

「またなの………?

 もうあんなの相手にするの懲り懲りなんだけど………。」

 

「ワザワザ敵がいるのを分かってて近付いてくるのを待ってる必要はありません。

 ここは無視して先に行きましょう。」

 

「用の無い敵に構ってられるほど暇じゃないしね。

 急いでこの渓谷を抜けようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………イッタカ?

 

ナンダッタンダロウナアイツラ?

 

キタカラキタッテコトハスラートノヤツラカソレカホカノブゾクタチカ………。

 

ナンニシテモアノアルラウネタチヲケシテクレタコトニハアリガタイガ………、

 

ギリギリデタキノナカノドウクツニハカエッテコレタガヤツラナカマヲヨンデイリグチヲフサイデイタカラナ、

ナカマデハイッテコラレタラドウナッテイタカ………。

 

 

 

………サッキノアノケンシガハナッタマギハバルツィエナミノイリョクガアッタゾ………?

 

…ヤツラ………マテオカラキタバルツィエノブタイカ………。

 

トウトウキヤガッタノカ………バルツィエメ………。

 

ドウヤラコノタキノナカニイルオレタチニハケドラレナカッタヨウダガ………。

 

………ヤツラガドノテイドノキボデマテオニイルノカシリタイナ………。

 

アイツラガムカッタサキハ………オレタチノムラノホウダナ………。

 

シラミツブシニダレイオスノヤツヲサガシアルイテルノカ………。

 

ココヲハッケンサレタラメンドウダ。

ショクリョウヲハコブサイニミツカリデモシタラオレタチハオワル………。

 

………ヤツラノアトヲツケテレンチュウガドノアタリヲキョテンニカツドウシテイルカシラベルゾ………。

 

ケシテミツカルナヨ?

ミツカッタラココニハモドッテクルナ………。

 

アァ、

ツイセキニハオレヒトリデムカウ。

オレガモドッテコナカッタラムスコタチハ………。

 

………オレタチデメンドウハミル………。

 

………………ヨシ、

デハ………マタモドッテコレタラ………。

 

キヲツケロヨ、

レンチュウノオンナノホウハカンガイイラシイ。

 

ワカッテル、

オレガアイツラニミツカラナイコトトモンスターカヴェノムニヤラレナイカダケイノッテテクレ。

 

………カナラズモドッテコイヨ、イイナ………?

 

オレガイキテカエレタラナ………………。



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ミーア族の集落ヴァッサー

 サンフ渓谷にて人型モンスターアルラウネと遭遇しからくも倒しきるが火と氷の属性魔術が使えないという弱点に対策を考えるカオス等一行。

 その二つの穴はカオスが埋めると意気込むが………。


ミーア族の集落ヴァッサー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………やはり無人の集落か………。」

 

「セレンシーアインより小さな集落だけど………、

 あそこみたいに地下に入れそうな場所が無さそうだね。」

 

 

 

「…ここにはミーア族はいないようですね。」

 

「一軒一軒家の中見てみたけどスラートの人達が作ってたような地下に続く階段とか全然見つからないよ………。」

 

「土の感じからしてこの村の地下に空間を作るのは無理そうです。

 ミーア族はこことは違う場所にいるみたいですよ。」

 

「ミーア族がいればヴェノムの主の目撃情報を頼りに捜索することもできたのですけど不在のようでしたら仕方がありません………。」

 

「最初の主は自分達の足で探すしか無いようだな。」

 

「でもどうやって探そうか………?」

 

「地図では………ここから東の方に海岸、南の方………にも海岸、西の方に………アインワルド族との境界の森があるな………。」

 

「三ヶ所全部回って探すの?」

 

「主は移動を繰り返している筈です。

 何の根拠も無しに回っては鼬ごっこのごとく延々と遭遇できない恐れがあります。」

 

「だったら手分けして探す………のは無しだな。

 相手はヴェノムである前にギガントモンスターだ。

 強敵と戦うのに戦力の分散は得策ではない。」

 

 

 

「………ならこの間みたいにウインドラのライトニングで誘き出すってのは………?」

 

「その手なら遠くにまで行かなくても向こうからやって来てくれるから早いですね。

 問題なのはクラーケンがそれに気付いてやって来てくれるかですけど………。」

 

「タコ………ですといかに陸上を移動できても水辺のあるところからそう遠くへは離れたりはしないでしょうね………。」

 

 

 

「………では選択肢は三つから二つに絞られたな。」

 

「東の海岸と南の海岸ですね………。」

 

「東の海岸に移動しながらウインドラのライトニングでヴェノム達を誘いだそう。

 そこから南に下っていく。

 そしたらそのまま西の方まで行けそうだしね。

 そうすれば海岸を歩いている内に向こうからやって来るだろ。」

 

「その作戦でいくか。

 海岸に着くまで俺が何度かライトニングを放ってみる。

 それで主が素直に来てくれたらいいが………。」

 

「ウインドラさん、

 魔力の方は余力はありますか?」

 

「そう気にするほどマナは消費していない。

 移動しながら使っても体力にも余裕はある。」

 

「………辛くなったら言ってくれ。

 ウインドラの代わりに俺がやるから。」

 

「お前はこの中でも最高戦力なんだ。

 最高戦力のお前が自分の力を削ぐようなことはしなくて良いだろう。

 

「だけど……。」

 

「………魔術を放ちながら移動を続けるのは体力の消耗が私達よりも激しいですからここからは移動のペースを落として進みましょうか。

 ヴェノムならこちらに気付きさえすればお互いに接近していくでしょうから今までよりもペースを落としても問題無いでしょう。」

 

「俺に気を使うことはないぞ。

 俺なら適度に休憩を挟めば一日に何度でも魔術を「カオスに気を使ってるのですよ。」…。」

 

「カオスは仲間思いですから貴方にばかり負担をかけるのは善しとは思えないのです。

 カオスは私達にいろいろと責任を感じていますから。

 私達が何を言ってもカオスは重く受け止めます。

 ………ここは互いの妥協点を考えてウインドラさんを休ませつつ慎重にゆっくりと進むのが良いでしょうね。」

 

「ダレイオスは広いですしボク達も未開の地同然なんですから地図があっても迷うこともあるでしょう。

 そんな場所で誰か一人が倒れるようなことがあればそれこそウインドラさんが焦っている時間への無駄に繋がりますよ。」

 

「………二人みたいに効率的なことをは言えないけど私もウインドラが無理するところは見たくないよ………。」

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………分かった。

 俺も魔術を撃つのが難しくなってきたら休憩をとろう。

 まだ一体目だしな。

 ここで体力と精神を磨り減らすようなことだけは避けなくてはな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーア族の集落ヴァッサー 木陰

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………今のところは本隊に合流する様子は見られないな………。

 奴等何が目的でここまで来たんだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネーベル平原

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ヴェノムの気配は無いな………。」

 

「だが念のために一応ライトニングは上げておこう。

 この平坦な場所なら障害物でこのライトニングが見えなかったということはあるまい。」

 

「これでこの辺りにヴェノムの主がいれば現れるでしょうが………。」

 

「………ひょっとしてだけどこの平原ヴェノムすらいないかもよ………?」

 

「……そうですね………。

 草原を観察してもヴェノムが通ったようなそれらしい痕跡も見当たりませんし………。」

 

「…とにかく敵を誘い出さないことにはこの平原がどうなっているのか分かりません。

 ………ウインドラさん、

 お願いします。」

 

「あぁ分かっている。

 『落雷よ我が手となりて敵を撃ち払え!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライトニングッ!!!』」ピシャァァァァァッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワッ………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!

 何か来る!?」ドドドドド………

 

「この足音は………、

 一つではありませんね………。」ドドドドド………

 

「何か嫌な予感がするんだけど………。」ドドドドド………

 

「ヴェノムばかりに気が行ってここが何処だったのか忘れてました。」ドドドドド………

 

「………街の中では無いのだからこうなることくらい予測できただろう。

 何にしても………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前のモンスターの群れをどうにかしなくてはな。

 奴等自分達の縄張りに侵入された挙げ句に俺のライトニングの騒音でお昼寝中のところを邪魔されて気が立ってるみたいだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「ガアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!」」」」」」」」ドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何体ぐらいいる………?」ドドドドド!!!

 

「数えきる前に接触しますね。

 ざっと三十以上いるとしか………。」ドドドドド!!!

 

「多数戦は不味いな。

 魔術を使用してくる個体には気をつけろ!ドドドドド!!!

 

「囲まれる前に数を減らしましょう!

 ミシガン!」

 

「それじゃあ私達は後ろで「うわああああぁぁぁぁぁぁあ!?」!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、うわぁぁぁぁっ!?」ダダダッ!!!

 

 

 

「グルルルッ!!!」ダダダッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人!?

 こんなところに何で…!?」

 

「ミーア族でしょうか…!?

 モンスターに追われています!」

 

「なんだってこのタイミングで………!?」

 

「ボーっとしてないで早くあの人を助けようよ!?」

 

「やれやれ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次から次へとトラブルが出てくるな………。」



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怪しい男

 ミーア族の集落についたカオス等一行。

 だがこれまでの街と同じくやはり無人でスラートのように人々を探すよりも主の討伐を急ぐ方が先決だと主を探しにいくが………。


ネーベル平原

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁっ!!!?」ドサッ!!

 

 

 

「ガァァァッ!!」ブンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュンッ!!ガキィィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!!

 ………危ない危ない………。」ググッ………

 

 

 

「………」

 

 

 

「間に合ったようだな!

 …そこのお前!

 戦えないのならボサッとしてないでこっちに来い!」

 

「ここは私達に任せて貴方は下がってて下さい!

 『疾風よ我が手となりて敵を切り裂け!

 ウインドカッター!!』」ズバスバスバッ!!

 

 

 

「ガフッ…!?」ドサッ!!

 

 

 

「円閃牙ッ!!」シュンシュンシュンッ!!!

 

 

 

「ガウッ!?」ザスッ!

 

 

 

「「「「グルゥゥゥゥァァァァァァッッッ!!!」」」」

 

 

 

「ちょっと数が多いなぁ………。」

 

「囲まれる前に切り崩して行こう!!

 ミシガン達は距離をとって援護をお願い!!」ダッ!

 

「了解ッ!!

 『水流よ我が手となりて』「バウッ!!」………!?」ガバッ!!

 

「させるか!!」ドスッ!!

 

 

 

「ギャンッ!?」ドサッ!!

 

 

 

「あっ、有り難うウインドラ!」

 

「魔術だけじゃこの数は捌ききれん!

 魔技も積極的に使って敵を押し退けろ!」

 

「その方がよろしいですね!

 ウインドランス!!」シュッ!!

 

 

 

「ガッ………!?」ドスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「フシュルルルルルル…………!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついに囲まれてしまったか………。」

 

「どんどん奥の方から他のモンスターも来てるよ!」

 

「これでは袋叩きにあうだけですよ?

 どうしますか………?」

 

「時間を稼いでいただければ私の追撃のウインドカッターで「ここは俺がやるよ」カオス?まさか………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆動かないでね?

 ちょっとコントロールに自信が無いから飛び出されると当たっちゃうかもだからさ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フレアボムッ!!」ゴォォォォッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォオォオォォオォッ………!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どこを狙ってるんだ全く当たってないぞ。」

 

「カオスって昔からノーコンだから………。」

 

 

 

「………ゴメン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「………」」」」」ジリッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おや?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アォォォォォォォォンッ!!」

 

 

 

「「「「………!!」」」」タタタッ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………逃げてく………?」

 

「…今のカオスさんのフレアボムで怖じ気付いたんでしょう。」

 

「命中はしなかったが結果往来だな。」

 

「あの場面で外すとは思いませんでしたが………。」

 

「いっ、いいじゃないか!?

 結果的に戦闘が終わったんだから!」

 

「… 実はわざと外したのでは?」

 

「………まだ魔技に馴れてないだけだよ………。」

 

「本当に………?」

 

「………」

 

 

 

「………それで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前は一体………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ッ!」タタタッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつが逃げていくぞ!?」

 

「何で!?」

 

「理由は分かりませんがボク達を敵だと思い込んでいるのかもしれません。」

 

「あちらは………海岸の方ですね。」

 

「どうする?

 あの人一人だけみたいだけど他にも仲間がいるんじゃないかな………?」

 

「仲間が他にいるかは知らんがここであいつとはぐれるとミーア族の手掛かりを失ってしまうぞ!

 直ぐにあいつの後を追うんだ!」

 

「そうだね、

 さっきの様子だと戦闘は出来ないようだしね。

 あの人しかいないんならまたモンスターに襲われるだろうし、

 

 

 

 早く追い掛けないとね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レーゲン海岸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 

 

「ゴァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………また襲われてる………。」

 

「懲りん奴だな………。」

 

「叫びながら走ればそれだけモンスターの注意を引くことが分からないんですかね………。」

 

「さっきのモンスター達に襲われかけて気が動転してそれどころじゃないんじゃない?」

 

「暢気に見てないでお助けしましょうよ。」

 

「そうですね。

 ………あのモンスターは………ガンバラーベアと言うみたいですね。」パシャッ

 

「ガンバラーベア………、

 ミストの森とかでもベアなら見かけたけど……。」

 

「ベアの上位種です。

 長い腕から繰り出される爪の引っ掻き攻撃は強烈ですから正面から相手にしない方が賢明ですよ。」

 

「………ならあの人に気をとられて後ろ向いている今の内に………。」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガァァァァァッ………!?」ドサッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一匹だけなら割りとこんなもんかな。」

 

 

 

「手早く片付けられましたね。」

 

「カオスならこの程度のモンスターはあっと言う間ですね。」

 

「これがもうカオスの普通なんだね。」

 

「………さて、

 

 

 

 そこのお前!」

 

 

 

 

 

 

「…!?」ビクッ!

 

 

 

「お前は………ミーア族だな?

 何故こんなところにいる?

 他のミーア族はどうした?

 お前だけか?」

 

 

 

「………かよ………。」

 

 

 

「「「「「?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………誰がマテオのそれもバルツィエの兵隊なんかに教えるかよ!

 どうせ俺から仲間達の居場所を聞き出して皆殺しにするつもりなんだろ!?

 そうはさせねぇぞ!

 俺だってミーア族の端くれだ!

 仲間を売るくらいならお前らに一泡ふかせてから死んでやるぜ!

 どうした!?

 掛かってこいよ!?

 オラァッ!!?」ブルブル…

 

 

 

「錯乱しているようだな。

 俺達をマテオから来た兵士と思ってるようだな。」

 

「またスラートの人達みたいなことになってるよ……。」

 

「どうか落ち着いて話し合いましょう。

 私達は貴方の敵ではありませんから…。」

 

 

 

「うるせぇッ!!

 そんな言葉で騙されるか!

 テメェ等が怪しいのには変わりねぇんだ!

 俺をこんなところまで追い詰めてからいたぶって殺そうとしてんのは丸見えなんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これでも喰らいやがれッッ!!

 アクアエッジ!!」バシャァァッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バッ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザバァァッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」ビシャビシャ……

 

「………大丈夫ですか?

 カオス………。」

 

「平気………だけど………、

 なんか最近濡らされてばかりだね………。」

 

 

 

 

 

 

「ハッ………ハハハハ………、

 やっ、…やってやったぜ!

 様ぁ見ろ!!

 バルツィエに一発かましてやったぜ!!?

 どうだ!?

 俺のアクアエッジの味は!!?

 そんなに濡れてちゃお家芸の飛葉翻歩も使えねぇだろうが!!」シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「………は?」

 

 

 

「…このくらいならそこまで動きにくいってほどでもないんだ。」ガシッ

 

 

 

「!?

 はっ

 離せこのッ………!!」ググ…

 

 

 

「暴れたり喚いたりしないってんなら離すけど………?」

 

 

 

「ぐぅ…!?

 卑怯だぞテメェ等ッ!!

 俺一人に五人なんてッ!!」

 

 

 

「俺一人しか相手してないと思うんだけど………。」

 

 

 

「このぉッ!!

 うらぁッ!!」

 

 

 

「いい加減抵抗は止めて大人しくしてくれないかな?

 俺達は話がしたいだけなんだ。」

 

 

 

「………チッ!

 分かったよ!!

 大人しくしとけばいいんだろ………。」

 

 

 

「そうだね。

 それじゃ話を………。」スッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…と大人しくなるとでも思ったか!

 バ~カ!!

 テメェ等なんかと誰が話なんてするかよ!!」ダダダッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あッ…!?」

 

「カオス!?

 何を引っ掛かってるんだ!?」

 

「また逃げられちゃいますよ!」

 

「ミシガン!

 そちらに行きましたよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハッ!!

 女なんかに捕まるかってん「フンッ」ブホォッ!!?」ドゴォッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………話くらい聞きなさいよ。

 言葉通じてんでしょ。

 全く………。

 大の大人が小賢しいことしてんじゃないっての……!」



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爆睡男

レーゲン海岸

 

 

 

「ウインドラに取り替えてもらった手錠をまだ持ち歩いていて良かったな。」

 

「この人の意識が戻ってもまた逃げだすだろうしね。

 ここでこの人から何をしてたのか聞き出さないと。」

 

「…ミシガンさんって思ってたよりも力が強いんですね………。」

 

「ミシガンは見た目ほど華奢ではありませんよ。

 私がカオスに拾われてから初めてミシガンにお会いしたときにも私とカオスを同時に締め上げて持ち上げた程ですから。」

 

「そんなに……!?」

 

「あの時は驚いたなぁ………。

 ミシガンとは何度も顔をあわせてたけどまさかあんなに腕力をつけていたなんて………。」

 

「(俺も人のことは言えんがミシガンも相当に豪腕なんだな………。)」

 

 

 

「………それでこの人何時目覚めるんだろ………?」

 

「さぁ?

 揺さぶってたらその内目覚めるんじゃない?」

 

「…ですが………、

 これは………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「」グッタリ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………目覚める気配がありませんね………。」 

 

「そもそも生きてる?

 その人………。」

 

「生きてるに決まってるじゃない!

 ただ気を失ってるだけでしょ?

 そんなに強くは殴ってないし…。」

 

「………余程強く腹に入ったみたいだな………。

 まるで死んでいるような………。」

 

「ちょっと止めてよ!

 あんなんで人が死ぬわけ………!」

 

「………心臓は………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………!!!?」

 

 

 

「…?

 アローネさんどうしたの?

 心音測れたんだよね?」「『癒しの加護を我らに………ファスートエイド!!』」パァァッ!

 

「アローネさん?」

 

「………」

 

「………ねぇ、

 ………………嘘でしょ?

 冗談なん「静かに!!」えっ!?」

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………ドクンッ!ドクンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………どうにか一命はとりとめたようです。

 もう安心ですよ………。」

 

「心臓止まってたの?」

 

「直前のモンスターに襲われた恐怖とミシガンの一撃が際どい位置に入ってしまったようで心配停止していました。

 でもこれで目覚めるはずです。」

 

「モンスターではなくミシガンさんに殺されかけるなんて運のない人ですね。」

 

「さっきの一撃は見事なものだったからな。

 俺達から全速力で逃げようとしたところにミシガンのカウンターパンチをもらって逝きかけるとは………、

 恐るべきパンチだな………。」

 

「駄目じゃないかミシガン。

 最近暴力的になってるよ?

 もう少し加減ってものを身に付けた方がいいよ。」

 

「だって!

 せっかくモンスターから助けてあげたのにこの人が人の話も聞かないで文句だけ行って逃げようとするからついイラッときて………!」

 

「まぁまぁこの方にも思うところがありましたし私達も不躾ではありましたから………。

 彼の目には私達が何者に映っていたかを思えばあの態度も頷けますよ。」

 

「バルツィエって俺達のこと言ってたね彼は………。」

 

「カオスさんの魔技を見てそう思ったんでしょうね。」

 

「俺達がマテオの兵士だと疑われたことは分かるが………、

 こいつはあんなところで一人で何をしてたんだ………?」

 

「どこかに行く途中だったとかじゃない?」

 

「この海岸もさっきの平原もモンスターが生息しているような場所だぞ?

 見たところこいつは………、

 武器は所持しているようだが戦闘は不得意そうだし単身であんな場所にいたこと事態不自然だ。」

 

「この地方にいるってことはこの人はミーア族でしょう。

 この近くにミーア族が隠れすんでいる場所があると言うことなのでは?」

 

「俺達がモンスターを引き寄せちゃったからたまたま近くにいたこの人もモンスターに見つかって今こうなってるんじゃない?」

 

「…今ダレイオスは全土がヴェノムの主を警戒して全部族が引きこもっている状態なんだぞ?

 それなのにたった一人で危険なモンスターの生息地に入り込むなどどうかしている。

 とても利口的とは言えんな。」

 

 

 

「…ウインドラさんはこの方に何か思うところでも?」

 

 

 

「………こいつはさっき俺がモンスターを誘い出した際、

 俺達が来たミーア族の集落の方………つまり俺達の背後から出てきた。

 どう考えてもおかしくないか?

 俺達がそこを通って来たときは人影もなかったんだぞ?」

 

「?

 この人………、

 俺達のこと尾行してたの?」

 

「………………ダレイオスの者達がスラートの連中のように穴蔵に隠れているとしてそこから外出する理由としては三つ考えられる。

 一つは集落に何かを取りに行ったか食料になりそうな物を探していたかだ。

 だがあの集落からこの海岸まで特に食料になりそうな木の実や魚のいそうな川なども無かった。

 これは省こうか。」

 

「モンスターならいたけど………?」

 

「モンスターを狩ってその肉を得たかったのならさっきみたいにガンバラーベア一匹にあぁまで取り乱したりはしないだろ。」

 

「……そうだよね………。」

 

「二つ目は何ですか?」

 

「王都でスラート族と出会った時のように俺達に関係なくこいつが偶然地上の様子でも見に来たかだ。

 ………この線だとさっきの平原の近くにミーア族の隠れ家があることになるが………。」

 

「………ウインドラさんは三つ目の線が濃厚だとお考えなのですね………?」

 

「モンスターが現れた際こいつが真後ろから来なければここまで疑ったりはしなかったんだがな………。

 どうも気になる………。

 あの辺りには隠れ家を作れそうな空間は見当たらなかっただろうし普通にモンスターも出てきた。

 ………やはりこいつはどこかで俺達のことを見つけてつけてきたとしか考えられない。」

 

「つけて来たんだとしたら………あの集落からでしょうか?」

 

「それを知るには本人に聞くしかないだろう。

 ………ここもまだモンスターがいるからそろそろ起きてくれると手がかからないんだが………。」

 

「………その人まだ起きないの?」

 

「変ですね………。

 心肺も戻りましたからもう気がついても良い頃なのですが………。」

 

「もう一度心臓の音聞いてみたら?」

 

「………やってみます………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………ァァグガァ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何やら奇怪な音がこの方の体の中から………。」

 

「言わなくても大丈夫だよ。

 皆その音聞こえてたから。」

 

「気絶しているのかと思ったら………。」

 

「なんて図太い神経しているんだこいつは………。」

 

「あの状況でよくこの人………、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………スピー…………コゴゴ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………爆睡なんて出来るね………。」



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男との邂逅

レーゲン海岸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………うっ、ううん………?」

 

 

 

「気が付いたか。」

 

「ぐっすりお眠りになられていたようですけど………、

 どこかまだ痛む場所でもあるようでしたら治療しますよ。」

 

 

 

「!!!?

 お前らはッ!!!?」バッ

 

 

 

ガッ!!

 

 

 

「!?

 これはマテオの奴等が使ってる手錠!?

 やっぱりお前らはマテオの…!?」ガシッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話が進まないから一旦落ち着いて冷静に状況見ようね?

 また騒ぎ出されたら今度はどうなるか分からないよ?」

 

 

 

「…………わっ、分かった………。」

 

 

 

「よろしい。」

 

「………なんか俺達悪いことしてるみたいに感じてきたよ………。」

 

「ミシガンさんってこんな風に人を脅したりもするんですね。」

 

「悪者扱いされるのに馴れてないんだろ。

 さっきの発言でこいつに対してヘイトが高まったようだしな。」

 

 

 

 

 

 

「………………!

 …俺は………確かその女に腹を貫かれて死んだ筈じゃ………?」

 

 

 

「お腹なんて貫いてないでしょ!?

 私の手は槍じゃないわよ!!」

 

「そう思うぐらいミシガンのパンチが強力だったってことだよ。」

 

「一瞬で意識を刈り取る程の力で殴ったのでしたらそう錯覚しても仕方ないのでは?」

 

「………二人とも………、

 それは私のことをフォローしてるんだよね?」

 

 

 

「こちらのものが手荒な真似をしてすまなかったがお前も俺達の事情を知らずにバルツィエの手先と勘違いして散々な態度をとったんだ。

 ここはお互いに譲歩して無かったことにしないか?」

 

 

 

「勘違い………?

 お前らは………バルツィエじゃないってのか………?」

 

 

 

「いつ俺達がバルツィエだと名乗った?」

 

「私達はマテオの兵士ではありませんよ。」

 

 

 

「………じゃあ何で俺はこんなマテオの兵士が使ってるような手錠で拘束されてんだよ………。

 こんなもん持ってダレイオスにいてさっきみたいな魔力を持つ奴等なんてバルツィエ以外にいねぇだろ。」

 

 

 

「お前がまた騒ぎ出すと思ったからだ。」

 

「その手錠壊れてるから簡単に外せるよ?」

 

 

 

「!

 ………。」ガシャッ…

 

 

 

「………これで俺達がお前の敵ではないと言うことが分かったか?」

 

 

 

「………俺に対しての敵意が無いことは理解した………。

 だがお前達が信用ならないことに変わりはない。

 …お前らは一体何なんだ?」

 

 

 

「俺はウインドラ=ケンドリュー、

 マテオの脱走兵だ。」

 

 

 

「マテオの脱走兵………?

 ………マテオで何かやらかして逃げてきたのか?」

 

 

 

「その認識で間違いない。

 そしてこっちはお前の懸念通り………「カオス=バルツィエだ。」」

 

 

 

「カオス………………バルツィエ………。

 ………思った通りバルツィエなのかよ………。

 だが何でバルツィエが脱走兵なんかと一緒にいるんだよ?

 護送中の帰りか?」

 

 

 

「俺はバルツィエの生まれになるらしいけど貴方が知ってるバルツィエの仲間………ではないよ。」

 

 

 

「バルツィエの仲間じゃない………?」

 

 

 

「俺のおじいちゃんが昔バルツィエの本家から離れてマテオのレサリナスから遠い村に隠居したんだ。

 俺はそこの村の生まれでレサリナスにいるバルツィエとは無関係なんだよ。」

 

 

 

「バルツィエが隠居だと………?

 バルツィエっていやぁ質の悪い話で有名な一族だぞ?

 どうせお前のじいさんがその村の女孕ませてからとんずらこかれた女の孫なんだろ?」

 

 

 

「おじいちゃんはそんなことしてない!

 ずっとおばあちゃんが病気で死ぬまで一緒にいたし俺達の村で暮らしてたんだ!」

 

「それについては俺達が証人だ。

 こいつとお前を殴り伏せたこのミシガンはこのカオスと同じ村で育った幼馴染みだ。

 カオスの祖父はバルツィエの中でも異例の善良な心の持ち主で十年前にある事件で亡くなるまで村を守り抜いた英雄だ。」

 

「そうだよ!

 カオスのおじいちゃんも知らないのにそんな風に言うのは止めてよ!」

 

 

 

「バルツィエが善良な心の持ち主で英雄だと………?

 そんな話誰が信じるって言うん「アルバート=ディラン・バルツィエ。」…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスさんのお祖父さんはマテオだけではなくダレイオスでも有名な人でした。

 貴方くらいの世代の人ならこの名前のバルツィエのことも知ってるんじゃないですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルバート=ディラン・バルツィエ………、

 ………百年くらい前のバルツィエの当主でマテオとダレイオスの不仲を解消する立役者になれたかもしれねぇ男だよな………。

 突然マテオから消えたって話だったが生きてやがったのか………。

 聞いた話じゃ弟に殺されたって思ってたんだがな………。」

 

 

 

「カオスの祖父はアルバート=ディラン・バルツィエだ。

 レサリナスでは死亡扱いされていたがただ単に行方を眩ましていただけだ。

 行方を眩ませた先で家庭を築き娘をもうけその娘と村の男性との間にこのカオスが誕生した。

 だからこいつはお前が恐怖するような存在ではない。

 バルツィエの血は入ってはいるが貴族ではないからな。

 世間で知れわたっているような凶悪性もない。」

 

「カオスは普通の村で育った普通の村人だよ。」

 

 

 

「………その話が本当だったら俺を弄んでから即殺さないのも分かる………。

 あの男の血筋なら無暗に殺しはしないだろう。

 

 

 

 ………だがその話が作り話ってこともあるよな?

 バルツィエの連中だったら俺達ダレイオスのやつを炙り出してから纏めて殺すために俺を上手く騙して俺の仲間のところへ案内させようとするぐらいやってのける筈だ。

 ………お前らのことは信用しきれねぇ。」

 

 

 

「随分と疑われたもんだね………。」

 

「一族を守るためこの方も用心しているのですよ。」

 

「そこまで疑われてしまっいてはミーア族と会談はできないだろうな。」

 

 

 

「!

 ほらな!

 やっぱりそういうことなんだろうが!

 お前ら全員本当は脱走兵でも何でもなくてただダレイオスに殺戮に来たバルツィエの兵なんだろ!?」

 

 

 

「そんなに疑うのなら別に構わん。

 俺達はお前から情報が聞きたいだけだしな。」

 

 

 

「情報だと!?

 俺の仲間達のいる場所なんかお前らには絶対に教えたりなんかし「この地方のヴェノムの主はどこにいる?」ねぇ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………は?」

 

 

 

「この地を荒らすヴェノムの主の居所を聞いているんだ。

 クラーケンという名のギガントモンスターがいるらしいんだが居場所を知らないか?」

 

 

 

「………何で主の居所なんか知りたいんだ………?

 主なんかに何の用があるってんだ………?」

 

 

 

「俺達が何でこの地方に来たか言ってなかったね。

 俺達はこのミーア族の住んでいる地方の………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムの主を退治しに来たんだ。」



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クラーケンの脅威性

レーゲン海岸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………何だって………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………何を退治するって………?」

 

 

 

「だからヴェノムの主退治するんだよ。」

 

 

 

「………誰が………?」

 

 

 

「俺達が。」

 

 

 

「どうやってだ………?」

 

 

 

「普通に倒すだけなんだけど………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………こいつら何言ってるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お前ら気でも狂ってんのか?

 ヴェノムの主がどんな奴なのか知ってて言ってんのか?

 奴等はそこら辺のヴェノムとは違うんだぞ?

 どれだけ腕に自信があるのか知らねぇが奴は不死身だ。

 ちっとばかし強いだけの魔力じゃ刃なんて立たねぇんだぞ?

 第一普通のヴェノムですら正攻法で倒せねぇんだ。

 主を倒すとしたらこのダレイオスにいる全部族の連中を全員かき集めて対処するくらいしないと退治なんて無理だ。

 バルツィエなら主を深い谷底とも呼べるような穴を掘ることもできるだろうがこの地方のミーアを悩ませている主は八本足の魔物クラーケンだ。

 奴はこの星の反対側にまで届くような穴に突き落としたとしてもその八本の触手で這い出してくる。

 ………クラーケンは………恐らく全九体いる主達の中で………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最悪に人の手に終えない悪魔だ。

 バルツィエ一人とその他たった四人でどうにかなる相手じゃねぇ。

 戦おうとしたところで戦いになんかなりやしねぇんだよ………。」

 

 

 

「そんなにヤバイ相手なの………?」

 

 

 

「当たり前だ。

 奴の巨体とそのしなる触手だけでも人類が立ち向かえる相手じゃないってのにヴェノムの感染攻撃まで備わってやがる。

 

 マテオのバルツィエの連中がここ数十年何故この海域から船で攻めてこねぇか分かるか?

 連中が攻めてこねぇのはこの海にクラーケンが出現するようになったからだ。

 クラーケンはヴェノムになる前からダレイオスでも漁に出た船を何隻も沈めてきた海の怪物だ。

 あれに興味本意で退治しにいくつもりなら止めといたほうがいいぞ。」

 

 

 

「俺達のことを信用はしていないと言っていたが心配はしてくれるんだな。」

 

「案外いい人なのかな?」

 

 

 

「………このダレイオスでは誰がいつヴェノムに感染して死ぬか分からねぇ。

 終末の話が現実的に近付いてきてるから生きてる奴は一人でも多くいた方がどっかで拾い物でもあったらもうけものだろ。」

 

 

 

「ふぅん………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それでそのクラーケンはどこにいるの?」

 

 

 

「話を聞けよ!?

 ヴェノムの主に会いに行ったところで返り討ちにあうって言ってんだろ!?

 だいたい何でヴェノムの主を退治できるなんて思ったんだ!!

 ヴェノムの主は出現してからまだ誰も一体すら倒すことが出来てねぇんだ!!

 実質奴等を退治するのは不可能だってことが国が崩壊して無くなったセレンシーアイン政府の最終結論に至って「倒した。」…………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達は何も興味本意ってだけでヴェノムの主を退治しにいこうとしてるんじゃない。」

 

 

 

「………だったらなんだってヴェノムの主なんかに………。」

 

 

 

「私達は先日ここから最北端にある………あったトリアナス砦を経由してマテオからダレイオスへと渡ってきました。」

 

 

 

「…まぁ、そこしか今のところ入国する方法はねぇからな。」

 

 

 

「今はもうその方法を使ってダレイオスとマテオは行き来できませんけどね。」

 

 

 

「………?

 何でだ?

 お前らが渡ってきたからマテオの警備が厳しくなったのか?」

 

 

 

「トリアナス砦からマテオに続いていた海道はもう無くなっちゃったんだよ。」

 

 

 

「海道が無くなった………?」

 

 

 

「あの隕石の衝撃はここまで届いて無かったのか?

 その海道はとある事情で爆破されマテオとダレイオスは完全に分断されたんだ。」

 

 

 

「爆破だって………?

 ………そういや三週間ぐらい前の夜に遠くの方からデカイ轟音とデカイ地震があったがそれが関係してんのか………?」

 

 

 

「多分それだね。

 俺達はその現場に居合わせたんだ。

 そしてそこからダレイオスを探索してたんだけどダレイオスのどの街を廻ってみても誰もいない無人の村や街しか無くてどうしようか迷ってた時に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この国の元王都セレンシーアインでブルータルって言うヴェノムの主と出会ったんだ。」

 

 

 

「………そうだな。

 スラートやアイネフーレ達のいる所は確かヴェノムの主の一体のブルータルが徘徊していたらしいが………。」

 

 

 

「俺達はそこでそのブルータルを倒してきたんだよ。」

 

 

 

「そうか…ブルータルを倒してここに………、

 …………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………あん?」

 

 

 

「ブルータルを倒したその翌日に様子を見に来たスラート族と出会って「待て待て!ちょっと待て!!?」」

 

 

 

「ブルータルを倒しただと!!?

 いきなり話がすっ飛んだぞ!!?

 お前らがブルータルを倒したってのか!!?」

 

 

 

「さっきからそう言ってるんだけど。」

 

 

 

「デタラメ言うんじゃねぇよ!!

 お前らがどうやってブルータルを倒したってんだ!!

 奴の毛皮の装甲は鉄並に硬い上に馬なんかよりも機動力が高く力もギガントモンスターってだけあってドラゴン級だ!!

 おまけにヴェノムに侵食されてからは痛覚も失って一度遭遇したら絶対に追い払えずに地の果てまで追い掛けてくる死神のような亡者だ!!

 それと出会って生きてるってだけでも奇跡みたいな話なのに倒しただと!!?

 そんな話あり得るか!!」

 

 

 

「…では何故俺達がヴェノムの主なんて言葉を知ってると思う?」

 

 

 

「どうせスラートの連中に会って話だけ聞いて興味が湧いて見に行きたいってだけなんだろ!?

 死滅しないヴェノムってのも珍しい種だからな!

 本当はブルータルにも遭遇したりしてないんだろ!?」

 

 

 

「もしそうだったのなら私達はクラーケンの前にブルータルを探すと思いますが………?」

 

 

 

「!

 ………そうだな。

 ヴェノムの主に会いたいのならそのまま北東の主に会えばいいだけの話だが………。

 ………だがブルータルを倒したって話は納得できねぇ!

 奴はヴェノムなんだぞ!?

 いかにバルツィエの力があったとしてもアイツ等の肉体には天然の“リジェネレイト”が付与してる!

 どんだけ攻撃しても忽ちに傷が治っちまう!!

 お前らどんな手品で主を倒したってんだよ!?」

 

 

 

「う~ん………、

 説明したいけどちょっと面倒な話なんだよなぁ………。」

 

「私達にはヴェノムを浄化する能力が備わっているのですよ。

 所謂“ヴェノムキラー”と言ったところでしょうか………。」

 

 

 

「ヴェノムキラー………?」

 

 

 

「ボク達の攻撃はヴェノムに通用するんですよ。

 通常攻撃でも魔術でもボク達がヴェノムにダメージを与えればそれでヴェノムが倒せます。」

 

 

 

「ヴェノムを倒す………?

 通常攻撃でだと………?

 馬鹿な!!

 そんなこと不可能だ!!

 奴等通常の飢餓して死滅する種だけでも触れること事態が自殺行為なんだぞ!!

 武器なんかで攻撃しても武器が溶解して体液に触れるだけで攻撃した側が逆に感染して死ぬだけだ!!

 奴等にまともに敵う奴なんかいる訳がねぇ!!」

 

 

 

「そんなモンスターに俺達がこうして会いに行こうとしてる時点でおかしいと思わないか?

 何かしら俺達に手があると普通は予測が立てられそうなものだが………。」

 

 

 

「………お前らは何でヴェノムの主を倒そうとしてるんだ………?

 ダレイオス最強の“サムライ”ですら倒すことを諦めた相手なのに………。」

 

 

 

「俺達はその最強のサムライ、

 オサムロウさんに依頼されてこの地方まで来たんだよ。」

 

 

 

「サムライが………?

 何のために………?

 ブルータルさえ倒したのなら奴等にはこの地方がどうなろうと関係無いだろ………?」

 

 

 

「ダレイオス再建のためですよ。」

 

 

 

「………ダレイオス再建のため………?」

 

 

 

「そう、

 俺達は俺達の村のためにダレイオスが国としてマテオと戦えるところまで復活してもらわないと困るんだ。

 だからこの地方までヴェノムの主を倒しにやって来た。

 ヴェノムの主を全部倒して散り散りになった全部族を再集結させて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスをマテオに勝たせるために。」



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ミーア族のシーグス

レーゲン海岸

 

 

 

「ダレイオス復活………?

 マテオに勝たせる………?

 ………お前らの話は突拍子が無さすぎて理解が追い付かん………。

 お前らはあれか?

 ダレイオスにいる全てのヴェノムの主を倒せばダレイオスが再興してそれからダレイオスがマテオに挑めると、

 そう思ってるのか?」

 

 

 

「そういう予定だな。」

 

 

 

「………………あのな?

 お前らマテオから来たんだろ?

 なら知ってるよな?

 うちが何でこうなったか

 ダレイオスがバラバラになる以前に俺達はマテオに敵わねぇってんで国としての仕組みを維持するのを止めて昔の体勢に戻ったんだ。

 マテオのバルツィエにはダレイオスの西側にあった「ゲダイアン」そう!ゲダイアンだ。

 ………ゲダイアンのこと聞いてるんならバルツィエの爆撃事件も聞いてんだろ?

 奴等にあれをまたされたらダレイオスは完全に終わりだ。

 今度こそダレイオスの全大陸が消し飛ばされちまう。」

 

 

 

「マテオにいたからこそダレイオスの話を聞いて俺達はダレイオスを再興させようとしてるんだ。」

 

 

 

「だから何でだよ!?

 どうせ主を倒したってマテオからまたあれを撃たれたら「お前達は思い違いをしてるんだ。」………何?」

 

 

 

「遠く離れたマテオでも現地のゲダイアンの情報はあった。

 マテオではゲダイアン消滅はお前達ダレイオス側の秘密組織、

 仮の名を大魔導士軍団と呼んでいた組織が魔術開発の為の実験で失敗し自爆したとされている。」

 

 

 

「大………魔導士軍団………?

 何だそいつらは………?

 そんな奴等ダレイオスにはいねぇぞ………?」

 

 

 

「ダレイオスではゲダイアン消失はマテオ側からの攻撃によるものだと認識しているようだがマテオではダレイオスのゲダイアン消失は単なる自爆として片付けられている。

 ………俺達がダレイオスに亡命してきたのはバルツィエがゲダイアン消失によって存在が浮かび上がった大魔導士軍団がダレイオスに存命している可能性を危惧して近々ダレイオスを殲滅しにかかろうとしていたからだ。

 その戦争の結果マテオが勝利してしまえばこのデリス=カーラーンはバルツィエの独裁世界へと変わってしまう。

 俺達にとってもマテオのバルツィエ以外の国民達にとってもそうなった世界は地獄なんだ。」

 

「ただでさえ調子に乗ってやりたい放題しているバルツィエに対抗しうるダレイオスが負けて無くなってしまえばバルツィエには明確な敵がいなくなる。

 だからボク達はそうならないためにダレイオスに復活してほしいんです。」

 

「私達の村は昔はマテオでは誰にも認知されてない秘密の村だったの。

 でもあることが切っ掛けでレサリナスの統治下に入っちゃってこのままバルツィエが世界を征服したら大変なことになるんだよ。」

 

「今はレサリナスとその近くの街で暴れているだけなんだけどもしバルツィエが世界征服してから徐々に繁栄していったら俺達の村にもやがてその手が届く。」

 

「俺達の根本的なダレイオスを復活させる理由はそれだ。

 俺達は俺達の村を救いたく共にバルツィエと戦う人員確保のためにダレイオスを再築するべく動いている。

 これ以上の裏表はない。」

 

 

 

「………お前らは自分達の村のためにダレイオスを利用しようってのか………。」

 

 

 

「そうだ。

 俺達はダレイオスを利用しようとはしているがダレイオス側には俺達の計画に乗るのにデメリットは無い筈だ。

 むしろ俺達の計画に乗ってダレイオスがバルツィエを撃ち倒せばダレイオス側にはメリットしかないだろう?」

 

 

 

「そうお前らの思惑通りにことが進むのか?

 仮にダレイオスがマテオに戦争で勝ったとしたらお前らの村はダレイオスの占領地ってことになるんじゃねぇか?

 ………ってかマテオが攻め込んでくるんだな………。

 こんな情勢下じゃお前らの計画なんて夢のまた夢物語だろ………。」

 

 

 

「お前の考えてることも懸念していない訳ではないが少なくとも今はバルツィエに世界を奪われることだけは避けなければならないんだ。

 俺達の村は上層部のバルツィエさえ叩いてしまえば問題はずっと遠くに延びる。」

 

「カタスの話ではバルツィエのような天敵を許さない存在が覇権を握ることこそが世界の終焉を早めてしまう恐れがあるとのことでしたからこちらのダレイオスのどこかの部族が勝ち上がるのならそれで世界は少しは安定化を図れるでしょう。」

 

 

 

「………?

 お前達は特にどこかの部族に肩入れしてる訳じゃないのか?」

 

 

 

「今のところこの話はスラートの人達にしかしてないよ。

 俺達がヴェノムの主を倒してまわる話もオサムロウさんとスラートの族長のファルバンさんしか乗り気じゃないみたいだし。」

 

「ぶっちゃけて言うとダレイオスに渡ってきたのも最近だしね。

 私達ダレイオスの九………、

 今残ってる八ある部族のどこのこともよく知らないんだ。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「俺達のことで疑問はまだあるか?

 無ければそろそろ知っている情報を欲しいんだが………。」

 

 

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラーケンは………南の海岸にいる。」

 

 

 

「………宛が外れたか………。」

 

「そのまま南に行けば遭遇してたんだね。」

 

「先程の村では特に情報も得られませんでしたから外れても仕方ありませんよ。」

 

「それよりも知っている人に出会えただけでも進歩です。

 ではそこへ向かいますか。」

 

 

 

「………おい。」

 

 

 

「………何だ? 」

 

 

 

「本当にクラーケンのところへ向かうのか?」

 

 

 

「そうだけど………。」

 

 

 

「本当にクラーケンを倒せるんだな!?」

 

 

 

「さっきからそう言ってるよね私達。」

 

「えぇ………。」

 

 

 

「確実に倒す手立てがあってのことなんだよな!?」

 

 

 

「ある………、

 と言っても実際に見てもらわんことには信用はしてもらえんだろうけどな。」

 

 

 

「………分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺もお前達に着いていく。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「………え?」」」」

 

 

 

「俺もお前達に着いていくって言ってるんだよ!

 お前達は信用ならんからな!」

 

 

 

「別にお前の信用を得ようともしてないしクラーケンの情報さえくれれば着いてこなくてもいいんだが………。」

 

 

 

「お前達がまだうちの仲間達を狙ってきたマテオの敵なのかハッキリしねぇ!

 俺をそそのかしてその気にさせてから俺の仲間達のところへと案内させようとしてるかも知れねぇ!

 疑わしき者達には目を光らせとかねぇとな!」

 

 

 

「そう思うんなら着いて来なければいいのに………。」

 

「疑いの目をかける人に着いてこられてもこっちは迷惑ですよ。」

 

 

 

「うるさい!

 ここらは俺達ミーア族の土地だ!

 この地での勝手はこの俺ミーアの戦士シーグスが許さねぇ!!」

 

 

 

「………あっ、

 シーグスって………、

 そういえばまだ名前聞いてなかったね。」

 

「クラーケンのことばかりで聞くのを忘れていました。」

 

「…それではシーグス、

 俺達はクラーケンを倒しに向かうがそれまでの道中道案内を頼もうか。」

 

 

 

「………それぐらいならしてやるよ。

 だがこれから向かうのはヴェノムが数多くいるような場所だ。

 不審な様子を見せやがったら俺は即お前らを置いて逃げるからな。」

 

 

 

「………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初から逃げてくれても構わんのだが………。」



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ダレイオスの一般的な視点

ミーア族の集落ヴァッサー 夜

 

 

 

「戻ってきただけで夜になってしまったな………。」

 

「夜に移動するのは危険ですね。

 日が上ってからまた明日南の海岸へ向かいましょう。」

 

「今日の収穫は主がいるところが分かっただけかぁ………。

 早く全部終わらせたいんだけどなぁ………。」

 

「まだ半年はありますからね。

 ミーア族の集落についてから一日で主の居所を掴めただけでも早いものですよ。」

 

「今日はこの集落で泊まらせてもらおうか。

 誰もいないから特に気にする必要も無さそうだしね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………元々の住人がそこにいるんだが………。」

 

「そうだったね。

 シーグスさん、

 今日はここに泊まらせてもらっていいですか?」

 

 

 

「…そんなこと言ったって俺にはお前らを追い出す力もねぇしお前らも最初からここで夜を明かすつもりだったんだろ?」

 

 

 

「まぁね、

 でも今日だけ使わせてもらうだけだからちょっとは我慢してね。」

 

 

 

「本当に勝手な奴等だな。

 ………………本当にクラーケンに会うつもりなのか?」

 

 

 

「まだ言ってる………。

 昼間もそう話したでしょうが。」

 

 

 

「信じられる訳ねぇだろ!

 今日あった奴が今まで誰も倒せなかった主を倒すっつったかと思ったらダレイオスを復興させるために全部族を再統合するっつってバルツィエをそっから倒すっつって……!!」

 

 

 

「つってつってうるさい!」

 

 

 

「………!!

 ………お前らマテオから来たんだよな?」

 

 

 

「その時点からまだ疑ってるのか………。」

 

 

 

「ヴェノムを葬る能力があるとか言ってたが………、

 それってマテオで作られたって言うワクチンとかそういうのが関係してんのか?」

 

 

 

「ワクチンとは………別口ですね………。」

 

 

 

「じゃあ………人体改造でもされたのか………?」

 

 

 

「それも違うね。

 ある意味じゃ似てるんだけど………。」

 

 

 

「似てる………?」

 

 

 

「おい、

 あまり詳しく説明してもこいつが信じるかどうか分からんぞ。」

 

「事情を説明して信じてもらえたとしても私達の成し遂げようとしていることを考えれば迂闊に殺生石の所在を教えるようなことは避けるべきです。」

 

「………そうだね。

 なら俺達がどこでこの能力を得たかだけは伏せとこうか。」

 

 

 

「…言えねぇことがあるのか?

 隠し事するようなら信用なんてしねぇぞ?」

 

 

 

「隠し事なら貴方にもあるじゃないですか。

 ミーア族の人達の居場所とか。」

 

 

 

「それは言えねぇって言ってるだろ。」

 

 

 

「では私達もこの能力がどこで手にできたかは言えません。

 どういう能力なのかぐらいはお教えできますけど。」

 

 

 

「………それでいい。

 話してみろ。」

 

 

 

「…俺達がどうしてこんな力を得たかと言うと………、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………さっぱり分からねぇ。

 何だそりゃ………?」

 

 

 

「ほら、

 やっぱり理解してもらえないじゃない。」

 

「マテオを回っても誰も分からなかったしね。

 こういう反応されるのも馴れたよ。」

 

 

 

「…体の体質が変化………?

 魔法生物………。

 お前ら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “精霊”にでもなったのか?」

 

 

 

「精霊?」

 

「!

 精霊………。」

 

「確かに………、

 精霊か………。」

 

「精霊ってあれでしょ?

 私達が魔術を使う際にマナを消費してるんじゃなくて実はその精霊とか言うのに渡して代わりに精霊が術を発動してくれてるって言うあの。」

 

「そうですね。

 ボク達は普段は視覚的に捉えることはできませんが魔術発動時に一時的にその存在と繋がって魔術を発動しているとされています。」

 

「精霊は基本六元素それぞれに対応していてウンディーネ、ヴォルト、シルフ、ノーム、イフリート、セルシウスの六精霊がいるとされていますね。」

 

「俺達はその精霊になったと言うことなのか………?」

 

「じゃあ………、

 私がウンディーネ……?」

 

「俺がヴォルト………。」

 

「私がシルフ………。」

 

「ボクが………ノームで、

 レイディーさんがセルシウス………。」

 

「………言われるまでそのことわ思い付きもしなかったが………妙にしっくり来るな………。」

 

 

 

 

 

 

「………だったら俺は………?」

 

 

 

「「「「………」」」」

 

「カオスに関しては………その全てに対応していて分からんな………。」

 

「精霊にはこの六体以外の話は聞きませんし………。」

 

「精霊自体が眉唾物だしね………。」

 

「精霊の話をし出した人もその全てを司る存在には辿りつかなかったのでは?」

 

 

 

「俺だけ分からないのか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺から言い出した話だが何の話だ?」

 

 

 

「こちらの話だ。

 聞いてなくてもいいぞ。」

 

「私達の方で状況整理が済みましたので。」

 

「ボク達は今“精霊”という状態なんですかね?」

 

「いつまでも殺生石のあの人とか言うのも語呂が悪いしね。

 殺生石のことはこれから精霊ということにしよっか。」

 

「殺生石が“精霊”か………。

 ミストの村はずっと精霊と一緒にいて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精霊に守られてきたんだな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーア族の集落ヴァッサー 翌日の朝 南

 

 

 

「…シーグス、

 クラーケンを最後に確認したのはどの辺りなんだ?」

 

 

 

「………ここから南の方の海岸のところに洞窟があるんだ。

 海岸の崖になっているところに行けばそこから見えるんだがその洞窟の奥に入っていったのを見たのが最後だ。」

 

 

 

「それはいつ頃の話なのですか?」

 

 

 

「…三ヶ月前のことだ。」

 

 

 

「………三ヶ月か。」

 

「それでは既に何処かへ移動している可能性があるな………。」

 

 

 

「それはねぇよ。」

 

 

 

「何故そう言えるのですか?」

 

 

 

「クラーケンが獲物を求めて東の………、

 昨日の海岸から上がってきて俺達がそれを誘導してきたんだ。

 命懸けでな。

 俺達は長年観察してきてヴェノムの動向には精通している。

 それで奴等はある一定までの距離の生物のマナは探知できるがその一定の距離の中に生物のマナを探知できなければその場で活動を停止する。」

 

 

 

「活動を停止………?」

 

「…つまり完全にその場から動かなくなり移動することもないと言うことだな?」

 

 

 

「あぁ、

 クラーケンを誘い込んだ洞窟には通常のモンスターが数多くいたがクラーケンを誘導しているうちにそいつらもクラーケンに襲われてヴェノムになっちまった。

 俺達は決死の思いでクラーケンとそいつらを引き連れて洞窟の地下深くまで連れていきそこから仲間の何人かが囮を買って出て洞窟の最奥までクラーケン達を誘導していった。

 あそこまで行きゃいくらクラーケンでもまわりの生物のマナを検知することなんてできねぇだろ。」

 

 

 

「その仲間の人達は………?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………そうか………。」

 

「…ごめんなさい………。」

 

 

 

「別に気にはしてねぇさ。

 俺も生き残った奴等もあいつらが死ぬ気で囮になったのを止めなかったんだからな。

 他の奴等を生き残らせるために必要な犠牲だった。

 

 

 

 ………その時が来たら俺だって………!!?」ジュゥゥゥゥ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥゥゥゥ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっそく出やがったか!?

 まだここら辺にもヴェノムが「魔神剣ッ!!」!?」ズバッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥ…………!!」シュゥゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここら辺、

 よく見たらヴェノムの痕跡だらけだったんだね。」

 

「始めにここの様子を見ておけばこちらの道に進んでいたのにな。」

 

「シーグスさんに情報をもらわなくてもクラーケンに行き着いていましたね。」

 

「一日無駄にしちゃったなぁ…。」

 

「まぁまぁ、

 とにかく進むべき道が決まったのですから進みましょうよ。」

 

 

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何なんだよ本当にこいつらは………。」



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主討伐いざ住みかへ

ネーベル平原 南

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣ッ!!」ザザッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥ……!?」シュゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドランス!!」ザシュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥ………」シュゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飛燕連天脚ッ!!」シュシュシュシュシュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガァア…………!?」ドサッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スプラッシュ!!」ザバァッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥ………!」シュゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瞬雷槍ッ!!」ザシュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガッ………」ドサッ!ゴロゴロゴロ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふぅ、

 一通り片付いたか「何でだよ!?」」

 

 

 

「何でそんなポンポンヴェノムやゾンビが倒すことができんだよ!?

 おかしいだろ!!?」

 

 

 

「おかしいって言われても………。」

 

「私達にはこれが普通でして………。」

 

「昨日から説明は何度もしてる筈だが?」

 

 

 

「わっかんねぇよ!?

 お前らどっかおかしいだろ!!?

 俺達の国ダレイオスがヴェノム一匹にどれだけ苦労を掛けて倒してると思ってんだ!?

 先ず遭遇したら接触しないように距離をとってから這い上がれないような場所に誘い込んで落とす!!

 そっから他の個体が出てくるようならそいつらも同じようにしてから落とす!

 マジックアイテムがあればそう難しいことじゃないが人口に対してマジックアイテムは十分な数なんて揃う訳がねぇ!!

 数人いたら高確率で誰かが感染してそのまま全滅も有りうる!!

 例えマジックアイテムがあってもだ!!

 それをお前らは……!!」

 

 

 

「…ヴェノムを倒しただけでこんなに文句を言われたのは初めてだよ。」

 

「この旅が始まってからヴェノムに関しては特に苦労を感じたことはありませんでしたね………。」

 

「ボクもカオスさん達と出会った頃は同じ思いでした。」

 

「俺はあの事件以来ヴェノムに対してそこまで脅威を感じたことは無いな………。」

 

「ミストでもヴェノムの感染力が無くなってただのスライム扱いだったからここまでヴェノムに怯えてる人は久し振りに見るね。」

 

 

 

「どうしてだよ!?

 ヴェノムっていやぁマテオでもダレイオスでも“終焉を運びし悪魔”として知られてる筈だろ!?

 それを何だよ!!

 そんなどこにでもいるモンスターのノリでブッ倒しやがって!!

 お前らと俺らで何が違うんだよ!!?」

 

 

 

「そろそろ私達の話に耳を傾けてはいかがですか?」

 

「アンタが私達を信じない限りアンタの謎は解決しないよ?」

 

 

 

「くぅ…!!

 だったらその力どこで手に入れたんだよ!?」

 

 

 

「だからそれは言えないんだって………。」

 

「言ったら私達の村に沢山人が押し寄せて来そうだもん。」

 

 

 

「………!!

 ………ミストだな!?

 ミストって村にその秘密があるんだな!!?」

 

 

 

「………ミシガン。」

 

「余計なことを言っちゃったね………。」

 

「けど今更私達の村に行ったところで意味なくない?」

 

「殺生石の………精霊はカオスさんの中にいますからね………。」

 

「能力を他の方にもお渡し出来れば私達の旅も捗るとは思いますが………。」

 

 

 

「!

 おっ、俺にもその力分けることが出来るのか!?」

 

 

 

「………どうだろ?」

 

「俺自身が分けようとして分け与えたんじゃないからなぁ………。」

 

「ボクの時みたいにヴェノムに襲われて死にかけた後カオスさんとアローネさんに治療してもらえればいいんじゃないですか?」

 

 

 

「………へ?」

 

 

 

「………そうだな。

 俺達がこの能力を授かった時は皆満身創痍で瀕死の状態だったからな………。

 同じ状態を再現すればお前にも俺達と同じ能力が備わるかもな。」

 

「じゃあさっそくヴェノムに触ってみよっか?」

 

 

 

「いや……えっと………。」

 

 

 

「どうした?

 お前もこの力が欲しいんだろう?」

 

「ヴェノムに触った瞬間は全身が酸で溶けていくような言葉通り死ぬレベルの激痛が伴いますけどまぁ何か特別な力を得ようと言うのならこのくらい乗り越えていかないと能力が身に付くようなことはありえませんね。」

 

「絶対に成功するとは言えないけど私達も出来れば多くの人にこの能力を分け与えることが出来れば助かるからそのためにもアンタで実験してあげるよ。」

 

 

 

「あっ、あの!

 ………冗談ですよね………?」

 

 

 

「昨日会ったばかりだと言うのにもう俺達は冗談を言い合う仲になったのか?」

 

「心配しなくてもいいですよ?

 ボク達はこの手順でこの能力を得られたんですから。」

 

「まぁカオスって魔術使うのはそんなに得意じゃないからアンタがヴェノムに触った後カオスが治療魔術を発動できるかは分かんないんだけどね。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「待ってろ、

 お前のためにヴェノムを探して連れてきてやる。」

 

「ボク達も実はそんなに自分達のことを知らないんですよ。

 いろいろと思い付いたことを検証している途中でして。」

 

「アンタなら………、

 別に失敗してもそんなに悲しくはならないからいいよね。」

 

 

 

「………ちょっ………。」ジリッ…

 

 

 

「ん?

 どうして後退りするんだ?

 これからクラーケンのところに行くんだぞ?」

 

「よく考えたらヴェノムを探しにいかなくてもこれから行くところには沢山いるんですよね。」

 

「ねぇ、

 何してんの?

 私達もそんなに暇じゃないんだからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっさと逝こ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!???」ダダダダダダダダダダダダッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三人とも………(汗)」

 

「脅かし過ぎですよ………(汗)」

 

 

 

「こうでも言わないとあいつの食い付きが収まらなかっただろうからな。」

 

「実際に検証するのも有りだとは思いますけどね。

 ハイリスク過ぎて誰かで試すことなんて出来ませんよ。」

 

「………え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は本気でやるんだと思ったんだけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「………人を実験台になんて出来る訳ないだろう。

 それをやって失敗したら俺達が悪者になる。」

 

「早くあの人を追い掛けて誤解を解かなくてはいけませんね………。」

 

「もう………、

 三人が驚かすからですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!!うわっ!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???」ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!



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カイクシュタイフ洞窟

カイクシュタイフ洞窟 入口

 

 

 

「ここのようだな。」

 

「シーグスさん、

 ここであってます?」

 

「………?

 シーグスさん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………あってるぞ。

 ここがクラーケンを追い詰めてあるカイクシュタイフ洞窟だ。」ボソッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あんなに離れちゃって………。」

 

「さっきのは冗談だと言っただろ。

 いい加減そんなに距離を取らずにこっちの方へ来たらどうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカ野郎!!

 さっきのあれでどうしてお前らの側にいけると思ってんだ!!

 益々お前らに対して不信感が募ってんだよこっちは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…すっかり怯えさせちゃったね。」

 

「私達は平気ですけど普通の方にヴェノムに触ってみろだなんて仰ればそれもそうなりますよね………。」

 

「ミシガンさんも本気で触らせようとしてたみたいですからね。」

 

「だって私達の他にもこの能力がある人が増えればそれだけ私達もどういう状態なのか調べやすくなると思わない?

 私達だけよりも同じ仲間が増えればぐっと分からないことが分かっていく気がしてさ。」

 

「確かにそれはいい方法だとは思うがこの能力については何もメリットばかりではない。

 デメリットも生じる。

 ヴェノムを恐れずに済む分今度は別のモンスターや人に対して脅威が発生するんだ。」

 

「モンスターと遭遇してそのモンスターが自分に不利な属性の魔術を行使してきたらそれだけで危険に晒されてしまいますからね。」

 

「ヴェノムの繁殖率は凄まじいがそれでも世界のモンスターとヴェノムの比率は七対三程だと聞く。

 一種のモンスターが全体の三割と言うのは脅威的なことだがそれでもヴェノム以外のモンスターが七割存在していると言うことは確かなんだ。

 今まで三割の方を恐れていたのが今度は七割のモンスターを恐れなければならなくなるならおいそれと人に広めていい能力ではないだろう。」

 

「でも不利な属性の魔術を使うモンスターと遭遇する確率なんてそう高い確率でもないでしょ?

 六分の一の確率なんだしその七割のモンスターの中の六分の一って大分低い確率になると思うんどけどなぁ………。」

 

「ミシガンさんの話はもっともですし別に普通のモンスターが脅威になるのだとしても倒せない訳ではないんですからこの能力が分け与えられるものなら分け与えておくことにこしたことはないと思いますよ?」

 

「それが確実に分け与えられることが出来るのであったらな。

 今のところこの能力がどう伝播できるのかは分かっていない。

 と言うよりも分からないことだらけだ。

 カオスの中の精霊が力を発揮した時だけしか俺達はこの能力を得られていない。」

 

 

 

「私は………、

 違いましたけど………。」

 

「……何?」

 

「私はカオスに会う前からこの能力がありましたよ。

 トリアナス砦での件でカオスから能力を増強していただきはしましたが。」

 

「それ本当なのアローネさん?」

 

「本当だよ?

 アローネは最初からこの能力を持ってたから。」

 

「ボクと一緒だったせいでお二人が勘違いしてしまっていたようですね。

 ボクはカオスさんに治療魔術を受けた影響でこの能力が身につきましたがアローネさんとカタスさん達ウルゴスの民は永い眠りの中で自然とマナが変化してこの体質へと変わっていったんでしょう。」

 

「アローネさん………、

 不思議な人だとは思ってたけど昔の人ってだけじゃなくてそんなことまで………。」

 

「昔の人………(汗)」

 

「………その話を聞くと俺達の能力は何も特別なものではなく人がいづれ辿り着く進化の果てのようなものなのではないだろうか?」

 

「進化の果て?」

 

「殺生石の精霊も言っていたことなんだが生物は皆いつか殺生石の精霊とその眷属に辿り着くと話していた。

 辿り着くとは………その地点に到達する。

 生物が皆あの精霊のような存在に進化する可能性を秘めているということだと俺は思う。」

 

「あんな隕石を降らすような存在にですか?」

 

「流石にあれに到達するのは無理だとは思うがな。

 あれが精霊だという仮定で話を進めれば奴が言っていた眷属とは………基本六元素を司る精霊、

 昨日の夜話していた俺達が精霊になった話を覚えているだろう?

 俺達はあの精霊に他の生物を先取りして進化したのではないか?」

 

「進化の先取りですか………。」

 

「生物は六元素のどれか一つは相性のいい属性がある。

 そのことを踏まえれば全生物は精霊のどれかに行く行くは進化していくと想像できるのだが………。」

 

「…では私は元から精霊へと進化して………?」

 

「俺の想像通りだったらの話だがな。」

 

「でも進化って何千年何万年もかけて少しずつ変わっていくことでしょ?

 もし精霊って存在が私達の進化の果てだって言うんなら私達って………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終的にはミストの殺生石みたいな石になっちゃうの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…生物が石に………?」

 

「ちょっと想像出来ないな………。

 どう生き物が進化したらあんな岩になるんだろ………。」

 

「石ですと………生物としての構造には程遠いですね………。」

 

 

 

「あの殺生石はただの器だろう。」

 

 

 

「器……?」

 

「入れ物ってことですか?」

 

「簡単に考えればいい話だ。

 世界で存在しているとされている精霊も元は不可視の存在だ。

 物理的な質量を持たない存在でマナそのものとされている。

 マナ………命、

 命は生物に宿ってはいるが生物の肉体を切り開いてもそれがどの部位に当たるのかは誰も知らないだろう?」

 

「心臓のことじゃないの?」

 

「それはあくまでも器官だ。

 それが無ければ動物は生命活動を維持できないが心臓が無い生物だって世界にはいる。

 植物だってそうだし海にいるスーパースターなんてのもそうだ。」

 

「あれって心臓無かったんだ………。」

 

「思い返してみれば斬りつけても血が吹き出るということもありませんでしたね。」

 

「生物には様々な形があるが全ての生物に共通してマナがある。

 マナこそが全ての源だ。

 源なんだったら最後にはそれさえ残ってればいい。

 ………精霊とは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 肉体を捨てて精神だけになった生物の進化の果てなのだろう。

 肉体を持たない精神体だからこそ殺生石のような石の中にも潜めるしそこからカオスの中にも移ることが出来た。

 目には見えないが存在だけはそこに在る。

 それが精霊なんだろうな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………さっきから何訳の分からん話をしてんだこいつら………。

 話に付いていけなさすぎてここにいるのが場違いな気がしてきたぜ。

 ………………洞窟の中は危険だしもうここで待ってようかな………。」



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精霊の捜し人

カイクシュタイフ洞窟 中枢

 

 

 

「………ウインドラさんの推測だと精霊は精神だけの存在でいろんな器に乗り移ることが出来るというのは分かりました。

 …では器を必要としない精神体の精霊は何故殺生石やカオスさんの中に入り込むんでしょうか?」

 

「話し相手がいなくて寂しかったからとかじゃない?」

 

「いづれ生命は進化を続けあの精霊へと辿り着き試練を課せられる………。

 あながち間違ってはいなかったりするんじゃないか?」

 

「そんな理由からなのでしょうか………?」

 

「他にどんな理由があると?」

 

「それは………私にも分かり「見付からないようにするため。」……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アイツが………器の中に入るのは身を隠すため………だと思う………。」

 

 

 

「身を隠すため………?」

 

「何のことだカオス、

 身を隠すためとは………。」

 

 

 

「セレンシーアインでアイツが言ってたんだ………。

 アイツのことを捜してる奴がいるって。

 アイツはそいつに見付からないようにこの能力は俺達だけにしか渡さないって………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!」」」

 

「殺生石の精霊を知っている方が他にいるのですか?」

 

「うん、

 そうらしいよ。

 あいつがその時そう言ってたから………。」

 

「その殺生石の精霊を捜している人は殺生石の精霊を捜しだして何をしようとしてるんでしょうか…? 」

 

「そこまでは聞けなかったよ………。」

 

「殺生石の精霊の力………。

 どうせあの巨大な魔術の力を利用してバルツィエがやろうとしているようなことでも企んでいるのではないか………?」

 

「あれだけの力があるならどんな国や人達でも大人しくなるだろうしね。」

 

「その人も殺生石の精霊の力で世界征服を………。

 この世界にはヴェノムを利用して世界征服を果たそうとしたりする人や殺生石の精霊の力で同じように世界征服をする人がいてろくでもない世界ですね………。」

 

 

 

「………でもそれですと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その方はどのようにしてあの殺生石の精霊を力のことを知ることが出来たのでしょうか?」

 

 

 

「?

 どのように………?」

 

「?」

 

「いえですから………、

 殺生石の精霊を捜しているということは殺生石の精霊がどのような力を持っているかを知る機会があったと言うことですよね…。

 知る機会があったというのであれば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの力を直接拝見したということ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「…!」」」」

 

 

 

「あの力を生身で拝見しなければあの力の存在すら知り得ずあの力を得ようとすら思えない筈です。

 あの力を欲しているのであればその方はあれを目の当たりにして生き残りはしたのでしょう………。

 ………ここで疑問なのですが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺生石の精霊を捜索しているその方は果たして今この世界でも御存命なのでしょうか………?」

 

 

 

「…アイツの口ぶりからすれば生きているとは思うけど………。」

 

「そいつが生きていなければ殺生石の精霊も口にはしないだろう。」

 

「………皆にお聞きしたいことがあります。」

 

「「「「………?」」」」

 

「皆の………年齢は………カオスかウインドラさんが四人の中では一番年上なのですよね?」

 

「…そうだと思うけど………。」

 

「急に年齢の話なんかふって何なんだ?」

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もっと上の方でないと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シーグスさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーグスさんはおいくつですか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくつだと!?

 年なんか聞いてどうすんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「答えていただけますか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………二百三十四歳だ!!

 これでいいのか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………二百………………。」

 

「どうしたのアローネ?

 シーグスさんの年を聞き出して………。

 殺生石のことと何か関係が………?」

 

「あの男、

 あんな腰抜けでよく二百年も生きてこられたな………。」

 

「逆にあの臆病さが長生きの秘訣なのかもしれませんよ。」

 

「モンスターと戦ったりするの不得意そうだしずっと逃げてきたんじゃないの?」

 

「………シーグスさんにお聞きしたいことがあります!!

 

 

 

 シーグスさんはこれまでダレイオスで何か大きな災害があった話を聞いたことがありますか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大きな災害の話!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲダイアンのことか!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲダイアンではなく他のことでです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「他でぇ!!?

 ………………無い!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーグスさんが生まれる前の話とかでも聞いたことありませんでしたか!!?

 デリス=カーラーンが滅びるような隕石でも降ってきたような話を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デリス=カーラーンが滅びるような隕石ィッ!!!?

 …………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 んなもんねぇよォッ!!!

 俺の曾曾曾祖父さんの代でもそんな話は聞いたことは無かった筈だ!!

 そもそも隕石なんてここ数億年降ったことなんて一度も無いって話だぞ!!

 何でそんなことを聞くんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ!!

 お気になさらず!!」

 

 

 

「……一体あの質問で何を確かめたかったんだ………?」

 

「あんな流星群がほいほい落ちてきてたらそれこそデリス=カーラーンなんてとっくの昔に滅びてるでしょ………。」

 

「…そうですね。

 私もそう思います………。

 あの力が地上に降りかかれば人類の歴史………、

 人類に限らずあらゆる生命の歴史が終わります………。」

 

「アローネさんは何か思い付いたんですか?」

 

「………殺生石の精霊を捜索しているのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アインスの………古き民の者ではないかと思うのです………。」

 

 

 

「古き民って………アローネの時代の人が………殺生石の精霊を………?」

 

「トリアナス砦での時は海道を粉微塵に砕き被災した跡は残りませんでしたが殺生石の精霊を知る者なのでしたらあの力が発動したのを見ている筈………、

 ですがシーグスさんの話や………、

 タレス、

 地図を見せてもらえますか?」

 

「?

 どうぞ。」ピラッ

 

「………やはり………。」

 

「この地図で何か分かるの?」

 

「…この地図を見れば私達が今まで通ってきた通り世界の地形を表しているのだと思います。

 ………この地図通りですとどこにも流星群が降り注いだような場所はありませんよね?」

 

「………そうだな。

 あれほどの破壊を生めばどこかしら地形が不自然な形状をしてるだろうが………。」

 

「察するに精霊を捜索している方は過去に精霊の力を一度目撃し精霊を求めて今なおも捜索中………、

 しかし今のこのデリス=カーラーンには精霊の力が行使されたような跡は見られない………。

 ………これはそれだけあの流星群が降り注いでから時間が経過しているということ。

 そしてそれだけの時間を越えられると言うことは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アインスの古き民のような生命の寿命を遥かに越える時間を渡る術を持つ者のみ………。」

 

 

 

「!

 アブソリュートの棺のことですか…!」

 

「確証はありませんがそれしか思い至りません………。

 アインスの民のどなたかが殺生石の精霊を捜索しているとしか………。」

 

「でもアローネ、

 それだとアインスの時代に流星群が降ったことになるけど………。」

 

「アローネ=リムは流星群を見たことは無かったのではなかったか?」

 

「………私にも当時の記憶が途切れていて分からないのです………。

 私の推測が正しければ殺生石の精霊はアインスの時代には既に存在していてそれからどうなったかは………、

 ………ですがアインスの時代に流星群が降らされたと言うのは確かだと思います。」

 

「記憶が無いのにどうしてそう思うのアローネさん?」

 

「………私がアインスの地形を知っているからこの地図を見てずっと不思議に思っていたことがあるのですが………、

 このデリス=カーラーンはアインスと比べて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大陸の形や面積から何から何まで全くの別物ですしそれに………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………世界の半分がこんなに小さな筈がありませんから………。」



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クラーケン出現?

カイクシュタイフ洞窟 中枢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいっ!

 いつまで無駄話してんだ!

 そんなお前たち以外に理解できない話する前にとっとと先に進みやがれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余裕こいてくっちゃべてるようだがここにはヴェノムやそのボスのクラーケンがいるんだぞ!

 人の年とか気にする前にクラーケンにどう立ち向かうのか作戦でも立てたらどうだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…シーグスさんの言う通りだね。

 先ずはここにいるクラーケンをどうにかしないと………。」

 

「作戦か………。

 触手に絡めとられないようにするくらいしか気を付けることは無いが………。」

 

「触手が八本あるんならここにいる六人だけじゃ一本一本相手してても足りないよね。」

 

「………六人?」

 

「ミシガン………、

 シーグスさんは数に数えない方がいいんじゃない………。」

 

「あの人はヴェノムに掠りでもするだけで即アウトですよ?」

 

「けどここまで付いてきたんならちょっとでもクラーケンの気を引き付けておいてもらうだけでも戦いやすくなるでしょ?

 戦闘には参加しなくてもいいから私達が攻撃している時にそこら辺を走り回っててくれたら楽になると思わない?」

 

「逆に足手まといにしかならんだろう………。

 あいつを庇いながら戦うのは苦戦を強いられそうだ。」

 

「そうかな…?

 でもここまで勝手に付いてきたんだからそれくらいしてもらわないと足だけ引っ張られてたんじゃ私達が危険な目にあうだけ損するだけじゃない。」

 

「ミシガンの当たりが強いな………。」

 

「レイディーを彷彿とさせますね。」

 

「あの人の悪影響を受けすぎだろ………。」

 

「レイディーさんは最初から悪態つくような人だったから馴れれば気にならなくなっていきましたがミシガンさんのような人が急にレイディーさんみたいな感じになったら異様に映りますね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイクシュタイフ洞窟 最深部

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここなのか?

 シーグス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変だな………。

 ここに追い詰めた筈なんだが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「通り道にはヴェノムはいましたからこの洞窟の中に何かがいるのは間違いない筈ですけど………。」

 

「どうなってるの?

 ここに来ればクラーケンがいるんでしょ?」

 

「時間が経ちすぎてどこかに移動したのかな?」

 

「それではまたクラーケンを探すところからやり直しなんですね………。」

 

「もう!

 ここまで来て何も進まずにまた逆戻りなの!?」

 

「喚いてもクラーケンは出てこんな…。

 一度引き返すか。」

 

「その方が宜しいですね。」

 

「シーグスさん!

 クラーケンいないみたいなんで一回外に戻りますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?

 もう戻るのか?

 ………まぁクラーケンはいないようだしな。

 こんな危ないところとっとと出た方が………。」ズリズリズリ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?

 何だよ俺の顔見て………。

 なんか付いて「危ない!!」え?」シュルシュルシュル!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュゥゥゥゥゥゥ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オアッ!?

 なっ、何だ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは…!?

 蛇!?」

 

「シーグスさんが大きな蛇に!!」

 

「どこから現れたんだ!?」

 

「見て!

 あの蛇地面の中から出てきてる!」

 

「ここにいるのでしたらあれもヴェノムに……!

 ……しかしこれまでのモンスターは皆スライム形態でしたが……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ばっ、バカがッ!!?

 こいつが…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラーケンだよッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

 

「この蛇が………クラーケン!?」

 

「!

 よく見ればあの巻き付いている先に頭らしき部分がありません!」

 

「この長いのってもしかして触手!?」

 

「(…あれだけの太さと長さの触手だと全長は………、

 どれぐらいになるんだ!?)」ボコッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボコボコボコボコボコボコボコッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 次々に触手が…!?」

 

「全部で………八本!

 どうやら本当にクラーケンのようだな………。

 だが……。」

 

「本体はまだ地面の中から出てこないな………。」

 

「うげぇ……、

 くねくねしててなんか気持ち悪い………。」

 

「ただ地面の中から出てきたのでは無さそうですね。

 予定通り………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラーケンに見つかってしまったようです。

 戦闘開始ですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ”あ”ッ………!!?」ギュゥゥゥゥゥゥ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………こうしちゃいられないな。

 とにかくシーグスさんを助けだそう!」

 

「所詮は海にいる魔物だ。

 地上での動きは鈍いだろう。

 捕まりさえしなければいくらでも対処できる。」

 

「捕まったらあんな風に締め上げられちゃうんだね。

 戦う前にどんな攻撃が来るのか分かってよかったよ。」

 

「シーグスさんには悪いですが先制攻撃を受けなくて助かりました。」

 

「それではそろそろシーグスさんをお助けして差し上げなければなりませんね。

 あの触手から解放するには………。」

 

「俺とウインドラとタレスで前に出て触手を斬り落とす。

 それしか無さそうだね。」

 

「本体が出てくる前に触手を八本とも全部斬り捨てるぞ!」

 

「これだけの大きさですとどこまで伸びるのでしょうか………?」

 

「頭が出てきたらどのくらいか分かるんじゃないの?」

 

「さぁな………、

 下手したらこの空間よりも大きいかもしれん。

 だから頭が出てくるよりも先に……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この触手を無力化してしまおう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!………はっ、早く………助けてくれ………。」ギュゥゥゥゥゥゥ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣ッ!!」「孤月閃ッ!!」「瞬迅槍ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ!ザンッ!!ザシュッ!!ボトッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ!

 先ずは一本…………!?」グワンッ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!…………、

 斬り落とした触手で攻撃してきた!?」

 

「まだまだ触手の長さに余裕があるようだな。

 これは全て斬り落とすまでに時間がかかるぞ!」

 

「ですが時間をかけてはシーグスさんが……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あ”あ”あ”……!」ギュゥゥゥゥゥゥ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの状態が長引けば………。」

 

「長引いただけ命を落とす可能性が高まる………。

 なんとかしてあいつが捕まってる触手を斬り落とせれば………!」

 

「どうする!?

 魔術で一気に集中攻撃をかければ「駄目です!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地上ならともかくこのような地下深くでの魔術は洞窟の崩落を誘発します。

 助け出すには洞窟にダメージを与えない程度の攻撃でないと私達はおろかシーグスさんもろとも生き埋めになってしまいます!」

 

「!!

 そういえばネイサムでも………。」

 

「そうなの!?

 それを早く言ってよ!!」

 

「………騎士学校でも習っていたことだと言うのにそのことを失念していた………。」

 

「………………これは思っていたより倒すのが………

 ………いや………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦うだけでも難しい相手だな………。」



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長引く戦闘

カイクシュタイフ洞窟 最深部

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でやァァァッッ!!!」ズバッ!!ボトッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュル!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァァァッ!!」ブンブンブンブンッシュッ!!ザスッ!!ボトッ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュル!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ!!」ザクッ!!ボトッ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュル!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドランスッ!!」シュンッ!!ザスッ!!ボトッ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュル!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スプラッシュ!!」ザバァッ!!ボトッ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュル………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どれだけこの触手は長いんだ………。」

 

「沢山斬り落としたのにまだまだ地面の中から付け根までの触手が出てくる………。」

 

「この斬り落とした触手だけでも繋げ合わせたら一キロメートルくらいはありますよ………。」

 

「これもしかして触手が再生してるんじゃないの………?」

 

「…触手の切り口を見る限り再生はしてはいないようですが………、

 それでもこの触手の長さは長すぎます!」

 

「これじゃあ埒が明かないな………。

 何かこの状況を突破する手立ては無いのか………。」

 

「ここで打てそうな手なんて………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 !

 触手が一本足りない………。」

 

 

 

「何だって…!?」

 

「本当だ!

 触手がシーグスって人捕まえてる触手合わせても七本しか無いよ!」

 

「これだけの数斬り落としせば一本ぐらいは先に全部斬り落とし終わったということか………。」

 

「この調子で後六本斬っていけばあの人も助けられそうだよ!

 急いで残りを「駄目だこれ以上シーグスを放置していればシーグスが絶命してしまう。全部斬り落としていたんじゃ間に合わない。」じゃあどうするの!」

 

 

 

「……少し強引な手だが絞め殺されるよりかは助け出せる可能性はある。」

 

「何するつもり!?」

 

「触手は七本あるがどれも元々は一つの体だ。

 七本とも繋がっているなら全部同時に攻撃が出来る!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬雷槍ッ!!」バリバリバリッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「……!?」」」」」」ブルブルブルッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア”ア”ア”ア”………!!??」バリバリバリッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ!!

 シーグスさんまで感電してるぞ!?」

 

「これが狙いなんだ!

 こうすれば………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」パッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふがっ………。」ドサッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「触手が離れた!?」

 

「海の魔物なら電撃は苦手だろう。

 今の内にシーグスを回収するんだ!!」

 

「!

 分かった!」シュンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!」パシッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからどうしますか!?」

 

「触手は残り七本なんだしこのままごり押しで………!?」ボコッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュル……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でまた八本目か………!?」

 

「一本は全部斬り落としたんじゃないの!?」

 

「どうもおかしい………。

 これだけの触手が斬られながらまだ先が見えないなど………。」

 

「長期戦は必至でしょうね………。」

 

「ミシガン!

 シーグスさんを頼む!

 締め上げられて気を失ってるみたいなんだ!」

 

「分かった任せて!」

 

「…これで何も気にしないで戦えるね。

 後どくらい斬り落とせばいいのか分からないけど限界は必ずあるよね。

 だったら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 限界まで付き合ってあげるだけだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」ハァハァ……

 

「何なんだこの触手の異常な長さは……!?

 一体いつになったら斬り終えるんだ!?」

 

「頭部が以前として出てこないおかげで触手からの攻撃はかわしやすいですがいつまでも相手はしてられませんよ!」

 

「触手の終わりはある筈なのですが触手が全て斬り終わる前に………。」

 

「こっちがやられそうだな………。」

 

 

 

「また雷撃でダメージを与えるか………。」

 

「ウインドラさんの雷撃は頭部に直接お見舞いした方がいいですよ!

 地面の中にいる相手には電撃は大した効果が出ません!」

 

「なら頭部を早いところ地の中から引っ張り出さなければ………。」

 

「敵が地の中にいるのでしたら火か氷で温度を変化させれば温度変化に驚いて出てくるかもしれません!」

 

「…!

 だったら俺がやるしか……!」

 

「待て!

 お前は魔術はまだ加減が出来ないだろう!?」

 

「大丈夫だ。

 魔技ならなんとか撃てそうだから「ねぇ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーグスさんの様子が変だよ!?」

 

 

 

「「「!! 」」」

 

「どうなさったのですか!?」

 

「さっきから変な呻き声あげてるし、

 それに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巻き付かれてた箇所が………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ”………っ………!」ビクッ………ビクビクッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュゥゥゥゥゥ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「焼け爛れてる………?

 これは………。」

 

 

 

「ヴェノムに侵されてる………!」

 

「何ですって!?」

 

「シーグスさんが感染したんですか!?」

 

「…相手はヴェノムの主だ。

 ヴェノムは触れただけで他の生物を感染させる……。

 あの触手にもウィルスが付属しているんだろう………。」

 

「そんな………!」

 

「どうしたらいいの!?」

 

 

 

 

「………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一旦体勢を立て直すぞ!

 全員この場から離脱するぞ!」

 

「ここまで追い詰めたのにですか!?」

 

「これだけ斬ってまだ触手が出てくるんだ。

 クラーケンを追い詰めてることが出来ているのかハッキリしない。

 もっと情報を集めてから挑むべきだった………。

 そうでなければ負傷者など出なかった………。

 ヴェノムの主がここまで手こずる相手だったとは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もっと情報を集めるべきだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった一匹主を倒した程度で俺達は自分達の力を見誤っていたのか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイクシュタイフ洞窟 中枢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………触手は?」

 

 

 

「…追ってきてはいませんね………。

 しかし………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ぅぅ………っぃ………。」ブルブル…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーグスさんが瀕死の重傷です。

 ヴェノムにも感染して体力を削られているようでしてこのままでは死んでしまいます。」

 

「この辺りは安全のようだな。

 ……もう数は大分少ないが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワクチンを投与するしかないな。」

 

 

 

「だけどレイディーはなるべく使うなって………。」

 

「言い付けを守っている場合ではないぞ。

 放っておいたらこの男は死ぬ。

 ………俺達が案内させたせいでな。」

 

「………ではワクチンを。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っ………。」ゴクンッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これで一安心だな。

 シーグスが死ぬことは無くなったが………。」

 

「クラーケン………、

 この洞窟の中では本体の頭部が出てこない限り退治するのが難しいですね……。」

 

「あの触手………、

 無限に伸びてきたな………。」

 

「いくらなんでも無限に触手が伸びてくることは無いと思います。

 相手はヴェノムとはいえ質量には限界がある筈ですから………。」

 

「でも何度触手を斬ってもまた地面に潜ってから次出てきた時には触手が元に戻ってたよ?

 やっぱり再生しているとしか思えないよ………。」

 

「………あの触手が再生する謎を突き止める必要がありますね。

 あの触手を攻略しないことには………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつまでも同じことの繰り返しですから………。」



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出てこない本体

カイクシュタイフ洞窟 中枢

 

 

 

「…どうするの?

 相手が地面の中から出てこないと勝負は着かないよ?」

 

「とにかくシーグスだけでもここから脱出させよう。

 俺達と一緒にいてはまた奴の触手に捕まってしまう。」

 

「それではもと来た道を引き返すのですね。」

 

「そうするしかなさそうですね。

 カオスさん、

 シーグスさんを任せてもいいですか?

 脱出するまでヴェノムはボク達で退けます。」

 

「あぁ、

 多分俺が一番シーグスさんを抱えてても負担にならないから皆で入り口まで戻ろうか。」

 

「よし、

 やることは決まったな。

 俺が先導して………!?」ボコッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グワンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「触手がまた…!?」

 

「ここまで追ってきたか………。

 奴め、

 俺達を逃がしてはくれないらしい。」

 

「どうして触手だけでここが分かったの!?」

 

「シーグスさんがヴェノムは生物のマナを広範囲にわたって感知出来ると仰っていました。

 この洞窟の中にいる限り私達はクラーケンに感知され続けるのでしょう。」

 

「ここに入った時からクラーケンにはボク達が来たことは分かっていたんですね。」

 

「…のんびりとしてられないなこれは………。

 早くこの洞窟を出ないと触手に捕まってしまう………。」

 

「次の触手が来る前に行こう!

 ここにいても安全にはならないんだ!

 シーグスさんさえ脱出させれば後はあいつを倒すだけなんだから!」

 

「………倒すことが出来ればいいがな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瞬迅槍ッ!!」ザシュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボトッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この先が出口だ!

 走れカオス!!」

 

「あぁ!」ダッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボコッ!シュルシュルシュル………パシッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 しまった…!?」

 

 

 

「そうは………させません!!」ザスッ!!ボトッ……

 

 

 

「有り難うタレス!」

 

「いえ、

 それよりもシーグスさんは……!?」シュゥゥゥゥゥ…

 

「また触手に触れてしまったようですね。」

 

「またなの!?」

 

「急いでワクチンを投与しましょう。」「待て。」

 

「……ワクチンの錠剤はあといくつある?」

 

「………後二つで最後です。」

 

「二つ………か。

 もうそこまで減っていたんだな………。」

 

「どうしたの!?

 早く飲ませないと!」

 

「………少し待ってくれ。」

 

「こんな時に何言ってるんだよ!

 早く治さないとシーグスさんが死んじゃうぞ!?」

 

「………………俺達はどうしてもこのワクチンを残しておく必要がある。

 これが無ければダレイオスの連中に拡散する術が失われてしまうからな………。」

 

「そうですけど………、

 ワクチンは残り二つですよ?

 今ここで一つ使用しても残りがまだ「二つあるならもしもの時用にとっておくべきだ。」」

 

「ワクチンの量産にサンプルが一つだけで足りる訳がない。

 全くワクチンの情報が無い者達にこれを渡すんだ。

 技術的にもマテオに劣る者にワクチンを渡すのならもしもの場合に備えて二つは確保しておきたい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………じゃあシーグスさんはどうするの………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まさかこのまま見捨てるとか言い出さないよな?」

 

「………」

 

「………え?

 ………ウインドラ………?」

 

「………」

 

「シーグスさんは自ら付いてきたとはいえ私達が巻き込んだのです。

 見捨てるなど出来ませんよ。」

 

「………」

 

「…何か他に方法があるんですか?

 シーグスさんを助けられる方法が。」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなんだウインドラ!

 見殺しにするとか言い出すんじゃ「方法なら一つ心当たりがある!」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………方法があるのか?」

 

「ワクチンを使用せずに彼を救う方法が………?」

 

「…ヴェノムに接触した場所を斬り落とすとかですか?」

 

「え!?

 そんなグロテスクなことするの!?」

 

「誰もそんなことは言ってないだろ………。

 ……一般には命が助かるならその方法でも実行する奴はいるがな………。」

 

「…その方法ではないのですね………。

 ではどのような方法でシーグスさんを………?」

 

「この方法はどちらかと言うとお前達の方が詳しいだろう?」

 

「………それって……!?」

 

 

 

「カオス………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前がシーグスを救うんだ。

 お前が………、

 タレス君を救った時のように治療魔術でシーグスの中のヴェノムウィルスを浄化するんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺が………?」

 

「確かにタレスの時にもカオスのおかげでタレスを救えました。

 今度も同じように…!」

 

「そうだよ!

 私達の能力だってもとはカオスと精霊の力だもん!

 カオスの力ならシーグスさんも助けられるよ!」

 

「カオス頼めるか?

 俺達にはマナを込めた攻撃でヴェノムを祓う力がある。

 それならマナを込めたファーストエイドでシーグスを回復しつつヴェノムも取り払えると思うんだが………。」

 

「この中ではカオスが最も高い魔力を保有しています。

 カオスの術ならシーグスさんを回復するだけではなく抗体も作り出せる筈です。」

 

「でもボク達の能力は殺生石の精霊によればもう他の人には譲渡できないと言われたのでは………?」

 

「俺達が殺生石の精霊に与えられた力は二つ。

 一つはヴェノムが効かない力、もう一つがヴェノムを倒す力。

 精霊が語りかけてきた時に言っていた鍵はその後者のことだろう。

 ………ミストの村ですら感染に抵抗のついた者達ばかりだ。

 それくらいの力だったら世界に蔓延るヴェノムを浄化する力にはならない。

 奴の言う鍵には足り得ない程度の力の筈だ。」

 

「………」

 

「お願いしますカオス。

 シーグスさんをタレスを救ったときのように救ってあげてください。」

 

「もうカオスしか助けられる人はいないんだよ。

 さっき私も一応ファーストエイドはかけたんだけどウィルスを除去することは出来なかったの。」

 

「………………ッ…!」

 

「…急いでウィルスを無力化しないとシーグスさんが手遅れになってしまいますよ。」

 

「やれるだけやってみてくれ。

 ワクチンをここで二つとも失ってしまえばダレイオス復興に大きく時間の遅れが生じてしまう。

 主を倒しきったとしても直ぐにダレイオスからヴェノムが無くなるわけではないんだ。

 バルツィエ達が攻めてこない内にダレイオスを復興させるにはワクチンも主退治も部族の再統合も何一つ時間をかけすぎてはいけない。

 今ダレイオスとシーグスの両方を救うには………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前の力が必要なんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………分かった。

 やってみるよ。

 俺なんかの力で誰かが救えるなら救って見せる………。」

 

 

 

「カオス……!」

 

「ファーストエイドのやり方は知っているよな?

 トリアナスで俺達に使った時はの記憶が無いようだが………。」

 

「カオスならちゃんと出来ますよ。

 私と一緒にタレスを治療したのですから。」

 

「大丈夫だよ。

 呪文の詠唱なら昔からいつ出来るようになってもいいように復習してきたから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それじゃあ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ぅ………くっ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………『癒しの加護を我らに………』」パァァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾワッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!!」パァァ…

 

 

 

「カオス?

 どうなさったのですか………?」

 

「ファーストエイドをシーグスにかけるんだぞ?

 この距離で動かない相手に外すんじゃない………。」

 

「ここでもノーコン発動なの………?」

 

「流石にこんなに近い相手に術を外すことは無いでしょう。

 カオスさんが自分で反らしたんですよ。」

 

「だから何故反らすんだ………?

 シーグスを治療しなければならないんだぞ。」

 

「カオス………?」

 

 

 

「………出来ない………。」

 

 

 

「「「「………?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺には………シーグスさんを治すことなんて出来ないよ………………。」



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タレスの異変

カイクシュタイフ洞窟 中枢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………治療魔術ファーストエイド…………、

 

 

 

今まで他人の見よう見まねでタレスを治す時にアローネと一緒に使った一回きりしか使ったこと無いけど今の俺なら………。

 

 

 

………大丈夫だ、

 

 

 

今の俺なら使える………。

 

 

 

ダレイオスに来て皆に甘えているだけじゃ誰も守れないって分かったんだ。

 

 

 

俺が素直に魔術を使っておけばトラビスさん達は………。

 

 

 

………だったら俺は今度こそ魔術を使う。

 

 

 

使いこなして皆を守る。

 

 

 

そしてウインドラ達だけじゃない、ウインドラやタレス達の大切な人達を守るんだ。

 

 

 

俺がこの力を使いこなせばもう誰も死なせたりは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………またワシが屠らねばならぬのか………』パァァァァ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」パァァ

 

 

 

「カオス?

 どうなさったのですか………?」

 

「ファーストエイドをシーグスにかけるんだぞ?

 この距離で動かない相手に外すんじゃない………。」

 

「ここでもノーコン発動なの………?」

 

「流石にこんなに近い相手に術を外すことは無いでしょう。

 カオスさんが自分で反らしたんですよ。」

 

「だから何故反らすんだ………?

 シーグスを治療しなければならないんだぞ。」

 

「カオス………?」

 

 

 

「………出来ない………。」

 

 

 

「「「「………?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺には………シーグスさんを治すことなんて出来ないよ………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス?

 どうしたんだ?」

 

「何か問題が発生したんですか?」

 

「早くしないとシーグスさんが……!?」ジュゥゥゥ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥゥゥ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェノム……!

 このヴェノムは私達に任せてカオスはシーグスさんを!」「ファーストエイド!!」パァァ、ドゴォォォォォォッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥゥゥ………」シュゥゥゥゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

 

「………やっぱりだ………。

 俺にはシーグスさんを治せない………。」

 

 

 

「ファーストエイドでヴェノムを………浄化した………?」

 

「治療魔術で攻撃したの………?」

 

「そんなことってあるの……!?」

 

「こんなものを喰らったらシーグスさんがヴェノムと一緒に消されてしまいますよ………。」

 

 

 

「…俺の魔力が溢れだしそうなくらい大きくなっていってる………。

 大きくなってる分コントロールがどんどん難しくなっていってる。

 攻撃するだけならマナを放つだけでいいけどこの力で治療するなんてそんな複雑なこと俺には出来ないよ………。

 俺は今までこの力を…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破壊以外に使ったことが無かったから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でっ、でもタレス君はその力で治せたんだよね!?

 どうして今回は駄目なの!?」

 

「…マナが膨大過ぎるからか………。」

 

「マナが膨大過ぎるから………?」

 

「カオスが使用しているマナは本来殺生石の力から来るものだ。

 カオス生来の物じゃない。

 他者が発するマナは元々本人以外には使いこなすことなんて出来ないんだ。」

 

「それってどういうこと………?」

 

「トリアナスで殺生石の精霊が目覚めるまでの間はマナが微細なものだったから制御することも出来たんだだろう。

 しかしトリアナスで殺生石が目覚めたせいでカオスの中のマナは異常なまでに膨れ上がっている。

 それこそ人の器に収まりきらない程にな。

 そんな今にも溢れだしそうな状態のマナを自分の意思で自分の使いたいだけ使うように制御することなんて出来ないんだろう。」

 

「(人の器に収まりきらない………?)

 ですがそれですと今のカオスは………!?」

 

「器いっぱいにマナが溜まっているんだ。

 下手にマナを解放すれば意図しない勢いでマナが飛び出すだろう。

 例えば今みたいに治療魔術を使ったつもりがそれ以外の暴発を誘発するような………。」

 

「……!!」

 

「じゃあどうやってシーグスさんを助ければいいの!?

 ワクチンを使うしか手が無いじゃない!!」

 

「…使うしか無いのだろうな………。」

 

「でもそれはウインドラさんが今言ったばかりじゃないですか。

 ワクチンを量産するためにサンプルは多いに越したことはないと。」

 

「最終手段を取らざるを得ない状況に陥ったんだ。

 使う以外にはどうしようもないだろう。」

 

「………使わずにすむ方法がありますよ………。」

 

 

 

「!」

 

「本当!?」

 

「どうするのですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーグスさんを見捨てれば使わずに済みます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何を言ってるんだよタレス………。」

 

「どうしてそうなるのですか………!?

 シーグスさんを見捨てるなんた出来る訳が「どうせいつかは皆死ぬ運命にあったんです。」…!」

 

 

 

「このままボク達が何もしなければこの人もどこか別の場所別の死に方があった筈です。

 ダレイオスは今ですらボク達がヴェノムやマテオに殺られないように動いてはいますがそれが無かったらただ殲滅されるのを待つのみの人達ばかりです。

 ………それだったらここでこの人を見捨てたとしてもボク達には何の責任もありませんよ。

 

 

 

 この人はただボク達に勝手に付いてきて勝手にドジを踏んだだけなんですから。」ガッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供だからって言っていいことと悪いことがあることも知らないのか………!?」

 

 

 

「………落ち着いて下さいよ。

 ボクは冷静に今後のことを考えたらここでこの人を見捨てた方が得策だと言ってるんです。

 ボク達にはワクチンを消費する余裕なんて無い。

 現実化出来るか分からない賭けの最中に余分な消費は避けなければならないんですよ。

 そのワクチンが大量にあるのなら余ってる分をそこら辺に誰かに分け与えたりすることもいいとは思いますがこの人を今ここで助けたところでワクチンを欲する人は他にも沢山出てきますよ?

 目の前で一々感染した人を救っていたらワクチンなんていくつあっても足りなくなりますよ?」

 

 

 

「…!!」

 

「……タレス君って………冷たい子なんだね………。」

 

 

 

「なんと言われようと構いませんよ。

 ボクは大局を見て言ってるんですから。

 ………それよりもいいんですか?

 ここでワクチンを使ってしまってワクチンが量産することが出来ないとなればダレイオスが再興するのに時間がかかってしまってその間にバルツィエが攻めてきてマテオが勝ちでもしたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラさん達が守りたかったミストも占領されてしまうかもしれないんですよ………?」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「大多数のために少数を切り捨てることなんてよくある話ですよ。

 このダレイオスだって一枚岩ではないんです。

 ………数年前のバルツィエ奇襲でダレイオスはやり返しもせずに泣き寝入りしてアイネフーレを無駄に犠牲にしたんですから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………たまたま都合よく助かるなんて許せない………。」



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アローネの新秘術

カイクシュタイフ洞窟 中枢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぐぅ………ぅぅぅっ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 シーグスさん!」

 

「気が付かれたのですね!」

 

 

 

「……ハァ………、

 何だこりゃ………、

 体が思うように動かねぇ………。

 ………俺は………感染しちまったんだな………。

 …これがヴェノムが身体中を這い回る感覚なのか………。

 これが………。」

 

 

 

「無理に喋ろうとしないで!

 今すぐ治療をしますから!」

 

 

 

「治療たって………、

 そこのそいつを当てにしてたんだろ………。

 そいつが無理ってんなら………

 もう俺の命は助からねぇんだろうよ………。」

 

 

 

 

「意識があったんですか………?」

 

 

 

「横であんな爆発が起これば目が覚めるってもんだろ………。

 ………ぐう、

 暑いな………。

 ここは日差しも届かねぇから涼しいもんなんだがな………。」

 

 

 

「いかんな………、

 感覚器官が狂いだしている。

 このまま放置し続ければ後遺症が残るぞ………。」

 

「早くワクチンを!」

 

 

 

「…使ってくれるのか……?

 昨日今日あった俺なんかのためにその大事なワクチンってやつを………。

 後残りが二つしか無いんだろ………?」

 

 

 

「目の前に急患がいるんだ。

 使うのは当たり前だ。」

 

「………」

 

「タレス、

 アンタが何でこの人を本気で見捨てようとしてたか知らないけどワクチンを持ってきたのは私とウインドラ達なんだよ。

 これを使うと決めるのは私達だから。」

 

「………お好きにどうぞ。

 それでミストを救う道が遠退いてもいいのなら。」

 

「…アンタは何でそんなひねくれてるの………。」

 

「…では使いますね。

 シーグスさん、

 これを………。」

 

 

 

「…錠剤か………、

 こんなんで本当にヴェノムを………。」

 

 

 

「一応これがマテオで使われている薬ですから。」

 

 

 

「………」ゴクンッ………

 

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 

「………どうですか………?」

 

 

 

「…………………そんなすぐに効くもんなのか………?

 これ飲んでそうすぐ効果が出るとは…………!」

 

 

 

「!

 効きましたか………!?」

 

 

 

「……………あっ、あぁ、

 ………すげぇなこりゃ………。

 みるみるうちに体の中のヴェノムが無くなっていく気が………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲホォッッ!!!?

 ゴホッ!!

 ガボァッ…!!」ビシャビシャビシャッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーグスさん!?」

 

「血がッ…!?」

 

「どうした!?」

 

 

 

「………アァァァァッグゥゥゥゥッッッ……!!!

 ヴェッ、ヴェノムが俺の体の中で暴れてェッ………!!!?」

 

 

 

「ヴェノムがですって…!?」

 

「どうして…!?

 ワクチンはちゃんと飲んだのに……!?」

 

 

 

「アァァッ………!!!

 ……ぐふぅ、

 どうやら………ここまでのようだな………!!

 ワクチンとやら………ありがとうよ………!!

 結構効いたぜ…!!

 

 

 

 …だがこのウイルスは進化したウイルスだ!!

 そこら辺のヴェノム用じゃ効き目が薄かったんだろうよ……!!」ハァハァ…

 

 

 

「進化したウイルスだと!?」

 

「ヴェノムウイルスに更に上が……!?」

 

 

 

「そうだ……!!

 ヴェノムの主によってヴェノムに感染した生物は全て通常の個体よりも強いゾンビになる………!!

 うぐぅぅぅ……!!

 ………その様子を見るだけでヴェノムの主が放つウイルスが他の物とは別物だってことが分かる……!!

 だから俺達は………倒せないにしても主を………!!

 クラーケンヲッ……!!!

 ………クラーケンヲォォォッ!!!!」ジュシュゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 

 

 

「「「シーグスさん!!?」」」

 

 

 

「もう!

 どうしようもないのか!?

 まさかワクチンが効かないウイルスがあるだなんて想像すらしなかったぞ………!!」

 

「このままだとシーグスさんがゾンビになっちゃうよぉ!!」

 

「………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………クソッ!!

 

 

 

こんな時になってどうして俺はまた何も出来ないんだ………!!

 

 

 

ダレイオスに来てから俺は意気込みばかりだ……!!

 

 

 

やると決めたことを何一つ出来ずに俺は………!!

 

 

 

また目の前で人が死んでいくのを指をくわえて見ていることしか出来ないのか………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は………どうして……………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私がシーグスさんを治療してみます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アローネ………?」

 

「アローネ=リム………?

 しかし治療魔術はミシガンが先程かけて………。」

 

「そうだよ!

 私がさっきシーグスさんがクラーケンに巻き付かれてたのから解放された時に怪我してたからファーストエイドはかけて怪我は治したけどそれでもヴェノムは除去出来なかったんだよ!?

 今更私と同じ能力のアローネさんがファーストエイドかけたってヴェノムがどうにかなる訳じゃないんだよ!?」

 

「だからと言ってここで何もせずに手をこまねいて見ているだけなど出来ません!!

 今うてる手は全てうち尽くすべきです!!

 うち尽くしてシーグスさんをお救いするのです!!」

 

「そうは言っても俺達に出来ることなど………!!」フラァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、まえラ………、

 にっ、にげロ………!」フラフラ………

 

 

 

「立った…!?」

 

「体がヴェノムに乗っ取られているのか……!?」

 

「乗っ取られておきながら意識が辛うじてまだある………。

 ワクチンが作用したせいでしょうか………?」

 

「…今治しますから!

 まだ意識を手放してはなりませんよ!?」

 

 

 

「も、………もうイイ………、

 オレに………カマウナ………!

 オレ………ハ………シ………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガァァァァァッ!!!」ガバァッ

 

 

 

「!?」「アローネ!」バッ!!

 

 

 

ドスッ!ゴロゴロゴロゴロッ!!!

 

 

 

「!

 カオス!?

 ………そのままシーグスさんを押さえていて下さい!!

 私の治療魔術でシーグスさんの症状を治してみせます!!」

 

「出来るの!?」

 

「出来なくてもやるのです!!

 私達には彼を救う義務が…!!」ピトッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、何だ!?

 マナが溢れだしてる………!?」

 

「これは………!?」

 

 

 

「カオス!アローネさん!!

 どうしちゃったの…!?」

 

「何が起こっている!?

 二人が接触した瞬間急に………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……この光は………ボクが治療されたときの………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!

 (この光は………、

 この感覚は………トーディア山脈で………!!)」

 

「………マナが………カオスのマナが私にも伝わってくる………。

 これほどのマナが………私の中へと流れ込んでくる………。」

 

「…!

 アローネ!

 平気なの!?

 俺のマナがアローネに反応してアローネの方に……!!?」

 

「………えぇ、

 私は大丈夫です………。

 それよりも………カオスはそのままでいてもらえますか………。

 今の私なら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シーグスさんも治療出来るかもしれません。」



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アローネに聞こえた声

カイクシュタイフ洞窟 中枢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア………ア”………テ………。」グググ…

 

 

 

「待っていて下さいシーグスさん。

 すぐに貴方の中のヴェノムを祓って見せます。」パァァ……

 

「またタレスの時と同じでファーストエイドでヴェノムを…?」

 

「私にはこの術以外に誰かを回復する方法など………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……!?」パァァ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼の者を死の淵より呼び戻せ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『………彼の者を死の淵より呼び戻せ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイズデッド………。』」パァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「…!?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア”ア”…………ア………あ…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………。」パタッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーグスさん!?」

 

「シーグス!」バッ…

 

 

 

「……スゥ………スゥ………。」

 

 

 

「………呼吸はしているようだな。

 脈は………こちらも異常は無い………。

 ウイルスの苦痛からは解き放たれたようだが………、

 ヴェノムは………除去出来たのかこれは……?」

 

「除去出来たんじゃないの………?

 もしヴェノムが残ってたらとてもこんな風に眠ってなんていられないよ。」

 

「…そうだな………。

 ヴェノムの心配は無くなったようだが………。」

 

「………アローネ、

 今の術は………?」

 

「トリアナスで殺生石の精霊がカオスさんの体を操作していた時に使っていた術ですね………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「どうしてアローネ=リムがその術を………?

 レイディー殿の話ではその術は“プロトゾーン”の進化の系列にあったとされる“ユニコーン”の力を借りなければ使えないと言っていたが………。」

 

「そうだよ。

 それにアローネさんがそんな術を使えるだなんて知らなかったんだけど………。」

 

 

 

「………自分でも分かりません………。

 私が何故この術を使うことが出来たのか………。

 シーグスさんをお救いしようと必死にファーストエイドをかけようとしていただけなので………。

 ………ただ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シーグスさんにファーストエイドをかけようとしてシーグスさんに触れようとして先にカオスに触れた瞬間、

 

 

 

 ………誰かの声が聞こえたのです………。」

 

 

 

「声………?」

 

「殺生石の精霊か………?」

 

 

 

「それすらも………、

 ………私はその声が発した通りに言葉をなぞっていたら………あの術が発動して………。」

 

 

 

「………レイズデッド………。

 死者を甦らせるとされる術………。」

 

「その術が使えれば………今のシーグスさんみたいにヴェノムウイルスに感染した人が出てきても治療出来るんじゃない!?」

 

「アローネさん、

 そのレイズデッドは今も使えますか………?」

 

 

 

「………『彼の者を死の淵より呼び戻せ………』」パァァ…

 

 

 

「使えるようだな。

 今のことで習得出来たということか。」

 

「すっ、凄い!

 私にも使えるかな!?

 ………ゴホンッ!

 ………彼の者を死の淵より呼び戻せ………。」

 

「………発動しないな。」

 

「俺達とアローネ=リムで条件が違うのか………?

 精霊から与えられた能力に属性以外に違いはないと思うが………。」

 

 

 

「………ミシガン、

 カオスと手を繋いで呪文を詠唱してみていただけませんか?」

 

 

 

「カオスと?」

 

「?」

 

 

 

「先程のことなのですけど………、

 カオスと触れ合った時マナが増幅されたような感覚がありました。

 もしかしたらこの術は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスと触れ合うことによってしか発動出来ないのではないかと思うのです………。」

 

 

 

「……分かったけど、

 ………………カオス。」スッ…

 

「うっ、うん………。」ギュッ…

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 なっ、なんか来た!?

 これ………マナ!?」

 

「ミシガン、

 呪文を!」

 

「うっ、うん!

 ………『彼の者を死の淵より呼び戻せ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイズデッド………』」パァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 

「術が発動した!?」

 

「アローネ=リムに続きミシガンもか………。

 古くに跡絶えた術を二人も………。」

 

 

 

「やっ、やった!

 やったよ!?

 私もアローネさんと同じ術が…!!」

 

「………」

 

 

 

「慌てないでください。

 ミシガン、

 今度はカオスと離れてから術を。」

 

 

 

「うん!

 『彼の者を死の淵より呼び戻せ………レイズデッド!』」パァァ………

 

 

 

「術は発動出来るようにはなったようだが………少し………、

 カオスと接触している時よりマナが少ないな………。」

 

 

 

「あっ、あれ……?

 さっきとおんなじくらいマナを込めてるんだけどなぁ………?」

 

 

 

「………なるほど………

 そういうことか………。」

 

「えぇ、

 そういうことらしいですね………。」

 

「また新しいことが分かったようですね………。

 ボク達の特性について、

 ボク達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスさんと接触している時にマナが増幅され通常の術に比べて強力な術が発動するようですね。」

 

 

 

「………俺と接触している時………。」

 

「カオス、

 ここから出たら後で俺の術も試してみたい。」

 

「………分かった。」

 

「これが実証されればこれからの戦闘もより有利になるな。

 初手で敵に大打撃を与えることが出来る。」

 

「カオスさん、

 ボクも後でお願いします。」

 

「いいけど………。

 ………タレスは後で少し話がある………。」

 

 

 

「………分かってます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ミシガン。」

 

 

 

「ん?

 何?

 アローネさん。」

 

「先程のことなんですが………、

 カオスと手を握った時………、

 

 

 

 どなたかの………声は聞きましたか……?」

 

 

 

「声?

 あぁ…!

 

 

 

 私の時は聞こえなかったけど………。」

 

 

 

「………そうですか………。」

 

 

 

「それって殺生石の精霊の声だったんじゃないの?」

 

 

 

「………いえ、

 今にして思えばあれは………あの声は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリアナスで聞いた殺生石の精霊の声とは違っていたように思えます………。」

 

 

 

「違う声が聞こえたの?」

 

 

 

「はい………。

 あの精霊の口調とは異なる………、

 

 

 

 どこか………幼くも気品があるような………。」

 

 

 

「幼くて気品がある………?

 それって………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネさんの口調なんじゃない?」

 

 

 

「私………?」

 

 

 

「あの精霊の口調に比べればどの人もしゃべり方なんて若く聞こえるでしょ?

 それだったら幼くて気品がある口調なんてここにはアローネさんくらいしかいないじゃない。

 きっとあの時精霊が唱えていた詠唱を思い出してアローネさんが心の中で唱えた詠唱を誰かの声と聞き間違えたんだよ。」

 

 

 

「………そうなのでしょうか………?」

 

 

 

「きっとそうだって!

 だって今私達が習得出来たレイズデッドって術も精霊が最初に使っていたのを見て知ってたのとカオスと手を繋いでいたから発動出来たんじゃない!

 他の誰かの要因があった訳じゃないんだしきっとカオスが近くにいたってのが一番大きいことだって思うし。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「…まさか他にも要因があるの?

 アローネさんにもカオスみたいな精霊が宿っているとか………?」

 

 

 

「私には……別にそのような存在は憑いてはいないと思いますが………。」

 

 

 

「じゃあやっぱりカオスのおかげだったんだよ。

 カオスの体を使って精霊が喋ってた時も最初はカオスの声で喋ってたしカオスに触って精霊が何かしら作用してアローネさんに術を授けたんだよ。」

 

 

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そう………ですよね。

 ……あの声は私の勘違いなのですよね……。」



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遅すぎた救世主

カイクシュタイフ洞窟 中枢

 

 

 

「………シーグスも助かったところでいつまでもここで留まってはいられん。

 シーグスを連れて一旦この洞窟を「うっ

うぅ………ん……?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっ、ここは………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きたようだなシーグス。」

 

 

 

「?

 ………俺は…………どうなって………。」

 

 

 

「ウイルスは無事除去出来ました。

 今は貴方を連れてこの洞窟を一旦出ますよ。」

 

 

 

「………そうか………お前ら………、

 マジで主のウイルスをどうにかしちまったんだな………。

 本当にお前らは………常識はずれな奴等だぜ………。」

 

 

 

「御託はいい。

 お前がいてはクラーケンを攻略するどころでは……!?」シュルシュル………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉわっ!?」バシィッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またか!!」「魔神剣ッ!!」ズバッ!!ドサッ!!

 

 

 

「ぐふぅ!?」ズルッ!

 

 

 

「シーグスさんまたクラーケンの触手に触れてしまいましたね。

 ウイルスは…………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いてて…………………

 うわッ!?

 粘液が付きやがった………!」

 

 

 

「…?

 どうもないの?」

 

 

 

「!

 ………何でだ………?

 主に触っちまったのに………俺は………ウイルスに感染した時のような侵食していく感じがしねぇ………?

 …触れた部分も………ヒリヒリするくらいしか………。」

 

 

 

「ウイルスに抗体が付いたんだな。」

 

「私達だけでヴェノムウイルスを封殺することが出来るが実証された訳ですね。」

 

「これって…私達と同じになったってこと?」ジュゥゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥゥゥ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………調度よく出てきたな。

 シーグス、

 このヴェノムに水の魔術アクアエッジをぶっぱなしてみてくれないか?」

 

 

 

「こいつにか…?

 どうせ効かねぇと思うが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクアエッジ!!」バシャァァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥゥゥ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「効いて………ないようですね。」

 

 

 

「………ほらな?

 ヴェノムを殺るなんて俺には「では今度は触ってみてくれないか?」………は?」

 

「貴方に本当に抗体が出来たのか確かめたいのです。」

 

 

 

「何バカなこと言ってんだよ!?

 こいつに触れってか!?

 冗談止してくれ!!

 だれが好き好んでヴェノムなんか触るかってんだよ!?

 こいつに触れっちまったらウイルスに感染して「いいから触る!」止せェェェッ!!?」グイッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛いッ!!?

 痛い痛い痛い止めろォォォオッ!!!」バシンッ!

 

「いたっ!」

 

 

 

「何すんだゴラァッ!!?

 またヴェノムに感染したら……!!

 ………感染したら………………?」

 

 

 

「感染してないじゃない。」

 

 

 

 

 

 

「………何でだよ………、

 こんなことが………あるわけが………。」

 

 

 

 

 

 

「シーグスさんはもう大丈夫みたいだね。」

 

 

 

 

 

 

「どうなっちまってんだ………俺の体は………?

 何でこいつらみたいに………。」

 

 

 

 

 

 

「この状態は俺達がトリアナスで精霊に力を授けられる前のものと同じだな。

 どうやらレイズデッドを他者に使用するとヴェノムの耐性が付くようだな。」

 

 

 

 

 

 

「俺は………まだ眠ってるんじゃないか………?

 これも実は夢オチで実際には………実際には………。」

 

 

 

 

 

 

「まだ現実を受け止めきれていないようですね。

 これが夢だったんならシーグスさんは主のウイルスに殺られて精神だけが死んだということを認識してないことになるんじゃないですか?」

 

 

 

 

 

 

「………………百年………百年だぞ……?

 百年どうにも出来なかったウイルスがこんなあっさり………。」

 

 

 

 

 

 

「方法に関しては私達にしか出来ない方法のようなのでこの技術を他の方々に提供することは出来ないですけどね。

 もし提供することが出来る技術であったのならこの技術をダレイオス全土へと拡げて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスをヴェノムの魔の手から救うことが出来たかもしれませんのに。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でなんだよッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「…!」」」」」

 

 

 

「何でこんなすげぇ力を持った奴等がいるんだよ!!?

 なぁ!!

 何でなんだよ!!?」

 

 

 

「落ち着け、何を動転しているんだお前は。」

 

「助かったのに何でこの人こんなに怒ってるの?」

 

「…後遺症が出たんじゃないですか?

 治療するタイミングもシーグスさんがほぼゾンビになりかけていたタイミングでしたから感情を司る脳のどこかに影響が残ったまま回復してしまったんじゃ………。」

 

「何だって!?」

 

「もしそうでしたのなら大変ですね……。

 私は人の脳や内蔵の医学についての知識が皆無なのでここから出ましたら医学のある方の検診をお勧めします。」

 

 

 

「そういうこと言ってるんじゃねぇんだよ!!!

 俺が言ってるのはなぁ!!!

 何でこんな力持ったやつが!!

 どうして今頃現れるんだよ!!?

 どうしてもっと早くに出てきてくれなかったんだよ!!?」

 

 

 

「どうしてと申されましても………。」

 

「俺達も本当はダレイオスに来るとは思ってなかったし………。」

 

「ボク達は別にシーグスさんのためなんかに来た訳じゃないですから。」

 

「私達だっていろいろと巻き込まれてここにいるんだから。」

 

「ダレイオスへ来たのはマテオで開戦の狼煙が上げられようとしていたからだ。

 それまでの俺達にはお前を治したような力は無かった。

 もっと早くに俺達がダレイオスに渡っていたとしたら俺達はこの力を授かることは無かっただろう。

 故にお前を救うことも出来なかっただろうな。」

 

 

 

「………くぅぅ!

 何で………!

 何でこんなに間が悪いんだよ………!!?

 お前達がもう少し早くその力を得ていれば………!!

 お前達がその力を持ってもう少し早くダレイオスに来てくれていたら………!!」

 

 

 

「さっきからお前は何を怒って「お前達がッッッ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お前達が………もう三ヶ月早くダレイオスに来てくれていたら………俺の……………ヴェノムが現れてから百年一緒に生き延びてきた俺の友人達は……死ぬことなんてなかっただろうが………!」

 

 

 

「………三ヶ月?」

 

「三ヶ月と言いますと………、

 この洞窟にクラーケンを誘導したと言うのは………?」

 

 

 

「………あぁ………、

 俺の友達だった奴等だよ……。

 あいつらクラーケンをこれ以上暴れさせないように誘導役を買って出てクラーケンにやられちまったんだよ………。

 このカイクシュタイフ洞窟まで誘き出せたら上手く撒いて脱出する手筈だったんだ………!

 

 

 

 ………だがあいつらは………帰ってこなかった………。

 クラーケンを撒いて逃げる予定だったのにさっきのあの現場を見る限りあいつら……この洞窟の奥深くでクラーケンと共に自尽しやがったんだろう………。」

 

 

 

「自尽……?」

 

 

 

「………ダレイオスではヴェノムの対処方は通常種だろうが通用しないと分かってる主だろうが同じだ………。

 誰にも触れられないような場所にヴェノムを誘い込んで閉じ込める。

 ………この洞窟の奥は地上から大分低い位置にある正に地の底だ。

 この洞窟そのものをクラーケンが入りきる一つの落とし穴に見立ててここを選んだんだが……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………ペリー達め………、

 この洞窟だけじゃクラーケンがまた外に這い出しちまうとでも思って最深部に誘導して更に穴を掘ってクラーケンを埋めようとしたんだな………。

 …命を捨ててまでやらなくてもいいだろうがよ………バカタレが………。」



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再度クラーケンへ

カイクシュタイフ洞窟 中枢

 

 

 

「………それで地面の中からクラーケンの触手が出てきたのか………。」

 

「野生のモンスターだし何考えてるか分からなかったけどあれってクラーケンが自分で地面の中に潜ってたんじゃなかったんだね…。」

 

「でもクラーケンは何でまだ地面の中にいるんだろ………?

 あれだけ触手を自在に動かせるんなら土をどかして這い出せそうなものなのに………。」

 

 

 

「………クラーケンはな……… 。

 地上で他の人やモンスター襲ってた時も頭の部分はあまり移動しなかった。

 あの長い八本の触手で獲物を捕らえりゃ頭はその場から動く必要がねぇからな。

 アイツが移動するときは………周囲に獲物がいなくなった時だけだ。」

 

 

 

「手を………触手を伸ばせばエサとなるモンスターが近くにいるからクラーケンは今でもあの地の底に埋まり続けているのですね。」

 

「土の中でどうやって息をしているのか謎でしたがよく考えてみれば生物の形を保っているだけで中身はヴェノムウイルスで異形化した不死身の怪物でしたよね。

 三ヶ月土の中に埋まっていても行き続けられる訳です。」

 

「………シーグス。」

 

 

 

「………何だよ………。」

 

 

 

「俺達はあのクラーケンを討伐する。

 ………だが奴を仕止めるには情報が足りなすぎる。

 俺達はまだ主と相対して二度目だ。

 前のブルータルは手こずりはしたがなんとか倒せた。

 

 しかし今度のクラーケンは前のブルータルとは違い俺達がいくら触手を斬り落としても触手が再生するようなんだ。」

 

「まるで無限に回復する敵を相手にしているようでしてこのまま戦い続けても一向に状況が好転するとは思えません。」

 

「ブルータルを倒した時は特に攻撃したヶ所が再生するようなことはありませんでしたが今回は触手が次々と地に潜っては傷を治してまた出てくるんです。」

 

「いっそのこと地面を掘り返してクラーケンを直接攻撃したいんだけどあんな洞窟の奥で地を掘り返すような魔術は使えないらしくてね。

 どうしようもないの。」

 

「無限再生する触手と地の底から出てこない本体………。

 この二つをどうにかしないとクラーケンが倒せないんです。」

 

 

 

「………傷が治るのなんて当然じゃねぇかよ。

 相手はヴェノムだぜ……?

 それもヴェノムの中でも進化した種だ…。

 倒すことなんて考えずに諦めるのが普通なんだ………。」

 

 

 

「その進化した種の一体を俺達は倒してるんですよ。

 だから今回も多分倒すことは出来る相手なんです………。」

 

「スライム形態に変化せずに元のギガントモンスターの特徴でいるなら対処法だってある筈なんですよ。

 けどボク達は元のギガントモンスタークラーケンを全然知りません。

 クラーケンが元々この付近に生息していたギガントモンスターなのなら………ミーア族の貴方なら何か攻略する糸口を思い付きませんか…?」

 

「何でもいい。

 俺達は奴の頭の部分が出てきさえすればそこを叩いて倒す。」

 

「ミーア族もクラーケンに困ってこんなとこに放り捨ててたんでしょ?

 だったらアンタも何かアイツを倒せる作戦を考えなさいよ。」

 

 

 

「………お前らは本当に殺るつもりなのか………?

 あのクラーケンを………。」

 

 

 

「そうでなくちゃ………こんなところまで来ないですよ。」

 

 

 

「………………」

 

 

 

「何かないか………?

 スーパースターのようにあの再生する触手を封じることが出来れば奴も土の中から出てくる筈だ。

 土の中から出てきさえすれば後は俺達でクラーケンを何とかする。」

 

 

 

「…奴を地面の中から引っ張り出せればいいんだな………?」

 

 

 

「そうです、

 そこからは私達の仕事です。」

 

 

 

「…………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………分かった、

 俺もお前らがアイツを倒せる作戦を考えてるよ。

 俺達ミーアだってアイツを倒せるのなら倒してほしい………。」

 

 

 

「「「「……!」」」」

 

「シーグスさん!」

 

 

 

「ただし………俺達ミーア族もクラーケンを倒すことを諦めたような連中だ。

 お前らの役に立つかなんて高が知れてる程度だろうよ。

 ………俺がお前らと組んだところでどうにか出来るだなんて保証はできねぇ………。」

 

 

 

「協力的になってくれただけでも心強いですよ。」

 

 

 

「………あと戦闘に関しては俺はお前達と並んで戦えるだけの力は持ってねぇ。

 俺に出来るのはこれまでのクラーケンの特徴を伝えることぐらいだ。」

 

 

 

「それだけで結構だ。

 …それでクラーケンの情報は………?」

 

 

 

「…つってもなぁ………。

 お前らが見た通り奴は不死身の怪物だ。

 俺達ミーアがどれだけ火力を集めて攻撃を重ねても再生するってことは同じだ。」

 

 

 

「そう、

 私達もその再生するのが厄介でどうにかしたいの。

 あの再生って無限に出来るの?」

 

 

 

「あぁそうだぜ。

 アイツは殺されない限り肉体が無限に再生する。

 元がクラーケンでベース自体が再生能力が高い海の軟体生物だ。

 スーパースターとまではいかないだろうが奴の再生能力は主の中でもピカイチだ。」

 

 

 

「じゃあどうやって土の中から引っ張り出せば………。」「だが奴の再生は無限のようで無限なんかじゃねぇ。」

 

 

 

「?

 どういう意味ですか………?」

 

 

 

「俺と俺の仲間達の攻撃じゃ奴には歯が立たなかったから断念したがお前達になら奴を倒しきることが出来るだろう………。

 

 

 

 ヴェノムとはいえ奴も見た目以上の質量がある訳がねぇ。

 触手を切断していけば必ずその部分に使う細胞は体の他の部分から補って再生する筈だ。

 切り崩していけば確実に縮小化していってやがてそこらのモンスターと同じくらいに小さくなるまでに至る……。」

 

 

 

「クラーケンを小さくすることが可能なのですか…!?」

 

 

 

「別におかしな話じゃない。

 ヴェノムに感染した生物は生物として存在が不安定な生き物になるんだ。

 ゾンビの時にエネルギーの供給が間に合わなければ自身の肉体を代わりにエネルギーとして使って食い繋いでいる………。

 “オートファジー”って言われるどんな生物にもある食の供給が途絶えた時に起こる現象らしいがそれが起こったら生物は飢えながらも己の肉体を食って生命活動を維持するんだ。

 ………ヴェノムウイルスはそのオートファジーを極限にまで高め過ぎて体の中の消化酵素がとてつもなく強くなりすぎて胃液から何から何もかもが感染者の肉体を溶かしスライムのような姿の消化液の塊に変化させちまうっつーしくみだよ。」

 

 

 

「そのオートファジーとか言うのでクラーケンを小さくして弱ったところを倒すの………?

 …でも私達さっきまで散々触手を斬り落としてったけど全然小さくなってってるような感じはしなかったけど………。」

 

 

 

「…お前達昨日主さえ倒しちまえばその周辺のヴェノムも共倒れしていくとか言ってたよな………?」

 

 

 

「…そうだな。

 そうスラートのオサムロウ殿から言われたが………。」

 

 

 

「…そうだよな………。

 ダレイオスにいる奴等なら全員そういうことを考えるよな……。

 俺達ですらそうだったしな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だがここにいるクラーケンは逆だ。

 先にクラーケンの周辺にいる雑魚共から片付けなきゃならねぇ。」

 

 

 

「雑魚って……普通のヴェノムを……?」

 

 

 

「ヴェノムに限らずクラーケンの手の届く距離にいる生物全部をだ。

 奴が無限に再生するのは触手が届く距離にいる生物やヴェノムを食って吸収して斬り落とされた触手の補填にしているからだ。

 奴の周りにエサがちらついている状況じゃいつまでたっても触手が再生するのを止めることは出来ねぇ。」

 

 

 

「…………なるほど、

 確かに俺達はヴェノムの主を倒せればそれでその地域のヴェノムを根絶することが出来ると思っていたせいでこの洞窟に潜む通常種のヴェノムは道なりに出てきたやつしか倒していなかった………。

 ………とすればこの洞窟にいるヴェノムやゾンビ達を全て倒しきれば………。」

 

「触手の無限再生を食い止めることが出来るんだな…!」

 

「だけどそれだと……クラーケンはどうやって地面の中から引っ張り出せばいいの?」 

 

「それについては洞窟内のヴェノム達を倒しきった時点で解決しますよ。

 そうですよね?

 シーグスさん。」

 

 

 

「そうさ、

 お前達が洞窟内の触手の届く範囲にいるヴェノム達を倒しちまえばクラーケンはエサを探しに動く。

 あそこより深い地層にいる生物なんていねぇだろうから奴は地面から出てくるしかない。

 地面から出てきた時、奴は一番近くにいる生物を狙う筈だ。

 そこでお前達が張ってれば………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クラーケンと漸く対面出来るということか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうなる………。

 俺達ミーアはそこらのヴェノムにすら敵わずに机上の空論止まりだったがお前達にならこの作戦が遂行出来る………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラーケンを………俺のダチ達の仇を討ってくれ………。

………頼む………………。」



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洞窟内の掃伐戦

カイクシュタイフ洞窟 中枢

 

 

 

「………では作戦も決まったところで……!」シュルシュルシュル………

 

「また来たか!」ザンッ!ボトッ!

 

「ここも一までも安全とは言えませんね。

 作戦を決行する前にシーグスさんを外へお連れしないといけません。」

 

 

 

「そうだな俺なんかがお前らと一緒にいたら邪魔にしかならねぇ………。

 一先ず俺は退散するぜ。」

 

 

 

「………お一人で大丈夫ですか?」

 

 

 

「…何だよボウズ。

 さっきは俺を放ってクラーケンを倒すことを急いでいたのに心配してくれんのか?」

 

 

 

「そういう訳では………、

 ただボク達にもダレイオス全土のヴェノムの主を倒してその他のヴェノム達を駆逐するという使命があります。

 ボク達のことを信じられずに非協力的だった上に勝手に付いてきて数少なかった貴重なワクチンを味方でもないのに使わせられようとしていたのでイライラしていただけです。」

 

 

 

「………そうだったな………。

 お前らには世話になったってのに余計なもん使わせちまって悪いことしたな………。

 ついでに命まで救ってもらってこの抗体とかいうのも………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………すまなかったな………有り難うよ………。」ザッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これでクラーケン討伐が始められますね。」

 

「………タレス。」

 

「…ボクがあの人を助けたくなかったのはシーグスさんが明確にボク達の味方ではなかったからです。

 疑いの眼差しを向けてくるような人を助けたところで後で協力してくれるかは分からない………。

 ワクチンを使えばあの人はワクチンが本物だということを知り残り一つのワクチンを奪おうとするかもしれない。

 そうなったら………シーグスさんと敵対することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボク達が助けたからって好意が返ってくるとは限らないんですよ。

 このダレイオスでは恩なんか売ったところで逆にボク達の敵になる確率の方が高いんです。

 ………それほどヴェノムを滅することが出来るワクチンは貴重な存在ですから………。」

 

 

 

「……確かにダレイオスではマテオのワクチンは喉から手が出るほど欲しいだろうからな………。

 シーグスが仮に不審者であったらたな俺達の隙を伺いつつワクチンを盗もうとしていただろうな……。」

 

「それでアンタシーグスさんを見捨てようなんて言ってたんだね………。

 言われてみると一人であんなところ彷徨いてたからミーア族かもって思って気にしてなかったけどよく考えたら私達に付いてくるなんてとんだ命知らずだよね。

 ………本当にミーア族の人だったのかな…?

 私達がそう思ってたのに合わせてそう言ってただけの盗賊なんじゃ………?」

 

 

 

「…シーグスさんは………恐らく盗賊ではありませんよ。」

 

 

 

「アローネさん………?」

 

 

 

「俺も………そう思う。

 俺とアローネは一度盗賊と戦ったことがあるから何となくなんだけど………盗賊達って自分達のことしか考えてない自己中心的な奴等ばっかりだったからこんなヴェノムがいるような所に何の対処方法も持たずに俺達に付いてきたりなんかしないよ。」

 

「だが俺達が先にワクチンの話をしたからそれ欲しさに付いてきただけかもしれんぞ?

 さっきも言った通りワクチンを奪ってから俺達にヴェノムを押し付けて自分は逃亡しようと画策してた可能性もある。」

 

「そう…仰られますと………彼を信用する根拠が何も無いのですが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………先程の彼の激昂は本物だったと感じました………。」

 

 

 

「アイツが突然喚きだしたあれがか………?」

 

 

 

「はい………、

 友を………、

 

 大切な人を失い悲観する姿と私達が彼の友人がまだ存命している時にお会いできていたらというどうしようも無さにくれる姿が………、

 ………私にはあの様子が偽物のようには思えませんでした………。」

 

 

 

「ただの演技上手なだけじゃない………?」

 

「ミシガン………、

 いくらなんでも疑り過ぎだよ……。」

 

「……しかし奴がもたらした情報によってクラーケン攻略の糸口を掴んだのも事実。

 奴の素性はまだ謎にしてもそれだけで今のところは信頼してもいいんじゃないか?」

 

「そうですよ、

 彼の情報は的を射たものですし彼の作戦をそのまま実行に移しても私達が損をするようなことにはなりません。

 なす統べなく退散した私達には彼の情報は朗報とも呼べるものになりました。」

 

「クラーケンの前にヴェノムを全滅させないといけないんだね………。

 この洞窟どのくらいの広さがあるんだろ………?」

 

「所々に枝分かれした道も見受けられましたから五人でこの洞窟を回っていては時間がかかります。

 ここは手分けした方がいいですね。」

 

「手分けって………皆バラバラでヴェノムを退治して回るの?」

 

「いえ、

 単独の行動は危険です。

 ヴェノム単体に殺られてしまうことは無いとは思いますがまだこの付近でさえもクラーケンの触手が届く位置のようですしヴェノムとクラーケンの挟撃に会えば万が一ということも………。」

 

「それなら二手に分かれるのが手だな。

 ヒーラーが二人いるからアローネ=リムとミシガンの班に分かれよう。」

 

「五人いるから奇数で一人余るけどどう分かれるの?」

 

「…だったら三人と二人に分かれて三人の班はクラーケンの近くの危険度が高い方を担当して二人の班はここから入り口までのヴェノムをお願いしようか。」

 

「…そうだな。

 メンバーはどう分かれる?

 俺は………敵の多そうな三人の方で構わんが………。」

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、

 ウインドラは二人の班の方に行ってくれないか?」

 

 

 

「構わんが………何故だ?」

 

「クラーケンって海にいた魔物なんだろ?

 だったら今回のクラーケンが飛び出してきた時一番危険じゃないか?

 海の魔物ならアクアエッジとか使ってきそうだし。」

 

「………確かにな。」

 

「ではボクとカオスさんが三人の方の班ですね。

 アローネさんとミシガンさんはどちらにしますか?」

 

「私はどちらでもいいですよ?」

 

「私も。」

 

 

 

「じゃあ………、

 ミシガンがこっちの三人の班で。」

 

 

 

「オッケー!」

 

「…意外だな。

 カオスならアローネ=リムを選ぶと思ったんだが………。」

 

「ミシガンはウインドラの時と逆でアクアエッジが飛んできても吸収するだろ?

 だから三人の方の班にいた方が対処しやすいだろうしこの人選が一番効率がいいだろ。」

 

「それって私ならクラーケンに襲われても大丈夫って言ってるように聞こえるんだけど………。」

 

 

 

「………案外とカオスも戦闘についてのことを考えているんだな。」

 

「では私とウインドラさんでここから入り口までのヴェノムを殲滅します。

 カオス達はここからクラーケンまでのフロアにいるヴェノムを。」

 

 

 

「あぁ、

 任せて。」

 

「ある程度まで数を減らすことが出来たらまたここに集合しましょうか。

 クラーケンに動きがあった時の合流地点にして。

 クラーケンが出てきたら流石に五人でかからないと倒せそうにありまけんから。」

 

「こんなことさっさと終わらせてまた明るい外に出ようよ。」

 

 

 

「そうするためにはこの洞窟内のヴェノム達全てを狩る必要がある。

 時間のかかる作業だ。

 焦らずに慎重にだ。」

 

「私達の方は触手の脅威がカオス達よりも少ない分難しい作業ではありませんがそちらはヴェノムを相手にしながらクラーケンも襲ってきます。

 油断せずに安全を確保しながら進めてくださいね。」

 

 

 

「分かってるさ。

 俺の目の前でもう誰にも死なせたりはしない。

 タレスとミシガンは俺が守る。

 ウインドラもアローネも。

 ………四人だけじゃない。

 この地域のクラーケンに苦しめられている人達のためにも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆でクラーケンを倒すんだ!」



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肩書きだけのリーダー

カイクシュタイフ洞窟 奥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ジュゥゥゥゥ!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣ッ!」「孤月閃ッ!」「スプラッシュ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ジュッ………」」」ザンッザスッバシャァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュル!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テァァァァァァァァッ!!!」ザンッ!!ボトッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に奥の方だけあってヴェノム達が多いな。」

 

「もう随分倒したんじゃないの?」

 

「まだ開始してから一時間くらいしか経ってませんよ。

 これだけの大きな洞窟にいるヴェノムを全滅させるんですからまだまだこんなものではないでしょう。」

 

「それもそうだね………。

 休みなく次々出てくるけどまだこれでもこの洞窟の本の少ししか倒してないのかな?」

 

「けど相手はヴェノムだから俺達がここにいるだけで寄ってくるからヴェノムを探して回るよりかは楽なんじゃないかな。」

 

「洞窟内での音は響きますからね。

 マナに引き寄せられているというのもあるでしょうがヴェノムが向かってきているのは単純にここで騒音をたてているからでしょう。」

 

「移動せずに済むのは楽なんだけどさぁ………。

 この作業後どれくらい続くと思う?」

 

「広いと言っても………ミストの森みたいに縦横無尽に洞窟が拡がっている訳ではないからねぇ。

 ミストの森よりかは狭いと考えれば後………、

 

 

 

 三日くらいかな?」

 

 

 

「そんなにかかるの!!?」

 

「ミストの森を参考にしたらだけどね。」

 

「カオスさんは森でヴェノムを狩る生活をしていたんでしたね。

 こういうことの計測はカオスさんなら出来るんですね。」

 

「まぁ俺はヴェノム狩りぐらいしか生きる意味が無かったからな。

 あっちに行った二人みたいに情報を調べてそれで作戦を立てるなんてことは出来ないからこういうことでしか皆の役に立てないんだ。

 ならせめてここでは活躍しないと………。」

 

「カオスは別に役に立ってないことは無いでしょ?」

 

「そうですよ。

 ボク達はカオスさんがいるからこうして纏まっているんてすから。」

 

「けど俺ってただの戦闘要員でしかないからなぁ………。

 この間リーダーに決められたけど俺一人じゃ何も決められない………。

 リーダーシップもないし咄嗟の判断だってタレスの方があるだろうし………。」

 

「また卑屈になってる………。」

 

「もしかしてカオスさん、

 あの二人と一緒にいると形だけのリーダーだけでしかないと思ってこの人選にしたんですか?」

 

「………」

 

「そうなの?

 私がさっきの話聞いてた限りじゃ正論だったと思うけど………。

 ウインドラだってここじゃ危険だから遠くにいた方がいいと私も納得してたんだけど………。」

 

「カオスさんは気負い過ぎですよ。

 あの二人が冷静に作戦を立てられるのはカオスさんという大きな存在があるからです。

 カオスさんがいるからこそボク達はボク達に出来る容量が拡げられてそれで作戦を立てられるんです。

 カオスさんがいるからこそアローネさんとウインドラさんはボク達皆で出来ることを次々と提示していけるんです。」

 

「そうなのかな………?」

 

「そうだよ!

 カオスがいたらどんなところにだって行けるって私も思うもん!」

 

「…そういうことにしておこうか。」

 

「そういうことなの!

 …それにしてもタレス、

 アンタ、カオスには優しいんだね。

 シーグスさんを見捨てるって言い出した時は冷酷な子供だと思ってたけど味方には優しく出来るんだ?」

 

「仲間に冷たくしても意味が無いでしょう………。

 ボク達は計画的に動くべきなんです。

 盗賊をやっていた時の経験なんですが常に最善の行動を心掛けるのが計画を完璧に遂行できる唯一の方法だと思います。

 役に立ちそうなものは全て使い役に立たないものは切り捨てる。

 ………盗賊だったら役に立たなければ人ですら切り捨てられます。

 切り捨てられる仲間は仲間では無いそうです。

 ボクは仲間を切り捨てるようなことはしたくありませんが仲間ですらない人なら皆さんの旅の阻害になりそうな不要物は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 切り捨てます。」

 

 

 

「………どうしてこんな子に育っちゃったんだろ?」

 

「俺達より経験豊富だからこういう思考になっちゃうんだろうね………。

 

 

 

 …けど時にはそれも必要になってくるかもしれない。」

 

「カオス!?」

 

「タレスの意見は聞いてみたら冷酷に聞こえるかもしれないけど俺達の目的を果たすためには時には必要になってくるかもしれない。

 ……本当だったらリーダーの俺がそういうことを率先して言わなければいけないんだと思う。

 ミストのあの事件の日にもおじいちゃんは皆を纏めてはいたけど全体を危険から守るためには………子供だろうと容赦なく切り捨てた………。」

 

「!

 ………私の家でのことだね………。」

 

「覚えてたの………?」

 

「あの時のことなら覚えてるよ。

 その光景は私だって見てた。

 目の前で村の他の子がアルバさんに斬られてたところも………、

 その子の体が直後にヴェノムになったことも………。

 そこから私は気を失ってお父さんに………。」

 

「………それを見てよくカオスさんはトーディア山でボクを助けようと思いましたね。

 ヴェノムに感染したら普通は百パーセント助からないのに………。」

 

「俺にとってはタレスの時は無我夢中で助けなきゃって思ったんだ。

 タレスは………俺みたいな悲惨な人生をおくってたようだし漸く盗賊達の奴隷から解放されたってのに俺が助けた直ぐにあんなことになっちゃって………。

 ………あそこで俺がタレスを助けることを諦めていたんだとしたらタレスは………、

 

 

 

 俺達に出会わなかった方がもう少し長生きすることが出来たんじゃないかってあの時はそう思ったんだ………。」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「…でもタレスの時のように全てが上手くいくわけじゃない………。

 俺のやり方じゃ救えない命だってあった。

 俺のやり方じゃどうにもならないことがこの世界には沢山あった………。

 小さなことなら俺にでもどうにか出来てきたけど俺一人じゃ結局何も出来ずに終わることの方が多かった………。

 ………俺は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………やっぱり自分のやり方に自信が持てないや………。

 多少無理をしてでも変わるべきなんだろうかな………。」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスはそのままでいてよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミシガン………。」

 

「カオスがカオスじゃなかったら私もレサリナスまでカオスを追い掛けてったりしないよ。」 

 

「カオスさんの人の好さに惹かれてボク達はカオスさんと行動を共にしているんです。

 組織の上に立つ人なら時には非情な一面も持ち合わせなければなりませんがカオスさが考えてるようなレイディーさんみたいな役目はボクが引き受けます。」

 

 

「レイディー!?

 そっか!

 カオス、レイディーみたいになろうとしてたの!?

 駄目だよあれを真似しちゃあ!

 あんなのがリーダーだったら皆の空気が悪くなっちゃうよ?」

 

「今のボク達はこれでいいんですよ。

 多少衝突するくらいの方がパーティーは上手く回ります。

 互いの意見がぶつかるということは互いにデメリットを分かっているということですからそれについてはカオスさんが深刻に捉えることはないんです。」

 

「レイディーみたいに一人で何でもかんでも決める人がリーダーなのは嫌だけど、だからって仲間全員が全く同じ意見になるのも問題だよね。

 全員が同じ方向を向いてたら間違いに気付けないんだもん。

 今回のことでタレスのような後先考えずに行動しようとするのを止めてくれる人がいてくれたのはよかったよ。

 ……ワクチンは一つになっちゃったけど………。」

 

「まぁ、ワクチン一つでその後のカオスさんとアローネさんのヴェノムを打ち消す術を習得出来たのはかなりの収穫じゃないですか。

 あれでシーグスさんにワクチンを使って無駄に終わっていたとしたらどうなっていたか……。」

 

「でもワクチンは一つだけになっちゃったけどこれからどうするんだろ………。」

 

「シーグスさんのことでワクチンなんかよりもあのレイズデッドをダレイオスに拡散することがダレイオス復興の足掛かりとなるでしょう。

 後はあの術をどうにかしてダレイオス全土に伝えられれば……。」

 

「なんかワクチンを作るよりかは楽そうだね。

 私達のダレイオスの旅もそこまで難しいものじゃないのかな?

 それじゃさっさとクラーケンを倒してミーアの人達を助けてあげないとね。」

 

 

 

「…………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………本当にこんな皆を纏めきれないリーダーでいいのかな………。」



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揺れ出す洞窟

カイクシュタイフ洞窟 入口付近

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはりこの辺りは奥に比べてヴェノムが少ないな。」

 

「そうですね…。

 カオス達の方は三人とはいえ役割的にも討伐数の多い方を任せてしまってなんだか私達だけ楽をしているようで心苦しいですね………。」

 

「………そうだな………。」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれからそれほど時間は経っていないがアローネ=リムと二人きりになる機会がこんなにも早くに来てしまうとはな………。」

 

「えぇ…、

 私も貴方と二人で作業することになるとは思いもしませんでした………。」

 

「………そうだな………。」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(カオスは………何故こういう人員に分けたんだ………?)」

 

「カオスは………どうしてウインドラさんと私を二人にしたのでしょうか………?」

 

「…カオスが言った通りなんじゃないのか…?

 効率を考えたらいざクラーケンに襲って来たときに対処しやすいように逃げられやすい軽装で足の早い三人で奥を固める。

 俺達は………自慢にもならないが脚は早くないからな。」

 

「確かに自慢にもなりませんね………。」

 

「あぁ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(会話が続かないな………。)」

 

「(今はこの空気を我慢して私達の仕事を終わらせるしかないのでしょうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そういえば!)

 この作業なのですが………私達はどれ程ヴェノムを倒せばカオス達に合流出来るのでしょうか………?」

 

「カオスから聞いた話では一つの拠点のヴェノムを殲滅するのに三日はかかると言っていた。」

 

「三日もですか………?

 と言うことは三日経つまでは合流出来ないと………?」

 

「流石に経過報告も必要だからな。

 半日ぐらい経ったらカオス達の様子を見に行くべきだろう。

 ぶっ通しでこんな作業を続けていれば疲労も溜まる一方だ。」

 

「そうですよね………。

 流石に三日もこの作業を続けるなど………。」

 

「…カオスの話方からして三日かかると言ったのはカオスが一人で作業したらの話だと思う。

 カオスは今まで自分一人で作業した時のことを話していたと思うから実際には………五人で動いているから………五分の一………いや五人いたとしても二手で動いているから………一日半ぐらいなのではないか?」

 

「一日半ですか………、

 三日から短縮されると考えれば大分気が楽にはなりますがそれでも長いですね………。」

 

「そうだな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「(………間が持たない………)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………気になってたことがあるんだが聞いてもいいか?」

 

「何でしょう………?」

 

「アローネ=リムの………その、同胞捜しについてなんだが………」

 

「それは先ずダレイオスが安定してからでないとどうにも先に進めることが出来ませんね………。」

 

「…そうだよな………。」

 

「私のことは気にせず今は私達の役割のことだけに集中しましょう。」

 

「……了解した。」

 

「………私のことについては私の方でもいろいろと考えていますのでお気になさらずに。」

 

「………………あぁ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………余計な質問だった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイクシュタイフ洞窟 奥 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……この辺りでウインドラ達と合流しようか……。」

 

「そうだね。

 もう結構長くやってるし二人だけだと怪我してないか心配だよ。」

 

「怪我してもいいようにアローネさんとミシガンさんに分けてるんですけど………。

 …まぁ多分もう外は夜になってるでしょうから作業を中断するには頃合いですね。」

 

 

 

「………よし、

 じゃあさっきの分かれた場所に戻ろうか。」

 

「ハァ~、

 疲れた………。

 これを後二日も続けなきゃいけないんだなぁ………。」

 

「こう暗い洞窟の中で気の滅入る作業ですけどこれがクラーケンを地面の中から這い上がらせる唯一の方法ですから止める訳にはいきませんよ。

 洞窟の中のヴェノムを退治しきらないことにはクラーケンも地面から出てきませんから。」

 

「そうだよ。

 この作業をやってるだけでもクラーケンを弱体化出来るらしいからね。

 安全と確実性を考えたらこの方法以外にはないだろ。」

 

 

 

「………ねぇ?

 たった今疑問に思ったことがあるんだけど………?」

 

 

 

「どうしたの?」

 

「何か作戦に不具合でも思い付きましたか?」

 

「シーグスさんの話ではヴェノムがこの洞窟の中を徘徊してるからクラーケンが地面から出てこないって言ってたよね?」

 

「………?

 そういう話だったよね。

 クラーケンの触手をいくら斬り落としても洞窟の中のヴェノムを吸収して再生するから俺達がいきなりクラーケンを倒すのは無理だって………。」

 

「ボクもそう聞いてましたしどこにもおかしな点は無いと思いますが………?」

 

「………ヴェノムってさ?

 スライムになってから二十四時間で自動的に消滅するよね?」

 

「………そうだね。」

 

「ここにいる個体はどれも主の特殊なウイルスでヴェノム化してますから恐らく二十四時間以上は死滅しないのではないでしょうか?

 シーグスさんの話ではクラーケンをこの洞窟に追い詰めたのは三ヶ月くらい前だと聞きましたしここにいる個体はどれも長期的にスライム形態を保持してるものだらけだと思いますから普通のヴェノムとは考えない方がいいですよ。」

 

「………そっか。

 そうだよね………。」

 

「…まだ何か不安なことでもあるの?」

 

「………この作業ってさ。

 クラーケンを弱らせる意味も含まれてるんだよね………?」

 

「そうだけど………?」

 

「こうしてヴェノム退治してたらさ………。

 私達の方も疲れてきてクラーケンが突然出てきたとしたら………ヤバくない?」

 

「確かにヤバいとは思うけど………そう直ぐには出てこないだろう………。」

 

「まだ洞窟内にはヴェノムがわんさかいますからいきなりクラーケンが這い出てくるようなことは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地震………?

 俺達が洞窟の中にいる時に地震なんて危ないなぁ………。」

 

「一旦外に出た方がよさそうですね。

 頑丈そうな洞窟ではありますが崩落して生き埋めにならない保証はありませんから。」

 

 

 

「あとさ!」

 

 

 

「まだ他に心配事?」

 

 

 

「………………昼間にクラーケンの触手を見たとき思ったんだけどあの触手見るだけでもクラーケンの本体って相当大きいよね?

 ……だったらもし私達がこの洞窟の中のヴェノムを倒しきってクラーケンが地面から出てきたら………」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この洞窟崩落したりしないかな?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!!!!

 

 

 

 

 



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洞窟崩落、そして現れる異形

カイクシュタイフ洞窟 奥 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急にどうしたんだ!?」

 

「本当に洞窟が崩落しそうですね!?」

 

「これってクラーケンが地面から出てこようとしてるんじゃないの!?」

 

「いくらなんでもこれは………早すぎる!

 洞窟の中のヴェノムを退治し終わるのは後三日はかかる筈なのに!?」

 

「ボク達が洞窟内のヴェノムを倒しすぎてクラーケンが焦って出てこようとしてるのかもしれませんね!

 

「ここって洞窟でも結構奥の方でしょ!?

 こんなところで洞窟が崩れたりなんかしたら私達出られなくなっちゃうよ!?」

 

「…!!四の五のいう前に先ずはここから脱出しよう!!」

 

「アローネさんとウインドラはどうするの!?」

 

「二人ならここよりも揺れが少いところでこの地震を感知してる筈ですから先に脱出に向かってるでしょう!

 ボク達も急いで脱出しましょう!!」

 

「あぁ急ごう!!」ダダダッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイクシュタイフ洞窟 入口付近 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!!、タレス!!」「ミシガン!」

 

 

 

 

 

 

「二人とも!

 無事だったんだな!」

 

 

 

「それはこちらのセリフだ!」

 

「突然洞窟の奥の方から地響きが聞こえて来ましたがクラーケンが這い出て来たのでしょうか!?」

 

 

 

「分からない!

 俺達も作業を中断しようとしたらいきなりクラーケンのいる方から揺れが起こって…!!」

 

「洞窟内のヴェノムを粗方片付けたんでクラーケンがエサを求めて移動し始めたんですよ!!」

 

「まだ三日は何もないって話だったのに!!」

 

 

 

「二手に分かれたせいで予測よりも早くヴェノムが減ってしまったんだろう…!

 それにヴェノム自体もクラーケンが吸収していたしな!

 二手に分かれたから半分の一日半でケリが着くと想定していたがどうやら一日でケリが着いてしまったようだ!」

 

「俺達とアローネ達………そしてクラーケンの三組でヴェノムを狩っていた訳か………!

 そりゃ早くに終わってしまうな………。」

 

「シーグスさんの仰っていたオートファジーによる弱体化もこのタイミングでは望めないでしょう………。

 クラーケンは………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直ぐに浮上してきますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!

 

ガガガガガガガ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天井が!?」

 

「上を見ずに走れ!!!」ダダダッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、なんだよ!?

 洞窟の中で何が起こってんだ…!?

 あいつらがクラーケンとやりあってんのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダダダダダダダダ…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?

 あいつら………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!

 シーグスさん!?」

 

「まだこんなところにいたの!?」

 

 

 

「まだって…何だよ!?

 俺はお前らがクラーケンを倒したのか気になってここで待ってたんだよ!」

 

 

 

「そうですか!

 では私達と一緒に避難しましょう!

 この洞窟はもう崩れます!」

 

 

 

「避難って………クラーケンは倒してきたのか?」

 

 

 

「まだです!」

 

 

 

「まだ…?

 ってことはこの地鳴りは………?」

 

 

 

「クラーケンの仕業だ!!

 エサが少なくなって移動し始めたんだ!

 直ぐに地上に出てくるぞ!!」

 

 

 

「は!?」

 

 

 

「いいから!!

 さっさと走る!!」タタタッ!

 

 

 

「ちょっ!?

 おい待てよ!?

 何がどうなってクラーケンが地上まで出てくんだよ!?

 おっ……!?」ボゴォォォォォッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴボゴォォォォォッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォゥゥゥゥゥッッッッッッ!!!!!!!!」バキバキバキ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっ、こいつがクラーケン………!?」

 

「この巨体は………ブルータル以上はあります…………。」

 

「触手の先端から見てかなりの大きさだとは思っていたがこの大きさはざっと見ても………………闘技場くらいの大きさはあるな………。」

 

「私達が切ってた触手が頭の大きさに比べて小指程度くらいしかなかったなんて………。」

 

「これが………ダレイオスを徘徊する九の悪魔の一体………………。

 こんなのがブルータルと同列に数えられていたなんて………あり得ない話ですよ………。」

 

 

 

「……こっ、こんなに成長してやがったのかよ…………。

 こんなんバルツィエが軍隊を組んでもようやく倒せるかどうかだぞ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もとは海辺にいたただの“オクトスライミー”がこんな巨体にまで………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォオォォォゥ!!!!!!!!」ビリビリビリビリビリビリッッッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「!!!??」」」」」」ビクッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グオオァァァァァァァッッッッッッ!!!」ブォォオォォォォォンッッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、危ない!

 みん」ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………何だよこの力は………。

 

 

 

こんなの普通の人が敵うような力じゃない………。

 

 

 

触手の一振りが………、

 

 

 

ユーラスの………、

 

 

 

バルツィエの魔術と同等以上………、

 

 

 

これが魔術だったら………、

 

 

 

俺には効かないのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ!!?

 うぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「カオス!!?」」」」



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二人脱落、立ち上がりし戦士は…

カイクシュタイフ洞窟 入口 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がはッ……!?」ドサッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスッ!!」

 

「大丈夫!?」タッ!

 

「!?余所見をするんじゃ………」ブォォオォォォォォンッッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バリアー!!」パァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネーベル平原 南 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パラパラパラパラ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、………何が起こったんですか……?」

 

「…………全員あの触手に吹き飛ばされはしたが運良く同じ場所に飛ばされたようだな………。

 ぐっ………!」

 

「………なんなのあの触手………。

 洞窟の中じゃあんなに力は強くなかったのに………。」

 

「あれだけの長さから放たれる触手の振り回し攻撃にかかる遠心力はとてつもない推進力を生みます………。

 私達はよくあれを受けて命がありましたね………。」

 

 

 

 

 

 

「………かっ……………ハッ………!」

 

「!

 カオス!?」

 

「そうだ!

 カオス!!」

 

「しっかりしろ!

 傷の具合は…………!?」

 

「これは………酷い………。」

 

「………両手両足の複雑骨折に………内蔵にもダメージが浸透していそうですね………。

 この様子では戦闘の続行は不可能です………。

 ………私達を庇ったばかりに………。」

 

「待っててねカオス!

 直ぐに治療してあげるから………!」パァァ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ぉ……………ぃ………ォマ………ぇ………ら…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 シーグスさん!」

 

「お前も無事だったか………。」

 

 

 

「ぁ………た………り………前………だ………。」

 

 

 

「何言ってるかのか分からんぞ。」

 

「一先ずシーグスさんにも治療を。」パァァ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………なんとか話せるくらいにはなった。

 ありがとうよ。」

 

 

 

「お互い様ですよ。

 シーグスさんが先程私達がクラーケンに吹き飛ばされる前にバリアーを張っていただいたおかげでこうして無事でいられたのですから。」

 

「俺からも礼を言おう。

 助かった。

 お前が咄嗟にバリアーを発動していなかったらあの一撃で皆終わっていた。」

 

「最初はうさんくらい人だとは思ってましたが案外と役に立つ人のようですね。」

 

 

 

「………礼を言ったり俺の評価を上げたりしなくていいからよ………。

 

 

 

 ………あれ。」スッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッ!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうにかしてくれねぇか………?

 このまま奴が突き進んで行ったら確実に俺の仲間達と奴がかち合っちまうよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうにかするにしても……あんな怪獣相手にどうすれば………。」

 

「ボク達の魔術では例えヴェノムであってもあのサイズの敵には歯が立ちそうにありませんよ………。」

 

「………ここは距離がある内に少しでも魔術でダメージを与えていくしか………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオォォォォォォォォォォォッッ!!!」ブブブブブブジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か吐き出してきましたよ!?」

 

「これは!?

 墨か…!?

 皆かわせ!!!」

 

「えっ!?

 でもカオスが……!?」

 

「………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……クソッ!!」バッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブブブブブブジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!」

 

 

 

「えっ!?

 嘘ヤダ何で!!?

 何でウインドラ避けなかったの!!?」

 

「ウインドラさん!!」

 

「カオスに続いてウインドラさんも………、

 ………これでは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これでは殺られる一方ではないですか……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ!!」

 

 

 

「ブフッ………!」ドサッ!!

 

「この反応が起こるということは………あの墨には水属性のマナが付与してあるってことですね………。

 それでウインドラさんが………。」

 

「通常のモンスターの魔術でも死にかけたというのにあのようなギガントモンスターから噴射された水質攻撃を受ければ……、

 とにかく応急処置を施しましょう。」パァァ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ!

 何で!?

 何で避けなかったの!?

 水の攻撃なら私もカオスも平気だったんだよ!?

 それなのに何で……!?」

 

 

 

「………フゥ………フゥ……。」

 

 

 

「ミシガン………、

 今は彼は答えられる状態ではないですよ?」

 

 

 

「………自分は水が苦手な癖に………また私なんかを庇おうとしたんでしょ………。

 ………馬鹿だよ本当に………。」

 

 

 

「……ぉ……だ……。」

 

 

 

「?

 何て………?」

 

 

 

「ぉ……………る……は……だ………。」

 

 

 

「………?」「もう一発来ますよ!?」オオオオオオォォォォォォォォォォォ!!!

 

 

 

「ぉ………ま……え……を……ま……も…………。」「さっさと怪我人連れて逃げるぞ!!逃げる方向は北東だ!!北には向かうなよ!?」

 

 

 

「………それだけ聞けば言いたいことは伝わったよ………。

 後はアローネさんに治療されて大人しくしてて。」「北に向かうのは何で駄目なんですか!?」

 

 

 

「………………」「俺の村と仲間達がいるからに決まってんだろ!!?」

 

 

 

「ミシガン………?

 どうするおつもりで………?」「そんな人達いませんでしたけど!!」

 

 

 

「………そんなの決まってるでしょ………?」「だぁぁぁぁ!!?そんなのどうだっていいだろ!?今はいるんだよ!!?一々疑問に思うんじゃねぇよ!!」

 

 

 

「お一人で戦うおつもりですか!?

 無茶です!!

 カオスですらこうなってしまったのに……!?」ブブブブブブジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 

 

 

「アローネさん今の私達の体がどうなってるか分かってるよね? 「オイ!!墨攻撃来てんぞ!!?」ウインドラがさっきの墨で倒れちゃったのは私達に弱点となる属性が出来たからだってことは覚えてるよね………?」「ミシガンさん!墨が来てますよ!!?」ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザッ!!バシャァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だったらここは私の出番でしょ!!クラーケン!!水辺の魔物!!何度聞いても私が今回のヴェノムの主退治一番向いている仕事だよね!!

 いい加減人の後ろで守られてばかりの位置にいるのにウンザリしてたの!!

 今度は!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が皆を守るために戦う番!!」



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ミシガン出撃

ネーベル平原 南 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッ!!!!!」ビリビリビリビリビリビリ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく男共連中は………!

 何でも全部自分が背負い込めばいいって考えだからそんな風に怪我ばっかりするんだよ!

 たまにくらい私にだって任せてもいい時だってあるのに……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あの激流を素手で防いだ………!?」

 

「ミシガンの属性を考えてみたら水が効かないと言うのは分かりますが………ミシガンだけでクラーケンと戦うには物理的な力の違いがありすぎます………。

 …ミシガンはどう戦うおつもりなのでしょうか………?」

 

 

 

「おっ、おい!?

 大丈夫なのか!?

 お前らの主戦力っぽい二人が二連続であの化け物にやられてんのにあんないかにも非力そうな女でクラーケンに太刀打ちできんのか…!?」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「どうなんだよ!!?

 あいつが殺られてお前らまで殺られたらあの化け物は真っ直ぐ村の方までいっちまうぞ!?

 そうなりゃ川の方に隠れてる俺の村の連中が「黙って見ていてください。」…!?」

 

 

 

「ボク達にもどうなるか分かりません………。

 前に倒したブルータルに比べてクラーケンがここまでの強敵だったとは思いもしなかったんですから。」

 

「ミシガンは私達の仲間です。

 私は仲間を信じます。

 一人でお相手するということはミシガンにも何か策があってのことでしょう………。

 ………それよりもシーグスさんは水属性の術を得意とした部族の方ですよね?

 でしたらファーストエイドもお使えになるのではないですか?」

 

 

 

「ファーストエイド?

 いっ、一応俺も使えるが………?」

 

 

 

「ならカオスの治療をお願いします。

 私はウインドラさんの治療で手一杯なので私達の中で他にファーストエイドを使えるミシガンがクラーケンの相手を申し出てしまったので手が空いていないのです。」

 

「旗色が悪いようなら撤退も考慮にいれなければならないので今の内に動けない二人を走れるようにまでしないといけません。」

 

 

 

「わっ、わかッた…!!

 『癒しの加護を我らに……………………ファーストエイド!!!』」パァァ………

 

 

 

「………これで二人が持ちなおせれば振り出しに戻せますが………。」

 

「ミシガンは…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラーケンを相手にどう立ち回るのでしょうか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオォォォォォォォォォォォッッ!!!!」ブブブブブブジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァァァァァンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ォォォ…………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何度やっても同じだよ!!

 私には水系の攻撃は効かない!!

 そんな墨ぶっかけられたところで服が黒くなるだけ……………!?」ブォォオォォォォォンッッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ヒッ………ヒェェェ………危なぁっ………。

 ちょっ………ちょっと…?

 攻撃するなら墨だけにしてくれないかな………?

 そんなぶっといもので叩き付けられたら私なんて一瞬で………ギャァッ!!!?」ブォォオォォォォォンッッッッッドゴォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…墨は効かなくても触手のことは考えてなかったようですね。」

 

「………援護に行ってきます!」タッ!!

 

「お願いしますタレス!

 私もウインドラさんを治しましたら助太刀します!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッ!!!!」ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブォォオォォォォォンッ!!ブォォオォォォォォンッッッッッ!!!ブォォオォォォォォンッッッッッ!!!ブォォオォォォォォンッッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっ!?そんな…!!

 そんなに触手を振り回さな…………!?」ブォォオォォォォォンッッッッッ!!!!「ストーンブラストッッッ!!!」ドドドドドドッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォオォォォォォオォォォォオォオッ!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか!?

 ミシガンさん!!」

 

「…いっ、今のはヤバかった……!!

 マジで死ぬかと思った………!!」

 

「前に出過ぎですよ!

 一度距離を離しましょう!

 触手から遠ざかればクラーケンの触手もかわしやすくなりますから!」

 

「でもそれだとクラーケンが攻撃出来ないよ!?」

 

「あの巨体を相手にするにはボク達では火力が足りません!

 ここはカオスさん達が回復するまで撹乱に徹しましょう!」

 

「!!」

 

「幸いこの距離ならギリギリでクラーケンの触手が届くためクラーケンが距離を詰めてくることも無さそうなのでボク達は時間を稼いで「そんなのダメだよ!!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで私達が退いたらカオスとウインドラはまた………、

 私達を守るために無茶する………。

 そんなのダメだよ!!

 あのクラーケンは………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が倒さないといけないんだから!!」

 

 

 

「どうしてそこまで………?」

 

「………カオスとウインドラは私を仲間として口では認めてくれてるって言ってるけど戦うときになると二人は一番危ないところにだけは私を遠ざけようとしてる………。

 …私だけじゃない………。

 アローネさんやタレスだってそうでしょ……?」

 

「!」

 

「私達は皆平等に仲間だけど危険なことだけはいつもあの二人が引き受ける………。

 いつだってあの二人の背中を見ているだけしかさせてもらえない………。

 

 

 

 そんなのおかしいよ!!

 私だって戦えるのに何で二人だけが傷付いてばかりいるの!?

 ヒーラーだからって………女だからって理由だけで守られるくらいならそんな厚遇されたくないよ!!

 私だって私の手で皆を守りたいんだから!!」

 

「…ミシガンさんのようにボクもカオスさん達に子供扱いされてはいますが戦闘においては決定力に欠けるため仕方なしと割りきるしか………。

 それにヒーラーを守るのは当然だと思いますけど………。」

 

「そんな戦いのノウハウのことじゃないの!!

 私の気持ちの問題なの!!」

 

「ではどうするんですか?

 現状クラーケンの墨攻撃は防ぎきってますがあの触手の一撃はボク達の中でもっとも強いカオスさんですらやられてしまうのに………。」

 

「………」

 

「打つ手無しではやはり時間稼ぎをして五人で挑むしか「なんかね………。」…?」

 

「なんか………体の調子が変なの………。」

 

「ここにきてクラーケンのプレッシャーに当てられましたか……。

 あんな巨体を前にすればボク達人類が竦み上がってしまうのも無理は「そうじゃなくて!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか………………私今………、

 

 

 

 身体中から力が湧いてくるの………。

 あの墨を受け止めてから………体の中のマナが活性化してる感じがして………、

 ………今なら………、

 ……………………今なら私…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのクラーケンに勝てそうな気がするの!」



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経験不足な村人女A

ネーベル平原 南 夜 ミシガンサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオォォォォォォォォォォォッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝てそうな気がする………?

 何か対策を考え付いたんですか!?」 

 

「そうじゃないけど………、

 今の私………、

 いつもと違う………。

 なんか普通じゃない感じがするの………。」

 

「…クラーケンの墨を防げたから気が高揚しているだけではないですか………?

 あんな大きな敵の攻撃を受け止めて無事だったんですから強くなったと錯覚してしまっても無理ないですよ。」

 

「そうじゃないんだって!!

 多分今なら私アイツ倒せるから!!」

 

「曖昧すぎてそれでは何の根拠にも…………!?」ブォォオォォォォォンッッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォンッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「びっ、ビックリしたぁ…………。」

 

「…とにかく今ボク達に出来ることはカオスさん達の回復を待つしかありません。

 ボクはクラーケンの注意を引き付けておきますからミシガンさんは墨による攻撃をお願いします!」タッ!!

 

「あっ!?

 ちょっと!!

 ………あんな子供にまで舐められなんて……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………見てなさいよ?

 私だってやれば出来るってところを見せてあげるんだから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネーベル平原 南 夜 カオスサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、ゥゥ…………!

 ………いつッ…………!?」

 

「!

 気がついたか!

 バルツィエ!」

 

「………?

 シーグスさん………?

 ………俺は………!

 クラーケンの攻撃を受け止めて………!

 ………いっ……!?」

 

「止せ!

 まだ動くな怪我を治してる途中だ!」

 

「………ありがとうございます………。」

 

「…これだけ手酷く壊されてよく生きてたな……。

 普通の奴がクラーケンの攻撃を受け止めようものなら大抵は即死か全身の痛みに耐えかねて最悪ショック死してるとこだぞ。」

 

「どっちでも死んでるんですね………。」

 

「追加しとくとクラーケンに触れた時点で感染してゾンビ化するんだがな。

 ………お前らに会ってから本当にいろんなことが覆されちまってんなぁ………。

 この俺がバルツィエを治す火が来るなんてよぉ………。」

 

「まぁ、俺達は普通じゃないですから………。」

 

「そうかよ。

 ………そうだな。

 それじゃさっさと怪我治してお仲間の加勢に行ってやんな。」クイッ

 

「仲間………?

 

 

 

 ってミシガン!?」

 

「お前らが倒れてからあの嬢ちゃんがボウズと一緒にクラーケンを食い止めてやがる。

 見たところあの嬢ちゃんそんなに戦闘に向いてる方じゃねぇんだろ?

 さっきから墨の攻撃を耐える以外は触手を避けてるだけだ。

 あれもそう長くは続かねぇだろ。

 どっかで触手に捕まって終わる。

 その前にお前ら二人が復活して加勢してやれよ。」

 

「それはそうですけどこの怪我を治さないことには………、

 

 

 

 ………お前ら?」

 

「………隣見てみろよ?」

 

「隣?

 ウインドラ!!!?」

 

「お前が倒れた後にクラーケンが墨を吐いてきてな。

 それを食らってそうなっちまったんだ。

 あの嬢ちゃんは二回は耐えたんだがそいつは一発でそうなった。

 ………よく分からん体の造りしてんなお前達はよぉ。

 ヴェノムをものともしない力持ってる割りにはあの嬢ちゃんの方が打たれ強いってどうなってんだよ。

 今となっては俺もお前達と同類なのか?」

 

 

 

「気が付いたようですねカオス。」

 

「アローネ、

 ウインドラの容態は………ぐっ!?」

 

「落ち着いてください。

 クラーケンの墨が彼の苦手とする水質の攻撃だったのでそれを受けて重体にはなってしまいましたが命に別状はありません。」

 

「そう………。」

 

「…ですが戦闘復帰は臨めないでしょう。

 大分墨の攻撃が彼の体力を削ったようで意識の回復が見込めません。

 ………この戦い、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスとウインドラさん抜きで切り抜ける他ないようです。」

 

 

 

「!?

 俺はまだ…………うぁ…………!!?」

 

「そんな体で無理をならさないでください。

 今にも意識が飛んでしまいそうな程のダメージだった筈です。

 その体では到底次の攻撃を避けることは無理でしょう。」

 

「でもそれだとミシガンとタレスとアローネだけでクラーケンと戦うことに「少々お待ちを。」………!?」

 

 

 

パァァ………

 

 

 

「……これでウインドラさんは一先ず安静にしていればその内意識も回復するでしょう………。

 

 

 

 ……それでカオス。

 それからシーグスさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一つ………作戦を思い付きました。

 お二人に協力をお願いしたいのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネーベル平原 南 夜 ミシガンサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオォォォォォォォォォォォッ!!」ブォォオォォォォォンッッッッッ!!ブォォオォォォォォンッッッッッ!!

 

「………!、………フッ!」バッ!シュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………まるっきりあの子私なんて当てにしてないなぁ………。

 さっきのシーグスさんとのこともそうだけど少し達観し過ぎじゃないの………?

 どう育ったらあんな性格の悪い子供が育つんだろ…。

 あれじゃレイディーと大差無いじゃないの………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………けどレイディーと同じで性格が悪い割りには大変な役でも自分から乗り出してくれる………。

 カオスと一緒にいるくらいだしやっぱり根本の方は悪い子じゃないのかな………。)

 

 

 

 …だから私だけ何もしない訳にはいかない!!

 私よりも年下の子が必死になって戦ってるんだから私だけ見てるだけ守られてるだけじゃダメ!!

 私だって………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦うことが出来るんだから!!」ダッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 ミシガンさん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネーベル平原 南 夜 カオスサイド

 

 

 

「それでですね………「!?…ミシガン!!」!」

 

「あの嬢ちゃんクラーケンに突っ込んでったぞ!?

 どうするつもりなんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネーベル平原 南 夜 ミシガンサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」タタタッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(!

 何声を張り上げて突っ走って来てるんですか!?

 そんなのクラーケンに狙ってくれって言ってるようなもんじゃないですか!?

 アンタと出会ってから常々思ってましたけどアンタって本当に素人くさいド田舎の村娘のようですね!?

 そんな的になるようなことして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラーケンに殺られてしまっても知りませんよ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオォォォォォォォォォォォッッ!!」ブォォオォォォォォンッッッッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉぉぉぉぉ……………あっ、ヤバ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノリで叫んでみたけどこの後のこと考えてなかったわ…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(これは………完全に直撃コースだね………。

 この勢いじゃ避けられそうにないや………。

 ハハハ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私完全に終わったわこれ………。)」



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非力を嘆く過去

ミーア族の集落ヴァッサー 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………もう捜索は断念しましょう。」

 

 

 

「ミネルバ………。」

 

 

 

「夫は………シーグスはもう戻ってこない………。

 シーグスがあの連中を追って出ていってから今日で二日………。

 いえもう少しで三日目になろうとしている………。

 たった一人でこんなに長くまで帰ってこないと言うことは………彼等が私達の敵でシーグスを捕まえて連れ去ったのかそのまま殺されてしまったのか………彼等と関係ない場所でヴェノムに襲われてしまって帰れなくなったかしか考えられません………。

 これ以上の捜索は私だけでなく皆にも危険です。

 シーグスのことは………諦めてサンフへと帰りましょう………。」

 

 

 

「…本当に諦めてしまっていいのかミネルバ?」

 

「俺達のことを思って諦めるって言ってるなら気を使わなくてもいいんだぞ?」

 

「あの臆病者がそう簡単に捕まったりなんてしないだろ。

 きっとどこかで生きてるさ。」

 

 

 

「有り難う………。

 けどこれ以上この辺りを捜索して一昨日のようにモンスターやヴェノムに見つかって私達の住みかにまで押し寄せて来ないとも限らない………。

 一昨日はたまたまあの連中がアルラウネを撃退してくれたから良かったけどもしまた同じことが起こったら今度こそ………。

 …あの住みかだってそんなに快適じゃないんだから皆だってそろそろ疲労が限界の筈………。」

 

 

 

「それはそうだが………。」

 

「諦めるのは早すぎる………もう少し捜してみようぜ………。」

 

「そうだよ。

 まだ俺達だって諦めたくなんてない………。」

 

 

 

「………では今日は打ち切って明日もう一度捜してみましょう………。

 それでシーグスが出てこなければ皆も諦めて。

 この辺りはペリー達がクラーケンを命懸けでカイクシュタイフに追い詰めてくれたおかげで大分落ち着いてきたけどヴェノムが完全にいなくなった訳じゃない。

 ………せっかく彼等が命を張ってまで取り戻してくれた一時の安静を無駄にしてはいけないわ。

 数カ月前に比べてかなり数減ってしまった同胞をこれ以上私達のせいで減らすようなことはしたくないの………。」

 

 

 

「ミネルバ………。」

 

 

 

「………じゃあもうサンフの滝へ………!!」ドゴォォォォォォォォォォォ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、何だ!?」

 

「南の方からだ!!」

 

「南って………クラーケンのいるカイクシュタイフの……!?」

 

「まさかクラーケンがもう出てきたのか……!?」

 

「そんな馬鹿な……!?」

 

「あの洞窟の奥底に閉じ込めればエサが無くなるまで当分は安全だっただろ………。

 それが何で………?」

 

 

 

「………クラーケンが出てきたってことはそのエサが無くなったってことでしょう………。

 

 

 

 とにかく貴方達はこのことを皆に知らせに戻って!!

 私は本当にクラーケンが這い出てきたのか見に行くわ!!」タッ!

 

 

 

「わっ、分かった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネーベル平原 南 夜 ミシガンサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………これはダメだね………。

 

 

 

私じゃこれは避けられない………。

 

 

 

これで吹き飛ばされて終わり………。

 

 

 

私にはカオスのような強さがない………。

 

 

 

タレスのような身軽さもない………。

 

 

 

ウインドラのような頑丈さもない………。

 

 

 

アローネさんのような………思慮深さもなかった………。

 

 

 

………私にあったのはただ帰りたいって気持ちだけ………。

 

 

 

カオスとウインドラを連れ戻してまた昔みたいな日常に戻りたいって気持ちがあっただけ………。

 

 

 

そんな半端な気持ちで二人を追い掛けてここまで来たけど真面目に何かをしたかった二人と同じように上手くいくだなんて考えること自体烏滸がましかったんだよね………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私だってカオスやウインドラが頑張ってる間何もしてなかった訳じゃない………。

 

 

 

頑張ってる二人とせめて同じ地点で何かが出来るようになろうと村でも私は私なりに努力はしてたんだけどなぁ……。

 

 

 

………私には思い上がりだったみたい………。

 

 

 

あれだけ頑張ってても私は二人とは全然遠くにいる………。

 

 

 

近くにいても二人は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全然………遠すぎるよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秘境の村ミスト 七年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん、

 私警備隊に入りたい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何だ突然。

 急にどうしたんだミシガン………。」

 

「私警備隊に入りたいの!」

 

「どうして警備隊に入りたいんだ………?

 あれは村の男達だけでも十分なんだが………。」

 

「私強くなりたいの!」

 

「強くなりたい………?」

 

「そう!

 強くなってカオス君とウインドラを連れ戻しに行きたいの!」

 

「…あの二人はもう村には戻らないだろうな……。」

 

「………何で?」

 

「カオスは………村の皆と擦れ違いがあって戻れなくなったんだ………。

 ………ウインドラは自分から村を出ていったんだ。

 二人を連れ戻したところで二人の居場所はもう無いし………村の皆もそれを善く思わないだろう………。」

 

「何で!?

 お父さん言ってたでしょ!?

 二人があの日村の皆のために走り回ってたって!

 皆にそのことを教えてあげればいいじゃない!!」

 

「あの事件は………突発的にいろいろと起こりすぎた………。

 皆あれで深く傷付いたんだ………。

 あの事件のことは今でもまだ皆責任の行方を追い求めている………。

 その責任をカオスが引き受けてくれているんだ……。

 私達は彼の勇姿を汚すような真似はしてはいけない。」

 

「そんな難しく言うことじゃないでしょ!?

 ただ皆にカオスの誤解を解くだけじゃないの!!

 何でそれが出来ないの!?

 お父さん村の村長なんでしょ!?

 一番偉いんでしょ!?

 だったらいい加減に皆にカオスのことを許してあげるように皆に言ってよ!!」

 

「村長と言っても私はこの村の皆を臨時の際に代表して方針を決める程度の立場でしかない。

 私には村の皆の考えを改めされるような力は無いんだよ………。」

 

「どうしてよ!?」

 

「………私が弱いエルフでしかないからだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………で警備隊に私は入れるの………?」

 

「ミシガン、

 力を求めたところでお前の思い通りにはならない。

 二人がこの村に帰ってくることなんて無いんだ。

 お前に出来るのは将来私の後を継いで村を引っ張っていけるように騎士団の人達と友好的な関係を築いてウインドラの代わりにお前の隣に立つ者を村の中の男児達の中から選ぶ「ヤダッ!!」」

 

「警備隊に入れないんだったらもういいよ!!

 私一人で強くなるから!!

 そして強くなって一人で村を守れるくらいになったら私が村長を継ぐ!!

 継いでこの村が私のものになったらカオスとウインドラを連れ戻す!!」

 

「だから二人はこの村には戻らないと言ってるだろう…?」

 

「そんなの関係ない!!

 私の村になるんだもん!!

 私の村だったら誰にも私に文句なんて言わせないんだもん!!

 絶対に誰にも逆らったりできないくらい強くなってやるんだから!!」タタタッ!

 

 

 

「…………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………子供は真っ直ぐだなぁ………。

 ただの意地っ張りなだけなんだろうがとても純粋な思いが詰まっている………。

 私にも………あれくらいの心の強さが残っていたら………。

 友を失ってここまで弱くなっていなければ二人をまもってやれただろうに………。

 今の私にあるのはこれ以上いざこざを大きくしないということだけ………。

 これが本当の正解だとは思えない………。

 私にもこれが間違いだということは分かっているんだミシガン………。

 

 

 

 ………だがな大人の世界には例え間違っていることが分かっていたとしてもだからと言って正解が分かると言うことではないんだ………。

 私にもカオスと皆の仲をどう改善したらいいのかが分からない………。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………アルバ………ラコース………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はどうすればよかったんだろうな………………。」



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ミシガンに眠る力

ネーベル平原 南 夜 ミシガンサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………私はずっと一人で二人を連れ帰るために頑張ってきた………。

 

 

 

けど私が頑張ってきたことなんて二人に比べれば何もしてなかったのと同じ………。

 

 

 

二人はそれぞれちゃんとした先生がいてその先生の教えのもとに努力を重ねて強くなる道を歩んできた………。

 

 

 

私には………そんな人いなかった………。

 

 

 

私には先生なんて呼べる人がいなかったから一人が頑張るしかなかった………。

 

 

 

頑張って頑張って………二人に追い付こうとした。

 

 

 

そして追い付いたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう大丈夫だよ?ミストに戻っても二人の居場所は私が守るから………今度こそ私が二人を守ってあげるから………。

 

 

 

守られてるだけの私なんてもういない………。

 

 

 

私が二人を守る番だから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………思い上がりにも程があったね………。

 

 

 

二人は私なんかの努力が努力にならないくらい強くなってたのに………。

 

 

 

………そんな二人が勝てない相手に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が勝てることがある訳ないのに………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ウインドカッター!!!』」「『ファイヤーボール!』」シュシュシュンッ!!!バァァァッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボフォォォンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ…!?俺のファイヤーボールの威力が上がった……?」

 

 

「無暗に特攻するのは危険ですよミシガン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネさん………。

 アローネさんが私を………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達が後方から援護します!

 ミシガンは………クラーケンを倒してください!!」

 

「……しゃぁねぇ!!

 よく分からねぇ作用が働いたみたいだがとことんまで付き合ってやるぜ!!

 嬢ちゃん!!

 後ろからなんとか魔術で援護してやッから好きなようにやっちまいな!!」

 

「……ミシガン………!

 …俺達で触手は防ぐから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君の力を思いっきりクラーケンにぶつけるんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そっか………。

 今撃ったのはカオスの………、

 アローネさんとシーグスさんがカオスの力で増幅した魔術で私を守ってくれたんだね………。

 ………ボーっとなんてしてられないな………。

 私が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラーケンを倒さないとなんだもんね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオォォォォォォォォォッ!!!」ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうだよ………。

 私まだ何もやってないんだ………。

 やってないうちからこんな大きいだけのヴェノムに勝てないって諦めてた………。

 …私の後ろには守らなくちゃいけない人がいるのに何もしないで終わろうとしてた………。

 そんなのダメだよね。

 やる前から諦めてちゃ何も守れないよね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私はアローネさんやウインドラのような作戦を考えて相手にぶつかるなんて出来ない………。

 私に出来るのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の全力を出しきることだけ!

 相手の隙をうかがったりなんて上手いことは出来ない!

 だったら!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「触手にでも頭にでもいいから攻撃を当てることだけだよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スプラッシュ!!!」パァァァァッ!!!ザザザザッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ!!!ッッッッパァァァァァァァァァァァォァァァァァァァァンッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「……!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ!!?

 精々傷の一つでも付いたんじゃ…………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオォォォォォォォォォッッッッ!!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドザァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「触手が………!?」

 

「斬れた………!?」

 

「カオスの力で増幅された私のウインドカッターでも押し返すのが精一杯だった触手をたった一撃で…………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ミシガンさんにこれ程の力が………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………これは………、

 クラーケンの墨による攻撃を吸収したのもありそうですね………。

 この戦い………どうやら本当にミシガンさんならクラーケンとの相性がいいようですね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………えッ?

 これ私が………やったの………?

 こんな太い触手を………?

 ……ただ全力でスプラッシュを撃っただけなのに………。

 こんな簡単に………?」ジュゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥゥゥゥゥゥゥ!!」シュルシュル!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミシガン!!

 危ない!!

 触手が!!?」

 

「頭部から斬り落とされても自立して動いてやがる…!!

 腐ってもヴェノムかよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」「ストーンブラストッ!!!」ドトドドドドドドッッッッ!!!「ジュゥゥ…………!?」シュゥゥ…

 

 

 

「タレス!?」

 

「ミシガンさん、大丈夫ですか!!

 相手はヴェノムなんですから切り落としたとしても触手にも警戒が必要ですよ!!」

 

「ごっ

 ゴメン………。」

 

「別にいいですよ。

 それよりも今のスプラッシュは………?」

 

「…自分でも何であんな出力が出せたのか分からないんだけど……。」

 

「まだあのスプラッシュを出せますか?」

 

「え?」

 

「まだ出せるようなのであればミシガンさんはここからクラーケンの残り七本の触手を切り落とすことだけに集中していてください。

 触手のヴェノムはボクが倒します!」

 

「わっ、分かったけど………!?」ニュルニュル…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」ニョキニョキニョキ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「斬り落としたヶ所の触手が再生したか………。」

 

「せっかく一本斬り落としたと言うのにこれでは………。」

 

「いや!これでいいんだよ!!

 これがコイツを倒す本当の倒し方なんだからな!!

 

 

 

 オイッ!!嬢ちゃん!!

 再生したって構わねぇ!!

 どんどん斬り落としていきな!!!

 いくら再生したって質量には限界があるんだ!!

 斬って再生を続けていけばそのうちクラーケンは元々のモンスターの大きさのオクトスライミーレベルにまで弱体化する!!

 迷わず斬り崩せ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………らしいですね。

 ミシガンさん。」

 

「私は深いことは考えずに触手だけを相手にしていけばいいのね………。

 

 

 

 ………いいわ!

 やってやろうじゃない!!

 カオスとウインドラよりも前に出て私がただのヒーラーじゃないってところを見せてあげるんだから!!」



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ミーアに見守られる攻防戦

ネーベル平原 南 夜明け

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇ……………、

 すげぇよ!!

 マジすげぇよ!!?

 あのクラーケンが………ここまで追い詰められてるなんて………!!」

 

「シーグスさん!

 お喋りは倒した後にして私達はミシガンの援護を!

 ウインドカッター!!」パァァ

 

「何でだよ!

 もうクラーケンはあと一歩で倒せるところまで来てるじゃねぇか!?

 ここまでやりゃあ俺達の援護なんて必要ねぇだろ!?」

 

「気を抜いてはなりませんよ。

 相手は貴殿方ダレイオスの民を苦しめた九の悪魔………。

 倒しきるまで何が起こるか分かりません。」

 

「そっ、そうだったな………。

 浮かれすぎておかしくなっちまってたぜ………。

 じゃあファイヤー「シーグス!?」んぁッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーグス!?

 生きてたのかい!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミネルバ…!?

 何でこんなところに!?」

 

 

 

「何でってアンタを捜しに来てたんだよ!!

 アンタがあの連中を追い掛けてって行方不明になるから!!」

 

「馬鹿野郎!!?

 俺が戻らなかった時は俺のことは見捨てろって他の奴等に言っておいた筈だぞ!!?

 こんなヴェノムが徘徊するような危ないところまで来やがって!!

 さっさと戻れ!!」

 

「アンタが無事なのを知って私だけ戻れる訳ないだろ!!

 今まで何やってたんだよ!!?

 心配かけやがって!!

 このアンポンタンがッ!!」

 

「うっ、うっせー!!

 無事だったんだからいいだろうが!!」

 

「無事かどうかなんかよりも私はアンタが勝手に出ていったことの方が問題だと言ってるんだけどね!!

 アンタ何で私に黙って外に行ったんだい!!?」

 

「そりゃ……、

 こいつらが何者なのか調べるためだろうが……!

 こいつらが向かった先はクラーケンを押し込めたカイクシュタイフの方角だったんだ。

 下手な真似されてクラーケンを刺激してクラーケンが出てきちまったら今度こそこの地方は終わりだからな………。

 俺はミーアを代表してこいつらがカイクシュタイフの方に行かないようにしようと………。」

 

「で?

 アレは何だい?

 クラーケンじゃないのかい?」

 

「クッ、クラーケンです………ね。」

 

「結局出てきてんじゃないかい!?

 アンタ何をしに行ってたんだ!!?」

 

「さっ、最初は俺もコイツらをクラーケンのとこに行かせないようにしてたんだよ!!?

 けどコイツらがマテオから来たバルツィエだとかクラーケンを倒しに来ただとか言ってきてよ!?

 そんなん無理だと思うだろ?

 どうせクラーケンに行き着くまでにこの平原のヴェノムを見て諦めて帰るかと思ってたんだが………。」

 

「バルツィエ?

 クラーケンを倒しに来た?

 ………何でバルツィエがそんなお節介を焼こうとするんだい?

 バルツィエにとっては敵国の私達がどうなったって関係ないと思うんだけど………?」

 

 

 

「私達にも都合があるのですよ。」

 

 

 

「………アンタ達が例の不審な五人組だね………?

 見たところ全員若そうだが………。

 うちのシーグスと一緒にいるところを見る辺り敵では無さそうだけど………バルツィエってのは?」

 

 

 

「…俺のことですけど。」

 

 

 

「アンタ一人だけかい?」

 

 

 

「バルツィエは俺一人だけです………。」

 

 

 

「それで?

 うちのシーグスを連れ回して何をしようってんだ?

 まさか本当にクラーケンを倒そうってじゃないだろうね?

 アイツはミーアが相手取ってきた中で歴史上最悪のモンスターだ。

 そんな敵をバルツィエが相手にしようとするなんて裏がありそうで信用できないね………。

 ………それに見たところそのバルツィエもクラーケンを相手に重傷のようだし今カイクシュタイフから逃げ出してきたってところかい?

 余計なことをしてくれたもんだね………。

 おかげで私達ミーアはアイツにこのままこの地方を滅ぼされて………………?

 

 

 

 ………滅ぼされて………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『水流よ!我が手となりて敵を押し流せ!!

 アクアエッジ!!!』」パァァァァ!!!!ザブンザブンザブンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!?????」ザスッザスッザスッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドフォオォォォンッドフォオオォォォンッドフォオオォォォンッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ジュゥゥゥゥゥゥゥ「『ストーンブラスト!!』ジュゥゥ…………!!」」」」ドドドドドド!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………何だいこの光景は…………。」

 

 

 

「確かに俺達はクラーケンを倒すためにシーグスさんにクラーケンの居場所まで案内させましたけどただ逃げてきただけじゃない………。

 ここまで誘き寄せたんですよ。」

 

「そうです。

 まだ戦闘は続行中です。

 貴女は………危ないので下がっていてください。」

 

「そうだぜミネルバ!

 お前は下がってろ!

 ここは俺達でクラーケンを倒すからよ!!」

 

 

 

「………クラーケンが………一方的にやられている………?

 あんな………魔術でどうやって…………?

 バルツィエですら無理だと言われていたクラーケンが………?」

 

 

 

「ヘヘヘ!

 普通に戦ってたらクラーケンは倒せねぇがな!

 こいつらはただのバルツィエじゃねぇぜ!?

 こいつらは天然のヴェノムキラー!………いや!

 “ヴェノムスレイヤー”だ!!

 コイツらにかかればヴェノムの不死性も形無しだしコイツら自体にもヴェノムは効かねぇ!!」

 

 

 

「ヴェノムが…………効かない………?

 それはつまり………感染しないってことかい………?」

 

 

 

「その通りだ!!

 後ついでにその力を他人にも付与出来るようだぜ!?

 俺もさっきヴェノムに殺られちまいそうになってたがコイツらに治療されてあっという間に完治したぞ!」

 

 

 

「ヴェノムが完治だって………?

 ………状態回復魔術“リカバー”ですら完治しきれないヴェノムウイルスをどうやって………?」

 

 

 

「そんな常識なんざコイツら………この先生方には通用しねぇのさ!!

 見てみろよ!!

 あのクラーケンの姿をよぉ!!

 アイツ最初カイクシュタイフの洞窟ぶっ壊して出てきた時はあの後ろの瓦礫の山くらいにでかかったのに今はもう半分くらいにまで縮んでやがる!!

 この調子で攻め立て続ければ朝までにはクラーケンも倒しきれるだろう!!

 俺達を苦しめ続けてきたあの悪魔が今!今日この日の終わりと共に消え去ろうとしてんだ!!

 俺達をずっと悩ませ続けてきたあのタコ野郎が………!!

 ペリー達の仇がやっと………今日……!!!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「………今日まで俺達の長く苦しめられてきたあのクソ悪魔の支配は終わる!!

 明日から!!

 後数時間のうちに俺達ミーアは!!

 

 

 

 ヴェノムの主のいない新しい門出の日を迎えられるんだ!!

 ミネルバ!!

 お前も俺と一緒にそのめでてぇ瞬間に立ち会おうぜ!!」

 

 

 

「………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………さっきは戻れとか言ってたのに………。

 …それにしてもこの連中………本当に何者なんだい………?」



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奢った結果

ネーベル平原 南 夜明け

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スプラッシュ!!!」ザバァァァァッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ォォォォォォォォォッ!!!」ザスパァァァァァァッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストーンブラスト!!」ズドトドドドドド!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 タレス…!」

 

 

 

「ここまで小さくできれば後はボクとミシガンさんの二人で畳み掛ければ直ぐに終わり「オオオオオオオオッ!!!!!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオ!!!!」ブブブブブジュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「墨……!?

 しまっ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビシュンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガハッ…………!?」

 

 

 

「タレス!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タレス!?」

 

「あのボウズに墨攻撃がいきやがったか…!

 嬢ちゃんは防げるようだがボウズには無理だったのか…!」

 

「………スミマセン、シーグスさん、

 それからそこの貴女。

 カオスの治療をお願いします。」タッ!

 

「へっ?

 おっ、おい!

 どこ行くんだよ!?」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

「私はタレスがウインドラさんのように重傷を負っていないか確認しに参ります!!」タタタッ!

 

 

 

「おっ、お~い!?

 ………まぁいいか………。

 …ミネルバ……このバルツィエを治すのを手伝ってくれ。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「どうしたミネルバ?」

 

 

 

「…その坊やは………バルツィエなんだよね………?」

 

 

 

「………そうだが………。」

 

 

 

「………じゃあ………今………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千載一遇のチャンスなんじゃないのかい………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 

「クラーケンを…………ヴェノムの主をダレイオスに放ったのはバルツィエなんだ………。

 それだったら………クラーケンをバルツィエが倒しに来たからって私達が恩を感じたりするのも変な話だよね………?

 原点に帰れば元々悪いのはバルツィエなんだしさ………?」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「…この先さ………、

 ペリー達の仇を撃つような機会なんて無いと思ってた………。

 アンタはクラーケンを恨んでたけど私はクラーケンを放ったマテオの………バルツィエが憎かった………。

 私にとってはバルツィエこそが根元………。

 ペリー達だけじゃない………。

 百年前のヴェノム大発生ですら私はバルツィエが原因だと思ってる………。

 ………だからバルツィエを討てるのなら私は今すぐにでも討ちたい………。」

 

 

 

「………」

 

「………」ハァ…

 

 

 

「………ねぇシーグス………、

 …こんな私………何か、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間「お前の気持ちは間違ってなんかねぇよ!」だったら!「間違ってはねぇがそのことは今は我慢しろ!!」何で!?」

 

 

 

「コイツはなぁ!

 確かにバルツィエだがバルツィエじゃねぇ!!

 俺達の知ってるバルツィエとは別物なんだ!!

 俺の親お前の親、俺達の………族長達皆を死なせてきたバルツィエ達とはどこか違うそんな奴等だ!!

 

 

 コイツらは俺を助けた!

 俺みたいな何の利用価値もない奴を何の見返りもなく助けやがったんだ!

 バルツィエの連中だったらそんなことする筈がねぇ!!

 コイツらが本当にバルツィエだったんなら俺は今こうして生きてる訳がねぇんだ!!」

 

 

 

「シーグス………。」

 

 

 

「……今はコイツらに協力してクラーケンを倒すのが先決だ。

 お前もこのバルツィエを治すのに手を貸してくれ………。」

 

 

 

「…相変わらず情に流されやすい………。

 アンタがそうやって手を貸すのを計算ずくで助けたんじゃないの?

 アンタが心を許すのを計算してその後私達の居場所を吐かせようとしてるんじゃないのかい?

 利用価値なんてそれくらいで十分でしょ………。」

 

 

 

「………そうなのかもな………。

 確かにコイツらはある目的でここまで来たって言ってやがった………。

 その目的のためには俺達ミーア全部を一堂に会した場が必要になるだろうからな。」

 

 

 

「それって「お前が想像してるようなことじゃねぇよ。」……… 。」

 

 

 

「…だがコイツらがしようとしてることはとんでもねぇスケールのことだ。

 もしかしたら俺達は俺達じゃ計り知れない程のプロジェクトのスタートに立ち会うことになるかも知れねぇ………。

 

 

 

 ………俺は………俺達ミーアは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コイツらに全面協力してその流れにいち早く乗るべきだと思う………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そこまでシーグス………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タレス!!

 大丈夫ですか!?」

 

 

 

「うっ………うぅっ………!」

 

「傷は…!?

 傷はどのような………!?」

 

「なっ、………なんとか耐えられましたが………。

 いつつ………。」

 

「………ウインドラさんのような強烈な痛みは………?」

 

「?

 ………腹部を水圧で軽く切り裂かれた以外は得には………?」

 

「………そうですか………。

 では先ずは回復を……。」パァァ………

 

「有り難うございます………。」

 

 

 

「(………やはり相反する属性の攻撃にのみウインドラさんのような過剰なダメージを負ってしまうということですね………。

 ………ではこのタレスの傷は純粋なクラーケンの………?

 

 

 ミシガンは………これ程の水圧の攻撃を素手で………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このぉッ!?

 墨を吐くなら私にしなさいよ!!

 私ならアンタの墨なんか………!?」ゴオォォォォォォォォォォ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!?

 ちょっと…!?

 何かスピードが早く…………ィアッ!?」バシィィィィィィンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 ミシガンッ!!?」「ミシガンさん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミシガン!!?」「嬢ちゃんが………!?」「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ミシ……………………ガン……………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ………あぁぁぁッッッ!!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズザァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオォォォォォォォォォッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「……………エホッ!!?

 エホッ!!!!?」ビシャッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………油断したわ………………。

 

 

 

後もう一息で倒せそうだからって気を抜いてた………。

 

 

 

私が攻撃を避けられてたのは私の足が早かったんじゃなくてクラーケンの振りかぶりが大きくて攻撃のスピードが遅かっただけ………。

 

 

 

規模が大きすぎて触手のスピードが遅かったことに気付けなかった………。

 

 

 

………私が触手を斬り落としてクラーケンの体が縮んだから触手が軽くなって攻撃のスピードが上がったんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………こんなこと回りがよく見えてたら誰にでも分かることなのに………。

 

 

 

こんな簡単なことも分からずに私は………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………こんな大事な場面でも素人臭さが拭えないんだから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミシガァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!?」



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捕食される村娘……しかし、

ネーベル平原 南 夜明け

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズリズリズリ…………

 

 

 

「………っ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミシガン…!

 クラーケン…………何を…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嬢ちゃんがクラーケンに捕まっちまったぞ!!?」

 

「ミシガン!!?

 助けなきゃ………グッ!?」

 

「待て待て!!?

 お前は今動ける状態じゃねぇだろうが!!

 俺が嬢ちゃんを「ミシガァァァァァァァァァァァァァンッ!!!」!?」ビクッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミシガン!!

 クソッ!!

 ミシガンがどうして……!?」

 

 

 

「………こっちも意識が戻ったか………!

 だがお前は…………大丈夫なのか!?

 さっきスッゲー帯電してたみてぇだが………?」

 

「俺のことなんてどうだっていい!!

 戦況は!?

 何故ミシガンが一人でクラーケンを相手にしているんだ!!?」

 

「…お前がクラーケンの墨をぶっ被った後嬢ちゃんとボウズが二人でクラーケンを相手にしていたんだ。

 俺達も魔術で援護してクラーケンに有利に戦ってたんだがここに来てクラーケンが縮小化して動きが速くなってな…。

 嬢ちゃんが対応できずにぶっ飛ばされて今に至ってんだよ。」

 

「何だと…!?

 ミシガンが………?」

 

「あの嬢ちゃん意外と強いんだな………。

 あのクラーケンのぶっとい触手を次々斬り落としていって………、

 いいペースで斬り落としていってたからこのままクラーケンもあの嬢ちゃんが倒すんじゃねぇかって思ったんだが………。」

 

「…あいつは戦闘に関しては一般人とそう変わらん!

 ヴェノムを倒すことは出来てもギガントモンスターを相手にするにはミシガンでは荷が重たすぎる!!

 ………だから無理はするなと言っておいたというのに………!!」

 

「………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………とてもそんなに力が足りないようには見えなかったが………?」

 

 

 

「………いいのかい?

 あの子クラーケンに食われちまうよ?」

 

 

 

「「「!!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ぅ…………ッ…………!」ズリズリズリ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ミシガンを捕食させる訳にはいきません!!

 ミシガンは返して…………くっ!?」バシィィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオッッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?

 ウインドカッター!!」シュバッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!

 私一人ではミシガンのように触手を斬り落とすことが出来ない………!!

 これではミシガンを助けに………!!

 

 

 

 ……………!?」ズリズリズリ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥゥ…………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「触手から液体…………!?

 あれは…………ヴェノムの………体液!?

 あれで何を…………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベシャァァァァァアッ!!!! ニュルニュル…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミシガンがクラーケンの触手に飲み込まれた……!?」

 

「クラーケンはあぁやって千切られた触手を他の生物を吸収することによって質量を補充するんだ………。

 補充に使うのはゾンビだろうがヴェノムだろうが普通の生物だろうが何でも使う。

 生きていてマナさえ持ってるならクラーケンの千切られた触手の代わりにはなるみてぇだ。

 ………嬢ちゃんがあれだけ斬り落としたからクラーケンも代わりになる奴が欲しかったんだろうが………二つの意味で大丈夫なのか………?

 コイツらはヴェノムで体が溶けたりなんかしねぇだろうが………。

 ………それに溶かせたとしてもヴェノムにとってコイツらは逆にこの世でただ一つの毒にしかならないんじゃ………。」

 

「………冷静に分析してる場合………?」

 

 

 

「そんな暢気に構えてられるか!!

 ミシガンを……!!

 ミシガンを救わなくては…………!!!」グググ…

 

 

 

「おっ、おい本当に大丈夫なのか!?

 今にもお前倒れそうだぞ!?」

 

 

 

「…………!!!!

 ………全身に力が入らない……!!!

 

 

 

 シーグス!!」

 

 

 

「なっ、なんだよ!?」

 

 

 

「俺に!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺にライトニングを放て!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

「は!?

 お前にライトニングをか!?

 気は確かかよ!?」

 

 

 

「俺は正気だ!!

 頼む!!

 俺にライトニングを撃ってくれ!!

 それで俺は全快する筈だ!!」

 

 

 

「攻撃魔術で全快するって………!

 益々どうなってんだよお前ら………。」

 

 

 

 

「早くしろ!!

 あまり時間をかけるな!!

 一刻も早くミシガンをあの触手の中から取り出さなければならんのだぞ!!」

 

 

 

 

「そう急かすなよ!?

 …ライトニングを使えばお前の体力が回復すんだろうが生憎俺はライトニングを使えねぇ……。

 俺には雷の適性が無かったからな………。」

 

 

 

「!

 ではこの状態でもミシガンを助けにいくしか「ライトニングが使えればいいのかい?」!」

 

 

 

 

 

 

「ライトニングなら…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が使えるけど………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?

 誰だお前は………?」

 

 

 

「こっ、こいつは俺の「ミネルバ………アンタらが連れ回してたシーグスの仲間だよ。」………。」

 

 

 

「そうか………。

 では急な頼みだが俺にライトニングを使ってくれないか…?」

 

 

 

「何でだい?」

 

 

 

「少し特殊な体質をしててな。

 俺は雷を受けると回復するんだ。」

 

 

 

「そうかい………。

 それって………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエの技術かなんかなのかい?」

 

 

 

「………何?」

 

 

 

「答えなよ。

 アンタ達は一体何なんだい?

 マテオから渡ってきたみたいだけどアンタらは何がしたくてここまで来たんだい?

 クラーケンを倒しに来たらしいがそれってマテオの技術を実験しに来ただけなんじゃないのかい?

 常人が自分から進んで攻撃魔術を食らおうなんて耳を疑っちまうよ。

 そんなことすんのは大抵バルツィエのイカレ共くらいにしか思い付かないんだけどアンタらもバルツィエらしいじゃないか。」

 

 

 

「………」

 

「ミネルバ!

 コイツらは俺を治したって言っただろう「アンタは黙ってな!!」!」

 

 

 

「教えてくれないかい?

 アンタら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスの敵なのかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達は………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスの敵ではない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だが味方でもない………。

 俺達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今マテオにいるバルツィエの敵だ。

 あいつらを滅ぼすためにダレイオスまで来た。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうなのかい………。

 信用するのには全然足りないし素直にアンタらの指示に従うのも何か従わさせられたみたいで癪だよね………。」

 

 

 

「…俺達が怪しいのは確かだと思うが今は…」「まぁ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 要求してくるのがただの回復魔術だってんなら従ったりはしなかっただろうけど攻撃魔術だってんならアンタらの要求通りだし何か嘘を付いていたとしても恨まないどいてくれよ?」

 

 

 

「!

 それでは………!?」

 

 

 

「『落雷よ!

 我が手となりて敵を撃ち払え!!

 

 

 

 ライトニング!!』」パァァ…ピシャァァァッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!

 おっ……オオオッ!!!!

 体に力がみなぎる!!

 これで俺もまた戦え……………!?」ザバァァァァァァァァァ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まだ………終わってないよ………。

 …このクラーケンは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の獲物なんだから!!!!」



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復活劇からの討伐

ネーベル平原 南 夜明け

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ミシガン?」

 

「…あの嬢ちゃん、

 自力でクラーケンの中から出てきやがった………。」

 

「ただ出てきただけじゃない………。

 クラーケンの触手を水の力でバラバラに粉砕して………。」

 

 

 

「………何なのこの人達………?

 ウイルスが効かなかったり雷撃で傷が治ったり………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………クラーケンに吸収されたのに逆に中からクラーケンに攻撃を加えたり………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…さっきまでは意識が途切れそうなくらい痛かった………。

 

 

 

触手に叩き付けられて触手に締め上げられて本当に死ぬんじゃないかって思うくらい苦しかった………。

 

 

 

………でもクラーケンの触手に取り込まれて体中の傷口からヴェノムが私の中へと侵入してくるのを感じてから逆に痛みが引いていった………。

 

 

 

これは………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………多分クラーケンの体内の墨……その墨に含まれている水分を私が吸収して傷を癒してるんだ………。

 

 

 

……………癒してるだけじゃない………。

 

 

 

水分を吸収したことによってまた私のマナがパワーアップしてる………。

 

 

 

今度のは………最初に墨を受けた時よりも強力に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………それだけじゃない…………。

 

 

 

何かが頭の中に入ってくる感じがする………。

 

 

 

これは………魔術………?

 

 

 

私の頭の中に魔術の…………呪文?

 

 

 

………こんな呪文は………今まで聞いたことがない呪文……。

 

 

 

…私の頭の中で未知の呪文が浮かび上がってくる………。

 

 

 

この呪文は………今なら放てる。

 

 

 

この膨れ上がったマナさえあればこの術は発動する!

 

 

 

そう思う!

 

 

 

まだ発動したこともない魔術なのに射てるって確信を持って言える………。

 

 

 

まるで昔からこの術を知ってたようなそんな感覚にさえなってくる………。

 

 

 

………この感覚が………アローネさんが言ってた声の正体………?

 

 

 

私達は………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の属性のマナを吸収すればするほど強くなって新しい術も使えるようになってるんじゃ………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミシガン!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオォォォォォォォォォッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クラーケン…!!

 流石にヴェノムの主………!!

 最初の体の大きさの半分以上に小さくなってその状態から体の三分の一を吹き飛ばされてもまだ生きているのか………!!」

 

「ミシガン!!

 避けて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオォォォォォォォォォッッッ!!!」ブォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………このクラーケン………。

 

 

 

………こんなに………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弱そうに見えるのは何でだろ………?

 

 

 

けどこんな相手ならこの術で倒せる………。

 

 

 

今の私なら………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この一撃で倒しきることが出来る!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりだよクラーケン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシィィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「!!?」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオォォォォォォォォォ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『清蓮より出でし水煙の乙女よ………

 破浄なる柱を天へと結べ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スプレッド!!!!』」パァァァァァァ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジョォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオッッッ…!?……………………オッ!?

……………!!!!????」ザザザザザザザザザザザザザザザザッッッッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァァァァァァァ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!!?????」ザザザザザザザザザザザザザザザザ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クラーケンが………水の………水の竜巻に飲み込まれていく……………!?」

 

「何だありゃあ!!?

 あんな術見たことねぇぞ!!?」

 

「これが………ミシガンの力………!?」

 

「いつの間にミシガンさんはあんな術を使えるようになって………?」

 

「………恐らくこの戦闘の中で編み出したのでしょう………。

 私達の力はまだまだ私達の知らぬ力が隠されている………。

 その力がクラーケンの水流攻撃によって引き出された………。

 ……いえ………引き出されたのではなく………、

 

 

 

 新たなる扉を開いた………。」

 

「………」

 

「……私達にもクラーケン程の敵の属性攻撃を受ければあのような術が発現するのかもしれません………。」

 

 

 

 

 

 

「………コイツらは…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこまで人離れした力を持ってるんだ……………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ィアァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオ……………オオオオオ………!!?

 オオオオ…………オオオオオオオオッッッ!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!!

 まだ倒せないなんて………!!

 けれどアンタは……!!

 

 

 

 アンタだけは私一人で倒す!!

 私一人でカオスやウインドラと同等に戦えるってことを証明して見せる!!!」パァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオッッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?

 まさか!!?

 追撃!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『清蓮なる水煙の乙女よ!!破浄なる柱を天へと結べ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スプレッド!!!!!』」ザザザザザザザザザザザザザザザザバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオッッ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオッッッッ…………………ッ……!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ……………!オォッ……………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ………!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ……………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ォ………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァァァァァァァァァァァァァァァァァァ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どっ…………どんなもんだい!!

 私だって…………やれば出来るん……だから…………。」フラッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ………



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暗雲

ネーベル平原 南 早朝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ミシガン(さん)!!!」」」」タタタッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………フゥ………フゥ………。」

 

 

 

「大丈夫かミシガン!!?」ガバッ!

 

「だ、………大丈夫………だけど………。」

 

「先程のクラーケンの触手による負傷は………、

 ………どうやら回復しているようですね………。」

 

「それは………クラーケンの体の中でなんか治ったみたい………。」

 

「…怪我は無さそうですがマナが著しく減少しているようですね………。」

 

「う、うん………クラーケンを倒さなきゃって思って………私の全魔力を込めてさっきのアレやったから………もうクタクタだよ………。」

 

「そっか………ミシガン………凄かったね………。

 俺なんてクラーケンの攻撃を受けてもう体がボロボロで………いつつ…!」

 

「カオスの方が重体じゃない………。」

 

「!

 そうでした!

 カオスの治療を再開しないといけませんね。」

 

「…ごめんねアローネ、ミシガンも。

 ……今回俺前衛職なのに良いところ無しでなんか申し訳ないな………。」

 

「それについては俺も同じだ。

 守ると言っておきながらたった一度の攻撃を食らって早々に戦線をリタイヤしてしまった………。

 盾となるべき元騎士としては不甲斐ないばかりだ………。」

 

「それを言うのならミシガンさん以外は洞窟で触手を切断する以外は特に善戦していませんよ。

 あの作業ですらクラーケンにはダメージを与えていたかどうかですし………。」

 

「…私達四人ともクラーケンに致命傷となる傷を負わせることは出来ませんでした………。

 ………このヴェノムクエストは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミシガンの勝利です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………えっへへへ………。」

 

「それにしてもよく魔術の追撃を発動出来ましたね………。

 スキル習得を補佐するレンズも装備してませんよね?」

 

「追撃だけではありません。

 先程の魔術はミシガンのオリジナルですよね?

 あのオリジナルの魔術を編み出したことだけでも目覚ましい快挙ですよ。

 魔術の研究は魔術と言うものが確立してから長い間魔術の発動速度や魔技、追撃といった元の魔術に少し改良を施したものしかこの数千年……………?

 ………数百億年開発出来なかったと言うのにそれを戦闘の最中でよく……。」

 

「その魔技や魔術を開発したと言われる昔の偉人達も最初は野生のモンスターの放つ魔術を参考にして少しずつ誰もが使えるように研究していったらしいしな。

 スキルに関しても最初に体得した者はレンズ無しで編み出したと聞く………。

 今回ミシガンが新しく体現させた術は俺達の備わった能力によるところが大きいのだろうがそれでも形に出来たのは当人のマナを操る技能が高かったこともあるんだろう………。

 

 ………俺がお前と会わないうちによくここまでマナの技能を上げたな。

 昔はファーストエイドのような攻撃性のない術しか使わなかったのに………。」

 

「…私………ウインドラと再開してから結構攻撃魔術使ってたと思うんだけど………。」

 

「…そうだったな……。」

 

「もう!

 ウインドラもカオスも私を守ろう守ろうとし過ぎて全然私のこと見てなかったんだね!

 私だって猛特訓して二人に負けないくらいに強くなったんだからね!」

 

「そっ、それは………!?」

 

「昔からミシガンだけは怪我してほしくなかったからつい癖で………。」

 

「まったく!

 …これで私も二人と同じく戦力として数えてもらってもいいよね!」

 

「?

 何を言ってるんだ?

 そんなことはダレイオスに来た時からそう言ってただろう?」

 

「俺もミシガンのことは同じ仲間として扱ってきたつもりだけど…?」

 

「そうは言うけど…二人ってモンスターとかと戦いそうになった時とかは真っ先に自分達だけで戦おうとしたり夜とかも見張りを私にさせてくれたりしないじゃない。

 ……仲間って言ってはくれているけど………なんか姫扱いされてる感じがして今一同じ立場って感じがしないの………。」

 

「「………」」

 

「………二人がずっと皆を守るために努力してきたのは分かってる………。

 …分かってるけどもっと………、

 もっと私を頼ってよ!

 私だって二人と同じなんだから!

 私だって二人を守りたいの!

 私だって………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと頑張って二人の帰りを待ってたんだから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………スプレッド………。

 ミシガンが新たに得た力………新たな術………。」

 

「あの力のおかげでクラーケンを無事に討伐しました………。」

 

「出だしにしては手こずる相手だったがこれでダレイオス再興の一手を打てた………。」

 

「あのクラーケンがダレイオスでも最強のヴェノムの主だって言うんなら………この先に待ち受けている主達は俺達でも倒せるってことだよね。」

 

「私が倒したのが一番ダレイオスで災厄を撒き散らすヴェノムだったんならそれがいなくなったんならもうこの地方がヴェノムに侵されることはない………。

 ………私達の旅は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間違ってなかったんだね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………やりやがったな……アイツら………。

 マジでやりやがった………。

 ………あの………誰も倒せないとされていたヴェノムの主………クラーケンを………マジで倒しやがった……!!!!」

 

「………」

 

「ハッ……………ワッハハハハハ!!!!!

 やりやがったよアイツらァッ!!

 なぁ!

 見たかよミネルバ!!?

 アイツら本当にやりやがった!!!

 あのクラーケンを正面から消しやがった!!!」

 

「………見てたわよ。」

 

「見てたんならもっと喜べよ!!

 クラーケンだぞ!!?

 クラーケンが倒されたんだぞ!!?

 あのクラーケンが意図も簡単に吹き飛ばされやがった!!!

 何だよあの魔術はぁ!!?

 あんなん初めて見たぜぇッ!!

 あんなのバルツィエの奴等だって使えねぇだろォッ!!

 アイツらスッゲーゼェッ!!

 ってかあの嬢ちゃん!!

 最初は後方支援のサポート役なのかと思ったがバリバリの主戦力じゃねぇか!!

 ッつーよりあの嬢ちゃんこそがアイツらの中で一番強いんじゃねぇのかァッ!!!?」「バカッ!!そんなのどうだっていいんだよ!!」

 

 

 

「アンタ………アイツらの中にバルツィエは一人しかいないって言ってなかった………?」

 

「………?

 言ったが………それがどうかしたのか?」

 

「…だったらあの女は何なんだよ………?

 あんなに高い魔力を持ってる奴なんてそうそういる筈がない………。

 それこそバルツィエでもない限りあんな術なんか使えたりしない………。

 

 

 ……あの女もきっとバルツィエだ………。

 アンタやっぱり騙されてんだよ………。

 あんなマナはバルツィエ以外に持ってる奴がいるわけがない………。

 何もかもが嘘ッぱちだ………。

 クラーケンだってもとはといえばバルツィエが放ったモンスターだ………。

 …………アイツらは…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対に信用ならない………!」



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暗雲を晴らして

ネーブル平原 南 夜

 

 

 

「おいおい………。

 信用ならねぇって言ったってアイツらが俺達の天敵だったクラーケンを倒してくれたことにかわりはねぇじゃねぇかよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ガサッ!

 

 

 

「だからそれが出来るのってどう考えてもバルツィエの奴等としか………「ジュゥゥゥ!!!」!?」

 

「!!?

 危ねぇっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミネルバァッ!!!」ガバッ!ドンッ!!

 

 

 

「シーグス……!?」ドサッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 

 

「そんな……!?

 待って………!!

 ダメ!!

 シーグス!!!」

 

 

 

 

 

 

「そうだった………。

 まだこの辺には普通のヴェノムも湧いてるんだったね。」

 

「だったらまた私のスプレッドで。」「待つんだミシガンこの程度の相手なら俺で事足りるだろう。

 ………ライトニング!!」ピシャァァッ!!ジュッ………

 

「…これで一安心です「シーグス!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーグス!?

 しっかりしてこんなところでヴェノムなんかに「ふぅ~いてて………火傷しちまったぜ。」!?」

 

「シーグス………?

 ヴェノムに触れられたのにどうして………?」

 

「ん?

 言ったろ?

 コイツらに治療してもらったって。

 そのおかげでどうやら俺もウイルスが効かない体になっちまったようだぜ。」

 

「………本当に………ウイルスが………?」ジュゥ…

 

「!!

 ってお前ミネルバ!!

 俺に触るんじゃねぇよ!?

 俺はコイツらのおかげでウイルスが効かねぇがお前は別だろ!!

 普通の奴が俺の怪我なんか触ったりしたら………!?」

 

「………!

 ………焦ってついアンタに触っちゃったね………。

 ……私も………ここまで………か。」ジュゥゥゥ………

 

「あぁあ……… どうすりゃいいんだ…!?

 ………、

 

 

 

 せっ、センセー方!!

 頼む!!

 ミネルバを!!

 俺の妻を救ってやってくれェッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?

 誰あの女の人………。

 いつの間に出てきたの………?」

 

「ミシガンがクラーケンを相手してるときに出てきてたよ。」

 

「妻………と言うことは彼女もミーア族の………。」

 

「盗賊の類いでは無いことが証明されましたね。

 身なりからして盗賊には不向きの格好です。」

 

「始めから疑ってはいませんでしたよ。

 それよりも彼女の治療をしなければ………。」

 

「そうだね。

 それじゃ………アローネお願いできる?」

 

「はい、ミシガン程戦闘で消耗はしてはいないのでここは私が治療します。

 カオスも………と動けないのでしたね。」

 

「カオスは俺が連れていく。

 アローネ=リムは彼女を連れてきてくれ。」

 

「分かりました。」ザッ…

 

「……………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先生方………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『彼の者を死の淵より呼び戻せ………、

 レイズデッド。』」パァァァァ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「ミネルバ………。」

 

「……………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……?

 ……私は……………?」

 

 

「おおぉぉぉぉぉッ!!

 ミネルバァァァ!!!」ガバッ!!

 

「…!

 ………シーグス………。」

 

「あぁ!!

 良かった!!

 本当に良かった!!!

 クラーケンを倒したってのにお前が逝かなくて本当に良かった!!!

 お前がいなくなったら俺は………!」ポロポロ…

 

「………止してよシーグス………。

 人が見てるじゃないか………。」

 

「構うもんか!!

 俺は一瞬お前が死ぬかと思って絶望したんだぞ!!

 このバカ………。

 何で迂闊にヴェノムに張り付かれた俺なんかに触ったりしたんだよ………。」

 

「それは………」

 

「ウイルスの感染力は知ってただろうが………。

 これまで不注意に感染してった奴に接触した奴等がどうなったかなんてお前だって見てきただろ………。」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女は貴方のことを救おうとするあまり咄嗟に手が出たのでしょう。」

 

 

 

「………へ?」

 

 

 

「理屈では触れてはならないと分かっていても瞬間的な感情を止めきれなかったのでしょう。

 貴方が彼女のことを想うように彼女もまた貴方のことを想っての行動だったのです。」

 

 

 

「………」

 

「ミネルバ………」

 

「………そうだよ。

 ………私だってアンタが目の前で死ぬかと思ったら今までの常識なんてどっかぶっ飛んでいって気が付いたら………、

 ………アンタを抱えてた………。」

 

「………」

 

「…私は………アンタがいない世界なんかで生きていくことなんて………とても耐えられない………。

 子供の頃からずっと私の後ろを付いてきてくれたアンタを………こんな私のヘマで失ってしまうことになったとしていたら私は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分で自分を殺してしまいそうなくらいだよ。」

 

 

 

「…………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺がお前を残してくたばるかよ………。

 お前だけはずっと俺が死ぬまで守っていくんだからよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どこかでお聞きしたようなセリフですね。」

 

「そうだね。

 私も最近どこかの騎士さんから言われたような………。」

 

「……どこの騎士だそいつは………、

 ミシガンにそんな生意気を言う奴は………。

 ………………ちなみに俺は元騎士だが………。」

 

「ウインドラさん………。」

 

「あの二人って………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まんまウインドラとミシガンだよね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………すまないねアンタ達………、

 見ず知らずの他人の私を助けてくれて………。」

 

「俺からも礼を言わせてくれ。

 俺だけじゃなく妻も救ってくれて………。」

 

 

 

「気にしないでください。

 俺達も誰かが死ぬのを見るのは忍びないですから。」

 

「シーグスにはクラーケンの居場所まで案内してもらった借りがある。

 それを返したに過ぎない。」

 

「そうですよ。

 シーグスさんのおかげで僅か数日でクラーケンまで辿り着けました。」

 

「おまけにシーグスさんがいたからこそ新しい術も習得出来ましたからね。」

 

「一昨日は………イラッときたけどシーグスさんもクラーケンを誘き出す作戦考えてくれたからなんとかクラーケンも倒せたよ。

 

 

 

 ありがとね。」

 

 

 

 

 

 

「へへッ…!

 こちとらクラーケンに一族ごと困ってたとこだったんだ。

 クラーケンを倒せる見込みがあんならそりゃ手でも頭でも貸してやるぜ。」

 

「…クラーケンを倒したことについては再度感謝しなきゃね………。

 あれに私達ミーアは散々な目にあわされ続けてきたから………。」

 

 

 

「事情はスラートの方達からお聞きしてますよ。」

 

「このダレイオスに存在するヴェノムの主……、

 それを全て殲滅するのがボク達のここへ来た目的ですから。」

 

 

 

「………そうかい。

 …アンタ達は悪いバルツィエではないってのは本当のようだね………。

 ………私はミネルバ。

 そこにいるシーグスは私の旦那で私の補佐をしてもらってるんだ。」

 

 

 

「補佐………?」

 

 

 

「…どこまでシーグスから聞いてるのか知らないけど私とこいつはミーア族で私はそのミーアの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 族長職に就いているんだ。」



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ミーアとアイネフーレの族長

ネーブル平原 南 朝

 

 

 

「族長………?」

 

「貴女がミーアの………?」

 

 

 

「そう………と言っても族長の代理の代理をいくつか経由しての代理なんだけどね。」

 

 

 

「何故そんなことに………?」

 

 

 

「…全部バルツィエのせいでこうなったのさ。」

 

 

 

「バルツィエ………。」

 

 

 

「アンタ達は………私の言っているバルツィエとは違うようだけどね………。

 何で私が族長代理の代理みたいな立場にいるかって言うと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その話は一旦落ち着ける場所で話すとしようか。

 クラーケンが倒されたとはいえここも安全な場所とは言いにくいし。」

 

 

 

「…………そうですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーア族の集落ヴァッサー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元々の族長は二十年前のバルツィエのゲダイアン襲撃で街ごと消されちまったんだ………。」

 

「偶々私達ミーアの族長もその当時ゲダイアンにいてね………。

 この地方からは遠いから滅多にあの周辺に行くことはなかったんだけど運悪く族長一家総出でゲダイアンにいたんだ。

 ゲダイアンと共に族長の血筋がいなくなってからは族長に近い立場にいた人から次の族長を選んで後任してたんだけど急に族長と同じことをしようとしても上手くいかずに失策ばかりで窮地に陥ってばかり………。

 挙げ句の果てには数年前のヴェノムの主誕生でこれを他の部族達よりも早期に狩ろうとしたせいで私達より上の世代の人達は失敗して次々と死んでいった………。

 今ミーアの生き残ってるなかでは私達の世代が最高なんだよ。」

 

 

 

「それでミネルバさんが族長に………。」

 

「スラートのファルバンさんに比べて随分若いなとは思ったけどそういう理由からだったんだ………。」

 

「(この見た目の年代の人が最高齢………?)ミーア族の族長は………女性が勤めるものなんですか?」

 

 

 

「シーグスを見てそう疑問に思ったんだろうけど今ミーア族で皆を纏められそうなのが私しかいなかったんだよ。

 他の連中は自棄を起こしそうなのばっかりでね。

 そんなのに族長をやられたんじゃまた前の族長代理達と同じ轍を踏まされそうだったから私が族長に立候補したんだ。」

 

「今残ってる俺とミネルバと同じ世代の奴等は最近クラーケンに家族を殺されて自暴自棄になりかけてるような奴ばっかりなんだ。

 なんとか励ましたりしてはいるんだが今にも目を離したらあっちの世界へと行ってしまいそう奴等が多くてな。

 俺とミネルバみたいに一人でも側で支えてくれる奴が生き残ってたらよかったんだが………。」

 

「…そういう訳で精神的に余裕がある私が勤めることになったんだよ。

 シーグスには私の代わりに男達の面倒を見てもらってる。

 私が励ますより同じ男のシーグスの方があの連中と壁なく話せるからね。

 シーグスに族長をしてもらうよりもフリーでいてもらった方が何かと動きやすいし。」

 

 

 

「そういった経緯なら納得ですね………。」

 

「話を聞く限りですとミーア族もかなり追い詰められた状況にいるんですね。」

 

 

 

「そうだね

 この地方はある意味じゃ最前線だしね。

 北部のトリアナス砦からマテオに繋がる細道が無ければマテオに一番至近距離にあるのはこの地方だしアイネフーレのように全滅するとしたら次は私達ミーアだと思うし。」

 

 

 

「そんな何でもないことのように言わなくても………。」

 

 

 

「取り繕ったって仕方ないさ……。

 現に私達はアンタ達が来るまでクラーケンを相手に終わりの時を先伸ばしにすることぐらいしか出来なかったんだし、それすらも私達の仲間を犠牲にして得た結果でしかないからね。

 次にクラーケンが現れたら今度こそ覚悟を決めないといけなかったと思ってたくらいだよ。」

 

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

 

「………でさっそくなんだけど私にもどういうことになってるのか話してくれないかい?

 シーグスがここまで信用しきってるようだし実際に私もアンタ達に救われちゃったからね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………バルツィエと戦うためにダレイオスを再統合して共に戦争………するために私達ダレイオスの民を困らせているヴェノムを駆逐………………するためにヴェノムの主を倒して回る旅に出ていてこの地方にいたクラーケンで二体目…………と。」

 

 

 

「大体はそんな感じですね。」

 

「これは私達にしか出来ないことなので。」

 

「そういった目的を持っていたのでミーア族とも話がしたかったところだ。

 国を再統合する時には是非ともミーア族の力を借りたい。」

 

 

 

「………そう言うことなら助けられた手前協力してやりたいのは山々なんだけど………、

 アンタ達の能力のことも気になるし………それに………、

 

 

 

 アンタ達のその旅の途中でマテオからバルツィエがやって来たらどうすんだい?」

 

 

 

「それは………。」

 

 

 

「もし主を倒しきる前に戦争を吹っ掛けられてバルツィエがダレイオスに侵攻してきたら再統合どころじゃないよね?

 そこのところどう考えてんの?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「仮に再統合の話に乗ったとして私達はスラートの連中の街まで行くことになったりするだろ?

 アンタ達にとっては残念な話だけど私達ミーアはそんな戦闘が得意な部族じゃない。

 一度目の統合の時だって私達ミーアの縄張りがバルツィエに侵されようとしていたから手を組んだだけのことだ。

 本来私達ミーアは私達の領土さえ守られればそれでいいっていうような考えなんだ。

 保守的な思考と言われてしまうだろうけど統合の話がまだスラートの一部だけにしか浸透していないのなら私達は安易に動いたりは出来ないね………。

 国家離散の前にも最弱の部族はミーアだって言われてたくらいなんだ。

 半数以上の同胞が死んで更に死者を増やすようなことは生き残っている同胞達にさせたくはない。」

 

 

 

「「「「………」」」」

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とんだ臆病部族ですね。

 ミーア族というのは。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「メリットとリスクを天秤にかけてリスクの大きさにビビって何も出来ないんですか?

 このまま何もしないでいたとしても貴女達には救いは訪れないというのに………。」

 

 

 

「急になんなんだい坊や………?

 私達がアンタ達の提案に乗り気じゃないからってそこまで言われる云われはないと思うんだけど………。」

 

 

 

「そうですね。

 ボクと貴女達では全く立ち位置が違いますからね。

 けれど現時点ではこの計画にどの部族よりも早く参加している点ではこの計画が成就した際にもっとも恩恵を受けられる位置はいますよ。」

 

 

 

「部族………?

 坊や………一体?」

 

 

 

「ボクはマテオの出身ではありませんよ。

 貴女達と同じダレイオスの出身です。

 ………そしてダレイオスの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイネフーレの族長代理タレスです。」



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たった一人の族長

ミーア族の集落ヴァッサー

 

 

 

「え!?」

 

「タレス………?」

 

「族長代理………?」

 

「どういうこと…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ボウズがアイネフーレで………族長代理だって………?」

 

「アイネフーレは………ヴェノムの主に滅ぼされた筈………。

 それなのに族長………それの代理が………?」

 

 

 

「…やはりここでもアイネフーレは全滅したということになってるんですね………。

 …ですがアイネフーレはまだ全滅してはいません。

 ボクが………、

 

 

 

 ボクがマテオから最強の戦士達を味方に付けて帰ってきました。

 アイネフーレはまだ滅んではいません!」

 

 

 

「…なるほどそう言うことか………。」

 

「マテオから帰ってきた………、

 てことは坊や………バルツィエの捕虜として………。

 ………アイネフーレが全滅したってのは気の早い決めつけだったってことだね…。

 …でも坊や一人でアイネフーレの民で族長………。」

 

 

 

「そうです。

 ボクがいるのにアイネフーレが全滅しただなんて言わせません。

 ボクがカオスさん達とマテオのバルツィエを倒してアイネフーレを復活させて見せます。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「……そのためにも先ずはヴェノムの主を討伐してダレイオスを救うんです。

 そうすればいづれダレイオスの他の部族達もが立ち上がりマテオへ対抗すべく軍が編成されるでしょう。

 ……………貴女達はこんなところで足踏みしていていいんですか?

 この流れに乗らずして貴女達はどこでミーア族を繁栄させていけるんですか?」

 

 

 

「俺達は別にこれ以上を求めることは………。」

 

「さっきも言った通り私達ミーアはミーアが暮らせるだけの最低限の領土を奪われたりしなければ他には何も「笑わせてくれますね。」!」

 

 

 

「最低限の領土ですって?

 ミーア族が暮らせるだけの?

 数を減らされ続けたミーア族の最低限の領土とはどの程度のものなんですか?

 ヴェノムを恐れてこの集落からも逃げ出した貴女達はこれからも数を減らし続けてその分どんどんと住むところを狭め続けるでしょう。

 無論ボク達の計画に乗らずに何もしなかった部族は仮に計画が成就した暁には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その最低限の領土とやらも取り上げてダレイオスから追放しますがね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「何………!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タレス!?」

 

「何を言ってるんだタレス君………!」

 

「追放ってそんな野蛮な………!?

 ………あれ止めなきゃだよね?」

 

「待ってください。

 

 

 

 ………ここはタレスに任せてみましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当然だと思いませんか?

 ダレイオスが建国された理由はマテオという大国の脅威があったからです。

 その大国を倒してしまえばダレイオスは元の関係に戻るわけです。

 元の関係………九の部族がまたそれぞれの領土を奪い合うかつての形に………。

 ………ですが流石にそれまでバルツィエを倒すために戦ってきた同志にはそう易々と剣を向けることは出来ません。

 剣を向けられるとしたら………打倒バルツィエに名乗りを上げなかった他の部族達………。」

 

 

 

「「………!」」ゴクリ…

 

 

 

「ボク達はボク達の計画に賛同してくれたスラートと共にマテオとの終戦後にはこのダレイオスを分割するつもりです。

 スラート領とアイネフーレ領に………。

 勿論現段階でボク達の計画に賛同しているのがこの二つだけなんですけどこれから先ボク達が他の部族と会談し協力を得られればその部族とも終戦後のダレイオス領土を二分割でも三分割にでもしていく予定ではありますよ。」

 

 

 

「そっ、そんな話無理があるだろうが!!?

 仮にマテオを打ち負かしたとして!

 スラートとアイネフーレとその他の部族達が勝ったとして………!

 ボウズ一人しかいないアイネフーレなんかに俺達を追放なんて出来るかよ!?」

 

 

 

「出来ると思いますけど?」

 

 

 

「何だと……!?」

 

「………」

 

 

 

「ダレイオスの領土を分割するにしても他の部族達もなるべく広い領土が欲しい筈です。

 …ならばダレイオス再統合に加わった部族達はそのまま協力関係を維持して非賛同部族を追いやるでしょう。」

 

 

 

「…追いやるにして追いやられた部族はどうなるんだい………?

 このデリス=カーラーンには他に人の住めるような場所なんてどこにも………。」

 

 

 

「それをボクに聞かれても分かりませんね?

 貴女達のような敗北者のことを気遣う意味がボクにあるとでも?」

 

 

 

「こっ、こいつ………!」

 

「人ってのはそう綺麗なもんじゃないよ。

 アンタの理屈通りならマテオ勝利後は真っ先にアンタがスラートや他の部族に消されるんじゃないかい?」

 

 

 

「…それについては「タレスは消されませんよ。」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしそのようなことになるのでしたら私達でその部族を滅ぼします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…アンタ達はアイネフーレじゃないのにかい?」

 

 

 

「えぇ。」

 

「ちょっとアロー「話を合わせてください。」」ボソッ

 

「…そうだな。

 タレス君は………俺達の計画にいち早く乗ってくれた協力者だ。

 そんな彼を他の部族達に殺らせるくらいなら俺達で彼を守って見せる。」

 

「………そうだよね。

 スラートの人達は協力者って関係だけどタレスとはそれよりも繋がりが強い“仲間”だからね。

 もしタレスにちょっかいかけてくるような人達がいたら私が水で押し流してあげるわ!」

 

「…俺もタレスがそんな醜い争いで消されるのは嫌だ。

 タレスは俺と同じくらい………それよりも酷いくらいに悲惨な目にあってきたんだ。

 タレスをそんな下らない終わり方をさせたくはない。」

 

 

 

「…抜けたとはいえバルツィエの戦士がバックにいるのかい………。

 そりゃあこうも高圧的になれるだろうけど………。」

 

「たった五人で他の部族達から守れるのかよ!?

 この国にはまだスラートのオサムロウだっているんだぞ!!?

 そいつらが本気になりゃ…」

 

 

 

「オサムロウさんならカオスさんが模擬試合をして勝ちましたよ。」

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

「そしてこちらにはそのカオスさんと同じくらい強いウインドラさんと………その二人を同時に倒したクラーケンを屠ったカオスさんの姉のミシガンさんがいるんです。

 貴女達なら一々言わなくても見ていましたから分かるでしょうけど言うなればオサムロウさん三人分の戦士がこちらにはいるんです。」

 

 

 

「“サムライ”三人分だと………!?」

 

「しかもバルツィエが二人も………!?

 どうしてそんな奴等が集まって………!?」

 

 

 

「(あれは勝ちって言っていいのかな………。)」

 

「(私のことについては特に触れないんですね………。

 戦力としては彼らの前では誇れるようなことはしてませんから仕方ありませんけど………。)」

 

「(俺はそこまで強くないぞ………?)」

 

「(え!?なんかスッゴい持ち上げられちゃったんだけど!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあどうするんですか?

 分かっているだけでも貴女達はヴェノムによる終末を待つかバルツィエに攻め滅ぼされて消えるかバルツィエを倒した後にボク達にダレイオスを追い出されるかの滅びの三択とボク達に協力して戦って生き残り勝利を掴んで領土分譲の側に回るかの一択です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれにするんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そんなの選択とは言えないじゃないか………。」



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朽ちぬ誇り

ミーア族の集落ヴァッサー

 

 

 

「こんなん無茶苦茶だろ………。

 バルツィエ級三人のアイネフーレにオサムロウ率いるスラートが手を組んで………実質バルツィエ級が四人の軍を作ろうってのかよ………。」

 

「バルツィエが一人でも厄介だってのに………三人………、

 ………一つ聞きたいんだけどアイネフーレは坊やと………その四人で五人で全員ってことでいいのかい?」

 

 

 

「そうですよ。

 ボク達の仲間はこの五人…………いえ、

 実はもう一人独自にダレイオスを調査してもらっている人がいます。」

 

 

 

「…単独で動いてるってことはそいつもアンタ達みたいな能力を持ってるのかい?」

 

 

 

「えぇ、

 彼女もボク達と同時期にこの能力を得ましたからね。」

 

「レイディーのことですね。」

 

 

 

「…そういうこと。

 としたらアンタ達には更にもう一人バルツィエ級の手練れが仲間にいるんだね………。」

 

「絶望的な軍勢に更にもう一人だと!?

 そんな連中に威圧されたらそれこそ言いなりになるしかねぇじゃねぇか!?

 こんなん無理矢理手下になれって言ってるようなもんだろうが!!」

 

 

 

「手下ではありませんよ。

 あくまで同盟です。

 共にバルツィエを討つための。

 この提案に乗らないのでしたら同盟は同盟部族以外を敵と見なし戦後排除します。」

 

 

 

「………えげつねぇ。

 汚ねぇやり方だ………。

 こんなのバルツィエと何も変わらねぇぜ………。」

 

「これって私達ミーアに交渉に来た………にしては随分と物騒なこと言い出すんだね………。

 その発言に私達が逆上してアンタ達と敵対することになるかもって思わないのかい?」

 

 

 

「出来るんですか?

 貴女達に。」

 

 

 

「!」

 

「舐めんなよボウズ!

 命を救ってくれた恩人とはいえそう簡単に殺られたりは「待ってシーグス。」?」

 

 

 

「…もしボク達の同盟に参加しないと言うのなら………、

 貴女達ミーアはこれまでと変わらない………、

 それよりかもより絶望的な末路を辿るでしょう。

 例えボク達が終戦後何もしなくてもミーア族は滅びます。

 確実に。」

 

 

 

「………それはどうして?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェノムがいるからですよ。」

 

 

 

「「!」」

 

 

 

「終戦後貴女達ミーア族を追放しなかったとしても戦争に参加しなかった部族とは深い溝が出来ます。

 同じ大陸にいるとはいえ何もしてなかった貴女達に勝者の恩恵を受けられるのはどこの部族も不愉快だと思います。

 ………なので、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国境付近を境に貴女達時代の波に乗り損ねた者達と波に乗ったボク達とで壁を作るんですよ。

 その壁の向こう側には時代に乗りきれなかった貴女達とヴェノムを追いやります。」

 

 

 

「はァッ!?」

 

「何でそんな性格の悪いことを…!!」

 

 

 

「性格が悪いと言われても貴女達にはこれまでの状況と何も変わらないじゃないですか。

 むしろクラーケンが倒されただけでも有り難く思って欲しいですね。」

 

 

 

「…もし私達の対処できる限界を超えてヴェノムを放たれたりしたら………。」

 

「何言ってんだよミネルバ!

 こんなの口からでた出任せだぜ!?

 どうやってヴェノムを連れてくるってんだよ!?

 持ち運びでもしようって「簡単ですよ。」!?」

 

 

 

「貴女達二人にかけた術をボク達の計画に賛同した同盟の協力者皆にかけてもらってヴェノムが効かない体質になったなら魔術でヴェノムを吹き飛ばして移動させるだけです。

 ヴェノムに魔術は効きませんが吹き飛ばすくらいは誰でも出来ますからね。」

 

 

 

「アンタ達の術………そんなほいほいと誰彼にでもかけられるってのかい!?」

 

 

 

「ボクは出来ませんがアローネさんとミシガンさん、

 そしてカオスさんが揃えば今のところ成功することは分かってますからね。」

 

 

 

「…あの術さえ入手出来れば………。」

 

 

 

「入手したところで孤立するのは変わりませんよ。

 同盟以外の部族は正直新たに誕生するダレイオスには邪魔なだけなんで。」

 

 

 

「クソッ!

 どうあっても同盟に下るしかねぇじゃねぇかよ!!」

 

 

 

「…貴女達は何が不満なんですか?

 どう説明しても同盟に加わった方がいいような気がしますけど………?」

 

 

 

「………私達ミーアはこれまでの敗戦の歴史から学んだの………。

 つまらない縄張り争いから始まった九の部族達とのいざこざ……その後のダレイオスとのマテオとのにらみ合い………最後に現れたヴェノム………。

 戦いが大きくなればなるほど私達ミーアは深刻な被害を被ってきた。

 世界を見渡せば私達ミーア族の住むこの地は戦禍の中心にいるんだよ。」

 

「スラート達との縄張り争いの時代は海洋資源を欲しがったスラートが必用に攻めてきてよ…。

 それをずっと追い返していたら次第に戦いがエスカレートしてったんだ。

 戦う道を選んだばっかりに俺達は………、

 いつの間にか抜け出せない迷路をさ迷ってた………。」

 

「選んだと言っても私達が生まれる前からそういう世の中だったしね…。

 族長や族長代理がいなくなっていく中でやっと私達は何故戦わないといけないかという疑問が持てた。

 ………疑問に辿り着けた。」

 

「この長かったマテオとダレイオスの停戦と国家崩壊によって漸く俺達は争いの道から外れられたんだ………。

 今更お前達に手を貸して戦うなんて選択肢を取れるわけが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「甘えないでくださいよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………!!?」」

 

 

 

「戦争は終わってなんていないんですよ!!

 昔の縄張り争いの時期から今日まで未だに戦争は続いているんです!!

 束の間の平和なんて幻想ですよ!!

 貴女達がさっきも気にしていた通りバルツィエがいつ攻めてくるかなんて分からないんですよ!!

 それを自分達だけ外野に逃げてボク達にだけ戦わせてどちらかが勝っても負けても自分達に火の粉がかかるのだけは止めてくれだなんて何様ですか!?

 しかもボク達が勝った場合は無条件に安息を味わうつもりですか!?

 そんなことを誰が許すと思ってるんですか!!」

 

 

 

「誰が許すって………。」

 

 

 

「アンタ達も被害者面なんかしてないで剣を取って戦う意思を見せたらどうなんですか!!

 こんな腰の引けた人達を今までダレイオスの覇権を奪い合うライバルだと思っていたなんて恥ですよ!!

 こんな人が少し多く死んだ程度で保持に回ろうとする弱小なんかを………!!」

 

 

 

「オイッ!!

 言い過ぎだろ!!

 お前に俺達ミーアの何が「シーグス!!」!?」

 

「…私達はこの坊やに何も言えないよ………。

 この坊やは………、

 アイネフーレは………、

 私達よりなんかも酷いことになってるんだから………。」

 

 

 

「………ボクは………、

 ミーアなんかみたいにはならない……!!

 例え一人になったとしても戦い続ける!!

 アイネフーレがボク以外にはいないんだとしても抗い続ける!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイネフーレの………ダレイオスの戦士としての誇りはボクの代で絶対に絶やさせたりはしない!!!」



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ミーアとの同盟成立

ミーア族の集落ヴァッサー

 

 

 

「………だからタレスは………ダレイオスに来てからずっとイライラしてたんだな………。」

 

「彼の年齢を考えれば当然なのかもしれませんね………。

 マテオに連れてこられてからもダレイオスのことを想っていたようですし例え劣勢でも自国への希望を捨てることはしませんでした。

 子供心と言うのは繊細で壊れやすくもありますが同時に思い込んだら何者にも折られぬような強さもあります。

 ………一時的に手を結んだ敵とはいえ同じダレイオスの民のことを信じていたのでしょう。」

 

「その共命関係にあった他の部族達があのように戦わずして臆病風に吹かれて逃げの一手に走っていては今まで犠牲になった者達も浮かばれないだろうな………。」

 

「私達みたいなこの国の余所者と違ってタレスにとってはこの国の人達は身内みたいなものだよね………。

 その身内の人達が自己保身に走って何もしないだなんてこと許せる訳ないよね。

 同族を失って一人になったタレスですら戦おうとしてるのに。」

 

「それを一方的に悪くは言えませんが国が存続できるかどうかの瀬戸際なのです。

 子供のタレスですら一つ一つ問題を解消してダレイオスを再興しようとしていると言うのに大人の彼等が悪いところにばかり目を向けて不動の理由を重ねていく姿は見るに耐えれるものではありませんよ。」

 

「それだけヴェノムによる被害が深刻だったと言うことだろう。

 彼等も俺達みたいな存在が来ることは予期できなかっただろうしな。

 何せスラートの連中も俺達をバルツィエと勘違いするくらいだ。

 次にこの地を訪れるのはバルツィエによる侵略してくる部隊ぐらいしか予測を立てられなかったと思うし敗戦が濃厚だから国を維持するのを諦めたんだ。

 国家体制崩落後の彼等や彼等以外の部族達の考えとしては俺達みたいな異端な存在と協力してマテオと再び戦うなどと言うことは思うことすら無かっただろう。」

 

「まぁ、

 俺達の計画ってこの国の人達からしてみれば急すぎてついていけないんだろうなぁ………。」

 

「そんなに非現実的なことなのかなぁ………?」

 

「ミシガンはミストで十年過ごしてきたからよく分からんだろうがヴェノムと言うのは全世界でももっとも恐れられているものなんだ。

 百年経った今でもあの存在がどういうものなのか解明されていない。

 細菌のように自然繁殖するものなのかウイルスのように生物の中で繁殖するものなのか………、

 ……ある意味体内に入り込んだら凄まじい勢いで命を磨り減らしていく様子から非常に有害な“毒性物質”であるという学者もいたがそれだけでは服毒者の異常生態変化の理由にはならんためこの発表は間違いと指摘されたがな。」

 

「細菌かウイルス………?

 その違いすら分からないのですか?」

 

「“ヴェノムウイルス”の名称からして曖昧だしな。

 ヴェノムとは毒を持つ生物が他の生物に毒を注入する毒のことを言う。

 それが触れただけで触れたものを異形の化け物へと変貌させ最終的には死に至らしめる。

 そんなのは現存どの毒や細菌、ウイルスを調べてもヴェノムウイルス以外には存在しない。

 弱らせて死に至らしめたり死を巻き散らす毒はあっても異形化だけは説明がつかん。

 学者共もお手上げが百年間続いているんだ。

 故に曖昧な名称が定着したままの状態が維持されている。」

 

「数えきれない程の時を越えても解明しきれないヴェノム………。

 ………こんな時………サタン義兄様か………、

 

 

 

 “グレアム様”がいてくれたら………。」

 

 

 

「グレアム…?」

 

「グレアムってウルゴスの人のこと?」

 

「何者なんだその人は?」

 

「…グレアム様はウルゴスで数多くいらっしゃった生態医学士の方々の中でも非常に優れた才を持ち多くの難病患者が彼の研究によって救われました。

 彼はウルゴスの医学会の権威で彼の腕はウルゴス一とも称される程のお方でした。

 ………そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレアム様はウルゴス王位継承権第二位の王族出身者でもあります。」

 

 

 

「ウルゴスの王位継承権!?」

 

「そんな身分の方が医術を学んでいたのか………?」

 

「………ってことはカタスさんのお兄さん?」

 

「えぇ、

 そうなりますね。

 ………事務的なお方であのお方とはあまり交流はありませんでしたが姉の治療のために何度かお会いしたりはしました。

 彼は細菌やウイルスだけではなく病気にも詳しい方でしたので。」

 

「…あれ?

 お姉さんって確かサタンさんに診てもらってたんじゃなかったっけ?」

 

「姉が義兄に診ていただいたのはグレアム様の後ですよ。

 グレアム様は姉の看病を続けていくうちに姉の体調もすこぶるよくはなっていきましたが完治とまではいかず不調が再発しました。

 そんな時にグレアム様がサタン義兄様を連れてきたのです。」

 

「なるほど…、

 そこからアルメデスさんとサタンさんのお話に繋がっていくんだね。」

 

「もし………、

 サタン義兄様とグレアム様が私達に合流出来れば………、

 この世界のヴェノムを瞬く間に解析してヴェノムウイルスに苦しむ世界中の人々を救うことが出来ると思うのですが………。」

 

「アローネさんにそこまで言わせる人なんてグレアムって王子様とサタンさんって相当凄い人なんだね………。」

 

「…だが今はいないと言うのならこの時代の俺達だけでヴェノムと向き合うしかない。

 今もたった一人で向き合っているあそこの彼のように俺達で立ち向かっていくしかないんだ。」

 

「そうだね………。

 タレスは………たった一人のアイネフーレの生き残りでそんな境遇にいながら勝つことを諦めていないんだもんね………。」

 

「…これから部族達との交渉ではその彼の境遇と愛国心が何よりの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 武器となるだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「…もう結構ですよ。

 貴女達ミーア族に戦う気が無いのは分かりました。

 ボク達も時間に追われる身ですしこれ以上無駄な時間は取れません。

 貴女達ミーア族は黙って穴蔵にでも「待ってくれないかい。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで言われっぱなしだと清々しいくらい身に染みてくるねぇ………。

 一度敗けを認めたらなんだか気が楽になりすぎてそれにずっと甘んじてたよ………。」

 

「ミネルバ………?」

 

「シーグス、

 こんな坊やにここまで言われて悔しくないかい?

 アタシは悔しいよ。」

 

「そりゃこのボウズがここまで言えるのはヴェノムやバルツィエに強く出れる“力”があるからで………。」

 

「その力の一部を私達はもらっちまったんだ。

 この坊や達には及ばない力だろうけどそんなことはどうだっていいだろ?

 そんなことよりもアタシ達はこの時代を生き残れるだけの力さえあればそれで。」

 

「…ヴェノムに怯えなくていいのは助かるが俺達二人だけじゃ「アンタ達!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けたよ!!

 また負けた!!

 坊や達の勝ちだ!!

 アタシ達ミーアはアンタ達に折れることにするよ!!」

 

 

 

「!!

 それじゃ……!?」

 

 

 

「………アタシ達ミーア族もアンタ達に協力するよ!!

 それでいいんだろ!!」

 

 

 

「はっ、はい……!!」

 

「タレスの説得のおかげですね!!」

 

「スラートの二の舞にはならずに済んだか。」

 

「よかったぁ~!

 セレンシーアインの時みたいに皆に信じてもらえなかったらどうしようって思っちゃったよ…!!」

 

 

 

「………ではボク達と一緒にバルツィエと「その前に一つ条件がある。」…? 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アンタ達の私達をヴェノムから守る術………、

 あの術を私達の残りの仲間にもかけてやってくれないかい?

 それで私達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタ達ヴェノム殺しの………、

 

 

 

 ヴェノムスレイヤーの手下になるよ。」



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ミーアの隠れ里

サンフ渓谷

 

 

 

「…この先に俺達ミーアは隠れ住んでるんだ。」

 

 

 

「この辺りは………。」

 

「前に来たときはアルラウネってモンスターがいた滝の辺りだよね?」

 

「あの辺りに人が隠れ住めるような場所など無かったと思いますが………。」

 

 

 

「そうだね。

 私達がいる場所は入り口は常に開けっ広げだから勘のいいモンスターが入り込もうとしてくるくらいだ。

 この前の時もアンタ達が倒したアルラウネ達が私達の住みかに入り込もうとしてたし。」

 

 

 

「あの先頭を見てたんですか?」

 

 

 

「あぁ、

 なんせ目の前で戦ってたしな。」

 

「最初はどっか他の部族達ヴェノムから逃げてきたただの通りすがりかと思ったんだけどどうも様子が変だったみたいでね。

 私は奥の方にいたからその光景は見てなかったんだけどバルツィエと思わしき濃いマナ密度の魔技を放つ奴がいたらしくて見張りをしてたこの馬鹿亭主が勝手にアンタ達のことを付けてったんだよ。」

 

 

 

「それって………。」

 

「カオスのことですね。」

 

「あの時はカオスがフレアボム川の水に向けてぶっぱなしたりしたから………。」

 

「試しに撃とうと思ったんだよ。

 

俺でもちゃんと魔技や魔術が使えるってことを証明したくて。」

 

 

 

「あん時はびびったぜ。

 俺達のことに気付いてやってんのかと思ったしな。」

 

 

 

「…確かあの時は………アルラウネ達が何やら滝の方に集中していたな………。

 アルラウネに気付いたのはアローネ=リムが話し声がすると言ったから見に行ってみたらアルラウネがいて……、

 俺達は話し声の主は人形の植物モンスターだと思っていたが………。

 ………単に植物モンスターが水を飲みに来ていただけかと思ったがもしやミーア族の隠れ家と言うのは………。」

 

 

 

 

「お察しがいいね。

 ………と言ってももう着いちまったけどね。

 そう、

 この………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァザァザァザァザァザァザァ………!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「滝壺の向こうに私達ミーアが隠れんでいる秘密の洞窟があんのさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンフの洞窟

 

 

 

「…こんなところに人が入り込めるような穴が………?」

 

「この洞窟もミーア族の人達が作ったんですか?」

 

 

 

「いや、

 この洞窟は自然にあったもんだ。

 俺達は何も関与してねぇ。」

 

「この穴はモンスターが掘ったもんだと思うよ。

 うちの子供達がここをたまたま遊んでて見つけたのを使ってるんだけど始めに来たときはモンスターの骨とか沢山あったし。」

 

 

 

「え………、

 大丈夫なんですか?

 そんなところにいて。」

 

 

 

「心配すんなよ。

 もうモンスターはいねぇから。

 こんなところに住んでたくらいのモンスターだから気配を察知するのに機敏なんだろ。

 ここら辺にヴェノムが徘徊するようになってからはここを捨てて他所の住みかにでも移ったみたいだぜ。」

 

「私達はその遺棄された住みかを使ってるんだ。

 誰にも文句は言われないし誰も使ってない場所を有効活用させてもらってるだけだよ。」

 

 

 

「しかしこんな大きな空洞だと………、

 この洞窟を作ったモンスターはかなりの大きさのモンスターになるんのではないか?

 そう直ぐ様移動するとは思えんが………。」

 

 

 

「この辺り一帯の大型のモンスターは皆全部クラーケンが食っちまったよ。

 だから安心しな。」

 

「その影響でこの周辺には大型のモンスターはいないんだよ。

 いるのは比較的小さいなモンスターぐらいさ。」

 

 

 

「それなら安全………なのかな?」

 

「だがこの前はアルラウネが入ってこようとしていたんだろう?

 すんなり入ってきたが見張りは常備してなくていいのか?

 この様子だと洞窟の奥は行き止まりだろうに。」

 

 

 

「そうなんだけど………。

 アンタ達が晩にクラーケンと戦ってる辺りで他の連中と一緒にシーグス達を捜しててね。

 物凄い地響きがしたからクラーケンがカイクシュタイフから出てきたと思って私はその確認に向かってそいつらにはここを発てる用意をさせに戻らせたんだ。

 だから見張りがいなかったのは今頃奥の方で手荷物でも纏めて……」ガヤガヤ…

 

「奥の方が騒がしいな。

 こりゃ丁度その用意が終わって出てこようとしていたところか?」ガヤガヤ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?

 …お前達は……!?

 何しにここへと入って「止しな!!」!?ミネルバ…!?それにシーグスも……!?」

 

 

 

「騒ぐんじゃないよ。

 この人達は敵じゃない。

 こうしてシーグスも無事だったことだし私等には何一つ騒ぎ立てるようなこともなかったようだよ。

 警戒も解くとしようじゃないか。」

 

 

 

「…しかし昨夜クラーケンがカイクシュタイフから這い出てきたような轟音がしたじゃないか?」

 

「そうだぞ。

 シーグスとミネルバが無事に戻ってきたことは幸いだがのんびりとここへ留まるよりも他の拠点へと移った方が良いのではないか?」

 

 

 

「そのことだけど驚かないで聞いとくれ。

 クラーケンなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明朝に倒された。

 ここにいる五人の旅団の手によって。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「………は?」」」」」」」」」」

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………

 

 

クラーケンガタオサレタ………?

 

ナニイッテルンダ………?

 

クラーケンガタオサレルワケガ………。

 

「ミネルバ………、

 それはどういう意味だ?

 クラーケンを倒したと言うのは………?」

 

「クラーケンを………カイクシュタイフの洞窟の奥底に洞窟をまるごと崩落させて埋めたってことか?」

 

「それなら暫くは出てこれなくなるだろうが一緒に洞窟内にいたモンスターというエサも死に絶える筈………。

 エサがなくなればクラーケンが出てくるのを余計に早めることになるのではないか?」

 

 

 

「そうじゃないよ。

 言葉通りだ。

 ここにいる五人がクラーケンを真正面から対峙して倒しちまったのさ。」

 

 

 

「………嘘だろ?」

 

「…けどとても嘘をついているようには見えないがしかし………。」

 

「………本当に倒したのか?

 倒したつもりで実はまだ生きているとかの可能性はないのか?」

 

「そうだぞ。

 奴の再生能力はそこらのヴェノム並みかそれ以上の高さだ。

 足を切断しようが頭を潰そうが無駄だ。

 頭を粉々に潰した程度で倒した気になったんだろうがそんなもんは次の瞬間には元通りだ。

 ………大方その怪しげな五人組がクラーケンを倒したとか言うのを確認もせずに聞いてから俺達に報告したんだと思うがちゃんとクラーケンが死んだところを確認しなけりゃ俺達もそれを信じることが出来「私のこの目で見たんだよ。」………。」

 

 

 

「この五人がクラーケンを倒すのをこの目で見てきた。

 言葉通り倒したんだ。

 しかもこの人達にはヴェノムウイルスを無効化する特殊能力がある。

 それも他人に付与する力もね。

 だから本当にクラーケンを倒したんだ。

 私達ミーアは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうヴェノムの主という脅威に脅かされることもなくなったんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「………は?」」」」」」」」」」



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実証

サンフの洞窟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから!

 さっきから説明してるでしょうが!?

 この人達と共闘してマテオと戦うんだ!!」

 

 

 

「それが分からねぇんだよなぁ………。」

 

「その話が事実だったとして俺達に何が出来るってんだよ?」

 

「俺達ミーアは殺生性の薄い水属性の魔術を得意としてる部族だ。

 例え俺達が立ち上がったとして役になんか立たねぇよ。」

 

「勝てない殺し合いはやるだけ無意味だ。

 何の利益にもならない。」

 

「それよりかクラーケンが今どこにいるのかが知りたい。

 魔術で吹き飛んでいったんならどの方角に飛んでいったのか調べてその逆方向で逃げ込めそうな場所を見つけなければ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………全然信じてもらえないね。」

 

「私達のような存在は異例中の異例ですからね。」

 

「ミスト以外って本当にヴェノムに対して警戒が強いんだね。」

 

「余所者の俺達で説明しようにも余所者の戯れ言としてしか取られないだろうしな………。

 ここは…「ボクが出るまでも無いと思いますよ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………しょうがねぇ………。

 

 

 おい!

 クエント!

 ルーフスラ!」

 

 

 

「ん?」

 

「どうしたシーグス。」

 

 

 

「…ちょっくら俺の忘れ物を取りに行くのに付き合ってくれねぇか?

 ちっとばかし手が足りねぇんだよ。」

 

 

 

「忘れ物?」

 

「どこに忘れたんだ?」

 

 

 

「ヴァッサーだよ。」

 

 

 

「ヴァッサー………か。」

 

「今その方角に向かうのは危険じゃないか?

 クラーケンがいつ出てくるのかも分からないのに。」

 

 

 

「そう直ぐ飛び出してきたりしねぇよ。

 それに俺達は今日そっちから帰ってきたんだ。

 今の間なら安全だぜ。

 クラーケンもそうそう出てきたりはしねぇ筈だ。

 お前らがミネルバの話を信じられねぇ気持ちは分かるがそこだけは確かだから付いてきてくれよ。」

 

「ちょっとシーグス!?」

 

 

 

「………まぁ、

 三ヶ月も平和だったしな………。」

 

「だけどヴァッサーの南の方にはヴェノムもいるからな。

 忘れ物とやらをさっさと取りに行って戻ろうぜ。」

 

 

 

「あぁ、

 

 

 

 お~い先生方!!

 先生方も付いてきてくれよ!」

 

 

 

「え?

 あっ、はい!」

 

 

 

「あの怪しい連中も連れてくのか?」

 

「てか忘れ物って何なんだよ?」

 

 

 

「………そいつはな………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァッサーに着いてから話すぜ。

 何分説明のしづらい忘れ物なんでな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーア族の集落ヴァッサー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………で結局忘れ物ってのはなんなんだ?」

 

「こんな大勢引き連れて運び出すようなもんなんてこの村には残ってはいないだろ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「?

 おいシーグス?」

 

 

 

「………俺の忘れ物ってのはな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コイツらの調査結果だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調査結果?」

 

 

 

「あぁ、

 口で言うだけじゃ他の連中には伝わらないようだしな。

 要はお前達のその目で見せてから説明した方が早いと思ってな。」

 

 

 

「目で見るって………、

 まさかクラーケンを捜しに行くのかよ!?」

 

「おいおい………、

 わざわざそんな死にに行くようなことに付き合いたくねぇぞ?」

 

 

 

「心配すんなよ。

 別にクラーケンを捜しに行くとかじゃねぇから。

 ここでだって出来ることだからよ。

 …だがこの先生方のことを信じてもらうにはこの方法しかないんだ。」

 

 

 

「…コイツらがバルツィエではぐれだってのは疑ってねぇよ。

 それらしい程のマナは最初の時点で思ってたくらいだし…。」

 

「だけどたった五、六人のバルツィエに従ってマテオと戦いなんて無謀すぎるぜ?

 それこそ何か協力な武器でもねぇと………。」

 

 

 

「その武器を見してやろうって言ってんだよ。」ガサゴソ…

 

 

 

「「は?」」

 

 

 

「お前らずっとそれだな………。

 ………えぇとこんなもんでいいか。」

 

 

 

「いいってそれお前………、

 

 

 

 ヴェノムが付着して溶けた板じゃねぇか。」

 

「それをどうすんだよ?

 あんまし触らねぇ方がいいぞ?

 ウイルスが死滅して障気が付着してるだろうし万が一ウイルスが残ってたら「残ってた方がいいんだよ。」………!」

 

 

 

「こうやって触っても……………、

 

 

 

 ………ほらな?」

 

 

 

「おいおいおいおい…、

 何危ないことしてんだシーグス……。

 不注意だぞ?」

 

「今回は幸いにもウイルスは残ってなかったようだがもしウイルスが残ってとしたらお前あの世行きだぜ?」

 

 

 

「………ここまでやっても信じられねぇのかよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきと同じ結果に終わりそうですね………。」

 

「シーグスさんも必死に私達のことを信じてもらえるように頑張ってくれてはいますけど………。」

 

「能力に関してはその原理すら説明することが出来ませんからね。

 自称“神”のような存在に与えられた力で国の大敵と戦う………。

 童話に有りがちな夢物語にしか大人の耳には聞こえないんでしょう。」

 

「色々と難しい話だよね………。」

 

「……だが彼の作戦はそう的外れなものでもなさそうだぞ。」ジュゥゥゥ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュゥゥゥ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!

 おっ、おいシーグス!!」

 

「村にヴェノムが入ってきてんぞ!?」

 

 

 

「……そういや朝にカイクシュタイフから帰ってきたからな。

 俺達に付いてきた個体がいやがったか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実に良いタイミングだぜ!!」ダッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!…ぁ……っ………いてぇ……!!!」

 

 

 

「!!!?」「ばっ、バカ!!?何ヴェノムなんかに手を突っ込んでんだ!!?溶かされるに決まってんだろ!!?」「大丈夫だ見ときな!!」

 

 

 

「………ぐっ!!」ズボッ!!

 

 

 

「シーグスゥゥ!!?」「止めろシーグスはもう……!!」

 

 

 

「シーグスさん!!」「魔神剣ッ!!」ザスッ!!

 

 

 

「ジュゥ…………。」

 

 

 

「………!?」「ヴェノムを消しやがった!?」

 

 

 

「無茶なことを………。

 『ファーストエイド!』」パァァ…

 

 

 

「………何してんだよコイツら…?」

 

「感染した奴にファーストエイドなんて掛けても効果ないだろ……。

 それに傷を治してもシーグスはいずれ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ、

 助かったぜ先生方。」

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

「こう言うことをするのなら予め仰っていただかないと私達も驚きますよ?」

 

 

 

「面目ねぇ………。

 けどこれを見たら流石にコイツらも「「シーグス!?」」ほらな。」

 

 

 

「お前!!

 ………なんともねぇのか…!?」

 

「感染者に………魔術の効力が……!?

 普通だったら傷なんか治らずにマナをヴェノムに吸収される筈なのに……!?」

 

「ちょっと待て!!

 それだけじゃねぇ!!

 何だ今のは!?

 コイツら本当にヴェノムを消しやがったぞ!?」

 

「ヴェノムは………再生する様子はねぇ………。

 ………どうなってやがる………。」

 

「………………まさか本当に?

 本当にあのミネルバが言ってたようなお伽噺みたいな話が………。」ジュゥゥゥ…

 

「!?

 おい足下!!?」ジュゥゥゥ…

 

「へ?

 うわっ…………ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」ジュゥゥゥ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!

 先生方!!!

 やっちまってくだせぃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほい来たぁッ!!

 『ファーストエイド!!』」「孤月閃ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァ…!ザスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!?

 なっ、何だ……!?」「痛みが消えた………!?」

 

 

 

「どうだ?

 これでも信じられねぇか?」

 

 

 

「!

 ………傷が治っただけでまだ俺達が感染を免れたとは言えんぞ?」

 

「………?

 クエント………体に異状はあるか?」

 

「あ?

 ………ウイルスが発症した奴等みたいな体の中から溶かされるような辛さは今のとこねぇが………。」

 

「………俺もだ。」

 

「…ヴェノムの潜伏期間はほぼ無いに等しい………。

 接触した際の感染率も百パーセントだ。

 俺達は確実にさっきので感染していてもおかしくはない………。

 ………それなのに………。」

 

「……これは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「疑いたい気持ちは分かるぜ。

 俺ですら最初はそうなってたからな。

 だがこれが真実だ。

 

 

 

 ミネルバがさっきお前らに話してた内容は全て真実なんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからマジで言ってんだよ俺とミネルバは。

 ………この先生方にいち早く協力して今の荒んだダレイオスを立て直すんだ。

 そしてミーアは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最底辺の部族の名をこの機に返上するんだよ。」



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時代に乗る大波

サンフの洞窟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………シーグスとミネルバの話は本当だった………。」

 

「ネーブルにカイクシュタイフからクラーケンが出てきたと思わしき痕跡はあったが辺り一面激しい戦闘の後クラーケンがどこかに移動したような体を引きずった形跡がなかった………。

 …まるでクラーケンがそこから消えたかのように何もなかった………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………。

 

ジャア………?

 

ミネルバトシーグスノハナシハ…?

 

ホントウノコト…?

 

………オレモチョットソレミテクル!!

 

オイ!ソトニハクラーケン………トハイカナクテモヴェノムガイルカモシレンゾ!?

 

ケドヨウスクライミニイククライハデキルダロ!

 

ミネルバトシーグスダケジャナクジカンサデクエントトルーフスラマデオナジコトイイダシタンダゾ!

 

コレハイチドミニイッタホウガイインジャナイカ…?

 

シカシ………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーグス………ミネルバ………、

 お前達の気持ちが分かったわ………。」

 

「こんなこと突然起こっても直ぐに信じるのは到底出来ねぇ………。

 身をもって体験しねぇと…。」

 

 

 

「だろ?」

 

「私もシーグスから聞かされるまでは頭の中に上手く入ってこなかったよ。

 いきなりこんなことが起こりうるだなんて思いもしなかった。

 私達はこの先徐々に進化を続けるヴェノムウイルスによって“世界の終末”に突入していくとしか想像できなかった。」

 

「………なぁ先生方。」

 

 

 

「何ですか?」

 

「それより先生って何ですか?」

 

 

 

「先生は先生さ!

 ダレイオスが匙を投げ出したヴェノムウイルス問題を治療して見せたんだ!

 あんた達は俺達からすりゃ医者みてぇなもんだ!」

 

「…そうだね。

 私も先生と呼ばせてもらおうかな。

 それともこれから手下になるんだからボスの方がいいかな?」

 

 

 

「ボ、ボス!?」

 

「そんな大袈裟な………。」

 

「そういう呼び方に慣れてないんで名前で呼んでもらえるか?」

 

 

 

「それならそうすっけどよ………。

 

 

 

 でカオスさん方、

 俺達にかけられた術ってのは………どのくらい効力があるんだ?」

 

 

 

「効力時間ですか?

 それは………。」

 

「この術の大元は殺生石の精霊によるところだが今のところは………。」

 

「多分ずっとなんじゃないの?」

 

 

 

「「ずっと?」」

 

 

 

「だって私達の村の人達って十年前からこういう体になってるもん。

 これって怪我とかを治すファーストエイドとかと同じで一度かけたらそのまま効果が続くんじゃないの?

 ファーストエイドで治した怪我だってその後いくら時間経っても術の効力が解けて治した怪我が戻ったりしないでしょ?

 同じ箇所にまた怪我したら別だけど。」

 

「現段階では特にこの術はシャープネスやバリアーのような一時的な効果の術ではなく永続的に働き続ける術のようですよ。」

 

 

 

「そうか!

 そりゃよかった!!」

 

「じゃあ…!

 他の皆にあの術をかけてもらっても大丈夫なんだね!?」

 

 

 

「えぇ、

 では「バルツィエの兄ちゃん達!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺にもルーフスラ達と同じ術をかけてくれないか!?」

 

「おっ、俺も頼む!!」

 

「俺も!!」

 

「あたしも!!」

 

「僕も!!!」

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ……!!!!

 

 

 

「おっ、落ち着いてください…!

 分かりましたから!

 順番に……!!」

 

「ちょっとそんな大群で迫って来ないでよ!!?」

 

「ボクは術をかけられませんよ…!」

 

「術が使えるのはあっちの二人だけだぞ…!」

 

「俺も使えないんですって…!!」

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ…!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…すっかり皆にも話が浸透しだしたようだな。」

 

「これでミーアがヴェノムウイルスの死の恐怖から救われる………。

 昔のように往来を自由に歩けるようになるんだ。

 これからドタバタと忙しくなるだろうね。」

 

「…ヴェノムには強く出れるようにはなったが皆が皆この後のバルツィエとの戦いに乗ると思うか…?」

 

「意見は………二分化するだろうね。

 術をかけてもらってもっと先まで環境を良善くしようか………保守的に回って弱小なら弱小らしく誰にも見つけられないような拠点でひっそりと暮らしていくか………。

 

 

 

 人が………生物が死ぬ原因は世界に多く沢山溢れてる………。

 弱肉強食だったり、不意の事故だったり、寿命だったり、生まれもった病魔に蝕まれたり、あるいは………、

 憎しみや殺人の狂気に憑かれた狂人によってだったり………。

 数え上げたらもっと細かい死の要因はあるんだろうけどそんなに数多くあるなかでも私達ミーアは次世代へのバトンを回してきた………。

 時には他部族とも傷つけ傷つけられて攻め滅ぼされずに生きてきたんだ………。

 

 

 

 ………けどそんな時代が紡がれてきた中で突然世界に割って入ってきたヴェノム………………。

 ……ヴェノムが現れてからは世界は………デリス=カーラーンは生物が極端に死にやすくなった星になった………。

 無数にあった生物の死因と含めてそれまでの何十倍も多く………。

 

 

 

 戦時化にありながらも種を存続させるために早期結婚出産を繰り返してきて人工増加傾向にあった世界の流れが止まってから百年………………。

 彼等のような存在の出現は………人工減少化どころか絶滅傾向にあるこの世界の終末の時の流れにブレーキをかけてくれる希望の光になる……。

 

 ………あのボウヤに一喝されて悪夢から覚めた気分だよ。

 このゴミのように人の死体が積み上がる世界で私達は随分と肉体だけじゃなく心まで蝕まれていたみたいだね…。

 あんな一人残されたアイネフーレのボウヤが果敢にマテオからダレイオスに架けて戦ってるってのに………。」

 

「……そうだよな………。」

 

「…あんな子供が絶滅しかけたアイネフーレをダレイオスごと復活させるって言ってるんだ。

 最弱とは言え数だけはまだアイネフーレに勝るミーアが遅れをとるわけにはいかないよ。

 なんたってスラートに続いて三番目のようだしね。

 でも話を聞いてるとスラートもあの子達に乗り気なのとそうじゃないので分かれてるみたいだ。

 あの術を体得した瞬間に立ち会ったのもどうやら私達ミーアが最初のようだし。

 …これは三番目と言ってもまだまだ大いに巻き返せるチャンスはあるよシーグス。」

 

「あぁ。

 上手いこと他の奴等をまとめあげてあの先生方に全力で協力してバルツィエに勝った際に先生方に取り次げれば領権政策で優位に立てそうだ。」

 

「…まだ勝ってもいないのに言うねぇ…。

 あの子達の話じゃまだ当分は先の話になると思うよ?」

 

「そのぐらい大きく出てもいいだろ?

 それぐらいあの先生方の力は強力だ。

 一人あたりの魔力も今のバルツィエの魔力を優に越えてやがる。

 あいつらを味方につけてその上他の部族達を再統合出来たとしたら負ける気がしねぇぜ。」

 

「………なんにしてもこれから大変になるよ!

 私達はヴェノムによって失った闘争心を取り戻していくところから始めないと。

 この時代が動き出す高波は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どの部族達よりも一番高く乗り上げてやろうじゃないか!」



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ミーア族に術の付与

サンフの洞窟 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス大丈夫ですか?」

 

 

 

「え?

 何が?」

 

「何がって………、

 ………マナ平気なの?」

 

「私達がカオスと接触している際の魔術に使うマナはどうやらカオスから摂取しているようですのでマナが枯渇してしまわないか心配なのですよ。」

 

「そうそう、

 一日かけてミーア族の人達にレイズデッドかけていったけど最初“あれぇ?何かいくら術使ってもが倦怠感が全然無いなぁ?いつもだったらこのくらい魔術を使いまくってたらそろそろ立ち眩みぐらいはするんだけど?”って思ってたんだけどよくよくマナを感じ取ってみたら自分自身のマナは全く減ってないんだよね。

 それどころか回復してたくらいだし。」

 

 

 

「そうだったの?

 俺自身は触れられてるだけだったけどそんなことになってたんだ………。」

 

 

 

「本当に体に不調はありませんか?

 

 感覚的な話になりますがあのレイズデッドはファーストエイドの二倍以上のマナを消費するような感じがしました………。

 今日だけでもミーア族の方々総勢百数十名にそのレイズデッドをかけましたのでカオスは………私が一日に使用できる限界数でおおよそ二十回前後………。

 ミシガンは………「私は十五回前後だよ。」…では平均して十七、八回前後ですね。

 ………カオスのマナを私達を経由して術を発動していたのだとすればカオスは私達の約六倍以上のマナを消費したことになります。」

 

「そんなに!?

 カオス本当に平気なの!?

 無理してるんじゃないでしょうね!?」

 

 

 

「無理なんかしてないさ。

 殺生石の精霊のおかげでマナが吹き出てきそうなくらいだよ。」

 

 

 

「あれだけマナを使っといてまだマナがあるの!!?

 ………使ってたのは私達だけどさ……?」

 

 

 

「うん、

 だから俺のマナに関しては特に問題ないよ?

 まだまだ使ってもヘッチャラだから。

 なんならまた同じ作業をもうニ、三回やってもいいくらいさ。」

 

 

 

「…その手錠ってマナを抑えるやつなんでしょ…?

 それ装着しておきながらどれだけマナが出てくんのよ………。」

 

「………奇妙ですね………。」

 

 

 

「?」

 

「何が奇妙だって?」

 

 

 

「………カオスは………、

 

 

 

 私の姉、アルキメデスの話を覚えておいでですか?」

 

 

 

「アルキメデスさんの話?」

 

「アローネさんのお姉さんの話?

 聞きたい聞きたい!!」

 

 

 

「………そう人にお聞かせするような話でもなかったのですが………。」

 

 

 

「………アルキメデスさんの話って言うと………、

 ハーフエルフって種族のお義兄さんと結婚したんだよね?」

 

「ハーフエルフ?

 ………ハーフって何よ?」

 

「俺も話にしか聞いたことないから具体的なことはよく知らないんだけど普通の人と………、

 昔の俺のような魔術を使えない人………と言うよりそういう種族の人が結婚して生まれた子供のことをそう言うらしいよ?」

 

「昔のカオス………?

 ……昔って言うと………あの事件よりも前のカオス?」

 

「そう、

 あの頃の俺のような………魔術が全く使えない………。

 正確には使えたんだけど使ってしまったらそれだけで身体中のマナが全部無くなって生命活動を維持できなくなるほど衰弱してしまう病気………、

 あの当時の俺は自分の症状をそう思ってたなぁ………。」

 

「実際にはどうだったの?」

 

「…殺生石って触れた生物のマナを消し飛ばす能力を持ってたでしょ?

 あれって実は触れた生物のマナを一瞬にして吸収してたみたいなんだよ。

 だから俺の中に入った殺生石の精霊が常に俺のマナを吸収し続けてて俺自身も自分のマナが本当はあったことにずっと気付かなくて長年“後天性魔力欠損症”にかかってたもんだとばかり…。」

 

「ふ~ん?

 まぁ何はともあれ良かったね!

 今は普通に戻って!」

 

「…全然戻ってないよ………。

 むしろ前とは別の理由で魔術を迂闊に使えなくて困ってるぐらいだし。」

 

「…アッ、アハハ~………、

 それで?

 その魔術が使えない人達?と結婚して生まれた子供に何でワザワザハーフなんて付けるの?

 別に同じエルフならそんな差別的に半分だなんて呼び方しなくてもいいんじゃない?」

 

 

 

「…その魔術が使えない方々はエルフではなかったのですよ………。

 彼等は………ヒューマと言う種族でした。」

 

 

 

「ヒューマ?」

 

「そのヒューマって人達はすっごい物作りの能力があったらしいよ?

 鉄で出来た“キカイ”とか言うのを扱ってたんでしょ?」

 

 

 

「えぇ、

 ……私の義兄はそんな方々と………何方かは存じませんがウルゴスのエルフの方との間に生まれた子供だったようです。

 ………今は義兄の話題は置いておくとして問題は姉の方ですよカオス。」

 

 

 

「そうだったね。」

 

「ゴメンね?

 ついついアローネさんの家族の話とか聞きたくなっちゃって。」

 

 

 

「また今度カタスのことも含めてお話して差し上げますよ。

 ………カオス、

 私の姉アルキメデスが義兄のこと以外ではどのような内容の話を私がしたのか覚えていませんか?」

 

 

 

「う~ん………アルキメデスさんの話かぁ…………。

 アローネが話してたことと言えば………、

 確かアルキメデスさんって………病気がちでグレアムさんやサタンさんに治療してもらってたんだよね?」

 

 

 

「そうです。

 ………では姉は何故病気がちだったのか覚えていますか?」

 

 

 

「えぇっと………、

 …俺の時と真逆のような病気の症状だったよね………?

 名前は…………「“先天性魔力機能障害”です。」そくそれ!」

 

「先天性魔力機能障害?

 それってどんな病気なの?」

 

「さっきの話で出た魔力欠損症とまるで逆なんだよ。

 なんか貴族とかの魔力が高い家の人達の子供に時々生まれるんだよね?」

 

 

 

「はい、

 その通りです。

 先天性魔力機能障害は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の器に過ぎたマナが肉体を崩壊させてまで外に出ようとするのでこれにかかって生まれた方は常に全身に疲労と激痛が走ると言われています。

 謂わば今にも破裂しそうな風船のような症状です。」

 

 

 

「そうそう、

 そんな病気って言ってたね。

 旧ミストで確かそんな話を………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ミシガンは私の意図が伝わったようですね………。」

 

 

 

「それは……アローネさんが言いたいことは伝わったけど…………。」

 

「んん?」

 

 

 

「カオス、

 先程私はお聞きしましたよね?

 マナを消費して体に不調がないかと。」

 

 

 

「うん………そうだけど………。」

 

 

 

「そしてカオスはこう仰いました。

 まだまだ余力があると、

 更に同じことを繰り返しても問題ないと。」

 

 

 

「……うん。」

 

 

 

「…カオスにはあの強大な力を持つ殺生石の精霊が宿っていますのでカオスのマナがそこから供給されていることは想像できます。

 ……ですがここ最近のカオスのマナは徐々に増幅の傾向にあるのですよね?」

 

 

 

「…そうだね………。

 今回マナを沢山使っちゃったようだけどそれが気にならないくらいまだ上がり続けてると思うよ。」

 

 

 

「………本当に体に異常を来してはいないのですか?

 体が膨れ上がりそうな痛みが生じているだとかは………?」

 

 

 

「え…!?

 別にそんなのはないけど何で急にそんなこと………。」

 

 

 

「だって………ねぇ?」

 

「今のカオスの体の仕組みがどうなっているのかは分かりませんが少なくとも魔力機能障害には陥ってはいなさそうではあるので重く捉えることはなさそうですが………。」

 

 

 

「俺が魔力機能障害だって………?」

 

 

 

「それに陥る可能性があるような無いようななんとも断言出来はしません。

 

 

 

 本来生物にはそれぞれある段階までは成長しますがそれは無限ではありません。

 成長には限界が存在します。

 蟻は自身の体重の何倍もの物を運べるとは言いますがそれでもネズミや猫程の重さになるとどこまで蟻を鍛え上げようとも運ぶことはおろか持ち上げることすら不可能でしょう。

 体の柔軟さに自信がある方でも肘や膝を巧みに曲げることは出来てもどう足掻いたところで伸ばした腕がそれ以上逆側に曲がったり腕が伸びたりはしません。

 

 

 

 …ここで私が申し上げたいことは人が内包できるマナには限界がある筈なのです。

 

 貴族という血筋ゆえに人一倍マナを内包していた姉でさえ精々人の二倍程度………。

 器に入りきらないマナが姉の体を傷つけていました……。

 

 ………カオスは………生い立ちからして私や姉と同じく国でも名の通った名門貴族の血筋最高貴族の家系。

 カオスと姉様は条件的には時代の違いはあれど貴族と言うのならそれなりの家の血が多く含まれている筈です。

 ………それなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の二倍程度のマナを内包していただけで人生の大半を不自由に生きてきた姉様と姉様に劣るものの姉様と同じ遺伝子を持って生まれた私の五倍以上のマナを内包しつつなおもマナが上昇するカオスの体は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一体どれほどまでマナを内包出来るのでしょうか?」



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ゲダイアン消失との関係

サンフの洞窟 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男女差とかでマナの用量の限界に差があるとかじゃないの?」

 

 

 

「…確かに筋力やマナは一般的には男性の方が高い数値を出します。

 ですがそれでもただでさえマナ内包率が高い姉様の二倍以上のマナを有しているのはどう考えても多すぎます。

 普通だったら今頃全身に酷い激痛や吐き気を催していても不思議ではありません。」

 

 

 

「普通だったらか………。

 けど俺って普通じゃないからなぁ………。」

 

「人の二倍三倍だとかの話なら他のバルツィエとかってどうなの?

 あの人達だって街の他の人とかと比べても大分マナが多いように思うんだけど…。

 

 

 

「そのことについては私も疑問に思いました。

 どのような秘術を施せば生まれながらにしてあそこまで高い魔力をお持ちになれるのか………。

 カタスが根幹だったにせよあのような人のマナを底上げするような術はウルゴスにはありませんでした………。

 ……いえ、

 ただ私が知らなかっただけなのかもしれません………。

 実は極秘でそういった研究がなされていたのかもしれませんし………。」

 

 

 

「アローネさんでも分からないの?」

 

 

 

「えぇ…、

 父の付き添いでダンダルクとの戦争の会議には出席するようなことはありましたがその他のことについては王国は広く私が知らないことは数多くあります。

 実はそういった研究をそういった研究がなされていたとなると……。」

 

 

 

「ウルゴスの時代ってさ、

 ウルゴスとダンダルクって国が戦ってたんだよね?

 魔術を使うことの出来るエルフと………使えないヒューマの国で。」

 

 

 

「…はい、

 当時はそのような状勢で………。」

 

 

 

「…だったらさ………、

 昔の俺の体験談を元に考え付いたんだけど………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その人の限界を越える研究が行われてたのってダンダルクでのことなんじゃない?」

 

 

 

「…何故ダンダルクでマナの研究が………?」

 

「そうだよ!

 マナのことについてならマナを使える人達の方が研究するものじゃないの?」

 

 

 

「だからだよ。」

 

 

 

「「だから?」」

 

 

 

「…マナを……、

 ………エルフなら誰しもが使える魔術………、

 使えない側からしてみれば使ってみたくなると思わない?

 もし使うことが出来るなら………、

 ………とても魅力的なことと思うかもしれない。

 昔の俺みたいな………。」

 

 

 

「………」

 

「…言われてみればダンダルクの技術力はとてつもなく優れていて目を見張る程のものでした。

 正面からぶつかり合えば魔術を行使するエルフの方に軍配が上がる結果を悉くその“機械技術”で上回りウルゴス国家と対等以上に戦っていました………。

 戦場では“ムジンキ”なる機械兵器から放たれる“レーザー砲”と彼等が呼んでいた攻撃手段はエルフの魔術を越える破壊力を持っていたとか………。」

 

 

 

「レーザー砲って?」

 

 

 

「私達は単純に“光の剣”と呼んでいました。

 

 光………、

 空から降り注ぐ太陽の光とは性質がことなるようで直視してもそこまで眩しくはありませんでした……。

 …しかしその光は触れればあらゆるものを熱で焼ききりウルゴスはこれの対処に苦労しました。

 

 

 

 ………そしてウルゴスがもっとも恐れていたダンダルクの大規模化破壊兵器にして殺戮兵器“核”………。」

 

 

 

「カク………?」

 

 

 

「一言で申し上げるなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただただ大きな爆発………。

 ファイヤーボール等の魔術の衝突で起こる爆発とは比べ物にならない程の巨大な爆発でその一度の破壊は………、

 一つの都市をまるごと焼き払う程の凄まじいものでそれに焼かれた場所は永久的な死を与えるものでした。」

 

 

 

「?

 永久的な死?」

 

「死……って普通は永久的なものじゃないの?」

 

 

 

「…単体の生物の死はそういうものですがそれに被災した土地はその後草木等の植物も育たず被災しなかった生物でもその地を訪れれば体調を崩し最終的には………死に至ります………。

 爆発に巻き込まれていないにも関わらず………。

 その爆砕地は以後死を撒き散らす大地となるのです。」

 

 

 

「うわぁ………なんか怖そう………。」

 

「………大きな爆発………、

 …被災した土地が何か毒みたいなものを放つ………。

 …なんかそれって「ゲダイアンの消滅後の話に似ているな。」!そう!ゲダイアンに………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミーア族に術付与の作業は終わったようだな。」

 

 

 

「ウインドラ!

 起きてたの?」

 

「お前達が起きているというのに俺だけ床につくわけにはいかないだろう。

 外で日課の訓練をしていたんだ。」

 

「そうだったんだ…。」

 

「…それよりも先程の話………、

 どうにも気になるな………。

 俺の部隊はゲダイアン消滅は大魔導士軍団の仕業だと思っていたが………アローネ=リムの話を聞いて大魔導士軍団が大魔導士軍団ではない可能性が浮上してきた……。」

 

「大魔導士軍団じゃない可能性…?」

 

 

 

「“化学兵器”によるゲダイアンの消滅の可能性………ですね……。」

 

「そうだ。

 このデリス=カーラーンには至るところに遠い昔高度に発展した文明が存在していたことが専門家によって発表された。

 その文明では今の時代にはない技術が用いられていてとても現代で再現できないようなものが数多くあったと調べがついている。」

 

「今にはない技術………。」

 

「先程の核とやらもそれに含まれるのではないか?」

 

「そうですね………。

 化学はヒューマ人によって作られたもので自然エネルギーを操る私達エルフにはとても理解が追い付かない分野………。

 彼等ヒューマは力ではエルフに劣るものの“知識”においては全世界の生物上最高の存在で私達エルフが“自然を統べる存在”であるなら彼等ヒューマは“世界の理を解き明かす存在”とまで一部の方々から称されていました。

 彼等の技術が現代に甦れば地図にあったゲダイアンくらいの広さの都市なら一瞬で灰塵に帰すことも可能な筈です。」

 

「え…!?

 そんなに!?」

 

「問題はバルツィエ以外にその技術を誰が甦らせたかだ。

 まだ断定は出来ないがそのヒューマとやらの技術がゲダイアンで使われた線が大いに高い。

 

 つい最近レイズデッドという新術を編み出しはしたが過去様々な国が長年かけて魔術を研究しても実用出来るような代物にはならなかった。

 それよりも元来ある基本六元素のファイヤーボール、アクアエッジ、ウインドカッター、ストーンブラスト、ライトニング、アイスニードルの六種の魔術を引き伸ばす方が単純かつ効率がよかった。

 基本を伸ばすと言うのが最終的な論拠となったんだ。

 

 ………その論拠を踏まえてもっとも抜きん出たのがバルツィエだ。

 バルツィエは膨大な魔力を誇るがそれだけだ。

 他社よりマナの扱いに優れてるだけにすぎない。

 

 

 

 その人の歴史上頭一つ飛び出たバルツィエでさえ都市を一瞬で焼くような術は開発出来てはいない。

 単体でも都市を焼き払うことは出来るだろうがそれは数日かけての話だ。

 バルツィエが何人集まったとしても破壊のレベルは粉砕程度、決して“消滅”なんて域には到達できない。

 ………そう簡単に今の魔術の破壊力の何十倍にもなる魔術の開発など無理な話なんだ。」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

「…………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………確かに新魔術の開発はそう直ぐに実現は無理でしょうね……。

 ゲダイアン消滅の原因もヒューマの化学技術による可能性が高いのも今の説明で分かりました。

 

 

 

 ……………ですが私達にはゲダイアン消滅の原因がまだ他に候補を挙げることが出来ますよ?」

 

 

 

「………?

 他に何があると言うんだ…?

 大魔導士軍団が実は古代の兵器を使う集団だったとしかないと思うが………?」

 

 

 

「それだけではありませんよ………。

 私達だからこそもう一つの可能性があることに気付く筈です………。

 その人の……………人ではありませんねあの方々は……。

 あの方々の力は先日トリアナスからシーモスまでの一本道を一瞬で爆砕しました………。」

 

 

 

「「「!!!」」」

 

 

 

「…そう、

 私達だからこそ大魔術による破壊、化学兵器による破壊の他に第三の破壊の可能性を………。」

 

 

 

「けどそれって……!?

 ゲダイアンが無くなった時ってまだミストにいたんだよ!?」

 

「俺達が生まれる前からアイツはミストにいた………。

 そのアイツが何故遠く離れたゲダイアンを……!?」

 

「俺が子供の時に触るまではアイツは一度も外になんて出てない筈だよ!?

 そのアイツが何で…!?」

 

 

 

「私はあの方を疑っているのではありませんよ…?

 私が疑っているのは別の方です………。」

 

 

 

「別の方………?

 ……他に誰がいるって………?」「…いる!!いるぞ!?アイツの口振りからして確実にいる!!」

 

「え?

 いる………?」

 

 

 

「……あの方はあの日こう仰っておりました………。

 生物はいづれ彼と………“彼の眷属”に辿り着くと………。

 

 

 

 …“眷属”………、

 彼には他に彼と同じ様な方の存在を仄めかしていました………。

 ………眷属という響きからして彼の力には及ばないもののこの星を破壊し尽くすと宣言し事実それを可能にする力を持つ彼の眷属となると星を破壊しないまでも都市を一瞬にして消し飛ばす程の力を有しているのは有り得そうです………。

 

 

 

 ………私はゲダイアン消滅の原因は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺生石の精霊の眷属が関わっていると思います………。」



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精霊の眷属

サンフの洞窟 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故“精霊”の眷属だと思ったんだ…?」

 

「さっきまでの話でその………“化学兵器”とかいうのがゲダイアンを消滅させたんじゃないかって私も思ったんだけど………。」

 

 

 

「私がダンダルクの化学兵器の話をしたのはカオスのような人の許容を越えるマナの内包の話をしていたからです。

 私は一言も化学兵器でゲダイアンを消滅させたとは言ってはいませんよ。

 ただゲダイアンを消滅させることは可能だと言っただけです。」

 

 

 

「それはそうだったが………。」

 

 

 

「…私は化学兵器がゲダイアンに用いられた線は薄いと思います。

 化学兵器核が用いられたのだとしたらその核を開発する過程で様々な工業施設を建設しなければなりません。

 核を開発出来るのならこの世界のどこかでそれが可能な工業地帯が存在している筈ですが………、

 ウインドラさんは心当たりがありますか?」

 

 

 

「………無いな………。

 少なくとも工業技術レベルはダレイオスはマテオに劣る………。

 そしてマテオではもっともそういった技術力があるとしたらレサリナスだが………先の件でマテオは無関係だと分かる。

 バルツィエがゲダイアン関与を否定したからな。」

 

 

 

「…でしたら現代に化学技術が甦った線は無いでしょう…。

 核自体がダンダルクでも戦場に投入した兵器の中でも格別な力を有していました。

 核を開発する段階の前にもダンダルクの戦術兵器は色々な応用を利かせられる物が多数存在していて、

 私達エルフが戦いに剣や魔術を駆使するのに対してダンダルクの兵士達は………、

 

 

 

 “銃”と呼ばれる武具を使用していました。」

 

 

 

「ジュウ………?」

 

「聞いたことない武具だな………。」

 

「そのジュウという武具はどのようなものだったんだ?

 そのジュウとやらでエルフの魔術に対抗出来たのか?」

 

 

 

「対抗………、

 言い方としては私達エルフが対抗出来ていたという話になりますね………。

 彼等ヒューマの作り出した銃は人の指程度の大きさの鉄の塊を打ち出す武具で破壊制度においてエルフの魔術に及ばないものの速度に関しては魔術を圧倒するものがありました。

 彼等の銃に対抗出来ていたのは唯一ヒューマの銃に速力でも引けをとらないライトニングのみ………。」

 

 

 

「ライトニングのみ………。

 俺ならジュウとも対等に戦えるということか………。

 魔力の向上した今ならそれ以上にも…。」

 

「そのヒューマって人達は生まれてから死ぬまで常時魔力欠損症みたいな感じだったんだよね?

 だったら魔術一発で倒せたんじゃないの…?」

 

「そうだよね…、

 スピードだけが早くて指程度の塊を飛ばす程度の武器ならウルゴスとダンダルクって結局はウルゴスが勝っていたんじ「そうはならなかったでしょうね。」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェノム出現が無ければウルゴスとダンダルクの戦争はダンダルクの勝利で終わりウルゴスは植民地として吸収れていたでしょうね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…先に言っていた核の存在があったからか…?

 だが核以外は特に危険な気配はしなさそうだが………。」

 

「鉄の塊を打ち出してくるなら同じ鉄の盾とかで防げるもんだと思うけど………。」

 

 

 

「理屈ではそう思うのも無理はありません………。

 ですがヒューマの銃から撃ち出される弾丸は俊足で遠くの距離から弾丸が打ち出された音が聞こえた瞬間にはもう攻撃が届いているのです。

 …音と言うのは一秒で約三百四十メートル程まで移動するらしいのですが彼等の銃から撃ち出された弾丸もほぼ同速………。

 一秒で三百四十メートルならば三秒で一キロ………。

 とても遠くの距離からでも狙撃が可能だったのです。

 盾を持っていたとしても狙われていることに気付かずに殺されてしまいます。」

 

 

 

「「「………!?」」」

 

 

 

「…更に彼等には驚くべき技能もありました………。

 

 

 

 ………私達エルフが命中させたい対象に魔術を発動したとして正確に命中させることが出来る距離はおよそ視覚で確認できる距離に動かぬ対象がある場合のみ。

 

 視覚で捉えられる限界以上の距離に対象がある場合は私達をマテオからシーモス砦まで追ってきたユーラスの部隊のように私達対象がいる方向へと当てずっぽうに魔術を発動するだけとなる筈です。

 

 

 

 人の視覚で人を捉えられる距離は大体で三百メートルから視力の良い方でも五百メートルプラス…、

 その距離以上は視覚的に人を捉えることが難しくなってきます…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼等ヒューマは人が人を視認出来る距離外からの銃による弾丸攻撃をほとんど誤差なく私達エルフに撃ち込んできました………。」

 

 

 

「視覚外からの距離からの攻撃を正確に狙って当ててきたというのか……!?」

 

「そんなのどうやって………!?」

 

「…カオスからすれば想像出来ない技能だよね………。

 なんたってノーコンだし………。」

 

「…うるさいな……。」

 

 

 

「その銃撃による攻撃方法は私達ウルゴスのエルフが使用する魔術の破壊力以外では全ての能力が上回っていました………。

 私達エルフは彼等の銃に例えるなら弾丸自体は己のマナ、己自身を使用することによって弾を撃つので使用し続ければ消耗して敵の攻撃以外の部分でも体力を消費します。

 ですが銃に使用される弾丸はただの鉄の道具………、

 弾丸が尽きればまた即時弾丸を補充して再度攻撃が可能なのです。

 

 人が一日に発動できる魔術は限りがあります。

 それが尽きればすなわちマナが枯渇し行動不能に陥ります。

 対してヒューマの銃の弾丸は彼等いわく作るのにそこまで苦労はしないとのこと。

 鉄を熱で溶かして形を加工するだけで一日に何百何千とも作れるようでした。

 

 ………そしてここまで説明しておいてなんですが彼等の銃には他にも恐ろしい面がありました。

 

 それが………攻撃回数です。

 私達エルフが満足に魔術の威力を出すには詠唱を含めての発動が必要で一度の発動で数秒から十数秒、

 初撃はマナの消費が薄いため威力と発動速度も最高の制度で撃つことが可能でしょうがその次からは徐々に制度が落ちていきます。

 

 

 

 ヒューマの銃撃はその間に敵を八人は殺せるでしょう。

 銃による弾丸攻撃はほぼ一秒で一度、その次の攻撃はまたその一秒後には放てます。

 早いものでは一分間に四千発もの弾丸を放てる銃もありました。」

 

 

 

「四千発だと………!?」

 

「六十秒の内に人が四千人殺せたってこと!?」

 

「そんな恐ろしい武器があったの!?」

 

 

 

「流石にそういった超高速射撃を行う武器の命中制度はかなり落ちましたがそれでもウルゴスのエルフがヒューマに旗色が悪かったのは確かでした。

 彼等ヒューマは力で劣りながらも短命と言うことで世代交代の移り変わりが激しく人口もエルフの十倍程にまで膨れ上がりその鉄製品の開発力で作り出した銃をヒューマの兵士全員が所持していたようです。」

 

 

 

「……攻撃速度、攻撃可能範囲、遠距離からの命中制度、コストパフォーマンス、それから瞬間的な攻撃回数に次いで兵力………、

 勝っていたのは攻撃可能な距離での魔術の破壊力だけか…………。

 しかし………。」

 

「カクとか言う兵器があったんならその魔術ですら当てにならないよね………。」

 

「今の話通りならダンダルクのヒューマ達は絶対にウルゴスのエルフ達を寄せ付けないように戦うよね。

 その方が確実に攻撃が当たらないだろうし。

 それに魔術自体三百メートル辺りくらいが飛距離としては最大くらいじゃなかった?

 だったらウルゴスの人達ってダンダルクに攻撃することが出来なかったんじゃ………?」

 

 

 

「…ダンダルクで銃が開発されるまではダンダルクを一時的に降伏させられそうなところまで追い詰めはしました。

 ですが銃が投入されてからは逆にダンダルクに盛り返され互角程度にまで持ち直されました。

 始めの内は銃が戦場に出てきても大きく負けるようなことは無かったのです。

 鉄で出来た弾丸を飛ばしていることが分かれば鋼鉄の盾で防ぐ対策も出来たので………。

 

 

 

 けれどもそれは長くは続きませんでした……。

 段々とヒューマの銃の開発制度も上昇し銃撃による弾丸の攻撃の威力を増していきました。

 仕舞いには鋼鉄の盾すらも貫通しバリアーの魔術で身を守っていた筈の兵士すら葬られていきそんな絶望的な武器の力の差を見せ付けられた後に“核ミサイル”と呼ばれる兵器にウルゴスの半分を焼き払われて………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………その核ミサイルで多くの街が消された後に世界的にヴェノムが蔓延しだしました。

 あの時代ではヴェノムの出現はダンダルクの自然を壊し尽くす行いに激怒した“神”という存在が人類に対する裁きとして“神の化身”または“天使”を人類殲滅のために遣わしたのだと言われていました。

 ………実際にはその“神”にはヴェノムは存在してはならないと言われていましたが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ですから私はゲダイアン消滅に核ではなく唐突ではありますがカオス達の村のミストにあったような殺生石が見つかり殺生石の中にいた精霊の眷属がヴェノムの気配を感じとりゲダイアンごとヴェノムを消し飛ばしたのだと。

 もし核ミサイルでゲダイアンが吹き飛んでいたのならその技術は幅広くこのダレイオスに普及していてダンダルクの兵士達が所持していたような銃もミーア族の方やスラートの方に伝わっている筈です。

 それが伝わっていないのならこの現代に化学兵器が甦ったということはありません。

 

 

 

 

 ……これが私がゲダイアン消滅にダンダルクの技術が用いられた説を否定する根拠です。」



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沸き立つ部族

サンフの洞窟 夜

 

 

 

「…アローネ=リムの推測通りなら確かに古代兵器の線よりも精霊の眷属説の方が信憑性は高いな………。」

 

「そんな技術があったならどこかの町工場とかでもそれっぽいものの話はあるよね………。

 けど今までの街にはどこにもそれらしいものなかったし…。」

 

「その古代兵器が復活したってことはないんだね?

 どこかの人達が今もどこか秘密の場所とかで作ってたりとかは…?」

 

「昨今までのマテオとダレイオスの覇権争いで名乗りをあげないと言うことは都市伝説組織大魔導士軍団は所詮都市伝説だけの存在だったということか………。

 …消滅に巻き込まれて消えた線もあったが最初からそんな奴等は存在していなかったのかもしれないな。

 全ては………精霊の仕業、それでゲダイアン消滅は説明がつく。」

 

 

 

「事情を知らぬ方に話したところで戯れ言と受け取られてしまうような意見ですが私達には精霊については関係者ということもあるので精霊の眷属という容疑者をあげることも可能です。

 今までゲダイアン消滅の原因が判明しなかったのはゲダイアン関係者が消失してしまったことの他に、

 

 誰も精霊という存在が実在することを知らなかったから………、

 それが理由だと思います。」

 

 

 

「…けどゲダイアンの周辺って放射能とかいうのが舞ってるんだよね?

 それはどう説明するの?」

 

 

 

「…強すぎる爆発は“強い毒”を生みます。

 殺生石の精霊からしてヴェノム消滅を願っていたようですからゲダイアン消滅の際の爆発は凄まじいものだったのでしょう…。

 放射能が発生してしまったのはその影響かもしくは……精霊自身が発しているか………。」

 

 

 

「精霊が放射能を………?」

 

 

 

「カオスの話では殺生石の精霊は何者かがその行方を追っている………とのことでしたよね?」

 

 

 

「…そうだね。

 そんな感じに言ってたけど………。」

 

 

 

「そして殺生石の精霊の眷属が同じくその何者かに追われていて見付かりたくないのであれば他者を寄せ付けないような術を施して何者にも不干渉を貫き通そうとしているのかもしれません。」

 

 

 

「!

 もしそうならゲダイアンには………!?」

 

 

 

「えぇ、

 そういうことでしょうね………。

 今もなおゲダイアンには………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺生石の精霊の眷属が眠っている可能性があります………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それが真実だったとしたらその何者かにも精霊がゲダイアンにいることが分かっているんじゃないか?」

 

 

 

「そうでしょうね………。

 もう既に放射能の対策を立てて精霊の眷属を回収しようとしているのか………、

 あるいはもう回収してしまったか………。

 

 いづれにしても精霊の力は強大です。

 精霊の力を使えばヴェノムを含めたあらゆる病気や毒に類する物質、生物から身を守れるだけではなく大破壊も実現でき一度力を得てしまえばカオスのように人の身に余るマナを内包しても異常を来すことなく生活でき最終的には………、

 

 

 

 この星の全ての生物の頂点に君臨することが出来る………。

 何者かもそのことを承知しているのでしょうね…。

 だから精霊を探し求めている………。

 

 

 

 自らが世界の主となるために………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………もしそんな力があればアインスの者であれば誰であろうとその力を欲する筈………。

 エルフであろうとヒューマであろうと………、

 ……ですがヒューマにはエルフのようにアブソリュートという延命方法は存在しなかったのでこの時代まで生き残りがいることは有り得ない………。

 

 精霊を追っているのは間違いなくエルフ側の誰か………。

 この時代に甦った私とカタス以外で一体誰が精霊を捜索して………?

 ………それにその何者かはどのようにして彼等精霊の存在を知って………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンフの洞窟 翌朝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆アンタ達に協力することを受け入れたよ。」

 

 

 

「え?

 そんなにあっさり?」

 

 

 

「アンタ達の話が本当のことだってことも昨日の内に実証できたしね。

 説得という説得はしなかったよ。」

 

「最初の時点で俺とミネルバだけだったが皆同じ術にかかることによって集団心理が働いたんじゃねぇか?

 仲間が多ければ多いほど何かデカイことが出来そうな気になって立ち上がることに納得してくれたぜ。

 俺等にも一筋の希望の光が見えたんだ。

 今この光を失うことだけはあっちゃならねぇ。

 この先にドデカイ戦いが待っていようと恐いのはバルツィエだけだ。

 今までの状況からすればそれだけで何だか立ち上がれるだけの勇気が湧いてくるぜ!」

 

「…それで私達はこれから何をすればいいんだい?」

 

 

 

「え?

 ………どうすれば………いいのかな?」

 

「では先ずこの地方にいるヴェノムを駆逐して回っていただけますか?

 これから戦場になるかもしれない場所で不意のヴェノムは身動きに手間取り痛手を被りそうですので。」

 

「それとこの計画を浸透しやすくするためにもスラートのいるセレンシーアインに使いを出してくれないか?

 情報の共有化は大切だしな。」

 

「あと他の部族達がどの辺りで隠れ暮らしているか情報を探る部隊も編成してもらえるとこちらとしても助かります。

 今回はシーグスさんと偶々会えましたけどたった五人で一つ一つの部族の隠れ家を探すのは一苦労ですから。」

 

「あとね?

 その他にもなるべく他のヴェノムの主を見つけたら私達に教えてほしいな。

 皆はウイルスにかかることは無くなったけどそれでも普通のヴェノムと違ってヴェノムの主は私達でも苦戦するくらいだったからまだ皆には危険だと思うからね。

 戦うなら私達だけでいいし今数少ない味方をヴェノムの主で減らすようなことは避けたいから。」

 

 

 

「…偉く要求が多いね………。

 でも分かったよ。

 そうした方がいいってんなら従うさ。

 シーグス。」

 

「了解したぜ!

 早速他の奴等と今の指示通りに動けるよう調整してみるぜ!」タッ…

 

 

 

オーイミンナァ!!コレカラノハナシナンダガ…!!

 

オウヨ!マズナニスレバイインダ!!

 

テハジメニナ、センセーガタガコウシテホシイッテヨ!

 

ナルホド…ヨシワカッタ!オレガイコウ!

 

ジャアワタシタチハヴェノムヲカタヅケレバイイノ?

 

ソウダナ、ダイタイサンクミクライニワカレテトリクムカ?

 

ソレガイイ、ソウダイナケイカクダシゼンインデヤロウカ。

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ……!!!

 

 

 

 

 

 

「…取りかかりが早いですね。

 こんな指示だけで直ぐに動くなんて………。

 それに」

 

 

 

「…この数年間で皆生きた心地がずっとしなかったんだよ。

 来る日も来る日もヴェノムに感染して死んでいく仲間達を見ていたら次は自分がそうなるんじゃいかと不安な夜を過ごしてきた………。

 そうした日々が過ぎ去っていく内に皆生きる希望を失っていってたんだ…。

 このままただヴェノムから逃れるだけの余生を送るしかないって日々の地獄の果てを夢に見ることもしばしば………。

 

 

 

 その境地に来て現れてくれた“希望の光”に皆大喜びなんだよ。

 長い間苦しめられてきたヴェノムの恐怖から解放されて皆生きる喜びを取り戻した。

 

 渇望してんのさ。

 これまでの死の不安の日常を払拭してくれる生への期待していた昔のような日常を………。

 私達ミーアは苦しんだ分それを取り戻す息を吹き返す何かがしたくてウズウズしてんだよ。

 

 

 

 ありがとねバルツィエの先生方………。

 ミーアを代表して御礼を言わせてもらうよ。

 私達に生きる力を与えてくれて………。」



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アローネの目的への苦難

サンフ渓谷

 

 

 

「最高な出だしになったな。

 ミーアが全面的に協力してくれることになったしこれならこのダレイオスの東ではヴェノムの主討伐は比較的スムーズにことを終えそうだ。」

 

「ミーア族の人達がミストの皆みたいになったしね!

 ………カオスに対する風当たりは全くの正反対だけど………。」

 

「殺生石とは無関係だったミーア族にとっては他所から来た救いの手を差し伸べられた形だっただけでミストの人にとっては俺は殺生石を独り占めしちゃった悪人みたいなもんだし仕方ないよ。」

 

「このクエストが終わる頃にはその考えも少数派になりますよ。

 このクエストの最後にはダレイオス全体がカオスさんの業績に感謝の意を示す筈です。

 その暁には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスさんが新たに新生したダレイオスの“統治者候補”として名前が挙がる筈です。」

 

 

 

「!!」

 

「統治者…?

 ………村長みたいなものかな?」

 

「そんな小さな話じゃないぞ統治者と言うのは………。

 つまり国を治める国王になるということだ。」

 

「え”!?

 カオスが王様に!?」

 

「昔には一つの国として成り立っていたにしてもそれをまた一から纏めあげることになるんですから当然国を纏めるに相応しい方の人選が必要になるでしょう。

 カオスさんはそれにもっとも適した人選です。

 ボク達の経緯ですらカオスさんのもとに集まってますからその王の選任にはボク達の中から選ばれることになればカオスさんこそがダレイオスの王の資格があると言えるでしょう。」

 

「俺は………王様になる気なんてないけどなぁ………。

 それに俺ってバルツィエの家系だよ?

 ダレイオスがそんな家系の俺を王様になんてしないだろ………。」

 

「そんなことは些細なことですよ。

 カオスさんがかつてダレイオスがただ一人認めた男アルバート=デュランの孫だと知り渡ればそんな問題は誰も気にしなくなります。

 ダレイオスとマテオの橋渡しになれそうだったあの人の孫が今度はダレイオスの民をヴェノムから救うだけでなくマテオのバルツィエと戦おうと言うのなら………。

 

 

 

 …前のアルバート=デュランとは違い今度のカオスさんは完全にダレイオス側の勢力です。

 出身がマテオにも関わらずダレイオスを救うために奮闘して回るわけですから誰も文句なんて言いませんよ。」

 

「ダリントン隊がマテオの民衆達の士気を上げようとしていた時はアルバート=デュラン伝説を利用して架空の救世主の話を作り上げたが今度のお前は実際に一つの国を救済するんだ。

 お前の虚実に満ちた………俺達が満たしてしまった外情がこのダレイオスでは一切ない。

 故にお前の頑張りがそのままこの国で反映される………。

 この国はお前にとってとても住み心地のいい国になるんだ。」

 

「…この国が………カオスの住みやすい国になるかもしれないんだね………。」

 

「ちょっと待って!

 俺は別に王様になりたい訳じゃないんだ!

 俺はミストをバルツィエ達から守りたいだけで…。」

 

「それなら尚更ダレイオスを統治するしかないだろう。」

 

「………え?」

 

「ミストを………あの村を守りたいと言うのならミストの敵はバルツィエだけじゃないぞ?

 この国の民全てがミストの敵だ。」

 

「ダレイオス全体がミストの敵!?」

 

「そうですね。

 今はマテオにいる敵の代表としてバルツィエの名を大きく挙げてはいますが勿論それはバルツィエに従わせられているにしろマテオの民衆全ての人にも当てはまります。

 よってマテオの大陸の中にあるミストという村の人達もダレイオスの民にとっては排除すべき敵の内の一部ですね。」

 

「そんな………。」

 

「…これから起こりうる戦争でマテオが勝利すればミストはバルツィエの力を確固たるものとすべく砦の建設が進められる…。

 ダレイオスが勝てばマテオの大陸を戦争に参加した部族達で分け合うことになる。

 そうなれば結局ミストもバルツィエ勝利の結果と大して差のない扱いを受けるだろう。

 長年の仇敵として苦汁を舐めさせられ続けてきたダレイオス側の者達なら戦争に無関係を通してきた相手でもマテオの国民というだけで虐殺されたり地を追い払われたりして全てを奪われるだろう………。

 

 

 

 それを防ぐ手立てがやはりダレイオスの統治者としてダレイオスの全てを掌握する地位に就くことだ。

 お前が王になればダレイオスもマテオもお前の自由に出来る。

 お前が望むのならダレイオスの総力を持ってマテオを滅ぼすことも出来るしそれをしないということも出来る。

 全てがお前の思うがままだ。」

 

 

 

「…ダレイオスとマテオが俺の………?

 ………でも俺はそんなこと………。」

 

 

 

「…分かってるさ。

 お前がそんな野蛮にまみれた望みなど持たないことも。

 俺もお前がそんなことを望むとは思ってはいない。」

 

「だっ、だよね!?

 ビックリしたぁ…!

 カオスがそんなことする筈ないよね!?」

 

「ですがそれが実現可能な位に立つことになりえるのも確かです。

 王位は国の全ての方針において口出しも出来ますし何より王の取り決めは絶対です。

 従わなければ従わない者を即刻排除することも出来ます。

 マテオの国政のように。」

 

「……!?」

 

「…俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱり王様になるなんて考えられないよ。」

 

「!」

 

「そうは言ってもこれからの流れの最後には誰がダレイオスの頂点に君臨するかの会議が開かれるでしょう。

 そうなった時にミストだけを不可侵対象にする前にはボク達の中かダレイオスの九の部族の中から王が選任されることになります。

 …アイネフーレで子供のボクでは威厳に欠けますし他の部族達を反感が生じずに上手く取りまとめることは難しいです。

 ここはカオスさんしか…。」

 

「…ウインドラかミシガンはどうなの!?

 王様になるって話になったら………王様にならない!?」

 

「俺は…「ダメ!!」!」

 

「私はダメ!

 私は………ミストの村長になってミストを守らなきゃいけないから国の王様になんてなれない…、

 …ウインドラにもそれを手伝ってほしいし………。」

 

「………そうだな、

 俺もミストから離れる訳にはいかないようだ。

 ダレイオスの王になるとしたらダレイオスとミストで距離が遠すぎる。

 王の話の前に俺はミストを守る騎士になるからな。」

 

「……俺だって昔から騎士を目指してきたから人の上に立つようなことは考えたことなかったんだよ………。

 急に王様になれだなんて言われても………。

 !…そうだじゃあ「では私が代わって差し上げますよ。」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…この場にいる四人が王座獲得権を放棄すると仰るのならば私がダレイオスの王座に就きます。」

 

 

 

「アローネ…?」

 

「カオスが王様にならずに自由になれるなら私は大歓迎だけど………。」

 

「…アローネさんならカオスさんと共に旅を始めて最初から最後まで一緒に戦うことになる訳ですから特に不評を買うような人選でもありませんが………。」

 

「アローネ=リムが王座に就くとなるとどうにもダレイオスの皆を納得させるだけのインパクトが薄いのではないか…?

 カオスなら誰もが知るアルバート=デュランの名声を利用できるが「でしたら私もアルバさんの孫ということにします!」……おいおい………。」

 

「アローネさん、

 それは無理ですよ………。

 皆が認めるアルバート=デュランはバルツィエの血筋………。

 バルツィエの血筋ならバルツィエであることを証明しなければなりません。

 カオスさんはバルツィエの技能だけでも十分に使用できますが…アローネさんは………。」

 

「……私にはカオスのような魔術に対する高い抵抗力も戦闘におけるバルツィエの接近能力もありません。

 更には地属性の攻撃でダウンしてしまう欠点もあります。

 

 ………ですがそれでも王にならなければならないのです!!

 王になって権力を得なければ………。」

 

 

 

「…もしかしてアローネさん………、

 王様になってウルゴスの人達を皆に探させるつもりじゃ……。」

 

「王になればダレイオスのことを自由に出来るとは言いましたけど自由に出来るからといって好き放題し始めるとマテオのバルツィエ達のように国民から反感を持たれ「私は自分の欲のために権威を振るうつもりはありません!!」」

 

 

 

「私はただ………ウルゴスの民を………未だに封印され続ける同胞達を救いたいだけなのです………。

 こうして私達にヴェノムの危険を回避する術が編み出せた今なら………。」

 

「…しかし………ダレイオスやマテオの民にとってはウルゴスの話は眉唾物だ………。

 王になってマテオとダレイオスの因縁に終止符を打ったとして………皆が王になったアローネ=リムから“地層に埋まった同胞達を探してくれ、かつての私の国の民なのだ”と命令されてもダレイオスの民にとっては何の縁も関係もない者達だ。

 かえってその後の執政に差し障るだろう………。」

 

「それ終戦を迎えた後は恐らくマテオ、ダレイオス共に戦中の痛手が深いでしょう……。

 先に国を最低限修復する作業があると思うのでアローネさんの考えてる作業はずっと後に回さなければなりませんよ?

 そうなったら王になった人は国を立て直すのに尽力しなければ………。」

 

「…それくらい待ちますよ………。

 ウルゴスの同胞達の為ですもの……。」

 

「「………」」

 

「…その………、

 アローネさんの同胞達の話ってさ………。

 私が言うのもなんだけど………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どのくらいの人数見付けられたら終わるの?」

 

 

 

「どれくらいですって…?

 それは全ての…………………!」

 

「アローネさんってカーラーン教会のカタスさんから話を聞いて他のウルゴスの人達を探さなきゃって思ったんだよね…?

 アローネさん自身もあのミストでカオスと会った時にもアインスって時代からこのデリス=カーラーンまでタイムトラベルした記憶が無かったみたいだし………。

 …ひょっとしてアローネさんと同じように眠ってる人の数って正確に分からないんじゃない………?

 もし分からないんだったら………そのアインスの人達を探す作業って………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永久的に終わりが見えないんじゃないの?」

 

 

 

「………」

 

「そうだな………、

 具体的なウルゴスの同胞達の数が分からないのならダレイオスの民もいつ終わるとも分からない捜索作業に駆り出されるのは酷なものだろう。」

 

「仮に見付けたとしてウルゴスの人達を探しだす労力と見付けた際のメリットが割が合わないような気がします………。

 この時代でウルゴスの人が眠りから覚めたとしても一労働力としての能力にしかならないでしょうからウルゴスの人を探す前にウルゴスの人達を探してくれそうな人を説得するところからになるでしょうね………。」

 

「そこは………私がなんとかして………。」

 

「………アローネ=リム………、

 ウルゴスの民もこのまま眠り続けても直ぐに危険が及ぶというわけではないのだろう…?

 アローネ=リムや教皇がこの時代に流れて目覚めた時には最初から今のようなヴェノムを排除できる能力を持っていたらしいしな。」

 

「それは………!?

 ですがだからと言ってこのままどこかで地層に埋もれ続けて言い訳では…「アローネ=リム………。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…この時代の皆もヴェノムの存在と国同士の戦争で安らぎを求めている………。

 それが漸く終わりの兆しが見え始め次こそは世界を誰もが住みやすい世界にしようとしてるんだ。

 ………それが実現するには想像を絶する長い時間とその分の労力が必要なんだ………。

 個人的な頼みで何かもののついでに地層を掘り進める作業の時とかにはその願いを聞くのも有りだろう。

 そうじゃなく当てもなくどこに埋まってるのかすら分からぬ者をひたすら皆に強制して探させるのは非情すぎる……。

 地層を掘り返せばこの時代の経験上ヴェノムに類する何か別の災厄を堀あてる可能性もあるし地層を掘る作業ですらヴェノムの存在を連想させる………。

 この時代の者は殆どの者達がもう地層を掘り返す作業はしたくないと思う筈だ。

 ヴェノムが現れたというのなら仕方なくするだろうがそれ以外の目的で掘るとなると………。

 

 

 

 …今すぐにウルゴスの民を救う必要性はどこにもないんだ………。

 ………ウルゴスの民の捜索は、

 

 

 

 自然に見つかるのを待つくらいでいいんじゃないか?」



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カオスの慰め

サンフ渓谷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」トボトボ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…少し言い過ぎましたかね………。」

 

「同胞達を探したいという願いは理解できるがこの時代の者も今を生きるのに精一杯なんだ………。

 王に選ばれたとしてその権力を当てにしようとしているのならば今の内にその厳しさを理解してもらった方が後々ショックが少ない………。」

 

「…なんとかならないの…?

 王様になったとして命令とかじゃなくてさ、

 何か………人助けと思って皆に手伝ってもらうとか…。」

 

「…教皇の時のようなこの時代には無い価値のある文明の技術等の書かれた本とかがウルゴスの民と一緒に見つかれば一応土を掘り返してみる口実にはなるだろうが………。」

 

「もし全てのことをダレイオスの皆に公にして積極的にウルゴスの民捜索に協力してもらってもその後のウルゴスの民の扱いに困りますね…。

 アローネさんが王になればアローネさんは同族としてウルゴスの民を優遇してしまうのではないですか?

 そうなったら………気が早い結論ですが戦争に勝利した国の民なのにダレイオスの民が劣等民扱いになるかもしれません。

 基本的に族長や一部を除いて平等の部族なのにそんなことになってしまえば………マテオのバルツィエの二の舞が起こりますよ?」

 

「…バルツィエを作り上げるような情報の書かれた書物が見つかればそれを利用して第二第三のバルツィエ出現の危険性も孕んでいる。

 ウルゴスの民の捜索に関しては残念だがアローネ=リムの考えは甘いだろうな。

 簡単に見つかる話ならいいんだがこの世界史が始まってアローネ=リムと教皇のような話は一切なかった上に今現在見つかってるのも二人まで………、

 数千年昔にまで遡れば他にもひっそりとどこかでウルゴスの民が目覚めた話があるかもしれんがそんな話すら探してくるだけでも大変だ………。

 

 

 

 …詰まる話このデリス=カーラーン歴が始まって以来数万数千年の長き時の中でたった二人しか見付かっていないウルゴスの民をその百倍以上にも膨れ上がりそうな数を探してくれと言うのは………無関係な者からすれば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “面倒”の一言であしらわれてしまうだろう………。」

 

 

 

「…でもアローネさんとカタスさんが見付かったのって偶然だよね………?

 だったら探そうと思ったら案外早くに一人二人目が…。」

 

「偶々だったということもありますよ。

 アローネさんとカタスさんが見付かったことは。

 二人が地殻変動とかで地層の上の方まで浮上してきて見付かっただけで他のウルゴスの人達はボク達ですら手を出さないような深い地層に埋まっていたら………、

 実際ヴェノムが現れて百年………、

 世界中で共通しているヴェノムの対処法が同じ土葬にも関わらずウルゴスの民の話はほぼ聞かない………。

 これは少なくともボク達が考えているような浅い地層にはウルゴスの人達は埋まってはいないということですよ。」

 

「………」

 

「…せめて助け出すにしても“明確な数や誰を助け出したいのか”を絞れればな………。

 王に立候補しようとする姿を見れば元貴族の経験からか上手くやっていけそうではあるが………責任感が強すぎて総数も分からないウルゴスの民全てを救おうとするなど………、

 付き合わされるものにとっては終わりが見えない土の掘り返し作業は拷問のように感じていくだろう。

 昔敵兵を実際にそういった方法で拷問し精神を崩壊させるようなことも行われていたようだしな。

 

 

 

 可哀想だが………“人”は合理的な理由がなければ動かしにくいんだ。

 ………この世の中は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ハァ………。」トボトボ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイヒ山道 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「…いつまで悄気ているんだアローネ=リム。」

 

「ウルゴスの同胞の人達の捜索については残念ですけど………地道に探していくしかありません。」

 

「私達の方でもなるべく探すようにするから………。」

 

 

 

「…いえ………、

 この件は私とカタスの………ウルゴスの問題ですのでお構い無く………。」

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………アローネ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はい?」

 

 

 

「……ええっと………。」

 

「………カオス?

 どうなさいました………?」

 

「…ウルゴスの人達のことだけど………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……全てが終わったら………俺が一緒に捜してあげるよ!」

 

 

 

「「「!」」」

 

 

 

「…?

 カオスが………何故………?

 ………カオスはウルゴスとは何の関係も無いのに………。」

 

「…そうなんだけどさ………。

 アローネの話を聞いてたら………なんだかウルゴスの人達を助けてあげたくなって………。」

 

「…私の同胞達に同情していただけるのは有り難いことですが………、

 私が成そうとしていることは気が遠くなるような時間がかかることです………。

 ウインドラさんが仰ったようにとても………。

 …それなのに私にはカオスに対して何もしてあげられない………。

 私は………ウルゴス王族の“所有物”なのですから………。」

 

「………」

 

「………別に俺は何かアローネにしてもらいたくて手伝おうって言ってるんじゃないよ………。

 俺は………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネのお義兄さんの……!

 サタンさんに会ってみたいんだ!!」

 

 

 

「………義兄様に?」

 

「そう!

 ここまでの旅でアローネから沢山サタンさんのことを聞かされたからね。

 俺もサタンさんに会いたくなったんだ。

 ………アローネが凄く大好きなサタンさんに………。」

 

「………!」

 

「他にもレサリナスの教会でカタスさんの話を聞いて………、

 カタスさんの兄弟の人達とかアローネの御両親、それからアローネが大好きだったウルゴスの人達………、

 

 その皆に会ってみたい………。」

 

 

 

「カオス………。」

 

「…駄目かな?

 それとも………俺一人じゃアローネの親戚を捜すのに役に立たないかな?」

 

「………いえ、

 

 

 

 そんなことはありません…!

 力を貸していただけるのなら助かります!

 …ミストからここまで私を支え続けてくれた他ならぬカオスなら………。」

 

「そう言う言い方はちょっと照れるから止めてよ………。

 俺はただ俺がサタンさんに会ってみたいだけなんだよ。

 サタンさんって俺みたいな厳しい環境……、

 ………俺を遥かに越える環境にいても挫けずに頑張って来た人なんでしょ?

 そんな人なら何かと俺と気が合いそうだし………、

 何よりそんな人だったら俺達なんかよりもこの世界のヴェノムをどうにか出来そうだしね。

 仕事もお医者さんだったみたいだし。」

 

「…そうですね。

 サタン義兄様とグレアム様のお二人がこの時代で見つかりさえすれば………、

 この時代に蔓延するヴェノム災害問題も解消可能な筈です。」

 

 

 

「それは本当なのか?

 アローネ=リム。

 この時代のヴェノムを解消出来ると言うのは………。」

 

「はい、

 出来ると思いますよ。

 サタン義兄様とグレアム様はウルゴスでもかなりの腕を持つ医学研究者です。

 彼等はこの時代には無い病気の特効薬等も開発なさった方達ですから。」

 

「……言われてみればレサリナスでも一人不治の病、魔力欠損症の治療方法を知っていましたね………。

 あの処刑台に近寄っていったダニエルって子でしたが……。」

 

「……!

 あの少年のことか………。

 もしそれが本当なら………、

 

 

 

 ウルゴスの民を捜索する理由にはなるな………。

 ヴェノムに限らず今後とも世界には多くの病気に悩む者が増えてくるだろうしな………。」

 

「流石に世界中を回って私達の手だけでヴェノムを祓っていくのも大変だよね………。

 ワクチンも大量に作れるかどうか分からないんだし。」

 

 

 

「サタン義兄様だけでなくグレアム様もウルゴスの医療技術を何百年も進歩させたと言われるような方ですしそこにサタン義兄様が加われば薬の他にもこの“レイズデッド”の術を一般の方にも普及出来るように消費マナの軽減化や新術の開発も出来る筈です。」

 

「本当に何でも出来るんだねサタンさんって。」

 

 

 

「医者なのに治療魔術だけでなく攻撃性の魔術も学んでいるのか?」

 

 

 

「サタン義兄様は本当に色々な経験をさせられてきましたから………。」

 

「何にしてもこれでウルゴスの人達の件は問題無さそうだね。

 後は早くに見つかるといいけど。」

 

「……有り難うございますカオス。

 私だけではとても皆を見つけ出すことなど………。」

 

「いいって御礼なんて。

 さっきも言った通り俺は俺がサタンさんに会いたかっただけだから。」

 

「………本当に…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方にはいつも助けられてばかりですね。

 貴方がいなければ私は………当に挫折して立ち止まっていたことでしょう……。」



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スラートに来訪者

王都セレンシーアイン 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………やっと帰って来たぁ~!!!」

 

「特に何も問題なく帰ってこれたね。」

 

「体調の方は大丈夫かミシガン?

 疲れが溜まったりしてないか?」

 

「へ?

 別にそんなに疲れてないけど?」

 

「ミーア族の集落に向かう時はヘトヘトになってましたね。」

 

「そのことはもういいでしょ!?

 もう弱音を吐いたりしないから!!」

 

「フフ…!

 ミストからここまででミシガンも大分逞しくなったのではないでしょうか?」

 

「何言ってるんだよアローネ………、

 ミシガンは元々逞しかったじゃないか。

 一緒にミシガンのアイアンクロー食らったろ?」

 

「あぁ………、

 あれはとても凄まじい威力でしたね………。

 ……確かにミシガンは始めの頃から逞しかったです。」

 

「ミシガンさんって凶暴な人なんですね。」

 

「昔はそんなでもなかったんだがな………。

 随分と見ない内にこんな風になってしまったのか………。

 人というのは時間を空けると別人に見えるとはよく言う話だがミシガンも変わってしまったものだ……。」

 

「…私は変わっちゃいけなかったの?」

 

「そんなことは言ってないだろ?」

 

「でも皆して私のこと過保護過ぎじゃない?

 私ってそんなにか弱い方じゃないんだけど………。」

 

「だから逞しくなったって言ったんだよ。」

 

「それって別に誉めてないよね?」

 

「……それにしても………、

 街の様子が変だな……。」

 

「!

 本当だ!

 前に来た時は夜でも暗かったのに今は明かりが付いてる!」

 

「ブルータルヴェノムを倒したことによってこの辺りも落ち着きを取り戻しつつあるんじゃないですか?

 今スラートが警戒すべきなのはヴェノムの通常種のみですしボク達がブルータルを倒してから結構経ってますからこの辺りのヴェノムは駆逐し終わったんですよ。」

 

「そんなに直ぐ出来ちゃうもんなの?」

 

「ヴェノムはスライム形態になってからの寿命は一日だ。

 ヴェノムが発生してから百年も生き長らえてきた連中のようだし彼等にとってはそこまで普通のヴェノムは脅威ではないんだろう。」

 

「まだマテオとダレイオスの決着が着いていないとはいえスラートの方達には束の間の安息を満喫出来る機会なのかもしれませんね。

 ………ではファルバンさんにもう二つ吉報を届けに行きましょうか。」

 

「そうだね。

 オサムロウさんとファルバンさんしか俺達の計画に賛成してくれてなかったしミーア族の集落周辺を荒らしていたクラーケンを倒したってこと聞いたらスラートの人達も俺達の計画に乗ってくれるよね。」

 

「それとワクチンじゃなくて術でヴェノムを祓えることもね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スラートの地中都市シャイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やけに騒がしいな……。」

 

「ブルータルとその他のヴェノムがいないと言うだけでここまで賑やかになれるものでしょうか?」

 

「………何かあったんじゃないかな?」

 

「何かって何が?」

 

「分からないけど………、

 この騒がしさはちょっと普通じゃないでしょ………。」

 

「!

 族長の家の前に誰かいますよ?」

 

「スラートの人じゃない?」

 

「………いえ………、

 あれは………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………幸先がよいな、オサムロウ」

 

「そのようだな。

 彼等とは別の仲間が既に他のヴェノムの主を討伐してくれておったとはな。」

 

 

 

「彼女にはもう少しクリティアの村に留まって欲しかったんだがにぇ………。

 研究者としての知識を豊富なようじゃったし是非クリティアの仲間になって欲しかったわよのぅ………。」

 

 

 

「彼等は彼等でそれぞれが信念のもとに動いているんだ。

 惜しい逸材だからといって引き留めたりするんじゃないぞ。」

 

 

 

「…はて?

 ソナタ等はこのワシに指図出来る立場じゃったか?」

 

 

 

「貴様……。」チャキ…

 

「止せオサムロウ。

 下らんことでカタナを抜くな。」

 

「………」

 

 

 

「フォッフォッフォッ……、

 では斬られん内においとまするとしようか。

 

 

 

 ………おや?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「こんばんは………。」」」」」

 

 

 

「!

 帰ってきていたのか。

 ソナタ等。」

 

「此度のミーア達の件御苦労であったな。」

 

 

 

「いえ………。」

 

 

 

「先程ミーアの使いがソナタ等の活躍を誇らしげに語っていたぞ?

 何でもクラーケンを討伐するだけでなくヴェノムを無害化する術を使えるようになったとか………。」

 

 

 

「もうそのことを知ってたんですね…。」

 

「ミーアの奴等は足が早いな………。」

 

 

 

「今その事でスラートの皆も騒いでおるのだ。

 ミーアの者達が昼頃にやって来てソナタ等に無害化の秘術を施してもらった話をした後にそれが真実であることを皆の前で証明しおった………。

 …これで皆もソナタ等の話に耳を傾けざるをえなくなったのだ…… 。

 今頃になって大慌てでダレイオス復交の準備に取り掛かっておるぞ。

 “ミーアとクリティア”に対抗心を燃やしてな。」

 

 

 

「そうですか………。

 これでダレイオス復興に箔が掛かれば………?」

 

「「「………?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………クリティア………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォッフォッフォッ………。」

 

 

 

「「「「「!」」」」」

 

 

 

「ソナタ等があの“賢女レイディー嬢”の助手の者達なのかえ~?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイディー嬢?」「レイディー?」「賢女…?」「助手………?」「ブフッ!!?」

 

 

 

「そうかそうか…、

 やはりこの街を訪れれば出逢えると思うておったわ。

 いやぁ~これはなんとも愉快愉快~!」

 

 

 

「………オサムロウさん、

 この人は………?」

 

 

 

「…そうだな。

 ソナタ等にも話しておくか。

 こちらの偏屈ジジィはこれからソナタ等が向かう予定だったクリティア族の者で、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリティア部族全てを統べる族長のオーレッドだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「族長じゃない!!

 長老と呼べ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「……………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それで何でクリティア族の族長「長老と申した筈だが?」………長老がここにいるんですか?」

 

「そうだよ!

 ダレイオスって今どこの部族も自分達の土地から出てこなくなってるんじゃなかったの!?」

 

「それに先程のミーアとクリティアに対抗心を燃やしているとは何だ?」

 

 

 

「それについては「ワシが話してやるからお前さんは黙っておれ。」…。」

 

 

 

「…此度のヴェノムの主討伐の件ソナタ等には感謝しておるぞ賢女の助手達よ。

 ソナタ等の働きのおかげでダレイオス東陣営は少しずつじゃがヴェノムの主が現れる前の昔の状況に戻りつつある。

 真に深き感謝の意を示して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソナタ等に褒美を授けようぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい?」

 

「褒美とは一体………?」

 

「いきなり何だ?」

 

「急に話が飛んだ気がしますね………。」

 

「って言うか私達が倒したのってミーア族の周辺にいたヴェノムの主だよね?

 何でクリティア族の長老からご褒美なんて貰えることになるの………?」

 

 

 

「……なんじゃい………。

 この程度の話にもついていけぬと申すのか?

 ソナタ等はレイディー嬢の助手なんじゃろうて、

 彼女ならば話の節々をちゃんと拾いあげてみせるぞ?

 このぐらい助手なら読解せんか!」

 

 

 

「はっ、はぁ………?」

 

「どういうことでしょうか………?

 誰か理解出来ますか?」

 

「いえ………ボクにも何が何だか………。」

 

「今の会話だけで何を読解しろと言うんだ………。」

 

「このおじいちゃん、ちょっと変………。」

 

 

 

「………ハァ~、

 何じゃソナタ等は正式な助手ではなく助手のアルバイトじゃったんかぁ?

 そりゃあ流石に無茶を言ったか?

 すまんなソナタ等申し訳ない!

 ソナタ等にはレベルの高い要求じゃったようじゃな!

 フォッフォッフォッ!」

 

 

 

「…どことなくこの人レイディーさんのノリに近い気がするんだけど……。」

 

「奇遇ですね………私もそう思いました。」

 

「クリティア族は学者肌との噂ですし知能の高い人って自然とこうなってくるんじゃないですか?」

 

「とりあえずレイディー殿と知り合いと言うことは分かるが………。」

 

「レイディーって世界一口の悪い奴だと思ってたけど案外拮抗してるの多そうだね。

 クリティア族が皆こんな人達ならレイディー以上の人もかなりいそう………。」

 

「…結局何で俺達に感謝しているんですか?

 まだ俺達はクリティア族に何もしてませんよ?」

 

 

 

「そんなことはないじゃろ?

 ソナタ等の働きはクリティアに多大な影響を与えた。

 その影響もあってワシがこうしてソナタ等に会いに来たんじゃ。

 レイディー嬢に依ればソナタ等はダレイオスのヴェノムの主を駆逐してまわっている最中だとか………。」

 

 

 

「レイディーさんがそう言ったんですか!?」

 

「私達と別行動をとっていたレイディーが何故私達の動向を………?」

 

「あの人のことですからボク達がそうしてダレイオスをまわることを予測していたのかもしれませんね………。」

 

「俺達の動向をピッタリ当てて見せるとは……。」

 

「流石レイディーだ「真その通りじゃな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学者としての能力の高さだけでなく今後のダレイオスの情勢すら見切る聡明さに次いで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワシ等クリティア一同が手に負えんかったヴェノムの主“ジャバウォック”を倒していきおったんじゃからな。」



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討伐済みの主ジャバウォック

スラートの地中都市シャイド 族長邸前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 

 

「いやはや大したもんじゃった!

 あの“ジャバウォック”にはワシ等も途方に暮れておったんじゃ!

 いくら術をぶつけようが“新しい武具”を開発しようが全く効かなくてのぅ!

 正直御手上げじゃったんじゃ!

 ソナタ等の上司にはそれはそれは世話になって「ヴェノムの主が倒された!?」」

 

 

 

「レイディーが………ヴェノムの主を………?」

 

「あんな化け物達にどうやって…………!?」

 

 

 

「………それを今から語ってやろうとしてたとこなんじゃが………。」

 

 

 

「スッ、スミマセン………。」

 

 

 

「…全く最近の若いもんは年寄りの話を聞かんからのぅ………。」

 

 

 

「…それで………、

 ジャバウォックと言うのは…………クリティア族の住む地域に生息していたヴェノムの主のことだな?

 …彼女が…………レイディー殿が倒したのか………?」

 

 

 

「左様、

 元々はそこら辺に普通に見掛ける“イエティ”というモンスターでな。

 ワシ等クリティアが住んでおる北方の雪原地方にのみ生息する人型のモンスターじゃった………。

 

 それがヴェノムウイルスに感染しイエティという種から進化して巨大化し暴れまわっておったんじゃ………。」

 

 

 

「進化して巨大化………。」

 

「クラーケンと同じですね………。

 クラーケンは巨大化する前は“オクトスライミー”という別のモンスターだったらしいので………。」

 

 

 

「ジャバウォックの力は無敵じゃった………。

 奴のその長く硬骨な腕から放たれる攻撃は一撃で山をも削る程のものでな。

 ………奴こそがこのダレイオスを徘徊する“九の悪魔”の中で“最強”と呼ぶに相応しい力を持ち合わせておったわ………。」

 

 

 

「…ダレイオス最強………?」

 

「ダレイオス最強のヴェノムの主は………クラーケンじ「聞き捨てならんな。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その話は間違っておるぞ?

 ダレイオス最強の主は間違いなく“ブルータルヴェノム”だ。

 つまらん嘘を吐くなオーレッド。」

 

 

 

「…ソナタこそ何を言うておるのだ?

 ワシ等クリティアの地に現れたジャバウォックこそが最強に決まっておろうが。」

 

 

 

「フンッ!

 そんなただの腕力だけのモンスターが最強だと?

 笑わせてくれる。

 我等スラートはかつてのダレイオスでは最強の部族だったであろうが………。

 そのスラートを窮地に追いやるブルータルこそが最強の悪魔だ。

 何が“山をも削る”だ。

 ブルータルだったら突進で“山を破壊”をしてみせたわ。」

 

「おぅおぅ、

 最強と唱われたスラートの意地かな?

 自分等のプライドを保つために自分等の敵であったモンスターを過剰に持ち上げようとするのは何とも見ていて滑稽じゃぞい?」

 

「事実を言ったまでだ。

 ブルータルには怪力だけでなく雷を操る力も持っていた。

 奴の雷撃を受けて助かる生物などいない。

 それこそジャバウォックですらブルータルの相手にはならんかっただろう。」

 

「アホぬかせィ、

 何が山を破壊して見せたじゃ。

 先ずこの辺りにそんな山がどこにあると言うんじゃ?

 そんな山があればこの辺り近辺はたちまち岩の雪崩で埋もれておるじゃろうに。」

 

「誰がこの辺りの山だと言った?

 ブルータルは貴様が知らぬ山を打ち砕いたのだ。」

 

「ほほう!

 それはどこの山かの?」

 

「……貴様の知らぬ山だ。

 貴様が知らぬ山のことを教えるだけ無駄だろう。

 その山はもう粉々になってしまったのだからな。」

 

「なんじゃ見えっ張りめが。

 やはりそのような山などなかったんじゃろうが。」

 

「あったと申しておるだろうが!!」

 

「そんな山は無い!!」

 

「ある!!」

 

「無い!!」

 

「あるッ!!」

 

「無いッッッ!!!」

 

「あるぅぅぅぅッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何でこの人達はケンカをしてるんだ?」

 

「内容もまるで子供のケンカですね………。」

 

「これがそれぞれが部族を治める族長なんですか………。」

 

「言い争い方は幼稚だが………ミーア族はクラーケンこそがヴェノムの主でもっとも強いと言っていたぞ?

 どうなってるんだ?」

 

「そうだよね………。

 私もブルータルよりもクラーケンの方が手強かった気がするし……。」

 

 

 

「ぐぬ…!?」

 

「ほれ見ろ。

 実際に戦って倒した者等が言うておるぞ?

 ブルータルとジャバウォックのどちらが強かったかは判断がつかんが少なくともブルータルよりも上の主がおるようじゃぞ?

 

 ほれ?

 何か申し開きをしてみよ。

 嘘ついて御免なさいもう金輪際クリティアに逆らうようなことは言いませんと謝れ。」

 

「何故に貴様に謝る必要があるのだ!?

 それにブルータルがクラーケンに劣るのが事実だったとしてジャバウォックがブルータルに優る理由にはならんだろうが!?

 実はクラーケンにもブルータルにも劣る最弱の主だったと言うことも有りうるぞ!?」

 

「そうじゃな、

 そういう見方も出来るだろうがこの場にはそれを確かめる術はない。

 

 ………あるのは“ブルータルがクラーケンに劣る雑魚”だったという証人の存在だけじゃしな。」

 

「己………言わせておけば………!!」

 

 

 

「少し頭を冷やして貰えないだろうか?

 俺達はクラーケン討伐とミーア族の協力に漕ぎ着けたことを報告しにきたんだが?」

 

 

 

「…そうであったな。

 見苦しい姿を曝した……。」

 

「ファルバン……、

 やはりこのジジィを消してしまった方が良いのではないだろうか?」

 

「そう急くな、

 単なる戯れで殺生する程余の器は小さくはない。」

 

 

 

「さて………、

 では褒美を渡すとするかの。」

 

 

 

「…それも突然すぎて分からないんだが何故俺達に褒美を渡すんだ?

 ジャバウォックを倒したのはレイディー殿なんだろう?」

 

 

 

「なぁに簡単なことじゃ。

 ソナタ等はこれからダレイオスを立て直すのじゃろ?

 であるなら早めにその功労者とのパイプを作っておくのも悪くないと考えたからじゃ。

 言わば“賄賂”見たいなものじゃのぅ。」

 

 

 

「賄賂………(汗)」

 

「どうどうと他の部族の前で賄賂を渡す宣言なんてしていいんですか?

 クリティアがそんなことをすれば他のミーア族も同じことをやりかねないんですけど…。」

 

「別に賄賂が欲しくてダレイオスを復興させようとしてるんじゃないぞ俺達は。

 俺達は俺達の目的のために動いているのであって「そう気にしなさんなこの賄賂は言うなれば先行投資じゃ。」」

 

「ソナタ等はダレイオスの民等を利用してバルツィエと張り合うおうとしておるのじゃろ?

 ワシ等もソナタ等を利用しようとしておるだけのことじゃ。」

 

「…俺達に一体何をさせようと言うんだ?

 賄賂を渡すからには何か俺達に望むことがあるんだろ?」

 

「レイズデッド………は違いますよね……。

 クリティア族には私達がレイズデッドを習得した際には近くにはおりませんでしたし………。」

 

 

 

「そのレイズデッドとか言う術については後で見せてはくれんか?

 出来ればワシにもかけてみてほしいんじゃが……。」

 

 

 

「…構いませんが………。」

 

 

 

「長老さん………、

 俺達に何をして欲しいんですか?」

 

 

 

「フォッフォッフォッ、

 簡単なことじゃ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血液を少し抜かせてはくれんだろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 

「どこかでお聞きしたお願いですね………。」

 

「性格も似ていれば要求も同じなんですね………。

 学者と言うのはこういうものなんでしょうか…?」

 

「………血が欲しいんですか?」

 

 

 

「そうじゃ、

 血が欲しいと言っても切り裂いて採るわけではないぞ?

 採血にはこの注射器で採らせてもらえれば良いんじゃ。

 血を調べられればどういったメカニズムでソナタ等がその力を得られたのかが分かるやもしれん。

 ソナタ等はダレイオスの者達皆をヴェノムによる死の脅威を取り除こうとしておるとレイディー嬢が言うておった。

 ワシ等にその血液を提供してくれるならあんなバルツィエが作った“デタラメな毒薬”なんぞよりも安全で人体にも優しいとっても素晴らしい薬を作成して見せるぞ。」

 

 

 

「デタラメな毒薬………?

 ……ワクチンのことを言ってるんですか?」

 

「長老………、

 毒薬とはどういう意味ですか………?

 あのワクチンは………毒性があるのですか?」

 

 

 

「レイディー嬢が持ち寄せたワクチンをワシ等で解析してみたんじゃ。

 レイディー嬢もバルツィエ産ということで効能からして何か怪しい成分が含まれているのではないかと危ぶんでいたしの。

 …そしたらレイディー嬢の想像通りじゃったわい。

 ………あのワクチンには凄まじい毒が含まれておった。

 それはそれはよくあんなものを薬と呼んでいたと驚くような成分が検出されたわ。」

 

 

 

「…どんな物が検出されたんですか?

 毒と言うからには致死性が………?」

 

 

 

「………単純な毒であったらあれを服用して死ぬだけじゃったんじゃが………、

 …あのワクチンに含まれておったのはな………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “ツグルフルフ”という植物の成分じゃ。

 “ツグル”と呼ばれるどんな環境の地域でも根を張り成長出来る植物があっての。

 その成分を採取して服用すると新陳代謝や魔力増強といった効果があって強壮剤の材料として昔は使われておったんじゃ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………じゃがツグルにはマナの質を向上させる強壮剤としての効果がある反面、服用した者の人格に多大な悪影響を及ぼす………。

 これを服用してから暫く時間が経つと服用者はそれまでとはうって変わったような行動の違いが表に出てくるんじゃ。

 

 それまでは絶対にその者がしないようなことをするようになったり逆にそれまでよくしていたことをしなくなったりと趣向性がおかしくなる。

 悪化すると突然気が強くなったかのように暴れだしたり何かに怯えたりするなど情緒不安定な状態になったりが続く。

 

 ………そして最終的には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …脳細胞が破壊され何の反応もしなくなり意識があるだけの虚な生きた屍が完成する………。

 

 ………ツグルとはそういう危険な“麻薬”だったんじゃ………。」



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ツグルフルフ

スラートの地中都市シャイド 族長邸前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っつ!」プスッ…

 

 

 

「フォッフォッフォッ…、

 確かにいただいたぞ。

 ソナタの血液を。」

 

 

 

「………はい。」

 

「カオスの血液だけでよかったのか?

 なんなら俺も血液提供ぐらいなら出来るが………。」

 

 

 

「十分じゃよ。

 ソナタの血液は所詮は“第二世代”じゃ。

 応用を利かせるには純度の高い“第一世代”の血液が必要なんじゃよ。

 それに第二世代のサンプルはレイディー嬢からもいただいておるでな。」

 

 

 

「「第二(一)世代………?」」

 

 

 

「ソナタ等の力の経緯を辿ればその能力の原点はソナタが出発点なのじゃろ?

 助手一号。」

 

 

 

「助手一号って………、

 それはまぁその通りですけど………。」

 

 

 

「であるならソナタのDNAこそが全ての根源。

 その根源を解析することこそがソナタ等の力の謎を解き明かすのに適していると言うことじゃ。」

 

 

 

「…カオス以外の血液では役に立たんということか……。

 

 

 

 ………それは置いておくとして………。」

 

「長老………、

 “ツグルフルフ”とはどのような植物なのですか?」

 

「さっきの話に聞く感じだと薬の材料として使われていそうな植物みたいだけど………。」

 

「…あまり人が使用してもいいものとは言えなさそうな口振りでしたね………。

 “生きた屍”………、

 ヴェノムに感染したゾンビとかと同じになってしまうんですか?」

 

 

 

「ゾンビは自分以外の生物を襲うじゃろ?

 ツグルフルフで脳が破壊された者は無害じゃから安心せい。

 

 

 

 ………もっともヴェノムによってゾンビになったものはいづれは死に絶えるじゃろうしツグルフルフを服用した者のにとってはその後同じ結末を迎えることには変わりないがのぅ。」

 

 

 

「脳が破壊されるって具体的にどんな症状になるんですか?」

 

 

 

「………呼吸以外の行動が取れなくなるのじゃよ。」

 

 

 

「呼吸以外?」

 

 

 

「ツグルフルフには生物のマナを一時的に高める力がある。

 マナは生物にとっては“命”もしくは“心”じゃ。

 それが高められれば精神的にも強くなるし精神につられて肉体の強度も増す。

 ツグルフルフはその点だけ見れば薬の材料としては非常に優れているといってま過言ではない………。

 

 

 

 ………じゃが薬というのはどんなものにも副作用という欠点が付きまとう。

 これは世にある薬全てにおいて言えることじゃ。

 強すぎる効き目を持つツグルフルフは服用者を一時的に強化はするが時間が経って効果が無くなれば服用者のマナは服用前に比べ著しく低減する。

 マナが低減すると言うことはつまり精神が不安定な状態になることじゃ。

 ちょっとしたことで激しい苛立ちや恐怖感に刈られたりもすれば理性に負けて欲にかいた行動を起こすようにもなる。

 また他人に対する配慮や物事を正常に判断できなくなったりもする。

 これはもう野生の動物の思考の域じゃな。

 

 ……次第にその生物にとっての本能すらも薄れていき虚脱感や倦怠感に襲われ………、

 ………終いには何も考えられなくなり何の動作も起こせなくなる………。

 肉体的には不自由なく動く筈なんじゃが脳が肉体を働かせようとしない。

 瞼を開かせてもまばたきすらしない出来ない。

 

 正に生きる屍じゃな。」

 

 

 

「「「「「……!?」」」」」

 

 

 

「……ツグルフルフ………、

 別名“一咲きの呪いの花”………、

 一度咲いたら世界のどの花よりも美しく咲く花じゃがその一度目以降は全ての力を使いきってしまい後に残るは力なき雑草のみ………。

 ツグルフルフ自体は花が咲くまでは過酷な環境ですら生き抜く根強い生命力を持っておる。

 しかしエルフはこの生命の花程の生き抜く力は無い。

 強き生命を体内に含んだからと言ってそのままその力が得られようとは都合が良すぎたんじゃ。

 

 

 

 本来の使用法としては戦場等の死地に赴くものが己の命を投げ捨てる覚悟を持った者のみが使用を赦される………。

 とてつもない力と引き換えにして自らの心を言葉通りに殺す恐ろしい麻薬じゃ。

 滅多なことでツグルフルフを使用してはならん。」

 

 

 

「心を失った人は………もう元には戻せないんですか?」

 

 

 

「不可能じゃ。

 何故かこのツグルフルフは土の元気な場所よりも草木が枯れるような死んだ土地の方に根が張る傾向にある。

 ヴェノムによって人もモンスターも大地も毒されてしまうこのような世界ではどこにだってツグルフルフは確認できる。

 入手するのにはそう苦労はせん。

 苦労しないだけに昔から長い時間をかけて研究されてきた。

 研究を重ねてきて分かったのはこのツグルフルフが大変危険な成分を含んでおることと一度服用をすれば二度と正常な体には“戻れなかった”こと………、

 

 そして“障気”を吸収して成長していることの三つだけじゃ。」

 

 

 

「障気………?

 障気って言えば……ヴェノムが飢餓して死んだ時に発生するものなんじゃ………?」

 

「そのツグルフルフとはヴェノムに何か関係があるのですか………?」

 

 

 

「ワシ等もそう推理したがよくは分かっておらん。

 障気はヴェノムが死んだ後に発生するだけでなく生物が死亡する度に発生するものじゃ。

 たいていは微細なもので障気が放出されていることも感じられんがの。

 そもそもツグルフルフは百年前のヴェノム大出現より以前から存在が確認されておるんじゃ。

 ヴェノムが飢餓して障気を発するからと言ってそれがそのまま関係があるかと言えば………関係が無いという可能性も否定しきれん。

 

 

 

 一つだけ言えることはソナタ等がダレイオスに持ち込んだバルツィエの作ったワクチンにツグルフルフが調合されておったことでヴェノムとツグルフルフの関係性が高まっただけじゃ。」

 

 

 

「…そのツグルフルフという植物がワクチンに配合されていたとして今のお話の中ではどうしてワクチンを使用するとヴェノムを倒すことが可能になるのかが不明ですね…。」

 

 

 

「そんなもんはな、ヴェノムが死滅する理由を追えば見えてくるぞい?

 ヴェノムウイルスはな、ワシ等クリティアの間では“ジェネレイトセル”と呼んでおってな。

 

 

 

 あれは弱いマナに取り付いて生物を強制進化させる働きがあるんじゃ。

 殆どの生物がその強制進化に身体中のエネルギーを吸いとられたショックで理性と肉体が暴走するがな。

 そうしてジェネレイトセルに耐えきれなかった生物はマナを使い果たして消える………。

 

 

 

 

 

 

 ワクチン改めツグルフルフを服用した者は内包するマナが穢れて障気を帯びるようになる。

 ヴェノムにとって障気はこの世で唯一の弱点なんじゃろうな。

 何せヴェノム自体が生物の“進化の成れの果て”じゃというのに障気はその先の“生命の行き着く果て”。

 生きたマナを栄養価にするヴェノムは汚れて腐りきったマナの成れの果ての障気には敵わんと言うことじゃ。

 そのツグルフルフでマナが穢れた者の穢れた魔術を受ければヴェノムはたちどころにマナを失い死滅する。

 只でさえ進化のために猛烈な勢いでマナを消費しておるのにツグルフルフの障気がヴェノムのマナを穢す………。

 

 

 

 マテオのツグルフルフ服用者が今までヴェノムを相手にしてこられたのはそういうことじゃ。

 

 ヴェノムに接触してもその身に纏った障気がウイルスから身を守り、障気を纏わせた術がヴェノムからマナを奪い殺す………。

 

 

 

 大方こんな仕組みじゃろうがツグルフルフ服用者はその後多少なりとも人格に影響が出ておる筈じゃ。

 ツグルフルフを服用して過去精神汚染から逃れられた例は一度もない。

 

 

 

 そう…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度たりともな………。」



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クリティア族族長オーレッドとの取り引き

スラートの地中都市シャイド 族長邸前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴッホン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!」」」」」

 

 

 

「……ソナタ等よ。

 いつまでこのジジィと話をしておるのだ?

 人の家の前で長話をされると迷惑だぞ。」

 

 

 

「ご、ごめんなさい………。」

 

 

 

「ソナタ等に申しておるのではないぞ?

 余はそこの嘘つきで話の長いジジィに言っておるのだ。」

 

「嘘つきは貴様も同じじゃろうが!」

 

 

 

「またケンカし始めそうですね………。

 改めてまたここへ来た方がよいのでしょうか………?」

 

 

 

「!

 コラッ、ファルバン!

 お前の相手をしてる場合じゃないんじゃ!

 少しほったらかしにしたくらいで絡んでくるんじゃない!

 !

 今大事な話をしておったんじゃからな!!

 

 

 

 ソナタ等!!

 待っとくれ!!

 褒美じゃ!!

 ソナタ等に贈り物があるんじゃ!!

 それを受け取ってくれィッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フム………、

 ここでならこれらを渡すのに相応しきかな………。」

 

 

 

「どうしてそこまでしておじいちゃん私達にその御褒美とか言うの渡そうとするんだろう………?」

 

 

 

「いただくものはいただいたんじゃ。

 血を貰ったからにはワシもソナタ等に何か渡さんといかんじゃろ。

 スッカリ話に夢中で忘れてたわい。」

 

 

 

「忘れるくらいのことなら別にそんな無理して渡すほどのものでは無いのではないか?」

 

 

 

「…そんな訳にはいかぬよ………。

 アイネフーレ、スラート、ミーアと続いて四番目になったワシ等クリティア………。

 九の部族統合を目指す上で四番目と言うのは後々の“発言権”にも携わる遅れじゃ………。

 ソナタ等がアイネフーレの里の東から来てスラートの街に辿り着きミーア族の集落まで真っ直ぐに突っ切ってしまったのがなんとも悔しいところじゃな。

 アイネフーレから始まったのは仕方ないとしスラートのいる中央ではなく西のクリティアの村に来てほしかったぞい。

 そうなっていたらクリティアはスラートのように理解に遅れて今頃腰を上げるようなこともなくいち早くソナタ等と計画を推し進めていたじゃろうな。」

 

 

 

「って言われても俺達はここに来るまでどの街の人にも会わなかったですしクリティアの………?

 ………村に………。」

 

「………!

 ダレイオスの方達は今ヴェノムの主に遭遇しないように何処かへ隠れて暮らしているのですよね?

 …長老はレイディーとどのように邂逅なさったのですか?」

 

 

 

「あぁ、

 そういう話になっておったな。

 ワシ等の村ではマナを関知されにくくする魔封じの鉱石を村を囲む塀に仕込んでおるのじゃ。

 あの鉱石があれが例え目の前にヴェノムがおってもワシ等の存在に気付かん。

 ………ジャバウォック程の塀よりも高いヴェノムには絶対安全とは言い切れんがの。

 丁度ソナタの………着けておるマテオの手錠と同じものじゃ。」

 

 

 

「これと……?」

 

 

 

「…見たところその手錠は完璧に作用しておらぬのではないか?

 マナが留めきれずに溢れだしているように感じるが………。」

 

 

 

「それは………。」

 

「カオスさんのことについてはこれはこれでちゃんとさようしているので大丈夫なんですよ。」

 

 

 

「そうなのか?

 不良品の道具なぞ使っておるとどこかで足下を掬われかねんぞ?

 ワシ等クリティアの力に頼ってくれたらそんなものよりもっと良いものを作れるぞ?

 マジックアイテムの製造においてはクリティアの技術力はダレイオス一じゃ。

 

 ソナタ等に渡す物もクリティアの技術を詰め込んだ正に結晶と言っても良いものじゃ。

 今世に出回っておる“エルブンシンボル”なぞよりも潜在能力を引き出しやすくするアイテムでな。

 これがその………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “アオスブルフ”じゃ。」

 

 

 

「アオス………ブルフ?」

 

 

 

「このアイテムはエルブンシンボル以上にマナを魔力に還元する効率を高めるものじゃ。

 これを装備すればマナが少ないものでも普通のエルフのように魔術を使えるようにもなるし魔技や武身技も扱うことが出来る。

 マナが平均的なものに装備させればそれこそバルツィエと魔力の火力の差を埋めることも出来る画期的アイテムじゃ。」

 

 

 

「バルツィエとの差を埋めるですって!?」

 

「そんなものがあれば………バルツィエとも互角の勝負が出来るな。」

 

「………よくそんなものを作り出すことが出来ましたね………。」

 

 

 

「実用化出来るレベルに達したのは最近じゃがの。

 それまではエルブンシンボルと同等かそれ以下の能力しか無かったんで普及はしておらん。

 クリティアだけの秘密アイテムじゃ。」

 

 

 

「どうしてそれを俺達に………?」

 

 

 

「これぐらいのもんを渡さねばスラートとミーアへの遅れを取り戻せんじゃろ?

 最後に物を言うのは人の力よりも“道具の性能”じゃ。

 道具なら作ってしまえば容易に強さが身に付くし失ってもまた作れる。

 人のように壊れてしまったら替えが利かないようなこともない。

 ソナタ等のような強者に使ってもらえれば道具も本望じゃろうて。」

 

 

 

「…貴重な道具が貰えるのは嬉しいですけど………、

 ボク達が装備してもあまり効能が発揮されないんですよ。

 今までエルブンシンボルは装備していましたが特に役立ったようなことも………。」

 

「魔力の出力は装備時と非装備時で性能がほぼ同じなのです………。」

 

 

 

「ほほう!

 ソナタ等は真に興味深いな!

 

 それじゃったら武具に装着するんじゃ。

 このアオスブルフは人だけでなく武具への魔力伝導効率を上昇させる効果も備えておる。

 エルブンシンボルとは訳が違うぞ。」

 

 

 

「武器にも効果があるんですか!?」

 

 

 

「エルブンシンボルより能力が高いだけではあまり面白味にかけると思わんか?

 ワシ等クリティアはこのアオスブルフをエルブンシンボルの完全上位互換品を目標に製造したんじゃ。

 これが普及されていけばやがてエルブンシンボルなんぞダレイオス中で劣化品として廃棄にまで追いやるつもりで完成させた自信作じゃ。

 このアオスブルフをソナタ等が使用してダレイオスを統合しヴェノムの主とバルツィエに勝利すればクリティアはソナタ等の次にダレイオスでの地位を物にすることが出来る。

 ワシ等はそれが狙いなんじゃ。」

 

 

 

「………なるほど、

 そう言うことか。

 俺達にこれを使わせるだけでクリティアは戦わずして新生ダレイオスでの高位を獲得できる。

 案外クリティアとはズル賢い部族なんだな。」

 

「その上私達の功績がそのままクリティアの功績ともとれますからね。

 何もしていないとは言い難い訳ですか………。」

 

 

 

「ワシ等は元々戦闘はそんなに好かん。

 クリティアは皆が大の研究好きな種でな。

 向かってくれば迎撃はするがそうでなければ争ったりせん。

 正当防衛と言うやつじゃな。」

 

 

 

「その割りには昔からクリティアは攻撃系のアイテムを作ってはアイネフーレやスラートとやりあってたと思いますが………。」

 

 

 

「……アイネフーレの少年か………。

 ワシ等も開発したアイテムを試しに使ってみなければ性能が測れないからのぅ。

 アイネフーレとスラートは部族達の中でも程よい力を持っておったんでアイテムの性能テストには持ってこいだったんじゃよ。」

 

 

 

「そんな理由で境界線を越えてこられたんじゃ納得がいかないのですが………。」

 

 

 

「過ぎし日のことをいつまでもグチグチ言うんじゃない。

 元よりアイネフーレにも非が無いとは言わせんぞ?

 アイネフーレは我等が地に何度も無断で足を踏み入れたこともあるんじゃからな。

 このことは互いに痛み分けにして無かったことで引こうぞ。」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ではアオスブルフが正常に機能しておるかソナタ等の武具に装着して試しておくれ。

 機能しておらんかったらワシがこの場で調整してやろう。」

 

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スチャッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうじゃ?

 武器に魔力を流しやすく「あの……。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………実は………私は武器になるようなものを所持していないのですが………。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「アローネは………ここに来るまでずっと魔技と魔術だけで戦ってきましたし……成り行きで戦ってたんですけどアローネは本当なら戦うような身分の人じゃないんです。」

 

「武器など持たなくても後衛についてくれればやっていけてたしな。

 アローネ=リムは今のままで十分だ。」

 

「戦力の増強は何かあった時のためにしておきたいですけどボク達の能力を考えれば武器や道具に頼るよりも後ろでボク達に魔術で援護してくれる仲間が欲しいですね。」

 

「……アローネさんだけ仲間外れにするのはなんか嫌だしこのアオスブルフっていうアイテム………、

 

 やっぱり入らないや。

 返すよおじいさん。」スゥ…

 

「そうだね。

 俺も必要ないや。」スゥ…

 

「クリティアの協力に漕ぎ着けてあるならこれ以上のものはいらないな。

 俺も返却させてもらおう。」スゥ…

 

「………」スゥ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォッフォッフォッ………。」

 

 

 

「?」

 

 

 

「ソナタ等のことはレイディー嬢から聞き及んでいると言ったじゃろ?

 ソナタ等がエルブンシンボルを必要としない体質なことも助手の一人に武器を持たぬものがおることも承知しておるぞ。

 そしてそれを理由に断られることも予見しておったわ。

 ………では………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これを受け取ってくれんかの?」

 

 

 

「………!

 これは………?」

 

 

 

「分からんか?

 見てくれ通りじゃと思うんじゃが………。」

 

 

 

「いえ………、

 これが何なのかは分かりますが………何故これを………?」

 

 

 

「これはのぅ………。

 ワシ等クリティアのような寒い地方の者には必需品なんじゃ。

 これを着ければどんなに寒い場所でも着衣した者のマナを感じ取って暖かくなる優れものじゃ………。」

 

 

 

「ハァ………?」

 

 

 

「ソナタは風系統が得意なんじゃろ?

 じゃったら暑い時には腕に巻けばよいし重さを感じる程の重量もない。

 

 武器を持たなかったのは扱いなれておらん武器を持てば敵に接近された際にかえって危険が増す恐れがある。

 そういう危険を考慮してのことなんじゃろ?」

 

 

 

「…まぁ概ねはそうですが………。」

 

 

 

「これはな。

 そんなソナタだからこそ渡すんじゃ。

 これにはマナを通しやすくするための術式が付与されておる上にアオスブルフも既に装着してある。

 防具としての性能も高くそんじょそこらの刃物なんぞに切り裂かれる心配もない。

 衣類なのに切り裂かれる心配が無い理由は普段は何気ない普通の衣類じゃがマナを通わせることによって硬度を調節でき鎧のように硬くすることができるからじゃ。

 上手く使いこなせればしなる鉄の鞭のようにもなり武器としての能力と防具としての能力と単純な衣類としての機能を併せ持つ一つで三回美味しいお得品じゃ。

 他にも飛来してくる敵の魔術を弾き返す“ペインリフレクト”のスキルも備わっておる便利なアイテムでもある。

 

 

 

 気品溢れる助手のお嬢さん、

 ソナタにはこの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “羽衣”を進呈しよう。」



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クリティア族の想いを受け取って…

王都セレンシーアイン 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうじゃ?

 こんな優れものなら欲しいと思わんか?

 お嬢さんの話を聞いてワシ等は大急ぎでこれを受け取ってもらえる作戦を考えたんじゃ。

 

 武器を持たぬものにとっては手に馴染まないものは渡しても邪魔にしかならんがこの羽衣ならストールとして首に巻いたりも出来るしモンスターに襲われたときも急所をガードしてくれる。

 マナを流し込めば手足のように動かすことも出来るので感覚的には“第三の腕”として見てもらえれば良いじゃろ。

 自在に動かせるおかげで咄嗟に敵の攻撃が来た時もこの羽衣が防いでくれる。

 武器としてよりも防具に近い感じじゃが防具と言うには重量も重くなく普通の衣類として纏える。

 

 

 

 これだけ聞けば誰もが欲しいと思わざるをえん逸品じゃ。

 武器なのに手が塞がることもなくむしろもっと物を持てるようになって便利と言う言葉が絶えん。

 

 お嬢さん………、

 貴女にだけじゃ。

 貴女にだけしかこれが用意できんかった。

 世界でたった一つ。

 お嬢さんのことだけを考えて試行錯誤した上に完成させた品なんじゃ。

 

 

 

 どうかこれを受け取ってほしい。

 今ならなんと破格の「ダレイオスのお金ならありませんよ?」………、

 

 

 …すまんのぅ、

 つい昔からの癖で金の話に流れてしまった。

 今のダレイオスでは賃金は無価値じゃから渡されても困る。

 じゃからただで渡そう!

 無料じゃ!

 無料でこのアイテム羽衣を贈呈しよう!!」

 

 

 

「…余程私にそれを受け取ってほしいようですね………。」

 

「さっきの話で俺達に武具を使わせたいみたいだったしね。」

 

「そうさせることで俺達の計画が成就した際にはダレイオスを陰から復興させた“スポンサー”としての立場になれるからな。

 スポンサーと言うからには新生ダレイオスでもかなりの発言力を持つことが出来る…。

 狡いやり方だな………。」

 

 

 

「悪い方法とは言わせんぞ?

 戦いになれば研究しかしてこなかった技術畑のワシ等は役には立てん。

 役に立てないなら立てないで役に立てる方法を考えた上でそうした立場に狙いをつけただけじゃ。

 ダレイオス崩壊前からワシ等はこういう立ち位置じゃったし今更戦いに参加しろなどと言われても精々盾としてしか使い物にならんじゃろ。

 ワシ等はワシ等に出来る戦い方を考慮した結果こういう戦い方になったんじゃ。

 何もせんよりかは何万倍もマシじゃろ?」

 

 

 

「確かにこういう武器や防具の製造は大事だとは思いますが………。」

 

 

 

「頼む!

 アオスブルフとこの羽衣を受け取ってくれ!!

 これを受け取ってもらえなければこれを作るのに手伝わせた皆にワシがドやされるんじゃ!

 ワシがドやされんためにもソナタ等にはこれを受け取ってもらうしかないんじゃ!

 これを受け取ってもらわんことにはワシは村に帰れん!!

 人助けだと思ってこれらを受け取ってくれ!!」

 

 

 

「よっぽど私達にこれを使ってほしいんだね………。

 ………どうする?

 アローネさん………。」

 

「………」

 

 

 

「ワシ等クリティアがダレイオスの復興で役に立つとしたらこんな武器の開発くらいなんじゃ!

 ワシ等だってダレイオスには復興してほしいと思っておるしなんなら今後ともこうした武具を開発出来たら他の部族達にも分け与えるつもりじゃ!

 他にもワシ等に出来ることであったなら何でもする!

 ワシ等に出来る範囲でのことなら何でもじゃ!!

 じゃからこれらの武具を……!!」

 

 

 

「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………一つ私の話を聞いて下さいますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ほほう?

 ソナタの立ち振舞い………、

 どことなく他の者等と違って見えたがそのウルゴスとかいう太古の国の上層であったのか………。」

 

 

 

「はい………、

 私の国の人達は今もまだどこかで眠り続けているのです。

 私はその同胞達を救いだしたい。

 貴方方クリティアには武器を製造できるだけの高い技術があるのなら土を掘り起こす道具なども製造出来るのではないですか?」

 

 

 

「…可能じゃな。

 つまりワシ等には武器製造の他にダレイオスがマテオに勝利した暁にはその者等を捜す道具を作れと?」

 

 

 

「お願いできるのでしたらお願いしたいのですが………。」

 

 

 

「…そういうことじゃったら手を貸さんこともないのぅ。

 そのソナタの義兄とやらにワシも興味が沸いた。

 

 

 

 ………宜しい。

 慎んでお受けしよう。」

 

 

 

「!

 有り難うございます!!」

 

「良かったねアローネ。

 土を掘り返しやすい道具を作ってもらえるならウルゴスの人達もぐんと見付けやすくなるよ。」

 

「人手が欲しいと言う話はしていたが道具のことはずっと考えていたのか?」

 

「えぇ、

 土を掘るのでしたら人力よりもダンダルクの機械のような道具を用いられればと思いまして………。

 その点に関してましてはクリティアの方達は原理は違えどもそういった物をお作りになるのが得意そうでしたので。」

 

 

 

「………そのダンダルクとかいうお嬢さんの国と敵対していた国の機械技術と言うものも見てみたいのぅ………。

 ダンダルクの者はお嬢さんの国のように生き長らえる術は当時持ち合わせておらなんだ?」

 

 

 

「残念ながらアブソリュートは魔術を扱う私達エルフの領域のようですし数千数億の時を越えるとなるとヒューマにその技術があるとは思えません………。

 ヒューマは………アインスの時代と共に滅び去ったとしか………。」

 

 

 

「そうか………、

 機械とやらを見てみたかったんじゃがのぅ………。」

 

 

 

「…長老はよく私の話を信じて聞いてくださいますね………。

 この時代の方にとっては私の話は戯言のように思われたりして話すのを躊躇う程なのですけど………。」

 

 

 

「これでも長老を自称するくらいじゃからな。

 その者が嘘を付いておるかぐらいは見抜く目を持っておるよ。

 ……お嬢さんからは芯からウルゴスの民を救いたいという心が伝わってくる………。

 ソナタの言からはワシを謀ろうと言うような感じはしない。

 まぁワシなんぞを謀ろうとしたところでお嬢さんには何の得にもならんじゃろうしな。」

 

 

 

「そうですか………。」

 

 

 

「……では改めて………、

 このアオスブルフを受け取ってもらえるじゃろうか?

 それによってワシ等クリティアは新生ダレイオスの地位向上を、お嬢さんは同胞民族を救うための道具をワシ等から献上を約束される。

 ………互いに得をする契約じゃ。」

 

 

 

「はい。

 私達も貴方方クリティアのためにバルツィエと戦い勝利してこのダレイオスを救うことを誓います………。

 ですのでそのアオスブルフを契約の証に………。」

 

 

 

「………確かに献上した。

 これで我等クリティアはアイネフーレに継いでミーアとスラートに並ん。

 もう只の口約束の関係ではない。

 後はソナタ等の活躍によってクリティアの命運が左右される。

 ………我等クリティアの想いソナタ等に託したぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お任せください。

 必ずやダレイオスに勝利の栄光を届けて見せます。」



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魔の手襲来の予感

スラートの地中都市 オサムロウ邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………凄いよ!!!!」

 

 

 

「?

 …あぁ、

 確かに凄いな。

 アローネ=リムの貰った武具の性能はとても他所の者には真似が出来ない技術だ。

 硬柔自在となると敵も思わぬ衣に攻撃を止められて一瞬隙ができる。

 その瞬間に羽衣を硬質化して敵を切りつける………。

 使い方としてはこんなところだろう。」

 

「…私にこのような物を………、

 ………私にはこれを使いこなせるでしょうか………?」

 

「武器の扱いに関しては慣れだ。

 最初は扱いに手間取っても徐々に手に馴染んでくる。

 要はその武器との会話だ。

 自然と使っていってたら武器の呼吸が見えてくる。

 そこまで行き着くまでに多くその羽衣と触れあっていけばいいんだ。

 

 ………とは熟練者の弁だが………。」

 

「衣類を武器として扱うって………そう他に見ないよねぇ………。」

 

「お手本になる方がいればそれに習って立ち振舞いを勉強出来るのですが………。」

 

「クリティアの連中そこまで頭が回らなかったのか………?

 受け取らせることに夢中になって武器として機能するかどうか怪しいものを作ったのではないか?」

 

「一応武器として扱うだけではなく防具としても機能するようなので使えないと言うことは無いと思いますが…。」

 

「これがどれ程の硬度があるのかですよね……。

 アローネさん、

 マナを込めて見てはどうですか?」

 

「…そうですね。」パァァ…

 

「どれどれ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………結構硬いなこれ。」サワッ

 

「本当か?

 見た目からはそこまで硬くなってるようには見えんが………。

 ………本当のようだな。」サワッ

 

「これならモンスターの爪ぐらいなら防ぐだけでなく逆に折ってしまいそうですね。」サワッ

 

「あっ、あの………?」

 

 

 

「ちょっと!!

 何堂々とセクハラ紛いのことしてるわけ!?

 アローネさん困ってるじゃないの!!」

 

 

 

「ご、ごめん!!」バッ

 

「つい珍しい物だったんで………。」

 

「こんな防具は初めてだな………。

 後でこの羽衣を使いこなす練習には俺とカオスで一緒に付き合うとしよう。」

 

「…そうですね。

 お願いします。」

 

 

 

「もう!

 確かに凄い物貰ったのは分かるけど私が凄いって言ったのはそういうことじゃないよ!!」

 

 

 

「?

 他に何かあったか?」

 

 

 

「あったでしょうが!!

 

 

 

 

 

 

 レイディーだよ!!

 レイディーが私達とは別にクリティアの方面に手を回してくれていたお陰でクリティアの人達との協力もヴェノムの主を“一人”で倒してくれていたこともあって一ヶ月もしないうちに部族再統合の話が九部族中四部族、ヴェノムの主も残り七体の筈が六体になったんだよ!?

 どうして誰もそこに話がいかないの!?」

 

 

 

「そ、そうだったね。

 長老さんの話が長くて忘れてたよ………。」

 

「レイディー殿………、

 よく“たった一人”で主を倒せたものだな。」

 

「ジャバウォック………イエティは雪原に出没する氷属性の魔物です。

 レイディーさんの得意属性を考えたらミシガンさんと同じ容量で手際よく倒せたんでしょうね。」

 

「一人でダレイオスを回ると仰っていたので心配はしていましたが………、

 この分ならその心配は必要なかったようですね。」

 

 

 

「そう!

 よく分からないけど何故か私達のやろうとしてたことも知ってたみたいだし私達の主退治の仕事って実質二手に分かれてやってるようなもんじゃない?

この分なら半年と言わずに半分の三ヶ月でヴェノムの主退治が終わりそうだよ!」

 

 

 

「…好調ですね。

 最初は計画的に半年ギリギリはかかるものだとは思っていましたが………一ヶ月で三体の討伐完了………。」

 

「この調子で後一ヶ月以内に三体と行きたいところですが………レイディーさんを当てにするわけには行きませんね。

 あの人は多分ボク達がブルータルと遭遇した時のように成り行きでジャバウォックと偶然遭遇しただけだと思いますし。」

 

「偶然にしても俺達の計画が順調だということは事実だ。

 これで残りは六体で五ヶ月半。

 ほぼ一ヶ月以内に一体見つけて倒す計算だ。」

 

「そう考えますと大分気が楽になりますね。

 これなら多少余裕を持ってダレイオスを回れ「だったらさ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カーラーン教会に顔出してみない?」

 

 

 

「カーラーン教会に?」

 

「カタスティア教皇は先日マテオに帰ったと聞いたばかりだぞ?

 今カーラーン教会に出向いても教皇は………。」

 

 

 

「カタスさんがいないんだとしてもさ。

 俺達が無事かどうかを教会の人達に知らせに行くだけでもどこかでカタスさんがそれを聞いて安心できると思うんだ。

 …マテオでは俺達がどうなっているのか分からないし。」

 

 

 

「……そうですよね。

 マテオではシーモス砦で謎の流星群襲来とぐらいしか伝わっていないと思ういますしその後のボク達がどう伝わってるかは………。」

 

「大方面子を保つためにあの流星群で俺達が死亡した扱いにはなってると思う。

 賊を追っていって逃げられたのではバルツィエの名折れだからな。

 ユーラスの件も含めて俺達とユーラスがシーモス海道で突如降ってきた流星群に巻き添えを食って殉職……。

 バルツィエならこれである程度の面目は立つ。」

 

「え?

 マテオでは私達死んじゃった扱いなの?

 ………お父さん達に私達の話がいかないといいけど………。」

 

「そこはブラム隊長の管轄だから悪いようには言わないだろうが………。

 …ブラム隊長にも俺達のことを伝えられずにいるからな。

 俺達の生還を信じてくれているといいが………。」

 

「あぁ~!!

 なんか怖くなってきた!!

 ミストで大事になってなきゃいいんだけど………。」

 

 

 

「それならやっぱりカーラーン教会に行くしかないよ。

 カーラーン教会ならマテオとダレイオスを行き来してるから内緒でブラムさん達にも俺達のことを伝えてもらえればダレイオスにいながら一々帰る必要もないし。」

 

 

 

「……そうだな。

 では明日一番でファルバン殿にも話を通して一度カーラーン教会の場所を聞いて行ってみるとするか。」

 

「そうだね。

 私も教会がどんなところなのか見てみたいし。」

 

「そんなに期待するほどのものは無いと思いますが………。」

 

 

 

「……それでもさ。

 カタスさんに無事を報せるのも大事じゃん?」

 

「…そうですね。

 

 

 

 有り難うございますカオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

「?

 どうしたタレス君。」

 

 

 

「……いえ、

 何でも。」

 

 

 

「………そうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(…………何だか嫌な予感がします。

 全てがこう上手く行きすぎていると何か………、

 思わぬところで落とし穴があるような………。

 ………そんな、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何か不吉なことが起こりそうな予感が………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 郊外 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケヒヒ……、

 やっと見つけたぜ………。

 ダレイオスのゴミ共………。

 

 

 散々誰もいねぇ街を彷徨かせやがって……!!

 夜になって漸く灯りの付いた街を発見したぜ。

 やっぱりここには誰かいるよなぁ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このランドール様を二週間も滞在させやがって!!

 俺はラーゲッツやユーラスみたいな遊び心はねぇぞ?

 とっとと大魔導士軍団とか言う連中をぶっ殺して国に帰らせてもらうぜ!!!」



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更なる来客、しかし…

王都セレンシーアイン 翌日早朝 雨

 

 

 

ザァァァ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、

 聞いたかあの話?」

 

 

「聞いたかって何の話だ?

 最近事件が多すぎて何の話題なのかが分からんぞ?」

 

 

「あのバルツィエの小僧共の話のことだよ。

 何でも別に活動していた連中がクリティアのとこにいた主まで倒しちまいやがったらしいぞ。」

 

 

「あぁ、その話か。

 オサムロウが小僧共から聞いた話だと“小僧共みたいな能力を持った奴等が他にも十数人くらいの部隊で”いるらしいぞ。」

 

 

「そんなにいるのか?

 でもヴェノムの主を倒すような部隊の連中ががそんなにいるんだったら何でアイツ等ダレイオスに来たんだ?

 アイツ等だけでもバルツィエに勝てそうなもんだろ?」

 

 

「そこは深く聞いてなかったが何か連中“大魔導士軍団”とか言うのがダレイオスにいるから探しに来たとか言ってたそうだぞ?」

 

 

「大魔導士軍団?

 なんだそりゃ。

 そんな奴等の話聞いたことねぇぞ?」

 

 

「俺もだよ。

 連中が言うにはゲダイアン消滅の原因はバルツィエじゃなくて大魔導士軍団とかって奴等の仕業らしい。」

 

 

「ファッ!?

 あれってバルツィエの仕業なんじゃねぇのか!?」

 

 

「小僧共の話ではどうも違うようだ。

 あの破壊は俺達九部族のどこかがやったって話のようだぞ?」

 

 

「どこかが………?

 どこかってどこの部族だよ………?」

 

 

「…俺に聞くなよ。

 俺だって又聞きの話なんだから俺に分かるわけないだろ?」

 

 

「う~ん………、

 可能性としてはクリティア………が高そうだけどなぁ……。

 アイツ等年がら年中魔術や魔道具開発ばっかしてて胡散臭い連中だし。」

 

 

「クリティアって………。

 クリティアはゲダイアンに多く派遣されてたんだぞ?

 もしクリティアがやったってんなら仲間を先ず引き上げさせてからだろ?」

 

 

「それを言い出したらどこの部族達も条件同じだろ?

 ゲダイアンには大抵の部族達がいたんだから………。」

 

 

「………いや、

 一部族だけ比較的な少なかった部族があったぞ?

 あれは確か………アイネフーレだ!

 アイネフーレは全部族中もっとも遠かったからゲダイアンにはあんましいなかった筈だぞ!」

 

 

「アイネフーレって………滅んじまっただろうが………。」

 

 

「アイネフーレが大魔導士軍団だったのか………?」

 

 

「そりゃねぇよ。

 もし一つの街破壊するほどの大魔術を編み出していたんなら滅ぶ前に一発ヴェノムの主にでもかましてるだろうが。」

 

 

「そういやそうだな。

 もしアイネフーレが大魔導士軍団とかいうゲダイアンを一瞬で灰塵に出来るほどの術を持っていたら流石に主に滅ぼされる前にせめてもの一発ぐらい撃ってるよな。」

 

 

「そうそう、

 アイネフーレが大魔導士軍団だなんてあり得ねぇぜ。」

 

 

「…それなら……アイツ等はどうやって大魔導士軍団とか言うのを探すつもりなんだ………?」

 

 

「………人伝に聞いて回るしかねぇんじゃねぇか?

 誰も知らんと思うけど………。」

 

 

「そんなことして出てくると思わんが………。

 

 

 

 ………ん?

 何だアイツ?」

 

 

「どうした?」

 

 

「見てみろよ。

 変な奴が来たぜ?」

 

 

「んん?

 ………本当だ。

 アイツ………北の方から来たのか?」

 

 

「北って言いやぁ、

 俺達がさっきから話してたクリティアの村の方からだぜ?」

 

 

「………あのマテオの騎士の風貌………。

 ……まさか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの小僧共の言ってた別動隊の奴じゃねぇか?」

 

 

 

 

 

「あぁ、

 有りうるな。

 このタイミングで現れたってことは多分アイツあの小僧達に連絡いれに来たんだぜ。

 “こっちは順調に主を倒して回ってるがそっちはどうだ?”ってな。」

 

 

「違いねぇな。

 ちょっと声かけてみっか?」

 

 

「そうだな。

 お仲間の小僧達のとこに俺達で連れてってやっか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~い!

 そこのマテオからの亡命者~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………は?

 亡命者?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おたくはあのバルツィエの仲間の人なんだろ~?」

 

 

「………確かに俺はバルツィエの仲間とも言えなくは無いが………。」

 

 

「じゃあ丁度いいや。

 俺達でお連れさんとこに連れてってやるよ。」

 

 

「………?

 俺の連れがここにいんのか?」

 

 

「あぁ、

 昨日帰ってきたばっかだよ。」

 

 

「(帰ってきた………ね。)

 ほ~ん?

 そんならその俺の連れのとこに案内してくれるか?

 今アイツらがどうなってるのか知りたい。」

 

 

「何だよ。

 アンタ等別々に動いてる割りにはお互いがどういう状況なのか把握してないのかい?」

 

 

「………そう言う訳じゃねぇが、

 “百聞は一見にしかず”って言うだろ?

 “通信機”で話をする分には相手の声を聞いてどんなコンディションでいるかとかどこにいるかとかは分かるんだがどうも俺には伝わりにくくてな。

 顔合わせて話した方が楽なんだよ。」

 

 

「ツウシンキ………?

 何か遠くの奴と話をする道具があるのか?」

 

 

「………悪い。

 忘れてくれ。」

 

 

「?

 まぁいいけど………。」

 

 

「………それよりもアンタ等に聞いておきたいことがあるんだが………。」

 

 

「?

 何だい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ等………、

 大魔導士軍団って知ってるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ほらな?

 やっぱりあの亡命者達はこうやって大魔導士軍団とか言うのを聞き回ってるんだぜ?」

 

 

「そうみたいだな。

 本当に見つかるかは分からんけどな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スラートの地中都市シャイド 族長邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは。」ガラッ

 

 

 

「おぉ、

 ソナタ等。

 昨日はすまなかった。

 ソナタ等にはどうも見苦しいところばかり見せておるようで。」

 

 

 

「いえ…、

 特に気にしてはいませんから。」

 

 

 

「そうか…?

 ………して昨日はオーレッドのバカタレと何やら話し込んでいたようだが………?」

 

 

 

「はい、

 実は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、

 オーレッドめ………。

 小癪なことを………。」

 

 

 

「正直長老の話に乗るのは戸惑ったが話を聞く限り特にはデメリットは無かったようなので乗らせてもらった。

 ………何か不味かったか?」

 

 

 

「…そんなことはないが………。

 少々クリティアがでしゃばってくるのは厄介だな………。

 ソナタ等の計画を遂行するには全部族協力は不可欠………。

 …だが奴等クリティアがこんなにも早くに本腰を上げてきたとなると………スラートもウカウカしてられんな。」

 

 

 

「……?

 クリティアが動くとスラートに何か不都合でも………?」

 

 

 

「………何でもない。

 ソナタ等とソナタ等の“別に動いていた仲間達”のお陰で思ったよりもヴェノムの主の討伐速度が早いようだ。

 本命はソナタ達なのであろうがもう一部隊の方も中々頑張ってくれておるようだな。

 これは半年の猶予も必要なかったな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「(別に動いていた仲間“達”………?)」」」」

 

 

 

「………すまん、、

 ファルバン族長殿………、

 ………前にここへ来た時はあまり湿っぽい話になるのを嫌って一つだけ正しく伝えていないことがあるんだが………。」

 

 

 

「………聞かせてみよ。」

 

 

 

「………実は………俺の仲間の部隊と言うのは………

 

 

 

 ………トリアナス砦に辿り着く前に皆………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼するぞ。」ガラッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 オサムロウさん!」

 

 

 

「……会談中であったか?

 だがこちらもソナタ等に急ぎの話を持ってきたのだが………。」

 

 

 

「急ぎの話?」

 

 

 

「つい今しがた、

 

 

 

 

 

 

 以前にソナタ等が話していた亡命者達の別部隊の一人が地上を訪れたいらしいぞ?

 今こちらに案内させておるところだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「……………!?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!!

 …………馬鹿なッ!!!?

 有り得ない!!!!」ガタッ!!

 

 

 

「…?

 どうしたのだウインドラ………。

 ソナタの仲間がここを訪れることの何が有り得ないと言うのだ?」

 

 

 

「そんな筈はない!!!

 アイツらがここに来るわけがない!!!

 アイツらは………!!!

 アイツらは……………………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員トリアナス砦で死んだんだッッッ!!!!」



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ランドール接近

スラートの地中都市シャイド 族長邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………それは真の話か?」

 

「真の話であったなら何故前は嘘を………?」

 

 

 

「………俺はここにいる誰よりもアイツ等のことを家族のような友達だったと思っている。

 他人が死んだならいざ知らずアイツ等が死んだ話をして俺はその後円滑に話を進められる精神を保つ自信がない………。」

 

 

 

「………失敬、

 察するべきであったな………。」

 

「ソナタもまだ若いと言うことを失念していたな。

 あまりにも武人としてのオーラを纏っているものだからそういうことに慣れているものだと………。」

 

 

 

「家族や友が死ぬことは多くてもその時その時の喪失感は常に新鮮だ。

 決して友の死に慣れることなんてない。」

 

 

 

「………そうであるな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ねぇ、

 結局のところ、

 

 

 

 今、誰がここに来ようとしてるの………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………レイディーさんかな………?」

 

「その此方へ案内されている方は女性の方ですか?」

 

 

 

「む?

 ………いや、

 

 

 

 “男”だ。

 それもウインドラ………、

 ソナタのようなマテオの騎士のような格好をした………。」

 

 

 

「…じゃあレイディーじゃないね………、

 ………誰?」

 

「俺と似たような格好をしている………?

 

 

 

 ………まさかトラビス達の誰かが生きてて………。」

 

「…残念ですけどあの場でユーラスがあの人達を見逃したとは思えません。

 それだけでなくあの場にはヴェノムもいたのですからユーラスに見逃したとしてもヴェノムが………。」

 

「確かあの場にいたユーラスの部下の方達もワクチンが間に合わず感染していました。

 ……辛い現実を突き付けるようですがウインドラさん、

 貴方の御友人の方々は皆あの場にて死亡しております。」

 

「…言われなくても分かってる。

 俺が一番アイツ等が生きてる可能性が無いと言うことは分かってるんだ………。」

 

「……どうしてその人が俺達の仲間だと………?」

 

 

 

「それについてなんだが…………、

 今このスラートの者達の中でソナタ等についての情報が横行していてな。

 ミーア、クリティアに遅れを取らぬようにソナタ等の情報を詳しく皆に伝えたのだ。

 ソナタ等が“大魔導士軍団”とやらを捜しにダレイオスへやって来てその当てが外れて大魔導士軍団は一旦諦め代わりにヴェノムの主を全討伐してダレイオスを復興させようとしているとな。

 

 

 

 上の見張りの者達が言うにはそのソナタ等の仲間と思わしき者が北のクリティアの村の方角からやって来て“大魔導士軍団”がどこにいるのかを聞いてきたようだ。

 見張りはそれを聞いてソナタ等が我とファルバンに話していた別行動を取っている仲間達がいるということを記憶していてその者がソナタ等の仲間と思ってここへ案内しているみたいだが………。」

 

「実際にはその部隊は既に壊滅………。

 現状動いているのはここにいる五人と………。」

 

 

 

「クリティア族周辺地域を荒らしていたヴェノムの主を倒したレイディーさん一人だけです。

 ………俺達は………全部で六人しかいません………。」

 

 

 

「…何ということだ………。」

 

「だが逆に考えれば一人でヴェノムの主を倒すような猛者がいるということにもなるが………。

 

 

 

 ………今は先ずこの場に“何者”が来ようとしているのかを確かめねばな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スラートの地中都市シャイド 闘技場階段前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうやらまだ彼の者は到着しておらんようだな。」

 

「ここの存在を知られる前にこの地中都市へ誘って良い輩かどうか………。

 …間に合って良かった。」

 

 

 

「…早くその人がどんな人なのか上に行って確かめないと。」

 

「………どうかトラビス達の誰かであってほしいが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………!!」ガチャッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あれ?

 オサムロウ達………?

 家で待ってる筈じゃ………?」

 

「連れてきたぜ族長。

 あのバルツィエの変わり者達の仲間をよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ?

 ………なんだやっぱりお前達かよ。

 生きてやがったんだな。

 隕石に降られてユーラスごと消えちまったと思ってたが誤報だったみてぇだな。

 レサリナスであんだけ暴れてから逃げてってそのまま隕石の魔術で死ぬなんてつまらない死に方しやがったなと笑い飛ばしてたんが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こいつぁ、

 デカイ獲物を釣り上げちまったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?

 レサリナス?

 ユーラス?

 何言って………「ソイツから離れろォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!!」!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう遅いって…。」ザスザスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?」「…………ガフッ………。」ドサッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケヒヒ………。

 一丁上がりッと。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ラン……!!」「ランドーーーーーーールゥゥゥゥ!!!!!」ダダダダッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおっと!!?

 テメェはサムライじゃねぇか!!

 こんな地面に穴掘って何してんだよ?」

 

 

 

「貴様ァッ!!!

 何故貴様がここにいる!!?」

 

 

 

「何故って………話が行ってないのか?

 捜しに来たんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大魔導士軍団っていうそこのカオス達を隕石降らせて助けやがった連中をな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オサムロウ!!」

 

 

 

「迂闊だった………!!

 まさかもうバルツィエが攻め行って来るとは………!!?

 それにコイツ………ランドールにこの地下都市の存在を知られてしまった!!

 

 ファルバン!!

 コイツはここで殺す!!

 いいな!!?」

 

 

 

「構わん!!殺れッ!!

 ソイツをここから逃がすでないぞ!!」

 

 

 

「承知ッ!!」

 

 

 

 

 

 

「ヒャァァァァッッッ!!

 恐いネェェェッ!!!?

 俺の親父達以上の上の世代のジジィ共を何人も殺ったサムライに狙われるなんて恐すぎて竦みあがっちまうぜ!!?」

 

 

 

「貴様………!!

 たった一人でノコノコとやって来て生きて帰れると思っていないだろうな……?」

 

 

 

「テメェ等こそ俺達バルツィエの名を忘れてんじゃねぇだろうな?

 俺達バルツィエの名は聞いただけで畏怖を抱くべき名なんだよ。

 

 それがここに来て何だァッ?

 バルツィエの名前を出そうと思ったら先にバルツィエの名を出された挙げ句親切に道案内だと……?

 

 

 

 

 

 

 ザケんなよ!!

 俺達バルツィエはテメェ等ダレイオスのゴミからは恐れられる存在だ!!

 決してテメェ等と雑談するような間柄じゃねぇ!!!

 ………今一度叩き込んでやるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺達バルツィエがどういう力を持った軍隊なのかをな!!!!」



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大渦のメイルシュトローム

スラートの地中都市シャイド 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「族長さん!!

 アイツを知ってるんですか!?」

 

 

 

「知っているとも………。

 

 

 

 奴はランドール=ヴァシム・バルツィエ、

 アルバート=ディラン・バルツィエの世代のバルツィエでアルバート亡き後ラーゲッツ、ユーラスと共にダレイオスを蹂躙し回った最悪の世代の者だ。」

 

「何故アイツがここに………!?

 ………マテオは………バルツィエはもうダレイオスに攻めいるのか!?

 だとしたらどうやって海を越えて………!?」

 

「ウインドラさん!!

 あの方の情報を詳しく教えてください!」

 

「俺達でアイツを止めよう!!」

 

「あぁ、

 分かっている!

 

 

 

 奴ランドールは………“水の魔術の使い手”でユーラスのように狂喜的な演出をしたりラーゲッツのような気性が粗いということもないが…………、

 

 ……一度任務を引き受ければ誰よりも最速で仕事を終わらせる。

 常に全力で仕事に臨む奴だ。

 実力はユーラスと互角程度の噂だが………。」

 

「常に全力で………?

 そこだけ聞くと仕事熱心な印象を受けるけど………?」

 

「…奴がバルツィエで人殺しを専門とした集団で無ければ真面目で良い話で終わるんだがな。

 奴がここに来たと言うことは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………貴様、大魔導士軍団を捜しに来たと言っていたな?

 そんな者等はこの国にはいない。

 この国にいるのは貴様等バルツィエに傷つけられし者達だけだ。

 当てが外れたようだなランドール。」

 

 

 

「………そんな訳ねぇだろ?

 そこにカオス達がいてあの隕石群から生き延びてたってことは少なくともあの隕石をダレイオスからユーラス達に降らせて助けた奴がいる筈だ。

 

 つまりカオス達と面識がある奴等でダレイオスにいる連中………。

 ここでテメェ等を見つけ出すまででそんな奴等はいなかった。

 ここに来るまでの街はどこも捨てられた廃墟ばかりだったぜ?

 ………ならテメェ等の他に大魔導士軍団はいねぇんだよ。

 

 

 

 正直に吐きやがれサムライ!!

 テメェ等なんだろ?

 あの馬鹿げた大隕石を降らせたのは!

 あんなドデカイ質量とマナを使う魔術を編み出せるとしたらダレイオスでも屈指の部族スラート以外には容疑者はいねぇんだよ!!

 この場にカオス達がいるのが何よりの証拠だ!!」

 

 

 

「生憎だが我等は大魔導士軍団ではない。

 トリアナス砦では我等は亡命者がダレイオスに来ようとしていること事態知らなかった。

 それに貴様が殺したそこの者等に聞かなかったのか?

 カオス達がその大魔導士軍団とやらを捜していることを。」

 

 

 

「………そういやそうだな。

 大魔導士軍団とカオス達が面識がある筈なのにそいつらを捜してるってのは…………。

 ……何だよ。

 ここにも大魔導士軍団はいねぇのかよ。

 クソがッ!!」

 

 

 

「これで分かったか?

 ここには貴様の捜している大魔導士軍団がいな「だがよ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵地にて敵を見つけちまったんだぜ?

 ならとりあえず全滅させとくのも悪くねぇよな?

 どうせこのまま俺が帰ってテメェ等のことを報告してもまたここにテメェ等を駆逐しに戻る任務を与えられちまうかもしれねぇ。

 だったら今のうちに仕事を終わらせて帰るのもありだよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そんなことをさせると「させるかァッ!!!」!」シュンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっと!!?

 カオスか!!?」ググッ…

 

 

 

「今スラートの人やダレイオスの人達が必死になって国を取り戻そうと頑張ってるんだ!!

 お前達なんかにそれを邪魔はさせない!!」

 

 

 

「……うへヘヘヘ、

 そんなことしてやがったのか。

 どっちにしても見過ごせねぇなぁ。

 敵の作戦を挫くのも戦略の一つだ。

 邪魔しないわけにはいかねぇぜ。」

 

 

 

 

「だったら!!

 ここでお前を止める!!

 

 

 

 魔神剣ッ!!」ズバァッ!!

 

 

 

「グオッ!?」ドサッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………カオスが押している………。

 闘技場での戦いでも今のバルツィエより実力は高めだとは思ったが………。」

 

「多対一の戦いでも多の方の一と互角以上の強さならこちらに敗けはないな。」

 

「オサムロウ殿、

 ファルバン族長、

 ランドールは前に話していたレサリナスでカオスが数人のバルツィエを圧倒したという話に出てくる一人だ。

 あの時もカオスがランドールを含めたもう一人を一撃で沈めて見せた。

 ここはカオスに任せよう。」

 

「そうであったか……、

 だがしかし………。」

 

「?

 何か不都合が………?」

 

「………あのランドールの表情を見てみよ……。

 とても敗北濃厚な勝負をしている顔には見えん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………加えてここは地下で誰も逃げられない場所だ。

 そんな戦況下の中で短期戦でこそ真価を発揮するバルツィエがただやられるだけとは思えん………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………グヘヘヘ、

 やっぱ強いなお前!!

 レサリナスで一回お前にやられてなけりゃさっきので終わってたとこだぜ!!」

 

 

 

「あの時みたいに今度もまた俺がお前を倒す!!

 前の時と違って今のお前は一人だ!

 お前一人だったら俺一人で十分だ!!」

 

 

 

「お?

 お前仲間がいるからって図にのってないか?

 この状況下で俺が完全に不利だと思ってんなら一度俺達がどういう能力者なのか考え直す必要があるぜ?」

 

 

 

「何を言ってるんだ……。

 ここには俺やウインドラだけじゃなく俺達よりも強いオサムロウさんだっているんだ。

 お前が勝てる見込みなんて何一つ無い!!」

 

 

 

「………確かにここには俺より強い奴が数人はいるようだな。

 その上ダレイオスとの戦いが始まって以来俺達バルツィエを狩り続けてるサムライの野郎もいやがる。

 そこに俺よりも確実に強いと言えるお前やラーゲッツをぶっ倒した偽カオスまでいやがるとなると俺が勝てる可能性は米粒程に小さいだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それがここ!!

 “敵の本拠地にして地下っつー場所”じゃなかったらなぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?

 不味い!!

 カオス!!

 今すぐランドールを取り押さえるんだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え!?」

 

 

 

「だから遅いって言ってるんだよ!!!!」シュンッ!!

 

 

 

「!!

 待てェッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しまった!!

 奴め!!

 地下の中央の方に向かったか!!」

 

「奴は何をするつもりなんだ!!?」

 

「決まっている!!

 奴は………ランドールは!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この地下都市シャイドをまるごと崩落させて我々皆を生き埋めにするつもりなんだ!!!」

 

 

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『流水よ!!我が手となりて敵を押し流せ!!

 アクアエッジ!!

 追撃の二十連撃!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイルシュトローム!!!!』」



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荒れ狂うシャイド

スラートの地中都市シャイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハッハッハッハッハッ!!

 こんな土竜の巣穴なんざこの俺様がぶっ壊してやるよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは………竜巻!!?」

 

「こんな地面の中で…!!?」

 

「ただの竜巻ではありません!!

 あれは水を纏った竜巻です!!」

 

「あんなのが吹き荒れたら壁が………!!?」

 

「奴め!!

 そういう手で来たか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!!!

 

 

 

ピシピシピシピシ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「壁に亀裂が……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オッ、オイ!!ナンダヨアレ!?

 

チカデアンナノガフキアレタラテンジョウガクズレルゾ!!

 

イキウメニナルマエニソトヘヒナンスルンダ!!

 

ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっほほ~♪

 良い具合に混乱してやがんなぁ!!

 隠れるのには丁度いいぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランドールが人混みに紛れる!!

 あれでは見失ってしまうぞ!!」

 

「…カオス!

 奴を追ってくれ!!

 これ以上奴の好きにはさせるな!!」

 

「はっ、はい!!」シュンッ!

 

「ウインドラとその他の者達はこの出口を見張っててくれ!

 ここ以外にはこの街の出入り口は無い!

 奴はここを崩落させようとはしているが奴自身も巻き添えを食うような馬鹿な真似はしないだろう!

 絶対にここから出ようとする筈だ!

 

 ファルバン!

 我もランドールを追う!

 この街をよく知らないカオスだけでは奴を追いきれまい!

 我とカオスで挟み撃ちにする!!」

 

「気を抜くなよオサムロウ!

 この混乱では奴の方が剣を振りやすい!

 逃げ惑う街の者達を盾にされてはいくらお前でも……!?」

 

「……!!

 承知している!!」ダッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランドーールゥゥゥ!!!」

 

 

 

「おぅ?

 やっぱり追って来やがったかカオス!!」

 

 

 

「お前ェッ!!

 卑怯だぞ!!

 関係ないスラートの人達まで巻き込んで…!!」

 

 

 

「関係無くはないと思うぜ?

 ここの連中は俺の素性を知ったら全員が俺を敵と見なす。

 そうして俺一人に対して全員で袋叩きにかかるだろう。

 …だったら先手を打つまでだ。」

 

 

 

「お前が……ここにやって来たのがいけないんだろ!!

 お前さえここに来なければ……!!」

 

 

 

「ソイツは無理な望みだ。

 どうせ俺がここに来なくても他の奴等がここを見つけ出して似たようなことをするだろうぜ?」

 

 

 

「他の奴等………?

 まさか……!?

 もうマテオはダレイオスに攻め混んできて……!?」

 

 

 

「あぁ~………、

 それだったら良かったんだけどな。

 残念ながらそうじゃねぇ。

 俺達は家の連中だけ先行して先に来てんだ。

 戦争はまだ始まってねぇよ。」

 

 

 

「………本当か?」

 

 

 

「俺達は戦う気満々だったんだがなぁ。

 バルツィエ以外の連中がごね出したんだよ。

 お前らがシーモスであの隕石騒ぎ起こしやがったからよぉ?

 怖じ気付いてダレイオスに攻めいるのが怖くなったんだとさ。

 まったく………、

 味方に腰抜けがいると動きづらくてやりづれぇぜ。」

 

 

 

「…それなら戦争は回避されたのか………?

 マテオがダレイオスに戦争を仕掛けることはもう無くなったんじゃ………?」

 

 

 

「だから俺達がこの国に来たんだよ。」

 

 

 

「…何だって………?」

 

 

 

「腰抜け共が怖じ気付く原因になったあの隕石を降らせる術を持つ大魔導士軍団を俺達の手で葬りに来たんだよ。

 大魔導士軍団とかいう奴等を俺達が消しちまえばマテオの腰抜け共も怖じ気付く理由が無くなる。

 晴れて戦争を吹っ掛けられるって手筈だ。」

 

 

 

「…そんなことになってたんだね………。

 だけどここには大魔導士軍団はいない。

 諦めて大人しく帰ったらどうだ…?」

 

 

 

「帰れって言われて帰る馬鹿がどこにいるんだよ?

 偶然とはいえダレイオスでもそれなりに強いスラート族を見付けたんだ。

 帰るならこいつらを皆殺しにしてから帰るぜ。」

 

 

 

「そんなことは「させん!」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…漸く追い付いたか……。

 我が来たからには貴様の好きにはさせんぞランドール!

 貴様はここで散れ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………無駄話してたら追い付かれちまったぜ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………まぁ予定通りなんだけどな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ……どうするランドール?

 どちらに殺られたい?

 我か……カオスか………。

 それぐらいなら好きに選ばせてやるぞ?」

 

 

 

「ん~?

 どっちがいいんだろうな?

 カオスは前の時の件で確実に俺より強いのはわかってるし………、

 サムライは………言わずもがなだよな………。

 俺は………どっちに相手してもらうのがいいんだろうか?」

 

 

 

「決められないと言うのなら二人同時に貴様を相手してやるという手もあるが?」

 

 

 

「おほっ!!

 二人同時かよ!?

 それスッゲーお得感感じちゃうぜ!!

 二人共選べるなんてありなのかよ!?」

 

 

 

「…オサムロウさん……、

 ランドールの奴何かまだ余裕があるように思えます……。

 ここは一気に二人で………。」

 

「…そうだな。

 奴のペースを作らせては厄介だ。

 ここは二人で左右から「作戦会議してるとこ悪いんだがもう選んじまったぜ!!」!」

 

 

 

「俺の答えはなぁ!!

 お前らどっちに相手してもらうかだが………、

 二人同時って手があるなら話は簡単だ。

 ………お前ら二人同時に…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相手なんかしてられっかよボケがぁッ!!

 『流水よ我が手となりて敵を押し流せ!!

 

 

 アクアエッジ!!!』」パァァ………、ザザァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 足元に水が!!?」

 

「こんな水!!

 俺には効か「あばよ!」…また逃げた!?」

 

「カオス!

 我では奴の足に追い付かない!!

 この溜まった水の中で奴と同速で追い掛けられるか!?」

 

「スッ、スミマセン!!

 こんな水の中で走ったことがなくてとても追い付けません!!」

 

「くっ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フハァーハッハッハ!!

 その浅い水場で遊泳でもしときなァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツ………!

 入り口の方に……!?」

 

「………水が引くのを待っていては奴には追い付けんな………。

 

 

 中々考えられた作戦だな。

 奴に対抗しうる力を持つ我とカオスが追いかけてくるのを見越して街の奥の方まで逃げたのか………。

 入り口を見張る者達は念のために配置していたが街の者達が押し寄せて来るなかでは満足に力も引き出せんだろう……。」

 

「そんな……。」

 

「…咄嗟の判断が裏目に出たか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……やむを得ん………。

 カオス!!

 水に電撃を放って奴の足を止めるぞ!!

 衝撃に備えておけ!!」

 

 

 

「え!?「ライトニング!!」」バリバリバリ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」ビビ…

 

「ぐぅぅ………!!!!?」

 

「オサムロウさん!?」

 

「…やっ……奴の足止めは出来たか………?」

 

「!

 ランドールは…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無駄な雷撃で自滅ご苦労さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

 

 

「水使いに皆安直に雷撃撃って来すぎなんだよ!!

 お陰で電撃対策バッチシよぉッ!!

 俺の来てるスーツには絶縁性があんだよ!

 残念だったなァッ!!

 俺に雷は効かねぇ!!

 

 

 それじゃあバイビー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぅ……奴の前では何もかもが悪手になってしまうのか………!!」

 

「大丈夫ですかオサムロウさ「カオス!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴を止めてくれ!!

 我は情けないことに今の雷撃で直ぐには動けん………!

 …だから頼む!!

 奴から………スラートの皆を守ってくれ!!

 我にとってはここの者達は家族のようなものなのだ!!

 我の代わりに皆を………!!」

 

 

 

「………分かりました。

 ランドールは…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺達で何とかします!!!

 そしてスラートの人達を全員無事に守りきって見せます!!

 もう誰一人アイツに傷つけさせません…!」



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ランドールに対する意外な天敵

スラートの地中都市シャイド ランドールサイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒャッーハハハハハ!!!

 

 

 

笑いが止まらねぇぜ!!

 

 

 

こうも全てが上手くいくとは驚きだ!!

 

 

 

偶々ゴミ共がいる街を見つけて入ってみたら馴れ馴れしく話しかけてきやがってちっとムカついてたんだが話を聞いてるうちにカオス達が生きてることと長いこと俺達を手こずらせてきたサムライがいるらしいこととダレイオスのゴミ共が皆して穴蔵に引き込もってることが分かった!

 

 

 

穴蔵に引き込もってんならそこをぶっ壊しちまえば全部一辺に片付けることが出来る!

 

 

 

カオスとサムライはまともに殺りあっても勝てないことは分かってる!

 

 

 

俺より弱い奴なら直接ぶっ殺したいところだが俺はラーゲッツやユーラスのようなヘマはしないぜ?

 

 

 

俺はプライドが無いとはよく言われるが要は全て終わった時に完璧に事を運んだ奴が勝者なんだ!

 

 

 

恨み辛みで物事を考えた奴こそが真の敗者なのさ!!

 

 

 

こういう考えしているせいであの馬鹿二人よりもよっぽど俺のことを恨んでる奴等は沢山いるだろうが構いやしねぇ!!

 

 

 

俺に歯向かってくる奴は根絶やしにしてやるだけだ!!

 

 

 

どんな手段を使ってでもバルツィエに逆らうなら極悪非道と叫ばれても最期には俺達勝者しかいなくなるんだから!!!

 

 

 

 

 

 

………カオスとサムライを穴蔵の奥の方まで引き付けることにも成功したし後はさっさとここを出ていって地上から攻撃を加えてここを崩しゃあ全部とは言わずとも大半のスラートは消せる!

 

 

 

その後は地上の奴等を皆殺しだ!

 

 

 

強い奴ほど俺のことを追ってくるかここを死守すると踏んだが面白いぐらいに強い順に俺のことを追って来やがった!!

 

 

 

低脳な奴等だ!!

 

 

 

カオスとサムライ以外の奴等は完全に俺よりも実力は下だ!!

 

 

 

スラートのボスは懐刀サムライありきだしカオスの仲間達であの二人の次点強いとしたら恐らくあの偽カオスだろう……。

 

 

 

偽カオスのことはレサリナスで聞いた限りじゃラーゲッツより少し上な程度、それだったら俺を止めることは不可能だ!!

 

 

 

どうして俺を止められる奴がここを死守してないのかねぇ?

 

 

 

おまけに敵さんの巣窟なもんでフレンドリーファイアを気にして大規模な術は抑えるしかねぇ!!

 

 

こっちは関係なく全力で技や術を使い放題だってのによぉ!!

 

 

 

悪いなぁ!!ハンデ背負ってもらって!!数の利がそっちにある分こっちは地形の利で応戦させてもらうぜ!!

 

 

 

つってもまぁ俺より弱い奴が俺を追いかけてきても俺に返り討ちにあうだけだから仕方無いんだが!

 

 

 

追ってくるならカオスだけにしとけばよかったのにな!!そうすりゃ他の奴等と違って俺の足に追い付きつつサムライがここを陣場って俺がこうして脱出するのも防げただろうに!二人して追いかけてきてさっさと俺を取っ捕まえようとするから後ろが疎かになるんだよ!!

 

 

 

どうしようもないアンポンタン共だなぁ!!

 

 

 

テメェ等は選択を誤ったんだ!!

 

 

 

頭の悪い司令なんかが司令してるから有能な部下もろとも消されることになるんだろうが!!

 

 

 

戦場でなら単体でも策と力を持ったバルツィエこそが最強だ!

 

 

 

カオス!サムライ!

 

 

 

役に立たねぇ駒なんかを庇ったりするからお前らが死ぬ理由が増えることに何で気付かねぇんだ?

 

 

 

そんなんだから俺より強いくせして俺に殺される羽目になるんだよ!

 

 

 

守るものなんかがあるから弱い奴に殺られる!!

 

 

 

一辺死んでみてから地獄で深く思い返してみるんだな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分達が何故死ななくちゃならなかったかをなぁ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!

 見えてきた!!

 やっぱりカオスの仲間達が出口を塞いでやがるか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ミシガン、

 奴が来たぞ。」

 

「頼みましたよミシガン。」

 

「お願いしますミシガンさん。」

 

「任せて、

 大丈夫……、

 分かってるから………。

 私がやるべき事は。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…だがテメェ等じゃ俺の足を止めることは出来ねぇ!!

 

 

 出口を塞ぐ汚いゴミ共は俺の水で纏めて洗い流してやる!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スプラッシュ!!!」ザザザザザザァァァァァァァァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァァァァンッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!!?

 なっ、何だと!!!?

 俺のスプラッシュが………!!?

 まさか相殺されたのか!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしッ!!

 足が止まったぞ!!

 一斉に放て!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バニッシュボルト!!」「グレイブ!!」「スプラッシュ!!」「ウインドランス!!」「フレアボム!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉっ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グワッ!!

 無茶苦茶やりやがる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外したか……。

 だが俺達は足止めさえ出来ればいい。

 俺達が時間を稼げばカオス達が追い付いてくる。

 決してアイツにここを突破させるな!」

 

「「「了解ッ!」」」

 

 

 

「さて………スラートを治めるものとして余も働かねばな。

 なにせここは余の住まう都市なのだからな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それなりに強ーな。

 カオスの仲間なら当然か………。

 

 

 

 ……それにしてもさっき俺のスプラッシュをかき消したのは一体………?

 …………試しにもう一回やってみるか……、

 『流水よ!!我が手となりて敵を押し流せ!!

 アクアエッジ!!』

 追撃の二十連撃!!」ザザザザザザァァァァァァァァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァァァァンッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?

 これもかき消しちまうのかよ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうやらクラーケンに続いてまた私の見せ場のようだね。

 こんなに多く出番があっていいのかしらぁ!!」

 

「完全にランドールの水を吸収している………!

 これならミシガンだけで敵の攻撃を防ぎきれますね!」

 

「ミシガンお前が頼りだ。

 ランドールの遠距離攻撃は任せる。」

 

「接近してきたらボクとウインドラさんで迎撃します。」

 

「余も助太刀………、

 いや………ここは助太刀されておる方か………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あの女は確か………、

 レサリナスでカオスの回りをウロチョロしていた奴じゃ………?

 ……………俺のスプラッシュとアクアエッジを無力化しやがったな……。

 何者だあの女………?

 ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だったら!!!

 攻撃の規模を広範囲に拡げてやったらどうなるんだぁ!!!?

 

 

 『流水よ!!我が手となりて敵を押し流せ!!!』

 追撃の二十連撃!!!!

 纏めて………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイルシュトローム!!!」ザザザザザザザザザザザザァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァァァァンッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!!

 何だと!!!?

 俺の全力投球が…………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学習しないね!!

 水の攻撃は私には効かないって分からない!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの無効化の仕方は………レサリナスでカオスがユーラスの術を無効化したのに似てるな………。

 

 

 

 オイッ女ァッ!!

 テメェ何者だぁ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かっていると思うが答える必要はな「私は!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミシガン!!

 ミストの村の出身でここにいるウインドラの幼馴染みで!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの姉だよ!!!」い………(汗)」

 

「答えちゃいましたね………。」

 

「ワザワザ敵に情報を与えなくても………。」



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ランドール捕獲

スラートの地中都市シャイド 

 

 

 

「ミシガン………、

 あまり素性を敵に教えるものじゃないぞ?」

 

「えぇ~!?

 だってこいつらってレサリナスの時からカオスやウインドラばっかり狙ってるんだよ!?

 私だって戦えるんだから注目されたいし………。」

 

「どうしてこの人は敵に狙われたがってるんですかね………。」

 

「ミシガンも強くなったことで多少好戦的になっているようですね。

 …いい傾向とは言えませんが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスの………“姉”………だと?

 ……ってことはあの女も………アルバートの………!?

 

 

 ……どうなってんだ!

 カオスの仲間に他にバルツィエの血筋がいるなんて聞いてねぇぞ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (………さっきの俺の魔術を打ち消したところを見てこいつもバカ高いマナを保有しているのは間違いねぇ………。

 

 

 ……ここにきて誤算か………!

 カオスに姉弟がいるなんて聞いてねぇよ!!?

 …まさかまだ他に兄とか姉、もしくは弟か妹でも出てこねぇだろうな!!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?

 ランドールが………止まりましたね?」

 

「どうしたんだろ?

 私がカオスの姉って言ったら急に………。」

 

「………!

 そうか!

 ランドールの奴………!

 

 ………いいか?

 このままミシガンがカオスの姉と言うことで通すぞ?

 奴に何を聞かれても正真正銘ミシガンはカオスの姉だ。

 いいな?」

 

「…!

 なるほど………そういうことですか。

 分かりました、それで進めましょう。」

 

「ミシガンさんがカオスさんの姉と言うことでいいんですね?」

 

「いいもなにも私はカオスの義理の姉のつもりだけど………?」

 

「この場では“義理”ではなく“実の姉”だ。

 ランドールはミシガンがカオスの姉と聞いてミシガンがバルツィエの血族だと勘違いしているんだ。

 ………上手く奴が騙され続けて時間が稼げれば……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後はカオスがランドールを倒しにやって来る。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………お前ら………まだ他にバルツィエの血筋を持つ奴がいるんじゃねぇだろうなぁ?

 

 

 お前はどうなんだ!!

 そこのもう一人の女ァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私ですか………。

 私は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前に関してだけは全くの謎だ!!

 どっかの国のスパイだったって話しか手配書には記載されてなかった!!

 テメェ等は一体どういう繋がりで一緒にいやがるんだ!!?

 カーラーン教会は何を企んでやがる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カーラーン教会は私の事情には関与していません。

 私はウルゴスという国の者で手配書のことも事故だったのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「事故だぁ?

 ………にしてはお前等は今こうして繋がってたじゃねぇか?

 レサリナスでの件もお前等が全て仕組んだことなんじゃねぇのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ですから全ては事故から始まったのです。

 そのような勘繰りは無意味で「そうだよな無意味だよな。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らが何かよからぬことを企てようともダリントン隊やバーナン隊、

 

 

 

 それから“カーラーン協会の本部もぶっ潰したんだ”。

 今お前らがダレイオスでやってることはレサリナスでの件とそんなに関係ねぇんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何ですって………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達に反抗的なデカイグループはもうほとんど潰し終えてんだよ!

 今更マテオでお前らが何かやろうとも先に大元を断っちまえばいくらダレイオスのゴミ共をかき集めたところで出来ることなんざ高が「カタスは!!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カーラーン教会を潰したと言うことは………カタスは、

 カタスはどうなったのですか!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…カタスティア=クレベル・カタストロフ公爵か………。

 奴ならこの間………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この間………何ですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺を通してくれたら話してやるぜ?

 話し込んでたらカオスに追い付かれ「もう追い付いてるさ!!」!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう逃がさないぞランドール!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったなランドール。

 もうこれでお前の勝ちの目は無くなった。

 バルツィエの連中は仲間を蔑ろにして一人で作戦を決行しがちだが一人で出来ることというのは案外幅が狭く行動を読みやすい。

 お前が魔術でこの地下都市を破壊しようとしてから街中に走っていったまでは俺達も呆気に取られて出遅れたが状況が進んでみたらこの通りだ。

 所詮はいくら大きな力を持とうが一人の能力と言うのは限界があるということだ。

 お前がここに来たのは独断だろうがその単独行動のせいで今お前は二人のバルツィエに囲まれる事態に陥っている。

 

 

 ………お前の敗因はミシガンという切り札を事前に知ることが出来なかったことにある。

 運………………は別に悪くない。

 悪かったのはお前の頭だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……言ってくれるねェ偽カオスが。

 もう勝った気でいるのかよ?

 まだ俺は他にも技があるんだぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無駄だ。

 水系の技だったらミシガンとカオスがいる限り「物理的攻撃ならどうよ!!」!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最初から常に本気な俺でも取っておきぐらいは取ってあるんだよ!!

 オーバーリミッツ!!」パァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いかん!!

 カオス!!

 何かする前に奴を仕留め「待ってください!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼を…!!

 ランドールを生け捕りにして下さい!!

 彼にはまだ聞きたいことがあるんです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし奴が何かしでかしてからでは………!?」「ハァーハッハ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうやって偉そうに群れて意見が纏まらねぇから単体に出遅れるんだよ!!

 こういうのはなぁ!!

 早いもの勝ちなんだぜ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水蓮旋流閃!!!!」ゴォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤバッ!!?

 剣は私じゃ防げないよ!?」

 

「なら俺が受け止めて「ウインドラさんは水の攻撃が弱点じゃないですか!!」」

 

 

 

「………でしたら私が…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この水の回転斬りで纏めて吹っ飛ばしてやるぜェェェェッ!!!

 さっさと退かなかったことを後悔して……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィィンッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なっ!!?

 俺の奥義が服で止められた!!?

 なんて硬い服を着てんだテメェ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今です!!」

 

 

 

「分かった!!」「やるぞカオス!!練習の時に考え付いた技を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しまッ…………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「衝破!!!十文字!!!!」」ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!!!!」



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ダレイオス王即位宣言

スラートの地中都市

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ…!

 

 

 

「げふぅ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とか事なきを得たな。」

 

「もう一度さっきの水の竜巻を起こされていたら都市が壊滅してましたね…。」

 

「…こいつ一人だけで来たのかな…?」

 

「!

 他にも外に仲間がいるかもしれません。

 ファルバン族長、

 地上を警戒していてもらえませんか?」

 

 

 

「あいわかった。

 ……結局ソナタ等だけでランドールを倒してしまったな。

 バルツィエがこうもあっさりと………。」

 

 

 

「こちらにはカオスがいましたから。

 互いにバルツィエが一人ずついるのなら数が多いこちらの方が勝利するのは必然です。」

 

「それにカオスなら一対一でもランドールには勝つだろうしな。」

 

 

 

「……なんと頼もしき者達だ。

 ソナタ等ならこのダレイオスを任せきってしまっても良さそうだな………。

 

 

 

(………しかしこの時期にバルツィエが攻めてくるとは………。

 目的は大魔導士軍団を捜すためと申していたな………。

 ……やはりゲダイアン消滅がバルツィエが無関係という話は真であったか………。

 すると奴等はダレイオスにいるという大魔導士軍団を倒しに来たということ……… 。

 定期的に東側の海を見張らせていた者からはつい先日にマテオが海を侵攻してきたと言う話は聞かなかった。

 とすればランドールは警戒網を抜けてくる程度のごく少数で潜入してきた可能性が高い。

 …どのような手段で海を渡ってきたと言うのだ?

 

 

 いづれにしても少数だけで潜入し大魔導士軍団を討ちにやって来たのならそれが達成された時こそがマテオとダレイオスの本格的な戦争再開の合図となるであろう。

 奴等マテオ側にとっては大魔導士軍団の存在こそが開戦に待ったをかけているということに間違いない………。

 

 その大魔導士軍団がもし………ゲダイアン消滅で共に滅びていたとしたら………、

 ランドール達潜入者に奴等が恐れる大魔導士軍団が存在しないと判断された時は………どうなる?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………決まっている。

 討つべき者達が存在しないのならそれこそマテオが攻めいるのに障害が無いのだ。

 マテオに大魔導士軍団がいないと伝わればマテオは直ぐにでも軍を率いてダレイオスに乗り込んで来るであろう。

 そんな事態に陥ってしまえば………スラート、ミーア、クリティアと彼等だけではとても数が足りない………。

 まだあと“五つの部族達”にも立ち上がってもらわねばならぬと言う時期にバルツィエの来襲………。

 ヴェノムの主退治のペースは早めに進んではいるがそれよりもバルツィエの大魔導士軍団探しをどうにかせねば………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………これは“彼等に一役買って”もらおうか……。

 彼の魔力は偽者だとしても疑われるようなこともあるまい。

 幸いにも彼等とバルツィエは敵同士なのだ。

 戦う運命なのは変わらない。

 ただよりバルツィエに狙われてヴェノムの主退治に遅れが生じるのみ。

 後五ヶ月の期間でならバルツィエの妨害があっても彼等なら主の全討伐を成し遂げるであろう………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファルバン殿………?

 他の皆を警戒に当たらせないでいいのか?」

 

 

 

「!

 そうであったな。

 ではランドールはソナタ等に任せるぞ?

 そやつに関しては………余も後で話をする。

 殺さずに残しておいてくれ。」

 

 

 

「それはこちらにも奴に話があるからいいが………?」

 

 

 

「頼りにしておるぞ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大魔導士軍団の者達よ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん?

 大魔導士軍団の者達………?」

 

 

 

「どうしたのウインドラ?」

 

「……今ファルバン殿が大魔導士軍団の者達と………。」

 

「大魔導士軍団の者達…?」

 

「どういう意味でしょうかね…?」

 

「……分からん………。

 後でもう一度ファルバン殿に聞いてみるとしよう。

 

 

 

 ………それよりも今はこいつだ。」

 

 

 

「ランドール………、

 気絶程度に加減したつもりだけど………。」

 

「………息はあるようですね。

 ウインドラさん、

 前にカオスが使っていた手錠をお借りできますか?」

 

「あぁ、

 意識を取り戻した時にまた暴れだされたら面倒だ。

 意識の無い内に無力化しておこう。」

 

 

 

ガチャ…。

 

 

 

「手錠は壊れているんじゃないんですか?」

 

「安心しろ。

 ちゃんと直してある。

 鍵はトリアナスで紛失したままだがな。」

 

「それじゃあランドールはずっと手錠を填められたままですね。」

 

「コイツがここでこの手錠を外すことは無ないだろう。

 鍵は無くとも問題ない。」

 

「そうですね………。

 

 

 

 では『ファーストエイド!』」パァァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………よう。」

 

 

 

「先程のお話の続きをお聞かせ願えますか?」

 

 

 

「……仕方ねぇな……。

 どうせ話したってこのダレイオスにいりゃあその内情報も入ってくるだろうに。」

 

 

 

「先ず何故カーラーン教会を潰すと言う話になったのですか?

 レサリナスではカーラーン教会は貴殿方バルツィエには敵対的なことは何もしていない筈ですが………?」

 

 

 

「そう言うことは自分とカオスの服装をよく思い返してみるんだな。

 あの時テメェ等はどこの所属の服を身に纏ってた?」

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

「教会がテメェ等を匿ってたことは発覚してんだよ。

 裏切者の騎士団と繋がってたテメェ等を匿ってたってことはカーラーン教会も同罪で処罰対象だ。

 処断対象が目の前にいるんなら当然処断するだろ普通。」

 

 

 

「私達のせいで………。」

 

「俺達がカーラーンを頼ったから………。」

 

「………それでカタスはレサリナスに帰ってから今はどうしてるのですか………?」

 

 

 

「レサリナスには公爵は帰ってきてねぇよ。」

 

 

 

「?

 それはどうして………?

 ダレイオスにまだ滞在していると言うことですか?」

 

 

 

「いや、

 レサリナスにもいねぇと思うぜ?」

 

 

 

「では何処に………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ってくる時のカーラーン教会の船を俺が津波を起こして沈めてやったんだよ。

 今頃海の化け物どもの腹の中で快適に過ごしてるんじゃねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!?」」」」」

 

「………それは本当のことですか?

 それとも冗談か何かで………?」

 

 

 

「冗談だったら笑ってくれるか?

 何やら公爵との繋がりが深いようだが残念だったな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 公爵は俺が殺してやっ「何てことをしたんですか!!」へぶぅ!? 」バシンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズザァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方達はそうやって自分達にとって邪魔にしかならない人達を片っ端から殺していくのですか!!

 教会には身寄りの無い方や障害を持って満足に働けない方達が大勢いたんです!!

 あそこは貴方達のような人に追いやられて身を寄せていた方が何人も………!!

 貴方達が国を支えるべき立場の人を国民を殺めてどうするのですかッ!!?」

 

 

 

「………ペッ!

 どうするも何も俺達に刃向かってくる野郎共を殺して何が悪い?

 その内敵になるなら敵になる前に殺るだけだ。

 仕事は早めに終わらせておくたちなんだよ俺は…!? 」バシンッ!!

 

 

 

「何がその内敵になるですか!!

 貴方達の国政が粗末だから国民が不満を抱えることになるのです!!

 貴方達が自分達だけに利があるように仕向けるから…!!」

 

 

 

「…そうやって俺達が全マテオの国民の顔色伺って政治をやって何になるってんだ?

 どんなに最高な政策を取ったところで完璧なものは出来上がらねぇ。

 確実に不満ってのは出てくるもんだ。

 国がでかくなればなるほどにその規模も大きくなる。

 人ってのは長所よりも短所に目が行きがちになるんだ。

 悪いところ全部聞いて“はい直しましょう”で次から次に不満がやって来る。

 それを一々聞いていたら国で一番貢献している俺達が国民の声に忙殺されるだけだ。

 

 

 分かるか?

 国を背負って立つってのは妄想で出来ることじゃねぇんだよ。

 俺に怒鳴ったところで国の上に立ったこともねぇお前なんかにゃ分かる訳「私は!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はいづれこの地に誕生する新しい国で国王に立候補します!!

 私は貴方達バルツィエのような国民の訴える声を無視するような酷い国政者にはなりません!!」



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明かされるバルツィエの原点

スラートの地中都市シャイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テメェが国王に………?」

 

 

 

「私でしたらマテオのような国民の不満が爆発してしまうような事態にはなりません!

 私は………新生ダレイオスの国王となって貴方達マテオの上層部バルツィエを倒したら世界を一つに統合し国民を皆平等にし争いを無くします!

 私は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界中の人々を救って見せます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そんなガキの言い出しそうなことが口から吐いてるようじゃ無理だな。」

 

 

 

「どうしてそんなことが言えるのですか!?」

 

 

 

「つか何?

 お前がダレイオスの国王になる?

 そういう予定なのか?

 カーラーン教会やダリントン隊達はお前ごときを頭にする目的で俺達に逆らってきたのか?

 カタスティアやカオスならまだ分かるがお前?

 どこの馬の骨だよって話にならねぇか?」

 

 

 

「私は………ウルゴス国最高貴族でクラウディア家の次女で……………、

 ウルゴスの王の妃に迎えられる予定だった者で………。」

 

 

 

「ウルゴス?

 どこぞの国だよそりゃ。

 ウルゴスなんて国聞いたことが………、

 

 

 

 ……………………ウルゴス?

 どっかで聞いたことがあるような………?

 

 

 ………!

 そうだ!

 確か昔アレックスの書斎の本でそんな名前の古臭い国の名があったな!!」

 

 

 

「!」

 

 

 

「なかなか面白い童話の本とか誰だか分からねぇ奴が書いた本とかもあって発行元を調べたことがあったっけなぁ!

 確かウルゴス!

 そんな名前だった!

 本当にあったんだな!?

 ウルゴス!!

 ハハハハハ!

 御伽の国の世界の御伽の作者が作ったんじゃなかったんだな!

 ちゃんとウルゴスって国が存在したのかよ!?

 ウケるわぁ!!」

 

 

 

「私の国を馬鹿にしないでいただけませんか?

 流石に国のことを貴方達に笑われる筋合いは無いのですが。」

 

 

 

「………あの本はアレックスに聞いたらカタスティア公爵から貰ったもんだと言ってたが勝手に公爵の教会でどっかから流れてきたもんだと思ってたぜ。

 …てーとアレか?

 お前とカタスティア公爵はウルゴスって国の出身でお前を匿ってた件はお前ら二人に強い繋がりがあるからなのか?」

 

 

 

「…私はカタスとは幼馴染みでウルゴスが滅ばなければ家族になる筈でしたから………。」

 

 

 

「なるほど……、

 やっぱとっくの昔に無くなっちまった国だったんだな。

 そいでもってウルゴス最高貴族のお前と公爵が家族に………。

 お前が公爵の兄貴か弟と結婚して妃に………ってことか。

 時期王の妃になる筈だったお前が発端で今更このダレイオスの王にまた返り咲こうとしてるって話に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………国ってのはそんな過去の経歴でどうにか運営出来るような代物じゃねぇんだよお嬢さん。」

 

 

 

「……!」

 

 

 

「道理で夢物語のような妄想を信じきってあんな青臭い宣言が吐ける訳だ。

 人のこと言えたもんじゃないがお前相当甘やかされて育ってきたんだろ?

 大人の世界ってのは綺麗事だけで平和になる訳じゃ無いんだぜ?

 お前が世界をどうしたいのか構想を練ったところで綻びは確実に生まれる。」

 

 

 

「綻び等皆で解決していけば世界は「甘いつってんだろ。」」

 

 

 

「ここにいる連中はお前には賛同してくれるだろう。

 お前とかかわり合いになる奴等なら全て。

 だがお前が考える世界の平等ってのはお前の見えていないところでは絶対に存在する。

 その声が聞こえたらお前はその問題を解消しに動く。

 ………その繰り返しで延々と終わらない多忙過ぎる人生にいつしかお前は腐っていくだろうよ。

 

 

 

 アルバートのように逃げ出すこともあり得る。

 理想論を実行するにはとてつもない忍耐力が必要なんだよ。

 理想を追い求めるのは結構なことだ。

 だが結局どこかで挫折する。

 必ず何かどうにもならない問題が出てくる。

 それをどうにかするためにとりあえず徐々に妥協して妥協して妥協して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妥協する。

 そうして出来上がったのが俺達バルツィエだ。

 マテオじゃ腐ってるなんて噂されてるが俺達も元から腐ってた訳じゃねぇんだよ。

 お前のように国をよくしたいと思って政策をとっていた時期もある。

 アルバートは昔のその時期に戻したく奮闘していたが失敗した。

 結局は腐っていく運命なんだよ。

 国の上ってのは。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしなさい!!」バシンッ!!

 

 

 

「ぐっ………!」

 

 

 

「国の上に立つものが廃れるのは私の国でもありました!!

 私の家以外の貴族の家は皆王や王子に取り次いでさまざまな悪事を働いていたこともありました!

 それが発覚した時真に上に立つ者がそれを咎めなければならないと言うのに!!

 貴方達こそがそんな子供のような理由で自尊に走っていい筈が無いでしょう!!

 貴方達のやっていることはただの放漫です!!

 そんな綻びに走る人達に国を治める資格はありません!!」

 

 

 

「…資格ねぇ……?

 資格なんてもんは力が物を言うこと時代では罷り通っちまうんだよなぁ…。」

 

 

 

「力だけで世界は成り立ちません!!」

 

 

 

「力が無けりゃ国は守れねぇぜ?」

 

 

 

「力など必要の無い世界に変えて見せます!!」

 

 

 

「それこそがこの世の終わりだな。

 そっから先は無意味に続く暗黒時代の始まりだ。

 人が人を蹴落とす世界だからこそ世界には活気が満ちるってのに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを無くしちまえば誰が頑張って人生を生きようとするんだよ………。

 そんなお手て繋ぎあって仲良く“共産主義社会”なんかには人類の発展はやってはこねぇ。

 競走あってこその“実力主義社会”だからこそ国ってのは生きてられんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランドールを捕獲したようだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 オサムロウさん!

 電流での痺れはもう回復したんですか?」

 

 

 

「ある程度時間があればあんなものはどうってことはない。

 自己回復手段くらい持ち合わせておるからな。」

 

 

 

「それならいいですけど………。」

 

 

 

「ランドールに尋問していたのか?

 ………ここヴェノム発生から百年で一度の侵攻以外ではろくにバルツィエと相対し捕縛するような余裕は無かったが………、

 

 

 

 いい機会だ。

 オーレッドからの情報と合わせて我からも尋問させてもらえるか?」

 

 

 

「………分かりました。」

 

 

 

「………忝ない。

 

 

 

 ランドール、

 貴様達が開発したというワクチンについてだがクリティアからの情報では危険薬物を使用しているとのことだが間違いないか?」

 

 

 

「!

 ………よく調べたな。

 コイツらがワクチンを持ち寄せたのか?」

 

 

 

「そうだ。

 彼等から預かったワクチンによるとこれにはツグルフルフという昔から存在する危険な花の成分が検出された。

 この花は使用者を最終的には廃人に変える作用があるのだがそこに至るまでに精神に異常な起伏が出るという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………貴様等バルツィエの者達が異常なまでに粗暴性があったり共感性に欠けるのはこの花が原因なのではないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 

 

「………」

 

 

 

「貴様等バルツィエとはマテオ、ダレイオスとの対立からの仲だが当初から貴様等は一族皆がある一定の年齢辺りから急激に人格に妙な変化が表れた。

 若いバルツィエにも時折いたりするのだが貴様等は異様なまでに殺戮本能が高い。

 敵を追い求めるというよりも殺す相手を求めているような………、

 味方にまで剣を奮うそれはまるで何か精神に異常を来しているとしか思えん。

 

 

 

 バルツィエの根源はツグルフルフなのであろう?

 どういう方法でこれの副作用を抑え込んでいるのか知らんが多用し過ぎで他人への配慮が全くもって死んでいる………。

 ヴェノムを遠ざける為とは言え服用するのは止めた方がいいぞ。

 これ以上頭がおかしくなりたくなければな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……へぇ、

 発展途上国の割りにはよく調べてあんじゃん。」



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ランドールの脱走

スラートの地中都市シャイド

 

 

 

「………認めるんだな?

 ツグルフルフの関与を。」

 

 

 

「大体のことは正解だぜ?

 俺達の力の源がツグルフルフを元に強化されているってところはな。」

 

 

 

「…ではお前達の異常な魔力も………。」

 

 

 

「………その昔ある人から秘伝法を伝授されてな。

 もう遺伝子レベルで俺達バルツィエはその恩恵を受けている。

 今更切り離すことも出来ないくらいにな。」

 

 

 

「そのある人と言うのは………カタスのことではないのですか?」

 

 

 

「何だよ?

 そこまで分かってんのか?

 公爵の奴が口を滑らせたか?」

 

 

 

「…貴方達の力の源がカタスが切っ掛けだと仰るのなら貴方はそんなカタスを………!」

 

 

 

「おいおい、

 いつまでもそんな昔の恩を律儀に感じ続ける訳ねぇだろ。

 つーか俺が生まれる前の話だしな。

 俺自身は公爵になんて何の有り難みも感じてねぇ。

 俺の家があるのも公爵のお陰なんだろうがお前達だって自分が生まれる前の先祖の受けた恩に縛り続けられるなんて窮屈だと思わねぇか?

 俺が直接欲しいと思って貰った才能でもねぇしよ。

 最初から持って生まれた才能なら俺だけのもんだ。

 公爵なんて関係ねぇ。」

 

 

 

「!

 この人はどこまでも………!」

 

 

 

「………にしても馬鹿だよなぁ公爵は。

 自分で他家に渡した力が時が流れ流れて最終的には自分を殺す力になって帰って来るなんてよぉ?

 人に渡さずに自分で使っておけば今頃時代はバルツィエじゃなくて“カタストロフ家”がマテオを支配してたかも知れねぇのによ?

 つー前にあのオバハンは未だに誰かと結婚してガキを作ってすらいねぇからな。

 公爵がバルツィエの代わりになってたとしても俺達のように上手くやれてたかは分からねぇな。

 あいつ理想高そうだし。

 マテオ王家の玉の輿をずっと狙ってたんじゃねぇか?」

 

 

 

「カタスは!

 貴方達バルツィエのような物欲の塊ではありません!!」

 

「貴様………、

 我の前であの方を愚弄するとは………、

 自分のおかれている状況が分かっておらんらしいな?

 我がその気になればその首いつでも跳ねられるのだぞ?」

 

 

 

「あ”~!

 面倒くせぇなぁテメェ等は!!

 そんな突っ掛かって来たところで俺が改心するとでも思ってんのか!?

 馬鹿馬鹿しい!!

 吐いた文句をびびらされた程度で訂正するくらいなら最初から吐く訳ねぇだろ!!」

 

 

 

「貴様は自分がこれからどうなるのか理解してものを言っているのか?

 捕虜がとれる態度とは到底思えんが………。」

 

 

 

「自分がどうなるかって………?

 そんなもん分かりきってるに決まってんだろ。

 俺はこれからお前達………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………から逃げ切るんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

 

「何をするつもりか知らんが逃げられるくらいならここで貴様を殺すランドール!!

 

 

 

 真空破斬!!」ザンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!

 ソイツが来るのを待ってたんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズバンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボトッ!!

 

 

 

ビシャシャシャ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

「コイツ………!

 自分から両手を切り落とされに……!?」

 

 

 

 

 

 

「……!!!!!

 ぐ…………ぬぉ…………!

 ファーストエイド!!」パァァ…!

 

 

 

「!?

 自己治療で止血を……!?」

 

「ランドールを取り押さえろ!!

 手錠から解放されたと言うことは奴は「メイルシュトローム!!」!!?」ザァァァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「うわッ!!?」」」」

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」バチバチバチバチ!!!

 

「!!

 私がッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァァァァァァァァンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか!

 ウインドラさん!!」

 

「………ッ!!」バチバチバチバチ…

 

「ミシガンさん!

 急いで治療を!!」

 

「分かってる!!

 けどランドールが……!」

 

「!

 アイツはどこに……!?」

 

「!

 後ろだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………チッ!

 痛みで満足に力が出せなかったか…!!

 だが予想外に重傷な奴が出たな!!

 あばよテメェ等!!」ダッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!

 隙を突かれたか……!!

 自らの腕を我に切り落とさせるとは………!!」

 

「オサムロウさん!

 アイツを追いましょう!!

 皆はウインドラに付いてて!!

 

 

 

 俺達でまたアイツを追うから!!」

 

 

 

「カオス!!

 無茶は駄目ですよ!!?」

 

 

 

「分かってるって!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 闘技場 雨

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァァァァァァァァァァァァァァ………

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へッ…!

 この雨で視界がぼやけてッから俺が上がってきたことに気付かないでやんの!

 おまけにこの闘技場から脱出しただけでスラートの馬鹿共が油断しきってやがる。

 まだこの下にはお前らの作った落とし穴があるってのによ。」ピピ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ランドール?』

 

 

 

「!!

 いい時に掛かってきやがったなダイン!!

 スイッチを………、

 クソッ!

 押しづれぇ!!」ピッ

 

 

 

『ランドール………、

 どこにいるの……?』

 

 

 

「ダイン!

 お前こそ何処にいんだ?

 俺は昨日お前に知らせといた所の街の闘技場にいるんだ!

 今手が無くなってて飛べねぇんだ!

 回収してくれ!!」

 

 

 

『闘技場……?』

 

 

 

「街の上を飛べば分かる!

 闘技場の中には今大量にゴミ共がいて騒がしいからこの雨でも見つけにくいと思うが一先ず俺は闘技場の上に上がる!!

 そしたら魔術で俺の位置を報せるから俺をお前のに乗せろ!!」

 

 

 

『…了解………。』ピッ

 

 

 

「ケヒヒ……、

 これでここにいるゴミ共を生き埋めには出来なかったが落下死させるくらいは出来「ランドール!!」!」

 

 

 

 

 

 

「これ以上暴れるのは止めろ!

 ランドール!!」

 

「もう貴様に逃げ道は無いぞ!

 大人しく投降しろ!!」

 

 

 

「……だから俺は逃げられなかったら最初から逃げないって言ってるんだけどよぉ?」

 

 

 

「それ以上逃げてどうするつもりだ!!

 他に仲間がいたとして地上では我とカオスからは逃げられんぞ!

 両手を無くした手負いの貴様がいては他の仲間も貴様を簡単には助けられまい!!」

 

 

 

「その通りだな!

 もし俺の仲間が歩いて来てたとしたらサムライ!!

 お前のいう通りだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だったらな!!

 俺の仲間が地上じゃなく空から来てたらどうだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何?

 空から………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コイツの御披露目としちゃあ見物人が全員死んじまうのがもったいねぇがここまで来たら構いやしねぇ!!

 纏めて空から押し潰してやんよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクアエッジ!!」ザバァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!?

 何故空にアクアエッジを………?」

 

「………!

 オサムロウさん!

 向こうの方から何か鳥みたいなのが……!?」

 

「!

 あれは………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!パシッ!

 

 

 

「キャッチ………。」

 

「ナイスタイミングだダイン!!

 お前とペアでよかったぜ。」

 

「どういたしまして……。

 それより手が無いけどどうしたの……?」

 

「手錠付けられてな。

 逃げる際に切り落としちまったぜ。」

 

「そう……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの女の人は……!?」

 

「ダイン=セゼア・バルツィエ……!!

 油断していた!!

 バルツィエは大抵は二人以上で行動していることを失念していた!!

 …それよりも何だあの飛行している乗り物は?

 生物ではないな。」

 

「……あれがあれば海を渡ってこれますね。」

 

「あれで警戒網の外から迂回してきたのか……!

 バルツィエめ………!

 次から次へと新しい物を作り出しおって……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ~ぅ!!

 ダレイオスのゴミ共の諸君!!

 俺の名はランドール!!

 こっちはダインってんだ!!

 そして俺達の乗ってるコイツは極秘で開発したバルツィエの新騎馬“レアバード”って言うんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これからテメェ等を地獄に叩き落とすんでよ~く覚えときな!!!」



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魔の軍団ここに在り、

王都セレンシーアイン 闘技場 雨

 

 

 

「バルツィエめ………、

 あんな飛行手段を持っておったとは……。」 

 

 

 

「!

 ファルバンさん!!」

 

「ファルバン!!

 皆でアイツ等を撃ち落とすように命じてくれ!!」

 

 

 

「待て。

 あの速度で飛行する的に皆で迎撃した所で当たりはせん。

 それよりも………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!!」

 

 

 

「!

 ミシガン!?

 ウインドラは……!?」

 

 

 

「アローネさんに任せてきた!

 私がいなくても大丈夫だって…!

 それよりも私はあのランドールとか言うのに一発かましてやりたくて上がって来たの!」

 

 

 

「そっ、そう……。

 でも………。」

 

 

 

「!

 何あれ……!?

 空飛んでるけど………あれにランドールと……何かもう一人女の人が………?」

 

 

 

「あれはダインって言う人でランドールと一緒に来てたみたい。」

 

 

 

「………あれを撃ち落とせばいいんだね?

 任せ「よく聞けお前らァァァァ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この国に大魔導士軍団とか言う奴等がいるらしいんだが知ってる奴はいねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!!!

 

ダイマドウシグンダン……?

 

シラネェヨナ?

 

ドコノダレカナノカモ………?

 

ソイツラガナンダッテンダ?

 

バルツィエガナンデソイツラヲ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「約二十年前!!

 ここから西にあるテメェ等の大都市ゲダイアンとかいう街を焼き払った奴等だ!!

 ソイツ等はここ二十年テメェ等の都市を焼き滅ぼしてから音沙汰無しで俺達バルツィエは最近までソイツ等がその都市と一緒に消えたと思っていた!!

 

 

 

 ………だがつい先日!!

 テメェ等の中にも知ってる奴等がいるだろうがここダレイオスとマテオを繋ぐ海道シーモス……!!

 テメェ等はトリアナスって呼んでる海道を粉微塵に爆砕した奴等がいた!!

 

 

 

 俺達バルツィエは悟った!!

 俺達が仮の名で呼んでる大魔導士軍団がまだ消えてないってことを!!

 どういう方法でか知らねぇがソイツ等は恐らくテメェ等ゴミ共に自分達で編み出した秘術を使わせて海道を破壊させたんだ!!

 可哀想なことにそこにいるカオス=バルツィエ達を大魔導士軍団の奴等が援護して俺達バルツィエの一人も行方不明だ!!

 十中八九その爆砕した魔術に巻き込まれたんだろう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで俺達はマテオ政府に内密でその大魔導士軍団を狩りに来た!!

 臆病風に吹かれてそんな大魔導士軍団なんていう他人任せなクソッタレ共が怖くて何も出来ねぇマテオ政府に代わって俺達バルツィエが大魔導士軍団をぶっ倒すんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ…………!!!!

 

アイツノイウコトゴホントウナラダイマドウシグンダンガゲダイアンヲ……?

 

アノクチブリダトゲダイアンヲコウゲキシタノハバルツィエジャナイノカ………?

 

ダイマドウシグンダンッテ………アノボウメイシャタチガサガシテルレンチュウダヨナ………?

 

ダイマドウシグンダンッテナンナンダ?テキカ?

 

バルツィエノテキッテコトハ………ミカタジャナイノ?

 

ケドダイマドウシグンダンガゲダイアンヲモヤシタラシイゼ?

 

ドウイウコトダ?

 

コノクニニソンナレンチュウガホントウニ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………さてここまで聞けばオメォ等にも分かるだろう?

 俺達マテオの見解では大魔導士軍団とやらは誰かに術を習得させてそれを放たせるんだが………その誰かってのはずばり……、

 

 

 

 テメェ等ダレイオスの民共だ!!

 俺からしてみればテメェ等は大魔導士軍団を知っていようが知っていまいが関係ねぇ!!

 テメェ等全員行く行くは大魔導士軍団の捨て駒として俺達バルツィエに楯突いて来るんなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の内に纏めてぶっ殺しちまったほうがいいと思わねぇか!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!!!!!

 

オッ、オウボウダ!!

 

ソンナカオモナマエモシラナイレンチュウノナカマミタイニイワレテモ!!

 

イヤアイツナカマジャナクテステゴマッテイッタゾ!?

 

ステゴマ!?ナンデステゴマニナルンダ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおぉ!!

 俺としたことが言い忘れてたぜ!!

 大魔導士軍団はゲダイアンではともかく今回の海道の件で少なくとも十四人は自殺させてる!!

 

 

 

 奴等大魔導士軍団の秘術は一発がまんま隕石そのもので威力もそれと同等だ!!

 うちで計測した限りじゃ海道に飛来して破壊した隕石はどれも桁外れにマナ密度が高かった!!

 あんなもん撃たされちゃ人のマナは一気にゼロを通り越してマイナスの域にまで突っ切るぜ!!

 そんなのが発動しちまえば術者は死ぬ!!

 確実にマナが足りなくなって生命活動を維持できずに死ぬ!!

 確定事項だ!!

 例え俺達バルツィエであってもあれを一発出しただけで黄泉行きが決まる!!

 そんぐらいの捨て身の一撃性があの隕石にはあった!!

 文字通り命懸けの術のようだからなぁ!!

 

 

 

 それが今回続けざまに十四回だ!!

 一発二発でも十分だっただろうところを十四発だぜ?

 同時に放たれたんじゃなくそれぞれが別々に飛来していた………!!

 普通なら最初の術者がマナを魔術に搾り取られて死ぬのを他の術者達も見ていた筈だ!!

 それなのに連続して十四連続!!

 どうした途中で止めなかった!!?

 それを撃てば術者が死んじまうことは目の前で起こってた現象だろうに………!!

 

 ………これはもう大魔導士軍団が何らかの方法で他人に術を発動させることが出来ると見て間違いない!!

 先日追っ手からカオス達を逃がすためかどうかは俺も詳しくは聞いちゃいねぇがダレイオスの海道近くのどこかで大魔導士軍団がいたことは確かだ!!

 都合よくカオス達だけ助けたのは何か企みあってのことだろうよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かったか?

 俺達はさっさと大魔導士軍団をぶっ殺してマテオに帰りてぇんだ。

 素直に知ってる奴がいたらこの場では殺さずにおいてやるよ。

 

 

 

 ………だがもしテメェ等が何も知らない無価値なただのゴミ共だったなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生かしておく価値はどこにもねぇよな?

 なんたって大魔導士軍団の捨て駒なんだからよぉ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にっ、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴミ共が………。

 逃がす訳ねぇだろ。

 ダインやれ!!」

 

「………『氷雪よ我が手となりて敵を凍てつくせ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイシクル』」パァァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキパキパキパキパキ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!?トウギジョウノデグチガコオラサレタ!?

 

イソイデヒデトカセ!!

 

ダメダコノアメデヒナンテツカネェヨ!!

 

ソンナ…!?

 

トウギジョウニトジコメラレタ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒュ~!

 やっぱり水と氷のコンビネーションは抜群だな!

 一瞬で氷の牢屋が完成したぜ!!」

 

「………」

 

「………それで?

 俺の質問に対する答えが“逃亡 ってことは………

 俺はお前らに裏切られたってことでいいんだよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ……!!!

 

ダッ、ダイマドウシグンダンナンテシルカ!?

 

ココカラダセ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慌てなくてもその檻からは出してやるよ………。

 ………テメェ等が出るところは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地獄の底へ続く入り口だけどなぁぁぁ!!!

 『水流よ!!我が手となりて「待たれよ!!」』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大魔導師軍団ならここにおるぞ………。」



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秘めたる力を解き放て

王都セレンシーアイン 氷付けの闘技場 雨

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ファルバン?」

 

「ファルバンさん………。

 何を言って………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大魔導師士軍団がここにいる………………だって?

 スラートの族長………。

 いや………この場合はダレイオスの元王か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ。

 ソナタ等が捜しておる大魔導士軍団を余は知っておるぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………下らない時間稼ぎだったりしたら次は躊躇なく殺るからな?

 ………………それで誰だよ?

 アンタが知ってる大魔導士軍団は?

 

 

 

 まさかアンタ自身がそうだとか言い出さないよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ……!!

 

ゾクチョウガダイマドウシグンダン………?

 

ソンナハズハ………。

 

ゾクチョウハダレカヲシニオイヤルヨウナマジュツナド………。

 

ソモソモソンナジュツヲツカエタノカ………?

 

モシソウナラ………ゲダイアンヲショウメツサセタノハ……オウジシンガ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何と答えるつもりなんだファルバン………。

 嘘など付いたところで奴等による殺戮が少し先に延びるだけにしかならんのだぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なぁ?

 どうなんだよ?

 アンタが大魔導士軍団なのか?

 軍団………つーか大魔導士か?

 ゲダイアンとシーモスはテメェがやったのかよ?

 おい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何黙り込んでんだ?

 まさかとは思うが生き延びたいがために知らないのに知ってるっつったんじゃねぇだろうな?

 こちとらせっかちで仕事は早めに終わらせる性分なんだよ。

 もし本当にそうだったんならもうお仕舞いにするぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう急くでない。

 少々整理しておったところだ。

 ソナタに何から説明したらよいのかをな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まどろっこしいのは嫌いだぜ?

 時間稼ぎしようとしてるなら今すぐにでもここを「大魔導士軍団は………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大魔導士軍団は………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここにおるカオスじゃ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え?」

 

「ファルバン………?」

 

「カオスが………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ…………!!!!!

 

ボウメイシャタチガダイマドウシグンダン!?

 

アノヌシヲタオシテカレタヒトタチガゲダイアンヲハカイシタレンチュウナノカ!?

 

ソンナヤバンナヒトタチニハミエナカッタガ……?

 

ゾクチョウハソンナレンチュウトドウシテ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はい!

 時間稼ぎ決定だな?

 嘘をつくんならもっとマシな嘘をつくんだったな。

 カオスが大魔導師軍団な訳ねぇだろ?

 ソイツ等は最近までマテオの奥地でひっそりと暮らしてたって話だぜ?

 そんな奴がどうやってゲダイアンを破壊したってんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かにそうだな………。

 そんな遠くの地からダレイオスの西側にあったゲダイアンを攻撃なぞ出来る筈がない。

 ………よってカオスは大魔導士軍団ではない………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分でついた嘘を一分もしない内にネタばらしかよ。

 何が目的で嘘をついたのか分かりゃしねぇな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先に言っておくがソナタ等バルツィエの言う大魔導士軍団なる存在に当てはまる者はこのデリス=カーラーンのどこを捜しても見つかりはしない。

 そのようなものはマテオにもダレイオスにもいはしないのだからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………じゃあさっきのは何の嘘だったんだよ?

 更年期入ったボケじゃねぇよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着け……。

 余はまだボケるような時期でもない。

 余が言いたいのはゲダイアンと海道を破壊した大魔導士軍団はいないが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “海道だけを破壊した大魔導士軍団”だけの話でならここにおるカオスがそうだと申しておるのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何……!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………人と言うのはどうしても楽な方楽な方に物事を考えてしまうな………。

 ゲダイアン………海道………、

 ランドール、ソナタの話を聞いていれば二つの件がダレイオスの者が関係しているから二つが繋がっておると判断して大魔導士軍団が存命しておると思ったのであろう?

 

 

 

 ………ならばそれは違うと言えよう。

 一度目のゲダイアンは明確にダレイオスを攻撃しておる。

 そして二度目はソナタ等バルツィエを追い払うためのものでそれも十四回もダレイオス側から………。

 とすれば大魔導士軍団はダレイオス側のトリアナスの付近に潜伏していたと言える。

 あの付近はダレイオスの部族の一つアイネフーレの管轄であったがアイネフーレが滅びて今はヴェノムが巣食う荒廃が進む荒れ地だ。

 ソナタ等のようなワクチンというヴェノムを退ける手段もなく我等ダレイオスの民が長く居座れる場所ではない。

 ………となれば答えは一つ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの場にいてヴェノムを振り払う手段を持ちソナタ等バルツィエに敵対していて尚且つ“人の何百倍もマナを保有する者”こそがソナタ等の言う大魔導士軍団と言うことだ。

 その様な者はここにおるカオスただ一人だ。

 その海道を破壊したのはこのカオス=バルツィエだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………人の何百倍もだと………?

 その話が事実ならあの隕石達は全部カオス一人でやったことになるが………、

 ……いくらなんでも話に無理がありすぎるだろ………。

 マテオの見解ではあれらの中の一発撃つだけで人一人はショック死するレベルだった。

 それをたった一人で………?

 確かにレサリナスでは結局最後までカオスの魔術がどれ程のものだったのか拝めなかったしアイツが俺達以上に基礎技能が高いと言うのはまだ分かる。

 ………だがそれでも何百倍もマナを保有しているってのは行きすぎだ。

 そんなにマナが強大だと言うのならレサリナスでは俺達を倒すどころかレサリナスまるごと崩壊させかねん力を持っていることになる。

 そんな奴が勝ったとはいえユーラスごときに始めから苦戦なんかするか?

 

 

 

 こりゃもしかして………。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスの王!!

 そういう作戦か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そういう作戦とは………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスのことを大袈裟に言って俺達を微々らせて追い返そうって魂胆なんだろ?

 どう聞いても何百倍は胡散臭げだ!

 そんなマナいくらバルツィエの血を受け継いでいても無理だ!

 ソイツが“アルバート=デュラン”の血を受け継いでいたとしてもな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!!!!

 

アルバート=デュラン!?

 

 

 

「アルバート=デュランの血を………?

 ………そうであったか。

 だからこんなに誰かに対して優しくなれるのだな………。」

 

 

 

「真か?

 カオス。」

 

「………えぇまぁ。」

 

「そうか………、

 生きておったのだな。

 アルバート=デュラン………。」

 

「アルバさんはミストでもいい人だったからね。

 カオスもその優しさを引き継いでるの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり信じられねぇな!!

 俺に嘘をつこうとした罪………!

 テメェ等は全員皆殺し決定だな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……カオスよ。

 見せてやってはくれぬか?

 アヤツにソナタの力を………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はい!」



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真議事録

王都セレンシーアイン 氷付けの闘技場 雨

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス達を直接狙えば打ち消されることは分かってんだ!!

 だったら間接的に闘技場そのものを打ち砕くまでよ!!

 『流水よ!!我が手となりて敵を押し流せ!!』

 二十連撃!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来る!!?」

 

「任せて!!ここは私が!!

 「『清蓮より出でし水煙の乙女よ!!

 破浄なる柱を天へと結べ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『メイルシュトローム!!!』」「『スプレッド!!!!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ!?

 これは………!?」

 

「水の竜巻と………水の柱……?」

 

 

 

「いあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…………!!!!!

 

ナッ、ナニガオコッテルンダ!?

 

アノバルツィエノコウゲキヲ………フセイダ!?

 

ソレモ………ミタコトモナイジュツデ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスの姉かよッ!!

 こんな術を持ってやがったのか!!?

 だが水ってのは重さを持ってんだ!

 上から放たれる術の方が有利に決まって………!!」

 

「何この術………?

 カオスの姉……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……!?

 俺のメイルシュトロームが跳ねかえされる!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごっ、ゴァァァァァァァッ!!!?」「……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキバキバキバキッ!!!バキィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「闘技場を囲っていた氷が割れたか……!?

 急いで皆を避難させるぞ!!」

 

「その必要はない。

 もう決着は着いた。」

 

「ファルバン!

 だがまだ奴等は………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ハァハァ………!!

 死ぬかと思ったぜ………。

 メイルシュトロームが幾分か威力を削ってくれなきゃ今ので死んでたかもだぜ……。

 この俺が水の魔術で負けるとはな………。」

 

「……ビショビショ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に殺られ破せんかったか………。

 むしろ好都合だな。

 アヤツ等にはまだカオスの力を見せ付けておらんからな。」

 

「やるんですか………?」

 

「当然だ。

 ここでアヤツ等にソナタの力を見せ付けてやれば今後マテオは更にダレイオスへと攻めいるのが難しくなる。

 

 

 

 さぁ………、

 見せてやるがよい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………分かりました。

 一応当てなくてもいいんですよね?」

 

 

 

「ソナタは………あまり殺生を好まんのであったな。

 ………よいぞ。

 今回はただの威嚇だ。」

 

 

 

「………では。」スッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?

 カオスか。

 俺達に追い討ちをかけるつもりか?

 ……ダイン、

 殺られる前にトンズラするぞ。

 こりゃもうダメだ。

 これ以上の成果は臨めねぇ。

 ずらかろうぜ。」

 

 

 

「大魔導士軍団はいいの………?」

 

 

 

「聞いてたし直に食らって分かったろ?

 あそこにいるあの女はカオスの姉らしいぜ?

 魔力もそれなりにある。

 姉っつーのは確かなんだろう。

 

 その姉が多少俺達より上程度の魔力しか持ってねぇんならカオスが大魔導士軍団ってのはデタラメだ。

 そんなの確かめるまでもねぇ。

 ここは一旦引いて出直そうぜ。

 こんな奴等いつでも殺りに来れる。」

 

「………分かった………。」

 

「……よし、

 帰ってフェデールに報告して今後のことを…………!?」ピカッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………その日、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界中の昼夜が反転した………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ天に太陽が昇る時間帯だったにも関わらずダレイオスは全土が闇に包まれ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逆に真夜中だったマテオではダレイオスから届いてきた光によって夜の闇が光に照らされた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『バニュシュボルト!!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………それはただただ天へと昇る光………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一本の天へと続く光………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光を見たダレイオスのあるものはその光を天へと続く柱と揶揄した………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またあるものはその光をゲダイアンを消滅に誘った光とも言った……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして突如強烈な光に照らされたマテオの者達はダレイオスから立ち上るその光を見て大魔導士軍団の仕業だと思いダレイオスに大魔導士軍団が実在することに恐怖した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………世界中に届いた僅か数十秒のその光は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これから流れる筈だった世界の流れを屈曲させる程の大きな影響を与える凄まじい光だった……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………誰が言い出したかは定かではないがその光は後にこう呼ばれるようになった……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『星砕きの光』と……………。



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ランドールとフェデール

王都レサリナス フェデール私室 数時間後朝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………こちらフェデール。」ピッ

 

 

ランドール『よう俺だ。』

 

 

フェデール「ランドール………。」

 

 

ランドール『用件は分かってんだろ?』

 

 

フェデール「夜中に光ったそちら側の光のことかい?

 その件ではこちらからも話がしたかったところなんだけど。」

 

 

ランドール『やっぱそっち側まで光が届いてやがったのか。

 あんだけ光ってたら当然だな。

 まるで地上に太陽が発生したんじゃねぇかってくらいの魔術だったからな。

 間近にいてあんなもん食らってたら人溜まりもなかったぜ。』

 

 

フェデール「…と言うとお前………、

 あの光の発光地点付近にいたのかい?」

 

 

ランドール『いたも何もありゃ俺とダインに対して放たれた魔術だったぜ。

 たく、

 飛んだ怪物に遭遇しちまったもんだぜ。』

 

 

フェデール「その口振りだと大魔導士軍団に会ったんだな?

 そしてあの光を放ったのも大魔導士軍団の奴なのか。

 ………よく生きてられたな。

 あんな巨大な光の術を放てるような奴に出会って無事でいられたんだから運が良かったのかな?」

 

 

ランドール『無事なんかじゃねぇよ。

 ダインはともかく俺なんて両手が無くなっちまった。

 一度そっちに戻って怪我の具合を治したいんだが戻ってもいいよな?

 このままじゃ戦えねぇ。』

 

 

フェデール「戻ってきてもいいけどその前に教えてくれないか?

 大魔導士軍団がどんな奴等だったのか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール『カオス=バルツィエだよ。

 アイツら生きてやがったぜ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「…!」

 

 

 カオス………やはり生きてたか。

 

 

ランドール『あの光もカオスの仕業だ。

 光の術………てよりありゃカオスが撃ったバニュシュボルトだ。

 

 

 俺達は随分と検討違いな見解をしてたらしい。

 ユーラスを葬ったあの流星群はどうやらカオス一人の術だったようだぜ?

 レサリナスじゃ何で魔術使わねぇのかなって疑問だったんだが今回の納得したぜ。

 ありゃあんなとこじゃ撃てねぇわ。』

 

 

フェデール「そんな馬鹿な………。

 あんなものをたった一人でだと……?」

 

 

ランドール『俺も疑っちゃいたんだがな。

 目の前であんなもん撃たれちゃ信じるよりないぜ。

 ついでに言っとけばアイツは別に他の奴を媒介にして魔術を放ってたりはしてなかった。

 カオス個人のマナの許容範囲内であれが撃てるらしい。』

 

 

フェデール「………だがカオスは二十年前にはまだマテオにいた筈………。

 俺達のレアバードのような飛行手段でもない限りダレイオスに渡ることは……?」

 

 

ランドール『俺もそう思ったぜ。

 どうやら大魔導士軍団は“二組”いたようだ。』

 

 

フェデール「二組………?」

 

 

ランドール『二十年前のゲダイアンと共に消えた大魔導士軍団と………、

 今回のカオス達の二組だ。』

 

 

フェデール「………術者はカオス一人だったんだろう?

 警戒すべきはカオス一人なら大魔導士軍団と言うよりも大魔導士カオスと言うことになるんじゃないか?」

 

 

ランドール『そうでもないらしいぜ?

 カオスの存在が大きすぎて目を背けガチになってたが他にもヤバそうな奴がいた。』

 

 

フェデール「俺の知ってる奴か?

 カオスの仲間で言うと例えばレイディー=ムーアヘッドか後はウインドラ=ケンドリューぐらいしか思い当たらないが………。」

 

 

ランドール『一回カオスのこと調べ直してくんねぇか?

 なんか“カオスの姉”とか言う奴がいてな。

 お前が知ってるかって言うと知ってると思うが………。

 レサリナスでユーラスがカオスにぶっ倒された辺りでカオスの回りウロチョロしてた女がいたろ?

 あの女だ。

 一見するとそこら辺にでもいそうな女だったんだが術の撃ち合いで俺が負かされただけじゃなく俺達も知らないような魔術を使ってきやがった。

 かなりのやり手だったぜありゃ。』

 

 

フェデール「………分かった。

 そちらの件は俺が直接調べてみる。」

 

 

ランドール『頼むぜ。

 これ以上カオスの兄弟姉妹がいるってなると流石に俺達だけじゃ手に負えないぜ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……それとな。

 もう一つ面白い話があるんだ。』

 

 

フェデール「まだあるのか?」

 

 

ランドール『あぁ、

 奴等と鉢合わせたのは奴等の根城にしていたスラート族の街でな。

 奴等地下になんか隠れて俺達の目から逃れてやがったんだよ。』

 

 

フェデール「道理でお前等がダレイオスに渡っても中々何の報告もしてこなかった訳か。

 てっきり殺りすぎて夢中になってただけかと思ってたよ。」

 

 

ランドール『ラーゲッツの奴はそうなんじゃねぇか?

 俺の方は割りと真面目に仕事してたぜ?

 成果は今報告してるしな。』

 

 

フェデール「……それで何が面白い話なんだ?

 その隠れてたって話だけじゃないんだろ?」

 

 

ランドール『当たり前だろ?

 面白いのはここからだぜ。

 

 

 ダレイオスは今二百年前に統合されていた九の部族達が元の形に戻っていてそれぞれが同じ様にどこそこの穴蔵に引き込もってるみたいだ。

 

 

 何を思ったかそれを今カオス達が再統合させてるみたいだぜ。』

 

 

フェデール「!

 ………ダレイオスが再び一大国として名乗りをあげようとしているのか。

 今じゃ分裂して小国になっていたのに………。」

 

 

ランドール『そうだ。

 ………そしてかつての大国ダレイオスが出来上がった時………、

 ………誰が王になるんだと思う?』

 

 

フェデール「ここで問題かよ………。

 現場にいなかった俺が分かる訳ないだろ。」

 

 

ランドール『まぁまぁ、

 適当で良いからとりあえず誰か言ってみろって。』

 

 

フェデール「お前………。」

 

 

 朝っぱらから突然連絡してきては無駄に時間を引き伸ばそうとしやがる………。お前達がいない分こっちは余計に仕事が多いんですがね?しかも今こっちはそっちと違って朝なんですけど?

 さっさと話を進めるためにもここは無難所を挙げておくか。

 

 

フェデール「前回の王のファルバンかな。

 それかその懐刀サムライか………。

 それが無ければカオスと言った感じかな?

 アイツらは実質カオスの集まりのようなものだし。」

 

 

 ランドールが訪れたのはスラート族の都市と言っていたし王の候補に挙げられるとしたらこんなところだろう。コイツの口振りからすればこの三人以外の名前が出そうだが…。

 

 

ランドール『ブッブ~!!外れだよ!!

 その中にはいませ~ん!!

 残念だったなフェデール~!』

 

 

 ………帰ってきたら一発殴り飛ばしてやろうかこいつ………。

 

 

フェデール「…降参だ。

 俺にはそれぐらいしか思い付かないしもうお前に構ってられる時間も無い。

 茶化すようならこのまま通信を切るぞ。」

 

 

ランドール『待て待てそう慌てるなって!

 答え教えてやっから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ=リム・クラウディアだっけ?確か?確かそんな名前だったよな?カオスと一緒に指名手配されてたあの謎の女。』

 

 

フェデール「アローネ=リム・クラウディアが?

 なんだって彼女がダレイオスの王になるんだ?

 カオスなら分かるがアローネ=リム・クラウディアは素性も何もかもが謎だ。

 手配書にはダレイオスのスパイだと表記されていたがあれは注目を集めるためだけの嘘情報だった筈………。」

 

 

ランドール『ところがよ。

 どうにもアローネ=リム・クラウディアはダレイオスとは関係はないが妙なところと強い繋がりがあったらしい。

 

 

 あの女はカタストロフ公爵と繋がりがあったんだ。

 アローネ=リム・クラウディアも公爵も同じ同郷の生まれで一緒に育った深い仲だった。』

 

 

フェデール「………何だって………。」

 

 

ランドール『だから二人が繋がってたってことはこの間の反逆者達の粛清手前辺りでカオス達を匿ってたカーラーン教会のことは最初から反逆者達とカーラーン教会がつるんでたっていう証拠になるだろ?

 カオスを持ち上げたかった反逆者達とそれをサポートするために教会側からアローネ=リム・クラウディアが差し向けられてレサリナスまで護衛してたんだ。

 教会側は最終的には権力を手にするために反逆者達に加担したんだよ。

 カタストロフ公爵かそれと近しい関係のアローネ=リム・クラウディアがこの世界を握るために。

 だから言っただろ?

 面倒なことになる前に教会は俺が潰したってな。

 面倒に発展する前に公爵が消えてくれてよかったよな?』

 

 

フェデール「………」

 

 

ランドール『………フェデール?』

 

 

フェデール「……本当に教皇と同じ国の生まれなのか……?

 アローネ=リム・クラウディアは………?」

 

 

ランドール『本人がそう言ってたしあの女が教会所属なのは間違いないんじゃねぇか?

 そうでなきゃレサリナスで公爵がカオスとアローネ=リム・クラウディアを匿ったりしねぇだろ。

 もし何の繋がりも無かったんだとしても教会が二人を匿ってたことに変わりはないしな。

 公爵自らデマ情報を流す程二人のことを手厚く囲ってたようだし。』

 

 

フェデール「………」

 

 

ランドール『……さっきからどうしたんだよ?

 そんなに信じられねぇのか?

 そこまで疑うようなことか?

 アローネ=リム・クラウディアとカタスティア=クレベル・カタストロフ公爵が繋がってたってことが。』

 

 

フェデール「………何て国の出身だと言っていた………?」

 

 

ランドール『は?

 国?』

 

 

フェデール「いいから答えろ。

 国の名だ。

 アローネ=リム・クラウディアはどこの国の出身だと聞いたんだ?」

 

 

ランドール『そんなに大事なことかねぇ………?

 ……………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルゴスだよ。

 昔読んだ本にそんな国の名前があったからたまたま覚えてたぜ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………そうか。」

 

 

ランドール『本当にどうかしたのか?

 アローネ=リム・クラウディアの話をしだしてから変だぞお前?』

 

 

フェデール「…何でもない。

 ………先のカオスの出身のこととカオスを筆頭に新たに出現した大魔導士軍団の件こちらでこれからのことを見つめ直すことにする。」

 

 

ランドール『おっ、おう?』

 

 

フェデール「情報ご苦労。

 一先ず戻ってこい。

 手のことはこちらについてからだ。」

 

 

ランドール『……分かった。

 じゃあ通信切るぜ?』ピッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「…………ウルゴスか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ=リム・クラウディア…………。“原初の民”だったのか………。……彼女が出てきたと言うことは……………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時代の終わりもそう遠くない内にやって来ると言うことなのだろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 原初の民……………“終末を運びし風”となるか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そんな風は必ず俺とアレックスでかき消してやる。お前達古の民なんかにこの時代を終わらせさせたりなんかしない。例えアルバートがいなくたって………カオスがいる。

 

 

どうにかしてカオスを仲間に引き入れることが出来れば……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!

 それよりも今はカオスについて調べることが先決だ。

 あれだけの魔術を放てるマナ持つとしたらどう考えても個人の力には大きすぎる。何か特殊なアイテムでもあれば出来るだろうが………。ランドールにも催促されたしこれは一度カオスの故郷に俺が直接行って調べてみるのがいいか?カオスの故郷に行けばアルバートのこともカオスのことも同時に分かるしカオスを仲間にする方法が見つかるかもしれない。確かカオスの故郷は………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………ミスト………と言った名前の村だったかな……。




 精神科直行リハビリ系成長主人公物語今話から書き方を変えました。


 何故変えたかはこの先の展開を考えて表現力に限界が来たのを感じてそろそろ私も進化しなければならないと思いこのようにセリフにそれぞれキャラ名をふったのと間にどのような様子なのかを差し込みました。


 丁度この一つ前の話で今まで名も無き放浪者がやっと名のある戦士へとクラスチェンジしたのでいい節目だったと思います。


 これまではほぼセリフと擬音のみの描写しかありませんでしたが私の中では読者に臨場感のようなものを想像してもらいたかったということと“誰が何と発言してどのような反応をしたのか”というのを悟られないようにするためなるべく口調のみで読者にキャラを判断していただくような作品になってしまいまことに読者に対して任せっきりな作品だったということを反省しております。


 今のところは今後はしばらく今作のようの作風で続けていこうとは思っておりますので読んでくださる読者の方々には不定期更新ながら末長くお付き合いしていただきたいと思っております。









 最近元同僚のマッチャンに言われて気付きましたが私の作品のお気に入りに登録されている方が二十人もいたことに驚きました。それまではそんなものが見れることすら知りませんでした。


 私はこの作品の一話をだいたい仕事の合間の二、三十分の休憩で書き上げていて構想自体はおおよそは頭の中に入っているつもりですがこの作品を書き上げるための原動力はもうほぼ一年近く書き続けている日課みたいなものと後はストレスでこの作品を作っています。なので仕事のある日にしかこの作品を書いてなかったりします。



 せっかくお気に入りに登録している方が二十人もいるようなのでその二十人のために精一杯質のいい作品に仕上げられるよう精進していきたいと思います。


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二つの大魔導士軍団の今後

王都セレンシーアイン 

 

 

 

 あのランドールが襲来して来てから次の日カオス達はスラートの族長ファルバンに頼み込まれスラートの住人達にカイクシュタイフ洞窟で習得した新術レイズデッドをかけて回っていた。ランドールとランドールを助けに来たダインに関してはカオスの魔技バニュシュボルトが放たれる直前に逃亡を謀ろうとしていたのでその後の足取りは掴めていない。掴もうとしていたにしても相手が飛行する乗り物に乗って空を翔て行っては追い付ける者がいなかったというのもあるが…。

 

 

アローネ「………これでスラートの人達の術の付与は終わりですね。」

 

 

「…!

 これでもうヴェノムに脅えなくてすむんだな!?」

 

 

アローネ「えぇ、

 その通りですよ。」

 

 

「有り難う!!

 アンタ達と手を組むことになって本当によかったよ!

 前の時はすまなかった!!

 俺もあの闘技場でアンタ達を信じられなくてそっぽ向いた一人だったのに…!!」

 

 

アローネ「この世界での常識を知っていればああした態度を取られても仕方ありませんよ。

 私達もあの時はこの術を使えはしなかったのですから。」

 

 

 これで漸く作業は終了したようだ。ミーア族の時にも時間は大変掛かったがあれは洞窟内での作業だったこともあって終わった者とそうでない者とでの往き来が困難だったのとあの時にはまだ半信半疑だった者達も中にはいたので今回のように事前にミーア族からの情報と一度カオス達がこの街を訪れて主を倒したという実績のお陰で直ぐに信用してもらえたことが大きい。それらがあってスラートの者達がテンポ良く次から次へと術を掛けてもらいに来た。スラート族は総勢三百数々はいたがミーア族の時と比べても少し長くなった程度で作業が終えられた。

 

 

ファルバン「御苦労であったな。

 感謝するぞ。

 大魔導士軍団の者達よ………。」

 

 

アローネ「ファルバンさん………。」

 

 

ウインドラ「その大魔導士軍団と言うのは………俺達五人を差して言ってるんだよな?」

 

 

ファルバン「そうだ。

 いつまでもマテオからの亡命者などと人聞きの悪い呼び方をされては心労であろう?

 この際ソナタ等にもどういった所属の勢力なのかを決めねばと思っておってな。

 それで大魔導士軍団と呼ばせてもらうことにしたのだ。」

 

 

カオス「………俺達は本物の大魔導士軍団ではありませんよ。」

 

 

ミシガン「そうだよ!

 本物の大魔導士軍団ってダレイオスにあったゲダイアンって都市を消滅させた人達のことでしょ!?

 大魔導士軍団って呼ばれた方がよっぽど人聞きが悪いんだけど!!」

 

 

ファルバン「なに、

 安心するがいい。

 ダレイオスではゲダイアンを消滅させたのは大魔導士軍団ではなくマテオのバルツィエのやったことだと伝わっておる。

 故にソナタ等が大魔導士軍団だと名乗っても誰も人聞きの悪い名だとは思わぬ。

 そもそも大魔導士軍団と言う名前すらこれからソナタ等が会いに行くであろう他の部族達は知らぬであろうからな。」

 

 

タレス「…そう言うことなら良いですけど………。」

 

 

カオス「俺が大魔導士軍団か………。

 本来別の誰だか分からない連中の名称を借りるのは不思議なものだな。」

 

 

タレス「ウインドラさんは他にカオスさんの名前を使ってたこともありましたしね。」

 

 

ウインドラ「あれはそう言う作戦だったと言っただろ。

 カオスの名なら………上手く行けばカオスの株も上がってミストへのカオス立ち入りが赦されることになると思っていたのだし。」

 

 

カオス「何もしてなかった俺が急にマテオで株が上がったりなんかしてたら俺こそが偽者扱いされてたんじゃないか?」

 

 

ウインドラ「………」

 

 

タレス「ウインドラさんみたいケースの場合は何と言うのでしょうか………?

 虎の威を借る狐?他力本願?」

 

 

ミシガン「カオスの知名度ってそんなに無かったから虎の威にはならないんじゃない?」

 

 

アローネ「他力本願もカオスが望んでいないのでしたら本願とは言えないでしょう。」

 

 

ウインドラ「………にしても大魔導士軍団を俺が………、

 手を借りたかったとは言えマテオでは悪名だぞ。

 俺達の纏まりに名前が必要にしてももっと別に無いか?」

 

 

タレス「元々は別に大魔導士軍団もいますしね。」

 

 

ファルバン「昨日のランドールの話を聞く限りだとソナタ等が大魔導士軍団と名乗るのは間違いではない。

 アヤツ等が話していた大魔導士軍団と言うのはゲダイアンを消滅させた者達とダレイオスとマテオを繋いでいた海道を破壊した者達のようだ。

 ソナタのことであろう?カオス。」

 

 

カオス「…そうですけど………。」

 

 

ファルバン「オサムロウとのテストの時に察したのだ。

 あの場にいたであろう者達でそれが出来るのだとしたらソナタの他に無いと。

 だから余はソナタ等を大魔導士軍団と名付けた。

 それに間違いはあるまい。」

 

 

カオス「………まぁ。」

 

 

 ファルバンの話ではもっともらしい理由を付けて大魔導士軍団と名乗らせようとしているがカオス達もまさか自分達が捜していた集団の名前を名乗らさせられるとは思わなかった。大魔導士軍団はここまでで何の行方も掴めぬまま保留にしているが捜して見つからないのであればいっそのこと自分達がその名前の威風を借りて活動した方が行く行くマテオと対峙することになった時にマテオへの自分達の存在のアピールが出来るのではないかとのファルバンの作戦のようだ。

 

 

カオス「………前は俺の偽者………ウインドラがいて勝手に自分の情報がねじ曲げられて色々と流れていたけど今度は俺が誰かの名前を使って動くことになるなんてなぁ………。」

 

 

ウインドラ「フッ………俺に至ってはこれで二度目になるな。」

 

 

タレス「その大魔導士軍団を騙るにしても本物がもしこの先出てきたらどうすればいいんでしょうか?」

 

 

アローネ「ウインドラさん達の部隊の予定では協力に漕ぎ着ければ良いのでしたよね?」

 

 

ウインドラ「今となってはあまり必要が無いかもしれない。本家大魔導士軍団の力は大きいと思うがこちらにはカオスがいるのだしな。

 昨日見せてもらったような力があれば本家など無くともマテオと戦って行けるだろう。」

 

 

カオス「あれ?

 昨日ウインドラ俺のバニュシュボルト見てたの?」

 

 

アローネ「ランドールがシャイドの天井を崩落させようとしていたので私達で地上へお連れしたのですよ。

 いつまでもあそこに留まるのは得策ではありませんし他のスラートの方達も全員脱出し終えていたので。」

 

 

タレス「その頃にはウインドラさんも意識が回復してましたよ。

 前よりも早い回復でしたね。」

 

 

ウインドラ「ブルータルを倒してからここ最近の俺はどうも水の攻撃でやられガチだからな。

 意識ぐらいは手放さないように心掛けているんだ。」

 

 

ファルバン「……シャイドか………。

 昨日のランドールの件であそこも地質に大きなダメージを負った。

 もうあそこで暮らすのは危険であるな………。

 

 

 …アイネフーレ族長タレス殿。」

 

 

タレス「………!

 何ですか?ファルバン族長。」

 

 

ファルバン「一つ相談なのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイネフーレの土地をお借り出来ぬか?」

 

 

タレス「………何故ですか?」

 

 

ファルバン「来るべきマテオとの再戦に備えて我等スラートも体勢を整える必要があるのだ。

 だがそれをするにしても最前線のアイネフーレとミーアの土地を船倉が出来るように改築しなければならぬ。

 ミーアはソナタ等の協力でそれが出来るがアイネフーレの土地はアイネフーレ不在で手付かずだ。

 アイネフーレの州をどうにかしなければならなぬのだが今のところ人手が避けるのは余のスラートだけであろう?

 だからだ。」

 

 

タレス「………」

 

 

ファルバン「元は敵同士とはいえ一度は国境を無くした部族同士だ。

 なんとか余を信用してはもらえぬか?」

 

 

タレス「……………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 分かりました。

 ここで我が儘を言っても先に進めませんね。

 そう言うことであれば………。」

 

 

ファルバン「快諾感謝いたす。

 悪いようにはせぬよう他の者達にも言い聞かせておこう。」

 

 

タレス「いえ……、

 共にダレイオスを立て直すときめた同士ですから。」

 

 

ファルバン「そうであるな。

 アイネフーレ、スラートそれからミーア、クリティアが揃ったのだ。

 残りの部族とも協定を組み共にマテオを討とうぞ。」



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レイディーの後遺症

王都セレンシーアイン

 

 

 

 スラートのファルバン族長に頼まれていた術付与の作業、……ファルバンは“洗礼の儀”と名前を付けたそれが終わりカオス達はこれからのことについて話し出した。

 

 

カオス「…残りヴェノムの主は六体………。

 次はクリティアのところに行く予定だったけどどうしようか………?」

 

 

ミシガン「クリティアの次に向かう予定だったところに一直線に向かうのがいいんじゃないの?」

 

 

カオス「それはそうなんだけどさ。

 あの………洗礼の儀とかってまだクリティアの人達にもやってあげてないし………。

 一応クリティアの村にも寄ってた方がいいんじゃないかな?」

 

 

アローネ「一理ありますね。

 クリティア族も仲間に引き入れるのならヴェノムに殺られると言うことだけはあってはならないので予定通りに行きましょう。」

 

 

ミシガン「あれ?

 あのオーレッドとかいう長老のおじいちゃんはどこ行ったの?

 あの人に付いていけば早くクリティアの村にも着けそうじゃない?」

 

 

アローネ「あの方は………、

 洗礼の儀を行ってほしいと仰ったまま姿が見えませんね………?」

 

 

 ここでクリティアの族長オーレッドが一昨日から誰も目にしていないことに気が付く。洗礼の儀を予約しておいてどこに行ったのかカオス達が話しているとそこへオサムロウが現れて…。

 

 

オサムロウ「オーレッドならランドールの騒ぎの前にここを発っていったぞ。」

 

 

カオス「!

 オサムロウさん。」

 

 

ウインドラ「ランドールの騒ぎの前に………?

 それで二日に渡って誰も目撃した者がいなかったのか………。」

 

 

ミシガン「何で私達にそのことを伝えずに行っちゃったんだろ?

 レイズデッドを掛けてほしいって自分から言い出したのに。」

 

 

オサムロウ「なにぶんオーレッドはずる賢いジジィでな。

 ソナタ等に先に約束を取り付けておきながらセレンシーアインを出発したのはソナタ等にクリティアの村“ヴィスィン”に来るように仕向けようとしているからだろう。

 ソナタ等にも何やらエルブンシンボルに変わるマジックアイテムを渡したそうだしな。

 ソナタ等なら約束を反故にするようなことは無いと思ったのだろう。

 

 

 ………それとカオスから血液を採取したのでさっさとヴィスィンに戻って解析したいとも言っていた。研究家気質な奴のことだからそれが一番の理由だろうがな。」

 

 

カオス「研究の為ですか………。」

 

 

ミシガン「カオスの血液を採取なんかしてどうするのかな………?」

 

 

アローネ「血液を採取したということはその血液に含まれる抗体などを解析してから病気に利くワクチンなどを開発する目的だとは思いますが………。」

 

 

ミシガン「ワクチン………?

 あぁ……ワクチンかぁ。

 結局ワクチンって危ない成分が含まれてたんだもんねぇ…。

 あんなもの量産しようとしないでよかっ………………。」

 

 

タレス「…?

 どうしたんですかミシガンさん。」

 

 

ミシガン「………あのワクチンってツグルフルフとかいう危ない花の成分が検出されたって長老のおじいちゃんが言ってたよね?」

 

 

アローネ「?

 そうですけどそれが………!」

 

 

「「「!!」」」

 

 

ミシガン「………あのワクチン………、

 ウインドラやレイディー、それからミーアのシーグスさんとか使っちゃってるけど大丈夫なの…?」

 

 

 ミシガンの指摘はもっともである。

 

 

 ツグルフルフ………。

 クリティアの長老オーレッドの話ではあのワクチンには人の人格に悪影響を及ぼす可能性があると言う。それを既にウインドラ、レイディー、シーグスが服用しているのだが…。

 

 

ウインドラ「………俺は特に自分の精神に異常な変動があるとは感じないが………。」

 

 

ミシガン「それって自覚症状があるものなの………?」

 

 

アローネ「麻薬に犯された人などはそれなしではどうしようもなくなってしまうような依存症に襲われるとは聞きますがそういった感覚はありますか?」

 

 

ウインドラ「………ない。」

 

 

ミシガン「一回しか使ってなかったからそんなに影響が無かったんじゃないかな?」

 

 

ウインドラ「…バルツィエが作った薬だ。

 ツグルフルフが検出されたのだとしてもそれの作用を極限にまで薄めて使っている筈だ。

 そうでなければレサリナスでもワクチンによる問題が浮き彫りになっているだろう。」

 

 

タレス「…あまり賞賛したくはありませんがそういう研究に関しては一流としか言い様がありませんね。

 クリティアを凌ぐ技術は驚嘆に値します。」

 

 

ミシガン「バルツィエの人達は沢山作ってるみたいだし人格的な影響だけはバルツィエの人達は酷いようだけどね。」

 

 

 ウインドラの様子を見てもツグルフルフによる人格の変貌は無さそうだ。一度程度ではそんなに大きな変化は無いらしい。この分ではミーア族のシーグスも大丈夫そうだ。レイディーも………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイディー………?レイディーは………どうなるんだ?

 

 

カオス「……レイディーさんは………多分一回だけじゃないよね?」

 

 

アローネ「!」

 

 

ミシガン「…言われてみればレイディーって最初からワクチン持ってなかった?」

 

 

タレス「ボク達と初めて会ったネイサム坑道でも使用してましたし話をする前のボクが一度ヴェノムに感染して死にかけたトーディア山脈にもいたらしいです。

 あの次期辺りはレイディーさんも今のような体質にはなってなかった筈ですしヴェノムの生息地帯を彷徨いてたとなると………あの山でもワクチンを使用していたのではないでしょうか…?」

 

 

ウインドラ「一体レイディー殿は今まで何回ワクチンを服用したんだ………。」

 

 

アローネ「この間のオサムロウさんの話を思い出してみればツグルフルフを含んだワクチンを使用すればバルツィエの共感性………別の言い方で思い遣りに欠けていくとか………。

 ………レイディーの言動を鑑みてみれば思い当たる付しだらけです。」

 

 

カオス「レイディーさんは………元々はもっと思い遣りを持って話せる人だったのかな………?」

 

 

ウインドラ「当たり障りがあったか無かったかは俺達ではあのワクチンがどの程度人体と人格に影響を及ぼすのか分からないためにレイディー殿の過去がどうであったかも予想の域を抜けきれないだろう

 

 ……だがツグルフルフのことはよく知らないがツグルフルフが障気の濃い場所に咲く花と言うのなら関連性が見えてくる話だったな。

 ヴェノムが腐敗して発生した障気が濃い地帯に人が長時間滞在すると徐々にだが攻撃的になったり性格が変わったりする記録がある。

 一説には有害な障気を吸うと脳の理性的なことを司る“前頭前野”と感情を生み出す“扁桃体”が傷付けられて感情を制御することが出来なくなるそうだ。」

 

 

 急にウインドラからよく分からないワードが飛び出てくる。前頭前野に扁桃体と人体構造について知識の無い他の三人は理解が追い付かなかった。アローネだけは二つのワードを聞いて理解が出来たようだった。

 

 

アローネ「なるほど…、

 ツグルフルフと障気………。

 マナを高める効果を除いてはどちらもある意味では同じ作用があるわけですね。」

 

 

ウインドラ「そうだ。

 ツグルフルフも障気も体内に入れれば人の感情器官に変化をもたらす。

 ツグルフルフが極端に精神を殺す理由としては障気を大量に吸収して成長した“障気が多く含まれた物体”であるからだろう。

 障気だけでは空気中に漂っている分には濃度がツグルフルフに比べて薄いのだろうな。」

 

 

アローネ「障気が漂う場所と言えばマテオでもそのような場所に好き好んで居座る方がおりましたね………。」

 

 

タレス「サハーンのことですね。

 ボクもあの根城にはいましたが殆ど外で遣いに出されていたので障気を吸う時間はそんなに長くはありませんでしたが………。」

 

 

カオス「アイツ……平気で仲間を犠牲にして逃げたんだよなぁ………。

 あれって障気を吸いまくってあぁなったんだろうか………?」

 

 

ウインドラ「サハーンは生粋の快楽殺人犯だ。

 障気とは関係ない。

 元はマテオでも名のある商人の家の子息だったが教育を間違えて他人を見下す性格が固定されて少し気にさわった程度のケンカで殺人を犯してしまった。そこから奴には殺人癖が付いたんだ。」

 

 

ミシガン「始めから悪人な人もいるよねそりゃ………。」

 

 

アローネ「障気に当てられてあのような人格になってしまったのかと思って少し同情してしまいました………。」

 

 

ウインドラ「…とにかくだ。

 レイディー殿のことについては過去を知らない俺達では詮索のしようもない。

 ワクチンを使用した回数も分からないのならこれ以上レイディー殿のことについて話していても無意味な結末にしかならないだろう。

 ………レイディー殿は俺達と同じ体質が付与されているのだし今はもうこの先レイディー殿がワクチンを使用することが無いと言うことが分かっているだけでこの話は中断しよう。」

 

 

 ウインドラの言う通りレイディーについては部分的な場面でしか五人は会っていない。ここからいくら話をしたところで膨らみはしてもそれを萎ませる結果にはならないため五人はとりあえずこの話を区切ることにする。



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次なる進路カーラーン教会

王都セレンシーアイン

 

 

 

カオス「よし!

 それじゃあカーラーン教会に行こうか!」

 

 

「「「「……え?」」」」

 

 

 話が逸れてレイディーの話題が持ち上がっていたが直前までの流れで次はクリティア族の住まう住居地ヴィスィンに向かう話になっていたのだが急にカオスがカーラーン教会に向かうと言い出して他の四人も驚く。カーラーン教会の名に一番驚いていたアローネはカオスに質問を投げ掛ける。

 

 

アローネ「何故カーラーン教会に向かうのですか?

 カタスがランドールの話でもうダレイオスにもマテオにもいないことは分かっているのです。

 ………あの話が事実であることは私自身信じたくはありませんが………。」

 

 

ミシガン「肝心のアローネさんの向かう目的だった人がいなくなってもうマテオに無事だって報せる意味が無くなっちゃたんなら私の方もミストに私達が無事だってお父さん達に報せる用事もいいかな………。」

 

 

タレス「ミシガンさん達にはそのこともありましたね。」 

 

 

ミシガン「………私もカタスさんって人に会って見たかったんだけど………あのランドールとかいうクズのせいで………。」

 

 

ウインドラ「奴の話を真に受けるのならマテオの北部にあるカーラーン教会支部はどこもランドールかその他のバルツィエの襲撃を受けているだろう。

 どちらにせよマテオへ俺達の近況報告することは出来ないだろうな。

 ダレイオスのカーラーン教会支部もマテオへと船を出すことは出来なくなったと判断が付いている筈だ。」

 

 

 現状ランドールの話を摘まみ摘まみで思い返してみればそうなるだろう。バルツィエがカーラーン教会と教皇カタスティアを襲撃したのならこれでカーラーン教会はマテオとは対立する形となる。よって密かにマテオの騎士団隊長ブラムを通じてミストへと生存報告を考えていたミシガンの件は断念せざるを得なくなった。

 実はこの時既に想定していた生存報告の内容とは別の内容でミシガン達が生存していることがミストに伝わることになったのだがそれを彼等は知る由もない。

 だがカオスは四人とは違う意見を話し出す。

 

 

カオス「カーラーン教会に行こうって言ったのはマテオに俺達の無事を報せる目的じゃないよ。

 

 

 カーラーン教会が今どうなってるのかを知りに行きたいんだ。もしかしたらカタスさんもどこかで無事でいるかもしれないしひょっとしたらダレイオスにいるかもしれないし。」

 

 

アローネ「カタスがダレイオスにですか?

 ………カタスはランドールに殺されたのでは………?」

 

 

カオス「アイツの話ではカーラーン教会とカーラーン教会の船は襲ったとは言ってたけどカタスさんや他の教会の人達を殺したとは一言も言ってなかったでしょ?

 船は遠くから津波を起こして沈めたとは言ってたけどそれで皆殺られちゃったとは言ってなかったじゃないか。」

 

 

アローネ「!

 ………確かに船についてはそれだけしかランドールは話していませんでしたが………。」

 

 

タレス「海はあの凶悪なクラーケンの住みかだったんですよ?ボク達が倒したのは最近の話ですしカタスさんが渡航した次期と照らし合わせてみてもまだクラーケンは生きていて…。」

 

 

ウインドラ「いや待て。

 ミーア族の話ではクラーケンは三ヶ月前にあのカイクシュタイフ洞窟に閉じ込めていた筈だ。

 教皇の船がランドールに襲われたのだとしてもクラーケンはその辺りにはいなかった筈………。」

 

 

タレス「ですが海にはクラーケンの他にもいろんな魚類系のモンスターもいます。

 船で渡航するのなら襲われはしないでしょうが一度人があの大海原に放たれてしまえば………。」

 

 

カオス「………アローネ、

 カタスさんって相当強い力を持った人なんだよね?」

 

 

アローネ「えっえぇ、

 カタスはウルゴスでも他の王子二人と組んで冒険者をやっていましたから………。」

 

 

カオス「だったら大丈夫だよ。

 レサリナスでもカタスさんの魔術は見してもらったけどバルツィエの奴等なんかよりよっぽど強い魔力を持っていた。

 カタスさんは海のモンスターなんかに殺られるような人じゃないよ。」

 

 

アローネ「………」

 

 

ウインドラ「だが船を破壊されたのなら海中に放り出されたと言うことだぞ?

 いくら武人であるのだとしても海中で人が海のモンスターに敵う道理など………。」

 

 

カオス「水に浸かっていたらそりゃヤバイだろうけどさ。

 アローネ、

 カタスさんって基本六属性の魔術は全部使えるの?」

 

 

アローネ「!

 使えた筈です!

 他八人の王子達も皆基本六属性はマスターしていましたから。」

 

 

ミシガン「そっか!!

 だったら海に浸かってたらまずいんなら海から上がっちゃえばいいんだ!」

 

 

タレス「そのことを忘れていましたね。

 ボク達がダレイオスに来る時にも同じように海の上に上がる手段を使っていたのに。」

 

 

カオス「そういうことだよ。

 魔術ってなにも攻撃だけに使うんじゃなくて“道を作ったりする”ことも出来たよね。

 レイディーさんみたいに海の水を凍らせちゃえば海に放り出されても問題無いでしょ。」

 

 

ウインドラ「そうだな………。

 すっかりランドールの話に騙された。」

 

 

アローネ「カタスは………生きているのでしょうか?」

 

 

カオス「生きてるよきっと。

 俺達なんかよりもずっと長くこの時代を生きてきた人なんだよ?

 ランドールに船を沈められたくらいじゃどうってこと無いって。

 多分どこか地上に渡ってると思うよ。」

 

 

アローネ「…私よりもカオスの方がカタスの生存を信じているなんて………、

 私もまだまだですね。

 強くあろうとするばかりで情報から中身を抽出することも出来ないなんて………。」

 

 

カオス「そんな大したことじゃないよ。

 俺なんかよりもアローネの方がカタスさんとは関係が深かったんだしショックを受けるのも当然だよ。

 それに俺の話だって願望だけでカタスさんが無事って保証も出来ないし。」

 

 

アローネ「………いえ、

 カタスは生きていると思います。

 あの王族で冒険者でウルゴスの“漆黒の翼”だった彼女がそう簡単に殺られてしまうようなことがある筈がありません。

 彼女は絶対に生きています。」

 

 

タレス「あの人はボクに希望の光を与えてくた人です。

 王都では何も言わないまま別れたんで生きているのならまたお会いしたいです。」

 

 

ウインドラ「カーラーン教会は国ほどではないにしろ大きな組織だ。

 いかにバルツィエと言えどそう易々と潰せる訳がない。

 必ず教皇はどこかでこの情勢を知る筈だ。

 そうなった時俺達の前に現れるだろう。」

 

 

ミシガン「ダレイオスに着いたら会えると思ってたのにどんどん会うのが先になっていくなぁ。

 これは会うまでに期待が大きく膨らんでいきそう。」

 

 

 五人は彼女の素性から彼女が生存している可能性にかけて旅の進路をカーラーン教会へ決める。教皇歴が長い彼女だがそれよりもアローネの記憶にある彼女の冒険者として活動していた経歴から彼女がランドールの強襲を上手く乗り切っていると信じて五人はカーラーン教会へと進む………。



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サムライの随伴

スラートの地中都市シャイド 族長邸前

 

 

 

 カオス達はクリティア族の村ヴィスィンを訪ねる前に一度カーラーン教会へと足を運ぶためファルバンの元へと道を聞きに来ていた。シャイドではあちらこちらでランドールの暴動騒ぎで屋内にある貴重品や家具を地上へと持ち運び出す様子が見られる。ランドールの放った魔術メイルシュトロームが地下に深刻なダメージを与えたためここもいつ崩れるか分からないからだ。地上に運んだ物は暫くは置いておくだろうが一部はアイネフーレ領へと持っていくつもりなのだろう。

 

 

カオス「……仕事の邪魔になってないかな………?」

 

 

 こう忙しそうにしている人達の中を通り過ぎて行くとただファルバンの家まで歩いているだけの自分達が目障りに映るのではないかと肩身が狭くなる思いに刈られる。

 

 

アローネ「私達も当事者ですし何かお手伝いした方が良いのでしょうか?」

 

 

タレス「当事者と言ってもボク達はランドールを追い返したんですよ?

 それだけでも十分に貢献しましたよ。

 ここはこの場所に住んでいる人達に任せましょう。

 変に関わってスラートの重要文献でも発見してしまった一大事です。

 素直にボク達はボク達のやるべきことをしましょう。」

 

 

 相変わらずタレスはドライなところがある。最初に出会った頃は礼儀正しくて何がなんでも生きたいという想いの強さを感じる少年だったのだがここ最近で余裕が出始めたのか自分の意見を言うようになった。礼儀が正しいのは変わらないが内心はどうやらあまり他人と関わり会いになるのを避けようとする傾向が見られる。今だってスラートの人達にも目をくれずに発言した。想像していた印象から大分かけ離れてきて少し扱いに困る。

 

 

ミシガン「そうだよね。

 結構時間かかりそうだしこれ手伝ってたら最後まで手伝わされそうじゃない?

 これって一日くらいじゃ終わらないでしょ。物持って階段の登り降りしないといけなさそうだし。」

 

 

ウインドラ「世話になっている分、手を貸してやりたいがそれで時間を消費してしまっては俺達とスラート族達との計画の本末転倒になってしまう。

 残り五ヶ月半で六体討伐と多少のんびり出来るところだがランドールのようにバルツィエと交戦したり想定外のアクシデントに見舞われたり今回のような主以外の寄り道も考慮すれば余計な仕事は増やさない方がいい。

 仕事は適度に手を抜くことも大事だ。」

 

 

 手を抜く仕事と聞いてそんなことが許されるのかと疑問に思ったが騎士という真っ当な職に就いていたウインドラが言うのならそうなのだと納得することにした。カオスにとっては旧ミストにいた時の仕事と言えばヴェノムを狩り尽くすことしかやっていなかったのもあって手を抜いて仕事をしてヴェノムが繁殖するようなことでもあれば深刻な被害が出る。それ故に仕事を手を抜く等ということは今まで考えたこともなかった。カオスは請け負った仕事は常に全力で取り組む姿勢が身に付いていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「む?

 ソナタ等。」

 

 

 ファルバンの家に着いた瞬間中からオサムロウか出てきた。家の中でこれからのことでも話し合っていたのだろうか。

 

 

カオス「こんにちはオサムロウさん。」

 

 

アローネ「族長と今後のことを決めていたのですか?」

 

 

オサムロウ「あぁ、

 やはりバルツィエがあのような手段でダレイオスに侵入してくる以上ダレイオスの地深くまで入られたら厄介なのでな。

 ミーア族とも橋が渡せたようなのでダレイオスの東の海に面している辺り一帯に砦と塀を建設しようと思っている。

 今から下見に出向こうとしていたのだ。」

 

 

タレス「塀を作っても飛び越えられるんじゃないですか?」

 

 

オサムロウ「塀の役割は陸から敵の侵入を防ぐだけではない。

 高所が出来ればその分見渡せる視野が広がりいち早く敵の出現を察知出来るのだ。

 今回のランドールのように敵と分からぬ者が突然現れて我の同胞が迂闊にもこのスラートの秘密の住居にまで招いてしまった。

 その結果あの見張り二人が敵が隣にいながら武器を構えることも出来ずに殺されてしまった。

 事前に何者かが近付いて来るのが分かっていればあの犠牲が出ることも無かっただろう。

 殺された二人は我のように前線に立つ機会が少なかったのと時間の空きでランドールの顔が朧気だったんだ。

 惜しい犠牲を払った………。

 これを学びの機と取って今度は海辺近くに居住を移すことにする。

 陸から来る不審人物ならともかくあんな乗り物で飛んでくる輩なら直ぐに我にも連絡が付くだろうしな。」

 

 

 ランドールの奇襲はスラート族に深い傷跡を残した。ヴェノムやバルツィエから身を隠すために作った隠れ場所を不覚にも見張りの者が案内してしまい警戒していた筈の事態を招いてしまった。もう二度とこのようなことが起きてはならないという教訓とこの先に待ち受ける本格的な開戦に備えてスラートは準備を始めたらしい。

 

 

タレス「だからアイネフーレの領地を貸してほしいとファルバン族長が言ってきたんですね。

 ただここに住むのが難しいからだけでなく海から飛来してくるバルツィエ達を迎え撃つために。」

 

 

オサムロウ「今度の失態は非常に堪えるものだった。ソナタ等の旅を座して待っているだけではいざと言うときに体が思うように動かぬのでな。

 皆にもソナタ等の主退治の功績を話して立ち上がらせた。

 もつ主退治の期限の半年等という制限も解除しよう。

 これからはいつ開戦しても剣を取れるように仕向けねばな。」

 

 

カオス「半年の制限解除ねぇ………。

 そっちの半年が無くなっただけでもいいことなのかな?」

 

 

オサムロウ「?

 他に半年の制限がかかるようなことがあるのか?」

 

 

カオス「いえ、

 オサムロウさん達は気にしないで下さい。

 順調に主退治が進んでいるんで俺達の方のパートの期限もそんな話すようなことでもないですから。」

 

 

 ヴェノムの主を三体討伐してダレイオス東は景気よくヴェノム減少化が進んでいる。殺生石の精霊はダレイオスのヴェノムを減らせなければ世界を破壊すると言っていたので今現在の状況を見れば世界が破壊されるようなことはないだろう。失敗した時のことはスケールが大きすぎて混乱させてしまう恐れがある。杞憂に終わりそうな今の状態なら態々伝えることも無さそうだ。

 

 

オサムロウ「そうか………、

 話すほどのものでないと言うのなら追求はせぬが此度は次の主を倒すために場所を教わりに来たのか?」

 

 

アローネ「いいえ、

 主退治も大切ですけどその前に寄りたい場所が出来たのでそちらの場所を教えていただければと………。」

 

 

オサムロウ「寄りたい場所?

 どこだそこは。」

 

 

アローネ「カーラーン教会です。」

 

 

オサムロウ「カーラーン教会………?

 ファルバンと一緒にいたときに教えてもらわなかったのか?

 カタスティア様は今マテオへと帰還されたのだと。」

 

 

アローネ「…カタスはランドールの話では現在行方が掴めていないとのことなのです。」

 

 

オサムロウ「行方が掴めていない………?

 カタスティア様はマテオでバルツィエから身を隠しているということなのか?」

 

 

アローネ「そうではなくてですね。

 ………実は…………………………、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「カタスティア様が………………消息を絶たれた………?」

 

 

アローネ「ランドールの話では船を沈められただけらしいのでまだ詳しいことは分かっていませんがあの話し方からして事実ととるべきでしょう。」

 

 

オサムロウ「………」

 

 

 オサムロウはカタスティアの話をしだした途端和やかな空気が突如針積めたようなそんな冷たいものに変わる。アローネ達からオサムロウとカタスティアが知り合いだという感じには聞いていたがどうもそんな浅い仲では無さそうだ。この感じはレサリナスでダリントンを捜していたウインドラに近しい空気にも思える。彼とカタスティアは一体どういう深い関係が………?

 

 

オサムロウ「……少し待っていろ。」

 

 

カオス「え?」

 

 

 オサムロウはそう言うと出てきたファルバンの家の中に再び入っていく。カタスティアのことをファルバンにも言うつもりなのだろうが何故待っていろなどと言うのだ?

 

 ………と疑問に抱いた矢先にオサムロウがまた家の中から顔を出す。そして…

 

 

オサムロウ「話を着けてきた。

 ソナタ等はカーラーン教会に向かうのだったな。

 急な話になるがその道中……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我がソナタ等をカーラーン教会まで案内することになった。

 これから暫しの間宜しく頼む。」



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全てはあの方のため…

スラートの地中都市シャイド 族長邸前

 

 

 

 カオス達がカーラーン教会に向かうことを決めて教会までの道を尋ねにファルバンの邸宅にまで行くとオサムロウが事情を聞いてきて応えるとオサムロウが同行を願い出てきた。カタスティアのことだけで同行しようとは彼にとったはカタスティアのことはそこまでのことなのだろうか。

 

 

カオス「オサムロウさんが俺達に着いてきてくれるんですか?」

 

 

オサムロウ「あぁ、

 我もカタスティア様のことが気にかかる。

 教会とは長らく連絡を取っていなかったのもあるのでいい機会だ。

 これから変わる世界のことを彼等にも話しておかねば。」

 

 

タレス「カオスさんを圧倒するほどの人が着いてきてくれるのは助かりますが………。」

 

 

アローネ「東の海岸を下見しに向かうのでは無かったのですか?」

 

 

 直前までオサムロウにも予定があった筈だ。それを急に変更してもいいのだろうか?下見も大事な仕事だとは思うが…。五人はそう思ったがオサムロウは何でもないことのように、

 

 

オサムロウ「下見程度なら他の者に任せても心配ない。大まかな位置は伝えてあるしファルバンが付いている。我がいなくとも大丈夫だろう。」

 

 

 大丈夫らしい。どうやら他の人に仕事を任せてでもカオス達に付いてくるつもりのようだ。しかしオサムロウには他の面でも付いてきてしまっていいのか疑問が浮かんでくる。

 

 

ウインドラ「下見なら他の者でも出来るにしてもダレイオス最強の剣士………スラートの防衛では欠かせない貴方が抜けることになってもよかったのか?ファルバン族長に引き留められたりはしなかったのか?カーラーン教会との連絡くらいならむしろそちらの方に他の者を向かわせるべきでは………。」

 

 

 オサムロウはかつてはこの上にある闘技場の覇者だった男だ。誰も彼に敵わなかったとさえ言われた彼がそう簡単に別行動が許されるとは思えないが…。

 

 

オサムロウ「問題ない。これでも多く仕事を受け持っていた身だ。多少の融通を通すぐらいなら出来る。それに我の立場はファルバンの補佐だ。補佐するほどの仕事が無ければ割りと自由に動けるのだ。」

 

 

ミシガン「仕事が無ければって………今ここまで来たところだけど皆凄い忙しそうだったんだけど。」

 

 

 補佐と言うのなら忙しい時なら仕事を手伝わなければならない立場だ。これから居住する場所を移すのなら多く人手が必要な筈だ。それをほっポリだしていいのだろうか。

 

 

オサムロウ「この場所はランドールに知られてしまったからな。ここにいてはいつまた襲撃に会うか分からん。だから皆で襲撃される前に荷物を整理して運び出しているだけだ。流石に荷物を運ぶだけの力仕事なら指揮をとるまでもなく皆でやってくれるだろう。」

 

 

タレス「まぁ、頭を使う仕事でないならそれもいいのでしょうが…。」

 

 

オサムロウ「……我が付いてくることが不服か?」

 

 

アローネ「いえ…、

 大変心強いことだとは思いますが…。」

 

 

オサムロウ「長らくスラートに世話になったとはいえ我は所詮余所者だ。

 腕を買われて留めてもらっているが我の力を当てにして何も出来ないという者がいては事だ。

 皆にもここらで我がいない事態にも慣れてもらわねばな。

 敵は個にして軍の力を持つバルツィエだ。

 奴等の俊足で戦場を駆ける戦法を相手にするには我だけでは守りきれん部分も多くなってくる。

 皆には我がいないものと想定して動ける心を養ってほしいのだ。」

 

 

 ダレイオスの民はどこの部族もバルツィエとヴェノムに白旗を挙げ戦闘を放棄して隠れることにした人達だ。その人達がまた戦うために武器を取ろうとしている。ブランクの長い者達にとっては先ず他人に頼らず自分の力を頼りに何かに挑める精神を鍛えるつもりらしい。

 

 

アローネ「そこまでしてカタスのことが気になるのですか?」

 

 

オサムロウ「…彼女には人の………、

 ………この時代で皆と共存出来る道を与えていただいた。

 居場所を提供していただいた大切な方だ。

 その方が今どういう状態にあるのか知っておきたいのだ。

 もしカーラーン教会でカタスティア様の足取りを掴めているのなら直接我がカタスティア様をお救いしたい。」

 

 

アローネ「………オサムロウさんはカタスとバルツィエの関係をご存知ですか?」

 

 

オサムロウ「…そう訊いてくると言うことはソナタ等も知っておるのだな………。

 バルツィエが彼女によって力を得た者達だということを。」

 

 

アローネ「………はい。」

 

 

オサムロウ「……我もある意味ではカタスティア様によって“刀”という力を得た者だ。

 

 

 バルツィエと我………。

 共にカタスティア様に大恩がある者同士だというのに我と奴等では方向性の趣旨を違えた。

 我は今でもカタスティア様のためならどのようなことにも取り組む腹だがバルツィエは与えられた力を自らの欲望のために行使しだした。

 それが暴走してカタスティア様の命が脅かされる事態に陥ってしまったのなら我はバルツィエを許すことが出来ない。

 奴等とは必ず決着をつける。

 

 

 だがその前にカタスティア様の存命と安全を確認してからだ。

 我はスラートとカタスティア様のために戦う剣だ。

 守るべき方を失ってしまっては我のこの刀に綻びが生まれる。

 与えていただいたこの刀に傷を作ってはサムライの名折れだ。」

 

 

 オサムロウのカタスティアへの忠義心は本物のようだ。ここまでカタスティアのことを想うのならカタスティアの危機を知って無事だという確証がえられないまま放っておくことが出来ないのだろう。カオス達も強い味方が同行してくれるのなら願ってもない上に土地勘のあるオサムロウならば仲間として迎え入れることも吝かではない。一先ずはカーラーン教会までという期間つきだが。

 

 

カオス「…じゃあオサムロウさんも一緒に行きましょうか。」

 

 

アローネ「貴方ほどの剣士が同行していただけるなら安心して進めますね。」

 

 

タレス「また戦術指南宜しくお願いします。」

 

 

ミシガン「オサムロウさんみたいな大人っぽい人がいたら何かあったとき迷わずに済みそうだね。」

 

 

ウインドラ「なにかと経験不足なメンバーだ。

 どうか年長者として俺も含めて指導してくれるか。」

 

 

オサムロウ「承った。

 ソナタ等のカーラーン教会までの旅路この元ダレイオスの剣士サムライがお伴致す。

 ヴェノム以外のことなら任せるがいい。」

 

 

 こうして俺達五人の主退治の旅に一時的にオサムロウが同行することになった。彼の経験と実力ならこの先の旅もぐんと楽に進めることが出来るだろう………。カオス達はオサムロウと共にカーラーン教会を目指すこととなった。



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イビルリッパー

ブフランフェ道

 

 

 

 カーラーン教会へと赴くためにカオス達六人はセレンシーアインから西のブフランフェ道を歩いていた。セレンシーアインから最短距離にあるカーラーン教会がそこにしかないらしくその後の目的地クリティア族が住まうヴィスィンまで少々遠回りな経路になる。

 

 

オサムロウ「この道をひたすら突き進んで行けばカーラーン教会の支部につく。

 道案内をするとは言ったが実質ここを歩けいていけばカーラーン教会には辿り着く。

 なので我は道すがら遭遇したモンスターを狩るのに撤しよう。」

 

 

カオス「そんな悪いですよ。

 モンスターが出てきたら俺達も戦います。」

 

 

アローネ「オサムロウさん一人で戦い続けるのは流石に負担が大きいですよ。

 モンスターは皆で倒しましょうよ。」

 

 

オサムロウ「そうしてしまうと我はヴェノムに有効手段を持たぬゆえソナタ等が我の護衛のような扱いになってしまうのだが………。」

 

 

ミシガン「そんなこと気にする程でも無いと思うけど?」

 

 

オサムロウ「緊急で付いてきた身としてはソナタ等のために何か役立つことがしたいのだが………。」

 

 

カオス「って言われてもなぁ。

 オサムロウさんは強いですけど今の俺達でもここら辺のモンスターなら………!」

 

 

 オサムロウの加わった隊列をどう組むか話ながら進んでいると草影からモンスターの気配を感じとる。六人は素早く臨戦態勢をとってモンスターを迎え撃つ姿勢に構える。

 

 

カオス「………?」

 

アローネ「出てきませんね………?」

 

ウインドラ「こちらの様子を伺っているのか………?」

 

タレス「……鎖鎌で先制を仕掛けてみます。」

 

 

 そう言ったタレスが鎌を振り回してモンスターの気配のした草村へと投げる。………が、

 

 

タレス「……?

 手応えを感じませんね………?」

 

 

ミシガン「当たらなかったの?」

 

 

タレス「………はい。」

 

 

ウインドラ「狙いが外れたか………?

 俺もそちらの方にいると感じたんだが………。」

 

 

アローネ「私もタレスが鎌を投げた付近から気配を感じとりました。」

 

 

ミシガン「…気のせいだったのかな………。」

 

 

カオス「全員が気のせいってことあり得るの?」

 

 

ミシガン「けどモンスターがいなかったみたいじゃない。」

 

 

タレス「小型のモンスターだったんでしょうか……?

 ボク達が構えをとったんで驚いて逃げ出したのですかね?」

 

 

カオス「それだったら声を挙げたりして逃げ出すと思うけど………。」

 

 

タレス「発声しない小型のモンスターだったのかも知れないですよ?」

 

 

カオス「それでも逃げたんならその後ろ姿だけでも分かるだろ。」

 

 

ウインドラ「…さっきのは小型のモンスターの気配じゃなかった。

 サイズで言うなら俺達エルフと同じくらいかそれより大きいくらいのサイズのモンスターの気配………。

 しかしそのサイズのモンスターであったなら俺達の視界に入ってくる筈………。

 それなのに姿も見せず気配も消えた………。

 ………どうなっているんだ?

 獲物を前にしてモンスターが忽然と消えたなど聞いたことがない。」

 

 

 六人全員がモンスターの気配を察知しながらそのモンスターが一瞬のうちに気配ごと消えてしまった。まるで始めから何も無かったかのように辺りは静まり返っている。

 

 

 

 

 その時不意に一陣の風が吹いた。風に靡いて辺りの草や葉が揺れる。カオス達にも風が吹きかかり一瞬五人は風が吹く方向から顔を背ける。やはりモンスターなど影も形も無い。一体今感じた気配はなんだったのだろうか?

 

 

 …ふと五人が視線を戻すとオサムロウが構えの姿勢をとったまま解除せずにいることに気付く。

 

 

カオス「オサムロウさん?」

 

 

オサムロウ「………いる。」

 

 

カオス「え?」

 

 

オサムロウ「モンスターだ。」

 

 

アローネ「モンスター?」

 

 

ミシガン「確かにモンスターの気配は感じたけど………どこにもいないじゃない?」

 

 

オサムロウ「……ソナタ等………、

 今のを見ていなかったのか?」

 

 

ウインドラ「………スマン、オサムロウ殿………、

 何のことだ?」

 

 

オサムロウ「今の“風”のことだ。」

 

 

アローネ「風?」

 

 

ミシガン「風なんてどうやって見れば………。」

 

 

オサムロウ「言葉通りの風のことではない。

 我が申しているのは今の風によって目の前で何が起こったかだ。」

 

 

カオス「風で何かが起こった………?」

 

 

ミシガン「そんなの………、

 ……一瞬過ぎて分からなかったわよ。

 ただ風が吹いて辺りの草葉が靡いてただけじゃないの?」

 

 

オサムロウ「………そうか。」

 

 

ウインドラ「オサムロウ殿………、

 一体何がいると言うのだ?

 俺達には辺りを見回してもモンスターの姿など見えないのだが………。」

 

 

タレス「さっきまではボク達もモンスターの気配を感じたんですけどそれも一瞬にして消えてしまいました。」

 

 

アローネ「教えてくださいオサムロウさん。

 今の風で何が分かったのですか?」

 

 

オサムロウ「…今の風で分かったことは敵モンスターの大きさとおおよその数、位置、種類とそれからまだ我等を狩ろうと狙っているという様子くらいだ。」

 

 

カオス「そんなに分かったんですか!?

 風が吹いただけで!?」

 

 

オサムロウ「風が吹いたのは偶然ではない。

 奴等は得物を狩る時必ず風上から最初に奇襲をかけて来るモンスターだ。

 この辺りに生息しているモンスターなら風の事情にも長けているのだろうな。

 このモンスターはソナタ等のように強風に煽られて視線を外した瞬間一瞬にして風の勢いも利用して間合いを詰めて一撃で獲物を狩るモンスターだ。

 油断していると敵の姿を視認しないまま殺られてしまうぞ。」

 

 

 オサムロウは淡々と視線を風上に向けながら話す。オサムロウの様子を見る限り敵のモンスターは近くにはいるようだがそれでも五人は未だに敵の姿を視認出来ないでいる。そんなモンスターがどこにいると言うのだろうか…?

 

 

ミシガン「…ねぇオサムロウさん?

 そんなモンスターどこにいるの?

 全然姿が見えないんだけど…?」

 

 

オサムロウ「いるぞ。

 すぐそこだ。

 我にも姿が見えぬが確実にすぐ目の前にいる。」

 

 

 姿が見えないのにモンスターがいると連呼し続けるオサムロウ。依然として何もいない方向に刀を振り抜く構えをとったまま動かない……。それを見ていたタレスが、

 

 

タレス「まさかとは思いますけど格好付けてるだけじゃないですよね?

 モンスターにさっきの風で自分だけが逃げていく様子に気付けたからっていつまでも構えを解かないのは。

 本当はもうモンスターは“どこかへと消えた”んじゃないですか?」

 

 

オサムロウ「………」

 

 

 オサムロウはタレスの問いに応えない。じっと前を見つめたままだ。だがやがてずっと遠くの方に視線をやってから何かに気付いてゆっくりと構えを解く素振りをした。“刀”の束は離さないまま……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「このモンスターはな。

 どこかへと消えたのではない。

 

 

 “姿を消している”モンスターなのだ。

 このように………真空破斬!!」 

 

 

 構えの姿勢を解いて視線をカオス達に向けたオサムロウだったがそれを合図にしたかのようにまた強風が吹きオサムロウがまたモンスターがいた方向へ向き直し何も無い空中へと技をかける。刀を振り切った瞬間五人は一瞬オサムロウがとちくるったように思えたがオサムロウの振り抜いた刀に続いて聞こえてきた音に驚愕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キェェェェアッ!!?」

 

 

ミシガン「エッ!?

 何ッ!?」

 

 

ウインドラ「モンスターか!?

 いつの間にこんなに接近していたんだ!?」

 

 

 何も無いと思っていた空間から突如として大きな長い爪を持った人型の形状に似た謎のモンスターが出現する。それを見たカオス達は瞬間移動してくるようなモンスターなのかと錯覚したが、

 

 

オサムロウ「やはりいたな、“イビルリッパー”。

 姿を風景に“擬態”させて風と共に奇襲を掛けてくるモンスターだがコイツ等を確認する方法は割りと簡単だ。

 

 

 風が吹いた瞬間コイツ等が位置している場所の草原は不自然に何かに阻害されているかのようにそこだけ風の影響を受けない。

 故に“実際に肉眼で姿を見ることは出来ないが目視なら出来る。”

 

 

 覚えておけ。

 野生のモンスターと言うのは遭遇すれば問答無用に襲い掛かってくるものもいればこうやって人のように知恵や特性を使った狩りをするモンスターもいる。

 そう言った時何も見えないからと言って敵をいないと判断してしまうのがもっとも危険な行為だ。

 モンスターはそのいないと判断した隙を狙ってくる。

 ソナタ等はこのイビルリッパーよりも凶悪な魔物を倒せるが相性というのはどんな組み合わせにも必ず存在する。

 

 

 そんな優れた能力があるというのにこんな詰まらんそこらのモンスターに殺られてしまうことがあってはならぬぞ。」



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不可視を可視

ブフランフェ道

 

 

 

カオス「こんな、

 危険なモンスターがいただなんて……。」

 

 

オサムロウ「気を抜くな。

 まだ二十体はいるぞ。」

 

 

ミシガン「二十体!?」

 

 

ウインドラ「知らないうちにそんなに囲まれていたというのか!?」

 

 

 姿は見えないがオサムロウは先程の風で敵モンスターイビルリッパーが二十体はこの辺りでカオス達を狙っているという。

 

 

アローネ「……!

 いくら目を凝らしてもこんなモンスターが居るようには見えませんが………。」

 

 

 回りを見渡す限り敵の影も形も見当たらない。カオス達は今までに無いタイプの敵を前にして焦りが出る。

 

 

オサムロウ「…よく見ればいるのだ。

 このように風を吹かせてみれば………、

 『ウインドランス!!』」

 

 

 オサムロウがウインドカッターを全方位に向けて放つ。すると風が吹いた辺りで不自然に草村が何かが上に乗っかっているかのように風に靡かぬ草があった。

 

 

オサムロウ「!

 そこか! 真空破斬ッ!!」

 

 

「キェェェェアッ!?」

 

 

 オサムロウがまた一匹イビルリッパーを仕留める。見えはしないのにまるで当たり前のように何もいない場所目掛けて刀を振り切り倒す。その姿からはカオス達のように切迫した様子は見られない。この敵と対峙したことがある者ならではの戦い方だ。

 

 

ウインドラ「………!

 そこか!

 『バニッシュボルト!』」

 

 

 オサムロウに負けじとウインドラも雷撃を放つ。

 

 

「………」

 

 

 しかしウインドラが放ったバニッシュボルトの先からはイビルリッパーは出現しなかった。

 

 

オサムロウ「この敵は昼間だろうと夜間だろうと俊敏ながら隠密に長けたモンスターだ。

 相手の位置をよく見て撃たねば命中させるのは難しいぞ。」

 

 

ウインドラ「そう簡単に言ってくれるがこれはかなり難しいことだぞ!?」

 

 

オサムロウ「………仕方あるまい。

 我が火の魔術で辺りを焼き払う。

 ミシガン、

 ソナタはその火を消さない程度に水を巻いてくれ。」

 

 

ミシガン「え?

 火で攻撃するのに次に水をかけるの!?」

 

 

オサムロウ「視覚的に捉えにくいのなら相手をいぶり出した方がソナタ等もやり易いだろう。

 試しにやってみるがいい。」

 

 

 オサムロウがカオス達に理解しにくい提案をする。先程イビルリッパーの気配を察知した技能もあってここは大人しく従うことにする。

 

 

オサムロウ「『フレアボム!』」ミシガン「『スプラッシュ!』」

 

 

 オサムロウとミシガンがタイミングを僅かにずらして魔技を発動する。火と水、単純に考えればただ火が消えるだけだが………。

 

 

 

 

「「「「………!?」」」」

 

 

 オサムロウの出したフレアボムとミシガンのスプラッシュが接触した瞬間蒸気が吹き上がる。その蒸気の中から素早く動く黒い影が複数現れる。その黒い影こそがイビルリッパーそのものだった。

 

 

アローネ「…そういうことでしたか。」

 

 

タレス「これならイビルリッパーがどこにいるのか一目瞭然ですね。」

 

 

ウインドラ「火と水でこのような応用が出来るのか………。」

 

 

オサムロウ「なんてことはない。

 この方法は昔からイビルリッパーを炙り出すのには打ってつけなのでな。

 スラート等のこの付近をよく通る者は皆知っている対処法だ。

 姿さえ見えれば奴等はただの的だ。

 ………後は出来るな?」

 

 

カオス、アローネ、タレス「「「はいッ!」」」

 

 

ミシガン「私は手を出さない方がいいよね?」

 

 

ウインドラ「ミシガンはオサムロウ殿と一緒に蒸気が薄まったらまた作ってくれればいい。

 ここ最近のお前は働きすぎだ。

 

 

 ここは俺達が出る!」

 

 

 姿が露見したことで残りのイビルリッパーは数は多くとも大した脅威ではなかった。カオス達はクリティアの長老オーレッドから貰ったアオスブルフを装着した武器を用いてこの戦闘を短時間のうちに終わらせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「姿さえ見えればこっちのものだったね。」

 

 

アローネ「あのようなモンスターが世界にはいるだなんて知りませんでした………。

 今回はオサムロウさんが私達に同伴していただかなければどうなっていたか………。」

 

 

ミシガン「オサムロウさんがいなかったら私かカオスかウインドラで周辺を焼き払ってたと思うよ?」

 

 

タレス「ミシガンさんは水でどう焼き払うんですか………。」

 

 

ウインドラ「カオスに至っては“周辺”では済まない範囲に被害が及んでいただろう。」

 

 

カオス「ちょっと俺も手加減出来るか分からなかったなぁ…。」

 

 

オサムロウ「カオスよ、

 ソナタは制御できぬのなら無闇に魔術を使用しない方が良いだろう。

 先日のような強大過ぎる魔力は自らの意図せぬ物まで破壊しかねん。

 あの力は………、

 

 

 その気になれば街どころかこのダレイオスの大陸すら割りかねん。

 

 

 今はまだ剣技だけでもソナタ等は十分に強い。

 その上ヴェノムにすら打ち勝つのだ。

 魔術は我がいる限り厳禁だ。」

 

 

 ランドールの時に放ったバニッシュボルトはカオスもあそこまでの威力が出るとは思っていなかった。力を見せよとファルバンに言われランドールに当てなくてもいいのならと思い全力で空に魔術を撃ち放った。それが思いの外巨大な光の柱と呼べるほどの雷撃を放出してしまいカオスも魔術や魔技は自粛しようと考えていた。

 

 

カオス「けどオサムロウさん………、

 俺達の中で火と氷の魔術を扱える人がいないんです………。

 俺は撃てるは撃てるんですけど……。」

 

 

アローネ「カオスは私達が火と氷の魔術を使用できなくなった代わりになろうとしてはくれるのですが………。」

 

 

ウインドラ「代わりとするには魔力が強すぎて迂闊に放てんのだ。

 ……放てればヴェノムの主なぞ一捻りな程の力を秘めてはいるのだがな。」

 

 

タレス「この前の闘技場のあれですら魔封じの手錠を嵌めての出力だったんです。

 カオスさんの力はここぞと言う時には持っておきたい力なのですけどやっぱり小回りの聞く術者が必要だと思いますね…。」

 

 

ミシガン「もし今みたいなイビルリッパーってモンスターとかのような知識が無いと簡単には勝てない敵とか出てきたらどうしよう…。

 オサムロウさんがいたから蒸気なんて出せたけどオサムロウさん私達とずっと一緒にいる訳じゃないんだよね?」

 

 

オサムロウ「………」

 

 

 オサムロウはカオス達の話を聞いて何やら考え込む。…が少し間を置いてから、

 

 

 

 

オサムロウ「……フッ、フフフフ………。」

 

 

カオス「オサムロウさん?」

 

 

オサムロウ「ソナタ等は何とも面白いな。

 そんな強力な能力を持っておきながら普通のエルフに出来ることが出来ないとは。

 ソナタ等はカオス以外はそれぞれ一つの属性しか操れぬのだな。

 そしてカオスが魔力を加減できない故に魔術を使えぬ…。

 

 

 ……何と皮肉な話だ。

 強すぎるからこそその代償に手段の幅が狭いとは。

 “器用貧乏”とはこういうことか。」

 

 

 オサムロウはカオス達のことを笑う。馬鹿にしているようには見えないが笑いだした理由はカオス達のその強さに反比例してバランスの悪い能力を持っていることなので五人は少々居たたまれない気持ちになる。

 

 

オサムロウ「フフフ…、

 だがそんなことは些細なことだ。

 ソナタ等にはそれを補う術を与えられている。

 

 

 そのアオスブルフがあればソナタ等には火と氷の術者などいなくともいいのだ。」



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この時代のハーフエルフ

ブフランフェ道

 

 

 

カオス「アオスブルフがあれば氷と火の術者がいなくてもいなくていいんですか?」

 

 

オサムロウ「武器に属性付与が付けられることは知っておろう?

 そしてそのアオスブルフがエルブンシンボル以上に装着者の潜在的力を引き出す能力があることも。

 ソナタ等が一つの属性しか扱えないのはその一つの属性のマナ濃度が濃すぎるからだ。

 魔術を習い出した初心者によく見られる傾向だ。

 ソナタ等は少々事情は異なるがマナが一つの属性に染まっている。

 

 

 それならマナをそれぞれの属性に還元する一歩手前で武具にマナを極少量に抑えて流すのだ。」

 

 

アローネ「極少量に………ですか?

 それでは満足に力を発揮出来ないのでは?」 

 

 

オサムロウ「それを補うのがアオスブルフだ。

 それはマナを収束して力を高める効能がある。

 クリティアの作品でエルブンシンボルの上位互換と言うのならこれまでの作品同様そこは変わらんだろう。」

 

 

 どうやらクリティア族の長老達はこれまでにも同じような武具の開発を多く持っているようだ。オサムロウも前まではクリティアと同じ街で椅子を並べてテーブルを囲んでいた者同士だったということでクリティアの事情には通じているらしい。

 

 

オサムロウ「属性付与に関しては武具に六属性縁のマナを発する鉱石を職人のところに持っていけば増設してもらえるだろう。

 武具は一つの属性しか付与できないためソナタ等に一つ追加される程度だが手はひとつより二つ打てた方がソナタ等には都合が良いであろう?」

 

 

タレス「確かにそうですけど鍛冶屋がありませんよ?」

 

 

オサムロウ「案ずるな。

 これから向かうカーラーン教会にもその手の職人はいる。」

 

 

ミシガン「カーラーン教会って武器も扱ってるの?」

 

 

オサムロウ「マテオと違ってダレイオスは何かと争い事が絶えんのでな。

 カーラーン教会にも戦闘を行える兵はいる。

 皆カーラーン教会出身者で成人してからも教会に貢献したい想いでそういう職に就いているのだ。」

 

 

カオス「…カーラーン教会って皆孤児とかそういった関係の人達ですよね?

 ダレイオスにも孤児なんていたんですか?」

 

 

アローネ「…タレスの話では部族の繋がりが強い方達のようですし親族でなくとも大切にする間柄なら孤児など出ないように思えますが………。」

 

 

タレス「ボクみたいな一族の唯一の生き残りでもいない限りいない筈ですけどね。」

 

 

 カオス達の疑問はここまでの情報を総合するともっともな疑問である。九の部族達はお互いが睨みあってはいたが同族間ではとても同族意識が高く他者には威嚇を同族には手厚い親しさを持つ部族達だと聞いていたが…。

 

 

オサムロウ「ソナタ等の疑問は分かる。

 同族間で結束の堅いこの国で何故孤児などが存在するか………。

 答えは簡単だ。

 

 

 この国には“純血”でない者が生まれることがあるからだ。」

 

 

アローネ「…!

 それは…!?」

 

 

オサムロウ「“ハーフエルフ”だ。」

 

 

カオス「ハーフエルフ!?」

 

 

 カオス達はここでその名前が出てくることに驚愕する。

 

 

 ハーフエルフ、

 アローネの話に出てくる義理の兄が正しくその種族であることを…、

 しかし、

 

 

アローネ「このダレイオスにヒューマがいるのですか!?」

 

 

オサムロウ「ヒューマ?

 何だそれは?」

 

 

アローネ「……?

 ヒューマを知らない?

 それは………?」

 

 

オサムロウ「ハーフエルフとは九の部族の交わりによって生まれた存在だ。

 ミーアやスラート等の二つの部族の血を持ちどちらからも部族として認められなかった種…。

 そうした者達を引き取っているのがカーラーン教会だ。

 故にカーラーン教会はこの国では存在を認められているがあまり干渉を持とうとする部族はいない。

 半端な種族ほど争いの火種になることが多いのでな。

 それは一時的にダレイオス国家として纏まっていた時代でもそうだった。

 どっち付かずと言うのはこの国では差別の対象にもなり得たのだ。」

 

 

アローネ「ハーフエルフの………ご両親はどうなさっていたのですか?

 子供が生まれたと言うことは両親は愛し合って…。」

 

 

オサムロウ「そう常に愛のある話などないさ。

 人の見ていないところで強姦等も横行していてな。

 国境を簡易化した弊害でハーフエルフは次々と生まれてきた。

 そのどれもが仲のいい夫婦から生まれたのではない。

 殆どが無理矢理孕まされたりしてできた子供なのだ。」

 

 

アローネ「そんな…。」

 

 

オサムロウ「…中には本当に愛のあるペアもいるがな。

 そういった二人は部族から追い出されて同じくカーラーン教会へと向かうのだ。

 あそこは行き場を失った者達が最後に訪れる施設であるからな。

 カタスティア様はどのような出自でも受け入れを拒否しない。

 カーラーン教会は国家体制が無くなった現状で唯一の他部族の血が集まる場だ。

 と言っても混血がほぼ大半なのだが。」

 

 

アローネ「カーラーン教会は世界には必要な機関ですね。

 どれ程の時間が流れても人の世には混血による差別が問題に上がります。

 他と違う出自と言うだけで皆と違う扱いを受けてしまうのは。」

 

 

カオス「なんか分かる気がするな…。

 俺もミストではマナが無かったってだけでなくおじいちゃんの孫のクセにってよくからかわれてたから…。」

 

 

ミシガン「私の場合は逆に持て囃されてたなぁ…。

 お父さんが村長やってて私がその娘だからってんで凄い回りの人達から手厚い歓迎をいつもされてた。

 …私は普通に皆と接したかったんだけどね。」

 

 

アローネ「両親の立場や住んでいる場所、それから血筋、

 それだけで人はその人の内面を度外視して接しようとします。

 差別による根幹はその国の体制や歴史に根強く関係しているものですが………私はそれをどうにかして無くしたいです。」

 

 

オサムロウ「…ソナタの国でもそうした歴史の裏側を垣間見えてきたのだな。

 ヒューマとやらとエルフが交わって生まれた存在がハーフエルフなのか?」

 

 

アローネ「…私の国ではハーフエルフはそういうカテゴリーでした。」

 

 

オサムロウ「同じエルフ同士でもハーフエルフと蔑むこの国はいつしかその差別意識を解消できればよいのだがな。

 

 

 …そうした者達が多くいるせいかカーラーン教会は九部族の特徴を兼ね備えて高い技術を持つようになってな。

 鍛冶の技術もあるのだ。

 ソナタ等はそこで武具に属性付与の改築をするといい。」

 

 

ウインドラ「そうだな。

 俺もただの雷を纏わせる槍だけじゃ芸がない。

 試しに火でも纏わせてみるか。」

 

 

タレス「ではボクは風を。」

 

 

ミシガン「私はこの杖別に攻撃に使うようじゃないんだけどなぁ…。

 どうしよっか………。」

 

 

カオス「俺は………前と同じで氷でいいかな。

 アローネは?」

 

 

アローネ「………」

 

 

カオス「アローネ?」

 

 

アローネ「………失礼、

 少し考え事をしていました。

 私は………私は火を纏わせてみます。」

 

 

カオス「そう?」

 

 

 それから一行はカーラーン教会へと歩み出すことにした。オサムロウ曰くもう少しで到着するとのことだった。本来の目的の他にもやるべきことを見付け一行の足取りは好調に進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………ハーフエルフ………、

 同じエルフ同士で………。

 

 

 そういう見方をすればカタスの御兄弟は全員ハーフエルフになりますね。

 

 

 ……だからカタスはカーラーン教会を設立したのでしょうか………?

 この時代のハーフエルフがカタスと同じような血を持つから………。」



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到着カーラーン教会

ダレイオス支部カーラーン教会

 

 

 

オサムロウ「ここがこのダレイオスでのカーラーン教会だ。」

 

 

 セレンシーアインからモンスターとの戦闘を交えながらカオス達は等々ダレイオスのカーラーン教会へと辿り着く。外装はやはりマテオで見たものと遜色が無く質素な造りをしている。カオス、アローネ、タレスは教会を見てマテオで過ごした約一ヶ月間のことを思い出していた。

 

 

カオス「……まだそんなに時間は経ってないけどここを見ると何か懐かしい気分になるなぁ…。」

 

 

アローネ「あの建物がマテオのカーラーン教会と似ていますからそう感じるのでしょうね………。

 

 

 あの扉を開けて中へ入ったら………カタスがお出迎えを………していただけたらいいのですけどね………。」

 

 

タレス「ここに来たのはカタスさんが今どうなってるのかを調べるためでもあるんですよ。

 懐かしむよりも先に進みませんと。」

 

 

 干渉に浸る二人をタレスが急かす。カタスティアと過ごした機関は同じだというのにタレスは何も感じないのだろうか…?

 

 

タレス「…早くカタスさんのことを聞きに行きましょう。

 ここにいる可能性だってあるんですから。」

 

 

 …タレスもタレスで心配していたようだ。カタスティアにあそこまで世話になっておきながら何も感じなかった筈がない。カタスティアが消息不明に陥ったと聞いてから一番動揺していたのはアローネだがアローネが一番嘆いていたからこそカオスやタレスは動揺を表に出さずに済んだのだ。それでもやはり顔には出なくとも少し落ち着かない気持ちにかられる。タレスも早くカタスティアの吉報が無いかと急いている。一行はカタスティアが生きていることとこのダレイオスへ戻ってきていることを願ってカーラーン教会の扉を叩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダレイオス支部カーラーン教会 中

 

 

 

カオス「こんにちは。」

 

 

神父1「おや?

 珍しいですね。

 ここへと参られるお客様は。」

 

 

神父2「本日はどのようなご用件でしょう?」

 

 

 教会に入ると中で二人の神父らしき人達が出迎えてくれた。穏やかそうで人の良さそうな印象を受ける二人組だった。

 

 

オサムロウ「カタスティア様について聞きたいことがある。教皇はこちらに戻られてないか?」

 

 

 オサムロウが二人にそう尋ねる。カタスティアの名が出た途端二人は顔を強張らせて、

 

 

神父1「これはこれはサムライ様、

 よくぞ参られました。

 教皇は只今マテオへと御帰還なされていますよ。」

 

 

神父2「次の訪問はいつになるやら……。」

 

 

 オサムロウの質問に二人は緩やかに答える。この反応は…?

 

 

オサムロウ「ソナタ等、

 …マテオに帰られた教皇がどうなったのか知らぬのか?」

 

 

「「はい?」」

 

 

 カタスティア………教皇がマテオの帰途でランドールに襲撃されたことを知らないような様子で二人は聞き返す。まだこの支部には話がつたわっていないのだろうか?カタスティアがセレンシーアインを発ってからランドールが襲撃したとされるタイミングを辿るともう二週間程は経つのだが………。

 

 

アローネ「カタスは………マテオのバルツィエの一派ランドールに襲撃されてマテオに渡航していた船を沈められたようなのですが………。」

 

 

 話を知らなさそうな二人にアローネが事情を一から話始めようとする。だが二人からは、

 

 

神父1「あぁ、

 あの津波の件ですね?

 それなら存じておりますよ。」

 

 

神父2「私達もあの船に乗っていましたから。」

 

 

カオス「船に乗って乗っていた……?

 ……貴方達がカタスさんと一緒にですか?」

 

 

神父1「はい、

 我々もマテオへ教皇と御同行させていただく予定でしたので。」

 

 

オサムロウ「それなら何故ここにいる?

 船は転覆したのではなかったのか?」

 

 

神父1「はい、

 我々の乗っていた船は海へと還りました。」

 

 

神父2「私達は船が沈んでしまったのでこうして海を氷らせて戻って参りました。」

 

 

 カオスの予想は見事に当たったようだ。海面を氷らせてしまえば足場が出来て無事に陸地へと戻ってこれる。マテオから攻撃が放たれた以上マテオに渡るよりかもダレイオスへと戻ってきた方が安全なので二人は船を沈められてからこちらの支部に帰ってきたのだろう。

 

 

ウインドラ「貴方達がここへ無事に戻ってきたと言うことは教皇は無事なのだな?」

 

 

 カオスの予想が当たりその乗組員も無事だったと言うことは必然的に一緒に乗っていたカタスティアも無事だと言うことが分かる。ランドールによって襲撃されたことが事実だと発覚したがそれに次いでカタスティアも無事だと言う安心感から六人は緊張を解すが、

 

 

神父1「教皇は無事でございますよ。」

 

 

アローネ「善かった………、

 それでカタスはどちらに…?」

 

 

神父2「不躾な質問ですが貴女は?」

 

 

アローネ「私達はカタスの友人で………私自身はカタスの昔の故郷からの知人です。」

 

 

「「!!」」

 

 

 アローネがカタスティアの古い知り合いだと告げると神父二人は驚いた様子を見せる。

 

 

神父1「でっ、では貴女はカタスティアが生まれたとされるウルゴスの…!?」

 

 

アローネ「はい、

 私はカタスとは幼少の頃より共に育った仲です。

 それでカタスはどちらに?

 貴方達とダレイオスへと戻られているのですよね?」

 

 

神父2「……いえ、

 教皇は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マテオへと予定通りに帰還なされました。」

 

 

 六人はそれを聞いて耳を疑った。話の流れでカタスティアが生きていることは分かったが神父達だけがダレイオスへと帰ってきてカタスティアがそのままマテオへと渡ったのだと言う。

 

 

アローネ「カタスがマテオへそのまま渡ったのですか!?」

 

 

オサムロウ「津波は魔術による攻撃だと分からなかった訳でもあるまい…。

 何故あのお方はそれでもマテオへと……?」

 

 

タレス「カタスさんお一人でマテオへ?」

 

 

神父1「えぇ……。

 教皇の乗る船が狙われたとなると本土の教会がどうなったのか調べるために御一人で向かわれました………。

 私共も御伴致そうと申し上げたのですが断られてしまいました……。」

 

 

神父2「私共がいては教皇の足を引っ張るばかりです。

 私共でも教皇の盾にはなれますが教皇は私共がそうすることを善しとしないお方……。

 教皇はマテオにあるカーラーン教会の同志達を救うために私共をダレイオスへと帰らせて御一人でレサリナスへと向かわれました…。」

 

 

アローネ「レサリナスでカーラーン教会の方達を救うために………。

 

 

 ………その後はどこへ向かわれるか仰っていましたか?」

 

 

神父1「教皇はレサリナスで同志達を集めた後にレサリナスを離れて南下しカストルへと向かわれると仰っておりました。」

 

 

カオス「カストルに?」

 

 

神父2「マテオにあるカストルという街は騎士団が在留しておりますが勢力的には未だバルツィエに支配されない冒険者達の街として栄えております。

 同志達を匿っていただけるような大きな街と言えばカストル以外には無いと申されておりました。」

 

 

神父1「最近のバルツィエはどうも慌ただしいようで教皇が仰るにはついに停戦が解かれる可能性があるとも………。

 私共はその火の粉を被ったのだと思います。」

 

 

アローネ「…この教会支部はこれからどうなさるのですか?

 カタスが不在の間何かカタスの行方を知るような手段は?」

 

 

神父2「私共は………、

 

 

 ただ待つことしか出来ません……。

 教皇は時が来れば世界は大きく動き出すと我々に伝えてマテオへと去って行かれましたから………、

 

 

 

 

 我々は………主の命に従いここで主の帰還を待つばかりです。」



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枢機卿現る

ダレイオス支部カーラーン教会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「………」」」」」」

 

 

 六人はカタスティアの生存が分かっても心中穏やかではいられなかった。ランドールがカーラーン教会を襲ったと言うことはマテオ政府はカーラーン教会を敵として認定したことになる。バルツィエの強い意思が働いたのもあるだろうがレサリナスからカタスティアの居場所が無くなったと言うことだ。

 

 

 原因は明確に把握している。ランドールが話していた通りカオスとアローネがカーラーン教会に匿われていたせいで繋がりを疑われバルツィエに目を付けられた。話を聞く限りだと前々からカタスティアとバルツィエは不仲ではあったらしいが今回カーラーン教会とマテオが決定的に袂を別つ切っ掛けとなったのはここにいる四人に関係している。このカーラーン支部の者達からは死者は出なかったようだがそれでも罪悪感に駆られずにはいられなかった。

 

 

アローネ「…カーラーン教会の皆さんには………私達が切っ掛けでマテオと敵対することになったことを知らせるべきですよね………。」

 

 

オサムロウ「………知らせてどうするつもりなのだ?」

 

 

ウインドラ「ここの者達はカタスティア教皇を慕っているんだ。

 カーラーン教会はカタスティア教皇を起源に創られこれまで多くの人を救い多くの人に支えられて運営してきた。

 ここにいる者達だってそうだろう。

 

 

 ……俺達は自分達のためだけに反乱を興しここにいるカタスティア教皇が積み上げてきたものを傷つけた………。

 ランドールが襲った船に乗っていた者達は何故自分達がマテオから攻撃されたのかも知らないんだ。

 ……俺達には彼等に対して全てを話さなければならない義務があるし彼等にも襲われた理由を知る権利がある。

 例え恨まれようとも俺達はそれを受け入れなければならない。」

 

 

オサムロウ「…ソナタ等は本当に年の割りには成熟しているな。」

 

 

カオス「…ミシガンやタレスはともかく俺とウインドラとアローネは成人してますよ?」

 

 

オサムロウ「世の中には自らを簡単に赦してしまう者達も多いのだ。

 どんな罪も自らは悪くない世界が理不尽なのがいけないのだと。

 自分の罪に向き合えない者達はこの世界には数多く存在する。

 長く生きた者達の中には開き直って己の罪を隠そうとするものや更に罪を重ねる者もいる………。

 

 

 ………そんな者達がいる中でもソナタ等は己と向き合えるだけの芯の強さを持っているのだな。

 我はその強さがその若さで根付いているソナタ等に感心するぞ。」

 

 

ウインドラ「俺達は………悪を討つと決めたんだ。

 悪の根元バルツィエを………。

 そんな俺達が悪と同じに染まってしまう訳にはいかないだろ?」

 

 

タレス「こういったことが後々発覚した時はかえって問題が起こります。

 ……カーラーン教会の人達には包み隠さず話しておくべきなんですよ。」

 

 

オサムロウ「……ソナタ等の覚悟は承知した。

 ………しかしそれで武器を振るう腕を鈍らせるようなことになってソナタ等の旅路に余計な障害を作るようなことがあってはならんぞ。」

 

 

カオス「…大丈夫ですよ。

 ここにいる人達は只でさえ辛い経験をしてきた人達ばかりなんですから純血の俺達のせいで責められることになったとしてもそれを受け止めるのが俺達がこれまでしてきたことの責任だと思いますから…。」

 

 

オサムロウ「…芯をしっかりと持っているのだな……。

 我の懸念も杞憂であったか………。

 ではもう一度「その罪は小生にお話下さい。」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎の神父?「貴方達のその犯した罪とやらを小生が拝聴します。

 ですから皆に伝える必要はありません。

 私から貴殿方の行いを示唆して皆へと伝えます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「コーネリアス枢機卿………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達がカーラーン教会の者達にカタスティアが乗った船がどういった経緯で襲われたのかを告白しようとしていたら謎の男が話しかけてきた。オサムロウが彼をコーネリアスと呼び知人の間柄であると伺えるが…、

 

 

アローネ「貴方は……?」

 

 

コーネリアス「小生の名はコーネリアスと申します。

 教皇カタスティアが不在の間ダレイオスカーラーン教会の留守を預かる者です。」

 

 

カオス「カタスさんの留守を…?」

 

 

コーネリアス「えぇ、

 小生は教皇カタスティアに継ぐ位階でして枢機卿の位を賜っております故。」

 

 

ミシガン「すうききょう?」

 

 

オサムロウ「教皇の次にカーラーン教会を取り仕切る役職だ。

 彼は元マテオ建国に携わった名家の出身だったがカタスティア様がカーラーン教会を立ち上げるのと同時にマテオの名門貴族という地位を王に返上しずっとカタスティア様と共にカーラーン教会を支えてきた教会の柱のようなお方だ。」

 

 

コーネリアス「お誉めに与り光栄でございますオサムロウ様。

 小生など教皇カタスティアの栄誉に比べれば柱などという形容は些か過ぎるご評価にございますよ。

 小生は精々屋根板の一つで十分でございます。」

 

 

オサムロウ「謙遜なされるな。

 枢機卿の存在が無ければダレイオスでカーラーン教会は領地を認められることも無かったのではないか。

 枢機卿が剣を振るい九部族を実力で押し黙らせるようなことが無ければ今のダレイオスにハーフエルフの居場所は無かった。」

 

 

コーネリアス「貴方様もその刀をもって共にカーラーン教会を立ち上げた仲ではありませんか。

 本来なら小生の枢機卿の位階も貴方様のもの。

 小生は総大司教として教皇と貴方様をお支えする筈であったと言うのに…。」

 

 

オサムロウ「我に大層な役職など似合わん。

 そういった位階はソナタのような全てを捨ててまで教会に身を捧ぐ者にこそ相応しいのだ。」

 

 

コーネリアス「スラートの族長補佐も立派な役職ではあると思いますよ?」

 

 

オサムロウ「仕方が無かろう。

 我も自分が族長補佐に回されるようなことになるとは思わなかったのだ。

 スラートは部族間でも強さに固執する実力主義社会で我がスラートへと入属する為には腕前を披露するしかなかった。

 ………結果族長補佐という任についてしまった。」

 

 

コーネリアス「……それで此度はオサムロウ様がスラートを離れてここへ御越しいいただいたのはこの方々が関係してのことでしょうか?

 拝見させていただいたところ異様な力を持つ方々のようですが………。」

 

 

 コーネリアスがそう言ってカオス館を一瞥する。コーネリアスは見ただけでカオス達の能力を見破った。

 

 

カオス「俺達の力が分かるんですか?」

 

 

コーネリアス「ここにいるのは混血の者が多いので純血とは異なる異質のマナを内包している者が多いのです。

 そのせいか小生は他者の“マナの質を見る目”が培われているのですよ。

 ………特にそこにおられる貴方様は他の方々よりも不思議な………と言うよりも神秘的なマナをお持ちのようだ。

 

 

 まるで一人の体に二つの別のマナが入り浸っているような………。」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

オサムロウ「枢機卿、

 そんなことまで分かるのか?」

 

 

コーネリアス「長年様々な方のマナを見凝らしてきましたがこのような方は初めてですよ。

 ………もしや先日スラートの街の方角から立ち上った巨大な光は貴方様と貴方様の中に潜む方の御力なのでは?」

 

 

 コーネリアスはこの短時間の間にカオスと殺生石の精霊のことを見切ってみせた。その観察眼はこれまで出会った者達の中でもケタ違いの性能があるようだ。まるで全てを見透かすかのようなコーネリアスの雰囲気はどことなく危険な薫りが漂うがカーラーン教会の者に違いなくそれもカタスティアに継ぐ位階の者と聞いてカオス達はミストの村から始まった全ての始まりを話すことにする………。



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プログラムの運命

ダレイオス支部カーラーン教会 礼拝堂

 

 

 

コーネリアス「………」 

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

オサムロウ「彼等は自分達の罪と向き合う覚悟がある。

 そしてその罪を背負いながらも前に進み続ける意思も。

 他のハーフエルフ達にはこのことを伝えてもらうのは構わないが彼等を責めるのは待ってもらえないか?

 今ここで彼等の足が止まるようなことでもあればダレイオスは永久に救われる機会が訪れなく「赦しましょう。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「貴殿方の罪は小生が赦します。

 貴殿方は己が信じる道を突き進み続けなさい。」

 

 

アローネ「赦す………?とは何を………?」

 

 

コーネリアス「貴殿方の罪と認識するもの全てをです。」

 

 

タレス「全て………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「そうです。

 小生等カーラーン教会は貴殿方が関わる全ての罪を不問とします。

 ウインドラ様の所属する騎士団のこともカオス様達が教皇カタスティアを危険に晒したという話も全てを。」

 

 

ウインドラ「俺達は危うくカタスティア教皇の命を間接的に奪いかけたんだぞ?

 それをこんな話をしただけで赦すと?」

 

 

 カオス達は思っても見なかったコーネリアスの酌量に戸惑いを見せる。何故話をしただけで赦されるのかそれが理解できなかった。普通であったならカーラーン教会の者達が敬愛する教皇だけでなく世界中の教会関係者を戦争に引き摺り込んだのであれば教会はその引き摺り込んだ犯人を何としても探し出して罰したい筈。教会は謂わばこの戦争に無関係の立場であったのだ。だというのにダレイオスとマテオの二国間の争い事に突然巻き込まれた。それによって死者も大勢出ている筈だ。今はまだマテオはダレイオスには侵攻してきてはいないがマテオのカーラーン教会はバルツィエの本拠地と言うこともあってマテオ北部のカーラーン教会は窮地に追いやられていることも想像に固くない。本部もレサリナスに構えていたこともあって事実上カーラーン教会は半壊したも同然だ。それなのにこのコーネリアスという男は………、

 

 

コーネリアス「罪を悔いる心がお有りなのなら教会は罪人を咎めたりなどしません。

 教会は全ての人を導くためにあるのです。

 貴殿方の行いはそもそも人を救うために行ったこと。

 人を救うために貴殿方が活動を起こしたのならそれが罪である筈がないのです。

 ……罪の咎を受けたいのならそれは貴殿方自身でその咎をお決めください。

 小生等教会の者は貴殿方が裁きを欲するのなら下しましょう……。

 ですが貴殿方には………、

 

 

 今の時点で裁きが必要なのでしょうか?」

 

 

カオス「……怒ったりしないんですか……?

 俺やアローネが教会に属しているとランドール達に勘違いされたからこそカタスさんは襲われたんですよ?」

 

 

 カオス達はコーネリアスの言葉に困惑する。彼からは一切の怒りの感情が伝わってこない。それどころか会話の節々から友好的な感情さえ伝わってくる。妙に物分かりが良すぎて怒声を浴びせられることを覚悟していた一行は調子が狂う。

 

 

コーネリアス「怒りは争いの元ですよ。

 一時の感情で全てを壊してしまうとしたらそれは憎しみの感情………。

 他者に対して憎しみを抱けばそれはそこから全てが憎くなる………。

 

 

 “人を憎むべからず、憎むべきは汝が非力を憎め。

 憎み淘汰すべきこそ己が心の弱さ…、

 超越せよ弱き自らの真を”」

 

 

カオス「え…?」

 

 

コーネリアス「他者への憎む心を捨て己の精進に努めよ、

 との教皇の教えです。

 小生等は例えどのようなことをされたとしても他者を慈しみ赦す心を持つように努めております。

 

 

 ………それに教皇カタスティアの言によれば世界の事象全ては………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 起こるべくして起こる。

 “世界の法則は常にプログラムのように運命が決まっている”とのことです。

 世界の時間を止めることが出来ぬ運命のように貴殿方が起こした反乱も世界の流れの一端でしかないのです。

 貴殿方のこれまでの経緯全ても始めから決まっていたことなのです。

 

 

 ですからカーラーン教会がマテオと敵対することになったのもそういう定められた世界の予定事項だったに過ぎないのです。

 我々カーラーン教会は来るべき未来に漸く辿り着けた、

 

 

 ただそれだけのことです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダレイオス支部カーラーン教会

 

 

 

 コーネリアスとの話を終えカオス達は一度外へ出ることにする。

 

 

ミシガン「何だかさっきのコーネリアス枢機卿とか言う人変な人だったね?」

 

 

アローネ「変な人って………、

 失礼ですよミシガン。

 あの方は私達のことを他の教会の方々を代表して対応なさっていただいたのですから……。」

 

 

ミシガン「でもさぁ…?

 ウインドラ達が怒られたりしなくてよかったけど………なんかあの人不気味じゃなかった?

 人らしさが無いって言うか………何でもかんでも赦してしまいしょう………って感じで。

 心が大事って言っておきながらあの人の心自体が何も感じられないようで………。」

 

 

タレス「ミシガンさんその位にしておきましょう………。

 

 

 ………オサムロウさん、

 あのコーネリアスさんって人の話でよく分からなかったことがあるのですが………。」

 

 

オサムロウ「何だ?」

 

 

タレス「“ぷろぐらむの運命”って何のことですか?」

 

 

ミシガン「あっそれ私も思った!」

 

 

 カオス達はコーネリアスの話でカオス達の行いが赦されたことは理解できたがその後に彼の口から出た聞きなれない言葉に疑問を抱いていた。ぷろぐらむの運命とは一体………?

 

 

オサムロウ「……我もよくは知らんのだがな。

 プログラムとはカタスティア様が昔からよく言っていた言葉だ。

 

 

 世界に存在するものは皆“情報体”の塊なのだそうだ。」

 

 

アローネ「情報体………?」

 

 

オサムロウ「急な話でいい例えは無いのだがそうだな………、

 

 

 ………“パラレルワールド”という単語を聞いたことはあるか?」

 

 

カオス「パラレルワールド…?」

 

 

 パラレルワールドという名前をカオスは聞いたことがなかったが他の四人は違った。

 

 

タレス「こことは違った別の世界の話のことですね。」

 

 

ミシガン「私聞いたことがある。

 もしもここで違う選択をしたら未来が今とは全くの別物になっちゃってるっていう話でしょ?」

 

 

アローネ「パラレルワールド…………またの名を“ifの世界線”………。

 誰もその存在の世界を観測することは不可能とされていますが………。」

 

 

ウインドラ「あの時あそこで別の行動を起こしていたら………自分の世界はよりよく豊かになっていたのではないか………。

 ………誰もが一度は経験しそう願う世界だな………。」

 

 

オサムロウ「………カタスティア様が仰るプログラムの運命と言うのはな。

 そういった無限の可能性を完全に否定する意見だ。

 世界は…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始めから終わりまで選択肢があるようで全く無い、

 選んでいるようで選ばされている、

 そんな世界だとカタスティア様はよく口にされていたのだ。」



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ただ一つだけの世界

ダレイオス支部カーラーン教会

 

 

 

カオス「選んでいるようで選ばされている………?」

 

 

 オサムロウがよく分からないことを口にする。だがカオスの疑問を無視してオサムロウは唐突に足元に落ちている小石を拾ってそれを、

 

 

オサムロウ「……。」

 

 

カツッ……

 

 

 遠くの方に見えるカーラーン教会の柵へと投げる。小石は柵の一番端の木に辺りそのまま下へと落ちる。

 

 

ウインドラ「………オサムロウ殿、何を………?」

 

 

オサムロウ「今我が投げた小石は飛行している間ソナタ等にはどこをどう飛んでどこに当たるか予測出来たか?」

 

 

タレス「…?

 まぁ大体は緩やかな弧を描いてあの柵まで飛んで行くのかくらいなら………。」

 

 

オサムロウ「正確にあの柵の一番端の上辺りに命中することは?」

 

 

アローネ「流石にそれを予測することは出来ませんよ。

 貴方が投擲したのですから貴方にしかそれが分からない筈です。」

 

 

ミシガン「小石なんかどう飛ばしても一緒でしょ?」

 

 オサムロウ以外の五人はオサムロウがどういう意図を伝えたいのかが分からず戸惑う。

小石を投げた程度の話でどのようなことが分かると言うのか………。

 

オサムロウ「一見するとそうなのだがな。

 …実は我にもどこに飛んで当たるのか等分からなかった。

 狙ったのは勿論あの柵の端だがなにぶん小石を投げたりしたのは随分と久し振りのことなのでな。

 今回たまたま我が投げた小石は我の思った通りに流れて柵に当たってくれた。」

 

 

カオス「外しても何度か投げ直せば狙ったところには当たるんじゃないですか?」

 

 

ウインドラ「そうだな、

 こういうことは何度も練習を積み重ねれば自然と狙い通りに当たるようになる。」

 

 

アローネ「反復こそ成功の確率を上げる方法ですからね。」

 

 

ミシガン「小石投げかぁ………。

 私もやってみようかなぁ………、

 ………そらっ!」

 

 

 ミシガンも柵に向かって小石を投げる。が今度は柵の上を飛び越えて行ってしまった。

 

 

ミシガン「外しちゃったなぁ……。」

 

 

アローネ「当てられるまで練習あるのみですよミシガン。」

 

 

タレス「あまり他人の敷地の柵に小石をぶつけるのもいけない気がするんですけど………。」

 

 

カオス「……それでオサムロウさん、

 この小石を投げて当てたりすることにどんな意味があるんですか?」

 

 

オサムロウ「ソナタ等はこれを繰り返せば徐々に上達しコツを掴んでその内当てられるようになると思うであろう?」

 

 

ウインドラ「まぁそうなるよな普通は………。」

 

 

オサムロウ「そう、

 小石を投げることなど人の人生では誰もが一度は経験することだ。

 これに夢中になって自分の思うがままに狙いを着けて命中させることも子供の内にあったりもしたことだろう。

 ………今我は柵に小石は当てたな?

 そしてミシガンは小石を外した。」

 

 

アローネ「……はい。」

 

 

オサムロウ「…………これらの結果は単純な回数や経験談、確率論の話では偶々小石が柵に当たるか当たらないかのことだが、

 

 

 ある意味では偶然、ある意味では必然の結果となるのだ。」

 

 

カオス「小石を当てられたのが………必然?」

 

 

タレス「オサムロウさんがこれまで日常的に何か物を投げて他の物に当てたりするのが得意だったからですか?」

 

 

オサムロウ「それも半分は正解で半分は不正解だ。」

 

 

 益々オサムロウの話がややこしくなる。小石を投げて当てることの何が必然だったと言うのか。

 

 

オサムロウ「ソナタ等は後悔したことは無いか?」

 

 

タレス「後悔………ですか………。」

 

 

ウインドラ「………後悔等、

 エルフであるなら誰もがあるだろうに………。

 あの時もっと上手く行動していたらもっと別の結果があったのではないかと………。」

 

 

 ここにいる五人はそれぞれ大きな後悔を経験している。カオスは自分が殺生石の力を奪わなければミストでの事件は起きなかった筈、アローネはカオスを巻き込んでしまったことを悔いている、タレスはマテオに拉致されずに逃げ延びていればアイネフーレがどのような最期を迎えたのかを知れた。ミシガンはミストでの事件でウインドラの父を死なせてしまったことを悩み、ウインドラは力の無さを嘆きミストを飛び出した。皆が様々な想いで後悔をした結果この場所にいるのだ。後悔を経験していないわけがない………。

 

 

オサムロウ「…ではその後悔から“過去”へ戻りたいと思ったことは?」

 

 

カオス「…あります。」

 

 

アローネ「私もあります。」

 

 

タレス「ボクだって……。」

 

 

ミシガン「私も…。」

 

 

ウインドラ「小石を投げたことがあるかどうかよりもあるに決まっている。

 人は誰しも失敗したことがない者などいないのだからな。

 失敗をしてしまったら必ず“あの時にあぁしておけば”と悔やむ。」

 

 

オサムロウ「…それでは仮に時間が巻き戻りソナタ等が失敗をした過去へと戻るのだとしたら………、

 どうなると思う?」

 

 

「「「………?」」」

 

 

ミシガン「そんなの………一度失敗してるんだから次は二度目とは違う結果になるんじゃないの……?」

 

 

オサムロウ「果たしてそうかな?」

 

 

ミシガン「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「時間が巻き戻ると言うことはすなわちまた同じ結果を繰り返すと言うことですね?」

 

 

 オサムロウの問い掛けに対してアローネ以外の四人は同じことを想像したようだがアローネだけはオサムロウの意図を理解した。

 

 

オサムロウ「ソナタはプログラムの運命を飲み込めたようだな。」

 

 

アローネ「言葉の意味は難しくて分かりませんが内容は把握できました。

 

 

 つまり、物事の事象は全てがあらゆる事象の積み重なり………。

 いつ、どこで、誰が、どのようなことをする時、どのような思考と、どのようなコンディション、どのような気候や、どのような背景で、どのような結果をもたらすのか………。

 世界の時間軸を正確に固定して事象を繰り返して行ったところで結果は必ず同じ解を導き出す。」

 

 

オサムロウ「それで合ってる。

 ある事象が起こる際には絶対にその事象が起こり得るであろう情報のエネルギーが流れて結果を叩き出す。

 そのエネルギーの流れは突発的に起動を変えたりはしない。

 どんな事象もそのエネルギーの量だけしか事象を起こさない。」

 

 

ミシガン「ちょちょ!?

 事象だのエネルギーだの分けわかんないですけど!?」

 

 

 オサムロウとアローネの二人だけにしか理解できないような話でミシガンが喚き出す。カオス、タレス、ウインドラも同様だ。

 

 

アローネ「…先程の小石で例えるのなら……真っ直ぐ投げた小石が何の影響も受けずに直角に起動を変えることがあると思いますか?」

 

 

ミシガン「直角に?

 ………物凄く強い風が吹いたりしたらそうなるんじゃない?」

 

 

アローネ「その風の影響も無い場合の話ですよ。」

 

 

ウインドラ「……スピンをかけて投げればあるいは………。」

 

 

オサムロウ「それも無しだ。」

 

 

カオス「俺が投げると真っ直ぐ飛ばないんだよなぁ………。」

 

 

アローネ「この際コントロールの悪さは考慮しないとしてただ真っ直ぐに投げられた小石が直角に曲がるかどうかです。」

 

 

タレス「……そんなこと超能力でも使わない限り不可能ですね。

 力学的に真っ直ぐに進む小石を何の力も働かせずに直角に曲げるだなんて……。」

 

 

オサムロウ「……そういうことだ。」

 

 

「「「「え?」」」」

 

 

アローネ「そう、

 不可能なのですよ。

 小石が直角に曲がると言うことは。

 

 

 ……“後悔先に立たず”と言う言葉がありますが私達は常に過去の経験や趣向で物事を判断しています。

 その人が辿ってきた人生での出来事を元にしてあらゆる判断をくだしその人が取るべき選択肢は常に決まっているのです。」

 

 

オサムロウ「“道が二つに別れている。

 一度目は右に進もう。

 そしてまた別れ道があった。

 今度は左に”

 ………人の人生はずっとこのようなことの繰り返しなのだ。

 一度目の体験があったからこそ二度目は違うやり方を取る。

 過去に戻ったところで二度目にはならずまた一度目からのやり直しだ。

 後悔したことも無かったことになり結局同じ結末を迎えることになる。」

 

 

ミシガン「仮の話なんでしょ?

 記憶を引き継ぐとか出来ないの?」

 

 

オサムロウ「それこそ先程の直角に曲がらない小石の話になる。

 何故現在に未来の記憶を持った者が存在するのだ。

 そんなことが出来れば人は後悔などしたりはしない。」

 

 

ミシガン「でも…!

 残酷すぎない……?

 全てのことが決まって起こってるだなんて………。」

 

 

オサムロウ「それがカタスティア様の仰られる世界がプログラムで構成されていると言うことだ。

 あらゆる事象が理由あって起こるのがこの世界なのだ。」

 

 

カオス「…もし本来進んでいた道とは違う道を辿れたらどうなるんですか…?

 その世界がプログラムって言う話だと。」

 

 

アローネ「それは………。」

 

 

オサムロウ「……もしそのようなことがあれば………、

 投げた小石が不自然に直角に曲がるようなことがあれば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “エラー”の存在によって世界が止まるか、またはエラーそのものがこの世界から弾き出されてしまうのだそうだ………。」



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正式にサムライと…

ダレイオス支部カーラーン教会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………要約するとカーラーン教会の人達は全ての幸不幸をあるがままに受け止め感情を宥めているようだ。どんなに悪いことが身に降りかかってもここはそういう世界なのだから仕方が無い、怒るだけ無駄にエネルギーを消費してしまうと………。

 

 

 カオスはそれをただ全てを諦めているだけなのではないか?と思ったがそこにいるその人達に価値観が自分達と違うだけで否定しまうこともないと口にすることは無かった。

 

 

カオス「……そんな風に受け止めてたら………俺は騎士なんか目指さずに努力することすら投げ出して………あの村でどう過ごしてたのかな………。」

 

 

 幼い頃の自分は自分が人より劣っている能力しか無いことを自覚していた。人より劣る自分は一体何が出来るか?それを考えた結果皆が簡単に手にしていた魔術ではなく体技で人より優れれば良いのだと考え誰よりも強い自分を目指し体を鍛え続けていた。それでも肉体のみの力では他人が使う魔術には敵わなかったがそれでもあの時………子供の時に魔術など無くとも苦戦に次ぐ苦戦でもぎ取ったあの一勝は何とも言えない超越感に満たされた。あの勝利はあの時までのカオスの全てを肯定してくれるかのような達成感と優越感、その他にも色々な正の感情を溢れさせるようなそんな勝利感があった。どんなに能力が劣ってたとしても努力すればいつかは掴めるものがあるのだ、自分の努力が少しずつだが回りの同い年の子達を追い抜いて自分は強くなれたんだ。あの頃の自分はそんな感情でいっぱいになり調子に乗っていた。

 

 

 ………直後あの事件が起こって、そして全てが終わってみれば自分が数年かけて磨きあげてきた努力の何十………何百何千………何億倍………にも上る果てしない“力”を手にすることとなった。この力を手にした当初の感想は一瞬だけ全能感に心が支配された。

 

 

 その直後にミストの人達からの批難の嵐。この力は本来は俺の力じゃない。あのミストの殺生石の精霊のものだ。それを高々十歳程度のガキに持っていかれただけでなくあの事件が巻き起こる切っ掛けを作り、果てには村の人達がずっと疎んでいた騎士団在住………。

 

 

 ………俺はもうあの村に戻ることはとっくに諦めた………。俺が弱かろうが強くなろうがどうなったってあの村の人達は俺のことを認めない。あの村で生まれ育ったけどもうあそこには俺の居場所はない。俺が手にしたこの精霊の力も発現してからは何をやっても俺の力じゃない。精霊の力だ。誰かこの気持ちが分かるだろうか?今まで自分が積み上げてきた努力が一瞬にして全く別のものに変わってしまう………言うなれば完全に別の人の人生を歩んでいるようなそんな錯覚感…………。

 これで記憶まで別の人のものになっていてくれたら善かったんだけどちゃんとカオス=バルツィエ自身の記憶がある。俺は俺なんだ。別人に生まれ変わりたくても俺と言う存在がここにある。ミストでのたいざい人カオス=バルツィエとしての記憶が。

 

 

 ………けれど幼い時の俺はもうあの村で死んでしまった………。希望に満ちて努力を怠らなかったあの頃の俺はもう………。

 

 

 ここにいるのは………ただただ過去の罪をどう購えばいいのかが分からずひたすらにミストから逃げてミストの代わりに世界を救おうとしている大魔導士軍団(仮)のカオス=バルツィエ。

 

 

 ミストよりも大きな世界を救おうとして帳消しになる訳がないのに頑張っちゃってる俺………。

 

 

 結局俺は………何がしたいんだろうな………。

 ………本当は何もしたくないのかも………。

 けどこんな力を持っちゃったからには俺がやらないといけない。俺がやらなかったら誰も世界を救えない。だから俺がやる。俺自身の人生がどのくらい続くのか分からないけど続く限りは俺が身を粉にしてでも走り続けなければならない。

 

 

 俺は……自分自身の望み全てを捨てる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ここの人達は………全てを諦めている。

 俺ですら将来とかそんな先の希望を捨てたとしても感情だけは持っている。泣いたり起こったり何かを感じたりはする。

 

 

 ………なのにここの人達はそんな心の感情すら諦めている。

 

 

 あの後コーネリアスがここにいる教会の神父達を集めて演説を始めて皆の反応を見て俺はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………本来責められる筈の立場ですのに不思議な気分です。」

 

 

ウインドラ「コーネリアス枢機卿の演説が大分俺達を擁護しての話だったからだと言うのは分かるが………。」

 

 

タレス「誰一人不平不満を溢すような人がいませんでしたね。」

 

 

ミシガン「私さっき演説終わって解散した人達の話をこっそり影で聞いてたんだけど皆全然私達のこと悪く言ってなかったよ。

 それどころかこれから何しようか、とかそんなどうでも良さそうなこと話してた。」

 

 

オサムロウ「ここの者達は皆生まれながらに純血種のエルフに蔑まれてきた者達ばかりであるからな。

 今更エルフによる被害など慣れておるのだ。」

 

 

カオス「慣れているにしてもカタスさんが一大事なんですよ?」

 

 

オサムロウ「我もそこが気掛かりではあるがあの方はこれまでどのような危機もお一人で解決してきた。

 その実績があるからこそここの者達もカタスティア様を信じて待つことが出来るのであろう。

 …我はこの瞬間にもマテオへと向かい助太刀にマイリタイところだがな。

 残念なことに今単独でマテオへと向かうのは危険であろう。」

 

 

アローネ「オサムロウさんはこれからどうなさるおつもりですか?

 教会での調査は枢機卿から全てお聞き出来たのではないかと思うのですが………。」

 

 

ウインドラ「また………セレンシーアインへと戻るのではないのか?」

 

 

オサムロウ「………我もそう思っていたのだがな。」

 

 

「「「「「?」」」」」

 

 

オサムロウ「………もう少し………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソナタ等と共にいようと思う。」

 

 

タレス「?

 ファルバン族長達のことはいいんですか?

 これから大変な移動作業になると思うんですけど。」

 

 

オサムロウ「それも大事だがな。

 この前のイビルリッパーの件でソナタ等を見張っていないといけないと思ったのだ。

 特にカオスは大きな力を持つ分その使いどころを誤って街や他のエルフ達を巻き添えにしかねん魔力を持っている。

 今ソナタ等はまともに火と氷の術を使えんのであろう?」

 

 

タレス「武具に属性付与の改造を施せばその問題も解消出来ると思いますが?」

 

 

オサムロウ「武具に付与する属性攻撃よりも魔術の方が強かろう。

 かといって火と氷が使えるカオスはそう易々と魔術は使えん。

 ………やはり我が着いていくとしよう。

 その方がダレイオス西側へも案内が出来るであろうしな。」

 

 

カオス「…本当にいいんですか?

 スラートの人達が大変な時に………。」

 

 

オサムロウ「いいと言っているだろう。

 せっかくヴェノムに免疫が出来たのだ。

 倒せないまでも刀を振るうことは出来る。

 ソナタ等のフォローぐらいのことなら出来るつもりだ。」

 

 

アローネ「…では引き続きこれからも宜しくお願いします。」

 

 

オサムロウ「任せておけ。

 

 

 ソナタ等の支援、惜しみ無くこの刀の力を振るわせてもらおう。」



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コーネリアスとオサムロウの素性について

ハーゲル道

 

 

 

 正式にオサムロウが仲間となりカオス達はクリティアの村ヴィスィンに向かっていた。その道中でカオスはカーラーン教会でコーネリアスの話を聞いてから気になっていたことを質問してみた。

 

 

カオス「オサムロウさん。」

 

 

オサムロウ「何だカオス。」

 

 

カオス「コーネリアスさんってどのくらい強いんですか?」

 

 

オサムロウ「何故そんなことを訊く?」

 

 

カオス「オサムロウさんとコーネリアスさんの話を聞いてたら二人がカタスさんと一緒にカーラーン教会を作ったみたいな風に聞こえて………それで二人が剣を振るったって言ってたから………気になったんですけど………。」

 

 

アローネ「そうですね、

 私も気になっていました。

 お二人はいつ頃からカタスと一緒にいたのですか?」

 

 

ウインドラ「カーラーン教会は今のようにマテオとダレイオスの二大国状勢になる前からあったと聞く。

 大分長い付き合いになるんだろう?」

 

 

 カオスの質問にアローネとウインドラも便乗する。二人ともカタスティアとは十年にも及ぶ付き合いがあるためカタスティアの交遊関係に興味があるようだった。

 

 

オサムロウ「…先ずカオスの質問に答える前に彼との付き合いから話すが彼とはマテオが建国してから直ぐに知り合った。カタスティア様と彼はマテオの建国に携わっていてな。

 マテオが国として出来上がってから直ぐに彼等はダレイオスへと渡ってきたのだ。

 そして二人が我と出会った。」

 

 

ミシガン「へぇ~、

 どんな出会いだったの?」

 

 

オサムロウ「始めの邂逅は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 御互いに剣を向けあっての決闘だった。」

 

 

「「「「「え?」」」」」

 

 

 予想に反してオサムロウとカタスティア達の出会いは過激なものだったようだ。カオス達は普通の出会いをして普通に仲良くなったのかと思っていたようだが………。

 

 

オサムロウ「最初の頃は東の大陸から何やら強大なマナを持つものが渡って来ることがよくあってな。

 後にバルツィエの家の者だと知るのだがそれまでは船で渡ってくる者は皆侵略者だと思い迎撃していたのだ。

 カタスティア様と枢機卿とは彼女等が渡航してきた折に戦ったのだ。」

 

 

アローネ「カタスが戦ったのですか?」

 

 

オサムロウ「我が剣を交えたのはその時は枢機卿とだけであった。

 カタスティア様は後ろで見ておられただけであった。

 枢機卿とは一時間に及ぶ決闘の末に………。」

 

 

タレス「勝ったんですか?」

 

 

 タレスがオサムロウが言いよどんでいたので先に結果を予言する。セレンシーアインでオサムロウがダレイオス最強の剣闘士だとファルバンから聞かされていたのでそう予想したのだがしかし………、

 

 

オサムロウ「枢機卿との勝負は引き分けだった。」

 

 

ウインドラ「引き分け………?

 勝負が着かなかったと言うことか?」

 

 

タレス「ダレイオス最強のサムライを相手に引き分けだったんですか?」

 

 

 五人は驚きを隠せなかった。先程のコーネリアスは見た目的には怪しげな雰囲気を纏わせているがカオスを圧倒する程の剣格オサムロウと引き分けるほどの実力があるとは思えなかったからだ。

 

 

オサムロウ「何も不思議なこともあるまい。

 我はダレイオスの公式的には“闘技場”で名を馳せていただけで大会で優勝するようなことがあったとしても文字通りダレイオス一の強者だったと言うことではない。

 当然闘技場大会に参加しなかった者達の中にも我に差し迫る程の強者など数多くいるであろう。

 それにあくまで“エルフ”達の中での一番だ。

 あのカーラーン教会には中々の力を持つハーフエルフ達だっている。

 あの者等が大会に出場する資格さえ持っていれば我のダレイオス一の称号も返上しなければならなかったであろうからな。

 

 

 ………何より我はこの刀をカタスティア様からいただいたのだ。

 カタスティア様に会うまでの我は単なるけも…………。」

 

 

ミシガン「けも………?」

 

 

 オサムロウが何かを言いかけて止めた。

 けも…から先の言葉が続かず一同は待っていたのだが、

 

 

オサムロウ「………我は枢機卿との勝負を経てカタスティア様を知りその崇高な理念をも知った。

 その理念に共感し我も枢機卿と共にダレイオスにカーラーン教会を設立しようと思ったのだ。

 その当時から既にハーフエルフは迫害されていたからな。

 強き力を持っていてもその数の少なさからダレイオスでは居場所が無く生まれて直ぐに捨てられるか両親共々追放となるか………、

 そんな彼等にどうにかして居場所を作ってやりたかったと常々思っていたので我もカタスティア様の計画に乗ることにしたのだ。」

 

 

 オサムロウは先程の言葉から被せるように別の話題を話す。彼にとってはカオス達に話すつもりは無かったことを言いかけていたらしい。なんとなく察した四人は深く追求しないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「前から思ってたけどオサムロウさんってどこの部族の人なの?」

 

 

オサムロウ「………」

 

 

カオス「ミシガン………。」

 

 

 一人だけ空気を読まずに追及してしまうミシガン。ここまでの話の総合するとオサムロウはスラート族と共にいたがカタスティアの仲介でスラート族の仲間に入れたようだ。そしてハーゲル道に来るまでの話では元々ダレイオスにはいたようだがカタスティアとコーネリアスと出会うまではどうやら一人でいたらしい。このダレイオスの国にはアローネが言うエルフとヒューマの混血種とは違う九の部族の組み合わせの血を持つハーフエルフが存在する。彼等は例え力があったとしても認めてもらえず嫌われ追い出される。認められるのは………純血種のみ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ではオサムロウは一体どの部族の者なのか………。ダレイオスにいると言うことは九の部族のどれかに当てはまる筈だがミーア族やクリティアの長老の様子を見た限りではその二つではない。ましてやタレスと同じアイネフーレであったらタレスが何かしら知っている筈………。だがタレスもオサムロウの話はどこか別の街の人の話のように説明していた。アイネフーレでもない。残りは五つの部族のどれかだが………。何故彼は元の部族を離れたのか?可能性としては何かしらの事件でも起こりその五つの部族から追放または出ていく羽目になったか………。

 

 

 ………もしオサムロウがハーフエルフであったとしたら何故彼だけがスラートに受け入れられているのかが疑問になる。混血と言えど手元に置いておきたい程オサムロウが強いからか………?もしくは彼がハーフエルフと言うことをスラート族に伏せていたのか………?しかしそれでは九の部族がまだ一つだった頃にどこかでオサムロウの正体を誰かしらが突き止めようとするだろう………。

 

 

 果たして彼は一体………?

 

 

 ………と五人が思考の迷路をさ迷っていたところで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「…我の素性はいつか………、

 我が話せるようになったらその時に話すとしよう………。

 今はまだその時ではないのだ………。」

 

 

 そう言ってオサムロウは歩きだした。その背中からはこれ以上の詮索は無用だ、と物語っているかのようだった………。

 

 

 カオス達はオサムロウに続いて次の目的地ヴィスィンへと歩を進めるのだった……………。



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雪降る空

シュネー雪林道

 

 

 

 カオス達はハーゲル道から雪の積もるシュネー雪林道まで歩を進めていた。急激な気温の変化で六人は………、

 

 

ミシガン「………フッ、クチュン!」

 

 

タレス「………」

 

 

アローネ「大丈夫ですか?

 ミシガン。」

 

 

ウインドラ「この寒さは身に堪えるな………。

 カーラーン教会で防寒着でも借りてくればよかったか………。」

 

 

オサムロウ「風邪をひいてしまっては大変だな。

 ここらで一度休憩を挟んで暖まった方が善いのではないか?」

 

 

カオス「…そうですね。

 そこらの木から枝を集めて焚き火を焚きましょうか。」

 

 

ミシガン「………もう!

 何でこんなに寒いのよこの地方は!」

 

 

タレス「仕方ないですよ。

 この付近は年がら年中寒いことで有名なんですから。

 一説には“氷の精霊セルシウス”がいるとすればこの地方だと言われてたくらいですから。」

 

 

ミシガン「………氷って要するに冷たくて氷った水みたいなもんでしょ?

 何で私は水は平気なのに氷は駄目なの!」

 

 

カオス「水と氷って………確かに似たような物だとは思うけど………。」

 

 

 ミシガンがまたフロウス道の時のように弱音を吐き出す。あの時は単純に歩き旅に疲れたようなことを言っていたが今度はこの気温の寒さについてのようだ。

 

 

オサムロウ「成分物質的には水と氷は等しき物質だが我等が使う基本六元素の魔術に関して述べるのであれば水と氷は全くの別物だ。

 水や雷は物理的に“流れる物”、

 氷は“冷凍する物”だ。

 その実氷に冷やされれば水は氷に変わり土や木、風も冷風から吹雪へと変わる。

 気象的な面で言えば火と氷は他の四元素よりも環境に影響を与えやすい性質を持っている。

 火は熱を持ち熱は生物の成長を促進させる。

 氷は物質を冷却し作物が育ちにくくなる。」

 

 

ミシガン「何よ、

 氷って汚点しかないじゃないの。」

 

 

オサムロウ「何事もバランスと言うものが大事だ。

 熱だけあっても世界はただ暑くなる一方だ。

 適度にどこかで熱を冷まさなければ草木も水分が一気に蒸発してやがて干からびる。

 “四季”があるからこそ世界は生命が途絶えること無く続けられているのだ。」

 

 

カオス「ミストでは一年中通して暖かかったからミシガンにはこの地方はキツい気候なのかもしれませんね。」

 

 

ミシガン「……カオスだってずっと旧ミストにいたじゃない。

 あそこだってミストとそう気温が変わらないのに何でカオスは平気そうなの?」

 

 

カオス「俺は………殺生石のお陰かな?」

 

 

ミシガン「私だって今じゃその殺生石の力を持ってるのに何でカオスだけ大丈夫なのよ。

 ちょっとその体質変わりなさいよ。」

 

 

カオス「変わってあげたいのはやまやまなんだけどなぁ………。」

 

 

アローネ「あまり無理を言うものではありませんよミシガン。

 カオスが困っているではないですか。」

 

 

ミシガン「…何かアローネさんも平気そうだけど………?」

 

 

 ミシガンの中で矛先がカオスからアローネに変わる。普段はここまで絡むようなことは無いのだが余程この寒さで自分だけ寒がっていることに納得がいかないようだ。

 

 

アローネ「私は………このローブがありますから。」

 

 

ウインドラ「そんな薄そうなローブで平気なのか?

 俺はこう見えて結構着込んでいるから寒くはないがアローネ=リムやカオスのその格好だとどうにも防寒には向いていないように思えるが…。」

 

 

アローネ「そういえばカオスにしか話していませんでしたね。

 私のこのローブは術式が組み込まれていて着ている私の体温に合わせて温度を調節してくれるのです。

 ですからどんな暑さや寒さの中でも私をその環境から守ってくれるのです。」

 

 

ミシガン「何それ!?

 そんな服がこの世界にあったの!?

 それスッゴい欲しいんだけど!!」

 

 

ウインドラ「落ち着けミシガン、

 ………しかしそんな衣類は俺も初耳だな。

 耐性付与の術式なら聞いたことがあるがそんな高性能な術式が存在したのか…?」

 

 

アローネ「義兄のオリジナルの術式ですから…。

 本当は体調を崩しやすかった姉の為に作られた術式なのです。

 姉が亡くなった後は私がこの服を御下がりでいただきました。」

 

 

ウインドラ「聞けば聞くほどアローネ=リムのその義兄について興味が尽きないな………。

 医者と言うのはそんなところにまでケアを怠らないために術式を開発してしまうものなのか………。」

 

 

アローネ「細かく言えばもっと他にもいろんなオリジナルの術式があったのですが……今はこのローブだけが義兄の唯一の術式です。」

 

 

ウインドラ「……その技術力は………、

 復活するようなことがあればヴェノムだけでなく他の様々なことにも貢献できるな。

 どうにかしてアローネ=リムの義兄の居所が掴むことが出来さえすれば………。」

 

 

タレス「そのためには先ずダレイオスを再建するところから始めないといけませんよ。」

 

 

ウインドラ「………そうだな。

 何事も順番に終わらせていかねば先には進めないからな。」

 

 

ミシガン「……アローネさん。

 暖かいところに着いたらでいいからそのローブ一度私も着てみさせてくれない?

 どういう感じなのか私も体験してみたいんだけど…?」

 

 

アローネ「構いませんよ。

 クリティアの村ヴィスィンに到着したらミシガンにこのローブをお貸ししますよ。」

 

 

ミシガン「本当!?

 やったぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「騒がしい連中だな。」

 

 

カオス「そうですね………。

 皆はいつもこんな感じですから。」

 

 

オサムロウ「………悪いことではないな。

 この活気がダレイオス全土にもうすぐ弘めることが出きるのであれば我も嬉しい限りだ。」

 

 

カオス「…案外こういう感じの空気も良いものですね。」

 

 

オサムロウ「何を言っているのだ。

 ソナタもあの連中の一員ではないか。

 混ざってこなくていいのか?」

 

 

カオス「…なんか、

 あぁいう感じの話は苦手で………。」

 

 

オサムロウ「以外だな。

 ソナタの回りにはいつも誰かがいると思うのだが?」

 

 

カオス「………少し前までの俺はああいう輪の中には入れませんでしたから………。」

 

 

オサムロウ「………そうか、

 そういう話であったな。

 気を悪くさせたか?」

 

 

カオス「いえ………。」

 

 

 実際のところは少し居づらさを感じていたカオス。先程のミシガンの話からミシガンが異常に寒さに弱いのはカオスが持つ殺生石の影響からなのだと思い会話の輪の中から距離を置きたかったのだ。

 

 

カオス「……ちょっと枝拾って来ますね。」

 

 

オサムロウ「我も手伝おうか?」

 

 

「いえ、

 一人で大丈夫ですから。」

 

 

 そう言ってカオスは燃えやすそうな枝を集めに向かった。

 

 

オサムロウ「…………………いづれは慣れてもらわねばな。人の輪の中というものに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 将来的にはソナタがこのダレイオスの中心となってこの国を変えていくことになるのだから………。」



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クリティアの村ヴィスィン

クリティアの村ヴィスィン

 

 

 

 カーラーン教会から発って三日が経ちカオス達は漸くクリティアの村ヴィスィンに到着した。シュネー雪林道の途中から雪が降りだしていたため予想はしていたがこのヴィスィンでも相当な量の雪が積もっている。

 

 

ミシガン「着いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 到着するやいなやミシガンがダッシュで村の中へと入っていく。道中ずっと寒さで震えていたので早く建物の中へと入って寒さから逃れたいのだろう。

 

 

カオス「ミシガン!

 どこへ行くんだ!?」

 

 

ウインドラ「そんなに走ったら雪で滑って転ぶぞ!」

 

 

 カオスとウインドラが注意するがミシガンは聞く耳を持たず颯爽と駆け抜けていき………、

 

 

 見事に転ぶ。

 

 

ミシガン「ぶふっ!!?」

 

 

アローネ「大丈夫ですか!?

 ミシガン!!」

 

 

ミシガン「なっ、………なんとか………。」

 

 

タレス「お約束に忠実な人ですよね。」

 

 

カオス「ミシガンっておっちょこちょいなところあるから…。」

 

 

 心配してミシガンの元へと駆け寄るアローネとそれを端から見て呆れるその他。寒い気持ちは分かるがかえって雪にダイブすることになり余計に寒い思いをしてしまってはもともこもない。こうした雪で滑りやすい土地で転ぶと雪が服に付着しその雪が体温で溶けて服が濡れてしまい更に体を冷やす結果となる。雪国に来たことが無かったミシガンはそれを知らずに滑って転び寒さから逃れたい筈が逃れることの出来ない状態になってしまった。

 

 

ミシガン「はっ、早く!!

 早くどこか建物の中へ!!」

 

 

オサムロウ「そうだな。

 本格的に風邪を引いてしまってはこの地方では長引いてしまう。

 すぐそこの民家へ入ることを勧めるぞ。」

 

 

ミシガン「わっ、分かった!」

 

 

アローネ「ちょっと待ってください!

 突然見知らぬ人がいきなり自宅へと上がり込んで来たら強盗と間違われて……!!」

 

 

 アローネが民家へと入っていこうとするミシガンを止めようするが時既に遅くミシガンは中へと入っていき中の住人から………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリティア族の村人「ん~?

 おやぁ~お客さんかなぁ~?

 今日はお客さんが来る予定があったかな~?

 あったような無かったような~………。

 とりあえずお茶でも出そうかな~。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暖かく迎え入れられた………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリティア族の村人「ほ~ん?

 ワザワザマテオの南の方からやって来たのかい~?

 それはそれは遠いところをよくおいでなすったね~。

 外は寒かったでしょう~?

 ここでゆっくり暖まって行きなされ~。」

 

 

カオス「あっ、有り難うございます?」

 

 

 ミシガンが急に家の中へと侵入してきたにも関わらずクリティア族のこの男は驚くでもなくカオス達を室内へと上げた。室内は暖炉が備えられており外の雪の世界とは隔絶された温暖な空間となっている。寒さで凍えていたミシガンはすっかり元気を取り戻して今は暖炉の前で服を乾かしながら暖まっている。……いくら寒いとは言っても今日初めて会った人の家の暖炉で寛ぎ過ぎではないか?見ればタレスもミシガンの横にいる。タレスはミシガンのように寒いとは一言も訴えてはいなかったがやはりこの外の寒さでは彼も体が冷えたのだろう。こののほほんとしたクリティア族の男が特に気にしている様子は無かったのでそっとしておくことにする。

 

 

クリティア族の男「それで旅人さん達は何でこの村に来たんだい~?」

 

 

オサムロウ「先日レイディーと言う女性が来てこの村付近に生息していたヴェノムの主が討伐されたであろう?

 彼等はそのレイディーの仲間だ。

 オーレッドがセレンシーアインに来てその話をしてきたのでその事実の確認とこの者等がヴェノムウイルスを抑制する秘術を編み出したので今回の来訪でソナタ等クリティアにもこの秘術を受けてもらいより一層ヴェノムに対する被害を減らしに参った。

 そして出来ればその秘術をソナタ等に解析してもらってより簡略化し誰もが使えるような術に改良して欲しい。」

 

 

 オサムロウがここへ来た目的を全て分かりやすく解説してくれた。カオスも同じことを言おうとしたが人に何かを説明することに慣れていない自分よりかはオサムロウの方が話上手だったのでここは黙っておくことにする。

 

 

クリティア族の村人「あ~あ…、

 お嬢さんのことだね~。」

 

 

 ……どうやらレイディーはクリティア族の皆からお嬢さんと呼ばれているようだ。………と言うことは………。

 

 

クリティア族の村人「君等がお嬢さんの言っていた助手さん達かぁ~。

 へぇ~~、

 なんだか君はサムライに似てる気がするけど~。」

 

 

オサムロウ「………似ているのではない。

 本人だ。」

 

 

クリティア族の村人「あ~あ、

 道理で似ていると思った~。

 サムライ本人だったんだね~。

 サムライもお嬢さんの助手になったんだね~。」

 

 

オサムロウ「……どうもクリティアの者達と話をすると調子が狂うな………。

 まともに話が成立するのがオーレッドしかいないとは………。」

 

 

アローネ「何だか想像していた人物像と違いますね………。

 スタデ………………クリティア族の方は皆このような話し方をなさるのですか?」

 

 

 今度はアローネがカオスが考えていたことを質問する。がクリティア族とは別に何か違うことを言いかけた。スタデ………とは何か?と聞こうとする前にオサムロウが質問に答えてしまいカオスは質問し損ねる。

 

 

オサムロウ「最初に出会ったのがあの口の悪いジジィだったから潜入感が働いてしまったか?

 あんなのはあのジジィだけだ。

 クリティアはこの者のような口調とお気楽思考が大半だ。

 話していると妙に疲れるのだ。

 これで九の部族の中でも頭がキレる連中だというのだから世の中は間違いだらけなのだと常々そう感じる…。」

 

 

 オサムロウはクリティア族のことがあまり好きではないらしい。と言うよりかは苦手意識のようなものを持っていると言った方が当てはまる。先程の会話からでもオサムロウとこの男の話が何かお互いに一人言を話していたようにも思えた。そのくらい口調に差があるとそんな様子であった。確かに知的に感じはしないが………。

 

 

クリティア族の村人「その秘術ってのを僕にも見せてもらえるかな~?

 どんな術なのか見てみたいし~。」

 

 

アローネ「構いませんよ?

 では………。」

 

 

 アローネがレイズデッドを発動させようとして詠唱を始めようとする。だが………、

 

 

アローネ「彼の者を死の淵より…………!?」

 

 

ウインドラ「どうした?

 何故詠唱を途中で止める?」

 

 

 アローネが詠唱の半分辺りで急に何かに驚いて詠唱を止めた。彼女の様子から大変な事態が起こったと分かるが、

 

 

カオス「どうしたのアローネ?」

 

 

アローネ「……………術が………レイズデッドが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発動出来ません!」

 

 

カオス「発動出来ない?

 マナが足りないってこと?

 だったら俺の「そうではないのです!」」

 

 

アローネ「今までこの術は詠唱の時点で私の中のマナを術が吸い上げていくような変動する感覚が発生していたのですが………、

 今私が詠唱を唱えていた時にその感覚がありませんでした………。

 恐らく詠唱を完成させても術は発動しないでしょう………。」

 

 

ウインドラ「術が………使えなくなったと言うのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………はい。」

 

 

 ………本当に大変な事態が起こっていた。レイズデッドの術があればダレイオスの人々をヴェノムによる死の恐怖から救ってあげられると思ってここまで来たというのにその術が使えなくなってしまうとは………。

 ………これはもしやミシガンにも同じ現象が起こっているのではないか………?そう思ってカオスはミシガンに声をかけようすると………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリティア族の村人「あ~あ、

 ごめんね~。

 この村は“アンチマジック”っていう術式で囲まれているからこの村の中では魔術の類いは使えなくなっているんだよ~。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………単なる早とちりのようだった。

 よくよく思い出してみれオーレッドがそんな話をしていた気がする………。

 



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ヴェノムによる顛末

クリティアの村ヴィスィン 外

 

 

 

アローネ「『彼の者を死の淵より呼び戻せ………レイズデッド。』」

 

 

クリティア族の村人「へぇ~、

 これが君達の秘術ってのなの~。

 確かになんかちょっとマナの流れが良くなった気がするよ~。」

 

 

カオス「よかった。

 ちゃんと術が使えるようだね。」

 

 

 あれからカオス達はクリティアの男と一緒にヴィスィンを囲む魔封じの結界から外へと出て術が発動するのかの確認と男に術を見せる目的兼体験してもらうことにした。結果は心配していた魔術が使えなくなるという不安も晴れて無事術が発動できた。そのことでカオスとアローネは一安心したところだ。

 

 

クリティア族の村人「これで僕もヴェノムに触っても平気なの~?」

 

 

アローネ「えぇ、

 これから貴方はヴェノムウイルスが効かなくなった筈です。」

 

 

クリティア族の村人「そっかぁ~、

 これからはヴェノムに触りたい放題なんだね~。」

 

 

カオス「え!?

 好き好んで触りに行くような物じゃないと思いますけど…。」

 

 

 洗礼の儀を終えて男は不穏な願望を口にし出す。これまでこんなことを言い出した者は一人もいなかったのでカオスとアローネはこの触る発言に戸惑った。ウイルスが効かないにしてもヴェノムはとても綺麗な物とは言えない。見た目の醜悪さからしても不潔さが満載だ。ヴェノムウイルスの名前からして風邪などの病原菌の最上級に位置する物だとも考えられる。ヴェノムは人が自ら触りに行くようなものではないのだが………。

 

 

アローネ「私達もこのレイズデッドに関してはまだまだ未知の部分が多いのであまり無茶なことは慎んで下さいね?」

 

 

クリティア族の村人「う~ん、

 でもヴェノムに触ってもジェネレイトセルが活性化しないのなら無性に研究意欲が湧いて来るんだけどな~。」

 

 

カオス「ジェネレイトセル……?

 確かオーレッドさんがクリティアではヴェノムウイルスのことをそう呼んでるって言ってたなぁ………。」

 

 

アローネ「何故クリティア族の方達はヴェノムウイルスのことをジェネレイトセルと呼称しているのでしょう?」

 

 

 オーレッドが話していた時は単なる呼び違いなのだと思って質問しなかったがここでまたその名が出てきたためカオス達は男に質問してみる。クリティアはヴェノムウイルスについて何か掴んでいるのだろうか…。

 

 

クリティア族の村人「僕達が何でヴェノムウイルスじゃなくてジェネレイトセルって呼んでるのか知りたいの~?」

 

 

アローネ「えぇ、

 クリティアの方々はダレイオスの他の部族の方々の中でもヴェノムに関する研究は進んでいるとお聞きしたので。」

 

 

クリティア族の村人「そうだね~。

 でも僕達もヴェノムを遠くから観察してジェネレイトセルがどう作用しているのかとかを予測しているだけだしね~。

 とりあえず今分かっている範囲でなら答えられるよ?」

 

 

カオス「それでいいのでお願いします。

 ヴェノムウイルスが何なのか分かれば世界からもっとヴェノムウイルスを減らせると思うので。」

 

 

クリティア族の村人「う~んとね?

 僕達も何でこのジェネレイトセルが発生しだしたのかは分からないんだけどね?

 ジェネレイトセルが何の目的で作られたかだけは理由は分かってるよ~。

 このジェネレイトセルはね~、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生物のマナ、別の呼び名で“遺伝子”を強化する作用があるんだ。」

 

 

カオス「いでんし…?」

 

 

 カオスは聞いたことのない単語でピンと来なかった。別の呼び名で遺伝子………元の呼び名がマナならマナを強化すると言うことだとは思うが………。

 カオスが遺伝子の単語で反応はしなかったがアローネは遺伝子と聞いて理解したようだ。

 

 

アローネ「遺伝子………を強化する?」

 

 

クリティア族の村人「そう遺伝子~、

 遺伝子を強化して全く別の生物に作り替えようって理由で人為的に誰かに作られた物だと思うんだ~。」

 

 

カオス「何の目的があってそんな物が作られたんでしょうか?」

 

 

クリティア族の村人「さぁ~、

 それは作った人にしか分からないと思うけど~。

 何の生物を参考にして作られたかは多分分かるよ~。

 

 

 君達プロトゾーンって知ってる~?」

 

 

「「!!」」

 

 

 プロトゾーン………またその名前が出てきた。レイディーが殺生石の精霊のことをそう誤解して出した名だ。どうしてその名がここで…?

 

 

カオス「レイディーさんから聞きました。

 彼女と一緒にいた時に一度その話を聞きましたから。」

 

 

クリティア族の村人「そうなの~?

 じゃあ全部知ってるんじゃないの~?」

 

 

アローネ「いえ、

 私達が知ってるのは過去に進化を重ねる生物がいたとしか…。」

 

 

クリティア族の村人「そうなんだ~。

 

 

 プロトゾーンはね~、

 遺伝子的にそういう進化を続けていく生物らしいんだ~。

 昔は一匹だけこのダレイオスにもいたみたいなんだけど最後に進化の兆候が出だしてからそれからその個体の行方が分からなくなってるんだ~。

 今はどこで何してるんだろうね~?

 文献では“魔を狩る人”と呼ばれる人型の進化を遂げるって聞くけど本当のところどうなんだろ~?

 このジェネレイトセルが蔓延する世界でたった一匹だけで生き残ってるのかな~?」

 

 

アローネ「プロトゾーンがまだ生息していたのですか!?」

 

 

クリティア族の村人「いたみたいだよ~?

 最後に目撃されたのは~………千年くらい前になるのかな~?

 長老が生まれる前の話らしいから断定は出来ないんだけどね~。

 でもまだどこかで生きている可能性も否定できないよね~。」

 

 

カオス「………」

 

 

 レイディーもそうだったが殺生石の精霊、ヴェノムの元となったプロトゾーン………この二つは何かしら関係があるのではないか?クリティアがはヴェノムウイルス、彼らの呼び方でジェネレイトセルは生物の遺伝子を強化する作用があるようだがそんなことをして一体何になる?依然聞いた話では進化する作用に力を掛けすぎて生物としての生命活動を維持できずに一日と持たずにヴェノムに観戦した生物は消滅する。今こうして俺達が倒して回っているヴェノムの主のような状態になれればある意味遺伝子の強化ということにはなると思うが………、

 

 

 

 

 

 

 殺生石の精霊は前に“生物はいつかは彼の前に辿り着く”と言っていた。

 

 

 ………振り返ってみれば殺生石の精霊は誰かに追われていてその誰かから見付からないように石の中に閉じ籠ったりカオス自身の中へと入ったりしていた。何故その誰かに見付かりたくなかったのか………?ただ単純に誰にも見付かりたくないと言うことだったらカオス達も例外ではない筈………。なのにどうして………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかこのヴェノムウイルスを作り出した者は手っ取り早くウイルスの力を使って進化し精霊に挑もうとしていたのではないか?それが気にくわなくて精霊はその者と遭遇するのを避けている。

 

 

 そしてこのウイルスを作り出した誰かはこの時代のエルフではなくウルゴスの時代の者だと殺生石の精霊が言っていた………。

 他にもこのウイルスを作れるのだとしたら細菌やウイルスに精通している医者だともここに来るまでの話で纏まっている…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 医者なのだとしたら今の時点で名前が上がるとしたら第一にアローネの義理の兄サタンになるが………アローネの話の印象からしてヴェノムのようの危険なウイルスを作るとは思えない………。

 

 

 ………とするともう一人はグレアムという第二王子の可能性が浮上するがまだよく彼のことを知らない………。

 

 

 

 

 

 ……………一人で考え込んだところでどうせ憶測だけの答えしか見つからない………。過去にヴェノムウイルスを誰かが作り出したのだとしてそれを復活させて利用しているのはバルツィエだ。ヴェノムの製作者もこの時代でアローネのように目覚めているのかも分からない。……下手したらウルゴスの時代で亡くなっていることだって考えられる。

 

 

 カオスはそこで推理するのを止めてアローネとクリティアの男の話に耳を傾けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ジェネレイトセルで進化した主等の生物は最終的にはどうなるのでしょうか?」

 

 

クリティア族の村人「僕達の見解だと無限に他の生物を吸収していって…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後はこのデリス=カーラーンで孤独で不死身の不老不死の生物の誕生だね~。

 その誕生から先は天敵もいないたった一匹だけの世界で退屈な時間を過ごしていくんじゃないかな~?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………本当にヴェノムと精霊はよく似ている………。

 

 

 殺生石の精霊も確かそんなことを言ってたな………。

 

 

 だからヴェノムをこの世界から排除したいのかな………。

 

 

 そんな退屈な世界で一人取り残されないために………。



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カオスの血の成分

クリティアの村ヴィスィン 長老宅

 

 

 

 カオス達は暖を取らせてくれた男と別れて六人でセレンシーアインで出会ったクリティア族の長老オーレッドの家へと来ていた。

 

 

オーレッド「なんじゃ来とったんなら真っ先にワシのとこへと来んか水くさい…。」

 

 

 怒っているような口振りで話すオーレッドたがその表情からは怒気は全く感じられなかった。それどころか親しい者に対する友好的な感情が感じられる。出会ってからまだ一日以上の時間を過ごしていないというのに彼の中ではカオス達は大分信用と信頼の度合いが高いようだ。一概に彼の人見知りしない性格もあるとは思うがそれは一旦置いておくとして、

 

 

カオス「すみません、

 一番にオーレッドさんの所に来るべきだとは思ったんですけど………、

 この地方があんまりにも寒かったから早く暖まりたくて入り口付近の家で暖を取らせてもらっていました。」

 

 

ミシガン「この村の周辺ちょっと寒すぎない?

 雪も降ってるし私雪国なんて初めて来たけどよくこんな所で村なんか作れるね?

 寒すぎて凍えちゃうでしょ。」

 

 

オーレッド「そうか雪を知らん所から来たんじゃったな。

 ……このヴィスィンは世界地図で言うと緯度がダレイオスで最も北の地点に位置する村じゃからな。

 南の方に行けば行くほど暖かい気候じゃからソナタ等のように出身地が南に位置する者達にとっては慣れん気候なんじゃろうな。

 ワシ等はもう慣れたのでこのくらいの寒さはどうってことはない。」

 

 

アローネ「慣れ………ですか……。」

 

 

ウインドラ「どうしてクリティアはこんな寒気の強い土地に村を構えているんだ?

 部族間の縄張り争いがあったとしてももう少し南でもまだそこまで寒さが厳しくはない場所があるだろう?」

 

 

オーレッド「まだまだ青いなぁ。

 この自然の厳しさこそが人がそれを乗り越える進歩を促せると言うのに…。

 技術や知識は何事も苦境に立ってこそ大きく進歩するんじゃ。

 人は皆快適な環境よりも厳しい環境に身を置いていた時の方が頭が働きやすい。

 ワシ等クリティアはあえて厳しい環境を選んでこの場所に村を作ったんじゃよ。

 そのおかげでワシ等はダレイオスでも屈指の技術開発部族として名が通っておるんじゃ。」

 

 

 クリティア族の者達は何も考えずにこの場所に住んでいる訳ではなさそうだ。楽をせず困難な環境下で生活するからこそれを乗り越えるために思考を凝らして日々知能を高めるトレーニングのようなことをしているのだろう。

 

 

オサムロウ「もっともらしいことを述べてるがクリティア族がここに住みだした理由は確か先代の長老が寒い地方だと研究に没頭しすぎて風呂に入るのを忘れても汗をかきにくいから頻繁に風呂に入らなくても体臭が臭いにくいとか言ってなかったか?」

 

 

オーレッド「これ!!

 せっかくワシ等の印象を良くしようとしておったのにネタバラシするでない!!

 彼等にクリティアが臭い部族だと思われるだろうが!?」

 

 

 ………真実は案外と単純な話だった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「……さて………、

 ここへ来たと言うことはワシ等にもソナタ等の秘術とやらを授けてくれるのであろう?」

 

 

アローネ「そういう約束でしたしね。

 オーレッドさんが一人で帰省なさったのでどうしようかと思っていました。」

 

 

ミシガン「貰うもの貰ったからには約束は果たさないとね。

 元々この地方には来る予定だったし。」

 

 

オーレッド「フム……、

 義理堅い助手さん達で大助かりだわい。

 この村へと来たからにはついでに他の者達にも授けてやってくれぬか?」

 

 

オサムロウ「始めからそのつもりでセレンシーアインを去ったのだろう?

 お前の企みなど読めておるぞ。」

 

 

オーレッド「むぅ…、

 ワシはいただいた血液を研究したかっただけなのじゃがなぁ………。

 まぁいい研究が出来たから良しとするか。」

 

 

 オーレッドがカオス達に何も言わずにセレンシーアインを発ったのはただカオスの血液を解析したかっただけのようでオサムロウが話していたような理由ではなかったらしい。

 

 

カオス「もう俺の血は調べ終わったんですか?」

 

 

オーレッド「あぁ、

 もう一通り調べたいことは済んだ。

 大変興味深かったぞ。

 

 

 やはりソナタ等が精霊と称するだけのことはあった!

 ソナタの血液からは多量の純度が高いマナが検出された!

 それもそこらに漂っているマナとは明らかに性質が異なるマナじゃ!

 もうこれは“第二のマナ”と言ってもいいくらいに別物じゃ!!」

 

 

 オーレッドが興奮気味に話を始める。カオス達は先程のクリティアの男の間延びしたような口調とはうって変わったオーレッドの早い喋り口調に一瞬理解するのが遅れるがなんとか要点だけを抽出して理解しようとする。

 

 

アローネ「第二のマナ………?

 普通のマナとどう性質が異なるのですか?」

 

 

オーレッド「それを説明する前に先ずソナタ等に考え直してほしいことがある。

 

 

 生命とは一体どのような者のことを言うかを。」

 

 

カオス「生命………?」

 

 

 いきなり哲学的なことを言い出すオーレッド。生命とは何か。この世界では生命は動物や植物など数多くの種がいる。それぞれが生きるために繁殖しまた新たに生命を作り出しその繰り返しで種が存続している。

 

 

 生命はどの種族も例外なくマナを保有しておりそのマナが続く限り生命活動をし続ける。生命は言ってしまえば肉体よりもマナそのもののことに当てはめられる。生物の肉体の中に存在するマナこそが生命と定義付けられる何よりの答えである。……何故こんなことを今さら考えさせられるのか………?オーレッドは何かもっと別の答案を答えさせたいのではないかと六人が同時に考えた時オーレッドが、

 

 

オーレッド「生命とは命がある、生きていると認識される生物全てにあるがそれは体の中の基幹的なものじゃ。

 種によっては体の半分を失っても死なない種やほんの少しの負傷で死に至る種もある。

 エルフにとっては脳と心臓さえ残っておれば腕を失おうが足を失おうが出血死か激痛によるショック死することにさえ気を付けておけば助かる。」

 

 

 結局簡単な答えをオーレッドが言ってしまった。その内容も特に捻ったようなものではなく誰もが常識と思っているようなことだった。クリティア族の長老のことだからもっと深いことを言うのかと思ったが…、

 …だが次に話した内容は何故生命について思考させたかを頷けるものであった。

 

 

オーレッド「マナも同様じゃ。

 マナは大気中にも微量に存在するがそのマナは生物の

血液と同じで生物の中では活性化するが一度魔術などによって外に放たれると一瞬だけ力を発揮した後は途端に空気と同化し世界の循環の輪に組み込まれるだけじゃ。

 生物の本体とも呼べる部分から切り離されればマナは普通のマナに戻ると言う訳じゃが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス助手、

 ソナタの血液に含まれておったマナはソナタから切り離されても生きておった。

 ソナタ等のマナは恐らく普通の者達とは比べ物にならないくらいの生命力に溢れておるのじゃ。

 それもただ生命力に溢れておるだけではなく生物のマナの流れを整える役割を持っておってな。

 マナを異常活性化させて暴走するジェネレイトセルが効かないのも納得じゃ。

 それを凌ぐほどのウイルスのようなものじゃからな。

 これは謂わば、

 

 

 生物に優しいウイルスじゃがの。」



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オーレッドへの依頼

クリティア族の村ヴィスィン 外

 

 

 

ミシガン「はい、次の人~!」

 

 

 あれから長くなった長老の話も終わって今は恒例行事となった洗礼の儀を執り行っている。村の敷地内では魔術が使えないため一度村の全員をヴィスィンの敷地外へと連れ出し作業を開始している。ヴィスィンの人工はおよそ二百人前後でスラートと並ぶ多さだったがアローネとミシガンの一人百人計算で作業をすれば半日程度で終わる計算になる。

 

 

オーレッド「凄まじいマナの内包量じゃな。

 エルフが一日に使える魔法の使用回数は大人でも二十はいかんと言うのにそれを二百人以上………。

 先日のソナタがセレンシーアインで放ったバニッシュボルトですら驚嘆に値するものだったのじゃが…。」

 

 

カオス「このくらいのことならもっといけますけど?」

 

 

オーレッド「……ソナタ等に渡したアオスブルフも形無しじゃな。

 ソナタ等はとくにマナの枯渇には困らんと言うことじゃしな。」

 

 

アローネ「そんなことはありませんでしたよ。

 長老からいただいたこの羽衣は思いの外役に立ってますよ。

 モンスターに攻撃するだけでなく防御もこなせる優れものです。

 この前も剣を受け止めるほどの強度がありましたので私は大助かりです。」

 

 

 旅に役立つのなら貰っておくのも悪くないと思って受け取ったアオスブルフだったが一番それを有効活用しているのはアローネだった。タレスやウインドラも武器の攻撃力は上がっているものの今のところ現れるモンスターはどれもアオスブルフ無くとも倒せるような種類ばかりであった。ミシガンに至っては後衛と言うこともあってモンスターを直接攻撃するようなことも無かった。カオスは………始めから何も無くとも問題ない強さを持っている。故にアローネが一番クリティアのアオスブルフの恩恵が大きい。

 

 

ミシガン「流石に寒い地方の人達だけあって防寒着も凄いよね~。

 さっきまでの寒さはどこいっちゃったの?ってくらい寒くないよ!

 これならこのアオスブルフよりかも嬉しい贈り物だってね。」

 

 

オーレッド「…武具よりも衣服や雑貨の方がよかったか………。」

 

 

 カオス達にとっては戦闘に使う道具なんかよりも環境に適応できる衣類の方が今のところ役立っている。本当なら普通の者にとっては正に周智の結晶とも呼べる代物なのだがそれ以上に価値のある能力が備わっているカオス達にはあまり効能が感じにくいものだった。

 

 

タレス「道具を渡すよりも貴方達はレイズデッドの研究とスラートとミーアと協力してバルツィエ襲撃に備えてください。

 今はまだダレイオスの半分未満しか話が伝わってないので。」

 

 

オーレッド「分かっておるさ。

 せっかくこれでどこそこと自由に行き放題になったのじゃ。

 これからはヴェノムについても触診出来るようになったのじゃ。

 こんな狭い空間で手の行き届く範囲でしか研究が出来なかったのじゃから皆も今まで出来なかった研究意欲も湧いてきとるところじゃろ。」

 

 

ウインドラ「頼みたいことは三つ。

 他の部族達と一緒にバルツィエと戦うための武具の開発とレイズデッドが誰でも使えるように汎用化、それとこの世界からヴェノムを根絶するためのクスリの開発だ。何にでも感染するヴェノムは食物や草木をも蝕むから俺達も流石に一々草木に術を使って回ると時間が掛かりすぎる。

 ヴェノムに世界を荒れ果てた荒野と変えられる前に一刻も早くヴェノムの対処法を作ってくれ。」

 

 

オーレッド「任せておけ。

 ワシ等のこの無限の研究欲は世界に謎があり続ける限りどこまでも絶えん。

 触れられるようになったヴェノムなど怖れるに足らんもんじゃ。」

 

 

 これでマテオだけでなくダレイオスでもヴェノムに関する研究が捗ることとなっただろう。後は専門化に任せておけばいづれヴェノムは世界から無くなっていくことになるだろう。

 

 

カオス「………」

 

 

 オーレッドが誇らしげに語っている最中カオスは少し考え事をしていた。彼等は物を作ることに関してはダレイオスでは随一と自称するくらいの人達だ。国家崩壊の前には各部族達の武器も作っていた程である。強い武器やアクセサリーを作ることならなんでもやってくれそうだ。………強い武器が作れるのだとしたらもしや………?カオスはふと気になったことを訊いてみようと思った。

 

 

オーレッド「ん?

 どうかしたか?」

 

 

カオス「オーレッドさん………、

 クリティア族は武器とか道具とか作る技術に長けているんですよね?」

 

 

オーレッド「そうじゃが………、

 言っておくがセレンシーアインで渡したアオスブルフより優れた性能のものを注文しようと考えておるなら時間がかかるぞ?」

 

 

カオス「……だったら力を抑えるアクセサリーとかはどうですか?」

 

 

オーレッド「力を抑えるじゃと?

 ………具体的にはどれ程の物が欲しいんじゃ?」

 

 

カオス「この村に使っているマナを抑圧する魔封じの効能があって俺でも装備出来そうなものです。」

 

 

オーレッド「…?

 ソナタがその手首に着けておるもんは違うのか?

 昔からバルツィエが使ってたもんに似とるが………。

 と言うか何故そんな物が必要なんじゃ?」

 

 

 流石にダレイオスにいる者ならこの手錠に関しては目敏い。だが………、

 

 

カオス「この手錠じゃ俺のマナを抑えきることが出来ないんです。

 俺もここに来るまでで何度か魔術を使ってみたんですけどどうしても加減が出来なくて余計な物まで破壊しかねなくて………。

 ですからこれよりももっと魔力を抑えられる手錠が欲しいんです。」

 

 

オーレッド「なんと……!?

 ………まぁ合点が行く話じゃな。

 所詮はエルフの作りし物よ。

 ソナタのような存在が現れるまでは通常の“アンチマジック”だけで事足りておったしな。

 ソナタのような人でありながら人の限界を遥かに越えし力を抑える道具を作る意味など無かったのであろう。

 ………しかしワザワザ弱体化するような道具か………。

 考えたことも無かったのぅ………。」

 

 

カオス「……難しいですか?」

 

 

 やはりそう簡単にはいかなかったか。可能であるならばカオスの魔術も制限なく使えそうなものになりそうなのだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「宜しい!!

 その仕事引き受けようぞ!

 初の試みで作れるかどうかは分からぬがその案はひょっとするとこれまでバルツィエに力で対抗しようと思っていた我等の新たな対抗手段となるやもしれん!

 

 

 皆で協力してソナタ程の強大なマナを調節出来る装備品を作ってみるとしよう!!」

 

 

カオス「本当ですか!?」

 

 

オーレッド「任せろ!

 ワシ等は常に新しいことに飢えておるのじゃ!

 ダレイオスで研究出来ることは粗方やったつもりじゃったが世界は広いのぅ!!

 また新しい研究分野が出来たようで何よりじゃ!

 

 

 ワシ等が必ずソナタの要望に応えられるだけの装備品を開発して見せるわい!!」



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予見される強敵

クリティアの村ヴィスィン

 

 

 

 密かにオーレッドに魔力を抑えることの出来る装備品を作るようにお願いしたカオスだったがその様子を見ていた者がいたようだ。

 

 

タレス「カオスさん、

 クリティアの長老と何を話していたんですか?」

 

 

カオス「え?

 …あっ、あぁちょっとクリティアの人達が凄い技術力を持ってたからね。

 もしかしたらと思って俺のマナを抑えられる道具を作れるか相談してたんだよ。」

 

 

 特に隠すような内容でも無かったので包み隠さず話す。一人だけ強い武器を欲しがったりなどしたら要らぬ誤解を与えそうだったので後でここにはいないアローネ達にも話そうかと思う。別に大したことにはならないだろうと踏んで素直に話したのだがオサムロウは、

 

 

オサムロウ「…あまり得策とは言えん話だな。」

 

 

 少し不機嫌な表情を浮かべてカオスの行為を批難する。何か不味い行動だっただろうか?魔力を抑えられればカオスの魔術を使える機会が増える。カオスの魔術は威力だけならヴェノムの主を一人で相手にしても勝ちをもぎ取れるだけの力があるとされる。ただ地形上の理由で発動する機会が滅多になかったので定かではないがこの間の威力が常に放てるのならばクラーケンくらいなら一撃で吹き飛ばすことも出来ただろう。

 

 

カオス「何故ですか?

 俺の魔術は破壊が大きすぎるので調節出来るようになれば俺も皆の援護が出来るようになるんじゃ…。」

 

 

オサムロウ「確かにそうだな。

 ソナタのあの無差別に何でも破壊してしまうような魔力をコントロールする術があればこの先主に苦戦することは無いだろう……。

 バルツィエの先見隊をも追い返せる程だ。

 

 

 だがソナタの圧倒性がある力に早い内から天敵を作ってしまいたくない。

 我等スラート陣営がソナタがマテオの者で憎きバルツィエの血筋で恐るべき力を持つにも関わらず手を貸すことにしたのはソナタが邪な思想を持たぬが故だ。

 ソナタの力があればダレイオスに来ずともマテオでバルツィエを単騎で倒すことも出来よう。

 それなのにそれをせずソナタは故郷の同胞達を救うためだけにこのダレイオスまで来ているであろう?

 それどころか故郷の同胞だけでなくこのダレイオスの民を救って回ろうとしている。

 ソナタは信用に値する人格の持ち主だ。

 

 

 ………だがソナタも知っていようにこのダレイオスも一枚岩ではない。

 かつてのダレイオスはバルツィエという共通の天敵がいたからこそ纏まっていたのだ。

 それを今打ち砕く希望がソナタ等の持つ力だ。

 もしこの情勢でそれが崩れるとしたらバルツィエがいなくなった後の世界だ。

 バルツィエがいなくなった後の世界で覇権を握るとしたらソナタ等五人とレイディーという女性の六人。

 この六人が中心になってダレイオスはどうにでも組変わる。

 

 

 ………つまりこの段階でクリティアにソナタ等というバルツィエに代わって世界に影響を及ぼすことの出来る者等に対策を与えてしまうことは後の世界バランスを崩しかねない影響を与えるのだ。

 クリティアが第二のバルツィエとなるやもしれぬ可能性が出てくる。

 人は誰しもソナタ等のように善良ではないのだ。

 軽はずみな行動で足元を掬われてしまうことなどこの世界ではよくあることだ。

 今後は我がソナタ等と行動を共にするのだ。

 ソナタは今のままでよい。」

 

 

カオス「…すみませんでした。」

 

 

 役に立とうと思って思い付いたことを提案したのだがかえって余計なことをしてしまったようだ。

 

 

タレス「…けどオサムロウさん、

 カオスさんは精霊をずっと体の中から追い出したくて旅を続けてきたんですよ?

 カオスさんの中にいる精霊はどういうわけかこのデリス=カーラーンを滅ぼそうとしてますし今の内にあの精霊が暴れだす前に対策でも作っておかないと…。」

 

 

オサムロウ「デリス=カーラーンを………滅ぼすだと?」

 

 

 タレスは口から発した後に手遅れだと言うことに気が付く。カオス達の間では殺生石が半年の猶予を持ってこのデリス=カーラーンに審判を下すと言うことは把握済みだ。だがそのことはまだ他の者には混乱を招く恐れがあるので誰にも告知していない。無論このオサムロウでさえも。

 

 

オサムロウ「……詳しく話してもらおうか………。

 何故デリス=カーラーンが滅ぼされてしまうのかをな。」

 

 

カオス・タレス「………」

 

 

 ここまで話してしまっては後々不信感が募る一方である。二人は包み隠さず全ての事情を話すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「……なるほど、

 我との試合の前に既にソナタ等は半年という期限が課せられておったのだな。」

 

 

タレス「そうなりますね。

 けど今のところは特に問題視するようなことではないと思いますよ?

 ダレイオスからウイルスを撒いている主達は順調に倒されて行っているのでこの調子で進んでいけば杞憂と言うことで話が終わると思います。」

 

 

カオス「すいませんでした………。

 大事なことだったのに話さずにいて………。」

 

 

 重要なことだとは分かっていてもこのまま計画を進めていけば何も問題が発生することもなく終わるだろう。そう自分達の独断で情報を開示することなく進めていたが後になって発覚したとなるとそれはそれで計画に携わる者にとっては計画に対する意気込みが変わってくる。もしもの時はマテオだけでなく精霊をも相手にしなければならないのだ。その精霊の強さは凄まじく恐らく誰も敵わない。現時点でダレイオス勢はカオス達がいればマテオに勝利することを疑ってはいないが仮にカオス達が失敗して主を倒しきれなければ今度こそ絶対に勝つ見込みの無い敵に世界ごと蹂躙されて滅ぼされてしまう。

 

 

オサムロウ「……話の内容では今のところは問題はない………。

 後五ヶ月以内に主を倒しきれれば問題は無いが………。」

 

 

カオス「…?

 どうかしたんですか?」

 

 

オサムロウ「………ソナタ等はヴェノムを再生させることなく倒す力があることは知っている。

 ………だから順当に行けば残り一体以外は倒せるとは思うのだが………。」

 

 

タレス「その口振りですと主の中にボク達の力でも倒せるか分からないのがいるんですか?」

 

 

 ここに来て九のヴェノムの主の一体に何か異例の存在がいるようだ。一体どのような主なのか………?

 

 

カオス「まさか………、

 ダレイオスのヴェノムの主の中でも最強の強さを持つヴェノムの主なんかがいるとか………?」

 

 

 オサムロウやスラートの者は皆最強のヴェノムの主はブルータルだと言っていた。ミーア族はクラーケンでクリティアはジャバウォックとも。そんな最強の争いをするヴェノムの主の中に何かとてつもない力を秘めた存在がいるのか………?

 

 

オサムロウ「いや………、

 奴に関してはダレイオスのヴェノムの主の中でも最弱とされる種だ。

 最後に聞いた情報ではその主が現れてから数ヵ月での被害報告は“一人”だけだと聞く。

 恐らく今も一人だけなのだろうな。

 この旅を続けていけば次にそれとぶつかるのは三番目になるな。」

 

 

カオス「三番目って言うと………六体目に当たる主ですよね………?

 何が問題なんですか?」

 

 

オサムロウ「この主は何故か他のヴェノムの主と違いウイルスをばら蒔くようなことをしない。比較的大人しい部類のヴェノムだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、コイツと対峙した時如何にソナタと言えども倒せるかどうかは分からない………。

 

 

 今までヴェノムに感染したモンスターは我等にとっては物理的に倒せぬ存在だった。

 飢餓を待って倒す他無い程にな。

 

 

 そこに現れたのがヴェノムの主だ。

 奴等は通常のヴェノムのように飢餓を持たずにスライム携帯に変化せずひたすら回りの者を捕食していき強さを増していく…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そんな主達の中でも異例中の異例……、

 

 そして………、

 

 

 “不死身の中の不死身”………、

 

 

 フリンク族の住みかとする地方に現れた“フェニックス”と呼ばれる火の鳥はヴェノムに感染する前から不死と噂されるモンスターだ。

 

 

 フリンク族も奴を仕留めようと水や氷、岩石など様々な手法を試みたようだが奴には何一つ効かず今なおフリンク族の地域の空をその紅炎に染め続けているそうだ。」



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次の主の情報

クリティアの村ヴィスィン 長老宅

 

 

 

 外での作業を終えたカオス達はもう一度オーレッド宅に戻り次の進路を話し合っていた。

 

 

オーレッド「今は有り合わせの物でしか魔封じの道具は作れんかった。

 今回はこれで我慢しとくれ。

 ほれ、

 

 

 “スキリアリング”じゃ。

 これにはコンシュームアタックというスキルの付与されたレンズが入っておる。

 これを装備しておれば常時身体機能が向上し常にシャープネスやバリアーなどを張ったような状態になる。

 普通の者が装備すればたちまちマナが枯渇してしまう欠陥品じゃったんじゃが無限にマナが溢れ出てくるソナタにならこの欠陥品でも有効活用できるじゃろうて。」

 

 

カオス「!」

 

 

タレス「欠陥品を渡すんですか……。」

 

 

オーレッド「仕方ないじゃろ!

 ワシもこんな物を渡すことになるとは思わなかったんじゃ!

 カオスの話を聞く限りじゃとどうしてもマナを常に発散し続けるて役に立ちそうなものを探すと非効率なアイテムくらいしか無いんじゃ!

 普通ならこんな昔に思い付きで作ってみたはいいが結局直接攻撃するよりかは魔術を使った方が強い上にマナも少なくすむという結論に至ったこのガラクタを使いこなせる者がおるとは思わんじゃろ!?」

 

 

カオス「…俺だからこそ使いこなせるアイテムですか………。」

 

 

 カオスはオーレッドから渡されたスキリアリングを指に嵌める。手錠はそのままつけた状態だ。

 

 

アローネ「……どうですかカオス?」

 

 

ミシガン「それでカオスのマナが異常に高くなっていくのを抑えられるの?」

 

 

オーレッド「それで足りんようなら指全部に付けてみるか?」

 

 

ウインドラ「それだと剣を握りにくくならないか?」

 

 

カオス「………」

 

 

オサムロウ「指輪の類似品は他に無いのか?

 腕輪や衣類に装備できそうな物があれば着用しても気にならないだろう。」

 

 

オーレッド「そういうことであればいくつか用意できるぞ?

 ガラクタ故に使わなくなったものが沢山余っておるかな。

 いくつ欲しいんじゃ?」「全部下さい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「このスキリアリングと同じ効果がある装備品を装備出来るだけ全部………。」

 

 

オーレッド「全部じゃと………?

 残念じゃがこのコンシュームアタックはいくつ装備しても効果は重複はせんぞ?

 デメリットのマナが消費される効果だけは大きくなるが………。」

 

 

カオス「それがいいです。

 俺にとってはそれが最高のアイテムだと思います。」

 

 

オーレッド「………コンシュームアタック一つのメリットにマナ消費率十倍以上………、

 常人なら自殺行為の装備の仕方じゃがソナタにはそれでも足りんくらいなんじゃな………。

 ………よかろう。

 技術者としては許可出来んところじゃがソナタなら許可しても構わんじゃろ。

 なんせこのヴィスィンのクリティア二百人分のマナを内包しておるソナタならこのくらいの物でなければ割りに合わんと言うことか。」

 

 

 オーレッドはそう言って部屋の奥に向かう。

 

 

オーレッド「これと………これと………、

 これもそうじゃったかな………?

 ………まぁいいか、これもこれも………。」

 

 

 物置のようなところからオーレッドが次々と箱を拾い上げていく。かなりの量がありそうだった。

 

 

 

オサムロウ「……少しは整理をしたらどうだ?

 使わない物は廃棄したりなどしてもう少し部屋のスペースを確保した方が快適に住めるだろう………。」 

 

 

オーレッド「そう簡単に作品を捨てたりはせんわ。

 もし研究に行き詰まればワシ等はこういった過去の作品からヒントを得てまた改良に改良を重ねていく。

 技術者にとっての地獄は研究に暇が出来ることじゃ。

 常に研究に忙殺されておることが何よりの多幸感が得られるんじゃ。

 捨てるとしたらこれらを悪用しそうな者の手に渡りそうになった時じゃ。

 そうなりそうになったらこれらを一同に爆破してしまう装置も備わっておるぞ。」

 

 

 

ミシガン「何でそんな危険なものが備わってるの…。」

 

 

ウインドラ「いや、

 爆破は賢明な措置だと思うぞ。

 道具というのは手にすれば誰でも使用出来てしまうからな。

 万が一これが敵の手に渡るようなことになってそれが脅威的な力を発揮してしまえば危険にさらされるのはこちらだ。

 こういった画期的な道具は制作者とその関係者のみに使えるようにしておかないとな。」

 

 

アローネ「………今渡されたカオスが嵌めている指輪は安全なのですか?」

 

 

カオス「え?」

 

 

オーレッド「安心せい、

 これらの道具は不良品と言うことで爆破装置は最初からつけておらんわ。」

 

 

タレス「それならいいですけど………。」

 

 

アローネ「ちなみに爆破の威力は?」

 

 

オーレッド「そんな大した威力にはならんぞ?

 精々道具を破壊できる程度の火力に抑えてある。

 ………こんな風にな。」

 

 オーレッドが懐からスイッチのような物を取りだして押す。すると近くにあったオーレッドの作品らしき者の中から軽い火花のような物が上がり指輪だったものが粉々に砕け散る。

 

 

ミシガン「……これ指に嵌めてたら指が吹っ飛んでたでしょ………。」

 

 

オーレッド「じゃからそのスキリアリングには爆破装置は付けてはおらんと………!?」

 

 

 説明しながらオーレッドがまた別のスイッチを押すとカオスが着けている指輪と全く同じデザインの指輪が爆散する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「…………おい。」

 

 

オーレッド「………すまんすまん、

 この爆破装置もワシの作品でな。

 そういえば試しに手当たり次第にそこらの作品で試しに施工しておったのをすっかり忘れておったわい。」

 

 

ウインドラ「道具の管理くらいしておいてくれ………。」

 

 

カオス「………ハハハ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「………さて、

 ではソナタ等の用事も終わったことじゃろうし次の場所へと向かうのであろう?」

 

 

カオス「そうですね、

 ………次はここから西の………なんて部族の地方になるんですか?」

 

 

オサムロウ「ここから西の地方の部族はカルト族だ。

 ここと同じで寒冷な雪原地帯が続く。

 防寒対策はここでしっかりととっておくとするぞ。」

 

 

アローネ「カルト族………、

 次の主はどのようなギガントモンスターなのかは情報はありますか?」

 

 

オーレッド「…すまぬがワシ等もよく分かっておらぬのじゃ………。

 全部族がまだ統一されておった頃にカルト族の住む周域を荒らし回っておったのは何やら元は草食のモンスターだったとか………。」

 

 

オサムロウ「…我は獅子型の肉食獣と聞いたぞ?」

 

 

オーレッド「その話もあるし爬虫類の蛇型だったとも聞く………。」

 

 

ミシガン「え!?

 次のところってもしかしてヴェノムの主が三匹いるの!?」

 

 

 三種類のモンスターの特徴を聞き次の相手が三匹の主を同時に相手しなくてはならないのかと戦慄する。………がしかし、

 

 

オーレッド「一匹だけの筈じゃぞ。

 もし三匹もおったらカルト族は当の昔にアイネフーレと同じ運命を辿っておるじゃろう。」

 

 

カオス「?

 じゃあいったい何でそんなにモンスターの特徴が………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………すまんが我等も分からぬのだ。

 他方に現れたヴェノムの主については我等はその土地の者の又聞きでしか情報を掴めぬ。

 不死のヴェノム事態危険すぎて調査に向かったものも捕食されてしまうからな。

 

 

 故にカルト族の主については名前すら定かではない。

 彼等の話では歩かにも様々な生物の特徴の話を聞かされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………まるであらゆる生物に変身できる伝説上の生物シェイプシフターの話でも聞かされてるかのようなぐらいに目撃者の意見が数多くあるのだ。」



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カタスティア信者

シュネー雪林道 西部

 

 

 

 次のヴェノムの主を倒すためカオス達六人はクリティアの村ヴィスィンを後にする。カーラーン教会から出発した時と違いクリティアの村で防寒着を調達したために一行等の足取りは軽快な様子だ。

 

 

ミシガン「ハァ~、

 やっぱりこんな寒いところじゃこのくらい着込まないと寒くてその場から動けなくなっちゃうよね~。」

 

 

 カーラーン教会からクリティアの村ヴィスィンに向かう道中で一番寒さに凍えていたミシガンがそんなことを言い出した。ミシガンですら寒さに文句を言わなくなったのだ。クリティアから拝借した防寒着はちゃんと機能しているということだ。

 

 

アローネ「それほどのその防寒着は暖かいのですか?

 私のローブは暖かさや寒さを感じなくなるように調節する物なのでそういった温度の感覚は分かりませんが………。」

 

 

ミシガン「アローネさんのローブは完全にアローネさんにしか対応してなかったからそれでいいと思うよ。

 その服はある意味じゃ完璧な“防寒暖着”だけどそういうのって逆に暑いところでの涼しさや寒いところでの暖かさを感じることができる出来ない仕様みたいだからね。

 この寒さの中でこの暖かさを感じることが出来ないだなんてアローネさん損してるなぁ……。」

 

 

アローネ「何ですかそれ………。」

 

 

タレス「ヴィスィンに到着する前に衣服の交換をするとお話してましたけどそれはどうなったんですか?」

 

 

ミシガン「あぁそれ!

 実際にやってみたんだよ!

 アローネさんのローブがどんな性能なのか知りたくてさ!

 

 

 そしたらさぁ!?

 何かアローネさんのマナを識別する術式とかいうのがあったみたいでさぁ!

 私がアローネさんのローブ着てみても意味なかったんだよ!?

 どういうことよそれ!?」

 

 

カオス「マナを識別する術式………?」

 

 

ミシガン「ローブの裏側に何か書いてあったんだよ!

 アローネさんが着ると文字が光だして効果が出るみたいだったんだけど私が来ても文字が光らずにローブがただのローブになっちゃうの!

 おかしくない!?

 このローブ、アローネさん限定でしか力が発揮されないなんてそれスッゴい理不尽だと思わない!?」

 

 

アローネ「ミシガン………、

 あまり私の服を引っ張らないで下さいよ………。」

 

 

 ミシガンのアローネに対する当たりが先程から強いのはそう言うことのようだ。要するに八つ当たりである。

 

 

ウインドラ「……個人対応の術式か………。

 それならさっきの指輪のように他人に使われて不利を被ることもなさそうだな………。」

 

 

タレス「その術式が解析出来ればこちらには有用な武器を作れて万が一敵に渡った時のためにロックがかかって武器としての力を発揮出来ないように出来ますよね?

 ………その技術をクリティアの人達にお願いして解析出来ないでしょうか?」

 

 

アローネ「わっ、私からこのローブを取り上げるのですか!?

 嫌ですよ!?

 これは今は見つかっていない義兄の形見のような物なのですから!?

 私からこのローブを取り上げないで下さい!」

 

 

 話の方向からアローネがローブを取り上げられそうな雰囲気を感じて狼狽える。確かにそれが可能ならアローネのローブをクリティアに預けることになるがその意見はアローネ以外のところから拒否される。

 

 

オサムロウ「何度も言うようだが一つの部族に力が集中してしまうのは良くない。

 クリティアにあまり突出した技術を与えすぎるとそれこそ第二のバルツィエ化に発展してしまう恐れがある。

 

 

 アローネのローブはこの時代から遥か昔の技術が栄えていた時代の物なのだろう?

 それこそ伝説の鍛冶士ドワーフが作ったとされる程の何世代も進んだ技術だ。

 そういった技術を提供するなら後の世に争いの原因とならないような機関に渡すべきだろう。

 例えばカーラーン教会とかな。」

 

 

アローネ「カーラーン教会ですか………?

 でもカーラーン教会にはカタスが長い間勤めているのですしこの程度の個人認証術式くらいならありそうなものですが………。」

 

 

オサムロウ「ならばやはり尚更カーラーン教会は信頼が置けると言うことだ。

 アローネの話ではカタスティア様はアローネよりも権力のあった王族であったのだろう?

 王族なら貴族よりも上位の技術を保有していた可能性が高い。

 その技術を持ちながらカタスティア様はこの三百年間一度も私欲の為に利用しているところを見たことがない。

 力を持っていてもそれを悪用しないという立派な方が納める組織ならカーラーン教会はどんなに力を付けたとしても信用できるだろう。

 いやカーラーン教会なら無条件で世界から信用されなければならないな。

 世界がカーラーン教会の色に染まってくれればいいのだが………。」

 

 

 オサムロウがまたカタスティアのことを持ち上げ始める。普段は真面目で気転が利き頼りになるオサムロウだがカタスティアのこととなるとどうにも話が長くなり目の前が見えなくなりそうな傾向にある。五人は少々オサムロウのイメージが変わり始めていた。

 

 

カオス「オサムロウさんって本当にカタスさんのことを尊敬しているんですね。」

 

 

アローネ「カタスの人柄の良さは分かっていますがここまで妄信的だと少し引いてしまいますね………。」

 

 

ウインドラ「教会にいる者は大抵はこんな感じだ。

 どこの教会に行ってもこんな感じの奴は見られるぞ。

 ………教会でのみの話だったらあまり気にする程でもなかったんだが旅の同行者にいるとなると………。」

 

 

タレス「命を救われたとかいう話どころの妄信具合ではありませんよね………。」

 

 

ミシガン「まだ会ったことのない人だけど何かこんな風に洗脳されてる人が多いんならちょっと怖いな………。」

 

 

 あまりにもオサムロウがカタスティアのことを熱弁するためまだ面識のないミシガンのカタスティアへの印象がマイナスに傾いてしまったことに気付かないオサムロウであった………。



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先の先の作戦会議

ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

オサムロウ「ここの山の中間付近にカルト族の住む村がある。」

 

 

 カオス達六人はクリティアの村から出発して二日歩き続けて漸く次の部族の村のある地方にまで足を運んでいた。

 

 

ミシガン「……流石に暖かい格好をしていても長時間雪が降ってるような場所に居続けると寒いわね………。」

 

 

タレス「立ち止まっているともっと冷えてきますよ。

 目的地が目の前ならこのまま一気にカルト族の村に急ぎましょう。」

 

 

アローネ「とは言ってもこの間のように急ぎすぎてミシガンのように転んでしまうともっと寒くなるので落ち着いて登って行きましょう。

 ここでは直ぐに服を乾かすことなんて出来ないのですから。」

 

 

ウインドラ「そうなった時はオサムロウ殿に焚き火を用意してもらってから乾かせばいいさ。

 ミシガン、

 転ばないようにな。」

 

 

オサムロウ「可能だからと言ってもあまり我の魔術を当てにしないようにな。

 ここはもう既にこの地方のヴェノムの主の生息域だ。

 焚き火中に襲われてしまっては何が起こるか分からぬ。

 山道はこれまでよりも大分滑りやすい場所が多い。

 足元を注意して進むのだミシガン。」

 

 

ミシガン「……前科があるから否定できないけどちょっと私にだけ注意が多くない?」

 

 

カオス「心配してもらってるんだから素直に受け取ろうよ………。」

 

 

ミシガン「でもさぁ!?

 滑るって言うなら私だけじゃなく皆だって同じでしょ!?

 皆私のことばっかり言うけどもしここまで人に滑るな滑るって言っておきながら次は私以外の誰かが滑ったりしたらどうするのよ!?」

 

 

タレス「…次もミシガンさんが絶対に滑りますよ。」

 

 

ミシガン「聞こえてるんですけどタレス~!!!」

 

 

タレス「ちょっ!?

 だから走ると危ないんですって!!」

 

 

 山道に関わらずタレスとミシガンの追いかけっこが始まってしまった。これから山を登らなければならないというのに学習しないミシガンであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「ぎゃん!?」タレス「ぐえっ!」

 

 

 

 

カオス「あっ、

 転んだ………。」

 

 

 結局ミシガンがタレスを巻き添えにして転んでしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「ねえ。」

 

 

オサムロウ「焚き火は炊かんぞ?

 先程の転倒は自業自得だ。

 そんなことで我のマナを消費させるんじゃない。」

 

 

ウインドラ「ここら辺はまだモンスターやヴェノムがちらほらと見える。

 もう少し安全な場所で小休止しようか。」

 

 

アローネ「寒いのでしたらもう少し私の上着をお貸ししましょうか?

 私はローブだけでも十分ですので。」

 

 

カオス「アローネはいいよ。

 俺も全然寒くないから俺のを貸すよ。」

 

 

タレス「…先にボクに貸してもらえませんか?

 ボクも一緒に転ばされたのでちょっとだけ寒くなってきました………。」

 

 

カオス「……そうだね。

 悪いけどアローネミシガンにそのまま上着貸してあげてくれない?」

 

 

アローネ「最初からそのつもりですよ。

 ではミシガンどうぞ。」

 

 

ミシガン「そうじゃなくてさ!

 私が言いたいのは寒いとかじゃなくてさ!!

 

 

 この先のカルト族の村って方角から考えてレイディーが次に行くとしたらそこになるんじゃない?

 もしかしたら今回も私達の出番無くクリティアのジャバウォックみたく倒されてたりしないかな?」

 

 

カオス・アローネ・タレス・ウインドラ・オサムロウ「!!」

 

 

 ミシガンの指摘は案外と的外れなものではない。トリアナス砦からカオスと別れてレイディーは北部を経由して移動しているようだった。トリアナス砦の次にクリティア族の村ヴィスィン、その次にレイディーが向かうとしたらカオス達がこれから向かおうとしているカルト族の村になるのだ。彼女はヴィスィン経由時にヴェノムの主ジャバウォックを退治している。…とすれば彼女がカルト族の村に向かっていたのなら彼女の旅のついでにまたもう一体のヴェノムの主を倒しているかもしれない……。

 

 

カオス「…けどレイディーさんは俺達の計画を予測してはいたけどあの人も俺達とは別に目的があってダレイオスを回ってるんだよ?

 そう何度も都合よく主を倒してくれはしないんじゃないかな?」

 

 

アローネ「私もカオスの意見と同意件です。

 あの人はあの人で御自分のやりたい様になさる人なのであくまでもダレイオスでの旅はレイディーの目的あっての旅路です。

 私達はヴェノムの主を倒す目的のためにカルト族の村へ向かってはいますが彼女の目的は他にあるようなので他のことに時間を割いてまで主を倒しているとは思えません。」

 

 

タレス「ジャバウォックもボク達がブルータルと偶然鉢合わせしたような口振りでしたしね。」

 

 

ウインドラ「……カルト族の村に向かっている可能性は高いが主に関してはスルーして他の場所へと向かったこともあり得るな………。」

 

 

オサムロウ「何でも都合よくことは運ばぬさ。

 倒してくれているのならカルト族との交渉も早く済むが倒さずに通過したのでもそれで我等の計画が滞ったりはしない。

 遅れている訳ではないのだ。

 それどころか一ヶ月で三体を討伐したペースを考慮すれば残り六体を後五ヶ月で倒しきるとなると三ヶ月も余裕が持てる。

 間に合わないという可能性は限り無く低いのだ。

 懸念事項はフリンク族の不死鳥フェニックスが倒せるのかどうかだがこのヴェノムの主に関しては最悪無視しても構わんだろう。」

 

 

アローネ「不死鳥フェニックス………?」

 

 

タレス「フリンク族のところの主で次のカルト族の主の次のそのまた次の相手に当たる敵です。」

 

 

ウインドラ「不死鳥フェニックス………。

 伝承記や辞典等でも噂に聞いたことがあるな。

 幻の存在だと思ってたんだが実在したのか?」

 

 

ミシガン「どんなモンスターなの?」

 

 

オサムロウ「不死鳥フェニックスは別名火炎鳥でその名の通り火の体を持つ鳥で全身が常に燃えている………と言うよりも火そのものらしいな。

 生物としてはあり得ない形状をしているところから魔法生物に分類され非摂食生物というデータがフリンク族から報告された。」

 

 

カオス「火の鳥か………。

 近寄ったら火傷しそうなモンスターなんですね。」

 

 

アローネ「私達の体質ではレイディーがもっとも敬遠したい相手になるでしょうね………。」

 

 

ウインドラ「だが逆に俺達はその火に強い属性を持つ者がいる。

 討伐は容易そうだが………。」

 

 

ミシガン「フッフッフ………、

 またまた私の出番が近付いているようだな!

 フリンク族の場所に行ったら任せといてよ!

 そんな焼き鳥なんて私が一瞬で消してあげるわ!!」

 

 

オサムロウ「……それが出来ればいいのだがな………。」

 

 

アローネ「何か不都合でも?」

 

 

オサムロウ「単純な火の鳥だったらフリンク族も水で対処しただろう。

 ……だが報告では完全に火が消えてもまた甦ったと聞くぞ。

 元が不死鳥なのだ。

 火が消えてもまた何も無い空間から甦るのであるならば討伐が可能なのかを考えねばならん。」

 

 

カオス「オサムロウさんは………そのフェニックスが倒せるかどうかが心配なんですね。」

 

 

オサムロウ「フェニックスとヴェノムウイルス………不死の重ね掛けだ。

 ヴェノムウイルスを除去出来たとしてもフェニックス自体の性能だけでまた甦るやもしれん。

 そうしたらまたそのフェニックスがウイルスに感染してしまえばフリンク族のヴェノムの主討伐は難しい話になる。」

 

 

カオス・アローネ・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「……これからカルト族の主を退治しにいくのにもう次の次の心配しても仕方ないと思うんですけど………。」



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カルトの主の詳細

カルトの村グリツサー 夜

 

 

 

 カオス達六人はウィンドブリズ山をモンスターやヴェノムを退けながら登りカルト族の住まうとされるグリツサーに辿り着く。しかし村は………。

 

 

カオス「……無人だね。」

 

 

ウインドラ「無人と言うことはこの地方はまだ主が討伐されていないのだな………。」

 

 

ミシガン「ってことはレイディーここに来てないのかな………?」

 

 

アローネ「いえ………、

 地図で確認すると間違いなく彼女の行き先はこの山を通る筈です。

 ここを通るとは思うのですが………。」

 

 

タレス「アローネさんの考え通りにヴェノムの主は倒さずにここを素通りしたんじゃないですか?」

 

 

オサムロウ「…予定としては元より主を討伐しに来たのだ。

 そう簡単に一人で一体目二体目と倒されてはソナタ等の旅もただのダレイオス巡礼で終わってしまう。

 倒されていないのなら倒すまでだ。

 そのためにも先ずは情報を集めなければなるまい。」

 

 

 カオス達六人は始めに情報を集めるために村を散策する。ヴェノムの主を情報を知るためにもカルト族が隠れ住めそうな場所があるかを探した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……カルト族が見付からなかったらまたウインドラに雷を打ち上げてもらってヴェノムの主を誘き出せないかな?」

 

 

ウインドラ「カオス……、

 ここは雪山だ。

 あまり派手な魔術を使うと山の上の方から雪崩が起きるぞ?

 そうなったら俺達は全員雪崩に呑み込まれ一貫の終わりだ。」

 

 

ミシガン「雪が押し寄せてきたらカオスの火で溶かせばいいんじゃない?」

 

 

アローネ「そしたら今度は洪水が起きるかもしくは山全体が火事になりますよ。」

 

 

タレス「それか山一面の雪と火の衝突で大爆発が起こることも考えられますよ。

 この山では衝撃の大きな魔術は禁止です。」

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「……いつもこのような会話になるのか?」

 

 

ウインドラ「なにぶん、カオスとミシガンはこういった物事を考えるのとは無縁の環境下で育ったのでな。

 突発的に馬鹿なことを言い出すんだ。」

 

 

オサムロウ「……ソナタの気苦労も相当なものなのだな。」

 

 

 オサムロウがカオス達と同行するまでのウインドラの苦労を想って労いの言葉をかける。労われたウインドラは少しだけ肩の荷が軽くなったような気がした………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「……カルト族がどこに移動したのかは手懸かりが掴めなかった………。

 今日はもうこれぐらいにしてここで一晩を明けるとしようか。」

 

 

 ミーア族の集落を捜索した時のように手分けをしてカルト族が向かいそうな場所を探したが全員収穫もなく時間だけが過ぎて今日は終わる。

 

 

カオス「地図にはカルト族が移動できそうな場所は無いの?」

 

 

ウインドラ「地図だと………、

 ……ここは山の真ん中だからな………。

 傾斜が緩やかとはいえ人が移り住めそうな場所など見当たらないな………。」

 

 

アローネ「ミーア族の方々のように滝の裏側という思いもしないような場所はありませんか?

 そこなら暖もとれて隠れ潜むには丁度良いと思いますよ。」

 

 

ウインドラ「待ってくれ地図ではこの付近は一面白模様だぞ?

 地図の中心から南部にかけては割りと細かな村や街はあるようだが中心から北部はそこまで細かく川や洞窟のような場所は無い。」

 

 

 地図を見ていたウインドラがアローネの意見に焦る。誰も土地勘が無い上に地図の詳細も真っ白なので仕方ないが地図を持っていたウインドラは何とか探しだそうと目を走らせるが……、

 

 

タレス「ボクが見てみましょうか?」

 

 

ウインドラ「……見てみれば分かる。」

 

 

 そう言ってウインドラはタレスに地図を渡す。地図を受け取ったタレスは先程のウインドラと同じような表情を浮かべる。ウインドラと同じ結論に至ったようだ。

 

 

タレス「………駄目ですね。

 この山の周囲にはカルト族がいそうなポイントが見当たりません。

 ヴェノムの主を恐れて移動したのならきっと山を降りてどこか違う場所に向かったのでしょう。」

 

 

ミシガン「スラートの人達みたいに自分達で洞窟を作ってそこにいるってことは無いの?」

 

 

タレス「その可能性は限り無く低いと思いますよ?

 クリティアの縄張りからこの山周辺にかけて一年中雪が積もっているような地方ですから地図もこうして真っ白に描かれてるんです。

 常時雪が降っているようなこの山で地面を掘り返すような魔術を行使したらさっきの話と同じで雪崩の災害に見舞われて済むどころじゃないでしょう。

 それにスラートの隠れ住んでいたシャイドはこの間ランドールの襲撃にあって地下に住むことが出来なくなりましたがここでは地下に空間を作ったとしてもふとした弾みで雪崩でも起こればそれだけでその地下空間も埋まってしまうでしょう。

 この雪山に地下を掘るのは得策とは言えません。」

 

 

 タレスが淡々とミシガンにこの山に地下を作る無意味性を説明する。敵に見付からなければ崩落の危険性もなく地下に住むには問題ないが自然の脅威があっては住むには危険が大きすぎる。ミーア族のような滝という意外性を狙ったとしても無謀だ。

 

 

オサムロウ「指摘通りならばカルト族は山を降りて違う場所に根城を作ったか………。

 この山にもヴェノムがいるということは主は近くにいるということだが………先に主を倒すよりも話を通していた方がいいな。

 主の情報も無いまま戦うのも危険だ。

 やはり主退治はカルト族と話を通してからの方がいい。」

 

 

ミシガン「けど主の弱点の属性くらいなら分かるんじゃないの?」

 

 

ウインドラ「…そうだな。

 それくらいなら何か話は聞いているだろう?

 姿形はともかくどの系統の属性魔術を得意とし、どの系統の属性魔術が有効かは以前にカルト族から聞いてないのか?」

 

 

オサムロウ「………」

 

 

 ミシガンとウインドラの問いに押し黙るオサムロウ。この様子ではそれすらも分からないのだろうか………?

 

 

アローネ「クリティア族の村の周辺にいたジャバウォックは氷属性のギガントモンスターとお聞きしています。

 でしたらやはりその土地の環境に適したモンスターなのではないでしょうか?」

 

 

カオス「ってことはこの雪の地方にいる主なら氷ってことなのかな?」

 

 

タレス「氷とは限りませんよ?

 火の属性のモンスターなら寒さには強いでしょうしあえて火属性のギガントモンスターが来るかもしれません。

 熱を発するようなモンスターだったら寒さなんて関係ありませんから。」

 

 

ウインドラ「どうなんだオサムロウ殿。

 実際問題敵の情報が全く無い状態なのか?」

 

 

オサムロウ「………無いのではない。

 ありはするのだ。

 ………ありはするのだが………。」

 

 

カオス「ある………?」

 

 

オサムロウ「………全部だ。」

 

 

アローネ「全部………とは………六属性の………?」

 

 

オサムロウ「そう全部だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルト族の目撃証言者は皆ヴェノムの主の形状や分類だけでなくそれぞれ違う属性を使用していたとも発言していた。

 

 

 ………今度のヴェノムの主は全属性の魔術を使役し全属性の魔術に体勢があると思われる。

 ブルータルは雷故に水、クラーケンは水故に雷、ジャバウォックは氷故に火が弱点とされていたのに対して今度の主は完全に対応策が分からぬ相手なのだ。」



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残りの主の所在

カルトの村グリツサー 朝

 

 

 昨晩カオス等はカルト族の村へと到着し案の定カルト族は村には不在でヴェノムの主の情報も曖昧なものしかなく夜を明かした。これからカオス等はカルト族の捜索を開始するのだった。

 

 

ミシガン「それにしても今度のヴェノムの主ってさ?

 今までの三体のヴェノムの主に比べてなんか手強そうじゃない?

 よく全属性に耐性を持ってそうな主やフェニックスなんかがいてオサムロウさんもオーレッドさんも自分のところの主が最強だとか言えたね?」

 

 

 ミシガンがセレンシーアインでのオサムロウとオーレッドの会話を思い出しそうオサムロウに指摘する。他の四人もその時の会話を聞いていたのでミシガンの意見に同意を示すが、

 

 

オサムロウ「仕方が無かろう?

 我はこれでもダレイオス一の剣闘士としての腕に誇りを持っていた。

 我の生涯においては世界最強の集団バルツィエでさえも単騎戦でなら勝ちを譲ることは無かった。

 我が勝利を逃したとすればコーネリアス枢機卿との引き分けくらいなものだった。

 我が何者かを相手にして敗北するということは無かったのだ。

 

 

 その我を真正面から撃ち破ったのがブルータルだ。

 我は生涯初めて全く手も足も出せぬ敵と遭遇したのだ。

 それからはブルータルをどのように打ち倒そうかと思考に更けっていたのだ。」

 

 

ウインドラ「あの大猪に手こずっていたんだな………。

 まぁ奴は俺達で倒したが………。」

 

 

アローネ「私達が倒すまではブルータルもヴェノムによってゾンビ化していたのでオサムロウさんが倒せなかったのも分かりますよ。」

 

 

タレス「確かにあんなのがセレンシーアイン周辺に現れてそれを倒そうとして倒せなかったのなら他の主に目を向けている程暇じゃなかったんですよね。

 他の主を知らなくて当然です。

 先にブルータルを倒さなければならないんですから。」

 

 

 アローネがフォローを入れるがタレスがそれを台無しにしてしまう。オサムロウは居たたまれない気持ちになるが、

 

 

オサムロウ「この地方のヴェノムの主が最強候補に上がりでなかった理由はカルト族から聞かされていた目撃情報がどれもゾンビ化前のモンスターがブルータルよりも弱いモンスターばかりだったからだ。

 素で強いブルータルならばヴェノム化の条件が同じなら後は種族的な上下関係で強者か弱者が決まるであろう?

 ならばブルータルに刈られていたようなモンスターのヴェノムなどブルータルと並び立つには烏滸がましいと言うものだ。」

 

 

カオス「オサムロウさんって自分を負かした相手を偉く称賛しますね………。」

 

 

 カオスがオサムロウがここまでブルータルを高く評価しているのが気になった。普通は自分を負かした相手をこのように言うだろうか?悔しくなって反則だとか相手に文句でも言いそうなものだが…。

 

 

オサムロウ「敗北という経験を積ませてもらえたのだ。

 武の道は何事も経験が自身の力を底上げしてくれる。

 武とは本来強き者へと挑むためにあるのだ。

 我にブルータルという目標が出来たからこそ我はブルータル討伐のために修練に明け暮れることが出来た。

 我よりも強き者が現れなかったらいつまでも我は我への挑戦者を待つだけで腕を磨く機会を不意にしていただろう。

 

 

 ブルータルこそが我を昔のような強者への挑戦者へと戻してくれたのだ。

 非公式だったが我にとってはブルータルが倒されるまではブルータルがこのダレイオスのチャンピオンだと思っていた。」

 

 

 五人はその発言に驚いた。自分達が五人がかりで成り行きで倒したブルータルがまさかの非公式ながらダレイオスのチャンピオンだったという事実に……。

 

 

ウインドラ「………すまん、

 もしや俺達は貴方の目標としていたブルータルを倒すべきでは無かったか?」

 

 

アローネ「倒すべき目標だった相手を何も知らずに迎撃してしまったのなら私達が余計な真似を………。」

 

 

 オサムロウの口振りではブルータルをライバルのように思っていたようだ。それを多対一で殲滅してしまいどうしようもない気持ちになってくる。だがオサムロウの反応は違った。

 

 

オサムロウ「気に病む必要はない。

 始めからブルータルはいづれ誰かが討伐せねばならなかったのだ。

 闘技場のように対人戦でなら不殺でのしあがった我だったがブルータルに関しては殺さねばなるまいと思っていた。

 そしてそれが我には出来なかっただけのこと……。

 我には元よりヴェノムを倒す手段が無いのだからな。

 言ってしまえばヴェノムの主全てがこのダレイオスのランキングトップを牛耳っていたのだ。

 我の目標にしていたブルータル等その底辺でしか無かったのだろう?

 

 

 だったらこれからは他の主達と対峙するまでだ。

 ソナタ等が言うにはクラーケンですらブルータルは足元に及ばぬ程の強敵だったときく。

 ならば他の主達にも更なる我の目標となる主が存在していることだろう。

 我はその主達を次の標的に見定めるだけだ。」

 

 

 カオス達五人が思っていたほどブルータルのことに関しては気にしていない様子のオサムロウ。彼は更なる強敵を求めて腕を磨くようだ。

 

 

タレス「でしたらボク達のように単属性に強化された力を得られればオサムロウさんお一人でも主と戦って行けそうですよね。」

 

 

ミシガン「またあの殺生石の精霊に頼んでみること出来ないの?」

 

 

ウインドラ「またあれを呼び出すのは勇気がいるぞ?

 現在あれとは敵対関係にはなっていないが五ヶ月後にどうなるか分からん。

 今のまま順調に残り“五つの部族の村”を回り“六のヴェノムの主”を討伐しなければならないのだからな。」

 

 

ミシガン「ふ~ん?

 残り六かぁ………?

 

 

 ん?

 六?」

 

 

カオス「!

 なんか数が合わないね?

 一つの部族の地方に一体ずつ主がいるんだよね?」

 

 

アローネ「そう聞いていますが………?」

 

 

タレス「……アイネフーレの場所の主を倒してませんよね?」

 

 

ウインドラ「確かにそうだな。

 だがアイネフーレの領地では遭遇しなかったな………。」

 

 

 ここに来てヴェノムの主が計算に合わないことに気付く。ヴェノムの主は全部で九体確認されていてそのうちのスラート、ミーア、クリティアのヴェノムの主は討伐済みで各部族に一体づつ配置されているのならアイネフーレの主とはまだ遭遇はしていない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……これは戻って探しにいかなきゃいけないのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「その必要は無い。

 あの周辺にはもういないだろう。

 アイネフーレの場所に関してはスラートの領地と同じでブルータルが縄張りとしていた。」

 

 

タレス「ブルータルが?

 じゃあ他の主がそれぞれダレイオスの部族の領地を縄張りとしているとして最後の一体はどこに?」

 

 

オサムロウ「最後の一体に関しては奴は特定の所在地は把握できていない。

 奴は他の主と違い移動範囲が広いのでな。

 ある意味ダレイオス全土が奴の縄張りと言っても過言では無いだろう。」

 

 

アローネ「その主とは一体何のギガントモンスターなのですか?

 それほどまでに移動範囲が広いと仰るのならそのギガントモンスターは“空を飛ぶモンスター”なのでは?」

 

 

オサムロウ「その通りだ。

 奴はゾンビ化前は普通の鳥形のモンスターだった。

 だがゾンビ化してから他の生物を吸収していって奇形化し全く別の生物へと変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姿が変わった奴の名は“グリフォン”。

 風を操るモンスターでゾンビ化してもそれは変わらない。

 グリフォンは鳥の頭部と背中に翼を持ち獅子の体をしている凶獣だ。

 強さは主の中堅クラスらしいがその速度は主の中でも最速と聞いている。

 

 

 ………もしかすれば最後と言わずその内姿を見せるかもしれぬな………。」



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急がば先へ

ウィンドブリズ山 南西側麓

 

 

 

 カルト族が住む地方のヴェノムの主を討伐しに来たカオス達はヴェノムの主の情報を掴むためにカルト族を探すがカルト族は村には不在でカルト族がいそうな場所を探してウィンドブリズ山を降りてきた。

 

 

ウインドラ「……やはりいないか………。

 この地方はもうこの辺りくらいしか人が住めそうな場所は無いぞ?」

 

 

 念のために数日かけて山を大回りしてカルト族を探したのだが一向に見付からずカオス達は途方に暮れていた。

 

 

オサムロウ「…このような無駄な時間が掛かってしまっては次の場所のブロウン族の地へと向かった方が得策かもしれぬな。」

 

 

 捜索に痺れを切らしてオサムロウがカルト族の主を素通りすることを提案する。

 

 

アローネ「いいのでしょうか……?

 まだ私達はこの地方のヴェノムの主の討伐が完了しておりませんよ?」

 

 

オサムロウ「そのヴェノムの主もカルト族も見付からないのだ。

 恐らくカルト族が移住してどこか別の場所へと向かい主もそれを追っていったのだと考えられる。

 いつまでもここに長居は無用だ。

 こんな寒い場所に長居し続けるようならソナタ等の体調にも響く。」

 

 

ウインドラ「ミシガンは寒さで震えていたが俺達は多分の話になるが早々風邪などは引かんと思うぞ?」

 

 

オサムロウ「多分の話ならやはり先に進もうか。

 絶対と言い切ってもらわんと納得が出来ん。

 ソナタ等もソナタ等の体質のことを完全に把握できておらんのだ。

 過信して体調を崩されてはそれこそ後の祭りだ。

 傷は治せても風邪を治すような術は無いのだからな。

 

 

 我等は出来ることから潰していかんとならないのだ。

 一つのことに手足が止まるようなことにもなれば世界が精霊に滅ぼされてしまうのであろう?」

 

 

 オサムロウの懸念していることはもっともだ。いかに時間がまだ後五ヶ月あってもダレイオスは広くその広い土地から倒さねばならない敵が六体。早足に三体は討伐は完了しているがそれが同じペースで続く保証はどこにもない。それにまだカオス達のヴェノムの主を対峙するというクエストも序盤だ。この先に待ち受ける困難は恐らくヴェノムの主だけではないだろう。バルツィエの先見隊すら未知のレアバードなる乗り物でこのダレイオスの地に侵入して来ているのだ。彼等は実のところ正面から戦えばカオス達なら勝つことは可能だ。だが彼等の狙いは大魔導士軍団………仮の名を名乗ることにはなったがカオス達を殺生もしくは邪魔をすることである。セレンシーアインではカオスの世界全体に届く裂光でカオス達のことをバルツィエ側は無視出来ない存在となったことだろう。……そんな正面から勝てないと分かっている彼等が取るべき行動を予測すればセレンシーアインで逃がしたランドール相手にアローネが口を滑らせてしまった現在のカオス達の目的の邪魔である。カオス達は今共に戦う“軍”を欲していた。その軍をかき集めるために軍が編成出来なくなっている理由の不死のヴェノム、“九のヴェノムの主”を討伐して回っているのである。この九体のヴェノムの主さえ倒してしまえば時間で消滅するヴェノムは自然とダレイオスから消えてなくなるだろう。これを果たした時ダレイオスはかつての九の部族が再び集いカオス達の国マテオに対抗しうる軍を再編出来るだろう。

 

 

 つまり今後はバルツィエの先見隊はこの計画を阻害してくる恐れがあると言うことだ。ランドール、ダインの他にも何名か先見隊がいるようなことを話していたとすると全員にもうカオス達の企みは伝わっているだろう。彼等はラーゲッツやユーラスのように直接攻撃してくる者もいればランドールのように大局を見て手を打ってくるような者もいる。これから先彼等バルツィエの先見隊がどのようにカオス達の計画を妨害してくるか分からない以上計画は早めに進めねばならない。………今となっては計画を急ぐ理由は他にもあるのだがそれは一先ず主を倒しきれるかどうかなのだが現状では順調に進められているためまだ深く考える段階ではない。

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは自分の中に眠る殺生石の精霊の力を持ってすればデリス=カーラーンを破壊し尽くせることは承知している。ならば………、

 

 

 この力を持ってすればバルツィエなど一捻りで組織ごと………あるいはその拠点あるいは都市ごと焼き尽くすことも可能だとは思っている。

 

 

 ……しかしカオスはそれを望まない。カオス自身誰かを殺すことには抵抗がある。それが例えどんな悪人だろうとその手にかけてしまえばかつてのトラウマが蘇る。そのトラウマを払拭できなかった故にシーモス、トリアナスの海道では出さずに済んだ犠牲を払うことになってしまった。その事もあってカオスはやるべき時に行動を起こさなければ誰も救えないのだということを学んだ。

 

 

 カオスはもう悪と見定めた相手に容赦はしない。その相手を殺さなければならないのならカオスは剣を振るう覚悟は出来ている。例え自身が望まなくても自身がやらなければ他の誰かが殺すかその誰かが殺されるかのどちらかだ。ならカオスは自身が剣を振るうべきだと思う。本来ならもっと自分よりも上手くこの与えられた力を使いこなす者が他にもいただろう。あのミストにいたとすればそれは自分ではなく祖父だ。祖父がこの力を得てさえいればもっと上手に世界を纏められていたのではないか?カオスは常々自分という世界を何も知らない田舎者が中心になってしまって善いのだろうかと疑問に感じている。この先バルツィエと戦うことになれば自身は剣を振るうことはあってもその戦果を得るべきではない………。自身の世界はミストを飛び出した今でもミストだけだ。ミストさえ無事なら………祖父が守りたかったあの村さえ無事なのなら他には何もいらない………。先日タレスやウインドラが言っていた新生ダレイオスの王の話などはマテオの王家に近しい血を受け継いでいたとしても自分は所詮田舎育ちの田舎剣士だ。自分にその王になる資格が回ってくるのだとしても喜んでその資格を掴むことは出来ない。

 

 

 幸いにも共に旅する仲間のアローネがその資格を欲している。彼女はその資格を得てウルゴスの同胞を探しだすのだろう。

 

 

 ………だったらカオスは何も考えずにただ剣を振っているだけでいい。剣を振り続けてキリの良さそうなところで自分が消えればアローネは無事に王になれる。彼女は女性だからその場合女王だが。その先は自分はカーラーン教会にでも身を寄せてアローネの同胞探しの手伝いでもしようかと思う。それが自分が頼りないせいで失ってしまった命達へのせめてもの罪滅ぼしとなるだろうから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……急ぎましょうか。

 次の場所へ。」

 

 

オサムロウ「良い決断だ。」

 

 

 カオス達六人はカルト族の地方のヴェノムの主を後回しにして次のブロウン族のいる地方へと進みだした。



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オサムロウの年齢

シュバルツ石砕道

 

 

 

 カルト族のヴェノムの主を捜索するも見付からず後回しにすることになりカオス達はカルト族の次のブロウン族の地方へと足を運ぶことになった。ウィンドブリズ山を降りて次にやってきたのはシュバルツ石砕道であった。

 

 

タレス「…この付近、

 ………どうにも土に元気がありませんね………。」

 

 

 タレスが地面の砂を拾い上げてそんなことを言ってきた。触っただけで土が元気かどうか分かるのだろうか?

 

 

オサムロウ「よく分かるなタレス。」

 

 

タレス「土に関しては地属性を得意とする術者ですからこれぐらいのことなら分かります。

 この辺りの土は妙に粘っ毛がありますし水を上手く蒸発できていないように思えます。

 これでは植物も水分過多で根腐れして育ちにくいんじゃないですか?」

 

 

オサムロウ「恐らくそれはこの辺りがヴェノムが多く通った証拠だ。

 ヴェノムはあらゆる生物を死滅させてしまうからな。

 その影響で土や草木が育ちにくい環境へと変わってしまったのだろう………。

 

 

 ………これではこの周辺には今後食物を植えることも出来ぬな………。」

 

 

ミシガン「雪が振ってるよりかはマシなんじゃないの?」

 

 

オサムロウ「クリティアやカルト族のいた地方はあれはあれでそういった気候の食物は取れるのだ。

 

 

 ……だがこの付近は元々の森林は全てヴェノムによって枯らされ地も荒らされてしまった……。

 自然というものは一つが欠けただけで循環が滞る。

 地中の水分を吸い上げていた植物が無くなったことでこのように粘土質の土が出来上がる。

 これが酷くなれば泥沼が出来上がるのだろうな………。」

 

 

 オサムロウがこの地の荒れ具合を見てどこか儚げな空気を漂わせる。この地に何か想いを寄せるものでもありそうだ。

 

 

アローネ「この地は………何かオサムロウさんと縁のある場所なのですか?」

 

 

オサムロウ「…我にとってはこのダレイオス全土が縁ある土地だ。

 我は何ぜ………何百年も昔からこのダレイオスを旅していたのでな。」

 

 

タレス「今何千年もって言いかけてましたよね?」

 

 

 タレスがオサムロウが言い留まったことを指摘する。それに対してオサムロウは、

 

 

オサムロウ「単なる言い間違いだ。

 気にするな。

 誰にでも言い間違いはよくあることであろう。

 

 

 人が千年以上生きられる訳がない。

 我が何千年も昔からダレイオスにいたとすればもっと我は老けているとは思わぬか?」 

 

 

 エルフの寿命はおよそ千年。千年も長く生きていれば大抵は寿命を全うせずに何かしら病気や事故などで亡くなることの方が多いのだが………、

 

 

ウインドラ「確かにオサムロウ殿はそう老け込んでいる訳ではないが………実際のところはおいくつぐらいなのだ?」

 

 

 ウインドラがオサムロウに年齢のことを質問する。ファルバンやオーレッド等の見た目からして六百才はいっていそうだが………。

 

 

オサムロウ「ソナタ等の二十倍以上は年を重ねていると言っておこう………。」

 

 

ミシガン「正確にはいくつくらいなの?」

 

 

 曖昧な返答をするオサムロウだったので他の四人はそれ以上聞くつもりは無かったがミシガンがまた空気を読まずに追求する。

 

 

オサムロウ「あまり高齢の者に年齢を深く追求するものではないぞ?」

 

 

ミシガン「え~?

 でも二十倍ってことは四百才はいってるんでしょ?

 そこまで聞いたら本当の年齢も知りたくなるって!

 ねぇいくつなの?」

 

 

ウインドラ「ミシガン、

 誰しも答えたくないことの一つや二つはあるものだ。

 そこまでにしておけ。」

 

 

ミシガン「ん~………。

 でも四百才って言う割りにはそこまでおじさんって監事でもなさそうなんだけどなぁ………。

 

 

 もっと若そうに見えるけど………。」

 

 

オサムロウ「……年齢のことはもういいであろう。

 この年になってくるともう年を重ねることに何の喜びも見いだせなくなるのだ。

 

 

 ………早い話が我も自分の年のことなどとうに数えてなどいない。

 人として生活を始めてからは誕生日など何百回と過ぎていったのでな。

 もう誕生日すら覚えておらんのだ。」

 

 

ミシガン「誕生日忘れちゃったの?」

 

 

オサムロウ「大人の世界には年など関係ないからな。

 このダレイオスでは生きるということは戦うことだ。

 戦いがあるのなら犠牲も出る。

 いつ誰がどこで死ぬかも分からぬ世界だ。

 そんな世界で年を数える必要性がどこにある?

 

 

 ………無駄話はここまでにしようか。

 今我等が知るべきことは我の過去ではない。

 これからのダレイオスの行く末だ。

 我の過去を詮索する暇があるのなら少しでも主がいそうな場所に目処をつけて進むべきだろう。」

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この不毛な日常会話の中でオサムロウは嘘をついていると皆は思った。彼は頑なに自らの過去の真髄までは話そうとしない。この会話の流れから先の話から何かカオス達には知られたくないことがあるようだ。彼の口振りからして彼が自分の素性を嘘をついてまで隠し通そうとする理由は何なのだろうか?何か触れてはならない過去がオサムロウにはあるのだろうか?何か………人には言えない理由が彼の過去にあるのだろうか?

 

 

 ……だがそれを知ろうとするとカオス達は藪の中の蛇をつつき出すことになるだろう。彼が秘密にしていることが何なのかは分からないがそれについては今は知らなくても何も問題はない。オサムロウは今現時点では味方なのだ。味方ならば多少の内情の謎は隅に追いやってしまっても構わないだろう。もしそれを知ってしまった時、それを知らなかった時には戻れないのだ。オサムロウの過去は深入りし過ぎると何か危ない香りが漂ってくる。五人はそんな予感に駆られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………オサムロウの隠している秘密は何かとんでもない爆弾が眠っているのだとこの時のカオス達はそう確信していた………。



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アインスとデリス=カーラーンの類似点

ブロウン族の集落トロークン

 

 

 

 カルト族の主を後回しにしてカオス達はウィンドブリズ山を降りシュバルツ石砕道を通り抜けてブロウン族の集落まで来ていた。ここまでの村々と同じで無人なのは変わらなかった。到着早々にまたカオス達はブロウン族を探すことにする。

 

 

ミシガン「もうこういう人がいない村にも慣れたねぇ………。」

 

 

ウインドラ「無人の村なら旧ミストがあったじゃないか。」

 

 

ミシガン「あそこは昔からあったしなんたってカオスがいたから当たり前の光景なんだって思ってたけどミスト出てからは無人の街なんて全く通って来なかったからダレイオスに来てからこんな村みたいなところばっかりで驚くことばかりだったじゃない?

 ……それがこうも何回も人がいない村ばっかり来ると………。」

 

 

アローネ「流石にもうこの風景では驚くようなことはありませんね。」

 

 

タレス「むしろこのダレイオスでは人がいる村を見付けることの方が驚きますよね。」

 

 

ウインドラ「そうだな………、

 本来なら人がいて当たり前の村や街なんだがな………。」

 

 

 ダレイオスに来てからおよそ二ヶ月と少し。人がいる街をさ迷い始めてから何度もこの光景は目にして来た。マテオとはまるで真逆の静けさ。昔はここやここ以外の村や街も人で賑わっていたことだろう。……その光景が今や見る影もない。本当にここに人が住んでいたのか?

 

 

 ……住んでいなければこのような村等は無かっただろう。今ではこの人が住んでいた筈の場所の不自然な光景が自然な光景のものと捉えられる。

 

 

 仕方ないのだ。無人の村に住んでいた者達も好きでそこを立ち退いたのではないのだ。皆は不死の主を恐れて立ち退かされた。立ち退いた者達は今はどこか別の場所でヴェノムの主に見付からないように避難しているだけだ。カオス達がここに来た目的はその主を倒してダレイオスからヴェノムを根絶すること。ヴェノムウイルスを振り撒く主さえいなくなってしまえばこのダレイオスの村々もいつかはマテオの街のように村に人がいて当たり前の光景が戻ってくる。そうすればダレイオスは拮抗とはいかないだろうが大国としてマテオと戦えるだけの国土を持つ唯一の対抗国として復活する。

 

 

 ヴェノムを振り撒く存在さえこの世界からいなくなれば………。

 

 

オサムロウ「ソナタ等がこの国を変えてくれ。

 さすればデリス=カーラーンはバルツィエの思い通りの世界からは救われる。

 ただでさえヴェノムによる世界の終末を予見してきた国だが今それを覆す力を持つ者がソナタ等だ。

 ソナタ等の力があればこのダレイオスは………世界は確実により良い世界へと向かって行けるだろう。」

 

 

カオス「俺達は別に世界を救いたいんじゃないですよ?

 結果的にそうなるだけで俺達が救いたいのはミストです。

 ミストの安全が確保できた後はこの国は………。」

 

 

オサムロウ「今はその想いだけで十分だ。

 だが全部族の再統一を果たした時は少しだけ我等にも協力を願いたい。

 目的は違えど共にバルツィエを討つと決めた同志なのだ。

 それくらいは互いに背中を合わせて戦う同志として融通は利くであろう?」

 

 

タレス「ボクからもお願いします。

 ボク達にはカオスさん達の力が必要なんです。

 ボク一人ではとてもダレイオスを立て直すことなんて出来ない………。

 カオスさんのような強大な力を持つ方が一緒に戦ってくれないと他の部族達も立ち上がってはくれないでしょうから………。」

 

 

カオス「…タレスにまでお願いされたら断ることなんて出来ないなぁ………。

 まぁやれるだけのことはやってみるつもりではあるけど………。」

 

 

オサムロウ「構わんさ。

 

 

 ソナタ等が共に戦ってくれるということだけでも十分な“強み”だからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ブロウン族…………。

 ブロウン族とはどのような方々なのでしょうか?」

 

 

 ひとしきり村に人がいないことを確認し終えたらアローネがそんな質問をオサムロウに投げ掛けた。これまで通りに捜索を試みていたがブロウン族のことについてはよく聞かされてなかったからだろう。カオス達もオサムロウの返答を聞くことにする。

 

 

オサムロウ「ブロウン族とブルカーン族は他の部族達とは見た目からして違う。

 何が違うのかと言えば先ず真っ先に目に飛び込んでくるのがその“肌の色”だな。

 ブロウン族とブルカーン族は陽射しが強い地方に長く住んでいるとあうこともあってか遺伝的に皆肌がソナタ等のように白くはない。

 褐色の肌を持つ人種だ。」

 

 

カオス「肌が褐色………?」

 

 

ミシガン「黒っぽいってこと?」

 

 

オサムロウ「そうだな。

 正確には日照りに焼けてそうなったらしいが一目見れば我の言葉を理解できるだろう。」

 

 

 肌が黒い色の人種………。カオス達はそれを聞いて想像がつかないような者達を想像したのだがアローネだけは違った。

 

 

アローネ「ダークエルフと言われる雷属性の術を得意とする種族のことでしょうか?」

 

 

カオス「ダークエルフ?」

 

 

オサムロウ「!

 ……随分と古い呼び名を知っているな………。

 昔は褐色肌のエルフをそう呼んでいた時期があったのだが………、

 タレスが話したのか?」

 

 

タレス「いえ……?

 ボクが話したのはこのダレイオスには九の部族が住んでいるということだけの筈ですが………。」

 

 

オサムロウ「ではアローネ、

 どこでその呼び名を知ったのだ?」

 

 

 オサムロウが話す前から褐色の肌の人達のことを知っていたアローネ。彼女はどこでそんな名称を知って………?

 

 

ウインドラ「……ウルゴスにもいたのか?

 褐色の肌を持つ人種が。」

 

 

アローネ「御名答です。

 ウルゴスにはブロウン族とブルカーン族とは名称は違えどもここダレイオスと同じ様に“九の部族”が住んでいました。」

 

 

カオス「ウルゴスにも九の部族が…?」

 

 

アローネ「覚えていませんか?

 レサリナスのカーラーン教会でカタスに御兄弟が他に八人………カタスを含めて全員で“九人”の兄弟になると。」

 

 

カオス「カタスさんに大勢のお兄さんと弟さんがいることは聞いたけど………。」

 

 

タレス「確かにそんな話をしていましたね。

 ボクは覚えていますよ。」

 

 

 唐突に三ヶ月も前の話を覚えているのか聞かれても直ぐには思い出せないだろう。タレスはしっかりと覚えていたようだが。

 

 

アローネ「カタスの御兄弟は皆ウルゴス国王を父に持ちますが母親は全員違います。

 母親はそれぞれの部族から選りすぐりの血統を集めてウルゴス国王に嫁ぎました。

 

 

 ……ここに来て確信しました。

 このダレイオスの九の部族は全てウルゴスの九の部族の特徴とよく似ていることに。

 ……………これも星の記憶なのでしょうね。」

 

 

オサムロウ「ほう……、

 と言うことはカタスティア様の御兄弟の中にも褐色の肌を持つ者がいたのか………。

 ダークエルフと言うのは昔にあった蔑称なのだがそれもあったのか?」

 

 

アローネ「私達の国ではダークエルフはただの肌の色で分けられた名称です。

 “ブラウン族”と“ボルケーノ族”が考えるにそれぞれブロウン族とブルカーン族の特色と同じなのだと思います。」

 

 

ミシガン「ブラウンにボルケーノ?」

 

 

ウインドラ「他にはどんな部族がいたんだ?」

 

 

アローネ「ブラウンとボルケーノの他には“クイック”“ウッズ”“スィー”“スタディ”“ケイブ”“コールド”“ウォー”の七部族がありました。

 カタスの御兄弟は皆この九の部族の優れた血統を母に持つ者達です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この国ではこうした部族間の生まれはハーフエルフと扱われているのですよね?

 だからカタスは同じ様な生まれのハーフエルフを救うためにカーラーン教会を開いたのだと思います。」




 はぁ………、


 一年経っても自分の文章力の稚拙さが拭えないのが嫌になる………。


 出来れば私はプロットとか物語の構成のネタだけを担当して誰か私の変わりにこの作品を上手に書き上げられる人にバトンタッチ出来ないだろうか。


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ウルゴス国の王族子女

ブロウン族の集落トロークン

 

 

 

 ブロウン族を探しているうちにブロウン族がどのような部族なのかをオサムロウに聞いていたところウルゴスにもダレイオスのように九つの部族がありカタスティアがダレイオスでいうところのハーフエルフだということをアローネから聞かされる。

 

 

ウインドラ「カタスティア教皇がハーフエルフ………?」

 

 

ミシガン「ちょこちょこカタスさんって人の話を聞いてはいたけどちょっと兄弟が多すぎるなぁとは思ってたんだぁ……。

 

 

 でも何でウルゴスの王様はそんなにお嫁さんが多いの?

 欲張り過ぎじゃない?」

 

 

アローネ「初めて耳にすればそう思われるのも仕方がありません。

 ですがそれも部族間での不平等を無くすための措置としては皆納得した上でのことだったのですよ。」

 

 

カオス「不平等を無くすため?

 九人も結婚相手がいることが………?」

 

 

 何故部族間での不平等を無くすための措置が九人もの相手と結婚することになるのだろうか?平民の出のカオスやミシガン達にとってはアローネの言ったことが理解できなかった。が、直ぐに答えはアローネの口から出てきた。

 

 

アローネ「ウルゴスでもこのダレイオスと同じ様に部族間での覇権争いがありました。

 ウルゴスの歴史はこのダレイオスの歴史と似かよっています。

 とある隣国が勢力を拡大してきたため緊急の対処法として九つの部族が一つの大国として立ち上げウルゴスが建国されたのです。」

 

 

カオス「…その勢力ってのがダンダルクのことなんだね?」

 

 

アローネ「えぇ…、

 私達の国ウルゴスはこのダレイオスと同じ様に大敵を相手にするために力を一つにしたのです。

 ダレイオスと違うとしたら敵は同じエルフではなくヒューマだったと言うことですが………。

 

 

 ダンダルクとの抗争が本格化したのは丁度私達の前の世代の時でした。

 当時の陛下………、カタスのお父上なのですが陛下は九つの部族を統合には成功しましたが陛下の部族が国を建国してから優遇されるのを他の部族達は善しとはしませんでした………。

 ダンダルクとの抗争のために建国されたので国の統治社は必要だったのですが陛下の部族“ウォー”は全部族中頭一つ飛び抜けた武力はありましたがダンダルクの機械兵器の前ではどの武力も等しく脆かったのです。

 ………結局後にウォーが統括することに疑問を投げ掛ける部族が現れ始めダンダルクと戦う以前に国が崩壊してしまうところでした………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そこで国は一つの結論を導きました。

 

 

 “王の再選定”を行うことになったのです。」

 

 

オサムロウ「王の再選定……?

 ウルゴス王が退位したと言うことか?」

 

 

アローネ「そうではありません。

 ウルゴス王は当時はエルフの誰よりも力がありました。

 ウルゴス王が退位したとして代わりの王など誰にも出来ません………。

 

 

 出来るとしたら……その子供達です。

 ウルゴスは九つの部族を一度並立にするためにウルゴス王にそれぞれから優れた能力を持つ女性との子供を作らせることにしたのです。

 生まれた九人の子供はどの子供もウルゴス王の血と優れた各部族の女性の血を受け継ぐために多才に秀でた能力と王位を受け継ぐ資格を持つ子供達。

 この子供達がダンダルクとの抗争で最も戦果を上げた者の母親の部族が最終的にウルゴスの真の王の部族となる予定でした。

 この決まりなら九つの部族全てが納得し公平に王を決定することが出来るのでどの部族からも不満はありませんでした。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……!」

 

 

タレス「なんという政略結婚………。」

 

 

ミシガン「それって家族としてどうなの………?」

 

 

ウインドラ「他を出し抜くための婚姻だ。

 当然半分しか血が繋がらない兄弟達それぞれがギスギスした関係だっただろうな………。」

 

 

オサムロウ「カタスティア様がそのような………。

 ………それでよくあのような立派な人格が形成されたものだ………。」

 

 

 皆一様にカタスティアの出自に思うところがあるようだ。兄弟が多く仲の良かった一つ上の兄と一つ下の弟がいてその二人とは冒険者としてギルドでクエストを受けたりもしていたと聞いていたのでそんな重い歴史があったとは思わなかった。カタスティアからは誰もがそんな歴史を感じとることは出来なかったのだ。

 

 

アローネ「ウインドラさんの仰る通り兄弟間はほぼ冷えきっていました。

 酷いものになると暗殺者を雇って他の兄弟を消そうとする方もいたようですから………。

 

 

 ですが冒険者仲間として共にギルド“漆黒の翼”を結成していた六男でカタスのお兄様の“ミラーク様”と七男で弟様の“カードナー様”はカタスとは仲がよく他の御兄弟の方々のような過激なこともなさらなかったので私もよくそのお三方とは一緒にお茶などを嗜んでおりました。」

 

 

タレス「ミラークさんにカードナーさん………、

 また新たな御兄弟のお名前が出てきましたね。」

 

 

カオス「他にはグレアムさんっていう医学を学んでいたお医者さんがいたんだよね?

 その二人はどんなことが出来たの?」

 

 

 記憶が間違ってなければカタスの兄弟はそれぞれが何かしら秀でた能力が備わっていた筈………。ならばそのミラークとカードナーにも突出した力があるのだろうと思った。

 

 

アローネ「ミラーク様は政治関係のお仕事をしておりました。

 カタスが他の小国を相手に外交をするのでしたら彼はウルゴス国内の政策や方針に関わりを持っておりました。

 その内か外かの国の政治の仕事をする関係でカタスとは仲が宜しかったようです。

 カードナー様はウルゴスの政治にこそ深く関わりは持ちませんでしたがその代わりに類いまれなる舞踊の才能がおありだったのです。

 彼は数度拝見しただけで長時間にも及ぶ他の部族の民謡や躍りを記憶しだれよりも洗練された舞いを披露していました。

 カードナー様はその躍りを武にも結び付け戦闘の際はその躍りながら戦う様を拝見した様子から“ソードダンサー”と呼ばれておりました。」

 

 

オサムロウ「ふむ………、

 ソードダンサーとな………?」

 

 

 カタスティアと仲が良かった兄弟は二人とも王族ということもあってか五人があまり馴染みのないような才能を持っていたようだ。ミラークに関してはまだオサムロウやウインドラが多少なりともどういったものなのかが分かるだろう。

 しかしカードナーの舞踊はここにいる五人が誰も知り得ぬ世界だった。

 そして踊りながらたたかうとは一体……?

 

 

ウインドラ「…今となってはそのソードダンサーとやらに興味が尽きないが確認する方法が無いのなら仕方ないだろうな………。

 

 

 ………それで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ=リムはどの王子と結婚する予定になってたんだ?」



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アローネの置かれていた状況

ブロウン族の集落トロークン

 

 

 

カオス「アローネが………結婚?」

 

 

タレス「何の話ですかそれは?」

 

 

ミシガン「アローネさん結婚相手がいたの!?」

 

 

 アローネからカタスティアの兄弟の話を聞いている最中にウインドラがそんな突拍子もない話を振ってきた。ウインドラとアローネだけがその話は知っているのだが他の三人は突然の話に驚愕する。アローネには………結婚する相手がいたと言うのか………?

 

 

アローネ「ウインドラさん………、

 その話は皆の前ではしていただきたくなかったのですが………。」

 

 

 アローネがウインドラを責める。がウインドラは意にも介さずに言い返す。

 

 

ウインドラ「どうせ流れた話だろう?

 今更過去の解消された婚約など隠しても隠すだけ無駄じゃないか?

 バルツィエとの決着をつけた後のお前の進路を考えればもうウルゴスの王子達との婚姻は不可能だ。

 

 

 ……今のうちに話せるだけのことは話しておいた方がいいんじゃないか?

 ここにはオサムロウ殿もいるんだ。

 将来ダレイオスを引っ張っていこうという者が問題になりそうな過去の婚約者の話を引き摺っていては舵取りに支障が出るぞ?」

 

 

アローネ「………」

 

 

オサムロウ「…?」

 

 

 ウインドラの語りかけにアローネは苦い表情を浮かべる。どうやら婚約者云々の話は事実のようだ。しかしアローネの話を聞いてきた限りではアローネは………。

 

 

アローネ「………」

 

 

オサムロウ「……話しにくいことなのであれば別に無理して話すこともないのだぞ?

 我もソナタ等に話せぬこともあるのだ。

 そんなことくらいで将来的にダレイオスの舵取りに支障が出るとは言えんだ「話します!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……私には姉のアルキメデスがいたということは話しましたね。

 本来でしたらその姉のアルキメデスが時期ウルゴス国王の妃と迎え入れられる筈でしたが姉様は国では奴隷扱いを受けてきたサタンというハーフエルフの男性と恋に落ち彼と御結婚されました。

 本当ならウルゴス最高貴族として認められない婚姻ではありましたがサタンの超越したその能力の高さから両親すらもその婚姻には次第に前向きになり遂にはサタンの奴隷証書を引き取るまでに………。

 それほどまでにサタンは常軌を逸した才能を持っておいででした。

 その力は私の知るところではエルフでも最強の戦士として天才と称され王に君臨したウルゴス王とその力を引き継ぎ各分野でそれを凌ぐカタスを含めた九人の王子王女達をも遥かに引き離して………。

 

 

 これは彼に近しかった私と私の家族だからこそ分かることでしたがサタンは一人で文明を築ける程の医学と科学と魔科学の知識がありました。

 そのハーフエルフという負のレッテルさえ無ければ彼を王に据えてダンダルクと戦い勝利を導けるほどに。

 オサムロウさんには話していませんでしたが当時のウルゴスはダンダルクに劣勢でした。

 彼等ダンダルクの扱う破壊兵器はどれも私達が使用している魔術などよりも効率的に他者を殲滅でき都市をまるごと焼き払う………。

 この時代でいうとヒューマはバルツィエそのもの。

 バルツィエこそ一つの家系でしょうがヒューマは兵士全てがバルツィエ級かそれ以上の破壊能力を持つ武器を所有していました。

 彼等との戦いの行く末は敗北が濃厚とされていました。

 いかに九人の王子王女達が天才であろうと所詮はエルフの力の限界止まりで彼等でもダンダルクとの戦果を上げれば王に拝命されることは約束されてはいましたがそれすら不可能なほどまでにダンダルクとの力の差がありました………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを覆す魔科学兵器を開発したのがハーフエルフ達でそれの筆頭がサタンだったのです。

 サタンは一気に戦況を膠着にまで巻き返す程の魔科学兵器を開発し彼が開発した“トールハンマー”はダンダルクの破壊兵器に匹敵するほどの力を発揮しサタンを預かるクラウディア家は他家を引き離して大きく戦果を上げることが出来ました。

 

 

 ……ですがそれほどまでに戦果を上げてもハーフエルフの功績は身元を預かるクラウディア家の功績にしかならずハーフエルフはどのような素晴らしい功績を上げても“出来て当然、出来なければ廃棄”と言うようなものでクラウディア家は大きすぎる功績は姉の婚約破棄と中和されて代わりの婚姻を結べる相手を探さなければなりませんでした………。

 

 

 その白羽の矢にたったのが私です。

 私が後の王の婚約者となることで婚約破棄という不義理を帳消しにしてクラウディア家の汚点を無かったことにすることが出来たのです。」

 

 

 そこまで話してアローネは区切りを打った。何かと旅の道中でも家と王族のことを気にしてはいたがアローネ自身が家の責任を負わされていたからだったようだ。

 

 

オサムロウ「歴史ある国ではよくある話だがソナタがそのような立場にあったとはな………。」

 

 

アローネ「私の家はウルゴス王族に忠誠を誓いました。

 姉は責任を果たせなくはなりましたが代わりに私がその責任を果たさなければなりません。

 私はダレイオスとマテオの戦争が終結したらウルゴスの王族と同胞達を探しだします。

 婚約についてはどうなるかは分かりませんがそれでも探さなければなりません。

 それが私に課せられたクラウディア家の務めですから………。」

 

 

ウインドラ「だがそんなことを言っても最後にこの国を引っ張ろうとする立場になりたいのならそうは言ってられんだろ?

 ウルゴスの同胞達や王族を探す価値があるのだとしてもそれまでにお前にもそれなりの相手を探さなければならないことを要求される。

 

 

 いい加減に他の相手を見繕ったらどうだ?」

 

 

アローネ「……ですからこの話はしたくはなかったのです!

 やはり貴方はそういう否定的になるではないですか!?

 私のことはもう放っておいていただけませんか!

 今はブロウン族の方をお探しになるのが先の筈です!」

 

 

 アローネはウインドラの忠告に腹を立てたらしくそのままどこかへと行ってしまう。

 

 

ミシガン「……あの言い方はちょっと酷いんじゃない?

 アローネさんはアローネなりに色々と事情があるんだしさぁ……?」

 

 

ウインドラ「俺は…!

 ………俺はアローネ=リムに俺のような失敗をしてほしくはないだけだ………。

 後々自分だけでは抱えきれないことだって出てくる筈だ。

 ……そうなったとき何も事情を知らなければ共に支えてやることなんて出来ないだろう………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 少し悪くなった空気を払拭するためにカオス達はアローネに続いてブロウン族の捜索に当たることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………ウインドラの物言いはまるでアローネが他の婚姻相手を探さなければならぬような口振りであったな………。

 何故そんな必要があるのだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういうことは大魔導士軍団のリーダーでありダレイオスの時期王候補であるカオスだけで十分なのだが………。

 何か思い違いでもしていないだろうか……?

 アローネ達にも相応の地位は与えられるだろうが別にカオス以外は自由に結婚でもなんでもしてくれて構わんのだぞ?)」



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蛙の主

ブロウン族の集落トロークン 夜

 

 

 

 カルト族の村グリツサーに続いてブロウン族の集落トロークンでもブロウン族を見付けられなかったカオス達。現在は時間帯が夜に延びたため捜索を打ち切りこれからのことを検討中だ。

 

 

オサムロウ「……ここにいないとすれば後は………候補が散らばるな………。

 シュバルツでのことを思うとカルト族もこの付近に潜伏している可能性があるのだが………

 ………まさか既にアイネフーレに続いてカルトとブロウンも………。」

 

 

ウインドラ「ヴェノムの主に殺られてしまったと言うのか?」

 

 

 オサムロウがカルトとブロウンが主によって攻め滅ぼされた可能性を示唆する。そうなってくるとアイネフーレはタレス一人しか生き残ってはいないため部族再統合の話は残りの六部族だけで行うしかない。……まだ回っていないフリンク族とアインワルド族とブルカーン族が滅びていなければの話だが………。

 

 

オサムロウ「シュバルツの光景を目にしただろう?

 あそこはヴェノムが荒らした形跡があった。

 少なくともヴェノムかヴェノムの主があの近辺を通ったことは確実だ。

 カルト族がヴェノムの主を恐れてブロウン族が統治するこの地まで避難してきたのであればこの地の主と鉢合わせした可能性も高い。

 ……流石にヴェノムの主が二体相手では圧倒的に分が悪すぎる。

 ヴェノムによる自然破壊だけでも食料貧困の原因となっているのだ。

 滅びる理由は山のようにある。

 ……まだ確定ではないがカルトとブロウンは諦めるべきか………。」

 

 

ミシガン「そんな………、

 せっかくここまで来たのに………。」

 

 

ウインドラ「情報不足が致命的だな………。

 ダレイオスの南側はミーアとスラートが調査を手伝ってはくれているが北側は手薄だ。

 最悪ヴェノムの主だけは見付け出して退治しなければならないだろうが………。」

 

 

タレス「また前のようにここでライトニングを放ってみますか?」

 

 

アローネ「それをするにしても視界が悪いこの夜の時間帯では危険です。

 夜が明けてからにしましょう。

 それにこの地方に来ている可能性のあるカルト族の地方にいたヴェノムの主も同時に出てくるかもしれません。

 情報が全くの皆無なのですから慎重に動きましょう。」

 

 

ミシガン「……オサムロウさん、

 この地方のヴェノムの主はどんな奴なのでしょうか?」

 

 

オサムロウ「何だ急に口調を変えて………。

 何か思うところでもあったか?」

 

 

ミシガン「………だってさぁ?

 この順路ってオサムロウさん達が決めたものでしょ?

 クリティアの人達の村までは良かったけど………なんか行き当たりばったりって言うか………取り越し苦労って言うか………。」

 

 

タレス「取り越し苦労は全然意味違いますけど………。」

 

 

ウインドラ「そう焦るな。

 この国の事情を鑑みてみればどうしようもないことだろう?

 それぞれの部族が元の土地に帰ってからは交流が途絶えていたと聞く。

 この地方の詳細な情報など無くて当然なんだ。

 こうして直接足を運んでみなければこの地方のことなど分からない。

 

 

 それに何も収穫がなかった訳じゃないんだ。

 カルトとブロウンが既に滅びていた。

 これが分かっただけでも大きな収穫だ。」

 

 

ミシガン「滅びていたのが収穫って………そんなのが何の収穫になるの?」

 

 

アローネ「この国が戦場になった際はこの土地に自由に拠点を構えることが出来ます。

 この土地の持ち主達はもういないのですからこの訪問でそういった下見の意味もあるのですよ。」

 

 

ミシガン「そういうのって他の人でも出来そうじゃない?」

 

 

カオス「主に出会ったら俺達しか対処できないだろ?」

 

 

ミシガン「……まぁそうなんだけどね……。」

 

 

ウインドラ「何がそう不満なんだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「だってクリティアのところから全然戦えてないんだもん!!

 この後に待ってるっていうフェニックスだって火のモンスターなんでしょ!?

 最初から魔術でこの辺りの主を呼び寄せられたんならもっと早くに倒しちゃってさっさとフェニックスと戦えてたんじゃない!

 時間だけ過ぎていって最後は同じ手に頼るしかないって何か損した気分にならない!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミシガンが自棄にふて腐れていたのは単純に戦いたかっただけのようだ。

 

 

ウインドラ「……クラーケンを倒してランドールに魔術で打ち勝ってからミシガンは戦闘狂になってしまったな………。」

 

 

アローネ「まぁまぁ、

 便りがいがあるというものですよ。

 彼女も早くヴェノムの主を倒したいのですよ。」

 

 

カオス「一番戦闘から程遠かったのに今じゃ一番の戦闘好きになっちゃったなぁ………。」

 

 

タレス「勇み足にならなければいいですけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「……この地方のヴェノムの主は説明しなくてもいいのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「蛙だ。」

 

 

カオス「………はい?」

 

 

オサムロウ「ブロウン族を苦しめているこの地方のヴェノムの主の特徴だ。

 一言で言うのなら蛙なのだ。」

 

 

アローネ「蛙………。」

 

 

タレス「………なんか………弱そうですね………蛙って………。」

 

 

ウインドラ「……こんな内陸部に蛙だと………?」

 

 

オサムロウ「蛙は水源の近くに現れるが今回の蛙はヴェノムの主だ。

 常識で量ってはならん。」

 

 

ミシガン「蛙なら水属性だよね?

 私の水通るのかなぁ………。」

 

 

オサムロウ「通るかどうかはクラーケンで試さなかったか?

 クラーケンも元々は水属性の敵だぞ…?」

 

 

ミシガン「あそっか!!」

 

 

カオス「って言うか蛙って………。」

 

 

 ブルータルやクラーケン………、

 マテオではダイナソーやガーディアントを相手にして来て皆どれも相応の強さを持っていたと思う。だが今度の敵は蛙という響きでどうにも恐ろしさが半減してしまう。蛙は雨が降った時などにミストの森でも出現していた。モンスターの種類的にはあれはオタオタとかゲコゲコとかいう種だったようだが特に苦戦するほどの敵では無かった。オタオタは尻尾で叩いてきたりゲコゲコは手で殴ってきたりしてきた。……つまりはこの地方のヴェノムの主もそう言うことなのではないか?

 

 

オサムロウ「いなくなる前のブロウン族から聞かされた情報ではこの蛙は例に漏れずギガントモンスター級の大きさを持ち……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 偶然そこらを飛翔していた竜種を丸飲みにしたようだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………竜種を丸飲み………。竜は大抵は成長するとギガントモンスター級………と言うよりギガントモンスターそのものとなる。それを丸飲みするとなると更に巨大だということになる。

 

 

 ………これはまたクラーケンの再来のようなことが起こりそうだとオサムロウ以外の五人は予感するのだった。



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ブロウン族の男ハンター

近場の林

 

 

 

 カオス達はブロウン族の集落の外れでヴェノムの主を誘き出そうとしたのだが主が接近してくる寸前に肌が土色の男に呼ばれて一時その男に同行することとなった。オサムロウが言うにはブロウン族と思われるが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「俺の名はハンターだ。

 見ての通りブロウン族の者だ。」

 

 

 主から遠ざかり主が立てていた足音も聞こえなくなって安全だと判断したのか男が唐突に自己紹介をしてきた。やはりこの男はブロウン族のようだった。

 

 

カオス「俺はカオスです。」

 

 

アローネ「アローネと申します。」

 

 

タレス「アイネフーレ族のタレスです。」

 

 

ミシガン「ミシガン=リコットだよ。」

 

 

ウインドラ「ウインドラ=ケンドリューだ。」

 

 

オサムロウ「我は「サムライだろ?アンタは有名人だから知ってるぜ。」………そうか。」

 

 

 男の自己紹介に対しそれぞれが自己紹介で返す。流石にオサムロウはダレイオスでも名が通っていたこともありオサムロウだけは自己紹介は不要だった。

 

 

ハンター「……それで?

 アンタ達は何でここに来て何であんな馬鹿な真似をしたんだ?

 ここは一応はブロウン族の敷地になってる筈だが?」

 

 

 危険が去ったこともあってブロウン族の男のハンターはカオス達に事情を聞いてくる。何も知らない者からしたらカオス達の行いは自らヴェノムに気付かれるような奇怪な行動に見えたのだろう。

 

 

オサムロウ「その事についてだが………。」

 

 

ミシガン「この地方のヴェノムの主を倒しにやって来たんだよ!」

 

 

 オサムロウが説明しようとしてミシガンが口を挟む。これもまた事情を知らなければ理解されなかっただろう。しかしハンターは………、

 

 

ハンター「……ふ~ん?

 アンタ達もヴェノムを狩れる口なのか?」

 

 

ウインドラ「!………その反応………、

 他にヴェノムを正面から倒すことの出来る者を知っているようだな。

 ……レイディーという女性がここに来なかったか?」

 

 

 ハンターは他の部族達とは違う反応をし、その反応から一度カオス達と同じ能力を持つ者と出会ったことがあるようだった。そこから導き出される答えはレイディーしかいない。

 

 

ハンター「来たぜ。

 あの“嘘つき女”のことだろ?」

 

 

ミシガン「嘘つき………?」

 

 

 ハンターはレイディーのことを知っていた。だが嘘つきとは………?

 

 

アローネ「…レイディーは嘘などついておりませんよ!

 私達もレイディーも本当にヴェノムを倒す力があるのです!」

 

 

 ハンターの様子からレイディーが嘘つき呼ばわりされたのはヴェノムが倒せることを信じていないのだと思いアローネがそのことを否定する。

 

 

 だが男がレイディーを嘘つき呼ばわりした理由は別のところにあった。

 

 

ハンター「……悪い悪い、

 そう言う意味で言ったんじゃねぇよ。

 あの女が本当にそこらのヴェノムを倒す瞬間はみさせてもらったからな。

 他にも同じ力を持つ奴等がいることも聞いた。

 それがアンタ達なんだろ?」

 

 

タレス「…そうですが………。」

 

 

 レイディーはこの男と会いヴェノムを倒すところを目撃させた。この男はカオス達の能力のことを知っている。では一体何故嘘つきなのか………。

 

 

ハンター「アンタ達、

 ヴェノムの主倒して回ってんだろ?

 ことのおおよそはあの女から聞いてるぜ。

 バルツィエの味方がいることもな。」

 

 

ウインドラ「そうか、

 では話が早くて助かる。

 俺達はこの地方のヴェノムの主を退治しに来たのだが………。」

 

 

ハンター「………あぁ、

 “ビッグフロスター”を倒しに来たのか………。」

 

 

 ビッグフロスター………それが例の蛙の名前らしい。

 

 

アローネ「……私達はそのビッグフロスターを退治して貴殿方ブロウン族と「ビッグフロスターならもういねぇよ。」………はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「ビッグフロスターならもう倒された。」

 

 

タレス「倒された………?」

 

 

ハンター「あぁ、

 ………呆気なくな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを聞いたカオス達は歓喜に沸いた。ヴェノムの主ビッグフロスターが倒されたと言うことはそれが出来るとしたら………、

 

 

カオス「やっぱりレイディーさんがヴェノムの主を倒しておいてくれたようですね!」

 

 

アローネ「彼女には彼女の目的があって旅をしていると言うのに………、

 それでも私達の計画を予期して道すがらヴェノムの主を………。」

 

 

タレス「凄いですね………一人で主を二体も………。」

 

 

ウインドラ「俺達は五人いて同じ二体だと言うのにな………。

 彼女には敬服するよ………。」

 

 

ミシガン「ってことはヴェノムの主も残りは五体………。

 さっきの足音の主を倒せば残り四体!!

 後四ヶ月と半月もあるのに凄いペースじゃないこれ!?」

 

 

オサムロウ「…流石に先程のカルト族の地方の主までは手が回らなかったか………。

 それでも大した成果だが………レイディーという女性はなんという実力者なのだ………一度手合わせ願いたいな………。」

 

 

 各自レイディーの功績を誉めちぎる。自分勝手で性格の悪い女性だが見ていないところではカオス達のサポートをしているようでどうにも憎めない存在だった。レイディーがヴェノムの主を討伐していたのならこれでカオス達は残り五体を討伐するだけでいい。そして先ずは先程の主についてハンターから聞こうとしたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「……悪いな。

 説明が不足していた。

 ビッグフロスターをやったのはあの嘘つき女じゃない。」

 

 

カオス「え……?」

 

 

タレス「………どういうことですか?

 じゃあ誰がビッグフロスターを殺したって言うんですか?」

 

 

 当然の疑問だ。レイディーの経路やここでハンターが名前を知っていたことからビッグフロスターを倒したのはカオス達にはレイディー以外に心当たりがない。他に考えられる可能性としてはあり得ないことだがワクチンを保有しているバルツィエの先見隊くらいなものだがあのワクチンではヴェノムの主のウイルスには対応していなかったとカイクシュタイフ洞窟でシーグスに使用した際に実証済みだ。

 

 ………もしやまた新たに改良されたワクチンでも開発したのか?ダレイオスに攻め込もうとしていたのならあのレアバードという乗り物でダレイオスを偵察しヴェノムの主を知っていた可能性も在りうる。通常のヴェノムよりも強いウイルスを放つ主を確認したとすればそれに対応したウイルスも開発に取り掛かっていても不思議は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「……お前達はヴェノムの主を退治して回ってるんだよな?

 そしてさっきそこのお嬢さんが残り五体って言う前に隣の騎士さんが二体倒したと言っていた…………。

 

 

 あの嘘つき女が一体倒してお前達が二体倒して計三体の主を倒したのか………すげぇと思うぜ?

 よくあんな化け物共を倒せたもんだ。

 この調子で他の主達も倒したい気持ちも分かるぜ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……だがそれもここで打ち止めだ。

 さっきのあの足音の主“カイメラ”には誰も敵わない。」

 

 

 タレスの質問を無視してハンターが先程のカイメラという名前の主を討伐するのは不可能と断言する。何故彼はそこまであの主を倒せないと断言できるのか?

 

 

オサムロウ「……よもや………!

 この地方の主を倒したのは………!?」

 

 

ハンター「察したか?

 多分その考え通りだよ。

 この地方のヴェノムの主ビッグフロスターを倒したのは…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルト族の連中の所からカルト族を追ってきた別のヴェノムの主カイメラだ。

 ヴェノムの主同士が衝突しあった結果勝ったのはカイメラだった。

 

 

 あの光景を見る限りダレイオス最強のヴェノムの主はカイメラだ。

 奴は無敵だ。

 誰も敵いやしねぇ。

 恐らくバルツィエが束になったとしても………、

 それどころかこのデリス=カーラーンは最終的にカイメラが全てを飲み込むだろうよ。

 カイメラこそがこの世の終末そのものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの嘘つき女も旅の次いでにちょちょいとぶっ倒してやるよ、とかほざいていたがカイメラを相手に手も足も出ずに重傷を負わされてどこかへ逃げて行ったぜ。

 デカイ口を叩くわりにはそれはもう情けない後ろ姿だったな………。」



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主戦開始の前に…

ブロウン族の集落トロークン 外れ 朝

 

 

 

 ブロウン族が見付からず仕方なくカオス達はライトニングでヴェノムの主を情報無しで迎え撃つことにする。主が近くにいれば直ぐにでも戦闘が出来る準備をする。運が悪ければ情報がほぼ無い主が二体………二体のうち一体は同じくカルト族の地方から発見できなかった主である。カルト族の地方では地形が雪山であったためライトニングで誘き出す作戦は使えなかったがこの場所でなら雪崩の危険性もなく十分に戦うことが出来る。

 

 

ウインドラ「……ではライトニングを放つぞ?

 準備はいいか?」

 

 

カオス「俺が撃とうか?」

 

 

ウインドラ「お前がか?」

 

 

オサムロウ「止すのだ。

 ソナタの技はバニッシュボルトでさえ昼夜を反転させる力がある。

 主を誘き出すためにそう何度もダレイオスを光らされては無関係な土地にいる者達が混乱を招く。

 

 

 ……ここは我の出番だな。」

 

 

ウインドラ「オサムロウ殿がライトニングを放つのか?」

 

 

オサムロウ「これから対戦する相手はヴェノムの主だ。

 我の力ではウイルスは効かなくとも致命傷を与えることは出来ない。

 戦闘するソナタ等のマナは温存しておくべきだ。」

 

 

カオス「…じゃあ俺のマナを使ってください。

 何かトラブルがあったときオサムロウさんのマナが少ないと撤退が難しくなるので。」

 

 

オサムロウ「…ソナタに関してはマナの減少を心配する意味が無かったか………。

 

 

 では使わせてもらうぞ。

 ソナタのマナを……。」

 

 

 カオスが手を差し伸べオサムロウがその手を握る。普通ならマナの譲渡は効率が悪く譲渡する際にもマナを消費し自らの譲渡したマナの分も消費する。二重に消費が重なりマナが枯渇しそうになった者への緊急延命措置としてしか使用されない手段だが、

 

 

オサムロウ「……相変わらず凄まじいマナだな。

 手を握るだけでソナタから大量のマナが溢れてくる………。

 ざっと数えても数百人から数千人分のマナが………。」

 

 

カオス「このマナはあくまでも俺のではないんですけどね。

 俺の中に眠る精霊から流れ込んでくるものです。」 

 

 

オサムロウ「これほどの量をたった一人で………。」

 

 

カオス「……オサムロウさんって何者なんですか?」

 

 

オサムロウ「急にどうした?

 我の詮索はあまりしてほしくないのだが………、

 

 

 ……と言いたいところなのだが何故そう思った?」

 

 

カオス「こうして手を握ってると相手のマナを感じとることが出来るんです。

 相手がどんな人でどんな魔術が得意なのかとか………。

 

 

 ……だけどオサムロウさんのマナって他の人と違うって言うか……何だかよく分からない感じがするんです。」

 

 

オサムロウ「我もソナタ等の秘術レイズデッドを受けたからな。

 その影響が出てるのではないのか?」

 

 

カオス「そうじゃないですよ。

 オサムロウさんのマナはなんか他の人達とは違って何が得意なのかとかも分からなくて………、

 今まで感じたことの無いマナを感じるんです。

 ………けどこれってどことなく………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元が俺達に近いようなそうでもないようなマナを感じます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………他の者達を待たせても悪い。

 始めるぞ。」

 

 

カオス「え?あっ、はい。」

 

 

オサムロウ「『落雷よ我が手となりて敵を撃ち払え

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライトニング!』」

 

 

 オサムロウのもう片方の手からライトニングが天空へと放たれる。一瞬辺りが雷の光の影響を受けて明滅する。この辺りにモンスターがいればオサムロウの放ったライトニングに吊られて様子を見に来ることだろう。それがヴェノムなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……直後遠くの方から大きな音が鳴り響く。その音は数秒感覚でどんどん大きくなりなり何者かがこちらに近付いて来るのが分かる。これは単なる地震では無く何者かによる足音だ。

 

 

ウインドラ「……来たな。」

 

 

タレス「あっさりと出てきてくれそうですね。」

 

 

アローネ「足音に違いはありません。

 近付いて来る者は………一体だけのようですね。」

 

 

ミシガン「どっちが来るのかな………?

 カルト族の地方の主か………この地方の蛙か………。」

 

 

カオス「多分この地方の蛙じゃないよ……。

 足音からして蛙だったらこんなゆっくり歩いてくるような足音にはならない。

 蛙だったらジャンプで飛び跳ねた時に全身で地面を揺らすような感じがする筈………でもこの足音の鳴り方からして相手は二足歩行のモンスターだよ。」

 

 

オサムロウ「カルト族のヴェノムの主が来たか………。

 蛙の主の方は来なかったようだが………この辺りにはいなかったのか………?」

 

 

 各々がヴェノムの主襲来に緊張を見せる。……これからまたクラーケンに続いてヴェノムの主討伐クエストが開始されるのだと身構える………、

 

 

 ………が、足音とは別の方向から突如カオス達に声をかける者が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「お前達!!

 何やってるんだ!!?

 早く逃げろ!!

 ヴェノムの主が来ちまってるだろうが!!

 早く退散しろ!!」

 

 

ミシガン「え!?

 誰!?」

 

 

???「俺のことはどうだっていい!!

 とにかく俺についてこい!!

 ここから離れるんだ!!」

 

 

 不意に現れた男は急遽カオス達を別の場所へと連れていこうとする。その男の肌はカオス達とは違い土色の肌をしていた。……とすればこの男は………。

 

 

カオス「オサムロウさん。」

 

 

オサムロウ「間違いない、

 

 

 ブロウン族だ。

 ……一旦彼の後についていくとしようか。

 ブロウン族が見つかったのなら先に話をつけることの方が先決だ。」

 

 

ウインドラ「了解した。

 ミシガン、

 ここは戦闘よりもあの男についていくことの方が先らしい。

 この場は後にするぞ。」

 

 

ミシガン「えぇ!?

 けどもう主来ちゃってるよぉ!?」

 

 

タレス「放っておきましょう!

 どうせこのペースの接近じゃ追い付いてきやしませんよ!

 この付近にいたことさえ分かればいつでも挑戦出来ますし!」

 

 

???「無駄話するな!

 今はとにかく走って俺の後についてくるんだ!!」

 

 

 やや強引そうな男に急かされカオス達はヴェノムの主が接近してきているにも関わらず放置することにする。カオス達の目的としては主討伐は必須事項なのだが他の部族との協定を結ぶことも同様であるため後付けで協定を取り繕うのは難しいと考え先にブロウン族達と話をつけることにしブロウン族の男の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎のモンスター?「コホォォォォォォ…………。」



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合体した主カイメラ

近場の林

 

 

 

カオス「ヴェノムの主がヴェノムの主を倒した……!?」

 

 

 衝撃的な話の内容に一同は愕然とする。ビッグフロスターが倒されたことは喜ばしかったがその倒した存在が同じく主と呼ばれる別のヴェノムだったとは………。倒したのは名をカイメラと言うらしい。しかし主とはいえヴェノム同士………。ヴェノムがヴェノムを倒すことなどあり得るのだろうか………?

 

 

ハンター「……正確には倒したんじゃないと思うがな。

 ビッグフロスターはまだ死んだ訳じゃねぇと思うぞ。」

 

 

 先程自分で話した内容を自ら否定するハンター。ビッグフロスターが倒された訳ではないとはどういうことだろうか?

 

 

オサムロウ「それはつまり………、

 ビッグフロスターがカイメラと戦いその強さに圧倒されてどこか別の地方へと逃げたということか?」

 

 

 ハンターの話を瞬時に理解しオサムロウがハンターに問う。が、その予想も外す。

 

 

ハンター「最初に話したろ?

 ビッグフロスターはもういねぇって。

 ビッグフロスターだったゾンビはもうこの世のどこにもいねぇ………。

 だがその細胞は生きてる。

 今もまだ残ってるんだよ。

 奴の紙片はまだこの地方に………。」

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「………?」

 

 

オサムロウ「………」

 

 

 ハンターの説明は要領を得ない。ビッグフロスターが生きているのか死んでいるのかが曖昧だった。彼は一体何を伝えたいのだろうか?

 

 

ミシガン「結局ビッグフロスターはどうなったの?」

 

 

 ハンターの話が拗れに拗れてきたのでミシガンが結論を催促する。それでもハンターは結論の前にカオス達に自分の話を続ける。

 

 

ハンター「……お前達はヴェノムが魔術で弾け飛ぶところを見たことあるか?」

 

 

タレス「……それは………大抵の人はあると思いますよ?

 初めてヴェノムを目にしてから攻撃して………。」

 

 

ハンター「弾け飛んだヴェノムの体のそれぞれはその後どうなる?」

 

 

アローネ「…分裂された体の確固が独自に次の獲物を求めて活動し始めます。」

 

 

ハンター「………そう、

 奴等はスライムと同じで肉体が砕け散ろうともそれぞれが本能に突き動かされて狩りを始める…………。

 ………分列するんなら逆に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “合体”とすると思わないか?」

 

 

オサムロウ「!

 まさかビッグフロスターは……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「ビッグフロスターはカイメラに吸収されたんだ。

 さっきはお前達が倒しに来たとか言ったせいで吊られて倒されたなんて言ったが実際はカイメラと同化したんだ。

 今この地方にいるのはカルト族のところにいたカイメラとこの地方のビッグフロスターの合体した全く別の化け物。

 ヴェノムの主なんて同括りのもんじゃない。

 

 

 “ヴェノムの王カイメラ”だ。

 お前達が倒してきた他の主達とは一線を引く程のモンスターだ。

 五、六人がかりで二体は倒せたようだがここにいるヴェノムの王は単純換算では二体分になるが強さは他の主の倍以上だ。

 ……俺達ブロウンもビッグフロスターこそが最強のヴェノムだと思っていたがそれ以上が別の地方にいてそいつがビッグフロスターを呑み込んで更に強大で凶悪な化け物に変わっちまったんだ。

 

 

 悪いことは言わねぇ………。

 命が惜しかったら精々ヴェノムの王に見つからないような場所を探してそこに隠れすむといい。

 あんな怪物に打ち勝つビジョンが見えねぇよ………。」

 

 

 ハンターは絶望に染まった表情でそう告げる。それほどまでにヴェノムのの王カイメラとやらが恐ろしいようだった。

 

 

ウインドラ「そうはいかんな………。

 ヴェノムの主二体分だろうがヴェノムの王だろうが俺達には引くに引けぬ理由がある。

 戦う前から諦めるようなことは出来ない。」

 

 

アローネ「もう少しそのカイメラというヴェノムの特徴を教えていただけませんか?

 敵がどのような戦法でどのように立ち回ればよいのかを。」

 

 

オサムロウ「その前にソナタ以外のブロウン族と会わせて貰えぬか?

 先にアレに挑む棟を族長に伝えて討伐後にこれからのダレイオスの方針を話しておきたい。」

 

 

 ハンターの話を聞いたからと言ってもそれだけでは素直に引き下がれない。六人ともカイメラと戦う気が十分にあるのだが………、

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「……族長達に会わせる訳にはいかねぇな………。」

 

 

タレス「何故ですか?

 ボク達はダレイオス統一を目指しているんですよ?

 何も話をするだけに行くんじゃなく貴方達にボク達と同じような能力を分け与えることだって出来るんですから。」

 

 

 レイズデッドを使えば一先ずはウイルスによる死者は減らせる。流石にヴェノムを屠る力の方は無理なのだがハンターが族長達に会うのを拒否したためタレスはさも全く同様の力が付与出来るように言った。だがこれでもハンターは、

 

 

ハンター「お前らは何も分かっていない。

 カイメラの恐ろしさはお前らの想像以上だ。

 かといってそれを教えたらお前達はカイメラに挑みにいくつもりだろ?

 

 

 ………だったら俺の口からは何も教えられない。

 俺の責任でもう誰かが死ぬようなことは避けたいしお前らも見す見す死ににいくことはない………。

 ここは素直にどこかへ行ってくれ………。」

 

 

 そう言ってハンターはカオス達に背を向けて林の奥の方へと消えていった………。

 

 

タレス「重要なことだけは聞けませんでしたね………。」

 

 

ウインドラ「せめてカイメラとかいうヴェノムの………王か………。

 そのヴェノムの王とやらの属性くらいは教えてほしかったが………。」

 

 

ミシガン「ヴェノムの王かぁ………。

 何か主よりも強いってことは分かるけど私達なら倒せるよね?」

 

 

アローネ「慢心で挑むのは危険ですよ。

 敵はこれまでの二体とは比べ物にならない様子なのはハンターさんを見て分かっていますから。」

 

 

カオス「オサムロウさんどうします………?

 他のブロウン族の人や族長達にも会えませんでしたけど………。」

 

 

オサムロウ「先程の主がヴェノムの主二体分で別の種へと昇華したことは分かった………。

 

 

 ならば我等は挑む他あるまい。

 情報の当てからは聞けるだけ聞けたとしよう。

 そもそもが彼等とヴェノムとでは戦闘にならんのだ。

 ヴェノムに対して有効策など考え付かん相手からは引き出せる情報などそう大したものはないだろう。

 

 

 ……では戻るとするか。

 呼び出しておいて放置したままだからな。

 王とやらも我等を待ちくたびれている頃だろう。」

 

 

ミシガン「そうだね!

 例え凄く強いヴェノムって言ったってこっちには私とカオスがいるんだもん!

 主だか王だか知らないけど私達の魔術でぶっ飛ばしてやるわよ!」

 

 

ウインドラ「威勢がいいな。」

 

 

タレス「ボク達もミシガンさんのような術が使えたらいいんですけどね。」

 

 

アローネ「ミシガンのパワーアップした方法を思い返してみたらより強い敵の“属性攻撃をその身で受け止めれば”私達も同様に強くなれるのですけどね。」

 

 

オサムロウ「………!」

 

 

カオス「じゃあさっきのところまで戻ろうか。

 一応カイメラってヴェノムを見付けたら遠くから観察してみようか。」

 

 

アローネ「そうですね。

 では行きましょうカイメラの元へ。」

 

 

 そうしてカオス達は先程のカイメラのいた付近へと踵をかえす。手に入れた情報では満足に戦えるかは心配だったがそれでも討つべき敵を前にして逃亡するという選択肢はカオス達には無い。カオス達はカイメラ討伐に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………属性攻撃をその身に受けてパワーアップか………。

 ………ではその方法は割りと直ぐそばにあるのではないか?」



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増殖した主………?

ブロウン族の集落トロークン 外れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラ?「………コホォォォォ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「……………いましたね。

 アレがカイメラでしょうか?」

 

 

ウインドラ「アレで間違いないだろうな………。

 あれだけ図体が大きければさっきの地響きも頷ける………。

 あの“オーガ”のようなモンスターがカメイラか。」

 

 

ミシガン「うわっ腕長くて太っ………。

 あんなのにパンチされたら一瞬で空まで飛んでいきそう………。」

 

 

オサムロウ「あれは………?」

 

 

カオス「どうしたんですか?」

 

 

オサムロウ「…………」

 

 

 目前のカメイラらしきギガントモンスターに何かを感じとるオサムロウ。するとオサムロウは懐からスペクタクルズを取り出し使用する。

 

 

タレス「念のためにカメイラのことを調べるんですね。」

 

 

ウインドラ「……あの姿を見る限りだとどこにもビッグフロスターを吸収したようには見えんな。

 大きさもブルータルよりも少し大きい程度か………。」

 

 

ミシガン「何かハンターって人が言うほどの強さは無さそうだよね。

 強いっちゃ強いんだろうけど。」

 

 

カオス「それは俺達が特別だからじゃないかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「…………!?

 これは………!?」

 

 スペクタクルズでカメイラを調べていたオサムロウが声を上げる。スペクタクルズが調べた情報に何かあったのだろうか…?

 

 

ミシガン「ねえ、

 どうしたの?」

 

 

ウインドラ「奴の情報が分かったのか?

 弱点は?」

 

 

タレス「えっと………。

 氷属性で………。

 弱点は火とはなってますね………。

 ヴェノムのことですから普通の人では火じゃ倒せないとは思いますけどね………。」

 

 

 タレスがオサムロウが使用したスペクタクルズを覗き込んで他の四人に伝える。氷属性………雪山から来たヴェノムということもあって氷属性だったようだ。

 

 

 ………そうなるとオサムロウが以前に話していた全ての属性に耐性があるとは何だったのか………。オサムロウはというと………。

 

 

オサムロウ「………」

 

 

 まだスペクタクルズを凝視している。カメイラが氷属性だったことに仰天しているのだろうか………?

 

 

カオス「氷属性ってことに何か疑問点でもあるんですか?」

 

 

 カオスがいつまでもスペクタクルズの内容に目を向けているオサムロウに話しかける。するとオサムロウは、

 

 

オサムロウ「……この表記………。

 上の方を見てみるがいい。」

 

 

 そう言ってオサムロウが皆に見えるようにスペクタクルズを向けてきた。そこに表記してあったものとは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名称 ジャバウォック

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「!?」

 

 

 オサムロウが見せてきたスペクタクルズに記載されてあったのはあのモンスターがジャバウォックということだった。

 

 

カオス「ジャバウォック……!?」

 

 

アローネ「ジャバウォックはレイディーが倒したのではなかったのですか…!?」

 

 

タレス「まさか……ジャバウォックが二体いたんですか……!?」

 

 

ミシガン「“カメイラ”じゃなかったの、アレ!?」

 

 

ウインドラ「おかしい………。

 ライトニングに吊られてやって来たのならヴェノムの筈だが………。

 ………本命ではなかったか………?」

 

 

カオス「でもあれ…………ギガントモンスターだよね………?」

 

 

ミシガン「……カメイラの他にも雪山にいたモンスターが降りてきたんじゃない?」

 

 

アローネ「そうだとしたら雪山からここに来るまでに消滅しているでしょう。

 ここに来るまでに他にはヴェノムのエネルギー供給源となる生物はおりませんでした。

 

 

 あの個体は間違いなくヴェノムの主の筈です。」

 

 

タレス「オサムロウさん、

 ヴェノムの主は確実にダレイオスに“九体”しか確認されてないんですよね?」

 

 

 目の前のジャバウォックに困惑し再度ヴェノムの主の合計数を確認してみる。あれがカメイラでないとすればあの個体で十体目になってしまう。

 

 

オサムロウ「……ヴェノムの主はこの百年で出現した時期はどれも同時期だ。

 それまでは民はなるべくヴェノムと接触しないように心掛けていた。

 主が出現する寸前はヴェノムはほぼダレイオスから滅消しかけていたのだがバルツィエの奇襲直後に各地に主が現れた。

 それ以降の数年間で途切れ途切れの情報網だったが特に主が増えたという報告はどの部族からも出てこなかった。」

 

 

ウインドラ「……最後の情報はいつなんだ?」

 

 

オサムロウ「…一年前だ。

 一年前にカーラーン教会の者が各地の部族達から聞いて回ったそうだ。」

 

 

ミシガン「一年前って………そんなの当てになるの!?」

 

 

 一年前では期間が長すぎる。その間に主が増えていないとは限らない。主が出現したのはバルツィエの襲撃からだが現在バルツィエは少数がこのダレイオスに潜伏している。………もしかするとそのバルツィエがまたダレイオスにヴェノムの主を誕生させてしまったのではないかと疑いが出てくる。

 

 

タレス「…レイディーさんが討ち損じたとかではないでしょうか………?

 討伐ではなく撃退したとか………、

 それだったらジャバウォックがここまで逃げてきたとしても辻褄はとおると思いますが………。」

 

 

オサムロウ「いや………、

 セレンシーアインでオーレッドは確かにレイディー嬢がジャバウォックを討ち倒したと言っていた……。

 第一撃退したのだとしたらどこか別の場所に潜んでいると言うことだ。

 クリティアの里付近が安全になったからといって里の外に出てしまえば撃退したジャバウォックと遭遇してしまう危険がある。

 あのオーレッドもそこまで愚かではなかろう。

 ジャバウォックは討伐されたのは事実だ。」

 

 

カオス「……じゃあ一体あれは………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「…………面倒なことをしてくれたものだ。

 バルツィエめ………。

 またヴェノムの主のウイルスをばら蒔いているのか………。

 これでは主の討伐処ではないぞ。

 先にバルツィエを片付けなければならなくなったか………。」

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

 一行は騒然とする………。この地方の主を倒せば残りは半分と言うところまで来ていたのにまさかの主が増数したことに………。これでは残りの期間四ヶ月半どころではなくなった………。

 

 

 バルツィエは恐らく今後カオス達の妨害をしてくるだろうとは思っていた。例えバルツィエが妨害しにやってきたとしてもカオス達はそれを返り討ちにすることは出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だがこの妨害の方法だけは予測出来なかった。まさかまたヴェノムの主を増やされるとは………。敵ながら見事な妨害をしてくる。思えばヴェノムの主を生み出したのはバルツィエとされているのだ。これを繰り返されればカオス達は永遠にダレイオスからヴェノムを消し去ることは出来ない………。

 

 

 世界の終わりが忍び寄って来るのをカオス達は肌で感じていた………………。



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計り知れない敵

ブロウン族の集落トロークン 外れ

 

 

 

アローネ「……あの主は………いつ頃ヴェノムの主となったのでしょうか………?」

 

 

 最悪な展開に皆が意気消沈しているとアローネがふと疑問を口にした。

 

 

タレス「…バルツィエがダレイオスに来たのはあのトリアナスでの一件以降………、

 この三ヶ月以内のことではないですか?」

 

 

アローネ「………でしたらレイディーはあのジャバウォックと遭遇しなかったのでしょうか?

 ここにあのジャバウォックがいるということはシュネー雪林道かウィンドブリズ山から降りてきたということ………。

 レイディーの経路からして確実にあの二体目のジャバウォックとも遭遇するとは思いますが……。」

 

 

ミシガン「………そうだよね?

 レイディーなら一度一人で倒してるんだしそんなに苦戦する相手じゃなかったと思うから出会ってたら倒していくよね………。」

 

 

ウインドラ「偶々遭遇しなかっただけか………。

 それかレイディー殿がここを通ったタイミングではまだ主化してなかったか………。

 それならマナを求めて他の生物を襲いにこの人里まで降りて来たのは最近になるな。

 レイディー殿にとっては氷の属性のヴェノムの主など一人ででも余裕だっただろうしな。」

 

 

 四人がそれぞれあのジャバウォックに対して思った疑問を口にし最終的に眼前のジャバウォックがレイディーが倒したジャバウォックと別個体でレイディーが一匹目のジャバウォックを倒しここを通過した後にバルツィエが作り出したという案で可決された。

 

 

 

 

 

オサムロウ「バルツィエが目撃されたのはスラート、アイネフーレ、ミーア、クリティアの東ダレイオス側ではソナタ等と共に遭遇したランドールが最初だ。

 奴等の言う本物の大魔導士軍団を殲滅するためにバルツィエは今も他にヴェノムの主を作り出し続けているのだろう………。

 先にヴェノムの主を複製しているバルツィエを倒さねばな………。

 

 

 ………一先ずあのジャバウォックを討伐したら我は一度セレンシーアインに戻ってこのことをファルバン達に報告に戻ろうかと思う。」

 

 

 今現在目の前で十体目と思われるヴェノムの主ジャバウォックについて議論しているといきなりオサムロウがセレンシーアインへと帰還すると言ってきた。

 

 

カオス「え!?

 オサムロウさん戻っちゃうんですか!?」

 

 

アローネ「何をするおつもりなのですか…?」

 

 

オサムロウ「バルツィエがまたウイルスをばら蒔きヴェノムの主を増員しているのだ。

 ソナタ等の計画に大きな支障が発生したため一度ファルバン達に現状を伝えにいきたい。

 そして主の討伐が完了し終わった東ダレイオスで再度ヴェノムの主が発現してないか調べにいきたいのだ。

 それによって今後は我等の最重要討伐対象がヴェノムの主からバルツィエ先見隊に変更することもあり得る。

 

 

 ……ソナタ等には悪いが我は一旦抜けさせてもらうぞ。」

 

 

 オサムロウがたった今発生してしまった問題でジャバウォック討伐以後パーティーを抜けることが決まってしまう。

 

 

タレス「オサムロウさんほどの剣格が抜けてしまうと………。」

 

 

ミシガン「あのイビルリッパーとか見切ったりしてたの凄かったのに……。」

 

 

ウインドラ「ダレイオスの最強の剣士が抜けてしまうのは大きな喪失感が伴うな。」

 

 

アローネ「そうした事情なら仕方ありませんね。」

 

 

カオス「このことは他の人達とも共有しておかないといけませんからね………。」

 

 

 オサムロウがそうすべきだと五人は無理矢理納得することにするがこんな短期間でオサムロウと別行動になってしまうとは思わなかった。オサムロウがいれば今後の主の討伐も余裕があったというのに今目の前にしているあの新たな十体目の主を目撃してしまうとそうも言ってられない。オサムロウが抜けることは一先ず置いておくとしてカオス達はジャバウォックをとにかく討伐することにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャバウォック?「コホォォォォ…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「凶悪そうな顔してるね………。

 とてもペットとしては飼えそうにないや。」

 

 

タレス「どうしてペットにしようという発想になるんですか……… 。」

 

 

ミシガン「私実はミストで怪我してたボアチャイルド拾ったことがあってそれからずっと家でお世話してたんだよ?

 今じゃ大人になってボアになっちゃったけど今でも村の皆もそのことを知ってて村で皆で可愛がってるんだよ。」

 

 

タレス「モンスターを村で………?

 よくそんなことが出来ましたね………。

 ボアチャイルドと言えども気性が荒いと聞きますが………。」

 

 

ミシガン「気性が荒くても小さな頃からなら仲良く育つもんだよ?

 現に“ブーブーさん”も村の中では大人しくて寝てばかりだもん。」

 

 

タレス「ブーブーさん………。」

 

 

 ミシガンの飼っているボアはブーブーさんと言うらしい。モンスターと言っても敵になる前から共に過ごしていれば敵にはならずにペットとして飼うことが出来るようだ。

 

 

カオス「………」

 

 

 十年間まともに村で過ごすことの出来なかったカオスは村にそんなモンスターが住み着いているとは知らなかった………。自分が知らない内にミストではモンスターを飼い始めていたのか。話の限りじゃとくに危険は無さそうだったが………。

 

 

ウインドラ「……あれをペットとして飼うことも手懐けるのも難しいだろうな………。

 なんと言ってもヴェノムに感染したゾンビだ。

 知性は無く目の前に現れたエサに全力で襲い掛かる。

 ゾンビになってしまえば知性も理性もなく獲物を食うことだけしか本能が無いんだ。

 ペットにする件は諦めてくれ。」

 

 

 タレスとペット談義に華を咲かせていたミシガンはウインドラからそんな忠告を受ける。

 

 

 ミシガン「べっ、別に本気でペットにしようとか考えてないから!!」

 

 

 敵を前にしても緊張感の無いミシガン。敵は氷属性のヴェノムの主でこちらのメンバーに有効な攻撃手段を持つ者はいない。オサムロウは火属性の術は使えるがヴェノムに対しては無効化される。

 

 

 それでもこの緊張感の無さは一重にカオスや自分がいるからという余裕の現れなのだろうか。ヴェノムの主が増えてしまった現状をまだ完璧に把握できていないのか。………どちらにしても目前の“あの主”にだけは負けないという自信があるのだろう。レイディーはあのジャバウォックを一人で倒せたのだ。レイディーですら氷属性の魔術だけで討伐出来た。ならば自分達は数だけはいるのだと、そんな条件で負けることは無いのだと、

 

 

 カオスにはそういう様に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時カオス達は間違った思考に捕らわれていた。先程の男ハンターはあのジャバウォックについては何も言及していなかった。この地方に他に主が出現したとは言ってなかったのだ。なまじ事情をよく知っているからこその主が増えただのというそういった予測を立てた。

 

 

 しかし実際は違ったのだ。この地方に主は、ダレイオスに主は……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “五体”しか残っていないということに変わりはなかったのだ。



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カイメラ開戦

ブロウン族の集落 トロークン 外れ

 

 

 

 カオス達はこれからヴェノムの主ジャバウォックを討伐しようとしていた。カオス達の妨害をするためにバルツィエ達が新たな主を作り出し、それが目の前にいるのだと思ったからだ。主が増えたとしてもカオス達のやることは変わらない。倒した後はオサムロウがファルバン達の元へと帰還しこれからはバルツィエ討伐が最優先する手筈になるのだが………、

 

 

アローネ「……先程のハンターさんはカイメラというヴェノムの“王”のことしかお話しておりませんでしたね………。

 あのジャバウォックのことに関してはあの方はご存知だったのでしょうか?」

 

 

 アローネがそんな疑問をオサムロウに投げ掛ける。確かにジャバウォックが出現していることはハンターは何も言ってなかった。彼はカイメラだけにしか注意を向けてなかったのだ。この地方にもう一体主が来ているのだとしたら彼はそのことについてはカオス達よりも把握している筈だが………。

 

 

オサムロウ「……カイメラとやらが他の主などよりも圧巻であったのだろうな。

 ヴェノムの王と呼ぶくらいだ。

 他の主を呑み込んでしまうほどに凶悪な存在だ。

 そんなモンスターがいるとなっては他の主も通常のヴェノムの種と同義に感じてしまっても不思議ではないのであろう。

 ブロウン族にとっては今の災厄はカイメラ一体だけなのだと言うことだ。」

 

 

 オサムロウがそう一言で纏めてしまう。そう言われてみれば納得してしまった。彼等ブロウン族にとって今回避したいのはカイメラというヴェノムだ。カイメラ以外のヴェノムは彼等にとってはもう話に出す程の存在でも無くなってしまったのだろう。それほどまでにカイメラが恐ろしい存在なのだ。単純に計算すればヴェノムの主二体分の強さ、他の主にすら打ち勝つカイメラの危険性を知ってしまえば他の主がこの地に訪れていたのだとしても大した脅威に感じなくなってしまう。カオス達はそういった理由があるのならとそこで話を区切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャバウォック「コホォォォォ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「先程から動きがありませんね。」

 

 

ウインドラ「オサムロウ殿のライトニングでこの辺りに獲物がいるのは分かっているんだろう。

 奴は俺達が出てくるのを待っているんじゃないか?」

 

 

オサムロウ「やはりアレは他の主と同じようだな。

 獲物が現れるまではその場に留まる。

 通常のヴェノムであったら飢餓しないように獲物を探し回るというのに。」

 

 

 観察を続けている内にやはりあのジャバウォックがヴェノムの主なのだと再確認する。行動がヴェノムの主そのものである。それならばと迎撃しようと飛び出す体勢に入るが、

 

 

オサムロウ「我はソナタ等を援護はするが奴の注意を引き付けるのが限界だ。

 各自全力を持ってあのジャバウォックを瞬時に討伐してくれ。

 ……奴との戦闘騒ぎでカメイラが寄ってこないとも限らん。

 ヴェノムの主とそれ以上の存在となったカメイラを同時に相手するのは厳しかろう。

 アローネとミシガンは後方支援でスペルチャージを温存しておくのだ。

 カオス、タレス、ウインドラは接近して撹乱しながらダメージを蓄積させていくのだ。」

 

 

 オサムロウがそう指示を出す。役割としてはオサムロウは致命打は与えられないので司令塔を買って出る。経験豊富なオサムロウがそこに収まってくれれば他の五人もやり易い。オサムロウの指示に文句無く従う五人。

 

 

 ………そして、

 

 

オサムロウ「我が合図したら全員で魔術で狙撃するのだ。

 それから戦闘を開始する。」

 

 

カオス「……俺はどうすればいいですか?」

 

 

オサムロウ「ソナタは………、

 上手く当てられるか?

 

 

 そもそも当てようとする覚悟があるか?」

 

 

カオス「………」

 

 

 カオスは未だに魔術を生物に当てることを躊躇う。そのせいかカオスが魔術を放とうとすると精神的に不安定になる傾向にある。いくら強力な魔術を使えるからと言って命中制度に難があるようでは作戦には組み込みにくい。

 

 

オサムロウ「……ソナタの術は完全に使いこなせぬのであれば今回は保留だ。

 せめて間髪入れずに普通に狙い撃ちできる段階まで出来ていればソナタの術を頼りにさせてもらおうか。」

 

 

カオス「………分かりました。」

 

 

 オサムロウには当てにならないとは言われたが内心ではほっとしているカオス。出来ることならこのまま魔術を使う機会が訪れないことを願っている。カオスは未だに魔術への恐怖心は拭いきれていない。実のところを言うとオサムロウがこの後メンバーから外れることに一番不安があるのはカオスなのだ。オサムロウがいなければ火属性と氷属性の術を使えるのは自分だけだ。だが自分の魔術の練度はこの中では最低のレベルでカオスが放つ魔術はただ巨大な破壊の力を放つだけのものでアローネやウインドラ、ミシガンのように微少なコントロールすら出来ない。無差別に巨大な力を放つだけのカオスの魔術はかえって仲間達やこの地域に住む人達に被害をもたらす可能性がある………。

 

 

 カオスはそうならないように力を使わないでいることを有り難く思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この戦いがそんな生半可な気持ちで挑めるものでは無かったことをカオス達は直ぐに思い知ることになった。打てる手は全て打つ。戦闘では基本六元素の六属性の魔術をふんだんに駆使して戦わなければならない。倒せる相手であれば一つ二つの属性で済む戦いもあるだろう………。

 

 

 しかし今カオス達の目の前に出現したこのジャバウォック?はとてつもない能力を秘めていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………!

 今だ!!

 総員集中放火!!」

 

 

アローネ「『疾風よ!我が手となりて敵を切り裂け!

 ウインドカッター!!』」

 

タレス「『岩石よ我が手となりて敵を押し潰せ!

 ストーブラスト!!』」

 

ウインドラ「『落雷よ!我が手となりて敵を撃ち払え!!

 ライトニング!!』」

 

ミシガン「『水蓮より出でし水煙の乙女よ

 破浄なる柱を天へと結べ!!

 スプレッド!』」

 

オサムロウ「『火炎よ我が手となりて敵を焼き尽くせ!!

 ファイヤーボール!!』」

 

 

 カオス以外の五人がそれぞれジャバウォックの別々の部位を狙って術を放つ。そしてカオスもそれを皮切りにジャバウォックへと駆ける。カオスは五人が放った術を追う形でジャバウォックに迫る。ジャバウォックは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術が当たる寸前こちらへと振り替える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「魔神剣・双牙!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャバウォックに五人の魔術とカオスの魔神剣・双牙が命中し爆煙が上がる。完全なる不意打ちにジャバウォックも多少はダメージを追ったであろうことは全員が予期していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかし煙が晴れてから現れたジャバウォックにはカオス達の攻撃が全く効いてなかったであろうかのようにピンピンしておりカオス達の姿を認めると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャバウォック?「ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 野太い唸り声を上げてカオス達に迫る。

 

 

 こうしてカオス達のヴェノムの主との三戦目にして“最強のヴェノム”との戦闘が始まった。



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変態

ブロウン族の集落トロークン 外れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャバウォック?「ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………思ったよりダメージは負っていないな………。

 距離がありすぎるか………?」

 

 

ミシガン「でもあんなのに近寄って魔術撃つのちょっと危ないんじゃない?」

 

 

タレス「ギガントモンスターは通常のモンスターよりも耐久力が桁違いに高いんですよ。

 まだ距離があるならこのまま遠距離から攻撃を続けましょう。

 蓄積していけばいつかは倒れるはずです。」

 

 

アローネ「なんとか早めにジャイアントヴェノムに変えてしまいましょう。

 あまり長引かせるとカメイラが接近してくる恐れがあるので。」

 

 

オサムロウ「カオスが特攻してくれている今のうちに我等は遠距離から応戦するのだ。

 決して中距離から中には入るな。

 ジャバウォックは剛腕の持ち主だと聞く。

 殴り飛ばされれば即お陀仏だ。」

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「魔神剣ッ!!」

 

 

 カオスはジャバウォックに向けて魔神剣を放つ。見るからに接近し過ぎれば痛い一撃が飛んできそうな敵だ。あまり近付きすぎるのはよくない。こうやってジャバウォックの間合いから距離を取りながら戦えばなんとか無傷で戦える筈だ。

 

 

ジャバウォック?「ゴォォォッ!!?」

 

 

 カオスの魔神剣の猛攻がジャバウォックをたじろかせる。攻撃が当たればその分ジャバウォックが後退する。そしてカオスは更に攻撃を加えていく。戦いながらジャバウォックの動きを追って見てみればこのジャバウォックは見た目は巨大なモンスターだが移動速度や攻撃に入る動作などは完全に遅い。

 

 

 いや、遅すぎると言っても過言ではないほどカオスとジャバウォックの動きに差がある。ジャバウォックが一つの動作をするときカオスは左右前後と飛葉翻歩で走り回り、ジャバウォックが一度攻撃を仕掛けてきてそれをカオスがかわしながら二度、三度と攻撃を加えていく。後ろではアローネ達も援護射撃を行っている。ジャバウォックは実質的にほぼ無抵抗に攻撃を浴びせられている。

 

 

 この勝負は………先が見えている。ならば時間をかけている余裕は無い。さっさと倒してしまわねばこの地には他にカメイラなる別のヴェノムの主がいるのだ。そいつがやって来て参戦してきたら厄介だ。ハンターの話ではそのカイメラはビッグフロスターという別のヴェノムの主と戦いそれを呑み込んだのだという。ヴェノムは常に新鮮なマナを求めて襲ってくるためカオス達とジャバウォックとの戦闘中にジャバウォックを呑み込もうとはしないだろうがギガントモンスターが二体になって襲ってくるとなると何が起こるか分からない。

 

 

 ここは一気に畳み掛けてカメイラが到着するまでにジャバウォックを倒すべきだろう。

 

 

 カオスはセレンシーアインの闘技場でオサムロウに仕掛けたような魔神剣の連打をジャバウォックへと浴びせる。

 

 

カオス「魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣…………!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャバウォックとの戦闘が開始してから一時間は経過したのではないだろうかとカオス達が思い始めた頃。

 実際の時間ではまだ半分の三十分程しか経っていないのだが戦闘を行っているカオス達からしてみればそれほどまでにこの戦闘が長く感じた。早くこのジャバウォックを倒してしまわねばならないと気が急いて刹那の一秒がとても長い一秒に感じてしまうのだ。

 

 

 戦況はと言うとカオス達がジャバウォックに優勢で戦闘が始まってからまだカオス達は一度もこのジャバウォックから一撃も攻撃を浮けてはいない。これまでのブルータルやクラーケンと比較してみてこのジャバウォックは耐久こそ二体には勝るがスピードや攻撃の届く間合いが極端に狭くジャバウォックが攻撃を振りかぶる時には既にカオスは遠くまで回避行動をとっている。

 

 

 ………とにかく愚鈍だ。剛腕から繰り出されるパンチからは風を扇ぐような音が聞こえそのまま地面を砕き飛び散った岩石の破片は食らってしまえば重傷は免れないが破片が飛び散る方には既にカオス達はいない。動作から次にどの方角へと攻撃を繰り出しその余波が飛ぶのかはこの三十分のあいだに全員頭の中に入った。このジャバウォックは接近さえ許さなければ楽に倒せる相手だ。

 

 

 なるほどレイディーが一人で倒せる訳だ。尋常じゃない体力には驚かされるがこれはここにいるカオスやアローネ、タレス、ミシガン、ウインドラが一人ででも時間をかければ倒せる相手だった。こんな弱いギガントモンスターをダレイオスの最強候補に推していたクリティア族は何故そう思ったのかが疑問に思うレベルだ。……単純に考えてカオス達のような力を持っていなければヴェノムは例外無く脅威でその脅威の中でも主のような時間による死のないヴェノムはどの種族も恐怖を抱く対象なのだろう。人は恐怖を感じればその恐怖はどこまでも膨れ上がる。例えその恐怖の脅威が他にも上があるのだとしても実体験でしか人はそれを判断できない。知らない恐怖より知ってしまった恐怖の方が大きく感じるのだろう。

 

 

 ハンターがこのジャバウォックを言及しなかったのもカメイラという他の大きな恐怖があったからということもあるだろうがこの鈍さはヴェノムの主にしてなんとも言えない残念感がある。死なないにしてもこんな動きが遅く足音も大きいモンスターでは逃亡するのに事欠かないだろう。果たしてこの主はこんなとろさで獲物を捕まえることが出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうカオス達がジャバウォックに対して油断し始めた時、攻撃を重ね続けてふらついていたジャバウォックの動きが止まる。体中のカオス達が傷口から蒸気が吹き上がる。これは………、

 

 

ウインドラ「漸くか、

 やっとジャイアントヴェノム化し始めたな。」

 

 

アローネ「後は通常のヴェノムのように浄化すればいいだけですね。」

 

 

タレス「結局カイメラとかいう主は来ませんでしたね。」

 

 

ミシガン「なんか思ってたより楽だったね。

 レイディーもこんな簡単な主だったんなら一人で倒したっていうのも分かるね。」

 

 

オサムロウ「…本当に主を倒してしまったな………。

 いや………まだ完全に倒してはいないが………。」

 

 

 口々に疲労を吐露し六人が緊張を解く。この段階まで持っていければ後は楽に倒せる。通常種と同じようにカオス達が攻撃を加えればこの後のジャイアントヴェノムは消滅する。先ずはジャイアントヴェノムに変化したところを………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………変化したところを迎撃する筈だった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……………………?

 何か………。」

 

 

アローネ「?

 どうしたのでしょうか………?

 ジャバウォックの体が溶け出してはいますが………。」

 

 

タレス「何かいつもと様子が違いますね………。

 こんなにスライム形態でグネグネしていましたか………?」

 

 

 いつもであったらある程度ダメージを与えればヴェノムに感染したギガントモンスターは体を崩壊させて中からジャイアントヴェノムが出現する。それをカオス達が倒せばいいだけだったのだが何やらジャバウォックの体が溶けた後に出現したジャイアントヴェノムの様子がおかしい。ヴェノム自体がスライムと同じような行動をとるのだが今目の前でジャイアントヴェノム化したジャバウォックのスライム形態は不自然に体の内部を暴れさせている。これはまるでこのスライム形態の中に何か別の生物がいてそこから抜け出そうとしてるような………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「ブルルルァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ「!!?」

 

 

 ジャバウォックの肉体が溶けてスライム状になった後その中から別の生物が現れた。ヴェノムの中から現れたということはヴェノムに感染した生物なのは確かだがその現れたモンスターは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………ブッ、ブルータルだと………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャバウォックの中から現れたのはカオス達が最初に討伐したヴェノムの主ブルータルであった。



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再戦ブルータル?

ブロウン族の集落トロークン 外れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルータル?「ブルルルァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブロウン族の集落付近に現れたヴェノムの主ジャバウォックにダメージを与えてジャイアントヴェノムに変化させ後は倒すだけだと思っていたカオス達六人。

 

 ……しかしジャイアントヴェノムに変化した後にジャバウォックの液状化した体の中から以前にカオス達が倒したブルータルが出現する。

 

 

タレス「こいつは……!?」

 

 

ミシガン「あの時の大猪…!?

 何で……!?」

 

 

カオス「こいつってウインドラが倒したんじゃ…!?」

 

 

ウインドラ「………確かに俺が倒した筈だ………。

 しかしこれは……また別の個体か……?」

 

 

アローネ「………、

 オサムロウさん、

 スペクタクルズをもう一度使用していただけますか?」

 

 

オサムロウ「………」

 

 

 オサムロウが出現したブルータルに対しスペクタクルズを使用する。すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………測定不能………!?」

 

 

タレス「!」

 

 

 スペクタクルズをブルータルに使用したがスペクタクルズがブルータルを認識出来ないようだ。一体これは………?

 

 

ウインドラ「故障か!?」

 

 

オサムロウ「そんな筈は………。」

 

 

タレス「……故障では無さそうです。

 ボクのスペクタクルズもこのブルータルを認証しません。」

 

 

ミシガン「けどこのモンスターって絶対にブルータルだよね!?

 私覚えてるもん!!」

 

 

カオス「これって………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャバウォックがブルータルになったってことか!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今しがたカオス達は信じられない光景を目の当たりにした。ヴェノムの主ジャバウォックだったものが突然ブルータルへと姿を変える。何故ジャバウォックがブルータルに変化するのかカオス達は猜疑心に捕らわれる。

 

 

 ………が、

 

 

ブルータル?「ブルルルァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 雄叫びを上げてブルータル?の突進に一瞬反応が遅れる。直前までのジャバウォックの鈍足さは完全に見る影もない。鋭敏なブルータルが突撃する先には……、

 

 

ミシガン「!!

 また私に来るの!!?」

 

 

 ブルータルがミシガンへと迫るのだった。それを、

 

 

ウインドラ「ミシガンには指一本触れさせんぞ!!」

 

 

ブルータル「ブルルゥッ!!」

 

 

 ウインドラが間に入りブルータル?の突進を食い止める。そしてウインドラとブルータル?の力比べが始まり偶然にもセレンシーアインでの再現になった。

 

 

ウインドラ「どうしてジャバウォックがブルータルへと変化したのかは知らんが変身する相手を間違えたな!!

 ブルータルは前に俺が押さえ込んだ相手だ!!

 どうせお得意の雷も使えるんだろ!!

 

 

 俺に雷は効かんぞ!!」

 

 

 そう言ってウインドラは体に雷を纏わせる。その雷を纏いながらブルータルを持ち上げて叩き付け、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「空破迅雷槍ッッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブルータルと力比べを始めるところから一撃を決め込むところまで何もかもがあの時の再現になった。セレンシーアインではこの一撃後にブルータルはジャイアントヴェノムへと変化しカオス達はそれを倒すのだったが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルータル?「ブルルッ!!」

 

 

ウインドラ「何だとッ!!」

 

 

 ウインドラの必殺の一撃を受けても立ち上がるブルータル?。前回は雷を使うブルータルであってもこの一撃の前に倒されたのだが今度は、

 

 

アローネ「雷撃が全然効いていません!!

 それどころか体の傷が………!?」

 

 

 ウインドラの槍の一撃は確かにブルータルを貫いた。だがその貫いたところからヴェノムの体液のようなものが流れ出し数秒後には元の無傷な状態へと回復する。

 

 

ウインドラ「馬鹿な…!!?

 前の個体はこれで確かに止めだったのに……!!?」

 

 

 狼狽えるウインドラ。一度倒した相手とは完全に別の個体のようだがここまでの旅であの時よりかは技の精度も上がり今度の一撃には相当な自信があったのだ。

 

 

 それを何事もなかったかのように立ち上がりカオス達に突撃する構えをとるブルータル。今度は、

 

 

オサムロウ「我が出る!!」

 

 

 ウインドラが驚いて固まっている内にオサムロウが前に出る。

 

 

タレス「!?

 オサムロウさんはヴェノムに対する有効手段が……!?」

 

 

オサムロウ「言ったであろう!!

 我はソナタ等のサポートをすると!!

 足を切り落とせばその突進を食い止めることぐらいなら可能な筈だ!!

 

 

 何にしてもこれは好機!!

 我が相対したかったブルータルとは別物のようだがこれは天が我にチャンスを与えてくださったのだ!!

 ブルータルよ!!

 我と尋常に勝負だ!!」

 

 

 少し高揚気味なオサムロウがブルータルへと駆ける。オサムロウはブルータルが倒されるまではブルータルと目の敵にしていたのでこの突然のブルータルとの邂逅は彼にとって願っても叶わなかった試合なのだろう。

 

 

オサムロウ「前は触れることすら出来ずに中距離からの狙撃だけだったが今なら貴様に直接剣撃を叩き込むことが出来る!!

 

 

 受けて見よ我が太刀を!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真空破斬ッ!!!」

 

 

 オサムロウがブルータル?に刀の一太刀を浴びせる。

 

 

ブルータル「ブルルッ!!」

 

 

 オサムロウの一太刀にブルータルの前足が押されて体勢を崩す。そこに、

 

 

オサムロウ「まだまだァッ!!!」

 

 

 オサムロウが連続で真空破斬を食らわす。この猛攻撃には流石のブルータルもなす統べなく立ちすくむだけでオサムロウの一方的な攻撃が続く。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルータル「ブルルッ………。」

 

 

 遂にブルータルの前足が斬り飛ばされブルータルが倒れこむ。

 

 

オサムロウ「よしッ!!

 ソナタ等今だッ!!

 これで決着をつけるのだ!!」

 

 

 オサムロウの攻撃では直ぐに再生してしまう。が足を破壊されては再生しても持ち直すのに一瞬の間が空くだろう。その間の内にカオス達は一斉にブルータル?に仕掛けようとするが、

 

 

ブルータル?「ジュゥゥゥゥ………!!!!」

 

 

 まだこれから攻撃を加えようとする前にブルータルの体が溶けだす。

 

 

 ………これは、

 

 

ミシガン「えっ!?

 もう倒しちゃったの!?」

 

 

オサムロウ「我の攻撃が効いていたのか………?」

 

 

タレス「……違うと思いますよ。

 この反応は………!」

 

 

ウインドラ「…まさか、

 また変化するというのか!?」

 

 

アローネ「………これはただの主ではありませんね………。」

 

 

カオス「……この主はひょっとして………。」

 

 

 この今までの主にはない変身能力………。そして先程のハンターとの会話の内容………。考えられることは一つ………。

 

 

 この主の正体は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……私達は飛んだ思い違いをしていました………。

 

 

 バルツィエは別に主を増やしたのではありませんでした……。

 ましてやウイルスを新たにばら蒔いたのでも………。

 

 

 そして先程のハンターさんのお話の中で彼がジャバウォックについて言及しなかったのを私達は勝手にカイメラに比べて危険性が低く無視出来るようなものだと思いジャバウォック自体を全く別の個体がウィンドブリズ山から参った別の主だと錯覚していました………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし実際には………。」

 

 

 ブルータルが完全にヴェノムに包まれてまた新たな形状に組変わっていく………。

 

 

アローネ「………このヴェノムの主こそが………、」

 

 

 アローネの話が終わる寸前にヴェノムが獅子のような形状へと変身した………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「正にこのヴェノムこそがハンターさんが仰っていたヴェノムの王カイメラだったのです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「グゴォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!」



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マンティコアそして………

ブロウン族の集落トロークン 外れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「グゴォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」

 

 

 また目の前の敵の姿が変化する。この他に類を見ない能力………やはりこのモンスターこそがカイメラで正解のようだ。こんな特殊な力を持つ生物が近隣に現れてブロウン族が視界に入れない訳がない。それどころかこのモンスターは遭遇するどのモンスターの中でも最も脅威を感じる。ヴェノム自体が危険な生物だがスライム形態に変化する前のゾンビに関しては力こそ強いがスピードはゾンビ化する前の生物よりも鈍い。ヴェノムの主に関してはその例に当てはまらずある程度までのゾンビ化する前の運動能力は保持したままゾンビ化する。だがそれでも所詮はモンスター。知性の無いモンスターは無策に目の前の獲物を捕らえようと襲い掛かってくるだけ。その行動パターンさえ頭に入っていれば如何様にも対処の仕様はある。

 

 

 しかしこのカイメラは戦闘中にも関わらずこれで三種類へのモンスターへと姿を変えた。寸前まで戦っていたジャバウォックとブルータルでは攻撃パターンや移動速度が完全に違う。このようなモンスターは世界中どこを探しても存在しない。成長とは違う全くの変身をしたのだ。

 

 

オサムロウ「………噂は真実であったか………。

 そんなことはあり得ないとは思っていたのだが………、

 

 

 ………“シェイプシフター”………。

 如何なる形状にも姿形を変えて環境に溶け込むモンスター………。

 今度は“マンティコア”か………。」

 

 

 今度のカイメラは巨大な図体と大きな爪と牙を持つ獅子型のモンスターへと変化する。いかにも攻撃力と俊敏性に特化した姿だった。

 

 

タレス「!!

 漸くスペクタクルズが機能しました!

 今度のマンティコアは………“地属性”のモンスターのようです!!」

 

 

ウインドラ「姿が変わったと思ったら属性まで変化する………。

 これは非常に難しい相手だな。」

 

 

 変化したのは見た目と動作だけではなくその属性すら変わってしまう。なんとも優れた能力だ。これで敵でなかったら頼もしい能力だが残念ながらこのカイメラは敵であってそれも確実に倒さねばならない相手。ならばカオス達の対応は当然、

 

 

アローネ「地属性であるならば相反するは“風”!!

 私が迎え撃ちます!!

 

 

 ウインドランス!!」

 

 

 アロマの風属性の槍がカイメラマンティコアを穿つ。それを受けたカイメラマンティコアの体に細かな傷痕が刻まれる。

 

 

カイメラマンティコア「ゴァァッ!!?」

 

 

 スペクタクルズの情報通りカイメラマンティコアは風属性を弱点としているようで苦痛の声を上げて風から逃れ、

 

 

 攻撃を放ったアローネに突進していく。

 

 

アローネ「!?」

 

 

タレス「殺らせません!!

 グレイブッ!!」

 

 

 カイメラマンティコアがアローネにその牙を食い込ませようと大口を開いたところでタレスの援護が入る。カイメラマンティコアはタレスが放ったグレイブが喉の奥深くまで刺さり後頭部まで貫通する。

 

 

アローネ「有り難うございますタレス。」

 

 

タレス「仲間を助けるのは当たり前ですよ。

 それにミシガンさんとウインドラさんのように相反する属性を得意とするボク達は常に側でお互いをフォローしあった方がいいでしょう。

 地属性の攻撃ならボクが引き受けます。

 アローネさんは………。」

 

 

アローネ「私は風の攻撃が来たらタレスをお守りします!」

 

 

 戦闘中であったがアローネとタレスに一体感が生まれる。この二人が近くにいれば安全だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラマンティコア「バギンッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ「!!」

 

 

 後頭部まで貫通したにも関わらずカイメラマンティコアはその貫通しているタレスの放ったグレイブの岩の棘を噛み砕いた。そして、

 

 

カイメラマンティコア「ジュゥゥゥゥ…………!!!!」

 

 

 また先程と同じ様に解け出して変身し始める。

 

 

ウインドラ「今度は何だ!!

 また変身すると言うのか!?」

 

 

ミシガン「一体いつまで続くのこれ!!

 一体いつになったら倒せるの!?」

 

 

オサムロウ「……順当に行けば六属性全ての形態変化した姿を倒せば終わるのだろうな………。

 今度はどんな姿に………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして次にカイメラが変身した姿は蛙のような姿だった。

 

 

カオス「蛙………!?

 ビッグフロスターか!?」

 

 

 ここでようやくこのカイメラが本物のカイメラだと言う確証が得られた。このモンスターは恐らく今までに捕食したモンスターに自由に変身することが出来るのだろう。このビッグフロスターはハンターがカイメラに捕食されたと言っていた。とすれば先までの変身で変えていた姿もこのカイメラに捕食されたことのあるモンスター。当然その中にはビッグフロスターも含まれる。………これはヴェノムの主二体分どころの強さではない。ここまでで“四体分”の主がこのヴェノムの中に宿っていそうだ。これは長丁場になることを覚悟しなければならない。

 

 

ミシガン「蛙!!

 ってことは“水系統のモンスター”!!

 また私が出番なんだね!!」

 

 

 ミシガンが颯爽と前へと出た。

 

 

ウインドラ「待て!!

 水のモンスターならここは雷の俺が先に攻撃を「ウインドラは攻撃が相討ちになったらヤバイでしょ!」」

 

 

ミシガン「やっぱりこいつを相手にする際はそれぞれの得意とした系統の属性のモンスターに変身したらその人が真っ向から戦うべきだよ!

 じょあクラーケンの時のように私が一撃でこいつを………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………!!?」

 

 

 ミシガンが話している間にカイメラビッグフロスターが空中へと跳躍する。蛙のモンスターの見た目なだけあってかなりの高度まで飛び上がる。そしてそのビッグフロスターが着地する地点には、

 

 

ミシガン「え!?

 私に落ちてくるの!?」

 

 

 ミシガンがいた。カイメラビッグフロスターはミシガンに狙いをつけたようだ。落下してくるカイメラビッグフロスターは落下寸前にその大きな口を開けて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビッグフロスター「バクンッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミシガンを地面ごとまる飲みにしてしまうのだった。今回のブルータルと同じく敵は違うが過去の再現が二度目になった。ミシガンがまたヴェノムの主に捕食されたのである。……ならばその脱出方法も同じで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「スプレッド!!!」

 

 

カイメラビッグフロスター「バハァッ!!」

 

 

 口の中に飲み込まれたミシガンが口内で水柱を立てる魔術スプレッドでカイメラビッグフロスターを空高く打ち上げる。蛙のモンスターなだけあって先程のマンティコアのような牙が無かったのが幸いした。もしこの形態のカイメラに牙があったのならミシガンは一瞬で噛み砕かれていただろう。

 

 

カオス「大丈夫ミシガン!?」

 

 

ウインドラ「怪我は無さそうだな。

 無事でよかった。」

 

 

 

 

ミシガン「無事なんかじゃないよッ!!?

 また私食べられちゃったんだよ!?

 それも今度はクラーケンみたいな変な食べられ方じゃなくて直接口でッ!!

 気持ち悪いよだれまみれでお風呂に入りたくなったんですけど!!?」

 

 

 肉体的よりも精神的にダメージを負ってしまったようだ。とはいえカイメラビッグフロスターの体内から攻撃を加えられたのは影響が大きい。打ち上げられてから地面に落ちたカイメラビッグフロスターがまた変身をし始める。

 

 

タレス「今度の変身は何ですか………?

 この変身で五回目………。

 氷のジャバウォック、雷のブルータル、地のマンティコア、水のビッグフロスターとくれば次にくるのは風か火か………。」

 

 

アローネ「風であればお任せを!

 火であるならミシガンにお願いします!!」

 

 

ミシガン「うぇぇ……、

 早く終わらせたいなぁ………。」

 

 

 先程の飲み込み攻撃で限界に近いミシガン。これは早々にカイメラとの決着をつけた方が良さそうだ。最初のジャバウォックの時点で全員かなりマナを消耗してしまった。これ以上は余計なアクシデントが発生しかねない。

 

 

 と、カイメラがまた変身しきろうとしていた。今度の変身は……………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………何ッッ!!?」

 

 

アローネ「!

 どういうことでしょうか……!?

 この変身は……?」

 

 

ウインドラ「馬鹿な………!」

 

 

タレス「何でまた………!?」

 

 

ミシガン「ちょっと待ってよ!!?

 何でまた“コイツ“なのッ!!?」

 

 

カオス「………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラジャバウォック「ゴォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラはビッグフロスターから次に変身したのは最初に倒した筈のジャバウォックだった。何故またこのジャバウォックと戦わなければならないのか………。これではまるで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……こいつの体力は無尽蔵なのか………?

 これじゃ延々とループを繰り返すだけじゃないか……………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンターが何故この主を“ヴェノムの王”だと称したのかこの時カオス達は真の意味で理解した。

 

 

 ヴェノムはただでさえ異形の怪物。常人なら倒すことは不可能。それが出来るのはカオス達やレイディーの異能を持つ者やマテオのワクチンを保有するバルツィエ達だけ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このカイメラはヴェノムという異形の中でもそのまた更に異形の怪物………。

 

 

 ヴェノムを屠る力があったレイディーですら倒せなかった屈強な敵。

 

 

 新たな種のヴェノムがこの世界に顕現し今、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達の前に大きな壁となって立ちはだかる………。



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無限ループ

ブロウン族の集落トロークン 外れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラジャバウォック「ゴォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達がライトニングで呼び寄せたヴェノムの主ジャバウォックにカオス達が迎撃し徐々に追い詰めていくのだったが後一歩のところでジャバウォックがジャイアントヴェノムに変身しいつも通りそれを倒すだけだった。

 

 

 ………のだが今度はそのジャイアントヴェノムの中からブルータルが出現し、これもカオス達が迎え撃つ。そしてまたもやジャイアントヴェノムに変身するのだが今度は獅子型のモンスターマンティコアに変身しカオス達に襲いかかる。

 

 

 それすら倒すカオス達だったが“二度あることは三度ある”という言葉があるように今度はそのマンティコアからビッグフロスターへと変貌する。水属性のモンスターということもありこれをミシガンが撃退する。そこからこのヴェノムに汚染されたギガントモンスター“カイメラ”は“六度”の変身を遂げそれら全てを倒せば討伐し終わるのだろうとカオス等は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………そう願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………どうしたまたジャバウォックなの………?」

 

 

タレス「一度倒したんじゃなかったんですか………?」

 

 

ウインドラ「分からん………コイツの変身する法則が全く見えない………。」

 

 

アローネ「これは流石に異常です………。

 普通ではありません………。」

 

 

オサムロウ「ヴェノム自体が普通の種ではないのだ。

 コイツに普通を求めても答えは返ってこないだろう………。」

 

 

カオス「またコイツを相手にしないといけないのか………。」

 

 

 戦況は振りだしに戻る。また最初のジャバウォックへと逆戻りだ。

 

 

 ………いや、かれこれ一時間近くに及ぶ戦闘でカオス以外の五人はそろそろマナにも限界が訪れている。戦況は振りだし以上に過酷な状態へと持ち込まれカオス達もこのカイメラがこれまで倒してきたヴェノムの経験だけでは倒せない相手だと認識する。……何か有効策を見いだせなければじり貧になる。

 

 

オサムロウ「……一先ずこのジャバウォック形態が火を弱点としていることは分かっているのだ。ならば効かなくとも我の炎で!」

 

 

 オサムロウが前に出て詠唱を始める。そして、

 

 

オサムロウ「ファイヤーボールッ!!」

 

 

 オサムロウがファイヤーボールを放つ。長期戦に持たれ込んだ故かそれともこの絶望を前に精神が不安定になったのか若干ファイヤーボールの精度が落ちている。それでも火の魔術を食らえば多少ジャバウォックも勢いを削ることが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラジャバウォック「ブォォォォォオッ!!」

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ「!!」

 

 

 カイメラジャバウォックはオサムロウが放ったファイヤーボールに氷の息吹を吐きかけて相殺する。流石に火を何度も浴びせ続けられれば学習したのだろう。そこへ、

 

 

ウインドラ「火を氷で相殺されるのなら電熱ならどうだ!!

 バニッシュボルトッ!!」

 

 

 ウインドラが雷の魔技ですかさず追い討ちをかける。だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラジャバウォック「ゴォォォォッ!!」

 

 

 ウインドラの雷撃が被弾した瞬間雷撃が弾かれたかのように霧散する。

 

 

ウインドラ「何ッッ!?」

 

 

アローネ「ウインドランスッ!!」タレス「グレイブッ!!」ミシガン「スプラッシュッ!!」カオス「魔神剣ッ!!」

 

 

 続きカオス達もカイメラジャバウォックへと追撃を喰らわす。しかしカオス以外の三人の魔技はウインドラのバニッシュボルトのように霧散しカオスの魔神剣だけがカイメラジャバウォックに本の少しのかすり傷を負わせる程度に終わる。

 

 

アローネ「タレス!スペクタクルズを使用してください!!」

 

 

タレス「!!はっ、はい!!」

 

 

 アローネがタレスにスペクタクルズの再使用を試みることを促す。始めと同じ姿にはなったが今度は魔術が効かなかった。これはまた違う変身を遂げたのではないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「!!?

 でっ、出ました!!

 敵名はさっきと同じジャバウォック!!

 ですが今度のジャバウォックは………!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火属性以外の“五つの属性に完全耐性”があり分類される種族も…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “魔法生物”に変更されています!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………また魔法生物………。つくづくカオス達の旅は魔法生物という名の生物によく遭遇する旅だ。スライム形態をとったヴェノムそのものが魔法生物なのだからこのカイメラも魔法生物であることに何の不思議もないのだが。

 

 

ウインドラ「火属性以外を受け付けないか………。

 

 

 だったら直接攻撃で挑むまでだ!!」

 

 

 そういってカイメラジャバウォックに向かって駆けていくウインドラ。それに続き、

 

 

タレス「もうかなりこのカイメラは追い詰められている筈です!!

 ここでそろそろ片を着けないといけません!!」

 

 

 タレスもカイメラジャバウォックに特攻を仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかしその行動は次のカイメラジャバウォックの興した行動で封殺されるのであった。

 

 

ウインドラ「瞬迅槍ッ!!」タレス「孤月閃ッ!!」

 

 

 ウインドラとタレスがカイメラジャバウォックに迫る。それをカイメラジャバウォックは両腕を振り上げて迎え撃つ。最初の戦闘で敵の動きは見切っている二人。万が一にもこの剛腕の一撃はかわせる筈、そう思って二人は足を止めずに技のモーションに入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラジャバウォック「ゴァァァァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォォォォォォンッ!!!!!!!

 

 

 

 

タレス・ウインドラ「!!?」

 

 

 技が届く瞬間カイメラジャバウォックはその振り上げた両腕を地面へと叩き付ける。それによって地面が深く陥没しカイメラジャバウォックに迫っていた二人はバランスを崩し倒れ込む。そこへ、

 

 

 

カイメラジャバウォック「ゴゥッ!!」

 

 

 カイメラジャバウォックの無慈悲な拳が二人を凪ぎ飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス・ウインドラ「ウアァァッ!!?」

 

 

アローネ「タレスッ!!?」ミシガン「ウインドラァッ!!?」

 

 

 吹き飛ばされた二人の元へとアローネとミシガンが駆け直ぐ様ファーストエイドをかける。だがあの一撃は諸に二人を真芯で捉えファーストエイドをかけても直ぐに戦闘復帰は見込めなさそうだ。

 

 

 これによりこのカイメラとの戦闘で一気に四人が続行不能となる。

 

 

オサムロウ「……あれがジャバウォックの“インパクトハンマー”か………。

 あれを受けてしまっては暫くはまともに立ち上がれまい。」

 

 

カオス「オサムロウさん!!

 どうすれば……!?」

 

 

 これで戦闘が続けられるのはカオスとオサムロウのみ。対するカイメラは何度も変身を繰り返しその都度ダメージを与えてはいるが蓄積しているようには見えない。カオス達の攻撃が全て無かったかのようにまだまだ余裕な動きを見せる。………変身をする度に回復しているというのだろうか?

 

 

オサムロウ「………魔術も効かず、物理的な攻撃もいつかはあの剛腕に捉えられる。

 我等にはアレに打ち克つ打開策はもはや………、」

 

 

カオス「……!?」

 

 

 オサムロウがこの戦闘の行く末を語りだした。このカイメラとの戦いはもうこれまでだというのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………ソナタの力を使う他に手はない。」



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いざという時に使えない力

ブロウン族の集落トロークン 外れ

 

 

 

カオス達も「……………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………え?」

 

 

オサムロウ「今アレに有効な攻撃を加えられるのはソナタ以外にはいない。

 我ではヴェノムに通用する火は出せぬし他の四人は一属性縛りな上に負傷と治療で手が空きまい。

 

 

 ソナタがあのカイメラを迎え撃つのだ。

 ソナタのその魔術を持ってあれを撃ち払うのだ。」

 

 

カオス「………」

 

 

 先程調べた通り今のカイメラジャバウォックは炎以外の属性攻撃を受け付けない。直接攻撃は通用するようだがそれでは時間がかかる上にまたカイメラに再生変身を繰り返されて同じことが続けばいつか倒れるのはこちらの方だ。

 

 

オサムロウ「どうした……?

 ……まさかまだソナタは魔術を敵に向かって放てないと言うのか…!

 

 

 セレンシーアインでは空に向かって放っていたではないか!!」

 

 

カオス「あれは………!」

 

 

 あの時は何も無い空中へと魔術を放てた。あの時に放ったバニッシュボルトは正直あそこまで大きな力になるとは思ってなかったのだ。瞬間的に放出して消失する雷撃なら誰にも当たることなく消えるだろうと思ってバニッシュボルトを放ったのだがこれから放てと言われる火の魔術ファイヤーボールはこんな場所であのカイメラに直撃しそこから大爆発でも起これば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「…………やはりまだ無理なのか………。

 致し方あるまい……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時撤退するぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・ミシガン「撤退!!?」

 

 

カオス「……!!」

 

 

 オサムロウが撤退を宣言する。このまま続けてもこの変身するヴェノム、カイメラを討伐することは不可能だと判断したのだ。

 

 

アローネ「……分かりました。

 ではタレスは私が運びます。

 ミシガン、

 ウインドラさんは運べそうですか?」

 

 

ミシガン「えっと……、

 よいし「だい………じょうぶだ………。」ウインドラ!?」

 

 

ウインドラ「………すまん……、

 また……少し………寝ていたようだな………。

 ミシガンのファーストエイドである程度は回復した………。

 俺なら歩ける………。」

 

 

 ウインドラは意識を取り戻したようだ。ウインドラはダレイオスに来てから気絶するのはこれで四度目である。うち三度は水属性の攻撃を受けてしまったからだが今回意識を回復するのが早かったのは水属性の攻撃ではなく物理的な攻撃によるものだったのでかろうじて意識を深く刈り取るところまではいかなかったようだ。それでも重体な様子は変わらないのだが、

 

 

オサムロウ「……その様子では走れてもカイメラから逃げおおせるのは難しいだろうな………。

 

 

 我が一旦奴の注意を引き付ける!!

 その隙にカオスはウインドラの肩を持ってどこかカイメラの目の届かない安全なところへと避難するのだ!!

 他の者も続け!!」

 

 

 オサムロウがカオス達に逃げるよう指示を出す。オサムロウはこのカイメラから逃げるまでの時間稼ぎをしてくれるようだ。

 

 

カオス「足止めなら俺がします!!

 オサムロウさんがウインドラと一緒に逃げてください!!

 俺ならコイツにダメージを与えられ「撤退だと言った!!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「我よりもソナタの方が足が速いのだ!!

 それなら我よりもソナタが連れ出した方が効率的であろう!!

 このカイメラジャバウォックからなら我が単独になっても逃げおおせられる!!

 ソナタの攻撃もこやつには有効だがそれでは脚の速い別のモンスターにシェイプシフトされる危険がある!!

 

 

 これよりソナタ等の全ての戦闘行為を禁ずる!!

 負傷者を早く連れていけ!! 

 これは命令だ!!」

 

 

 カオスの訴えを聞かずオサムロウはカオス達にそう強くいい放つ。それは意地の問題ではなくあくまでも撤退にたいする効率性。ここは素直に言うことを聞くしかなかった。

 

 

カオス「……!!」

 

 

ウインドラ「……悪いなカオス……。

 またお前に肩を貸してもらう羽目になるとは………。」

 

 

カオス「……………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………別にいいさ。

 仲間なんだからこれくらい当然だよ。」

 

 

 カオスはウインドラの肩を持ってその場から足早に去っていく。カオスの後を追ってアローネとミシガンもその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラジャバウォック「ゴォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」

 

 

オサムロウ「貴様の相手は我が勤めよう………。

 せめて貴様のその変身する能力の攻略法と貴様が本当に不死の存在なのか…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを打ち崩手掛かりくらいは持ち帰らねばな!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近場の林

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラから目の届かない場所へと撤退………。そう言われてもカオス達が向かえる場所はこの地方ではここしか見当がつかなかった。先程ブロウン族の男ハンターと別れた場所。ここなら早々あのカイメラに見つかることもなさそうだった。

 

 

カオス・アローネ・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敗北。

 

 

 完全なるカオス達の黒星。あのカイメラに手痛い傷跡をつけられてしまった。一時間にも及ぶ戦闘の末にあのカイメラが並みの方法では倒せないということだけが分かった。

 

 

アローネ「………ヴェノムクエスト………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………初の失敗ですね…………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 カオスとアローネ、タレスはマテオの大都市カストルで数度ヴェノムクエストというものを受けている。いづれも達成しており今回のこのダレイオスでのヴェノムの主討伐の旅も賃金は発生しないが代わりにウインドラの仲間達の想いを引き継いでダレイオス再興の暁には共にマテオのバルツィエ打倒を約束してある。

 

 

 ヴェノムクエスト、

 

 

 常人には受注することを許可されない特別なクエスト。これを受けられるものはヴェノムに対処法を持つ者達のみ。マテオではレイディーの手配を受けて受注することが出来た。ここダレイオスではカストルのように身分を偽って受けたのではなくカオス達のことを理解してもらいその上で依頼を引き受けた。このヴェノムクエストはダレイオスではカオス達の他に完了させることが出来るものがおらず謂わばこのクエストはカオス達専用のクエストでカオス達以外に任せられる者がいないクエストなのだ。カオス達だからこそ達成が見込めそれに伴ってスラートやミーア、クリティアも続々とカオス達に協力を申し出てきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そんなクエストでカオス達は失敗してしまった………。通常クエストはクエストの期日までに達成出来ればそれでいいのだが今回の失敗はカオス達の精神が完膚なきまでに叩きのめされとてもまたもう一度再戦すればいい………とはなれない敗北の仕方だった。

 

 

 あのダメージが蓄積すると体を溶かしてから別のギガントモンスターに変身する能力。加えて変身後は変身前の蓄積したダメージを完全に無かったことにする再生能力。これを攻略するには一筋縄でいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………それにカオス達にはまだ課題がある。

 

 

 最初の形態で全員で総攻撃をかけた後にあのカイメラは変身した。先程見せた変身での形態は五種類。ジャバウォック、ブルータル、マンティコア、ビッグフロスター、そして五種類の属性に対して完全耐性を持っていたジャバウォック。形態があといくつあるのかは分からないが最後に変身した二度目のジャバウォックは弱点の火以外の属性攻撃を無効化した。とすればあのカイメラは他の形態に変身した際にも同じような変身が出来る恐れがある。

 

 

 一つの形態で一つの属性しか受け付けないギガントモンスター。ギガントモンスターは本来複数の人数で討伐するモンスターである。つまりカイメラと戦う際は火と氷以外の弱点を持つギガントモンスターに変身された場合はカオス達のパーティーは誰か一人だけが有効打を与えるしか無いのだ。最初のジャバウォックを相手している時は有効な火属性の魔術は使用してはいなかったがそれでも六人がかり。六人がかりで三十分かけて漸く一度の変身。とても一人辺りの火力が足りなすぎる。長丁場になれば不利になるのはマナを回復する手段が道具や時間経過便りのこちらだ。どうにかして一人辺りのマナの内包量と火力を底上げしなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてカオスが個人的に課題が出来てしまった。カオス達六人の中でカイメラにダメージを与えられるのはカオス、アローネ、タレス、ミシガン、ウインドラの五人。カオス以外の四人で各四属性の対応は出来るだろう。

 

 

 と言うことは四人がダメージを与えられない火と氷の担当はカオスが賄うしかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがカオスは………、

 

 

 未だに魔術を生物に対して放つことを躊躇う。過去のトラウマがフラッシュバックしてしまい魔術を目前の生物に使おうとすると体が硬直してしまうのだ。ダレイオスに来てからここまで何度か魔技や魔術は使用したことがあるが一度たりとも生物に対して命中させたことがない。カオスはノーコンだ。遠くにいるものに物をぶつけるとなると命中制度に難がある。それも相まって自らの制御不能な魔術を使用することに恐怖心を抱いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかし今度のカイメラ攻略はカオスが魔技魔術を駆使して戦わなければ勝ちの目が全く見えない相手だ。

 

 

 このトラウマをここで克服しなければカオス達はいつまでたってもこの壁を乗り越えることは出来ない。

 

 

 ……最悪は四ヶ月半後の殺生石が設けた期限以内にトラウマを克服出来なければ世界は、

 

 

 デリス=カーラーンは終末を迎えてしまうのだ……。



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見誤った敵の底力

近場の林

 

 

 

ミシガン「………クラーケンの時とは違ったのに………。

 今度はちゃんと全身が見えてた相手なのに………。」

 

 

カオス・アローネ・ウインドラ「………」

 

 

 ミシガンの言う通りクラーケンの時のような倒すべき敵が全身が地面に埋まっていたようなことはなかった。全身が地表に露出していたにも関わらず真正面から叩きのめされた。それにいくら手を加えてもクラーケンのように体が縮小していくようなこともなかった。変身する度に姿を完全に体の大きさや戦闘スタイルを変化させ再度ジャバウォックに変身した際にも最初と同等大の大きさに変身し更に耐性すら追加させてきた。

 

 

 はやる話が手詰まりなのである。クラーケンは地面から引っ張り出せても今度の敵カイメラはカオス達に倒す算段が思い付かないのである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっぴどくやられたみたいだな。」

 

 

カオス・アローネ・ミシガン・ウインドラ「!?」

 

 

 気落ちしているところにカオス達に話しかける声があった。その相手は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「だから言っただろ?

 あのカイメラに戦いを挑むのは止めとけって。

 あの嘘つき女もいいところまでは言ったが完全に氷に耐性のあるジャバウォックに変身されて手も足も出ずに逃げ出したんだ。

 氷一点だけのあの女じゃそれだけで完封されちまうからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンターがまたカオス達の前に姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………レイディーさんが傷一つつけられずに逃げ出したというのに納得がいきました。

 傷一つつけられなかったんじゃなく“傷一つ残さずに再生変身“するという意味だったんですね………。」

 

 

 レイディーが逃げ出すのも無理はない。レイディーは今カオス達と同じで氷以外の魔術を封じられている。そこにあのカイメラが相手ではなす術なく逃げ帰るのが無難だろう。

 

 

ハンター「これで俺があのカイメラを世界の終末って言った理由も分かっただろ?

 あんなメチャクチャな奴に勝つって言う方が土台無理な話なのさ。

 

 

 ……もっとも変身能力があるっていうのはあの女のおかげで知れたんだけどな。

 それまでは俺や“カルト族の連中”もあのカイメラにそういう能力があったことなんて知らなかった。

 あの女が色々と頑張ってダメージを負わせて最終的に倒すことは不可能だと俺達に教えてくれたんだ。」

 

 

アローネ「…カルト族の連中………?」

 

 

ハンター「あのカイメラはカルト族の連中が連れてきたんだ。

 カルト族も嘆いていたぜ。

 あんな化け物が何故あんな極寒の地方に最初に出現しちまったかをな。

 あんなヴェノムは他に見たことがない。

 あんなのと同じ場所にいたら早々にカルト族は全滅しちまうってんで俺達のところに「教えてください!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「あのカイメラの詳細な情報を!!

 私達にはあのカイメラを早期に討伐しなければならないのです!!

 それには………あのカイメラのことをよく知る必要があります!!

 何でもいいのです!!

 他にあのカイメラを倒せる情報をお持ちでしたら私達にそれを……!!」

 

 

 アローネがハンターに詰め寄って情報を引き出そうとする。アローネはカオス達の中ではもっともあのカイメラを倒さなければならない理由がある。殺生石の精霊に世界を破壊されないようにすることの他にもアローネはウルゴスの同胞達を捜さなければならない使命があるからだろう。意気込みはカオス達よりも強いのだ。彼女は一度の敗北で諦めると言う選択肢は拾わなかった。

 

 

ハンター「……俺達のところにブロウンもよく知らないんだよ………。

 あのカイメラは元々ウィンドブリズ山から来た奴だからな………。

 聞くならカルト族の奴等に聞いた方がいいと思うが………。」

 

 

アローネ「ではそのカルト族の方々はどこに居られるのですか!?

 カイメラをカルト族の方々が連れてきたと仰るのなら貴方はカルト族の方々が今どこに居られるかご存知なのではないですか!?」

 

 

ハンター「………」

 

 

アローネ「ハッキリしてください!!

 私達には時間がないのです!!

 あのカイメラを討伐しない限り先に進むことも出来ずに四ヶ月後には………!?」

 

 

 アローネが口をつぐむ。四ヶ月半後には世界が殺生石の精霊に破壊されること。これは安易に誰かに話していいことではないからだ。もしそれがダレイオスの者達に伝われば対マテオ、対バルツィエへ腰を上げてきた者達の精神を打ち砕く結果に繋がりかねないからだ。それにはこれから腰を上げてもらわなければならない者達にも含まれる。一端のブロウン族にこれを話してしまえば他のブロウン族にも情報が伝わってしまう恐れがある。話せるとしたら各部族の族長辺りに事の経緯を鮮明に説明しまだ世界が確実に破壊されるということには至っていないこととそれを阻止するためにカオス達が動いていること、カオス達のクエストが成功すればそれが単なる杞憂に終わるだけの事を伝えねばならない。もしそれがただ“世界が四ヶ月後に破壊される”ということだけが誤って伝われば事情を知らない者達が立ち上がる切っ掛けすら消えてしまうだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「四ヶ月後………?

 四ヶ月後に何だよ?」

 

 

 ハンターはアローネの失言を拾ってしまった。

 

 

アローネ「………」

 

 

ハンター「………四ヶ月に何があるんだ?

 いよいよバルツィエでも攻めて来んのか?

 あの嘘つき女が他にも言ってないようなことがまだあるのか?」

 

 

 ………言えない。この男だけに伝えるわけにはいかない。アローネが言葉に詰まっていると、

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「……それはお前の他のブロウン族がいる場で話す。一人に伝えるにはスケールが大きくそう何度も説明するのは面倒だからな。」

 

 

 ウインドラがアローネのフォローに入る。ウインドラの意見ならこの場では上手くはぐらかせ他のブロウン族達のもとへと案内させることが出来るだろう。真実は一部の者だけに伝えて四ヶ月後に起こる出来事に関してはファルバン達から既に無効となった試用期間の事を話せばいいだろう。

 

 

ハンター「………」

 

 

 今度はハンターが押し黙る。何故か彼は頑なに他の仲間のところへと案内しようとしない。何かあるのだろうか。

 

 

ウインドラ「……そういえばお前は何故ここへ来た?

 カイメラの監視役か?

 カイメラがどこにいるのかを確認しに来たのか?

 それとも俺達が無様にやられる姿でも見に来たのか?」

 

 

ハンター「俺は………、

 ………お前らがカイメラに余計なちょっかいをかけてこっちに来ないように見張って……。」

 

 

アローネ「では貴殿方ブロウン族の方はこの辺りに潜んでいるということですね。」

 

 

ハンター「!」

 

 

ウインドラ「最初ここへ逃げてきた時はたまたまカイメラが来た方向とは逆方向だったから疑わなかったが俺達がここへ来てからお前と出会したのはどうにも時間が早すぎる。

 おまけに俺達が全力でここで戻ってきたにも関わらずお前は直ぐに飛び出してきた。

 

 

 この辺りにブロウン族が隠れ家にしている場所があるんだな?」

 

 

ハンター「……!!」

 

 

アローネ「教えてください!

 私達にはブロウン族の方々やカルト族の方々とお会いしてお話ししなければならないことがあるのです!

 それは一刻も争うようなことなのです!!」

 

 

ハンター「族長達には………!!」

 

 

ウインドラ「どうしてそのように頑なに会わせようとしない?

 何か会わせられない理由でもあるのか?」

 

 

ハンター「………」

 

 

アローネ「ハンターさん………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「………………仕方ねぇな。

 付いてきな。

 俺達が隠れ住んでるのはすぐそこだ。

 そこにブロウン族とカルト族の生き残り全員がいる。」

 

 

アローネ「ハンターさん!」

 

 

 カオス達に他の生き残りの仲間達のところへと案内すると言うハンター。これで一先ずカルト族とブロウン族にこれからのダレイオスの方針を伝えて協力に漕ぎ着けられる。カオス達はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、この直ぐ後に連れていかれた場所でカオス達は想像していたものよりも深刻な状況に彼等が陥っているのを目にすることになる。



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カルト族とブロウン族の生き残り

???族の住む洞穴

 

 

 

 ハンターに連れられてやって来たブロウン族とカルト族の生き残りがいるという隠れ家は先程の林から直ぐ側にあった。ここからならカオス達と直ぐに遭遇出来たのも頷ける。

 

 

カオス「ここに他のブロウン族とカルト族の人達が………? 」

 

 

ハンター「……あぁ。」

 

 

 一拍遅れてハンターが返事をする。やや表情が険しい。

 

 

 

 

ハンター「………待ってな、

 直ぐに灯りを付けてやるよ。」

 

 

アローネ「………真っ暗ですね。

 他のブロウン族の方々はこのような暗さで目が見えないのでは………?」

 

 

 当然の疑問をアローネが口にする。それに対してハンターは、

 

 

 

 

 

 

ハンター「………今に分かる。

 

 

 ファイヤーボール。」

 

 

 ハンターが小規模な火を懐から取り出した松明に着火する。これで辺りの様子が分かるようになった。そこには、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「………ハンター?」

 

 

 

ハンター「すまねぇな。

 起こしちまったか?

 客人が来たようなんだよ。

 まだ寝てていいぜ。」

 

 

???「客人………?」

 

 

 明かりが広がった先には一人の女性が乱雑に並べられた草の横たわっていた。その女性の肌は白く一目でハンターとは違う部族の女性だと分かる。その女性は恐らく………、

 

 

ミシガン「カルト族の人………?」

 

 

ハンター「あぁ、

 カルト族の女で名前はステファニーのステフって言うんだ。」

 

 

ステファニー「………どうも。」

 

 

 ハンターが彼女の名前を言うとステファニーが体を起こして挨拶をしてくる。かなり容態が悪そうだ。

 

 

アローネ「無理なさらないで結構ですよ。

 ………それで他の方はどちらに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「これで全員だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……………全員?」

 

 

ハンター「あぁ、

 “ここにいる俺達二人”でブロウン族カルト族は全員揃ってる。」

 

 

 ハンターはこれで全ての人員が揃っていると再度告げる。

 

 

ミシガン「…………えッ………、

 でもさっきは族長達がいるようなこと言ってなかった………?」

 

 

ハンター「………」

 

 

 ミシガンの問いにハンターは無言で持っていた松明をこの空間の奥の方まで照らして見せる。その奥に見えた光景は…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土の壁しかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「………族長達は死んだよ。

 ここにいる俺とステファニーでブロウン族とカルト族はそれぞれが最後の生き残りなんだ。

 ………だから族長という立場の者はもういない。

 

 

 ………いるとしたらそれは俺がブロウン族の族長ってことになるんだろうな………。

 勿論ステファニーもカルト族の族長になるだろうが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達が案内された洞穴は照らしてみれば人が住むには狭すぎる空間だった。そこに住んでいるのはハンターとステファニーのみ。他の部族の者達は恐らく先のカイメラによって滅びの道を歩んでしまったのだろう………。よく見ればこの洞穴は造りが悪く壁も魔術で無理矢理穴を空けたようなデコボコとした箇所が至るところにある。この空間は複数人で作られたものではなく一人の手によるものだと性格的に滲み出ている。不器用ながらも必死に雨風とヴェノムを退ける空間を作ったのだと…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予想していなかった訳ではない。予測としては可能性の一つにはあった。だが先程の敗北から沈んだ精神で彼等の現状を聞かされてから彼等にかけてやる慰めの言葉は誰にも口にできなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「……じゃあ話してもらおうか?

 約束通り案内はしてやったんだ。

 あの嘘つき女は待っていればその内お前らが来るみたいなことは言っていた。

 だがその話の中には四ヶ月なんて期限は聞かされてなかったぜ?

 

 

 さっきの話の続き、

 聞かせてもらおうじゃねぇか。

 ここにはお前達が探していたブロウン族長の族長とカルト族の族長が二人も揃ってるんだからよ?」

 

 

アローネ「それは………!」

 

 

ウインドラ「………」

 

 

 果たしてここで言ってもいいものか………?

 

 

 カオス達はブロウン族とカルト族の協力を仰ぎに来たというのにその二つの部族が合わせても残り二人しかいないのだ。

 

 

 彼等はここで部族が滅ぶという絶望に苛まれた。そんな二人の元へとやって来た絶望を払い除ける光。それがカオス達だったが流石に二人しかいない者達に協力を仰ぐの酷な話である上にそのカオス達ですらも先程カイメラに攻略の糸口も掴めず逃げ帰ってきたところだ。ここで真実を話しても何か得られるものなど無いとしか言いようが無く彼等にもより深い絶望を与えるだけなのでは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「四ヶ月後、

 世界に“審判”が下るのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・ミシガン・ウインドラ「!!」

 

 

 真実を言い渋っていたカオス達の後ろからオサムロウが現れ二人に真実を突き付ける。

 

 

ステファニー「世界に………審判が………?」

 

 

ハンター「……よくここが分かったな。

 つけてきてたのか?」

 

 

オサムロウ「まぁ、そんなところだ。

 

 

 それよりもブロウン族とカルト族がこれで全員か………。

 ………ダーウィンとマルクが逝ったか………。」

 

 

 ダーウィンとマルク……… 、

 それがブロウン族とカルト族の族の名なのだろう。オサムロウは少し儚げな表情を浮かべるが直ぐに気を取り直して、

 

 

オサムロウ「四ヶ月後までにこのダレイオス全土からヴェノムを振り撒く九の悪魔を倒す。

 そうしなければソナタ達が出会った嘘つき女やここにいるカオス達の力の源の殺生石の精霊が世界に大破壊をもたらすのだ。

 それもゲダイアン消失の時よりも遥か強大な力ででこのデリス=カーラーンごと消し去る程の規模で。」

 

 

ハンター「………へぇ、

 そんなことが起こるのか………。

 随分とスケールのデカイ話だ………。」

 

 

ステファニー「世界が無くなるの………?」

 

 

オサムロウ「その通りだ。

 故に我等は動かなければならない。

 その世界の消失を阻止するためにも我等ダレイオスの民は総員でなんとしても破壊を食い止めるのだ。

 これはマテオとの戦争どころの話ではない。

 

 

 ダレイオスの民として切実に取り組まなければならない緊急要項だ。」

 

 

 オサムロウが強く語る。カイメラから敗北を味わったばかりだというのにその闘士は今なお熱く燃えたぎるのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「………こんな世界………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 滅ぼされた方がいいんじゃないか?」



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マテオのエルフの素性

ハンターとステファニーの住む洞穴

 

 

 

オサムロウ「………滅ぼされた方がいいだと………?」 

 

 

 オサムロウがハンター達に四ヶ月後の世界の運命を語っていたらハンターが世界が殺生石に滅びた方が良いのだと言い出す。

 

 

ハンター「………」

 

 

オサムロウ「滅びた方が良いとはどういう意味だ?」

 

 

 オサムロウがハンターに問う。世界が滅亡する危機だと言うのにそれをどうでも良さそうなことのように言ってのけたのだ。オサムロウだけではなくカオス達もハンターの真意が分からずハンターの返答を聞こうとするが、

 

 

ハンター「……このデリス=カーラーンはよ………。

 もう何度目だ?

 いったいあといくつ滅ぶ切っ掛けが出てくるんだ?

 数百年前から激しい領地争いが始まってからそれで各部族達が滅ぶ一歩手前まで来て、そこから“東の大陸に移ったバルツィエと名乗るスラート族”がこのダレイオスに攻めてきて元々のスラート族達よりも自分達は上の存在なのだと主張してきてそれで戦争。

 挙げ句の果てには百年前のヴェノムの大発生、

 ゲダイアン消失………は結局あの嘘つき女が誰がやったのか分からないって言ってたな………。

 それでも大都市を瞬間的に消滅させるほどの魔術だか爆弾だかは誰かが作ってんだろう。

 そこから数年前のバルツィエ襲撃後のヴェノムの主誕生、

 次いではこの土地まで降りてきた最悪の災厄カイメラ、

 

 

 ………最後には俺達が普段使っている魔術の根源とされるいるかはどうか分からなかった精霊様がこの星を破壊と来たもんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………なぁ、

 この星はもう滅びたがってると思わないか?

 こんだけ争いの火種や災厄が付きまとう星をこれ以上延命させてどうなるって言うんだよ?」

 

 

オサムロウ「………」

 

 

 ハンターの言う通りこの星は世界の終末に向けて加速的に流れて行っている節がある。だがそれよりもカオス達は聞き捨てならない発言に耳を疑った。

 

 

カオス「バルツィエがスラート族………?」

 

 

アローネ「二百年前に始まったマテオとダレイオスの戦争は………スラート族とスラート族を含んだ九の部族の戦争だったのですか………?」

 

 

 東の大陸に渡ったスラート族と聞けばそれがマテオのことだというのはここにいる全員が理解しただろう。だがマテオのバルツィエがスラート族だったと言うのは初耳だ。何故スラート族が東に渡って国を立ち上げてから今こうしてにらみ合いの停戦状態になっている経緯が分からない。カオス達はそれをハンターに聞こうとしたがその答えはオサムロウが口にした。

 

 

オサムロウ「……昔スラート族はこの国のどの部族よりも秀でた能力があった。

 領地的に他の部族という敵に囲まれた立地であってもそれらを押し返す程の力が。

 しかしより激戦になっていく紛争でいかに能力が優れていても民の数は減少していく。

 このままでは力が強い、能力が優れている故に他の部族から集中的に狙われて真っ先に滅ぶのはスラートだと悟る者達がスラートの中から現れた。

 

 

 それが後のバルツィエだ。

 そのバルツィエ達はこのままあのセレンシーアインで戦い続けてもいづれは全滅は免れないと悟り、

 

 

 ダレイオスから脱出を試みたのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「…………」

 

 

ミシガン「……?

 あれ?

 タレス目が覚めてる………。」

 

 

オサムロウがバルツィエについて語りだしたら耳ざとくタレスが目を覚ました。

 

 

タレス「……続けてください。」

 

 

 バルツィエの期限がダレイオスにあった。バルツィエに強い憎しみを抱くタレスはオサムロウの話の続きが聞きたいようだ。

 

 

 

 

オサムロウ「その後ダレイオスに残ったスラートの者達は立て直して現在へと時が流れるのだがマテオへと渡ったバルツィエ達がどうなったかというとどうなったのかは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソナタがより詳しく知っているのではないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………あぁ、

 バルツィエの歴史は知っている。

 仲間達と一度一から調べ直しているからな。

 奴等の力の源がどこから来るものなのかは………。」

 

 

 オサムロウに話を振られてそれにウインドラが答える。ここから先はウインドラが説明を引き継ぐ。

 

 

ウインドラ「マテオには元々いた民俗は主にダレイオスで戦に付いていけず元いた部族と離れて誰にも見つからない土地へと渡ってきた者達、それがマテオの古くからいる者達だ。

 当時はそういった者達が多くいてマテオには大勢の逃亡者達が押し寄せた。

 その逃亡者達はダレイオスでの戦の日常に嫌気が差して部族が違えども共に協力して村を作り国を作ってマテオには北と南でそれぞれ複数の小国が出来た。

 

 

 後にバルツィエはその中でも大きく北の中心に出来たレサリナスに渡来しその国を守る騎士団を立ち上げたんだ。

 その時は権力には固執せずただ自分達が住み着いた国を守れるだけでいいと一騎士の家の者達として国を守るだけの立場に着いた。

 

 

 それもこの三百年の内に世代が代わるごとに事情が急変してきた。多分、教皇の話に繋がるのだろうな。バルツィエは第二、第三と世代が代わる度にその方向性が過激になり国に対して国を守るのなら受け身なだけではなく攻めることも必要だと訴えだしやがてバルツィエ達は近隣にあった小国を武力を持っては併合、そして吸収していき最後にはマテオ全土を掌握した。

 その辺りから不自然な程バルツィエは力を身に付けだしんだ。

 

 

 ………その辺りの時期は皆疑問には思わなかったんだろうな。元スラートだからという理由があったからこそバルツィエは強いのだと皆がバルツィエを認めていた。バルツィエの力を利用すれば自分達には不都合は無かったから国が大きくなっていくことに皆は大いに喜んだ。

 

 

 そして結局誰にもバルツィエの権力が最高にまで達するまで歯止めをかけるものがでなかった。

 これがバルツィエの現在に至る結論だった………。」

 

 

オサムロウ「いくさの無い平和な土地を求めて逃亡してきた者達の国だ。

 そんな国々が並ぶ中で好戦的なバルツィエは案外他国を制圧するのは容易であっただろう。

 それも疑問を抱くことの無かった要因の一つであろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエが元スラート族………。

 

 

 そしてマテオの人々は皆がダレイオスの元住人達の末裔………。

 

 

 カオスやミシガン、ウインドラもその血の中にはダレイオスのいづれかの血が流れていることになる。

 

 

 カオスには元スラートの血が………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「……バルツィエのおさらいはそのくらいでいいだろ。」

 

 

 カオス達が話を聞き入っているとハンターが話に割り込んできた。

 

 

ハンター「やっぱり最後にはこの星が戦の世界から逃れることが出来ないんだってのは理解できるだろ?

 このままこの星が延々と続いていっても戦が終わることは無い。

 人の歴史ってのは戦が付きまとうんだ。

 

 

 そんな星だったらいっそ全て滅びさってからまた新しい人類にでもバトンを渡してやった方がいいんじゃないか?

 もういくら待ってたって平和なんてやってこないんだしよ。」

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ「………」

 

 

 ハンターは完全に心が折れている。苦境から更に苦境が続くこの世界ではハンターとステファニーのように心を強く保つことが出来ない者達が現れても仕方がない。状況は常に最悪が最悪を上塗りしてまたそれを更新していく繰り返しなのだ。終局は世界の終わり。それを座して待つという者達が出てくるのは必然。彼等にはそれに抗う力が無かったのだから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カオス達が訪れるまでは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……でもやっぱり俺は………、

 

 世界には終わってほしくないな………。」

 

 

アローネ「私も………一度この世界が滅びてしまえばいいと思ったことがあります。

 けれどそれは後になってみれば乗り越えられたことでした。

 一時の感情で滅びてしまえばいいなんて結論を出すのは早計ですよ。」

 

 

タレス「ボク達ダレイオスの民は長い間バルツィエにいいように扱われてきました。

 このままやられっぱなしで終われられませんよ。」

 

 

ミシガン「世界が滅びたがってるからって何よ!!

 私達はまだこの星で生きてるんだよ!

 私達が生きている限り終わりになんてさせないんだから!」

 

 

ウインドラ「滅びの道を進むのは他人の勝手だと思うがな。

 まだ諦めていない者達がいるんだ。

 そいつらと共に今一度生きる道を選ぶというのはどうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「………」

 

 

オサムロウ「悔しきことだがヴェノムという滅びの運命を吹き払う力は我等には無かった。

 

 

 だがソナタが言う通り精霊は終末を迎えさせる力があるかもしれんが逆にこの星を救う力も貸し与えているのだ。

 滅びの運命か……人が生きる運命か………。

 ……確かに人は争いを繰り返す生き物だ。

 

 

 ならそれはバルツィエを倒した後に人が争わないでいい世界に変えていけばいい。

 

 

 ここで立ち上がらなければ人の歴史は途絶え、次の人類にも同じ運命が待っているやもしれんのだ。

 我も戦いは好むが殺生は好まん。

 この殺戮が蔓延る世界が嫌だと申すのなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我等に力を貸してはもらえぬか?

 我等は次なる時代でソナタ等のような戦争が間違いだと気付ける同志が必要なのだ。」



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レイディーの手に負えなかったウイルス

ハンターとステファニーの住む洞穴

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステファニー「ケホッ!ケホッ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオスアローネタレスミシガンウインドラオサムロウ「…!」

 

 

 ハンターにカオス達の計画の協力を頼んでいたら奥の方で横たわっていたステファニーが急に咳き込む。最初に明かりを灯した時から具合が悪そうではあったが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステファニー「ケホッケホッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイスニードル!」

 

 

 突然ステファニーが氷の魔術アイスニードルを発動する。その発動した魔術は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自らの体に放った。

 

 

ステファニー「うぐっ……!」

 

 

カオス「なっ、何しているんですか!?」

 

 

 いきなり目の前で氷の針を自身へと突き刺すステファニー。それに対応したのは、

 

 

 

ハンター「ファーストエイド!!」

 

 

 ハンターが治療をステファニーに施す。それによってステファニーの怪我が治っていく。大分手慣れた様子でステファニーに駆け寄り彼女を介抱する。

 

 

 

 

 しかしその一連の行動の訳が分からず見ていることしか出来ない六人。………やがて口を開いたのは、

 

 

アローネ「………ハンターさん、ステファニーさん、

 今のは一体………?」

 

 

 アローネが二人の謎の行動を訊ねる。ステファニーが咳き込んだと思ったら魔術で自傷しそれをハンターが治す。どう考えても何がしたかったのか分からない行動だった。

 

 

 

 

 

 しかしそれは聞かされてみれば二人にはそうするしかないのだと合点がいく話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「………ステファニーはな………。

 

 

 ヴェノムに感染してるんだよ………。」

 

 

 

 

ステファニー「………」

 

 

 

 

アローネ「ヴェノムに感染………?」

 

 

カオス「いつからですか………?」

 

 

 ヴェノムに感染しているというステファニー。先程はこの洞穴で眠っていたようだがこの近くにはヴェノムの姿は無かった。カイメラから隠れ続けられているのだから近くにヴェノムがいるような危険な場所ではないことは分かっている。しかしそれだとステファニーがいつどのタイミングでウイルスに感染したのかが分からない。ヴェノムに感染した者は個人差があるがおおよそ一時間前後でウイルスが身体中に蔓延し感染者はゾンビ化する。発症の兆候は感染してから身体中に凄まじい熱を感じるという。ステファニーはその熱を感じて冷やすために体に氷の針を刺したのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「ステフが感染してから“一ヶ月”ぐらいだな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………………?

 ………………!

 いっ、…………、

 

 

 一ヶ月!?」

 

 

カオス「ウイルスに感染してからそんなに経つんですか!?」

 

 

 信じられないようなことを言うハンター。ステファニーがウイルスに感染してから一ヶ月。その間彼女はゾンビ化することなく今こうして人の意識のまま生存している。何故感染してからそれほどまでの時間ゾンビ化することなく生きていられるのだろうか?

 

 

ハンター「……ステフはな………・。

 

 

 どうやらヴェノムウイルスに対して人より少し強い耐性があったみたいなんだ………。

 だからこうして一ヶ月経った後でもまだ生きてられるんだ………。」

 

 

アローネ「ヴェノムに対して耐性が………?」

 

 

ハンター「何も不思議なことなんて無いだろ?

 病気になりやすい奴がいれば逆に病気になりにくい奴だっている。

 ステフは人よりそういった病気とかになりにくい体質だったんだよ。

 

 

 全部が全部ウイルスに感染したらスライムになる訳じゃないんだろうな。

 ヴェノムの主なんていういつまで経ってもスライムになりやがらない奴等もいるんだ。

 だったら中途半端にゾンビ化しない奴だっているだろ。」

 

 

 ウイルスに感染してから一ヶ月も耐え続けたステファニー。しかしゾンビ化しないにしても自傷する意図は分からなかった。

 

 

タレス「……じゃあその氷で体を突き刺したのは何なんですか?」

 

 

 ステファニーが普通の人よりもヴェノムウイルスに感染して発症しにくい体質なのは理解できた。理解できなかったのは何故その発症しにくい体質が氷を体に突き刺すということになるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「あの嘘つき女の残した氷を溶かさないためだよ。」

 

 

ミシガン「レイディーの氷を溶かさないため………?」

 

 

 どうしてレイディーの氷がここで出てくるのだろうか?それよりもその氷とはどこに………?

 

 

ハンター「お前達はヴェノムを………、

 正確にはヴェノムウイルスを滅菌する力があるんだろう?

 あの嘘つき女もそうだったからな。

 あの嘘つき女がこの周辺に来た丁度その時、

 

 

 ステファニーはウイルスに感染してしまったんだ。」

 

 

 一ヶ月前に感染してしまったステファニー。その時にレイディーがハンター達と遭遇した。氷の針を刺す行為はその時から始まったのか。つまりレイディーは一ヶ月前にここへと来たことになるが、

 

 

ハンター「あの女はステフがウイルスに感染していると分かった途端、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイシクルでステフを氷付けにしたんだ。」

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ「!!?」

 

 

 レイディーがステファニーを氷付けに………?何故レイディーはそのようなことをしたのだろうか。

 

 

ウインドラ「レイディー殿は何故ステファニーさんを氷付けにしたんだ?」

 

 

ハンター「あの女が言うにはあの女にはその方法でしかステフは助けられないと言ってたぜ。

 あの女同様お前達にはウイルスを滅菌する力がある。

 

 

 

 

 つまりあのレイディーとかいう女はステフを一瞬殺そうとしたのかと思ったがあの女の氷を食らうことでヴェノムウイルスが滅菌されたんだよ。

 そこだけはあの女に感謝しなきゃいけないな……。」

 

 

オサムロウ「……成る程、

 ヴェノムに通じる力があるのだとすればその力を感染した者に使えばその者は負傷はするがウイルスは除去出来るのだな。」

 

 

 オサムロウがレイディーの行為に関心する。攻撃魔術でヴェノムウイルスを滅菌。やはりレイディーはカオス達よりも力の使い方を理解し使いこなしている。

 

 

アローネ「……では何故ウイルスを除去出来たというのにレイディーの氷が溶けないようにと………?」

 

 

 ステファニーはよく観察すれば血の通りが悪いのか肌の部分部分が青白く染まっている。恐らく先程の自傷行為による出血や氷の針による温度の低下で身体中がボロボロなのだろう。これ以上あの行為を続ければ命に関わる事態になるだろう。ウイルスが消えたというのに何故まだ氷を………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「……人よりも耐性が強いのが仇になってな………。

 あの女が氷付けにした時直ぐに俺がその氷を溶かしたんだよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それがいけなかったんだ………。」



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拒まれる協力要請

ハンターとステファニーの住む洞穴

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「雪国育ちだからって氷が平気な訳がない。

 人であるなら氷付けになんかされたら全身凍傷で死んでしまう。

 俺はそうならないように直ぐにファイヤーボールで氷を溶かした…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………だがウイルスはまだステフの中に残ってたんだよ。

 氷を早くに溶かしてしまったせいであの嘘つき女の氷のウイルスを滅菌する作用が全身に回らなかった。

 それとウイルスに耐性があるステフだったからこそあの嘘つき女がどこかへ去っていくまでまだウイルスが体の中に残っていることに気付けなかった………。

 ウイルスに少し程度強い体質だったのが災いした。

 俺達に出来るのはあの女が放った氷を回収してそれをステフに飲ませてその体の中の氷が溶けないようにすることだけ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それだけしかステフが生き残る道は無かった………。

 この一ヶ月間ずっとステフは針を刺す痛みに耐え続けなきゃいけない地獄を味わってきたしその地獄を俺が見守ってきた。

 氷自体は体内で氷が触れている部分のウイルスは滅菌出来るようだがウイルスは氷に届くと消えるみたいなんだが氷に触れていない箇所に残るウイルスは増殖を続け氷に近づいては消えるの繰り返しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もう俺達は精神的に限界なんだよ………。

 ステフとは部族こそ違うが二人とも仲間達に置いていかれた身………。

 今じゃ他人とは思えないような仲になった………。

 そのステフが一ヶ月前にウイルスに感染してから今日まで絶望に苛まれた………。

 

 

 今更俺達に立ち上がる気力は残ってないんだよ…………。」

 

 

ステファニー「ハンター………。」

 

 

 ハンターとステファニーが見つめ会う。どうやらこの二人は………。

 

 

 そんな二人にとってこの一ヶ月は耐え難い辛さに耐える日々であったことだろう。片やウイルスに体を蝕まれるも生きるために体に針を通す毎日、片や想い人が目の前で針を刺し苦痛に耐える姿を見続ける………。

 ステファニーの体調の不具合は単純にウイルスや出血によるものだけではないのだろう。

 一ヶ月にも及ぶ激痛との戦いで刃だだけでなく髪の毛までも白く染まっている。

 この生活が続けばそう遠くない未来にステファニーはハンターを一人残して死んでしまうだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ハンターとステファニーの事情は分かった。そういうことであればここは、

 

 

アローネ「カオス。」

 

 

カオス「分かってるさ。」

 

 

 カオスとアローネはステファニーに近寄る。

 

 

ハンター「……何するつもりだよ………?

 まさかあの女みたいに魔術でステファニーを傷付けるつもりか………?

 今のステフは魔術なんか食らっちまったら確実に逝くぜ………?

 助けられる保証が無いんなら余計なことは何も………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『彼の者を死の淵より呼び戻せ……… 、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイズデッド』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「……!?

 何だその術は………!?

 治療魔術なのか………?」

 

 

 ハンターが聞いたこともない術に驚く。レイズデッドは古くからプロトゾーンという生物の進化の過程でユニコーンと呼ばれる種になった時にその角を用いれば使うことが出来るようになるらしい。カオス達は別口でこの術を使えるようになったのだがレイディーから聞いた話ではカオス達のレイズデッドの方が性能的には有能だろう。

 

 

ステファニー「………!

 体の………痛みが………。」

 

 

ハンター「治ったのか!?

 ステフ!」

 

 

ステファニー「………体の中の………、

 ウイ………ルスが………、

 

 

 消えてい………く感覚が…………。」

 

 

ステファニー「ステフッ!!?」

 

 

アローネ「ステファニーさんッ!?」

 

 

 レイズデッドを使用したのに意識を失うステファニー。上半身が床に倒れ込む瞬間にカオスとアローネでステファニーの体を支える。………そのステファニーの体からは人の体温とは思えない程の冷たさを感じたが呼吸音はまだ聞こえる。これは急いで暖めなければ不味い状態だ。

 

 

カオス「ハンターさん!!

 急いでステファニーさんを暖めて下さい!!」

 

 

ハンター「あっ、あぁ!」

 

 

 持っていた松明をステファニーの側に置き、他にもよく燃えそうな者を集めてきてステファニーの側で燃やす。

 

 

 これでステファニーはヴェノムウイルスと氷の針の苦しみから解放されることだろう。意識を失ったのは痛みに耐え続けた緊張がとけたからだろう。後は意識が回復するのを待つだけだ。

 

 

ハンター「………」

 

 

アローネ「これで彼女は完全にヴェノムウイルスに侵されることは無くなりました。

 私達の術レイズデッドはレイディーのように攻撃を加えるものではなく治療魔術ファーストエイドのその延長したものです。

 貴方にもこの術を使いますがいいですね?」

 

 

ハンター「……それを使われたら俺はどうなるんだ………?」

 

 

タレス「悪いことにはなりませんよ。

 ヴェノムウイルスがこれから貴方に作用することが無くなるだけです。」

 

 

ハンター「……それは永続的にか………?」

 

 

ミシガン「今のところこのレイズデッドを使って効力が切れたとかは聞いてないよ?

 多分ずっと効力が残り続けるよ。」

 

 

ハンター「………」 

 

 

 このレイズデッドは攻撃ではなく治療の一貫だ。これを受けることには何のデメリットもなくメリットしか存在しない。たがハンターはどうにもこのレイズデッドに頼ることを拒絶するような態度をとった。

 

 

ハンター「それを付与してしまったら後には戻れないんだな………?」

 

 

ウインドラ「後には戻れないとは何のことだ?

 これを付与されれば今後ヴェノムウイルスに怯えることは「それを受け取っちまったら………」」

 

 

 

 

 

 

ハンター「……それを受け取っちまったら………俺はお前達に協力しなきゃいけなくなるんだろ?」

 

 

 ハンターがそんなことを言い出す。

 

 

ハンター「……俺と……ステフはブロウンとカルトの最後の生き残りだ。

 お前達がやろうとしていることは戦いなんだろ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だったら俺達はお前達に協力出来ない。

 俺にはその術を使ってもらう資格は無い………。

 すまないがその術を俺に使うのは拒否させてもらう。

 

 

 少なくとも俺は………カイメラみたいな強いヴェノムが残っている内にはお前達と共に戦うことは出来ないんだ。」



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過去に立ち向かう時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………クリティアの村ヴィスィンを出てから今日までのカオス達はそれまでの運を使い果たしたかのように悪い出来事の連続だ。順調に進められていたかのように見えた旅路もカルト族の住まう地方で目的としていた主も見つからず無駄に時間だけを消費しその場を後にし次に向かったブロウン族のこの地でもブロウン族が見つからず捜索にまた時間を消費。何も見つからないだけの旅路は心労に祟る。なのでこの地方の主だけでも討伐できればよいと誘き寄せてみたははいいが出てきたのはほぼカオス達の攻撃手段を封じる敵カイメラ。カイメラは話に聞けばヴェノムの主………もしくはそれ以上の主が合成された生物だと伺える。そのカイメラに勝利することは不可能と悟り撤退の一手を図りその後カオス達はブロウン族とカルト族の生き残りのハンターとステファニーと出会う。どうやら他の者達はカイメラの手によって全滅したらしい。カオス達が六人がかりでかかっても勝てなかった相手カイメラ。レイディーが倒せなかった理由も察することが出来た。あの魔物は魔物なんて響きでは生ぬるい。それこそダレイオスの者達が物の例えに称している九の悪魔の悪魔そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あれは…………カオス達にとって正真正銘の悪魔だった………。

 

 

 いくら手を加えてもその次の瞬間には全く違う姿に代わって再生してしまうのだから………。あれではカオス達には何一つ有力な手は残されてはいない。ヴェノムに通じる筈のカオス達の攻撃は全てカイメラに無力化されてしまったのだからカオス達はこのままあのカイメラが倒せずに滅びの審判を待つことだけしか出来ないのか…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………いや、

 

 

 まだ全ての手を出し尽くした訳ではない。カオス達にはまだ最後に残された力がある。それが通じないとしたならば滅びに逆らうことなく世界は滅亡へと誘われてしまうがカオス達はまだその手がカイメラに通じるか通じないかは分からない。その手はむしろカイメラにだったら通用するのではないか?まだカイメラは変身しても一つの属性だけ弱点を残して変身するだけなのだ。その隙を“星すらも破壊しかねない強大な力”によって吹き飛ばしてしまえばあるいは…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だがその案は誰も口にしなかった。今の現状ではもうそれ以外にカイメラにダメージを与える隙が無いのだとしてもそれだけは出来なかった。それが出来る者の心情を察して口に出来なかったのだ。

 

 

 何故ならカオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近場の林

 

 

 

オサムロウ「あのカイメラをどうにかしない限りブロウン族とカルト族の協力は得ることは叶わんか………。」

 

 

ウインドラ「ブロウン族とカルト族と言ってももうあの二人だけしか残ってないようだしダレイオス再統合の話は他の六部族だけでやるしかないのか………。」

 

 

タレス「ウインドラさん、

 “七部族”ですよ。」

 

 

ウインドラ「……すまない、

 そうだったな………。」

 

 

 タレスがウインドラの間違いを細かく訂正する。境遇的に言えばハンターとステファニーの二人はタレスと同じだ。三人ともそれぞれの部族の最後の生き残り。三人が三人ともヴェノムによって仲間達を殺された。謂わば部族は違えども同じ境遇を背負った類人とも言える。根本的に違うとしたらその最期を見届けたか見届けていないか。タレスは幸いとは言えないがその最期を見届けることはなかった。カオスという存在にも巡り会えたことでタレスはヴェノムとバルツィエに対する強い闘争心だけは生き長らえる。しかしあの二人はと言うと………、

 

 

ミシガン「あの様子じゃあカイメラを倒しても私達と一緒に戦ってはくれなさそうだね………。」

 

 

アローネ「彼等は目の前で同報達を無惨にも殺戮されてしまったのです。

 そのことが精神に深い傷とどうしようもない無力感に囚われてしまったのでしょう………。

 

 

 カイメラを私達が倒したとしてもそれで次の敵へと思考を切り替えられるような状態では無さそうでしたね。」

 

 

カオス「………」

 

 

 その通りだと思った。彼等は目の前で仲間達があのカイメラに殺されていくところを目撃していたのだ。それによる虚無感は他の五人では計り知れないことだろう。似たような状況に陥ったことのあるカオスにとってはそのことについて二人に親近感が湧いたがこんなことで親近感を湧かせる自分は少々空気が読めない思考をしているだろうと自覚する。しかしあの二人のことについて話が逸れているならこの話に乗っかってカイメラのことは、

 

 

オサムロウ「早速カイメラ討伐に向けて話を戻そうか。

 あの二人がその後どうするかは先ずカイメラをどうにかしてからだ。」

 

 

 オサムロウがカイメラの話に強引に持っていく。

 

 

ウインドラ「……どうするにしてもあの変身能力と再生力を見ただろう?

 あんな化け物をどうやって討伐するというのだ?」

 

 

 ウインドラがカイメラの能力を前にまともに刃向かっても勝つことは難しいのだと指摘する。それもそうだ。この場にいる誰もあのカイメラにダメージを残すことは出来なかったのだから。

 

 

タレス「何か有効策でも思い付いたんですか?」

 

 

オサムロウ「ソナタ等を撤退させた後足止めのため我が残っていたが我ではアレに致命傷を負わせることは出来なかった。

 無論我の攻撃では即時変身もせずに元々のヴェノムの再生力だけで回復してしまうほどであったからな。

 

 

 やはりソナタ等の力が必要なのだ。」

 

 

アローネ「………そう申されても私達でもあのカイメラには全く刃が立たずにこうして負け帰ってきたばかりなのですよ………?」

 

 

 オサムロウはカオス達の力が必要だとは言うがそのカオス達の力で勝てなかったのだ。これ以上はただの特攻でしかない。不死身のヴェノム相手に特攻などやるだけ無意味だと思うが、

 

 

オサムロウ「…あの変身をする際ほんの数秒だが体がスライム状に軟体化する。

 その変身する瞬間はほとんど無防備だ。

 そこを少しずつソナタ等の力で削り取っていけばあのカイメラであっても叶う筈だ。」

 

 

ミシガン「!

 確かに変身する前は体がグニャグニャになってジャイアントヴェノムになってたね。

 でもそのすぐ後に別のギガントモンスターに変身してたけど。」

 

 

オサムロウ「奴の新陳代謝は凄まじい域にあるのだとは思うがあんな化け物でも隙があった。

 あの変身をする際にどうにか少しずつ体を剥ぎ取っていけばいいのではないだろうか?」

 

 

アローネ「クラーケンの時と同じですね………。

 ですが途中スペクタクルズで調べてみたところあのカイメラジャバウォックには火以外の五属性に完全耐性がついていました。

 ………恐らくですが先程の戦闘中に私達にはまだ見せていない変身が“二種類”程残されていると思います。

 それに………、」

 

 

タレス「雷のブルータルに関してはミシガン、地のマンティコアに関してはアローネ=リム、水のビッグフロスターに関しては俺が………、

 残りは風の姿はタレス君だとしてジャバウォックとまだ見せていない火の姿は俺達ではどうしようもないぞ?」

 

 

 基本的にその生物が得意としている属性と相反する属性はその生物に対して有効な手とされている。火に関しては水でも良さそうだが生物という定義状火を吐く生物がいたからと言って水が有効な手とは言えない。逆に水に強い生物もいるし次に相手にするとされるフェニックスのような火で体が構成された生物なのならそれも有効とはなりそうだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………と、

 

 

 ここでオサムロウがカオスに視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………」

 

 

アローネ「…!

 待ってください!

 カオスは……!?」

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはりそう来るか………。

 

 

 カイメラから逃げる前にも言われていたし自身でももうそれしかないと思っていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「カオス………、

 

 

 今度のカイメラ討伐はソナタの魔術が必要だ。

 ソナタの魔術無くしてあのカイメラ討伐は達成出来ぬであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソナタの魔術をもってあの突然変異したヴェノムの主を倒すのだ。」



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カオスは一人で………

ウィンドブリズ山 一ヶ月後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どういう訳だが俺は今この猛吹雪吹き荒れるウィンドブリズ山に一人でいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……何でそんなことになっているのかと言うと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近場の林 一ヶ月前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

オサムロウ「ソナタの中の殺生石の精霊とやらは四ヶ月半後にこのデリス=カーラーンを破壊すると申していたのだったな?

 それほどの力があるのだとしたらその力を借り受けているソナタの魔術があればあのカイメラを消滅させることも容易い筈だ。

 

 

 今回の主の討伐はソナタの力が必要不可欠なのだ。

 ………やってくれるな?

 カオス。」

 

 

カオス「……は「待ってください!」」

 

 

 オサムロウの力説はこの場にいる者達なら誰しも考えたことだろう。しかしそれに待ったをかける声が上がる。

 

 

アローネ「まだ………!

 まだカオスが魔術を使う必要があるかは分かりませんよ!?

 私達はまだあのカイメラと今日初めて戦ったばかりです!

 まだ私達にも把握できていないカイメラの弱点などがある筈です!

 そこを衝けば……!」

 

 

ウインドラ「俺もその意見に賛成だ。

 一度負けたことは認めよう。

 だが俺達はまだ生きている。

 あんな化け物と対峙しておきながら生還を果たしているんだ。

 やりようによってはいくらでも戦い方はある筈だ。

 無理させてカオスが魔術を使う必要はない。」

 

 

タレス「そうです。

 ボク達は力ではカイメラ一体に及びませんが数ではこちらが勝っているんです。

 先程の戦闘では敵の情報を知り得なかったからこそ温存すべき力を最初のうちに消費してしまったためやられたんです。

 次こそは必ず勝って見せます。」

 

 

ミシガン「私だってまだまだマナは残ってたんだよ!

 あんな化け物にだってまだまだ魔術を撃ち足りなかったんだから!」

 

 

カオス「皆………。」

 

 

 四人がカオスを庇ってくれる。カオスが魔術を本当は使いたくないのだと知っているからこそその考えだけは口にしなかった。思い付いたとしてもその案だけは認めるわけにはいかなかった。ここにいる四人はずっとカオスに支えられてきたからカオスを支えてあげるべきところはここなんだと信じてやまなかった。カオスも内心では魔術を使わずにすむのならそれでいいのだと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「いつまで仲間に甘えているつもりなのだカオス。

 ソナタがそれを乗り越えねばこの先いくらでもソナタの大事な者達が傷付く羽目になるのだぞ。」

 

 

カオス「…!!」

 

 

アローネ「何故そう断言出来るのですか!?」

 

 

 アローネがオサムロウにくってかかる。カオスを批難されたことに皆も憤る。仲間とはいえ付き合いが短いオサムロウにそこまで言われる謂れはない。

 

 

ウインドラ「オサムロウ殿、

 俺達は散々カオスを巻き込んで傷つけたんだ。

 それなら俺達もカオスに傷つけられようとも何とも思わない。

 

 

 ………俺達を甘く見るなよ。」

 

 

オサムロウ「……傷つけられようとも何とも思わないとは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このようなことがあってもか?」

 

 

 ウインドラがオサムロウに対して敵意を顕にして近付くとオサムロウはウインドラに向かって刀を抜いた。

 

 

ミシガン「ウインドラァッ!?」

 

 

タレス「何するんですか!!」

 

 

ウインドラ「血迷ったか貴様……!?

 ……貴様の意見を無視したからと言って剣を抜くのか!

 

 

 いいだろう相手になって「バニッシュボルト」!?」

 

 

 オサムロウが刀を抜き一振りするとウインドラの頬を掠めて血が流れる。そして今度は雷の魔技バニッシュボルトをウインドラに放つ。それを受けたウインドラの頬の傷は直ぐに塞がった。

 

 

ウインドラ「貴様………、

 何がしたいんだ………?

 俺に雷が効かないことは承知しているだろう。」

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「……そう、

 ソナタ等は精霊の力によって完全な魔法生物へと変えられてしまった。

 

 

 魔法生物の特徴は同じ属性を無効化または吸収して強化される。」

 

 

アローネ「そんなことを復習して何になるというのですか………?」

 

 

オサムロウ「………分からぬのか?

 

 

 これでも………。」

 

 

 そう言ってオサムロウは続けてアローネ、タレス、ミシガンの頬に傷を付けていく。そしてまた、

 

 

オサムロウ「ウインドランス、グレイブ、スプラッシュ。」

 

 

 ウインドラに放ったようにそれぞれの属性攻撃魔技を三人に放つ。オサムロウが何故このようなことをするのか四人は理解出来ずにオサムロウの様子を伺う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがカオスはそれだけでオサムロウが自分に何をさせたいのか一瞬で理解してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………ソナタ等は強くなりたいと思ったことはあるだろうか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「………?」

 

 

オサムロウ「我は難しいことは聞いていない。

 言葉通りに受け止めよ。

 ソナタ等は強くなりたいと思ったことがあるかどうかをな。」

 

 

 刀で四人に斬りかかったかと思えばオサムロウがそんなことを言い出した。

 

 

タレス「………あるに決まってるじゃないですか………。

 ボクがもっと強ければバルツィエになんか拐われたりせず奴隷になることもなかった………。

 ヴェノムにだって………仲間を皆殺しにされずにすんだ………。」

 

 

ミシガン「……私もあるよ………。

 誰かに守られてる弱い時の自分が嫌で誰かを守る側になりたくて……そんな時に強くなりたいって………。」

 

 

ウインドラ「俺もある………。

 なんなら常に強くなりたいと願い続けている。

 俺が中途半端な力しか無かったからカオスやダリントン隊の仲間達を守ることが出来なかった………。

 ミシガンにも辛い思いをさせ続けてきた自分を消したくなるくらいにな………。」

 

 

アローネ「………私もあります。

 誰だって強くなりたいと一度は願いますよ………。

 こんな理不尽に偏った世界に生きていればきっとどこかで強くなりたいと願う筈です………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 四人とも動機はそれぞれだが一度は強くなりたいと心の底から願う気持ちは同じだった。皆誰かを守りたいんだ。俺だって昔はそうだった。今でも誰かを守りたいとは思っている。強くなりたいかどうかは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「なら何故ソナタ等が欲する強さが目の前にあるというのにそれに手を出そうとしないのだ………?」

 

 

 

 

 

 

アローネ「強さが目の前にある………?」

 

 

ウインドラ「何のことを言ってるんだ………?

 まるで見当がつかない。」

 

 

ミシガン「そう簡単に強くなんてなれるの………?」

 

 

タレス「強くなるのとさっきの魔術になんの関係があるんですか?」

 

 

 四人はますますオサムロウの意図が掴めず困惑する。確かに今必要なのはカイメラを倒せる程の強さだがカイメラには魔術は効かなかったのだ。効くとしたらカオス程の魔力を持つ攻撃くらいなものだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「オサムロウさんは…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺に皆に魔術を使えって言ってるんですよね………?」



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皆で強くなるために

近場の林 一ヶ月前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「ソナタ等の話を我が聞く限りではソナタ等は各々の属性と同じ属性の強いマナを吸収すると一時的に強さが増す。

 もしくは新たな術を習得するのであろう?

 

 

 ならばここにソナタ等を強くする術があるではないか。

 カオスの魔力は我が生きてきた中でも郡を抜いて高い。

 殺生石の精霊によるところもあるのだろうがセレンシーアインで見せたようなあれほどの力は恐らくこの世界には他に存在しない。

 ソナタ等はミシガンが得たような力をヴェノムの主に期待しておるようだがそんなものを待つよりも今ここでソナタ等に対してカオスに魔術を撃ってもらう方が早い上に戦闘中という不安定なタイミングでの強化に頼ることもない。

 ……ソナタ等も感じていたのではないか?

 このパーティーは今………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのカイメラに対して弱点を取れたとしても圧倒的に火力不足なことに。」

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

オサムロウ「あのカイメラを討伐するにはカオスの魔術は必要だとは言った………。

 しかしカオス一人の力で倒しきれるかは定かではない。

 タレスが申した通りこちらはカイメラに数で優位があるのだ。

 

 

 その数が数にならなければどうしようもない。

 ソナタ等のような力が他の者に反映させられない以上ソナタ等は持てるカードであのカイメラを討伐しなければならぬ。

 では先ずその数を揃えるところから始めるしかないであろう?

 

 

 故にカオスの魔術でソナタ等を強化するのだ。

 ソナタ等の性質上今後の計画も何もかもがそれで上手く回ることだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………確かにオサムロウの言う通りなのかもしれない。カオス達は常人とはちがう。強くなる方法は武器を強化することや修練を積むことだけでなくそういった属性攻撃を吸収することでもアローネ達四人なら可能なのだ。ブルータルと対峙してウインドラがそのことを導きだした時実はカオスは既にその答えに辿り着いていた。昔から魔術を使うことに憧れていたこともあってそういった使い道があると頭の中で考えるのは得意だった。

 

 

 だがそれを皆に話すことは出来なかった。それを話してしまうということはカオスは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「そんなの駄目だよ!!?」

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「何が駄目なのだ?

 この方法は考えうる限りソナタ等にとっては非常に有用な手段だとは思うが。」

 

 

カオス「………」

 

 

 悔しいが否定は出来ない。全く同じことを考えていたからだ。カオスもアローネ達が強くなれればいいとは思うのだが、

 

 

アローネ「オサムロウさんは分かっていません………。

 カオスの心の傷がどうして付いてしまったのか………。

 

 

 ………カオスが魔術を使えないのは………、

 過去に“巻き込みたくない人々”を巻き添えにして魔術を行使してしまったからです。

 そんなカオスに対して私達に魔術を使用させるなどと………、

 

 

 そんな人の心の傷を抉るような行いをさせようとするのはこの私が許しません!」

 

 

カオス「アローネ………。」

 

 

 

オサムロウ「………巻き込みたくない人々か………、

 それなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう既に巻き添えにしているであろう?」

 

 

アローネ「…!」

 

 

オサムロウ「四ヶ月後………、

 殺生石の精霊が世界を砕く………。

 その時になって後悔しても遅いのだぞ?

 世界が破壊されたらこのデリス=カーラーンにいる者達は皆死に絶える。

 ソナタ等も含めてな。」

 

 

タレス「そんなこと言われなくても分かって「カオスは除外されてな。」!」

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「精霊がカオスに宿っている以上カオスだけは安全が確約されている筈だ。

 死に絶えるのはこのデリス=カーラーンにいる生命体全て。

 生き残るのはカオス一人。

 

 

 そんなことになったらカオスの心の傷は抉られるどころではなく更に切り裂かれんばかりにズタズタになるのではないか?」

 

 

ミシガン「カオスだけが………助かるの……?」

 

 

オサムロウ「話を辿れば精霊はこの星には収まりきらない力を宿している。

 例え宇宙に放たれようとも生きていられよう。

 

 

 そんな宇宙にカオスが一人取り残される結果となる。

 もしそうなったらカオス、

 

 

 ソナタはどう思う?」

 

 

カオス「………俺は………。」

 

 

 もし四ヶ月後………俺だけしかいない世界………俺だけしかいない宇宙に俺一人が取り残されて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がデリス=カーラーンの人達を………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ぐっ………!!」 

 

 

 考えたら急にまた吐き気がしだした。それを気合いで押さえ込むがオサムロウは更に畳み掛ける。

 

 

オサムロウ「カオスの力で救われてきた者達も大勢いるだろうが今度はそのカオスの力で全てを粉々にするのだ。

 そうなった時ソナタは心の内に何を思う?

 何を考えて一人宇宙を精霊とさ迷うのだ?」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺一人だけの宇宙………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「ソナタはこの世界を救う神にもこの世界を破壊し尽くす悪魔にもなれよう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ソナタは悪魔になりたいのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「その辺にしてやってくれないか?

 話が突然すぎてカオスが混乱しているだろう。」

 

 

 

 

 ウインドラ………。

 

 

 

 

ミシガン「話は分かったけどカオスのトラウマはそう直ぐに乗り越えられるようなものじゃないの………。

 私だってカオスがずっと十年間苦しみ続けてきたのを見てきたんだから………。」

 

 

 

 

 ミシガン………。

 

 

 

 

タレス「確かに四ヶ月後世界が滅ぶかもしれません。

 ですがもし破壊されるのだとしてもボク達はそれをカオスさんのせいにしたりはしません。」

 

 

 

 

 タレス………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………私達はカオスに救われた身です。

 そんなカオスを悪魔だなんて思ったりしませんから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………ではどうすると言うのだ?

 あのカイメラを討伐するにはどういった方法が「おっ、俺!!」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……………俺やります!!

 あのカイメラにも魔術を使って見せるし皆を俺の力で強くすることも………!

 

 

 やらせてください!!

 

 

 俺が………!!

 俺が皆を守らなくちゃいけないから………!!!」



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カオスの修行1

ウィンドブリズ山 特訓開始初日

 

 

 

カオス「………」

 

 

 俺はずっと皆に甘えていた。一緒に旅をして共に支えあう仲間達だからお互いの要所要所をサポートしあってこれからもそれでやっていけると思っていた。今回のカイメラと戦うまではそれでもよかった。それでやっていけてた。そうやって自分がやりたくないことからずっと逃げ続けていたんだ。

 

 

 

 

 でももうそんなことは言ってられない。四ヶ月後俺の中に眠る精霊がこのデリス=カーラーンを破壊する。それを未然に防ぐにはこのダレイオスのヴェノムの主を全部倒さなきゃいけない。倒してこのダレイオスからヴェノムを駆逐するんだ。それには先ずブロウン族が管理してい土地に今もたむろしているカイメラを倒さないと………。

 

 

 今カイメラは俺とは別行動をとっているアローネ達があそこから移動しないように見張ってくれている。ここでカイメラの行方が分からなくなったらこの先アイツを捜すのにも時間がかかるしまだ倒さなきゃいけないヴェノムの主はカイメラを含めても五体はいるんだ。これ以上時間をかけるわけにはいかない。

 

 

 俺は何としてもここで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モンスターに魔術を撃てるようにしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイスウルフ「グルル……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は今アローネ達と別行動をとってはいるがその理由は俺が誰にも頼らずに魔術を撃てる環境を作るためだ。一ヶ月前のあの後俺は魔術を使ってアローネ、タレス、ミシガン、ウインドラを強化すると意気込んだが結局あの時はアローネ達に魔術を発動することが出来なかった。俺の中ではまだ誰か………生物に対して魔術を放つという覚悟が出来てないらしい。オサムロウさんの指示で一度俺は魔術を撃つときに誰かが近くにいたらそれを逃げ道にして魔術を放てなくなるとのことで丁度誰も人を巻き込む心配のないカルト族の住んでいた山ウィンドブリズ山に来ているのだ。ここにいるのはヴェノムとヴェノムを上手くかわしてまだ生き残っている野生のモンスター達くらいなものでここではいくら魔術を撃ってもいい環境だ。だから俺は自分を追い込むため剣もアローネ達のところに置いてきて身一つでこの山にいる。

 

 

 ここでなら………俺の魔術を発動する恐怖症も克服できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けど………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイスウルフ「ガウッ!!」

 

 

 

 

カオス「(来た………!)」

 

 

 その辺をウロウロしていたらアイスウルフに遭遇し今回はコイツを獲物に見据える。コイツを魔術で撃退出来れば…………!アイスウルフの飛び噛みつき攻撃を飛葉ほんろ歩でかわし背中を見せたアイスウルフに魔術を発動させる構えをとる。ここは六属性のうちのどれがいいか………、やはりアイスウルフと言うこともあって氷属性だから火のファイヤーボールか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いやこんな雪山で俺のファイヤーボールなんか撃ったら山に積もった雪が溶けだして雪崩が起きかねない………。無難にウインドカッターか?………だけど俺の魔力でウインドカッターなんて風の魔術を起こしたらどこまで風が飛んでいくか………そういえば前にバタフライエフェクトだかなんだかでどこかで長が羽ばたけば遠くの地で台風が起こるとか言ってたな………。俺の魔力は蝶なんかの何千倍もあるしここは雪山だから俺の風に飛ばされた雪が世界中に吹き荒れるかもしれない………ウインドカッターは止めておこう。だったらライトニングで一瞬にして焼いて…………?…………駄目だウインドラが雪山は大きな音でも雪崩が起きると言っていた。雪崩の被害って結構凄いらしいしこの山で雪崩が起きたら反対側のクリティア族の村にも雪崩が届くかもしれない………。………アクアエッジがいいかな?アクアエッジだったら…………今度は洪水が起こりそうだな。山から思いっきり沢山の水が流れていったらアローネ達のところにも水が押し寄せてくるだろう………。ストーンブラスト………?これだったら……………俺のストーンブラストで大地震が起きそうだな却下だ。………氷属性のアイシクルだったら!氷属性の相手に氷は効きにくいだろうけど雪山で氷属性の魔術を放つくらいなら特に環境的に問題は…………?

 

 

 雪が余計に積もってもっと雪崩の危険度が増すな…………これも止めようか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイスウルフ「ガブルッ!!」

 

 

カオス「………」

 

 

 そうこう悩んでいる内にアイスウルフがカオスの足に噛み付いてきた。長考し過ぎたようだ。

 

 

アイスウルフ「ガブガブ!!」

 

 

 アイスウルフがカオスの肉を食いちぎらんと鋭い歯を食い込ませてくる。犬系のモンスターの噛む力は百キロを越えると言われている。普通の者であったらその咬まれる力とアイスウルフの放つ冷気に当てられた痛みに耐え兼ねて悶え苦しむのだが、

 

 

カオス「(………)」

 

 

 多少の痛みでは動じないカオスにとってはこの程度の痛みは苦にならなかった。それどころか咬まれているというのにまだ思考の渦に呑まれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………こんな無駄なことを考えてちゃ駄目だ。

 とにかく魔術だけでも発動させないと………。)」

 

 

 カオスは焦燥感にかられて足に噛みついているアイスウルフに向かって魔術を放とうとする。

 

 

 

 

 

家屋「『氷雪よ………我が手となりて敵を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前なら世界を………、

 ………バルツィエを変えられるかもな………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ッッッ!!!!」

 

 

 カオスの発動しようとしたアイシクルはアイスウルフに放たれる寸前で狙いが逸れる。

 

 

 ………いやカオスが無意識に逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイスウルフ「ギャッ…!?」

 

 

 先程までは辺りに積もっていた軟らかな雪がカオスのアイシクルを受けて完全に強固な氷河へと代わる。それは視界の届く範囲全てに及んだ。この分ではウィンドブリズ山の全体がこの有り様であろう。それに驚いたアイスウルフはカオスから飛び退きどこかへと去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………魔術はなんとか撃てる………。

 

 

 ………けど………。」

 

 

 カオスの中で燻り続ける心の闇はそう易々と晴れてはくれない………。生物と認識しない場所には魔術を発動することは出来た。しかし密着していたアイスウルフに対して放つ筈であった魔術はその対象から完全に別の方向へと流れた。これはカオスののコントロールの問題ではない。カオスの精神的なところが作用してしまい狙いを外してしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………おじいちゃん……………。

 俺はどうしたら…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの対象に魔術を放つことが出来ない原因の根底にあるのは幼き日に植え付けられた大切な人を自身の手で消し去ってしまったという記憶があるからだ。カオスはトリアナスでの一件以来魔術を放つ際に生物が視界に入るとどうしてもそのことを思い出してしまう。

 

 

 その記憶がカオスの中に残り続ける限りカオスはこの課せられた試練を乗り越えることは叶わないであろう…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 果たして彼はこの課題を乗り越えることが出来るのだろうか…………。



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カオスの修行2

ブロウン族の集落トロークン 外れ

 

 

 

 カオスが一人で魔術を対象に命中させる特訓をしている間アローネ達は少しでもカイメラを倒せる可能性を上げるためカイメラの様子を観察していた。カオスが特訓を終えて帰ってきた暁にはあのカイメラとの再戦が待っている。待機している間何もしない訳にもいかずアローネ達はアローネ達でカイメラへの対策を立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラジャバウォック「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………目標に動きなし。

 獲物が通りかかるまでは特に何かしているわけでもなし。

 これまでの主と行動パターンはまるっきし同じですね。」

 

 

ウインドラ「違うのは奴が一定のダメージを受けると体を一度溶かしてそこから新たな姿へと変わることくらいか。」

 

 

アローネ「一度ゾンビの体が溶けきってヴェノムへと姿を変えた後に再度別の………いえ、“肉体を再構築”するだなどと………、

 そんなヴェノムは聞いたことがありません………。」

 

 

ミシガン「あの能力って主が主を食べちゃったことと何か関係あるのかな………?

 ヴェノムって全部同じウイルスであぁなっちゃうのかと思ってたけどあれ見るとなんか今までのとは全く別だよね?」

 

 

オサムロウ「ウイルスはその感染する寸前までは同じなのだ。

 ウイルスが生物へと侵入した後その生物の遺伝子情報に作用して複雑化する。

 そこらにいる通常のヴェノムは一見全て同じに見えるが実はそれぞれ全く異なる変化を遂げている。

 よく目を凝らして見れば色や粘度、臭い、酸の強さ、属性に対する反応等様々な種がいるのだ。」

 

 

 カイメラを観察しながら五人はヴェノムに関する情報を改めて見直した。現在五人の目の前にいるカイメラはハンターが王と称するのも理解できるほどヴェノムにして異質な強さを持つ存在だ。マテオとダレイオスでヴェノムについて判明している特長は主にあらゆる生物へと感染し、感染した生物は自我を失って他の生物を捕食しようとする。その際その自我を失った生物の常態をゾンビと呼んでいる。そのゾンビは個体差によって違うが時間が立つと体内の消化控訴が極端に強まり始めに胃を溶かしそこから体全体へと移っていき最終的には全身にまで広がる。ミーア族はそれをオートファジーという生物が飢えた際に自らの肉体を栄養源にして生き永らえるどの生物にも起こり得る作用だと言った。それならネイサム坑道などでガーディアントなどの魔法生物がスライム形態に変化しなかったのも理解できる。オートファジーは食物連鎖の中にいる生物のみに起こる現象だからだ。クリティア族の話では何故そのようなオートファジーが起こってしまうのかと聞くと彼等はヴェノムウイルス自体が生物を進化させるウイルスだと見測した。どうもその進化のために回りから養分を接種はするがそれでも足りず進化のためのエネルギーに全て使いきってしまうためヴェノムはそのショックで最期は完全に別の溶けきってしまうもよう………。

 

 

 その進化を果たしたのがダレイオスのヴェノムの主で主達は通常種のヴェノムのように時間で体が崩壊したりはしない。どれだけ時間が立ってもゾンビの形態からスライムに変化せずただひたすらにゾンビ同様底無しの食欲に突き動かされて行動している。主は全てギガントモンスターだと言うがクラーケンのように元が付近に生息していた通常モンスターオクトスライミーが過剰摂取で巨大化しギガントモンスター認定されたものもいる。主になるとウイルスの強さが増すらしく主のウイルスに感染するとバルツィエのワクチンではウイルスを抑えきれずに感染者がゾンビになってしまうケースもある。それと主は非感染生物だけでなく感染生物までも捕食し体の一部にしてしまうようだ。それによってクラーケンは切り落とされた触手が何度でも生え替わった。主なだけあってウイルスが強く働いている影響だろうか………。主についてはまだ判明していないことが多くある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当然あのカイメラについては存在からして謎だ。

 

 

 何故あのような怪物が誕生してしまったのだろうか………。

 

 

 あのカイメラはどんな生物があのような変貌を遂げてしまったのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あれがバルツィエが話していたというアスラだというのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カオスは無事に戻ってくるでしょうか………。」

 

 

 アローネが今はいないカオスの心配をする。カオスは今武器も持たずに一人でウィンドブリズ山へと向かいモンスターを相手に魔術を的中させる修業を行っている。一人で向かったのはアローネ達が側にいればカオスが魔術を使う機会が失われてしまうからだ。

 

 

タレス「カオスさんなら心配要らないと思いますよ。

 モンスターを相手に危なくなったら逃亡できるほどの足の早さがありますし。」

 

 

 カオスは曲がりなりにもバルツィエの血を受け継ぐ者だ。バルツィエは機敏性と魔力の高さには定評がある。例え武器を所持していなくとも万が一ということはないだろう。……それにカオスには精霊が宿っている。そんじょそこらのモンスターにカオスと精霊が殺られてしまう訳がない。

 

 

ウインドラ「カオスが一人で頑張っているんだ。

 俺達は俺達に出来ることをするしかない。」

 

 

 そう言ってウインドラは立ち上がりカイメラの方へと歩み出す。

 

 

ミシガン「え……!?

 何するつもり!?」

 

 

ウインドラ「座しているだけではもったいない。

 倒せるとは思わんが奴の情報を入手するのなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが一番手っ取り早いと思わないか?」

 

 

 そう言い放ちウインドラはカイメラへと突撃していく。

 

 

オサムロウ「単純思考だな………。

 危険を省みず特攻とは………カオスがいないというのに奴に敗れたことを反省していないとは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそういう何度でも立ち向かっていく根性、

 嫌いではない。」

 

 

 続いてオサムロウもウインドラのようにカイメラに突撃していく。

 

 

タレス「……行ってしまいましたね。」

 

 

ミシガン「……そうだね。

 何であんな無謀な「ではボクも行きます」ってちょっとォッ!?」

 

 

アローネ「タレスまで………。」

 

 

ミシガン「~~!!!

 もう!!

 だったら私もいかなきゃじゃん!!?

 

 

 行こっ!

 アローネさん!」

 

 

 タレスとミシガンの二人も駆け出した。

 

 

アローネ「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……カオス、

 待ってますから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必ず私達の元へ帰ってきてください………。」

 

 

 最後にアローネがカイメラへと向かっていく。敵わぬと分かりながらもカオスが戻るまでにカイメラについて少しでも情報を集めておこう。あわよくばカオスがトラウマを克服するまでにカイメラを倒す。それが叶えばカオスが一人で背負う必要も無くなる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてカオスが一人で魔術を克服している間にアローネ達のカイメラ攻略への激闘の日々が始まった。期限は四ヶ月半、それまでに残り五体の主の討伐。

 

 

 カオスは魔術恐怖症を克服してアローネ達の元へと戻れるのであろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それよりも先に世界の終わりとなるか……………。



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カオスの修行3

ウィンドブリズ山 一週間目

 

 

 

 カオスがウィンドブリズ山に来てから数日が経過した。このウィンドブリズ山へ一人で来た目的は対象に魔術を的中させるというこの世界に住むエルフなら誰でも出来そうなことを特訓するためにだ。大概の理由としては魔術の操作性に難がありそうな者達が行うような特訓だがカオスに関してはそれの他にも精神的な痼がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて住んでいたミストの村で発動した魔術により祖父を含めた村の住人の大半を消し去ってしまったこととその後に生き残っていた村の住人によって激しい非難の嵐にあい幼かったカオスは精神的に深い傷が残った。

 

 

 それから十年の間カオスはその心に残った傷が癒えることなく過ごしてきた。その事件後は自分の中に十分なマナ(後日それが精霊の物だと判明する)があることが分かりその日からカオスは祖父の持っていたバルツィエの奥義書を独学で学び魔神剣を体得してミストの村を外からモンスターやヴェノムの魔の手から守り続けてきた。カオスにとってその行いは当然で自身があのミストから殺生石の守りを奪わなければあのような事件は起こり得なかったからだ。現在はマテオ、レサリナスの管理された土地となっているが本来はあのミストは村人達が不等な税の徴収を避けるためにあの深い森の奥にひっそりと村を構えて住み始めたのだ。そこにあった殺生石は異様な力を放ち触れた者の生命の源マナを根刮ぎ奪って絶命させる能力を持っていた。自然界の生物はその殺生石の能力に敏感でその周辺に近寄ることがなかった。いつから存在していたのかは判明していないがそのことに目をつけた元ミストの族長はおよそ“百年前”に現在では廃墟と化した旧ミストの住人を引き連れてその殺生石の回りに引っ越すことにした。旧ミストに税の徴収に来ていたカオスの祖父アルバートも騎士団を離れその時に共にミストへと移住を決めた。その殺生石のあった地はミストの住人にとっては国に干渉されず自分達だけで生きていける正に“理想郷”と呼ぶに相応しい村となったのだった。

 

 

 ………その理想郷を壊したのが当時物心つく前の五歳前後のカオスだ。当時のことは何も覚えていないが祖父曰くたまたま村長の家へと訪問していたカオスとカオスの両親はふと目を離した隙にカオスが殺生石に近付いていくのが見え慌てて止めに入ろうとするが一歩間に合わず両親がカオスを引き剥がすもその時にはカオスは殺生石に触れてしまったそうだ。両親もその際に殺生石に触れてしまい絶命するが何故かカオスだけはマナが極僅か残す程度で生き長らえた。それからカオスは“奇跡の子”と呼ばれるようになったがマナがほぼ無いと言っても過言では無い子供のカオスは村に住む他の子供からは蔑まれて育ってきた。元々祖父が他所から移り住んできたこともあってカオスは浮いていた。何故自身はこのような扱いを受けるのか、何故自身は他の子供と同じように扱われないのか、何故自身は他の子供と同様魔術を使うことが出来ないのか、いくら悩んでも他の子供達にとってカオスは親達が嫌うマテオ国の騎士団の騎士の子供でよく理解している訳ではないがどこか遠くの村の少し鼻につく目障りで手酷く扱っても怒られることがないため彼等にとってカオスは玩具のような存在だった。カオスはそのことに何度も深く傷付けられてきたがそれを支えたのは祖父アルバートと幼馴染みのウインドラとミシガンだった。彼等がいたからこそカオスは多少腐れながらも村での仕打ちを耐えながらもやってこれた。自身は一人ではない、孤独では無いのだとその時のカオスは思った。彼等がいるなら、彼等がいるこの村なら自身がいてもいいのだ、自身が当たり前に夢を見てもいいのだと思い、将来自分が大人になった時自分を蔑んできた者達を見返すためにその者達が知らない騎士に自分はなってこの村を邪悪な魔物達から守って見せる。子供心に汚れた世界を知らないカオスは祖父が語る騎士と他の大人達が語る騎士は同一の者ではないのだと思っていた。だからこそ自分は大人達が嫌う騎士ではなく祖父の言うような騎士になりたかった。騎士になって大人達が持つイメージを払拭させたかった。自分が祖父が語るような良識のある騎士になれば自分に対する扱いも変わるのではないかと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一途な願いも全てあの日を境に消えてしまった。全て自身と自身の中に宿る精霊が粉々に打ち砕いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今でもあの日のことを忘れたことはない。ミストから国どころか星の反対側まで旅してきたがあの日の自分が消し飛ばしてしまった人々のことは忘れてはならない。守ると誓った人々を恐怖に貶めてしまった自分はあの日から誰かが傷付くようなことがあればそれは自分のせいなのだと気付き数ヵ月前まではミストで贖罪のつもりでモンスターと戦ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………今度はそれがミストに留まらずデリス=カーラーンまるごとこの世界にまで広がった。まだ破壊されると決まった訳ではないが今度あの精霊が出てきてこの世界を破壊し尽くすようなことがあればミストの犠牲者どころの話ではない。デリス=カーラーンに住む全ての人が俺と精霊によって殺されてしまう。そうなってしまった時俺と精霊だけが宇宙に取り残されてしまうのではないか。そうなってしまったら………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやって罪をつぐなえばいい………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「まだ時間はある………。

 そんなことにはならない………。

 

 

 

 

 俺がさせない………………。」

 

 

 まだ時間はある。時間がある限りヴェノムの主は必ず全て倒して見せる。討ち洩らしは絶対に残さない。なんとしてもここで確実に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術を思い通りに使いこなして見せる。



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カオスの修行4

ウィンドブリズ山 二週間目

 

 

 

ビックフット「フルル………」

 

 

カオス「(ギガント………まではいかない中型の大きさのモンスター………。

 動きは遅いし外す理由はない………。

 

 

 コイツになら当てて見せる!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『氷雪よ、我が手となりて………』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前が奪ったのか!?お前のせいで村は!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺のせいで………村が………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビックフット「バァッ……。」

 

 

カオス「!」

 

 

 気がつけばビックフットが大きな雪玉を転がしてきておりカオスはその中に呑み込まれる。魔術を唱えたところまではよかったがそれから昔の記憶を思い出してしまい止まってしまっていたようだ。カオスはそのままビックフットの雪玉の中で何処かへと転がされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も失敗のようである。今日で精神の克服修行が始まって七日目。その間に発動出来た魔術は七回。大体で一日一回撃てたか撃てなかったかだ。その七回の内モンスターに魔術を当てられた回数は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………零だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなことでは駄目だな。もう少し一日に発動出来る回数を増やさないといけない。マナは腐るほどあるんだ。それなのに一日に一回しか撃てないとは………。これでは子供以下だ。大人でも少ない人は一日に十回から十五回くらいなら撃てると聞く。それなのに俺は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィンドブリズ山 三週間目

 

 

 

アイスウルフの群れ「「「ガルルッ!!」」」

 

 

カオス「(今日は多いな………。

 これは流石にどう撃ってもどれかしらに魔術を当てることは出来るだろう。)」

 

 

 あれから十四日、二週間が過ぎた。一週目から二週間目に入った辺りでは一日に撃てる回数が一回だったが三週間目に入る前後辺りからモンスターがいないところでなら何回か発動することが出来た。それにより一日に発動する回数が増え今日はこのアイスウルフ達に遭遇する前に三度発動出来た。おかげでこの山はすっかりと雪山から氷山へと変わってしまった。俺は平気だけどこの山の向こう側に住むクリティア族の人達は大丈夫だろうか?あんまりこの辺りを冷やしすぎるとダレイオスの北側全体の気候が氷河期に突入しそうだ。それくらいこの雪山は寒くなってきた。なんせ冷えすぎて雹が降るくらいだ。直撃してくる雹は結構痛い。その内この雹も大きな氷塊へと変わっていくのではないだろうか。そう思ってしまうほどに最初に比べて気候が激しくなった。なのにここまで寒くなっても凍えないこのアイスウルフ達には感服する。毛皮があるから平気なのか?

 

 

アイスウルフの群れ「ガウッ!!」

 

 

 カオスがこんな気温でもまだ生存しているアイスウルフに感心しているとアイスウルフの群れが一斉に飛び掛かってくる。地面が氷になっているせいでスピードも早くなっている。普通のエルフであったならこの群れの連携を掻い潜るのは難しかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 但しそれは普通のエルフであった場合でカオスもアイスウルフのように氷を巧みに滑りながら攻撃を回避していく。いくら氷で早くなっていると言ってもそれはカオスも同じだ。元がアイスウルフよりも早く走れる分瞬間的な回避能力はアイスウルフの多数攻撃を全てかわしきるほどに高い。こういった複数の敵との戦闘はいりくんだミストの森にいた時に経験している。この高速化した戦闘下でも目はしっかりと付いていってる。逆にアイスウルフ達は攻撃後にカオスを見失い着地後の氷で転ぶ始末。

 

 

 その隙をカオスは見過ごさなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アイスニードル!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイスウルフの群れ「!!?」

 

 

 カオスの氷の針が一直線に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地面の氷に放たれてまた気温が落ち込む。流石のアイスウルフもこのカオスが放った魔技から放出される超低温の空気に寒気を感じたのかカオスとの距離を空ける。アイスウルフは哺乳類で寒さに慣れているだけの生物だ。寒さに慣れている程度では生物が生存出来ないレベルの寒さにまで気温を下げられては生命活動に異変を来すだろう。

 

 

アイスウルフのリーダー格「アォォォォォォンッ!!」

 

 

アイスウルフの群れ「!」

 

 

 やがて一匹のアイスウルフが遠吠えを上げると群れはその場から去っていった。これ以上の戦闘行為は凍死してしまうと察して退却したのだろう。中々引き際を弁えている狼達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……やった…………やったぞ!!

 遂にミストのことが頭から消えた!!

 

 

 モンスター相手に魔術が使えた!!

 これならカイメラを倒せる!!」

 

 

 カオスはモンスターを目の前にしても過去の記憶が呼び戻されることなく魔術を放つことが出来た。このウィンドブリズ山に来て早半月。時間はかかったが漸くトラウマの克服に成功した。カオスはそう思った。これでアローネ達の元へと帰れる。これならカイメラを倒せる、世界が破壊されずに済むのだと歓喜した。

 

 

 だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………何を浮かれているんだ俺は………。

 まだ“一回成功しただけ”じゃないか………。

 こんな簡単に克服できる訳ないじゃないか………。」

 

 

 たった一度成功しただけでは満足出来なかった。ここに来てから何十とモンスターに遭遇して成功したのが僅か一度。それだけでは克服出来たかどうか分からない。もしこれからカイメラと戦闘を始めた時にまたフラッシュバックが起こるようなことがあればアローネ達の足を引っ張ることになる。

 

 

カオス「……もう少しだけ続けよう………。

 それで何も問題無ければ山を降りてアローネ館の元へと帰ろう………。」

 

 

 満身は禁物だと自分自身に促しカオスは修行を続ける。カオスは自分に自信が持てなかった。失敗の数がそれだけカオスの精神に深く突き刺さる。だからこれからはその失敗した分の半分くらいまで成功したら山を降りると決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時カオスは自身が何故このウィンドブリズ山に一人で戻ってきたかを忘れていた。何のための修行だったかを忘れてしまっていた。この場にもう一人でもいてそれを指摘すれば思い出すことも出来ただろうがカオスは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が今どうしようもない思い違いをしてしまっていることにまだ気付くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「………?」



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カオスの修行5

ウィンドブリズ山 四週間目

 

 

 

 カオスがウィンドブリズ山に修行をしに登頂してから二十一日目。今日の山の天気は澄み渡る青空で雹が降ることもなかった。

 

 

カオス「………最近モンスターの数がめっきり減ったな………。」

 

 

 カオスが魔術の練習を開始してから幾度となく氷の魔技アイスニードルと魔術アイシクルを放ち続けたせいでこの山には現在生物が生息することが不可能なほどまでに気温が下降している。それが影響して雪山のモンスターを一匹も見付けられずカオスは手持ちぶさたな時間が出来る。

 

 

カオス「……ここを皆と通ってきた時にはヴェノムももう少しはいたんだけどなぁ………。」

 

 

 雪山のモンスターは常に雪崩災害が起こり得る環境にいるせいか危機察知能力が高い。そのためモンスターは警戒心が強くヴェノムに近寄ることが少ない。なので必然的にこの辺りにいたヴェノムはカオスが訪れた時には栄養接種が追い付かず殆ど死滅していたことだろう。その他に生き残っていた個体はカオスが度重なる魔技と魔術の使用でウィンドブリズ山の全域が浄化され完全にこの地帯のヴェノムウイルスすら消えてしまっている。普通の者であったらヴェノムに遭遇すると絶望するが今のカオスにとってはヴェノムでも遭遇したい気分だった。

 

 

カオス「……まぁいいか………。

 無難に魔術の練習でもしようかな………。」

 

 

 一日通してモンスターと遭遇出来なかったカオスは魔術の発動練習を始める。練習するのはここまで他の災害を気にして一つに絞ったアイシクル一択。ここにいる間はこれしか使わないと決めているのだ。

 

 

 こうしてカオスはまたウィンドブリズ山の気温を下降させて余計にモンスターが出現しなくなる環境を作り上げていく。精霊の恩恵のせいで寒さを感じることが出来ないカオスは自分の行っていることがかえってモンスターと遭遇できなくしていることに気が付かない。この後の一週間は全てモンスターと一切遭遇することが出来ない日々が続く。そんな日々が続き記憶が再発することが無くなってきたカオスはそろそろウィンドブリズ山を降りてカイメラ討伐に向けて動き出すことを考え始めていた。今の自分ならカイメラなど一人で倒せるのではないかと過剰に自信を膨れ上がらせていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィンドブリズ山 一ヶ月経過

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……よし………、

 修行が始まってからもうそろそろ一ヶ月くらい経つし後三ヶ月と半月までにヴェノムの主を倒さなくちゃならないなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここら辺でアローネ達と合流しようかな。」

 

 

 カオスがウィンドブリズ山に登頂してからほぼ一ヶ月が経過していた。始めの頃は幾度も忌まわしき過去の記憶がフラッシュバックすることが度々あったがこの頃は何も思い返すことなく魔術を発動することが出来ていた。その発動回数は有に発動を失敗した数の半分を過ぎて今では一日に五十以上は魔術を発動していた。割合的にはカオスが魔術を発動出来た回数は八割から九割くらいにまでなるだろう。その残りの一割から二割はカオスが修行を始めた時期辺りの失敗だ。三週間目、四週間目に入ってからは詠唱を始めれば確実に魔術を発動出来ている。

 

 

 もう自分は大丈夫だ。

 魔術を発動することに何の恐怖感もない。こんな魔術はいつだって放てる。どこにだって放てる。

 

 

 カオスは魔術に対する自信が最高潮にまで高まっていた。長い間苦しんできた心の苦痛は今日で全て払拭できた。もう何も心配は要らない。これで世界は救われる。これで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………さて、

 じゃあ………、

 

 

 山を降りないとなぁ………。」

 

 

 そう独り言を呟いてカオスは山を下山し始めようと第一歩を踏み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前なら世界を………、

 バルツィエを変えられるかもな………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが下山しようと第一歩を踏み出した時また忌まわしき記憶が甦り心の奥底から冷たい風が通り抜ける感覚がした。

 

 

 もうあの過去のことは振り切った筈、なのに何故またあの記憶が思い出されるのか?自分はもう既に“何も思い出さずに魔術を発動”することが出来るのにどうして…………………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 !!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このタイミングでカオスは自分が何をしなければならなかったのかを思い出す。何故自分がこの山に来たか、ここに来てどうしなければならなかったかを………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何でだよ………………。

 

 

 ……何で今、思い出すんだよ………、

 

 

 …何で今までそのことに気付くことが出来なかったんだよ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何で俺は………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……今まで俺はずっとここで一体何をしてたんだよッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが後悔の言葉を叫びながら己の拳をその自らが強固に固めた氷の大地に叩き付ける。何度も………何度も………。

 

 

 

 

 

 

カオス「俺は何をしなくちゃならなかったんだ……!!!!!

 何をしに来たんだ………!!!!!

 

 

 何のために………!!!この一ヶ月こんなところでずっと……………!!!!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 喉が張り裂けるほどに叫ぶ。悔やんでも時間は戻ってこない。カオスが使った時間は一ヶ月。その間にカオスは魔術を発動するところには漕ぎ着けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその間目標にしていた魔術を生物に的中させるという成果は数百の魔術回数の中で達成できたのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………零。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乗り越えたと錯覚していた過去の記憶はカオスの中で一ヶ月前と何も変わっていなかった………。

 

 

 この一ヶ月カオスは何もしていないのと等しい時間を過ごしてしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「何でッ!!!!!

 

 

 何で……………!!!!!!

 

 

 

 何でなんだよぉぉぉぉぉぉッッッッッッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 本当なら雪山でこのような咆哮を上げるのは危険な行為だが今日まででウィンドブリズ山はカオスが雪山から氷山へと変えてしまっていた。なので雪崩に巻き込まれる心配はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……しかし今のカオスは雪崩でも火山の噴火でも起きてほしかった………。

 

 

 それに巻き込まれて世界から消えてしまいたい気性に苅られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「カッ……………カオス………?」



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まさかの遭遇者

ウィンドブリズ山

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス『……………俺やります!!

 あのカイメラにも魔術を使って見せるし皆を俺の力で強くすることも………!

 

 

 やらせてください!!

 

 

 俺が………!!

 俺が皆を守らなくちゃいけないから………!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「何がやらせてください、だッ……!!!

 一ヶ月まるまると使っておいて何も課題が進んでないじゃないか!!?

 何で一ヶ月もあって俺は一度もそのことを思い出せなかったんだ!!?

 俺がやらなくちゃいけなかったのは……!!

 

 

 “魔術を発動”することじゃなくて“魔術を使った上でそれを的に当てる”ことだっただろッッッ!!!?

 

 

 何でそのことを忘れていた!!?

 どうしてそのことを今になって思い出したんだよッッッ!!!?

 

 

 俺は………………モンスターどころか人に向かって使わなきゃいけないのに………!!!

 どうしてモンスターに一度も当てられないで達成した気になってたんだよォォォォッッッ!!!」

 

 

 己の愚かさが嫌になる。あれだけの啖呵を切っておきながら何も好転していないこの状況に自分の不用意な発言が招いた時間の無駄な浪費にカオスは自分を痛め付けたくなった。

 

 

 ………自分を真っ先にこの世から消し去りたくなった。

 

 

 

 

 カオスは普通の者が抱えることのない業を抱えていた。それは殺生石がカオスの中に共生しているせいでとてつもない魔術の出力が発生すること。魔術はこのデリス=カーラーンでは誰しも生まれながらに持っているもの。カオスも最初はそうだった。物心が着く頃にはそれを操れるようになり子供同士で競い会い高め会うものなのだ。そんな経験をしたことが無かったカオスは突如魔術が使えるようにはなったがカオスのそれは無闇に放てば確実に何かを粉微塵に砕き、切り裂き、消し炭に変え、貫き、凍り付かせて絶命させる程の力があった。それは一つの立派な殺人兵器だ。常人と違って放てば対象を間違いなく殺生するこの魔力を加減することは出来ずそれをカオスは仲間に対して放たなければならない。

 

 

 もし術が強すぎたり発動する魔術の属性を間違えればアローネ達は朽ちる。奪いたくない命を奪いさってしまう。過去のミストでの事件で奪いたくなかった人達の命のように………。

 

 

カオス「後……!!

 後五体もいるのに……!!?

 後五体を三ヶ月で倒しきらなきゃいけないのに!!!!!」

 

 

 アローネ達は自分を信じてこの修行に送り出してくれた。自分がアローネ達のように魔術を生物に使うことが出来ないからそれが出来るようになるまでの時間をくれた。アローネ達は自分が過去の記憶を拭い去ることが出来ると信じて待ってくれた。

 

 

 それなのにカオスはそれを乗り越えることが出来なかった。乗り越える機会がありながらそれを袖にしてしまった。大切な時間を馬鹿なモンスターとの追いかけっこでふいにしてしまった。ふいにしてしまった上でそれに気付かずにこのままウィンドブリズ山を降りてアローネ達に合流しようとしていた。終わらせなければいけなかった香大に何一つ手をつけることなく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これではアローネ達に会わせる顔がない………。仲間と呼んでもらう資格なんてない。このままカオスは自身に宿る精霊の力が暴走してアローネ達やその他のスラートの人々、ミーア、クリティア、それからマテオの人々………最後には自分が悔恨の情を持つミストの人々を殺してしまう。自分の意思とは関係なくあの精霊が三ヶ月後には世界を消すと宣言しているのだ。その破壊を止めることは恐らく無理だ。カオスが見てきた中であの精霊に対する対抗手段は存在しない。災厄の存在ヴェノムですらあの精霊にとっては無力なのだ。あの力を前に生き残れる生物などこの星にはどこにもいないだろう。ましてやあの精霊の力無くして今日まで生きてはいなかったカオスでも………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………は…………ははは…………。」

 

 

 喉の奥から渇いた声が響く。それは無意識の内に漏れてきた。

 

 

 

 

 

 

カオス「…………俺は一体こんなところで…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何やってるんだろうな………。」

 

 

 この一ヶ月のことを振り替えるカオス。始めは目標を見失うことは無かった。始めの内からモンスターに魔術を当てることが頭の中ではあった。しかし長期的に一人で過ごし続ける内に思考の波が蠢き次第に別の思考へと移り変わっていった。対象に魔術を当てることから徐々に対象がいても記憶を呼び覚ますことなく魔術を行使するようになっていった。それから最後にはいつでも魔術を発動出来るようにすることになっていた。一度一人でそう思い込んだらその間違いに気付くことは出来なかった。それも無理からぬ話で人が間違いに気付くのは間違ったと過去になってからだ。後悔は後からやって来る。今回の件もそれだ。カオスは自らの修行が間違っているとは分からなかった。同じことの繰り返しをしていると人は次第に最適化、要するに楽な方へと流れていく傾向にある。上手くいっていると錯覚すればするほどカオスが間違いに気付く機会が失われていく。自身では一日中修行をしているつもりだった。努力をしているのだと思い込みただひたすらにそれを頑張る………。

 

 

 それが間違った努力の方向だと気付けたのは全て終わった後だっただけなのだ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「クッソォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 カオスはもう一度渾身の力を込めて氷に拳を叩き付ける。他人から見れば散々喚き散らして氷を殴った後に渇いた声を出してもう一度喚くというみっともない光景だっただろうがここにはカオス一人しかおらず人目に気にすることは無かった。カオスにはもう………、

 

 

 泣き叫ぶことしか頭になかったのだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そんなカオスに後ろから声がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「だっ、………大丈………夫?

 ……そんな手を………してたら手が痛い痛い………よ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!?」

 

 

 カオスはその声を聞いて一瞬アローネ達の誰かが一ヶ月も戻ってこない自分を探しに来たのだと思った。流石に長く空けすぎて心配になって様子を見にきたのかと思ったが今この付近は寒さに強いモンスターでさえも居座ることが出来ない氷点下の世界だ。こんなところにアローネ達が来れる筈がない。そう思って振り替えるとそこにいたのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「どっ、どうした………の………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マテオ、レサリナスの王国騎士団隊長にしてカオスの祖父の従兄妹敵のダイン=セゼア・バルツィエの姿があった………。



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バルツィエのダインの登場

ウィンドブリズ山

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……何でアンタがここに………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「手から………血が出てるよ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが自分の過ちに嘆き悲しんでいたらバルツィエの女騎士ダインが現れた。モンスターも出現しなくなるほどのこの寒空の下でまさか人に出会すとは………。しかしこの気温ではカオスのような特殊な体質をしていないと生物が生きていられる筈がない。呼吸して吐いた息ですら途端に凍り付く程の寒さなのだ。それをこのダインはどうやって………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………何でここにいるんだ………?」

 

 

 先ずはここにダインがいる理由が知りたかった。バルツィエの先見隊はファルバン達の見立てではカオス達の妨害をしてくることは分かっていたが妨害するとなると人里に向かう筈だ。こんな雪山もとい氷山へと足を運ぶ理由が見当たらない。

 

 

ダイン「………」

 

 

 返事はない。そんな質問に応える義理はないということか。

 

 

 考えてみたら敵同士。ここで会いまみえたら剣を向けあうのが道理。しかし今カオスは剣を所持していない。魔術の修行に専念するためにアローネ達のところへと置いてきていた。それに対しダインは腰に剣を差している。魔術は使えても人に当てることが出来ないカオスにとって今襲われたらほぼ無防備な状態で一方的に殺られてしまう。ここは逃げるのが手かと思ったが、

 

 

カオス「……じゃあ俺はここで「カオスに………!」…えっ?」

 

 

ダイン「え…?何?」

 

 

カオス「いや、今何か言いかけたから………。」

 

 

ダイン「カオスから先でいいよ……。」

 

 

カオス「俺は………。」

 

 

 さりげなく去ろうとしたらダインが何かを言いかけてカオスと話が被った。何を言おうとしていたのか気になって問いかけてみることにする。

 

 

カオス「………どうぞ。」

 

 

ダイン「………カオスが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この山にいると思って来たの………。

 カオスの……魔術は………その………、

 

 

 ……どこにいてもどこにいるか分かるぐらい凄いから………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 ダインがここに来たのは必然だったようだ。妨害をするにしてもカオス達がどこにいるかは捜してみないと分からないだろう。だがこの山で修行を始めてから一ヶ月。地形や天候すら変えてしまったカオスの居場所はバルツィエには筒抜けだったようだ。

 

 

カオス「……それでここに来たって訳か………。

 一体いつから見ていたんだ……?」

 

 

 レアバードなる乗り物で空を飛ぶバルツィエの先見隊ならここへも来やすかっただろう。ダインがここに来たと言うことは他のバルツィエも同様にここに向かっている恐れがある。ダインがこの気温の中でもこうして現れたと言うのなら何かバルツィエは極寒の冷気の中でも耐えられるよあな技術があるのかもしれない。今もどこからか出てきて…………。

 

 

 とカオスが他のバルツィエがいないか辺りを警戒していると、

 

 

 

 

ダイン「?

 ……誰か捜してるの……?」

 

 

カオス「…アンタ以外のバルツィエがいないかをね………。」

 

 

ダイン「ランドールならまだ帰ってきてないけど……。」

 

 

カオス「帰ってきてない……?

 どこから帰ってきてないんだ?」

 

 

ダイン「レサリナス……、

 自分で手を斬ったって言ってたからそれを治しに帰ってるよ……?」

 

 

カオス「………」

 

 

 そういえばそうだった。ランドールはセレンシーアインで逃亡するために自分から手首を切り落としたんだった。バルツィエは確か二人一組で活動するんだったよな………。

 

 

 となると今はこのダイン一人なのか?

 

 

 ……一人ならなんとかなるかもしれない。隙を見て視線が切れた時に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「カオス……、

 魔術をモンスターにぶつけることが出来ないんだね……?」

 

 

 

 

カオス「…!?」

 

 

ダイン「それで一人でこんなとこに……いたの?

 ランドールから聞いた話じゃ“アスラ”を狩ってるって言ってたから……。

 この前からずっとカオスがモンスターと戦ってるところ見てたけど一度もモンスターに魔術を当てられてなかったからもしかしてとは思ったけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………読まれてる。もしこれで俺が人に対しても撃つことが出来ないと知られればこのダインは問答無用で斬り掛かってくるだろう。そうなる前にここは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げるが勝ちだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「あっ…」

 

 

 

 

 

 

 カオスは猛スピードの飛葉翻歩で駆け抜ける。無論ダインとは真逆の方向へだ。地面の氷もあいまって一瞬でダインから遠ざかり五秒もしないうちダインの位置からはカオスが見えなくなる。不意を上手くつけた。あの様子では追い掛けてきてもカオスを見付けることは難しいだろう。今は何がなんでもダインから逃げ切らねば。

 

 

 カオスはそのまま三十分ほどジグザグに木々の間をひたすら滑っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……ここまで来ればもう追い掛けてはこれないだろう。」

 

 

 草葉が枯れ落ちる木々を隠れ蓑にしてカオスは後ろを振り替える。どうやら撒いたようだ。追ってきてる様子はない。一先ずは安全の確保には成功した。今日は不幸続きだ。一ヶ月の修行が御破算して項垂れてたらダインに見つかり俺の魔術が使い物にならないことまで知られてしまった。

 

 

カオス「……これで俺の魔術が人にも撃てないことがバレたら本格的にまずいよな……………。」

 

 

 それがダインに知れでもしたら今度こそダインはカオスを殺しに来るだろう。今ならカオスは仲間の助けもない状況だ。あの場でカオスが逃亡を謀ったまではよかったがダインは何故カオスが逃亡を謀ったかを考えるだろう。そして逃亡した理由が武器を持っていないこと自分に対して攻撃手段が無いのだと気付かれると戦闘は必至。次もまた同じように逃げ切れるかは分からない。足の早さでは勝っているとは思うが追跡する足はこちらに最短で向かってくる。こちらが逃げると分かっているのなら次は簡単には逃がしてはくれない筈だ。そうならないためにも次は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次は………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうすればいいんだろうな………。

 

 

 俺はこんなところで何をやっているんだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日二度目の瞑想。カオスはこの次に自分が何をすればいいのかを見失った。仲間の元へ戻ろうとした矢先に徒労に終わった修行、この一ヶ月の努力は努力では無かった。ただの迷走であった。仲間達にこんな報告が出来るか………。

 

 

 出来る訳がない。彼等は今もカオスの帰りを信じて一ヶ月も待っていてくれているのだ。その一ヶ月で何の成果も得られなかったでは仲間達は自分に対して呆れ果てるだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはカオスにとって生物に対して魔術を放つことと同等の恐怖を感じた。もしこれで本当に失望されることになったらカオスはまた新たなトラウマが生まれることになるだろう。その思考はカオスの中でどんどん大きくなっていく。まだ体験したことの無い恐怖ほど想像してしまうとより強く恐怖心を掻き立てられる。その恐怖心のせいでカオスは、

 

 

 これからどうすればよいのかさえ自分で決めることが出来なくなってしまっていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこまで………行くの………?」

 

 

カオス「どこまでって………そんなの分からないよ………。」

 

 

「?

 どこに行くか決まってないの……?」

 

 

カオス「……アローネ達のところに戻りたいけど………戻ることなんて出来ないし………。」

 

 

「………迷子……?」

 

 

カオス「迷子じゃないよ………。

 俺が出来るようにならなきゃいけなかったことがこの一ヶ月でまるで進歩してないから何て言えばいいのか分からなくて………。」

 

 

「さっき呟いてた人にも魔術を撃てないってことのこと……?

 カオスは生き物全般に魔術を撃つことが出来ないの……?

 ……だからレサリナスでは一度も魔術を使ってなかったんだね……。」

 

 

カオス「………?

 まぁあの時は………………………………………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 !?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 独り言を呟いていたらそれに乗っかってくる声があった。その声は聞き覚えがあった。と言うよりも先程の………、

 

 

 

 

 

カオス「どっ、どこだ!!?

 どこから………!!?」

 

 

 あれだけ走って引き離した筈だ。なのにもう追い付いてきたのか!?それも真っ直ぐ俺のところへ……!!?ダインの方が足が早かったということか…!!

 

 

 

 慌てて声のした方へと振り替えるカオス。

 

 

 しかしその方向にダインはいなかった。ダインがいたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「こっち……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダインがいたのは空だった。セレンシーアインでランドールが逃亡するのを手助けした時に乗っていたレアバードに搭乗していたのだ。

 

 

 なるほど、あれだけ引き離したのにこんなに早く追い付かれてしまったのは相手が陸路ではなく空路で追跡していたからか。空からなら障害物もなく乗り物ということで疲労を感じて減速することもない。実に堅実的な追跡手段があった訳か………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どこにあったんだよそれ………、

 

 

 さっきはそんな乗り物どこにも無かっただろう………。



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捕まるカオス………?

ウィンドブリズ山 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このウィンドブリズ山に精神修行をしにやって来て、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てが無意味だったのだと気付き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲嘆に暮れ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶望し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 この極寒の地にて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………正座をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………否、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正座をさせられている………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この正座は俺の意思ではない………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二者による強制を受けて正座をしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この強制正座を俺に強いているのは勿論、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この女だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が地面を殴って暴れていたら突然出てきたこのダインが俺に正座をさせているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かれこれもう一時間は正座をさせられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その間この女はずっと無言で俺を見張っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が立ち上がって逃げようとしたら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またあの飛行する乗り物で追い掛けてきては捕まって、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正座をさせられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを先程から五回繰り返して、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ六回目に挑戦しようかと考えているところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こいつは俺に何をさせたいんだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この正座にはどんな意味があるんだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仲間が来るまで俺が逃げないように足の血流を阻害させて痺れさせるのが目的なのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……確かにレアバードで追い付けると言ってもそう何度もチェイスを繰り返してたらいつかは俺のことを見失うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうならないためにこいつは俺を小まめに正座させているのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が言うのもなんだがこいつらは確かいつも人を拘束するようの手錠を所持していた筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺に使っても多分それはほぼ無意味なのだが何故それを真っ先に使わないのだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が既に両手首に鎖だけを外した手錠を嵌めながら飛葉翻歩を多用しまくっているから俺に手錠が無価値なのだと気付いているからか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この女は俺に正座をさせてから一向に何かする気配がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 喋りかけようともしてこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵である俺から何か情報引き出そうともしてこない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が口を割らないのだと察しているからか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで俺に聞きだしてくることと言ったら他の仲間の居場所やダレイオスの人達が今どこにいて何をしようとしているところなのかとかだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 捕まっているとはいえそんなことは口が裂けても言うつもりはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これ以上は俺も余計な醜態を晒したくはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こいつらにやる情報なんか無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言ったらこいつは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺を殺してくれるのかな………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな駄目でどうしようもない俺を、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この地上から消してくれるのかな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もし俺が死んだら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺生石の精霊はどうなるんだろう………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の中から出ていくのか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺と一緒に死ぬのか…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あいつが死んでくれるのなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ達に何も迷惑をかけることなく、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………このまま死ねるんだけどな…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……あっ、……あの………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………………………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漸く口を開いたか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず仲間の居場所を吐かせようとしてくるのかな………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残念だけど子供の頃に騎士を目指していた関係で敵に捕まってしまった時のことはおじいちゃんから聞かされて何度もシミュレーションしたことがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 是が非でも口を割ることは無いぞ俺は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんな訊問にだって答えてやるものか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……………前にランドール迎えに来た時から………気になってたんどけど………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………何で手錠を付けてるの………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………それは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間もかけて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初に訊くことなのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もっと早くに訊けることじゃないのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………って言うか一時間もそれを訊くのに時間をかけていたのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………カオスは………ずっと見てたけど手錠を付けながらでも魔術を使うことが出来るなんて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………凄いね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誉められてしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言うか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あまりに時間をかけていたから色んなことを察していたのかと思ったが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案外察していなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだその地点の話のことしか話すことがないのかこいつは………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それからまた数時間無言の時が流れる。次にダインが口にしたことは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……暗くなってきたし………そろそろ寝よっか…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………こいつのせいで今日一日の大半が正座して終わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何なんだこいつは、俺に正座をさせたかっただけなのか………?



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様子のおかしなバルツィエ

ウィンドブリズ山 翌日

 

 

 

 ダインにずっと正座させられ続けた日の翌日。何故かダインはカオスを特に拘束するようなこともなくずっと側に居続けた。この女の目的が分からない。こいつと一緒にいたランドールはまだレサリナスに帰還しているようだし他の仲間が来て俺を拘束して連れ帰るかあるいは殺害するのかと思ったのだがそんな節は見受けられない。ただ側にいるだけだ。なので俺は少しこのダインに話を振ってみた。

 

 

カオス「……俺はこれからどうなるんだ………?」

 

 

ダイン「……?

 どうって………?」

 

 

カオス「俺を発見したなら俺のことをレサリナスに連れて帰るとか………ここで俺を殺したりとかしないのか………?」

 

 

ダイン「………」

 

 

 カオスが質問をするとまたダインは口を閉ざしてしまう。そんな質問には答えられない、答える義理はないと最初の内は思ったがどうもこのダインからはまるで敵意を感じない。何か他に思惑があっての同行のような気がしてきた。何か………、

 

 

 別の目的があるような………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………質問を変えるぞ。

 いつから俺のことを見つけたんだ……?」

 

 

 これだけはどうしても聞いておきたかった。俺が精神修行を始めてから一ヶ月。俺が魔術を連続使用していたせいで見つかってそれからこの女は俺が何度もモンスターと遭遇しては魔術を山に撃つ毎日だったと告げた。大分前から俺のことは見付けていたんだろう。そして物陰から俺を観察して俺の魔術が欠陥品だと知られた。モンスターならばカオスを見付け次第襲ってくるので襲ってこない者に対しての警戒を怠っていた。それで俺はこいつが見ていることに気づけなかった。いったいどこまでこいつは俺の情報を掴んでいるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

ダイン「……三週間前くらい………。」

 

 

カオス「三週間前………?

 ………なるほど………、

 三週間前も前から俺のことを見張っていたのか……。

 俺をどうやって拘束しようかと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……三週間前………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 随分と長く俺のことを様子見していたんだな。そんなに時間があれば他の先見隊の仲間を呼んで俺を拘束するための下準備でも出来ただろうに………。三週間前から俺のことを見ていたのなら今他の仲間はここにはいないということか。何故それをしなかったんだ?俺がこうして捕まっているように俺が今無力な存在だと言うことは分かっている筈………。

 

 

カオス「……もっと早くに俺を捕まえに来れたんじゃないか………?

 俺は今何も出来ないと分かってただろ………?

 なのに何で三週間も前から張ってて何もしてこなかったんだ?」

 

 

ダイン「……それは………。」

 

 

カオス「それは?」

 

 

 

 

ダイン「………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………何て話しかければいいか分からなかったから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………は?

 

 

 こいつは何を言ってるんだ?話かけ方が分からなかっただって?

 

 

カオス「……そんな玉じゃないだろ………。

 バルツィエだったらレサリナスでいきなり斬りつけてきたみたいに襲ってくればよかったじゃないか………。」

 

 

 俺の中での親戚達連中は皆凶暴な性格のイメージだ。ニコライトに始まってラーゲッツ、ユーラス、ランドール、フェデール、アレックス………、

 ………グライドに関しては俺の方から襲いかかったからよく知らないのだが………。

 

 

 とにかくバルツィエは話の通じる相手ではない。例え女性であってもバルツィエの一味なら話が出来るような奴ではなさ………、

 

 

ダイン「カオスと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お話してみたくて………。」

 

 

カオス「………俺と話を………?」

 

 

ダイン「………うん。」

 

 

カオス「……何の話を………?」

 

 

ダイン「………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………何でもいいけど…………。」

 

 

 このダインは話をするのに一々間が空くな………。と言うか話がしたいとは一体………?

 

 

カオス「……何でもいいって………何か目的があって話し掛けてきたんじゃないのか………?

 なのに何でもいいってどういうことなんだ………。」

 

 

 

 

ダイン「…カオスと仲良くなりたくて………。」

 

 

カオス「!」

 

 

 このダインはどうやら今は敵対する意思は無いようだが何か話の流れがおかしい。何で急にまた俺と仲良くなりたいなんて言い出すんだ………?俺をレサリナスへと連れ帰るためにか?……ユーラスだったら俺を痛めつけながら連行してたのに………。

 

 

カオス「…仲良くなりたいんだったら何でセレンシーアインでは俺やスラートの人達に攻撃してきたんだ………?

 っていうか何で仲良くなりたいんだよ………?」

 

 

 レサリナスでえらく派手な回転斬りで突撃してきた時の印象と全然違うこのダインの雰囲気に混乱する。あの時は攻撃してきたからカウンターを決めて返り討ちにしたのだがそれからはこのダインとの接点は無かった筈。あってこの間のセレンシーアインでレアバードで飛行してきた時に顔を会わせたくらいなものだ。そのことから考えてみても俺に対する印象は“仲良くなりたい”になるとは思えない。むしろレサリナスの件で大勢の前で俺に負かされて俺を殺したいと思うのがバルツィエなのではないのか………?

 

 

ダイン「セレンシーアイン………ってどこ………?」

 

 

カオス「……この間ランドールをアンタが連れて帰った街だよ………。」

 

 

ダイン「……あぁあそこ………。

 あの時のカオスのバニッシュボルト凄かったな……。

 当たってたら絶対に死んでた………。」

 

 

カオス「………当たってたらそうなってただろうね………。

 それで仲良くなりたい理由は………?」

 

 

 あまり人と話なれていないのか会話と会話のペースが噛み合わない。ダインは一つ一つの話に感想を挟んでくる。昨日のあの長い正座もまさかそのせいなのではないか……?

 

 

ダイン「………カオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カオスはブラムとお友達みたいだったから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラムとお友達………?冗談よしてくれよ俺アイツ嫌いなんだけど………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「何で友達だって思ったんだ………?」

 

 

ダイン「…レサリナスでの会話聞いてたから………。」

 

 

カオス「レサリナスでの会話を聞いてた……?」

 

 

ダイン「…西門でブラムと話してたこと……。」

 

 

カオス「……あの時のあれか………、

 あの時は確かアンタをぶっ飛ばした後の筈だったよな?

 アンタあの場にいなかったと思うんだけど………。」

 

 

ダイン「それはうちがブラムに盗聴機を付けてたから……。」

 

 

カオス「盗聴………き!?」

 

 

 何だその盗聴きってのは!?離れている人の会話が盗聴出来るのか!?いやでも……!

 

 

ダイン「それでカオス達とブラムが親しげだったから………、

 うち勘違いしてたの……。

 

 

 

 ……カオスがブラムを苛めてたって思ってたから………。

 それが違ってブラムとカオスがお友達だから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うちもカオスとお友達になりたくなったの… 。」



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意外な敵の内面

ウィンドブリズ山

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺がブラムと友達だと思ったからこいつは俺とも友達になりたくて攻撃してこないのか………。

 

 

 でもあの時の会話を聞いてたって言うなら………。

 

 

カオス「ブラムって………、

 あっさりと俺達を通してくれたけどアンタ達からしたら………俺とブラムが友達………だったとしてブラムは裏切者ってことになるんじゃないか?

 ブラムは今どうしてるんだよ?」

 

 

 あの時の会話が聞かれていたのならブラムはこちら側の騎士と言うことになる筈だ。

 つまりこいつらバルツィエにとっては敵………。

 敵と敵が繋がっていたのならブラムは………。

 

 

ダイン「ブラムは………、

 

 

 特に何もされてないよ……。

 されそうになってもうちが止めさせる……。」

 

 

カオス「アンタが?」

 

 

ダイン「ブラムがうち達のことを調べている密偵だってことは前々から皆思ってたことだけど……。

 フェデールがまだおよがせといていいって言ってくれてるしランドールもカーラーン教会潰してからはフェデールに目を付けられてるからあまり勝手なこと出来なくなってるし……、

 

 

 もしブラムを殺そうとしたらうちがランドールを殺す……。」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だこの人は………?ブラムが敵だと分かっているのにそれを友達だと言ったり守ろうとしたり………それよりもランドールを殺すって………本気で言ってるのか………?

 

 

カオス「ランドールはバルツィエの仲間でアンタの家族だろ………?

 何で家族よりも敵を庇おうとするんだ………?」

 

 

 ダインに問いながらもおかしな話だと思った。敵よりも家族の方が守らなくてはいけない筈。なのに家族よりも敵の方を守ろうとするなんて………それってある意味それも裏切り行為なのでは?

 

 

ダイン「…ブラムは………特別………、

 うちの弟子だし………、

 なにより………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うちと初めて友達になってくれた人だから………、

 裏切られても死なせたくない………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『能天気なお前にはピッタシだな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………分かる気がする………。セレンシーアインでも俺はウインドラに酷い目にあわされた。でもそれでもウインドラのことを友達だとずっと思ってきたから酷い目にあわされたとしても何故だが赦せてしまう………。

 

 

 初めて自分出来た唯一の友達だったから………。

 

 

 でも………、

 

 

 

 

 

 

カオス「……アンタって………他に友達くらいいないのか………?

 アンタ達みたいなレサリナスでも有名な人達だったら友達なんていくらでも出来るだろ………?」

 

 

ダイン「………いないけど………。」

 

 

カオス「いない……?

 どうして………?」

 

 

ダイン「……うち………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ブラム以外の家族以外の人とあんまり話すことないから………。

 それに他の人と仲良くなったら………ブラムと過ごせる時間が少なくなるから………、

 ブラムはただでさえ忙しそうだし遠方にばっかり仕事に行ってるから………。」

 

 

 

 

 

 ブラム以外の友達を増やすつもりは無いのか………。友達ならこいつらの立場ならいくらでも作れそうだと思うけどな………。それでもブラムみたいに密偵みたいな懐を漁りに来るような人達ばかりだろうけど。

 

 

 

 

 

 

カオス「それだと俺もその内の一人になるんじゃないのか?

 俺と友達になったとしても俺とアンタが敵同士って事実が変わる訳じゃない。

 ブラムもだ。

 バルツィエは今マテオでも悪いイメージしかないしアンタがバルツィエな限りいづれはブラムと戦うことに………。」

 

 

 どんなに仲良くなろうとも敵である事実が最終的にどうなるかは明白だ。敵という立場が変わらないと最後には決定的に断裂してしまう仲でしかない。こいつがバルツィエから離れでもしない限りブラムとはこのまま………、

 

 

ダイン「……うちがバルツィエの家の者だからこのままじゃブラムとも友達じゃなくなるしいつかはブラムがうち達と戦いになることも分かってる………。」

 

 

カオス「それなら俺と友達になっても意味が……。」

 

 

ダイン「……けどバルツィエから出ていくことは出来ない………。

 うちがバルツィエを辞めちゃったりしたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラムが密偵として仕事が出来なくなっちゃう………。

 そうなったら誰もブラムを守れないし………、

 

 

 ………うちの存在価値が無くなっちゃう………。

 うちがバルツィエだからブラムも仲良くしてくれているのに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 このダインにとってどれだけブラムの存在が大きいんだ。この口振りではブラムのためにバルツィエの家にいるみたいなもんじゃないか………。

 でもそうなると、

 

 

カオス「アンタにとって………、

 バルツィエは家族なんじゃないのか?

 何でそれを裏切る助長みたいなことを許してるんだ?」

 

 

ダイン「…うち………、

 あんまり家の雰囲気は好きじゃない………。

 お金とか美味しいものは沢山食べられるけど………、

 友達が全然出来なくて………それでいて威張り散らして………友達とかになれそうな人達もうちの家を怖がって………うちがバルツィエだって知ると離れていく………。

 ……ブラムくらいだよ………うちとお話してくれるのは………。

 だからブラムが最初に家に来て弟子入りしてきた時からうちはブラムが騎士として強くなりたいって言ってきたからずっと専属の弟子にしてるの………。

 ブラムは真面目だしどんなに厳しくしてもうちの側を離れることが無かったから………。

 

 

うちはブラムのためなら頑張ってどんなことでもしてあげたいから………。」

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺は今までバルツィエの家ってだけで悪いイメージしか聞いてこなかったけどこんな奴もいるんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この人は…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………案外バルツィエの中でもいい人なのかも………。



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欠落した感情

ウィンドブリズ山

 

 

 

ダイン「………それで………、

 友達になってくれるの………?」

 

 

カオス「……!」

 

 

 ダインがカオス達とに友達になることを要求してくる。しかしカオスとダインの微妙な立場で友達になどなれる訳がない。それに、

 

 

カオス「……急に友達になってくれって言われても俺とアンタは特に御互いのことをよく知らないし………、

 

 

 敵同士だよね………?」

 

 

ダイン「……そうだね………。」

 

 

カオス「それが分かってるのに友達になんてなれるの……?

 

 

 ……っていうか親戚が友達になれるもんなの……?」

 

 

 このダインは話伝いに聞けば祖父アルバートの従兄妹だった筈。それならカオスとの関係は従兄妹の孫で従甥孫となる。そんな関係の二人が友達に………。

 

 

ダイン「カオスとは………遠縁だけど接点は無かったから………友達みたいな関係にはなれると思う………。」

 

 

カオス「まぁ生まれてから初めて会ったのがレサリナスで戦ったのが一番最初だからほぼ他人みたいな関係だけど………。」

 

 

ダイン「カオスは……うちと友達になるの………嫌なの………?」

 

 

カオス「嫌かどうかと言われれば………。」

 

 

 カオスとしては敵からこんな提案をされるとは思ってもみなかった。カオス自身が元々友達が少ないため友達を希望されるのは嬉しいことなのだがそれが二つの陣営に別れている敵からとなると考えものである。第一まだ二つの陣営は決着が着いておらずこれからだって戦うこともあるのだ。いくら出会いを大切にしたいからと言っても敵である彼女と友好を持つのは仲間達からもバッシングを受けかねない。最悪はカオスがまた一人になってしまう。……と言っても最悪な状況なのは今も同じだ。仲間達の信頼を裏切って一ヶ月を無駄にしてしまい更に敵であるダインとこうして共にいるのだ。カオスはもうこれからどうすればいいのかさえ自分ではどうしようもない状況に陥っている。

 

 

カオス「……ちょっと友達みたいなだと難しいかな………。

 アンタ………ダインは………俺達の敵側にいるし………、

 ………ダインだってその内俺の仲間やこの国の人達と戦うことになるだろ?

 そんな人とは………仲良くなんてなれないよ………。」

 

 

ダイン「………そっか………残念………。」

 

 

 ダインは予想していたのかそこまで気落ちした様子はなかった。断っておいてなんだが少し悪い気になってくる。

 

 

カオス「……それに俺はバルツィエを最終的にには倒さないといけない立場にあるんだ。

 ダインの家族達とはこの先に戦うことにもなる………。

 ダインがバルツィエを離れられないんなら俺とダインは友達になんてなれないんだよ………。

 

 

 ごめん………。」

 

 

ダイン「……気にしないでいいよ………。

 うちもそう言われるって思ってたから………。」

 

 

カオス「……ダインは………、

 俺みたいにダインがバルツィエを抜けられたら多分俺や俺以外の人達とも上手く交流していけると思うんだけど………。」

 

 

ダイン「………」

 

 

 ダメ元でダインにそう進言してみる。話してみて分かったがこのダインは他のバルツィエのような人格的な凶悪性が見られない。人付き合いは苦手そうだが嫌いではなさそうだ。単に口下手で人に慣れてないだけでバルツィエという名前のせいで人が寄ってこなかった。

 

 

 ………どことなく人恋しそうなところが自分に近しいものを感じる。バルツィエにもこういう人がいるとは思いもしなかった。

 

 

ダイン「……うちがバルツィエじゃなかったら………か………。

 ……たまにそういう人生もあったとしたらって思うことあるよ………。

 ……でも………うちの自慢ってバルツィエってことの他に何もないから………。

 うちがバルツィエじゃなくなったら誰も相手にしてくれなくなるよ………。

 ブラムも………カオスも…………。」

 

 

カオス「……そんなことはないだろ………。

 普通に話が出来るなら誰とでも仲良くなれると思うけど………。」

 

 

ダイン「うち今まで名前を隠してギルドとかでこっそりと仕事とかしたりしたことあったけど大抵は一緒にパーティー組んでくれた人はうちの剣技を見てバルツィエだってバレてそれから疎遠になっていく人しかあったことない………。

 ………皆バルツィエのこと怖がるから……。」

 

 

カオス「俺もつい数ヵ月前に知ったことだけと俺達の家名って結構悪名らしいからね………。

 そういう人達も中にはいると思うけど………。

 少なくとも俺の回りにいる仲間達は俺のことをバルツィエの生まれだって知っても離れずにずっと一緒にいてくれるいい人達だよ。

 ……ダインもそういう人達に巡り会わなかっただけなんじゃないかな?」

 

 

 話してみるとダインは友達が欲しいが家名が邪魔して中々思うような結果に至れなかった人生を歩んできたようだ。

 

 

 友達を欲するバルツィエか………。こんなバルツィエがいるんなら何で他のバルツィエはこんなダインみたいに育つことが出来なかったんだろうな………。

 

 

 ……!確かバルツィエの大半の性格が歪んでいる理由って………、

 

 

カオス「……ダインは………ワクチン………、

 ………ツグルフルフって使ったことある………?」

 

 

ダイン「!

 ………そういえば知られてたね………。

 ………あるよ。

 けどあれあんまり使いたくない………。

 あれ使うと皆性格が変わっちゃうから………。」

 

 

カオス「あれって何でそんな風になるんだ?」

 

 

ダイン「あの花は元々死地に立つ人ようの花なんだけどそれをバルツィエの家で改良してどうにか副作用を限界まで抑えるようにしたの………。

 ………でも完全に副作用を抑えることは出来なくて沢山使いすぎるとその人の何かの感情が欠落しちゃうの……。」

 

 

カオス「何かの感情が欠落………?」

 

 

ダイン「うん………、

 うちは………まだ完全に欠落した訳じゃないけど………人付き合いが極端に出来なくなった………。

 人の視線が怖くなったり……自分に自信が持てなくなったり………、

 ………多分“勇気”が無くなっちゃったんだね………。」

 

 

カオス「勇気が欠落………か………。」

 

 

 ツグルフルフってそういう仕組みだったのか………。

 

 

ダイン「うちの場合は勇気が極端に無くなっちゃったけどラーゲッツのように“理性”やユーラスのように“協調性”ランドールのように“愉悦”が無くなって誰かに迷惑をかけるよりかはよかったかも………。

 使いすぎておかしくなっちゃったら………、

 

 

 ブラムに迷惑がかかるから………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 感情が欠落………。理性や協調性………。

 

 

 レイディーもそういった類いのものが欠落してしまってあぁいう性格になってしまったのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………レイディーが欠落してしまった感情は…………、

 

 

 どんな感情なのだろうか………?



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ウイングバッグ

ウィンドブリズ山

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………これからどうするんだ?」

 

 

ダイン「どうって………?」

 

 

カオス「いや……、

 俺とダインは………友達にはなれないってのが俺の結論なんだけど…………。

 これからダインはどうするのかなって………。」

 

 

ダイン「…そうだ……ね………。

 ……ランドールも………後三日くらいしたらこっちに戻ってくるし………それまで何してようかな………。」

 

 

カオス「後三日でランドールが……?」

 

 

ダイン「うん……。」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 ランドールが後三日でダレイオスにまた先見隊として戻ってくる………。ランドールはセレンシーアインでオサムロウに両手を切り落とされた筈だ。なのにもう復帰してくるのか?あれからまだ一ヶ月ちょっとしか経ってないだろ………。そんな短期間でよく戻ってこれるな。無理矢理こっちに派遣されるのか?そういう命令を受けてるとか………?だとしたらバルツィエは相当極悪だな。“両手が無くなった騎士”をまた敵地に送り込んでくるなんて。でも両手が無いにしてもアイツの魔力は強い。手なんか使わずに人を殺すことも出来るだろう。接近戦に持ち込むことが出来ればダレイオスの人達ならなんとかランドールになら勝てるだろうがレアバードに乗って上空から狙われたらそれでもランドールの方が優位だ。空からの奇襲は重力に縛られているこの星の人達にとってはやりづらい相手になるだろう。

 

 

 

 

カオス「……大丈夫なのかランドールは?

 敵の心配をする訳じゃないけど手首から先を斬り落とされたのにまたダレイオスになんか来て………。

 手がないと色々と不便だろ?

 そんなんでダレイオスの人達と戦えるのか?」

 

 

ダイン「ランドールは……大丈夫なんじゃないかな……… 。

 サムライに斬り落とされた“手も治ってるし”またこっちに戻ってきて仕事に戻るって言ってたから………。」

 

 

カオス「手が治ってる?」

 

 

ダイン「うん………。」

 

 

 

 

 それは言葉通りの意味なのか?斬り落とされた筈の手が治ったとは………?斬り落とされた瞬間にその場にいたから分かるがランドールは完全に手首から先とおさらばした筈だ。それが治った?手を斬り落とされにいったのは手錠をされて魔術が使えなかったからだ。斬り落とされた直後ランドールは自分にファーストエイドをかけて不完全ながら傷の止血はしていた。手首はその場に落としていって回収もしていないことは明確だ。胴体や首が切断されたら人は生きてはいけないが手や足なら斬り落とされても処置が早ければ腐敗する前にまた接合出来ることはレサリナスの図書館で医学関係の本を読んでいた時に調べたことがある。だからランドールの両手がまたもとに戻るなんてことは無いとは思うが………。

 

 

 そういえば聞いたことがあるな………。事故とかで手足が無くなった人が義手や義足なる代わりの物を失った部位に接合するって話を。細かい作業とかは出来なくはなるだろうがそれでも無いよりかは幾分かはマシということでそういった処置があるってことも本には載っていた。もしかするとランドールはそれをして戻ってくるのかもしれない。技術力が高いらしいバルツィエならそれくらい出来るのだろうな。ダインが乗っているようなレアバードなんかもあるくらいだし………。

 

 

 

 

カオス「ダインが昨日乗ってたレアバードだけどあれってバルツィエが作ったんだよな?」

 

 

ダイン「そうだよ……?」

 

 

カオス「あれって………前からあったの?

 騎士団にいたウインドラがあのレアバードのこと知らなかったみたいだし………。」

 

 

ダイン「レアバードは結構昔から作りはじめてはいたよ………?

 ただ使う機会はあんまり無いけどね………。

 マテオ内では使用することが許されないし………。」

 

 

カオス「マテオでは使っちゃいけなかったのか?」

 

 

ダイン「うん……、

 バルツィエって結構実力主義で秘密主義なところあるから………、

 あれに乗ってマテオで飛んだりすると他の貴族や議員達があの技術を普及させろって煩くなるみたいだからね……。

 乗るとしたらこういった他の国じゃないと……。」

 

 

カオス「けどあのレアバードかなり大きいし人目につきやすいと思うしどうやって運んでるんだ?」

 

 

ダイン「……これ………。」

 

 

 ダインは腰につけてるバッグを差し出す。何がこれなのか………?

 

 

 ………とダインがそのバッグを開けると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バッグの中からレアバードが出現した。

 

 

 

カオス「!?」

 

 

ダイン「使うときはこれで持ち運んで使うの……。

 これならレアバードみたいな極秘アイテムを一人ででも運べるから……。」

 

 

カオス「…何だそれ………?」

 

 

ダイン「ん……?

 

 

 “ウイングバッグ”………。

 ある程度の大きさの物なら縮小させてこれに入れることが出来るの……。」

 

 

カオス「そんなもの初めて見たよ……。

 凄いなそれ……。」

 

 

 亀車くらいの大きさのレアバードが人がからうようなバッグの中に納まるなんて……。これもバルツィエの技術力の由縁なのか………?

 

 

カオス「どういった原理でそれが入るんだ……?」

 

 

ダイン「うちもこれについてはよく知らないけど……。

 “収納術式”とかなんとかでこのレアバードを一時的にマナを通して分解してから中に入れてるみたい………。」

 

 

カオス「マナを通して分解………?

 一度バラバラにしてからまた出すときに組み立てられるの?」

 

 

ダイン「だいたいそんな感じ……。」

 

 

カオス「……にしてもよくそんな小さなバッグに納まりきるなぁ………。

 どんなに圧縮しても絶対にそのバッグに納まりきりそうにないと思うけど………。」

 

 

ダイン「収納術式については色々とうちも分からないことが多い………。

 けど容量を超えて器に物が入れられるのは便利……。

 だからウイングバッグは結構お気に入り………。」

 

 

カオス「ふ~ん

 凄い技術があったもんだなぁ………。」

 

 

ダイン「そう………あった………。」

 

 

カオス「………」

 

 

ダイン「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………で結局これからどうするんだよ………。帰らないのか?こうして俺を自由にさせてるところから捕らえるつもりは無いんだろうけど………。

 

 

 こいつはいつになったらどっか行くんだ………?



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共鳴

ウィンドブリズ山

 

 

 

カオス「……帰らないのか………?」

 

 

ダイン「帰る……?」

 

 

カオス「その………いつまでも俺と一緒にいてもなんにもないぞ……?

 俺はこの山で精神修行に来てたわけだし………一緒にいても何かあるって訳じゃ………。」

 

 

ダイン「……じゃあランドールが帰って来るまでもう少しカオスの修行を見とくよ……。」

 

 

カオス「え?

 俺の修行を見とくの?」

 

 

ダイン「暇だし時間ならまだ三日くらいあるから……。」

 

 

カオス「……まさかその三日後にランドールと合流してから俺を捕まえるつもりなんじゃ……?」

 

 

ダイン「んー………、

 出来ればカオスには自分からレサリナスには来てほしいけど……。」

 

 

カオス「何度も言うようだけど俺はダインのいるバルツィエとは敵だ。

 バルツィエに捕まるつもりはないぞ。」

 

 

ダイン「……ならいいや……。」

 

 

カオス「………いいってのは……?」

 

 

ダイン「この山でカオスにあったことは内緒にしておくよ………。」

 

 

カオス「いいのかそれで?」

 

 

ダイン「うん……、

 カオスは強すぎるから一人じゃ捕まえられなかったって言えばどうとでもなるよ……。」

 

 

カオス「それは有り難いけど……。」

 

 

 

 

 じゃあこいつらは何をしにダレイオスに来てるんだ?俺達の妨害をしに来てるんならここで俺を捕まえてしまえばダレイオスの人達がやろうとしてることをもっとも効率よく足止め出来ると思うんだが……。

 

 

 ……まぁ、このダインはどちらかというとただダレイオスに他の先見隊と一緒に来てるだけっぽいな。俺に友達になってほしいって言ってくるくらいだし任務にはあまり忠実じゃないんだろう。ランドールみたいにさっさと任務を片付けようとする奴と組んでるくらいだから二人がペアなのも頷ける。今のところこのダインを警戒するだけ杞憂なのだろう。

 

 

 

 

カオス「……でもどうしようかなぁ………。

 もうこの山にモンスターもヴェノムもいないようだし俺の修行ももうどうしたらいいか分からないし………このまま皆の所に帰る訳にはいかないし……。」

 

 

ダイン「?

 修行しないの……?」

 

 

カオス「……俺の修行はさ………。

 モンスターや人に向けて魔術を撃てるようにしないといけない修行だったんだよ………。

 それなのにモンスター達も俺が魔術を山に無駄撃ちし過ぎたせいでいなくなっちゃって……。

 かといって山を降りて他のモンスターを探したとしても俺がトラウマを克服出来るかどうか……。」

 

 

 

ダイン「……最初にカオスを見つけた時から気になってたけど……何でそんな修行をしてるの……?」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 言うべきか言うまいか……。俺が生物に対して魔術を撃つことが出来ないことは知られてしまったが敵であるダインに俺の事情を詳しく話してしまってもいいのだろうか?あまり詳しく説明しても他のバルツィエ達に伝わってしまう危険がある。そうなるとバルツィエ達は遠慮なく俺やアローネ達の妨害をしに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………さっきダインは俺に会ったことを内緒にしてくれるって言ってたしな。バルツィエと言ってもそこまで悪い奴じゃないなら俺の事情を話してしまってもいいか。どうせ妨害は関係なくしてきそうだしな。

 

 

 

 

カオス「……昔さ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……そう。

 アルバートが死んじゃったのって………そういう感じだったんだ………。」

 

 

カオス「…うん………。」

 

 

 俺はダインにここで修行する経緯を話した。子供の時の事件が切っ掛けで俺は魔術を使うことが出来なくなったことを話した。俺の魔術は確実に一撃必殺。剣技で戦うように手加減が出来ない。流石にアローネ達にこれから魔術を撃たなければならないことだけは伏せたが俺の魔術が広範囲に渡って被害を及ぼすためもし巻き込みでもしたら一大事だ。それが頭から離れずに昔の記憶が何度も甦って意識を乗っ取られてしまい体が固まってしまう。戦闘中にでもそうなってしまえば俺は完全に足手まといだ。だから俺はアローネ達の足手まといにならないように魔術を使えるようにしなければならない。実戦では俺が魔術を撃つ際にはアロハ達に離れてもらえばすむのだがそれでも俺はそれを信用できないし敵にさえ撃つのを躊躇う。……なんとも情けない話を敵に話していると自覚してしまうな………。

 

 

 

 

ダイン「……確かにうちらバルツィエの魔力はそこら辺の人達よりも威力も精度もあるからね……。」

 

 

カオス「だろ?

 だから俺はそれがどこかで仲間達を巻き込むんじゃないかって思って魔術が「だったら……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「魔術を的に当てない練習をするといいよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………魔術を的に当てない練習………だって………?どういうことだそれは………?

 

 

 

 

カオス「……それって何の意味があるんだ………?

 俺は魔術をモンスターに当てないといけないんだけど………。」

 

 

 いくら考えてもダインが行ったことの意図を掴めない。俺は魔術を対象に当てることが出来ないから当てる修行をしていたのにその真逆のことを言ってないか………?

 

 

 ………とカオスがダインが言ったことの真意を問いかけるとダインはカオスから少し離れて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………『氷雪よ………我が手となりて敵を凍てつくせ………』」

 

 

 氷の魔術アイシクルの詠唱を唱え始める。

 

 

 それも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの方向を向きながら………、

 

 

 

カオス「ちょっ…!?ダイン……!!?

 何するんだ……!?敵対はしないんじゃ!!?」

 

 

 慌ててダインを止めに入ろうとするが間に合わない。もうあと数秒でダインから魔術が放たれカオスに直撃コース………、

 

 

 ………とよくよく考えてみれば魔術自体効かない体質なのを忘れていた。驚くだけ損をした気分になる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「『アイシクル』………。」

 

 

 

 

 

 

 ダインからアイシクルが放たれカオスに向かって大きな氷の塊が飛んでくる。先程ダインは魔術を当てない練習をすればいいと言っていたがこの軌道は確実にカオスに直撃する。一体先程の魔術を当てない練習とは何だったのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………とカオスは接近してくる氷の塊が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスを“すり抜けて”後方に飛んでいくまで考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………!?」

 

 

ダイン「…これが……………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスに必要な技術…………。

 対象に対してのみ術技を当ててその他の物には干渉をしない技法………、

 

 

 “共鳴(リンク)”………。」



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ダインの師事

ウィンドブリズ山

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………いっ…………、」

 

 

ダイン「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「今のどうやったの……!!!??」

 

 

 カオスは興奮してダインに詰め寄った。急に魔術を使い始めたのには驚いたが自分に魔術が効かないことを思いだし驚くだけ意味の無いことだと術が発動するまでは考えていた。

 

 

 

 

 なのにやはり驚かされた。ダインの魔術がカオスに“命中することなく通りすぎて”いったのだ。この時カオスはダインが瞬間的に魔術をカオスを避けるように操作したのかと思った。一瞬魔術がカオスを透過して通過したようには見えたがいくらなんでも物質的に氷が物質である自分の肉体を通過出来るわけが………、

 

 

 

 

 

 

 ………と、カオスがダインに今の技を詳しく質問しようとしたらダインからは返答はまた魔術で返ってくるようだった。

 

 

ダイン「『氷雪よ………我が手となりて敵を凍てつくせ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追撃の二十連撃………』」

 

 

 

 

 今度はアイシクルではなさそうだ。これは追撃か………?

 

 

 ………いやこれはレサリナスでのラーゲッツやセレンシーアインでランドールが見せた術の氷バージョン………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「『インブレイスエンド』

 

 

 

 ダインが先程見せたアイシクルの氷の塊を越える大きさの氷の………これはもう巨大な小山が出来るほどの質量の氷を空中へと造りそして………、

 

 

 それがカオスへと墜ちてくる。これは流石にどう上手く操ったとしてもカオスに確実に墜落して当たる。魔術が効かないカオスは魔術によって発動した術はカオスに接触した瞬間その部分が消滅するのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その小山ほどある氷はカオスに一切触れることなくカオスへと落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!?

 何だこれは………!?」

 

 

 

 

 

 

 ありのままの景色を伝えると氷はカオスに確かに降ってきてそのまま氷の地面へと着地した。

 

 

 しかしその氷は何故かカオスにだけ触れることがなかった。カオスはその氷の中にはいるのだが氷に触れられない。氷は確かにそこに存在する。だというのに氷がカオスを避ける………のではなく透き通っている。

 

 

 まるで氷が物質ではなく光によって映し出された像のようにカオスを中心に捕らえながらも接触しないのだ。

 

 

ダイン「……こんな感じ………。」

 

 

カオス「……これはどうなってるんだ……?」

 

 

 信じられない光景を目にしてカオスは今起こっている事象の探求欲に苅られた。これほど巨大な氷の塊が何故自分に降ってきながらその回りの地面には影響を及ぼして自分にはその影響が起きなかったのか。

 

 

ダイン「うちがカオスに当てないようにしたから………。」

 

 

カオス「当てないようにしたって………何でこんなことが出来るんだ………。」

 

 

ダイン「カオスに昨日触った時からカオスのマナはなんとなく掴んだ……。

 後はその“固有マナ”にうちのマナを干渉させないようにコントロールしただけ………。」

 

 

カオス「固有マナ………?」

 

 

ダイン「人は皆それぞれ固有のマナがあるの……。

 指紋のようにその人その人には必ずあるマナ……。

 それをうちが昨日の内にカオスから読み取ったから今撃ったアイシクルとインブレイスエンドをカオスにだけぶつけないように撃ったの……。

 

 

 俗に言う共鳴(リンク)って言う技法……。

 うちらのようにマナが多くない人達にとってはマジックアイテムを装備してても習得するのは難しい技法だけど……。」

 

 

 共鳴………?固有マナ………?知らない単語ばかりだ。要するに魔術を当てたくない物に当てないようにする術なのか………?

 

 

 

 

 

 

ダイン「…魔術の起源はマナと干渉させて“自然エネルギーを具現化”すること………。

 マナは感じることは出来るけど触れることは出来ない非物質的な物………。

 マナを体のどこかに集めたり誰かに送ったりは出来るけどそれはどうやっても絶対に触ることは出来ない感覚的なもの………。

 マナ密度を調節すれば自然エネルギーと干渉させて発生させた基本六元素は物質と非物質の境界………目には見えても触ることは出来ない“像”として顕現させることが出来る……。」

 

 

カオス「物質と非物質の境界………。

 でもこれは………俺だけに非物質になってるけど……?」

 

 

ダイン「これが共鳴だよ……。

 マナを消費して六元素を具現化させる時、水や風は元々自分は怪我しない物質だけど火や雷だって自分で出した物なら火傷したりしないでしょ……?」

 

 

カオス「…確かにウインドラの雷や他の人達が出すファイヤーボールって放つ前はその人の手とかに収まってることがあるけど火傷とかはしたりしないな……。」

 

 

ダイン「自分のマナで具現化した元素は自分のマナが流れてるからある意味じゃその元素も体の一部としてカウントされる……。

 自分の体なのに自分で怪我するなんて不完全な生命はいないでしょ……?

 

 

 ……そして共鳴はその自分のマナを誰かと強く結びつけることでその誰かにだけ術を使うことが出来たり逆にその人にだけは魔術の影響を受けないようにしたり出来る……。

 この技法を用いればカオスはモンスターにだけ魔術を使うことも出来るから仲間の子達が被爆することを気にしないで魔術を使えると思うよ……?」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 ………凄いな………そんな技術があったなんて………。その技法が身に付けば確かに俺は魔術を使うことが出来るだろうが………、

 

 

カオス「…けど俺の魔術は普通の人達みたいな小規模なものじゃなくて街一つ吹き飛ばせるくらい強力だから……、

 仲間だけじゃなくダレイオスの人達だって被爆しちゃうんだけど……。」

 

 

ダイン「だったら話は簡単………。

 

 

 この共鳴を魔術を使いたいモンスターにだけ使うの……。」

 

 

カオス「モンスターと共鳴を……?」

 

 

ダイン「そう……、

 モンスターも固有のマナを持っている筈だからそのマナを一度直接触って感触を確かめないといけないけど一度感じ取れたら後はそのモンスターのマナにのみマナをぶつけることに集中出来たら……、

 

 

 カオスの魔術はそのモンスターだけにしか当たらない。」

 

 

カオス「!」

 

 

ダイン「この共鳴はマナとマナを結び付ける技術……。

 魔術の真髄は具現化出来るか出来ないか……。

 倒したいモンスターにのみ魔術を具現化させればカオスは何も悩むことなく魔術を行使出来る……。

 

 

 ……後三日………、

 うちも暇だしカオスが望むのなら……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うちがカオスにこの共鳴を伝授してもいいよ……?

 うちはブラムみたいに頑張ってる人を応援するのは好きだから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………こうしてカオスは思わぬところで戦術指南を受けることになった。彼女の言う共鳴は今のカオスにとっては確実に必要な技術。それを敵であるダインから教わることになった。これが体得出来ればカオスはこれまでにない力を得ることになる。

 

 

 何故敵であるダインが彼女にとっては得にもならないことを申し出てくるのかは恐らく気分によるところなのだろうがこれはまたとないチャンスであった。カオスはこのチャンスに飛び付くことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レサリナスでもそうであったがカオスが何か技術を身に付ける際には必ずバルツィエが関係している。

 

 

 この出逢いはカオスにとっては必然であったのだろうか………。



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揺らぐ敵対心

ウィンドブリズ山 ダインとの修練初日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……じゃあ一旦うちは離れておくからカオスは魔術を発動させてそれを放たずに維持してみて………。」

 

 

 そういってダインはレアバードに乗ってカオスの後方上空まで飛んでいく。下手してカオスの魔術がダインに被弾しないためだ。

 

 

 

 

 

 これからカオスはカオスが抱えている問題の克服のため敵であるダインに教えをこう。どうしてこうなったのかはさておきダインから教わった技法共鳴はどうしてもカオスは体得しなければならない。たった一人で修行していたせいで自分の方向性の過ちに気付くことが出来ず一ヶ月を無駄にしてしまったため何か一つでも仲間達の元へと成果を報告しなければならないからだ。そのためなら敵に頭を下げてでもカオスは技術を欲した。実際に頭を下げた訳ではないのだがカオスはそれくらいのことを求められたら進んで頭を下げるだろう。それだけカオスはこのダインとの修練に意気込みがあった。

 

 

 

 

 

 

カオス「………『氷雪よ………我が手となりて敵を凍てつくせ………。』」

 

 

 カオスが詠唱を唱えそこから魔術発動への構えをとる。今回はここから魔術を発動するのではなく溜めに溜めて魔術を自らの掌に集めて維持する訓練だ。

 

 

 

 

 

 

ダイン「……今手に氷の自然エネルギーが集まっているのは感じる………?」

 

 

 

 

カオス「感じるよ………。」

 

 

 

 

ダイン「そう………。

 今カオスはそれを解き放てば氷の自然エネルギーが具現化して物質として放出される………。

 

 

 だからそれをギリギリまでマナを抑えて物質化しないようにそこにある氷の箱の向こう側に通してみて。」

 

 

 

 

カオス「分かった。」

 

 

 カオスの目の前には予めダインが魔術で作っておいた正方形の氷のブロックが用意されている。このブロックにはダインのマナが残存しているためこれを透過して魔術を放つことが出来ればすなわちダインに対して魔術を放ったとしても同じように透過出来るという訳だ。共鳴の感覚を掴むにはバルツィエはこうした他人のマナに慣れる訓練から始めるらしい。こういった訓練方法があるのを見てバルツィエはマナを制御することに関しては本当にどこよりも抜きん出ていると感じる。カオスが育った村ミストでは魔術は発動できてこそ魔術の真価であってその先のことがあるだなどとは誰も知らなかっただろう。

 

 

 

 

 魔術は具現化と具像化を操れてこそがバルツィエの真価。それを操れてこそバルツィエとして一人前として認められるらしい。戦いにおいてバルツィエはそれぞれが広範囲に及ぶ魔術を扱う。そこにはバルツィエが互いの魔術で被弾してしまう恐れがある。だからこの技法が生まれた。魔術の発動者が誤って味方を自らの魔術の餌食にしてしまわないために。

 

 

 

 

 

カオス「………っと…。」

 

 

 ダインの言う通りに掌に集中させたマナを氷の自然エネルギーに干渉させて物質化させる一歩手前で留めて氷のブロックに触れる。ここからこのオブジェにマナを干渉させずに保ち続ければこの訓練は成功だ。少しでも加減を間違うと、

 

 

 

 

 

ダイン「……!

 カオス、

 マナが強すぎる。

 それじゃ………。」

 

 

カオス「え……!?」

 

 

 これでもかなりマナを押さえているのだがダインがまだマナが多すぎると指摘してくる。その指摘通り氷のブロックは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………あっ………。」

 

 

ダイン「………やり直し………。」

 

 

 

 

 透過しようとしていたブロックはカオスの氷の自然エネルギーを受けて十倍以上にまでその質量と体積を膨らませて歪な針山のようになった。今回は失敗したようだ。

 

 

 

 

カオス「………やっちゃったかぁ………。」

 

 

ダイン「ドンマイ………。

 氷ならまだまだ作れるからまだまだやろうよ………。」

 

 

カオス「…そうだね………。」

 

 

 この修練………見た目以上に難しい………。今まで魔術を使うときは当たり前のように発動出来るかを気にしていたが今度のこの修練は発動させてはいけないのだ。魔術の詠唱は唱えると実在するかしないか分からない精霊に自分のマナを差し出しその力を借り受けるという作法だと言われている。ぶっちゃけ詠唱は唱えなくても魔術は発動出来るのだがそれだと精霊がその人物に対していきなり何の合図も無く力を貸すことになるため十分な準備も出来ずに魔術の質が落ちるのだと言われている。この訓練ではそうした作法をしっかりとやればマナをコントロールするのがしやすくなるため詠唱込みで行っているのだがそうなると必然的にマナが多くなる。その多くなったマナを魔術が顕現出来る寸前に抑えなくてはならない。これではまるで草村を草を踏まずに進むかのような厳しさを感じる。人よりも大分膨大なマナを保有するカオスにとってはなによりも困難な修練に思えてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それでもこの修練はカオスのことをよく考えて作られた修練法だとも思った。生物に対して魔術を行使できないカオスには最初に生物に見立てた氷を魔術で透過させるという内容はフラッシュバックも起きず普通に魔術を使うことが出来る。この修練で失敗しても弾け飛ぶのは氷だ。人ではない。

 

 

 ダインはそこのところをちゃんと理解している。理解した上でこの修練法を提示してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……次もう一度………。」

 

 

カオス「了解。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはだんだんこのダインに対しての印象が敵ではなく味方であってほしかったと思うようになってきた。

 

 

 このダインとは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今後戦いたくはないなとそう思うようになってきたのだった………。



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手応え

ウィンドブリズ山 ダインとの修練初日 夜

 

 

 

ダイン「今日はここまでにしよう………。」

 

 

カオス「え?

 でもまだまだ俺は大丈夫だけど……。」

 

 

ダイン「カオスは筋がいいし努力家だから思っていたよりも成長が早い………。

 氷を透過することももう殆どマスターしてきた……。

 ここから先はまた明日にする……。」

 

 

カオス「………」

 

 

ダイン「焦って成長しようとしても駄目だよ………?

 焦って成功したのは単なるまぐれ……。

 今は調子が出てきてるから成功が続いているだけ……。

 集中してるから成功出来てるだけなのかも……。

 一旦休んでからリセットして明日いきなり十連続成功出来たら次の段階にステップアップしようよ……。」

 

 

カオス「……分かったよ………。」

 

 

ダイン「それじゃあ今日はもうご飯食べて寝るよ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダインとの修練初日はこの一ヶ月やって来たことが何だったのかと思えるくらい充実し成長を感じるものだった。今まで落ち着いて一人で魔術を撃つような機会が無かったのと一人でどういった魔術の訓練法があるのか知らなかったせいで自分が成長すべき方向性を見定めること無く進んでいたせいで真に進むべき道が見えてきたような気がしてきた。ダインの教えを忠実にこなしていけば俺は確実に次へ次へと進んでいける。このダインについていけば俺は………、

 

 

 本当に自分が行使してみたかった誰かを守る魔術を使うことが出来る。この共鳴の訓練が終了したら俺は皆を守るだけの魔術を身に付けることが出来る。もう誰も傷付けずに魔術を発動出来る。

 

 

 ……心残りなのはこれを教わっているのが敵であるダインからなのだが、

 

 

 彼女と過ごした一日を振り替えってダインは他のバルツィエとは違うおじいちゃんのような人の暖かさを感じた。ダインは他のバルツィエが持っているような凶暴性がまったくと言っていいほど感じられない。ダインが剣を向ける相手はモンスターのような明確な敵と認識した相手か自分の大切な人を傷付けられた時。 

 

 

 ダインは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんのような良いバルツィエなのかもしれない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィンドブリズ山 ダインとの修練二日目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……成功だね………。」

 

 

カオス「よし!!」

 

 

 早速朝から昨日ダインが言っていた条件をクリアし歓喜に震える。昨日の成長は確実にカオスの中に残っている。昨日の時間は無駄ではなかった。そう思える。カオスは飛び上がりたい衝動に苅られて浮き足立つが、

 

 

 

ダイン「じゃあまたマナを維持するところからやってみて………。」

 

 

カオス「……?

 分かったよ………。」

 

 

 ダインは得にカオスを誉めることもなくまたこれまでと同じく魔術のマナの維持からやらせるように言う。これの次のステップアップはまださせてもらえないのだろうか?

 

 

 ………とカオスは思っていたのだが今回カオスはダインが昨日までのようにレアバードで上空へと飛び上がらずに地上に滞在したままのことに気付かなかった。ダインは変わらずカオスの後方にはいるのだがマナを維持するだけの修練なので得に気にすることなくこれまで通りにマナを手に集中し始める。

 

 

カオス「『氷雪よ、我が手となりて敵を凍てつくせ………』

 

 

 ……ダイン、さっきまでと同じようにやればいいの………、」

 

 

 そうダインに問いかけるのだが返事はなく代わりに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………えっ!?」

 

 

ダイン「………問題無さそうだね。

 うちの体に何の影響もなく透過出来てる………。

 カオスは着実に一歩二歩って進歩していってる……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダインが飛葉翻歩でカオスの前方へと回り込みカオスが掌に集めているマナに直接触れてきた。昨日からダインのマナに干渉しないようにする修練を行っているためダインを透過することは出来たが一歩間違えばダインの氷のオブジェが完成してしまうところだった。

 

 

 

 

 

カオス「あっ……危ないじゃないか!!?

 もし俺が加減を間違えたらダインが……「間違えなかったじゃない……」!」

 

 

 

 

ダイン「カオスは上手にマナと魔術を扱えてる……。

 その証拠にこうしてうちが触り続けてるのにマナが掌に集中したままだよ……?」

 

 

カオス「………」

 

 

 言われてみればそうだ。カオスは今詠唱も完成しマナが十分に溜まったためいつでも魔術を放つことが出来る状態だ。ここからは先程のブロックにこの状態のまま透過して非物質状態を保てればよかったのだが………、

 

 

ダイン「ねぇ……、

 そのまま魔術を解き放ってみてよ……。

 多分うちにはカオスのアイシクルは届かないから……。」

 

 

カオス「…でも………。」

 

 

ダイン「大丈夫だよ………。

 カオスは魔術の具像化と具現化をちゃんとコントロール出来てる……。

 うちのマナを感じながらうちに被らないことを意識して解き放てばカオスの氷は絶対に当たることはない……。」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 正直自身がダインの言う共鳴を習得できたのかは自信がない。もし習得出来ていなかったとしたらダインはカオスの物理的に滅することが困難なヴェノムすら討ち滅ぼす力の前に朽ち果てる。この力は過去発動させてそれに被弾した生物は皆滅してきた。そんな力をここで解き放ってしまってもいいのだろうか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………下らない自己検証は捨てよう。どうせ自分が何を考えて躊躇ったとしてもそれは逃げる口実を探しているだけにしかならない。ダインは昨日から………いや、三週間前からカオスの特訓に付き合ってくれているのだ。ここで躊躇ってはいけない。ここまで時間をかけて付き合ってくれたダインや待ってくれている仲間達のためにもカオスはやらなければならない。やり遂げなければカオスはまた時間を消費するだけの地点から巻き戻ってしまう。そんなことでは皆から失望されるだけだ。

 

 

 それだけは……嫌だ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『アイシクル!!!!』」

 

 

 

 

 

 

 カオスはダインに促されるまま魔術を解き放つ。そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………ほら………、

 ちゃんと出来た………。

 カオスは今日で共鳴を覚えることが出来たよ………。」

 

 

 

 

 

 

カオス「………!

 俺………出来たの………?」

 

 

ダイン「うん………。

 カオスの氷………うちには触ることが出来ない………。

 けどちゃんと具現化は出来てるよ………。

 地面の氷にも張り付いてるし………。」

 

 

カオス「………やったのか………?」

 

 

ダイン「そうだよ……。

 カオスは人に対して魔術を当てずに魔術を発動させた……。

 本当は三日じゃ足りないと思ってたけどカオスは一日で成功できた………。

 

 

 よく頑張ったね………カオス………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………こうしてカオスはダインとの修練開始から僅か二日目で目標をクリアした。これで一ヶ月の成果は十分な域にまで来た………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………かのように思えたが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「じゃあ次は………モンスターにだけ魔術を発動させる特訓だね………。

 人に対してフラッシュバックは起こらなくなったみたいだけど………、

 モンスター相手にはまだしっかり撃つ練習はしてないから………。」



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忍び寄る翼

ウィンドブリズ山 ダインとの修練二日目

 

 

 

カオス「…遂に来たか………。」

 

 

 共鳴が習得出来たとダインは言うがまだカオスはモンスターに対して魔術を使用していない。人に対してフラッシュバックが起きることなく魔術は発動出来るようにはなったがそれは魔術で対象を攻撃していないからである。カオスの記憶に潜む影は目の前で大切な者達を自らの手で消滅させた記憶。例え人でなくても自らの魔術がモンスターの肉を焼いたり吹き飛ばしたりする瞬間を目にすればカオスの時間は止まってしまう。

 

 

 乗り越えなければならない壁はまだ最後の一つが残っているのだ。

 

 

 

カオス「でもここにはもうモンスターはいないけどどうするんだ?」

 

 

ダイン「勿論探しに行く……。」

 

 

カオス「探しに行くって………、ダインが俺に付き合えるのは明日までなんじゃ………。

 今から探しに行くとしたらこの山から移動しないけといけないだろ?

 どうするって言うんだ?」

 

 

 ダインは最初に三日後にランドールと合流するまでカオスの特訓に付き合うと言っていた。昨日と今日とでダインは十分に特訓には付き合ってはもらっているのだがどうやら最後まで面倒は見るようだ。そうなると移動の手間だけで明日まで時間がかかってしまいダインといられる時間が尽きてしまいそうだが………、

 

 

 

パンパンッ………

 

 

ダイン「………」

 

 

カオス「?」

 

 

パンパンッ………

 

 

 

ダイン「………」

 

 

カオス「………………あっ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レアバードで移動するのか………。」

 

 

 

 

ダイン「正解………。」

 

 

 急にダインが持っていたウイングバッグを叩き出したので何かと思いきやレアバードで移動するということを伝えたかったようだ。短い付き合いなので分かりづらいのも仕方ないが少し面倒な性格をしているとカオスは思った。

 

 

カオス「でもいいのか………?

 俺をそれに乗せても。」

 

 

ダイン「別に問題はないと思う………。

 ここにはうちとカオスしかいないし……。」

 

 

カオス「そりゃそうなんだけど……。」

 

 

 二日間でダインがカオスを騙すような人物ではないことは分かっているがそれでも敵の乗り物に乗るのは気が引けてくる。このまま空中に拉致されたらそのままレサリナスに連行されるのではないのかと疑いがあるが……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまで付き合ってくれたダインを信用してカオスはレアバードにダインと共に同乗するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブロウン族の集落トロークン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………カオスが魔術の個人訓練に出向いてから今日で四十四日か………。

 

 

 カオスがウィンドブリズ山に行ってから毎日欠かさずカイメラに挑んではいたが四十四戦四十四敗………、

 ……この調子では五十連敗に届いてしまうな………。」

 

 

タレス「何度挑んでも変身と再生のマエニ手も足も出ませんね……。

 ……やっぱりカオスさんのあの超破壊的な魔術に頼るしか勝つ見込みはありませんが………。」

 

 

ミシガン「…いつになったら戻ってくるの………カオス………。」

 

 

オサムロウ「こう………敗戦が続くとあのカイメラに打ち勝つビジョンが見えなくなるな………。

 我がここまで敗戦に喫するとは………。」

 

 

アローネ「カオスがやると仰って特訓に挑んでいるのです。

 私達は彼が壁を乗り越えて戻ってこられるのを待つ他ありません。

 

 

 それまでは何度でも敗北を重ねましょう………。

 私達には他に手は無いのですから………。」

 

 

 カオスが不在の仲間達はカオスが戻ってくるまでカイメラに四十に及ぶ挑戦を試みた。そのどれもが同じ結果で同じ結論に至る。

 

 

 カイメラにはカオス無しには勝つことは不可能だと。ここまでよく敗戦を続けながらも彼等は精神を保つことが出来たものである。それだけカオスに賭けてみる価値を分かっているからなのだが、

 

 

 

オサムロウ「……しかしそろそろ別の道を探してみる時間であるのも確かだ。

 “今日”が終わればいよいよ………。」

 

 

アローネ「えぇ………、

 分かっております………。

 今日が終わり明日が来れば殺生石が下した残りの期限がとうとう………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “残り百日”を切ると言うことは………。」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「……カオスはウィンドブリズで一人で修行に入っているが期日がもう百日を切ることは理解しているだろうか………?

 残り百日以内にあのカイメラを含めたヴェノムの主を後五体倒さねばならぬのだぞ………?」

 

 

タレス「単純に計算すると一匹のヴェノムの主に掛けていい期間は二十五日………。

 あのカイメラに使った時間はおよそ四十長………。

 ……何だか間に合う気がしませんね………。」

 

 

ミシガン「けど私達はカオスを待ってないと………。」 

 

 

アローネ「大丈夫です。

 カオスが無事に戻って来さえしてもらえればあのカイメラは一日で討伐できるでしょう………。

 あのカイメラがヴェノムの主の中でもっとも手強い相手なのです。

 カイメラを倒すことが出来ればカオスにとって他の主は物の数ではありません………。」

 

 

オサムロウ「倒せるか倒せないかの問題ではない………。

 我等が気にしなくてはならないのは期間の問題だ。

 

 

 

 

 

 

 ……ここらでソナタ等には三組に分散して残りのヴェノムの主に挑みに行ってもらった方が得策だな………。」

 

 

 

 

タレス・ミシガン・ウインドラ「!?」

 

 

 

 

アローネ「……それはカオスが間に合わないと仰るのですね………。」

 

 

オサムロウ「現状に目を向けるのだ。

 カイメラは主の中でも異例な存在ではあるがそれでも主であることに変わりはない………。

 その主を倒すことが出来ずにこの地方で一ヶ月以上も滞在してしまったのだ。

 我等は世界の命運を握っているのだぞ?

 ここで動き出さねば世界は終わる。」

 

 

 オサムロウが言うことも理解は出来る。アローネ達もそのことは理解はしているつもりだ。だがそれでもカオスを置いて仲間達がバラバラになるのは避けたかった。どうしてもここまでやって来た仲間達と共に旅をしたかった。だがそれにはカオス達が抱えている問題を鑑みてみれば余裕が無さすぎた。カオス達はヴェノムウイルスを振り撒く五体のヴェノムの主を明日から百日以内に倒しきらねばならない。レイディーが言っていたように集団で行動するとどうしても人数が多い分移動の時間に遅れが生じてしまう。目的地に到着してしまえば人数の多さで主を数で攻めることは出来るだろうがそれをするにしてももう時間はあまり残されていない。投げられた賽の期限はもうすくそこまで差し迫っている。この辺りで保険に動くべきことも理解は出来るのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………………」

 

 

ミシガン「……タレス……?

 どうしたの?」

 

 

 アローネとオサムロウがカオスと別行動するか否かを話し合っている時にタレスが他所を向いて凝視していることに気付いたミシガンがタレスに話しかける。

 

 

タレス「………あれは………何でしょう………?

 何か…………大きな鳥のような生物が………。」

 

 

ミシガン「鳥………?」

 

 

 タレスが向いている方向の遠い上空に何やら大きな鳥のような生物が飛んでいるのが分かる。それはこちらからも分かる程に徐々に近付いて来ているようだった。

 

 

 

 

 

 

 その鳥のような生物は方学的にウィンドブリズ山の方へと向かっているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………!!?

 あれは…………………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリフォン!!!?」

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに飛翔していた生物はオサムロウが見てグリフォンだと判別した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリフォン………カオス達が倒すべきヴェノムの主の五体の内の一体である。それが今………、

 

 

 

 アローネ達の目の前で羽ばたきながらカオスのいるウィンドブリズへと進んでいた………。



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グリフォン到来

ブロウン族の集落トロークン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「グリフォン………!?

グリフォンって確か…!!?」

 

 

タレス「ヴェノムの主ですよ!!

 ボク達が倒さないといけない内の一体です!!」

 

 

ウインドラ「この地にもう一体のヴェノムの主が現れただと………!

 こっちはカイメラ一体ですら手一杯だと言うのに…!!」

 

 

 グリフォンの出現により一同は困惑する。何故このタイミングでグリフォンが現れるのか。彼等はたった一体のヴェノムの主にすらこの一ヶ月で肉体的にも精神的にも痛いほど敗北を味わってきた。そこにもう一体主が現れたとなると今までカイメラとはメンバーの誰かが重傷を負う度に撤退は可能であったのが今度からはそうはいかなくなる。カイメラはジャバウォック形態になれば簡単に逃げおおせたがあのグリフォンはここからでも分かる通り高速で空を翔ていくスピード型のギガントモンスターだ。それとカイメラが同時に相手となると………、

 それにカイメラは他のモンスターを吸収してその形態へと変身する能力を持つ。仮にカイメラとグリフォンが敵対関係になったとして勝つのはカイメラだろう。そうなるとカイメラの変身形態にグリフォンが追加され更にカイメラが強化されてしまう。カイメラがどれ程のモンスターを吸収してここまで成長したかは不明だがこれ以上カイメラを強くしてしまうのは危険だ。ビッグフロスターを吸収した時のように最悪今以上の変貌を遂げてしまうかもしれない。そうなってしまったらいよいよカオスの力無しには厳しい存在へとジョブチェンジすることだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリフォンが来訪してきたことにより最悪のケースを想像してみたがグリフォンはアローネ達の近くまで飛んできてそのまま通過していった。

 

 

ウインドラ「………襲ってこない?

 こんな人がいそうな集落を視界に入れておきながら………?」

 

 

タレス「話では移動範囲が主の中で一番広いモンスターらしいですからね……。

 もしかしたらこの地に飛んできたのは獲物を探すためだけの巡回でこういった集落へはもう獲物がいないことは分かっているのでしょう。」

 

 

ミシガン「そのままどっか別の場所に行ってくれると助かるんだけど………。」

 

 

タレス「………どうやらその通りになりそうですよ。

 ボク達になんか目もくれずに北の山の方へ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!?

 あの方角は…………カオスがいるウィンドブリズ山!!」

 

 

タレス・ミシガン・ウインドラ「!!?」

 

 

アローネ「間違いありません!!

 あのグリフォンはカオスのいるウィンドブリズ山を目指して飛翔しています!!

 何故グリフォンがカオスの方へ………!?」

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「カオスの修行が関係しているのだろうな。」

 

 

ミシガン「カオスの修行が……!?」

 

 

オサムロウ「ヴェノムはより強いマナを持つものを求めてさ迷う。

 そのマナに引かれて奴はここへと飛んできてあのままカオスの所へと向かうのだろう………。

 

 

 カオスがウィンドブリズで魔術を多用していたせいでそのマナに引かれてグリフォンがやって来たのだ。」

 

 

ミシガン「じゃああのグリフォンはカオスを食べに来たってこと!!?

 

 

 どうするのカオスは!!?

 だって今カオスは魔術をモンスターに当てられないし剣だってここに置いて行ったんだよ!?

 普通の小さなモンスターならカオスが殺られることはないって思って送り出したけど武器も魔術も使えない状態であんなギガントモンスター相手にカオスはどうやって戦えばいいの!!?」

 

 

 カオスには飛葉翻歩があるためモンスターと戦闘に入ってもどうにかして逃げきることは出来ると五人は考えていた。しかしあの空飛ぶギガントモンスターから逃げ切れるほどあの飛葉翻歩は万能ではない。近くで飛葉翻歩を見れば反応が遅れ一瞬消えたかのように錯覚はする。だが遠目に飛葉翻歩を見てみれば早い動きをしているだけで見失う程の素早さはない。グリフォンのように飛翔する鳥系のモンスターは例外なく視力が高い。一度目標に狙いを定めたら見失うなどという失態は犯さないだろう。

 

 

 もしあのグリフォンがカオスを見付けたらカオスを取り逃がすことはしない筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ッ!」

 

 

 アローネがカオスの剣を持って走り出す。

 

 

タレス「!!

 アローネさん!?」

 

 

ミシガン「どこいくのアローネさん!」

 

 

 

 

アローネ「決まっています!!

 カオスのところへです!」

 

 

 

 

ミシガン「でもカイメラはどうするの!?

 ここで見張っておかないとカイメラがどっか別のところに行っちゃうかもしれないんじゃないの!?」

 

 

 

 

アローネ「そんなことを気にしている場合ではありません!!

 早く……!!

 あのグリフォンよりも早くカオスの元へと向かってカオスに剣をお届けしないと……!!」

 

 

 

 

オサムロウ「……信じて待つのではなかったのか?

 カオスが封じられているのは剣だけであって魔術を封じられているのではないのだぞ?

 仮にカオスが修行をこなしていたとしたらソナタがカオスの元へと辿り着く前にグリフォンを討伐してくれるやもしれん。」

 

 

 

アローネ「……!」

 

 

 

オサムロウ「我等はここでカオスを待つべきではないか?」

 

 

 

 

アローネ「……確かに私はカオスを信じて待つとは言いました………。

 

 

 ですがそれはカイメラに魔術を行使することへの修行のみです!!

 必要以上に期待を背負わせることは仲間のすることではありません!!

 それはカオスを道具扱いしているのと同義です!!

 仲間なら助けが必要なときに助けに入るのが仲間です!!

 

 

 私は…!!カオスを助けに行きます!!」

 

 

 そういってアローネはカオスの剣を持ってウィンドブリズ山の方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………一本とられたなこれは………、

 俺が先にカオスの所へと走り出したかったんだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……“アローネ”!!

 待つんだ!!

 お前が剣を運ぶよりも俺が運んだ方が早い!!

 俺にカオスの剣を渡してくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「……やっぱりこういうときは仲間の元へと駆け出すのが仲間だよね……。

 

 

 私もカオスの所に行くよ!

 

 

 待って二人とも~!

 私も行くから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「……信頼して待つだけが仲間のすることではないのだな………。」

 

 

タレス「どうします?

 三人ともカオスさんの所へといく気ですよ?」

 

 

オサムロウ「……決まっておろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我等も行くぞ。

 この機にカオスと合流してグリフォンを討伐するのだ。

 遅れが発生した分グリフォンだけでも消しておかねばな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「そう言ってくれると思ってましたよ。

 急ぎましょう。

 あの二人をほったらかしてにしてたらグリフォンよりも先にカオスさんと合流出来ませんよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「私がカオスに剣を持っていきます!!

 “ウインドラ”は引っ込んでてください!!」

 

 

ウインドラ「俺が持った方が早いと言っているだろう!

 そのカオスの剣を寄越せ!!」

 

 

アローネ「渡しません!!」

 

 

ウインドラ「強情な奴だなお前は!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フシュルルル……………。」



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バルツィエの目的

シュネー雪林道 西部

 

 

 

カオス「俺の修行のせいでこの辺りまで低温化が進んで雪が積もり積もってるなぁ………。」

 

 

ダイン「けどまだモンスターの気配はする………。

 カオスの獲物に丁度いいのが少しはいると思うよ……。」

 

 

カオス「そうだといいけど……。」

 

 

 カオスはダインに乗せられてレアバードで一度通ってきた道シュネー雪林道まで戻ってきていた。初めての空の移動にカオスは少々尻込みしていたがダインから二人乗りの搭乗方法を教わって落下しないようにしっかりとダインに掴まっていたため怖いのは始めの内だけだった。ダインが安全運転をしてくれていたおかげなのかレアバード自体があまり揺れない乗り物だったのかは分からないが案外と快適な空の旅ではあった。

 

 

カオス「バルツィエって凄いな……。

 こんな乗り物が作れちゃうなんて………。

 ………これ使ってるのバルツィエだけなんでしょ………?」

 

 

ダイン「そうだね……。

 もっと他の人達にも作ってあげたらいいと思うんだけどアレックスやフェデールが工業技術を普及させすぎると戦争が激化して人が多く死んじゃうようになるからってあまり他の人達にこういう機械を与えちゃ駄目なんだって言ってた……。」

 

 

 ……やはりこれは“機械”という物の一種らしい。なんとなくそんな気はしていた。触った感触から鉄類で構築されているのは分かっていたが………、

 

 

カオス「バルツィエの中にもそういうことを考えられる人がいるんだな………。

 ラーゲッツやユーラスが過激な連中だったからバルツィエ全員がそんなイメージしか出来なかったよ………。」

 

 

 今までバルツィエと遭遇する度に敵を全て殲滅するかの如く殺傷性のある攻撃を多用しているところしか知らなかった。レサリナスではラーゲッツが一般市民にたいして街中で剣を抜くところを目撃してからはそういった粗暴性のイメージがしつこく記憶に残った。だからダインとウィンドブリズ山で遭遇してからはバルツィエの中にも祖父のような人格を持つ人がいると知って驚いている。

 

 

ダイン「大体はカオスのイメージ通りだよ……。

 うちらの家系は大半が人格破綻が成長の課程でどこかで出てくる……。

 

 

 色濃く出てないのはアルバートやアレックス、フェデール………と、うちくらいなところ……。」

 

 

カオス「アレックス………王様は知らないけどフェデールも?

 ……アイツ………レサリナスではダニエル君を………子供を蹴り飛ばしてたけど………。」

 

 

 まさかのフェデールが祖父やダイン寄りの人格者だということに疑問が残る。騎士団長でラーゲッツやユーラスの上司なだけあってそれ以上の凶悪さを持っていそうだが、

 

 

ダイン「……フェデールは………人から悪いように見られるように演技してるんだよ………。」

 

 

カオス「演技?

 何でそんな演技をしてるんだ?」

 

 

ダイン「アレックスが国王になってから実質的にバルツィエを纏めあげてるのはフェデールだから……。

 あの荒くれの連中を纏めあげるのにフェデールは自分の力不足を感じてるの……。

 性格悪いのばっかりだからうちもそういう“ノリ”に流されることはあるけど………。

 フェデールも実はそうなの………。

 フェデールもあの荒んだ連中の舵を取るのに多少無理してでも自分を悪いように偽ってる……。」

 

 

カオス「……ダインが言うならそれを信じたいけど………、

 ……フェデールはダリントンって人の死体を利用して酷い作戦を立てたらしいじゃないか……。

 とてもフェデールがいい人だなんて思えないよ……。」

 

 

 あのレサリナスでの一件は相当の残虐性を感じた。あんな作戦を実行するような人物がダインが言うような演技をしているとは納得しがたい。

 

 

ダイン「…確かにカオスのいう通りなんだけどね……。

 

 

 でもフェデールが本当は人を殺したりなんかしたくない優しい人なんだってことは信じてほしい……。」

 

 

カオス「…… 」

 

 

ダイン「フェデールは実際に内面を疑うようなことを思い付くよ……?

 けどそれはそうしないともっと人が沢山他のラーゲッツやユーラス達に殺されそうになるから……。

 アイツらは気に入らない人がいたら直ぐに殺しちゃうから……。

 フェデールが何か作戦を計画してる時はアイツらもその計画の邪魔になるようなことは自重する……。

 その結果がその計画で殺す人達だけに犠牲者は抑えられる……。」

 

 

カオス「結局人は殺す訳だ………。

 そうするよりかは人を殺さない道を探した方がいいと思うけど?」

 

 

ダイン「仕方ないんだよ……。

 うちらは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分を守る程度の力しか無いから……。

 フェデールやアレックスもバルツィエで孤立したら誰もバルツィエを纏められる人がいなくなる……。

 

 

 そうなったら……世界は終わるんだよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………?何故バルツィエが纏まらなくなると世界が終わるのだろうか?どちらかと言えばバルツィエが纏まらなくなれば隙が生まれバルツィエを打倒しやすくなる。世界中から目の敵にされているバルツィエがいなくなれば後はヴェノムをどうにかするだけだ。そのヴェノムはカオス達の手によってダレイオスに巣くっているものだけは絶滅にまで追いやルところの話にまで漕ぎ着けている。マテオのヴェノムは………クリティア族がヴェノムについて本格的に研究が進み出した。近い将来個人でヴェノムを消滅させることが出来る薬や武具などが開発されるだろう。

 

 

  

 

 つまりバルツィエはこの世界にとっては不要な軍団でしかないと思うが………、

 

 

カオス「………ダインは気を悪くするかもしれないけどバルツィエはマテオでもダレイオスでも皆から疎まれてる………。

 バルツィエが纏まらないって言うのなら多分いろんな人達がバルツィエ達を倒しに行くと思う………。

 もしバルツィエが皆倒されたら………、

 

 

 世界は平和になるんじゃないか?」

 

 

ダイン「………」

 

 

 ダインはカオスの言葉に口を閉ざす。カオスが口にしたのはどこででも聞けるような一般論だ。恐らくダインもそうい話が巷で流れていることも知っているだろう。彼女には耳が痛い話ではあると思うがこれは世界を旅して聞いてきた話だ。カオスもそうなるとは思っている。

 

 

 ………と、口を閉ざしていたダインが何か言いたそうに口をモゴモゴしている。だがそれを話すのを躊躇って言葉が上手く纏まらないようだ。人と話すことに慣れていない彼女は一生懸命何か言葉にしようとしているが、

 

 

 

 

 

ダイン「……フェデールとアレックスはね…………。

 えっと…………、

 

 

 世界を一つにしたいの……。」

 

 

カオス「世界を一つに?」

 

 

ダイン「そう………、

 世界を一つに………、

 そうして世界を一つにして………、

 一つの強い大国を作り上げたいの……。」

 

 

カオス「…大国って………、

 マテオは十分強い大国じゃないか?

 まだ国を大きくしたいのか?

 ……それで出来上がった大国が結局今のマテオの状況と同じ流れになって一般の人達を苦しめる結果になることは皆予想してるぞ?

 そうならないためにダレイオスの人達は今バルツィエと戦う準備をしている。

 ある意味今が世界が一つになろうと動き出してるんだ。

 バルツィエというたった一つの組織を倒すため皆立ち上がっていってる。

 独裁者のバルツィエが世界を一つにしなくてもね。」

 

 

ダイン「そうなんだけど………。」

 

 

カオス「バルツィエは世界を一つにして、国を一つにして何がしたいんだ?」

 

 

ダイン「………」

 

 

カオス「バルツィエ達の支配する世界は……確実に地獄そのものだよ………。

 ユーラスやランドール達みたいなのがあっちこっちで統治するような国になるのは正直俺は嫌だな………。

 バルツィエはそんな世界を作ろうとしてるんじゃ「違う!!」」

 

 

ダイン「フェデール達は………!!

 ………アレックスは………!!

 アルバートの意思を継いで………あぁいう風にするしかなかったの……!!

 あぁしないと……!!」

 

 

カオス「………」

 

 

 何やら切羽詰まった事情がありそうだ。バルツィエはただ単に世界征服がしたい訳ではないのか?いかんせん粗暴なバルツィエ達としか相手にしてこなかった為バルツィエの上の連中が何を目的にしているのか理解しようとしてこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……何故バルツィエは世界を一纏めにしたいんだ………?

 世界を一纏めにすることに一体どんな意味が在ると言うんだ………?



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克服したい理由

シュネー雪林道 西部

 

 

 

カオス「ごめん言い過ぎたよ………。」

 

 

ダイン「ううん……、

 うちも言葉足らずで……。」

 

 

 ヒートアップし過ぎて段々と熱が上がってきたため一旦話を区切ってクールダウンをする。

 

 

カオス「……バルツィエにも何かやらないといけないことがあるんだな?」

 

 

ダイン「……そう、

 うちもよくは聞かされてないけどフェデール達は……、

 

 

 何か“大きな敵”と戦うために動いている……。」

 

 

カオス「大きな敵……?

 ギガントモンスターみたいな?」

 

 

ダイン「言葉通りの意味じゃないよ……。

 でもその敵が持つ力は多分ギガントモンスターなんかよりももっと大きい力……。

 カオス達は前にあった街で大魔導士軍団を名乗ってたみたいだけどフェデール達が戦いたい敵は多分その元々の大魔導士軍団のことだと思う……。」

 

 

カオス「大魔導士軍団が……バルツィエ達の敵?

 でも大魔導士軍団が噂され始めたのってこのダレイオスのゲダイアンって都市が破壊されてからなんじゃないのか?

 それまでバルツィエは百年前からずっと酷かったって聞いてるけど………。」

 

 

ダイン「フェデールの様子を伺ってたらフェデールとアレックスは本当は大魔導士軍団のことをもっと前から知ってたと思う……。

 だけどそれをうちらに話すことはしない……。

 うちらに話せばラーゲッツやユーラス辺りが無謀に挑もうとするから……。

 そうさせないためにフェデールとアレックスはうちらに詳しい話はしない……。

 けど二人が深刻そうな顔で“大魔導士”って言葉を出しながら話し合ってたのは聞いたことがある……。

 それもそのゲダイアンとか言う街が爆発する前から…。」

 

 

カオス「……そんな前から………。」

 

 

ダイン「レサリナスで噂されてからは軍団が名前に追加されたけどもしかしたら大魔導士軍団は大魔導士軍団じゃなくて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大魔導士っていうたった一人のことを差しているかもしれない……。」

 

 

カオス「大魔導士軍団が一人のことを……?

 何で一人なんだ……?」

 

 

ダイン「うちも大魔導士軍団は大魔導士軍団だと最近までは思ってたけど……、

 

 

 カオスが現れたからそう思うようになった……。」

 

 

カオス「俺が現れたから?」

 

 

ダイン「だって……カオスの力は本気を出せば街や国を一瞬で消し去るくらい強い……。

 カオスという例がいるなら大魔導士軍団がたった一人の力による破壊を持っていたとしても不思議はない……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダインはカオスが何故これほどまでに強大な力を持っているかは知らない。先日話したのはカオスが魔術を使ってトラウマガ出来たことだけだ。カオスの中に眠る精霊については何も………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………精霊………、

 

 

 アローネはゲダイアンを消滅させたのは精霊の眷属だと推理していた。ゲダイアンを消滅させたのはバルツィエではない。このダインの発言からもバルツィエが関わっていないことは分かっている。それはランドールからも察せたが改めてこのダレイオスには謎の大魔術を駆使するのかしたのか分からない本当の大魔導士軍団もしくは大魔導士の話が出てくる。その存在が何を目的にしているのか、何故ゲダイアンを消滅させたのか、

 

 

 彼等は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネが言う精霊のことなのか………、

 

 

 ………それかカオスと同じ様な精霊が宿る人物なのか………、 

 

 

 バルツィエでさえ恐れる彼等は今どこにいるのか………。

 

 

 ゲダイアンと共に消失してしまったのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カオスは今の情報だけでは完全には纏めきることが出来ない。

 

 

 もっと………大魔導士軍団のことを知る者に聞かねばならない。

 

 

 そのためには………、

 

 

 ダインが言うアレックスとフェデールの両名のどちらかに聞き出さないとこの謎が永遠に解けることはないのだと感じた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――数時間後――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ハァハァ………」

 

 

ダイン「カオス………、

 やっぱりまだ………。」

 

 

カオス「……大丈夫だから……、

 俺はまだ……これくらいで諦めたりはしないから……。」

 

 

ダイン「………」

 

 

 

 

 

 

 ダインとこのシュネー雪林道に戻って来てからモンスターを見つけては魔術を発動しようとする。

 

 

 しかし数時間前までのように人に対して魔術を発動することは出来るようにはなってもモンスターにだけは放つことが出来ないままでいた。カオスの幼き頃の心象風景は今もカオスの記憶の中に燻り続けている。その記憶が邪魔してカオスはモンスターを目前にして魔術を発動しようと素手を前に付だしてそこから先に進めず棒立ちを繰り返している。

 

 

 着実に前へと進んでいたと感じた午前中までの進歩はここで一気にブレーキを踏んでしまった。また一昨日までの停滞した一ヶ月間のような時間に突入してしまうのかとさえカオスは思った。

 

 

 だがもう残された時間は殆ど残っていない。ダインが付き合ってくれる期間は明日までだった。ダインの教練はカオスの事情を踏まえた上で考えられる最善の教練方法だ。そこまで尽くして考案された教練を受けておきながら自分がそれを乗り越えられないのは自分がまだどこかで甘えているせいだ。誰かと一緒にいたからカオスは魔術を使わずに旅してこれた。仲間達を頼りにしていたせいで大事な時に魔術が発動できるのに当てられないという失態をさらしてしまったせいでこんな世界が終わる寸でのところでこんな無駄な時間を割くことになった。

 

 

 それならもう明日までに………今日までに完成させなくてはならない。この一ヶ月と十日前後の修行を実のあるものとして追い込まなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしないと………アローネ達に顔向け出来ない………。

 十年の孤独を耐え続けてきた後に自分の側にいてくれたら仲間達に………、

 

 

 仲間達の信頼に応えるためにも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日のうちに魔術を使い物に出来るところまで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………今日はここまで………。」

 

 

カオス「………………え?」

 

 

ダイン「戻ろっか………。

 あの雪山まで……。」

 

 

カオス「なっ、何で………!?

 だってまだモンスターに数回くらいしか遭遇してない……!?」

 

 

 これからやってやると意気込んだというのに水をぶっかけられたような気分になる。どうして今日はこんなに早く終わりにしようとするんだ?

 

 

ダイン「…そんな状態のカオスに魔術は使わせられない……。

 魔術を使う際のマナは心の奥底から来るエネルギーを使う………。

 それが不安定まま魔術を発動させればどんな危ないことになるか………。」

 

 

カオス「だけど……!」

 

 

 今日は午前中で共鳴が習得出来た。なら午後の残りの時間でモンスターに魔術を発動出来る糸口を掴むところまで行きたかった。それにはモンスターが生息しているこの辺りから離れる訳にはいかない。カオスはなんとかダインにまだ修行を続けるようにお願いしようとするが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「焦らないでカオス……。

 カオスは今日だけでも十分先に進んだよ……。」

 

 

カオス「そんなことはない…!

 俺はまだ全然人よりも大分遅れて後ろの方にいるんだ!

 だから早く皆に追い付かないと……!」

 

 

 

 

 

 

ダイン「カオス…!」

 

 

 修行を続行しようとお願いしようとしたらダインが少し強い口調でカオスの名前を呼ぶ。………またヒートアップしてきた。本当に今日はここらで修行を終わりにしなければならないのだろうか………?

 

 

 

 

 

 

ダイン「………カオス、

 カオスが何で魔術をモンスターに当てないといけないのかを思い出して………。

 焦って修行を積んだところでその修行は絶対に力にはならない……。

 

 

 カオスは何でモンスターに魔術を使わないといけないの……?」

 

 

 ダインがカオスに諭すようにカオスの修行が始まった理由を思い出すように促してくる。そんなもの………忘れるわけがない………。

 

 

 それはカオスが………、

 

 

 

カオス「………それは俺がモンスターに魔術を使うことさえ出来ればモンスターと皆が戦わずに済んで皆が傷つかずに済むから………。」

 

 

ダイン「……その前提は違うんじゃない……?」

 

 

カオス「違う……?」

 

 

 違うとは何が違うのだ?カオスが魔術の練習をしているのは皆を守りたいからであって………、 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………皆を守りたいからであって………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「カオスが魔術を人並みに使えるようになりたいのはモンスターを魔術を使うことさえ出来れば………、

 じゃなくて……、

 

 

 

 

 

 

 皆を守りたいから……。

 カオスが大切に感じている人達を傷つけたくないからって言うのが第一前提でしょ……?

 そんな魔術を使うことさえ出来れば皆が楽できるからみたいな理由じゃない……。

 カオスが第一に願っていたことは敵を倒すことじゃなかった筈………。

 そんな気持ちで魔術の修行をしてもカオスのトラウマガが治ることはないよ……。」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうしてダインはこの短期間でここまでカオスのことを理解して正解を導けるのだろうか………。カオスが魔術を使いたい本当の理由は全て誰も傷つけたくないことが由来している。

 

 

 いつの間にかカオスは魔術を使えることが出来れば皆が効率的に戦闘を行えるものだと思い込んでいた。

 

 

 しかしこの修行はいつしかカオスの中では魔術を使用することが第一の目標になっていた。仲間のことを度外視した全く別の修行に………。これでは仲間のことを全く意識していない一人よがりの修行になっていた………。

 

 

 これではいつまで経ってもトラウマを克服することは出来ないだろう。カオスは自分のトラウマのことが頭から抜け落ちてどうしたらフラッシュバックが起きないように魔術を使うことが出来るのだろうかばかり考えていた。それは一切のトラウマに向き合うことを放棄した修行だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………今一度カオスは自らのトラウマがどういうったものなのかを見つめ直すべくダインの指示に従い今日のところはダインとウィンドブリズ山へと戻ることにした。



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殺生石ができた過程

ウィンドブリズ山 ダインとの修練二日目 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………今日の成果はダインに………人に対して魔術は使えるようになるところまではいけたけど………、

 

 

 最後までモンスターに魔術を使うことが出来なかったなぁ………。」

 

 

 一ヶ月進捗が滞っていた二日前までの日々に比べればかなりの進捗ではあるのだがそれでもおよそ一ヶ月かけての成果が人並み以下の地点では過去の自分と今の自分とを比べたところで成長した気になれない。勿論自分でも成長したとは感じているが振り替えって見ても結局自分の立ち位置は人よりも後ろにいるのだ。いかに協力な力を持っていてもどうにも自分はそれを自慢する気になれない。なにせ自分以外の者は世界中探してみても魔術欠損症と言った特殊な事情を抱えた者達ばかりしか思い浮かばない。それでもその人達ならもし魔術が使えたのならばカオスのように生物に対して放てないなどという事情は抱えてはいないだろう。

 

 

 自分がこうなってしまったのは子供の頃のあの事件が原因だ。あれがあったからこそ自分は生物に対して魔術を行使出来ないまま十年の猶予があったにも関わらずそれを乗り越えようとすることもなく今に至ってしまった。そして今その十年の付けが回ってきたかのようにカオスの中に眠る力を使わねば討伐不可能とされるカイメラが現れた。

 

 

 ここでこの試練を乗り越えねばカオスは後三ヶ月後に精霊と共にこの世界の最後を見届けることになる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………なぁ殺生石………、

 ……何でお前は俺の中から出ていかないんだよ………。

 お前が俺の中にいるから俺は迂闊に手加減できない魔術しか使えないんだよ………。

 お前が俺の力を何千倍にも増幅させるから俺の魔術は……、

 普通に練習することさえ出来ないんだぞ………?」

 

 

 現在ダインはカオスの近くで眠っている。なのでこの言葉はカオスの無意識に溢れた一人言だった………。この一人言には誰からも返答が帰ってくるとは思っていなかった。当然カオスの中に眠る殺生石の精霊からも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかし意外なことに返答を返す言葉が心の中に響いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺生石『……お主の心の中は今までのどの生物達の中でも快適な空間じゃからな………。

 こんな器は早々巡り会わんかった。

 じゃから儂はお主の中に入ったのじゃ。』

 

 

カオス「!」

 

 

殺生石『最近は頻繁に術を使いよるようじゃな。

 ヴェノムも………、

 ほう………、

 大分この地より数を激減させておるようじゃな………。

 関心関心………。

 

 

 この調子なら儂の試練は無事突破出来そうじゃな。』

 

 

カオス「(……能天気に突破出来るとか言いやがって………。

 勝手に試練を言い渡して自分は今まで眠っていたくせに………。)」

 

 

殺生石『構わんじゃろ?

 どうせお主は儂のことを嫌っておるようじゃし儂もお主のことは“異様に快適過ぎる器”とぐらいにしか見ておらんのでな。』

 

 

カオス「(快適過ぎる器………?)」

 

 

殺生石『お主の体………、

 何やらこの自然の摂理によって生まれた者の波動とは少々違う………。

 そこで眠っておる娘もそうじゃ。

 光によって照らされて見えるその肉体の中には自然界の者達のどの生命よりもマナを凝縮させて蓄えることが出来るほどの大きな器が備わっておる。

 儂がもしお主等のような者達以外の器に入ったとしよう。

 そしたらその器は儂の力に耐えきれずに魂を打ち砕かれてただ儂の力を持つだけの小石に成り下がるだけじゃ。』

 

 

カオス「(小石に?)」

 

 

殺生石『お主がいたミストとかいう村があったじゃろ?

 あの村で儂はあの岩に潜んでいたがあれは元々はお主の前に入っておった器じゃ。

 お主等エルフはあの小石が小石になる前の生命をドラゴンと称していたな。』

 

 

カオス「(……あれドラゴンだったのか………。)」

 

 

 昔からあの大岩は殺生石以外の何かだと考えたことはなかった。あれがまさか元々がドラゴンだったとは……、

 

 

 ドラゴン………、

 このデリス=カーラーンでは竜の里なる場所がどこかにあって竜も様々な種類が存在すると聞く。カオスの旅でもその一種のダイナソーと遭遇したことがあった。ドラゴンは通常どの種族よりも強大な力を持ちマナを保有している量もドラゴンという一括りにしてしまえばどんな生命よりも多かった筈だ。

 

 

 この殺生石の精霊はそんなドラゴンの中にいたのか。

 

 

カオス「(何でお前が中に入っていたそのドラゴンはあんな風に岩に成り変わったんだ?

 ドラゴンだったら多分このデリス=カーラーンの中でもお前が入れそうな器になれそうだと思うけど。)」

 

 

殺生石『確かに器としてはこの星屑の中でも上位の存在ではあったじゃろう………。

 しかしあの蜥蜴では儂の力に耐えうる器ではなかった。

 お主と違い儂が入り込むとあの蜥蜴はこの星の物差しで言うと僅か………、

 

 

 “一ヶ月”で死に絶えおったわい。

 そして儂が中にいる状態で死に絶えてしまったため通常の自然の死を迎えずにあの小石となった。』

 

 

カオス「(……お前が中にいる状態で死ぬと俺もあんな風に石化するのか?)」

 

 

殺生石『作用じゃな。』

 

 

カオス「(マジか………。)」

 

 

 この殺生石に憑かれたまま死ぬと石化する。つまりカオスが死ぬと人としての最後を迎えられず火葬や埋葬といった方法で死後の体を葬ることが出来ないということか。

 

 

殺生石『じゃから儂は驚いておるのじゃ………。

 お主らエルフの中にドラゴン以上の器を持つものがおることに。

 ……巧妙に隠されてはおるがお主とその娘はどこか………、

 

 

 エルフならざる力を感じる………。

 何かエルフの手によって生命体構造を作り替えられておる伏しが見られる………。

 儂にとっては動き回る器で便利だとはおもうのじゃがな………。』

 

 

カオス「(………)」

 

 

 

 

 

 

 エルフならざる力か………。

 バルツィエはカタスティアによってもたらされた古代の技術を使用して力を得たのだと聞いている。カオスの中にも当然その力があるのだろう。バルツィエは何世代も前からその力に頼って権力を得てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミストにいた時から化け物扱いされてきたせいでこいつにもその化け物みたいに言われても何とも思わないな。こいつ自体も化け物みたいなものだし………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺生石『(………サタン………、

 お主の力をこの星屑で悪用しようとしておる者がおるようじゃな………。

 なんと嘆かわしいことじゃ………。

 お主がこの現代におればこのようなヴェノムが蔓延るようなことには………。)』



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世界に伝わる名

ウィンドブリズ山 ダインとの修練二日目 夜

 

 

 

カオス「(……でお前は何でまた話し掛けてきたんだよ?

 まだお前が提示してきた期限まで三ヶ月くらいあるだろ?)」

 

 

 数ヵ月振りくらいにこの殺生石とは話すが出来ればあまり関わりたくない相手である。なにせカオスにとってはこの精霊のせいで失ってはならない人々を失ってしまった。そのせいで故郷では居場所を失った。約半年に渡る旅では精霊の力で助けられた面も多々あったがそれでミストの者達が甦る訳ではない。カオスがこの精霊を赦せるとしたらミストで失った人々を失ってしまった生き返らせるくらいはしてもらわないと仲良くしようとも思わなかった。

 

 

殺生石『そうじゃな……。

 お主は今日がお主等エルフの時で言うとどういった日なのかは気付いておるまい?』

 

 

カオス「(今日が?)」

 

 

 カオスには殺生石の精霊が何を言いたいのか分からなかった。精霊が提示してきた期限は半年。その半分と言うのなら後十日程あった筈だが………?

 

 

殺生石『明日でお主等エルフに与えた期限が百日を切るのじゃ。』

 

 

カオス「(百日?)」

 

 

殺生石『そう百日じゃ。

 お主等エルフにとってはこの星屑で過ごせる時はもう後少ししか残されておらんということじゃ。』

 

 

カオス「(……ちょっと待てよ。

 何を勝手にもう終わらせる気でいるんだよ………。

 俺達はちゃんとお前の言う通りにこのダレイオスからヴェノムを駆逐して回ってんだろ。

 この調子でいけば百日までにヴェノムは『本当にそう思うか?』)」

 

 

殺生石『儂はお主の中で見ておるのだぞ?

 お主のやっておることがこの一月と十日程何も進展しておらんことはお主の中で見させてもろうた。

 

 

 こんな進みでお主は何を満足しておるのだ?』

 

 

カオス「(………)」

 

 

 こいつ………、

 それが言いたいがために話し掛けてきたのかよ………。

 

 

殺生石『……お主はここで何をしておるのだ?

 儂はお主には秘術の一つを授けたと言うのにそれを一度も使おうとはせんで何をやり遂げようとしておるのだ?』

 

 

カオス「(秘術………?)」

 

 

 何かこいつから術を渡されたか?こいつとはあまり話をしないから記憶を探しても秘術なんて一つも…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………と思い出してみれば何か呪文と魔術の術名みたいなものを一方的に授けられた記憶があった。セレンシーアインでの夜にこいつと一度話をしていてその最中のことだ。確かなんと言った術だったか………?生きてきた記憶の中で初めて聞く名前の術だった記憶があるが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺生石『戒めの楔は深淵へと導く………。』

 

 

カオス「(そうそうそんな感じの呪文で………術名が………。)」

 

 

殺生石『グラビティ………と言うのじゃ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あぁ………確かに聞いた記憶があるなぁ………。

 

 

 『戒めの楔は深淵へと導く………グラビティ』か………。

 そんな魔術は聞いたことが…………!?」

 

 

 カオスが思わず殺生石が心の声で伝えてきた呪文を復唱するとその術が発動しカオスを中心に円上の魔法陣が展開していき広がっていく。円はそこからカオス達から見えない位置にまで広がっていきウィンドブリズの氷山が揺れ出す。

 

 

ダイン「…!?

 何……!?」

 

 

 急に発生した地震に寝ていたダインが飛び起きる。山全体が突然揺れ出したのでダインはアタフタしてやがてウィングバッグからレアバードを出現させてカオスを掴み上空へと飛び上がる。

 

 

ダイン「カオス大丈夫…!?」

 

 

カオス「俺は平気だけど……。」

 

 

ダイン「……いったい何が起こって………?」

 

 

 ダインが突然揺れ出した山を見下ろし原因を究明しようとする。二人の下には巨大な魔法陣が山全体を覆うのが見えそれはやがてうっすらと光の幕のような物で囲いウィンドブリズの山が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 球状に展開されたグラビティの魔術に圧縮されていき最終的には山そのものが消滅してしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「なっ、何………!?

 この魔術は………!?

 こんな魔術見たことない………!?」

 

 

カオス「……ごめんダイン。」

 

 

ダイン「…?

 どうしてカオスが謝るの……?」

 

 

カオス「………この魔術、

 今俺が発動させたんだ……。」

 

 

ダイン「カオスが……?」

 

 

 カオスの自白に困惑するダイン。ダインは何故急に山を消滅させたのか理解ができず訝るような目でカオスを見つめてくる。これはもうダインには精霊のことまで話さなくてはならなくなった。

 

 

カオス「………実は俺のマナが人よりも………バルツィエの連中よりも強いのは俺の中に精霊が宿っているからなんだ。」

 

 

ダイン「精霊が……カオスの中に……?」

 

 

カオス「そう………。

 今の技はその精霊が俺に話し掛けてきて俺に知らない魔術を教えてきたんだよ……。

 その魔術を口にしたら術が発動してこうなっちゃって………。」

 

 

ダイン「……精霊というと………、

 ……こんな“重力”に力を働きかけるような術は聞いたことないけど………、

 

 

 ………もしかして“精霊王”………?」

 

 

カオス「精霊王……?」

 

 

 こいつの呼び方にそんな呼び方があったのか………?と言うよりもこいつのような存在をダインが知っていたのか?

 

 

ダイン「……それしか考えられない………。

 フェデールが六の魔を極めた先にあった“重力を操る術”トラクタービーム………。

 あれはデリス=カーラーンの重力を無くす術だけどこの術はその逆で重力を増加させて山を凝縮して潰した………。

 重力を操る精霊………、

 他の属性魔術を司る精霊がいるとされるみたいに机上の空論とされてきた七番目の精霊が………、

 

 

 やっぱり精霊王はいたんだ………。」

 

 

 ダインのこの反応………、

 バルツィエ達はこの殺生石の精霊のことを知っていたようだな。だとしたらこいつについて俺達よりかも詳しいかもしれない………。

 

 

 少し聞いてみるか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「なぁダイ『娘………。』ン………。」

 

 

ダイン「!?

 何………?

 今の声………?

 頭の中に誰かの声が………?」

 

 

カオス「……お前………。」

 

 

殺生石『娘よ………、

 お主は儂についてどこまで知っておるのじゃ………?』

 

 

ダイン「これって……カオスの中の精霊の声………?」

 

 

カオス「………うん………。」

 

 

ダイン「そう………、

 この声を伝えてきてるのが………精霊王の………、

 

 

 前に理論上存在しうる精霊には更に上の存在がいるとされるってバルツィエの書庫で載ってたの見たことがある………。

 

 

 貴方がその精霊の上位の存在なんだね………。

 精霊が本当に存在していたなんて………。

 

 

 本で知った時に何か名前があったな………、

 ………なんだっけ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確か………“マクス………”」

 

 

カオス「マクス………?」

 

 

殺生石『……!!』

 

 

ダイン「貴方はマクス………何とかさんっていう精霊なの……?」

 

 

殺生石『……儂には名など無い………。

 名は無いが儂のこと知った者は儂のことを神や悪魔、精霊、大老と様々な呼び名で呼んでおった。』

 

 

ダイン「そうなの……?

 じゃあやっぱり他の精霊達も本当は名前が無いの?」

 

 

殺生石『儂の眷属達のことを申しておるのならあやつ等には儂が名付けた名がある………。

 水を司りし者ウンディーネ、雷を司りし者ヴォルト、風を司りし者シルフ、地を司りし者ノーム、氷を司りし者セルシウス、火を司りし者イフリートとな。』

 

 

ダイン「そっちの精霊達は世間で知られている通りの名前があるんだね……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世間で知られている通りの名前………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何でこいつの眷属達の名前は世間で知られている通りの名前なんだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世間で知られている精霊の名前は確か………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “存在することは論証されてはいたけど確認が取れた者が誰一人としていないため仮の造名という設定じゃなかったか……?”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……今現在デリス=カーラーンで伝わっている精霊達の名前は…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰が世界に流したんだ………?



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止めたい崩壊

ウィンドブリズ山 ダインとの修練二日目 夜

 

 

 

カオス「………」

 

 

 ………これも星の記憶とかいう影響なのか?けどこいつら自体はそれこそウルゴスの時代から存在していたようだがアローネやカタスティアも口振りからしてこのデリス=カーラーンと同じ様になんとなく世界には存在しているのを知っていた感じだった。精霊は人前には絶対に姿を現さない。

 

 

 なのに何故こいつらの名前がウルゴスでもデリス=カーラーンでも普及されているんだ?そんなことが出来るとしたら………、

 

 

 どこかの時期にこいつらが人と一緒にいた時期があってそこからこいつらの名前が世界に流れていったとしか………。

 

 

 それでもウルゴスの事情は未だに曖昧だがこのデリス=カーラーンの歴史については知っている。精霊は存在しているだろうということは古い本とかからずっと同じことが言われ続けている。そしてそれは現代まで流れ続けて誰も精霊に辿り着けた者はいなかった………。カオス達を除いて……。

 

 

 ではこいつらの名前は何故ウルゴスでもデリス=カーラーンでも通用するんだ?何故誰も会ったことも無い精霊の名前が分かったんだ?そんなのこいつらが人と交流があった時があったとしか思えない。エルフの歴史には必ずといっていいほど魔術とその魔術の力の源の精霊が付きまとう。しかし精霊はどの精霊も架空の名を与えたものであってこいつらが人に教えでもしないと………、

 

 

 

 

ダイン「?

 カオスどうしたの……?」

 

 

カオス「………なぁ、

 殺生石………。

 お前って………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かに自分達の名前を教えたことがあるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺生石『………』

 

 

カオス「お前達は俺達エルフにとっては人に“魂”という物があるかどうかってレベルで希薄な存在だったんだよ………。

 精霊って呼んでるのも俺達が勝手にそう読んでるだけだし………。

 

 

 なのに何でお前達の名前はこの世界では誰もが知ってる名前なんだ?

 そんなのお前達が誰かに話でもしない限り名前が被ることなんて無いと思うんだ。

 それも六精霊全てが。」

 

 

ダイン「………?

 なんか変かな………?」

 

 

カオス「だっておかしいだろ?

 こいつらの存在は言うなれば人の作り出したイメージだった筈だ。

 名前とかも後付けで考え出された物だと思う。

 それなのに精霊の名前が本当にその名前だったってことは誰かしらこいつらに会ったことがあってその名前を世界に広めたってことだ。

 

 

 一度ウルゴスが滅んでからデリス=カーラーンに時代が流れたっていうなら少なくともこの時代が始まった辺りでお前達はまだ姿を隠していなかった時期があるんじゃないか?」

 

 

 カオスは世間には疎い方だがそれでも精霊達の認知度の不自然さには気付けた。世界では精霊達は誰かの創作によってその名が用いられてはいるがその名が実名だったということはその名前を普及させたのは間違いなく精霊を知る者。察するにその者がこの精霊王が会うことを逃避したい人物だと伺えるが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺生石『儂が後にも先にも人の世に姿を現したのはお主達と“アインスと言う名があった時”だけじゃ………。

 この時代のことについては知らぬ………。』

 

 

 

カオス「アインスで………?」

 

 

 この精霊王はアインスの時代でも人の前に姿を現していたのか?アローネはそんな話はしなかったが………、

 

 

 

 

殺生石『…どうやら儂を付け狙う者はこの世界に渡ったようじゃな………。

 なおのこと儂はこの星屑の終わりを告げねばならぬか………。』

 

 

カオス「!

 待てよ!

 まだ後百日はあるって話だったじゃないか!

 どうしてそんなにこの星を早急に終わらせたがるんだよ!?」

 

 

ダイン「百日………?」

 

 

殺生石『申した筈じゃ………。

 儂を狙う者の手に儂が渡ればこの“全世界”は永久に変わらぬ世界に移り変わってしまうと……。

 世界の観測者として儂はそれだけはなんとしても阻止させてもらう。

 故に儂はこの星を砕くかどうかをお主等で試しておるのじゃ。

 

 

 お主の中から見守っていたがこのままでは儂はこの星屑を砕くぞ。』

 

 

カオス「お前は………!!」

 

 

 この精霊王の力を持ってすればそれが実現できてしまうことは確かだ。直接見たことは無いがこいつはあの夜空に浮かぶ星達を降らせてシーモス海道を粉々にしてしまった。こいつの全力がどれ程の力かは不明だが星を降らせることが出来るのならそれはあの無数に輝く星々全てをこの地上に落とすことも可能かもしれない。そうなってしまっては地上に生きる全ての生命が死に絶えこいつが前々から何故か必要にその名で呼ぶ“星屑”そのものになってしまう。恐らくこいつの中ではこのデリス=カーラーンが星屑になるヴィジョンが見えていてそう呼んでいるのだろう。

 

 

 勝手にこの星の未来を見据えやがって………。

 

 

カオス「……百日後まで………、

 俺達は絶対に諦めない………。

 なんとしてもお前の力による破壊だけは防いで見せる……。

 それまで先走ってデリス=カーラーンを破壊したりはするなよ。」

 

 

殺生石『威勢がいいな……。

 満足に力を振るえることも出来んお主の口からそんな言葉が出てくるか……。

 

 

 楽しみにしておるぞ?

 儂にとってはこの審判、

 儂を狙う者が生き続けておることに目を瞑ればこの世界、

 破壊か存続か、

 どちらに転んでもよいのじゃからな………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺生石はその言葉を最後にカオスとダインの二人からは気配を察知することが出来なくなった。またカオスの中で眠りについたのだろう。眠りについたと言っても精霊はカオスの中でしっかりとその動向を窺っている。現在カオスが精霊の課した試練が乗り越えることに躓いていることも。

 

 

 油断ならない相手だ。もし約束の日までに約束が果たす見込みが無ければ精霊はこの世界を破壊し尽くすだろう。今はまだ結論を下す時ではないと破壊は待ってくれている。それも明日から残り百日でどうなってしまうかにかかっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………一刻も早く自分の抱える問題を解決しなければ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………後百日でデリス=カーラーンが砕かれる………?

 いつの間にそんなことに………。」



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ダインの提案

ウィンドブリズ山跡地 ダインとの修練最終日

 

 

 

カオス「……じゃあ今日までお願いしていいかなダイン。

 レアバードで昨日のところまで………、

 

 

 ………?」

 

 

ダイン「………」

 

 

 カオスがダインに話し掛けるのだが今日のダインはどこか上の空だ。反応が鈍いというか何か考え事に夢中というか……とにかくカオスとの修行に身が入っていないような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………無理もないな。昨日はそのまま山一つ消えてそれから唐突に精霊の話を聞かされたのだ。寝床は山があった跡地を使ったが幸いなことにカオスの修行で冷却されていたのか地層の底の方まで溶岩が固まっていたため寝苦しい環境ではあったが何とか就寝することは出来た。それでも多少ツグルフルフによって人格に異常を来しているとは言え元の感性は常人とそう変わらない筈だ。いきなりいつか来るとされていた終末まで後百日しかないと聞かされても思考が追い付かないだろう。

 

 

 それを回避するためにひたすらこのダレイオスの地でヴェノムの主を倒さなくてはならないのだがダインにはそういった事情を詳しく話してはいない……。二日間お世話になった身だしダインにだけは話してしまってもいいだろう………。

 

 

 

 

カオス「……ダイン………。」

 

 

ダイン「…………え?

 何……?」

 

 

カオス「……俺や俺の仲間達が今やっていることなんだけど………。」

 

 

ダイン「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「ヴェノムの主………っていう時間じゃ死なないヴェノムを倒して回って……ダレイオスのヴェノムを排除してダレイオスの全部族の再統一………。

 けどその裏側にはそれと同時にあの精霊王からの破壊申告………。」

 

 

カオス「そうなんだよ……。

 切っ掛けは俺が小さい時にあの精霊を目覚めさせてしまったことが原因で今こうなってるんだ……。

 俺のせいで世界が滅びようとしている……。

 だから俺はそうならないようにこのダレイオスで主を狩り回ってるんだけど今度の敵がどうしても俺の魔術無しじゃ倒せない相手で俺は一人で昨日まであったウィンドブリズ山で修行してたんだ……。」

 

 

 話は長くなったがダインに事の経緯を全て話す。ダインはカオスの話を真剣になって耳を傾けていた。この三日でカオスはダインになら何もかも打ち明けてしまってもいいように思えていた。ダインは他のバルツィエと違って話が分かるバルツィエだ。無闇に襲ってこないし人付き合いが苦手と言うだけで話をしてみれば割りと善良な主観をしている。

 

 

 ダインと一緒にいると敵同士であるということを忘れて腹をわって話が出来る相手なんだと思えてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……後百日………。

 それまでにカオス達はこのダレイオスのアスラを倒さなくちゃいけないんだね……。」

 

 

カオス「アスラ………っていうのはバルツィエで死なないヴェノムのことをそう呼んでるんだよね……?」

 

 

ダイン「うん………。」

 

 

カオス「アスラってどういう意味なんだ?

 バルツィエはヴェノムについて凄く研究が進んでるって聞くけどレイディーさんの話じゃゾンビとかを掴まえて色々実験してたみたいじゃないか。」

 

 

 バルツィエと話す機会が無かったためこの機にダインにバルツィエがどういう研究をしていたのか聞いてみることにする。旅の途中でバルツィエがヴェノムの主を作り出したらしきことも話にあったのでもしかしたらバルツィエがダレイオスに配置させたヴェノムの主についても詳しく話が聞けるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思ったが、

 

 

 

 

 

 

ダイン「アスラって言うのは家にあった古い文献から名前を取っただけで特にうちらが付けた名前じゃないよ……?

 元々はどこかの誰かが書いた本にその名前とその特長が時間で消滅しないヴェノムと同じだったからそう呼んでるだけなの……。」

 

 

カオス「バルツィエが最初に言い出した名前じゃないのか?」

 

 

ダイン「うちらはヴェノムについては昔ある人から貰った資料を参考にしてるだけ……。

 レアバードとかもその資料の中の一つで設計図があったから作っただけなの……。

 

 

 実際うちらは自分達で開発した技術なんて殆どないの……。

 だからその言葉の意味とかはうちはちょっと知らないかな……。」

 

 

カオス「なるほど………。」

 

 

 そのある人と言うのがカタスティアのことか………。カタスティアからもたらされたウルゴスの資料をそのままバルツィエは使っているだけなのか……。

 

 

 でもそうなるとレアバードは何なんだ?この飛行物体は機械ではなかったか?機械技術があったのはウルゴスではなくダンダルクの技術だったと思うがそれをカタスティアから渡されたのか………?そうなるとカタスティアはウルゴスとダンダルク両方の資料を所有していたことになるがそこのところはどうなっているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

カオス「このレアバードもその資料の中にあったのか?

 これってどうやって動いてるんだ?」

 

 

ダイン「これの起動には搭乗者のマナが燃料になって動いている……。

 移動には便利だけどこれに乗ってるとマナが少しずつ吸い上げられて疲れやすくなる……。」

 

 

カオス「搭乗者のマナが?

 機械が人のマナを吸い上げるのか?」

 

 

ダイン「機械とはまた違う……。

 これは魔科学の産物品……。

 魔科学技術は機械と魔術の応用で機械にマナを注入して操るの……。

 

 

 生物には皆マナが流れている……。

 そのマナが機械に流れればそれは生物と同じ……。

 魔科学は機械に大量にマナを吸わせて機械を擬似的に生物のように動かせる……。

 機械の動作に頼るところもあるけれど基本はマナを使って動いている……。

 だから………、

 

 

 この子はうちが触れている間だけは生きていられる……。」

 

 

 そういってダインは愛しそうにレアバードの入ったウィングバッグを撫でる。こういった様子はやはりバルツィエでも人なんだなと思った。

 

 

ダイン「………カオス……。」

 

 

カオス「何?」

 

 

ダイン「世界が………、

 デリス=カーラーンが終末を迎えるなんてことはないよね……?」

 

 

カオス「………」

 

 

ダイン「……うちね……?

 このまま世界が終わりを迎えるなんてこと……絶対に嫌……。

 

 

 ………だからさ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うちもヴェノムの主退治……手伝おうか……?」



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グリフォンの襲撃

ウィンドブリズ山跡地 ダインとの修練最終日

 

 

 

カオス「ダインが………ヴェノムの主退治を手伝う?」

 

 

 

 

 

 

ダイン「うん……。

 うちも何もしないで世界が破壊されるのは嫌だし……、

 世界の危機だって言うなら……皆でそれを止めるのがいいと思うから……。

 

 

 駄目……?」

 

 

カオス「……いや……駄目ってことは無いと思うけど……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………確かに世界が終わりを迎えようとしているのならこの星に生きる者達ならそれを阻止すべく動き出したいと言うなら話は分かるのだが………、

 

 

 ヴェノムの主は………バルツィエがばら蒔いた種なのではないのか?バルツィエがダレイオスに奇襲をしかけてその際にダレイオスに九体のヴェノムの主を配置しバルツィエはそうするだけでダレイオスの弱体化を謀った。現にダレイオスは国家として纏まっていたがそれが分解され九の部族が各々の地へと帰っていった。そうなっていたダレイオスはマテオから見れば一大大国が九の小国へと力を下げられたため戦術的に攻めやすくなった。だからレサリナスでは早急に開戦をしようとしていた。今ならダレイオスを一つ一つ潰していけて比較的楽にダレイオスを制圧できるから……。

 

 

 状況的にバルツィエが数年前の奇襲時にヴェノムの主を放ったと考えるのが妥当だ。バルツィエにとってはヴェノムの主は何もかもが都合がよすぎるしそれによって得をするのそバルツィエだけだ。レアバードという移動手段も持ち合わせていることからダレイオスには時間さえあれば自由に行き来出来るし平均的に全ての部族のいる地方に疎らになることなく主を配置出来る。ダレイオスにとっては敵であるマテオの者以外にそんなことをするメリットは無い筈。話の全容ではそれぞれの地方に主が確認されているのならどこかの部族が主を作り出したとは考えにくい。世界的にもヴェノムの研究に関して秀でているのはバルツィエ一択。バルツィエ以外に主が持つような強いウイルスを作り出すことは不可能。

 

 

 よってバルツィエがヴェノムの主の発端だと窺えるのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………」

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 ダインに直接聞くのが早いのか………?バルツィエの研究機関ではヴェノムの主になり得る個体アスラという別名の種を何かしら研究していたようだしもしこの仮定が正しかったらダインからバルツィエが保有するヴェノムの主に関しての情報とそれに纏わる対策や方法、それとツグルフルフのような撃退手段があるかもしれない。ここはダインに素直に協力をしてもらうのが主討伐の遅れを取り戻せることに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかし本当にダインは俺達に協力してもいいのか………?そんなことをしたらダインはバルツィエを実質的に裏切ることになるのではないか?自らの居場所を投げ出すようなことをダインに頼んでしまってもいいものか………。いくら世界の危機と言えどその先に待つダインがブラムと一緒にいられる結末にはどうしても結び付かないのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「…………!

 

 

 ………何か……!

 

 

 来る………!」

 

 

 カオスがダインの申し出に色々と頭を悩ませているとダインが何かの気配を察知する。

 

 

カオス「………え?」

 

 

ダイン「………上………?」

 

 

カオス「上?」

 

 

 上と言われて上を見上げても空には澄み渡る青空と光照らす太陽しか見えない。何か鳥形のモンスターでも飛んでいるのだろうか?しかし例のグラビティでこのウィンドブリズ山が無くなったとしてもここはカオスが放ち続けたアイスニードルとアイシクルのせいで今も超低気温な気候がそのまま続いている。そのせいで通常のモンスターはこの付近から去っていった。今この近辺に飛んでこれるとしたらダイン達バルツィエか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムくらいしかいないと思うのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「クォァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・ダイン「!!?」

 

 

 突然上空から甲高い鳥類の声が響き渡る。本当にモンスターが飛来してきたようだ。だがいかに鳥類で恒温動物なのだとしてもこの気温でここに来れる筈が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と常識を確認している間にそれはどんどん空気を切り裂きながら接近してくるのが分かる。その存在は太陽を背にしてこちらに向かってくる。完全にカオスとダインに直進してくるのが見えた。

 

 

カオス「!?

 何だあれは……!?」

 

 

ダイン「鳥………?

 ………違う……、

 四足歩行のモンスター………?」

 

 

 太陽の光が邪魔をしてその姿を直視することは出来ないがシルエットから鳥のように翼を持つが鳥ではない何かがカオス達の元へと真っ直ぐに落ちてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれは遂にカオス達のいる地上へと急降下して着地した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その姿は正に鳥と獅子が合体したような姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「コァァァァァァァァァッッッッ!!!!」

 

 

 

 

カオス・ダイン「……!!!」

 

 

 その巨大な姿からは想像できない程に超高音で鳴くモンスター。その喉の奥から発せられる音は黒板を爪で引っ掻くような不快音で間近で聞かされれば耳を塞がずにはいられない程に奇怪な声だった。

 

 

 このモンスターは一体………?

 

 

ダイン「………」

 

 

 ダインはすかさずウィングバッグから何かを取りだしそのモンスターに向ける。スペクタクルズであった。先ずは今飛来してきたモンスターの情報を調べるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………グリフォン………。」

 

 

カオス「グリフォン………!?」

 

 

 ダインがスペクタクルズで読み取った情報によるとこのモンスターはグリフォンというらしい。

 

 

 ………グリフォン、

 

 

 その名前は一度アローネ達との話で聞いた名前だ。 

 

 

 確かグリフォンはカオス達が討伐しなければならないヴェノムの主のまだ未討伐だった個体の筈である。

 

 

 それが何故この場に………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリフォン「クルルルルル……!!!」

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

ダイン「何でグリフォンがここに来たのかは分からないけど……、

 うちらを食べに来たってことに違いなさそう……。

 

 

 だったら応戦するまで……!!」

 

 

 グリフォンが威嚇をし、それに応えるようにダインが臨戦態勢に入る。一人と一匹は互いにやる気らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがカオスは倒すべき敵を前にして完全に体が固まってしまっていた。

 

 

 このグリフォンはカオス達が倒さなければならない敵……。ここで逃げることは許されないしそれを許してくれる相手でもなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしここに来てまだカオスはトラウマを完全に克服出来てはいない。だというのにカオスはこの場ではこの敵を倒すのにカオスの魔術以外での殲滅が不可能だということを瞬時に理解してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで自分が魔術を使わなければならない………。

 ………けれど…………………。



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ダインとの共闘

ウィンドブリズ山跡地 ダインとの修練最終日

 

 

 

グリフォン「クォァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

ダイン「ハァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 ダインがグリフォンに向かっていく。ダインは完全にグリフォンを倒す気のようだ。グリフォンの方も元よりカオスとダインを獲物と見定めて舞い降りてきたのもあってかダインの咆哮に咆哮で返しその爪をダインへと突き刺そうと前足を伸ばす。

 

 

 それをダインは空中に飛び上がってかわし剣を抜いて、

 

 

ダイン「裂斬風!!」

 

 

 斜め四十五度の角度を維持した縦回転斬りでグリフォンの頭部目掛けて斬りかかる。ダインはグリフォンの脳天を切り裂きながら背中へと降り立ちそこから振り替えって首筋を一閃、

 

 

 普通のギガントモンスターであっても首筋を切り裂かれればその一撃で終わっていたところなのだがこのグリフォンは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリフォン「ォォォォォッ!!」

 

 

ダイン「!」

 

 

 頭部に二ヶ所の致命傷を負いながらももがいてダインを振り落とす。それだけでこの個体のグリフォンが通常のモンスターではないことが明らかとなる。やはり感染個体………そしてグリフォンと言うことはつまり………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達の目標討伐対象であることが間違いないことが証明された。この気温でも平気で突っ込んできたあたり薄々そうなのではないかと疑っていた。カオスはこの戦いを引くわけにはいかないようだ。

 

 

 だがカオスは動けず戦闘を続行するダインとグリフォンを見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

ダイン「………ヴェノムだね……。

 面倒な相手……。

 ワクチン使わないと倒せないか……。」

 

 

 カオスが動けずにいることを察してダインはグリフォンを一人ででも倒すつもりのようだ。ウィングバッグに手を突っ込み中からワクチンを取り出しそれを服用する。

 

 

 するとダインの纏うマナの様子が変化するのをカオスは感じた。

 

 

カオス「(…!

 ダインのマナが膨れ上がった……!)」

 

 

 この三日の間でカオスは他人のマナを感じとることが出来るようになっていた。それまではマナは微かに誰がどの程度保有しているかの程度を感じるぐらいだったがダインとの修行で他人のマナが顔や指紋のように人それぞれ“波”があるのだと知った。そしてその波には基本六元素のどの属性を得意としているのかも分かる。ダインは氷で対戦しているグリフォンは風………、

 

 

 この戦いは氷と風のぶつかり合いである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……!」

 

 

 ダインがまたグリフォンへと迫る。グリフォンもそれに対してまた爪を出してくる。

 

 

 と、ダインは今度はそれを飛び上がらずに横へとスライドして避け、

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 

 

 地面の氷を利用してダインが飛葉翻歩でグリフォンの回りを高速で駆け回る。その動きに撹乱されグリフォンは目でダインを捉えようとするがその前に、

 

 

ダイン「氷・魔神剣ッ!!」

 

 

 ダインが全方位から無数に氷の魔神剣を放つ。この攻撃はカオスがセレンシーアインでオサムロウに使用した連携と同じ。全方位から放たれる魔神剣の衝撃波はグリフォンにはオサムロウのように受け流すことは無理であろう。更にこの空気すら凍る気候で氷の属性を持った魔神剣は強化され氷がより大きく肥大化し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリフォンのその巨大が化石のように氷の中へと押し込められていく。グリフォンの体が完全に分厚い氷の中へと封じられ一切の身動きが取れないようになるまでダインは用心してグリフォンから氷の外までの間を厚くしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて氷の厚みが十センチぐらいになってからダインは手を止める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは勝負が着いたということか……?ワクチンを服用しての攻撃はヴェノムにダメージを与えられる。ダインが戦闘前に発言したヴェノムの主討伐を本当に有言実行して見せたのだ。

 

 

 カオスは内心魔術を使わずに戦闘が終了してホッと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………したのも束の間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と何かが弾けて割れるような音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その音の発信源は当然、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……気を付けて……!

 

 

 まだ終わっていないから……。」

 

 

 ダインの言う通りグリフォンを閉じ込めた氷に大きな罅が入っている。まだ生きているのだ。自分の一回りも二回りも大きく厚みのある氷をこの短時間で割ろうとしている。

 

 

 現在気温を測る術は無いがこの寒冷な気温の場所でよく自分を覆う力任せに割ることが出来るものだ……… 。そんなことを考える間にも氷はどんどんと軋みだし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリフォン「クォァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 

 時間にして約百秒前後。それがダインの氷でグリフォンを拘束できた時間だった。環境的にはダインの力が増幅され優位をとっているのにも関わらずこのヴェノムの主には氷は通用しなかった。

 

 

 そしてダインの服用したワクチンの効力も同時に切れたのをカオスは確認する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「逃げるよカオス……。」 

 

 

カオス「…!」

 

 

 ダインがグリフォンが動き出す前に瞬時にウィングバッグからレアバードを展開しそれに飛び乗りながらカオスを掴んで空へと舞い上がる。ここで撤退を選んだということはダインにはグリフォンを倒す手立てが無いということになるのか?それとも戦闘の激化でカオスを気遣ったか………。

 

 

 

 

 

 

 

 カオスとダインがレアバードで上空へと飛翔したのを見てグリフォンもその翼を羽ばたかせて舞い上がり二人を追ってくる。始めに空から降って来ただけあってやはり空を飛べるか。背中の翼は伊達じゃないということらしい。

 

 

 

カオス「ダイン!

 アイツ追ってくるぞ!」

 

 

ダイン「………カオス、

 伏せて。」

 

 

カオス「え?」

 

 

ダイン「追ってくるなら迎撃して撃ち落とす……!

 

 

 アイスニードル!!」

 

 

 ダインが放った数本の氷の針がグリフォンに迫る。それらの針はグリフォンに飛んでいき………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリフォンの体に刺さるがグリフォンは意に介さず追跡を続行する。グリフォンの体に対して氷の針が与えるダメージが小さすぎる。あれではろくにダメージが通ることなく飛行を妨害する努めすら果たしていない。それどころかアイスニードルを放つために一瞬後ろを向いて狙いを定めたせいでグリフォンとの距離が縮まっている。

 

 

カオス「ダイン…!

 グリフォンが近くに……!?」

 

 

ダイン「カオスはしっかりとうちに掴まってて……!!

 これからアイツを蒔くのに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ちょっと全力出すから……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………こうして二人と一匹の空での空中鬼ごっこが始まる。カオス達は無事にグリフォンから逃げおおせられるかそれともグリフォンに捕まりその腹へと二人仲良く納められるのか………。                    



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活かせなかった機転

ウィンドブリズ跡地 ダインとの修練最終日 上空

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「アイシクル!!」

 

 

 

 

グリフォン「クォァァァァァァァァァァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリフォンとカオス・ダインの二人が遭遇してから四十分が経過する。早々に二人にはグリフォンを倒す術が無いのだと悟りダインはカオスを連れてレアバードで空に逃げそれを追ってグリフォンもその翼で飛びあがり追跡してくる。そこから戦闘行為よりも長い鬼ごっこが始まり三十分にも渡ってグリフォンを撒こうとひたすら飛び回るが一光にグリフォンの追跡を撒くことが出来ないでいる。

 

 

 グリフォンは飛行型の生物なだけあって空中での方向転換が巧みだ。こちらがフェイントを挟んで撒こうとしてもそのフェイントが逆に距離を縮める結果となる。

 

 

 対してダインとカオスが乗るレアバードは直進での飛行はグリフォンよりも早いが多少距離を引き離して身を潜めたところでグリフォンの千里眼のような目は直ぐに二人を見付けて再度空での逃亡を余儀無くされる。レアバードは火の魔術が発動する術式でも積んでいるのか後ろから炎が上がりそれの勢いで空を飛ぶ。これだとグリフォンのように方向転換をしようとするときは微妙に操作に工夫が必要なのかどうしても大回りで旋回することになる。そのことも含めてグリフォンとの距離が離れたり近付いたりを繰り返している。

 

 

 

 

 故にダインは飛行の合間に魔術で迎撃してグリフォンを撒こうとするのだが、

 

 

カオス「ダイン!

 どうしてこの辺りから離れないんだ!?

 この辺りから離れればどこかの森とかで隠れられるんじゃないか!?」

 

 

ダイン「………」

 

 

 ダインがレアバードを何故かこの寒冷地帯の上空でしか飛ばさない。直進での速度ならこちらが勝っているのなら直進してグリフォンから見えない距離まで引き離し後はグリフォンが見失ってくれるくらいの視界を阻めるようなポイントを探した方が堅実的である。

 

 

 しかしダインは、

 

 

 

 

ダイン「今うちの魔術がグリフォンを本の少し時間を稼げているのはこの寒さでうちの魔術が増幅されてるから……。

 この近辺から離れればうちの魔術はあのグリフォンに効かなくなる……。

 だから……、

 この辺りから離れることが出来ない……。」

 

 

カオス「!」

 

 

 今この状態が維持されているのは地形がカオス達に味方をしているからだ。この地を離れるということは地の利を自ら捨てるということ。もしここのような寒冷地帯から離れてグリフォンに見つかるようなことがあればダインの魔術は威力を大きく落とす。この地の利を利用して勝てない相手にそんな場所で戦闘になればいくらダインでもグリフォンに勝つことは難しくなるだろう。

 

 

 かと言ってこの地にあるのは超低気温で枯れた木々や氷の凹凸くらいなものである。こんな場所であの目がいいグリフォンを撒くことは困難だと思われるが、

 

 

 

 

カオス「なんとかしてあのグリフォンを飛べなくするしかないか……。

 でもアイツが飛ぶのを止めるとしたら俺達が地上に降りた時だけだし……。」

 

 

 地上での駆け合いならカオスもダインもグリフォンを引き離せる。だがそれをして距離を稼ぐとグリフォンはまた空からカオス達を追ってくる。先程から何度も試みているがグリフォンから逃げ切ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてもう一つ気掛かりなことがある。

 

 

 

 

カオス「……ダイン、

 何でさっきから単発的な弱い魔術と魔技でしか迎撃しないんだ……?

 ダインなら二日前に見せたようなあの……、

 追撃とか強い魔術があるじゃないか……?」

 

 

 上空でのグリフォンの迎撃にダインはアイスニードルとアイシクルの単撃でしか応戦していない。ダインの持つ攻撃手段には追撃の他にももう一つバルツィエ達と戦う度に見せるあの収束した強い魔術があった筈だが、

 

 

ダイン「……インブレイスエンドはこのレアバードで乗りながらは撃てない……。」

 

 

カオス「何でだ?

 セレンシーアインじゃランドールが普通に撃ってきたけど……。」

 

 

ダイン「あの時はランドールは操縦者じゃなかった……。

 

 

 このレアバードは操縦者のマナで浮いている……。

 うちのマナは迎撃とこれを飛行させてるのにも使ってるの……。

 もしうちの“バーストアーツ”なんか使ったらレアバードを浮かせてられるマナが一気に無くなっちゃう……。」

 

 

カオス「………」

 

 

 バルツィエが使っているあの追撃を一点に集中する技はバーストアーツと言うのか……。

 

 

 しかしマナの消費を気にしてこの膠着が続いているのならカオスがマナを補えばいい。他人にマナを譲渡する術はアローネ達との旅で習得した。確かチャージとかいう魔術の一種らしいが……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがダインにマナを送り込むだけではこの追跡が無駄に長引くだけだ。だったらダインが迎撃に集中できて尚且つマナを気にしないで済む方法、それは……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ダイン!

 一旦地上へと降りよう!」

 

 

ダイン「?

 どうするの……?」

 

 

カオス「地上に降りる前に今から俺がダインにマナを送り込めるだけ送り込む!

 それから……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がレアバードを運転する!!」

 

 

 カオスは無謀な賭けを提案する。

 

 

ダイン「カオスが……?

 でも運転したこと無いでしょ……?」

 

 

カオス「運転したことは無いけど……!

 ダインにここだ会ってから何時間もダインの操縦するところは見てきた!

 俺のマナなら底無しだからいくら飛んでも飛び続けられるしダインもアイツに集中して攻撃できるしあのインブレイスエンドも使い放題だ!

 

 

 それならなんとかあのグリフォンを撒くことも出来る筈だ!!」

 

 

ダイン「………」

 

 

 理屈の上ではこれが最善の逃避方法だろう。ダインがレアバードに乗りながら全てを賄うよりかはカオスと各々が役割を分担してグリフォンと対峙するのが懸命である。ダインが操縦してカオスが後ろに捕まっているだけではダインの負担が大きすぎる。だからカオスは魔術を使えない分ダインの負担を和らげてあげようと必死だった。

 

 

ダイン「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 分かった……。

 じゃあ一分後に交替する……。」

 

 

カオス「あぁ!!」

 

 

 ダインはカオスの提案に乗ることにする。ダインが物分かりがいい性格で良かったと切に思う。これでこの状況を切り抜けられる糸口が見えた。カオスはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 惜しむらくはカオスが機転を利かせて思い付いたこの最善と思われた計画に分かっていた筈の落とし穴があることに気付きさえすれば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「後十秒……、

 それで一秒でカオスにハンドルを渡す……。

 用意はいい……?」

 

 

カオス「あぁ!

 いつでも大丈夫だ!!」

 

 

 ダインはカオスと操縦席を交替するためにレアバードを急降下させる。そしてカオスもレアバードが着地次第どういう運転でまたグリフォンの追跡になるかをイメージした。頭の中にあるイメージでは交代後に素早くまた上空へと戻ることがこの作戦の重要なポイントだと思う。

 

 

 着陸したら全力でまた飛び上がらねば……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてレアバードが着陸した瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「カオス!!」

 

 

カオス「分かってる!!

 

 

 一気に………!!!?」

 

 

ダイン「キャッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはレアバードから空かさずダインと位置を交換してダインが操縦していたようにハンドルを握り急発進をする。ダインが操縦していた様子を見る限りだとレサリナスからダレイオスに渡るときに体験した乗馬に比べて簡単そうだと思っていた。馬のように意思を持たずマナを込めて自らが操作するだけならカオスでも操縦出来ると錯覚していた。

 

 

 だがダインが操縦していたレアバードは単純にマナを送り込めば進むのだがカオスが急いで込めたマナはダインの数十倍から数百倍以上。そんな多量のマナを込めてレアバードを運転しようものならレアバードは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発的に加速してしまい瞬間的に発生した空気の壁に二人は衝突してレアバードから振り落とされる。レアバードを操縦するにしても感覚だけは掴んでおくべきだったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダインの操縦を見ていただけではレアバードが操縦しやすい乗り物だと思ってしまうのも無理はない。カオスはダインが運転するのに慣れていて二人乗りをしていてもレアバードがあまり揺れるようなことが無かったため自分でも操縦出来る代物なのだと見謝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで漸くダインのレアバードの操縦スキルが高いのだということと自分が乗り物に関して相性が極端に悪かったことを思い出すカオスであった………。



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彼女だけは………

ウィンドブリズ跡地 ダインとの修練最終日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ぅ………ぐっ………!」

 

 

ダイン「……ッ………!」

 

 

 勢いよくレアバードから投げ出されて氷に叩き付けられる二人。レアバードはカオスのマナを吸収し高速で遠くの方まで滑っていく。

 

 

 必然的な急発進ミスで二人は氷に叩き付けられた痛みでしばし悶絶する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その間にもグリフォンは迫ってきておりカオス達に向かって突撃してきて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 押し潰さんばかりに頭上から二人をその前足で捕らえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うぁ…!?」

 

 

ダイン「はぅ…!?」

 

 

 

 

グリフォン「コァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 長い追跡の果てに漸く捕らえたことが嬉しいのかグリフォンはまた甲高い声で鳴き声を上げる。ヴェノムに感染してゾンビになっているというのにまるで感情があるかのように叫ぶグリフォン。

 

 

 二人にとってこの状況は正に絶体絶命のピンチであった。

 

 

カオス「(……俺が馬鹿な作戦を思い付かなければこんなことには……!!)」

 

 

 カオスは心の中で後悔する。こうしてグリフォンに捕らえられたのはカオスが無理な作戦を推したからだ。もっとよく考えて行動していれば自分だけでなくダインにまで怪我をさせただけでなくグリフォンに捕まることもなかったのに………。

 

 

 カオスはダインの様子を伺おうと首だけを動かしてその方向を見る。ダインは苦しそうにもがこうとするが完全にグリフォンの前足に体全体を押さえ付けられ身動き一つ取れないようだった。それでも顔と指くらいなら前足からはみ出ていたためダインはそれをカオスの方へと向けて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「アイスニードル!!」

 

 

 カオスの拘束だけは解こうとダインがアイスニードルを飛ばしてカオスを押さえているグリフォンの前足に突き刺す。ゾンビに痛みは無いのだろうが気候で強化されたアイスニードルの圧力で凍った大地に前足を滑らせてグリフォンは大きく仰け反る。それのお陰でカオスは滑らせた前足に押し出される形で拘束が解ける。拘束が解けたのなら次はダインを助け出さなければいけないが………、

 

 

 

グリフォン「クルル………。」

 

 

ダイン「ぐぅ……!!」

 

 

 ダインを拘束していた方の足は残念ながらダインを拘束したままだった。バランスを崩したのはカオスを拘束した側だけだったのだ。

 

 

 ……何か手はないか………。ダインを救い出せる方法が………。このままではダインがグリフォンに捕食されてしまう。それをどうにかする手立ては………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………とカオスが方法を模索していると先程レアバードに振り落とされた衝撃で鞘から抜けたのかダインの剣が近くに転がっていた。魔術を“発動出来ない今”、カオスにはその剣が降って湧いたような丁度よくダインを救い出せる唯一の方法に思えた。カオスはその剣を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「逃げ……………て、

 カ…………オス……。」

 

 

カオス「……!」

 

 

 カオスは剣を手に取ろうとしたがグリフォンに押さえ付けられているダインからそんな言葉を掛けられた。

 

 

 

 

 ………逃げろ……だって………?

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…何言ってるんだよ………。

 ダインを置いて逃げることなんて出来るわけないだろ!

 逃げるなら一緒にだ!

 今すぐそこから助け出してやるから待ってろ!!」

 

 

ダイン「大………丈夫………、

 うちは……平気……だから……。」

 

 

カオス「全然平気そうになんて見えないぞ!?」

 

 

 辛そうな顔で平気なんて言われても説得力に欠ける。

 

 

 ダインはカオスだけを逃がしてグリフォンに………そんな心情がダインの様子から窺える。だが自分の下手な作戦のせいでダインが捕まっているというのに自分だけ逃亡を謀るのは倫理的に人としてアウトだろう。カオスは逃げるのだとしてもそれはダインを助け出してからだ。幸いにもダインの剣が手元に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手元に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手元にあってその後どうする……?また先程のように逃げ回るのか?それではずっとダインに引っ張ってもらってばかりで余計ダインを消耗させるだけではないか。

 

 

 

 

 

 

 そもそも自分は何をしにここへ来た?何をしにここへ来て今まで何をしていた?この剣をとる前に自分には他に武器があっただろう?何故その武器を取らなかった?その武器を取らなかったからこそ今こうして目の前でダインがグリフォンに捕まっているのではないか。

 

 

 

 

 

 

 何故自分は自らの武器で戦わず人の力や武器を当てにして戦おうとしているんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………自分は………何故戦わなければならないんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………そんなこと決まっている。

 

 

 大切な人達を守りたいからだ。

 

 

 大切な仲間や友人を守りたいために戦っている。

 

 

 そのために今日まで剣を振り続けてきた。

 

 

 

 

 今自分の目の前では何が起こっている?

 

 

 自分が率先して倒さなければならなかった敵とそれを相手にしている同じく敵の女………。

 

 

 普通だったら敵と敵が戦っているのなら放置して逃げるのが当然だろう。

 

 

 敵が潰しあっているのならこれを放置して逃げるのが得策ではないか?

 

 

 そうすれば忌まわしい恐怖の記憶を呼び覚ますことなく敵が敵を喰らっている隙に自分はどこか安全な場所に避難出来るだろう。

 

 

 恐らくあのグリフォンは直ぐにまた自分を見付け出すだろうが敵が一人と一羽から一羽だけに減る。

 

 

 自分だけならどうにか逃げ切ることが出来るかもしれない。

 

 

 態々自分が敵のために武器を振るうことなど馬鹿のやることだ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………そう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は馬鹿なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この短い期間でダインのことをもう敵として認識出来なくなっていた。

 

 

 ダインは仲間………ではないが彼女のことを親しく思えるほど俺はダインのことが人として好きになっていた。

 

 

 彼女は、

 

 

 なんとしても助けたい。

 

 

 ダインはバルツィエだけど他のバルツィエ達とは違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダインだけは……………バルツィエであっても絶対に死なせたくない!!



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過去の始まり

秘境の村ミスト 十年前事件当時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村人一「………一体何が起こったんだ………?

 今の光は何だったんだ………?」

 

 

村人二「アルバさんとアルバさんとこのガキがあのスライムの化け物どもに喰われたと思ったら急に………。」

 

 

村人三「!!

 スライムの化け物が……!?」 

 

 

村人四「!

 スライム共が消えた……!?」

 

 

村人五「さっきまですぐそこまで押し寄せてきていたのにどうなってるんだ……!?」

 

 

村人六「まさか今の光で……消滅したのか………?」

 

 

村人七「あの力は………何なんだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

村人一「!

 アルバさんとこの子がまだ生きてるぞ!」

 

 

 

 

村人三「!

 本当だ!

 

 

 おいッ!

 大丈夫かしっかりしろ!」

 

 

村人四「ちょっと待て!

 ソイツに触るな!!

 さっきあのスライムの化け物に覆い被さられてたんだぞ!?」

 

 

村人三「え!?

 ……うっうわ………!?」

 

 

ドサッ…!

 

 

カオス「………」

 

 

村人二「おっ、お前………、

 感染しちまったんじゃ………!」

 

 

村人三「待て待て!?

 俺はどうもなってないぞ!?

 触ったのは一瞬だったし感染してなんかいない!!」

 

 

村人五「でもその子に触ったんなら……。」

 

 

村人三「感染してないって言ってるだろ!?

 その子だって触った感じ普通の肌をしてたぞ!?

 

 

 それに俺なんかよりも他にさっきスライムに襲い掛かられてた奴の方が………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

村人六「…………えッ………?

 ……サリー………?

 サリーは………どこに行ったんだ………?」

 

 

村人七「しっ、知るか………!

 そこら辺にでもいるんじゃないのか!?」

 

 

村人六「そこら辺にいないから聞いてるんだろうが!!

 おいっ!

 誰かサリーがどこに行ったか知らないか!?

 さっきまで俺の直ぐ後ろに………!」

 

 

村人二「サリーだけじゃない!

 ビートもいないぞ!?」

 

 

村人四「ネスは………!?

 ネスはどうしたんだ!?

 あの光が光るまでは俺の隣で俺の手を握っていたんだぞ!?

 それがどうして光が消えたらスライムと一緒にネスも消えちまうんだ!!?」

 

 

 

 

村人一「………」

 

 

 

 

村人二「もっとよく探そう!!

 他に消えた奴等はいないのか!?

 他にまだ生き残ってる奴達にもこのことを話して手分けしていなくなった奴等を探そう!!」

 

 

村人三「おっ、俺は村長のところに行ってこのことを話してくる!!

 

 

 そもそも今回のこの突然のスライムがどうして起こったかも検討を着けないとまた次奴等が押し寄せてきたら全滅は確実だ!!

 一度生き残ってる全員を集めて対策会議をしよう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……………………おじいちゃん……………………。」

 

 

 

 

 

 

村人一「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長「………生き残っているのはこれで全部か………?」

 

 

村人一「はい………。」

 

 

村長「そうか………。

 随分と減ったな………。」

 

 

村人一「……それよりも村長………。

 今回のことは一体何が発端になったと思われます……?」

 

 

村長「………そのことについてだが………、

 先日調べて分かったことなのだが実はこの村の守護神、殺生石がその力を失っていることが判明した………。

 今回の事件はそれによって村の外に生息していたとされるあのスライム達がこれまでは殺生石の加護で侵入を阻めていたのだがそれが無くなり今回の事態を招いたのだと推測できる……。」

 

 

村人一「殺生石が……!?」

 

 

村人二「じゃあまたあのスライム達がこの村に襲いに来るかもしれないってことですか!?」

 

 

村長「その線も無きにしもあらず………。

 またあれらが襲ってきたとしたら今度こそ全滅は免れられん………。

 そうならないためにも一度外界との連絡を諮るのが我等に取れる最後の手段であるな……。」

 

 

村人三「外界との………?

 !

 まさか…!!

 また王国の統治下に入るって言うんですか!?」

 

 

村長「そうする他ないだろう。

 私達にはあのスライムをどうにかする方法を知らない。

 アルバが死んでしまった以上あの存在を詳しく知るものはここにはいないだろう。」

 

 

村人四「しかし…!!」

 

 

村長「皆が懸念することも私はよく理解している。

 しかし村長としてこの村の皆を守るためにはもうそれしか無いのだ。

 殺生石という絶対の守りの力が無くなった以上私達はどうしても他の者の助けがいる。

 

 

 この村の存在をレサリナスへ使いを出して報告するべきなのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

村人五「………………どうしてこんなことに………!」

 

 

村人六「大体何で殺生石が急に力を失ったんだ……!?

 最近まではちゃんと機能していたんじゃないのか!?

 何が原因で殺生石は……!!

 そんな徴候全然無かったじゃないか!?」

 

 

村長「残念ながら殺生石が力を失う徴候はあった。」

 

 

村人七「何ですって……!?」

 

 

村長「最近の話ではなく数年前辺りからこの村の周囲に生息するモンスターの数が激増していたことが警備隊の調査報告で分かっていた。

 この村が建ってから今日まではそういった波の傾向が度々起こってはまた戻ることが何度もあったので自然界の気紛れなのだと思い深く受け止めることなく過ごしてしまった。

 

 

 だがその波が今年に入って例年の数倍にも膨れ上がったことから事態が緊迫したのを察し殺生石を調べた結果殺生石が機能不全を起こしていることが分かった。

 それに気付いたのはつい先日のことだ。

 その時にはもう既にあのスライム達がこの村に忍び寄っていたのだろう……。」

 

 

村人六「気付いた時には手遅れだったってことですか………。

 それでこんな被害を出す結果に………。」

 

 

村人二「……殺生石を管理していたのは村長!

 アンタだろ!!

 何で定期的に殺生石のことを調べておかなかったんだ!!?

 もしアンタがもっと早くに気付けていれば取れる手は他に沢山あったんじゃないのか!!?」

 

 

村人一「止せ!

 村長に当たるんじゃない!!」

 

 

村長「よい……。

 私が一番側にいながらその変化に気付くことが出来なかったのだ……。

 今回の一件の犠牲は全て私の監督不行きが出してしまったのだ……。

 謝って済むことではないが私の責任だ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 済まぬ………。」

 

 

 

 

 

 

村人達「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長「……では村の再建と共に近場の街にこのミストの所在の書類を作成して提出しにいくとする。

 ……またスライムが森にいるとも限らんし皆にはここで村の整理をしていてほしい。」

 

 

村人三「!

 まっ、待ってくれ村長!?

 まだ国にこのミストのことを伝えるのは早計じゃないか!?

 さっきの光でスライム達は全部いなくなったんだ!

 あの光が何だったのかはまだ分かっていないがスライムがいなくなったんならそれで今まで通りでいいじゃないか!?」

 

 

村人五「そうですよ!!

 今俺達がやるべきことはスライム達の再襲撃に備えることとまだ見付かっていない行方不明者達を見付け出してまた自分達でこの村を守っていくことだけでいい筈です!!」

 

 

村長「……皆には悪いがもうこの件は私達だけでは手に余る事だ。

 私達だけでは次のスライムの襲撃は防ぎきれん。

 皆の命を預かる身としてここは国の統治下に戻る他ないと言わせてもらう。」

 

 

村人六「そんな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村人一「待ってくれ村長。」

 

 

 

 

 

村長「……他に何か言いたいことがあるのか……?」

 

 

村人一「……今回の件は我々も村長の意見は正しいとは思う……。

 村長の言う通りここは王国の統治下に入るのも仕方ないことだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがその前に一つだけハッキリとさせないといけないことがある。」

 

 

 

 

 

 

村長「………何だ………?」

 

 

村人一「………今度起こった殺生石の加護が消失してしまった件はどうにも腑に落ちない………。

 何故突然殺生石が力を失ったか………。

 村長の話ではそれは数年前から発生していたと分かっているんだよな………?」

 

 

村長「………その通りだ………。」

 

 

村人一「数年前から殺生石は力を失っていた………。

 数年前………、

 その時にはまだ確かに殺生石は力を失ってはいなかった………。

 数年前に何が起こったか………?

 

 

 数年前………と言うと殺生石の絶対的な力に対して唯一の例外が発生した時期じゃなかったか?」

 

 

村人達「!!!?」

 

 

村長「!

 それは………!?」

 

 

村人一「………あの事件はまだ皆の記憶にも浅いだろう………。

 触れれば絶対にその者を死に至らしめる殺生石がただ一人だけ殺すことが出来なかった者がいる………。

 この村ではその“少年”のことを奇跡の子と呼んで讃えていたがもしや今回の事件は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいるアルバさんとこの子供が原因なんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」



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カオス追放

秘境の村ミスト 十年前事件当時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………!!

 

 

………!?

 

 

………!!!

 

 

………ッ!!

 

 

………!?

 

 

………!

 

 

………

 

 

…………!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………大人達が何か言い争いをしているのが聞こえる。けれどその内容なんて聞ける元気がない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ついさっきおじいちゃんが目の前で死んだ………。

 

 

 お父さんとお母さんが死んでからずっと一緒だったおじいちゃんがさっき………。

 

 

 おじいちゃんは最後までよく分からないことを言っていた………。

 

 

 バルツィエが変えられるだかどうだとか………。

 

 

 おじいちゃんには謎が多かった………。

 

 

 おじいちゃんから聞いた話とクレベストンが話していた内容の食い違い………。

 

 

 おじいちゃんが騎士であったことは確かだったようだが何か僕も知らないことを隠していた節があった……。

 

 

 おじいちゃんは何で騎士を辞めたんだろう……。

 

 

 騎士を辞めて何でこんな村に来たんだろう……。

 

 

 それを確かめる術はもうない。

 

 

 それを確かめられる人はもう………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死体すらどこかに消えて………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………?

 

 

 何だか回りが急に静かになって……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいッ!!

 

 

 このクソガキがっ!!」

 

 

 そんな人聞きの悪い悪口が自分に投げ掛けられた気がして顔をあげる。そこには………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村人達「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 憤怒の表情で自分を見詰める多くの村人達の眼差しがあった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村人一「お前が………、

 ………お前が殺生石から村を守っていた力を盗んだのか………!」

 

 

カオス「………?

 ………力を………盗んだ………?」

 

 

村人二「お前がさっき放った光………!

 ………あんな光を放つ魔術は聞いたことがない………!

 だけどあの光はあのヴェノムとかいうスライム達を追い払った……!!

 間違いなくあの力は殺生石が持っていた力だ!!」

 

 

カオス「……ちょっと………何のことをいっ「惚けるんじゃない!!」ヒッ…!?」

 

 

村人三「お前が五年前!

 最後に殺生石に触ったのは皆知ってるんだよ!!

 その時にお前が殺生石の力を奪ったんだ!!

 そのせいで村がこんなことになったんだよ!!

 全部お前のせいだ!!」

 

 

カオス「……!?」

 

 

村人四「お前……!!

 今までその力を奪ったことを隠してたんだな!!

 魔術が使えないフリしてそんな強い力を独占して…!!

 お前が殺生石を止めたせいでどれだけの人が死んだと思ってるんだ!!?」

 

 

カオス「…そんな………僕は何も知らない………。」

 

 

村人五「殺生石の力を返せよ!?

 あの力がないとまた村にあの化け物達がやって来るだろうが!!?

 ほらッ!!?

 さっさと返しやがれ!!」

 

 

カオス「うあっ!?

 何するの!?

 止めてよ!!?」

 

 

 村人達がカオスを口攻めにした挙げ句突き飛ばしてきた。子供のカオスは大人達のその暴行に恐怖でなすがままにされるだけしか出来なかった。

 

 

村人六「殺生石の力だけじゃない!!

 あのスライム達と一緒に消した連中もお前が生き返らせろ!!

 お前が殺したんだろ!!?」

 

 

カオス「ぼっ、僕は………!?」

 

 

村人七「子供だからってやっていいことの限度があるだろうがッ!!?

 盗むにしても村の大切な守り神の力を奪うなんてあまりにも最低なことだ!!

 どうするんだよ!!

 お前のせいでまたこの村が昔のように王国のお偉いさん達の監視下に置かれることになるんだぞ!!」

 

 

カオス「…!?

 だっ、だって………僕はそんなこと言われても……!!?」

 

 

 大人達は本気でカオスに対して怒気をぶつけてくる。今までこんな状況に陥ったことはない。数日前まで村で一緒に過ごしてきた大人達からの集中的な攻め口と暴力でカオスは怯む一方だ。

 

 

 “どうしてこんなことをされるのだろう…?自分はこんなことをされる覚えが無い。自分はただ祖父が死んでうちひしがれていただけだと言うのに先程から大人達が言う光とは何のことだ………?”

 

 

 

 

 

 

 自分ではこの状況を打開する案が出ない。なので回りを見渡して自分の味方になってくれそうな大人を探し………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村長と目があった。カオスは村長に助けを求めようと必死に声を張り上げようとするが回りのカオスに暴行を加える大人達に空くんで喉から声が出せない。

 

 

 しかし自分が助けを求めていることは見ているのなら伝わっている筈………。なんとか村長に助けてもらおうと視線を送るが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……ェッ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その甲斐虚しく村長は視線を反らしてしまう。視線を反らす際、村長は歯痒そうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この村にカオスの味方はいないらしい。

 

 

 何故自分は今こんな目にあっている?

 何故自分が殺生石を停止させたのだと疑われる?

 

 

 自分は何か悪いことをしてしまったのか?

 そんな記憶は無い!あのスライムの化け物共が襲ってきた時だって村を駆けずり回って皆を安全な場所へと誘導した。それなのに何故責められる!!?

 

 

 カオスは大人達の暴行にあいながらもだんだんと大人達に対して腹が立ってきて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無意識の内に魔術を発動させようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村人達「!!?」

 

 

 

 

 

 

カオス「……何でだよ………。」

 

 

村人一「こいつ……!?」

 

 

村人二「またさっきみたいな力を使うつもりだぞ!!?」

 

 

村人三「下がれ!!下がれぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

村人四「そいつに近付くな!ぶっ飛ばされるぞ!!?」

 

 

村人五「やっぱりこいつが殺生石の力を………!!!?」

 

 

村人六「いっ、急いでここから離れろ!!!」

 

 

村人七「うわぁぁぁ!!!」

 

 

 

 カオスに暴行を加えていた大人達がカオスから離れていきそのままカオスは取り残されてしまった。カオス以外にそこに残ったのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村長だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……アイツらァァァッ!!!」

 

 

 散々殴ったり蹴り飛ばされたりされたせいでカオスは頭に血が登りだした。普段から苛めを受けることに慣れていたカオスであったが今回の苛めは何故自分が苛めを大人達から受けたのか理由が分からなかった。分からないままに難癖を付けられて暴力まで奮われてその曲突然どこかへと去っていった。

 

 

 カオスは感情の抑えを抑えきることが出来ずに先程暴力を奮ってきた大人達に仕返しにしに行こうとして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長「カオス……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村長に呼び止められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「村長………、

 さっきは何で助けてくれなかったんだよ……。

 僕が理不尽な暴力を受けていたのに……。」

 

 

 呼び止められたからには話があるのだろう。その話を聞く前に先程何故村長は自分を無視したのかを聞くことにした。いつもだったら村長は村の子供達から苛められていたらその子供達を叱って苛めを止めてくれていたのに……。今回は苛めの相手が大人だったから村長も口を出しきれなかったのか?

 

 

 

 

 

 

 そんなことを考えていたら村長は口を開いてこう言った………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長「………カオス………、

 私ではもうお前を守ってやることが出来なくなった………。

 ………お前は直ぐに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この村を出ていきなさい………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………………………………………………………………………………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………え?」



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一人の戦い

ミストの森 十年前事件当時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何で僕は村長から村を追い出されたんだろう……?

 

 

 僕が何をしたって言うんだ………?

 

 

 僕は………あのスライム達が村を襲いに来て………、

 

 

 いち早く村の人達の救助活動に貢献していたんだぞ………?

 

 

 それなのに何で………?

 

 

 どうしていきなりおじいちゃんを失なっただけでなく僕の居場所すら無くなってしまうんだ………?

 

 

 あのヴェノムとかいうスライムが襲ってきてから分からないことだらけだ………。

 

 

 おじいちゃんはおじいちゃんで素性を偽っていたしそれを説明しないまま死体ごと何処かへ消えちゃうし………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの突然の光が光ってから訳が分からないこと続きだ。

 

 

 もう僕はどうしたらいいんだ……?

 

 

 このまま当てもなくこの森をさ迷うしか無いのか……?

 

 

 村長に出ていけと言われて放心したまま出てきちゃったけど出ていくにしても家で何の準備もしないまま出ていくのは不味かったな。この先どうやって食べていけば……… 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………きっと皆何か勘違いしてるんだろう。僕が原因であのスライム達が襲ってきただとか殺生石の力を僕が盗んだだとか言ってたが僕は何か特別な力を得たような感覚はない。むしろ殺生石の力を奪うどころか奪われたとまで言える。そんな僕が何であんなに痛め付けられなければならないんだ。僕にそんな力があったんならもっと早くにその力を操ってザック達をコテンパンにしていたことだろう。それが出来なかったと言うことは僕にはそんな特別な力なんて無いと断言できる。僕を痛め付けてきた大人達も後で間違っていたことに気付いて謝ってくることだろう。その時はどうしてやろうか?かなり痛いものを貰っちゃったからなぁ………。なん十倍にもして返してやらないと気が済まないが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一先ずは家に戻りたいな………。

 

 

 おじいちゃんと僕だけの家に………。

 

 

 放心していたところにあの罵声や暴力が飛んできたものでおじいちゃんのことを忘れていた。

 

 

 おじいちゃんは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前が殺したんだろう!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな馬鹿なことあるわけないじゃないか。僕がおじいちゃんや村の消えた人達を殺しただなんて………。自慢にもならないが僕は村でも最弱………に近い程度の能力しかない。ザックとかその辺りになら工夫すれば勝てるくらいなものだ。そんな僕がどうやっておじいちゃん達を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃん達を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここでやっとおじいちゃんが本当に死んだのだと思い出した。ショックなが続いておじいちゃんのことが頭の中からスッポリ抜け落ちていた。おじいちゃんが死んでまだ一日も経っていないというのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも不思議とおじいちゃんが死んだということに実感が持てない。おじいちゃんは凄く苦しそうにしてはいたがあの光がおじいちゃんをどこかへと消し去ってしまった。

 

 

 もしかしたら………あの光の正体を掴めたらおじいちゃんにもう一度会えるのではないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんか希望的観測におじいちゃんの生存を願っていると木陰から何かが飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…誰!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルフ「グルル………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木陰から現れたのは野生のウルフだった。このミストの森には普通に見掛けるモンスターでボアなどを狩って食料にしているモンスターで当然エルフ等の子供でさえも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルフ「ガァッ!!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 捕食対象だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うわっ!?」

 

 

ウルフ「ガブ!!」

 

 

 ウルフはカオスに噛み付いてくる。ウルフの牙は鋭くエルフの子供の体などあっという間にパンを食いむしるように千切りとられてしまうだろう。カオスもその獰猛そうな口から覗く犬歯に驚き咄嗟に上へ逃れようと間近にあった木に飛びつき上に登った。こういう時魔術を使えずに育ったカオスはこうした木登りくらいしか遊びが思い付かなかった自分の特技にもしこの場にいたのが他の子供達だったら今の瞬間にウルフに殺られていただろうなと自分の特技で助かったことに少し優越感を感じた。

 

 

 それでも他の子供達であったのならこのようなモンスターの森に放り出されることなど無いのだが……、

 

 

カオス「へっ、………へへへ!!

 こっ、ここまで登って来れるもんなら登って来てみやがれ!!」

 

 

 木の下の様子を伺ってウルフが木に登ってこれないことが分かるとカオスは調子に乗ってウルフを挑発する。野生のウルフに人の言葉は理解できない。森の中でウルフに遭遇した場合下手したらそのウルフは群れで行動している時が多いのだがこのウルフはどういう訳だか単独でカオスを襲ってきた。村を理不尽に追い出されたことの怒りと理不尽に襲ってきたウルフと対峙して安全圏を取れたことでカオスの気が大きくなっていた。だから安易にこのような挑発もしてしまったのだろう。ウルフはカオスの挑発に吠えて返すようなことはしなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その代わりに突然下からカオスを見上げていたウルフの体が溶け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェノム「シュゥゥゥゥゥ……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如襲い掛かってきたウルフは先日から先程まで村を襲ってきたスライムの化け物の一匹であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのスライムの化け物はカオスを捕食しようとカオスの登った木に触れて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木を腐蝕させながらカオスの元へと登って来ようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うっ、うわ、こっち来るな!?」

 

 

 そんな言葉が通じる筈もなくスライムは徐々に木を登ってくる。犬型のウルフの時には登ってこれなかったようだがスライムの形態になったらみるみる内にカオスのいる木の上方へと迫ってくる。カオスはそれを見て逃げることしか出来なかった。無論カオスがいるのは木の上で逃げるとしたらより高い位置にだ。

 

 

 だが木の上に逃げた所で木の高さは無限に上へと伸びている訳ではなく限界の高さにまで逃げた所でカオスは自らの失敗に気付いた。

 

 

カオス「(どっ、どこにも逃げ場がない!?)」

 

 

 先日から顔を合わせている相手にも関わらずこのスライムの化け物について分かっていることは“出会ったら逃げろ、それか消滅するまで時間を稼げ”ということしか判明しておらず魔術を使えないカオスはこのスライムから逃げることだけを考えていた。だからこそ瞬間的に体がスライムのいる木の下の方向とは真逆の木の上に向かって逃げてしまったためカオスは自ら自分の退路を絶ってしまった。よく冷静になって考えられていたらスライムに変身したところでスライムと木を挟んだ逆の方向の地上に飛び降りて逃げられたかもしれないが時既に遅くカオスもスライムももう木の半分以上上へと登って来てしまった。後に想像できるのはカオスがこのまま木の頂上でスライムの化け物に捕らえられてしまうことだけだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシミシッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな音がカオスのいる木の頂上付近からスライムの奥の木の下の方から聞こえてきた。よく見たらスライムが木を腐蝕させて登って来たため木の根元の部分が今にも崩れそうな具合に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、崩れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「へっ!?

 ………わっ、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スライムの化け物が木を腐蝕させて登って来たせいでカオスとスライムが登って来た木は直立に支える力を失いそのままカオスとスライムは地面へと木ごと倒れ込んだ。



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目覚めた力

ミストの森 十年前事件当時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドシーン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな大きな音を建ててカオスとスライムの登っていた木は倒れた。カオスはスライムから逃げるために意図せずして念願の地上へと辿り着くことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし幸運と不幸は同時に起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒れた木の………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 下敷きになって身動きが取れなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「はっ、!………ぅぁ………!!?」

 

 

 木が倒れる際、木に生えていた葉がクッションになって落下の衝撃が和らいだため大した負傷にはならなかったがその代わりに体重三十キロ前後の少年の上にはその何倍にも重量のある木が重くのし掛かる。少年の腕力だけではこれを退けるには力が足りなかった。

 

 

 何か超常的な力でも無い限りは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュゥゥゥゥゥ……!!」

 

 

 

カオス「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェノム「シュゥゥゥゥゥ!!!!」

 

 

 カオスと共に木の上から地面に叩き付けられたスライムの化け物はこの落下の衝撃の影響を何事も無かったかのようにまたカオスへと迫ってくる。スライムが木の下敷きになったであろう場所はまたスライムが木を腐蝕させて這い出てきた跡があった。なんという便利な体だ。この衝撃に怪我も無くまた貪欲に獲物に向かって突き進んでくるとは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、感心している場合ではない。スライムの化け物は今この瞬間にカオスとの距離が詰められていっている。どうにかしてカオスはこの体にのし掛かっている木を退けようと力を入れて押し退けようとするが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木は完全にカオスの体に張り付くかのように動こうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェノム「ジュゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 

カオス「うあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!」

 

 

 スライムの化け物がとうとうカオスの体に食い付いた。触れた部分からカオスの体は酷い痛みを感じていく。まるで火に焼かれているような痛みだった。こんな痛みはザック達の苛めでも味わったことがない激痛だった。カオスは無我夢中で誰かにこの声が届くように叫んだ。もしこの声が届いたのならきっと誰かが助けに来てくれる筈。自分はあれだけ奔走してミストの村の者達を助けに入っていたのだ。ならば自分は誰かに救われなければならない。そんなことを思って自分なら誰かに助けてもらえると信じて痛みに耐えながらも必死に声を張り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしいくら叫んでもそのカオスの救いを求める声に応じる者は誰もいなかった。

 

 

 カオスは忘れていた。自分が今まで助けてと訴えても誰にも助けてもらえなかったことと自分が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追放された身であったことを。

 

 

 ここにはカオスとカオスを貪ろうとしてくるヴェノムしかいない。いるとしたら他のモンスターかヴェノムのみ。ここでどんなに叫んだところで寄ってくるのはカオスに害なす者達ばかり………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは叫ぶのを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうせ叫んでも無駄なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 助けを求めたところでこの世界には自分を助けてくれる者なんていやしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんなに手を差し伸べたところで自分の手を握ってくれる者などいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の手は他のミストの者達のような普通の手ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 他所から来た余所者の血が混じった汚ならしい手なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騎士の血をひく自分は騎士にはなれなかったがそれでも他の子供達のように夢見る少年であったつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分は生まれが少し他の者達とは違うだけで何一つ変わらない普通の子供だった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騎士の血を引いておきながら事故で他の子供達にも劣る半端者というだけで自分は何も差別される謂われなどない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それだというのに回りの者達は皆自分のことを疎ましく思っていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祖父のようにミストの守りに貢献出来ていたらもっと優遇された扱いは受けられただろうが自分はまだ子供でいきったところで何かが出来るわけではない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分には人よりも年月も力も何もかもが必要だった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただそれが足りなかっただけで自分はこの瞬間この時に全ての終わりを垣間見ることになってしまったのだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………はぁ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故自分はもっとこう………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通の子供のような生き方が出来なかったのだろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分は人並みに生きていたかっただけなのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこの世界はこんなにも生きにくいのだろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 他の者達が持つようなマナを最低限持っていないと言うだけでここまでこの世界は自分にとって生きにくくなるものなのだろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうせこの化け物に喰われて死ぬのなら最後に一花咲かせていこうか………。

 

 

 このスライムの化け物に触られただけでもう助からないと言うことは知っている。

 

 

 それなら最後に自由に使ってみたかった魔術を今ここで使いきってしまってもいいだろう………。

 

 

 この力を使い果たして自分が死んでしまってももうそれを悲しんでくれる人はこの世には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『また…ワシが屠らねばならぬのか。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………誰かの声が聞こえた気がした………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声はとても哀愁に満ちた声で何か辛いことでもあったかのようなそんな声だった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声が聞こえた瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体の中から何かが解放されたような感覚が身体中を駆け巡った………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………………………………?」

 

 

 ふと目を開けると目映い光が自らの手から発せられていることに気付く。自分に覆い被さっていたスライムの化け物はその光を受けてゆっくりと消えていく。カオスにのし掛かっていた大木も同様に消滅していく。そしてスライムの化け物が覆い被さって火傷した自分の皮膚はその光で浄化されるかのごとく癒えていく。

 

 

 この光がおじいちゃん自分を救ったのか………?

 

 

 この光は一体………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然自分の手から放たれた光はカオスが願った通りのことが起こった。

 

 

 邪魔な木をどかしてほしかったこととスライムの化け物をどうにかしてほしかったということ、それとスライムの化け物によって負った怪我の痛みも無くしてくれた。

 

 

 カオスにはこの光が何なのかは分からなかったが一先ず立ち上がって回りの景色を眺めてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで見たものはスライムの化け物が通ったであろう道が全て自分が放つ光にまみれていたという光景だった………。



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復讐に燃える心

ミストの森 十年前事件当時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………何だこの光は………?」

 

 

 カオスは今までこのような光は見たことが無かった。その光は先程のスライムの化け物やそれに付随した者を次々と光に包んでは消していく。そんな光が森の奥の方から照って………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの右手に繋がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……この光………、

 ………僕の力なのか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうとしか考えられなかった。右手から発せられる光は自分の中に確かに感じるマナに感応して自在に光の光度を強くしたりも弱くしたりも出来た。

 

 

 と言うか………自分の中にあるこの言い様のない物は何だ………?これがマナなのか………?今まで全く感じることが出来なかったが何か自分の中に違和感がある。何か………今までは無かった自分の体にもう一つ別の何かが新しい気管が出来たような………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………これがマナ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが………魔の力………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手に宿る光は自分の指のように自在に動かせ自らが念じた通りに形状を変えられた。

 

 

 今自分は生まれて初めてマナを感じることが出来ている………。

 

 

 これが皆が当たり前に持っていた力………。

 

 

 五年前の事故から自分がずっと欲していた力………。

 

 

 これが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………よし。」

 

 

 カオスは試しに魔術を撃ってみようと考えた。もしこれが本当に自分に流れるマナなのだとしたら他の者達のように魔術が使えるようになっている筈だ。今この時まで自分には無かった筈の魔力が自分の中に宿っているのを実感している。これなら問題なく魔術が使える。

 

 

 そう思って術を発動させてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『火炎よ………我が手となりて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵を焼き尽くせ!!!

 ファイヤーボール!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果だけを伝えればカオスの魔術は成功した。これまで懸念していたマナの枯渇によるショック死は起こらずマナにも余裕がある。

 

 

 カオスは常人のように………、

 

 

 常人以上に強い魔術を行使することが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ただ一つ失態だったのはカオスが選んで発動した魔術はエルフ達の間でも最もメジャーな火の魔術ファイヤーボールだったことだ。基本六元素、基本六属性と分類される魔術の中で雷と火は扱うにしても危険度が高く場所を選んで発動させなければ災害が起こる恐れがある。それでも火の魔術は多様性に長け扱いに注意しなければいけないことを鑑みてみても一番誰もが多用する魔術である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………故にカオスは火の魔術を発動させたのだが現在カオスがいるのは森だ。こんな森の中で火の魔術など発動させればどうなるか。それも常人以上の火力で放ったとなると………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当然辺り一面が一瞬で火の海と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うっ、うわ!?」

 

 

 少し考えれば直ぐに気付けたことだったがそんなことよりも自分が本当にマナが安定しているのかということと本当に魔術が使えるようになったかを確かめられずにはいられずこの場がどのような環境だったかを失念していたカオス。燃え盛る炎はみるみる内に木々を焼いていく。このまはま放置すれば森は焼け野原と化すだろう。

 

 

 それはどう考えても不味いと思い火には水で消さねばと水の魔術を発動させる。

 

 

カオス「アクアエッジ!アクアエッジ!アクアエッジ!!」

 

 

 詠唱込みの火の魔術に対して水の魔術を詠唱無しで相殺しようにも威力が足りないためスピードと数で燃え広がる火を消そうと必死に水をかける。

 

 

 最初のファイヤーボールはただ発動させただけであったので思っていたよりも火の範囲は広くはなかった。カオスが発した水は直ぐに燃えていた部分を消火し危うく大火災になることは未然に防げた。………カオスの回りの木々は消し炭となったが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………魔術が使える………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マナが………本当に………僕の中にあるのか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 過去何度も願った。自分に人並みのマナが戻ることを。あの事故さえ無ければ自分は普通に生きていられた筈。自分の身に起こってしまった不幸はその後の五年間を惨めな日常へと変えた。そしてその日常は強く逞しく騎士のように気高くあろうとしていてもやはり少年の心を少しずつ傷付け続けていた。カオスの心の中は常に他人への劣等感で一杯だった。その荒みきった精神は他人を視界に入れたら妬まずにはいられない程であった。

 

 

 そんなカオスが魔術を使えるようになったとなればそこから辿り着く次の行動は単純なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今まで自分を見下し辱しめてきた者達への復讐だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あいつら……、

 絶対に許さない!!

 この“俺”が魔術を使えるようになったんだ………。

 

 

 あの増長仕切った豚共に一泡吹かせてやる!!!」

 

 

 剣術の稽古を始めるようになってからいつも祖父に礼儀を気を付けるように言われてきたが実のところカオスは相当に口が悪い性格をしている。その悪さ具合はカオスを苛めてきたザック達とほぼ同じレベルの悪さだ。

 

 

 

 

 

 

 いや………、ザック達のように徒党を組むことも出来ず一人で足掻いてきた分カオスの底意地の悪さはザック達とは比較にならない。

 

 

 孤立してなお折れない心と他人に甘えることが出来なかった環境のためか他人に対する慈しみを一切持たないカオスはずっと世界を憎んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この憎むべき世界でずっと自分の世界と戦うことを考えて生きてきた。

 

 

 人を守る騎士にもなりたかったがその反対の世界の破壊者にもなりたかった。人を守るということはその守るべき人達を傷付ける敵がいるということ。その敵を圧倒的な力で捩じ伏せて這いつくばらせて赦しを請わせる………。カオスはいつも最強の自分をイメージし努力を積み重ねてきた。

 

 

 この世界にとって守るべきは己と祖父。それ以外の者達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスにとっては敵………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのミストの者達はカオスにとってはずっと敵だった。内心で敵と認定しいつか見返してやると決めた相手達………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その敵達から正式に敵と認められた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分を追放したということはそうなのだな………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だったらもうミストがどうなろうが構うこともないよな………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの村にはもう祖父はいないのだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しからばカオスはもうこの憎しみの剣を手に取ったとしても誰も責めることは出来な………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『カオス………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 復讐を決意しいざミストへ向かわんと足を進めようとした時祖父の呼び止める声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声はカオスに思い留まるように諭すような声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その祖父の空耳であろう声のせいで興が削がれてこれから復讐という気分でもなくなりカオスは取り合えず手当たり次第に森の中のモンスターを狩りにでも行くことにした………。



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自覚

ミストの森 十年前事件当時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アクアエッジ!」

 

 

ウルフ「ギャンッ!?」

 

 

カオス「ウインドカッター!!」

 

 

マイコニド「ポル…!」

 

 

カオス「ストーンブラスト!!」

 

 

ボア「ゴコォッ……!?」

 

 

カオス「アイシクル!!」

 

 

ベア「グォ……、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ライトニング!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モンスターの群れ「ギャンッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ハハハハ!!

 アハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

 

 

 この言い知れぬ万能感は何だ!?この今まで感じたことのない優越感は……!!

 

 

 これが強者になると言うことなのか!?

 

 

 魔術を使えるようになっただけで俺はどこまでも突き進んでいける気になってくる!!

 

 

 この力があればあのミストの豚共に負けることなんてない!!俺には奴等にはない剣術と奴等と同じ魔術がある!!その魔術も大人達が使っていたようなもの比較してみても俺の魔力の方が上!!数では圧倒的に負けてはいるがアイツ等は所詮村に引きこもることだけしか出来ない軟弱なモヤシ共だ!村の外から火を放ってやればそれだけで俺の勝利は確定的だ!村という拠点があるからこそ奴等はあの村から出ていこうとしない!完全に俺の一方的な攻撃だけであの村を破壊し尽くせる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……ノリに乗ってきたな………。

 やっぱり今日中にあのミストに攻め込んで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!?」

 

 

 不意に体の力が抜けていくのを感じる。それは突然来てカオスはその場に座り込んでしまった。そこからはいくら足に力を入れても立ち上がることは出来なかった。

 

 

 ………これは、

 

 

カオス「あぁ………、

 これがマナの消費による枯渇か………。

 こんなに力が出なくなるもんなんだな………。」

 

 

 調子に乗りすぎて森の中でモンスターに魔術を使いすぎた。今日はもう魔術を使用するのは控えて休んだ方がいいのだろう。

 

 

カオス「………攻め込むのはいつだって出来る……。

 なんなら明日にでも体の不調が治り次第攻め込むことだって出来るんだ………。

 

 

 ………明日になったら覚悟しておけよ豚共………。」

 

 

 カオスはミストに復讐するのを明日に延期して今日は安全そうな場所を見つけてそこで休むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストの森 夜 十年前事件当時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………静かな夜だ。回りにはモンスターの気配すら感じられない。昼間にこの辺りで暴れまわったせいでモンスターが危険を察して離れて行ったのだろう。

 

 

 なんとものどかな時間が流れる………。今にして思えばこんなにゆっくり出来るのは久しぶりだ。昨日まではあのミストでスライムの化け物相手に緊張の途切れが許されない緊迫した状況にあった。スライムが襲ってくるまでは村にあった自分の家で祖父と穏やかに過ごせていたがそれももう祖父の死を迎えたことで二度と戻ってくることはない日常になってしまったんだなと今更ながらに実感する。

 

 

 ………色々と実感が後から後からやって来るんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「おじいちゃん………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは祖父から昔から聞かされてきた騎士の話が好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………と言うよりも騎士の話をする時の祖父の楽しそうな姿が好きだった。

 

 

 祖父は何よりも騎士時代の思い出に思いを馳せており自分がその話を聞きたいと言うと嬉しそうに話してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分はある時騎士になりたいと祖父に話した。

 

 

 それを聞いた祖父は始めは複雑そうな表情を浮かべたがどこか自分の発言に否定しきれない………寧ろ好意的な感情が窺えた。

 

 

 祖父は自分が騎士になるということに現実的に無理でも気持ち的には賛同的だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから自分は騎士になると言ったのだ。

 

 

 そう祖父に言えば祖父が喜んでくれるから………。

 

 

 そう言えば祖父が喜んでくれると分かっていたから………。

 

 

 

 

 

 

 祖父の喜ぶ顔が見たかったから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………その祖父はもういない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今のカオスに残ったのはこの甦った自身のマナと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祖父との騎士について語り合った思い出と………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長年憎悪を抱き続けてきたあの村の住人達への復讐心のみ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう我慢することはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう我慢しなくてもそれを止めてくれる祖父はいないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祖父がいないあの村に何を遠慮することがある………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの村は自分を捨てたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 捨てられたのであればそれ相応にこれまでの御礼をお返ししなければならない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その御礼を受けなければならないのはあの村の者達にとっては至極当たり前のこと………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 理不尽にもあの村を救おうと奔走した自分に勘違いでふざけた仕打ちをしたあの村の住人はこの手で抹殺して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………抹殺して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前が殺したんだろ!?』『お前が殺生石から、村を守っていた力を盗んだのか!』『間違いなくあの力は殺生石が持っていた力だ!!』『全部お前のせいだ!!』『返せ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いやいやいや何を心配になってるんだ俺は………。

 

 

 この力は俺の本来のマナが戻っただけだろ?

 

 

 殺生石から力を盗むなんてそんなこと五、六才くらいの子供に出来る筈ないだろ。

 

 

 第一俺はそんなもの盗んだ記憶もないし逆にマナを盗まれた経験しかない。

 

 

 ………このマナはきっとおじいちゃんが最後に俺のために奇跡的な力で元通りの普通の子供に戻してくれたお陰で………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………おじいちゃんのお陰………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………おじいちゃんのお陰だったのなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんもあのスライムを消す力があった筈だよな………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………けどおじいちゃんはあのスライムと対峙してからそんな力を使ったところは無かった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんにもあのスライムを消し去るような力は無かったんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だとしたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この力の出所は一体………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………本当に俺が殺生石から力を奪ったのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だったら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………だったら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だって言うんだよ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が殺生石から力を盗んだからってそれが何だって言うんだ?元はこのミストの村付近で見付けた特別そうな石を勝手にアイツラが自分達の物かのように言ってるだけじゃないか。元はあの岩は誰の物でもなかった。あの岩の回りに勝手に村を作って勝手に住み着いただけの自分勝手な言い分しか言わないアイツラに気を使って何になるっていうんだ?始めに国の税をむしりとられるのが嫌でその義務を放棄したアイツラが悪いんじゃないか。俺はアイツラの村に生まれただけで本当だったら王国のもっと大きな街で過ごしていたかもしれない。

 

 

 ………そう考えたら何だかまた無性にアイツラに対して腹が立ってきたな………。

 

 

 早く明日になってアイツラの村に火を放ちに行き………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうしてこんなことになっているんだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんが死んであの村から追い出されて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの村の連中は俺が殺生石の力を奪ったのだと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを確かめる術はないが恐らくその通りなんだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………と言うことは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの村にスライムが襲ってきたのは俺のせいだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………じゃあ…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………スライムに襲われておじいちゃんが死んだのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺のせい………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が殺生石の力を奪ったから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんが死んだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺がおじいちゃんを………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………殺した………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺が大好きなおじいちゃんを………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………殺してしまった………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………全て俺が切っ掛けで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんを死に追いやってしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がおじいちゃんを殺したんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………………うっ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当は分かっていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの光が何なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの光が殺生石の力によるものだと言うことも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付かないフリをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしなければ自分を保っていられなかったから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが何度思考を重ねても最後に辿り着く答えは全て自分が始まり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして全て自分で終わる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 認めたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かに責任を擦り付けたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八つ当たりしたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分は悪くないのだと思い込みたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でもいくら他人の責を探しても行き着く先は己の罪。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いくら思考を重ねても自分がどうしようもない責任転嫁をしようとしていることに気付いてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後のことはよく覚えていない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと意識が戻るとどのように持ってきたのかは覚えてはいないがミストの家に置いてあった筈の木刀と祖父の書物の一部が手元にあった。よく見れば少しだけ焦げた跡などがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それらを見てカオスは祖父が自分の代わりにミストをモンスターやスライムの化け物達から守ってほしいと自分にそうお願いしているように思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の記憶は時間と共に曖昧に薄れていく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度の事件でカオスは完全に自分に非があるのだと自覚した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それにより事件の最後の方は放心していて定かではないが自分が祖父を死に至らしめた原因を作ってしまったことは理解している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後にこの記憶からカオスは“自らの魔術で祖父を消し去った”と思うようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これがカオスが魔術を生物に対して放つことが出来なくなった根幹である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは攻撃性のある魔術を視界に生物がいる状態で発動させようとするとその生物が“祖父アルバート”の影と重なって見えるようになってしまったのだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い返される祖父の亡骸を消した瞬間の記憶。

 

 

 祖父の遺骸を消し去る瞬間には祖父は絶命していたがその直後に村の者達からの糾弾が記憶を連結し自分が誰かを攻撃しようとすると忌まわしい記憶がカオスの精神を激しく揺さぶるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムがミストを襲いカオスはミストを全滅の危機から救った。

 

 

 しかしその仮定は自分がその事件を招き寄せた原因なのだ。

 

 

 それが祖父を失うと言う悲劇を呼び寄せた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が何をどう頑張ったからと言って事件の根源を司るのは自分が殺生石の力を奪ってしまったことにある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは自身の精神的外傷の他にも自分がこの殺生石の力を乱用してはならない、この力は自分の力ではない、他人の力だ。この力を使えばまた自分にとって大事な人を失う危険がある。

 

 

 

 

 

 

 絶対にこの殺生石の力を何かに対して攻撃するようなことがあってはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時からカオスはそう自分に戒めを課した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現時点でカオスがこの戒めを解き放つのは相当に難しい………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分で封印した力はこの旅路で綻びが生じ徐々に解け始めてはいたがどうしても最後の一手に結び付かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どこかでカオスが自分が魔術を使ってもよかったのだと思わせるような事柄でもあったのならその最後の一手になり得ただろうに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………ありがとう………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの悲劇の事件の直後実はカオスに対してそんなことを言う者がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがカオスはそんな言葉よりも自分を責める言葉に呑まれてその御礼の言葉を聞くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉がカオスに届いていたらカオスの心の氷はここまで分厚くカオスの心を覆うことは無かったであろうに………。



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囚われた幻影

ウィンドブリズ跡地 ダインとの修練最終日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……カオス………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリフォン「クォルルルルルァァァァァァッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カオスは今この場にいてこの場にはいない………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの心は今………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日のミストの現地へと誘われていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには今もミストで生存している村人やあの事件で失われた村人達が大勢集まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それらの村人達はカオスをあの日のようにじっと責めるような視線でこちらを見詰める………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時のカオスはあの日の事件の姿へと戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無言でお互いが見つめ会う時が過ぎる。だがこの瞬間のこの時間がカオスにはまどろっこしかった。現実では今にもダインがグリフォンに捕らわれその体をグリフォンに無惨に引き裂かれようとしている。そんな時にこんな場所でコイツらと時間を無駄にしている場合ではない。

 

 

 カオスは焦る気持ちで口を開こうとして…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この疫病神がッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村人達から先にそんなことを言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前が私達を殺したんだ!!』『お前さえ殺生石の力を盗んでいなければ俺達は死なずに済んだ!!』『ヒューズ達を返して!!』『殺生石を元に戻せ!!』『サリーが死んだのはお前があの村にスライム達を連れてきたからだ!!』『うちのネスが死んだ責任をどうとるつもりなんだ!!』『お前なんかが生きているから!!』『お前が死ねばよかったんだ!!』『何か奇跡の子だ!!ただの死に損ないだっただけじゃないか!!』『消えろ!!汚ならしい騎士の家系めが!!』『お前なんか騎士じゃない!!騎士にすらなれない人殺しだ!!』『本当はお前があのスライム達を連れてきたんだろ!!』『こんな罪深い孫をもってアルバも可哀想だな!!』『本当は村の皆お前のことが大嫌いだったんだよ!!』『一人前に魔術も使えない!将来何の役に立つのかも分からないようなゴミ虫が当たり前にのうのうと生きてておかしいと思わないか?』『生きられた筈の人が死んで死ぬべきお前が生きてるのは理不尽だろう!』『お前が死んで死んでいった俺達を生き返らせるんだよ!!』『ほらどうした!早く死ね!!』………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 口々にカオスのことを罵倒してくる村人達。それらをまともに相手にするにはカオス一人では無理であった。罪の意識を自覚してしまった分彼等の言うことはカオスの心の急所に確実に傷を抉っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが生物を前にして魔術を行使しようとする度に彼等はカオスの前に現れてはこうしてカオスの邪魔をしてくるのだ。カオスはずっとこれを聞き続け最後には魔術を使うことを諦めると彼等とこの空間は消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこの“弾劾世界”がカオスの現実と記憶の景色とを結び付けカオスは魔術を使うことが出来ないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし今はこんな空間に囚われている時ではない。今現実ではこれまでのように誰かが変わりに問題を解決してカオスが魔術を使わずに済むというような都合のいいことは起こらない。現実ではカオスのいる場にはダインとグリフォン以外の姿はない。

 

 

 

 

 

 

 ダインを救えるのは自分しかいないのだ。自分が魔術を使ってグリフォンをはね除けねばダインの命が………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは今まで一方的に責めたててくる村人達に対して初めて抵抗を試みた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「五月蝿いんだよ!!この糞共がっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは村人達に吼えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「いつもいつも俺が魔術を使う時にいきなり出てきて俺の意識を奪っていっていつも同じことばかり言いやがって!!こっちはもう飽き飽きしてるんだっつーの!!お前らの言い分は全部もう分かってるんだよ!!

 

 

 分かってるんだよ俺が最初から最後まで全部悪いってことは!!自分で分かってるんだ!!そんでもう俺が犯した罪はどうしようもないくらいに償いきれないってこともな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけどな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が後悔してるのはおじいちゃんを死なせてしまったことだけだ!!

 

 

 お前らが死んだことなんてこれっぽっちも反省なんかしていない!!お前らが死んでくれて寧ろ良かったとさえ思ってるんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はお前らのことなんて始めから大ッ嫌いだったんだよ!!!分かったかゴラァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは記憶の幻影達に真っ向から喧嘩を吹っ掛ける。カオスが悔いているのは自分にとって大切な人を死なせてしまったことだけ。村の住人達に関しては義務的に助けようとしただけで心を痛めるようことなど無かった。故に今ここでこの者達に時間を割いている時ではない。一刻も早く現実に還りダインを救わなければ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カオス………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村人達に文句を言い続けていたら自分の直ぐ後ろから声がかけられた。今この場では自分を村人達が取り囲み責めるような視線と罵倒に晒されている中、

 

 

 

 

 

 

 その声だけはカオスの耳によく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはその声だけは無視できなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声の主は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが本当に死なせたくなかった相手、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが唯一自責の念の苅られる相手、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『カオス………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「おじ…………いちゃ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに立っていたのは紛れもなく自分の祖父アルバだった。

 

 

 アルバはじっとカオスの名前を呟きながらじっとカオスを見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その表情は生存していた時にすら見せることが無かったような悲しみに満ちた顔をしていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうして何も言わないんだよおじいちゃん………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何か言いたいことがあって出てきたんだろ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのに何でそんな顔で俺を見つめるだけなんだよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんは…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺をどうしたいんだ………?



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会いたかった人

ウィンドブリズ跡地 ダインとの修練最終日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「カオス………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………?」

 

 

 カオスの動きが止まった。カオスは今まさに魔術を使おうとしていたのはなんとなく理解できた。だがグリフォンに魔術を放とうと詠唱に入る直前グリフォンを凝視したまま固まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 ………よくよく様子を窺ってみればグリフォンを凝視しているように見えたがこれは何か別の物を見ているような感じだ。どこか遠いもっと別の物を………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬カオスが魔術で自分を助けに入るのかと期待したがカオスのトラウマはまだ克服できた訳ではない。この場を切り抜けるにはカオスの魔術は当てにしない方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 となるとやはりここは自らの力で切り抜けるしかない。運がいいことに全身を抑えられてはいるが頭部だけは無事だ。頭と口さえ動かすことが出来るのなら自分はこの窮地を自分で乗り切る術がある。そしてここはマテオではなくダレイオスだ。マテオでは使用を禁じられてはいるがダレイオスならこれを使える。

 

 

 あまり人の目がある場で………、

 

 

 カオスがいる場で“この力”に頼ることはしたくなかったが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 使うしかない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度これを使えばもう二度と元の正常な体ではいられなくなる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これを使ってしまえばそこからは定期的に薬を摂取しなければならない体になる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………これを使用して“変わり果てた姿に”変わった自分を見てカオスはどう思うだろうか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カオスならきっと分かってもらえる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この数日でカオスが自分とも話をしてくれる優しいエルフだということは分かっているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのカオスをこのグリフォンから助けるためにもここはこの力で………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モード・インフェ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオスの弾劾空間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何で何も言わないんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何で何もしてこないんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何で何もしてくれないんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 分かってるだろ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はそういう何も言われないことが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺にとって一番心が掻き乱されるってことを………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何か悪いところがあったなら言ってくれよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしたら出来る限り直すから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出来なくてもちゃんと出来るまで頑張るから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はどうしたらいいんだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしたら俺の罪が消えてくれるんだ…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どう償ったらよかったんだ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………なぁ…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………答えてくれよ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃん…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんなことだって俺なら受け入れられるから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんが命令してくれるなら俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今すぐ死ぬことだって厭わないから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………お前は本当に馬鹿な孫だよな………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………………え………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『お前が取っちまった殺生石の力をどうしてお前は敵なんかを救うために使おうとしてるんだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「それは………、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『このままここで何もせずただダインが死ぬのを待ってろ。

 ダインが死んだ後、

 お前はダインの剣であのグリフォンを倒すだけでいい。

 そうしたらお前は何も深く考えずにこれまで通り旅を続けてりゃいい………。

 

 

 この空間から戻ったら元の仲間達のいるところへ戻れ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……そんなこと出来ないよ………。

 俺はここで魔術を使いこなせるようにならないといけないんだ………。

 それが出来るようになるまでアローネ達の元へ帰るわけには………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『だったら当面の目的は果たしている筈だろう?

 ダインから教わった共鳴があればお前の魔術の力を仲間達に分け与えて強くしてやれる。

 そうしたらあのカイメラとかいう化け物は強くなった仲間達と連携して倒しゃあいい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………それだけじゃ駄目なんだ………。

 俺が誰かを当てにして問題を先伸ばしにしてもまた今回のようにダインや他の大切な人が危なくなった時に『カオス』……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『いつも俺が言い聞かせて来ただろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物事は“冷静”に分析しなきゃいけねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 共鳴を教わって情が湧いたのかもしれねぇがダインはお前の敵だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵から吸収した技術を有効活用して敵を倒せばそれでいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それで俺のいなくなったこの世界とミストを守れるんだ。万々歳だろ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………違う………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんはこんなことを言わない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんは確かに俺に冷静に心掛けるよう教えてきたけどそれはそんな意味じゃない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんが本当に俺に教えたかったことはどう冷静に対処したら仲間を守れるのかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな漁夫の利みたいなことを言う筈がない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このおじいちゃんは…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺自身の弱い心が作り出した幻影だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなことを言う奴がおじいちゃんの訳がない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんでないのなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………どうしてその木刀を俺に向ける?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…アンタは俺の知ってるおじいちゃんじゃない………。

 俺の知ってるおじいちゃんだったら仲間を第一に守ることを考える……。

 

 

 仲間を守ることを何よりも大事にする人が仲間に任せっぱなしな俺を叱らない筈がないんだ。

 

 

 ………アンタは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただの俺の罪悪感が作り出した妄想の塊だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は木刀を手におじいちゃんの幻影に斬りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんの幻影は俺の木刀の一振りを、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『…こんなもんか?

 俺が死んでから今日まで振ってきた木刀の重みは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな軽いもんなのか?

 お前の剣は。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 難なく幻影に木刀の一撃を木刀で受け止められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『魔神剣ッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うあ”ッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木刀同士で鍔迫り合いの体勢から強引に零距離からの力業で幻影が魔神剣を放ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はその魔神剣の衝撃波と共に後方へと吹き飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『お前に剣を教えたのが誰だったのか忘れたのか?

 お前が俺に剣を向けるなんざ百年早ぇぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その程度の力量でよく俺に挑んできたな。お前が剣の稽古で一度でも本気を出した俺に勝てたことなんて一度も無かっただろうが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこんところ踏まえた上で冷静にならなけりゃいけねぇなぁ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………クソッ!!幻影の分際で偉そうに!!



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怨霊

カオスの弾劾空間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「魔神剣ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの魔神剣が地を走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『魔神剣ッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じく祖父の幻影が魔神剣を放ちカオスの魔神剣を相殺する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『……何やってるんだよ?

 お前のその魔神剣はどこでどうやって習得した?

 

 

 距離があるうちに魔神剣で先制するのは基本だがそれが誰にでも通用すると思うな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺だってバルツィエなんだよ。こんくらいの魔神剣なら俺だって使える。お前の知るバルツィエの剣技は俺には効かねえぞ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「クソッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石に幻影と言ってもこの程度の技なら対処して見せるか。おじいちゃんの姿をしているだけのことはある。自分でもこの技でおじいちゃんが倒されるような姿は想像できない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは本気でこの幻影に挑まなければ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『飛葉翻歩か………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣魔神剣!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり俺にはこの高速で駆け回り相手の全方向から魔神剣で畳み掛ける戦法が性にあっている。この高速乱れ射ち魔神剣ならおじいちゃんだって………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『フンッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?うおっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんはセレンシーアインの闘技場でオサムロウが見せたような回転斬りで俺の放った魔神剣を華麗に返してみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の反撃は………全く同じだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『俺に魔神剣は効かないってたった今教えたばかりだったが?

 飛葉翻歩で翻弄してからの魔神剣なんざバルツィエなら誰だって思い付くような戦法だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前とは長年培ってきた経歴の差があるんだよ。お前がこれまで倒してきたバルツィエの連中は俺だって全員倒したことがあるんだ。俺を他のバルツィエ達と一緒にするな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………この程度で怖じ気付いたか?

 お前に力を付けさせたのはこの俺だ。

 俺がお前に稽古を付けた。

 だったら俺がお前以上の年月お前と同じ修行を繰り返してお前以上に強いってことは理解出来るよな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……確かにアンタは強いよ……。

 俺が今まで戦ってきた人達の中でも一番手強い………。

 話には聞いていたけどやっぱりおじいちゃんは最強だったって思える………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………けどやっぱりアンタは本当のおじいちゃんじゃない。

 おじいちゃんは確かに強かったんだろうけどアンタは俺が妄想で作り出したまやかしだ。

 俺のイメージした像が強すぎるからアンタみたいなのを生み出した。

 

 

 今の魔神剣の返しは俺の仲間の一人がやってみせた返し方と同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱりアンタはただの幻影なんだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………へぇ……?

 よくこの空間のことを理解しているじゃねぇか………。

 俺はお前が俺に対して抱くイメージから作られた残像だ………。

 お前が俺に敵わないと抱き続ける限り俺はこの空間ではどこまでも強くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前は想像の敵を越えることが出来るかな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス『自分の想像だったんなら自分でその想像を掻き消してしまえばいいだろう!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………それが出来ないからお前は今でも俺の影に恐怖して勇気の一歩を踏み出すことが敵わずにいるんだろうがよ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこまで言うんだったら本気で俺をぶちのめす覚悟でかかってこい!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「せあ”あ”あ”あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………そんな心構えで突っ込んできて大丈夫かよ………?

 俺を倒すことが俺の目的じゃないだろうが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………本当に馬鹿な孫だよな………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ぐあぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『魔神剣!!剛・魔神剣!!瞬迅剣ッ!!閃空裂破!!秋沙雨!!真空裂斬!!砕破滅衝陣!!!!絶氷刃!!風雷神剣ッ!!海龍剣ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺撃舞荒剣ッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うあ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………なんだよこの強さは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想像の中の相手とはいえ強すぎる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がおじいちゃんのことを昔から誰にも負けない無敵の騎士だと思ってたから敵わないのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の中でおじいちゃんが最強だから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 稽古を付けてもらい始めた頃のおじいちゃんと同じ動きだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時もおじいちゃんにこうやって散々いたぶられて負けた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時のイメージが強すぎるからこの幻影もここまで強いのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………て言うか俺が今まで見たことがないような技も使ってくる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想像上の敵だからって何でもありかよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想像の幻影だから強くて当然だよな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このおじいちゃんは俺の今までの戦ってきた相手の技術と俺の中のおじいちゃんが全部合わさって出来た存在なんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この幻影は何でもありなんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まともにやりあえば太刀打ち出来ない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしたらこの幻影に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この幻影に勝つ方法………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣技じゃこの幻影には勝てない………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だったら俺に残されているのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなら負けるビジョンが想像も付かないおじいちゃんを倒せるかもしれないけど………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だけど…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『使って見ろや、

 それを。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『俺に剣で敵わないってことはもう身に染みてんだろ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だったらお前が俺に勝つとしたら剣技じゃねぇよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前に残されている他の手は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何が残ってるんだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺に残されているおじいちゃんを倒せる手段はたった一つしかない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それならいくら幻影が強くたってきっと倒せる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想像上の相手でもこれなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………これなら…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この手を使うということはつまり………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はもう一度………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんをこの手で消し飛ばしてしまうということになるんじゃないか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この目でもう一度………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの二度と思い出したくもないおじいちゃんが消える最後の瞬間を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この妙にリアルな空間で再現してしまうのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がもう一度おじいちゃんを殺して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この人殺しめ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前なんかにその殺生石の力を使うことが許されると思っているのか!!』『その力はお前の物じゃない俺達ミストの住人の物だ!!』『その力は人殺しの道具じゃないんだぞ!!』『そうだそうだ!!その力は村を守るためにあるんだ!!』『お前の所有していい力なんかじゃない!!』『これ以上罪を重ねるな!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それまで静観していた村人達がここに来てヤジを飛ばしてくる。大事な決闘中だと言うのにそんな雑音を聞かされてはこの幻影との戦いに集中出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしそんな雑音を止めるすべなど持ち合わせてはいない。目の前の幻影は隙を見せれば直ぐにでも斬りかかってくるだろう。これでは剣も魔術も封じられたも同然だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カオスはただ黙って立ち尽くすしか出来なくなってしまった………。



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打ち勝つ手段は………

カオスの弾劾空間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『盗人めが!!』『この人殺し!!』『才能無し!!』『落ちこぼれ!!』『汚ならしい騎士の血筋!!』『お前なんかさっさとここでくたばっちまえよ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『どうした?

 あんな雑音無視するかさっきみたいに言い返してみたらどうだ?

 お前だってあんな連中のことなんか気にも止めてないんだろ?

 

 

 だったらお前のしたいようにやりゃいいさ。

 お前が手に入れた力なんだからな。

 人を守るでも殺すでも自由さ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出来る訳ないだろうが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この力はアイツらの言う通り人殺しの道具なんかにしていい物じゃない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それにこの力を使うということは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一度アンタを殺すって言うことなんだぞ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタを殺してしまった力に頼ってまたアンタを殺すことなんて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺に出来る訳がない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この力を使ってアンタを殺すことなんて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺に赦される筈がないんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタは国の英雄と言われた男なんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタの帰りを待っていた人達も沢山いたんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのアンタを殺したのは俺だ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沢山の人達が待っていた救世主はアンタだったんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺じゃない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな俺に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 英雄のアンタを殺せって言うのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また俺に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嫌な思い出を植え付けるのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はどうしたら…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………下らないことばっか悩みやがって馬鹿孫が………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『そうやって自分を責める気持ちと自分を責める言葉に耳を傾けているからお前はずっといつまで経ってもミストのしがらみから抜けることが出来ないんだろうが………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「当たり前だろ………。

 俺はあの村で育ってあの村に災厄をもたらしたんだ………。

 俺の人生からあのミストを切り離すことなんて出来ない………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『……お前はあのミストにいるのが嫌でこんな辺境まで歩いて来たんだろ?

 なのにお前の心の中の景色はずっとこのミストを見続けている………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度本気で外に出てみようと思わないか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス『………どうやってだよ………?

 俺にはミストの外以外に居場所なんて………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『人の居場所なんて物理的な話じゃねぇよ………。

 お前がいたい場所に出てみようって言ってるんだ。

 お前ならどこでだってやっていけるだろうが。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「そんな場所なんてどこにもなかった……、

 俺が行った先は全部アンタの影がちらつくようなそんな場所ばかりだった………。

 あの国マテオでは………、

 アンタが有名人だから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『俺が有名人なのとお前が外に出られないのに何の関係があるんだよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「俺は皆の英雄を殺した男だぞ………。

 そんな奴がアンタのことをよく知ってる人達がいるような街で暮らしていける訳ないだろ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『気にしすぎだろオメェ………。

 俺が死んだのは十年前だがもっと昔の百年前から俺はマテオのどこにも「俺は!!!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アンタのことを皆の心の中からも殺したくなかったんだよ!!

 俺がアンタのことを知ってる人達の近くにいればきっとどこかでその人達はアンタが死んだってことを意識する!!

 それが嫌なんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタは俺さえいなければ今でも皆の心の中に残り続けられるんだ………!!

 英雄アルバートが皆の中で生き続けられるんだ……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………レサリナスじゃ変な誤報が流れて結局アンタが死んだってことは伝えちゃったけど俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタを過去の偉人になんかしたくない………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『だったら何でレサリナスでお前は馬鹿正直に俺が死んだなんて街の連中に話したんだよ?

 お前が本当のことを言わなければお前の思い通りになってただろうよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あの時は………!?

 

 

 ………あの時はフェデールが嘘の情報を皆に伝えたから咄嗟に本当の真実を伝えなきゃって思ったんだ………。

 レイディーにも真実を語ってやれって言われてそこまで頭がまわらなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それのアンタのことでこれ以上罪を重ねたくはない………。

 俺がアンタのことで嘘をつくことなんてしたくなかった………。

 アンタのことで嘘をつくのは俺がアンタを殺した罪から逃げてるみたいで嫌だったんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はずっとアンタの死にどうやって償えばいいのか探してた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタがいなくなったことでミストの守りは殺生石を失ったこと以上にモンスターからの襲撃被害が多くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから俺はアンタの代わりにミストを守ろうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうすることでアンタの死に報いたかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタの代わりに俺がミストを影ながら守っていけばまるでアンタが実はまだ生きているんじゃないかって思いたかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………結局ミストが王国の騎士団に頼ることを止めることは出来なかったけど………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタのことを真の意味で殺すようなことにはしたくなかったんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『我が孫ながら難儀な性格をしてやがるなぁ………。

 そう叩き込んだのは俺なんだがなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しょうがねぇかぁ………。

 ここは親代わりを務めていた身としていっちょ一肌脱いでやるぜ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カオス!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……何だよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………お前、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何を思い違いをしてるんだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………思い………違い………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『この俺がお前ごときに殺される訳がないだろうが。

 俺を殺したのはヴェノムだ。

 お前じゃねぇよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………そのヴェノムがミストを襲った切っ掛けを作ったのは『お前は関係ない。』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『何を勝手に自分一人で背負いこんでるんだよ。

 お前一人に全ての責任があるとでも思ってるのか?

 

 

 お前はいつからそんなに責任を背負える程偉くなったんだよ?

 あぁ?

 

 

 あんな事故はなぁ………、

 小まめに殺生石の不具合を確かめなかった村の連中らにも非がある。

 そう考えたら一番悪いのは村長の野郎だな!

 今度会ったらあの村長の顔面に一発ぶちかましたれや!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ぶちかますって………、

 俺はもうミストに帰ることは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『俺がお前を悪くないと言ってるんだ。

 だったらそれでいいじゃねぇか。

 あんな十年も前の事故のことをいつまでも抱えてんじゃねぇよ。

 正直もう疲れてきたんじゃねぇか?

 あんな連中のために心を痛め続けるのはよ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「そんな簡単に割り切れる問題じゃないだろ………!!

 俺の弱い心が作り出した幻影のくせして分かったようなこと言うな………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………そうだな………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確かに俺はお前の記憶を借りて作られた幻想だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当のアルバート=ディラン・バルツィエはもうとっくの昔にこの世からオサラバしている………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このお前が作り出した幻影をお前の魔術で消し飛ばしてみろよ。』



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聞き捨てなら無い暴言

カオスの弾劾空間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……アンタを消し飛ばす………だって……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『そうさ、

 何も遠慮することはねぇぜ?

 本物は既に死んでいるってのはお前がよく知ってるだろ?

 試しに一度この俺に初勝利をもぎ取ってみねぇか?

 剣じゃ勝てなくても一度くらい俺に勝ってみたいと思うだろうよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さぁ撃ってみろよ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はここから動かないでいてやるからよ………。』  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何を言っているんだこの幻影は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんなんだこの幻影は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こいつは俺が作り出した心の闇………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が魔術を生物に対して放てなくなった心の傷………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そいつが自分から俺に魔術を撃てだって………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうにもこの幻影は俺の心の闇らしくない一面が多いような気がする………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の知ってるおじいちゃんが言いそうにないことを言ったり………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の想像力のせいで強くなったかは知らないけど見たこともない技を使ってきたり………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………こいつは本当に俺の心の中の妄想なのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この屑が!!』『お前なんか消え去ってしまえ!!』『ミストを元の体制に戻しやがれェェッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………けど回りで罵倒してくる幻影達の中にはあの事件で死んでしまった人達やいまでも生きてる人達が混ざっている………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしあの人達が全員あの事件で死んだ人達だったら全員が亡霊となって俺に憎しみの怒声を吐きに来たって納得がいくが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ生きてる人達もいるならあれらは俺の心の中で作り上げた幻ってことになる筈………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とするとあの幻達と一緒に出てきたこのおじいちゃんの偽者もただの俺の記憶が改変した作り上げた幻………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………こいつが本物のおじいちゃんである筈がない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それなのに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『さっさと撃ってみな?

 こうして時間を無駄にしてる間にも外の世界ではダインが死にかけてんぞ?

 ここで俺を倒す覚悟が出来ないようじゃ到底お前はこの先この世界を“お前の中の精霊”から救うことなんて出来ないぞ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………やっぱりこいつは本物じゃない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの事件の日に死んだおじいちゃんが殺生石が精霊だったってことやその精霊が世界を破壊しようとしてることなんて知ってる訳がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こいつは百パーセント俺の作り出した妄想なんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも俺は妄想が相手でも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんを殺すことなんて出来ない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………駄目だなこりゃ………。

 完全に心が折れてやがる………、

 まるで昔の俺だ。

 俺がレサリナスを逃げ出した時の俺を見ている気分になるぜ。

 俺はお前に俺のそんな姿を見習ってほしくはなかったな。

 これじゃいつまで経っても俺の本物が浮かばれることはねぇぜ?

 お前に全てを託して死んだ俺はお前に何を伝えたかったのかてんで理解してねぇ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「俺に伝えたかったこと………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『いいかカオス?

 お前のおじいちゃんはな………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前なんか目じゃないくらい弱虫だったんだよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『国民達に英雄と持て囃されて調子に乗った挙げ句弟と仲間達を残して国から逃げ出した臆病者だ。

 おまけに娘と義理息子ですらその手で守ってやることも出来なかった一人前の騎士からは程遠い奴なんだよ。

 そんな不甲斐ない馬鹿野郎を慕ってどうするんだよ?

 そんな臆病者の脱走兵なんぞは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの事件でヴェノムなんぞに殺されて当然だよな全くよぉ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 違う………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『満足に国も守れなければ小さな村ですら守りきれない………。

 孫の心を癒すどころか余計深い爪跡を残して消えた馬鹿で間抜けな阿呆にはこの世に名前を残す価値すらない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前だってあんな老いぼれのことなんか忘れたっていいんだぜ?あんなどうしようもない奴をいつまでも覚えているのは疲れるだろ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 違う!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『何が騎士だってんだよ………。

 あいつはもうとっくに騎士なんぞ自分で辞めた身だろうが………。

 そんな奴が偉そうに何を孫に向かってご高説してたんだろうな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とんだ恥さらしのお貴族抜けきらないお坊ちゃんだぜ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「違う!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『違わねぇさ………。

 俺は何一つ自分の責任を果たさずに死んだ糞食らえな厄介者「おじいちゃんは!!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「おじいちゃんは俺にとって大事なおじいちゃんだったんだ!!

 それをお前のような偽者が本人かのように語るんじゃねぇよォッ!!!

 お前なんかおじいちゃんの姿をしてるだけのただの幻なんだ!

 俺の中でおじいちゃんを………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 汚すんじゃねぇよ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はこの生意気な自分の妄想と一緒の空間にいるのが許せなくなった。

 この幻を俺の心の中から消してしまいたくなった。

 

 

 

 俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この幻に向かって魔術を撃つ決心をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『…やりゃ出来るじゃねぇか………。

 ずっとウジウジ悩んでたって始まらなかっただろ?

 そうやって気を楽にすりゃ魔術なんてお前はいつでも使えたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とっとと現実に帰ろうぜカオス。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『火炎よ!!!我が手となりて敵を焼き尽くせ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファイヤーボール!!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありったけのマナを込めてこの幻影に火の魔術ファイヤーボールを撃ち込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の前でおじいちゃんの悪口なんてもう言わせない………。俺の中にお前のような奴がいていい筈がない………。、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前はここで俺の中から消えてしまえ!!!



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静寂

カオスの弾劾空間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………どうした?

 お前の魔術………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺をすり抜けて行ってるようだが?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「このっ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『覚えたての共鳴を俺に使ってんのか?

 まだお前迷いがあるのかよ。

 魔術は俺に向かって撃てるようにはなったみたいたがこんなもん魔術を使ってないのと同じだぜ?

 

 

 お前、本気で俺を攻撃しようとしてないだろ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 してるさ!!俺は本気でアンタをこの空間から消そうとしてんだ!!そのために魔術でアンタを攻撃しようとして発動させたんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけどどうしてだか分からない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタに魔術を当てることだけを考えてるのに何故かアンタに当たらない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてなんだ!?俺は本気でアンタのことを消すつもりなのに……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『引っ込めこの野蛮人!!』『またお前は誰かを殺そうとしてるのか!!』『大罪人が!!その力はそんなことのためにあるんじゃないんだぞ!!』『いい加減その力を手放したらどうだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ちっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外野が耳障りだな………。今はこの幻影を消すことに集中しなくちゃいけないのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『おいおいどうしたよ?

 お前の炎………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だんだんと透明になってきて消えかかってるぞ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 畜生!!何でだよ!!?何でここで炎が途切れかける!!?ここで炎が途切れたらもう一度俺に魔術を使うことなんて……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『……よく見りゃこの炎は純粋にお前だけの炎だな…………。

 これゃお前の現実で使ってる炎じゃねぇ。

 この炎は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前が作り出したイメージ像に過ぎん。こんな炎じゃ俺には届かねぇよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言われてみれば確かに……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この炎は現実で俺に宿った力じゃない………この空間と同じで俺の中の俺の願望が生み出した幻の炎だ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が現実で放つ炎はもっと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『幻に幻をぶつけることすら出来んのかお前は。

 ここはお前の心が作り出した景色なんだぜ?

 どうしてそれをお前はコントロール出来ないんだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこと知るかよ!!?俺だってやれるもんならやってるさ!!だけどアンタのようにこの空間やこの魔術は俺の思い通りに作用してくれないんだよ!!どうしたらこの炎はアンタに届かせることが出来るんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やはり落ちこぼれは何をやっても中途半端だな!』『中途半端な精神で魔術なんか使ったりして暴走させたりするなよ?』『お前みたいな奴に魔術を使いこなそうとすること自体が烏滸がましいんだよ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことは俺も自覚してんだよ!!俺だって自分が一から魔術を練習したりなんてしたことなかったんだ!!そんな状態だった俺にいきなり星を破壊するような力を持った精霊の力が宿ったりなんかしてそれを使いこなせって言う方がむちゃな話じゃないか!?出来ることならこんな力無しで始めから魔術を自由に使いこなせるように特訓とかしたかったよ!!それなのに俺が取り巻く環境はいつも俺にぶっつけ本番の無理なことを押し付けてくる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は普通の生活を送りたかっただけなのに……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『…まだお前は自分のことを認めてねぇようだな………。

 お前がその力を使うことを責める奴なんざここにはいねぇだろ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がこの力を使うことを責める奴がいない………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この悪ガキが!!』『お前なんかアルバと比べてもなんの役にも立たない屑だ!!』『お前のせいでアルバは死んだんだ!!』『お前がまたアルバを殺そうとするんじゃない!!』『下がりやがれこの化け物が!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここには俺を責める声しか聞こえないんだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『この空間と俺達はお前の“加害妄想”から成り立ってるんだよ。

 

 

 あいつらはお前が自分で自分を苛んでいるだけの空想の原物だ。

 あいつらがここにいないってことは理解してる筈だろう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そうだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのミストの村人達は俺が心の中に留めているだけのイメージの幻………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『……お前が耳を傾けなきゃいけねぇのは自分の声じゃねぇ筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よく耳を澄ましてみやがれ………。

 こんな雑音に掻き消えそうになっちゃいるがあの事件当時………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前に対して語りかけてきた声はこんな言葉ばかりじゃなかった筈だぞ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの事件当時に俺に語りかけてきた声………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの事件の日に俺に向けて言われた言葉は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミストから出ていけ!!』『殺生石をどうにかしろ!!』『お前が死ねば殺生石は元に戻るんじゃないか!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……こんな罵倒の他には何も………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……とう………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………トを………ってくれて………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急に村人達からの罵倒が止み静かになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りを見渡すとあれほどいたミストの村人達はいなくなっていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………どこへ………行ったんだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬にして村で一人となった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見れば真正面で対峙していた祖父の姿すらそこにはなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もう何が何だかさっぱりだ。俺はどうやったらこの空間から抜け出せ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………は………ナスへ………よ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またさっきの声が聞こえた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声は俺の後ろの遠くの方から聞こえた気がした………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや………本当にその方向から聞こえてくるんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰か分からないけど誰かが誰かと噺をしてるのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………行ってみるか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今はこの声が誰の声なのかを確かめる以外にはない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………一体あの向こうに誰がいるんだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はその声の主を探して、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミストの村を出た………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………なんだよ………、

 しっかり自分の足で外に出られるんじゃねぇかよ………。』



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思い出せなかった記憶

カオスの弾劾空間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……一緒に行………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はミストの村から出て森に入った。声の主はどうやらこの森の奥にいるようだ。声の感じからして誰かが誰かに話しかけているように思える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな森の中で誰と誰が話をしているのだろうか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩を進めていくごとに声は段々とハッキリ聞こえるようになってくる。方向は間違えてはいない。このまま進めばそこに何かがあるのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて進んで見えてきた景色は見覚えがある景色だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは子供の頃よく大人達に内緒で森に入った時に行きつけにしていた何もない開けた秘密基地の場所であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで目にしたものは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のカオス「ブツブツ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件直後で自らが祖父の死を招いてしまったことを嘆き立ち直れずに独り言を呟く自分の幼き姿があった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のカオス『ブツブツ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………なんなんだよ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今更自分の子供の頃の姿なんか見せられてどうしろってんだよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のカオス『ブツブツ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………我ながらなんて情けない姿だよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はこの頃からずっと変わってないんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人と話すくらいには立ち直ったつもりだけど精神的には子供の頃のこの俺と今でも変わらない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと後悔しかしてない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この空間はそれを俺に再認識させるためにここへと連れてきたのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前はまだミストから外に出ることが出来ていないってそう言いたいのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺は永遠にミストの牢獄に囚われたままだってそう言いたいんだろうな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺の心はずっとミストで立ち止まったままだって………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カオス!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の子供の頃の情けない姿から目を離せないでいると後ろから声がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この声は………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は俺の名を呼ぶ声の方へと振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???『ハァ………ハァ………!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ウイン……………ドラ………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして子供の頃のウインドラがここへ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラとはあの日おじいちゃんを探しに森へ入って以降会わなかった筈だが………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『ハァ…ハァ………、

 やっぱり………、

 ここにいたんだね………。

 カオス……。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のカオス『ブツブツ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『………君がいなくなったから心配して探しに来たんだよ………。

 村長に聞いたらカオスが村を出ていったって言ってたからカオスがどこかに行くとしたらここしかないと思って………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のカオス『ブツブツ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………これは何だ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はこんな記憶はないぞ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは俺の過去の記憶の中じゃないのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうしてこんな場面が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のカオス『ブツブツ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『………全部話は聞いてきた………。

 大人達がカオスが殺生石の力を盗み出してあのスライム達を村に引き入れたって………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のカオス『ブツブツ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『………もしそれが真実なら………、

 俺は君を許せない………。

 君がスライムを連れてきたんだとしたら父さんは………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のカオス『ブツブツ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全部俺が悪いんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がお前の大事な人やその他の人達を死に至らしめたんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺のことなんか許すんじゃない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この俺を憎み続けろ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が許されていい訳がないんだから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『………………俺は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺はやっぱり君を憎むことなんて出来ないや………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『……俺は君のおかげで俺が本当にやりたかったことを見付けられた………。

 父さん達大人が言うような将来じゃなくて俺は俺だけの夢を持つことが出来たんだ………。

 

 

 君に出会えたことで俺はただ言われるがまま……、

 命令されるがまま従う人生だけが人生じゃないって知ることが出来たんだ………。

 

 

 俺に夢を与えてくれた君には本当に感謝してる………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ありがとう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………何故ここで俺はウインドラに御礼なんて言われるんだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラは俺を憎むべきなのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このウインドラはどうしたんだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは素直に俺に恨み言の一つでも言っていいんだぞ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今ならここには俺と君以外の誰もいないんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嘘をつく必要性や俺に気を使うことなんてどこにも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『カオス………、

 ……もし他に行く当てがないんだとしたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺と一緒に王都………、

 レサリナスへ行かないか………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レサリナス………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供の時の俺と………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラから………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はウインドラにそんなことを言われたことは………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺から冗談で言ったことはあったけど…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がウインドラに誘われてレサリナスへ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供の俺はなんて答えるんだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のカオス『ブツブツ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………相変わらずか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 せっかくウインドラが話しかけてきてるのにお前は何やってるんだよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなにウインドラはいい奴なのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それをいつまでも落ち込んで無視なんかして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………まさか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当にあったことなのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの事件の後は記憶があやふやで何も覚えていない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラは本当に俺を誘って………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『……今のミストはなんだかギスギスしてる………。

 大勢の人が亡くなったせいもあるけど………、

 

 

 一番の原因はアルバさんと君がいなくなったからだと思うよ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いやまさかそんな筈はない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは俺の記憶がそうであってほしいと思っただけの願望の世界だ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのミストの人達は俺がいなくなったらそれだけで清々するだけで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『本当は皆分かってるんだよ………。

 子供だった君が殺生石の力を盗み出せる筈がないって………。

 百年間ずっと誰も殺生石について何も分かっちゃいなかったんだ………。

 

 

 殺生石の力が人に移動出来たなんて………。

 一旦落ち着いて考えれば分かることだったんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君も俺達と変わらない被害者だったんだって………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のカオス『ブツブツ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………違うよ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は被害者なんかじゃない………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの事件の加害者だ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はあの事件で皆をヴェノム達に襲わせて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『一度気が立ったら中々人の気持ちは止めどころが無くなるよね………。

 ………皆も“君達の家を燃やそうとして”自分達の過ちに気付いたんだ………。

 この間の事件の怒りのぶつけどころを探していたら丁度よく君がいて………。

 

 

 君に対して強い怒りを覚えて家を燃やした後に頭が冷えてやっぱり間違いだったって気付いた後に火を消して………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のカオス『ブツブツ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺の家燃やされてたんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことすら知らなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの事件の後何度かミストの近くにまでは行ったのに自分の家を確認することはしなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうあそこは俺の居場所じゃないんだって思ってたから燃やされても………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『これ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうしてそれを君が………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうしてそれを君が持ってくるんだよ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それを持ってきたのはおじいちゃんじゃ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『君の家が燃やされたって聞いて慌てて君の家に向かったんだ………。

 そしたらもう家は半分ほど焼けてたんだけど家の中の方はあまり燃えてなかったから何か大事なものだけでも取り出せないかって思って中に飛び込んで取りに行ったんだ………。

 ………結局無事だったのはこの二つだけだった………。

 俺も君と話をするときはこの関係の物しか分からなかったしこの二つだけは君の大切な物だって思ったから拾ってすぐに避難した………。

 これ以外の物は全部焼けちゃったよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ごめんね………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言ってウインドラが子供の頃の俺に差し出してきたのは俺にとってはずっと見覚えがあるものだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラが差し出してきた物は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が死んだおじいちゃんから村を守るようにと託されたのだと思い込んでいた………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 焦げ跡の残るおじいちゃんの奥義書と木刀だった………。



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真に見つめるべき相手

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それをどうして君が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君が俺に届けるんだよ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを届けに来たのはおじいちゃんじゃ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『馬鹿孫が………、

 死んだ俺がお前にあれらを持ってこれる訳ねぇだろうが………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……もう少しこの先を見てな………。

 まだ終わっちゃいねぇからよ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『………カオス………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これを持って俺と一緒にレサリナスへ行こう………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のカオス『ブツブツ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『今回のことで俺も漸く踏ん切りが着いたよ………。

 父さんが死んだのは悲しいけどそれは俺達が弱かったからなんだ………。

 弱かったから………大事なものを守れなかった………。

 父さんや………君のお祖父さんも………。

 

 

 

 

 

 

 だから俺達二人で強くなろう。

 強くなって俺達で今度こそこのミストを守るんだ。

 そうすればもうこの村は殺生石の力なんて必要なくなるんだ。

 そうすれば………君の居場所はこの村にまた出来るんだ。

 このことは君以外の人には言ってないけど俺はこの村を出ていくよ。

 俺は自分の足でこの村を出ていく。

 君がいつもしていたように俺は自分のことを自分で決められる大人になりたい。

 君みたいに強くなりたいんだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のカオス『ブツブツ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『……直ぐには無理だろうけど村長はレサリナスに行って王国にミストを統治下に置く申請を出すと言っている………。

 次期にここにも騎士団が来るんだ。

 ………俺達は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その騎士団が来てレサリナスに戻る時に一緒についていこう。

 この村で騎士団に入っても俺達は強くなれない。

 ここで強くなるよりもアルバさんがいたようなレサリナスでなら俺達ももっともっと強くなれる。

 俺達二人だけでこのミストを守れるくらいに強くなろう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のカオス『ブツブツ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『………こんなこと直ぐには決められないよね………。

 返事は今はしなくていいよ。

 出来る状態でも無さそうだしね………。

 

 

 けどもし君が俺と一緒にレサリナスに行くって決めた時はまたこの場所で俺と会ってほしい。

 俺もちょくちょくここに会いに来るから………。

 

 

 もし俺と一緒にレサリナスへ行く気になったらまたここで落ち合おう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って子供のウインドラは去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから子供の俺はウインドラが置いていったおじいちゃんの奥義書と木刀を見て何かを悟りウインドラが去っていった方向とは真逆に歩いていった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後の俺の同行は知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はウインドラがミストを去るその日までこの場所に近寄ったことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この付近のモンスターは粗方片付けたからモンスターを探して遠くの方へと行きあの旧ミストを見付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その旧ミストの方にはモンスターが多く生息していたこら暫くはそこでモンスターと戦う日々と修行に明け暮れた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラの話は何一つ頭に記憶として残ってはいなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラがまさか俺にだけミストを去ることを伝えていたなど知らなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………いや、覚えていなかったのだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは急速に時間が過ぎていきこの場へと何度も通うウインドラの姿があったが子供の俺は一度たりともこの場所へと顔を出さずウインドラは足繁く来ては帰っていく日々が続く………。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてとうとう………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のウインドラ『………俺はもう行くよ………カオス………。

 俺は騎士になりにいく………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラがミストを離れる時がやって来た………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後まで俺はウインドラと会うことなくウインドラがミストを去るのを知らずにいた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……ウインドラ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして俺はあの時ウインドラの声に反応しなかったんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラが俺に話し掛けてきていたのに気付いていればミシガンにそれを伝えてあげられて寂しい思いをさせずに済んだのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうだな………、

 お前がしっかり今を生きている奴等に目を向けていればあんな寂しい後ろ姿をさせずに済んだんだよな………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………それにお前が気に病まないといけないのはウインドラだけじゃねぇ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの子もそうだろうが。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラが去ったこの場にもう一人の少女が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少女はカオスもよく知るあの女の子であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のミシガン『ファイヤーボール!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボア『フゴコォッ!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ミシガン………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえばミシガンはミシガンで俺やウインドラがいなくなってから一人で強くなろうと必死に修行を積んでいたらしいな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それがこの場所だったのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供ってのは不思議と似たような場所に集まるもんなんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供のミシガンは一人で森に入り一人でモンスター達と戦っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直危なっかしくて手助けしてしまいそうになるがここは現実ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現実でないのなら手助けのしようがないのだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも頑張り続けるミシガンを見ていると………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸が痛くなる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女が頑張り続けているのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いなくなった俺やウインドラのためだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな俺やウインドラのためにひたすら強くなろうともがく彼女の姿はとても心の奥底に響くものがある………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は今も現実で………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『泣かせる話じゃねぇか………。

 ウインドラやミシガンはずっとお前のことを想い続けてお前の心を癒すために強くなる努力に励んできたんだ………。

 ずっとずっとお前の心の傷が癒えると信じて待ち続けていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それなのにお前はなんだ………?

 とっくに死んじまった俺なんかのことしか見えてないで生きているあの二人の言葉に耳を貸そうともしないで罪を悔いる“悲劇の王子様”ぶりやがって………。

 お前が悔いなきゃいけねぇのは俺の死じゃなくてお前を励まそうと健気に側にいてくれたあいつらを今でも待たせちまってることじゃねぇのかよおい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あ………っ………ぇ………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その通りだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はこんなところで何を立ち止まっているんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はすぐにでもあの二人やアローネ、タレス、オサムロウに追い付かなければならなかったのにそれを………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………人は必ずしも絶対の正しい答えを導くことは出来ねぇ………。

 お前が間違えたようにミストの大人達連中も間違えた。

 大多数にお前が悪だのなんだのと罵られたからと言ってそれがその通りとは限らねぇ………。

 多数決が確実な答えだなんて誰が決めた?

 あの殺生石のこともよく知らなかった連中がお前を責めたところで何の正当性があるんだよ?

 ………始めからあの事件は“事故”だったって分かるだろうがよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな間違いだらけの事件のことでいつまでも落ち込んでじゃねぇ。

 正しい答えを導くことは出来なくても間違いを間違いだと導くことぐらいならお前でも出来るだろ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ッ………フゥ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この幻影の言葉は結局のところ俺の作り出した幻影なら俺の言葉である筈だ………。俺が俺を慰めているようなものの筈なんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それなのに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうしてかな………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんの声そのものでこの幻影が語りかけてきているからだろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はこの幻影の言葉に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 溢れる涙を止めることが出来なかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今はこんなところで泣いている場合じゃないのに………。



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アルバと精霊の会話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………泣ける話とは言ったがよ………。

 泣いている場合じゃねぇだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………行けよ

 お前を待ってる奴等のところへよ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はこんなところで泣いている暇などない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は仲間達のところへと帰らなきゃ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…でもどうやってここから出れば………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『んなもん今のお前なら分かるだろうがよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはもうミストの外だぜ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当だ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はこの空間に来るようになってから初めてミストの外に出てこれた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもは魔術を使うのを諦めてあのミストの中から出たことなかったのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………さっさと帰りやがれや。

 もう俺………、

 ………の死んだ本物なんかに拘るんじゃねぇぞ?

 お前が拘らなくちゃいけねぇのは生きてお前の帰りを待つ大事な仲間達だけだぞ。

 なんせ一ヶ月どころか“十年”も待たせてる奴だっているんだからな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早く追い付いてぶっ叩かれて来やがれ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もしかしてこの幻影は本当は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………あんた………本当は俺の『もう振り替えるなよ?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……俺のことなんて野暮なこと聞くなよ………。

 誰だっていいじゃねぇか。

 俺はただのお前の中に残っていたジジィの記憶だよ。

 

 

 お前が気にかける程のもんでもない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行ってこい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行って好きなだけお前の持つ力で守りたい奴等を守ってこい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前みたいに守りたい奴を選り好みしてるようじゃ騎士としては失格だが人としてはごく普通の考えなんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前は騎士になりたかったんじゃなくて俺のようになりたかったんだろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だったら後ろを向きながら歩くな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前を向いて歩いていけ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が立ち止まったその先にお前なら進めるんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミストの馬鹿共の多数決なんかよりも信じてくれる大事な仲間達の“少数決”の方が重要なんだってことを忘れるな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前なら俺を越えられる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺を越えて世界も大切なものもなにもかも救える!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前はお前になってこい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の孫なんかじゃなく“カオス=バルツィエ”として生きてこい!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『…………ってもういねぇか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の最後まで世話の焼ける孫だぜ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺生石『………よかったのか………?

 お主が実はアルバート=ディラン本人であったことを伝えなくて………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………いいんだよ………。

 あいつは俺にすら本心を語ることが出来ねぇほど不器用な奴でな。

 俺が俺の本物のフリでもしなけりゃ本音をぶちまけることも出来なかっただろ………。

 

 

 

 

 

 

 まぁ最後には察してたと思うけどな。

 この空間はカオスの弱い心が生み出したカオスの架空の非現実精神世界………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………と思わせてカオスの中にいる精霊のアンタがあいつの記憶を呼び覚まして作ったアンタの世界だってことはな。

 俗に聞く精霊界っもんだな。

 アンタがカオスの中にいるからこそこんな世界が作れたんだろ?

 精霊王様々だな。

 ミストでアンタに消し飛ばされた俺のマナがアンタに吸収されて俺の記憶を持ったマナがそのまま世界に循環することも出来ずにカオスとアンタの中に留まり続けた。

 俺の意識はそっから消えることも出来ずにカオスにも気付かれることもなくカオスと共に在り続けた………。

 そのおかげでずっとカオスのことを見守り続けることが出来たよ。

 ………見守ってただけだがな………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺生石『お主の姿は随分と過保護に映っておったぞ。

 よくそんなんでこのような役を演じられたな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『俺のことでずっと立ち止まったままだったんだ。

 俺が背中を押す以外にあいつが立ち直ることはなかっただろうよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこだけはアンタに感謝するぜ。

 でもあんまアイツを追い詰めてやんなよ?

 あいつは腕っぷしは強いが中身は誰よりも繊細で脆いんだ。

 あいつには肉親が俺しかいなかったからな。

 絶対的に味方してくれるような心を支えてくれる両親との思い出が作れずに二人は既に現実を去った。

 ………アンタに殺されてな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺生石『儂は我が身を守っておっただけじゃ。

 儂に触れし者は儂を狙いに来たウルゴスの『んなこと知ったことか。』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『アンタのせいでカオスは心に傷を負った。

 一生消えない傷がな………。

 ………恐らくその傷は今回のことである程度は緩和されただろうが今危惧すべきなのはそんなことじゃねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あいつ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が一番あいつに会わせたくなかった奴に会わせることになっちまった……。

 そいつぁ多分アンタのことを狙ってる奴と“同一人物”だろうよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “マクスウェル”さん………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル?『………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『アンタのこの名前はそいつから聞かされたんだ。

 ………アンタ本当は名前なんかないんだろうがアンタが会いたくない奴がアンタにこの名前を付けたんだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だったら俺はアンタが忌避する奴を知ってるぜ?

 そいつは俺が思うに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “イフリート”だ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル?『さぁ………どうじゃろうな………。

 儂が目覚めたのはこの星でいうところのつい“三月”ほど前じゃ。

 儂が一度星屑を降らせた日に儂の意識は永き時の眠りから目覚めた………。

 儂を付け狙う者がイフリートかどうかは分からぬよ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『いいや断言する。

 あいつの力は間違いなくイフリートだった。

 その証拠にアンタと同じか“それ以上のマナ”を感じた………。

 あんな化け物の中の化け物がこの星で俺達と共存していたってなると死んだ身の上でも恐ろしくなるわ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………アンタは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精霊王なんだよな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル?『王かどうかはともかくイフリートやその他の眷属達よりかは上の存在ではあるな………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『………だったらイフリートに勝てるのか………? 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『勝てる………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とは言い切れぬな………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『自信のねぇ返事だな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁいいか………。

 これからはあいつらの時代だ。

 後のことはあいつらに任せて消えるとしますかねぇ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル?『……もうよいのか………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバ『いいさ、

 俺がいつまでもカオスの中で見守り続けてることの方がおかしいんだ。

 俺が残り続けてたらまたあいつは後ろを振り替えるかもしれねぇ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ならこんな俺はいない方がカオスのためになんのさ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル?『…承った………。

 お主の魂よ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠久の彼方へと還るがよい………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………安らかに眠るがよい………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……逝きおったな………。

 死してなお孫を思いやるいいエルフじゃったな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかしイフリートか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めたばかりの儂よりも強くなっておるやもしれぬな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………やはりこの星屑を砕かねばならぬのかのぅ………。』



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振り払う過去

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺はずっと自分のことしか見ていなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が犯してしまった罪と向き合おう向き合おうと考えるばかりで仲間達の厚意なんて気にしちゃいなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺はどうしようもない臆病者だ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 他人に責められることは当たり前に受け止められるのにそれで失望されて去っていかれることが何よりも怖い………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分で他人との距離を置きたいのか置きたくないのかそんな自己矛盾で頭の中がいっぱいだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この人は俺のことをどう見てくれるか、どう扱ってくれるか………そんなことばかり考えてよくしてくれる人達のことなんか全く信用しないで一方的な俺の印象だけで関わってきた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仲間のことなんて信頼なんてしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………その結果が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十年の遅刻か………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我ながらなんて酷い失態だったことか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はいつまでもいつまでもあの二人を待たせ続けてたんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを見兼ねておじいちゃんも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな所で何を油売ってる暇があるんだ俺は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう四十日だとか十年だとかの遅刻を嘆く暇すら惜しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が大事に思っていた人達は三人共こんな俺ですらまだ待っていてくれたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は三人を大事に思ってはいたけど彼等からの気持ちについては今まで考えたことすらなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は俺が三人を大事に思っているだけ………それだけでいいと思っていたから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼等を“人”として認識していなかったかのかもしれない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼等は俺が反省している姿勢を見せれば俺のことを信じてくれる。そう思っていたからこそ俺はその厚意に甘えてこんなにも長い時間待たせてしまったんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もう俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も待たせてはいけないんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前を見て歩いていかないと………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィンドブリズ山跡地 ダインとの修練最終日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……モード・インフェ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が現実へと帰還を果たす。そして目にした光景は意識を失う前と同じ光景。ダインがグリフォンに組伏せられ次の瞬間にはその爪で引き裂かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうなる前に俺は意識を集中させマナを溜めて即座に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリフォンに魔技を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ウインドランス!!」

 

 

 

 

 

ダイン「!」

 

 

グリフォン「クケッ………!?」

 

 

 グリフォンは俺が放った風の魔技ウインドランスで上空へと吹き飛ばされる。風の魔技を選んだのは万が一ダインに魔技が当たりでもした時に怪我を負わせないことと速効性のある技を選ぼうとしたら咄嗟にウインドランスがよかったと思ったからだ。風を得意系統とするグリフォンに風の技は効き目が薄く風を斬ることに特化したその体には大した効果は見られなかった。

 

 

 それでもダインから引き剥がすことには成功した。後は………、

 

 

ダイン「カオス……?

 今魔技を………。」

 

 

カオス「あぁ、

 もう心配はいらないよ……。

 もう………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乗り越えたから。

 ここからはこのグリフォンは俺が“魔術”でケリをつける。」

 

 

 もう迷いは断ち切った。もう俺が魔術を生物に撃つことを躊躇うことはない。なにせ俺は今日までで十年も俺のことを健気に待ち続けた人達がいるんだ。そして彼等は今でも俺のことを信じて待ち続けてくれている。普通だったらそんなに待たせてたりしたら呆れられて縁を切られてもおかしくはない。

 

 

 けどあの二人ならそんなことにはならないって知っている。十年も俺のことを待ち続けた二人だ。あの二人はつい最近仲間になった仲じゃない。十年も前から俺の仲間だったのだ。そのことに今更ながら気付くとは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はずっと現実から目を反らし続けていたんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でももう現実逃避は終わりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう過去は振り返らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今ある現実だけに目を向けて戦う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それがあの二人へのせめてもの、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今を一緒に生きている二人への罪滅ぼしだから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリフォン「グォォァァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「カオス……!

 グリフォンが……!」

 

 

カオス「大丈夫……、

 俺に任せて………。

 俺が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一撃で終わらせるから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリフォンが突貫してくる。先程のウインドランスで体が多少は負傷しているもののやはりヴェノムだ。狙った獲物はどこまでもそのスピードで追い付く限り逃さない。このグリフォンに狙われたら最後、グリフォンを倒さない限りこの逃亡が終わることはない。ダインにはこいつを倒す術はなかった。ならば俺が殺るしかないだろう。こいつは俺に狙いを定めているのだから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリフォン「クォオアアァァッッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「カオス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリフォンが間近に迫る。それでも動こうとしない俺にダインが声をかけるが俺は動くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はあえてグリフォンが俺を捕らえるように仕向けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はグリフォンに捕らえられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「カオス……!?

 何して「『岩石よ!』」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『我が手となりて敵を押し潰せ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ストーンブラストッ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリフォン「グォッ………!!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の放つストーンブラストが組伏せられた俺の背中からグリフォンを貫いていく。ギガントモンスターでその巨大な体を持つグリフォンにはこの攻撃は絶対に避けられない。一度空へ逃げた高速の鳥を捕らえるには一度地上へと降りてきて貰わなければならなかった。だからあえて無防備にグリフォンが襲ってくるまで何もしなかった。俺のストーンブラストは俺のマナを込めて発動させた謂わば一心同体の力だ。俺には共鳴の時のように当たることはなくすり抜けていく。

 

 

 しかし俺を捕らえるために急速で迫り俺をがっしりと捕らえたグリフォンにはく地上から次々と伸びる岩石達は面白いようにカウンターのごとくグリフォンの体に風穴を空けていく。その勢いはグリフォンどころかその先の天を突き刺そうとする程のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて後に残ったのは俺が放ったストーンブラストの影響で一度グラビティで消したウィンドブリズの山がまた出現したかのように大きな岩の山がそこにできた。グリフォンは言うまでもなくこのストーンブラストで倒せただろう。今度からはこの新しく出来た山がそのままウィンドブリズ山ということになるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「カオス……。

 どうして………?」

 

 

カオス「………」

 

 

ダイン「……どうやって魔術を克服したの………?

 カオスはずっと魔術を生物に当てることが出来なかったのに………。」

 

 

カオス「……叱られて来たんだよ………。」

 

 

ダイン「叱られて来た………?

 誰に………?」

 

 

カオス「……いつまでも下を向き続けて前を見ようとしない俺を天国から舞い戻ってきて激励してくる………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そんな世話焼きで親切な俺の“大切だった人”にさ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はもう過去を振り替えることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が向かなくちゃいけないのは前だから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忘れた訳じゃない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忘れちゃいけない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けど俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう後ろのアンタを追うことはしないよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃん………。



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いざ仲間の元へ

新ウィンドブリズ山

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「おいっしょっと……。」

 

 

カオス「レアバードは大丈夫?

 ちゃんと動くかな?

 ダインとグリフォンのことだけ考えてたらレアバードのこと忘れてストーンブラスト撃っちゃったから被弾してないといいんだけど……。」

 

 

 先程俺はグリフォンを魔術ストーンブラストを放ち倒した。俺の魔術は普通の者が放つそれよりも何百倍も威力と及ぶ範囲が広いためレアバードも俺の魔術の効果範囲内にあり俺の魔術で被災してなければいいのだが……。

 

 

ダイン「……大丈夫みたい……。」

 

 

カオス「そうか………よかった………。」

 

 

 一先ずはこれでダインの移動手段は確保出来たようだ。ダインとは今日でお別れするためお別れの日にレアバードが壊れるようなことにでもなればダインを他の先見隊達のところへと帰すことが出来なくなる。三日間修行をつけてもらった相手にそんな恩を仇で返すようなことはしたくなかった。だからレアバードを捜索して今掘り出したところだ。

 

 

ダイン「この子は普段からうちがマナを込めて飛ばしてるからそのおかげでカオスが共鳴でうちに魔術を透過させたようにこの子も魔術を透過出来たんだと思う……。」

 

 

カオス「ハハッ…共鳴様々だな………。」

 

 

ダイン「うぅん……、

 これはカオスがうちを守ろうとしてくれたおかげだよ……。

 あの場面でうちを捕まえていたグリフォンを吹き飛ばすだけじゃなくそのままグリフォンまで倒しちゃうなんて……。」

 

 

カオス「いやぁ……、

 それほど大したことはしてないよ。」

 

 

ダイン「そんなことないよ……。

 カオスは自分で自分の壁を乗り越えた……。

 カオスは一人でグリフォンを倒した……。

 ギガントモンスターでそれも不死身のグリフォンなんて早々出来ることじゃないと思う……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誇っていいと思うよ……。

 カオスはそれだけのことをやってのけたんだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありがとう………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正面からそんなに誉めちぎられると流石に照れる。いつもだったら俺の力は殺生石ありきの力だと否定するところなのだが俺はもうそんなことは言わない。そんな後ろ向きに捉えることはなかったんだな。

 

 

 ………と言うか魔術を使って生物を殺して“初めて感謝された”………。

 

 

 何だか不思議な気分だ………。

 

 

 俺が魔術を使ってもいいんだって思えてくる………。

 

 

 今までこの力で何かを倒して誉められたことなんて一度も………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……よかった………。

 うちといる間にカオスが無事卒業出来て………。」

 

 

カオス「!」

 

 

 卒業………、

 ということはダインとはもうこれから………。

 

 

ダイン「予定が狂っちゃったけど今日にはランドールがこっちに戻ってくる……。

 うちはもう戻らなくちゃいけない……。」

 

 

カオス「………」

 

 

ダイン「……カオスとは結局友達になることは出来なかったけど……、

 うちはカオスと一緒にいれて楽し「なぁダイン……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……もしダインがよければ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺と友達になって「カオス!!」…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!!

 こんなところにいたのですね!

 捜しましたよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………アローネ?」

 

 

ダイン「アローネ=リム………クラウディア………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なんか手配書と違うような………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!?

 貴女は………!?

 ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………これは一体どういう状況なのですか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………それはこっちのセリフだよ………。

 何でアローネがここに………?

 って言うかここってかなり寒くなってると思うけどアローネはここにいて大丈夫なの………?」

 

 

 この辺り一帯の気温はカオスとダインの修行で山のモンスターですら逃げ出す程の低温だ。カオスは精霊の加護を受けているのか温度による弊害はない。ダインは何かしらの力を使っているのだろう。しかしアローネは………、

 

 

 

 

 

 

アローネ「私は義兄のローブがあるので大丈夫です。」

 

 

カオス「そのローブって本当に凄いな………。」

 

 

 水気があれば即凍り付くこの環境下で完全に防寒能力を発揮するローブを作れるとは……。

 何度聞いてもアローネの義兄の話には感服する。

 

 

アローネ「そんなことよりもカオス!

 大変なんです!

 カオスがこの山で修行している内にこの山の方へとヴェノムの主らしきグリフォンが飛翔しているのが見えて……!

 狙いは恐らくカオスです!

 カオスの膨大なマナに引き寄せられてグリフォンがこの山のどこかでカオスのことを嗅ぎ付けて襲ってくるでしょう!

 カオスは剣を置いて修行に行かれたのでこうして剣を皆でお持ちしました!」

 

 

カオス「皆で……?

 皆もこの山に来てるの?」

 

 

アローネ「えぇ……。

 ですが山に近付くにつれてとてつもない寒気で他の皆はこの山に近寄ることが出来ずこうして私だけがここへとカオスの剣を持ってくることが出来ました……。

 ……どうやら間に合ったようですね……!

 グリフォンに見つかる前にカオスにこの剣を「グリフォンなら倒したよ?」………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「グリフォンならもう俺が魔術で倒したから安心だよ。

 ここにいるダインに修行をつけてもらってどうにか魔術を生物に当てられるようになったから。」

 

 

ダイン「うん……、

 カオスが貴女が来る前にグリフォンを倒しちゃったからもう剣は必要ない……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………何故御一人で修行しに行っていた筈がバルツィエの師事を仰ぐことになったのでしょうか……?

 

 

 ………それよりもグリフォンを倒してしまわれたのですか!!?」

 

 

 グリフォンを倒したと聞いて驚くアローネ。約一か月と十日振りに会ったがなんとかいい報せをすることが出来た。それに魔術もモンスターにも当てられるようになった。これでもう心残りはなく……?、

 

 

アローネ「……出来れば事の経緯をお聴きしたいところですがそうも言ってはいられません。

 

 

 カオス!

 直ぐに私と共に来てください!!」

 

 

カオス「そんなに慌ててどうしたの?」

 

 

 何やらアローネは急ぎの用があるようだが………。

 

 

 そういえばカイメラの方はどうなっているんだ?俺が修行中はカイメラがどこかに行ってしまわないよう注意を引き付けてくれている手筈だったと思うが先程の話では全員こちらに向かってきているみたいだが。

 

 

 

 

 

 

 しかしアローネは次の瞬間とんでもないことを口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「今カイメラが直ぐ山の麓まで来ているのです!

 カオスに剣を届けようと皆でこちらまで足を運んだのですがどうやらそれを追って来ていたらしくこちらの方にまで連れてきてしまいました!

 

 

 今はウインドラ達が麓でカイメラを足留めしていますがそれも時期に止めきれなくなるでしょう…!

 私達はこの一ヶ月と少しの間に何度もカイメラに挑みましたがあの変身再生に敗れてきました………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お願いしますカオス!

 カイメラ討伐にはやはり貴方の力が必要なのです!

 私達と共にあのカイメラと戦ってください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………やれやれ………、

 たった今グリフォンを倒したばかりだというのに今度はカイメラの相手をしなくちゃならないのか………。

 一日の内に二体もヴェノムの主と戦わなければいけないなんて………。

 ヴェノムの主達は俺を休ませてくれる気はないようだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それでも行くしかないか!

 四十日も仕事を遅らせていたんだ!

 丁度グリフォンで肩慣らしは済んだところだしこの流れに乗ってカイメラも倒してやる!

 

 

 俺は………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう振り向かずに前に進み続けると決めたんだから!!



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再戦のカイメラ

新ウィンドブリズ山

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「カオス……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 ダイン……?」

 

 

 

 

 

 

ダイン「乗って……!」

 

 

 ダインは今掘り出したレアバードに飛び乗ってからカオスにも同乗するよう命じる。ダインはレアバードで運んでくれるつもりらしい。

 

 

カオス「いいのか?

 ダインはこれからランドール達の所に戻らないといけないんじゃ……?」

 

 

ダイン「ここまで付き合ったら最後まで見届けたい……!

 カオスはそのカイメラとかいう奴を倒すために今日まで頑張って来たんでしょ……?

 

 

 師として弟子の晴れ舞台を見物したいから……!」

 

 

カオス「ダイン……。」

 

 

 本当にバルツィエにしておくには勿体無い程ダインは親切な性格をしている。やはりダインは敵にするよりも味方に引き入れたい、そうカオスは思った。

 

 

アローネ「わっ、私はどうすれば……!?」

 

 

 カオスがレアバードに乗るとアローネが一人取り残されそうになり慌てる。アローネのことを忘れていた。と言うかこれはどうすればよいのだろうか?

 

 

ダイン「貴女も乗っていい……。

 女一人増えたくらいで飛ばなくなるほどこの子の飛行性能は低くはない……。」

 

 

アローネ「…私がご一緒しても宜しいのですか?」

 

 

ダイン「いい……。

 カオスはうちを友達と言ってくれた……。

 なら……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの友達ならうちとも友達になれそう……。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「はっ、はぁ………?

 どうして貴女が私達を乗せて下さるのかは分かりませんが……、

 ……ともかく……、

 

 

 お願いします………。

 私も連れていって下さい……。」

 

 

ダイン「任せて……。

 超特急で飛ぶから道案内宜しく……。」

 

 

 アローネがカオスの後ろに乗り込む。少し狭いがダインの操縦技術なら振り落とされるということはないだろう。

 

 

カオス「ダイン!」

 

 

ダイン「しっかり掴まってて……。

 急ぎみたいだし少し運転が荒くなる……。

 ……それじゃ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行くよ……!」

 

 

 ダインがレアバードを起動させ一気に上空まで飛び上がる。一人分重量が増えたせいか後ろの方は若干揺れが大きくなり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ふっ、ふわぁぁぁぁ~~~!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空を飛ぶ経験をしたことがないアローネから変な悲鳴が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふわぁ?

 どんな悲鳴だよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラジャバウォック「ゴォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「はぁ……はぁ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「……っ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「タレス……しっかり……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「流石にこれ以上は時間稼ぎが厳しいな………。

 我の魔術でフォローするのもそろそろ限界だ……。

 ここが引き際だろうな……。」

 

 

ウインドラ「何を言ってるんだ!!

 まだアローネがカオスを連れ戻していないだろう!!」

 

 

ミシガン「そうだよ!

 ここで私達があいつから逃げたらあいつはカオスとアローネさんのところに行っちゃうんだよ!!?

 私達がまんまとあのカイメラを連れてきちゃったんだから私達であいつを何とかしないと!!」

 

 

オサムロウ「それが出来なかったから我等はこの一ヶ月奴に敗北を重ねられ続けてきたのではないか。

 ……ここまで来て悔しいと思うだろうがカオスの修行の成果は諦めて別の手段で合流すべきだ。

 その後このカイメラを後回しにし他の四体のヴェノムの主を手分けして討伐に当たる。

 そして最後にまたカイメラ討伐について作戦を立てよう。

 ここで時間を浪費し過ぎたのだ。

 これ以上このカイメラに時間を取っている暇などない。」

 

 

ウインドラ「そんな都合のいい合流方法があるのか!?

 それにここにはグリフォンだっているんだぞ!?

 カオスとアローネだけでグリフォンの相手など出来る筈がない!!

 そんなところにこのカイメラも投入した暁には二人は……!!」

 

 

オサムロウ「………アローネという戦力が無くなってしまうのは惜しいが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが仮に殺られてしまった場合………、

 カオスと共に精霊も息絶えるだろうか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「貴様!!

 まさか本気でそんなことを口にしているのではないだろうな!!?」

 

 

ミシガン「カオスが死ねば精霊も一緒に死ぬとは限らないんだよ!?

 もしかしたらカオスが死んじゃった瞬間に精霊が解放されて精霊が手当たり次第に暴れだすかもしれないし……!!」

 

 

オサムロウ「我も本気でそう思っている訳ではない………。

 

 

 だがしかし我等ダレイオス勢とソナタ等とでは当初のスタンス自体が違うのだ。

 我等はあくまでもマテオとバルツィエという組織と戦うために九の部族達を震え立たせようとしていた。

 だが後になって我にだけ実は精霊が世界を破壊しようとしているなどと報告されても困る。

 我等は始めからソナタ等に依頼していたのはダレイオスのヴェノムの主達の討伐を遂行してもらうことだけだった。

 ソナタ等はソナタ等五人ともう一人のレイディーという女性の計六人でこの依頼にあたっている。

 多少数が減ったところで依頼さえこなしてもらえればそれでよかった。

 精霊による世界破壊は管轄外だ。

 

 

 だがしかし世界を壊されてしまっては事だ。

 ならばここでその脅威を勝手に消えていくのも一つの手だろう。

 我等ダレイオスは精霊の審判に脅かされることなくマテオと戦え「おい!今すぐその口を閉じろ!」」

 

 

ウインドラ「カオスは必ず修行を終えて俺達と合流する!!

 そしてグリフォンもこのカイメラも俺達で倒す!!

 カオスが死ぬなんてことは絶対にあり得ない!!

 あり得たとしても俺達がそれを阻止して見せる!!

 

 

 カオスも世界も失ったりはしない!!!」

 

 

ミシガン「私達は離れていてもずっとお互いに思いあってきた!!

 ずっと心は側にあった!!

 今更誰かが欠けるようなことになんてならない!!

 そんなの仲間の考えることじゃないよ!!」

 

 

オサムロウ「……そうだな……。

 我はあくまでも“同行者”であるからな……。

 ダレイオス陣営の上に近しき者として対局を見据えた判断を下さねばならぬ。

 

 

 ソナタ等は単なる“下請け”に過ぎんのだ。」

 

 

ウインドラ「……!!

 このカイメラをどうにかしたら真っ先に貴様を叩き出してやるからな!!」

 

 

オサムロウ「………ではどうにかしてみせよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの悪魔をソナタ等だけで倒しきれるか?」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「ぐっ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラジャバウォック「ウォオォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………カオス………アローネさん………、

 早く戻ってきて………。

 でないと………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………え………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれは…………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「レアバード…………!?

 バルツィエか………!

 こんな時に………!」

 

 

ウインドラ「狙ったかのような最悪なタイミングで来たな!!

 流石にカイメラとバルツィエを同時に相手となると……!?」

 

 

 

 

 

 

ミシガン「待って!!

 よく見てよあれ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスとアローネさんが乗ってるよ!!?」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「何だと!?」

 

 

オサムロウ「………何故カオスとアローネがあれに乗っているのだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダイン達三人が搭乗するレアバードはどうにかウインドラ達の元へと辿り着いた。地上ではウインドラ達がカイメラとの戦闘で疲弊しているのが分かる。

 

 

アローネ「……!

 良かった!

 間に合いました!!

 ダインさん!

 早く地上へと「有り難うダイン!!」カオス!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは飛行するレアバードから飛び下り地上にいるカイメラの頭上を取り………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「フレアボム!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありったけのマナを注ぎ込んだ魔技フレアボムでカイメラジャバウォックを爆撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラジャバウォック「ゴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!?」



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カオスの力

新ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダインが操縦するレアバードから飛び下りて俺は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で行われている戦いのことよりも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今浮飛んでいる空を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が下や後ろにばかり気を取られている間にも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空はこんなに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きくて青かったんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな大きな空の下に広がるこのデリス=カーラーンで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はどれだけの存在なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人より名は知れた存在だとは思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも俺は俺の世界がこの世界と比べてみてちっぽけな大きさしか持たなかったことを知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の世界の大半はおじいちゃんがいた世界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのおじいちゃんが死んで俺の世界は壊れてしまったのだと思い込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の世界にとっておじいちゃんはかけがえのない存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのおじいちゃんがいなくなる切っ掛けを作ったのは俺だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこだけはどうしても揺るがない事実として俺の記憶に深く刻み込まれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけど今は俺の世界はおじいちゃんだけじゃないことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の世界にはウインドラとミシガンの二人がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の世界の大部分を形成するおじいちゃんがいなくなったことで俺は俺を形作る世界が完全に失われたのだと思い込んでしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は俺にとっておじいちゃんがいなくなった後の世界に生きる同じくかけがえのない人達だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その俺の世界の住人に俺はずっと支えられて生きてきたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう俺は二人の負担になってはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 支えてもらった分今度は俺が二人を支えなくちゃいけないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人だって俺と同じく大切な誰かを失う経験をしたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺だけが傷付いてた訳じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の他にも傷付いた人は沢山いる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その他大勢のことはどうでもよくても俺は二人がいるこの世界を守りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………二人だけじゃないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タレスやレイディーさん、オサムロウさん、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてアローネ達だって今は俺の世界にいるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はそんな俺を支えてくれる人達がいるこの世界を守りたいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くよくよして自分の過去の鏡を見ている場合ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が二人を守りたいのは世界中の人達じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界中の人達の中でこんな俺を探しだして見付けてくれたアローネ達を守りたいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の殻に閉じ籠っている暇などない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな殻は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思いっきり突き破ってやればいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな風に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「フレアボム!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラジャバウォック「ゴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン・ウインドラ・オサムロウ「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………フフ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺のフレアボムがカイメラに炸裂する。カイメラは俺の技を食らい爆炎の中に飲み込まれた。そして俺はカイメラの正面に着地しウインドラ達と合流を果たす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「皆大丈夫!?

 今どういう………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は仲間達の傷付き消耗している姿に絶句してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「カオス………!

 お前………。」

 

 

ミシガン「お帰りカオス!!

 やっと帰ってこれたんだね!?」

 

 

オサムロウ「随分と長くかかったようだな……。

 修行の程は上々と言ったところか……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 口々に俺の帰還を喜んでくれる仲間達。こんなに長く空けていた俺に対して文句の一つでも飛んでくるかと思っていたが彼等は俺の帰還を祝福してくれた。

 

 

 ………だがそんなことよりも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「?

 どうしたんだ……?」

 

 

ミシガン「ごめんねカオス……。

 カオスが修行中だってのにこんなところまでカイメラを連れてきちゃって………。」

 

 

オサムロウ「ソナタの修行するこの地にグリフォンが飛来するのが見えてな。

 皆でソナタに危険を報せようと向かったところをあのカイメラに目撃されていたのだ。

 不甲斐ないことに我等はこの四十日でカイメラの突破口すら掴めぬまま時を過ごした。

 

 

 しかしソナタが戻ってきたということはこれでカイメラといよいよ決着をつけることが出来るという訳だな。

 四十日足留めできた甲斐があったと言うものだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そんなことはどうだっていいだろうが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がだらしないせいでそんなに傷付いて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………ッ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タレスに至っては意識すらないのかよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が皆を待たせていたからこんなことに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がノロマだから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が皆を傷付けさせたんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が皆をこんな姿にしてしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が自分にばかり拘っていたから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でももう俺は誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆を守るって………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆に迷惑をかけちゃいけないんだって誓った………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆が傷付くところを見たくないくせに皆を盾にして自分は安全なところにばかり避難していたからこんなことになった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………今度は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が皆の盾になる番だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「グレイブ!!バニッシュボルト!!スプラッシュ!!ファーストエイド!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はタレス、ウインドラ、ミシガンに対応した属性の魔技とオサムロウに治癒術を付加する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン・ウインドラ・オサムロウ「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………よし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………うん………。」

 

 

アローネ「カオスが皆に……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の技を受け四人はみるみる傷が癒えていく。あの空間に入る徴候もなかった。あの空間に俺が囚われてしまうことはもうないのだろう。何故ならあの空間は俺とおじいちゃんがそれぞれ自分のいる世界の側から鍵をかけた。故にもう俺が魔術を使う際にあの空間に逃げることは出来なくなった。

 

 

 これからは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界が俺がいる世界なんだから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「カオス……!

 お前俺達に……?」

 

 

ミシガン「すっ、凄い………!

 さっきまで疲れてクラクラしてたのに……!?」

 

 

オサムロウ「……完全に峠を越えたのだな………。」

 

 

タレス「………カオスさん………?」

 

 

 

 

 

 

カオス「皆体の方はどう?

 どこかおかしなところはない?」

 

 

ウインドラ「……おかしなところなどある筈がない。

 それどころか今までで一番気合いのは入るコンディションだ!」

 

 

ミシガン「カオスのおかげでギリギリだったマナも回復したよ!」

 

 

オサムロウ「よもや我までも治療されてしまうとはな。」

 

 

タレス「いつのまにカオスさんが戻ってきてのかは知りませんがこれでまたボクも戦えます。」

 

 

カオス「……そうか……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただいま皆………。

 ゴメン、

 こんなに長くかかっちゃって………。

 でもこれからは俺が「ボォォァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラジャバウォック「フスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎の中からカイメラが出てきて遠吠えを上げて体を溶かしていく。やはりヴェノムの王と称されるだけあってグリフォンと違いあの一撃で終わってはくれないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「カオス、

 分かっているな……?」

 

 

ミシガン「ここでもう終わりにしよう?

 カオスがいればあいつだってもう怖くなんてないよ!」

 

 

タレス「ボク達全員が揃ったのならあのカイメラですら相手になりませんよ。」

 

 

ウインドラ「謀らずして奴がこの地方に戻ってきたな。

 元々あのカイメラはこの地方の主だ。

 奴の墓場には相応しい場所だ。

 

 

 行くぞカオス!」

 

 

カオス「あぁ!

 もうこいつで足留めを食らうのは終わりだ!!

 俺達で……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こいつを絶対に倒すんだ!!」



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VSカイメラマンティコア

新ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……あの………?」

 

 

ダイン「なに………?」

 

 

アローネ「私も地上へと降ろしていただけないでしょうか……?

 私もあのカイメラとの戦闘に加わりませんといけませんので……。」

 

 

ダイン「んー………、

 貴女はここでうちと一緒に援護に回った方がいいと思うけど……。」

 

 

アローネ「貴女もサポートしていただけるのですか?」

 

 

ダイン「カオスにそう約束しちゃったから……。」

 

 

アローネ「約束?

 カオスと?」

 

 

ダイン「うん……、

 なんかデリス=カーラーンがカオスの中にいる精霊に破壊されようとしているんだよね……?」

 

 

アローネ「そこまでカオスからお聞きしているのですね……。

 ……カオスとは何故御一緒していたのでしょうか?」

 

 

ダイン「この辺りで偶々通り掛かったらこの山の方から大きな魔力を感じて……。

 そしたらカオスがいたからずっと観察してた……。

 観察してるうちにカオスがまともに魔術を使うことが出来ないって分かってうちがカオスに教えることになった……。

 そんなとこ……。」

 

 

アローネ「貴女は……バルツィエの方ですよね……?

 そのような敵に塩を送るようなことをしてもよいのですか?」

 

 

ダイン「確かにうちはバルツィエだけどバルツィエを全て一括りにしないでほしい……。

 バルツィエだってちゃんとそれぞれ考え方ややりたいこととかも違う……。

 うちは……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスと友達になりたかった……。

 それだけだよ……。」

 

 

アローネ「………」

 

 

ダイン「……とにかく空にいた方が何かとサポートはしやすい……。

 常に全体を見通せるからここから魔術で応戦した方が下の人達のアシストは効率的……。

 うちがこの子を操縦するから援護はお願い……。」

 

 

アローネ「……分かりました。

 今は貴女と協力することにしましょう……。

 カオスと共にいたのであれば危害を加えてくるつもりは無さそうですし……。」

 

 

ダイン「そのつもりだったらとっくにやってる……。

 

 

 それよりも貴女風使いでしょ……?」

 

 

アローネ「分かるのですか?」

 

 

ダイン「こうやって触れ合ってたら貴女のマナを感じ取れる……。

 風使いならやっぱり空にいた方がいいよ……。

 この戦い……、

 多分カオスの魔術で見晴らしが悪くなる……。

 貴女は煙が上がる度にそれを下の人達の邪魔にならない方へと吹き流して……。」

 

 

アローネ「……はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラ???「ジュゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「さて……、

 この瞬間に攻撃するのが手なんだけど……。」

 

 

ウインドラ「カオス……、

 本当に魔術を当てられるようになったのか……?

 お前はもう過去のことを……。」

 

 

 ウインドラが俺のことを思って心配してくる。先程魔技を放ってみたがまだ俺が魔術に恐怖心を抱いているのではないかと心配なようだ。

 

 

 それなら……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『火炎よ……我が手となりて敵を焼き尽くせ………。』」

 

 

ウインドラ「おっ、おい!?

 いきなりお前が魔術を使っても平気なのか!?

 まだ俺やミシガン達がこの場を「『ファイヤーボール!!』」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラ???「ジュゥ………!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の魔術がカイメラ目掛けて飛んでいき被弾した瞬間に大爆発を起こす。その爆炎は新しく出来たウィンドブリズ山ごとカイメラを吹き飛ばす勢いだ。当然そんな爆発が起こればウインドラ達も巻き添えを食う筈だったが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「!!

 これは……!?」

 

 

タレス「カオスさんの炎がボク達に効かない……!?」

 

 

ミシガン「効かないって言うか当たりすらしてないよ!?

 なんかすり抜けていくし!!?」

 

 

オサムロウ「……この技術は……!?」

 

 

 爆風の中にいながら自分達に全く影響を及ぼさないことに驚愕し全員が同じ疑問を抱いたことだろう。この共鳴という技術は仲間の誰もが習得していないものだ。

 

 

 それもその筈この共鳴に関してはバルツィエだけが使用している技術だ。バルツィエは通常カオス程まではいかないが常人よりも規模の大きな魔術を使う。戦場で味方同士でそのようなものを撃てば確実に田貝の魔術が干渉し下手すれば味方に魔術が被弾する恐れがある。そうならないために編み出したのがこの共鳴だ。俺も習得出来たのはつい昨日のことだが使ってみて問題なく魔術をカイメラのみに当てることが出来ている。ちなみに今は共鳴をカイメラに設定しそれ以外には干渉しないようにしている。

 

 

 俺にとってこの共鳴は正にうってつけの技術だ。これがあれば俺はどんな相手にだって負けない。これを教えてくれたダインには感謝の気持ちが尽きない思いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「……道理であのダイン=セゼアがいる訳だな……。

 あの女からその技術を学んだのか?」

 

 

カオス「そうです。

 訳あってダインとこの修行期間中に出会って彼女に魔術を習うことになりました。」

 

 

ミシガン「バルツィエのあの人から!?」

 

 

タレス「襲われなかったんですか……?

 あの人は前にランドールとセレンシーアインで………。」

 

 

ウインドラ「……カオスはバルツィエと対峙する度に奴等の技能を吸収していくが………。

 それがバルツィエから直々に技術を習っていたとは………。

 ………あの女は一体何を考えて………?

 こちら側に付くつもりなのか?」

 

 

カオス「いや……ダインは………バルツィエのままだよ。

 まだ俺達とは敵同士のままだ………。

 

 

 

 

 

 

 ………だからなんとかダインは俺達側に来てほしいとは思ってる………。

 話してて分かったんどけどダインはバルツィエだけど凄くいい人だと思うから………、

 ダインの人柄なら絶対に皆とも仲良くなれる筈なんだ………。」

 

 

タレス・ミシガン・オサムロウ「………」

 

 

ウインドラ「……言われてみればダインはバルツィエだが民衆の評判的には他のバルツィエのように大きな事件を起こすようなことはしていないな………。

 騎士団では社交性に欠けていて人付き合いもブラム隊長以外と交流を図るようなこともなかったし………、

 

 

 

 

 

 

 今にして思えばバルツィエという名の汚点以外ではまともで悪事を働くような奴ではなかったな。」

 

 

 ウインドラが騎士団を抜ける前のダインの情報を話す。やはりダインは人との接点が少ないせいで名前だけで悪印象を持たれやすかったのだろう。そのせいで人と話す機械がなく極度の人見知りを患っていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ウインドランス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラマンティコア「グルルルル……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上空からアローネが風で爆炎で舞った煙を吹き飛ばすとカイメラが次の形態へと変身していた。それを見てまだ戦闘中だったことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「まだ戦闘中ですよ!!

 余所見は禁物です!!

 そんなことが出来る相手ではないですよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……そうだったね………。

 まだカイメラは倒しきれてないんだった………。」

 

 

タレス「カオスさんが戻ってきて驚くようなことが多すぎて一々反応してしまいますね。」

 

 

ミシガン「カオスがあのダインって人と一緒に飛んで来たかと思えばあんな高いところから飛び降りて魔技や魔術まで使えるようになってるんだもん……。

 反応しない方が変だよ………。」

 

 

オサムロウ「そのどれもが我等にとっては全て流れがいい傾向にある。

 少し我も気が抜けていたな。」

 

 

ウインドラ「油断は出来ない相手だったと言うのにな。

 カオスがいるだけでここまで緩むものなんだな………。

 

 

 

 

 

 

 ではカオス!!

 お前の修行の成果を俺達に見せてくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あぁ!!

 任せてくれ!!

 俺がこの四十日間で皆にかけてきた迷惑分、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こいつをぶっ飛ばして返してやるからな!!」



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VSカイメラブルータル

新ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラマンティコア「クゴァァァァァァァァァァァァァァァォッ!!!!」

 

 

 

 

 カイメラが氷の大地を駆け抜けてこちらに迫る。元々素早いマンティコアの姿をしていたがやはり他のモンスター同様氷によって速度が加速されている。それなりに空いていた距離を一気に詰められその歯牙にかけられようとしたところで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「フレアボム!!」

 

 

カイメラマンティコア「ゴアァッ!?」

 

 

 その大きな口を開いた瞬間を見計らってこの場では爆発して煙を立てやすいフレアボムをお見舞いする。

 

 

 カイメラマンティコアは一瞬視界が塞がれた上に頭部へのダメージで動けなくなる。

 

 

カオス「皆!今のうちに散らばって!!」

 

 

オサムロウ「どうするつもりだカオス!」

 

 

カオス「足が速いモンスターに変身している間は俺が引き付けます!!

 オサムロウさん達は遠くから全魔力を込めた一撃で攻撃し続けてください!!」

 

 

ウインドラ「全魔力で………?」

 

 

ミシガン「けどカイメラは何かに変身している間は一つの属性の術しか効かないよ!?」

 

 

オサムロウ「ならば我がカオスと共にカイメラの囮となる!

 ソナタ等はカオスの指示通りに!」

 

 

タレス「分かりました!!」

 

 

 カイメラを相手に俺とオサムロウでタゲをとり後の五人は後方支援に回ってもらう。このマンティコア形態の時はこの作戦が活きる筈だ。

 

 

 と、皆がそれぞれの位置についたところで上空からアローネが今度は攻撃のための風の魔術を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『疾風よ!!我が手となりて敵を切り裂け!!

 

 ウインドカッター!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追撃の二十連撃!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラマンティコア「ゴガァァァァッ!!」

 

 

 風の刃がカイメラを切り刻んでいく。その威力は一撃でカイメラの全身をズタボロにした。

 

 

 再開する前はここまでアローネの魔術は強くはなかったが、

 

 

カオス「二十連撃……?」

 

 

オサムロウ「我等はカオス、ソナタにだけ修行を強いていた訳ではない。

 各々がソナタがこの山で修行に励んでいる時に我等もカイメラを倒せるよう自らを鍛え続けていたのだ。

 カイメラを倒すまでには及ばなかったが一ヶ月前の我等と同じと思うなよ?」

 

 

カオス「そうだったんですか………。」

 

 

 この修行期間で力を付けていたのは俺だけじゃなかったんだな………。皆カイメラを倒すことに必死で出来ることは何でもやっていた。俺みたいに立ち止まっていただけではない。皆が俺なんかのずっと先を走り続けている。これは皆の修行の成果に追い付くには少し時間がかかるな。

 

 

 だったら俺も全力を出して皆に追い付かないと!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『疾風よ!!我が手となりて敵を切り裂け!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドカッター!!

 追撃の…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 百連撃!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「えッッッ!?」

 

 

 俺は見よう見まねでアローネの使っていた魔術の五倍の数の追撃を加える。前々から追撃に関しては出来るような気がしていた。試しに詠唱を始めた瞬間に一度の魔術で込められるだけマナを込めたら百発はこの追撃が出せそうだったので放ってみる。俺の風の一撃はたった一度放っただけで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラの外側の皮膚をズタズタに切り裂いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラ???「ブシュゥゥゥゥ…!!!」

 

 

 

 

 

 

カオス「よし!!魔神剣ッ!!!」

 

 

 カイメラの体が砕けまた別の変身形態をとろうとジャイアントヴェノムになったところをすかさず迎撃する。この瞬間こそがこのカイメラに唯一ダメージを与えられるチャンスだったので俺は魔神剣でカイメラの体を削り取っていく。しかし皆は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「あのカイメラをたった一撃で………?

 こんなにあっさり………。」

 

 

ミシガン「私達が頑張っても十分以上は攻撃し続けないといけなかったのにそれをカオスは………。」

 

 

タレス「…凄すぎる!?」

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………………、

 ………………!

 何をしている!!

 今が攻めの時であろう!!」

 

 

 後援組は今の俺の力に驚きすぎて固まっていた。オサムロウも一瞬呆けていたが直ぐに三人を叱責して俺に続くよう促す。

 

 

 気持ちは分かる。俺もまさかここまで多く追撃が放てるとは思っていなかったから。三人は数よりも魔術の威力に驚いていたようだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな様子を見ているうちにカイメラが次の形態へと変身した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラブルータル「ブルルルルゥゥゥゥゥァァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「次はブルータルか………だったら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 !!」

 

 

カイメラブルータル「ブルルルゥッ!!」

 

 

 カイメラがブルータルに変身した瞬間俺に突っ込んできた。これはタイミング的に迎撃は間に合わない。ブルータルの突進を俺は横に飛んで回避したがその先には、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「え!?

 わっ、わぁぁぁ…!?」

 

 

 ミシガンが立っていた。ブルータルは俺からミシガンへと狙いを変えそのままミシガンに突っ込んでいく。

 

 

ウインドラ「ミシガン!!」

 

 

 そこにウインドラが間に合いブルータルとミシガンの間に割り込みまたウインドラがブルータルとの押し合いが始まる。この光景を見るのはこれで三度目だがその慣れた動きからこの状況になるのは既に数十回とあったことなのだろう。

 

 

 ブルータルは雷属性………。とくればこいつを倒すのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「空破迅雷槍ッ!!」

 

 

 などと考えているうちにブルータルをウインドラが転がしていく。このあとまたブルータルは起き上がって襲ってくるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なら早めに皆を“強化”しておいた方がいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「『水流よ!!我が手となり』「『水流よ!!我が手となりて敵を押し流せ!!』」えぇ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『アクアエッジ!!!

 

 

 追撃の百連撃!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイルシュトローム!!!!!』」

 

 

 俺はこの場にいる対象を“二つ”に絞ってランドールが使っていた魔術のバーストアーツメイルシュトロームを唱えた。魔術に対する拒否感は一切無くなったので一度見聞きした魔術は何だって使える。

 

 

 今回魔術をぶつける対象の一つはブルータルに、もう一つは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「あっ………!?

 うっ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミシガンだ。俺はブルータルとミシガンの両方を同時に攻撃する。

 

 

ウインドラ「ミッ、ミシガン……!!

 大丈夫なのかこれは!!?」

 

 

タレス「まるで大波ですね……!

 大量の水がカイメラとミシガンさんにのみ作用しています……!!」

 

 

オサムロウ「ここまでの水が発生しておきながら我等には全く干渉してこないとは………。

 

 

 カオスめ………、

 とんでもなく化けて帰ってきたな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「あぁぁぁぁぁ……!!!

 すっ、凄い………!!

 何か力が漲ってくる………!!

 

 

 ………!!

 頭の中に………!!

 私の知らない呪文が流れ込んでくる感じがする………!!!」

 

 

 

 

カオス「じゃあミシガン!!

 ブルータルの止めは任せたよ!!」

 

 

 期待通りにミシガンの強化作業は成功した。後はミシガンにこのカイメラブルータルを任せるとしよう。今の俺のメイルシュトロームでカイメラはまたジャイアントヴェノムになりかけている。俺はこのまま先程のように体を削っていくだけでいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………『蒼溟たる波涛よ、旋渦となりて、厄を飲み込め!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タイダルウェイブ!!』」

 

 

 

 

 

 

 ミシガンの新秘術がカイメラのヴェノムの体を呑み込んだ。タイダルウェイブと呼ばれた術はそのままカイメラを水の底へと沈めていく………。



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VSカイメラビックフロスター

新ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「『タイダルウェイブ!!!』」

 

 

 ミシガンが発動した魔術がカイメラを水の中へと引きずり込む。その威力と規模はミシガンがこれまで使っていたスプレッドの数倍はあろうかという勢いだった。

 

 

 それを受けて後ろの方では、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「ウインドラ!!!?」

 

 

 ウインドラがミシガンの魔術に当たってしまい例のごとく大ダメージを被ってしまう………。

 

 

タレス「ミシガンさん!!

 回りをよく見てから撃たないと!!」

 

 

ミシガン「だっ、だってこの術がこんなに広い範囲に水が流れる術だなんて思わなかったんだもん!!?」

 

 

 ミシガンが使った魔術はミシガンが初めて………、

 

 

 と言うよりもエルフの歴史が始まってから初めてこの世界で使われた術である。スプレッドもそうだったが人類史で使われたことのない術の詳細など使う前にどのような術なのか把握することは出来ない。ミシガンが使う以上は水属性であることは確かなのだがそれが洪水のようにフィールドの大地を水で満たすような術たとは本人も分からなかったようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕方がない。ダメージは大きいようだがウインドラを回復させるには俺がミシガンから受けたダメージ以上の火力でウインドラに雷属性の魔術を叩き込むしかなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラビッグフロスター「ゲルルルルル!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうしている間にもカイメラが変身を遂げミシガンの発動させた水の魔術の底から飛び出してきた。今度はビッグフロスターの姿をしている。

 

 

 いいタイミングでそのフォルムに変身したな……。

 

 

 

 

 

 

カオス「ミシガン!!

 ウインドラと水から離れて!!」

 

 

ミシガン「でもウインドラが……!?」

 

 

タレス「ウインドラさんなら心配する必要はないですよ。

 さっきのこと忘れたんですか?

 カオスさんに任せてボク達は下がりましょう。」

 

 

 

 

オサムロウ「………やるのだな?」

 

 

カオス「はい!」

 

 

オサムロウ「…了解した。

 では我も退くぞ。」

 

 

 カオスが魔術を使うのを察して三人はそそくさとその場から待避する。共鳴は使えるのだが水気のある場所では俺の共鳴でも間接的に感電してしまう可能性を否定しきれない。念には念を入れてウインドラとカイメラに魔術を発動させてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラビッグフロスター「ベロッ!!」

 

 

 カイメラが長い舌を伸ばして攻撃してきた。それを下に避けて、

 

 

カオス「剛・魔神剣!!」

 

 

 側面から舌を切り落とす。反射で動いて斬ったがこの形態だと舌が飛んでくるようだ………。要注意だ。

 

 

 それもこの一撃で不要になると思うが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『落雷よ!!我が手となりて敵を撃ち払え!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 詠唱の途中頭の中に別の魔術の呪文が流れてくる感覚がする。………これは………!

 

 

 ライトニングと同じ雷属性の上位互換呪文………!!何故かは説明できないがこの頭の中に流れてきたものが今発動させようとしたライトニングの上位の術にあたるものだと分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはこの呪文を撃ってみるか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『………雷雲よ!!

 我が刃となり敵を貫け!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サンダーブレード!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス・ミシガン・オサムロウ・アローネ・ダイン「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラビッグフロスター「ホグゥッッッ!!!?」

 

 

 突如空間に激しい光が輝き中から巨大な剣の形をした雷の剣が現れビッグフロスターを襲う。その剣はビッグフロスターを串刺しにし天空から更に避雷針のごとくいくつもの雷が降り注ぎ、

 

 

 

 

 そして爆散する。

 

 

 これにはカイメラも形態を維持出来ずにまた変身行動を開始する。

 

 

 その避雷してきたうちの一つの落雷がウインドラへと落ち、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………ぅぉぉおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!?」

 

 

 先程まで瀕死の重体であったウインドラが立ち上がりミシガンと同じ様にマナが膨れ上がっていった。

 

 

ウインドラ「………!!

 これは………!?

 俺にもまた新たな術のイメージが流れてきているのか………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いけるな!!」

 

 

 何かを閃いたかのようにウインドラがカイメラに狙いを定めて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「『天光満つるところ、我はあり。

 黄泉の門、開くところに汝あり。

 出でよ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神の雷!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラ???「ジュゥゥゥゥ!!!」

 

 

 遥か上空の空が黒雲で満ちその中心から神々しく目映い光が地上を照らす。その光りは周囲から光を取り込んでいき次第に光りはこの地方全体を包み込むかのような輝きを放ち………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「『インディグネイション!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォオオォォォォォォォォォォォォォォォォォオォォォォォォォォォォォッッッッッッッッンンン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラ???「ブシュンッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変身中のカイメラに轟音と共に雷の裁きが下される。これにはカイメラの体も霧散して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラバタフライ「コォォォォォォォォォォォ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 ………はいなかった。今度の変身は初めて見るな………。蝶のように空を飛んで風を吹かせているところを見れば風属性のモンスターだとは推測できるが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この戦闘はいつまで続くのだろうか………?

 ジャイアントヴェノム形態の時にテンポよくダメージを与えて今のところは順調にカイメラの体を削りとれるだけ削り取ってはいるがそれでも俺やミシガン、ウインドラの新術を受けても直ぐにまた別のギガントモンスターへと変身してしまう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺のマナが尽きることはないだろうが何かこの後に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 善からぬ事態が待ち受けている気がしてならない………。



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VSカイメラバタフライ、そして………

新ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

タレス「カオスさん!!

 次はボクにお願いします!!」

 

 

 タレスがミシガンやウインドラのように同系統魔術で自分をパワーアップさせてほしいと申し出てくる。相談もなく二人をパワーアップさせておいてなんだが俺の魔術を目にしながら自分から俺に魔術を使ってほしいと言えるなんてかなりの命知らずなことだと思う。下手したらちゃんと作用せずにダメージを負うだけか最悪死ぬことになるかもしれないんだぞ?

 

 

 ………まぁそんな不信を抱いたとしてももう俺がここで躊躇することはない。事前にタレスも地属性の攻撃を吸収することは理解している。ここで時間を磨り減らすことはもうしないんだ。

 

 

 俺は俺と皆を信じてただ魔術を撃つだけでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『岩石よ!!我が手となりて敵を押し潰せ!!

 

 

 ストーンブラスト!!

 

 

 追撃の百連撃!!」

 

 

 俺の呼応に地面に出来た魔方陣から数々の岩の棘がカイメラバタフライを穿っていく。見た目は甲虫のようで固い甲殻を持ってはいそうではあったが俺の発生させた岩石に触れたところから風穴を作り上げていく。これは完全にその固そうな防御が意味をなしていない。この変身は俺にとっては初見であったのだが情報が無くとも風属性の敵だと分かれば前の四つの姿と時と対処は同じだ。俺はただカイメラとタレスに対して作用するように魔術を放つだけでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「こっこれはぁぁぁっ………!?

 ボクにも大きな力が流れ込んでくる………!!」

 

 

 タレスの方も何事もなくパワーアップに成功したようだ。ミシガンとウインドラの時のように体から凄まじい両のマナが溢れだしてるのが分かる。今度もタレスに止めを刺してもらおうか。

 

 

 そのつもりだったが………、

 

 

カイメラバタフライ「ギギィィ………!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バサァッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……空へ!?」

 

 

 カイメラバタフライは見るからに昆虫の成虫を巨大化したギガントモンスターだった。背中には羽が生えており体をボロボロにしながらもその翼を広げ俺の繰り出した岩石から逃れるべく大空へと飛翔する。

 

 

ウインドラ「不味いな………、

 あの姿の奴を空中に逃したら奴自身が降りてこない限り空中から殺傷性のある斬撃の風が飛んでくる………。

 奴の地属性以外のエレメンタルアーマーがあっては中々地上に叩き落とすことも難しいしどうすれば………!」

 

 

 ウインドラが愚痴を溢すようにカイメラバタフライと戦った体験談を口にする。弱点の地属性魔術が使えるタレスがいてもあの昆虫形態のカイメラに苦戦を強いられてきたようだ。

 

 

 俺もどうやってあのカイメラバタフライを空中から地上に落とせばいいのか作戦を考えようとしたがその間に俺の出したストーンブラストは消え去り………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「『インブレイスエンド!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラバタフライ「ギィァァォォォッ!!?」

 

 

カオス「ダイン!!」

 

 

 ダインが空中からカイメラバタフライの背中目掛けて巨大な氷の塊を落とす。質量を持った氷に押し潰される形でカイメラが地上へと到着する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ダインさん……!!」

 

 

ダイン「うちの氷は効かなくても飛ぶ能力を封じることくらいなら出来る……。

 羽を羽ばたかせて飛ぶならその羽を動かなくしてあげればいい……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「……本当にあの人私達の手助けをしてくれるの……?」

 

 

オサムロウ「バルツィエに借りを作るとはな………。

 ダイン=セゼア………、

 これはバルツィエの裏切り行為と見てとれるが………。」

 

 

カオス「言ったでしょう?

 ダインはいい人だって、

 バルツィエの中にもいい人だっていたんですよ。」

 

 

オサムロウ「………」

 

 

 

 

ウインドラ「動きが止まった今がチャンスだ!!

 

 

 “タレス!!”

 やれ!!」

 

 

 

 

タレス「口出しされなくても分かってますよ!!

 それではお見舞いしますよ!!

 ボクの新たな力を……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『地に伏す愚かな贄を喰らいつくせ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グランドダッシャー!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラバタフライ「ギギイィィィァァァァァァァァァァァォッッッッッ!!!!!」

 

 

 氷で動けなくなったカイメラの真下から地割れが起こり中から波動のような熱気を帯びた鋭い槍のような岩々がカイメラを突き刺していく。カイメラの背中に乗せられた氷のせいで羽を羽ばたかせてその岩から逃れようとするがその羽すら貫かれてしまいカイメラは飛行能力すら奪われてしまう。

 

 

 そして最後には羽すらもがれカイメラバタフライの体はなすすべなく朽ち果てそこからまた次の変身へと移項すべく溶解していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「いいぞ!!

 これは効いている!!

 今ならこのカイメラすら俺達の敵ではない!!」

 

 

カオス「もう変身する姿は今ので最後!?」

 

 

オサムロウ「いや………、

 我々も奴の姿は今のバタフライを含めて五つまでは確認しているが六属性完全耐性のことを踏まえれば後一つだけまだ確認していない姿がある………。

 それさえ倒してしまえばこのカイメラももう終わりだろう………。」

 

 

ミシガン「じゃあとうとう次はその最後になるのかな………。」

 

 

カオス「例えどんな姿に変身しても今の俺達ならこいつを倒すことが出来………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラジャバウォック「ブオオォオォォォォォォォォォォォォオォオオォォオ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バタフライ形態から次に変身した姿はジャバウォックだった。何かとこのカイメラは一番この形態へ変身するのが多いな………。ここが元々カイメラがいた地方だからなのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそれでも俺がやることは変わらない………。氷属性の姿になったとしても俺には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『火炎よ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が手となりて敵を焼き尽くせ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唱える火の魔術。先のサンダーブレードの時のように詠唱中にまた違う魔術のイメージが頭の中に流れ込んでくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この魔術ならいける!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『イラプション!!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラジャバウォック「ブオオォオォォァァァァァォッ!!!」

 

 

 動きの鈍いジャバウォック形態なら余裕で詠唱を唱えながらでも魔術を当てられる。変身して直ぐで悪いと思ったがお前との戦いは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日で終わりにしないと!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「完全にカイメラを圧倒している………。

 ………カオスが復帰しただけでここまで………。」

 

 

ダイン「カオスがいると何でも出来る気がしてくるね……。

 カオスは頼りになるよ本当に……。」

 

 

アローネ「……そうですね。

 カオスは初めてお会いした時からずっとそうでしたから……。

 

 

 ………苦難を乗り越えて大きな力を身につけてきたようですね………。

 今のカオスからは以前のような御自身を拒絶するかのような部分が感じられません。

 

 

 やっと………、

 やっと御自身を受け入れることが出来たのですね………。」

 

 

ダイン「確かに数日一緒にいてカオスは精霊と自分を別々のものとして扱ってほしい感は出てた……。

 カオスがいたっていう村での事件は自分の責任だって悩んでいたみたいだけどカオスは誉められる場面で誉められてもそれは精霊の力だって言って自分のしたことを認めないところがあった……。」

 

 

アローネ「例えあの精霊の力が本当のカオスのものでなくともそれを使用しているのはカオスの意思……。

 精霊を道具扱いする訳ではありませんがカオスの意思で何かを起こしたというのであればそれはカオス自身の功績になります。

 カオスは今日までそのことを御自身で理解することを放棄していました。

 

 

 ……ですが今のカオスは………!」

 

 

ダイン「それを自分で理解し始めたんだね……。

 見ていて微笑ましいよ……。

 人が成長する場面ってのは……。」

 

 

アローネ「もうカオスは御自身と向き合い御自身の弱い心を克服しました。

 

 

 ……後は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼のやりたいように世界を救うことだけです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……カオスは世界なんかよりも貴女達の力になりたいってだけだと思うんどけどね……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「さぁ!!次は何に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラ???「ブクブクブク!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラのスライム状の体が急激に膨れ上がっていく。これまでの変身で着実に削り取っていた筈だというのにまだこんなに質量を隠し持っていたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそこから徐々に形を持ち始め最終的に巨大な翼を持つ全身が深紅に染まった蜥蜴のような姿になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この姿は………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ドラゴン!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「オ”オ”オ”オ”オ”オオオオォォォォォォオォォォォォオォォォォッッッッ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ドラゴン………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デリス=カーラーンの数多く確認されている生物の中でもっとも巨大な体を持ちもっとも長命な種とされる生物で自然界の中でもダントツの食物連鎖の頂点に君臨するハ虫類………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラが変身したレッドドラゴンはそのドラゴン達の中でも郡を抜いて最強と称される程に他の龍を寄せ付けない強さを持つ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すなわち………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デリス=カーラーンの全生物の中でも最強の種とされるレッドドラゴンがカイメラに吸収されその不死性と無敵の戦闘力を兼ね揃えた極めて危険な生物と化したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムの王………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実にその名で呼ぶに恐ろしいほどに適した存在だ………。



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VSカイメラレッドドラゴン

新ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「こいつは………レッドドラゴン……!?」

 

 

ミシガン「え”!!?

 レッドドラゴン……!?

 その名前ってミストに住んでた私でも知ってるくらい有名なやつだよ!?

 なんでも現代ではそのドラゴンに勝てる生物がいないって言うくらい強いとかって……!!

 これがそうなの!!?」

 

 

タレス「…レッドドラゴン………。

 実物を見るのは初めてです……。

 寿命がエルフを凌いで永く現存で生きていた個体の中には三千年生きているのではないかと推測されている個体もいるとか………。

 その食物連鎖のトップに君臨するからなのか確認されている数は僅か十頭に満たない程度でその殆どがヴェノムが現れ始めた百年前に絶滅したと噂されていましたが………。」

 

 

カオス「生き残りがいたんだな………。

 おじいちゃんの話では“龍の巣”って場所にもレッドドラゴンはいなかった筈だけどカイメラはどこでレッドドラゴンを吸収したんだ………?」

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビリビリビリビリビリビリビリビリビリ……!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオスタレスミシガンウインドラ「……!!?」

 

 

 カイメラの変身したレッドドラゴンの咆哮で空気が震動する。カイメラが吼えただけどというのに空気から伝わってくる揺れは直に押し飛ばされるかのような圧力を感じる。

 

 

 カイメラの大きさはこの時点であのクラーケンと並ぶ程の大きさにまで肥大化している。その上レッドドラゴンは単純な力は全生物屈指の強さで鱗の硬さは同じドラゴンの牙をも通さない程に硬いと聞く。これを相手にするには国が総出で挑まなければ先ず勝てないとさえ文献には載っていたのを見たことがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それでも俺にはそんなことは関係ない。俺にはこのデリス=カーラーンの一つの星の時代さえ終わらせかねない精霊の力がある。カイメラの変身のカードにレッドドラゴンがあったことには驚かされたがそれでもレッドドラゴンはこの星で生まれた一種の生命体に過ぎない。カイメラといえど所詮は星を破壊し尽くす精霊の力の前には無力の筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………流れからしてこの姿はカイメラの“火の姿”、

 

 

 ならば俺が使う魔術は勿論………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『氷雪よ!!我が手となりて「待ってカオス!!」………』」

 

 

 呪文を詠唱し始めるとダインがストップをかける。

 

 

カオス「ダイン!

 何で止めるんだ!?」

 

 

ダイン「カオスダメ……!!

 ここじゃ氷の魔術はダメ……!!」

 

 

 ここじゃ氷の魔術がダメ?どういうことだ?カイメラは変身する度に系統属性と弱点属性を変化させるヴェノムで弱点以外の属性を無効化する。流れ的にジャバウォックが火属性でマンティコアが風属性、ビッグフロスターが雷属性、ブルータルが水属性、バタフライが地属性………、

 と来ればこのレッドドラゴンは情報的にも火属性のモンスターで弱点は氷になるのだが………、

 

 

タレス「………スペクタクルズによると氷が弱点とはなっていますが………?」

 

 

 ダインが氷の魔術を止めに入ったのを見て俺と同じ疑問を抱いたタレスがカイメラレッドドラゴンの情報を教えてくれた。やはり弱点は氷。俺が使おうとしたアイシクルは何も間違ってはいないと思うのだがそれなら何故止められたのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「この場所は今カオスの修行で凄く寒くなってる……!

 この前の説明では精霊の力がカオスには働いているみたいだからカオスは寒さを感じないだろうけどカオスの仲間の人達は多分これ以上この辺りの気温を下げられたらとてもじゃないけど死んじゃうよ……!?

 共鳴は直接的には影響を受けないけど火や氷のように回りの気温に作用する術の影響だけは避けられない……!

 ここでカオスの氷の魔術が使われたら仲間の人達は気温だけで氷付けになっちゃう……!!」

 

 

カオス・タレス・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ「!!?」

 

 

 何だって…!?この寒さのせいでカイメラに氷の魔術を使うことが出来ない!?

 

 

ミシガン「たっ…確かに私達この辺りでも凄い寒いからここから先に行くことが出来なくてアローネさんに一人でカオスを捜しに行ってもらったから今より寒くなると……。」

 

 

タレス「この気温でも結構ギリギリなラインですね……。

 防寒着と戦闘中の運動でどうにか寒さには耐えてきましたが………。」

 

 

ウインドラ「寒さは人体から熱を奪う………。

 熱を奪われたエルフは手や足の力が通常の時よりも大分落ち込む………。

 より戦闘続行が厳しくなるな……。」

 

 

カオス「そんな……!?

 

 

 だったら火の魔術でこの辺りを暖めて「それも待て!」」

 

 

 今度はオサムロウから待てがかかる。今度は一体何だ!?

 

 

オサムロウ「ここは麓とはいえ山岳地帯だ。山岳地帯の天候の移り変わりは只でさえ激しい。

 ………このような超低気温の場所でソナタの放つ超高温の魔術など放ってみろ。

 この山からダレイオスの北半分まで凄まじい嵐が吹き荒れるぞ?」

 

 

カオス「…!?

 何でそんなことに……!?」

 

 

 

 

 

 

アローネ「それほどまでにカオスの魔術が及ぼす影響が大きいのです!!

 この氷雪地帯の雪や氷が一気に蒸発し発生した上昇気流で出来た積乱雲は今までに見たこともないくらいの規模の激しい雨を降らせるでしょう!

 風というのは上空に行けば行くほど激しさを増します!

 本来エルフの魔術がが天候に関与する事例はありませんが少なくともこの地方の気温に影響を与えるカオスの魔術は世界の風の流れを大きく動かします!

 その発現地ではとんでもない気候変動が発生するのです!!」

 

 

 

 

 

 

カオス「………要するにここでは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷の魔術が使えないし火の魔術も多用出来ないってことか………。

 だとしたら………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「フシュルルルルルルル!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この地上最強クラスの化け物相手にどうやって戦えばいいんだ………?相手は氷以外の属性攻撃を無効化するんだぞ?物理的な攻撃もこいつの鋼鉄並の体には効きそうにないし………。



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VSカイメラレッドドラゴン2

新ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうすればいいんだ………。実質こいつを相手にするのに攻撃の手段全てが封じられているようなものだぞ?使えるのはカイメラに効かない攻撃、使えないのがカイメラに効く攻撃………。こんなもの手詰まりにも程が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「ホォォォ………!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・タレス・ミシガン・ウインドラ「……!?」

 

 

 攻撃の手に悩んでいるとレッドドラゴンが大きく息を吸い込む動作をする。これはもしや………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「ドラゴンブレスだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「ブォアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラが広範囲に超高温の火炎を吐き出す。その一息はウインドラ達が先程放った新術にも匹敵するほどの威力があった。マナも無しにただのブレスでここまで………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「スプレッド!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュワァァァァァァァァァァァァァァァァァ………!!!

 

 

 火が皆に届く寸前でミシガンがレッドドラゴンの火炎放射に対して水でそれを打ち消そうとする。レッドドラゴンの炎とミシガンの水が衝突し辺り一面に真っ白な蒸気が立ち上がり一時的に全員の視界が塞がれる。

 

 

ウインドラ「……蒸気が上がっている間に奴をどうするか考える………、

 

 

 ぞォッ「バンッ!!」……!!?」

 

 

 ウインドラが作戦を立てようと皆に何かいいかけようとした瞬間に視界が悪く何をされたのか分からなかったがレッドドラゴンから攻撃を受けたのは理解できた。

 

 

ミシガン「ウインドラ……!?

 

 

 「バンッ!!」キャッ…!?」

 

 

 続いてミシガンもウインドラに何かが起こったのか確認しようと声を上げた瞬間にウインドラ同様カイメラから攻撃を受けたようだ。

 

 

 これは………!?

 

 

 

 

 

 

アローネ「視界が利かなくなったこの状況……!!

 カイメラは皆の“声”を便りに攻撃を仕掛けてきます!!

 ここは一旦蒸気から離れてください!!

 音を発っさなければ敵も蒸気の中で的確に狙ってくることはありません!!」

 

 

 上空にいて蒸気から逃れられたアローネが地上の様子を伝えてくる。カイメラはウインドラとミシガンが声を出したタイミングで攻撃をしたみたいだ。蒸気で何も見えないというのに何故攻撃を当ててきたのかと思えばそんな方法で………。それなら音を立てずに離れるのは得策だがこれではカイメラの攻撃に対処出来るが攻撃の手段が無いままではカイメラを倒すことが出来ない。

 

 

 火属性の形態をとるカイメラにとってこの環境は厳しいというのに逆にその環境が俺の氷の魔術という手段を奪っている………。

 

 

 せめて仲間達がこの場から俺の魔術の影響が届かないところまで退避させることが出来れば……、

 

 

 

 

 

 

 とりあえずは蒸気の中から出ないと………!

 

 

カオス「……!

 ウインドラ!ミシガン!!」

 

 

 蒸気の外ではウインドラとミシガンが倒れていた。視界が見えない中であのカイメラの攻撃をまともに食らえばこうなるのも分かる。

 

 

 俺は直ぐに二人を回復することにした。

 

 

カオス「バニッシュボルト!スプラッシュ!」

 

 

 

 

 

ウインドラ「……!

 カオスか……!

 すまん!

 手間をかけさせた!」

 

 

ミシガン「有り難うカオス。」

 

 

 雷と水を与えれば二人は即復活した。これでまた戦うことは出来るが………、

 

 

タレス「蒸気が発生している間はあのカイメラに狙われることはないですけどこれでは時間が過ぎていくだけですね………。」

 

 

ミシガン「どうやってあんなの倒したらいいの………?」

 

 

ウインドラ「……この地では俺達の方がカオスの足手まといになっている………。

 カオス一人でなら奴と互角以上に渡り合えるというのに………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 ここは一度カイメラを引き連れてトロークンの方辺りまで戻るべきか。それか俺だけ残ってカイメラを引き付け皆にトロークンまで下がってもらうか………。時間はかかるがそれならカイメラを倒せ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「ホォォォォォォォッッ………!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・タレス・ミシガン・ウインドラ「!!」

 

 

 後ろを振り返ると先程までの蒸気が晴れカイメラがこちらの方に向けてブレスを放つのが見えた。今ブレスを放たれたら俺は無事でもウインドラ達が危ない………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「スプラッシュ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「ボハァッ………!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…!

 ダイン……!」

 

 

 次の瞬間には火炎放射を食らわされるというところで上空のダインがカイメラにスプラッシュを浴びせる。それを受けてカイメラのブレスが逸れて俺達は助かった。

 

 

 だが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「ブォアァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 ブレスを吐く瞬間を邪魔されて今度はカイメラはレアバードに乗るダインとアローネを狙いだした。ダインのスプラッシュを受けてもダメージを負った様子はない。ダイン達はブレスをギリギリかわすがあのまま狙われ続けてたらいつかは炎で焼き付くされる。早く何か手をうたないとアローネ達が殺られてしまう………。

 

 

 何か手はないのか………。あの火竜に一発食らわすことが出来る攻撃方法は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!

 その手があったか……!!」

 

 

 突然オサムロウが何かを閃いたかのように頷きだす。何か対策を思い付いたのか?

 

 

オサムロウ「カオス!ミシガン!

 我と共にあのカイメラへと“水”を浴びせかけるのだ!!」

 

 

タレス「水………!?」

 

 

ウインドラ「氷ではなく水を………!?

 何をすると言うんだ!?」

 

 

 氷以外の属性に耐性を持つカイメラに何故水なのか疑問に思う。水は質的には氷に近いがドラゴンに対して水が効き目があるとは思えないが………、

 

 

 しかし、

 

 

 

 

オサムロウ「水を浴びせかけてカイメラの体温を下げるのだ!!

 そうしていけば奴の体はこの気温で冷やされ濡れた体が凍りついていく!!

 この寒さを利用するのだ!!

 それによって水は自然と氷へと変化する!!

 そうなってしまえば後は火以外の攻撃は全てが氷の付与がつく!!

 

 

 この形態のカイメラは皆で討伐も可能となる!!」

 

 

 ………なるほど………、

 理屈の上ではそれでカイメラに氷の魔術を使わずにダメージを与えることが出来そうだ。火属性のモンスターでもその体は大きな蜥蜴そのものだ。他のモンスターに比べて体温は高そうだがそれでも生物の形をしている限りその肉体を凍らせることも出来そうだ。

 

 

 それなら!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・ミシガン「『蒼溟たる波涛よ、旋渦となりて、厄を飲み込め!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タイダルウェイブ!!』」

 

 

 俺とミシガンで水の魔術タイダルウェイブをカイメラへと発動させて大量の水を浴びせる。

 

 

 ミシガンが使ったタイダルウェイブは俺でも問題なく発動できた。呪文さえ分かれば俺はどんな術でも使えそうだ。だったら俺はこれからどんどん前に出られる。前に出て他の仲間達の援護も出来る。

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「うっうぉぉぉっ!!?」

 

 

 出現した水にウインドラが勢いよく飛び退く。急に洪水が足元で巻き起こり驚くのも無理はないがミシガンはポイントをカイメラに定めていたためミシガンのタイダルウェイブはウインドラには届かなかった。逆に俺の魔術はミシガンのそれよりも広い範囲………そう、山全体に広がるほどのスケールで発動したためウインドラは自分に覆い被さってくる程の水に恐怖したのだろう。きちんとウインドラから共鳴で焦点をずらしていたのだがウインドラには怖い思いをさせてしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「ゴボッ……!!?グボッ……!!!

 ジュゥゥゥ………!!」

 

 

 俺とミシガンで発動させたタイダルウェイブは巨体へと変化を遂げたカイメラでさえもその全身を水の中へと押し込んだ。一見水の中で溺れているように見えるがカイメラの耐性力とヴェノムによるゾンビ化で溺れるということはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後はこの水でカイメラの濡れた体をウィンドブリズ山の超低気温が冷やしてくれるのを待つほかない。変身能力があるせいで雪山にいた雪のモンスターが凍り付く水で倒されることになるなどどんな皮肉だろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………本当にこの戦法でカイメラのレッドドラゴン形を倒しきることが出来るのだろうか………。



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VSカイメラレッドドラゴン3

新ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「フルル……!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………まだ動けるのか………!?」

 

 

 カイメラがレッドドラゴンに変身しそこから俺の氷が地形的と人員的な問題で封じられてしまいどう対処すれば迷っていたら息すら凍り付くこの気温の低さを利用してカイメラを濡らしていって凍り付かせるという作戦を考案される。それに従い水の魔術が使える俺とミシガン、オサムロウ、ダインでカイメラのレッドドラゴンの姿に水を浴びせ続けてはいるのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「ホォォォォォォォォォオオオオオオ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「ブレス来ます!!」

 

 

カオス「大丈夫!!

 

 

 スプラッシュ!!」

 

 

 カイメラが炎の吐息を吐く寸前でカイメラの口めがけて水の魔術で相殺を試みる。水はカイメラの空気を吸い込もうとした口に入っていきカイメラの肺の中で次の瞬間には吐き出される筈だった炎とぶつかって小規模な爆発が起こり蒸気を発して漏れ出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程からこれの繰り返しだ。カイメラの外皮は凍り付いても途端に中の火炎袋らしきものが体表の氷を熱で溶かす。カイメラは一動作で俺達が水を浴びせて時間を待ち凍り付いた体の氷を溶かす。ダメージを感じている様子は全くない。

 

 

 これは作戦的に破綻しているのだろうか?

 

 

オサムロウ「…相手が通常のドラゴンであったのならこの作戦も活きるのだろうが………、

 ゾンビという性質を持つ以上何かもっと有効的な手を打たねば無意味に長引くだけだな………。」

 

 

ウインドラ「有効的な作戦………。

 カオスの氷の魔術しか奴に効きそうな手は無さそうだが………。」

 

 

ミシガン「私達がここから離脱するしかないの!?」

 

 

タレス「それが賢明でしょうね………。

 ボク達はハッキリ言ってカオスさんのお荷物にしかなっていないですからボク達がこの場を離れてカオスさんを一人にするしか………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 せっかく魔術を使えるようになったというのにカイメラが相手では仲間達を危険に晒してしまう俺の魔術の影響力。この戦いが始まってから皆が天変地異を引き起こすレベルで魔術を行使しているのもあってか山の至る所が破壊の爪痕を作っていく。

 

 

 あまり時間を掛けるようなことをすればダインはよくても他のバルツィエ達がこの場に駆け付けて来るのではないか?俺達はただでさえ目に止まるような力を使いまくっているのだ。皆がこの場を離れたとしてダインのようにレアバードに乗ってやって来るバルツィエ達から俺の目の届かない場所に行かれたら俺は皆を守れない。ダインの話ではランドールと今日のうちに合流するとも言っていた。とするとバルツィエ達ももしかしたらこの山の近くまで来ているのではないか?今の皆がバルツィエに殺られてしまうことはないだろうが万が一ということも考えられる。皆は俺に合流するためにここまで走って駆けつけてくれた。俺の魔術で体力は回復したとしても精神的な部分までは魔術では回復できない。今更皆にこの場を急いで離れる程の精神力が残っているとは………。それに離れるにしても皆が安全な場所まで逃げ切れたことも確認できないから俺がどのタイミングでこのカイメラに氷の魔術を放てばいいのか分からない。話によれば今ダレイオスの北半分は凄まじく極寒だとも言う………。皆は多少平気でもダレイオスの人達にこれ以上は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一ダインはどうすればいいんだ。皆を安全なところにまで避難させるとしてダインが俺達と一緒にいるところを他のバルツィエ達に見られればダインはどう思われるだろうか………。

 ダインを仲間に引き入れたいという思いはあるがまだ確定した返事はもらっていない。ダインはブラムのためにわざとバルツィエの情報が漏れるようにバルツィエに在籍し続けているんだ。そんな直ぐにダインがバルツィエを離れることは出来ないだろう。

 だけどもしダインが裏切者としてこちら側についたとしてブラムはどうなるんだ?ダインはブラムを大切に思っている。ブラムに関してはバルツィエの話でも多少怪しく思われている節があるようだし今ブラムが無事なのはダインが庇っているおかげだろう。そのダインがバルツィエからいなくなったらダインの心の拠り所としているブラムはどうなる?ダインを仲間にするにしてもそれはブラムの安全を確保してからでないとダインは俺達と共に来ることはないだろう。

 

 

 ………何かもっと具体的にカイメラを倒せる案は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「カオス!!」

 

 

 

 

 

 

カオス「……!」

 

 

 カイメラを倒す方法を練っていたら上空からダインに呼ばれる。

 

 

ダイン「今のもう一回やって……!!」

 

 

カオス「今の……?」

 

 

ダイン「今やったようにカイメラの口に直接水を投入するの……!!

 

 

 今度はうちがカイメラに直接氷を叩き込む!!」

 

 

カオス「ダインが直接氷を……!?」

 

 

 カイメラはヴェノムだ。ダインの氷ではカイメラを倒すことなど出来ない筈だが………?

 

 

ダイン「何度やってもカイメラの外側を冷やすだけじゃこのレッドドラゴン形態は倒せない…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから今度は内側から冷やすの……!!

 うちの氷の攻撃は直接的にはダメージは無くても冷やすという観点だけなら可能!!」

 

 

 

 

 

 

タレスミシガンウインドラオサムロウ「!!」

 

 

カオス「……ダイン……、

 そこまで考えて………。」

 

 

 ダインは本格的にカイメラ討伐に参加してくる。ダインは俺や他の皆の使える技や術を大体は理解している。

 

 

 そしてカイメラのレッドドラゴン形態討伐に向けて今一番欲しい力を提示しそれを実行しようと言うのだ。これならダインの仲間入りに皆も納得してくれるだろう。なにせ今共にカイメラを倒そうとしてくれているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「ホォォォォォォォォォオオオオオオ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…!」

 

 

 ダインが作戦を話している内にカイメラが再び火炎放射を放とうと大きく息を吸い込む。ここで俺がまた水を口の中へと放てばダインがその水を凍らせてカイメラの内側から氷付けにすることが出来る。

 

 

 ダインの期待に応えるためにもここは指示通りにしなければ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「スプラッシュ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はカイメラの口に向けて水をおもいっきり突っ込んだ。



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カイメラレッドドラゴン討伐………?

新ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「ボハァッ!!!」

 

 

 カイメラの口に水を注ぎカイメラの火炎放射を止める。この後はダインがカイメラの口の中に氷を叩き込むだけなのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「…アローネ=リム・クラウディア………。」

 

 

アローネ「?

 何でしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………この子を一時預ける………。」

 

 

アローネ「はい………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・タレス・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「え”……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レアバードに乗って空中を飛行していたダインがアローネを残してカイメラの頭上に飛び乗った。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「『氷雪よ我が手となりて敵を凍てつくせ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイシクル!!

 追撃の二十連撃!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インブレイスエンド!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「ゴボオォオォォォォオォォォオオオオオオオオ!!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダインはカイメラの口の中に極大の氷の塊をぶちこんだ。氷の塊はブルータルやグリフォンのような大きさがありそれが口の中へと押し込むことが出来たのはカイメラの変身したレッドドラゴンがそれほどまでに巨大な姿をしていたからだろう。

 

 

 カイメラはたまらずその氷を吐き出そうとするが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ちょっ……!?

 これは…!

 いきなり操縦するのは私には無理では……!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「ゴハァッ!!」

 

 

 アローネがダインに代わって操縦するレアバードは不規則に飛び回りながらカイメラの頭部に正面衝突する。

 

 

 そこにはダインが作り出した氷の塊があり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴクン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………ナイス………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラのくわえていた氷は多少砕けながらもカイメラの口内の奥へと飲み込まれていった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ぅぁっ……!!?」タレス「ぐっ……!!?」ミシガン「やばっ…!?」ウインドラ「ッッッ…!!」オサムロウ「くっ……!?」

 

 

 今までで一番大きな音を立ててカイメラの体の中から爆発が起こる。

 

 

 何が起こったと言うのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……“水蒸気爆発”………、

 うちの氷とカイメラの体の中のマグマのような炎が接触してから一気に体積が増えて体の中に収まりきらなくなったから内側からこんな激しい破裂が起こった……。」

 

 

アローネ「まさかこれを狙って……!?」

 

 

 アローネが乗ったレアバードがカイメラに激突した瞬間に素早くダインはアローネの載るレアバードに飛び乗り急加速でカイメラから離れた。その結果カイメラの体内で発生した爆発は体外にまで吹き出る程であったが二人は被害を受けなかった。

 

 

ダイン「うちは氷使い……。

 火を使うモンスターの討伐にはよく駆り出される……。

 こんなことは頻繁にある……。」

 

 

アローネ「それでこうした現象にお詳しいのですね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネの家系はウルゴスでは軍師の家として有名だった。アローネの父も戦場では巧みな戦術でダンダルクの軍勢を相手に自陣の兵士達を指揮してダンダルクの侵略を防いできた。現在は家族とは散り散りになっているとはいえアローネは自らがクラウディアの家の者という自覚を捨てたりはしなかった。

 

 

 だからこそこうした純粋な基本六属性の押し合いでどの属性とどの属性がかち合った時どういった反応が起こりどのように作用して戦場を優位にすることが出来るのかを知るダインやオサムロウ、レイディーなどの自分よりも優れた指揮力を発揮する者に若干の嫉妬を覚える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次期に新生ダレイオスの指導者に名乗りを上げる者として兵士以上に応用を利かせた作戦を閃くことが出来なければ民を導く資格など無いであろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………こんな時、物理学にも精通していた義兄のような人が身近いてくれたら………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「グゴォオオオオオオオォォォォォォォォォォォォオッッッッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「!

 倒れるぞ!!?

 全員離れるのだ!!」

 

 

 クラーケンに匹敵するほどの巨体が内側からの多大なダメージを被ったことにより巨体を支える力を一時的に失い横転する。

 

 

スズゥゥゥゥゥンッッッ!!!

 

 

 そんな音を立ててカイメラが横転すると小さな地震が起こりカオス達は一瞬浮き上がるかのような浮遊感に見舞われる。

 

 

 

 

 

 

ダイン「カオス…!!

 また水をお願い……!!

 今度はカイメラの全身を包み込むようなのを…!!」

 

 

 ダインが空から指示を送ってくる。ここまで積極的に助勢してくれるダインの指示に疑問を持つことはない。

 

 

 迷わずカオスとミシガンで水を発生させカイメラをその中へと閉じ込める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・ミシガン「『蒼溟たる波涛よ、旋渦となりて、厄を飲み込め!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タイダルウェイブ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山を包み込みかねない程の大渦がカイメラを包み込んだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「『氷雪よ!!我が手となりて敵を凍てつくせ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイシクル!!

 追撃の二十連撃!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスとミシガンで作り上げた水をダインが凍り付かせる。それによってカイメラは完全に氷の中へと押し込められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「……今度は完全に凍った………?」

 

 

ウインドラ「…先の水蒸気爆発で身体中に風穴が空いていたからな………。

 あれが無ければカイメラの体の奥にある炎袋にまで水が届く前に蒸発させられていたんだろう………。

 

 

 ………だが今度の水はそこに届いた。カイメラレッドドラゴンが内に持つ熱源の奥深くに穴という穴から怒濤の水が押し寄せ冷やし更にダイン=セゼアの氷の魔術で低温で固定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうこのカイメラレッドドラゴンに火炎を吹く能力は残っていない。

 カオスとミシガンのヴェノムを浄化する水を凍り付かせたんだ。

 カイメラの無限にも思える再生能力でもここから変身することは不可能だろう………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………勝った………のか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………やった………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝ったんだ俺達………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凍り付いたカイメラから次の動きに移る気配はない。カイメラは氷の中で静かに時を止めている。この中から出る方法はカイメラには無いと言うことなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラとの再戦が始まってから一時間長………。魔術を戦闘で使う決意をしてから二戦目にして早くも俺の魔術の一撃で倒しきれない敵との戦闘で身心の奥深くにどっとした疲れのようなものを感じる。

 

 

 魔術は奥が深いな………。昔は誰も彼もが単純にこの超常的な力を無作為に使っているところは見てきたが環境や敵によってはこれが活きたり封じられたりもする。魔力が強いだけでは駄目なんだな。このカイメラのように魔法生物という種族だけでこうも俺の力が無力化されてしまうとは………。俺は俺が魔術を使えば皆を絶対に守れる自身があったがこの戦闘を振り返ってみればウインドラやミシガン、タレスも多少なり負傷している。絶対的な力があっても使いどころを間違えれば仲間は傷付いてしまう。今回はどうにか軽傷で済んだがこれがもし………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もっと強力な相手が出てきたとしたら皆を守りながら戦える自信はないな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………と言ってもこのカイメラのレッドドラゴン形態よりも上の敵が出てくることなんて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早々ないだろうけど………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキンッ……!!



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カイメラとの最終決戦

新ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラレッドドラゴン「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・タレス・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラを内側から爆発させて体のあちこちに穴を空けてそこから水を流し込み氷の魔術で凍らせた。カイメラはそれで全く動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達の勝利なのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体は氷の中で固まったままだがこれはもうこの中から出ることは出来ないだろう。この山の気温の低さでこの氷がここから溶けるようなことはないはずだ。実質カイメラはこのウィンドブリズで無力化したも同然だ。もうカイメラが暴れまわることもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は勝ったんだ。あのカイメラに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………遂に仕留めたか………カイメラ。

 これで残りのヴェノムの主は四体………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「いいえ、

 三体ですよ。」

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 オサムロウが口にしたヴェノムの主が残り四体という現状確認にレアバードから降りてきたアローネが訂正を入れる。カイメラが氷付けになり安全になったことでダインと共に空から着陸して俺達の元へとやって来た。

 

 

オサムロウ「三体………?」

 

 

アローネ「私がカオスに合流するまでにどうやらカオスがグリフォンを倒してしまったようなのです。」

 

 

ウインドラ「何………?

 それは本当か?」

 

 

 ウインドラがグリフォンが倒されたことを疑う。たった今ヴェノムの主の二体が合体したモンスターを倒したばかりだというのに既にもう一体まで討伐されていたことに驚きを隠せない様子だ。

 

 

ダイン「うん……、

 カオスと一緒にいたらグリフォンが飛んできたからそれをカオスがやっつけちゃった……。」

 

 

タレス「一人で倒したんですか……?」

 

 

ダイン「そうだよ……?

 色々と省くけどカオスが一度この山を無くしちゃったんだけどその後にグリフォンが来て逃げ回ってる内にカオスが恐怖心を乗り越えてグリフォンに魔術を撃ったの……。

 この山はカオスの魔術で作られたもの……。

 カオスがグリフォンを倒す際に同時にこの山も復元した……。

 一度ここを通ってきた貴方達ならこの山が以前と風景が変わっていることに気が付かなかった……?」

 

 

ミシガン「………そう言われると………なんか前来たときよりも山の形が変わっているような………。」

 

 

ウインドラ「この山はカオスが作ったものだというのか……?

 ………しかし何故山がそんなことに………。」

 

 

 皆は俺だけが使える魔術を知らない。俺は皆が使えるようになった魔術の他にもグラビティという重力魔術を使えるようになったのだが今回の戦いでは特に使うことも無かったな。カイメラが変身する度に弱点の属性はハッキリしていたからそれだけを要点に入れて戦っていたから仕方ないことなのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………行幸だな………。

 一ヶ月長の遅れからヴェノムの主三体を同時に倒してしまうとは………。

 

 

 カイメラのレッドドラゴン形態を倒してしまったことだしこれで残りの主は三体………。

 その内一体は確実に討伐可能ということも立証された。」

 

 

アローネ「?

 何故一体が討伐可能と立証されるのでしょうか?」

 

 

 オサムロウの発言ではヴェノムの主の残りの三体の内の二体は不確定だが一体は確実に倒すことが出来るという内容だった。何故カイメラのレッドドラゴン形態を倒したことが一体の主を倒せることに繋がるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「実はソナタ等が最後に向かう場所、ブルカーン族の周辺に生息している主というのがレッドドラゴンだったのだ。

 急なレッドドラゴンとの対峙で意表を突かれたがそれもこのカイメラに吸収されたであろうレッドドラゴンを倒しきってしまったことによりブルカーン族の主退治は確約されたも同然だな。」

 

 

カオス「もう一体レッドドラゴンがいたんですか!?」

 

 

 討伐しなければならない残り三体の中の一体が今倒したカイメラのレッドドラゴン形態と同じくレッドドラゴン。カイメラの変身した姿だけでも相当厳しい相手だったがそれがもう一度再戦しなければいけないのか………?

 

 

タレス「今倒したカイメラがブルカーン族の主のレッドドラゴンを吸収したということは無いんですか?」

 

 

オサムロウ「恐らくカイメラが吸収したレッドドラゴンとブルカーン族の主の個体とは別物だと思う。

 ブルカーンの地方にはレッドドラゴンが多数確認されていると聞くしドラゴンは時折移動する個体もたまにいるのだ。

 カイメラに吸収された個体はその内の一匹であったのだろう。」

 

 

ウインドラ「と言うことはこいつと同じレッドドラゴンをもう一度倒さねばならんのか………。」

 

 

ミシガン「でっ、でもでももうこのレッドドラゴンの姿をしたカイメラは倒しちゃったんだしまさかこれより強いのなんて他にはいないでしょ!?」

 

 

 カイメラは六体のギガントモンスターの姿に変身した。ジャバウォック、ブルータル、マンティコア、ビッグフロスター、バタフライ、そしてレッドドラゴン。計六匹の主に相当する強さを持っていたと言っても過言ではない。それを倒したのだから他の三体のヴェノムの主が合体したとして今の俺達に敵う道理は無いが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「油断はしないことだな。

 そういう考えでいるとどこで躓くか分からんぞ?

 ………とはいえこのカイメラの討伐が完了したことで期限は残り百日前後で三体の主を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達がカイメラに勝利したと確信して気が早く次のヴェノム討伐に向けての計画について話し合いをしているとどこからかそんな音が鳴り響いた。その音が耳に入った瞬間談笑ムードにあった俺達は背筋が凍るような感覚を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………まさか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキンッ!!パキンッパキパキッ!!バキンッ!!ガガガ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪い予感とは当たるものだな。予感と言ってもそれは直ぐに現実に追い付いた。

 

 

 

 

 

 

 何故ならその音を立てているであろう原因が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラ???「ジュゥゥゥゥゥゥ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷の中に封じたにも関わらず氷の中で形を変え今にもその氷の中から出てこようとしているのだから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………まだ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終わらないのかこいつは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??????「ジュゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷の中で蠢くそれはまた更なる変貌を遂げて俺達の前に出てこようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“まだ俺は終わらないぞ………”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直接そう聞こえた訳ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが氷の中で黒く変色したその姿からはそんな言葉が伝わってくるようだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラはまだ倒されてはいない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここからがカイメラの本当の戦いの始まりだったのだ………。



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異形の中の異形

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔自分のかかった病気を治したい一心で生物のおおまかな造りについて調べたことがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生物の大半は頭、胸、手、足があり種類によっては手や足が二本から数十本あるものや背中に羽を持つ昆虫等もいるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どの生物にも手足は最低でも二本以上は確実にある。手足は事故などによって欠損することはあれどそれらが無くなったとしても生物は絶対に死ぬわけではない。人の場合は痛みでショック死なんてこともあり得るがそれでも手足を失ってでも生きている生物の例は数多くある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………今度は頭や胸はどうだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭や胸はどんな生物にも必ず一つしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一つを失えばどんな生物も確実な死が待っている。失ってはならない大事な器官だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特に頭部なんかは胸または胴体と呼ぶ部分に比べて非常にデリケートで他の胸、手、足が負える傷の半分程度でも死に至ってしまう程のものだ。調べた事例では後ろから小石くらいのものが軽めに当たっただけで死亡してしまうケースがあるとか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭は生物にとっては重要な役割を担っているからこそそれだけ脆いのだろう。頭は生物の体の中では司令塔のようなものだ。そこが破壊されるようなことがあれば他の部分全てを欠損させることなく殺すことが出来る。肉食系生物の狩りでも始めに首筋を狙って噛みつき窒息させようとする知恵の回る生物がいるくらいなのだ。知能が高い生物でなくとも自然と頭部が全生物の一番の急所だということは理解している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だとしたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この目の前の生物は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一体どこがその頭部にあたると言うのだろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥゥ!!!!!

 

 

 カイメラは先程までの変身同様に異臭のする蒸気を纏いながら次の形態へと形を作り替えている真っ最中だ。本当ならこの隙に攻撃を加えるのが手なのだが今度の変身は少し様子がおかしい。変身で発する蒸気がこれまでの比ではない。レッドドラゴンだった体は多少収縮しており蒸気でよく見えないがその奥では今カオス達を狩りとるため新たな体を形成しようしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「今度はなんなの………?

 いつまでコイツと戦ったら私達はコイツに勝てるの……?」

 

 

 ここまでカオス達はこのカイメラの変身したギガントモンスターの姿を六度も倒してきた。このカイメラという生物が例え何度も倒したとしても復活することは皆十分熟知している。それでも強烈な魔力を持ったカオスが参戦したことによりこの不死身とも思われるカイメラを着実に追い詰めていく手応えは感じていた。

 

 

 それなのにカイメラはこれまで見せなかったレッドドラゴンという最終変身とおぼしき姿をとりそれすらも屠ってみせたのにまだ変身を繰り返すのか?

 

 

カオス「………こうなったらとことんまで付き合ってやる!!

 もうコイツの変身した姿は全部倒すことが出来たんだ!!

 なら倒しきれるまでコイツの体を削りに削ってコイツとの戦いを終わらせてやる!!」

 

 

 カイメラの変身出来る姿はこれまでの流れで基本六元素基本六属性に対応した姿だということは理解した。このカイメラにはもう六つの姿以外に切れるカードはないのだ。そのどれも撃ち破ることが出来たのなら後はカイメラが死にきるまでこの変身再生に付き合うだけ、皆そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「!!

 変身が終わったようです!!

 出てきますよ!」

 

 

 カイメラが纏う蒸気の中の様子を伺いタレスがカイメラが準備が完了したことを皆に告げる。今度の姿はどの姿か………。ジャバウォック、ブルータル、マンティコア、ビッグフロスター、バタフライ、レッドドラゴンどれでもいい。攻略することにかわりない。たった今レッドドラゴンを倒したのだから他の五つの姿のどれかだ。それならレッドドラゴンなんかよりも攻略は容易………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如立ち上る蒸気の中から聞いたことのある雄叫びが上がる。

 

 

ウインドラ「ジャバウォックか………。

 本当にその姿が好きだなコイツは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルルルルルアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「むっ!?

 この雄叫びは……!?」

 

 

アローネ「ブルータルの鳴き声……!?

 ジャバウォックからブルータルに変身したのでしょうか………?」

 

 

 煙の中からは始めにジャバウォックのものと思われる発声がしそのすぐ後にブルータルの声が聞こえてきた。

 

 

 変身した直後にまた変身したのだろうか………?

 

 

 皆の思考がそう一つにまとまった直後、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?

 今度はマンティコア………!?」

 

 

ダイン「カイメラは変身を繰り返して何をしてるの……?」

 

 

 立ち込める蒸気で中がどうなっているのかは分からないがカイメラは連続で変身行動をとっているのだけは推測できる。

 

 

 カイメラの雄叫びが聞こえてくる度に中の蒸気が吹き出してその濃さを増していく。奴は何がしたいのだろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もしやこれはカイメラが既に絶命寸前で苦しみに悶えているだけなのでは………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルる!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に聞こえてきたのはビッグフロスターの喉を鳴らす音だった。これは順番に六つの変身形態に変身しているようだ。

 

 

ミシガン「ねっ、ねぇ………、

 これってもうカイメラが最後の力を振り絞ってもがいてるだけなんじゃない………?

 さっきから苦しそうな咆哮ばかり聞こえてくるけど………。」

 

 

ウインドラ「………」

 

 

 ミシガンが感じたことは事実だ。先程からカイメラが唸る声は全て今までのように変身した直後の猛々しい咆哮とは違いどこか苦痛を混じらせたような悲痛な叫びのようにも聞こえる。

 

 

 この吹き出す蒸気もヴェノムが死滅する際に吹き上がる最後の灯火にそっくりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうかこのまま朽ち果ててほしい。そんな願望が浮かぶ程にその声は聞くに耐えないつんざくような声質がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度はバタフライとレッドドラゴンの咆哮が響く。二つの咆哮は前の四つの咆哮よりも間隔が短くなって聞こえてきた。

 

 

タレス「………」

 

 

 これは生物が死ぬ前の断末魔を上げているのだ。苦しい、死にたくない、まだ生きていたい、そんな望みを訴えて今このように最後の力を振り絞って吼えているのだ。そう思いたくて仕方がない。もうこんな声を上げる相手に向かっていきたくない。この声を聞き続けていたら頭がおかしくなりそうだ。吹き出す蒸気の外にいる七人はどうしようもない不快感に襲われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早くこの雄叫びが止まればいいのに………。そしたらカイメラももう苦しまずに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………やがて蒸気の中から声が聞こえなくなった。カイメラが漸く絶命したのか?七人はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして蒸気の噴出が止まりその中にいたのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………なんなんだ…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 化け物は…………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!」「ブルルルルルアアアアアアアアアアアアア!!!!」「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」「ゲルルルルルルルルルルル!!!!」「コオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!」「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蒸気が晴れて姿を現した生物は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な首が六つもある異形の怪物であった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時その六つ首の怪物を目にして感じた悪寒は初めてヴェノムを見たときの悪寒と同じ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あるいはそれ以上の悪寒だったかもしれない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラの真の姿………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一同はそのおぞましい姿に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 形容しがたい戦慄を覚えるのであった………。



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“七番目”のカイメラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 醜悪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 醜悪とは“醜い”や“歪な”といった何かの表現に使用する際の形容する様子のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一般には醜いと口にすることはなく社会的にもあまり耳にする機会は少ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故なら醜悪とは侮蔑用語で他の人や物の表現に用るのだとしてもそれはその本人に直接聞かせたりすればその相手と険悪な関係に陥る危険を孕んでいるしその者に関与する物が醜いのであれば同じことが言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 端的に使うのなら余程のことがない限り醜悪は心の中でボソッと囁く程度の言葉の筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界には美しい物があるのなら逆に醜い物がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人は醜い物よりも美しい物に目を惹かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それもあいまって人は醜いと感じるものに近付こうとせず距離をおく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当然だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 優劣、良し悪し、正悪といった二面性があるのなら誰しも良いと思う方へと流れるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして醜い物から遠ざかりいつしか人は醜いと感じたもののことすら記憶から消していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 醜かったという記憶は残ってもその醜いと感じた姿はだんだんと色が薄れていき次第に醜かったということさえ忘れ無かったものとなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして最後には醜さを思い出せなくなりその醜い存在というものがどんな醜さだったのかも表現出来なくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………始めに言った通り醜い、醜悪とは人や物の様子を表すさまだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決して人や物の名前などではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!」「ブルルルルルアアアアアアアアアアアアア!!!!」「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」「ゲルルルルルルルルルルル!!!!」「コオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!」「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし今カオス達が目にしているその生物の姿は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ・ダイン「………………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 醜い、歪と言ったマイナスの形容に用いる言葉そのもの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 醜悪を物質化、擬生物化したとしたら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今正にその生物のことかのように思えた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今カオス達は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世でもっとも醜悪というものを詰め込んだかのような姿の怪物と対面していた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!」「ブルルルルルアアアアアアアアアアアアア!!!!」「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」「ゲルルルルルルルルルルル!!!!」「コオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!」「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリッッッッッ………!!!!!

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ・ダイン「!!!!!」

 

 

 六つの首が同時に吼える。その咆哮は空気を震わせ山を崩さんばかりの声量があった。ウィンドブリズが雪山のままであったらこの咆哮だけで雪崩が起こりえるほどの叫びであった。

 

 

 今カオス達の前に誕生した生物は見るからに生物として不完全な姿をしている。生物は基本的に五体と呼ばれる頭、手二、足二の五つがある。それらは左右非対称で鏡に映るような形をしているが右と左でほぼ同じ形にはなっている筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがこのカイメラが変身した“七番目”の姿は完全に不完全な生物の形をしていた。

 

 

 体の構造がぐちゃぐちゃで右半身に毛で覆われた太い豪腕や昆虫の枝のような腕が生えている。それに対して逆の右側にはその対になる筈の腕は見当たらず蛙の腕だったり獅子の後ろ足があったりする。手や足だけではない。体の部分には変なところに翼が生えてたり竜特有のの鱗があったり軟体そうな皮膚があったり………、

 

 

 一言で表すなら継ぎ接ぎの体だ。多種族の生物の体を強引に接合したようなそんな体をしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして何といっても頭の数がおかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このカイメラの七番目の姿は頭と思われる顔が六つあるのだ。

 

 

 六つの頭はそれぞれこれまで戦ってきたジャバウォック、ブルータル、マンティコア、ビッグフロスター、バタフライ、レッドドラゴンの頭部がありそれらは体………らしき本体の六方に備わっている。それも均等に首があるのではなく多少上部に位置するものから肩………と思われる箇所よりも下にある首………果ては逆さまの首まである。

 

 

 これらの首はどれが本当の頭部なのか………?どの首がこのカイメラという存在の思考を操る器官なのだ………?探るようにその体の全貌を検閲してもどの首もが自分こそがこの体の本体だと言わんばかりに唸り声を上げて主張しているかのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恐らくこの首全てがカイメラの頭部ということなのだろう………。このカイメラという生物は一つの体に六つの首がありその六つの首全てがカイメラの頭ということになる。一つの体で六つの首、そして多種の生物の特長を兼ねた体。ざっと哺乳類、両生類、爬虫類、昆虫といった具合の特長を持つ体。

 

 

 カイメラは以前にスペクタクルズで分類を調べたところ魔法生物という結果が出た。

 

 

 

 

 

 

 魔法生物は現時点で三種類が確認されている。

 

 

 一つは存在するかしないか定かではなかった精霊の存在。カオス達は精霊の力を授かることによって現状魔法生物という生物に変化している。人に力を与えて魔法生物に変化させてしまうのならその大元の精霊も魔法生物という分類にカテゴライズすることが出来るだろう。

 

 

 二つ目は過去の遺産、遺跡などを守護する魔法生物ゴーレムやエレメント達。彼等は昔の技術者によって作られた人工的な魔法生物だ。自然物にマナを吹き込む術式を加えて擬似的に生物のように動く仕掛けをつくり与えられた命令を忠実にこなす自動人形と化した不朽の生物。

 

 

 

 

 

 

 そして三つ目にヴェノム。ヴェノムは始め人をスライムに変化させる未知のウイルスだと思われていたがどうやらヴェノムウイルスに感染するとその感染した生物を魔法生物に変えてしまうようだ。

 

 

 精霊が関与せずに魔法生物に変えられた生物はよくよく思い返してみれば全てが決まった形をしてはいない。ゴーレムやエレメント達は人が造形したものでありその形は全部生物に似せられて作られた物ばかりだ。ヴェノムに関しても感染してすぐのゾンビと呼ばれる形態の生物は一定期間までは元の生物の形をとり最後には不定形のスライムに変わる。

 

 

 このカイメラも変身を繰り返す度にそれまで吸収したとされる生物の原型を留めた変身を行ってはいたのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この七番目の変身した姿に限ってだけはこれまでの例と違う………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この七番目の姿だけはこの星の歴史史上で既存するどの生物の姿とも全く異なる形状になった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この姿は何だと言うのだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この姿は本当に元が生物であったものの成れの果てだとでも言うのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………生物が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どのように進化したらここまで奇形な形に進化出来るのだろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この姿は最早生きているものの姿ではない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物と化した屍を寄せ集めて形をなしているだけの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 憐れな合成物だ………。



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誕生、六首龍“シックスヘッドカイメラ”

新ウィンドブリズ山 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これはもう生物の形態としては不出来過ぎるな………。

 遺伝子不良や近親相姦で生まれた奇形児でもここまで酷くはなるまい………。

 

 

 

 ………しかし誕生してしまったからには名前が必要だな………。

 六つ首の怪物………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見たままに名を付けるのなら元の名に継ぎ足して、

 

 

 “嵌合体奇獣シックスヘッドカイメラ”と言ったところか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!」「ブルルルルルアアアアアアアアアアアアア!!!!」「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」「ゲルルルルルルルルルルル!!!!」「コオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!」「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オサムロウがその姿のカイメラに名前を付けると同時に六つの首がその名前が付けられたことを喜び呼応するかのごとく吼える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シックスヘッドカイメラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界に新たに誕生したヴェノムの主にしてヴェノムの王。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界に誕生したことを訴えるかのように咆哮するその醜き姿はエルフの赤ん坊がこの世に生まれてから上げる産声のようなとても愛らしい姿とはかけ離れた光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 産まれてすぐで申し訳ないのだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この生物の誕生だけは祝福できない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一刻も早く、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このいかなる生物よりもグロテスクな姿の悪魔を葬り去らないと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この怪物は危険だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだこの姿のカイメラがどのように危ないかは判らないがとてつもなく邪悪な力を感じさせるものを放っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この複数の生物を縫い合わせたかのようなフォルムをした物体を放っておけば、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界が滅びる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思わせるだけの力はこの姿になる前の時点で想像が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ではこの姿は………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無論ここに来て他の六つの姿よりも劣る等ということはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それどころか接触してすらしていないというのにこの肌を震わせるプレッシャーには体がそれだけで凍り付きそうな程の畏怖さえ込み上げてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自然の冷寒には耐えられるというのにこのカイメラを見て感じる悪寒には耐えられそうにもない。存在感だけでここまで圧力があるとは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いの火蓋は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び切られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シックスヘッドカイメラの先制攻撃によって、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ヒュオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 ジャバウォックの首の冷凍ブレスか…!?

 だったら俺が『火炎よ!!我が手となりて』………「ホオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!」!?」

 

 

 

 

 ジャバウォックの首からブレスが上がる気配がするや否や相殺しようとするカオスだったが今度はレッドドラゴンの首からも火炎放射の徴候が発生する。同時に二体の首のブレス。それを感じ取って、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「『氷雪よ我が手となりて敵を凍て尽くせ!!』」

 

 

 ダインがレッドドラゴンの火炎放射の相殺にあたる。だが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「フォオオオオオオオオッッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「!?『岩石よ!!我が手となりて「ゴスウウウウウウウウウウウウウウッッッッ!!!」』!?」「『疾風よ我が手となりて敵を切り裂け!!』」

 

 

 バタフライとマンティコアの首もブレスの前の深呼吸を始める。タレスとアローネもカオスとダイン同様に迎撃体制に入るがこれは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ジャボボボボボボボボボボボボボボボボ!!!!」「バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「『落雷よ!!我が手となりて敵を撃ち払え!!』」ミシガン「『流水よ!!我が手となりて敵を押し流せ!!』」

 

 

 予感はしていた。首が六つもあるのだ。その六つが咆哮を上げた時からその六つの首の内の五つは飾りではないことも予期していた。であるならその首の全てがお得意のブレスが吐けることも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその吐息は巻き散らされた。カイメラのそれぞれの首が向く六方へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ブオハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!「ヒュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」「ビュヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」「ズドトドドドドドドドドドトドドドドドドトトドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!」「ザブアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」「バガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六方に同時咆哮、基本六元素基本六属性の地水風火氷雷による砲撃は頭上からその様子を見て後に夜空に輝く星の光に似ていることからその名にちなんでカイメラの放つこの技を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六射咆哮砲撃(アスタリスク)と呼ばれることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後にも先にもカイメラが放つ技はこの六射咆哮砲撃(アスタリスク)以外には無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この技を見切ることが出来ればカイメラに打ち勝つことが出来ると言えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその一撃は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった一度発動しただけで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周辺の山々から川、森、谷などの全てを凪ぎ払っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 果てはカオスが立て直したウィンドブリズ山ですらも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 粉々に吹き飛ばす威力を叩きだした。



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王者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『ファイヤーボール!!』」ダイン「『アイシクル!!』」タレス「『ストーンブラスト!!』」アローネ「『ウインドカッター!!』」ミシガン「『アクアエッジ!!』」ウインドラ「『ライトニング!!』」

 

 

 シックスヘッドカイメラが放つ六射咆哮砲撃(アスタリスク)を六つの魔術が迎え撃つ。それぞれが対応したブレスを相殺すべく衝突すれば中和され安全に凌ぐことが出来る筈の属性の魔術をぶつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかしブレスの勢いは止まらずカオス以外の魔術は押し負けて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「全員かわせ!!!」

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・ダイン「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オサムロウの一声に皆がカイメラから放たれたブレスを紙一重にかわす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かわされた五つのブレスは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大地を抉りとりながら地平線の彼方まで五本の線を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブレスが通った後には直前まであったであろう物達が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綺麗にくり貫かれて残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「なっ、何よこれ………、

 こんなの受けたら私達なんて一瞬で灰になっちゃう………。」

 

 

ウインドラ「灰が残ればまだいい方だろう………。

 これは灰すら残るかどうか………。」

 

 

ダイン「このブレス………、

 これまでの変身のブレスとは次元が違う……。

 あのカイメラに近付いて攻撃するのは危険……。」

 

 

アローネ「………では魔術による遠距離からの迎撃しか手はありませんね………。

 

 

 タレス、

 あのカイメラはどの魔術が効きますか………?」

 

 

タレス「少し待ってください。

 今調べます。」

 

 

 アローネに促されてタレスがスペクタクルズでシックスヘッドカイメラの情報を調べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビビッ!!

 

 

タレス「………」

 

 

オサムロウ「どうであった………?」

 

 

タレス「……目標生物種族は………エラー………。

 スペクタクルズが生物として認識しません………。

 分類は魔法生物のままです………。

 他の特長は全てアンノウン………、

 耐性属性及び弱点属性は………、

 

 

 ………!?

 ありません…!?」

 

 

カオス「ない………?

 これまで弱点の属性以外の五つは無効化してたけどこの変身はどの攻撃も効くってこと?」

 

 

アローネ「てっきり首一つ一つに弱点の属性魔術を当てなければならないと思いましたが今回の変身は無耐性と言うのであればセオリー通りに「そうじゃありません!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………このシックスヘッドカイメラには………弱点の属性がありません………!

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()!()!()

 この姿のカイメラには魔術による攻撃は効きません!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ・ダイン「!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術が………効かない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはつまり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この場にいる七人の主砲が通じないということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術はこの世界に生きる全ての生物に与えられた命を削って使うことの出来る超常的な力………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その存在意義は攻撃だけでなく生活においても欠かせないものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある時は飲み水を、ある時は風を起こし埃やチリなどを吹き払い、ある時は涼むために、ある時は土を耕し、ある時は何かを暖めるために、ある時は遭難時に定期的に自分の位置を誰かに伝える時などに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突き詰めれば魔術はエルフにとっては無くては生きていけないと言い切れるほどに信頼をおける武器でありまたは生活の元になるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 役割はそれぞれがその時その時に応じて使いどころがありそれが適した力を発揮すればどのような困難な場面でも乗り切れる力がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それほど魔術は万能に近い能力が備わっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それがここに来て初めて通用しない場面に遭遇してしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通のエルフであったらヴェノムと対峙した際に魔術事態が効かないことに絶望した経験があっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしカオス達はヴェノムに対しても魔術はその効力を示しこれまで幾度となくその信頼に応えて敵を殲滅してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラの六つの変身でもそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラの変身した六形態は五つの属性に耐性は持っていたが元の姿の弱点としていた属性にだけは変わらず弱点を残し魔術はその力を発揮した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなのに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このカイメラにはそれが通じない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術が初めて無価値となった敵シックスヘッドカイメラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この敵は魔術では屠れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このシックスヘッドカイメラを倒すには、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物理的な武器でしか倒せない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが相手は異形といえどギガントモンスター。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギガントモンスターは本来多人数の部隊が魔術を駆使して戦わねば勝てないと言われるモンスターだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モンスター自体が人を越えるステータスを持っておりギガントモンスターはそれすら越える存在だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この場にいる七人で倒さねばならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それもこの場にいる七人の内前衛的な武器を持つのは五人………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その五人の内一人はヴェノムを淘汰する力は持ち合わせてはいない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 故にまともな戦力は四人だけ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス、タレス、ウインドラ、ダイン………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この四人が今のところカイメラに有効打を加えられる四人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった四人でどう立ち向かえばいいと言うのだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シックスヘッドカイメラの首は六つありその六つの全てから凄まじい破壊を孕んだブレスが飛んでくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 接近すること自体が間違いなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでもこのシックスヘッドカイメラにダメージを与えられる策は接近して武器で攻撃するのみ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ここまで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまでカイメラを追い詰めておきながらカイメラが一度変身しただけでもう打てる全ての手を塞がれてしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまで来て………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術という手が封じられただけでカオス達はこの六つ首の悪魔に勝つ算段を失ってしまった………。



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向かい風の戦い

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「まだだ!!

 まだ魔術が効かないと分かっても直接攻撃ならこいつにダメージを与えられる筈だ!!」

 

 

 カイメラに対して絶望的な状況の中ウインドラが諦められないといった感情を剥き出しにして叫ぶ。ここでカイメラ討伐を諦めたら今までの一ヶ月は全て水の泡となって消える。しかし接近戦は………、

 

 

ダイン「接近してもあの咆哮撃が飛んでくるだけ……。

 あれだけで普通の人だったら一瞬で消される……。」

 

 

 ウインドラ以外の全員が想像したことをダインが代わりに代弁する。ダインが代弁したのは常識的に考えて砲撃の至近距離に飛び込んでいくという発想があり得なかったからだ。他のカオス以外の五人も同様に同じ思考に至ったのだが………、

 

 

ウインドラ「……今の咆哮は確かに威力も及ぶ範囲も目を見張るものがあった………。

 

 

 だが六つの首から放たれた砲撃は全て元の変身前の六つ首が得意としていた属性によるものだった!!」

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・オサムロウ「!!」

 

 

ダイン「?

 それがどうしたの……?」

 

 

ウインドラ「………俺達はな。

 あのカイメラに似た特性があるんだよ………。

 流石に全属性完全耐性とまではいかないが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

オサムロウ「ほう………、

 言われてみれば確かにそうだな………。

 六つの首が決まった属性の砲撃波を放つ………。

 

 

 とすればカオス、アローネ、タレス、ミシガン、ウインドラでそれぞれジャバウォック、バタフライ、マンティコア、ビックフロスター、ブルータルの首に攻撃すれば………。」

 

 

アローネ「あの異質な変身を遂げたカイメラを攻略可能と言うことですね………。」

 

 

ウインドラ「そうだ。

 更に補則を付け加えるのなら………、

 

 

 ミシガン、俺の後ろに。」

 

 

ミシガン「……?」

 

 

 ミシガンがウインドラに促されてウインドラの後ろにつく。正面にはカイメラの首の一つのブルータルの首があった。

 

 

ウインドラ「………俺が奴の雷撃の避雷針となろう。

 ミシガンは俺の後ろからブルータルの首目掛けて水の魔術を。」

 

 

ミシガン「え!?

 でも全属性完全耐性だってさっきタレスが…!?」

 

 

ウインドラ「俺の推測が正しければスペクタクルズで読み取ったのは首一つ一つを他の五つの首が弱点をカバーしているからだ。

 だから首一つ一つには変わらず今も弱点が残っている筈………。

 ブルータルには水が効く。

 それだったら一人が盾となってもう一人が攻撃に専念するやり方がこのカイメラと戦う場合有効だろう。」

 

 

 ウインドラの説明に一応皆は頷く。確かにこのカイメラを相手にするにはその方法がより着実かつ安全に倒しきる算段だと言えよう。

 

 

タレス「それだと首一つ辺りに二人………。

 残りの三つの首はどうすれば………?」

 

 

ウインドラ「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 放置していても咆哮が飛んでくることは無いだろう。」

 

 

ダイン「うちは………どうすればいい………?」

 

 

オサムロウ「……ソナタは我と共に五人がそれぞれの首の攻撃に当たっている間それら以外の首の注意を引き付けておくのに専念してもらっていいか?

 バルツィエにこのようなことを頼むのも気が引けるが………。」

 

 

 オサムロウがダインにそうお願い事をする。まだ伝えてないがヴェノムの主を作り出したのは皆はバルツィエが怪しいと踏んでいる。それ以外にも色々とバルツィエには悪い噂が後を絶たないので共に隊列を組んで戦うのは気まずいのだろう。

 

 

ダイン「了解……。」

 

 

 ダインはオサムロウの指示に従う。このシックスヘッドカイメラの討伐に至ってはそれが今は最善だと分かったからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………じゃあ先に俺がジャバウォックの首を叩いてくる!!」

 

 

 アローネ、タレス、ミシガン、ウインドラと違いカイメラと同様に全属性完全耐性を持つカオスは一足先にカイメラの首目掛けて走る。

 

 

 続いてウインドラ、ミシガンペアとタレス、アローネペアも持ち場についた。

 

 

アローネ「では私がバタフライの攻撃を受けます。

 タレスはウインドラが話したように後ろから迎撃をお願いしますね?」

 

 

タレス「任せてください。

 あんな首の一つや二つ軽く貫いてやりますよ。」

 

 

アローネ「…魔力の上がった今あまり私の近くで地属性の魔術を使われると私も被災してしまうので少々加減をしていただけると私としても安心して背中を任せられるのですが………。」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「ミシガン!

 遠慮なく奴に水をかましてやれ!

 雷撃は俺が引き付ける!」

 

 

ミシガン「うん!

 分かった!

 早くこのブルータルの首を倒してビックフロスターも倒さないとね!

 そのためにも速攻で私がこのブルータルの首を倒してあげるんだから!!」

 

 

ウインドラ「…頼もしくなったなお前も………。」

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「我等は他の五人が役割に従事している間撹乱していればいい。

 いいな?」

 

 

ダイン「撹乱なら得意だから心配要らない……。」

 

 

オサムロウ「それでよい……。

 ではカオス達よ!!

 

 

 始めてくれ!」

 

 

 

 

 

 

カオス「分かりました!!

 それじゃあ………!、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!?」

 

 

 最初にカオス、アローネ、タレス、ミシガン、ウインドラで倒そうとしたのはジャバウォック、バタフライ、ブルータルの首の三つだった。そして残りの首のレッドドラゴンとビックフロスター、マンティコアは後回しにして応戦しようとしていたのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦結構しようとしていきなりその作戦は破綻してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故なら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六つの首それぞれが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?

 レッドドラゴンの首が…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ホオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」「ヒュオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…!?

 ビックフロスターの首が……!?」

 

 

ミシガン「ウインドラ後ろに………!

 ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ジャボボボボボボボボボボボボボッッ!!」「バチバチバチバチバチバチバチバチバチッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…!?

 マンティコアの首が…何故……!?」

 

 

タレス「アローネさん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「フォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」「ゴスゥウウウウウウウウウウウウウッッッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ブオハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!「ヒュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」「ビュヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」「ズドトドドドドドドドドドトドドドドドドトトドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!」「ザブアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」「バガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続くシックスヘッドカイメラの第二波の咆哮によって見事七人の部隊は一瞬にして瓦解させられた。



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跡絶える勇気

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パラパラ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………皆、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事………………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが見た光景は仲間達がカイメラの第二の六射咆哮砲撃(アスタリスク)によって瀕死の重体に陥っていた姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!」「ブルルルルルアアアアアアアアアアアアア!!!!」「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」「ゲルルルルルルルルルルル!!!!」「コオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!」「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった一度の判断ミスでパーティがほぼ壊滅状態に陥ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度目のシックスヘッドカイメラのブレスでどうして固有の首の方向にしかブレスを吐くことが出来ないと錯覚してしまったのだろうか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラの情報整理には皆も納得した上でウインドラの作戦にのった。ウインドラ一人を責めるのはお門違いだ。皆もウインドラが言い出さなくてもその作戦を実行したであろうから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では何が悪かったのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは攻めの姿勢に急ぎすぎてしまったからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵の戦闘能力は未知数。もう少し情報を集めてから攻めの作戦を講じられればよかったのだが如何せんスペクタクルズで調べた全属性完全耐性という情報に惑わされ通用する攻撃手段を模索しようと安直に懐に飛び込んだのがいけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのせいで二度目のブレスでカイメラの六つの首が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに後になって知らされた。この戦況の結果は油断と焦りがもたらした必然的なものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……………………………………………………………………………………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは吼えた。カイメラに向かって吼えながら向かっていく。仲間達をその咆哮の一撃に沈められた怒りもあるが何よりも己の無力さにうちひしがれてその思いの丈のぶつけどころをカイメラへと擦り付けるだめに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「よくも!!

 よくもッ!!」

 

 

 急接近してカオスはカイメラの首の一つレッドドラゴンの首に斬りかかる。

 

 

 感情に任せた剣はカイメラの首の堅牢な硬さに傷一つ付かない。ここでこのカイメラについて六つの咆哮波が同時に撃てることと首が自在に伸び縮み出来ること、

 

 

 そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが分かった。

 

 

 それでもカオスは剣を振ることを止めず無防備な攻めを続けるが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガブリッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ゴルルルルルッ!!」

 

 

 カオスの左腕はレッドドラゴンの首に噛み付かれてそこから空中へとカオスの体が持ち上げられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ブルルッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アガッ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはレッドドラゴンの首に振り回された後にブルータルの首の突進によって突き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それによりレッドドラゴンの口にあった左腕は食いちぎられて失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「グフッ…!?」

 

 

 激しい突きから地面に叩き付けられる。左腕を失った痛みも重なって意識が吹き飛びそうになった。

 

 

 それでも意識を失わなかったのはカオスが元から痛みに物理的な耐性があったのもあるが何より、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仲間を守れなかった悔しさが一番大きかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術を使えるようになって初めて仲間を本気で守りたいと思った。自分が誰よりも突出した能力を持ち誰よりも誰かが側にいてくれることに飢えた自分だからこそ仲間達よりも自分が真っ先に倒れるべきだというのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 守れなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所詮魔術を操れるようになったからと言って自分の力はやはり攻撃に特化したただの破壊兵器的な役割にしかならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その破壊兵器ですらこのカイメラには手も足も出ずに「気をしっかり持てカオス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「何を血迷っている!

 奴の装甲が厚いことはレッドドラゴン形態の時に身に染みるほど理解していた筈だ。

 一人で先走るのではないぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………オサムロウさん………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「うちも危なかったけどなんとか空に飛んで避けてた……。

 まだ戦えるよ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ざっと見て残ったのはカオスとカイメラ撃退に関して難のある二人。この二人もカイメラのあの六射咆哮砲撃(アスタリスク)を食らえば次は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなのに何故こうも闘志が消えない………?何故この惨状を目の当たりにしてまだこんな化け物と戦おうと思えるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こいつの攻撃を食らえば例え常人より強化されたウインドラ達のような者達であっても一撃で倒されたというのに何故………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………とにかくここは攻めるのではなく守りに入るぞ。

 あの伸び縮みする首もそう遠くまでは届くまい。

 そして離れれば離れるほど奴の咆哮砲撃もかわしやすくなる。

 ここは倒れた五人を抱えて一旦退避だ。」

 

 

 状況が状況なのでその判断は正しいだろう。この場で戦闘続行を望めば確実に倒れていった五人はカイメラの咆哮か噛み付きによって殺されてしまう。倒れた者を庇いながらではまともに戦うのは難しいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし続く言葉が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「一度離れたらカオス、

 ソナタの強力な治癒術で五人を回復し体勢を立て直すのだ。

 そこからまたこのカイメラにどのようにして勝つかを考えるぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何を言ってるんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このカイメラに勝つだって………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやってこの不死身の怪物に勝つって言ってるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この変身した姿になる前の単体の変身でさえも俺の魔術でやっと倒せたような相手なんだぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度の変身はどうやっても俺の魔術ですら効かない攻略不可能な相手だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が使える魔術は地水火風氷雷の六つだ。そのどれもに耐性を持つこいつをどうやって倒せるって言うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑わせるなよこの阿呆が………。



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オサムロウの明かされる秘密

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………何か言いたげな様子だがそれは後で聞くとしよう。

 

 

 今はこの場を離れることが先決だ。

 ソナタは左腕を失っているしタレスとウインドラは我が持とう。」

 

 

カオス「……はい。」

 

 

 カオスは渋々。

 

 

 タレス達を助けるのに渋っているのでない。勝敗の見えた戦いに挑み続けようとしていることに無意味さを感じてしまったのだ。

 

 

 この流れでカイメラから上手く離れられたとして倒れた五人を回復させまた挑む。そして敗北を重ねる。その繰り返しで一体この圧倒的なまでのカイメラとの戦闘能力の差をどう埋めるというのだ。こんなことを繰り返していてはいつか必ず誰かの命が犠牲に………、

 

 

ダイン「じゃあアローネ=リムと………お姉さん?はうちが……。」

 

 

 そう言ってダインがレアバードに二人を乗せて飛行した。

 

 

オサムロウ「ダイン=セゼア!!

 今は北だ!!

 北の方に向かってくれ!!

 あのカイメラの砲撃がどこまで届くか分からぬ!!

 なるべく他の部族の地に泥が飛ばぬよう北上しよう!!」

 

 

ダイン「了解……。」

 

 

 ダインはオサムロウの指示に従い北へとレアバードを飛ばす。

 

 

オサムロウ「……では我等も」「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!」「ブルルルルルアアアアアアアアアアアアア!!!!」「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」「ゲルルルルルルルルルルル!!!!」「コオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!」「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッッッッ!!!!」

 

 

 カオス達が全員戦線離脱しようと察してシックスヘッドカイメラが怒りの咆哮を上げる。どうやらカオス達が逃げ出すのに不服そうだ。しかしその図体でどうやって追い掛けて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「「「「「「ググ………」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シックスヘッドカイメラは伸ばした首を蜘蛛の脚のように地面に着け………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勢いよくジャンプした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズズウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 着地点は丁度ダインが二人を乗せて飛んでいった方向でカオスとオサムロウを通せんぼするように立ち塞がる。

 

 

 以外に身軽な動きをするシックスヘッドカイメラ。その長い首にはそんな使い方があるのか………。バタフライに戻って飛んだ方が楽そうな気がするがもうこれ以上変身は出来ずこのシックスヘッドカイメラで完成形ということなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「行く手を阻まれたか………。

 致し方ない。

 我が注意を引き付けておくからウインドラとタレスを少し離れたところに置いてこい。」

 

 

 オサムロウはカオスに指示を出し刀を抜いてカイメラの周囲をグルグル回りだした。カイメラの六つの首はそれを追い掛けて地面に首を突き刺していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何でそこまでして戦えるんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はもう………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦う気力さえ湧いてこな………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「カオス!!

 ソナタはこの四十日で………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 随分と脆くそして弱くなったものだな!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………何だと………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………今、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何か聞き間違いか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おかしな発言が聞こえた気がしたんだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が弱くなった…………だって………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「何度でも言うぞ!!

 ソナタはこの四十日の修行を経て魔術を使いこなすことは出来るようになった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがその半面自らの限界を測るようになりその限界を越えるような敵には畏縮し恐怖する!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これを弱くなったと言わずして何という!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………知ったようなことを……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「違うと申すか!!

 だがこの四十日の間にウインドラ達から聞いたソナタの幼少の話を聞く限りではソナタはまだ魔術を使うことが出来なかった時代の方が強かったように思えるぞ!!」

 

 

 オサムロウがカオスを挑発する。よくもまぁカイメラの攻撃をかわしながらそんなことが言えるものだとオサムロウを観察し続けていたが、

 

 

オサムロウ「ソナタが持つ力は殺生石の精霊の力だと言ったな!!

 それはソナタの力ではないからソナタはその力を信じきることが出来ないと、そう思っているのか!!

 ソナタは………、

 

 

 他者に対して真に心を開かぬからこそ他者の力で駄目だと踏めばその通りに思い込んでしまう………!

 それはある種正解である種では不正解だ!!

 他人を当てにしすぎて払われた足元の話は誰もが体験することだ!!

 しかしソナタのそれはまるで自分が全てだという傲りから来るものだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我々を舐めるなよカオス!!

 たった一度劣勢に陥った程度で何を終わった気でおるのだ!!

 我等はソナタが修行している間にこの化け物に何度も敗北を味わわせ続けられたのだ!!

 今更戦闘不能の重傷を負わされたからといって立ち上がる足を失うほど我等の足は脆弱ではない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………だから何だって言うんですか……?

 アンタ達じゃこのカイメラには全然刃が立たない状況に代わりはないじゃないですか………。」

 

 

 オサムロウはカオスを挑発しカイメラと戦わせようとしておるのがまるわかりだ。それを察してしまえばオサムロウの口にする挑発はなんてことはない戯れ言だと聞き流せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 筈だったのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………本当に腑抜けになったものだな………。

 昔のソナタは()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに

意義を申し立てるような少年だったと窺っていたが………、

 それもこの十年で悪い方向へと成長してしまったせいなのであろうな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それでもソナタは我が課した課題を通ったのは事実か………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いいだろう!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………?」

 

 

 オサムロウが一人で納得したような素振りをする。何か挑発する言葉を思い付かなくなって諦めたか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「ソナタが乗り越えた課題はソナタにとってそれはそれは越えることの難しい試練だったことは認めよう!!

 普通のエルフであったら考えられんような試練になるかさえ分からぬものだったがな!!

 ソナタにとってはそれはとても高く険しい壁であっただろうに!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………分かってんじゃねえか………何が言いたいんだこのおっさんは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!

 刀が……!?」

 

 

 オサムロウがカイメラを翻弄している最中運悪くカイメラの首の突撃にあいオサムロウの刀が砕かれてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だというのにオサムロウはどこか想定していた様子だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………いい頃合いだな………。

 今まで御苦労だった………。

 ソナタにはいつも助けられてばかりだったな………。

 もう安め………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我はもう………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソナタの力を借りずともよくなった………。」



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プロトゾーン登場

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「カオス!!」

 

 

 

 

 

 

カオス「!!」

 

 

 オサムロウがカオスの名を呼ぶ。刀を折られたことにより助太刀に入れと言ってくるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその後の言葉にカオスは疑問の表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………特別に見せてやろう。

 見事試練を乗り越えたソナタとソナタ達だからこそ見せるのだ。

 我の………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()姿()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真の姿………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真の姿とは一体………?カイメラのように自分も変身することが出来るとでも言いたいのか?しかしそんなまさか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………まさか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………実を言うとな………。

 我は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソナタ達が現れる前からヴェノムを屠る力は備わっていたのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達に会う前から…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムを屠る力が備わっていた………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どう言うことだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「世界に蔓延るヴェノムがどういった生物なのか考えたことはあるか………?

 奴等は何故物理的に倒すことが出来ないのか。

 何故奴等は生物に感染するのか………。

 何故奴等は他のマナを欲するのか………。

 

 

 それは奴等ヴェノムが進化するためだからだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確かにそんなことをクリティア族の人達が言ってたような気がするが………それが何だと言うんだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「奴等は感染した生物を極限にまで進化させる。

 進化に適合出来なかった者は進化に失敗しスライムに似た姿に変えられてしまう。

 だからこそ奴等は進化のためのマナを集めてもう一度生物としての形を取り戻すため他者のマナを追い求めるのであろうな。

 丁度ここにいるカイメラがその失敗から成功に返り咲いた例なのかもしれん………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だからカイメラはこんな歪な進化を遂げてしまったのか………。スライムになってから他の生物達を取り込んで漸く生物としての形を………取り戻せたかどうかは置いておいて………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………だが仮に………、

 その生物を進化させるヴェノムウイルスと言うものがあったとして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “既にその生物にとっての進化の極限にいる者”がいたとしたらヴェノムウイルスはどう作用すると思う?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進化の極限の果てに既に至っている者………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「ヴェノムの特長を振り返ってみれば案外奴等は簡単な作りをしていたんだ………。

 奴等は未発展途上の生物を進化させてその段階で屯する生物にとっては危険きわまりないウイルスではあるがその段階を越えた生物のマナに対しては打たれ弱い性質を持っている。

 

 

 ソナタ等のような精霊の力を借りし者等しかり………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我のような………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メキメキメキッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オサムロウの体が音を立てて壊れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壊れて中から別の新しい体が構築されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ?「この姿になるのは実に三百年振りか………。

 カタスティア様とお会いする以前はずっと一人………、

 ………一匹でこのダレイオスをさ迷っていた………。

 

 

 我のこの姿を目にする者は皆我のことを化け物と罵り我を迫害し捕獲しようとする者さえいた………。

 

 

 我は………人の社会に埋もれすぎた………。

 こうして人の社会に溶け込む前は化け物と罵られようが何も感じることは無かったのだがな………。

 それも人を知ってから変わってしまった………。

 この三百年で我は元の我に戻ることが出来なくなっていた。

 刀を持つことになったのはカタスティア様が人の社会で生きることを選んだ我を思って我に授けてくれた武器であったが同時にこの刀が我が人の生きる社会から抜け出すことを止めるストッパーとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが砕けた今、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我はかつての姿をもう一度人の世に晒さなければならなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この決意はソナタが我が課した試練を乗り越えたことへの餞別としてソナタ等に明かすのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………貴方は………貴方は一体………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ?「水の進化アクアン、風のエアロス、地のアーシス、氷のフェンリル、火のラー、雷のユニコーン………様々な進化を遂げる我の種は総称してこう呼ばれていた………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()とな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オサムロウの姿は元の面影を所々に残すもののその頭から胴にまで伸びる剛毛は馬を思わせるような見た目をしておりかといって手には蹄ではなく獣のような鋭そうな爪を生やしている。全体的にも前の人の姿よりも二回りほどは大きくなっただろうか。その大きさはちょっとした巨人のようにも見え格段に筋肉組織が膨れ上がってもいる。

 

 

 そして極めつけはその顔立ちだ。人の顔だった場所には犬科の動物を彷彿とさせる口があった。目よりも飛び出た鼻と口はその顎で獲物を捕らえるためのものであろう牙や獣特有の眼光はもうとても人であったものとは思えない………。

 

 

 

 というよりもこの姿こそが本来のオサムロウの真実の姿なのだと先程の話で聞いた。何やら隠し事をしている素振りはあったがそれはこの獣の姿が関係していたからだろう。これは………早々人に話せることではないな………。

 

 

 このような化け………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………化け物………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロトゾーン「………この姿を見たものはソナタのように畏怖の表情を浮かべ我から去っていく。

 我はそれが悲しくこの姿を封印した。

 長らく自然界に生きた我は人の世に触れてから自然界にはない人のありふれた物語を知り我は人が好きになった。

 そして人を守ろうとも思った。

 

 

 だが我が一度この姿を見せれば我は人の社会にはいられなくなる。

 我のこの姿はデリス=カーラーンに生きる全ての生物達とは違う進化を遂げた新種の種族だ。

 人の姿にもなれるがそれは他者にとっては虚実と見せているのと道義………。

 

 

 我には百年前のヴェノム大量発生時から既にヴェノムを駆逐する力はあった。

 しかしその力を人前で使えば我の力の源はどこから来るものなのか、それを追求されるのが嫌だった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな思いをしていた時いよいよ世界がバルツィエとヴェノムの二強合戦にもつれ込み我が恩義を感じていたスラートの者達も滅びに抗えず静かに消え去ろうとしていた場に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソナタ等が現れた!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オサムロウがシックスヘッドカイメラの首をその爪で切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ゴアアアアアッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!?

 傷が再生しない……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロトゾーン「申した筈だ。

 我はヴェノムを屠る力があると。

 

 

 我はプロトゾーンの最後の進化の果て|()()()()()()()()()()()》。

 ()()()()()()()()()()()

 ここからは我がこの禍々しき力を放つ悪魔を成敗する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ソナタも()()()()()()()を着けたまま戦っている?

 そんなものは外してその腕を治すのだ。

 それくらいのことは出来ることも聞いているぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そういやそうだったな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうこんなものは必要なかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう魔術をコントロールする術は身に付けていたのにまだこれを装着したままだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プロトゾーン………ディセンダーか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺以外にも人から化け物呼ばわりされる人がいたなんて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………人ではないのか………?どうなんだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どっちでもいいのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人としてコミニュケーションがとれればそれで人は人なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺も自分は人だって思ってる。ならオサムロウさんだって人だ。種族が多少違ったり変な精霊が体の中に入り込んでいたって人であることに変わりはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………さて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれだけ言いたいことを言われ続ければ俺も少し腹が立ってきた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺は何を弱気になっていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだアローネやウインドラ達は死んだ訳じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んではいないが皆がこのカイメラに対して絶望的な戦闘力の差の開きが大きいことは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だったら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここから先は俺が皆を守りきればいいだけの話なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の使える術はどれもこのカイメラにほ通用しそうにないがそれが何だって言うんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そんな絶望的な状況は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔からよく体感してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 圧倒的強者による弱者の蹂躙、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなものは俺の人生の中でよくあってきたことじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はいつから確実に勝てる安全な相手を想定して戦うようになっていたんだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝つかどうかなんてそのときその時になってみないと分からないじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の俺に必要なものは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強者に立ち向かう勇気を振り絞るだけだ!!



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最後の手段

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・ミシガン「カオス!」

 

 

カオス「!」

 

 

 オサムロウが一人でシックスヘッドカイメラと戦い始めてからカオスも参戦しようとしたタイミングでダインが二人を連れてレアバードで戻ってきた。

 

 

 復帰が早いな。

 

 

カオス「もう治ったの?」

 

 

アローネ「えぇ、私達のことはこのダインさんが治していただきましたので。」

 

 

 そういってダインを見るアローネとミシガン。

 

 

ダイン「さっきカオスがお姉さんを水の魔術で回復させてたのも見てたから試しにうちも弱めにやってみたら本当に治ったの……。

 でこのアローネ=リムには風の魔術を与えれば治るってお姉さんから聞いたからそれで二人を治したらまたここに戻るって言ってきたから連れてきた……。」

 

 

ミシガン「私達はまだまだやれるよ!

 あのカイメラには私達の攻撃は効かないけど………、

 カオスのサポートくらいなら出来る筈だから!!」

 

 

アローネ「私達はまだ負けていません!!

 カオス!

 

 

 共にあのカイメラを倒しましょう!!」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……凄いな皆………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あんな力の差を見せ付けられてまだ戦う気力があるなんて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺なんか一回流れが悪くなっただけで挫けちゃったのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………思えば俺はこの精霊の力が備わり出してから正々堂々と負けるようなことなんてことは無かったな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………自分で精霊の力を嫌っておきながらどこかでこの精霊の力を当てにしていたんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その精霊の力が通じないってだけで俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………よし!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………バニッシュボルト!グレイブ!!」

 

 

 倒れているタレスとウインドラの怪我を治し復活させる。すると二人は直ぐに起き上がり、

 

 

タレス「……!

 スミマセン、

 戦闘中にまたウインドラさんのように気絶してました。」

 

 

ウインドラ「俺のように、という必要はあったのか()()()

 ………それでこの状況は………?」

 

 

アローネ「()()()()()も起きましたね。

 ………私達もこれはどうなっているかは………。」

 

 

ミシガン「あのカイメラと戦っているのは何………?

 それにオサムロウさんは………?」

 

 

 気が付いたらアローネやウインドラがそれまでさん付けで呼んでいたのに今は呼び捨てになっている。俺がいない間に親交が深まったのだろうか?この四十日で皆にもいろいろあったようだ。

 

 

 話を思い返してみれば皆はこのカイメラに四十日の間何度も挑んで負けていると言う。それでこのカイメラがこんな規格外な変身を遂げてもまだ立ち向かっていけるんだな。もう負けることに抵抗は無いのだろう。………よく生きてられたな皆は………。

 

 

 それに比べて俺はたった一度流れが敗北濃厚になった程度で何を気弱になっていたんだ………。皆と比較しても俺はずっと皆に戦闘経験が足りなすぎる。これまではなるべく精霊の力無しに戦って勝ってきたせいでいざ魔術が効かないって相手に遭遇しただけで負けを潔く認めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔の俺はそんなじゃなかったな。例え自分より強い相手でもがむしゃらに立ち向かって行ってたあの頃の自分がまだ自分の中に戻ってきていないようだ。

 

 

 今の俺が身に付けなくちゃいけないのは強さなんかじゃない。昔のように上には上がいるのならその上の者に届くように手を伸ばし続けることじゃないか。レサリナスでも俺は自分より強い相手と戦いたいって言っていた。あの頃の気持ちがこのダレイオスに来てから世界の破壊や魔術のことばかり考えすぎてすっかり余裕が無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰らなくちゃあの頃の自分に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あれは………、

 ………オサムロウさんだよ………。」

 

 

アローネ「オサムロウさん!?

 あの姿の彼が………!?」

 

 

タレス「何があったんですか………?

 まさかカイメラのウイルスに感染してあんな姿に………?」

 

 

ミシガン「あれって………完璧に人じゃなくなっちゃってるけど………。」

 

 

ウインドラ「どうしてあんな姿に……?」

 

 

 皆がオサムロウの異形化した姿に動揺する。一部始終を見ていなければ突然現れたモンスターがカイメラと戦っているようにしか見えないので分からなくもないが。

 

 

カオス「レイディーさんやクリティア族の人達が言っていたプロトゾーン………。

 オサムロウさんはそのプロトゾーンだったんだよ。」

 

 

アローネ「プロトゾーン……?」

 

 

ウインドラ「オサムロウがプロトゾーンだと………?」

 

 

ダイン「プロトゾーン………まだ残ってる個体がいたんだ………。

 それも………サムライが………?」

 

 

タレス「言われてみればどことなく面影はありますが………。」

 

 

ミシガン「あそこに参戦しようとしたら私達まで攻撃してくるってことはないよね………?

 なんか話が通じるような見た目じゃないけど………。」

 

 

 オサムロウの変身に皆が不安を隠せないがそんなことはない。オサムロウは先程まで俺と話をしていたんだ。あんな姿になってもオサムロウは、

 

 

 俺達の味方なんだから。

 

 

カオス「大丈夫だよ。

 オサムロウさんはオサムロウさんのままだから。

 

 

 それよりも早くオサムロウさんの手助けにいかないと!

 戦えてはいるようだけどあのカイメラに致命傷を負わせるのはオサムロウさんでも難しいみたいだし俺達でオサムロウさんのサポートに入るんだ!」

 

 

アローネ「…そう言うことでしたら………私もオサムロウさんの助勢に入ります!」

 

 

ウインドラ「口は悪いが何分悪い奴ではないしな。

 カイメラを倒すという一点では俺達と同じなんだ。

 奴ばかりいい格好させてはいられんな。」

 

 

ミシガン「少し見た目が怖くなったって言ってもあのカイメラ程じゃないしね。

 私も応戦するよ!」

 

 

タレス「オサムロウさんが敵の注意を引き付けてくれている今あのカイメラをどう退治するか作戦を考えなければなりませんね。」

 

 

 皆もあのオサムロウに危険がないということを理解してくれた。

 

 

 後はあのカイメラをどう倒すかだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「カオス……!」

 

 

 ダインがカオスを呼ぶ。何か名案でもあるのだろうか?

 

 

カオス!「どうしたの……?」

 

 

ダイン「……あのカイメラは………地水火風氷雷の属性の魔術が効かない………。

 そうなんだよね………?」

 

 

タレス「先程スペクタクルズで調べた情報ではその通りですね………。」

 

 

 シックスヘッドカイメラは基本六属性の全てが効かない。なので現状カイメラを倒すには魔術は有効ではないと判ってはいるがそれを確認したかったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしダインが提案してきたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「………だったら………カオスの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?()<()b()r()>() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



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発動の重力魔術

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ヘアオオオオオオオゥゥゥゥゥゥウッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロトゾーン「………流石にこやつは我一人では捌ききれんな………。

 三百年振りに元の体に戻ってはみたが思うように動かしにくい………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうにかしてこやつをもう一度変身する際のヴェノム形態に持っていきたかったが後一歩力が及ばんか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「無属性………魔術………?」

 

 

ダイン「そう……、

 あの術は現存する六つの属性とは違う七番目の属性による魔術だと思う……。

 あの魔術なら………カイメラの無敵の防御を突破出来る筈……。」

 

 

 ダインは自信は無さそうにいうがどこか確証があるように提案する。

 

 

 ………確かにあの魔術は基本六属性の地水火風氷雷のどれとも違うエネルギーを持った術だとは思うが………、

 

 

アローネ「あの術とは………?」

 

 

 事情を知らないアローネ達四人はカオスとダインの間で交わされるあの術が何なのか分からず困惑する。それもそうだ。あの魔術グラビティについてはまだ()()()()()()()()()()()()()()だから疑問に思うのは当然だろう。

 

 

ウインドラ「……カオス、この四十日の間で何か新しい術を編み出したのか?」

 

 

カオス「…編み出したというよりも教えてもらったって言った方がいいのかな………。

 ………あの殺生石………()()()から………。」

 

 

タレス「マクス………?」

 

 

ミシガン「あの精霊に名前なんてあったの?」

 

 

 カオスが口にした殺生石の精霊らしき者の名前を聞いてミシガンが驚く。あの精霊に人格があることが分かってからこれまで名前など本人からも聞かされてなかったので突然名前があったことに驚くのも当然だと思うがその事について答えたのはダインだった。

 

 

ダイン「二人でいる時にカオスの中の精霊が話し掛けてきたの……。

 最初は六精霊の誰かだとは思ったけど六精霊とは違うって言ってたしうちらバルツィエが昔から魔術の研究を進めていくうちに六精霊にはもっと強い上の存在精霊王がいることが仮定されてたの……。

 マクス………って言うのはその時に何かの文献とかでそれらしき存在に仮の名で付けられてた名前をそのまま呼んでるだけで実際にはマクス……なんとかだったよ……。」

 

 

ウインドラ「マクスなんとか……?」

 

 

 ダインもうろ覚えで正式な名前を思い出せそうには無さそうだった。しかし今は精霊の名前などどうでもいい。そんなことよりもあのカイメラにダメージを与えられる可能性があるのならあのグラビティを試してみ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………()()()()()()………ではありませんよね………?」

 

 

 アローネがおもむろにマクスに続くであろう名前を繋げて口に出す。

 

 

 マクスウェル………?

 

 

ダイン「!!

 そう!!

 確かマクスウェルだった……!

 うちが昔見た時そんな名前で載ってたと思う……。」

 

 

 アローネが発言したマクスウェルという名前にダインが肯定する。どうやらバルツィエ達が持っている文献とやらには殺生石の精霊のことをマクスウェルと仮称して呼んでいるものがあるようだ。

 

 

 しかし何故それをアローネが………?

 

 

タレス「どうしてアローネさんが精霊の名前を知っているんですか?」

 

 

 タレスがアローネが何故名前を言い当てたのかを訊く。皆も同様にアローネへと視線を向けるが、

 

 

アローネ「いえ……、

 私の知っている方にそのような名前の方がいらしたので同じフレーズから始まる名前でしたのでもしやと発言してみただけでしたのですが………。」

 

 

 言い当てたアローネも自分が言い当ててしまったことに驚いている。偶然当たりを引き当てただけのようだ。

 

 

ダイン「……とにかく……、

 あのカオスの魔術ならあのカイメラでも防御するのは不可能だと思う……。

 一度見た限りじゃあの技は物理的なエネルギーじゃなくて重力に作用する技だと思うからカイメラでさえも防ぐことは無理……。

 

 

 カオスあの技をカイメラに使ってみて……。

 きっとあの技なら………カイメラを倒せる……。」

 

 

カオス「………」

 

 

 あのグラビティがカイメラには有効かもしれないのか………。他に打てる手も考え付かないし試してみる価値はありそうだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロトゾーン「ガフッ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・ダイン「!」

 

 

 これからカオスがカイメラにグラビティを撃つと決めたタイミングでプロトゾーン形態のオサムロウがカイメラに突き飛ばされてきた。

 

 

プロトゾーン「うぐ…!

 やはりこの体で戦うにはブランクが大きすぎたか………!」

 

 

 そういうオサムロウの体は徐々に人の形を取り戻していきやがてこれまでのオサムロウの姿通りになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ヒュオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」「ホオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!」「フォオオオオオオオオッッッッ!!!」「ゴスウウウウウウウウウウウウウウッッッッ!!!」「ジャボボボボボボボボボボボボボボボボ!!!!」「バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…!?

 首が全部……!?」

 

 

 オサムロウがこちらに飛んできたことで今カオスがいる場にはこの戦闘に参加している七人全員が集まっている。そこ目掛けてカイメラの六つの首が伸びてこちらへと全咆哮砲撃を集中放火させようとしていた。

 

 

 六射咆哮砲撃(アスタリスク)の一点集中攻撃がくる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷っている暇はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シックスヘッドカイメラよりも早くあの術を撃たないと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『戒めの楔は深淵へと導く…………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラビティ!!』」



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光明見えたり

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!

 

 

 

 

 カイメラの六射咆哮砲撃(アスタリスク)が放たれる寸前に詠唱が完了し魔術グラビティを発動させそれに合わせて空間がずれ動くような感覚に襲われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 違った………。発動させた術が気泡を作り周囲を覆ってカイメラに向かっていったためにその気泡内で水の中にいるかのような光の屈折が起こり視界がそれによってぶれただけであった。

 

 

 その気泡はそのままカイメラを包み込んで停止し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ブオハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!「ヒュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」「ビュヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」「ズドトドドドドドドドドドトドドドドドドトトドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!」「ザブアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」「バガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先にカイメラの咆哮砲撃が発射される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ・ダイン「!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな重圧のあるブレスを六つも同時に食らったらいくら強くなっていると言っても皆のような人よりちょっと装甲が厚い程度の耐久力じゃ堪えきれない!!俺は自分にくる属性のついたブレスは防げるけどこんな余裕で人を包み込むようなブレスを吐かれたら俺を通りすぎて皆に被弾する!それじゃ皆は………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「止まれえええええええええええええええええェェェッッッ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラビティがカイメラを襲うよりも先にカイメラのブレスが皆に届くのが早い。吐き出された六つのエネルギーは真っ直ぐこちらを射抜こうと向かってくる。俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 叫んだところで無駄だったとしてもそれでもカイメラの咆哮が止まることを願って必死になって声を振り絞って叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………その思いが通じたのかどうかカイメラが吐き出したブレス達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラを中心として発動させたグラビティの空気の膜のギリギリ内側の俺の目の前で止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ギィヤアアアアアアアアアアアアア!!!!!」「フゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」「ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ!!!!」「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィッ!!!!!」「ケアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」「グガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラビティの空間内の圧縮が始まった。超重力によりカイメラは伸ばしていた首が引っ込み空間に押し潰されるかのようにその体積が収縮していく。

 

 

 

 

 

 

 通じている………、

 

 

 あのカイメラにグラビティの魔術が………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラのブレスも重力に引き寄せられて中央のカイメラの元へと戻っていきそして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラとカイメラのブレスが衝突して弾ける音が木霊する。その轟音と共にグラビティで生じていた空間の膜も消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ・ダイン「………!!!」

 

 

 あまりの衝撃に一同は顔を背け耳を塞ぐ。およそ十数秒。音が鳴り止んだのに気付いて耳を塞ぐのを止めてカイメラがどうなったかを確認するのにかかった時間。カイメラは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラ「ジュウウウウウウウウウウウウ………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「カイメラが……!?」

 

 

アローネ「効いています!!!」

 

 

タレス「カオスさんの術が一回でカイメラをジャイアントヴェノムに引き戻した……?」

 

 

ミシガン「しかもブレスまで打ち消しちゃって………。」

 

 

ウインドラ「………何はともあれ今がチャンスだ!!

 この隙に体を削っていくぞ!!」

 

 

 カイメラの変身が解けジャイアントヴェノムへと姿が変わったことでウインドラを筆頭に皆がカイメラへ駆けその体を削りとっていく。

 

 

オサムロウ「……悪いが我は少し休ませてもらうぞ………。

 元の姿になると加減が出来ぬのでな………、

 

 

 ……もう………力を使い果たし………。」

 

 

 シックスヘッドカイメラと一人で撹乱しながら交戦していたオサムロウはその場で力尽き倒れてしまった。突き飛ばされた以外では特に怪我をしている様子はないので気絶しているだけだろう。

 

 

カオス「……ダイン、

 オサムロウさんを安全な場所まで運んでくれないか?」

 

 

ダイン「分かった……。」

 

 

 ダインは素直に俺のお願いを聞いてくれた。勢いで共闘させてしまったがカイメラと対峙している今はオサムロウもダインもこれまでの敵同士だった関係を一旦引っ込めて共にカイメラ打倒に励んでくれている。ダインは俺の言う通りオサムロウをレアバードに乗せて遠くの方まで飛んでいく。彼女が見えなくなる辺りで俺はカイメラの方を向き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺も皆と一緒にカイメラをやっつけにいかないとな………。」

 

 

 

 

 グラビティを受けてジャイアントヴェノムには戻したがまだまだカイメラの体はギガントモンスターと同等の質量を詰まらせている。ここからカイメラがいつまた復活するか分からない。今のうちに皆に加勢してカイメラを弱らせないと………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺は先にカイメラを攻撃しているアローネ達に合流する………。



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六射咆哮砲撃

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブクブクブクブク!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「!………この徴候は……!?」

 

 

ミシガン「また変身するの…!?

 でもこいつにこれ以上他に変身なんて……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアアアアアアアンッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「グルオオオアアアアアアアアアァァァッ!!!」「フゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」「ブルルルアアアアアアアアアッ!!!」「ギィイイイイイイイイイイイイッッッ!!」「クゴアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」「ゲルルルルルルルルルルルッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………またシックスヘッド………?」

 

 

カオス「今までと違って今度の変身は………また同じ姿に変身した………?」

 

 

アローネ「………ですが今回のシックスヘッドカイメラは今までと様子が違いますよ………。

 先程までのシックスヘッドカイメラよりも今度のカイメラは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!()!()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …先に放った魔術グラビティとその後の追い撃ちが効いてきたのかシックスヘッドカイメラはそのなりを直前までのサイズから三分の二程度までに縮小させた姿になった。レッドドラゴンに変身した際には他五体の変身の数倍に体積を膨らませた例はあるが此度の変身はシックスヘッドカイメラから同じシックスヘッドカイメラへの変身………。

 

 

 

 

 ………これはもうこのカイメラにはこの六つ首の変身しか手が残されていないということなのではないか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「ソナタ等!!

 ここまで来てその姿になるということはもう奴にはその姿しか選択肢は無いようだ!!

 

 

 このまま一気にケリを着けてしまえ!!」

 

 

 遠くからダインのレアバートに乗せられているオサムロウが叫ぶ。オサムロウもカイメラがもう後がないことを察しているのだ。

 

 

 やはりカイメラはもうここから他にうてる手がない。そしてギガントモンスターとしての体の大きさという武器を収縮させたのなら今のカイメラはさっきまでのカイメラよりも能力が劣化している筈。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「カオス!!

 さっきの魔術をもう一度やってくれ!!」

 

 

タレス「あの術なら確実にカイメラをヴェノム形態に持っていけます!

 ヴェノムになったらボク達でカイメラの体を削っていきます!!」

 

 

ミシガン「もう終わりにしよう!

 カイメラ討伐まであと一歩だよ!!」

 

 

アローネ「想定していた期間よりも長く時間はかかりましたが節目としては丁度いい時期だったのかもしれません………!

 

 

 このカイメラを倒して残り百日以内に他の三体の主を討伐しに向かいましょう!!」

 

 

 カオスがカイメラへの攻撃手段を得たことで他の仲間達も強気にカイメラに対して攻めの姿勢を見せる。それほどまでに劣勢だった状況を覆してみせた魔術グラビティの影響は大きかった。

 

 

 それも当然だろう。カイメラの変身はそのどれもが殆どの属性攻撃を無効化し物理的攻撃もギガントモンスターの特性上効きにくいときている。更にはダメージを蓄積しても直ぐに別の姿へと変わって体力を完全回復させてしまう。

 

 

 皆にとってこのカイメラという敵はとても戦っても手におえないモンスターだったことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな相手に基本六属性関係なく撃てば一撃でヴェノム形態に引きずり込めるグラビティという一手が舞い出てきた。カオスが合流するまではカイメラの一つ一つの姿にむしゃくしゃする想いであっただろう。なにせ一形態で一人しかカイメラを相手にすることが出来なかったのだ。ジャバウォックとこの戦闘中で初めて変身したレッドドラゴンに関しては誰もまともにダメージを与えられる手段がなかった。

 

 

 ここでグラビティを多用して皆でごり押しすればカイメラは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「もう一度ヴェノムの姿に引き戻してやる!!

 

 

 『戒めの楔は深淵へと導「ヒュオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」「ホオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!」「フォオオオオオオオオッッッッ!!!」「ゴスウウウウウウウウウウウウウウッッッッ!!!」「ジャボボボボボボボボボボボボボボボボ!!!!」「バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!!!」

 

 

 カオスが再度グラビティの呪文を詠唱すると同時にカイメラがまた六射咆哮砲撃(アスタリスク)を撃つための深呼吸をした。これは六射咆哮砲撃(アスタリスク)の方が先に放たれてしまうタイミングだ。だがそれでもグラビティが発動してしまえば六射咆哮砲撃(アスタリスク)をグラビティの効果範囲に押し留めて安全にいなすことが出来る。

 

 

 焦らずに呪文を完成させればそれで……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コオオオオオオッ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!」

 

 

 いざシックスヘッドカイメラから六射咆哮砲撃(アスタリスク)が放たれるという瞬間にシックスヘッドの体が突然黒く黒ずんでいく。このシックスヘッドカイメラと戦っている最中に初めて見せる変化に一瞬グラビティを発動させるタイミングがずれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ブオハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!「ヒュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」「ビュヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」「ズドトドドドドドドドドドトドドドドドドトトドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!」「ザブアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」「バガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シックスヘッドカイメラから六射咆哮砲撃(アスタリスク)が放出される。

 

 

 しかし今度の六射咆哮砲撃(アスタリスク)は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地水火風氷雷の六つの砲撃が全て漆黒に染まっていた。



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毒撃

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「いかん!!避けろ!!カオス!!」

 

 

カオス「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漆黒の光線が迫る。この光線は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……何だ今のは………!?」

 

 

 体が小さくなったことでシックスヘッドカイメラの六射咆哮砲撃(アスタリスク)も躱しやすくなり全員無事避けられたが………、

 

 

ウインドラ「“()()()()”」

 

 

カオス「毒撃………?」

 

 

タレス「カオスさんがいない間にあのカイメラがごく稀に使ってきた技です。

 通常の基本六属性の咆哮が真っ黒な障気に覆われて被弾した箇所に暫く残り続けるんです。」

 

 

ミシガン「しかもそこから少しずつ回りにも広がっていくの………。

 危険な技だよ……。」

 

 

カオス「………」

 

 

 ミシガンが言った通り今カイメラが放った咆哮が被弾した地面が黒く焼けるような音をたてて徐々にその範囲を広げていく。マンティコアの首が放った地の咆哮はメキメキと岩を砕き続けビッグフロスターの首が放った咆哮は地面を泥濘を作っていく。他の首が放った咆哮もそれぞれがその影響を刻み込んでいく。フィールドを汚染しているかのようなその様子は毒撃と表現するのも納得だ。

 

 

 

 

カオス「……だけどその程度なら俺には効かな「ただの属性攻撃ではないんです!」………?」

 

 

アローネ「あの毒撃に染まった攻撃は私達でも無効化出来ないんです!」

 

 

ウインドラ「一度あの黒色の雷………、

 ()()と言ったところか………。

 それを俺が受けたことがあったんだが俺の体質で相殺しきれなかった………。

 あの毒撃は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対に受けてはならない!!恐らくお前であってもあの毒撃を無効化することは不可能だ!!」

 

 

 

 

 

 

カオス「そんな能力が………「ヒュオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」「ホオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!」「フォオオオオオオオオッッッッ!!!」「ゴスウウウウウウウウウウウウウウッッッッ!!!」「ジャボボボボボボボボボボボボボボボボ!!!!」「バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!!!」!?」

 

 

 そうこうしている内にシックスヘッドカイメラはまた六射咆哮砲撃(アスタリスク)を放つための呼吸動作をとった。

 

 

 それもまた先程と同じ様に体が黒く染まりながら………、

 

 

 またもう一度あれが飛んでくる………“毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)”が………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「皆でカオスを守ってください!!」ウインドラ「承知した!!」タレス「カオスさんには攻撃させませんよ!」ミシガン「絶対にカオスだけは倒れさせる訳にはいかないんだから!!」

 

 

 瞬時に四人がカオスの盾に入るべく駆け出し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ブオハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!「ヒュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」「ビュヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」「ズドトドドドドドドドドドトドドドドドドトトドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!」「ザブアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」「バガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『ウインドカッター!!』」ウインドラ「『サンダーブレード!!』」タレス「『グランドダッシャー!!』」ミシガン「『タイダルウェイブ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シックスヘッドカイメラの毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)と四人の術がぶつかる。二つのエネルギーはぶつかり合い押し合いが始まるが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直ぐにその衝突の拮抗は判定が着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「うあッ!!?」ミシガン「いぁあッ!!?」

 

 

 先ずタレスとミシガンが毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)に被弾する。二人の放った魔術がアローネとウインドラの術よりも強力だったためかシックスヘッドカイメラの六つ首に集中放火を食らってしまったのだ。

 

 

カオス「タレス!!ミシ「カオス!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「今は倒れた仲間を気にしている時ではない!!

 お前は早くさっきのグラビティを放つんだ!」

 

 

アローネ「その通りです!!

 二人のことを気にするのはこのカイメラを倒しきってからです!!」

 

 

カオス「!!!………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『戒めの楔は深淵へと導く!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラビティ!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二度目のグラビティがシックスヘッドカイメラを襲う。咆哮が放たれた直後の硬直でカイメラにはこれをどうすることも出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ギィヤアアアアアアアアアアアアア!!!!!」「フゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」「ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ!!!!」「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィッ!!!!!」「ケアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」「グガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漸く二度目のグラビティが炸裂した。これで終わればいいのだが………。



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避けられぬ攻撃

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既にこの付近は元々山や人が住んでいたという面影は消えている。今広がっている景色はかつてこの場で国をあげた酷い戦争が長期的にでも起こっていたのかというような有り様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが今ここで戦っているのはたった七人の戦士と一匹の猛獣の戦争だ。その戦争はたった一夜で山を倒壊させ地図の風景を大きく変えてしまった。これほどまでに凄まじい戦いはデリス=カーラーン史上でも数度あったか無いかぐらいのものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その戦争にカオス達は直面しその戦争ももうそろそろ終わりを迎えようとしている。この戦争ももうあと少しで終わる。この戦争で勝てば人類は今後ヴェノムとの生存競争で大きなハンデを得るだろう。ダレイオスに出現した九の悪魔はこれで半数を切る瀬戸際。ここがダレイオスに蔓延るヴェノム達との戦いの大きな転換期。

 

 

 この戦争だけには絶対に負けるわけにはいかない。ここで負けるようなことになればこの突然変異からどんどん進化していったヴェノムはやがて世界を覆い尽くす程の脅威となるだろう。それほどまでにこのカイメラというモンスターは強くなりすぎた。一体何がどう成長を遂げたらここまで強くなってしまうのだろうか………。これまで一撃でどんな生物でも消してきた魔術がこのカイメラには何度も耐えられている。精霊の力も絶対という訳ではないのか………?それともまだ精霊の力が完全では無いのだろうか………?ダレイオスに来てから上がり続けている魔力もまだまだ天井が見えない。本当にデリス=カーラーンを破壊するまで上がっていくのだろうか………?

 

 

 世界に災厄をもたらすと言えば精霊もヴェノムも大して差は感じられないな。このカイメラも殺生石の精霊ですらも地水火風氷雷が効かず世界に多大な被害をもたらすほどの力を持ち種族も魔法生物という分類だ。精霊の話では生物はいつかは精霊と同じ境地に辿り着くという話ではあっが本当にそんな境地に辿り着くのだろうか?とても世界を砕くような力を持つ程に生物が強くなるとは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 考えてみればヴェノム自体は人が作り出したウイルスだという。こんな危険なウイルスを作り出せる人類はまさしく精霊と同じく世界を破壊に導く力を持ったということにならないだろうか?ヴェノムを製作した人がどうなったのかは分からないが一体どういうつもりでこのウイルスを作ったのだろうか?精霊のような力を持つことに一体どんな意味があるのだろうか?

 

 

 このヴェノムウイルスが作られたのは………確かアローネやカタスさんのいた時代アインスの時期だったらしい。そんな時代で作られたヴェノムウイルスがどう活かされるだろうか………?

 

 

 

 

 

 仮にこのウイルスがばら蒔かれたとしたらそのばら蒔かれた国は壊滅的な打撃を受けることになるだろう。実際にダレイオスがほぼ滅ぼされかけている。アインスの時代でこの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が蔓延して得をするとしたら………、

 ………ダンダルクというアローネ達の国と敵対していた国が怪しいものだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「グルオオオアアアアアアアアアァァァッ!!!」「フゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」「ブルルルアアアアアアアアアッ!!!」「ギィイイイイイイイイイイイイッッッ!!」「クゴアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」「ゲルルルルルルルルルルルッ!!!」

 

 

 眼前のシックスヘッドカイメラがグラビティにより圧縮される重圧から苦痛の声をあげる。二度目のグラビティも安定してダメージを与えられているようだ。これで決められるか?この魔術はウィンドブリズ山をまるごと押し潰す力がある。それをその身に二度も受けてまだ耐えられるとは思えないが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャイアントヴェノム「プスッ………!!!」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「よし!!今だ!!」

 

 

アローネ「これで終わりにしましょう!!」

 

 

 ウインドラとアローネがジャイアントヴェノム化したカイメラに畳み掛ける。ウインドラはガードスピアで一気に体を削り取りアローネはオーレッドにもらったアオスブルフを装着した布を巧みに使って剣のように切り裂いていく。シックスヘッドカイメラとの戦いが始まった当初の大きさからもう既に半分の大きさにまで小さくなっている。これはギガントモンスターのサイズというよりかは少し大きい程度のモンスターぐらいにまでその体を縮めていた。これはもう普通に倒せそうなレベルにまで持っていけたか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「グルオオオアアアアアアアアアァァァッ!!!」「フゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」「ブルルルアアアアアアアアアッ!!!」「ギィイイイイイイイイイイイイッッッ!!」「クゴアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」「ゲルルルルルルルルルルルッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやらまだカイメラは諦めていないらしい。懲りずにまた同じシックスヘッド形態に変身する。

 

 

ウインドラ「……まだ倒れんか………。

 だがもうそのネタは尽きてることは分かってるんだぞ!!」

 

 

アローネ「カオスこのまま決めてください!!」

 

 

カオス「あぁ!!

 もうここまで追い詰めたら後はまたグラビティで「ヒュオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」「ホオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!」「フォオオオオオオオオッッッッ!!!」「ゴスウウウウウウウウウウウウウウッッッッ!!!」「ジャボボボボボボボボボボボボボボボボ!!!!」「バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!!!」!!」

 

 

 縮小したシックスヘッドカイメラはまた六射咆哮砲撃(アスタリスク)を放とうと空気を吸い込む動作をし体も黒ずませていく。またあの毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)か。

 

 

 しかし今度の毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)は伸ばした首六つが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()何をしようというのだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ブオハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!「ヒュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」「ビュヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」「ズドトドドドドドドドドドトドドドドドドトトドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!」「ザブアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」「バガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)は放たれた。これまでと同じ様に六つの首から………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその砲撃は今度は咆哮の力によって体を回転させ文字通り三百六十度全方位に向けて放たれるものであった。これは確実に避けられる筈もなく………。



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死闘の果てに立つ者は………。

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二度の削り取りで体が縮んでしまってもその咆哮砲撃の火力は健在だった。多少砲撃は細くはなっているがその破壊力が磨り減っている様子は見られない。

 

 

 おまけに体が収縮したおかげで自重が軽くなったのか身軽に回転も混ぜて毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)を放ちカイメラを中心とした辺りの風景が黒く染まってしまった。地図では真っ白な地形だったこの地方も今空から見下ろせば真っ黒な謎の空間と化していることだろう。当事者であるカオス達は何故そうなってしまったのかは分かるのだが全く事情を知らない者達からすれば異様な地形の変化に恐怖を覚えたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………無事かカオス………?」

 

 

カオス「ウインドラ………?

 ………なんとか無事だったけど………。」

 

 

ウインドラ「アローネは………?」

 

 

アローネ「……私もどうしてだか無傷です………。」

 

 

 毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)が放たれる瞬間にシックスヘッドカイメラが駒のように回り全方位に向けて放ったのを確認した。地上にいればその砲撃からは逃げられなかったと思うのだが何故今こうしてカオスとアローネは無事なのだろうか?その理由は、

 

 

 直ぐに判明した。

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………………そうか、

 二人は………無事だったか………、

 二人………いれば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後は………………頼んだ………ぞ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「ウインドラ……!?」

 

 

 ウインドラが二人が無事だったことを見届けその場に倒れる。どうしたと言うのだろうか………?ウインドラだけが倒れるという事態に直面し困惑するが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒れたウインドラに駆け寄りその原因を究明する。ウインドラが所持していたガードスピアは正面が黒く焼け焦げておりウインドラ自身も肩や足に黒い焼け跡が残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラがカオスとアローネを毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)から体を張って守ってくれたのだろう。だからウインドラ一人の負傷で済んだ。

 

 

 

 

 

 

 だがこれでカイメラと戦闘続行出来るのが二人………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「グルオオオアアアアアアアアアァァァッ!!!」「フゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」「ブルルルアアアアアアアアアッ!!!」「ギィイイイイイイイイイイイイッッッ!!」「クゴアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」「ゲルルルルルルルルルルルッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスとアローネでこのカイメラを倒しきらねばならない………。

 

 

 二度のグラビティを受けて収縮化したカイメラは恐らく後一度グラビティを受ければ倒せるような気がする。

 

 

 それには一度何かにカイメラの気を引き付けておかねばならないのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カオス………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次は私がカオスの盾となります………。

 その隙にカオスは次こそカイメラを………。」

 

 

カオス「アローネ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………アローネが提示してきた作戦ならカイメラを今度こそ完全に再生させることなく倒すことが可能だろう。例え再生したとしても次に復活したとしたらもうそれはギガントモンスターとはいえない少ししぶとい程度のそこらのヴェノムと変わらないぐらいに弱体化している筈だ。次のグラビティこそがこのカイメラとの死闘を終わらせる最後の一手となる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だが次の毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)をアローネが全て受け止めた場合、

 

 

 アローネは一人でその全てを受け止めきれるのだろうか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先に倒れた三人はシックスヘッドカイメラになる前のビッグフロスターやブルータルの姿をしている時に強化していたおかげで魔術抵抗力も上がっているだろう………。強化済みの三人はカイメラの攻撃で瀕死ではあるが息はまだあるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たがアローネは………果たしてあの毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)の回旋放火を受けても生きていられるのか………?

 

 

 これは………先にアローネを強化していた方が後々後悔しないのではないか………?先に倒れた三人が生存していることを踏まえればアローネを強化しておくのか先………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ヒュオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」「ホオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!」「フォオオオオオオオオッッッッ!!!」「ゴスウウウウウウウウウウウウウウッッッッ!!!」「ジャボボボボボボボボボボボボボボボボ!!!!」「バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!」

 

 

 しまった……!!考えている間にもうシックスヘッドカイメラが咆哮準備を開始してしまった!!これは……アローネの盾に入るしか……!!

 

 

 だけど俺が倒れるとカイメラは誰が………!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私には()()()()()()()()()()()()()!()

 私が囮になるので迷わずカオスはグラビティを!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………嘘だ。そんなことを言ってもさっきのウインドラが倒れた時の呆然とした顔は覚えている。あの時の表情からしてアローネはあの六射咆哮砲撃(アスタリスク)に有効な防御手段を持ち合わせてなんていないだろう。

 

 

 それなのに囮になるだなんてアローネは………死ぬつもりなのか………?あんな山を抉るようなレーザー砲を受け止めたりなんかすればそれこそあまり打たれ強い方じゃないアローネなんか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!!

 仲間である私を信じてください!!

 カオスは早くグラビティで止めの一撃を…!!」

 

 

 

 

 

 

カオス「……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クソッ!!」

 

 

 もう躊躇っている時間はない!追い詰めていた筈が逆に追い詰められているこの状況で一瞬の停滞で全てが無駄に終わってしまう結果に繋がってしまうかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だったら………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この一撃で素早くカイメラを………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『戒めの楔は深淵へと導く!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラビティ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………対に四十日に渡るカイメラとの戦いの結末に終止符を打つ一手が下される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ブオハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!「ヒュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」「ビュヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」「ズドトドドドドドドドドドトドドドドドドトトドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!」「ザブアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」「バガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この両者の攻撃が御互いにこれで最後の一撃となった………。



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カイメラとの決着

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 収縮したシックスヘッドカイメラから毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)が発射された瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはグラビティの呪文を唱えながら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラに突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス…!?」

 

 

 後ろからアローネの驚くような声が聞こえる。それもそうだろう。自ら壁を買ってでたのに自分を放置して敵に突っ込んでいく護衛対象がそこにいるのだから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(ごめんアローネ………。

 俺には仲間を盾にすることなんて出来ないよ………。)」

 

 

 カオスは始めから仲間を守りたい一心でこの戦闘に挑んでいる。その仲間を盾にする選択肢など取りようがなかったのだ。かといって次のカイメラの砲撃をどう捌くべきか。

 

 

 それは自らが仲間の盾となり自らで呪文を完成させてカイメラを倒すという結論に至った。足の早さには自信がある。今飛び出していけばカイメラは必ず自分に集中放火をする筈だと確信して前にでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ブオハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!「ヒュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」「ビュヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」「ズドトドドドドドドドドドトドドドドドドトトドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!」「ザブアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」「バガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案の定シックスヘッドカイメラは先程のような回転を織り混ぜた毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)ではなく普通に六つ首を伸ばして一点に絞った咆哮砲撃を放ってきた。

 

 

 

 

 

 

 それをカオスは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「()()()()!()!()!()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レサリナスでカタスティアから教わった護身術、粋護陣で受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス自身カタスティアから教わったこの技を使う日が来るとは思っても見なかった。自身の中に精霊が宿ることによって得た福音に守られてきた日々を送ってきたせいで正直自分にエネルギー波のような技で害をなすような存在など出てくる訳がないと本気で思っていたからだ。こんな防御の技が役に立つ日が来るわけがないと本気で思っていたのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ブオハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!「ヒュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」「ビュヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」「ズドトドドドドドドドドドトドドドドドドトトドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!」「ザブアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」「バガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うっぐぅ………!!!!」

 

 

 

 

 

 

 シックスヘッドカイメラの毒撃は確かにカオスに対してダメージを及ぼしている。カオスは自身に通用するエネルギー系の攻撃があったことに心底驚いた。

 

 

 あの祖父が死んだ日以来、地水火風氷雷のエネルギー攻撃を食らっても自身に触れたところからそのエネルギーを体の内に取り込んでしまう体質になってしまったせいで久しく忘れていた感覚………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(火って………こんなに熱かったんだな………。水もこんなに激しく勢いがあって………風も気を抜いたら吹き飛びそうなくらい強い………。

 地の魔術ってこんなに質量があったのか………?氷も凄く冷たい………………。

 雷は………体全体が酷くつりそうなくらい痛い………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………こんな感覚………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供の時にザック達から苛めを受けていた時以来の懐かしささえ感じてしまう………。)」

 

 

 カイメラの毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)を受け止めながらもカオスは冷静だった。粋護陣は問題なく機能しカイメラの攻撃性能を削ってくれている。後はこれを耐えているだけで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラとの戦いが終わる音が鳴り響いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドトドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けたたましい轟音がカイメラを中心として響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックスヘッドカイメラ「ギィオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!?」「ブオハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!?」「コギィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!?」「クギィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!?」「ギチィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイキイイイイイッッッッッッッッ!!!!?」「カァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラの六つの首が同時に断末魔の声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その叫びはグラビティから発生した空間を圧縮する爆音にすら勝るほどの酷い叫びだった………。



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六体目のヴェノムの主討伐完了

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………グラビティの術が途切れ辺り一帯が一時の静寂に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラによって破壊し汚染された大地以外ではこの場には薄暗い空しか無い………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラの姿は………どこにもない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………終わった………のか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの呟きだけが空しく木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!!」

 

 

カオス「!」

 

 

 カイメラを探していると後ろからアローネが声をかけてきた。

 

 

アローネ「カオス………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故あのような無茶な真似をしたのですか!?」

 

 

カオス「………」

 

 

 アローネは盾となると言ったのにそれを無視して前に飛び出したことを怒っているらしい。

 

 

アローネ「………なんとかカイメラを倒せたからよかったものを………、

 あそこでもしカオスが倒れるようなことになればあのカイメラを止められる方などこの世界には誰も……!!」

 

 

カオス「……そうは言っても俺にはカタスさんから教えてもらっていた粋護陣って技があったしアローネが盾になるって言っても俺はアローネを盾にすることなんて出来ないよ………。」

 

 

アローネ「それは私の力と言葉を信用出来ないと仰っているの「仲間だからだよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「俺にとってアローネは………アローネやタレス、ミシガン、ウインドラは………例えミストや世界が滅ぶことになったとしても守りたい人達だから………、

 そんな人達が傷付いて倒れるところなんてもう見たくないから………。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス………。」

 

 

カオス「………俺が勝手に思ってるだけなんだけどもう四人は俺にとって………………、

 

 

 ()()みたいなものだと思ってるから………。

 世界なんかよりも俺は四人を守りたい………。

 盾になるんだとしたら俺が皆の盾になりたいんだ………。

 だからあそこでアローネをカイメラに殺らせる訳にはいかなかった………。

 俺は………もう親しい人達がいない世界には戻りたくないから………。」

 

 

アローネ「………」

 

 

カオス「…………俺は……………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君を………死なせたく………」

 

 

ドサッ…

 

 

アローネ「!カオス!?」

 

 

 カイメラが消失したことを確認し緊張の糸が途切れたカオスは急に体の力が抜けていくのを感じその場に倒れ込んでしまう。それを見たアローネは直ぐ様カオスに駆け寄りその体を支えるのだが、

 

 

カオス「………こんなに魔術を沢山連発したのは生まれて初めてだよ………。

 魔術って………こんなに消耗するものだったんだな………。

 ………マナは………まだまだあるつもりだったんだけど………………どうやら俺にも限界があったみたいだ………。」

 

 

 カイメラとの戦闘中にカオスは少なくとも常人が一度放つだけでマナが枯渇してしまうレベルの魔術以上の術を十回は多用していた。そのせいかカオスも今回の戦いで流石に疲れを感じていた。最後に使用した粋護陣も何気に他の術に匹敵するほどのマナの消費量が発生していた。そこまで消費したにも関わらずあの毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)は完全には防ぐことが出来ずカオスの体に深刻なダメージを残した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の敵、ヴェノムの王カイメラはそれほどまでに凶悪な強さを誇っていた。精霊の力を持ってしても一度で倒しきれない敵。ヴェノムの主グリフォンですら一度で倒しきったというのにあのカイメラは十以上にも渡る大魔術を酷使して漸く勝利を納めることが出来た。

 

 

 ……正にこの世に顕現した精霊に次ぐ()()()()()と言ったところか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………早く………ウインドラ達を起こしてあげないと………。」

 

 

 戦闘による負傷とマナの消耗はあるがそれでもウインドラ達をこのままにしておけない。あの毒撃をまともに受ければカオスですら受け流すことは出来なかったのだ。今も毒撃の効果が続いていることだろう。直ぐに回復させなければ………、

 

 

アローネ「カオスはそこで休んでてください。

 他の三人は私が介抱しますから………。」

 

 

 そういってアローネは三人の治療に向かう。

 

 

カオス「………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………よかった………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も死ぬことなくカイメラを倒すことが出来て………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『ファーストエイド!!』」

 

 

 

 

 

 

 遠くからアローネが三人に治療術ファーストエイドをかける声が聞こえる。これでもう安心………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バキバキッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィイイイイイイィィィィィィィンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「カオス……!!」

 

 

オサムロウ「倒したか………カイメラを………!」

 

 

 戦闘音が聞こえなくなりダインがオサムロウをレアバードに乗せて戻ってきた。

 

 

ウインドラ「………!!

 ここは………!?

 ……!!!

 カイメラはどうなった………!?」

 

 

タレス「…………カイメラがいない………?

 ………カオスさん達が倒したんですか………?」

 

 

ミシガン「………終わったの………?

 ……もうあのカイメラは本当に………?」

 

 

 カオスが耳を澄ませると仲間達六人の無事を確認する。治療術が使えるアローネとオサムロウ、ダインがそれぞれ疲弊しているであろう他の三人の介護にあたる。これで戦いは終わったと全員が安心しきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキハギバキッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………まだ終わらないのか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この戦いは………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程から何かアローネ達の声や足音に混ざって何か別の物が蠢くような音がカイメラが消滅したであろう方向から聞こえてくる。

 

 

 見ればカイメラが立っていた場所付近の地面が小さく盛り上がってくるのが分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ倒れないというのか…………この魔王は………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボコボコボコッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かが地面の中から飛び出してくる。そんな瞬間を予見する。今度出てくる姿は一体………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボコォッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「メェェェェェェェッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ・ダイン「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地面から飛び出してきたモンスターは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山羊のような姿の生物だった………。



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カイメラの正体、八番目のカイメラ?

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「メェェェェェェェ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………この動物は………?」

 

 

アローネ「え………?

 今この山羊はどこから………?」

 

 

タレス「………地面の中から出てきましたけど………。」

 

 

ミシガン「…山羊って地面の中にいるような動物だったの………?」

 

 

ウインドラ「そんな話は聞いたこと無いが………。」

 

 

 

 

 突然地面の中から現れた山羊に困惑する一同。何故カイメラが消滅した付近から山羊が出てきたのか疑問が浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………この動物は………“マウンテンホーンズ”か………!」

 

 

カオス「マウンテンホーンズ………?」

 

 

 オサムロウがこの山羊のことを知っていたようだ。マウンテンホーンズという名前らしいが何故カイメラのいた地点の地面から出てきたのだろうか?見たところ草食性の動物のようであまり害はなさそうな生き物のようだが………、

 

 

 

 

ダイン「………そのマウンテンホーンズ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ヴェノムに感染してる個体じゃない………?」

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

アローネ「………ではゾンビということになりますが………。」

 

 

 確かにこの付近は今の今までカイメラとの激しい戦闘が行われていた。カイメラは辺り一面毒撃の咆哮でこんな場所にいれば普通の生物であったらとっくにカイメラが撒き散らした咆哮から発生するウイルスに毒されている筈だ。

 

 

 しかしこのマウンテンホーンズは特にそんな様子は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ?「メェェェェェェェ!!!」

 

 

カオス「…!」

 

 

 突如マウンテンホーンズが奇声を上げて突進してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「おっと…!」

 

 

マウンテンホーンズ?「メェェッ!!」

 

 

 マウンテンホーンズがカオスに二本の角を突き刺そうと向かってきたがそれを難なく掴みマウンテンホーンズの勢いを止める。

 

 

オサムロウ「………やはり感染したマウンテンホーンズだったか………。

 通常の種のマウンテンホーンズはここまで気性が荒くはない。

 大人しい動物で他の生物を見かければ走って逃げていくのだが………。」

 

 

タレス「それよりも何故こんな場所にマウンテンホーンズが現れたんでしょうか?

 カイメラとボク達が戦っている間このマウンテンホーンズはずっと土の中にいたんでしょうか………?」

 

 

 皆一様にこのマウンテンホーンズの出現に戸惑いを隠せない。カイメラが復活する様子は無さそうだがカイメラが消えた直後に現れたこのマウンテンホーンズに皆動揺する。

 

 

オサムロウ「………恐らくだが………、」

 

 

ミシガン「恐らくだが………?」

 

 

オサムロウ「………可能性の一端として………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のではないだろうか………?」

 

 

 

 

 

 

カオス・タレス・ウインドラ・ダイン「!!?」

 

 

アローネ「このマウンテンホーンズがカイメラの正体………?」

 

 

ミシガン「でもこの山羊………ギガントモンスターじゃないよね………?」

 

 

 何故このマウンテンホーンズという山羊がカイメラに繋がるのか。オサムロウの予測に皆疑いを持つが………。

 

 

オサムロウ「ヴェノムに感染したヴェノムの主の個体は全てが初めからギガントモンスター………という訳ではないことはソナタ等も知っている筈だ。

 ソナタ等が倒したクラーケン………あれは元々はオクトスライミーという海辺ならどこにでもいる極々普通の種のモンスターだったことも覚えているだろう?

 

 

 今回のカイメラもその例に過ぎなかったということだろう………。」

 

 

タレス「…ですがオクトスライミーは肉食の捕食モンスターが他の生物を吸収していってあそこまで巨大に成長したのは分かりますがこのマウンテンホーンズは草食動物に見えますよ?

 草食性の動物がどうやってあんな………………醜悪なモンスターにまで成長したんですか?」

 

 

 タレスの疑問ももっともだ。クラーケン=オクトスライミーは様々な生物を取り込んであそこまで巨大に成長してしまった。しかしこのマウンテンホーンズがカイメラだと言うのならどのような過程を辿ってあのようなギガントモンスターを越えるような姿になったというのだろうか。どうにも見た目からして他の生物に捕食されて取り込まれる落ちしか想像できないが………、

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「“パラサイティズム”………簡単な例を上げれば寄生虫という生物が存在するのを知っているか?」

 

 

アローネ「虫………の話ですか?」

 

 

ウインドラ「…単体では生命活動を維持できない虫などが他の生物の体内で栄養分を吸収して生命活動を維持する生命体のことか………?」

 

 

オサムロウ「そうだ。

 このマウンテンホーンズはまさしくそれだったのではないだろうかと思うのだが………。」

 

 

ミシガン「?

 このマウンテンホーンズって動物は一人………一匹じゃ生きていけないくらい弱い動物なの?」

 

 

オサムロウ「そうではない。

 マウンテンホーンズはソナタ等の指摘通り草食動物でエサとなる植物さえあればどこででも生きていける生物だ。」

 

 

タレス「それじゃあ何で寄生虫の話なんて………。」

 

 

オサムロウ「寄生虫は物の例えだ。

 このマウンテンホーンズ………カイメラは強いヴェノムウイルスに感染し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 他のヴェノムに捕食されその体を乗っ取った。そうして肉食連鎖の流れに乗ってあのような元の原型が何かも判断がつかない生物まで成長を遂げていったのだろう………。」



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カイメラ無力化

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ?「メェェェッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………つまりこのマウンテンホーンズこそがカイメラの真の姿………ということでしょうか………?」

 

 

タレス「あんな凶暴なモンスターの正体が………………こんな他のモンスターに直ぐに捕食されてしまいそうな草食動物だったなんて信じられません………。」

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「それこそがカイメラがあのような不規則な進化を遂げたメカニズムだったのかもしれん。

 

 

 他のヴェノムの主は他の生物を吸収して元の面影を残した成長を遂げていったがこのカイメラだけは他の八のヴェノムの主と全く違う進化を見せた。その理由は捕食する側ではなく()()()()()()()であったからだろう。今にして思えばカイメラの六つの変身は………昆虫のバタフライ、猪のブルータル、大蛙のビックフロスター、獅子のマンティコア、巨獣ジャバウォック、火竜レッドドラゴン………。そのどれもが肉食の凶悪な捕食モンスターだったがこの中のどれかがカイメラの正体であったとしたら何故他の主のように元の姿から大きくかけ離れたあんな………………奇怪な姿へと変貌したのだ………?何故あのカイメラの変身した六体の姿は最後にはどれも平均的な形に留まっていた………?

 

 

 ………それは六体があくまでカイメラというヴェノムの主に取り込まれてしまった生物の一体にしか過ぎなかったということだ………。

 

 

 カイメラの手札には地上最強の生物レッドドラゴンが入っていた………。レッドドラゴンを捕食出来るモンスターなど同じくレッドドラゴンくらいなものしか考えられないがレッドドラゴンも流石にヴェノムには敵わなかっただろうな。ヴェノムに対抗出来る力は自然界の生物に持ち合わせている筈もなくあえなくレッドドラゴンはカイメラに吸収されてしまった。

 

 

 このマウンテンホーンズ………いや、()()()()()()()()は他のモンスターに捕食させることによってその体を内側から吸収していったのだ。普通であったら他の生物に捕食されて生きていられる筈は無いがこのカイメラホーンズは見ての通りモンスター………………世間でいうモンスターとは人に害をなす存在のことを言うのだがこのマウンテンホーンズはモンスターに該当されない程に無害な存在だ。自然界でもマウンテンホーンズは小さな虫に並ぶほど弱肉強食の世界の最底辺近くに位置する。ウイルスに感染したことにより体は溶かされても非常に高い生命力で逆に捕食者の体を内から奪いとり生き残った。それを繰り返してどんどん他の生物という()を造り上げ最終的にはあのシックスヘッドカイメラへと至った。

 

 

 ………末恐ろしいな………ヴェノムの主を作り出したウイルスは………これはハッキリと今世界に溢れるヴェノムウイルスの上位互換として新たに分類すべきか………?どんな生物ですらも異形の怪物から怪獣へと進化させるウイルス………“ヴェノム(ツー)”と仮称しておこうか………。」

 

 

カオス「ヴェノム(ツー)………。」

 

 

 ヴェノムウイルスの更に発展したウイルスヴェノム(ツー)。そのウイルスの力はただ生物を時間で消滅しないゾンビに変えるだけじゃなくそのゾンビを無限に進化させ続ける力を持つ。その進化方法は他の生物を捕食して取り込むだけでなく逆に捕食されても内側から捕食しかえすというどこまでも死なないということに突き進んだものか………。そこまで行ったらもう死んだ方がマシなような気がしてくるものだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………それでそのカイメラホーンズはどうする………?

 アンタの言う通りこいつがカイメラだったとして流石にこいつを放置しておくのは不味いだろう………。

 今はこんな姿に戻ったみたいだがいつまた他の生物を取り込んでまたあの凶悪な姿に戻るか分からん。

 下手したらあれよりもっと強い化け物に変身してしまう危険すら出てくる。」

 

 

オサムロウ「無論………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この場で消しておくのが正解だろう。

 こんな人畜無害そうな姿になったとしても間違いなくヴェノムの主の一柱だ。

 こやつを放っておけばまたカルトやブロウンのように滅ぼされてしまう部族が出てくる恐れがある。

 

 

 何よりもこんな生物ですらヴェノムの主になるに足りえるということが分かったのだ。

 ここからはよりいっそうダレイオスの蔓延しているヴェノムに関する対策に一考せねばまたいつ第二、第三のカイメラが現れるか検討が付かん。

 ヴェノムは消せる時に消しておくのがこの先余計な犠牲を生まずに済むだろう。」

 

 

ウインドラ「そうか………。」

 

 

タレス「…では………。」

 

 

 ウインドラとタレスがカオスが取り押さえているカイメラホーンズに近付いてくる。二人がこのカイメラホーンズを処分するようだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラホーンズ「メェッ!?メェェェェェェェ!!!!」

 

 

カオス「うわっと……!?」

 

 

 二人がカイメラホーンズに近寄ると命の危険を察したのかカイメラホーンズが逃げ出そうと暴れだす。

 

 

 ヴェノムに感染した生物は主てあろうが主でなかろうがゾンビで理性も何も無い筈だがこの様子を見るとそんな風には見えない。そういえばグリフォンも確かどことなくゾンビっぽくなかったような………とカオスは心の中で思った。

 

 

ミシガン「………なんか可哀想………。」

 

 

アローネ「これからこのマウンテンホーンズ………………カイメラを討伐しなければならないのですね………。」

 

 

オサムロウ「当然だ。

 こやつ等は一体でも残しておけば後々厄介なことになることは目に見えている。

 今倒せるときに倒しておくべきだ。」

 

 

ミシガン「だけど………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

カイメラホーンズ「メェェェッ!!!メェェェッ!!!」

 

 

 カイメラの鳴き声はもう完全にこれから殺されてしまうことへの恐怖を感じ鳴いているようにしか聞こえなかった。こんな鳴き声を出す生物を殺してしまうのは忍びないのだが………、

 

 

 このカイメラを放置すればいつかまた今日のような禍々しいモンスターへと成長して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………成長して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラホーンズ「メェェェェェェェェェェェェェェッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………こいつはヴェノムに感染したというだけで殺されなくちゃいけない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こいつがいれば多分またどこかの部族が甚大な被害を被るだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけどそれはこのマウンテンホーンズのせいなのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このマウンテンホーンズも………あくまでヴェノムウイルスに汚染してしまった謂わば被災者なのではないか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こいつは確かにカルト族とブロウン族の人達を大勢殺してしまったけどこのマウンテンホーンズは元々は気性の大人しい誰も傷付けたりしないような生物らしいじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………悪いのはこのマウンテンホーンズじゃなくてヴェノムウイルスを作った人物なのではないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その者がヴェノムウイルスなどを作り出すから世界は今こうやって死なずに済む命が消されようとしているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………本当はこのカイメラも処分した方がいいのかもしれないが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………俺には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何も悪くない生き物を殺すことなんて出来ない………。

 悪いのはヴェノムを作った人だ!!

 このカイメラだって………本当は………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だったら!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『彼の者を死の淵より呼び戻せ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス……!?

 何を………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『レイズデッド!!』」



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敵でないのなら

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『レイズデッド!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァァァァァッ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラホーンズ「………メッ、メェェェ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………何をしておるのだカオス………?」

 

 

 急にカオスがカイメラホーンズに向けてレイズデッドを付与したことを問い掛けてくるオサムロウ。

 

 

カオス「今までスラートの人達やミーアの人達、クリティアの人達の洗礼の儀に付き合ってきたおかげで呪文自体は覚えたので使ってみました。」

 

 

 他の魔術と同じで呪文さえ分かればカオスはどんな術でも使える。レイズデッドも初回で成功してよか「カオス!」

 

 

カオス「ウインドラ……?」

 

 

ウインドラ「何をしているんだカオス!?

 お前は…!!?

 お前はこのマウンテンホーンズが実際にカイメラだったら………!!

 今のでまたカイメラがあの醜悪な姿に戻るところだったかもしれないんだぞ!!?」

 

 

タレス「何故レイズデッドなんか………、

 攻撃用の魔術でカイメラホーンズを処分するというのなら分かりますが………?」

 

 

 オサムロウだけでなくウインドラとタレスもカオスがレイズデッドを使用したことを注意してくる。先程まで戦っていた強敵を何故回復させるようなことをしたのか至極当然の疑問だが、

 

 

 

 

 

 

カオス「………もうこのマウンテンホーンズはあのカイメラには変身しないよ………。

 この先もずっとね………。」

 

 

アローネ「どうしてそのように断言出来るのですか?」

 

 

ミシガン「ヴェノムにレイズデッドなんて使ったこと無いのに………。」

 

 

カオス「使ったことは無かったけどずっとレイズデッドを他の人達に掛けてきたのを見てきたからなんとなく分かる気がしたんだ………。

 このレイズデッドは………、

 

 

 ヴェノムに感染しきったモンスターにも効くって。

 これでもうこのカイメラはカイメラじゃなくなった。

 ただのマウンテンホーンズに戻ったんだよ。」

 

 

ダイン「そう……なの……?」

 

 

カイメラホーンズ「メェェェ………。」

 

 

 心なしかカイメラホーンズが術を付与したことによって大人しくなった気がする。もう角を掴んでいなくても平気そうだ。カオスはそっとカイメラホーンズの角を放してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「メェェェッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タタタッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「逃げてくよ………?」

 

 

 カオスが角を放すとマウンテンホーンズは何処かへと走って去っていった。先程まで戦っていた相手に自分が敵わないと悟って去っていったのだろう。自分にはもう戦う力も無くなってしまったことも理解して。

 

 

 

ウインドラ「本当に見逃がしてよかったのか………?

 アイツは………大勢の人を死なせたモンスターなんだぞ?」

 

 

カオス「もうあのマウンテンホーンズはモンスターじゃなくなったんだよ。

 モンスターじゃないのならもう誰も殺したりはしない。

 ウイルスを撒き散らすこともない………。

 もう………放っておいても安全だよ。」

 

 

オサムロウ「確かにもうあのマウンテンホーンズからは邪悪な気は感じられない………。

 あの禍々しかったマナもあのマウンテンホーンズからは一切が消えている………。

 ………今後アレに命を奪われる民はいなくなったことだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それがソナタの選択なのだなカオス………。

 カイメラを倒さずにカイメラを無力化するという我の依頼を放棄したも同然のような気がするが………。」

 

 

カオス「カイメラはもういませんよ………。

 カイメラは皆で倒したんです。

 あのマウンテンホーンズは危うくカイメラに殺されかけていたのを俺達で助けた。

 

 

 ただそれだけです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「…………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………フッ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「カオス!!」

 

 

カオス「…!

 ミシガン………?」

 

 

 カイメラとの死闘を経て全てが終わったと思ったらミシガンが抱きついてきた。皆もカオスに駆け寄ってくる。

 

 

ウインドラ「…よく過去を乗り越えて戻ってきたなカオス。

 お前は………漸くあのミストの呪縛から解放されたのか………。」

 

 

カオス「ウインドラ………。」

 

 

タレス「魔術を安定して撃てるようになっただけじゃありません。

 あの………「共鳴(リンク)共鳴(リンク)……?………あれだけの大規模な術をボク達に影響を及ぼさずに放てるようになるなんて………。」

 

 

カオス「それは………ダインに教わったおかげだよ…。」

 

 

オサムロウ「……ソナタがカオスにあの技術を与えたのだな………。

 ソナタは………何故カオスにあのような技術を与えたのだ………?

 カオスの言う通り我等と共に来るという道を選んだのか?」

 

 

 皆がダインに注目する。ダインはその視線を受けて、

 

 

ダイン「うちは…………、」

 

 

アローネ「カオスに共鳴(リンク)を教授したのは貴女の独断なのですよね………?

 ランドールやユーラスと違い貴女からは私達に対する敵対心を抱いているようには思えません。

 バルツィエにとってカオスがこれ以上強くなるのは看過出来ない筈………。

 それを強化したのであれば………バルツィエに背くことにのると思いますが………。」

 

 

ダイン「………うちは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだバルツィエを抜け出す訳にはいかない……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「それではボク達の敵………ということになりますけど………。」

 

 

 ダインがまだバルツィエであることを捨てられない発言に警戒の態度を示すタレス。

 

 

カオス「待ってくれ………。

 ダインは………ブラムの安全を確保してからでないとバルツィエを抜けることは出来ないって言ってるんだ。

 ブラムはダインにとって大切な人だから。」

 

 

ウインドラ「ブラム隊長を………?

 しかし彼はバルツィエの………。」

 

 

ダイン「ブラムがバルツィエから情報を引き出すための密偵だってことはうちも知ってる……。

 本当はブラムもうちを利用していることも……。

 ブラムがうちの敵になることも……。

 

 

 それでもうちは………ブラムを死なせたくない……。

 今うちがバルツィエを抜ければブラムを守れる人が誰もいなくなる……。

 うちがいなくなったら………ブラムはランドールやフェデールに………。」

 

 

 



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複雑な家庭事情

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………何やら込み入った事情があるようだな………。

 ダイン=セゼア………、

 ソナタはバルツィエの中では比較的温厚な部類の人格者だということは分かった。

 そのブラムとやらはどういう人物なのだ………?」

 

 

ダイン「ブラムは…………。」

 

 

ウインドラ「ブラム=バベル………ブラム隊長はマテオのレサリナス騎士団の一隊長だ。

 陣営としてはこちら側のエルフだがバルツィエの動向を探るべくバルツィエと親密な関係を築いている。」

 

 

オサムロウ「………その者はこのダインに密偵だと知られているようだが大丈夫なのか?

 バルツィエは裏切者に容赦するような連中では無かったと思うが………。」

 

 

ダイン「その辺はうちがブラムを庇っているから今のところは大丈夫……。

 でもうちがいなくなればブラムは……。」

 

 

ミシガン「バルツィエなのに他の人のことを庇うなんて………。

 ………今まで見てきたバルツィエの人達と全然違うね………。」

 

 

タレス「話が分かるバルツィエがいたことにボクも驚きました………。」

 

 

 ダインのことをよく知らない五人はダインの印象の食い違いに戸惑う。皆はバルツィエという先入観でしかバルツィエと関わってこなかったためバルツィエにも誰かを大切に思う人物がいたことに驚いているのだろう。

 

 

カオス「……今はまだ俺達と行動を共にしなくていいよ………。

 俺達もまだダレイオスでやらなくちゃいけないことがあるから。

 ダインもマテオに戻ることがあれば少しブラムと話し合って欲しいんだ。

 ダインなら………俺達と友達になることも出来るから………。」

 

 

ダイン「………」

 

 

アローネ「本当に宜しいのですか………?

 ダインさんは………家を………バルツィエを捨てることになりますけど………。」

 

 

ダイン「うちは………正直家のことはあまり好きじゃないから………。

 うちがバルツィエに生まれたせいで今までろくな人生じゃなかったし……。」

 

 

タレス「バルツィエであることが嫌なんですか?」

 

 

ダイン「うちがバルツィエだと………誰もうちと友達になってくれないし話しかけてもこない……。

 真面目に家の言い付けを守って生きてきたつもりだけどそれが反って駄目だったんだと思う……。

 皆……バルツィエが嫌いだから………うちも嫌われて……。」

 

 

カオス「……自分の出生で差別されるのは辛いよね………。

 俺もミストじゃバルツィエ………じゃなくて余所者って体で変な目で見られてたし………。」

 

 

ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

カオス「………でも!

 

 

 世の中そんな人達ばかりじゃないから……!!

 ここにいる皆のようにちゃんと分かってくれる人もいるから……!!

 ダインにとってはブラム………がそうなのかは分からないけどその自分が大切に思っている人達の生きている環境だけは守りたいって思うんだ!

 ダインもブラムを大切に思うのなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対俺達と一緒にバルツィエと戦ってほしい………!

 今のバルツィエは間違ってる!

 バルツィエのやり方じゃ世界を平和になんて出来ないんだ!!」

 

 

ダイン「カオス………。」

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「一つ訊きたいことがあるのだがいいか………?」

 

 

ダイン「……?」

 

 

オサムロウ「先程まで共闘しておいてなんだが………バルツィエは今ダレイオスに生息しているヴェノムの主については…………どのようにあのウイルスを作りダレイオスへと振り撒いたのだ?

 振り撒いたのがバルツィエなら先の戦闘でもあれを容易に打ち倒す術は無かったのか?」

 

 

ダイン「……それはカオスにも訊かれたけどあのヴェノム達についてはバルツィエも関与してないと思うよ……?

 うちで研究していたのはヴェノムウイルスに抗体を持つ生物を研究していたくらいだから……。」

 

 

オサムロウ「しかし数年前のバルツィエの奇襲作戦と同時期にヴェノムの主達は現れたのだぞ?

 どう考えてもバルツィエが関わっているとしか思えんのだが………。」

 

 

ダイン「………うちもよく分からない………。

 うちが知ってるのは強いウイルスを作ることじゃなくて………。」

 

 

ミシガン「………?

 作ることじゃなくて………何?」

 

 

ダイン「………ツグルフルフをもっと改良する研究………。」

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・オサムロウ「?」

 

 

 ダインはツグルフルフの改良と言ったが今何か別のことを言いかけていた。それがなんなのかを追求しようとするが、

 

 

ダイン「………ごめん、

 もうそろそろ行かなきゃ………、

 ランドールと東の方で落ち合うことになってるの……。」

 

 

カオス「そっ、そっか………。

 悪いね、

 カイメラとの戦いにも巻き込んで………。

 グリフォンも本当だったら俺のことなんか放っておいて一人で逃げてもよかったのに……。」

 

 

ダイン「せっかくお話出来たのにうち一人で逃げるなんて薄情過ぎるよ……。

 うちは………、

 あまり目の前で誰かが傷付くのは見たくないから……。」

 

 

オサムロウ「話をすればするほどソナタはバルツィエの思い描いていた像から遠ざかっていくな………。

 ソナタのようなバルツィエがカオスの他にもいてくれたらよかったのだが……。」

 

 

ダイン「………うちはバルツィエの中でも変わってるってよく言われる……。

 バルツィエにしては戦いを好まない質だって………。」

 

 

オサムロウ「………ソナタのようなバルツィエが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエの当主となっていればこのように剣を向けて殺し会う出会いではなく平和な世界で試合形式で手合わせ願いたかったのだがな………。」



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オサムロウとの別れ

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィイイイイイイイイィィィィィィンッ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダインがレアバードで飛び立っていった。やはりそう上手く仲間に引き入れるのは難しそうだ。

 

 

 

 

オサムロウ「………さて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では我もファルバンの元へと戻るとするか………。」

 

 

カオス「行っちゃうんですか………?」

 

 

 カオスが修行に入る前から宣言していた通りオサムロウはここで一度スラートの人達の元へと合流するようだ。長いようで短い旅の同行に少し寂しさを感じるカオスだったが、

 

 

 

 

ウインドラ「オサムロウ………、

 ………やはり俺はお前の考え方には賛同出来ない。

 俺達は全員揃って世界を救う道を選んだ。

 俺達は誰一人として欠ける道は選ばない。

 カオスの中にいる精霊が世界に厄災を降らせる存在だったとしてもカオスは仲間だ。

 俺達はカオスと共に厄災をはねのける。」

 

 

タレス「そうです。

 カオスさんがいなければボク達は既にこの世にいなかった。

 それなのにカオスさんだけを精霊と一緒に厄介者扱いなんてしませんよ。」

 

 

ミシガン「私達は………もう家族なんだよ。

 家族だったら一緒に困難を乗り越えていくの………。

 大切に思う家族を切り捨てることが出来る人なんていないんだよ。」

 

 

アローネ「私達は必ず貴方の依頼を達成します。

 殺生石の精霊マクスウェルさ…………、

 マクスウェルの課した期限内に必ず私達は残り三体のヴェノムの主を打ち倒して見せます。」

 

 

 修行期間中でお互いの呼び方が変わったり態度が一変していたので絆が深まっていたのかと思いきや逆にオサムロウとの仲は険悪になっていたようだ。

 

 

 自身の話で何やら険悪になっているようだが………、

 

 

 

 

オサムロウ「………フム、

 討伐困難だったカイメラさえ討伐してしまったのだ。

 ソナタ等なら無事ヴェノムの主を全滅させるくらい造作も無さそうだな………。

 その活きやよし………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス。」

 

 

 

 

カオス「はい………?」

 

 

オサムロウ「ソナタがカイメラを討伐する前にグリフォンを倒したと言っていたな。

 これでソナタ等はブルータルに始まりクラーケン、ジャバウォック、グリフォン、ビックフロスター………そして、

 カイメラの順番でヴェノムの主六体の討伐を完了したことになる。

 残りはフリンク族の区域に確認されている“()()()()()()()()()”、アインワルド族の区域の“()()()()()()()()()()()()()()()()()”、そして最後のカイメラとの死闘間際に申したブルカーン族の“レッドドラゴン”………。」

 

 

アローネ「不死鳥フェニックス、食人植物アンセスターセンチュリオン、レッドドラゴン………。」

 

 

オサムロウ「期限は今日から残り百日前後だ。

 ヴェノムの主五体は遭遇してから一日前後で倒したようだが今回のカイメラには四十日と掛かってしまった………。

 百日で三体討伐するのなら一体辺りがまた前の状況のように一月程度で討伐しなければならない、

 …が次に遭遇するであろうヴェノムの主は伝説にして不死身の中の不死身と噂される不死鳥だ。

 カイメラでさえ相当しぶとかったというのにそれを差し置いて不死身と名高いフェニックス………。

 その次の食人植物アンセスターセンチュリオンもかなりの生命力に富んだ生物だと聞く。

 植物の生命力は虫以上に高いぞ。

 レッドドラゴンは………カイメラに吸収された個体を倒したのであれば苦にはならぬと思うが問題があるとすればブルカーン族の方だな…………………。

 ………問題を挙げれば切りが無いほど山積みとなるが我の観測からすれば正直時間との関連を考えれば五分五分と言ったところだ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソナタ等にこの依頼が果たせるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「果たしますよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「果たすしかないんですよ俺には………俺達には………。

 今回のカイメラとの戦いで俺は改めて自分のことを振り返ってみました。

 今まで皆に甘えて旅をしてきましたけどそれじゃ駄目だったことも自覚しました。

 今まで流されて生きてきたことも………。

 ………俺にはミストや世界を背負うことなんて出来ない。

 

 

 俺は別にミストや知りもしないこと世界中の人達のことなんてなんとも思ってはいません。

 そんなものは………俺の肩には荷が重すぎますよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも仲間達が生きる世界なら背負っていきたい。

 アローネ、タレス、ミシガン、ウインドラが生きられる世界なら俺が守る価値はあります。

 この四人のためなら俺はどんなことだってやりきる。

 そう決めたんです。」

 

 

オサムロウ「世界よりもたった四人の仲間の方が大事か………。

 だからソナタは四人のために世界を守るのか………?」

 

 

カオス「俺にとっては世界よりも大事な人達だから………。」

 

 

オサムロウ「………世界の救世主か破壊者………、

 それよりも四人の仲間として世界を救うと申すのだな………。」

 

 

カオス「当然ですよ。

 俺はそんな大きなエルフじゃない。

 俺は俺の生きる世界に一緒にいてくれる人のために戦います。」

 

 

オサムロウ「なるほど………、

 ………結局ソナタ等五人は皆大局に目を向けるよりもすぐとなりの仲間にしか目を向けられんか………。

 大を救って少を切り捨てる………そんなこと価値観はのはソナタ等にはまだ早かったか………。

 

 

 ………一億年生きてきて様々な生物の生き方を見てきてエルフの正しい生き方はより多く種を存続するために多少の犠牲は払ってでも種を絶やさぬことだと分かったつもりでいたが我もまだまだエルフに馴染めずにいるのだな………。

 ソナタ等のような大よりも少のために戦う者もいるのだと何故我は気付かなかったのか………。」

 

 

カオス「…オサムロウさんも俺は人だと思いますよ。」

 

 

オサムロウ「我を人と認めるか………?

 あのような姿になろうともか?」

 

 

カオス「姿なんて関係ありませんよ………。

 人の姿をしていても化け物だって蔑まれる人だっているんです。」

 

 

オサムロウ「ソナタの体験談か………?」

 

 

カオス「はい………、

 俺の体験談です。

 だけどそんな風な扱いを受けても隣にいてくれる人達はいるんです………。

 オサムロウさんにもそんな人が昔は知らないですけど今はいるでしょう?」

 

 

オサムロウ「………あぁ、

 そうだな………。」

 

 

カオス「オサムロウさんはスラートの人達のために活動していることは知ってますよ。

 オサムロウさんにとってはスラートの人達とカタスさんのために世界を守ろうとしていたことも。

 そのためにも本当だったら俺の中にいる精霊マクスウェルみたいな世界の敵になり得る存在は目の届く内に消しておかないといけないことも………。

 

 

 でももう少しだけ待ってもらえませんか?

 俺達で何とかしてヴェノムの主を退治してこのダレイオスを救って見せますから………そうしたら………、

 精霊が世界を破壊することなんて起こらない………。

 そうなったら………オサムロウさんはまたこれまで通りスラートの人達と一緒にいられる………。

 そうなるよう俺達で努力しますから………。」

 

 

オサムロウ「………そうか………、

 

 

 その言葉………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忘れるなよ。」



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認めるミシガン

砕かれた山地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダインに続いてオサムロウも去っていった。一ヶ月以上もスラートの人達から離れて今スラートがどうなっているのか見に行くのと刀がカイメラに折られてしまったので新しい刀を探しにいくそうだ。これでまたオサムロウが抜けたことにより五人に戻ることになったが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………」

 

 

ミシガン「………」

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 今カオスとウインドラとミシガンで向き合っている。四十日の修行から合流出来たと思ったらカイメラと戦闘中だったために久々の再会を喜ぶ暇もなかった。なのでこれからお互いに本日までの経過を語り合うところなのだが、

 

 

ウインドラ「……もうミストのことは吹っ切れたのか………?」

 

 

カオス「………うん………。」

 

 

ミシガン「あれだけ魔術を使うのを嫌っていたのにあんなにカイメラとの戦いで魔術を沢山使って平気なの………?」

 

 

カオス「…もう心配ないよ………。

 俺は今まで下らないことを悔やみ続けていたみたいだ………。

 ………俺が昔おじいちゃんをこの手で殺してしまったこと………今でもまだ心の中で整理出来てないけど……、

 

 

 おじいちゃんはもういないんだ………。

 おじいちゃんを殺した罪は背負っていくつもりだけどそれよりも今やるべきことに目を向けなくちゃいけない。

 俺が目覚めさせてしまったマクスウェルにこのデリス=カーラーンを破壊させないためにも俺はマクスウェルの力を借りてヴェノムの主を倒すよ。

 そうしないと十年も俺のことを支えてくれた二人に示しが付かないから………。」

 

 

ミシガン「カオス………。」

 

 

ウインドラ「俺は別に十年も待っていた訳では………。」

 

 

カオス「……この修行中に思い出したんだ………。

 ミストから追い出されたあのすぐ後の日にウインドラが俺を騎士に誘ってくれたこと………。」

 

 

ウインドラ「!!

 お前……!

 あの時意識があったのか…!?」

 

 

カオス「意識はあったよ………。

 意識はあったけどあの時はウインドラの言葉に耳を傾けられない程ショックが大きくて………、

 ………ごめんね………、

 俺はミストにいたのにミシガンにウインドラがどこに行ったのか話すことが出来なかった………。

 俺があの時しっかりとウインドラの話を聞いていればミシガンにウインドラが生きているって安心させてあげられたのに………。」

 

 

ミシガン「そんなことはどうでもいいよ!

 ウインドラもこうして今私と一緒にいるんだし……!

 ……でも本当にもう大丈夫なの………?

 カオスは………もうミストのことは………?」

 

 

カオス「何度も言うけど俺はもう大丈夫だから………、

 本当はもう何も怖がることなんて無かったんだ………。

 俺が魔術を使ってもよかったのかとかそんな一人で自問自答を繰り返しすぎていつ間にかに自分じゃどうにも出来なくなってた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けどそんな俺をおじいちゃんが叱ってくれたから………、

 俺が進むべき道をもう一度教えてくれたからもう大丈夫なんだ………。

 俺は俺のやりたいようにすればいい、

 

 

 そうおじいちゃんが俺に伝えてくれたから俺は俺のやるべきことを必ずやり遂げる。

 もうそれだけだ。」

 

 

ウインドラ「アルバさんが………?」

 

 

ミシガン「アルバさんが生きてたってこと?」

 

 

 急にアルバの名前が出て困惑する二人。二人はカオスがあの異空間でアルバと再開したことを知らないのでカオスの発言に驚くが、

 

 

カオス「おじいちゃんはもういないよ………。

 おじいちゃんはあの事件でいなくなった………。

 おじいちゃんは今………天国で俺達のことを見守ってくれているよ。」

 

 

ウインドラ「………そうだな。」

 

 

ミシガン「多分ずっとカオスのことだけはいなくなっても見守り続けてくれてるんだよアルバさんは……。」

 

 

カオス「そうだね………。

 俺が間違った時はまた出てきて俺のことを叱りに来ると思うからそうならないようにしないといけないね………。

 

 

 ………もうおじいちゃんを安心させてあげないといつまでも俺の世話を焼き続けるのは大変だろうし………。」

 

 

ウインドラ「………そうだな………。」

 

 

ミシガン「………じゃあ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これからは()()()()()()()()()()()だね。」

 

 

カオス「俺がお兄ちゃん………?」

 

 

ウインドラ「どうしたんだミシガン?

 今までずっと頑なに自分が姉だと言っていたのに………。」

 

 

ミシガン「…私達ってさ………。

 実の兄弟姉妹っていないじゃない?

 だからさ、もし本当に兄弟とかいたらさ、

 上の兄姉が弟や妹を守ってあげないといけないのかなぁーって………。

 ………カオスはもう私が守ってあげなくてもいいんじゃないかなぁって思ってさ………。

 私なんかがカオスを守れてたかは微妙だけど………。」

 

 

カオス「それって俺がそんなに頼りなかったから今まで俺のことを弟呼ばわりしてたの?」

 

 

ミシガン「そりゃそうだよ。

 カオスって本当は魔術なんかなくてもすっごく強いのに鬱病気味って言うか………精神的に脆かったじゃない?

 だから私が守ってあげなくちゃって思ってたんだけどもうカオスは私なんかが支えてあげなくてもよくなったからこれからは私が妹になるの。

 ………ううん、私が()()()()()()()()()()()

 

 

ウインドラ「そういうことか………。

 カオス、

 これからはよりいっそうしっかりしないとな。」

 

 

カオス「まぁそのつもりだけど………。」

 

 

ミシガン「またカオスがヘタれだしたらすぐに弟に戻すから覚悟してね?」

 

 

カオス「兄妹ってそんなに気軽に交代出来るものじゃないだろうに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「……なんかあの三人の空間に入っていきづらいでね。」

 

 

アローネ「カオスのことを待っていたのはあの二人だけではないのですけどね………。」

 

 

 カオス達が三人で話し込んでしまったためアローネとタレスはそれを遠くから眺めることになった。心の内ではカオスの帰還をあの二人と共に歓迎したいのだが、

 

 

タレス「カオスさんがいなくなってからアローネさんずっとソワソワしてましたしね。

 アローネさんがあんまり落ち着きのない態度だったので本当は誰よりもカオスさんが帰ってきたことを喜んでいるんじゃないですか?」

 

 

アローネ「私そんな態度でした………?

 ………カオスが私達の元へと戻っていらしたのは喜ばしいことだとは思いますが………。」

 

 

タレス「……それにしてもカオスさんがミシガンさんのお兄さんですか………。

 実際にはそれが正しいんですけどね。」

 

 

アローネ「カオスがミシガンの兄………ですか………。

 

 

 ………カオスが兄………、

 カオスはいいお兄さんに………、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アローネ様………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

タレス「アローネさん……?

 どうかしたんですか?」

 

 

アローネ「………」

 

 

タレス「………?」

 

 

アローネ「…………いえ、

 なんともありませんよ………。

 少し………昔のことを思い出しただけで………。」

 

 

タレス「昔のことを………?」

 

 

アローネ「えぇ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何故カオスがサタン義兄様と重なったのでしょうか………?

 また私はカオスのことをサタン義兄様と重ねて見ているのでしょうか?

 

 

 カオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サタン義兄様ではないというのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうしてまだ私はカオスのことを………。



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カイメラ無力化の報告

ハンターとステファニーの住む洞穴

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「………そうか……… 、

 お前達は………カイメラを倒しちまったんだな………。」

 

 

ステファニー「あの魔獣相手によく無事で………。」

 

 

 

 

 

 

 カイメラを討伐し終わりダインとオサムロウと別れた五人はハンター達の元へと戻ってきていた。二人にはカイメラ討伐の報告と同時に他の部族達と共にダレイオスを再建するのに協力するようお願いしに来たのだが、

 

 

ハンター「………カイメラは………強かっただろ………?

 聞かせてれないか?

 カイメラをどんな風に倒したのか………。

 お前達が前の時からずっとカイメラにちょっかいかけてたのは知ってたが気が付いたらカイメラごとお前達はいなくなってた。

 更には北のカルトの山で激しい光が何度も何度も光ってた………。

 あれがお前達とカイメラとの戦闘だったんならどんな戦いだったのか知りたいんだ………。」

 

 

ステファニー「私とハンターの家族達を殺したカイメラの最期がどんなだったのか………私も聞きたい………。」

 

 

 案外と二人はカイメラが倒されたことをすんなりと受け入れた。その上でカイメラがどう倒されたのかを訊いてくる。実際にはカイメラは完全に倒したのではないが、

 

 

アローネ「分かりました………そういうことでしたらお話しましょう。

 皆もよろしいですね?」

 

 

カオス「いいと思うよ。

 関係者にはやっぱりカイメラがどうなったか知りたいだろうしこれでもうカイメラに誰かが殺されることもないって信じてもらうには詳しく事情を話した方がいいしね。」

 

 

タレス「カイメラとの戦闘は激しいものでした。

 あの魔物との戦いでカルト族の山がまるごと消されるほどに………。」

 

 

ミシガン「何度も何度もカイメラに攻撃はしたんだけどその度にカイメラが変身して中々倒すのが難しかったよ。」

 

 

ウインドラ「それでも奴の回復速度を上回る攻撃を与え続けていたら最終的に奴の変身形態の完全形態ともとれる進化をしてな。

 俺達は奴をシックスヘッドカイメラと呼んだ。

 基本六属性の魔術全てが奴には効かなかったんだが………。」

 

 

アローネ「カオスの中に宿る精霊マクスウェルからカオスがグラビティという七つ目の属性の魔術を託されてカイメラを討伐することが出来ました。」

 

 

ハンター「精霊マクスウェル………?

 聞いたことない名前の精霊だな………。」

 

 

カオス「バルツィエのダインって人がこの精霊のことをそう呼んでいたんです。

 俺達もカイメラと戦うまではそんな名前があったことは知らなかった。

 精霊自身は自分に名前なんて無いとは言ってたんですけど。」

 

 

ステファニー「その精霊マクスウェルにグラビティ………?とかいう魔術を教えられてカイメラを倒しんだ………。

 私達も知らない魔術………多分世界の誰も知らない………。」

 

 

ハンター「…魔術ってのは昔は精霊がいるであろうとされる精霊界の精霊にマナを干渉させて精霊から魔術を与えられて伝わったって言うしな………。

 その精霊が体の中にいるってんなら直接その精霊から新しい魔術を託されることもあるんだろうな………。」

 

 

 ハンターとステファニーはカオス達の話を真剣に聞きその事の経緯を考察していく。戦闘中カオスがウインドラ達に魔術を行使し新たな魔術を得たのはそういうシステムがあったからだろう。

 

 

ハンター「それでカイメラはその後はもう完全に消えちまったのか?

 他のヴェノムが消えるように。」

 

 

ステファニー「カイメラが元は何の生物が突然変異したものだったのかも分かったのかな………?

 多分私達の地方にいたからジャバウォックが変化したものだと思うけど………。」

 

 

アローネ「そのことなのですが………。」

 

 

 カオス達が神秘的な力を宿しカイメラを無力化したことは納得してもらえたがカイメラがまさかマウンテンホーンズというダレイオスの山岳地帯ならどこにでもいるような生物だったことは彼等に話しても信じてもらえるか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メェェェェェッ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「!?」

 

 

カオス「カイメラ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「メェェ…?」

 

 

 ハンターとステファニーにカイメラの真実を語ろうとした時、なんとそこにカイメラの当のカイメラが現れた。無論マウンテンホーンズの姿のままだが………、

 

 

カオス「お前………、

 付いてきちゃったのか?」

 

 

マウンテンホーンズ「メェェェェェ。」

 

 

 

 

 

 

ハンター「カイメラ………?」

 

 

ステファニー「このマウンテンホーンズが………?」

 

 

 カオスがマウンテンホーンズをカイメラと呼んだので二人がそれに反応する。一瞬だが二人はお互いを見合って、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「………そいつがカイメラの元になった奴だったのか………。

 そんな………誰も殺せなさそうな山羊が………。」

 

 

ステファニー「カイメラが現れてからそういえばマウンテンホーンズが私達の住んでいた里の周りで見なくなってたけど………この子が他のマウンテンホーンズをヴェノムにしちゃったのかな………。

 こんな子があんな恐ろしい姿に………。」

 

 

ウインドラ「………疑わないのか?

 こいつがあのカイメラだったことを………。」

 

 

ハンター「お前達が俺達を騙すメリットなんて無いだろ?

 お前達が言うならそれが真実なんだろうよ……。

 ………大丈夫なのかそいつ………。

 そいつがカイメラだったんだとして何でそんな姿になった………戻ったんだとしてもウイルスに感染することは………?」

 

 

カオス「もう安全な筈ですよ。

 俺達でこのカイメラのウイルスは除去しましたから。」

 

 

ハンター「ステフにかけてやったようにか?

 お前達の術はあんな色々と化けやがるヴェノムにも有効なんだな。

 

 

 それでそいつは何で放置してるんだ?

 そいつはなんであれあのカイメラだったんだろ?

 カイメラは大勢の俺達の仲間を殺したモンスターだ。

 今はモンスターと呼べるほど危ない姿はしてないが俺達にとっては仲間の仇だ。

 ………殺せるなら今すぐにでも殺してやりたいんだが………。」

 

 

カオス「………カイメラはもういませんよ。

 ここにいるのはヴェノムに犯されて化け物に変えられたか弱い生き物がいるだけです。

 もうこのマウンテンホーンズには誰かをヴェノムに変える力は残っていない。

 俺達はそんなか弱い生き物まで手にかける依頼は受けていません。」

 

 

ハンター「俺達はそいつの被害者なんだぞ?」

 

 

カオス「このマウンテンホーンズだって本当はヴェノムの被害者なんですよ。

 マウンテンホーンズだけじゃない。

 この世界の感染した生物は全て皆ヴェノムの被害者です。

 もう手の施しようがないくらいに姿が変わってしまったんなら俺達の手で倒しますけどそうじゃないんならなるべく俺は生きられる命は助けたい………。

 

 

 この生きにくい世界で命をそう簡単に奪うことはしたくないんです。」

 

 

ハンター「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………甘ったれた考えだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも嫌いにはなれねぇな。

 そういう奴がいた方がこの世界も少しは救われるだろうよ。」



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目的は達成、しかし協力は得られず

ハンターとステファニーの住む洞穴

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………それでカイメラを倒したので貴方達はどうしますか?」

 

 

ハンター「…どうするってのは?」

 

 

ウインドラ「俺達は一人でも多くの手が必要なんだ。

 この地方とカルト族の地方のヴェノムの主による危機は排除した。

 お前達には出来れば他のスラートやミーア、クリティア達と合流してマテオとの大戦に備えてほしいのだが………。」

 

 

ミシガン「ハンターさんにはまだ抗体を作る術はかけてないからヴェノムが心配なら先に今ここでかけてあげるけど………。」

 

 

 たった二人とはいえバルツィエとの戦争には多くの犠牲を払うことになるだろう。今でさえマテオとダレイオスの戦力差には絶対的な差が生じている。ここで二人を味方に付けておきたいところだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「………悪いがやっぱりお前達には協力出来ない………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

 カイメラを倒す前から予想はしていたがやはりハンターは断固としてマテオと戦うのを拒否する。想定していたこととはいえこうもハンターの決意が固いとは………。

 

 

ハンター「俺とステフはブロウン族とカルト族の最期の生き残りだ。

 二つの部族はもう既に滅んだことにしてくれないか?」

 

 

タレス「それは出来ますけど………この先どうするんですか?

 ここで戦わないと言うのであるなら新生ダレイオスでは貴方達の居場所はどこにも………。」

 

 

ハンター「どうせここでマテオに立ち向かったところで一人ずつしかいない俺達は戦場の矢面に立たされるだけだ。

 それでブロウンとカルトは完全に絶滅の一途を辿る。

 ………別に部族が滅びるとか存続させるだとかそんなことはどうでもいいが俺達は俺達のことだけをこれからは考えて生きていきたい。

 もう俺とステフはこの世界で生きていけさえすればそれでいいんだ………。

 ワザワザ死ぬ可能性の高い道になんか歩いて行ったりしねぇよ。」

 

 

ウインドラ「………そうか………。

 そこまで言うなら無理強いは出来ないな………。」

 

 

ハンター「すまねぇな………。

 カイメラを倒してくれたのには感謝するがもう俺達は心が折れちまった敗者だ。

 敗者は敗者らしく勝者が作る世界の片隅でひっそりと生きていける場所を探してみるさ。」

 

 

ミシガン「ここから離れるの?」

 

 

ハンター「この先お前達とマテオが戦争を開始するんだろ?

 そんでその戦争の勝者がこの世界を切り分ける………。

 この土地もお前達かマテオのバルツィエのどちらかが勝って占有地となるんだ。

 そんなところにいつまでも屯っていたら危ない目に会うかも知れねぇだろ?」

 

 

ステファニー「貴方達がカイメラとずっと戦っていたのは見ていたの………。

 それで多分カイメラが貴方達に倒されることはなんとなく予想できた。

 この決断は私とハンターでよく話し合って決めたことだから………。

 

 

 ごめんなさい………力になれなくて………。」

 

 

 そう言って頭を下げるステファニー。ハンターもステファニーと共に頭を下げている。

 

 

アローネ「これからどちらに向かわれるのですか?」

 

 

ハンター「そうだな………。

 行く当ては特に決めてないが………とりあえず北西に向かってみるぜ。

 南に行けばフリンク族の土地とアインワルド族の住む大森林があるし西に突き進めば治安の悪いブルカーン族の火山地帯に入っちまう。

 だから部族間の境界線が引かれているギリギリのライン辺りでゆっくりと住めそうな場所を探してみるさ。」

 

 

ステファニー「色々と有り難う………。

 私のウイルスもなんとかしてもらえて………。

 これからは二人でどうにか生きていきます………。」

 

 

 そう言って去ろうとする二人。どうやらカイメラの危険が去るのと同時にここを発つつもりでいたようだ。

 

 

タレス「…もう出発するんですね………。」

 

 

ハンター「動くなら早いにこしたことはないからな。

 いつまでもここに留まってても新天地は向こうからやってこねぇ。

 

 

 俺達はもうここを出るよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『レイズデッド』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター「………」

 

 

 不意にカオスがハンターに向けてレイズデッドをかけた。いきなりのことだったので全員反応が遅れるがやがて、

 

 

 

 

 

 

ステファニー「……今の術は………私にかけてくれた術………。」

 

 

ハンター「どういうつもりだ?

 俺はお前達の計画に荷担しないって言っただろ………。

 それなのに何で俺にその術を………。」

 

 

カオス「………今のは別に気にしなくていいですよ。

 俺が勝手にやったことですから。」

 

 

ハンター「けどよ………。」

 

 

カオス「………俺は誰かが死ぬのは嫌なんですよ………。

 俺と少しでも関わった人は特に………。

 ハンターさんともこの場所で知り合って少ししか顔を合わせてはいないですけど………、

 

 

 ………貴方は最初俺達をあのカイメラから助けようとしてくれた。

 貴方はいい人です。

 貴方のような人は出来れば死んでほしくない……。

 せっかくカイメラがいなくなったのにその他のヴェノムやヴェノムの主に貴方が殺されるようなことはあってほしくないから………。

 今俺が術をかけたのはそのお礼です。」

 

 

ハンター「……あれだけのことで俺に借りを作ったとか思ってたのか………。

 随分と簡単に他人に情が湧く奴だな………。」

 

 

カオス「…情が湧いたっていいじゃないですか………。

 この人が死にやすい世界ではなるべく人助けはしておいた方がいいんでしょ?」

 

 

ハンター「………覚えてやがったのか………。

 あんな皮肉を………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恩に着るぜ、カオス。

 またどこかで会った時はお前達に何か協力出来るようなことがあれば俺達に出来る限りのことはさせてもらうぜ。

 

 

 ………じゃあな。

 お前達の計画が無事成就することを遠くから願ってるぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュバルツ石砕道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステファニー「………いい人達だったね………。」

 

 

ハンター「…あぁ………。」

 

 

ステファニー「…あの人達が戦争に勝てたらいいね………。」

 

 

ハンター「………勝つさ、あいつらなら………。」

 

 

ステファニー「…そうだよね………。」

 

 

ハンター「………戦争が始まったらあいつらは勝つ………あのカイメラにすら勝つんならあいつらに敵う奴なんていやしないさ………。

 

 

 

 

 

 

 ………だが戦争の前にあいつらはこれからフリンクとアインワルドと………………()()()()()のところに向かうようだが………。」

 

 

ステファニー「ブルカーン………。」

 

 

ハンター「………正直ブルカーンの奴等をあいつらだけで上手く言いくるめられるか心配だな………。

 ブルカーンの奴等は全部族の中でも土地的に遠いせいかバルツィエの被害が少なく怖いもの知らずでバルツィエを抜いたら二番目に凶刃的な奴等だ。」

 

 

ステファニー「“()()()()()()()”でダレイオスがまだ国として機能してた時にもどの部族の言うことも全く聞かない人達だったよね………。」

 

 

ハンター「あいつらが最後に会いに行くのはブルカーンって話を聞いたんだが………あのブルカーンの連中があいつらの話を聞くかどうか………。

 

 

 ………最悪ブルカーンの奴等があのカオスの力を知ったらブルカーンの連中はカオスの力を独占しようとする気がする………。」

 

 

ステファニー「あの人達がブルカーンなんかに捕まるとは思えないけど………。」

 

 

ハンター「もしもの話さ………。

 

 

 もしブルカーンに野心が灯るようなことになれば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのカオス達とブルカーンは決裂してヴェノムの主どころの話じゃなくなるかも知れねぇなぁ………。

 精々あの優しさに漬け込まれるようなことがなければいいが………。」



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次なる敵フェニックス

ブロウン族の集落トロークン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………残念だったね………あの二人のこと………。」

 

 

ウインドラ「…そぅ、だな………。」

 

 

カオス・アローネ「………」

 

 

 

 

 現在カオス達はハンターとステファニーと別れてから休息をとるため一度ブロウン族の住んでいた集落トロークンまで戻っていた。

 

 

タレス「………始めの雰囲気から分かっていたことですよ………。

 あの二人が戦争には加入しないことは分かりきっていたことです。

 ……断られなかったとしてもたった二人しかいないんですよ?

 それだったらあの二人の選択はあれで正しかったんですよ。」

 

 

アローネ「………何も直接戦うだけが戦争ではないですけどね。

 後方支援という仕事は戦争すると必ず必要になりますから………。」

 

 

タレス「それをしようとしても二人だけでは部族の会議の場でまともな発言が出来るでしょうか?

 あの二人はカルトとブロウンの生き残りと言っても特に族長職に近い仕事の経験は無さそうでした。

 話し合いの場であの二人がいたとしても他の部族の決定に黙って従わされる未来しか見えませんよ。

 そうなれば例えブロウンとカルトが一人ずつしかいないとしても他の部族達が自分達は戦場に兵を送り出すのにブロウンとカルトだけ安置で寛いでいるのは納得出来ないと二人を強制的に戦列に加えようとするでしょう。

 それに反対することは彼等には無理でしょう。

 

 

 ………あの二人の選択はそうした先のことを考えてのことだったんでしょう。

 もうあの二人はそっとしておきましょう。」

 

 

カオス「………やけにあの二人を擁護するね。

 ミーアやスラートにはあれだけ発破をかけてたのに………。」

 

 

 これまでタレスはマテオに対して低姿勢な部族達を一喝して立ち上がらせようとしていた。それなのに何故かあの二人だけは戦争放棄の意思を尊重しようと発言する。何か二人に思うところでもあるのだろうか。

 

 

タレス「…ボクは戦えるだけの力があるのに戦おうとしない人達が嫌いなだけですよ。

 ミーアとスラートはまだ戦えるだけの人員も戦力も残していたのに死んでいった人達のことを無かったことにしてマテオにへりくだろうとしていた………。

 それが赦せなかっただけです。

 ………でもあのハンターさんとステファニーさんのブロウンとカルトはそれすら残っていなかった………。

 彼等はもうマテオとの戦争に勝ったとしてもそれによって何か得られるものは今の彼等に必要なものではないでしょう。

 領地を確保したところで彼等は先ずそれぞれの部族をまた一から増やしていくところから始めないと。

 ………と言っても彼等には彼等しかいませんけどね………。

 あの様子じゃ二人が子供を作ったとしてその子供はブロウンかカルトのどちらかという括りにはならないでしょう。

 

 

 ブロウンとカルトはアイネフーレのようにヴェノムの主によって戦争よりも先にこの世界から滅び去った。

 そういうことにしておきましょう。」

 

 

 

 

 

 

 タレスは自分と同じ状況に置かれた二人に親近感を感じ二人に戦争でいなくなってほしくなかったのだろう。だから二人には無理強いしてでも戦争に参戦するようには言わなかった。

 

 

 ………言えなかった。彼等の心は既に折れていたから。意思のないものに戦いを強要しても酷なだけである。強要して従わせるのは奴隷とほぼ同義だ。奴隷経験のあるタレスは彼等がそんな自分と同じ状況に陥ってしまうことが憚られて何も言わずに去るのを見届けたのだ。

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………今日のところはあの二人にカイメラの危機が去ったことも伝えたし明日からまた次の目的地に向けて出発するとしようか。」

 

 

ミシガン「次は………フェニックスか………。

 火の鳥って言うくらいだしカオスもいることだから倒せるとは思うけど………。」

 

 

ウインドラ「ん?

 とうしたんだ?

 前はあんなにやる気を見せていたのに。」

 

 

ミシガン「今回のカイメラとの戦いで前までは順調に主を倒せるんじゃないかって思ってたけどちょっと自信消失しちゃった………。

 やる気だけじゃ倒せない相手もいるんだなぁ………って。」

 

 

アローネ「…そうですね。

 今回のカイメラは中々に強力な能力を兼ね備えていた相手でした。

 次のフェニックスは一体どの程度の強さなのか………。」

 

 

カオス「話では()()()()()()()()()で犠牲者は最後に聞いた話では一人しかいないって話だけど………。」

 

 

ウインドラ「その情報は数年前の話だ。

 今となってはカイメラのように異状な突然変異を遂げているかもしれん。

 それでなくとも全身が火に包まれた()()を強調する相手だ。

 カイメラでさえも不死と呼ぶに適した能力を持っていたというのに今度のフェニックスは最初から不死の力を持っているらしい。

 ………それがヴェノムによってどの程度強くなっているのかどうか………。」

 

 

ミシガン「だいたいフェニックスってどんな生物なの?

 フェニックスってお伽話の世界じゃないんだしカイメラみたいに元が全く想像も出来ないような動物がフェニックスになったんじゃないの?」

 

 

アローネ「不死()と言うくらいですから………鳥形のモンスターで火を扱う生物が変異したものだと思われますけど……。」

 

 

タレス「直接目で見てからでないと何も言えませんね。

 やはりフリンク族から情報を聞き出さないと………。」

 

 

ウインドラ「………フリンク族がブロウンとカルトのようにフェニックスに滅ぼされかけてなければいいが………。」

 

 

カオス「………今はよくないことを考えるのは止めようよ。

 明日になったらここを出てフリンク族のいる地方を目指そう。

 フェニックスのことを考えるのはそれからにしよう。」

 

 

アローネ「…そうですね。

 今はまだ憶測でものを言ってもカイメラのように想像も出来ない相手だとしたらあれこれと悩んでも時間の無駄ですよね。」

 

 

ミシガン「カオスのおかげで()()()()()()()()んだしきっとなんとかなるよね。」

 

 

タレス「カイメラがおよそ六体のギガントモンスターの力を持つ敵と仮定するのであればフェニックスがそれを上回らない限りボク達が負けるようなことは無いでしょう。」

 

 

ウインドラ「油断大敵………といつもなら注意するところだが今ぐらいはそのくらいの気持ちで臨むのがいいのかもな。」

 

 

カオス「………よし、

 また明日早くに出発しよっか。

 今日は夜まで自由時間にしようか。」

 

 

ミシガン「賛成。

 私もう疲れちゃったよ~。

 ただでさえウィンドブリズ山まで行ってきてからそのままカイメラと戦ってまた戻ってきたばかりだし。」

 

 

 カオスの一言で全員が散り散りに解散した。今日はこのブロウン族がいなくなった集落で夜を明かす予定なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員がバラバラになったところでその場に一人だけ残る者がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カイメラとの戦いは終えましたが言い出すタイミングが無かったせいで私はまだカオスに強くしてもらえていませんね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラ戦を経て能力を底上げした仲間達の後ろ姿を見て自分がまだカオスによって強化されていないことを今頃になって思い出すアローネであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ここからは少し先の話になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達はこの後残りのヴェノムの主フェニックス、アンセスターセンチュリオン、レッドドラゴンと戦っていくことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残り期間は今日で残り()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それまでにヴェノムの主を倒しきらなければデリス=カーラーンは精霊マクスウェルによって破壊されてしまう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達は今日を境にこれまでよりも主討伐に気を引き閉めることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全ては彼等が大事な人達を迫り来る終末の影から守るためだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼等のヴェノムの主討伐の旅は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完遂することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ一体の主を残してカオス達は審判の日を迎えてしまうのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その残りの一体は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の討伐対象のフェニックスである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達は次に討伐しなければならない敵フェニックスだけは世界が破壊される()()()()を過ぎても倒すことは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは何故か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックスがカイメラを越えるほどの力を備えていたからか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それともフェニックスを逃し最期の日を迎えてしまったからか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そのどちらでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックスの力は噂通りのものでヴェノムの主の中でも最弱と称される程度の力しか無かった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その上フェニックスはカオス達から逃げるようなことはせずカオス達と正面からぶつかって来るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………では何故それでも倒せなかったのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックスこそが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスに出現した他八体のヴェノムの主を生み出した()()()()()()()()とも呼べる存在だからであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスのヴェノムの主は全てがフェニックスの出現から始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックスこそがカオス達がヴェノム根絶のための旅に出る理由となったダレイオス国家崩壊の諸悪の根元であったのだ。



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ヴェノム達の思考

ブロウン族の集落トロークン 翌朝 残り期日九十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「皆準備は出来た?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「私はもう既に終わっていますよ。」

 

 

タレス「ボクもいつでも出発出来ます。」

 

 

ミシガン「私の方も大丈夫だよ。」

 

 

ウインドラ「俺も問題ない。

 出発するならすぐにでも行けるぞ。」

 

 

 

 

 カイメラ討伐を終えてカオス達五人はこれからトロークン出てをフリンク族の地方目指して出発しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日が始まり精霊が課した期日まで残り九十八日。後三ヶ月と少しの先がどうなっているかは誰にも分からない。世界が………人類が存続するかは彼等の肩にかかっている。ヴェノムの主を倒したのならすぐにでもまた次の主の元へと旅立たねばならない。彼等にはもう立ち止まって休む時間すら無いのだ。

 

 

 

 

カオス「よし、それなら即出発しよ「メェェェェッ」…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「メェェェェッ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カイメラ………?」

 

 

ウインドラ「こいつは………まだ付いてきていたのか?

 昨日ハンター達と話していた時にもいたが………。」

 

 

ミシガン「もうこの子はウイルスの心配もないから放っておいても大丈夫だとは思うけど………。」

 

 

タレス「……もしかしたらボク達に負けたことを根に持って仕返しに来たんじゃないですか?

 あれだけの強さを持ったヴェノムの鎧を剥がされたことが悔しくて自分がもうあの姿になれないことを理解してなくてそれでボク達の隙をうかがっているとか………。」

 

 

 皆が元カイメラであったマウンテンホーンズを(この場合は元マウンテンホーンズがカイメラになったのが正しい)いぶかしむ様子で見る。何故このマウンテンホーンズはウィンドブリズからカオス達の後を付けてくるのか。タレスの言うように復讐でも考えているのだろうか。

 

 

カオス「何で付いてくるんだろ?

 もうウイルスは無くなったのにそれでも俺達に付いてくる理由は無いはずだけど………。」

 

 

アローネ「カイメラの言葉が分かればよいのでしょうけど流石に人でない生物の言葉を訳すことは………。」

 

 

 意志疎通が出来る相手なら何を目的に自分達を追跡してくるのかを聞き出すことも出来ただろう。人であったとしても相手が素直に話してくれるかは定かではないが………。

 

 

 理性ある者は皆少なからず他者に嘘を付く。嘘とは真実を覆い隠し相手に真実から遠い事象を伝えることである。嘘を付くのは人類のみとされある意味エルフは世界で唯一他者を騙す生物ともとれる。

 

 

 つまりもしこのマウンテンホーンズと思考を共有出来れば何故追跡するのかを聞き出すことが出来るが………、

 

 

ミシガン「……そもそもこの子カイメラ………になるまでに完全にヴェノム化してたよね。

 あんな姿になってた間はこの子の意識ってどうなってたの?」

 

 

タレス「?

 普通にヴェノムに意識を乗っ取られてたんじゃないですか?」

 

 

ミシガン「でもそれだとこの子オサムロウさんの話じゃ一度何か別のモンスターに食べられちゃって死んじゃった訳じゃない?

 それで色んなモンスターを取り込んでいってカイメラになって………。

 それでなくても食べられた時点でこの子の意識ってどうなってたんだろ?」

 

 

 何気ない話題のつもりで疑問を口にしたミシガンだったがその話を他のメンバーは重く受け止めた。

 

 

ウインドラ「……そう言われるとこいつの意識は今本当に元のマウンテンホーンズの意識に戻っているのか判断しかねるな………。

 この姿の通りのマウンテンホーンズの意識なのかそれともヴェノムとして生まれ変わったあのカイメラの意識なのか………。

 もしくは姿はマウンテンホーンズのままで他のビックフロスターやジャバウォックの精神が宿っていることもあり得る。」

 

 

アローネ「もしレッドドラゴンやマンティコアの精神が宿っているとしたらもっと気性の荒い性格になるのではないでしょうか?

 少なくとも今このカイメラはどちらかと言えば大人しい草食動物のような感じですけど………。」

 

 

マウンテンホーンズ「メェ?」

 

 

 

 

タレス「…今は害は無さそうですがこの先こんな煩い動物に付きまとわれたら迷惑ですよ。

 いつまたカイメラクラスの凶悪な生物に見付かりでもしたらこのカイメラが邪魔になる恐れがあります。

 ……ずっと付いてくるようならどこかで追い払わないといけませんね。」

 

 

 四人ともカイメラに散々手こずってきたためにカイメラに対して警戒心を解くことが出来ないようだ。そのことについては仕方ないことなのだろう。この温厚そうな山羊相手に一ヶ月も足留めを食らったのだから。

 

 

カオス「………今は放っておいてもいいんじゃないかな。

 このカイメラも元のマウンテンホーンズ?に戻って混乱してるだろうしひょっとしたらただエサになりそうな場所を探してるだけかもしれないし。」

 

 

ウインドラ「エサ?」

 

 

カオス「今北のウィンドブリズからこの地方まで草木も全然生えてないくらい環境が悪いだろ?

 俺達なら保存食とか持ち歩けるけど自然界の生物はそういうの持ち歩けないじゃないか。

 カイメラも北にエサになる草が生えてないからこうして南の方に向かってるんじゃないか?

 それでたまたま俺達と向かっている方向が同じなだけだと思うよ。」

 

 

 見る限りカイメラはカオス達に危害を加える様子はない。カオス達になんとなくではあるが興味は持っているようではあるが必要以上に近付いてはこない。

 

 

アローネ「カオスがそう仰るのであればカイメラに関しては放置していてもよさそうですね。」

 

 

ウインドラ「……今のこいつに俺達をどうこうしようと考えていても何も出来ないだろうしな。」

 

 

ミシガン「何を考えてるのかは気になるけどね。」

 

 

タレス「何かあった時はその時に対処しましょうか。

 どうせ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムが何を考えているかなんてボク達に()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元がヴェノムに侵食され体の構造の何から何までもが変えられてしまった生物カイメラ。ヴェノムによって凶暴化した生物は例外無く危険生物とこの世界では認識されている。その理由は感染した個体は問答無用に他の生物に襲い掛かり仲間を増やすからだ。一度感染してしまったらもう彼等に理性は存在しない。それまでの記憶は無くなり他の生物に食らい付く。主であってもそれは体の形が崩れないだけで本質的な行動は他のヴェノムに感染した生物同様にゾンビのようなものだと誰もが思っていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………フェニックスに出会うまでは………。



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カイメラの旅

アフリシェンド細道 残り期日九十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………今地図のどの辺り?」

 

 

タレス「そうだな………。

 この辺りは………アフリシェンド細道と言う辺りでもう少し先に行けばフリンク族の地方に足を踏み入れることになるな。」

 

 

アローネ「トロークンを出発してから特に戦闘も無く歩いてこれましたがやはり移動に大分時間をとられますね。

 ダインさんのようにレアバードがあれば移動も早く済むのですけど。」

 

 

カオス「確かにあれは早いよね。

 数時間も飛べば隣のクリティア族の領地まで行けたもん。」

 

 

ミシガン「カオス、

 そんなところまで行ってたの?

 あの人と一緒に?」

 

 

タレス「何故クリティア族の領地方面まで行くことになったんですか?」

 

 

カオス「修行中さ、俺がアイスニードルやアイシクルを無駄撃ちし過ぎて山がカチンコチンに凍りついたんだよ。

 それで山にいたモンスターが全部山からいなくなっちゃって………。

 それでこれじゃモンスターに魔術を使う修行が出来ないなぁって思ってたらダインがやって来て修行をつけてもらってて………クリティア族の領地に行ったのは皆と合流した前日だったんだよ。」

 

 

ミシガン「あぁ………それで何かあの山スッゴく寒かったんだね………。」

 

 

タレス「何故氷の術だけを?」

 

 

カオス「俺が修行してたの雪山だっただろ?

 それで俺が他の術を使ったら雪崩でも起こるんじゃないかって思ってさ。

 それでウィンドブリズ山で使える魔術はって考えたら氷の術しかあそこじゃ使えないと思って。」

 

 

ウインドラ「………それでカオスがいなくなった後やけに北から寒い風が吹くなと思ってたんだ。

 お前があの地方を極度の寒冷地帯にしてたせいだったんだな。

 そうでなくても若干涼しい程度の地方だったんだが日によっては降ってすぐ溶けるくらいの雪が降ってきてたぞ。」

 

 

アローネ「そうするとカオスは私達と合流する直前まではまだ修行が終わっていなかったのですね?」

 

 

カオス「……恥ずかしながら………。

 俺が撃てるようになったのは皆と合流した日からだよ。」

 

 

タレス「それでカイメラだけでなくグリフォンすらも………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達はブロウン族の集落トロークンを出発してから五日かけてフリンク族の地方のすぐ側まで来ていた。ここに来るまでモンスターは一匹たりとも遭遇することはなかった。なのでカオス達はフリンク族のいる街に着くまではこうして話でもしながら戦いの日々を少しでもまぎらわして気を抜こうとするがどうにも彼等の頭には次の戦いのことしか話題に出すことが出来なくなっていた。

 

 

 残り約三ヶ月の期間というのはそれだけ彼等を戦いの舞台へと引きずり込む縛りとなっている。元は戦いの日々から縁遠い者が五人中四人もいるというのにそれだけで彼等の使命は彼等から日常の話題すらも非日常のものへと変えてしまっていた。そのことに気付くものは彼等の中にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「それにしても本当にモンスターと出会わないなぁ………。」

 

 

アローネ「どうしたのですか?

 そんなにモンスターと戦いのですか?」

 

 

カオス「そう言うわけじゃないけどトロークンからこの辺りまで一回もモンスターと鉢合わせしないからどうなってるのかなぁ、って。」

 

 

ミシガン「また前のイビルリッパーみたいにそこにいるけど見えないモンスターとかいるかもよ?」

 

 

タレス「それもないとは否定しませんけどこの辺りにはモンスターはいないと思いますよ。」

 

 

ミシガン「どうして?」

 

 

ウインドラ「…うしろの()()()が原因だろうな。

 ………原因だったと言うべきか。」

 

 

ミシガン「後ろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「………モグモグ………ペッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

 カオス達の後ろには未だに元カイメラのマウンテンホーンズが付いてきていた。この五日間でカオス達が立ち止まればマウンテンホーンズも立ち止まり右に曲がる道を曲がればカイメラもそれに付き従い付いてくる。そして今は道すがら生えている質の悪そうな草を租借しては吐き出しているところだった。追跡する意図は不明だが特に危険は無かったため放置していたのだが何故こうもカイメラはカオス達に付いてくるのか。

 

 

ウインドラ「…段々と胡散臭くなってきたな………。

 奴は何が目的で俺達に付いてくるんだ?」

 

 

タレス「やられた借りは返す。

 そんな感じじゃないですか?」

 

 

ミシガン「まだ私達と戦う気なの?

 もうあの子にそんな力は無いと思うんだけど………。」

 

 

アローネ「戦わないにしても彼が何を狙っているのか分かりません。

 ………ここは一つコンタクトを取ってみてはいかがでしょうか………。」

 

 

カオス「コンタクト?

 何をするの?」

 

 

アローネ「………近付いて触ってみましょう。」

 

 

 いつまでもカイメラの動向の意図が分からず五人でその理由を探しているとアローネがカイメラに触って確認することを申し出てきた。

 

 

ウインドラ「おいおい………、

 危なくないか?

 害は無いと言っても見た目でそう見えているだけで草食動物でも案外抵抗されればそれなりに痛い一発をお見舞いされることもあるんだぞ?」

 

 

カオス「だったら俺が触ってみるよ。

 前に暴れて突進してきたのを止めたこともあるし。」

 

 

アローネ「…いえ大丈夫です。

 私がやりますからカオスはそこにいてください。

 提案したのは私ですからカオスを危険な目にあわせられません。」

 

 

カオス「でも………。」

 

 

アローネ「心配ありませんよ。

 いざと言うときはこの羽衣がありますから。」

 

 

 そう言ってアローネはクリティア族の長老オーレッドから貰った羽衣を閃かす。

 

 

タレス「確かにその羽衣はかなり硬質の防御力を持っていますよね。

 セレンシーアインでもランドールの剣を受け止めましたし守りにおいてはこの中ではアローネさんが一番堅牢なのでないでしょうか。」

 

 

ミシガン「あぁ、そうだったそうだった。

 その羽衣結構丈夫だよね。

 カイメラと戦ってた時にもその羽衣で切り裂いたりしてたし。」

 

 

カオス「そんなに凄い武器だったの?」

 

 

ウインドラ「あぁ、アローネの羽衣はかなりの業物だぞ。

 カイメラの咆哮のほとんどをその羽衣で弾き返すくらいにな。」

 

 

アローネ「そういうことです。

 ですので私にお任せを。

 カイメラが私達にまだ敵意があるのか確認するだけですので。」

 

 

 

 

 

 

 そしてアローネはカイメラの元へと歩みだした。カイメラはアローネの接近に対し、

 

 

 

マウンテンホーンズ「ウ”ゥゥゥゥ……!」

 

 

 と、威嚇で対応する。その挙動にはカイメラにカオス達に対する怯えが見てとれる。

 

 

アローネ「………怖がらなくてもいいのですよ。

 私達はもう貴方に敵対する気は「メェェェェッ!! 」…あっ………。」

 

 

 

 

 

 

 カイメラは一瞬の隙をつきアローネをすり抜けてカオス達の方へと走り、

 

 

カオス「え?」タレス「なっ!?」ミシガン「うわわっ!?」ウインドラ「こいつ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そのまま四人を無視して真っ直ぐ突っ切って去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………なんだったのかな………あいつ………。」

 

 

タレス「結局何も分からず仕舞いですね。」

 

 

ミシガン「付いてくるから私達と一緒に行きたいのかと思ったけど………。」

 

 

ウインドラ「ただ単に俺達が奴にとって奴の進路を遮る壁にしか見えなかったのかもな。

 あいつも俺達と同じ方向に向かっていたようだし。」

 

 

アローネ「………撫でて見たかったのですが残念です………。」

 

 

カオス「アローネ………?」

 

 

アローネ「!

 いえ!

 何でもありませんよ!?」

 

 

カオス「………」

 

 

 アローネはカイメラに触りたかっただけのようだ。あれほど苦戦した相手だが今のカイメラはただの無害な草食動物へとその姿を変えている。どことなく愛らしい見た目に触ってみたくなるのも無理はないが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カイメラが何を考えて行動しているのかは謎だがその答えを知る術はカオス達は持ち合わせてはいない。

 

 

 しかしその謎の答えは以外にも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直ぐに判明することとなる。

 

 

 この先の、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリンク族の街にて。



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カオス覚醒の問題点

ウィート草原 残り期日九十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホーク「クアアアアアアアアアァッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

アローネ「!!ホークです!!皆気をつけ…!?」カオス「ウインドランスッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズバンッ!

 

 

 

 

 

 

ホーク「クアッ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

タレス「………一瞬でしたね。

 戦闘体勢に入る間も無く………。」

 

 

ミシガン「凄い………前までのカオスと全然違う………。」

 

 

ウインドラ「頼もしい限りだな。

 カオスがいればどんなモンスターが相手でも敵ではないな。」

 

 

カオス「それほどでも無いけど………。」

 

 

ミシガン「それほどでもあるって!

 流石カオスだね!

 うんと頼りになるようになっちゃって!」

 

 

カオス「今回は偶然ホークが来るのが見えて瞬間的に撃退しようと思っただけだよ。」

 

 

タレス「それでもボク達ではホークに先制攻撃を受けていましたよ。

 やっぱりカオスさんは早さなら誰にも負けませんね。」

 

 

カオス「言い過ぎだって。

 オサムロウさんがここにいたら俺よりも早くホークに気付いてオサムロウさんが俺の代わりにホークをやっつけてた筈だよ。」

 

 

ウインドラ「カオス、

 今回の功績は素直に受け取っておけ。

 ここにいてホークを迎撃したのはお前なんだ。

 お前がいち早くホークに気付きホークを葬った。

 …俺達はカイメラとの戦闘が終わって気を抜きすぎてたんだろうな。

 こんな見晴らしのいい空から飛来するモンスターに反応が遅れるとは………。」

 

 

カオス「気にするなよ。

 今のホークだって咄嗟に手が出ただけなんだし。」

 

 

ミシガン「いやぁ………それでも今のはちょっと早すぎるよ。

 今までのモンスターとの戦いで最速だったんじゃないの?

 私なんてモンスターか来るよりも先にカオスの技がみえたもん。」

 

 

ウインドラ「どうやらこの付近からモンスターが現れ始めたようだな。

 もう先程からフリンク族の領地には入っているんだ。

 ブロウン族の領地の様子とは変わってきているみたいだ。

 俺達もカオスのようにモンスターが襲ってき次第迎撃していこうか。」

 

 

タレス「そうしましょうか。

 カイメラとの戦闘で沢山活躍したカオスさんにばかり任せてられませんよ。」

 

 

カオス「そんな張り切らなくてもいいのに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キヒィィィィィッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「さっそく出たぞ!!サイノッサスだ!!」カオス「バニッシュボルトッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチバチバチンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイノッサス「コヒィィッ…!!?」ドサッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………またカオスが倒したな………。

 俺もまだまだモンスターの気配を察知するのが甘いようだな………。」

 

 

カオス「だから気にするなって。

 無事にモンスターを倒せたんだから。」

 

 

ウインドラ「…そうだな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピィィィィィッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「!!今度はプチプリです!!ここはボクが…!」カオス「グレイブ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プチプリ「ピャァッ…」ドサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「……お見事です。

 流石カオスさんですね。」

 

 

カオス「このくらいどうってこと無いさ。

 今度の相手は大分簡単な相手だったね。」

 

 

タレス「そうだったようですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギチギチギチ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!!あれは………グラス…」カオス「フレアボム!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボヒュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラスホッパー「キィッ………!?」ジュッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

カオス「なんだかこの辺り異様にモンスターが出て来はじめたね?

 北の方に比べてもモンスターが密集している地域のようだね。

 ここら辺にはヴェノムはいないのかな。」

 

 

アローネ「………あの………大丈夫なのですか?

 カオスはその………そのように魔技や魔術を連用して………。」

 

 

カオス「え?………あぁ、今まで皆に魔術は任せっきりだったからね。

 その分働かないとなんか落ち着かなくて………。」

 

 

アローネ「あまり根を詰めないでくださいね?

 カオスは十分働いていますから………。」

 

 

カオス「………そうだね。

 少し気を張り過ぎたかな。

 ちょっと休んでようかな。」

 

 

アローネ「そうしていただけますか?

 一人で張り切らなくてもよいのですから。

 カオスご頑張りすぎて倒れないか心配なのですよ。」

 

 

カオス「(このくらいじゃあんまり疲れたりしないんだけどなぁ………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケヒヒヒヒヒ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「!!次のは私が…!!」カオス「スプラッシュ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザブンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴブゴブ「ゴガアッ!?」ドサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「あああああぁ!?

 次は私がやろうと思ってたのに!!?」

 

 

カオス「え?

 あっ………ごめんね。

 あのモンスター結構声が大きかったから大分近くまで寄ってきたもんだからそろそろ攻撃しないとなって思って………。」

 

 

ミシガン「え?

 あのモンスターが出てくる前から近付いてきてたの気付いてたの?」

 

 

カオス「うん、

 ああいう隙だらけのモンスターもミストの森にいた頃にはよく相手にしてたしモンスターの気配はなんとなく敏感なんだ。」

 

 

ミシガン「ふぅん?

 …でもちょっとカオス戦いすぎだよ?

 私達にもちゃんと見せ場残しておいてよ。

 カオスが攻撃しちゃうと一回で戦闘が終わっちゃうんだから。」

 

 

カオス「…そんなに戦ってるつもりはないんだけどなぁ………。

 一発攻撃を当てるどけだからなんか戦ってる気がしないし………。」

 

 

ミシガン「……次はカオスは手を出さないでね?

 カイメラに負け続けた分の鬱憤が貯まってるんだから。」

 

 

カオス「…弱そうなモンスターだったらお任せしようかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グルゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「こいつは………ブルシス……!?」

 

 

タレス「こんなところにギガントモンスターが…!?」

 

 

アローネ「ここは散らばって注意を引き付けつつ皆で」カオス「アイスニードル!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキィィィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルシス「ゴアッ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズズゥゥゥゥゥンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ふぅ、危ないところだったね。

 いきなりギガントモンスターが出てくるなん「ちょっと!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「私達全然戦えないんだけど!!?」



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バランスの悪いメンバー

ウィート草原 残り期日九十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「もう!!

 これじゃあ私達全然戦うことが出来ないじゃないのよ!?」

 

 

カオス「そんな無理に戦う必要は無いと思うけど………。」

 

 

ミシガン「カオスはもうちょっと手加減………じゃなくて休んでなさいよ!?」

 

 

ウインドラ「力を使えるようになったのはいいが今度は逆に使い過ぎなんじゃないのか?」

 

 

カオス「って言っても魔技一発撃っただけだよ?」

 

 

タレス「それでもここまでのモンスター全部カオスさんが一人で倒してますよ?

 カオスさんのことだからマナが枯渇するようなことは無いとは思いますけどそれでも少々戦いすぎなのでは?」

 

 

ミシガン「私さっき言ったよね!?

 カオスは手を出さないでねって!」

 

 

カオス「怪我する危険がないくらい弱い敵だったらそうしてたんどけだど今のはギガントモンスターだったしちょっと危ないかなぁって………。」

 

 

ミシガン「大丈夫だってば!!

 私達皆あのカイメラとの戦いでカオスにマナを底上げして貰ったんだから今の私達ならさっきのブルシスとかいうモンスターが相手でも絶対に負けたりしなかったんだから!!」

 

 

カオス「そういう相手の情報も分からないのに相手を格下だと思って確実に勝てるなんて思い込みは危険だな………。

 野生のモンスターとの戦闘は何が起こるか分からないんだよ?

 ちょっとした油断で大怪我を負っても何も文句は言えないんだ。」

 

 

ミシガン「それは………、

 ………そうだけど………。」

 

 

カオス「皆にはなるべくヴェノムの主との戦い以外で傷付いて欲しくないんだ。

 一ヶ月以上も皆のことは待たせちゃった訳だし次のフェニックスに会うまでは俺がなんとか出来るようなモンスターが相手なら俺が全部片付けるよ。」

 

 

 そう言ってカオスは周囲の警戒に当たった。ギガントモンスターの周囲に他のモンスターが彷徨くようなことはないとは言いたいが念には念を入れてモンスターの索敵を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………想像以上にカオスさんの戦闘能力が高まって帰ってきましたね。」

 

 

ウインドラ「随分と頼もしく…………カオスは元から頼もしかったが今のカオスは前の数倍は頼もしいようだな。」

 

 

ミシガン「頼もしすぎるでしょ!?

 何であんなに魔技使いまくるの!?

 あれじゃあ私達カオスに護衛されながら旅してるようなものじゃない!」

 

 

アローネ「…彼の中でそれだけあの修行にかけてしまった時間が堪えているようですね。

 私達に気を使ってあのように一人で抱え込んでいるのでしょう………。」

 

 

タレス「イクアダでニコライトと戦ってから飛葉翻歩を技術に取り入れた時のようですね。

 あの時もカオスさんが遭遇するモンスターをほぼ一人で倒していましたし。」

 

 

ミシガン「責任感が強いのはいいことだとは思うけどあそこまで重く受け止められたらなんか気にしなくていいよなんて言いにくいし………。

 

 

 “()()()()()”は本当にどうしようもないくらい真面目なんだから………。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

 

 

 

 

タレス「ミシガンさんのお兄ちゃん呼びってなんだか違和感がありますね。

 ずっとカオスさんのことを弟だって言い張ってたのに。」

 

 

ミシガン「この間のことでね、もうそろそろお兄ちゃんだって認めてあげてもいいかなって思ったから今度からカオスの方がお兄ちゃんになったんだよ。」

 

 

ウインドラ「カオスは実力の割には精神が打たれ弱い。

 だがこの前の修行を経て大きくカオスは前進した。

 そのことをミシガンに評価されたんだな。」

 

 

タレス「まぁカオスさんはずっと一人でミストの森という場所にいたらしいですからね。

 人と接する機会の少なさからそういった面が成長しづらかったんでしょう。

 

 

 そしてあの修行で一つの試練を乗り越えたことによってカオスさんは自らの殻を破った。

 …これからどんどんカオスさんは逞しくなっていくと思いますよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「皆何の話をしてるんだよ。

 この辺りにはもう他にモンスターはいないみたいだからさっさと先に進もうよ。」

 

 

 

 

 四人が話し込んでいるとカオスが戻ってきた。連戦した直後だというのにまだまだカオスには疲れは見えないらしい。

 

 

ウインドラ「……もう少し先に行けばフリンク族の村があるようだ。

 今日はそこで休むとするか。」

 

 

ミシガン「フリンク族の村?

 もうそんな近くまで来てたの?」

 

 

ウインドラ「村と言ってもそこはフリンク族のほんの小さな村だ。

 これは予想だがその村にはフリンク族はいない。

 これまでと同じように無人の村となっているだろう。

 今日はそこで休ませてもらうとしよう。」

 

 

カオス「そうするか。

 出来れば早くフリンク族の人達に会ってフェニックスのことを聞きたかったけど。」

 

 

ウインドラ「…驚いたな。

 お前からそんな言葉が出てくるとは………。」

 

 

ミシガン「うん、

 なんかカオスが少し見ない内に変わった気がするよ。

 ………本当にカオスなの?」

 

 

カオス「当たり前だろ、他の誰だって「カオス」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピト………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

カオス「アッ、アローネ?

 どうしたの?」

 

 

 

 

 アローネがカオスに近付きカオスの顔に手を触れながら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「貴方は………カオスなのですよね………?

 カオス以外の誰でもないのですよね………?」

 

 

カオス「………?

 俺は………。」

 

 

 突然のアローネからの深刻そうな表情で意図の分からない質問にカオスはどう発言したよいのかと悩むが、

 

 

アローネ「………」

 

 

カオス「………………俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆が知ってる通りのカオス=バルツィエだよ。

 俺はずっと変わらない………。

 アローネと出会った頃のずっと同じままだ。

 修行が終わってからちょっと驚かせ過ぎたろうけど何も変わってないから安心して。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………そう………ですよね………。

 貴方は………貴方なのですよね………。

 ………貴方はカオス………。

 それはいつまでもそうなのですよね………。」

 

 

 

 

 

 

カオス「?」

 

 

 何か返答を間違えたのかとカオスは思った。自分が誰なのかと訊かれたので正直に答えたつもりだが彼女が欲しかった答えはもっと別のものだったらしい。一体何と答えればよかったのだろうか。考えても自分には自分の名前以外に答えは無いのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「アローネさんどうしちゃったの?

 急にカオスの顔触ったりなんかして。」

 

 

カオス「さぁ………?

 俺にも何がなんだか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「(………何を考えていたのでしょうか………。

 カオスはカオスなのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………修行を終えて帰ってきてどこか達成感を噛み締めて自信に満ちたカオスの表情がどこか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サタン義兄様と影が重なって見える………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが始まって終わる度に私達を心配するあの顔も幼い頃私を外に連れ出してモンスターから守ってくださったサタン義兄様の仕草に似ている………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの………力に見会わない内面の脆さもカオスはサタン義兄様に………。)」



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フェニックスと先見隊の影

放棄された村レーレ 夜 残り期日九十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達一行はフリンク族の住む地方にまで足を踏み入れその中でも最寄りの村へと来ていた。

 

 

カオス「ここにも誰もいなかったな………。」

 

 

アローネ「えぇ、

 やはりどこかへと避難しているようですね。」

 

 

タレス「家々の家財は持ち運ばれていました。

 それも結構前に移動したようです。」

 

 

ウインドラ「やはりこの地方の中央まで進んだ方がいいだろうな。

 そこに行けばフリンク族の都があるようだ。」

 

 

ミシガン「そこまでどのくらいかかりそう?」

 

 

ウインドラ「……ざっと三日と言ったところじゃないか?

 トロークンからここまでの距離の半分程度の距離だしトロークンからここまで六日と掛かった。

 後三日歩き続ければフリンク族の新都“フリューゲル”へと到着する。」

 

 

カオス「……そこに行けばフェニックスがいるんだね。」

 

 

ウインドラ「いるかどうかは分からんぞ。

 ミーア族のクラーケンのこともあってどこか別の場所に引き付けられたり閉じ込められたりしていることもある。」

 

 

ミシガン「でもフェニックスって不死鳥なんでしょ?

 鳥って言うくらいなら空も飛べそうだし閉じ込めるなんて無理じゃない?」

 

 

タレス「オサムロウさんの話ではフェニックスは当時犠牲者が一人しかおらずフリンク族も色々とフェニックスに対処してたみたいですが悉く失敗に終わったようです。」

 

 

アローネ「攻撃する都度その体を再燃させて復活を遂げる不死の鳥フェニックス………。

 その再生力はカイメラとどちらが上なのでしょうか………?」

 

 

ウインドラ「………望みとしてはカイメラの方が上であってほしいな。

 あれを越えられてしまっては対応を考えなければならん。

 カオスの術があるとしてもカイメラはあのグラビティを三度も耐えたんだ。

 フェニックスがカイメラよりも上の存在だったとしら一体どうすれば………。」

 

 

ミシガン「水か氷で攻撃すればいいんじゃないの?」

 

 

タレス「その程度のことはもうやってるって話だったじゃないですか………。

 “火”には“氷”、無ければ水か地と言った相性は一般常識ですよ。」

 

 

ミシガン「でもそれって普通の人達の話でしょ?

 ヴェノムって普通の人達が何やっても意味無いじゃん。

 その点私達なら相手が火のヴェノムって言うなら氷か水か地が有効だって言うならここに水と地はいるけど。」

 

 

アローネ「氷は…………レイディーがいてくれたら………。」

 

 

ウインドラ「カイメラに敗北した彼女が今どこで何をしているのか全く情報が無い。

 今度のフェニックスに彼女の氷の力は効果的だがそれは逆に彼女も一人でフェニックスを相手にするのは難しいと言える。

 氷の能力者と火のヴェノムではお互いに天敵同士だ。

 それでいて機動性の高い空からの火炎が彼女に向けられたらそれでレイディー殿はカイメラと同じ二の鉄を踏むことになる。

 ………今度のフェニックスに関してもレイディー殿は素通りした可能性が高い。

 彼女もそう続けて二連続ヴェノムの主に敗北することは良しとしないだろう。

 彼女は頭がいい女性だからな。」

 

 

ミシガン「ここでもレイディーと合流出来ないか………。

 今頃レイディーどこで何してるんだろう………。」

 

 

カオス「逃亡のプロを自称してたくらいだし生きてるのは確かだと思うよ。」

 

 

アローネ「逃亡のプロですか………。

 盗賊みたいな人でしたよねレイディーは。」

 

 

タレス「レイディーさんの話はさておきボク達が作戦を立てなければいけないのはフェニックスですよ。

 この村の人達もフェニックスに襲われて避難しているのならどうにかして一度会って話を聞かないと。」

 

 

ミシガン「フェニックス………鳥と言えばカオスが倒したグリフォンだけどあれってどうやって倒したの?」

 

 

カオス「グリフォン?

 ストーンブラスト撃ったらそれだけで倒せたけど………。」

 

 

アローネ「カオスが魔術を使えるようになったのは私達と再開する直前なのでしたよね?

 それまではどのようにグリフォンと対峙していたのですか?」

 

 

カオス「それまでは………グリフォンが襲ってきた時はまだ俺も魔術を使う決心が付かなくてさ。

 ダインのレアバードに乗せて跳んで逃げてたんだけど何度逃げても追ってきて捕まっちゃたんだよ。

 それでダインがピンチだと思ったら魔術を撃たなきゃ、って思って気が付いたらグリフォンにストーンブラストを撃ってて………それで倒したんだ。」

 

 

ウインドラ「同じ飛行する相手でも逃げ切れなかったか………。

 飛行生物の飛行速度は地上を走るどの生物よりも早いからな。

 飛行生物から逃げ切ることなど不可能に近いぞ。」

 

 

ミシガン「それだったらフェニックスが出たこの地方の人達って結構危ないんじゃない?

 よく犠牲者が一人しか出てないよね。」

 

 

タレス「それは古い情報ですよ。

 数年前の最後の情報なんですから当てにしない方がいいです。

 今はどの程度犠牲者が増えているか………。

 この村も所々荒れてますし多少犠牲者が増えててもおかしくありません。」

 

 

ウインドラ「…そのことについてだが………ここについてから俺なりに調べたところの調査報告になるが………、

 

 

 この村を見て皆はどう思った?」

 

 

カオス「どう思ったって…………。」

 

 

アローネ「何かモンスターの出現を予期して住民が避難したとしか………。

 そしてその無人になったこの村をモンスターかヴェノムが徘徊し暴れまわった。

 そういう見解だと思いますが………。」

 

 

 カオス達はこの村に付いてからこれまで通り住民の有無を確認した。そしてその結果はこれまでと同じように無人だったと出た。人がいなくなってから長い間放置されていたのか至るところに誇りが溜まっていた。ここが放棄されて長いせいで色々な箇所にモンスターが荒らした形跡が………、

 

 

ウインドラ「騎士団にいた頃はこうした失踪事件を担当したこともあってな。

 このような住民がいなくなった廃墟を調査することもあったんだがその経験を踏まえて俺が導いた答えなんだが、

 

 

 

 

 この村は溜まった埃の溜まり具合からして放棄されてから数ヵ月から数年経っているのに対し荒らされている場所は比較的新鮮だ。

 壊されている場所には埃はそう無かった。

 ここが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

アローネ「最近の話………?」

 

 

カオス「無人の村にモンスターが来て暴れたってことか?」

 

 

ウインドラ「ここを襲った時無人だったかは判断できかねるが少なくとも人の足跡らしきものは特に部屋の中には無かった。

 ここを襲った何者かは無人の村を攻撃したのだろうな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

タレス「…!

 それってまさか………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「バルツィエの先見隊がこの辺りに潜んでいることが予測される。

 それも破壊の焼け跡からして()()使()()()()()()()()()()()()()

 今回のフェニックス討伐では激しい攻防戦が予想される。

 騒ぎに乗じてその火を使うバルツィエが介入してくる可能性が非常に高い。」



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炎のバルツィエ?

放棄された村レーレ 夜 残り期日九十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「バルツィエの先見隊……!」

 

 

アローネ「一体誰が………。」

 

 

ウインドラ「先見隊がどの程度の人数いるのかは分からないし心当たりのある火を扱うことに長けたバルツィエは俺が一人殺した。

 だから誰が来るのかは俺でも予測できない。

 退役し地方に飛んだバルツィエはかなりの人数に上るしな。」

 

 

カオス「心当たりって言うと“ラーゲッツ”か………。」

 

 

ウインドラ「そうだ。

 だから今度かち合うとしたらそれ以外の火を使うバルツィエだろう。

 …ここの様子からしてダインのように口で丸め込めることは出来ないだろうな。

 この村の襲い方からして相当な暴れん者のようだ。」

 

 

ミシガン「火のヴェノムの主の次は火のバルツィエも相手しないといけないの~!?」

 

 

ウインドラ「“次”ではなく“同時”ということもあるぞ。

 フェニックスを相手にするのが難しいようなら先にバルツィエを何とかしないといけなくなることもある。」

 

 

タレス「火を使う敵が一体と一人………。

 カオスさんがどちらかを相手にしている間にボク達がもう一方に当たった方が良さそうですね。」

 

 

アローネ「ではカオスとこの中の誰か二人でフェニックス討伐に当たりましょう。

 いくらカオスでもヴェノムの主相手に一人では厳しいでしょうから。

 そして残りの三人で先見隊のバルツィエを足止めするということで決定ですね。」

 

 

ウインドラ「そういう作戦なら俺はバルツィエの方の相手をしよう。

 奴等は騎士でもある。

 接近戦ではこの中では俺以外にバルツィエと戦うのは厳しいだろう。」

 

 

タレス「それではボクかアローネさんかミシガンさんの誰かがカオスさんとフェニックスを相手にするんですね。

 カオスさんは誰と組みますか?」

 

 

カオス「そうだなぁ………そういう内分けなら………、」

 

 

 現在回復が出来るのが五人中三人。カオス、アローネ、ミシガンの三人だ。戦闘が激化するとすればフェニックスの方だが自分がいればどうにか勝利は納められるだろう。反対にバルツィエの先見隊との戦いではそちらは数が三人と自分のポシジョンよりも一人多くはなるがそれでも自分の見ていないところでの戦闘が行われることに少々不安がある。出来れば三人の方には回復役のヒーラーが多い方が安心できる。

 

 

 とすれば必然的にカオスのパートナーはタレスと決まるのだが、

 

 

 

 

カオス「じゃあ今回は俺とタレスで「私がカオスとフェニックス討伐に当たります。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「今回は私にカオスと一緒にフェニックス討伐に当たらせてください。」

 

 

 

 

カオス「アローネ………?」

 

 

 タレスを指名しようとしたらそれを遮ってアローネがフェニックス討伐に名乗り出た。それを聞いて他のメンバーは、

 

 

ウインドラ「それは構わんが何か考えがあってのことなのか?

 お前は風系統の魔術士だが風と火では特に相性は変わらないぞ?」

 

 

タレス「ボクはバルツィエが相手になるのならそれでいいですけど………。

 どちらかと言えばボクもバルツィエに当たりたいです。」

 

 

アローネ「ほら、

 タレスもこう仰っておりますしカオスとは私が組みます。

 ウインドラはミシガンとタレスの二人でバルツィエと当たってください。」

 

 

ミシガン「それはそうなるけど………どうしてアローネさんはフェニックスの方に行きたいの?」

 

 

 突然理由も言わずにフェニックス討伐を申し出たアローネにミシガンが訳を問う。他の二人もアローネがフェニックス討伐に行きたい理由を知りたそうだ。

 

 

アローネ「…私はこれまでの主との戦いではまともに活躍する場面がありませんでした。

 ウインドラがブルータル、ミシガンがクラーケン、レイディーがジャバウォックと来て私は自分がグリフォンを担当するのだと思っておりました………。

 しかしグリフォンは………。」

 

 

ミシガン「あぁ………もうカオスが倒しちゃったんだよね………。」

 

 

アローネ「仰る通りです。

 ですので私もこの辺りで何か功績をと思い今回はフェニックス討伐に参加したいのです。」

 

 

ウインドラ「そこまで深く思い詰めることもないんじゃないか?

 俺達は全員で主討伐に挑んでいるんだ。

 誰が倒しただとかそんなことに拘らなくても全員で主を全部倒したことにすれば………。」

 

 

アローネ「それでもやらせてください。

 今回はカオスと一緒にフェニックスと戦いたいのです………。」

 

 

タレス・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

 あまりにもアローネの決意は堅いようだ。ここまで強くお願いされれば無下には出来ない。

 

 

 しかしアローネがフェニックス討伐に拘る理由が何か他にもありそうだとは彼女の様子から感じ取れる。四人はそれを聞き出そうとは思わなかったが………、

 

 

ウインドラ「…そうまで言うのなら一先ずはそのチーム分けでいいだろう。

 ただしこのチーム分けはあくまでもフェニックスとバルツィエの先見隊が同時に相手しなくてはならなくなった時のことだ。

 どちらか一方だけでいいのならその時は五人全員で両方それぞれと戦う、それでいいな?」

 

 

アローネ「……私はそれで構いません。」

 

 

カオス「……?」

 

 

ミシガン「フェニックスとバルツィエが同時かぁ………。

 カイメラの時はあのダイン………さんが手伝ってくれたのに今度のバルツィエの人とは戦わなくちゃいけないなんて面倒だなぁ………。」

 

 

タレス「ダイン=セゼア・バルツィエはバルツィエでも例外だっただけですよ。

 あぁいう人は本の一握りもいないくらいです。

 本当のバルツィエはあんな物分かりがよくは………。」

 

 

ウインドラ「今回のバルツィエはそんな都合よく俺達と協力してフェニックスと戦うことにはならないだろう。

 バルツィエ的にはヴェノムの主はむしろそのまま倒されずに俺達を打ち負かしてほしい筈だ。

 ヴェノムの主とバルツィエが結託………することはないだろうが俺達がフェニックス討伐に当たっているタイミングで横槍を入れてくることもあるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………両者にとって俺達は敵ということになるがフェニックスとバルツィエには出来れば互いに潰し会ってもらえると助かるんだがそんな上手い話がある訳ないだろうな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリンク族の都市フリューゲル 近辺

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッタレがああああああああああああァッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何なんだよ!!あの糞焼き鳥はァッ!!?

 この俺様が一ヶ月以上もあの街に入ることすら出来ないだと!!?

 あの鳥は何で俺だけを攻撃してくるんだッ!!?

 俺なんかよりもあの街の奴等を攻撃しろよ!!

 奇妙な見た目してるくせに人に飼い慣らされてんのかよ!!?

 

 

 ふざけるな!!

 この………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()様がたかがモンスターの変異種ごときにしてやられるなんてあっちゃならねぇ!!!

 偽カオスや本命カオスなんかよりも先に絶対にあの糞鳥を必ず俺の手でぶっ殺してやる!!

 俺様が炎使いの腕前で他の奴に越えられることなんざ許されることじゃねぇ!!

 

 

 絶対にあの焼き鳥野郎をテメェが守ってるその街の住人ごとぶっ潰してやるから覚悟しておくんだなぁッッッ!!! 」



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フェニックスについて

ブラーゼン天風道 残り期日九十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビュオオオオオオオオオオオオオ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「()()()()!()!()!()!()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マンティス「ギィエッ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「あぁ~~!!?

 またカオスがやっつけちゃった~!!」

 

 

タレス「カオスさんだけ剣術のみで戦うルールにしても意味ありませんね。

 元々剣で戦ってきた人ですし剣の方が逆にモンスターを倒すスピードが早いですよ。」

 

 

ウインドラ「ここまで()()()はモンスターと戦闘しているがカオス以外で四人もいて俺達の誰かがモンスターに攻撃出来たのはたったの二回だな。」

 

 

アローネ「ほぼ十回に一度の割合で私達はやっとカオスよりも先にモンスターに攻撃するのが追い付けるのですね………。

 それも四人での話ですから実際には一人あたりの攻撃回数は一回にも満たない………。」

 

 

カオス「そんなこと数えてたの?

 別に誰が何回攻撃したとか倒したとか気にしなくてもいいのに。」

 

 

ウインドラ「精霊の力無しに純粋な技力で言えばな、俺達はお前に大きく差がある。

 お前の力は俺達の遥か先を行っているんだ。

 同じパーティーチームとして背中合わせに戦っているというのに敵は全てお前が持っていくとなると俺達の立つ瀬が無いんだよ………。」

 

 

ミシガン「精霊の力が大きすぎて忘れてたけどカオスって剣の腕も一流だからね………。

 これはもう剣も封印するしかないよ。」

 

 

カオス「剣も魔術も封じられたら俺はどう戦えばいいんだよ………。」

 

 

ミシガン「だから戦わなくていいって!

 私達でモンスターは何とかするからさ!

 カオス最近働きすぎだよ!?

 ここまでのモンスター全部って言ってもいいくらいカオスが倒してるんだからさぁ!」

 

 

タレス「この辺りならまだボク達だけでも十分ですよ。

 カオスさんだってそろそろ疲れているでしょうし今から遭遇するモンスターはボク達に任せてください。」

 

 

カオス「そう?

 そんなに疲れてはいないんだけどなぁ………。

 マナだってまだ全然減ってないし………。」

 

 

アローネ「………」

 

 

ウインドラ「…魔術の枷が外れてからカオスはどんどん戦いにおいて手がつけられない程腕を上げていくなぁ………。」

 

 

タレス「オサムロウさんが言ってたことを肯定したくはないですがカオスさんは一人の方がなんか主討伐も捗りそうですよね………。」

 

 

ミシガン「………って言うかさぁ………、

 なんかこの地方さぁ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モンスターがやけに多くない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………確かにな。」

 

 

 

 

 カオス達がこのフリンク族領に足を踏み入れてから彼等はモンスターとの連戦続きである。先程ウインドラが発言した通りここに来てからカオス達は三十にも及ぶモンスターとの戦闘が行われていた。

 

 

 それも………、

 

 

アローネ「そうですよね………、

 この地方に入ってからはモンスターの出現頻度が格段に上昇しています。

 ブロウン族領とは比べ物にならないほどに………。」

 

 

タレス「それだけじゃありませんよ。

 こんなに沢山モンスターとの戦闘があるにも関わらずこの地方では………、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 今までのダレイオスでの旅のことを振り返ってみれば有り得ない確率です。

 他の地方では戦闘があれば三回に一回はヴェノムに感染したモンスターが出てきてたのにここではまだ一度もそんな個体に遭遇すらしない………。」

 

 

ミシガン「ヴェノムって次から次へと他のモンスターに感染を続けるんでしょ?

 ヴェノムが一日から数日でスライム形態になってそれから何も食べられるモンスターがいなくなったら飢餓で消えちゃうって………。

 こんなにモンスターがいたらそんなこと起こらないと思うけどなぁ………。」

 

 

ウインドラ「正確にはヴェノムに感染した生物がヴェノム形態になるのは飢餓が起こり始めてからだ。

 捕食出来る他の生物がいるのなら暫くはゾンビ形態が続く。

 言ってみればヴェノム形態が既に飢餓している途中の状態だ。

 ヴェノム形態に陥った個体は飢餓は免れられない。」

 

 

アローネ「とするとこの付近でヴェノムが確認されないのはそういった個体すら存在しないことになりますね。」

 

 

ミシガン「ヴェノムの主はこの地方にもいるんだよね?

 フリンク族の人達も犠牲になった人は一人しかいないって言ってたしヴェノムウイルスを撒いているフェニックスがウイルスを撒けてないってことにならない?」

 

 

タレス「余程フェニックスは狩りをするのが下手だと言うことになりますね。」

 

 

ウインドラ「しかし情報によればフェニックスは鳥型のモンスターの筈だ。

 上空から攻めればそう獲物を逃がすとは思えないのだが………。」

 

 

アローネ「……何かこのフリンク族の領地は変ですね………。

 ヴェノムの主を警戒して住民が移動した形跡はあるのにこの地方にはヴェノムの影すら確認できない………。」

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………本当にフェニックスっているのかな?」

 

 

ウインドラ「それは…………いるからこの間の村はもぬけの殻だったんじゃないか?」

 

 

ミシガン「でもさぁ………、

 ブルータルやクラーケン、ジャバウォック、ビックフロフター、レッドドラゴン、カイメラと後……何だっけアインワルドの………「アンセスターセンチュリオン」それそれ!

 そのどれもが元からいたギガントモンスターだったり沢山食べ過ぎて変化したモンスターだったでしょ?

 けどフェニックスって()()()()()()()()んだよね?

 

 

 それってどんな変化をしたらそうなるの?

 フェニックス自体がこのデリス=カーラーンでも架空の存在なんだよ?

 子供の時に呼んだ本とかで伝説上の生物として描かれてくるくらいだし………。」

 

 

タレス「…しかし現にフェニックスが現れたからフリンク族は………。」

 

 

ミシガン「それでもヴェノムが全然いないってなるとこの地方に本当にヴェノムがいるかどうか…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ヴェノムを感染させないヴェノムと言うのであれば一つだけ思い当たる節がありますよ。」



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フェニックスについての考察

ブラーゼン天風道 残り期日九十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「……何か分かったのかアローネ。」

 

 

ミシガン「この地方にヴェノムがいない理由があるの?」

 

 

 フリンク族の領地に来てカオス達はこの地方にヴェノムの生息を確認出来ず不信に感じているとそのことについてアローネに意見があるようだ。

 

 

アローネ「私とカオスとタレスでマテオのとある坑道の奥で“ガーディアント”というヴェノムに感染した()()()()と戦ったことがあります。

 レイディーはそのガーディアントのことを魔法生物だと仰っておりました。

 

 

 魔法生物………、

 私達の旅では幾度となく深く関係してきた生物………。

 その仕組みは精霊であったりヴェノムであったり………私達のことであったりと様々な形がありましたが今回のフェニックスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元々魔法生物が変化した生物なのではないでしょうか………?」

 

 

 アローネが核心を突いたようにフェニックスが魔法生物からヴェノムの主になった生物だと断言する。それに対して、

 

 

カオス「どうしてフェニックスが魔法生物だと思うの?」

 

 

アローネ「思い出してください、あのガーディアントのことを。

 あのガーディアントはヴェノムに感染していた個体ではありましたが通常の生物が感染した個体は常に他の生物のマナに引き寄せられて移動を繰り返しています。

 しかしあのガーディアントやエレメント達はあの坑道のずっと奥の方で待機しておりました。

 それもヴェノム形態になることもなく。」

 

 

タレス「ミーア族のシーグスさんの話ではヴェノムに感染した生物がヴェノム形態に変化するのは生物が持つ()()()()()()()という作用が極限に働いた結果だとも言ってましたね。

 だからあのガーディアント達はヴェノム形態に変化しなかったんでしょう。」

 

 

アローネ「えぇ…、

 あのガーディアント達は古代の人の手によって作られた人造の魔法生物………、

 生物が持つオートファジーは彼等にはその機能自体を持ち合わせていないでしょう。」

 

 

ミシガン「そんなのがいたってことは分かったけどそれがこの辺りにヴェノムがいないこととどう関係するの?」

 

 

 アローネの説明では何故この付近にヴェノムが蔓延していないのかが説明出来ていない。ガーディアントの話を蒸し返したのには何か意味があるのだろうが、

 

 

アローネ「ヴェノムに感染した生物はその強い感染力と強い食欲で他の生物を捕食しようとします。

 けれど私達が遭遇したそのガーディアント達魔法生物は私達と戦った際、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()だけでした。

 彼等の外見的特長からしてみても私達を捕食する器官は存在していなかったのでヴェノムに感染していたのだとしてもそれは単に私達がその場に足を踏み入れたからでしょう。

 彼等は主にその場所を守る衛兵として作られたのですから。」

 

 

ウインドラ「…確かにレサリナスにいた時にも無機物の魔法生物が古代の遺跡を守るように配置されていた話は聞いたことがあるな。

 お前達が行ったその坑道の他にも古代の遺跡は数多く見つかっている。

 ヴェノムに感染したのは外から入ってきたモンスターが持ち込んだのだろう。」

 

 

アローネ「そうなのです。

 人によって作られた人造魔法生物は例えヴェノムに感染してもそれまでと変わらない行動をし続ける………。

 古代の方に命令されたことを忠実に守り続けるのです。

 ………そして今度のフェニックスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古代の技術によって作られた人造魔法生物が目覚めて出現したものなのではないでしょうか………?」

 

 

 

 

 

 

ミシガン「フェニックスが古代の人造魔法生物………?」

 

 

アローネ「はい、

 私の推測では何らかの原因でフェニックス………人造魔法生物が目覚めてヴェノムに感染した。

 しかし彼等は目覚めても古代人の課した命令に従い続けその場から動こうとしなかった。

 彼等は自らが守る持ち場に侵入者が現れない限り迎撃はしない。

 それがここフリンク族領地でヴェノムが回らない理由なのだと私は考えています。」

 

 

ウインドラ「なるほどな………、

 だがそれだと二日前に訪れたあの村の住民が移動した理由が不明のままだぞ?

 お前のいう人造魔法生物が目覚めたのだとしてそいつらは近づかなければ害は無いだろう。

 そこのところはどう考えているんだ?」

 

 

アローネ「私も全ての辻褄が合う答えに導けておりません。

 ですがヴェノムウイルスが蔓延していないのであれば私の考えに近い答えが返ってくるでしょう。」

 

 

タレス「ヴェノムの主がその場から動かない………。

 鳥類という飛ぶ種族なのに誰も感染していないのであれば考えられる推理ですね。

 フェニックスがウイルスをばら蒔かないのはフェニックス自身がその場に留まり続けているから………、

 その推理が合っているのであるなら問題はどこにフェニックスが留まっているかです。」

 

 

カオス「アローネの話の通りだったとしたらネイサム坑道の時みたいに洞窟みたいなところの奥深くで待ち構えてそうだね………。

 そしたら俺は………。」

 

 

ミシガン「洞窟?

 洞窟の中にフェニックスがいたら大規模な魔術って使えなくなるんじゃないの?」

 

 

タレス「ボクが懸念しているのはそこなんですよ。

 もしアローネさんの推理がほぼ正解だったとしたら今回のフェニックス戦ではフェニックスが崩落しやすそうな洞窟に隠れていたらボク達は魔術無しで物理攻撃だけでフェニックスと多発性戦わないといけなくなる。

 今度のフェニックスは死なないことに定評がある敵です。

 そんな相手に主砲が撃てない状態で挑むのは危険すぎます。」

 

 

ミシガン「だったら洞窟ごと埋めちゃえばいいんじゃない?

 クラーケンの時みたいにさ。」

 

 

ウインドラ「そう簡単に洞窟を崩すのは止した方がいい。

 もし洞窟を崩して連鎖的に他の場所も崩れたりしたら大災害を呼ぶことだってある。

 山崩れなんてそう珍しいことでもないんだぞ。」

 

 

アローネ「その洞窟がどこかの街の地下にあることもありますよね。

 セレンシーアインのように。」

 

 

ミシガン「そっかぁ………、

 結構洞窟の中にいるモンスターと戦うのって難しいんだね………。」

 

 

カオス「まだアローネの推理が当たっているか確かめてからの話なんだけどね。」

 

 

アローネ「私の考えで間違っているのでしたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックスは本当にどのような生物なのでしょうね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………残念なことにこの後のフリンク族の都市でアローネの推理が全くの検討違いだったことが発覚する………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックスは洞窟の中に潜んでいるのでもなければ元人造魔法生物でもなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………フェニックスは………………だった。



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到着フリンク族の都市フリューゲル

フリンク族の都市フリューゲル 残り期日八十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ…………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス達がフリンク族の都市フリューゲルに付いてからこれまでのダレイオスでの旅では絶対に見られることは無いだろうと思っていた光景がそこには広がっていた。

 

 

カオス「………なっ、何で………?」

 

 

アローネ「この街は………。」

 

 

タレス「フリンク族が普通に出歩いてる………?」

 

 

ミシガン「それもこんなに沢山………。」

 

 

ウインドラ「他の地方の連中はヴェノムの主を警戒して穴蔵に身を伏せていたりしたのにこの街のフリンク族は堂々と往来を…………。

 

 

 こんな暢気に出歩いていて大丈夫なのか………?

 こんなところ………フェニックスにとっては見付けてくれと言っているようなものだぞ。

 本当にアローネの推測通りの何処かの遺跡を守って動かないようなヴェノムの主なのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリンク族の都市フリューゲル。そこはここまで数多くの当たり前のように人がいなくなった村や集落を見てきたカオス達にとって想像出来なかった風景であった。

 

 

 街に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()。人の街であるのなら人が大勢いたとしても当たり前の景色なのだがここはヴェノムの主が出現したことによって人々がどこかヴェノムに見付からないような場所へと隠れ住むようになったダレイオスだ。このフリンク族と思われる人々の街もその例の一つである筈。

 

 それだというのにこの街の人々はさも自分達は何も間違ってはいないごく当たり前の生活をしているかのように振る舞っている。カオス達は一瞬ここがダレイオスではなくマテオのどこかの街なのではないか?と錯覚するが自分達には海を越えてマテオに戻ってきた記憶は無い。順当にブロウン族の領地からフリンク族の領地へと地図を辿って確認しながら来たという記憶しかないのでここは確かにフリンク族の領地である筈なのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警備人「………ん?

 お前達見かけない顔だな………。

 どこの部族の者だ!

 ()()()()()()()()()()ではないな!?

 何者だ!?」

 

 

 カオス達が有り得ない光景に呆然としていると街の入り口にいた警備の者らしき人物に話し掛けられた。突然五人の統一感の無い怪しげな集団が訪れれば正しい反応ではあるが、

 

 

カオス「!

 俺達は………」警備人「!!?こっ、この桁違いのマナとカーラーン教会の修道服を着た女性………!それからマテオの騎士と子供とあと…………………一般人っぽい女子………!

 

 

 もしや貴殿方は()()()()()()とか言う噂のあの………!?」

 

 

 カオスが自己紹介をしようとした瞬間警備の者は五人の身なりを見て何やら誰かから聞いたであろうカオス達が名乗らされている組織名を言い当てた。

 

 

ウインドラ「…確かに俺達はスラート族長ファルバン殿からそのような名前で呼ばれるように言われたが………。」

 

 

ミシガン「一般人っぽい女子って私のこと?」

 

 

タレス「子供って………それが手っ取り早い特長ではありますが………。」

 

 

アローネ「…もしや先程ミーア族と仰っていましたがミーア族の方がここへと訪れていたのでしょうか?」

 

 

 

警備人「しっ、失礼致しました!!

 貴殿方が訪れたら族長の()()()から通すように言われております!!

 ささっどうぞどうぞお入りください!

 族長ナトルの邸宅はこの先の真っ直ぐ行った奥の方に御座います!」

 

 

 警備の者はカオス達が大魔導士軍団だと分かると急に下手に出てカオス達を街の中へと誘導する。その様子からミーア族の方で事前にこの街を訪れてカオス達の情報を伝えていたことが伺える。カオス達もそのつもりだったのでここは素直に警備の者に従い紹介された族長ナトルとやらの元へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警備人「…………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あっ、あれがミーア族が言っていた大魔導士軍団か………。

 …遂に来てしまったんだな………。

 あの日に東の方で光った強い稲光をあの先頭のあいつが………。

 それだけのマナは確かにあったな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …あの()鹿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が今回は警備がザルで正解だったな………。

 うっかり手を出してたら逆に殺られてたんじゃないか?

 あいつらヴェノムでも関係なく殺せるって言うし………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………にしても大魔導士軍団かぁ………。

 あの化け物を退治しに来たんだろうなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 来なくてよかったのに………。

 ここはあの化け物がいるから平穏でいられるのになぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………はぁ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリンク族の都市フリューゲル 族長邸宅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「私の名はナトルと申します。

 貴殿方のことは先日参られたミーアの遣いの者からお聞きしております。

 ようこそ御越しいただきました。

 我がフリンクの街へ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達は警備の者に言われた通りに移動しフリンク族の族長ナトルの邸宅へと訪れていた。この邸宅へ来る途中街の中にいたフリンク族の者達からは訝しげな視線を感じた。警備の者とナトルの発言からミーア族が既に事の経緯を話していたようだ。それなら話が早く進められてさっそくフェニックスの情報を聞き出せそうだったのだが、

 

 

ナトル「では先ず始めに貴殿方のことについてお訊きしたいのですが………このフリンク領でヴェノムの主は何匹目になるのでしょうか?」

 

 

アローネ「?

 何故そのようなことをお訊きに?」

 

 

ナトル「いえ………念のために貴殿方のことをミーア族の遣いの者が仰っていた情報と照らし合わせて本人確認をと。

 貴殿方五名の特長からして御本人様だとは思いますが一応ここへ参られたのでしたら予定ではここで六匹目になるのではないかと………。」

 

 

タレス「……そうですね。

 ここに辿り着くまでにボク達はブルータル、クラーケン、ジャバウォック、ビックフロスター、グリフォン、そして最後にカイメラの順番で倒して回ってきたので今回のこの地方のフェニックスで七匹目になります。」

 

 

ナトル「なんと………、

 グリフォンまで討伐済みでおられましたか。

 流石で御座いますね。

 その流れでここのフェニックスまで討伐なされようと………。

 このような遠い地まで御足労誠に感謝致します。」

 

 

 ナトルは深々と御辞儀をしカオス達を歓迎する。

 

 

ウインドラ「…では早速ではあるがナトル殿、

 フェニックスについての情報を「大魔導士軍団ご一行様方。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

族長補佐「長旅で御疲れでしょう。

 今日のところはこちらで宿の方を手配致しますのでそちらでどうぞお体を休めください。

 族長ナトルとはこの後大事な要件が御座いますので。」



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フェニックスの正体がグリフォン?

フリンク族の都市フリューゲル 族長邸宅 残り期日八十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「はい?

 ですが私達はフェニックスのことについてお訊きしたいのですが………。」

 

 

族長補佐「大変申し訳ないのですが本日は急用なお仕事がナトルにはございまして遺憾ながらそちらの方を優先させていただきたいのです。

 なにぶん大魔導士軍団ご一行様方が本日中にお目見えになるとは存じておりませんでしたのでこちらの方も都合が悪くこの後直ぐにでもナトルをそちらの方へと派遣させなければならないのです。」

 

 

ナトル「待て、

 それならそちらの方をキャンセルして「族長」」

 

 

 

 

 

 

族長補佐「…まだ私達はあの話に納得はしていないのですよ。

 それでなくともこの件は賛成派と反対派が分かれて意見が纏まっておりません。

 あの件に関しましてはもう一度再考していただかなければこのままでは内乱を引き起こしかねません。」

 

 

ナトル「むぅ………、

 だがしかしもうこうして………。」

 

 

族長補佐「そのことでしたら私の方にお任せを。」

 

 

ナトル「………あい分かった。

 ではお前に任せるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 ………非常に申し訳ありません。

 私の方はこれから街の者達と急ぎの会議がありまして話の続きはこのフラットからお訊きください。」

 

 

 そう言ってナトルは部屋を出ていった。何やら慌てていた様子であったが、

 

 

 

 

 

 

フラット「………という訳でして皆様のご案内は私フラットが務めさせていただきます。」

 

 

アローネ「宜しくお願いします。」

 

 

ミシガン「それでフラットさん、

 フェニックスの話を訊きたいんだけど………。」

 

 

タレス「現在フェニックスがどこにいるのかとその能力、それとフェニックスによって出た被害状況が過去一人からどの程度更新されたのかを教えてください。

 知っているのであればフェニックスがどんな生物から変異したのかも。」

 

 

ウインドラ「情報さえ訊ければ直ぐにでも俺達はフェニックス討伐に向けて出発できる。

 なんなら明日にでも早速取りかかろう。」

 

 

 街に到着してまだ一時間も経過していないというのにフェニックス戦にやる気を漲らせる四人。この一週間カオスがモンスターを独り占めしていたためまともにモンスターと戦うことが出来なかったのでその闘志をフェニックスにぶつけたくて仕方ないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがしかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「…皆様のその熱い熱意に感服致しますが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残念ながら皆様はフェニックスにお会いすることは叶いません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このようにフラットからフェニックスと戦うことを無理だと告げられてしまう。

 

 

カオス「フェニックスに会えない………?

 それはどういう………。」

 

 

アローネ「私達のことを疑っておられるのですか?」

 

 

ウインドラ「ミーア族から聞いていないのか?

 ミーア族から話を聞いているのならブルータル、クラーケン、ジャバウォックまでは俺達と俺達のもう一人の仲間が退治したのだと報告されている筈なのだが………。」

 

 

 ミーア族はクラーケンを倒した直後に情報の伝達役をお願いしている。それと出来るのならヴェノムの主の捜索も。話し方の雰囲気からしてミーア族は既にここを発っているようだが………、

 

 

 

 

 

 

フラット「大変失礼致しました。

 誤解をなされているようですね。

 それはそうでしょう。

 何せ()()()()()()()()()をしていたのですから。」

 

 

ミシガン「勘違い?」

 

 

タレス「ボク達と………貴方達も………?」

 

 

 フラットの発言の意味が分からず五人は困惑する。カオス達とフリンク族が何を勘違いしていたのだろうか。

 

 

フラット「……実はですね………。

 貴殿方がフェニックスを退治にし御越しくださったというのにこのようなことを伝えなければならないのは心苦しいのですが………、

 このダレイオスに出現したヴェノムの主は全部で、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()。」

 

 

ミシガン「八体………?

 

 

 ………え!?八体!?」

 

 

ウインドラ「八体とはどのヴェノムの主なんだ?」

 

 

フラット「貴殿方が討伐なされたブルータル、クラーケン、ジャバウォック、ビックフロスター、グリフォン、カイメラとまだ討伐が完了されていないアンセスターセンチュリオン、レッドドラゴンの計八体です。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私達フリンクの見間違えからヴェノムの主として名が他の部族に伝わってしまいました。

 ですのでフェニックスは私達が勘違いからその存在が触れ回ってしまった非現実のヴェノムの主です。

 そのような主は現実にはおりません。」

 

 

アローネ「フェニックスが見間違え………?

 一体何と見間違えてそんなことに………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「()()()()()で御座います。」

 

 

タレス「グリフォン!?」

 

 

 フラットはフリンク族がグリフォンとフェニックスを見間違えて

 

 

カオス「ちょっと待ってください!

 どうしてグリフォンをフェニックスと見間違えるんですか!?

 俺はグリフォンは見たことありますけどグリフォンの体にフェニックスと見間違う要素なんて…!」

 

 

 オサムロウとの会話ではフェニックスは体が火に包まれている話だった。たがグリフォンには体のどこにも燃えている箇所なんて………。

 

 

 

 

 

 

フラット「貴殿方には特別な力がお有りですが………、

 私達にはその力がないことはご存知ですよね。

 フェニックスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我々の炎の魔術をグリフォンが受けてそれで全身が燃え広がった瞬間を我等の仲間が見て捉えその様子を広めてしまったことから出来てしまった。

 ただそれだけの話なのですよ。」



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既に依頼が完遂?

フリンク族の都市フリューゲル 族長邸宅 残り期日八九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「フェニックスが………見間違えから始まった架空のヴェノムの主だと仰るのですね………?」

 

 

フラット「えぇ、

 ですので皆様が倒される御予定のヴェノムの主は残りは()()

 アインワルドのアンセスターセンチュリオン、そして………ブルカーンのレッドドラゴンで御座います。」

 

 

 フラットは口にした。フリンク族の地方に現れたフェニックスなどは単なるグリフォンを見間違えて数を足してしまった幻の存在に過ぎないと。

 

 

 それでいてカオス達が狩るべきは残りの二部族のヴェノムの主しか残っていないと。

 

 

タレス「何故グリフォンがフリンク族の地方に………?」

 

 

フラット「元々グリフォンはこの()()()()()()()()()を中心に置く地方のモンスターでしてグリフォンはこの周域に生息しておられたのですよ。

 私共も危険なグリフォンを野放しに出来ないと思い過去に先発隊を派遣してグリフォン討伐に出向きました。

 ギガントモンスターと言えども私達が数を揃えれば討伐は難しくも不可能ではない。

 そう考え先発隊は出発しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかしその時期に丁度バルツィエがここから最果ての東のアイネフーレ領へと侵攻しダレイオスにヴェノムの主を出現させたのです。

 私達が討伐に向かったグリフォンもバルツィエが撒いた悪魔の種をその身に受け既にヴェノムの主として覚醒しておりました。

 それにより先発隊は半壊し命からがら戻ってきた兵士達の言によれば体を全身焼き払ってもなお活動を止めないヴェノムの種に変貌してしまったことを聞きました。」

 

 

ミシガン「それが……フェニックスだって見間違えたの………?」

 

 

フラット「えぇ、作用で御座います。」

 

 

 ミシガンの確認の問いにフラットは肯定した。

 

 

 しかし、

 

 

ウインドラ「………フェニックスが実はグリフォンだったと言うのであれば俺達としては討伐する数が減って助かるのだが………、

 

 

 ここに来るまでの道中無人の村があったのは何故だ?」

 

 

フラット「そこにつきましては我々フリンク族は皆風を操る部族でございまして………、

 風の魔術は水の魔術と同じであまりにも殺傷性に乏しい属性で御座います。

 このダレイオスの()()()()()()でも我々フリンクはミーアと最弱を競うほど力関係が著しく下層に位置する部族に御座います。

 ですので力の無い我々は少しでも強い力………ヴェノム達に立ち向かうためにフリンク領の民を全てこのフリューゲルに集めて防衛を謀っているのです。」

 

 

ウインドラ「………理解した。」

 

 

カオス「ヴェノムの主がグリフォンだったとして………俺達のことはミーアの人から聞いていますか?

 俺達は今ダレイオスの全部族の再統一を目指しているんですけど………。」

 

 

フラット「御安心下さい、その件も聞き及んでおりますよ。

 勿論我々も貴殿方の目的とその行く先も承知しております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でのすでフリンクは貴殿方の計画に賛同することは決定しておりますよ。

 そのための部隊も既に編成を組んでいる段階で御座います。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・ミシガン・ウインドラ「!!」

 

 

タレス「既に決定している………?」

 

 

フラット「はい、

 我々も貴殿方と共にマテオと戦う道を選びました。

 我々のような弱小部族の力など些細な物ですがそれでも後方支援として貴殿方のお力添え出来ることを心より願っております。

 

 

 共にマテオと戦いましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラとの激闘で消費してしまった時間は思いの外簡単に取り返すことが出来た。不死身の中の不死身と呼ばれるフェニックスが実はグリフォンで既にカオスによってグリフォンは倒された。残りのヴェノムの主は二体。二体を討伐しなければならない期間は残り約九十日。一体に四十五日かけていい計算になるがこれまでで一番時間がかかったカイメラでさえ四十日での討伐完了………。ここでカオス達のヴェノムの主攻略の旅は想定していた難度が一気に簡易化されたかのように一行は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「一つ訊いてもよろしいか?」

 

 

フラット「何でございましょうか?」

 

 

ウインドラ「……先程無人の村があったと言ったんだがそこは人為的に何者かに最近荒らされた形跡があった。

 高確率でバルツィエの先見隊がこの地方に来ていると思うんだが何か知らないか?」

 

 

フラット「………………バルツィエの先見隊ですか………?

 あぁ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いえ、

 何も知りませんね。

 恐らくそのバルツィエの先見隊とやらは他の地方に向かったのでしょう。」

 

 

ウインドラ「………そうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリンク族の都市フリューゲル 宿

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「こちらが皆様の宿泊施設となります。

 ではごゆっくり………。」

 

 

 フラットはカオス達を先程言っていた通り宿を案内すると帰っていった。

 

 

ミシガン「……なんか拍子抜けだね………。

 噂が噂だからカイメラと同じくらいスッゴいのが待ってるのかと思ったらもういなくなっちゃってたなんて………。」

 

 

タレス「フェニックスがグリフォン………。

 それが()()だったとしたらボク達は後アンセスターセンチュリオンとレッドドラゴンだけに集中出来ますが………。」

 

 

アローネ「…何か状況が好転し過ぎているように思えますね………。

 そこがどうにも何か不安を掻き立てられるように感じますが………。」

 

 

ミシガン「でもヴェノムの主がこの地方にいないって言うのはこの街とここまでの道のりで十分説得力あるんじゃない?

 ヴェノムなんて一匹も見なかったでしょ?」

 

 

カオス「それはそうなんだけど………、

 俺もなんかちょっと不自然過ぎるって言うか………。」

 

 

ウインドラ「そうだな。

 俺も何か話が出来すぎていると思う。

 フェニックスがグリフォンだったと言うのであればそれを確認する術は無いがバルツィエの先見隊がこの街に来ていないという話はおかしい。

 これだけ人が増えて大きな街がバルツィエに見つからない筈がない。

 あの無人の村で見た限りこの地方に来たであろうバルツィエはかなりの凶悪な性格をしている筈なんだ。

 それがこの街を無視してどこかへ行ってしまうなどと思えんが………。」

 

 

ミシガン「だけどこの街は特にそんなバルツィエが来たなんてこと言ってなかったんだよね?」

 

 

ウインドラ「そうなんだが………、

 ………もしやこのフリューゲルが発展しすぎて警戒してまだ襲う機会を窺っているのかもしれない。

 …一応街の外にいたあの門番にでも聞きに行くとするか。」

 

 

 そう言ってウインドラは部屋を後にした。

 

 

カオス「……じゃあ今日はここで寝泊まりしてもいいようだし自由時間にしようか。」

 

 

 カオス達は一抹の不安に駆られながらも今日のところは提供された宿で泊まることにした。



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夜の闇に一人の少女

フリンク族の都市フリューゲル 北東部近辺 夜 残り期日八十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「魔神剣・双牙!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プチプリ「クギャッ!?」ズバッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……今のは魔神剣だけでもいけたなぁ……。

 ………にしてもこれじゃあ全然戦った気にすらならないなぁ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはあれから皆と別れてフリンク族の都市フリューゲルの近くのモンスターがいそうな草原で一人で軽く訓練がてら周囲の警戒に来ていた。バルツィエの先見隊はまだフリューゲルに到達してはいないようだがウインドラの話では今日明日にでも来てもおかしくはないらしい。なのでこうして見回りに来たのだがフリューゲルの周りにいるのは普通のモンスターしか見当たらない。

 まるでこの辺りだけ世界から隔絶された平和な土地のように………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかしそんなことが有り得るのか?いくらこのフリンク族の領地にヴェノムの主がいなかったのだとしてそれで普通のヴェノムまで一匹もいなくなることが有り得るのだろうか?ヴェノムがいないことは良いことだとは思うがそれでヴェノムの主がいないだけでヴェノムが全くいなくなるのはどこか腑に落ちない。ここまでの道中でヴェノムがいたという過去の痕跡すらも残っていなかった。フリューゲル程治安が良さそうなのであればいつまでもヴェノムが残した障気や腐った土などは清掃するとは思うが………。

 

 

 それでいてバルツィエの先見隊が来ないのは何故だ?バルツィエならダインや自分のような温厚なバルツィエであればフリューゲルを攻めなくても不思議ではないがウインドラの調査ではこの地方に来ているとされるバルツィエは少々気が粗そうなバルツィエが来ているようだ。それも()使()()()()()()()()()

 

 

 火の属性を得意とする者は少なからずバルツィエ程ではないが気の強い者が多い。サハーンやラーゲッツがその例だろう。………カタスティアは炎使いなのかは分からないがダインのように例外なのだろう。

 とにかく炎使いのそれもバルツィエなら様子見などせずにとっくにフリューゲルを攻めていてもおかしくはない。あの水使いのランドールでさえダレイオスで一、二を争うセレンシーアインをたった一人で攻めてくるぐらいなのだ。それであったらこの地方のバルツィエは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……ちょっと心配になってきたな………。

 広い街だけど外周だけでも様子を見てみようかな。」

 

 

 カオスはバルツィエが攻めてこないか心配になりフリューゲルの周りを回ってみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリンク族の都市フリューゲル 西部近辺 夜 数時間後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……はぁはぁ………、

 ちょっとこの街大きいなぁ………。

 外回りだけでもかなり時間かかるなぁ………。」

 

 

 軽い気持ちで街の周りを一周しようと思ったのだが予想よりも大分時間が経過してしまった。それでなおまだ半周もしていない。

 

 

カオス「……本当に何も無かったなぁ………。

 ヴェノムもバルツィエもいなさそうだけど………、

 

 

 もうそろそろ帰ろうかな………。」

 

 

 特に不審な要素も無くカオスは泊まる予定の宿に戻ろうとした。これ以上回ってみても()()()()()()という結論に至りそうだったからだ。これ以上の探索はただ無意味に終わるだけだろう。

 

 

カオス「……怪しいところと言えば………()()()()()()ってことなんだけど………。」

 

 

 カオス達五人はカイメラに続く激戦になるであろうフェニックスに向けて気を引き締めてこの地方に踏み行ってきた。それなのにヴェノムの主のフェニックスもいなければバルツィエの先見隊も来ていない。

 

 

 なんならヴェノムすらいない、ヴェノムに困ってすらいない。自分達の計画には乗り気なフリンク族。計画がスムーズに進められるのは良いのだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………何か悪いことを期待するのはちょっと不謹慎過ぎるかな………。

 このフリューゲルのように世界がこんな平和な世界だったら良いのに………。」

 

 

 気付けばこのフリンク族の景色はあのミストでヴェノムが出現してしまったミストのかつての景色に似ている。ヴェノムが現れなければミストもこのようなフリューゲルのような姿のままだったろうに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 ふと誰かの気配を感じ後ろを振り返る。その気配は唐突ではあったが只者ではない気を感じた。カオス自身モンスターやヴェノムを警戒しながらここまで歩いてきたが瞬間的に自分の背後を取るモンスターなどこの辺りにはいなかった。

 

 

 この気配は人の気配だ。それもこの見晴らしの良い場所で自分に覚られずに背後を取る人物などバルツィエくらいしか思い付かない。

 

 

 しかもこの背後の取り方には覚えがある。ウィンドブリズでダインがカオスの背後から話し掛けてきた時とそっくりだ。十中八九この気配はバルツィエで間違いない。バルツィエであるとしたら例の気性の激しい炎使いのバルツィエで確かの筈。そんな奴に後ろから先制攻撃を許してしまったら………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………と瞬間的に多くのことを考え付き身構えて振り返ったカオスだったがバルツィエからの攻撃は来ず、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポロポロ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリューゲルの街を眺めながら涙を流す謎の少女の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………?

 君は………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「……!?」ビクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら彼女もカオスの存在に今気がついたようだ。ここまで接近しておきながら御互いに気が付かなかったとは………。

 

 

 しかし見たところバルツィエではなさそうだ。彼女の風貌からしてフリューゲルのフリンク族だとは思う。恐らく街の住人なのだろう。服装もフリンク族達と………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………よく見れば少々汚れが目立つ服を着ている。長いこと同じ服を使用しているのではないか?洗濯などはしていないのか?外見的にはまだミシガンよりも少し幼い程度の女の子だ。それならまだ家族と一緒に暮らしていると思うが先程の涙は家族と喧嘩でもして家出でもしたのだろうか?それでもやはり服ぐらいなら新しい物に取り替えてもらえるだろうに。この子の親は何をやっているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「ヒッ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あっ、ごめん………。」

 

 

 あまりにカオスがジロジロ観察しすぎたせいで少女が小さな悲鳴を洩らす。こんな夜更けに大の男が幼い少女に変な目を向けていれば怖がられるのも当然だろう。

 

 

 しかし本当にこの子はこんなモンスターがいるようなところで一人でどうしたのだろう?子供なら家に帰った方が安全だと思うのだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォッ………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…何だ!?」

 

 

 突然カオスと少女のいる場所からずっと西の山の方で爆音が響いた。見れば山の中間付近で火でも燃えているかのように明るい場所が見えた。

 

 

 何かがあそこで暴れているのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………何か危なそうだな………。

 君も早く家に帰った方が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ってあれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬山の方に目を向けた隙に目の前にいた少女が消えてしまった。時間帯的に薄暗いとはいえ本の数秒目を離しただけなのだが彼女の姿はもうどこにも無かった。まるで最初から少女はいなかったかのように………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………何だったんだろう………あの子………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それにしても妙な気配がしたんだけどなぁ………。

 あの子は………多分バルツィエじゃないと思うけど………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの気配は絶対にバルツィエのものだと思ったんどけどなぁ………。」

 

 

 カオスは不思議な少女との出会いに妙な気分にはなったがそのまま帰途に着くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時のカオスが感じたことの正体はカオスは単なる気のせいだということにして納得することにしたのだが………。



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昨夜の少女は何者か?

フリンク族の都市フリューゲル 宿 翌朝 残り期日八十八日

 

 

 

ミシガン「んぁ………おはよう………。」

 

 

カオス「おはよう………どうしたのミシガン?」

 

 

 朝起きたらミシガンから気の抜けるような朝の挨拶をかわされる。それになんとか挨拶仕返すが、

 

 

アローネ「…昨日あれから遅くまでミシガンはこの街を見て回っていたのです。

 それで寝不足に………。」

 

 

ミシガン「ふわぁぁあ~ぁ………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 大丈夫かこの子?こんなコンディションでは一日と気力が持つまい。どうしてこんなになるまで街を………。

 

 

 

 

 

 

アローネ「昨日はビックリしましたよね………。

 まさかこの地方のヴェノムの主フェニックスがグリフォンで既に私達はグリフォンを討伐し終えて残りがアンセスターセンチュリオンとレッドドラゴンの二体だけになっていただなんて………。」

 

 

ミシガン「ふわぁ~あ………、

 ………そう、それそれ………、

 急にヴェノムの主が二体だけになってるだなんて聞いて一気に気が抜けたわよ。

 だから昨日はやることも無かったしこの街結構大きかったから見て回ってたら道に迷っちゃってそれで中々ここに辿り着けなくて困ったわ。

 広い街って誰かと一緒に回らないと駄目だね。

 道が全然覚えられないわよ。

 おかげでこの調子よ………ふあ~あ……。」

 

 

 相当眠るのが遅かったようだ。確かにこの街は広かった。カオスですら外周を回ろうとして半周程回る一歩手前で断念するほどに。

 

 

 昨日はあれから直ぐに戻りはしたが………、

 

 

 

カオス「ねぇ二人とも。

 昨日夜中に街の向こう………西側の方から大きな音が聞こえなかった?」

 

 

ミシガン「大きな音………?

 ………覚えてないなぁ………ってか気付かなかったし………。」

 

 

アローネ「何かあったのですか?」

 

 

カオス「…実は昨日さ、

 一人で少し街の外をブラブラしてたんだ。

 ……こういった大きな街にいるよりも俺はどっちかって言うと外の方がなんか落ち着くからさぁ。

 寝るまで街の外にいたんだよ。」

 

 

アローネ「一人でですか………?

 ……カオスのことですから平気だとは思いますが外にはモンスターがおります。

 ですので外に向かうのでしたら一言声をかけてから誰かと一緒の方がよろしいかと………。」

 

 

 カオスが一人で外を探索していたことを知るとアローネが心配して忠告する。

 

 

カオス「大丈夫だったよ。

 この街に来るまでそんな凶暴そうなモンスターなんていなかったし。」

 

 

ミシガン「いやいや結構いたでしょうが凶暴なモンスターは………。

 私達何回モンスターと遭遇したと思ってるの………。」

 

 

 ミシガンが突っ込みを入れるがいつものキレが全く無い。本調子に戻るまでまだまだかかりそうだ。

 

 

カオス「平気だったって、

 俺一人でどうにか出来る程度のモンスターしかいなかったし街の近くだから魔術を使うと騒ぎになりそうだったから剣だけで戦ったけどそれでも余裕だったよ。」

 

 

ミシガン「結局モンスターはいたんじゃない………。」

 

 

アローネ「それで先程の大きな音とは?」

 

 

カオス「あぁ、

 昨日俺達がこの街に入った時に街の入り口の北東側から西側の方まで行ってみたんだけどなんか夜中にずっと西の山の方で何かと何かが戦ってたみたいなんだ。

 その山の真ん中辺りで火の手が上がってさ………。

 ちょっとそれが気になって………。」

 

 

アローネ「火の手が………?

 バルツィエでしょうか………?」

 

 

カオス「俺もそれが気になったんだけど大分遠くの方で戦ってたみたいだしこの街には関係無いかなって思ってそのまま放置した帰ったんだ。」

 

 

ミシガン「特にそこにいたバルツィエかモンスターかがこの街にまで来たってことじゃないんだね?」

 

 

カオス「多分ここまでは来てないんじゃないかな。

 そんぐらい遠くだったし街に戻る時も外で見張りをしていた人もなんか気にしてなさそうだったしね。

 この辺りではよく起こることなのかも。」

 

 

アローネ「……少しそのことについて調べてみますか?」

 

 

ミシガン「街の人達もなんか知ってそうだしね。」

 

 

カオス「……いや、

 ちょっと気になった程度だしいいよ。

 二人が気付いてたか聞きたかっただけだしもしかしたらただモンスターとモンスターが争ってただけだろうしね。

 それに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()あれが普通のことだったのかもしれないし。」

 

 

ミシガン「女の子が?

 どこを?」

 

 

カオス「だから街の外だって、

 俺が丁度その火の手が上がる前に会ってさ。

 あんな時間によく女の子が街の外に出られるなって………、

 実はそっちの方が気になってたんだよ。」

 

 

アローネ「女の子が外をですって………?」

 

 

ミシガン「危険じゃないのそれ?

 モンスターだってその辺にいたんでしょ?」

 

 

カオス「うん………、

 だから何か変だと思ったんだよ。

 服もなんか汚れが目立つくらいボロボロだったしそれに………。」

 

 

ミシガン「それに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………なんか街の方を見て泣いてたんだよその子………。」

 

 

 あの時見た彼女の表情ははっきりと覚えている。薄暗くてよく見えなかったが彼女の目からは確かな雫が流れ出ていた。それが街から放たれていた明かりに反射して光っていた。

 

 

 確かにあの女の子はあそこで泣いていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「何で泣いてたのその子………。」

 

 

アローネ「………()()()()でしょうか………?

 雰囲気の良さそうな街でそのような暗いことが………。」

 

 

カオス「幼児って程小さくは無かったよ。

 年頃は多分ミシガンと同じくらいかちょっと下なくらいだったよその子は。」

 

 

ミシガン「私と同じくらいの子?

 そんな子がどうしてそんな危ないところに一人で………。」

 

 

アローネ「その後その彼女とは?」

 

 

カオス「………分からない………。

 その子とは本の一瞬だけしか顔を会わさなかったし御互いの存在に気付いたと思ったら直後に山からさっき言ってた騒ぎが起こって………、

 そっちに気を取られてる隙にその子がいなくなっちゃったんだよ。」

 

 

ミシガン「いなくなった?」

 

 

アローネ「どこかへ去って行ったということですか?」

 

 

カオス「そうなんだろうけどそこが不思議なんだ。

 俺とその子が会った場所は夜だったから暗かったんだけどそれでも俺が目を離したのはもう十秒もないくらいだったんだ。

 それなのにその子は忽然と消えたようにいなくなっててて………。

 辺りには人が隠れられそうな物もない草村だったし………。」

 

 

アローネ「………確かに異様な話ですね………。

 カオスであればここに来る道中で誰よりも早くにモンスターの気配を察知して迎撃していましたから相手が人であるならカオスが誰かを見失うなどということは無いとは思いますけど………。」

 

 

ミシガン「草村に伏せてカオスをやり過ごしてたとかは?」

 

 

カオス「いくらなんでもそれじゃ絶対に隠れられないって………。

 草村って言っても俺の足首に届かないくらいしか生えてなかったし………。」

 

 

アローネ「…カオスが見失う相手………。

 バルツィエでしょうか………?」

 

 

カオス「俺もそれを疑ったんだけど流石にバルツィエがあんな格好の服をいつまでも来たままな訳ないよ。

 その子の服装は汚れてはいたけどこの街のフリンク族の人達と似た服装だったしその子は間違いなくこの街のフリンク族だった筈だよ。」

 

 

ミシガン「…じゃあどうやってその子カオスの前から消えたって言うのよ?」

 

 

カオス「さぁ………?

 俺もそれが分からなくて昨日からずっと考えてて………。」

 

 

アローネ「後でフラットさんかナトルさんにお訊きしてみるのが良いでしょうね。」

 

 

ミシガン「そうだね。

 私達だけじゃ全然分からないもん。

 会ったのカオスだけなんだし。」 

 

 

カオス「そうだね。

 そうしてみるよ。」

 

 

 一先ず昨日の謎の少女のことに関しては一旦置いておくことにした。カオス達はその場で未だ起きてこないタレスとウインドラを待つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……ちなみにその彼女のことは単に奇妙な体験をなさったから気になっておられるのですよね?

 決してその子のことを異性として気にしているとかではなく………。」

 

 

カオス「え?

 何言ってるんだよ。

 そんな直ぐそういう話になる訳無いだろ?」

 

 

アローネ「……それなら結構です。」 

 

 

カオス「……?」



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ダレイオス一の平和な理由

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「皆揃ってるか?」

 

 

 カオスがアローネとミシガンの二人に昨夜のことを相談しているとウインドラが()()()()()()()()()()

 

 

ミシガン「あれ?

 もう起きてたの?」

 

 

ウインドラ「あぁ、

 昨日のことが気になってな。

 

 

 フェニックスが本当にこの領地にいないのか調べようと思って出ていた。」

 

 

アローネ「それで何か分かりましたか?」

 

 

ウインドラ「いや………、

 特に何も………。

 ここにいるフリンク族達は外から来た俺達が珍しいのか視線は向けてくるが俺が話を訊こうとするとそそくさとどこかへと逃げていくんだ。」

 

 

カオス「逃げていく?」

 

 

ウインドラ「そうだ。

 最初は俺が騎士の身成をしているから警戒しているのかと思ってタレスにも協力を頼んだんだが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「御早う御座います。」

 

 

 ウインドラがタレスの名前を出したところでタレスもウインドラと同様に外から入ってきた。

 

 

ウインドラ「タレス、

 経過はどうだ?」

 

 

タレス「駄目ですね。

 ボクの方でも引き留めて話を訊こうとはしましたがフェニックスの名前を出すと途端に急用で帰られてしまいます。」

 

 

ウインドラ「…やはりか。」

 

 

ミシガン「どういうこと……?

 何でフェニックスのことを訊いて回ってるの?」

 

 

ウインドラ「昨日のフラットという男の話が少し気掛かりでな。

 最後戻る時に俺はこの地にバルツィエが来ていないか訊いて見たんだ。

 その時の反応がどうにも胡散臭くてな。

 バルツィエの先見隊には心当たりがあったんだろう。

 

 

 しかしフラットはバルツィエは来てはいないと言った。

 バルツィエの気性を考えたらここに来ていない筈が無いんだ。

 来ていないのだとしてもどこかでそれらしき何か事件でも起こっている筈だとは思うんだが………。」

 

 

タレス「皆何故か口をつぐんでしまうんですよね………。

 何か隠してる感が満載ですよ。」

 

 

ウインドラ「奴等はダインやランドールのようにレアバードで移動しているだろう。

 そして奴等が始めに姿を現してから既に二ヶ月近くだ。

 あのレアバードを使えばこんな街なんて直ぐに見つけられる筈なんだ。

 奴等もダレイオスの地図ぐらいは用意していることだろうしこの近くに潜んでいるのは大いに考えられ「ねぇ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「フリンクの人達がいないって言ってるならそれでいいんじゃないの?

 ここには来ていないって言ってるんだしそんな無理して探さなくてもいいんじゃない?」

 

 

 ウインドラの悪い予感をミシガンがぶったぎった。

 

 

ウインドラ「……そう言われるとそうなんだがどうにもここに来てから何かフリンク族達の様子が不自然なんだ。

 何かの話題で談笑していたかと思えば俺やタレスが通り過ぎると急に話を止めて俺達が通りすぎるまで待っていたりと。」

 

 

タレス「事前にボク達が来ることをミーア族から経由して分かっていたみたいですし何か連絡網が回ってるんじゃないですか?

 ボク達が来たらこんな感じで何かの話題は口にするなと。」

 

 

ウインドラ「その線が濃厚だろう。

 それを突き止めることが出来れば連中の怪しげな態度の理由も「もおおおおおぉぉッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「何でそんなに首を突っ込みたがるかなぁ!?

 フリンク族の人達がフェニックスもバルツィエもいないって言ってるんだからそれでいいじゃない!!!?」

 

 

 先程はタレスとウインドラの会話を軽く牽制したミシガンが今度は本気で注意してきた。

 

 

ウインドラ「しかしミシガン俺達は………。」

 

 

ミシガン「もういいじゃない!

 いないって言われたんなら私達にはどうやってもフェニックスを探し出せる方法なんてないよ!

 それよりも私達がここに来てしなくちゃいけないことは後もう一つあるでしょ………?

 

 

 “洗礼の儀”………、

 フリンク族が協力してくれるって言うならここの人達にもかけてあげなくちゃいけないでしょ………?

 この街の人達今までの他の街の人達の数なんか目じゃないくらい多そうなんだよ?

 余計なことをしようとしてる暇があったらそっちの方を先に終わらせようよ………。」

 

 

 朝一でつい先程まで眠そうにしていたミシガンだったが二人がフェニックスとバルツィエについて調査をしていると知ると急に二人を責める。

 

 

アローネ「ミシガンどうしたのですか?落ち着いてください。

 何故そこまでフェニックスとバルツィエに関わらないように言うのですか…?」

 

 

 ミシガンの様子がおかしかったためアローネがミシガンを止めに入る。

 

 

ミシガン「……おかしいのは二人だよ………。

 どうしてそんなにフェニックスとバルツィエのことを調べたりなんかするの?

 いないって言ってるんならそれでいいじゃん………。

 ワザワザいない相手のことを探しても意味ないでしょ?

 せっかくフェニックスがいないって分かって私達の目的にも余裕が持てる時間が出来たんだし今は少しだけゆっくりしようよ………。」

 

 

 アローネに止められて冷静になったのか落ち着きを取り戻すミシガン。彼女はどうやらフェニックスと戦わずにすみしばし休息をとりたいようだ。

 

 

 思えばミシガンだけでなく他の四人はこれまでブルータルを倒してからずっとヴェノムの主討伐を目指して来たため殆どこうした()()()()()街で休息を取れる暇が無かった。ミシガンがここまで激昂したのは自分達が常にヴェノムの主討伐のことに捕らわれてまともに落ち着ける機会を不意にしようとしているからなのだろう。ミシガンは元々戦いとは無縁の村からここまで同行してきたのだ。その理由はカオスを連れ戻すためであったり他の仲間達を守りたいというところにある。そんな彼女の思惑から外れて二人が危険………は無かったとはいえ自ら危ない橋を渡ろうとするような真似をすれば止められずにはいられないのだろう。

 

 

ウインドラ「……悪かった。

 

 

 ………そうだな………。

 ヴェノムの主がいないのであれば無理に余計なことは考えずに少しだけ体を休める期間も必要だな。

 俺達はカイメラとの戦いからずっと休みなく動き続けてきた。

 時間に煽られて余裕を無くしていたが今回のことで大分巻き返すことは出来たと思う………。

 

 

 

 

 

 

 カオス、

 この街でヴェノムの主討伐のことは一旦置き暫くはのんびりとするか……。」

 

 

 ミシガンに諭されウインドラもそれに納得したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムの主はこのフリンク族の領地にはいなかった。それならカオス達は残り約九十日の間に二体のヴェノムの主を狩るだけ。それだけなら本の少し暇な時間を作ることも可能だろう。

 

 

カオス「そうだね………。

 でも一応今日はまたナトルさんとフラットさんのところに行ってもう少し事情を訊いてからにしようか。」

 

 

 休息を取ることは決定したがそれはこの街のことを調べてからにすることにした。フェニックスもバルツィエもいないのであればこれからどうするか。

 

 

 先ずは現状フリンク族がどの程度カオス達の計画に邁進しているのかだけは訊いておかねば………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリンク族の都市フリューゲル 族長邸宅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………と言うように昨日は説明致しました。

 なので彼等には早々にこの街から去っていただくことにしましょう。」

 

 

ナトル「…それが堅実的か………。」

 

 

フラット「えぇ。」

 

 

ナトル「ミーア族が話していたあのヴェノムウイルスを無効化するレイズデットとかいう術はどうする?

 あれを彼等には街の皆にかけて行ってから出ていってもらわなければならないと思うが………。」

 

 

フラット「いえ、

 この街の治安と人口のことも話して彼等の旅に無駄な時間を裂く訳にはいかないと断りましょう。

 彼等にはなんとしてもこのフリンク族領から立ち退いていただかねば我々の立場が危うくなります。

 ………彼等にあの存在のことが知られれば彼等は()()を討ちに向かうでしょう。

 今アレを討たれるわけにはまいりません。

 この街の周辺に現れた()()()()()と西から攻めてくる()()()()()を防ぐ手立ては我々には無いのですからアレには彼等がブルカーンの()()()()()とやらをどうにかしてもらうまでは彼等の耳に入るようなことは避けましょう。」

 

 

ナトル「うむ、

 

 

 …決して悟られてはならぬぞ?

 あのことだけは絶対に何がなんでも隠し通すのだ。」

 

 

フラット「えぇ、重々理解しております。

 もしあのことがどこかで洩れでもすれば我々がどうなるかは……。」

 

 

ナトル「それが彼等に知られてしまえば我々フリンクはバルツィエだけではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 この………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリンク領にいる()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うことはな………。」



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閉塞的な不満

フリンク族の都市フリューゲル 族長邸宅 残り期日八十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンコーン…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「!

 彼等がやって来たようですね。

 では私が対応致しますので族長は街の方へとお向かいください。」

 

 

ナトル「分かった。

 直ぐに準備をして行くとしよう。」

 

 

フラット「では私はこれで………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャッ………スタスタ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「…………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (………こうするしかないのか………。私にはこうするしか………。

 部族を守るためならばこの()()()()()()()()()()()()()()()しかないのか………。

 昨日彼等から感じたマナはこれまで見てきたどんな者よりも凄まじい力を感じた。

 彼等なら例え何者が相手であろうとも敵わぬであろう………。

 

 

 ………それなら今この街の近くまで来ている()()()()()()()

 その両方を屠るまたとないチャンスだというのに………。

 どうしてそれが私には選ぶことが出来ないのだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………当たり前か………。

 部族の長として私は部族全体の面倒を見なければならない。

 先代から私にまで受け継がれてきた役割を私の一存で放棄してはならんのだ。

 それが………、

 

 

 

 

 

 

 正に今()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()私にはこの選択しか選べない………。

 私にはこの選択以外をとることは許されない。

 この街にはまだ()()()の力が必要なのだ。

 奴の…がいればあの狂人一族ブルカーンからこのフリンク領を守っていられる。

 

 

 ………しかし同時に奴の…の存在こそがこのフリンクの生存権を脅かす脅威になることも確か………。

 やはり彼等にあの忌々しい存在の()()()()を諮った方が………。

 だがそうなるとブルカーンからこの街を守る術が我々には………どうしたら………。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()()………、

 お前の仇を討つチャンスが巡ってきたというのに私にはどうすることも出来ない………。

 

 

 せめてこのぶつけどころの無い憎しみのやるせなさはラーゲッツと奴の…が何も知らずに互いに殺しあっているということを一人空しく想像して悦に浸るしか私が出来ることは無いのだな……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリンク族の都市フリューゲル 族長邸宅前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「おはよう御座います皆様。」

 

 

カオス「おはよう御座います。」

 

 

ウインドラ「?

 今日はナトル族長はどちらに…?」

 

 

フラット「申し訳御座いません。

 本日もナトルの方は昨日に引き続き大事な会合がこの後にありまして………。

 ですので今日のところも私が皆様をご案内させていただきます。」

 

 

アローネ「忙しいのですね………。」

 

 

フラット「そうなのですよ。

 他の部族達のように数が減ったら減ったでお困りでしょうがここでは逆に他の村から集めて増えたら増えたで意見を纏めるのが大変でしてもうナトルは毎日のように住民達から様々な要望を聞いてそれにどう向き合えばよいかを模索しております。」

 

 

タレス「主にどういった内容の話があるんですか?」

 

 

フラット「沢山ありますよ?

 外のモンスターが増えてきたからその数を調節しろだとか()()()()で扱いの差に不満があるだとか………。」

 

 

ミシガン「先民と後民って?」

 

 

 聞き慣れない単語にミシガンが疑問を投げる。他の四人も同様にフラットの返答を待つが、

 

 

フラット「先民と言うのは元からこの街にいた住民のことですよ。後民は()()()()()()()()()()()()()()()()()から住み始めた住民でして………、

 …同じフリンクでもちょっとした隔たりが出るんですよ。

 後から来た者は先にいた住民よりも格下だとか下らない喧嘩がしゅっちゅうありましてそういったトラブル解決にナトルが出向いて仲裁したりしているのです。」

 

 

カオス「同じ部族の人同士でもそういったことがあるんですね。」

 

 

フラット「はいそれはもう山のように積もる程起こるんですよ。

 今となっては先民などほんの一握り程度の数と思える程に後民が増えましたがね。

 ですから先民もあまり強くは言えなくはなりましたがそれでも偉ぶりたい気持ちを持つ者がまだいるようで………。」

 

 

アローネ「…部族間同士での争いは無くとも人が増えればそうしたことはどこででも起こりますよね。」

 

 

フラット「…人と言うのは争いの無い世の中にしたいと口にはしても心のどこかでは争いを求めているのかもしれませんね………。

 九の部族がそれぞれ散り散りに元いた住居に戻ってみれば今度は同じ部族間で喧騒が起こる………。

 ………きっと争いが無ければストレスが溜まるんでしょうね。

 人の社会の中には競争社会という共に高めあって上り詰めていく人達もいれば真逆に自らのプライドを保つために他人を蹴落として優位に立ちたいという自己中心的な者がいる排他的社会も御座います。

 今我々フリンクはその問題に直面しているのですよ。」

 

 

カオス「難しいんですね………。

 同じエルフのはずなのに………。

 まるで子供と同じだ。」

 

 

フラット「争いには子供も大人の垣根もありませんよ。

 あるのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自身が人より優れたいという自己顕示欲です。

 人よりも優れていると分かるには人を攻撃して自分がその者よりも勝っているという事実を確かめたいだけのただの我が儘でしかないのですから。」



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実在したフェニックス

フリンク族の都市フリューゲル 族長邸宅前 残り期日八十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「……して本日はいかが致しましょうか?

 フェニックスもいないと告知致しましたし今日のところは皆様の装備品を手入れできる工房を紹介しましょうか?

 それか我々フリンクが皆様の計画に参列しますので我々が来る日に向けて編成中の軍の様子でもご案内しましょうか?

 

 

 ……それか皆様が次に向かわれる地アインワルドの情報の方がよろしいですかね?

 私共も人数には大分余裕がありますのでなんなら皆様をアインワルドの地まで最短ルートで辿り着ける近道を私の部下にでも案内させますが?」

 

 

タレス「そこまでしてもらえるんですか?」

 

 

アローネ「次の地までの近道を教えていただけるのは助かりますが………。」

 

 

 ここに来てフェニックスがいないことが発覚してからフラットからは至れり尽くせりな提案ばかりを提唱される。カオス達にとってはこのフリンク領に来てから特にフリンク族のために何かをしたという訳ではないのにここまで尽くされるとどうにもそれを素直に受け取りづらいのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…前二つはいい案ではあると思うが三つ目の案はまだ少し待ってくれないか。

 俺達は昨日ここに来たばかりなんだ。

 そんな直ぐに出発出来るほど俺達の疲労は回復しきっていないんだ。」

 

 

フラット「…ですがお急ぎになられなくてもよろしいので?

 こうしている間にもアインワルド領では食人植物アンセスターセンチュリオンがアインワルドの者達に猛威を振るっていることでしょうし何よりミーアの遣いの者や昨日貴殿方が仰っていたバルツィエがどこかで暴れているやも知れぬのですよ?

 ……今は何事も起こってはおらぬようですが近い内にマテオが本腰を上げて攻めいってくる可能性も………。」

 

 

ウインドラ「その心配は杞憂だと思うぞ。

 バルツィエの先見隊が始めに姿を現したのは二ヶ月くらいも前の話だ。

 それでいて奴等が迂闊にもマテオが侵攻して来ないのはここにいる俺達の存在が影響して議会で揉めているらしい。

 俺達を倒したという証拠でも持ち帰らない限りマテオは国を上げてこのダレイオスに攻めてはこれない。

 

 

 それでなくとも奴等は()()()ではなく()()()なんだ。

 バルツィエは極秘利にこのダレイオスへと少数で足を運んでいる。

 奴等も事を慎重に当たらないといけない筈だ。

 俺達が生きてさえいればマテオが本腰を上げることは無いだろう。」

 

 

フラット「しかしアインワルドは今………。」

 

 

ウインドラ「どんな奴にも休暇は必要なんだ。

 ずっと動き続ければそのうち体が限界を訴えてくる。

 俺達はつい先日ヴェノムの主でも最強と思わしきカイメラを討伐したばかりだ。

 そしてそのままこの街に来た。

 ………俺達が無事なら戦争はまだ起こらない。

 アンセスターセンチュリオンも必ず俺達で何とかする。

 

 

 …だから少しこの街で休ませてはもらえないだろうか?」

 

 

フラット「……それは構いませんが………。」

 

 

カオス「……?」

 

 

 何やら話し方からしてフラットは早くカオス達にこの街を去ってほしそうな口振りである。先程の三つの選択肢は一見親切にカオス達のことを思って提案してきたものだとは思うがフラットが選んで欲しかったのはどうやら三つ目のアインワルド領へと急ぎ向かうことだったようだ。

 何故そこまでカオス達の旅を急がせようとするのか………。

 

 

ウインドラ「時にフラット殿。」

 

 

フラット「……何でございましょうか?」

 

 

ウインドラ「昨日貴方から聞いたフェニックスはグリフォン立ったという話………。

 間違いでは無いのだな?」

 

 

フラット「?

 ……えぇ、その通りで御座いますが………。」

 

 

ウインドラ「俺達はオサムロウ………サムライからフェニックスのことは聞いていた。

 不死鳥の名の通り不死身の中の不死鳥と………。

 考えてみれば納得する話だ。

 ヴェノムの主自体が不死身の存在だと言うくらいだからな。

 そう考えればどのヴェノムの主が不死身の中の不死身と称されるのも分かる話だ。

 フェニックスをグリフォンと見間違える話も理解出来なくはない………。

 ………しかし俺達は既にグリフォンを倒した。

 既に俺達はグリフォンと遭遇しているんだ………。

 ………それなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………フリンク族のヴェノムの主による()()()()()()という情報は今日まででどの程度更新されているんだ?」

 

 

フラット「…!」

 

 

ウインドラ「グリフォンを目にして分かった。

 グリフォンは空を飛行する捕食者だ。

 一度あれに狙われればどこまでも追跡してくるだろう。

 ここにいるカオスはそんなグリフォンを倒したみたいなんだがその過程でグリフォンは必用にカオスを追跡してきたらしい。

 それも振り切るのが困難だったようだ………。

 

 

 フェニックスがグリフォンだったのだとしてフリンク族はそんな奴を相手にどうやって犠牲者を一人に押さえ込んで今こうして何事もなかったかのように過ごしてこれたんだ?」

 

 

フラット「それは……!?

 ふっ、古い情報でして実際には数多く被害にあわれて……!」

 

 

ウインドラ「…にしてはこの街のヴェノム対策は杜撰な気がするぞ?

 ミーア族やスラート族はヴェノムに遭遇しないように地下空間やどこかの空洞に身を潜めていたりクリティア族はヴェノムが寄ってこないようマテオにあるような封魔石のようなマナを感知されにくい施しをしていた。

 昨日からこの街を見ていて思ったがここはそういったヴェノム対策が()()()()()()()()()()()()()()()

 あるのは気休め程度の外の見張りくらいなものだ。

 一度ヴェノムに襲われた経験をしているのならそういった何かしらの手を打たねばアイネフーレやカルト、ブロウンに続いてフリンク族も滅びてしまうぞ。

 

 

 …なのにここのフリンク族はヴェノムなど始めから恐れてなどいない、ヴェノムなどこの街には絶対に来ないといったように感じるほどに対策が甘いような気がする。」

 

 

フラット「くっ…!?」

 

 

ウインドラ「………教えてくれないかフラット殿………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故この街はヴェノムに襲われないんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン「………」

 

 

 ウインドラの疑念は話し出してからわざわざ蒸し返すようなことでもないだろうとは思った四人だったが聞いていく内にウインドラの疑念が正統性に基づいた指摘すべき事項だと気付く。

 

 

 フラットの話ではこの街の住人達はモンスターやヴェノム達から襲撃にあった際の防衛策として一ヶ所に部族を集結させたと言っていた。だがその行いは逆にヴェノムに万が一発見されて襲われでもしたら一網打尽にされてしまうのではないか?クリティア族の村なんかではそうならないためにも村の回りにマナや魔術を感知されないような術式を施工していた。人が多くなればその分ヴェノムは誰かしらのマナを感じ取り攻めてくるだろう。そして人が増えた分だけヴェノムが人を襲うチャンスは増えてくる。グリフォンなんかに襲われることがあったと言うのであれば尚更危険予知を込めて他の部族達以上にヴェノム対策は怠らない筈だ。

 

 

 なのにウインドラの話ではこの街はそういった対策が一切無いのだと言う。過去カオスとミシガンとウインドラが住んでいたミストでは殺生石の力に守られてヴェノムは襲撃しては来なかったがそれでも殺生石の力が無くなったと思われる時期から時間をかけてヴェノムは襲撃してきた。その時に多大な犠牲者が出てしまったのはミストの村の住人達が元いた旧ミストに移り住んだタイミングで世界にヴェノムの大発生が起こってしまったのでミストの住人達はヴェノムに対する対策など想定しようもなかったのだ。

 

 

 

 

 だがこの街は違う。この街の住人達はヴェノムという存在を知っている。知っていてなお何故かヴェノムの襲撃への備えをしていない。過去どれだけの犠牲を払ったのかは知らないがそれでも犠牲者は出ていると発言した。それなら何故この街には今もこうして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外を闊歩している住人達はヴェノムを全く恐れず生活出来ているのだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…どうなんだフラット殿?

 昨日から何か俺達に隠していることがあるんじゃないのか?」

 

 

フラット「えっ……あっ……そんなことは………。」

 

 

 狼狽えるフラット。その様子からこれはもう隠し事をしているのは明白だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………はぁ………やはり皆さんの話を聞いてから瞬時に思い付いた出任せではバレバレでしたよね………。」

 

 

 素直に白状するフラット。嘘を付いたことを認めたようだ。

 

 

ウインドラ「一体この街には何があるんだ?

 何故この地方だけ他の地方のようにヴェノムがいないんだ?」

 

 

フラット「ヴェノムならおりますよ………。」

 

 

アローネ「ヴェノムがこの地方にもいるのですか?

 しかし私達はここまで一度たりとも遭遇してはいませんが………。」

 

 

フラット「いえ、

 いるにはいるのですがそれが少々複雑なヴェノムでして………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この地方のヴェノムの主フェニックスが他の生物を襲わない特殊な個体なのですよ。」



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これまでとは違ったヴェノムの生態

フリンク族の都市フリューゲル 族長邸宅前 残り期日八十八日

 

 

 

ウインドラ「…やはりフェニックスは存在していたようだな………。

 しかし他の生物を襲わないとは何だ?

 フェニックスはヴェノムなのだよな?」

 

 

 フラットはフェニックスが実在していることをカオス達に告げる。

 

 

 しかしその内容はこれまでの経緯を思えば信じがたいものであった。

 

 

フラット「えぇ、

 フェニックスは人を襲いません。

 それどころかモンスターですら目の前にいても素通ししてしまうでしょう。」

 

 

ミシガン「ヴェノムなのに?」

 

 

フラット「えぇ、ヴェノムで御座いますが。」

 

 

タレス「…そんな話は聞いたことがありませんよ………。

 他の地方のヴェノムの主はみんな………。」

 

 

フラット「ですから特殊な個体だと申しているのですよ。

 フェニックスに害はないと。

 ………いえ、

 害は無いことはないですね。

 全身が炎に包まれてはいますが時折()()()を発します。

 あの黒い炎に触れてしまえばヴェノムに感染しますね。」

 

 

アローネ「黒い炎……!?」

 

 

カオス「………同じだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラの毒撃と………!」

 

 

 フラットの情報に寄ればフェニックスもカイメラと同様に黒い炎の毒撃を使用するらしい。

 

 

 だが、

 

 

アローネ「その黒い………私達はヴェノムの主が発するその黒い属性攻撃を毒撃と呼んでいるのですがその毒撃はどういった時に放たれるのでしょう………?」

 

 

フラット「フェニックスが貴殿方が仰られるその技を放つのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のみです。」

 

 

タレス「縄張り……?

 それはどこに………?」

 

 

フラット「…貴殿方にお教えしてもよろしいのですが一つ約束をしていただけますか?」

 

 

ミシガン「約束?」

 

 

ウインドラ「そうまで頑なにフェニックスから俺達を遠ざけようとするということはその約束とは、

 

 

 フェニックスに関わるなと言いたいのだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「はいその通りで御座います。

 貴殿方がダレイオスのヴェノムの主を討伐して回っていることは承知しておりますが今回のフェニックスに関してだけは貴殿方には手を出さぬようお願いしたいのです。

 どうかフェニックスだけはお見逃し下さいませ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……フリンク族の人達はフェニックスを倒して欲しくないんですか?」

 

 

 このフリンク族の地方に来た目的はフリンク族を脅かすヴェノムの主フェニックスを討伐しフリンク族をマテオとの戦いの戦列に加えることである。しかしフラットはフェニックスを倒してはならないと言う。一体何故なのか………。

 

 

フラット「それをお話するには先ず私共フリンクが置かれている状況を説明しなければなりませんね。

 少し話が長くなりますがお聞きしますか?」

 

 

アローネ「えぇ、

 私達はフェニックスを討伐に参りました。

 それなのにフェニックスを討伐してはならない訳をお聞きしなければなりません。」

 

 

フラット「……ではお話しましょう………。

 皆さんは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムとヴェノムの主がどういった特徴で分類分けされているかご存じ御座いますよね?」

 

 

タレス「ヴェノムと………」

 

 

ミシガン「ヴェノムの主の分類分け………?

 ……そんなの………時間差でスライム形態に変身するかしないかじゃないの?」

 

 

アローネ「そして主に関しては他の生物を捕食するか捕食されるかでその体積を増してギガントモンスターと同じくらいに巨大化する………ですよね?」

 

 

 何故そんなことを今更復習させるのか。それがフェニックスとどう関係しているのだろうか。

 

 

フラット「仰る通りで御座います。

 ヴェノムとヴェノムの主はそのポイントに違いはあれどそれによって誰しもが倒せるか倒せないかに分けられます………。

 ……しかし考えてみてください。

 ヴェノムが何故他の生物を襲うのかを………。

 クリティア族の話によればヴェノムが他の生物を襲う理由は飢餓から逃れるため。

 飢餓するということはヴェノムに感染した生物は死に絶えます。

 生物として死を恐怖するためヴェノムは他の生物を取り込もうとするのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ヴェノムの主が他の生物を襲う訳………?

 それは………ヴェノムだからとしか………。」

 

 

フラット「クリティア族はこうも仰っておりました。

 ヴェノムウイルスは進化のウイルス。

 進化してより強い生物へと変身する。

 生物としての死からより遠ざくための進化のための捕食だとも。」

 

 

 クリティア族の長老オーレッドが確かにそんなことを説明していたのをカオス達は思い出した。ヴェノムの主はヴェノムを越えし存在だと。

 

 

フラット「……フェニックスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その()()()()()()()辿()()()()()()()()()なのですよ。」

 

 

ウインドラ「進化の果てだと………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「()()………、

 この人の世界において魔術を行使するものであれば誰もが知る存在で御座いますよね?

 フェニックスは恐らくその精霊という進化の果てに至ったのですよ。」

 

 

ミシガン「フェニックスが精霊に……!?」

 

 

フラット「はい、

 フェニックスが他の生物を襲わない理由はそれしか考えられません。

 フェニックスは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。

 

 

 ですからフェニックスは他の生物から危害を加えられない限り攻撃してくることはありません。

 フェニックスは他の生物を取り込まずとも生き抜く生命体へと進化したのですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックスが精霊へと進化した。そんな話を聞いて直ぐにそれを受け止めることはカオス達には難しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、フラットが本当に話したいことはここからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「……数年前のバルツィエの奇襲によってこの国は纏まっていた九の部族が散らばりました。

 バルツィエはその奇襲で各地にヴェノムの主を配置してマテオへと去っていきました。

 そのヴェノムの主が出現したことによって各部族はそれぞれの領へと戻っていきましたが九の部族が離散するにあたって真っ先にダレイオス一国家体制から離反した部族がいます。

 そのある部族が現在我々フリンクを悩ませているのです。

 その部族が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブルカーン族で御座います。

 ブルカーン族は我々や恐らくアインワルドにもでございましょうが彼等の地に顕現された精霊()()()()()のために生け贄を要求して来るようになりました。

 我々は現状ブルカーン族にこの地と我等フリンク族の命そのものを狙われているのです。」



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フリンクとブルカーン

フリンク族の都市フリューゲル 族長邸宅前 残り期日八十八日

 

 

 

ウインドラ「…やはりフェニックスは存在していたようだな………。

 しかし他の生物を襲わないとは何だ?

 フェニックスはヴェノムなのだよな?」

 

 

 フラットはフェニックスが実在していることをカオス達に告げる。

 

 

 しかしその内容はこれまでの経緯を思えば信じがたいものであった。

 

 

フラット「えぇ、

 フェニックスは人を襲いません。

 それどころかモンスターですら目の前にいても素通ししてしまうでしょう。」

 

 

ミシガン「ヴェノムなのに?」

 

 

フラット「えぇ、ヴェノムで御座いますが。」

 

 

タレス「…そんな話は聞いたことがありませんよ………。

 他の地方のヴェノムの主はみんな………。」

 

 

フラット「ですから特殊な個体だと申しているのですよ。

 フェニックスに害はないと。

 ………いえ、

 害は無いことはないですね。

 全身が炎に包まれてはいますが時折()()()を発します。

 あの黒い炎に触れてしまえばヴェノムに感染しますね。」

 

 

アローネ「黒い炎……!?」

 

 

カオス「………同じだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラの毒撃と………!」

 

 

 フラットの情報に寄ればフェニックスもカイメラと同様に黒い炎の毒撃を使用するらしい。

 

 

 だが、

 

 

アローネ「その黒い………私達はヴェノムの主が発するその黒い属性攻撃を毒撃と呼んでいるのですがその毒撃はどういった時に放たれるのでしょう………?」

 

 

フラット「フェニックスが貴殿方が仰られるその技を放つのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のみです。」

 

 

タレス「縄張り……?

 それはどこに………?」

 

 

フラット「…貴殿方にお教えしてもよろしいのですが一つ約束をしていただけますか?」

 

 

ミシガン「約束?」

 

 

ウインドラ「そうまで頑なにフェニックスから俺達を遠ざけようとするということはその約束とは、

 

 

 フェニックスに関わるなと言いたいのだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「はいその通りで御座います。

 貴殿方がダレイオスのヴェノムの主を討伐して回っていることは承知しておりますが今回のフェニックスに関してだけは貴殿方には手を出さぬようお願いしたいのです。

 どうかフェニックスだけはお見逃し下さいませ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……フリンク族の人達はフェニックスを倒して欲しくないんですか?」

 

 

 このフリンク族の地方に来た目的はフリンク族を脅かすヴェノムの主フェニックスを討伐しフリンク族をマテオとの戦いの戦列に加えることである。しかしフラットはフェニックスを倒してはならないと言う。一体何故なのか………。

 

 

フラット「それをお話するには先ず私共フリンクが置かれている状況を説明しなければなりませんね。

 少し話が長くなりますがお聞きしますか?」

 

 

アローネ「えぇ、

 私達はフェニックスを討伐に参りました。

 それなのにフェニックスを討伐してはならない訳をお聞きしなければなりません。」

 

 

フラット「……ではお話しましょう………。

 皆さんは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムとヴェノムの主がどういった特徴で分類分けされているかご存じ御座いますよね?」

 

 

タレス「ヴェノムと………」

 

 

ミシガン「ヴェノムの主の分類分け………?

 ……そんなの………時間差でスライム形態に変身するかしないかじゃないの?」

 

 

アローネ「そして主に関しては他の生物を捕食するか捕食されるかでその体積を増してギガントモンスターと同じくらいに巨大化する………ですよね?」

 

 

 何故そんなことを今更復習させるのか。それがフェニックスとどう関係しているのだろうか。

 

 

フラット「仰る通りで御座います。

 ヴェノムとヴェノムの主はそのポイントに違いはあれどそれによって誰しもが倒せるか倒せないかに分けられます………。

 ……しかし考えてみてください。

 ヴェノムが何故他の生物を襲うのかを………。

 クリティア族の話によればヴェノムが他の生物を襲う理由は飢餓から逃れるため。

 飢餓するということはヴェノムに感染した生物は死に絶えます。

 生物として死を恐怖するためヴェノムは他の生物を取り込もうとするのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ヴェノムの主が他の生物を襲う訳………?

 それは………ヴェノムだからとしか………。」

 

 

フラット「クリティア族はこうも仰っておりました。

 ヴェノムウイルスは進化のウイルス。

 進化してより強い生物へと変身する。

 生物としての死からより遠ざくための進化のための捕食だとも。」

 

 

 クリティア族の長老オーレッドが確かにそんなことを説明していたのをカオス達は思い出した。ヴェノムの主はヴェノムを越えし存在だと。

 

 

フラット「……フェニックスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その()()()()()()()辿()()()()()()()()()なのですよ。」

 

 

ウインドラ「進化の果てだと………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「()()………、

 この人の世界において魔術を行使するものであれば誰もが知る存在で御座いますよね?

 フェニックスは恐らくその精霊という進化の果てに至ったのですよ。」

 

 

ミシガン「フェニックスが精霊に……!?」

 

 

フラット「はい、

 フェニックスが他の生物を襲わない理由はそれしか考えられません。

 フェニックスは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。

 

 

 ですからフェニックスは他の生物から危害を加えられない限り攻撃してくることはありません。

 フェニックスは他の生物を取り込まずとも生き抜く生命体へと進化したのですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックスが精霊へと進化した。そんな話を聞いて直ぐにそれを受け止めることはカオス達には難しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、フラットが本当に話したいことはここからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「……数年前のバルツィエの奇襲によってこの国は纏まっていた九の部族が散らばりました。

 バルツィエはその奇襲で各地にヴェノムの主を配置してマテオへと去っていきました。

 そのヴェノムの主が出現したことによって各部族はそれぞれの領へと戻っていきましたが九の部族が離散するにあたって真っ先にダレイオス一国家体制から離反した部族がいます。

 そのある部族が現在我々フリンクを悩ませているのです。

 その部族が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブルカーン族で御座います。

 ブルカーン族は我々や恐らくアインワルドにもでございましょうが彼等の地に顕現された精霊()()()()()のために生け贄を要求して来るようになりました。

 我々は現状ブルカーン族にこの地と我等フリンク族の命そのものを狙われているのです。」



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フェニックスによる堤防

フリンク族の都市フリューゲル 族長邸宅前 残り期日八十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「ブルカーンが生け贄を要求………?」

 

 

アローネ「“精霊イフリート”…!?」

 

 

フラット「そうブルカーンは国家体制が崩落した後私達フリンクとブルカーンの国境にまで押し寄せて来て同胞を誘拐し出すようになったのです。

 

 

 この地方は平穏そうに見えますでしょうが西の直ぐとなりにはダレイオスでも()()()()()()()()()()()()()()()()が常に私達フリンクを精霊イフリートとやらに差し出すために付け狙ってきます。

 私達フリンクは今ヴェノムやヴェノムの主なんかよりもブルカーンという脅威の方を問題視しています。

 奴等はとにかく暴力的で部族全員が()()()………俗に“イフリート信仰信者”で世界には精霊が実在し彼等の地に現れたイフリートこそが()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだと宣告してきました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムの主フェニックスの話をしていたかと思えばがらりと話題が変わり今度はカオス達が行く行くは向かわねばならないブルカーンの話が持ち上がった。しかもどうやらブルカーンとフリンクの間では精霊イフリートを巡った問題が発生しているようだ。

 

 

 そしてその内容は以前アローネがゲダイアン消滅の原因を予測した通りのものだった。ゲダイアン消滅は精霊が関係している………。カオスの中に宿る精霊王マクスウェルの六の眷属が一柱。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精霊イフリートがゲダイアンを消滅させた………。

 

 

 ダレイオスは何者かの攻撃を受けてゲダイアンを失った。ダレイオスはマテオのバルツィエがその犯人だと思い込みマテオへ戦意喪失してヴェノムの主発生が決め手となり九の部族が離散することとなった。マテオでもゲダイアン消滅はダレイオスにいる大魔導士軍団と呼ばれる存在がそれを行ったとされバルツィエはその謎の集団を警戒し早々に殲滅するため戦争の道に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………と言うことはつまりブルカーンの地に現れた精霊イフリートこそが現在カオス達が仮の名を名乗らされている大魔導士軍団………その本物だということになるが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「……本当にブルカーンの地に現れたのは精霊イフリートなんですか………?」

 

 

フラット「…分かりません……。

 それを確かめようにもブルカーンの地に赴いたり拐われたりした同胞達は誰一人として戻っては来ませんでした………。

 それが真実かどうか確かめるには奴等ブルカーンの地に向かうしかありませんがそれは確実に地獄への片道切符、奴等の地に足を踏み入れたら最期二度と生きては帰れないとされています………。」

 

 

 フラットは話している内に段々ブルカーンに対する怯えなのか体が震えだした。想像するだけでもブルカーンの地が怖いのだろう。フラットの話ではブルカーンはヴェノムよりも恐怖の対象となっているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「……本当かどうかあやしいものだな………。精霊イフリートが生け贄を要求して何になると言うんだ?」

 

 

ミシガン「生け贄…………何で精霊が生け贄を欲しがるの………?」

 

 

フラット「そこについては私達も何も把握出来ていないのです。

 精霊が何故現れ生け贄を欲しがるのか………。

 精霊については世界でも存在を確認出来ない不可視の存在とされてきましたから………。」

 

 

カオス「生け贄か………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!」

 

 

 突拍子もない精霊の話であったがカオスはその生け贄の理由に心当たりがあった。確か前にマクスウェル()()はミストの村でかつての力を取り戻すためにマナをかき集めていたと言っていた。精霊は他の生物からマナを吸収する力がある。もしやブルカーンの地に現れたイフリートはそれを………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……フラットさん………、

 ダレイオスの九の部族がバラバラになる前にブルカーンの土地の何処かに殺生石………触れば生き物が死んでしまうような大きな岩の話とか聞いたことありませんでしたか?」

 

 

ミシガン「!?」

 

 

アローネ「それは……!?」

 

 

フラット「生き物が死んでしまう大きな岩の話………?

 ………さぁ……どうだったでしょうか………。

 そのような話をブルカーンの者とお話したことはありませんが………。」

 

 

カオス「そうですか………。」

 

 

ウインドラ「殺生石か………。

 もしそのイフリートが本物ならブルカーンの地に殺生石があったかも知れないな。

 そしてその精霊が目覚めたか目覚めていないか定かではないが精霊王マクスウェルと同じように他の生物からマナを接種しはじめた………。

 あり得ない話ではないな。」

 

 

 カオスが殺生石の話を持ち出したことでブルカーンの地に精霊がいる可能性が皆の中で浮上した。もしフラットと話が事実だとして他の部族を襲うブルカーンとブルカーンがイフリートと崇める存在がいるのだとしたらブルカーンの地方に赴くのはこれまでとは少し様子が変わりそうだ。これまではヴェノムの被害に苦しむ部族達と交渉してマテオとの戦いに参列するよう呼び掛けていたがブルカーンはその交渉自体が進められるかどうか………。

 

 

 ………と言うよりもブルカーンの地のヴェノムの主はどうなっているのか?そんな他の部族を拐ってこれる程ブルカーンの地方は動き回れる土地なのだろうか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「でも何でフェニックスの話からブルカーンが出てきたの?」

 

 

ウインドラ「そうだ、ブルカーンがフリンク達にとって厄介な存在だということは分かったがそれがフェニックスとどう関係しているのだ?」

 

 

 ミシガンとウインドラが言うようにここまで聞いてもそれがフェニックスを討つなというような理由には繋がらない筈。一体フェニックスはフリンク族にとって何故討ってはならない存在なのか。

 

 

 それは、

 

 

フラット「今お話したブルカーンの話はフェニックスととても密接しているのですよ。

 

 

 実はですね………。

 ブルカーンが住んでいるのは地図でも分かる通り西の山々の中の火山地帯なのですがブルカーンはそこから私達フリンクを狙ってやっきてきたのがかれこれ“五年前”になります。

 その時期からバルツィエがヴェノムの主をダレイオス全土に配置しブルカーンが一足先に統合から抜けて間もなく我等フリンクを拐うようになりました。

 力関係では私共フリンクにはブルカーンに抗う術がなくただ拐われるがままだったのですが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時偶々この地方に出現したヴェノムの主フェニックスがフリンクとブルカーンの境の西の山に居座りそこに住み着き始めたためブルカーンが我等フリンクに手を出せなくなったのです。

 ですから我等フリンクは貴殿方大魔導士軍団にフェニックスを討伐されると困ってしまうので御座います。

 あれを討たれるようなことがあればブルカーンは再び我等フリンクを拐いにやって来るでしょう。

 なので貴殿方にはフェニックスだけは討伐ならさないでほしいのです。

 あのフェニックスという()()()が無くなれば我等フリンクは今度こそブルカーンの暴族宗教狂信者に蹂躙され尽くしてしまうのです。」



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精霊王マクスウェルとウルゴスの王

フリンク族の都市フリューゲル 市街地 残り期日八十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「フェニックスが防波堤ねぇ………。

 結局ヴェノムの主はこの地方にもまだいたってことなんだね………。」

 

 

ウインドラ「だからフェニックスをひた隠しにしようとしていたんだな。

 俺達をアインワルド領に向かうよう煽ってきたのはフェニックスから俺達を遠ざけるため……。

 俺達がフェニックスを倒してしまえばヴェノムの代わりに今度はブルカーンが襲いにやって来る………。

 

 

 難儀な話だなフリンクも……。」

 

 

タレス「前々からブルカーンの噂は耳にすることがありました。

 確かに彼等ならフラットさんが言っていたようなこともするでしょうね。

 ダレイオスの部族はそれぞれ精霊に関しては各々が宗教的な思想を持っていますがその中でもブルカーンはそういった考えが他の部族よりも強いらしいですから………。」

 

 

カオス「……イフリートかぁ………。

 もし本当にブルカーンのところに現れたのがイフリートだったんならどんな奴なんだろうなぁ………。」

 

 

アローネ「どうなのでしょうね………。

 私達が会ったことのある精霊はカオスの中に宿る()()()()()()()くらいしかおりませんし………。」

 

 

カオス「………ん?

 マクスウェル様?」

 

 

 イフリートの話をしていたらアローネからマクスウェルの名前が出てきたが何故か“様”と敬称付きであった。

 

 

アローネ「あっ………、

 ついマクスウェル様とお呼びしてしまいましたね………。

 失礼しました。」

 

 

ウインドラ「何故マクスウェル様と呼んだんだ?

 カイメラとの時もそうだったが知り合いにマクスウェルという奴がいたような話だったが………。」

 

 

アローネ「はい………、

 実は………、

 私の国ウルゴスの………カタスの父君ウルゴス国国王の名前が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《《マクスウェル=ダラス・ツェペシュ・ウルゴス》という名でして………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「え…!?」タレス「ウルゴスの国王が…!?」ミシガン「精霊王と同じ名前!?」

 

 

ウインドラ「それで同じフレーズから始まる名前を言ったらそれが見事にバルツィエ達が称する精霊王と一致してしまった訳か………。

 ……しかし偶然の一致なのかそれは……?」

 

 

アローネ「…分かりません。

 どうして殺生石の精霊………精霊王のことをウルゴス王と同じマクスウェルの名で呼ぶのか………。

 ……バルツィエがカタスに託されたという秘術の書にその名が乗っていたとしてそれを流用しているだけなのではないでしょうか………?」

 

 

ウインドラ「……この件はとにかく俺達では解明出来ないな。

 一旦保留にしておこう。

 

 

 問題なのはこの地のフェニックスの処遇だな。」

 

 

 そう言ってウインドラは深く考え込む素振りをする。

 

 

ミシガン「そうだよねぇ………。

 フェニックスが何でフリンク族とブルカーン族の境界にいるのか知らないけどフェニックスを倒しちゃったらブルカーンが攻めてくるって言うし………。」

 

 

タレス「オサムロウさんの依頼でフェニックスをどうにかしないことには依頼を完遂出来ませんね………。」

 

 

アローネ「先にブルカーンの地に赴く必要があるのではないでしょうか………?

 ブルカーンの地に現れたイフリートという精霊の存在が生け贄を欲するのならそれをどうにかしないと………。」

 

 

ミシガン「どうにかしないとって言っても………

 

 

 倒しちゃうの?そのイフリートとかいう精霊なのかよく分からないのを。」

 

 

カオス「仮に本当に精霊だったとしたらどれくらい強いんだろう………?

 俺達で倒せるのかな………。」

 

 

ウインドラ「相手が本物の精霊であった場合はこれまでのどの戦いよりも厳しいものだと思った方がいい。

 

 

 何せ世界を壊すと宣言しそれが確実に可能な精霊王の眷属だ。

 カイメラなんかよりも遥かに強い力を秘めているだろう。

 そんな奴と戦えばもしかしたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この中からも犠牲者が出るだろうな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「……私皆が死んじゃうのは嫌だなぁ………。

 私自身も死にたくなんてないけど皆が死んじゃうのはもっと嫌………。」

 

 

タレス「まだそう直ぐにイフリートとぶつかる訳じゃありませんよ。

 それよりも先にアンセスターセンチュリオンとレッドドラゴンですよ。」

 

 

カオス「フェニックスはどうするの?」

 

 

アローネ「フェニックスは最後に回すか………、

 それか倒さずともよいのでは………?

 フェニックスによってヴェノムが伝染する危険はないようですし………。」

 

 

ウインドラ「………いや、

 フェニックス討伐は絶対だ。

 奴は二ヶ月前の俺達だったら無視してもよかったがカイメラとの戦いを経たことによって俺達は奴を野放しにする訳にはいかなくなった。」

 

 

カオス「?

 何でさ?

 別に近づかなければ平気な相手じゃないか。

 放っておいたって誰もフェニックスに殺されるようなことは無いだろ?」

 

 

ウインドラ「…そう言い切れるか?

 ヴェノムの主でも他者を攻撃しない生物なら害はないとそう言い切れるのか?

 

 

 カイメラのことを思い出せ。

 奴は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来であればカイメラもフェニックスと同じで他の生物を襲うような種類の動物ではなかった筈だぞ?

 元がマウンテンホーンズだとしてそんな草を主食にしていた人にとっては無害だった生物にカルトとブロウンは壊滅させられた。

 もしフェニックスがカイメラのように他のモンスターやヴェノムに捕食されてカイメラと同じ変化が起こったらどうするんだ。

 今度またあのような凶悪なモンスターに変身してしまったら今度はどれだけの被害が出るのか分からないんだぞ。

 それもカルトとブロウンの時とは違って俺達はその当事者になることも考えられるんだ。」



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誰かの名前

フリンク族の都市フリューゲル 市街地 残り期日八十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン「………」

 

 

ウインドラ「フラット殿の話は至極分かりやすくこの街をブルカーンの魔の手からフェニックスが守っていることは理解できた。

 ………だがかといってフェニックスはフリンク族の防衛を謀ってやっているわけじゃない。

 ()()()()()()()フェニックスが両者の境界に挟まって二つの陣営の緩衝材となっているだけだ。

 気が変わって別のところに住み着き始めでもしたらそれこそここの平穏は途端に崩れ去る。

 

 

 ………ヴェノムに感染して突然変異を起こした生物なんかをよく頼りに出来たものだな、ここのフリンク族の連中は………。

 進化を遂げた果ての存在だとか言っていたが本当にそんな者が存在するのか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラットの話を聞いてからこの現状がその証拠だと言わんばかりに街は賑わっている。ヴェノムの進化の果て………確かにそんな存在がいたのだとしてもカオス達にはそれを信じることが出来ずにいた。

 

 

 ヴェノムは全生物を例外なく襲い殺し殺戮兵器へとその数を襲った分だけ増やしていく悪魔のウイルスだ。そんな全世界共通の認識の筈のヴェノムが生物を襲わず逆に人の街を守っている………?

 

 

 ………ヴェノムに感染した個体はどんな生物であってもその意識はヴェノムの食欲本能かまたはマナを寄せ集める収集本能に操られる。感染して変異してしまったのならそれはもう完全に元の生物の意思など消えている筈………。

 フェニックスの元となった生物が何であったのかは聞きそびれたが不死鳥というくらいならば元の生物は鳥類などの家畜かなんかだったのだろう。それが人の街を守る?それは本当に偶然なのか?本当に偶々フリンク族とブルカーン族の間に居着いたというのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいお前!後民の癖に生意気だぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「!」

 

 

 カオス等五人がフェニックスのことで頭を悩ませていると近くで子供達が喧嘩をしていた。その内容はフラットの話で出てきた先民後民のことのようだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先民だとか後民だとかどうだっていいだろ!!」

 

 

 

 

「五月蝿い!つべこべ言うんじゃねぇよ!!」

 

 

「後民は後民だけで遊んでればいいだろ!!この場所はずっと前から俺達が使っていたんだ!お前らはどっか行きやがれ!!」

 

 

 

 

 どうやら子供達が遊具の取り合いで喧嘩を始めていたようだ。カオス達は深刻な問題を話し合おうと人気のない場所を探して歩いていたのだがここは子供達が遊ぶ公園に足を運んできてしまったらしい。

 

 

アローネ「……あれはあれでこの街が平和だという証なのでしょうが………。」

 

 

タレス「子供も大人も変わらない………。

 確かに人と言うのはどうにも数が増えればその分別れて争いたがる生き物なのかもしれませんね………。」

 

 

 フラットが言っていたのは正にあの光景のことなのだろう。例え同じ人種で同じ部族でも人がその場に複数人が集まれば優劣が発生する。全く同じ人なんていない。どちらかが必ず優れどちらかが必ず劣る。どんな些細な誤差でも人はそれを指摘し優位に立ちたがる。悲しくも平和にならない世界の始まりがそこにはあった。

 

 

ミシガン「同じフリンク族でも………仲良く出来ないんだね………。」

 

 

ウインドラ「それは俺達の村でもそうだっただろう。

 ミストでも………あんな光景はどこででもあった。」

 

 

カオス「……なんかあぁいうの見てたら思い出しちゃうね………。

 昔のことを………。」

 

 

ウインドラ「……大人になって分かるがあぁいうのは大人の力であっても止めることは出来んさ。

 子供同士の喧嘩はどんなに小さなことでも根が深い。

 大人が横槍を入れたところでまた同じような喧嘩を彼等は繰り返すだろう。

 

 

 それを乗り越えて人は真に友となれるか、他人となって別々の道を進むかしか無いんだ。

 変に止めようとするなよカオス。

 彼等は彼等の戦争をしてるんだ。

 あの体験を経て彼等が戦うことの空しさを経験することが大事なんだからな………。」

 

 

カオス「……あぁ。」

 

 

 遠目に見て彼等の喧嘩は非常に下らなかった。あんなことで喧嘩が出来るなら好きなだけ喧嘩すればいい。そう思った。

 

 

 同じ立ち位置で争っていられるならまだ喧嘩の範疇だ。カオスが味わってきたのは一方的な虐げだったのだからそうじゃないだけ彼等の喧嘩は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「偉そうに先民だとか後民だとか言ってるけど所詮お前らだって()()()に守られてるだけじゃないか!!」

 

 

「そうだそうだ!!お前らだってただここで生まれたってだけで俺達と全然差なんて無いだろうが!!」

 

 

「偉そうにするわりには俺達みたいに外でモンスターを見たこともないくせに!!

 本当はお前達弱いんだろ!?」

 

 

 

 

「うっ、うるせぇ!!

 お前らは大人達に守られてここに移り住んで来ただけだろ!?」

 

 

「元々俺達の街だったここを俺達が仕方なく住まわせてやってるんだぞ!?」

 

 

「文句言うなら出ていけよ!!」

 

 

「余所者の癖に!!

 お前らなんかカーヤに食い殺されちまえばいいんだ!!」

 

 

 

 

「なんだと!!」「このぉっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………カーヤ?」

 

 

 

 

 

 

 あの子供達は今おかしなことを言わなかったか………?カーヤに守られてるだとかカーヤに食い殺されるだとか………。………どう聞いてもカーヤとは人の名前のような気がするのだが………。

 

 

 

 

 

 ……何の話なのだろうか………?この都市を守ってるのはフェニックスの筈だが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで言うんだったらいいぜ!!?

 お前達と俺達でどっちが上なのか!!

 カーヤのところまで辿り着ける度胸試ししようぜ!!」



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突然の討伐許可

フリンク族の都市フリューゲル 市街地 残り期日八十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「こらこら馬鹿なことを考えるんじゃない………。」

 

 

 

「あっ!?族長だ!?」

 

 

「族長…!?俺達は………。」

 

 

 子供達の言い争いが発展しだした時ナトルがそこに現れて喧嘩を仲裁した。

 

 

ナトル「駄目じゃないか。

 そんな危ないことをしようとしたら………。

 外には恐ろしいモンスターだけじゃなくブルカーンの悪い奴等もいるんだ。

 カーヤが手出ししてこないからといって危険はそれだけじゃないんだよ?

 分かってるかい?」

 

 

「でもこいつらが生意気な口を………。」

 

 

「何を!!そっちが先民だとか言って見下したようなこと言ってくるから!!」

 

 

ナトル「ほらまたそうやって喧嘩をする………。

 何度も言っているが先民だとか後民だとかそういうことはどうだっていいじゃないか。

 同じ街に住む者同士仲良くやりなさい。」

 

 

「けどこいつらが来てから俺達が遊ぶ場が狭くて………。」

 

 

「そうだよこいつらがき来たせいで俺達が前までずっと遊べてたのに今じゃぎゅうぎゅう詰めで遊びにくいよ!!」

 

 

ナトル「その辺もちゃんと理解しているよ。

 今他の皆に掛け合って皆が満足に遊べるよう公園を拡大しようと話し合ってるんだけどね。

 如何せんどうにも土地を拡げようにも問題が出てくるんだ。

 もう暫く待ってほしい。

 そしたら私の方でも君達の願いを叶えてあげられるから………。」

 

 

「………分かりました。」

 

 

「そう言うなら………。」

 

 

ナトル「……君達も悪かったね。

 公園は空いている時は好きに使っていいからね。

 絶対に外には出ないようにね。」

 

 

「はーい。」

 

 

「なるべく公園を大きくするの早くしてよね。」

 

 

 そう言って子供達はナトルから離れていった。喧嘩は止められたようだがあれでは仲直りではなくその場凌ぎにしかならないだろうが一応の問題は払うことは出来たのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「……フゥ、やれやれ………。

 土地を開拓するにも一苦労するのだがな………。」

 

 

 

 

カオス「ナトルさん………。」

 

 

ナトル「!おや貴殿方は………見ていらしたのですね。」

 

 

ウインドラ「今日は大事な用件があるとお聞きしたのだが………。」

 

 

ナトル「えぇまぁ、これから出向く予定なのですよ。

 出向こうとしたら子供達が喧嘩をしている声が聞こえたものでして………。」

 

 

アローネ「お忙しいですね。

 ご公務がおありでしょうに………。」

 

 

ナトル「いえ……、

 街の住人の訴えを聞くのも私の仕事ですよ。

 私にはフリンクを一つに纏めた責任がありますからね。

 一つ一つをしっかりと受け止めてそれに対応していくことも一族の繁栄がかかった大事なことですから。」

 

 

タレス「立派ですね………。」

 

 

 ナトルはこういった小さなことでも捨て置かずに拾っていく良識的な人物な印象を受ける。彼なら同族が不当な扱いを受けていれば黙って見ていることは無いだろう。それが先民だ後民だと下らない隔たりを作ろうとする風潮であっても間に入って問題を整理させる。……結局は時間を稼ぐやり方だったがそれでも問題を無視しない傾向は好意的には思える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「ナトルさん。」

 

 

ナトル「はい何でございましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「“カーヤ”って誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「!?」

 

 

 カーヤの名をミシガンが口にした瞬間ナトルは不意を突かれたような表情を一瞬浮かべたが直ぐに取り繕うように、

 

 

ナトル「みっ、皆様はフラットからお聞きしていませんでしょうか?

 カーヤとは()()()()()()のことなのですよ!」

 

 

ミシガン「フェニックス?」

 

 

ウインドラ「フェニックスのこととは何だ?

 フェニックスに名前が付いているのか?」

 

 

 そんなことはフラットは話していなかった。フラットの話では終始フェニックスがヴェノムの中でも異例の他の生物を襲わないヴェノムの種であることは聞いたが………、

 

 

カオス「何でフェニックスをカーヤと呼んでいるんですか?」

 

 

ナトル「……実はですね………。

 フェニックスは………、

 

 

 元々はフリンク族で面倒を見ていた()()()がヴェノムウイルスによって変異した種でして………。」

 

 

アローネ「ホーク………?

 モンスターを飼っていらしたのですか?」

 

 

ナトル「私達は食料としてモンスターを狩ることもあるのですがたまに好奇心旺盛な子供達とかが街の周辺で大人しそうなモンスターの子供を拾ってきたりすることがあるんです。

 始めのうちは気付きませんでしたが気が付いたら子供達とホークが共に遊んでいたりするんですよ。

 危ないから街の外に還してきなさいと注意は促したりするんですが名前まで付けていましたし今更捨てさせるのも可愛そうだなぁと………、

 そういったことがこの街では多くありまして………。

 

 

 カーヤはその中の一例でしてある時ヴェノムウイルスに感染してフェニックスへと変貌してしまいそれから一部の者達がカーヤという名前を広めてしまいまして………。

 この街ではフェニックスのことをカーヤと呼ぶ者達が多数いるのですよ。」

 

 

ウインドラ「なるほど………そう言うことか。」

 

 

 話のあらすじはなんとなく理解した。どことなく違和感は拭えないが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………あの………、」

 

 

アローネ「はい?」

 

 

ナトル「皆様は………やはりフェニックスを討伐なさるのですよね………?

 そうしなければならないとミーアの遣いの者達から聞き及んでおります………。」

 

 

ウインドラ「あぁ、そのことか………。

 丁度俺達もそのことでこれからどうすればいいのか悩んでいたところなんだ。

 フェニックスの存在はこの街の防衛にも関わっているらしいしな。

 ………しかしフェニックスを放っておくとちょっとした脅威にもなりかねない。

 かといってこの街の安全をどうするか「でしたら!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「でしたら私に一つ提案があるのですが………。」

 

 

タレス「提案?」

 

 

ナトル「はい!

 もし貴殿方が特に今後アインワルドかブルカーンのどちらか一方に赴くご予定がお決まりでないのなら是非とも皆様には先にブルカーンの地へと赴いて欲しいのです。」

 

 

ミシガン「ブルカーンの方に?」

 

 

アローネ「一応順路的にはアインワルドの方へと向かう予定でしたが………。」

 

 

ナトル「ですがそれですとフリンクの者としてはフェニックス討伐を最後に回してもらう他ないのですよ。

 ですから皆様には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先にブルカーンの地へと向かってもらいブルカーンの地にいるというヴェノムの主レッドドラゴンと彼等が精霊と讃えるイフリートを倒して欲しいのです。

 そうしていただけるならフェニックスは倒してもらっても構いません。

 あんな害獣など貴殿方のお力で()()()()()()()()()()()()。」



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フリンク族の思惑

フリンク族の都市フリューゲル 翌日 残り期日八十七日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………では行きましょうか。

 フェニックスの元へ………。」

 

 

ミシガン「ねぇ、もう行くの?

 まだフェニックスの所に行くのは早すぎるんじゃない?」

 

 

アローネ「何を仰有っているのですか。

 精霊の指定した期日まではもう三ヶ月を切っているのですよ?

 後三ヶ月後には世界が消滅してしまうかも知れないのです。

 それなら私達は私達に出来る最善を尽くすことが世界が消滅しないことに繋がると思いませんか?」

 

 

ミシガン「それはそうなんどけどさぁ………。

 なんか……カイメラの時みたいに今回もちょっと嫌な予感がするんだよねぇ………。

 言葉に出来ないけどこう……何て言うか………胸のこの辺りが重いような………。」

 

 

 そう言ってミシガンは不吉な未来でも予感しているのか若干顔色を悪くて胸を押さえている。

 

 

 ………ミシガンにはあまり胸は無いのだが………。

 

 

ミシガン「フンッ!!」

 

 

ドガッ!!

 

 

カオス「痛ッ!!?

 何するのさ!?」

 

 

ミシガン「別に………。

 何か変なこと考えてた気がするから……。」

 

 

カオス「そんな理不尽に暴力奮わないでくれよ………。」

 

 

 実はその通りだったのでこれ以上は抗議しない方がいいか………。

 

 

ウインドラ「ミシガンの抱いている不安は俺も同じだ。

 ………今回のフェニックスの件………、

 

 

 どうも胡散臭い臭いがプンプンする………。

 あのフラット殿とナトル殿の態度………。

 あれは殆どが事実なのかもしれないがまだ他にも隠していることがあるような気がしてならない………。」

 

 

タレス「始めはフェニックス自体存在していなかったことにしようとしてその次には実はフェニックスは存在していた………。

 そして今度はフェニックスが異例の無害………ほぼ無害と言ってもいいようなヴェノムの進化の果ての存在で倒さないで欲しいとフラットさんが言ってましたがその後にナトルさんがやっぱり倒して欲しいとお願いしてきました。条件としてそのままブルカーンの地方に向かうことと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 確かに理屈の上ではブルカーンとフリンクの相互問題にはブルカーンの地にいる精霊イフリートさえどうにかしてしまえばフリンクはブルカーンから意味の分からない生け贄の要求が止まり結果フリンク族はブルカーンから付け狙われることは無くなると思いますが………フェニックスを完全に消し去るという要望はどうなんでしょう?」

 

 

ウインドラ「うむ、

 俺もそこが疑問に思った。

 一見俺達の計画を尊重しているように聞こえてはいたがどうにも俺には“なるべく知られたくはなかったが知られたのならいっそ消し去ってもらいたい”と言ったように感じた………。」

 

 

アローネ「…やはり皆も感じたことは同じなのですね………。

 私もあのお二人の話を聞く限りではそう感じ取れました。」

 

 

カオス「……フェニックスに何かあるのか………?

 まだ俺達には教えていない………教えられない何かが………。」

 

 

ミシガン「ハァ………、

 今まではヴェノムの主がいればただ倒すだけだったのになぁ………。

 何でこんなに話が怪しくなってくるの………?

 変だよこのフリンク族の地方………。」

 

 

アローネ「……その異様な謎を解き明かすためにも私達はフェニックスに会わなければなりませんね………。

 ………恐らくフェニックスに会えさえすれば全ての疑念が晴れることでしょう………。」

 

 

ミシガン「………そう簡単な話だったらいいんだけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリンク族の都市フリューゲル 族長邸宅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………では彼等は今日明日にでもフェニックスを討伐に………?」

 

 

ナトル「あぁ、

 昨日彼等と話し彼等にフェニックス討伐の件と共にブルカーンの地に向かうよう仕向けた。

 これで愁いの全てが速やかに片が付くだろう………。

 ブルカーン………ラーゲッツ………、

 

 

 そして()()()()()()()()()()()()!()!()!()

 

 

フラット「………」

 

 

ナトル「……長年………、

 ………長年考え続けてきた………!

 あいつが生まれて………!!

 あいつがロベリアを殺した日からずっと!!

 そのことだけを考えて生きてきた!

 あの穢れきった血を持つ娘をどうすれば殺せるのかずっと考えてきたんだ!!

 私達の手では奴を殺せない……!

 奴に触れることすら出来ない!!

 奴をこの手でどうしても殺すことが出来ない!!!

 奴だけは……!!奴だけは私がこの手で……!!

 ………しかし奴はヴェノムの力を宿すことによってその肉体をヴェノム以上の再生力で再生させてしまう……!!

 私の手ではロベリアの仇は討ってやれない……!!

 どうしたら……!?

 

 

 

 

 

 

 そんな時に転がり込んできたのが彼等と彼等の力だ!

 彼等の力は直に感じたしミーアの遣いの者が話をしに来た時にも実際にこの地を離れてヴェノムに本当に対抗する力が備わっているのかも見て確かめた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十分だった!!

 ミーアの者達が宿していた力の波動も彼等大魔導士軍団からなる力だったとハッキリ分かった!

 彼等ならあの小娘と怨敵ラーゲッツを二人纏めて始末することが出来るだろう!!

 これがどんなことになるのか想像出来るかフラット!!?

 奴等が戦うことになればそれはすなわち()()()()()()()()()()()()()()()ということなのだ!!

 素晴らしい決闘になるとは思わんかね!?

 これは必ずやあの二人を一緒に葬ってくれると期待してるのだよ私は……!!」

 

 

フラット「……ですがよかったのですか族長………、

 

 

 ………()()()()()………。

 勝手に彼等にフェニックスを討伐に行かせて………。

 皆はまだフェニックスの守りを当てにして生活しているというのに………。」

 

 

ナトル「……まだ私のことをそう呼んでくれるのかね………。

 ロベリアはもういないというのに………。

 

 

 だが安心したまえ。

 そんな心配事はもう必要なくなる………。

 彼等が全てを終わらせてくれるんだ………。

 彼等が私達の敵全てを消してくれればこのフリンクが恐れることは何も残ってはいない………。

 後は彼等の計画に参加して東のマテオと戦う振りだけでもしていればいい………。

 そうすればフリンクは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この先の新しい時代を乗り切っていけるんだ………。」



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初日に見つけたあの子

リスベルン山 麓 夜 残り期日八十七日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「カオス、

 今日はもう日が落ちた………。

 フェニックスがいる辺りには明日向かうとしよう。」

 

 

カオス「そうだね。

 今日はここらでキャンプにしようか。」

 

 

ミシガン「そうしよっか。

 流石にこんな時間に山でドンパチ始めたら魔術の光で明るくなってフリューゲルの街の人達も大騒ぎになるかもしれないからね。」

 

 

 カオス達五人はフェニックス討伐のためにフリンク族の族長ナトルから指示されたフェニックスがいるとされるリスベルン山の麓まで来ていた。決戦は明日以降に延びる。

 

 

タレス「……今思えばウインドラさんが訊いたと言っていたバルツィエの先見隊のことは聞けずじまいでしたね。」

 

 

アローネ「そうですね………。

 それとカオスが仰有っていたここに来る途中で見かけたという女の子のことも………。」

 

 

カオス「あっ………そういえばそうだったな………。

 フェニックスの話ですっかり忘れていたよ。」

 

 

ウインドラ「女の子………?

 何の話だ?」

 

 

カオス「俺達がフリューゲルに来た初日の夜に俺一人で街の周りをグルッと回ってみたんだよ。

 そしたら街の西側の外の方で夜に女の子がいて泣いてる女の子がいたんだ。」

 

 

タレス「泣いてる女の子が………?」

 

 

ウインドラ「その後はどうなったんだ?」

 

 

カオス「さぁ………分からない。

 一緒にいた時間はほんのちょっとでお互いにすごい側まで近寄ってたことに気付けなかったみたいだしその後この山の上の方で火みたいなのが上がってそっちに目がいってから振り替えると女の子がいなくなってたんだ。」

 

 

タレス「いなくなってた?」

 

 

ウインドラ「走り去っていったということか?」

 

 

カオス「さぁそれすらも………。

 走り去ったって言うんなら後ろ姿くらいは見ていると思うんだけどそれも出来なかったくらい一瞬で女の子がいなくなっちゃったんだよ……。」

 

 

ウインドラ「一応聞いておくが夢だったとかではないんだよな?」

 

 

カオス「あの日は特に何もすることも無かったしその後は普通に宿に戻ったから覚えてるよ。

 ………あれは夢なんかじゃなかったと思う………。」

 

 

ウインドラ「……そうか………。

 

 

 ではその女の子とやらは恐らくフリンク族の娘だったんだろう。

 一通り調べてみたがフリンク族はどうやら全部族の中でも相手のマナを感知する能力とフットワークに優れた部族らしい。

 身軽で軽快な動きを可能とし足の早いモンスターからも容易に逃げ仰せられるそうだ。

 その女の子とやらも間近にカオスが迫っていたことに驚いてカオスの内包するマナに驚いて逃げてしまったんだろうな。」

 

 

タレス「あの街のフリンクの人達は皆してボク達に対してよそよそしいと言うか少し腰が引けていた様子でしたからね。

 その女の子もきっとそうだったんでしょう。」

 

 

カオス「本当にそうだったのかなぁ………。」

 

 

ウインドラ「まだ気になることがあるのか?」

 

 

カオス「……その子に気付く前に一瞬だけウィンドブリズでダインから感じたようなバルツィエの気配を感じたような気がしたんだよ………。

 あいつら………っていうか俺もなんどけど飛葉翻歩使う時って足の裏にマナを集中させるようなそんな感覚があるんだけどその時俺以外の誰かが俺の近くでそれを使ったような気がして………。」

 

 

ウインドラ「……要するにお前はその女がバルツィエの先見隊かと疑っているのか?」

 

 

カオス「いやそれも違うと思う………。

 その女の子の服装はあの街のフリンク族の人達と同じだったしそんなバルツィエのような凶悪そうなイメージもなかった。

 ウインドラの言う通りあの女の子はフリンク族の子だと思うよ。」

 

 

ウインドラ「では何が気掛かりなのだ?」

 

 

カオス「……なんかその子普通じゃないって言うか………。

 

 

 

 

 

 

 昔の俺みたいな扱いを受けているような子なんじゃないかなぁ………って………。」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「……差別か………。」

 

 

アローネ「……あの街では同じフリンク族でもそういった傾向にありましたからね。

 その可能性は捨てきれません。」

 

 

ミシガン「あの街の雰囲気を見たらそういうのありそうだったよね………。」

 

 

タレス「フリンク族は数が多い分そういう()()()()()()多そうでしたしね。

 他の部族のようにそんな余裕があるならヴェノムやバルツィエの問題に取り組めればいいんですけどあそこはフェニックスがいるせいでそんな心配事も無いんでしょう。」

 

 

ウインドラ「平和な環境があったらあったでその環境から発生するトラブルもあるということだな。

 差別は主に虐げられたり他の者に対して劣等感が募って起こるとは聞くがフリンク族は最弱を族長自らが自称していたくらいだしそういった問題が沢山ありそうだな。

 ………もし………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あの街にカーラーン教会で話したようなハーフエルフなどが生まれでもしたらどうなるんだろうか………。」

 

 

カオス「………」

 

 

タレス「このダレイオスの混血児に対する偏見は根強いですよ。

 生まれながらにして接点がなかったとしてももう一方の血の部族のスパイの嫌疑をかけられたハーフエルフがいたという話を聞いたことがあります。

 疑われた本人からしてみれば全く身に覚えのない容疑がかけられてしまい弁護してくれる人もいなかったようでそのハーフエルフは最終的には殺されてしまったらしいです。」

 

 

ミシガン「それっていつ頃の話のことなの?」

 

 

タレス「ボクが………まだマテオに連れ去られる前の話のことでダレイオスが大国として統一されていた時期の話みたいですよ。」

 

 

アローネ「それでは別に同国国民の間に生まれた子供ということになりませんか?

 それなのにそのハーフエルフの方は殺されてしまったのですか?」

 

 

タレス「同国国民と言ってもファルバンさんやオーレッドさん達のように会話はするけど仲がいい訳ではないですよ。

 マテオとバルツィエという共通の敵がいるおかげで共闘しているだけで仮にマテオやバルツィエがいなかったら国は一つにはなってなかったんですから………。」

 

 

カオス「……嫌な話だな………。

 敵がいるから手を組んでそうでなかったら敵同士なんて………。」

 

 

アローネ「全くですね………。

 そういった人を区別する世の中があるから差別が生まれハーフエルフという生まれだけで生きにくくなる世界は変えなくてはなりません。」

 

 

ウインドラ「人口が多いということは仲間が多いということになる。仲間が多くなればなるほど生物は気が強くなる。単純に力が強い者はそれだけで気が強い輩もいるが自らの味方が多い者達もそれに引けをとらない強さにまで気が高まる。そういった者達は大抵一人では大した力を持たぬ者達だが群れをなせば一人では出来ないことも出来るようになってくる。例えば強者に打ち勝つとか……。

 それを成し遂げていっていつしか弱者であった自分達を強者と勘違いし出すようになるんだ。

 一度弱者と自らを認識したことのある者は自分が強者になったと思い込むと弱者であった時に強者から受けた理不尽なことを自分達よりも更なる弱者にやりたくなる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………世の中の差別を完全に無くすには一度世界をリセットするしか方法は無いだろうな………。」



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自分との類似点

リスベルン山 麓 翌日 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………ではフェニックスを探しに行きましょう。」

 

 

タレス「はい、

 今日中にフェニックスを見つけ出して………、

 倒します。」

 

 

ウインドラ「適当に見晴らしが良くて戦闘ができそうな場所を見付けたらそこで俺がライトニングを放つ。

 そしたら向こうからやって来るだろう。」

 

 

ミシガン「…出来れば簡単に終わるような相手だったらいいなぁ………。

 またカイメラみたいに凄く強いのが来ませんように………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「………どうかなさいましたかカオス?」

 

 

カオス「……俺達は………フェニックスを倒しにここまで来たんだよね………。」

 

 

ウインドラ「今更何を言ってるんだ。

 当然だろ。」

 

 

カオス「………うんそうだよね………。」

 

 

 アローネとウインドラの返答に頷くカオスであったがその顔からは今回のフェニックス討伐に集中しきれない様子が見られる。何か思い悩んでいるように思える他の四人だったが、

 

 

タレス「何か気になることでもあるんですか………?」

 

 

ミシガン「カオスも今度のフェニックスがどのくらい強いのか心配なんでしょ?

 またカイメラみたいなのが出てきたらって思うと恐いもんね………。」

 

 

 カオスの様子を見てタレスとミシガンがカオスが浮かない顔をしているのはフェニックスの強さを気にしてのことなのだと捉えるが、

 

 

カオス「あっ、うんそれも気になるんだけど………。」

 

 

ウインドラ「他に何かあるのか?」

 

 

カオス「………………ここまで来て言うのもあれなんどけどさ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………本当にフェニックスを倒しちゃっていいのかなって………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………ナトル族長からは許可は出ていましたよね………。」

 

 

ウインドラ「不安に苅られるのも分かる。

 今回のフェニックスの件はまだ相手がどういった存在なのか十分に情報を集めきれていない。

 他の生物を襲わないヴェノムの主で全身が火に包まれた鳥のような生物………。

 他の主のように被害といった被害が出ていないからどの程度の力を持っているのかも分からずじまいだしな。

 カイメラが使っていたような毒撃を放つことが出来るという点から攻撃面においては注意すべき相手だとは思うが「そうじゃないんだ。」………。」

 

 

カオス「………そうじゃないんだ。

 俺が躊躇っているのはカイメラが強いだとかどんな能力を持っているかとかじゃなくてさ………。

 フェニックスが………、

 

 

 フェニックスが本当に危険な敵なのか………。フェニックスが本当に倒さなきゃいけない相手なのかってことだよ………。」

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

カオス「話を聞く限りじゃフェニックスって自分達から近付かなければ攻撃してこないんだろ?

 それってフェニックスが普通に正当防衛………自分の身を守るために仕方なく攻撃しているだけに思えるんだ。

 ………それって普通のことじゃないか?

 モンスターだって………どんな生き物だって自分が襲われれば反撃はするだろ?

 今度のフェニックスはそれと同じだよ。

 フェニックスのテリトリーに入らなければ誰も傷付かない………。

 フェニックスに会いに行きさえしなければ誰も殺されたりしないんだ。

 そんな相手のところにわざわざ出向いて行って倒しにいくなんて………なんかフェニックスが可哀想に思えてきて………。」

 

 

ウインドラ「しかし相手はヴェノムに感染した個体なんだぞ?

 今は目立った被害は無いようだが過去にフェニックスの犠牲者になったという者がフリンク族に一人だけいたらしいじゃないか。

 あのフラット殿の話はどうにも要領を得ない話だったがあれは俺達をフェニックスに近付けさせないようにするための嘘が混じっていた。

 ………となれば俺達のような存在が現れるまでに報告されていた犠牲者が一人いたという話だけは事実だろう。

 フェニックスは過去に一人だけ人を殺しているんだ。

 最近では人を襲うようなことはないらしいがそれがいつ人を襲い出すようなことになるか俺達では分からない。

 ヴェノム自体が危険な存在なんだ。

 一匹でも放っておいたらどこで繁殖してしまうかどうか………。」

 

 

カオス「だけど!」「カオス!」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………どうしたんだカオス………。

 カイメラとの戦いの辺りから変に敵に気を使うようになってるじゃないか………。

 魔術を使えるようにはなったみたいだが今度は相手の命を思うようになってしまっているぞ?

 何があったんだ………?」

 

 

カオス「俺は………、

 ………俺は自分から襲ってくるような危険な相手だったなら戦えるよ………。

 けど今回のフェニックスは誰も襲わないような相手をわざわざ襲いに行くのがどうにも気が引けて………。

 

 

 ………魔術を使えるようになって思ったんだよ。

 俺の使っている力は簡単にモンスターだろうがヴェノムだろうが………人だろうが殺せる力なんだ。

 それぐらい俺の………精霊の力は強力でとても怖い力だ………。

 

 

 

 

 

 

 だけどどんな強い力でもそれを扱う誰かが自分の力を理解して使いこなしていれば無理に他の誰かを傷付けずに済むだろ?

 フェニックスは………ヴェノムの主だけど他の主達のようにウイルスを蒔いたりしない………、積極的に誰かを殺したりしないんだ。

 それはバルツィエであるダインもそうだった。

 使う人がそれをどう使うかによっては危険にもなるし危険にもならないこともある………。

 ………フェニックスはそれを理解しているのかも………。」

 

 

アローネ「………」

 

 

カオス「………今度フェニックスと会った時………少し試させてほしいことがあるんだ………。

 フェニックスと会ったら………、

 

 

 カイメラの時のように一度俺がレイズデットをかけてみる。

 そうしたらフェニックスは上手くいけばヴェノムの主じゃなくなってただのフェニックスになるかもしれない………。

 そうなればフェニックスを倒さずに済むと思うんだ………。」

 

 

タレス「どうしてフェニックスにそこまで………?」

 

 

カオス「………なんかフェニックスが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミストにいた頃の俺と似ている気がするんだ………。

 フェニックスにそのつもりがあるのか分からないけどもフェニックスはあのフリンクの人達のことをヴェノムやブルカーンから守ってる………。

 そんなフェニックスをただ行って倒すだけなんてできないよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「……カオスさんはフェニックスに共感してるんでしょうか………?」

 

 

ウインドラ「フェニックスが人だったらそのまんまミストにいた時のカオスがやっていたことと同じだしな。」

 

 

ミシガン「それでフェニックスとはあんまり戦いたくなさそうなんだね………。

 私と違って怖がってるだけなのかと思ったよ………。」

 

 

アローネ「まぁ、カオスの思うようにさせてあげましょうか。

 試してみる価値は大いにあると思いますしそれにそれでフェニックスが無害化されるのでしたら何も倒すこともありませんしね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………だといいですけどね。」



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真の絶望を味わいし者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世の中には数多くの色んな不幸が溢れている。

 

 

 その中でも自分が味わってきた不幸はその不幸の数々の中でも特別不幸なものだと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 別に自分が一番世界で不幸だなんて思ってはいない。

 

 

 自分よりも不幸な目にあった人なんて世界には山ほど存在しているだろう。

 

 

 だが物心付いた辺りからの人生の半分以上を不幸で満たされてきた自分は不幸を味わってきた時間の長さだけなら誰よりも不幸と付き合いが長いのだろうと自分の中で自信があった。

 

 

 極端な話他人の不幸は聞いている分にはほんの一瞬の話だ。

 

 

 不幸には様々な種類があってそのどれもが一時の不幸や自分には届かない程度の期間の長いとも短いとも言えないような不幸といったものばかり………。

 

 

 

 

 皆心の中では誰もが思っている。

 

 

 自分こそが世界で一番不幸なんだ、と。

 

 

 こんなに不幸な目に会うのなら死んだ方がマシだ、と死を選ぶ人だっているのだろう。

 

 

 仮に不幸な目にあって自ら死を選んだ人がいたとしたらその人の不幸はそこでストップする。

 

 

 それ以上その人は不幸を味わわずに済むのならある意味ではそれは幸せなことではなかろうか?

 

 

 ………故に今を生きている自分はこれからも今の不幸を自分の世界が続く限り更新し続けるだろう。

 

 

 誰よりも自分が不幸だと錯覚しながら………、

 

 

 誰よりも自分が悲劇の主人公と思い込みながら……、

 

 

 自分以上の不幸を経験する者などこの世にはいないのだと自惚れながら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世の中には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 探せば見つかるものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我こそが世界でもっとも不運に見舞われたのだと思いきやそんなことは無かったのだと自らの不運を見つめ直すような不運な目にあっていた者が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自らの不幸がその者の不幸に比べ不幸でも何でもなかったと思う程に悲惨で凄惨な人生を歩んだいた者との出逢いが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………彼女の人生は不幸という言葉だけでは表現が足りない程に悲運で絶望色に染まった人生だった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そう、絶望………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の人生には常にほの暗い絶望しかなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何もかもが嫌になって自らその命を絶とうにも彼女にはその逃げ道すら封じられていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は生まれた瞬間からこの世界が地獄だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世に生を受けたことを呪って生きてきた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「この辺りでいいだろう。

 この辺りならフェニックスが来たとしても動きにくくなることは無さそうだ。

 ここでライトニングを打ち上げることにしよう。」

 

 

アローネ「分かりました。

 ではフェニックスがやって来たとして作戦はいかが致しましょうか?」

 

 

タレス「幸いなことにフェニックスは炎で包まれていると言うのであれば火の系統のモンスターです。

 ボク達の中に火が苦手な人はいないので即戦闘不能に陥ることはないでしょう。

 普通に戦うだけでいいと思います。」

 

 

ミシガン「火なら氷………のレイディーはいないけど水の私がいればなんとかなるよね?」

 

 

ウインドラ「ふむ………確かに水を使えるミシガンがいれば多少は相手の火が通りにくくなるとは思うが………、

 一応お前達は火傷防止のために全身を水で濡らしておいた方がいいかもな。」

 

 

アローネ「そうですね……。

 それだけでもフェニックスからの攻撃を半減させる効果が見込めます。

 ミシガンお願いしま「ちょっと待って」」

 

 

 

 

 

 

カオス「皆気が早いよ。

 俺達たった今ここまで登ってきたばかりじゃないか。

 それなのになったそんなすぐに強そうな相手と戦えるだけの体力残ってるの?」

 

 

ウインドラ「む………?

 そうだな………ここに来るまで戦闘という戦闘が無かったからいきなりフェニックスと戦うことだけしか考えてなかったな。」

 

 

カオス「フェニックスはこの山のどこかにいるみたいだしライトニングで誘き出せばいつでも戦えるわけだろ?

 フェニックスは飛んでくると思うしさ。

 だったら万全な体勢で挑むためにも少し休憩してからにしようよ。」

 

 

ミシガン「言われてみればなんか足が疲れちゃったなぁ………。

 こんな状態で戦闘になったら私上手く立ち回りにくいかも………。」

 

 

タレス「ではカオスさんの言う通り時間を空けてからウインドラさんにフェニックスを呼び出してもらうことにしますか。」

 

 

アローネ「少々気が早かったようですね。

 休息も大事な戦略です。

 それでは一度一休みしてからフェニックスに挑むことにしましょう。」

 

 

 カオスの一言で一行はしばし休憩の時間をとることにした。彼等は山登りは初めてではないがそれでも疲労は発生する。これから戦うであろう敵はフェニックスという不死という点を強調するような相手だ。長丁場になることは窺える。そんな相手に挑むのに先に疲労で足をとられて敵の攻撃をかわしきれず窮地に追い込まれるのも予測できるだろう。先ずは疲労を回復するのが戦術の一手と言えるだろう。

 

 

カオス「……よし、じゃあ皆はここで休んでて。

 俺はちょっと辺りにモンスターがいないか警戒してくるよ。」

 

 

ウインドラ「おいおい、言い出しっぺのお前が何で休まないんだ?」

 

 

カオス「俺は………まだまだ体力が残ってるんだ。

 だから安全確保のためにも少しそこら辺を見てくるよ。」

 

 

アローネ「でしたら私も同行しましょうか?

 カオス一人にそんな仕事を押し付けるわけには………。」

 

 

カオス「大丈夫さ。

 少し見回ってくるだけだしそんなに離れたところには行かないから。」

 

 

 カオスはアローネの申し出を断って一人で見回りに行く。一瞬カオスの顔が陰って見えたのは見間違えではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………やはり乗り気ではないようだな………。

 モンスターと言えどもフェニックスの話はどことなくカオスがミストでしてきたことと似ているから………。」

 

 

タレス「あんな調子でカオスさんはフェニックスと戦えるのでしょうか………?」

 

 

アローネ「カオスなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスなら問題ないと思いますよ………。

 何せカオスなのですから………。」



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二度目のあの少女は…

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もう………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックスとの戦いが始まるんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞いた話ではフェニックスはそんなに狂暴そうではない。それどころかフリンク族の人達をブルカーン族から守っているくらいだ。それなのに俺達はフェニックスを討たねばならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………討ちたくないな………。俺が今まで倒してきたのは積極的に誰かが困るようなことをするような危ないモンスター達ばかりだというのに今度のフェニックスは余計なことをしない限りは比較的無害な相手だ………。それもヴェノムだ。

 

 

 昔はヴェノムは一度感染して理性を失ったら後はもう倒さなくちゃいけないものだと思っていた。一度ヴェノムに感染してからは他の生物を襲ってウイルスを拡げていく。そうなったらもうミストの時みたいなことになる。そうならないようにヴェノムに感染した個体は感染する前の生物と完全に別物と思い視界に入るヴェノムは倒してきた。ヴェノムはそうしないといけないくらい危険だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だけど………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回のヴェノム………フェニックスはどうだ?フェニックスはどうも近付いたりしなければ犠牲になる人なんて現れない。それどころかヴェノムだというのに逆にフェニックスの存在がフリンク族の人達をブルカーンから守っている。フェニックスがいるからこそフリンク族の街はあんなに活気に溢れた豊かな街に育った。その平和による弊害も出ているようだがそれはフェニックスではなくフリンク族の問題だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 存在しているだけで人を守るヴェノムか………。そんなヴェノムとは会ったことが無かった………。ヴェノムだというなら理性なんて無いはずだがフェニックスは何を考えてここに住み始めたのだろう………?フェニックスはどうしてこんなフリンク族とブルカーン族を引き離すような場所に住み着いたんだろう………?分からないことだらけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当にフェニックスを倒してしまっていいのか?過去に犠牲者が一人出たという話はあったがそれでもフェニックスの貢献はそんな話を無かったことにするくらい大きい筈。他の部族のアイネフーレ、スラート、ミーア、クリティア、カルト、ブロウンはヴェノムウイルスによって人口が大分減らされたりあるいは全滅一歩手前まで追い込まれた。それに比べてフリンク族達はたった一人の犠牲者を払ってからは特に犠牲も無くむしろ街の守り神と崇めたてまつってもいいくらいにはフェニックスはこの地方の人々を他の災厄から救っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………まるで昔のミストの殺生石と同じように………。殺生石も触りさえしなければ誰も死なずに済んでいたんだ。だからミストでは危険な石だったとしても殺生石を中心にして村を作ってそこに住んでいた。最後はそんな危険な石だったとしてもまた殺生石の力が戻るように皆が色々と方法を模索していた。結局力は戻ることは無かったが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックスは視野を広くして見れば昔の俺と同じなんじゃないか?俺はウイルスを撒くようなことは無かったがそれでも力を奪った責任を感じてミストの村の中に入れずとも村の周りに現れるヴェノムを狩りに狩っていた。陰ながらミストを守るために………。フェニックスはそんな俺と同じ考えなのかは分からないがやっていることは同じように感じる。

 

 

 フェニックスは本当は理性があるんじゃないか?理性があるからこうしてこの場所からフリンクの地方を部族間の境界地点でフリンク族が誰もブルカーンの犠牲にならないように………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………都合のいいように解釈するのは間違ってるかな………。フェニックスが俺と似たようなことをしてるからどうにもフェニックスのことを悪くは言えな「………はぁ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「………死にたい………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!………あの子は………。」

 

 

 考え事をしながら歩いていたらすぐ近くから声がした。

 

 

 そこにいたのはフリューゲルを訪れた初日の夜に出会ったあの少女だった。少女はカオスとは反対の方向を向きながら崖になった場所に座って足を下ろしている。ここで驚かせでもしたらそのまま崖から落っこちていきそうで危なそうである。しかし何故フリンク族(?)の彼女がこんな場所に………?家出にしても街からここまでは大分遠いうえに一人でこのようなフェニックスの出没する場所にいたのではフェニックスに襲われたとしても文句は言えない。

 

 

 そういえばフェニックスの話に流されてフラットとナトルに少女のことを聞きそびれた。あのような住民同士で言い争いが繰り広げられる街ならこの少女のように見るからに虐待を受けていそうな人も少なからずいるのだろう。そうした人がこの辺りには多いのかもしれない。

 

 

 が、ここで出会ってしまったからにはこの少女がこの後のフェニックスとの戦いで被害を受けかねない。ここはこの少女を一度保護して安全な場所まで送り届けてからフェニックスに挑むことに「メェェェ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「メェェェ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?カイメラ…!?

 どうしてこんなところに……!?」

 

 

 カオスが出会った謎の少女に続いて今度はカイメラまでもがその場に現れた。フリンク族の地方に向けてブロウン族の集落トロークンを出発してから途中まではカイメラも一緒だった。だがカイメラはそれから少し経ってカオス達と離れて一匹でフリンク族の地方に駆け抜けていった。なのでこの地方にカイメラがいたとしてもおかしくはないがどうしてこの場所にカイメラが………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「メェェ……」

 

 

???「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スリスリ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 座っている少女にカイメラが頭を擦り付ける。その様子からカイメラが少女になついていることが分かるがカイメラが元ヴェノムの主だったことを思い出してその光景になんとも言えない気持ちになる。今は危険から程遠い姿をしているがほんの二週間前まではカイメラはブロウン族のハンターにヴェノムの王と言わせるまでに強い力を秘めた異形の姿をしていた。それが今はただのそこらにいるモンスターの力にも及ばない草食動物へと変わり果ていた。あのままカイメラと少女を放置していてもよいのだろうか………?実はなついているとかではなく少女を崖から突き落とそうとしているどけなのでは………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「………()()()()()()………。

 ………()()()はどうしたらいいと思う………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………?」

 

 

マウンテンホーンズ「メェ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………やはり家出娘のようだ。父親と喧嘩でもして飛び出てきたのだろう。………だが気になる名前が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…カーヤ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガサッ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「!!?」ビクッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「しまっ……!?」

 

 

 ついカーヤという名前に反応して聞き耳を立てる素振りをしてしまい足元にあった草につんのめって音を立ててしまった。その音を聞いて少女がカオスを振り返る。気付かれてしまったようだ。………と言っても元々話しかけようと思っていたのだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…やっ、やぁ………また会ったね。」

 

 

 

 

 

 

???「………!」

 

 

マウンテンホーンズ「メェッ!!」

 

 

 カイメラがカオスを威嚇する。つい先日まではお互い敵同士であったのだ。カオスを威嚇するのも分かる。

 

 

 しかし少女の方はカオスを見た途端に驚愕と恐怖が入り交じったような表情を浮かべて後ずさる。当然彼女の後ろには崖しかないのでそれ以上後ろに下がることはできないのだが………、

 

 

カオス「ちょっ、ちょっと待って!俺は別に君に危害を加えるつもりは無いんだ!

 この山にちょっと用事があって登ってきたんだけどそしたら君を見掛けたから………!」

 

 

 とにかく彼女に自分が危険な存在ではないことを伝えてはみるがそれを素直に受け取ってくれたかは微妙なところだった。とりあえずは彼女が崖から滑り落ちないように説得しようと試みるが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「………カーヤに………」

 

 

カオス「……ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「カーヤに近寄らないでッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女はカオスに叫ぶのと同時にバックステップで崖から飛び降りた。



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身軽な飛び降り

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女が視界から一瞬にして消えた。彼女はまるで地面に吸い込まれるかのようにカオスの視界からフェードアウトした。

 

 

 しかし彼女が消えた辺りの場所はカオスの位置からでも崖になっていることが分かる。そんな場所で少女が消えたとなればどこに行ったかは一つしか無くて………、

 

 

 理解出来ない行動も直ぐに理解してしまい………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「きっ、君ッ!!?

 どうして……!?」

 

 

 カオスは直ぐ様少女が飛び降りた崖に走り崖から下を覗きこむ。もしかしたら足を滑らせて後ろに落ちてしまっただけかもしれない。先程はカオスを見て怯えていたようにも思える。だったら今の飛び降りは事故だったのでは?もしそうなら崖のどこかで引っ掛かってるのではないか?色々と頭の中に過るが先ずは彼女が無事か確認しないと……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と思ったカオスだったが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザッ!ザザザザザザザッ!!スタンッ!!タタタタッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……!」

 

 

 飛び降りた少女は崖下の木々の葉々をクッションにし無事地面に到達した。そして森の中へと駆け出して行ってそのまま見えなくなった。あの少女の身のこなしから相当な身体能力を秘めていることが分かった。フリンク族はそういった能力が高いと聞いていたので彼女は誤って落ちたのではなくやはり自分から飛び降りたのだろう。カオスから逃げるために………、

 

 

カオス「(……フリンク族はやっぱり余所者に対して壁があるな………。

 街でもここでもフリンク族が俺達を避けているのは間違いないけど………。)」

 

 

 今しがたカオスから逃げていった彼女のことが気になる。彼女は飛び降りる寸前カーヤに近寄るなと発言した。

 

 

 カーヤ………話ではフリンク族が世話をしていたホークのことだったはずだがそれがフェニックスに変異してこの山にいる。しかしこの場にはカオスと今いなくなった少女と、

 

 

マウンテンホーンズ「メェェェッ!!」

 

 

ガスッ!

 

 

カオス「痛い………。」

 

 

 カイメラの二人と一匹しかいなかった………。それなのにカーヤに近寄るなとはどういうことなのか………?この山に来たということはフェニックスに会いに来たのだと察してあのように言ったのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………?

 カオスどうなさったのですか?

 崖下など覗きこんで………?」

 

 

カオス「…!アローネ!」

 

 

アローネ「危ないですよ?

 そのような場所にいると落ちてしまいますよ。

 もし滑って落下してしまえばいくらカオスでも怪我は免れませんよ。」

 

 

カオス「………」

 

 

 たった今人が一人落下していたのだが当人は特に怪我もなく走り去っていったところだ。それを説明しても変に思われないだろうか………?

 

 

アローネ「………それでそこにいるのは………カイメラではありませんか?」

 

 

カオス「ん…?あぁ多分カイメラだよ。

 偶然この山に来ていたみたいで今会ったばかりなんだ。」

 

 

アローネ「何故カイメラがこの山に………?

 ここにはフェニックスがいる筈ですからそれを狙ってまたあの姿に変身しようと………?」

 

 

 アローネはカイメラがここに来た目的はトロークンの時のようにまたあのヴェノムの化け物に変身しようとしているのではないかと危ぶむ。

 

 

 だがカオスにはもうそれが不可能だということは分かっている。カオス自らカイメラのヴェノムウイルスは除去し今後カイメラがあの姿に戻るようなことはない。

 

 

カオス「その心配はないよ。

 カイメラは………ここに人に会いに来ていただけみたいなんだ。」

 

 

アローネ「カイメラが人に………?」

 

 

カオス「この前話していた女の子がさっきまでここにいたんだ。

 カイメラはその子に会うためにここまで来たんだよ。」

 

 

アローネ「!

 カオスが話していた女の子もここへいらっしゃったのですか?」

 

 

カオス「うん、

 けど俺を見た途端にどこかへ行っちゃったけどね。」

 

 

 ここで少女が崖を飛び降りていったなどと行っても混乱させるだけだろう。カオスですら何故少女が崖を飛び降りてまで逃げたのか分からないのだから。

 

 

アローネ「……そうですか………。

 しかしその少女がこの辺りにおられるとなりますとフェニックスとの戦闘に巻き込まれる危険がありますね………。

 戦闘になれば私達はともかくフェニックスが暴れだしたら同じ人であるその少女が被弾してしまうのでは………。」

 

 

カオス「それもあるかもね………。

 このことはウインドラ達にも話しておこうか。

 フェニックスと戦う前にその()()()()()()女の子に危ないからこの山から離れるように伝えて離れててもらわないと。」

 

 

アローネ「家出している………?」

 

 

カオス「女の子が言ってたんだよ。

 一人言………カイメラに話しかけてたみたいだけどなんかいつになったらお父さんが迎えに来るのかな、って。」

 

 

アローネ「お父さん………お父上と喧嘩してこの山に家出………ということでしょうか?

 それにしては少々危険な場所に足をお運びしたようですが………。」

 

 

カオス「そうだよね………。

 フリンク族の人達の話ではフェニックスはそんなに危ないモンスターじゃないみたいけどそれでもこの山に近寄らないようにナトルさんも子供達に注意してたくらいだし………。」

 

 

アローネ「フェニックスの問題が終わりましたら一度フリューゲルに戻ってナトル族長にお話した方がよさそうですね。

 この山にフリンク族のどなたかの御子様が家出なさっていると。」

 

 

カオス「そうしようか。

 家族の問題なら俺達がどうこう出来るような話じゃないしね。

 

 

 きっとあの子のお父さんも大事な娘が帰ってこなくて困ってるだろうし。」



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フェニックス登場

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「やっと戻ってきたか。

 遅いぞカオス。」

 

 

タレス「遠くの方まで見回りしてたんですか?」

 

 

 アローネに連れられてカオスが見回りから帰ってくるとウインドラ達が待ちくたびれた様子で二人を迎えた。

 

 

ミシガン「何かあったの?

 アローネさんが迎えに行ったのに帰ってくるの遅かったけど。」

 

 

アローネ「そのことなんのですが………。」

 

 

カオス「フリューゲルに来た初日に俺が会った女の子がいたんだよ。

 それとこの………、」

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「メェェ………」

 

 

タレス「!………カイメラ……?」

 

 

ウインドラ「………何で見回りに行っただけでカイメラを連れて帰ってくることになるんだ……?」

 

 

ミシガン「っていうかカイメラが何でこの山にいるの?」

 

 

 カオスとアローネがカイメラを連れて戻ってきたことを追及する三人。それもそうだろう。ブロウン族の地方で別れたカイメラがこんなフェニックスがいるような場所で再開することになったのだから。

 

 

カオス「俺もよく事情は分からないんだけどこのカイメラ………その女の子と一緒にいたんだ。」

 

 

ウインドラ「例の少女か………。

 カオスの話ではフリューゲルの西側の方で見掛けたという話だったが………。

 フリューゲルから方角的にはここもフリューゲルの西だ。

 カオスが会ったという少女はカオスと別れてからこの山に来たということになるのか。」

 

 

タレス「なんでわざわざこんな山に女の子が………?」

 

 

ミシガン「カオスはその女の子が家出したんじゃないかって言ってたよね?

 いくらこの山に()()()()()()()()()()()()()()()()()()って言っても危ないんじゃない?

 フェニックスって縄張りに入ってきたら攻撃してくるんでしょ?」

 

 

アローネ「そういうことでしたら私達ももうフェニックスから攻撃を受けていてもおかしくありませんが………。

 当然カイメラも………。」

 

 

カオス「上手く隠れてやり過ごしてるんじゃないかな?

 フリンク族の人達って思ったよりも身体能力が高いみたいだし他人のマナを関知する能力に長けてるって話だったろ?

 だからフェニックスが近付いてきたら見付からないように隠れてるんだよ。

 

 

 ………何にしてもちょっとフェニックスの件が終わったら一回フリューゲルに戻ってその女の子のことをナトルさんに話しておくべきだと思うんだ。

 フェニックスが………この後どうなるか分からないけどもしフェニックスがこの山からいなくなったとしたらここにもモンスターや………ブルカーンがやって来るかもしれない。

 そんなところに女の子がいつまでも居続けるのは危険だよ。

 そう直ぐに来るとは限らないけど女の子のようにここに家出するような子とかも他にいるかもしれないしね。」

 

 

ミシガン「街の子供達が胆試ししようとしてたくらいだしね。」

 

 

ウインドラ「…そうだな。

 この地方はフェニックスのおかげで比較的安易に外に出られるとはいえ子供だけでこのような場所に踏み込むなど少々危機感が低すぎる。

 大人がそこのところをしっかりと管理すべきだな。」

 

 

タレス「警戒心が強いというところが自慢の部族らしいですがね。

 それにしてはヴェノム対策などを怠るところとか少し抜けてる面が目立ちます。」

 

 

マウンテンホーンズ「フスゥゥゥゥ…。」

 

 

タレス「……もしボク達が来る前にカイメラがブロウン族の領地を抜けてこっちのフリンク族領まで入ってきてらどうなっていたんでしょうね。」

 

 

ウインドラ「タレスの想像している通りになっていたんじゃないか?

 あんな外敵から攻められるということを考えていないような街にヴェノムが来たらひとたまりもないぞ。

 本来であるなら人員が十分にいるのならヴェノムがどこに現れたかを明確にするために各地に見張りを配置すべきなんだがこの地方はあのフリューゲルに人が集中し過ぎている。

 と言うことはあそこにヴェノムが現れたら一網打尽にされるわけだ。

 あの街にヴェノムが到達してしまえばそれこそフリンクがアイネフーレ、カルト、ブロウンに次ぐ第四の全滅部族になってしまうぞ。」

 

 

ミシガン「うぇぇ……、

 結構賑やかな街だとは思ってたけど案外問題が多そうなところだったんだね………。」

 

 

アローネ「それもこれも皆フェニックスによるところが大きいのでしょう。

 フェニックスがいるからこそそうした対策を施す必要が無かったためあぁした身内だけの問題だけにしか目を向ける必要が無い………。

 そんな街が出来上がってしまった………。

 ………ある意味あの街は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界が平和になった際の姿そのものなのかもしれませんね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……だけどそんな平和を俺達は壊さなければいけない………。」

 

 

ウインドラ「フェニックスという不確かな護りに守られてる状況が作り出したまやかしの平和だ。

 真の平和はその先で作り出さなければならない。」

 

 

タレス「フェニックスや他のヴェノムの主をどうにかしなければ三ヶ月後にはフリューゲルはデリス=カーラーンごと消滅してしまうんです。

 それでなくてもいつかはカイメラのような怪物が現れたらフリューゲルはお仕舞いです、

 ならボク達がすることはもう決まっていますよね。」

 

 

ミシガン「倒すかどうかはまだカオスの術が効くかどうかなんでしょ?

 フリンクの人達の話を聞いてたら………あんまり倒したくはないよね………。」

 

 

 

 

アローネ「それでも私達は進まなければなりません。

 私達が突き進まねばこの世界に未来は無いのですから………。

 私達の行いによって世界の存続か消滅かが決まります。

 ………私も出来ることならフェニックスとは戦いたくはありませんが先ずは会ってみるしかありません。

 

 

 ………ウインドラ、

 

 

 お願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………覚悟はいいな皆………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ライトニング!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシャアアッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如カオス達がいる場所から遠くの方で何がが爆発するような音が聞こえてきた。その轟音は………、

 

 

 先程()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 あの崖の方角からだ。あの崖の方角には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………!

 お出ましのようだな。

 

 

 来るぞ!」

 

 

 その掛け声で皆は武器を構える。音が響いてきた方角から何ががこちらへと近付いてくる気配を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは火そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中で燃える炎。炎が鳥のようの形をしていた。その大きさはブルータルやグリフォンと並ぶ程巨大な炎の鳥。その鳥が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達の元へと飛来した。



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毒炎

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「これが…………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックス………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス「ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その鳥は紅蓮の炎に包まれていた。体の構造が炎のみで構成されているような姿をしている。噂通りの………想像していた通りのモンスターだ。近くにフェニックスがいるだけで炎から発せられる熱がカオス達にも伝わってくる。触らずとも火傷してしまいそうな程素肌の表面が焼かれてしまそうになる。触れずにこれほどならフェニックス自体は千℃近い温度を放っているはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………!

 一応調べておきますか………。」

 

 

 タレスはフェニックスの姿に呆然としていたが懐からスペクタクルズを取り出してフェニックスに向ける。フェニックスの情報を探るようだ。

 

 

アローネ「ミシガン!カオス!

 相手は火です!!

 ミシガンはフェニックスに降りかかるように水を!

 カオスはその降らせた水を凍らせてください!!」

 

 

ミシガン「分かった!!」

 

 

カオス「………」

 

 

ウインドラ「………!?

 どうしたカオス!」

 

 

カオス「………あ………。」

 

 

ウインドラ「戦闘が始まっているんだぞ!

 呆っとするな!」

 

 

カオス「ごっ、ゴメン…!」

 

 

 フェニックスが現れたというのに別のことに気をとられてしまいアローネの指示に返事ができなかった。

 

 

カオス「(………あのフェニックス………、

 さっき………あの子がいた辺りから来なかったか………?

 あの子がいた辺りから………フェニックスが出てきた………。

 

 

 あの子は………無事なんだろうか………?

 俺が驚かせたからあの子は崖から飛び降りてフェニックスの方に逃げて………)「『スプレッド!!』」!」

 

 

 あの少女の安否も気になるがミシガンの術が発動した。それならば今はこの戦いに集中するしかない。カオスはアローネの指示通りミシガンの水を氷に変化させるべく氷の魔技を放つ。

 

 

カオス「『アイスニードル!!』」

 

 

 

 

 

 

パキパキパキンッ……!!

 

 

 

 

 ミシガンが打ち上げた水の魔術スプレッドがカオスのアイスニードルを受けて氷の雨を降らせる。相手が火のモンスターであるならこれを受ければ大ダメージを期待でき………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス「フォフウウウウウウウウウウウウウゥォオッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・ミシガン・ウインドラ「!!?」

 

 

 ………期待はできなかった。フェニックスが翼を羽ばたかせると翼から火の粉が撒き散り氷の雨を一瞬にして蒸発させた。相手が火なら氷で相殺………それならば逆に氷を火でも相殺できる。カオスとミシガンの連携攻撃はフェニックスの羽ばたきの炎で打ち消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピッ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「……!

 出ました!!

 フェニックスの詳細です!!

 フェニックスは………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()……!!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 スペクタクルズを使用していたタレスが四人に聞こえるようにフェニックスの情報を伝える。  

 

 

ウインドラ「……となれば俺の雷撃でもダメージを与えることは出来ると言うわけか………。

 それなら思っていたよりも戦いやすい!!

 今回はサポートに回ろうと思ったがそういうことなら俺も前に出て戦わせてもらうぞ!!」

 

 

 タレスの情報を聞きウインドラが技を出す体勢に入り、

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「『バニッシュボルト!!』」

 

 

 

 

 

 

ピシャアアッ!!ブオオオオンッ!!

 

 

 

 

 

 雷の魔技を放つ。ウインドラの電撃は先程の氷を打ち消した羽ばたきもさせぬままフェニックスに命中する。スピードが最速の雷の技なら打ち消される前に当てることはできる………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス「ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「!………全然効いてないぞ!?」

 

 

タレス「属性耐久はありませんが素で魔術抵抗が高いです!!

 詠唱込みの魔術でないとまともにダメージを与えることはできません!!」

 

 

ウインドラ「そういうことは早く言ってくれ………。」

 

 

 

 

 どうやらこのフェニックスは並の魔術程度ではダメージを与えることができないようだ。

 

 

カオス「それなら俺の魔技で…!!

 『バニッシュボルト!!』」

 

 

 

 

 

 

ビビィ!!バチバチバチバチバチバチッ!!!バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 カオスのバニッシュボルトがフェニックス目掛けて放たれる。ウインドラのバニッシュボルトでダメージを与えられなくてもカオスの魔力ならいかにフェニックスといえども………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファアアアアアアアアアアアアアアア………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスのバニッシュボルトが炸裂する瞬間フェニックスの体の赤く燃えるが黒く染まり出した。あの反応は………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチバチバチ…………ヂヂッ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが放った電撃がいとも簡単にかき消されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「俺のバニッシュボルトが…!?」

 

 

ミシガン「カオスの攻撃も効かないの……!?」

 

 

アローネ「いえ、効かないのではなくあの毒撃の炎で防いだのでしょう。

 あの黒い炎を纏っている内はいかなる攻撃もフェニックスには届かない……!」

 

 

ウインドラ「それは厳しいな………。

 とすれば奴があの黒く燃えている間は俺達は奴に攻撃しても………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスのバニッシュボルトに反応して黒く変色したフェニックスの体が再び真っ赤な炎の色へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「……あの黒い炎は………そう長くは使えないみたいですね。」

 

 

アローネ「そのようです。

 毒撃の炎を使えるのは私達の攻撃を迎撃する時のみ………、

 それ以外では通常の炎と使い分けしなければならないようですね。」

 

 

ウインドラ「そうと分かれば話は簡単だ!

 俺達全員で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()すればいいだけだ!!

 全員で詠唱込みの魔術をあいつに食らわせてやれ!!

 そうすれば奴を弱らせることができる!!

 後はカオスのレイズデッドでフェニックスのウイルスを浄化すればフェニックスとの戦いは終わりだ!」

 

 

 ウインドラの提示した作戦で五人はフェニックスを迎え撃つことになった。理屈の上ではその作戦で今回のフェニックス無力化を謀れる………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………かのように思えた。



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天翔る炎翼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………フェニックスはオサムロウの話では()()という話だったはずだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故最弱という話が出回ったのかというと他のヴェノムの主のように各部族それぞれがヴェノムの主によって甚大な犠牲者を出している中フェニックスだけがそれほど多く犠牲者を出していない。フリンク族がのうのうと外を出歩ける程この地方だけはヴェノムによる被害が少なく住人達も他の地の人々のようにヴェノムを恐れてはいなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最弱………つまり一番弱いということだ。ヴェノムの主最弱のフェニックス、人を自分から襲うことがないヴェノムの主。後に分かることなのだが不死鳥と言ってもカオス達五人の誰かの攻撃が真芯に当たりさえすれば容易にフェニックスは倒せるぐらいにフェニックスは守りの面でも他のヴェノムの主に劣るような相手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………当たりさえすれば………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「俺が注意を引き付ける!!

 その隙に皆は魔術でフェニックスを攻撃してくれ!」

 

 

アローネ・タレス「はい!」ミシガン「任せて!」ウインドラ「頼んだ!」

 

 

 作戦としては魔術抵抗が高いフェニックスは詠唱無しの魔術ではダメージを与えることができない。ならば攻撃するとしたら詠唱込みの魔術で迎撃するのが正解だろう。しかし詠唱中はほぼ無防備だ。攻撃を食らえばそれだけで詠唱も中断されダメージも負ってしまう。なのでフェニックスを何かに引き付けておく必要がある。カオスは毒撃以外の属性攻撃なら完全に無効化できるので他の四人が攻撃に回りその間はカオスがフェニックスと対峙するという流れだ。カオスの考えを直ぐ様理解し四人はフェニックスから少し距離をとりフェニックスを狙い撃ち出来る位置にまで移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「こっちだ!!」

 

 

 空を飛行するフェニックスにカオスが呼び掛け自分だけに集中するよう注意を向けさせようとする。

 

 

フェニックス「ボオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 フェニックスもカオスの呼び声に反応しカオスに向かって炎を吐き出してくる。

 

 

 それを、

 

 

カオス「効かないよ!!」

 

 

 カオスは真正面から炎を受け止めそれを斬り払う。

 

 

フェニックス「……!?」

 

 

 攻撃が効かなったことにフェニックスの動きが一瞬止まる。その隙に後方でアローネ達が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『疾風よ!!我が手となりて敵を切り裂け!!』」タレス「『地に伏す愚かな贄を喰らいつくせ!』」ミシガン「『蒼溟たる波涛よ、旋渦となりて、厄を飲み込め!』」ウインドラ「『天光満つるところに我はあり、黄泉の門開くところに汝あり、出でよ神の雷!!』」

 

 

 

 

 

 

 フェニックスに妨害されることなく詠唱を完成させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『ウインドカッター!!追撃の二十連撃!!』」タレス「『グランドダッシャー!!』」ミシガン「『タイダルウェイブ!!』」ウインドラ「『インディグネイション!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!!!ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオッ!!!!ブワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!ピシピシピシッ………!!!ゴオオオオオオオオンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四人の怒濤の大技がフェニックスに迫る。これならフェニックスも躱しきれずにダメージを与えられ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファアアアア………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボフンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「なっ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ、タレス、ミシガン、ウインドラの四人の魔術は発動した。発動してそれがフェニックスに当たる寸前フェニックスの炎が激しさを増し飛行速度が大幅に上昇した。それによりフェニックスは四人の魔術を掻い潜り一発も当たることなく作戦は失敗に終わった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムが攻撃を避けた………?本能的に危険な攻撃だと判断したのだろうか?いやしかし………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「こっちの攻撃を避けるヴェノムか………、

 そんなヴェノムは今まで会ったことがないな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス「ゴオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の一瞬の回避で分かった。このフェニックスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とんでもなく()()()()()()()。一度同じヴェノムの主グリフォンの飛行速度を目にしたことがあるカオスでもグリフォンではこのフェニックスに追い付くのは無理だろう。ましてやグリフォンとは比較にならないほどこのフェニックスは反射神経もずば抜けて高い。あの猛攻から素早くすり抜ける飛行能力はまさに()()()()()。針に糸を通すようなくらい回避が難しいタイミングだったあの連続攻撃を縦横無尽に飛び全てを掠りすらせず避けきった。

 

 

 最弱という噂のヴェノムの主のはずだったがここでそれを見直す必要がある。このフェニックスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()フェニックスだ。生半可な速度ではこのフェニックスに攻撃を当てることすら厳しい。おまけに詠唱込みでなければダメージを与えることもできず空を飛行しているためどうしてもフェニックスとの距離が生じる。距離が遠くなればなるほど遠距離からの攻撃は非常に当てにづらくなる。更に空を飛行しているフェニックスは地上にて狙い撃つカオス達では死角からの不意打ちもできない。空から見下ろすフェニックスからは確実にカオス達はフェニックスの視角内に映る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということはだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!!……一度で駄目なら当たるまで攻撃を続けるだけです!!

 もう一度全員でフェニックスに攻撃を仕掛けましょう!!」

 

 

タレス「はい!!」ミシガン「分かったわ!!」ウインドラ「次こそは必ず!!」

 

 

 アローネの号令でカオス以外の四人が魔術を放つ体勢に入る。再度同じ作戦でフェニックスに挑むようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『疾風よ!!我が手………』……!」ゴオオッ!!

タレス「『地に伏す愚かな……』……うわっ!?」ボオッ!!

ミシガン「『蒼溟たる波涛………』キャッ……!?」ボアッ!!

ウインドラ「『天光満つる………』………くっ!?」ボスッ!!

 

 

カオス「何ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 アローネ達がもう一度魔術の詠唱に入ろうとするとフェニックスは空からアローネ達を薙ぐように炎を吐き出す。それにより四人は詠唱を邪魔されてしまい魔術を使うことができなかった。

 一度魔術を四人が使ったことによりフェニックスは四人に対しても目を配るようになった。これによって四人はこの戦闘中満足な威力を込めた魔術を封じられてしまうことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……何だ………こいつ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス「ボオオオオオオオオオッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックスは確かにヴェノムのはずだ。カオスのバニッシュボルトを防ぐ際にもカイメラと同種の毒撃を使用したことがその何よりの証拠。ヴェノムであるのなら知性は無くただ目の前の獲物に向かって突撃していくのがこれまでのヴェノムの特徴だった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしこのフェニックスはこれまで確認してきたヴェノムの様子とは違い進んで獲物を狩りに行くようなヴェノムではない。他のヴェノムのように飢餓に苦しむ個体では無いのだ。その違いががあるか無いかの違いなのかこのフェニックスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どことなく知性を持ち合わせているような感じがする………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それもホークやウルフといったモンスターのような知性でなく()()()()に近いような………。



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拮抗…?

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は思いの外苦戦を強いられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『疾風………』また……!!」ボオオオッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「『地に伏す……』よっと!」ボオオオッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「『溟たる…!』もう!!」ボオオオッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「『天光満つる……』クソッ!」ボオオオッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このようにフェニックスは魔術の詠唱を始めるとそれに反応して炎を吐きかけてくる。それによって詠唱が止まり術は無駄にマナだけを消費して終わる。フェニックスがこうも詠唱を妨害してくるということはそれがフェニックスにとって危険だと察したからだろう。だからカオス以外の四人が魔術を使おうとするとそれを邪魔してくる。

 

 

 そのフェニックスの行動から魔術が()()()()()()()()()()フェニックスにとってはそれが危ういことが読み取れる。こちらが地上にいて相手が空を飛行する以上魔術しかこちらに手は無いのでそれしか攻撃する手段は無いわけだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その二つの過程を突破するのがかなり難しい。先ず魔術を発動すらさせてもらえないのだから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「くっ…!

 魔術すら発動させてもらえないとは……!?

 

 

 こうなったら全員で同時に魔技をぶつけて少しずつ弱らせるぞ!!」

 

 

 詠唱込みの魔術が発動できないのでは魔術で迎撃する作戦は無意味だ。状況を見てウインドラが作戦の偏向を皆に伝える。ここからは威力が格段に下がるが速効に長けた魔技で応戦することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『ウインドランスッ!!』」ミシガン「『スプラッシュ!!』」ウインドラ「『バニッシュボルト!!』」

 

 

 三人の魔技が同時に発動した。タレスの魔技グレイブは空を舞うフェニックスには届かないためタレスは一旦後方へと下がる。一人欠けた同時攻撃だが発動速度はフェニックスの妨害よりも早く無事魔技は発動できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファアアアア……!!バチッ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしフェニックスを捕らえたのはウインドラのバニッシュボルトだけであった。他二人の魔技は発動こそしたもののフェニックスの高速移動によって回避されてしまう。

 

 

アローネ「……!!

 これも当たらない……!!」

 

 

ミシガン「私達の攻撃じゃ全然フェニックスに追い付けないよ!!?」

 

 

 詠唱込みの魔術を華麗に躱すフェニックスに対し今度は速度で優る魔技の連続攻撃をしかけるが当たるのは雷の魔技バニッシュボルトのみ。他二つの魔技はフェニックスが飛ぶ位置に届く頃にはフェニックスは遠くの空に逃げてしまう。

 

 

タレス「…このままこちらの攻撃が躱され続ければ一生フェニックスに勝つことなんてできませんよ。

 何とかして奴の動きを止めなければ……。」

 

 

ウインドラ「一生か………、

 ………その一生とは俺達が奴に倒されることになれば存外早く来てしまうな………。」

 

 

 攻撃を避けられ続けて焦りが出てくる。このまま戦闘が長引けば倒れるのはこちらの方だ。これまでのヴェノムはどれもノーガードで突っ込んでくる敵ばかりだった。だから最弱と言う噂を鵜呑みにしてろくに情報を揃えること無く戦闘を開始してしまったカオス達の落ち度によって今回のヴェノムの主戦は過去最難関の試練となっている。カイメラのように攻撃を受けて再生してしまう敵であったのならそこから攻略の糸口を掴むことはできた。カイメラはまだ無尽蔵とも思える体力を削りきることはできたのだ。

 

 

 

 

 

 

 フェニックスに至っては攻撃自体が届かない。これではフェニックスを攻略どころの話ではない。一度こうして対峙してしまってはもう後には退けない。フェニックスの飛行速度はグリフォン以上。グリフォンの時ですらダインと二人でレアバードで飛びながらも巻くことはできなかった。そして今回はそのレアバードも無い上に数が五人もいる。もし逃げるとしても誰か一人は確実にフェニックスに追い付かれる。この戦闘では決して逃げ切ることはできない。どこかでこの流れを変える一手は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『氷雪よ!!我が手となりて………!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!カオス…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス「スゥゥゥ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴオオオオオオオオオッッッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(無駄だ!!俺にただの炎は効かない!!)」

 

 

 他の四人が炎で妨害されようともカオスだけはその攻撃を受けたところで何の弊害もない。精霊王マクスウェルの加護がカオスをフェニックスの炎から守ってくれる。他の四人が魔術を使えないのならカオスが魔術を使うだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス「……!?」

 

 

 炎を受けてもカオスの詠唱が中断されないことにフェニックスは動揺したような動きを見せる。やはりこのフェニックスは何かヴェノムらしからぬ動作をする。

 

 

 それでも今はとにかくフェニックスに魔術を撃つことだけに集中しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『敵を凍て尽くせ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイシクル!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキイイィィィィィィィィンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 極大の氷の塊がフェニックスに向けて放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス「バシュッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!やっぱ当たらないか………!!」

 

 

 詠唱は中断されずに魔術は発動できたがそれでも氷の魔術ではフェニックスの回避行動で軽く避けられてしまう。

 

 

ウインドラ「…!

 カオスそのまま連続で当たるまで畳み掛けろ!!

 俺達が魔技でフェニックスの動きをコントロールする!!」

 

 

アローネ「魔術はカオスに任せます!!

 私達はカオスの援護に回りましょう!!」

 

 

 フェニックスに妨害されずに魔術を放てたのを見てウインドラとアローネが直ぐに次の作戦を立てた。今度は注意を引き付ける役ではなくメインで魔術を撃つ。カオスならフェニックスの攻撃で魔術を封じられることはない。それならカオスが魔術を使うべきだ。そういう作戦でいくこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『落雷よ!!我が手となりて敵を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またフェニックスの炎が赤から青……そして黒く染まりだした。まだ魔術は発動はしていないのだがカオスの魔力の桁違いな強さを警戒して先に防御の姿勢をとったのだろうか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いや違った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ…!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『撃ち………!?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うわっ……!?」

 

 

 黒い毒撃の炎を纏ったフェニックスがそのままカオスに突っ込んできた。毒撃はカイメラ戦でカオスでも防げないことは熟知している。フェニックスは毒撃の突進攻撃で強引にカオスの詠唱を止めに来た。フェニックスは毒撃を守るだけでなく攻撃にも多用してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それによりカオス達はこの戦いで魔技以外の全ての攻撃を完全にフェニックスの攻撃行動によって封じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……っ、つっ、強すぎないか………!?」

 

 

 

 

 

 

 フェニックスはカオス達の行動を見てからそれを確実に止めに来る。それも一度使った手を最善と思われる方法で。カオスが炎が効かないと見るや毒撃の突進で止めに来たのを見るとフェニックスは確かにこの戦闘中()()()()()()()()()()()戦っている………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ戦いの中で理知的に工夫して戦うこと。対人戦ではごく当然のことだが身体的に人よりも強いモンスターが相手となるとそれは更に高いレベルを追及される。“力”では敵わない、故に()()を駆使して自分よりも力で優る相手に挑み、そして勝つ。世界は単純な力の強さだけで勝敗が決するだけではない。弱者が知恵を用いて強者を上回ることもあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにきてこのフェニックスは圧倒的な運動性能がありながらそれでいてカオス達に対しても様々な工夫を凝らして戦闘を行う………。強い力を持ちながらも相手の出方を窺い着実にこちらを追い詰めてくる戦法は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正に完全無欠の強者そのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 純粋な強さだけじゃないその利口的に立ち回る様はカオス達五人を同時に相手取りながらも互角以上に攻め立てカオス達が付け入る隙を与えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………これで未だにカオス達の全員が()()なことが奇跡である。



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フェニックスの正体

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一進一退という状況が進んだり戻ったりするという意味の言葉がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達は今そんな状況に置かれた心境であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし一進一退とは多少なりとも状況が進むことはあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達のは状況が何一つ好転しない、言うなれば()()()退()、カオス達は徐々にフェニックスに一歩ずつ追い詰められていっている。頼みの綱の魔術はまともに発動すらさせてもらえない。仕方なく発動する魔技はどれも躱され唯一フェニックスに届いた魔技は黒炎の護りで防がれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回のフェニックスはどうもモンスターらしからぬ動きをする。そのことがあってカオス達も簡単にはこの状況を覆すことができないでいる。何か策を考じなければいつかはフェニックスの攻撃がこちらに届いて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス「ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「『スプラ……』キャッ………!?」ゴオオオッ!!

 

 

 ミシガンが水の魔技スプラッシュを発動させようとしフェニックスに先手を打たれる。とうとうフェニックスが魔技までも妨害してきた。

 

 

カオス「大丈夫ミシガン!?」

 

 

ミシガン「あわっちち……… 大丈夫!

 平気だよ!」

 

 

 フェニックスの炎が掠めたミシガンであったがまだ倒れるほどのダメージは負っていない。皆魔術や魔技を妨害されはするが炎が迫る寸前で上手く躱し続けて何とか一人も脱落者を出さずに戦闘が続いている。

 

 

 それもいつかはフェニックスがこちらの動きを見切って炎を当てに来たらそれこそ戦況が一方的になるのだろうが………、

 

 

ウインドラ「………狙いが定まらないな………。

 あそこまで疲れ知らずに飛び回られてはこちらがじり貧していくだけだが………。」

 

 

タレス「心なしかフェニックスのスピードもどんどん速くなっていってますよ。」

 

 

アローネ「あれでは私達の攻撃がフェニックスに届きません……。

 どうにかしてフェニックスの動きが止められればいいのですけど………。」

 

 

ミシガン「でもあれだけフェニックスが炎を吐き出してるのに私達()()も食らってないよ?」

 

 

ウインドラ「その点はモンスターが故の()()()()()に助けられてるな………。

 狙いを外してもそこから焦点を合わせることができないんだろう。

 ここまで連続で炎を放っているというのに俺達に一撃も食らわせられない学習能力と命中制度の低さが奴を攻略する鍵となりそうだが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………()()()()()()()()()()………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス「ゴオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この戦闘………どこかおかしい………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックスはグリフォンを越える飛行速度でこちらを翻弄し悉くカオス達の攻撃を回避し続ける。その間にもフェニックスはこちらに対して炎を吐き出し魔術や魔技を発動させないようにしている。こちらは五人で相手は一羽。手数が多いこちらの攻撃を防ぐの精一杯で命中制度が安定しないというのであれば納得する話だがそれでもカオスにだけは()()炎を浴びせかけてきた。単純にその炎を無効化できるカオスはあえてその炎を食らいはしたが特段フェニックスが命中力に欠けるという印象は受けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学習能力が低いという話も何か違う気がする。フェニックスは炎が効かないと見るや毒撃の突進を決行してきた。フェニックスは何が有効な手段なのかを理解し攻撃してくる。知能は想像でしかないが人のレベルに匹敵するほどに高いはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのにこちらに攻撃をかわされるのにも関わらずそこから攻撃を当てようとしない。追撃を加えてこない。五人同時攻撃をたった一羽で捌けるのにそこから先に踏み込んでこない。五人いるのなら一人ぐらい集中狙いすればこちら側に倒れる者がでてくるはずなのにそれがでない………。

 

 

 

 

 

 

 手加減をされているのか………?何のために………?ヴェノムの癖して本当に人を殺さないというのだろうか。こいつならいつでも他の四人を仕止めることは容易なはずだ。現に五人の攻撃を同時に捌くということはこのフェニックスはこの場の五人の五倍以上の速度で攻撃することができるということ。必要に自分一人だけに炎を当ててくるのはそれが効かないと分かっているから。

 

 

 攻撃を避けるのはそれを受けてしまえばダメージを受けるからだ。炎を受け止めたのはそれが効かないから。先程からフェニックスが攻撃を仕掛けてくるのはどれもこちらが何かアクションを起こした時のみでそれもこちらに対して効かない攻撃と避けられる攻撃だけを使用してくる。冷静に観察してみればアローネ達四人に吐きかける炎はどの攻撃も若干狙いが外れている。アローネ達は気付いていないようだがフェニックスの攻撃は少し下がれば回避可能な攻撃ばかり………。黒炎の突進を仕掛ける際も十分避けられる間合いだ。もし黒炎の突進を他の四人に使用したらそれだけで即戦闘不能に陥ってしまう。何故かこのフェニックス、攻撃はしてくるが致命傷を与えるような攻撃は当ててこない。一体何を考えているのだろうか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………少し試してみるか………。」ザッ…

 

 

 そういってカオスは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『落雷よ!!我が手となりて……!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術の詠唱を始めた。

 

 

アローネ「!

 カオス!!フェニックスが……!?」

 

 

 フェニックスはカオスが詠唱を始めたのに反応してまた黒炎を纏い突進してくる。

 

 

 それを………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『…敵を撃ち払え…!!』」

 

 

ウインドラ「!?

 何をしている!!

 カオス避けるんだ!!」

 

 

 フェニックスが迫っているというのに回避モーションをとらずに詠唱を完成させて魔術を放つ体勢をとる。それを見たウインドラが叫んで回避するよう言うが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(……大丈夫だ、俺の考え通りならこいつはここで………!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クイッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「……えっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックスはぶつかる直前で軌道を変えそのまま空へと飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス以外の四人は一瞬何が起こったのか分からなかった。魔術を撃たないカオスとカオスの横を素通りするフェニックス。両者の間で今の瞬間何があったのか。何故カオスとフェニックスは接触しなかったのか。疑問を解くべく両者の様子を交互に見てみるがそれでも分からない。フェニックスは空を舞いカオスは………、

 

 

 何かを確信したような表情を浮かべるだけ。一体カオスは何をしたのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………やっぱりか………。」

 

 

アローネ「カオス………?

 今何が………?」

 

 

カオス「……分かったよ。

 このフェニックスの目的が………。」

 

 

ウインドラ「フェニックスの目的………?」

 

 

カオス「…フェニックスは俺達始めからと戦ってなんていなかった。ずっと()()()()()()()をしていたんだ。フェニックスは俺達をただこの場から遠ざけたかっただけなんだよ。」

 

 

ミシガン「どういうこと?」

 

 

カオス「今のフェニックスの突進で気付いたんだ。

 フェニックスが何で俺だけに攻撃を当てて皆には一度も攻撃を当てられないのか………。

 最初から()()()()()()()()()()()()()()んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうなんだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()。」



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炎の中には………

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「炎の中の………!?」タレス「誰かいるんですか……!?」

 

 

 カオスが突然理解しがたいことを言いアローネ達はその内容を受け入れるのに時間を要した。カオスが言うにはフェニックスの燃え盛る炎の中に人がいるらしいが何故そんな話になるのか………、

 

 

ウインドラ「……カオス、

 何の話だ………?

 何でフェニックスの中に人がいるという話になるんだ?」

 

 

ミシガン「そうだよ、

 あんな熱そうな火の中に人がいるわけないでしょ?」

 

 

 カオスが考察して辿り着いた答えを何の脈絡もなくいい放てば当然それの否定が入る。火の温度はおおよそ千℃を越える。それは人の体温の実に二十倍以上。常人ならとても耐えられる温度ではない。魔術によって発せられた炎であったとしても火が直接自分を襲うことはないだろうが火によって熱された空間の弊害は受ける。ほんの少しの間なら熱が体に伝わる前に拡散するだろうが常時熱に晒されるとなると自らの魔術の影響であっても危険だ。その理論がある限り炎の中に人がいるのだという答えにはたどり着けなかったが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは常人ならではの話だ。カオスは少し前に常人なら耐えられないはずの空間に来た人物を確認している。どういった技術だったのかは結局分からなかったが高温とは逆に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その者はモンスターすら逃げ出す低温気候の中でも平然とやって来た。やって来てカオスに修行を付けてくれた。その前例が無かったらこの答えは導き出せなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファアアアアアアア………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更に根拠を追加するのなら先程から聞こえてくるこの音………。この聞こえてくる音ですらもカオスの考えの根拠を裏付ける一つだった。皆も一度この音を聞いたことがあるはずだが聞いていた時間は自分が誰よりも長い。だからこそ()()()()()()()()()()()()()()()でさえも気が付かないのだろうが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………アンタ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエなんじゃないのか?

 炎の音に混じってさっきからレアバードの駆動音がするんだけど。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スッ……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスがフェニックスにバルツィエだと指摘するとフェニックスはゆっくりと炎の勢いを弱めながら地上へと下降する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして火の中からは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!?まさか本当に………!?」

 

 

ウインドラ「あれは……レアバード!?」

 

 

タレス「フェニックスが………バルツィエ!?」

 

 

ミシガン「なっ、何で……!?」

 

 

 カオスの考えが的中したようだ。炎が消えて出てきたのはダインやランドールが使用していたレアバードと()()()()()()()()()()()()レアバードと思われる機体が現れた。フェニックスは………、

 

 

 何故か搭乗席ではなくレアバードの真下にいるようだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……やがてそのフェニックスの火も収まりそこから出てきたのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスがこの地方に来て二度顔を会わせたあの少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………何で君が炎の中から………?

 君はフリンク族じゃ………?」

 

 

???「………」

 

 

 カオスの推理は概ね当たっていた。最後に誤算だったのはバルツィエだと思っていた者が例の少女でレアバードの真下にぶら下がるように現れたこと。

 

 

 彼女はフリンク族ではなくバルツィエだったと言うのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…お前はバルツィエなのか………?」

 

 

 レアバードの真下から現れた少女にウインドラが問い掛ける。

 

 

???「………」

 

 

 少女はウインドラの問いに答えない。よく見るとその顔からはカオス達に対する恐怖が窺える。その様子からはバルツィエのような凶悪そうな人格は持ち合わせていないことが分かるが、

 

 

アローネ「……貴女がフェニックスの正体だったのですね………。

 ………貴女の御名前はなんと言うのですか………?」

 

 

???「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「えっ!?カーヤ……!?」

 

 

タレス「カーヤってフリンク族で飼育していたホークの名前じゃ………。」

 

 

ウインドラ「また事実の食い違いが出たな………。

 フェニックスの元となったのはモンスターのホークのはずだったが現実にはフェニックスはバルツィエの女だったわけか………。

 ………お前の目的は何だ?

 何故あんな………ギガントモンスターと見間違われるような姿をしていた?」

 

 

カオス「ちょっ、ちょっと待ってくれ!

 この子はフリンク族じゃないのか……!?」

 

 

ウインドラ「この女がフリンク族だと言うのなら何故レアバードに乗っているんだ。

 あれを作ったのはバルツィエだぞ。

 あれを扱っているということはあの女はバルツィエに違いはない。

 ………炎使いなところを見るとあの途中の村はこいつの仕業と見た………。

 

 

 お前がダレイオスに来ているバルツィエの先見隊の一人で間違いはないな?」

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

アローネ「………!!

 いえそれですとこの子はつい二、三ヶ月前にダレイオスに来たことになりますよ!

 ですがナトル族長達のお話ではフェニックスが現れたのはそれよりも前の話です!

 彼女は先見隊とは別でしょう。」

 

 

タレス「でも現にあの人はレアバードに………。」

 

 

ウインドラ「あれほどの炎を維持し続けていたのだとしたら相当なマナを保有していることになる。

 レアバードを所有していることから見てもこの女はどう考えてもバルツィエだと事実が告げているわけだが………。」

 

 

ミシガン「貴女は………バルツィエの一員なの………?」

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………………あ、あの………!」

 

 

アローネ「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………あの街の周りで暴れないで………!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤと名乗った少女はカオス達にそう告げると持っていた()()()()()()()()()()()()()()()()()()去っていった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その際彼女はカオス達バルツィエが多用する()()()()でカオス達の目の前から消えた………。

 

 

 そのことから彼女が疑いようもなくバルツィエの関係者であることが窺えるのだが………。



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新たな刺客かそれとも…

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何だったんだあの子は………。始めはフェニックスの中に誰かがいる、レアバードに乗った誰かが炎で体を覆い尽くしているんだと分かりそのことを進言するところまでは良かったんだ。

 

 

 

 

 

 

 そこから現れたのは会う度に消えたり崖から飛び降りたりとアクロバティックな別れかたをする少女。今回は二度目から間が空かずに三度目の出会いとなったわけだが彼女にはまた驚かされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なにせバルツィエが得意としている移動用技術、飛葉翻歩を使って自分達の前から逃げていったのだから。彼女がフェニックスの正体だったことも驚愕の事実だったが彼女がバルツィエだったということにも皆は驚いている。

 

 

 フェニックスの正体がバルツィエの少女。それも………、

 

 

ウインドラ「………今のはカオスや他のバルツィエが飛葉翻歩か………。

 あれとレアバードとウイングバッグ………。

 それとあの膨大な炎を吹き出す魔力だけであの少女がバルツィエなのは確定なのだが………。」

 

 

タレス「何か思うところでも?」

 

 

 カオスを含めた四人はウインドラが口にした言葉の内容をそのまま思いはしたがウインドラはそれとまだ何か気になることがあるようだ。

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「……俺と俺の部隊はバルツィエとマテオで紛争を興そうとしていた。

 その時に事前に敵になるバルツィエの総員を一から調べあげた。

 バルツィエは一つの家と言っても一人一人が強大な力を持つ騎士達だ。

 正式に敵になる前に敵を探っておくのも勝つための戦術としては必要だったからな。」

 

 

アローネ「情報の収集は大切ですからね。

 それで何が問題なのでしょう?」

 

 

ウインドラ「……バルツィエは現在本家の当主アレックスがクリスタル女王の夫になったことでアレックスの家に分家の当主の殆どが入り浸っている。分家達はそれぞれが各々基本六属性のどれかを得意とした家系だ。その当主達は俺達でも知ってるユーラスやランドール、ダイン、ラーゲッツ達だ。

 現段階ではこいつらに子供はいない。皆未婚だ。

 一応ランドールの少し年の離れた親戚筋にニコライトがいるがおおよその最年少世代としてはランドール達が現場で指揮をとっている。

 こいつらより上の連中は遠方で非常時にのみ駆け付けてくるんだが………。」

 

 

ミシガン「………?

 つまりどういうこと………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「……バルツィエの出生記録にはあんな少女の存在は確認されていない。

 最年少世代はランドール達のはずだ。

 あの少女は推察してニコライトよりやや上程度の年齢のはず。

 それだったら俺達が目に通していないはずがない。

 それなのに彼女はバルツィエの力を操りバルツィエが乗るレアバードに乗っていた。

 彼女は確かにバルツィエだ。

 ………だがバルツィエとしての彼女の存在を俺達の部隊は知らなかった………。

 

 

 彼女はバルツィエの公式の記録で見たことが無いんだ。」

 

 

 

 

 

 

カオス「他人の家の情報なんてそんな詳しく全部調べられるのか?」

 

 

アローネ「王国制度をとっている国での身分の高い家系ならそこのところは出生から詳細が詳しく記録されるはずですよ。」

 

 

ウインドラ「そうだ。

 今のところバルツィエの一番最後の子供はニコライト、その次にラーゲッツだったはずだ。

 ごく最近になってクリスタル女王が産んだアンシェル姫を抜かせばバルツィエの血筋はそれ以外は生まれてはいない。」

 

 

ミシガン「えっ?

 じゃあ何?あの子バルツィエじゃないわけ?」

 

 

ウインドラ「…いや、

 あの力は間違いなくバルツィエの血が無ければ出せん出力だった。

 彼女は確実にバルツィエの血を引いている………。

 それも()()()()()()()()バルツィエの血がな。」

 

 

タレス「ならあの無人の街を破壊したのも彼女が………?」

 

 

アローネ「いえ、

 ですからそれは最近の話でして彼女は数年前からこの辺りに滞在していたのですよ?

 あの破壊した跡は他のバルツィエの仕業です。」

 

 

カオス「炎と言えばラーゲッツは………。」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「……ラーゲッツは俺が処断した。

 だからここに来ているとすればラーゲッツの父親辺りだろう。

 バルツィエの先見隊はラーゲッツの父親で決まりだ。

 だがそうなると彼女は一体何者なんだ………?

 何故彼女の存在がバルツィエで記録されていないんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうやらフェニックス討伐は失敗に終わったようですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「!?」

 

 

 去っていったカーヤと名乗る少女について話をしていると突然近くから声がかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ですから貴殿方にナトルがフェニックスを()()()()()()ほしかいと言ったのですよ。

 余計な情報を知ってしまえば貴殿方はあのフェニックスを倒すのを躊躇してしまう。

 殺す相手のことを一々気にかけるなど無駄なことです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「フラットさん………?」

 

 

アローネ「何故この場へ?」

 

 

フラット「貴殿方がフェニックスを無事討伐出来るのかを確認しに来たのですよ。

 フェニックスが倒れたかどうかで今後ブルカーンへの対応を工作しなければなりませんのでね。」

 

 

ウインドラ「丁度よかった。

 こちらからも聞きたいことがたった今出来たところだ。」

 

 

フラット「……何でございましょうか?」

 

 

ウインドラ「決まっているだろう。

 あのフェニックスのことについてだ。

 フラット殿の話ではあれはホークが変異したモンスターだったと聞いたがあれは人だった。

 それもバルツィエのな。

 

 

 ………何がどうなっているんだ?

 本当のことを話してくれ。

 何故俺達に重ね重ね嘘の情報を教えるんだ?」

 

 

フラット「嘘………ですか。

 貴殿方の目的を支援するためにあえて貴殿方のお手元が狂わぬよう配慮したつもりだったのですがね………。」

 

 

タレス「それで何であのフェニックスがホークだなんて話に………。」

 

 

フラット「決まっているでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの小娘をこの世から一片たりとも残さず貴殿方には消し去っていただきたかったからですよ。」



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災厄の子供カーヤ

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………ここまで皆様に知られてしまってはもうお話しするしかないのでしょうね………。

 あの小娘のことを。」

 

 

 そう呟いたフラットは彼女に対して憎悪を詰まらせたような顔をしていた。

 

 

ウインドラ「…教えてくれ。

 あの少女のことを。

 あの少女は一体何なんだ?」

 

 

 

フラット「………全ては………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から始まりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「ゲダイアン消滅から………?」

 

 

ミシガン「それがあの子と関係あるの?」

 

 

アローネ「フラットさん、

 実はゲダイアン消滅にバルツィエは………。」

 

 

フラット「えぇ、

 ミーアの者達からその話の経緯も伺っております。

 セレンシーアインでバルツィエが当時あの件には関わっていなかった。

 マテオではこのダレイオスに大魔導士軍団なる者達が潜伏していてそれを目障りに感じたバルツィエが百年の停戦を破りこの地に攻めようとしていることも。

 そのことはここでは置いておきましょう。

 よくよく考えてみれば()()()が事件当時にこの地を訪れたのはただの偵察の帰りだったのでしょう。」

 

 

アローネ「あの輩………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「()()()()()()()()()()()()()()()ですよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「!?」

 

 

フラット「あの()()が全ての始まりなのです。あいつがこの地を訪れてから私は私の全てを失った……!!

 あいつこそがフリンクにとってはもっとも殺したい悪魔……!!!」

 

 

 少女の名を口にした時よりも更に顔をしかめるフラット。ラーゲッツがフリンクに何をしたというのか。

 

 

カオス「…それでラーゲッツが貴方に何をしたんすか?」

 

 

 

 

 

 

フラット「………十八年前、

 私には婚約者がおりました。

 名を“ロベリア”、ロベリアはナトル族長の娘さんで人柄もよくフリンクの中でもとても美しい女性でした。

 私などにはもったいないくらいで気立てもよく誰からも愛されるそんな女性………。

 私は彼女とは年も近かったのとナトルの仕事を補佐する立場として彼女とは何かと顔を会わせることも多くいつしか私達は共に愛し合う仲となりました。

 ナトル族長も私のことは息子のように気にかけてもらい私達二人の仲を快く応援してもらえました。

 そしてそこからは順調に交際から結婚にまでこぎ着けてフリンクでも人気のあった族長の娘の縁談ということもあって話はフリンク全体にまで広まり式の日取りも立てられる予定でした…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのゲダイアン消滅寸前までは全てが順調だったのです………。

 あのゲダイアン消滅でラーゲッツがこのフリンク領に来訪するまでは………。」

 

 

 

ウインドラ「ラーゲッツがここへ来たのか?

 一体何のために………?」

 

 

フラット「ただのマテオへの帰り道に立ち寄っただけでしょうね………。

 私達はミーアからセレンシーアインの事の経緯を聞くまではラーゲッツがゲダイアンを破壊してからここへやって来たのだと思っていましたが………。」

 

 

タレス「…それでラーゲッツは何をやらかしたんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「殺戮と凌辱ですよ。バルツィエがよくやることです。

 奴はあのレアバードという乗り物でやって来てフリューゲルの住民を好き放題に殺した後抵抗力を失った私達の目の前である女性に暴行を加えだした。

 私の婚約者だったロベリアはフリューゲルでも一番の美人だと評判だった。

 

 

 それが原因で奴の目に止まりロベリアは強姦されたのです………。」

 

 

カオスアローネタレスミシガンウインドラ「………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またバルツィエの酷い話だった。思った以上にラーゲッツはとんでもない悪行をこのフリンク族の領地で働いていたらしい。ラーゲッツはマテオで見掛けた時もアローネに手を出そうとしたくらいだ。そのくらいのことは日常茶飯事なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからもまだフラットの話は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ラーゲッツは私の婚約者ロベリアを凌辱した後満足して帰っていきましたよ。

 どうやらレアバードが不調でイライラしていたらしくレアバードを仕舞っていたバッグごと捨ててその場を後にしました。

 ロベリアはその後暫くショックで鬱ぎ込んでいました。

 初めてあった見も知らぬ男に無理矢理私達がいる前で犯されたのですから当然です。

 私もラーゲッツには手酷く痛め付けられてて彼女を救ってあげることもできずに見ているだけしかできませんでした。

 それからもロベリアは見るからにどんどん元気がなくなっていき精神的にも不安定な状態が続きました。

 私との婚約も解消してくれと言い出すようになって私は気にしないとは言ったのですがそれでも彼女の決意は固くナトル族長も今はそっとしておいてくれと頼まれ私は渋々彼女の心が癒されるのをひたすら待ち続けました………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ところがそれから数ヵ月が経った時、

 ロベリアがなんと()()していたことが分かったんです!

 父親は勿論私ではなくあの糞ッタレのラーゲッツです!

 ロベリアは奴の子供を孕まされていたんですよ!!

 あの性獣はロベリアに不幸の種を残していきやがったんです!!」



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ラーゲッツの娘

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「……まさかその子供と言うのが………!?」

 

 

フラット「えぇ、

 御察しの通りあの小娘()()()です。

 皆様にはフリンクで飼育していたホークと伝えましたがそれはあの小娘を皆様に心置き無く処分してもらうための方便です………。

 私達にはあの小娘を殺すだけの力が不足しているので。」

 

 

アローネ「相当彼女のことを毛嫌いしているようですね………。

 憎き敵の子供だから………。

 それでも名前があるのは………?」

 

 

フラット「…カーヤはロベリアが一人で育てると言い産んで名付けました。

 ロベリアは優しい女性でしたから例え望まぬ相手との間で妊娠した子供でもおろすことはしませんでした。

 この世に生まれ出た命なら始めはどんな血を受け継ごうとも罪は無いのだと私達に言い聞かせ本当に一人で育てるつもりのようだったみたいです。

 ………私もその言葉に感動しロベリアと一緒にカーヤを実の子と思って育てようと思いました………。

 ロベリアは私に汚されてしまった彼女のことを諦めさせる意味も込めてカーヤを産んだようでしたがそんな彼女のもどかしい優しさも含めて私はロベリアを愛していたのでそんなことは大した障害とは感じませんでした………。」

 

 

 フラットの話を聞く限りではあのカーヤという少女は最低最悪の出自のようだがそれでも母親のロベリアという女性とこのフラットの二人で育ててきたようだ。

 

 

 では何故今カーヤはフェニックスと呼ばれこのフラットからも殺すよう言われるようになってしまったのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………それからの日々を私はロベリアとあのカーヤとの三人でナトル族長の仕事を手伝いながらもどうにか充実した時間を過ごしてきました………。

 あのフリューゲルでは他の部族に比べて力で劣っていることもあってか劣等感や他人に対する負の感情が強い面もあってバルツィエの血を持つ娘を育てていた私とロベリアへの風当たりも相当なものでしたがロベリアがいてくれるのなら私はどんな皮肉や暴言の数々も外吹く風のように気にはなりませんでした。

 私達を罵倒嘲笑する声の中にはそんな子供捨ててこいだの殺してしまえだのという声もありましたが私はロベリアが産んだ子にそんなことはできない、この子は私の子だ、私が責任を持ってロベリアとカーヤの二人を大切に守ってこれからを生きていくんだとそんな奴等に言ってやりましたよ………。

 私はこの時まではずっとそんなふうに思って生活していた………。

 このままロベリアとカーヤの三人で生活してそのうちカーヤの弟か妹でもロベリアと一緒になって作ろうとかそんな幸せな未来のことを考えていました………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今更ながらその時の私はロベリアがいたからこそカーヤの面倒を見れていた。

 ロベリアの存在あってこそ私はカーヤの存在を赦すことができていた。

 私は………、

 

 

 

 

 ロベリアを失ってやっと自分が周りの連中と同じでカーヤを疎ましく思っていたことに気付かされたんですよ。

 やはり私はあの小娘のことを愛することなんて無理だったんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ロベリアを失って………?」

 

 

 フラットは話が進むごとにその感情を言葉に乗せて言い放つ。その感情はこれまでのどんな人々よりも他者に対する憎しみの念が込められており人はここまで誰かを憎むことができるものなのかと畏縮してしまうほどだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「六年前………、

 カーヤが十歳の時に悲劇は起こりました………。

 ダレイオスの東側のアイネフーレ領にバルツィエが攻め込んできたという情報が流れました。」

 

 

タレス「…!」

 

 

ミシガン「例の奇襲のことだよね………?

 それがこんな遠い場所にも関係あったの………?」

 

 

フラット「いえ、

 この時は特にマテオのバルツィエ側がこの領にまで来たという報せはありませんでした。

 ですが私達は過去ラーゲッツという災厄が来たこともあって警戒はしていたのです。

 私達フリンク族はそういったことに敏感でして………。

 私達はいつバルツィエが襲ってきても動けるようにこのリスベルン山のもう少し登った先に避難所を作っていました。

 私達フリンクは一旦安全が確認されるまでそこに向かうことにしたのですが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからが悪夢だったのです………。

 バルツィエを一番に警戒する余り私達はヴェノムの存在を見落としていました………。

 通常であれば例えヴェノムが現れたとしても私達が捕まるようなことはないのですが運悪く私とロベリアとカーヤの三人はヴェノムに囲まれてしまい私とロベリアは上手く隙を付いて逃げ出すことに成功はしましたがその時カーヤがヴェノムに触れてしまい感染を………。」

 

 

アローネ「あの子のウイルスはその時に………。」

 

 

ウインドラ「六年前からあの少女は感染していたんだな………。

 …しかしそうなると彼女は先程は()()を保っていたようにも思えるが………。」

 

 

フラット「えぇそうです。

 あの小娘は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あの小娘はヴェノムに感染しても自意識をウイルスに一切侵食されません。

 あれはヴェノムウイルスを逆に支配したのですよ。」

 

 

カオス「ウイルスを支配だって………?

 人の力だけでそんなことが………?」

 

 

フラット「生物の個体はそれぞれヴェノムウイルスに対して個人差で抵抗があります。

 抵抗力の弱い者は簡単に意識を奪われますがあいつに関してはそれがヴェノムウイルスに勝っていた。

 だからウイルスを体に取り込みながらも意識の歪みが生じることなく今なお意識を保ち続けている………。

 ………だからそのせいで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達はカーヤがウイルスに感染していないのだと思い違いをしてしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤは………意識がヴェノムに飲み込まれない、体を変異させなかったからそれがイコール非感染………とはいかなかった………。

 ただの()()()()だったのですよ。

 彼女はちゃんとあの時ヴェノムウイルスに感染していた………。

 それによってあの小娘の一番近くにいた母親のロベリアは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛そうと懸命に努力した自分の娘によって感染してしまい亡くなってしまったのです………。」



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ラーゲッツの生存

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………もしかしてフェニックスのただ一人の犠牲者って言うのは………。」

 

 

フラット「ロベリアのことです。

 彼女は生んだ我が子によってヴェノムに感染してしまい死亡した………。

 自分の娘はヴェノムウイルスに対して()()()()()()()を持っていたようですが彼女にはそれが無かった………。

 当たり前のことですよ。

 彼女はただのフリンク族の族長の娘だっただけでヴェノムとはなんの縁もない女性だったのですから………。

 

 

 

 それに比べて奴の……!

 ラーゲッツの子種はなんと理不尽なことか…!!

 ラーゲッツはあの日ロベリアを辱しめただけに飽きたらず奴の残していった種によってまたもやロベリアが悲運な末路を辿ることになってしまった!!

 奴はその場にいずに時間差でロベリアを死に追いやったのですよ!!

 例え奴の血を受け継いでいようとも必死に愛そうと頑張った彼女の努力は無惨にも非情な最期を遂げる結果となってしまった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は後悔した!!

 あの時!!

 あの時彼女がラーゲッツの子供を妊娠したと分かった時に無理矢理にでも下ろさせておけば彼女はこんな惨めな最期を迎えることはなかったでしょう!!

 彼女が死んでしまったのはラーゲッツとその娘が原因なのです!!

 私とロベリアの父親ナトルは復讐を決意した!!

 ラーゲッツには力では敵わない!会いに行ってもただ無謀に散るだけ!!ならせめて奴の何かに復讐できないかと思い探した結果私達は身近にいたカーヤに復讐の刃を向けることにした!!

 私とナトルはカーヤを処断することに決めたのです!!」

 

 

 ここまで感情を爆発させて喋るフラットは見たことが無かった。この話はこれまでのように虚偽は含まれていないのだろう。全てが真実のようだ。なんて惨い話か………。

 しかしその決断は………、

 

 

カオス「でっ、でもカーヤが今も生きてるってことはそれは思い止まったんですよね………?

 カーヤは今も生きてるし………。」

 

 

 カーヤの出生はなんとも言えないほど闇にまみれている。このフラットの精神の病み具合から言ってもその先にカーヤが穏やかな日々を過ごせたとは思えない。フリューゲルの街ですら子供達の話を思い返してみればカーヤがとても平穏とは程遠い扱いを受けていることが分かるが流石に命を奪うまでは彼等も出来なか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「殺そうとしましたよ………。

 私とナトルは復讐の鬼に取りつかれていた。

 私達を止める者は誰一人として名乗りあげてこなかった。

 カーヤは当初から殺すべきだと言われていましたからね。

 殺そうとする時になってやっとカーヤを殺す意見が総員満了一致しました………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でもその時にはもう遅かったんです………。

 カーヤは魔術で溺れさせようとも切り刻まれようとも焼こうとも生き埋めにしようとも凍えさせようとも雷で撃とうともその時には既にヴェノムウイルスによって死なない体になっていました………。

 彼女は私達が手を下す時にはもう私達では殺せない不死の肉体を手に入れてしまっていた………。

 

 

 ……私達は復讐を決意するのが遅すぎたんです………。

 カーヤはロベリアを殺すのと同時に殺せない存在へと変貌していた。

 いくら攻撃を加えようともカーヤは即座にヴェノムウイルスの力で再生する上に次第に私達の魔術を吸収しだして遂には着ず一つ付けられない体になってしまっていた………。

 

 

 私達はラーゲッツの娘にすらまともに刃が立たないちっぽけな弱小部族でしたからそれが当たり前のことだったんですね………。

 ラーゲッツ一人に勝てなかった私達がバルツィエとヴェノムを併せ持つカーヤに勝てる見込みなどロベリアを失った時から失われていたことにそこで気付かされました………。

 私達はそこで殺生での復讐は諦めました………。

 ………代わりに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤの力を利用してこのフリンク領をヴェノムやバルツィエから守る役割を与えました。

 このフリンク領がダレイオスで唯一ヴェノムに汚染されていないのはカーヤの黒い炎の力があるからです。

 あの力は生命の何もかもを奪う力であれに触れればそこからマナが死んでいく………それはヴェノムも例外ではない。

 ヴェノムの禍々しいマナですらあの力の前には忽ちマナが底を尽きてしまう。

 なんとも凶悪な力ですよ本当に………。」

 

 

ウインドラ「その説明の仕方だとカーヤは貴方の………フリンク族の言うことは聞くと言うことなのか?」

 

 

フラット「そりゃそうですよ。

 そうでなければ今頃私達はブルカーンの手に落ちている頃でしょう。

 そうならないのは私が一時でもカーヤの父親を努めていたからです。

 

 

 カーヤは()()()()()の言葉には絶対服従です。

 私がこのフリンク領を守れと言ったら素直に従いましたよ。

 カーヤをこの場所に置いているのもブルカーンを近寄らせないため、

 カーヤは六年前からずっとこの場所で私達を守る壁となっているのです。」

 

 

アローネ「ここで………?

 あの少女が貴殿方フリンク族を守るためだけにこのような山の森の中でたった御一人で………。」

 

 

フラット「本当ならあんなウイルスに感染した小娘なんかこの領内から追い出したかったんですけどね。

 ですがあの小娘は曲がりなりにも私達フリンク族の血も流れている。

 そんな娘を他の地方に放てば我等フリンクが他の部族から批難の対象となりますから仕方なく私達はあの小娘を()()()()()()()()()()()()()()このフリンク領で飼っているわけですよ。

 エサは自分でそこらのモンスターでも狩らせておけば問題はありませんし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………惨い、惨すぎる。とても人に対する扱いではない。今まで聞いてきたどんな悪い話よりも残忍で惨たらしい話だ。彼女はヴェノムに感染していようとも人としての理性を保っている。そんな者に対してここまで非道になれるものなのか。いくら憎い相手の娘で事故によって最愛の人を失ったからと言ってもここまで人に対して悪意を向けられるのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女はただこの世に生まれてきただけなのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………さてと、

 今のでお分かりいただけたと思いますが私とナトルが貴殿方に虚偽の情報をお伝えしたのはこのような他人に話して気持ちのいい話では無かったからです。

 ここまでお話したのですから貴殿方にはなんとしてでも私達の敵を討ってもらいます。」

 

 

ミシガン「敵って………それは、だけど!」

 

 

フラット「拒否権はありませんよ?

 私達が話すのを躊躇うようなことを強引に聞き出したのですから貴殿方にはそれをおこなう義務が発生するはずです。

 ここでそれを放棄するのであれば力で全てを押し通そうとするバルツィエと同じです。」

 

 

ウインドラ「……!」

 

 

フラット「貴殿方にはこの先ブルカーンの地でイフリートなる謎の生け贄を欲する魔物を退治していただきたくはありますがその前に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このフリンク領にてヴェノムの主カーヤ、通称フェニックスと現在この近くで潜伏しているバルツィエの先見隊にして我が最愛の妻となる人だったロベリアの仇…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()を葬っていただきます!!!」



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撃ち取ったはずの敵

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………今誰を葬れと言った………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ですから()()()()()()()()()()()()()()()ですよ。それからカーヤ、この二人を貴殿方にはこの領内にいる間に処断してほしいとそう仰ったのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞き間違えではなかったようだ。フラットは確かにカーヤとラーゲッツを殺せと命じてくる。しかしその男は………、

 

 

ミシガン「ラーゲッツって………。」

 

 

タレス「ラーゲッツはレサリナスでウインドラさんに………。」

 

 

ウインドラ「…フラット殿……、

 俺達のことをミーアから聞いてないか?

 カオスはマテオの首都レサリナスでバルツィエの三人の騎士を同時に相手取る強者で俺もバルツィエを一人討ち取ったという話なんだが………。」

 

 

フラット「そのようなことをスラートからお聞きしたとミーアの遣いの者が仰っておりましたね。

 それならばラーゲッツの一人くらい貴殿方なら容易く討ち取れ「その討ち取ったバルツィエというのがラーゲッツなんだ。」………はい?」

 

 

カオス「ラーゲッツという男はフラットさんの話す通り大分女性好きでそういったことをするという話も納得します………。

 レサリナスで一度俺達も絡まれてその時アローネが連れていかれそうになって………。」

 

 

アローネ「話の特長からして彼がラーゲッツで間違いないでしょう。

 そのラーゲッツなのですが私達がこのダレイオスに亡命する前にウインドラさんの手によって倒されているのです。」

 

 

ウインドラ「………ラーゲッツは俺が始末した。

 だからここに来ている筈がないんだ。

 ここに来ているとしたら俺はラーゲッツの………分家の誰かで推測ではラーゲッツの父親辺りが来ていると思ったんだが………。」

 

 

フラット「ラーゲッツが始末された………?

 

 

 そんな筈がありませんよ。

 現にカーヤから聞き及んでいる情報によれば奴はラーゲッツと名乗ってフリューゲルの周りを新たなレアバードで飛び回っているそうですから。

 それも()()()()()()()()()まだカーヤは奴を仕留めきれていません。」

 

 

カオス「!!

 カーヤがラーゲッツの相手を……!?」

 

 

アローネ「彼はカーヤの父親なのではないのですか!?」

 

 

フラット「えぇ、ラーゲッツはカーヤの父親ですよ?

 父親ですけど私達はカーヤにはそのことを告げておりません。

 あのロベリアが亡くなった後に私はカーヤに“お前の父親は私ではない、お前の本当の父親は遠く離れた国で暮らしている、いつかお前を迎えにやって来るからその時までお前はここで私達の安寧を脅かす者達を追い返せ”と話してあります。

 ですのでこのフリューゲル近辺で私達フリンク以外の者の魔術のマナを感知すればカーヤが追い払いにいくという仕組みになっております。

 

 

 それに見事に引っ掛かったのがラーゲッツなのですよ。

 なんとも愉快な話ですよね。

 カーヤは待ちに待った自らの父親を知らずに何度も追い払っているのですから。

 ラーゲッツもその事実に知らずに実の娘に軽くあしらわれているのです。

 父親と娘の関係としてはある意味正しい在り方ではありますよね。

 昔は簡単に侵入できたフリューゲルに全く手出しもできなくて意固地になって奴は何度もフリューゲルを襲撃しに来ているようですよ?

 実の娘に邪魔されてね。」

 

 

 

 

 

 

 そう話すフラットは嗜虐的な笑みを浮かべていた。よっぽど二人のことが憎いようだ。話の経緯からそれは察することはできるがそれよりも………、

 

 

ウインドラ「ラーゲッツが………生きているだと………?

 ………馬鹿な!!

 奴は俺がこの手で殺した!!

 甦ることなどあり得ない!!

 何かの間違いだ!!

 奴が生きてこのダレイオスにやって来ているわけがない!!」

 

 

フラット「と、仰られても………貴殿方がダレイオスに亡命なされたのはかなり前になりますよね?

 ラーゲッツがフリューゲルの周りに彷徨き始めたのはここ一ヶ月程前の話です。

 今もどこかでフリューゲルに侵入しようと画策しているとは思いますが未だフリューゲルには届いていない。

 

 

 とすれば話は単純ですよ。

 貴方が討ち取ったと思って実は討ち取れてなかった、それだけの話です。」

 

 

ウインドラ「何………?」

 

 

フラット「貴方………ウインドラさんでしたね。

 ウインドラさんがラーゲッツを破ったのは()()()()()なのですか?」

 

 

ウインドラ「それは………レサリナスだが………。」

 

 

フラット「なるほど、レサリナスと言えばマテオのバルツィエの本拠地ということですね。

 亡命なさる直前に討ち取ったということはその時はかなりの急な亡命になったと思います。

 

 

 ………貴方はラーゲッツの死亡確認はしましたか?」

 

 

ウインドラ「………あの時はラーゲッツを討った直後に今度はフェデールとユーラスに襲われてそれどころではなかった………。」

 

 

フラット「ほうほう………、

 ではラーゲッツの死亡は確認できなかった。

 そういうことですね?」

 

 

ウインドラ「何が言いたい………?」

 

 

フラット「………貴方は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツを討ち取れてはいなかった。もしくは破ったという話は事実なのでしょうがその後に()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 敵の本拠地での話ならば直ぐ様マテオの力のある治癒術士に蘇生処置を施されてラーゲッツは回復したのでしょう。」



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フェニックスとラーゲッツの討伐

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………ラーゲッツが生きていた………のか………。

 …俺は……レサリナスで奴を仕留め損なったということか………。」

 

 

カオス「ウインドラ………。」

 

 

ウインドラ「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それだったらラーゲッツを再びこの手で地獄に叩き落とすまでだ!

 運よくレサリナスでは死に損なったみたいだが奴は俺が一度打ち負かしている相手だ!

 そんな相手に今の俺達が破れる道理はない!!

 

 

 今度は……!!確実にその息の根を止めてやるだけだ!!」

 

 

 ラーゲッツの生存を聞いて一瞬戸惑いはしたがそれでも奮起を昂らせるウインドラ。ラーゲッツの名にもっとも関係があるのはウインドラだ。そのウインドラかやる気をたぎらせるのなら他の四人もそこまで引きずりはしない。

 

 

 ここで問題なのは………、

 

 

 

 

 

 

フラット「そうでございますね。

 一度ウインドラ様がラーゲッツを破っておられるのなら貴殿方がラーゲッツに敗北するという未来は見えません。

 なんとも心強いメンバーのようです。

 

 

 ………しかし奴はレアバードに搭乗して戦闘を仕掛けてきているようです。

 飛行する相手との戦いは中々狙いが定まらずに思いもせぬ痛手を被ってしまう恐れがありますよね。

 これから先の貴殿方の目的を果たすためにもそれはあまり望むことではないはず………。

 

 

 

 

 

 

 ですので私から貴殿方にご提案がございます。」

 

 

 現状ラーゲッツとの戦闘を想定した時苦戦が強いられると予想してフラットが何か作戦を考え付いたようだ。………どうにもその作戦からは嫌な感じしか伝わってこないが………。

 

 

アローネ「何か手があるのですか?

 上空を飛ぶ相手に攻撃を当てる手段が………?」

 

 

 たった今飛行する相手にかなり厳しい戦いを行ったところだ。対空手段に関しては雷の魔術が有効で高速で旋回する相手でも当てられることが分かった。話によればラーゲッツはフェニックスのカーヤ程の力はない様子。それであればラーゲッツに敗戦することはないだろうがそれでもその油断が命取りに繋がる可能性を秘めている。万事は尽くすべくフラットが考え付いた作戦を聞こうとするのだったがその内容が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「先に貴殿方がカーヤを撃ち取ってレアバードを回収するのです。

 そうすれば貴殿方もレアバードという飛行手段ができてラーゲッツと互角以上の戦いが可能になるというわけですよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪い予感が当たった。フラットはそんな人の道から外れるようなことを平気で提案してきた。

 

 

タレス「…ですがボク達はついさっきそのカーヤ……さんに勝つことができなかった………。

 彼女からレアバードを回収するのは無理ですよ。」

 

 

 タレスの意見は皆も同意見だ。カーヤからレアバードを奪うのは難しい。それでなくとも彼女の悲惨な人生を過ごしてきたことを聞けばそんな気は起こらない………のだったが、

 

 

 

 

フラット「御安心下さい。

 そう言うと思い私からカーヤを指定の場所に誘き出すことにしましょう。

 何も疑わずにカーヤは私の前に現れその不意をついて皆様にはカーヤを一瞬で仕留めていただくのです。

 そうすればカーヤは簡単に倒すことができますでしょう?」

 

 

カオス「…そんなことを俺達にさせようと言うんですか?」

 

 

 なんという卑劣な作戦があったものだ。彼はカーヤが命令を聞くことをいいことにそれで騙し討ちをさせようと言うのだ。

 

 

 なんとも悪党が使いそうな手だ。

 

 

フラット「皆様はカーヤとの日が浅いから私達フリンクの気持ちが分からないのでしょうが()()()()()()()()()

 そうモンスターなのですよ。

 モンスターであるのならば気に病む必要は何もございません。

 皆様は何も考えることなくあれを討伐するだけでよろしいのですよ。」

 

 

ミシガン「モンスターって………意志疎通はできるんでしょ………?

 人としての理性をもつ女の子にそんな酷いことは………。」

 

 

フラット「見誤ってはなりませんよ?

 カーヤもあれで過去に人を殺しているのです。

 私の最愛の妻となる人だったロベリアを殺しているのですよ?

 あれはもう既に人殺しの立派な殺人鬼です。

 そんなものにかける情けなどあってはならないのです。

 ですから皆様にはそんな殺人鬼を殺せる内に殺してもらいたいのです。

 貴殿方が持つそのお力で我々フリンクの忌まわしき悪魔を取り祓っていただきたいのですよ。」

 

 

カオス「でも………」

 

 

フラット「貴殿方がお持ちになられたその力はどのようなお力ですか?

 ヴェノムを祓うためのお力ではないのですか?

 私達には無くて貴殿方にはあれを殺す力がある………。

 ならば貴殿方はやはりあれを仕留めるべきなのですよ。

 あの小娘を後々残していたらどんな()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それを防ぐことも貴殿方がスラートのファルバン族長達から依頼された内容に含まれるのではないでしょうか?」

 

 

カオス「………」

 

 

フラット「今はまだヴェノムの主は確認されている数は九体のみです。

 しかしここから更に増えないという保証はどこにも無いのですよ?

 ヴェノムが残り続ける限りその上位種ヴェノムの主も再誕生する危険は否定できない。

 ヴェノムからヴェノムの主が誕生する可能性はこの百年で限り無く低いようですがヴェノムの主は()()()()()()()しました。

 私が思うに貴殿方が倒されたヴェノムの主かもしくはまだ倒されていないアインワルド領のアンセスターセンチュリオンかブルカーン領のレッドドラゴンのどれかにヴェノムの主のウイルスの大元の根源がいるはずです。

 ヴェノムの主は一体でも残しておくのはそれだけヴェノムの主が新たに誕生してしまう可能性を孕んでいるのです。

 

 

 分かりますか?

 カーヤを生かしておくのはそれだけ危険なのです!」

 

 

ウインドラ「ヴェノムの主の大元の根源………?」

 

 

フラット「貴殿方とセレンシーアインでのランドールが話したという事実を突き詰めればそういうことになりますよね?

 バルツィエでないのならヴェノムの主を発生させたウイルスを巻いた犯人はいるはずです。

 

 

 ………まぁカーヤはヴェノムに感染して以来()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ヴェノムの主の発生源ではありませんがそれでもカーヤがいつかそうなってしまう未来も捨て置けません。

 カーヤがまだ私とナトル族長の言い付けを聞く内に始末するのが賢明でしょう。」

 

 

 ヴェノムの主の発生源………その話題はカオス達ではその謎を解き明かすことはできなかった。それを理由に深く考えることはなかったがヴェノムの主自体がまたヴェノムの主のウイルスを撒くことも有り得るなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラットが言うようにカーヤを必要に消そうと指示してくるのも分かる話だ。常人にとってヴェノムはほぼ無敵にも思える程強い。逃げ続ければいつかは飢餓で消滅するがそれまで逃亡を続けるのはかなりの精神的恐怖と疲労に襲われるだろう。フラット達にとってはヴェノムは強敵、その上位種ヴェノムの主は更なる大敵………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてカーヤはフラットにとっては完全なる怨敵。カーヤの討伐に関してはフラットは私情も入っているだろうがカーヤを擁護する部分が何も見つからない。カーヤは憎いラーゲッツの娘のハーフエルフで事故とはいえロベリアの仇でヴェノムの主フェニックス………。このフリンク領内にはカーヤの味方は一人もいないのだろう………。

 

 

 話を聞く分にはフラット達フリンク族がカーヤを憎むポイントは全て事故であったり生まれ持った血筋のことであったりと彼女にとってはどうしようもないことばかり。彼女から感染したというロベリアの話もよくよく聞けばそれは確実にカーヤの意思で起こった出来事ではない。カーヤもその当時は被害者だったのだ。それを加害者のように扱われる彼女はどんな気持ちでこのフリンク族の者達に従っているのだろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(……フラットさんはロベリアさんが死んだことですごくカーヤのことを恨んでいる………。

 ………俺もミストではこういう感情をぶつけられたことがあるからカーヤがなんだか俺と境遇が似ている気がする………。

 

 

 ………いや俺なんかよりも状況が悪いな………。

 俺もおじいちゃんの孫ってことでちょっと変な目で見られてたこともあったけどそれでもミシガンやウインドラみたいな支えてくれる友達がいた………。

 カーヤは………そんな人が誰もいない………。

 

 

 ………よくそんな環境下で今日まで耐えてこられたな………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤは一度もこのフリンク領の外に出ていこうとか思わなかったのか………?

 そこのところが気になるところだけど………。)」



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他人の絶望

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「それでは私が早速「御待ちください」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……そう直ぐに行動ならさずとも良いのではないでしょうか?

 私達は先程カーヤ………フェニックスと戦闘を行ったばかりです。

 私達もこれで戦闘による疲労が溜まっております。

 ………フラットさんの作戦また後日ということにしていただけませんか?」

 

 

 フラットがカオス達に提示した作戦を実行しようとした時アローネがそれを止めに入る。

 

 

フラット「ですが………」

 

 

アローネ「現状私達はとある事情で時間に余裕があります。

 フラットさんの仰る作戦はいつでも決行できますよね?

 でしたら私達の体調が整ってからの方が都合が良いのではありませんか?

 フェニックスも戦闘直後に呼び出されても不審に思われるかもしれませんし仮に失敗してしまいでもしたらもうその作戦は実行できなくなりますよね?

 それでしたら万全を期すためにここは私達の回復を御待ちください。」

 

 

フラット「はぁ………それはごもっともな御意見で………。」

 

 

アローネ「………それにその作戦は私達にレアバードを入手させる目的での作戦なのですよね?

 ………でしたら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方から直接フェニックスに私達にレアバードを一時的に拝借させていただくよう指示を出すことも可能なのではないでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………」

 

 

アローネ「貴方の仰られることが真であるならばできますよね?

 私達も討伐対象とはいえそのように人を騙して処断するという方法はなんとも後味が悪いようで後々の計画に支障を来すかもしれません。

 そんな方法よりも一先ずはラーゲッツをどうにかしてからの方が気が楽になります。」

 

 

フラット「何度も言うようですがカーヤは人では………。」

 

 

ウインドラ「それは貴殿方がカーヤと深い関係にあるから言えることで俺達からしてみれば話が通じるのであればまだ“人”だ。

 貴殿方フリンクは私情もあってカーヤを滅したいようだが俺達が聞く限りではカーヤはモンスターのような凶暴性は感じられない。

 そう焦って倒さなくても問題は無いだろう。」

 

 

フラット「何を仰いますやら………。

 カーヤはヴェノムに感染した個体ですよ?

 いつ精神がヴェノムに飲み込まれて人を襲い出すか分かったものではありません。」

 

 

タレス「そこは心配ないのでは?」

 

 

フラット「……どういうことでしょう?」

 

 

タレス「さっきの話でヴェノムの主の大元の発生源がいるという話でヴェノムの主は百年経ってからつい最近誕生した………。

 ヴェノムの主自体はそう直ぐには誕生しないでしょう。

 この地のフェニックスが発生源でないのならそこは分かっているはずです。

 

 

 そのフェニックスが六年経っても精神が人のままであり続けるのならこの先暫くはまだ人のままでいられるはずです。

 カイメラのように元がなんの生物だったのか分からなくなるほど他の生物を襲っている訳ではないのですから。」

 

 

フラット「ですけれどカーヤは………。」

 

 

ミシガン「百年と六年………。

 百年に比べれば六年なんてすごく短い時間のように思えるけど六年も結構長い時間だと思うよ?

 その六年でフェニックス、カーヤは自我が消えずに残り続けてるんでしょ?

 だったらこれ以上カーヤが変異することなんてないよ。」

 

 

フラット「しかしですね………!

 私達はあのカーヤを一刻も早く「フラットさん」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺達は何もカーヤを無視するなんて言ってない。

 貴方達がカーヤを鬱陶しく思っていることは理解しています。

 だからこの件に関しては俺達に任せてもらえませんか?」

 

 

 

 

 

 

フラット「………」

 

 

カオス「一応フラットさん達はダレイオスの住人としてカーヤをどうにかしたいと思ってる。

 ………そういうことにしておきます。

 そういう依頼で俺達にカーヤをどうこうしたいという話だったらそれについては先にラーゲッツを片付けてからゆっくりと決めたいと思います。

 俺達も………いきなり色々と食い違う情報が入ってきて正直混乱しています。

 

 

 なので先ずは()()()()()()()()()()()()()()を倒してからにしますよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………でしたら三日後………。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「三日後………?」

 

 

フラット「私とナトル族長は()()()()()にカーヤに定期報告をさせております。

 いつどの辺りでどのようなモンスターやヴェノムが出現したかなどを聞き出しているのですがその折にカーヤからレアバードを回収することにしましょう。

 ………レアバードを回収しましたら皆様にはラーゲッツを葬っていただきます。

 カーヤはその後に処理していただきましょうか。

 レアバードさえ貴殿方の手に渡ってしまえばカーヤはフェニックスとしての力が激減しますしラーゲッツ処断後は速やかにカーヤを消すことが可能でしょう。

 

 

 ですので貴殿方は三日後ラーゲッツを処刑した後にカーヤを消すということで構いません。

 宜しいですね?」

 

 

アローネ「………」

 

 

フラット「……期待していますよ?

 貴殿方が憎きバルツィエの血族二人をこの世から抹殺するのを。

 呉々もカーヤには殺す時以外はお近づきにならないようにお願いします。

 

 

 殺す相手に情など湧きでもしたら貴殿方も困りますでしょうしね………。」

 

 

 そう言うとフラットはカオス達に背を向けて去っていく。フリューゲルへと戻るのだろう。一人で戻るということはカオス達とこれ以上会話を続けてもカオス達とは意見が合わないと踏んで言いたいことだけを言い残して会話を区切ったということか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「フェニックス………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あの子が………カーヤがフェニックスだったのか………。」

 

 

 フェニックスを探してカオス達はこのリスベルン山までやって来たがカオスは既にフェニックスと出会っていたことになる。カーヤは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めにあった時泣いていた。あの涙の意味はなんだったのだろうか………?

 

 

 フラットは六日おきにカーヤと定期報告をさせていると言っていた。そして今度の定期報告は三日後………と言うことは最後に定期報告があった日は()()()………。カオス達がフェニックス討伐のためにフリューゲルにやって来た日だ。

 

 

 あの日は………カオス達は日の昇っている内にフリューゲルへと到着した。その後はナトルとフラットがカオス達を案内していたから二人にはカーヤと定期報告をする時間は無かったはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(……あのカーヤの涙はもしかしたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……俺達が流させたのかもな………。)」

 

 

 カオスにはカーヤに親近感を抱いていた。カオスは自主的にミストの村を外から守っていたがカーヤは命令されているとはいえカオスと同じ仕事を任されている。

 

 

 たった一人で村や街を守り続けるのはなんとも言い難い孤独感に苛まれる。村の近くにいることは許されてもその輪の中には入っていけないのは自分が一人なのだということを強く実感してしまう。カーヤは今何を考えてフリューゲルを守っているかは知らないが孤独なカーヤにとっては唯一人と話をすることができる定期報告の日は恐らく大切な日だっただろう。

 

 

 その機会を知らなかったとはいえ自分達が奪ってしまったのでは………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 考えれば考えるほどカーヤの境遇は自分なんかの不幸を不幸と言ってもよいものか疑ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 それほどまでにカーヤの生い立ちは想像を絶する程に厳しいものだった………。



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カーヤのことを知って…

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………ハメられたのかもな………。」

 

 

カオス「ハメられた………?」

 

 

ウインドラ「最初から不自然に何か隠しているような素振りを見せておけばそれを俺達が変に思って追求してくると考えたんだろう。

 そうして俺達はフリンクが隠していたフェニックスの実在に行き着いた。

 フェニックスが実在しているというのなら俺達はそれを倒さねばならない。

 だがフェニックスはどういうわけかフリンクとブルカーンの領の境に住み着きだした。

 フェニックスを倒すのならフェニックスの代わりにフリンク領を守るためにブルカーンのイフリートをどうにかしてくれ、そう言われ俺達はこの山までやって来た………。

 

 

 …で、フェニックスは元ホークと伝え聞いていたはずだったんだがフェニックスの正体がエルフだった………。

 ………エルフではないな………()()()()()()か。

 この問題は相当根が深いぞ。」

 

 

タレス「彼等の秘密にしていたことを知ってしまったからにはボク達はあのカーヤという人を………。」

 

 

アローネ「はい………、

 ()()するように命じられましたね………。」

 

 

ミシガン「何でそんなふうに極端なんだろ………。

 あの子が嫌いなら殺したりしないで放っておけばいいのに………。」

 

 

アローネ「そう簡単に割りきれることではないのでしょうね。

 彼女の存在は彼等にとってとても難しいところです。

 カーヤは彼等がもっとも嫌うバルツィエのラーゲッツの血を引いているのです。

 彼女が近くにいるというだけで彼等には生活が圧迫されるように感じるのでしょう。」

 

 

ミシガン「だったら……!

 ………カーヤがどこかあのフリューゲルの人達の目の届かないところに住むとか………。」

 

 

ウインドラ「それも難しいだろうな。

 カーヤはラーゲッツの血の他にもフリンクの血も同時に受け継いでいる。

 そんなカーヤがもし別の地方でヴェノムの発生源にでもなってしまえばフリンク族は他の部族達から責められてしまう事態に発展するかもしれない。

 ………カーヤがヴェノムに感染した時点で()()()()()()()()()()()()()()()()だけでもフリンク族はまだ冷静だったということだろうな………。」

 

 

ミシガン「…でもそれなら私達でカーヤのヴェノムウイルスを無くしてあげれば………!?」

 

 

アローネ「この件はそう簡単なことではないのですよ。

 カーヤがまだウイルスに感染する前はロベリアさんという方がナトル族長とフラットさんの三人でカーヤを守ってあげられた。

 ロベリアさんこそがカーヤが人として生きられる道を歩む道を進んでいられた………。

 

 

 そのロベリアさんがカーヤの感染したヴェノムによってこの世を去ってしまった………。

 フリンク族の方達の中にはもうカーヤが例えヴェノムに感染してようがいまいが関係ないのです。

 彼等の憎しみはもうそこまで増大しているのですから………。」

 

 

ミシガン「そんな………、

 ………でもこんな話聞いてカーヤを倒すなんて………。」

 

 

タレス「どっちみちフラットさん達の様子を見ていて分かると思いますがもし仮にカーヤの体内のヴェノムウイルスを除去したとしましょう………。

 そしたらカーヤはヴェノムウイルスを無くしたただのハーフエルフになってしまいます。

 そうなってしまえばフラットさん達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確実にカーヤを殺すと思いますよ?

 カーヤは絶対服従らしいので今はまだフラットさん達にはカーヤをどうにかすることはできませんがカーヤの命に自分達が届くと分かればその時は即カーヤに死を命じるでしょう。

 カーヤがウイルスに感染した際にもカーヤをどうにかして殺そうとしていたみたいですし。」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤの環境は世界を見て回っても例の無いほどに悪環境だ。誰もカーヤの生存を望んでいない。それどころかカーヤを殺す方法さえ模索していた程だ。そこにきてカオス達がこの地を訪れたのは彼等からしてみたら幸運の奇跡だ。カオス達からしては残酷なことを依頼されてしまったわけだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………カーヤのヴェノムウイルスを取り払ってもカーヤが………、

 あのフリューゲルで生活することは無理なんだよね………?

 あのフリューゲルの人達はカーヤのことを疎ましく思ってるんだし………。」

 

 

ウインドラ「……そうだな。

 カーヤの件は単純にヴェノムだけのことじゃない。

 彼女の出生と彼女が原因で失ってしまったロベリアという母親のことも関連している。

 ………カーヤは少なくともあの街で平穏に暮らす日々を送る未来は今度とも永遠に訪れることはないだろうな………。」

 

 

アローネ「彼等がもしカーヤを受け入れるのだとしたら………、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 ですが一度失われた命を甦らせることは誰にもできません………。

 私の知る限りではウルゴスにもダンダルクにもそんな技術はありませんでしたから………。」

 

 

タレス「一度壊れた物を元通りに復元するのは難しい話ですよ。

 人は憎しみを一度でも誰かに向けてしまったらそれが間違ってると気付けるのはほんの一握りの人だけですから。」

 

 

ミシガン「わだかまりって中々解けるものじゃないもんねぇ………。

 ミストとカオスですら十年経っても変わらないのにカーヤはそれを十六年前の生まれた瞬間からだなんて………。」

 

 

ウインドラ「……早い話がカーヤの居場所はもうフリューゲルには無いんだ………。

 住民の全員から疎ましく思われているのならカーヤが救われる道は何も………。」

 

 

カオス「………だったら………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤをこのフリンク領から連れ出すことって出来ないかな………?」



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理解し会えるなら…

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

アローネ「カーヤを連れ出す………ですか?」

 

 

ウインドラ「それは…………………俺達の旅に同行させると言うことか?」

 

 

 

 

 

 

カオス「…うん………駄目かな………?」

 

 

ミシガン「私もそれが出来るならそうしたいけどそんなこと勝手にしていいの………。」

 

 

タレス「それはカオスさんがカーヤのウイルスを除去してからの話ですよね?

 今すぐの話になりますとかえってカーヤがラーゲッツかフリンク族の人達に殺されてしまいますよ。」

 

 

カオス「分かってる。

 カーヤを連れ出すのはラーゲッツを倒してからにするよ。」

 

 

ウインドラ「……しかしラーゲッツを倒してからだとフラット殿とナトル族長達がカーヤを目の前で排除するよう命じてきそうだな。

 カーヤのウイルスを除去するのはタイミングを見計らった方がいい。

 

 

 ………それにカーヤ本人が俺達に付いて来るかどうか………。」

 

 

アローネ「そうですね……。

 彼女が私達に着いてきてくれるかはまだ彼女があのフリューゲルの方々をどう思ってるかによりますし………。」

 

 

ミシガン「何で?

 カーヤだってこんなところにいてもフリンク族の人達からいいように使われるだけじゃない。

 そのくせ街を守ってあげてるのにフリンク族の人達はカーヤのことをなんとも思ってないんだよ?

 それどころか私達に殺すよう言ってくるしさ。」

 

 

ウインドラ「……ある種カーヤの置かれている状況はカオスに近いものがあるがこの()()()()()()()という点においては事情が全然違う。

 カーヤのようなハーフエルフでなくとも他の部族に対して同国家国民であっても敵対心を捨てずに持ち続けたような部族があちこちにいる国だ。

 カーヤは同じ国の同じ人であるブルカーンの相手をさせられ続けてきた。

 カーヤにとっては外から来た者達は皆敵に映っているはずだ。

 カーヤはそんな敵が大勢いる場所に連れだそうとする俺達をどう思うだろうか………?」

 

 

ミシガン「それは………。」

 

 

アローネ「外の情報を全く知らない中でポンと外に放り出された時どう思うかは想像できますか?

 ………私は………、

 

 

 …私の全く知らない国に突然投げ出されたのだと思い気が動転しました………。

 カーヤがこのフリューゲルに縛られている理由はそこにもあるのかもしれませんね。」

 

 

タレス「カーヤにとってはこのフリンク領に安寧は無い………。

 かといってフリンク領から外に出そうとしてもそれを彼女が納得して着いてきてくれるとは限らない………。」

 

 

 

ミシガン「………じゃあどうすればいいのよ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺達がカーヤの居場所になってあげればいいんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「……そう簡単に他人の居場所を作れると思うか?

 相手は生まれてこのかた唯一の味方であった母親を失い父親と思い込まされていた相手に裏切られて奴隷のように扱われていた少女だぞ?

 そんな彼女に突然やって来た俺達がお前の味方になってやると甘い声をかけてその誘惑に乗ってくるのか分からん。

 上手く乗せられるにしてもそれがどの程度の時間を要するか………。」

 

 

タレス「ボク達にはこの地方でかけていい時間は残り二十日と六日間程です。

 それまでにカーヤを説得できなければその時は………。」

 

 

カオス「分かってる………。

 本当はこんなことしてる場合じゃないって………。

 フラットさんやナトルさんの言う通りにラーゲッツもカーヤも倒して先に進むのがいいってことは………………。

 

 

 

 

 

 

 …でも俺はカーヤを救ってあげたい………!

 俺と似たような目にあってる女の子がいるなら俺はそれを放っておきたくないんだ!!

 皆も話を聞いたんなら分かるだろ!?

 カーヤは何も悪くないんだって!!

 悪いのはラーゲッツや()()()()()()()()()()()()()なんだよ!!

 カーヤは……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤはヴェノムウイルスの被害者だっただけで何も悪くないだろ!?

 例えバルツィエの血を受け継いでいるからってそれが何だって言うんだ!!

 バルツィエの血を継いでいたりハーフエルフだったりとかそんなことだけで差別されるって言うなら……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな世界はバラバラに砕け散った方がマシだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……流石に世界がバラバラに砕け散るのは困りますね………。」

 

 

ウインドラ「そうだな………。

 世界の崩壊を止める立場の俺達がそんなことを言ってしまってはいよいよ世界の破壊が本格的なものになってしまう………。」

 

 

ミシガン「カオスがそう言っちゃうのも無理もないけどね。」

 

 

タレス「それでも世界が砕け散るは言い過ぎですよ。」

 

 

 

 

カオス「うっ……、

 ちょっと大袈裟だったかな………。

 俺も本気で世界が終わってほしいなんてソンナコトハ考えては「だがカオス!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「よく言った!

 俺もお前の意見に賛同する!!」

 

 

ミシガン「こんな話聞いてカーヤをこのまま見捨てるなんて私達にはできないもんね!」

 

 

タレス「生い立ちや環境は人が生まれた時に選ぶことができません。

 その上でカーヤがバルツィエの血族であってもボクは彼女がバルツィエと同じ悪とは思えません。

 ならボクはカーヤを救う道を探してあげてもいいと思います。」

 

 

アローネ「世界崩壊を止めることとカーヤを救うことは決して真逆の道ではありませんよ。

 カーヤがヴェノムのフェニックスであっても貴方にはカイメラをヴェノムウイルスから救ったようにカーヤからヴェノムウイルスを取り除く術があります。

 カーヤが完全なヴェノムの精神に呑み込まれていないのなら不当な殺生から手を差し伸べて救ってあげることもまた人の道だと思います。」

 

 

 

 

 

 

カオス「皆……!」

 

 

アローネ「救いしましょう!カーヤを!

 事情を知ってしまったからには私達は彼女をこの劣悪な環境から助け出すべきです!!」

 

 

カオス「……あぁ!!

 全てのバルツィエが悪いわけじゃないんだ!!

 だったらカーヤだってまともに生きられる権利があるんだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必ずカーヤをこんな悪質な世界から救い出して見せる!」



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カーヤとカイメラの不可解な関係性

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メェェェェェッ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「ムェッ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………カイメラ………。」

 

 

ミシガン「あれ?

 アンタどこ行ってたの?」

 

 

アローネ「カーヤと戦う前までは近くにおりましたが………。」

 

 

ウインドラ「…戦闘の気配を察知して離れていたんだろう。

 戦いが終わったからまたこうして出てきたんだろう。」

 

 

カオス「………まぁお前今は戦えないもんなぁ………。

 戦えたとしても俺達と一緒にあんな大きな炎の鳥の姿を見たら驚いて遠くに逃げ「メェッ!」いだっ!?」ドスッ!

 

 

 カオスがカイメラに近寄るとカイメラはまたもやカオスに突撃してカオスの腹部に頭突きをお見舞いした。

 

 

 

 

ウインドラ「おいおい……、

 何やってるんだカオス。

 前はそんなの食らってもどうってことなかったろ?」

 

 

カオス「いてて……そうなんだけど今回のは油断してたよ………。

 さっきは突撃して来なかったからカイメラが()()()()()()()()のかと思って………。」

 

 

ミシガン「カオス平気?

 油断しちゃ駄目だよ?

 野生の動物やモンスターってそう直ぐには人に対して心を開いたりしないんだから、そういうのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?()

 カイメラがこの姿に戻ってからカイメラとは私達ってまだ数日くらいしか経ってないからなついてくれるにはまだまだ時間が足りないよ。」

 

 

タレス「と言ってもカイメラになつかれてもその後が困りますけどね。

 山羊を連れて旅をするのもどうかと思いますし。」

 

 

アローネ「…そうでしょうか?

 特にカイメラがいたとしても困るようなことは無いとは思いますが………。」

 

 

ウインドラ「いやいやそれは結構大変なことになると思うぞ………?

 連れ歩くにしてもこいつの世話だってしなければならなくなるしこいつがいると隠密な行動がとれなくなる。

 こいつはやたらと鳴いて五月蝿いからな………。」

 

 

アローネ「………駄目………でしょうか………?」

 

 

ウインドラ「駄目と言うかだな………(汗)。」

 

 

タレス「カイメラよりも先にアローネさんがカイメラの虜になってしまったんですね………。」

 

 

ミシガン「噛み付いたりする動物やよりかは飼いやすいとは思うけどね。

 私だってミストじゃボア飼ってたし。」

 

 

ウインドラ「……こいつが大人しく付いてくるのなら構わんだろうが突然行方知れずになったとしても捜したりするとは御免だぞ………。

 それに付いてくるかどうかはカーヤと同じでカイメラ次第だ。

 あれほどの戦いを繰り広げた俺達に心を開くとは到底思えんが………。」

 

 

アローネ「……開かせて見せます!

 私が誠心誠意込めてカイメラの心を「ケッ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタスタスタ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラはカオス達に背を向けて去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………カイメラは俺達と来る気は無いようだな………。」

 

 

アローネ「残念です………。」

 

 

ミシガン「何でカイメラを連れていこうなんて思ったの?」

 

 

アローネ「いえ特に理由は……。」

 

 

タレス「理由もなくカイメラを同行させようとしたんですか?

 アローネさんらしくありませんね。」

 

 

カオス「まぁ何かとカイメラとは縁があるみたいだしね。

 人を傷付ける危険が無くなったらなんか可愛く見えてきたんじゃないかな?」

 

 

アローネ「………」

 

 

ウインドラ「そんな理由だったのか?

 この間もカイメラに触りたがってたしな。

 カイメラは触らせてはくれなかったようだが。」

 

 

ミシガン「そういうのって本当に時間かかるから直ぐには無理だよ。

 赤ちゃんの時からの付き合いくらいじゃないと自然界の動物が触らせてくれることなんて滅多に無いもん。」

 

 

アローネ「分かってはいますけど……、

 ………どこかあのマイペースな仕種がとても………。」

 

 

タレス「完璧にカイメラにはまってしまいましたね………。」

 

 

 

 

 

 

カオス「(………………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カイメラがここに来たのってつい最近の話だよな………?

 それなのにさっきカーヤは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラと()()()()()()()()()()?

 これって変じゃないか?

 カイメラもカーヤのことを警戒してなかったみたいだしそれどころか頭をすり寄せてる感じだった………。

 ミシガンの話ではそう直ぐに野生の動物が人に心を開くことはあり得ない………。

 それなのにカイメラは自分からカーヤに体を擦り付けてたしカーヤも何となくだけど慣れていた気がした………。

 ………カイメラがこのフリンク領に来てまだそう日は経ってないはず………。

 それなのにどうやって………? )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ねぇミシガン。」

 

 

ミシガン「ん?なぁに?」

 

 

カオス「野生の動物が人に心を開くのって十日とかそこらでできるもんなの?」

 

 

ミシガン「えぇ……?

 それは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対にあり得ないよ。

 断言してもいい。

 あぁいった自然界の動物達にも私達人とは違う文化みたいな常識みたいなものがあるの。

 私達にはそれを知ることはできないけど彼等は彼等で他の生物達に対してどういった対応をすべきなのか弁えてる。

 野生の動物達にとって私達エルフは多分他のどんな生物達の中でも危ない存在に見られてるんじゃないかな。

 私達エルフは数と知恵に関してこの星のどの生物の中でも優れた種族で大概のモンスターは縄張りに踏み行って来ない限りはエルフを襲うことはない。

 だから頭のいい草食動物達はなるべくモンスターと人の境に住み着くことが多い、けどそれは自分が他の生物達に劣っていることを自覚しているから。

 自覚しているからこそより安全な場所を探してそういう場所に身を置いているだけ。

 ………彼等は人に寄り添うことなんて微塵も考えてはいないよ。

 ただ偶々そこにいついているだけ………。

 カイメラみたいな草食動物からしてみたら私達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力と知識の二つを持った自分達よりも強い肉食動物くらいにしか見てないんじゃないかな………。

 完全に自分よりも上の存在に心を開くことってそう簡単なことじゃないんだよ………。」



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フリューゲルに帰還

リスベルン山 中腹 残り期日八十六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………ミシガンの話聞いてもカイメラがカーヤと仲良くなるのには時間が足りなかったはずだ………。

 カイメラがここに来たのはいつ頃なのか分からないけど俺達がここに来る前に最後に会ったのは()()()()()()だった………。

 ………一週間で野生の動物が人になつくことなんてあるのか………?

 ……野生の動物を世話したことなんて無いからそこら辺がよく分からない………。

 

 

 カーヤは今までフリンク領から外に出たことないみたいだしカイメラと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からカイメラの方がこのフリンク領内に来たことがあったとかかな………?

 そう考えるとカイメラが真っ直ぐこのフリンク領に向かって来たのは昔ここに来てカーヤと会ったことがあってカーヤに会うためだったとかか………?

 ………単純にエサが北には無いから南に下って来たんじゃないのか………カイメラはカーヤに会うためにフリンク領まで来たんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それだといつ頃の話になるんだ………?

 フラットさんの話を整理するとカイメラがヴェノムに感染したのは()()()()()()

 六年前にカイメラが感染する時よりも前にカーヤとカイメラはここのどこかで会ってると思うけどそんな六年も前の記憶を頼りにカイメラがここに来たってことになるとなんか違う気がする………。

 カーヤとカイメラの関係がどういった関係なのかまだ全然分からないからな……。

 カイメラがその時からカーヤになついていたんならさっき見たカーヤとカイメラの仲も納得がいくんだけど具体的な二人が出会った時期についてはカーヤが生まれてからヴェノムに感染するまでの十年までとしか………。

 ………野生の動物の記憶ってそんな長く保っていられるのか………?)」

 

 

ウインドラ「どうしたカオス?そんな難しい顔をして。」

 

 

ミシガン「何か気がついたことでもあるの?」

 

 

カオス「……気がついたってより気になることなんだけどさ………。

 ミシガンって確か前にミストでボアチャイルド………、

 今はボアにまで成長したんだったか………。

 元はミストの森にいたやつなんだよね?

 そういった動物達って長い時間会ってないとお世話したミシガンのこと忘れたりとかするのかなーって。」

 

 

タレス「?

 何で今そんなことを………?」

 

 

アローネ「カイメラが私達に打ち解けてくれないのはカイメラと一週間程時間が開いたからですか?」

 

 

カオス「そうじゃないんだけどね……。

 ねぇ、ミシガンどう?」

 

 

ミシガン「どうって………、

 ()()()()()なんじゃない?」

 

 

カオス「同じ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「……私やカオスだって………今はこうしてウインドラと一緒にいるのは十年前に別れてからもずっと私達が御互いのこと忘れたりなんかしなかったからでしょ?

 離れて暮らしてたって一回気心知れる仲になったんなら

そう簡単には御互いのこと忘れることなんて出来ないよ………。

 

 

 人だけじゃなくて動物やモンスターだってそう………。

 一度自分が会って話して良かったと思う相手のことを忘れたりなんかしないよ。

 一旦心を開いたらその相手のことは何年何十年経ったって忘れることはない………。

 会う時間が開いたら相手のことがちゃんと生活できてるとか心配になるけど会って近況が分かればまたそこからやり直せる、会ってない時間をそこからまた始められる………。

 ウインドラやカオスが心配になってレイディーとレサリナスまで行ったけどブーブーさんは絶対に私のことを忘れることなんてないよ。

 私がミストに帰ればブーブーさんは私を快く出迎えてくれる。

 ………実は私ミストに一ヶ月くらい帰らなかった時があったんだけどそれでもブーブーさんは私が帰ってきたらちゃんと出迎えてくれたもん。

 動物にだってそういう記憶はあるんだよ。

 動物にだって()ってものはあると思う。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………絆か………。

 そこまで深い話を訊きたかったわけじゃないけど俺やウインドラ、ミシガンにも絆があった………。

 だから俺達はこうしてまた巡り会えた………。

 

 

 カーヤとカイメラに絆があるのかどうかはさておき二人にはそれなりの何かがあるのは確かだ。)」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…これ以上ここにいても仕方がない。

 カーヤとラーゲッツの件は保留にして一度フリューゲルに戻った方がいいだろう。」

 

 

アローネ「カーヤを連れ出すにしてもカーヤのことを私達はまだ何も知りません。

 フリューゲルにカーヤのことで何か御存知の方がいらっしゃると思いますので訊きに行きましょう。」

 

 

タレス「素直に話をしてくれるといいんですけどね………。」

 

 

ウインドラ「連中はカーヤを処分したいらしいからその参考に、と付け加えて訊けば話をしてくれるんじゃないか?」

 

 

ミシガン「なんかそういうのってあんまり気分よくないよね………。」

 

 

アローネ「そうでもしないとあの方々は話を訊いても口を割らないでしょう。

 ここは偽ってでもそうするしか………。」

 

 

カオス「全てはカーヤを助けるためだよ。

 カーヤのことを知らなければ俺達はカーヤと話すことだって難しいんだから。」

 

 

ミシガン「……はぁい。」

 

 

 

 

カオス「じゃあフリューゲルに戻ろう。

 カーヤを早く何とかしてあげるためにも。」

 

 

 

 

 

 

 こうしてカオス達はヴェノムの主フェニックス討伐のための来訪から一転してヴェノムの主カーヤをこの劣悪な環境から救い出すべくフリューゲルへと帰還するのだった。



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カーヤに対する街の人の印象

フリンク族の都市フリューゲル 残り期日八十四日

 

 

 

 カオス達一行はカーヤの救済とラーゲッツを打破すべくフリューゲルへと戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警備人「………?

 貴殿方は………先日このフリューゲルを発ったと思ったのですが何かまだご用がございましたか?」

 

 

カオス「ええっと俺達は「フェニックスの情報をもう少し調べようと思いまして戻ってきたんですよ。」」

 

 

警備人「…あぁ………、

 やはりフェニックスを倒すことに決定してしまったようですね………。」

 

 

ウインドラ「……そういうことになった。

 ついてはフェニックス………いや()()()という少女について何か知ってることがあれば詳しく話ができる者を探している。」

 

 

警備人「!!?

 カッ、カーヤ………!?

 何を申されますか!?

 カーヤは少女などではなくホークという「その辺の事情は知ってる。俺達に知られずにあの少女の存在があったことを隠しておきたかったこともな。」」

 

 

 

 

 

 

警備人「………貴殿方は全て御存知のようですね………。

 カーヤがモンスターではなく人であるということを。」

 

 

カオス「直接俺達はこの目で見てきました。

 フェニックスがカーヤに戻る瞬間を。」

 

 

アローネ「そのことを詳しく知るために私達はフリューゲルまで戻ってきました。

 貴殿方は………あの少女を本当に死なせてもよいとお考えなのですか?」

 

 

警備人「………」

 

 

ミシガン「私達はフリンクの人達からしてみれば全くの他人になるけど事情を聞いたらカーヤが絶対に悪い子には思えないの。

 あの子のことを憎んでるフラットさんとナトルさんはともかく他の人達はカーヤのことをただバルツィエのラーゲッツの娘だから追い出したかっただけなんでしょ?

 だったらカーヤを殺さずに私達が他の場所に連れていくって手もあるんだけど………。」

 

 

警備人「………自分は…………、

 

 

 

 

 

 

 ………カーヤを殺さないでほしいとは思ってますよ。

 カーヤをどこかに連れていくというのも反対です。

 カーヤはこのフリンク領にいるべきです。」

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「!」

 

 

カオス「それってカーヤを「カーヤがいれば…」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警備人「カーヤがいれば私達フリンクは他の外敵から身を守れる。

 あのガキがここにいさえすれば私達はそれだけで十分な生活ができますからね。

 あいつがいるからここに移り住んできた後民もいますしカーヤがいなかったらこんな先民が威張り散らすような場所に来たりなんかしませんよ。

 多分他にも私と同じ考えの人は大勢いると思いますよ?

 ですからカーヤはできることなら貴殿方には倒してほしくないし連れていってもほしくない。

 ……でも貴殿方がなされようとしていることを思えば仕方ないんですよ。

 とりあえずはカーヤを倒すのならブルカーンも一緒にどうにかしてきてほしいですね。

 私から言えるのはこんなことくらいです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからカオス達はカーヤについてフリンク族の人々に話を聞き回った。カオス達はカーヤを連れ出すのが最善な道だとは考えていたがそれでもカーヤがこの街を律儀に守り続けているのはこの街が彼女にとって大切な場所だと考えているからだろう。それなら無理に連れ出さずともカーヤがこの街で平穏に暮らせるかどうかを聞き回ったのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カーヤ………?

 あぁ、あのバルツィエの娘のことを知ってるのか。

 ………いいんじゃないか?

 あんな娘消しても。

 アンタらはラーゲッツもブルカーンもどうにかしてくれるんだろ?

 だったら特にあのガキが消えちまっても問題ないだろうぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カーヤを殺すってのは本当なのか?

 ………悪いんだがカーヤを殺すのは待ってくれよ。

 勿論あんなガキ殺してしまっても構わないんだがそれは最後に回してくれねぇか?

 そうじゃねぇとブルカーンやラーゲッツが攻めてきた時俺達じゃどうしようもねぇんだ。

 俺達フリンクは一番腕の立つ奴でもスラートやブルカーンの平凡な奴等に負けちまうぐらい弱い部族だ。

 あのガキがいなくなっちまうとこちとら全滅の危機だぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…アンタらはこの先ダレイオスをまた統合化しようとしてんだろ?

 だったら俺達はアンタらが倒してきたようにカーヤもぶっ殺してもいいと思うぜ?

 あんなヴェノム擬きよりかはアンタらにこのフリンク領の未来を託した方が安心だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お前達はあのカーヤを殺すのか………?

 もしカーヤを殺すってんならよ?

 カーヤの代わりに俺達をブルカーンやモンスター、ヴェノムから守ってくれる奴を代わりに置いていけよ。

 そうじゃなけりゃカーヤを殺すのは反対だ。

 

 

 ………そうだな。

 そこのアイネフーレの生き残りや女とかよりかはお前達みたいな強そうな剣士がカーヤの代わりになるってんならカーヤを殺してもいいだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「………」

 

 

タレス「………」

 

 

ミシガン「………」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………大方の予想はしていたがこの街の奴等は酷い考えの連中が多いな………。

 気分が悪くなってくる………。」

 

 

 

 

 

 

カオス「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………尚更カーヤをこんな悪所に置いていけないね………。

 カーヤを絶対にこんなところから連れだそう。」



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カーヤの思惑

フリンク族の都市フリューゲル 残り期日八十四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「……聞いて回った話を纏めると大体の奴等がカーヤ討伐可か不可に別れた意見が殆どだったな。」

 

 

ミシガン「聞きたかったのはカーヤがどんな子なのかとかそういう情報なのにね。」

 

 

アローネ「皆カーヤと関わりを持とうとも思わなかったみたいですね。

 皆がこうして生活できているのはカーヤのおかげだというのに…。」

 

 

タレス「カーヤのことを人ではなく完全に奴隷として見ているんでしょう。

 奴隷主が奴隷のことを気遣うことなんて滅多にありませんよ。」

 

 

カオス「…皆バルツィエとヴェノムに感染してるってだけでそこまで他人に非情になれるもんなんだね。」

 

 

ウインドラ「…そこについてはバルツィエの血が入ってなくてもどこでも同じ扱いだろう。

 俺達が旅してきた場所は大抵はそうだ。

 ヴェノムに感染した者が待つ先には必ず自我崩壊が起こり他者を襲う。

 ………アルバさんですら昔のあの事件当時は容赦なく子供の首を切り跳ねていた。

 覚えてないか?」

 

 

カオス「……覚えてるよ。

 ザックの取り巻きの話だろ。

 あの時はあの後直ぐにあいつが近くに立っていた男を襲い殺した。

 ヴェノムに感染した者に躊躇すると被害が拡大する。

 あぁした瞬間的な判断は的確だっただろう。

 あの時殺された男はそれを俺達に示した。

 本人はまさか首を切り落とした子供の体が動き出すとは思ってなかっただろう。」

 

 

アローネ「………常識で考えれば私達やカーヤが異例なのですよね。

 ヴェノムに感染しない者とヴェノムに感染しても意識が飲み込まれない彼女………。

 彼女のような例は恐らくここではない場所で発生しても同じことが起こり得るでしょう。」

 

 

ミシガン「ブロウン族のところにいたカルト族のステファニーさんも結構レアなケースだったけどあの人もあのまま放置してたらヴェノムになってたんだよね………。

 それなのにハンターさんは懸命にステファニーさんのことを介護し続けて………。

 ………そんな人達がいるのにここの人達は………。」

 

 

タレス「あの二人に関して言えば御互いしか生き残っていない状況というのが彼等が御互いを想い合い見捨てることなんてできなかったんでしょう。

 非常時の吊り橋効果というやつですね。」

 

 

アローネ「そんなもの………だったのでしょうか……?」

 

 

カオス「………けどカーヤはずっとヴェノムに感染しても意識を乗っ取られる徴候すらなかった。

 触りさえしなければヴェノムに感染しない普通の人なんだ。

 それなのにあんな惨い扱いを六年もずっと………。」

 

 

ウインドラ「生まれ持った環境が最悪………そして最厄だったとしか言えないな………。

 ………ナトル族長とフラット殿の言い付けを守ってこのフリューゲルを守護していることからダイン=セゼアのように常識通りの異例のバルツィエではないことは分かる。

 その善人さを漬け込まれてしまったのかマテオのバルツィエ達に晴らせない恨み辛みを代わりに抵抗してこないカーヤにぶつけているんだろう。

 本物のバルツィエに怒りをぶつけようものなら連中は逆に返り討ちにあう。

 ………しかしカーヤはそれをしない………。

 カーヤはこの場所しか知らないんだ。

 この場所を追い出されて行く宛などどこにもない………。

 ここ以外にカーヤの居場所はない、そう思い込んでいる。

 だからこそカーヤは連中に付き従うしかないんだろう。

 戦えばこんな連中は一捻りだというのに………。」

 

 

ミシガン「……仮に私達がカーヤを説得して連れ出すことに成功したらカーヤは………、

 

 

 ここの人達を虐殺したりしないよね………?」

 

 

ウインドラ「……どうだろうな………。

 流石にあんな扱いを受け続けてたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここの連中にもカーヤから思うところはあるんじゃないか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………事は慎重に実行いたしませんとなりませんね。

 カーヤのことを思えばそうなってしまうことも否定できないですが私達はフリンク族の協力を仰ぎに参ったのですからカーヤにフリンク族を滅ぼされても困ります。」

 

 

カオス「…もしカーヤにそんな気があるならそれも止めないといけないのか………。

 ……そうなりそうな気持ちは分かるけど………。」

 

 

ミシガン「………カオスはそういう気持ちになったことがあるの………?

 ……その………ミストの皆に………。」

 

 

カオス「……あったよ………。

 村を追放された後に俺の中にマクスウェルの力が流れ込んでいたことが分かった時にそう思った………。

 けどミストのあの人達が言っていたことも間違いじゃなかったことに気付いたら………、

 

 

 後は贖罪を探すことだけしか考えられなかった………。

 ………おじいちゃんを死なせた切っ掛けは俺にあったんだから………。」

 

 

タレス「カオスさんの事情じゃ当然そういう感情が沸き立つのも頷けますよね。

 カオスさんですらそうならカーヤはもっと………。」

 

 

カオス「……どうなんだろ………?

 俺は昔から負けず嫌いだったし自分ってものをちゃんと持っていた。

 

 

 ……けれどカーヤにはそれがあるのかな………?」

 

 

ミシガン「?

 自分なんて誰にだってあるでしょ?」

 

 

カオス「それはそうなんだけどね………。

 ………一度さ、

 俺やカーヤみたいに何かやどこかを守り続けるのって始めの頃は結構辛いんだけど………それが長く続くとね?

 

 

 辛いって感情が普通の状態になってくるんだ。」

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

カオス「………だからカーヤが今ここの人達をどう思ってるのか俺にも分からない……。

 理不尽に対する怒りなのか辛い現状から逃れたいのか………、

 

 

 ………何も感じずに今を過ごしているのか………。

 もし怒りの感情が爆発しそうだったら止めには入るよ?

 けどカーヤは何もしないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………下手したらカーヤは俺達が連れ出そうとするのを嫌がったりするかもしれないね………。」



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助け出した後の話

フリンク族の都市フリューゲル 残り期日八十四日

 

 

 

アローネ「何にしてもまたカーヤにお会いして私達と共にこの地を去れるか本人に直接お聞きするしかないようですね。」

 

 

タレス「会うって………どうやってですか?」

 

 

ウインドラ「………この間と同じ方法を使うしか手は無いだろう。

 相手は空を飛ぶんだ。

 ほんのちょっと大きな魔術の気配を察知してすっ飛んでくると思うぞ。」

 

 

カオス「あぁ………また魔術を使って呼び出すのか。

 ………また来てくれるかな………?」

 

 

アローネ「…来るでしょうね………。

 彼女はナトル族長とフラットさんの言いつけに忠実のようですしこの近隣で暴れまわるモンスターやヴェノムを追い払うようですし私達がまたこの近くで魔術を行使すればフリンク領で悪さをする悪党だと思い舞い飛んでくるでしょう。」

 

 

ミシガン「悪党っぽいのはどう聞いてもここの人達だと思うけどね………。

 ………ねぇ、先にラーゲッツをどうにかすることはできないの?

 生きてるのも驚きだけどまたカーヤもラーゲッツを倒せてないんでしょ?

 カーヤを連れ出す説得するにしても途中で邪魔されそうじゃない?

 二日前は来なかったけど次私達がカーヤを呼び出したときその場にラーゲッツも現れたら説得どころじゃないよ?」

 

 

ウインドラ「ラーゲッツは………、

 今回に関してはカーヤが俺達に付いてきてくれるかどうか確かめてからじゃないと倒してはいかん。

 もしラーゲッツを倒してしまいそれをナトル族長達が知れば族長達は必ず俺達に堂々とカーヤを殺せと言ってくるはずだ。

 ラーゲッツ討伐はカーヤ説得が成功し族長達の目の届かないところで秘密裏に行う。

 カーヤにもそのことを話してからだ。」

 

 

ミシガン「……色々と難しい話だね。

 カイメラの時とは大違いな難しさだよ。」

 

 

タレス「単純にカーヤもラーゲッツも倒すって話なら問題なかったんですけどね。

 事情を聞けば自ら触りにいかなければ危険は無いヴェノムのフェニックス。

 カーヤを人に戻してあげられる道があるならそうした方が誰も不幸にはなりません。」

 

 

ウインドラ「ここの連中はカーヤが生きていることが不幸だと言うがな。」

 

 

アローネ「そんなことは間違っています。

 生きていればこの世にいてほしくない相手などわんさか湧いてくるのは仕形がありません。

 ですがカーヤ自身には特に非を感じられる点はありません。

 それをあの子の血筋だけで殺したいなどと………。」

 

 

 

 

 

 

カオス「………もしかしたらここの人達も俺に対して表に出さないだけでそう思ってるのかな………?」

 

 

タレス「カオスさん………。」

 

 

カオス「ここのフリンク族の人達はラーゲッツの………バルツィエの騎士に酷い目に会わされてそう思うようになってしまった………。

 バルツィエの血筋が他の部族に比べても人一倍憎しみが強い………。

 

 

 ………それなら俺がいるからここの人達は変によそよそしいんじゃ………。」

 

 

タレス「よそよそしいのは大概の部族はそうなんですけどね………。」

 

 

アローネ「…カオスのためにもこの地は早くに去るべきですね………。

 発展して賑やかな街とはいえこのような空気を纏う空間にはカオスにも私達にも気分が優れるようなものではありません。」

 

 

ミシガン「来た時はレサリナスみたいな明るい街だとは思ったんだけどね。

 レサリナスは………まだバルツィエと街の人達が一方的な迫害を受けてる感じじゃなかった。

 けどこの街は………。」

 

 

ウインドラ「完全に弱い立場のカーヤを虐げあまつさえそれを止める者もいずにそのことを合法化している。

 カーヤになら悪く言っても何をしてもいいとさえ考えている。

 ………心底呆れ果てる住人どもだ。

 こんな奴等を救わなければならないとは………。」

 

 

タレス「……でもカーヤを都合よく連れ出せたとしてその後はどうなるんでしょう?」

 

 

カオス「その後?」

 

 

タレス「…ボク達は一応ヴェノムの主を討伐しにこの地にやって来たわけじゃないですか。

 そしてヴェノムの主討伐を対価に部族達を纏めあげて対マテオの戦線に加わってもらう。

 ………最終的にボク達がそれを成し遂げた先にはカーヤはボク達と共にいます。

 

 

 ………部族の会議の席にはカーヤは参列することになりませんか?

 ボク達の仲間として。」

 

 

ウインドラ「それは………考えてなかったなぁ………。」

 

 

ミシガン「理想的にはカーヤを生きたままここから連れ出したいけどそれだとここの人達は納得させずに出ちゃうってことだよね。

 それで納得しないままカーヤにまた会うことになったら………。」

 

 

カオス「上手くカーヤだけそういった席から外してもらうことにすればいいんじゃないかな?

 無理に出ても悪い結果しか待ってない会議にカーヤを出すこともないでしょ。」

 

 

タレス「カーヤが出ないにしてもカーヤのことを追求されればそれまでですよ。

 会議の席でまだ未討伐のヴェノムの主を放置してどうするんだと突っ込まれたらそれまでです。」

 

 

ウインドラ「その頃にはカーヤは既にヴェノムの主ではなく俺達の仲間の一員だ。

 誰になんと言われようと突っぱねればいい。」

 

 

アローネ「そうですよ、

 その時には私達はダレイオスをヴェノムの主から救った功績があるはずですしそれに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスの王の立場に付ければ後は私がカーヤを守ります。」



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カーヤの願いは…

フリンク族の都市フリューゲル 残り期日八十四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………話は纏まったね。」

 

 

ウインドラ「あぁ、

 もうここで聞ける有力な情報は無いだろう。

 と言っても皆カーヤを恐れたり嫌ったりでまるでカーヤのことを知らないようだしな。」

 

 

アローネ「善は急げです。

 直ぐにでもカーヤに会いに行きましょう。」

 

 

タレス「素直に交渉に応じてくれれば大分この県は早くに片が付きそうですね。」

 

 

ミシガン「それにしてもまさか()()()()()()を仲間に引き入れる話になるなんてね。

 まだ仮の話なんだけど………。」

 

 

アローネ「カーヤは元々ヴェノムではありませんよ。

 ヴェノムによって人生を狂わされただけの被害者です。

 彼女にはまだ幸せになる権利がある。

 彼女を救えるのは私達だけです。」

 

 

カオス「そうだ、

 例えヴェノムに感染していようがバルツィエの血を受け継ごうがハーフエルフだろうが関係ない。

 俺達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………必ずカーヤをこんな環境から救って見せる!

 俺達にはそれができる手段があるんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリンク族の都市フリューゲル 近辺

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そろそろまた仕掛けるか………。

 二日前に何やらあの焼き鳥野郎何かとでかい戦いをしていたようだしな。

 あの焼き鳥に負けないくらいとんでもなく強いのが現れたようだがあの焼き鳥のことだ。

 苦戦はしていたようだが俺を手こずらせるぐらいに強いんだ。

 当然勝っただろ………。

 だとしても相当消耗はしたはずだ。

 俺が奴を仕止められるとしたら今が好機。

 奴は俺を追い返しはするが追い討ちはしてこない。

 つまり奴も俺を相手にするにはギリギリということだろう。

 連戦連敗でもそのくらいは分かる。

 奴と俺との力の差はほんの少し奴が勝る程度でしかない。

 

 

 ……悔しいがそこだけは認めてやろう。

 だが戦いにおいて最後に生き残ってた奴こそが真の強者となるんだ。

 俺を仕止め損なってるようじゃあの焼き鳥も所詮は強者では無いということだ。

 俺にはまだ対カオス、偽カオス用に取っておいた秘密兵器が残ってるし次こそは必ず奴を仕止めてあの街を火の海にしてやる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………にしても()()()()()からもう二ヶ月は経つってのに全然()()が沸いてこねぇな………?

 前にここに来たときにヤった上玉がいたからここに飛んできたってのに戦闘ばっかしてたからなのか俺のリビドーが全く反応しやがらねぇ………。

 まだそういう枯れた年でもねぇだろ?

 どうなってやがんだ?

 ………まぁ流石に直に女を目の前にすりゃあ俺の性欲も沸き上がってくるとは思うが………。

 

 

 

 

 

 

 それよりも先にあの焼き鳥をどうするかだな………。

 一昨日の奴と激しくやり合ったのを考慮するならさっさと攻めるのがいいな。

 奴がまだ戦闘の疲れが残ってるうちに殺れば俺にも勝機はある………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それに奴があの街を守っているのは確かなんだ。

 だったら奴の()()()()()()()出来れば奴も無視できないし本気で戦うこたぁできないだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………昔からバルツィエってのはそういう単騎で敵陣に乗り込む戦いに特化した兵士なんだよ。

 恨むんなら俺を倒せないテメェの弱さを恨むんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リスベルン山 とある山小屋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「メェエェェッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!

 メーメーさん………。

 また来たの………?」

 

 

マウンテンホーンズ「メェッ」

 

 

カーヤ「……せっかく()()()()()()カーヤのところになんか来て………、

 ………()()()()()()()()なっても知らないよ………?」

 

 

マウンテンホーンズ「フスー?」

 

 

カーヤ「…それにしてもよくカーヤのところが分かったね………。

 前は………どこか忘れちゃったけど()()()()()()()()メーメーさんとは会ったんだよね………?

 あの時は………メーメーさんだけがカーヤのお友達だったのにメーメーさんはだんだん様子がおかしくなって……、

 いつの間にかいなくなってて探してみたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ………それなのにまたこうして会えて………、

 ………嬉しいけどメーメーさんがまたモンスターに食べられちゃうんじゃないかって心配だよ………。」

 

 

マウンテンホーンズ「メッ!」スリスリ…

 

 

カーヤ「………えへへ、

 そうやって慰めてくれるところは()()()()()()()()()………。

 ()()()()()()()()()()()()()()友達でいてくれたのはメーメーさんだけだよ。

 ………またカーヤはここに戻ってきたけどやっぱりここでもメーメーさん以外にお友達はできないみたい………。

 

 

 ………カーヤにはメーメーさんだけがいてくれたらもうそれでいいよ。」

 

 

マウンテンホーンズ「フスッ!フスッ!」

 

 

カーヤ「………?

 どうしたの………?」

 

 

マウンテンホーンズ「メェェ…!」

 

 

カーヤ「あっち……?

 あっちは………外の世界だよ………?

 外は………、

 

 

 もういいよ………。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 カーヤはね………、

 もうここで生きていくしかないんだよ………。」

 

 

マウンテンホーンズ「メッ!メェェ!!」

 

 

カーヤ「……ここにいても酷い目にしかあわないことは分かってるよ………。

 けどね……?

 外の世界にでたところでもっと怖い目にしかあわないんだよ………。

 そんなところにカーヤとメーメーさんだけで出ていってもメーメーさんがまたいなくなっちゃうんじゃないかって思うと怖いんだよ………。」

 

 

マウンテンホーンズ「キュルル………。」

 

 

カーヤ「………外の世界に出たとしてもカーヤには悪い病気にかかってるし前みたいに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《《電気を出す大きな猪が向かってきたり、海に出たら手が多い生き物に捕まりそうになったり、メーメーさんを食べちゃったあの大きな人みたいなモンスターがいたり、………後変な舌が伸びて跳ね回る生き物にも会ったね………。

 他にも鳥みたいなのにも襲われたりカーヤみたいに火を扱う大きな蜥蜴もいたっけ………?

 ………一番驚いたのは木かと思って触ったら動き出した木のお化けとかもいたね………。》》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そんなのが沢山いる外の世界になんてカーヤは行きたくないよ………。

 もし出ていくとしたらその時は外の世界のどこかに住んでる()()のところに行きたいな………。」



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フリューゲルにラーゲッツの襲撃

フリンク族の都市フリューゲル 残り期日八十四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「カーヤにまた会うにしてもどこで会えばいいんだ?」

 

 

ウインドラ「事は内密に実行しなければならない。

 実行するとしたらフラット殿やナトル族長達が直ぐに駆け付けてこない時間帯と場所を選定する必用があるな。」

 

 

タレス「時間帯は………夜間として場所はまたリスベルン山がいいんじゃないですか?

 この前もカーヤはあそこにいましたし。」

 

 

アローネ「……いえ、

 そちらは避けた方が宜しいかと思います。

 この間私達がカーヤと戦闘した直後にフラットさんが現れました。

 あの付近はカーヤが住んでいることもあってモンスターがおりません。

 と言うことはあの場所へは割りと安全に行き来が可能だということ。

 人が駆け付けてくるのにそう時間はかからないでしょう。」

 

 

ミシガン「え?

 でもあの辺りって子供達に行かないよう注意してたくらいだしこの間のフラットさんは偶々だったんじゃないの?」

 

 

アローネ「よくお考えになってください。

 あのような場所に偶々人が来る理由があると思いますか?

 ……あの時は私達がカーヤを討ち取れるか見物しに来ていたのでしょう。

 私達の力に疑いはなくとも信用はされていないのですよ。」

 

 

ウインドラ「更に俺達はカーヤの事情を聞き出してしまった。

 その上で俺達はまたここへと戻ってきた。

 用心深いフリンク族のことだ。

 俺達が事情を知ってカーヤを討つ気がまだあるのか気になるところだろう。

 

 

 ………今もほらな。」チラッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラが目配せをすると周辺にいたフリンク族達が一斉に視線を反らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「見張られているな………。

 俺達の動向を探っているようだ。」

 

 

ミシガン「…ここの人達はそんなに私達がカーヤを倒すかどうか気になるのかな………。」

 

 

ウインドラ「フラット殿の手回しにしろ全員が同じ考えで動いているとは限らんがな。

 ここにいる連中は俺達にカーヤを即座に滅してほしいか、後回しにしてほしいか、保身のために倒してほしくないかだろう。」

 

 

タレス「このように見張られていては夜間でも動きづらいですね………。」

 

 

アローネ「実行する時間帯は夜、場所はリスベルン山のようなモンスターが徘徊していない場所以外でこの街から離れた場所、期日は………少し様子を見た方が良さそうですね。」

 

 

ウインドラ「幸いにもまだ時間には大分余裕がある。

 この近辺にはモンスターが豊富のようだしな。

 食事に困ることもない。

 俺達が動くタイミングが分からなければ連中もいつまでも俺達を見張り続けるのは難しいだろう。

 どこかで必ず連中の目を盗んでカーヤに会うタイミングが来るはずだ。

 先ずはそれをいつにするか………、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォオッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラッ、ラーゲッツが現れたぞおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達がカーヤと対談する策を練っていると突如として爆音が鳴り響きラーゲッツ襲来の声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「オラァァァァァァァ!!!

 出てこい糞焼き鳥野郎ッッッ!!!

 テメェの大事な大事なお仲間さん達を皆殺しにしちまうぞぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォオ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、うわああああああぁぁぁ!!?」

 

 

「だっ、誰か助け………!?」

 

 

 突然の敵の出現にあわてふためくフリンク族達。街中でレアバードに搭乗したラーゲッツが街を焼いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ラーゲッツ!」

 

 

ウインドラ「本当に生きていたとはな………。

 しかもこんな場所で加減もせずに魔術をぶっ放すとは……!」

 

 

タレス「こうしてはいられません!

 急いでラーゲッツに迎撃を!」

 

 

ミシガン「その前に街の人達を避難させないと!?」

 

 

アローネ「街の中に侵入を許してしまった時点で避難は間に合いません!!

 私達は一人でも犠牲者が出る前にラーゲッツを迎え撃…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥンッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「どうしたどうした!!?

 出てこねぇのかよ!?

 焼き鳥野郎!!

 早く来ねぇとテメェの守りたい連中が全員消し炭に「ドゴォッ!!」ゴワァッ…!?」

 

 

 ラーゲッツがフリューゲルに向けて火を放っているとラーゲッツの頭上から高速でラーゲッツに迫りラーゲッツを吹き飛ばした者が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤだった。カーヤがまた火炎を纏いラーゲッツを追い払うべく飛来してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「カーヤ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「グハァッ……!?

 ……くそッ!!

 現れやがったな焼き鳥ィッ!!

 テメェはここでは………「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」何ッ!?」

 

 

 

 

 ラーゲッツに向けてカーヤが火を吐き出す。それを受けてラーゲッツは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「ぐわああああああああああああああああッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火の勢いに飲まれて遠くの方へと飛ばされていった………。



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最弱の主の意味

フリンク族の都市フリューゲル 残り期日八十四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「あのラーゲッツをこうもあっさりと………。」

 

 

ミシガン「やっぱり強いんだねカーヤは………。」

 

 

タレス「…それよりもラーゲッツは………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フウウウウウウウンッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹き飛ばされたラーゲッツの方を見ると炎の中からレアバードで飛び去っていくのが見える。街を襲うのは中断したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「あの炎を受けて勝てないと悟り去ったようですね。」

 

 

カオス「たった一度の炎でラーゲッツが………、

 ………同じバルツィエで親子でもこんなに力の差があるんだ………。」

 

 

 ラーゲッツとカーヤは本人達は知らないらしいが父と娘の関係にある。その娘であるカーヤがラーゲッツを軽く一蹴しフリューゲルの街の危機を救った。これなら多少カーヤの評判が上がっても誰も文句は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「カーヤ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「降りてきなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボスッ……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 熱く燃える火が急激に勢いを落とし中からレアバードにぶら下がるカーヤが登場する。カーヤはナトルが命じたようにゆっくりと下降しやがて地面に到達しナトルの正面に立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この馬鹿者がぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナトルはあろうことかフリューゲルの危機を救ったカーヤを持っていた杖で殴り付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「あれほどあの男をこの街の中に入れてはならんと言ってあっただろうが!!

 見ろ!!

 お前の怠慢のせいで奴が破壊した家々の数々を!!

 これを直すのにどれだけの手間がかかると思っているんだ!?

 少しは私達の苦労も考えろ!!

 

 

 この役立たずが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「……ごめん………なさい………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でちゃんとラーゲッツを見張ってなかったんだよお前はよぉ!!」

 

 

「あいつをどうにかできるのお前しかいないんだぞ!!」

 

 

「誰がお前をここにいさせてやってると思ってるんだ!!」

 

 

「お前に仕方なく住む場所を与えてやってる俺達の良心が分からないのか!!」

 

 

「今すぐ追い出したっていいんだぞ!!?」

 

 

「しっかりしてよね!!」

 

 

「さっさとあんな奴ぶち殺しちまえよ!!」

 

 

「あいつが現れてからもう一ヶ月も経つんだぞ!!?」

 

 

「一体いつまであいつ一人を片付けるのに時間かけてんだよ!!」

 

 

「真面目にやりやがれ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんと醜い罵声か…………。端から聞いていればとても人に対して発していいセリフの数々ではない。これがたった今瞬時にラーゲッツを追い払い街を救った者へといい放つ言葉か………?

 

 

 カオス達は想像していた展開とは正反対のフリンク族達の態度に不快感を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「皆の言う通りだ。

 お前は一体いつまであの男を倒すのに時間をかけているんだ?

 さっきの様子を見ていればお前の力があればあんな奴は一捻りだろうが。」

 

 

カーヤ「あっ……でっ、でも………。」

 

 

ナトル「お前の意見は聞いてない。

 お前は素直に私達の言うことを聞いていればいいんだ。

 そうすればお前はまだここに置いといてやる。

 

 

 

 

 

 

 ここから外の世界になんて行きたくないだろ?」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コクンッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「だったら次は必ず仕止めろ。

 お前が奴を取り逃がす限り奴は何度でもここに攻めてくる。

 そうして死者が出たら全てお前の責任だ。

 分かったな?」

 

 

カーヤ「………はい………。」

 

 

ナトル「………分かったのならあの男を追ってこい。

 どうせもう近くにはいないだろうが万一見付けたら即座に始末しろ。

 いいな?

 

 

 では行け!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早くラーゲッツをぶっ殺して来やがれ!!」

 

 

「どうせなら一緒にくたばってもいいぜ!!」

 

 

「それがいい!!

 お前もラーゲッツと一緒に死んできな!!」

 

 

「一ヶ月も始末できなかったんだ!!

 そんくらいのペナルティがあってもいいよなぁ!!」

 

 

「ハハハハハ!!

 ほらさっさと死んでこいよ!!」

 

 

「「「「「「「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「非情な………!」

 

 

ウインドラ「カーヤによってもたらされた天敵がいない平和な環境がここまで人としての心を歪ませるのか………。」

 

 

タレス「カーヤがいないと何もできないくせに………、

 こんなのまだ悪を自覚しているバルツィエの方がマシですよ。

 ここのフリンク族は自分達がどれだけ誰かに対して酷いことをしているのか分かってないんです。」

 

 

ミシガン「………ねぇ、流石にここまで言われたらカーヤ………まずいんじゃない………?」

 

 

カオス「カーヤにとって負い目を感じてるのはナトルさんだけだし他の連中はカーヤにとってはただの他人でしかないからこんなに悪く言われたらカーヤも………、

 

 

 ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く行けよ!この化け物め!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポイッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 民衆がカーヤに罵声を響かせていた時一人の子供がカーヤに向かって小石を投げつける。子供の腕力で投げられたその小石は軌道も緩やかで当たったとしても大した怪我はしないだろう。それにカーヤは人の姿をしていてもヴェノムの主だ。そんな小石程度でカーヤを傷付けることは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ!!

 命中!」

 

 

「ナイスコントロール!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤに小石が当たったことで騒ぎ出す子供達。興が乗ったのか小石を投げた子供の回りにいた他の子供達もカーヤに小石を投げ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポイポイッ!スカッ…、ガスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤは小石が当たっても無反応だった。大人ならともかく子供の力ではどれだけ小石をぶつけてもカーヤを傷付けることは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツー…………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(……!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッハハハ!!

 見てみろよカーヤ泣いてるぞ!!」

 

 

「何だ?どっか痛かったか?

 化け物にも痛いって感覚分かるのかよ?」

 

 

「痛いフリしてんじゃねぇよ!

 どうせお前には効かないんだろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………泣いてる………あのカーヤが………。

 俺達五人を相手に全く隙を見せなかったあのカーヤが子供達が投げた石で………?

 

 

 ………あんな子供にカーヤが泣かされてる………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達からはその光景はとても奇妙に見えた。反撃すればあんな連中はカーヤなら軽く黙らせられるだろう。それどころかあのような不敬な真似をするものは今後二度と出てこなくなるはずだ。

 

 

 それなのにカーヤは何もしない、何もやり返さない、されるがままの無抵抗。無抵抗と言ってもカーヤを物理的に傷付けられるものはフリンク族の者達の中には誰一人としていない。カーヤとフリンク族の人々はある意味お互いに何もしていないも同然だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがカーヤは今涙を流している。あの子供達から受けた小石が確実にカーヤに傷を付けたのだ。それは外傷ではなく心の傷。カーヤの心を傷付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(……あんなに強いのに………何で………。

 」



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フリンク族との決別

フリンク族の都市フリューゲル 残り期日八十四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらおらッ!

 さっさとあんなバルツィエぶっ潰してこいよ!

 この汚ならしい化け物め!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供達の小石の投擲はなおも続く。カーヤがラーゲッツを追っていなくなるまで続けるつもりだろう。本人達はその行いを非道なことだとは思っていない様子。その様子からこれがこの街では当然のことのように教わってきた証だろう。大人達でさえそれを止めようとはしない。大人達も別段悪気を感じている素振りはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それがこの街の常識のようなのだから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………………こんなこと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黙って見ていられないよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ~ら!

 今度はちょっと大きめのやつをあいつの頭にぶつけてやるよ!」

 

 

「おっ!いいねぇ!」

 

 

「どうせ当たっても痛がらないんだしいいよな!

 賛成!」

 

 

「俺は連弾ぶつけてやるぜ!」

 

 

「止めとけよ!そんな沢山同時に投げても当たりにくいだろ!」

 

 

「別に気にしねぇし!

 何個か当たるだけでも爽快だろ?」

 

 

「どうせならもっと近くで当てろよ!」

 

 

「それこそ止しなって!

 ウイルスに感染しちまうぞ!」

 

 

「平気だよ!

 触る訳じゃないんだし!」

 

 

「だったら俺もそうしよう!

 後ろから頭に思いっきり俺のこの一発をあいつに…!?」ガシッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 カオスは一瞬にしてカーヤに向けて小石を投げつけていた子供達のもとに移動し次にカーヤに小石を投げつけるであろう子供の腕を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?

 なっ、………何だよお前!!

 何すんだよ!

 手を放せよ!!」

 

 

「そうだ!!

 邪魔すんなよ余所者が!!

 今いいところなんだから大人はすっこんでろよ!」

 

 

「何なんだよお前は!!」

 

 

カオス「………何なんだよ、って………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “何なんだよ”は君達の方だろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!?」」」ビクッ!!

 

 

 カオスは子供達を叱責する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「黙って見ていれば君達はなんて酷いことをしてるんだよ……!!

 こんなに大勢でたった一人を責めて石なんか投げつけて………!!

 自分達が今どんなことをしてるのか分からないのか!!?」

 

 

「どんなことって………、

 ただのカーヤに()()()()()()()で………。」

 

 

「別に悪いことは俺達はしてな「誰にそんな遊びを習った………?」………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「誰にそんな遊びを習ったんだ!!!!」

 

 

 カオスは子供達に本気で怒声を響かせて叫ぶ。その怒声に子供達はすっかり竦み上がり自分達が何故怒鳴られているのか分からずおろおろし始める。その声は周りにいた大人達にも聞こえ、

 

 

「おっ、おいアンタ!?」

 

 

「何も子供にそんな本気で怒らなくても……!?」

 

 

「そっ、そう!!

 子供達はただ無邪気に遊んでただけで「遊びのつもりであったならこんな遊びを教えたお前達の責任だな。」!?」

 

 

 

 

ウインドラ「……この街は住人が増えすぎて土地の活用に困っていると聞く。

 故に遊び場が無く遊び方にも色々と難儀しているようだがそれが原因で辿り着いた遊びがこれか…… 。

 周りにいたお前達が止めなかったところを見るとこれを教えたのはお前達なんだろう?

 よくこんな弱いもの苛めを思い付くものだな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

アローネ「貴殿方は自らの行いに疑問を持つことは無かったのでしょうか?

 このようなことを平然と行われる光景を見て誰かが止めるだろう………。

 そんなことすら頭の中で考え付きすらしないとは………。

 この地方の部族の方々には人情というものが欠けているのでしょうか?」

 

 

「でっ、でも子供が小石をぶつけたくらいでカーヤは別になんとも感じたりは「なんとも………?」………。」

 

 

ミシガン「アンタ達にはこの子が流しているこの涙が見えないの!!?

 痛い痛くないって痛覚の話じゃないでしょ!!?

 何なのよこの街の住人達は!!?

 何雁首揃えて一人の女の子を泣かせてるのよ!!?

 何でこの子が苛められてるのを見て誰も止めに入らないのよ!!

 何でこの子の心の悲痛の声を無視するの!!?

 普通こんなことされたら誰でも嫌だってことが何でわからないのよ!!」

 

 

「「「………」」」

 

 

タレス「……つくづくこのフリンク族というのは話を聞いてるだけでも虫酸が走りますね。

 元は同じダレイオスの民としてマテオと戦うために立ち上がった同志だったのだと思うと不快です。

 貴方達は攻撃してこない相手にしか攻撃できないんですか?」

 

 

カオス「……こんな嫌なことをされる人の気持ちが分からない人達がいるところにカーヤを置いてなんておけない!!

 

 

 カーヤ!!

 こんな人達なんてカーヤが守らなくていいんだよ!!

 俺達と一緒にここを出「カーヤを連れていかれては困りますね。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「貴殿方は我々の生命線をどこへと連れていこうと言うのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………フラットさん………。」

 

 

アローネ「このようなまだ成人にも満たない少女をいたぶるような劣悪な環境でカーヤを放ってはおけません。

 貴殿方がカーヤをそこまで忌み嫌うのでしたら私達がカーヤを保護します。」

 

 

ウインドラ「街の被害を最小限に抑えたにも関わらずこんな仕打ちをされるのではカーヤもたまったものではないだろう。

 やはりカーヤは殺さずに連れていくことにする。」

 

 

 

 

 

 

フラット「ほほう………?

 貴殿方がカーヤを引き取ると………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤ、

 こんなことをこの方々は仰っているがどうする?

 この方々に付いていくのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タタッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤはフラットに問いに返事はせず無言でこの場を去っていった。方向はラーゲッツが飛んでいった方だ。先程の指示通りラーゲッツを追うのだろう。と言うことは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………残念ながらカーヤは貴殿方とは共にこの地を去りたくないようですね。

 それはそうですよ。

 カーヤには幼い時からこのフリンク領の外にはモンスターやヴェノムよりも質の悪い八つの部族がいると教えてきました。

 カーヤは何度かブルカーンとも戦っていますし私達が真実を伝えていることも理解しています。

 ですのでカーヤがこの地を去ることは永遠にありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ですが貴殿方は今私達をからカーヤを取り上げて私達のことを危険に晒そうとしましたね………?

 誠に申し訳ないのですがそんな方々にいつまでもここに滞在させておくのは私達にとっては不利益しかありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴殿方はこの地で何もなさらなくてよいの即刻このフリンク領から立ち去っていただき願いたい。」



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悪の定義

フリンク族の都市フリューゲル 近辺 残り期日八十四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

ミシガン「追い出されちゃったね………。」

 

 

ウインドラ「当然だろうな。

 奴等にとってカーヤは蔑み忌み嫌いこそすれどこの地の大事な防衛の要だ。

 それを連れ出そうとしたのだからな。」

 

 

タレス「ですがあの人達はカーヤを殺してほしいと言ってきたんですよ?

 それなのに連れ去るのは駄目っておかしくありませんか?」

 

 

ウインドラ「何もおかしくはない。

 連中は今でもカーヤに消えてほしいとは思っているだろう。

 しかしそれはあくまでもこの地に不要となってからだ。

 今はまだラーゲッツとブルカーンの問題が残っている。

 この二つの問題をどうにかしない限り連中がカーヤを手放すことはない。」

 

 

アローネ「でしたらラーゲッツを何とかすれば………。」

 

 

ウインドラ「そしてその後に連中とブルカーンとの問題を解消してやる必要がある。

 ブルカーンの地に赴く時がきたらカーヤもここから連れ出すことは出きるだろうがそれを本人が望むかどうかは………。」

 

 

 

 

カオス「あの様子じゃあ………俺達に付いてきてはくれなさそうだね………。」

 

 

アローネ「幼少期からの外の世界への悪しき教育………。

 あれでは私達がいくら語りかけても外の世界へ踏み出すことに頭を縦に振ることはないでしょうね………。」

 

 

タレス「一度も外に出たことのない人を外に連れ出すには本人にそれを受け入れてもらうしかありません。

 ………最悪強引にでも連れ出すしか………。」

 

 

ミシガン「それじゃあ余計外になんか連れ出せなくなりそうだね………。」

 

 

カオス「一度でも外に出たいって思ったことがあったんならそれもできなくはないと思うけど、

 でも………。」

 

 

ウインドラ「カーヤは完全にフリンク族の教えの術中にはまっている。

 あれほどの強さを持ちながらも外に出るという選択肢をフリンク族の長年の暗示によって考えられないようにさせられているんだ。

 子供が小さい時から受けた影響はその先のことにも強い印象に残る。

 三つ子の魂百までとはよくいったものだ。

 それを突然現れた俺達がカーヤに囁いたところで馬耳東風としかならん。」

 

 

ミシガン「…じゃあカーヤはずっとあのままなの………?」

 

 

ウインドラ「彼女にとって何か外の世界に踏み出せる起点のようなことでもなければあのままだろうな。

 あのままカーヤが生き続ける限りカーヤはフリンク族の言いなりだ。

 ナトル族長かフラット殿が()()を言い渡さない限りはカーヤはここからは出られない。

 しかしカーヤが不要となった時彼等がカーヤに言い渡すとしたら追放ではなく()………。」

 

 

アローネ「何とかならないのでしょうか………?

 このままあのような扱いを受け続けるのはあまりにも………。」

 

 

タレス「カーヤがボク達の話を聞き入れてくれればいいんですけど………、

 今回は少し急すぎましたね。

 ラーゲッツもいきなり現れましたしカーヤを説得する前にカーヤに接触してしまいましたし………。」

 

 

ミシガン「あんなのおかしいよ………。

 あんな扱いをされてるのにどうしてカーヤは全く抵抗しないの………?」

 

 

ウインドラ「恐らくカーヤが昔母親を死なせてしまったことを追求されてそのことがカーヤを縛り付けているのだろう。

 だからどんなに酷いことをされてもカーヤ本人にはそれに抗うことが出来ない。」

 

 

カオス「…それじゃあ俺達にはどうすることも出来ないじゃないか……。」

 

 

 カーヤが抱く過去への罪悪感がカーヤをこの地に縛り付けている。これに関しては本人が罪の意識を抱き続ける限り果てしなく終わりの見えない呪縛だ。ナトルやフラットが許すかあるいは生きている間はこの呪いが続く。それには後何百年かかるか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……もうカーヤ本人に直接お会いして話を進めた方が無難ですね。」

 

 

ミシガン「私達の話を聞いてくれるかなぁ………。」

 

 

ウインドラ「今ならまだカーヤにフラット殿達が俺達と話をしないようには指示していないだろう。

 会うとしたら()()()()()()()

 

 

タレス「明日まで………、

 確か明日にカーヤがフラットさん達に定期報告する日でしたね。」

 

 

ウインドラ「あぁ、

 だから明日までにカーヤと会話ができればそこでカーヤを説得できるかもしれない。」

 

 

ミシガン「…じゃあ早くカーヤに会いに行こうよ!

 明日までだったら全然時間無いよ!?」

 

 

ウインドラ「落ち着け。

 会いに行くにしてもどこで会うつもりだ?」

 

 

ミシガン「え?…えっと~………、

 どこで会えばよかったんだっけ………?」

 

 

アローネ「フリンク族の方々に見付からないような場所でモンスターが程よく生息している場所です。

 そこでカーヤをこの前のように呼び出します。」

 

 

タレス「この近くでそんな場所は………、 

 

 

 ………!ありました。

 ()()()()()()()()()()()()()が都合が良さそうです。」

 

 

ウインドラ「なるほど………そこならモンスターもいる上にフリンク族達にも見付かりにくいな。

 何せ奴等はフリューゲルの守りをほぼカーヤで賄っている。

 奴等が警戒しているのはブルカーン族の方だからモンスターが生息しているような森にはあまり来ないだろう。」

 

 

カオス「よし、

 じゃあ直ぐにそこに向かおう。

 カーヤをこっそり呼び出すのなら夜の方がいいんだろ?

 もうチャンスは今日の夜しかないんだ。

 早めにその森に付かないとカーヤを呼び出せる機会が無くなっちゃうし。」

 

 

アローネ「タレス、

 その森はここからどの方角なのですか?」

 

 

タレス「ここからだと………南西にその森はあるようです。」

 

 

ウインドラ「南西か………。

 ということはここから近いのではないか?」

 

 

タレス「はい、

 大体数時間も歩けば着く距離にあります。」

 

 

ミシガン「よ~し!

 だったら早速行こう!」

 

 

アローネ「随分張り切ってますねミシガン。」

 

 

カオス「この間まではちょっと消極的になってたのにね。」

 

 

ミシガン「そんなの当たり前でしょ?

 今回はヴェノムの主を倒すって話じゃないんだから。

 今回はヴェノムの主を救う、カーヤを助けるって目的なんでしょ?

 私的にはそっちの方がやりがいありそうだもん。」

 

 

タレス「言われてみればブルータルに始まってからボク達はずっとヴェノムの主を倒す目的でしか旅をしてきませんでしたからね。」

 

 

ウインドラ「簡単な話今回はラーゲッツのような悪党を倒す目的ではなく不運な運命に見舞われたか弱い少女を救う目的だからな。

 そっちの方がミシガンには性分に合ってるんだろう。」

 

 

カオス「……ずっとそんな旅だったら良かったんだけどね………。

 世の中には倒さないといけないのもいれば倒さないでいい相手もいる………。

 バルツィエもヴェノムの主も全部が全部悪いのばかりじゃないんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………早くカーヤを救い出さなくちゃいけないね。」



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カーヤに避けられて

ユミルの森 夜 残り期日八十四日

 

 

 

 フリンク族の地にて出会ったヴェノムの主フェニックスにして、バルツィエの一人ラーゲッツの娘でありこのダレイオスで嫌われる混血のハーフエルフであるカーヤを救うべくカオス達一行はカーヤとフリンク族の介入無く接触可能な場所を探してフリンク族とアインワルド族の領地の境界まで来ていた。

 

 

カオス「…ここでならカーヤをフリンク族の人達に知られることなく呼び出すことができるの?」 

 

 

ウインドラ「知られることなく………と言うのは語弊があるな。

 正確には知られることなくではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。」

 

 

タレス「ここならあのリスベルン山のようにモンスターがいないといったことは無いですもんね。

 一目でこの森にはカーヤがあまり手をつけていないことが分かります。」

 

 

アローネ「はい、

 ここでなら騒ぎを起こせばカーヤのみが駆け付けフリンク族の方達はここへはカーヤのような飛行手段でもなければ駆け付けてくることはないでしょうね。」

 

 

ミシガン「………?

 まぁここが結構フリューゲルから離れて直ぐにやってこれない場所なのは分かるけど何でモンスターがいるかいないかなんて来ただけで分かるの?」

 

 

ウインドラ「ここが()だからだ。」

 

 

ミシガン「森?」

 

 

カオス「ミシガン、

 カーヤは基本六属性のどの属性を得意としていたか覚えているよね?

 カーヤが使うのは()だよ。」

 

 

ミシガン「!

 そっか!

 カーヤが火でモンスターやヴェノムを追い払うんならこんなところで火を使ったら森が燃えちゃうもんね。」

 

 

タレス「一見してこの辺りには木々が燃え盛ったような跡は見られません。

 そのことからカーヤがこの付近でモンスターを相手にしたことはないと窺えます。

 相手にしたことがあったにしてもそれは一度モンスターが森を抜けて平原に出てからだったはずです。

 そうでなければこの森はカーヤが火を一吹きしただけで全焼してしまいますから。」

 

 

アローネ「カーヤが火以外の属性の魔術も使えれば話は別ですけどね。

 ですがその線は薄いでしょう。

 カーヤはできることなら誰にもその正体を知られずに外敵を屠るよう命じられていました。

 ヴェノムの主フェニックスが臨機応変に火以外の魔術を使うことが他の部族に知られたら流石に不審に感じますから。」

 

 

ウインドラ「俺達と戦っていた時も火かあの毒撃しか使ってこなかったからな。

 ……ここはフリンクとアインワルドの境界でもある。

 フリンク族のようにあのフリューゲルに立てこもったりでもしていなければこの辺りにアインワルド族の誰かがやって来る可能性は十分に高い。」

 

 

ミシガン「そうなんだね………。

 それで………カーヤを呼ぶの?」

 

 

カオス「時間は限られてる………。

 今日を逃せば明日にはカーヤはナトルさん達に俺達と接触しないように命令されるなら俺達がカーヤに会えることはもうないかもしれないんだ。

 早速カーヤを呼ぼう。」

 

 

ウインドラ「あぁ、

 ではやるぞ。

 カーヤが飛んできたら先ずは敵意がないことを伝えてそこから説得だ。」

 

 

アローネ「分かってます。

 皆くれぐれも敵対行動と思われる行動をとらないでください。」

 

 

ミシガン「一回フリューゲルで私達のことを見てるはずだから心配要らないんじゃない?

 要は対面したら話しかけてみればあっちも話がしたいだけって直ぐに分かるだろうし。」

 

 

タレス「楽観はできませんよ。

 ラーゲッツには問答無用で襲いかかってましたから。」

 

 

カオス「あれは多分あそこがフリューゲルの中だったからだよ。

 ここでならカーヤも俺達が攻撃しない限りはリスベルン山の時みたいに俺達の次の行動に対応した動きしかしないと思う………。」

 

 

ウインドラ「………よしでは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ライトニング!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシャァァァァァァッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「………」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボゥ…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達がいる場所の北の方角から突然火の光が上がりこちらに向かってきた。その光は夜の闇を明るく照らしまるで急速に朝がやって来たと錯覚するような眩い光だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス「ゴオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「カーヤ!!!」

 

 

 カオスはカーヤを呼んだ。戦闘になる前にカーヤと戦う意思が無いことを表明するためだ。

 

 

 

フェニックス「ボオオオオオオオオオオオアッ!!」

 

 

 カオスの呼び掛けにカーヤの返答はないが空中で静止しカオス達の様子を窺っている。

 

 

アローネ「私達は貴女と戦いたいのではありません!!

 貴女とお話をしたいだけなのです!!」

 

 

ウインドラ「俺達に敵意は無い!!

 どうか……話だけでも聞いてくれないか!?」

 

 

 カオスに続きアローネとウインドラがカーヤに話し掛ける。これでカーヤと話ができれば彼女を説得しそのままこの地を去ることが可能なのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファアアアア………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィィィンッ…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………何で………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤはカオス達の前に姿を現したがカオス達に敵意が無いのだと判断すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また元来た空路を帰っていく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………俺達のことをまだ信用はできなかったんだな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達はカーヤと戦闘にならないように気を付けていたつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………まだ彼女と話ができるほど私達は彼女と接することができていません………。

 この結果は必然だったのでしょうか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤとは戦闘にはならなかったが話し合いをすることもなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………カーヤは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ここから出ることはできないのか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてカオス達はカーヤと対話する最後の機会を失ってしまった。

 

 

 明日以降カオス達の前にカーヤが現れることはもうなかった………。



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カーヤに会いに行こう

ユミルの森 残り期日八十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「『ライトニング!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシャァァァァァァッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………来なくなっちゃったね………。」

 

 

ウインドラ「やはり三日前の定期報告の際にカーヤに俺達を無視するよう指示を受けたんだろうな。

 俺達にカーヤを連れていかれるとフリンク族にとって心象が悪いらしいからな。」

 

 

 フリンク族にフリューゲルを追い出されこうしてアインワルド族との境でカーヤを呼び出すようになって四日。カーヤを呼び出せたのは始めの一度だけでそれ以降はいくら雷を打ち上げても一行にカーヤが飛んでくる気配は無い。カーヤには誰が雷を打ち上げているのかは区別が付くのだろう。フリンク族の者はそういった魔術の使用者の区別ができるようだ。

 

 

 ………そんな区別が付くのならカーヤが万一にもこの領地の外で危険な行動をとることはないはずだ。カーヤはヴェノムの主ではあるみたいだが知性も理性もある。ウイルスはまだ体の中にあるようだがそれを打ち消す手段はカオス達にはある。

 

 

 カーヤさえ………カーヤさえそれに納得してカオス達の元に来てくれれば今のカーヤの現状から救い出すことはできると言うのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺達がしようとしてることってカーヤにとっては余計なことでしかないのかな………。」

 

 

アローネ「彼女にとって余計なことだとは私は思えません………。

 あのような扱いを受けて苦しくない人などこの世にはおりません。」

 

 

ウインドラ「お前もあの涙を見ただろう?

 カーヤはあんな目にあうことを望んではいないはずだ。

 カーヤだって人として過ごせていた時期があったんだ。

 それならあの頃のような人として過ごせる時間を取り戻したいと思うだろう。」

 

 

タレス「ですがカーヤがここでその時間を取り戻すことはあり得ません。

 過去の一件でもうフリンク族達はカーヤに対する感情がマイナスに振りきっています。

 カーヤを人に戻したところでこのフリンク領で生きていくことはできない………。」

 

 

ミシガン「だったらカーヤをここから脱出させてあげたいけどカーヤが私達の話を聞くどころか会ってすらもらえないしどうしたら………。」

 

 

カオス「………」

 

 

ウインドラ「どうする?

 あのフリンク族達の様子だと最終的には俺達の計画には参加してくれるようだがカーヤに関することだけは俺達には関わるなといってくるだろう。

 このままここでいつまでも来る気配のないカーヤが来るのを待つか………、

 

 

 ………予定を進めてアインワルドの食人植物アンセスターセンチュリオンとやらの討伐に向かうか。

 こちらはどう聞いてもカーヤのような実は人だった、なとということはないだろう。

 こちらを先に片付けることもできるが………。」

 

 

ミシガン「カーヤを見捨てるの!?」

 

 

ウインドラ「見捨てるのではない。

 現段階ではこれ以上ここで進展を望めないんだ。

 俺達が何のためにこのダレイオスを回っているか忘れたわけじゃないだろう?

 俺達は世界の崩壊を防ぐために精霊王マクスウェルからヴェノム根絶を言い渡された。

 ヴェノムは放っておけばこのデリス=カーラーンに生物が生まれ続ける限りヴェノムもその数を増やしていく。

 だがヴェノムに感染してなお精神が人のままであり続けるカーヤならこの地でヴェノムが生産されていくことはないだろう。

 

 

 それだったら今もここから先のアインワルドの領で猛威を奮うヴェノムの主を討伐しに向かうのが建設的ではないか?

 こちらのアンセスターセンチュリオンはそれの犠牲になった人々がこうしている間にも増え続けているだろう。

 この地であまり時間をかけすぎていてはそれこそアインワルドがアイネフーレ、カルト、ブロウンの二の舞、三の舞、“四の舞”に続いてしまう。

 俺達はあくまでも軍事力を高めるために部族協力を仰いでいるんだ。

 そういった目的でこの地に来たが最初にナトル族長達がミーアの遣いから話が通っていたようにここでの目的は俺達が来る前に達成されていた。

 

 

 ………カーヤは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 他の二体のヴェノムの主を倒してからでも遅くはないだろう。

 今回のこの件は非常に問題が難しすぎる。

 俺達が最優先にしなければならないのは世界の崩壊を防ぐことと後の二つの部族を存続させることだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「駄目です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カーヤをこのままの状態で捨て置くことはできません!

 例え他の部族がヴェノムに苦しんでいようとも……

 カーヤは………!

 カーヤは六年もたった一人でこの地で苦しみ続けてきたのです!!

 これ以上カーヤが苦しむ期間を長引かせるようなことはあってはなりません!!」

 

 

ウインドラ「しかしどうするというのだ?

 俺達はこの地ではフリューゲルの近隣の行動を制限されている。

 おまけにカーヤは俺達の呼び掛けに応じない。

 八方塞がりだと思うが………?」

 

 

アローネ「………でしたら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達がカーヤに会いに行けばいいのです!!」

 

 

タレス「会いに行くにしてもどこへ………?」

 

 

アローネ「決まっています!

 

 

 もう一度“リスベルン山”へと向かうのです!

 そこで今度こそカーヤを説得して見せます!!」

 

 

ウインドラ「………もし無駄だったらどうする?

 時間には余裕があるが今日まででも大分時間を食った………。

 今までの流れから言って今回のこの件はパターンからして長期に渡る説得になる可能性がある。

 もしそれで無駄足を踏むようなことになれば世界の崩壊に相当近付くことになるんだぞ。」

 

 

ミシガン「った言ってもまだ後八十日はあるけど「八十日しかないんだ。」」

 

 

ウインドラ「………八十日………、

 これが期限だと言うのなら俺達はギリギリで取り組むべきではない。

 余裕を持つのならこのタイミングではなくヴェノムの主全討伐を済ませて一ヶ月はほしいところだ。

 ギリギリになってまだヴェノムの主のような問題が出てきても困る。」

 

 

カオス「じゃあ実質後カーヤにかけていい時間は………」

 

 

 

 

 

 

タレス「()()………。」

 

 

アローネ「残りヴェノムの主にかけていい時間を順当に一ヶ月と考えればそうなりますね………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ではその十日でカーヤを説得してこのフリンク領を後にすればよいだけの話です!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………十日でカーヤ………そしてラーゲッツの問題も残っているが………。

 ………あの飛び回る二人を俺達で捉えることができるのか………?」



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カーヤに会うには…

リスベルン山 残り期日七十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシャァァァァァァッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボオオオオオオオオオオオアッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドトドドドドドドッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「(………煩いなあの人達……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじい………族長が最近やってきたあの人達は特にフリューゲルに危険はないから無視していいって言ってたけど、こう無意味に煩いとあのカーヤと同じ乗り物に乗ってるあの人がフリューゲルに襲ってきた時に気付けないかもしれないのに………。

 

 

 ………あの人達一体何なんだろう………?

 この間追い払いに行った時のあの人達の感じ………普通じゃなかった………。

 あの人達があまりに強いからつい黒い炎で攻撃しちゃったけどあれを受けてもあの人達全然平気そうだった………。

 今までそんなことなかったのに………。

 ………あの人達はもしかしてカーヤの病気が移らない人達なのかな………?

 あの人達なら………()()()()()()()()()()()()()()()()………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あの人達なら()()()()()()()………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ううん………。

 ()()()()()()………。

 カーヤは今はまだ死んじゃ駄目なんだ………。

 カーヤには………まだパパが迎えに来てくれるのを待ってなきゃいけないから………。

 いつか絶対に本当のパパが迎えに来てカーヤをここから連れ出してくれるってお父………フラットさんが言ってたから………。

 カーヤはいい子にして待ってなきゃいけない………。

 本当のパパ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()パパが迎えに来てくれるまでカーヤは死ねない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………それにしても一ヶ月くらい前から来てるあのカーヤと同じ火を使う人は何なんだろう………?

 何でフリューゲルを襲うのかな………?

 それにあの人が乗ってる乗り物ってなんだかカーヤの使ってるのと似てる………。

 あの人………ラーゲッツとか言ってたけど………この乗り物ももしかして元々あの人達が使ってたものなんじゃ………?

 ………あの人も多分バルツィエって家の人なんだろうけどアルバートパパとは何か関係があるのかな………?

 今度会った時に聞いてみたいけど………族長やフラットさんからカーヤが戦ってる時は絶対に火の中から出るなって言われてるし………。

 でも確かめたい………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………誰かカーヤのことを聞ける人がいたらな……… 。

 こんなに悩むこともないのに………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「……!!

 (あの人だ………!!

 またあの凶暴そうな人がフリューゲルに………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行かなきゃ………!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リスベルン山 中腹

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……またカーヤはラーゲッツの方に行ったみたいだね………。」

 

 

タレス「今回は大分近くにいたみたいですね。

 カーヤの炎が見えたのはだいたい一キロあるかないかの距離でした。」

 

 

アローネ「近くまでは来てみましたけどやはりここでもカーヤに避けられているようですね………。」

 

 

ミシガン「いっそのことカーヤが寝泊まりしてそうな山小屋とか見つけてそこを掴まえればいいんじゃないの?」

 

 

ウインドラ「そんな過激な方法で掴まえて話を聞いてくれると思うか?

 下手したら誘拐犯だぞ。」

 

 

タレス「この際誘拐だとか気にしますか?

 相手は六年間も人との接触禁止を続けてきたんですよ?」

 

 

カオス「六年間接触禁止かぁ………。

 

 

 

 

 

 

 そんなに長い間誰とも触れ合うことができなかったら………他人を信じることなんてできるのかな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……心配要りませんよ。

 カーヤは………誰かの優しさを求めているはずです………。

 二つの種族の間に生まれしハーフエルフはそういう生き物なのです………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「そっか………。」

 

 

カオス「この中ではハーフエルフに詳しいのはアローネだもんね。」

 

 

ウインドラ「正確にはアローネが知るハーフエルフとこの時代のハーフエルフは別物のように思うがな。」

 

 

アローネ「同じですよ………。

 アインスの時代でもデリス=カーラーンの時代でもハーフエルフは皆おなじてす。」

 

 

タレス「何故そこまで断言できるんですか………?」

 

 

アローネ「どんなに種族としての違いがあっても………、

 どんなに環境の違う世界を生きていても………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の心が変わることはありません………。

 ………人の痛みが分かる人もいれば人の痛みを分からずに人に痛みを与える人がいる………。

 いつの時代であっても人の心は暖かさと冷たさの二つしか無いのです。

 ………誰かに心を暖かくしていただいたのならそれは同じように暖かさでその誰かにお返ししたい………。

 けれども誰かに心を冷たくされたのなら他の誰かに暖めてほしい………。

 

 

 ハーフエルフはそういう環境の中で生きているのです。」

 

 

 

 

 

 

ミシガン「それって全部のハーフエルフに当てはまるの………?」

 

 

アローネ「この話はハーフエルフに限った話ではありませんよ。

 世界に生きる()()()()()()()()()()に当てはまります。」

 

 

ウインドラ「全人類か………。

 ………だがそれは全てがそうなるわけではないだろう。

 誰かに心を暖かくしてもらったらその相手に暖かさで返す………それは分かる………。

 しかし誰かに心を冷たくされたのならその相手に同じように冷たさで返すのではないか?」

 

 

アローネ「確かに私の意見はそういう見方もできます。

 ですがそれはその冷たくされた方と冷たくした方が共に自らの居場所を確立している場合です。

 

 

 

 

 アインスのハーフエルフや今回のカーヤのように自らの居場所を自らで決められないような方々は誰かに酷い扱いを受けたとしてもその相手を憎むよりもその現状から救われたい、この現状から脱したいと望みます。

 復讐などよりも先ずは()()()()()………。

 それを最優先に考えます。」

 

 

タレス「窮地の脱出………。

 ………ではカーヤにとっての窮地の脱出とは何になるんでしょうか………?」

 

 

ミシガン「へ?

 このフリンク領から出ていくことじゃないの?」

 

 

ウインドラ「そんな簡単な話じゃないな。

 フラット殿が言ってただろ。

 カーヤにはこの領地の外の世界に対する恐怖を植え付けられている。

 ただ外に連れ出すだけじゃ無意味だろう。

 それにカーヤならここを離れようと思えば離れられるはずだ。

 それをしようしないということは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………誰かがカーヤの信頼を勝ち取る必要があります。

 カーヤとお話しして例えナトル族長達の言い付けに背くことになろうとも外の世界に踏み出すことになろうとも彼女が私達を信頼できる人物なのだと認識していただくのです。」



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カーヤに一番近しい者

リスベルン山 中腹 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………信頼を勝ち取る、か………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…こう光明が全く見えない状態が数日も続けば流石にカーヤに対して作戦を変える必要があるな。」

 

 

タレス「リスベルン山に戻ってきて三日………。

 特にカーヤがボク達に興味を示すことは無さそうですね。」

 

 

ミシガン「私達が何度も魔術を使ってるのに全部あっちのラーゲッツの方にしかいかないよ!

 これじゃどれだけここにいてもカーヤ来てくれないじゃない!」

 

 

ウインドラ「そうだな。

 先にラーゲッツを始末してからの方がよかったのかもな。

 ………今からでもラーゲッツの方に向かうか?」

 

 

アローネ「………いえ、

 今からラーゲッツを抑えたとしても結局カーヤが私達の元へと来ていただけるかは別問題です。

 カーヤとのことはラーゲッツとは関係なく私達に近付かないよう指示を受けているのですから。」

 

 

ウインドラ「ではどうする?

 それが分かっていてここに来た理由は何だ?」

 

 

アローネ「信頼を得るには数を重ねるしかないのです。

 今日までで私達は魔術は使ってもこのフリンク領に害の無い存在だということは認識しているはずです。

 この調子で続けていけばカーヤは時期に私達のことを不思議に思うはずなのです。

 その段階まで粘ればカーヤは私達が何をしているのか聞きに参ります。」

 

 

ウインドラ「…要は変な奴等だと思われる作戦なんだな。」

 

 

タレス「ただの煩い人達だと思われなければいいんですけどね。」

 

 

ミシガン「でもそれくらいしか私達がカーヤに会える方法なんて無いでしょ?

 カーヤって凄いスピードで飛び回ってるんだし………。

 

 

 ………カオスは何か思い付かない?」

 

 

カオス「俺………?

 俺は………。」

 

 

ミシガン「カオスの飛葉翻歩ならカーヤに追い付けるんじゃないの?」

 

 

カオス「無茶言うなよ…………。

 あのレアバードのスピードにはいくら俺でも追い付ける訳がないじゃないか。」

 

 

ミシガン「じゃあカーヤを傷付けずにレアバードだけ攻撃して撃ち落とすとか。」

 

 

タレス「完全に敵対行動と見なされるだけじゃないですか。

 そんな方法ではまたカーヤに逃げられますよ。」

 

 

ミシガン「でも地上での足の早さの問題になったらカオスでも追い付けるんじゃないの?

 カオスならあの共鳴とか言うので上手くカーヤへの攻撃は避けてレアバードだけを破壊するとかさ。」

 

 

アローネ「それが可能だったとしてカーヤは私達に心を開く切っ掛けすら破壊しかねません。

 ミシガンの意見は却下です。」

 

 

ミシガン「そんなぁ………。」

 

 

ウインドラ「当たり前だろ………。

 ただ会うだけの目的ならそれで構わんだろうが今回はカーヤの説得だ。

 そんな野蛮な方法をとる連中の言うことなど誰も聞きたくはないだろう?」

 

 

ミシガン「いい線いってると思ったんどけどなぁ………。」

 

 

アローネ「もっと安全な確実に地道にできる方法でカーヤを攻めてみましょう。

 きっとどこかでカーヤとお話できる瞬間が来るはずです。」 

 

 

ミシガン「…そうだね………。

 ……だったら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこか山小屋とか以外にカーヤが来そうな場所とか心当たりないのかな?

 カーヤなら絶対にここには必ず来るって場所とか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「今日までのカーヤの行動を見つめ直せばフリューゲルに危機が迫った時やラーゲッツが暴れた時にその場に来ることはわかっている。

 ………言わずもがなフリューゲルに俺達が近付くのは御法度だが………。」

 

 

タレス「フリューゲルではボク達が向かうわけにはいきませんね。

 かといってラーゲッツの方に向かっても話し合いという空気にはなりませんし………。」

 

 

アローネ「カーヤはずっと一人で御過ごしでしょうから………あえて意見を上げるのでしたら()()()()()()()()にカーヤはいそうですが………。」

 

 

ミシガン「はぁ………、

 普段カーヤはどこで何してるんだろ………?

 ずっとどこかでフリューゲルに危険がないか見守り続けてるのかな………?

 そんなの絶対に疲れちゃうと思うけど………。

 そういう時何かで気を紛らせたりしないのかな………。

 ()()とかを探して見て気を落ち着けたりとか………。」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………!

 それだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「へ!?

 何!?

 それ!?」

 

 

カオス「多分それだよ!

 カーヤが普段いきそうな場所!

 この近くにまだいるはずだよ!」

 

 

ウインドラ「落ち着けカオス。」

 

 

アローネ「カーヤが行きそうな場所が()()()()()()()という表現は一体どういう意味ですか………?」

 

 

 

 

 

 

カオス「()()()()だよ!

 カーヤを捜すんならカイメラを捜した方がいいんだ!」

 

 

タレス「カイメラを捜す………?」

 

 

ウインドラ「…お前の話では確かカイメラとカーヤは一緒にいたんだったな………。

 カイメラがカーヤと一緒にいたのはカイメラがカーヤを今でも前の時のように吸収しようとしていただけなのではないか?」

 

 

カオス「俺が見たときの二人は絶対にそんな様子じゃなかった…!

 カイメラとカーヤが仲がよかったのは確実だった!

 だからカイメラがいる場所で待ってればそこにカーヤが来ると思うんだ!」

 

 

ミシガン「カイメラかぁ………、

 でもカイメラなんて最後に見たのなんか十日ぐらい前じゃない?

 今もまだこの付近にカイメラがいるとは「メェエェッ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「モグモグ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……普通に見つかりましたね……。」




こんだけ続けてクオリティが上がらない自分に嘆く


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カイメラを追って

リスベルン山 中腹 残り期日七十五日

 

 

 

マウンテンホーンズ「メ?」

 

 

 

 

 

 

ミシガン「いた!?

 いたよ!?本当にいたぁ!?」

 

 

タレス「まだこの辺りにいたんですね。

 ウィンドブリズ山からかなりの旅をしていたのにこの辺りで腰を落ち着ける気だったんでしょうか。」

 

 

ウインドラ「コイツを捕らえておけばその内カーヤがコイツに会いに来るんだな?

 話の流れ的にコイツがカーヤと何か関係があるのは間違いないんだ。

 早速捕縛して「捕縛してどうするのですか!そんなところをカイメラと仲のいいカーヤが目撃すればそれこそ印象最悪です!」」

 

 

アローネ「…カーヤがカイメラと()()()()にあるのなら私達もカイメラと同じように親しくなってカイメラにカーヤへの仲裁をしていただきましょう。

 それがベストな方法です。」

 

 

カオス「カーヤの友達のカイメラの友達になれれば俺達もカーヤと友達になれそうだね。」

 

 

ウインドラ「そんなに上手くいくのか………?

 友人の友人ってのは近いようで結構距離の遠い関係だぞ?

 ………昔の話だがレサリナスで俺の友人Aが他の友人Bの話をよく話していたんだがそのAの友人Bとは結局話だけの登場で直接会うことはなかった………。

 案外友人というのは遠回りせず直接相対する方がより深い関係になれると思うが………。」

 

 

アローネ「だからと言ってカーヤのお友達を拘束するのはいただけませんよ。

 ウインドラは親しい方が目の前で酷い扱いを受けていて黙っていられるのですか?」

 

 

ウインドラ「それは………………黙ってはいられないだろうな。」

 

 

タレス「…けどカイメラと仲良くなる………とは。」

 

 

ミシガン「今はこうして可愛くなっちゃったけど………、

 この子が前は()()だったんだもんね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「メ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラは依然としてカオス達が何について話し合っているのかを理解していないようだ。この話の結末次第では少々手荒な方向に進むことにもなるのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………やはり捕縛してしまうのは看過しかねます。

 ここは穏便に打ち解けるのがよいかと。」

 

 

カオス「…でもどうするの?

 この前はカイメラ走って逃げてったけど?」

 

 

アローネ「………相手が動物ならこちらがプレッシャーを与えずに堂々としていれば「ケッ!」「おい!逃げたぞ!」………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………意外とアローネは俺と同じで動物とは相性があまりよく無いのかな………?

 俺の場合は………モンスターとかの血を浴びすぎたせいでそうなったんだけどアローネは()()()()()()()()()()()………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………どうします?」

 

 

アローネ「…追いましょう!

 ここでカーヤと接触できる唯一つの方法を失ってはなりません!」

 

 

ウインドラ「なんだ、最後にはやっぱり()()()()()()なるわけか。」

 

 

ミシガン「あのカイメラが私達とそう簡単に打ち解けられるわけないもんね。

 こうなったら()()()()()()()()でもカイメラを私達に慣れさせるんだよ!」

 

 

カオス「酷いやり方だな………。

 でも別に倒すわけじゃないんだしいいのかな。」

 

 

アローネ「迷っている暇などありませんよ!

 もうほら!

 カイメラがあんな遠くの方まで走って行ってしまいました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メェッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「もうあんなところにまで…!?」

 

 

 アローネに促されてカイメラの方向を見ればカイメラはもう鳴き声も聞こえにくい位置にまで逃げ去っていた。

 

 

アローネ「とにかくカオスはカイメラを捕まえてください!

 カイメラに逃げられてはカーヤと話をすることも出来なくなりますから!」

 

 

カオス「わっ、分かった!」

 

 

ミシガン「なるべくゆっくり近付いた方がいいかも!

 動物って急な動きをすると警戒を強めるから!」

 

 

カオス「え!?

 ゆっくり!?」

 

 

タレス「急いでください!

 あのカイメラのスピードに追い付けるのはカオスさんだけですから素早く捕まえないと逃げられてしまいます!」

 

 

カオス「ゆっくり捕まえた方がいいのか素早く捕まえないといけないのかどっち!?」

 

 

ウインドラ「分からなければ足止めだけしておけばいい!

 俺達全員がカイメラと接触しなければならないんだ!

 俺達がカイメラに追い付くまでカイメラを止めておいてくれ!」

 

 

カオス「!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 了解!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………カイメラの奴、どこに行ったんだ………?

 見失っちゃったじゃないか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それでここはどこなんだ?

 皆はどこにいるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラを追跡中、カオスはカイメラに巻かれ更に一人で先行しすぎたためアローネ達ともはぐれてしまった。

 

 

カオス「(……皆と合流するのは………そんなに難しくない………。

 ヴェノムの主を呼び出す時のように俺かウインドラのどっちかが雷を打ち上げれば簡単に皆とは合流できる………。

 ………けどそれだとまだこの近くにカイメラがいたとしたら雷を見て驚いてまたどこかに逃げていってしまう………。

 今度はカイメラがどの方角に逃げたのかも分からずにこのままカーヤどころかカイメラにすら会えなくなる………。

 そうなればカーヤはずっとこの先もフリンク族の人達に利用されて生きていく羽目になる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなの駄目だ!!

 カーヤは俺と違って故意に事件を起こしたんじゃない!

 ただの事故だったんだ!

 それなのにいつまでもあんな質の悪い人達のいいなりになり続けている必要なんてない!

 

 

 俺が………、

 ………俺達でカーヤを救う!

 そう誓ったんだ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………って言ってもカイメラを見付けないことには話が始まらない………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」



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カーヤ再び

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「カーヤ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 カーヤと会って話をするために間接的な繋がりを持つ目的でカイメラを探していたら先にカーヤと遭遇してしまったカオス。

 

 

 カーヤとは会う予定ではいたがこのタイミングで出会ったとしてもまたこれまでのようにカーヤには逃げられてしまうだろう。カオスは内心でそう思った、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メェェ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「フスフスッ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「カイメラ………!?」

 

 

 カーヤと対峙してる最中カーヤの後ろからカイメラが現れた。カイメラはカーヤに隠れるようにしてカオスの方を覗き込んでいる。カーヤもカーヤでカオスからカイメラを遠ざけるように立っていた。カオスが推測した通り二人には何か特別な繋がりがあると見て間違いなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………お兄さん達………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何をしてるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤから発せられた質問にはゾッとするような冷たいものが含まれていた。まるで目の前の敵に訊問をするかのような声音であった。

 

 

カオス「何って…………俺達はカーヤに会いたくてカーヤを探して「嘘!」」

 

 

カーヤ「お兄さん達がカーヤに会いに来ることはおじ…!

 ………族長から聞いてた……!

 ここ数日で何度もカーヤに会おうと魔術を使ってたことも……!

 

 

 でもなら何で今お兄さん達はこの子を追い掛けてたの!?

 お兄さん達が()()()()()()に何の用があって追い掛けてたの!!?」

 

 

 段々とカーヤの声に怒気が膨れ上がっていくのが分かった。大事な友達にちょっかいをかけられるのを見過ごせない、そんな感情がカーヤの言葉から伝わってくる。

 

 

カオス「ちっ、違うよ!?

 俺達は別にカーヤにもカイメッ……そのメーメーさんにも悪いことをしようってわけじゃ「もうカーヤ達のことは放っておいて!!」「メッ…?」…あっ!」

 

 

 カーヤはカイメラを抱えてその場から走り去ろうとする。それを見て直ぐ様引き止めようとするが、

 

 

 

 

ザザザッ………!!

 

 

 

 

カオス「(………!

 早い……!?

 カイメラを抱えて走ってるのに俺が追い付けない……!?)」

 

 

 カオスは自分の足の早さには自信があった。十年間モンスターを追いかけ回した日々とニコライトやユーラス達バルツィエから盗んだ技術、飛葉翻歩を駆使してこれまで様々な相手をその足の俊足さで翻弄してきたが流石に空を飛行するような相手には通用せず自分が追い付けない相手がいることは理解していた。それでもそれはその相手が鳥であったりレアバードであったりと自分より早く進むことはできてもその移動方法が純粋な足の早さではなかったためカオスはまともな走行速度では誰にも負けないという自信を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そんな自分の追跡から距離をどんどん引き離し遠ざかっていくカーヤに驚愕する。カーヤはレアバードを使わずともカオスより足が早かった。カーヤもカオスと同じく飛葉翻歩を使い木々の間を縫ってカオスから距離を稼いでいく。足の早さだけではなく見通しの悪い森の中を駆ける技術もカーヤの方がカオスより上なのだ。その上カイメラという重い生き物を抱えたまま走っているというのにそれを感じさせないような身軽な動きでカーヤは木々を横切っては跳び跳ねやがて追走劇は地上を走るカオスと木々の枝から枝へと飛び移って逃亡する構図となった。

 

 

 

カオス「(…!!

 ……今までウインドラに力で負けたりオサムロウさんに剣術で上をいかれたりしたけど総合的な身体能力で誰かに負けたことなんてなかった……!!

 カーヤは………俺よりも力が強くて足も早い………!!

 それにこの間の戦いでカーヤが凄く戦いなれていることも分かった………!!

 もしカイメラを抱えてなかったら俺なんかとっくに煙に巻かれて………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ずっと一人でこんな広いフリンク領を守ってきたんだもんな………。

 ミストみたいなあんな小さな村だけしか守れなかった俺なんかよりもずっと苦しい想いをしてきたからこんな………誰よりも上をいく能力が身に付いたのか………。)」

 

 

 かろうじてカオスはカーヤが木々を飛び移る際の枝のしなる音を頼りに追跡を続ける。カーヤもカオスを巻こうと不規則に移動を繰り返してるせいか逃走を開始した地点からはそこまで離れてはおらず二人の追走はまだまだ続きそうだった………、

 

 

 

 

 

 

 ………のだが変化はすぐに来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………!

 スピードが落ちた……?)」

 

 

 追跡を始めてから開いていた二人の距離がここにきて急に縮まりだした。

 

 

 

 

 

 

カーヤ「……ッ!

 ………ハァ……ハァ……!」

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 よく耳を澄ませて音を拾えばカーヤの呼吸が乱れているのが分かった。

 

 

 いくら能力が高かろうとも少女の体で重りを運びながら無理な運動を続ければその分の負担も大きくなる。カーヤの限界が迫っているのだろう。それもそのはずだ。早々自身の体重に近い重量を運んだまま誰かから逃れるケースなど稀なことだろう。カーヤを追うのが常人であったのならそれも叶う話だが今カーヤを追っているのはカーヤに及ばないまでもその速度に限り無く迫りうる早さを持つカオスだ。スピードで追い付けなくとも持久力で粘り続ければ先に根を上げるのはカーヤの方だ。この調子で追いかけ続ければカーヤはいつか足を止め………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………ッ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジイィィィィィッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………なっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …足を止めてレアバードでカオスから逃げ切る作戦に移項するだろう………。



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ウイルスの作用性

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「まっ、待って!?カオス!!」

 

 

 カイメラを脇に抱えながらカーヤがレアバードで飛び立とうとする。上空まで逃げられてしまえばもうカーヤを追うことはできない。ここでカーヤを見失えば彼女のカオス達への高まった不信感からカーヤがこれ以後にカオス達の前に姿を現すことはない。そう思いカオスはなんとしてでもカーヤを引き止めようと今レアバードで飛翔しようとするカーヤに向かって………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……っであああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 跳躍しその足を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!!!?」

 

 

カオス「お願いだ!!カーヤ!!

 俺の話を聞いて………!

 

 

 …!?」

 

 

 勢いよく跳びカーヤに手が届いたはいいが二人がいるのは自然生い茂る森林の木々の枝の上。足場として不安定な場所で無理な突撃を強行してしまったためカオスは勢いを殺せずカーヤの足を掴んだまま巻き込む形で空中から地上に落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けたたましい衝撃が辺りに響く。カーヤは既にレアバードをウィングバッグから展開していた。そんな状態でカオスの咄嗟の特攻でカーヤが木々から落下すれば当然操縦者のいないレアバードは空中で停滞………することもなくカオスとカーヤと一緒に地面に不時着する。

 

 

 

 

 

 

カオス「ぐあっ…!!?」

 

 

 落下した衝撃に耐えきれずカオスは苦痛の声を上げる。高速でカーヤに飛びかかり高所からその勢いのまま地面に不安定な体勢で叩きつけられたのではカオスでも流石に堪えきれない激痛が走る。

 

 

カオス「……!!

 いてて……!

 

 

 ……!!

 そうだ!カーヤは……!?」

 

 

 体に痛みは残っているがそれでも自分の愚行で巻き添えにしてしまったカーヤのことを心配する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイメラ「メェッ!!」

 

 

カオス「!」

 

 

 カオスのすぐ傍らにはカイメラを両手で抱えたまま仰向けで気絶するカーヤの姿があった。あの体勢から落下するまでにカイメラを地面との衝突から庇うべく自らをクッションにしてカイメラを守ったのだろう。なんとも健気な少女だとカオスは感じた。

 

 

 周囲を確認してみれば幸いなことにレアバードが落下した地点はカオス達がいた木の真下でカオス達はそこから少し離れた位置に落下したようだ。カーヤが飛び立たないように無我夢中でカーヤに飛び付いたのが功を奏したようだ。もし飛び付く勢いが弱かったらカーヤとカイメラと共にレアバードの下敷きになっていたかもしれない。それかカーヤを捉えられずカオス一人で木から真っ逆さまに落下していたかだ。結果的に見ればカーヤにとってはどのようなことになっても不幸中の不幸にしかならなかっただろうが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………ゥ………。」

 

 

 冷静に状況を分析しているとカーヤから呻き声のような声が聞こえてきた。落下の衝撃で気を失ったのならどこか怪我でもして痛むのだろう。カオスはそっとカーヤに怪我がないかを確かめようとして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「グルル……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイメラに阻まれた。今度はカイメラにカーヤへ近付くなと言わんばかりに威嚇されてしまった。その姿からカオスは飼い犬が主人を不振人物から守ろうとしている光景を想像した。

 

 

カオス「……安心しなよ。

 攻撃するつもりはないんだ。

 ただカーヤが怪我をしていないか確認するだけだから………。」「バウッ!!」

 

 

 ………本当に犬のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ん………?」

 

 

 カーヤを守るカイメラの後ろから何かが蒸発するような音が聞こえた。その音がした方を見ると倒れているカーヤの腕の肘の辺りから出血しているのが見えた。

 

 

 やはり落下した時に地面に擦れて負傷したのだろう。その負傷した原因はカオスなのでカオスはカーヤを治療しようとするのだが、

 

 

マウンテンホーンズ「……フスー!」

 

 

 カイメラはカオスとカーヤの間に立ち塞がったまま動こうとしない。これではカーヤの怪我を治すことができないではないか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …と、カオスがどうにかしてカイメラをどかそうと考えていたらカーヤの体に変化が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュゥゥゥゥゥゥ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………!!

 傷が………ひとりでに塞がっていく………!?)」

 

 

 カーヤが負った傷の傷口からヴェノムが溶けた時のような音が発せられそれと共にカーヤの傷口が自然に治っていく。無論この場にいるカオスとカイメラは何もしていない。カーヤの傷は自動で修復されたのだ。

 

 

カオス「(………忘れてた………。

 カーヤはまだヴェノムウイルスに感染したままだったな………。

 ………見た目は普通の女の子なのに凄い回復力が備わってるのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムウイルスって相変わらず凄いウイルスなんだな………。)」

 

 

 ミストでヴェノムが発生した事件以来ヴェノムには凄まじい自己修復能力があることは分かっていた。ウイルスに感染すればゾンビとなり並大抵の攻撃ではびくともしないことも。カオス達のような異質な力を持たない者達にとってヴェノムは天敵だ。例えどれ程の攻撃を加えたところでその攻撃を無効化してしまうほどの再生能力を持つからだ。故に世界中でヴェノムは悪魔のような怪物だと比喩されることもしばしばある。その片鱗を今カオスは垣間見た訳だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………カーヤみたいなウイルスに感染しても人のままでいられたらヴェノムも危険なウイルスじゃないと思うんだけどなぁ………。

 ………こんなふうに()()()()()()()ウイルスだったらどれだけよかったか………。

 もしそんなウイルスだったらどんどん世界に広まってもいいよな………。

 

 

 タレスだって前に感染した直ぐに喉の具合も改善して喋れるようになったし………。

 あの時はタレスがヴェノムウイルスで死にそうだったから必死になってウイルスを消そうとしたんどけど…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしヴェノムウイルスに感染してからすぐに誰でもそのウイルスを消すことができるようになれたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。)」



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カーヤの待ち人

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………んっ……………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 気絶していたカーヤが目を覚ました。高所から落下して気を失いはしたが直後に負傷が回復したことから意識が覚醒するのも早いだろうとは思ったがまさかこれほどまでに短時間で回復するとは…………、

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「ケェ………?」

 

 

 カイメラがカーヤの方に向きなおしカーヤを心配そうに覗き込む。

 

 

カーヤ「……メーメーさん………!

 ………あの人は………?

 

 

 ………!」

 

 

 意識を取り戻したカーヤは直ぐに状況を思い出し辺りを見渡してカオスの存在に気付き警戒してまた逃げようと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………するかと思いきやカオスを見つめたまま硬直してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………何で………?」

 

 

カオス「気が付いたようだね。

 よかった………。

 さっきはごめんね。

 夢中になってカーヤの足掴んじゃったせいで余計な怪我をさせちゃったみたいで………。

 俺はただ本当に話を聞いてもらいたかっただけなんだよ。」

 

 

カーヤ「………?」

 

 

カオス「………カーヤ………?」

 

 

 意識が戻ってからのカーヤの様子がおかしい。先程までは取り付く島すらなく逃げられたのに今度は逃げるどころかカオスを見つめたまま動こうとすらしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………お兄さん………何ともないの………?」

 

 

カオス「なんとも………?

 別に特に俺の方は地面に落ちてもそんなに痛くはなかったしカーヤほどの怪我はしなかったよ?

 そもそも俺が無理なことを強行したせいでカーヤを巻き込んじゃったわけだからカーヤが気にすることは「そうじゃなくて!」」

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………体が熱くなったりとか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………ないの?」

 

 

カオス「………あぁ………。」

 

 

 どうやらカーヤはカオスが自分に触れたことでヴェノムに感染したかどうかを気にしている様子だった。ヴェノムウイルスは非常に感染力の強いウイルスだ。感染した人に感染していない人が触れただけで感染してしまうほどにそのウイルスの伝播率が高いのだ。カーヤはそのことを気にしているのだろう。カーヤはカオス達のことを何も知らないのでそのことを懸念するのは当然だ。カーヤは人の姿はしているがヴェノムウイルスに感染していないわけではない。これまでカーヤは自分に触れた者が悉くウイルスに侵されて異形の姿へと変わっていくのを見てきたのだろう。だから自分に触れたカオスもそれらの者達と同じように変異すると思った。

 

 

 ………しかしカオスには精霊王マクスウェルがその体の内に潜んでいる。どういう力なのか未だに理解できてはいないが精霊が体に宿る者やその力の恩恵を受けた者にはヴェノムウイルスの作用が働かない。精霊の力自体もヴェノムウイルスの高い再生能力を物ともしない勢いで消滅させる謎の関係性を持っている。そのことはこれまでの十年と数ヵ月の旅で学習済みだったのだが目の前にカーヤにとってはカーヤの六年の歳月の経験を覆すような出来事のようだ。

 

 

カーヤ「………たまたま感染しなかったか………まだ発作が起きてないだけかも………。

 ………もし感染してて発作が起きてないだけなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お兄さんを殺さなくちゃいけない………。」

 

 

 カーヤは立ち上がってそんな物騒なことを言い出した。今度は逃げたりせずに臨戦態勢に入るカーヤ。

 

 

カオス「!?

 待って!!待ってくれ!!

 俺は戦う気は無いんだ!!」

 

 

カーヤ「でもお兄さんはカーヤに………。」

 

 

カオス「俺はヴェノムには感染してない!

 本当だ!

 信じてくれ!

 俺もカーヤと同じでウイルスに感染してもどこもおかしくなったりしないんだ!」

 

 

 

 

カーヤ「!!

 ………カーヤと同じ………?

 嘘………。」

 

 

カオス「………本当だ。

 カーヤとは違う理屈でそうなってるんだけど………。

 なんなら俺の体が変異するまで見張っていてもいい。

 俺が変異するようだったら………俺を殺してもいい。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 必死の説明の甲斐あってカーヤはカオスの言葉に耳を傾けてくれた。後はカーヤが納得のいくまで待ってカーヤにウイルスに感染していないことを証明するだけだ。

 

 

 その間にカーヤと話ができれば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………えと………カーヤ………。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

カオス「……俺………や俺の仲間達は君に会って話をするためにここまで来たんだけど………。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 カーヤからの相槌がない。カオスと話をするつもりがないのだろうか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、雲行きが怪しくなってきたと思ったところでカーヤはカオスの話を無視していたのではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツンツン………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「なっ、何………?」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 カオスが語りかけている時にカーヤは身近にあった木の棒でカオスをつつき始めた。

 

 

カーヤ「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザクッ…!

 

 

カオス「………」

 

 

 カーヤは力をこめてカオスの腕に木の棒を軽く突き刺す。少し血が流れたが途端に傷口の血が固まる。

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポタッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度はカーヤが自分の腕を軽く切ってから木の棒に血を垂らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブシュ!!ジュゥゥゥ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤの血が付着した木の棒がカーヤの血でみるみる溶けていった。ヴェノムに感染した者の体液は強い溶解力を持つ。そのせいで木の棒が溶解されてしまったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして木の棒は最後にはカオスの血が付着した部分を残して他の部分は全て消えてなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………お兄さん………も普通じゃない………。

 こんな血を持つ人は見たことがない………。

 カーヤの血がお兄さんの血に負けた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お兄さん何者なの………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺自身は普通のエルフのつもりだよ。

 少し生まれが特殊なだけで普通のエルフ………。

 そしてカーヤと同じ家の血を受け継いでるんだ。」

 

 

カーヤ「同じ血………?

 ……!!

 それって………!!」

 

 

 疑問の表情を浮かべていたカーヤが急に何かを感じ取ったのかカオスに詰め寄ってくる。ギリギリで体が接触しない距離だがそれでもここまで接近すると少々話がしづらい。

 

 

カオス「聞いたことあると思うけど俺はバルツィエの生まれでカーヤもバルツィエを知って………」「お兄さんが………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………お兄さんがカーヤのパパの………!!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()って人なの……!?

 カーヤを迎えに来てくれたの!!?」



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敵の接近

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………?

 何でカーヤがおじいちゃんの名前を………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!

 おじい………ちゃん………?」

 

 

 カーヤがカオスの祖父アルバの名前を出したのに対してアルバのことを()()()()()()と口にした途端カーヤはその言葉に失望の色を示した。

 

 

カオス「………アルバート=ディラン・バルツィエは………俺のお母さんの父親でつまり俺のおじいちゃんなんだけど………。」

 

 

カーヤ「………!?

 そんな………!

 ………じゃあ………、

 じゃあカーヤのパパは誰なの………?

 もしかしてカーヤのパパは別の人………?」

 

 

カオス「…詳しく話を聞かせてくれないか?」

 

 

 カーヤが祖父アルバのことを父親だと勘違いしていたのには驚いたがそれも恐らくあのフリンク族の人達がカーヤを利用するためについた虚言なのだろう。カーヤのこの落ち込み様だけでそれが直ぐに分かった。カーヤはフラットから実の父親ではないことを知らされている。それならば実の父親が誰なのかを追及したことだろう。フラットの話ではカーヤに実の父親が別にいることは知らせてあると発言していたがそれが誰かなのかを伝えたことを聞かされてなかった。あのタイミングでは特に気にはならなかったから聞くことはなかった。直後にカーヤの父親がラーゲッツだという衝撃が大きかったためだ。

 

 

 考えてみれば当然の話だ。フリンク族はラーゲッツに対しては人一倍警戒心を抱いていた。ラーゲッツがいつまた来訪するか分からない状況でカーヤに実の父親の名前がラーゲッツだと伝えてしまうといざラーゲッツが襲来してきてカーヤがラーゲッツと邂逅してしまった時ラーゲッツからフリンク領を守るはずのカーヤが躊躇してしまうかもしれない。そうなればカーヤがラーゲッツと戦えずにフリューゲルをまた過去のように蹂躙されてしまうこともあり得る。だからカーヤには実の父親の情報をわざと偽って教えたのだ。現に今カーヤはラーゲッツを実の父親と知らずに撃退し続けている。その方がカーヤを操りやすいからだ。カーヤは知らず知らずに実の父親をずっと撃退し続けていたわけだが………、

 

 

カオス「………カーヤはここ最近フリンク領にレアバードに乗って来ているあの火を使う人が誰だか知ってる……?」

 

 

カーヤ「………?

 あの()()()()()って人のこと………?」

 

 

カオス「その名前は誰から聞いたんだ?」

 

 

カーヤ「カーヤが追い返してる時に自分でラーゲッツだってあの人が言ってたよ………?」

 

 

カオス「………そうか。」

 

 

 この分では自分がラーゲッツという名前の人物に何の縁も無いと思っていそうだ。父親の代わりの名前をラーゲッツではな祖父の名前を使ったのはある意味効率的な作戦だったことだろう。アルバは実在した人物だったがその所在はマテオの公式でも死亡または行方不明扱いだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()カーヤは長い間自分の父親のことを誤認していたわけだ。

 

 

 そしてその父親が迎えに来ると信じてフリンク領を離れられない………。人の弱味につけこんだ陰湿的な策略があったものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………カーヤに伝えるべきか?カーヤが父親だと思い込んでいる人は実は本当のお父さんでもなんでもなくて無関係の人物だということ、そしてその人は俺の祖父だってことと一ヶ月前からカーヤが追い返してる人こそがカーヤの本当のお父さんなんだってことを………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だけどこんなことをどうやって伝えればいいのかな………。

 知らない間にカーヤが本当のお父さんに出会っていてそのお父さんを攻撃していただなんて………。

 今の落ち込み具合から見てもカーヤが顔も知らなかった本当のお父さんに会いたがっていたのは確かなようだし………。)」

 

 

カーヤ「……そのお兄さんのおじいちゃんと同じ名前の人って他にいないよね………?

 アルバート=ディラン・バルツィエ………パパのことをお兄さんは知らないんだよね………?」

 

 

 最後の希望にすがるようにカーヤがカオスに自分の聞かされてきた父親とカオスの祖父が同一人物ではないことを問う。返答によってはまたカーヤがどこかに去っていきそうな気配を感じた。カーヤはフリンク族の子供達に泣かされるほどに精神が不安定だ。ここで正しいことを伝えてしまえばカーヤはカオスの前から姿を消すだろう。逆にカーヤの希望を肯定すればこの場でカーヤが去ることはなさそうだ。………偽の情報を肯定するのはカーヤを騙すようで心苦しいがここはカーヤの希望通りに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………そっか………。

 ………やっぱりカーヤのパパは本当はどこにもいないんだね………。

 カーヤの家族はもうママしかいなかったんだね………。」

 

 

 カーヤへの返答に迷っていたらカオスの態度を見てカーヤが自分に父親がいないのだと悟った。

 

 

カオス「…!

 カーヤのお父さんは……!」

 

 

カーヤ「カーヤのパパはカーヤを迎えには来てくれないんだね………。

 カーヤには始めからパパなんていなかったんだ………。

 ………そっか………。」

 

 

 待ちわびていた父親がいないと思い込んだカーヤはその場に蹲って顔を伏せた。表情は見えないがとても落胆しているのだろう。

 

 

 そんな姿を見てカオスはカーヤにフラットやナトル達の偽の情報ではなく真実を話すべきだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……いるよ。

 カーヤのお父さんはいる………。

 カーヤは………もうお父さんとも会ってるんだ………。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 カオスが父親の実在を口にしてもカーヤは顔を伏せたままだった。余程フラット達に自分が騙され続けてきたことがショックだったのだろう。フラット達の話ではカーヤは母親を死なせてしまった罪滅ぼしを父親が迎えに来るまで続けるように命じられていた。その父親がカオスが祖父だと発言したせいでフラット達から聞かされてきた父親の存在が嘘であったことに気付いた。薄々フラット達の話もどこか不自然に思っていたのだろうがカーヤはそれにすがるしかなかったのだ。その嘘まみれの情報でも今日までカーヤを支えてきたのはどこにいるとも知れない父親の存在だ。その父親の存在が今否定されてしまいどうしていいのか分からなくなったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………これ以上カーヤを誤った情報で縛り付けるわけにはいかない。カーヤは真実を知って前に進むべきだとカオスは思いカーヤの父親の真実を話す決意をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………落ち着いて聞いてくれ………。

 カーヤの父親は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だぁ?

 何でこんなところにガキが二人して屯ってるんだ?」



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即勝利

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!?

 お前はッ……………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツ!!?」

 

 

 いざカーヤに本当の父親が誰なのかを伝えようとした時にその父親本人が現れた。

 

 

ラーゲッツ「あ?

 何で俺の名前を知ってんだ?

 ………ってかお前どっかで見たことがあんなぁ………どこだっけか………?」

 

 

カオス「………俺のことを覚えてないのか?」

 

 

ラーゲッツ「ハッ!

 俺が見ず知らずの野郎のことなんざ記憶するわけねぇだろ。

 俺が覚えてるとしたら身内の野郎くらいなもんだ。

 後は………今このダレイオスに渡ってきてる偽カオスと本物の……………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!?

 テメェは………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………漸く思い出したのか。」

 

 

 今頃カオスのことを思い出すラーゲッツ。ラーゲッツがダレイオスに渡ってきてる目的はそもそもカオス達を追ってのことだったはずだが何故そのことを失念していたのか………。

 

 

ラーゲッツ「………やっぱりテメェ等この辺りにいやがったみてぇだな!

 俺の予想も捨てたもんじゃねぇな!

 一ヶ月近く張ってた甲斐があったもんだぜ!!」

 

 

カオス「(一ヶ月近くって言うか一ヶ月以上ラーゲッツがこの付近にいるって話だったけどそこはプライドが高そうだし地味に自分がまだここに来たばかりだって言いたいのかな………?)」

 

 

 一ヶ月前に遡るとカオス達はまだトロークンにかけてからウィンドブリズ山の辺りにいたはずだ。そうなるとラーゲッツの予想は完全に的外れだったことになる。………と言ってもこうして出会ってしまったのであれば完全は言い過ぎなのだろうが………、

 

 

ラーゲッツ「………先に焼き鳥野郎の方から始末したかったんだがこうして目の前に獲物が現れちまったんならそうも言ってられねぇなぁ………、

 

 

 先にテメェから始末してやるぜ。

 本物のカオスさんよぉ!!」チャキッ

 

 

 カオスと分かった途端に剣を抜くラーゲッツ。闘士全開のようだ。

 

 

 ………しかしこの場にはカーヤが………、

 

 

カオス「…待て………、

 戦う前にお前には知らせておかないといけないことがある。

 ここにいるカーヤにも………。」

 

 

 そう言ってカーヤに視線を送るがカーヤは以前として塞ぎこむように顔を伏せたままだった。

 

 

ラーゲッツ「はぁ?

 まさか命乞いをするつもりじゃねぇだろうな?

 俺様の力に微々って仲間が来るまでの時間稼ぎをしようってんならその手には乗らねぇぞ?」

 

 

カオス「……時間稼ぎだなんてそんなことはしないさ。

 俺の仲間達が来るまでもなくお前一人なら俺だけで十分だしな。」

 

 

ラーゲッツ「………何だと………?

 お前俺のことを舐めてんのか?」

 

 

カオス「お前のことは皆の話を聞いてだいたい知ってる。

 お前は………バルツィエの中でも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()だってことも………。

 レサリナスじゃウインドラに負けてたしこの間はフリューゲルでもこの()()()()()()()()()()()

 ここで俺と一対一で戦っても俺に負ける要素なんて一ミリもないね。」

 

 

ラーゲッツ「………言ってくれるじゃねぇか………。

 このラーゲッツ様にそこまで口を聞いた代償は高くつくぜ?」

 

 

 挑発されて気をたてるラーゲッツ。かなり重要なことを口走ってしまったのだがそのことにすら気付かなかったようだ。………こういう手合いはカオスにとってはやり易い相手だ。自らを高く見積もる相手こそカオスにとっては打ち倒しやすい敵。そういう相手との戦闘はザックや村の子供達との喧嘩の中で経験してきた。

 

 

 このラーゲッツはカオスからしてみれば体と力が強いだけの子供と変わらないような相手に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・ラーゲッツ「魔神剣ッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザンッ!!!ゴオオオオッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスとラーゲッツとの戦闘が開始された。

 

 

カオス「(先ずは話をするにも一度こいつをのしてしまわないといけないなあ………。

 一度負かさないと話を聞くような奴じゃなさそうだし………。)」

 

 

ラーゲッツ「!!

 情報通り本物のバルツィエの血族らしいなぁ!!

 バルツィエの血族、アルバートの孫らしいなぁ!!

 レサリナスじゃ死んだユーラスやランドール、ダイン、あとフェデールにも上手くやったようじゃねぇか!!」

 

 

カオス「そこまで知ってるんならお前が一人で俺に勝てないことくらい想像できそうなもんだけどね。」

 

 

ラーゲッツ「へっ!

 どうせあいつ等はテメェの力に油断してドジ踏んじまっただけだろ!!

 その隙をお前が見逃さなかっただけの話だ!!

 俺はあいつ等のようにドジは踏まねぇさ!!

 

 

 聞いてるか?

 俺達は普段レサリナス近辺じゃ力を制限されてんのさ!

 俺達バルツィエの力は余計なもんまで破壊しちまうからな!!

 そういう点ではこのダレイオスではその制限はねぇ!!

 ここでの戦闘なら俺達バルツィエは本領発揮できる!!

 俺達の武器は剣技だけじゃねぇ!!

 俺達の武器は戦場でこそその真価を問われる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()教えてやるぜ!!」

 

 

 そう言ってカオスから距離をとるラーゲッツ。魔術で森ごと焼きさらうつもりのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実に考えが読みやすい相手だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「『火炎よ……!!

 我が手となりて敵を焼き尽くせ!!!

 ファイヤーボール!!

 追撃の二十連撃!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレムリン「遅いよ。」………!?』」

 

 

 長い詠唱と下らない長話のおかげで簡単にラーゲッツの懐に潜り込めた。ここで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「剛・魔神剣ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズザンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「ぐはぁっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呆気なく不意をついた一撃でラーゲッツはその場に倒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…強い力を最初から持つってのは案外そういい話でもないんだね。

 その力に溺れてこんなあっさり倒されることになるなんて………。」



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突き付けられる真実

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ!?

 何があった!!?」

 

 

カオス「!!

 ウインドラ………!」

 

 

 ラーゲッツとの戦闘が終わると茂みからウインドラ達が現れた。

 

 

アローネ「カオス……!!

 !!

 ………これは………?」

 

 

 後ろから出てきたアローネがカオスと踞るカーヤ、その側に寄り添うカイメラと、

 

 

 カオスの足元で倒れているラーゲッツを見て固まる。

 

 

アローネ「………今どういう状況なのですか………?」

 

 

カオス「……そうだね。

 一から話すと………、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………そんなことに………。」

 

 

ミシガン「じゃあまだカーヤにはラーゲッツのことは話せてないんだね。」

 

 

カオス「これから話すって時にこいつが出てきたせいでね。」

 

 

ウインドラ「間の悪い奴だな。

 

 

 ………にしてもこうして見ると本当にこいつが生きていたことに驚かされる………。

 俺は()()()()のどちらかを貫いたと思ったんだが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツはすっかりのびきっていた。戦った手前バルツィエとして各地に恐怖の名を刻み込む家の一員であったから手加減せずに容赦なく攻撃を叩き込んだのだがなんとも手応えを感じなかった。これならまだヴェノムの主の方が断然強さというものを感じる。

 

 

カオス「(………こいつは今のバルツィエの中でも弱い部類の方だとは聞いているけどそれでもこいつが分家とか言うのでは当主格なのは確かだ。

 

 

 そのこいつがこの程度なんじゃとてもカイメラや他のヴェノムの主を作り出して野に放ったとは考えられない。

 もしこいつらがヴェノムの主のウイルスをばら蒔いたんだとしたらこいつらは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 行く行くはダレイオスを占領するためにダレイオスの弱体化を謀ったのだとしてもヴェノムウイルスの上位版()()()()()はどんどん進化していくウイルスだ。

 それを知らずに他の国にポンと放り込んでも最終的にそれを相手にするのは自分達になるはず………。

 

 

 ………やっぱりダインの言う通りバルツィエがヴェノムの主を作り出したんじゃないんだろうなぁ………。

 第一このラーゲッツ自身がヴェノムの主のカーヤに追い払われてたんだし………。)」

 

 

 実質ヴェノムの主はほぼ同時期に各地に出現した。それは何者かの何らかの陰謀によってヴェノムの主が作られた線が非常に濃厚だ。今のところはダレイオスに敵対していてダレイオスにも渡ってこれるバルツィエが可能性としては高いのだがどうにもそれは間違いであるような気がしてならない。

 

 

 他に考えられる組織としては未だ所在がどこのどういった組織なのかすら検討が付かない()()()()()()()()ぐらいしかカオス達には思い浮かばないのだがそれも結局噂話以上のことは何も掴めてはいない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

マウンテンホーンズ「メェェェッ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………それで言っちゃうの?

 本当のこと………。」

 

 

カオス「…言わないとカーヤは前に進めないと思う………。

 もうカーヤにはこれ以上フリンク族の人達と……?こいつのことで苦しんでいいわけがないんだ………。」

 

 

ウインドラ「本人には残酷なことになるかもな………。

 待ち望んでいた父親がまさかの………。」

 

 

タレス「見た目は………こうして見ても似ているところはありませんね………。

 カーヤは母親似だったということでしょうか………。」

 

 

アローネ「父親似でなくて良かったとは思いますが能力の面に関しましては父親依り………、

 ………いえ父親以上のポテンシャルを秘めていると思います。

 同じ炎使いで既にカーヤは父を越えていらっしゃる………。

 ………これでこの方が普通の人柄でさえあればカーヤも報われる話なのですが………。」

 

 

カオス「………それでも言うしかないな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤ………、

 さっきの話の続きなんだけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤは虚ろげな目をした顔をカオス達に向けた。暗い闇の中をさ迷うその目の奥にはもう一分の希望すら光ってはいなかった。

 

 

 こんな目をする彼女に真実を突き付けても精神が砕けてしまわないかという心配はある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それでもこのまま彼女が永遠に抜け出せない闇をさ迷い歩くよりかはマシなはずだ。ナトルやフラット達の虚実が発覚した今、カーヤはやっと真実を知る機会を得たと言えよう。そういう意味ではラーゲッツはいいタイミングで現れてくれた。カーヤが実の父がアルバートだと思い込んだままラーゲッツが真の父だと告げても受け入れてもらえない可能性があった。しかしそれも今となっては“では真実は何なのか?”という思考に変わることだろう。カーヤの父親がフラットでもアルバートでもないのだとしたらでは誰がカーヤの父親なのか、彼女の情報の中にはその二人以外には見付けられない。だからこそ今こうして絶望の淵に沈んでいる。………カーヤの父親は実は今目の前にいるということを伝てあげなければ………、

 

 

 

 

 

 

 ………問題はカーヤにそれを伝えて次にラーゲッツがどう反応するかなのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………カーヤのお父さんは………実は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ここにいるラーゲッツなんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 告げてしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤが求めていた父を遂に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これを聞いたカーヤは果たして…………………。



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仲間との合流、ラーゲッツへの訊問

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………言ってしまった…………。

 カーヤに本当のお父さんのことを………。

 カーヤは………今のを聞いていたかな………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤは先程までのような悲哀に満ちた表情の変わりにたった今自分が何を聞かされたかを戸惑うような仕草をする。カオスから伝わった情報を頭の中で整理して理解しようとしてそれでも理解しきれずに疑念だけが残る………その坩堝にはまってしまったようだ。

 

 

アローネ「……カオスが仰ったことは事実です。

 貴女のお父様はここにいるこの方なのですよ?」

 

 

カーヤ「………この人が………カーヤのパパ………?

 …………………何を言ってるの………?

 そんなはず…………ない………。

 パパは………アルバート=ディラン・バルツィエって名前で…………。」

 

 

ミシガン「……その人はね………。

 このカオスって人のおじいちゃんなの………。

 アルバさんはカオスが生まれる前からずっとマテオにあるミストの村を出たことなかったはずだよ。

 それも百年もミストに居続けた人………。

 だからカーヤのパパじゃないの。」

 

 

ウインドラ「お前はあのフリンク族の連中に利用されていたんだ。

 お前のその力を利用するためにあいつらはお前が生きていくこの先も絶対に会わぬであろう実在する人物の名を用いてお前にあの街を守らせ続けていた。

 ………アルバさん自身は既にこの世から去っている。

 お前がいくらここで待っていてもアルバさんはここには来ないし来るとしたら十六年前に実際にこの地にやって来てお前という娘をお前の母親に強引に身籠らせてまたノコノコやって来た………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この男くらいなものだ。」ガッ…

 

 

 

 ウインドラはカーヤに差し出すように気絶したラーゲッツを引っ張り出す。一応暴れださないように例の手錠は装着済みだ。

 

 

タレス「ちょっとウインドラさん、

 今はカーヤに本当のお父さんが誰なのか説明しているんですよ?

 そんな時に本人の目の前で実の父親を無下に扱うのは………。」

 

 

ウインドラ「何を言う。

 現状カーヤがこんな悲惨な日々を送っているのは元はと言えばこいつのせいなんだぞ?

 こいつがカーヤをこんな劣悪な環境へと追いやった。

 第三者の立場から見てもカーヤに非はない。

 罪があるのは性欲を抑えられずにロベリアという女性に暴行しカーヤを身籠らせたこのスケコマシの方だ。

 ………女を孕ませたのなら最後まで責任をとるのが男という生き物だろうが………。」

 

 

アローネ「まぁそういった話はどこの戦場でも耳にするお話です。

 そのようなことを決行なさる殿方はこの方に限った話ではありませんので仕方がないとは思いますがそれでも不埒な行為に変わりはありません。

 このラーゲッツにはそれ相応の罰が必要でしょうね。」

 

 

タレス「だからそれはわざわざカーヤの目の前でやらなくても………。」

 

 

 騎士道精神に熱いウインドラと不敏なハーフエルフがいることが許せないアローネは今にも意識のないラーゲッツに制裁を加えるかのような勢いだ。

 

 

 今はまだカーヤにラーゲッツが実の父親だということを説明する最中なのだが………、

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………その人が………」

 

 

カオス「………ん?」

 

 

カーヤ「………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………その人が………カーヤのパパか本当かどうか分からない………。

 何かカーヤとその人が関係がある証があるの………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「証か………。」

 

 

ミシガン「証なんて………私達だってフラットさん達から聞いた話だしねぇ………。」

 

 

アローネ「こればかりは私達に用意できるものでは………。」

 

 

タレス「…ボク達は直接フラットさんからそう聞いたんですよ?」

 

 

カーヤ「………それだけじゃ本当のことをお兄さん達に話してたのか分からない。

 あの人達は………カーヤに嘘をついてたんだし………。」

 

 

 カーヤを騙していたのはフラット達だ。そのフラットから伝わる情報ではもう何も信じることはできないのだろう。これでは話が前に進められない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ん~………どうやってカーヤに真実を知ってもらえればいいのかなぁ………。

 フラットさんの話でも特に証拠になりそうなものなんて何も無かったし………、

 

 

 

 

 

 

 ………ラーゲッツだって多分自分に娘がいたことなんて知らなかっただろうし………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「……………………ん”ん”ん………?

 ………んだぁ………?

 頭痛ぇ…………。

 …………んお!?

 手が………!?」

 

 

 

 

 

 

 カーヤに真実を上手く伝える方法を考えているとラーゲッツが目を覚ます。

 

 

ウインドラ「………起きたようだな。

 ラーゲッツ。」

 

 

ラーゲッツ「!!?

 テメェは偽カオスッ!!!

 やっと見付けたぜ!!!

 テメェを捜していたんだよ!!

 テメェだけは許さねぇッ!!!

 必ず俺がテメェを消し炭にしてやるからなぁッ!!!」

 

 

ウインドラ「ほう………、

 その有り様でよくそこまで吠えられるな。

 自分の立場が分かっていないようだな。」

 

 

ラーゲッツ「!!

 こんなもん!!

 ………!クソッ!!」

 

 

タレス「無駄ですよ。

 その手錠は元々アンタ達が作ったものだからその高性能さはアンタならよく知ってますよね。」

 

 

ラーゲッツ「ぐっ………!?

 

 

 ………チッ………。」

 

 

 一旦落ち着くラーゲッツ。抵抗は諦めたようだ。この状態でラーゲッツに打てる手は無いのだろう。

 

 

 セレンシーアインでランドールが自分の腕を切り落として逃亡を謀ったこともあって手錠を破壊できそうな武器の類いは既に没収した上でカオス達も武器は近くの茂みにラーゲッツが気絶している間に隠してある。これでラーゲッツが暴れる心配はないだろう。

 

 

 ………だがこれでラーゲッツから有力な話が聞けるわけではないのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とにかく何かラーゲッツが過去にフリンク族と関係があったことの証明になる証言を詰問しようと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………ん?

 そこのお前、

 ()()()()()()()()()()()()()持ってんだよ?

 そいつぁ大分昔にこの辺で捨てたもんだぜ?」



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ラーゲッツ再び殺害

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………え?」

 

 

ラーゲッツ「………ククク!

 なんつー懐かしいもん持ってんだよ!

 卑しい民は人が捨てたゴミすらも再利用すんだな!

 貧乏人はこれだからみっともなくて嫌だねぇ!

 よく見りゃお前随分と汚ねぇ服着てんなぁ?

 俺の捨てたもん拾っちまうぐれぇこのフリンク共の奴等は廃れちまったのか?」

 

 

 ラーゲッツがカーヤを視界に捉えるなり中傷しだす。それに対しカーヤは、

 

 

カーヤ「…こっ、これおじさんのバッグ………?

 ………そっ、そんなわけない!

 これはフラットさん達からカーヤのために本当のパパが残していってくれたものだって………。」

 

 

ラーゲッツ「はぁ?フラット?

 誰のことだか知らねぇがお前そいつに騙されてねぇか?

 そいつぁウイングバッグだぜ?

 俺達マテオの国のバルツィエしか開発に成功してない超高性能収納鞄だ。

 お前の親父ってことはフリンクの奴なんだろうがフリンクの奴等がそれを持ってるわけねぇだろうがよ。

 そいつは間違いなく俺が昔ここら辺に置いてったウイングバッグだ。

 そん中に入ってた()()()()()()()()が速度が出る変わりに燃費が偉く悪くてな。

 昔この辺りに来る途中でも俺のマナを吸い付くして何度も墜落して俺を苛立たせやがったから廃棄したんだ。」

 

 

カーヤ「……!!」

 

 

ラーゲッツ「そいつが俺の物だった証拠はまだあるぜ?

 それを持ってるってことは中にレアバードが入ってたの知ってるだろ?

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 絶対にその旧式のやつは生半可な火じゃ燃えたりしねぇはずだ。

 なにせ旧式と言えど()()()調()()()()()()()だからな。

 そいつに乗りながら俺が火を放つためにそう作り込んであったんだ。

 ………まぁ、まだテスト段階のやつだったがな。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

カオス「(………そうか、

 だからカーヤはあぁいう戦い方ができたのか………。

 全身とレアバードを炎で包みながら火の鳥のように見せて………フリューゲルを守ってきた………。)」

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「ほら?

 どうした?

 やってみろよ?

 さっさとそん中にある旧型が俺の言う通りになるかどうか確かめてみろよ?

 それで事情は分からねぇがお前がそのフラットとか言うのに騙されてた証明になるだろうぜ?

 

 

 ………それとも実は既に旧型が燃えねぇことは周知済みか?

 あぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………パパ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………あ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポロポロ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「なっ、何訳の分からねぇこと言って急に泣いてやがんだよ………!?

 ………ハハハ!

 そうか!

 ようやくその足りねぇ頭で自分がフラットとかいう他の奴に騙されてたことを知ってショックで「違うの!」!?」

 

 

カーヤ「やっと………!!

 やっとパパに出会えた……!!

 おじさんがカーヤの本当のパパ……!!

 最初に会った時からこの一ヶ月間ずっとおじさんのことをどこか他人のように思えなくて()()()()()()………!!

 マナの感じがカーヤに似ていたからなんか殺しちゃいけないと思って殺さなかったけど………殺さなくてよかった………!!!」

 

 

 感極まってカーヤはラーゲッツの側まで近付く、がラーゲッツが触れる寸前で押し止まる。

 

 

カーヤ「あぁ……!!

 やっと会えたカーヤのパパ……!!

 ………だけどパパに触ったらパパが死んじゃう………!?

 せっかく会えたのに!!

 ………でも!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嬉しい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………おい、

 このガキはさっきから一人で何盛り上がってんだ?

 俺のことパパ、パパッつってるが俺にガキなんざ記憶に「本当に分からないのか?」」

 

 

カオス「………お前が十六年前ここで何をしたのか覚えてないのか?

 お前は十六年前このフリンク領に来て何をしたか………。

 わざわざこんな遠くまでウイングバッグを捨てにきた訳じゃなかっただろ。

 お前は昔ここで………、

 

 

 何をしでかしたのか思い出せよ。」

 

 

ラーゲッツ「十六年前に俺がここで………?

 ………そんなもん俺はフェデールに指示されてダレイオスに出現した大魔導師軍団とやらがどんな力を放ったのか偵察しに来て………帰りに………、

 

 

 ………!!?」

 

 

ウインドラ「思い出したようだな。

 だったらカーヤが何故お前のことをパパと呼ぶのか理解しただろう。」

 

 

ラーゲッツ「………あの時の上玉が………俺のガキを………?

 それでこいつが俺のことを………。

 ………でこいつは何でさっきから俺のことを殺さなくてよかっただとかほざいてんだ?

 このガキと会ったのは()()()()()()()?」

 

 

アローネ「いえ………、

 貴方がカーヤとお会いしたのは貴方がこのフリンク領を再び訪れてからすぐのことです。

 貴方が来訪してからカーヤはずっと貴方のことを実の父だと知らずに追い返していたのですよ。」

 

 

ラーゲッツ「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何だと………?」

 

 

カーヤ「パパ!!

 ごめんね!!

 カーヤがパパって知らずにずっとパパのこと追い払ってたみたい……!!

 パパがパパだって分かってたらカーヤも絶対にそんなこと「おい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………俺を追い返していたってのはどういうことだ………?

 俺をここで追い返していたのはあの糞焼き鳥野郎の筈だが………?

 あの化け物のモンスターに俺は何度も何度もぶっ飛ばされてやっと奴が根城にしているこの山を突き止めたんだが………?」

 

 

タレス「…アンタをずっと追い払っていたのはそこのカーヤですよ。

 アンタのことを実の父親だと知らないで何度も何度もアンタがフリューゲルを襲いに来るから仕方なくアンタを払い除けていた………。」

 

 

ミシガン「アンタは一ヶ月も自分の娘にいいようにあしらわれてたんだね。

 まぁアンタの悪行を考えればカーヤへのいい償いになったんじゃない?」

 

 

ラーゲッツ「………お前が俺のことをずっと邪魔してやがったのか………?

 お前があの焼き鳥野郎なのかよ………?」

 

 

カーヤ「!!

 うっ、うん!!

 フラットさん達に言われてカーヤ戦うときはずっとパパの形見の乗り物を使ってあの姿になってたの!!

 見ててね!?

 今カーヤがカーヤだって証明するから!」

 

 

 カーヤはラーゲッツに自らがフェニックスであることを示すためにウイングバッグからレアバードを展開する。そしてレアバードで上空に飛び上がり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自らの体に火を纏わせフェニックス形態へと移行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プシュンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツに自分がフェニックスだったことを見せたカーヤは直ぐにフェニックス形態を解きまた地上に戻ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………どうパパ?

 信じてもらえた?

 カーヤがパパの娘だってことこれで「ふざけんなあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「テメェがあの糞焼き鳥野郎だっただと…!!?

 ってことはあれか!!?

 俺は自分の娘にずっと通せん歩されてたってことか!!?

 んだよそれ!

 マジでふざけんな!!

 何が俺の娘だ!!

 俺の邪魔する奴なんざ俺の娘だって認めるか!!

 くそがあああッ!!」

 

 

 ラーゲッツが逆上する。カーヤがフェニックスだったことを知り本気で怒っているようだ。

 

 

カーヤ「パっ、パパ……!?」

 

 

ラーゲッツ「うるせぇ!!

 テメェが俺のことを気安くパパなんてほざくんじゃねぇよ!!

 親の邪魔する奴なんざ娘でも何でもねぇ!!

 テメェは俺の邪魔をした!!

 俺の敵だ!!

 敵だったんなら俺がこの手でテメェを「そこまでだ!」…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「うぐぁ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………やはり貴様はあの時死んでいた方が正解だったようだな………。

 貴様のような害虫がこれ以上カーヤの気持ちを傷つけるんじゃない………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「ゲプッ…!!」

 

 

 ウインドラが激昂したラーゲッツに槍を突き刺し引き抜く。ラーゲッツはそのまま後ろに倒れた。

 

 

 

ドサッ………。

 

 

ウインドラ「………今度こそ心臓を貫いた。

 そしてお前の仲間が助けに来ないことはこの一ヶ月でお前しか目撃されていないことから把握済みだ。

 

 

 お前はここで死んでおけ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「がぁ…………ぅあ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギギィ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキンッ!!



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その頃あの男は…

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザクッ………ザクッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「こんなもんでいいんじゃないか?」

 

 

ウインドラ「………そうだな。

 これだけ深く掘って埋めればもう人目に触れることもあるまい。」

 

 

タレス「こんな奴をボク達の手で埋葬することもないと思うんですけどね………。」

 

 

ウインドラ「仕方ないだろう………?

 外道とはいえこいつをそのまま放置しておくわけにもいかん。

 まだカーヤが俺達に着いてくる返事をもらってないんだ。

 カーヤがこの地に残留することもあると考えれば父親の死体が目につくようなところにあればどうしても辛い現実を直視してしまう。

 ………こいつのことはさっさと忘れさせた方がカーヤのためだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達は現在ウインドラがウインドラが止めを刺したラーゲッツを埋める用の穴を掘っていた。ラーゲッツはウインドラに刺された後息を引き取ったのを確認してある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………何も殺すことはなかったんじゃないか?

 一応暴れださないように手錠してたわけだし………。」

 

 

ウインドラ「カオス、

 ………セレンシーアインでのランドールのことを忘れたのか?

 こいつらバルツィエは何をするのか分からん。

 拘束していたとしてもランドールのように自らの腕を切り落として逃亡を謀ることも考えられた。

 気絶させて拘束した時点でこいつを殺さないという選択肢は無かったんだ。」

 

 

カオス「だけど………。」

 

 

タレス「カオスさんもあのラーゲッツの様子を見たじゃないですか。

 ダイン………さんのように話が分かるバルツィエもいればこのラーゲッツのように人に悪影響しか及ぼさないどうしようもないバルツィエもいるんです。

 バルツィエの大半はむしろこういう害悪なのしかいないんですよ。

 ウインドラさんがあのまま仕仕止めてなかったら………ほら………。」チラッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ヒグッ………!うぅ………くぅ………!」

 

 

アローネ「もう大丈夫ですから………。

 貴方のことを悪く仰る方はおりませんから安心してください………。」

 

 

ナデナデ……

 

 

 

カーヤ「グスッ……!

 ………カーヤに………触らないで………、

 カーヤに………触ると………おかしくなっちゃうから………。」

 

 

ミシガン「おー、よしよし、

 私達のことは気にしなくていいからねー。」

 

 

ナデナデ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

ウインドラ「待ちわびた父親があんなロクデナシではカーヤも浮かばれまい。

 あれ以上ラーゲッツが余計なことを言う前に黙らせておく必要があった。

 あそこからカーヤとラーゲッツが良好な関係を築ける未来など想像できないだろう?」

 

 

タレス「ラーゲッツもカーヤのことを拒絶していましたからね。

 無責任に子供を作ってレサリナスへと帰還し時間が経過してからこの地へと足を運んで実の娘が現れてその娘に一ヶ月以上自分の任務を邪魔されていたんですからあの場面で激昂するのもバルツィエならあり得ます。」

 

 

カオス「そうなんだけど………。」

 

 

ウインドラ「………殺すのは早計だったのは認める………。

 捕獲したのなら他の先見隊がどの程度の規模来訪しているかの情報ぐらいは聞き出しておきたかったな………。」

 

 

タレス「死体からでも何か情報は探れるんじゃないですか?

 持ち物を検査してラーゲッツがバルツィエに関する有力なものでも………」ポトッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジジッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「?………何でしょうかこれは………。」

 

 

 ラーゲッツの死体を探っていたタレスが砂嵐のような音を発する不思議な物体を発見した。

 

 

カオス「何を見つけたの?」

 

 

タレス「さぁ………初めて見るものなのでこれが何なのかボクにはさっぱり………。」

 

 

ウインドラ「どうした?」

 

 

カオス「タレスが何か見つけたみたいだよ。」

 

 

ウインドラ「どれだ………?

 ………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 !!………これは………!?」

 

 

 タレスが発見した異音を放つ物体を見てウインドラが鬼気迫る表情でその物体を凝視する。

 

 

カオス「ウインドラはこれが何か知ってるのか?」

 

 

ウインドラ「………これが何なのかは俺にも分からんが前に一度この物体にバルツィエ達が何か話しかけているのを見たことがある………。

 ………恐らくこれはこれを持つ者同士の何らかの原理で繋ぎ位置を特定するアイテムなのだろう。

 

 

 ………………これを放置しておくのは危険だな。

 こんなものは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラが物体を踏み砕く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…セレンシーアインでもランドールが逃亡を謀った際に不自然にダインがタイミングよく現れた時があったな。

 …よもやこのアイテムでダインを呼んだのか………?

 たとしたらラーゲッツの近くにこれを置いておくのは得策ではないな。

 もうラーゲッツが復活することはないだろうがここでラーゲッツが死亡したのが他の先見隊に伝わるようなことになればこのフリンク領にバルツィエ達が押し寄せてくる。

 ………念には念を入れて粉々に散らしておこう。

 カオス頼めるか。」

 

 

カオス「分かった。

 もうこれ壊れてると思うけどこの残骸を綺麗に消せばいいんだね?」

 

 

ウインドラ「あぁ、

 ラーゲッツが死んだと気付かれない内に早めにな。」

 

 

カオス「オーケー、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フレアボム!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………よし、

 消せたな。

 

 

 ………後は他のバルツィエが来ないことを願うばかりだが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジジッ…………ジジッ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「(………あのラーゲッツの馬鹿野郎はいつになったら連絡してくるんだ………?

 あいつがダレイオスに飛び立ってからもう三ヶ月は連絡が来ねぇ………。

 あの見栄っ張りのことだから単純に面倒くさがって連絡しねぇだけだとは思うが………。

 

 

 ………まさかカオス達に遭遇して殺られたなんてことはねぇよな………。

 一応飛び立つ前にあいつらには()()()()()を渡してあるがもしもの場合もある………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬「ブルルッ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………そろそろ出発するか。

 目的地はもう目と鼻の先だしな。

 ()()に来るまでに部下達への引き継ぎに時間を掛けすぎたせいで偉く間が空いちまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう少しで漸く()()()()()()()()()に到着できそうだ。」



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主の発祥

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「グスッ………ヒック………。」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………さて、

 これからどうするかなんだが………。」

 

 

アローネ「…もう少し待っていただけませんか?

 カーヤのショックが大きくてまだ話ができるような状態ではありませんし………。」

 

 

ミシガン「そうだよ、

 あんな人だったとはいえカーヤはついさっきお父さんに酷いことを言われて………そのお父さんも………。」

 

 

ウインドラ「そうしたいのは山々なんだがここはまだフリンク族が統治する圏内だ。

 ラーゲッツを始末した今フリンク族達にラーゲッツの危機が去ったことを知られれば次はカーヤを殺せと言ってくるだろう。

 …ラーゲッツを始末した俺の責任ではあるんだがここは直ぐにでもカーヤを連れてこの地を離れるべきだ。」

 

 

 ここでの目的は当初はヴェノムの主討伐ではあったが事情が変わり今はラーゲッツ討伐とカーヤを独断で連れ出すことの二つとなっている。その内の一つがつい先程達成されてしまったためフリンク族達はカオス達を見つけ次第このフリンク領を去ることを促してくるか………カーヤの殺害を命じてくるはずだ。フリンク族にとってカーヤは最早不用と見なされ殺害することに何の躊躇もない。フリンク族自身はカーヤを殺すことはできなくともカーヤと一緒にいるカオス達にそれを命じてくると面倒なことになる。なのでウインドラが焦るのも分かる話なのだが………、

 

 

カオス「………………カーヤ、

 俺達と一緒にこのフリンク領を出て外の世界に行ってみないか?」

 

 

カーヤ「………」

 

 

カオス「…ここにいてもカーヤはフリンク族の人達から惨い仕打ちを受けることは目に見えている………。

 だったらここにいるよりかは俺達と共に外の世界に出てカーヤが落ち着いて暮らせる場所を探した方がいいと思うんだ………。」

 

 

アローネ「私達も旅の途中ではありますがカーヤが同行することは特に問題はありませんし貴女の事情をお聞きしてこのまま貴女をこの地経残していくこともできません。

 ………どうか私達と一緒に………」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブンブン………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 カーヤはカオス達の誘いに首を降って拒絶の意を示す。

 

 

アローネ「………どうしてそこまで………?

 私達のことをそうすぐに信用することは難しいとは思いますが………。」「違う………。」

 

 

ミシガン「違う………?」

 

 

カーヤ「………お兄さん達がカーヤのためにそう言ってくれてることは何となくだけど分かった………。

 ………だけどカーヤはやっぱり外に行くのが怖い………。

 外の世界は怖いことがいっぱいあるし………。」

 

 

 カーヤはカオス達のことを信用していないのではなく生まれてから一度も外に出たことが無い故に外の世界へ踏み出す勇気が無いようだった。カーヤが生まれてから十六年、外の世界にはブルカーンなどの他の部族やモンスターが徘徊していると教え込まれてきたため中々その一歩を決断できないのだろう。

 

 

カーヤ「……それにカーヤは外の世界に行ってもカーヤの中の悪い病気を外の世界の人達にばら蒔いちゃうから………。

 ………お兄さん達は何でだかカーヤの病気が移らないみたいだけど………。」

 

 

タレス「そのことでしたら心配入りませんよ。」

 

 

カオス「カーヤのヴェノムウイルス………悪い病気なら俺が治してあげられるからカーヤがそういう心配しなくてもいいんだよ。」

 

 

カーヤ「………!

 カーヤの病気が治るの………?」

 

 

ウインドラ「病気と言うかその症状が他人に移る懸念は無くなるな。

 俺達はそのヴェノムウイルスを治療する術を持っている。

 

 

 …今すぐには治してはやれんがな。

 一度ここを離れてから君のウイルスを取り除かないと今すぐ治してしまったらこの地にいるフリンク族達に君の命が狙われてしまう。

 治療してしまったらこれまでのように不死身ではいられんからな。

 君の安全を考慮しないと治療する意味も無くなってしまう。」

 

 

カーヤ「…何でそこまでカーヤのことを………?」

 

 

カオス「………カーヤが俺と同じだったからかな………。」

 

 

カーヤ「カーヤと同じ………?」

 

 

ウインドラ「ここにいるカオスは君と同じでバルツィエの生まれなんだが生まれた時に住んでいた村で君と似たような状況にあった。

 そしてある事件から今の君のように不当な扱いを受けながらも村を守り続けなくてはならなくなってな………。

 ………だからそんなカオスと同じ境遇に陥っている君を放って旅を続けることなど俺達にはできなかったんだ。

 君が望んでくれるのなら俺達は君を快く迎え入れるのだがどうだろうか………?」

 

 

ミシガン「私達はここの人達みたいにカーヤを道具みたいに使ったりはしない。

 カーヤを一人のエルフとしてちゃんと見るから。

 ………ね?

 私達と一緒に行こうよ?」

 

 

カーヤ「………」

 

 

ソワソワ………

 

 

 四人の説得に心動かされつつあるカーヤ。カーヤですら自分が普通ではない扱いを受けていることは理解していることだろう。そんな扱いを受け続けるよりはカーヤが安心して暮らせる新天地を目指すのも悪くないと思い始めるカーヤ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………やっぱり外に行くのは駄目………。」

 

 

 カーヤは長く考えた末にカオス達の同行を拒否した。

 

 

アローネ「そんな………何故………?」

 

 

カーヤ「…外の世界には危ないモンスターが沢山いる………。

 ここにはいないけどとても強いモンスター達が………。

 

 

 カーヤはそんなモンスター達がいるところに()()()()()()………。」

 

 

カオス「だっ、大丈夫だよ!

 強いモンスターが出てきたって俺達がカーヤを守るから!!」

 

 

カーヤ「けど………。」

 

 

ウインドラ「………?

 ……カーヤ、

 今君は外の世界に()()()()()()ではなく()()()()()()、と言わなかったか?」

 

 

タレス「?

 戻りたくない?

 カーヤは外の世界に行ったことがあるんですか?」

 

 

 カーヤの発言の仕方に違和感を感じ耳ざとくそのことを指摘する。フラットの話ではカーヤはこれまで一度もフリンク族の領地から外に出たことは無かったと言っていたはずだが………、

 

 

カーヤ「……ここの外には行ったことあるよ………?

 大分昔の話だけど………。」

 

 

ミシガン「ん?

 出たことあったんだ………。」

 

 

アローネ「どういうことでしょうか………?

 フラットさんはカーヤが外に出たとは一言も仰ってはいませんでした………。

 それどころか外に出ないように教育してきたと仰っておりましたが………?」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………はぁ、

 どうせあいつらのことだからまた俺達に間違った情報を伝えたんだな………。」

 

 

タレス「もうフリンク族が嘘つきの常習犯だってことは分かってますしね。」

 

 

アローネ「………何故そのような嘘をつく必要があったのでしょうか………?

 カーヤが外に出たことを秘密にしたかったから………?」

 

 

ミシガン「一度も外に出たことがないってことにしておけば私達がカーヤを連れ出そうと思わないようにしたかったからとかじゃない?」

 

 

カオス「………でもカーヤが外の世界を体験したことがあるなら今回は安心していいと思うよ。

 俺達なら大抵のモンスターなら倒してここまで来たしそんなに危ないモンスターも今はいないはずだから。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 カーヤはカオスの言葉にまだ不安が残っているらしく中々外へと出る返事をしない。

 

 

 

 

 

 

アローネ「……ちなみにカーヤはどのようなモンスターを怖がっているのですか?」

 

 

カーヤ「………体の大きなモンスター………。」

 

 

タレス「体の大きな………、

 ギガントモンスターのことみたいですね。」

 

 

ミシガン「それなら今外にはカーヤが怖がってる大きなモンスターはそんなに多くはいないと思うよ?

 ダレイオスのギガントモンスターは殆どヴェノムに感染して死んじゃったみたいだし生き残ってたのもヴェノムの主って言う凶悪なモンスターになっちゃったけど私達がその半分以上倒しちゃったから。」

 

 

カーヤ「…そうなの………?」

 

 

アローネ「えぇ、事実です。

 ですから外に出たとしても早々カーヤが想像するような「じゃあ………!」」

 

 

 

 

 

 

カーヤ「電気を使う大きな猪や海にいる八本の足のあるモンスター、大きな羽根の鳥、雪山の巨人、舌がよく伸びる蛙、人を襲う木のお化け、それから赤くて火を吐くドラゴンとかもやっつけちゃったの!?」

 

 

 

 

 

 

カオス「電気を使う猪とえっと………?」

 

 

タレス「…今の特徴は……?」

 

 

アローネ「………見事にヴェノムの主の特徴と重なりますね………。」

 

 

ミシガン「それってフラットさんから聞いたの?

 そんなのが外にいるって。」

 

 

カーヤ「んーん、

 カーヤが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直接会った。」

 

 

 

 

 

 

タレス「ヴェノムの主に直に遭遇したんですか!?」

 

 

ミシガン「しかもヴェノムの主のカイメラ以外となんて………。

 よく生き延びられたね?

 あの主達ヴェノム関係なく結構強いのばっかりだったのに。」

 

 

カーヤ「出会った時は怖かったけどでもその時にはカーヤはもう()()にかかってて怪我しても平気だったから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………え?」

 

 

ウインドラ「………」

 

 

 

 

カーヤ「………?

 どうかしたの………?」

 

 

 

 

 

 

アローネ「………三つほどお聞きしてもよろしいでしょうかカーヤ。

 ………カーヤがそれらのヴェノムの主………ギガントモンスターと遭遇なさったのは()()()()()()なのでしょうか?

 後その頃にヴェノムの主が出現していたかどうかは分かりますか?

 そしてそのカーヤが遭遇したギガントモンスターがどういった状態であったのか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その大きなモンスター達と出会った時はそのモンスター達は普通のモンスターだったと思うよ?

 けどカーヤに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から様子がおかしくなって………。

 その時のヴェノムの主?………とかいうのがいたかどうかは分からない………カーヤは一人ぼっちでその時誰かと話をするようなことも無かったから………。

 ………そのモンスター達と会った時のことなら覚えてる。

 そのモンスター達とは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤが()()()()()()()()に外の山や海、森とかで出会ったの。

 ヴェノムの主って名前はその大きなモンスター達から逃げて結局カーヤが住めそうな場所が見付からなくて仕方なくここに戻ってきてフラットさん達にお願いしてなんとかこの山に住めるようになって暫く経ってから聞いたぐらいかな………。」



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確定

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「追放………?」

 

 

タレス「カーヤは追放されたことがあったんですか………!?」

 

 

ミシガン「しかも六年前って………!」

 

 

カオス「…ヴェノムの主がダレイオスに現れた時期………。

 その時期にカーヤが追放………?」

 

 

カーヤ「………?

 お兄さん達はカーヤのことをフラットさんから聞いてたんじゃないの?

 カーヤのこと会う前から知ってたんだし………。」

 

 

ウインドラ「俺達が君のことについて説明されたのはだいたいが君の()()のことだけだ。

 君が生まれてから今日までどのように過ごしてきたかも聞いていたが君がこのフリンク領から外出したことがあったかどうかは聞いていなかった。

 …と言うよりは君はフラット殿の情報によればフリンク領から外に出たことはないはずなんだが………。」

 

 

 カーヤが単にフリンク領から外に出たことがあるか無いかの違いならさして重要視することでも無さそうではあったのだがその()()()()()だった。

 

 

アローネ「……おおよその検討はつきますが………、

 …カーヤ、

 貴女が六年前にこの地を追放された原因は何なのですか?」

 

 

カーヤ「それは………、

 ………カーヤが病気にかかって人に移るといけないからっておじ………………族長がカーヤを追放したの……… 。

 …丁度()()()()()()()死んじゃった日に………。」

 

 

ウインドラ「…なるほど………、

 そういう理由でなら追放されるのも納得がいく話だな。

 俺達は精霊の力を借りてヴェノムを無力化することができるがダレイオスの民達にはそういう手立ては無かった。

 ダレイオスでは感染者の措置は恐らくどこも同じように行っていることだろう。

 感染者を近くに置いておけば感染が広まる危険がある、故に感染者は追放する。

 追放された感染者は放っておけばいづれ変異して死亡扱いになるだろうしな。

 

 

 ………ここで問題なのは何故フリンク族達がカーヤが()()()()()()()()()と言って隠していたかだ。

 その程度のことわざわざ隠すことでもないように思えるが………。」

 

 

アローネ「カーヤが外に解き放たれて……また帰ってきた。

 フラットさんのお話ではそこをあえて抜いて私達にお話していたようですね。」

 

 

ミシガン「何でそんなことを………?」

 

 

タレス「カーヤが外に出たという事実をボク達に知られたくなかった………。

 そうとしか考えられません。」

 

 

カオス「……フラットさんの話を思い出してみれば確かに変だよな………。

 カーヤがヴェノムに感染してからロベリアさんって人が犠牲になってそれでカーヤをフリューゲルの近くに置き続けた………。

 ………ミストでも俺が同じようなことになったけどミストとフリンク領じゃ住んでる人の規模もかなり違うし被害のことを考えたら感染者はもっと遠くに遠ざけたいと思うはずだし………。」

 

 

 カーヤとフラットの話で露見した矛盾に頭を悩ませる一行。何故カーヤが外に出たことがないだなどとフラットは嘘をついたのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………()()()………()()()()()()()()()………、

 

 

 ………そしてその時期に感染していたかは不透明ではありますが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

カオス「!!

 ………まさか………!?」

 

 

 アローネがある一つの可能性を導きだした。他の四人も薄々関連しているのではないかと予想はしていたが()()()()()を口にするのは憚られた。

 

 

ミシガン「け、けど主の殆どと会ってるってだけで全部じゃないでしょ!?

 カーヤの話じゃ()()()()カーヤとは出会ってないじゃない!!?」

 

 

ウインドラ「…そうだな………、

 まだ()()するには早すぎる………。

 ………しかし………。」

 

 

 カーヤ以外の五人の視線がこの場にいる()()()()()()()に向けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「メェッ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「……カーヤの話の中にカイメラは登場しませんでした。

 けれどこのカイメラは元々()()()()()()()()()()()と言うのであれば………アローネさんの推測が正しい可能性が急上昇しますよ。」

 

 

ミシガン「でっ、でも………!?」

 

 

カオス「………」

 

 

カーヤ「?」

 

 

 今カオス達はカーヤに()()()()を質問しなければならなかった。その返答次第ではこの六年前からダレイオスで発生している“ヴェノムの主出現”の事件の全貌が明るみになるかもしれない………。当初はヴェノムの主はマテオのバルツィエやダレイオスに潜伏していると思われる真の大魔導師軍団、あるいはそれら以外の組織のダレイオスの衰退を狙った反抗かと思われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしカーヤがカオス達の推理通りの答えを返してきた時、このダレイオスのヴェノムの主の災害事件は何者かの陰謀によるものではなく、ある人物の悲運な境遇とある部族が巻き起こした大事件だったことが発覚してしまう。()()が隠していた事実を鑑みてみれば高確率でその線が濃厚だと推察できるのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カーヤ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カイメラとは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()お会いしたのか覚えていらっしゃいますか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「メーメーさんと………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 メーメーさんに会って仲良くなってからは暫く一緒にいたんだけどカーヤと一緒にいる内にメーメーさんの様子が変になってモンスターに突っ込んでいくようになって最後には………、

 

 

 火を吐く赤いドラゴンに食べられちゃってそれっきりだったの………。

 だからメーメーさんがこの間カーヤのところに来た時は吃驚しちゃった………。

 食べられちゃったメーメーさんがカーヤのこと覚えててカーヤに会いに来てくれたから。

 カーヤにとってメーメーさんは追放されてから………、

 ………生まれてから初めてできた()()だったから」



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フリンク族の虚言を暴く

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…確定だな………。」

 

 

ミシガン「嘘でしょ………?

 だってそんなことが………。」

 

 

ウインドラ「現にこうしてカーヤの口から聞くまでは俺も何者かの策略かと疑ってたよ………。

 

 

 …だが分かるだろ?

 ここまでダレイオスを旅してきてそんな者達がいなかったということを………。

 少なくとも同時期に出現したヴェノムの主達にはその時期に()()()()()と接触している者がいたはずだが部族間の軋轢を考慮すると非常に難しい話なんだ。

 このダレイオスのヴェノムの主事案はつまり()()()()()()なんだろう………。」

 

 

ミシガン「そんな………。」

 

 

アローネ「…確定………とまではいきませんがフラットさんやナトル族長が隠していたカーヤの追放のことを見てみれば彼等もそう考えていて話をなさらなかったのでしょうね………。」

 

 

カオス「…カーヤが………。」

 

 

カーヤ「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 タレス………!」

 

 

 タレスがカーヤへと向かっていく。その表情は暗く重い。そして怒りの感情が滲み出ている………。

 

 

 今度の事件の核心に迫る事実を知ってしまったのであればタレスがその感情に囚われてしまうのも無理は無いが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかし………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タタッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………」

 

 

カオス「待ってタレス………!

 話を聞いてたならカーヤが悪くないってことは分かるだろ………!?」

 

 

アローネ「()()()()()()()()()()()()()()()()が彼女であったのだとしても彼女は何も知らなかった!!

 ()()()()()()()が自身に危険なウイルスが宿りそれを理由に追放されたのならまだその時の彼女は外でどのように行動しなければならなかったのか理解していなかったのです!!」

 

 

ミシガン「気持ちは分かるけど落ち着いて!!

 ね?

 タレスだって彼女がわざとやったんじゃないってことはカーヤを見てれば分かるでしょ!!?」

 

 

ウインドラ「冷静になれタレス。

 今の彼女にその怒りをぶつけても後で後悔するだけだぞ。

 責めるべきはもっと他にいるはずだ。

 

 

 ………例えば………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タタタタタッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………ほらな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ハァ………!ハァ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「フラットさん………。」

 

 

 タレスを宥めていると唐突にフラットが現れる。

 

 

ウインドラ「………ここ最近変なところでよく会うなフラット殿。

 やけに俺達と会う回数が多くないか?

 こんな森の中で人と人が会う確率などそう高くは無いと思うが。」

 

 

ミシガン「私達のことずっと見張ってたんじゃないの?」

 

 

アローネ「そう見て間違いなさそうですね。

 この様子からして私達を追っていたようですし………。」

 

 

 息を切らせて駆け付けてきたフラットを見ればミシガンとアローネの指摘通りなことが伺える。

 

 

フラット「ハァハァ………、

 ………何を仰いますやら………?

 私は………ハァ………皆様がまだこの地に残ってカーヤを刺激するのを止めていただくよう忠告しに参ったのですよ………?」

 

 

 これまでの流れからしてそう言うのも()()()()()()話だ。

 

 

 ………では()()()()にはどう受け答えするのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………フラットさん。」

 

 

フラット「はい、

 何でしょう?」

 

 

タレス「………カーヤはずっと………、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()という話………、

 

 

 あれは本当ですか………?」

 

 

フラット「!?」

 

 

 タレスの質問に一瞬痛い所を突かれたような表情をするフラットだったがその問いに対して、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………当然ですよ。

 私達はカーヤが生まれてからずっとカーヤを見てきました。

 十六年間カーヤがこの地から外に出たことは一度もありません。

 カーヤが()()()()()()()してからもそれは変わらずずっとカーヤは私達の管理の元この地で過ごしてきました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………そう………ですか………。

 

 

 ………やっぱり………そういうことだったんですね。」

 

 

 フラットの発言は何もカーヤから聞かされてなければそのまま鵜呑みにして信じてしまっていただろう。

 

 

 しかしこのフラットの発言が全くの嘘だということを皆は見抜いた。カーヤの様子を見ても、

 

 

カーヤ「………?

 え………?

 カーヤは………。」

 

 

 この様子では事前にカーヤに話を通してなかったみたいだ。カーヤとカオス達がここまで急接近して会話をするような仲になるとも思えなかったのでそういった打ち合わせはしなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………この様子から()()()()()()()が纏めてこの件に関与していることが分かった。全ては()()()()()()()()()()()()()()()とカオス達に誤認させるための嘘だったと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………フラットさん………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もう…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネタは上がってんだよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッ!!ドサッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タレスがフラットに飛びかかりくみふせた。

 

 

フラット「あうっ………!?

 なっ!何を!?」「惚けても無駄だ!!!」

 

 

タレス「アンタ達は!!!

 アンタ達は全部知っててこれまでボク達に嘘をついてきたんだな!!?

 カーヤが外に行ったことが無かったという話!!

 あれは全部出鱈目だったんだ!!

 アンタ達はカーヤが外に出たことによってどうなったか()()()()()!!

 だからカーヤが外に出たことがないだなんた嘘をついた!!」チャキッ!!

 

 

フラット「ヒィッ……!?」

 

 

 タレスがフラットに鎌を突き付ける。フラットは自分が命の危険に晒されていることに恐怖し悲鳴をあげる。今回ばかりはタレスの手荒い行いを見咎める者は出なかった。

 

 

ウインドラ「フラット殿………、

 俺達は知ってしまったよ。

 貴方達が何故こうも嘘を重ねるのか………。

 ………始めは貴方達の怨恨もあってか騙されてしまったが漸く俺達は真実に辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 詳しく話してやろうか?

 俺達が見抜いた貴方達の真実を。」



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自白

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………ヴェノムの主出現の全ては()()()()()()()()()()()()()()()のです………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲダイアン消滅………、

 十六年前、()()かがゲダイアンを消滅させた………。

 私達もその何者かについては未だ確かな情報を掴めてはおりませんがその事件によってダレイオスはマテオへの戦意を削がれ連合国ダレイオスは瓦解しました………。

 ダレイオスで起こったゲダイアン消滅はマテオにも伝わりそれによりマテオから様子を伺うに来たラーゲッツがこの地で不貞を働き………カーヤが誕生した。

 ここまでは貴殿方の話が正しかったことは認めます。」

 

 

ウインドラ「ここから先がフリンク族がどうしても伏せておきたかった真実が隠されていたのだろう?」

 

 

フラット「……ッ!!」

 

 

 ウインドラの問いかけに息をのむフラット。その様子から彼がとても緊張しているのが分かる。

 

 

ウインドラ「……ゲダイアン消滅、ダレイオス国家崩壊、そしてカーヤ誕生から十年後、つまり今から六年前にマテオで動きがあった。

 マテオはダレイオスとの約百年の休戦から遂に開戦しようとしていた。

 その偵察として北東のアイネフーレの村に踏みいった。

 ………本来なら偵察だけのはずだったんだが粗暴なバルツィエ達がそれだけで留まることはなくタレスの村を荒らしてタレスを拉致した。

 その情報がまだ戦意を失ってはいても国家としては一応機能していたダレイオス全土に広まった。

 それは勿論のこと、このフリンク領にも。

 

 

 ここから()()()()()()までは事実なんだろう、フラット殿?

 俺達にはその大事な()()()の話を省いて伝えたんだ。

 フラット殿の話を聞いてカーヤがまだこのフリンク領内にいるから俺達は自然とカーヤがずっとこのフリンク領から出たことが無いのだと信じきってしまっていた。」

 

 

ミシガン「実際はカーヤを………、

 ………まだ十歳になったばかりの子供をヴェノムに感染したことを理由にここから追い出したんでしょ。

 自分達がカーヤをどうすることもできないからって外のことを何も分からないカーヤを追放した………。」

 

 

タレス「…その結果………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤが各地を放浪しまったせいでヴェノムの主が誕生してしまった………!

 カーヤがダレイオスを回ってギガントモンスターや通常のモンスターに接触することで飢餓で消滅しない不死身の主達が誕生させてしまった!!

 ………アンタ達はカーヤが戻ってきてその事にいち早く気付きカーヤのことを隠蔽しようとした!!

 だからアンタ達はカーヤのことについて頑なに嘘を重ねていったんだ!!

 

 

 自分達が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを他の部族達に知られないように!!

 そのせいでアイネフーレは………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ヒグッ!?

 やっ、止め………!?

 私達は……!?」

 

 

 タレスが勢い余ってフラットの肩を斬りつける。フラットも本気でタレスが斬りつけてくるとは思っていなかったようでパニックに陥る。

 

 

ウインドラ「ヴェノムの主による犠牲者は()()()()()か………。

 このフリンク領からしてみればそれは事実だったんだろうが大元がこの地から始まったのだとしたらその数は誤りだ。

 

 

 実際の犠牲者はアイネフーレ、カルト、ブロウンがほぼ全滅、他の部族達も半数に及ぶ人が犠牲になった。

 どこの部族もバルツィエがヴェノムの主を作り出したのだと疑っていなかったよ。

 

 

 まさか身内にヴェノムの主を作り出した原因がいたとは夢にも思ってなかっただろうな?

 このことが公になればフリンク族はマテオの他にもこのダレイオスの残りの部族全てが敵に回る。

 だからそのことを隠しておきたくて必要に俺達に真実を悟られないようにここを素通りさせようとしたり俺達のダレイオス再統合計画に積極的に荷担しようとしたんだろう?

 自分達が()()()()()()()()()()()()するために………。」

 

 

アローネ「カーヤが戻ってきてからの話は特に不審なところはありませんでした………。

 その辺りのことは事実なのでしょう。

 …しかし疑問に思ったところはカーヤに火を纏わせて姿を隠すようにしていた点です。

 あれはフリンク族の者からヴェノムの主が現れたのを隠すという体裁を目的としたものではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()という目的があったのではないですか?

 火というものはそれだけで人を寄せ付けない効果があります。

 夜でも明るく目立つ火を纏う生物がフリンク領にいては他の部族もフリンク領に近付けませんから。」

 

 

 カーヤならではの上手い隠し方だ。本当に隠しておきたかったのはフリンク族の血を半分受け継ぐカーヤ………、

 

 

 ………自身よりもカーヤという存在そのもの。六年前にヴェノムの主が出現した過程でダレイオスの各部族達が皆バルツィエの仕業だと思い込んでいたのはその時期にバルツィエがダレイオスに渡って来たからだ。

 

 

カオス「……もしかすれば六年前にカーヤがレアバードで各地を移動してるのを見た人がいるかもしれないね。」

 

 

ウインドラ「カーヤがどういった存在なのか知らない者からすればレアバードに乗っている………と言うだけでバルツィエと認識する。

 バルツィエがヴェノムの主を作り出したと広まったのはそういった経緯があったんだろう。

 カーヤのレアバードの登場の仕方は独特だからな。

 あんな乗り方するバルツィエがいたとなれば誰かしらの記憶に残っていても不思議ではない。

 

 

 追々裏を確認してみればカーヤがヴェノムの主を発生させたという事実が発覚する。」

 

 

ミシガン「カーヤが通ってからカーヤに触れたモンスター達が後でヴェノムの主になったんだね。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「フラットさん………、

 

 

 ここまでで私達の推理に何か食い違う点がございますか?

 それともこの推測はただの戯れ言と切り捨てますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しっ………、仕方がなかったんですよッッッ!!!?

 私達はあの時ああするしか無かったんです!!!

 カーヤをフリューゲルから追い出すしか手は無かったんだ!!!!」



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叱責

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…それは今の俺達の推測が正しかった、と言うことでいいんだな?」

 

 

アローネ「やはりそういった背景からこのヴェノムの主事件が始まっていたのですね………。」

 

 

 

 

 

 

フラット「えぇそうですよ!!

 どうせ他の部族達の中にカーヤを覚えている者が山程いることでしょうね!!

 六年前カーヤは私達に追放されてから自身を受け入れてもらえる里を探し回っていたらしいですよ!!

 でも見付からなかったみたいですがね!!

 当たり前ですよ!

 バルツィエが襲撃した直後にバルツィエが使う乗り物に乗って飛んできたら誰もがカーヤのことをマテオのバルツィエの一員だと誤解します!!

 結局受け入れてもらえずカーヤはダレイオスの至る場所を駆けずり回った!!

 そしてその駆けずり回った先で現在ヴェノムの主と呼ばれる個体達に遭遇してヴェノムの主へと変えてしまった!!

 国家統制が崩壊する直前に最後の情報の共有の場でカーヤのことを知らない他の部族達は口々にこう言ってました!!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 それを聞いた私達はゾッとしましたよ!!

 そこから私達はカーヤが感染してからカーヤに潜伏するウイルスが異常な変異を遂げてしまい()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に変える力があることに気付きました!!」

 

 

カオス「ある一定基準に達している生物………?」

 

 

アローネ「ヴェノムウイルスに強い抗体を持つ者のことですね………?」

 

 

フラット「!?

 ………その通りです。

 感染前後ヴェノムの主達はどれもが近場に住んでいた各部族達からモンスター達の群れの長であろう目測を得ていた個体ばかりでした。

 遺伝子的に強い個体はカーヤのウイルスでヴェノムに感染してもその()()()()()を保ったまま活動し続ける。

 

 

 言うなればヴェノムウイルスから進化した()()()()()()()がヴェノムウイルスに比べて高い確率で非常に凶悪な生物を誕生させていた元凶なのです!

 ………残念なことにロベリアは適合できずに通常のヴェノム同様にスライム形態となって死んでしまいましたがね………。」

 

 

ミシガン「カーヤ………ウイルス………!?」

 

 

タレス「……それがアイネフーレ………もといダレイオス国家が崩壊した裏の背景だったわけですか………。

 

 

 ………アンタ達がカーヤが正常な精神であったにも関わらずカーヤを追い出したりなんかしたからアイネフーレやカルトやブロウンが………!!」

 

 

フラット「だから仕方が無かったと言っているじゃないですか!!?

 カーヤが感染していたのが発覚した時にロベリアは死んだ!!

 彼女は普通のヴェノムのようにスライムとなって逝ったんですよ!!?

 そこからカーヤがそんな危険な主達を生み出すとは思いもしなかったんだ!!

 私達もロベリアが死んで冷静な判断なんて下せなかった!!

 私達は他の同胞達にもロベリアのような犠牲者が出ないようにするためにカーヤをフリューゲルの外に放り出すことしかできなかった!!

 ヴェノムに感染したものは正常な者達には殺す手段は無い!!

 なら被害が拡大しないようにカーヤをどこか遠くへと追いやることしかあの時の私達には思い浮かばなかった!!

 こうなることなんて予測できなかった!!

 無理だったんだ!!

 ウイルスに感染した者を私達の近くに置いておくことなんて………!!

 私達は………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴殿方のように強い力も強い心も持ち合わせてはいなかったんだ!!

 あぁするしか私達が生き残る手はなかったんだとそう思ったんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………フンッ、

 オサムロウが言っていたな。

 ヴェノムウイルスは感染した個体は観察してみればそれぞれ違った変異をしていたと………、

 

 

 同時期に出現した九体のヴェノムの主の中でカーヤだけ普通にヴェノムに感染してヴェノムの主となったことからカーヤだけは他の主達とは違って何者かの策略で感染したのではないことが分かった時妙に感じたが何てことはなかった………。

 

 

 カーヤが主発生の原点だったのであれば筋書きが分かる話だったんだな。」

 

 

アローネ「九体のヴェノムの主はそうして生まれカーヤが戻ってきてからは既に貴殿方の手にあまる事態へと発展していたのですね。」

 

 

ミシガン「ヴェノムが恐かったのは分かるけどそれで関係ない他の部族の人達に余計な被害を出してちゃ素直に慰める気にもなれないよ………。」

 

 

フラット「ならどうすればよかったんですか!!?

 カーヤやロベリア達がヴェノムに感染した時貴殿方はあの場にはいなかった!!

 あの場にいたのはダレイオスでも最弱と罵られる貧弱なフリンクの我等がいたのみ!!

 そんな状況でカーヤを追放する以外に私達の考えにはなかった!!

 もしあのような状況になれば恐らく他の部族達も私達と同様に同じことをしていたことでしょう!!

 私達だけが責められるのはお門違いだ!!

 あんなことはダレイオスの部族ならどこでもやってる!!

 その証拠にカーラーン協会には私達フリンクの他にもカーヤのような()()()()()()()()()達が追放されて集められている!!

 

 

 私達だけじゃないんだ!!

 私達だけじゃない!!

 人をゴミのように捨てる者達はこのダレイオスには沢山いる!!

 私達はまだいい方だ!!

 私達フリンクはカーヤが半血だろうと十の歳になるまで育ててきた!!

 追放したのはヴェノムに感染したからだ!!

 それならばまだ私達はカーヤを十歳になるまで捨てなかっただけ誉めてもらいたいところ……!?」ザッザッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………そんな下らない底辺の言い訳で自身等を正当化なさらないでください!!

 貴殿方がカーヤに対して行ってきた仕打ちは奴隷のそれなのですよ!!?

 どこに貴殿方が誇れる部分があったというのですか!!!」



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失われる希望

フラット「わっ、私達はただ私達がしたことはダレイオスではごく普通に行われてきたことで………!?」

 

 

アローネ「その行ってきたことというものがどれ程人道に反していることだか理解しておられますか!?

 貴殿方は誰一人として味方のいない幼い一人の少女を追放しただけでなく六年もの間道具のように扱いそれでいてカーヤを処分するように私達に命じたではないですか!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………処分………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………こんな手酷い扱いを受けてなお貴殿方に従わされ続けたカーヤを見て何も思うところは無かったのですか!!?

 貴殿方は自らがこのような仕打ちをされたらどのような気持ちになるのか分からないのですか!!?」

 

 

 アローネがフラットに叱責する。こういった奴隷の扱いの酷さに過剰に反応するアローネ。アローネは身内にいた義理の兄のことをカーヤに当てはめて感情的になっているのだろう。その分普段は見せないような気の昂りにカオス達も圧倒されるが………、

 

 

フラット「………前にも言いましたが私はカーヤのことを自分の娘として愛することは「娘として愛せなければ仇の娘になるのですか!!」!?」

 

 

アローネ「…私達がカーヤと接した時間は貴殿方に比べてほんの少しの間だけしかありませんでした………。

 

 

 ですがその短い期間の間でもカーヤはマテオのバルツィエのような野蛮な人格者だとはとても思えません!!

 

 

 そう!!

 カーヤはバルツィエの血を受け継いでいることとヴェノムによる自我の崩壊が無い以外では特筆して貴殿方にこんな仕打ちをされるような子ではない!!

 私達や貴殿方と同じくどこにでもいる普通のエルフなのです!!

 それを個人の出生というその本人にとっては変えることのできない点で差別をする貴殿方は私はとても人のする事だとは思えません!!

 ………貴殿方こそが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真に淘汰されるべき立場であるはずです!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ぐぅっ………!!」

 

 

タレス「いい加減に自分達が間違っていたと認めたらどうですか………?」

 

 

ウインドラ「バルツィエ達は自分達が悪党だと自覚して悪事を働いている。

 奴等は自分達の悪事は伏せたりなどしない。

 奴等は………………このような言い方は変だが奴等は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 誰かを傷つけることがあればバルツィエはそれを隠したりせず堂々とその行いを公表する。

 ………今のお前達を見てるとどうにも俺の目にはお前達フリンク族は()()()()()()()()()にしか映らん。」

 

 

フラット「!!?

 黙って聞いていれば好き放題貶してくれますねぇ……!!

 私達は「では認めるとしましょう」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「我々フリンク族は己が犯した過ちを認めます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「族長!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラットを問い詰めてると急に横からナトルが割ってはいってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「私達は大変なことをしでかしてしまった。

 その罪は潔く認め他の部族達にもその事を告白します。

 ですのでフラットをあまり強く責めないでください。

 全ては私がそう指示したのです。」

 

 

アローネ「ナトル族長が………?」

 

 

ナトル「はい、

 ………私達も始めは他の部族に伝えるべきだとは思いました。

 

 

 

 

 

 

 カーヤを追放してからまたこの地に戻ってくるまでの間は私達の誰もがカーヤがどこをさ迷っていたのか知りませんでした。

 カーヤが戻ってきてから暫く経った後にセレンシーアインで私は他の各部族達からバルツィエが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを聞きました。

 その時はまだ私達は事態がバルツィエの仕業だと思い込んでいたのです。

 

 

 それからすぐにダレイオスの部族達が各々の地に戻ることになりダレイオス国家は離散した。

 私は最後にフリンク領以外の地に現れたヴェノムの主とやらはどのように発生したのかを質問してみました。

 

 

 ………すると返ってきた答えは貴殿方の推測した通りのものでしてそこでやっと私達はカーヤがヴェノムの主の大元、すなわち()()()()()()()()なのだと知ったのです。

 後でフリューゲルに戻りカーヤに話を聞き出してからそれが事実だと発覚しましたがその時には既に各部族が統治する土地はヴェノムの主が徘徊する危険な閉鎖空間と化してしまっており私達には他の部族達にそのことを通達することができなくなっておりました………。」

 

 

タレス「…上手く話を繋げてきましたね。

 それでボクが納得すると思ってるんですか?

 そんなアドリブ話を素直に信じると本気で「ですので」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「このダレイオスに発生したヴェノムの主災害の責任を後日皆様の功績によって解放された土地の部族達に正直にお話致します。

 ………そしてその責任を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()によってせめてもの償いとすることとしましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………なんだよそれ………。

 結局そこに結びつけたいだけじゃないか!!」

 

 

アローネ「カーヤが追放されたのは当時まだ十歳という年齢です。

 であるば責任は彼女にではなく彼女を保護する立場にある貴殿方大人の責任であると思われますが?」

 

 

ナトル「子供が犯した過ちは大人が責任をとる………。

 至極もっともな意見だとは思います。

 けれどそれはそれが()()()()()である場合の話でありますよ。」

 

 

ミシガン「普通の子供である場合………?」

 

 

ナトル「カーヤは六年前は子供………それは正しい認識です。

 

 

 

 

 

 

 ですがヴェノムに感染してからは()()()()()()()()、つまり()()()()()のです。

 人でないモンスターが罪を犯したのであれば人の法はそのモンスターを殺処分するのが古くからの決まりです。」

 

 

ウインドラ「カーヤに全ての責任を背負わせて消すつもりなのか!

 このクソッタレどもめ!!」

 

 

ナトル「全ての責任ではありませんよ。

 私共も責任をとって貴殿方がダレイオス再統合を成し遂げた際にはフリンク族は最下層の階位に格下げすることを提言致します。

 そしてカーヤが死ぬことによって他の部族への一応の立て前はたつことでしょう。

 カーヤが死ねばこれ以上ヴェノムの主が生産されることはない。

 元々はラーゲッツとカーヤが蒔いた種なのですからその二人さえ死ねばダレイオスはもうヴェノムとヴェノムの主に怯えることも無くなる。」

 

 

タレス「とことんバルツィエ以下………バルツィエ以上の畜生ですね。」

 

 

ミシガン「信じられない………、

 この人ってカーヤのお祖父ちゃんにあたる人なんじゃないの………!?

 よく平気でそんなことを…!」

 

 

アローネ「貴殿方の考えは理解しました。

 しかしカーヤを処分する話に賛同はできません。

 私達はカーヤを「もういい!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………もうカーヤのことでそんなにお兄さん達とおじいちゃんが言い争うことはないよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤが………、

 いなくなれば解決する話なんでしょ………?

 ………だったら………、

 

 

 カーヤはそうするからもういいの………。」



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その剣の矛先は…

 

 

 

カオス「カーヤ………?

 何を言ってるんだ………?」

 

 

カーヤ「………」

 

 

アローネ「貴女は何も悪くはありません。

 貴女が彼等の思惑通りになる必要はないのですよ?」

 

 

ウインドラ「いなくなる………。

 それは自ら死ぬことを選んだということか?

 早計になりすぎるな。

 こいつらは君に罪を被せたいだけだ。

 君は見回れただけ。

 そう焦った結論に至るんじゃない。」

 

 

ミシガン「こんなこと言う人達の側に居続けることなんてないよ。

 私達と一緒にここから遠くに「やっと自分の存在の罪の大きさに気付いたようだなカーヤ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「お前は生きていてはいけないんだ!

 お前のせいでアイネフーレ、カルト、ブロウンが全滅してしまったらしい!

 そんな中でお前がのうのうと生きていること事態が間違いなんだ!!

 さぁ!

 分かったら早く彼等に殺され「少し黙っててくれよ。」うわたっ…!?」

 

 

 タレスがフラットにまた鎌を突き付けて黙らせる。先程タレスに肩を切りつけられたことによりそれだけでフラットは竦み上がってしまった。タレスのような小さな子供に怯えるフラットの姿はとても滑稽に見えた。

 

 

ナトル「…死を受け入れたかカーヤ。

 だがお前が死ぬのは今ではない。

 お前が死ぬのはラーゲッツを殺してから他の部族達との会合の席で皆の目の前で「パパならもう死んじゃったよ。」………!………何?」

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ラーゲッツ………、

 ………パパならさっき死んじゃった………。

 このお兄さん達がさっき殺してそこに埋めたの………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「何ですって………!?

 それは本当なのですか!!?」

 

 

 ラーゲッツの死亡発言にたった今黙っているように言われたフラットが身を乗り出してカオス達に聞いてくる。彼等にとってラーゲッツの死はそれほど重要なことなのだろう。

 

 

ウインドラ「………あぁ、確かだ。

 ラーゲッツは俺達で捕らえて俺が心臓を突き刺して殺した。

 死んだことも確認済みだ。

 今は………その辺りに死体を埋めたんだ。

 確かめるなら後からにしろ。」

 

 

フラット「………ラーゲッツが死んだ………。」

 

 

ナトル「………ラーゲッツが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………死んだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「……………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ハハッ…………!

 アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

 

 

 急に高笑いを始めるフラット。ラーゲッツが死んだ事実が笑いを堪えきれないほど嬉しかったようだ。

 

 

ナトル「フラット………?」

 

 

フラット「ハハハハ!!

 それならもう何も気にすることはありませんね!!

 ラーゲッツが死んだとあってはもう()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 族長!!

 これで心置きなくカーヤを殺すことができますよ!!」

 

 

ナトル「ま、待て……、

 カーヤを殺すのであれば他の部族達に公表した後に他の部族達の目の前で「何を悠長なことを仰ってるんですか!!」」

 

 

フラット「今私達の目の前に絶好の機会が巡ってきてところじゃないですか!!?

 そんな会合の場でカーヤがその場にいる保証はないんですよ!?

 逃げられたらそこでお仕舞いじゃないですか!!?」

 

 

ナトル「だが………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「私達をほっぽといて勝手にカーヤを殺すか殺さないかの話をするなんて………。」

 

 

カオス「俺達にはそんな期はないのにね………。」

 

 

タレス「カーヤがいる前でよくもまぁあんな話ができたものですね。

 フリンク族がここまで無神経な人達だったとは思いませんでしたよ。」

 

 

ウインドラ「……しかし何やらナトル族長とフラットの間で意見が別れだしたぞ………?

 今殺すべきか後で殺すべきか………、

 どっちも最低な話だが………。」

 

 

アローネ「ナトル族長は今はカーヤを処分するべきではないとのお考えのようですね………。

 ………と言うよりは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本気でカーヤを処分する気があるのでしょうか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「族長!!

 ………いえ!お義父さん!!

 私はロベリアが亡くなった時カーヤを絶対に殺処分すべきだと申しました!!

 それができなかったから()()()()()()()()()()()に従うしかなかった!!

 他の者達もそうするしかないとそこでは納得しました!

 しかし今はカーヤをいよいよ殺処分することができる方々が御越しくださったのです!!

 この機を引き伸ばせばもうカーヤを処断できる機会はやってこないかもしれない!!

 ならいっそのこと今ここで決断を下すときなのです!!

 ()()()()()()()はそれで一致しているのです!!」

 

 

ナトル「一致はしていないだろう!?

 後民達はまだカーヤを殺処分することには納得はしていない。

 まだブルカーンとヴェノムの脅威がある内にはこの決断を下すには早すぎる!!」

 

 

フラット「この際後からやってきた他の村の者達の意見など無視してもいいはずだ!!

 カーヤの件は彼等がフリューゲルにやって来る前から問題視されていた!!

 カーヤは生まれてきてはならなかったんだ!!

 カーヤの存在は罪深すぎる!!

 早期的にカーヤを始末しなければフリンク族のためにならない!!

 族長である貴殿がその決断を下せなくてどうするんですか!!?」

 

 

ナトル「…!!」

 

 

フラット「お義父さんに決断が下せないのなら私がカーヤを殺処分する方向に向かわせますよ。

 

 

 ………さぁ皆さん!

 その罪深い小娘に裁きを!!」

 

 

 

 

アローネ「従うとお思いですか?

 私達はカーヤを連れてこの地を去り「待って!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………お兄さん達はカーヤを外の世界に連れていってくれるんだよね………?

 ………だったらカーヤお兄さん達に付いていくよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「何ッ!!?

 カーヤお前ェッ!!」

 

 

アローネ「漸く心を決め手下さいましたね。

 貴女のことは私達でどこか落ち着ける場所までお連れします。」

 

 

ウインドラ「安心して付いてきてくれ。

 悪いようにはしないさ。

 ………その身に巣食うウイルスもここから出たら俺達でなんとかしてやる。」

 

 

カーヤ「………うぅうん。

 カーヤの中の病気が消せるなら………、

 

 

 今ここで消して?」

 

 

タレス「それはできますけどここで消してしまうとカーヤは今までのように不死身じゃいられなくなりますよ?」

 

 

カーヤ「それでも今消してほしい………。

 お兄さん達とここから出ていくにしてもそのどこかでまた誰かにカーヤの病気が移っちゃうといけないから……。」

 

 

カオス「…そういうことなら構わないけど………。」

 

 

フラット「!!

 このまま見す見す逃がしてたまるか!!

 カーヤが人に戻るのなら私が直々にこの手で「はいはい口を出さないで~!」……!」

 

 

 カーヤがヴェノムウイルスを除去してほしい旨をカオス達に伝えるとフラットが割って入ってこようとしてきたのでそれをミシガンが牽制する。ミシガンに続いてタレスとウインドラもフラットをカーヤに近付けまいと道を塞ぐ。

 

 

フラット「くぅぅ……!!」

 

 

ウインドラ「すまないが邪魔はさせない。

 俺達も急ぎの旅の途中なのでな。

 ここでのいざこざはこれっきりにして俺達はカーヤを連れて先に向かう。」

 

 

タレス「アンタ達のお願い通りにするのは癪ですけどアンタ達も一応は大事な戦力なのでこのままブルカーンの領地へと行きます。」

 

 

アローネ「カーヤが人にさえ戻ればもうヴェノムの主が再び現れることはないのです。

 ならばカーヤを殺す必要もどこにもない。

 貴殿方にカーヤは殺させません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……じゃあやるけど本当にいいの?」

 

 

カーヤ「うんやって………。」

 

 

 アローネ達がフラットを止めてくれているおかげでカオスはカーヤにレイズデットの術を施工する準備ができた。カーヤもそれに同意した。

 

 

カオス「…これで君は普通のエルフに戻れる………。

 ハーフエルフだとかバルツィエだとかは俺達には関係ない。俺もバルツィエだからカーヤと同じだ。これからは俺達と一緒に君が本当にしあわせになれる場所へと向かおう。」

 

 

カーヤ「………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『彼の者を死の淵より呼び戻せ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイズデット。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスのレイズデットがカーヤを包み込みカーヤの体から黒い靄のようなものが飛び出してくる。その靄はカーヤから離れると空気に溶けるように消えていった………。

 

 

 これでカーヤは今後ヴェノムで苦しむことはないが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………!

 ……これでカーヤの病気は無くなって普通の人と同じになったの?」

 

 

カオス「あぁそのはずだけど………?」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

ジャリッ

 

 

 

 

 

 カーヤは地面に落ちている石粒を拾いそれを握りしめた。

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………!?

 血………!?」

 

 

カオス「そりゃあそんな石なんか強く握ったりなんかしたら手も切るだろう……。」

 

 

カーヤ「……カーヤ病気になってからそんなふうにならなかった………。

 カーヤが石を握ったらカーヤの汗で石が溶けて………。」

 

 

カオス「あぁ………ヴェノムに感染すると体液が酸性を帯びるって言うからなぁ………。

 じゃあカーヤは六年ぶりに今怪我をしたのかな?」

 

 

カーヤ「………カーヤから普通の血が流れた………。

 ………カーヤは………()()()()()………。

 

 

 ………………カーヤは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾワリッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!?」

 

 

 カオスは一瞬不吉な未来を予感した。カーヤはフリンク族の領地を離れる決意をした。それはつまりフリンク族とは決別すると言うことだ。フリンク族と決別………フリンク族との関係を断つのであればカーヤはもうフリンク族に遠慮はない。ヴェノムウイルスが消えたことによりカーヤはどこででも生きていける体を手にした。それならばカーヤは今まで耐えてきたフリンク族達からの仕打ちに対して相当なヘイトが貯まっていることだろう。

 

 

 

 

 

 

 ………次にカーヤがどう動くかは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュッ!!

 

 

チャキッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……なっ……!?」

 

 

 カーヤは飛葉翻歩でカオスを横切り瞬間的にカオスが腰に下げていた鞘から剣を引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「待つんだカーヤ!!

 今フラットさん達を…………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブスリッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!!………ありが…………とう………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カーヤはカオスから奪い取った剣で………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自らの腹部を貫いた………………。



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治せぬ傷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………カーヤ…………………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤの行動に何も反応することができなかった。一瞬よぎったフラット達フリンク族への報復を警戒してフラットを守りに入ろうとしたらフラットとは別の方向へと走っていったカーヤ。そのカーヤはあろうことかカオスから奪い取った剣で、

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう………、

 カーヤは自決を謀ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネタレスミシガンウインドラ「「「「………!!」」」」

 

 

 アローネ達四人もカーヤを守るべくしてフラットに立ち塞がったのに何事かと振り返った彼等の背後で起こった出来事に困惑して固まっている。カーヤは人に戻った。これで彼女からヴェノムウイルスが蔓延することは無くなった。これで彼女は他の者を無闇に殺すことも無くなった。これからは自由に色々なところを歩いて行けるようになった。彼女はもうこの先誰も傷つけることは無くなったというのに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ『()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ『死ねる体になった。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…!!」

 

 

 カオスはカーヤの言葉を思い出した。カーヤをこの山で始めに見付けた時カーヤはそんなことを呟いていた。そしてカーヤは先程もヴェノムウイルスを取り払った時に同じことを口にした。

 カーヤは………、

 

 

 生きる希望を持ってなどいなかったのだ………。

 

 

 カーヤはカオスのように自らが生まれた街の防人をしていた。カオスはそのことから彼女に親近感を感じカーヤが自分と同じ様な気持ちを抱いていると考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その考えは間違っていた。カーヤとカオスでは絶望の度合いが大きく違っていた。

 

 

 カオスはミストを罪悪感から守り続けてきた。そこはカーヤも同じだった。カーヤによって犠牲になったのはカーヤの母親のロベリア一人でカオスのように大勢を死なせてしまったわけではなかったがそのことを責められカーヤはフリンク族に従うしかなかった。カオスもカーヤも異質な力を得てしまったばかりにそんな不幸な日々を送るしか無かった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなカオスとカーヤの二人の決定的な違いが二つ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスには精霊が宿りカーヤにはヴェノムが宿ったことと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスにはミシガンやウインドラという想うべき人達がいたのに対してカーヤにはそういった人達が一人もいなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女はカオス達がフリューゲルを訪れるよりもずっと前から死にたかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは精霊が宿ろうとも決して不死身、傷つかない体になったわけではなかった。死のうと思えばいつでも死ぬことができた。………しかしいつでも死ねるというのならせめて大事に思っていたミシガンや消息を眩ませたウインドラがその後穏やかに暮らせているのかが気になり進んで死のうとは思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だがカーヤにはそんな人達がいない。カーヤには心の支えとなるような人達が誰一人としていない。カーヤが生にしがみつく理由がない。だというのにカーヤは自分では死ねない体になっている。彼女は生きる希望もなくただただ絶望しかなかった。いくら自身を傷付けようとも自動で再生する体を持った彼女はいつしかこう考えるようになっただろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな自分を苦しめるだけの世界しかないのならこんな世界から逃げ出したい………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして()()()()と………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「……ッ!!?

 ……い………たい………!

 ……………けど………やっと………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………やっと………終われる………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腹部を貫く剣の痛みに苦しみながらもカーヤは自身の終わりを迎えられることに喜びを見いだしているようだった。

 

 

 

 

 

 

 カオスはやっとカーヤの心情を理解した。カーヤの絶望はカオスが想像もできないほど大きく深い闇に呑まれていた。類似した境遇から親近感を抱いていたカオスもカーヤが死を望むほどの絶望を抱いていたとは想定てできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カオスは自分がカーヤの自殺の道を開いてしまったことに強い後悔を感じ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『ファーストエイド!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 皆がその場に立ち尽くす中誰よりも早く硬直が解けたのはアローネであった。アローネは直ぐにカーヤに駆け寄りカーヤの傷を治そうとファーストエイドを付加する。

 

 

ミシガン「………!

 『ファ、ファーストエイド!!』」

 

 

 アローネが動いたことによってミシガンも我にかえりカーヤの治療を補助する。

 

 

ウインドラ「……!

 出血がひどい!!

 剣が刺さったままで治療術をかけ続けても傷口は開いたままだと出血が止まらないぞ!!

 一度包帯か何かで出血を抑えて剣を引き抜こう!」

 

 

タレス「包帯ならここにあります!!

 これを体に巻けば出血を止められますよ!!」

 

 

アローネ「助かります!!

 それでカーヤを………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス!!

 何をなさっているのですか!?

 貴方もカーヤの治療を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………俺のせいでカーヤが………自殺を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺のせいでカーヤが………、)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「怪我人がいるんだぞ!

 ボサッとするな!」

 

 

アローネ「私達の治癒力だけではこの傷は完全には塞げません!!

 どうかカオスの力でカーヤを……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「わ、分かった!!

 直ぐにやるよ…!!」

 

 

 一旦余計なことは頭の隅に追いやって今はカーヤの治療に専念しなければならない。腹部に突き刺さった剣を抜いて即刻ファーストエイドをかければ傷は塞げるだろう。

 

 

ウインドラ「俺が剣を引き抜く!

 剣を引き抜いたらカオスは全力でカーヤにファーストエイドを付加するんだ!

 準備はいいな!?」

 

 

カオス「あぁ!

 いつでもいい!!」

 

 

ウインドラ「………よし!

 一、二の………、

 

 

 三ッ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズボッ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤの体から剣が引き抜かれる。剣を抜いたらそれに引っ張られたかのように血が溢れだした。早く傷口を塞がなければ出血死してしまうだろう。

 

 

カオス「『癒しの力を我らに!!ファーストエイド!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは全てのマナを使いきるつもりでカーヤにファーストエイドをかけた。カオスの力は食いちぎられた腕すら完璧に修繕する力を持っている。その力を本気で使用すれば腹部の傷口など簡単に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!!?

 そんな………どうして………!?」

 

 

アローネ「カオス……!?

 早くカーヤに術を「やってるよ!!」!?」

 

 

カオス「やってるんだ!?

 カーヤにファーストエイドをかけてるんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも何でか()()()()()()()()()()()()()!!?

 カーヤの傷が俺の術を弾くんだ!!」



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実の祖父が見しものは…

 

 

 

ウインドラ「術が弾かれるだと………?

 そんなことあり得るのか!?」

 

 

カオス「けど現に俺の術がカーヤに届かないんだ!!?

 何でだよ!!

 何でこんな傷が治せないんだ!!」

 

 

ミシガン「……!!

 どうなってるの!!?

 私達の術もカーヤに効果無いみたいだよ!!?」

 

 

タレス「ミシガンさん達のも………!?」

 

 

ミシガン「うん!

 何かカーヤに術はかかってるはずなんだけどカーヤのマナが上手く作用してないみたいで………!」

 

 

ウインドラ「何……!?」

 

 

 

 

 

 

 自殺を謀るためにカオスから奪った剣を自らに突き刺したカーヤ。彼女は既に不死身ではなくなった。常人のように怪我をすれば死ぬこともできる体になったのだ。常人であるなら術が効かないはずがないのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………これは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤが私達の()()()()()()しているのです……!!」

 

 

カオス「治癒術に抵抗………!?」

 

 

ウインドラ「そんなことが………できるのか………!?」

 

 

 アローネがカーヤの状態を診察しカーヤが何をしているのかを把握した。

 

 

アローネ「………普通はこのような事は起こりません………。

 治癒術の原理は術者が負傷者に対しマナを分け与えてその者の()()()()()()()()()()()()()()治癒するのです。

 マナは全ての生命が持つ生きる活力の源。

 マナが活発に循環して生命は成長し傷を癒します………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カーヤはそのマナを()()()()()()()()()()()()しているのでしょう………。」

 

 

カオス「何だって………!?」

 

 

タレス「……要するにカーヤは自分で自分の回復機能を停止させてるんですね………?

 ですがそんな話今まで聞いたことありませんが………?」

 

 

アローネ「…そうでしょうね………。

 自らのマナを停止させることなど普通に生きている方の間ではないですから………。

 こういうことは………、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です………。

 ウルゴスではハーフエルフ等の奴隷階級の方達にこの症状は多く見られました………。

 生きていても先に待つ未来に幸せはないのだと悟って自ら命を断ち………。」

 

 

カオス「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「……じゃあカーヤは今………、

 完全に生きることに未練は無いってこと………?

 ………せっかくウイルスが無くなって普通の人に戻れたのに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………そういうことになりますね………。

 自身に剣を刺したのであればカーヤにはもうこの世界で生きることを諦めた………。

 ………彼女が再び生きる希望を見出だせない限り彼女の傷を治すことは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「プッ!!

 アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ……!!!

 なんだ私が手を下さずともよかったのか!!

 カーヤの奴、自分で勝手に死にやがった!

 愉快な奴め!

 自分で自爆してくれるってんなら手間が省けて大助かりだよまったく!!

 アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハアッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハアッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 カーヤが瀕死の重傷を負いそれを治癒できないと知るや否やフラットが高笑いを上げる。

 

 

アローネ「…人が必至に患者の治療を行っている場で不謹慎な笑い声を上げるのは止めていただけますか………?」

 

 

 流石に勘に障る行為を見過ごせずアローネがフラットに注意するが、

 

 

フラット「だからそいつは助けなくていいんですよ!!

 そいつは生きていてはいけない餓鬼なんだ!

 そんな奴助けたところでまたどこかでそいつに不幸な目にあわされる被害者が出てくるだけなんだ!!

 そのまま楽にさせてやった方がいいんですよ!!

 そいつもそれを望んで自殺しようとしたみたいですしね!!」

 

 

ミシガン「…!

 アンタ達がこうなるように仕向けたんでしょ!!

 こんな孤独で辛い想いをしてばかりの女の子をよくここまで追い詰められたものだね!!?」

 

 

フラット「全てはそいつが生まれてきたのが悪いんだ!!

 私達もそいつが生まれてさえこなければこんなことはしなくてよかった!!

 私はそいつが生まれた時から憎々しくて仕方がなかった!!

 そいつを見てるとどうしてもあの男の影が脳裏をかすめる!!

 

 

 ………あんな男の血を受け継いで生まれてきたそいつはここで死なせておけばいいんだよ!!」

 

 

 フラットは既に妄信的に復讐に憑かれていた。カオス達が間に入っていなければ今にもカーヤに止めを差す勢いだ。それほどまでにカーヤを憎んでいた。恐らくカーヤの死を望んでいるのは彼だけではないだろう。フリューゲルでの先民、もといカーヤが生まれた時から彼女の側にいた者達はフラットと同じことをいうはずだ。本当にカーヤにはこのフリンク領では居場所などなかったのだ。カーヤが人に戻った途端カーヤに牙を剥こうとしたフラット。カオス達がカーヤを連れだそうとしたのは正しかった。…迂闊だったのはフラットのようなカーヤを追い詰めるような輩がいる場でカーヤを人の体に戻してしまったことだ。カーヤはフラットの進言通りに死のうとしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 ………もっとカーヤのことを見ていておくべきであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふとカオスはあることに気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………ぁ………ぅ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラットが一人でカーヤの緊急事態にはしゃぐ中ナトルはカーヤを茫然とした表情で見つめているだけであることに………。



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ロベリアの思い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「いいぞ!!カーヤァッ!!

 そのままで居続けろ!!

 そのままお前は死んでこの世から消えなくちゃいけないんだァッ!!

 ハーッハッハッハ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………そうだ、

 ナトルのいう通りなんだカーヤ………。

 お前は死ななくてはならない存在なんだ………。

 お前がロベリアを死なせたあの日から皆はお前がどうすれば殺せるのか考え続けてきた………。

 私もそれを………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お父さん………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(………!

 

 

 ロベリア………!?)」

 

 

 剣を自らに突き刺したカーヤをただ何もせず眺めていたナトルの耳に今は亡き最愛の娘の声が聞こえた………、

 

 

 ………気がした………。

 

 

ナトル「(………何を馬鹿な幻聴に惑わされているんだ私は………。

 ロベリアは六年前に死んだ………。

 カーヤの巻き添えでロベリアは………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア『お父さん………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(………!)」

 

 

 ナトルの幻聴は先程よりもずっと強く感じ取れた。ここにいないはずの娘の声が何故この瞬間に聞こえてくるのか分からずナトルは幻聴が聞こえてくる原因を探した。

 

 

 

 

 

 

 ………が探すまでもなかった。

 

 

 幻聴は………()()()の方から聞こえてきたのだ。

 

 

 

 

 

ナトル「(………何故だ………?

 カーヤを見ているだけだというのに………、

 カーヤは何もしていないというのに何故このような幻聴がするんだ………?

 ………こいつはロベリアではない………。

 ロベリアから生まれただけのただの………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア『お父さん………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリンク族の里フリューゲル 十六年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………ロベリアそれは本気で言っているのか………?」

 

 

ロベリア「………うん………

 本気だよ………。

 本気で私はこの子を産むの………。」

 

 

ナトル「…妊娠が早めに分かったのなら早急に下ろすべきだろうに………。

 何故わざわざ奴の子などを産んで育てると言うのだ………?

 ………このことはまだ里の者は知らん。

 知っているのは私とお前だけなのだ。

 お前には結婚を約束したフラットもいるだろう?

 それなのに何でそんなお前に最低なことをした男の子などを………。」

 

 

ロベリア「…フラットとはもう終わったんだよ………。

 あんなことがあった後にフラットと幸せになんてなれないよ………。

 私の幸せはもうこの先には来ないんだから………。」

 

 

ナトル「………皆は気にしないと言っていたんだぞ………?

 フラットも………。

 あんな男のことなど忘れてフラットと上手く生活していけば「忘れられないんだよ!!」」

 

 

ロベリア「皆が気にしないとかじゃなくて私が気にするの!!

 私は皆の前であの男に………!!

 ………あの男に辱しめを受けた………。

 その事実を無かったことにしてフラットと二人で生きていくなんてできないよ………。」

 

 

ナトル「………それがどうしてあの男の子を産むという決断に至るんだ………?

 この間の………バルツィエのゲダイアン襲撃でダレイオスは時期に合衆国としては破綻してしまうだろう。

 この国は………もう終わりだ………。

 せめてお前は自分の幸せを見つけるべきじゃないか?

 塞ぎ込んでいてから大分顔色もよくなったようだが変な考えは起こすな。

 我等フリンク族はいつ滅びてもおかしくはないんだ。

 それなら今悔いの残らない生き方を「聞いて!!」」

 

 

ロベリア「私はねお父さん………、

 このままやられっぱなしのままじゃ嫌なんだよ………。

 私達は確かに弱い………。

 この前もたった一人のアイツにいいようにされて………。

 

 

 ………だからこの子を産みたいの!!」

 

 

ナトル「………?

 今一お前の言いたいことが分からんのだが………?」

 

 

ロベリア「私はこの子を産んで育てる………。

 この子は多分アイツの血が入ってるからとても強い子に育つと思うの………。

 ………だからこの子に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の代わりにあの男に復讐してもらうんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「復讐だと………!?」

 

 

ロベリア「そう………復讐………。

 私はこの子にこの里を守ってもらって、いつかアイツがまたこのフリューゲルにやって来た時にアイツをこの子が倒すの。

 アイツが………ラーゲッツがここに来てこの子が完膚なきまでに叩きのめして止めを差す前に伝えて上げるんだよ。

 ()()()()()()()()()()()()()()ってね。

 そうすればアイツどんな顔して悔しがるかなぁ………?」

 

 

ナトル「そんなことのためにお前は………。

 アイツはがまたここに来る保証は無いんだぞ………?

 その前に私達もどうなっているかは………。

 お前の復讐よりも先に私達が全滅してしまうことだって考えられる。

 今はまだ国家体制は継続しているがそれが無くなれば他の部族達とも敵同士だった頃に戻ってしまう。

 外にはヴェノムだっているんだ。

 私達は今後ここにも危険が及ぶようならここを捨てて別の地を探す案だって出ている。

 そんなお前の望みの薄い願望が叶うかは………。」

 

 

ロベリア「だからこの子にそうならないように守ってもらうんだよ。

 ………アイツの力見たでしょ?

 アイツは一人でこの里の男達をねじ伏せた。

 そんなアイツの子供なら絶対に将来はとんでもなく強く育つはず。

 

 

 ………生まれてくるなら男の子がいいな………。

 男の子ならここみたいな自然の多い環境で逞しく育つでしょ。

 そしたらマテオの都会なんかで豊かに暮らしているアイツらなんか………!

 ………ウフフフフフフフ……!!!」

 

 

ナトル「ロベリア………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そうか………、

 それがお前の望みなら………。

 そんなことでお前が立ち直ってくれるのなら私からはもうお前に何も言うことはないよ。

 好きにしたらいい。

 お前がそれを望むのなら私はそれを応援させてもらうことにしよう………。」



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変わる心境

フリンク族の里フリューゲル 十一年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「カーヤ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「あっ!

 ママ!!」

 

 

 名前を呼ばれたカーヤがロベリアに駆け寄ってくる。数日前に誕生日を迎えてカーヤは五歳になった。カーヤは学習能力が高く生まれてから普通の子供が覚えるよりも早く言葉も覚えた。運動神経もよく平均的な五歳時の能力を大きく上回っていた。あの男の娘なだけはある。

 

 

 

ロベリア「走ると危ないよ?」

 

 

カーヤ「えぇ?なぁに……あッ!?」

 

 

 

 

 

 

ドサッ!!!

 

 

 

 

 

 

ロベリア「カーヤ!?」

 

 

 ロベリアがカーヤの怪我を心配し慌ててお越しに行く。

 

 

カーヤ「………ぅぅぁああぁっ……!!」

 

 

 案の定カーヤは泣き出した。あの男の娘であっても年相応の反応はするようだ。流石に子供の内は奴等のような野心溢れる人格はまだ無いようだが………、

 

 

 

 

 

 

ナトル「怪我をしたのか?

 私が治癒術をかけて治してやろうか?」

 

 

ロベリア「ん?

 ん~………このくらいの怪我ならそこまですることもないかな。

 治癒術使うのも疲れるでしょ?」

 

 

ナトル「それはそうだが………。」

 

 

ロベリア「あんまし楽なことさせてもこの子のためにならないでしょ。

 この子には将来的にはここを守れるくらい強く育ってもらわなくちゃいけないんだから。」

 

 

ナトル「……それもそうだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この頃のロベリアは本当にカーヤが生まれる前に言っていたことを実現しようとしていた。カーヤを………ラーゲッツへの復讐の道具として育てる気でいた。実の子供に殺されるラーゲッツ………。それを想像してロベリアはカーヤへの教育に熱を入れ込んでいた。それがロベリアの生きる活力となるのなら私はそれだけで満足だった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリンク族の里フリューゲル 八年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ロベリア!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「ん?

 何?」

 

 

フラット「何って………、

 どうしたんだ……!?

 その()は!!?」

 

 

ロベリア「………これ?

 そこで躓いて転んだだけだけど?」

 

 

フラット「躓いて転んだだけって………、

 そんなんでこんな痣ができるわけないだろ!!

 誰にやられたんだ!?」

 

 

ロベリア「えぇっと…………。」

 

 

ナトル「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この辺りでロベリアは里の者達とよく言い争いをしていた。原因はやはりカーヤだった。里の者達はロベリアにカーヤを他の子供達と一緒に遊ばせるな、と言い合いになって取っ組み合いになったようだった。

 

 

 

 

 

 

フラット「こんな目立つところに痣なんか作って………。

 どうして治療しないんだ!?

 こんなの放っておいたら後々残るぞ!?」

 

 

ナトル「私からも既にそう忠告済みだ。

 しかしロベリアが「いいんだよこのままで。」」

 

 

ロベリア「…どうせまた喧嘩になるからこんなの一々気にしてたらキリがないよ。

 それだったら痕が残ってた方がそこは殴られずにすみそうじゃない?」

 

 

フラット「そんな理由で治療しなかったのか!!?」

 

 

ロベリア「治癒術もそんなに便利な物じゃないしね。

 一回使うだけで一日の大半の動けるエネルギー使いきりそうで。」

 

 

フラット「…!!

 ………あぁもう!!

 だったら僕が治療してやるからこっちに来い!!」

 

 

ロベリア「あっ、ちょっと!?」

 

 

 フラットが強引にロベリアを連れていく。婚約は例の都合で解消されてもフラットはロベリアを諦めきれないようであった。だからこうして彼は欠かさずロベリアの世話を焼いていた。

 

 

 

 

 

 

 こうしたロベリアが怪我をする原因があったからこそフラットはカーヤを最後の最後まで赦すことができなかったのだろうな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくいう私もカーヤのことは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「おじいちゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………ん?

 ………なんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「一緒に遊ぼう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………いいよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「えっへへへへ!!

 じゃあ鬼ごっこしよう!!

 おじいちゃんか鬼からね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タタタッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カーヤは復讐の道具だ………。それ以上の感情を抱いてはいけない………。………どこかで線引きをしなければいけない時が来る。その時が来たら私は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリンク族の里フリューゲル 六年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この頃の私はロベリアに()()()を持ち掛けようと頭でいっぱいだった………。

 私はロベリアに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤを復讐の道具ではなく()()()()として育てていくように相談しようか悩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(…人の心というものは時間の流れによって変わるものだな………。

 私がロベリアにこんなことを言うまいか迷っているのだから………。)」

 

 

 カーヤが生まれる前の私はロベリアがそれで元気になるのならと思い荒んだ彼女の考えを否定しなかった。私はロベリアさえ立ち直るのならそれでいいと考えていた。

 

 

 そしていざカーヤが生まれてその後すくすく育っていく彼女を見ていく内に私の中でカーヤへの気持ちが少しずつ変わっていくのを感じていた。

 

 

 始めはロベリアが言うようにカーヤを道具として考えていた。カーヤは道具。それ以外の何者でもないただの道具。例えロベリアから生まれたのだとしてもカーヤは復讐の目的のために生まれてきただけの道具に過ぎない。そう頭に言い聞かせてカーヤと接してきた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …それだというのにカーヤが成長の過程で見せる無邪気な笑顔や仕草はとても愛らしく幼い時のロベリアを彷彿とさせるものがあった。カーヤは母親似だったのだ。これは大きくなったらロベリアに似てフリューゲル一の美人になる………。そしたら里の男達はカーヤを………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………やはり私にはカーヤを最初から道具として見ることなんて無理だったのだ。どうして娘から生まれた子供を道具として見なければならないのだ。娘の子供なら私にとっては孫だ。あんな外道な男の血を引いていてもロベリアの娘であることに代わりはないのだ。

 

 

 私にとってカーヤは可愛い孫、そう孫なのだ。道具でもなんでもない。カーヤは人だ。ハーフエルフだとかバルツィエの血だとかは関係ない。

 

 

 

 

 

 

 ………………ロベリアは今でもカーヤをラーゲッツと戦わせるために育てているのだろうか………?あれからもう十年の月日が経つ。もしまだ復讐のことを考えているならロベリアには悪いが復讐は諦めてもらってこれからはカーヤを普通の家族として見て私達三人とフラットでここでの生活を送ることにしよう。

 

 

 私はロベリアを説得するべく自分の意思をロベリアに伝えて見ることにしたのだがロベリアは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「復讐………?

 ………あぁ、それなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうとっくの昔に復讐することは止めにしたよ。

 カーヤが生まれた時からね。」



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愛娘

フリンク族の里フリューゲル 六年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………止めた…………?

 何をだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「だから復讐だよ。

 私はもうカーヤに私の代わりにアイツに復讐させようなんて考えてないから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は暫くロベリアが何を言ったのか理解できなかった。復讐を止めにした………?カーヤが生まれた時から………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………………………………ちょっ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと待て!!

 待て待て待て!!

 どういうことだロベリア!!

 復讐を止めにしたってお前………!?」

 

 

ロベリア「………ウッフフフ………!

 どういうことって………変なお父さんだね………。

 お父さんから今カーヤを復讐の道具として見ちゃダメだって話をしてきたのに。」

 

 

ナトル「!

 わっ、私は………カーヤはどうしても私達と同じ人にしか見えなくて………!

 だからお前に………!!?

 

 

 って違うそうじゃない!!

 

 

 ……お前は………カーヤをラーゲッツへの復讐に使うために生んで育ててたんじゃないのか!!?

 それがお前の心を今まで支えてきたんじゃないのか!!?

 違ったのか!!?」

 

 

 話をする前に私はロベリアが今も変わらずにカーヤをラーゲッツにぶつけるために育てているとばかり思っていた。ロベリアはカーヤを産む前までずっとどのようにカーヤを育てるか、どういうスタイルの兵に鍛え上げるかを練っていた。その目標に至るまでの教育課程を私に説明し今日までその考えに沿った生活習慣をカーヤに施してきた。

 

 

 カーヤが言葉を話せるようになってマナを扱えるようになったらロベリアは先ず魔術の基礎を教え、それから一日に何時間か付きっきりで魔術の精度を高める修業をさせていた。カーヤもバルツィエの血族だけあってこういったマナを扱うことに関しては直ぐに才能を開花させた。修業を始めて数ヵ月経つ頃には既にフリューゲルの誰も敵わないほどに魔力が底上げされていた。カーヤは本当にラーゲッツの子供であることを認識させられた。後日そのせいで他の者達から危険視されてしまうことになるのだが………。

 

 

 

 

 

 

 次に魔術での修業が一段落するとロベリアはカーヤに今度は体術を仕込むことにした。体術を仕込むと言っても私達フリンク族はあらゆることにおいて他の部族に能力で劣る。…しかしだからこそ私達は()()()()において他の部族に秀でている能力がある。

 

 

 それは()()()()()()

 

 

 他の者に能力で劣るということはその分危険な相手が多いということ。危険な相手が多いというのであればそれだけ生きにくい環境にあるということだ。ではその生きにくい環境下で力の無いフリンク族が生き残るにはどうしたらよいのか、古くから試行錯誤を重ね導き出された答えは単純明快なものだ。

 

 

 敵と戦わないこと、敵と相対さないこと、敵と遭遇しないこと、敵に遭遇したら逃げること、そして何よりも大事なのが()()()()()()()()()()

 

 

 私達フリンク族は今でこそ国が一つになっているが元々は自陣を敵の部族達に囲まれた四面楚歌な情勢にあった。よくそんな中で最弱を唱う我等が生き長らえてきたのかと言えばそもそもフリンク族はダレイオス国家が建国するまで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。フリンク族は長きに渡って他の部族の目を欺き続けた。それが成せたのはフリンク族が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を探る術を身に付けたからだ。生き物も自然も世界も全てにはマナが流れている。そのマナはそれぞれ大きく異なる気配を放ち自然は流れ行く天候によって移り変わるが生物が放つマナはそんな中で極端に異彩を飛ばす。フリンク族はそうしたマナの不自然な流れを察知し近くに敵が来ているかどうかを敵が気付く前に事前に知ることができた。それ故にフリンク族は勝負以前に勝敗を見切り敵から遠ざかることができた。勝てぬ勝負に挑んで個体数を減らせるほどの余裕はフリンク族にはないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしたフリンク族の特長とバルツィエの魔力を掛け合わせて構想されたカーヤの戦い方は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であった。

 

 

 そのためにロベリアは普段から森の中で自然と一体になるような訓練をカーヤに課していた。虫や動物のように自然の一部となっていれば先ず敵から認識されない。昨今のエルフ達はやや昔と比べて自然から離れていっている。知性が身に付いてきたことにより生い茂る自然の中で生活するよりも開けた土地に居を構えた方が良いと言う考えが広まったからだ。視界遮られる自然の中よりも何も無い場所から籠城できる柵でも作って立て籠った戦いか他の方が理に叶っているからだろう。

 

 

 それならフリンク族はあえてそこを自然の中での優位を取りに行く戦法を選んだ。視界が効かないからこそフリンク族はマナで敵を察知できる。敵を察知したのなら敵の死角死角に回って難を逃れるためだ。………そこからカーヤをロベリアは………、

 

 

 だと言うのに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………言っても怒らない?」

 

 

ナトル「…あぁ怒らないよ。

 だから教えてくれ。

 何でカーヤが生まれた時に復讐することを止めにしたんだ?

 私はこれまでずっとお前がカーヤをそう見てきたのだとばかり………。」

 

 

ロベリア「お父さん、

 私のこと心配してくれてたんだね。

 有り難う………。」

 

 

ナトル「当たり前じゃないか!

 お前は私の「それと同じだよ。」………同じ?」「そう同じ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「お父さんが私を娘として見てくれているように私もカーヤを自分の娘にしか見れなかった………。

 カーヤが生まれた時にカーヤを見て私は………、

 

 

 自分がどれだけ意味の無いことをカーヤにさせようとしていたか気付いたんだよ………。

 こんな可愛い子に復讐なんて馬鹿げてる………。

 

 

 だから復讐のことを考えるのは止めにしたの………。」



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分岐点の瞬間

フリンク族の里フリューゲル 六年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「……それなら何でお前はカーヤを鍛えているんだ?

 復讐を止めにしたのならあんなことは別にさせなくても………。」

 

 

ロベリア「復讐は止めにしたとは言ったけどフリューゲルを守ってもらおうって話は止めにしたつもりはないよ。

 カーヤはここで生まれたからにはここで生活していかなきゃいけない………。

 けど里の他の人達はカーヤのもう半分の血を受け入れてはくれない………。

 どうしたらいいのか迷ったんだけどやっぱり皆に認めさせるにはカーヤに強くなってもらうしかないって思ったの。」

 

 

ナトル「…そうしてカーヤを鍛えてフリューゲルに貢献させて皆に認めさせる……。

 そのために鍛えていたのか………?」

 

 

ロベリア「そうそう、

 それと私のような目にいつかあうとも限らないしね。

 女の子に生まれたからにはそういうこともあるだろうし………。

 色々と考えて結局カーヤが生まれる前の方向に進もうって思って………。

 ………お父さんには勘違いさせちゃってたみたいだね……。

 ごめんね。」

 

 

ナトル「別にそのことは気にしていないが………。」

 

 

ロベリア「お父さんもカーヤに優しかったから私の考えていたこと分かってたのかと思ってたけど………さっきの話をしてきたってことはカーヤが生まれて十年ずっと誤解させたままだったんだね。」

 

 

ナトル「……そうだな。

 鈍かったな私は………。

 お前がカーヤそんな風に考えを改めていたとは知らずに……。」

 

 

ロベリア「ううん、

 私が悪いんだよ。

 お父さんが私に気を使ってることは知ってたのに私の考えをお父さんにちゃんと伝えてなかった………。

 混乱するのも無理はないよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タタタッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………私の見ていなかったところでお前は強くなっていたんだな………。

 カーヤが生まれるまではラーゲッツに復讐することだけを考えて生きていたように見えたがどうやら私の目は濁っていたようだ。」

 

 

ロベリア「強くなったかどうかは自分じゃ分からないけど………、

 ………もし本当に強くなったんだとしたらそれはカーヤのおかげだよ。

 カーヤが生まれてきてくれたおかげで私はこういうことも考えられるようになった。

 弱いままの私じゃ誰かに代わりに復讐してもらうことしか考えられなかったから………。

 復讐なんて誰の得にもならない自己満足なのにね。」

 

 

ナトル「…私達も強くならなければな。

 弱いと自ら嘆いて歩むことをしなかったフリンク族全体の落ち度だ。

 私達もお前のように前を見て進まなければな。」

 

 

ロベリア「だったら皆で強くならないとね。

 一方的に逃げ隠れしていた昔じゃない………。

 今は国ができて争いが消極化して住むところを確保できたんだから今度はここを守れるくらいに皆で力を合わせて………。」

 

 

ナトル「あぁ………、

 そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル・ロベリア「「!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ハァ………ハァ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………どうしたフラット?

 そんな慌てて駆け込んできて………。」

 

 

フラット「………ハァ………、

 カーヤが………復讐………?」

 

 

ロベリア「!

 ちっ、違……!?

 カーヤはただの「そんなことよりも!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「報せが来ました!!

 つい先程ダレイオス東側アイネフーレ管轄区域で………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエが本格的に襲撃してきたようです!!

 遂に………マテオが船倉に乗り出してきました!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「……何だと………!?」

 

 

ロベリア「バルツィエが………また………!?」

 

 

フラット「はい!!

 ですからお義父………族長!!

 急ぎ皆に避難勧告を!!

 ここに留まっていたら十年前と同じことが起こってしまう危険があります!!

 

 

 直ぐに西のリスベルン山の森の中へ皆を退避させましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「分かった!

 直ぐに皆に号令をかけよう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この瞬間私は十年前の悲劇が頭に過り何がなんでもバルツィエから隠れてやり過ごすことしか考えが及ばなかった………。後のことを体験してみれば私が犯した失態はここでバルツィエに驚いて慌てて逃げ出してヴェノムの巣に飛び込んでしまったことではなく………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()フラットに聞かれていたことだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リスベルン山 六年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「なんとか皆無事に避難できたようだな。」

 

 

フラット「そうですね………。

 ………これからどうしましょうか?」

 

 

ナトル「それは様子を見ないと判断できない。

 まだここまでバルツィエが到達しているかどうかも分からないのだしな。」

 

 

フラット「…一応用心はしておいた方がいいですよ。

 バルツィエならあの………族長がお預かりしているラーゲッツが捨てていった空飛ぶ乗り物を所有しているようですから東側から離れているとはいえ直ぐにでもバルツィエならやって来れます。」

 

 

ナトル「……確かにな。」

 

 

 十年前のゲダイアン消失事件ではゲダイアン消失後直ぐにラーゲッツがフリューゲルへとやって来た。空を飛ぶ相手というのは非常に厄介な相手だ。地上でしか戦えないフリンク族には精々風を操ってバルツィエが乗る乗り物を揺らす程度のことしかできない。

 

 

 そんなこともバルツィエが自ら地上に降り立ったら意味をなさない反撃だ。地上での戦いになったら先ずフリンク族には勝ち目がない。バルツィエに限らずどんな相手にもフリンク族は必敗を重ねてきた。だからこうして敵の目を眩ます意味で木々の多いリスベルン山へと足を運んだのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………族長。」

 

 

ナトル「(………やけに森の奥が騒がしいな。

 西側はブルカーンの治める土地だが………。

 ………何か嫌な気配を感じるな。

 バルツィエが西側から来るとは思えないが………。)」

 

 

フラット「族長!!」

 

 

ナトル「………!

 なっ、何だフラット。

 今考え事をしていたんだが。」

 

 

フラット「申し訳ありません………。

 ですが一つお話したいことがありまして………。」

 

 

ナトル「………バルツィエの動向なら私にも分からないと「カーヤのことです。」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「……先程族長の家で話していた話を私にもお聞かせ下さいませんか?

 カーヤと復讐について………。

 族長達がカーヤを育てている理由を私も詳しく知っておきたいのです。」



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六年前の始まり

リスベルン山 六年前

 

 

 

ナトル「(………聞かれていたのか。

 あまり大事にはしたくない話なんだが………。)」

 

 

フラット「お願いします族長。

 私はどうしてもカーヤをどういうつもりで族長達が育てているのか気になるのです。

 ………族長とロベリアのことですから何か目的があってのことなのでしょう………?」

 

 

ナトル「(………目的か………。

 目的と言うのなら私はロベリアに何でもよかったから生きる希望をもってほしかっただけなんだがなぁ………。)」

 

 

 先程ロベリアとカーヤについての会話をするまではロベリアはカーヤを復讐の道具に使うために育てているのだと思っていた。娘を想う父の気持ちとしてはそんな危険な未来に向かってつき走ろうとしていたロベリアを止めたい一心で遂に娘を説得して引き下がらせようと話を持ちかけたのだが………。

 

 

 ロベリアは等の昔にそんな考えを捨て去っていた。ロベリアは多少特殊な出生を迎えてしまっていたがカーヤを普通の子供として育てようとしていた。そのことについて自分の中ではまだ整理はできていなかった。ロベリアの今のカーヤへの想いは歓迎するところではあったがロベリアと話をするまではロベリアはカーヤを自分の代わりに復讐させるために育てているとずっとそう思い込んでいた。

 

 

 直接的な被害を被ったロベリアをそっとしておいてあげようとカーヤが生まれてからの十年間カーヤについて何も言及しなかったためにロベリアの過去と現在の考え方が変わっていたことを知らなかった。ロベリアと話をしていなかったらここは素直にカーヤをラーゲッツに当て付けるために育てていたと言ってもよかったのだがもう既にロベリアの気持ちを知ってしまった。そんな状況で復讐という言葉が何故出てきたのか説明できる自信はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナトルはフラットに事の経緯を()()()()()()()()()()()というところから今はどういう気持ちに切り替わっているのかを説明することにした。途中途中をかいつまんで話しても自分ですら気持ちの整理が追い付いていないことを誰かに話して混乱させてしまうだけだろうと思って………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後ナトルはこの話を()()()()()()()()()()()()()()()と後悔した。ここでの話が後にカーヤを決定的にフリンク族の一員から完全に復讐の道具に追いやってしまう話に発展してしまう結末に至ってしまうのだから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………なるほど………、

 だからロベリアはカーヤを生むことにしたのですね。

 私達ではどうあってもラーゲッツには太刀打ちできませんからね。

 それで敵の血を引く子供を敵に………。」

 

 

ナトル「最初はどうかと思ったのだがな………。

 だがあの時はロベリアの好きにやらせるしかできなかった………。

 君も覚えているだろう?

 あの当時のロベリアの落ち込んだ様子を。」

 

 

フラット「………はい、

 ………酷い状態でしたからね………。

 今でもロベリアを見るたびにあの時の彼女の姿を思い出しますよ。

 目は虚ろでどこか別の世界を見ているようで独り言も多かったですし………。」

 

 

ナトル「私はどうにかロベリアに立ち直ってほしくて色々と手を尽くしたがどうにもできずに………。」

 

 

フラット「…私ですらそれで駄目でしたからね………。

 結局ロベリアには婚約を無かったことにしてほしいと頼まれ私もそれに頷くことしかできませんでした………。

 彼女には………あの時は立ち直るための時間が必要だと思って………。」

 

 

ナトル「………それから暫くしてロベリアがカーヤを身籠っていたことが分かって………私は下ろすべきだと忠告したんだが精神的に病んでいたロベリアはこの子を使ってラーゲッツに復讐すると言い出してきたんだ。」

 

 

フラット「それで………。

 ………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はそれでいいと思いますよ。

 ロベリアに意見に賛成です。」

 

 

 フラットはロベリアが考えていたことを肯定した。

 

 

フラット「…力のない私達フリンクが敵に立ち向かうにはそうした柔軟性ある考えも必要なのかもしれませんね。

 敵の子供を敵に………、

 いい考えだと私も思います。

 …それで族長とロベリアはカーヤを産んで育てることにしたんですね。

 あの時のラーゲッツから受けた痛みを奴の娘を使って返させる。

 族長達がカーヤをそんな考えで育ててたのだとしたら納得がいきます。

 ロベリアに反感を持っていた者達もその作戦には大いに賛同することでしょう。

 どうして今までそのことを打ち明けてくれなかったのですか?

 そのことを皆が事前に知っていたらこれまでロベリアも余分な怪我を負うこともなかったでしょうに………。」

 

 

 長い間フラットはカーヤの存在に疑問を抱いていたのだろう。その疑問が解消されたと思い興奮して一気に話し出す。

 

 

ナトル「(まだ話の途中なんだがな………。

 ここまでは私もそういう考えがなかったわけではないが………。

 

 

 ………さて………ここからはどう説明したらよいものか………。)」

 

 

 フラットはロベリアの過去の思惑を知りそれに共感してロベリアの皆への誤解を解くべきだと言う。ロベリアがカーヤを産み育てることで仲違いした友人も少なからずいる。フラットはそのことに心を痛めこうしてロベリアのために動こうとしてくれようとはしているのだが………、

 

 

 彼のその心遣いを無下にしてしまうようで申し訳ないがロベリアの心は変わってしまった。ロベリアはもうカーヤにそのようなことは求めていない。今は一フリンク族住民として普通の生活をカーヤに送らせたいだけなのだ。そのことをフラットに話したらすっかり舞い上がってしまった彼はどういう反応をするのか………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………と、ナトルが言い悩んでいた時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっ、大変だああああああぁッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル・フラット「「!!?」」

 

 

 森の奥から辺りを警戒させていたフリューゲルの男の一人が大声を上げてこちらの方へと走ってきた。

 

 

ナトル「何事だ!?」

 

 

「ハァ!!………ッハァハァ………!!」

 

 

フラット「落ち着け。

 落ち着いてゆっくり話してみろ。

 何があった?」

 

 

「ハァ………!

 ………そっ、それが………!!

 向こうの方から別の里の者達がここに避難してきてて………!!」

 

 

フラット「別の里の者達が………?

 ………それの何が大変なんだ………?」

 

 

 フリンク族の統治するフリンク領にはいくつかに分けて村がある。その村の者達も今回のダレイオス東側のマテオの襲撃の報せを聞いて避難して来ているのだろう。このリスベルン山は非常時にの避難場所として指定されているので特にそのことに関しては不自然な点はなかったが………、

 

 

「いっ、今……!

 ここにほぼフリンク領の同胞達の半数以上が集中して避難してきています!!

 それを嗅ぎ付けて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムもここに押し寄せてきてるんです!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界でヴェノムは百年前からどこにでも現れる危険な生物として有名だった。有名故に出現した際の対処法はシンプルに逃亡を図るだけだと相場は決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし現在フリンク族の者達はバルツィエ襲撃に備えてこのリスベルン山へと避難して来ているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃亡してきた場へ更に逃亡を図らねばならない相手が現れたらフリンク族は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこへ逃げればよいのだろうか………。



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気付く人

リスベルン山 六年前

 

 

 

ナトル「ヴェノムだと……!?」

 

 

フラット「こんな時にヴェノムが………!?」

 

 

「はい………!

 他の村の者達が逃げる途中に大群と出くわしたようで………それらを引き連れてきてしまったようです!!」

 

 

ナトル「……くっ!」

 

 

 現在ダレイオス東側のアイネフーレ領でバルツィエが奇襲してきたことに先駆けいち早く避難したというのに今度はヴェノムが出現してしまった。どうにかこの状況を切り抜ける策を打とうとするが………、

 

 

フラット「………一先ずここはヴェノムにのみ焦点を合わせた方がよろしいのではないですか族長。

 幸いにもバルツィエはまだここには到達していないようですし一旦バルツィエのことに関しては置いておいて今はヴェノムによる被害を防ぐのが先決かと思われます。」

 

 

ナトル「………それもそうだな。

 では皆に今はヴェノムにのみ警戒するよう呼び掛けてくれ。

 バルツィエに出くわす前に全滅してしまってはもともこもないからな。」

 

 

「!

 分かりました!!」

 

 

 ナトルは男に伝令を出してこれからのことについてフラットと議論することにした。

 

 

 

 

 

 

ナトル「…不味い事態になったな。

 ここでヴェノムか………。」

 

 

フラット「どうしますか族長?

 ここはもしものことを想定してここも離れることを視野に入れないと………。」

 

 

ナトル「…ここを離れるとなるともう行き先は西側しか無くはないか?

 西側は………ブルカーンの領地だぞ?

 ブルカーンは治安が悪くフリンクを受け入れてくれるかどうか………、

 ………我等はブルカーンとの折り合いもそう善いとは言えぬし………。」

 

 

フラット「それなら南に向かってアインワルドの()()を頼ればよろしいのでは?

 アインワルドなら私達も受け入れてくれそうですし………。」

 

 

ナトル「アインワルドか………。

 確かにあの者達なら受け入れてはもらえるだろうが私達がこうして避難しているくらいなのだ。

 アインワルドも私達のようにどこかへと避難しているのではないか?」

 

 

フラット「今は非常時です。

 選択肢を渋っている時ではないでしょう。

 私達の早期決断によってこの先フリンクがどうなるかの命運を握っているのですよ?

 本来なら先にアインワルドに事情を話してから移動すべきではありますが使者を送っている間にヴェノムに追い付かれては一大事です。」

 

 

ナトル「確かにな………。

 ………これほどまでの大勢での大移動は滅多にない。

 ユミルの森に着くのは大分時間がかかるだろう。

 それまでには一応少人数でアインワルドの巫女へと使者を遣いに出そう。

 それで体裁上は保たれるはずだ。」

 

 

フラット「ではそのように………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………族長。」

 

 

ナトル「どうした………?」

 

 

フラット「…こんな時になんですが先程のカーヤの話は………。」

 

 

ナトル「本当にこんなときに時だな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………その話の続きは全て終わってから話す。」

 

 

 

 

 

 

フラット「………はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………どうにかこるからの方針は決まったが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何事も起こってくれるなよ。

 どうか一人の犠牲も出さずに事が終わってくれるといいが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………と言うわけでこれから皆で南のアインワルド領ユミルの森へと移動することになった!!

 遣いの者は並行的に送り出しているので皆も後ろが突っ掛えないように移動を始めてくれ!!」

 

 

 フリューゲルの伝令を伝えに来た男がそう言って先頭でで皆を先導する。それに従いフリューゲルの皆も移動を始めた。皆は間隔が空かないようにできるだけ詰めて移動している。数が多いため散らばってしまうと後方から来る他の村の者達が追い付いてきた時に身動きが取りづらくなるためだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママ………。」

 

 

ロベリア「…ママ達も行こっか。」

 

 

カーヤ「うん………。」

 

 

 集団が移動を開始したためロベリアとカーヤもそれに()()()()()()()()。他の者達と距離を置いている理由はカーヤがいるために他の者達から苦情が飛んでくるからだ。カーヤを認めない者達はまだ相当数いる。そんな者達に囲まれて移動をしようものなら非常時だとしてもカーヤに危害を加えられそうで問題が発生しそうだからだ。なので二人は移動する集団を追うような形で同行しているのだが、

 

 

カーヤ「………」

 

 

ロベリア「どうしたの?

 そんな辛気くさい顔して。」

 

 

カーヤ「…おじいちゃんはどこにいるの?」

 

 

ロベリア「おじいちゃんは………ちょっと忙しくてねぇ………。

 他の皆とお話してるんだよ。」

 

 

カーヤ「皆とお話………?

 ………カーヤおじいちゃんのところに行きたい………。」

 

 

ロベリア「あー………、

 今は止めといた方がいいかなぁ………。

 ママ達がおじいちゃんのところに行っても邪魔になるだけだし………。」

 

 

カーヤ「でもぉ………。」

 

 

ロベリア「………ママだけじゃ頼り無いかな………?」

 

 

カーヤ「そんなことはないけど………。」

 

 

ロベリア「そう焦らなくてもすぐにおじいちゃんには会えるよ。

 今はちょっとの間だけ我慢しよ?

 ね?」

 

 

カーヤ「………うん。」

 

 

ロベリア「………」

 

 

 娘の手前、強がってはみたが内心ではロベリアも不安が大きかった。これまではどうにか平静を保てていたがすぐ近くにヴェノムが迫っているという緊迫感と過去の一件から憎しみと同時に恐怖を植え付けられた敵バルツィエがやって来ているのではないかという危機感で体が震え出しそうだった。恐らくフリューゲルの住人達の中でもっともバルツィエに恐怖を抱いているのはロベリアだ。なにせ生きている者達の中でただ一人ロベリアだけがその魔の手にかかってしまったからだ。

 

 

 それでもその恐怖を押さえ付けていられたのは幼き頃より父ナトルから上に立つ者は常に冷静に状況を観察し行動すべしと教育を受けてきたことと隣にいる我が子に母親として恥ずかしいところを見せたくないという意地があったからだ。

 

 

ロベリア「(………人生は先が本当に見えないもんだなぁ………。

 ラーゲッツにあんな目にあわされてなければ多分私も他の人達のようにあわてふためいて逃げることだけに必死になっていただろうに………。

 

 

 ………でも今は自分が昔と比べて変わったことを実感してる………。

 一昔前の自分だったらきっとこんなことは考えたりしなかった………。

 今の私は自分が生き延びることよりも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤを最優先に考えてるなんて………。

 

 

 カーヤだけは………なんとしても私が守ってみせる。

 そこにはバルツィエの血だとかハーフエルフたとか関係ない。

 カーヤは私の娘なんだから………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスではどの部族も同族意識が強い。逆にいえば別の部族に対する当たりは激しいのだ。そんな環境下でハーフエルフの娘をもったロベリアはそういった固定観念に疑問を抱くようになった。

 

 

 生まれがどんな形であろうと、親と子で別々の種になろうとも家族は家族だ。家族に差別をしようだなどとは考えられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロベリアは一人、ダレイオスの古びた風習こそが間違いなのだと思うようになった………。



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はぐれる二人

リスベルン山 六年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう少しでユミルの森に到着する!!

 全員ちゃんとついてきているか!!?」

 

 

「問題ありません!!」

 

 

「行方不明の者がいたら速やかに報告しろ!!

 その者はこちらで捜索するから足を止めずこのままユミルの森まで向かえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「行方不明か………。

 誰かいなくなったりしたら探すのも一苦労だもんね………。

 

 

 ………まぁ、私達は大丈夫か………。」

 

 

 前の集団は全員で互い同士がいなくならないように気を付けながら進んでいる。そんな集団と離れて二人だけで歩くロベリアとカーヤは先導する男の言葉を特に気にすることもなくついていっていた。

 

 

 

ロベリア「(お父さん達とフラットはずっと前の方にいるだろうし私はカーヤを見張っていればいいだけだしね………。

 カーヤさえ無事ならそれで………。)「ママ………。」………ん?何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「カーヤ………、

 おトイレ行きたい………。」

 

 

ロベリア「おトイレ………?」

 

 

カーヤ「うん………。」

 

 

ロベリア「おトイレかぁ………。

 それは困ったなぁ………。」

 

 

 こんな非常時に突然カーヤがトイレを催促してきた。今のところ集団からは離れてはいないがそれでロベリア達がいるのは集団の最後方だ。ここで立ち止まりようものなら集団から離れてしまう。

 

 

ロベリア「…もう少し我慢できない?

 漏れそう?」

 

 

カーヤ「駄目………。

 漏れちゃう………。」

 

 

ロベリア「あらら………。」

 

 

 カーヤの目尻には涙が溜まっておりその様子からカーヤがここまでずっと我慢していたことが分かる。恐らく突然の避難行動で訳も分からず連れてこられてしまったために用を足す機会がなかったのだろう。普段は家などですませられるのだがここは外の森の中でトイレなどどこにもない。カーヤはずっと言い出せずにいたのだ。

 

 

ロベリア「…う~ん………、

 女の子が外でなんて行儀が悪いと思うけど………

 

 

 

 

 

 

 ………仕方ないよね………。」

 

 

 ロベリアはカーヤに用を足させることにした。

 

 

ロベリア「すみません!」

 

 

 ロベリアは後従の男に話しかける。

 

 

「ん?

 とうしたんだロベリア。」

 

 

ロベリア「ちょっと………、

 この子がもよおしちゃって………。」

 

 

「………こんな時にか………?」

 

 

ロベリア「うん………。」

 

 

「もう少し待てないか?

 もう少しでユミルの森に着くんだが………。」

 

 

ロベリア「そうなんだけど………、

 この子どうしても今漏れちゃうみたいで………。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

「………」

 

 

 男は渋い顔をする。ただでさえ今は少しでも先を急がねばならないという時に子供の用で歩を止めたくないからだろう。

 

 

 だが男は………、

 

 

 

 

 

 

「………そういうことなら仕方無いな。

 待っててくれ。

 今先の方にいる奴に事情を話して俺も一緒に行く。

 こんな場所で女と子供の二人だけで離れると危ないからな。」

 

 

ロベリア「え?

 いや、いいよいいよ!

 カーヤは私が見ておくから貴方は皆と先に行ってて!

 カーヤをトイレに行かせたら直ぐに追い付くから!」

 

 

「しかし………。」

 

 

ロベリア「もう!

 いいって言ってるのに………。

 ………そんなに女の子がおトイレしてるところに立ち会いたいの?」

 

 

「!?

 なっ………!?そんなことあるはすがないだろう!!

 俺は安全のためにと忠言しようとしただけで………!」

 

 

ロベリア「そうなの?」

 

 

「それ以外あり得ないだろうが………!

 こんな時だというのに人をからかうんじゃない!!」

 

 

ロベリア「フフ……、

 ごめんごめん………。

 ………でも有り難う。

 本当に私一人で大丈夫だから。

 貴方は皆と先に行ってて?

 カーヤが終わったら直ぐに追いかけるよ。」

 

 

「……本当にいいんだな?

 ………早く追い付いてこいよ?

 ここも安全とは言えんからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………じゃあ行こっか?

 皆に遅れないようにちゃっちゃと済ませちゃおう。」

 

 

カーヤ「うん分かった。」

 

 

 二人は辺りに人がいないのを確認し誰にも見られないように茂みの奥の方へと進んでいった。

 

 

ロベリア「(なるべく早くに追いかけないとなぁ………。

 置いてきぼりになったら私道わかんないし………。

 でも向こうの方から皆のマナを感じるからあっちの方に行けば追い付くよね?)」

 

 

 ロベリアは軽い考えで合流することを考えていた。精々カーヤが花を積む時間は一分にも満たない程度の時間だ。その程度の時間ならまだそう集団から引き離されることもないだろう。用を足すよりも追いかけることの方に時間を使いそうだ。それなら急ぎ終わらせて追い掛けねば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママ!」

 

 

ロベリア「もう終わったの?」

 

 

カーヤ「うん!」

 

 

ロベリア「そっか。

 じゃあ皆のところに戻ろ「うわああああああああああああ!!!!」!?」

 

 

 カーヤが用を足して集団に合流しようとすると近くで大勢がこちらの方へと走ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドトドドドドドドトトドドドドッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「なっ、何……!?」

 

 

ロベリア「この人達は………!?」

 

 

 ロベリアとカーヤの方へと向かってきた人々はどの顔にも見覚えがなかった。察するに先程の話にあったヴェノムに追われている別の村の住人達なのだろう。その住人達が雲の子を散らすようにこちらへと迫ってきて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!!

 

 

ロベリア「いつッ……!」

 

 

カーヤ「ママ!?」

 

 

ロベリア「………大丈夫………。

 これくらい平気だから………。」

 

 

「うわあああああああッ!!!?」「ヴェノムだぁ!!」「ヴェノムが来たぁッ!!」「逃げろおおおおおォッ!!」

 

 

 別の村の住人達は統制を失いそれぞれが別の方向へと逃げていく。どうやらもうヴェノムがすぐそこまで接近してきているようだった。

 

 

ロベリア「!!

 私達も逃げなきゃ……!?

 カーヤ!

 行くよ!!」

 

 

カーヤ「うっ、うん!!」

 

 

ロベリア「………さて、

 フリューゲルの皆に早く………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……!!?」

 

 

 ロベリアはフリューゲルの里の者達のマナを探りそれを追おうとするのだが今バラバラに通りすぎていった別の村の住人達のマナがサーチしてしまいそれらが色々な方角から伝わってくる。

 

 

ロベリア「(どっ、どうしよう………!?

 これじゃあどっちに向かったらいいのか分からない!!?)」

 

 

カーヤ「ママ………?」

 

 

ロベリア「!

 とっ、とりあえずこっちに行こう!

 こっちに逃げて行ってる人がいるからそれについていこう!」

 

 

カーヤ「うん………。」

 

 

 ロベリアは一先ずどこかの集団に合流することにした。たった二人でいるよりかは誰か他の人達がいる場所の方が心強いからだ。別の村の者達に知りあいはいないがとにかく誰か他に道を知る者と一緒にいた方がマシである。なので急ぎカーヤを連れて移動を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズキッ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………ッ!?」

 

 

 ふと歩きだした瞬間足首に痛みを感じた。

 

 

 

ロベリア「(これは………さっきの………!?)」

 

 

 先程走ってきた集団の誰かにぶつかり足を捻挫したようだった。

 

 

ロベリア「(………このくらいの捻挫ならファーストエイドをかければ直ぐに治るけど………。

 でもそれだと治療術で溢れたマナに引き寄せられてヴェノムが寄ってくる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ここは堪えてこのまま進もう!!)」

 

 

 足首から感じる痛みを堪えてロベリアはカーヤを連れて先に進みだした。怪我によって歩くペースは落ちるがそれでもヴェノムに追い付かれることはないはずだ。ヴェノムは動きが緩慢で移動し続ければ捕まることはない。ロベリアはそう自分に言い聞かせて先に進むことにした………。



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ヴェノムの追跡、そして落下

リスベルン山 六年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………ママ、どうしたの………?」

 

 

ロベリア「え!?

 何が………?」

 

 

カーヤ「ママ………歩き方が何か変だから………。」

 

 

ロベリア「こっ、これは………!!」

 

 

カーヤ「もしかして怪我してるの?

 怪我してるなら………カーヤが治してあげようか?」

 

 

ロベリア「…ダイエットだから!?

 もう少し先に行ってから治すから今はいいよ!」

 

 

カーヤ「………?」

 

 

ロベリア「………」

 

 

 カーヤの心遣いには感動する。こんな小さな子供が気を使って治療を申し出てくるのだからやはりこの子はどこからどう見ても普通の子供と変わりないのだ。こんな優しい子供を復讐に利用しようとしていた過去の自分を殴り付けてやりたい気持ちに刈られる。

 

 

 ………そんな優しいカーヤに心配させてしまうほど自分の歩き方は不自然だったか。なんとか不自然さを隠して歩いていたつもりだったが流石に大人が子供と同じ速度で歩いていればカーヤも様子がおかしいことに気付くか。今は一刻も早く避難しなければならないのだから。

 

 

カーヤ「………あっ!

 ママ見て!

 さっきの人達がいるよ!!」

 

 

ロベリア「!

 本当に!?

 もう追い付いたの!?」

 

 

カーヤ「だってほら!」

 

 

 カーヤが指を指した方向には確かに先程の別の村の住人達がいた。ということはもう森を抜けてきたと言うことなのだろうか。

 

 

 ………しかし、

 

 

ロベリア「(……いや、

 いくらなんでも早すぎる………。

 足を怪我した大人とまだ小さな子供の歩幅でこんな短時間で追い付ける訳がない。

 あの人達は………多分ただ()()()()()()()()()()()()()だけ………。

 ………一体何が………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっ、どうする!?

 引き返すか!?」

 

 

「それは危険だぞ!?

 俺達はこの森の地理を把握してないんだ!

 闇雲に移動すればそれこそ命取りだ!」

 

 

「だがヴェノムはすぐそこまで来てるんだぞ!

 もう引き返すしか「どうしたの!?」………!?」

 

 

 

 

 

ロベリア「何を突っ立てるの!

 こんなところで!」

 

 

「アッ、アンタは………?」

 

 

「他の里の奴か………。

 女一人と子供………?」

 

 

ロベリア「何してるのこんなところで?

 早く逃げないとヴェノムがそこまで来てるんでしょ?」

 

 

「それはそうなんだがよぉ………。」

 

 

「この先には進めそうにないんだよ………。」

 

 

ロベリア「進めそうにない………?

 一対何が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 !!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロベリアが追い掛けていた男達の先にあったのは落ちれば命はまず助からないと思われるような崖があった。男達はこの崖があって先には進めなかったようだ。

 

 

 崖の下の向こうには一色違った森林地帯が見える。あそこがユミルの森なのだろう。

 

 

 男達とロベリアは道を間違えてしまったようだ。

 

 

「………な?

 ここから先には進めそうにないんだよ。

 だから俺達は一度引き返そうかとしてたんだが………。」

 

 

「またここみたいなことになると今度こそおしまいだ。

 ヴェノムはもうすぐそこまで来てるんだ。」

 

 

「アンタ………、

 この辺の………あのフリューゲルの住民だよな?

 こっからあそこまで行けるルート知らないか?」

 

 

ロベリア「って言われても………。」

 

 

 ロベリアですらこのリスベルン山は中々訪れる機会がなかった。非常時にここに避難するくらいにしかフリューゲルでは伝えられてなかったためここからユミルの森に向かうルートなどロベリアには………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママ………。」

 

 

ロベリア「どうしたら………。」

 

 

カーヤ「ママ?」

 

 

ロベリア「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママ!!」

 

 

ロベリア「………ん?

 どうしたのカーヤ。」

 

 

カーヤ「ここを降りられないの?」

 

 

ロベリア「…降りたいのはやまやまなんだけど………。」

 

 

「お嬢ちゃん………こんな高いところから降りるってそりゃ無理だよ………。」

 

 

「そうそう、

 こんなところから飛び降りようものならそれだけで死んじまうよ。」

 

 

「ロープとかあればそれもできるだろうが俺達はそんなものは………、

 

 

 ………何かこのお嬢ちゃんマナが異様に高くないか………?

 まるでこれは………。」

 

 

カーヤ「だったらカーヤに任せて!

 カーヤなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ママもおじさん達も一緒に降ろしてあげられるから!」

 

 

 そう言ってカーヤは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!!?」」」

 

 

ロベリア「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 持っていたバッグからレアバードを展開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………カーヤ、

 これ家から持ってきてたの?」

 

 

カーヤ「うん。

 おじいちゃんがこれは大事な物って言ってたから無くさないようにカーヤが持ってきたの。」

 

 

ロベリア「そりゃ大事な物()()()()()………。」

 

 

 いつかバルツィエが攻めてきた時に空から一方的に攻撃されては部が悪い。ということでこのレアバードについてはカーヤに将来的に渡してフリューゲルを守ってもらうようにとっておいたのだが………、

 

 

ロベリア「………まぁいいか。

 これで下に降りられるのならそれで「うわああああああああああっ!!?」」

 

 

「「「バルツィエだああああああああああッ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男達は叫び声を上げながらその場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「あっ!?

 ちょっと………!?」

 

 

カーヤ「?

 乗らないの?」

 

 

ロベリア「………あの人達は………。

 ………まぁいいか………。

 勝手に逃げていったんだから仕方無いよね。」

 

 

カーヤ「?」

 

 

ロベリア「…それでカーヤ………。

 これにはママも乗せて飛べるの?」

 

 

カーヤ「二人乗りは試したことないけど………。

 ()()()()()()多分下までなら飛べるよ?」

 

 

ロベリア「そっか………。

 じゃあママを下まで乗せていってくれるかな?

 ママこのままじゃ下まで降りられないから。」

 

 

カーヤ「うんいいよ!」

 

 

 一先ずはこれで崖下には降りられるだろう。

 ………欲を言えばこのままユミルの森まで飛んでいくのが理想的なのだが………。とは思いはしたがこのレアバードですらもマナを発しながら飛行する乗り物だということは知っている。いかにスピードが早いといってもこれに乗りながらユミルの森に向かえば今度はユミルの森にヴェノムがやって来る。匿ってもらう手筈のアインワルド族を無用に危機に晒すわけには行かない。ここは崖下に降りるだけでいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロベリアとカーヤはレアバードに搭乗する。

 

 

ロベリア「…よし、

 じゃあカーヤ、

 落ちないようにゆっくりと下に「ヴェノムだああああああああああ!!!」!?」

 

 

 先程自分達から逃げていった男達が戻ってきた。

 

 

「ジュウウウウウウゥ!!!」

 

 

 男達のすぐ後ろにはヴェノムがいた。

 

 

「!!バルツィエの……!?」

 

 

「……この際バルツィエでも何でもいい!!

 俺達もそれに乗せてくれ!!」

 

 

 そう言って男達はこれから降りようとしていた二人の乗るレアバードに飛び乗ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「え!?

 ちょっ、これそんなに多くは乗れな……!?」ガクンッ!!

 

 

カーヤ「…!?

 バランスが………とれない!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急に三人の大人の重量が加算されたレアバードは安定が保てずに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崖の下まで落下していったのだった………。



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カーヤ、ロベリアと一時の別れ

リスベルン山 六年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………ぅっ………いたたた………。

 ………!?

 カーヤ?

 カーヤ大丈夫!?」

 

 

 レアバードで崖下まで降下しようとしたらカーヤに驚いて逃げていった他の村の住人達三人がヴェノムを引き連れて戻ってきてあろうことか三人が一斉にレアバードに飛び乗ってきてそのせいでロベリアとカーヤと男達は一気に崖下まで落ちていった。いち早く気がついたロベリアはカーヤの無事を確認しようとするが………、

 

 

カーヤ「………ママ………。」

 

 

ロベリア「カーヤ!!」

 

 

 カーヤは無事だった。カーヤがいたのは崖下にはあった木の上でロベリアと男達は木の枝をへし折りながらなんとか落下の衝撃を和らげながら落ちたため地面にまで到達してしまったがカーヤは体重が軽かったため木に引っ掛かって地面に叩きつけられるようなことはなかったようだ。

 

 

ロベリア「……よかった………、

 カーヤが無事で………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつっ!?」

 

 

 カーヤの無事を確認して気が抜けた瞬間不意に腕に激痛が走る。見れば右腕が赤く腫れ上がっており痛々しい血が流れ出していた。

 

 

ロベリア「(あぁ………、

 そういえば落ちてる時に痛む足を庇って手でちゃくちしようとして失敗したんだなぁ………。

 ………どんどん怪我が増えていく………。

 これじゃあその内両足ともやっちゃうかもねぇ………。)」

 

 

 ロベリアは現時点で右腕と左足を負傷している。コンディション的にはあまり動くのはよくないのだが頭上を見上げればヴェノムが崖上から降りてきそうだった。ヴェノムが降りてこない内に早く逃げなければ………、

 

 

 痛みを感じることによってロベリアは逆に頭が冴えていた。ここにいるのは子供一人と気絶した大人が三人………、

 

 

 そして意識のある自分の五人だ。ここで自分がとる行動は………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボドンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュウウウウウウゥ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムが崖上から飛び降りてきた。不定形のスライムのような体は落下による衝撃はさほど気にすることもないのだろう。いよいよヴェノムに追い付かれてしまったところでロベリアは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「『ファーストエイド!!』」パァァッ…

 

 

 自らの足にファーストエイドをかけて足の痛みを軽減させた。

 

 

 ………そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「『ファーストエイド!!』」パァァッ…

 

 

 再度ファーストエイドを唱える。今度は右腕だ。ロベリアは自分の負った怪我を治しながら駆け出した。

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママ!?

 どこにいくの!?」

 

 

 自分を置いて走り出したロベリアにカーヤが呼び止める。

 

 

ロベリア「カーヤ!!

 そこの人達を起こしてユミルの森に先に行ってて!!」

 

 

カーヤ「ママは!?」

 

 

ロベリア「ママを後から追い付くから!!

 こいつを適当に巻いたら必ず追い掛けるから!!」

 

 

 ロベリアは自らヴェノムを引き付ける囮役を買ってでた。ヴェノムはロベリアが発した術に引き寄せられるようにロベリアを追跡していく。

 

 

 

 

 

 

ロベリア「(……!

 ………まだ怪我は完全には治ってないけど走れるくらいには余裕ができた………!

 後はあの人達とカーヤが逃げてくれればいいんだけど………。)」

 

 

 ロベリアは一児の母であると同時にフリンク族の長の娘でもある。同胞が危険な目にあっていればそれを助けなければならないという使命感があった。だから瞬時に状況を整理して全員が助かる効率的な選択をしたつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「(……ヴェノムは………、

 

 

 ………ちゃんと私に付いてきている。

 走り続けていれば追い付かれることはなさそうだね。

 ………後は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()だけど………。)」

 

 

 

 

 

 

 フリンク族はあまり戦闘が得意ではない。戦闘が得意ではないというのは彼等が他の部族に比べて長時間または魔術の使える回数が少ないからだ。彼等は自分達の弱さを自覚している。そういった理由あってからか普段滅多に魔術自体使用することがない。それ故に………、

 

 

 

 

 

 

 戦闘を避けてきたフリンク族はマナという命そのものを削って超常的な力を発する魔術を使用する極端に疲労を感じてしまう。

 

 

 フリンク族の大人が使える魔術の使用限界数は一日平均して五回前後………。五回しか使えないということはロベリアは残り三回、多くて四回ほど残っている計算になるが二回使ってしまったロベリアは()()()()()()()退()()()()()()それは全身にとてつもない虚脱感や疲労感に襲われていることだろう。

 

 

 追加でこの山への道中とユミルの森へ向かう道中でも慣れない長距離移動で精神と肉体両方に負荷がかかっていた。実質的にロベリアが自由に動き回れるのは健常時の半分以下程度に低下している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「(………カーヤ………、

 ママは貴女を無意味な復讐に巻き込もうとしていたけど今はもうそんなことは考えてない………。

 カーヤはカーヤらしく生きていればそれでいいの………。

 ………いつか貴女にそのことを笑って話せる時が来たらいいな、って今は思うよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………なんてこんなこと今考えることじゃないよね。

 どうしてこんなことを今考えたんだろ私は………。

 ちょっと不安になってるのかな?

 私がこのヴェノムから逃げ切れるかどうかに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ママは絶対に生き残るからね!!

 カーヤもその人達を連れて安全なところに早く逃げて!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時ロベリアがそんな暗くもあり明るくもある過去の話をカーヤに伝える未来は訪れなかった………。

 

 

 

 

 

 

 この後に二人に待ち受けていたのは今生の別れ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それだけだったのだから………。



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ロベリアを探しに

リスベルン山 六年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママ………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ママが………行っちゃった………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 母親が突然自分を置いてどこかへと去っていくのを眺めているだけしかできなかったカーヤは不安に押し潰されそうになる。これまでカーヤは母親と祖父の三人で生活をし一人になる機会は全くと言っていいほどなかったからだ。その理由は自身の中に流れる血が原因だということはカーヤも理解していた。カーヤは他のフリンク族達とは違う血が混じった混血だ。父親が誰なのかは何となく聞いてはいけないことなのだと察して聞くことはなかったがそれでもそれが理由で自分は周りから浮いている存在だということは分かっていた。カーヤは自分が周りから浮いているのであれば自分が接する人は母親と祖父の二人だけでいいと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな思考に陥っているというのに母親からここで気絶している三人の男達を安全な場所まで誘導しろと命令されてしまった。非常時とはいえコミニュケーション能力に欠ける自分になんという酷なことを言い付ける母親なのだろうとカーヤは内心で母親に愚痴を溢す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでもカーヤは母親の言い付けに従うことにした。母親が自分にそれを頼んできたということはカーヤを頼りにしていると言うこと。母親から頼られた、期待に応えたい。子供心に親孝行したいという思いからカーヤは男達を母親の言う通りに安全な場所まで連れていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「(ママは心配だけど………大丈夫だよね?

 ママだもん………。

 ()()()()()()()に追いかけられててもママならきっと大丈夫………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時カーヤはヴェノムについてそこまで深く危険な生物であるということを認識していなかった。ロベリアとナトルの庇護下で大切に育てられたカーヤはヴェノムどころかモンスターとすらまともに遭遇したことがなかった。当然フリューゲルの周りにもモンスターはいたのだが大抵は母親が遭遇する前に危険なモンスターの気配を察知してモンスターが見える前にカーヤを退避させるのとモンスターであってもカーヤよりも体の小さなラビットやチャイルドボア等を遠目に見物したことがあるくらいだった。

 

 

 先程ロベリアを追いかけていったモンスターは体の大きさが自分よりは大きかったが大人よりかは少し小さめのサイズだった。どうして大人達があんなモンスターを怖がっているのか理解できなかった。

 

 

 このような考えに育つ子供は実はダレイオスではそう少なくはない。子供が本当にそれを危険なものだと知るのはそれの危険性を目の当たりにしなければ中々イメージできないのだ。ダレイオスはマテオに比べてヴェノムによる災害は多い。マテオも決して少ないとは言い切れないがマテオでは封魔石などのヴェノム対策が施されているためマテオの方が必然的に災害は少なくなる。それに対してダレイオスでは未だに時間でやり過ごすくらいの対策しか立てられていない。ヴェノムに遭遇したら直ぐに逃げるかヴェノムが這い上がってこれないような高所に逃げるしか手はないのだ。そうした方法しかダレイオスにはないためにダレイオスの住民達はマテオの住民の数倍はヴェノムに対する警戒心が強いのだ。警戒心が強いダレイオスの住民達は先ずヴェノムの近くにはいかない。ヴェノムに触れてしまえばそこから災害が拡大するためだ。

 

 

 だからこそ大人達は子供が無警戒にヴェノムに近寄らないように見張る。そして子供達はヴェノムがどのように危険なのか知らずに育つ。カーヤもその例に当てはまっていた。カーヤの場合はヴェノムだけじゃなくフリンク族の住民達からも疎ましく思われているためロベリアは一時もカーヤの側を離れることはなかった。おかげでカーヤは命の危険に晒されるようなそんな事態に陥ることはなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………今この現状が初めての危険との遭遇だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「……とっ、とにかくおじさん達を起こさなきゃ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」「っ………」「すぅ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「(どうやって起こせばいいのかな………。)」

 

 

 カーヤはフリューゲルにいた時でさえ他人と接することがなかった。母親と祖父以外で話をするのも今回が初めてだ。まだ会話自体が始まってはいないがカーヤは緊張で喉から上手く声が出せなかった。

 

 

カーヤ「………ぁ………の………。」

 

 

「「「………」」」

 

 

 か細い声がカーヤから発せられるがこの程度の声量では男達が起きる気配はなかった。

 

 

カーヤ「………」

 

 

 カーヤはどうしたら男達が起きるのか考えた。自分が普段どうやって起こされているのか思い出してそして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィイイイイイィィィィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レアバードの起動音を立てて男達が目覚めるのを促してみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!?うおっ!?何だ!!?」「何だ何が起こった!?」「!そうだ!確かバルツィエの子供が………っているし!!?」

 

 

 カーヤの作戦が成功し男達は目を覚ました。後は男達を安全な場所に連れていくだけなのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「うわああああああああああああああッ!!!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「あっ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました三人の男達はカーヤに気付くとカーヤから逃げるように走って逃げていった。御丁寧に男達が逃げていった方角は先程崖の上から見下ろして確認したユミルの森の方向だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「(……ママにあの人達を安全なところに連れていくように言われてたけどママが言ってたユミルの森とかいうところにあの人達だけでも行けそうだね………。

 ………じゃあ後は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ママを探しにいかないと!)」

 

 

 男達の面倒を見る必要がなくなったカーヤはロベリアを探すことにした。ロベリアがいないと一人で心細かったためロベリアが走っていった方向にカーヤはレアバードで飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その先に待ち受けていたのはこれからのカーヤが地獄の日々を過ごす羽目になった決定的な出来事が待ち受けていた………。



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ロベリア発見しかし…

リスベルン山 六年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィイイイイイィィィィィィィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママ……!!」

 

 

 カーヤはあれからレアバードでロベリアを必死になって探した。カーヤの推測ではまだそこまで遠くには行ってないはず、まだ近くにはいるはずだ。そう思いロベリアを追っていったヴェノムの残した地面の這いずり痕を辿っていった。この痕の先に先程のヴェノムというモンスターとロベリアが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェノム「ジュウウウウウウゥ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!」

 

 

 思いの外ロベリアを追跡していたヴェノムに早くに追い付いてしまった。ヴェノムはカーヤが接近してきたことによりカーヤに狙いを定めて近付いてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかし、そこにはロベリアの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………ママは………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェノム「ジュウウウウウウゥ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………ママはどこなの………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェノム「ジュウウウウウウゥ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェノム「ジュウウウウウウゥ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………ママはどこに行ったのッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアアアアアアアア…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤはロベリアの姿を確認できなかったことで目の前のヴェノムがロベリアを捕食してしまったのだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのことでカーヤはヴェノムに激昂しヴェノムへ魔術を炸裂させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「『ファイヤーボールゥゥゥゥ!!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェノム「ジュブッ………………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤのファイヤーボールによってヴェノムはバラバラに飛散し弾けとんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「……ハァ………ハァ………!!

 ………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………ママ………!」グスッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤは目尻に涙を貯めて母親の名を呼ぶ。自分はたった今母親を失ってしまった。そのことに深い悲しみとこれから先母親がいない絶望感にうちひしがれるが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュウウウウウウゥ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュウウウウウウゥ!!」「ジュウウウウウウゥ…!!」「シュウウウウウウウウウ!!」「ジュウウウウウウゥ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「……!?

 なっ、なんでまだ………!?」

 

 

 カーヤがバラバラに吹き飛ばしたヴェノムが再度カーヤへと迫る。体が複数に分かれようともそれをものともせずに這いずり寄ってくるヴェノムの姿にカーヤは恐怖が込み上げてきた。

 

 

 体が散ろうとも死なずに獲物へと突き進む不死の生物ヴェノム。大人達がこの生物を危険視しているのはこの並外れた生命力があるせいだからか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くとカーヤはヴェノム達に囲まれていた。飛び散った個体がカーヤを包囲し逃げ道を塞ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「うっうぅぅぅ……!」

 

 

 カーヤは急に怖くなってその場に屈みこみ目を閉じた。怖いモンスターは目を閉じて再び目を開けた時にいなくなるのを願って………、

 

 

 だが現実がそんな都合のよくなることが起こることはない。ヴェノム達は屈もうが目をつぶろうが関係なくカーヤに襲い掛かろうとして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カーヤ!!

 ボーとしてないで上に飛ぶの!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤのいた場所の上の方からカーヤに向けて声がかかった。その声は生まれた時からずっと聞いてきたというのに聞き飽きることはなく今もっとも聞きたかった声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「カーヤ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママアアアアアッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィイイイイイィィィィィィィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤはロベリアの指示に従いレアバードを使って飛翔する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママ!!掴まって!!」

 

 

ロベリア「はいよ!」

 

 

 

 

 

 

ヒュッ!パシッ!

 

 

 

 

 

 

 ロベリアはカーヤがレアバードで飛び上がって来たタイミングでレアバードの真下に()()で掴まった。

 

 

カーヤ「ママ………!

 無事だったんだね………!?」

 

 

ロベリア「なんとかね!

 さっきの人達はどうしたの?」

 

 

カーヤ「起きたらあっちの方に行っちゃったよ!」

 

 

ロベリア「あっち?

 あっちは………ユミルの森の方だね。

 上々!」

 

 

カーヤ「ママ!

 そこ掴まり辛くない!?

 こっちに乗りなよ!」

 

 

 カーヤはロベリアがレアバードの真下にぶら下がっているのを見て掴まっている手が滑りでもしてロベリアが空中から落下してしまうことを懸念してそう言うのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「平気!!

 このままユミルの森まで飛んで!!」

 

 

カーヤ「でも………。」

 

 

ロベリア「いいから!

 ユミルの森はもうすぐそこに見えてる!

 今はユミルの森に辿り着くことだけを考えて進んで!!」

 

 

カーヤ「………うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロベリアはそう言うがカーヤはロベリアのことが心配だった。先程ロベリアは腕と足を負傷していたはずだがそれはどうなったのだろうか?治療術は術者の能力の度合いで回復効果が上下する。治療術自体はロベリアは使えるようだがそれでも精度はそこまで高くない。家によく顔を見せに来るフラットが代わりにロベリアを治療するくらいだ。先刻ヴェノムから逃げる際に応急措置として治療術を使っているのは見たがあれで完治できたのだろうか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママ………。」

 

 

ロベリア「………」

 

 

カーヤ「ママ………?」

 

 

ロベリア「………!

 だっ、大丈夫だから!

 私のことは気にしなくていいから早くユミルの森に………!」

 

 

カーヤ「……うっ、うん………。」

 

 

 ロベリアから急かされたためにカーヤはユミルの森に飛ぶことに専念した。よく考えれば腕と足を負傷していたままでいたのなら木の上に登ったりレアバードに飛び移ったりこうしてレアバードに掴まっていられる訳がない。怪我自体が大したことなかったのだろう。そう思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「(………しくったなぁ………。

 とうとうこの時が来たのかぁ………。

 まだもう少し()()()()()()()()んだけど………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ごめんねカーヤ………。

 …もうママは………カーヤに()()()()()()()()もできなくなっちゃった………。)」



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離れている間に母は………

ユミルの森 六年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………!?

 あれは………!」

 

 

フラット「ロベリア!!

 ………まったく………心配かけさせて………!

 途中でいなくなったことに気付いた時は冷や汗をかいたぞ!」

 

 

 ロベリアとカーヤがフリューゲルの避難民達からはぐれた後避難民達は全員ユミルの森まで到着していた。到着してから全員がいるか確認するとロベリアとカーヤの二人だけが用があると言って団体から離れたのを先程最後尾の男から聞いたところだった。

 

 

 そして今カーヤの操縦するレアバードで飛んでくるロベリアとカーヤを発見したのだが、

 

 

ナトル「………?

 何故ロベリアはあのようにぶら下がっているんだ………?」

 

 

フラット「なんでもいいでしょう!

 とにかくロベリアが無事だったんですから!」

 

 

ナトル「………それもそうだな。

 カーヤもいることだしな。

 迎えに行くとするか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィイイイイイィィィィィィィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!

 ママ!

 おじいちゃん達が見えたよ!」

 

 

ロベリア「!本当!?」

 

 

カーヤ「うん!

 おじいちゃん達もカーヤ達に気付いてるよ!

 こっちに走ってきてる!」

 

 

ロベリア「………そう………。

 ………じゃあカーヤ………、

 

 

 ()()()()()()()()()()?」

 

 

カーヤ「ここで………?

 もう少し先まで飛んだ方がいいんじゃないの?」

 

 

ロベリア「いいの………ここで………。

 これ以上進むとヴェノム達を余計に引き寄せちゃうから………。」

 

 

カーヤ「………分かった。」

 

 

 ロベリアがナトル達と合流する数百メートル手前でレアバードを降下させるように言ってきた。カーヤも数分前に出会したヴェノム達から大分距離を引き離せたと思いそれに従うが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィィィィィ………!

 

 

 ロベリアがレアバードの真下に掴まっているため地面から人一人分空いた空中でホバリングしてロベリアを大地に降り立たせようとするカーヤ。ロベリアもカーヤの意図を理解して地面にゆっくり足を着ける。その後カーヤもレアバードをウイングバッグに収納して着地するのだったが、

 

 

 

カーヤ「…?

 ママ………?

 皆のところに行かないの………?」

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママ………?」

 

 

 どうもロベリアの様子がおかしい。ロベリアは合流してから何か思い詰めたような顔をしているし汗もものすごい量を………、

 

 

 

 

 

 

 ………ものすごい量というような汗のかきかたではなかった。まるで水でも被ってきたかのように衣服が濡れている。それでいてロベリアの近くが異様に温度が高いような気がするが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ロベリアァァァァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「あ………おじいちゃんとフラットさんが来たよ………?

 ママおじいちゃんのところに行「カーヤ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………これから言うことをよく聞いてね?

 ………ママ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤと一緒にいられなくなっちゃった………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………え?

 ………それ………どういう意味なの………?」

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………」

 

 

カーヤ「………と、とにかくおじいちゃん達のところに行こうよ!

 ママが何言ってるのか分からないけどカーヤはママとずっと一緒だよ………?」

 

 

ロベリア「………ごめんね………。」

 

 

カーヤ「………も、もう!

 早くママもあっちに行「触っちゃ駄目!!」!!?」ビクッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「…もうカーヤはママに触っちゃ駄目………。

 ママに触るとカーヤにも病気が移っちゃうから………。」

 

 

カーヤ「移る………?病気………?

 ………ママ病気になっちゃったの………?

 だったら尚更おじいちゃん達に言って病気を治さないと………。」

 

 

ロベリア「…うぅうん………。

 ママがかかった病気はね?

 ………もう治らない病気なの………もう手遅れなんだよ………。」

 

 

カーヤ「……いつ病気になったの?

 今までママが病気だなんて一言も聞いてないよ?」

 

 

ロベリア「ママが病気になっちゃったのはついさっきのことだよ。

 カーヤと離れてからママは病気になったの………。」

 

 

カーヤ「………?

 ついさっき病気になったのなら早めに薬を作って飲めば治るんじゃないの?」

 

 

ロベリア「だから治らない病気なんだよ………。

 もうヴェノムに感染した人の症例に当てはまることが複数ママの体に出始めてる………。

 ………だからカーヤとは………、

 

 

 一緒にいられないの………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………カーヤ、ママが何言ってるのか全然「ロベリア!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ロベリア!!

 心配したんだぞ!

 姿が見えなかったから僕はてっきりヴェノムに「フラット。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「その通りなんだよ………。

 ………私は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムに感染しちゃったんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………………………何だって………?」

 

 

ナトル「………ロベリア………、

 お前今何と………?」

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………私ヴェノムに感染したの………。

 だから皆とは一緒に行けない………。」

 

 

 

 

 

 

ナトル「………………!?

 ………お、お前………!

 ヴェノムに触ってしまったのか!!?」

 

 

ロベリア「……うん……。」

 

 

フラット「そんな………!?

 どっ、どうしてそんなことに………!?」

 

 

ロベリア「あぁー………なんかね?

 そこら辺にいた他の村の人達がヴェノムに追い掛けられててそれを助けようとして………、

 ………ドジ踏んじゃった………。」

 

 

ナトル「他の村の人達……!?

 お前はその人達を庇ってヴェノムに………!?」

 

 

ロベリア「そう………。

 いやぁからまいったなぁ………ハハハ。」

 

 

フラット「笑い事じゃないだろう!!?

 本当にヴェノムに感染してるのか!?

 何かの間違いなんじゃないのか!!?

 それか僕達をからかってるんじゃ………!?」

 

 

ロベリア「……残念だけど感染してるのは確かだと思う。

 感染した人特有の症状が私の体に起こってるから………。

 ………今スッゴく体が熱いんだ………。

 そしてさっき腕を骨折して足を捻挫してたから治療術で応急手当はしたんだけど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のを感じたの………。

 ………私の治療術の腕前を知ってるでしょ?

 それがこんな短期間で治ったんだよ?

 ………これでハッキリした………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は間違いなくヴェノムウイルスに感染してる。

 もう私はどのみち長くないよ………。」



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ロベリア自己崩壊

ユミルの森 六年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「嘘だッッッ!!!」

 

 

 フラットが叫びロベリアの言葉を否定する。

 

 

ロベリア「フラット………。」

 

 

フラット「君がヴェノムに感染しただなんて嘘だ!!

 何か思い違いをしているだけなんだよ!?

 君の命がそんな長くないだなんて………!!

 そんな冗談止めてくれよ!!?」

 

 

 フラットがロベリアに駆け寄ろうとする。それを察してロベリアは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「駄目ッ!!『ウインドカッター!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオスッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牽制するようにウインドカッターを放ちロベリアとフラットの間に一本の線を引いた境界を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(!?

 この威力は……!?)」

 

 

フラット「ロベリア!!

 何をするんだ!!?」

 

 

 

 

ロベリア「だから来ないでって言ってるでしょ………?

 もう一つ感染してる証拠として今のがそうだよ………。

 感染者は感染したらウイルスの作用によって()()()()()()()()()()()()

 私の中のマナは今猛烈な勢いで別の物に変わろうとしている………。

 今はまだこうして喋っていられるけどもうじき私の意識もヴェノムに呑み込まれて無くなる………。

 

 

 ………お父さん、フラット………そしてカーヤ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今まで有り難う。

 私は生きてて十分幸せだったわ………。

 もう私は十年前のことを払拭できた………。

 ………後は自分のことは自分で()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「マ、ママ………?」

 

 

ナトル「どうするつもりなんだロベリア………。

 お前まさか………。」

 

 

 

 

ロベリア「お父さん………カーヤをお願い。」

 

 

ナトル「………」

 

 

 ナトルは無言でカーヤのもとへ行きカーヤの手をとってロベリアから離れる。

 

 

フラット「………………待て………、

 ………待て!!

 ロベリア……!

 君はまさか自分で死ぬ気じゃ………!?」

 

 

 

 

ロベリア「………ヴェノムに感染したらこうするしかないでしょ………?

 何もせずにゾンビになるのを待って私が………私の体がフラットやお父さん、カーヤ、他の人達を襲い始めるのなんて嫌だもん………。

 だからこうするんだよ………。

 ………今から私は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………え?

 消………滅………?」

 

 

 

 

 

 

フラット「止してくれ………。

 自分で死を選ぶなんて馬鹿げてる………。

 君は本当にそれでいいのか!!?」

 

 

 

 

 

ナトル「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「だってこうするしかないでしょ………?

 この世界でヴェノムに感染して助かった話なんて一つも聞いたことがない………。

 私がこのあと逝くのは確定なんだよ………。

 だったらせめて私は()()()()()()()()()()()()………。

 娘の見ている前で私が別の何かに変わるところなんて見せたくないし………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロベリアは空に手をかざして全身のマナを解き放つ体勢に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「!

 ロベリア?

 ロベリアァァァァァッ!!?」

 

 

カーヤ「ママァッ!!?

 何してるの!?

 死んじゃうよ!?

 止めてよ!!?」

 

 

 フラットとカーヤの二人はロベリアの元へと走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「……!?

 族長……!?」

 

 

カーヤ「おじいちゃん!

 ママが………!

 ママが………!?」

 

 

ナトル「………頼む二人とも………。

 ロベリアの決意を無下にするようなことはしないでくれ。

 ………これ以上ヴェノムに侵される者を増やすわけにはいかないんだ………。」

 

 

 走り出した二人をナトルが手を掴んで止める。二人はロベリアのもとへ駆け寄ることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………有り難うお父さん………、

 私の最期のお願いを聞いてくれて………。

 ………これで私は人のまま逝ける………。

 ………人のままで………終わりを迎えることができる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………皆この世界で必ず生き延びてね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後ロベリアのマナが空に向けて一斉に解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………ママ………?」

 

 

フラット「ロベリア………?」

 

 

ナトル「………ロベリア………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恐る恐る三人がロベリアの名を呼ぶがロベリアから返事はなかった。フリンク族のマナ察知能力でロベリアのマナを探ろうとしたが彼女からはマナの一欠片も感じることができなかった。この反応は………ただの屍だ。マナを、心を失った屍と化したのだ。屍は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがてその場に仰向けに倒れこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ロベリア……!?」

 

 

ナトル「まだ近付いてはいかん!

 まだヴェノムウイルスが消失したとは限らないんだ!」

 

 

フラット「!

 ………しかし!」

 

 

 倒れたロベリアに走り出そうとしたフラットをナトルが更に強く引き留める。こういう時にロベリアのもとへ一番に走り出したかったのはナトルだったが族長としての使命があったために自分で自分を押さえ付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………と、フラットを引き留めることに一瞬気をとられてカーヤがナトルの手を振り払う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「!?

 カーヤ………!?

 待て!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママアアアアアアッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤは母親の元へと駆け付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママ………!

 ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駆け付けたカーヤはロベリアを抱き起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママ!?

 ママ………!?

 返事をして!!

 ままで!!?」

 

 

ロベリア「………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………カー…………………ヤァ…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かろうじてロベリアは意識を保っていた。しかしその意識は途切れ勝ちで今にも消えてしまいそうだった。

 

 

カーヤ「ママ!

 起きてよ!?

 ママ!

 ママ!!」

 

 

 カーヤはロベリアの意識が途切れないように何度も揺さぶったり声をかけたりする。

 

 

ロベリア「……そんなに大声を出さなくても……聞こえてるよ………。

 ………………私の大事な大事な娘の声だもん………。

 どんなに遠く離れてたってちゃんと届くから………。」

 

 

カーヤ「ママ………!

 マ………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………あぁ………、

 やっぱり消えちゃうみたいだね………私………。」

 

 

 ロベリアの体がだんだんと光だし、その光が大気へと溶けるように消えていく。

 

 

カーヤ「………やだ………、

 やだよぉ………!

 どうしてママが消えなくちゃいけないの!!?」

 

 

 カーヤはロベリアが消えぬように引き留めようと()()()()()()()()()()()()のだが、

 

 

ロベリア「…カーヤ………、

 ………ママに触れちゃ駄目なんだよ………。

 ………ママに触ったらカーヤもママみたいに………。」

 

 

 言葉ではカーヤに離れるように言うが直接カーヤを引き剥がしたりはしないロベリア。マナを全て失ったことで彼女は既に指一本動かす力すら残っていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママァ………消えるなんてやだよぉ………。

 カーヤまだママと……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………カーヤ…………、

 ………最後に一つだけカーヤに伝えたいことがあるの………。」

 

 

カーヤ「………伝えたいこと………?」

 

 

ロベリア「………………カーヤ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………カーヤが生まれてきて私はよかったよ…………。

 カーヤを復讐にあてがおうとしてたなんて今思えば間違ってたって思える…………。

 …………だからカーヤは生まれてきて本当によかったと思うよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………カーヤは自分の生きる意味を探して頑張って生きてね…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を最後にロベリアは消えた。体を光に変えて世界の輪廻の輪へと還った。これ以後ロベリアはカーヤ達の前に姿を現すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は完全に世界へとその細胞一つ残らず還元されたのだった………。



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地獄の日々の始まり

ユミルの森 六年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「…………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………生きる………意味………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤにはロベリアが最後に残した言葉の意味が分からなかった。自分が()()()()()というどこかの組織の男を父親に持つせいでフリューゲルでは浮いていたがそれ以外は普通のフリンク族として何一つ違いはない、と自分ではそう思ってる。

 

 

 そんなに自分に生きる意味とは………?最後に母親が妙なことを口走っていたのも気になる。復讐がどうだとか………。

 

 

 復讐とは一体………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「うあああああああああああああああああッ!!?

 ロベリアアアアアアアッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タタタタタタッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ロベリア……!?

 ロベリアアアアアアアァァァァァッ!!」

 

 

 寸前までロベリアがいた場所に走りより消えたロベリアの光を手繰り寄せるように手を一心不乱に振るフラット。

 

 

 ………しかしそんなことをしてもロベリアが元に戻ることはなかった。ロベリアは自ら消える道を選んだのだから。一度死んだ者が蘇ることはない。一度死んでしまえばどんなことをしても死者が生き返ることができないのはどの世界でも決まっている残酷な事象だ。それが死体さえ残っていないであればなおのこと………。

 

 

 

 

 

 

フラット「何で………!!

 何でこんなことになった!!?

 畜生!!

 僕がちゃんとついていればこんなことには………!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くぅぅああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 その場で泣き崩れるフラット。それほどまでにロベリアを愛していたのだろう。それを遠目に見ていたナトルは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(………ロベリア………。

 どうしてお前が私より先に逝くんだ………。

 私は不幸に見舞われたお前にはこれから先、生きていてほしかったのに………。

 ………親不孝者め………。

 お前がいないのであれば私はどうしたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いつかは私の身近な誰かがこうなることは予測はしていた………。

 それがお前だったのは私も辛いところだが最期にお前がカーヤに託した思いは私が守っていこう。

 これからは私とカーヤとフラットの三人で………。)」グスッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………………………………どうしてこうなった………。

 ………誰のせいでこうなったんだ………。

 どうしてロベリアが死ななくちゃならなかったんだ………。

 どうしてロベリアが………ロベリアが………、

 ロベリアがロベリアがロベリアがロベリアがロベリアがロベリアがロベリアがロベリアがロベリアがロベリアがロベリアがロベリアがロベリアがロベリアがロベリアがロベリアが…………………………………………………………。」ブツブツブツブツ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「?

 ふっ、フラット………?」

 

 

 泣いていたフラットが突然ロベリアの名前を連呼しだす。その様子からはとても正気だとは思えなかった。ロベリアが死亡してショックなのは一緒だったがそれでも今がまだ避難しなければいけない状況なのは変わらない。ナトルはカーヤとフラットを起こして急ぎこの場をあとにしようとするが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママ………。」

 

 

フラット「………!

 …………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前のせいでロベリアが死んだだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「……いぁ!?」

 

 

ナトル「フッ、フラット!!?」

 

 

 フラットが隣にいたカーヤを思いっきり殴り付ける。子供のカーヤは大の大人の力に抗えずに殴り飛ばされた。

 

 

フラット「……どうしてロベリアがお前と二人で集団からはぐれてヴェノムに感染することになったか………!

 話は聞いてるんだよ!!

 お前が尿意を催したせいでロベリアはお前の面倒を見るしかなくて………ヴェノムに追い付かれて感染したんだろ!!?

 お前がロベリアを殺したんだ!!!」

 

 

ガスッ!!

 

 

カーヤ「……ゲホッ!?」

 

 

 倒れ伏すカーヤを今度は蹴り飛ばすフラット。このままではカーヤがフラットに殺されかねない。見かねたナトルがフラットを止めにはいる。

 

 

ナトル「待てフラット!?

 今はそんなことをしている場合じゃないだろう!?

 急いでアインワルドの巫女の元へ「止めないでください族長!!」」

 

 

フラット「………ロベリアが………、

 ロベリアが死んだのはこいつが原因なんですよ!?

 こいつがロベリアを殺したんだ!!

 こいつに生かしておく価値なんてない!!

 本当はお前が死んでいればよかったんだ!!」

 

 

カーヤ「………カーヤのせいで………ママが………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポタッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「そうだ!!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 何のためにロベリアはお前を育てていたと思っているんだ!!?

 お前はロベリアに使われるために「そこまでだフラット!」」

 

 

ナトル「その話はまだ私は全てを話していない!

 ロベリアはカーヤを…………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「なっ………!?

 お前………!?」

 

 

ナトル「カーヤ……………!?

 まさかヴェノムに………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………?

 ……なに………これ…………?

 

 

 

 

 

 ………()()()()()()………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラットに殴られて流れ出た血が地に落ちた瞬間蒸気を発して地を溶かし始めた。この反応はヴェノムに感染した者特有の反応はである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤはヴェノムに感染したのだ。先程ロベリアがマナを使い果たして倒れた際に抱き起こしてカーヤはロベリアからヴェノムウイルスを感染させてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤがヴェノムに感染したのは母親のロベリアからだったのだ………。



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広まるすれ違い

ユミルの森 六年前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………?

 何でカーヤの血が………?

 ………それに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (………ぶたれたのに全然痛くない………?どうして………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………やっぱりお前だったんじゃないか!!!

 お前がヴェノムに感染してロベリアに移したんだ!!

 お前の感染したウイルスがロベリアに移ってそれから………!?

 ………もしかして僕にも………!?」

 

 

ナトル「!?」

 

 

 もしカーヤからロベリアに移ったのであればロベリアとカーヤの二人と合流した時既にカーヤは感染していたことになる。………とすればナトルとフラットは感染していたカーヤに触れてしまったことになるが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………フラット………、

 体に変化はあるか?

 何か不調を感じたりは………?」

 

 

フラット「………いいえ、

 僕は特には………。

 ………ロベリアが亡くなってしまったことによる精神的な苦痛以外には何も………。」

 

 

ナトル「…それは私もだが………。」

 

 

フラット「………どうやら僕と族長には感染しなかったみたいですね………。

 ………それにしても………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 母親を殺しておきながら自分は生きながらえているなんて………なんて烏滸がましい奴なんだ……!!

 カーヤ!!

 お前だけヴェノムに感染して死んでればよかったんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!?」ビクッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「フラット!!

 もうよせ!!

 カーヤに当たったところで無意味だ!

 そんなことよりも今はこれからどうするかを……!」ザワザワザワザワザワザワ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだどうしたんだ!?」「早くアインワルドのところに向かいましょうよ族長!」「何してるんですか!!」「ヴェノムが近くまで来てるかもしれないんですよ!」「……なんかこの辺りマナが濃いな………?何かあったのか………?」「あれは………ロベリアの………娘と………。」「ん?ロベリアはどうしたんだ………?」「さっきバルツィエの捨てた飛行するやつに乗って飛んできてたよな………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラットの怒りを鎮めようとしていると待機させていたフリューゲルの住人達が中々帰ってこない四人の様子を見にやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「……!

 何をしてるんだ皆!

 向こうの方で待っておくよう言っておいた筈だろう!!」

 

 

 

 

「族長達が戻ってこないから心配して様子を見に来たんですよ!!

 そっちこそ何してるんですか!?

 早くアインワルドの巫女の元へ行きましょうよ!?」

 

 

「族長が直接話をしないとアインワルドの連中が奥の方に入れてくれないんですよ!!」

 

 

 

 

ナトル「!

 そっ、そうだったな………。

 だが今は「皆聞いてくれ!!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「…たった今………。

 族長の娘だったロベリアが………死んだ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………!!

 

 

「ロベリアが死んだ…?」「そんなまさか………!?」「何でそんなことに……!?」「ヴェノムか!?ヴェノムに殺られたのか!?」「……ロベリア………。」「あの子バルツィエの娘なんか育ててて変な子だったけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「…ロベリアのことについては皆もよく知る通り十年前にマテオのバルツィエが彼女に不幸の種を残していった………。

 それなのに彼女はその種を産んで今日まで育て上げていた。

 下ろそうと思えば下ろせたのに何故彼女はそうしなかったのか……?

 

 

 ………それには理由があったんだ!!

 何故彼女が奴の娘を産んで育てていたかが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ……!!

 

 

「理由……?」「気が触れて頭がおかしくなったとかじゃなかったのか?」「バルツィエの娘を育てることに何の意味が………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(……何を伝えるつもりなんだフラット………?

 私はまだ全てを話していないというのに………。)」

 

 

 ナトルはフラットがこれから皆に話すことがカーヤにとって不味い事態に陥ってしまうことを予見して否定の言葉を挟もうとしたが既に皆はフラットの次の言葉に耳を傾け始めていた。この流れを途中で変えることは族長といえども難しかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………ロベリアはフリューゲルの………、

 私達を守りたいがためにカーヤを育てていたんだ!!

 いつかあの男がまたフリューゲルにやって来た時にまた同じ悲劇を繰り返さないように!!

 

 

 ロベリアはカーヤをあいつに対抗するための武器として育てることを決意していたんだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ!!!!

 

 

「そんな………。」「ロベリアは俺達のためにそんなことを……。」「あたしあの子にひどいこと言っちゃった………。」「一人でそんな深い事情を抱えていたのか……。」「それを知らずに俺達は………。」「どうしてそれを言ってくれなかったんだ………。」「…けど自分の娘でしょ………?」「何言ってるんだよ望んでできた子供じゃなかったって話だろ?」「…でもちょっと神経疑うなぁ………。」

 

 

 

 

 

 

 フラットがロベリアの真意の半分を話した時点でロベリアへの評価は賛否両論であったが聞こえてくる声の大半はロベリアに肯定的な意見が多かった。フラットのロベリアに対する感情を皆知っているためフラットの話がロベリアを擁護する話なのだと分かっているからこそこのような分かれ方になるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(………ロベリアはもうカーヤを武器にする気は無かったがな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だがロベリアに否定的だった者達の殆どがロベリアに対する評価を改めた………。

 ………あの子が最期に少しだけ浮かばれたような気がする………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤが生まれてからロベリアに対するあたりが日をおうごとに悪化していくのを見てきたナトルはロベリアが死して同胞達から全ての住人とはいかずとも認められたことに少しばかり嬉しく感じた………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………のだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………そんなロベリアの同族を想っての構想は今日あえなく散った………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ここにいる道具である筈の馬鹿娘がヴェノムに感染してそれをロベリアに移して殺したことによってなぁ!!!」



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苦しむくらいなら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そこからはもうカーヤを叫弾する声は止められなかった………。始めから忌み嫌われていたのもあってかカーヤはフリューゲルの者達から凄まじい制裁を加えられた。感染者ということもあって直接殴ったり蹴ったりなどはされなかったがそれよりも酷く魔術での攻撃を受けることになる。ヴェノムウイルスによる作用でそれらの魔術でカーヤを害することはできないのだがそれでも大勢からの攻撃は彼女の心を簡単に傷付けることは容易かっただろう。

 

 

 

 

 

 

 カーヤはフリンク領から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………私はそれをただ見ているだけしかできなかった………。私には何もできなかった………。カーヤとロベリアの二人がヴェノムウイルスに感染してからの私は何も考えることができなくなっていた………。この世界でのヴェノムウイルスの殺傷率は百パーセントだ。それにかかれば人の命など軽くて脆い紙切れのようだ。これからは三人で支えあって生きていこうと決めた直後にこの事故………。私には大切な娘と孫の命すらも守る力がない。なんて無力なのだ。どうして私はロベリアが死んでカーヤが感染したというだけでこうも何もできなくなるのだ。私はただ三人で仲良く暮らしていきたかった。ただそれだけたったのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな望みは私が生きるこの世界では許されることではなかった。私は一族の長の血筋のものだ。私が第一に考えなければならないのはフリンク族の全体のことだ。フリンク族を一人でも多く生き残らせるためには全員の意見を纏めて率いなければならない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場にいたフリンク族の皆はその時意見が一致していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリューゲルを守ろうとしていたロベリアを賞賛し、ロベリアを死なせる原因を作ったカーヤの弾劾………。私は二人の味方のつもりだったが皆の意見はロベリアの味方でカーヤは敵………。皆がそうなってしまうのは理解できる。だがそれでも私はカーヤを………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを言っても誰が私の話に耳を傾けてくれようか………?カーヤは既に感染者。死は免れられない。時が来ればその体は朽ち果て粘液にまみれた異形の怪物と化してしまう。そんなカーヤを擁護したところでまたロベリアと他の者達がいがみ合う関係になってしまうだけ………。私一人がカーヤを援護したところで何かが上手く作用する訳ではない………。カーヤの酷評は既にフリューゲルの全体に伝わってしまった。それはもうヴェノムウイルスが世界に蔓延するよりも恐ろしく早く感染していってしまった。その波はもう私一人では治めきることができない。どうすれば………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私一人では無理だ………。私一人ではカーヤを守りきれない。ロベリアがいたからこそ私はカーヤを守っていこうと思えた。そのロベリアがいないのであれば私は一人になってしまう。それにカーヤも時期に死ぬことは確定だ。

 

 

 それなら余計な荒波を立てることも無いのではないか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そうだ。カーヤはもうじき死ぬんだ。カーヤは死んでロベリアの名誉は回復される。それならこの場では私は余計な口は挟まないでおこう………。よく聞いてみればロベリアが死んでしまった理由は少なからずカーヤにもあるのだ。だったらカーヤにはここは堪えてもらって………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もう何かを考えるのはよそう。漸く皆の意見が重なったんだ。今回悪かったのはカーヤなんだ。カーヤがロベリアを死なせたからこんな事態になったんだ。悪いのはカーヤ。皆がそういうならそうなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この場ではそういうことにしておこうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………そうして私はいつの間にかヴェノム以外の何か良からぬ()()()()()()()()()()()………。私はずっと私を取り巻く環境に流されてしまっていた。そうして私は自分の考えを捨ててしまっていた。私自身フリンク族ならフリンク族の皆の考えに従うことこそが私の………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カーヤッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤを呼ぶ声で昔の記憶から現代へと意識が戻ってくるナトル。かなり長い時間記憶を思い出していたと思ったがまだ先程カーヤが自分を刺してからそう時間は経過していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(………どうして私はこんな時にあんなことを思い出していたんだ………。

 今はカーヤにいよいよ死が差し迫っている時ではないか。

 とうとうこの時が来たのだ………。

 カーヤはここで終わり………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『復讐はもう止めにしたの………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(………何故だ………。

 何故またロベリアの声が聞こえてくるんだ………。

 私にはまだ何か思い残しでもあるというのか?

 ………そんな筈はない………。

 カーヤが死ぬことでロベリアの仇を………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カーヤは自分の生きる意味を探して頑張って生きてね………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(………カーヤの生きる意味………?

 ………そんな物はありはしない………。

 お前を死なせたカーヤに生きる意味など………。

 ………カーヤには………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ『おじいちゃん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……!

 族長………!?」

 

 

カオス「何をするつもりですか!?」

 

 

 無言でカーヤに歩み寄るとカオスとアローネがナトルの行く手を阻もうとする。

 

 

ナトル「…退いてください。

 これ以上は貴殿方には何も手立ては無いのでしょう?

 それならカーヤはこのままにしていても苦しむ時間が長引くだけです。

 ………ならば私が………せめて祖父である私が楽にしてあげましょう………。」

 

 

 そういってナトルはカーヤに手をかざした。

 

 

ウインドラ「…本当に殺るつもりか………?

 カーヤは貴方の………。」

 

 

ナトル「えぇ、分かっておりますよ。

 だから私がこうするんです。」

 

 

 かざした手にマナを込め始めるナトル。そこにいる一同はこれからナトルがカーヤに止めを刺すのだとそう思った。

 

 

 

 

 

 

フラット「アッハハハハハハ!!!

 さぁ、殺ってやってください族長!!

 貴方の手でロベリアを殺した敵を葬るんです!!

 天国にいるロベリアがそれを望んでいますでしょうよきっと!!

 アッハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「『ファーストエイド。』」



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奥底にしまった本音

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「『ファーストエイド。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアァァァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間の抜けたフラットの声がしたがそれに反応するものはいなかった。それほどまでにナトルがカーヤに対してとった行動は驚くべきものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………………なっ!?何をなさってるんですか族長!!?

 カーヤに止めを刺す流れだったでしょうが!!?

 何で治療術なんかをカーヤにかけてるんですか!!?」

 

 

 ナトルがカーヤを治療しようとしているのを見てフラットが抗議の声を上げる。これまでフリンク族の者達は皆がカーヤに対して嫌悪感と憎悪を抱いていると思っていたカオス達もナトルの治療行為に疑問を抱くが………、

 

 

 

ナトル「治療術………………?

 ………!

 ………私は何をして………?」

 

 

フラット「何して………ってカーヤの傷を治そうとしているじゃないですか!!?

 止めてくださいよそんなこと!!

 そんな奴治そうとしたってどうせ治りなんかしませんし見ているだけでも腹立たしいんですよ!!」

 

 

ナトル「………」

 

 

フラット「……ぐっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 止めろって言ってんだろおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(………自分でも自分が何故突然カーヤの怪我を治そうとしているのか分からない………。

 私が望んでいたのはカーヤの死だったはず………。

 なのに何故私は………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スゥゥゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………………!

 カーヤの傷が………!?」

 

 

カオス「治っていく………。」

 

 

ミシガン「カオスとアローネさんと私の三人がかりでも治せなかったのにどうして………?」

 

 

ウインドラ「フリンク族の治療術の技術がそれほどまでに高いということなのか………?」

 

 

タレス「いえ、

 そんな話は聞いたことがないですよ。

 フリンク族は魔術の腕も特に他の部族と比較して秀でている話はボクも聞いたことがありません。」

 

 

カオス「じゃあ何で………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………()()()()………じゃないでしょうか?」

 

 

カオス「家族の絆?」

 

 

アローネ「…カーヤとナトル族長は本来孫子の関係にあります。

 カーヤがヴェノムに感染するまでは普通の生活を送っていたようですし彼等に家族としての絆が構築されていてもおかしくはありません。

 彼等には私達のような部外者が入り込めないような深い絆で繋がっていてそれが今カーヤのマナの循環抵抗を越えてカーヤに語りかけているのではありませんか?」

 

 

ウインドラ「…語りかけるにしてもナトル族長は直前までカーヤに全ての責任を擦り付けようと発言していたんだぞ?

 いけら祖父と孫の関係だからと言ってもそんな二人の関係に絆など存在するものか………?」

 

 

ミシガン「あぁー、

 あれは酷かったね。

 本当に血の繋がった家族だったかのかすら疑っちゃうレベルだったもん。」

 

 

タレス「一見するとナトル族長も他のフリンク族達と同様にカーヤの死には肯定しているように見えましたけど………。」

 

 

アローネ「……恐らく、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()まだ私達が追いきれていないもっと別の形がそこにあるのかもしれませんね………。

 先程はフラットさんとナトル族長で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()色々と選択肢があったようにも感じましたし………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(………私はどうしてしまったんだ………。

 こんなことをして一体何になると言うん)「……うっ………。」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………おじ……………………いちゃん………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腹部の負傷が治りかけカーヤが意識を回復する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「!

 カーヤ………。」

 

 

カーヤ「………おじいちゃん………?

 何で………。」

 

 

ナトル「………私をおじいちゃんだなどと呼ぶな。

 お前には………………、

 ………………いや私には、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私はあの時生きていたお前ではなく亡くなったロベリアを選んでしまったのだから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

ナトル「…私はどうかしていたんだ………。

 私にとってはロベリアもカーヤも等しく大事な家族だったというのに周りの意見に押し流されて私は私を見失っていた………。

 私がどうしたかったのか、ロベリアが死んでしまってからお前とどう向き合っていかなければならなかったのか………。

 ………本当は私の中では答えは持っていたはずなんだ………。

 それなのに私は途方もない時間お前を他の皆と同じように酷く扱った………。

 こんな私がお前の祖父であっていいはずがない。

 家族を蔑ろにして周りの者達にしか目を向けられなかった私が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前の家族であって良いわけがなかったのだ………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長く生きているとどうしても人より経験が多くなりその分恐れることも多くなる。恐れると人は行動を制限されてしまう。それによって自分の意思とは違う道を選んでしまう者もこの世界にはいるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(………やっと………やっと自分を取り戻せた………。

 失いたくない家族を失いそうになって漸く私は周りの声よりも家族を失うことの方が恐ろしかったことを思い出せた………。)」



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心を覆うもの

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァァ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナトルの術によってカーヤの負った怪我は完全に癒えた。出血が酷かったため貧血でまだカーヤは立ち上がることはできなさそうではあったが上半身をかろうじて起こす程度にまでは回復したようだ。そしてカーヤはナトルを見詰めて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………おじいちゃん………。」

 

 

ナトル「………何だ?」

 

 

カーヤ「………」

 

 

ナトル「………」

 

 

カーヤ「………カーヤは………生きていてよかったの………?」

 

 

ナトル「…お前が死ぬ理由など何もない………。

 お前は………彼等に死を振り撒く毒を消してもらったんだ。

 お前はやっと人に戻れた………。

 それならその拾った命はお前と彼等の物だ。

 これからはその命は自分のためにそして彼等のために使いなさい。」

 

 

カーヤ「…カーヤは………おじいちゃんが死んでほしいって思うならあのまま死んでてもよかったのに………。」

 

 

ナトル「………お前は私の言葉を忠実に守ろうとしていたんだな………。

 私がお前の前でそれを促すことを言ったから………。」

 

 

カーヤ「………うん………。」

 

 

ナトル「………無駄な苦しみを与えてしまったな………。

 ………さっきのはな………。

 …………………………、

 ………私はずっと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………お前にお前を貶めるこのフリンク領から逃げ出してほしかったんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………お前を六年前に追放してしまってから私はお前が追放した先のどこかでヴェノムに呑まれて消えてしまうものだとばかり思っていた。

 あの時点ではお前がダレイオスを放浪して帰ってくるとは思いもしなかった………。

 あの事件で私は私の大切な家族二人を失ってしまい後に残されたものはフリンクの長としての勤めのみ………。

 

 

 私は………………フリンクの色に染まりきるしかなかった………。

 私の判断でその先のフリンクの情勢は変わってくる。

 私が指針を示さなければフリンクはダレイオスの他のどの部族よりも先に滅びてしまう、そう思った。

 私達フリンクは世界中のどんな部族よりも弱いのだ。

 弱い私達が生き残るには世界に対して柔軟に生きる必要があった………。

 弱いのならそれ相応の生き方をしなければならない。

 それ相応の生き方をしなければ私達フリンクはこの世界での未来はない………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そうした考えで行動するようになってからお前が再び帰ってきた時には私は私の周りの者達と同様にお前を蔑むことしかできなくなっていたことにさっきやっと気付いた………。

 ………私はお前とロベリアを失うことによって肉体的や魔力的な強さだけでなく心までも誰よりも弱くなっていた………。

 私は臆病風に吹かれていたんだ。

 表面上は族長として正しくあろうとしていても結局は周りの顔色を伺っているだけで自分で物事を考えようとしないそんな対面でしか人と付き合えない愚かな長に………。

 ………だからお前を他の者達と一緒になって追い詰めたんだ………。

 私はお前達を失った時のような孤独に戻りたくなくて………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…そういうことだったんだね………。」

 

 

ウインドラ「大切な人を失ってしまったが故に人との繋がりを求めたら彼には彼の大切な家族を傷付ける者達しか残ってなかったんだな………。」

 

 

ミシガン「フリンク族は皆カーヤのことを嫌っていたけど族長さんだけは周りに合わせてそうするしかなかったんだね………。」

 

 

タレス「立場というものがあるせいで自分を犠牲にする方向にしか舵をとれなかった………。

 ………結果カーヤがフリューゲルに戻ってきた後他のフリンク族達がしていたようなことを彼も一緒になってやってしまっていた………。

 …なんて虚しい人なんですかね………。」

 

 

アローネ「ナトル族長のカーヤへの想いは周囲が織り成す環境によって封殺されていた………。

 環境に適応することは大事ですがそれで彼は逆に苦しむことになったのでしょう………。

 大勢が絡んだ物事は大抵多数決によって議決される。

 少数がいくら反発したところで多数には敵わない。

 ………カーヤのことに関してはカーヤの味方はナトル族長一人だけになってしまい彼には多勢に逆らうことを放棄せざるをえずカーヤを傷付ける政策に従うしかなかった………。

 部族の長という役職から彼にはそれなりの周りの重圧もあったことでしょう。

 彼は自分で自分の気持ちを圧し殺すことを選ばされていたのです。」

 

 

カオス「…偉い人ってなんでもかんでも好きにできるわけじゃないんだね………。

 族長っていうくらいだから全部自分の思い通りの決まり事を決められると思ってたけど。」

 

 

ウインドラ「もしそんな奴が族長に選ばれても誰もそんな奴にはついてこないだろう。

 そんな奴は弾劾されて降ろされるだけだ。

 上に立つ者は必ず全体を見通してどう有益になるかを常に日頃から考えねばならない。

 それが責任ある立場というものだ。

 

 

 …例え自身を犠牲にするものであってもな。」

 

 

カオス「………大変なんだな………。

 族長とか………()()とかってのは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「じ、冗談じゃない!!

 族長!!

 これはフリンク族全員に対する裏切り行為ですよ!!?

 そいつが何をしでかしたのかわすれたんですか!!?

 そいつはダレイオスのヴェノムの主を作り出した張本人「悪いが今は取り込み中なんだ後にしてくれ。」はうッ…!?」ドスッ!

 

 

 喚きだしたフラットをウインドラが首筋に手刀を打って気絶させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………これからお二人はどういう道を選ぶのでしょうね………。」



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次に来たときこそは…

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「皆さん。」

 

 

 カーヤに語りかけていたナトルがカオス達を振り返り声をかけてきた。

 

 

アローネ「何でしょうか?」

 

 

 それに応答したのはアローネであった。

 

 

ナトル「…一つお願いがあるのですが………。」

 

 

カオス「お願い………?」

 

 

 一連の流れを見ていたカオス達はここにきてナトルがカーヤを連れていくことに反対して引き止めに来るのではないかと警戒した。カーヤに味方が一人でもいたことは幸いだとは思うがそれでも彼は六年間カーヤを守りきれなかったという経歴がある。今更彼がカーヤを他のフリンク族達から庇いきれるのかどうかは結末が見えている。彼ではとても無理だ。ここにカーヤが残ることになってはカーヤはこの先不幸な目にあう未来しかない。最悪不死身でなくなったカーヤは殺されてしまう。そうなってしまうくらいならカーヤをフリンク領から連れ出すのが誰も犠牲にならない道と言えるだろう。………最後にどうするか決めるのはカーヤ次第なのだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …と、ナトルとここで口論になってしまうことを覚悟したカオス達であったがそんなことにならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「…大魔導師軍団の皆さんの旅に私の孫カーヤを連れていってあげていただけませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………はい?」

 

 

カーヤ「おじいちゃん………?」

 

 

 意外にもナトルの方からカーヤを外に連れ出すようカオス達にお願いしてきた。先程まではこれからはカーヤを彼が面倒見ていうような流れであったのだが………、

 

 

 

ウインドラ「………それは構わないが………。」

 

 

ミシガン「私達もそうする予定だったしね。」

 

 

タレス「でもどうしていきなりそんなことを?

 ………やっぱりカーヤとは一緒にいられないからですか?」

 

 

 

 

 

 

ナトル「私としてはウイルスの心配が無くなったカーヤをフリューゲルに連れ帰ってまた昔のように生活を送れたらなとは思いますが愚か者の私でも今のフリューゲルにカーヤを連れ戻してもカーヤを不幸な目にあわせるだけにしかならないことは理解しています。

 今のフリューゲルには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 ………そもそもカーヤを一度追放してしまったあの街がカーヤに相応しい街だとは私も思えません。

 

 

 ですので皆さんにカーヤをこのカーヤを苦しめた牢獄の世界から脱出させてあげてほしいんです。」

 

 

 ナトルはカオス達に頭を下げてそう頼み込んでくる。その様子には一切のフリンク族の族長としての勤めに惑わされた感じは無く一人の………カーヤの親族としての彼女の未来を想っての願いなのだとカオス達は見えた。

 

 

アローネ「…ナトル族長………、

 今の貴方からはフリンク族族長という義務に縛られてそう申しているのではないことは分かります………。

 ………ですのでこれは貴方がカーヤの正式な保護者としてお聞きするのですが………、

 

 

 …本当にカーヤをお連れしても宜しいのですか?

 私達は貴方やカーヤとはまだお会いしてから一ヶ月にも満たない期間でしかカーヤと接していないのですよ?

 それこそ単純な時間だけで言えば一日にも届かない程度の………。

 そんな私達にカーヤを任せても宜しいのですか?」

 

 

 カーヤとナトルが決裂したままであったのならこんなことを聞かずにカーヤの返答だけでカーヤを連れていくかどうかを決めていた。しかし今はカーヤとナトルの関係性が回復した以上彼女を黙って連れ出すわけにもいかずアローネはナトルにそう問いかけた。それに対してナトルは、

 

 

 

 

 

 

ナトル「貴殿方にならカーヤをお任せしてしまってもよいと思ったのです。

 貴殿方はカーヤのことを知った瞬間からカーヤの味方になって動いてくれていた………。

 短いかどうかなんて関係ありませんよ。

 貴殿方なら信頼してカーヤを預けられる。

 

 

 …それに比べて私はカーヤがヴェノムにかかってから六年もの間カーヤを孤独にさせてしまっていた………。

 私は六年もの間カーヤに何もしてあげられなかった………。

 ヴェノムウイルスという脅威を恐れてカーヤを遠ざけることしかできなかった………。

 私にはカーヤを守れる力なんてないんです。

 カーヤを守ってあげられたのは貴殿方だけ………。

 だから私は貴殿方にならカーヤを託してもよいと思いました。」

 

 

ウインドラ「かなり俺達のことを評価しているようだが外の世界が必ずしもカーヤにとっていい世界かどうかは俺達にも保証はできないぞ?

 もしかしたらより過酷な世界にカーヤを連れていくことになるかもしれない。

 それでもいいのか?」

 

 

ナトル「例えそうだったとしてもここに居続けるよりかはマシでしょう。

 カーヤには貴殿方がついてて下さる。

 それだけでも私は十分にカーヤが幸せな未来を歩んでいけると信じてますよ。」

 

 

ウインドラ「………フッ………、

 ならその期待に応えられるだけの働きはさせてもらうつもりだ。」

 

 

ナトル「どうかカーヤを宜しくお願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「おじいちゃん………。」

 

 

ナトル「カーヤ………、

 良い人達がお前を迎えに来てくださったな………。

 これからはこの方達と共に行きなさい。」

 

 

カーヤ「……でも……。」

 

 

ナトル「…ここに残ってもこのフリンク領ではまだお前を受け入れられるような状勢にはない。

 今のままではまたお前が辛い目にあうだけだ。

 ………私はもうお前がフリューゲルの皆に傷つけられる姿は見たくない。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

ナトル「………私達は六年前にお前が戻ってきてから十分すぎるほどお前の世話になった。

 …なら今度はフリンク族族長として私が代表してお前に恩返しがしたい。

 ………恩返しと言ってもこれが恩返しにならないと思うが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もしまたお前がフリューゲルに来るようなことがあればその時までに私はお前がここへと不自由無く入れるように皆のお前へのイメージを取り払って見せる。

 必ずそれを成し遂げて見せよう。

 それがお前への私からの本の少しばかりの償いの足しにさせてくれ。」



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敵とは誰か

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………これから貴殿方はどうされるご予定ですか?」

 

 

カオス「え?

 えぇっと………。」

 

 

ウインドラ「このフリンク領での目的は達成されたようなものだからな。

 これまでのようにヴェノムの主討伐の旅に………。

 ………今回は討伐ではなく無力化に成功したわけだが………。」

 

 

ミシガン「フリンク族的には次に私達にはブルカーン方面に行ってもらいたいんじゃないの?

 なんかブルカーンの人達が変なのに命令されてるみたいだし。」

 

 

タレス「ここまで戻ってきた訳ですしこのままブルカーンのところに行った方が近いと思いますが。」

 

 

アローネ「スラートの方達からは順路で言えばアインワルド族の地方に向かうよう指示はされているので今のところは特にどちらに進むかはまだ………。」

 

 

ナトル「そうですか………、

 ………でしたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴殿方はこれまで通りの道順でアインワルド族の住まうユミルの森に向かってください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「ユミルの森に?」

 

 

カオス「いいんですか?

 カーヤを連れていくってなるとここの守りが手薄になってブルカーンが攻めてくるんじゃ………?」

 

 

ウインドラ「フラット殿はそれを考慮してここでの目的が果たされたらブルカーンの地方に進むよう言っていたが?」

 

 

ナトル「はい、

 ここ数年でカーヤがこのフリンク領を守ってくれたお陰で幸いなことにブルカーンからの襲撃は今のところほぼ無くなりました。

 いつまたブルカーンの襲撃が再開されるかは分かりませんが今はまだそこまで懸念するほどでもないでしょう。

 他にもカーヤの功績によってフリンク族がヴェノムによる被害を防いでいたこともあってフリンク族には数だけは多いですからね。

 私達のことは気にしないでください。」

 

 

アローネ「それで良いと仰るのなら私達はユミルの森に向かいますけど………。」

 

 

ナトル「…本来であればカーヤをバルツィエと罵り差別してきた私達がカーヤに頼ってフリューゲルの防衛を任せきりにしていたことが間違いだったのですけどね………。

 自分達のことを自分達で守らずに貴殿方にお願いする立場にすらなかった。

 そのことを深く反省しこれからは自分達で自分達の不始末をつけることにします。」

 

 

カオス「!

 だったら洗礼の儀をしにフリューゲルに戻らないとフリンク族の人達がヴェノムが襲ってきた時に………!」

 

 

ナトル「いえ、

 その申し出は有り難いですが今回は辞退させていただきますよ。

 これ以上貴殿方の旅を遅延させるわけにもいきません。

 貴殿方の救いを求める者達はまだ数多くいるのです。

 ですからそこまで世話になるわけにはいきませんよ。

 

 

 これは私達の六年ものリハビリにもなりますから。」

 

 

 ナトルはカオス達の話をそういって断った。これからは自分達で自分の身を守る。そう宣言してカオス達の力を当てにしては意味がないのだと。

 

 

アローネ「…大変な道のりだと思いますよ?

 長きに渡って培ってきた価値観を急に変えるというのは………。」

 

 

ナトル「そうでしょうね。

 私もその周りの空気の流れに逆らえずに流されてしまった身です。

 重々承知しております。

 けれどもそれをどれだけ時間がかかろうとも変えていかなくてはなりません。

 そうしなければフリンクはいつまでも弱小部族から脱却できません。

 

 

 

 

 

 

 弱いということはそれだけで罪とはならないでしょうがそれを理由に誰かに守ってもらいそれを当たり前にしてしまうことこそが我らがカーヤに対して向き合わねばならなかったことです。

 私達はカーヤを人として認めずに道具として扱っていた。

 そしてカーヤはこんなフリンクに嫌気がさして出ていく………。

 人として当然の感情です。

 私達は罪深いことをカーヤに与えてきたのですからここらで人としての道へと軌道修正する時期が来たということです。」

 

 

タレス「…軌道修正しようとするのはいいことだとは思いますけどその考えに乗ってくれる人がフリンク族にいそうなんですか?」

 

 

ナトル「今のところはフリューゲルに後からやって来た後民から話を広げていこうと思っています。

 先民………カーヤを生まれた時から知ってる者達はカーヤへの偏見が強いですから彼等を説得するのは難しいですから後民から少しずつ数を増やしていきます。

 私一人でどこまでいけるかはまだ見当がつきませんがそれでもやりとげて見せます。

 こういうことはカーヤの理解者が一人いるかいないかでも大分違ってくると思うので私から一人、また一人とやっていきます。」

 

 

カオス「…叶うといいですね。

 その目標が。」

 

 

ナトル「えぇ、

 精一杯努力して行けるところまで行ってみます。

 ………皆さんも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必ずダレイオス再統一が果たせる日が来るのを心待にしております。

 その時には私も微弱ながら皆さんのお力になれるよう尽力を尽くす次第です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それからカオス達はアインワルド族が待つユミルの森に向けて出発する準備を始めた。一ヶ月近くかかったがそれでも精霊王マクスウェルが課した期日までまだ二ヶ月以上はある。このペースならきっと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「カオスさん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「はい?」

 

 

 いざユミルの森に向けて出発しようとするとナトルが話しかけてきた。

 

 

ナトル「…カーヤのことをお願いします。

 貴殿方とならカーヤもやっていけるでしょう。」

 

 

カオス「…はい。

 カーヤのことは俺達に任せてください。」

 

 

ナトル「えぇ、

 どうかあの子を大事にしてやってください………。

 

 

 

 

 

 ………それともう一つだけ忠告と言いますか………。

 …これは私達の失敗談によるところなのですが………。」

 

 

カオス「?

 何ですか?」

 

 

ナトル「……わざわざカーヤのために動いてくださった貴殿方にこれはあまり関係ないとは思いますけども………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …貴殿方は決して………、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()<()b()r()>() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ………そんなのは私達だけで沢山です。」



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再起動

リスベルン山 数分後 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「……ハッ!!?」

 

 

ナトル「やっと気がついたかフラット。

 カーヤがこの山のモンスターを粗方追い払っているとはいえこんなところで寝るのは不用心だぞ。」

 

 

フラット「族長!?

 カーヤはどこに……!?」

 

 

ナトル「……カーヤか………。

 カーヤは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼等と共に行ったよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「……なんですって………?」

 

 

ナトル「カーヤのヴェノムウイルスは彼等の持つ異能の力で危険を取り払ってもらった。

 カーヤはもうどこに出しても誰の迷惑もかけないだろう。」

 

 

フラット「…ブルカーンからの防衛はどうするんですか?

 カーヤがいなければフリンクはブルカーンからの攻撃に耐えられないですよ。」

 

 

ナトル「そうだな。

 私達もこれからは自分達の身の振り方でも話し合うとしようか。」

 

 

フラット「そんなの……!

 ………圧倒的な力でブルカーンに蹂躙されるだけでしょうが!」

 

 

ナトル「それもそうかもしれないな。

 しかしそうなってしまうのも私達に力が無いのが原因であってカーヤの責任はないのだ。

 カーヤのことはもう放っておいてあげよう。」

 

 

フラット「!

 族長!!

 やはり貴方はカーヤのことを実の孫として見ていたんですね!

 あんなバルツィエの血が混じった混血に何を情を移してるんですか!?

 カーヤはラーゲッツの娘なんですよ!?」

 

 

ナトル「そんな些細なことは………、

 ………今更お前に言っても仕方ないことなんだがなぁ………。」

 

 

フラット「何を「ロベリアが」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「ロベリアがカーヤを自分の娘として認めていた。

 だったら私はロベリアの意見を尊重するよ。

 私もカーヤを私の孫として見ることにする。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………へ?」

 

 

 

 

 

 

ナトル「フラット………、

 君には長い間誤解させていたな。

 すまなかった。

 六年前に君に話したロベリアがカーヤを産んで育てていたことなんだがな。

 あの話はまだ途中だったんだ。」

 

 

フラット「途………中………?」

 

 

ナトル「そう、

 あの話にはまだ続きがあった。

 カーヤをラーゲッツにぶつけるという話も最初はロベリアもそうするつもりだったんだ………。」

 

 

フラット「………?」

 

 

ナトル「………だが実際にカーヤと接している内にロベリアの中の心の傷は癒されてロベリアは復讐を忘れてしまった………。

 ロベリアはカーヤを立派に育てていくことに夢中になっていた。

 他の誰でもないラーゲッツの娘がロベリアの心を癒したんだ。

 ロベリアが癒されたのならそれで私は十分だ。」

 

 

フラット「!

 ロベリアは復讐を諦めていたんですか!?

 あんなことをされたというのに!?」

 

 

ナトル「諦めたのではない。

 ロベリアにとって他にもっと大切なことが見つかっただけだ。

 復讐というのは被害者と加害者が発生するがそれは言ってしまえば強者と弱者の問題だ。

 弱者が強者に力が及ばないのであれば他の誰かに代わりに仇をとってもらう。

 ………そんな都合の良いことを人に任せるべきではなかったんだ。

 ラーゲッツももう倒されたというし私達もそろそろ前を見て進むべき時が来たのだ。」

 

 

フラット「まだ終わりじゃない!!

 ラーゲッツの娘がまだ生きているのなら奴の血筋を根絶やしにしなければ…!!」

 

 

ナトル「フラット………、

 これは戦争だったんだ。

 戦争で私達は敗けた。

 破れて蹂躙されただけの話なんだ。

 それならもう私達は大きく変わるこの世界の流れに身を任せるとしよう。

 恨みで世界は廻らない。」

 

 

フラット「族長!?

 ………どうしてそんなことをこんな時に言うんですか………!?

 私はまだ族長が何を言ってるのか………。」

 

 

ナトル「今はまだそれでいい。

 これから少しずつ私が間違いを修正していく。

 

 

 

 

 

 

 そうしてフリンクを元のあるべき形に戻していく。

 私達の深い深い根に絡まった状態を一つ一つほどいていくんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………」

 

 

 頭の整理が着かないフラットはナトルを先に帰らせて一人その場に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………何が修正していくだ………。

 今のフリンクの何が間違っていると言うんだ!

 私達は何も間違ってなんかいないだろう!!」

 

 

 ナトルに言われたことが収束つかず一人ナトルの言ったことを否定するフラット。

 

 

フラット「………ロベリアがカーヤを認めていた………?

 あんなことをされて恨みの気持ちが薄れたというのかロベリア………?

 ………何故だ………?

 何故あんなことをされてラーゲッツにやり返そうと思わなかったんだロベリア………?

 君はカーヤと生活している間に気でも触れてしまったのか………?」

 

 

 愛していた人の考えが理解できずにフラットはロベリアがおかしくなったのだと思い始める。

 

 

フラット「………………そうか、

 ………やっぱりラーゲッツとラーゲッツのあの娘が君をおかしくしてしまっていたんだな………。

 あんなことをされておきながら赦せる筈がないんだ。

 カーヤが君をおかしくしてしまっていた………。

 そういうことなんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱりバルツィエの血筋がァァァァッ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラットは自分の考えが間違っていないことを自分に言い聞かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「やはりラーゲッツの血筋はこの世にあってはならないんだ!!

 あいつが生きていたらまた余計な不幸を被る者が出てくる!

 ヴェノムウイルスを取り払った!?

 ハンッ!

 あいつのウイルスがそんな簡単に消える訳がないだろう!

 あいつはダレイオスのヴェノムの主を生み出した元凶なんだ!!

 あいつがまだ危険な奴だってことに変わりはない!!

 何故それをあの人達は分からないんだ!!

 早くあいつは殺した方が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤに対しての憎しみを膨れさせていると近くに地面が湿気った場所を見つけた。

 

 

 そこには先程カオス達が埋めたラーゲッツの死体が埋まっている。

 

 

 それを思い出したフラットは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………そういえばラーゲッツを殺したとか言ってたな。

 ラーゲッツがそんな呆気なく殺されるとは思わないがあの騎士風の大魔導師とかがマテオで一度倒したとも言ってたし五人とも凄まじい魔力を持っていたようだしな………。

 五人がかりならラーゲッツも流石に殺られてしまったか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くフラットは考えこむような素振りをして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「…フリューゲルにラーゲッツが死んだ証拠でも持ち帰ってみるか。

 奴の首でも切って持ち帰ればいい証となるだろう。」

 

 

 フラットはラーゲッツの死体を掘り起こすことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「さて………ラーゲッツがどんな顔して死んでいるか拝ませてもらおうか………。」

 

 

 土を掘り返しながらラーゲッツの死に顔に期待をするフラット。

 

 

 ある程度掘ったところで手が見えてきた。

 

 

 

フラット「おっ!

 本当にあったな………!

 こっからは土を退けるよりかも手を引っ張りあげた方が早いかな?」

 

 

 埋められたラーゲッツの手が露出したことによりフラットはその手をとって引き摺りあげようとして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「さぁ!

 さっさと出てきてお前の苦痛に歪んだその顔を……!?」ガシッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツの手をとった瞬間ラーゲッツの手がフラットの手を握り返してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………よう。

 よく俺を掘り返してくれたな。

 礼を言うぜ。」



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二度死んだ男

リスベルン山 ??? 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ラッ………ラーゲッツ……!?

 そんな死んでいたんじゃ……!?」

 

 

 今しがた地面に埋まっていて掘り返したら何事も無かったかのような様子を見せるラーゲッツ。

 

 

ラーゲッツ「ふぅ………!

 あぁ苦しかった!

 せっかく生き返ったってのに地面の中で身動きできなくてどうしようかと思ってたんだよ。

 お前が土を除けてくれたんだな。

 ………誰だお前?」

 

 

フラット「いっ、生き返った!?」

 

 

 よく観察してみれば土を被って服は汚れているが胸の辺りに刺し傷があるのが分かる。そこを貫かれて絶命していたのは確かだろう。………つい先程掘り起こすまでは。

 

 

ラーゲッツ「…俺がお前に誰かって訊いてるんだ。

 お前はそれに素直に返事すりゃあいいんだよ。

 で、お前は誰だ?」

 

 

フラット「!

 わっ、私はフリンクの「あぁやっぱいいや。」?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「…それよりもフリンク族ってんならあいつらのこと知ってんだろ?

 カオスと偽カオスと………、

 

 

 ………俺の娘を名乗るあのガキはどこいった?

 全員俺がぶっ殺してやる。」

 

 

 

フラット「!?

 カーヤを殺すと言うのか!?

 あいつはお前の娘なんだぞ!?」

 

 

ラーゲッツ「ふざけるな。

 俺に娘なんていねぇ。

 俺の足を引っ張るような娘なんざ俺の娘なんかじゃねぇんだよ。」

 

 

フラット「………」

 

 

ラーゲッツ「………言わねぇつもりなら俺はお前を殺すだけだが」「待ってくれ!」

 

 

フラット「言う!

 言うさ!

 カーヤは()()()()西()()()()()()()()()()()()()()!!

 彼等はカーヤと一緒にそこに行く手筈だったんだ!」

 

 

ラーゲッツ「西に………?

 嘘はついてねぇだろうな?

 またテメエらのところで匿ってたりするんじゃ「本当だ! 」」

 

 

フラット「彼等は今ダレイオス全土に生息しているヴェノムの主を討伐する旅に出ている!

 ここでのヴェノムの主もカーヤを………フェニックスを無力化することに成功して次はブルカーンの地に行ってもらうようお願いしたんだ!

 今フリンクとブルカーンは非常に面倒なことになっててブルカーンの様子を探るべくそこに向かってことになってる!!

 地図の位置からしても彼等がここにいたってことはそれが真実だからだろう!!?」

 

 

ラーゲッツ「………そういやここはお前達の住みかから西の方の山だったな………。

 ルートとしてはそのまま更に西のそっちの方面に行くのが合理的だな。」

 

 

フラット「信じてくれるのか!?」

 

 

ラーゲッツ「………あぁ、

 お前はどうやら嘘は言ってねえようだな。」

 

 

フラット「そ、そうか……!」

 

 

 フラットはいっぱいいっぱいだった。ラーゲッツが甦ったことでも気が狂いそうなくらい動揺していたがそれよりも今はこのラーゲッツの機嫌を損ねて殺されないようにするだけで限界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………ところでよ?」

 

 

フラット「なっ、なんだ!?」

 

 

ラーゲッツ「今俺猛烈に()()()()()んだよ。

 何か食い物寄越せよ。」

 

 

フラット「食い物……!?

 そんな急に言われても私は何も持っていないぞ!?」

 

 

ラーゲッツ「何言ってんだよ。

 ちゃんと食い物持ってるじゃねぇか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥゥ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………テメェの、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブジュゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「!!!?

 おっ、お前はその体どうなって………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………ふぅ、

 こんな感じになるんだな。

 体が徐々に馴染んできたぜ。

 ………これからは人も()()()()()()なったんだな………。

 

 

 …まぁいいか。

 そんなことよりもガキ共を追うのが先だな。

 手っ取り早く飛んで………?

 

 

 ………何だよ。

 剣も()()()()()()()()()も無ぇじゃねぇかよ!

 あの糞共持っていきやがったな!

 チッ!!

 歩いて行くしかねぇのかよ!!

 かったりぃことさせてくれんじゃねぇか!!」

 

 

 自分の持ち物が何も無くなってしまっていることにフラットを()()()()()()()気付くラーゲッツ。

 

 

ラーゲッツ「………喚いていても始まらねぇな。

 とりあえず俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西に向かえばいいんだな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツは西に向かう。彼等カオス達に追い付き彼等に仕返しをするためだ。彼が受けた痛みを何倍にもして返すため、

 

 

 

 

 

 

 そして彼が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツは確かに胸を貫かれて死んでいた。心臓は肺といった器官に槍が刺さってだ。それを一人でに治癒することは人の身ではあり得ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを治癒したのはウインドラに最期槍を刺された際にラーゲッツが奥歯を噛み砕いて発動した()()()()()()ラーゲッツを甦らせたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達が終わったと思ったラーゲッツの脅威がまだ去っていないことを知るのはもう少し先のことだった………。



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戦争の終結方法

リスベルン山 麓 夜 残り期日七十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからカオス達はナトルと気絶したフラットと別れて次なる目的地アインワルド族の住むと言われるユミルの森を目指していた。当然カーヤも一緒で今は彼女はアローネ達の所で一足早くに就寝していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは一人他の皆が眠る中、ナトルに最期に忠告されたことについて考え事をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「眠れないのかカオス。」

 

 

カオス「!

 ………ウインドラ………。

 ………うん。」

 

 

ウインドラ「何か悩みごとか?

 ………今回この地方では色々あったからな。

 そんなに思い詰めてしまうようなことも数々あるとは思うが休める時に休んでおくのも体調管理の一貫だぞ。」

 

 

カオス「それはそうなんだけどね。

 ちょっと………どうしても自分じゃ解決できないことみたいでね。」

 

 

ウインドラ「………カーヤのことか?

 今頃になってカーヤを連れてきたのが間違いだった………。

 そう思っているのか?」

 

 

カオス「…うぅん、

 カーヤを連れてきたのは間違ってなんかなかったと思うよ。

 ………俺が考えてたのは最後にナトルさんが言ってたことの方なんだけど………。」

 

 

ウインドラ「あれか………。

 “立ち向かうべき相手を間違えるな”だったか………?

 ………確かに考えさせられる一言だったな。

 ある意味この世界での真理に基づくことかもしれん。」

 

 

カオス「世界を半分回ってさぁ………。

 最初ミストを出た時はおじいちゃんの家の人達がマテオで悪い評判ばかり耳に入ってきてたからショックは受けたけどそれでもそれを受け止めてバルツィエの家が悪さしてるんならそれと戦っていこうと決めてダレイオスまで来たんだけど………、

 ………なんか最近本当にバルツィエだけが俺達の本当に戦うべき敵なのかって疑問に思えてきて………。」

 

 

ウインドラ「…そう思う切っ掛けになったのはダインというバルツィエの中にも決して悪ではなく話せば分かってもらえそうな奴が現れたからだろう?」

 

 

カオス「………うん、

 ………そして………。」

 

 

ウインドラ「このフリンク領での彼等のような弱いこと、被害者である立場を理由にそのバルツィエの血を持つカーヤを酷く扱う者達が出てきた………。

 俺の目からもバルツィエだからといって完全に悪ではないということも分かるしバルツィエと敵対して俺達に与する者達だからといって絶対に正義だとは断定できん。

 俺でさえも今回のことで俺達の()()()とは誰なのか分からなくなるところだ………。」

 

 

カオス「………」

 

 

ウインドラ「マテオで横暴を振るうバルツィエの弊害がここで発生していたと一言で片付けられればよかったんだがそれを踏まえてもここの………フリンク族達は最低の言葉に尽きるな。

 自分達が受けた痛みを与えた本人ではなく別の………全く他人という訳でもないがカーヤに与えていた………。

 人とは誰かが憎いというだけでこうも醜くなれるものなんだな………。」

 

 

カオス「俺達って何のためにバルツィエを倒そうとしてるのかな………。

 バルツィエがいなくなれば世界は平和になる。

 そう信じてここまで頑張ってきたけど………、

 ………もしバルツィエがいなくなったら世界はどう変わるんだ?」

 

 

ウインドラ「………」

 

 

カオス「…なんかこのままバルツィエと戦ってバルツィエと勝っても平和になんてならない気がする………。

 それどころかただ世界がフリンク族の人達みたいに憎い人達に憎しみをぶつけるだけの「カオス。」」

 

 

ウインドラ「その先は言うな。

 俺も分かってる。

 世界中の人々から嫌われるバルツィエを倒したところで世界は平和になどなりはしない。

 そんなことはな。」

 

 

カオス「ウインドラ………。」

 

 

ウインドラ「だがそれでも世界の状勢的にバルツィエが今このデリス=カーラーンで最も強い軍事力を持つことは確かだ。

 バルツィエが最終的に世界を掌握してしまえばあのラーゲッツのような輩がここみたいな憎しみの連鎖を増やしていくことは間違いないんだ。

 ダインやカーヤのようなバルツィエはまだまだ少数の限りなんだ。」

 

 

カオス「………」

 

 

ウインドラ「俺達は戦争のためにダレイオスに再び国として立ち上がってもらおうとは思っている。

 バルツィエに威嚇、対抗できるだけの頭数だけは揃えなければならない。

 戦争とは結局数がものを言う世界だからな。

 

 

 …しかし何も戦って倒すだけが戦争じゃない。

 相手に脅威を抱かせて突き出した矛を収めさせるのも戦争終結の一つでもある。」

 

 

カオス「矛を収めさせる?

 そんなことができるのか?」

 

 

ウインドラ「要は今のダレイオスにはマテオと終戦を結ぶ機関がない状態なんだ。

 ヴェノムの主騒ぎでバラバラになってしまったダレイオスの部族達がもう一度一国家としてマテオに対等に認められてその上でマテオよりも軍力が上なんだと示すことができればマテオもそうダレイオスに手出しするようなこともないだろう。

 奴等も自分達よりも強い相手に逆らおうなんてそんな愚かな連中じゃないはずだ。」

 

 

カオス「!!

 じゃあダイン達と戦わなくてもいい道があるんだな!?」

 

 

ウインドラ「とは言っても俺達の働きとバルツィエ達次第なんだがな。

 奴等が大人しく引き下がってくれないと話にならない。」

 

 

カオス「………そっかぁ………。」

 

 

ウインドラ「まぁそこまで非現実的な話でもないんだがな。

 こういう可能性もなきにしもあらずだ。

 ………俺も戦わなくていいならそれでいいと思う。

 ダリントン隊長達の仇はとってやりたいとは思うが欲をかいてまた新たな戦争の被害者が出て世界が悪い流れになってしまうことも考えられる。

 

 

 …………隊長達を失った時は俺こそ復讐にとりつかれていたんだがな。

 復讐なんかよりも今を生きている人達のことを考えなくてはなと俺も思うようになったんだ。」

 

 

カオス「そうだよね。

 今を生きる人達がどうやったら生きやすくなる世界になれるかを俺達は探していたんだよね。」

 

 

ウインドラ「…始めの話に戻すが立ち向かうべき相手はバルツィエだ。

 現状での俺達はヴェノムの主になるがこれはただの途中経過の話に過ぎん。

 ヴェノムの主は………カーヤが発端だったがこれも辿っていけば()()()()()()()()()になる訳だがデリス=カーラーンではヴェノムの出現は誰が作ったのかすら判明していない事項だ。

 アローネが言うにはアインスの頃が発端だったようだがそれがどこかで残ってて地上に溢れでた。

 そう解釈するしかないだろう。」

 

 

カオス「俺達の敵はバルツィエただ一つ。

 けど殲滅が目的じゃない。」

 

 

ウインドラ「そうだ。

 俺達はあくまでも()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それだけを目指して突き進んでいこう。」

 

 

カオス「それが分かれば何とかこの先も頑張っていけそうだよ。」

 

 

ウインドラ「その調子でヴェノムの主を討伐しきってこの戦争を終わりにしよう。」

 

 

カオス「あぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 考え事から解放されたカオスは体を休ませるべくアローネ達のところへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…本当に何でヴェノムは百年前に唐突に現れたんだろうな。

 マテオとダレイオスがアルバさんの活躍で漸く調停が結ばれようとしていた時に………。」



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アインワルドに会いに次の地へ

リスベルン山 麓 残り期日七十四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「よし、

 じゃあアインワルド族の住むユミルの森に行くとしようか。」

 

 

 昨日カーヤを連れてリスベルン山の麓まで降りてきてそのままキャンプをした。カオスとウインドラ以外の四人は疲れていたようで直ぐに就寝していたが起きるのは皆ほぼ同時だった。

 

 

アローネ「えぇ、

 次のアインワルド族を苦しめているという“食人植物アンセスターセンチュリオン”を討伐しに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ですが………。」

 

 

カオス「ん?

 どうした………の?」ギュッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……カーヤ?」

 

 

 カーヤはカオスの背中に隠れて他の四人と視線を合わせようとしない。どうやら人見知りしているようだ。

 

 

アローネ「あの………カーヤ………さん?」

 

 

カーヤ「!」ビクッ

 

 

アローネ「………私達は貴女に危害を加えるつもりはありませんよ?

 そんなに警戒なさらないでください。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュゥゥゥ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(……痛いなぁ………。

 凄い握力だ………。)」

 

 

 アローネに話し掛けられてカーヤはカオスの腰に触れている手に力を込める。まだ皆には心を開いていないのだ。

 

 

タレス「…まぁ、

 直接話をしたのは昨日が初めてですからね。

 そういう反応になってしまうのも無理はありませんが………。」

 

 

ウインドラ「何でカオスは平気なんだ?

 カオスとはフリューゲルに来た初日と………、

 後二回目と昨日俺達と会う前に少し会っただけだろう?

 そんなにカオスと俺達で差が出てくるとは思えないが………。」

 

 

ミシガン「って言うかこういうのって普通は同性同士の方が先に打ち解けていってそれから男子って流れじゃないの?

 何でカオスに?」

 

 

 四人はカーヤが妙にカオスに懐いているのを見て訝しむ。実際のところはカオスも何故こうもカーヤと距離が近いのが分かっていなかったが………、

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………貴方達は………カーヤとこの人と違って()()()()()()()()………。

 普通の血の人は………少し怖い………。」

 

 

カオス「血………?」

 

 

アローネ「血………。

 ………!

 カーヤさんは私達が混血かそうでないかが分かるのですか?」

 

 

カーヤ「…うん………。」

 

 

ウインドラ「それは………あれか………。

 フリンク族の気配を感じとる力か。

 その力は相手がどういった生まれなのかも分かるのか?」

 

 

カーヤ「なんとなくだけど………。」

 

 

タレス「なんとなく?」

 

 

カーヤ「………カーヤにはその人が純粋な血かカーヤのような血なのか分かる………。

 ここにいる人達の中でこのお兄さんだけがカーヤと同じ血を持つ人………。」

 

 

 そういってカーヤはより強くカオスを掴む手に力を入れる。

 

 

カオス「(痛い痛い痛い痛い痛い痛い………。)」

 

 

アローネ「…これはきっとハーフエルフと言うよりはバルツィエ特有のマナに感応して………、

 

 

 

 

 

 

 ………………一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 

カーヤ「なっ、何?」

 

 

アローネ「………貴方は相手のマナを感じとることができるのですよね?

 フリンク族が持つスペクタクルズのような能力だと伺っておりますが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その能力で今私達がどういう状態なのか調べることはできますか?」

 

 

カーヤ「………?」

 

 

ウインドラ「どうしたんだアローネ?

 何故そんなことを今………?」

 

 

アローネ「…ずっと気になっていたのです。

 カオスと………精霊王マクスウェルに接触してから私達はこの世界で無敵と恐れられたヴェノムに強い力を得ることができました。

 ダレイオスに渡る際に授かったこの力は一体どのように作用してヴェノムにダメージを与えているのか………皆は気になりませんか?」

 

 

ミシガン「それは………。」

 

 

タレス「アローネさんは始めからこの力を持っていませんでしたっけ?」

 

 

アローネ「私もそう思っていましたがカイクシュタイフの洞窟で誰かが私に語りかけてくる声を聞きました。

 私に関しては分かりにくかったのですが私にも精霊王の()というものを受け取っているようなのです。

 ですから私にも何かしら精霊王によって変化が起きていると思うのです。

 

 

 私は………それが知りたい………。」

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「お願いしますカーヤさん………。

 貴女のお力で私達がどういう状態にあるのか調べることは可能でしょうか?」

 

 

カーヤ「それは………できないこともないけど………、

 ………ただ………。」

 

 

ウインドラ「何か問題があるのか?」

 

 

カーヤ「…うん………、

 お姉さんのお願いは聞いてあげたいけど………、

 ………カーヤにはどうしてもその前に()()()()()()()()()()()()()ことがあるの………。」

 

 

カオス「答えてもらわないといけないこと………?」

 

 

 フリンク族の能力には何か相手の状態を調べるのに必要なものがあるのだろうかと思うカオス達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………お兄さん達の()()………、

 ………まだ教えてもらってない………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・タレス・ミシガン・ウインドラ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………あぁー、

 思い返してみれば私達まだ貴女に自己紹介しておりませんでしたね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤとアローネ達が合流した時にそこにはラーゲッツがいたのでのんびりと自己紹介する時間がなかった。皆ラーゲッツを警戒していたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………じゃあとりあえずは皆の名前を知ってもらうところからだね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達は簡単な自己紹介をして先程の話を進めることにした………。



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カーヤの自己紹介

リスベルン山 麓 残り期日七十四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「カオス………、アローネ、タレス、ミシガン、ウインドラ………。」

 

 

 カーヤが一人ずつ指を指してメンバーの名前を確認していく。

 

 

カオス「そう、

 それが俺達の名前だよ。」

 

 

アローネ「すみませんね。

 考えてみれば私達はナトル族長やフラットさんに貴女の情報を先にお聞きしていたせいで自己紹介が遅れてしまって………。」

 

 

カーヤ「うぅん………、

 別にいい………。」

 

 

ウインドラ「これで俺達はこれから仲間だな。」

 

 

カーヤ「…仲間………?」

 

 

ミシガン「そう。

 私達は仲間だよ。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

タレス「どうしたんですか?

 そんなにおかしなことは言ってないと思いますけど………。」

 

 

カーヤ「………仲間って………何?」

 

 

カオス「それは………。」

 

 

アローネ「あぁ………要するにお友達と言うことでしょうか………。」

 

 

カーヤ「友達………?」

 

 

ウインドラ「まさか友達も分からないのか………?

 ………そうか………、

 そういえばそんな環境にずっといたんだもんな。

 友達という存在すら君には………。」

 

 

カーヤ「うぅん………、

 友達なら分かるよ?

 分かるけど………。」

 

 

カオス「分かるけど?」

 

 

カーヤ「………カーヤには友達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メーメーさんしかいなかったから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「メーメーさん………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メェェェッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンホーンズ「メェェェッ!」

 

 

 カーヤがメーメーさんと口にするとそれに呼応するようにしてカイメラが現れた。フリンク領に来てからはよくカーヤの周りにいることが多いカイメラだが………、

 

 

カオス「カイメラ………?」

 

 

カーヤ「カイメラ………?

 違うよ?

 この子はメーメーさんって言うの。」

 

 

アローネ「あぁ、確かカイメラ………メーメーさんとカーヤさんは昔から面識があったのですよね。」

 

 

ウインドラ「それにしてもカイメラが………、

 メーメーさんか………。

 どこかで聞いたことがあるようなネーマングセンスだな。」チラッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「え!?

 その子メーメーさんって名前付けてるの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「…!?」

 

 

ミシガン「私もね!

 私が生まれ育った村でチャイルドボアのブーブーさんをお世話してたんだけどね!

 なんか親近感湧いちゃうなぁ!

 私以外にもその子の鳴き声で名前付けてる人がいるなんて!」

 

 

 カーヤがカイメラに付けていた名前に反応してミシガンがカーヤに急接近する。

 

 

カーヤ「え………あ………ちょっ………。」

 

 

ミシガン「最初はさぁ?

 もっと普通の名前とか付けてあげたかったんだけどね?

 どうもしっくり来る名前が思い付かなくてねぇ。

 どう呼んだらいいのかなぁって思ったんだよ。

 犬とか猫とかだったら定番の名前とかあるけど流石にチャイルドボアって誰も飼ったりしないからどんな名前付けてあげようかなぁ~ってずっと悩んでたの。

 それでも中々出てこなくて仕方なくブーブーさんに聞いてみようと思ったんだよ。

 そしたらブーブーさんブーブーしか返事してくれないしそれじゃ分からないでしょって突っ込んでみたけどそれでもブーブーさんブーブーしか言わないからもうそんなにブーブー言うならアンタの名前ブーブーにするよ!?って言ってみたらブーブーさんがブーブーって嬉しそうにすり寄ってきたからそれで私はブーブーさんって名前をつけることにしたの!」

 

 

タレス「いや逆にチャイルドボアがそれで自分でいい名前を答えたら怖くないですか?」

 

 

 至極真っ当な突っ込みをタレスがミシガンに入れる。動物、モンスターは人と違って多様に喋ることはできないので鳴き声で名前を決めるのは安直だとカオス、アローネ、ウインドラもそれに同意する。

 

 

カーヤ「あっ、あの………。」

 

 

ミシガン「ねぇねぇ!

 カーヤ………ちゃんも私と同じ理由でこの子のことメーメーさんって呼んでるの?

 メーメー鳴くから?

 やっぱりそうなんだよね?

 ハァ~!

 こんな自分と同じように名前をつける人と会ったのは初めてだよ!

 私達なんだか仲良くなれそうじゃない?

 ねぇねぇねぇ!」

 

 

カーヤ「うっ、うぅぅ………。」

 

 

 ミシガンの圧に押されてカーヤがたじろぐ。

 

 

カオス「ちょっ、ちょっとミシガン。

 そんなに興奮しないでよ。

 カーヤに引かれちゃうよ?」

 

 

ミシガン「何よカオス!

 今いいところなんだから邪魔しないでよ!」

 

 

カオス「いいところって………。」

 

 

アローネ「ミシガン、

 カオスの言う通りですよ?

 ほぼ初対面同士で日も浅いのですからそんなに焦らずとも………。」

 

 

ミシガン「むぅ………、

 アローネさんがそういうなら………。」

 

 

 アローネに指摘されて勢いを落とすミシガン。アローネの言うことには素直に聞き入れるようだが、

 

 

カオス「(何で俺とアローネでこんなに対応が違うのかな………?

 アローネとミシガンが初めて会った時はアローネにもアイアンクロー食らわせてたのに………。

 どこでこの差がついたんだ………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「べっ、別に気にしてない………よ?

 カーヤは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………少しだけメーメーさんの話を理解してくれる人がいるのは………嬉しい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……!」

 

 

 カオスとアローネに注意されて低速気味になったミシガンにフォローをいれるカーヤ。

 

 

ミシガン「でしょ?

 こういう話ってやっぱり同じペット(家族)がいる人なら分かってくれると信じてたよ!」

 

 

カーヤ「もっ、もっとミシガン…………さんの話をカーヤ聞きたい………。」

 

 

ミシガン「そうだね~!

 じゃあうちのブーブーさんについてなんだけど………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思っていたよりもカーヤは皆と打ち解けるのは難しくなさそうだ。ミシガンとカーヤを見ているとそこまでカーヤは人に対して抵抗があるわけでないらしい。今までフリンク族の人達から浴びせられてきた数々の暴言や暴力はあっただろうが今はそんなことよりも自分の理解者が現れたことに対して歓喜しているように見える。

 これなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………あれだけの目にあわされてきても俺のように人嫌いになったりはしなかったんだな………。

 ………むしろこれは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………人との関わり合いに()()()()()()()()と言うことなのかな………。)」



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力について

リスベルン山 麓 残り期日七十四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…それでカーヤさん、

 私達のことなんですけど………。」

 

 

カーヤ「う、うん………。

 えっとね………。

 カーヤの印象的にね………。

 アローネさん達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()って感じがするの。」

 

 

アローネ「マナが澄んでいる………?」

 

 

タレス「それはどういう状態なんですか?」

 

 

 あまりに抽象的な表現で再度説明を要求するタレス。それに対しカーヤは、

 

 

カーヤ「普通の人達のマナはね?

 よくみると六つの属性のマナが混ざりあってごちゃごちゃしてるんだけどアローネさん達のマナはそれぞれ()()に染まりきってる………。

 多分アローネさん達って一つの属性の魔術しか使えないでしょ?」

 

 

ミシガン「!」

 

 

ウインドラ「………その通りだ。

 しかしよくそこまで分かるな。」

 

 

カーヤ「この能力はフリンク族特有のものだから………。」

 

 

アローネ「…まぁ、

 概ねの内容は把握しました。

 それでこの能力が何故ヴェノムに有効なのかは分かりますか?」

 

 

カーヤ「………カーヤの感想だけどアローネさん達のマナと普通の人達のマナは大分違う性質を持ってる………。

 普通の人達と違ってアローネさん達のマナは()()()()()()()って感じがする。」

 

 

アローネ「マナが生きてる………?」

 

 

カオス「どういうこと………?

 マナって普通は………生きてるものなんじゃないの?」

 

 

カーヤ「うん、

 それは合ってるよ?

 けど普通の人達とアローネさん達のマナとでは生命力が段違いに違うと思う。

 

 

 普通の人達のマナは体から離れたら直ぐに消えてしまうくらい生きる力に乏しいけどアローネさん達のマナは多分離れても暫くは力が残り続けてる。

 それがヴェノムに効く理由なんじゃないかな?」

 

 

ウインドラ「どう言うことだ?

 マナが残るか残らないかでヴェノムを打ち払えると言うのか?」

 

 

カーヤ「それは少し違う………。

 アローネさん達のマナは一言で言うと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()………が違うって言うのかな………。

 みなぎるマナそのものが全くの別物って言うか………。」

 

 

カオス「存在力………?」

 

 

カーヤ「ヴェノム達は皆がね?

 ヴェノム達より存在力が下の人達のマナを吸収しちゃうの。

 この世界の人達はそれで皆ヴェノムに殺られちゃうんだよ。」

 

 

タレス「それはよく理解してますが………、

 存在力という表現は初めて聞きましたね。」

 

 

カーヤ「アローネさん達はその生命力がヴェノムよりも上だからヴェノムに攻撃が効くんだよ思うよ?

 アローネさん達の存在力がヴェノムの存在力を上回っているから。」

 

 

ウインドラ「ふむ………。」

 

 

カーヤ「でも普通の人達のマナは………沢山の人を見たことがあるけどどの人も体とマナが上手く適応していないというか………なにかしら得意な属性の術があったとしてもそれ以外の属性のマナが足を引っ張ってて………余分なマナを持ちすぎてる………。

 だからヴェノムに負けちゃうの………。」

 

 

アローネ「!

 今の説明ですとほぼ全ての人々が生まれながらにして複数の属性のマナをもつためヴェノムに敗北してしまうことが決定していますが貴女は………?」

 

 

カーヤ「カーヤは………、

 火の一つしか使えなくて………、

 それでも存在力がヴェノムより上だったみたいで平気だったみたい。」

 

 

ウインドラ「……なるほど………。

 ヴェノムは単純に一つの力に特化した力には弱いが逆に六属性のマナを多く取り揃えた者達の力には強いということだな?

 マテオは元々ダレイオスからの移民達が建てた国だ。

 マテオの住人達はダレイオスでいうところのハーフエルフだらけだから大抵の者が二つから六つの属性のマナを持っている。

 そういう余分な成分があるからマテオの者達はヴェノムの誰一人として抵抗を持つ者がいないのだな。」

 

 

ミシガン「その理屈で言うとハーフエルフはヴェノムに勝てないんでしょ?

 男でカーヤは感染してても平気だったの?」

 

 

アローネ「…恐らくバルツィエの血が強く作用しているのではないでしょうか?

 バルツィエの家計は代を重ねるごとにマナが強くなっているらしいですから。

 ………今のところはまだワクチンを使わない限り直接ヴェノムを倒す段階には来ていないようですが近い将来もしくはこれからのバルツィエの世代にカーヤのような方が現れないとも限りません。」

 

 

タレス「言われてみれば純粋なマナといったらバルツィエの連中も一部を除いては一つの属性に特化した戦闘スタイルですからね。」

 

 

カオス「……纏めるとこうなるのかな?

 普通の人達→ヴェノム→精霊の力を得た俺達とヴェノムの主みたいな関係に………。」

 

 

アローネ「私達は絶対にヴェノムのように一般の人々からして無敵と言うわけではありませんがね。」

 

 

ウインドラ「俺達は一般人が俺達の相反する属性の術を使われたらそれだけで即アウトだ。

 決して三竦みの関係じゃない。」

 

 

カーヤ「…アローネさん達に関してはそんなところだと思う………。

 

 

 

 

 

 

 ………けどカオスさんに関してだけはちょっと事情が違う気がする………。

 マナが澄んでるとかじゃなくてもっと別の何かがカオスさんの中に………。」

 

 

カオス「………うん、

 分かってる。

 それについては俺も………。」

 

 

アローネ「………ありがとうございましたカーヤさん………。

 私のお願いを聞いてくださって………。」

 

 

カーヤ「?

 ………うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………できれば………純粋な俺の力がどんなものだったのか知りたかったなぁ………。)」



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カーヤの実力

ブラーゼン天風道 南部 残り期日七十四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガサッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「!!」」」」

 

 

 アインワルド族の住まうユミルの森に向けて出発したカオス達は突如草影からモンスターの気配を察知し戦闘体勢に入る。

 

 

 モンスターの気配からして恐らく相手は一体。いつ飛び掛かられてもいいように皆武器をとるが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュンッ!!ガッ!!「ギャンッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局自分達が戦うことは無いのだと直ぐに武器から手を離すアローネ、タレス、ミシガン、ウインドラ。フリューゲルに到着するまで何度も体験したことだ。ある誰かが即座に敵を一刀のもとに捩じ伏せてしまう。

 

 

アローネ「(!

 またカオスが一人で仕留めてしまったのでしょうね………。)」

 

 

タレス「(最近野生のモンスターとまともに戦っていませんね。)」

 

 

ミシガン「(楽っちゃ楽だけど………。)」

 

 

ウインドラ「(これではいかんな………。

 カオスばかりが戦って………またシーグス砦の時のようにいつかなりそうで心配だな………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「ん?」」」」

 

 

 カオスはアローネ達四人の隣で剣を抜いて固まっていた。その動作はこれから現れたモンスターに斬りかかろうとする初動に見えるが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ふぅ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルフ「ガフッ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………!?

 え………!?」

 

 

タレス「今のウルフは………カーヤさんが倒したんですか?」

 

 

ウインドラ「カオスよりも早く………?」

 

 

ミシガン「嘘………。」

 

 

カオス「…俺は何もしてないけど………。

 これから斬りかかろうとして………。

 それでウルフが勝手に………。」

 

 

 

 

 

 

カーヤ「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一拍遅れてカオス達五人はカーヤがウルフを瞬殺したことを知る。これまでフリンク領をたった一人で守ってきたのでこれぐらいは可能な範疇なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 とはいえそれを見せられた他のメンバーは驚かずにはいられなかった。ウルフの体格はそれなりに大きく重量も大人一人分くらいはあるだろう。それをよく見えなかったがカーヤの動作からして()()()()()十メートル以上も蹴り飛ばした。カーヤの足には瞬発力もウルフを蹴りあげるだけの脚力もあるということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達の旅に強力過ぎる仲間が加わったのを感じ取った瞬間だった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………すっ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凄いよカーヤちゃん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!?」ビクッ

 

 

 ミシガンの第一声を機にタレス、ウインドラがカーヤの周りに集まってくる。

 

 

ミシガン「ねぇ!

 今のってカオスが使ってる飛葉翻歩ってやつでしょ!?

 レアバード使わないでもあんなに早く動けるんだぁ!」

 

 

タレス「流石はバルツィエの血族だけはありますね。

 カオスさんより早くウルフを倒してしまうとは………。」

 

 

ウインドラ「それだけじゃないぞ。

 あのウルフの体格からしてカーヤよりも体重はあっただろうに。

 それをあそこまで蹴り飛ばしただけに留まらず一撃で………。

 この場合一撃で沈めたこととカオスより早く動けたことと遠くにまで蹴り飛ばす脚の力どれを賞賛すべきか………。」

 

 

 三人がカーヤを取り囲んでそれぞれカーヤの実績を褒め称える。カーヤに実力があることは知っていたが三人はフェニックスとしてカーヤが戦っている場面しか見たことがなかったため武器のレアバードを使わなくてもこれほどまでに強かったとは思わなかったようだ。

 

 

カオス「(凄すぎるな………。

 同じバルツィエでもモンスター相手に体術だけで倒してしまうなんて………。

 ………俺ですらミストの森とウィンドブリズ山では武器がなかったらモンスターを相手になんてできなかったのに………。)」

 

 

 カオスにとって一番磨いてきた力は白兵戦だ。その白兵戦で年下の子に遅れをとってしまったことに少し自信を無くしていた。カーヤの生い立ちからして彼女は精神的に自分よりも脆く守ってあげるべき子だと思っていたのだが今回は逆にカオスが精神にダメージを負ってしまう。

 

 

アローネ「…凄まじい………の一言に尽きますね。

 これほどまでにカーヤさんの戦闘能力が高いとは………。」

 

 

カオス「うん、

 俺よりも足が早いことは知ってたけど多分あの様子だと腕力とかもウインドラより上かも………。」

 

 

アローネ「そこまで………?」

 

 

カオス「昨日ラーゲッツが出てくる前にカーヤを追いかけてたんだけだカーヤがカイメラを抱えて俺よりも早く走って逃げてたから………。」

 

 

アローネ「よく追い付けましたね………。」

 

 

カオス「どうにか頑張ったんだよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「あっ………えっと………。」

 

 

ミシガン「普段ってあんな風にモンスターを蹴散らしてたの?

 あれだけ強いんならリスベルン山でもモンスターがいなくなるわけだよね。」

 

 

タレス「リスベルン山にモンスターが現れなくなったのはヴェノムの主の能力の毒撃があったからじゃないですか?」

 

 

ウインドラ「今度俺と手合わせしてくれないか?

 君程の力の持ち主と手合わせできたら今後のバルツィエの先見隊との戦いにも有意に立ち回れそうなんだが。」

 

 

カーヤ「うっ…ぅぅぅ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス・ミシガン・ウインドラ「「「!?」」」

 

 

 カーヤが突如その場から消える。当然のごとく三人は驚いた。そしてカーヤがどこに行ったのか探すが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………またか。」

 

 

アローネ「そこがカーヤさんの定位置になりそうですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人に詰め寄られて人に馴れていないカーヤはまたカオスの影に隠れてしまうのだった………。



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ミストを訪れし者

ユミルの森 入り口 夜 残り期日七十四日

 

 

 

 リスベルン山を出立してからユミルの森に到着したカオス達だったが到着した頃には夜になってしまった。

 

 

ウインドラ「日が暮れてしまったか………。

 今日のところはこのままユミルの森に入るのは危険だな。」

 

 

アローネ「えぇ、

 暗い中で森の中へと入るのは遭難する確率が高くなりますからね。

 今日はここまでです。」

 

 

 その言葉を合図にカオス達はキャンプの準備に取りかかる。

 

 

 

 

 

 

 そんなカオス達をよそ目にカーヤは、

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「カーヤ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤは一人で近くにあった木の枝に飛び乗ってそこでじっとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…まさかあそこで就寝するつもりなのでしょうか?」

 

 

タレス「まだ完全に心を開いてはくれていないようですね。」

 

 

ミシガン「昨日は一緒に寝たのに………。」

 

 

ウインドラ「昨日はカーヤも傷付いて誰かに寄り添いたかったんだろう。

 ずっと孤独に生きてたようだしな。

 それが今日になって俺達との距離にまだ戸惑ってるところとみた。

 ………まだまだ彼女が俺達に馴染むには時間が必要だということだ。

 一緒に出ていく決意をしてくれただけでも今は十分だ。

 ここはカーヤを尊重しよう。」

 

 

アローネ「そういうことでしたら………。」

 

 

 昨日の今日ではカーヤとカオス達五人には仲間としての距離があった。一人で生きてきた彼女にいきなり足並み揃えて同じことを強要したところで彼女と余計な確執ができても仕方がないことだ。なので五人はカーヤのやりたいようにさせることにするが、

 

 

ミシガン「………カーヤちゃん!

 寂しくなったら降りてきてもいいからね!!」

 

 

 ミシガンがカーヤにそう告げる。対してカーヤは、

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プイッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「ありゃ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メーメーさん「メェェッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?」

 

 

 

 

 

 

 ミシガンがカーヤに木の下から話し掛けたら木の上からはカーヤの代わりにカイメラが返事を返してきた。

 

 

ウインドラ「いつの間にカイメラまで木の上に………?」

 

 

タレス「あの蹄でどうやって木に登ったんでしょうか?」

 

 

ミシガン「カイメ………メーメーさんがカーヤちゃんにはついてるみたいだね。

 それなら問題ないか。」

 

 

アローネ「そうですね。

 メーメーさんが一緒なら寂しいということはないでしょう。」

 

 

タレス「…というかカーヤさんを連れてきたらカイメラも付いてきましたね。」

 

 

カオス「そうみたいだね。

 でもカイメラも本当はカーヤに会いにフリンク領まで来たみたいだしカーヤにとってはカイメラは一番の友達らしいから一緒にいてもいいんじゃないかな?」

 

 

タレス「元はカルトとブロウンを滅ぼした悪魔ですよ?」

 

 

カオス「今のカイメラにそんな力は残ってないだろ?

 カイメラだってヴェノムウイルスでおかしくなってたって話だしそんな過去のことは今のカイメラには関係ないよ。」

 

 

アローネ「全てはヴェノムウイルスが災いしたことです。

 ヴェノムさえ無くなればメーメーさんはどこにでもいる普通の山羊ですよ。」

 

 

タレス「………もうメーメーさんって名前を皆さんは受け入れてるんですね。

 ………そこまで言うのならボクからは何もありませんが………。」

 

 

ウインドラ「そうだな。

 俺達にとっては()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ダレイオスのヴェノムの主達はヴェノムウイルスによって生来を狂わされた哀れなモンスター達だ。

 ならそのウイルスの驚異さえ無くなれば無理に倒すこともないだろう。

 ましてや今はカーヤの唯一心をケアする間柄のようだ。

 特に害がなければこのままでいいだろう。」

 

 

 カオス達はフリンク領に来てカーヤを仲間に引き入れた。それに伴いつい先日敵として戦っていたカイメラも同行するのを認めることにした………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………彼女には………、

 ………カイメラという友………、

 ()()とも言えるような心の支えがいたようですね………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………今の私にはそれが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秘境の村ミスト 同時刻朝方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………へぇ、

 アルバートがここでねぇ………。」

 

 

村長「えぇ………。

 十年前までは村の一員としてここで住んでおりました………。」

 

 

フェデール「もう一度お聞きしたいんですがアルバートの家族は………?」

 

 

村長「………カオス一人でした………。」

 

 

フェデール「………そうですか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………アルバートの家族はカオスただ一人………。それならダレイオスでランドールは何故カオスに姉がいるだなんて勘違いをした?詳しく調べてみれば確かにアルバートが死んだことによってカオスは形式上この村長の家に引き取られてそこの娘と()()()()()()()()にはなるみたいだが年齢的に間違っても義姉にはならないだろう。

 

 

 義理の兄妹間の順番が間違っているだけなら理解できるが実の兄妹かを間違ったのはどうだろうか?血筋的にバルツィエと凡人の家の者を間違うか?俺達バルツィエと一般の奴等の魔力の()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「……フム………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………とにかくもうアルバートの家系はカオス以外は出てこないことは確定した。他は病気や事故で他界している。ランドールが勘違いしたミシガンという娘についてはこの村にいた時から何かしら自主的に訓練のようなことをやっていたらしい。平凡な奴等の中にもそれなりに自力を上げてくる奴は多少はいるんだ。現にラーゲッツはそれでレサリナスでウインドラというダリントンの隠し玉に殺られている………。ミシガンという娘もそういった類いの力を持っていたということだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかし気になるのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 調査すればするほど不可解な答えが返ってくる。一体どうしたというんだカオスは………?

 

 

 カオスが幼少期に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔力欠損症を患っていただと………?



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知られてしまう力の秘密

秘境の村ミスト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「(何がどうなってるんだ………?

 カオスが魔力欠損症………。

 魔術どころか魔技一つ使っただけで死にかける不治の病………。

 それを十年前に患っていたカオスがどうしてレサリナスやダレイオスであんな………。

 

 

 ………何か切っ掛けがあった筈だ………。

 魔力欠損症が治った切っ掛けが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どう考えても()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ=リム・クラウディア………。

 カーラーン教会………そしてあいつの………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長「?

 どうされましたか?

 ()()殿()?」

 

 

フェデール「………いや、何でもありませんよ。」

 

 

村長「…しかしアルバの元家がマテオ王国の騎士の家系だったとは………。」

 

 

フェデール「…アルバートからはそういった話はお聞きしませんでした?」

 

 

村長「アルバは………あまり自分の過去の話はしなかったもので………。

 村で保護した時も騎士は辞めたの一点張りで………。」

 

 

フェデール「………」

 

 

村長「アルバが私達と一緒にミストに住むようになってからはアルバはミストの住人として色々と貢献に努めいつしか彼も村の女性と恋に落ち家庭を持つようになって娘を儲けて………。」

 

 

フェデール「その娘さんが()()()()のお母様ですね?

 事故でお亡くなりになっていなければ是非お顔をご拝見したかったのですが………。」

 

 

村長「まぁ………結構綺麗な御嬢さんでしたよ………。」

 

 

フェデール「しかし事故となると………。

 ヴェノムとかですか?」

 

 

村長「いえこの村がヴェノムに襲われたのは十年前が初のことで彼女が亡くなったのは十五年前ですよ。」

 

 

フェデール「ではモンスターに襲われたとかですか?」

 

 

村長「いいえそれも違います。

 彼女と彼女の夫は………、

 

 

 ()()()()()()()()()()()のです。」

 

 

フェデール「殺生………石?

 何ですかそれは?」

 

 

村長「読んで字のごとく触れたら触れた者を殺してしまう恐怖の岩です。」

 

 

フェデール「触れたら触れた者が死ぬ………?

 それはどういう原理で死ぬのですか?」

 

 

村長「触れると触れた者のマナを根刮ぎ消滅させるんです。」

 

 

フェデール「マナを根刮ぎ………?

 ………その話が事実なら確かに危険な岩ですね………。

 生き物にとってマナは水や空気よりも大切なものですから………。

 ………それに触ってしまってアルバートの娘さんと旦那さんが………。」

 

 

村長「はい………。

 惜しい二人を亡くしたと思いますよ。

 あの二人はこれからだったと言うのに………。」

 

 

フェデール「………何故二人はその殺生石に触ってしまったのですか?」

 

 

 

村長「カオスですよ。」

 

 

フェデール「カオス………君?」

 

 

村長「幼いカオスを連れてアルバと二人が私の家に来ていた時のことでした。

 アルバと二人は私の家で少しばかり話をしていたのですがふと目を離した瞬間にカオスが家の裏手にある殺生石に近付いていくのが見えて慌てて二人はカオスを止めようと走ったのですが本当にギリギリの距離で………結局三人とも………。」

 

 

フェデール「どうしてそんな危険な岩が家の裏手にあるんですか?」

 

 

村長「この村は元々ここに来る道中で訪れたとは思いますが別の場所から移ってきたんですよ。

 前の村がモンスターの襲撃にあうようになってしまって………。

 あの辺りでモンスターが大量発生していたようです。

 先代はどうにかモンスターに脅かされないような場所に村を移動できないかと模索していたらここを見つけたんですよ。

 あの殺生石は触ると危ないですがモンスター達もそれを本能的に察しているようでモンスターすらも近寄らないのです。

 ですからこれ幸いにと殺生石を中心にして村を作ることにしました。」

 

 

フェデール「(効能的には封魔石のようだな………。

 あれはただの障気を溜め込んだだけの岩なんだが………。)それで村長である貴方がその殺生石を管理することになったのですね?

 そんな危険な岩を他の村人達に触れさせないようにするために………。

 それでもそんな事件が起こってしまって三人が………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ん?

 三人が触って………?」

 

 

村長「はい………、

 その事故で三人とも殺生石に触れてしまったのです。」

 

 

フェデール「…貴方の仰る通りならば三人というのはカオス君も含まれていますよね?

 でもカオス君は今も生きてますけど………。」

 

 

村長「三人は数日昏睡状態が続きました。

 残念ながらカオス以外の二人は………。

 カオスもその内二人の後を追ってしまうかと諦めかけていたのですがカオスは奇跡的に意識を取り戻しました。」

 

 

フェデール「!」

 

 

村長「何故カオスだけが助かったのかはその時は分かりませんでした。

 ですが唯一殺生石の絶対的な運命に抗って見せたカオスはその後村でも()()()()として見られるようになって有名になりました。

 ………ですが殺生石は弊害的にカオスの命を奪う代わりにカオスのマナを封じてしまいました。」

 

 

フェデール「それが昨日本の少しお訊きした魔力欠損症ですね?」

 

 

村長「症例的にはそれが一番近い症状だったようでアルバがそう診断しました。

 カオスには一切のマナが無くなっていると。」

 

 

フェデール「………レサリナスでもそういった人がいるのでそう診断するのも頷けますね。

 …でもその話し方からして実際のところは違ったんですか?」

 

 

村長「はい………、

 私達はカオスが殺生石に力を奪われた………そう思い込んでいましたが真実は違ったんです………。

 ………カオスは殺生石にマナを奪われたのではなく………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺生石の力そのものを自らの体に取り込んで殺生石を逆に殺してしまったんです」



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フェデールの考察

秘境の村ミスト

 

 

 

フェデール「カオス君が殺生石の力を取り込んだ………?」

 

 

村長「………はい………。」

 

 

フェデール「………それは………、

 ………しかしどうやってそれを知ったんですか?

 その殺生石の力を取り込んだと言うのであればカオス君自身が殺生石と同じ能力を得て誰かに接触するとマナを消滅させる能力を発現したとかですか?」

 

 

村長「いいえ、

 殺生石の力を取り込んだと言っても殺生石の力をそのまま受け継いだという訳ではありませんでした。

 ………ですがそうとしか思えない出来事が起こったのです。」

 

 

フェデール「何があったんですか?」

 

 

村長「それが十年前のこのミストへのヴェノム襲来です。

 私達は殺生石が触れてはならない石なので十五年前のカオスの両親二人の事故が発生してしまったこともあってそれからは特に村の誰かが触れぬよう注意しておりました。

 私自身も勿論触らぬようにしていました。

 

 

 …ですがカオスという異例の生還者が現れて何故カオスが生きていたのかもっとよく考えるべきでした。

 殺生石に何が起こっていたかをその時に調べておけば十年前のあの事故で村の住民の半数が犠牲になるようなことは無かったでしょう………。」

 

 

フェデール「(………半数が犠牲にねぇ………。

 …普通ならヴェノムに対して無知な村が襲われたら一発で即全滅なんだが………。

 そう考えるとこの村の方が正に()()()()だよなぁ………。)」

 

 

村長「騎士団にこのミストの存在を報国した際にお話ししてありますが私達のこの村は十年前にヴェノムに襲われました。

 運悪く私達が殺生石の力が失われていることを知ったのも実はその直前でした。」

 

 

フェデール「なるほど……… 、

 やはり現地に赴いて調べるのが正解でしたね。

 資料だけではこのミストのことはマテオの各地にある他の村や街と殆ど情報が同じ扱いになってましたから。」

 

 

村長「他にも私達のようなヴェノムの被害者が大勢いるのですか?」

 

 

フェデール「えぇ、

 ヴェノムに関しては百年前の丁度貴殿方が村を移動させた時期に世界全土に出現しました。

 先程モンスターが大量発生して村を移動させたという話ではそのモンスター達は恐らく北から逃げてきたモンスター達が流れ込んで来たものでしょう。

 モンスター達もヴェノムを避けますから。」

 

 

村長「だから私達はヴェノムが出現してから九十年経って漸くそんな危険なウイルスが世界に蔓延していることを知ったわけですね。

 殺生石が生きていた時には村の周りにヴェノムが来ることはありませんでしたから。」

 

 

フェデール「どうやらヴェノムに感染した生物達も本能的にその殺生石に近付くのは不味いと感じ取っていたのでしょうね。

 ヴェノムに感染した生物達はものすごいスピードでマナを使いきって消えてしまいますからマナを消滅させる殺生石なんかはヴェノムにとっても近寄りがたい物だったのでしょう。

 ヴェノム達はそういったマナの流れに過敏ですから。」

 

 

村長「本当に殺生石には長いこと頼りっぱなしだったということですね。

 約百年も私達を守り続けていたのですから。」

 

 

フェデール「………して村長、

 ここからが重要な話なのでしょう?

 話していただけますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス君が殺生石の力を奪ったという話を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長「………そうですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所を変えましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「…これが?」

 

 

村長「はい………、

 これが殺生石でした………。」

 

 

フェデール「見た目は………普通の岩に見えますが………。」

 

 

村長「私達もそれ以上のことは分かりません。

 私達に分かるのはこれがかつて触れれば生き物を殺して………今はその力を失っていることだけです。」

 

 

フェデール「これが………、

 ………それでカオス君が殺生石の力を得た話は………?」

 

 

村長「………十年前………、

 突然この村をヴェノムが襲いました。

 私達にとって奴等は未知の生物ではありましたがそれでも抗おうと魔術で応戦しましたが奴等には全く効かず奴等に襲われた住人達は奴等と同じ様に私達を襲ってきました。

 次第に村は包囲され奴等のことに詳しかったアルバ先導の元ヴェノム達に立ち向かいました。

 アルバが指揮することによって奴等も時間によって死滅することを知り土を掘り返して奴等を一ヶ所に留めて奴等がいなくなるのを待ちました。

 ………が森の奥からは次から次へと奴等が現れて無尽蔵にマナがあるわけではない私達の中からは死の恐怖にかられて逃げ出す者が出始め陣形は崩壊しそこからはもう地獄でした………。」

 

 

フェデール「(ここまではよく聞く話だが………。)」

 

 

村長「アルバは逃げ出す者達を責めたりはしませんでした。

 残っている者達で何とかしようと言いそれからも必死に抵抗を続けました。

 

 

 …がとうとうアルバがヴェノムに感染してしまい倒れるアルバにカオスが駆け寄りそこにヴェノムが覆い被さって………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが殺生石の力を解放したのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「殺生石の力を解放?」

 

 

村長「カオスが放った殺生石の力は忽ち村の周囲にいたヴェノム達を吹き払い村を窮地から救いました。

 そのカオスが放った力は祖父のアルバですらもそのような力を持っていたということはありませんでした。

 なので必然的に私達はカオスが殺生石からその力を吸収してその時に使用したと考えたのです。」

 

 

フェデール「………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そういうことだったのか。道理でいくらバルツィエの血を持っていたとしても世界が滅びかねないような巨大な力を持つのはおかしいと思っていたがそんなカラクリがあったとは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …しかし殺生石か………。話からしてとんでもない力を秘めていたようだがその正体は恐らく………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()宿()()()()()()()()()()………。



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ミストに伝わるバルツィエの脅威

秘境の村ミスト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「それで村は救われたんですね。

 殺生石の力は機能を失ってしまったようですがそれでも全滅を免れたのはカオス君のようにこの村が奇跡の村だったのでしょう。」

 

 

村長「いえいえ私達は何もしてませんよ。

 村を救ったのはカオスですから。」

 

 

フェデール「そうかもしれませんがそれでもヴェノムから生き延びるということは外の世界じゃ難しいことなんですよ?」

 

 

村長「私達は………アルバがいてくれたから迅速に対応できただけです。

 彼がいなかったら被害は半数じゃすまなかったと思いますから………。」

 

 

フェデール「フフ……、

 アルバの親族としては彼がそこまでこの村に貢献できたのは鼻が高いですね。」

 

 

村長「………アルバは本当にマテオではただのしたっぱだったんですか?

 彼ほどの力の持ち主がただのしたっぱに納まるようには思えなかったのですが………。」

 

 

フェデール「アルバートがそう言ってたんですか?」

 

 

村長「………はい。」

 

 

フェデール「………」

 

 

村長「自分は平民の出で辺境に飛ばされて絶望したからこのまま騎士なんか辞めてやる、と仰ってました………。

 私達も騎士でないのならと村に住むことを許可しましたがある時この村を警備している警備隊の者達が少し遠くの方でモンスターの群れに遭遇してしまい彼は一人でその警備隊達の元へと駆けつけてそのモンスターの群れを退治してしまったらしいです。

 その者達の感想は彼は普通じゃない、モンスターよりも恐ろしい何かだったと………。

 そんな彼がレサリナスではしたっぱだったというのはどうにも信じられなくて………。」

 

 

フェデール「………でしょうね。」

 

 

村長「どうか教えてくださいませんか?

 私は長年彼と一緒にいて彼のことを何も知らなかった。

 彼は死に際に彼の名前がアルバート=ディラン・バルツィエだということを聞いて彼には私達に何か多くのことを秘密にしていたことを知りました。

 こんな辺境の地にいる私でも存じております。

 ミドルネームは大抵貴族の位に属する者の特長だということも。

 

 

 彼は………、

 貴殿方はレサリナスでも相応の地位にある家なのではないですか?」

 

 

フェデール「………その質問にはお答えするのも簡単ですがそれではこちらからも貴方にお尋ねしたいことがあるんですよ。」

 

 

村長「………何か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「貴殿方ミストの住人が私に黙っていることは何ですか?」

 

 

 

 

 

 

村長「!」

 

 

フェデール「先に拝見させてもらったアルバートの家………。

 十年前にヴェノムに襲われた名残でしょうがそれにしてはやけに人為的なくたびれ方をしていた。

 あれは()()()()()()()()でしょう?」

 

 

村長「そっ、それは………。」

 

 

フェデール「アルバートには感謝していたようですがそれを差し引いてもカオス君へのヘイトは非常に高かったと見えますね。

 事件後はカオス君もここにはいなかったみたいですし住民名簿を見てもカオス=バルツィエの名前はどこにもない………。

 大方前に放置したというここの前の村に一人で住んでいたのでしょう。

 実はそこもここを訪れる前に休息のために行ってみたんですよ。

 そしたら人がいない割りには妙に小綺麗に整えられていてこれは少し前まで誰かが住んでいたという証し………。」

 

 

村長「あっ、貴方はカオスを国家反逆罪で身元調査にお越しになったのではないのですか!?

 それにしては何か私達がカオスに対して差別的に扱っていたことを批難するような物言いですが……!」

 

 

フェデール「…普通身内から犯罪者が出てそれを身内が調べにやって来ると思います?

 下手したらその身内が罪人の罪を軽減するような工作をするかもしれませんよ?」

 

 

村長「………?

 貴方はアルバとカオスの家の方ではないのですか………?

 …では貴方は一体どこの………?」

 

 

フェデール「えぇ、

 二人と同じ家系の者ですよ?

 私の名は()()()()()()()()()()()()()()()といいます。」

 

 

村長「???」

 

 

フェデール「…貴方には少しややこしかったようですね。

 先ず前提の名目が間違っているのですよ。

 私はカオス=バルツィエの国家反逆罪の捜査に来訪したのではありません。

 私がここに来たのは彼のことを単純に知りたかっただけなのです。

 彼がどのようにここで育ったのかを。」

 

 

村長「………」

 

 

フェデール「…しかしあれですね。

 思っていたよりも彼は………、

 ………悲惨な生活を送っていたようですね………。

 幼少期の魔力欠損症から始まり彼はとても辛い目にあわされていたのではないですか?

 後の殺生石の力を不可抗力で奪ってしまったことに関しても彼がその後この村にいられなくなったことは想像に固くない。

 その上あんな廃墟でたった一人でいたとは………。

 よくもまぁあんな廃墟に人を押しやれたものですねここの人達は。」

 

 

村長「カッ、カオスとは距離をおくべきだと思ったのです!

 事件当時は皆がカオスを責めて私はカオスの安全を確保すべくカオスを「追放したんですよね?」」

 

 

フェデール「善人ぶったことをいったところでカオス君を責めた連中と変わりませんよ。

 貴方もカオス君からしたら自分を追放した大人達の一人だ。」

 

 

村長「………!」

 

 

フェデール「……自覚があったみたいですね。

 自分なりにそんな背景なんじゃないかって思ったんですけど当たりだったみたいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………我が血族に対してなんということを………。

 …これは何かしら裁きを下すべきでしょうか………。」

 

 

 

 

 

 

村長「さっ!裁き!?」

 

 

フェデール「レサリナスではバルツィエに不貞を働く輩には全員に相応の裁きを下す決まりがあります。

 ここの住人達にはカオス君を蔑ろにしたため万死に値する罰を与える権利が私にはあります。」

 

 

村長「なんですって……!?

 お、王国の………騎士の家系だからと言って何故そんなものが発生するのですか!?

 そんなものは横暴だ!!

 第一カオスはこの村の出身なんですよ!?」

 

 

フェデール「この村の出身だろうがなんだろうが貴殿方とカオスでは身分に天地程の差があるんですよ。

 なにせバルツィエの直径ですからね。」

 

 

村長「………バルツィエとは何者なんですか………?

 貴殿方は………なんなんだ………?」

 

 

 

フェデール「何者か………ですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おいっ、出てこい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長「駐在の騎士………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「この方にこの国でのバルツィエがどういったものなのか詳しく事細かに教えて差し上げろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かりました!

 バルツィエとはこのマテオ王国建国から国を支え守っててきた三大貴族の一家で現在では他の二つの家を大きく引き離し最高貴族の位にあります!

 

 

 そしてマテオ国現国王陛下は元バルツィエ当主アレックス=クルガ・バルツィエであります!!

 

 

 

 即ちこの国でのバルツィエは………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国王に次ぐ権力を有している巨大な家です!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長「!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「お分かりいただけましたか?

 私達の家はこの国でも最高の地位にあるのです。

 その気になればこの国でできないことなど何もない。

 自由気ままに気に入らない村なんかを攻め落としたりもできる。

 そこには法律も何もない。

 私達のただの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺意だけが罷り通る世界がある………。」



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ミストへの脅し

秘境の村ミスト

 

 

 

村長「バルツィエが国王………!?

 アルバの家がそんなに………!?」

 

 

フェデール「ちなみに言っておくと現国王アレックスはアルバートの実弟ですよ。」

 

 

村長「え……!?」

 

 

フェデール「百年前にアルバートが失踪したせいで弟のアレックスがクリスタル女王と婚姻を結ぶことになりましたが本当だったらそこに即位していたのは当時()()()()()()()()()()()()だったはずなんです。

 アルバートはマテオ一の腕っぷしの強さがありましたからね。」

 

 

村長「アルバが………騎士団長………。」

 

 

フェデール「今は私がその座に着任しておりますがね。

 私の他にもバルツィエやバルツィエに従順な者達が騎士団の隊長に就任しております。

 武力という一面ではバルツィエは完全にこのマテオを掌握しているんですよ。」

 

 

村長「………アルバ達の家がそこまで………。」

 

 

フェデール「そうです。

 私達がこの国の最高機関に位置するというのであれば私達には道理は通用しません。

 私達が行ったことがそのまま法律にも道理となるのです。

 私達を知る者達は口々にこう言いますよ。

 “バルツィエを怒らせてはならない”と。」

 

 

村長「………」

 

 

フェデール「………それにしてもこのミストという村は酷い村ですねぇ?

 仮にもバルツィエの家の者を追放しただけでなくカオス君のアルバートが住んでいた家すらも焼こうとするとは………。」

 

 

村長「!!

 焼こうとしたのは事件直後に殺生石を奪ったことに憤りを押さえられなかった村の者達の本の一握りの者達なんです!!

 私達もすぐにそれを止めて………!」

 

 

フェデール「だったらその者達を連れてきてください。

 粛清しますので。」

 

 

村長「それは………!?」

 

 

フェデール「できませんか?

 ………本当に救い用のない村ですねぇ~。

 バルツィエに喧嘩を売るような愚か者を庇うだなんて………。

 ………こんな村ならいっそのことダレイオスからの敵の侵入を防ぐために砦にでも改築した方が良さそうですね。」

 

 

村長「砦……!?

 そんなこと断じて許しませんよ!!」

 

 

フェデール「許さないと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうするんですか?」

 

 

村長「そ、それは………!」

 

 

フェデール「貴殿方の村がヴェノム出現に伴って村の防衛に不審を抱いたからこそこの村の存在をレサリナスに報告したのですよね?

 本当なら移動した時点で報告しなければならない義務を百年も意図的に先送りにしていた………。

 これだけでも大変な問題行為だとお見受けしますが何かご意見がありますか?」

 

 

村長「ぐぅぅ………。」

 

 

フェデール「まぁ、

 税収を納めるのが面倒だった、と言うのが本音でしょう?

 私達国を運営する者の立場からしてみればそういった脱税行為は困りものですねぇ………。

 私達も税をいただく代わりに国を守っているのですからそれが百年も未払いだったというのであれば私達には貴殿方を守る義務が発生しなくなる。」

 

 

村長「このミストの存在を報告してからの税は納めていますでしょう!?

 それなのに貴殿方はそんな私達に刃を向けると仰るのですか!!?」

 

 

フェデール「確かに報告後はちゃんと納めてはいるようですね。

 資本がない代わりに村で育てた作物を献上するという形で………。

 

 

 では空白の百年の間の税はいつ納めるんですか?」

 

 

村長「!?

 その期間の税を請求するんですか!?」

 

 

フェデール「請求するのは当然じゃないですか。

 私達が守っているのは国単位でのことなのですからこのマテオの地にいるのであればどこにいても私達の庇護下にあったということ。

 そのお陰で貴殿方はダレイオスからの攻撃を受けることなく今日まで生き延びることができたんです。

 だったら百年の期間の防衛費も払っていただかないと。」

 

 

村長「そんな………。

 百年の税なんてとても………。

 それに百年の間は私達は自分達でこの村を守ってきたというのに………。」

 

 

フェデール「何を仰っているのですか?

 この村にはアルバートがいたんですよね?

 彼は失踪したとはいえバルツィエの騎士だ。

 なら百年間貴殿方はバルツィエに守られていたことにもなるんです。

 それでしたら国が貴殿方を守っていたも同然です。」

 

 

村長「!!

 だがそれでしたら十年前のあのヴェノムの襲撃では貴殿方お国の騎士がこのミストを守れなかったということにもなりませんか!?

 そんなんで貴殿方バルツィエはこのミストを守ったと本気で言えるんですか!?」

 

 

フェデール「………ハハハ!

 なんと耳が痛い話ですね。

 確かに貴方の言う通りだ。

 私達バルツィエはこのミストを守りきれなかった、そうともとれますね。」

 

 

村長「でしたら………。」

 

 

フェデール「でもそれは貴方かもしくは貴方の先代の村長が義務を怠ったのが原因じゃないですか?

 素直にレサリナスに村の団体での移動を報告していれば十年前に起こった悲劇は回避できたのではないですか?」

 

 

村長「………ッ!」

 

 

フェデール「一応アルバートはいたみたいですが騎士団長と言っても一騎士に対してそこまで仕事の責任を押し付けるのは流石に無茶な話ですよ。

 彼もそこまで万能じゃない。

 私達やアルバートを責める前に十年前の事件は一体誰が原因だったのかそこのところをよく考えてみてください。

 カオス君のせいですか?

 アルバートのせいですか?

 

 

 ………村の長である貴方の家が招いたことなのではないですか?

 貴殿方がただ義務を果たさなかったことが十年前の事件に繋がるんじゃないですか?

 もし義務を果たしていたのなら十年前に犠牲になった住民達も今もまだ普通の生活を送れていたでしょうに………。」

 

 

村長「………………。」

 

 

フェデール「誰かに責任を押し付ける前に先ず自分達が責任から逃げていたということをもう一度深く見つめ直してみるべきですね。

 仮にもカオス君は次期バルツィエの当主候補になるのです。

 その次期に対して数々の不当な制裁は私達も看過することは「カオスが次期当主候補………!?」」

 

 

フェデール「………そうなんですよ。

 カオス君のことはレサリナスでもうバルツィエの一員として正式に迎え入れる方針で話が進んでいます。

 そうなれば我々の家は次期のこの村に対する印象次第では直ぐにでもここを攻撃することもできます。」

 

 

村長「そ、それは………!?

 それは一体どういうことですか!?

 カオスはここで生まれ育ったのですよ!?

 それなのにカオスが貴殿方の家に迎え入れられてそれでここを攻撃だなどと……!

 私達はマテオの民ではないですか!!?」

 

 

フェデール「残念ながらマテオの民だからって私達が攻め落とさないということはないんですよ。

 バルツィエとはそういう家なのです。

 ………仮に貴殿方がその立場を盾にしようとお思いでも守られる立場であることを主張するのなら私達バルツィエに相応の感謝と誠意を示すべきなのです。

 それをあまつさえ我等の同胞に遺憾な仕打ちを加えて私達が黙っているとでも?」

 

 

村長「カオスはミストの住人だ!!!

 貴殿方の家とは何も関係がない!

 それなのにどうして私達の村がそんなことになるのですか!?」

 

 

フェデール「関係が無いのは貴殿方の方でしょう?

 貴殿方の村はカオス君を追放し村長である貴方もカオス君をそのままにしておいた。

 貴殿方がカオス君を見捨てたのであれば彼は私達の方でいただきますよ。

 そして私達はできるだけ彼の望みを叶えて差し上げたい………。

 

 

 ………彼は何を望むと思います?

 私でしたら自分を貶めたこの村を滅茶苦茶にしてやりたいと望むと思いますがどうでしょう?」

 

 

村長「カ、カオスがこの村を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …私達は………間違っていたのか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「間違うことは誰かにだってありますよ。

 大切なのはそれをいかに元の形に戻すかです。

 この村は始めから間違っていたんです。

 それなら貴殿方が私達に消されることになったとしてもそれは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある意味正解のように思えてきませんか?」



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ユミルの森を探索

秘境の村ミスト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「(………フフフ、

 レサリナスで聞いたおおよその内情と騎士団でのミストの詳細を照らし合わせて自分なりに考察してみたらドンピシャだったみたいだ。

 カオスにとってこのミストは憎くて仕方がないというような印象が根付いていることだろう。

 事件のこともあってあれほどの力を備えていても罪悪感からこの村に復讐する気にはなれなかったようだが………、

 

 

 

 

 

 

 そこを代わりに俺達でカオスの鬱憤が溜まったこの村に制裁を加えてやればカオスはどう思うか………。

 レサリナスでは最悪な邂逅になってしまったが少しは俺達に感謝の気持ちを感じてもおかしくはないはずだ。

 あんな脅しで竦み上がるような村だ。

 元々立地的にここはどこかで砦を建設する案が上がっていたが遠方ということもあって直ぐにその計画に取りかかれる余裕が無かったがそれが上手く働いてくれた。

 名文的には“バルツィエの次期当主カオスに非業な仕打ちに対する裁き”。

 もしこの村を取り壊したらカオスはこの村の連中が嘆く様を想像して俺達に少なからず共感する、そこから対話に持っていければ奴と奴の勢力を取り込むのは用意な筈………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………問題はカオスが“奴等”にどの程度取り込まれているかだ。

 カオスがここを出たのは約半年前、そこからレジスタンスが丁度いいバルツィエの看板に泥を塗れる材料を見付けてカオスを指名手配したみたいだがその時点で既にカオスは()()()()()()()()()()()()()()と一緒にいたみたいだ。

 ウルゴスのあの女がカーラーン協会からの差し金であることは確実だ。

 次いでカオスはレサリナスに潜伏していたのであれば当然奴とも顔合わせはしている。

 人を取り込むのが巧みな奴の手口ならもう望みは薄いと思うがそれでもカオスがレサリナスに到着する時期から換算しても完全に()()されきってはいないものと仮定しておこう。

 そうでなければ俺達は奴に対抗する()()()があれしか残って………。

 …あれでさえも奴の力の前に役に立つかどうかなんだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いずれにしても戦力は増強するしかない。

 カオスが奴等が探していた精霊の力を宿しているのであればそれをこちらに引きこめれば状況は漸く()()()()()()()()()()()()、奴の手にカオスの精霊の力が渡れば俺達は確実に奴等に抵抗できる手段を失ってしまう。

 高をくくった奴が俺達に提供してきた技術も深読みすればそれが奴等にとって何の脅威も無いということは判断できる。

 奴等が持つ力が三百年前のマテオ建国から今どの程度俺達の先を行っているのか分からないがそれでも今の俺達は奴等の()()()()()に頼るしかできずに心許ない技術を僅かに理解する程度に留まっている。

 

 

 

 

 

 

 そこに来てやっと………、

 奴等の()()()()()()()()()()()()に辿り着いた。

 カオスと精霊の力があれば多少なりとも奴等に一矢報いることは叶うはずだ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………必ず、

 必ず手に入れてやるからな………。

 俺達は必ずカオスと精霊の力を………。

 ………そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このデリス=カーラーンを滅びの運命から守りきって見せる!

 例えどれだけの犠牲を払おうともデリス=カーラーンを一つにして………!

 ()()()()()()()()()()()()………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユミルの森 残り期日七十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「………」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達はダレイオスのアインワルド族を苦しめるヴェノムの主アンセスターセンチュリオンを討伐しにユミルの森へと来ていた。そして現在彼等は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………ちょっと待って、

 ここさっき通った場所じゃない?」

 

 

カオス「え?

 本当に?」

 

 

ミシガン「そうだよ!

 だって私ここ見覚えあるもん!」

 

 

カオス「………言われてみれば存な気が………。」

 

 

ウインドラ「記憶違いじゃなければ俺もここの記憶がある。

 ミシガンのいう通りここはさっき来た場所だな。」

 

 

タレス「同じ場所をグルグル回っていたみたいですね………。

 これは………。」

 

 

アローネ「えぇ………、

 私達………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道に迷ってしまいましたね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「おかしいな………、

 俺達真っ直ぐに進んでいたはずだよね?」

 

 

アローネ「直進していたつもりが少しずつ反れていたのでしょうか?」

 

 

タレス「だからってまた同じ場所に戻ってきますかね?」

 

 

ウインドラ「森のように周りを木々に囲まれた地形では方向感覚が鈍るな………。

 太陽も殆ど真上に来ているし俺達が今森のどの辺りにいるのかも分からん………。」

 

 

ミシガン「どうするの?

 一旦森から出てみる?」

 

 

アローネ「そうした方が宜しいでしょうね。

 一度森の外に出てから………、

 ………?」

 

 

カオス「?

 どうしたの?」

 

 

アローネ「………森から出るにはどちらに進めばよろしいのでしょうか?」

 

 

カオス「何言ってるんだよ俺達は………、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あっちからあっち「こっちでは?」「あっちじゃない?」「この方角だったと思うが?」から来ただろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「え?」」」」

 

 

 アローネの質問にカオスとタレス、ミシガン、ウインドラがそれぞれ別の方向を指差す。

 

 

カオス「ちょっ、ちょっと待ってくれよ!

 俺達はこっちから進んできてここまで戻ってきたんだろ?

 こっちに向かえば森の外に出られるんだよ!」

 

 

タレス「そうでしたか?

 ボクはこっちから来たと思ったんですが………。」

 

 

ミシガン「三人とも違うよ?

 私達あっちから歩いて来たじゃない。

 だからあっちに戻れば森を抜けられるでしょ?」

 

 

ウインドラ「ミシガン、

 そっちは今俺達が通ったルートだ。

 俺達は森の奥の方からまたここに戻ってきてしまったんだぞ?

 ならこのまま直進すれば森の外へ繋がってる筈だ。」

 

 

カオス「いやいやウインドラそっちはモンスターの唸り声が聞こえて迂回した方向じゃないか。

 そっちこそ進んじゃ不味いって。」

 

 

タレス「カオスさんが指差した方もあまり人が通れるような道じゃありませんでしたよ?

 ボク達は比較的歩きやすい場所を通ってここに辿り着いたじゃないですか。」

 

 

ミシガン「タレスが通って来たって言った道は私全然景色に記憶が無いんだけど………。」

 

 

タレス「それはミシガンさんの記憶力が乏しいだけで「何ですって?」!?」

 

 

 

 

 

 

アローネ「こんなことで喧嘩は止めてください。

 ………誰も私達が来た道を覚えていないということで宜しいですね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「………はい………。」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………はぁ………、

 私達が通ってきたことが分かる目印を木に付けて進むべきでしたね。

 まさか遭難しないように明るい時間帯を待って森へ入ったというのに遭難してしまうとは………。」

 

 

ウインドラ「山のように高低さがあれば大体の位置は分かったんだがなぁ………。

 それが無いのであれば何を基準にして進めばいいか………。」

 

 

ミシガン「カオス長いことミストの森にいたよね?

 野生の勘とかでどっちに行けばいいとか分からないの?」

 

 

カオス「無茶なこと言わないでくれよ。

 ミストは長年住んでたから道が分かるだけでこの森に入ったのは今日が初めてなんだぞ?

 土地勘もないのにそんなの直感で分かるわけ無いよ。」

 

 

タレス「困りましたね………。

 これでは右にも左にも進めない………。

 ここで時間だけが過ぎれば夜になって………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

カオス「………!

 ………ごめんなカーヤ………。

 君を連れ出したはいいけどいきなり迷子に巻き込んじゃった形で………。」

 

 

カーヤ「………困ってるの?

 ここがどこだか分からなくて。」

 

 

カオス「………そういうことになるのかな。

 カッコ悪いけど素直に「カーヤが見てこようか?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「カーヤが空から見渡せばどこに行けばいいとかいいか分かるんじゃないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「…その手があったか………。」」」」」



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森の中の人

ユミルの森 残り期日七十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「どう?

 どっちに行けば分かった?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 カオスがレアバードで飛行するカーヤに大声で呼び掛ける。カーヤは暫く空から周りを見渡して降りてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタッ…、

 

 

 

 

 

 

アローネ「それでどちらの方に出口がありましたか?」

 

 

カーヤ「…カーヤ達が入ってきた入り口は多分あっちの方にあった………。」

 

 

 カーヤがそういってカオス達四人が先程指し示した方向と違う方向を指差す。

 

 

カオス「あー………見事に全員外れてたね。」

 

 

タレス「森の中では方向感覚が分からなくなりますからね。

 同じ景色ばかり見ているとどうにも自分達がどこに向かっているのかさえも………。」

 

 

ウインドラ「では一旦ここから出て再度木に目印を付けながら進もうか。

 等間隔にいくつかの木に目印をつけておけば次こそ迷うことなく元来た場所へと戻れるだろう。」

 

 

ミシガン「でもそれって結局アインワルド族のいる場所までの道のりが分からないままじゃないの?

 出口探すよりも先ずこの森のどこにアインワルド族が住んでいる村があるのか探すべきだったんじゃない?」

 

 

ウインドラ「!

 たっ、確かにその通りだな………。

 空から自分達の位置を特定できるなら森を出るよりかはこのまま進んだ方がいいのか………。」

 

 

アローネ「でしたら今度は森の出口ではなくアインワルド族がいそうな場所を探す必要がありますね。

 申し訳ないのですがカーヤさん、

 もう一度空に上がってそこを探して見てもらえますか?」

 

 

カーヤ「…分かった………。」

 

 

 カーヤは再びレアバードで上空へと飛翔する。

 

 

 

 

 

 

カオス「………カーヤがいて本当に助かったなぁ。

 カーヤがいなかったら俺達この森から先に進むことが出来なかったんじゃないかなぁ………?」

 

 

ミシガン「空が飛べる人がいるのって便利だね。

 高い所からなら広い場所まで見渡せそうだし。」

 

 

タレス「木に上ったとしても見渡せる限界がありますからね。

 木よりも高所からの視界があればどんな場所でも出入り口に迷って困ることはありませんね。」

 

 

ウインドラ「レアバードか………。

 バルツィエは随分と便利なものを作ったものだ。

 あれが人数分あれば一々歩いて進むことは無いんだがなぁ………。」

 

 

アローネ「そうですね。

 でも今はカーヤさんだけしかレアバードをお持ちには………。」

 

 

タレス「!

 そういえばリスベルン山でラーゲッツの荷物からこれを持ち出してきたんでした。」

 

 

カオス「…?

 何か持ってきて………、

 

 

 ………ってそれは………!」

 

 

ウインドラ「()()()()()()()()()()()か!?

 いつの間に………。」

 

 

タレス「カオスさん達がラーゲッツを埋めている時にです。

 何かに奴に立つと思って。」

 

 

アローネ「これがあればカーヤさんのように空を飛ぶことができますね。

 ですが………。」

 

 

ミシガン「たった一つ増えただけじゃ六人全員は乗れないよねぇ………。」

 

 

ウインドラ「アローネがダインとウィンドブリズで二人乗りできていたことからレアバードに一つ二人乗せたとしても後もう一つは欲しいところだな。」

 

 

タレス「現状カーヤさんの分を含めてレアバードは二つ………。

 人数的に四人は空を飛べますけど二人が地上に置き去りになりますね。」

 

 

カオス「だったらレアバードをどこかであともう一つだけ手に入れないといけないんだね。

 先見隊の奴等が近くにいないかなぁ………?」

 

 

アローネ「こんなことのためにあの方達が近くにいるか期待するのはどうかと思いますが………。」

 

 

ウインドラ「だがこのレアバードさえあれば移動速度が格段に上がるんだ。

 それにバルツィエの奴等もこれを使ってマテオからダレイオスに渡ってきているのであれば逆にダレイオスからマテオに渡ることもできる。

 レアバードを入手するという案は採用してもいいと俺は思うぞ。」

 

 

ミシガン「そんな簡単にバルツィエから盗めるものかなぁ………?」

 

 

カオス「大丈夫だって。

 ラーゲッツやユーラスもだったけどあいつらって、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなに強くないから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達が話をしている間にカーヤが上空から戻ってくる。

 

 

カオス「おかえり、

 アインワルド族の村がどっち方面か分かった?」

 

 

カーヤ「多分向こうの方にある。

 向こうの方に何か()()()()があってその辺りから人の気配がしたから………。」

 

 

アローネ「それがアインワルド族でしょうね。

 カーヤが仰るなら間違いないでしょう。」

 

 

カーヤ「…ただ………。」

 

 

ウインドラ「ん?

 何か気掛かりでもあったのか?」

 

 

カーヤ「うん………、

 この先の道の途中で………、

 ()()()倒れてるのが見えた………。」

 

 

タレス「何かが倒れてる………?

 モンスターですか?

 それともアインワルドの誰かが………?」

 

 

カーヤ「アインワルド………の人じゃないと思う………。

 向こうの大きな木のあるところから沢山の人達のマナを感じるけどその人達のマナと違うみたいだし………。」

 

 

ウインドラ「…それならバルツィエの先見隊か………?

 またバルツィエの誰かが俺達を待ち伏せしているんじゃないか?」

 

 

カオス「もしそうだったら俺達にとっては有り難い話だね。

 バルツィエからレアバードを貰えるチャンスだし。」

 

 

 たった今バルツィエからレアバードを入手できないか話をしていたところにバルツィエの先見隊が森の中にいる可能性が出てきた。カオス達はいつでも武器を構えられる体勢をとるが、

 

 

ミシガン「?

 でもカーヤちゃんが見付けたその人って()()()()ように見えたんだよね?

 先見隊だったら何でそんなことになってるの?」

 

 

アローネ「…戦う前から先見隊が何者かの攻撃を受けてそれで負傷しているのではないですか?

 例えばヴェノム………にやられるような方達ではないのでヴェノムの主とかに………。」

 

 

カオス「……カーヤ、

 その倒れていた人ってどんな様子だった………?」

 

 

カーヤ「えっと………、

 多分バルツィエの人じゃないよ?

 パパ………あのラーゲッツって人達だったら普通の人よりも強いマナを感じるんだけどそんな感じはしなかったから………。」

 

 

タレス「それなら一体どんか人なんでしょうかね………。

 アインワルド族でもなくバルツィエでもない誰か………。」

 

 

アローネ「………!

 ミーア族の方々ではないでしょうか!?

 フリューゲルにもミーア族の方々が私達よりも先に話を通していただいたようですし彼等ならこの森に来ていても不思議ではありません!」

 

 

カオス「そうか!

 それだったら納得がいくね!

 でも倒れてるってことは何かあったんだろう。

 直ぐにその人のところに「あっ、あの………。」」

 

 

カーヤ「………勘なんだけどそのミーア族の人達でもないと思うよ?

 っていうよりもあれは………。」

 

 

ウインドラ「何か思い当たる伏しでもあるのか………?」

 

 

カーヤ「………あれは()()()()()()()()()()()()

 昔はダレイオスの色んなところにいたみたいだけど今はいなくて………。」

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「???」」」」」

 

 

カーヤ「………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とにかく行って見てみたら分かる………。

 そんなに危ない人じゃなさそうだし戦いになることも無いよきっと………。

 だけど倒れてるってことは何か困ってると思うから行ってあげた方がいいよ………。」

 

 

カオス「…まぁ、

 通り道みたいだしカーヤのいう通り様子を見に行ってみようか………。」

 

 

 カオス達はカーヤが見付けたというその謎の人物(?)の元へと向かうことにするのだった………。



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行き倒れを発見

ユミルの森 残り期日七十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「確認しておくがこの先にいる奴は本当に害は無さそうなんだな?」

 

 

カーヤ「うん………。」

 

 

アローネ「バルツィエでもミーア族でもないのですよね?」

 

 

カーヤ「うん………。」

 

 

カオス「………人なんだよね………?」

 

 

カーヤ「………」

 

 

ミシガン「カーヤちゃん………?」

 

 

カーヤ「………人かどうかは自信ない………。

 でもモンスターじゃない………はず………。」

 

 

カオス「一体どんなのが倒れてるんだ………。」

 

 

タレス「(………人でもないモンスターでもない………、

 そして昔からダレイオスにいた………?

 

 

 ………もしかして………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「!

 見えてきたぞ。

 あれのことじゃないか?」

 

 

 カオス達はカーヤが見付けた人物の見える距離にまで近付いてきた。その人物の様子は、

 

 

ミシガン「?

 なんか小さくない?

 子供?」

 

 

アローネ「アインワルド族ではない他の部族の子供がこのような場所に………?」

 

 

ウインドラ「…いや待て………、

 全身が………()()()………のようなもので覆われてるぞ。

 あれは人じゃない。」

 

 

カオス「だったらモンスター………?」

 

 

アローネ「…それによく見ますと頭部から耳のような物が生えています。

 ………ラビットではないでしょうか?」

 

 

ミシガン「ラビットってことはモンスターじゃなくてまだ動物の域だよね?

 この森に住んでる子かな………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「う”あ”あ”………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「なっ、なんか唸ってるけど………。」

 

 

アローネ「苦しそうですね。

 何かあったのでしょうか?」

 

 

ウインドラ「何かあったから倒れていたんだろう。

 ………あれは………どうすればいいんだ?

 無視して先に進むのもありだと思うが………。」

 

 

ミシガン「あんなの見たら流石に放っておけないでしょ。

 でも近づくのもなんか怖いし「メ?」!」

 

 

 カオス達が未知の生物を前にしてどうするか悩んでいるとメーメーが謎の生物に歩み寄って、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メーメー「ガブッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思いっきり耳と思われる部分をかじった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「メーメーさん、

 そんなの食べちゃ「痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!?」!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・ミシガン・ウインドラ・カーヤ「「「「「(しゃ、喋った!?)」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「何するでやんすかお前ェェッ!!

 ()が倒れてるからってエサか何かと勘違いしてないでやんすかぁ!?

 まだ生きてるでやんすよ!?

 俺っちはまだまだバリバリエサになるには早いでやんすよ!

 俺っちを食いたけりゃ俺っちをぶっ倒して………!

 あっ………調子のってすいやせん食われるのは勘弁なんでどうかこの場は見逃してほしいでやんす。

 俺っちなんか食べても腹壊すだけでやんすよ?

 俺っち不味い兎でやんすから。

 自分まだやり残したことが多すぎて………故郷には嫁や子供もいるんす。

 俺っちが死んだら家族達が悲しむでやんすよ?

 あいつら俺っちの帰りを待っててそれに俺っち故郷に結婚を約束した相手がいるでやんす。

 あいつと結婚するまでは俺っち死ねないでやんす………。

 え?見逃してくれない?

 ………くっこんな危ない森になんかいられるか俺っちは帰らせてもらう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………何だあれ………。」

 

 

 見た目が人ではない何者かが人語を話すことにも驚いたがその後に続いた勢いの激しい命乞いになんとも張っていた気が抜けていくのを感じる。

 

 

 

 

 

 

メーメー「メェッ!」

 

 

???「うわっと!?

 だから俺っちは食べられないでやんすって!!

 ってかアンタ山羊じゃないでやんすか!?

 山羊が兎を食おうとするなんてなんて乱世でやんすか!!

 なんすか!?

 そんなに俺っち美味そうに見えるでやんすか!?

 そうまでして俺っちを食いたいでやんすか!?

 俺っちの兎生はここで終わっちまうでやんすかぁぁぁ!!?

 ………かくなる上は………、」

 

 

 謎の自称兎は懐をあさりだした。自称兎がそこから取り出したのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「ヒッヒッヒ!

 これが何に見えるでやんすか?

 こいつは………、

 

 

 “ポイズンダガー”、猛毒を持つ蛇バジリスクの毒液を塗りたくった武器でやんす。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオスアローネタレスミシガンウインドラカーヤ「「「「「「!!!?」」」」」」

 

 

 メーメーと自称兎のやり取りを静観していたら何やら聞いているだけでとても危険な物が出てきてしまった。そんなもので傷つけられでもしたらいくら元ヴェノムのメーメーでも………、

 

 

 これ以上静観し続けるとメーメーが殺されてしまうと思いカオス達は自称兎を止めようと一斉に動き出すが間に合わずに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「ハァッーハッハァ!!!

 どうでやんすか!!

 このポイズンダガーの切れ味は!!

 一斬りで竜をも殺すとされるバジリスクの毒はこれだけでも大抵の生き物は息絶えるでやんすよ!!

 

 

 

 

 

 

 そんな毒のダガーで()()()()()()()()()()はまさに猛毒兎でやんす!!

 俺っちを食えば即座にアンタの体にもこのバジリスクの毒が回ることになるでやんすよ!!

 残念でやんしたね!?

 俺っちを食うことはもうアンタにはできないでやんす!!」

 

 

メーメー「ギ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…何を考えてるんだあいつは………。」

 

 

タレス「食べられたくないからって自分に毒を仕込みましたね………。」

 

 

ミシガン「どんだけ食べられたくないのよ………。

 ってか武器って言ってるのに自分斬りつけてるし………。」

 

 

アローネ「………大丈夫なのでしょうか………?

 あの兎さんの言葉通りならとても危ない毒らしいですが………。」

 

 

カオス「大丈夫なんじゃないかな?自分で切ったくらいだし「ぐわああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「くっ苦しい!!?

 バジリスクの毒が……!!

 毒が体に回るぅぅぅぅぅ!!

 助けてェェェェェェッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………大丈夫じゃないって。」

 

 

カオス「後先考えずに自分に使っちゃったのかよ………。

 山羊相手に焦りすぎだろ。」

 

 

ミシガン「………あれ………どうする………?」

 

 

アローネ「…怪しい方ではありますが言葉も通じるようですし一応助けて差し上げましょうか。」

 

 

ウインドラ「そうだな。

 あんなのでも見捨ててしまえば後味が悪い。

 パナシーアボトルなら予備が余ってたはずだ。

 それを使ってやろうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………どうしてこんなところにあれがいるんでしょうか………。

 あれはダレイオスから引き上げたはずじゃ………?」



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うさにんマクベル登場

ユミルの森 残り期日七十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「ふぅ!

 危ないところを助けていただき感謝するでやんす!

 危うく猛毒兎から昇天兎になるところでやんした!」

 

 

カオス「…今度から先のことを考えて行動した方がいいですよ?」

 

 

アローネ「そうです。

 私達がいなければ貴方は貴方の持っていた毒のナイフで命を落としていたところなのですよ。」

 

 

???「ハハァ!

 今後はこのようなことがないよう肝に銘じておくでやんす!

 俺っちもこんなことで一つしかない大切な命を失ってしまうようなことは勘弁でやんすからね。」

 

 

ミシガン「…にしても何で毒のナイフ持っていながら自分を切っちゃうかなぁ………。」

 

 

ウインドラ「今回はメーメーがちょっかいをかけて自衛のためにナイフを取り出したところまではよかったが何故その後に自分を切りつけたんだ?

 刃物であるなら自分を切るよりかはメーメーを切りつける方が効率的だとは思うが?

 毒も塗ってあったようだし………。」

 

 

???「いやぁ、実はこの森にもう()()()()()()()()()()と思い違いをしてましてぇ、

 貴殿方のお連れさんだとは知りませんでしたでやんすからヴェノムに感染した個体に噛み付かれたのだと思いヴェノムに侵されて少しずつ意識を失っていく恐怖を味わうくらいならいっそのこと自分で決着を、と判断した上での行動だったでやんすよ。」

 

 

アローネ「なるほど、

 それでヴェノムに感染したゾンビ相手にナイフは無意味と悟り自身を切りつける結果に………。」

 

 

カオス「(………あれ?

 でも助けてとか言ってたような………。)」

 

 

ミシガン「それで貴方は誰なの?

 アインワルド族じゃないよね?」

 

 

ウインドラ「その耳はつけ耳………では無さそうだな。

 しっかりと皮膚と一体化している………。

 人語を介してはいるが人………か?」

 

 

???「え?

 俺っちのことが分からないやんす?

 そんなまさか………、

 高々六年前後いなかっただけで()()()()のことを忘れたりはしないでやんしょ?

 ()()ならともかく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()絶対に覚えているはずでやんす。」

 

 

カオス「…悪いんですけど俺達実はダレイオスの住人じゃないんですよね………。」

 

 

???「はい?

 ダレイオスにいてダレイオスの住人じゃない?

 それはどういう………?

 ………!?

 まさかマテオのバルツィエ………!?

 ヒィィ!?

 とんでもないのに俺っち助けられちゃったってことでやんすかぁ!?」

 

 

ウインドラ「違うぞ。

 俺達はバルツィエに組するものではない。

 マテオの出身であることは正しいがな。」

 

 

???「?

 バルツィエではないマテオの出身者達がここで何を………?」

 

 

アローネ「先に質問していたのは私達なのですが………。」

 

 

 カオス達と謎の自称兎の話が段々と進まなくなってきた。互いに互いの素性が相手に分からないことに疑問を持っているようだった。カオス達からしてみればダレイオス半分以上を旅してきたのだ。カオス達のことを知らないのであれば彼はアインワルド族かブルカーン族のどちらかになるのだがカーヤが言うにはアインワルド族ではないらしい。

 

 ………では彼がダレイオス国家体制崩壊後にフリンク族の領地に侵攻し始めたブルカーンになるが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「貴方は………“()()()()”ですよね?

 ダレイオスの各部族が散り散りになる前までダレイオスにいたあの………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然タレスが自称兎に対して確信をつくかのようにそう指摘した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うさにん?「お?

 おぉ~!!

 やっぱりそうでやんすよね!?

 六年で忘れられるほど俺っち達はそんなダレイオスでは影薄くはなかったでやんすよね!!

 よかったよかったぁ!

 俺っち達のこともうダレイオスの誰も覚えてないのかと思ったでやんすよ!

 坊やはもしかしてダレイオスの人でやんすか?」

 

 

タレス「はい、

 ボクはアイネフーレ族です。」

 

 

うさにん?「アイネフーレ!?

 東側の人達じゃないでやんすか!

 アイネフーレの人達にはよく利用してもらっていたでやんすから俺っちも覚えてるでやんすよ!

 九部族の中で最先端ってこともあってスラートの次に活用してもらってて~!

 懐かしいでやんすねぇ!」

 

 

タレス「その節はボクの同胞達がお世話になりましたね。

 物資の運搬の早さには信用があったので多少の不備があっても使わせてもらっていました。」

 

 

うさにん?「いやはやお恥ずかしい限りでやんす!

 俺っち達は誰よりも早くお届け先にお荷物を届けたい一心でやんして決して手を抜いてた訳じゃないでやんすよ?

 ただ気持ちが焦りすぎて代金だけ頂いてお荷物を持っていくのを忘れたりしてただけでやんす。」

 

 

タレス「それじゃただの窃盗詐欺になりますからね?」

 

 

 謎の自称兎とタレスが何故か知り合いかのように話が盛り上がっていた。それを見ていたカオス達は、

 

 

カオス「タレス………、

 この人は一体………?」

 

 

タレス「カオスさん………?

 ………あぁ、

 前に一度カオスさんとアローネさん、ミシガンさん、ウインドラさんの四人にはお話していたと思いますが彼が昔ダレイオスで運送業を営んでいたうさにんです。」

 

 

ミシガン「うさにん………?

 ………なんだっけそれ?」

 

 

ウインドラ「マテオでいうかめにん達のことだよな?

 …確かに一度そんな話をしていたなぁ………。」

 

 

アローネ「ダレイオスに来た始めの頃にその話はタレスかれお聞きしましたね。

 では彼がその………。」

 

 

うさにん?「そうでやんす!

 俺っち達がダレイオスの主な流通を取り仕切っていた()()()()()()のうさにんのマクベルでやんす!」

 

 

カオス「マクベルさん………?」

 

 

タレス「でもうさにんがこんなところでどうしたんですか?

 うさにん達はとっくの昔にダレイオスから撤退していたという話ですが………。」

 

 

 タレスの話ではうさにんはダレイオスが崩壊したことによって職を失い自分達の故郷に帰ったという話だったはずだがなぜそのうさにんがこのような場所に?と思ったカオス達だったが、

 

 

 

 

 

 

マクベル「その事についてなんでやんすが俺っちは調査のために来たでやんすよ!」

 

 

アローネ「調査………?」

 

 

タレス「何の調査なんですか?」

 

 

マクベル「そんなの決まってるでやんすよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスが()()()()()が出てきたようでやんして俺っち達もダレイオスが復活したらまた仕事を再開できるかどうかの調査でやんす!

 そのために俺っちはこのアインワルド族の巫女様に話を聞きに来たんでやんす!

 本当に仕事が再開できるかどうかの交渉でやんすね!」



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復活しつつあるダレイオス

ユミルの森 残り期日七十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「…って言うと貴方………貴殿方うさにんはこのダレイオスが再興するのを予見してそれを調べにうさにんのいる島からここまで来たということですか?」

 

 

マクベル「そうでやんす!

 俺っち達はいつかきっとダレイオスはまた昔のように元通りになることを祈ってずっとダレイオスを見守っていたでやんす!

 数ヵ月前まではそんな兆しは見られなかったでやんすがここ最近東側のヴェノムの情勢が急激に落ち始めたでやんすからこれはもしやと思いこの森の巫女様に話を聞きに参ったんでやんすよ!」

 

 

ウインドラ「それでこの森にいたということか………。

 しかし………。」

 

 

アローネ「()()()………と言うのは………?」

 

 

 うさにんのマクベルはこの森に住むアインワルド族に話を聞きに来たみたいだがその相手が巫女という聞き慣れない単語に疑問を浮かべる一同。

 

 

マクベル「え?

 巫女様のこと知らないでやんすか?

 坊やも?」

 

 

タレス「スミマセン………、

 ボクもダレイオスの住人ではあったんですが他の部族のことについてはまだよく習ってなかったものでして………。」

 

 

マクベル「そうでやんしたかぁ………。

 巫女様と言うのは他の部族でいうところの族長と同じ扱いでやんすよ。

 呼び方が違うだけで基本は同じものだと俺っち達は考えてやんした!」

 

 

アローネ「何故わざわざ族長とは違う別称を………?」

 

 

マクベル「それは………さぁ?

 クリティア族のように自身を長老と呼べと言うような方もおりましたでやんすからねぇ。

 その類いではないでやんすか?」

 

 

ウインドラ「長老に巫女か………。

 クリティアの長老オーレッド殿は拘りみたいなものがあったが巫女とは………。」

 

 

ミシガン「巫女ってことは女の人が族長なの?」

 

 

マクベル「そうでやんすよ。

 アインワルドは代々女性の方がその職に就いてるでやんす。

 アインワルド族は新たな命を産み落とす女性の方が社会的に立場が高いと考える()()()()で高い役職の人も殆どが女の人でやんす。」

 

 

カオス「女尊男卑………ってどういう意味?」

 

 

アローネ「女性の方が階位的に偉いということですよ。」

 

 

タレス「でも何でアインワルド族の巫女に話を訊きに来たんですか?

 話を訊くだけなら貴方達のいる島からはここよりもミーア族の人達や元首都として機能していたセレンシーアインのスラート族達に話を訊きに行った方が早いんじゃ?」

 

 

マクベル「それはまぁそうでやんすけどね?

 うちにも一応話しを訊く相手として誰が一番真っ当な話してくれるかがあるんすよ。

 要は信頼度の問題っす。

 アイネフールとミーアはどこにいるか分からなかったでやんすしスラートの人達はどうにも堅苦しくなりそうだしクリティアやカルトの地方は寒いからパス、

 ブロウン、フリンク、ブルカーンの三部族に至っては遠いしまともに話が通じるとも思えなかったでやんす。

 その点アインワルドの巫女様達は()()()()()()()()()()()ことは分かってるでやんすし他の部族達のように野心も無い。

 何より巫女様は美人で物腰もやわらかで会いに行くだけでも俺っちはなんだか幸せになれる気がするでやんす。」

 

 

ミシガン「なんか最後の意見が一番重要そうに聞こえるんだけど………。」

 

 

ウインドラ「婚約者だか子供だかがいる奴がそんな考えで会いに行っていいのか?」

 

 

マクベル「それはそれ、これはこれでやんしょ?

 雄に生まれたんなら例え恋人や妻がいたとしても他の女性に目がいっちゃうのはどうしようもないことなんでやんすよ。

 そこは目をつぶっていてほしいでやんす。」

 

 

アローネ「そんなものなのですか?」

 

 

カオス「いやぁ……、

 うんまぁ………?

 その通りかもしれないけど俺は………。」

 

 

カーヤ「?

 奥さんがいても他の女の人がいいと思えるものなの?」

 

 

カオス「お、俺に訊かれても困るんだけどなぁ………?

 俺にはそんな人いないんだし………。」

 

 

タレス「話が逸れてますよ。

 今はそんなことどうでもいいでしょ。

 

 

 ………マクベルさん、

 貴方はこれからアインワルド族の巫女の元へと向かうんでしたよね?

 でしたらボク達のことはそこで話をします。

 一緒に行きませんか?」

 

 

 タレスがマクベルにアインワルドの元への同行を誘い出る。それに対してマクベルは、

 

 

マクベル「え?

 いいでやんすか?

 俺っち乱暴な亀達とは違って戦闘はからっきしでやんすよ?」

 

 

タレス「分かってますよ。

 うさにんは基本的に逃げ足が早く戦闘をしない種族だってことは昔から聞いていましたから。

 それならボク達が戦闘を行ってマクベルさんは付いてくるだけでいいですよ。

 戦闘はボク達に任せてください。」

 

 

マクベル「!!

 それなら助かるっす!

 俺っちこの森に入ってからずっと迷ったり逃げたりで中々巫女様のところに辿り着けなくてそろそろ帰ろうかと諦めようとしていたところなんでやんす!!

 お客さん達が俺っちを守りながら進んでくれるって言うなら俺っち安心して巫女様のところに行けるでやんす!」

 

 

 タレスの提案に大喜びのマクベル。しかしどうしてタレスがそんなことを言い出したのか分からなかった他のメンバーは、

 

 

ウインドラ「……タレス、

 いいのか?

 何か信用に欠ける業者らしいが………。」

 

 

タレス「いえ、

 これでいいんだと思いますよ。

 近々ダレイオスが復興するという話は間違っていませんしそれにダレイオスが復興するとなると物流の流れは大事ですからこれを機にうさにん達にはまたダレイオスで活動を再開してもらうのが対マテオへのいい宣伝にもなると思います。」

 

 

アローネ「…そういうことでしたか。

 彼等が活動をし始めれば部族間での情報や物資の流れが速やかになり、それに伴ってよりダレイオスが復興するペースが早まるということですね?」

 

 

タレス「その通りです。

 ダレイオスの部族間でのやりとりは部族同士がやるよりかも仲介のうさにんがいた方がスムーズに進めやすいですし今からうさにん達にはその話をしておいた方がいいですよ。

 後になるとこの問題がどれだけ大きく関わってくるのかは皆さんにも分かるはずですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「なにやってるっすか!!

 早く行くでやんす!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………本当にあの人に頼ってもいいの?」

 

 

タレス「………ちょっと心配なところはありますけど多分大丈夫だとは思います………。」

 

 

ウインドラ「自信なさげだな。

 それであれがどんな働きをしてくれるというのかがいまいち分からんところだが今はあいつを案内するのが先決か………。」



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いつものこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「………来ましたね。

 ()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???『あぁ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「ミーアの遣いの者達から話を聞かされた例の彼等と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が数ヵ月前にマテオからダレイオスへと渡って来てからの移動経路………。

 見事に一致します。

 やはり不動の者と今ダレイオスのヴェノムの主を倒している者達は同じ人物………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???『………どうするんだ?

 前にも言ったがあの存在の力は強大だ。

 あれが暴れでもしたらこんな森なんか一瞬で消されてしまう。

 そうなればこのデリス=カーラーンは………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「どうもこうもありません。

 敵対するなら迎え撃つだけですが話を聞く限りでは彼等は私達に敵対するような者達ではないはずです。

 ですから私達は役目を果たす、それだけを念頭に入れておけばいいのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???『…そうだな。

 俺達がすることといえば結局()()を誰の手にも渡さないことだけだ。

 あれが汚されでもしたらこの世界はマナと障気の循環が滞り瞬く間に生物が生きられない世界になってしまう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「アインワルド………、

 ………いえ、

 デリス=カーラーンに生きる一エルフとして私は絶対にあの樹を守って見せます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()を………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユミルの森 残り期日七十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「ドッヒャァァァァァァァァァ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あ!?

 そっちは危ないですよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「ズォォァァァァァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「ヒェェェェェェェッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「待て!!そっちにも「ゴオオオオッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「うわっ!?

 かすった!!

 かすったでやんす!!?」

 

 

アローネ「落ち着いてください!

 動き回られると私達がフォローに入れません!!」

 

 

マクベル「そんなこと言われたって相手はヴェノムでやんすよ!?

 そんな立ち止まって呑気に構えていられないでやんす!!」

 

 

タレス「相手は植物型のモンスター、トレントです!

 植物タイプのモンスターは基本的に擬態などで獲物を待ち伏せして一気に捕獲してから捕食するんです!

 マクベルさん貴方が逆にそう動きまくればそれだけタゲが貴方に集中するんですよ!!」

 

 

 

マクベル「ヒィィィ!!?

 だからさっきから俺っちばっかり攻撃が飛んできてるでやんすね!?

 お客さん方!!

 どうにかしてほしいでやんす!!」

 

 

ミシガン「もう!!

 そんなんでどうしてこの森に一人で入ってこれたの!!?」

 

 

マクベル「だ、だって東側のヴェノムが減少し始めたもんでやんすからてっきりこっちの西側もそうだと思ったんでやんすよォォォッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「ウオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「あ………。(終わった………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブオォォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「フオオオオオオオオッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「………あえ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「間に合った………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「カーヤ!」

 

 

 マクベルにトレントの振り回し攻撃が迫った瞬間カーヤが間一髪マクベルとトレントの間に割って入りその攻撃を蹴り返した。

 

 

 ………と言うか蹴りでトレントの腕のような部分を切断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「『ファイヤーボール!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「ゴ!?………スッ………!?」

 

 

 カーヤの火の魔術ファイヤーボールに呑み込まれたトレントは火の中でのたうち回りやがて炭となって消える。

 

 

アローネ「…圧巻ですね。

 流石カーヤです。」

 

 

ウインドラ「ヴェノムウイルスが無くともそれだけの強さをまだ保持しているとはな。」

 

 

タレス「今のはギリギリでしたね。

 もしカーヤさんがいなかったらマクベルさんがペシャンコになっていたところでした。」

 

 

ミシガン「魔術も凄かったけどそれよりもキックであの大きなトレントのパンチを打ち返したのは壮観だったね。」

 

 

カオス「よくあそこで飛び出せたねカーヤ。

 本当に君がいて助かるよ。」

 

 

カーヤ「カーヤ役に立った?」

 

 

カオス「あぁ勿論だよ。」

 

 

カーヤ「………そう。」

 

 

 カオスに褒められて照れるカーヤ。まだ他のメンバーとの会話は拙いがそれでもカオスの陰に隠れたり顔を背けたりするようなことはしなくなった。二日も経てばその辺りは慣れてきたのか警戒しなくてもいい相手だと分かってきたのだろう。この調子でカーヤが心を開いてきてくれればいいが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「ちょっとお客さん!?

 大丈夫なんでやんすか!?」

 

 

 カオス達がカーヤを褒め称えているとマクベルが声を荒げて駆け寄ってくる。

 

 

ウインドラ「ん?

 何がだ?」

 

 

マクベル「何がって………!?

 お客さん達今ヴェノムに斬り込んでたじゃないでやんすか!?

 そちらのお嬢さんに関しては直接触っちゃったでやんすし……!!

 あああ………!

 俺っちのせいでお客さん達がヴェノムの餌食に………!?」

 

 

 カオス達のことを知らないマクベルが慌て出す。彼はカオス達がヴェノムウイルスに感染してしまったと思ったらしい。その心配は要らないと説明しようとするが、

 

 

 

 

 

 

マクベル「………ん?

 なんか耳が暑い…………、

 ってワギャァ!?

 俺っちの耳が!?

 耳がァァァァッ!?」

 

 

カオス「あぁ………、

 さっきかすったって言ってましたね。」

 

 

マクベル「うごぁぁぁぁ!?

 こんなところでまさかヴェノムに感染してしまうとはぁぁぁぁ!!?

 おっ、お客さん!!

 俺っちのことはもういいでやんすから早く俺っちから離れて「『ファーストエイド!』」………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………はれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「これでもう大丈夫ですね。

 それでは先に行きましょうか。」

 

 

マクベル「あ………あれ?

 今俺っちヴェノムに感染したんじゃ………?

 それが………………あれ?」

 

 

アローネ「安心してください。

 もうヴェノムは取り払いましたから。」

 

 

マクベル「取り払ったってそんな訳………。

 …………え?」

 

 

タレス「グズグズしないでください。

 トレント達はまだまだいるんですから。」

 

 

ウインドラ「用心しろ。

 この辺の木々の十本に一本はトレントのようだ。

 さっきみたいにもう騒ぎ立てて走り回るなよ。

 サポートがしにくくなる。」

 

 

マクベル「……………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………はれ~?」



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アインワルドの巫女

ユミルの森 残り期日七十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「………お客さん方は………、

 何者なんでやんすか?」

 

 

カオス「何者って………。」

 

 

 先程の戦闘の後数回ほどトレントを倒してからマクベルがカオス達にそう質問してきた。

 

 

マクベル「攻撃が効かないはずのヴェノム生物達をあっさり倒したり俺っちが感染したのを直ぐに治したり………、

 ………お客さん方普通じゃないでやんす。」

 

 

ウインドラ「…まぁ普通じゃないのは認める。」

 

 

タレス「その話はアインワルドの巫女のところに行ってから話すと言ったでしょう?」

 

 

マクベル「だっ、だけど俺っち凄い気になるでやんす!?

 俺っちは今どんな人達と一緒にいるでやんすか!?」

 

 

 事情は後で話すと言ってもマクベルは引かずに更にカオス達に追及してくる。

 

 

ミシガン「う~ん、

 こんなところで話すようなことじゃないんだけどねぇ………。」

 

 

アローネ「この森の中は安全とは言いきれません。

 もう少し先に行ってからお話しますよ。」

 

 

マクベル「………もしかしてでやんすけどお客さん方の統一感のない旅人の集まり………、

 それでいてヴェノムをものともしないその力………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お客さん方は………西側の情勢と何か関係して………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアァァァァ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ「「「「「「!」」」」」」

 

 

 マクベルに詰問されながら進んでいると突然カオス達は回りの空気の感覚が変わるのを感じた。足を踏み出した一歩の違いで世界が確実に変化した。

 

 

タレス「………これは………。」

 

 

アローネ「到着したようですね。

 ここが………。」

 

マクベル「おおぉ!!

 やっと!

 やっと着いたでやんすか!?

 アインワルドの住む村、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “アルター”でやんす!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインワルド族の村アルター

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ずカオス達を出迎えたのは一本の大きな樹とその回りにそびえ立つ多くの木々、その木々の上に簡単な造りをした家が見える。

 

 

カオス「木の上に家………?」

 

 

アローネ「あのような場所に家があって不自由はないのでしょうか?」

 

 

ミシガン「アインワルドの人達って木の上で暮らしてるの?」

 

 

マクベル「そうでやんすよ!

 あれらは“ツリーハウス”って言ってこういった視界の悪い森の中で暮らすアインワルドの部族達にとってはいち早く外敵の接近を知るためにあぁした高い場所に家を作る風習があるんでやんす!」

 

 

ウインドラ「そうした理由があってあんな場所に家を置いたのか。

 ダレイオスが一度統合した後もその風習が残り続けてるんだな。」

 

 

マクベル「そうでやんすねぇ。

 アインワルドの人達にとってはもう木の上で過ごすのが当たり前になって辞められなくなってるんじゃないでやんすかねぇ?」

 

 

カーヤ「………カーヤなんだか分かる気がする………。

 木の上は遠くまで見渡せるから近くに誰かが来たりしたら直ぐに分かるから………。」

 

 

タレス「カーヤさんもユミルの森の前では木に登って眠っていましたからね。」

 

 

アローネ「…では早速アインワルドの巫女にお会いに「あぁちょっと待つでやんすよ!!?」はい?」

 

 

 アローネがアルターの中に入ろうとするとマクベルがそれを止める。

 

 

マクベル「そこにある()()から先へは俺っち達外部の者は入れないでやんすよ!

 その石像から中へはアルターの者以外の進入を固く禁じられているでやんす!」

 

 

 そう言われて見てみるとアルターには所々に人の形をした石像が設置してありカオス達の直ぐ側にもその石像がある。

 

 

 石像は精巧に作り上げられているのか本物の人のように見紛う程だ。…と言うよりも人が石像になったのかと思うほどの出来である。石像はどれも種類がバラバラで顔から服装まで何もかもが全く違う。共通しているのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これを作り上げた者の趣向があるのだろうか。

 

 

タレス「ではどうやって巫女に話を取り付ければいいんですか?

 村に入れないのであれば話などできないじゃないですか。」

 

 

マクベル「そこは心配は要らないでやんすよ。

 ここから中にいる人達を呼んで巫女様を連れてきてもらえばいいんでやんすから。」

 

 

アローネ「ここで話をするのですか?」

 

 

マクベル「そうでやんす。

 見ててくださいでやんすね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ごめんくださ~「お待ちしておりました。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「お初にお目にかかります。

 貴殿方がダレイオス再統一を諮っておられる大魔導師軍団の方々ですね。

 私アインワルドを束ねる巫女の“クララ”と申します。」

 

 

 マクベルが石像の隣で大声を出そうとした時にクララと名乗る女性が現れそれを遮った。彼女が話に聞くアインワルドの巫女のようだが、

 

 

マクベル「わわ!?

 巫女様が直々にお出迎えしてくれたでやんすか!?」

 

 

クララ「おや?

 話に聞いていた限りではサムライを含めての六人でダレイオスを旅しているという話でしたがサムライが見当たりませんね………?

 それどころか人数が七人………?

 ………うさにんも混じっているようですが………。」

 

 

アローネ「ここにもミーア族から話が通してあるようですね。

 サムライの………オサムロウさんは一旦私達とは別行動をとる形になりました。

 他は………。」

 

 

 カオス達を見てミーア族からの情報と照らし合わせて事情を説明しようとするアローネ。しかしクララはそれを手で制し、

 

 

クララ「いえその辺りの説明は不要です。

 貴殿方の計画はこのアルターを訪れた時点でダレイオスのこのアルターとブルカーンの地以外を踏破したということはお聞きしております。

 聞いていた情報との人数の違いは途中で他の部族達の中から有志が出たということなのでしょうね。

 

 

 …一先ずは私の家まで案内いたします。

 私についてきてください。」

 

 

 そう言ってクララはカオス達をアルターの中まで促すが、

 

 

カオス「!

 俺達が中に入ってもいいんですか?」

 

 

マクベル「そ、そうでやんす!

 そんなあっさり俺っち達がアルターの中に入ってもいいんでやんすか!?

 前に来たときはここから外にある近くの小屋で商談をしてたでやんすが何でこのお客さん達だとそう簡単に中に入れるでやんすか!?

 それにダレイオス再統一ってのは何の話でやんすか!?」

 

 

 マクベルの話では決してこのアルターには他人が村の中に入ることは許されないという話だったがそれが特に検閲もせずに今日初めて出会ったカオス達を疑うこともなくすんなりと入れようとしている。あまりに無警戒過ぎるが、

 

 

クララ「?

 このうさにんは貴殿方の同行者なのではないのですか?

 彼は何故貴殿方の計画を知らないので?」

 

 

ウインドラ「このマクベルとは実はこの森に入ってから知り合ったんだ。

 だからまだマクベルは俺達がどういう存在なのか知らないんだ。」

 

 

クララ「あぁそれでこのようなことを………。

 ………私がこの方々を受け入れるのはミーア族からこの方々のお話をお聞きしているので迎え入れる次第です。

 彼等は今後のダレイオスに必要不可欠な存在なので。」

 

 

タレス「でもミーア族から聞いていた情報とも違う上にボク達が本当に大魔導師軍団かどうかも怪しくは思わなかったんですか?

 ここにいるボク達は皆貴女とは初対面です。

 それでどうしてこんなに直ぐボク達を………。」

 

 

クララ「そんなことは簡単なことですよ。

 このアルターに入るには先にユミルの森を越えなくてはなりません。

 ですがダレイオスの民であの森を越えられる者は限られてくるでしょう。

 いかに貴殿方の力の恩恵を受けたミーア族や他の部族達でもユミルの森は別名トレントの森、

 あのトレント達を退けながら()()()()()でこのアルターまで徒歩で辿り着ける者は貴殿方マテオから来た未知の力を持つ大魔導師軍団しかいない。

 そう推理しました。」

 

 

ミシガン「………なんだか凄みがある人が出てきたね………。」

 

 

クララ「そう大した推理でもないのですけどね。

 では参りましょうか。

 私の家までご案内します。」

 

 

 そしてカオス達はクララに案内されるがままアルターの奥まで入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アインワルドの長、巫女クララ。

 ここまでではフリンク族の時のように何かを隠しているような素振りは見受けられない。受け答えも素直に応えている感じがする。カオス達は一応フリューゲルのような前例を警戒することにしたが………。



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巫女と精霊ラタトスク

アインワルド族の村アルター クララ邸 残り期日七十三日 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「それではそちらの方へお越しかけください。」

 

 

 クララの邸宅へと案内されたカオス達は室内にある椅子に促されそれに腰掛ける。室内にあった椅子は丁度人数分用意されており誰かが腰を浮かせるようなことにはならなかった。これからこのアインワルド族を襲うヴェノムの主アンセスターセンチュリオンについての詳細を訊くことになるがそれよりもカオス達はこのアルターについて気になっていることを質問する。

 

 

カオス「あのクララさん、

 一ついいですか?」

 

 

クララ「何でしょう?」

 

 

カオス「どうして俺達が今日ここに来るのが分かったんですか?」

 

 

クララ「…と言いますと?」

 

 

カオス「俺達がユミルの森に入ってきたのは今日の朝でした。

 それなのにクララさんは俺達が半日でユミルの森を抜けてアルターまで来たことが分かっていた感じがして………。」

 

 

アローネ「そうですね。

 先程私もそのように聞こえました。

 まるで私達が来ることをどこかで知っていたかのように………。」

 

 

 この部屋に用意された人数分の椅子とクララ自らがカオス達を出迎えたこととここまでスムーズに案内されたことからその考えが間違いではないことを確信してクララに問う。クララは、

 

 

クララ「確かにその通りですね。

 私は()()()()がこちらへとやって来ることは事前に察知しておりました。

 貴殿方がフリンク領からユミルの森に入ってきた辺りで人数も確認し貴殿方の到着する前に村の者達にここの用意を手筈しました。」

 

 

ミシガン「カオス様?」

 

 

カオス「あれ俺まだ自分の名前は言って………?」 

 

 

クララ「原理は違いますが私にはフリンク族のように遠方にいる者の気配を感じとる力が備わっているのです。

 貴方様のことはずっと前から気配を感じ取っていたのですよ。

 セレンシーアインで貴方様が世界中に届く魔術を使ったときから………、

 ………いえ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方様が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…!?」ゾクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララが発した言葉に一瞬言い様のない寒気を感じるカオス。この人はカオスがミストを出たときからカオスのことを知っていたとでも言うのか。そんなことができるものなのか?

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…つまりクララ殿は俺達の中からカオスの中に宿る巨大な力を感じとって俺達がどこにいるのかを知り今こうして対面して一番力の強いカオスをカオスと認識したということか。」

 

 

タレス「カオスさんの力は影響力が強いですからね。

 なんていったってヴェノムの主グリフォンがカオスさんのマナに引き寄せられて飛んでくるぐらいですし。」

 

 

カーヤ「カオスさんはフリンク領でもどこにいるのか直ぐに分かるぐらい存在感が強かった……。

 フリンク族じゃなくてもそれが分かるんだね。」

 

 

 クララの発言に特に疑問を抱かなかったウインドラ達はそれぞれが自分なりに解釈してクララの言葉を受けとる。

 

 

ミシガン「ところでさぁクララさん、

 巫女ってなんなの?」

 

 

 ミシガンがユミルの森でマクベルから聞かされた他の部族達の長達との名称の違いを指摘する。

 

 

マクベル「あ!

 それ聞いちゃうんでやんすか!

 駄目でやんすよ?

 それについては俺っち達うさにんも前に「巫女は………」答えちゃうんでやんすか!?」

 

 

 

 

 

クララ「巫女は他の部族からしてみれば族長となんら変わりはありませんよ。

 一族を纏める代表のことです。

 

 

 ………ですが貴殿方には何故私達アインワルドが巫女という名前を使って差別化しているのかお応えしても問題ないでしょうね。」

 

 

 クララがそう言って部屋の窓に近寄り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「貴殿方も拝見していると思いますがこの村を囲むように配置してあるあの石像………。

 あれは全て私よりも前の先代達の巫女の像です。」

 

 

カオス「あの石像達が先代の巫女………。」

 

 

アローネ「ここではあの石像達のように一度巫女に就任した方の石像が作られるのですね。」

 

 

クララ「…少し違いますね。

 あの石像達は私達アインワルドが作った物ではないのですよ。」

 

 

タレス「?

 ではあの石像は誰が加工したんですか?」

 

 

クララ「誰でもありません。

 あの石像達に関しては誰も手を加えたりはしていません。」

 

 

ウインドラ「…よく分からんな。

 あんな精巧な力作が自然に出来上がったとでもいうのか?」

 

 

クララ「いえ、

 それも違います。」

 

 

マクベル「じゃああの石像達はなんなんでやんすか?」

 

 

クララ「あれらの石像達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先代の巫女達御本人なのですよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………は?」

 

 

アローネ「あれらの石像が………。」

 

 

タレス「先代の巫女達本人………?」

 

 

ミシガン「え?…………えぇッ!?」

 

 

ウインドラ「人が………石像になったのか………!?」

 

 

カーヤ「?」

 

 

マクベル「一体前例何がどうなってそんなことになってるでやんすか!?

 あの石像って先代達だったんでやんすか!!?」

 

 

 クララがいきなり石像について語り始めたと思ったらその石像が先代の巫女だと言い出す。カオス達が聞きたかったのは何故アインワルド族が長を巫女としているかだったのだがそれよりも遥かに無視できないことを口にするクララ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『巫女達が石像になったのはこの俺がアインワルドの巫女の家系の者達に憑依させてもらっている影響が反映してるんだよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ・マクベル「「「「「「「!!?」」」」」」」

 

 

 不意に室内からこの場の八人以外の者の声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「ご紹介します。

 彼の名前は“()()()()()”、

 ()()()()()()()()()()()()()で歴代巫女達の体に憑依してその力を私達巫女の一族に貸し与えて下さっている村の守り神です。

 巫女の家系は彼ラタトスクと()()するのが掟で彼と契約した巫女は大きな力を得るのと引き換えに彼の力を使いきったときその体が()()()()()()()()()のです。

 私達アインワルドが族長ではなく巫女を名乗っているのは族長が一族の繁栄を築いていくのに対して私達は一族ではなくこのアルターにある()()()()()()()()を何よりも最優先に考えるからです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「精霊………?

 世界樹カーラーン………?

 ラタトスク………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………カオス様………、

 私は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()()()()()()。」



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ラタトスクの巫女

アインワルド族の村アルター クララ邸 夜 残り期日七十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ?『おう、

 世界樹カーラーンの守護者ラタトスクだ。

 よろしくな。』

 

 

ミシガン「よろしくって………え?」

 

 

 クララとの会話中に部屋の中からこの場にいない九人目の何者かの声が聞こえてくるがその声はどうやらクララから発せられているらしい。

 

 

アローネ「クララ………さん?」

 

 

クララ?『クララじゃねぇよ。

 俺はラタトスクだ。

 クララの中にいるもんだよ。』

 

 

 自らをクララではなくラタトスクと称すクララの中にいると思われる謎の精霊。彼?が話す際には声色も変わるようだが、

 

 

ウインドラ「なんだ……?

 多重人格………?

 いやしかし声が変わって………?」

 

 

クララ「ある意味多重人格とも言えますね。

 一つの体を私とラタトスクで共有しているのですから。」

 

 

タレス「戻った………!?」

 

 

 ラタトスクの人格が喋っていたらまたクララの声に切り替わる。彼女の人格に戻ったようだ。

 

 

クララ「私達アインワルドの巫女はこのように体にラタトスクを憑依させることで彼の力を借りこのデリス=カーラーンの人の歴史が紡がれ出した当初から今日までずっとこの村の世界樹カーラーンを護り続けてきました。」

 

 

ラタトスク『それが俺の精霊としての責務だからな。

 精霊は()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。

 だからこうして身近なエルフの体を借りて世界樹カーラーンを守ることにしている。』

 

 

アローネ「世界樹カーラーンを………?

 ………世界樹カーラーンは実在していたのですか?」

 

 

クララ「えぇ、そうです。

 世界樹カーラーンは星が出来る要ですから命を生み出すカーラーンが存在しなければ生命の星は誕生しません。」

 

 

ラタトスク『カーラーンならこの家の直ぐ裏手にある樹のことだ。

 ここに来るまでにも見えてただろ?』

 

 

カオス「!

 カーヤが見つけた大きな木って………!」

 

 

カーヤ「あれがカーラーンだったんだね………。」

 

 

タレス「………信じられません。

 世界樹カーラーンはデリス=カーラーン誕生の原点とされる樹で世界中のどこに行ってもその話については文献が残っていますがそれがどこにあるのから誰も知らなかった………。

 その伝説の樹がアインワルドの村に………。」

 

 

ウインドラ「………本当にここにある樹が世界樹カーラーンなのか………?」

 

 

ラタトスク『おいおい、

 精霊の言葉を疑うのか?

 精霊の俺がそう言ってるんだから間違いであるはずがないだろう?』

 

 

ウインドラ「いやしかし………。」

 

 

ミシガン「精霊………ラタトスク………。

 精霊についてだって世界中の人達がその姿を見た人がいないっていうのにラタトスクなんて聞いたこともない名前の精霊が言うことなんて信じられるわけないよ………。」

 

 

ラタトスク『ほう………、

 じゃあ俺の存在は一体なんなんだ?

 一体俺はどんな存在なんだ?』

 

 

ミシガン「それは………。」

 

 

ラタトスク『なんでも自分達の物差しで計ろうとするのはお前達エルフの悪いところだぞ?

 お前らが知っている精霊なんて自然のマナに干渉してその存在をなんとなくで把握できているウンディーネ、シルフ、ノーム、イフリート、セルシウス、ヴォルトの六体だけだろ?

 本当の精霊はもっと沢山いるんだぜ?

 それこそお前達エルフの数よりも多くな。』

 

 

カオス「そんなに精霊がいるのか………。」

 

 

ラタトスク『お前の中にいる精霊はそんなことも教えてくれなかったのかよ?

 お前の中にいるそいつならこのデリス=カーラーンにどれだけの精霊がいるのかぐらい簡単に分かるだろ。

 そいつの力を持ってすればこのデリス=カーラーンで不可能は無いはずだぜ。』

 

 

カオス「貴方はこの精霊について知ってるんですか!?

 この………精霊王マクスウェルの………!」

 

 

ラタトスク『精霊王マクスウェル………?

 ………そいつがそう名乗ったのか?』

 

 

カオス「なっ、名前に関してはこの精霊は自分に名前は無いって言ってましたけど………。」

 

 

アローネ「マクスウェルと私達が呼んでいるのはマテオのバルツィエが彼のことをそう呼んでいたからです。

 

 

 精霊王マクスウェル………、

 マクスウェルは恐らくですがこのデリス=カーラーンの太古に存在した時代アインスでのウルゴス国王マクスウェルから名をとってそう呼んでいると思われますが………。」

 

 

ラタトスク『太古に存在した時代アインス………?

 ………そんでそこのエルフの王の名を当ててマクスウェルか………。』

 

 

クララ「ラタトスク………。

 過去にそのような時代があったのですか?」

 

 

ラタトスク『………そうだなぁ………、

 俺が誕生したのは()()()()()()()()()()()ってエルフ達が呼んでいる星ができたときだが俺が誕生してからこの星を、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エルフ達がそんな風にこの星を呼んでいる時代なんて見たことも聞いたこともないが………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………………見たことも聞いたかともない?

 ………この星の誕生から今日までを生きてきた精霊である貴方が………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『俺が生まれたのはこの星とほぼ同じ時だ。

 その時から俺はこの村のアインワルドの初代巫女と契約するまであまりエルフ達の文化に接することはなかったが少なくともこの星の名前をデリス=カーラーン以外の名前で呼んでいたエルフとはあったことがねぇ。

 ………とは言っても俺がこのアルターから外に出たことがないからどっか別の場所でこの星をアインスって呼んでたエルフ達がいたかもしれないがな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「(………精霊の生態がどのようなものなのかは知りませんがこのラタトスクという精霊はこの星の始まりから今日までのエルフを見てきたと仰いました。

 

 

 

 

 

 

 その精霊がアインスを知らない………?

 ………アインスの名はウルゴスでもダンダルクでも同じだったはず………。

 それなのにアインスの名を聞いたことがない………?

 ウルゴスもダンダルクも両国が広大に拡がった大陸を統一した大国だったのに?

 いくらなんでもそれは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………アインスは確かに存在したのです。

 私と………カタスがその証人なのですから………。)」



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アローネのローブ

アインワルド族の村アルター クララ邸 夜 残り期日七十三日

 

 

 

ウインドラ「クララ殿、

 アインスの時代はカーラーン教会のカタスティア教皇も証人だ。

 彼女もその時代の人物らしいからな。」

 

 

クララ「教皇様がアインスの?」

 

 

カオス「アローネやカタスさんはそのアインスの時代で開発されたアブソリュートっていう術式でこの時代まで眠っていたらしいんです。

 アブソリュートについては俺もその術式を施された棺を見つけたんで。」

 

 

クララ「…ではこの彼女アローネ様………はこの時代の者ではないのですね?」

 

 

アローネ「…はい、

 私はこのデリス=カーラーンの時代で生まれた者ではありません。

 私はアインスの時代より永き時を越えてこの時代で覚醒しました。」

 

 

クララ「………ラタトスク。」

 

 

ラタトスク『そうだな。

 この女から感じるマナはどうもそこらのエルフ達と何か違う………。

 ………ん?これは………?』

 

 

アローネ「?

 何か………?」

 

 

ラタトスク『………お前………、

 何か妙な力が働いてるな。

 お前自身ではなくお前のその身に付けているローブ………。

 何か特別な術式が付与されてるようだが………。』

 

 

アローネ「あぁ、

 これは私の義兄が私のためにお作りしてくださった物で色々な機能が備わっているのですよ。」

 

 

ミシガン「アローネさんのローブは凄いんだよ!

 アローネさんの体のことを調べて温度調節とかもしてくれるみたいだし!」

 

 

カオス「それだけじゃないみたいだよ?

 他にも………なんだっけあの………ディー………「ディープミストのことですね。」」

 

 

アローネ「このローブにはディープミストという装備者の情報をほんの少しだけ遮る能力があります。」

 

 

タレス「遠目から見たらアローネさんのことをアローネさんだと認識しづらくなるみたいでマテオではカオスさんとアローネさんの手配書が撒かれていたので髪型を変えたりなんかしたりして逃亡者だと見分けがつかなくなるようにしていたのですがアローネさんの正体がバレたことは一度もありませんでしたね。」

 

 

カオス「正体がバレたのは大半が()()()()()()()からだったね。」

 

 

ウインドラ「そういえばそうだったな。

 俺もカオスと一緒にいたからアローネのことをアローネだと分かったがアローネが一人でいたとしたら気付かなかったかもしれないな………。」

 

 

ミシガン「カオスとアローネさんの手配書はセットで作られたのに不思議だね。」 

 

 

ラタトスク『ディープミストか………。

 確かにこの女が発しているマナは情報を隠蔽するような力を放っているが………。』

 

 

クララ「ラタトスク、

 まだ何か気になるんですか?」

 

 

ラタトスク『………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ちょっとそのローブ脱いでみてくれないか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「え”………。」

 

 

クララ「ラタトスク………いくらなんでもそれは………。」

 

 

ミシガン「何言ってるの!!?

 ここにはウインドラもカオスもタレスもいるんだよ!!?

 こんな男達の目があるところで服を脱げって無理でしょ!!」

 

 

ラタトスク『なんだ?

 男がいると駄目なのか?

 だったらおい男共。

 さっさと出ていけ。』

 

 

カオス「出ていけって……。」

 

 

ウインドラ「待て、

 もうアローネが脱ぐことは確定なのか?」

 

 

タレス「何でアローネさんがそんなことをしなくちゃならないんですか。」

 

 

ラタトスク『そいつの纏っているローブ、

 それがどうなっているのか調べたい。

 ディープミストとその他の術式とやらに興味が湧いた。

 一度それを俺に調べさせてくれないか?』

 

 

アローネ「ですがいきなり………。」

 

 

マクベル「精霊さん、

 お客さんが困ってるでやんすよ?

 そんな急に持ち物の検査をするって言われても対応に困るでやんすよ。

 そういうことはお客さんが了承してから代わりの服なりなんなり揃えて『兎は黙っていろ。』ヒドイ………。」

 

 

ラタトスク『さぁ、

 代わりの服ならクララの服を貸してやる。

 男共の目が気になるってんなら男共は退室させて女だけにしてやる。

 だからとっととそのローブを「あ、あの………。」』

 

 

アローネ「……貴方も口調からして男性の方ですよね?

 でしたらその要望にはとてもお応えするのは憚られるのですけど………。」

 

 

ラタトスク『何言ってるんだ。

 精霊に性別なんてあるわけないだろ。

 俺は男でも女でもねぇ。

 それに女の体なんか見ても何も感じねぇよ。

 女の体ならクララや先代の巫女達で見飽きて「ラタトスク?」』

 

 

クララ「精霊とエルフを同じ要領で見るものではありませんよ?

 私達エルフには誰かに見られたくないものもあるのです。

 彼等とは今日初めてお会いしたというのに急にそのような申し出をするのは失礼です。

 ………申し訳ありません。

 うちのラタトスクが不躾な頼みをしてしまって。」

 

 

ラタトスク『お前は俺の保護者か何かかよ………。』

 

 

アローネ「いえ………、

 そこまで気にしてはいませんので………。」

 

 

クララ「そう仰っていただけて幸いです………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (………どうしたのですかラタトスク。

 何故あのローブにそこまで………。)」

 

 

ラタトスク『(どうしても気になったんだよ。

 ………あの女の着ているあれの中からは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かもっと別の異質な力が流れているように感じてな………。)』



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世界樹カーラーン

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 夜 残り期日七十三日

 

 

 

アローネ「とっ、とにかく今は私のことよりもこの村のことをお聞きしたいのですけど………!」

 

 

ラタトスク『!

 そうだったな。

 その話がまだ済んでなかったか。』

 

 

ウインドラ「現時点で世界のどこかに存在しているとされる精霊、

 その精霊は基本六元素を司る六体の精霊が一般の常識だ。

 バルツィエはこれに精霊王なるものが付け加えているのだと知っていたようだが………。」

 

 

タレス「そこにまたラタトスク………クララさんの中にいる精霊が足されたんですね。」

 

 

ミシガン「ラタトスク………さんは何を司る精霊なの?」

 

 

ラタトスク『別にラタトスクって普通に呼んでもらっても構わねぇぜ?

 堅苦しい言葉は嫌いなんだ。

 

 

 俺が司る力は特にねぇよ。

 基本六元素ならなんでも使えるしこれといった相反する属性もない。』

 

 

アローネ「精霊なのに司る力が無いのですか?」

 

 

ラタトスク『強いて言うなら俺が司るのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 精霊なら全員が出来ることだがな。

 俺にはそれしかないんだ。』

 

 

カオス「マナの流れ………?」

 

 

ラタトスク『この世界、この()()()()()()には絶対にマナが宿っている。

 俺達精霊にもお前達エルフにもそしてエルフに限らず植物や動物、モンスター………それからヴェノムにもな。

 そいつらは生まれた瞬間からマナを与えられ生きている限りはずっとマナを正常な状態で維持し続けるが生物が死ぬと必ずその死骸からは障気が発生するんだ。

 俺はその障気をカーラーンの元に集めてカーラーンにマナに還元してもらうんだ。』

 

 

タレス「!

 世界樹カーラーンが障気をマナに返還していたんですか!?」

 

 

ラタトスク『そういうことだ。

 そうでなかったらこのデリス=カーラーンは今頃障気まみれの生物が生きることが出来ない星になってるだろうよ。

 そうならないようにこのデリス=カーラーンにいる精霊達は世界中からこのアルターの世界樹カーラーンに障気が流れるように仕向けている。

 

 

 そして俺は世界樹カーラーンがその作業を滞りなく行えるように何者にも傷つけられないようアインワルドのエルフ達と協力して守り続けている。

 世界樹カーラーンが枯れるようなことにでもなれば世界は破滅だ。』

 

 

アローネ「……やはり伝説に聞く通りの樹なのですね。

 世界樹カーラーンは………。」

 

 

クララ「そうです。

 ですから私達アインワルドはこの世界樹カーラーンを守ることを第一に考えております。

 例え私達アインワルドが滅びようともこの樹だけは絶対に守りきらねばなりません。

 世界樹カーラーンはデリス=カーラーンの心臓ともいうべき機関ですからこの樹が枯れてしまえば全てが終わるのです。

 

 

 それが巫女と族長の違いですね。

 私達は私達の繁栄は望んでおりません。」

 

 

ラタトスク『こいつらは世界の存続を何よりも最優先に考えられる一族だ。

 だから俺はこいつらと共にずっとこのアルターの世界樹カーラーンを守るために秘匿にしてきた。

 

 

 世界樹カーラーンは昔ダレイオスのエルフ達がその力を狙って争い奪いあってきた歴史がある。

 この樹の存在が他の勢力に知られればこの世界はまた、()()()()()()()()()()()()を引き起こすことになる。』

 

 

アローネ「カーラーン大戦………?」

 

 

ウインドラ「遥か昔にあったとされる大きな戦争のことだな。

 俺達の祖先が世界樹カーラーンをめぐって争いを興したと伝えられているが………。」

 

 

ミシガン「その戦争ってどういう結末になったんだっけ?」

 

 

タレス「()()()()()()()()………、

 結局最後は争いの火種であった世界樹カーラーンがどこかへと消えて戦争が終結したと言われています。」

 

 

ラタトスク『それは俺の仕業だな。』

 

 

ウインドラ「何………?」

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『俺が世界樹をエルフ達の目から隠した。

 そうでもしないとエルフ達は世界樹が生み出すマナの量以上にマナを削る勢いで戦ってたからな。

 世界樹が生み出すマナは膨大な量だが流石に百万に届くエルフ達がバンバンと魔術を使いまくり殺しあい死体から障気が溢れかえれば世界樹も作業が追い付かずに疲労が溜まって枯れる。

 一応世界樹も生き物だからな。

 エルフ達の厄介事で世界樹が死ぬのを俺は許容できない。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ「「「「「「………」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「でも昔のお客さん達の御先祖さん達は何で世界樹カーラーンを手に入れようとしてたでやんすか?

 世界樹カーラーンを手に入れたら具体的にどうなるでやんすか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『………知りたいか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「え…!?

 あ、あひ……!?」

 

 

 クララに憑依したラタトスクから肌を切り裂くような殺気が流れる。

 

 

ラタトスク『兎………、

 もしお前がそれを聞いて少しでも世界樹を欲するようなら………、

 

 

 

 

 

 

 俺はお前を殺す。

 世界樹カーラーンを欲するということは三万年前のカーラーン大戦で世界樹を枯らしそうになった奴等と同じだからな。

 俺はあいつらのような世界に厄災を招くような奴を見過ごすことは出来ない。

 ここで世界樹の存在を知ったまではギリギリ赦してやるがそこより先を望むようなら俺はお前とお前の同族達を全員………、

 

 

 抹殺しなければならない。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララの体を使って話しているラタトスクだったがクララの姿をしていてもその迫力は圧倒的でカオス達でさえもその迫力に気圧されてしまう。

 

 

 それほどまでにラタトスクが放つ怒気は昔のエルフ達へ深い憎しみを感じさせる。

 

 

 ここから先は聞いてはならない。

 

 

 皆そう思ったのだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「聞かせてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『………ほう、

 踏み込んでくるか。

 お前は。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「えぇ、

 私は知らなくてはなりません。

 行く行くは私がこのダレイオスを導く者になるのです。

 私は何も知らないままでは人の上に立つ存在にはなれません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『へっ、そうかよ。

 お前が何になろうとしているのかは分かりかねるが俺達精霊はお前達エルフの言葉でいうと()()()()()()()()()

 俺の話を聞いてお前がどう感じたかどうかは手に取るように分かるんだ。

 お前がこの話を聞いて俺が危惧する感情が生まれたらその時は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここにいるお前達はこの俺がこの場で粛清してやる。』



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願いを叶える万能の樹

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 夜 残り期日七十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『お前らは眠っている時に“()”を見るよな?』

 

 

カオス「夢?」

 

 

タレス「それはまぁ見るときもあれば見ないときもありますが………。」

 

 

ラタトスク『夢を見ている時お前らは夢の中でどんなことが出来る?』

 

 

ミシガン「どんなこと………?」

 

 

ウインドラ「…そんなものはその時折によるんじゃないか?

 夢の中での出来事など記憶の整理というのが一般での常識とされているんだ。

 夢の中でのことは本人が夢だと自覚しない限りはどんなことが夢の中で起こっても不自然に思うことがない。

 夢の中では非常識なことが起ころうとも寝ている本人がそれを受け入れてしまう。

 それが夢だ。」

 

 

ラタトスク『そうだな。

 その認識で間違いない。』

 

 

アローネ「それで夢の話が世界樹カーラーンと何の関係が………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「とても深い関係があるのですよ。

 夢の世界と世界樹カーラーンが持つ力………。

 世界樹カーラーンを手にしたものがどのような力を得るのか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『………世界樹カーラーンは歴とした精霊の一つだ。

 世界樹カーラーンが精霊なら当然司る力がある。

 世界樹カーラーンが司りし力は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「デリス=カーラーンの………全て………?」

 

 

アローネ「それは………どういう意味ですか?」

 

 

ラタトスク『言葉通りの意味だよ。

 世界樹カーラーンが操るのは()()()()()()()()()()()()()()()

 ありとあらゆる物質の秩序が世界樹カーラーンの思いのままだ。

 世界樹カーラーンの力があればどんな望みも叶えることが出来る。

 この星の中にある全ての物は世界樹カーラーンが一から作ったものだ。

 だったら世界樹カーラーンの力を持ってすればこのデリス=カーラーンにある全ての物質は自由自在だ。

 ………世界樹カーラーンを手にするということは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このデリス=カーラーンの世界を自らの夢の中の世界のように作り替えることが出来るようになるんだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・マクベル「「「「「「………!?」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「三万年前の私達の先祖達はその神のごとき力を手に入れようと争いました。

 物質を操る力はそれすなわち自身に対する危険を全て取り払い、また自身の肉体さえも不朽の肉体へと変化させることが出来る………。」

 

 

ラタトスク『そんなのが誕生してしまえばデリス=カーラーンは永久にそいつの手に握られたままになる。

 精霊として()()()()()()()()()()()()()()()()のを認めるわけにはいかない。』

 

 

カオス「!」

 

 

ラタトスク『………そういう訳だから俺はこの世界樹カーラーンを守り続けているんだ。

 この世界樹カーラーンを自らの欲を満たすために奪いに来る奴を追い払っているんだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この話を聞いてお前達はどう思う………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「世界樹カーラーンにそのような力があったのですね………。

 その力を手にすれば世界は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『………カーラーンが欲しくなったんじゃないか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………………いえ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私には………必要のない力ですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『んお?

 この話を聞いてもカーラーンが欲しくならないのか?

 これがあればデリス=カーラーンの中では不可能は無いんだぜ?』

 

 

アローネ「それは大変魅力的な話なのでしょうが私はそのようなことは望みません。

 私が望むものは人の社会の平和だけです。」

 

 

クララ「…カーラーンの力があればそのようなことは容易く叶いますよ?

 それでも世界樹カーラーンを欲しはしないと?」

 

 

アローネ「…確かに不可能はないという響きに心を動かされないこともありませんが私の敬愛する方は努力で様々な不可能の壁を越えていきました。

 ………人は努力を惜しまなければ大抵の物事を乗り越えることは出来るのです。」

 

 

カオス「………そうだね。

 ……俺もアローネの意見に賛成かな。」

 

 

ラタトスク『……お前達もこの女と同じなのか?』

 

 

ウインドラ「無論だ。

 俺達は別に世界など欲してはいない。」

 

 

タレス「ボクはバルツィエと戦うことさえできればそれでいいですしそれは現在進行形で叶っていますから。」

 

 

ミシガン「私も特に欲しいものとかは無いかなぁ?

 私はカオスやウインドラ達がいればそれでいいし。」

 

 

カーヤ「カーヤも………仲良くしてくれる人がいるだけで他には何もいらない………。」

 

 

マクベル「俺っち達兎はそんなチートみたいな力よりも亀達に負けない仕事ができれば満足でやんす。」

 

 

 

 

 

 

クララ「………ラタトスク、

 どうですか?

 彼等の心は………?」

 

 

ラタトスク『………………なんとも信じがたいことだがこいつら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本気でそう思っているようだ。

 こいつらに世界をどうこうしようなんていう野心は微塵も無いらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ハハハッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こいつらに話をしたのは正しかったようだ。

 こいつらなら信用できる。

 こいつらになら安心して、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンセスターセンチュリオン討伐を依頼できそうだぜクララ。』



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クララの野心

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 夜 残り期日七十三日

 

 

 

タレス「やっとヴェノムの主の話が出来そうですね。」

 

 

ミシガン「ここでの話が難しすぎてついていくのがやっとだしね。」

 

 

ウインドラ「しかしラタトスク、

 貴方がいたのであればヴェノムは貴方の力で打ち倒すことが可能なのではないのか?

 俺達もカオスを通して精霊の力を借り受けてはいるがその精霊がここにいるというのなら貴方とアインワルド族の力だけでアンセスターセンチュリオンは倒すことはできなかったのか?」

 

 

クララ「それについては()()()()()()()()()では倒しきることは無理であったとお答えするしかないですね。」

 

 

アローネ「ラタトスクの力ではアンセスターセンチュリオンを倒せなかったと………?

 それは何故………?」

 

 

ラタトスク『俺の力はさっきも言った通りマナの流れを操ることだけだ。

 そこのカオスって奴の中にいるそいつみたいに他の奴に力を譲渡することなんて出来ない。

 俺が力を分け与えられるのは俺に体を貸しているクララだけなんだよ。』

 

 

クララ「その私でさえも長時間の戦闘………、

 いえ()()()()()()()()()()()()()()()私にはユミルの森に居座るトレントのヴェノム達を全て祓うことは厳しいのです。

 私には制限がありまして一日に使える精霊ラタトスクを介した魔術を使用できるのは()()()()()()………。」

 

 

カオス「一度………だけ?」

 

 

タレス「一度に全ての力を使いきってしまうんですか?」

 

 

クララ「そこまで消費はしませんがそれでも使えるのは一度だけなのです。

 ………もしそれ以上使用してしまえば私は先代達と同じように()()()()してしまうのです。」

 

 

マクベル「ほえ!?

 何ででやんすか!?」

 

 

ラタトスク『本来生き物の体ってのは一つの体に一つの魂が原則だ。

 二つ以上魂が宿ることはとても負担が大きいんだよ。

 あまり俺のことは知られてないがこれでも俺はそれなりに力の強い精霊だと自負している。

 そんな精霊と人の魂が一つの体を取り合ってたらどうなると思う?

 ………器となる肉体は二つの精神というマナの重さに耐えきれず崩壊する。

 それが俺がこいつら巫女に力を与えてやってる代償だ。

 

 

 力を使わなくてもこいつら巫女は俺が宿ってるだけで寿命が短くなるんだよ。

 外の先代巫女達はそれであぁなってる。』

 

 

クララ「私達アインワルドの巫女の家はその運命を受け入れ巫女の使命を全うしています。

 私達がラタトスクと共に世界樹を守っていければ世界は変わらず存続していられるのですから。」

 

 

ウインドラ「俺達は………世界は何も知らずにアインワルドの人々に守られていたんだな………。」

 

 

アローネ「そうなのでしょうね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………あれ?

 でもそれだとカオスはどうなるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ウインドラ「「「「!」」」」

 

 

ミシガン「カオスとクララさんって今まったく同じ状態になるんじゃないの?

 けどカオスはダレイオスに来てからは結構魔術を使ってマナを消費してるけど特にそういった徴候無いよね?

 それどころかマナがどんどん増えてるって話だけど………。」

 

 

カオス「………俺もここの人達みたいに体が石に変わるのか………?」

 

 

アローネ「………クララさん

 精霊と契約して憑依なされた巫女の方々は契約されてからどのくらいの期間で石化してしまうのですか?」

 

 

クララ「それは………それぞれの巫女達にもよりますが平均して………。」

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『()()()がやっとだな………。

 平均が二十年、最長が先代の二十五年だ。

 それ以上保った巫女はいない。

 

 

 俺の見立てによるとこのクララも俺と契約してから既に二十年が経過してあと五、六年が限界だ。

 毎世代ごとにアインワルドの中からもっとも優れた遺伝子を持つ男との子供を作らせてはいるがそれでも器としての能力はそう直ぐには伸びにくい。

 なにせアインワルドだけに限定するとどうにもそんな高い能力を秘めた遺伝子が突然出てくる訳じゃないからな。』

 

 

クララ「私が巫女としての務めを果たせるのももう残り時間が少なくなってきました。

 それまでにどうにかして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()との子をもうけなければなりません。」

 

 

カオス「すっ、素晴らしい器………?

 どういう意味ですか?」

 

 

ラタトスク『お前の中のそいつはハッキリ言って俺なんかとは比べ物にならないくらいの力を持っている。

 もしアインワルドの巫女がそいつと契約して憑依させたとして石化までにかかる期間は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長くても()()()いいところだな。

 俺と契約して二十年保ったクララでもそんなところだろう。』

 

 

 

 

 

ウインドラ「なんだと………!?」

 

 

ミシガン「そんなに短いの………!?

 でもカオスの中に精霊が入ってからもう十五年は経つけど………。」

 

 

クララ「…カオス様、

 貴方様はその十五年の間に強烈な疲労や睡魔に襲われたりしたことがありますか?

 または立ち眩みなどの体の不調が激しかった時などは………。」

 

 

カオス「………そんなことは今まで一度もありませんでしたけど………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そういえば精霊が石化のことについてウィンドブリズ山で言ってた気がするなぁ………。」

 

 

タレス「本当ですか………?」

 

 

カオス「あぁうん、

 マクスウェルが俺の中に入る前は殺生石の中にいたのは話したと思うけど殺生石ももとはドラゴンだったらしい………。」

 

 

ミシガン「うえ!?

 あの殺生石がドラゴン………!?」

 

 

ウインドラ「あの殺生石にドラゴンの面影はなかったが………。」

 

 

カオス「そこは長い時間が経ってドラゴンの姿から風化して今の形に変わっていったんだと思うよ。

 ………そしてマクスウェルはこうも言ってた。

 あのドラゴンも()()しかもたなかったって………。」

 

 

アローネ「ドラゴンが半年………?」

 

 

タレス「エルフの数倍はマナを内包できるドラゴンがたったのそれだけ………?」

 

 

ウインドラ「………本当にどこにも違和感はないのか?

 ドラゴンが半年ならカオス、

 お前はドラゴンの()()()()()()石化せずに生き長らえていることになるが………。」

 

 

カオス「本当に大丈夫だって。

 違和感も不調も今まであったことなんてないから。」

 

 

ミシガン「それならいいけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「(………ラタトスクの力を越える精霊を内に封じながらも最強種ドラゴンを凌ぐ()()()()()()………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ………………私の代で巫女の………、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………!)」



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シャーマン

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 夜 残り期日七十三日

 

 

 

ウインドラ「カオスと精霊マクスウェルのことも気になるがクララ殿、

 そろそろこの地方にいるとされるヴェノムの主アンセスターセンチュリオンのことについて話を訊きたいのだが………。」

 

 

クララ「………そうでしたね。

 現在ユミルの森にいるアンセスターセンチュリオンは………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガクッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!?」」」」」

 

 

マクベル「ど、どうしたでやんすか巫女様!?」

 

 

 ウインドラの問いに応じてクララがアンセスターセンチュリオンの話に移項しようとした途端クララが膝ををつく。

 

 

クララ「………ハァ………ハァ………。」

 

 

 クララは見るからに体力が尽きたかのように肩で息をしていた。ここまでは特に彼女が体力を切らしてしまうようなことはなかったのだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「クララ!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララが倒れたのを見計らってか隣の部屋から一人の男性が入ってくる。

 

 

クララ「お父様………。」

 

 

???「…!

 クララ、

 やはりこうなったか………!

 ここ数日お前はまともに寝てすらいないというのにどうしてこんな無理にお客人の相手をしようとしたんだ!

 話をするだけなら私や他の者達でもよかっただろう!」

 

 

クララ「…そうは………いきませんよ。

 私はアルターを代表する巫女です………。

 アルターを代表する巫女が重要な話の席に出席せずに休んでいることなど出来ません………。」

 

 

???「そうは言うがお前はこの方達の気配を感じ取ってから()()()()()()は睡眠時間を削ってまで待ち続けていたではないか!

 後はもういい!

 話は私が引き継ぐ!

 これ以上は体に障る!

 お前は早く休め!」

 

 

クララ「ですが………。」

 

 

???「しっかりしろ!

 お前は巫女なんだぞ!

 お前にもしものことがあればどうなる!?

 まだお前は()()()すらいないんだぞ!

 跡継ぎがいないお前がここで寿命を磨り減らすことは許されない!

 世界樹を守る民の一人として言わせてもらう!

 お前はもう休むんだ!」

 

 

 

 

 

 

クララ「………分かりました。

 それでは………、

 

 

 ………申し訳ありませんが皆様、

 今日のところはここで話を中断させていただけますか?

 話の続きはまた明日私の口からお話させていただきますので………。」

 

 

アローネ「それは構いませんけど………。」

 

 

ウインドラ「俺達も今のところはそう急ぐこともないしな。」

 

 

???「私が話の続きを引き継げばいいのではないか?

 お前の話は隣の部屋で聞いていたから明日にまたお前が話をする必要もないぞ?」

 

 

クララ「お父様は口を挟まないでください。

 私が話をすると言っているのです。

 このような大事を長以外の者からお伝えてしまうのは無礼に値します。

 ………お父様はカオス様達を空いている部屋へと案内してください。」

 

 

???「………承知した。」

 

 

 それだけを言いクララは部屋の奥へと消えていった。

 

 

???「申し訳ありません。

 クララはあの通り体調が優れないようでして今日のところは皆様もお部屋の方へと案内致しますのでそちらの方でお休みください。」

 

 

ミシガン「は、はい………。」

 

 

タレス「貴方は………クララさんの………。」

 

 

???「父です。

 私のことは以後“ケニア”とお呼びください。」

 

 

タレス「…はい、

 ではケニアさん、

 

 

 さっきクララさんがボク達を十日待っていたというのはどういうことですか?」

 

 

 タレスが先程のクララとケニアの話を聞き逃さずに拾いそれを質問する。

 

 

ケニア「はぁ、そのことですか。

 

 

 ………クララの話でお聞きでしょうがクララはラタトスクの力を借りて遠くにいる者の気配を探る力があります。

 皆様のことはウィンドブリズ山でヴェノムの主と戦っていた時からクララは察知していたのですがミーア族から聞かされていた通り皆様がフリンク領に向かっているのを感じ取ってそれからユミルの森にまで足を運ばれていたようなので皆様が次はこのアルターに来るのだろうと予感し十日程前から皆様のことを迎えるべくお待ちしていたのです。

 ………ですが………。」

 

 

カオス「十日も前から………?

 ……十日前と言うと俺達どこにいたっけ………?」

 

 

ミシガン「十日前なら………フリューゲルじゃない?」

 

 

ウインドラ「………いや違うぞ。

 十日前は確か………。」

 

 

アローネ「ナトル族長にフリューゲルを追い出されてユミルの森に移動した日になりますね………。」

 

 

タレス「それだったらまだボク達がフリンク領でカーヤ………ヴェノムの主の一件が解決していなかった時期になります。

 あそこでの寄り道がクララさんに余計な負担をかけさせてしまったようで悪いことをしてしまいましたね………。」

 

 

ケニア「いえいえ気になさらないでください。

 クララが自発的に行ったことですから。

 ………クララも責任感が強い性格でして巫女としてアインワルドを導く者として職務を忠実にこなそうと必死になっているのですよ。

 まだ()()の若い娘ですから職務に誠実であろうと心掛けているのです。」

 

 

ミシガン「十代……!?

 ってことはクララさんそんなに私達と年齢変わらないの!?」

 

 

ケニア「クララは今年で二十歳になります。

 あのように少し頑固な一面もありますがその他は至って普通の女の子と変わりませんよ。

 

 

 ………あれでもう少し自分の体を労ってくれたら………。

 シャーマンはクララしか勤まらないというのに………。」

 

 

カオス「!

 クララさんも俺とクララさんがシャーマンって言ってましたね。

 シャーマンっていうのは………?」

 

 

ケニア「…シャーマンは精霊や亡霊といった目に見えない霊的存在と交信する者のことですよ。

 霊的存在はシャーマンがいなければ私達に何かを伝えることが出来ませんからね。

 

 

 

 

 

 

 このデリス=カーラーンの魔術の基礎も元はシャーマンから伝えられたと伝承に残っているのですよ。

 魔術で使用する呪文や術そのものもシャーマンが精霊から教わりそれを後世に広めたものなのです。

 シャーマンはいわば()()()()()になりますね。」

 

 

カオス「シャーマンが魔術の開祖………。」

 

 

アローネ「それではクララさんも何か新たな魔術をラタトスクから教わっているのですか?」

 

 

ケニア「………残念ながら基本六元素の術以外は何も教わることはできないそうです。

 クララや先代の巫女達では新しい魔術を使えるだけの器が不足しているようで………。

 

 

 ………私達もどうにかしてその()()()()()()()()()()これからもずっと世界樹カーラーンを………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いや解消さえできればこれまで以上に世界樹カーラーンを守っていきやすくなるのですけどね………。」



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カオスへの誘い

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 夜 残り期日七十三日

 

 

 

カオス「その精霊を受け入れられる器というものの解消方法とかはあるんですか?

 その………薬とか………。」

 

 

 クララやケニアがどうにも代々巫女が精霊との契約によって寿命を極端に縮めていることを深く悩んでいるようだったので興味本意にカオスは訊いてみる。巫女のことは先程知ったばかりだが昔後天性魔力欠損症を患っていた時の自分と重なって見えて何か自分に出来ることがあれば手を貸してあげたいと思うカオスだが、

 

 

ケニア「………残念ながら器については生まれた瞬間から既にその容量が決まっているようでクララの代ではどうすることもできないのです………。」

 

 

 ケニアはクララが去っていった部屋を暗い表情で眺めながらそう言う。

 

 

アローネ「ではクララさんは………。」

 

 

ケニア「…代々巫女が少しでも長く生きられるよう()()()()()()()()夫には優れた能力を持つ男を村の者達の中から選んでいます。

 私達は巫女を中心として生活をしているため子供を作るのも皆同時期でして村で生まれる男児が不足するようなことにはなりませんがそれで選び抜かれた夫との子でも精々巫女の最長寿命を数ヵ月から一年程度更新するのがやっとですね。

 ………ですからクララも二十歳を迎えてしまいますし彼女が生きられる時間ももう後僅かにしか………。」

 

 

ミシガン「そんな………。」

 

 

タレス「その時が来たらクララさんが外の巫女達のように………。」

 

 

ケニア「………石化してしまうのでしょうね。

 あの子の父親としてはなんとしてもそれをどうにかしたいと思いますがこればっかりはどうにも………。」

 

 

ウインドラ「………」

 

 

マクベル「…ずっとアインワルド族の巫女様が交代するのが早いのと毎回巫女様が()()()()()が就任してるのにはそういった背景があったからでやんすね。

 俺っち達も昔から気になってたでやんす。」

 

 

ケニア「この村で巫女に生まれた者は重大な使命を負うのと同時に普通に生きられる時間が必然的に少なくなります。

 ですので私達はそんな彼女達を思い限られた時間でできるだけのことをさせてあげたく地位も村で最上位のものを与えております。

 彼女達は人としての幸せをまともに桜花することもなく歴史に名を刻んでいくだけの人生ですから………。」

 

 

 淡々と巫女の事実を語るケニアだが彼の表情からはそんな実情をどうにかしたいと思う気持ちが伝わってくる。

 

 

 

 

 

ケニア「………………もし、

 ………今のクララの代では彼女を救ってあげることは叶いませんがもし次の“()()()()”までに彼女の前に彼女達巫女の子孫のシャーマンの器としての能力を格段に引き上げることができそうなそんな優れた遺伝子を持っていそうな男性が現れたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すぐにでもその方を巫女の婿養子として迎え入れたいのですけどね………。」チラッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………!?」

 

 

 ケニアは意味ありげな視線をカオスに送る。

 

 

ウインドラ「…!

 まさかカオスを狙っているのか………!?

 カオスにクララ殿と結婚させてアインワルドに引き入れようとしているんじゃないだろうな!?」

 

 

ミシガン「な、なんでカオスがこんな今日あったばかりの人と結婚しなくちゃならないの!?」

 

 

ケニア「ハハハ、

 誤解ですよ。

 私も本気でカオス様を婿にと、考えている訳ではありませんよ。

 クララにはクララの使命があるようにカオス様にもカオス様の使命がありますでしょうから。

 

 

 

 

 

 

 ………ですがカオス様にはクララと()()()()()()()()()()だけの高い器としての能力があるのも事実ですしね………。

 婿の選別としては申し分ないほどの………。

 

 

 どうですか?

 カオス様。

 ほんのちょっとした冗談みたいな話ではあったのですがカオス様さえよければ私達アインワルドは貴方様を歓迎しますよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方様の使命、ダレイオス再統一が果たされマテオとの決着がついた暁に貴方様が()()()()()()()()()()()()()()クララや私達と共に世界樹カーラーンを守るためこのアルターで腰を下ろしてみるのも悪くないのではないでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………正直自分が歓迎される理由が次代の優れた巫女の子供を作るためというのは微妙だがまだ確定でないにしても自分にしかできない、自分が必要だと言われて悪い気はしない………。

 

 

 それどころか少し嬉しいと感じている自分がいる………。

 ここで暮らすとしたらクララとの結婚は強制になるだろうがそれでも自分が誰かの役に立つのであればその期待には応えてあげたい………。

 

 

 ………それに伝説の大樹、世界樹カーラーンを守るというのは大変な名誉なことではないのか?

 昔自分は大好きな祖父のように将来は誰かを守る仕事に就きたいと思っていた。

 警備隊でも騎士でもなんでもいいから自分は誰かを守ってその誰かにお礼を言われてそうやってなんとなく過ごせていけたらな、と空想に耽っていた時期があった………。

 それが世界樹ともなればある意味世界中の人々を守ることになるのではないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だったら俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「駄目です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……アローネ………?」

 

 

アローネ「すみませんがカオスが戦後ここへ住むことはありません。

 カオスは私と共にカーラーン教会にお世話になる予定がありますから。」

 

 

 中々返事をしないカオスの代わりにアローネがケニアの提案をあっさり断る。

 

 

ケニア「………そうでしたか………。

 それは残念です。

 カーラーン教会で何をなされるかは詮索はしませんがそういうことでしたら私も引き下がるしかありませんね………。」

 

 

 ケニアはアローネに断られてすんなりと引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………アローネ。」

 

アローネ「………絶対に駄目ですよ。

 その気もないのに無意味に話を引き伸ばしたりなどしますと相手に期待させてしまいます。

 期待に応えられないのであればちゃんと断るべきです。

 

 

 …カオスは仰ってくださったじゃないですか。

 私と一緒にウルゴスの同胞を探してくれると。

 忘れてしまったのですか?」

 

 

カオス「………そうだったね。

 ごめん。」

 

 

ウインドラ「どうしたカオス。

 何故すぐに断らなかったんだ。」

 

 

カオス「ちょっと………結婚なんて話いきなりだったから俺のことを言われてるのか実感が持てなかったんだよ。」

 

 

ミシガン「あぁー、まぁねぇ………。

 今日来たのにいきなり結婚だなんて言われても困るよねぇ。」

 

 

タレス「ケニアさんもそんな本気にしてる訳じゃなさそうなので気軽に断っても問題無さそうでしたよ?」

 

 

カオス「………分かってるよ。

 俺もそうなんじゃないかと思ってたし………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………本当に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして俺はさっき………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すぐ断れなかったんだろう………。



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カオスが夢見る未来

アインワルド族の住む村アルター 客室 夜 残り期日七十三日

 

 

 

ミシガン「あれ?

 カーヤちゃんがいないよ?」

 

 

 ケニアに客室へと案内されたところでミシガンがカーヤの不在に気付いた。

 

 

ウインドラ「!

 …確かにいないな。

 どこに行ったんだ………?」

 

 

カオス「迷子になったのかな………。

 木の上なんて視界が地上と全然違うから迷ってるのかも。」

 

 

タレス「探しにいってあげないといけませんね。

 こんな人が多くいるような場所でカーヤさんが一人では心細くなってるはずです。」

 

 

アローネ「すみませんケニアさん。

 私達の仲間が一人はぐれてしまったようで彼女を見つけてから休息をとらせて「あそこにいるのがそうじゃないでやんすか?」」

 

 

 

 

 

 

マクベル「ほらあそこ!

 あの遠くの巫女様の石像の近くの木の上の!

 あそこで寝てるのがお客さん達のお仲間さんでやんしょ?」

 

 

 マクベルが指差した先にはカーヤがいた。前日と同じようにまた木の上に登って眠っているように見える。傍らにはメーメーも一緒だった。

 

 

カオス「…本当だ。

 いつの間にあんなところに………。」

 

 

アローネ「…カーヤさんはあまり人に慣れていない様子でしたからあそこの方が落ち着くのかもしれませんね。」

 

 

ウインドラ「それでなくとも俺達の話はつい先日説明したばかりだからな。

 難しい話でさっきの話にもついてこれているか厳しいところだ。

 話に混ざれないのであれば先に休んでいた方がいいと思ったのだろう。」

 

 

タレス「でも大丈夫なんでしょうか。

 あんなところ………もしまたトレントにでも襲われでもしたら………。」

 

 

ケニア「そこは安心していたはだいて結構ですよ。

 ()()()()()()()()()()()()ですからトレントが近付いていくることはありません。」

 

 

アローネ「結界………?」

 

 

ケニア「はい、

 村の中にある巫女達の石像にはラタトスクが憑依していた影響であの石像らに近付くヴェノムやモンスターを追い払う効能があります。

 ですので石像の近くにいるのでしたら安全ですよ。」

 

 

カオス「巫女の石像にそんな力が………。」

 

 

ウインドラ「なるほど………まるで殺生石と同じだな。

 このアルターの巫女達の石像は封魔石よりも殺生石に近い能力があるわけか。

 ………死してなお村を守り続けているとは………。」

 

 

ミシガン「あぁそれでなんかこの村に入ってきた時に不思議な力を感じたんだね。

 なんか空気からして変わった感覚があったもん。

 あれが巫女の力なんだね。」

 

 

ケニア「一つ一つの巫女の石像の力は微々たるものですがそれが多くなりますと力も増幅されるようでして巫女が石像に変わる度にどんどんこの村の防衛はより強固なものへとなっていきます。」

 

 

タレス「巫女の石像は全部でどのくらいあるんですか?」

 

 

ケニア「そうですねぇ………、

 全ての巫女の石像は把握しきれておりませんが最低でも()は越えるかと。」

 

 

ミシガン「千……って!?

 多すぎない!?」

 

 

ウインドラ「数え間違いではないのか………?

 ここから見える範囲で数えても精々百いくかいかないかぐらいにしか見えんが。」

 

 

ケニア「地上にある巫女の石像はここ数百年の代の巫女の達の石像ですよ。

 巫女の石像が精製され始めたのは()()()()()()()()()()()()からです。

 巫女の石像の中には時が経過しすぎて崩れてしまったものや形が崩れはじめてしまったものなんかは棺に納めて埋葬したりなんかもしています。

 ですので数は千以上で間違いありませんよ。」

 

 

マクベル「こ、この下にそんなに沢山の巫女様達が………!?

 …ってことはでやんすよ!!?

 三万年もの間巫女様達が………!?」

 

 

ケニア「………お察しの通りです。

 三万年………その間に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 短くて数ヵ月、長くても二十年のペースでアインワルドの巫女達は命を落とし続けてきました。

 世界樹を守るためとはいえエルフの寿命としては実に短い間でしか生きることができないのです。

 計算して巫女の寿命は普通の()()()()()()()()()………。

 

 

 悲しきことです。

 彼女達は世界を守るために生まれろくに幸せに触れることもなくこの世を去ってしまうのですから………。」

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

ケニア「………心の中では村の者は皆、巫女の抱える寿命の問題を何とかしてあげたいとは思っているんです。

 ですがこの件ばかりは私達の力ではどうにもならずせめて彼女達の次の世代の巫女が僅かでも長生きできるよう巫女の伴侶の厳選に取り組むことしかできません。

 

 

 …歴代の巫女達も嘆いていました。

 彼女達が産む子供は必ずラタトスクと契約することになるので新しい命を産んだとしてもすぐにその子供が次の子供を産んでまた石化する………。

 巫女は常に役目に追われています。

 彼女達がゆっくりと過ごせる時間が限られているのですから好きに結婚する相手を選ぶこともできません。

 

 

 

 

 

 

 どこかでやはり巫女の宿命を変えられる男性が現れてくれるのを私達は祈るばかりですよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………結婚か………。

 ………結婚って好きな相手とするものだと思ってたけどここの巫女は違うんだな………。

 より優れた遺伝子を持つ人と結婚………。

 恋愛のない結婚になるのかな………?

 ………もし俺が結婚するとしたら恋愛を体験してから将来を見据えてしっかりとした結婚がしたいけど………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………結婚………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………結婚するってことはつまりそれって………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “本当の家族”ができるってことだよな………。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………家族………か………。」

 

 

ミシガン「?

 どうしたのカオス?」

 

 

カオス「………いやなんでもないよ。」

 

 

ミシガン「そう?」

 

 

カオス「うん………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………家族か………。

 俺もいつかそんな人達ができたらいいな………。)」



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揺らぐ思い

アインワルド族の住む村アルター 夜 残り期日七十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「どうしたんですかカオスさん。

 こんな夜更けに一人で空なんか見上げて。」

 

 

カオス「…………!

 ………なんだタレスか………。」

 

 

タレス「また一人で考え事ですか?

 今度は何を考えているんですか?」

 

 

カオス「………別に大したことは考えてないよ………。

 ………ただ。」

 

 

タレス「ただ?」

 

 

カオス「………この村って家が木の上にある以外はミストに似てるなぁ………って思ってさ。

 ちょっと村をじっくり見てみたくなったんだよ。」

 

 

タレス「ここがカオスさんのいた村に?」

 

 

カオス「………うん、

 村が森に囲まれてて………のどかだし………なんか落ち着くよねここって。」

 

 

タレス「…まぁ人は多いようですが自然の中で生活をするのは本来エルフの生き方としては正しい生き方だと思いますけどね。

 このデリス=カーラーンも人口がずっと昔よりも増えて一時期()に届きそうな勢いで増えていって………ヴェノムの出現で今度は激減して今じゃ世界の総人口も()()()いるかいないか………。

 それでも人が多いことに変わりはありませんから人が多いとその分知恵や知識も向上して生活に必要な道具や環境もそれに合わせて発展していって………。

 

 

 そんな現代社会でもここは昔からの生活の在り方を変えずに続いてきてそう思えるのかもしれませんね。」

 

 

カオス「………俺、

 なんかここ好きだなぁ………。」

 

 

タレス「ここがですか?」

 

 

カオス「うん、

 ここがミストと差がないのがってのもあるだろうけどなんかここ………嫌いになれない………それどころか()()()()()()んじゃないかって思えてくるんだよ………。」

 

 

タレス「………カオスさん、

 ………まさかさっきの話を鵜呑みにしてるんですか?」

 

 

カオス「………」

 

 

タレス「…言っておきますけどさっきのあれはカオスさん自身ではなくカオスさんの()が目的ですよ。

 カオスさんを必要としているのではなくカオスさんと巫女のクララさんとの間に仮に生まれるであろう子供がもしかしたらこれまでの巫女の………、

 ………石化の運命がぐんと引き伸ばせるかもしれないという確実な根拠もないただの望みの薄い希望です。

 もしそれでこれまでと変わらない子供が生まれたりしたらカオスさんのことをきっとここの人達は………。」

 

 

カオス「それは………そうなんだけどさ………。

 ………俺もクララさんとの結婚なんて全然考えてないよ。

 今日初めてあった人となんてそんなの急には無理だよ………。」

 

 

タレス「では一体何をそこまで?」

 

 

カオス「………ここにいる人達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がミストから旅してきてずっと出逢いたかった人達なんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「ここにいるアインワルド族が………?

 カオスさんはアインワルドのことを知っていたんですか?」

 

 

カオス「いや………、

 俺はダレイオスのことを何も知らなかったんだよ?

 勿論ここの人達もね。」

 

 

タレス「では………?」

 

 

カオス「俺がアローネと一緒にミストを出ていく決意をしたのはね………。

 俺の中にいる精霊マクスウェルをどうにかして俺からミストに返してミストと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決別したかったからなんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………」

 

 

カオス「タレスには前にも話したよね。

 俺が旅をしていたのはそういう理由。

 俺の中にミストの精霊が宿り続けていると俺の心は絶対にミストから離れられない。

 ミストの呪縛から解放されないんだ。

 ミストの人達は精霊のことを何も知らないし俺もあそこに居続けてたらその先精霊をどうしたら俺の中から解き放てるか分からなかった………。

 俺は自分一人じゃ結局何もできないから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………でもようやく見つけた気がする。」

 

 

タレス「………何をですか?」

 

 

カオス「俺の中から精霊を解放する方法だよ。

 ここの人達、巫女はそれをずっと行ってきた。

 ()()()()()()()()()()()()()………。

 それさえ分かれば俺は………ミストに精霊を返すことができる。」

 

 

タレス「それが分かったとしても今は精霊が課した世界の破壊を止めることが最優先ですよ。

 それをどうにかしてからでないと誰かにその精霊を渡すのはあまりにも無責任じゃ………。」

 

 

カオス「勿論分かってるよ。

 この精霊をミストに返すのは全てが終わってからだ。

 ダレイオスを復興させて精霊にヴェノムの危険が無くなったことを分からせてから………マテオと………、

 バルツィエとの決着をつけてから………。」

 

 

タレス「………それで?」

 

 

カオス「………もし全てが終わって俺の役目が終わったらミストの誰かにこの精霊を託して………。」

 

 

タレス「待ってください。

 誰かに渡すって言ってもその人がここの巫女達みたいに石化してしまう症状が出てしまったらどうするんですか?

 それではミストの人達もそんな返され方したら困るでしょう。」

 

 

カオス「……そうだね………。

 でもそれなら人じゃなくてもいいはずだよ。

 短な物とか動物とか他にも色々………人に直接返さなくてもいいんだよ。」

 

 

タレス「それはそうですけど………。」

 

 

カオス「………とにかくここでなら俺からこの力を引き剥がす方法が見つかるかもしれない………。

 それさえできればあとは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ここに住むのもいいかもしれない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「!?

 カオスさんはあの話に乗るつもりなんですか!?

 アローネさんはどうなるんですか!?」

 

 

カオス「当然アローネの手伝いはするつもりだよ。

 

 

 ………でももしアローネの手伝いに()()()()()()()()()()その後のことも考えないとね。」

 

 

タレス「その後………?」

 

 

カオス「このままいけばマテオとダレイオスはいよいよ決着がつくだろ?

 そしたら世界は平和になる。

 平和になったら………アローネが新しくできるダレイオスの国の王様になってそれからアローネの目的であったウルゴスの人達を探す目的が一気にやり易くなると思うんだ。」

 

 

タレス「それは………そう簡単な話じゃ………。」

 

 

カオス「簡単じゃないことは分かってる。

 けど世界から争いが消えたら今よりも状況は大分マシになるだろ?

 そしたらもうそこからはアローネとカーラーン教会の人達とそれからアローネに少なからず協力してくれる人達が現れる………。

 そして少しずつウルゴスの人達が見付かっていってそうなったら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はアローネと一緒にいる理由が無くなるんだ………。」



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普通を体験したくて

アインワルド族の住む村アルター 夜 残り期日七十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………どうしてそうなるんですか………。

 一緒にいる理由なんかいくらでも………。」

 

 

カオス「アローネはさ………。

 ウルゴスの人達を見つけてあげたいって気持ちもあるんだろうけど一番アローネが見つけ出したいのはお義兄さんのサタンさん………、

 ………家族なんだよ………。」

 

 

タレス「それは………アローネさんの話ではそうだとは思いますけど………。」

 

 

カオス「今俺達がやっている旅って最終的にマテオとダレイオスの戦争が終わったら皆どうなると思う………?

 ………多分世界が平和になったら俺達の旅が終わってタレスやミシガン、ウインドラ、カーヤ達はそれぞれ自分達の故郷や家に帰っていく………。

 アローネは………王様になるんならどこか………セレンシーアインとかに住むことになるのかな?

 それかカーラーン教会でカタスさんと………。

 

 

 

 

 

 

 ………でも俺にはどこにも居場所がない………。

 俺には帰る家も家族もいない………。

 ………………だったら………ここで「カオスさん!」」

 

 

タレス「何をそんな卑屈なことを言ってるんですか!?

 家族なんて………!

 居場所がないなんて言わないでくださいよ!?

 カオスさんにはボク達がいるじゃないですか!?

 ボク達の誰かがカオスさんと一緒ならそこがカオスさんの居場所になるじゃないですか!」

 

 

カオス「タレス………。」

 

 

タレス「………戦争が終わったらボクはもう一度アイネフーレを復活させて見せます。

 もしかしたらまだマテオのどこかで他にもアイネフーレの同胞達が奴隷として生きていることも考えられます。

 ボクはその同胞達をもう一度アイネフーレ領に連れ戻してアイネフーレを立て直します。

 

 

 そしたらカオスさんはアイネフーレ領に住んでください!

 ここじゃなくてボクのいるアイネフーレ領に!!」

 

 

カオス「俺がタレスと一緒にアイネフーレ領に………?」

 

 

タレス「カオスさんは家か家族が欲しいんですか!?

 だったらそんなものはボク達アイネフーレ族が用意しますよ!

 カオスさんならボクの同胞達も受け入れてくれるはずです!」

 

 

カオス「………いいの?

 俺………バルツィエなんだよ………?

 タレスはいいとしても他のアイネフーレの人達は………。

 それにその頃には俺は精霊を手放してただ剣だけしか取り柄のない男になると思うんだけど………。」

 

 

タレス「構いませんよ!

 そんなことはマテオとダレイオスの戦争を終結させた立役者でアイネフーレの同胞達をダレイオスに帰還させてくれる()()に誰も文句は言わせません!」

 

 

カオス「英雄かぁ………。

 この俺がそんなものになるのか………。」

 

 

タレス「…?

 将来的にはそういう話になると思いますよ?」

 

 

カオス「………俺はさタレス………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 英雄だなんてそんな目で見られるのは嫌だなぁ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………」

 

 

カオス「俺は大切な人達が傷付くのを見たくない………。

 だからこうしてマテオとダレイオスの戦争をなんとかしようと行動しているけどそれが解決できたら後は普通の………、

 普通の人として生きていきたい………。

 ………ずっと………殺生石に触ってからずっとできなかった()()()()()()()()()()を………。」

 

 

タレス「そこまで普通の生活に拘りますか………?

 カオスさんなら普通と言わずもっと豊かな暮らしも期待できそうですが………。」

 

 

カオス「…俺にとってはまず人並みの生活をするところから始めたいんだ。

 普通の人に戻って普通に生活を送ってそれから普通にどこかの誰かと結婚なんかもしたりしてそれから普通に生きていきたい………。

 特別なことなんて何も要らない。

 俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通の生活さえできればそれだけで幸せだから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「……固執しますね………、

 “普通”に………。」

 

 

カオス「………もう時間も遅いし今日はもう寝るよ。

 タレスも早くに寝なよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「(………そうか………。

 カオスさんは今まで()()()()()()()()()()()()()()()()()()あそこまで普通に憧れてるんだな………。

 カオスさんが生まれてから今まで周りの人達と仲がよくなかったって言うし精霊が宿っていたにせよ宿っていなかったにせよカオスさんはアルバート=ディラン………ミストからすれば他所から来た人の孫でそういった生まれだけでも子供の内は差別の対象になる………。

 どうあってもカオスさんはミストでは()()()()………。

 そういう人達からすれば力をつけて成り上がるよりも平凡穏やかに過ごせる環境の方が羨ましいのかな………。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………なんて欲のない人なんでしょうねあの人は………。

 あれほどの力があって富や権力ではなく平穏な生活と家庭が欲しいだなんて………。

 ボクがもし同じ状況だったらその時は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵対する勢力を片っ端から潰していっていたでしょうに………。

 それをよしとしない人だってことは理解していますがもう少し………、

 ………もうちょっとだけ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分に自信を持ってももいいんじゃないですか………?

 マテオのバルツィエ達なんて余分に傲っているんですからカオスさんが多少我が儘になるくらい皆許してくれるでしょうよ………。」



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現存する六大精霊は…

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 翌朝 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「…それでは現在私達がどういった状況に置かれているか説明いたします。」

 

 

 昨日クララとの話を中断しそして今日カオス達は再度集められこの地方で猛威を奮っているといわれるアンセスターセンチュリオンの話を訊くことになった。ちなみに話についていけないカーヤとマクベルはまだ就寝中だ。

 

 

 

 

 

 

 食人植物アンセスターセンチュリオン………、

 

 

 ウィンドブリズ山で名前だけではあったがオサムロウから聞かされた残りのヴェノムの主の一柱。あの当時は他にフリンク族の地方のフェニックスとブルカーン族の地方のレッドドラゴンの二体を合わせた三体だったがフェニックス=カーヤは既に無害化してその脅威性は取り払った。レッドドラゴンに関してはまだ討伐は完了はしていないがカイメラの変身の手札の中にその姿を確認しそれもカイメラ無力化時に一度カオスの力で倒してしまっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すなわちレッドドラゴンについてはカイメラのように他の生物を吸収して突然変異でも起こしていなければ()()()()()()()()()()()()()だということは判明している。それなら後はこのアインワルド族の地方のヴェノムの主アンセスターセンチュリオンを倒すことができれば残りのレッドドラゴン討伐はほぼ確実でカオス達のこれまでのヴェノムの主討伐依頼の旅が完了目前だ。カオス達の旅もいよいよここで終盤への一手に差し掛かる段階に入った。

 

 

 アンセスターセンチュリオンの討伐、これだけはなんとしても失敗することも時間をかけることも許されない。このアインワルド族のエリアをヴェノムから解放すればダレイオスは八割方ヴェノムの掃討が済んだことになるのだから。

 

 

 

 

 

 

 残り二割のブルカーンの地方だが………、

 

 

ウインドラ「クララ殿、

 アンセスターセンチュリオンの話の前にフリンク族達のフリューゲルの街で聞いた話なんだがここにはブルカーン族が襲撃しに来たりはしてないだろうか?」

 

 

クララ「ブルカーン族が………?

 それはまた何故でしょう………?」

 

 

タレス「ボク達もよく分かりませんが六年前のダレイオス国家体勢崩壊後にブルカーン族がフリンク族の人達を拐うようになったみたいなんです。

 

 

 …なんでもブルカーン族の地に精霊イフリートが現れてそのイフリートに生け贄を捧げよとのことで………。」

 

 

クララ「精霊イフリートが………?」

 

 

ミシガン「そうみたいなの。

 精霊って言うと昔は眉唾物だったけどカオスだったりクララさんに憑依しているラタトスクだったりが出てきてもう段々普通に世界にはいるんだな、って思えてきて………。

 何か知らないかな?」

 

 

アローネ「精霊が生け贄を欲するという話は存じません。

 ですからブルカーンの地に現れたのが本当に精霊イフリートなのかどうかは疑わしいところです。

 

 

 ………ですが精霊イフリートとなると私達の間でももしやと思いますがダレイオスの()()()()()()()()()()()()()を破壊したのは精霊イフリートの仕業なのではないかと推測も立てています。

 マテオのバルツィエ達もどうやらゲダイアンの件とは関係が無さそうでしてそれならと思い浮かんだ線が精霊イフリートだったのです。

 精霊のことについては私達よりも貴女方の方がお詳しいのではないかと思うのですが………。」

 

 

 

 

 

 

クララ「………ブルカーンが私達アインワルドに襲撃を仕掛けてきたということはこの六年間特に耳にしておりません………。

 ………ラタトスク。」

 

 

ラタトスク『そうだな………。

 精霊イフリートが生け贄か………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確かにあるっちゃある話だぜ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「!!」」」」

 

 

カオス「精霊が生け贄を欲しがるんですか?

 なんでそんな………。」

 

 

ラタトスク『おいおい………、

 ()()()()()()お前の中のそいつが何やってるのか分からないのか?』

 

 

カオス「マクスウェルが何やってるのか………?」

 

 

ラタトスク『………俺達精霊はな、

 ()()()()()()だ。

 極端に言えば()()()()()()()()()()()

 そんな俺達はマナが薄くなれば苦しいと感じる。

 お前達から空気に含まれる酸素を取り上げられるかのような苦しみを俺達は味わうことになる。

 そうならないように俺達精霊はマナを吸収するんだよ。

 

 

 手っ取り早くマナを吸収するには()()()()()()()()より効率的だ。』

 

 

カオス「あっ………。」

 

 

ウインドラ「………そうか、

 そうだったな………。

 殺生石もそういう仕組みだったらしいしな………。」

 

 

 

 

ミシガン「………ってことはブルカーンの地方にもう一つ殺生石があるってこと………?

 それもそっちには精霊イフリートが………。」

 

 

タレス「ですがそれですとブルカーン族はそのもう一つの殺生石と意思疏通ができることになりますよ?

 カオスさん達の村にあった殺生石は発見してから百年間カオスさんに憑依するまでは誰も殺生石の正体が精霊だなんて知らなかったんですよね?」

 

 

アローネ「仮に意思疏通ができるのでしたらブルカーン族の方達の中にカオスやクララさんのようなシャーマンが存在することにもなります………。

 精霊イフリートはその方に憑依してその方から生け贄を要求しているのですから………。

 ………では一体ブルカーン族はいつ精霊イフリートとの邂逅を………?

 時期的に見てゲダイアン消滅前後が怪しいですが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『あ、あああ―、

 待て待てお前達、

 俺は精霊がマナを補充するために生物からマナを吸収するとは言ったがな………。

 これだけは分かる。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『ブルカーンのところには精霊イフリートはいねぇよ。

 今ダレイオスにいる精霊はそこのカオスって奴の中のそいつとどこにいるのか特定できないが微かにだがどこかに潜伏している気配がする………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()だ。』



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イフリートに続く精霊シルフ

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「精霊シルフ………?

 イフリートではなく………?」

 

 

ラタトスク『あぁ、

 精霊の俺が言うんだから間違いねぇ。

 今ダレイオスにいるのはそこの奴の中の精霊と()()()()()()()だ。』

 

 

タレス「風の精霊シルフがダレイオスに………?」

 

 

ミシガン「六大精霊とも呼ばれる精霊の一体風の精霊シルフ………、

 そんなのが………。」

 

 

ウインドラ「事実なのかそれは?

 だったらそのシルフは今どこにいる?

 ブルカーンのところか?」

 

 

カオス「じゃあブルカーン族に命令してるのはイフリートじゃなくてシルフってことに『そうじゃねぇ。』」

 

 

ラタトスク『ブルカーンのところにはイフリートもいねぇしシルフもいねぇ。

 あそこには精霊特有の気配がまるでしねぇんだ。

 ブルカーンのところには一体も精霊はいはしねぇよ。』

 

 

タレス「?

 ですが昨日は精霊はボク達が思っているより多いのだと言ってましたよね?

 それならブルカーンのところにも精霊は少しはいるのでは?」

 

 

ラタトスク『…昨日確かに俺はそう言ったな。

 だがお前らが考えているような力の強い精霊はいないってことだ。

 まだこのデリス=カーラーンは力の弱い精霊が意思を持って実体化できるほど()()()()()()()()んだよ。

 その点は把握してな。』

 

 

ミシガン「力の弱い精霊?」

 

 

ラタトスク『…お前達、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分達が()()()()()してることに気付いてるか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!」」」」」

 

 

ラタトスク『どうしてお前達がそうなってるのかには検討がつく。

 そこのそいつの中の精霊がお前達の体を構成する素材を作り直したんだろう。

 

 

 その()()()()()()()()()がな。』

 

 

ウインドラ「物質全てだと………?」

 

 

ラタトスク『そうだ。

 そいつはこの世あらゆる全ての物質を自由自在に変質させる力を持つ。

 一言に纏めれば()()だ。

 元素は物質を細かくしていった時に最後に残る物質だ。

 つまり物質の大元はその元素から作られる。

 当然生物の体もな。

 そいつの力を使えば世界に溢れかえるヴェノムなんかにも強い素材の肉体を得ることもできるだろう。

 お前達はそいつの力を使ってそうなってんだろ?』

 

 

カオス「そ、そうです。

 俺達はこの精霊の力でヴェノムにも強い力を得て………。」

 

 

ラタトスク『同じ精霊である俺だから言えることなんだがそいつの力は果てが見えない。

 そいつの力は簡単にこのデリス=カーラーンを砕くこともできるだろう。』

 

 

アローネ「……!」

 

 

ラタトスク『そして俺はここ最近………、

 最近って言っても十六年前とここ半年くらいなんだがな。

 それぞれで、

 

 

 そいつの力と同等かもしくは()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それがイフリートとシルフだった。』

 

 

カオス「十六年前に………?

 じゃあやっぱりゲダイアン消滅は………。」

 

 

ラタトスク『お前達の推理通りゲダイアン消滅は精霊イフリートの仕業だと俺も睨んでいる。

 あの西()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()

 ゲダイアン消滅は精霊イフリートが真犯人で間違いねぇよ。』

 

 

アローネ「やはりイフリートが………。」

 

 

タレス「でしたら目的は何だったのでしょうか………?」

 

 

ラタトスク『それについては俺も分からない。

 俺がイフリートの気配を感じたのはそれっきりだ。

 ゲダイアンが消滅してからすぐにイフリートの気配は消えちまったんだよ。』

 

 

ミシガン「消えた?

 何で?」

 

 

ラタトスク『さぁな?

 そこは俺にも分からねぇよ。

 恐らくお前達エルフがよく作ってる()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃねぇか?』

 

 

ウインドラ「手錠のことか。

 しかしあれは人や人より少し高いマナを保有するモンスターのマナを封じるものであって以前カオスにも装備させていたことがあったが精霊の力が強すぎて完全にマナを抑えることは不可能だったぞ?

 そのイフリートは貴方の話ではカオスの中のマクスウェルを越えるほどの力があるみたいたが………。」

 

 

ラタトスク『だったらこういうのはどうだ?

 人やモンスターに合わせて作られたんじゃなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

ウインドラ「何………?」

 

 

ラタトスク『元々人やモンスターに合わせて作った魔道具は身近にそういう封じる対象がいたから作れたんだ。

 なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 なんたって自分が実験体として使えるんだ。

 長い時間とそういった技法の知識があれば作れないこともない俺は見るがな。』

 

 

タレス「そんなことして精霊イフリートは怒ったりはしないんですか?

 精霊を実験動物みたいに扱うようですが………。」

 

 

ラタトスク『もしイフリートがそいつのようにただ器の中に入ってるだけだったら文句の一つでもいいそうだな。

 俺だってアインワルドの奴等がそんなものを作り出して俺をいいように使おうとしてきたら制裁を加えてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがもしも精霊イフリートにシャーマンがいてシャーマンがイフリートを()()()()()()それも無理のない話になってくるぜ。』



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霊人

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 残り期日七十二日

 

 

 

カオス「!」

 

 

ウインドラ「精霊を殺すだと………、

 そんなことができるのか?」

 

 

ラタトスク『………』

 

 

アローネ「ラタトスク………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「可能のようですよ。」

 

 

ミシガン「うわっビックリした!?

 また急に!」

 

 

 ラタトスクの人格に移ってから暫く成りを潜めていたクララが話し出す。

 

 

クララ「これはラタトスクからお聞きした話ですが()()()()()()()()()の精霊はマナが安定している場合実体を持つことができるようです。

 その際の精霊は物理的な攻撃でどうにか倒すことができるのです。」

 

 

カオス「!!

 本当ですか!?」

 

 

ラタトスク『………あぁ本当だ。

 それで精霊達は()()()()お前達でいう死んだ状態になる。』

 

 

タレス「一時的に?」

 

 

ラタトスク『俺達精霊は死ぬことはあっても絶対に消えて無くなることはない。

 また時間が経てば周りのマナを吸収して再生するんだよ。』

 

 

ミシガン「それって死んだって言わなくない?」

 

 

ラタトスク『そうでもねぇのさ。

 お前達生物は生まれた瞬間は何も記憶がないまっさらな状態から始まるだろ?

 精霊もそれと同じさ。

 

 

 俺達精霊は一度死んで復活したら死ぬ前の記憶が無くなっちまう。

 一度死んで甦った精霊は同じ精霊でも全く違う別物に生まれ変わるんだよ。』

 

 

ウインドラ「精霊にそんなメカニズムが………。

 ………ではさっき言っていた()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

アローネ「一度記憶が無くなって甦ったとしても実験に使われている事実は変わりません。

 それでしたら再び貴方達精霊は激怒するのでは………?」

 

 

ラタトスク『そう言われたらそうだが俺達精霊は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。

 そうなったら俺達精霊は完全にシャーマンに全てを乗っ取られた状態になる。

 そしたらもう精霊の復活は絶望的だな。』

 

 

ウインドラ「何なんだその条件下とは?」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『精霊が死んだ瞬間にその精霊から出てくる“()()()()”、要するに心臓を奪われることだ。』

 

 

アローネ「心臓を奪われる………?

 精霊の心臓を取り込むと言うことでしょうか………?」

 

 

ラタトスク『その考えが正解だな。

 俺達精霊が実体化してから誰かに倒されると精霊からは精霊の核が飛び出てくる。

 それを生物に取り込まれるとその精霊の核が取り込んだそいつを()()()()()()()()()()()

 さくっと言えばそこで昨日話したシャーマンと精霊の器の取り合いが無くなって残るのが()()()()()()()()()()と俺達が呼ぶ存在が完成する。』

 

 

タレス「霊人………?」

 

 

ラタトスク『俺達精霊はシャーマンの中にいる時シャーマンに圧力をかけて殺すこともできるが霊人になってしまえば精霊は何もできない。

 と言うよりかはもうその霊人自体が精霊みたいなものだからな。

 後はその霊人の元となった奴の人格が精霊の力を自由に使うことができるようになる。

 殺した精霊の司る力も思いのままだしなんだったら他の生物からマナを奪う能力も備わり出す。』

 

 

ミシガン「え?

 待って待って……!

 ってことは何?

 

 

 今ラタトスクがデリス=カーラーンにいるって言ったイフリートとシルフなんだけどもしかしてその霊人………とか言うのになっちゃってるの………?」

 

 

ラタトスク『………俺はその線が高いと思っている。

 俺がイフリートとシルフの気配を感じた時妙に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あれは確実に霊人の動きだ。』

 

 

ミシガン「だ、だけどさ……!?

 精霊って………とんでもなく強いよね!?

 カオスの精霊だってとんでもない力を持ってるし………、

 ………霊人ってのがいるってことは………。」

 

 

ラタトスク『方法はどうやってだか知らんがそのようだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精霊イフリートと精霊シルフはそいつらを上回る力を持った奴に殺されて力と存在そのものを奪われた。

 そう考えるのが妥当だろう………。』

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「精霊が………あんな破壊的な力を持つ精霊と同等の力を持つ精霊が誰かに倒されたというのか………!?

 そんな力の持ち主が………!」

 

 

ミシガン「ね、ねぇねぇ!?

 霊人ってのになるとその人ってどんな風になるの!?

 精霊の力を奪うってくらいなら精霊と同じで寿命とかは………!?」

 

 

ラタトスク『霊人化に成功したらそこからそいつが老いることはなくなるぞ。

 精霊は皆その世界にマナがあり続ける限りはお前達のように病気で死ぬこともないからな。

 精霊は他者によって倒されなければ死ぬことはない。

 よって霊人もその然りだ。

 

 

 

 

 

 

 ………そしてもう一つ付け加えるとその霊人は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どういう意図があったかは不明だがゲダイアンと大勢のダレイオス人を殺害しているんだ。

 その経歴から俺達やお前達の敵であることは明確だ。

 ミーア族の奴等が言うにはその霊人達はマテオでは()()()()()()って噂されてるらしいじゃねぇか。

 丁度お前達がその名をパクってるようだが………。

 

 

 

 

 シルフの方はまだよく情報を漁れてないがイフリートの方は会っちまったらやべぇぞ。

 そいつに敵として会ったが最後そん時は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスごと消し飛ばされると思いな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』



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精霊を殺めし者霊人

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 残り期日七十二日

 

 

 

カオス「!」

 

 

ウインドラ「精霊を殺すだと………、

 そんなことができるのか?」

 

 

ラタトスク『………』

 

 

アローネ「ラタトスク………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「可能のようですよ。」

 

 

ミシガン「うわっビックリした!?

 また急に!」

 

 

 ラタトスクの人格に移ってから暫く成りを潜めていたクララが話し出す。

 

 

クララ「これはラタトスクからお聞きした話ですが()()()()()()()()()の精霊はマナが安定している場合実体を持つことができるようです。

 その際の精霊は物理的な攻撃でどうにか倒すことができるのです。」

 

 

カオス「!!

 本当ですか!?」

 

 

ラタトスク『………あぁ本当だ。

 それで精霊達は()()()()お前達でいう死んだ状態になる。』

 

 

タレス「一時的に?」

 

 

ラタトスク『俺達精霊は死ぬことはあっても絶対に消えて無くなることはない。

 また時間が経てば周りのマナを吸収して再生するんだよ。』

 

 

ミシガン「それって死んだって言わなくない?」

 

 

ラタトスク『そうでもねぇのさ。

 お前達生物は生まれた瞬間は何も記憶がないまっさらな状態から始まるだろ?

 精霊もそれと同じさ。

 

 

 俺達精霊は一度死んで復活したら死ぬ前の記憶が無くなっちまう。

 一度死んで甦った精霊は同じ精霊でも全く違う別物に生まれ変わるんだよ。』

 

 

ウインドラ「精霊にそんなメカニズムが………。

 ………ではさっき言っていた()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

アローネ「一度記憶が無くなって甦ったとしても実験に使われている事実は変わりません。

 それでしたら再び貴方達精霊は激怒するのでは………?」

 

 

ラタトスク『そう言われたらそうだが俺達精霊は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。

 そうなったら俺達精霊は完全にシャーマンに全てを乗っ取られた状態になる。

 そしたらもう精霊の復活は絶望的だな。』

 

 

ウインドラ「何なんだその条件下とは?」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『精霊が死んだ瞬間にその精霊から出てくる“()()()()”、要するに心臓を奪われることだ。』

 

 

アローネ「心臓を奪われる………?

 精霊の心臓を取り込むと言うことでしょうか………?」

 

 

ラタトスク『その考えが正解だな。

 俺達精霊が実体化してから誰かに倒されると精霊からは精霊の核が飛び出てくる。

 それを生物に取り込まれるとその精霊の核が取り込んだそいつを()()()()()()()()()()()

 さくっと言えばそこで昨日話したシャーマンと精霊の器の取り合いが無くなって残るのが()()()()()()()()()()と俺達が呼ぶ存在が完成する。』

 

 

タレス「霊人………?」

 

 

ラタトスク『俺達精霊はシャーマンの中にいる時シャーマンに圧力をかけて殺すこともできるが霊人になってしまえば精霊は何もできない。

 と言うよりかはもうその霊人自体が精霊みたいなものだからな。

 後はその霊人の元となった奴の人格が精霊の力を自由に使うことができるようになる。

 殺した精霊の司る力も思いのままだしなんだったら他の生物からマナを奪う能力も備わり出す。』

 

 

ミシガン「え?

 待って待って……!

 ってことは何?

 

 

 今ラタトスクがデリス=カーラーンにいるって言ったイフリートとシルフなんだけどもしかしてその霊人………とか言うのになっちゃってるの………?」

 

 

ラタトスク『………俺はその線が高いと思っている。

 俺がイフリートとシルフの気配を感じた時妙に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あれは確実に霊人の動きだ。』

 

 

ミシガン「だ、だけどさ……!?

 精霊って………とんでもなく強いよね!?

 カオスの精霊だってとんでもない力を持ってるし………、

 ………霊人ってのがいるってことは………。」

 

 

ラタトスク『方法はどうやってだか知らんがそのようだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精霊イフリートと精霊シルフはそいつらを上回る力を持った奴に殺されて力と存在そのものを奪われた。

 そう考えるのが妥当だろう………。』

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「精霊が………あんな破壊的な力を持つ精霊と同等の力を持つ精霊が誰かに倒されたというのか………!?

 そんな力の持ち主が………!」

 

 

ミシガン「ね、ねぇねぇ!?

 霊人ってのになるとその人ってどんな風になるの!?

 精霊の力を奪うってくらいなら精霊と同じで寿命とかは………!?」

 

 

ラタトスク『霊人化に成功したらそこからそいつが老いることはなくなるぞ。

 精霊は皆その世界にマナがあり続ける限りはお前達のように病気で死ぬこともないからな。

 精霊は他者によって倒されなければ死ぬことはない。

 よって霊人もその然りだ。

 

 

 

 

 

 

 ………そしてもう一つ付け加えるとその霊人は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どういう意図があったかは不明だがゲダイアンと大勢のダレイオス人を殺害しているんだ。

 その経歴から俺達やお前達の敵であることは明確だ。

 ミーア族の奴等が言うにはその霊人達はマテオでは()()()()()()って噂されてるらしいじゃねぇか。

 丁度お前達がその名をパクってるようだが………。

 

 

 

 

 シルフの方はまだよく情報を漁れてないがイフリートの方は会っちまったらやべぇぞ。

 そいつに敵として会ったが最後そん時は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスごと消し飛ばされると思いな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』



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獅子身中の虫

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「ダレイオスごと………、

 ………精霊マクスウェルの力を見たあとではそれが冗談で言っていることとは思えませんね。」

 

 

アローネ「精霊達の力がどれ程のものか未知な部分がありましたから………、

 正直なところ精霊マクスウェルは基本六元素の六大精霊よりも上の存在なのだと想定していましたがそこから六大精霊の力がマクスウェルの力に劣るものとばかり考えてました………。

 それでもそれほどまでの力をお持ちなのですね………。

 それは敵として相対したくはないですがどうなのでしょう………。」

 

 

ウインドラ「ラタトスクの話では大魔導師軍団………この場合は軍団というよりも()()()()()()()と言うべきか。

 ゲダイアンを消滅させた犯人は死亡していた可能性があったがそのイフリートとシルフを殺して力を奪った二人はまだ生きていると見ていいな。

 

 

 ………一体どこでどうやって精霊達と出会いその力を奪ったのか………それとそいつらは何が目的なのか………?

 その二人はどういう関係なのか、その二人が仲間だったとして他に後()()()()()()()()()()がいるのか………。

 六大精霊の力を二人も持っている者がいるのならば残りの四体ウンディーネ、ノーム、セルシウス、ヴォルトを手中にしている奴がいるということもありえる。」

 

 

ミシガン「ラタトスク今イフリートが半年前にトリアナス周辺で感じたって言ったよね………?

 それでダレイオスにはシルフしかいないって………。

 ………ってことはイフリートは………。」

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『マテオにいるだろうな。』

 

 

カオス「マテオにイフリートが………!?」

 

 

アローネ「半年前にトリアナス………?

 半年前と言えば………()()()()()()()()()()()()()へと渡ってきた時期ですが………。」

 

 

タレス「!

 まさか………!

 あの時にボク達の近くにイフリートを納めた霊人がいたんですか!?」

 

 

ラタトスク『そのようだな。

 現場がどうだったかは目撃していない俺には分からんが()()()()()()()ダレイオスからマテオに渡っていたことは確かだ。

 以来クララにお前達とイフリートの行方を探らせていたがそれから感じた波動は()()()()()()、風の精霊シルフの気配が今度はダレイオスの各地でするようになったんだ。』

 

 

ウインドラ「イフリートの次はシルフか………。」

 

 

カオス「各地でってことはシルフの霊人はダレイオスを移動しているんですか?」

 

 

ラタトスク『みたいだな。

 俺とクララに追えた痕跡はいずれもダレイオスの()()()()()()()()()()()()()()()

 シルフの霊人にはどこか決まった停留場所は無いようでな。

 奴は常にどこかを転々としている。

 お前達気を付けときな。

 そいつはイフリートの霊人と同じように気配を隠す術があるようだ。

 何がしたいのかさっぱりだが関わりあいになるのは避けたほうが身のためだぜ。』

 

 

ミシガン「…まぁマクスウェル級の力を持った相手なんて会いたくもないけど………。」

 

 

アローネ「………六大精霊の霊人………、ゲダイアン消滅の真犯人でダレイオスを転々としている………、………半年前に………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それはもしやバルツィエの先見隊の中にその霊人がおられるのではないでしょうか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス・ミシガン・ウインドラ「「「!!」」」

 

 

カオス「先見隊の中に霊人が………!?」

 

 

アローネ「状況を整理しますとゲダイアンを消滅させたイフリートの霊人はシルフの霊人と同じ技術を使用しているものと思われます。

 その点からイフリートとシルフの霊人の関係性が非常に深い関係だということが推測できます。

 そして霊人がゲダイアンを消滅させたということはダレイオスの敵であることは間違いありません。

 ダレイオスの敵………それで半年前からダレイオスを移動し続けているというのであれば()()()()()()バルツィエの先見隊しか候補がいませんよ。

 ですからバルツィエの先見隊のどなたかにその霊人が潜んでいるのではないかと………。」

 

 

カオス「だ、だけど……!

 それだとゲダイアンを攻撃したのは結局バルツィエってことになるよ!?

 でもバルツィエのダインはゲダイアンを攻撃したのはマテオは関係無いって………!?」

 

 

アローネ「しかしそうとしか考えられません………。

 半年前からシルフの霊人が出没するようになったと仰るのであればあのトリアナスの件では私達の他にダレイオスに渡ってきたのは先見隊ぐらいしか………。」

 

 

カオス「それはそうだけだど………けど!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………俺もその疑いが強いと思うぞ。」

 

 

カオス「ウインドラ………!」

 

 

ウインドラ「今世界的にも魔道具を開発する能力が高いのはバルツィエだ。

 だったらアローネがそう考えるのも分かる話なんだ。

 バルツィエの中に霊人………ゲダイアン消滅の犯人はやはりバルツィエにいると言うことだ。」

 

 

カオス「ならなんでダインはそのことを否定したんだよ!

 バルツィエは自分達が攻撃したのなら素直にそのことを認めるんだろ!?

 じゃあバルツィエは違うってことにならないか!!?」

 

 

ウインドラ「俺は前にそうお前に言ってたな………。

 

 

 

 

 

 

 ではこうは考えられないか?

 バルツィエの中に()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そいつが霊人で独断で勝手にゲダイアンを攻撃したと………。」

 

 

カオス「別に動く者………?」

 

 

タレス「それはあると思いますね………。

 バルツィエの連中も全員が同じ考えで行動しているとは限りませんし………、

 騎士団長のフェデールはカオスさんを仲間にしようとレサリナスで演説していましたがラーゲッツやユーラス、ランドールは逆にカオスさんを殺そうとしていました。

 ダインだけはカオスさんをどうこうしようとは思ってないみたいですが。」

 

 

ミシガン「そうだね。

 なんかバルツィエって皆が皆自分達で物事を判断してる感じがするし連絡とかは取り合ってると思うけどそれでもその時その時で好きなようにやってるっぽかったよね。」

 

 

アローネ「ウインドラの追加補足が正しい気がします。

 バルツィエは一つの組織で上下関係は決まっているようですがお互いが近くにいない時はそれぞれの自己判断を優先して活動している伏があります。」

 

 

カオス「………そうか。

 それならバルツィエの中に霊人が二人いてその二人がゲダイアンを………、

 

 

 ………あ、でもそれだとバルツィエの連中は自分達の中に大都市を一瞬で消すような奴がいることを知らないのかな………?

 そんな強い力を持ってたらそいつが真っ先にダレイオスに攻撃を仕掛けると思うけど………。」

 

 

ウインドラ「そこがどうにも意図が掴めんな。

 バルツィエの奴等なら大半がダレイオスを殲滅したいと目論んでる者ばかりだ。

 そんな奴がこの十六年でゲダイアンを一度滅ぼしたきり次の行動に出ないとは………。

 …何か動かない理由があるのかそれか潜伏するくらいだから同じバルツィエの仲間にも自分がそういう力を持っていることに気付かれたくないかだが………。」

 

 

アローネ「カオス、

 ダインさんはカオスが話すよりも先に精霊のことを御存知だったのですよね?

 そしてダレイオスの大魔導師軍団をバルツィエが警戒していたと…………。」

 

 

カオス「うん、

 ダインはそう言ってたけど………。」

 

 

アローネ「………バルツィエはただダレイオスを征服したいだけではないのかもしれませんね………。」

 

 

ミシガン「アローネさん何か分かったの?」

 

 

アローネ「まだこれが真実なのかはハッキリしませんが私が思うにバルツィエは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デリス=カーラーンの六大精霊をバルツィエの元に集めて何者にも抗うことを許さない絶対的な帝国を築き上げようとしているのではないでしょうか………?」



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霊人はバルツィエの中に………?

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「絶対的な帝国か………。

 バルツィエが考えそうなことだな。」

 

 

タレス「今だって十分マテオだけでも好き放題していると言うのにそれをダレイオスにまで拡げてそれで支配したら世界中の人達に反抗できないように精霊の力で押さえ付けようというんですね。」

 

 

 アローネの言葉に納得したように初めからバルツィエに悪印象を抱いていた二人が頷く。

 

 

ミシガン「…だけどそれならバルツィエの霊人は何で仲間のバルツィエ達に自分が精霊の力を持ってるって伝えないの?

 バルツィエ達も自分達の味方に霊人がいたらその人がダレイオスに攻め込めばバルツィエの野望なんていつでも達成できそうだったのに………。」

 

 

アローネ「それは………、

 ………味方にも話せない事情があるのでしょうね………。

 それを知られてしまうとご自身にとって都合が悪いことが起こってしまうとか………。」

 

 

カオス「都合が悪いこと………?

 精霊の力を知られて都合が悪いことなんて………。」

 

 

ラタトスク『結構あるだろうぜ?

 考えてもみな。

 頭数を揃えた中で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?()

 ………答えは容易に想像がつくだろ?

 

 

 

 

 

 

 その能力が高い奴一人に全ての仕事が押し付けられるんだよ。

 そいつが一人いれば事足りるんなら他の連中は何もしなくていい。

 そいつだけで全てが賄えるなら面倒な仕事は全部そいつにやらされる。

 そいつが一人でダレイオスに渡れば他の連中は家で暇潰しでもしてたら勝手にダレイオスは制圧される訳だ。』

 

 

カオス「!」

 

 

ラタトスク『そして実はな………。

 まだもう一つ霊人が力を秘密にする理由が存在する………。

 

 

 霊人は六大精霊の力を得た人だ。

 六大精霊の力ともなればそうそう敗れることはないがそれは前提として()()()()()()()()()()()だ。

 霊人は攻撃の破壊性能こそ霊人以下の生き物達から大きく差をつけるものがあるが決して死なくなったということはない。

 生命力に関しては元となった人物に自然治癒力を高める魔術リジェネレイトをかけ続けているようなもんで集中的に攻撃を受け続ければ普通に倒せる。

 こう言えばそんなにデリメットは無いように思えるだろうが人と言う生き物は限り無く欲にまみれた種だ。

 もし霊人になれるとしたら人は皆霊人になる道を選ぶだろう。

 それが例え()()()()()()()()()()()………。』

 

 

ウインドラ「!!

 そんなことは………!」

 

 

アローネ「私達は仲間を裏切ったりしてそのような力を得ることはしません!」

 

 

ラタトスク『そうだな、

 そう言う奴もいるだろうよ。

 けどな、

 俺が言うような奴もこの世界には沢山いるんだよ。

 長い間この世界を観察してきて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

タレス「バルツィエが同じバルツィエを殺して力を奪うって言うんですか………!?

 いくらなんでもそんなことは………!」

 

 

ラタトスク『いいやバルツィエはそういう奴等だぞ。

 奴等は暴力で他者から物を奪うということに慣れている。

 それが物でも人の命でもそうだ。

 奴等は欲しいものは何でも力付くで手に入れてきた。

 そういう奴等が同じ血が流れる家族だからといって奪わないという保証はどこにも無いんだぞ?

 現に奴等は()()()()()にも剣を向けてきたからお前達がここにいるんじゃないのか?』

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「…確かに彼等ならそういったことも行いそうではありますが………。」

 

 

ラタトスク『その女の推測通りバルツィエに霊人がいるってんならバルツィエの連中はどうにかしてその霊人を殺す方法を探すだろう。

 だがそいつに向かっていったところで逆に返り討ちにあう可能性が非常に高い。

 だったらどうするか?

 そんな危険なことは自分達じゃなく自分達の敵にやらせるのが妥当じゃないか?

 だからバルツィエは先見隊なんて名目で霊人とおぼしき奴等を集めてダレイオスに攻め込ませてるんじゃないか?

 これなら自分達はその霊人の攻撃の対象になることなくかつ霊人が死ぬ機会が増やせる。

 バルツィエの連中は大抵二人一組で行動していることが多いのもそのもう片っ方が霊人が死ぬ瞬間を虎視眈々と狙っているからだと思う。』

 

 

タレス「では………バルツィエの目的はダレイオス征服以外にも自分達の中にいる霊人が死亡してその力を奪取することも含まれているんですね。

 寧ろそちらの方が主のような………。」

 

 

ウインドラ「ふざけた話だな。

 要はデリス=カーラーンはバルツィエの()()()()に巻き込まれた形になるではないか。

 そんなことは周りを巻き込まず自分達でやっていればいいものを………。」

 

 

ミシガン「だよね………。

 そんなことに世界を巻き込まないでほしいよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………家族の中で殺し合い………。

 バルツィエがそんなことを………?

 ………………どうして家族でそんな………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな馬鹿なことができるんだ………。

 家族はお互いに支え会うものじゃ………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『つってもこの話はそこの女の推測を参考にして俺が考えただけのものだがな。

 本当のところはどうなのかは俺も分からない。

 ………そんなことよりも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前達がここに来た目的食人植物アンセスターセンチュリオンの話をそろそろ始めるとしようか………。』



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アンセスターセンチュリオンについて

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「我らが森ユミルの森に現れたアンセスターセンチュリオンは木々が世界中カーラーンから溢れ出る多量のマナを吸収して進化したトレント………、

 

 

 

 

 

 

 そのトレントが更にヴェノムによって凶悪化し巨大化したのがアンセスターセンチュリオンです。

 トレント達と同じく側に近寄る生物を捕らえてその養分を吸いとり捕食する………。

 彼等植物系のモンスターは非常に生命力が高くモンスターのように痛覚も無いので並大抵の攻撃では怯ませることもできず無心に獲物に突撃してきます。」

 

 

タレス「行動パターンはヴェノム感染前後と変わりませんね。

 なら対処法も同じでいいですよね?」

 

 

 クララが話したアンセスターセンチュリオンの特長を聞きタレスがそれについての考察を述べる。

 

 

タレス「植物系のモンスターであるなら手っ取り早く()()()のが一番ですよ。

 カオスさんかカーヤさんの人の魔術ファイヤーボールで消し炭にしてしまえば今回のヴェノムの主討伐は楽勝ですね。」

 

 

ミシガン「それなら今回は結構簡単そうだね。

 森でのトレントの動きも見てたけどトレント達そんなに動きは早くないからここでの仕事は早く終わりそうだよ。」

 

 

 植物に対して火、どこの世界でもこの意見は常識だろう。植物は生命力こそ強いが豊富な水分と油分が詰まっておりそれに発火させると火の手が即座に拡がっていく。そのことを知っていれば植物に対して火が有効だという思考に至ってしまうのは仕方ないことだが、

 

 

ラタトスク『おいおい止めろ止めろ。

 この地方はデリス=カーラーンでも一番緑が密集している地域なんだぞ。

 そんなところで火なんて燃やしてみろ。

 一瞬にしてこの地方全体が火の海になるぞ。

 

 

 それだけじゃない。

 森林は生命のいる星にとって精霊と同じくらい重要なバランサーになってるんだ。

 森林が無くなれば酸素を供給する存在がいなくなってデリス=カーラーンが温暖化する。

 温暖化すればデリス=カーラーンの世界全体の環境が変わって比較的気温の高い南側から空気の温度が上がり北の寒冷地帯も氷が溶けはじめて海面が上昇して津波やそれ以外の災害も増えてくる。

 こんなこという前に先ず生命が増え続けていく中で酸素が無くなったら困るのはお前達なんだぞ。』

 

 

 タレスとミシガンがほぼ反射的に植物に対して火と発言したところでクララの中の精霊ラタトスクの人格が出てきて二人の意見を即不採用とした。この地方では燃やす類いの戦術は使えないことをここで忠告する。

 

 

ウインドラ「火が使えないか………。

 ではそれ以外の魔術なら使えるんだな?」

 

 

クララ「いえ、

 火だけでなく電気も危険です。

 この地方では()()()の魔術は使用しないでください。」

 

 

ウインドラ「何………?」

 

 

ラタトスク『雷も火を発生させる力があるのは分かるだろ?

 ここでは火花一つ出すのも厳禁だ。

 使える魔術の種類は()()()()()()()の四つだけだ。』

 

 

カオス「水、風、地、氷………?

 でもその四つは………。」

 

 

アローネ「植物系のモンスターに対して水、風、地はあまりダメージを与えられませんね………。

 植物は地に根を張りそこから水分を吸収し光合成によって空気に含まれる酸素を排出しています。

 そのことからその三つに対する耐性が植物系のモンスターは他のモンスターに比べて高いです。

 

 

 …氷に関してはカオスがいますが………。」

 

 

 ここでカオス達六人の内()()がアンセスターセンチュリオンに対して攻撃の手が無いことが発覚する。ウインドラとカーヤは雷と火の技の使用を禁じられアローネ、タレス、ミシガンは魔術が使えたとしてもあまり期待できない。ウインドラとカーヤは正確には武器などでの直接攻撃は封じられてはいないがまだアローネ達の魔術の方が与えられるダメージは上だろう。

 

 

タレス「今回のヴェノムの主討伐はカオスさん一人しかまともに戦力にならないみたいですね………。

 ………これはどうしましょうか………。」

 

 

ミシガン「そ、そのアンセスターセンチュリオンさえ倒しちゃえばいいわけでしょ!?

 ならそのアンセスターセンチュリオンのところに一直線に突っ走ってさっさと倒しちゃえばいいんじゃない!?

 その他のモンスターとかは私達で引き付けておくからさ!」

 

 

ウインドラ「雑魚達の陽動か………。

 今回は活躍できそうにないからな。

 それが無難か………。

 

 

 

 

 

 

 …となると雑魚達を引き付けるためにここは別れて行動した方がいいな。」

 

 

アローネ「!」

 

 

タレス「カオスさんをアンセスターセンチュリオンの場所まで送り届けるためですね。」

 

 

カオス「皆と俺が別々に動くの?

 …俺はそれで構わないけど………。」

 

 

クララ「その作戦がもっとも効率が高いようですね。

 カオス様の魔力があればアンセスターセンチュリオンも敵ではないでしょう。

 カオス様以外の方はユミルの森の()()()()西()()()()()()アンセスターセンチュリオンまでの道の途中まで向かってもらいそこから徐々に二手に別れてトレント達を南北に誘導してください。

 道に迷わぬよう私達アインワルドからも二人案内人を出します。

 それでカオス様がアンセスターセンチュリオンの元へと「でしたら!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…でしたら私はカオスと共にアンセスターセンチュリオンの元へと向かう班に入ります。

 カオス一人では流石に危険すぎます。

 カオスを一人になどできません。」



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アローネにとっての今回の討伐は………

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「…貴女がカオス様に御同行を………?」

 

 

アローネ「はい、

 何か問題がありますか?」

 

 

クララ「………いえ、

 問題という問題はないと思われますが………。」

 

 

アローネ「ではそのように作戦を立てていきましょう。

 私とカオス二人でアンセスターセンチュリオンを「ちょっと待て。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「どうしてそうなるんだアローネ。

 今回の討伐で俺達はアンセスターセンチュリオン相手にろくな戦力にならないことは今話したばかりだろう。

 それなら俺達は今回はカオスをアンセスターセンチュリオンのところまで送り届けることに徹するべきだ。」

 

 

アローネ「………」

 

 

 アローネがカオスと二人で進みアンセスターセンチュリオン討伐に向かうという話を聞きウインドラがそれを止める。

 

 

タレス「今回の主は敵はアンセスターセンチュリオンだけじゃありません。

 周りの取り巻きのトレント達も厄介になりますよ。

 それを引き付けておくのも今作戦の重要な仕事だと思います。」

 

 

ミシガン「私達はさ。

 今回カオスのサポートに入ろうよアローネさん。

 カオスならどんな時も一人だって大丈夫だろうしさ「え?」大丈夫だよね?」「………うん。」

 

 

 皆今回のヴェノムの主討伐は主力のカオスのみがアンセスターセンチュリオンを倒す魔術を使えるということで一致していた。

 アンセスターセンチュリオンは植物系のモンスターで配下のトレント達も同様だ。アンセスターセンチュリオンとトレントは互いに獲物を奪い合おうとはするが獲物がいなくなると残った両者が争うようなことはしないらしい。カイクシュタイフでのクラーケンやウィンドブリズでのカイメラのように相手がヴェノムであっても種が違えば捕食の大賞になるということはないようだ。あくまでもトレント達は()()に拘るらしい。

 故に今度の討伐はいかにアンセスターセンチュリオンとトレント達を相手に上手く立ち回れるかがポイントになるかだが………、

 それを覆そうとするかのごとくここでアローネが食い下がる。

 

 

アローネ「…私が今回のヴェノムの主討伐でアンセスターセンチュリオンを相手に攻撃の目が無いことは理解しています………。

 

 

 

 

 ですが私はそれでも今回の主討伐は私が率先してアンセスターセンチュリオンを討伐したいのです!

 ゆくゆくは私がこのダレイオスで()()()()()()()()ここは何としても私が前に出向かねばなりません!!」

 

 

 アローネの主張は前回のフェニックス討伐前に話していたものだった。フェニックスは結局討伐できなかったため今回のアンセスターセンチュリオンでの機会がアローネにとって最後の機会となるかもしれない、そんな鬼気迫る想いを感じるほどだった。ヴェノムの主討伐は今回のアンセスターセンチュリオンが最後ではないがこの次に待ち受けるレッドドラゴンはウィンドブリズ山でカイメラが変身した姿に手も足もでなかったこともあってレッドドラゴンとの戦いでは活躍を見込めないと予想してのことだろう。カイメラの変身は特殊ではあったがそれでもレッドドラゴンの頑強な鱗の鎧を纏ってはいた。あの鎧には風の魔術での攻撃は全て弾かれてしまうことは容易に想像できた。

 

 

 魔術の属性は六種類ありその六つの属性は互いを打ち消し会う関係の属性が三つずつペアで存在する。技量が拮抗した者同士が打ち消し会う属性の魔術をぶつけ合えば二つは相殺されるがそれらは必ずしも同じ精度の破壊力があるわけではない。基本六属性は風、水、氷、地、火、雷の順番で破壊力が強くなっていく。昔とある人物が破壊力を比較するため特長が似た物体を六つ用意してそれらに基本六属性の魔術を一日おきに放っていった。すると対象は風や水での魔術では表面をうっすると傷付ける程度だったが火や雷、地での攻撃は対象を粉砕する威力を叩き出した。魔術を放ったのは同一人物だというのに何故こうも差が出てしまったのか。それは当然物質としての違いだ。風や水、氷などは生物が触れたとしてもそれがすぐに牙を剥くことはない。魔術としての精度が高ければその限りではないが自然に存在しているものですら人が難なく触っても平気な物質てある。

 反対に地、火、雷は生物が触れれば軽くその体を傷付けることができる物質だ。そんな物を魔術、マナを込めて発動させればそれ相応の破壊を生み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネが得意としている属性は風。

 

 

 最弱を自称するフリンク族達も自分達が弱い理由は風を得意とする部族だからだと言っていた。攻撃性能としては他の属性に一歩遅れをとる風の属性は()()()という点では相手に目視で見切られることは少ないだろう。しかしそんなことはしなくても対象よりも面積の大きな楯などがあれば風の軌道を逸らして回避することが可能である。また槍などを真っ直ぐ突き出すだけでも風力は還元されてしまう。風の強い地方では屋根に()()()()()避け用の鎌などが設置されており風を切り裂いて烈風から民家を守っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風は水よりも軟らかい。この際軟らかいという表現ですらまだ硬い表現だろう。

 

 

 風には軟らかいという感覚を感じることもできないくらい流動性が高い物質だ。なにせ空気そのものの流れなのだからそれも当然である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネにとってはアンセスターセンチュリオンは端的にいって部が悪い相手だ。

 

 

 風という攻撃力に乏しい力と森の中という至る場所に楯になりそうな木々が這えている場所でおまけに敵が風に対して耐性が高い植物系のモンスターだ。

 

 

 これで勝とうとしているのだから相手がモンスターでなく人であったら大笑いされているか甘く見られたと思い逆上することだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それであってもアローネは自らの功績を掴むために挑むしかなかった。

 

 

 ここで活躍ができればウルゴスの同胞を探し出す夢に一歩近づけることだと信じて………。



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カオスメインでの戦い

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…………フム………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララ殿、

 アンセスターセンチュリオンのことについてお訊きするがクララ殿から見てアンセスターセンチュリオンはどう感じているのか聞きたい。

 奴は()()なのか?」

 

 

 アローネの引かぬ姿勢を前にしてウインドラが視線をクララに切り替えて質問をした。その質問は意図が読めなければ返ってくる答えはそのまま強敵だ、となるだろう。理解の早いクララはすぐにウインドラの質問の意味を察して、

 

 

クララ「アンセスターセンチュリオンは私達にとっては強敵ですけれど貴殿方にとっての()()()()()()()()()()()()()をお訊きしたいのですよね?

 貴殿方大魔導師軍団はこれまで七体のヴェノムの主達を討伐してきた………。

 その貴殿方の相手としてアンセスターセンチュリオンが脅威に値するかどうかを。

 ダレイオスの部族達が離散する前のヴェノムの主の情報から判断してアンセスターセンチュリオンはアイネフーレやスラートを苦しめたブルータルのような突貫力はありませんしクリティアの地のジャバウォック程の怪力も持ち合わせてはいないように思えます。

 速度に関して言えばグリフォンやフェニックスに及ぶことはないでしょうし恐らくヴェノムの主達の中で最も鈍足で攻撃を回避することは難しくはないでしょう。

 今回のアンセスターセンチュリオンは貴殿方にとってはそこまで手こずる相手ではないかもしれません。」

 

 

ミシガン「え?

 他のヴェノムの主達よりも強い能力とかないの?

 それならなんか楽そうなんだけど………。」

 

 

 力やスピードで他の主に劣るらしいアンセスターセンチュリオン。そこまで話を聞いてカオス達は今回の主討伐の成功率はそこまで悪くは無さそうだと思ったところで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『甘いんだよその考えが。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突にクララの中のラタトスクが口を挟んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『今回お前達が相手するアンセスターセンチュリオンは今までの主達と同じ様なやり方で倒せると思うな。

 奴は()()だ。

 植物ってのは世界中の生物をかき集めて比較するとその生命力の高さは動物系の生物なんかの数十倍から数百倍にもなる。

 草食だろうが肉食だろうが動物は体を真っ二つにされれば即死は免れられない。

 お前達エルフだって真っ二つどころか手足が切り落とされたり小さな針が体を貫通するだけで出血して死ぬ奴だっているだろ?

 奴等植物系のモンスターにはそれがない。

 種によっては根っ子さえ残ってれば()()()()が持っていかれてもまた茎を伸ばすものもいるんだ。

 生命力のランキングでは植物ってのは首位を独占してるんだよ。

 そんでもってそんな相手にお前達は魔術の制限をかけられながら戦うんだ。

 ヴェノムウイルスによってただでさえ生命力が高いトレントが更にまた生命力を上がった状態でもある。

 これまで通り上手く行くと油断してると痛い目みるぞ。』

 

 

 クララの情報で気が緩みかけた一行をラタトスクが一喝する。これまでカオス達が戦ってきた相手はどの相手も圧倒的な火力や物理攻撃で攻めれば短時間の内に倒せるような戦闘ばかりだった。

 

 

 それが今度はできない。地道に斬りつけていったり相性の悪い属性の魔術で撃退しなければならなず長期戦になるのは確定だ。時間が長引けば何が起こるか分からないのが戦いの掟。始めは作戦を立てられても後半に延びるにつれてごり押しになってくるのは仕方ない。その後半に至るまでにどれだけ戦況をこちらに傾けられるかが肝心だが、

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『後お前、

 お前の魔術は規模がでかすぎる。

 北のウィンドブリズからここまでその力の大きさが感じられるくらいだからな。

 あまりお前の魔術は多用するな。』

 

 

カオス「は………?」

 

 

ラタトスク『ここには世界樹カーラーンがあるんだ。

 お前の魔術が世界樹に影響を受けるようなことにでもなれば世界は終わりだ。

 魔術を使うにしてもその時は世界樹カーラーンを背にしてアンセスターセンチュリオンにかましてやれ。

 それ以外のトレント達は全部無視でいい。』

 

 

 また追加でカオスに制限がかけられた。トレントに遭遇したら剣で撃退するか逃亡の二択。早急にアンセスターセンチュリオンの元へと辿りつかなければじり貧になることは間違いない。

 

 

 その条件を聞いて、

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…やはりアローネがカオスに同行するのは非効率的だな。

 カオスとアローネでは走行速度に差がありすぎる。

 カオス一人に任せておくのが依頼を達成しやすくなるだろう。」

 

 

アローネ「!?

 しかし……!?」

 

 

ウインドラ「アローネ、

 これは()()()()()()んだ。

 ここでアンセスターセンチュリオンを討たねば後々のアインワルド族達の生活にも関わってくる。

 わざわざ効率の悪いやり方を選ぶことは俺は賛成できない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスのためにもお前は俺達と一緒に陽動に回ってくれ。

 いいな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「くっ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………分かりました………。

 私もサポートに入ります………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(アローネ………。)」

 

 

 納得がいかない、そんな顔をするアローネ。それでも最後は渋々了承した。

 

 

カオス「(そんなに気を追い詰めなくてもいいと思うんどけどなぁ………。

 皆で主を倒して回ってるんだからアローネだってダレイオスの人達は認めてくれるだろうしそれに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回は駄目でもレッドドラゴンの討伐になったら俺がアローネが止めを刺せるように()()()調()()()()()いいよね………?)」



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他の使い手

アインワルド族の住む村アルター 残り期日七十二日

 

 

 

クララ「アンセスターセンチュリオンの情報は以上です。

 奴が最後に目撃されたのは森の西の奥の方でその近くまでは村の者に案内させますね。」

 

 

ウインドラ「では依頼を開始しようと思うが不都合はないな?」

 

 

クララ「はい、

 こちらはいつでも結構です。」パンッ!パンッ!

 

 

 ウインドラの開始するという発言の後にクララが二回手を叩く。すると、

 

 

「「失礼します!」」

 

 

 二人の男達が室内へと入ってきた。この二人が案内人のようだ。

 

 

クララ「この二人がカオス様とウインドラ様達の班を案内します。」

 

 

「ビズリーと申します!」

 

 

「私はダズでございます!」

 

 

 クララに紹介された男達は屈強そうな見た目をしているが真面目そうで他所から来たカオス達に対しても大切な客人といったふうに礼儀が正しい。

 

 

クララ「では早速ではありますがお願いします。

 ………どうか私達の森を………、

 

 

 アインワルドをお救いください。」

 

 

 深々とクララが頭を下げてカオス達に頼んでくる。このようにカオス達のことを信用してヴェノムの主討伐をお願いされたのは初めてだった。ここに来るまではどの部族も半信半疑であったり無理だと否定したりヴェノムの主などいないのだと嘘をつかれたりしたがそれもダレイオスを半分以上ヴェノム達の手から解放したとなるとカオス達の噂が出鱈目ではないことが伝わっていっているのだろう。

 

 

 カオス達は自分達のしてきたことが実を結んできたことを実感した。

 

 

カオス「…任せてください。

 必ず俺達でアンセスターセンチュリオンを討伐してみせます。」

 

 

 そしてカオス達はアンセスターセンチュリオンを討伐すべくユミルの森へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『(………なんか連中さっき変なこと言ってなかったかクララ。)』

 

 

クララ「(?

 何か気になることでもありましたか?)」

 

 

ラタトスク『(連中の中の………あの女がダレイオスを率いるとかなんとか………。)』

 

 

クララ「(!

 ………確かにそのようなことを仰ってましたね………。

 あれは何だったのでしょうか………?)」

 

 

ラタトスク『(分からん………。

 ミーア族の奴等のは話ではアイツらがここに来ることは知っていたがダレイオスを率いる………?

 ………それってつまり()()()が中心になってマテオと戦うってことにもとれるが………。)』

 

 

クララ「(それは………どうなのでしょう………?

 ミーア族の遣いの者からの話をお聞きする限りでは最終的にダレイオスを一纏めにして主導するのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス様になると思いますが………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユミルの森

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダズ「では私が先導します。

 私についてきていただけますか?」

 

 

ウインドラ「了解した。

 それでは案内を頼む。」

 

 

ダズ「畏まりました。」

 

 

 カオス達のヴェノムの主アンセスターセンチュリオン討伐が始まる。案内人の二人には既に洗礼の儀を受けさせこれで万が一案内人の二人がヴェノムに殺られることはなくなった。話もスムーズに進みこれからいざ森へとくり出さんとしていた。クララを筆頭にカオス達の情報が浸透していたこともあってか案内人も準備がよく先程のクララとの会議から三十分と経たずに出発ができそうだった。

 

 

カーヤ「森に入ってトレントを引き付けておくだけでいいの………?

 倒したりは………?」

 

 

タレス「倒してしまってもいいですけどここじゃ火と雷以外の術しか使っちゃいけないようですよ。

 森の中で火事が起こるとユミルの森が全焼の恐れがあるので。」

 

 

カーヤ「…うん分かった………。」

 

 

 会議に参加しなかったカーヤが軽く注意事項をタレスから教わっていた。それが終わり次第先に出発する五人はすぐにでもユミルの森へと入っていくことだろう。

 

 

ミシガン「まぁもしも火事になんかなったりしたら私が火を消すからいいけどね。

 燃え広がらなければいいんでしょ?」

 

 

ウインドラ「かといって辺りを水浸しにされても困るがな。

 俺なんかは今極度に水の力に脆い。

 カオスのようにバルツィエの共鳴でもあれば今回のことは問題視するようなものでもないんだが。」

 

 

タレス「あれができるようになればこの先もぐっと戦闘が楽にはなると思いますがあんな器用なことはとてもじゃないですけど今のボク達では無理ですね。

 できるようになったらもう今後地形を気にして戦闘が制限されるようなこともないんでしょうけど。」

 

 

 カイメラ討伐の時にカオスが修得した技術“共鳴”は魔術で発生したエネルギーを対象と対象以外の物に自在にぶつけたり透過させたりできる。カイメラ戦でもその技術が大いに活躍し無事カイメラを倒すことができたがカオスとアローネ以外のメンバーはカイメラとの戦いの最中で十分すぎる力を手に入れた。なので共鳴についてはあまりふれてこなかった。ふれたとしてもカオスが修得した方法がバルツィエのダインからの指導を受けてのものだったのとカオス自身がバルツィエの血筋だったこともあって他のメンバーは自分達にそれができるとは思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「共鳴………?」

 

 

 カイメラとの戦いの後に仲間に加わったカーヤは共鳴という言葉に反応する。カーヤにはまだカオスの共鳴を見せたことがなかった。だからウインドラ達がいう共鳴が何のことだか分からなかった。

 

 

カオス「!

 あぁ、

 そういえばカーヤにはまだ見せてなかったね。

 共鳴っていうのは………

 こんなふうに………。」

 

 

 カオスは自らの手にマナを集中させて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポオオオッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!」

 

 

 カオスが手に集めたマナの中から水の玉が現れる。

 

 

カオス「触ってみてくれる?」

 

 

カーヤ「?」

 

 

 カオスはカーヤに作り出した水の玉に触れるよう言う。カーヤはその指示に従って手を水につき入れるが、

 

 

カーヤ「………」

 

 

カオス「ね?

 触れないでしょ?

 今俺がそうコントロールしてるんだよ。

 これが共鳴で」「これが共鳴って言うの?」ボォッ!!

 

 

 カーヤが水の玉につき入れた手とは反対の手にカオスがしたようにマナを集中させて今度は火の玉が作り出される。

 

 

アローネ「!!?

 カーヤさん!

 ここでは火の術は………!?」

 

 

ビズリー「おっ、お止めください!!

 火が燃え移ればユミルの森が……!?」

 

 

 カーヤが出した火に仰天してアローネとビズリーが止めさせようとする。しかし、

 

 

カーヤ「触ってみて………?」

 

 

カオス「え………?」

 

 

カーヤ「……その共鳴とかいうの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤも出来るよ………?」



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他の使い手

アインワルド族の住む村アルター 残り期日七十二日

 

 

 

クララ「アンセスターセンチュリオンの情報は以上です。

 奴が最後に目撃されたのは森の西の奥の方でその近くまでは村の者に案内させますね。」

 

 

ウインドラ「では依頼を開始しようと思うが不都合はないな?」

 

 

クララ「はい、

 こちらはいつでも結構です。」パンッ!パンッ!

 

 

 ウインドラの開始するという発言の後にクララが二回手を叩く。すると、

 

 

「「失礼します!」」

 

 

 二人の男達が室内へと入ってきた。この二人が案内人のようだ。

 

 

クララ「この二人がカオス様とウインドラ様達の班を案内します。」

 

 

「ビズリーと申します!」

 

 

「私はダズでございます!」

 

 

 クララに紹介された男達は屈強そうな見た目をしているが真面目そうで他所から来たカオス達に対しても大切な客人といったふうに礼儀が正しい。

 

 

クララ「では早速ではありますがお願いします。

 ………どうか私達の森を………、

 

 

 アインワルドをお救いください。」

 

 

 深々とクララが頭を下げてカオス達に頼んでくる。このようにカオス達のことを信用してヴェノムの主討伐をお願いされたのは初めてだった。ここに来るまではどの部族も半信半疑であったり無理だと否定したりヴェノムの主などいないのだと嘘をつかれたりしたがそれもダレイオスを半分以上ヴェノム達の手から解放したとなるとカオス達の噂が出鱈目ではないことが伝わっていっているのだろう。

 

 

 カオス達は自分達のしてきたことが実を結んできたことを実感した。

 

 

カオス「…任せてください。

 必ず俺達でアンセスターセンチュリオンを討伐してみせます。」

 

 

 そしてカオス達はアンセスターセンチュリオンを討伐すべくユミルの森へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『(………なんか連中さっき変なこと言ってなかったかクララ。)』

 

 

クララ「(?

 何か気になることでもありましたか?)」

 

 

ラタトスク『(連中の中の………あの女がダレイオスを率いるとかなんとか………。)』

 

 

クララ「(!

 ………確かにそのようなことを仰ってましたね………。

 あれは何だったのでしょうか………?)」

 

 

ラタトスク『(分からん………。

 ミーア族の奴等のは話ではアイツらがここに来ることは知っていたがダレイオスを率いる………?

 ………それってつまり()()()が中心になってマテオと戦うってことにもとれるが………。)』

 

 

クララ「(それは………どうなのでしょう………?

 ミーア族の遣いの者からの話をお聞きする限りでは最終的にダレイオスを一纏めにして主導するのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス様になると思いますが………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユミルの森

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダズ「では私が先導します。

 私についてきていただけますか?」

 

 

ウインドラ「了解した。

 それでは案内を頼む。」

 

 

ダズ「畏まりました。」

 

 

 カオス達のヴェノムの主アンセスターセンチュリオン討伐が始まる。案内人の二人には既に洗礼の儀を受けさせこれで万が一案内人の二人がヴェノムに殺られることはなくなった。話もスムーズに進みこれからいざ森へとくり出さんとしていた。クララを筆頭にカオス達の情報が浸透していたこともあってか案内人も準備がよく先程のクララとの会議から三十分と経たずに出発ができそうだった。

 

 

カーヤ「森に入ってトレントを引き付けておくだけでいいの………?

 倒したりは………?」

 

 

タレス「倒してしまってもいいですけどここじゃ火と雷以外の術しか使っちゃいけないようですよ。

 森の中で火事が起こるとユミルの森が全焼の恐れがあるので。」

 

 

カーヤ「…うん分かった………。」

 

 

 会議に参加しなかったカーヤが軽く注意事項をタレスから教わっていた。それが終わり次第先に出発する五人はすぐにでもユミルの森へと入っていくことだろう。

 

 

ミシガン「まぁもしも火事になんかなったりしたら私が火を消すからいいけどね。

 燃え広がらなければいいんでしょ?」

 

 

ウインドラ「かといって辺りを水浸しにされても困るがな。

 俺なんかは今極度に水の力に脆い。

 カオスのようにバルツィエの共鳴でもあれば今回のことは問題視するようなものでもないんだが。」

 

 

タレス「あれができるようになればこの先もぐっと戦闘が楽にはなると思いますがあんな器用なことはとてもじゃないですけど今のボク達では無理ですね。

 できるようになったらもう今後地形を気にして戦闘が制限されるようなこともないんでしょうけど。」

 

 

 カイメラ討伐の時にカオスが修得した技術“共鳴”は魔術で発生したエネルギーを対象と対象以外の物に自在にぶつけたり透過させたりできる。カイメラ戦でもその技術が大いに活躍し無事カイメラを倒すことができたがカオスとアローネ以外のメンバーはカイメラとの戦いの最中で十分すぎる力を手に入れた。なので共鳴についてはあまりふれてこなかった。ふれたとしてもカオスが修得した方法がバルツィエのダインからの指導を受けてのものだったのとカオス自身がバルツィエの血筋だったこともあって他のメンバーは自分達にそれができるとは思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「共鳴………?」

 

 

 カイメラとの戦いの後に仲間に加わったカーヤは共鳴という言葉に反応する。カーヤにはまだカオスの共鳴を見せたことがなかった。だからウインドラ達がいう共鳴が何のことだか分からなかった。

 

 

カオス「!

 あぁ、

 そういえばカーヤにはまだ見せてなかったね。

 共鳴っていうのは………

 こんなふうに………。」

 

 

 カオスは自らの手にマナを集中させて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポオオオッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!」

 

 

 カオスが手に集めたマナの中から水の玉が現れる。

 

 

カオス「触ってみてくれる?」

 

 

カーヤ「?」

 

 

 カオスはカーヤに作り出した水の玉に触れるよう言う。カーヤはその指示に従って手を水につき入れるが、

 

 

カーヤ「………」

 

 

カオス「ね?

 触れないでしょ?

 今俺がそうコントロールしてるんだよ。

 これが共鳴で」「これが共鳴って言うの?」ボォッ!!

 

 

 カーヤが水の玉につき入れた手とは反対の手にカオスがしたようにマナを集中させて今度は火の玉が作り出される。

 

 

アローネ「!!?

 カーヤさん!

 ここでは火の術は………!?」

 

 

ビズリー「おっ、お止めください!!

 火が燃え移ればユミルの森が……!?」

 

 

 カーヤが出した火に仰天してアローネとビズリーが止めさせようとする。しかし、

 

 

カーヤ「触ってみて………?」

 

 

カオス「え………?」

 

 

カーヤ「……その共鳴とかいうの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤも出来るよ………?」



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強くなると言うことは

ユミルの森 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「え………?」

 

 

カオス「カーヤも………共鳴ができるの………?」

 

 

 

 

 

 

カーヤ「うん………今のと同じことができればいいんでしょ…?

 じゃあこれ………。」

 

 

 カーヤはカオスがしたように手のひらに乗った炎を差し出してくる。

 

 

カオス「……よ、よし………じゃあ………。」

 

 

 カオスがカーヤの炎に触れようと手を伸ばす。もし本当にカーヤが共鳴が使えるのであればカオスが炎に触れても何も起こらない。反対に共鳴ができないのであれば炎がカオスに触れた瞬間にカオスの持つ力によって炎が霧散する。結果は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボボボッ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!

 きっ、消えない………炎が………!」

 

 

アローネ「本当にカーヤさんが共鳴を発動させているのですか!?」

 

 

タレス「カーヤさんも共鳴が使えたんですね………。」

 

 

 カーヤがカオスと同じく共鳴が使えることに驚くメンバー達。

 

 

ウインドラ「まさか本当に使えるとはな、

 驚いたぞ。

 しかし一体いつそれを修得したんだ………?

 その技術はマテオのバルツィエ達が使っているものだ。

 カーヤにはカオスのように誰かに師事を仰ぐような相手はいなかっただろう………?」

 

 

 ウインドラがカーヤの共鳴がどの時期に修得したものなのかを訊いた。カオスはダインから教わるまでは共鳴という技術があったことなど知らなかった。なので皆はカーヤが誰かから教わったものだと思ったのだが、

 

 

 

 

 

カーヤ「…?

 誰からも教わってないけど………。」

 

 

カオス「誰からも………?」

 

 

カーヤ「うん………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは………なんか()()にできるようになった………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤの共鳴は独学のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「カーヤちゃん………一人でそれができるようになったの………?

 それって実はそんなに難しいスキルじゃないの………?」

 

 

タレス「…いえ、

 その共鳴が実は容易にできるものだったら今頃はバルツィエ以外にも体得している人が沢山いるはずですよ。

 ………やっぱりそれは飛葉翻歩みたいにバルツィエ専用のスキルなのでは?」

 

 

アローネ「必ずしもそうとは言えませんよ。

 飛葉翻歩はオサムロウさんも修得しておりました。

 バルツィエが使える技術は厳しい修業をこなせば修得することは可能なのでしょう。」

 

 

ウインドラ「!

 ブラム隊長もバルツィエの師事を経て魔神剣を使えるようになっていたな。

 アローネが言うようにバルツィエが使用する技やスキルは努力次第でどうにか体得できるということか………。」

 

 

 カーヤが見せた共鳴によってバルツィエのスキルが頑張れば常人にも使いこなせる可能性が浮上した。バルツィエのスキルは中々バルツィエ以外が使用しているところは見られないが零ではない。基本的なものならオサムロウやブラムといった例が確かに存在している。そしてこの共鳴はダインが言うには魔術を使用する上での基本的な技術だとも発言していた。

 

 

 それならカオスとカーヤだけでなくここにいるアローネ、タレス、ミシガン、ウインドラも共鳴を………、

 

 

 

 

 

ビズリー「あ、あの………?」

 

 

カオス「………!

 どうしました?」

 

 

ビズリー「何やら真面目な話の最中になんですが………。」

 

 

ダズ「貴殿方大魔導師軍団の方々の中にバルツィエの血筋の者は()()()()だけと御伺いしていたのですが………もしやそちらのお嬢様もバルツィエの者なのですか?」

 

 

 カオス達の様子を見ていたビズリーとダズがそう訊いてきた。ミーア族達がダレイオスの各部族に情報を共有するために先にアルターへと話を通しに来ていたようだがミーア族の遣いの者達はカーヤの存在を知らないためアインワルドにカーヤのことが浸透していなかった。クララも一人仲間が増えた程度で受け止めていたため詳しくは伝えていなかったが、

 

 

カオス「安心してください。

 カーヤは俺達の仲間ですから。」

 

 

アローネ「込み入った事情があって共に旅することになりましたが彼女はマテオのバルツィエのような気性が荒いということはありませんのでお気になさらず。」

 

 

ビズリー「は、はぁ………、

 貴殿方と御一緒におられるということはそうなのでしょうが………。」

 

 

ダズ「バルツィエの血筋が二人も私達ダレイオス陣営におられるのですね。

 それはなんとも心強いことです。」

 

 

 ビズリーとダズに正直に話をすると二人はすんなりとそれを受け止めた。余計な衝突が生じなくて幸いである。

 

 

ビズリー「…今貴殿方がご使用になられた共鳴という技は大変便利な技ですね。

 そのように対象を絞って術を当てることができる………。

 ………昔バルツィエと戦ってた際にもそのような術を見たことがある気がします。

 複数のバルツィエと対峙していた時にバルツィエ同士の魔術が互いに干渉することなく放たれているのを………。

 あれがその共鳴だったのですね。」

 

 

ダズ「…中々興味深いスキルですね。

 それが使えれば今後私達の兵の方でも戦術が大きく変わっていくと思われます。

 もし時間に余裕が御座いましたらそちらのスキルの原理だけでもご教授いただけませんか?」

 

 

 技の利便性が彼等の中で好印象だったらしく共鳴を修学したいと願い出るダズ。

 

 

カオス「いいですよ?

 どうせダレイオスの人達はこれから一緒に戦う仲間になるんですし()()()()()()()()()()()()()()()()()んでしたらこの作戦が終わった後にでも。」

 

 

ビズリー・ダズ「「感謝いたします!!」」

 

 

 カオスは二人に技を講師することを引き受けた。将来的には味方の戦力が強化されるのは願ってもないことだ。強くなればその分味方の選択の引き出しが多くなることもある。その時のことも考えてカオスはダレイオスの民達が強くなろうという意思を尊重した………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはこの時よく考えるべきだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼等ダレイオスの民が強くなればそれだけマテオとの戦いにも優位になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それだけならダレイオスの民が強くなることは喜ばしいことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その()()()()()()()()今の彼等には想像することがこの時できてさえいれば………。



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癒着が拭えない疑惑の関係

ユミルの森 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビズリー「それでは準備は宜しいでしょうか?」

 

 

ウインドラ「あぁ、

 すぐに出発できる。」

 

 

タレス「こちらは問題ありません。」

 

 

ミシガン「いつでも行けるよ!」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

ビズリー「宜しいようですね。

 ではこちらへ。」

 

 

 ビズリーが先導してウインドラ達もそれについていく。とうとうヴェノムの主討伐が始まった。彼等にはこれからユミルの森でアンセスターセンチュリオンの配下のトレント達を引き付けてもらい手薄となった道をカオスが突き進みアンセスターセンチュリオンの元へと辿り着きそれを討つ。これでこの地方のヴェノムの主討伐は完了だ。

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カオス。」

 

 

カオス「ん?」

 

 

 ウインドラ達がゆっくりと歩み出した後アローネがカオスに話し掛けてくる。何かあったのか………?

 

 

アローネ「………………」

 

 

カオス「どうかしたのアローネ?」

 

 

アローネ「………いえ、

 何でもありません………。」

 

 

 そういってアローネはウインドラ達の後を追った。

 

 

 

 

 

 

カオス「………?」

 

 

ダズ「それでは私達ももう少し時間が経過してから出発することにしましょうか。」 

 

 

カオス「そうですね。

 案内よろしくお願いします。」

 

 

ダズ「はい、

 途中までは私の方も同行いたしますがそこから先は………。」

 

 

カオス「えぇ、

 そこからは俺が一人でアンセスターセンチュリオンのところまで向かいますからダズさんは急いで避難してください。

 俺達が貴方にかけた術はあくまでもヴェノムウイルスに感染しなくなるだけで俺達みたいにヴェノムを倒せるようになるわけではないので。」

 

 

ダズ「…本当に不思議な感じですね。

 あの術だけで私にそのような抗体が付与されるのは………。」

 

 

カオス「俺もよくは分かってないんですけど精霊マクスウェルの力がそう働くみたいでして………。」

 

 

ダズ「それほどまでに強力な力を………。

 …カオス様はその………とても器の優れたシャーマンなのですね。」

 

 

カオス「はい?」

 

 

ダズ「巫女様から伺っておられるとは思いますが精霊に憑依されるというのはとても人体に負担がかかることなのですよ?

 それを貴方は………確か十五年程前からなのですよね?」

 

 

カオス「はい、

 俺の中にマクスウェルが入ってきたのはその辺りです。」

 

 

 アローネ達が進みだしてからダズと二人残る形となってダズがおずおずと精霊のことについて訊いてきた。カオスも待っている間は暇になるのでそれに答えていく。

 

 

ダズ「…本当に不思議に思います………。

 バルツィエというのは先天的に()()()()()()()()()()()を持っているのでしょうか………?

 私達アインワルドも長年を費やして歴代の巫女様達の器の強度を補強してきたつもりでしたがバルツィエの血はそれを遥かに凌ぐものがあるのですね。」

 

 

カオス「みたいですね。

 って言っても俺は辺境の村の出身で特にバルツィエが何かしてたか知らないんですけど。」

 

 

ダズ「前々からレサリナスのバルツィエは何か特別な力を使って自分達を遺伝子的に強化する方法を編み出したと噂されていました。

 その影響を貴方も受け継いでおられるのですね。」

 

 

カオス「俺自身はそんなこと自覚できないですけどね。

 でもある人からバルツィエが昔の文明が栄えていた時代の技術が記載された書物を借りてそれを使ってそういう研究していたことは聞いてますよ。」

 

 

ダズ「ある人とは?」

 

 

カオス「…すみません、

 それはちょっと………。」

 

 

ダズ「…そうですか………。」

 

 

 ここでうっかりカタスティアの名前でも出そうものなら追々カタスティアに迷惑がかかるだろう。彼女はマテオの繁栄を願ってバルツィエに技術を献上しただけなのだ。彼女を知る者としては彼女には何の罪も無いことは理解している。悪いのはカタスティアから借り受けた力を悪用して人々を圧迫する現バルツィエだ。カタスティアから書物を借り受けた当時のバルツィエは純粋にレサリナスを守りたかっただけらしいのだがそれな月日を重ねる内にどこかで屈曲して………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………屈曲したのは確かバルツィエが何代目かの党首で権力を求めるようになったからだったはずだ。どうして権力を求めるようになったのかは分からないがバルツィエ達は徐々に人格が歪みだしてそうした経緯に至ったと聞いている。その人格が歪む切っ掛けはツグルフルフという障気が満ちた地に咲くと言われる花を材料にして作ったワクチンが原因だったみたいだがバルツィエは三百年前にレサリナスを拠点にしてそこから南に進出しマテオを統一した。その時期には既にバルツィエが歪みだしていたようだ。

 

 

 ………とすると大体バルツィエが壊れだしたのが()()()()()………。その時期から既にバルツィエはワクチンを開発し始めていたのか………?ワクチンはヴェノムウイルスを効かなくする効果があるがヴェノムが出現したのは()()()()()………。バルツィエはヴェノム出現より先にワクチンを製造していたことになる。

 

 

 

 

 

 

カオス「(ダインはバルツィエはヴェノムやヴェノムの主とは関係無いって言ってたけどどう考えてもバルツィエが関係してるとしか思えないんだよなぁ………。

 昨日クララさんとの話の中ではウインドラ達もバルツィエは一枚岩ではないって言ってたからダイン以外の誰かが本当の大魔導師軍団で他にも百年前にヴェノムウイルスを世界に撒いた人がいるんじゃないか………?)」

 

 

 

 

 

 

ダズ「………!

 カオス様もうそろそろ私達も出発いたしましょう。」

 

 

カオス「!

 分かりました。」

 

 

 ダズに促されカオスは疑念を振り払い今は作戦に集中することにした。

 

 

カオス「(………いくら一人で考えても結論なんてでないか………。

 この旅が始まって世界のことがかなり分かってきたけど未だにどうなっているのかよく分からないこともまだまだ沢山ある………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつかその世界の真実に辿り着くことができるのかな………。)」



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トレントの大群

ユミルの森 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「瞬迅槍ッ!!!」

 

 

トレント「グギャッ!!」ザスッ!!

 

 

 ウインドラ「(!………倒しきれんか………。

 やはり植物系のモンスター相手では致命傷となる攻撃が存在しない………。

 動物のように生物として重要な内臓器官といったものが傷付けられれば感染個体であっても多少怯みはするんだがこれは………。)」

 

 

 ウインドラの槍に突き飛ばされたトレントは即座にその傷を再生させる。ヴェノムによる再生能力と従来の植物系モンスターの再生能力を使い分けてこちらの攻撃を無力化し何度も立ち上がっては襲ってくる。

 

 

タレス「敏捷性はありませんが体力は動物系のモンスターとは比べ物になりませんね………。

 ここまで攻撃を加えてもまだ一体も倒せないなんて………。」

 

 

 タレスがトレント達の異常なしぶとさを前に冷静に分析した内容を述べる。カオスと別れて早数分、森に入ったウインドラ達の行く手を遮るようにトレント達が次々と現れてはそれを捌いてはいるが十を越える攻撃を加えてもどのトレントの個体もピンピンしている。

 

 

ミシガン「ねぇ!?

 他に植物系のモンスターに効く攻撃ってなんか無いの!?

 薬品とか毒とかあればあっさり片付くんじゃない!?」

 

 

ビズリー「無理ですよ!?

 ヴェノムウイルスは世界最強のウイルスでそれに感染した生物はあらゆる薬や毒の効き目がありません!

 ここのトレント達には以前アインワルドでも色々と対策はしましたがどれも全く効果が無く終わってしまいました!!」

 

 

 ミシガンの泣き言にビズリーが真面目に答える。期待してはいなかったがやはりトレント達を倒すには地道に削っていくしかないようだ。

 

 

 それか………、

 

 

カーヤ「…じゃあカーヤが燃やして………。」

 

 

ビズリー「ですからここでの火は厳禁なんですって!?

 草木が一度燃えれば一瞬で周りに燃え移っていきますから消火するのは一苦労なんですよ!?

 それに動かない木々を燃やすならまだしも()()()()()()()()()に火でも着きようものならこのユミルの森全体が火の森と化してしまうでしょう!!」

 

 

カーヤ「そんな失敗はしない………。

 燃え広がる前に一撃で焼き消すから……。」

 

 

 ビズリーの忠告を無視して火の魔術を発動させようとするカーヤ。彼女も時間ばかりが過ぎて数を増やしていくトレント達に焦りが生じているようだった。火の魔術の制限が無ければ本来この場で最も活躍を期待されるのはカーヤだ。だというのに環境を配慮した結果彼女の得意とする火の魔術が封じられひたすら物理的攻撃に専念するのみ。しかし従来の人とモンスターの関係図は力や魔力ではモンスターが勝り知識や知恵では人が勝るという構図がある。相手の弱点が分かりきっているのにも関わらずその弱点を突けずにあまつさえ力で勝るとされるモンスターを相手に単純な力で対抗するというのはなんとも効率が悪い戦い方だ。いずれは一人ずつ潰されていくのが落ちなのは目に見えている。その悪状況にはまだ()()()()()()()()()ことも加算されるというのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「ゴアッ!!」ブオンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!

 危ない!!」

 

 

トレント「ギィェッ!!」ザンッ!!

 

 

 ふとアローネが考え込むような素振りをして立ち止まりそこをトレントに狙われたが間一髪カーヤがトレントの腕の関節部分(?)を内側から蹴り抜きその一撃を防いだ。

 

 

ウインドラ「何をしてるアローネ!

 戦場のど真ん中で隙を見せるな!!」

 

 

 今の光景を一部始終見ていたウインドラがアローネに注意を飛ばした。

 

 

 だがアローネは、

 

 

アローネ「…火が使用してはいけないのは周りに火が燃え移ることを懸念してのことですよね………。

 ………でしたら火が燃え移らない場所へと誘導できたらその心配もありませんよね?」

 

 

ビズリー「は、はい………?

 ………それは………確かにその通りですが………。」

 

 

タレス「そんな場所この森にはありませんよ?

 地図上でもここら辺りは緑一色で埋め尽くされています。

 どこかで火が付けば後はドミノ倒しのようにあっという間に火が森を駆け巡りますよ。

 そうなったらユミルの森は終わりです。

 世界樹カーラーンも火に覆い尽くされてしまいますよ。」

 

 

 タレスの言う通り世界地図にはこのアインワルドが治める土地ユミルの森は完全に木々で埋め尽くされた土地であった。ユミルの森を上から確認したとしても中心にある世界樹カーラーン以外は木々か木々に扮したトレント達の姿しかなくどこかで木々の途切れ目が確認できるとしたら森から出た他の地方だけで………。

 

 

 

 

 

 

アローネ「………いえ必ずある筈です!

 この森のトレント達は元はマナを吸収して突然変異した木々なのですよね?

 でしたら動き回るトレント達がいた場所には確実に火を起こしたとしても周りに燃え広がらないようなそんな拓けた場所ができる筈です。

 そこでならカーヤさんとウインドラが火や雷でトレントを倒しても森には影響がでない………。

 そこを探しましょう!」

 

 

ウインドラ「いやしかしトレント達がそこを離れただけで地面には火が着きやすそうな花や葉が「!!いえ!その案ならいけるかもしれませんよ!」」

 

 

ビズリー「奴等トレント達は動物のように這い回れるように進化した植物系のモンスターで()()()()()()()()()()()()でもあります!!

 それだったら感染個体の周りの草葉はウイルスによる影響で他の生物のマナを取り込むことができずに枯れてしまっているんです!!

 枯れた植物達はトレントに吸収されて無くなっている筈ですから火を着火したとしても拡がる恐れはありません!!」

 

 

 ビズリーがアローネの話に同調する。それと同時に彼の言葉から擬態しているトレント達の判別もつくようになった。

 

 

ミシガン「木のフリをしているトレントは足元見ればいいんだね?

 木の根本の周りに草が無ければそれがトレント。

 そのトレント達なら焼いちゃってもいいってこと?」

 

 

アローネ「いいえ………、

 この案ではまだ火が燃え移らないという保証はありません。

 

 

 ですから今から皆で()()()()()

 どこか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 

 

 そこから先は私に一つ考えがあります。」

 

 

タレス「考え………?」

 

 

アローネ「詮索は後回しにしましょう。

 今は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急ぎトレント達を一網打尽にできる場所探しです!!」



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術の効果の変化

ユミルの森 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギイィイッ!!グギャァァァッ!!

 

 

 森のあちこちでトレント達の叫び声が聞こえる。聞こえるだけでそれが誰かを襲って発しているのか誰かに襲われて発しているのか分からない。しかし聞こえてくるトレントの声の場所が定まっていないことからトレントと対峙している者達が常時移動を続けていることは分かる。

 

 

ダズ「お連れの皆様が上手く立ち回っているようですね………。

 おかげで私達がトレントと遭遇することもなくこうして予定の地点まで到着できました。」

 

 

カオス「ここまで有り難うございました。

 後は俺が一人でこの先に向かいます。」

 

 

ダズ「お気をつけて。

 アンセンスターセンチュリオンは相当手強いのでご注意を。」

 

 

カオス「はい。」

 

 

 ここでダズがカオスと別れアルターに引き返すことになった。彼にはカオス達のようにヴェノムの感染個体に対する武器となる力を持ち合わせてはいない。故にこのままカオスについてきたとしても危険な目にあうだけなので彼とはここで別れるわけだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「グオオオァッッ!!!」

 

 

ダズ「う、うわっ!?」

 

 

カオス「!!?」

 

 

 カオスとダズの二人が御互いに背を向けて逆方向に進みだした直後ダズのすぐ側に生えていた木が突然動き出した。どうやらトレントが擬態しておりダズが真横を通るのを見計らって襲ってきたようだ。

 

 

トレント「ゴルルルァァァァッ!!!!」

 

 

カオス「(ま、不味い!!?

 間に合わない!!)」

 

 

 カオスはダズの壁に入ろうと駆けるがそれよりも先にトレントの腕の振りが早くダズへと迫り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダズ「スッ、『ストーンブラストッ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「グガァァァァッ!!?」

 

 

 カオスのフォローよりも先にダズが自らトレントに反撃する。ダズの反撃を受けたトレントは大きく体勢を崩し後ろに転んだ。

 

 

カオス「!!?」

 

 

ダズ「へ、へ?

 な、何で………?」

 

 

 カオスとダズはそれを見て驚く。ダズには森に入る直前洗礼の儀でウイルスに感染しなくなる力を付与した。だからダズがこの森でヴェノムウイルスによって死ぬことは無いのだ。

 

 

 

 

 

 

 問題なのはダズが放った魔術を受けたトレントの反応だった。カオス達が行ってきた洗礼の儀はヴェノムウイルスに感染しなくなるだけで感染個体に対してはこれまで通り攻撃が通じないのが普通だった。カオス達もそのことを理解し洗礼の儀を行う相手にはその洗礼の儀がどういった効果を得られるのかを説明してきた。

 

 

 それが今カオスの目の前でダズが放った魔術はアローネやタレス達のように感染個体に対して明らかなダメージを与える威力を持っていた。トレントはダズのストーンブラストを受けて所々岩石に串刺しにされて穴が空いてはいるが少しずつ再生しようとしている。それでも着実にダメージを受けていることははっきりと見てとれた。

 

 

カオス「ダズさん………今何を………?」

 

 

ダズ「わっ、私は特に大したことは………、

 咄嗟にトレントに魔術を使いましたがそれがこんな………。

 ………まるで()()()()()が宿ったような………。」

 

 

 ダズも今の光景に戸惑っている。アインワルド族の何か特別な力があるわけではなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 切っ掛けは確実に先に彼にかけた洗礼の儀だろう。しかしこれまでとは違い付与した相手にカオスやアローネ達と同じ力を与える効果が付属されている。彼にかける前の者達にはこのような力が発現することはなかった。ヴェノムを倒す力を手にできたのはあのシーモス海道に居合わせたミシガン、ウインドラ、レイディーの三人だけだったはず………。タレスに関しては初めての治療魔術の行使で異常な程魔力を注ぎ込んでしまったためタレスにも同様の力が備わってしまいアローネに関しては()()()()()()()()()()彼女にはその力が宿っていた。だからカオスは今後はミシガン、ウインドラ、レイディーの三人以外にこの力が付与されることはないだろうと思っていたところに()()()()()()が現れた。………一体いつから洗礼の儀でヴェノムを倒す力を付与できるようになったのか?回数を重ねる内に精度が上がってきたのか?はたまたあのウィンドブリズでわざわざ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 

 

カオス「(……この分だとカーヤにも俺達と同じ力が付与されてるのかなぁ………?

 もしかしたらカイメラにも………。)」

 

 

ダズ「あ、あのカオス様………、

 貴殿方に付与していただいたあの術では私達はヴェノムに絶対的に強くなったのではなくあくまでもウイルスが効かなくなっただけではありませんでしたか………?

 私の認識が間違っていたのでしょうか………?」

 

 

カオス「!

 あっ、と………俺の方もちょっとよく分かってなくて………さっき説明した通りだと思ったんですけど何か変化してるみたいでして………。」

 

 

ダズ「は、はぁ………?

 ではカオス様にも私の力の変化が分からないということですか?」

 

 

カオス「そ、そうなりますね………。

 でも体とかに異状とかは無いと思いますよ?

 もしかしたらですけど今まで以上にダズさん達は()()()()()()が痛く感じちゃうかもなんですけど………。」「ゴアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 そうこうしている内にトレントが傷を再生して起き上がった。ダズに起こった変化はカオスも説明できなかったので話はアンセンスターセンチュリオン討伐後にすることで納得してもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この時ダズに起こっていた変化はこれまでカオス達が旅をして洗礼の儀を執り行ったダレイオスの民達にも現れていた。ダレイオス中でカオス達に関わった者達が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そのことをカオス達が知るのはブルカーンの地のヴェノムの主を倒してからだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………このことが発覚してからダレイオスの民達はマテオとの対決の前にカオス達を巻き込んでの大きな事件へと発展してしまうこととなる………



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見渡す限りのトレント達

ユミルの森 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」ザッザッザッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダズと別れてからカオスは一人ユミルの森の奥へと歩を進めていっていた。ダズと別れてから一時間程歩くがあれからトレントとは一体とも遭遇しなかった。カオスが進む道々には不自然に地面の土が何かを引っ張り出したかのような土の盛り上がりが何ヵ所もあった。それはトレントが木への擬態を解いて動き出した跡であることをダズから先程教えられた。ダズと別れる際にダズに襲いかかったトレントもカオスが見つけた数々のその土の盛り返した痕跡と同じ様にその場にその跡を作ったので間違いないだろう。アローネ達がちゃんとトレント達を引き付けてくれているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(皆は自分の仕事をこなしているみたいだな………。

 ………なら俺はしっかりとアンセンスターセンチュリオンを一人ででも倒さないと………。)」

 

 

 別行動をとっている仲間達が自分のためにヴェノムの主討伐の邪魔になるトレント達を引き受けてくれているそのことを思いカオスは進める足を早めた。自分はアンセンスターセンチュリオン一体を相手するのに対して仲間達は無数にいるトレント達の相手をしていることを考えれば早目に討伐を完了させなければ彼等は延々とトレントの相手をしなければならない。彼等は今回は()()()()()()()()()だ。アンセンスターセンチュリオンを倒すまでは仲間達はひたすらカオスにトレント達を近付けさせないようにしているだけなのでいつかは体力の限界が来るだろう。このユミルの森には現在どの程度の数のトレントが潜んでいるか分からない。ざっと見てきたトレント達が動き出した痕跡を見るだけでも木々の()()()()()はトレントだった。この森はとにかく木が多い。辺りを見回すと自分を取り囲む木は視界に捉えられるもので既に二十以上。カオスはそこにいるだけで四十以上の木々の中心にいる。これだけの木々があるのであれば当然まだこの中にも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「ギギギギギ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!

 まだ残ってるのがいたか………!

 

 

 でも君の相手なんてしてられないんだよね!!」

 

 

 動き出したトレントを無視してカオスは駆ける。その先にいるアンセンスターセンチュリオンの元へ一直線に。

 

 

 

トレント「「「グググゴァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」」」

 

 

 カオスが通り過ぎた木々の中から次々とトレントが動き出す。その数はカオスが見立てた通り約五分の一の数がトレントであった。

 

 

カオス「(しぶとい上に数が半端ないんじゃ一々相手してられないよ。

 俺はさっさとアンセンスターセンチュリオンのところに向かうからね!!)」

 

 

 カオスは更にスピードを上げてトレントの群れを一気に突き抜けていく。そこからカオスがアンセンスターセンチュリオンの元へと辿り着くのはそう長くはかからなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「どうですか!?

 良さそうな場所は見つかりましたか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「まだ見つからないようですね。

 トレント達を一掃できるポイントは。」

 

 

アローネ「そのようですね。」

 

 

 アローネ達はアンセンスターセンチュリオンへの道を遮るトレント達を引き付けるためカオスとは一旦離れて行動しているのだがトレント達のあまりの数の多さに手を焼いていた。どうにかしてトレントを排除すべく方法を探っているとアローネがやはり植物系のモンスターを倒すには火が最適だと言い出しトレント達をユミルの森を全焼しないような場所に誘き出してそこを一気に叩くという作戦を考案する。そのために今カーヤに空からその場所を探してもらっている最中なのだが、

 

 

ウインドラ「中々見つかりそうにないみたいだな。

 空から場所を探すのは正解だとは思うがそれにしても……。」

 

 

ビズリー「えぇ…、

 アローネ様の案は打ってつけの作戦ではありますがトレント達が()()()()のが問題ですね………。

 トレント達の移動の鈍さのせいでカーヤ様も良さそうなポイントを探し出せずにいるのでしょう………。」

 

 

ミシガン「足が遅い敵がこんなに面倒になるなんてことがあるなんて………。」

 

 

 トレント達は元が木なので獲物を捕らえるのは主に待ち伏せだ。一度動き出せば見失わない限りはどこまでも追ってくるがその数が多すぎるのと移動の速度が極端に遅いせいで立てた作戦を実行するまでこうして変わらず近場のトレント達の相手をせざるを得ない。接近されれば重い一撃を食らうが接近されなければ何てことはない………のだが気が付けば背後にトレントが出現することもしばしばある。追ってくるトレントの様子を見ながら前進すればそこにトレントが現れてそれらを回避しまたゆっくりと引き付けながら前進、そしてまたトレント、それの繰り返しだ。動きが緩慢であろうと危険なモンスターに違いはない。それらを振り切ることはできるであろうが今回は振り切ってはいけない。振り切ればアローネ達を見失ったトレント達がカオスの方へと流れていってしまうこともあり得る。カオスはアンセンスターセンチュリオンと一人で戦うのだ。これまでの経験上ヴェノムの主はどれも厄介な相手であった。カオスとアンセンスターセンチュリオンの戦いは長期戦になることは確実だろう。戦いが長引くのであれば当然魔術が飛び交う戦いとなる。そんなことになればこの森のトレント達はその場へと向かっていくことだろう。そうなるばカオスは一人でアンセンスターセンチュリオンとトレントの群れと戦わなくてはならなくなる。いくらカオスでも流石に戦術を制限されながらその二つを相手にするのは身が危ういだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「早く……!早くトレント達を倒してカオスの元へと急がねば!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時点でアローネ達はトレントを引き付けておくことからトレント達を倒しきることに作戦が切り替わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここでアローネ達は後に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と後悔することになった………。



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勝ち目のある戦い

ユミルの森 最奥部 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………多分あれだよな………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレント達の襲撃を切り抜けカオスはダズに示された通りに道を進んでいくと拓けた場所で出た。そこには大木と言っても過言ではないほど太くそして高くそびえ立つ()があった。その樹の周りには木とトレントを見分ける方法と同じく土しか見当たらない。その土の様子もおかしく何かが這いずったかのような跡がびっしりとついていた。まるでその樹がそこに移動してきたかのような痕でその樹へと繋がっていた。

 

 

 トレントと同じで擬態をしてはいるが今目の前にあるあの樹がこの地のヴェノムの主アンセンスターセンチュリオンで間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…早速で悪いけど俺も時間をかけてはいられないんだ。

 皆が心配だから本当にアンセンスターセンチュリオンなのかは分からないけど………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間違ってたらごめんね!!」パァァァァッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはアンセンスターセンチュリオンと思われる樹に向かって詠唱を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『氷雪よ!!我が手となりて敵を凍てつくせ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイシクル!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキィィィィンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの放った氷の魔術アイシクルで樹が氷の中へと押し込められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………これで倒せたのか………?」

 

 

 相手がアンセンスターセンチュリオンかどうかを確かめる前に氷付けにしてしまったため本当に目的の対象だったのか迷うカオス。これで間違っていたらここ以外にアンセンスターセンチュリオンが移動していることになるが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!」

 

 

 カオスが氷の中の樹がアンセンスターセンチュリオンだったのかどうか確かめる方法を悩んでいると突然地面が揺らぎ出した。

 

 

カオス「(…地震か………?

 このタイミングで………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いや!!これは………!)」

 

 

 突然起こった地震はどうやら目の前が震源のようだった。カオスの立っている場所と氷付けにした樹とでかなりの揺れの大きさに違いが生じていた。氷付けにした樹は激しくその体を振動させておりやがて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキィィィィィィィィンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グググググググガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアツッッッッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………正解だったみたいだね………。

 これが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンセンスターセンチュリオン!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが放った氷を強引に力で割り擬態を解いてアンセンスターセンチュリオンが飛び出してきた。氷付けにする前よりも体積が増しておりその大きさはクラーケンに匹敵するほどのサイズだ。これほどまでに大きな敵の一撃を食らえば即戦闘不能になるのは確実だろう。それでいてカオスは今一人だ。ここで倒されるようなことにでもなればそのままこの化け物に捕食されてしまう。そうなればこの次に待つヴェノムの主レッドドラゴンを自分抜きで仲間達は倒さなければならなくなる。そうなった時は………レッドドラゴンを辛うじて倒せたとしても仲間の内の誰かが犠牲になるかあるいは………

 

 

 

 

 

 

 ………あるいは仲間達が誰もレッドドラゴンを倒せずに逆に殺られてしまいそうなってしまったが最期ダレイオスはヴェノムに滅ぼされ世界は精霊マクスウェルによって破壊しつくされてしまう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 敵を目の前にして頭の中で様々なロジックが展開されていく。一人でいるせいからか仲間のことを気にせずに戦える環境がカオスを落ち着かせていた。その他にも大型の敵と対峙することに()()()()()のかクラーケンやカイメラと相対した時よりもアンセンスターセンチュリオンから恐怖を感じない。冷静になって観察してみればクラーケンより固そうな体ではあるがカイメラレッドドラゴンのような鋼の鱗に全身が覆われているわけではなく剣でも十分刃が通りそうな体である。それにトレントよりも巨体なせいか動きがトレントよりも遅い。カオスに向かって進んでくる度に地面が揺れるがそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

カオス「(見た目ほどにこのアンセンスターセンチュリオンは戦闘力はそう高くはなさそうだな。この分なら普通に一人ででも倒しきれる。なんなら魔術を使わずなくても………。)」

 

 

 カオス自身自惚れることを善しとはしない性格だが慎重な彼が観察して導き出した印象は眼前のアンセンスターセンチュリオンには()()()()()()()()()()()そんなものだった。確かにこの戦いが長引くことだけは覚悟しなければならなかったがどう転んでも相手の攻撃が自分に届くことはない、そういう感じに相手の動きを捉えていた。植物のボディ故に痛覚が殆ど無く攻撃で怯ませることはできないだろうがそれでもアンセンスターセンチュリオンの大振りの攻撃は振ってくる前に走り去ればかわせる。まだ直接攻撃の挙動をみた訳でもないのにそんな予測すら立てられるほどこのアンセンスターセンチュリオンは()()()()()()()()()に見えた。

 

 

 それがただのカオスの下手な考察ではないことが証明されるかのようにアンセンスターセンチュリオンが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンセンスターセンチュリオン「ゴガアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブオンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(!

 ………やっぱり遅い!!

 遅すぎる!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タッ!!ザスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはアンセンスターセンチュリオンの腕の攻撃に合わせるように脇下を駆け抜けてアンセンスターセンチュリオンを剣で斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンセンスターセンチュリオン「グギギギギ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(…特段痛がってるようには見えないけど………でも………。)」

 

 

 カオスの想像していた通りに攻撃を当て駆け抜けられた。トレント達は攻撃の動作だけは若干素早くなるがこのアンセンスターセンチュリオンにはそれが無かった。カオスが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これならまだトレントの方が手強いと言えよう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………………今回のヴェノムの主討伐は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……()()()()()()()()()()!()!()!())」

 

 

 カオスは心の中でもう既に勝利を確信していた。これ程までにヴェノムの主が弱いと思ったことはなかった。数々の主達の中でこんなにも戦いやすい相手がいるとは思わなかった。

 

 

カオス「(さっさと片付けるか。

 こんな奴相手にしていても疲れるだけだ。

 早く倒して皆のところへ行かないと。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …カオスはこの時アンセンスターセンチュリオンが何を最も警戒しなければならなかったのかを失念していた。

 

 

 クララやビズリー達の話でアンセンスターセンチュリオン達植物系モンスターが強みにしていたのは………。



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倒れぬ主

ユミルの森 最奥部 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ハァハァ………!

 ………くっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンセンスターセンチュリオン「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………いい加減終わってくれよ!!!」

 

 

 アンセンスターセンチュリオンとの戦闘が始まり一時間、カオスはあらゆる手を尽くして挑みそれでも仕留めきれずにいた。

 

 

カオス「………くそっ!!

 どんだけ丈夫なんだよ!!

 もう()()()()()()()()()んだぞ!?」

 

 

 あらゆる手の中にはカイメラとの死闘で学んだヴェノムウイルスをレイズデッドで先に打ち消す策もあった。ヴェノムの主達は皆共通して再生能力が高く多少の傷ならすぐ回復してしまう。その能力がある限り戦闘が無意味に延長されることはカオスも理解している。だからこそカオスは戦闘が始まってすぐにアンセンスターセンチュリオンにレイズデッドをかけた。…カオスの中ではそれだけでアンセンスターセンチュリオンが大人しくなることを期待していたのだがベースが人を襲う習性を持つトレントではその願いも虚しくレイズデッドをかける前と同様にアンセンスターセンチュリオンは襲ってきた。ウイルスが無くなったのだあれば無理に倒す必要もないのだがウイルスの影響でここまで肥大化したモンスターを放っておけばこの森に住むアインワルド族がウイルスとは無関係に被害を受ける恐れがある。こうして今倒せるのであれば倒してしまおうと戦闘を続行するカオスであったがヴェノムウイルスが無くなったというのにこの敵は何度斬りつけても起き上がってくる。

 

 

カオス「(もう何回斬った!?

 何時間戦ってるんだ!!?

 一体こいつはいつまで戦い続けたら倒れてくれるんだ!!?)」

 

 

 戦闘事態は常時カオスが優勢だった。アンセンスターセンチュリオンがカオスに攻撃を加えることができずずっとカオスが縦横無尽に駆け抜けてアンセンスターセンチュリオンを斬り裂き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなのに疲労を見せているのはカオスの方だった。ただの一撃ももらってはいけないと気を張り続けて対峙中は高速で駆けアンセンスターセンチュリオンの攻撃を全てかわし続けるカオスの体力はアンセンスターセンチュリオンの体力を削り切るよりも先に限界に到達しようとしていた。

 

 

カオス「(………正直体力勝負なら………スピードとかはカーヤに負けるけど体力だけなら誰にも負けない自身があったんだけどこれは………。)」

 

 

 ヴェノムウイルスは世界中全ての生物に感染しうるとされる最強のウイルスだ。ヴェノムに感染すれば感染した生物は感染個体もしくはゾンビと称されウイルスの侵攻が進むとその感染個体は理性を失い周囲の生物を襲い始める。そこから進むとウイルスの名称通りの生物で体がスライム状に変化したヴェノムという形状をとるのだがこの形状の特徴は一律して皆同じだ。這いずって他の生物を捕食しようとするだけ。

 

 

 このヴェノム形態に至るまでのゾンビの期間について世界中の人々やその他の動物やモンスターがヴェノムウイルスに感染するのは殆どがこのゾンビ形態の時に襲われるからだ。一目では感染する前の生物と姿が全く変わらない。人が見れば意味不明な奇声をあげたりしていれば即感染者だと判別がつくのだが動物やモンスターには異種族が感染しているかどうかを区別することはできない。勘のいい生物であれば感染個体が近付くのは不味いと悟り去ると言われているがそれでも世界中ではヴェノムウイルスに感染した人の個体を誤って襲ってしまい感染したモンスターがいたという事例があるということをレサリナスで知った。

 

 

 

 

 

 

 そうしたウイルスの感染流通がある中で植物系のモンスターからウイルスが広まったという話は聞いたことがない………。植物系のモンスターの感染個体は動きが鈍く他の生物を襲おうとしても逃げられてしまうからだ。肉食のモンスターは先ず植物系のモンスターに関心が無く草食のモンスターであっても植物系のモンスターは危険なため警戒して近寄らない。普通の植物であったなら何もないのだが植物系のモンスターは百害あって一理なし、近付くだけ損をするだけなのだ。そんな背景がありカオスは植物系のモンスターをこの地を訪れるまで詳しく知らなかったが相手をすると予想以上に手強いことが分かった。何せウイルスの再生能力を失ったというのに体中切り刻まれてもお構いなしに突撃してくる。ヴェノムの感染個体は植物系モンスターと同じで痛覚が存在しないとされるがあちらの方はまだ体が削れ時間経過で自動的に消滅するという不死身のようで不死身じゃない弱点があったのだが対するこちらの相手は時間経過では死なない。ヴェノムウイルスを浄化したのが不味かったのかアンセンスターセンチュリオンは正攻法で倒すしかなくなってしまった。………というよりも植物系モンスターがヴェノム形態に変化する姿は見たことがない。仮にウイルスを浄化していなかったとしてもアンセンスターセンチュリオンはヴェノムの主、時間経過などで倒れてくれるような敵ではない。

 

 

カオス「(っていうかこの森のトレント達だって感染個体のくせしてヴェノム形態に変化した個体は一体もいなかったぞ………?

 

 

 ひょっとして植物系モンスターが感染してもヴェノム形態に変化しないのか?)」

 

 

 カオスはこのユミルの森にいるトレント達の異様さに気がついた。この森に着いてから一度たりともヴェノム形態を目撃していない。感染個体がヴェノム形態へと変化するのは体内のマナが()()()()()()()()()()()()()()()起こる反応だ。それが一度もない。

 

 

 マナが消費する方法は二つ。

 一つは自主的に魔術などを使って消費すること。

 もう一つは他者から攻撃を浴びせられて削られること。

 

 

 

 

 

 

 カオスはこれまでアンセンスターセンチュリオンに()()()()()()()()()()()()。だというのにこのアンセンスターセンチュリオンはまだまだ体力の底が知れない。果たして後何度攻撃を加えればこのアンセンスターセンチュリオンは倒れるのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………まさかとは思うけど………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の攻撃って全く()()()()()なんてことはないよね………?」

 

 

 アンセンスターセンチュリオンの底知れぬしぶとさに不安を覚えるカオスであった………。



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討伐完了………?

ユミルの森 最奥部 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンセンスターセンチュリオン「グギギゴィアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ハァ…………………ハァ………………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから更に数時間後、カオスは千に届く斬撃をアンセンスターセンチュリオンに与えアンセンスターセンチュリオンは漸くその巨体を大地に倒した。その後はアンセンスターセンチュリオンは微動だにしなくなった。

 

 

カオス「ハァ………………やっと………倒せた………!」

 

 

 時間はかかったがどうにかヴェノムの主アンセンスターセンチュリオンを倒すことに成功したカオス。一度の攻撃も浴びること無く完全試合で勝利を納められた。しかしカオスの体力はギリギリであった。

 

 

カオス「………………ハ、ハハハハハ!!!

 終わった!!

 やっと終わったんだな!!?

 

 

 長かったァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはその場に仰向けに倒れた。流石に数時間にも及んで走り回りながら剣を振り続けて攻撃をかわし続けるのは精神的にも肉体的にも疲労が溜まっていた。戦闘自体は楽に立ち回れる戦いではあったが長い時間同じ作業を続けるのは負担が大きかった。敵はギガントモンスター、一撃の威力は人の身でまともに直撃したらそれだけで致命傷レベルなのだ。それを数時間にも渡ってかわし続けるのは至難の技だ。自身の十倍以上を誇る体積を持つ敵から攻撃をかわし続けるにはそれなりのスピードがなくてはならない。アンセンスターセンチュリオンとの戦闘中カオスはずっと飛葉翻歩を駆使して立ち回っていた。飛葉翻歩はバルツィエが使う一つの()()だ。術技には当然マナを消費する。カオスは精霊マクスウェルの恩恵のせいなのかマナ自体は特に気にすることもなく枯渇することはなかった。問題なのはカオスの肉体自身だ。マナを無限であっても肉体の機能は無限に活動できるわけではない。治療術は肉体の損傷は回復することはできても疲労までは回復することはできない。戦闘中カオスは手や足腰にとてつもない痛みを感じていた。

 

 

カオス「これは………明日には酷い筋肉痛になりそうだな………。」

 

 

 長年体を鍛え続けたカオスでも今日のような激しい運動は経験したことがなかった。たった一人でギガントモンスターを相手にするのはかなりのプレッシャーがあった。全ては世界のためであるがそれでもこんな疲れる仕事はもう懲り懲りだと感じるカオス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼の元へ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィィィィィィィィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………!

 この音は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「カオス………さん!」

 

 

 

 

 

 

 空から音が響きその方角へと顔を向けるとその先にはレアバードに乗って飛んでくるカーヤの姿があった。アンセンスターセンチュリオンとの決闘が終わったのを感じとり迎えに来てくれたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「カオスさん……!

 何で………寝そべってるの……?」

 

 

 カオスが地面に倒れてるのを見てカーヤがそう訊いてきた。

 

 

カオス「……ハハハ………、

 大分疲れちゃっててね………。

 もう立つのもしんどいくらいなんだよ………。」

 

 

 カーヤの手前疲労で立つのも辛いがなんとか笑って無事なことを告げる。無理に笑おうとして渇いた声しかでなかった。

 

 

カーヤ「………?

 そんなにキツいの………?

 でもアンセンスターセンチュリオンは………。

 …!」

 

 

 カーヤがカオスの側で横たわる大きな大木に目を向けた。

 

 

カーヤ「………?

 何……これ………?

 トレント………?」

 

 

カオス「いや………違うよ………。

 これがアンセンスターセンチュリオンだよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………………………え?

 これが………アンセスター………センチュリオン………?」

 

 

 カーヤがカオスが倒れている大木がアンセンスターセンチュリオンであったことを伝えると困惑した様子を見せる。何故疑問を抱くのか………?

 

 

カオス「…!

 そうだ………カーヤ………。

 皆にアンセンスターセンチュリオンは倒したから先にアルターに戻るようにまた伝えに行ってくれないかな………?

 ………俺は少し休んでから戻ることにするよ………。」

 

 

 長時間の戦闘の疲労はそうすぐには回復しない。攻撃を受けてないにしても数時間の運動による筋肉の酷使はカオスから立ち上がる気力さえも奪っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「で、でも………。」

 

 

カオス「………?」

 

 

 カーヤはカオスの言葉に何かを言いかける。カオスに何かを伝えたいと言う想いは伝わってくるがカーヤの中でそれを整理することができないのだろう。………何を伝えようとしているのだろうか………?

 

 

カオス「どうしたの………?

 何か困ったことでもあったの………?」

 

 

カーヤ「う、うん………だけど………。」

 

 

 カーヤはカオスと息絶えたアンセンスターセンチュリオンを交互に見た。アンセンスターセンチュリオンがどうかしたのだろうか?

 

 

カオス「落ち着いて………ゆっくりでいいから話してみて………。

 ちゃんと聞くから………。

 ………皆に何かあったの………?」

 

 

 カーヤは尋常じゃなく焦っている。倒れているアンセンスターセンチュリオンに何度も視線を送ってはなんと言おうか迷っているようだった。

 

 

 

 

 

 カオスは嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「え、えっとね………?

 カオスさんがこのアンセンスターセンチュリオンのところに行っている間に………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤ達のところにも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」



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アンセスターセンチュリオンが二体

ユミルの森 最奥部 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「カーヤ達のところにアンセンスターセンチュリオンが現れた………!?」

 

 

 カオスは一瞬耳を疑った。つい先程までカオスはそのアンセンスターセンチュリオンと戦いそれを打ち倒したばかりだ。だというのに何故そのアンセンスターセンチュリオンがカーヤ達の方にも出現するのか?

 

 

カーヤ「う、うん………、

 だから今あっちで大変なことになってる………。」

 

 

カオス「あっち………!?」

 

 

 カーヤが顔を向けた方向へとカオスも向き直り耳を研ぎ澄ませてみる。

 

 

 

 

 

 

 ………すると詳細は分からないがあちらの方で大きな戦闘が行われているのが伝わってくる。相手がアンセンスターセンチュリオンかどうかは見てみないと判断がつかないが何か巨大なモンスターが暴れていることは察することができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……そんな…………、

 ………じゃあ俺は今まで何と戦っていたんだ………?」

 

 

 アローネ達が陽動をしてくれていたおかげでカオスはアンセンスターセンチュリオン………と思い込んでいた敵と集中して戦闘が行えていたのだ。彼女達が自分のためにそんな役を引き受けてくれたというのに自分は二時間以上も時間をかけて一体何者と争いを繰り広げていたのか、カオスの中で強い後悔が押し寄せる。聞いていた特徴通りの外見と指定されたポイントにいたというだけでカオスは先程の植物系モンスターをアンセンスターセンチュリオンだと決め打ちしていた。実際先程の敵はヴェノムの主と認めてもいいほどの戦闘力を誇っていたし討伐が始まる前からラタトスクに聞いていたような尋常じゃない体力の高さも持ち合わせていた。あれでヴェノムの主でないのであれば本命のアンセンスターセンチュリオンは一体どれほどの………。

 

 

 

 

 

 …こんなことになるならタレスからスペクタクルズの一つでも借りて戦う前に敵の素性を調べておくべきだった………、

 

 

 と、カオスが後悔の波に苛まれている時に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「…何でこっちにもアンセンスターセンチュリオンがいるの………?

 だってあっちにもアンセンスターセンチュリオンがいるのに………。」

 

 

 カーヤがカオスにそう訊いてきた。

 

 

カオス「………?

 ………え?

 こいつ………アンセンスターセンチュリオンで合ってるのか?」

 

 

 質問をしてきたカーヤにカオスは質問で返す。カオスもカーヤの言葉に疑問を感じたからだ。カーヤは今このカオスが倒した謎のモンスターをアンセンスターセンチュリオンだと言った。そして続けてアローネ達の方にもアンセンスターセンチュリオンがいるとも言った。ここまで聞けばカーヤにはアンセンスターセンチュリオンがどういう姿形をしているのか分かるのだろう。それは当然の話カーヤはダレイオスの全てのヴェノムの主達と一度遭遇している。ヴェノムの主が出現するようになったのはカーヤからヴェノムウイルスが感染したからだ。だからカーヤは一度この森のヴェノムの主アンセンスターセンチュリオンとも邂逅を果たしていることになる。彼女ならアンセンスターセンチュリオンを間違える筈がない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………すなわちアンセンスターセンチュリオンを見間違えない彼女がカオスが戦い倒したモンスターとアローネ達の方に出現したモンスター両方をアンセンスターセンチュリオンと認めている。そうなると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことになるのだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「うん………、

 このモンスターもアンセンスターセンチュリオンで間違ってないよ………?

 あっちにもこれと同じ姿のアンセンスターセンチュリオンが出てきたから………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 訳が分からなかった………。ヴェノムの主アンセンスターセンチュリオンが二体同時に出現した。要するにアンセンスターセンチュリオンは二体いたことになるがそんな話は一言も聞いていない。クララやラタトスク、ケニア、ビズリー、ダズと五人もいて誰一人アンセンスターセンチュリオンが複数いることを言わないということがあり得るだろうか?アローネ達が陽動でトレント達を引き付けカオスが一人でアンセンスターセンチュリオンを倒しに向かう、そんな作戦を一緒に立案した時点で彼等アインワルド達もアンセンスターセンチュリオンが一体しかいないと断定している。

 

 

 

 

 

 

 しかしアンセンスターセンチュリオンがたった今二体目が出現してしまった。これは何かがおかしい。何故情報が食い違うのか?まさかフリューゲルの時のようにアインワルド全体でカオス達に嘘を………?

 

 

 …しかしそんな嘘をついたところで一体彼等にどんな得があるというのか。フリンク族達のようになるべくならフェニックスを倒してほしくないのであれば嘘をつかれることも納得するが今回はアインワルドも積極的にアンセンスターセンチュリオンを倒してほしいという申し出はあった。彼等がカオス達に嘘をつくメリットは見当たらない。では何が起こっているのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()のだろう。この森にアンセンスターセンチュリオンが二体いたということを。だからビズリーやダズもこの作戦に参加してくれた。彼等アインワルドはこのユミルの森にいるのはカオスが倒したアンセンスターセンチュリオン一体だけだと勘違いをしていたのだ。

 

 

 では何故そんな勘違いが起こったか?それなりに広い森であるから一体を確認してアンセンスターセンチュリオンがそれだけだと思ったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………考えられるとしたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二体目のアンセンスターセンチュリオンが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。



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燃やし尽くした先に待ち受けるは…

ユミルの森 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィィィィィィィィィィィィンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスとカーヤを乗せたレアバードが空を翔る。疲労困憊中のカオスであったが仲間達が今カオスが倒したアンセンスターセンチュリオンとは別に出現した個体に襲われていると聞いてのんびりと休んでいる訳にはいかずフラフラの体に鞭を打ってカーヤのレアバードに飛び乗った。

 

 

カオス「あとどのくらいかかる!!?」

 

 

カーヤ「もう少し先………!」

 

 

 カオスがレアバードの真下で操縦するカーヤに声をかける。相変わらずカーヤはレアバードを操縦するときは他のバルツィエ達のように普通には運転せず上下反転した状態で飛行する。これが海上の船であったなら転覆まっしぐらだが空を飛ぶレアバードならそんなことにはならないようだ。おかげでカオスは設計されたレアバードの操縦席に座ることができずレアバードの本来触れることのない裏底にしがみつく形になる。未だに何故彼女がこの様な飛行形態をとるのか謎だがそんなことを問答している余裕はない。

 

 

カオス「一体何があったんだ!!?

 何でアローネ達の方にもアンセンスターセンチュリオンが………!?」

 

 

カーヤ「…分からない………。

 分からないけどアローネさんがトレント達を倒してカオスさんに合流しようって話になって………。」

 

 

カオス「トレント達を倒す………!?」

 

 

 カオスとアローネ達が別行動をとることになったのはこのユミルの森にいるトレント達がアンセンスターセンチュリオンとの戦いで横槍を防ぐためだ。森にいるトレント達は数えるのも無意味に思えるほど数が多い。そんなトレント達を相手にしていてはいつまで経ってもアンセンスターセンチュリオンを討伐することは不可能だ。だからこそトレント達を別の場所に誘き寄せてその隙にカオスがアンセンスターセンチュリオンを倒す手はずになっていたのだが………、

 

 

カーヤ「アローネさんがアインワルドの人と話してどこかトレント達を纏めて燃やしても火事にならないような場所を探してって頼まれたの………。

 …だけど………。」

 

 

カオス「………?」

 

 

カーヤ「………トレント達を一ヶ所に集めてカーヤがトレント達を燃やそうとしたんだよ………そしたら………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユミルの森 数時間前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「見つけた……!!」

 

 

 カーヤは空からユミルの森を観察してアローネ達がいる地点から数キロ程離れた位置に一ヶ所木々が散乱せず周りに何もない場所を見つけた。あそこでなら少し火を放ったところで他の木々に火が燃え移ることはないだろう。

 

 

カーヤ「アローネ………さん!!」

 

 

 カーヤはすぐにアローネのところへと降りた。

 

 

アローネ「発見しましたか!?」

 

 

ウインドラ「どの方角だ!?」

 

 

カーヤ「あ、あっち………。」

 

 

 カーヤは空から見つけた場所の方へと指を指してアローネ達に教える。

 

 

タレス「では早くトレント達をそちらの方へ連れていきましょう!」

 

 

ミシガン「急ごう!!

 どんどんトレント達が集まってきてるよ!」

 

 

 ミシガンが言うようにトレント達はぞろぞろと群がってくる。その数は既に三十は集まってきていた。これ以上数が増えればいくら動きが鈍くとも攻撃を食らってしまう。流石に一撃二撃で倒されてしまうようなことはないだろうが敵の集中攻撃を受ければ最悪死亡する可能性も捨てきれない。アローネ達にはヴェノムウイルスは効かないが物理的な守りに関してはほぼ生身の状態だ。殴られれば負傷もする。

 

 

アローネ「カーヤさん!

 タレスと一緒に先にそちらの方へと飛んでいただけませんか!?

 私達もトレント達を引き付けてそちらの方へと向かいます!」

 

 

カーヤ「?

 いいけど………。」

 

 

タレス「何でボクをカーヤさんと………?」

 

 

 カーヤが見つけたポイントに先にタレスを連れていくよう指示するアローネ。何故自分が名指しで先に向かわされるのか分からないタレスがアローネに聞き返すが、

 

 

アローネ「一応ビズリーさんの許可はいただきましたがトレント達を焼き払う際何が起こるか分かりません!

 私の考えた作戦ではトレント達を上手く焼き尽くす計画ではありますがこのトレント達の数では森に火が飛び火する恐れもあります!

 ですからタレスには()()()()()()で木々に火が燃え移らないよう壁を作っていてほしいのです!!」

 

 

タレス「!!

 なるほど!

 分かりました!」

 

 

 アローネの考えに納得しタレスが頷く。アローネは自らの作戦が及ぼす不安要素への対処を把握していた。この作戦がもし失敗してしまった場合トレント達だけを一掃するはずがユミルの森までを燃やしてしまう。ユミルの森が燃えれば世界樹カーラーンもどうなるか………。そうならないためにタレスをカーヤと共に向かわせるのだろう。タレスの力なら地面を掘り起こしその掘り返した土を固めて強固な壁を建設することができる。壁さえ作ってしまえばトレント達を燃やす際に逃げられないようにその壁の中へと押し込むことが可能だ。後はその壁の囲いを利用して次々迫り来るトレントを焼却していくのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィィィィィィィィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

タレス「では先に行って待ってます!!」

 

 

 タレスがカーヤと共にレアバードに乗り込み飛び立つ。トレント達はそれを追おうとはせずひたすらアローネ達へと近付いてくる。

 

 

ウインドラ「よし!

 なら後は俺達はタレスが壁を作り終えるまでトレント達を足止めしておくだけだな!」ザスッ!!

 

 

ビズリー「えぇ!

 及ばずながら私も加勢させていただきます!!」

 

 

ミシガン「ほらほら!!

 用があるんなら順番に来なさいよ!!」

 

 

 

 

 

 

トレント「「「「「「「「「ボオオアアアアアアアアッ!!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「(……これが終われば森の中のトレント達は大方私達の方で処理できます………。

 

 

 トレント達の勢いが収まり次第カオスに合流できそうですが………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネの作戦は概ね完成していた。トレント達はこの後大半の数を減らすことに成功する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だがトレント達はただでは殺られずに………。



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高台の建設

ユミルの森 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「『ロックブレイク!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキバキバキッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「…こんなもんでいいですかね………?」

 

 

 タレスはカーヤに連れられユミルの森の中の森林が空けた場所にて岩の壁を構築する。

 

 

カーヤ「カーヤ言われた通りの場所を探して連れてきたけど…、

 ここでよかったんだよね…?」

 

 

 カーヤが不安げにタレスに条件の場所として正しいかを訊いてくる。

 

 

タレス「ええ、

 問題ないでしょう。

 ここならトレント達を燃やしたとしてもユミルの森が全焼することにはならないと思いますよ。」

 

 

カーヤ「……そうだね。」

 

 

 タレスの返事を聞いて安心するカーヤ。まだアローネ達とは完全に打ち解けてはいないためかよそよそしい。

 

 

タレス「アローネさん達がトレント達を誘導してきたらこの岩石の中へと誘い込んで後はカーヤさんが奴等を焼き払ってください。

 カーヤさんにはボク達のような力はありませんがまだゾンビ形態であるトレント達にはそれでも大きなダメージを見込めるはずです。

 それで倒せなければ後はボクとアローネさん達で倒しますから。」

 

 

カーヤ「そう………。」

 

 

タレス「仮に火が木々に燃え移るようなことになってもボク達にはミシガンさんが着いているので彼女の水の魔術があれば火事になったとしても直ぐに消火できるでしょう。

 そしたらボク達はカオスさんのところへと加勢しに行きます。

 まだこちらに来ていないということはカオスさんもアンセンスターセンチュリオンに手こずっているはずですし。」

 

 

カーヤ「うん………。」

 

 

タレス「………」

 

 

 カーヤとの話が続かないタレス。カーヤと二人だけになるのは今回が初めてだ。彼女はダレイオスが窮地に陥る原因となったヴェノムの主達の元凶。タレスの部族アイネフーレを滅ぼしたブルータルも遡れば彼女がブルータルを作り出したことになる。カーヤに対して思うところが無いわけではないが彼女の境遇を知ってしまっては素直に彼女を糾弾できないでいる。彼女もヴェノムウイルスの被害者だ。カーヤ自身自分がヴェノムの主を作り上げてしまったことを自覚などしていない。彼女は何も知らずにフリンク領を追い出され放浪の末にダレイオス各地の今のヴェノムの主達に遭遇してしまい彼等を悪魔と称されるような存在へと変えてしまった。カーヤは自らがどれ程危険な存在へと変わってしまっていたかを知らなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。自分とは違う種類の世界の不幸をその身に受けてしまうことになったがカーヤはまだまだ子供だ。タレスよりも二歳も年上な子供。人の世の業をこの身に味わい精神的な成長が意図せず促進されてしまった自分とは真逆で人の世から隔離されて育ってきてしまったために自分よりも精神が幼い年上の子供………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「(こういう時少しだけ大人びた自分が嫌になるな………。

 子供になってこの人に文句の一つでも言えたらよかったのに………。)」

 

 

 カーヤが自分が憎むような非道な人物であれば問答無用で彼女を害していたはずだ。それができないのはカーヤから悪意というものが全く感じられないからだ。彼女は自分と同じで()()()()()()()()()そう思うことにした。カーヤはバルツィエの血筋ではあるがそれはただ単にマテオの大元のバルツィエ達の一人ラーゲッツが不貞を働いて彼女はこの世界に産み落とされただけの話。カーヤはヴェノムウイルスの精神汚染に完全な耐性を持って生まれてきただけ。

 

 

タレス「(………やっぱりレサリナスのバルツィエ達にはいつか自分達が犯した罪を後悔させる必要があるな………。

 …このダレイオスのヴェノムの主を倒して誰が再興できたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスの総力を持ってバルツィエ達を討つ………。)」

 

 

 タレスは内心でバルツィエに対するヘイトを高めていた。

 

 

カーヤ「………」

 

 

 傍らに立つカーヤはそんなタレスと一緒にいて居心地悪そうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「タレス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「!」

 

 

 壁を作る作業が終わり魔術を使用したことによる体力と精神力の消費を回復するため一休みしていたところへアローネ達がやって来た。後ろにはトレントの群れも見える。

 

 

ウインドラ「経過はどうだ!?

 壁は………どうやら間に合ったようだな!」

 

 

 タレスが作った岩の囲いを見てウインドラが安堵する。

 

 

タレス「あれだけ時間をもらえばこんな壁いくらでも作れますよ。」

 

 

ミシガン「これを使ってトレント達を片付けられるんだね!」

 

 

アローネ「ええ、

 簡易的ではありますが魔術で作られた壁ならそれなりに強度も高いでしょう。

 これならトレント達をこの中で焼却することができます。」

 

 

ウインドラ「早速トレント達を壁の内側へと引き入れるぞ!

 全員壁の上の方へと登るんだ!」

 

 

 ウインドラの指示でアローネ、タレス、ミシガン、カーヤ、ビズリーが壁へと登り始めた。トレント達はそれを追おうとするが人のように指や関節といったものがない彼等にはタレスの作った壁を登ることはできなかった。やがてトレント達は壁に登ることを諦めアローネ達を下へと落とそうと壁を破壊し始める。

 

 

ミシガン「うわっ!?

 トレント達壁を壊そうとしてるよ!?」

 

 

ウインドラ「長くは持ちそうにないだろうな。

 壁が壊れる前に奴等を焼き払うぞ。」

 

 

アローネ「ビズリーさん、

 火の魔術をお願いします。」

 

 

 アローネがビズリーに火の魔術の使用を頼んだ。

 

 

ビズリー「わ、私ですか!?」

 

 

アローネ「はい、

 私達は事情により火の魔術を使うことができないので貴方にお願いしたいのです。」

 

 

タレス「火ならカーヤさんがいますけど………?」

 

 

 タレスがビズリーよりもカーヤに頼む方が筋なのではないかと言うが、

 

 

アローネ「一応火を使う許可があったとしてもやはりここは本来火は絶対に禁じられる場所です。

 そのような場所でカーヤさん程の使い手の術者が火を放てばそれこそ恐れていた事態に発展してしまうかもしれません。

 ここはカーヤさんよりもビズリーさんくらいの出力に抑えた方が懸命でしょう。」

 

 

ビズリー「(それは単に私の魔力が皆さんと比較して大分劣っていると言いたいのですか?)

 …分かりました。

 そう言うことなら私が火を扱った方がいいでしょうね。

 私程度の力ならそう火が大きくなることもないでしょうし………。」

 

 

 複雑な表情を浮かべながらもビズリーはアローネの指示に従う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビズリー「………………それではいきますよ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ファイヤーボール!!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ「「「「「「???」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビズリー「………あ、あれ?

 おかしいですね………?

 魔術が………使えない………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビズリーの魔術は何故か発動しなかった………。



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アローネ達の他にも………

ユミルの森 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「「「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ビズリーさん…?

 いかがなさいました?」

 

 

 アローネ達の真下では今にも壁を崩してアローネ達を捕らえようとトレント達が暴れている。早々に決着をつけねばアローネ達にも危険が及んでしまう。トレント達を焼き尽くす作戦は成功すれば一気にトレント達の数を減らすことができるが失敗すればアローネ達はそのままトレント達の餌食となってしまう。()()()()()()()()とはよくいったものだ。勝利を勝ち取るためには多少の大胆な立ち回りも必要になってくるが今アローネ達は逆に追い詰められようとしている。

 

 

ビズリー「…分かりません…!?

 魔術が………!

 火の魔術が発動しないんです!!」

 

 

タレス「魔術が発動しない………?」

 

 

ウインドラ「何…!?」

 

 

ミシガン「ちょっと待って!?

 ビズリーさん火の魔術は元々使えたんだよね!?」

 

 

 作戦の大潮で魔術が使えないと言い出すビズリーにミシガンが責めるように問い質す。それにビズリーは、

 

 

ビズリー「は、はい…!

 火の魔術は危険ではありますが何かと多様性があるのでアインワルドの者達も()()()()()()()()()()()()()()()()()()は皆が使える筈なんですが……!?」

 

 

 作戦が自分のせいで失敗することを恐れてビズリーが戸惑いだす。彼も何故自分の魔術が発動しないのか分からないようだ。

 

 

アローネ「………使えた筈の魔術が発動しない………?

 それまでは普通に使えていたのに………?

 ………………それはまるで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()ですね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオッ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……!?」グラッ……

 

 

ミシガン「不味いよ……?

 ちょっとこの壁もそろそろ限界なんじゃない………?」

 

 

タレス「あと持っても………二、三分が関の山ですね。」

 

 

 アローネ達が困惑している間にもトレント達の壁を崩すペースが落ちる訳ではない。タレスが作った違和の壁は既にひび割れが全体にまで拡がっている。このまま何もしなければアローネ達がトレントの群れの中に落ちていくだけだが………、

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………火………使わないでいいの………?」

 

 

アローネ「………」

 

 

 今この場にいる中で火の魔術が使えるのはカーヤただ一人。もう選べる手は彼女に頼るしかない。

 

 

アローネ「……ではカーヤさんお願いします。

 できれば火の魔術は小規模なものに加減してください。」

 

 

カーヤ「……いいよ。」パァァ…

 

 

 カーヤの手が赤く発光する。その光はトレント達に向けられ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「『フレアボム………』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボフッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネの指示通りに本当に小さな火の粉をトレント達に向けて放った。アローネは直前までカーヤのフェニックスとしての力しか見たことがなかったためカーヤがここまで器用に力を使いこなせるとは思っていなかったのだ。

 

 

アローネ「(…考えてみれば彼女はバルツィエの血筋……。

 バルツィエはこのデリス=カーラーンではもっともマナを扱う粉とに関して抜きん出ている一族でしたね………。

 それならこの程度の力加減もお手のもの………。

 

 

 ………これでどうにかトレント達を殲滅できればよいのですが………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチッ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチッ………パチッ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチパチパチパチ…………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチッ!!ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤの放った火の粉が少しずつ燃え広がりトレント達へと伝染していきどんどん大きくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「「「「「ゴガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」」」」」

 

 

 火に包まれたトレント達は一斉に苦悶の叫びを上げる。感染個体であろうと体を覆う熱には抗いようのない苦しみを覚えるようだ。

 

 

ウインドラ「ゾンビ形態なら例えヴェノムの感染個体であっても燃えやすい体質は変わらないらしいな!

 これでトレント達も大分数を削れるといいが………。」

 

 

ミシガン「すごい………。

 こんなに間近で大量のモンスターが燃えるところなんて滅多に見れないよね………。」

 

 

ビズリー「…こんな手段があったなんて………。

 この手段をもっと早くに思い付いていればここまで()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろうに………。」

 

 

 それぞれがトレント達が燃え朽ち果てていく様を眺めながら感嘆の息を溢す。見事にアローネの作戦は成功した。後はここを拠点に後続に並ぶトレント達を全て倒す算段なのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「「「「「「「「「「グゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッ!!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「まだまだ数が多すぎますね。

 これは暫くここでこの作業が続きそうです。」

 

 

アローネ「そうですね。

 ではタレスはまたこの足場の補強をお願いします。

 ミシガンは火がこの壁の囲いの中だけに収められるように囲いの外側に燃え移った火の消火を。」

 

 

タレス「了解です。」

 

 

ミシガン「任せといて。」

 

 

ウインドラ「なら俺は囲いの外側から壁を崩そうとするトレント達を迎撃するぞ。」

 

 

ビズリー「私は何をすれば………?」

 

 

アローネ「ビズリーさんは………、

 ………今どの魔術が使用できるのか試していただけますか?

 貴方の身に起こっていることがもしかすれば私達と同じ症状を引き起こしているかもしれませんので。」

 

 

ビズリー「貴女方と同じ症状………?」

 

 

アローネ「えぇ………、

 私達は精霊の力によってこの世界における最強の生物ヴェノムに対抗する力を得ました。

 ただそれは直接精霊の力を授かった私達とカオスや私達を通して術を受けられた方々とは段階的な違いがありまして………。

 

 

 ………それがもしかすればなのですけど………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その段階的な()()()()()()()()()()()()()()()()になっているのではないかと思われます………。」



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殺らなければ殺られる

ユミルの森 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビズリー「『ストーンブラスト!!』」パァァ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トドドゴォォォッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……やはりそうなのですね……。」

 

 

 ビズリーが地の魔術ストーンブラストを直下のトレント達に放つ。トレント達はビズリーのストーンブラストに僅かだがダメージを負った。

 

 

 アローネの推測が的中した瞬間だった。

 

 

ビズリー「………はい、

 他の属性魔術は全て使えなくなっておりますが元々の得意系統の地の魔術のみが使えてそれが感染個体にも効果を発揮しています。」

 

 

アローネ「それでは貴方はやはり私達と………。」

 

 

ビズリー「同質の力が私に………?

 で、ですが何故このようなことに………?」

 

 

 急に魔術に制限がかけられて混乱するビズリー。洗礼の儀を執り行う際に彼には術後は特に何のデメリットもないことは伝えてある。そしてその洗礼の儀を施行された者達とアローネ達には明確な違いが存在しタレスやミシガン、ウインドラ、レイディーのように精霊から直接力を与えられた四人はカオスと同様にヴェノムに対してダメージを与えられるようになったが長所ばかりでなく短所も同時に発生しそれぞれが一つの属性の魔術だけしか使えずしかもその属性の相対的関係にある攻撃を受ければ即致命傷レベルの負傷を負ってしまう。カオス達は仲間達でお互いにカバーしあってその弱点を補ってきたがいきなり彼等と同じ体質になってしまったと言われれば困惑するだろう。

 

 

 

 

 

 

 この世界では圧倒的にヴェノムが強い勢力を誇る。そのヴェノムに単純に強い力を得ただけならよかったがアローネ達と同質の力に関しては純粋に強化されたとは言い難い。基本六属性のどれか一つに極端な弱点ができてしまうのは反ってこのデリス=カーラーンでは生きにくい世界となってしまうことだろう。なにせ常人であれば基本的に二つから四つの属性は使えるのだ。そんな常人達に対して武器となる属性が一つしかないのでは手札の数が少なすぎる。

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。世界情勢的にヴェノムが強い位置にあったとしても人の社会が滅びたわけではない。人の社会は常に同じ人同士で別々の勢力がありそれらは全て対立している。アローネ達はこれまでヴェノムや単独のバルツィエ達を相手にしてきたがそれらを倒せてこれたのは()()()()()()の一言につきる。いつだってカオス達は()()()()()()を相手にしてきた。これがもし()()()()()()()()()()()()()()であれば条件の例外のカオスがいたとしても仲間の中から犠牲者が出る可能性は限りなく高かった。ずっとカオス達は彼達にとって()()()()()としか戦っていない。

 

 

 もしカオス達が()よりも()で攻められたらカオス一人を残して他の五人は全滅してしまうことだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「(………いつから?

 いつから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?()

 回数を重ねることによって術がその先の境地に至ることはあるとは聞いたことがありますがカオスにそれが………?

 ………ですがカオスは魔術を最近になって始めたばかり………。

 それがこんな一ヶ月程度でそこまで………?

 そんな筈は………まさか共鳴を習得したことに関係が………?

 ………………それか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残り百日を切ったことによってカオスの中の精霊マクスウェルに何か変化が………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「アローネさん!!

 トレント達の大群がこちらに向かってきています!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………!」

 

 

 ビズリーに起こった変化に対して考えていると新たなトレントの群れの接近する気配をタレスが察知する。

 

 

ミシガン「どれぐらい来てるの!?」

 

 

タレス「待ってください!今数えて「《《百》はいるよ》。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「今こっちに向かってきてるトレントは百体はいる ………。

 全方角から同じぐらいの数がここを目指してる………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤが唐突にトレントが襲撃してくる数を言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビズリー「ひゃ、百体ですって!?」

 

 

ミシガン「そんなに来てるの!?」

 

 

タレス「どうしてそんな………まだボクも地面の揺れ具合から群れが接近して来ているとしか分からなかったのに………。」

 

 

カーヤ「カーヤには分かるんだよ。

 カーヤはずっとフリューゲルでモンスターやヴェノムを相手にしてきたから何か近付いてくる気配があれば気付ける………。」

 

 

 カーヤはトレントの群れ百体が接近してくることをほぼ確信していた。六年もの間たった一人でフリューゲルを守ってきた彼女の言葉ならそれも信憑性が上がってくるだろう。

 

 

ウインドラ「…そうかカーヤも共鳴が使えるんだったな……。

 カオスが言うには共鳴はマナの波長のようなものを自身とそれ以外に照らし合わせて感じ取る能力があるらしいが共鳴を使ってトレント達の位置を特定したのであれば情報的には間違いないのだろう………。

 

 

 ………トレントが百体か………。」

 

 

 ウインドラはカーヤの言葉を疑わなかった。疑いはしなかったが百体のトレントには流石に溜め息を溢していた。

 

 

アローネ「カーヤさんの言葉が真実であるならばこの規模の囲いでは収まりきりそうにありませんね………。

 ………タレス、

 この囲いをもう少し拡大することは可能ですか………?」

 

 

タレス「………多少周りの木々を凪ぎ払うことになりますけどそれでもいいならできますよ?」

 

 

アローネ「………………ビズリーさん。」

 

 

ビズリー「!

 ………仕方がありませんね………。

 こうなってしまってはその作戦で行くしかないでしょう。

 

 

 

 

 

 

 実行してください!」

 

 

 

 

 ビズリーがユミルの森を傷付けることを許可した。これによりタレスの作る壁がまた一段と大きくなる。次に作った壁は周囲の木々を飲み込んで最初の壁の数倍は高く厚くそして頑丈な囲いとなった。これならトレント達がいくら攻めてこようともそう簡単には崩すことのできないそんな壁が完成して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………すぐに破壊されることとなった………。



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逃げ場のない高所

ユミルの森 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドドドドド…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……来ましたね………。」

 

 

 遠くの方から何かの大群が押し寄せてくる足音が聞こえてくる。この場合は足音と言うよりは這いずる音だが、

 

 

タレス「本当に百体ものトレントがここに………。」

 

 

カーヤ「今数えてみたら百体よりも多いと思うよ………?

 奥の方からもっと増えてきてる………。」

 

 

ウインドラ「この際正確な数なんてどうでもいい。

 大群が向かっていきていることは確かなんだ。

 何体いようがそれを俺達で迎撃するのみだ。」

 

 

ミシガン「ここにトレント達が集中してるってことはカオスの方は上手くいってるってことだもんね。」

 

 

ビズリー「…私達だけで大丈夫なのでしょうか………?

 ここは早めに撤退してた方が退路が塞がれることも考えた方がよいのではないですか………?」

 

 

 このような状況になることを予想していなかったビズリーが泣き言を言い始める。当初は陽動のつもりで案内人を引き受けたというのに気がつけばアローネ達はトレント達を迎撃する話に移行していたのでアローネ達も巻き込んでしまったことに負い目を感じるが、

 

 

タレス「ここまで来たら後はもう迎え撃つだけですよ。

 ボク達はこの地のヴェノム達を討ちに来たんです。

 ヴェノムが一体でも残っていたらどうなるか分かりますよね?

 こんなことで一々撤退していたらこのユミルの森のヴェノムはいつまでも………………いつまでも残り続けますよ。」

 

 

ビズリー「で、ですが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「……これは………。」

 

 

アローネ「まるで森そのものが移動してくるようですね………。

 ここからでもトレント達の移動してくる様子が分かる程に………。」

 

 

ミシガン「もう逃げることは諦めた方がいいよ。

 どうせどっちに行ったって囲まれるだけだもん。

 それだったら一旦ここにトレント達を集めてからある程度倒して隙を見て逃げることを考えた方がいいよ。」

 

 

ビズリー「あぁ………、

 もう既にあんな近くにまで………。」

 

 

 トレント達が目の届く範囲にまで迫って来たことに対して不安になってきたのかビズリーが踞って膝を抱える。

 

 

アローネ「…もし危なくなりましたら最悪貴方だけでもカーヤさんにアルターまで送ってもらいますから安心してください。

 貴方は本来私達の戦いには不参加の予定でしたから。」

 

 

 見ていて可哀想になってきたアローネがビズリーに助け船を出す。もしものことがあれば彼一人だけでもこの場から脱出する方法は確保してあった。

 

 

ビズリー「!?

 皆さんはお逃げにならないのですか!?」

 

 

ウインドラ「何を言ってるんだ。

 俺達は残るに決まっているだろうに………。」

 

 

タレス「カオスさんがアンセスターセンチュリオンと戦っているというのにボク達が逃亡することなんてできませんよ。」

 

 

ミシガン「まぁあんなのが向かって来るって言うなら逃げたくなるのは分かるんだけどね………。」

 

 

アローネ「それでも私達は退くわけにはまいりません。

 これしきのことで逃げ出していてはダレイオスを救うことなんて不可能です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それにここで引いたとして()()()()は刻一刻と迫ってきているのです………。

 今回を生き延びたところで二ヶ月と十日後にはこの星の未来がどうなるか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビズリー「二ヶ月と十日後………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「来たぞ!!!」

 

 

 遂にカーヤが言っていたトレントの群れがアローネ達の元へと到達した。カーヤの宣言通りトレント達の数は誰の目化見ても百を越える勢いであった。

 

 

アローネ「こ、これは………!?」

 

 

タレス「壁の補強は間に合いましたがこの数で突撃されると直ぐに限界が来そうですね………。」

 

 

ミシガン「で、でももうやるしかないでしょ!?

 もうこんなにトレント達が集まって来てるんだから………!」

 

 

 あまりのトレント達の勢いに呑まれそうになるアローネ達。一体一体が人の数倍の大きさで尚且つ数に関しても十倍以上の大群。これには修羅場を潜り抜けてきた彼等であっても自らの死の気配を感じる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………ここまでトレント達が集中してしまってはもう逃げることはできないでしょうね………。

 ………それなら私達がすべきことは決まっています!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここでこのトレント達を駆逐してしまいましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「グゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレント達がアローネ達のいる壁へと突進していく。たった一度の突撃で壁はグラグラと揺れる。

 

 

ミシガン「う、うわわっ!?」

 

 

タレス「ものすごい力の押し込みッ……!!

 」

 

 

ウインドラ「これは次の攻撃は耐えられんぞ!!?」

 

 

 トレント達の攻撃は予想以上に激しかった。堅牢に作られていた筈の壁が一瞬の内に限界間近に削られる。

 

 

アローネ「カーヤさん!!

 次の攻撃が来る前に壁の内側のトレントを!!」

 

 

 トレント達は殆ど同時にアローネ達のいる地点へと到達した。それらの中にはアローネ達の誘い通りに壁の内側屁と侵入してきた個体もいる。

 

 

カーヤ「………」

 

 

ビズリー「な、何をしているんですか!?

 早くトレント達に火を「駄目………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………今内側のトレント達を燃やすと壁が内側に倒れていく………。

 そしたら皆壁の外側のトレント達に………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ達は計算を誤った。トレントを倒すことに夢中で立てた作戦は逆にアローネ達を追い詰める結果となってしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼等にこの状況から打開できる策は何もないというのに………。



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カオスを探して

ユミルの森 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 トレント達の咆哮が轟く。アローネ達を壁の上から引きずり落とそうと壁を攻撃しようとしている。

 

 

ウインドラ「いかん!!

 次が来るぞ!!?

 全員揺り落とされるな!!

 どこかにしがみつけ!!」

 

 

 ウインドラが他の五人に命令する。五人もそれに従いその場に伏せて落とされないように岩に掴まるが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………………あ、あれ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレント達の二回目の壁への攻撃はいつまで経っても訪れることはなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ど、どうしたのでしょうか………?」

 

 

タレス「次の攻撃が中々きませんね………?」

 

 

 一度目のトレント達の突撃はタレスの作った壁を簡単に破りそうな程の威力があった。同じ攻撃を続けて受ければ壁はそれだけで崩壊するだろう。だがその次の攻撃が続けて放たれることはなかった。アローネ達の足場は微弱にだが揺れ動いてはいることからトレント達が暴れていることは確認できるのだが………、

 

 

 

 

 

 

ビズリー「………!!

 見てください!!

 トレント達が………!?」

 

 

アローネ「?

 ………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壁の下にいるトレントの群れは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お互いに隙間無く引っ付き………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身動き一つとれずに絡まって動けないでいた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………こ、これは………。」

 

 

ウインドラ「トレント達が………互い同士が近付きすぎてすし酢目状態になってるな………。

 これでは壁の最前線に立っているトレント達は腕を振って攻撃することもできないのだろう………。」

 

 

 トレントは人の数倍の巨体を持ちそれがこの場に百数十体集まっている。それぞれは独自の意思を持ち連携などお構いなしに獲物と認めたアローネ達へと我先にと向かってきていた。

 

 

 知性を持ち合わせずがむしゃらの特攻を仕掛けるだけのトレントだからこそこの状況が出来上がったのだろう。まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。アローネ達の元へ近づけば近づくほど壁と後方の他のトレント達に押されて壁に接しているトレント達が全く動くことすらできずにいた。

 

 

 ピンチはチャンス、そしてピンチ、またチャンス。中心にトレントがいてそれを囲むようにタレスの作った壁がありその周りに密集しすぎて動けなくなったトレント達の群れ。アローネ達とトレントはここから両陣営攻撃の手が止まってしまう。アローネ達が攻撃を加えることができるのは中心のトレント達だけだが彼等を倒してしまうと内側からの壁の支えが無くなり外側からの圧力に負けてアローネ達が壁の内側に放り出されてトレント達の餌食となってしまう。かといって外側のトレント達を燃やそうとすると未だに集まり続けてくるトレント達と今度は内側から外側に壁が倒されて結局アローネ達はトレント達の群れの中へとまっ逆さまだ。状況は何も変わらない。ただ()()()()()()()()()()()()()。二つの勢力は思いもしなかった出来事で一歩も前に進むことができなくなってしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシミシ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「何もせずにどうにか時間だけは稼げたな………。

 だがどうする………?

 ここでこいつらを足止めしておけば本来の俺達の目的は達成されている。

 それならここでカオスがアンセスターセンチュリオンを倒すのを待って俺達はカーヤにレアバードで一人ずつ安全な場所かそれかアルターまで飛んでもらえばそれで俺達の仕事は完遂できる。

 ………わざわざこの状況から動かずともいいんじゃないか?」

 

 

アローネ「………」

 

 

ミシガン「そ、そうだよね………。

 今だって結構やばかったしこれ以上ややこしくなりそうならこのトレント達はこのままここでじっとしてもらって方がいいかも………。」

 

 

タレス「まだマナには余裕がありますし今いる足場もまた更に強度を高めておいた方が良さそうですね。

 そうしておけばトレント達に動きがあっても対処のしようが「タレス!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「待つなどという選択肢は選んではいられませんよ。

 この森のトレント達がここまでの大数であることが判明したのです。

 

 

 トレントを討つのに変更はありません。」

 

 

 この状況においてアローネはまだトレント達に戦う姿勢を見せる。全員がこの盤面がどういった状況なのか理解している中でここからどう巻き返すと言うのか………。

 

 

ウインドラ「冷静になれアローネ。

 らしくないぞ?」

 

 

タレス「そうですよ。

 ボク達の仕事はカオスさんの邪魔になりそうなトレント達を引き付けておくだけなんですからそれはもう達成されているんです。

 トレント達を殲滅するのはカオスさんと合流してからでも………。」

 

 

アローネ「そんな悠長なことを仰っていていいのですか?

 カオスは()()()()()()()()()()()()をしておられるのですよ?

 貴方達もヴェノムの主がどれ程危険な存在か分かっているでしょう………?

 そんな敵にカオスだけに全てを任せておくのは仲間として間違っています。」

 

 

 元々カオスを一人にする作戦に反対していたアローネはなんとしてもトレント達を片付けた後にカオスに合流しようと言い出す。トレント達がいなくなれカオスに合流することに何の問題も無くなるからだ。だがそれを、

 

 

ミシガン「でも私達がカオスのところに駆け付けても足手まといになるだけなんじゃ…………。」

 

 

アローネ「………」

 

 

 カオスの元へと駆け付けたい思いもあるがミシガンの指摘も的を射ている。

 

 

 カオス、アローネ、タレス、ミシガン、ウインドラの五人はこれまで共に戦ってきたがそれぞれの実力を比較してみるとカオスとの間で遠く果てしない溝ができてしまっている。カオスの時点に実力の高いであろうウインドラでさえも現在はカオスの力の半分も実力が足りてない。もしそれでアンセスターセンチュリオンにカオスが手こずっているようであるなら加勢に向かったところで逆にカオスを追い詰めてしまうかもしれないのだ。

 

 

アローネ「で、ですが今カオスも魔術の制限をかけられて満足に戦えないのです!

 枷を付けられたカオスにアンセスターセンチュリオンとまともに戦うことができるかは「だったら」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「カーヤがカオスさんのところに行くよ。

 それならカオスさんも助けられるでしょ………?」



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誕生せしヴェノムの主

ユミルの森 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カーヤさんがカオスのところへ向かわれるのですか………?

 しかしそうなるとここのトレント達が………。」

 

 

 カーヤがこの場で離脱してしまうとトレント達を倒せる人材がいなくなってしまう。今はトレント達もお互いに絡まりあって動けないでいるがこの状況がいつまで続くか分からない。どこかでトレント達にも動きがあるはずだ。そうなった時身近に火の魔術を使える者が一人でもいれば心強いのだが残念なことにこの場にはカーヤ一人だけしかいない。

 

 

ミシガン「え?ま、待って!

 もう少しよく考えよう?

 今私達って相当追い詰められた状態にあると思うんだけどここでカーヤちゃんが抜けるの?

 それって不味くない?」

 

 

タレス「そうですよ。

 ここでカーヤさんが抜ければもしもの時にトレント達を追い払える人がいなくなるんです。

 そうなったらこちらの班が全滅してしまうことだってあり得ますよ。」

 

 

カーヤ「でも今は何もすることがないんでしょ………?

 だったらカーヤはカオスさんのところに行きたい………。」

 

 

 カーヤの中ではここにいるよりかはカオスのところへと行くことが重要のようだった。元々カーヤはカオスにだけ心を許している。同じバルツィエの血筋だからという理由があるからなのか何かとカオスの側に行こうとするのだ。今回の作戦で一時的にカオスと離れることには従ってくれたが心情的にはカオスと離れて別の者達と行動を共にするのは難しいところなのだろう。同じ血を持つ彼だからこそ彼とは親近感のようなものを抱いてはいるがカオス以外の者達とはそれがない。彼女にとってはまだまだアローネ達とは他人だということに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………………カーヤさん、

 レアバードで私もカオスの元へと連れていっていただけますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突にアローネがそんなことを言い出した。

 

 

カーヤ「………いいけど。」

 

 

アローネ「では早速「おい!」」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「カオスの手助けに向かうという話ならまだ分かるがそれでどうしてカーヤだけでなくお前まで行くことになるんだアローネ。

 お前がカオスのところに向かう必要性がどこにあった?」

 

 

タレス「ただでさえ人手が足りないのにアローネさんまでいなくなったらここはどうするんですか?」

 

 

 カーヤについていくと言うアローネに対し抗議する二人。

 

 

ミシガン「今のこの状況ってアローネさんが考えた作戦の途中だよね………?

 流石に私達を放置していかれるのは困るんだけど………。」

 

 

 普段はアローネに対して文句の一つも言わないミシガンでさえもこれには便乗する。

 

 

アローネ「…もしもの時はラーゲッツが所持していたレアバードで四人はお逃げください。

 ここでの作戦は既に達成されています。

 もうこの場に留まる理由はないでしょう。」

 

 

ウインドラ「はぁ………?

 ………急にどうしたんだお前は。

 さっきと言ってることが全然違うぞ。

 トレント達はここで倒さないといけないと言ったのはお前だろうが。」

 

 

タレス「そうですよ。

 どうして突然そのトレント達を残して離脱していいなんて話になるんですか?」

 

 

 アローネは先程から何かに対して焦りを感じている。その事が原因でアローネは先程から支離滅裂な言動を繰り返す。そのことにウインドラやタレスは気付くが、

 

 

ミシガン「ラーゲッツのレアバードはまだ誰も練習とかしてないからそれで逃げるってのもどうかなぁ………。」

 

 

ビズリー「この中でレアバードを操縦出来る方は他にどなたかいらっしゃらないのですか………?

 ………ではやはりここは一度全員を避難させてからカオス様のご支援に向かわれるのがよいと思いますが………。」

 

 

アローネ「!」

 

 

ウインドラ「…そうだな。

 それが今もっとも効率的だ。

 カオスが向かった先と今俺達がいる場所はかなりの距離がある。

 ここにトレント達が集中しているならカオスのところに走ったとしてアンセスターセンチュリオンを討伐する頃にはトレント達もまだユミルの森をさ迷っているぐらいだろう。

 

 

 それで行くか。」

 

 

 最終的にはこの場を全員で離脱してカオスの元へと合流することが決定した。これには誰も否定の意見を言わなかった。

 

 

アローネ「………分かりました。

 それで行きましょう。」

 

 

ウインドラ「………どうしたんだお前は………?

 ここ最近のお前はどこかおかしいぞ?

 具体的には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()何かとカオスに固執するな………?」

 

 

アローネ「そんなことは………。」

 

 

ウインドラ「そんなにカオスのことが信じられないのか?」

 

 

アローネ「そうではありませんけど………。」

 

 

ウインドラ「…このことは後でもう一度訊くぞ?

 それまでにお前が抱えているその問題をどう捉えているのか考えておけ。

 

 

 

 

 

 

 お前は少し余裕が無さすぎるぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「……これで全員運び終わったな。

 カーヤご苦労だった。」

 

 

 カーヤのレアバードに乗って全員があの場から脱出できた。トレント達はどういう訳だかアローネ達が飛び去った後も壁から動くことはなかった。

 

 

タレス「………どうしたのでしょう………?

 ボク達はもう全員こちらに来ているのにトレント達があのばで固まったままですよ?」

 

 

ミシガン「本当だ………。

 まだ私達が壁の上にいると思ってるのかな?」

 

 

ビズリー「どうでしょうか………?

 根が絡まってあそこから動けなくなっているのでは………?」

 

 

 不思議なことにあれほどアローネ達を追いかけてきていたトレント達はアローネ達が飛び去った後も壁の方に滞在し続けていた。獲物を追いかけるあまり後ろを振り返ることもできないほど密集して絡まってしまったのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュル………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレント達が密集している辺りで何かが蠢くような音が聞こえてくる。それは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント達から生えた()()が他のトレントに巻き付いていく音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「な、何をしているんだ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その様子を見て声をあげるタレス。他の五人も同様にその光景を見て怪しむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル……………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「こ、これは………!?」

 

 

ビズリー「あッ……あああッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()!!!?」



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まだ終わらぬ戦い

ユミルの森 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…それでアンセスターセンチュリオンがトレント達の中から………?」

 

 

 カーヤの話ではトレント達を一ヶ所に留めていたらそれらがいきなりまとわりつくように絡み出してその中からアンセスターセンチュリオンが出現したと言う。

 

 

カーヤ「うん………。

 だからカオスさんを急いで呼びに来た。」

 

 

カオス「………」

 

 

 カーヤの話からビズリーがそのモンスターにむかってアンセスターセンチュリオンと発言したことからアローネ達の方に現れた個体はアンセスターセンチュリオンで間違いないのだろう。そしてそれを目撃した後にこちらの方へとやって来たカーヤがカオスが倒した個体もアンセスターセンチュリオンだと言う。フリンク族の時のフェニックスのようにアインワルド族から伝え聞いていた情報と今回のことは明らかに情報に伝えられていないとおかしな部分がある。アンセスターセンチュリオンが()()()()()()()流石にアインワルド族もカオス達に話すはずだ。何故それを伝えなかったのか?あんな巨大で目立つ風貌をしていたら見つけられなかったなどという言い訳はできない。六年前に出現したのであれば目撃例が一体だけなどということもないだろう………。

 

 

 

 

 

 

 …とすればアインワルド族もこの事態になることを予測できなかったのだろう。アインワルド族でさえも今回は()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと認識して動いていた。案内人のビズリーとダズもそう想定して今回の作戦に参加してもらった。であるならば色々と辻褄が合うのだ。今度の二体目のアンセスターセンチュリオンは()()()()()()()()()()()()()()()()()であったと言うことだ。()()()()()()()()二体目のアンセスターセンチュリオンが出現してしまったとしか思えない。

 

 

カオス「(………一体何がどうしてこうなってるんだ………?

 アンセスターセンチュリオン討伐はまだ終わってないのか………?)」

 

 

 パーフェクト試合を達成したカオスでももう一度あの巨大モンスターを相手するのは辟易する。元が植物であるため適格な急所がないアンセスターセンチュリオンやトレント達は攻撃に一切怯まず向かってくる。生物には大抵痛みを避けるための()()が備わっている。ヴェノムの感染個体ゾンビにはそういった作用はなかったがそれで呻き声や仕草でまだ感染前のモンスターのように倒すことはできた。

 

 

 ここでのトレント達は今まで倒してきたモンスター達の特長が全くない。呻き声は上げるがそれは攻撃に関係なく上げているのか攻撃が効いていて上げているのか判断のしようが無いのだ。なにせトレント達は()()()()()()()()()。流すとしたら樹脂ぐらいのもので生物として正しくダメージを与えられているのカオスには分からない。アンセスターセンチュリオンにもそれは当てはまりカオスは戦闘中何度も剣撃が通用していないのではないかと思ったほどだ。それも体力が自慢と言う情報を事前に知っていたからこそ呑み込んで剣を振り続け倒せたが今度はもう一体………。

 

 

カオス「とにかくアローネ達を探さないと!!

 アローネ達はまだそのもう一体のアンセスターセンチュリオンと戦ってるの!?」

 

 

カーヤ「戦ってるかは分からないけど………多分まださっきの場所に………」ピカッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチバチバチバチッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間カオスとカーヤの見ていた景色が明滅し直後に二人がレアバードで飛んでいた場所から真東の方角から()()()()()

 

 

カオス「!今のはウインドラの………!」

 

 

カーヤ「あっちは………アルターだけど………。」

 

 

カオス「アルター………?

 ってことはウインドラ達はアルターに戻ったのか?」

 

 

 このユミルの森に来るまでの旅でウインドラの雷の魔術ライトニングを使ってモンスターを呼び寄せたりウインドラが自分の居場所を報せる目的で天空に向けてライトニングを放つことがあった。今射ったのは恐らく後者だろう。

 

 

カオス「…ウインドラ達のことだから今よく分からないことが起こってるみたいだからアルターに一度戻ってるのかもしれないね。

 カーヤ、

 悪いけどあっちのアルターの方に向かってくれる?」

 

 

カーヤ「…うん………。」

 

 

 カオスとカーヤはライトニングが見えたアルターの方角に向かうことする。カオスとカーヤ以外のメンバーは纏まって動いていたからウインドラ一人だけがアルターに戻っているということはないだろう。それなら全員が今アルターにいるということになる。ライトニングを使ったのは皆かれ離れていたカオスとカーヤに現在地を報せるべく使ったものと思われる。

 

 

 十分程レアバードで飛行してカオスとカーヤの二人はアルターに帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインワルド族の住む村アルター

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!!」

 

 

カオス「アローネ!

 皆は無事!?」

 

 

 アルターに到着した途端アローネが駆け寄ってきた。

 

 

アローネ「えぇ、

 皆は全員「無事だ。」」

 

 

ウインドラ「こちらにアンセスターセンチュリオンの姿を確認したんで俺達は一旦体制を建て直すべくアルターに急いで戻ることにした。

 皆多少は負傷していたがそれも治療した。

 全員無事だぞ。」

 

 

カオス「!

 そうか………。」

 

 

 離れていた仲間達の無事を聞いて安心するカオス。少しの間離れていただけだったが自分のいないところで自分が強敵と認めた相手と対峙したと聞し内心では心配していた。

 

 

ウインドラ「…それよりも今はアインワルドともう一度話をする必要があるな。

 聞かされていた情報通りに動いたというのにまさかこちらの方にアンセスターセンチュリオンが現れるとは………。」

 

 

アローネ「カオスは今までトレント達の相手をしていたのですか?」

 

 

カオス「そのことなんだけど………。」

 

 

 カオスは先程までのことを二人に話す。それから現時点でアローネ達の班の方にも本物のアンセスターセンチュリオンが出現していたことを。

 

 

 二体目のアンセスターセンチュリオン………。討伐すべきヴェノムの主はこの地に二体いた。ウィンドブリズのカイメラのことを彷彿とさせる事態だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし実際にはこの地に現れたヴェノムの主は………。



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カオス達がやってきたせいで

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 夜 残り期日七十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「アンセスターセンチュリオンが二体………!?

 間違いないのですか!?」

 

 

 クララの家に行きクララにそのことを伝えた。

 

 

ウインドラ「あぁ、

 どうもそうらしい。」

 

 

カーヤ「カーヤがカオスさんのところに行って見てきたから間違いない………。」

 

 

 クララが驚くがウインドラが肯定しカーヤがそれを補足する。皆にはクララに会う前に先に話を通しておいた。

 

 

クララ「アンセスターセンチュリオンが二体………そんな筈は………。」

 

 

アローネ「その御様子ですと貴女方アインワルドもそのことを知らなかったと言うことですか?」

 

 

クララ「……えぇ、

 私達もアンセスターセンチュリオンは森に一体を確認していただけで………。」

 

 

 クララの受け答えからカオス達に嘘を付いていたようには見えなかった。アインワルド族もアンセスターセンチュリオンは一体だと思い込んでいたようだった。

 

 

タレス「アンセスターセンチュリオンは定期的に様子を見に行ったりとかはしてたんですか?」

 

 

クララ「………いえ、

 私達の方ではダレイオス全土でヴェノムの主が出現した時に一体を確認しただけでそれからは森にヴェノムに感染したトレントが増殖していき最後にアンセスターセンチュリオンを目撃した場所をお伝えした次第でして………。」

 

 

ミシガン「それっていつのことなの………?」

 

 

クララ「………六年前です………。」

 

 

アローネ「六年も前の情報を頼りに今回の作戦を…。」

 

 

ラタトスク『六年前だろうがなんだろうがアンセスターセンチュリオンの一体はそこにいたんだろ?

 今度の作戦で俺達には何の落ち度もないと思うぜ?』

 

 

 状況を整理しているとクララの中の別人格精霊ラタトスクが引き継いで自分達に非がないことを訴える。

 

 

ラタトスク『クララには俺の力を貸して大体のマナの強い奴の位置を特定出来ることは教えたよな?

 口出しはしなかったが六年前に確認されたアンセスターセンチュリオンは六年前からずっとあの辺りに居続けていた。

 その情報は何も間違ってはいない。

 今回突然現れた二体目のアンセスターセンチュリオンについてだが俺もお前達のことが気になってずっと森中のトレント達の気配を探っていたんだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二体目のアンセスターセンチュリオンは()()()()()()ようだ。』

 

 

カオス「今日!!?」

 

 

 ラタトスクが思ってもいなかったことを口にする。二体目のアンセスターセンチュリオンが今日この日に出現したと言うのだ。

 

 

ミシガン「はぁ!?

 二体目のアンセスターセンチュリオンが今日いきなり現れたって言うの!?」

 

 

ラタトスク『そうだ。

 始めはただのトレント達の群れだと思ってた気配の中から突発的に二体目のアンセスターセンチュリオンが現れた。

 丁度そこのそいつが一体目のアンセスターセンチュリオンと戦ってる最中にな。』

 

 

ウインドラ「どうしてそんなことになったんだ………?

 こんなことがあっては二体目どころか()()()のアンセスターセンチュリオンが出現する可能性も出てくるだろう。」

 

 

クララ「さ、流石にそのようなことにはならないとは思いますが………。」

 

 

 二体目のアンセスターセンチュリオンの出現、それだけでもかなりの異常事態である。そこから更に増数するのはカオス達でも避けたい事態なのだがラタトスクは続けて、

 

 

ラタトスク『今回の非常事態でアンセスターセンチュリオンを理解した。

 残念ながらアンセスターセンチュリオンの三体目が現れる可能性は十分にある。

 なにせアンセスターセンチュリオンは()()()()()()()()だ。

 トレントの数だけアンセスターセンチュリオンが増えていくと言っても否定しきれないな。』

 

 

アローネ「そんな………。」

 

 

 ラタトスクが言うにはトレント自体がアンセスターセンチュリオンへと進化することもあり得るらしい。それではカオス達はユミルの森にいるトレント達を全て倒しきらなくなる訳だなのだが………。

 

 

タレス「問題は()()()()()()()()()()()()()()()()()かですよ。

 六年間二体目が確認されなかったというのに何故今日このタイミングで………。」

 

 

ミシガン「私達は普通にトレント達と戦ってただけだもんね………。

 それで何でアンセスターセンチュリオンが増えたりなんか………。」

 

 

 カオス達がアンセスターセンチュリオンを討伐しにこのユミルの森を訪れその討伐前後でもう一体が出現してしまった自体に頭を悩ませるとまたラタトスクが何かを語り出す。

 

 

ラタトスク『…アインワルドは今日お前達がアンセスターセンチュリオンとトレントを相手にするまでユミルの森の奥深くには滅多に入ったりなんかしなかった………。

 トレント達は近くにいかなければ追いかけてきたりはしないからだ。

 それが感染個体だろうがそうだなかろうが同じだ。

 連中は基本的に獲物が来なければその場で木のフリをし続ける………。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()りなんかしたのは今日が初めてなんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから考えられるとしたら()()だ。

 お前達がトレント達を集めたことが原因でアンセスターセンチュリオンは進化してしまったんだよ………。』



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融合生態生物

アインワルド族の住む村アルター 残り期日六十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………はぁ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうすればいいのかなぁ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 夜 三日前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『俺達もアンセスターセンチュリオンの誕生に立ち会ったことがなかった。

 奴がどうやってできたかは謎だったんだ。

 

 

 それが今日のことで確信を得た。

 奴が誕生するメカニズムは()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。』

 

 

アローネ「ジャイアントヴェノムと………?」

 

 

ウインドラ「ジャイアントヴェノムはギガントモンスターがヴェノムに感染してそれが時間経過で体内のマナが消費され肉体を維持できなくなって通常の感染個体と同様にヴェノム形態化して誕生するものだが………。

 それと同じ………?」

 

 

 ラタトスクがアンセスターセンチュリオンが生まれる方法がジャイアントヴェノムと同じだと言うがカオス達にはそれがどうも頭の中で結び付かなかった。どうしてそれがアンセスターセンチュリオンがジャイアントヴェノムと同じになるのか………?

 

 

 

 

 

 

 しかしカオス達が考えていたジャイアントヴェノムが精製される仕方とは別にもう一つジャイアントヴェノムが誕生する方法が存在した。

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『その方法でもジャイアントヴェノムは作られるがな。

 でもそれだけじゃないぞ。

 ジャイアントヴェノムが出来る方法は他にもう一つあるだろ?

 ジャイアントヴェノムは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンセスターセンチュリオンはつまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

 

 

アローネ「合体………!?」

 

 

 ラタトスクが出した結論はアンセスターセンチュリオンはトレントの集合体とのことだった。トレントが複数合体すればアンセスターセンチュリオンが完成する。それは言うなればトレントの数だけいくらでもアンセスターセンチュリオンが増えていくということ。

 

 

 ダレイオスのヴェノムの主の種類は九種類。それは変わらない。………が他のヴェノムの主が一種一体に対してアンセスターセンチュリオンに関してだけは一種で今のところ二体………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『………………お?

 ………悲報だぜお前達………。

 たった今ユミルの森の中に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンセスターセンチュリオンが()()()()()()()()()()。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「三体追加………………!?

 三体目が出現したのではなく………?」

 

 

アローネ「それも貴方の能力で感知したのですか………?

 ………ヴェノムの主がここで増殖するとは………。」

 

 

ミシガン「えぇ………?

 ってことは何?

 今アンセスターセンチュリオンが四体いるってこと!!?」

 

 

ウインドラ「あの化け物が四体………。

 トレントでさえも中々やり辛い相手だというのにその上位互換種がそんなに………。」

 

 

 一体増えただけで大騒ぎしていたカオス達だったが五体にまで増えれば今度は逆に静かになる。

 

 

 それは単に彼等がこの状況を理解したのではなく理解するのを拒否しているからだろう。曲者揃いのヴェノムの主はどんなに強くてもカオス達は一体ずつしか戦ったことがない。変態百出のカイメラでさえも合計七つの変身を繰り返してはいたがそれはどれもカイメラ一体との戦いの話である。一個体にして圧倒的な力を持ったヴェノムの主の彼等はこちらが人数で勝っていても何のハンデも感じさせない程に戦闘力が並外れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな強敵の数がこのアインワルド族の住む地にてなんとその数これまでの五倍………。

 

 

 

 

 

 

 一体はカオスが一人で倒してしまったので残りは四体なのだがそれでも数的には四倍で()()()()()()。それにラタトスクの話ではアンセスターセンチュリオンはまだまだその数が増えていくことも示唆できる。アンセスターセンチュリオンがトレント達の集合体………それならばトレントがいる限りアンセスターセンチュリオンはまた第六、第七………と新たな個体が今この時に生まれてしまっても………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『……あぁー………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………また一体追加で生まれちまったようだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終的にこの日はこの六体目の個体が誕生してそれから増えることはなかった。結局ヴェノムの主はこれまでの五倍で収まるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………これはもう手段を選んでいる場合ではありませんね………。

 どうにかまたあの石壁を作ってアンセスターセンチュリオンを焼き払わねばアンセスターセンチュリオンが生産されるスピードに追い付けません………。」

 

 

ウインドラ「それがいいな。

 ヴェノムの主が五体もいるのなら二体以上同時に出会うのは戦力的に部が悪い。

 だったら仮に出会ったとしても先に一体を片付けられるようにあのアローネの作戦を今度はもっと上手く段取りを考えてから…「お、お待ちください!!」」

 

 

 

 

 

 

クララ「ラタトスクから話は聞きました!!

 貴殿方はあれほど私達が忠告したというのに森の中で火をお使いになりましたね!?

 ですから火は危険だと仰ったではありませんか!!?」

 

 

 クララはカオス達に激昂する。森に入る前にクララからは再三に渡って火の術は禁止するという話は受けていたのだが、

 

 

カオス「お、俺は使ってないけど………。」

 

 

クララ「カオス様は宜しいのです!

 カオス様はラタトスクからも約束を守ってくださったことはお聞きしました。

 

 

 

 

 

 私が注意しているのは彼等です!!」

 

 

 クララはアローネ達を睨み付ける。アローネ達はユミルの森で火を使ってはならないということを知らされておきながら火の魔術を使用して戦っていた。怒声を浴びる理由は十分にあるが、

 

 

タレス「ビズリーさんから一応許可はいただきましたよ。

 ボク達も考えなしに使っていたんじゃありません。

 ちゃんと()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

クララ「ビズリーが………?」

 

 

 ビズリーの名を出した途端に怒るのを止めるクララ。居場所の特定は出来るようだがその際の会話の内容までは聞くことは出来ないようだ。その証拠にビズリーの名を出しただけで彼女の勢いが止まってしまった。まさか同族から許可を出すものが現れるとは思ってなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『…まぁ何にしてもお前達に頼るしかないんだよなぁ………。

 火を使うのは極力避けてほしいが周りに配慮して使うのなら許可してやろう。

 そして絶対にアンセスターセンチュリオンを全て討伐してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 アンセスターセンチュリオンを………………森のトレント達を全て倒しきってこの地の平和を取り戻してくれ。』



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過ごしやすいアルターの空気

アインワルド族の住む村アルター 残り期日六十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(時間はいくらかかってもいい………か。

 アインワルド族の人達やラタトスクにはまだ話してないから分からないんだよなぁ………。

 俺達にはそんなに時間が残されてないってこと………。

 ………アンセスターセンチュリオンが実質トレントから生まれてくるならユミルの森にいるトレント達全部を討伐しなくちゃいけない………。

 でもそのトレント達を直接火の魔術で焼き払っちゃいけない。

 トレントを倒すなら物理的な攻撃や火以外の魔術で倒していくしかないんだけどそれだと結構な時間が掛かった。

 って言ってもアローネ、タレス、ミシガン、ウインドラ、カーヤの集中攻撃で五分前後………。

 

 

 ………()()()()()()()………。

 トレントの数は………少なく見積もってもユミルの森には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………一万だと………?トレント一体に皆で攻撃を浴びせて五分で倒せる相手が一万?五分で一体ってことは一時間最速で十二体倒せる訳だけだが一日にすると………×二十四の時間だから………いくらになる?二百から三百ぐらいか?一日に三百体のトレント達を倒せればだいたい一ヶ月と少しの期間で完了出来るのか。

 

 

 だがこの計算も食事休憩や就寝を度外視した計算だ。実際はそんなに簡単な話ではない。一日中ずっと人が稼働し続けられる筈がないんだ。効率的には一日三百体が理想ならそこから諸々の休息などの時間を差し引いたとすると三分の一程度は減数するだろう。そうなると理想が三百でそこから………二百………。一日二百体討伐出来るとなると討伐完了は………………五十日………。精霊マクスウェルの期限まではまだ間に合ってるけどそうなると今度はブルカーンの地方のヴェノムの主レッドドラゴンを二十日以内に見付けて倒さなくちゃいけない………。移動だけでも数日かかるだろうしブルカーン族も何だか話に聞く限り穏やかではなさそうだ。精霊イフリートとやらが生け贄を差し出せと命令されてフリンク族を襲ってたくらいだ。話が通じる相手なのか分からない。そんな相手に………と言うかブルカーンの地方のヴェノムの主の話はレッドドラゴンという情報以外が一向に出てこない。精霊イフリートに目が行き勝ちでレッドドラゴンはどうなってるんだ?

 

 

 

 

 

 

 先のことは少し不安になるが今はこの状況をどうするかだ。単純計算なら五十日でトレント達を駆逐仕切れるとは言ったがそれはトレント達が思うように遭遇出来た時の場合だ。三日前のアローネ達との別行動の時にはアローネ達の方には百体ものトレント達が集まってきたそうだ。

 

 

 …百体………それだけ聞けば多い数のトレントに囲まれてしまったとは思うが目標討伐数はその百倍の一万。その一万を全て倒さないとこの地でのヴェノムの主討伐は終わらない。………一万と聞くとかなりの軍隊が出来上がる数だ。しかしその一万の数のトレント達には統率がない。各々が好き勝手に手頃に現れた獲物を襲うだけ。トレントは待ち伏せ型のモンスターでトレントと遭遇するにはこちらから出向かなければならない。

 

 

カオス「(………待てよ?

 ユミルの森には一万のトレントがいるらしいけどそれらを全部倒そうとしても必ずどこかで就寝する必要がある………。

 一万ものトレントがいる森の中でそんな場所は無いよなぁ………?

 そうなると一度アルターに戻ってきて寝るしかない………。

 アルターの周りにいるトレントならそれでいいけどアルターからどんどん離れていくと一々寝に行く時間が出てくる………。

 

 

 トレントを討伐していく過程で絶対にどこかで効率が落ち始めるのは確実………。

 五十日………じゃ全部トレントを討伐しきれないんじゃないか?

 五十日でも大分痛い時間の浪費なのにそれ以上かかるなら………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 カオスが一人トレントの討伐期間の問題で悩んでいると彼に声をかけてくる者が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「如何されましたかカオス様。

 何か思い悩んでいた御様子でしたが………?」

 

 

 

 

 

 

カオス「クララさん………。」

 

 

 この地方のアインワルド族の族長格、巫女のクララである。

 

 

クララ「お困りのことでもありましたら何でも仰ってくださいまし。

 私共の可能な範囲でカオス様達のご助力致しますので。」

 

 

カオス「…有り難うございます。

 でも大丈夫ですよ。

 ちょっとトレント達の数の多さに目眩がしていただけで………。」

 

 

クララ「…申し訳ありません………。

 他の地の問題と比べてもここでの事情はカオス様達にとっては大変な大仕事になりますよね?

 他の地の主達はその主さえ倒せばよかったと思いますがここでは………。」

 

 

カオス「クララさんが悪いと思うことなんてないですよ。

 ある意味じゃここのアインワルドの人達がダレイオスで一番厄介な主に苦しめられてたんじゃないかなって思いますけど。」

 

 

クララ「………アンセスターセンチュリオン………トレントの集合体………。

 カオス様にとっては一度倒した相手になりますが手応えはいかほどに?」

 

 

カオス「………………正直倒せない相手ではなかったんですけどアレをそう何度も相手しなくちゃいけなくなるとなると………。」

 

 

 カオスは三日前にアンセスターセンチュリオンの一体を討伐したばかりだがそれによって得た経験は“あまり相手にしたくない敵”であった。無尽蔵にも感じさせる体力を持ったアンセスターセンチュリオンとの戦いは負傷こそ無かったがそれも連戦ともなればどこかで精神的な疲れが見え始める。そんな状態でこれから()()()を討伐していかなくてはならないと思うとどこかで痛いドジを踏んでしまいそうだ。

 

 

クララ「そうですか………。

 ………そんな敵の相手を貴殿方に強いるのは誠に申し訳ないのですがそれでも私共は貴殿方に頼るしかありません………。

 私共は彼等に対抗する術がなくどうすることも………。」

 

 

カオス「………」

 

 

クララ「………私共に出来ることと言えばせめてもの労いの言葉だけ………。

 私共は貴殿方を応援する他ありませんね………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうか貴殿方のお力で私共をお助けください。

 私共アインワルド一同は貴殿方が滞在してくださっている間は()()()()()()貴殿方を歓迎いたします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(いつまででも………って訳にはいかないんだけどなぁ………。)」



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焼却炉作戦

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 残り期日六十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「作戦会議を行います。」

 

 

 アローネの一声でこの日作戦会議が開かれることとなった。

 

 

アローネ「先日私達は前回の作戦でアンセスターセンチュリオンを討伐成功………したかのように思えましたがカオスが倒した個体とは別に新たなアンセスターセンチュリオンが出現しました。

 アンセスターセンチュリオンはどうやらトレントが複数集まることでまた新たな別の個体のアンセスターセンチュリオンが生まれてしまうことが分かりました。

 このことから私達はこの地のトレントを全て倒しきらないといけないことが発覚しました。

 

 

 ですのでいかにトレントを効率よく討伐出来るかを話し合いたいと思います。」

 

 

ウインドラ「ラタトスクの話を聞けばトレント達はその数は一万にも上ると言う。

 一万………とてもじゃないがこれらを一体一体普通に狩っていくだけでは時間がかかりすぎる。

 俺達が纏まって一体を倒すのにかかる時間は約三分から五、六分だ。

 トレントも全部同じようで大きさや耐久力に個体差があった。

 おおよその一体の討伐時間は揺らぎが発生するだろう。

 

 

 それにプラスしてこの三分から六分という時間の間隔は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 トレントが二体以上いる時は率直な時間換算で言えば最短で六分、長くても十二分になるがそんな都合運びにはならないことは分かるな?」

 

 

タレス「その観測以上に時間はかかるでしょうね。

 敵の手数が倍に、こちらの手数は半分になるんですから。」

 

 

ウインドラ「その通りだ。

 だから実際にトレント二体と遭遇したら自乗分の時間はかかると思われる。」

 

 

ミシガン「自乗って言うと三分の場合は………九分………?

 じゃあ三体トレントが出てきたらその時は………「二十七分です。」……驚くくらい時間がかかるんだね………。」

 

 

カオス「六人全員で一体のトレントを倒すのにかかる時間が平均的に四、五分ってことは一人で倒そうとすると二十分から三十分くらいにまで延びるね。

 手分けして一人一人が一体ずつって訳にもいかないね。」

 

 

アローネ「相手が感染個体という点では私達は彼等にダメージを与える力はあります。

 ですがヴェノムウイルスとは別に元々のトレントという生物の生命力の高さが今回の討伐の難易度を底上げしています。

 普通に倒していくのであると一万はとても………。」

 

 

ウインドラ「騎士団に入っていた経験談から語らせてもらえばこういう超大数の敵を相手にするとなると長期戦にもつれ込ませればいつかは終わりが見えてくるだろう………。

 ………だがそんな猶予は俺達にはないことは皆も分かっている通りだ。

 俺達は………この討伐を速やかに迅速に処理しなければならない。

 そうしないとこの世界は………。」

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン「「「「………」」」」

 

 

 

 

 

 

クララ「世界が………?

 世界がどうにかなってしまわれるのですか?」

 

 

ウインドラ「!

 …いや、

 いつバルツィエの先見隊が見切りをつけてマテオに戻って軍を率いて仕掛けてくるか分からないからな。

 まだダレイオスの再統一もなされていないままでそれは不味いだろう。」

 

 

クララ「………そうでしょうが………。」

 

 

 クララがこの作戦会議に参加していることを忘れてつい口を滑らせてしまったウインドラ。

 

 

 クララとラタトスクはカオスにマクスウェルが憑依していることは知っているがそのマクスウェルが約七十日後に世界を破壊しようとしていることは言っていない。もしそのことを彼等が知ってそれが他の部族達にも伝わればダレイオスは再統一どころじゃないたいへんな騒ぎとなるだろう。

 

 

アローネ「正攻法では埒が明きません………。

 何か………他に何か有力な手段を用いなければその依頼は………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「だったら全部燃やす………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・クララ「「「「「………」」」」」

 

 

カオス「カーヤ………、

 だからそれは駄目なんだって説明しただろ?」

 

 

 確かにトレント達を燃やすのは手っ取り早い方法だがそれには問題があると前回の時に説明したばかりだ。

 

 

カーヤ「?

 この前の方法じゃ駄目なの?」

 

 

アローネ「いえ………、

 私も先日のあの作戦ならごく短時間でトレントを倒すことはできました………。

 

 

 ですがあの方法では壁の耐久度やトレント達の押し寄せてくる規模が………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!!!」

 

 

ウインドラ「!

 いや………!

 やはりあの方法は採用だな!

 この間は()()()()()()()()()()()()()失敗に終わったんだ!

 だが今度実行する時は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()トレント達を倒すんだ!!」

 

 

 アローネとウインドラが同時にカオスを見てそんなことを言い出した。

 

 

カオス「カーヤからアローネ達の作戦は聞いてたけど今度は俺がタレスの代わりにそれをすればいいの?」

 

 

タレス「それがベストなんでしょうね………。

 ボクが壁を作ってもすぐトレント達に壊されてしまいます。

 でもカオスさんの力なら………、

 ヴェノムの主グリフォンを一撃で破ったカオスさんの作った壁ならボクと同じ結果にはならないはずです。」

 

 

カオス「…そう言うことならやってみるけど………。」

 

 

ミシガン「それじゃあ早速行く?」

 

 

アローネ「えぇ、

 行きましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムの主アンセスターセンチュリオンとトレントの一万の軍勢を一日でも早く倒しきってしまいましょう!!」



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トレント全滅に向けて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポツ、ポツ………ポツポツ………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアアアアアアア……………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 残り期日六十二日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………それで………今()()()()()()()()()()………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「………」」」」ゴクリッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『………()()()()()()くらいにまで減ってやがるな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大したもんだ………。

 たった一週間でこんだけトレントを狩りとりやがるとは………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「六千から七千………………、

 ………………これは…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「見事作戦成功です!!」

 

 

 座っていた椅子から勢いよく立ち上がりアローネがそう叫んだ。

 

 

ウインドラ「あぁ!

 たったの七日でそんなに狩れるとはな!!」

 

 

 続いてウインドラも立ち上がりその成果を喜ぶ。

 

 

ミシガン「あれだけ皆で頑張ったもんね!!

 そっかぁ………!

 たくさんたっくさん!倒してたけどそんなに多かったんだねぇ!!」

 

 

タレス「一万いたトレントが七千に減った………。

 ということは一週間で三千越えの討伐………それならあともう二週間同じようにやればトレント達は全滅できる………。

 当初の計算なら一ヶ月はかかると思ってたのにこれなら一ヶ月を待たずに終えることができますね。」

 

 

 ミシガンとタレスは反応に落差はあるがそれでもこの好成績にはそれなりの満足感を得たのかしきりに落ち着かない様子だった。

 

 

ウインドラ「待て。

 ラタトスクは六千から七千と言ったんだ。

 多くて七千なら一週間で三千体の討伐を果たした俺達ならあと二週間と追加で数日はかかるはずだ。

 油断するな。」

 

 

ミシガン「それそんなに変化ある?

 数日ぐらいそんな変わらないじゃない。」

 

 

ウインドラ「む?

 そうだったか?

 ………それもそうだな。」

 

 

タレス「何を細かいことを気にしてるんですか。

 一週間で三千体の討伐ですよ?

 だったらボク達は一日で四百体はトレントを倒したことになるんですよ?

 そんな端数の千体なんて三日目の途中で終わる数じゃないですか。」

 

 

 タレスの計算は確かだ。カオス達が一週間で三千体のトレントを倒したということであれば一日にトレントを倒した数は四百から上下した数になるだろう。そこは流石に正確に何体を一日で倒したかは誰も素直に数えたりはしていなかった。七日にかけてずっと同じ要領で同じ作業を繰り返し続けていたので途中から皆無心でトレント討伐に没頭していた。

 

 

 

 

 

 

カオス「三千………………三千かぁ………。」

 

 

カーヤ「いつの間にかそんなに倒してたんだ………。」

 

 

カオス「そうらしいね。

 カーヤが頑張ってくれたおかげだよ。」

 

 

カーヤ「カーヤはお願いされたからそれを聞いただけだよ?

 カーヤだったらあんなこと思い付かなかったし。」

 

 

カオス「それを言うなら俺もだよ。

 

 

 アローネが考え付いた()()()()()()()()()皆誰一人怪我もすることなくトレントをいっぱい倒すことができた。

 話には聞いてたけどアローネって本当に()()の家系だったんだな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一週間前にアローネ達がカオスと別行動をとっていた時にトレント達を一網打尽にすべく実行していた作戦を今度はカオスも含めたメンバーで実行することになった。先ずカオスが地形のいい場所で硬質の石の壁を作り補強作業にも専念する。他のメンバーはトレント達を引き連れてその壁の中へと誘い込み集まってきたトレント達をカーヤの炎で焼き付くす。トレントが程よく焼却処理できた辺りでミシガンが火の勢いが増して森に燃え広がらないように消化してまた次のトレント達を招き入れる。実にシンプルな作戦であったがトレント達は真っ直ぐ近付いて襲ってくることしかしないのでこの作戦が途中で問題が発生することなく従事できた。

 

 

 少数と大数の戦いで少数が一方的に攻撃を与え続けられることができたのは作戦の質が非常に高かったからだろう。このペースなら二週間後にはここでの仕事が完了し残り期日が四十日余りで最後の地ブルカーンのところへと向かうことができる。ヴェノムの主四番目のカイメラ戦から何かと一体の主に二十日以上の時間を消費するようになったがこれなら精霊マクスウェルの課した期日にも十分間に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 室内に張りのいい音が響いた。音がした方向を全員が顔を向けるとそこには綺麗に合掌する姿のクララがいた。彼女が今の音を鳴らしたようだが、

 

 

 

 

 

 

クララ「皆様ご苦労様でした。

 僅か一週間でこれほどまでにトレントをお倒しになられるとは………。

 皆様がお越しになられて私共アインワルド一同は六年前の悪夢の日から漸く日の光を見つけることができたような心境でございます。」

 

 

 そう言って頭を下げるクララ。

 

 

アローネ「…顔をお挙げください。

 まだ私達はトレント達を全て倒しきったわけではありません。

 その言葉は私達がこの依頼を終わらせてからでも十分ですので。」

 

 

クララ「いいえ、

 この村を守る巫女として貴殿方大魔導師軍団の皆様にはなんとお礼を申し上げてよいか………。

 ………トレント討伐の進捗も捗っているご様子ですし本日のところは作業はお休みして宴の席を儲けましょう。

 

 

 今日は()にも降られていますから。」

 

 

ウインドラ「!

 ………そうだな。

 この雨では視界が悪くいらぬ失敗をしてしまうだろうしな。」

 

 

アローネ「あまり時間はかけていられませんが雨の中で体を冷やして体調を崩してしまうこともありえますからね………。」

 

 

ミシガン「なら今日はお休みにしとくの?」

 

 

タレス「のんびりはしてられませんがトレント達は()()()()()()じゃないことは分かってますからね。

 今日のところはお言葉に甘えることにしましょうか。」

 

 

 その言葉を皮切りに皆装備していた武器や道具を下ろしていく。今日はもうトレント達を討伐しに行くことは無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後小規模な宴会が開かれた。一週間も働きづめで疲れが溜まっていたカオス達はしばしの休息の間を挟むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日からまた一週間後カオス達は自分達の考えの甘さを痛感する出来事が待ち受けていた………。



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クララと二人きりで

アインワルド族の住む村アルター 夜 残り期日六十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ふぅ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは外に設置されていた椅子に腰掛ける。先程までカオスはアローネ達と例の作戦でユミルの森に出向いていた。目的は当然トレントの撲滅だ。この地のヴェノムの主アンセスターセンチュリオンは他とは事情が違い特殊な個体が一体生息しているのではなくトレントというモンスターが数体集まって誕生する。つまりトレントを全滅させない限りこの地でのヴェノムの中で討伐は完了できないのだ。だから連日カオス達はトレント達を狩り尽くすためにユミルの森へと出向く。今日はもう既におおよその集まってきたトレント達を狩り終えてアルターへと戻ってきたところだ。カオス以外のメンバーはそれぞれ床についたりアインワルド族の者達と談笑したりなどするために散っていった。

 

 

カオス「(…今日もトレントが沢山出てきて倒しまくったけどなんか段々飽きてくるなぁ………。

 毎日毎日ずっと同じことの繰り返しでとてもじゃないけど流石に面倒になってくるよ。

 ………こんなこと本当は思っちゃいけないんだろうけど………。)」

 

 

 カオス達の作戦は完全に一方的な流れとなっている。こちらの攻撃は確実にトレント達を減らしていきかつトレント達の攻撃はこちらに届かない。カオス達の中から負傷者がでないというのはそれだけアローネの考案した作戦が優れているということだ。

 

 

 率直に言えばカオス達の行っていることは命懸けの勝敗を決する戦いなどではなく勝利することが決まっているただの流れ作業だ。作戦開始時は皆も上手く事が運ぶかどうか不安だったがその心配も必要なかったようで順調にカオス達はトレントを誘き寄せ纏めて倒すことができた。それからも日を重ねるごとにアローネの作戦でトレント達を倒し続けて先日にラタトスクから三千もの数のトレントを消滅させたことが分かった。このように順風満帆な状態が維持され続ければカオス達の心境も気が緩んでくるのは無理のないことだった。

 

 

 カオス達にとってはもうトレントは()()()()()()()()()()()()()()()。もし敵を定めるのならそれはアンセスターセンチュリオンに進化した個体と()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そう、時間だけはどうしても短縮することができない。この地での依頼は命の源マナを生み出す世界樹カーラーンがあるためにあまり過激な魔術や火を発生させる魔術に制限が掛かっている。

 

 

 

 

 

 

 その世界樹カーラーンといえば丁度カオスがいる場所からも見えていた。

 

 

 

 

 

 

カオス「………世界樹カーラーン………、

 精霊と同じで幻の存在とされてきた伝説の樹………。

 ………あれが枯れると世界が………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………バルツィエの支配する世界、ヴェノムに侵された世界、精霊王マクスウェルと世界樹カーラーン………。

 ………よっぽどこのデリス=カーラーンは脆くて簡単に滅びやすい星なんだな………。

 バルツィエからもヴェノムからも精霊からもデリス=カーラーンを守りきってもまだまだ他にこの星が滅び去る切っ掛けが出てきそうだよ………。」

 

 

 

 

 

 

 カオスは一人愚痴をこぼす。カオスが述べたデリス=カーラーンの四つの滅びの危機は全てカオスと強い関係性を持っている。カオス自身がバルツィエの生まれで精霊をその身に宿すシャーマンでヴェノムも彼の精霊の力の前ではその無敵の体質が形無しだ。

 

 

 ………そしてカオスは世界中の人々からその名を知られていてもどこにあるのか謎であった世界樹カーラーンの所在も特定してしまった………。偶然世界中を旅することになってこの地も旅の流れで辿り着いただけなのだが大昔のデリス=カーラーンでは世界樹を求めて世界が戦争を始めた。俗に言うカーラーン大戦はラタトスク曰く誰も世界樹を得ることなくただ無意味に人々だけが争って滅びかけたらしい。そんな事例が過去三万年前にあったのであればカオス達はここで世界樹を発見してしまったことを秘匿にしなければならない。世界樹の存在がデリス=カーラーン全土に知れ渡ればまた三万年前のようなカーラーン大戦が再び勃発してしまう可能性を秘めているからだ。三万年前のカーラーン大戦では世界樹は傷付き枯れかけそれを防ぐためにラタトスクが世界中の人々の目から世界樹を隠した。世界樹が枯れれば世界のマナと生物が死して溢れ出てくる障気の循環が滞り結果障気だけが次々と生産されていく世界となってしまう。障気は生物にとっては有害な物質だ。短時間であれば吸っても影響はないが長期的に吸い続けると人体に深刻な問題が発生してしまう。マナを求めて徘徊するヴェノムでさえも障気の近くには寄り付かない。その生物としての欠陥故世界中でもっとも障気を発生させているのはヴェノムだがある種デリス=カーラーン中のいかなる生物を差し置いてヴェノムは障気が苦手な筈だ。マテオでは封魔石と呼ばれる障気を封じ込めただけの岩を多くの街に設置しそれらの街はヴェノムに襲われることなく安全な生活を送れている。ヴェノムはマナを求めてさ迷う性質からマナを関知する能力があると思われるが同時に障気の気配も関知できるのだろう。だから封魔石がある街には近付くことができない。

 

 

 ヴェノムでさえも避けて通る障気………、

 生物が命を落とした後に発生するのであるならば腐敗したマナと言ったところか。世界樹を失えばそれだけが世界に蔓延していってやがては………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「カオス様。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが一人で考え事をしているとクララが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………今………よろしいでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…えぇ、

 いいですよ?

 何か俺に用が?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「少しカオス様と………お話がしたく思いまして。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「?

 分かりました。

 俺なんかでよければ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「有り難うございます。

 ではご一緒させていただきますね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララはカオスの横にカオスと同じ様に腰を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「それでお話というのは一体………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララとはアローネ達と別れる前にも顔を会わせていた。今日も特に大した不備もなく作業が順調に進んでいたことを彼女には伝えていた。その時に話をせずにわざわざこうしてカオスが()()()()()()()()()()()()()話し掛けてきたということはカオスとクララの二人にとって関係が深い精霊のことについての話だろうか………?

 

 

 それともまた別のもっと重要な話が彼女の口から………………。



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クララからの誘い

アインワルド族の住む村アルター 夜 残り期日六十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「カオス様の幼少期はどの様にお過ごしになられていたのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「幼少期………?

 俺の子供の頃ですか?」

 

 

 クララは気軽にそんな話を振ってきた。

 

 

クララ「はい、

 差し支えないようであればお話いただけたらなと………。」

 

 

カオス「別に大丈夫ですけど………何で俺のことなんか………。」

 

 

 まだカオス達はここでの仕事を終了していない。それならクララが話を振るとしたらカオス達の進捗具合や二人に共通の話題の精霊のことについてかと思ったのだが………、

 

 

クララ「他の方がいらっしゃる場ではどうしても違う方向へと逸れてしまうので………。

 ………私はカオス様の幼少期について興味があるのです。

 私の他に精霊を身に宿す方がどの様な人生を歩んでこのアルターまで来訪なさったか………。」

 

 

カオス「あぁ、

 そういうことでしたか。」

 

 

 カオスが旅してきた中でカオスと同じく精霊が憑依している者はクララの他にはいなかった。クララからしてもそれはそのままカオスに当てはまる。だから彼女は気になるのだろう。自らと同じシャーマンであるカオスのことが。

 

 

カオス「………って言ってもそんな大した話は出来ませんよ?

 俺の子供の時なんてつまらない話しかなかったですし………。

 ………普通に生活してただけとしか………。」

 

 

クララ「どの様な話でも結構ですよ。

 私は()()()()()()()()()()()お訊きしたいのです。

 カオス様が過去にどの様な体験をしてどうお過ごしになられてこのダレイオスまでお越しになられたか、

 ざっくりとした出来事だけでもお聞かせいただけませんか?」

 

 

カオス「…それだったら………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…それで俺達はレサリナスを脱出してそのままシーモス砦………ダレイオスではトリアナス砦を越えてダレイオスまで来ました。」

 

 

クララ「大分切り詰められた状況で渡ってこられたのですね………。

 …カオス様がその様にマテオを飛び出してきたとは………。」

 

 

 気がつけばカオスはクララに自分の子供の時の話から今の大人の姿に成長するまで旧ミストで一人でモンスターやヴェノムと戦ってきたこと、そこからアローネをミストの森で発見し二人がウインドラ達バルツィエに反抗する騎士団の陰謀で指名手配されることになりミストを出たこと、サハーン率いる盗賊団との対決、タレスとの出逢い、ここにはいないレイディーを介してバルツィエという家がマテオでどういう家系なのか、レサリナスに到着してから思うように自分が万能ではなく無力であったこと、ミストで共に過ごした親友ウインドラとの再開から衝突、そこに来て漸くアローネの国ウルゴスの手掛かりを持つカタスティアとの邂逅、そして運命のレサリナス王城前広場での決定的なバルツィエの騎士団隊長達との対決から逃亡まで長話ついでにこと細かく話をしていた。

 

 

クララ「それからカオス様はトリアナスの海でカオス様の中に意思を持った精霊マクスウェルが存在していることをお知りになられたのですね?」

 

 

カオス「えぇ、

 それまでは何度も寝むっている時に夢の中で誰かの声が聞こえていた気がしてたんですけどそれが精霊マクスウェルだったってことはその後のセレンシーアインで気付きました。」

 

 

クララ「…その精霊マクスウェルとは意識を交代することなどできますでしょうか?

 私もその精霊マクスウェルとお話してみたいのですが……。」

 

 

カオス「それは………。」

 

 

 カオスは正直なところ精霊マクスウェルが嫌いであまり話かけたりなどしない。カオスが話をしようと話しかけても出てこない時がしょっちゅう………寧ろ全く出てこないまである。そうした理由からカオスの方もマクスウェルのことについては基本いないものとしている。カオスにとってはそう関わり合いたくない相手であるので実は彼のことはそこまで詳しくはない。

 

 

 そしてマクスウェルがカオス達に課した試練のことはなるべく混乱を防ぐために伏せておきたく出てこられても困るのだ。

 

 

クララ「!!

 い、いえ今日までラタトスクのように表に出てこないのであれば何か事情がおありなのでしょうし無理にとは言いません!

 カオス様もその精霊については好ましく思われておられないようなのでこの件は忘れてください!」

 

 

 カオスの態度を見て察したのかクララの方が引き下がった。

 

 

カオス「…すみません。

 マクスウェルとは俺は………。」

 

 

クララ「安心してください。

 カオス様のことはもう十分分かりました。

 カオス様にとってはマクスウェルのことが()()()だということも。

 …ではカオス様はマテオからダレイオスに渡られてからはダレイオスの様子に驚かれたことでしょうね。

 ダレイオスは六年前に話し合いの結果九部族会議を解散することが決まり国としての団結が解消されたことによってそれぞれが元の統治していた地へと帰還することになり昔のような………………昔よりも更に酷い環境へと変わり果ててしまったのですから………。」

 

 

カオス「確かにそうでしたね………。

 マテオではダレイオスのエルフ達はとても野ば………、

 

 

 ………………。」

 

 

 ダレイオスの民の前でうっかりダレイオスのエルフが野蛮であることを口にしようとして寸前で気付き続きは言わなかったのだが、

 

 

クララ「…どこの国でも行っている教育方針ですからお気になさらずともよいですよ。

 現にアインワルドでも他部族やマテオの方々を悪く伝えていく話はありますから。」

 

 

カオス「………どこも同じなんですね………。」

 

 

クララ「実のところは実際にお会いして触れあってみなくては分からぬことです。

 私自身そういう風潮は好きではないので考えないようにはしています。

 そういった教育通りの方々も確かに存在はするのでしょうがその全ての人々がそういう方々だけではないことも知りました。」

 

 

カオス「知った?」

 

 

 

 

クララ「カオス様ご自身のことですよ。

 ダレイオスではバルツィエは例外なく悪人の集団ということが常識でしたがカオス様のようにバルツィエでも世界をよくしようと働く方もいらっしゃることを学べました。

 

 

 貴方様の存在は私共ダレイオスの民にとっては希望なのです。」

 

 

カオス「希望って………俺だけじゃなくてアローネやウインドラがいなかったら俺はダレイオスには来てなかったと思いますよ?

 だったら俺だけじゃなくて他に俺達のことを助けてくれた騎士団や色んな部族の人達だって同じ立場で「貴方様だからこそです。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「私にとっては貴方様こそがこの世界の………、

 ………そしてアインワルドの未来を託したい唯一の希望なのです………。

 …どうかカオス様は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達アインワルドと共に………。」



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アインワルドの企み

アインワルド族の住む村アルター 夜 残り期日六十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ん………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あ…………その…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 じっとカオスのことを潤んだ瞳で見詰めるクララ。女性と二人きりの状況でお互いに黙り混んで見詰め合うこの状況は人付き合いに慣れていないカオスにとってはとても気まずい。クララはアインワルド族の巫女という他でいう族長の立場のものであることは理解していた。その事もあってカオスはクララは自身とはある程度遠い身分の者と感じていた。自分はマテオの辺境の地の一国民、相手はそのマテオの敵国ダレイオスの九ある部族の中の一人の長。そんな相手と自分との距離はどうしても彼等の手に負えないモンスターを通りすがりの旅人が旅のついでに彼等の代わりに倒してそれで終わるだけの薄っぺらな関係、その程度に思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが先程クララに自身の過去の話から始まって長々と彼女と接していく内に彼女が年相応でどこにでもいる普通の女性であると思うようになった。自分との身分の差はあるものの会話で返ってくる返事はどれもどこででも聞けるありふれた日常会話で地位が高いからと言っても彼女が本や人伝に聞いたことのあるそれこそ王族や貴族のようなプライドの高い感性で話をする女性でないことは分かった。と言うよりもここでの会話では彼女は自身のことをカオスと対等、もしくは自身をカオスと同じ平民の立場に置いて話をしている気さえする。彼女との会話は人見知りなカオスでも特に嫌な気はしなかった。それどころか彼女とは精霊を体に宿すシャーマン同士で親しみすら湧いてくる。

 

 

 彼女とは………クララとは仲間のアローネ達と同じくらい仲良くなれるのではないかと思い始めていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ク、クララ………さん………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感情を抱き始めた時にこの空気である。親しくなれそうな相手と感じ始めたと言っても彼女とはまだそれほど長く一緒にいたわけではない。彼女と会うときはいつも周りに誰か他の人がいる時だけで話の内容もヴェノム関連か精霊関係についてだけだ。ここでこうしてカオスの昔話で盛り上がりはしたがそこで黙られると他に話題の呈示しようがない。それでもなんとかこの空気から逃れるため話題を出そうとカオスが模索していると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………カオス様………、

 私は貴方様にこのアルターで「カオス」……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ここにいらっしゃったのですねカオス。

 部屋にいなかったので探しましたよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ………、

 ど、どうしたの………?

 俺に何か用事?」

 

 

アローネ「いえ特に私用があるわけではありませんが明日も早いというのに中々部屋にお戻りになられないのでどちらにいかれたか気になりまして………。

 ………クララさんとお話をなさっていたのですね。」

 

 

カオス「そっ、そうなんだよ。

 ちょっと散歩してたらクララさんが来て話をしてただけなんだ。

 今戻ろうかと思ってたところなんだけど……。」

 

 

アローネ「そうでしたか。

 では明日支障がないよう早めに就寝なさってくださいね。」

 

 

カオス「分かってるよ。

 もう寝るって。

 …それじゃあクララさん俺はこの辺りで………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………それで彼女とはどのようなお話を?」

 

 

カオス「え?

 普通に話をしてただけだけど………。」

 

 

アローネ「ですからその話の内容を聞いているのです。

 クララさんとはどのような話をなさっていたのですか?」

 

 

カオス「…別に聞いても面白い話じゃないけど………。

 それにアローネが知ってる話だし………。」

 

 

アローネ「私が知ってる?」

 

 

カオス「うん、

 俺の子供の時のことを聞かれたからそれに答えてただけだよ。

 子供の時どんなふうに過ごしてかーとか。」

 

 

アローネ「…何故彼女がそのようなことをカオスに訊くのですか。」

 

 

カオス「同じシャーマンとして俺がどんな生活をしていたか気になったんだって。

 クララさんもシャーマンだから他のシャーマンのことが知りたいんだと思うよ?」

 

 

アローネ「………本当にそれだけなのでしょうか?

 何か他に別の目的があってカオスの昔の話をお訊きになられたのでは?」

 

 

カオス「別の目的って………例えば?」

 

 

アローネ「……例えば………、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか………。」

 

 

カオス「………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それって何か困ることでもないんじゃないかな?」

 

 

アローネ「そうではありません!

 この間の話から彼女はあわよくばカオスと仲良くなろうとしている節がありました!

 クララさんはカオスとの距離を詰め寄ろうとしているかもしれないのです!」

 

 

カオス「………?

 別に俺は仲良くなるのはいいことだと思うけど………。」

 

 

アローネ「そういうことではありません!!

 彼女は貴方をアインワルドに取り込もうとしている可能性があるのですよ!?」

 

 

カオス「あぁ~あの話かぁ………。

 結婚だとか子供だとか………。

 あの話はちゃんとしっかり断ったじゃないか。

 そんな出会ってよく知らない人とは結婚なんてできないって。」

 

 

アローネ「だからですよ!

 だから彼女は貴方がそう仰って断ったから貴方のことを知ろうとしているのではないのですか!?

 貴方のことを貴方から直接お訊きして貴方との関係をより深くしていこうと!」

 

 

カオス「アローネは考えすぎだよ。

 純粋に俺がシャーマンとしてどうやって過ごしていたかを知りたかっただけかもしれないじゃないか。

 そんなにクララさんのことを疑ったりしたら可哀想だよ。」

 

 

アローネ「………確かにそういう見方も出来るかもしれませんが私はそうはとても………。」

 

 

カオス「………大丈夫だよ。

 俺は結婚なんてしないしここにだって後()()()()()()()()()すぐにブルカーン族の人達の地方に行くんだろ?

 ここに滞在してる期間はその時間を合わせても一ヶ月もないんだし一ヶ月もいなかった相手に本気で結婚してほしいだなんて言ってこないだろ? 」

 

 

アローネ「………だと宜しいのですが………。」

 

 

カオス「…ってか俺の結婚の話はアローネには無関係なんじゃ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッザッザッザッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケニア「邪魔が入ったな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………お父様………。」

 

 

 

 

ケニア「彼はどんな様子だ?

 何か分かったのか?」

 

 

クララ「………カオス様は故郷を追われた身のようです。

 バルツィエにも追われているようですが故郷は政治的な話ではなく十年前に精霊の力を暴発させてしまいそれで住人の方々とは袂を分かったようで………。

 そして様々な要因が重なって数ヵ月前に故郷の近くにあった住居すらもいられなくなったそうです。」

 

 

ケニア「そうか………、

 では彼はマテオ、ダレイオスに明確な居所はないのだな?」

 

 

クララ「えぇ、

 でもカオス様はマテオとの決着後はカーラーン教会に身を寄せるつもりのようでして………。」

 

 

ケニア「この間もそのようなことを言っていたな。

 ………あのアローネという娘がカーラーン教会の関係者らしいが恋人か何かなのか?」

 

 

クララ「そうでもないようです。

 彼女とはそういった関係ではなく彼女が切っ掛けで故郷を出ることになったようでそこからはずっと一緒にいるようですが関係性については他のお仲間の方達と同等で彼女にも他に想い人がいるとか………。」

 

 

ケニア「それなら心配はなかったな。

 初日の様子から何かしら親しい仲だと疑っていたがそういうことなら何も遠慮することはないな。」

 

 

クララ「はい、

 

 

 

 

 

 

 ………ラタトスク。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『何だ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「カオス様方がトレントを狩り尽くすとしたら予定では二週間後とのことでしたが()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『……俺の予測では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………そうですか………。

 それは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

ケニア「彼等には少し長くこのアルターにいてもらえそうだな。」

 

 

クララ「えぇ、

 カオス様はヴェノムの主を全て討伐し終えたら確実にスラートやクリティアから招集され王選定の会議に出席されることでしょう………。

 ですから機会はカオス様がいらっしゃる()()()()()()()()()()

 今を逃せばカオス様はアインワルドの手の届かぬところへと行ってしまいます………。

 そうなる前に私はカオス様方がアルターにいる間に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス様の()()()()()()()()()()()

 それがデリス=カーラーンの存続に繋がるのならどんなことをしてでもカオス様を私のものに………………。」



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間に合わない試練

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 夜 残り期日五十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………気のせいだと思いたかった………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ「「「「「「………」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『………ユミルの森にいるトレントの残りは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「五っ、五千………!?」

 

 

ウインドラ「それは確かな数なのか?

 俺達はあれから方法を変えずにトレントを狩り続けた。

 それだというのに何故前回と同じ期間同じことをしてペースが三分の二………下手したら半分にまで落ちるんだ?」

 

 

ミシガン「ま、前の時って確か一万いたのが七千ぐらいに減ってたんだよね?

 だったら今回って()()()()()()()()()()()()()けどそれだったんなら今回はトレントを倒した数は殆ど一緒なんじゃない?」

 

 

 ラタトスクから聞かされた情報を信じることが出来ずにその理由を求めるカオス達。彼等も今週の後半からトレントが始めの頃の勢いが徐々に落ち始めていたことには気付いていたがそれでも精一杯向かってくるトレント達を倒し続けた。それなのにどうしてここにきてそのスピードが落ち始めたのか訳を知りたかった。

 

 

 

 

ラタトスク『お前たちの作戦は本当によく出来た作戦だよ。

 たったの二週間でユミルの森のトレント達を半分にまで減らしたんだからな。

 この調子で行けば後………、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

 

 

 

タレス「一ヶ月半………!?」

 

 

カオス「どうしてそんなに長くなるんですか………?

 普通に計算すれば俺達がトレントを倒しきるのはあと一週間と少し程度だった筈なのに………。」

 

 

 先週の勢いから計算すると一万いたトレントを七千にまで減吸うさせられたのであれば今週の時点で残りは四千になっていた筈………それが後一ヶ月半とは一体?

 

 

ラタトスク『お前達はよくやっていると思うぜ?

 短期間で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ………けどよ?

 お前達はトレントがどういう習性を持つモンスターなのかがあたまから抜けてるぜ?

 トレントはな………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『お前達が倒していたトレント達はアルターの周辺に来て先代巫女の結界に阻まれてアルターに入り込めなかった連中だ。

 アルターはこのユミルの森の中心にある。

 その周りであの作戦をしてればそいつらは寄ってくるだろうよ。

 寄ってこないのは()西()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 この森のトレントを狩り尽くすんならそいつらのところにも行かなくちゃいけねぇ。

 近い場所の奴等は密集しているがここから遠い場所にいる連中はかなり疎らに散らばってる。

 それぞれの場所に行ってお前達のあの作戦を実行していくしか手は無いな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(!

 そういうことか………!)」

 

 

 カオス達が倒してきたトレント達はアルターから比較的近い距離にいたトレント達であった。それらがカオス達の作戦に引っ掛かり集まってきていた。

 

 

 それがカオス達の一ヶ所に留まって待つ作戦では遠くのトレント達はカオス達の網にはかからなかった。トレントは元々待ち伏せ型のモンスター。近場のトレントは寄ってきても遠くのトレント達まではカオス達の方には寄ってこない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、お互いが相手が近付かなければ永遠に接触することはない。

 

 

アローネ「…ここでこのようなミスが発生するとは………。」

 

 

タレス「ボク達が狩っていってたのは中央付近の個体………。

 では森の外側のトレント達はまだ半分も残って………。」

 

 

ウインドラ「俺達がいつも作戦に使っていた場所では四方に分布するトレント達は誘き出せなかったということか………。」

 

 

ミシガン「でっ、でその東西南北のトレント達がいそうな辺りってどころ変なの?

 ここからどのくらいで着きそう?」

 

 

ラタトスク『お前達が使っていた場所はアルターから二時間くらいで到着するくらいか………。

 それでトレント達が多く集まってる場所は………。』パサッ…、

 

 

 クララの体を使ってラタトスクが地図を机に敷く。そして指し示した地点は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『………この辺とこの辺とこの辺、そして最後はこの辺だな。

 それぞれがだいたい歩いていくとしたらまる一日かけて着くぐらいなんじゃないか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラタトスクが示した場所はカオス達が狩り場に使っていた場所から遠く離れた位置を提示してきた。

 

 

 歩いて一日………つまり往復で二日かかる。そんな場所が四ヶ所。これにはカオス達も苦い顔をするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『まぁ時間さえかけりゃ終わらない仕事じゃないだろ?

 お前達頼みで申し訳無いところだが俺達の方で出来ることと言えばお前達がどこか一ヶ所に集中している間に他の三ヶ所のトレント達をどうにかアンセスターセンチュリオンに進化させないように少しずつ集めていくことだけだな。

 それでも結構時間かかるだろうから四ヶ所を三ヶ所から二ヶ所に減らすのが限界だな。

 これはこいつらアインワルドの問題でもあるから一緒に頑張っていこうぜ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラタトスクはそう言うがそれで今日からこの依頼の終了見こみ予定日が一ヶ月半………。

 

 

 差し引くと残り期日は十日。カオス達は移動込みで十日以内にブルカーンの地のヴェノムの主レッドドラゴンを討伐しなければならない。フリンク族の噂を聴く限りではブルカーン族との連携を取ることは大分難しいようにも思える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達はいよいよもって精霊マクスウェルの課した試練が達成困難なのではないかと不安に駆られてきた………。



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時間大敵

アインワルド族の住む村アルター 夜 残り期日五十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………本当に時間が一番の敵になるなんてなぁ………。

 ここに来るまでは時間なんてそんなに気にする程のことじゃないと思ってたのに………。」

 

 

 ヴェノムの主討伐の旅が始まって数ヵ月。ここまでは九体いるとされたヴェノムの主を順調に短期間で倒してこれた。ブルータル、クラーケンの二体は遭遇したその日に討伐しジャバウォックはいつの間にかレイディーによって倒されていた。続くビッグフロスター、グリフォン、カイメラはこれらの討伐に四十日をかけたが三体をウィンドブリズ山で同時に倒すことができ何とか遅れを取り戻すどころか幾分の余裕が生まれた。そしてヴェノムの主の生みの親フェニックス=カーヤもその力を封じフリンク族のヴェノムの主はこれ以上誕生することもなくなり一応の新たなヴェノムの主が出現する可能性は消えた。この時点で残りヴェノムの主はアインワルドのアンセスターセンチュリオンとブルカーンのレッドドラゴンの二体を残し残り時間は七十日と少し。トータル的にヴェノムの主一体倒すのにカオス達がかける時間は()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしラタトスク曰くここでアンセスターセンチュリオンを再誕させないようにトレントを狩り尽くす見込みは残り期間五十五日の現時点から一ヶ月半。一ヶ月半=四十五日とシンプルに考えればトレント達を全て倒し終る頃には残り期日は十日………。カオス達はレッドドラゴンは確実に倒せる相手と見定めて考えている。カイメラの時にレッドドラゴンとは一度カイメラの変身形態の一つとして戦った。実力も上がってきたカオス達なら逆にカイメラのような強力な魔術耐性が無いであろう劣化レッドドラゴンならば倒しきることは必然だ。時間さえあればレッドドラゴンは倒せる。時間さえあれば………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時間が無いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………もっといい方法を考えないとこのままじゃ不味い………。

 アローネの作戦は誰も傷付かずにトレントを倒せるいい作戦だったけどあの方法のままだとどうしても時間が足りなくなってくる。

 森でその場から離れにくいトレント達をもっと多く一ヶ所に集めて………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「カオス様?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 クララさん。」

 

 

クララ「いかがなされましたか?

 何やら難しいお顔をしておられましたが………?」

 

 

 カオスがまた一人でいるところにクララがやって来る。この人は何かと自分のことを気にかけてくる。村の長としてカオス達来客者の同行が気になるのだろう。そしてその来客の中で代表みたいなものが自分なのだからそれもそうなるのだろうが………。

 

 

クララ「……何やらカオス様方はトレントを殲滅するのにかける期間が懸念されているようですね。

 なにか他にお急ぎのご予定が?」

 

 

カオス「そういう訳じゃないんですけど………。

 アインワルドの人達にも早くこの森を安全に出歩けるようにしてあげたくて………。」

 

 

 嘘は言っていない。それもカオスが親しくしてもらったアインワルドの者達に対する感想だ。ただカオス達にはそんなことよりももっと大きな急用があるがそれを喋る訳にはいかなかった。故にここは真実を他の事実で被せて隠した。

 

 

クララ「そうですか………。

 それは誠に有り難きことです。

 ですがあまり思い詰めなくてもよいのですよ?

 アンセスターセンチュリオンが現れてからもう六年にもなりますが私達はそこまで不自由している訳ではありません。

 私達にとっては世界樹カーラーンを何者にも知られずにひっそりと守り通していくことが使命ですからそういう点に関しては今の現状は特に困っている状況でもないのです。

 トレント達は巫女の結界で、その他の者達はトレントによってこのアルターが阻まれていますから。

 ですからカオス様にはごゆるりとトレント達の討伐をお願いします。

 それこそ一ヶ月半と言わずに二ヶ月、三ヶ月………一年以上かけてしまっても私達に文句などありません。

 それどころかカオス様がその分長くアルターにいてくださるなら私は………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またあの時と同じ雰囲気になりつつあった。数日前のクララの視線はカオスに何かを求めているようなそんな眼をしている。一度断りはしたがあの例の結婚の話はもしや本気のつもりなのか。カオスは段々初日にケニアと話していたことをクララが冗談でかんがえているようには思えなくなっていた。

 

 

カオス「(……クララさんは悪い人じゃない………。

 どっちかと言うととてもいい人だ。

 初めて会った時から何故かそこまで距離を感じない………。

 ………多分()()()()()()()()()()()なんだろうな。

 話し方もそれなりに責任ある立場にあること似ててまるでアローネと話しているみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネは………どうなんだろう?

 俺がもしクララさんの話を真に受けて結婚なんかしたら………、

 

 

 ………だけどそれだと俺はこのアルターに住むことになるよな?

 それだと俺はアローネと一緒にカーラーン教会には………。

 ………………いやいやまだ俺達にはヴェノムの主を早く倒しきってしまわないと世界が………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………世界がマクスウェルに破壊し尽くされる心配がなくなったらその後は………?

 アローネとの関係は結局最初から最後まで()()()()()だ。

 全てが終わった後は戦いも無くなって平和な世界になる。

 そうなった時戦うこと以外に何の長所もない俺がカーラーン教会にアローネと一緒に身を寄せてもいいのかな………?

 俺なんががアローネの同胞探しに何の役に立つんだ?

 …俺一人いよういまいがでアローネの同胞探しには何の影響も無いと思う………。

 無駄に穀潰しが一人増えるよりかは俺なんかいない方がカーラーン教会は正常にアローネと同胞探しが出来るんじゃないか?

 

 

 それだったらここでアインワルドの人達と一緒に世界樹カーラーンを守っていくことの方が有意義なんじゃないかな………?

 守る………誰かと戦うってことなら俺も自分の力を使うことができるしアインワルドの御子も誰か強い器を持った巫女の相手を探しているみたいだしそれなら俺が………、

 

 

 だけどアローネが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうして俺はこんなにアローネのことが気になるんだ………?

 アローネには他に好きな人がいるのに俺はどうして………。)」



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旅路の終わりには…

アインワルド族の住む村アルター 夜 残り期日五十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『なぁ、おい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……!?」ビクッ!

 

 

 突然クララからクララ本人とは別の声が発せられる。ラタトスクだ。

 

 

ラタトスク『…お前に聞きたいことがあるんだがいいか?』

 

 

カオス「な、何ですか………?」

 

 

 クララの顔で全く違う口調で話し出すのでどう返事を返せばいいのか迷い無難な受け答えしかできなかった。どうも精霊は苦手だ。

 

 

ラタトスク『お前………、

 ここに来てから気にしてる様子もなかったからお前にとっては()()が当たり前なんだろうと思って俺も訊かなかったんだが………、

 お前のそれはどうなってるんだ?』

 

 

カオス「そ、それ?

 それって何のことですか?」

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『お前のその体質のことだよ。

 お前の中にいるマクスウェルって野郎は何でそんなに…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マナをかき集めてるんだよ?』

 

 

カオス「!」

 

 

 ラタトスクがカオスに指摘したことは以前にカオスがセレンシーアインでアローネに話したことであった。精霊マクスウェルはシーモス海道での出現から始まりカオスの中に潜みながら周囲のマナを吸収しだした。カオスの中に憑依するまではミスト村の殺生石の中で自らに触れし者のみのマナを吸収していたのだが現在は空中に漂う無数のマナを吸いとり続けている。同じ精霊種なだけあってラタトスクはマクスウェルのマナ吸引に気付いたようだが、

 

 

ラタトスク『そいつがそれをやってるのはここに来てからじゃないよな?

 ミーア族の奴等の話では数ヵ月前にトリアナスでそいつがあの流星群を降らせてたようじゃねぇか。

 俺達もあの時のことは知ってる。

 

 

 そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

カオス「……!?」

 

 

 流石に精霊だけあって知られていた。クララにはマクスウェルがミストにいた時からその存在を知られていた。千里眼とも呼べるその力の源はラタトスクだ。ならばラタトスクにも当然同じ様にマクスウェルがどこで何をしていたか探ることができるのだろうが………、

 

 

ラタトスク『ここに来て他と違って違和感を感じなかったか?

 ここには無限にマナを生み出す世界樹カーラーンがある。

 この村のマナの濃度は他の場所の数倍はあるんだ。

 それなのにお前とお前の中のそいつはここのマナすらも御構い無しに吸い込んでいってる………。

 ………お前………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなにマナを集めて体が耐えられるのか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『…そいつが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()俺でも分かる。

 そのためにマナを集めてるんだろうからな。

 だがそれよりも俺はお前の体の方が疑問だぜ。

 よくそんな人の体でそこまでマナを収められるな?

 アインワルドの巫女でもそんなマナを一度に吸い込んだら途端に石化してるだろうぜ。』

 

 

カオス「それは………。」

 

 

 自分ですら何故こんな体質なのかは分からない。自分はミストの村でミストの住人として普通に生まれてきただけなのだ。親族は祖父だけで祖父の家柄は昔カタスティアから過去の遺産を受け取りそれを悪用して自分達のマナを強化した。ツグルフルフがそれに関係しているということぐらいしかカオスは知らないのだ。カーヤの話を聞く限りではそれはもう遺伝子レベルでそういうことになっている。バルツィエは他のエルフ達よりも遥かにマナを内包できるということなのだろう。

 

 

クララ「ラタトスク!

 カオス様が困っているではないですか!

 不躾ですよ!」

 

 

ラタトスク『そうは言うがよ?

 俺から見てもこいつの中に溜まってるマナはそりゃもうえげつないことになってるぜ?

 まるで満杯に溢れだしそうなダムみたいになってやがる。

 いつ決壊してもおかしくないほどにな。

 このアルターに来てからそうなったのかは知らないがこいつはいつか暴発する爆弾だ。』

 

 

クララ「カオス様は爆弾などではありません!

 ()()()()()()()です!」

 

 

ラタトスク『俺は見たままの事実に触れてるだけなんだがな………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 カオスがラタトスクの質問になんと答えようか考えている内に目の前でクララとラタトスクの一人言のような会話がなされている。端から見れば珍妙な光景だが自身もこれと同じ様なことを以前にマクスウェルと交わしたことがあったので不自然に思うことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 それよりもカオスはクララが自分のことを()()()()()()()と述べたことに意識が向いていた。

 

 

 仲間以外でここまで自分のことを人として見てくれた者は初めてなのではないか?カオスはミストにいた時から自分は人とは違う化け物だと思い込んでいた。それは実質的には精霊マクスウェルが自身の中に入り込んでいてその力をカオスに与えていてその力が普通のエルフ達とは一線を引くような能力があったからだ。

 

 

 人に倒せない化け物ヴェノムを倒せる。化け物を倒せるとしたらそれはその化け物を上回る化け物だけだ。ミストの住人達はカオスを化け物と呼んだ。十年前のあの日からカオスはずっとミストの住人として達から化け物として認識されている。だからカオス自身も段々と自分が化け物であると思い始め最終的に化け物として自分の中で決着していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでもクララはカオスのことを人=エルフと言った。

 

 

 仲間達からも自分は化け物ではなく人だと説得されたこともあったが少なからず仲間達とはそのことでいざこざがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それがこのアルターでは村人全員がカオスやクララの事情に精通している。この村ではカオスのようなシャーマンは巫女一人しかいないが珍しい存在ではないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………カオスはカオスの中でアルターの存在が徐々に大きくなってきているのを感じ始めていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(……ここでなら俺は………普通の………、

 普通のエルフとして生きていける………。

 そんな………そんな気がしてきて…………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は………………。)」



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好感の持てる人々

アインワルド族の住む村アルター 夜 残り期日四十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからまた一週間が経過していた。ラタトスクが言っていた四方のトレントの棲息域付近の内の先ず東から攻めることにして今日もそこで作業をしていた。東から始めた理由は北西側にはブルカーンの地方との境界がありそこのトレント達を狩るとフリンク族に生け贄を要求してきたブルカーンが今度はアインワルドに侵攻してくる恐れがあったからだ。そういった理由があるので先にブルカーンから遠い東の方から始めそこから南、西、最後に北に向かう予定だ。西と北の方のトレント達はカオス達が東のトレント達を倒している間になるべく一度で倒しきれるようにアインワルド族の者達に誘導してもらっている。そうしてもらえればカオス達が回る場所は三ヶ所に絞られ今回の討伐が比較的楽に進めることができる。そして東、南、北西の三ヶ所が場所の遠さもあってそれぞれが作業を終えるのにかかる時間配分は()()()()()。東の方は既に一週間狩りまくったおかげで後一週間ぐらい続ければ終えられる。そして残り二つの南と北西で二週間………しめて役一ヶ月半。ラタトスクがここでのカオス達がトレントを狩り尽くせるとしたらの予想の時間だ。若干の日付の誤差はあるもののカオス達が一ヶ月半と言われた時の精霊マクスウェルの課した残り期日の残数日よりかは早めに終わることが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それでもその時の残り期日は()()()。ブルカーンの地方は山岳地帯らしくあちらに辿り着くのにも時間は消費される。ついでに言うとカオス達が今倒しているのはトレント達のみで数週間前に増数したアンセスターセンチュリオン自体には手付かずだ。そのアンセスターセンチュリオンはカオス達の作業中にまた数を増やして現在その数は()()。カオス一人で戦ってたこともあり最初の一帯のアンセスターセンチュリオンを倒した時にかかった時間は半日。これ以上アンセスターセンチュリオンが増えないのであれば残り十三日の時期になってアンセスターセンチュリオン討伐にかけるであろう時間は一体辺り数時間~半日、一日の内に最高で三体狩れればいい方だろう。そしてその時間経過によって七体を討伐し終えるのが十一日………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精霊は未来でも見えるのだろうか?最終的にカオス達が全てを終わらせられるのは残り期日十日になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「どうにかしないとなぁ………。」

 

 

 ここ最近よくこの言葉を口癖のように呟くカオス。そう呟いてみてもカオスには今よりも効率よくトレントを倒す手立てが思い付かない。今までのように単純な力押しでどうにかなる問題ではない。必要なのは力ではなく時間だ。今でこそ死力を尽くしてトレントを倒していってるというのに時間と言うプレッシャーがカオス達を追い詰めていく。

 

 

 時間と動ける人数が揃えばあるいはどうにか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストーンブラストッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドドドッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 物思いにふけっていたところでツリーハウスの下の方から誰かが地の魔術ストーンブラストを放った音が聞こえてきた。その後は特に何かがその術によって壊れるような物音がしないことからそれが単なる練習か何かだと察した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビズリー「まぁこんなところだ。」

 

 

「確かに前までのお前の術よりかは威力が増してるな………。

 あのカオス様達の術は魔力を上昇させる効果があるのか。」

 

 

「でも他の魔術は使えなくなってるんだろ?」

 

 

ダズ「そのようだ。

 だがそれによって俺達が得た力は計り知れない。

 お前達もカオス様に頼んで洗礼の儀というものを付与してもらったらどうだ?」

 

 

「そうしようかなぁ………けど………。」

 

 

「他の火や水の術が使えなくなるのは考え物だよなぁ………。

 村の者が全員お前達と同じ状態になると今後は誰が火や水が必要になった時に用意するんだ?」

 

 

ビズリー「水に関してはどうにかなりそうだが火はそんなに直ぐには用意しにくいな………。」

 

 

ダズ「そこに視点を向けるとアルターの半分の者は洗礼の儀を受けるわけにはいかないなぁ………。」

 

 

「どうしたもんかなぁ………。

 もしお前達と同じになれたら巫女様の負担を軽減できると思うんだが………。」

 

 

「そうだな。

 普通のモンスター相手だったら男手の俺達が出張るところだがヴェノムが相手になると巫女様しか撃退できないし………。」

 

 

ダズ「!

 ………そうだそれだ!

 男手の俺達が洗礼の儀を受ければいいんだよ!

 女達はそのまま普通のままでいてもらえば最低限生活の基盤は保たれるだろ?」

 

 

ビズリー「……いい考えだな。

 いざというとき女達がいれば種は保たれる。

 男である俺達はそれを守らなければならない。

 だったら俺達がカオス達のお力で強くなれればアルターの繁栄は確実なものとなる。」

 

 

「早速他の男共にこのことを提案してみるか?」

 

 

「いや先に巫女様に意見をもらってからでないと勝手に話を進めるとお叱りをくらうぞ。」

 

 

ビズリー「では巫女様にこのことを話にいくぞ。

 カオス様達だけではトレント退治は骨が折れるようだからな。

 俺達もトレント退治を手伝うんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………本当にいい村だなぁ………。

 皆が皆のために考えて行動して協力して………、

 ………こういう村で生まれることができたらよかったのに………。」

 

 

 

 

 

 

 ビズリー達の様子をツリーハウスの上の方から眺めていたカオスが素直な感想を口にする。ある種ビズリー達の様子はカオスにとって()()()姿()であった。彼等の行動理念は巫女が最優先であるのだろうがそれでもお互いがお互いを思いやって手を差し伸べ合う姿はカオスには眩しく映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このアインワルドの人々だけは何がなんでも守ってあげたい。カオスはまたアルターに対する印象を上方修正していた………。



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 ここでの一週間はあっという間に過ぎていく。毎日毎日同じことをして作業には飽いているというのに時間が流れるのは早い。人の体感はつまらないと感じている時は長く感じるものではなかったのか、そんなどこかでよく誰かが口にしていることが思い浮かんでくる。

 

 

 作業自体はつまらないと感じていてもそれ以上に今残されている時間がもう後少ししかないという焦りの方が大きいのだろう。精霊マクスウェルが世界を破壊すると言った期日までもう後一か月と十日と一日。その日が来てマクスウェルがカオス達がしてきたことの成果に不満があればこの星を砕くと言っていた。カオス達はカオス達なりに頑張ってきたつもりだ。精霊だってカオスの中でその努力を見てきたはず。ならばその努力に免じて世界を壊すことなんて止めてほしい。それがマクスウェルに伝わっているといいのだが………。

 

 

 それでもカオス達はそんな淡い期待に任せておくことはできない。例えマクスウェルがやはりこの世界は不要だと握りつぶそうとするとしてもカオス達はデリス=カーラーンに生きるものとして世界を守らなければならない。この世界を回って沢山の死なせてはならない人々との出逢いがあった。その出逢いを無駄には終わらせたくない。その想いはカオス達の心に深く刻み込まれている。依然として今の時間の不足を打開する策は思い付かないがトレントとアンセスターセンチュリオンを倒しきって残り十日程でブルカーンの地のヴェノムの主レッドドラゴンを倒すことが出来ればどうにか世界は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 夜 残り期日四十一日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアアアアアアアア………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「暫くカオス達は作業を中止してください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルターに戻る途中カオス達は雨に降られた。東のトレントの討伐が漸く完了し雨に降られたこともあって急ぎアルターに戻ってきたカオス達にクララがそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「中止………?

 何でですか?」

 

 

タレス「そうですよ。

 どうして急にそんなことを………。」

 

 

 突然のクララの作業を中止するという勧告に納得ができず抗議する。

 

 

 しかしクララが中止するように言った理由が、

 

 

クララ「これから暫くこの森全域で()()()()()ようです。

 ですからこの雨が止むまでの間カオス様達は作業を中止になさってください。

 雨の日に森に出向くのは危険ですので。」

 

 

アローネ「大雨が………?

 確かに今雨は降られているようですが明日には止むのでは?」

 

 

クララ「いえ今度の雨は………『()()()()()()()()()。』」

 

 

ラタトスク『精霊としてある程度の気象も観測できる俺が説明する。

 この雨はこの前のように直ぐ止む雨じゃない。

 かなり長引くぞ。

 アインワルドでは一度雨が降ったら数日に渡って降る雨が多いんだ。

 この前のように一日で止んだ雨が珍しいくらいにな。

 今回の雨は………()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

ウインドラ「十日だと………?

 そんなに長くなるのか?」

 

 

ラタトスク『あぁ、

 だからお前達はここ暫く働き詰めだったことだし俺とクララで話し合った結果お前達には、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十日の休息日をとってもらうことにしようと思う。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達にとってそれは最悪の善意だった。クララとラタトスクは知らないこととはいえ十日も仕事を休むことになるとこの地のヴェノムの主アンセスターセンチュリオンを倒しきったとしてもブルカーンの地のレッドドラゴンを一体残した状態で残り期日が来てしまう。

 

 

 後残り一体。ここまで来て後残り一体のレッドドラゴンが倒せずに世界はマクスウェルに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「まっ、待って!

 雨が降っているからなんなの!?

 私達なら雨が降ってても気にしないでトレント達を「許可できません。」」

 

 

 

 

 

 

クララ「雨天時のトレントを侮ってはなりません。

 トレント達は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 今日までは天気が荒れることもありませんでしたがこの雨でカオス様方が森に入ればこれまでの数倍の勢いでトレント達が襲ってくることでしょう。

 雨の日のトレントは獲物が通りかかるのを待っていた今までのようにはいかないのです。

 雨が降る日の彼等は………獲物を積極的に狩りにいくハンターです。」

 

 

ラタトスク『それにこの雨の中じゃ火の加減を調節するのにも一苦労しそうだぜ?

 弱すぎると雨に消されて強すぎると大火災だ。

 ここは俺達の言うことを聞いて大人しくしてな。』

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「………」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアアアアアアアア………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういう訳にもいかない理由がカオス達にはある。この雨で十日も作業を停滞してしまえば期日が最後の日を迎えてしまう。敵の数は尋常じゃなく多い。それを時間が許す限り倒していかなくてはならない。そうしなければこれまでの旅が全て無駄になってしまう………。

 

 

 だと言うのにこの大切な時期に天候までもがカオス達の敵に回ってしまった。クララとラタトスクが指摘することは理解できる。中央と東の地でカオス達がアローネの作戦を実行に移した日はそれはもう視界に収まりきらない程のトレントが森の奥深くから次々と現れてきた。その勢いはカオスが作り上げた壁に乗り上げてくるのではないかと心配になる程でそれがこれから南と北西で作業を開始しようというタイミングで雨に降られて活発化するのでは今度こそトレント達は壁を乗り越えて襲ってくるだろう。そしてそれらを迎撃しようにも雨そのものがカーヤの火を弱めてトレント達を上手く追い払えないという悪条件も追加されてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…きょ、今日と明日は雨が強そうですけど少しでも弱まったらその時は「駄目です。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「この雨が降り続く限りは巫女としてアルターにいる者を貴殿方を含めて安全を確保することを優先させていただきます。

 

 

 

 

 

 

 よって本日から十日間貴殿方のアンセスターセンチュリオン討伐を禁じます。」



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十日間の足止め

アインワルド族の住む村アルター 残り期日四十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアアアアアアアア………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝になると昨日から降り続く雨は少しだけ弱まったようにも見える。これならば多少濡れたところで構わずトレント達を狩りに行けるのではないか?そう考えて外に出てみるとアルターの入り口のところにはアインワルド族の見張りが立っていた。その見張りに近付いて外に出してくれと訴えるとそれはできないの一点張り。クララの話は既にアルターの者達全員に伝わっているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十日間のトレント退治の中断。世界が破壊されるかもしれないという時間が無い時に十日も何もせずに拘留されてしまえばいよいよ世界の崩壊が視野に映る。他のヴェノムの主と戦っていた時は感じることがなかった焦りがカオス達を追い詰める。お復習するとトレントの軍団を無事狩りきれるであろうとする時間が南と北西部で二週間ずつの二十八日。そこからアンセスターセンチュリオンを倒すのに三日ほど。ほぼ一ヶ月を消費する大仕事だ。それだけであったら十日前後の期日の時間を残してブルカーンの地のレッドドラゴンを倒しにいける予定であったのだが現在はクララとラタトスクの言い付けにより後九日間はカオス達は動けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実質この九日間で何も進展が無ければ世界の命運は詰みだ。例えアンセスターセンチュリオンとトレント達を葬ったとしてもそれと同時にカオス達は、アインワルドは、そして世界中の人々が精霊マクスウェルの手によって宇宙の塵と消えよう………。他の主達を順調に倒し続けて稼いだ時間の余裕はただの降雨によって無くなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまで来て………、

 

 

 ここまで来てデリス=カーラーンは終わってしまうのか?ブロウン族のハンターが言っていたように世界は自ら終わりを望んでいるのか?カオス達が動かねば世界は滅ぼされてしまう。それだというのに世界は無情にもカオス達を見下ろして雨を降らせてその歩を止めてさせてしまった。こんな時、空から降り注ぐこの雨がカオス達には悪意を持った魔物の仕業なのではないかと疑いたくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この雨がどうにかならなければカオス達にはどうすることも………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「…そんなに雨を眺めてどうなされたのですか?」

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

クララ「そんなに雨を観察していても止むことはありませんよ。

 これまでラタトスクが予報を外したことは無いのです。

 カオス様方はこの雨が止む九日後までアルターでゆっくりと過ごしていただければその後は作業を再開されても私達は何も言いません。」

 

 

カオス「本当に駄目なんですか………?

 このくらいの雨ならそこまで俺達の作業が難しくなることは「駄目です。」」

 

 

クララ「昨日もお伝えした通り雨の日のトレント達は凶暴性が増します。

 晴れている時とは比べ物にならないほど素早く獲物へと迫り捕らえてしまうのです。」

 

 

カオス「そんなにですか?」

 

 

クララ「…いえ、

 少し誇張でした。

 素早く獲物へと迫るとは言いましたがトレント達の速度自体はそこまで加速はしません。

 走り続ければ距離を引き離すことはできましょう。」

 

 

カオス「だったら俺達は「しかし人の身であれば必ず追い付かれます。」」

 

 

クララ「トレント達が厄介なところはその生命力の高さ、要するに人でいうと持久力です。

 走る速度は遅くともずっと等速で追いかけ続けてくる。

 カオス様方が作業を開始する場所はこのアルターからはかなりの距離があります。

 いざトレントから逃亡を謀ろうとしたときアルターに戻ろうとしてもカオス様方六名の誰かが足を止めてしまえば直ぐにトレント達はカオス様達の元へと追い付いてきます。

 雨の日のトレントは本当に危険なんです。

 無茶をならないでください。」

 

 

カオス「………分かりました。」

 

 

 クララはカオスにこれでもかというほどトレントに対する脅威を力説してくる。そこまで言われればカオスの方も引き下がるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 だがそれでもカオスはこの現状をどうにかせずにはいられない。クララがカオス達の身の安全を思ってそう忠告してくれているのは分かるがそれに甘んじているばかりではこのアインワルドの者達も四十日後には………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「……カオス様………、

 私、この間のお話の続きをお聞きしたいのですが………。」

 

 

カオス「この間………?」

 

 

クララ「カオス様がミストという村で育ちそこからマテオを旅してダレイオスまで渡ってこられたことまではお聞きしました。

 その後のダレイオスではどの様にこのアルターまで旅なされたのかを私はお聞きしたいのです。」

 

 

カオス「あぁ………、

 そういえば話が途中で終わってましたね。

 そんなに聞きたいんですか?

 ダレイオスに渡ってからは普通に他のところを回ってきただけなんですよ?」

 

 

クララ「えぇ構いません。

 私はカオス様のお話が聞ければそれで………。

 カオス様のようなダレイオスに初めて入国なされた方のお話なら他の部族達から聞かされるような所々の着色がないありのままを私は知りたいんです。

 …巫女としてこのアルターから離れられない私はカオス様のお話がとても楽しめる内容だったのでまたあの話の続きをと思ったのですが………、

 ………ご迷惑でしたか?」

 

 

カオス「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうも好意的にせがまれてしまっては無下にはできなかった。結局カオスはこの後クララと前回の話の続きを語ることになった………。



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今のうちに出来ることを…

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間だけが過ぎていく。昨日は何もしない一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアアアアアアアア……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日は弱まったと思った雨も今日は昨日と一昨日より勢いが激しい。これでは当然のごとくトレント退治は無理だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なので、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「八日後、

 いかにこれまでの作業よりも手早くトレント達を狩り尽くすか対策を立てようと思う。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆でまた緊急会議を開くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「って言っても私達この雨で作業を中止する雨から凄い数のトレントを倒してきたんだよ?

 あれ以上の数を雨が止んでからだなんてどう考えても間に合わないよ………。」

 

 

 カオス達は全員でそれぞれが全力で作戦に挑んでいた。それでも一日にトレントを倒すことができたのは四百前後がやっとだった。そんな実績で雨が止むとされる八日後にそれ以上の成果を望むのは正直な話不可能である。何か今の作業よりも効率的なトレントの討伐方法があればそれも可能なのだろうがそんな手があれば最初からカオス達はその方法でトレント達を倒していってるだろう。つまりはそんな手が思い付かないからこそカオス達はここで話し合いをすることになった。八日後の残り期日三十一日からトレントとアンセスターセンチュリオンを全て倒しきるのにかかるとされる目処はおおよそ三十日。カオス達はまだトレントとアンセスターセンチュリオンの他にもブルカーンのレッドドラゴンを倒さなくてはならない。それなのにここで精霊との約束の日を迎えてしまう。そうなってしまえばこれまでの旅が全て水の泡となって無意味なものになってしまう………。

 

 

アローネ「えぇ…、

 ですから私達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今動くしかありません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………それはクララさん達が禁じているのに今日作業を開始するということですか………?

 でもアインワルドが何というか………。」

 

 

 アローネの言葉の裏を読み取りタレスが諫めるかのように現況を口にする。クララが作業を中止するようにカオス達に言った以上そのことは他のアインワルドの者達にも伝わっている。だから勝手にカオス達の判断で作業を開始しようとすればアインワルド達はそれを止めようとしてくるだろう。中止の理由は雨によるトレント達の活性化だ。このユミルの森に住むアインワルド達は雨の日のトレント達の凶暴性を熟知していることだろう。話でしか聞かなかったがそれほどまでに雨天時のトレントは危険らしい。

 

 

ウインドラ「現実を直視すればアローネの言うことは正しい。

 俺達には………世界には時間がもうあまり残されていない。

 順調にいっていれば後残り十日というところで最後のレッドドラゴン討伐に挑めたものをこの大雨によってその予定が狂わされたんだ。

 この雨さえ降らなければまだ俺達には世界の存続の可能性が見えていた。

 しかしそれも十日の俺達の作業の停滞が発生してしまえば完全にその可能性が無くなってしまう。

 カイメラの時のように都合よくグリフォンが飛んでくるようなことは無さそうだ。

 よしんば数日だけでも残されていればブルカーンの地で俺やカオスが雷撃でも放って誘き寄せて倒すこともできるのだろうがその僅かな時間さえここで消えてしまいそうだ。

 何か今からでもやれることだけのことはしなくては………。」

 

 

ミシガン「一日だけでも作業をすることはできないのかな………?

 どこかの日で雨が弱まったりとかして………。」

 

 

タレス「多分それはもう無いでしょうね。」

 

 

カオス「もう無い?」

 

 

タレス「昨日クララさんに聞いてみたんですよ。

 アルターの中で暇だったもので。

 それでクララさんからラタトスクが言うにはその雨の弱まる日があるとしたら昨日だったと言われたんです。

 今日から八日間はこれからもっと雨が強くなるそうですよ。」

 

 

ミシガン「えぇー………、

 じゃあ仮に許可がとれそうな日が過ぎちゃったってこと………?」

 

 

ウインドラ「そのようだな………。」

 

 

アローネ「それでも私達はやらねばなりません。

 一日でも早くこの作業を終わらせてブルカーンの地のレッドドラゴンを………。」

 

 

ウインドラ「そうは言うがではどうするんだ?

 俺達が強硬突破して作業を開始したとすればアインワルド達から厳しいお叱りが飛んでくるぞ?

 そうなった時雨が止んでからもこれまでのように作業が続けられるとは思えん。

 最悪もっと長く中断を言い渡されることも考えられる。」

 

 

ミシガン「何それどういうこと?」

 

 

ウインドラ「もし俺達が好き勝手に作業を再開していらん負傷を負って帰ってきた時にはその怪我が治って万全な状態になるまでは作業を中断するよう命令されるかもしれんということだ。

 ………どうにもここのアインワルド達の連中は何かと理由をつけて俺達を………、

 …と言うより()()()を長く引き留めておきたいようだからな。」

 

 

カオス「!」

 

 

ミシガン「カオスを何で………?」

 

 

タレス「…この前のあの話のことですか?

 ですがあれはそんなに本気には………。」

 

 

ウインドラ「していない………とは俺も思っていたところなんだが巫女だけはその気があるようにも見える………。」

 

 

カオス「…もしかして見てたの………?

 昨日のあの………。」

 

 

ウインドラ「この村にいるとよくお前と巫女が一緒にいるところを目撃するからな。

 というか巫女にお前の行き先を聞かれたことも度々だ。」

 

 

カーヤ「あ………、

 それカーヤもある………。」

 

 

アローネ「何ですって………!?」

 

 

ミシガン「あの結婚とか恋人とかの話クララさんが本気だってこと………!?

 だって私達はまだこの村に来て一ヶ月くらいしか………。」

 

 

ウインドラ「期間を気にしてそういう関係になれないと断られるのならその期間を延ばしてその問題を解消しようとしているのかもしれない。

 一緒にいる時間が長くなれば自然とお互いに距離感が縮まってそういう関係になることもあるだろう。

 …こういう時間に追われている時でなければそれでも()()()()と思うがな。

 今は世界が優先だ。」

 

 

カオス「(………ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よかった………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「そんなことよりと先ずは作戦だ。

 アローネ、

 何か思い付いたのだろう?

 それを話してみてくれ。」

 

 

 

 

 この後アローネから聞かされる策を実行することになるのだがそれによってカオスはある一つの妙案を思い付くこととなるがそれはまだ()()()の話であった………。



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ラーゲッツのレアバード

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「これから森に向かいます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネは一言そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・タレス・ミシガン・カーヤ「「「「………」」」」

 

 

ウインドラ「おい………、

 だからそれは禁止されていると言っているだろう………。」

 

 

 森に向かうの一言でアローネがクララ達アインワルドから中断を命じられた作業を開始するのかと思う五人。

 

 

 しかしアローネは………、

 

 

アローネ「いえ、

 禁止されているのは作業ですが森に向かうことは禁じられておりません。

 ですので森に向かうだけですよ。」

 

 

タレス「?

 作業をしないのに森に向かう………?

 森に行って何をするんですか?」

 

 

 作業はしないが森には向かう、それだけではアローネが何をしたいのか分からない。タレスがアローネにそう質問すると、

 

 

アローネ「作業はしませんが私達が東のトレント達と戦っている間アインワルドの方々にしていただいていた北と西のトレント達を一ヶ所に集中させる作業、

 それをしに行きます。」

 

 

 アローネはクララが禁じた作業の内容の裏をついたかのようなことを言い出した。

 

 

ウインドラ「…それはギリギリ俺達が禁じられた作業の範疇にないか?」

 

 

ミシガン「それって普段私やアローネさん、タレス、ウインドラがやってることじゃないの?」

 

 

 アローネが言ったことはトレントの討伐作業を止められている中で考え抜いた一つの手だろう。残りは南と北西の二ヶ所に絞られそれぞれが二週間ずつ時間を必要とするなら少しでも短縮するために一つの場所にトレントを集中させる。それによってトレントが融合して生まれるアンセスターセンチュリオンがまた数を増やしそうなことにもあるだろうがそれでも一ヶ月かかる作業が幾分かは縮小できるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、それでも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「それに例えそれをするにしてもやっぱりアインワルドの許可が必要でしょう?

 この雨の中のトレント達がどれ程強くなってるのかは知りませんが黙って出ていくのは難しいですよ。

 村の前には見張りがいますし………。」

 

 

 外出するとしたら先ず出入口に向かわなければならない。そして出入口の見張りは巫女クララの許可が無ければ通してもらえない。

 

 

 アインワルド達も意地悪して通さないわけではない。森を知る民としてトレント達がどのぐらい危険な生物に化けているのかを熟知しているのだ。最近までヴェノムに感染した個体すら避けてきた者達だがそれを抜きにしてもトレント達を魔術を制限されたカオス達が相手にするのは難しいとして作業中止を命じている。ウインドラが言うにはそれだけではなさそうだが。

 

 

ミシガン「そうだよねぇ……、

 外に出るにはそれなりの理由と()()()()()()()()()()()()()()退()()()()()()って信じさせないといけないわけだし………。」

 

 

 トレントを倒す作業をするには六人が揃って行う必要がある。六人が同時に外に出ていくとなればトレント退治をしないと言っても信じてもらえないだろう。ラタトスクにはトレントが倒されればそれを感知する能力がある。嘘をついてもばれるのだ。だからこそアローネが作業をしないと言って外に出ると申告してもそれを拒否される可能性が高い。外に出るには何かカオス達が作業をしないという保証をたてなければならないのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「あ………、

 別に全員で私が言ったトレント達を誘導する作業をしにいく必要はありませんよ?

 ()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 軽い感じでアローネがそう補足した。

 

 

カオス「三人………?」

 

 

タレス「何で三人なんですか………?

 トレント達を集めてくるなら数がいた方が………。」

 

 

 ユミルの森にいるトレント達の数は多い。中央で五千、東で千あまり倒したとして残りは三千から四千はいるだろう。それをたった三人で事足りるとアローネは言う。

 

 

アローネ「…これを使います。」

 

 

カオス「これ?

 ………!

 これって………。」

 

 

アローネ「はい、

 先日に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネが懐から取り出したのはラーゲッツが持っていたウィングバッグだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「パパ………………のレアバード………?」

 

 

タレス「そのウィングバッグの中に入っているレアバードでどうするんですか?」

 

 

 おもむろにこれを使うと言うアローネだが飛行手段で何をするというのか。

 

 

アローネ「雨天時に凶暴化するトレント。

 そのトレントから逃げおおせるのはとても難しい。

 その理由の一つにはトレントの追跡が早くなる他にもう一つ私達人自身が雨の泥濘などによって走る速度と体力が大幅に下げられることが考えられます。

 逃げられるか逃げられないかなど不確かな環境に人を送るのはクララさんも直ぐに判断できないでしょう。

 それは大抵の責任ある立場の人ならそういうことを安易に許可することはあり得ません。

 

 

 しかしそれがこのレアバードならそんな心配は無用だとは思いませんか?

 これを使って飛行すれば私達のスタミナや速度などを考慮する必要もありません。

 空からトレント達を誘導すると言うのであればトレント達に捕まることもありません。

 これさえあれば確実により安全にトレント達を一ヶ所に集められるのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネの案は雨によって中断されたカオス達のトレント退治の作業を効率化するために考えに考え抜いた策なのだろう。雨で何も作業ができないのであれば二ヶ所に散らばったトレント達をせめて一ヶ所に集める。雨でその作業すら滞っていたが雨の間に一ヶ所にトレントを集めてしまえば雨が止んだ際は二週間、二週間の一ヶ月かかるとされた作業が半分の二週間、もしくは二週間と少し延長されるくらいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが一つだけ問題が発生した………。



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体に残る既視感

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「それで誰がそのレアバードを操縦するんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早速問題点が上げられた。

 

 

タレス「三人で事足りる………、

 その三人の内の一人はカーヤさんでしょう。

 では残り二人は誰ですか?」

 

 

ミシガン「ってかアローネさんの案だと二人になるんじゃないの?

 レアバードだってカーヤちゃんのとラーゲッツのとで二つしかないんだし。」

 

 

 カオス達の手元にあるレアバードは二機。一つはカーヤが始めから所持していたもの。もう一つは前回のフリンク領リスベルン山でラーゲッツから取り上げたものだ。その二つがあれば空を飛び回りトレント達を誘い出すことができる。

 

 

 だがその人員にアローネは何故か三人は必要だという。

 

 

 

 

 

 

アローネ「いえ、

 この作業に()()()()()()()()()()()()

 一人はカーヤさん、もう一人は()()()

 そしてもう一人が私か私以外でレアバードを上手に操縦できる方です。」

 

 

ミシガン「上手に操縦って………。」

 

 

タレス「ボクもアローネさんもミシガンさんもウインドラさんも皆レアバードなんて操縦したこと無いですよ?

 誰が上手かって言われれば全員腕が素人としか………。」

 

 

 レアバードはバルツィエがウインドラ達元身内の者達でさえその存在を知らなかった未知の乗り物だ。バルツィエ以外ではレアバードに乗る者などいなかったことだろう。それだと言うのにその操縦したことがない四人の中からもっとも技術が高い者を選ぶなどできるわけがないのだ。

 

 

ウインドラ「それに俺達四人の中から誰か一人を選んだとして何故そこにカオスが入るんだ?

 ウィンドブリズでのダインとお前の様子から二人乗りは出来るようだが今からレアバードを練習して乗り回せるようになれたとしても二人乗りは危険すぎないか?

 乗馬とは全くの別物だろう。」

 

 

ミシガン「カーヤちゃんの方にカオスが二人乗りさせてもらえばいいんじゃない?

 カーヤちゃんなら長年レアバード乗ってたみたいだし子供の時にお母さん連れて二人乗りできてたらしいし。」

 

 

アローネ「いいえ、

 それではもう片方のレアバードに乗る方が無理なのです。

 このレアバードは始めから()()()()()()()に作られているらしくマナがある程度高めの方にしか長時間乗りこなすことが難しいようです。」

 

 

カオス「(!

 そういえばダインがそんなこと言ってたな………。

 レアバードは操縦している人のマナを燃料に飛んでるって………。

 ………と言うと俺の役目は………。)」

 

 

タレス「カオスさんにその飛行途中で足りなくなるであろうマナを補ってもらうんですね?

 以前までやっていた洗礼の儀でアローネさんやミシガンさんがやってもらっていたように。」

 

 

アローネ「そういうことです。

 こんなカオスを部品のように扱うのは心苦しいのですがこれしか今の私には他に方法が思い付かず………。」

 

 

 そう言って表情を曇らせるアローネ。確かにそんな理由で必要とされればそういう見方もできる。だがカオスは、

 

 

カオス「いいよアローネ。

 今が大事な時ってのは分かってるからそんなことぐらいで俺は気にしたりはしないよ。

 乗馬の時もそうだったけど俺ってこういう何かに乗るのには向いてないしね。

 だから俺がそういう配置なんだろ?

 それに俺っていうかマクスウェルのマナを使うんだろ?

 それならそんなに俺に気を使うこともないよ。」

 

 

 カオスの膨大なマナの源は精霊マクスウェルが大気中から常時マナを吸収し続けて溜めているものだ。その使い道は世界を破壊するた目のものなのだろうがそれまではカオスは自由にマナを使用できる。世界の破壊を防ぐためなら例え部品扱いされようと気にしていては錐がない。

 

 

アローネ「そう言っていただければ幸いです………。」

 

 

ウインドラ「では何にしても誰がレアバードの操縦が上手いか検証してみなくてはならないな。

 巫女クララ殿に話をするにしても肝心のレアバードに誰も乗れないようではもともこもない。

 早速試し乗りから始めてみるぞ。」

 

 

タレス「誰からやります?」

 

 

ミシガン「私は………ちょっと怖いかなぁ………。

 一人でとなると………。」

 

 

カオス「先ずカーヤに後ろに乗せてもらうところから始めたら?

 急に一人で操縦するとしても感覚が掴めないだろうし。」

 

 

アローネ「それもそうですね。

 ではカーヤさんこれから一人ずつ後ろに乗せてカーヤさんが操縦するところを学ばせていただいてもいいですか?」

 

 

カーヤ「………うんいいけど。」

 

 

 それからアローネ、タレス、ミシガン、ウインドラのレアバードの乗機の講習が行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「どんな感じ?

 上手く乗れそう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「…ちょっとこれ試しに乗せてもらったんだけどさぁ………。」

 

 

カオス「うん?

 なんかあったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「なんかあった………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 じゃないわよ!!?

 何よこれ!!

 空高く飛びすぎでしょ!!?

 物凄く怖かったんですけど!?」

 

 

カオス「そ、そう………。」

 

 

 どうやらミシガンには向いてなかったようだ。

 

 

ウインドラ「うむ………、

 空中での浮遊感と風による圧迫がどうにも慣れんな………。

 これは一日二日で普通に乗りこなすには厳しいぞ。」

 

 

タレス「ボクも同意件です。

 時間があればできるでしょうけどとてもこれはそんなすぐにできそうにはありませんね………。」

 

 

 他の二人もミシガンほどではないがレアバードの操縦に難色を示す。この分ではアローネも………、

 

 

カオス「三人は難しいみたいだね………。

 カーヤやダインの乗ってるところを見たことぐらいしか無いもんね………。

 ………アローネもやっぱ無理そう?」

 

 

 四人中三人が好色が無いことからアローネも難しいと思うのは必然だろう。

 

 

 しかしアローネは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………アローネ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………何故でしょうか………。」

 

 

カオス「…どうかしたの………?」

 

 

アローネ「………不思議と………、

 このレアバードに()()()()()()()()………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()ではないような気がするのです………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「初めてじゃない………?

 前にダインに乗せてもらったからじゃないの?」

 

 

アローネ「………いいえ、

 それよりも前に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()()()()()()このレアバードと似た別の乗り物に誰かの後ろに乗せられて飛んだことがあるようなそんな()()()()私の中にあるのです………。」



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手繰れぬ記憶の箱

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ウルゴスでレアバードがあったの……!?」

 

 

アローネ「…いいえ………、

 無かったと思います………?」

 

 

 なんとも曖昧な返事をするアローネ。無いと言いながらもそれが正しいかどうか本人にも分からないようだった。

 

 

ウインドラ「どっちなんだその返答は………。

 アローネはウルゴスでレアバードを見たことが無いんだろう?」

 

 

アローネ「………」

 

 

タレス「アローネさん?」

 

 

アローネ「…分からない………。」

 

 

ミシガン「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「分かりません………。

 ()()()()()()()()()()()ではこのレアバードは登場しなかった………。

 なのにカーヤさんの後ろで乗せてもらった時の感覚がどうにも遥か昔にカーヤさんとダインさん以外の方に乗せてもらったことがあるように感じるのです………。」

 

 

カオス「……確かアローネってあのアブソリュートって箱の中に入る辺りの記憶が無かったんだよね?」

 

 

アローネ「………はい………、

 あの棺の中に入って永い時を越すという話どころかそんな技術が作られていたことさえも………。」

 

 

ウインドラ「カタスティア教皇は知っているんじゃないか?

 バルツィエは教皇から渡された資料を元に技術を得ていってるようだしな。

 ウルゴスの王族とその関係者だけの極秘プロジェクトだったとかじゃないのか?」

 

 

アローネ「どうなのでしょうか………。

 それすらも私には………。」

 

 

ミシガン「他の何かと勘違いしてるってことはない?

 あんな高くて怖い思いする乗り物なんてそうそう忘れたりしないでしょ?」

 

 

タレス「…逆に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことはあると思いますけどね。

 でも今乗れたのならそこまで怖くはなかったってことですし………。」

 

 

アローネ「(………恐怖で忘却………?)」

 

 

カオス「もし本当に怖い思いをしてそんなことになってるんだとしたら余計レアバードなんて操作しない方がいいかもね。

 残念だけどアローネ、

 レアバードでのトレント誘導する作戦は無し「一度乗せてください。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………一度だけレアバードを私に操縦させてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…本気か………?

 こんなもの温室育ちのお嬢様が操縦するものだとはとても思えんぞ?

 既視感もきっと何か別のことに感じているだけかもしれんし………。」

 

 

タレス「乗馬経験はあったみたいですけど乗馬とは比較にならない怪我をするかもしれないんですよ?

 空から落ちたらその衝撃だけで死亡することもあるんです。

 飛び降り自殺なんていう高所から落下するだけの簡単な死に方もあるぐらいですから無理はしない方が………。」

 

 

ミシガン「止めときなってアローネさん。

 その既視感の正体も自分で分からないんでしょ?

 それなのにこんな危ない乗り物を動かそうだなんて無茶だよ。」

 

 

カーヤ「そんなに危なくはないよ……?

 慣れてくれば自分の体みたいに「カーヤちゃんも説得してほしいんだけどなぁ?」」

 

 

 アローネの操縦には他の四人(三人?)から反対の声があがる。レアバードの操縦にはよくて負傷者最悪死者が出る恐れがあるからだ。ある程度の負傷ならカオスとマクスウェルの力を持ってすれば治るだろう。

 

 

 しかし前回のフリンク領では治せるレベルの負傷を治すことができなかったという例が発生している。その原因は負傷者が本気で死を望んでいた場合その負傷を治療しようと働くマナが作用しなくなるというものだった。

 

 

 その例があってカオスの治療術も万能ではないことが分かったためカオスも気軽に()()()()()()()()だとは言えない。自分にすら治せない怪我は存在するのだ。死にたいという意識に囚われている者に治療術が効かないのであれば完全に死んでしまった者にはその意識すら、心すら無くなってしまったのであれば恐らく術は効かないだろう。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()。もしそんな話があったら世界的にその技術が風化することなど無いだろう。カオスやアローネが使う死者蘇生の術とされるレイズデッドももしその話が事実だとしたらそんな人の命に関わる重要な力を持つ術が昔の文献というだけで消えることは無いはずだ。技術を失ったとしてもなんらかの伝承ぐらいには残って広く伝わっている………それすら無いのでは過去に()()()()()()()()()()()()()()からだ。精々レイズデッドは高次元の治療術程度の認識だったのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんなところか。

 

 

カオス「……アローネ……危ないんだよ?

 自分で操縦するのってカーヤやダインが操縦してるみたいに簡単そうには見えても実際には結構なスキルが「お願いしますどうしても私はレアバードに操縦してみたいのです!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カーヤさんに乗せられて私は………、

 ………私が何か重要なことを忘れている気がしてならないのです………。

 何か………アブソリュートの棺の中に入る直前に何か私やウルゴスにとって…………、

 ………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()私は忘れてしまっている気がして………、

 

 

 もしそんなものがあるのなら私はそれを思い出したい!

 思い出して私は何故自分がアブソリュートの棺に入る直前の()()()姿()()()()()()()()()()を知りたいのです!!」



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登場訓練

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」ギュッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ「「「「「………」」」」」ゴクリ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これからアローネは一人でレアバードを操縦しようとしている。先程まではカーヤの後ろに乗せてもらっていた形だったが今度はサポートなしで乗ってみるようだ。こんな短時間で操縦が上達できるとはカオス達も思えなかった。一歩間違えば大惨事だがそれでもアローネは強硬姿勢を崩さなかった。どうあってもレアバードを操縦して見せると豪語してきた。そのやる気なアローネをどう説得したものかと悩んだが最後はアローネの意思に根負けし試運転をすることとなった。

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィィィィィィィィィ…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…!」ガクンッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(!

 アローネ………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネを乗せるレアバードは少しずつ地から浮き上がり空へと上がっていく。カーヤのように素早く上昇はしないがそれでも不安定ながらもゆっくりと上へ上へと昇っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…ッ!?」グオンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ!!?」

 

 

 アローネの目線の高さがツリーハウスの木のてっぺんを越えたところで前進でもしようとしたのかレアバードは急加速する。アローネの顔はそれにともなって驚きの表情へと変わっていくのが見えた。恐らく加減が分からずに前進させてみて思った以上の速度が出てびっくりしているのだ。

 

 

 あれでは直ぐに事故が起こるだろう。案の定ブレーキをどうかければ分からないアローネは咄嗟にレアバードのハンドルを勢いよく右にきってしまう。それによって発生した遠心力に握力が足りずアローネはレアバードから振り落とされてしまうのだった。

 

 

カーヤ「……!」バッ!

 

 

 アローネが振り落とされる直前にアローネが飛んでいくであろう場所を予測してそこにカーヤが飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「キャッ…!?」

 

 

カーヤ「…」パシッ

 

 

 空中でカーヤは自分のレアバードに乗ってアローネを上手くキャッチした。大事は起こらなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「……無事のようだな。

 怪我がなくてなによりだが………。」

 

 

ミシガン「あれじゃもう一回するのは危ないんじゃない………?」

 

 

タレス「上に飛ぶのだけはできるようですが前に進むのはもっと長く練習しないと振り落とされてしまいますね。

 あの様子だと………慣れるのには時間がかかりそうです………。」

 

 

 地上から見ていた三人の感想は“直ぐにレアバードを乗りこなすのは無理”というものだった。それほど今のアローネの操縦技術が端から見て「失敗するとしたらそうなるだろうな」というものだったからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くしてカーヤは飛んでいったもう一機のレアバードを回収して戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………まぁ仕方ないよ。

 失敗なんて誰でもすることだし初心者ならこうなってもおかしくは「やはり………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………やはり私はウルゴスの時代にレアバードに乗って空を飛んだことがあるのかもしれません………。

 あの飛行感覚を私の記憶が覚えていなくとも体が覚えているようなそんな感覚がしてなりません………。」

 

 

 初飛行に失敗して落ち込んでいるのかと思いきやアローネは搭乗直前に話していたことを再度口にした。

 

 

ウインドラ「…お前が仮に乗ったことがあったとしてもそれは誰かと二人乗りでの経験なんじゃないか?

 自分で操縦したことがあったとすればそんな経験覚えていない筈がないだろう?

 空を飛ぶ経験なんてどこにいってもそう経験できることじゃない。

 普通だったら覚えていることだと思うが………。」

 

 

タレス「マテオとかでも一部の貴族とかが物好きにもモンスターを飼い慣らしてその背に乗ったりとかもありますからね。

 空を飛ぶとなると………………()()とか………。」

 

 

ミシガン「え!?

 飛竜に乗る人なんているの!?」

 

 

タレス「えぇいましたよ。

 ボクがマテオで奴隷として働いていた時に貴族の家を転々としていた時にそういう人達がいました。

 手懐けてないと噛まれたりするみたいですけどね。」

 

 

ミシガン「ほえぇぇ………、

 世の中には凄い人達がいるんだねぇ………。」

 

 

ウインドラ「お前が経験したことがあるとすればそういう世界の何かと記憶が混濁しているのかもな。

 アローネもウルゴスでは貴族だったようだしその手の世界では乗ろうと思えば乗れたんじゃないか?

 乗馬も手慣れていたし。」

 

 

アローネ「………いいえ、

 確かに私はウルゴスでレアバードに………。」

 

 

 アローネが忘れてしまった記憶を必死に思いだそうとする。だが結局忘れ他記憶を思い出すことは出来ずに、

 

 

 

 

 

 

アローネ「………もう一度………、

 もう一度お乗りしたら私はウルゴスの記憶を何か思い出せそうな………。」

 

 

カオス「まだやるの?」

 

 

 たった今大事故を起こしそうになったというのにアローネは練習を続行すると言い出す。

 

 

ウインドラ「やる気がみなぎっているのは構わんがあんな醜態を見せ付けられてはとてもお前が思い付いた策に賛成することはできんぞ。

 何かもっとより安全な策を考案した方がいいんじゃないか?」

 

 

ミシガン「そうだよアローネさん。

 どうせカーヤちゃん以外は皆レアバードの操縦は無理っぽいし他の手を考えた方がいいよ。」

 

 

アローネ「…いいえ、

 そういう訳にはいきません。

 私は絶対にこのレアバードを乗りこなして見せます。

 それは世界の存続もそうですが何よりも()()()()()()()()()()()()()()()()()()に繋がりそうな気がするのです。」

 

 

カオス・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「………」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「いいよ………、

 じゃあカーヤ………、

 アローネ………さんのこと手伝う………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!

 カーヤさん………。」

 

 

カーヤ「カーヤの他にこのレアバードに乗れる人がいるのは………カーヤも嬉しいから………。」

 

 

アローネ「……有り難うございます。」

 

 

 

 

 

 

カオス「……そうだね。

 この程度で諦めてたらせっかくアローネが世界のために考えてくれた作戦が無駄になっちゃうもんね。」

 

 

タレス「トレント達の討伐もアローネさんが立案しましたしボク達が他にいい方法を思い付かないならアローネさんの考えた作戦が今のところ最善なのは間違いないですしね。」

 

 

ミシガン「怪我するのは心配だけど失敗もし続けてたらいつかは成功に繋がるもんね。」

 

 

ウインドラ「そこまで言うのなら責任持って乗りこなせるようになれ。

 全力でも俺達もサポートはするさ。」

 

 

アローネ「………私のために皆………。」

 

 

カオス「さ?

 早く練習の続きしようよ?

 それでアローネの作戦を成功させよう!」

 

 

アローネ「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後練習の甲斐あってアローネはどうにか普通にレアバードを飛ばすことができるようになった。それでもアローネが何かウルゴスの記憶を思い出すことはなかったがこれでまた一つ今の状況から進む切っ掛けは作れたと思う。

 

 

 後はクララ達にそれを認めさせることだけなのだが………。



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取り次げた解禁

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 残り期日三十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日カオス達はクララの家へと赴いた。目的はクララにカオス、アローネ、カーヤの三人でトレント討伐作業を中断している期間中にトレント達を手早く駆除するための誘導作業の許可を得ることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………ではアンセスターセンチュリオンとトレントの討伐は行わずにトレント達の誘導だけをすると言うことでしょうか?」

 

 

カオス「はい。」

 

 

クララ「………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この()()()()()でしょうか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日になって雨は昨日よりもまた激しくなった。昨日までは垂直に降っていた雨も今日は強風に煽られて斜めに降り注いでいる。とても空を飛べるような天気ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「…この雨も風も強い中ではトレントから襲われる心配はなくとも空を飛ぶのは大変危ない行為なのではありませんか?」

 

 

 カオス達の申告には当然そういう反論が返される。雨の降る日は鳥ですら飛ぶのを避けるかどこか空の荒れていない地へと移動するだろう。そんな中を飛ぼうと言うのだからクララからは疑りの目を向けられてしまう。

 

 

アローネ「そのことは重々承知しております。

 ですが私達はこの地であまり長く時間を使えない事情があるのです。

 私達のことを気遣っての作業の中断をご判断下さったことには感謝いたしますがそれでも私達は十日もの間ここで立ち止まってはいられないのです。」

 

 

ウインドラ「これは俺達全員の総意だ。

 せめてこれだけはどうしても譲ることができない訳がある。

 …無理を通してここまで言っておいて悪いがその訳についてはできれば訊かないでほしい。

 このことだけはなるべく多くの者には広めたくはないんだ。」

 

 

クララ「………何か時間に追われる理由があるのですね………。

 そしてそれを私達には黙っていると?

 そんな話で………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『俺達が納得すると思ってるのか?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ「「「「「!!?」」」」」ビリビリ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『お前達は俺達に差し障りの無い話はするが肝心の俺の質問にはまだ答えてもらっちゃいねぇよな?

 

 

 

 

 

 

 …なぁ()()()よぉ………。

 そのお前の中のそいつは何がしたくてマナを集めているんだ?

 それだけあれば大陸どころかこのデリス=カーラーンすら消し飛ばしかねない力を発揮する量のマナがあるよなぁ………?

 ………つまり………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういうことなのかな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ッ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラタトスクのその問いには答えることは許されない。ここで真実を告げてしまえばカオス達が今まで築き上げてきたダレイオスの勢力が全て反旗を翻しカオス達を敵と認定することだろう。カオスの中の精霊マクスウェルは()()()()()に強い拘りを持つ。その流れを止めてしまう恐れがあるヴェノムの存在を赦すことができない。ヴェノムがこれ以上世界の生態系を脅かす程に進化を遂げてしまえばやがて世界中はヴェノムに埋め尽くされてしまう。そうなった時世界は完全にその生命の移り変わる流れが止まってしまう。命から命へと受け渡されるバトンはヴェノムによって途絶える。そんな世界は悠久の時を生きる精霊にとってはとても容認しがたいものらしい………。

 

 

 しかしここまで問い詰めてくるということはラタトスクはカオス達が答えずとも察しているのだろう。そのことをラタトスクからクララ、アインワルド、その他の部族に触れ回られては結果は同じだ。ここはなんとかごまかすべきか素直に白状してしまうかの二択しかないのだが………、

 

 

 

 

 

 

クララ「………カオス様方がお急ぎになられる原因は大体分かりました。

 何やら大変な場面になっておられるようですね。」

 

 

カオス「え、えぇまぁ………。」

 

 

クララ「……それを黙秘していてそれでヴェノムの主討伐に挑んでいるということはそれが達成されればその抱えておられる問題は解決するのですか?」

 

 

ウインドラ「…一応はそういうことで話はついている………。

 俺達が定められたタイムリミットまでにダレイオスのヴェノムの数を減らしたことが認められればサイアクノ事態だけは回避できるんだ。

 だから俺達はどうしてもここでの作業を急ぎたい。」

 

 

ラタトスク『はぁ~ん?

 道理でお前達が休む間もなくトレントを狩りに出かけるわけだ。

 マテオのバルツィエ達もここまではとくに攻め込んでは来ないから何を焦っているのかと思えば………。』

 

 

クララ「そのタイムリミットとやらには間に合うのですか?

 もし間に合わなければその時は………?」

 

 

ミシガン「今のところはここでかけている時間が本当にギリギリなの。

 他のヴェノムの主達は結構早いペースで倒してきたからそれで大分余裕はあったんだけどここのトレントとアンセスターセンチュリオンが凄くヤバくて………。」

 

 

タレス「最後のレッドドラゴンは多分遭遇さえしてしまえばその日の内に倒せると思います。

 ヴェノムの主のカイメラが複数のギガントモンスターの形態に変身する怪物でその変身の手札の中にレッドドラゴンがいました。

 だからレッドドラゴンが主であればどうにか倒せるんです。」

 

 

カオス「ここが………、

 ここのトレント達とアンセスターセンチュリオンが今俺達が早くに倒せるかどうかでその期限が間に合うかの瀬戸際なんです………。

 ………俺達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対にここで時間をかけすぎちゃいけないんです………。

 そうしないと世界中の皆が………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………分かりました………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「…本当はこんな荒れた天気の中人を送り出したくはないのですが時は一刻を争うようですね………。

 

 

 ………いいでしょう。

 このことは私とラタトスクだけの話にしておきます。

 ミーア族の遣いの者から伝えられなかったということは他の誰にも貴殿方が背負っている責務については話をしていないのですね?」

 

 

アローネ「は、はい………、

 このようなことは迂闊に人には話せないので………。」

 

 

クララ「それもそうでしょうね。

 誰だって世界が想像だにしない危機が迫っていたとなればどのような混乱が起こるかは目に見えています。

 自棄になって暴徒と化す者さえ出てくるでしょう………。

 そうなってしまえば貴殿方が果たそうとしているダレイオス復興やその世界の窮地すらも守れなくなるやもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特別に許可しましょう。

 貴殿方の外出を特例として認めます。」



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各々のすべきこと

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…ではカーヤさんには北西のトレント達をこのポイントまで引き連れてきてもらえますか?

 私とカオスは南の方面を担当し同じくこのポイントまで連れてきます。」

 

 

 アローネはカーヤに地図で七日後目処を立てていた場所を指定してその付近へとトレントを誘き寄せるよう命じる。その場所はやや北西側よりで見晴らしのよさそうな丘のようだ。その近辺にトレント達が集まってくれば雨が上がった時にいつもの作業を始められそうな立地ではあった。

 

 

 ちなみに北西と南では北と西が合流した北西側のトレントの方が数が多い。何故そちらの方にカーヤが向かってカオスとアローネがトレントの数が少ない南側に向かうことになったのかはレアバードを操縦できる二人の技術の練度によって決められた。アローネはまだレアバードに乗れるようになって日が浅すぎる。悪天候で空を飛ぶこともあって何か事故が起こった時に不時着してトレント達に囲まれた際は逃げおおせる確率が高いのは南側の方だ。カーヤの操縦技術についてはこの雨が降りしきる中でも問題なく飛べると自信を持って言ってきたためカーヤには危険だが北西側を担当してもらうことになった。

 

 

ミシガン「それじゃあ三人とも頑張ってね。」

 

 

タレス「もう早速三人でそれぞれの部所に向かうんですか?」

 

 

アローネ「いえ、

 今回は一度三人でトレント達を連れていく場所に向かうつもりです。

 森は広く同じ地形が続きますからもし方向感覚を見失えばトレント達をどこへ導けばよいのか分からなくなるので先にこのポイントでカオスにはあの岩壁を建てていただきます。」

 

 

カオス「なるほど………、

 今日するのは砦作りとトレントの誘導なんだね?」

 

 

アローネ「はい。

 空からその砦が一目できれば私もカーヤさんもその砦を中心にして動くことができます。

 ある程度の方角とお互いの位置が確認できれば切り上げるタイミングも指示できますからね。」

 

 

カオス「今日はどのぐらい続ける予定?」

 

 

アローネ「一先ずは………夜にならない内に戻ることにしておきましょう。

 雨も降っておりますし長いし過ぎると疲労して思わぬミスが発生することも考えられるので。

 ………本当は今日でトレント達をポイントに集めきれればよいのですけど………。」

 

 

カオス「…そうだね………。

 トレント達を上手く集めてこれたらいいね。」

 

 

 現状カオス達にできるのはトレント達を集めることだけだ。トレントを倒す作業は七日後まで待たなければならない。雨が止むのは七日後でそこから一気にトレントとアンセスターセンチュリオンを倒すことができればカオス達は直ぐにブルカーンの地方へと向かわねばならない。そうしなければ世界がどう転ぶか分からないのだ。ここでこの作戦が成功しなければ世界の命運は尽きたと言ってもいい状況なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「カオス。」

 

 

カオス「ん?

 どうしたの?」

 

 

 これからアローネ、カーヤと飛び立とうとした瞬間にウインドラが声をかけてきた。

 

 

ウインドラ「…すまないな………。

 俺達も何かできることがあればいいんだが残念ながら俺達にはここでお前達の帰りを待つことしかできないようだ………。」

 

 

カオス「………仕方ないよ。

 俺だってこんなことになるとは思わなかったしこんな雨が降るなんて誰も予想することなんてできなかっただろ。」

 

 

ウインドラ「それはそうなんだが………。」

 

 

カオス「それに俺達が今日やることはそんなに大したことじゃないだろ。

 そんなに気にすることでもないさ。」

 

 

ウインドラ「………いいや、

 やはり俺達も今できることをすべきだと思うんだ。

 お前達だけが世界を守るために活動して俺達だけ何もしないわけにはいかない。

 俺達にも今できることをやらせてくれ。」

 

 

カオス「ウインドラ達にできること………?」

 

 

ウインドラ「あぁ………、

 ………お前がウィンドブリズが修得した共鳴(リンク)………、

 

 

 あれを修得したときにダイン=セゼア・バルツィエから指導された修業法………それを教えてくれ。」

 

 

カオス「え……!?」

 

 

ウインドラ「ここでお前達の帰りを待つ間にあれを俺とミシガン、タレスの三人で修得しておきたい。

 あの技術を使うことができれば今後の戦術も大幅に向上できると思うんだ。」

 

 

カオス「でもあれはバルツィエの技術で………。」

 

 

ウインドラ「バルツィエであっても()()()()()だ。

 バルツィエにだけできて俺達にできない道理はない。

 バルツィエの技術とされてきた魔神剣をブラム隊長、飛葉翻歩をオサムロウが修得できていただろう?

 それなら共鳴だって俺達も修得できるはずだ。

 共鳴を知ってからも常に忙しさに追われて修得する機会がなかったがこれはいい機会なのかもしれない。

 

 

 頼む、

 教えてくれ。

 俺達も何かやっていないと落ち着かないんだ。」

 

 

カオス「………」

 

 

 ウインドラはウインドラなりに何かできることを模索していたようだ。これからやる仕事には自分とアローネ、カーヤの三人で挑む。そしたら他の三人は変わらずアルターで待機することになる。それでは気分的に優れないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………分かったよ。

 俺がダインから教わったやり方だけどそれでいいなら。」

 

 

ウインドラ「!

 恩に着るカオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森に向かう前に一通りウィンドブリズでの修業法をウインドラに教えた。後でタレスとミシガンにもそれを伝えるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてカオス、アローネ、カーヤの三人は森へと飛んでいった………。



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カーヤの変化

ユミルの森 丘 残り期日三十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『グランドダッシャー!!!』」ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 指定していたポイントでカオスは雨明けに作業を開始できるように岩の砦を建造する。

 

 

アローネ「いつ見ても壮観ですね………。

 これほどの頑丈な壁を一瞬にして作り上げてしまうとは………。」

 

 

 カオスにとってはこんなものを作るのは手足を軽く動かすようなものだ。精霊マクスウェルが憑依してマナを吸収し続けていることもあってマナは有り余るほどある。だから実際カオスにとってはこの岩壁を作り上げるのに使う労力は()()()()()()()である。

 

 

カーヤ「…前から気になってたけど………その魔術ってカーヤ、カオスさん達以外が使ってるのを見たことがない………。

 それってマテオとかでは普通に皆できる術なの………?」

 

 

 カオスが使った地の上位魔術グランドダッシャーを見てカーヤがそんな質問をしてきた。

 

 

カオス「これ?

 この術はタレスが編み出した術なんだよ。

 俺はそれを見よう見まねで使ってるだけなんだ。」

 

 

 二ヶ月と少し前まではカオスは魔術を使うことさえ畏怖していたが過去に囚われていた自分を見つめ直しそれを克服した。それによって今ではどんな魔術でも自由に使用することができるようになった。呪文と魔術の名称さえ知ることができればそれを即座に使えるのだ。常人であれば適性などによって使える属性が限られているがマクスウェルが憑依していることもあってカオスには適性という概念がない。基本六属性全てに適性があるという状態だ。

 

 

アローネ「私とタレス、ミシガン、ウインドラ………それからレイディーという女性がいるのですがその四人はあることを切っ掛けに一つの属性に完全耐性が付与されたのとその一つの属性の術しか使用することができなくなっているのです。

 ですがその一つの属性の強力な力を受けると一時的に潜在的な能力が上昇します。

 その際に私達は今カオスが使用したような世間では知られていない未知の魔術が記憶として流れ込んでくるようです。

 私達の術もそうやって修得することができました。」

 

 

カオス「今俺達が使える術はミシガンが水の魔術でスプレッドとタイダルウェブ、タレスが地の魔術でロックブレイクとグランドダッシャー、ウインドラが雷の術でサンダーブレードとインディグネイションって技が使えて………。」

 

 

カーヤ「………?

 アローネさんは………?」

 

 

アローネ「…私は………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………私はまだ新たな術は使えませんよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………あれ?

 そうだっけ………?

 アローネもなんか使えるようになってなかったっけ?」

 

 

アローネ「私の術は今のところ()()()()()()だけです。

 カイメラ戦では私だけカオスから強くしてもらっておりません。

 ですからカオスは私にも早く皆と同じように………。」

 

 

カオス「………ああぁ―………、

 そういえばそうだったかも。

 あの時はカイメラとの戦いに夢中で気付かなかったし皆も一ヶ月ぶりに会ってから大分強くなってたからてっきりアローネももう強くしてるもんだと思ってたよ。

 ごめん。」

 

 

アローネ「いえ、

 私も深くは気にはしていませんでしたので…。」

 

 

カオス「…それでどうしよっか………?

 今ここでする?」

 

 

アローネ「はい………、

 

 

 ………と言いたいところなのですけど今は止めておきましょう。」

 

 

 アローネはカオスの提案を断った。自ら言い出したことだというのにどうしたのだろうか。

 

 

カオス「え?

 何で?」

 

 

アローネ「今は風が強いですしこのような天候でカオスの術を使えば余計に天気が荒れそうだからです。

 それで雨が長引きでもすれば更に私達の果たさなければならない仕事が滞りでもすればことですから………。」

 

 

カオス「そういうもんかなぁ………?

 逆にこの雨を魔術で吹き飛ばせそうなもんだと思うけど………。」

 

 

アローネ「カオス………、

 貴方の使う魔術は世界中に影響を及ぼしかねないとをお忘れですか?

 仮に今はそれで雨を吹き飛ばすことができたとしても気圧の変動で次の雨がその分早まることも考えられます。

 この雨が上がったとしてもまだ最低二週間は今の仕事が続くのです。

 安易に天候を左右させるようなことは慎みましょうか。」

 

 

カオス「って言われると俺はアローネを強くしてあげられるの?」

 

 

アローネ「ここでのヴェノムの主討伐が天候に影響を与えてはいけないだけでここでの目的が果たせた時はお願いします。」

 

 

カオス「あぁそうかそうなるよね。

 分かった。

 じゃあその時はやってあげるね。」

 

 

アローネ「はい宜しくお願いします。

 ………フフッ。」

 

 

 カオスとヴェノムの主を討伐し終えたタイミングでウィンドブリズでウインドラ達を強くしたあの手法をアローネに施す約束を取り付け彼女は静かに微笑んだ。アローネはあの時からずっとそのことを待地続けていたのだろう。しかし中々それを言う機会が巡ってこなかったこともあって言い出せずにいた。

 

 

カオス「(本当だったら俺が真っ先に気付いてあげなきゃいけなかったことだよなぁ………。

 俺が元々人に魔術を撃つことを躊躇っていたからアローネも言えなかったんだな………。)」

 

 

 魔術で誰かを攻撃することに抵抗があったカオスはオサムロウから言われてダインとの修行と祖父との再開で乗り越えることができた。乗り越えるまでの過程で仲間達には随分と迷惑をかけてしまった。そのかけ続けてきた迷惑分はタレス達には少しは返せたとは思うがアローネにはまだ返せていない。

 

 

カオス「(ここでの子とが終わったら直ぐにアローネに………)「……それってカーヤにはできないの………?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………多分今カーヤはアローネさん達と同じ体になってるんじゃないの………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「「え?」」

 

 

カーヤ「…カーヤもカオスさん達の何か役に立ちたい………。

 それにはカーヤもカオスさんみたいな強い力が欲しい………。」

 

 

 カオスとアローネの話を聞いてカーヤがそう言い出す。

 

 

 

カオス「ええっと………カーヤはアローネ達とは違うって言うかその………。「………言われてみればできるかもしれませんね………。」え……?」

 

 

アローネ「この前ビズリーさんとダズさんにカオスが洗礼の儀を行ってから彼等がこれまで洗礼の儀を行った方々と様子が違っていました。

 それまでの方々は洗礼の儀の後で使用できていた魔術が使用できなくなると言うことはありませんでしたが彼等は私達と同様一つの属性の術しか使えなくなっていました。

 

 

 私の仮説ですが今のカオスが行う洗礼の儀は今まで人に与えていた力の性質が変化しているのではないかと思われます。」

 

 

カオス「俺がかける術が変わったってこと………?」

 

 

アローネ「えぇ、

 そうとしか考えられません。」

 

 

カオス「……どうしてだろう………?

 特に今まで通りにしてきたつもりなんだけどなぁ………。」

 

 

アローネ「何故そうなったのかは思い当たるすれば………残り百日を告げてきたマクスウェルが関係しているのではないかと………。」

 

 

カオス「マクスウェルが?」

 

 

アローネ「………普段はラタトスクのように表には出てこない彼ですが彼が指定した日の残り百日でカオスとダインさんに語りかけてきたのですよね?

 

 

 それはただ残りの時間をカオスに教えるためだけに出てきたのではなくカオスの中で彼がカオスの力を進化させているのではないでしょうか?」

 

 

カオス「力が進化………?」

 

 

アローネ「彼は私達に自らの力の一部を与えました。

 彼によって与えられた力はカオス自身が誰かに与える力と比べると欠点はあるものの魔力の幅に関しては大きく上昇しました。

 

 

 攻撃の一点においては私達はバルツィエすら超越しているのです。」

 

 

カオス「それは………セレンシーアインでもミシガンがランドールを圧倒してたしね………。」

 

 

アローネ「……カオスの術の性質の変化はマクスウェルが私達に急ぐように促しているのではないかと思います。

 マクスウェルは今の私達の成果に不満があり世界を破壊する方向で考えていてそうしたくなく前に不用意に与えてはならない力と言いながらもその禁を自身で解きカオスを通して他の人々に分け与えるという形で………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 端的に言うのなら今ならカオスが望めば私達と同じ力を持つ人々を数多く増やすことができます。

 期限に追われてはいますがカオスの術の性質の変化はダレイオスの人々の戦力を増強するのに貢献するわけです。

 この話が事実であった場合アンセスターセンチュリオンとトレント達をアインワルドの方々と共に倒してしまうこともできるはずです。」



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関係の遠さ

ユミルの森 丘 残り期日三十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………そうなったら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうなるのかな………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「分かりませんか?

 ここでアインワルド族の方々が私達と同じ力を得られらばこの森での仕事はもっと早くに終わることもできるということです。

 ビズリーさん達のその後の経過からしてアインワルド族が強化される力は地属性………。

 地属性であるのならトレントを相手にするには不向きの属性ではありますがこれまでのように全く攻撃が効かないということはないのです。

 それならばアインワルド族が私達の戦列に加わっていただければここで消費してしまう時間はもっと抑えられるのです。」

 

 

カオス「!

 アインワルド族の人達にもトレント退治を頼むの?」

 

 

アローネ「そうするしか今の切り詰められた時間に圧迫される私達がどうそこから余裕を作るか考えに考え抜いた末に出した結論です。

 私達にはもう時間がさほど残されておりません。

 

 

 貴方の力が変化したのもそういうことなのではないのでしょうか………?」

 

 

カオス「………」

 

 

 いつ頃変化したかははっきりしないがヴェノムの力を失ったカーヤでさえもトレントに攻撃が有効だということは変化した時期はカイメラ戦直前だろう。あの時辺りからカオスの術の性質が変化した。あのダインと修行の最後の日に………、

 

 

 しかしカオスは迷う。世界の命運がかかっているとはいえ他人の人生をそんな気軽に変えてしまってもいいのか?ヴェノムによる災害で死亡してしまう恐れは無くなるがカオスが力を与えることによって今度はその力が原因で命を落としてしまう危険性が出てくるのではないか?これまでとは性質が変わってしまったのならそんな安易に力を付与することは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビズリー『カオス様達だけではトレント退治は骨が折れるようだからな。

 俺達もトレント退治を手伝うんだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 数日前ビズリー達は自分達にできることを探していた。丁度それは今アローネが言った内容と同じことだ。ビズリー達もこちらが言えば喜んで仕事を手伝ってくれるだろう。彼等にこのことを提案すれば確実にこの提案を呑む。それだったらここで自分が余計なことは考えなくても良いのではないか?どうせ自分はそういった先のことを考えるのは得意ではない。下手なことを思い込んだらミシガンやウインドラ達と同じすれ違いを起こしてしまう………それだったら………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………そうだね。

 本人達がそれを受け入れてくれたらやってみようか。

 アローネが考えることで間違ってたことなんてそうそう無いもんね。」

 

 

アローネ「そう評価されるのは嬉しいですがなんとも気恥ずかしいですね………。」

 

 

カオス「いや………、

 アローネが言うことはいつも正しかった………。

 アローネはいつだって世界と……皆を見てるから………。」

 

 

アローネ「そんなことは………ないですけど………。」

 

 

カオス「………そうだよね………。

 俺達はこの世界を守らなくちゃいけないんだ………。

 この世界をどうやって守らなくちゃいけないかも考えないといけないんだ………。

 世界を守ってその先のことだってあるのに………。」

 

 

アローネ「………はい、

 世界を存続させてバルツィエを倒し私達はその先の未来を見据えていかねばなりません。

 ヴェノムとバルツィエの問題が解決できれば世界はより良い世界になるでしょう。」

 

 

カオス「そうなったらウルゴスの人達を探しだしてあげないとね。」

 

 

アローネ「えぇ、

 ()()()()()()()の三人で見つけ出しましょう。

 私もお父様やお母様、それから義兄様やメルクリウスに早くお会いしたいです。」

 

 

カオス「………うん、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「カーヤのことは………?」

 

 

アローネ「はい?」

 

 

カーヤ「カーヤは全てが終わったらどこに行けばいいの………?

 カーヤは誰と一緒にいられるの………?」

 

 

カオス「………カーヤは勿論「私達と一緒にいられますよ。」」

 

 

アローネ「カーヤは私達の大事な仲間です。

 カーヤの居場所は私達のところですよ。

 貴女のことは決して見捨てたりはしません。

 カーヤも全てが終わったら私と一緒にカーラーン教会へと行きませんか?」

 

 

カーヤ「カーラーン教会………?」

 

 

カオス「カーラーン教会は俺達の知り合いでカタスティアって人がいて俺達のことを助けてくれた人がいるんだ。

 その人のところに行けば俺達のことを快く迎え入れてくれるよ。」

 

 

カーヤ「…そうですね。

 タレスはバルツィエとの決着がついた後はアイネフーレを立て直すと仰ってましたしミシガンとウインドラは………ミストへと戻られるようですし私とカオスとカーヤさんは一緒にカーラーン教会へと行きましょう。」

 

 

カーヤ「………カーラーン教会ってどんなところ………?」

 

 

アローネ「カーラーン教会は主に慈善活動を主軸に色々なことをなさってますよ。

 人の住みやすいように街を綺麗にしたり身寄りのない子供達を引き取ってお世話をしたりなど。」

 

 

カーヤ「身寄りのない………?

 カーヤみたいな子達が沢山………?」

 

 

アローネ「カーヤさんには私達がいますよ。

 ………とは言うものの私達も家族が今はおりませんけどね。

 …でも私にはその家族を探さないといけない使命があります。

 できればカーヤさんも私と一緒に………。」

 

 

カーヤ「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………うん分かった探すよ。

 カーヤと一緒にいてくれるならカーヤ何だってするよ。」

 

 

アローネ「!

 有難うございます!

 カーヤさん貴女がいてくださると本当に助かります!」

 

 

カーヤ「………カーヤがいてもいいのならカーヤも手伝うよ。」

 

 

アローネ「カーヤさん………。」

 

 

カーヤ「カーヤでいいよ………。

 さん付けされるのは何だか変な感じがするから………。」

 

 

アローネ「…ではカーヤ、

 お願いしますね。

 これからもずっと一緒ですよ。」

 

 

カーヤ「うん………。

 一緒………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰にだって大切な人がいてその人との何不自由ない日々を過ごせたらそれが幸せなんだって思う………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネにとってはまだ見付かっていない家族やウルゴスの同胞達が大切な人達だってことは分かっている………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネにとって俺はただの………。



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人の祖先

ユミルの森 丘 残り期日三十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアアアアアアア………!!!

 

 

アローネ「では参りましょう。」

 

 

カオス「う、うん。」

 

 

 カオスとアローネはラーゲッツのレアバードに乗り飛び立つ準備を始める。

 

 

カーヤ「カーヤはあっちの方を飛び回るだけでいいの?」

 

 

アローネ「はい、

 トレント達の頭上ギリギリを飛んでトレント達をこの場の近くにまで引き寄せてください。

 戦闘は禁止されているので今回は()()()()ことに専念するだけです。」

 

 

カーヤ「うん、

 分かった。」グッ…

 

 

フィィィンッ!!

 

 

 カーヤがレアバードを起動させ空へと飛び立っていく。

 

 

アローネ「…私達も参りましょう。」

 

 

カオス「うん、

 いつまでも雨の中で飛び回ってたくないもんね。

 さっさと終わらせてアルターに戻ろう。」

 

 

アローネ「えぇ、

 それでは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行きますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインワルド族の住む村アルター

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「では共鳴(リンク)の修行をしようか。」

 

 

 ウインドラはミシガンとタレスを集めてカオス達がユミルの森に行っている間に共鳴を修得するための修行を開始しようとしていた。

 

 

ミシガン「共鳴かぁ………。

 私達にできるのかなぁ………?」

 

 

タレス「お手本となる人がいないのにボク達だけでやって意味があるんですか?」

 

 

ウインドラ「意味か………、

 意味があるかどうかは分からん。

 だがここでカオス達だけに働かせて俺達はのんびりと何もせずに待っているだけでいいのか?」

 

 

ミシガン「そう言われると………。」

 

 

タレス「いい訳ではないですけど………。」

 

 

ウインドラ「…元はバルツィエが………人が編み出した技術だ。

 バルツィエは生まれながらにして()()に溢れた連中だが俺達には精霊から与えられた力がある。

 バルツィエと俺達の魔力にそう差は無いだろう。

 ミシガンもセレンシーアインではランドールに押し勝ったんだ。

 それなら俺達の力はバルツィエよりも上なんだ。」

 

 

ミシガン「うん………まぁまたあのランドールが相手なら私は負けるつもりはないけど………。」

 

 

タレス「ボクは誰が相手でも負けたりはしません。」

 

 

ウインドラ「その意気だ。

 奴等は強い。

 が、俺達は奴等の自慢する力を超える魔力を持っている。

 今のところは奴等には俺達の弱点は知られていないから奴等は確実に各々得意とする属性の攻撃を使ってくるだろう。

 そうなったら後はただの力比べだ。」

 

 

タレス・ミシガン「「………」」

 

 

ウインドラ「想像できたか?

 俺達はウィンドブリズでカオスに力を上げてもらったこともあってまた更にバルツィエとの差を引き離している。

 そんな俺達がバルツィエの技術くらい使えなくてどうする?」

 

 

タレス「!

 ……そう………ですね………。

 あんな奴等に………ボク達が劣るはずがないんです………。

 あいつらにできるならボク達にだって………。」

 

 

ミシガン「私だってカオス達に置いていかれてばかりいられない………。

 私も共鳴を覚えてカオスに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「何やら面白そうな話をしておりますね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス・ミシガン・ウインドラ「「「!」」」

 

 

 これから共鳴の修行を始めようとしているとクララがウインドラ達の元へとやって来た。

 

 

クララ「なるほど………、

 共鳴ですか。

 あの技術を身に付けようと言うのですね。」

 

 

ウインドラ「ん?

 知っているのか?」

 

 

クララ「えぇ、

 知っておりますよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()ですよね?」パァァ…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス・ミシガン・ウインドラ「「「!!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さも共鳴を既知かのようにクララは魔術で左手に炎を、右手に氷を発生させそれを()()()()()()。炎の中にうっすらと氷が見える。その様子から氷が炎の温度で溶けることも炎が氷によって消えることもないようだ。

 

 

ウインドラ「そ、それは………!?」

 

 

ミシガン「嘘………!?

 クララさんが共鳴を………!?」

 

 

タレス「…氷と炎が………干渉せずに共存してる………。」

 

 

 基本六元素の六つの属性は三組の相反する属性がある。その相反する属性同士が接触すれば互いに互いを打ち消し会うように消えてしまう。その常識が今目の前で覆されている。

 

 

クララ「そしてここから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『レイジングミスト』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララが炎と氷のオブジェを()()()()()()そこから半径数十メートルに渡って空気をも焼き付かす高温の水蒸気が立ち込める。その中にはタレス、ミシガン、ウインドラもいたが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス・ミシガン・ウインドラ「「「………!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララの放った術の範囲にいたのに三人はその術の影響を受けなかった。

 

 

ウインドラ「……間違いない。

 これはカオスやカーヤが使っている共鳴だ………。」

 

 

タレス「でも何で共鳴をクララさんが使えるんですか………?」

 

 

 ウインドラ達が知っている情報では共鳴を使うのはバルツィエ達だけだ。だというのにバルツィエですらないアインワルド族のクララが何故………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『この技術は俺が教えた。』

 

 

 瞬間的にクララの人格がラタトスクへと交代され彼がクララの代わりに答えた。

 

 

ウインドラ「教えた………?

 精霊が共鳴のことを知っていたのか………?」

 

 

ラタトスク『お前達は俺のことをまだ理解してないようだな。

 俺がお前達エルフの何千倍生きていると思ってるんだ?

 俺は古代のカーラーン大戦にだっていたんだぜ?

 それどころかそんな大戦よりも遥か前、

 この世界に初めて生命が誕生した時から世界樹を守り続けて来たんだ。

 お前達エルフの小手先の技術で俺が知らないことなんて殆ど無いんだよ。

 

 

 っつーかこの技術は俺達精霊がお前達()()()()()の中に入り込む際に使ってるものだ。

 我が物顔でエルフの専売特許にしてんじゃねぇ。』

 

 

タレス「有機生命体の中に入り込む………?」

 

 

ラタトスク『精霊はお前達人の言葉で言うなら物質でも非物質でもない。

 

 

 ()()()だ。

 物理的には触れねぇがお前達はマナを介してなら精霊に触ることができる。

 マナを介してのやり取りだから触っている感触は感じにくいだろうがな。』

 

 

ミシガン「私達って精霊にマナ伝いに触ることができるの………?」

 

 

ラタトスク『俺達が誰か人の体の中に入り込んでなきゃな。

 触ることぐらいならできるぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんせ元々お前達全ての()()()()()()()()()なんだからよ。』



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宇宙の起源

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「生命体の起源が精霊………?」

 

 

ラタトスク『そうさ、

 お前達生き物全ては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

タレス「精霊が生き物になったって言うんですか………?」

 

 

ラタトスク『そうだ。

 お前達の言葉で言い表すなら()………マナが意思を持つようになりやがて器という肉体を手にいれた。

 そうしてその肉体が長い時間様々な過程を辿りお前達は()()()()()。』

 

 

ミシガン「何それ………そんな話聞いたことがないよ………。」

 

 

 ラタトスク曰く生物の祖先は精霊でその精霊が進化を遂げて今を生きる生命になったと言う。

 

 

 しかしそれでは、

 

 

ウインドラ「急にそんな話をされても信じられんな………。

 この星の全ての生命が始めは精霊だった………?

 だが俺達はお前を含めて二体の精霊を知っているがお前達の力はこの星のどの生命体をも凌駕している。

 それどころかお前達精霊の足元にも及ばない生き物達ばかりだ。

 この星の生命が最初は精霊だったと言うなら()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 精霊とその他の生命体では圧倒的に力の差が歴然である。カオスに憑依した精霊マクスウェルはその気になればこのデリス=カーラーンを消滅させる力を持っている。そしてラタトスクはそれに届かないにしてもカオス達を畏怖させる程の力はあった。恐らく単体で国と戦える程の力は有しているだろう。

 

 

 それに比べてこの星の生命体は一つ一つの種がそこまで強い影響力を持ってはいない。この星でもっとも強いとされる生物はレッドドラゴンだが過去にそれが人の手によって倒された事例はいくつかある。一対一の勝敗ではなく一対多数の戦いではあったが最強の生物とされるレッドドラゴンも人が集まればそれを倒せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永きに渡ってその存在が幻とされてきた精霊の力はそれを単体の生物の力と置き換えても人やその他の生物が束になってかかったとして勝てるものではない。次元が違いすぎる存在それが精霊だ。そんな精霊が世界中の生物達の起源とは一体………?

 

 

ウインドラ「俺達生物は長い時間をかけて少しずつ種を進化させて今日まで存続してきた。

 その過程では必要な生物としての能力を高めたりや必要のない機能を退化させてきたりもした。

 ………もし俺達の祖先が本当に精霊だったと言うのならこの星の生命体は皆揃ってその強さを捨てたことにならないか?」

 

 

タレス「それだけじゃありませんよ………。

 マクスウェルやラタトスクは少なくともこの星が誕生した時から存在してるんですよね?

 と言うことは貴方達精霊の寿命は全生命体………、

 プロトゾーンすら超える程の寿命があるかもしくは寿命自体が存在しないことになる………。

 強さと寿命の両方が貴方達精霊に敵う生命体はいません。

 それどころか完全に退化の一途を辿ってるじゃないですか。」

 

 

ミシガン「どうして私達は精霊から生き物になってこんなにも脆弱な種族になっちゃったの?

 貴方達精霊みたいに()()な能力があれば争いなんて絶対に起こったりは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『()()()()()()()()()()()。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「終わりを欲した………?」

 

 

ラタトスク『精霊はお前達の考える通り終わりは存在しない。

 精霊という種である限り俺達には未来永劫終わりは訪れない。

 

 

 

 

 

 

 永遠に………、

 永遠に俺達はこの世界に()()()()()()()()移ろい変わる世界をただ傍観者として眺めているだけしかできなかった。

 それを受け入れた精霊と()()()()()()()()()()()()()()()

 その受け入れられなかった精霊達がお前達の祖先だ。』

 

 

ミシガン「何それ………精霊が死にたかったって言うの?

 ………物好きだね。

 死ぬことになんて何の意味もないのに………。」

 

 

タレス「死んだらそれでお仕舞いですよ。

 ボク達の祖先達は理解しがたい価値観を持っていたようですね。」

 

 

ラタトスク『………そう思うのはお前達が“死”という概念を持ち合わせているからだ。

 この星ができた頃にいた精霊達には死が無かった。

 それだけの違いだ。

 知性を持つと皆自分に無いものを欲しくなる。

 それが死だった。

 

 

 だから願い続けた。

 自分達のただそこに在るだけの無意味な存在から解放されて()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 その願いが実ってこの星の精霊達は()を手にいれた。

 自分達で何もかも自由にできる体をな。

 あいつらは自由を手にしたんだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス・ミシガン・ウインドラ「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『………ちなみにこの話はこの星に限った話じゃないがな。

 ()()()()()の存在がそれらと同じ原理で誕生している。』

 

 

ミシガン「は………?」

 

 

 突拍子もなくスケールが宇宙にまで発展してしまった。生命の祖先が精霊という話から急に宇宙について語りだした。

 

 

ラタトスク『俺はこの星で生まれた精霊だが俺を生み出した世界樹カーラーンも精霊と同じ様に無から有に具現化して生まれた。

 それがまた時間を経過させて少しずつ空気の層を張りカーラーンが地を作り出して………、

 

 

 この星デリス=カーラーンが誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それよりも遥か昔………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このデリス=カーラーンもその星の一部だった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その星は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()………。

 星々のそれぞれの()()()は全てがその惑星が砕け散った時に放たれたマナから生まれてきたんだよ………。

 星も………俺達精霊もな………。』



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終わり無き者達の望み

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………最古の大惑星………?

 ………そんな星がこのデリス=カーラーンが誕生するよりも以前に存在してデリス=カーラーンもその一部だった………?」

 

 

ラタトスク『あぁそうだ。

 このデリス=カーラーンはその最古の大惑星の()()()()()から生まれた。

 宇宙に点在する他の星達も同様だ。

 最古の大惑星が砕け散った後の塵片のマナがそれから世界樹となって星を創ったんだ。』

 

 

タレス「どうしてそんな星があったことが分かるんですか………?

 そんな話はマテオでもダレイオスでも聞いたことが無いですよ?」

 

 

 ラタトスクが言う最古の大惑星の存在はラタトスク以外は誰も知らない。そんな星があったという説すら誰も推察できるはずがない。この星に生まれた生命はこの星の誕生以前の歴史を知ることなどできないはず………。

 ………それはラタトスクも同じなのだが………、

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『俺はこの話を世界樹カーラーンの意思を読み取ることによって知った。

 世界樹カーラーンがデリス=カーラーンはその最古の大惑星の欠片にしか過ぎないと俺に伝えてきたんだ。

 

 

 古には宇宙は()()()()()()()()()()()()()()()しか存在しない世界だった。』

 

 

ウインドラ「一つの宇宙………一つの星に一つの光………? 」

 

 

タレス「宇宙と星は分かるとして光とは何ですか?」

 

 

ラタトスク『そりゃ太陽のことだろう。

 最古の大惑星もこの星のように昼夜があったみたいだ。

 環境もこことさして変わらない。

 世界樹はそう言ってたぜ。

 違うのは()()()()()()()()()()()?』

 

 

タレス「夜の景色が違う………?」

 

 

ラタトスク『一つの宇宙、一つの星、一つの光………、

 夜になるとこの星からでも晴れた日に見えるような星空なんてその最古の大惑星には見れなかった。

 当然だよな。

 大惑星から見上げた空にあるのは昼間見える太陽とどこまでも真っ暗な宇宙の闇が広がるだけだ。

 最古の大惑星からしてみればその星以外に星なんて無かったんだからな。』

 

 

ミシガン「ふぅん………、

 なんか怖いね………、

 どこまでも広がる闇なんて………。

 でも何でそんな星が粉々になっちゃったの?」

 

 

タレス「普通では考えられませんよね………。

 星が砕けるなんてこと滅多なことには………、

 ………!」

 

 

ウインドラ「!!?

 星を砕く………それをやったのまさか………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『お前達は知ってるだろ?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デリス=カーラーンが誕生するよりも遥か昔この宇宙には一つの大きな星が存在した。その星は精霊マクスウェルによって砕かれ今の星屑漂う宇宙が在る。

 

 

 カオス達が過去にマクスウェルがどこかの星を破壊したことがあるのではないかと仮説を立てていたが本当に星を破壊していたようだ。しかもその最古の大惑星は宇宙の星々が一つの星の形をしていたと言うのだから想像するのも難しい程の大きさの星だったことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………じゃあマクスウェルがその最古の大惑星っていう星を壊したの………?

 何のためにそんなことを………。」

 

 

タレス「何か壊さなければいけない理由がその星にあったのでしょうか………?」

 

 

ラタトスク『それは知らん。

 直接側にいるお前達が聞けばいいじゃねぇか。

 何でアンタはその星を破壊したんですか、ってな。』

 

 

ミシガン「それは………。」

 

 

タレス「質問しても答えてくれるかどうか………。」

 

 

 なるべくなら関わり合いたくはない相手だ。マクスウェルの力を持ってすればカオス達など一瞬にして消し去ることもできる。そんな相手に不躾な質問など持っての他だ。機嫌を損ねればどうなることやら………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………………その最古の大惑星が破壊されてしまったのにはヴェノムが関係しているんじゃないか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「え………?

 ヴェノムが………?」

 

 

 何故マクスウェルが最古の大惑星を破壊したのか理由を探っているとウインドラが確信をついたかのようにそう言った。

 

 

ウインドラ「…奴が星を破壊する理由としたらそれしか思い付かん。

 現に今こうして俺達は奴がこのデリス=カーラーンを破壊しようとするのを止めるべくヴェノムを拡散させてしまうヴェノムの主を狩ってまわっている。

 奴はヴェノムウイルスによって世界が生命の育たない虚無の世界になるのを懸念してヴェノムを星ごと消し去ろうとしているんだ。

 

 

 だったらその最古の大惑星とやらでも星全体にヴェノムが蔓延してしまってマクスウェルは一度その星をリセットすべく砕いたんだ。」

 

 

タレス「そう結論付けるのはおかしいですよ。

 ヴェノムは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんですよ?

 アローネさんやカタスさんが生まれた時代ウルゴスで何者かがヴェノムを作ったって話だったじゃないですか。」

 

 

 ウインドラの考えは確かにあり得る話かもしれないがヴェノム自体はこの星で誕生したということはカタスティアとマクスウェルの話を()()()()()()()()()()。最古の大惑星はヴェノムが現れた時期よりも遠い昔に破壊されたのだ。それだというのに何故ヴェノムが関係するのか。

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「別に無い話ではないはずだ。

 この星ですらその最古の大惑星と比較しても小さな星になるのだろう?

 こんな小さな星でヴェノムが作り上げられたのならそれよりも巨大な………俺達と同じ人と呼べる星の支配種が存在していたなら人口的にも技術的にもこの星よりも上である可能性が高い。

 ヴェノムに酷似したウイルス兵器くらい案外普通に作れるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 そして作ったはいいがそれが世界中に広まってしまいマクスウェルに星を砕かれた………。

 大方こんな筋書きなんだろう………。」

 

 

ミシガン「それってを使って何かしようとしてそうなったのかな………?

 例えば戦争とか………。」

 

 

タレス「それだったら考えられますね………。

 マクスウェルが星を消した以上はウイルスか何かが広まってそれ以上生物が生きていけなくなった星になったからだと思います。」

 

 

ラタトスク『………そうだな。

 俺達精霊にとっては()()()()()()()()こそがこの世界に在り続けていく中で唯一の退屈を紛らわす物語だ。

 終わりある中でその命がどのように生きていくか見ていくのは見ていて飽きない………。

 それが永遠に見ることができなくなるなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星の一つくらい気軽に消すだろうぜ。

 それで次に生まれてくる世界を俺達は眺めていくんだ………。』



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終わり在りし者が望みし物

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『…話が長くなったがそういうことだ。

 お前達生命は零から一を作り出して生まれたんだ。

 魔術だってそれと同じだろ?

 共鳴ってのはその用法の中間に属する術だ。

 無から有に移行させる段階でまたそれを無に近付ける。

 イメージとしては()()()するだけなんだよ。』

 

 

ウインドラ「手加減か………。

 難しいな。

 呪文を唱えるだけでもマナを術に吸い上げられる感覚がするのにそれを手加減………。」

 

 

タレス「マナをできるだけ少なくしようとすると今度は術自体が発動しませんもんね。」

 

 

ミシガン「昔は魔術は発動できてこそって習ってきたからずっとマナを込められるだけ込めて術の威力を上げることだけを考えさせられてきたのにね………。

 ちょっと直ぐには無理かも………。」

 

 

ラタトスク『そう焦ってできようとしなくてもいいだろ。

 お前達は今までこういう力の使い方があることすら知らなかったんだ。

 一朝一夕で修得することなんてまずできない。』

 

 

ウインドラ「それはそうだろうな。」

 

 

ラタトスク『…だがこの技術は魔術を使える奴なら例外なく修得はできる。

 そこには魔力の強弱は関係しない。

 バルツィエの奴等はただこの技術を偶然発見しただけでその後の子孫たちにも受け継がせてきただけの話だ。』

 

 

ミシガン「共鳴って誰でもできるものなの?」

 

 

タレス「誰にでも修得可能ならラタトスクはアインワルドの人達には修得させなかったんですか?

 ずっと昔から一緒にいたのに。」

 

 

ラタトスク『こういうことは無暗に大勢には教えちゃいけないんだよ。

 アインワルドが皆して共鳴を使い始めたら他の部族達も共鳴を教えろとせがんでくる。

 少し前までは他部族とは同盟を組んでいたんだ。

 そういう要求はしてくるだろ。

 

 

 技術を手にしてそれが磨かれれば当然そいつらは強くなる。

 強くなればそれにともなって“野心”まで育ってきちまう。

 野心ってのを持った奴等に会うと面倒なことになるぞ?

 バルツィエのように敵であることが明確な相手ならともかく名義上味方にそんな奴がいてそいつらが力をつければそいつらの発言力が高まる。

 だからアインワルドに俺が共鳴を教えるわけにはいかなかった。

 アインワルドが目立つようなことになって世界樹のあるこのアルターに他の部族が押し寄せてくることにでもなれば世界樹の存在が露見してまた古代のカーラーン大戦に逆戻りだ。

 

 

 そうならないように俺は共鳴を教えるとしたら俺の器になる巫女とお前達のような世界樹のことを知っても利用しなさそうな奴を見定めることにしてるんだよ。』

 

 

ウインドラ「そうか………、

 では俺達はお前のそのお眼鏡にかなったからそんな話をしてくれたんだな………。

 確かに権力や武力がつけばそういう話もマテオで出てくる。

 不用意に人に力をつけさせるべきではないのかもな。

 急激に力をつけた者のその後は人柄までも変わってしまうこともよく聞く………。」

 

 

タレス「力を持って成功が続けばその分自信がつきますからね。

 自信というのは簡単に上下しますから思い上がりで身を滅ぼすことに繋がったりもします。」

 

 

ミシガン「私は強くはなりたいけど力でどうにかなりたいなんて思ってない。

 私は私の身近な人達と平和に暮らせる世界になれたらそれだけで十分………。

 強さってそういうことじゃないの?」

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『………やっぱりお前達になら共鳴を教えてやってもよさそうだな。

 特別にお前達の仕事が止まっている間俺とクララがお前達三人に講師してやってもいいぜ。』

 

 

ウインドラ「本当か!

 それは助かる!」

 

 

タレス「では早速ですがさっきの技をもう一度見せてもらえませんか?

 あんなふうにマナを制御するところを見られれば何かヒントを掴めそうな気がするんです。

 きっと共鳴も直ぐに…」『あぁちょいと待ちな。』

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『講師してやるとは言ったがそれは六時間ぐらい後からにしてくれ。』

 

 

ミシガン「え?

 どうして?」

 

 

ラタトスク『クララを休ませるためだ。

 この前クララが倒れそうになったの見ただろ?

 こいつは一回何か術を発動させると暫くは休息を挟まないといけないんだよ。

 今俺がクララにバトンタッチすると途端にクララの意識が墜ちる。

 だからこれから俺はクララのこの体を休ませてやりたいんだよ。』

 

 

タレス「言われてみればそんなこと言ってましたね。

 精霊が体に憑依してると負担が大きいとか………。」

 

 

ラタトスク『おう、

 そういう訳でお前達の指導は次にクララが起きてからだ。

 それまでは自分達で修業しといてくれ。

 理論は伝えたんだ。

 そっから使い物になるかはお前達の努力次第だ。

 精々頑張ってこの世界を救ってみな。』ザッザッザッ…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………共鳴の他にも意外な史実を知ってしまったな。」

 

 

タレス「最古の大惑星とかいう星のことですか?」

 

 

ミシガン「空の星ってその最古の大惑星が砕かれて宇宙を漂ってたんだねぇ………。」

 

 

ウインドラ「いや………それもそうなんだが俺が言ってるのはマクスウェルのことだ。

 あれがこの星の誕生よりも前から存在していてこの星を超える大きさの星を砕いていたことだ。

 そんなことをやってのけられるなら俺達がどう足掻いても太刀打ちできない相手だったことを再認識させられた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれと同時にマクスウェルを付け狙う奴はその最古の大惑星が破壊される前のその星に住んでいた人物であることが立証されたんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス・ミシガン「「!?」」

 

 

ウインドラ「だってそうだろう?

 星の破壊なんてそう何度も起これば他の星にも少なからず影響が出るはずだ。

 天文学は詳しくはないが太陽系の星々が誕生したのは今から()()()()()()()()()()()()()()

 その間に何かしらあったかもしれんが何もなかった場合はマクスウェルの力が放たれたのは大惑星を破壊したその一回きりだ。

 その大惑星の破壊以外にはマクスウェルの存在を確認するすべなど俺には見当がつかん。

 

 

 ………それならその大惑星が破壊された当時にその力を目撃できた最古の大惑星の住人がマクスウェルの力を狙っているということになる。」

 

 

ミシガン「信じられない………。

 アローネさんみたいに一時的に長期的な眠りについて時代を越えたりするくらいの術ならできそうなものだけどその人ってつまり四十六億年も前からマクスウェルを追いかけてるの………?」

 

 

タレス「それだけ長く生きていることにもですが何より途中で()()()()()()()()()()()()驚きます。」

 

 

ウインドラ「そいつには既に寿命というものが無いんだろうな。

 何らかの方法を使ってそいつは自分の寿命を取り払ったんだ。

 寿命が無くなれば精霊のように価値観も変わるだろう。

 ………と言うかそいつはこの前ラタトスクが言っていた人霊というやつかもしれん。」

 

 

ミシガン「マクスウェルを追ってる人が人霊!?

 ってことはイフリートかシルフってこと!?」

 

 

ウインドラ「その二体の精霊を取り込んだ奴かもしれんし他のウンディーネやノーム、セルシウス、ヴォルトということだって可能性は捨てきれない。

 ただ言えることはマクスウェルを狙っているのが人霊だったとしたら無限に生き続けていく中でそいつは自分が持っている精霊よりも更に上の存在のマクスウェルを手に入れようとしているのではないかと俺は思った。

 生死というものから解き放たれた者がその後はどんな生活を送るか想像するとそれまでの生活と同じように過ごすかそれか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙の全てを支配できる力を求めるかだな………。」



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予測できた出来事

ユミルの森 丘 夕方 残り期日三十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「「「「「「「「「「ゴアアアアアアアアアアアアアッ!!!」」」」」」」」」」ドドドドドドドドドッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「大分引き付けられましたね。」

 

 

カオス「もうこのぐらいでいいんじゃない?

 これ以上はアローネも限界でしょ?」

 

 

アローネ「ですがカーヤさんがまだ………。」

 

 

カオス「カーヤならまたライトニングで合図を送れば合流できるでしょ。

 そろそろ引き上げようよ。」

 

 

アローネ「…そうしますか。」

 

 

 アルターから南をレアバードで飛び指定していた場所までトレントを連れてきた。雨の日に活性化するというだけあってトレント達はカオス達が近くを飛んだだけでそこかしこからカオス達の方へと向かってきた。

 

 

カオス「…まるで森そのものが集まって来てるみたいだね。」

 

 

アローネ「トレントが木に擬態する生物ですからね。

 と言いますか木が進化して積極的に養分を摂取するべく木からモンスターへと変わった生物らしいですから擬態とは少し違うのかもしれませんけど。」

 

 

カオス「半日飛んで南の方を隅から隅まで集めてきたからもう南のトレント達はいいよね?」

 

 

アローネ「はい、

 後はカーヤさんの方ですがあちらはどうなっているのでしょうか………?

 ここに戻ってきていないことから何か苦戦しているのでは………。」

 

 

カオス「カーヤの方は俺達よりもトレントの数が多いから連れてくるのに手間取ってるんじゃないかな。

 ちょっと様子を見に行かない?」

 

 

アローネ「そうですね。

 カーヤも心配ですからカーヤのところへと向かいましょうか。」

 

 

 カオスとアローネの二人はある程度トレント達を集めてきたが北西の方角からはまだトレントが来る気配はない。一人で作業することもあってか時間がかかっているのだろう。二人はそう思った。なのでカーヤの手助けに向かい今日は切り上げようと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュルシュル………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビュンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「「!!?」」

 

 

 上空を飛んでいたことでカオスとアローネはトレント達の攻撃が自分達に届くことはないと油断していた。だから突然迫ってきたその攻撃に対応することができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスとアローネは勢いよく叩き落とされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ぐあッ!!?」ズザザザザザッ!!!

 

 

アローネ「ッハ………!?」ドスッ!!

 

 

ガシャアアアアンッ!!!

 

 

 カオスとアローネそれからレアバードが地面に激突する。不意を突かれたその一撃と地面への衝撃でカオスは意識を手放しそうになったが日頃鍛えていたこともあってどうにか気絶することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 だがアローネはそうはいかなかった。彼女は空中で受け身がとれずに地面へと落下したために気を失ってしまった。額からは()()()()()()()

 

 

 そこへ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンセスターセンチュリオン「ゴルルルルルルルルルルルル………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………アンセスター………………センチュリオン………。」

 

 

 カオス達を攻撃してきたのはアンセスターセンチュリオンだった。よく見れば片方の腕の部分が細長く伸びている。その腕はクラーケンのような触手のような形に変形していた。それが空を飛んでいたレアバードを叩き落としたのだろう。

 

 

 カオス達はアンセスターセンチュリオンのことを見落としていた。トレント達が集まってくればアンセスターセンチュリオンもそこに来るのは分かっていた。だがアンセスターセンチュリオンの相手は現状厳しい面があるため極力相手にはしないようにしていた。

 

 

 しかしここはアンセスターセンチュリオンとトレントが支配するユミルの森。そこへ入り込めば必ずそのどちらかとは遭遇する。トレント達の攻撃が届かないならアンセスターセンチュリオンも同じだろう。そういった思い込みからトレント達が反応するギリギリの上空を飛んでいたのがそれが失敗だった。

 

 

カオス「アローネ………!

 ………先ずは回復を「グアアアアアッ!!!」!!?」フォンッ!!

 

 

 アンセスターセンチュリオンがその細長い触手をカオス目掛けて一閃。それをすんでのところで回避はできたが想像以上にその一撃は()()()()

 

 

カオス「(トレント達が雨で強くなるって言うならその進化系のアンセスターセンチュリオンも同じだよな………。

 こんなのまともに一人で相手なんてしてられない。

 アローネを連れてここから逃げ)」「ゴオオオアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(しまっ………!?………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンセスターセンチュリオンに気をとられてここがどこであったのかを一瞬忘れてしまった。地上にはアンセスターセンチュリオンだけでなく()()()()もいたのだ。カオスはアンセスターセンチュリオンの攻撃を警戒するあまり背後にいたトレントの攻撃をもろに受けてしまい一気に意識を狩られてしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(…………………アロー………………ネ…………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が途切れる際に最後にカオスが見たのはトレント達に囲まれてこれから襲いかかられようとしているアローネの姿だった………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥゥゥ………。



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謎を知る時は…

ユミルの森 夜 残り期日三十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………チョン………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………チョン………チョン…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………チョンチョンチョン………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………う、…………んんん…………?」

 

 

 何かが顔をつつく感覚がしてカオスは目を覚ます。目が覚めて最初に視界に入ったのはカーヤだった。

 

 

カーヤ「こんなところで何してるの………?」

 

 

カオス「こんなところ………?」

 

 

 カオスは体を起こして辺りを見渡す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの周りには遠くの景色を遮る木々の森と空から降りしきる雨によってできた水溜まりがあった。カオスはその水溜まりの中で眠っていたようだ。何故自分はこんなところで眠っていたのか。それを思い出そうと記憶を辿っていけば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!

 アローネ!!?

 アローネはどこ………!?」

 

 

 カオスの記憶には自分とアローネとカーヤでユミルの森へと出向きトレント達を集めてくる作戦を実行しその作戦の最中にアンセスターセンチュリオンと遭遇してしまい襲われてレアバードが撃墜された。そしてアローネを守ろうとしてカオスは背後のトレントに突き飛ばされて気絶しアローネがトレントとアンセスターセンチュリオンに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「?

 アローネさん………?

 ………アローネさんなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そっちの方で寝てるよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤが指を指した方向にはアローネが倒れていた。記憶が途切れる前と同じ格好であった。その傍らにはレアバードもあった。

 

 

 ………そしてその奥には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 原型が跡形もなく()()()()()()トレントとアンセスターセンチュリオンの残骸達が山積みになっていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………カーヤが助けてくれたのか………?

 俺達がアンセスターセンチュリオンに襲われて気を失って………そこにカーヤが来てアンセスターセンチュリオンとトレント達を………。」

 

 

 状況を見極めるためにカオスは自分達が何故無事だったのか確かめるべくカーヤにそう質問した。二人が奇跡的に無事だった可能性としては気を失った直後にカーヤが駆け付けてトレントとアンセスターセンチュリオンを撃退した。そう考えるのが自然だろう。一瞬カーヤがカオスを起こした際に彼女もこの状況を分かりかねているからこそあのように起こしたのではないかとも思ったがやはりカーヤがトレント達を倒したとしか考えられない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「カーヤは………()()()()()()()………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………え?」

 

 

カーヤ「カーヤは言われた通りにトレント達を集めてきただけでここに飛んできたの………。

 そしたらここで寝てるカオスさんとアローネさんを見付けたから今さっき来たところ。」

 

 

 カーヤはトレントとアンセスターセンチュリオンのことは知らないらしい。ここに駆け付けてきた時には既にトレントとアンセスターセンチュリオンは倒されていたようだ。

 

 

カオス「………それじゃあトレントとアンセスターセンチュリオンは誰が………?」

 

 

カーヤ「カオスさんがやったんじゃないの………?」

 

 

カオス「俺が………?」

 

 

カーヤ「うん………、

 ここに飛んできたのはこの辺りで()()()()()()()()()()()から………。

 きっとカオスさんが魔術をトレント達に使ったんじゃないかって思ったからここに来たの。

 そしたらカオスさんとアローネさんとあそこのトレント達がいたの。」

 

 

カオス「………俺は………何も………。」

 

 

 自分の記憶では自分が気絶したことだけは覚えている。その証拠に背中から感じる痛みはトレントによって加えられたものだ。自分はこの背中に一撃を受けて気絶させられた。自分である筈がないのだ。

 

 

カーヤ「じゃあアローネさん………?」

 

 

カオス「………アローネは………。」

 

 

 今この森にいる人物はここにいるカオス、カーヤ、そしてアローネしかいない。その内のカオスとカーヤがトレント達を倒していないという。

 

 

 ならばアローネしかいないのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「「「「「ゴアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?」

 

 

 この現状の謎を究明しようとしているとカオス達の後ろから猛り声が上がる。

 

 

カーヤ「………そういえばトレント達を連れてきてる途中だった。」

 

 

カオス「カーヤもトレント達を引き連れてきてる途中だったね!」

 

 

カーヤ「どうするの?

 戦う?

 アローネさんも寝てるし。」

 

 

カオス「そんな場合じゃないよ!

 アローネも怪我してるからカーヤはレアバードに乗ってアローネをアルターまで運んで!」

 

 

カーヤ「カオスさんは?」

 

 

カオス「俺はレアバードを操縦できないから走ってカーヤを追い掛けるよ!

 アルターまで道案内お願い!」

 

 

カーヤ「うん………。」

 

 

 カーヤはレアバードを起動させ発進する準備を始める。カオスはもう一機のレアバードをウイングバッグに収納してカーヤに渡しアローネをカーヤのレアバードに運び込もうとして………、

 

 

 

 

 

 

カオス「………!?」

 

 

カーヤ「どうしたの?」

 

 

カオス「………アローネの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怪我が治ってる………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「カオスさんが治したんじゃないの?」

 

 

カオス「いや………本当に俺は何もしてないんだよ………。

 トレントのこともアローネの怪我も治したりしたりも………。」

 

 

 アローネが怪我を負ってたのを見たのはほんの数秒であった。それなら単に打ち所が悪く気絶していただけで傷を負っていたかどうか怪しく思えてきた。

 

 

カオス「(………見間違いだったのか………?

 確かにアローネの額から赤い血が出ていたようにも見えたんだけど………。)」

 

 

 カオスとアローネがどれ程の時間気絶していたか分からない。その気絶している間に不可解な謎が発生した。

 

 

 トレントとアンセスターセンチュリオンが誰によって撃退されたのかとアローネの傷を誰が治療したか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは結局この疑問の答えを()()()()()()()()()()()()()知ることはなかった………。



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謎を知る時は…

ユミルの森 夜 残り期日三十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………チョン………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………チョン………チョン…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………チョンチョンチョン………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………う、…………んんん…………?」

 

 

 何かが顔をつつく感覚がしてカオスは目を覚ます。目が覚めて最初に視界に入ったのはカーヤだった。

 

 

カーヤ「こんなところで何してるの………?」

 

 

カオス「こんなところ………?」

 

 

 カオスは体を起こして辺りを見渡す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの周りには遠くの景色を遮る木々の森と空から降りしきる雨によってできた水溜まりがあった。カオスはその水溜まりの中で眠っていたようだ。何故自分はこんなところで眠っていたのか。それを思い出そうと記憶を辿っていけば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!

 アローネ!!?

 アローネはどこ………!?」

 

 

 カオスの記憶には自分とアローネとカーヤでユミルの森へと出向きトレント達を集めてくる作戦を実行しその作戦の最中にアンセスターセンチュリオンと遭遇してしまい襲われてレアバードが撃墜された。そしてアローネを守ろうとしてカオスは背後のトレントに突き飛ばされて気絶しアローネがトレントとアンセスターセンチュリオンに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「?

 アローネさん………?

 ………アローネさんなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そっちの方で寝てるよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤが指を指した方向にはアローネが倒れていた。記憶が途切れる前と同じ格好であった。その傍らにはレアバードもあった。

 

 

 ………そしてその奥には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 原型が跡形もなく()()()()()()トレントとアンセスターセンチュリオンの残骸達が山積みになっていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………カーヤが助けてくれたのか………?

 俺達がアンセスターセンチュリオンに襲われて気を失って………そこにカーヤが来てアンセスターセンチュリオンとトレント達を………。」

 

 

 状況を見極めるためにカオスは自分達が何故無事だったのか確かめるべくカーヤにそう質問した。二人が奇跡的に無事だった可能性としては気を失った直後にカーヤが駆け付けてトレントとアンセスターセンチュリオンを撃退した。そう考えるのが自然だろう。一瞬カーヤがカオスを起こした際に彼女もこの状況を分かりかねているからこそあのように起こしたのではないかとも思ったがやはりカーヤがトレント達を倒したとしか考えられない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「カーヤは………()()()()()()()………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………え?」

 

 

カーヤ「カーヤは言われた通りにトレント達を集めてきただけでここに飛んできたの………。

 そしたらここで寝てるカオスさんとアローネさんを見付けたから今さっき来たところ。」

 

 

 カーヤはトレントとアンセスターセンチュリオンのことは知らないらしい。ここに駆け付けてきた時には既にトレントとアンセスターセンチュリオンは倒されていたようだ。

 

 

カオス「………それじゃあトレントとアンセスターセンチュリオンは誰が………?」

 

 

カーヤ「カオスさんがやったんじゃないの………?」

 

 

カオス「俺が………?」

 

 

カーヤ「うん………、

 ここに飛んできたのはこの辺りで()()()()()()()()()()()から………。

 きっとカオスさんが魔術をトレント達に使ったんじゃないかって思ったからここに来たの。

 そしたらカオスさんとアローネさんとあそこのトレント達がいたの。」

 

 

カオス「………俺は………何も………。」

 

 

 自分の記憶では自分が気絶したことだけは覚えている。その証拠に背中から感じる痛みはトレントによって加えられたものだ。自分はこの背中に一撃を受けて気絶させられた。自分である筈がないのだ。

 

 

カーヤ「じゃあアローネさん………?」

 

 

カオス「………アローネは………。」

 

 

 今この森にいる人物はここにいるカオス、カーヤ、そしてアローネしかいない。その内のカオスとカーヤがトレント達を倒していないという。

 

 

 ならばアローネしかいないのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレント「「「「「ゴアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?」

 

 

 この現状の謎を究明しようとしているとカオス達の後ろから猛り声が上がる。

 

 

カーヤ「………そういえばトレント達を連れてきてる途中だった。」

 

 

カオス「カーヤもトレント達を引き連れてきてる途中だったね!」

 

 

カーヤ「どうするの?

 戦う?

 アローネさんも寝てるし。」

 

 

カオス「そんな場合じゃないよ!

 アローネも怪我してるからカーヤはレアバードに乗ってアローネをアルターまで運んで!」

 

 

カーヤ「カオスさんは?」

 

 

カオス「俺はレアバードを操縦できないから走ってカーヤを追い掛けるよ!

 アルターまで道案内お願い!」

 

 

カーヤ「うん………。」

 

 

 カーヤはレアバードを起動させ発進する準備を始める。カオスはもう一機のレアバードをウイングバッグに収納してカーヤに渡しアローネをカーヤのレアバードに運び込もうとして………、

 

 

 

 

 

 

カオス「………!?」

 

 

カーヤ「どうしたの?」

 

 

カオス「………アローネの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怪我が治ってる………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「カオスさんが治したんじゃないの?」

 

 

カオス「いや………本当に俺は何もしてないんだよ………。

 トレントのこともアローネの怪我も治したりしたりも………。」

 

 

 アローネが怪我を負ってたのを見たのはほんの数秒であった。それなら単に打ち所が悪く気絶していただけで傷を負っていたかどうか怪しく思えてきた。

 

 

カオス「(………見間違いだったのか………?

 確かにアローネの額から赤い血が出ていたようにも見えたんだけど………。)」

 

 

 カオスとアローネがどれ程の時間気絶していたか分からない。その気絶している間に不可解な謎が発生した。

 

 

 トレントとアンセスターセンチュリオンが誰によって撃退されたのかとアローネの傷を誰が治療したか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは結局この疑問の答えを()()()()()()()()()()()()()知ることはなかった………。



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何者かに救われて…

アインワルド族の住む村アルター 夜 残り期日三十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フイイイイィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!

 着いたか!

 アルターに………!」

 

 

 アンセスターセンチュリオンの襲撃によって負傷し気を失ってしまったカオスとアローネだったが最悪な事態になることは避けられた。危険を承知で挑んだことだったがまさか空を飛行して攻撃を受けるとは思えなかった。そして窮地に追いやられていたはずだったが二人が気絶している間にカオス達を襲ってきたアンセスターセンチュリオンとトレント達は何故か細切れにされていた。カオスにはそれらを倒した記憶がない。だとすればそれらのとをやってのけたのはアローネなのだが………。

 

 

カオス「(アローネが目を覚ましから落ち着いたら訊いてみればいいか………。

 今はアローネが無事かどうかを確かめないと。)」

 

 

 誰が倒したかどうかはさておき現在はモンスターの襲撃によってアローネが傷付き倒れたのだ。先ずは仲間の安全を確保し必要なら治療しなければならない。カーヤが連れてきていたトレント達はアローネの傷を治す前に現れたためアローネを治療することができなかった。一見負傷した様子はなかったが意思を失う前に見た額の傷が脳裏を過る。再び意識を取り戻した時には血など流れていなかったがもしかしたらこの雨で血が流されて落ちていただけでよく見えないところにはしっかりと傷が残っていることも考えられる。

 

 

 

 

 

カーヤ「………到着。」

 

 

カオス「アローネ!!

 アローネ!!

 しっかり………!」

 

 

 アルターの中でカーヤがレアバードを着陸させたのでカオスは乗せられていたアローネの元へと駆け寄る。カーヤの運転はやはり非常に優れていた。気絶したアローネを特に固定することなく乗せて離陸前と変わらぬ格好の姿のアローネがそこにはあった。依然として体中の力が抜けきっているかのように乗せられているが腹部が上下しているのを見ると息はしているようだ。

 

 

 生きているのなら一応念のために治療術を施しておこう。自分の力はこういう時のためにあるのだ。仲間達を救うためにこの力を使わねば………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『ファーストエイド!』」パァァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの治療術の光がアローネを包んだ。前に一度カオスは治療術に失敗しているが今回は前の時のようにはいかないはずだった。アローネはカーヤのように生きることに絶望などしていない。アローネは生きて果たすべき目標がある。それを成し遂げるために未来にどう向かっていけばいいのか色々と考えている。だから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアァァンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこうして術が弾かれることなどあり得ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「なっ………………何で………?」

 

 

 何故術が弾かれたのか理解できなかった。アローネは生きることを諦めたりなどしていない。それどころか生きて多くのことを望んでいるのだ。それなのに何故術が弾かれる………?自分は何故今失敗した………?

 

 

 何故自分は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「治療術が弾かれるのは既にその者が()()()()()()()()いるからだ。

 失敗したんじゃなくてもう既にアローネは唐だの傷が完治しているんだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 ウインドラ………!」

 

 

 ツリーハウスの上の方からウインドラが降りてきた。カーヤが飛ばしていたレアバードの起動音を聞いて出てきたのだろう。

 

 

ウインドラ「何があったかは見当がつく。

 トレント達の襲撃を受けたかアローネがこの雨にやられてレアバードを不時着させてしまったんだろう?

 それでアローネが気絶してカーヤと二人で運んできたというところか………?」

 

 

カオス「………そうなんだ。」

 

 

ウインドラ「…安心しろ。

 お前の術が失敗したんじゃなくアローネが()()()()()()()()()()()()()()

 ということはアローネは無事だ。

 気絶してはいるようだがそれも大したことないだろう。」

 

 

カオス「でも………、

 さっきは血が出てて………。」

 

 

ウインドラ「傷が………?

 どこにだ?」

 

 

カオス「………多分頭の………額辺りに………。」

 

 

ウインドラ「額か………、

 ………フム………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特に出血するような傷は見当たらないが?」

 

 

 ウインドラがアローネの体をなるべく動かさないように慎重に負傷箇所を探していくがどこにもそれらしいものは見当たらないようだ。

 

 

カオス「(………あれは………俺の本当に見間違いだったのか………?

 気を失う前に見たあの赤い血は………俺の目の錯覚………?)」

 

 

ウインドラ「しかし気絶していることに変わりはない。

 外傷は見当たらないが何か深刻なダメージを内蔵に受けているかもしれんな。

 ここは雨が降って冷える。

 早く彼女を室内に運び込むぞ。

 手を貸せカオス。」

 

 

カオス「あぁ………。」

 

 

 ウインドラに促されて二人でアローネを近くの家の中へと運び込んだ。運んでいる途中アローネからはすやすやと寝息の用の声が漏れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインワルド族の住む村アルター 民家 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では何かありましたらお声かけ下さい。」

 

 

カオス「はい、

 有り難うございます。」

 

 

 村に入ってすぐの民家にアローネを運び入れて一応アルターの医療に詳しい者にアローネを診てもらったが心配は要らないようだった。今は単に疲労で眠っているだけとのことだ。

 

 

ミシガン「よかったね。

 アローネさんに大事がなくて。」 

 

 

タレス「カオスさんが付いていたんですからそんなことはならないでしょう。

 例えどんな怪我をしてもカオスさんの治療術なら直ぐに回復させてしまいますよ。」

 

 

カオス「………俺の力はそこまで万能じゃないよ………。」

 

 

 アローネのことを聞き付けてミシガンとタレスも後からやって来た。二人は特に心配はしてなかったみたいだが一応は顔を見にきたようだ。

 

 

ウインドラ「………何があったのか聞いてもいいか?」

 

 

 一旦はアローネの無事を確認できたためウインドラがカオスにどのような事故が起こったかを訊いてきた。

 

 

カオス「………森でのことなんだけど………。」

 

 

 カオスはユミルの森で何があったのかを詳しく皆に話した。途中までは順調にいっていたがアンセスターセンチュリオンの襲撃でカオスとアローネの二人が地面に叩き落とされてアローネが気絶したこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして自身もその後トレントの一撃で意識を失い気が付いたら二人を襲ってきたトレントとアンセスターセンチュリオンが何者かによって倒されていたことを………。



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マクスウェルがカオス達を…?

アインワルド族の住む村アルター 民家 夜 残り期日三十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「何それ………。」

 

 

タレス「カオスさんもアローネさんも気絶していて起きたらトレントとアンセスターセンチュリオンが倒されてたんですか………?」

 

 

ウインドラ「カーヤが倒したんじゃないのか?」

 

 

カーヤ「カーヤは何もしてない………。

 カオスさんとアローネさんが倒れてたところに行っただけ。」

 

 

ウインドラ「では一体誰が………?」

 

 

 カオスの話を訊いてタレス、ミシガン、ウインドラの三人も疑問の表情を浮かべた。状況だけ聞けば何者かが二人を助けたことにはなるがトレントやアンセスターセンチュリオンが徘徊する危険な森に一体誰が………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…………う、ううん………?

 ………ここは………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 アローネ!」

 

 

 先程までの状況を三人に話終えた直後アローネの意識が覚醒する。

 

 

アローネ「カオス………?

 ここは………?

 私はどうなって………?」

 

 

ウインドラ「何も覚えてないのか?

 お前とカオスの二人はアンセスターセンチュリオンに襲われたようだが………?」

 

 

アローネ「!!

 そうでした!!

 カオス!

 アンセスターセンチュリオンはどうなりましたか………!?」

 

 

カオス「え、ええっと………。」

 

 

 このアローネの発言でアローネ以外の五人はもしもの可能性が消滅したことを察した。トレントとアンセスターセンチュリオンの両方を倒したのはカオスとカーヤではないのなら()()()()()()()()()()()()()()。だがアローネは気絶したところで記憶が無いらしい。

 

 

 やはりあの森にはカオスとアローネとカーヤのさんにんの他に誰かがいたのだろうか。

 

 

ウインドラ「アンセスターセンチュリオンはどうやら倒したようだぞ。

 お前がこうして無事なのがその証拠だ。」

 

 

アローネ「!

 ………では私はあの攻撃で気を失って………。

 カオスとカーヤに助けられてここまで運んでいただいたのですね………。

 ………すみませんカオス。

 私が愚かなばかりにカオスにまで余計な手間をかけさせてしまって………。」

 

 

カオス「いや俺の方こそ後ろに乗ってたんなら周りをよく見ておくべきだったよ。

 ごめん………。」

 

 

アローネ「いえカオスは私の無茶に付き合っていただいただけで何も悪くは………。」

 

 

 二人してお互いを庇い合う。もし今回の悪所を見付けるとしたらアンセスターセンチュリオンやトレントが雨によってどれ程狂暴性が増していたのかを認識していなかったことだろう。

 

 

カオス「…アローネじゃなかったのか………。

 じゃあ一体誰がアンセスターセンチュリオンを………。」

 

 

アローネ「?

 カオスが私を運んで下さったのですよね?

 カオスがアンセスターセンチュリオンを倒したのではないのですか?」

 

 

カオス「ううん、

 俺じゃないよ。

 俺もアローネと一緒に気を失ってたんだ。

 カーヤも俺達二人が気絶してるところに来てはくれたんだけどカーヤも違うみたい。」

 

 

アローネ「…では私とカオスはどうやって助かったのでしょうか………。

 あの森には私達の他に人はいませんでしたし相手はヴェノムの感染個体で普通の方にあれを倒すことは………。」

 

 

ミシガン「私達も今そのことを話してたの。

 なんか変な話だよね。

 カオスとアローネさんの二人が気絶してる時に誰かが助けてくれてカーヤちゃんが来たときにはいなかったなんて………。」

 

 

タレス「ラタトスクも今ユミルの森にいるのはカオスさん達の三人だけだと言ってました。

 他にいるとしたらこのアルターにいたボク達とアインワルド族、それからマクベルだけのようです。」

 

 

ウインドラ「森にいた三人が全員アンセスターセンチュリオンの姿は確認しているがその中の誰も奴の討伐に関与していないと言う………。

 話が面倒なことになったな。

 

 

 カオス、

 一つ尋ねるがアンセスターセンチュリオンに襲われてからお前の意識が戻るまでどのくらい時間が経過していたか分かるか?」

 

 

カオス「時間………?

 ………そんなには経ってなかったと思うけど………。」

 

 

 カオス達が奇襲にあったのはもうそろそろアルターに戻ろうかとしていた時である。その時には空も雨模様とは関係なく時間帯的に暗くなり始めていた。そして気絶してからも空の色はそんなには変わっていなかった。

 

 

 

カオス「………多分一時間も経ってなかったと思う………。

 そこまで長く気絶はしてなかったはずだよ。」

 

 

ウインドラ「そうか………。

 ということはお前が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということになるな。

 それもトレント達も纏めて。」

 

 

ミシガン「そんな強い人がいるの?」

 

 

タレス「いたとして何でカオスさん達を助けていなくなったんですか?」

 

 

ウインドラ「………実はな。

 カオス達がいない間に俺達は共鳴修得の特訓をしていた訳だがその時に興味深いことがあったんだ。」

 

 

カオス「興味深いこと?」

 

 

ミシガン「あぁ、

 あのラタトスクの宇宙の話のこと?」

 

 

アローネ「宇宙の話………?

 ラタトスクがそのような話をされたのですか?」

 

 

ミシガン「うん、

 そうなの。

 結構これが衝撃的でねぇ………。

 話せば色々と長いんどけど………。」

 

 

ウインドラ「確かにその話も興味深かったが俺が話したいのはその話じゃない。

 俺が話したいことはカオスやクララ殿のようなシャーマンは憑依されている本人が無意識の内でも活動できると言うことだ。」

 

 

カオス「どういうこと?」

 

 

ウインドラ「前にクララ殿はあまり魔術を使うことができないと言っていただろう?

 あれは使った後に疲労に襲われて眠気が来るそうなんだ。

 今日俺達が共鳴の特訓をしているのを見てクララ殿が共鳴の手本を見せてくれたんだがその直後に意識がラタトスクに変わってそれからラタトスクと暫く話し込んでたんだ。

 

 

 そして話が終わるとラタトスクはクララ殿の体を休ませると言ってきた。

 クララ殿の意識はその時点で既に無かったらしい………。

 

 

 ………お前達二人を助けた者はアンセスターセンチュリオンを瞬く間に倒してその場に姿を見せなかった人物………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精霊マクスウェルがお前の体を動かしてお前達を救ったんじゃないか?」



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最古の大惑星とアインス

アインワルド族の住む村アルター 民家 夜 残り期日三十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………は?

 ………あいつが俺の体を使って俺達を救った………?」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「そう考えるのが妥当だろう。

 ユミルの森にいたのはお前達三人だけだった。

 環境的にもトレントやアンセスターセンチュリオンが徘徊する森で尚且つこの天候の中他に人がいたとも思えん。

 ここにはバルツィエの先見隊も来ていないようだしな。

 そう整理するとお前達を救った()()()はお前自身の中に宿る精霊マクスウェルが一番しっくり来る。

 お前が意識を取り戻してから他に誰もいなかったと言うのであればこれが「そんなことあり得るはずがないだろ!!?」」

 

 

 カオスはウインドラの推測に激怒した。

 

 

カオス「あいつが俺達を救った!!?

 何を言ってるんだよ!?

 あいつがそんなことするはずないだろ!!?

 あいつは俺達のことをゴミのようにしか思ってないんだぞ!?

 後一ヶ月経ったらあいつはこの世界を破壊するかもしれないんだ!!

 そんな奴がどうして俺達を助けようとするんだよ!!?」

 

 

ウインドラ「いやしかしだな………他にお前達を救ったのは奴しか「もういい!」………カオス。」

 

 

カオス「この話はもう終わりにしてくれ!

 あいつが俺達を助けただなんて話は聞きたくない!

 あいつのせいで俺は今まで散々な時間を過ごしてきたんだ!!

 それが今更になって何で俺を助けたりするんだよ!?

 訳分かんないよ!!

 そんなのおかしい!!

 違う!!

 絶対に違う!!

 俺は認めない!!

 あいつは俺達を助けたりなんてしない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はあいつになんて助けられたりなんかしていない!!」

 

 

 

 

 

 

バンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは部屋から飛び出していった。彼からしたらマクスウェルが善行をすることなど考えたくもないのだろう。しかし冷静になってみるとマクスウェルは世界を破壊しようとはしてはいるが彼の力に助けられたことは数知れずだ。彼の力があってこそカオス以外の仲間達は命を拾うことができたこともあった。タレスもミシガンもウインドラもカーヤも………そしてアローネも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでもカオスにはマクスウェルが自分を救っただなど言う話を受け入れることはできなかった。命は救われてもそれ以外を彼に滅茶苦茶にされてきたカオスにはそれで全てを無かったことにはできない。それなら最後まで悪に徹していてほしかった。何故今更自分を助けようとするのかカオスには理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………カオスには少し酷な話だったかもな。

 カオスはマクスウェルとは相性が悪いと言うのに俺は………。」

 

 

タレス「でもウインドラさんの話が一番可能性としてはあるんじゃないでしょうか。

 カオスさん達の置かれていた状況でカオスさん達を助けたのは()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

ミシガン「でもそうだとしたら何でマクスウェルがカオスを………?」

 

 

ウインドラ「クララ殿とラタトスクの話では精霊は人に宿っている間にその宿主が死ぬようなことがあると一緒に死んでしまうこともあると言っていたな。

 それを恐れて行動したんじゃないか?」

 

 

ミシガン「やっぱりマクスウェルも死んじゃうのは怖いのかな?」

 

 

ウインドラ「死ぬのが怖いんじゃなくて死んだ後に自分の力を誰かに利用されるのを避けてるんじゃないか?

 奴を付け狙う輩がどこに潜伏してるのか知らんがな。

 マクスウェル的にはそいつがヴェノムを作り出してそれでいて精霊をも狙っている。

 その二つを手にいれて何をするのか分かったもんじゃないがそいつがその両方を手にいれた時奴が最も恐れる事態、()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

タレス「時間は実際に止まらないとは思いますがずっと同じ風景を見続けるのは本当に地獄でしょうね。」

 

 

ミシガン「あぁ………それだったら死んじゃった方がマシかもね。

 私達の御先祖さま達もそれで死ぬために体を作ったとか言ってたし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………死ぬために体を作った………?

 それは何の話ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミシガンの一言に疑問を感じたアローネが話に入ってくる。

 

 

ウインドラ「昼間の話だ。

 俺達も今日ラタトスクに聞かされたことなんだがな。」

 

 

タレス「何でもこの世界の全ての生命が始めは体を持たないマナ………心だけの存在だったらしいんです。」

 

 

ミシガン「そこからその精神だけで過ごしていく内に終わりが来ないのが嫌になって肉体を作り始めたんだって。」

 

 

アローネ「………?

 よく呑み込めませんが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その話私にも聞かせていただけますか?」

 

 

カーヤ「カーヤも気になる………。」

 

 

 ウインドラ達が聞かされた話に妙な引っ掛かりを感じアローネは話の内容を追求する。

 

 

ウインドラ「そうだな。

 先ず始めに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………そのような星がこの星よりも以前に………。」

 

 

ミシガン「あれ?

 あんまり驚かないね?」

 

 

アローネ「…私にとっては別にそこまで驚くようなことでもないのですよ。

 私自身が長い間眠っていて時代を跨いで目覚めましたし宇宙のことについては昔から無限の可能性を秘めているものと教えられてきましたからそういう歴史があったとしてもそんなには………。」

 

 

タレス「そういうものですか?」

 

 

アローネ「…ただその最古の大惑星という星の環境はアインスの時代の環境と類似していますね。

 アインスでも夜になると星空というものは全く見えませんでした。」

 

 

ミシガン「アインスにも星が見えなかったんだ?」

 

 

ウインドラ「このデリス=カーラーンから星が見えない時代があったのか?」

 

 

アローネ「えぇ、

 カオスや皆があの空について気にする様子がなかったのでそういった空の景色があるものとして受け止めておりました。」

 

 

カーヤ「星はどこででも見られると思うけど……。」

 

 

アローネ「アインス………デリス=カーラーンは広いですから私の訪れたことがない地域などでは()()()()と言われる空のカーテンのようなものが見られる場所もあったそうです。

 星もその一種なのかと………。」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………案外()()()()()()()()()()()()()だったりしてな。」

 

 

アローネ「流石にそれはないでしょう。

 アインスの時代がこの時代よりも優れた技術を有してはいましたがその最古の大惑星はマクスウェルによってバラバラのされたのでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いくらなんでもアインスには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



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ラタトスクの疑念

アインワルド族の住む村アルター 朝 残り期日三十七日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………おはよう………。」

 

 

アローネ「おはようございます。」

 

 

ウインドラ「………」

 

 

カオス「…昨日はごめん。

 ちょっと気が立ってたよ………。」

 

 

ウインドラ「いや俺の方こそ憶測でものを言ってしまったな。

 お前からしたらマクスウェルに助けられたなどと到底考えたくはないことだろうに。

 俺の配慮が欠けていたんだ。」

 

 

カオス「俺が大人げなかっただけだよ………。

 ウインドラは可能性の話をしていただけだったのに………。」

 

 

アローネ「結局何だったのでしょうね………。

 私達が意識を失っている間に一体何方が私達の代わりにアンセスターセンチュリオンとトレントを………。」

 

 

ウインドラ「その件はもういいだろう。

 これ以上深く考えても当事者が分からないのであれば答えなど出てくることはない。

 

 

 それよりもこれからだが………。」

 

 

カオス「うんそうだね………。」

 

 

 昨日はカオス達の頑張りでトレント達を目的地にまで誘導することができた。後は雨が止み次第トレント達の一斉討伐の日が来るのを待つだけだが、

 

 

ウインドラ「とりあえずは昨日の経過をクララ殿のところに行って報告してみてはどうだ?

 昨日はトラブルで話すことすらできなかっただろう?」

 

 

カオス「あぁ確かに………。」

 

 

アローネ「私のせいで報告が遅れてしまいましたね………。

 本当に「謝るな。」」

 

 

ウインドラ「お前達はできるだけの仕事はやりきったんだ。

 本来は昨日も俺達はこの雨の中で何もせずに待つしかできなかったと言うのにお前達は現場へと向かう許可を獲得して三人で実績を残してきた。

 それで十分じゃないか?」

 

 

カオス「ウインドラ………。」

 

 

アローネ「ここは素直にそのお言葉に甘えることに致しましょうかカオス。」

 

 

カオス「そうだね。

 あんまり謝ってばかりでもウインドラ達も困るだろうしね。」

 

 

ウインドラ「分かってるじゃないか。

 謝るのならお前達と一緒に行かなかった俺達の方だろ。

 お前達が昨日の事故の時に俺達さえ側にいれお前達を危ない目にあわせずに済んでいただろう。」

 

 

カオス「昨日のは………、

 

 

 

 

 

 

 ………止めようかこの話。

 いつまで話してても同じだろ?」

 

 

ウインドラ「………フッ、

 そうだな。」

 

 

アローネ「では参りましょうか、

 クララさんのお宅へ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインワルド族族の住む村アルター クララ邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『(………なぁクララ。)』

 

 

クララ「(何ですか?)」

 

 

ラタトスク『(………昨日の話なんだがな………。)』

 

 

クララ「(昨日の………?

 カオス様方がアンセスターセンチュリオンに襲われたことですか?

 私も昨日はいつの間にか寝ていたようなので詳しくは………。)」

 

 

ラタトスク『(レイジングミストなんて大技を気軽に使うからだぞ。

 ……じゃなくて昨日あのガキ達が襲われた時間帯辺りにユミルの森から………、

 ………!!)』

 

 

クララ「(ユミルの森がどうかしたのですか?)」

 

 

ラタトスク『(…何でもない。

 どうやらそのカオス様が来たみたいだぜ。)』

 

 

クララ「(え………!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコンッ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「失礼致します。」

 

 

カオス「おはようございます。」

 

 

ウインドラ「失礼する。

 昨日の進捗を報告に来た。」

 

 

 

 

 

 

クララ「!!

 お、おはようございます。

 今朝はお早いお目覚めですね。

 てっきりもう少しかかられるかと思いましたが………。」

 

 

アローネ「昨晩は申し訳ありません。

 私の不注意でアンセスターセンチュリオンに襲われてしまって………。」

 

 

カオス「作戦自体は成功したんですけど最後の最後で失敗しちゃって………。」

 

 

クララ「まぁ………、

 ……やはり雨天時にユミルの森へ向かわれるべきではなかったかもしれませんね。

 今こうして無事ではあったようですが最悪の事態を招いていたことも考えられるのですよ?

 

 

 

 

 

 

 これからはもう無茶なことはなさらないでくださいね?」

 

 

カオス・アローネ「「はい………。」」

 

 

 無理を言って作戦を実行することを許されたのにその作戦中に予期していた筈の危険に遭遇したカオス達であったがクララからはそこまで強くは叱責されなかった。何かとこのクララという女性はカオス達に対しての判決が甘い気がする。と言うよりかはカオスが絡むと途端に判断がカオス寄りになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…クララ殿、

 たった今誰かと話をしていなかったか?」

 

 

クララ「え……あぁはい………。

 ラタトスクと少々お話を………。」

 

 

アローネ「ラタトスクと………?」

 

 

 この部屋に入る前にカオス達は彼女の父親のケニアと会い彼からクララは私室に()()()()()()()()聞いていた。しかし彼女の部屋に入る直前彼女の部屋の中から彼女が誰かと話をしている声が聞こえたのだ。

 

 

クララ「はい、

 話をしていた……と言ってもそれほど長い話はしておりませんでした。

 カオス達方がいらっしゃるほんの数分ほど前にラタトスクが昨夜のことで気になることがあるようだったので………。」

 

 

カオス「俺達に何か関係していることですか?」

 

 

クララ「…いえぇ………、

 それすらまだ私も聞かされて………。

 

 

 ………ラタトスク、

 カオス様もいらしていただいたのですから貴方の感じたことを話してみてはどうですか?

 昨晩貴方は何を感じとったのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・ウインドラ「「「?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『……あぁ悪いな。

 ありゃ、俺の()()()()だったわ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「気のせい………?」

 

 

アローネ「何が気のせいだったのでしょう………?」

 

 

ウインドラ「そもそも何があったんだ?」

 

 

クララ「そうですよ。

 ユミルの森で一体何があったのですか?」

 

 

ラタトスク『だから何も無かったんだって。

 なんかアンセスターセンチュリオンが一体減ったぞ、って言おうと思ったんだよ。』

 

 

カオス「あぁ、

 そういうことですか。」

 

 

ウインドラ「ラタトスクにはトレントやアンセスターセンチュリオンの数を把握する力があるんだったな。

 もしやそのアンセスターセンチュリオンが()()()()()()()()分かるのではないか?」

 

 

ラタトスク『!?

 ………いや、

 残念だが俺に分かるのはマナの鼓動だけだ。

 それで昨日突然アンセスターセンチュリオンが一体消えたからお前達が倒したんだろうよってクララに教えようとしてたんだ。

 昨日はお前達に共鳴を教えてやる筈がこいつさっきまで寝坊してやがったからな。』

 

 

クララ「!?

 ここで私に振るんですか!?」

 

 

ラタトスク『だってそうだろうが。

 お前が面白そうだからってちょっかいかけに行って教えることになったのに寛仁のお前が疲れて寝てるとか話にならねぇぞ。』

 

 

ウインドラ「…だから先程はカオス達にあまり強く忠告しなかったのか?

 自分も昨日俺達との約束をすっぽかしてしまったから………。」

 

 

クララ「なっ!?

 そういう訳では………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『(上手く誤魔化せたか………。

 一瞬ヒヤヒヤしたぜ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………一見すると昨日の三人やあのバルツィエの娘と纏っているマナは似ているが………、

 この間クララがカオスから聞き出したこいつらの旅の始まりを聞いても()()()()()()()()何か違う空気を感じていた………。

 こいつだけは他の奴等とは何かが違う………。

 こいつのマナは巧妙に隠されているがこのマナはまさか………。)』



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終わらせたくない営み

アインワルド族族の住む村アルター クララ邸 残り期日三十七日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「それでは今後はこの雨が止むまではアルターの中でゆっくりしていて下さいね。」

 

 

アローネ「えぇ、

 そうさせていただきます。」

 

 

カオス「昨日はかなりのトレント達をあの丘まで引き付けられたから後は雨が上がってあの丘に集まったトレント達を倒していくだけだね。」

 

 

ウインドラ「一ヶ所にトレントが集中しているなら全てを倒しきるのはそう時間もかからんだろう。

 目標としては二週間から十日程度で終わらせられればブルカーンに向かう時間も考慮して二週間程度しか期間は無いがレッドドラゴンならカオスがいれば一日、二日で討伐でき『そう事は上手く運べていないようだぜ。』……何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『お前達が昨日やってたことはどうやらあまり効果が無かったみたいだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララの意識が引っ込みラタトスクの人格が表に出てきてカオス達にそう告げてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「効果が無かった………とは?」

 

 

カオス「俺達のしてきたことが失敗したって言うんですか………?」

 

 

 昨日は一日かけてカーヤと二手に分かれてトレント達を集めてきた。カオス達が集めてきたトレントもカーヤが集めてきたトレントも相当数があの丘へと集中していた。それなのに効果が無かったとは一体………?

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『今俺がユミルの森のトレント達を索敵してみた。

 その結果トレント達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また四方に散らばり出してる。

 昨日の夜まではお前達が集めていた場所にいたみたいだがこの半日でまたトレント達が独自に獲物を求めてさ迷い歩き出した。

 もうお前達が目をつけていた場所には殆どトレントは残ってはいない。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!?

 そんな………!?」

 

 

ウインドラ「何故だ!?

 何故トレント達が動き出したんだ!!

 森には今トレント達が追い求めるような獲物はいない筈だろ!!?」

 

 

カオス「何でそんなことに………?」

 

 

 冷たい雨が降る中で一日かけてカオスとアローネとカーヤが飛び回りトレント達を集めてきた。それなのに何故トレント達がまたバラバラになっていくのか。それでは昨日一日を費やして活動した努力が無駄の一言で終わってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………()()()()ですね………。」

 

 

カオス「雨が原因………?」

 

 

クララ「前にも申した通りトレントは晴れた日と雨の日で習性が完全に異なります。

 普段晴れた日に獲物が通りかかるのを待っているのは彼等がそう遠くまで進むことができないからです。

 トレントは木に擬態しているのと同時に地面から水分を吸い上げてそれを糧としています。

 それで根が乾ききらないようにしているのです。

 ………ですが雨の日にはその必要が無く活動範囲が水分を含むところならどこへでも………。」

 

 

 その情報はカオス達には衝撃的だった。雨によって動きが早くなるのは聞いていたがそれで常時その場に留まることがなくなるのではこれ以上カオス達に雨が止むまで何もできなくなってしまう。

 

 

クララ「申し訳ありません………。

 私がこうなることを予測できていればカオス様方を余計に働かせることもなくましてや昨日の襲撃も防げたでしょうに………。」

 

 

カオス「あ………えっと………。」

 

 

ウインドラ「クララ殿は何も悪くはない。

 俺達がモンスターの習性に疎かったことが原因だ。

 ………しかしこうなるとどうしたものか………。」

 

 

クララ「………世界の存続がかかった大事な使命なのですよね?

 でしたら私共アインワルドもそれに立ち向かわねばなりません。

 雨が止んだら私共アインワルドもカオス様方と一緒にアンセスターセンチュリオンとトレント討伐に出撃します。」

 

 

カオス「え………。」

 

 

アローネ「待ってください。

 アインワルドの方々がヴェノムにどう挑むと言うのですか?」

 

 

クララ「カオス様の秘術を受けさえすれば私共でもトレント達と戦う力が備わるのですよね?

 でしたらアインワルドの全ての者にその秘術を。

 そうすれば私共でもカオス様方のお役に立つことができる筈です。」

 

 

ウインドラ「いやしかしだな………、

 事情が変わって全員となるとこれまで通りに魔術に頼った生活ができなくなるかもしれないんだぞ?

 今の洗礼の儀は効果が変化してしまって魔術が一つの属性しか使えなくなる。

 今まで使えていた火や水といった生活に必要な術がアインワルド全体で使えなくなると流石に………。」

 

 

クララ「世界が無くなるかどうかという時に四の五の言ってはいられませんよ。

 私共も世界が無くなってしまうのは困ります。

 世界あっての私達の命ですから。

 

 

 ………ですから構いません。

 今からでもアルターの者を全て集合させま「止めてください!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…そんな簡単に他人の人生を変えてしまうようなこと俺には決断できません………。

 これまでだったらまだしも今の俺の力は何かおかしいんです。

 この力のせいで逆に命を落とすかもしれないんですよ?

 俺にはここの人達の命を背負うことなんてできません!」

 

 

 話がアルターの者達に洗礼の儀を施す流れになりかけてカオスは慌ててその話を断る。ミーア族、クリティア族、スラート族達にかけてきた洗礼の儀の効果は今やアローネ達と同じ力を与えるものとなっている。その力はヴェノムには対抗できるようになるがそれ以外の者に反比例するように弱くなる一面も持ち合わせている。それをアインワルド全体に施すとなればアインワルドはビズリーやダズの件からして地属性の強力な力を得ることになる。だがもし仮に相反する風属性の力を使う者が現れた時彼等は瞬時に殺られてしまうだろう。ダレイオスのどこかにまだバルツィエの先見隊が潜んでいるとも限らない中でカオス達のように気軽に能力を得るべきではない。カオス達はそれぞれが互いの弱点をカバーしあえるがアインワルドはそうはいかない。皆が同じ属性に偏ってしまえばバルツィエといわずそこらにいるモンスターにでも脅威になってしまう。

 

 

クララ「しかしカオス様、

 私達は「俺が!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「俺が何かいい案を考えます!

 マクスウェルのせいでアインワルドの人達に迷惑はかけられません!!

 俺が絶対にどうにかして見せます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはこの一ヶ月と数日でアインワルドに対して高い好感を抱いていた。自分が旅を始めたせいでシーモス海道でマクスウェルが目覚めて世界を破壊すると言い出した。その責任をこれ以上他の人に背負わせたくはなかった。

 

 

 

 

 

 

 少なくとも世界を旅した中で一番守りたいと感じたアインワルドの者達には………。



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藁にもすがりたくて

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………どうしよう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれだけの啖呵きったのに何も思い浮かばなかった………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日前にクララやアローネ達の前でアインワルドの者達に洗礼の儀を施さずにトレント達をどうにかしてみせると言い切っておきながら未だどうすればいいのか分からずじまいなカオス。

 

 

 カオスが洗礼の儀を拒むのは洗礼の儀がこの二ヶ月で違う効果に変化したからだ。それまではただヴェノムに感染しなくなるだけだったのだがカーヤやアインワルドのビズリー、ダズがアローネ達と同じ力が付与されたことによってそれを知った。

 

 

カオス「(何で急にこんなことになったんだよ……。

 シーモス海道じゃアローネ達にしかあの力は渡さないとか言ってたって聞いてたのに………。)」

 

 

 カオスに憑依するマクスウェルは自身が何者かに狙われていることを危惧しあまり自身の力が多くの者に知れ渡ることを避けるようにアローネ達に忠告した。もし彼がその何者かに捕まるようなことにでなれば善からぬことを企てるからとのこと。

 

 

 だがそれでもカオス達がダレイオスを旅してダレイオスのほぼ大半の者達に彼の力のことが伝わってしまっている。マクスウェルもカオス達が正直にダレイオスの者達に彼の力のことを説明してきたためこれ以上自身の存在を秘匿することは無理と判断してアローネ達に付与した力を他の者達にも付加するようにしたのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはさておき、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「どうすればトレント達を一気に片付けることができるんだろう………?」

 

 

 昨日の時点でトレント達は一ヶ所に集めたと思ったのだがカオス達が半日その場を離れていただけでトレント達はそこらじゅうにまた散らばって行ってしまったようだ。雨が降って活発になったせいで今度はトレント達が待ち伏せして獲物を捕らえる習性から獲物を探して徘徊する習性に切り替わってしまっている。雨の日に晴れていた日のようにトレント達を狩ることは禁止されている。風も吹くようになって森を元気に徘徊するトレント達を焼却して倒そうとするとそのままユミルの森全体が大火事になる危険があるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………また一昨日みたいにトレント達を集めてきてからその後俺がそこに壁を作って囲って………、

 ………だけどそれだとユミルの森の地形が大分変わっちゃうよなぁ………。

 ラタトスクにはあまり森を壊さないように言われてるし………。

 ………どうしたら………。)」

 

 

 カオスは本来正々堂々と戦うことに特化したスタイルだ。真正面からぶつかって勝つことにのみ力をおいている。精霊が憑依していることもあってカオスの魔力は常人のそれではない。だからこうして細かなことを考えるのには向いていない。そういうことは仲間達の方が得意で仲間達に知恵を貸してほしいところだが仲間達の意見もクララ同様にアインワルドと共に協力してトレントとアンセスターセンチュリオンに立ち向かう方針だ。今回のことに関してはカオスに味方はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはどうしてもアインワルド族の者達全員に術を付加することをしたくはない。一度付加してしまえばそれを解く方法はアローネ達の様子を見るか限り存在しない。カオスが付加した術は永続的にその効果を発揮し続ける。即ち付加する前と後でその者の今後を大きく左右してしまう恐れがある。付加する前であればその者がヴェノムに倒されるようなことがあれぼその者の責任だが付加した後にヴェノムではなくそれ以外の方法で倒れるようなことにでもなればそれは高い確率でカオスが付加した術の作用のせいだろう。術の効果を納得した上で興味本意で付加してほしいと言ってくるものがいれば付加してもいいとは思うのだがアインワルドの者達はカオス達の旅の事情の巻き添えでトレント達を倒すためだけにその後の人生を大きく変える選択を迫られている。

 

 

 そんなことはカオスも容認できない。星の命運の責任は自分達だけのものだ。自分がマクスウェルを目覚めさせたことによってデリス=カーラーンが存続の危機に見回れている。それに好感を抱く彼等を巻き込むつもりはない。

 

 

 しかしもうそれしか方法は思い付かない………。それしかマクスウェルの課した期日に間に合う方法は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………この雨が早めに止んでくれればいいのにな…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの心情と同じ様に空の色を染めて雨は降り続く。この天候という問題さえなければカオス達の旅は足止めを食らうことなくトレントとアンセスターセンチュリオンを倒して最後のヴェノムの主レッドドラゴンへと挑めたというのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「お客さんこんなところで何してるでやんすか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが悩んでいるところへアルターでの初日に出会ったうさにんのマクベルが話しかけてきた。

 

 

カオス「マクベルさん………。

 そういえばまだアルターにいたんですね。」

 

 

マクベル「そりゃそうでやんすよ。

 俺っち一兎じゃこの森から出ることなんてできないんでやんすから。」

 

 

カオス「…そうなんですね………。」

 

 

マクベル「でも今出るのが無理なだけで俺っちこの雨が止んだら一度里に戻るでやんすよ。

 お客さん達のおかげで森にもトレントがいなくなってきたみたいでやんすし里にもそろそろ帰らないと嫁達が俺っちの帰りを待ってるでやんすから。」

 

 

カオス「何だかんだで一ヶ月以上ここに大罪してたことにもなりますよね。

 早く家族の人達のところに帰ってあげてくださいよ。」

 

 

マクベル「そうするでやんす。

 ここでの収穫も社長達に報告しないといけないでやんすから。」

 

 

カオス「報告………?

 …マクベルさんは何しにここに来たんでしたっけ?」

 

 

マクベル「ダレイオスで仕事を再開できるかの確認でやんすよ。

 お客さん達の頑張りのおかげでダレイオスからヴェノムが減少しているみたいでやんすからどうにかいい吉報を持って帰れそうでやんす。」

 

 

カオス「その報告をしたらダレイオスにまたうさにん達が往き来するようになるんですか?」

 

 

マクベル「そうなるでやんす。

 けどまだ完璧に安全になったとは言い切れないものでお客さん達もまだこれからブルカーン族のところに行ってレッドドラゴンを倒してくるでやんしょ?

 仕事を再開するのはそれが終わって暫く経ってからになるでやんす。」

 

 

カオス「そうなんですね………。」

 

 

 六年前まではこのダレイオスにもうさにんがいたという話は聞いていた。それが国が機能しなくなって部族間での交流が無くなりダレイオスからうさにんが撤退した。

 

 

 それがまたうさにん達がダレイオスにやって来るようになる。カオス達の旅の成果が出てきた証拠だ。だとすればここで立ち止まっているわけにはいかない。ダレイオスをかつての姿に戻さねばならない。それだというのにトレント達の問題をどう解決すればいいのか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………あの………、

 一つ相談にのってもらえませんか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは猫の手も借りる思いでマクベルに自分達がぶち当たっている問題を打ち明けた。初日の出会いから頼りになりそうにない相手だとは思ったがそれでも彼は他の者達とは立場が違う。彼なら何か有力な作戦のヒントだけでも得られないかと本の少しの期待を込めてカオスは話し出した………。



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雨が降るのなら…

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「ははぁ………。

 これはこれはとても重大な相談を持ちかけられたでやんすねぇ。

 この件は俺っちの小さな脳みそじゃあ解決してあげられそうにないでやんす。」

 

 

カオス「そうか………。

 そうだよね………。」

 

 

 藁にもすがる思いでマクベルに話をふったがやはりいい話は聞けそうになかった。

 

 

マクベル「お客さん達がどうしてそこまで早くにここでの仕事を終わらせたいのかは知らないでやんすけどお客さん達なりの事情があるでやんしょ?

 俺っちもこの間助けられた恩を返せるかと思いやしたがすんません。

 俺っちにはいい案が纏められないでやんす。」

 

 

 そう言ってマクベルは頭を下げる。相談された立場であるのにそこまで親身になって一緒に作戦を考えてくれただけでも有り難いのに頭を下げさせるのはなんとも忍びない。

 

 

カオス「そんないいですよ。

 顔を上げてください。

 俺達がただせっかちなだけなんですから………。」

 

 

 本当のところは違う。ここでの仕事を早期に終わらせたいのはこことブルカーンの地のヴェノムの主を倒さねば世界の行く末が決定してしまうからだ。無用な混乱を避けるために時間が有限であることは伏せてそこまで焦っていはいない体を装ったがここで何も良案が思い浮かばないのはかなりの焦燥感に襲われる。

 

 

 何か………、

 何か良い策は無いのか………?

 この雨の間にトレント達を集めておく策は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「雨が降って火の魔術の加減が難しいっていう問題よりもトレント達が凶暴になって手に負えないって状況の方が現実問題面倒な部分なんでやんすよね?」

 

 

カオス「…そうですね………。

 雨の降ってる間はトレント達も普通のモンスターと同じ様に動き回るしそんなトレント達を倒す方法は最後には火の魔術しか手がないですし………。

 トレント達を集めてから壁を作って包囲しておくのも森を不必要に荒らしそうでラタトスクに怒られそうですし………。」

 

 

マクベル「ハハァ!?

 ここまでヴェノムに感染したトレント達が繁殖しまくってそこを気にするんでやんすか!!

 もう十分ヤバイでやんしょこの森!」

 

 

カオス「そうは言いますけどここには世界にとって大事な世界樹カーラーンもあるからある程度は森という形を残しておきたいんですよ。

 木々が少なくなればその分このアルターも外から人が出入りしやすくなりますしそうなってしまうとアインワルドの人達が隠し通してきた世界樹の存在が他の部族の人達の目にも止まることになるかもだろうし。」

 

 

マクベル「う~ん………。

 トレント達を森を傷付けずに一気に倒す方法………。

 雨が降ってトレントが凶暴化してあっちこっちに行ったり来たり………。

 トレントから森に火が回るのは避けたい………。

 でもそれだと時間がかかりすぎる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………なんか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()やんすけどね。

 流石にそんな大きな穴掘ってる時間もないでやんしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………地下………………?

 ………………空間………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「昔からヴェノムに対して使われてる対処方法でやんすよ。

 ヴェノムは時間が経てば勝手に消えるでやんすから皆穴掘ってはそこに落としてきたでやんす。

 でも流石に千体を超すトレント達を落とせるほどの大穴なんて何人がかりでやっても数ヵ月は「それですよ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「どうしてこんな簡単なことを思い付かなかったんだ………。

 地上が荒れるのが駄目なら()()()()()()()()()いいじゃないか!

 地下を作れればトレント達も一纏めに集めておけるしその穴を壁で囲ってしまえば火が森に燃え移ることもない!

 おまけに地下で作業ができるなら火の手加減だって要らない!

 思う存分トレント達を燃やすことができる!!

 

 

 しかも!!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!()

 その作戦は雨が降っている今だからこそ活きる!!」

 

 

マクベル「お、お客さん………?

 俺っちの考えは単なる冗談のつもりで「マクベルさん!! 」はひっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「助かりました!!

 マクベルさんのおかげでトレント達と直ぐにでも決着をつけられそうです!!

 本当に有り難うございました!!」

 

 

マクベル「へ……!?

 本気でやんすか!?

 本気で穴を掘るつもりでやんすか!?

 そんなの一体どれぐらいの時間がかかると「できるんですよ!」」

 

 

 

 

 

 

カオス「…俺………!

 全然自分の持っている能力を活かしきれてなかったんだなぁ………。

 マクベルさんに言われるまで全然そういうこと考えたこともなかった。

 それに気付かせてくれて本当に有り難うございます!」

 

 

マクベル「い、いやぁお礼なんていいでやんすよ………。

 俺っちは穴を掘るとしか言ってないでやんすし………。」

 

 

カオス「そんなことありませんよ!

 マクベルさんは俺に凄い知恵を授けてくれた!!

 マクベルさんがいなかったらこの世界は………!」

 

 

マクベル「世界………?」

 

 

カオス「!

 と、とにかくマクベルさん色々と助かりました!

 俺ちょっとこの後()()()()()()()()()()()()があるんでこれで!」タタタッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「………何だったんでやんすかねぇ………?

 まさかあれを本気にしてるでやんすか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(いける!いけるぞ!

 マクスウェルの力を利用すればきっと………!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数々の問題が重なって難題化したトレントとアンセスターセンチュリオンの討伐だったがマクベルの意見を参考に起点を見いだすことができたカオス。この後彼は仲間達と共にトレントとアンセスターセンチュリオンとの決着を付けに向かうのだが………。



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最終案

アインワルドの住む村アルター 残り期日三十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………と言うことなんだけどどうかな………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ「「「「「………」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは先程のうさにんとのマクベルと話の中で考え付いた策を皆に説明した。トレント達をこの雨の中で一ヶ所に留め尚且つこの雨の中でもトレント達を倒す方法。それはカオス達が雨が止んだ後にトレントを倒すために用意していた場所に巨大な穴を作りそこにトレントを落として焼き払うというものだった。この作戦なら今までのように気を付けなければならないことは一切なくトレント達を殲滅できる。

 

 

アローネ「…そのような手があったとは………。」

 

 

タレス「すぐに思い付きそうで意外に思い付かない作戦ですよね………。」

 

 

ウインドラ「普通の者にはとても無理な作戦だろうな。

 しかしカオスがいるのならそれも無理では無くなるということだ。」

 

 

ミシガン「結論的にトレント達を纏めて焼ける焼却炉みたいなのを作るってことだよね。」

 

 

カーヤ「雨が降ってても平気なの?

 その作戦は。」

 

 

 

 

カオス「いや、

 寧ろ()()()()()()()()()()()()()()()()

 雨が降っているからこそこの作戦を実行するとユミルの森にいるトレント達を全部かき集められる。

 一々レアバードで飛び回ってかけ集めてくるよりも雨が降ってトレント達が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()この作戦は上手く成功すると思う。

 雨が止んじゃったらまた一から散らばっているトレント達を相手にしなくちゃいけない。

 それじゃ時間がかかりすぎるだろ?」

 

 

 この作戦では雨の日のトレントの習性を利用した作戦だ。雨の日に活発的に動くトレント達は一度獲物の気配を感じとればその方向へと一直線に向かっていく。晴れの日のように獲物が通り掛かるのを待っていることはない今のトレントの習性ならば雨が止むのを待つこともなく晴れの日以上の勢いでトレント達がカオス達の元へとやって来る。カオス達はただ掘り起こした穴の中心で待っていればいい。それだけでトレント達は穴の中へと落下していきそこから外へと出られず焼き付くされるのみである。

 

 

アローネ「…ですがそれですと私達は何をすれば………。」

 

 

カオス「穴を掘って壁を作るのは俺がやる。

 なんならトレント達を燃やすのも俺でもいい。

 アローネ達にはトレントが穴から溢れ返りそうになったらそれを中心の方に押し留めていてほしい。」

 

 

ウインドラ「それが良さそうだな。

 相手の数はまだ三千にも及ぶんだ。

 お前が空ける穴の空間もその全部が入りきるとは思えん。」

 

 

タレス「大丈夫………ですよね。

 カオスさんなら一人ででもトレントを倒しきれますよね。」

 

 

ミシガン「その作戦って別に私達だけじゃなくてもいいよね?

 カオスがトレント達を倒してくれるのは助かるけど穴からトレントを出さないようにする係ってどうやっても私達だけじゃ足りないでしょ?」

 

 

アローネ「…!

 それならアインワルドの方々にも協力してもらいましょう。

 例の指定の地点からアルターまでにいるトレントを先にカオスが作った穴に放り入れられればそこまでの道の安全を確保できます。

 それでもトレント達が襲ってきた時はカーヤか私がレアバードでアインワルドの方々を警護致します。」

 

 

ウインドラ「よしそれで行こう。

 後は何か見落としている点は無いか?」

 

 

タレス「アンセスターセンチュリオンが来たらどうしましょうか?」

 

 

ウインドラ「フム…そうだな………。

 アンセスターセンチュリオンはトレントの数倍の巨大だからそれが納まる程に穴を大きく作らないといけないな。

 そこは後でクララ殿と相談してみるとしよう。

 場合によっては指定の場所よりも立地のいい場所があるかもしれない。」

 

 

ミシガン「やるとしたら今日?明日?」

 

 

アローネ「まだこの計画を実行に移すには今日では早すぎます。

 何か他にもっと注意すべき点を探すべきでしょう。

 クララさんとの相談が済んで問題がなければ今日中にカオスとカーヤの三人でまた現場に戻って場所を設計し直してきます。」

 

 

ウインドラ「三人だけではこの間と同じ轍を踏みそうだな。

 今度は俺も同行しよう。」

 

 

ミシガン「え?

 それじゃあ私達は残ってる間何してればいいの?」

 

 

タレス「協力してくれそうなアインワルド族を見付けましょう。

 そしてその人達にも共鳴を修得してもらうんです。」

 

 

ミシガン「この計画ってもし始めるとしたら明日なんでしょ?

 それまでに修得するの難しくない?」

 

 

タレス「何事も始めてみないと始まりませんよ。

 ボク達だってまだ完全には修得してはいないんですからできるだけ多くの人とやってみて早く修得できた人達から徐々にコツを拾っていくんです。」

 

 

ウインドラ「そうしていてくれ。

 俺達も場所を設計し終えたら合流する。

 俺もやっておきたいしな。」

 

 

アローネ「ではこれからクララさんにこの話をしに行きましょう。

 

 

 

 

 

 

 これなら文句のない完璧な作戦であると私は信じています。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………よかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急ごしらえではあったけど誰からも反論がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とマクベルさんで考えた作戦に皆賛同的だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この作戦が成功したらブルカーンの地へは予定よりも大分早く行くことができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも残されている時間は少ないけど希望が見えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この作戦は………、

 絶対に成し遂げて見せる!



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更なる強大な敵の予感

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 残り期日三十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「…そのようなことが本当に可能………、

 ………なのでしょうね………。

 カオス様がそう仰られるのなら………。」

 

 

 つい今しがたクララに先程アローネ達に話をした策を説明し終えた。その反応はたった数日で全てを覆されて驚きはしていたがカオスならと納得した様子だった。

 

 

アローネ「お願いします。

 もう一度私達に森へと向かう許可をください。」

 

 

ウインドラ「今度はこの前のようにはいかない。

 今回は俺も同行するし四人で一塊で動くんだ。

 何か危なくなればすぐにでも離脱する。

 そう約束する。

 だから………。」

 

 

クララ「………」

 

 

 クララはアローネとウインドラの頼みこむ言葉に沈黙する。三日前には安全だと言い切って失敗して帰ってきたのだ。そう易々と外出する許可は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『やれるんだな?

 それで。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 口調と声が代わってクララの中の精霊ラタトスクがカオス達に質問してきた。

 

 

カオス「!

 はっ、はい!

 今のところはこれなら特に問題が発生したりは『アンセスターセンチュリオンはどうする?』」

 

 

ラタトスク『その作戦はトレント達を完全に隔離してそこをたたく作戦みたいだがそんなに簡単にいく話なのか?

 お前がその穴を作っている間にトレントやアンセスターセンチュリオン達が押し寄せてきたら穴を作るどころの話じゃなくなるんじゃないのか?』

 

 

カオス「そ、それは………。」

 

 

ラタトスク『他にもあるぞ。

 アンセスターセンチュリオンが作られる過程は()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな穴に上手くトレント達を落とせたとしてそこからアンセスターセンチュリオンがまた精製されることにもなるだろう。

 …場合によっては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。』

 

 

ウインドラ「アンセスターセンチュリオン以上の怪物………!?」

 

 

カオス「そんなのが誕生………!?」

 

 

 これまでのアンセスターセンチュリオンはトレントが複数体合体して誕生していた。トレント達を同じ場所に留めておくとそうなることもあるのだ。そして今度の作戦では戦う前にトレント達を同じ穴に押し込める作戦だ。その穴の中からアンセスターセンチュリオンが誕生することもさらにはそれ以上の合体生物を生み出してしまうこともあるらしい。

 

 

ラタトスク『現場を直接視認してきた訳じゃねぇがお前達はトレントならどうにか倒せるみたいだな。

 

 

 だがアンセスターセンチュリオンはどうだ?

 そんな手早く倒せるのか?

 そしてそれより強い奴が現れたら倒せる保証があるのか?

 お前達がそれを決行したとしてお前達の手に終えない化け物が生まれちまったら俺達はどうすればいい?

 お前達に頼りきりな俺達が言うのもあれだが自分達で敵わない敵を作り出すようなこともないだろ?

 世界がどうかなるかの前に自分達で難題に突撃していくこともないんじゃないか?』

 

 

アローネ「ですがそれではマクスウェルの期日に間に合わないのです………。

 そうでもしなければ………。」

 

 

ラタトスク『…だったらよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス、

 ここは他の奴等に任せてお前一人だけでブルカーンのところのレッドドラゴンを倒してこい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・ウインドラ「「!」」

 

 

 ラタトスクはカオスに先にレッドドラゴンを倒すように言ってきた。

 

 

ラタトスク『お前達が焦ってるのは時間だろ?

 期限とかいうのが差し迫ってからそんな無謀な賭けに挑もうとしてるんだろ?

 だったらこことブルカーンのところを同時平行して進めればいい。

 お前ならレッドドラゴンを一人ででも倒せるんだろ?

 それだったらお前がレッドドラゴンを先に倒しに行け。

 その間ここでこいつらにこの間の作業を続けさせる。

 お前の仲間とアインワルドで作業を引き継げばギリギリで時間には間に合うだろうぜ。』

 

 

アローネ「カオス一人でブルカーンの地へ向かわせるのですか!?

 レッドドラゴンはともかくブルカーン族の人々はフリンク族を誘拐するような方達ですよ!?」

 

 

ウインドラ「一応ダレイオスの九の部族を再統合する目的で俺達は旅をしていたがどうにもブルカーンの奴等とは話し合いができそうにないという噂しか聞かない。

 そんなところへカオス一人で向かわせて話が通じるかどうか分かったもんじゃない。

 それにあそこには精霊イフリートを名乗る何者かが待ち構えていると言う。

 敵は最悪レッドドラゴンだけじゃない。

 ブルカーンも敵に回る可能性さえある。

 ブルカーンの地に向かうのなら一人では不味かろう。」

 

 

 ラタトスクがカオスを一人でブルカーンの地へと向かわせる発言を聞きそれをアローネとウインドラで反対する。

 

 

ラタトスク『しかしな?

 トレント達は合体してアンセスターセンチュリオンになるんだぞ?

 お前らの作戦はどう聞いてもアンセスターセンチュリオンを大量発生させそうな作戦だ。

 ヴェノムの感染個体ってのは未だ未知数だ。

 下手したらお前達が倒しはしたが大分苦戦させられたって言うカイメラに匹敵するような怪物が誕生することだってあるかもしれない。

 今ユミルの森にいるアンセスターセンチュリオンは総勢()()()にまで増えてる。

 ヴェノムの主十五体分だ。

 カイメラは何体分の主の力を持ってたんだっけなぁ?』

 

 

 

 

 

 

 カイメラはジャバウォックに始まりビッグフロフター、ブルータル、マンティコア、バタフライ、レッドドラゴンの六体分のヴェノムの主の力を持っていた。それぞれが違う属性を司る主で相対する属性以外の攻撃を受け付けない鉄壁の守りを武器にカオス達は殆どダメージを与えることができなかった。

 

 

 もしユミルの森のアンセスターセンチュリオンが合体したりでもしたらカイメラのような鉄壁の守りは無いだろうがアンセスターセンチュリオンでも相当なタフさを有していたこともあってそれに相当する持久力を得ることだろう。数だけで言えばカイメラの倍以上の数だ。アンセスターセンチュリオンでもかなりのサイズがあるのに十五体分のアンセスターセンチュリオンとなるともはやちょっとした山のような生物が誕生してしまう。そんな生物が誕生してしまう可能性のあるこの作戦は中止にすべきなのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………倒しますよ俺が………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『あん………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「例えどんなに強いヴェノムが誕生しようとも俺の中のこいつはそんなの関係ないくらいに強い力を持っているんだ!

 なら俺はこいつの力を使ってどんな相手が出てきても倒して見せる!!

 この………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()仲間もアインワルドも世界中の人達も俺が守るんだ!!」



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ラタトスクが感じた力

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 残り期日三十五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………………ハァ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………分かりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス様のその熱意は伝わりました。私も世界がいつかは滅びてしまうことは予期しておりました。それでもそれをどうにかするのは私の役目ではないのですよね。全てはカオス様方がそれを止めようとしてきた。これまで途方もない壁を乗り越えてきてこのアルターまでお越しになられた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうぞカオス様のお好きなようになさってください。

 私はもう何も口出しすることはありません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 じゃあ……!?」

 

 

アローネ「作戦を実行しても宜しいのですか!?」

 

 

 あれほどラタトスクが食い下がった中でまたクララの人格に切り替わってクララがカオス達の作戦を認めた。

 

 

クララ「構いません。

 それでカオス様がトレントとアンセスターセンチュリオンを倒すと仰られたのですから私からはそれを止めるようなことはもう言いません。」

 

 

ウインドラ「!

 そうかでは早速「ですが、」」

 

 

 

 

 

 

クララ「作戦を認めますがもしこの雨が止まぬ内に決着がつかないのであればラタトスクの指示に従ってカオス様は村の者達に秘術を施してブルカーンの地へと赴きください。

 後のことは私共とカオス様のお仲間の皆様で討伐を引き継ぎます。

 ですから()()()()

 それまでになんとしてもトレント軍の討伐を完了させてください。」

 

 

カオス「四日で三千以上のトレントを………。」

 

 

ウインドラ「これまでの実績を見れば一日で四百数だったのを最低七百五十は倒さないといけない計算か………。」

 

 

アローネ「それでも大丈夫です。

 私達でどうにかトレント達を倒しきって見せます。

 これまでだってどうにかなってきたのです。

 カオスと私達でならきっと………。」

 

 

クララ「それからアンセスターセンチュリオンに関しては出現したら積極的に倒していただけますか?

 雨が止んでからアンセスターセンチュリオンがまだ残っているようであれば私達も流石に倒すことが難しいので。」

 

 

カオス「はい!

 分かりました!

 アンセスターセンチュリオンは全部俺が倒します!

 トレント達も俺達で必ず倒しきってやります!!」

 

 

クララ「…その調子でこれからお願いしますね。」

 

 

 そう言ってクララは背を向けて退出していった。これ以上は話すだけ時間の浪費だと悟ったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「よしでは直ぐにでも始めよう!

 時間は四日以内。

 それまでにトレント達を殲滅するんだ!」

 

 

アローネ「今日のところは地形の設計ですね。

 外でカーヤが待っています。

 急ぎ森へ飛びましょう。」

 

 

カオス「あぁ!

 行こう!

 俺達だけでトレントを絶対に倒しきるんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………」

 

 

 カオス達が出ていくのを窓から眺めるクララ。カオス達はその後四人で森へと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『(よかったのかよ?

 森に向かわせて。

 あいつら多分この四日でケリつけるだろうぜ?

 そうなるともうカオスがこのアルターに長くはいない。

 カオスを先に向かわせた方がまたここに戻ってくることだってあり得る。

 その方がゆっくりと()()()()()()()()()ものを………。)』

 

 

クララ「(あまりカオス様の意見に否定的ではカオス様から嫌われてしまいますわ。

 それよりはカオス様に従う従順なところをアピールした方がよいでしょう。

 それに世界が滅ぶのであれば世界を優先するのは当然でしょう?

 私の狙いは世界が存続したその先にあるのですから。)」

 

 

ラタトスク『(そうだな。

 前々からアレが世界を滅ぼす可能性を持っていたことは予想していた。

 それぐらい奴の力はこのアルターにいても感じ取れる程に強大だったからな。

 ………それもこの世界樹があるアルターに来てからは益々実感できるぜ。)』

 

 

クララ「(そうなることはありませんよ。

 カオス様は必ず破壊を止めてくれます。

 あの方なら必ず滅びの運命から世界をお救いくださるでしょう。)」

 

 

ラタトスク『(随分と入れ込んでるな。

 もうアイツを()()()()()にしたつもりでいるのか?

 あれだけの力だ。

 アイツを狙っている奴は沢山いると思うぜ?)』

 

 

クララ「(例え他に彼を手にしようとする者がいたとして最終的に隣にいるのは私です。

 私にはそれだけの()()があるのですから心配ありません。

 彼の話の中ではミーア、フリンク、クリティア、スラートで彼に近づこうとする者はいなかったようですし危惧するとすればお仲間の方々ですがそれも一人は恋人が側にいてもう一人は他の方に好意を寄せている。

 最後の一人に至ってはカオス様は妹のように接しているところからそういった感情は無いのでしょう。)」

 

 

ラタトスク『(クララのライバルになりそうな奴はいないってことか。)』

 

 

クララ「(その通りです。

 ですからカオス様がもしこの雨が止む前にトレントとアンセスターセンチュリオンを倒しきったとしたら私はカオス様がここを発つ()()()()()()()()()()………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メーメー「フスッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「!?」ビクッ!

 

 

ラタトスク『(こいつは………あいつらが連れていた………。)』

 

 

 

 

 

 

メーメー「メェェェッ!」

 

 

クララ「………この子は………確かメーメーと呼ばれていた子で信じがたいことですがこの子は元ヴェノムの主らしいですね………。」

 

 

ラタトスク『(こいつのこの姿とマナからはとてもそうは思えねぇよな。

 どうなったらこんなチンケな奴が最強のヴェノムの主になるんだか。)』

 

 

クララ「(それを言うならカオス様だってそうですよ。

 あの方からはとても強い力を感じますが精神的なものは普通………もしくは少々脆いような気がします。

 そのおかげで私もカオス様を容易に攻め落とせそうではありますが。)」

 

 

ラタトスク『(………そうだよな。

 精神と力が不釣り合いなケースもよくある話だよな。)』

 

 

クララ「(そうですよ。

 力が無いものでさえ人並み以上に気が強い人だっているのです。

 カオス様やこの子もその例なのでしょう。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『(………力が不釣り合いなケースか………。

 クララのことを思ってまたカオスがアルターに戻ってくるように仕向けようとしている………、

 

 

 

 

 

 

 ………ように俺がああ言ったとクララは思っているだろうが俺の()()()()()()()()()()()()()()()………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その分アイツの力の秘密を探れる機会が増えてくる。

 アイツが一体何者なのか………何を考えて行動しているのか探りたかったが上手く事を運ぶことができなかったな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()………。

 お前のその力は一体何なんだ………?

 お前から感じたあの力は他の四人とは決定的に何かが違う………。

 俺達精霊とも違うその力はどこでどうやって手に入れた………?

 

 

 

 

 

 

 ………お前はまさかあの精霊が言っていたっていうあの………………。)』



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カオスが来した変調

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアア……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………行こう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日の内に森の北西の方でカオス達はトレント数百体を纏めて入れられる巨大な穴を作った。穴を作っている最中はアローネとウインドラがトレント達が邪魔をしないように誘導してくれていた。その甲斐あって念入りに深く穴を作れた。あの穴ならアンセスターセンチュリオンが紛れ込んできてもそう簡単には抜け出すことはないだろう。問題が発生するとしたら押し寄せてくるトレント達を素早く倒すことができるかどうかだ。トレント達は密集すると合体し始める。そうなるとアンセスターセンチュリオンが精製される。アンセスターセンチュリオンはトレントの数倍の大きさと体力の高さがあるので倒すのに時間がかかる。時間をかけすぎればその分他にアンセスターセンチュリオンが誕生してしまう。そうならないためにも今回の作戦は全力でトレント達を捌くところにある。

 

 

カオス「(………とは言うもののそこまでこの作戦失敗するようには思えないんだけどなぁ………。)」

 

 

 地形の設計から倒すまで今回は全てカオスの力頼りだ。カオスはいわずもがな無限とも思えるマナを有している。その力の源は精霊によるところだがカオスが魔術を止めでもしない限りは失敗する未来は見えない。この作戦は高確率で成功する。カオスの()()()()()()()()()………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…ではタレスは私の後ろへ。」

 

 

タレス「はい、

 お願いします。」

 

 

ウインドラ「カーヤ、

 頼むぞ。」

 

 

ミシガン「ほ、本当に三人も乗れるのこれ………?」

 

 

カーヤ「三人は………、

 乗せたことはないけど多分乗れる。」

 

 

ミシガン「…墜落とかしないよね?」

 

 

カーヤ「………」

 

 

ミシガン「ちょっと!?」

 

 

 今日の作戦はカオス以外はサポートに回る予定だ。トレントを落とす穴の様子を見てトレントが溢れかえりそうになったら調節のためにトレントを押し留めたり逆に容量以上に入らないようにトレント達を近づけさせないようにする。

 

 

アローネ「カオス………、

 本当にお一人で平気ですか?」

 

 

ウインドラ「これからやる作業はカオス、お前に全てがかかってるんだ。

 それなのにお前だけ()()()()()()()()()()()利にかなっていない。

 お前が倒れでもしたらそれだけでこの作戦は破綻するんだ。

 …やはりお前は体力温存のために先に飛行して現場に向かっていた方がいいんじゃないか?」

 

 

 二人が言うようにカオスはこれから飛葉翻歩で現場に向かう予定であった。レアバードを使わずに向かう理由はレアバードが乗せられても二人から三人がやっとで乗るようになってから長いカーヤならまだしもアローネはつい先日乗れるようになったばかりで事故も起こったためアローネの乗るレアバードにはあと一人までしか乗せられない。効率を考えれば全員がほぼ同じ時間に現場に向かうのであれば足の早いカオスが地上からレアバードを追う形しかとれなかったのだ。

 

 

タレス「カオスさん、

 無理をし過ぎないようにてください。

 カオスさんはカイメラの時からずっと働き過ぎなんです。

 これからのことだってカオスさんが殆ど役割を担っているじゃないですか。

 そんなに詰めていてはいくらカオスさんでも………。」

 

 

ミシガン「ウインドラと私が着いたらまたカーヤちゃんにカオスを迎えに行ってもらえばいい話じゃないの?

 こんなに雨が降ってる中で走って進むなんて危ないよ?」

 

 

カオス「心配無いって。

 俺一人でならこの間も帰ってこれたんだしそんな無茶はしてないって。

 それよりも皆の方が心配だよ。

 この間は空中にいてもアンセスターセンチュリオンがツルを伸ばしてきたから飛ぶなら結構上の方まで行った方がいいんじゃない?」

 

 

ウインドラ「今はお前のことを話していたんだが………。」

 

 

 四人には心配されているみたいだがカオス自身は四人が心配するほど負担になっているとは思っていなかった。これまでの経験上自分がダウンすることなどあり得ない、あるとしたらそれはトレント達からの集中攻撃を受けてしまった時だろう。しかし今は自分が追い詰められたとしてもそれをカバーしてくれる仲間が一緒だ。もしトレント達に囲まれてしまったとしても上手いように逃げるか仲間達が援護してくれるだろう。それなら何を必要に心配するというのだ。正直言って自分が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ほら、

 時間はそんなに多くは無いんだよ?

 俺の心配よりもこの雨が止まない間に早く決着を付けに行こうよ。

 

 

 俺は先に行くからね。」タッ!

 

 

アローネ「カオス…!」

 

 

 あのまま話込んでいても仲間達は納得はしないだろう。ならば強引にでも話を区切らねばいつまでも仲間達が飛び立つことはない。カオスは仲間達をおいて先に森へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………仕方ない。

 カオスを追うぞ。」

 

 

タレス「あの様子じゃあ本気で走って行くみたいですね。」

 

 

カーヤ「追う?」

 

 

アローネ「そうするしかないでしょう。

 カオスのペースに遅れるわけには行きませんから。」

 

 

 アローネ達もレアバードに騎乗する。五人が全員乗り込みカオスを追うべく浮上していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………?

 なんかカオス………、

 変じゃなかった………?」

 

 

ウインドラ「ん?

 あいつがどうかしたか?」

 

 

ミシガン「なんかいつもと違うって言うか………。」

 

 

ウインドラ「…特にそんなのは感じなかったが………。

 会話もいつも通りだったと思うぞ?」

 

 

ミシガン「…共鳴の特訓してたからかなぁ………?

 カオスの雰囲気とかじゃなくてね…。

 カオスの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マナが凄く荒ぶってるように感じたんだけど………。」



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訪れる限界の時

ユミルの森 丘 残り期日三十四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアア!!!!

 

 

 

ウインドラ「次が落ちるぞ!!」

 

 

トレント「「「「「ゴアアアッ!!」」」」」

 

 

ズザザザザッ!!

 

 

 

 

 

カオス「『ファイヤーボール!!』」

 

 

 

ボフンッ!!

 

 

 

トレント「「「ガアアアアアッ!!」」」

 

 

タレス「此方側のトレントももう抑えきれません!!

 落とします!!」

 

 

カオス「了解ッ!

 どんどん来ていいよ!!」

 

 

ミシガン「カオスこっちも!!」

 

 

カオス「分かった!!」

 

 

 トレント達がカオスの作った穴に落ちてはそれをカオスが葬っていく。穴の上には前までと同じくこれまたカオスが作った岩壁がありその上でタレス、ミシガン、ウインドラが穴の容量を見てトレントを通過させたり妨害したりしている。そしてカオスは通過して穴に落ちていくトレントを焼くその繰り返し。雨による活性化でトレント達の勢いは油断していると直ぐに穴に落ちた個体が積み重なりまた地上へと這い出てこようとする。一瞬の休息の時間すらもとれない状態だ。カオスは休むことなくトレントを焼き払っていく。岩壁と地下の空間のおかげでカオスは全力で魔術を放てるがどうにもトレント達の数が多すぎて新しく投入されてくる個体は火の魔術が直撃するが下の方に体積している個体には火が届かない。昨夜に緊急で作った穴ということもあって下の方には作戦が開始される前に一晩で雨水が溜まっていたこともあって火の通りが悪い。だから時間が経てば自然と………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンセスターセンチュリオン「ゴゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!

 ………チィッ!」

 

 

 このように目の前でまたアンセスターセンチュリオンが生まれてしまう。アンセスターセンチュリオンだけはどうしても倒すのに時間がかかってしまう。この作戦中既にカオスはアンセスターセンチュリオンを三体倒したがそのどれもが今日この作戦で誕生させてしまった個体だ。ラタトスクが話していた十五体の個体はまだ一体も現れてはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 アローネ!」

 

 

アローネ「なんとか他のアンセスターセンチュリオンはここから遠くの方へと誘導することができました!

 ここに到着するにはまだ暫くかかるでしょう!」

 

 

カーヤ「カーヤも大分引き離してきた。」

 

 

 二人の発言から分かる通り彼女達にはアンセスターセンチュリオンの囮になってこの場にアンセスターセンチュリオンを近づけさせないようにしてもらっていた。アンセスターセンチュリオンは一体だけでも穴の容量の大部分を塞いでしまう。穴が塞がってしまえば活性化したトレント達は内側から岩壁を登ってきてしまう。そうなればこの作戦は失敗する。その課題をクリアするにはどうしてもアンセスターセンチュリオンの接近だけは許すわけにはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

 今はなんとしてもトレントだけを駆逐したい。アンセスターセンチュリオンも見過ごすことはできないが足の早いトレントさえ倒しきってしまえばアンセスターセンチュリオンはどうとでもなる。スピードこそがこの作戦の要だ。作戦が詰まらずに進み続けるには入れ替わりの激しいトレントのみに集中すべきなのである。途中でアンセスターセンチュリオンが出現してしまう分には倒すしかないが今もまだ千を越える数の残っているトレントを倒す方が後々に生きてくる。

 

 

アローネ「それでは私達もサポートに入ります!

 アンセスターセンチュリオンがまた接近してくるまでは私達もここでトレントを食い止める作業を行います!」

 

 

カーヤ「カーヤは手を出さない方がいいの?」

 

 

カオス「カーヤは………えっと………。」

 

 

 トレントの焼却はカオス一人で間に合っている。火の魔術しか使えなくなったカーヤはウインドラ達の作業に加わると森が火事を起こしてしまう。ここはまたアンセスターセンチュリオンを引っ掻き回すように指示しようとするが、

 

 

ミシガン「カーヤちゃん!

 私と一緒にやろう!

 カーヤちゃんはトレント達を焼いても平気だよ!

 私がそれを水で消してあげるから!」

 

 

 カーヤの元にミシガンが駆け寄り共同で作業をすることを提案してくる。ミシガンが一緒であれば森に火が回ってもそれを瞬時に消すことができる。この雨の影響もあってミシガンの水の力も増している。これならトレントを押し返すだけでなく穴の外側から迫ってくるトレント経ちも同時に倒すことができるのだ。

 

 

ウインドラ「!

 それはいい案だな!

 流石に数が増えてきて押し返すのが難しくなってきた!

 ミシガンとカーヤはトレントが密集しているところを狙ってくれ!」

 

 

タレス「だったら時間が稼げるようにボクはボクで岩の障壁を張ります!

 トレントが縦に並んで向かってくれば倒しやすいですよね!?」

 

 

アローネ「ではそれでお願いします!

 私はトレントが少ない方向を担当します!」

 

 

 皆が状況をそれぞれで判断して最適だと思う通りに行動する。その甲斐あってかカオスも精神的な余裕が生まれる。

 

 

カオス「………皆頑張ってくれてるな………。

 それなら俺も自分でやれるだけのことはやらないと………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンセスターセンチュリオン「ゴオオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュルッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスに向けて穴の底にいるアンセスターセンチュリオンがツルを伸ばして攻撃してくる。カオスはそれに迎撃するように魔術を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『ファイヤーボール!!

 追撃の百連撃!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアオッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインワルド族の住む村アルター

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『………張り切ってやがるなぁアイツら………。

 まだ半日しか経過してないのに前の時のノルマをもう越えてるぜ。』

 

 

クララ「それですと今日だけでトレントが残り三分の二程度に減らすことができるでしょうね………。」

 

 

ラタトスク『いやもっといくだろうぜ?

 半分ぐらいにはなるぞこの調子なら。』

 

 

クララ「そんなに………?

 ………ではカオス様がアルターにいられるのもあとわずか………。

 その日までになんとしても………。」

 

 

ラタトスク『………、

 ………………!

 ………何だ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイツ………どうしたんだ………?』



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計画の破綻

ユミルの森 夕方 残り期日三十四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ファ………ハァ………ハァ………!!

 

 

 『ファイヤーボール!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

 

トレント「「「「「「「「「「グルアアアアアアアアアッ…!」」」」」」」」」」

 

 

 カオスの火の魔術で葬られていくトレント達。火の中で消え行く最期までその耳障りな奇声がカオス達の耳の奥深くを引っ掻くような感覚がしてそれだけでも体力をごっそり持っていかれそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ハァ……!ハァ………!ック………ハァハァ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから自分は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ずっと同じ奇声を聞き続けて精神がおかしくなってきているだけなのだ。自分が感じているこれはそういった類いのもので決して魔術を行使し過ぎて発生するような疲れでは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!

 いかがなさいましたか?」

 

 

カオス「ハァ………?

 何………が………?」

 

 

アローネ「いえ………カオスが何だか………。」

 

 

ウインドラ「どうしたんだお前?

 見るからにキツそうだが………。」

 

 

カオス「そん………な………ことぁ………!」

 

 

ミシガン「呂律が回ってないじゃない!

 何があったの!?」

 

 

 カオスの調子が悪くなっていることに気付いて皆が集まってくる。

 

 

 カオスがここまで疲れた様子を見せるのは珍しいことだ。攻撃を受けたわけでもないのにカオスの体力が見るからに限界に達しようとしている。マテオとダレイオスを共に旅してカオスがこのような姿を見せるのは()()()()()()()()だ。

 

 

タレス「カオスさん………?

 まさかマナが枯渇して………?」

 

 

ミシガン「嘘!?

 カオスのマナが………!?」

 

 

ウインドラ「お前………そうなのか?」

 

 

カオス「ハァハァ………!

 マナは………大丈………………夫………!」

 

 

 カオスのマナは枯渇はしていない。これまでと同じくマナは溢れるほど余っている。…なのにカオスのこの疲弊はどういうことか。

 

 

アローネ「………もしや、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 内包するマナが暴走しているのでは………?」

 

 

カオス「暴………走………?」

 

 

 アローネがカオスの様子を見て何かを悟ったようにそう言った。マナの暴走とは一体………?

 

 

アローネ「人の体の中に貯められるマナは限界があるのです。

 人の容量以上にマナが蓄積していくとそれは当然外に漏れ出るか最悪決壊してしまいます。

 カオスの場合はダレイオスに来てから既に数千人分のマナを吸収していましたがどうやらそれが今決壊を起こそうとしているのです。」

 

 

カオス「…!?」

 

 

ミシガン「それって決壊するとどうなるの!?」

 

 

アローネ「………決壊しますとマナを体外へと吐き出す器官が損傷する訳ですから魔術の行使が難しくなります………。

 その損傷具合によってはカオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()………。

 この症状の際に無理して魔術を行使しようとすると返って悪化し身体機能への弊害も出てきます。

 ………私の姉のように………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想像以上に危険な状態であった。アローネの姉のアルキメデスは先天性魔力機能障害というものを患っていた。生まれながらにして多すぎるマナと肉体のバランスが保てず体調を崩しやすくなりアルキメデスは生涯の大半をまともに歩くことも出来ずに過ごしてきたと言う。その症状自体はハーフエルフであり夫のサタンの努力の甲斐あって回復はしたが虚弱体質だけは残ってしまい娘を産んでその後死亡した………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「どうしてこのタイミングでそんなの発症するんだ!?

 この森に来てからはずっとカオスは魔術を使いまくってたんだぞ!?」

 

 

ミシガン「そ、そうだよ!?

 それってマナが唐だの中に沢山溜まって起こる症状なんでしょ!?

 それだったらカオスのマナが限界に達することなんてあり得ないでしょ!?」

 

 

 理屈の上ではカオスにマナが内包しきれない程貯まることは起こり得ない筈。それも今この作業中でカオスはずっと魔術を行使することによってマナを激しく消費している。カオスに憑依した精霊マクスウェルがマナを大気から吸収し続けているとはいえカオスもかなりのマナを放出して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「その()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

タレス「魔術の行使が原因で………?」

 

 

アローネ「人の呼吸は酸素を循環させるために行われます。

 意識せずに呼吸をする際は肺の中に入っていく空気も少ないものですがそれを意識して呼吸をするとなると通常よりも肺に入る空気は多くなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの場合ですとマナを大量に消費した分それを取り戻そうと働く基礎的な回復効果が過剰にマナを取り込んでしまったのではないでしょうか………。

 この森の中心のアルターにはマナを生み出す世界樹カーラーンもありますしマナの濃度に至っては()()()()()()()()()()()()()でもあります。

 そんな空間に長期的に居続ければカオスの中に吸収されるマナが限界を迎えても不思議ではありません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンセスターセンチュリオン「ガアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「!!?」」」」

 

 

 穴の底からアンセスターセンチュリオンが這い上がってこようとしている。しかしそれを撃退できるカオスは完全にグロッキーで地に膝をついている。

 

 

カーヤ「カーヤがやっていいの?」

 

 

アローネ「待ってください!

 今は緊急事態です!

 無駄にマナを消費してはなりません!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時撤退です!

 作戦を中断いたします!

 急いでアルターに戻りましょう!」

 

 

 その一声でレアバードを展開してアローネとタレスが乗り込む。カオスもそれに乗せられる。カーヤ達の方も無事レアバードに乗り浮上する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ハァ………ハァ………。」

 

 

タレス「大丈夫ですかカオスさん………。」

 

 

カオス「ハァ………………ハァ………、

 ………う……ん………。」

 

 

アローネ「タレス、

 カオスを支えててください。

 これよりアルターに帰投します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………どうしてこんな大事な時にこんなことに………。

 ………俺の体は一体………、

 

 

 …どうしちゃったんだよ………!?)」



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懸念的中

アインワルド族の住む村アルター クララ邸 夜 残り期日三十四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「そうですか………、

 今度はカオス様が………。」

 

 

 あれから直ぐにカオス達はアルターに戻った。アルターに到着する直前にカオスは意識を失い今は別室で休んでいる。症状はの事情に詳しかったアローネはカオスについた。なのでこの部屋の中にいるのはクララと他はタレス、ミシガン、ウインドラ、カーヤの五人だけだ。

 

 

ウインドラ「あいつが今どういう状態なのかは分からん。

 あのような病状は非常に稀らしいからな。

 あれが一時性のものなのか………これからもずっとああなのか………。

 それによって今後は作業の手順を変えなくてはならなくなる。」

 

 

ミシガン「カオス………、

 すぐ善くなるといいんだけどねぇ………。」

 

 

タレス「厳しいところなんじゃないでしょうか………。

 あの症状についてはよく分かりませんがカオスさんの中にあるマナがカオスさんの許容量を越えてしまってカオスさんが苦しんでいるみたいですからカオスさんの中のマナを出しきってしまわないことには………。」

 

 

ウインドラ「…アローネの話ではこの地が多量のマナに満ちていることが原因らしい。

 症状を改善するにはカオスを一刻も早くこのアルターとユミルの森から離れさせなければどうすることできないだろうな。」

 

 

クララ「……!!」

 

 

 カオスが倒れたのはカオスの中に多くのマナが凝縮されて詰め込まれてしまっていることが原因だ。前にアローネがそのことをカオスに指摘はしていたが今日カオスが倒れるまではカオス自身も普通に過ごせていた。そのことからカオスのマナを内包する容量に限界など無いのだと思い込んでいたがどうやら限界は存在したらしい。

 

 

ミシガン「どうするの?

 カオスを一旦ここから連れ出すの?」

 

 

ウインドラ「それが賢明なところだがここでの作業もまだ残っているしカオス一人を外に連れ出すとしてもその後カオスをどこに滞在させておく場所も俺達は検討がつかん。

 下手に動いてそれにトレント達が追跡してきても面倒だ。

 この雨はまだ後三日は降り続くのだろう?

 

 

 それなら俺達だけでこの三日でトレント、アンセスターセンチュリオンを全滅させてその後にカオスを安静にさせて出ていくのが妥当だろう。」

 

 

カーヤ「三日………。」

 

 

ウインドラ「…カオスが動けない今頼れるにのはお前だカーヤ。

 俺達もフォローはする。

 カオスの代わりに今日の作業を引き継いでくれないか?

 そうすればカオスも早くにここから運び出すことができる。」

 

 

カーヤ「………うん分かった………。」

 

 

 カオスの症状は恐らく世界樹カーラーンのあるこのアルターの近くにいては改善されることはない。それなら早急にここでの用事を済ませてブルカーンの地に赴くのが無難な話だ。彼等はそういう方向で話が固まってこれから行動しようとして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『………なぁ………、

 あいつがダウンしたらここはお前達だけでどうにかなるとして次のレッドドラゴンはどうするんだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインワルド族の住む村アルター 民家

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「すぅ………………すぅ…………………。」

 

 

アローネ「………」

 

 

 カオスの調子が大分安定してきて先程までは苦しげな呻き声を上げていたがそれもなくなった。魔力機能障害は体内でマナが圧迫されてマナを放出する器官がショートを起こす。なのでマナを吸い上げる魔術を使わなければ苦しむことはない。

 

 

 だがそれも根本的な解決には繋がらない。カオスの意識がないこの時にでさえもカオスはマクスウェルの力によってマナを取り込み続けている。マナを溜めるだけなら問題はない。ただマナを放出する際に膨れ上がった体内のマナが一気に噴出されようとするためマナを体外に放つ部位に過度な負担がかかり破壊される。そうなると神経が焼き切れたり最低限体の内に残しておかなければならないマナまで拡散していき精神を保つことができずに廃人と化す。

 

 

アローネ「…いつかはこうなるのではないかと思っておりましたがそれが今この時に………。

 これではもうカオスに魔術を使わせるわけにはいかなくなりましたね………。

 ………この先どうしたら………。」

 

 

 カオスが魔術を使えなくなってしまったとしてもここでの仕事はもう後一息だ。カオスが欠員してしまっても他の五人で依頼を達成することはできる。

 

 

 

 

 

 

 しかしその後に待ち構えるレッドドラゴンはカオスを当てにしていた面もある。そのカオスがブルカーンの地へと赴いたとして症状が改善されなければアローネ達だけでレッドドラゴンの相手をしなければならない。レッドドラゴンは地上最強の生物と言われる程の生物だ。それのヴェノムの感染個体となると更に強さに磨きがかかっていることは予想できる。人が人以上の強さを持つ生物に挑むには魔術は絶対になくてはならない。それをカオスが使えなくなってしまったのであればカオスをレッドドラゴンとの戦いに参戦させるのは避けるべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事実上カオスの旅はここで終わりを宣言するのが仲間として彼の安全を考量した上での判断だと下すべきか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………例え貴方が魔術を使えなくなったとしても………、

 姉のような不自由な生活をおくることになったとしても私は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと貴方の側にいますからね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユミルの森 丘 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンセスターセンチュリオン「グゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 猛獣のようにカオスの作った穴の底で咆哮を轟かせるアンセスターセンチュリオン。カオス達が飛び立った後もアンセスターセンチュリオンは穴の中から抜け出せないでいた。

 

 

 

 

 

 

 そこへ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」「ギィオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」「ゲアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」「ギュルルルルルルルルルルルルルルルル!!!」………

 

 

 続々と騒々しい怒声を響かせて既存のアンセスターセンチュリオンが集まってきた。まだこの辺りにはカオスの放った()()()()()()()()()()()()。それに引き寄せられてカオス達がいなくなった後にもこの場へと向かってきたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれらのアンセスターセンチュリオンは次々と穴へと落ちていく。底の方へ下りればマナを持った生物を捕食できるのだといわんばかりに穴へと突撃していく。

 

 

 そこからはカオス達も想定していた通りのことが起こった。アンセスターセンチュリオンで穴が埋まってしまった。上の方に重なった個体は簡単に穴から抜け出せるぐらいの高さにきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうはならなかった。重なりあったアンセスターセンチュリオンがツルを互いに巻き付けてやがて………。



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山のような大きさ

アインワルド族の住む村アルター 朝 残り期日三十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ぅ………あ………?

 ………朝………なのか………?」

 

 

 カオスが目が覚めてもカオスのいる室内は暗く時間帯が朝なのか夜なのか分からなかった。ここ数日は停滞している雨雲が空を覆っているため朝や昼でも少し薄暗いのだが昨日の自分の記憶の断片から辿っていき自分がまた倒れた時間から意識を覚醒させるのであれば十時間は経過していないと自分は目覚めないだろう。ということからカオスは今が朝であると結論付けたがそれにしても今日はやけに暗すぎる。

 

 

カオス「…先ずは外に出て皆に昨日あれからどうなったかを聞かないと………。

 俺のせいでもっと多くのトレントを………、

 ………!」

 

 

 ふと自身の左手に布団以外の感触があることに気付く。その感触が何なのか体を起こして確認するとそこには、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………アローネか………。」

 

 

 カオスの左手に触れていたのはアローネであった。カオスが起きる前からアローネはカオスの手を握っていたようでこうして体を動かそうとするまで自分が手を握られていたことに気付かなかった。彼女はカオスが寝かせられていたベッドの傍らですやすやとまだ夢の中のようだ。

 

 

アローネ「……スゥ………カオ………ス………。」

 

 

カオス「…申し訳ないな………。

 俺に付きっきりで看病してくれてたのかな………。

 アローネだって本当は疲れていただろうに。」

 

 

 体を起こして後ろを見れば少し湿ったタオルが枕の横に落ちていた。それは自分の額に乗せられていたのだろう。それを眠っている間に寝返りをうって落としたのだ。

 

 

カオス「………どうしようもないな俺は………。

 土壇場で倒れちゃって皆に迷惑かけて………。

 どうして俺は………。」

 

 

 自分が何故倒れたのかまだカオスは知らない。昨日は体調を崩した時から皆の声は朧気にしか聞けなかった。

 

 

カオス「(…何か………突然アローネのお姉さんが関係していることを聞いたような気がするけど………。

 何だったんだろ………?

 よく思い出せ………。)」

 

 

 カオスが昨日起こった出来事を思いだそうとしている時に部屋に勢いよく入ってくる者が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「アローネさん!!

 カオス!!

 大変だよ!!?

 大変なことが「シィッ―!」え!?」

 

 

カオス「アローネが今眠ってるところだから声を小さくしてから話してミシガン。」

 

 

ミシガン「ご、ごめんね………。

 ってかカオス起きてたんだ………。」

 

 

 ミシガンはカオスに言われてから声を抑えて話し出す。ミシガンが戸を開けるのと同時に外の景色が見えて外も部屋と同じく暗い様子だった。

 

 

カオス「(まだ夜だったのかな?それか一日中寝てたのか俺は?)俺が起きたのはたった今だよ。

 それまでは普通に眠ってたよ。」

 

 

ミシガン「もう体大丈夫なの?

 疲れが残ってたりしない?」

 

 

カオス「うんもう平気だよ。

 特に疲れを感じたりは………してないかな。」

 

 

ミシガン「………よかった………。」

 

 

 そう言って近くに置いてあった椅子に腰掛けるミシガン。心からカオスのことを心配していたようだ。

 

 

 

 

 

 

カオス「…それよりミシガン、

 何か話があってここに来たんじゃなかったの?」

 

 

ミシガン「!!

 そうだった!!

 本当に大変なんだよカオス!!

 今大変なことが起こってるの!!」

 

 

 声を抑えるように注意してから一分と持たずにまたミシガンが声を張り上げて叫ぶ。よくよく耳を澄ませてみれば外の方からもアインワルドの人達の騒がしい声が聞こえてくる。何があったと言うのか。

 

 

カオス「先ずは落ち着こうか。

 そしてゆっくりと話してみて。

 ………何があったの?

 何かよくないことでも………?」

 

 

ミシガン「あぁえっと~……!!

 

 

 とにかく外に出てみれば分かるから!

 カオスも外に出て!!」

 

 

カオス「?」

 

 

 ミシガンが落ち着きそうになかったのでミシガンに急かされるまま外に出ることにする。アローネの方は起きそうになかったので自身が使っていたベッドに寝かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「?

 こんな夜中に皆どうしたの?」

 

 

ウインドラ「!

 カオスか。

 起きたんだな。」

 

 

タレス「()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「?

 お、おはよう………。」

 

 

カーヤ「もういいの?」

 

 

カオス「あぁ、

 もう平気だよ問題ない。

 それよりもこれはどういう状況?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外に出るとアインワルドの者達が大勢外へと飛び出してきており何やらあちらこちらで話をしている。そしてどうも彼等は()()()()()()()()()()()会話をしていることが見てとれた。その視線の先には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな山があった。そしてその山は少しずつ動いているようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズズゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「カオス様!

 もうおかげんはよろしいのですか!?」

 

 

カオス「!

 クララさん………。」

 

 

 カオスが突然現れた謎の山を眺めていると巫女のクララがやって来る。

 

 

クララ「そうですか。

 それは誠によかった………。」

 

 

カオス「クララさん………、

 あれは………?」

 

 

 自分が多くの人に心配されていたのは申し訳なく思うがそれよりもあの山のことを聞きたかった。こんな夜にいつの間にあんな物が………。

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『よう、

 起きたか。

 ()()ぐっすり眠れたようだな。

 朝までには響かなかったようだな。』

 

 

カオス「………?

 今が夜なんじゃないんですか?

 こんなに暗いですし………。」

 

 

 先程から皆の挨拶が不自然に感じていたがここでまラタトスクがまた奇妙なことを言う。この暗い空を見てみても時間帯は今は夜ではないのか。

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「信じられんことだとは思うが今が朝なんだ。

 お前は十二時間まるまる眠っていた。」

 

 

カオス「朝……!?

 だけどこの空は………?」

 

 

 ウインドラがカオスの疑問に答えるように今が朝だと告げる。しかしいくらなんでもこの空で朝だと信じることはカオスには考えられなかったのだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『ここら辺が暗いのはな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 あの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特大級に巨大化した()()()()()()()()()()()()()がな。』



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アルター防衛戦

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズズゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あれが………アンセスターセンチュリオン………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「どうもそうらしい。

 昨日退治しそこねた奴が他のトレントやアンセスターセンチュリオンを吸収してあそこまで大きくなったようだな。」

 

 

ラタトスク『俺が独自にトレントとアンセスターセンチュリオンの数を探っていたんだが昨日お前達が作業していた辺りにいた奴が周りにいた個体達と融合していくのを感じた。

 

 

 あの超巨大アンセスターセンチュリオンは()()()()()()()()()()()()()()

 嫌な考察が当たっちまった。

 アンセスターセンチュリオン数体が融合したらなんて話はしたがそれがまさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

カオス「全部が合体………。」

 

 

 アンセスターセンチュリオンはトレントが十体前後で合体した姿だ。十体で一体のアンセスターセンチュリオンが完成する。

 

 

 それが千五百。ざっと見積もるとあの山のようなアンセスターセンチュリオンは百五十体分のアンセスターセンチュリオン、百五十体分のヴェノムの主の血からを持つということになる。

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『よかったな。

 これまで無駄に多いトレント達を相手にしていたがそれももうあとあの一体を倒すだけになったようだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で?

 どうするんだアレを。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうなったのは恐らく自分が焦って考案した作戦が原因だろう。狂暴性を増して行動範囲をぐんと拡げたトレント達を煽るような作戦を立てて結果あの巨大なアンセスターセンチュリオンが誕生してしまった。ラタトスクが作戦を実行する前からこのような生物が誕生してしまうことは予測されていた。しかしそんな生物が誕生してしまっても自分が持つ精霊の力さえあればなんとかなると思っていた。精霊の力を借りていることは癪ではあったがそれでどうにかなるのなら仲間や世界のためにも使わない手はないと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなのに今は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺が倒します。」

 

 

ラタトスク『ほう………。

 どうやってだ?』

 

 

カオス「俺が………、

 魔術でアイツを………。」「駄目です!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「今………!

 貴方に魔術の力を使わせることはできません!!」

 

 

 いつの間にか起きてきたアローネがそこにはいた。そして彼女はカオスの魔術の使用を禁じる。

 

 

カオス「アローネ………。」

 

 

アローネ「カオス……!

 …貴方は今私の姉と同じ魔力機能障害を起こしています!

 そんな貴方が魔術を使えばどうなるか想像できますか!?

 貴方の今の状態はパンパンに膨れ上がった風船のようなものなのですよ!?

 いつ破裂してしまうなおかしくない状態なのです!!

 そんな状態で魔術を使えば貴方は一生魔術を使うことができなくなるだけでなくもしもの場合は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もしもの場合は貴方の精神が砕け散ります………。

 ()()()()()しまうのですよ………?

 そんなこと貴方にさせるわけにはいかないのです………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「心が………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マナは生命にとって水よりも大切なものとされている。マナ=心があってこその生命だ。生命は皆生きていく上で喜び、悲しみ、怒りといった感情を感じながら生きている。

 

 

 もしマナが肉体から全て抜け出てしまえばその生物は感情を失ってしまう。感情を失って無気力になり何にも手をつけなくなってしまう。それは勿論話すことや食事をすることもできなくなりそのまま死を迎える。カオスはその一歩手前まで来ている状態なのだ。もし無理にでも魔術を使おうとすればマナを司る器が壊れ肉体にマナを留めておけなくなる。

 

 

アローネ「貴方はこれ以上魔術を使うことは私がさせません。

 貴方は今後は魔術を使うべきではないのです。

 分かってくださいカオス。」

 

 

カオス「………じゃあどうしたら………。」

 

 

アローネ「………私が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私があの怪物をどうにかして見せます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「具体的にどうされるおつもりなのですか?

 アレを………。」

 

 

 ラタトスクの人格が引っ込み元のクララの人格に戻ってアローネに問いかけてくる。

 

 

アローネ「…アレはトレント………アンセスターセンチュリオンも基礎になっているのはトレントです。

 トレントであるなら弱点は変わらず火の筈です。

 

 

 ですのでアレを焼き払います!」

 

 

 アローネの作戦はあの巨大なアンセスターセンチュリオンを単純に火で焼くというものだった。

 

 

クララ「………それは容易な話ではないでしょう?

 あれほどの巨体をどう焼き払うと仰るのですか?

 一人二人程度の火ではこの雨に「でしたらアインワルドの方々で火の魔術が使える方をお借りできますか?」」

 

 

アローネ「貴女が仰るように私達の力だけでは火力が不足しています。

 私達の中で火の魔術が使えるのはカーヤだけです。

 カーヤ一人だけではとてもあの質量を焼き付くすことは敵いません………。

 

 

 それならば質量には質量をぶつけるだけです。

 カーヤとアインワルドの方々の火の魔術を一つにしてあの怪物へと放つのです。

 そこへ私の風の魔術で火を増幅させます。

 風と火の力は掛け合わせればとても大きな熱風を巻き起こせるのです。」

 

 

クララ「風で火を………?

 そんな方法が本当に………?」

 

 

アローネ「可能です!

 風の力は元来そういった使い方をするのが正しいのです!

 攻撃性に乏しい能力ではありますが他の属性の力と組み合わせれば強力なエネルギーを生み出す力を宿しているのです!

 私の力で皆さんの火をあの怪物まで送り飛ばします!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やりましょう!!

 アレがこのアルターに到達するまでに私達の手で食い止めるのです!!」



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アインワルドと結束

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユナイテッド・アンセスターセンチュリオン「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 巨大な山の怪物が吼える。その一声はけたたましく空気を振動させ垂直に降る雨を直角に曲げ辺りの木々を薙ぎ倒す。

 

 

 

 

 

 

ズズズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 巨大な山の怪物がその一歩を踏み出せばそれだけで地揺れが起き大地が割れ地面に大きな窪みができる。

 

 

 

 あの怪物は特別何か攻撃モーションをとった訳ではない。ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()。それだけで何かが狂暴な生物が暴れた跡のような道が出来上がる。前に歩くだけでなんという破壊を生み出すのか。アルターからその怪物を見上げる者達は自分達が蟻になったような気分になった。自分達からしてみれば蟻は気が付かずに踏み潰して通り過ぎたりもする。蟻からしてみれば自分達に気付かずに接触することもなく人のような自身と比較にならないサイズの生物とは関わることは避けたいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがあの目の前の怪物は真っ直ぐこちらへと歩を進めてくる。あの怪物は絶対に自分達の真上を通り過ぎて去っていくことはない。間違いなくあの怪物は自分達のいるこのアルターへと進み村を蹂躙しつくしていくだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「やはり奴はこのアルターへと向かってきているな………。」

 

 

ミシガン「何で………!?

 だってアルターは先代の巫女の人達の石像の結界で守られて入ってこれないんじゃないの!?」

 

 

タレス「確かにそういう話でしたがあの大きさの相手にまともに結界が働くかは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「あの怪物の力が巫女達の力を上回ったのでしょう。」

 

 

アローネ「!

 力を上回った………!?」

 

 

ラタトスク『あぁ、

 これまでは石像から発せられる聖なる力が近寄るヴェノム達を浄化していってたがあそこまでの数のヴェノムが合体したことによってウイルスの力が増してやがる。

 あいつの力はもうここにある巫女達の石像の力じゃ相殺することができないくらいに強まってる。

 そんなアイツが狙うのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界樹カーラーンだ。

 アイツは世界樹を取り込むためにここへと真っ直ぐやって来てるんだよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユナイテッド・アンセスターセンチュリオン「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビリビリビリビリッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体がどれだけ大きくなろうともヴェノムはヴェノム。マナに引き寄せられてマナを生む世界樹カーラーンを取り込む気なのだ。

 

 

カオス「もし世界樹カーラーンがアレに取り込まれたらどうなるんですか!?」

 

 

ラタトスク『さぁ………どうなるんだろうな………?

 世界樹カーラーンを取り込んだことによって世界樹カーラーンがアイツを浄化するか………、

 

 

 

 

 

 

 逆に世界樹カーラーンがアイツのウイルスに殺られて世界が障気まみれになって滅ぶかだ。』

 

 

アローネ「なんてことに………!?」

 

 

ラタトスク『驚いてる暇は無いぞ?

 早くアレをどうにかしてくれ。

 アレをどうにかしないと本当に世界が滅びてしまう。

 さっさとアイツをぶっ倒してくれよ。』

 

 

アローネ「………そうですね。

 ここで何もせずにいてはそうなってしまいます。」

 

 

ウインドラ「アローネ、

 どうするんだ?

 先程は火を飛ばしてアレを焼き付くすという話だったがこの天候下で火など飛ばしても雨に………。」

 

 

 アローネは少し考え込む。怪物は巨体ということもあって動きは緩慢でアルターに到達するまでに大分時間はあるだろう。しかし時間はあるといってもあの大きさを完全に焼き付くす程の火力を用意するのが問題なのだ。どう火を使える者を集めたとしてもこの雨が降る中では徐々に火の勢いは衰えてしまう。それを風の力でブーストをかけたとしてもこの距離では届いたとして全身に火が回るような火力は期待できない。火の勢いを保ったままあの巨体に届かせるにはどうしても接近しなければならない。だが接近すればあの巨体に踏み潰されてしまう恐怖がある。いくら魔術という超常的な力を持っていたとしても人の十万倍以上はあろうかという生物に向かっていけるものなどそうはいない。

 

 

 現に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おいおい!!?

 どんどん近付いて来てるぞ!?

 ヤバイんじゃないのかここ!!?」

 

 

「はっ、早くここから避難しよう!!?

 急いでこの森から避難するんだ!!」

 

 

「あんなデカブツ誰も敵わねぇよ!?

 もうこのアルターは終わりなんだぁぁぁぁぁッ!!!?」

 

 

 怪物の気迫に精神が負けて狼狽えだすアインワルドの者達。彼等は自分達とあの怪物との埋めようのない力の差を察して抵抗は無意味と畏縮する。

 

 

アローネ「お、落ち着いてください!!

 今あの怪物を倒す算段を」「静まりなさい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「三万年もの月日世界樹カーラーンを守り続けてきた民族が何を呆けているのですか!!!

 貴殿方は祖先から受け継ぎし使命を忘れたのですか!!!

 ここで世界樹カーラーンを守らねばアルターが滅びるだけのことではすまないのですよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立ち向かいなさい!!!!!

 我々は今日この日のために生きてきたことをあの怪物へと知らしめて差し上げなさい!!!」



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いかにして進撃を止めるか

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「あの怪物への対策は私とアローネ様方で考えます!!

 貴殿方はそれまでいつでも動けるように待機してなさい!」

 

 

 クララが村の者達にそう指示を出す。それによって彼等は本の少しだが落ち着きを取り戻す。

 

 

「…そ、そうだよな!

 ここは俺達の村なんだ!

 俺達がここで逃げてどうするんだよ!」

 

 

「けどあの怪物はいくらなんでも俺達の力じゃどうにも………。」

 

 

「何言ってるんだ!

 巫女様だけでなく今は大魔導師軍団の人達がいるんだぞ!

 あの人達はこれまで他の地のヴェノムの主を倒して回っておられたんだ!

 今回だってどうにかしてくれるさ!」

 

 

「この村にはダレイオスを救って下さる救世主がいるんだ!

 俺達が負けることなんてあり得ない!」

 

 

「俺達の手でカオス様達のサポートをするんだ!!

 そして必ずあのデカブツを討ち取ってやるんだ!」

 

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララが話し出すまではビクビクしていたアルターの住人達も彼女の宣言を聞いてからは自分達が次にどうすべきなのかを話し合っている。

 

 

カオス「凄いですね。クララさんな一声で皆が強気に………。」

 

 

クララ「自慢の民達ですから。

 …それよりもカオス様今はどのようにしてあの怪物を倒すかですよ。」

 

 

 一歩を踏み出すペースは遅いがその一歩で着実にこのアルターまで近付いてくるアンセスターセンチュリオン。カオスの魔術が使えればあんな巨体であっても関係なかったのだがそうした手は今回に限って魔術は使えない。

 

 

カオス「(……今回は………というもよりも下手したらこの先魔術を使うことは………。)」

 

 

 ダレイオスにやって来るまで自分が魔術を頼りにすることなど考えられなかった。ミストの村を追放されてから十年間剣のみで戦ってきたカオスだがこの国ではもうそんな甘えた考えを捨てなければならなかった。切れる手札は全て全力で使っていかなければ先へと進むことはできない。そう考えてカイメラ戦からはどんどん魔術を使うようになったカオスだったがこの地の濃度の高いマナにあてられて今自身は魔術を使うことができなくっていた。

 

 

ウインドラ「…あの大きさは正直手がつけられん大きさだな。

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 大昔はこの星でもあれぐらいの大きさの龍達が支配していた時代があったらしいぞ。」

 

 

ミシガン「はぁ!?

 あんな山みたいな大きさの龍がいたの!?」

 

 

タレス「どうしてそんなことが分かるんですか?」

 

 

ウインドラ「古く昔に生きていた生物は地層の中に化石となった骨が見つかることがあるようでな。

 その骨の大きさは現代のどの生物ですら比較にならない程の大きさだったらしい。

 見つかった骨が全て数十メートルから大きな物では数百メートルにまで及ぶという。

 現代の地上最強の生物レッドドラゴンですらそんな大きさの個体は目撃されていないし目撃されていたとしてもその人物はそこで捕食されるだろう。

 

 

 

 …あのアンセスターセンチュリオンの大きさはそんな古代の龍達の中でも最大とされる古代龍()()()()()()()()()()に匹敵するだろう。

 俺達はそれほどの体格差のある敵に挑まなくてはならない。」

 

 

タレス「あれでもし魔術やカイメラのような咆哮波でも放ってきたらとても防ぎきれそうにありませんね………。

 攻撃でなくともあの怪物が動くだけでも死人がでそうな感じですし。」

 

 

ミシガン「戦わないといけないんだろうけどどう考えてもカオス無しじゃあんなの倒しきれそうにないよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうするのアローネさん………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズズゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

クララ「アインワルドは一通り火の魔術は使えます。

 いつでもあの怪物へと放つことは可能ですがアローネ様お一人の力では皆の出す火の勢いは強められませんよね?

 人員を風の方にも割り振りましょうか?

 風なら使える者が数名はいますが………。」

 

 

アローネ「………いえ、

 あの怪物を倒すには火の勢いは持てる限りの最大でなくてはなりません。

 風に割き過ぎても飛んでいる途中で雨で消火してはもとも子もありません。

 私一人で賄って見せます。」

 

 

カオス「アローネが一人で全員分のサポートを………?」

 

 

 アローネの力はカイメラの時を思い出せば旅を始めてからそれなりに上がっていはいる。バルツィエが使っているような追撃もアローネは使いこなしている。

 

 

 だが一人で全員の力を増幅させるのはウインドラ達のように()()()()()()()()()()()()()()()にはとても………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お客さん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 巨大アンセスターセンチュリオンへの対処を話し合ってるとカオスに声がかかった。声をかけてきたのはマクベルだ。

 

 

マクベル「話を聞いてるとお客さん達がお困りなのはこの雨によってあのどでかいのに火を使いにくいってことでやんすよね?」

 

 

カオス「そ、そうですけど………。」

 

 

マクベル「だったらお客さんのお力で俺っちが言うもんを作れるでやんすか?」

 

 

カオス「?

 何を作るんですか?」

 

 

マクベル「それはでやんすね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 それだ!!」

 

 

 マクベルが話した話の内容は今カオス達が抱えていた問題をほぼ解決する案であった。

 

 

アローネ「どうされましたか?」

 

 

カオス「アローネ!

 クララさん!

 アイツへ魔術が届く作戦を思い付きましたよ!」

 

 

クララ「本当ですか!?」

 

 

アローネ「どのよう作戦でしょうか?」

 

 

カオス「見てて今から()()()()!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『グランドダッシャー!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは躊躇することなく魔術を使ってしまった。そして彼の魔術によって作られたものとは………。



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不屈なり、ユナイテッド・アンセスターセンチュリオン

アインワルド族の住む村 残り期日三十三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!?

 何を……!」

 

 

 魔術を使うなとは言われたがあれほどのスケールの敵を目の前に自分だけ何もしないということな耐えられなかったカオス。自分が参戦できないのであればせめて皆の助けになることがしたくてマクベルがカオスに伝えた()()()()()()()()()()()()怪物とアルターの間にそれを作った。

 

 

クララ「!!

 これは………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが作ったのは大人百人は入れそうなトンネルだった。アルター側からは入り口は大きく作られてはいるが奥の方へと進むにつれてトンネルは少しずつ小さくなっていく。最奥は入り口に比べて小さいがそれでも大きさはそこそこある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「ほっほほう♪!!

 お客さんマジで凄いでやんすねぇ!!

 こんなもんを一回聞いただけで作り上げられるなんて!!」

 

 

カオス「ハァ………!!

 ハァ………!!」

 

 

アローネ「マクベルさん………!

 これは………?」

 

 

マクベル「話は俺っちも聞いてたでやんす!!

 これはその話を聞いてピンときたんでお客さんにつくってもらった火炎をあの怪物へと届かせる舞台でやんす!!

 

 

 名付けて()()()()()でやんす!!」

 

 

アローネ「吹き矢砲台………。」

 

 

マクベル「この中で火を焚いてそこに風を送り込むでやんすよ!

 そうすれば雨の心配もこの中じゃ関係ないでやんすし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でやんす!!

 難点としては筒の方向が固定されてるんで一点集中と言うよりかは一点しか狙えないところでやんすが………。」

 

 

クララ「………お見事ですね。

 私達の話でこのようなアイデアを咄嗟に思い付くとは………。」

 

 

マクベル「何事も早いことに関しては誰にも負けないうさにんでやんすよ!!

 これくらいうさにんなら誰でも考え付くでやんす!!

 追加としてはこの中に枯れ木や葉っぱを沢山摘めて火を焚くのがベストでやんす!!

 そしたら少人数でも火の勢いが強められるでやんす!!」

 

 

アローネ「アイデアには感謝しますがカオスは今………!?」ドサッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「くっ………ハァッ………。」

 

 

 魔術を使った途端カオスが顔色を真っ青に染めてその場に倒れる。魔術を使う前とは体調が激変してしまった。

 

 

アローネ・クララ「カオス(様)!!?」

 

 

 即座に駆け寄ってカオスを抱き起こす二人。しかしその時には既にカオスの意識は沈んでいた。

 

 

アローネ「カオス………!

 無茶するからですよ!!」

 

 

クララ「誰か……!

 手を貸しなさい!!

 カオス様を休める部屋へ!!」

 

 

 起きてから一時間もしない内にまた気を失ってしまうカオス。今の様子からカオスがもう魔術を使うだけで体に相当な負荷がかかることが分かった。

 

 

ウインドラ「!!

 カオス………!

 魔術を使ってしまったのか………。

 またお前は一人で勝手にやろうとして……。」

 

 

ミシガン「えぇー!?

 またカオス気絶しちゃったの!?」

 

 

タレス「これくらいの物を作るだけならボク達だけでも十分だったのに………。」

 

 

アローネ「話は後です!

 カオスの力のおかげで突破口が見えました!

 カオスが作ったこのトンネルを使ってあの怪物へと攻撃します!

 急ぎよく燃焼しそうな物をトンネルの中へ!!」

 

 

 

 

 

 

 そこからカオスが外れたメンバーとアインワルドの者達で超巨大アンセスターセンチュリオンとの戦いが始まる。その激戦は昼夜休むことなく続けられた………。

 

 

 カオスが目覚めた時その戦いは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!!?」ガバッ!!

 

 

 カオスは飛び起きた。自分がまた魔術を使ってしまい倒れたことは覚えている。体に感じる異常な不快感がそれを一瞬で思い出させてくれた。

 

 

カオス「(アイツは………!?

 あのアンセスターセンチュリオンはどうなったんだ!!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!」

 

 

 部屋の外から爆音が聞こえる。すぐ近くで戦闘が行われているようだった。

 

 

カオス「今どうなってるんだ……!?」ダッ!

 

 

 カオスはベッドを飛び降りて部屋を出る。そこから彼が見たものは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「『ファイヤーボール!!!』」」」」」」

 

 

アローネ「『ウインドカッター!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユナイテッド・アンセスターセンチュリオン「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルターの目前まで接近してくる無傷なアンセスターセンチュリオンとそれに応戦する仲間達とアインワルドの者達の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アンセスターセンチュリオンが………こんな近くに………。」

 

 

マクベル「あぁッ!!

 お客さん!!

 助けてくださいでやんす!!!」

 

 

カオス「マクベルさん………!

 俺はどれくらい寝てたんですか………?」

 

 

マクベル「()()()()()()()()()()でやんすよ!!

 それよりも助けてくださいでやんす!!」

 

 

カオス「二日も………?

 それでアンセスターセンチュリオンがここまで………。」

 

 

マクベル「お客さんが気を失ってから皆であの怪物に攻撃を始めたでやんす!!

 最初はいい感じにダメージを与えられてたでやんすけど途中からあの怪物が()()()()()を纒だしてから攻撃が通らなくなってここまで接近を許してしまったでやんす!!」

 

 

カオス「黒い………オーラ………。」

 

 

ユナイテッド・アンセスターセンチュリオン「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 

 カオスの言葉に応えるようにアンセスターセンチュリオンが黒い空気を身体中から発する。

 

 

 毒撃だ。毒撃で皆の攻撃を弾く。弾かれても皆は攻撃の手を緩めず畳み掛けるがどの攻撃も期待するほどのダメージは見込めそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「二日………、

 俺が何もしていない間にこんなことに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼前には仲間達とアインワルドの者達が総力を上げて立ち向かっても歩を止めずに平然と向かってくる毒撃の鎧を纏った敵アンセスターセンチュリオン。自分があのような怪物を作り上げてしまったからアルターはここまで追い詰められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺が………、

 俺がアイツを何とかしなくちゃ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が………!!!!」パァァァ………



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長きに渡る戦いに終止符を

アインワルド族の住む村アルター 残り期日三十一日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!!?

 いけません!!

 カオス!!」

 

 

 強力な魔術の気配を感じて振り替えると二日前から意識の無かったカオスが魔術を発動させようとしているのが見えた。

 

 

ウインドラ「何ッ!?

 カオス!!?」

 

 

ミシガン「カオスはもう魔術を使っちゃ駄目だよカオスッ!!!!

 一昨日それでどうなったか覚えてないの!!?」

 

 

タレス「カオスさん!!」

 

 

アローネ「カーヤ!!

 カオスを……!

 カオスを止めてください!!」

 

 

カーヤ「!!」

 

 

 アローネが叫びレアバードで飛行してアンセスターセンチュリオンを攻撃していたカーヤがカオスの元へと向かう。

 

 

 だがそれでもカオスは魔術を発動させてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『ファイヤーボール!!追撃の百連撃ッッッ!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスから放たれた大量の火球がアンセスターセンチュリオンを穿つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バババババババババババパババッ!!!!

 

 

ボゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッッッッッ!!!!!

 

 

 火球が被弾してアンセスターセンチュリオンを覆い隠す程の爆炎が巻き起こる。

 

 

カオス「………ッッ!!

 ッンンンッ!!!?」

 

 

 魔術を放つのと同時に全身を激痛が襲う。身体中の神経が緊急警報を鳴らしてカオスの意識を刈り取ろうと暴れる。

 

 

カオス「(ぐっ………!!

 まだ………!!

 まだ気を失う訳には………!!)」

 

 

 二日前に痛みを経験して覚悟していたこともあって今回は魔術を撃っても意識が持っていかれるようなことはなかった。二度目の痛みはなんとか耐えることができた。今のでアンセスターセンチュリオンが倒れてくれれば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユナイテッド・アンセスターセンチュリオン「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 煙が晴れて中から所々焼け跡が残ったアンセスターセンチュリオンが現れる。

 

 

クララ「今ので倒れないとは………!!」

 

 

ビズリー「どれだけこの怪物は我々を絶望させると言うんだ………!」

 

 

ダズ「もうここは危険です!

 巫女様だけでもお逃げください!!

 ここは我々がこいつの相手を引き継ぎます!」

 

 

クララ「私だけ逃げてどうなるのです!

 私が逃げてもここには世界樹があるのですよ!

 世界樹を奪われてしまえばどこにいても結果は同じです!

 私も最後の最後まで戦います!!」

 

 

ケニアの「クララ………、

 だがこれは………。」

 

 

クララ「誰も退くことは許しません!!

 私達はこの戦いから逃げ出してはならないのです!

 私達は………、

 

 

 

 最後まで足掻かなければならないのです!!」

 

 

 とびっきりの一撃を耐えても倒れることのなかったアンセスターセンチュリオンを前に退かないアインワルド族。

 

 

カオス「(この人達は………本当に世界のことを思って………。

 

 

 ………この人達だけは守りたい………。

 こんな人達をここで終わらせたりさせたくない。

 そのためなら俺は何度だってこんな痛み耐えきってやる!!)」パァァァァァァァ!!!

 

 

 再び魔術を放つ構えをとるカオス。

 

 

カーヤ「カッ、カオスさん!

 魔術は駄目だって皆が「カーヤ!」」

 

 

 

 

 

 

カオス「お願いだ!

 止めないでくれ!!

 俺はここで止めることはしたくないんだ!

 俺が止めたらアインワルドの人達がアイツに殺されてしまう!!

 俺はそうなってほしくないんだ!!」

 

 

カーヤ「だっ、だけど………!」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「何をしてるんだカーヤ!!

 もういい遠慮するな!!

 そんな分からず屋は殴り飛ばしてでも止めさせろ!!

 そうしないとカオスが死んでしまうぞ!!」

 

 

アローネ「そうです!

 カオスの体はもう限界なのです!!

 それ以上の魔術の使用は命に関わります!

 絶対に次を撃たせてはなりません!!」

 

 

ミシガン「止めてよカオス!!

 本当に死んじゃうよっ!!?」

 

 

タレス「カオスさん!!

 止めてください!!!」

 

 

 仲間達が必死に自分に魔術を使うなと叫んでくる。それは世界よりもカオスのことを思ってのことだろう。

 

 

カオス「(…そう言われるとやっぱり俺は魔術を撃つしかないじゃないか………。

 世界よりも俺なんかをとるなんて………。

 ………ここにはこんな俺なんかを本気で心配してくれる仲間達がいる………。

 こんなどうしようもない俺を好きでいてくれる人達がいる………。

 こんなところでこの人達を死なせることなんて俺にはできない………。

 例え俺がどうなったって構わない。

 俺がこの人達を守りたい………。

 ただそれだけだ。

 それだけで俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんな苦しみも乗り越えることができる!!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユナイテッド・アンセスターセンチュリオン「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………もうどうなったって構わない!!

 俺が二度と魔術を使えなくなっても!!

 俺がそれで死ぬことになっても俺は………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前だけは道連れにしてでも打ち倒してやる!

 この俺の力で!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『戒めの楔は深淵へと導く!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラビティ!!!!!』」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 球体上の膜がアンセスターセンチュリオンを包みその巨体を空中へと持ち上げていく。そしてその力はアンセスターセンチュリオンを少しずつ中心へと落ち潰し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユナイテッド・アンセスターセンチュリオン「グッ………ガガガッ!!!ガッ………ギガアアッッ!!!」

 

 

 負けじとアンセスターセンチュリオンも毒撃のオーラで押し返そうとする。カオスの力とアンセスターセンチュリオンの毒撃の力は僅かにカオスの力の方に軍配が上がる。

 

 

 それでもアンセスターセンチュリオンを倒すには至らない。

 

 

カオス「(だったら………!!)これで終わりにするぞ!!

 アンセスターセンチュリオン!!!

 この攻撃でもうお前は終わりだッッッ!!!

 

 

 『火炎よ!!我が手となりて敵を焼き尽くせ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファイヤーボール!!!追撃の()()()!()!()!()』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが放つ千発の火球がアンセスターセンチュリオンを襲う。グラビティによって空中に浮き上げられてそこに千の火炎弾が集中し膜の中が紅色に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユナイテッド・アンセスターセンチュリオン「フガッ……アガガ………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うっ………!?

 ………フゥ………ッ………うぅ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユナイテッド・アンセスターセンチュリオン「ッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴアアアアアアアアアッ!!!!…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンセスターセンチュリオンはグラビティの術が解けるのに合わせてその体から出せる最大の毒撃のオーラを放出して、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………お、…………………終わっ…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 た………………………。」ドサッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスも激痛に耐えかねてその場に落ちた。これによりカイメラと同じ期間四十日をかけてのアインワルドの地方のヴェノムの主討伐が完了した………。



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彼女の姿

アインワルド族の住む村アルター 残り期日?日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ッハ!?」

 

 

 ベッドから勢いよく飛び起きた。自分はまた魔術を使った反動で気絶した。一度魔術を使うと半日以上は目が覚めることはない。気絶する瞬間にアンセスターセンチュリオンを倒しきるつもりで全力で無理な魔術を発動させてしまった。それによって今回は大分長く意識が戻らなかったのではないか。カオスは一瞬でそこまで考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………お目覚めですかカオス。」

 

 

カオス「アローネ………。」

 

 

 ベッドの横にはアローネが立っていた。アローネは窓のところに立ち外を眺めている。外からはあの長く降り続けた雨が止み暖かな日差しが指していた。

 

 

アローネ「…少々お待ちください。

 今珈琲でも入れて…「アローネ!」」

 

 

カオス「アンセスターセンチュリオンはどうなったの!!?

 あれから俺度のくらい寝てたの!?

 皆は………アインワルドの人達は誰も怪我とかしてないの!?」

 

 

 巨大アンセスターセンチュリオンがアルターのすぐ目の前まで迫ってきたあの日ざっと見た感じではアインワルドの者達はマナが枯渇し倒れ伏す者ばかりだった。アンセスターセンチュリオンの攻撃は直接受けたということはなかったようだがカオスが意識の無かったまる二日間アルターの者達とアローネ達は休まずアンセスターセンチュリオンへと応戦していたことだろう。

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス………。」

 

 

カオス「………?」

 

 

 何か様子のおかしなアローネ。カオスの質問には答えずゆっくりと彼女は此方へと振り向き………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………最終日………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………えぇ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日が世界が終わる日です………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 窓から見えていた青空が突如聞こえてきた爆音と共に深紅の空へと変わる。遠くの方から煙が上がり続いて何かが空から降ってきて先程の爆音が連続で聞こえてくる。

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

カオス「ど、どういうこと!!?

 俺………一ヶ月もずっと………!?」

 

 

アローネ「はい………貴方はアンセスターセンチュリオンを倒してから一ヶ月もの間眠り続けていました。」

 

 

カオス「そんな………!!?

 俺どうしてそんなに………!!」

 

 

アローネ「頑張りすぎなのですよ貴方は………。」

 

 

カオス「だってそうしないと皆が………!!」

 

 

 世界が今日終わるというのにアローネは至って冷静に徐々に近付いてくる外の破壊の光景を観察していた。あの破壊は精霊の力によるものなのだろう。しかし体の中の精霊が何かしているようには感じない。だがそれでもあのようなことができるのは精霊だけだ。

 

 

カオス「アローネ!!

 今すぐ逃げないと!!

 あれに巻き込まれるよ!!?」

 

 

アローネ「一体どこにお逃げになると仰るのですか?

 どこへ逃げても同じことです。

 

 

 私達は()()()()()()()()………、

 それだけです………。」

 

 

カオス「それでもこんなところにいるよりかは「カオス」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……最期に………貴方が目覚めてよかった………。

 貴方とまたお会いできて本当によかった………。」

 

 

 儚い笑顔を浮かべてアローネはそんなことを言い出す。

 

 

カオス「何をこれで最後みたいなことを言ってるんだ!!

 まだこれからだろ!!?

 アローネはまだウルゴスの人達を見つけてあげないといけないんだろ!!?

 こんなんで諦めるのかよ!!?

 アローネ!!」

 

 

 何もかもを諦めきったアローネをカオスは責めた。自分が一ヶ月も眠っていたことも悪いのだがそれでも彼女には諦めてほしくなかった。

 

 

アローネ「…私は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方と出会えて幸せでし「ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!」」

 

 

 とうとう外の爆発がカオスのいる室内にまで及びアローネが目の前でその爆発に呑まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネェェェェェェェェェェェッ!!!?」

 

 

 爆風に消えたアローネの名前を叫ぶカオス。世界は本当にこれでお終いなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思った時爆風が晴れてきて中に人影が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!

 アローネ!!

 大丈夫…………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だった…………の………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 煙が薄くなって人の輪郭が現れはじめてそこに立っていたのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェノム「カ………オス………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!?」



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守られているから守りたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うああああああああああああぁぁぁぁッ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスンッ!!

 

 

カオス「いてっ!?」

 

 

 驚いた直後突然浮遊感を覚えて地面に激突する。しかしその地面はよく見てみると木材の床であった。

 

 

カオス「つつ………ここは………?」

 

 

 カオスがいたのはたった今空から降ってきた隕石の爆発によって壊された部屋だった。

 

 

 だがどこにもその破壊の跡は残っておらず綺麗な状態だった。

 

 

カオス「………夢………だったのか………?

 …あれが夢………?」

 

 

 夢にしても目覚めの悪い夢だった。世界が終末を迎えるだけならまだしも一緒にいたアローネが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…そんな訳ないのにな………。

 何であんな夢を見ちゃったんだろ………?

 アローネがヴェノムに感染しているなんてそんなことある筈ないのに………。」

 

 

 もし本当にアローネがヴェノムに感染していたとしたら今までアローネによってウイルスをうつされたという話があったことだろう。しかし半年以上アローネと同行していてそんなことは皆無だ。アローネが長期的に滞在していたところもあったがもしアローネがヴェノムに感染していたらそこで誰か被害者が出てくる。カストル、レサリナス、セレンシーアイン、フリューゲル、アルターと人の多い場所には一日以上そこに留まっていた。それでアローネから誰かにうつっていたということは無い。

 

 

 アローネはカオスで出会った当初からそういうヴェノムに感染しない体質だった。それでシーモス海道では精霊マクスウェルの力も付与されている。ある意味では仲間達の中ではもっともヴェノムウイルスに耐性の高い体質なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………それなのにどうしてあんな夢………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!!」

 

 

 部屋で一人自分の見た夢について考えていたらアローネが部屋に駆け込んできた。

 

 

アローネ「目覚めたのですねカオス!」

 

 

カオス「あ………う、うん………。」

 

 

 夢では先程最後の印象が強く一瞬アローネを警戒してしまったが部屋に入ってきた彼女はいつも通りのアローネだった。

 

 

アローネ「………どうして床に座り込んでいるのです………?」

 

 

カオス「…ちょっと寝惚けて寝返りうっちゃったみたいで落ちたみたい………。」

 

 

アローネ「どこも体に異常はありませんか………?

 カオスはその………。」

 

 

カオス「あぁ………、

 うん大丈夫だよ。

 体も普通に動くし。」

 

 

アローネ「………本当ですね………?

 本当に体のどこかに痺れを感じたりとかはしないのですね………?」

 

 

カオス「うん、

 なんともないよ。

 指とかも普通に動くしさ。」

 

 

アローネ「………そうですか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………では………。」

 

 

 アローネがゆっくりとカオスの前に進み膝をついて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネはカオスの頬を思いっきりひっぱたいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ッ………!」

 

 

アローネ「………どうして貴方はいつもいつも一人でやろうとするのですか!?

 今回のことは貴方のおかげでこのアルターでの依頼は完遂できましたが一歩間違えば貴方が命を落としていたのですよ!?

 魔力機能障害とは人が安全に魔術を使うためのリミッターが崩壊しかけた状態なのです!

 普通の怪我とは違ってこれは治療術では治すことができない領域なのです!

 それなのに貴方はまたあのような………!!

 ………あのような………!」

 

 

 アローネは一気に膨れ上がっていた怒気が収まっていき涙ぐむ。

 

 

カオス「………ごめん………なさい。」

 

 

アローネ「………貴方はあの時目覚めてから部屋を出て私達がアンセスターセンチュリオンに追い詰められている場面を目撃してあの行動に出たのでしょう。

 そこは私達の力不足によるところもあります。

 私達の力が至らなかったばかりに貴方に力を使わせてしまい申し訳なく思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ですがそれでも貴方は力を使うべきではなかったのです!

 それほどまでに貴方は危険な状態だというのにどうして貴方はそんなに………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ達を守りたかったんだよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

カオス「俺にとってはアローネ達は仲間を越えた………、

 ………家族みたいな人達だから………アンセスターセンチュリオンなんかに殺られるのは黙ってみていられなかった………。

 俺が何もしなかったらアローネ達は俺の前からいなくなる………。

 俺がいなくなるだけならいいけどアローネ達だけはどうしても俺は………。」

 

 

アローネ「私達が助かるのであれば御自身が犠牲になることも厭わなかったと………。

 そう仰るのですか?」

 

 

カオス「………そうだね。

 ここにはアローネ達もだけどアインワルドの人達もいたしこんなところで失わせたくはなかっ………」ギュッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは続く言葉を言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「貴方はどうしてそこまで御自分を傷つけるのですか………。

 私達が貴方が傷つくのを見て傷つくと思わないのですか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネがカオスを抱き締めてそう諭すように聞かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ………。」

 

 

アローネ「カオスが私達のことを家族のように思って下さっていることは光栄です。

 家族であるなら守りたいと思うのも当然の感情だとは思います。

 

 

 それなら私達もカオスのことを守りたいと思うのは変ですか?

 私達が貴方の力に及ばないのであれば私達は常に貴方に守られてばかりなのですか?

 

 

 

 

 

 

 では貴方を誰が守るのですか?」

 

 

カオス「俺のことは………。」

 

 

アローネ「強者が弱者を守る。

 それは至極当たり前のことなのかもしれません。

 ですが弱者がそれに甘えているだけの関係ではいつか破綻してしまうでしょう。

 私達は貴方にとっては弱者ではありますが貴方との関係を終わらせたくなどありません。

 強者である貴方が全てを背負い込むことは無いのです。

 一人で背負えないほどの問題を抱えてしまったのなら必ず私達は貴方と一緒にその問題を解決して見せます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忘れないで下さい。

 貴方は決して一人で最前線に立っているのではないということを………。

 貴方の隣や後ろにはいつも私達がいるのですから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネの言葉にカオスは自分がアローネ達の力を一切信用してなかったことに気付く。他人に比べて自分がとても強大な力を持っているのであれば自分は常に誰かを守る側だろう。そう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(アローネ達も俺のことを守りたかった………。

 そんなの当たり前のことはもっと前から分かることだっただろうに………。)」

 

 

 今回のことでカオスは仲間達が自分に対してそういう感情を抱いていたことを改めて知れた………。



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自分はどうあるべきか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「それでアローネ………。

 俺って………今度はどのくらいここで意識が戻らなかったの?」

 

 

 意識が戻る前に見た夢では目覚めると同時に世界の崩壊が始まってしまった。あんな夢を見れば悪い予感がしてならずカオスはあとどのくらいの時間が残されているのかを問う。

 

 

アローネ「…カオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「十日………ってことは………。」

 

 

 アンセスターセンチュリオンを倒すために規模の大きな魔術を連続で使用したことで今回は一日や二日では済まなかったようだ。十日意識を失っていたのであれば残りの期日は二十一日。ここで消費してしまった時間を考えてみれば二十一日という時間はあまりにも余裕が無さすぎる。カイメラとの戦いの時もずるずると四十日という時間が経ちここでは五十日が経過してしまった。

 

 

カオス「たっ、大変じゃないか!!?

 すぐにここを出てレッドドラゴンのいるブルカーン族の地方まで行かないと!!」

 

 

アローネ「あっ、慌てないで下さい!

 今日はもう少しで日が落ちますし私とカオスが出発するのは明日からでも追い付きますよ。」

 

 

カオス「そんな悠長なことは………!!

 ………()()()()()………?」

 

 

 アローネの今の発言に疑問を感じる。その言い方ではまるで明日出発するのがカオスとアローネの二人だけのようにも聞こえるが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「はい、

 私とカオスの二人です。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()?()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………皆が先にブルカーンの地方に向かったの………?」

 

 

アローネ「えぇ、

 これまでずっと私達はカオスに頼ってヴェノムの主と戦ってきましたから今度のことでもうこれ以上カオスに負担はかけられないという話になり最後のヴェノムの主はウインドラ達で倒すそうです。」

 

 

カオス「ウインドラ達だけで………?」

 

 

アローネ「一応は私もカオスが目覚めたら貴方と共にレアバードで追い掛ける手筈にはなってますよ?

 彼等だけでレッドドラゴンの相手は厳しそうですから。」

 

 

カオス「…何だそれなら「ですけど」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオスはもう戦いには参加しないで下さい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………何で………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 然り気無くアローネがカオスに戦い自体を禁じてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「前に私が危惧していたことが貴方の体に起こっているのですよ?

 貴方はもう無暗に戦う必要はありません。

 貴方は貴方の体のことだけを考えてこれからは過ごしてください。」

 

 

カオス「そんなこと急に言われても困るよ………。

 俺から戦うことを取られたら何が残るんだよ………。

 俺は戦ってないと俺の存在意義なんて何も………。」

 

 

アローネ「何を仰ってるのですか。

 私やタレス、ミシガン、ウインドラ、カーヤは貴方に戦うことを求めてはいません。

 貴方に求めているのは()()()ことです。

 …貴方はもし戦いになれば魔術や魔技を使ってしまう。

 貴方の今の体で魔術や魔技を使わせるわけにはいかないのです。

 

 

 分かってくださいカオス。

 これは貴方のためなのです。

 次に貴方が魔術を使ってしまえば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()考えられるのですよ?

 そうなってしまってもカオスはいいのですか?」

 

 

カオス「それは………嫌だけど………。」

 

 

 仲間を守るためなら自分が犠牲になることも覚悟していたつもりだったがいざそう問い詰められると言葉に詰まってしまう。自分でも仲間達と離れ離れになってしまうことはしたくない。どうしてもという状況に陥ればそんなことを考えずに自分は動くだろうがそうでないのならそんなことにはなりたくない。

 

 

 自分はもう戦うべきではないのか………?

 

 

アローネ「カオスはミストを追い出されてからここまでよく頑張ってきました。

 十年もの月日をあの村の防衛に努めてそれから私を騎士の方から守っていただき更にはカタスとまで再会させていただきました。

 貴方の人生はとても辛い日々の連続であったというのに貴方はバルツィエのような誰かを苦しめるような悪い人にはならずに誰かを影ながら救うそんな素晴らしい青年へと育ちました。

 

 

 貴方はもう頑張らずとももう良いのではないですか?

 これからは私達が貴方の盾となって戦います。

 貴方のことを全力でお守りしますから………貴方は………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「俺の幸せのために?」

 

 

アローネ「えぇ、

 貴方がもう危険を犯すようなことはなさらなくて良いのです。

 貴方は人の何倍もの苦行を背負ってきたのですからこれからは逆に御自身の幸せな未来に目を向けて歩んでいきましょう?

 私もカオスが幸せになれる道を共に探しますのでこの旅が終わったらその未来へと歩めるように私達でこの世界を守ります。

 精霊マクスウェルにこのデリス=カーラーンの未来は奪わせたりはしません。

 カオスは十分この星の存続に貢献しました。

 後は私達が貴方の意志を継いでいきます。

 ですからカオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 側で私達のことを見守っていてください。

 私達が必ずこの星の未来も守ってみせますから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(俺の………幸せ………?

 俺が………幸せになってもいい………のか………?

 こんな俺が………?

 俺の幸せ………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は今アローネ達と一緒にいられるこの時間こそが一番の幸せなのに他に幸せなんて………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もし全てが終わったら………皆はバラバラになるよな………。

 …だったら俺は………俺の幸せはこのまま皆とずっと一緒にいることだけど………、

 けどそれは………。)」



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魔物を倒した実感

アインワルド族の住む村アルター 夕方 残り期日二十一日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「カオス様!!

 お目覚めになられたのですか!?」バンッ!!

 

 

 カオスとアローネのいる部屋の中にクララが飛び込んでくる。

 

 

カオス「クララさん………。」

 

 

クララ「あぁ…!

 やっと……!

 やっと意識が回復なさって……!」

 

 

 カオスが目覚めているのを見て涙を溢すクララ。

 

 

クララ「村の者達も心配しておりましたよ!

 アルターを………世界樹カーラーンを救っていただいたのにカオス様が十日も意識不明のままで………!」

 

 

カオス「…沢山の人に心配かけたみたいですね………。

 ごめんなさい………。」

 

 

クララ「そんなことはいいのです!

 こうしてカオス様が無事だったので私共はそれで………!」

 

 

カオス「え?

 でも………。」

 

 

クララ「この度は私共アインワルドを苦しめていたヴェノムの主アンセスターセンチュリオンを討伐していただき感謝いたします!

 私共アインワルドはこのご恩は一生忘れたりはしません!

 永久的にカオス様をこのアルターの英雄として讃えていきます!」

 

 

カオス「そんな大袈裟な………。」

 

 

クララ「大袈裟なことなどございません!

 あれほどの()()をたったお一人で打ち破ってしまうとは………!

 カオス様がお作りになられたあのトンネルも私共では上手く使いこなせずに最後にはカオス様のお手を煩わせることになってしまいました!

 そのせいでカオス様はその………!」

 

 

カオス「俺のことは大丈夫ですから………。

 アンセスターセンチュリオンを倒したのだって精霊の力を使っただけだし………。」

 

 

クララ「その力を使いこなしたのはカオス様の功績ですよ!

 カオス様も目覚めたことですし本日は宴にしましょう!

 村の者に伝えて用意させます!

 是非ご参加下さいね!」ガチャッ!

 

 

 クララはそう言って部屋を飛び出していった。

 

 

カオス「………随分慌ててたな………。」

 

 

アローネ「カオスが目覚めたことはこの村の方にとっては大変喜ばしいことですから仕方ないのですよ。

 カオスはこの村を救ったのですから。」

 

 

カオス「そうなるん………だね。

 でも俺達は宴なんか開いてる場合じゃ……。

 ウインドラ達にも追い付かないといけないし………。」

 

 

 残り時間は既に一ヶ月を切っている。もはや一日でも無駄にはできない。移動にかけてしまう時間も数日は消費してしまう。それなのに宴だなどという気分にはなれないカオス。

 

 

アローネ「急くお気持ちは分かりますが外はもうすぐ暗くなりますよ?

 私とカオスはレアバードでウインドラ達を追い掛けるのですから飛行するのであれば朝方が望ましいです。」

 

 

カオス「え?

 ………あ………。」

 

 

 アローネが窓の方に歩み寄ってカーテンを開けると空がオレンジ色に染まっていた。確かにこんな時間から移動を開始するのは危ない。

 

 

アローネ「大丈夫ですよカオス。

 ウインドラ達は徒歩で向かっていますからレアバードで移動する私達ならすぐに追い付きます。

 この森も数時間で抜けることができますからウインドラ達にはすぐに会えますよ。」

 

 

カオス「だけどウインドラ達がいない間に俺とアローネだけが参加してもいいのかな………。」

 

 

アローネ「…いえ………実はささやかな宴の席ならカオスがあの巨大アンセスターセンチュリオンを倒したその日に開かれましたよ?

 でも主役のカオスが意識を失ったままでしたのでその時は二時間程度のものでした。

 今回の宴は夜中まで続くでしょうね。

 ケニアさんがそう仰っていましたから。」

 

 

カオス「そんなにする予定なの!?

 でも浮かれてる場合じゃないんだよ!?

 アンセスターセンチュリオンは倒してもレッドドラゴンが倒せなかったら結局は全部が「カオス」………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ここの方々にとってはヴェノム、アンセスターセンチュリオンが倒されたことは彼等の住む世界が救われたも同義なのです。

 彼等にとってはトレントやアンセスターセンチュリオンは誰も倒すことができない不死身のモンスターであってそれらから漸く彼等は解放されたのです。

 彼等は少しでも六年もの暗闇だった時間を晴らしたいのですよ。

 六年もの間彼等はまともに村の外を歩くことすらできなかった。

 そんな彼等はできる限りの喜びをカオスに伝えて分かち合いたいのです。

 カオスは彼等のお気持ちをくんであげてください。

 

 

 今日ぐらいは貴方も戦いのことは忘れて宴を楽しむべきですよ。」

 

 

カオス「………」

 

 

 アローネの言葉を聞いてカオスはカストルでのクエストのことやカイクシュタイフでクラーケンを倒した時のミーア族のことを思い出した。当たり前のようにカオス達はヴェノムを倒してきたが普通の人にはそんなことはできない。だからこそカオス達がヴェノムを倒して戻ってくると感謝される。それはもう見ていてカオス達も一緒に嬉しくなるほどに。クラーケン以降はクリティアのジャバウォックは既に倒されており続くカイメラ、ビッグフロスター、グリフォン、フェニックスでは部族が壊滅していたりややこしい状況だったりとで大勢の人が楽しむ光景は久しく見ていない。そんな人達の喜ぶ姿に水を指すのは野暮というものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………そうだね。

 今日ぐらいはいいのかもね。」

 

 

アローネ「えぇ、

 そうですよ。

 明日から私達は出発すれば良いのですから今日はカオスもアインワルドの方々と楽しんでください。」

 

 

カオス「…そうする。」

 

 

 カオスはクララが開く宴を待つことにした………。



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人生初の飲酒

アインワルドの住む村アルター 夜 残り期日二十一日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ………

 

 

 クララの宣言通りにアンセスターセンチュリオンを倒した祝いの席がもうけられた。宴は外で行われアインワルド総出でカオスとアローネを歓迎してくれる。

 

 

ビズリー「カオス様!

 カオス様とアローネ様はこちらの方へお掛けください!」

 

 

ダズ「食事や飲み物はお持ちします!

 今日は目一杯楽しんでいって下さい!」

 

 

 すっかりと顔馴染みになったビズリーとダズがカオスを大きな机の席へと案内する。そこにはクララやケニアもいた。

 

 

クララ「カオス様、

 病み上がりでお体の調子はどうですか?

 その………このような企画を急に開いたりなどして迷惑ではありませんでしたか?」

 

 

カオス「そんなことはないですよ。

 体だって別にキツかったりとかはしませんし………。」

 

 

ケニア「十日もの間寝込んでいらしたのにカオス様は丈夫な体をお持ちのようですね。

 さぞ日頃からいつでも動けるような鍛え方をしておられるのでしょう。

 私共も見習いたいものです。」

 

 

カオス「そうですね………、

 自然と体が鈍ったりとかはしない体質みたいで………。」

 

 

アローネ「あの無茶をした日から十日は意識が戻りませんでしたがその直前にも三日も気を失っていた時間がありましたからカオスはほぼ二週間は体を動かしていなかったのですよ?

 本当に不調を感じたりはしないのですか?」

 

 

カオス「そういうのは無いけど………、

 ………強いて言うなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ちょっと緊張してるくらいかな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「緊張………?」

 

 

カオス「こういう人が沢山いる中でご飯を食べるのなんて今まで無かったしそれにここの席………皆から見えるからなんか皆の視線が集中してるような気がして………。」

 

 

 過去のことは乗り切ったつもりだがカオスは一度大勢の者に囲まれて罵倒さりたり暴力を振るわれた経験がある。なので例え自分に向けられている視線が好意的なものであろうとも苦手意識を感じているのだ。

 

 

アローネ「あぁ………、

 カオスにはこのような場は()()()なのですよね。

 ですから緊張を………。」

 

 

カオス「アローネは初めて………じゃないんだね………。」

 

 

アローネ「ウルゴスでは社交界がよく開かれていましたから私は特に緊張するほどではありませんね。」

 

 

ケニア「カオス様はこのような雰囲気は苦手でいらっしゃるのですか?」

 

 

カオス「は、はい………、

 人の多いところはあまり………。」

 

 

 ケニアは少し考える素振りを見せてからビズリーとダズの方へと指示を出した。

 

 

ケニア「ビズリー、ダズ、

 どうやらカオス様がこの空気は辛いらしいのだ。

 カオス様の緊張をほぐすためにも()()を持ってきてくれ。」

 

 

ビズリー・ダズ「「!!………はい!」」

 

 

 ビズリーとダズはケニアの指示を受けて室内へと入っていく。何か緊張をほぐせるものを用意してくれるようだが………、

 

 

カオス「ケニアさん、

 アレって何ですか?」

 

 

ケニア「こういった場での()()()ですよ。

 彼等が戻ってくれば分かります。」

 

 

 ケニアは含むような言い方をする。

 

 

カオス「?

 何だろう………?」

 

 

アローネ「………もしや………。」

 

 

 アローネがこれから来る物に心当たりがあるようだがその前にビズリーとダズが戻ってきた。

 

 

 彼等が持ってきたのは瓶に入った飲み物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケニア「緊張をほぐすにはこれが一番ですよ。

 私共が端正込めて作ったこの()()()()()()()()をお飲みになられればカオス様も周りのことなど気にならなくなります。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケニアが持ってこさせたのは()であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「やはりそうでしたか………。」

 

 

カオス「お酒………か………。」

 

 

クララ「カオス様はお酒はお嫌いでしたか?」

 

 

カオス「嫌いっていうか………飲んだことないんですよ俺………お酒は………。」

 

 

 カオスは十歳から二十歳までを旧ミストで一人で暮らしていた。食事や飲み物は簡単な物なら作れたが酒のような特殊な製造過程が必要な物を作ることはできなかった。

 

 

クララ「…お酒とは無縁の生活を送って来たのでしたね………。

 カオス様はずっとお一人だったのですし………。」

 

 

カオス「おじいちゃんがまだ生きてた頃はおじいちゃんが飲んでたのは見たことあったんですけど臭いとかがキツくて飲もうとも思わなかったですし子供は飲んじゃいけないみたいだし………。」

 

 

クララ「カオス様?

 カオス様は御成人なさられているのですよね?」

 

 

カオス「まっ、まぁそうですけど………。」

 

 

クララ「それでしたら試しにお飲みになってはいかがでしょうか?」

 

 

カオス「え?」

 

 

クララ「御成人されているのであればお酒を飲んでしまっても問題はないでしょう。

 子供であったなら成長に支障を来す恐れがありますが大人の年齢に達しているのであればお酒も飲める筈です。」

 

 

カオス「でも味が癖があるって聞きますけど………。」

 

 

クララ「子供の頃と大人になった後では味覚というものは大分変わってくるものですよ?

 子供の頃に食べられなかったものも大人になって食べられるようになったりとかよくある話です。」

 

 

カオス「それはそうかもしれないですけどお酒を飲むと酔ったりしますし………。」

 

 

 祖父の生前では祖父が酒を飲むとその後様子がおかしくなっていた。酔っぱらうという感覚らしいがミストの他の大人達もお酒を飲むとフラついて呂律が回らなくなる。自分もあのようになるのではないかと思うと酒を飲むのは避けたいカオスだったが………、

 

 

クララ「お酒に酔うのは個人差がありますよ。

 一口で酔う人もいればいくら飲んでも全く酔わないという人もいます。

 カオス様は初めての飲酒にはなりますがカオス様ほどの丈夫な体ならば酔わない可能性の方が高いと思います。」

 

 

カオス「酔わない人もいるんですね………。」

 

 

クララ「俗にいう酒豪というものですね。

 この機会にカオス様もご自分がお酒に強いのか弱いのか知ってみるのも良いのではないですか?

 飲んでみると意外と美味しいですよ。」

 

 

カオス「そうなんですか?

 ………じゃあ一口だけ………。」

 

 

ケニア「どうぞ。」

 

 

 ケニアから酒をついだ臭気のするコップを受け取り口に近付ける。その時点でコップから漂う匂いが鼻腔をつくような感覚に襲われて噎せそうになるがそれを我慢してカオスは少量を口に含み………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ゴクッ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「いかがでしょうかカオス様。

 お口にあえばよろしいのですが………。」

 

 

カオス「………………………思ったよりも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 癖が強くなくて………味もそんなに思っていた程不味いって訳じゃないんですね………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寧ろ美味しい………?」

 

 

 

 

 

 

クララ「本当ですか!」

 

 

カオス「あっ…えっと………お酒ってなんか不味いみたいな印象があったから飲んでみたらそうでもないんだなぁって………。

 それに()()()()()()()()()()()()気分が良いしで………。」

 

 

クララ「お酒は普通の飲み物とは違った感覚を味わえるのです!

 その感覚が心地よくて大人はお酒を飲むのですよ!

 どうですか?

 私が見たところカオス様はお酒に強い体質のようですしもう一杯いかがですか?」

 

 

カオス「もう一杯………。

 ………じゃあもう一杯だけ………。」

 

 

 クララに促されるままカオスはコップに酒を注がれてそれを飲み干す。

 

 

アローネ「…カオス?

 明日は早くに出る予定なのであまり飲みすぎてはなりませんよ?

 お酒を飲みすぎては明日に響きますからその一杯までで今日は…」「アローネ様もお飲みになられませんか?」

 

 

クララ「明日後出立されるのであれば私共のアルターバーボンをご提供できるのは暫く後になるでしょうしここでアローネ様もお飲みになられては………?」

 

 

アローネ「私は………

 ………こういった飲み物は乗馬やレアバードでの飛行中に事故の確率を高めますので私は遠慮させていただきます。

 明日は長時間レアバードで飛行するので。」

 

 

クララ「そうですか………残念です。

 でしたら」チラッ…

 

 

アローネ「?」「アローネ様!」

 

 

「私達アローネ様のお話をお聞きしたいです!」

 

 

「アローネ様はウルゴスという国の御出身なんですよね!

 どんなところだったんですか?」

 

 

 クララが視線をそらした先にはアインワルドの女達がおりアローネを取り囲んで質問攻めにする。

 

 

アローネ「ウッ、ウルゴスの話を………?

 一体誰からウルゴスのことを」「まぁまぁあっちの方でお話しましょうよ!」

 

 

 女達はアローネを別のところへと連れていく。アローネはそれに戸惑いながらもカオスに、

 

 

アローネ「カッ、カオス!

 その一杯で最後ですよ!?

 飲酒は思考力を低下させたり記憶が飛んだりしますので……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「う、うん。

 これで終わりに…」「カオス様。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「カオス様のために用意したアルターバーボンはまだまだありますからどうぞ。

 お酒は寝付きに良いのですよ?

 明日が大事な日なのであれば多目にお飲みになられてるのがよろしいかと。」

 

 

カオス「は、はい………。」

 

 

 

 

 

 

 こうしてカオスはアローネに止められているにも関わらずクララの押しに負けて多量の酒を摂取してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………まぁ俺って実はお酒で酔わないみたいだし思ったより飲みやすいからもう少しだけ飲んでみてもいいかな………。)」

 

 

 飲酒が初めてだったカオスは飲酒をする者がどの程度飲んでからで酔うのか分からなかった。一口飲んでミストの人々のように酔わない自分は酒に強い体質だと錯覚してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案の定この後カオスは飲みすぎてつぶれてしまった………。



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アインワルドの闇

アインワルド族の住む村アルター 夜 残り期日二十一日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………ハァ………、

 やっと解放されました………。

 何故あそこまでウルゴスについて聞きたがるのでしょうか?

 それよりもカオスは………。」

 

 

 アインワルドの女達にカオスと引き離されてから二時間程ウルゴスについて話をしていたアローネ。故郷の国のことについて興味を持たれたこともあって調子に乗って時間を忘れるぐらいに話し込んでしまい少々疲れた様子を見せる。途中何度もしつこく酒を勧められはしたが全て断り酒を飲まないのであれば酒ではない別の飲み物ならと苦味のある飲み物を飲まされた。それを飲んでから眠気が増したような気がする。

 

 

アローネ「…今日はもう休むことにしましょうか………。

 アインワルドの方々には悪いのですがウインドラ達に早く追い付くためにもこの辺で私とカオスは………。

 

 

 ………カオス!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「う、うぅ~ん………。

 もう飲めないですよ~………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネがカオスのところに行くとそこでカオスが机に突っ伏して呻いていた。カオスはベロンベロンに酔っぱらっていた。

 

 

アローネ「どうしたのですか!?

 あれほど飲みすぎてはいけないと忠告していたのに何故こうなるまで飲んでしまったのですかカオス!」

 

 

カオス「あれぇ………?

 アローネェ………?」

 

 

アローネ「アローネェではありません!

 カオス!

 酔いすぎですよ!

 だから私は忠告したのです!

 初めての飲酒で失敗する方は多いのですからペース配分はしっかりと考えておくべきだったのです!

 そんな飲んですぐに酔いがまわる訳ではないのですから少しずつ飲んでご自分がどの程度の量摂取して酔うのかは把握しなければならなかったのです!」

 

 

カオス「そんなこと今更言われてもぉ………。

 大丈夫だと思ったんだよぉ。」

 

 

アローネ「ちゃんと聞いてください!!

 もう!」

 

 

 今のカオスには何を言っても無意味だろう。ここまで酔ってしまっては後の祭りだ。完全に酔っていてはいくら言い聞かせても耳を通り抜けていく。アローネはそのことを憤慨したが、

 

 

 

 

 

 

クララ「申し訳ありませんアローネ様。

 私が無理をさせてしまったのです。」

 

 

アローネ「………」

 

 

 カオスを叱責しているとクララが横から遮って話に入ってくる。

 

 

クララ「カオス様とアローネ様はこの村を救っていただいた英雄です。

 村を治める代表としてお二方にはこの宴を楽しんでいただこうと努めてはみたのですがそれが要らぬ失敗を招いてしまったのですね………。

 謝罪いたします。」

 

 

アローネ「いえ…、

 そこまでのことでは………。」

 

 

 この賑やかな雰囲気の空気の中で人に頭を下げさせるのはアローネも居心地が悪かった。周りを見れば他のアインワルドの者達もアローネ達へと視線が集中していた。その視線に耐えられなかったアローネは慌ててクララに顔をあげさせる。

 

 

アローネ「…私も少し言い過ぎました。

 ですから顔をお上げてください。」

 

 

クララ「アローネ様………。」

 

 

アローネ「悪気がないことは承知しております。

 ですがまだこの村が救われても世界がどうなるか予断を許さない時期なのです。

 明日は移動をするだけですので私からの話はこれきりにします。

 ………カオスももう休みますよ。」

 

 

カオス「うぅんん………。」

 

 

アローネ「………まったくカオスは………。」

 

 

 カオスが飲みすぎたことには腹を立てたがクララが即座に謝ってきたためアローネも毒気を抜かれたようでそれ以上事を荒立てるつもりはなかった。

 

 

アローネ「(よく考えてみればカオスはずっと戦いばかりでしたし私達の中で一番頑張っていたのはカオスなのですからこういうことがあっても罰は当たりませんよね………。

 ………明日カオスが起きたらカオスに謝りましょう。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「カオス様、

 一人で立てますか?」

 

 

カオス「なんとかぁ………。」

 

 

アローネ「…これは大分お酒が入ってますね。

 私が肩を貸しますのでさぁ」「私がカオス様をお運びしますよ。」

 

 

 アローネがカオスの腕をとろうとした瞬間ケニアが反対側からカオスを支える。

 

 

ケニア「カオス様は私がお連れします。

 アローネ様は先に休んでいてもらって結構ですよ。

 明日は早いのでしょう?」

 

 

アローネ「え、えぇそうですが………。」

 

 

ケニア「でしたらこれにてこの宴も御開きとしましょう。

 後片付けとカオス様の介抱は私の方でやらせていただきます。

 カオス様もアローネ様も大切なゲストですしカオス様がこうなってしまったのも私共の責任です。

 カオス様のお世話は私がしますのでアローネ様はお先にお休みください。」

 

 

 ケニアはそう言ってカオスを連れていく。ビズリーとダズもそれについていった。

 

 

アローネ「…何から何までご迷惑をおかけしますね………。」

 

 

クララ「とんでもないですよ。

 私達が好きでしていることですから。

 それよりもアローネ様も相当お疲れのご様子ですが寝室まで案内させましょうか?」

 

 

アローネ「………いえ、

 それには及びません。

 私はお酒をとってはいないので一人でも大丈夫です。

 宴が終わるのであれば私もお片付けを手伝いますが………。」

 

 

クララ「そうはいきません。

 父も言っていたようにアローネ様は大切なお客様ですから後のことは私と村の者達にお任せください。

 アローネ様はこのまま寝室の方へ。」

 

 

アローネ「でも………「アローネ様!でしたらもう少し御国のお話でも!」わっ、分かりました!お先に失礼させていただきます!」

 

 

 先程アローネを連れていった女達がまた絡んでこようとしたためアローネはクララの申し出を受け入れることにした。ウルゴスに興味を持ってもらえるのは嬉しいがそう何度も同じ話をするのはアローネも精神的にまいってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………彼女には例の物は飲ませましたか?」

 

 

 アローネが去ってから女達にクララがそんな確認をする。

 

 

「はい、

 これで一度眠ってしまえばどんなに騒がしくしても朝まで起きることはないでしょう。」

 

 

クララ「だからと言ってそれを確かめるために煩くなっも計画が未遂に終わるだけです。

 彼女が確実に睡眠をとったことを確認次第………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はあの計画を実行に移します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケニア「そうか………、

 では私達でここを片付ける。

 お前はその………覚悟だけは整えておけよ?」

 

 

クララ「当然です。

 私はいつでも心構えはできております。

 ……今夜で………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次期ダレイオス王筆頭候補カオス=バルツィエを私の物にして見せます!」



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逆夜○い

アインワルド族の住む村アルター 深夜 残り期日二十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………んん………?」

 

 

 おおよその日付が変わった頃カオスは酔いが覚めて起きた。

 

 

カオス「………?

 ………ここは………?」

 

 

 カオスが寝かされていた部屋は真っ暗で周りが何も見えない。が、部屋の戸の下からほんのりと光が漏れていたため自分がまたどこかの部屋でベッドに寝かされていることが分かる。

 

 

カオス「…最近気が付いたらベッドで寝かされていることが多いなぁ………。

 自分でベッドに入った記憶すら無いや………。」

 

 

 自分が知らぬ間にベッドの中だったことが多発してきたが今回何故そうなったかは自分で自覚はしている。初めての酒で飲んでも自分が酔わない体質だと思い込んでしまったため注がれるだけ飲んでしまい結果酔い潰れてしまった。村を守るために力を使い果たして気絶したなら救いはあったが今自分がベッドにいるのは自分の不注意が原因だ。意識は朦朧としていたが直前アローネに何か怒鳴られていたことをうっすらと覚えている。

 

 

カオス「………アローネに悪いことしちゃったなぁ………。

 

 

 飲むなって言われてたのに沢山飲んじゃって結局………」………ギシ………ギシ………

 

 

 と、酒で潰れてしまったことを後悔しているとカオスの部屋の外から足音が聞こえてきて誰かがこの部屋へと近付いてくるのが分かった。その足音はどうも音を響かせないように靴下か素足でゆっくりと歩いているらしく向かってきている人物がカオスを起こさないようにしている行動だと感じた。

 

 

カオス「(誰かが俺の様子でも見に来たのかな?

 酔っぱらってから記憶が殆ど無いし誰かが運んでくれたんだろうけど俺の酔い方が酷かったから心配して確認に来たんだろうな。

 ………だったらこのまま寝ていた方がいいよね?)」

 

 

 近付いてくる者の意図は定かではないが自分の体調に問題が無いということを悟って帰ってもらうようにカオスは窓の方に体を向けて寝息を立てるフリをしてあたかも自分がずっと寝ていたようにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………スタ………スタ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の戸がそっと開けられる。ノックもしないところを見るとやはりカオスを心配した誰かが様子を見に来ただけだろう。その内安心して出ていって………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィ………パタン………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………スタ………スタ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……スゥ………スゥ………(………?)」

 

 

 戸を開けた人物が戸を閉めたと思ったらそのまま部屋の中へと入ってきた気配がする。その人物はカオスが横たわるベッドの直ぐ隣まで来た。

 

 

カオス「(………何だ?

 俺の様子を見に来ただけなら戸なんか閉めなくてもいいのに………。

 戸を閉めたら真っ暗で俺が寝ているかどうかも分からないんじゃ………。)」

 

 

 自身の真後ろにいる人物が何を考えているのか分からず声をかけるべきか悩むカオス。部屋に入ってきた人物も後ろに立ってから何をするでもなく動かない。一体誰がこのような不審な行動をとっているのか確認しようと振り返ろうとした時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モソモソ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………えぇ!!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その謎の人物がカオスの布団を捲って入ってきた。そして入ってきた人物が体に触れて感触から女性であることを知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(なっ、何だ!?

 何でこの人俺の布団に………!?)」

 

 

 この状況でこのようなことをされる覚えはない。何故この女性はわざわざ自分が寝ている布団に入ってきたのかカオスには分からない。更におかしなことに女性はカオスの体に腕を回して抱き着いてくる。背中越しに接触する部分の圧迫感からその女性は現在()()しか身に纏っていないことも知った。

 

 

 いくら考えても自分に下着姿で迫ってくる人物に心当たりが無くどうすればいいのか悩みそして勇気を振り絞って抱き着いている女性に声をかけてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………あっ、あの…………。

 あっ、貴女は何をしてるん「カオス様………。」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「わっ、私です………クララ………です………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に入ってきていたのはクララだった。彼女は顔を真っ赤にしてカオスの顔を覗き込んでくる。

 

 

カオス「クッ、クララさん………?

 どうしてここに………?」

 

 

クララ「…カオス様が酔ってしまったのは私に責任がありますから………その………。」

 

 

カオス「そっ、そうですか………、

 俺の方はもう酔って無いんで大丈夫ですけど………。」

 

 

クララ「………」

 

 

カオス「………」

 

 

 クララはカオスが予予想した通りカオスの様子を見に来たようだ。自分が無理に飲ませてしまい責任を感じてここへ入ってきた。

 

 

 ………では何故下着姿で布団に入ってくる必要があったのか。

 

 

カオス「……あの………俺のことは心配ないんで………えっと………。」

 

 

クララ「………」

 

 

カオス「………………何をしに来たんですか………?

 服も着てないようですけど………。」

 

 

クララ「…………………………」

 

 

カオス「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「…ア、アンセスターセンチュリオンを討伐していただき有り難う御座います!!

 私はその………御礼にカオス様に()()()しに参りました!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自棄になったようにそう巻くしてたててクララは言った。カオスに奉仕しに来たと。

 

 

カオス「ほ、奉仕………?

 ………それとクララさんが服を着てないことに何の関係が………。」

 

 

クララ「ですから御奉仕です!

 わっ、私はカオス様に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この身を捧げに来ました!!!」

 

 

 

 

 

 

カオス「えぇ!!?」

 

 

 

 

 

 

 カオスはそれを聞いて飛び起きようとした。しかしクララにしがみつかれていたため動くことができなかった。

 

 

カオス「どっ、どうしてそうなるんですか!?

 それに身を捧げにって………何でそんな話になるんですか!?

 俺はアンセスターセンチュリオンを倒しただけでそこまでされるようなことは「十分な功績ではないですか!」」

 

 

クララ「私共アインワルドは六年もの間あの存在に怯えて暮らしていました!

 あのアンセスターセンチュリオンが現れてからはろくに森の外へも出られず六年もこのアルターで閉じ込められて窮屈な思いをしてきました………、

 

 

 それがカオス様のお力によって私達アインワルドは六年ぶりに外の世界へと足を踏み出せるようになったのです!

 それだけでなくあのウィンドブリズ山に優る大きさにまで合体したあのアンセスターセンチュリオンによって今日を迎えることなく全滅していたことだって考えられます!

 その事を思えばこれくらい当然のことで「ちょちょっ!違うでしょ!?」」

 

 

カオス「俺が無理にトレント達を倒そうとしてアンセスターセンチュリオンがあんなに大きくなったんですから俺が倒すのは当たり前じゃないですか!?

 だからそんなに思い詰めてこんなことしなくても…!」

 

 

クララ「ですがそれでも私の気がすみません!

 何か………!

 何かカオス様に尽くせる何かを私はしたいのです!」

 

 

カオス「だからってこういうことは家族でもない人とは………「家族であるのなら良いのですか!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「…このようなことは本当は私も不本意です………。

 このような形をとってしまうことは………、

 

 

 

 

 

 

 ………ですがこの機を逃してしまえば私とカオス様が御一緒することも難しくなるのです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス様がヴェノムの主を討伐し終えた時、

 ダレイオス部族会議でカオス様がダレイオスの次期王として選ばれるのですから!!」



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運命の出会い

アインワルド族の住む村アルター 深夜 残り期日二十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「俺がダレイオスの王に………?」

 

 

 カオスの後ろにいるクララがそう言った。

 

 

クララ「はい………、

 ミーア族の使いの者はそう仰っていました。

 スラート、クリティア、ミーア達の間では既にその方向で話が進んでいると。

 ですからもしそうなってしまった時に私がカオス様とおちかづきになれるのは今日を過ぎてしまえば他にはありません。

 ………カオス様、

 私にどうか「俺は王様になんてなりませんよ。」」

 

 

 

 

 

 

カオス「…俺は今のダレイオスの状況をどうにかしたいとは思ってます。

 マテオのバルツィエ達のことも正直言っていい印象は持っていません。

 バルツィエが世界を統一したら世界中がタレスのような酷い扱いを受ける………。

 だから俺はバルツィエと戦うんです。

 そんな人達を溢れさせないために。

 

 

 ですからその後は王様だとかそんな難しい話は知りません。

 俺に国の政治なんて分かる訳ないですから………。

 

 

 クララさんにも話しましたよね?

 俺は王様だとかそんな人達とは無縁のマテオの端の小さな村で育った田舎者です。

 そんなのが国を纏めたりとか無理ですよ。

 だから俺とはヴェノムの主を倒してバルツィエと決着をつけてもその後また何度でも会えますよ。」

 

 

クララ「………そうなのですか?」

 

 

カオス「はい、

 そういう予定で俺は考えてますから。」

 

 

 これでカオスはクララが落ち着いてくれると思った。落ち着いてカオスの体を離して衣服を着てくれると思った。カオス自身が年頃ということもあって女性に抱き付かれるのはなんとなく気恥ずかしい。どうして気恥ずかしいかはカオスは()()()()()()()()()()()()()()………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………そうなのですね………。

 カオス様はダレイオスの新王にはなるつもりはないと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …それはそれで私がカオス様に奉仕することは変わりませんが。」

 

 

 カオスの渾身の対抗策は見事に決まらなかった。

 

 

カオス「えぇ!?

 何でですか!?」

 

 

クララ「カオス様がダレイオスの王になるにせよならないにせよそそのことは関係ありません。

 カオス様はアルターを救っていただきました。

 その分の御奉仕はさせていただきます。」

 

 

カオス「御奉仕ってそんな……!?

 何をするつもりなんですか!?」

 

 

クララ「この状況ならお分かりになるでしょう………?

 そ、その………、

 ………カオス様の欲望を私にぶつけてもらっても………。」

 

 

カオス「俺の欲望………?」

 

 

クララ「遠慮なさることはありません。

 私も覚悟はできております。

 私はカオス様の………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供を授かりたいと思っておりますので………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「それってまさか前に話していたあの………?」

 

 

クララ「…カオス様にはこのアルターを救ってはいただきましたがまだ他に救っていただきたいことがあります。

 それが()()()宿()()です。」

 

 

カオス「………」

 

 

クララ「カオス様がお越しになった初日に御話ししましたが代々巫女はラタトスクが憑依することによって世界樹カーラーンを守ってきました。

 ラタトスクの力は凄まじくあのバルツィエさえも圧倒するほどの力があります。

 

 

 そして力を得る代償として巫女は本来の寿命の八割から九割の時間しか生きることができません。

 私の寿命も持って後五年といったところでしょう………。

 これはどうあっても逃れることのできない定めでしょう………。

 

 

 

 

 

 ですからカオス様には私の次代の巫女の命を救ってほしいのです!

 カオス様とのお子なら巫女としての器は歴代の巫女の中でも最高の器を持った子が生まれるでしょう!

 

 

 なのでカオス様!

 私に!

 私にカオス様の種を下さいませ!」

 

 

 クララの奇行の理由が分かった。クララはカオスがアルターに来たときからずっとカオスとの子供を作ることを狙っていたのだ。

 

 

カオス「そっ、そんなこと急に言われても………。

 それに子供なんて結婚もしてないのに………。」

 

 

クララ「でしたら私と()()()()()()()()!

 それなら何も問題は無くなりますよね!?

 カオス様が望むのであれば私はどのようなことでもカオス様にしてさしあげられます!」

 

 

 クララは強引にカオスの体を引き寄せてから仰向けに寝かせてその上に乗ってくる。酔いもあってかクララの力に逆らえないカオス。

 

 

カオス「…でも俺は全てが終わったらアローネの手伝いをしなきゃいけないし………。」

 

 

クララ「アローネ様とカオス様は別に特別な関係ではないのですよね………?

 アローネ様も他に好意を寄せている方がいてその方をカオス様は探すと言う約束を………。

 

 

 ………それは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あまりにもカオス様が惨めではないですか………?

 カオス様の好意をアローネ様が応えて下さることは無いのですよ?」

 

 

カオス「!!」

 

 

クララ「…カオス様がアローネ様にある程度の好意を寄せていることは知っています。

 けれど彼女の話を聞いてカオス様はそこから先に踏み込むことを躊躇っているのですよね?

 他の異性に好意を抱く方を追い掛ける行為はとても酷なことだと私は思います。

 

 

 

 

 

 

 ………ですが私なら………、

 カオス様と同じく精霊を身に宿す宿命を持った私なら………、

 

 

 世界の果てと果てで生まれたのに運命的な出会いを果たした私ならカオス様の思いに応えて………」ガチャ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス………?

 体の具合は大丈…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………って何をしてるんですかお二人は!!!?」

 

 

 唐突にアローネがカオスとクララのいる部屋へと入ってきた。そして二人の姿を見て夜中にも関わらず大声で怒鳴るのだった………。



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カオスが抱くアローネへの想い

アインワルド族の住む村アルター 深夜 残り期日二十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「何をしてるんですか!?

 二人は!!」

 

 

 アローネが二人を見て驚いてそう叫んだ。カオスはベッドに寝かされていてその上にクララが下着姿で跨がっている。

 

 

クララ「なっ………!?

 何故貴女がまだ起きていられるのですか!?

 貴女には()()()を飲ませた筈なのに………。」

 

 

アローネ「睡眠薬………?

 …道理で異常に眠気が酷いのですね………。

 そんなものをを飲ませられていたとは………。」

 

 

カオス「どっ、どうしてアローネに睡眠薬を飲ませたんですか………?」

 

 

アローネ「…恐らくこの状況を作り出すためでしょう。

 私に邪魔されずにカオスと事を及ぶための………。

 その様子ではまだ至ってはいないようですけど。

 

 

 ………諦めていなかったのですね。

 カオスと結ばれることを。」

 

 

 アローネはクララを睨み付ける。その視線をクララは平然と受け止めて、

 

 

クララ「…どうやら睡眠薬の量が少なくて効き目が薄かったようですね。

 他のお仲間の方々は先にブルカーンの地へと向かわれたので貴女一人さえ押さえておければ目的達成は容易だと踏んだのですが………。」

 

 

アローネ「目論見が外れたようですね。

 私の家はウルゴスでは次期国王の妃と迎えられることを約束されていたのでその座をめぐって他の家に毒などといった姑息な手段で私の命を常に狙われていたのです。

 義兄の勧めでそういった手段に対抗すべく日頃から毒物に抗体を作るように努めておりました。

 私に睡眠薬は効きません。

 

 

 さぁ!

 早くカオスから離れてください!

 もう貴女の企みはこれで不可能となりました!

 私がここにいる限りカオスに手出しはさせま「出ていくのは貴女の方です!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「貴女がここに来たから何だと言うのですか?

 貴女には全くこれっぽっちも関係のないことではありませんか。

 早くここから出ていって下さい。」

 

 

 毅然とした態度でクララはアローネに退出するよう命令する。

 

アローネ「なっ!?

 何を………。」

 

 

クララ「私とカオス様はこれから大事な()()を行います。

 私とカオス様がこの先の未来で共にずっも過ごしていけるようなそんな儀式を。

 貴女にそれを邪魔する権利がどこにあると言うのですか。」

 

 

アローネ「儀式!?

 クララさんがしようとしていることはただの夜這いでは「それが何ですか!」!?」

 

 

クララ「夜這いであろうが何であろうが私は私の行いに責任は持つつもりです!

 これでカオス様との子供を身籠ってしまったとしても私はその子とカオス様の生活は保証します!

 それなら何も弊害は無いと思いますが何か問題が?」

 

 

アローネ「全てが間違っています!

 何ですか身籠るって!

 もうそこまで考えているのですか!?

 カオスは私と一緒にカーラーン教会に身を寄せる予定なのですよ!?

 貴女と一緒になんてなりません!」

 

 

クララ「それはアローネ様のご都合にカオス様を巻き込んでいるだけですよね!

 私知っていますよ!

 アローネ様には他に好きな方がいることを!

 貴女はその方と一緒になれば良いではないですか!

 カオス様は私と結ばれます!」

 

 

アローネ「何を…!?

 私はサタン義兄様を敬愛してはいますが一緒になるとは……!!

 と言うか何故そんなことまでクララさんが知ってるんですか!?

 一体誰からそんなこと「カオス様からですよ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「カオス様が私に話してくださいました………。

 カオス様と貴女方のこれまでの旅でのことを………。

 旅の中で昔の友人ウインドラ様やミシガン様、アイネフーレのタレス様、フリンク族のカーヤ様と出会ったことをお聞きしました。

 旅を始める切っ掛けはアローネ様………貴女がカオス様をミストという村から連れ出すことによって始まったことも聞きました。

 その点では私とカオス様を巡り合わせていただいたことには感謝します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ですが()()()()は別です!

 貴女は御自分の都合を優先してばかりでカオス様の()()()()()()()()を分かっていません!」

 

 

アローネ「!?」

 

 

カオス「俺の欲しいもの………?」

 

 

クララ「カオス様と半年も共に過ごしてきたのならそれくらい分かる筈です!

 カオス様が欲しいものとは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()です!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララは自信を持ってそう断言した。カオスが欲するものは家族であると………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「カオス様のお話でカオス様が最も幸福そうに話してくださったことがありました………。

 

 

 

 

 それはアローネ様と出会ってから過ごした()()()()()()()()()です。

 カオス様は貴女と過ごした数日間がこの十年間で一番救われた時間だったそうです。

 肉親である御両親とお祖父様を亡くしてしまったカオス様にとっては貴女との()()()()()()()()()()()()何より幸せな時間だったのでしょう………。」

 

 

アローネ「カオスが………そんなことを………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 確かにカオスはあの十年前の事件の日からずっと絶望して生きてきた。時々ミシガンが様子を見に来たりはしていたがその時は罪悪感で一杯でミシガンといても何も感じることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 アローネとの時間はカオスにとってとても有意義な時間だった。アローネがミストとは無縁であったからこそカオスは彼女を素直に受け入れることができた。彼女と過ごしたあの数日は何も考えずにいられた。カオスはすぐにアローネのことを好きになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてアローネのことを好きになって彼女のことを知れば知るほど彼女の気持ちが別の誰かに向いていてカオスは疎外感を感じていた。彼女の話はいつだってウルゴスでの義兄サタンのことばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 カオスはそれからアローネには自分以外の相応しい相手がいると思うようになった。彼女は自分などが入り込む余地がないほどに義兄のことを想っている。初恋であるミシガンもウインドラという相手がいる。こと恋愛に関して自分が好きになる人は常に誰か他に相応しい相手がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それならば自分は誰かを好きでいるだけでいい。

 カオスはそういうスタンスをとることにした………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「…私でしたらカオス様の期待に応えることができます!

 私ならカオス様のお気持ちに応えられます!!

 私なら………!

 

 

 カオス様が欲する家庭をカオス様と共に築いていくこともできるのです!!

 だからどうか!!

 どうかカオス様!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス様の旅の全てが終わった時!

 私と共にこのアルターで暮らしましょう!!

 私は貴方様をお慕いしております!

 ここで私が朽ち果てる最後の時まで側にいて下さい!!

 私なら喜んで貴方様の家族となりましょう!!」



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アローネとクララの激闘

アインワルド族の住む村アルター 深夜 残り期日二十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………………………今もしかして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プロポーズされたのか………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララが発言した内容はどう聞いても結婚を申し込むものだった。カオスの旅が終わった時クララはアローネではなく自分と一緒にいてほしいと言ってきたのだ。

 

 

クララ「……私ならカオス様を蔑ろにしたりなどしません………。

 アローネ様のようにご自身の家族とカオス様を引き合わせてカオス様を蚊帳の外に放ったりなどしません!

 私はカオス様さえいてもらえるのならそれで良いのです!」

 

 

アローネ「わっ、私はカオスを蚊帳の外になんかは「そうなるではありませんか!」」

 

 

クララ「アローネ様は御自身がなんと残酷なことをカオス様に提案していたかお気付きですか!?

 今はまだカオス様もアローネ様もお一人の身ですが御二人には決定的な違いがあります!

 

 

 貴女にはお捜しになれば家族はどこかで生きていらっしゃるようですが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?

 それなのに貴女はカオス様に御自分の御家族を捜索する手伝いをさせようとしている!

 

 

 そんな貴女に私とカオス様の間に割り込む権利がお有りですか!?

 カオス様の家族になる覚悟すらない貴女に私を止められますか!?

 ましてや想い人だけでなく多数の婚約者がいる貴女に何故私の邪魔ができるのですか!!」

 

 

アローネ「そっ、そんなつもりでは………私は………、

 ………私は………。」

 

 

クララ「つもりでなくとも貴女がカオス様になさろうとしていたことはそういうことです!

 …カオス様はお優しい上に貴女のことを少なからず好意を寄せておいでのようでその気持ちを利用して御自分の都合のいい駒のように連れまわそうなどと烏滸がましいのですよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!

 ………カオスが私に………好意を………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「そうです!

 ですから貴女はカオス様のお気持ちに応えられないのならカオス様は私が「クララさん!!」!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………私はカオスを利用するつもりでは………、

 ただ………カオスに私の親しい人達を紹介したかっただけで利用なんて………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネの瞳から涙が溢れ出す。クララの夜這いからとんでもない修羅場へと発展してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ!!」

 

 

 アローネが部屋から飛び出していきそれ追うべくカオスはするりとクララの体から抜け出して扉へと走る。

 

 

 

 

 

 ………が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハシッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララがカオスの腕をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………」

 

 

カオス「クララさん………、

 離してください。

 アローネを追い掛けないと………。」

 

 

クララ「追い掛けてどうされるのですか………?

 あの方はカオス様の想いに応えては下さらないのですよ?

 それなのにどうして彼女を追い掛けるのですか?」

 

 

カオス「……アローネは仲間です………。

 仲間を放ってなんておけません………。」

 

 

クララ「仲間だから側にいると?

 彼女と仲間という繋がりで側にいるのでしたらカオス様の旅が終わった時カオス様とアローネ様の関係はどう変化すると思いますか?」

 

 

カオス「変化って俺とアローネはずっと同じ関係で「同じ関係とはつまり()()()()()()()ということになりませんか?」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「カオス様も薄々お気付きになられているのではないですか?

 彼女の側にいて彼女の願いを叶えた先には………、

 仲睦まじいアローネ様とその御家族………、

 

 

 そしてそれを端から眺めていだけしかできないカオス様………。

 あの方は愛しい人を捜すお手伝いをカオス様にさせて用がお済みになったらカオス様は捨てられるだけなのですよ?

 カオス様はそのような未来をお望みなのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………ここ最近ずっとそのことばかり考えてた………。

 俺の旅が終わったらアローネに一緒にカタスさんのところのカーラーン教会に行くことになっているけどバルツィエを倒して世界が平和になったらきっと世界中色んなところに行けるようになる………。

 ()()()()()()()()()()()()()()ウルゴスの人達を捜すのも今よりうんと効率が上がる………。

 そしたら結構早くにアローネの家族の人達を捜し出してあげられる………。

 そうなったら俺はアローネの家族達に会ってそれから………、

 ………それから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………多分その先は何事もなく平和な日常を送っていくだけだろう………。

 アローネとアローネの家族の幸せそうな生活………。

 その中に入っていけない俺がいるだけの日々………。

 アローネが家族を捜し出したら俺は必要無くなるよな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それでも………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「!」

 

 

カオス「クララさん………、

 それでも俺はやっぱりアローネの側にいてあげたいんだ………。」

 

 

クララ「!?

 どうしてですか!?

 アローネ様のところへ行ったとしてもカオス様は彼女に選ばれることは「そういうことじゃなくてさ。」」

 

 

 

 

 

 

カオス「………そういうことじゃなくてさ。

 俺も昔から家族が誰もいなくなって寂しい想いをしてきたからさ。

 アローネにそんな想いをしてほしくないだけなんだよ。

 俺が選ばれるとか選ばれないとかじゃなくて俺はアローネのために何かをしてあげたい。

 それだけだよ。

 だから俺はアローネのところへ行かなくちゃ。」

 

 

クララ「………何故………、

 

 

 何故ですか!?

 カオス様が望むものは家族の繋がりではないのですか!?

 あの方について行ったとしてもカオス様には何も得られない!

 何も手にすることなどできません!

 貴方様が抱える寂しさも紛らわすことなどできません!!

 それなのに私よりもあの方を選ぶと仰るのですか!?」

 

 

カオス「その視点が間違ってるんだよクララさん。

 俺は………クララさんが言うように心のどこかで家族ってものが欲しかったりもするよ………。

 

 

 けど俺はそんなことよりもアローネが悲しむ姿を見たくないんだ。

 アローネは俺にとって………とても大切で好きな人でそれでいて………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ミストで道具のように生きてきた俺に初めて普通の人みたいに接してくれた人だから………。

 アローネがいつも俺のことを特別扱いせずに接してくれたから俺は暗闇の中から立ち直れたんだ………。

 だから俺はアローネが困っているならいつだって力になってあげたい………。

 

 

 アローネは俺を人に戻してくれた人から………。」



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告白

アインワルド族の住む村アルター 深夜 残り期日二十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタンッ!タタタッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………どうしてそこまで彼女のことを………。

 彼女は私達と違うではないですか………。

 ………貴方様のことを分かってあげられるのは私しかいないというのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………出会う順番さえ違っていたら………私は選ばれていたの………?

 カオス様………。」

 

 

 部屋に一人残されたクララがそんな一人言を呟く。その質問には答えてくれる者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『(………私達と違う………ねぇ………。

 そりゃ実際のところどうなんかな………。

 俺にはお前達のようにあいつも………。)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインワルド族の住む村アルター 入り口 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………グスッ………」

 

 

ザッザッザッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ!」

 

 

 

 

 

 

アローネ「!

 ………カオス………。」

 

 

 カオスは部屋から飛び出してアローネを捜すと彼女はアルターの入り口のところで発見した。彼女はアルターを出ていこうとしていた。

 

 

カオス「こんな時間にどこに行こうとしてるんだよ。

 トレント達は倒したといってもまだ夜中なのに森に一人で出ていくのは危ないよ。」

 

 

アローネ「…放っておいて下さい。

 今一人になりたい気分なので………。」

 

 

 アローネはカオスの方を向かずにそう言う。アローネは先程涙を流していた。そんな顔をカオスには見られたくないのだろう。

 

 

カオス「一人になりたいって………、

 でもアルターの外に出るのはまずいよ。

 せめてアルターの中のどこか落ち着ける場所に行こうよ。」

 

 

アローネ「心配しないで下さい。

 朝には戻ってきますので今は本当に一人に「そんなことできるわけないだろ。」!」

 

 

 カオスはアローネの手を掴む。話ながら先に進もうとする彼女を引き留める。

 

 

アローネ「……離して下さい。

 私は今カオスと一緒にいたくありません………。

 カオスはどうぞクララさんのところへ………。

 ………彼女ならカオスと真剣に向き合ってもらえますから………。」

 

 

カオス「あぁ………その………クララさんのところは………。」

 

 

 クララのところに戻るとなるとまた下着姿の彼女と遭遇することになる。大人の女性の裸体に慣れていないカオスにはあの空間に戻ることはハードルが高い。

 

 

アローネ「………良いのですか?

 カオスは家族が欲しいのですよね………?

 彼女なら喜んでカオスの家族になっていただけますよ?

 クララさんならカオスとの子供も歓迎するでしょうしなによりカオスのことを必要としています。

 カオス程の力があるのならこの村での暮らしはとても安泰でしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マクスウェルとバルツィエとの決着が付いた暁にはカオスはこのアルターに住むべきなのかもしれませんね………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 アローネが入り口にある歴代巫女の石像を見上げる。

 

 

アローネ「始めはクララさんはただ巫女の短命という宿命から巫女を救うべく次代の巫女をカオスと共に作るのが目的だと思っておりました………。

 そんな種馬のような役割だけなら私もカオスにそんな嫌な役目を負わせようとする話は断った方がよいと思ったのです。

 

 

 ………ですが彼女はそれだけではありませんでしたね………。

 クララさんはカオスのことを理解しようとしている。

 カオスのことを聞いて………知って………貴方の理解者になろうとしている………。

 カオスのミストでのことや旅のことを調べて貴方の心を分かろうとしている………。

 彼女よりも長くカオスと一緒にいるというのに私は貴方が真に望むものを何も知りませんでした………。

 ずっと一緒にいられればそれだけでカオスは良いのだとそう思っておりました………。」

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「………私カオスが望むものを何も差し上げることはできない………。

 貴方が私のことを想っていたことを知りもせずに自分のことだけをひたすらに主張して………、

 私の我が儘にカオスを付き合わせるところでした………。

 

 

 ………そうですよね。

 カオスはお優しいですから私のことを思って私を励ますために私の家族に会いたいと仰っていたのですよね………。

 カオスにとっては私の家族は全く無関係の間柄であるというのにカオスが私の家族に会う意味なんてありませんよね………。

 ………私との約束など忘れて下さって「アローネ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「俺は約束を忘れたりなんかしないよ。

 アローネの家族に会いたいっていうのは本心だから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…カオスはお優しいからそのようなことを仰って下さるのでしょう………。

 御気遣いは嬉しいですが私のことですしカオスは無理に付き合う必要もないのですよ?

 カオスはカオスを必要とする私以外の方と結ばれて幸せを掴んでください。

 ウルゴスの人々を捜すのにもどれだけの時間を費やしてしまうか分かりません。

 そんな不安定な状況の私の私用事にカオスを巻き込むことなど………。」

 

 

カオス「何言ってるんだよ。

 あんなこと言われたくらいでもう俺との約束をうやむやにしようとしてるの?

 俺のことなら気にしなくていいんだよ。

 好きでやろうとしてることだから。」

 

 

アローネ「駄目です。

 ウルゴスの民を見つけたとしてカオスには何の報酬も払えない私ではカオスと一緒にいる資格などありません。

 私なんかといるよりかはクララさんと「報酬ならもう貰ってるよ。」………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………あの日………アローネが俺と出会ってくれて本当に楽しい時間が過ごせた。

 アローネはミストの人達みたいに俺のことを化け物呼ばわりしないでくれた。

 

 

 俺にとってはそれだけで真っ暗だった人生に光が差した気がしたんだ………。

 俺からしたら君は人生を照らしてくれた光だよ。

 そんなアローネが困ってるなら俺はアローネの力になってあげたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも俺が人であることを思い出させてくれるアローネだからこそ俺はアローネを応援してあげたいんだ………。」



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教わることのなかった知識

アインワルド族の住む村アルター 入り口 朝 残り期日二十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………昨晩はすみませんでした………。

 アローネ様には酷いことを言ってしまいました………。

 申し訳ありません………。」

 

 

アローネ「いいえ、

 おかげでカオスが感じていたことを知ることができました。

 クララさんから御指摘いただかなければカオスのことを知らないままだったでしょう………。」

 

 

 昨日カオスが寝ていた部屋にクララがやって来てから一悶着があった。クララがカオス達が発つ前日に昨日のことを計画していたことが分かった。

 

 

カオス「…まさかアルターの全員が昨日のことに絡んでいたなんて………。

 だからあんなに俺にお酒を勧めてきたんですね。」

 

 

アローネ「私にも飲ませて眠らせて事に及ぶ計画たったようですね。

 もし次の日に出発する予定が無ければ私もお酒を飲んでしまうところでした。」

 

 

 アローネ曰く彼女は毒といったものには抗体があるようだが流石に酒類に関しては成人したばかりでウルゴスでも飲む機会が少なく飲んでしまった場合すぐに酔いが回って眠ってしまうとのことだった。

 

 

クララ「ウインドラ様やミシガン様がお先に行かれたので好機だと強行しましたが意外な方に止められてしまいましたね。

 次はこの失敗を反省してもっと綿密に計画を練って「練らないでいいですから!」」

 

 

 時間が経てば御互いに昨夜は酒の勢いで行きすぎた発言をしたと謝りあう。事実としてはあの場にいなかったアルターの住人達は事情を知らぬために険悪なムードで送り出されるのは避けたいとのことで先にカオスとアローネとクララの三人で口裏をあわせて昨日はカオスが寝てしまいクララも事に及ぼうとしたが結局寝てしまったという体でアローネとクララの間には少々溝ができてしまったままだ。

 

 

ビズリー「巫女様、

 何故昨晩はカオス様をものに出来なかったんですか?

 巫女様まで酒に潰れて眠っちゃうなんて本末転倒じゃないですか。」

 

 

ダズ「カオス様を酔わせるために御自分もお飲みになって一緒に寝ちゃうとか巫女様阿呆じゃないですか。」

 

 

クララ「仕方ないでしょう!?

 カオス様を酔わせるためには私も飲まなければななかったのですから!

 カオス様だけに飲ませて私が飲まないのはどう考えても怪しまれるではないですか!?」

 

 

ケニア「…カオス様、

 娘もこのように反省しておりますのでどうか昨晩のことは勘弁していただきたく存じます。」

 

 

カオス「反省して………るのかなぁ………?」

 

 

アローネ「反省するどころか次の機会を窺ってるようなことを申してましたけど………。」

 

 

 上手く纏めようとクララの父親のケニアがカオスに頭を下げるが当の本人は隣でビズリーとダズの二人と言い争っている。マクベルが言うには確かに女性の方が身分は上のようだがとても仲のいい関係を保てているようだ。

 

 

 

 

 

 

カオス「じゃあそろそろ俺達は「カオス様ッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「昨晩の件は本当に大変ご無礼なことをなさいました………。

 そのこと深くお詫びいたします……。

 差し出がましい真似をしてしまい申し訳ありません。」

 

 

 いざレアバードに搭乗しようとした瞬間クララが駆け寄ってきて謝罪の言葉を口にする。今度のは本当に反省しているようだった。

 

 

カオス「あぁ気にしないで下さい。

 俺も気にしていませんし正直クララさんの気持ちは嬉しかったですから。」

 

 

クララ「!

 では私と「まだ結婚とかは全然考えてないんで!」…残念です………。」

 

 

アローネ「クララさん………、

 まだカオスはミストを出てから数ヵ月旅をしてきただけなのです。

 子供の頃から今に至るまで結婚どころかまともな人付き合いも経験が浅くそういった大事なことを気軽に決められるほど世間を知りません。

 どうか彼のことを待っていてあげてください。」

 

 

クララ「随分と余裕の態度ですね?

 カオス様から好意を寄せられていて優位に立っているおつもりですか?

 そんなもの直ぐに私が追い抜くことでしょうね。」

 

 

カオス「どうしてそんな喧嘩腰なんですか………。」

 

 

アローネ「フフッ…、

 愛されていますねカオス。」

 

 

カオス「そうなのかな………?

 誰かに好きになってもらったことなんて全然無いからどうしていいのか分からないけど………。」

 

 

クララ「ありのままに受け取って下さって結構ですよ。

 カオス様は私の()()()()なので。」

 

 

カオス「運命の方……ですか………。」

 

 

 ここまで積極的に好意を向けられたことのないカオスはクララへの対応に困ってしまう。カオスも満更でもないことはないのだが………、

 

 

 

 

 

 

クララ「カオス様………、

 世界をお救いになったらどうかまた私のもとへとお越しください。

 私は必ずやカオス様が世界をお救いになると信じております。」

 

 

カオス「クララさん………。」

 

 

アローネ「私達に任せていて下さい。

 このデリス=カーラーンは必ず私達の手で守って見せます。」

 

 

クララ「えぇ是非お願いします。

 …世界を救っていただける救世主様方に見合う何か贈り物があればよかったのですが今のアルターには特に何も………。

 

 

 ですから本の些細なものですが………。」

 

 

 クララはカオスの側まで歩み寄る。

 

 

カオス「?

 クララさ………む!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………はぁ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララはカオスの唇へ自分の唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………今はこれが精一杯の贈り物ですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」ポカーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「なっ、なんてことをしているのですか貴女はぁッ!!!?」

 

 

クララ「何ってそれは勿論()()ですが?」

 

 

アローネ「キス!?

 こんな他の人の目がある場でキス!?」

 

 

クララ「別に構いませんよね?

 カオス様はまだ誰もお相手がいないのですから誰のご迷惑もお掛けしておりません。

 今のは私からカオス様への親愛の証です。

 カオス様ならいつでもこのアルターへ迎え入れる準備は出来ておりますのでどうかまたアルターへと足お運びになってくださいね?」

 

 

アローネ「こっ、こんな破廉恥な巫女のいるところへとカオスを連れて来れるわけないじゃないですか!?

 カオスもこんなこと本気に捉えないで下さいね!?」

 

 

カオス「………………」

 

 

アローネ「………カオス………?」

 

 

カオス「…………………どうしよう………、

 これって()()()()()()()()()()()()のかなぁ………。」

 

 

クララ「?」

 

 

アローネ「せっ、責任………?

 カオス何を言って「たってキスしちゃったじゃないか………。」」

 

 

カオス「俺がクララさんとキスしたってことは………、

 ………つまり………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララさんのお腹の中に俺との子供ができちゃったんじゃないかな………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………………………………………………………………………………………………………………………………はい?」

 

 

 

 

 

 

 カオスはそんな素っ頓狂なこと言い出した。

 

 

カオス「だってキスしたってことはさ………?

 結婚したってことになるよね………?

 そしたら子供だってできるだろうし俺クララさんと一緒になるしか「ちょっ、待ってください!」」

 

 

アローネ「話が飛躍しすぎていますよ!

 キスで妊娠する筈がないじゃないですか!?

 何を仰っているのですかカオス!」

 

 

カオス「えぇ……?

 違うの………?

 だってキスしたんだよ?

 キスしたら子供ができるものなんじゃないの?」

 

 

アローネ「はぁ?

 一体何を………………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは十年前の十歳の頃からミストの村から離れた旧ミストで一人でモンスターヴェノムと戦ってきた。生活に必要なことは自然に身に付いていったがそれだとどうしてもそれ以外の知識に偏りが出来てしまう。当然カオスは同じ年代の者達が常識として知っていなければならないことを誰からも教わることはなかった。人の成長過程によって親や回りの大人達から本来教わっていなければならないことはカオスは教わる機会がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その辺りの性知識といえば精々大人に聞いても大人達は愛しあうだのキスだのすれば子供ができるとぼかして子供に教えるだろう。カオスの性教育はそこが限界だった。

 

 

 

 

 

 

アローネ「(えぇ!?

 カオスの年齢で子供がどの様にして誕生するのかをご存知無いのですか!?

 まさか二十歳になってもキスで子供が出来ると思っているのですか!?

 ……しっ、信じられません………。

 どうしてそんな………あぁでもカオスならそんなある意味奇蹟が起こったとしても………。)」

 

 

クララ「………、

 ………!!

 …そっ、そうですカオス様!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私今のキスでカオス様とのお子を授かりました!!

 カオス様は私と結婚していただかなくてはならなくなりました!!」

 

 

アローネ「はっ、はぁぁぁ!!?」

 

 

カオス「ほらやっぱり………。

 クララさんが俺の子供を………。」

 

 

 これ幸いとクララが妊娠宣言をする。カオスが無知なことに気付き押し通すつもりのようだ。

 

 

アローネ「クララさんまで何を言ってるんですか!?

 クララさんは子供がどのようにして出来るのかご存知の筈ですよ!

 昨夜はカオスにあのような姿で迫ったのですから!!」

 

 

カオス「え?

 キスで子供が出来るんじゃないの?

 クララさん妊娠してないの?

 あのような姿?

 下着が何か関係あったの?」

 

 

アローネ「キスなんかで妊娠することなど「いいえキスで子供が作られることは間違っていませんよ!私は間違いなくカオス様の子を孕んで」孕んでません!!大間違いです!!」

 

 

 

 

 

 

カオス「………なんかよく分からないなぁ………。

 じゃあどうやったら子供ってできるの?」

 

 

アローネ「それはですね!

 ………ええっとそのぉ………。」

 

 

 カオスに子供が生まれる過程を説明しようとするがこればかりはアローネでも言葉に詰まる。普通は調べたり自然とそういう知識をつけていくため必要ない説明なのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キスで間違ってませんよ!」「巫女様はにんしきしています!」「キスは結婚………ブフッ!」

 

 

 アローネとクララの様子を見て村の者達がクララの援護に入る。皆してクララの意見を肯定し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「いい加減になさい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一声で皆静かになった………。



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旅路で行き着く故郷の存続は………

ユミルの森 上空 残り期日二十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「まったく!

 なんて人達ですか!

 住人全員で協力してあのような計画を企てて!

 おまけに皆でカオスのことを騙そうとして!

 あんなの結婚詐欺ではないですか!」

 

 

 レアバードを運転しながらアローネは愚痴を聞かせてくる。

 

 

カオス「うんまぁ………、

 フリンク族よりかはマシなんじゃないの?

 あのアインワルドの人達も変なこと企んでたみたいだけど別に誰かが被害にあったりとかはしてなかったし。」

 

 

アローネ「カオス………、

 被害者とは貴方のことなのですよ?

 そこのところ分かっておいでですか?」

 

 

カオス「いや………でも俺も特に変なことはされてないし被害といえるようなものでも………。」

 

 

アローネ「カオスは甘すぎますよ!

 貴方が本当に納得した上でクララさんと………、

 ………ご結婚なさる覚悟があるのであればよかったのですがそれが得られないとなると私に睡眠薬を飲ませて人払いをしてまで事に至ろうとする。

 あのような事をなさる方々と一緒にいてはカオスも毒されていきますよ。

 結婚というものはもっと慎重になるべきなのです。

 流されるままに結婚してしまえば後々どうなることやら………。

 今の私達の立場はかなり特別なものなのですよ?

 一度はマテオに降伏することを決めたダレイオスを一から立て直してあと一息で完全にダレイオスが再興できる。

 そんな中でダレイオスが再興に至った一番の立役者カオスがアインワルドの巫女と婚姻関係になればアインワルドの位はとても高位なものになります。

 バルツィエを倒した後の世界で政権を握りやすくなるのですよ?

 迂闊にダレイオスの部族の間で優劣を付けるようなことは避けるべきなのです。」

 

 

カオス「そ、そんなことになってたの?」

 

 

 自分が誰かと結婚するだけでそこまでの問題が発生するとは思っていなかったカオス。表面的には自分を慕ってくれる人と結婚するのは魅力的にも思えたがそれの副産物として部族間で軋轢が生まれてしまうことは考えていなかった。

 

 

 

 

 

 

カオス「…だけどそれっていつかは浮き彫りになることじゃないの?

 スラート、ミーア、クリティア、フリンク、アインワルドとブルカーンって六つも部族があるんだから絶対にどこかの部族が戦争後に言ってくるでしょ?

 自分達の部族こそがダレイオスで偉いんだぁ、とか。」

 

 

アローネ「そういうことは当然出てくると思いますよ。

 戦争をするのですから両陣営に少ない犠牲を払うことになります。

 犠牲を払ってまで勝利するのですから勝利したのならそれに見合う成果を得なければなりません。

 そうなると戦後は勝ち取った側が負けた側からの戦利品を配分する話になります。

 そこで部族間でマテオのどこかの場所を納める話になって………。」

 

 

カオス「…今更だけどそうなるようにしてるんだね俺達は………。」

 

 

 マテオとダレイオスの衝突。数ヵ月前までは圧倒的にマテオに歩があったがカオス達のダレイオスでの活動によってダレイオスが叙々に盛り返してきた。カオス達がバルツィエとヴェノムの主を退ける度にダレイオスは再興へと向かっている。

 

 

 それは言ってしまえばカオスが故郷であるミストのある国を打ち負かそうとしているのだ。

 

 

カオス「………本当に戦争が始まるんだな………。

 そしてそれに勝ったらマテオは………。」

 

 

アローネ「?

 何か気になることでも………。」

 

 

カオス「………戦争が始まって勝ったら………、

 

 

 ………ミストはどうなるのかな………。」

 

 

アローネ「………」

 

 

 その質問にアローネは直ぐに答えなかった。カオスが想像したことはミストに待ち受ける未来はマテオが勝つにしろダレイオスが勝つにしろよくない結末を迎えるのではないか。マテオが勝てばミストは要塞を建設されダレイオスが勝てばどこかしらの部族に分割配分される。いずれにしろミストがどうにかなってしまうことには変わらない。

 

 

 カオスはミストの住人達のことは嫌いだ。住人達を嫌ってはいるがミストという村については別の感情を抱いている。あそこは嫌な思い出もあるが亡き祖父と暮らしていた村だ。あの村が変わってしまうということは祖父との思い出も無くなってしまうのではないかとそんな不安に駆られる。例え戦争が終わったとしてもミストという村の形だけは残しておきたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「安心してくださいカオス。

 ミストの平和は私が守ります。

 全ての部族が揃った席で私がマテオの国民の人達には危害を加えないように言います。

 倒すべきはバルツィエだけなのですから。」

 

 

カオス「…そんなことできるの………?」

 

 

アローネ「私もカオスもマテオの様子を拝見したではないですか。

 マテオですらバルツィエと国民との間に深い亀裂があったことは明確です。

 もし開戦したとしたらマテオ国民はバルツィエの命令には従わないでしょう。

 それどころか私達に加勢する筈です。

 マテオの国民達の間でもバルツィエに世界を支配されるよりかはダレイオスに戦争で勝ってほしいとの声が上がっていました。

 戦争が始まればあちらの国民もダレイオス側陣営に組み込まれます。

 と言うことはダレイオスの同志として扱われるでしょう。

 ですからダレイオス側の人々がミストの村を荒らすような真似はしない筈です。」

 

 

カオス「そうなるの………?

 ………そう………できるの………?」

 

 

アローネ「確約はできませんがバルツィエがダレイオスに仕掛けてくる前に一度マテオに戻りそうなるように国民の方々だけに話を通しておく必要がありますね。

 あのファンクラブの方々に話が伝わりさえすれば国中に私達の味方についてくださる方が大勢現れるでしょう。

 騎士の方の中にもバルツィエを快く思っていない方もいるようなのでミストにもこの話が伝わっていくと思います。

 

 

 そうなればミストも戦勝国ダレイオス陣営として数えられミストが蹂躙されるような事態は避けられます。」

 

 

カオス「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………よかった………。

 ミストはマテオに勝っても残り続けるんだね………。」

 

 

アローネ「えぇ……何も心配することはありませんよ。

 カオスの故郷はいつまでも存続することでしょう。」

 

 

カオス「うん………、

 ミシガンやウインドラもミストに帰れるんだ………。

 ずっと後になるだろうけど二人がミストに帰れるなら何も考えずにバルツィエに勝つだけなんだね。」

 

 

アローネ「その通りです。

 必ず私達の手でダレイオスを勝利に導きましょう。

 その前にマクスウェルから世界を守ることが先になるでしょうけど。」

 

 

カオス「そうだね。

 そのためにも最後のヴェノムの主レッドドラゴンを俺達の手で絶対に倒そう。」

 

 

アローネ「フフフッ、その粋です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦争で敗北すれば敗北した国は勝利した国に支配される。しかしカオス達が直面している戦争は国と国の争いではなく両国の国民達と一部の家の戦いだ。カオス達が参戦していなければバルツィエが世界を手にしていたことだろう。

 

 

 それももうすぐその関係が逆転し国民達がバルツィエに勝とうとしている。それならばミストを蹂躙する者はいなくなる。カオスはそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この時既にミストはこの世界から存在を消していた………。



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生け贄の目的とは…?

ハイス草原 夜 残り期日二十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ウインドラ達はもうブルカーン族のところにいるのかな………。」

 

 

アローネ「皆のことが気になりますか?」

 

 

カオス「…そりゃあね。

 十日も待たせちゃった訳だし………。」

 

 

 朝方アルターを出発してレアバードで空を移動しカオスとアローネの二人はユミルの森を抜けて次なる旅の目的地ブルカーン族が住まう地方の手前辺りまで来ていた。ウインドラ達と別れて十日と一日が過ぎその間に彼等はカオス達を残してヴェノムの主レッドドラゴンを討伐しに向かった。レッドドラゴンとは一度だけ同じヴェノムの主カイメラの変身形態の一つとして戦ったことがある。その際はバルツィエの一人ダインと協力して倒すことができた。レッドドラゴンは現代で地上最強と噂される強さを持つがカオス達はそれを上回る程の力を持ったカイメラとアンセスターセンチュリオンとの戦いを経験住みだ。カオスとアローネと合流する前に戦闘になったとしてもウインドラ達なら何か作戦を考えて挑むことだろう。それかカオスとアローネの合流を待つことにしているかだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことよりもカオスの頭の中にはあることが引っ掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………精霊イフリート………。」

 

 

アローネ「?」

 

 

カオス「…ラタトスクは今ダレイオスには精霊が俺に憑依しているマクスウェルとシルフしかいないって言ってた………。

 イフリートはこの世界にいるみたいだけど今はダレイオスじゃなくてマテオにいる可能性が高いって話だけどじゃあブルカーンのところで精霊イフリートを名乗っているのは何者なんだろう………。

 そのイフリートがブルカーン族に命令してフリンク族に生け贄を要求していた………。

 

 

 ………生け贄って何が目的でそんなものが必要になるんだ………?」

 

 

アローネ「生け贄と言うぐらいですから………何か儀式のようなものに使うのかと………。」

 

 

カオス「儀式?」

 

 

アローネ「…今でこそ世界中に魔術は普及されていますが一昔前のエルフの社会では魔術自体は禁忌とされていた術なのです。

 

 

 術を使えば生命はマナを消費します。

 マナが著しく減少すれば命に関わります。

 本来は魔術はそう滅多に使ってはならないものなのですよ。」

 

 

カオス「それが何でこんなに世界に出回るようになったの?

 そんな危険なものだったら使わない方がいいと思うけど………。」

 

 

アローネ「……禁じられていても使わざるをえない状況に陥ったからでしょう。

 魔術を使わなければ生き残ることができないそんな時代が来てしまって………。」

 

 

カオス「それって………。」

 

 

アローネ「………はい………、

 

 

 戦争ですよ。

 争いが始まれば嫌でも武器を取って戦わなければならない。

 魔術を使わなくとも命の危険に脅かされるのであれば魔術を使ってでも生き延びる、そうした考えがエルフ達の間に広まりました。

 そして一般に使われる魔術を使用しても向かってくる敵に敵わなくなってくる、ならばどうすればいいのか………、

 

 

 

 

 

 

 そこで思い付くのが()()()()()()()です。

 生け贄はその新魔術の開発の材料にするのでしょう。」

 

 

カオス「材料………?

 どういうこと?」

 

 

アローネ「魔術の種類には攻撃魔術や治療術といった一般的なものがありますよね?

 でもその他にも()()と呼ばれる人の意思とは無関係にその術式の模様を刻み込めば自動で発動する魔術があります。」

 

 

カオス「あぁ…、

 それって確かアローネを見つけた時にもアローネが入ってたあの箱にも書いてあった模様のことだよね?」

 

 

アローネ「はい、

 あれが術式です。

 そして実は術式はカオスが装備しているそのアオスブルフにも刻まれています。」

 

 

 アローネはカオスの剣に装着しているアオスブルフを指してそう言う。

 

 

カオス「これにも?」

 

 

アローネ「世間で流通しているマジックアイテムは全て術式が施されています。

 術式を刻まれたアイテムは刻まれていないアイテムと比べてマナの流動率が上昇します。

 私のエルブンシンボルにも術式が付与されていてこれらの装備品には()()()()()()()()()()()()()()()()()な使令が彫られているのです。」

 

 

カオス「そうだったの?

 術式ってそういう命令みたいなのを彫ってあったんだなぁ。」

 

 

アローネ「マジックアイテムの術式については基本的に戦闘に役立つ命令のものが彫られています。

 マナを多く集めたりするものやマナを拡散したりあるいは留めていたりで今の技術では一つのものに単純な一つの命令しか付与できませんけどそれだけでもかなりの戦力の増強は見込めますね。」

 

 

カオス「ふぅん?

 けどそれと生け贄に何の関係が?」

 

 

 術式があれば武器や備品に色々な命令を下せることは理解できた。だがそれがイフリートが生け贄を欲する理由に結び付かない。術式と生け贄にどのような因果関係があるとアローネは踏んでいるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「昔の偉人は魔術を発見する際自然エネルギーにマナを干渉させて微かな精霊の存在を便りに攻撃魔術や術式を完成させました。

 魔術の発展にはマナを精霊へと送る過程は絶対です。

 偉人達はそれはもう命を磨り減らす程のマナを精霊へと渡しました。

 

 

 ………しかし一人の力ではマナにも限界がある。

 マナをいくら送り込もうと精霊が判を押す量には中々届くことはないのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「!?」

 

 

アローネ「新術の実験開発は命懸けです。

 新術を編み出そうとする方が力を使い果たしてしまえば新術は誰に伝える間もなく開発者は息絶えます。

 なので代わりの誰かのマナと引き換えに新術を開発しようとする人々が出始めたのです。」

 

 

カオス「そんな酷いこと誰が………。」

 

 

アローネ「誰と絞ることなどできません。

 このやり方は不特定多数の人に試されました。

 後にこの術式を使用しての魔術開発は禁止されましたが密かに使い続ける人もいて検挙される罪人は跡を絶ちませんでした。

 実験に使われる人がハーフエルフだったこともあって王国もそこまで強くは取り締まることもなく………。」

 

 

カオス「ハーフエルフの人達が大勢殺されたんだね………?」

 

 

アローネ「………残念ながら………。」

 

 

カオス「…そしたらイフリートが生け贄を集めている訳ってその実験をしようとしてるってことなのかな………?」

 

 

アローネ「私にはそうとしか考えられません。

 ブルカーンの民を先導して生け贄を欲しがるくらいなのですからイフリートとは何か新たな術を開発しようとしているのだと思います。

 

 

 もしそうでない場合なら生け贄を必要とすることと言えば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かしらの神様にお供えするためのものとしか私は心当たりがありませんね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??????

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………カンジルゾ………。』

 

 

 

 

 

 

?????「どうされたのですか?」

 

 

?????『カンジルノダ。

 コノチヘトムカウツヨキモノノチカラヲ………。

 コナタガ()()()()()()()()()()()()()()()()()!!』

 

 

?????「!

 ではすぐにでも…!」

 

 

?????『ウム……、

 スミヤカニツレテコイ。

 ヤツハナントウノホウニイル。

 センジツノヤツラハホウッテオケ。

 アンナコモノドモナドヨリモウマソウダ。』

 

 

?????「畏まりました!!」タタタッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????『コノエモノハノガステハナイ………。

 コヤツノチカラサエコナタノモノトナレバ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コノチジョウニハビコルウゾウムゾウノムシケラドモヲケチラシテコナタガスベテノチョウテンヘトタツノダ!

 

 コノ“イフリート”ガナァッ!!!!』フシュルルルルルルル………



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久しぶりに二人きり

ハイス草原 翌日 残り期日十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「中々ウインドラ達と合流できないね。

 今ウインドラ達どの辺りにいるんだろう?」

 

 

アローネ「進むペースは私達の方が早くはありますが十日も前に彼等は出発してますからまだ追い付くにはもう少し掛かりそうですよ?」

 

 

カオス「早く追い付けるといいんだけどねぇ…。」

 

 

 アルターを出発して二日目。カオスとアローネの二人は昨日に引き続きレアバードで空を移動している。スタートラインに十日の差はあるがレアバードは一日で百キロメートル以上は進むことができるのでそろそろウインドラ達に合流しても良さそうな頃合いだが未だに彼等の影すら見付けられないでいる。

 

 

カオス「…今思えばアローネと二人きりってなんか久し振りだね。

 旧ミストにいた時以来かな。」

 

 

アローネ「そうですね。

 あのミストの森でカオスが私を発見してくださってそれから二週間程してタレスと出会って………。

 ………もうあの日々が大分昔のように感じますね。」

 

 

カオス「まだ一年も経ってないのになんか早く感じるね。」

 

 

 旧ミストで出てから大物賞金首サハーン率いる盗賊団ダークディスタンスに奴隷のように扱われていたタレスと出会った。それからはカオスとアローネだけで会話することもあったが必ず誰かしらが近くにいた。こうして二人だけの状況に戻るとどこか懐かしさを感じる二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カオスは私と初めてお会いした時からその………、

 私のことを想っていて下さったのですか………?」

 

 

カオス「え………?」

 

 

 アローネがカオスにそんな質問をしてきた。アルターでクララからカオスが自分のことをどう想っているかを知ってそんな質問をしてきたのだろう。その質問に対してカオスは、

 

 

 

 

 

 

カオス「………うんまぁそうだね。

 会った日から俺はアローネのこと好きだったよ。」

 

 

アローネ「ふぇ……?

 …そっ、そんなはっきりと!?

 よくそこまで恥ずかしげもなく人に好きだと言えますね!?

 恥じらいというものは無いのですか!?」

 

 

カオス「恥じらい………?

 そんなに恥ずかしいことかなぁ?

 こんなこと別に大したことじゃないと思うんだけど。」

 

 

アローネ「普通は異性に対して告白するということは勇気が要ることなのですよ!?

 それをそんなあっさりと言える人なんていません!

 交際している間柄の方達ならまだしもカオスと私はそういう関係では………。」

 

 

カオス「うん分かってるよ。

 俺とアローネは恋人でも何でもない。

 

 

 だからこうして好きだってことも普通に言える。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「………どういうことですか?」

 

 

 告白など気軽にできるといったふうに言ってのけるカオスにアローネは聞き返す。

 

 

カオス「アローネのことは勿論好きだよ。

 できることならずっと一緒にいたいとも思う。」

 

 

アローネ「まぁ………。」

 

 

カオス「けどアローネの事情も理解してる。

 アローネにはウルゴスの人達を見つけ出してあげないといけない使命があるし家族やカタスさんの家族のウルゴスの王族の人達だっているでしょ?

 その人達の誰かと結婚しないといけないことも。」

 

 

アローネ「それに関しましてはそうなのですけどでもまだカタスの御兄弟の皆様が全員見付かってそれからどうするかを決めなくてはなりませんから一概に結婚するとは限りませんけど………。」

 

 

カオス「それでも捜すことには変わりないでしょ?

 もし俺に婚約者がいたとしてその人が知らない間に他の誰かと結婚することなんて嫌だと思うし。」

 

 

アローネ「…カオスは私が王族と結婚することをどう思っています?」

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「私のことを好きだと仰るのであれば私がカオス以外の他の方と結婚することは認めたくないと思ったりはしないのですか?

 カオスは御自身で私と結婚したいとは少しも「それはどうしようもないよ。」」

 

 

 

 

 

 

カオス「俺の取り柄って剣の腕前だけでしょ?

 魔術は少し前までは誰にも負けないくらいの力はあったけど精霊が俺に力を与えているだけだしそれももう使うことができなくなったしそのアローネの婚約者の人達と比べて俺は自分では何も持ってない。

 アローネみたいな綺麗で頭もいい女の人と俺が一緒にいられるだけで一生分の運を使い果たす勢いだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネに俺は相応しくない。

 アローネはアローネに相応しい人と一緒になるべきなんだよ………。

 俺はアローネが幸せになれるならそれでいいんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カオスは御自身の好意というものを始めから全てを諦めておいでなのですね。」

 

 

カオス「アローネみたいな人俺には勿体ないよ。

 アローネどころか俺は誰かと一緒になるべきじゃない。

 俺はもうこれ以上を望んじゃいけないんだ。

 アローネやタレス、ミシガン、ウインドラ、カーヤ………皆が幸せなら俺も幸せだから………。」

 

 

アローネ「それだけが貴方の生きてきた中での幸せになるのですか………?」

 

 

カオス「………うん。

 だから五人が幸せになれるんなら俺はそれを手伝うだけだよ。

 クララさんには悪いけど俺との間に生まれる子供だってクララさん達が望んでるような子供じゃないこともあり得るし俺は生涯誰とも結婚しないよ。」

 

 

アローネ「無理していませんか………?

 カオスは家族に憧れているのでしょう?

 カオスならカオスを慕う人は必ず見付かる筈です。

 現に私はカオスのことを「それでも俺には必要ない。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…俺は過去に家族を殺してきた男だ。

 昔のことはもう気にしないようにはしてるけどどうしても家族のことを想像するとおじいちゃんが死んだ瞬間が頭を過る………。

 俺の家族になる人はいつか俺の目の前からいなくなる………。

 そんな恐怖が心の中から消えてくれないんだよ………。

 

 

 だから俺には家族は必要ない………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「(…この強く形成された思い込みさえ取り除くことさえできればカオスももっと素直になれるのに………。

 もし貴方が本気で望むのであれば私は貴方と………。)」



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王族の縛り

ローダーン火山 麓 残り期日十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……なんかこの辺り煙たくない?」

 

 

アローネ「えぇ、

 そうですね………。

 確かに少し煙の臭いがきつめです。」

 

 

カオス「何か燃えてるのかなぁ………?」

 

 

 カオスとアローネはハイス草原から移動しローダーン火山まで到着した。地図上の表記ではこの山を越えた先にブルカーン族がいるとされる集落があるとされるが………、

 

 

アローネ「この煙の原因はこの山頂の噴火口から()()()が噴出されているからでしょう。」

 

 

カオス「火山灰………?」

 

 

アローネ「はい、

 私も初めて見ましたがこれがそうなのですね。」

 

 

カオス「この火山灰っていうの前に進む度に目に入ってきて目が痛いね。

 ただの煙じゃないの?」

 

 

アローネ「私も知識としてしか知りませんがこれは煙というよりかは地層深くで煮えたぎるマグマが活発に流動して地層に含まれるあらゆる物質が燃やされて塵となって噴出されてここら一帯に降り注いでいるのです。」

 

 

カオス「これが塵………?

 塵にしてはピカピカ光ってるけど………。」

 

 

アローネ「地層の下の方にはそうした物質が豊富に含まれているのですよ。

 だから光って見えるのです。」

 

 

カオス「そうなんだ………。

 アローネ大丈夫?

 この辺目が痛くなってくるし下に降りて歩いて進まない?」

 

 

アローネ「そうですね………。

 空中で突然目が開かなくなっては事故のもとですし降りてから歩いて行きましょうか。」

 

 

 カオスとアローネは仕方なくレアバードから降りて地上を歩いて進むことにする。空中での高速での飛行は灰が次から次へと目に入ってきて目が開けていられない。それは地上を歩いても変わらなかったが空を飛んでいる時よりかはマシであった。

 

 

 

 

 

 

カオス「……う~ん………。

 やっぱりちょっと前が見えづらいね。

 帽子か何かあればよかったんだけどそれもないし………。」

 

 

アローネ「事前に用意しておくべきでしたね。

 私も火山灰というものがここまで視界を塞いでしまうものだとは思いませんでした。」

 

 

カオス「ブルカーン族って何でこんなところに住もうと思ったのかな?

 どう考えてもここ人が住むには厳しすぎる環境だと思うんだけど………。」

 

 

アローネ「こういった環境で暮らす人にとっては何か生活に役立つメリットがあるのでしょう。

 火山の近くは温泉が湧きやすいという話ですし地熱も高めなので作物を育てるのにも困りません。

 それにカオスが仰るように人にとっては住みにくい環境というのであれば危険なモンスターもここには多くはいないでしょうし。」

 

 

カオス「そういうことか。

 ブルカーン族はモンスターを避けるためにわざわざこんな場所に住んでいるんだね。」

 

 

アローネ「他にもここに住む利点はありますよ?

 こういった火山の辺りには鉄資源やガラスの材料となる物質が多く見付かるのでそれらを目的にこの火山の近くに住んでいる人々もいるそうです。

 ウルゴスではボルケーノ族がそうでしたから。」

 

 

カオス「アローネは何でも知ってるね。

 ウルゴスではずっと家で軟禁されてたんでしょ?

 どうしてそんなに行ったことのない場所の知識まであるの?」

 

 

アローネ「軟禁されているが故に外の世界への憧れがありましたからそうした知識は家にいながらも調べたりはできました。

 あとは義兄がフィールドワークがお好きな方でしたから。」

 

 

カオス「お義兄さんが?

 でもお義兄さんってお姉さんの病気を治すためにアローネの家に来たんじゃなかったっけ?

 そんなに色んなところに行くことなんてできたの?」

 

 

アローネ「サタン義兄様がクラウディア家の婿として迎え入れられてからはクラウディア家の力でウルゴス全国を訪問する許可を取り付けたのですよ。

 義兄様は薬の研究開発で素材の収集のために様々な地へと赴きました。

 そうした旅の中でのお話をお聞かせいただいて私は知識を得ました。

 義兄様は知らないことが無いのではないかと疑うほどに知識を持っていましたから。」

 

 

カオス「流石お義兄さんだね。

 アローネがそこまで尊敬するのも分かる気がするよ。」

 

 

アローネ「…一応誤解がないように訂正しておきますけど私はあくまでも義兄様を尊敬しているだけで情愛があるわけではありませんからね?」

 

 

カオス「え?

 それは知ってるけど何で…?」

 

 

アローネ「カオスですよね?

 クララさん達に私と義兄様と他の王子達のことを伝えていたのは。

 この間はそのことでクララさんに責められてしまったのですよ?

 どうしてくれるんですか!」

 

 

カオス「あ……そっ、そうだったね。

 ごめん、

 アルターにいる間にクララさんがどうしても俺の話を聞きたいって言ってきたからついアローネのことも話しちゃって………。」

 

 

アローネ「………はぁ………、

 今となってはそこまで怒っている訳ではありませんけどあまり公にはしたくないのです。

 一般の人々の間では婚約者が大勢いるだなどと知ると変な目で見られることもあるのですよ?

 このデリス=カーラーンでも私のような例の方はいませんよね?

 一度に複数の………それも御兄弟の全員とそういう関係の人なんて………。」

 

 

カオス「…俺が馬鹿だったよ。

 クララさんはてっきり同じシャーマンだから俺のことを純粋に知りたかっただけなのかなって思って正直に全部話しちゃってた………。」

 

 

アローネ「………そのおかげで貴方の御気持ちを知ることもできたのは私的にはよかったと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………でもまだ私は貴方の想いに応えることはできません………。

 国がなくなったとしてもウルゴスの民はいなくなった訳ではありませんから私の将来で誰が隣に立つことになるかはまだ決定することはできないのです………。」

 

 

カオス「……そうだよね………。

 勝手なことをしたら婚約者の王子様達にも悪いもんね………。」

 

 

アローネ「………もう少しだけ………。」

 

 

カオス「ん?」

 

 

アローネ「………………もう少しだけ待っていていただけませんか………?

 カオスのお気持ちは嬉しいのですが私自身私の身の振り方を決めねばなりません………。

 ウルゴスの王族の方々を見つけ出してどなたかと結ばれるのか………婚約自体が破棄されるのかは私では決定しかねます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もし王族の誰かの許しが得られれば私は貴方と………。」



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持病の悪化

ローダーン火山 中間部 残り期日十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「もう少し登ったら山の反対側が見えてきそうだね。」

 

 

アローネ「えぇ、

 目的地はそこから一望できる筈なのでそこまで登ったら休憩にしましょう。」

 

 

カオス「あぁ、

 そうしよっか。」

 

 

 カオスとアローネはとうとう目的地手前までやって来た。ここに来るまでにウインドラ達と合流できなかったのは気掛かりだが辿り着く行き先は同じなのでその内会うだろうと楽観視していた。

 

 

カオス「どうにか十日以上の余裕はできたけど気を抜けないね。

 絶対に次の………最後のヴェノムの主レッドドラゴンだけは時間をかけてはいられない………。

 早くウインドラ達と合流しないといけないけどウインドラ達はどこにいるんだろう…。」

 

 

アローネ「もう集落は目前だというのにまだ追い付けないのであればウインドラ達は既に到着している可能性がありますね。」

 

 

カオス「大丈夫なのかなぁ………。

 フリンク族を問答無用で拐おうとしてたらしいしカーヤがブルカーン族を追い返すようになってからどうなってるのか情報が全然ないよね。

 もう生贄なんて集めてなければいいけど。」

 

 

アローネ「…念のために最悪のケースを想定しておきましょう。

 ブルカーン族はまだ何らかの目的で生贄を求めている。

 今回は他の地方と違いブルカーン族の情報提供や協力を仰ぐことは難しそうですね。」

 

 

カオス「それなら自力でレッドドラゴンを探すしかないのかぁ………。

 レッドドラゴンって普段どこにいるんだろ?」

 

 

アローネ「大抵の竜種は渓谷や人気のない洞窟といった場所を住処にしています。

 この地方のどこかにそれらしいものがあるのではないでしょうか?」

 

 

カオス「洞窟かぁ………。

 洞窟の中だと強い魔術とかは使えないよね。

 そうなると物理的に倒すしかないけど………。」

 

 

アローネ「そうですね………。

 相手がそのような場所で待ち構えていたら私達に勝ち目はありませんからどうにかして外へと誘い出せれば勝機は必ず訪れます。」

 

 

カオス「クラーケンの時と同じ要領で戦えばいいんだね?

 それなら大丈夫そうかな。」

 

 

アローネ「…カオスは一緒について来てもらっていますが今回はもう貴方は前線へは参列できませんよ?

 分かってます?」

 

 

カオス「………うん。」

 

 

 前回のヴェノムの主アンセスターセンチュリオンとの戦いでカオスはマナを体内に蓄えすぎてマナの制御が困難となる魔力機能障害を抱えてしまった。これにかかると体の中のマナを司る器官が過負荷がかかりもしもの場合は器そのものが破壊される。マナの器とは簡単に説明すると心そのものだ。器が壊されれば体内のマナが体外へと放出されてやがて()()()()()。気力を失った者は思考や感情が無くなり人としての最低限のコミュニケーションすらもとれなくなる。自分で食事をとることや歩くことさえもできなくなりその状態に陥ればあとはもう死を待つだけである。カオスはそのギリギリのラインまで足を踏み込んでいる。

 

 

アローネ「相手の出方にもよると思いますが戦闘になったらカオスはレッドドラゴンを攪乱するだけでいいです。

 攻撃は私達が担うのでカオスは一切の剣術魔術は使用禁止です。」

 

 

カオス「剣術も駄目なの?」

 

 

アローネ「駄目に決まってるじゃないですか!

 本当なら戦いに関係する全ての行動を禁止したいくらいなのです!

 そうしないとカオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………今まで忘れていましたけどカオスの飛葉翻歩もマナを使用しますよね?」

 

 

 アローネがカオスの剣術だけでなく歩方術飛葉翻歩もマナを使用することも思い出す。

 

 

カオス「そうだけど………?」

 

 

アローネ「………カオス………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり貴方には戦闘に参加させることはできません。

 飛葉翻歩もマナが必要なのであれば使わせることはできません。

 カオスは大人しく私達がレッドドラゴンを倒すまで待っていてください。」

 

 

 アローネは神妙な面持ちでカオスにそう言う。これ以上カオスは戦うべきではないと。

 

 

カオス「なっ、何でだよ!

 魔術は使えないけど剣技なら別に普通に使えるよ!?」

 

 

アローネ「………では試しに技を放ってください。

 貴方がもっとも得意としている()()()を使ってみてください。」

 

 

カオス「魔神剣………?

 ………いいけど………。」

 

 

 カオスは剣を抜く。そしてアローネとは別の方向に向けて剣を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「魔神…!?…ッ剣!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザザッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果的にカオスは魔神剣を撃つことができた。しかしその動作にはえらく違和感が目立つ。

 

 

カオス「ハァ………ッハァ………!

 どっ、どう………?

 何も問題無いでしょ………?」

 

 

 見るからに精一杯強がっているのが丸わかりではあるがそれでもカオスは何でもないというふうを装う。

 

 

 そんな様子を見ていたアローネは一言カオスにこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………そんな辛そうな様子で問題無いと言える訳が無いでしょう………。

 カオスの症状がそこまで重症であったとは………。

 よくそんな状態であのアンセスターセンチュリオンを倒せましたね………。

 貴方は………貴方の体はもう限界なのですよ………。

 それ以上の無理は本当に精神が砕けてしまいますよ。

 ………不覚でした。

 貴方の症状がここまで侵攻していたとは………。

 アルターで確かめておくべきだったのです。」

 

 

カオス「アッ、アローネ………?

 どう………したの………?」

 

 

 既に魔神剣を一度撃つだけで体力が底を付くほどの苦痛を感じることはアローネにバレている。それでもここで強がってでも彼女に自分が剣だけでも戦えることをアピールしなければ彼女は自分に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カオス………、

 この地方にいては危険です。

 貴方の身が危ない………。

 私と共にリスベルン山まで引き返しましょう。

 カオスはそこで私達がレッドドラゴンを倒すのを待っていてください。」



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ブルカーンとの敵対

ローダーン火山 中間部 残り期日十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……何でそうなるんだよ………。

 俺だってレッドドラゴンと………。」

 

 

アローネ「剣技も魔神もまともに発動できないのにそれでどう戦うと言うのですか?

 相手はヴェノムウイルスで力も強くなっているギガントモンスターなのですよ?

 マナを使わずに倒せる相手ではありません。

 カイメラの時はカオスだって魔術を駆使して戦っても苦戦していたではないですか。」

 

 

カオス「だけだもうここまで来たのに引き返すなんて………。」

 

 

アローネ「カオスをお連れしたのはあのままアルターにいては魔力機能障害が侵攻してしまうと思ったからです。

 あそこにはマナを生み出す世界樹カーラーンがありましたからあの近くにカオスが留まるのは魔力機能障害を促進させる恐れがありました。

 だから私はカオスが目覚めるのを待ち続けたのです。」

 

 

カオス「………だけど………。」

 

 

 最後のヴェノムの主レッドドラゴンとの決戦直前にまさかのアローネから戦力外通告を受けてしまったカオス。彼女は意地悪で通告しているのではないことは分かっているがそれでも納得ができない。ここまで来て引き返すことはカオスには………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「「!」」

 

 

 カオスとアローネがそんな話をしていると前方から誰かが近付いてくる足音が聞こえてきた。その足音は真っ直ぐこちらへと向かってくる。

 

 

カオス「…こんなところに人………?

 ………ウインドラ達かな?」

 

 

アローネ「………いえ、

 ウインドラ達では無いでしょう。

 足音が一つしか聞こえません。」

 

 

 耳を澄ませて聞いてみると接近してくる者の人数は一人だけだと分かる。ウインドラ達はではなさそうだ。

 

 

 では誰がここへ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 足音が止まる。現れたのは短剣を持った男だった。男はカオス達を一瞥すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「お前達!

 この地へ何をしに訪れた!

 これより先は我らブルカーンが統治する街“シュメルツェン”だ!

 我らブルカーン以外の立ち入りは不法侵入とみなし即刻排除する!」

 

 

 男はそう宣言してから短剣を構える。カオス達を倒すべき敵と判断したようだ。

 

 

アローネ「お待ちください!

 私達は貴殿方ブルカーン族の敵ではありません!

 私達は貴殿方の力になりにここへと訪れたのです!」

 

 

?????「………何?」

 

 

カオス「俺達は怪しい者じゃありません!

 ここへ来たのはこの地方のヴェノムの主を倒しに来たんです!

 ヴェノムの主を倒してブルカーン族をヴェノムの脅威から解放するために!」

 

 

?????「………主を倒すだと………?

 そんなことできる訳がなかろう!!

 出鱈目を言うんじゃない!!」

 

 

 男はカオス達の言葉に耳を貸す気はないらしい。少しずつ距離を詰めてくる。

 

 

アローネ「出鱈目ではありません!

 私達は既にこの地にいるというヴェノムの主レッドドラゴン以外の主を全て倒してきました!!

 後はここを残すだけです!

 レッドドラゴンを討伐次第この地を離れますのでどうかこの場は武器を収めてもらえますか!?」

 

 

?????「お前達が他の所のヴェノムの主を………?

 ………………それは本当か?」

 

 

カオス「事実です。

 俺達はダレイオスをまた一つにするためにヴェノムの主を倒して回ってたんです。

 もう一度ダレイオスを統一できればマテオと力関係を振り出しに戻すことができる。

 そして今度こそこの長い戦争を終わらせられるんです。」

 

 

?????「………確かにマテオの奴等を潰すにはダレイオスが再び一つにするのは必要不可欠だろう。

 それには賛成だ。」

 

 

アローネ「!

 でしたら私達に協力して「だがな!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「ダレイオスを一つの国に戻すのは俺達ブルカーンだ!!

 他の部族達は俺達ブルカーンに隷属してもらう!!

 ブルカーンこそがダレイオスの支配者に相応しいんだからな!!

 貴様らは余計なことはしなくていい!!」

 

 

 男は猛々しくカオス達を威圧する。

 

 

アローネ「ブルカーンがダレイオスの統合を………?

 

 

 ………ですが今はスラート族やクリティア族、ミーア族、フリンク族、アインワルド族が一丸となってマテオとの大戦に備えています。

 そんな状勢だというのにどうやって彼等を従えさせるおつもりですか?」

 

 

 九部族の内の五部族がマテオと戦争するために体勢を整えている。そこにブルカーンが合流して五部族を支配下に置くことなど余程力関係が優位になければなし得ないことだ。ましてや五部族の中にはかつてブルカーンよりも力を持っていたスラートがいる。一対五の時点でも不利だというのにブルカーンよりも強いスラートが多勢側にいたのではこの男の言葉はただの妄言にしかならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし男は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「ブルカーンの力を甘く見るなよ?

 俺達には今やスラートもバルツィエすらも恐るるに足らん。

 俺達ブルカーンには精霊イフリート様がついているんだ。

 イフリート様のお力があればダレイオスと言わずマテオも………デリス=カーラーン全てがブルカーンの手中に治まるのだ!!」

 

 

 ブルカーンの男はそんな穏やかではないことを叫ぶ。まるで本当に世界へと単独で戦争をけしかけて勝利するかのようだ。

 

 

アローネ「……そのイフリートという人は一体何者なのですか?

 何故その方はフリンク族から住民を拉致して生贄になど捧げようとするのですか?

 その方がどれ程の力をお持ちなのかは知りませんがたった一つの部族と個人の力だけで世界を手にするのはそう容易いことではありませんよ。」

 

 

 ここまで謎の精霊イフリートを過剰に心酔する男を見てアローネが現実的にそれを否定する。

 

 

 

 

 

 

?????「…貴様ら………、

 ここへはヴェノムの主を倒しにやって来たと言ってたな………?

 もし貴様らが本気でヴェノムの主を倒しに来たというのであれば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴様らはブルカーンの敵だ!!

 貴様らを生かして返すわけにはいかない!!」ダッ!

 

 

 ブルカーンの男が短剣を振りかぶって突撃してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…!!

 ………何をするんですか。

 俺達はヴェノムの主と戦うと言っただけじゃないですか。」

 

 

 男の短剣を剣で受け止めたカオスが男に問う。男はヴェノムの主を倒しに来たカオス達を敵だと言った。何故ヴェノムの主を倒してはならないのか。

 

 

?????「ふざけるな!!

 そんなことさせてたまるか!!

 貴様らは我ら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだからな!!

 貴様らをイフリート様に生かしてまま会わせるわけにはいかないんだよ!!」

 

 

アローネ「イフリート………!?

 私達の相手はヴェノムの主であってイフリートでは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 !?

 もしやイフリートというのは………!?」

 

 

?????「ここまで言えば分かるだろう!!

 貴様らが倒しに来たヴェノムの主とは……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我らブルカーンを導く存在!!

 イフリート様のことだ!!

 イフリート様は最悪のウイルスヴェノムにその身を侵されはしたが逆にウイルスを取り込んで新たな種へと進化した!!

 

 

 そう!!

 イフリート様は完全なる精霊へと進化を果たしたのだ!!

 精霊イフリート様のお力があればこの世界に我らブルカーンに敵う敵などいはしない!!

 全世界の愚かな他人族は全てイフリート様の貴重な食料として有効活用させてもらう!!

 

 

 

 手始めに貴様らからイフリート様へ捧げる供物としてやる!!」



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打倒イフリート宣言

ローダーン火山 中間部 残り期日十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信じられない情報を耳にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ブルカーンのイフリートの正体がヴェノムの主………!?」

 

 

アローネ「ヴェノムの主レッドドラゴンがブルカーン族にフリンク族を拐ってくるように命令していたのですか!?」

 

 

 ブルカーンの男の話を纏めるとそういうことになる。ブルカーン族はヴェノムの主レッドドラゴンをイフリートと崇めてその命令に従いフリンク族から人を誘拐していた。

 

 

 ヴェノムの主がダレイオスに出現し始めたのは六年前。六年前に大陸の東側アイネフーレ領にてマテオのバルツィエが奇襲をしてきた。バルツィエが奇襲してきたことを知ったフリンク族は急ぎリスベルン山へとフリューゲルの住民全員で避難した。その避難した先でカーヤとさの母親ロベリアがウイルスに感染したことによりダレイオス各地でヴェノムの主が目撃されるようになった。

 

 

 ヴェノムの主の特長は通常のウイルス感染個体が数時間から数日で体内のマナを一気に消費して消滅するのに対し彼等はそれがない。故にヴェノムの主達はいつまでも他の生物やヴェノムを捕食し続けて徐々にその能力を高めていっていた。主達の中には異常な再生能力を身に付けたものや変身能力を獲得した個体、カオス達が毒撃と呼ぶ力を手にするものまで現れた。主とは言っても行動原理は感染前の生物に順する個体や感染後とは全く違う習性を持つ主もいた。カーヤに至っては人の姿と理性を保ったままヴェノムの主と呼ばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「イフリート様だ!!

 イフリート様は他の生物を取り込めば取り込むほど進化を続けエルフと同等かあるいはそれ以上の知性を持つようになられた!!

 イフリート様は食えば食うほど強くなるのだ!!

 ブルカーン以外のエルフ達は大人しくイフリート様にその身を差し出せ!!」

 

 

アローネ「エルフ以上の知性ですって………!?

 それで貴殿方はそのレッドドラゴンの命に従っているのですか!?」

 

 

カオス「モンスターが人並みの会話ができるんですか!?」

 

 

?????「あのお方にとっては人語を操るの容易いことだ!

 人語だけではない!

 イフリート様は吸収した動物やモンスターの言葉さえも理解しておられる!!

 世界を征服して全生物の頂点に立つには相応しい能力と言えるだろう!!」

 

 

 最後のヴェノムの主レッドドラゴンはカオス達が想像だにしない方向性へと進化を遂げたようだ。これまではウイルスに感染すると理性が崩壊し無差別に近くのものに襲いかかるモンスター達ばかりだったがレッドドラゴンは()()()()でウイルスに感染することによって知能が上昇した。それでブルカーン族を言いくるめて従えているようだ。

 

 

アローネ「ウイルスで他の種族の言葉を理解できるようになった最強竜種レッドドラゴン………。

 そんな生物がこの世に存在してしまったというのですか………!?」

 

 

カオス「………!

 人の言葉が分かるならどうして人を食らうんだ!

 ブルカーンの敵は同じバルツィエだろ!!

 フリンク族は関係ないじゃないか!!」

 

 

?????「関係ならある!!

 イフリート様は更に力をお求めになられている!!

 イフリート様は食した分だけ強くなるからな!!

 イフリート様がこの星で何者にも抗いきれない力を手にすれば世界から争いはなくなるのだ!!」

 

 

アローネ「そのためなら他の部族を犠牲にしても構わないと言うのですか………?

 貴殿方ブルカーンは………。」

 

 

?????「勘違いするな!

 我らは早急にこの世界の腐った状勢を正すだけだ!!

 敗北を認めたスラートや他の部族の奴等に世界を取る資格はない!!

 ましてやマテオなどという()()どもなどに我らの力が劣るなどとあってはならんことだ!!

 

 

 世界の覇者に相応しいのはダレイオスでもっとも誇り高き我が部族ブルカーンだ!!

 我らこそ世界の主となるに適した優れた種族なのだ!!

 他の部族などイフリート様の糧となるしか使い道がないただの餌だ!!

 そんな輩共に何を配慮することがあるというんだ!!」

 

 

 根本的にブルカーン族の価値観は他の部族達とは違った。ブルカーン族は自分達が最強の部族であると疑わず他の部族を見下し支配しようとしている。六年前までは他の部族間の結束は確かにあったようだがそれももうこの六年で消えて無くなってしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 今カオス達の目の前に立つ男はヴェノムの主にして自称精霊イフリートの傀儡にすぎない。カオス達は全部族を再統合するためにダレイオスを旅してきたがこのブルカーン族だけはどうあっても他の部族と協力することはないだろう。少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「おしゃべりはここまでだ!!

 貴様らはここで死んでイフリート様の血肉となれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブルカーンの男は短剣を振り切ってカオスの剣を払うのと同時に後退する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「『ファイヤーボール!!!』」

 

 

 男は火球を繰り出しカオス達を狙う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその火球が炸裂することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「何………?」

 

 

 

 

カオス「…事情は大体分かったよ。

 アンタ達のところにいるイフリートってのがまさかヴェノムの主と同一人物だったなんてね。」

 

 

アローネ「この場合は同一人物と言うよりも同一生物と言った方が正しいですね。」

 

 

カオス「そう?

 ………それはまぁ置いといて………、

 

 

 アンタ達のボスのイフリートは他の部族に迷惑をかけてるんだよね………。

 元々ここへはヴェノムの主を倒しに来たんだけだそんな話を聞いたら尚更倒さないといけなくなったね。」

 

 

アローネ「貴殿方が世界の覇権を握ってしまえばそれこそバルツィエと同じ結果にしかなりません。

 人は皆平等でなければならないのです。

 人を人とも思えない方が支配する世界には必ず滅びの未来が待っていることでしょう。」

 

 

カオス「絶対にアンタ達の好きにはさせないよ。

 アンタ達のところのイフリートは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必ず俺達の手で討たせてもらうからね。」



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ブルカーンの戦闘力

ローダーン火山 中間部 残り期日十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「イフリート様を討つだと?

 どの口がそんなことを言うんだ?

 あのお方に敵う者がこの世にいる筈がないだろうが!!」

 

 

カオス「敵う敵わないじゃなくて俺達はそうしないといけないんだよ。

 そうしないと世界が大変なことになるからね。」

 

 

アローネ「貴殿方ブルカーンを操るそのイフリートに付き従ってもブルカーンも世界も滅ぶだけですよ。

 私達が立ち向かわねばならない敵は貴殿方の想像もつかない程の強大な力を持っております。

 ヴェノムの主の一体だけで太刀打ちできるような相手ではありません。

 どうかここを通していただけませんか?」

 

 

 どれ程の他の生物を吸収して知能や力を高めたところで星一つを消し去る力を持った()()()()()に勝てる可能性は無きに等しい。一撃で世界地図を塗り替えるような力を前にして抗うことは許されない。ならば精霊が課した試練を乗り越えて破壊を回避すべきだろう。

 

 

 ダレイオスからヴェノムの根絶。それさえ達成できれば一先ず世界は存続し続ける。そのためにもカオス達はヴェノムの主レッドドラゴン、もといイフリートを討ち取らねばなないのだが………、

 

 

 

 

 

 

?????「下らないな!!

 戯れ言に貸せる耳は持ち合わせていない!!

 貴様らがどのような敵を想定しているのか知らんがイフリート様は()()()姿()()()()()()()()()この世界の最強生物レッドドラゴンとしての全てを蹂躙する無敵の力を有しておられる!!

 そんなお方に一体どこの勢力が対抗できると言うんだ!!

 殺されるのを恐れていもしない敵を作り上げようとするな!!」

 

 

 男はカオス達の話を聞く気は無いらしい。ここでカオス達を倒してイフリートへと引き渡すつもりのようだ。

 

 

カオス「話し合いにならないなぁ………。

 この人と戦ってから先に進むしかないのかなぁ。」

 

 

アローネ「相手は戦う気のようですし落ち着かせるためにも一度気絶させてしまいましょう。」

 

 

 仕方無くカオスとアローネは男と戦うことにする。戦況的には二対一。カオス達が負けることなど考えられない………がカオスは今術技を使えず剣のみで戦うしかない。アローネには何のハンデも無いが男の気性からはかなりの自信を感じる。立ち振舞いからしても相当な実力者であることは間違いない。

 

 

カオス「…俺が前に出て短剣を止めるからアローネは援護お願い。」

 

 

アローネ「分かりました。

 カオスは………技を使わないようにしてくださいね。

 できることなら大人しくさせてからゆっくりとお話を聞きたいので。」

 

 

カオス「あぁ、

 あの様子じゃ俺達の話し全然聞いてくれなさそうだしね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「何をくっちゃべってやがる!!

 俺を前にそんな余裕があると思うな!!」ダダダッ!!

 

 

 男が再び短剣を構えてカオスに迫る。

 

 

 

 

 

 

カオス「(………遅い………。

 これなら。)」

 

 

 対人戦はリスベルン山でのラーゲッツ以来だ。それ以外ではウインドラやオサムロウ、ユーラス、ランドールと戦ってきたがこの男はそこまでの大した力は持ってはいな………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「爪竜連牙斬ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガガガガガッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男はカオスに肉薄した瞬間高速の剣撃を仕掛けてきた。その激しい手数にカオスは反応するのが遅れそうになるがなんとか全てを剣で弾き返す。

 

 

カオス「くっ……!!

 やるな「まだまだまだぁ!!」……!!!」

 

 

 男からの猛攻は止まらない。短剣を捌いても捌いても男は怯むことなく短剣を振るってくる。次第にカオスは押され始め後ろに飛ぶがそれを男は追ってくる。

 

 

?????「ヘッ!!

 お前大したことねぇなぁ!!

 さっさと諦めて楽になれよ!!

 抵抗すると余計苦しむだけだぞ!!」

 

 

カオス「………ッ!

 もう勝った気でいるのかよ!!

 アンタなんかにそう簡単にやられる訳無いだろ!!」

 

 

 男の挑発に乗ってしまいカオスは前に踏み込んで剣を振った。

 

 

 ………だがその剣筋を読まれていたらしくカオスの剣は空を斬って………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

 

カオス「なっ………!?」

 

 

 カオスの剣をしゃがんでかわした男はカオス目掛けてその短剣を突き刺そうと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『ウインドカッター!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………したところにアローネの風の魔術が発動し男がいた場所に旋風が巻き起こる。

 

 

 しかし男はアローネの術を寸前で跳びすさりかわす。

 

 

アローネ「カオス!

 大丈夫ですか!?」

 

 

カオス「うん、有り難う………。

 ………あいつ………。」

 

 

アローネ「えぇ、

 かなりの猛者のようですね。

 これは一筋縄ではいかない相手でしょう。」

 

 

 バルツィエのような俊足な足は無いが代わりにカオスでも捌ききれない程の執拗な連撃で攻めてくる。改めて相手のスタイルを確認してみればいつの間にか短剣の他に両方の手の甲から鉤爪が飛び出している。短剣と鉤爪の二つの武器を駆使して連撃を放ってくるようだ。

 

 

カオス「(今まで相手にしたことのない戦い方をする相手だな………。

 攻撃に使う武器も俺の剣よりも軽いからかスピードが凄く早い………。

 俺が一度剣を振る間にあっちは数回は攻撃してくる。

 

 

 接近戦じゃ部が悪いな………。)」

 

 

 たった一度の攻防でカオスは相手との相性の悪さを察した。この男は至近距離での戦闘では敵わない。相手の男の方がカオスよりも数段は経験の差で優る敵だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『接近戦戦術に関してダレイオスはバルツィエを凌駕しているのだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはセレンシーアインでオサムロウと対峙した時に言われたことを思い出した。

 

 

 ダレイオスの民は皆俊足と強大な魔力を持つバルツィエを相手に生き残ってきた。魔術ではバルツィエに軍配が上がり近接戦闘においてはダレイオスの民が上をいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後のヴェノムの主討伐は精霊イフリートを名乗るレッドドラゴンとそれを王のように崇め奉るダレイオスの民のブルカーン族との対決の運びとなった………。



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ヴェノムですらない相手に…

ローダーン火山 中間部 残り期日十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「爪牙斬!!」ガガッ!!

 

 

カオス「………ァッ!!」

 

 

アローネ「『ウインドカッター!!』」

 

 

?????「当たらねぇよ!!」

 

 

 カオスが男の足を止めアローネがその隙に魔術で攻撃するが躱される。互いの攻撃は戦闘が開始されてから一撃も当たらない。男は二人を同時に相手にしながらも余裕の笑みを浮かべながら華麗に立ち回る。

 

 

アローネ「……!

 どうにか魔術さえ当たれば……!!」

 

 

?????「何だよお前らぁ!!

 さっきから同じパターンばかりじゃねぇか!!

 男は剣を振るだけで女は魔術しか使えねぇのか?

 そんなバリエーションの少ないやり方で俺を殺れると思ってんのかぁ!!」

 

 

 男はカオス達を更に挑発する。二対一で戦っているというのに追い詰められているのはカオス達の方であった。戦闘が長引けばその分相手からはカオス達が現在そうした戦い方でしか戦えないということに感ずかれる。早急にこの戦闘を終わらせねばカオス達に勝機はない。

 

 

 

 

 

 

?????「その程度でダレイオスの主達を倒してきただぁ?

 信じられねぇなぁ!!

 お前達みたいなただ剣術がちっとばかしできる奴と魔術しか取り柄のない女の二人組に主達は殺られてきたのか?

 イフリート様以外の主達はとんだ雑魚の集団だったんだな!!

 所詮は()()()()()に負ける主なんざ何の価値もねぇなぁ!!

 主はイフリート様お一人でいいんだよ!!」

 

 

カオス「!!

 ………凡人!?

 凡人だって………!!?

 ………………俺達が今まで主達を相手にどう戦ってきたか知らないくせに!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もういい!!

 本気でお前と戦ってやるよ!!

 俺達の本当の力をお前に見せ付けてやる!!」シュンッ!!

 

 

アローネ「カオス!?」

 

 

?????「はッ……!?」

 

 

 再三に渡る男の挑発に腹を立てたカオスは男目掛けて加速する。バルツィエの歩方技飛葉翻歩を使ったのだ。カオスは高速で男の背後に回り剣で斬りつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「うあっと!!

 危ねぇなぁ!!」

 

 

 だが一瞬の不意をついた一撃も男は巧みに受け止められてしまった。

 

 

カオス「!?」

 

 

?????「………何だよお前………今の………。

 

 

 ………お前バルツィエなのか………?」

 

 

カオス「………だったら何だ!!?」

 

 

?????「………………クククククククク………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前バルツィエなのにこの程度なのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスがバルツィエの血を持つことを知っても男は不敵な態度を改めない。それどころか逆にバルツィエであることを嘲笑する。

 

 

?????「クククククククク!!!

 ウッハハハハハハハハ!!!

 何でバルツィエがこんなところに来てんだよ?

 どうしてバルツィエがこんなところで俺なんかに殺られそうになってんだよ!!

 弱すぎだろお前!!

 バルツィエのくせにまともに技も使えねぇのか?

 お前の自慢はその足だけか?

 バルツィエならもっと他にあるだろ?

 魔神剣だとかお得意の()()()()()とかよ!!」

 

 

カオス「………そんなに見たいか!!?

 俺の力を!!」

 

 

 カオスは頭に血がのぼって冷静な判断ができなくなっていた。男に弱いと言われたことがカオスから冷静さを奪っていた。

 

 

 弱いと言われることには慣れている筈だった。昔からカオスは自分が弱いことを自覚していた。他人からもそう言われ続けて弱いと言われることには耐性がついていた。

 

 

 

 

 

 

 …しかし今は何故かこの男に弱いと言われることが無性に悔しくてどうしようもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『火炎よ………!

 我が手となりて敵を焼き尽くせ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは呪文を唱える。魔術を発動させるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!!

 止めてください!!

 もうカオスは魔術は………!!」

 

 

 アローネがカオスに止めるように叫んだ。だがその言葉はカオスの耳には届かなかった。カオスは呪文を終え魔術を発動させようと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?」

 

 

 魔術を放とうとする直前()()()()()()が生じた。それによりカオスは魔術を使えなかった。

 

 

 

 

 

 

アローネ「………!?

 カオス………?」

 

 

 カオスの魔術が発動されなかったのを見てアローネは自分の声がカオスに届いてそれに応じてくれたのだと思った。

 

 

 しかしカオスが魔術を発動させなかった理由は他のところにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………なっ、何だこれは………?

 どっ、どうしてこんな………)「何をボケッとしてんだ?こんな時に?」!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「バルツィエのくせに魔術も満足に使えねぇのかよ?

 憐れな奴だなお前。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男はカオスの隙を見逃さなかった。カオスが自身の体の異変に気をとられている内に男はカオスの懐に飛び込んできた。

 

 

カオス「しまっ……「無駄だ!!」…なっ!?」ガキィィンッ!!

 

 

 

 

 慌てて男を振り払おうと剣を振り抜くがその剣を男は両手に持った短剣で弾き上げる。カオスは大きく仰け反った。

 

 

 そこへ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「今度こそ止めだ!!

 死ねぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 

アローネ「『ウインド』………!?」

 

 

 男はカオスに鋭い蹴りを繰り出す。その蹴りはただの蹴りではなかった。

 

 

 男が思いっきり足を突き出すと男の履いていた靴の底から()()()が飛び出してきた。その針はカオスの体に一直線に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブスリッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………………カハッ…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貫いた。



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ウインドラの助け

ローダーン火山 中間部 残り期日十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ッ………ブハァッ!」

 

 

 腹部に強烈な痛みを感じる。それに伴って喉の奥から何かが上ってくる感覚に襲われそれらをそのまま口から吐き出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 口から放出されたのは真っ赤な血だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………血?

 ………何で血が………?)」

 

 

 腹部の痛みで暫くの間記憶が飛んでしまった。何故自分が血を吐き出したのか、何故自分の腹部に激痛が走っているのか、それを思い出そうとしてカオスはブルカーンの男と戦っていたことを思い出す。

 

 

カオス「(………そうか………俺は………)」「終わりだな!!苦しいだろ?今すぐ楽にしてやろうか!!」

 

 

 間近で聞こえた声の方へ顔を上げると男が短剣をカオスの首もとへと交差させて鋏のように切断しようとしていた。

 

 

カオス「(………あ………え………?

 俺………死ぬ………?)」

 

 

 首にかけられた刃は今にも首の肉を引き裂こうとしている。出血と激痛に襲われながらもそれを阻止しようと手を動かそうとしてみるが肘から先が言うことを利かない。肘から先の感覚が全く感じないのだ。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「止めっ………止めてぇぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!!」

 

 

 後ろの方でアローネの叫ぶ声が聞こえた。だがその声すらもあとの方になるにつれてどこか遠くから叫んでいるようにも聞こえた。声は叙情に遠くなりカオスの意識も霞み出して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「死ね。」ヂャキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マテ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・?????「「「!!?」」」

 

 

 不意に頭の中に声が響いた。くぐもったような声で幻聴かとも思ったがその声がした途端男の刃から力が抜けていくのが分かった。

 

 

?????「イッ………イフリート様………!?」

 

 

イフリート『オリヘルガ………!

 ソヤツラヲコロシテハナラン………!!

 イカシテワシノモトヘトツレテコイ!

 コロシテシマッテハマナノセンドガオチテシマウ……!!

 ソレデハセッカクノエモノガダイナシダ………!!

 ソウキュウニイカシテツレテマイレ……!!』

 

 

オリヘルガ「ハッ……ハハァ!!」

 

 

 聞こえてきた声と男が会話しているところからこの声の主はイフリートであることが分かる。イフリートは男をオリヘルガと呼びカオス達を連行するように命じた。

 

 

アローネ「こっ、この声は一体………?」

 

 

 何処からともなく聞こえてきた声にアローネが戸惑う。辺りを見回しても声の主は見受けられない。どこか遠くの方から三人に向けて話しかけてきているようだった。

 

 

カオス「(………これは………テレパシー………?

 精霊の力の………。)」

 

 

 以前カオスはウインドブリズでダインと共に精霊マクスウェルに語りかけられたことがあったの思い出した。今の声はそれと同じ感覚で聞こえてきた。イフリートは精霊と同じ力が使えるようだ。知能を得ただけではなくイフリートは精霊と同じ能力も得ていたということか。イフリートはテレパシーを使って遠くからカオス達とオリヘルガの戦いを見ていた。そしてカオスがオリヘルガに殺されそうになったのを見て止めさせたのだろう。

 

 

 生物は死ぬとその体内にあるマナは大気へと霧散していく。精霊がマナを吸収し続けることによってカオスの中には尋常ではない量のマナが内包されているがカオスが死んでしまえばそのマナもどうなるか分からない。イフリートは生物と生物のマナを捕食して強くなるという話だった。イフリートがカオスを殺さずに連れてくるように言ったのはカオスを生きたまま食すためだろう。

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………チッ!

 しょうがねぇなぁ………。

 まぁ生きてた方が自分で歩かせられるし楽っちゃ楽か。

 おいお前ら!

 聞いての通りだ!

 とっとと俺に付いてこい!」

 

 

アローネ「私達をどうするおつもりですか……!?」

 

 

オリヘルガ「んなもん決まってんだろ?

 イフリート様はお前達を御使命してるんだ。

 有り難く招待されな。

 お前達のマナはしっかりとイフリート様が有効活用してやるからよ。」

 

 

アローネ「…そんなことを聞いて誰が貴方などに付いていきますか!

 行っても殺されるだけなら私達は「いいのか?」!?」ヂャキンッ!!

 

 

 

 

オリヘルガ「言うことを聞かねぇなら抵抗されて仕方なくって体でこの剣がこいつの首をはねちまうぞ?

 それでもいいのか?」

 

 

カオス「…ぅ………。」

 

 

アローネ「……なんと卑劣な!」

 

 

 オリヘルガがカオスを人質にして言うことを聞かせようとしてくる。腹部の負傷のせいでカオスは抵抗ができずされるがままだ。このままでは二人はイフリートの元へと連行されてしまう。そう思ったカオスは死力を振り絞ってアローネに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ア………ーネ……!

 アローネだけでも………逃げて………。」

 

 

オリヘルガ「あぁん?」

 

 

アローネ「カオス!

 何を仰るんですか!

 私だけ退散することなどできません!」

 

 

カオス「…俺の……………ことはいいから………!

 アローネだけなら………逃げられるでしょ………。

 ………早く行って………。」

 

 

アローネ「そんなこと私には………!」

 

 

 アローネに逃げるよう言うが彼女にカオスを見捨てて逃げることはできなかった。しかしここで逃げてもらわねばアローネもカオスと共にイフリートに殺されてしまう。どうにかしてアローネだけでもここから退避させねば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「おい………、

 お前が逃げたらこのバルツィエがどうなるか分かってんだろうな………?」

 

 

アローネ「………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………分かりました。

 投降しま『ライトニングッ!!』!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチバチバチッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「ぐおあっ…!?」

 

 

 アローネが諦めて武器を納めようとした瞬間オリヘルガに雷が落ちた。オリヘルガはその雷撃によって膝をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「間に合ったようだな!

 カオス!アローネ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスとアローネの危機にウインドラが参上した。ウインドラの登場によりカオス達は窮地を救われたのであった………。



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固まる腕

ローダーン火山 中間部 残り期日十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ウインドラ……!?」

 

 

 カオスアローネがオリヘルガに連行されようとした時オリヘルガの頭上から突如落雷が落ちる。一瞬の出来事でオリヘルガもそれに対応することはできなかった。

 

 

ウインドラ「話は後だ!

 今すぐ退避するぞ!」スッ…

 

 

 ウインドラはそう言って手を上げる。すると……

 

 

 

 

 

 

アローネ「!

 カーヤ!」

 

 

カーヤ「これでいいの?」

 

 

ウインドラ「あぁ!

 アローネ!

 急いでレアバードを展開しろ!

 カオスもそれに乗ってここを離れるぞ!」

 

 

アローネ「はっ、はい!」

 

 

 ウインドラの合図で遠くからレアバードに乗ったカーヤが飛んできた。ウインドラの指示でアローネはレアバードをウイングバッグから取り出しカオスを乗せようとするが、

 

 

アローネ「カオス!

 傷が痛むでしょうが堪えてください!

 今は彼の元から離れることが先決です!」

 

 

 アローネはカオスの手を取ってレアバードの後部へと誘導する。

 

 

カオス「あっ、有り難う………。」

 

 

アローネ「(………!

 ……………?

 ()()()()()()。)」

 

 

 カオスの腕をとった瞬間カオスの于での感触に違和感を感じるアローネだったが緊急時ということもあってその違和感を抑え込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「!

 まっ!

 待て!!

 お前らァァッ……!!」

 

 

 ウインドラの雷撃で体が痺れて動けないであろうオリヘルガがカオス達が逃げようとするのを見て声だけ出してそれを止めようとしてくる。

 

 

ウインドラ「悪いがその要望は聞けないな。

 お前達ブルカーンとはどうやら話し合いの席につけそうにないようなんでな。

 ここは一旦退かせてもらうぞ。」

 

 

 カオス達は全員レアバードに乗ると空へと浮上してカーヤの先導で山を下っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「……ッ!!

 ………クソッ!!

 とり逃がしちまったのかよ………ッ!!」

 

 

 追い討ちをかけようとするオリヘルガだったが体が思うように動かないらしく手をフラフラと空に掲げるだけだった。

 

 

オリヘルガ「あ”あ”あ”あ”!!

 畜生!!

 数ヵ月ぶりの餌だってのにクソ!!

 何でこんな………!!

 

 

 これじゃあまた『オリヘルガ………』……ッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート『ナニヲシテイルノダキサマハ……!!

 ナニヲミスミスニガシテイル………!!』

 

 

オリヘルガ「すっ、すみません!!

 急ぎ追撃の部隊を編制して『ソノマエニ』」

 

 

イフリート『コノシッタイノセキニンハトッテモラウゾ?

 キサマジシンデナ……!!』

 

 

オリヘルガ「はっ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………はい…………申し訳………ありませんでした………。」

 

 

 テレパシーで語りかけてきたイフリートの言葉にオリヘルガは全てを諦めたかのように項垂れる。その姿は既に先程までカオス達を圧倒していた時のような勇猛さは感じられなかった。代わりにそこにあったのは絶対的捕食者を前に抗うことを諦めた哀れな弱者の姿しかなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローダーン火山 麓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「あっ……!

 カオス達だ!」

 

 

タレス「どうやらブルカーンと接触する前に連れて戻れたようですね。」

 

 

 レアバードで下山するとそこにはカオス達を待つミシガンとタレスの姿があった。

 

 

ウインドラ「なんとか二人を連れ出すことができた。

 もう少し遅ければ二人はシュメルツェンに連れていかれるところだった。」

 

 

ミシガン「え!?

 もうブルカーン族に会ってたの!?」

 

 

アローネ「えぇ………、

 ですが彼等とはどうにも話が通じないようでして戦いになってしまって私達は………。」

 

 

カーヤ「結構危ない状況だった………。

 でも二人とも助け出すことができた………。」

 

 

ウインドラ「カーヤのおかげだな。

 カーヤがいち早くカオス達が山を登っていたことに気付いてな。

 俺達もブルカーン族に襲われたから下山してお前達が来るのを待っていたんだ。」

 

 

カオス「ウインドラ………ミシガン………タレス………カーヤ………、

 ………久し……………振り………。」

 

 

 息絶え絶えにカオスが四人へと挨拶をする。

 

 

ミシガン「!

 う、うんそっちも久し振りだけどカオスどうしたの!?

 怪我してるよ!?」

 

 

アローネ「!

 そうでした!

 ミシガン!

 急ぎ応急処置を行います!

 手伝ってください!」

 

 

 アローネ達は皆でカオスをレアバードから下ろして寝かせて傷口に治療術を施す。するとカオスの調子もあんていしてきた。

 

 

カオス「…ッ…………………、

 ………………ふぅ………有り難う二人とも。」

 

 

ウインドラ「…どうだった?

 ブルカーン族は。

 かなり腕の立つ連中だったろう?

 俺達が山を登っていった時も同じように手痛い歓迎を請けた。

 カーヤが追い返していなかったら俺達も同じように連れていかれてただろう。」

 

 

タレス「連中は相当な強さです。

 カーヤさんのスピードにも対応してきてすぐには追い返すこともできませんでしたから。」

 

 

カオス「………強かったね………。

 俺も本調子でないと相手にならなかった………。

 ………あれ程の実力者がブルカーン族に沢山いるとなると強引に突破してレッドドラゴン………………イフリートだけ倒すってのも無理な話だし………。」

 

 

 オリヘルガの様子からブルカーン族とはまともな交渉すらできそうになかった。途中のイフリートの会話からもカオス達に敵対するのは部族全体の総意ともとれる。

 

 

タレス「一度何か良案を考えなければいけませんね。

 シュメルツェンに入ることすらままならないのではヴェノムの主討伐どころの話ではありませんよ。」

 

 

ミシガン「なんか凄いおかしなことになってるよね………。

 フリューゲルで精霊イフリートがブルカーンを纏めてるって話だったけどそのイフリートがヴェノムの主だったなんて………。」

 

 

ウインドラ「奴等はイフリートの十僕と化しているようだな。

 イフリートも手強い相手だと思うがそれよりも先ずブルカーンの奴等をどうにかしないとならん。

 奴等の戦闘能力ははっきり言ってバルツィエ以上だ。

 俺達の中で奴等に対抗できるとしたらカーヤと………、

 ………調子が良いときのカオスくらいかものだがカオスはまだ体調が戻った訳じゃないだろ?」

 

 

カオス「えっと………、

 ………………うん………。」

 

 

 ウインドラの質問にカオスは()()()()()()()()()()()()返事をする。

 

 

 

 

 

 

アローネ「…!

 カオスは何か袖の中に入れているのですか?」

 

 

カオス「!!」

 

 

ミシガン「袖の中?

 何で?」

 

 

アローネ「あのオリヘルガと呼ばれていた男性から逃れる際にカオスの腕に触れたのですが何やら硬い感触がしたので気になりまして………。」

 

 

ウインドラ「硬い感触?

 籠手でも入れてるのかお前。」

 

 

タレス「?

 カオスさんが籠手を装備しているところなんて見たことありませんけど………。」

 

 

アローネ「いえ………、

 あの触感は籠手ではなかったような………、

 けど人の腕の感触でもなくて石に近い何かだと思うのですが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………黙っていてもいつかばれるよね………。

 俺も信じられないことが起こってるんだけど………。」

 

 

カーヤ「信じられないこと?」

 

 

 

 

 

 

カオス「………」グイッ

 

 

 カオスは右腕の袖を捲ってみせる。捲る直前は皆普通の腕が出てくると思ったのだが袖から出てきたものは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ「「「「「!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの袖から出てきたものは人の腕………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ではなく灰色の人の腕の形をした石であった………。



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刻一刻と迫る彼の終わり

ローダーン火山 麓 残り期日十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「どっ、どうしたんだ………?

 その腕は………。」

 

 

 カオスの灰色の腕を見てウインドラがそう言葉を投げ掛けた。

 

 

カオス「………分からない………。」

 

 

ミシガン「分からないって………それいつからなの………?

 いつからそうなったの………?」

 

 

カオス「………ついさっきかな………。」

 

 

タレス「さっき………?

 ブルカーン族に何かされたんですか………?」

 

 

カオス「いや………アイツは関係ないと思うよ………。」

 

 

ミシガン「じゃあどうして………?」

 

 

 カオスの右腕は完全に人の肌の色を失っていた。塗料など色を塗り替えたとかではなく腕そのものが灰色であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………もしやカオスのシャーマンとしての器の限界が近いのでは………?」

 

 

 

 

 

 

 アローネがカオスの腕を見てそう告げた。

 

 

ウインドラ「器の限界が来たと言うのか………?

 何を切っ掛けにそんな………。」

 

 

アローネ「カオスのシャーマンとしての器はアルターでお聞きの通り非常に優れたものであることは皆も聞いているでしょう。

 カオスは代々器の限界を高めてきたアインワルドの巫女を凌ぐほどの器としての能力を秘めています。

 

 

 

 

 

 

 ですがいくら性能が高くとも()()()()()()()()()限界は必ず存在するのです。

 それが先のアンセスターセンチュリオンとの戦いで急速に早められた………、

 ………いえアンセスターセンチュリオンとの戦いではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが主な原因でしょう。

 このままではカオスは………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 アローネが言わずともその先は分かる。このまま時間だけが経過すればカオスの体は全身が石の体と化してしまう。それがどの瞬間に訪れるかは定かではないがこうなった原因は恐らくマナの乱用によるところだろうことは理解できる。

 

 

 カオスはもう戦いに参加することはできなくなってしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………………これからどうするの………?

 またあそこに戻る………?」

 

 

 カーヤが顔を向けた先には大きく聳え立つローダーン火山。その頂上を越えた先にはブルカーン族が住まうシュメルツェンの街とヴェノムの主にしていまやブルカーン族を束ねるイフリート。争いを避けずにはイフリートの元へは辿り着けない。

 

 

アローネ「………今後のことはまだ情報が少なすぎて先に進むのは待った方がいいでしょう。

 それにカオスのこともありますし迂闊な行動は慎むべきです。」

 

 

ウインドラ「ブルカーン族………、

 今回の例は今までとは全くもって()()だな。

 他の部族のところの主達はそれぞれ部族が主に直接被害を被っていたからすんなりと主と戦うことができていたがここではブルカーン族が主討伐を妨害してくる。

 頭が痛くなってくる案件だな。

 奴等は主を強くして他の部族やバルツィエにぶつけるつもりのようだ。」

 

 

ミシガン「ブルカーンって前までは他の部族と一緒でバルツィエに敵わなかったんでしょ?

 主はともかくバルツィエはあんなのにどうやって戦いを挑んでたの?」

 

 

タレス「ブルカーンの強みは好戦的で接近戦術に関してはスラートに比毛をとらないところなんです。

 接近戦ではバルツィエも勝つことは難しい相手です。

 

 

 ただ魔術に限っては他の部族ともそんなに大差はなくスラートと対峙した時は一対一での戦闘なら手数で勝るスラートに軍配が上がっていたという話があるみたいで絶対的に強いという訳ではなかったみたいですよ。」

 

 

ウインドラ「最終的にはやはり遠くからの魔術による攻撃で押し負けていたのだな。

 規模に差がない軍隊同士がかち合って武術ではやや僅差でブルカーンが魔術では圧倒的な力を持つバルツィエが優位となれば必然的に総合力はバルツィエの方が上になるな………。」

 

 

 戦いにおいて勝利を勝ち取る鍵は敵との友好的な戦い方を行うことだ。ブルカーンやスラートはバルツィエに劣らぬ近接戦闘技術を有してはいるがどんな状況であっても敵と相対する時は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。バルツィエがダレイオスとの戦いに勝ってきたのはそういう理由からだ。ダレイオスの民達は自分達の戦いをさせてもらえなかった。そこへヴェノムまで現れて国は崩壊した。

 

 

ミシガン「…ここのさぁ………、

 ヴェノムの主討伐………私達だけじゃ流石に厳しいんじゃない………?

 スラートには全部族を再結集させようって話されたけどあの感じだとブルカーンは私達に協力してくれなさそうだよ?

 それどころか私達の邪魔してくるしなんなのアレ………。」

 

 

タレス「ヴェノムの主の前にブルカーン族をどうにかしないといけませんね………。

 あんなふうに立ちはだかれてしまっては戦って押し通るしかありませんけど一人二人ならまだしもブルカーン族総出で向かってこられては太刀打ちできません。」

 

 

カーヤ「…だったら他の部族の人達に手伝ってもらったら………?

 他の部族の人達はカオスさん達に協力してもらう予定なんだよね………?

 スラートの人達とかならブルカーンにも勝てるって言うし………。」

 

 

ウインドラ「是非ともそうしたいところなんだがな………。

 他の部族達は今ダレイオス大陸の東の方でマテオとの決戦準備中なんだ。

 この地は真反対のダレイオス大陸の西の最端手前で最寄りの部族のフリンクとアインワルドの二つなのだが彼等も今頃はスラート、ミーア、クリティアに合流しようとしているところだろう。

 援軍は要請できない状況だ。

 

 

 俺達()()()()()どうにかこの状況を潜り抜けなければならない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………五人………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラは確かに今五人と言った。しかしこの場にいるのは六人であって言い間違えたのかとも思ったが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………カオス…………、

 やはり今回の討伐にお前は参加させることはできない………。

 そんな体になってしまった以上はお前は………、

 

 

 どこか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あとのことは俺達に任せろ。

 お前に任せっきりだった分俺達もそろそろしっなりとしないとな。」



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オリヘルガの兄

ブルカーンの住む街 火精霊の祠

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート『………ヨクワシノモトヘトカオガダセタナ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガ……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピリピリピリ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………ィッ………!?」

 

 

 オリヘルガがいるのはシュメルツェンの街の中にあるローダーン火山の側面に精霊イフリートを祀るために作られた洞穴で彼は今自らをイフリートと自称するレッドドラゴンからお叱りを受けていた。

 

 

イフリート『ワシハキャツラヲイカシテツレテコイトモウシタハズダガナ………?

 ニガセトハモウシテオランゾ………?

 ンン?』

 

 

オリヘルガ「もっ、申し訳ありません………!

 奴等が先の四人組と繋がっていたらしく助太刀に入るとは思わず『ミグルシイイイワケヲスルナッ!!』!?」

 

 

イフリート『ワシガキキタイノハソウイウコトデハナイ!!

 ワシガキサマニモウシテイルノハコノセキニンヲドウツケルカダ!!

 

 

 キサマタチハ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?

 ワシハソレヲウケイレタ!!

 キサマタチヲミノガスカワリニキサマタチノカワリニナルベツノショクリョウヲヨウイスルヨウニメイジタ!!

 ソノショクリョウノキョウキュウガトドコオレバワシハキサマタチブルカーンノナカカラヒトリズツワレノショクリョウトナルモノヲサシダセトモイッタ!!

 

 

 

 

 

 

 ………キョウデモウソノキョウキュウガトドコオッテトオカニナルガ………?

 ワシモソロソロキサマタチブルカーンノニクニハアキテキタトコロダガゼニハラハカエラレン………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キサマガワシノショクリョウトナルカ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ…………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「かっ、覚悟はできております………!!

 私の命で我が部族の民が生きられるのなら私は喜んでこの命を貴方様に献上致しましょう!!

 どうか私の命だけでもう暫しお待ちください。

 奴等は他の者に全力で捕らえさせますのでこれでご慈悲を………。」

 

 

 

 

 

 

イフリート『………イイココロガケダ………。

 コンカイハキサマノカラダデガマンスルコトニシヨウ………。

 

 

 サァコッチヘ「お待ちください!」』

 

 

 イフリートがオリヘルガを手にかけようとした瞬間その部屋の入り口からそれを止める声が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「お待ちくださいイフリート様!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート『………ナニヨウダ?

 ギラン………。』

 

 

オリヘルガ「兄貴………!?

 何しに来たんだよ!?」

 

 

 突然の来訪者にオリヘルガとイフリートは視線を向けてその意図を追及する。

 

 

ギラン「今度の我が愚弟の失態は身内である私の責任です。

 私が獲物達に接近を感ずかれないように単独で向かわせたことが獲物を取り逃がす直接的な要因です。

 せめてあともう一人オリヘルガに同行させておくべきでした。

 そうすれば獲物を全員逃がしてしまうなどという失敗は起こり得ませんでした………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ですから愚弟ではなく私をお召し上がりください。」

 

 

 オリヘルガを愚弟と言うギランと呼ばれた男はイフリートに自分がオリヘルガの代わりになると告げる。

 

 

オリヘルガ「!!?

 なっ、何を言ってるんだ兄貴!!?

 俺がミスッた仕事だ!!

 責任は俺にある!!

 ここは俺が死ぬべきなんだ!!

 兄貴は引っ込んでろよ!!」

 

 

ギラン「それはできないなオリヘルガ。

 お前は部族に必要な人材だ。

 お前を失うことだけは部族の大きな損失だ。

 お前をここで失う訳にはいかない。

 お前は将来ブルカーンを率いる長となるのだから。」

 

 

オリヘルガ「そんなの兄貴がやればいいだろうが!!

 俺みたいな馬鹿がやるよりかは部族で一番強くて頭もいい兄貴が皆を仕切っていけばそれで万事上手くいく話だろ!!?

 兄貴が死ぬことなんてねぇ!!」

 

 

ギラン「私には皆を率いる器は無いよ。

 力や頭脳だけでは皆はついてこない。

 お前のように皆のことを考えられるような者が長には必なんだ。

 私は自分のことだけで手一杯で皆のことを気にかける余裕なんて無かった。

 お前のように皆からの人望がある者がこれからのブルカーンの時代には必要されてくる。

 そんなお前のためなら私はこの命惜しくはないよ。」

 

 

オリヘルガ「兄貴ィ………!!

 止してくれよ………!

 俺は兄貴を犠牲にしてまで生き延びたくなんて………!!」

 

 

ギラン「私も同じだ。

 両親が亡くなってから私にとっての唯一の肉親はオリヘルガお前一人だけなんだ。

 お前は私よりも若い。

 若いお前が私よりも先にこの世を去ることなど生意気だぞ?

 先に逝くのは兄貴である私の特権だ。」

 

 

オリヘルガ「そんな特権捨てちまえよ!!

 寿命で死ぬならともかくこんなんで兄貴を殺すことなんてできねぇ!!

 ここはやっぱり俺が「話は終わりだお前は下がれ。」兄貴!!?」ドンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート『………キサマガカワリニワシノショクリョウトナルノカ?』

 

 

ギラン「はい、その通りでございます。

 弟よりも私の方がイフリート様も美味しく召し上がれると思います。」

 

 

イフリート『………フンッ………、

 ドチラデモカマワヌ。

 ワシハコノハラガミタサレレバソレデ。』

 

 

ギラン「…最後に私からお願いがあります。

 どうか私めの命で何とぞ同胞達に猶予の時間をいただけませんでしょうか?」

 

 

イフリート『ワカッテオル。

 ワシモキサマノマナヲキュウシュウシオエルノニジカンガカカルカラナ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガ、

 トオカダ。

 トオカイナイニヤツラゼンインヲツカマエテワシノモトヘトツレテコイ。

 ワカッタナ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「…はっ………ははぁ!!」

 

 

 地にひれ伏すオリヘルガ。カオス達を圧倒した戦士とはとても思えない姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート『………デハサガレ………。

 ソシテオマエハ………。』

 

 

ギラン「えぇ、

 既にこの心は決まっております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつでもどうぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バグンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………クソッ!!

 クソがぁぁぁぁっ!!!

 俺の………!

 俺のせいで兄貴がぁぁぁぁぁ………!!!

 アアアアァァァァァッッッ!!!

 どうして!!

 どうしてこうなるんだよ!!!」

 

 

 兄ギランの最期は呆気ないものだった。最期までギランは泣き言も言わずにイフリートの口の中へと納まっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「(………どうして………!

 どうして兄貴が俺なんかの身代りに………!!

 俺が奴等を捕まえておかなかったから!!

 俺のせいで兄貴が食われちまった………!!

 ………一体どれだけ食い尽くすつもりなんだよあの怪物は!!

 もう街の奴等も半分はアイツに食われちまったぞ!!?

 この先アイツの腹が満たされることなんてあるのか!!?

 ないだろ!!?

 アイツの食欲が止まることなんてあり得ない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だがアイツに従い続けるしかブルカーンが生き延びる方法はねぇ………。

 俺達の代わりに他の誰かを食わせ続けねぇとブルカーンが全滅しちまう………。

 あんな人並みの知能を持ったドラゴンになんかバルツィエも敵う訳がない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そうして俺達ブルカーンはアイツが世界中の生き物を食い尽くすまでの間は生き延びられる………。

 もうそうするしか俺達には選択肢はねぇんだよ………。)」



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どうしても一緒にいたくて

ローダーン火山 麓 夜 残り期日十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ご飯作ったけど皆食べる?」

 

 

ウインドラ「ん………?

 そうか………。」

 

 

ミシガン「何作ったの?」

 

 

カオス「シチューだけど………。」

 

 

タレス「シチュー………ですか……… 。」

 

 

ミシガン「こんな蒸し暑いところでシチューって………。」

 

 

カオス「あっ……おかしかったかな………?」

 

 

ウインドラ「あまり温暖な気候の地で摂取する食物ではないな。

 結構多目に作ってるようだがこの気温と湿度では一日も持たずにいたむぞ?」

 

 

カオス「ご、ごめん………。

 俺そういうの分からなくて………。

 料理とかは普通にできるんだけど暑いとか寒いとか感じにくくて………。」

 

 

アローネ「ウィンドブリズ山でもそのようなことを仰っておりましたね。」

 

 

ミシガン「てかその腕で料理できたんだ?」

 

 

カオス「う、うん………、

 肘は動かしにくいけどまだ指の方は動くみたいだから………。」

 

 

ウインドラ「そんな無理して料理を作ることもないんだぞ?

 それくらいのことなら俺達で準備できる。

 お前はどこかめぼしい安全地帯を見つけてそこで休んでるといい。

 今はカーヤがそれらしい場所を探しているんだ。

 安静にしておけ。」

 

 

カオス「………うん………。」

 

 

 そう注意されるカオスであったがそれでもどこか落ち着かない仕草で辺りを見渡す。

 

 

タレス「………カオスさん………何をそんなにソワソワしてるんですか?」

 

 

カオス「え!?

 べっ、別にソワソワなんて俺はして「してるじゃないですか。」」

 

 

アローネ「…腕が痛むのですか?

 落ち着かないご様子なのはその石化してしまった腕に原因があるのではないですか?」

 

 

カオス「………腕は関係ないよ………。

 痛くもないし触ってみても何も感じないから………。」

 

 

ウインドラ「……こんなことを訊くと気を悪くするかもしれんが………、

 

 

 ……やはり不安なのか………?

 アインワルドの歴代の巫女達もその様に体が石化していったというしお前も………。」

 

 

 カオスの腕の石化はアルターで見てきた歴代巫女達の石像と同じだ。巫女達の石像は作り物などではなく紛れもなく元アインワルドの巫女そのものだ。彼女達は精霊が憑依することによって常人にはない力を得たのだが一つの肉体に二つの魂が宿るというアンバランスな共存状態に肉体がついていかずどういう原理なのかは定かではないが石化してしまう。

 

 

 石化は即ち死である。精霊が肉体に憑依し続ける限り石化の運命は避けられないのだが使命感の強いアインワルドの巫女達は巫女が石化する度に新たな巫女を設け精霊ラタトスクを憑依させてきた。世界の核とも呼ぶべき存在世界樹カーラーンを守るために。

 

 

 カオスの石化は殺生石の精霊マクスウェルが憑依しているために起こってしまった。人の数百倍から数万倍にも及ぶマナを蓄え続けても限界が見えなかった彼のマナの貯蓄はとうとうアルターにて限界が見えてしまった。精霊マクスウェルはダレイオスからヴェノムを排除する代わりにカオスの中から出ていくことを約束した。しかしそれが叶わなければ世界を破壊するとも言った。後残り二十日未満の間にカオス達は決着をつけなければならないのだがその前にカオスの体が無事であるかが懸念される。

 

 

 

 

 

 

カオス「……別に死ぬことは怖くないよ…。

 ずっと前から俺は自分が生きているべきなのか疑問だったし十年前のあの日にどうして自分が死ななかったのか悩んでいた時もあったし………。」

 

 

ウインドラ「お前………。」

 

 

カオス「もし俺が完全に石になったとしてもその時自分の意識がどうなるのかも不謹慎だけど興味があったりする。」

 

 

ミシガン「そんなこと………そんな普通のことのように言わないでよ………。」

 

 

カオス「本当のことだよ。

 俺は死ぬことなんか気にしてないからそんなに深く捉えないでいいから。」

 

 

タレス「いやでも………。」

 

 

カオス「…こんな話じゃなくてこれからイフリートをどうやって倒すかが重要じゃない?

 作戦を立てるなら俺がいても「誤魔化しても無駄ですよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「貴方のそれは本心ではありませんよね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………どうしてそう思うの?」

 

 

アローネ「ずっと貴方を見てきましたから………。

 私達に心配をかけないようにそう強がっているだけですよね?

 貴方は私達と話をする時絶対に御自身の本音を口にしないようにして上手く会話を流そうとします。

 本当は貴方も死ぬのは怖いのではありませんか?」

 

 

カオス「…怖くないって言ってるだろ?

 何を言い出すんだよアローネ。」

 

 

アローネ「正直に答えてください。

 死を恐れぬ人などいません。

 死は全ての生き物が最も忌避する究極の痛みです。

 私も自分が死ぬのは恐い。

 ここにいる皆も同じ気持ちでしょう。」

 

 

 

 

 

 

タレス「まぁ普通の感情ですよね。」

 

 

ミシガン「死んじゃったらそれで終わりだしね。」

 

 

ウインドラ「死というのはそこから先の未来が闇に閉ざされた世界だと言われている。

 永遠の闇………できることならそんな世界には行きたくないものだな。

 何百年も何千年経とうとも………。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「これが皆の素直な感想です。

 死は誰しもが平等に持ち、叶うのであれば自分の死は限り無く遠い未来へと先伸ばしにしたいと誰もが願います。

 死を恐れることは当たり前で恥ずべきことでもありませんよ。」

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「………ですがカオスの心は自身の死の可能性について恐怖しているのではありませんよね?

 貴方が脅えていることは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………、

 ………そのことが気掛かりなのではないですか?」

 

 

カオス「………俺は………そんなこと………。」

 

 

アローネ「………これだけ長く共に旅をしてきたと言うのに私の言葉は信じられませんか?

 私達は貴方がどうしたいか、それをお訊きしたいのです。

 それをお訊きしなければ私達がイフリートを倒すまでカオスをどこか安全な場所へとお連れして待機してもらうことになりますよ?」

 

 

カオス「そっ、それは………。」

 

 

アローネ「………………カオス、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠慮せず貴方の本心を私達にぶつけてください。

 私達は貴方の想いを受け止めますから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……本当は……死ぬのはとても恐い………。

 体中が石になって死ぬなんて今まで聞いたことがなかった………。

 俺がこれ以上無茶をすればどんどん体が石になっていく………。

 俺はそんなの嫌だ………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………けどそれよりも俺は()()()()()()()()()()()()()………!

 アローネ達と旅をする前までは一人なんて普通のことだったのに今になって皆と離れるのが恐ろしくてたまらない………!!

 皆に置いていかれるって思うと体の震えが止まらないんだよ………。

 だけど俺が皆についていっても俺は戦うことなんてできないし皆の足手まといにしかならない………。

 俺は皆についていかない方がいいことは分かってるんだ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけどそれでも俺は皆と一緒にいたい………!!

 例え俺が石化して死ぬことになったとしても俺は皆の側に居続けたい!!

 もう一人に戻るのは嫌なんだ!!

 もう一人のあの頃に戻るのはどうしても………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「やっと気持ちを吐き出すことができましたね………。」

 

 

カオス「アローネ………、

 俺は皆についていっちゃ駄目………かな?」

 

 

アローネ「………皆はどうでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「ボクは構いませんよ。

 どうにもカオスさんがいないとしっくりこないですし。」

 

 

ミシガン「カオスの珍しい我儘だからね!

 こりゃ聞いてあげないといけないでしょ!」

 

 

ウインドラ「お前がそう望むのなら俺はお前の盾となるだけだ。

 お前一人くらいいたってどうってことはないさ。」

 

 

カオス「皆……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオスは慎重過ぎますよ。

 親しい人と話をするときくらいはもっと自身の意見をハッキリ伝えるべきです。

 そうしないと先へと進まないことだってあるのですから………。」



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ならば共にいざ行かん、最後の大砦へ

ローダーン火山 麓 残り期日十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからカーヤも戻ってきて時間帯も遅くになってしまったため翌日の今日今後どうするかを話し合うことになった。

 

 

アローネ「状況を見ますとイフリートはブルカーンの街シュメルツェンのどこかにいるということで間違いないのですね?」

 

 

ウインドラ「そのようだ。

 俺達も共鳴が使えるようになってある程度離れた場所にいる生物のマナも感知できるようになった。

 その結果イフリートはシュメルツェンの中………、

 より性格にはシュメルツェンから入れる火山の内部にいることが判明した。」

 

 

ミシガン「カーヤちゃんにも確認してもらったから確かな情報だよ。」

 

 

カーヤ「うん………、

 カーヤが近くまで飛んで調べたから確実………。」

 

 

カオス「シュメルツェンまで行ってきたの?

 迎撃されなかった?」

 

 

カーヤ「攻撃はされたけどカーヤには火の魔術は効かないから。」

 

 

タレス「ブルカーンは接近戦ではカオスさんやカーヤさんに匹敵する剣撃を浴びせてきますが遠距離の攻撃は火の魔術に限定されるようです。

 空から偵察するだけなら問題なく行えるでしょう。」

 

 

ウインドラ「現状では偵察止まりな訳だがここからどうやってブルカーン族に邪魔されることなくイフリートと対峙するかだな。

 ブルカーン族がイフリートの影響下にある以上シュメルツェンに侵入すれば必ずブルカーンとぶつかることになる。

 奴等に囲まれてしまえば捕らわれてしまうのは確定だ。

 それではイフリートと戦うどころではない。」

 

 

アローネ「捕まってしまえば拘束されてイフリートの元へと連行されるでしょうがそれでは戦闘どころではありませんね。

 私達がただイフリートに殺されてしまうだけでしょう。」

 

 

ミシガン「イフリートが火山の中にいるのならそこに突撃して入り口を塞いじゃえばいいんじゃない?

 そしたら私達とイフリートだけの空間が作れるよ?」

 

 

ウインドラ「入り口を塞ぐとは天井や壁を破壊して塞ぐという意味か?

 それだと俺達が出られなくなるぞ?

 第一入り口を塞いでしまったら逃げ場のない場所で最強種レッドドラゴンと戦闘を行わなければならなくなる。

 カイメラの咆哮程じゃないにしろドラゴンは強力なブレスも使ってくる。

 攻撃をかわせないような場所での戦闘はなるべく避けたい。」

 

 

タレス「どうにかしてイフリートを外へと誘き出せればいくらでもやりようはあるんですけどね………。

 上空を飛んでも姿を現さないとなると外へと誘導するのは難しそうですね。」

 

 

アローネ「ブルカーン族の人達を利用して食料となるものを集めさせているとなるとイフリートは今の居場所から動くことはなさそうですね。

 自ら狩りには出向かずにブルカーンに獲物を運ばせる。

 ………意図してのことではないと思いますが私達にとってはそれがとても今回の討伐の達成を困難にしている………。

 何かイフリートとブルカーンを両方相手にしてイフリートのみを討つ作戦を計画しなくてはなりませんね。」

 

 

カーヤ「ブルカーンも一緒に倒せばいいんじゃないの?

 ブルカーンは一緒にバルツィエと戦ってくれそうにないんでしょ?」

 

 

ウインドラ「安易にブルカーンを手にかけると連中と本格的に戦争になるぞ。

 俺達の狙いはイフリートのみだ。

 イフリートを倒したらこんなところはさっさと離れた方がいい。

 連中の恨みを買うようなことは避けよう。

 連中は執念深そうだ。」

 

 

タレス「でもイフリートを倒してもそれは同じことが言えるんじゃないですか?

 彼等がイフリートと呼ぶヴェノムの主は本物ではないようですけどそれでも主を本物のように扱っているとすればイフリートを倒そうとするボク達は彼等にとっては許しがたい敵でしょう。

 ブルカーンのイフリート信仰は伊達ではありませんからいざって時にブルカーンが本気でボク達を排除しようとしてくれば応戦するしかないですよ。」

 

 

アローネ「なるべく被害を少なくしてここを去りたいですね………。

 正面からぶつかればこちらも負傷を覚悟せねばなりませんから主との対決の前に消耗してしまっては主を討つこともままなりませんし………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブルカーン側は部族全体でイフリートに従いイフリートの敵となるものを攻撃してくるだろう。シュメルツェンに近付いただけでも手荒い歓迎を受けたのだ。ブルカーンのイフリートへの忠誠心は本物だ。イフリートを討つのであればブルカーンがそれを止めに入る。不用意にシュメルツェンへと足を踏み入れれば袋叩きにあうことは目に見えている。そうならないようにイフリートの元へと辿り着きイフリートを倒すにはどうすれば良いのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………隙を伺うしか手はありませんね。

 次はカーヤと共に私も偵察に向かいます。

 上空からシュメルツェンへの侵入経路を探して来ます。」

 

 

 今カオス達にできることは偵察しかなかった。昨日今日だけではまだこれからどう攻めるかを決定することはできない。カオス達には情報が少なすぎるのだ。

 

 

ウインドラ「お前が一緒に行くのは構わないがブルカーンは火の魔術を飛ばしてくるぞ?

 お前は火を無効化できないだろう?

 撃ち落とされて捕虜にでもなれば状況は益々悪化する。

 どうするつもりだ?」

 

 

アローネ「一度カーヤがシュメルツェンの上空を飛行してみたのですよね?

 でしたら次の偵察では狙撃されることはないと思います。

 火の攻撃では撃ち落とすことが出来ないということを彼等も学習している筈ですから。」

 

 

タレス「相手の先入観に訴えた作戦ですか………。

 ブルカーンがそれでも撃ってきたら危険ですよ?」

 

 

アローネ「…その時はどうにか「俺が一緒に行くよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「俺が一緒ならアローネが撃ち落とされることもないでしょ?

 攻撃は全部俺が受けるから。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオスが攻撃を………?」

 

 

ウインドラ「確かにカオスなら魔術による攻撃は効かないだろうが………。」

 

 

ミシガン「手は平気なの?

 空飛ぶのって結構揺れるから振り落とされたりしない?」

 

 

カオス「大丈夫だよ。

 アローネの運転は荒くはないから俺が落ちる心配もないよ。

 俺が付いている限りはアローネが撃ち落とされることはないから。」

 

 

アローネ「……カオス………。

 宜しいのでしょうか………。

 貴方をまるで盾のようにしているみたいで気が引けますが………。」

 

 

カオス「今の俺にはこれくらいしか出来ないからね。

 行こうよ俺とアローネで。」

 

 

アローネ「………えぇ、

 分かりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宜しくお願いします。

 その代わりにカオスのことは私が守りますからね。」



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空から見たシュメルツェン

ブルカーンの住む街シュメルツェン 上空 残り期日十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィィィィィィィィンッ!!!

 

 

カオス「ここがブルカーンの街シュメルツェン………。」

 

 

アローネ「山頂付近にあるというのにかなり広いですね………。」

 

 

 カオス達はレアバードに乗ってシュメルツェンの上空を飛んでいる。地上を移動するとブルカーン族に見付かり捕縛されてしまうからだ。カオス達がこの地方へと足を運んだのは最後のヴェノムの主レッドドラゴンを倒すためなのだがブルカーン族は主を精霊イフリートと称しそのイフリートの命令で近辺の他の部族の地へと赴きイフリートへと捧げる人民を拉致してしまう。カオス達も危うく捕まってしまうところだったがどうにかウインドラとカーヤの働きで事なきを得た。

 

 

 ちなみに空気中には火山灰が漂い視界を塞いでしまうため現在カオス達は()()()()を着用している。カオスがアルターで意識を失っている間に先に進んだウインドラ達が事前にアルターでアインワルド達からシュメルツェンの情報を聞き出しゴーグルを手に入れていたようだ。

 

 

カオス「ここの山って火山なんでしょ?

 噴火とかしたらここも危ないんじゃないかなぁ………?」

 

 

 立地的にこのシュメルツェンはローダーン火山の噴火口近くに場所を置いている。灰が漂うことから噴火自体も定期的に起こっている筈だが………、

 

 

ウインドラ「噴火したとしても噴出する火砕流や溶岩は必ずしも街よりも上の火口部から流れ落ちてくるとは限らない。

 このローダーン火山の至るところに山頂の火口部とは別にいくつかの噴出口が見受けられる。

 噴火の際の衝撃がそれで和らげられているんだろう。

 溶岩が流れてきた時は川のように溶岩のルートを形成して街の中に流れてこないように工夫が施されているらしい。

 それと建物は木材等ではなく溶岩でも溶けない素材が使用されていて強度も高く噴火によって発生する地揺れにも対応してあるようだ。

 ブルカーンの連中はそういった()()()()()()()()秀でた部族のようだしな。」

 

 

 カオスが抱いた疑問にウインドラが軽く解説をする。人やモンスターが住みにくい環境でブルカーンがどのように自然災害な対応しているかがその説明で判明する。

 

 

アローネ「ざっと見る限り真っ黒な建物ばかりでどこにイフリートが駐在しているのかが分かりませんね………。

 レッドドラゴン程の大きさの生物が出入りするのであれば直ぐに見付かりそうなものですけど………。」

 

 

カーヤ「でもここからでも感じる………。

 ここのどこかに何か大きなモンスターがいる気配を………。

 ここにいるのは絶対だと思う………。」

 

 

ウインドラ「カーヤでも正確には場所の特定は難しいか………。

 レッドドラゴン程の大型の生物が入れそうな場所といったらもう火口しか見当たらないが火口部からは人が侵入できそうな経路は見受けられない………。

 やはりこの街のどこかにレッドドラゴンがいる場所まで続く()()()()()()()が作られていると思うのだが………。」

 

 

 カオス達の目的はイフリートの討伐のみ。イフリートと接触することができればイフリートを倒すだけなのだが一見するとシュメルツェンはイフリートが潜んでいそうな場所はどこにもなさそうである。ウィンドブリズでカイメラの変身形態の一つであったレッドドラゴンの姿からは最低でも二十メートル程の大きさの洞窟のようなものがある筈だがそんな空洞はシュメルツェンには無かった。そうなるとイフリートは火口部から出入りをしていることになるが………、

 

 

ウインドラ「どうにかイフリートを火山の内部から引きずり出せれば楽な話なんだがな………。

 地上へと引きずり出してしまえばあとは攻撃を加えて倒すだけになるが………。」

 

 

アローネ「そうしますと火口部からイフリートが出てきそうな場所へと魔術を発動してイフリートを外へと誘い出す………、

 ですが外へと出てきますとイフリートが空へと飛び上がるでしょう。

 あの大きさでもグリフォンやバタフライのように空での活動も可能のようですから空へと舞い上がられると逆に私達の方が不利に繋がるかもしれません。」

 

 

カオス「どこで戦っても分が悪い戦いになるってことだね。」

 

 

アローネ「えぇ、

 私達が敵にしているのはそういう相手ですから………。」

 

 

ウインドラ「地形の利は常に彼方の方が優位………。

 地上であろうと洞窟内部であろうと空中であろうと俺達が逆境に立たされているのに変わりはない。

 

 

 そしてここでのことに関してだけはこれまでのように数の利と人とモンスターとの知性の差ですらも話にならない。

 生物最強の戦闘能力に加えてカズでも此方が負けている。

 イフリートを相手にした途端俺達には良いところ無しだな。」

 

 

 作戦を考えようとすればするほどイフリートを倒す過程で問題が生じ難易度が格段に上がっていく。ブルカーン族が協力的であったのならイフリートの対策を寝るだけなのだが残念なことにそれは叶わぬ希望だ。今のところはどうしても()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだけがどうにもならない。

 

 

 

 

 

 

アローネ「………今日はこの辺りで引き返して街の見取り図を作成しましょう。

 いつまでも見下ろしているだけでは何も思い付くことはないでしょうし。」

 

 

カオス「街の様子を見れただけでも前に進んだよね。

 次はこのあとどうするかだけだ………。」

 

 

ウインドラ「今言えることはまだ攻めるべき時ではないということだけか。

 無策に突撃しても返り討ちにされるだけだろうな。」

 

 

カーヤ「…いっそのこと山を崩してイフリートを生き埋めにしたら………?」

 

 

アローネ「それは………、

 ………実行したとしてもヴェノムであるイフリートには大した結果は得られないでしょうね………。」

 

 

ウインドラ「クラーケンの時のように何でも無かったかのように地上へと這い上がって来るだけだろう。

 

 

 それに火山に刺激を与えることも避けたい。

 下手なことをして火山が大噴火を起こせばここだけでなく隣のフリンク領とアインワルド領まで影響を及ぼしてしまう。

 地層深くで蠢くマグマが勢いよく噴出されればどこまで届くのかは誰にも分からない。

 自然には迂闊に手をつけるべきではないんだ。」

 

 

カーヤ「…そう………なんだ………。」

 

 

 

 

 

 

カオス「何にしてもここにいるだけだとそろそろブルカーンが何かしてくるだろうしタレスとミシガンのところに戻ろう。

 作戦を立てるのはそれからだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達四人はまた山を降りることにした。幸いブルカーン族から魔術で狙撃されることもなかったため今日は何事もなく下山できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………あいつらのせいでギラン兄貴が死んだ………………。

 今に見てろよ………。

 必ずお前らを生け捕りにしてやるからな………。」



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カーヤが感じ取った気配

ローダーン火山 麓 夜 残り期日十八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………が………で………。」

 

 

ウインドラ「………では………だ?」

 

 

タレス「………だと………ですよ………?」

 

 

ミシガン「………?

 ………じゃない?」

 

 

カオス「………けど………だよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤはカオス達がシュメルツェンへの潜入を試みる作戦を計画している傍ら一人離れたところでそれを眺めていた。カオス達が話しあっている会話の内容はカーヤが理解するには難しくとても意見など出せる様子ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「(………寂しいな………。)」

 

 

 カーヤにとってカオス達はフリューゲルという地獄から救いだしてくれた恩人達だ。彼等のために何かしたいとは思うが自分に出来ることと言えば彼等の敵となる者を排除することだけだ。そしてその敵となる者はこの場にはいない。彼等のために出来ることは今は何も無かった。この時間がとてもカーヤには閉塞感を感じさせる。

 

 

 自分が彼等の役に立てていない状況がカーヤをより孤独にさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メェェェェ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「メーメーさん………。」

 

 

 カーヤが一人で居心地の悪さを感じていると昔北の山で出会ったマウンテンホーンズの愛称メーメーがカーヤの側へと寄ってくる。彼は出会った当初からカーヤになつきカーヤの孤独感を埋めてくれた。何も知らずに接していた時はこのメーメーとずっと一緒にいたいと思っていたのだが時間が経つに連れて彼の様子が変化し自分の前から姿を消した。自分を守るためにカーヤの前に現れたレッドドラゴンに立ち向かっていき食われてしまってそこから二度とメーメーに会うことは無くなったと思っていたがカオス達の働きでメーメーは正気を取り戻し再びカーヤの元へと戻ってきた。自分のせいでメーメーや他の主達が出現しダレイオスを窮地に追いやってしまったことはカオス達の話を聞いて知った。だからカオス達のためになるなら自分はどんなことでもしようとは思っている。………が一人では何をすればいいのか分からない。なのでカーヤは付近にカオス達に近付く敵がいないか索敵することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「(………!

 モンスターの気配………。)」

 

 

 カーヤが使える共鳴は近くに迫る生物のマナを感知することが出来る。これを使ってフリューゲルにいた時はフリューゲルに近付くモンスターやヴェノムを追い払っていた。自身がヴェノムの主フェニックスと呼ばれていた時は今は無くした黒い炎の力を使ってモンスター達を狩っていた。黒い炎に触れた生物は急速的にマナが死滅しそのまま虚空へと消えてしまう。それが生物であるならモンスターであろうとヴェノムであろうと関係はなかった。人がフリューゲルに近付いた時は過去の自分が犯した罪の罪悪感もあって人を殺すのは躊躇いその力を使うのは控えていたが今になってあの能力はとても利便性の高い能力であったと自覚する。あの力があればカオス達がこれから倒さなければならないレッドドラゴンも簡単に倒せるのでは………?

 

 

 ………いやそれよりもあの能力さえあれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「(………けどもう使えなくなっちゃったから()()()()()()()()()()()()()()()………。)」

 

 

 もしカーヤにまだ毒撃の力が宿っていればカオスの体に溜まったマナを取り除くことが出来るのではないか、カオスにフェニックスとして対峙した時に牽制のつもりで放った毒撃をカオスは受け止め耐え凌いだ。カオスにならあの毒撃を放っても彼ならそれで死ぬことはない。彼に憑依する精霊が彼の体を守るからだろう。もしまたあの力を使える者が現れたのならそのことをカオス達に指摘してみるのも良いのではないか、カーヤはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「(……………!

 この感じは……………?)」

 

 

 カーヤは自身の共鳴に()()()()()()()があることに気付いた。一つはブルカーン族のような熱い炎のマナの気配ではなく()()()()()()()()()()………、

 

 

 

 

 

 

 そしてもう一つは………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「(…………!?

 このマナは………………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤが感知したマナは見覚えのあるマナだった。数ヶ月程前にこのマナの持ち主はカーヤの前に現れた。現れては何度もカーヤはその人物を撃退した。人の身であったことから命を奪うことはしなかったが実はその人物が自身の出生に関する重要なルーツの持ち主であったことが判明しそれを知った直後はカーヤも涙を流して自身がその人物を長年待ち続けていたことを告げた。

 

 

 

 

 

 

 結果は拒絶の一択であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………どうして………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして()()が………ここに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤが感じ取ったマナはカーヤの父親であるラーゲッツのものだった。カーヤ達がローダーン火山の南の位置にいるのに対しラーゲッツは火山の真東にいるようだった。

 

 

 カーヤは困惑する。ラーゲッツは以前にウインドラによって倒された。ラーゲッツの最期はカーヤもその場にいて看取った。彼が生きている筈が無いのだが………、

 

 

カーヤ「(……パパが生きてる………?

 でもパハはあの時に………。

 

 

 ………………!

 このマナ………よく探ってみたらパパと少し違う………?

 パパのマナに近いけどどこか違う………別の………。)」

 

 

 父親が生きている筈がないともう一度マナを探ると火山の東にいる謎の人物のマナはラーゲッツのようでラーゲッツではない反応が返ってくる。どうやらラーゲッツとは人違いのようだが………、

 

 

カーヤ「(………似てる………。

 この人のマナ………パパのマナと殆ど同じ………。

 こんなに似ている人がいるものなのかな………?)」

 

 

 見つけたマナの感じがラーゲッツとは別人のものであることは分かったがどうにもラーゲッツとは無関係には思えなかった。それほど其の人物とラーゲッツのマナが非常に酷似していたからだ。

 

 

カーヤ「(………どうしよう………。

 カオスさん達に伝えるべきなのかな………?

 でもパパが生きてたなんて言っても信じてくれるかどうかだし………。)」

 

 

 カーヤはラーゲッツに似た特長のマナを持つ者の存在をカオス達に打ち明けるかどうか悩んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして結局カーヤはカオス達には黙っておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「(この人が敵なのかどうか分からないし余計なことを言ってカオスさん達を困らせるのも悪いよね………?)」

 

 

 カーヤは自分で自分を納得させてその人物の追究を止めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後カオス達は以前とは桁違いの力を手にした彼と再び対峙することとなるのだった………。



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ここでの終わり方

ローダーン火山 麓 残り期日十七日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「今日も行くの?」

 

 

アローネ「えぇ、

 まだシュメルツェンの街全体がどの様に成り立っているか把握できておりませんから。

 昨日の一度目と二度目とではまた見えてくるものが違いますでしょうし。」

 

 

ウインドラ「ブルカーンもあれでも他の部族と同じで一つの社会組織体型で形成されている。

 それならブルカーン族にも族長格がいることは確定だ。

 族長格と思わしき者が頻繁に出入りしているところに俺達が探しているイフリートのいる場所への通路があると見て間違いないだろう。」

 

 

タレス「マテオでもダレイオスでもそういった人達の場所と言ったら街全体の中心か入り口からは一番遠い奥の方にありましたよね。

 それを探すんですか?」

 

 

ミシガン「そう何度も何度も街の上なんか飛んで大丈夫なの?

 絶対ブルカーンの人達に目を付けられてると思うんだけど………。」

 

 

ウインドラ「目を付けられてるのは最初からだろう?

 奴等俺達がここに来た時から攻撃してきたんだ。

 俺達をイフリートの餌としてしか見ていないことは明らかだ。」

 

 

カオス「普通はそんなふうに見てくる人がいたら近付いたりはしない方がいいんだけどね………。」

 

 

アローネ「そうも言ってはいられない理由が私達にはあります。

 イフリートを倒さなければこの星はもう間もなく破壊されてしまいます。

 精霊マクスウェルの手によって………。」

 

 

カオス「……………うん、

 ………そうだね。」

 

 

 カオス達が住む星デリス=カーラーンは残り二週間と三日という時間で存続か消滅かの採択が決定する。ダレイオスに蔓延るヴェノムウイルスを振り撒くヴェノムの主を全て倒しきらねば精霊はこの世界を破壊すると言うのだ。その主達はもう既に九体いる内の六体を打ち倒し二体は無力化に成功している。その二体と言うのは同行しているフリンク族とバルツィエのハーフのカーヤと今は姿が見えないマウンテンホーンズのメーメーのことだ。二人(一人と一匹)はヴェノムの主であった時はそれぞれがカオス達を圧倒するほどの力を有していたがそれもウイルスの力が無くなってからは大人しくなり人に危害を加えなくなった。

 

 

ミシガン「…話し合いが出来るんだったらレッドドラゴンのイフリートととも話してウイルスの力だけでも打ち消すことができればよかったんどけどねぇ………。」

 

 

タレス「カオスさんの能力でウイルスを消すってことですか?

 でもカオスさんは………。」

 

 

ミシガン「違うよ。

 カオスにやってもらうんじゃなくて私かアローネさんでウイルスの力を消すんだよ。

 スラート族もミーア族もクリティア族もそうやってやって来たでしょ?」

 

 

ウインドラ「!

 ………言われてみればそういう方法もあったな………。

 カオスに触れている間はカオスからマナが供給されてミシガン達はマナを消費せずにあの術を………。

 

 

 今はその方法がまだ使えるのか?」

 

 

 一時期過去の事件のこともあって精神的に魔術を行使することができなかったカオスの代わりにアローネとミシガンの二人で他の部族達がウイルスに感染しないように術を使用していた。カオスが自由に魔術を使えるようになってからはそれもする必要がなくなっていたのだが………、

 

 

カオス「……試しにやってみる………?」

 

 

 カオスはアローネとミシガンの方へ手を差し出す。その手を握ったのはミシガンだった。

 

 

ミシガン「…じゃあ言い出しっぺの私が………。」

 

 

 ミシガンはカオスの手を握りながら術を発動させる。この場には術の対象がいないので誰もいない空間に向かって………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「『………彼の者を死の淵より呼び戻せ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイズデット………。』」パァァァァァ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 術は発動した。カオスの体に影響を与えることなく発動することができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…どうですかカオス………、

 今のは………。」

 

 

カオス「…多分成功してるよ。

 俺も特に苦しくなったりとかはしてなかったしこの方法でなら俺もマナを誰かに使ってもらうことが出来るみたいだ。」

 

 

ウインドラ「本当か………?

 それなら今後は()()()()()()で作戦を立てることにするか。」

 

 

カオス「え………?」

 

 

アローネ「現状ですとイフリートを討伐するのは難しいです。

 街へと入るにはブルカーンが私達を捕縛しようとしてくるためイフリートと戦うにはブルカーン族を全て倒さなければならない。

 ですが彼等の戦闘能力は非常に高く私達の中からも犠牲無しにはそれを成し遂げることはできない。

 かといって誰かが欠けてしまっては地上最強の生物レッドドラゴンを倒すのはとても………。

 

 

 ですのでイフリートのウイルスさえどうにかできれば私達はブルカーンともイフリートともムリシテ戦う必要は無くなるのです。」

 

 

タレス「カオスさんとアローネさんかミシガンさんのどちらかがイフリートに近付きそのレイズデットを付加させればボク達の仕事も完了するわけですね。」

 

 

ウインドラ「そうなるな。

 だからここからはアローネとカーヤで何度かシュメルツェンに飛んでもらって上空から奇襲をかけ続ける。

 ブルカーン族は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようだしな。

 ブルカーン族がいつまでも俺達を捕らえられないのであれば空を飛べるレッドドラゴンのイフリートが火山の中から出てくるわけだ。」

 

 

ミシガン「そこでカオスとアローネさんでレイズデットをぶち当てるんだね。

 その後はどうするの?」

 

 

アローネ「ウイルスの力さえ無くなるのでしたらもうイフリートは私達が無理に戦うことはありません。

 撤退してセレンシーアインへと戻りましょう。

 スラートにヴェノムの主討伐を完了したことを報告するのです。」

 

 

カオス「…倒さなくていいの………?」

 

 

ウインドラ「俺達が奴を倒さなくてはならなかったのほヴェノムの主ダからだろ?

 ウイルスをばら蒔きダレイオスが滅亡する危機に瀕していたからこそ倒さなくてはならなかったんだ。

 

 

 その脅威が無くなるのなら深追いするだけ無駄だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒すだけが俺達の目的ではない。

 世界を存続させることが俺達の目的なんだからな。」



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動き出す四つの陣営

ブルカーン族の住む街シュメルツェン 上空 残り期日十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達はブルカーンの街シュメルツェンからイフリートを引きずり出す計画を立て一週間程アローネとカーヤの乗るレアバードで空襲をかけ続けるが未だイフリートが火山から出てくることはなかった。

 

 

カオス「これだけ攻めてるのにどうしてイフリートは出てこないんだろう………?」

 

 

アローネ「空からブルカーン族に攻撃を加えてはいますが死者がでないように加減していますから彼等にとっては被害と言える被害が出てないからでしょうか………。」

 

 

 最初こそブルカーン族はカオス達の空襲に対して過剰に反応してきたが数日経過してカオス達が自分達に危害を加えることが分かりカオス達が襲ってきても大した反応を見せなくなってきた。それどころか何か怪しげな動きを見せている。

 

 

ウインドラ「…何かブルカーン達の様子が変だな。

 奴等数年前からイフリートに渡すための食料を隣のフリンク領にまで積極的に出向いて取りに行ってたと聞くがここ数日俺達がこの地に居座り続けているというのに俺達のことを襲撃にし来る気配がない。

 始めに何人かのブルカーン族が俺達のことを捕獲しようとしてきた以外では特に俺達を襲ってくることもない………。

 俺達が今どの付近でキャンプしているかは奴等も把握している筈だが………。」

 

 

カーヤ「カーヤ達の戻る場所が知られてるの?」

 

 

アローネ「こう何度も空襲を受けてある程度したらまた戻るの繰り返しですから彼等もそろそろ私達がどこからやって来るのか探し当てていることでしょう。

 …もしかしたら抵抗という抵抗が無いのは私達を纏めて捕まえる作戦を計画しているのかもしれませんね。」

 

 

カオス「それはまずいなぁ………。

 今南側をキャンプ地にしてるから動かれる前に移動しとく?

 ()()とか。」

 

 

カーヤ「!

 ひっ、東側はちょっと待って………!」

 

 

ウインドラ「ん?

 東側がどうかしたのか?」

 

 

カーヤ「東は………その………。」

 

 

アローネ「!

 ………東側はリスベルン山の直ぐ近くですね。

 カーヤはあまりフリンク領に近付くのは辛いのではないですか?」

 

 

カオス「あぁ………、

 カーヤはあんまりフリンク領近くには行きたくないよね。

 あんな酷いことをさせられ続けたんだし。」

 

 

ウインドラ「!

 ………そうか………そういうことなら東側は止めておこうか。

 つい先日もカーヤには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだからな………。

 それなら西側に回るか。」

 

 

カーヤ「あ………えっと………ちっ、違「それじゃあ戻ってミシガンとタレスに場所を移動するように言おうか。」」

 

 

カオス「もしアローネの言う通りなら長くあそこに居続けるのも危ないね。」

 

アローネ「まだブルカーンが襲撃してくるとは限りませんが安全の確保のためには今日にでも移動を開始すべきでしょうね。」

 

 

ウインドラ「では今日はこれにて引き上げるか。

 これ以上の成果は見込めなさそうだしな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルカーン族の住む街シュメルツェン 地上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………今日も連日と同じか………。

 奴等の狙いはイフリート様だろう。

 イフリート様を外まで誘き出して叩こうってか?」

 

 

「敵の狙いが分かっているのならそれに乗っかってやる必要はないな。

 無駄に騒ぎにでもしようものなら奴等の思うつぼだ。」

 

 

オリヘルガ「あぁ、

 ………それよりも………。」チラッ

 

 

「あぁ分かってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()に出るんだろ?」

 

 

オリヘルガ「おうよ。

 もう奴等がどこを根城にしてるのか特定済みだ。

 ここらでいっちょ終いにしようや。」

 

 

「わざわざ()()に様子を探らせていた甲斐があったな。

 イフリート様を介して家畜が見てきたものを聞き出せれば俺達が見つかるリスクを犯さずに奴等がどこにいるのかを探れる。」

 

 

オリヘルガ「これ以上時間は稼げねぇ。

 ()()でケリを付けるぞ。」

 

 

「おう、

 他の連中にも伝えとくぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「(………与えられた時間は明日まで………。

 明日の夜までに奴等を捕まえてあの蜥蜴野郎に時間ギリギリで差し出せば奴が次の生贄を用意するまでの時間は最大限引き伸ばせる………。

 一日でも………一秒でも長く奴に差し出す生贄のピッチは先送りにしてぇ………。

 

 

 ………そのためにも今夜は絶対に失敗できねぇ………。

 失敗すれば今度は俺だけでなく他に何人も奴の腹の中に………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローダーン火山 東側

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「………どうやらブルカーン共が何か仕掛けるようだな。

 カオス達とやりあってるようだが結果はどう転ぶんだろうなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、どう転んだところでこの俺様が全員ぶっ殺すのには変わりねぇんだがよぉ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローダーン火山 西側

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「(ブルカーンの連中動き出すようだな………。

 あいつらつい最近来たばかりから奴等がどうしてイフリートの下僕になってんのか知らねぇんだろうな………。

 教えに行ってやるか………?

 もう少し様子を見るべきか………。

 ってかバルツィエのレアバードなんてどうやって手に入れたんだよあいつら、しかも二機とか………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日カオス達陣営とブルカーン陣営、そしてカオス達以外に二つの陣営がそれぞれの思惑を持って動いた………。



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二人の内の片方は………

ローダーン火山 麓 残り期日十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「拠点をずらすんですか?」

 

 

ミシガン「え?何で?」

 

 

 シュメルツェンから戻ってきたカオス達は待機していたタレスとミシガンに駐留する場所を移動することを告げた。

 

 

ウインドラ「俺達が数日にかけてシュメルツェンへと出向いては襲撃を繰り返しているがブルカーンの連中は特に反撃を仕掛けてはこない。

 ………何か良からぬことを企てていそうだ。」

 

 

アローネ「連日空から魔術で刺激を与えているにも関わらず彼等に動きが無いのは不自然です。

 これは私達を観察して動向を探りどこかのタイミングで手を打ってくるに違いありません。」

 

 

 根拠としては弱いが邂逅から好戦的なブルカーンの様子を考えれば約十日の襲撃に対して何もしてこないのは怪しすぎる。ブルカーンが何かをするとすればそろそろだと踏んで拠点を移動することにした。

 

 

ミシガン「それで次はどの辺りに行く予定なの?」

 

 

タレス「ここから遠く離れすぎない程度の距離に移動するのであれば火山の右か左………西か東のどちらかにするべきでしょうが………。」

 

 

カオス「そのことだったらもう話は付いてるよ。

 山の西側に移動することになってるんだ。」

 

 

ミシガン「西?

 西の方に行くの?」

 

 

タレス「西ですか………。

 地図を見る限りでは東側はリスベルン山の方角ですしそっちの方にした方がよくないですか?

 西側は………。」

 

 

 タレスがダレイオスの地図を見て暗い表情を浮かべる。()()()()()()()()西()()にあるのは………、

 

 

アローネ「…このダレイオスの旅で何度もお聞きした都市があった方面ですね………。

 

 

 

 

 

 

 十六年前に突如として地図から消えてしまった都市“ゲダイアン”が………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十六年前ダレイオスには西と東でそれぞれ九の部族が集う巨大な都市が存在した。東にセレンシーアイン、そして西にゲダイアン。地図で確認すると両都市はダレイオスの大陸を東西に分けてセレンシーアインは中心にゲダイアンは最西端に位置する場所にある。マテオとダレイオスの大陸は二つの海に囲まれており両者が合間見える際には大陸同士がかつて繋がっていたシーモス海道のある海を通じて戦火を交えていた。もう一方の海は大陸の断崖が険しく人の渡航にも不向きで両陣営が接触することはなかった。だからゲダイアンはそうした理由から安全な立地だと思い都市が作られたのだと思われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その思考の隙を突かれたのかは定かではないがゲダイアンは何者かに攻撃されこの世から消えた。ゲダイアンが消滅した当初はマテオもダレイオスもそれを行ったのはお互いだと思いあっていた。マテオはダレイオスにいるとされる謎の都市伝説組織大魔導士軍団による実験、ダレイオスはバルツィエの新兵器による爆撃。いずれにしろ誰が何のためにゲダイアンを消滅させたかは分からない。カオス達はダレイオスを回る旅でゲダイアン消滅がバルツィエの内部にいる精霊の力を持つ人霊がゲダイアンを破壊したのだと推察した。カオスに憑依する精霊マクスウェルの力を目の当たりにすればそれがもっとも説得力のある解であった。瞬間的な爆砕を可能にする手段は他にも古に存在した種族ヒューマ族の化学兵器とやらが一つの意見として提示されたがそれを復元できそうな組織であるバルツィエは何の関与もしていないと言う。

 

 

カオス「曰く付きの土地近くに近付くのは気が引けるけどさ………。

 それを言ったらリスベルン山にはもっと近寄れないでしょ?」

 

 

カーヤ「………」

 

 

タレス「…そういうことだったんですね。」

 

 

ミシガン「リスベルン山って言ったらフリンク領だもんね。

 そりゃそっちの方に行けないよね………。」

 

 

 カオスがカーヤに視線を向けたことで二人は事情を察した。カーヤにとっては最悪の思い出しかないフリンク領、その近くへ足を運ぶのは気が滅入るだろう。そのことから場所を移すなら東ではなく西だとカオス達は決定した。

 

 

タレス「ではもう移動を開始しますか?」

 

 

アローネ「いいえ、

 移動は夜にしましょう。

 明るい内から移動を開始しては目立ちますから。」

 

 

ウインドラ「ブルカーンに見付からないように場所を移すのだからブルカーンの目に入る時間帯に動くのは無意味だしな。

 それにアローネとカーヤはレアバードの操縦で疲れているだろう。

 俺も何度か魔術を撃ってマナを回復させたい。

 

 

 日が落ちたら西へ向かうぞ。」

 

 

 カオス達がローダーン火山の西側に向かうのは数時間後の夜の時間帯からになった。それまでは体を休めて夜に備えるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「…カッ………カオスさん………。」

 

 

カオス「ん?

 どうしたの?」

 

 

カーヤ「えっと………その………。」

 

 

 カーヤは自身が感じ取ったローダーン火山の東側にいる父ラーゲッツのマナと酷似するマナを持つ何者かのことを相談しようか迷った。先程はシュメルツェンで言いそびれたがカーヤが東側に向かうのを止めたのはフリンク領の近くだからではなくその人物が東側にいるからなのだと。

 

 

カオス「………何か気になることでもあった………?」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 カーヤは伝えるべきだと思った。火山の東側に不穏な輩が出没していること………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………これから行く火山の西側にね………?

 ブルカーン族じゃない反応があるの………。

 モンスターでもなくてヴェノムでもなくて………。」

 

 

カオス「ブルカーンでもモンスターでもヴェノムでもない反応………?

 それって人ってこと?」

 

 

カーヤ「…うん………多分………。」

 

 

カオス「こんな火山に人か………。

 何でこんなところにいるんだろ………。

 他の部族の人達かな………?」

 

 

カーヤ「………分からないけど人がいることは間違いない………。」

 

 

カオス「う~ん………、

 この辺りに人かぁ………。

 スラート、クリティア、ミーア族がこんなところにいるわけがないし………。

 フリンク族だってブルカーンと中が悪いからここには来ないだろうしなぁ………。

 アインワルドだってここに来る理由が………。

 ………!

 もしかして………!」

 

 

カーヤ「誰か知ってる人………?」

 

 

カオス「…もしかしたらなんだけどその()()俺達の知ってる人達かもしれない。」

 

 

カーヤ「達………?」

 

 

カオス「うん、

 前に俺達が会ったことがある人達なんだけどね。

 確かこっちの方角に行くようなこと言ってたんだ。

 だから多分その人達だよ。」

 

 

カーヤ「敵………じゃないの?」

 

 

カオス「敵?

 敵なんかじゃないよ。

 その人達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って人達だよ。

 前にカイメラを倒……………メーメーさんを助けた時に知り合った人達なんだ。

 カーヤが見付けたのはその人達だと思う。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

カオス「あの二人こんなところにまで来てたんだなぁ………。

 じゃあ向こうの方に行ったら会うかな?

 なんだか久しぶりだな。

 最後に会ったのが三か月も前だしこの辺りで住めそうなところを探してるのかな?」

 

 

カーヤ「………知ってる人なんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ならいいや………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤはラーゲッツのことを口に出来なかった。カーヤは寂しがりな性格からカオス達に死んだ人物が生きているなどと発言して変に思われたくなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このあとラーゲッツの生存はカーヤではなく西側にいた()()()()()()()()()()()()()()()()()()伝えられるのだった………。



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ステファニーと思わしき人物の影

ローダーン火山 麓 夜 残り期日十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「日も落ちたことですし移動を開始しましょう。」

 

 

カオス「そうだね。

 そろそろもういい時間だしね。」

 

 

 カオス達は火山の頂上付近で暮らしているブルカーン族とイフリートを巡って対峙していた。イフリートを倒すためにこの地まで足を運んで来たカオス達だったがブルカーン族の一人オリヘルガと剣を交えてからブルカーン族がイフリートを王のように崇めイフリートの命令に従っていることが分かった。イフリートの正体はヴェノムの主で他の生物を捕らえて食らい力と知能を蓄えていく能力を持っている。カオス達もイフリートに目を付けられブルカーン族を使って捕らえようとしてきたのでカオス達はそれを躱してイフリートの能力をどうにか無力化することにした。

 

 

ウインドラ「灯りは………点けない方がいいな。

 灯りをつけるとブルカーン族の目に止まる。

 そうなれば奴等に俺達の居場所を特定されてしまう。」

 

 

ミシガン「暗いまま歩いて移動するの?」

 

 

アローネ「その方が良さそうですね。

 視界は悪くはなりますが目を慣らせばそれもなんとかなります。」

 

 

タレス「敵陣は直ぐ目の前ですからね。

 火山の上からなら灯りが点けば簡単にボク達の居場所なんて分かりますし。」

 

 

ミシガン「でもゆっくり進まないと転んで危ないよ?

 そんなんで今日中に西側の方まで辿り着けるの?」

 

 

カオス「行くしかないよミシガン。

 今は出来ることをやるしかないんだ。

 ここで捕まったりしたらせっかくここまで来たのに全部無駄になっちゃうから。」

 

 

ミシガン「………それもそうだね………。

 ………ねぇ、

 後時間ってどのくらい残ってるんだっけ?」

 

 

アローネ「………今日も後少しで終わりますしそしたら………、

 

 

 ()()ですね………。」

 

 

 

 

 

 

ミシガン「…もうそんなところまで来てたんだ………。

 あと九日………。」

 

 

 

 

 

 

カオス・タレス・ウインドラ「「「………」」」

 

 

 世界の運命が決定するまで一週間と二日。それまでにヴェノムの主であるイフリートを無力化しなくてはならない。世界に蔓延するヴェノムウイルスの勢いをカオス達の手で減衰させなければ精霊マクスウェルが直々にこの星デリス=カーラーンに強制的に審判の判決を下す。そうなれば全てが無に帰してしまう。

 

 

ミシガン「………どうにかなるよね………?

 ここまで来たんだもん………。

 きっとあと九日以内でイフリートを………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 ミシガンの淡い希望に返事を返す者はいなかった。状況は以前としてブルカーン族との膠着したにらみ合いから何も進展がない。この状態が続けばイフリートと接触しないまま世界の終末を迎えることになってしまう。その状況を打開する術は今のところ何もない。最終手段は特攻することだけだが何も知らないブルカーン族に行くてを阻まれて全てが終わるだけだろう。

 

 

 カオス達からはいよいよ余裕が無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………西に進むならカーヤが案内するけど………。」

 

 

 移動しようとした直前カーヤがそんな申し出をしてきた。

 

 

アローネ「?

 カーヤはここの土地勘があるのですか?」

 

 

カーヤ「土地勘はないけど夜目なら自身ある………。

 リスベルン山でも一人でよくいたから………。」

 

 

カオス「俺も結構暗いところなら平気だから俺とカーヤで先導するよ。」

 

 

ウインドラ「………では二人に先頭に立ってもらうか。

 後ろは俺が見ておくことにする。」

 

 

タレス「ボク達は………一応左右にモンスターが出てこないか警戒しておきますね。」

 

 

ミシガン「それくらいなら私達もできるもんね。

 アルターで共鳴も出来るようになったし索敵なら任せて。」

 

 

 カオスがウィンドブリズ山で修得した共鳴は練度の差はあるがアローネ以外が使えるようになった。共鳴の本来の使い方は仲間同士で魔術の干渉を防ぐためであり魔術に秀でたバルツィエが編み出した技術だ。この技術は攻撃だけでなく付近の他の生物の気配をも感じとることができカーヤは自身の力だけでそれを体得しモンスターやヴェノムから六年間フリンク領を守り続けてきた。

 

 

カオス「あ、そうだカーヤ!

 これから向かうところなんだけどハンターさんとステファニーさんがいるところに直接向かってくれないかな?」

 

 

 カオスは次に向かう場所をハンターとステファニーのもとへと行くようカーヤに指示する。

 

 

アローネ「ハンターさんとステファニーさん………?

 あのお二人が此方へといらしておられるのですか?」

 

 

ウインドラ「何故あの二人がここにいることが分かるんだ?」

 

 

ミシガン「空からでも二人がいたのが見えたの?」

 

 

カオス「いや、

 実際に見た訳じゃないけどさっきカーヤが西の方に誰かがいるって言ってたんだ。

 マナの様子からしてブルカーンじゃないみたいだけどここら辺に来る人なんて他の部族じゃ考えられないし誰がいるか考えたら前にあの二人がこっちの方に向かってるって聞いてたし。」

 

 

タレス「あぁ………、

 確かにそんなことをあの二人は言ってましたね。

 それでその二人がここにいると。」

 

 

ミシガン「でも何でこんな危ないところに二人がいるの?

 あの二人ってどこか安全で住みやすいとこらを探すって言ってなかった?」

 

 

カオス「そうだけど()()()()()()()()()って他にいなかったからあの二人なんじゃないかなぁって思って………。」

 

 

ウインドラ「曖昧だなぁ………。

 それだけであの二人だと決めつけるのは早計だろ。」

 

 

アローネ「………カーヤ、

 カーヤが感じ取った人は他に何か特長はありませんか?

 マナの様子とか今どうしているかとか………。」

 

 

カーヤ「……今は特になにもしてないと思う………。

 マナは………多分氷属性を得意としている人だと思う。」

 

 

タレス「氷ですか………。

 氷と言うと………。」

 

 

ウインドラ「氷と言えば九部族の中ではクリティア族とカルト俗が得意としている属性だったな。

 クリティアはこんなダレイオスの真逆にいる理由は無いだろうしカルト族と言えばハンターと一緒にいたステファニーしか思い当たる人物がいない。」

 

 

カオス「ほっ、ほら!

 やっぱりハンターさんとステファニーさんだよ!

 あの二人以外にこんなところに来る人なんていないって!」

 

 

アローネ「…ではもう一人地属性のマナは感じませんか?

 ステファニーさんがおられるのであれば一緒にハンターさんもおられる筈ですが………。」

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………感じるマナは氷のマナの人以外にはいない………。

 その人一人だけだと思う………。」

 

 

 カーヤに再度西側にいる人物について探ってもらったがハンターらしきマナは感じられなかったようだ。

 

 

タレス「一人………?

 ハンターさんがいないんですか?」

 

 

ウインドラ「ハンターが不在でステファニー一人だけでいるのは妙だな………。

 やはり人違いなのか………、

 

 

 ………ハンターが既にこの世にいないかの二つだが………。」

 

 

カオス「!?

 ハンターさんがこの世にいないってどういう意味!?」

 

 

ウインドラ「そのままの意味だ。

 こんな部族全体で人拐いをしているような連中がいる土地なんだ。

 ハンターがブルカーンに捕まってしまったということも有り得る。」

 

 

タレス「…ではその一人だけというのは………。」

 

 

ウインドラ「…残されたステファニーだろうな。

 一人だけでいるのはハンターがブルカーンに捕まり一人になったかだ。

 トロークンではあの二人は恋仲のようだったしステファニーを逃がすために彼女を庇ってハンターだけが捕まってしまった………。

 それかブルカーンの連中に………。」

 

 

カオス「じゃあステファニーさんは今………。」

 

 

アローネ「まだそうと決まった訳ではありません。

 西にいる方がステファニーさんではないかもしれません。

 ハンターさんやステファニーさんのように部族からはぐれダレイオスをさ迷っている方などもいるでしょうから。」

 

 

ウインドラ「…そうだな。

 何にしてもその人物と会ってみなければ始まらない話だ。

 こんなところで一人でいるのであれば俺達よりもブルカーン達のことを知ってる人物かもしれん。

 もしそうであるなら会って何か有力な情報を得られるだろう。

 その人物に会いに行ってみるか。」

 

 

カオス「うん、

 じゃあその人のところに行ってみようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「(………え?

 氷属性の人って言ったらステファニーさんの他にももう一人私達の知り合いにいるじゃない………。

 何で皆()()()のこと忘れてるの?

 あんだけインパクトのある人忘れたって言うの?

 マジ………?

 あぁでももうあの人とはダレイオスに来てから半年も顔会わせてないし仕方無いのかな。

 けど他のところで聞いたあの人のルートから見てもここにいてもおかしくはないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………絶対とは言い切れないけどカーヤちゃんが見付けた人って()()()()()のことなんじゃないのかなぁ………?)」



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異種軍勢

ローダーン火山 麓~西側 夜 残り期日十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ステファニーさんのところまであとどれくらいで着きそう?」

 

 

カーヤ「…あと三十分くらいで着くと思う………。」

 

 

カオス「三十分かぁ………。

 もう少しだね。」

 

 

タレス「本当にステファニーさんがこんなところにいるんでしょうか?」

 

 

ウインドラ「さぁな、

 だが彼女じゃなかったとしてもこの地に一人でいるのは危険だ。

 イフリートとの戦いが始まればこの辺り一面は激しい攻防戦が繰り広げられることになる。

 そうなればこの先にいる人物も戦火に巻き込まれるだろうからな。

 会ってここを去ってもらうように忠告するくらいならできるだろう。」

 

 

アローネ「戦いがシュメルツェンだけに留まるとは限りませんからね。

 無関係な人を私達の戦いに巻き込むことはできません。」

 

 

 カオス達一行はカーヤが西側で見付けた人物のもとへと進んでいた。その人物が氷属性のマナの持ち主であることから三ヶ月前にトロークンで別れたステファニーだと推測し彼女に会いに行き事情を聞きに行くところなのだが、

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………ねぇねぇ、

 この先にいる人ってさ。

 ステファニーさんじゃないと思うんだけど………。」

 

 

カオス「え………?」

 

 

ミシガン「私この先にいる人ってもひょっとしたらなんだけど………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………レイ「止まって。」」

 

 

カオス「ん?

 どうしたの?」

 

 

 ミシガンが何かを言いかけたときカーヤが遮り皆の足を止めさせる。

 

 

アローネ「?

 どうしましたカーヤ?」

 

 

カーヤ「………付けられてる………。」

 

 

ウインドラ「!

 ブルカーンの追っ手か………?」

 

 

タレス「まさか本当にブルカーン族がボク達のことを襲撃してこようとしていたんですか………?」

 

 

カーヤ「………ブルカーンの人じゃない………。

 この気配は………。」シュッ!

 

 

 カーヤに皆が注目する中カーヤは一瞬にしてそのすがたを消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ!!ドスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてカオス達の直ぐ近くで二回音が鳴り響き何かが蹴り飛ばされてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュルルル………」「シィィィ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「モンスター………?」

 

 

タレス「このモンスターは………ワームとアラーネア………?」

 

 

 カーヤが蹴りとばして倒したのは昆虫系芋虫型のモンスターのワームと同じく昆虫系蜘蛛型のモンスターアラーネアだった。カオス達を追跡していたのはその二匹だった。

 

 

ミシガン「なっ、なんだ………、

 付けられてるって言うから何かと思えばモンスターだったんだね。

 ブルカーンじゃなくて良かったぁ………。」

 

 

ウインドラ「この二体が追っ手か?

 モンスターならそこまで構えることもなかったな。

 安全ではないがブルカーンでないならただ俺達を襲ってきた普通のモンスターだったというだけだろう。」

 

 

 地面に転がるモンスターを見て緊張した空気が緩和される。カーヤがいち早く気付いて倒したおかげでモンスターに不意を突かれることはなかった。

 

 

カーヤ「このモンスター達…、

 ずっとカーヤ達のこと見張ってた………。」

 

 

タレス「見張ってた………?

 ボク達を襲える機会を窺ってたってことですか?」

 

 

カーヤ「うん………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここに最初に来たときからずっと………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……この()()()()()()()()()()私達がここへ来た始めからずっと………?」

 

 

カオス「こいつらが………そんな長く………?」

 

 

 カーヤの話にカオスは疑問を感じられずにはいられなかった。獲物を襲う前に獲物の様子を観察して隙を窺うモンスターなら他にも数多く存在する。そうした習性を持つモンスターは昆虫系に多く木や土に擬態して獲物が差し掛かった瞬間に捕らえるという狩りを行う。それだけならこのワームとアラーネアに不審な点は見付からない………。

 

 

 

 

 

 

 カオスが目を付けたのはワームとアラーネアがカオス達を見張っていた()()だ。カオス達がこの地へやってきて十日が経過しようとしている。カーヤはワームとアラーネアの二匹はカオス達が訪れてから近くで見張っていたと言った。そこまで長い時間カオス達の側にいたのであれば二匹が接触してもおかしくはない。

 

 

 モンスターと一言で表してもそれは単純に人を襲う生物を人括りにした呼称でその種類は数千から数万にも上る。その全ては人だけでなく他のモンスターを襲うものもおりモンスターにとっては種が違えばそれだけで捕食の対象となり得る。今回カオス達を狙ったモンスター、ワームとアラーネアは同じ昆虫型だがそれでも分類はかなりかけ離れていてアラーネアからすればワームもカオス達と同様に襲う対象の筈なのだ。それが十日もの時間があったにも関わらずカオス達だけに狙いを絞っていたことになる。

 

 

アローネ「…私はあまりモンスターの知識に詳しくはありませんがワームとアラーネアが同じ場にいて争わないということはあるのでしょうか………?」

 

 

タレス「…!

 ………そう言われるとおかしな話ですね………。

 アラーネアにとっては人であるボク達を襲うよりかはワームの方が手頃に狩れる相手の筈ですからそっちの報にいきそうなものですけど………。」

 

 

ミシガン「同じところにいるモンスター同士だから争わなかっただけじゃないの?」

 

 

ウインドラ「…いやそんな話は聞いたことがないぞ。

 互いの力関係が拮抗しているならともかくワームとアラーネアではアラーネアが一方的にワームを狩れる筈だ。

 アラーネアがワームに手を出さない訳がない。」

 

 

ミシガン「私達に気がとられてお互いに気付かなかっただけとかは?」

 

 

タレス「…それはあり得ませんよ。

 アラーネアは蜘蛛型のモンスターです。

 蜘蛛は八個の単眼があって敵や獲物を敏感に関知する能力を備えています。

 周囲にどんな生物がいるか分からない筈がないんです。」

 

 

カオス「………じゃあこいつは俺達だけを狙っていたってこと………?

 こんな近くに他にモンスターがいたのに………。」

 

 

ウインドラ「…そう………なるな………。」

 

 

アローネ「……これは………まるで誰かに指示されてそうしていた………ということになるのでしょうか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジリジリ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!!」」」」」

 

 

カーヤ「気を付けて………!

 モンスターはまだ沢山いるから………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗がりからカオス達の前へ次々とモンスターが現れる。それらは種が様々で肉食性の哺乳類から爬虫類、鳥類、両生類、昆虫といったモンスター達ばかりだった。

 

 

 そしてそれらのモンスターの目は全てがカオス達に向けられている。一目でモンスター達が()()()()()()カオス達に敵意を顕にしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通では決してあり得ない食物連鎖の強者と弱者が一つの群れとなってカオス達に牙を剥いてきた………。



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先手を打たれて

ローダーン火山 麓~西側 夜 残り期日十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リスリス「キィィッ!」エッグベア「ゴルルッ!」ブラックバット「キュルル………」バジリスク「シュゥゥゥゥ……!!」ゲコゲコ「ゲルルル……!」ローパー「ヒュンヒュン……」グラスホッパー「シィィィアッ!!」………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「なっ、何だこいつら………!?」

 

 

タレス「完全にボク達のことを標的ときて見ていますね………。

 こんなに多くものモンスターがどこから………。」

 

 

ミシガン「何なの!?

 何で全部種類がバラバラなのに私達だけを狙うの!?」

 

 

ウインドラ「有り得ん………!

 これらが同じ場所にいて争わん訳がない!

 それなのに何故こいつらは……!?」

 

 

 一瞥しただけでも栗鼠、熊、蝙蝠、蛇、蛙、植物、昆虫のモンスターがカオス達を見据えている。諺に“蛇に睨まれた蛙”という言葉があるがその蛇と蛙でさえも互いを見ようともせずにカオス達の方を向いている。

 

 

 まるでこの場にいる敵はカオス達以外にはいないのだと言うかのように………。

 

 

 

 

タレス「………まさかヴェノムの感染個体………?」

 

 

ミシガン「!

 ってことはゾンビだから私達だけを狙ってるの……!?

 ……!

 でもこのワームとアラーネアは何なの………!?」

 

 

 カーヤが仕止めたワームとアラーネアは既に絶命しているがヴェノムの感染個体が死した際に起こる体の融解が起こらない。そのことからこの二体は感染個体ではなく正常な種であることが分かる。そしてヴェノムの感染個体の特長にはウイルスに感染すると知能が無くなり獲物に対して突撃していくという習性を持つようになる。

 

 

 

 

 

 

 しかしカオス達の目の前にいるモンスター達は………、

 

 

 

 

 

 

アローネ「…感染個体………ではありませんね………。

 どれも全うな種のようです。」

 

 

カオス「目も虚ろじゃないしこいつら全部ウイルスには感染してないよ………。」

 

 

ウインドラ「つまりこいつらは()()()()()を持って俺達だけを敵と認識しているのか………。」

 

 

ミシガン「何でそんな………!」

 

 

アローネ「………非常に信じられないのですが()()()()()()()()()()()あるようですね。」

 

 

タレス「そうした事実………?」

 

 

アローネ「()()()()()()()………、

 ブルカーン族がレッドドラゴンを神のように崇める………。

 ………それは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブルカーン族だけでなくこの地に生息する他のモンスター達もイフリート信仰の信者だと言うことです。」

 

 

 

 

 

 

カオス「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ『イフリート様は吸収した動物やモンスターの言葉さえも理解しておられる!!

 世界を征服して全生物の頂点に立つには相応しい能力と言えるだろう!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………オリヘルガがあの時言ってたのはこういうことだったのか………!)」

 

 

 ヴェノムウイルスによって知的に進化したレッドドラゴン通称イフリートはブルカーン族に指令を下し操っている。人の言葉を理解できるのであれば人にはできない人以外のモンスターとの意志疎通も可能のようだ。それによりこの周域のモンスターまでもがイフリートの息にかかった傀儡と化した。

 

 

 カオス達からイフリートを阻むものはブルカーン族だけではなくモンスター達も例外ではなかった。このモンスター達はブルカーン族と同じくカオス達を捕まえようと徒党を組んで向かってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「瞬迅槍ッ!!」ガスッ!

 

 

エッグベア「ガゥアッ!?」

 

 

 ウインドラが率先してモンスターの群れに突っ込む。

 

 

ウインドラ「一旦この包囲網を抜けるぞ!

 ここでは地形と視界が制限されて戦い辛い!!

 各自モンスター達の攻撃を躱しながら走り抜けろ!」

 

 

 ウインドラが前方のモンスターを突き飛ばしながらそう叫ぶ。それに続いて他のメンバーも走り出す。

 

 

 

 

スパイダー「シュゥゥゥゥ!!」バシュッ!

 

 

ミシガン「きゃっ!?」

 

 

アローネ「!

 ミシガン!」

 

 

 アラーネアの他にもいた蜘蛛型のモンスタースパイダーの吐く糸がミシガンを捕らえる。早速モンスターの手に落ちかけるミシガンだったが、

 

 

タレス「孤月閃ッ!」ズバッ!

 

 

ミシガン「!

 タレス有り難う!!」

 

 

 タレスがミシガンの体に張り付いた糸を瞬時に切り拘束を解く。

 

 

タレス「お礼はいいですから先に進んで下さい!

 後ろはボク達でカバーし「ヒュンッ!」!?」

 

 

 ミシガンを先に行かせて後方を守ろうとしたタレスの鎖鎌に今度はローパーの触手が絡み付く。

 

 

タレス「はっ…離せェェェッ………!」

 

 

 タレスがローパーの触手に絡まった鎌を引っ張るが子供の力ではどうにもならないようだ。

 

 

アローネ「『ウインドランスッ!!』」ザクッ!

 

 

ローパー「ヒュアッ…!?」

 

 

タレス「アローネさん……!」

 

 

アローネ「油断しないで下さい!

 敵は一体だけではありません!

 全てのモンスターに気を配って進むのです!」

 

 

 短い間に二度もモンスターの手に捕まってしまった。相手はヴェノムですらないただのモンスターだと言うのに一行は並々ならない焦りを感じていた。

 

 

ウインドラ「この火山の回りに留まるのは不味いな。

 一度この火山から離れるぞ!!

 予定を変更して西側ではなく南側へ「そっちも駄目!」………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達がいる場所は山の麓付近ではあるがそれなりに高所ではある。なのでローダーン火山から離れた場所は見下ろす形で一望できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……何だよこれ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで見たのは《《数千にも届きそうなモンスター》の大群がカオス達の退路を塞ぐ光景だった………。



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二者一択

ローダーン火山 麓~西側 夜 残り期日十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……何でこんなにモンスターがここに集中してるんだ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「ギィィオオオオアアアアアアアアアァィッッッ!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このモンスターの群れ方は常軌を逸していた。普通では顔を見合わせただけで争いあうようなモンスター達が一団となってカオス達の行く手を遮る。それもカオス達が逃げられないように山の外側を立ち塞ぐように。

 

 

ミシガン「これだけのモンスターが何でこんな一辺に襲ってくるの!?」

 

 

アローネ「…この襲撃の仕方は普通は考えられません!

 何者かの影響を受けてこのように私達を襲うように指示を受けているとしか………。」

 

 

タレス「何者かとはもしかして………!」

 

 

ウインドラ「そんなものは決まっている。

 この地に他にこんなことが出来るとしたらブルカーンの連中かイフリートだけだろう。

 だがブルカーンにモンスターを操る術があるとは思えん。

 とすればイフリートの命令でこいつらは動いていると見て間違いない。」

 

 

カオス「イフリートが………!」

 

 

 イフリートの影響力を浅く考えていた。イフリートが操れるのはブルカーン族だけではなくイフリートが吸収した生物の種の群れ全て。イフリートはモンスターまでもその影響下に置くことが可能だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「…!

 山の上の方からブルカーン族が来るよ……!」

 

 

タレス「何ですって……!」

 

 

ウインドラ「こんな時にブルカーンまでもがここへ……!?」

 

 

アローネ「…恐らくこういう手筈になってきたのでしょうね………。

 この地へ足を踏み込む者が入れば何としてもその者を捕らえるためにあえて火山の回りの侵入を許して立ち退こうとすればモンスターにそれを阻止させる。

 この広い地方に来てモンスターの襲撃を一度も受けなかったのはそういうことがあってのことだったのでしょう。」

 

 

ミシガン「じゃあ何!?

 今この山の回りをモンスターが囲ってるわけ!?

 そんで上からはブルカーンが来てどこにも逃げ場が無いじゃない!!

 私達捕まっちゃうよ!?」

 

 

カオス「他に逃げられる場所なんてどこに………!?」

 

 

アローネ「…カーヤ!

 貴女の力なら火山を囲っているモンスターの包囲網が手薄な場所を探れませんか?

 一度このモンスター達の包囲網から抜け出す必要があります!

 どうにかそこへ向かって一旦体勢を整えましょう!」

 

 

 アローネはこの危機を乗り越えるためにも前後を敵に囲まれている状況を切り抜けるようカーヤに敵の索敵をするよう指示を出す。カーヤは直ぐ様付近のモンスターの気配を探って………、

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………!

 モンスターが集中しているのは火山の北と南のこの辺りで西か東にはそんなにモンスターが多くは包囲してないみたい……!」

 

 

カオス「西か東………?」

 

 

ウインドラ「とすればこのまま西に向かうのが最短だな。

 東に戻っていてはブルカーンも合流してしまう。」

 

 

タレス「では予定通り西に進むべきですね。」

 

 

ミシガン「じゃあ早く行こう!

 どんどん他のモンスターも集まってきてるよ!」

 

 

アローネ「………西と東………?

 ここまで北と南にモンスターを配置しておきながら西に例の荒野があって配置していないのは分かりますが東に配置していないのはどういう理由が………?」

 

 

ウインドラ「そんなことは後で考えろ。

 今はモンスターの包囲網を突破するのが先だ。」

 

 

 そうこうしている間にもカオス達を囲むモンスターの数は既に数えきれない程にまで数を膨れさせている。夜の闇の中でカオス達の視界に捉えられない影が蠢いているのが分かる。

 

 

 

 

 

 

カオス「………そうだね。

 今はゆっくりと考えている余裕がない。

 一々こんなのと戦ってたらブルカーンの奴等もやって来るだろうしアイツ等と戦ったら勝ち目なんて無さそうだね。

 俺がモンスター達をいなしていくから皆は後に続いて!」

 

 

 そういって前方を塞ぐモンスターの攻撃を捌きながらカオスは西へと直進する。技や術は使えずとも十年のモンスター達との戦ってきた経験がモンスターの動きを読み安全なルートを導きだし突き進んでいく。それに他の仲間達もついていく。

 

 

ウインドラ「一度隊列を変更するぞ!

 俺とカーヤで後方は支援する!

 アローネ、タレス、ミシガンはカオスの後に続け!」

 

 

 前方は先程までカオスとカーヤの二人で進むことになっていたがモンスターの包囲網が厚いせいでカーヤは後ろから皆のサポートに付くことになった。ウインドラも他の三人がモンスターに組み付かないように援護するようだ。

 

 

アローネ「(………このまま進んでも安全なのでしょうか………?

 西と東の両方の配置を手薄にしているのは何かそうできない訳があるから………?

 

 

 それとも何か罠が仕掛けてある………?)」「ギギァッ!!」「孤月閃ッ!!」ザクッ!

 

 

ウインドラ「何をしているアローネ!

 気を抜いている場合じゃないぞ!!」

 

 

アローネ「すっ、すみません!」

 

 

 一瞬の隙を付いてアローネにモンスターが特攻をしてきたがそれもタレスがフォローして事なきを得る。だが油断ならない状況であることには変わりない。一行はひたすら走り抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「(………………二分の一の確率………。

 西か東のどちらかに罠が仕掛けてある可能性は十分にある………。

 私達が逃亡を謀った時のためにモンスターを外回りに配置していたのであれば西か東のどちらかに私達を捕らえるように罠が………。

 

 

 もしくは()()に罠があればこの先に待っているのは………。)」



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飛竜ワイバーン

ローダーン火山 西 夜 残り期日十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ハァ……!

 ハァ………!!」

 

 

 カオス達はあれからどうにかモンスター達の襲撃をかわしながら西の方まで辿り着いた。辿り着いたとは言ってもまだ後続にはモンスターが追跡を続行している状態だ。

 

 

ウインドラ「どうにか目的地付近には着いたな!

 しかしモンスター達もまだ追ってくる様子だ。

 このまま荒野にまで進むか。」

 

 

アローネ「…致し方ありませんね………。

 どうやら私達を捕らえるような罠は張っていなかったみたいですし。」

 

 

ミシガン「え!?

 荒野に進むの!?」

 

 

タレス「大丈夫なんですか……?

 何か人体に影響は………。」

 

 

ウインドラ「前にも言った通り俺達は精霊マクスウェルの力の加護もあって多少の有害な地域での活動は平気だ。

 モンスターもブルカーンも荒野までは追ってこないだろう。

 奴等は実力はあっても何の加護も無い生身の体だ。

 この辺りの包囲が弛いのもそれがあってのことだろう。」

 

 

 敵はヴェノムではなく知性ある人とモンスターだ。知性があるのは厄介だが逆にそれは自らに危険があると判断できる場所へは近づかない理性が働くと言うことだ。なので荒野にさえ出られれば深追いはしてこない筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………よし、

 ステファニーらしき人物のことは気掛かりだが俺達はこれから荒野に…「上っ!!」「遅いぜ!!」!?ぐあっ!!」ドガッ!!

 

 

 一瞬の出来事だった。敵が追ってくる中全員前後左右には気を付けていた。だがそれでも敵からの奇襲を受けウインドラが組み伏せられてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「よぉ!

 お前ら何処へ逃げようとしてんだ?

 そっちは元ゲダイアン跡地だぜ?

 癌になって死ぬくらいならイフリート様の糧としてその身を差し出してくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「オリヘルガ………!?

 一体どこから………!?」

 

 

カーヤ「空から降ってきた………!」

 

 

ミシガン「空………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワイバーン「グリュアアアアアアアアッッ!!!」

 

 

 空を見上げるとそこには大きな翼を広げた鳥のようなモンスターワイバーンが飛んでいた。

 

 

タレス「あれは………ワイバーン………!?

 ギガントモンスター程の戦闘能力はありませんが竜系のモンスターで中々の飛行速度で飛ぶことができるので見掛けたら相手にしてはいけない危険種です………。」

 

 

オリヘルガ「ハハハ!

 詳しいな!

 お前らがトンズラしようとしてるのを知ってイフリート様がアイツを使わせてくれたんだ。

 アイツの背中に乗りゃお前らのところになんかあっという間に飛んでこれるって話よ!」

 

 

カオス「それでこんなに早く追い付いて来たのか………!!

 飛行手段はブルカーンにもあったんだな!」

 

 

アローネ「飛ぶ方法をお持ちであったのなら今日まで私達をシュメルツェンで迎撃しなかったのは()()()()使()()()()()を隠しておいたと言うことですね。」

 

 

オリヘルガ「そうだ。

 お前らかイフリート様の首を狙ってここに来たことは分かっていたがそれができないとなるとあのバルツィエの乗り物で飛んで逃げられる可能性があったからな。

 イフリート様はあくまでもお前達全員のマナをご所望だ。

 一人も逃がさないようにするためにはあえて俺達ブルカーンが空の相手に何も打つ手がないことを装えばお前達もそう直ぐには動かないだろ?」

 

 

 連日カオス達はシュメルツェンでのブルカーンの様子を探っていた。空からシュメルツェンを見下ろしている分にはブルカーンは何も反撃はしてこなかったのでブルカーンは特に何も対策が打てないのだと判断したが目測を見誤ってようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………さてどうする?

 とりあえずは一人は押さえたがこの状況でお前達は逃げるのか?

 

 

 ()()()()()()()?()」ジャキッ…

 

 

ウインドラ「………!」

 

 

 オリヘルガがウインドラの首筋に短剣を突き付ける。カオス達の出方次第ではウインドラが即殺すこともできると言っているかのようだ。

 

 

 カオス達はどうすることもできなかった。ウインドラを人質にされてはカオス達はここから逃げることもオリヘルガを撃退することも敵わずに捕まってイフリートの餌食になるしか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「…それじゃお前達は大人しく………!」「ギィィィアッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然カオス達の頭上にいたワイバーンが悲鳴を上げた。そしてワイバーンはオリヘルガの目の前に落下する。

 

 

オリヘルガ「!?

 なっ……!?

 何が起き「フンッ!!」!?」

 

 

 その一瞬の隙を見逃さずウインドラがオリヘルガの短剣を槍で弾き立ち上がる。他の仲間達も何が起こったのか分からなかったがウインドラが立ち上がったのを見て駆け寄る。

 

 

カオス「ウインドラ!」

 

 

ウインドラ「無事だ。

 ………すまない。

 油断するなと言った俺が捕まってしまうとは………。」

 

 

アローネ「それは構いませんが今のは………?」

 

 

 ワイバーンを見れば翼が凍り付いていた。何者かがワイバーンを氷の魔術で攻撃し撃ち落としたようだ。

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………チッ!

 何だよ………!

 ()()()()お前達の仲間だったのかよ!」

 

 

 オリヘルガは今しがたワイバーンを攻撃した者を知っているようだった。あの女と発言しているところから既にその人物と会ったことがある様子だが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「ギギアアアアアアアッッッ!!!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ「「「「「「!!」」」」」」

 

 

 何者かの援護射撃でウインドラは助かったが状況が好転したのではない。それどころかモンスターの群れに追い付かれてしまった。

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………流石にこのモンスターの多さにはあの女もなす術が無いようだな!

 時間はかかったが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これで終わりだな!!

 観念するんだな!!」



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託された運命

ローダーン火山 西 夜 残り期日十日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「ガルルルルルルル……!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「クハハハハハ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前方にはオリヘルガとワイバーン、後方にはモンスターの大群。カオス達はとうとう取り囲まれてしまった。この状況で六人全員が無事に切り抜けることは難しい。一人二人ならばなんとか逃げ出すことはできるだろうがそれでは残りの仲間が敵の手に落ちてしまうことになる。

 

 

ウインドラ「………ここはどうすべきか………。」

 

 

タレス「ワイバーンもさっきの不意打ちから回復したみたいですし空を飛んでの逃亡は難しそうですね。」

 

 

ミシガン「第一レアバードじゃ全員乗せて飛ぶことなんて無理でしょ………。

 もう捕まるしかないの………?」

 

 

 前後を確認しても抜け出せる隙が窺えない。確実に誰かが捕らわれてしまう未来しか見えずまともな作戦も立てられそうにないのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………こうなってしまってはどうすることできませんね………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ウインドランスッ!!!』」バシュンッ!!

 

 

 

 

 

 

 アローネが詠唱を必要としない魔技を発動させる。しかしアローネが放ったのはオリヘルガでもワイバーンでもモンスターの群れでもなく()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バフゥゥゥゥゥゥンッ!

 

 

 そんな音を立てて砂埃が舞う。夜の暗さと合間って視界がより一層遮られた。

 

 

オリヘルガ「ハンッ!

 最期まで足掻くのかよッ!

 潔いのが好きなんだけどなぁ!!」

 

 

 煙の奥からオリヘルガがカオス達を嘲笑する。アローネが作った砂埃は端的に言って時間稼ぎにしかならない。時間を稼いだところで煙が晴れてしまえばまた元の状況に戻るだけだ。

 

 

アローネ「えぇ!

 最期まで足掻かせていただきます!!

 私達も大人しく捕まる訳にはいきません!!

 皆!

 全力で応戦してください!」

 

 

 アローネが皆に指示を出す。それを聞き入れタレス達が煙幕の中から外に向かって魔技や魔術を撃ち放つ。

 

 

ウインドラ「もうこうする他無いな!!

 俺達はイフリート等に食われる訳にはいかん!!」

 

 

ミシガン「回りは全部敵しかいないんだし全力でやらせてもらうよ!!」

 

 

タレス「形振り構ってられませんね!!

 殺られるくらいなら殺って殺りますよ!!」

 

 

 アローネの指示を受けた三人は完全に戦闘体勢に入っていた。アローネが舞い上げた砂埃が更に濃さを増す。そこら十が煙の嵐だ。

 

 

カオス「(…おっ、俺も戦わなくちゃ……!

 魔術が使えなくてもモンスターぐらいなら剣で)「カオス………。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス………カーヤ………、

 よく聞いてください。

 これから貴方達には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………え………???」

 

 

 いざ剣を鞘から引き抜こうとしたらアローネがそんなことを言い出した。横にいたカーヤも呆然としている。

 

 

カーヤ「?

 ………戦うんじゃないの………?」

 

 

アローネ「えぇ………戦います。

 私達だけで。

 貴方達二人はここから退避してください。

 いいですね?」

 

 

カオス「………なっ、何で………?

 何で俺達二人だけで逃げなくちゃならないんだよ………?

 逃げるなら全員で「残念ながらそれは無理です。」」

 

 

アローネ「私が技を使ったのを見てオリヘルガは私達が自棄になったのだと思い込んでいる筈です。

 私達は全員味方を置き去りにして逃げるような者達ではないとも錯覚していると思います。

 

 

 

 

 

 

 ………ですので逃げ出すならこの時しかありません。

 私達がこの場を引き受けますので二人は砂煙に乗じてお逃げください。」

 

 

カオス「何で俺とカーヤの二人なんだ………?

 俺なんかよりもアローネやウインドラ………、

 タレスだってミシガンも………。」

 

 

 アローネが選んだ人選に自分が入っていることに納得が出来ずに聞き返す。カオス自身今は六人の中でもっとも無力を感じている。これから最後のヴェノムの主イフリートに挑むのであればカーヤはともかく他のメンバーを逃がした方が後々生きるのではないか、カオスはそう思った。

 

 

 しかしアローネの返答は………、

 

 

 

 

 

 

アローネ「いえ、

 私や他の皆では駄目です。

 私達では()()()()()()()()()()()

 今回のイフリートへはカオスの力を介した誰かが挑まなければなりません。

 そうなると私達の中で最も勝率が高いのはカーヤだけです。

 カーヤならカオスを援護しながら立ち回れますし二人が生き残れば世界を救うことも出来る見込みが立ちます。」

 

 

カオス「世界を救うって………!

 でもその前にアローネ達が捕まったらイフリートに……!!」

 

 

アローネ「………この状況、

 私の知恵では全員が無事にここを脱出する策は思い浮かびません。

 それなら誰を逃げ延びさせるか………、

 誰が生きていた方が世界を存続させられるか考えた結果貴方達二人しかいなかった………。

 タレス、ミシガン、ウインドラを私の考えた結論に利用する形で心苦しいですがもうこれしか私には手が無いのです。

 もう………長く話し込んでいる暇はありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行ってくださいカーヤ!

 カオスを連れてこの場を去るのです!!

 そして必ずやイフリートを貴方達二人の手でどうか撃ち取ってください!!」

 

 

 そう言うとアローネはカオス達を掴み煙の外まで()()()()()。アローネの力は意外にも大の男一人と少女を投げ飛ばすくらいには強かった。

 

 

 

 

 

 

カオス「(!!この力は………シャープネス………!?

 シャープネスで腕力を上げて………!?

 いつの間に………!?)」

 

 

 アローネに投げ飛ばされた先はモンスターの群れの中だった。一瞬何でモンスターの中に投げ飛ばしたのか理解できなかったが………、

 

 

カーヤ「!!

 カオスさん……!!」

 

 

 カーヤは器用にレアバードを展開しカオスを掴んで落下する寸前で空へと飛び上がる。下ではウインドラ達とモンスターの戦いが続いている。

 

 

カオス「カーヤ………!!

 皆が……!!」

 

 

カーヤ「………」

 

 

カオス「カーヤ!

 皆のところへ戻って!!

 このままだと皆が…!!」

 

 

 カーヤはカオスの声を無視して飛翔を続けた。基本彼女はカオス達の言うことは聞いてくれるがこの場では誰の指示に従った方がよいかは自分で判断しその結果カオスよりもアローネの指示の方を優先した。カーヤはカオスを連れて荒野へと飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………そんな………待ってくれよ………!

 このままだと皆が………皆が…………!!!」

 

 

 カオスは自分の頭の中で理解はしていた。自分が戻ったとしても何の役にも立たないことを。ろくに戦闘も出来なくなった自分が舞い戻ったところでアローネの希望を袖にするだけだと言うことも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも仲間を置いて逃げるしか出来ない、させてもらえない自分の無力さに歯痒い苦味を噛み締めることしか出来なかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………皆ァァァァォァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 

 カオスは叫んだ。その叫びは下手したらオリヘルガに届きワイバーンを駆使してオリヘルガが追ってくることもあり得ただろうが幸いにも下での騒音がカオスの叫びをかき消してくれた。おかげでカオスとカーヤはオリヘルガに気付かれることなくこの場を去ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてカオス達が遠くにまで飛んでいくのを見届けたかのように砂埃は晴れてアローネ達が捕らえられるのがカオスの目には見えた………。



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頼りになる女性との再開

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「何でだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!」ビクッ!

 

 

 カオスが地面に膝を付き地面を思いっきり殴り付ける。カオスが殴り付けた地面は深く抉れカオスの拳が手首まで埋まる。この辺りの地面は災害もあった影響か土の固さがまるで無かった。言い表すのなら土が死んでから時間が経過して骨すら風化してしまったような状態だ。それほどまでに()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 何事も無ければこの風景を黙視して色々な想いに耽っているところだがカオスはそれどころではない。

 

 

カオス「……何で………何で俺なんかを優先するんだよ………!

 俺なんかよりももっと大事な………!

 失っちゃいけない人達がいただろ……!!

 

 

 タレスはアイネフーレを立て直さなきゃならないんじゃないのか………?

 ミシガンはウインドラと一緒にミストに帰らなきゃいけないんじゃなかったのか………?

 ウインドラはダリントンさんの意思を継いでバルツィエと戦うんじゃないのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………アローネは一番生きてやらなきゃいけないことが沢山あったんじゃないのか………?

 ウルゴスの人達や家族の人達………お義兄さんを見つけ出してあげなくちゃいけないんじゃなかったのか………?

 まだ何も始めてないじゃないか………。

 それなのに何で俺なんかを助けたりしたんだ………。

 俺なんか一人じゃ何も出来ないのに………。」

 

 

 ブルカーンに捕まればどうなるかは分かっている。十中八九イフリートの元へと連れていかれてイフリートの餌となるのだ。今戻ればまだアローネ達は生きているだろうが戻ったところで彼女達を取り返すだけの力はカオスにはない。カーヤという強力な仲間は一人だけ残ってはいるがカーヤでさえもブルカーンの連中に一人で立ち向かうのは無謀だ。先日もブルカーンの数名に苦戦していたという。そこにモンスターの大群とワイバーンまでおり更にはイフリートまでもが後ろに控えている。カーヤだけ行かせてもアローネ達を救い出すことは厳しい。かといって頭数を増やすために自分も同行したところでどうにもならない。

 

 

 こんな時だというのに何故自分は技も魔術も使え………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………そうか………。

 そういうことか………。」

 

 

カーヤ「………?」

 

 

カオス「………そうだよ………。

 俺は別に魔術が使えなくなったんじゃない………。

 マナを消費するような技や魔術を発動させようとすると()()()()()()()()()()()じゃないか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が全力で魔術を使ってブルカーンとイフリート両方を消し飛ばせばそれでアローネ達がイフリートに食われることなんてなくなるじゃないか………!

 アローネ達がまだシュメルツェンに到達していない今の内に魔術で山の頂上を粉々に消し飛ばして「だっ、駄目!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………そんなの………駄目………!

 そんなことしたらカオスさんが石になって死んじゃう………!

 カオスさんが死んじゃったらアローネさん達も悲しむと思う………。

 カーヤも………………だから………。」

 

 

 カオスがそんな自暴自棄な行いを実行しようとするのをカーヤが止める。カオスの考えはブルカーンとイフリートを巻き込んでの()()()()()()()だ。よしんばそれが成功しブルカーンとイフリートが倒せたとしてもカオスも道連れになるだろう。この場合はカオスが道連れと言うよりはブルカーンとイフリートが道連れになる訳だが………。

 

 

 

カオス「じゃあどうすればいいんだよ!!

 どうすればアローネ達を助けられる!?

 どうすればイフリートを倒せるんだ!?

 もう他に手は無いだろ!!?

 俺達は何のためにここまで来たんだ!!?

 ヴェノムの主イフリートを倒すためだろ!!?

 そのイフリートのところへ辿り着く前にブルカーンの連中が邪魔してくるんだ!!

 イフリートを倒さないといけないのにアイツ等全員イフリートの手下になって俺達を襲ってくる!!

 

 

 アイツ等は敵なんだ!!

 敵であるなら俺がぶっ飛ばして皆を助け出すんだ!!

 その方法しかもうアローネ達を救い出す道は無いんだよ!!」

 

 

カーヤ「で、でもそんなやり方でアローネさん達が助かってもカオスさんがいなくなるんじゃ………。」

 

 

カオス「俺のことなんか気にするな!!

 俺なんか生きてたってどうせこの先ろくな人生送りゃしないんだ!!

 俺なんかが生き残るよりもアローネ達みたいな世界に必要な人達が生き残るべきなんだ!!

 

 

 

 

 

 

 俺はいつだってそうだ!!

 俺なんかよりももっと必要とされる人達が俺のために死んでいくところを沢山見てきた!!

 

 

 

 どうして俺じゃないんだ!!?

 どうして俺が死なないんだ!?

 死ぬべきなのは何の役にも立たない俺であっておじいちゃんやトラヴィスさんやダリントンさん達とか皆に必要とされる人達じゃない!!

 俺は生きてたって何の意味も無いんだよ!!

 だったらせめてアローネ達のためにこの命は使いきってしまいたい!!

 アローネ達がいなくなった世界でなんて俺は生きていたくない!!

 だから俺はアローネ達を救うためにも俺が完全に石になる前にこの力でブルカーンとイフリートを火山ごと消し飛ばして「何を暑苦しく寒いこと言ってやがんだ」………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前結構卑屈な性格してるよな。

 あんだけの強さを持ちながら自殺願望が高いんだな。

 勿体ねぇ性格してるぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達の後ろから女の人の声がする。気が立っていたこともあってその女性の気配に気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか魔術を遠くの方で連発しまくってみたいたが今は使えねぇのか?

 ってかお前魔術使えるようになったのかよ?

 そんで体が石になる?

 どういう状態なんだそりゃあ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!

 こ、この人………カーヤが見付けた人のマナ………。

 さっきワイバーンを撃ち落とした人………!」

 

 

 カーヤがカオスよりも早くその人物へと振り返りその顔を拝見するがカーヤは当然のごとく見知らぬ人ということもあって警戒する。口調も勝ち気なせいでカーヤにとっては苦手そうな相手であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()連れてかれちまったか。

 ………まぁいい。

 アタシにはさして関係の薄い連中だしな。

 ()()のようにそこまで悲観したりはしねぇよ。

 つーかお前も何でそんなに絶望してんだよ。

 まだアイツ等死んだ訳じゃねぇだろ?

 そんなに感情剥き出しにして激昂することもねぇさ。

 

 

 これから上手くやりゃいいだけの話だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスにはその声に聞き覚えがあった。彼女と会ったのは二回だがその度に衝突はあっても助けられてきた。そしてカオス達と共にダレイオスへと渡りこれまで別行動をとっていた人物。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あっ、

 貴女は………!!」

 

 

 カオスは振り替える。そこにいた人物は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「よう、

 久し振りだな。

 もうお前達と別れてから半年ぐらいになるのか?

 待ってたぜ。

 お前達がここに来るのをよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達の前に現れたのはかつてカオスの祖父アルバートを慕いカオスへ祖父の歴史とこの世界の全てを伝えたマテオの元研究員レイディー=ムーアヘッドその人だった………。



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短期決戦

消滅都市ゲダイアン跡地 深夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………レイディー………さん………。」

 

 

 カオスに話し掛けたのはカオスが旅を始めてから暫くして出会いその後も何かと繋がりが深い女性のレイディーだった。

 

 

レイディー「何を辛気臭い顔してんだよお前は。

 もっと朗らかに笑って見せろよ。

 ほら、笑顔笑顔。」

 

 

カオス「………こんな時にそんな顔出来ませんよ………。」

 

 

 相変わらずレイディーは人の神経を逆撫でするような物言いをする女性だと改めて思った。こんな気落ちしている時にあまりこの人とは話したくないとカオスは感じた。

 

 

カーヤ「………?

 知り合いの人………?

 この人がステファニー………って人じゃないの……?

 レイディーって………。」

 

 

 カオスとレイディーの雰囲気から二人が顔見知りの間柄であることは分かったようだが先刻聞いていた通りの名前ではなく新たな名前が登場したことに疑問を抱くカーヤ。

 

 

カオス「………違うよ………。

 この人はステファニーさんじゃなくてレイディーって言うマテオから来た人なんだ。

 俺達と一緒にダレイオスに来てその後別々にダレイオスを旅してて………。」

 

 

カーヤ「別々に………?

 何のために別々に旅してたの………?」

 

 

カオス「それは………、

 ………レイディーさんにも色々事情があるみたいだよ………。」

 

 

 カオスとレイディーは確かに知り合いではあったがカオスの中ではレイディーのことは実はあまりよく知らない。知っているのは自己中心的な考えで自由奔放に自分の興味を持ったこと以外のことは関与しないことくらいか。あとは昔祖父を尊敬していたこととレサリナスでヴェノム研究のために度々ワクチンことツグルフルフをバルツィエ達みたいに多量服用していたかのような話を彼女から………、

 

 

 

 

 

 

レイディー「アタシのことなんてどうだっていいだろ。

 それよりもアタシが気になってんのはお前と一緒にいるその雌ガキだ。」

 

 

カオス「雌ガキって………この子はカー「そいつ……… 」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「バルツィエの血筋だよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………はい………。」

 

 

 レイディーは一発でカーヤをバルツィエの関係者と見抜いた。先のワイバーンを撃ち落としたのはどうやらレイディーのようでカーヤを一目でバルツィエと当てる辺りどこかのタイミングでカオス達のことは見付けていたのだろう。だが彼女はカオス達に自分から進んで会いに来たりはしなかった。助太刀はしてくれたみたいだがそれが一つ気にかかった。

 

 

カーヤ「カッ………カーヤは………。」

 

 

レイディー「あぁ別に気にしてなんかいねぇから安心しろ。

 その様子だとお前ダレイオスのどっかで出来ちまった戦争孤児だろ?

 バルツィエの血を受け継いではいるようだがこいつらと一緒にいんのはお前が生まれた場所でお前のことを受け入れてもらえなかったからこいつらがお前を連れ出した、そんなところだろ?」

 

 

カオス「よく分かりますね………。

 正解ですよ………。」

 

 

レイディー「当然だろ。

 アタシはレサリナスのバルツィエの一番近くの席でアイツ等を見てきたんだぜ?

 アイツ等のことなら対外のことなら分かる。

 アイツ等は本家分家で子ができりゃその都度式典を挙げて祝うんだ。

 だからバルツィエに今誰がいるのかぐらいなら把握している。

 そのアタシの記憶に無いバルツィエの血筋でダレイオスにいるってんならそうとしか考えられん。

 これがアタシの答えだ。」

 

 

カーヤ「…この人凄い人なの………?」

 

 

カオス「一応は王立研究員とかいうよく分からないけど凄いところで研究員してた人みたい………。

 だから多分凄いんだよ………。」

 

 

 カオスとカーヤは出生の都合上都会とは無縁の生活を送ってきた。そのせいでいまいちレイディーの凄みがよく理解できていなかった。

 

 

レイディー「へっ、

 別にお前らレベルの奴のアタシの次元を理解してもらおうなんぞと思っちゃいねぇよ。

 ………それよりもお前達レアバードなんて持ってやがッたのか。」

 

 

カオス「レアバードのこと知ってるんですか?」

 

 

レイディー「今言ったばかりだろ。

 アタシは誰よりもバルツィエのことを知ってる。

 アイツ等が何を開発してどんな力を隠しているかもな。

 だからよ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほら。」パシュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・カーヤ「「!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイディーは持っていた鞄から何かを取り出す。それは鞄から外に出した瞬間大きく膨らんでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「アタシも持ってんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レアバードをな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイディーが取り出したのはアローネが使っているラーゲッツのレアバードと同機種のレアバードだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「レイディーさんもレアバードを持ってたんですか………!?」

 

 

レイディー「あぁ、

 前にお前とレサリナスで会ったときについでにパクってきた。

 こいつでずっとダレイオスを旅してきたんだ。

 結構便利だよなこれ。」

 

 

カオス「あの時に盗み出してたんですか………?

 でもそれがあるなら何でレサリナスから逃げる時それを使わなかったんですか………?

 それを使ってたらレイディーさんだけでもさっさと逃げ出せてたのに………。」

 

 

レイディー「アタシもあの時はこいつの操縦技術が無かったんだよ。

 アタシがこれを乗りこなせるようになったのはダレイオスに来て練習を積んでからだ。

 マテオじゃ先ず使われねぇ代物だしな。

 バルツィエの連中はマテオの身内達にすらこの存在をひた隠しにしてやがる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 だからあの時はこれを使って逃げることは出来なかった。

 あん時はダリントンの部下達も大勢いたしバルツィエから逃げようにも誰もこいつを使いこなせるやつがいなかっただろうからこれで逃げるなんざ考えてなかったんだよ。」

 

 

カオス「そうだったんですか………。」

 

 

 もしあの時これがダリントン隊の全員が使えていれば今頃はトラヴィス達も生きていた筈だ。だがそんな過ぎたことを今更嘆いたとしてもあの時にはそんな術はなかった。ならこの事については深く追求するのは無意味なことだろう。

 

 

 それよりも今は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………それで早速だがもう時間はねぇ。

 猿共がブルカーンの連中に捕まった以上はここでのヴェノムの主の問題は早急に対応する必要がある。

 

 

 喜べ。

 アタシがお前らに付いた限りはここでのヴェノムの主は他のところよりも()()()()()()()()()()()。」

 

 

 レイディーは自信満々にそう言って見せた。レイディーには何かブルカーンとイフリートに対しての秘策があるようだが果たしてそれはどのような策だと言うのだろうか………。



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ブルカーンの真実

消滅都市ゲダイアン 深夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………じゃあ先ずはお前達がこれまで何をしてきたか、今情勢がどうなっているのな話せ。

 アタシの話はそれからだ。」

 

 

カーヤ「カーヤ達のこと………?」

 

 

カオス「レイディーさん、

 今はそんな悠長なことは言ってられないんです!

 こうしてる間にもアローネ達はオリヘルガにシュメルツェンに連れていかれてイフリートに「待てよ。」!」

 

 

レイディー「今日アイツ等がシュメルツェンに連れていかれたとしてアイツ等もそんな直ぐに食われる訳じゃねぇ。

 イフリートが猿達を食うとしたら明日の今頃………日付が変わる辺りぐらいだ。」

 

 

カオス「え………?」

 

 

 アローネ達がオリヘルガに捕まっていてもたってもいられず何かアローネ達を奪い返す策があるのかと聞こうとしたらレイディーは落ち着いた様子でカオス達のこれまでの話を訊いてきた。それが一体何の役にたつと言うのだろうか。

 

 

レイディー「アタシはここへは()()()()()()()()()()()()()

 その時からブルカーンの連中の様子をずっと探っていたんだ。

 連中が捕まえたイフリートへの貢ぎ物をいつ奴に献上するかぐらいは調べがついている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連中が猿達を差し出すのは今日の日付が終わる頃だ。

 それまでは猿達がイフリートに食われる心配は要らねぇ。

 だからお前はさっさとアタシにお前達が今どうなっているか話せばいいんだよ。

 包み隠さずな。」

 

 

カオス「………分かりました。」

 

 

 レイディーがあまりにも自信たっぷりにアローネ達がイフリートに殺されるのが今日の終わりと強調するので取りあえずはレイディーの指示通りにカオスはこれまでの旅のことをおおまかに話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………そうか………、

 もうここのヴェノムの主で最後なのか………。

 じゃあ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

カオス「残されたチャンス………?」

 

 

レイディー「………とにかく状況は把握した。

 あの殺生石の精霊が世界をあと残り九日で終わらせようとしていることもダレイオスが今もう一度再集結してマテオと戦う準備が整いつつあることも。

 ならここでのことは尚更失敗できねぇよな。

 猿達を助けるためにもお前達二人はアタシに協力しな。」

 

 

カオス「は、はい、

 お願いします。

 ………それでレイディーさん、

 アローネ達がイフリートのところに送られるのが今日の終わりというのはどういうことですか?」

 

 

 レイディーにこれまでの話を聴かせている最中もどうしてもその事ばかりが頭にちらついた。何故レイディーはアローネ達がシュメルツェンに到着して直ぐではなく今日の日付が変わる寸前なのか………?

 

 

レイディー「アタシはここに来たのはイフリートに会うためだ。

 アタシの目的のためにイフリートに会う必要があった。

 だがブルカーンの連中はお前らも知っての通りイフリートのしたっぱとして奴の食糧調達係を任せてやがってアタシも思うようにイフリートのところへと辿り着けなかった。

 

 

 だから四ヶ月間ずっと観察してたんだよ。

 そして分かったんだがブルカーンの連中の不審な点に気が付いた。」

 

 

カーヤ「不審な点………?」

 

 

 カオス達より四ヶ月も先にレイディーはこの地へとやって来た。四ヶ月前と言ったらカオス達がまだカイメラに苦戦していた時のことだ。レイディーはカオス達がトロークンを訪れる直前にはカイメラと戦っていたらしい。ではレイディーはカイメラ戦後直ぐにここへと来たことになる。何故彼女は真っ直ぐここへと向かったのだろうか。

 

 

レイディー「アタシの方でもクリティアの奴等からブルカーンの連中が異常なまでのイフリート信仰を教示していることは聞いていた。

 けどまさか奴等が何を思ったかヴェノムの主をイフリートと思い込んでたことには驚いた。

 ………がいくらなんでもそりゃ無理があるよな?

 あそこにいるイフリートだって始めはただの主だったんだぜ?

 それを自分達が神としているイフリートに置き換えることなんて無理があると思わねぇか?」

 

 

カオス「そう言われると確かにおかしいとは思ってましたけど………。」

 

 

 イフリートの原点はこの世界のどこかにいるとされる幻の存在精霊だ。カオス達の旅で精霊マクウェルとラタトスクと出会いはしたがそれは二体とも人の体を借りて話をした程度で具体的な彼等の姿形をこの目に捉えた訳ではない。

 

 

 精霊は一体どのような姿をしているのか、それは誰にも分からないが少なくともレッドドラゴンのようの昔からその生態を知られていた種ではないことは間違いない。

 

 

レイディー「アタシはブルカーンが何を考えているか知りたくなって観察し続けた。

 本当に奴等がアレをイフリートと信じて従ってんのか調べてみた。

 ………その結果はアタシの想像通りのものだった。

 あいつらブルカーンの連中は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別にヴェノムの主のことを本気でイフリートと信じてるようじゃないらしい。

 寧ろアイツ等にとっては消えてほしい存在みたいだな。」

 

 

カオス「ブルカーンがイフリー………ヴェノムの主に消えてほしい………?

 どうしてそんなことが分かったんですか………?」

 

 

 レイディーの話はどうにも信じがたいものだった。カオス達はまだ全てのブルカーン族と会った訳ではないが少なくともオリヘルガからはそんな印象は受けなかったが………、

 

 

レイディー「それをこれから説明してやるぜ。

 この話を始める前にお前達には確認したいことがあるんだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()ってお前達は知ってるか?」



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例外を許さぬ強欲

消滅都市ゲダイアン 深夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………知ってます。

 元はバルツィエが編み出した術らしいですけど俺やカーヤも使えます。」

 

 

レイディー「そうか………、

 なら詳しく説明しなくても分かってるな?

 今回の話にはこの共鳴が深く関わってやがる。

 その共鳴のせいでブルカーン族はイフリートの命令に逆らえねぇんだよ。」

 

 

カーヤ「?

 共鳴が関係あるの?」

 

 

 カオスが魔術を使えるようになったのは共鳴を習得することが出来たからだ。ウィンドブリズ山でダインから教わりカイメラ、アンセスターセンチュリオン戦では大いに活躍した技術。それが何故ブルカーンがイフリートに屈することになったと言うのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「共鳴はな。

 使えればとんでもなく便利な技術だ。

 これがあれば不必要に余計な破壊を生むこともなく敵味方を区別して敵だけを攻撃できたり出来る。

 他にも自分に近付くモンスターの気配を察知したり人んちに侵入したりした時に家主がどこにいるのか探って出会わないようにしたりとかな。」

 

 

カオス「は、はぁ………。」

 

 

 前半まではカオス達もよく利用していたことだが最後だけは同意しかねる。人の家に侵入することなど早々あったりすることだろうか。

 

 

カオス「………もしかしてレイディーさんも共鳴が使えるんですか?

 前に逃亡のプロとか言ってたのはそういうことばかりしていて誰かに追われても共鳴で人がいないところを探りながら逃げられるからじゃ「そしてこの共鳴には」………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………この共鳴には探り出した()()()()()()()()()()()

 

 

 お前達もブルカーンと対峙したなら聞こえてきたんじゃないか?

 イフリートのテレパシーの声が。

 あれも共鳴の一種だ。」

 

カオス「テレパシーが共鳴の一種………?」

 

 

 オリヘルガに襲われた時レイディーが言うようにイフリートの声がその場にいないにも関わらず聞こえてきた。あの力がブルカーンとイフリートとどう関係するのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「ブルカーンの連中はイフリートに()()()()()()()()

 誰一人奴の元から逃げることも出来ねぇんだ。

 逃げたが最後イフリートの共鳴に引っ掛かってイフリートが出動してペロリ………っつー筋書きでブルカーンは奴の命令に従うしかなくなってる。

 連中はどこにいてもイフリートの見張りの目から逃げ出せねぇ。

 長期にわたってブルカーンの連中が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それほどまでにイフリートの共鳴は凶悪なんだろうさ。」

 

 

カオス「!」

 

 

カーヤ「共鳴ってそんなことまで出来るの………?

 カーヤはそんか使い方知らなかった………。」

 

 

レイディー「どっちかって言うとこの能力は人が使ってるから共鳴って呼び方をしてるだけで部分的にはある特定の種が放つ()()()()()近い能力だ。

 自身が発した信号波が反射して帰ってきたのを受け取って相手の位置を読み取る。

 海にいるイルカはそうしてサメなんかから隠れて身を守るんだ。」

 

 

カオス「………ブルカーンの連中はイフリートに脅されて言うことを聞いてるだけなんですか………?」

 

 

レイディー「そのようだぜ。

 なまじ知能を持って会話が成立しちまったからブルカーンの奴等従順になるしかなかったんだ。

 逆らっても逃げても食われるしかないんならブルカーンの奴等はイフリートの駒になって生きることを選んだ。

 

 

 …それでもまぁ奴に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「え………?与えられた猶予ってなんですか………?」

 

 

 ブルカーンがイフリートの軍門に下った経緯は判明した。そうした経緯があったのであればブルカーンも不運な目にあったと同情したがレイディーの発した最後の言葉が気になった。

 

 

レイディー「あぁ、

 その話こそが猿達にはまだ時間があるっていうアタシが気付いた根拠だ。

 

 

 ブルカーンの連中はイフリートに捧げるための獲物を直ぐにイフリートの元には届けない。

 一度シュメルツェンまでは持っていくがそれからイフリートに食わせるのには時間をかける。」

 

 

カーヤ「何でそんなことをするの………?」

 

 

 何故ブルカーンは捕らえた生物を直ぐイフリートへ差し出さないのか。カオスとカーヤは考えてはみたが答えは出なかった。

 

 それよりもブルカーンが消えていったとは何のことだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「お前ら飯を食ったら暫くはまた飯が食えなくなるだろ?」

 

 

カオス「………は?」

 

 

カーヤ「?」

 

 

レイディー「だから飯食った直後は腹が満杯で次の飯は食えなくなるだろって訊いてんだよ!」

 

 

カオス「…えと………そんなの当然じゃないですか。

 誰だってご飯の後にまたご飯なんて入らないでしょう………。」

 

 

 イフリートについての話からどう転がったのか食事の話に変わった。レイディーは何を思ってこんな話に切り替えたのか………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「イフリートも同じだよ。

 奴は定期的にブルカーンの奴等に餌を持ってこさせる。

 その餌は大体十日以内までに持ってこなきゃいけねぇようだ。

 もし少しでも遅れたらイフリートは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブルカーンの奴隷連中の中から強いマナを持った順に一人ずつ食っていく。

 猶予ってのはその時間のことだ。

 ブルカーンは出来る限り奴へと餌を届けようとはしているがどうしてもその時間までに持っていくことが出来ずにこの四ヶ月の間でもシュメルツェンから()()()はイフリートの腹の中に納まってる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全然話は変わってはいなかった。それどころかブルカーンが非常に切り詰められた状態にあることが判明する。

 

 

カオス「イフリートはブルカーンにも手を出してるんですか…!?

 ブルカーンはイフリートに従ってるのに……!?」

 

 

カーヤ「何で抵抗しないの?」

 

 

レイディー「抵抗なんて無駄さ。

 忘れたのか?

 イフリートはヴェノムの主だぜ?

 アタシやお前達みたいなヴェノムを倒す力をブルカーン族は持ってはいない。

 イフリートが知能をつける前には少しは抵抗したんだろうが最後には心が折れて抵抗を止める………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とっくの昔にブルカーン族は敗北を認めたのさ。

 バルツィエの前にヴェノムには敵わない、

 ましてや知能や共鳴を身に付けた変種のヴェノムになんざ手も足も出るわけねぇんだよ………。

 

 

 奴等に出来るのは少しでも長く生き続けることだけだ。

 奴は餌を食う度にその瞬間からまた同じく十日という時間をブルカーンに与える。

 そうしたサイクルがあるから猿共が食われるタイミングは今日の夜だってことが分かる。

 イフリートが最後に餌を食ったのは九日前。

 また一人ブルカーンの中の誰かが奴に食われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………連中も敗北は認めても生きることだけは諦められんらしい。

 そんな切羽詰まった状況だから同族のためにあっちこっち行って餌をかき集めようとしてんのさ………。」



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三度目のあの男

消滅都市ゲダイアン 深夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「ここまで聞いてどうだ………?

 ブルカーンの連中をどう思う?」

 

 

カオス「………」

 

 

 ブルカーンはイフリートにただ神と信じて従っていたのではなかった。ブルカーンはイフリートに屈伏してしまったのだ。レッドドラゴンがまだ知性を身に付けるまではブルカーンも他の部族のように逃げ隠れしていたことだろう。それが知能を得て共鳴まで使えるようになってしまったレッドドラゴンが自らをイフリートと名乗りブルカーンやこの地のモンスターをその支配下に敷いてしまった。

 

 

 共鳴の力は優秀だ。使えるようになってからはこの力の恩恵は見に染みるほど感じている。カーヤもこの力を使って一人でフリンク領を防衛していた。それがここではイフリートがブルカーン領の中にいるブルカーンとモンスターを共鳴の力で監視している。逃げ出せばイフリートは直ぐにでもその逃亡者を追うか、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………ブルカーンの連中………と言ってもまともに話をしたのはオリヘルガ一人だけだけどあの様子じゃ他のブルカーン達も同じなんだろうな………。

 オリヘルガから感じた印象はダレイオスの他の部族達と比べると断トツで最悪だった。

 それもフリンク族の人達を越えるほど………。

 なんせバルツィエみたいなことを言い出したから………。)」

 

 

 先程はモンスターやヴェノムでなければあまり自分から殺生を好まないカオスでさえも仲間を奪われたことによってオリヘルガ含むブルカーンに強い殺意を抱いた。例え自身の体が完全に石になったとしても仲間を救うためにブルカーンとイフリートを葬り去ろうと決意するくらいには最悪の印象であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それもレイディーの話を聞かされるまでは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………………でもレイディーさんの話を聞いた今じゃそこまで強く憎むことができない………。

 アローネ達を連れ去られたのにどうしてこんな………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………きっとブルカーンがマテオの人達に似てるからだろうな………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは昔は弱者だった。力が弱いゆえに虐げられた生活を送ってきた。そんな生活を送ってきたカオスはいつだって弱者を虐げる強者こそが悪で自分はそんな悪を打ち倒したいと常々思ってきた。

 

 

 

 

 

 

 だからこそカオスは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼等はかつての自分と同じで弱者の立場にある。カオスは弱者を嫌えない。弱者が強者に抗えないこの世の理不尽さをカオスはよく理解していた。ブルカーンはイフリートに支配されているだけの弱者だった。ならばカオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺達が倒さなくちゃいけないのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムの主であるイフリートだけです。

 ブルカーンは敵だけどイフリートさえ倒してしまえば別に放っておいても構わない………。」

 

 

レイディー「何だよ?

 さっきはあれだけ殺気だってたのにもうブルカーンを赦しちまったのか?

 奴等はお前の仲間達をイフリートの腹に押し込もうとしてる連中だぞ?」

 

 

カオス「貴女も変わりませんね。

 俺がこう返事するようにブルカーンのことを話してくれたんじゃないですか。」

 

 

レイディー「アタシはしっかりとした意思を確かめたかったんだ。

 曖昧な覚悟で敵に向かっていくようじゃどんなに力のある奴でもどこかで足元を掬われる。

 倒すべき標的が誰なのかはハッキリしとかねぇとな。」

 

 

カオス「………そうですね。

 でもこれで漸く決心しました。

 俺達の相手は始めからブルカーンじゃなくてイフリートだってことを。」

 

 

レイディー「…その通りだ。

 ブルカーンの連中に世界をどうこうする気はない。

 奴等は生存意欲でイフリートの命令に従ってるだけ。

 イフリートさえ倒しちまえば奴等は敵じゃない。

 今のところ敵だがアイツ等は放置していてもいいだろう。」

 

 

カーヤ「…でもどうするの………?

 アローネさん達を助けに行くんだとしてもブルカーンが邪魔してくるでしょ?

 結局はブルカーンとも戦わなくちゃいけないと思うけど………。」

 

 

 明確にブルカーンがイフリートに支配されている以上はカオス達がイフリートの元へと辿り着く過程で必ずブルカーンとはぶつかる。それを突破するのは至難の業だ。それに先ずイフリートがどこにいるのやら………。

 

 

レイディー「それについてはアタシに考えがある。

 アタシがここでブルカーンの様子を探っている間にシュメルツェンでイフリートが潜伏しているであろう場所の目星はついている。

 イフリートが餌にありつくことが出来なかったらブルカーンの連中の誰かを代わりに食ってるって話したろ?

 

 

 シュメルツェンの街の中にある建物の中で一つ何度かブルカーンの奴等が出入りしているのを確認してその後入っていった奴が二度と出てこなかった建物があった。

 イフリートは恐らくその建物の奥だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 レイディーの作戦はただの特攻だった。それもアローネ達を救出するよりも先にカオス、カーヤ、レイディーの三人だけでイフリートと戦うだけの………。

 

 

カオス「俺達だけでイフリートを倒すんですか!?」

 

 

レイディー「そうだが何か問題があるか?」

 

 

カオス「問題があるかって………!?

 俺は今大した力は使えないんですよ!?

 十分にモンスターとも戦うことだって出来ないし俺なんか連れて行っても足手まといじゃ………!」

 

 

レイディー「ボケが、

 何のために猿がお前を優先して逃がしたと思ってんだ。

 イフリートを倒すにはお前の力が必要だからに決まってんだろ。」

 

 

カオス「でも俺にできることなんて何も………。」

 

 

レイディー「あるだろうがよ。

 お前に触れている間一時的にお前の力を他の奴等も使えるんだろ?

 だったらその力を使わねぇ手はねぇだろうが。」

 

 

カオス「…大丈夫なんですか………?

 俺一人抱えながら最強種レッドドラゴンと戦うなんて………。」

 

 

レイディー「自分で戦えなぇとなると途端に弱気だな。

 ………安心しろ。

 お前にはこの“氷上の華”が付いてんだ。

 必ず成功する。

 アタシを信じろ。」

 

 

カオス「レイディーさん………。」

 

 

 ここまで彼女が誰かを元気付けようとするのは珍しい。が彼女が言うと何でも上手くいきそうな気がしてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「…まぁ、

 イフリートのところに辿り着くまでは特に問題もないだろ………。

 ………懸念することがあれば()()()だな………。」

 

 

カーヤ「アイツ?」

 

 

カオス「何かあるんですか?」

 

 

レイディー「お前がさっき話してくれた話の中にも出てきたバルツィエの先見隊だよ。

 その内の一人が今この火山のどっかに潜んでんだよ。」

 

 

カーヤ「!!」

 

 

カオス「先見隊が………?

 ブルカーンを襲いに来たんですか?

 一体どのバルーンが………?」

 

 

レイディー「聞いて驚くなよ?

 そいつについてはお前も知ってる顔の筈だ。

 前に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そいつが今この近くにいるんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………え…………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「ラーゲッツのことだよ。

 あの野郎()()()()()()()()()()()()?

 レサリナスで死んだと思ってたのにな。」



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死者蘇生の禁術

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………誰が来てるんですか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクンッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「あぁ?

 聞こえなかったのか?

 二度も同じことを言わせるなって前にも言ったろ!

 だから()()()()()()()()()()()来てんだよ!

 あの女好きがまだ生きてやがったのさ。

 レサリナスじゃ擬きに討ち取られたと思ってたが直ぐに傷を塞いで一命を取りとめてたんだろうな。

 そんでここに来てんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクンッ………ドクンッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…なっ、何かの間違いじゃないですか………?

 ラーゲッツが生きてるなんてことあり得る筈が………。」

 

 

レイディー「はぁ?

 何言ってんだよ。

 現にアタシも奴がこの辺りを彷徨いてるのを目撃してんだぞ?

 アタシがラーゲッツを見間違える筈がねぇよ。」

 

 

カオス「………………それはいつの話ですか………?

 四ヶ月前ならいたかもしれませんが今はいないと思いますけど………。」

 

 

レイディー「ん?四ヶ月前?

 アタシがラーゲッツを目撃したのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここ最近の話だぞ?

 最初に奴の姿を目撃したのは今から丁度()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 もう何回も奴がこの辺りにいるのは見ている。

 奴が生きてるのは間違いようがねぇよ。

 信じられないのも無理はねぇがな。

 だがレサリナスじゃお前も奴が信だのをハッキリと確認しては「そんな筈がありません!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 動悸が激しくなる。レイディーの話がそれほどまでに衝撃的だった。カオスは強烈な寒気に襲われる。呼吸もしづらくなるほどに。

 

 

カオス「ラーゲッツがここにいる筈がありません………。

 ましてや生きてるなんて話絶対にあり得ません!!

 ラーゲッツは………、

 

 

 二ヶ月前!俺達の目の前で死んだんです!

 俺達の手でラーゲッツを殺しました!

 死体だってその時にリスベルン山で埋めて来たから今アイツが生きている訳がないんです!!」

 

 

レイディー「何………?

 ………お前達は………もうラーゲッツと会ってたってのか?

 そんで奴をその時に………。」

 

 

カオス「………はい………、

 アイツの最期はアローネ達皆と看取りました………。

 レサリナスの時みたいに周りにはラーゲッツを助けたりする仲間だっていなかった………。

 だから………。」

 

 

レイディー「………本当に仲間はいなかったんだな?

 バルツィエは大概は二人一組で行動している筈だが………。」

 

 

カオス「!

 それは………」「パパ以外にはあそこにはいなかったのは確かだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「あん?

 パパ………?

 誰のことだ?」

 

 

カオス「カーヤ………。」

 

 

カーヤ「………平気………、

 話してもいいと思う。

 それにこの人の話間違ってないよ………。

 この山の向こう側にパパに似たマナを感じる………。

 

 

 パパは生きてる………。」

 

 

カオス「……どうしてラーゲッツがまた………。」

 

 

 一度目はウインドラ、二度目はカオスと戦いその両方で打ち負かすことには成功した。だがその二回でラーゲッツは生き絶えていた筈だった。何がどうなってまたラーゲッツが再び息を吹き返したのかが分からない。ラーゲッツが生きているということはカオス達は二度も彼に止めを刺すのに失敗したことになる。二度勝利したとはいえ何度もまたカオス達の前に姿を表す彼に底知れない恐怖が込み上げてくる。

 

 

カオス「(………何でまたラーゲッツが………。

 しかも二ヶ月前にレイディーさんが見たってことはウインドラがアイツに倒されてからアイツは直ぐに復活してここに来たことになる………。

 どうやってアイツは復活したんだ………?

 ラーゲッツを埋めた場所はフリンク族も近付かないようなリスベルン山の生い茂った森のど真ん中。

 そんなところへバルツィエの誰かが行ってラーゲッツを掘り起こして蘇生したのか?

 ………いやでも死んだ直後ならまだしもラーゲッツを埋めたからあの後結構時間が経ってたし脈も調べて死んでたことは確かめたし………。)」

 

 

 

 

 

 

レイディー「…さっきお前から聞かされた話ではお前達がスラート族にダレイオスのヴェノムの主を倒してほしいって頼まれたことと殺生石の精霊がデリス=カーラーンを九日後に破壊するって話だったな。

 

 

 ………聞かせろよ。

 そいつに気を使ってアタシにまだ話してないことがあるんだろ?

 先見隊のことも知ってたようだしお前達とラーゲッツの間で何があったんだ?」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………」

 

 

カオス「レイディーさんは分かりますか?

 ラーゲッツがどうやってあの状況から蘇ったか………。

 俺にはいくら考えてもラーゲッツが甦ることなんて不可能だと思います。

 ウインドラが心臓に槍を突き刺して結構な血も流れていましたし脈が無いことも確認しました。

 それで俺達はラーゲッツの死体を放っておくのも気まずかったんでその場所に穴を掘って死体を埋めました。

 ラーゲッツは確かに死んでいたんです。」

 

 

レイディー「………ふぅん………、

 そこのそいつがラーゲッツの娘でアルバートのことを実の父親だと思っていたが実際はあの糞外道が父親で待ち焦がれた父親との出会いは儚くも最悪な形で訪れた訳か………。

 ………そこのお前はラーゲッツに思うところは無かったのか?」

 

 

カーヤ「………ずっと聞かされてきたパパは凄く優しい人でカーヤをいつか迎えに来てくれるって信じてたけどそれが嘘であの時は何もかもが嫌になってもう誰も信じられなくなって………。」

 

 

レイディー「そんで自殺を謀ったがじいさんの言葉で思い止まってこいつらと同行することになった訳か………。

 そこにいた連中でラーゲッツの死体を掘り起こしそうな奴はいなかったのか?」

 

 

カオス「そんな人は誰も………、

 ………フラットさんもナトルさんが見ていたでしょうし………。」

 

 

レイディー「………だとするとアタシに思い付くラーゲッツが復活した方法は一つしか無いがこれは………。」

 

 

カオス「!

 何かあるんですか!?

 死んだ人が甦る方法が……!?」

 

 

レイディー「………前にアタシがブロトゾーンの進化の過程で通るユニコーンが死者を蘇らせる術を持っていたと言う話はしたがその術が世に出た時代にもう一つ興味深い魔導書が発見されたようなんだ。

 その書物自体は今どこにあるのかは知らねぇがもしそれが本物でそれがあればもしかしたら本当に人が蘇えることも起こるかも知れねぇ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その“()()()()()()()()()()()”をバルツィエが持ってたらな。」



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接触回避

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「誰がいつどんな方法で作ったかは分からん。

 その魔導書がどうやって使うものかも文献には記されてないがその魔導書にはユニコーンの角同様死者を蘇らせる力が宿っているとされている。

 ユニコーンがダレイオスにいない以上ラーゲッツが復活したのはその書物が関係しているとアタシは思う。」

 

 

カオス「死者を蘇らせる魔導書………?

 そんなものが………。」

 

 

レイディー「実在してるかどうかは今まで薄かったんだけどな。

 だがお前達が言っていたカタスがバルツィエに渡したって言う過去の遺文書と今回のラーゲッツの件はどうも無関係とは思えねぇ。

 

 

 カタスはひょっとしたらそれがネクロノミコンでそうとは知らずにバルツィエに渡しちまったのかも知れねぇな。

 カタス自身が利用していないことからカタスにはネクロノミコンの価値が分からなかったみたいだがバルツィエの奴等はその力を引き出すことに成功した。

 そして自分達が死んだ時また復活するような仕掛けを体内に仕込んでいたんだろうよ。

 それでラーゲッツは復活したんだ。」

 

 

カオス「…本当に人が生き返るなんてことあり得るんですか………?

 魔術にもそんな術を聞いたことなんて「世間一般に知られている魔術が全てじゃねぇよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「世間でも知られている魔術には基本六元素の六つの攻撃魔術、怪我を癒す治療魔術、対象の力を上昇させる補助魔術と対象の守りを固くする補助魔術の九つがあるが古い魔導書なんかには魔術にはそれ以外にもまだ誰も見たことも聞いたこともないような術が隠されている。

 呪文はまだ見つかってねぇが理論だけなら火属性の魔術ファイヤーボールには上位に位置する中級魔術イラプション、水属性のアクアエッジにはスプレッド、風属性ウインドカッターにはエアスラストといった魔術があるらしい。

 そんで治療魔術ファーストエイドにも更に上のヒールやキュア、シャープネスやバリアーにももっと上の術が沢山ある。

 アタシ達人類が到達してねぇ境地がまだまだありやがるんだ。

 魔術の可能性は無限大だ。

 天井なんてどこまで見上げても見えてきやしねぇよ。

 生命を蘇らせる術があったって何の不思議もねぇ。」

 

 

 魔術について突然勢いよくレイディーか語りだした。その熱の入れようからレイディーがとても熱心に魔術を研究しているようだが………、

 

 

レイディー「………とまぁ魔術にはお前達が全く手もつけてねぇと言ってもいいくらいに深淵に満ちている訳だ。

 超古代文明の遺跡の石碑を解き明かしてもそのことは記されている。

 その中でもネクロノミコンと言えば世の常識を覆して一新させるほどのものだと言われてきたものなんだ。

 正に伝説の書本だな。

 伝説が実在していたとしたらネクロノミコンを作った作者はその時代においての魔術研究の第一人者云わば魔術界の神だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………じゃあラーゲッツは本当に………。」

 

 

 バルツィエが死者を蘇らせる書物ネクロノミコンを所持していたとしたらこれまでの二度の復活はそれを使用して蘇ったのだろう。

 

 

 死者を蘇らせる書本ネクロノミコン。そんなものがバルツィエの手にあるのなら何度倒しても切りがないのではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ん?」

 

 

 と、ここでカオスがあることに気付いた。

 

 

レイディー「あ?どうした?」

 

 

カオス「そのネクロノミコンっていうのは死んだ人を生き返らせることが出来るんですよね?」

 

 

レイディー「伝説の通りならな。」

 

 

カオス「………それだったらラーゲッツの他にもバルツィエで死んでいった奴がいますけどそいつらは………?」

 

 

レイディー「!」

 

 

 死者が蘇るのであればバルツィエは既にラーゲッツの他にも二人程カオス達は倒している。それならその二人もバルツィエは復活させることが出来るのではないか?

 

 

 

 

 

 

 ………がしかしカオス達がダレイオスを訪れてからこの最後の地ブルカーン領まででその二人とは一度も出会わなかった。死亡しているのはグライドとユーラスで二人とも死亡した時期はほぼラーゲッツと同じだ。それなのに復活を繰り返しているのはラーゲッツのみ。まだ遭遇していないだけの可能性もあるがラーゲッツ、ランドール、ダインの三人共レサリナスでカオス達と顔を付き合わせた隊長達だ。先見隊としてダレイオスに潜入しているのがあのレサリナスの広場での三人なのならグライドはともかくユーラスも復活してダレイオスのどこかで見掛けたという話ぐらい聞けた筈だ。だがそんな話は一切聞かない。何か蘇るための法則でもあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

レサリナス「………ラーゲッツ、グライド、ユーラス………、

 アタシもこの三人が一度死ぬところは目撃している。

 ラーゲッツは直接見てグライドはシーモス海道でユーラスと共に追ってこなかったところから擬き達の時限発火で焼き死んでいたことが推測できる………。

 ユーラスについては………殺生石の精霊が降らせた隕石で完璧に体が粉微塵に吹き飛んでいることは確実だ。

 

 

 ………奴等がネクロノミコンで生き返るにはある程度体の損傷があっちゃいけねぇのか………?

 ラーゲッツは二回共擬きが殺ったんだよな?」

 

 

カオス「…はい………。」

 

 

レイディー「………まだ奴等が一体どんな力を使ったのか判断できねぇな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とにかくラーゲッツが生きてることだけは覚えとけ。

 アイツはバルツィエの中じゃ格下だが執念深さだけはトップクラスだ。

 どうかアイツには今日までは大人しくしておいて欲しいもんだな………。」



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フリーズリング

消滅都市ゲダイアン 深夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「お前達二人にはこれを渡しておく。」

 

 

 レイディーはカオスとカーヤに何かを手渡す。それは小さな箱だった。

 

 

カオス「これは………?」

 

 

カーヤ「箱だよ?」

 

 

カオス「あ、いやそれは見て分かるんだけど………。」

 

 

レイディー「そいつを開けてみな。

 明日はシュメルツェンに侵入する時にそいつを装備して侵入するんだ。」

 

 

カオス「装備品なんですか………?」

 

 

 レイディーに言われるがまま手渡された箱を開ける。その中には指輪が入っていた。

 

 

レイディー「…そいつは“フリーズリング”だ。

 クリティア族の連中がアタシがジャバウォックを倒した後にそいつを貰った。

 そいつにはマテオにある手枷のように()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 手枷と違って指に嵌めるだけだからそこまで邪魔にならないだろ?

 鍵もねぇから簡単に外せるしな。」

 

 

 そう説明するレイディーは自身の服のポケットから更にフリーズリングを取り出した。

 

 

カオス「この指輪どれだけ持ってるんですか……?」

 

 

レイディー「何かあった時のために余分に貰っておいたんだよ。

 クリティア族も快く量産してから渡してくれた。

 

 

 って言うかクリティアの連中はこいつの処分に困ってたからアタシが廃品回収しただけなんだけどな。

 こいつは本来は()()()なんだよ。

 手枷と同じ効果を持っているが手枷は鍵をかけとけば拘束されてる奴は外せねぇから有用だがこのフリーズリングは嵌められた奴が自分で外すことが出来るから手枷のように誰かを捕まえることもできねぇしな。」

 

 

カーヤ「これって要らないものなの………?」

 

 

カオス「どうしてそんなもの貰って来たんですか………。

 しかも自分の分だけじゃなく俺達の分まで………。」

 

 

 フリーズリング………何か有効に使えるアイテムなのかと思えばレイディーがその能力や処遇を聞く限りあまり使えそうにないアイテムだが………、

 

 

レイディー「こいつは基本的には人の社会ではゴミそのものなんだが一歩外に出てましまえばその瞬間からアタシにとっては超お得で使えるアイテムに早変わりした。

 こいつにはな………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイディーは自慢げに指輪を空に翳してそう告げた。

 

 

カオス「共鳴のセンサーに引っ掛からない………?」

 

 

カーヤ「え………?

 でもカーヤは共鳴で()()()()を見付けたけど………。」

 

 

レイディー「アタシも常時これを嵌めてる訳じゃねぇよ。

 この荒野では先ずモンスターが寄ってこねぇからここでは外してる。

 共鳴についてはバルツィエの専売特許みたいな風潮があるが一部の動物やモンスターは共鳴が使えるんだよ。

 そんで共鳴を使って狩りをする奴もいる。

 人だって今のエルフっつー段階までに進化するまでのどっかで共鳴を普通に使ってた時代があったんだ。

 それが進化する上で必要なくなって退化してっただけなんだ。

 また鍛え直せば誰でも使えることはお前らも知ってるだろ?」

 

 

カオス「はっ、はぁ………、

 ウインドラ達も使えるようになったんでそれは知ってますけど………。」

 

 

レイディー「そしてさっきアタシはイフリートがブルカーン領から脱出を謀る奴をイフリートが捕らえに向かうことは言ったと思うが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

カオス「それは………。」

 

 

レイディー「この荒野は実質既にブルカーン領の外だ。

 お前達が捕まらなかったのはイフリートが猿達を捕まえたからまた戻ってくると分かってたから追ってこなかったんだろう。

 だがアタシはたった一人でこの四ヶ月間ブルカーン領を何度も行ったり来たりを繰り返している。

 アタシには人質に使えそうな奴はいないからアタシが逃げようとすればイフリートは追ってくる筈なんだ。

 四ヶ月間でもブルカーンに捕まっても隙を付いてブルカーン領から脱出しようとしたモンスターとかはいた。

 だがそいつらは結局イフリートが飛んできてその場で食われた。

 それなのにアタシだけはイフリートは追ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 ………出来なかったんだよ。

 奴の共鳴はブルカーン領の中にいる奴のマナを関知して誰がどこにいるのか探るがこのフリーズリングを付けている限り奴がこれを嵌めてる奴を探し当てることは出来ねぇ。

 これを付けてた時と付けてない時でブルカーン達がアタシを見付け出す効率が全然違った。

 付けてない時はあっさりとブルカーン達に見付かったが指輪をしてた時にはブルカーン達がアタシのところへすっ飛んで来ることはなかった。

 イフリートもこれをしてる間はアタシのことを見つけることが出来ないっていう何よりの証拠だ。」

 

 

カオス「じゃあそれを付けてる間はブルカーン達に見付かることはないんですね………!

 それならブルカーンに見付からずにイフリートのところへ………。」

 

 

レイディー「そういうことだ。

 でもこの指輪にも欠点はあるぜ。

 これを嵌めてるってことはその間は完全に無防備だ。

 マナを封印してる訳だから魔術抵抗も著しく下がるし当然魔技や魔術も使えねぇ。

 ってことはレアバードも飛ばすことは出来ねぇんだわ。

 こいつは隠密のためのアイテムだ。

 こいつをしてる間は戦闘は出来ねぇ。

 仕方なく見付かった時は直ぐに外すことは出来るがそん時は一瞬でイフリートに居場所がバレる。

 猿達を助けに行く際は絶対にブルカーンの視界にも入ることは許されねぇ。

 絶対にだ。」

 

 

カオス「………分かりました。」

 

 

レイディー「………それじゃあ作戦を発表するぞ。

 これから今日が終わる時間までにアタシが見付けたブルカーンの連中に気付かれることなくイフリートがいるところまでの経路を教える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 用心しろよ?

 こればかりはアタシ達がいかに上手く動けるかにかかってる。

 もし失敗すれば猿達もアタシ達も全滅だ。

 それで世界もそのままここみたいに無くなっちまうんだからよ………。」



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レイディーの目的が発覚

消滅都市ゲダイアン 深夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「…と、こんな具合にシュメルツェンまで潜入する。

 しっかりと頭の中に叩き込んどきな。」

 

 

カオス「はい。」

 

 

 レイディーからシュメルツェンに潜入する作戦を伝えられる。ブルカーンはイフリートの共鳴があるので意外にもシュメルツェンの近くまではブルカーンと会わずに行くことが出来そうだった。

 

 

レイディー「レアバードで飛べない以上はローダーン火山を徒歩で登頂することになる。

 明日はかなり大掛かりに動く訳だから今日はこの辺りでお前達も体を休めとけ。

 アタシも寝るぜ。」

 

 

カオス「すみません………、

 俺達のためにこんなことまで考えてくれて………。」

 

 

レイディー「はっ!

 何ほざいてんだ。

 誰がお前達のためにやるって言ったよ?

 アタシはアタシのために常に行動してんだ。

 アタシにも目的があってお前達を利用してんだ。

 礼なんて要らねぇよ。

 吐き気がする。」

 

 

カオス「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイディーさんの目的って何なんですか………?」

 

 

レイディー「………あぁ?」

 

 

 ふとレイディーがここまで旅していた理由が気になってそう聞いてみた。

 

 

カオス「レイディーさんがマテオでもダレイオスでも何か目的があった旅をしていたことは知ってましたがそれが一体どんなことだかはまだ知りません………。

 レイディーさんは何でダレイオスまで来たんですか?

 それも一人で………。」

 

 

レイディー「一人でいるのは一人の方が動きやすいからだ。

 それ以外に理由はねぇよ。」

 

 

カオス「じゃあ何がしたくて旅をしてるんですか?

 レイディーさんは最終的には何がしたいんですか?」

 

 

レイディー「………」

 

 

 レイディーと会ってからこれまで聞くことが出来なかったレイディーの旅の目的。彼女はどうしてレサリナスから離れたのか、何故カオスの話を聞いて直ぐにミストまで殺生石を調べに行ったのか。フットワークが軽いのは分かるがそれで世界中を旅して回るのであればそれなりの何かを求めて旅をしていることは分かる。がその目的まではどうしても分からなかった。だから三度目の今回でそれについて聞いてみたいと思っていた。

 

 

レイディー「………」

 

 

カオス「………すみません。

 余計なことを聞いちゃったみたいですね。

 言いたくないことであれば無理に聞いたりは「アスラを探すためだよ。」………。」

 

 

レイディー「アタシはアスラを探してたんだ。

 ヴェノムウイルスに体を溶かされないアスラを………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてアスラの中でも特別な力()()()()()を持つ奴を探してたんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「殺魔のマナ…………?」

 

 

 聞きなれない言葉だった。ここに来てまた新しい単語が出てきて続く言葉を待つが、

 

 

レイディー「レサリナスでヴェノムを研究している時にダレイオスにいるようなヴェノムの主と同じ時間経過で死滅しないヴェノム………それをアスラと呼んでいたな。

 アスラはレサリナスでもごく稀に見つかりはしたがどれもヴェノムの主ほどの力は無かった………。

 

 

 

 

 

 

 ………ただ()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「一体の例外………?

 それがその殺魔のマナって力を持ってたんですか?

 それはどんな力があったんですか?」

 

 

 ヴェノムについてはヴェノムとヴェノムの主のことについてか知らないカオスはレイディーが言う殺魔のマナがどの様なものなのかを問う。

 

 

 すると驚くべきことにその力は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「殺魔のマナは読んで字の通りマナを殺す力だ。触れた生物の細胞やマナを消滅させる力を持っている。

 見た目は()()()()()()()()()()()

 

 

 カイメラを倒してきたんたんならアイツがその力を使ってきたんじゃないか?」

 

 

 

 

カオス「!!」

 

 

 レイディーが探していた力はカオス達がこれまでのカイメラ、フェニックス、アンセスターセンチュリオンとの戦いで目にしてきたものだった。

 

 

カーヤ「あれが殺魔のマナって言う力なの………?」

 

 

レイディー「そうだ、

 あの炎を持つ奴を探してアタシはマテオとダレイオスを渡り歩いてきた。

 あの炎を調べるためにアタシはヴィスィンでクリティアの奴等からダレイオスに九体のヴェノムの主がいることを聞いてヴェノムの主で殺魔のマナを持っていそうなカイメラとレッドドラゴンの二体だけを標的に定めた。

 惜しいことにジャバウォックは殺魔のマナを使えないようだったからな。」

 

 

 カオス達がダレイオスを回っている時セレンシーアインでクリティア族の長老オーレッドからレイディーがジャバウォックを倒したことを知った。レイディーもカオス達に協力する目的でダレイオスを一人で行動していてどこかで会えるのではないかと期待したがとうとう今日まで彼女と再開することはなかった。彼女と出会うことが無かった背景には彼女が真っ先にこの最終地点まで進んでいたからだった。

 

 

カオス「イフリートは殺魔のマナが使えるんですか?」

 

 

レイディー「九の部族達が散り散りになる直前までフリンク族以外の部族達は情報を共有してたんだ。

 それで主達の話を聞いてみてカイメラとレッドドラゴンの二体が見たこともない黒い炎を吐き出していたという情報を入手した。

 そんでアタシは先ずカイメラを見つけに行ったんだが………。」

 

 

カオス「………討伐は断念してどこか別の場所に向かったとハンターさんから聞きました。」

 

 

 ジャバウォック討伐に成功したレイディーだったが続くカイメラには逆に返り討ちにあったのだ。それでハンターもレイディーを批難していた。

 

 

レイディー「…流石にあの化け物は規格が違い過ぎた。

 ヴェノムの王だとかあの褐色人が言ってたのも納得するレベルのモンスターだった。

 あんなの相手にしてたら身が持たねぇよ。」

 

 

カオス「それで殺魔のマナを使えるヴェノムの主を見つけ出してどうするつもりだったんですか?

 ヴェノムの研究のために捕獲とか考えていたなら………。」

 

 

レイディー「………いいや………、

 アタシは研究のためにアスラを探してたんじゃないさ。

 アタシがアスラを探していた本当の理由は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺魔のマナを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」



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耐性を没故に不治の病

消滅都市ゲダイアン 深夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………レイディーさんは………、

 精霊から与えられたその力が邪魔なんですか………?

 精霊の力は一度付与されれば一つの属性の魔術しか使えなくなるし結構不便だから………。」

 

 

 人が使える魔術の属性には個人差があるが最低でも二つ以上が平均である。魔術は生活においても役に立ち使える魔術が多ければ多いほど重宝される。

 

 

 アローネ、タレス、ミシガン、ウインドラ、レイディーとアインワルド族のビズリーとダズは現在一つの属性の魔術しか使うことが出来ない体質になっている。だからこそもしカオス達やビズリー達のように他に頼れる者がいればそこまで不自由はしないがレイディーのような一人を好む者にとってこの力は不便さを感じるのかもしれない。例えヴェノムウイルスに侵されることがないのだとしてもレイディーは半ば強制的にこの力を授けられた。だからレイディーはこの力を疎ましく思っていたのではないかとカオスは責任を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「そう悲観的に捉えるな。

 お前を責めたい訳じゃない。

 アタシはお前に感謝してるんだ。

 お前が精霊を宿してたおかげでアタシ達はシーモス海道で助かったんだしな。

 アタシがこの力を破棄したいのはこの力が邪魔だからじゃない。

 …確かに他の属性の術が使えないのは困り者だとは思っている。

 喉が乾いた時なんかに水がパッと出ないし暑くて汗かいたりなんかした時とかにも風を出して涼むことも出来ねぇ。

 飯を作るのにも火を原始的に起こすしかねぇし雨なんか振りだした時も土で屋根を作ったりも出来ねぇな。

 あとは雷の術とかはモンスターを威嚇して追い払ったりしたい時とかに使ってたんだがそれも出来なくなった………。

 

 

 

 すまん、

 やっぱ不便だわこの能力。」

 

 

カオス「めちゃくちゃ気にしてるじゃないですか………。」

 

 

 悲観的に捉えるなと言っておきながら能力の問題点を次々と挙げていくレイディーにカオスは呆れ果てる。慰めたいのか貶めたいのか分からない女性である。

 

 

レイディー「でもよ?

 アタシがこの力のおかげで命があるのは事実だ。

 そんなアタシがこの力を捨てようとしてんのは気にしなくていい。

 それがアタシの目的に繋がるんだ。」

 

 

 レイディーが精霊の力を手放したい旨は把握した。不便さはあれどそれが理由ではないことも。では何故彼女は精霊の力を破棄したいのか。それをして一体どうなるのか。そもそもどのような方法で精霊の力を破棄出来るのだろうか。

 

 

カオス「それでどうやって精霊の力を無くすんですか?

 レイディーさん達の力は世界中どこに行っても誰もこんな力の話を聞いたことないようですしレイディーさんだって知らないんじゃないですか?」

 

 

レイディー「あぁそうだ。

 アタシだって確実にこの力を捨てられる方法なんて分かりゃしねぇよ。

 全部一から理論を組み上げていかなくちゃならなかった。

 ずっと実験検証の積み重ねだったんだ。

 それで色々と試していってこの精霊の力が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 相殺………、

 

 

 つまり精霊の力と殺魔のマナの炎をアタシが死なないギリギリのところで浴びせ続けられればこの精霊の力は死滅する筈なんだ。」

 

 

 レイディーはそんな捨て身な方法を言ってのけた。

 

 

カオス「!?

 あの毒撃を受け止めるつもりなんですか!?

 あの攻撃は普通の力なんかじゃない!

 体の隅々から全てを焼き付くされるようなそんな強い痛みが伴うんですよ!?

 下手したら本当に死んじゃいますって!」

 

 

 カイメラ、フェニックス戦で実際に殺魔のマナの炎を受けたカオスにはレイディーが考えた方法はとても利口な方法とは思えなかった。生きるか死ぬかのギリギリだなどとそんな調整が出来るようなことではない。どちらかと言えば死ぬ確率の方が断然高いのだ。それにレイディーがこれから殺魔のマナの炎を放つ相手は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。相手が素直に殺魔のマナの炎を放つとも限らないし普通に吐き出すただの炎でさえレイディーが受けてしまえばそれだけで死亡してしまう。ウインドラでさえその辺の通常モンスターの水の攻撃だけでショックで気絶するほどだったのだから。

 

 

レイディー「うるせぇな。

 もうアタシにはイフリートの殺魔のマナしか残ってねぇんだよ。

 他のアスラ………主達はお前達が潰して来たんだろ?

 ならアタシの決意は変わらねぇ。

 なんとしてでもイフリートに殺魔のマナを使わせてアタシは()()()()()。」

 

 

カオス「何でそんなに普通に拘るんですか………。

 普通の状態に戻るよりかは今の方が健康な体を維持出来るんですよ?

 この荒野にだって精霊の力が無ければ入ることだって出来なかったでしょうに「その()()()()()()()()()()()()()()()。」………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………アタシの体が完璧に治ってないのにこの力を付与されたせいでどんな薬も効きやしねぇ。

 アタシの症状はこの力を手にした瞬間から止まったままなんだ。

 アタシはアタシの症状を治すために世界を巡った………。

 それでどうにかダレイオスになら何か症状を緩和できるもんがあるかと思ってきてみたがアタシの時間が止まっちまった………。

 

 

 ………アタシにはどうしても治したい()()()()()()()

 その病気はこの精霊の力があるせいで逆に治らなくなっちまったんだよ。

 だから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アタシはイフリートの力で元の正常な人の体に戻って見せる………。」



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障気の花の毒にあてられて

消滅都市ゲダイアン 深夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………坊やにはカストルでちょろっとはなしたことなんだが………。」

 

 

カオス「カストルで………?」

 

 

 カストルでレイディーと話したことと言えばバルツィエや祖父のことについての印象が強かった。レイディーの………、

 

 

 ………彼女の病気の話などしていただろうか?レイディーとは彼女が病気であったことすら聞かされた覚えがない。と言うか病気であったとしても並大抵の病気なら精霊の力が回復させてしまう筈だ。昔は体が弱かったミシガンでさえも今では大抵の人よりも体が強い。ウィンドブリズ山では人一倍寒がっていたがそれでも風邪を引くようなことはなかった。それなら彼女も同様に体の病気への抵抗力はかなり高められている。それでも病気が続いているのであればどれほどの病気だというのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「…アタシの故郷はもうどこにもねぇ。

 随分と昔にヴェノムに襲われてアタシの村は壊滅した。

 その時はまだバルツィエの奴等も封魔石すら作られてなくてヴェノムに対する対応が不十分だった。

 それでアタシの村はマテオから無くなった。

 

 

 丁度アタシはその頃はレサリナスへと移り住んでて助かった。アタシがレサリナスに移ってなかったらアタシもそんときに村の皆と一緒にこの世を去ってただろうぜ。」

 

 

 今は亡き故郷を想ってかレイディーは儚げな顔を見せる。

 

 

 過去が思い出になるのは誰でも淋しく思うだろう。楽しかったあの日々にはもう戻れないのだ。子供から大人になっていくに連れて人の価値観も少しずつ成長したり変わっていったりする。子供の時のように無邪気に遊んでいられた頃を思い出すとカオスも心が切なくなる。あの頃に戻りたい。例え辛い出来事があったとしても故郷を本気で嫌いになることなど誰も出来はしないのだ。それが既に無くなってしまったのであれば切なさもよりいっそう感じ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ているようには見えなかった。次にレイディーの顔を見た時には彼女の表情が消えていた。その顔からは人が興味を無くした時に見るような()()()な感情が見て取れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「アタシは故郷が好きだった………。

 レサリナスでも時間が取れればちょくちょく帰って親や友達なんかに会いに行ったりして大人になった後もその習慣は変わらなかった。

 レサリナスに憧れて勉強を必死に頑張って王立研究院に入れた時は凄い嬉しかったがかといって故郷を完全に断ち切ることなんてできやしなかった。

 いくらレサリナスがアタシの興味引かれるものが詰まっていても故郷は故郷でアタシの心が落ち着くのはレサリナスなんかじゃなく故郷の()()()()だけだった。」

 

 

カオス「パウラム………、

 それがレイディーさんの故郷の名前なんですね………。」

 

 

レイディー「………あぁ………。」

 

 

カオス「………じゃあパウラムが無くなってレイディーさんは本当は悲しかったんじゃないですか………?

 大好きだったパウラムがヴェノムに滅ぼされたからレイディーさんはヴェノムをどうにかしたいと思ってヴェノムについて研究するようになって………。」

 

 

レイディー「………うんにゃ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アタシはパウラムが無くなった時………()()()()()()()()()…………。

 涙すら出なかった………。

 悲しみすら感じることなんて出来なかった………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………え?」

 

 

レイディー「故郷が無くなる前にはマテオには既にヴェノムが出回ってた。

 ヴェノムによって壊滅した村なんかの噂もしょっちゅうあった。

 アタシはパウラムが心配で一刻も早くヴェノムをどうにかできる方法を探してパウラムを他の村みたいに壊滅しないように研究に取り組んだ。

 ………で間に合わずにパウラムは消えた………。

 アタシはパウラムがヴェノムに攻め落とされたと聞かされて…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も感じることが出来なかった………。

 何も心に響かなかった。

 アタシはパウラムが無くなっちまうことなんて考えもしなかったから急にパウラムが無くなったって言われても実感が持てずにいたんだと思った。

 で、実際にパウラムが滅んだのを目にすれば流石のアタシも涙くらい流すんじゃないかと思って現地に行ったんだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アタシはパウラムの滅びた姿を見ても何も変わることは無かった………。

 アタシの心はその時にはもう()()()()()()()()()()

 アタシの心はレサリナスで開発されたワクチンの臨床実験で人の心を失っていたんだ………。」

 

 

カオス「!………ツグルフルフの精神作用………!」

 

 

 セレンシーアインでオーレッドがワクチンことツグルフルフは人の精神に大きなダメージを与えることがあると言っていた。ウィンドブリズ山でダインもそのことを肯定した。ワクチンを使用した者は何かしらの感情が抜け落ちてしまうと、

 

 

 それならばレイディーは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「アタシはワクチンによって精神に異常を来している。

 アタシが失ったとされる感情は()()()()()()

 人や場所に対してアタシはどんなに強い結び付きがあったとしてもそれが失われた時悲しい、辛いといった感情が沸き起こることがねぇ。

 アタシはアタシの大切な人達が目の前で誰かに殺されたりしたとしてもアタシはそれで悲しくなったりしねぇし殺した人物を恨んだりも出来ねぇ。

 

 

 ………自分がそういうことを感じられなくなるのを実感すると結構心がざわつくもんだ。

 アタシは自分が本当に人なのかを疑うこともある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すげぇ不安や焦燥感に襲われて眠れなくなる時があるんだよ。

 自分が悲しむべきところで悲しめねぇってのは………。

 それでストレスが溜まってずっとアタシの心は()()()()()()()()()()()()()………。

 ()()()()()()()()………。」



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ラーゲッツは見ていた

消滅都市ゲダイアン 深夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…じゃあレイディーさんはその病気を治したくてマテオとダレイオスを旅していたんですね。」

 

 

レイディー「明確には病気じゃねぇがな。

 精神障害の一種だ。

 ワクチンを服用し過ぎたせいでアタシの感情は歪んでんだよ。

 

 

 ………周囲の奴等が笑ったり泣いたりしてる時にその感情を共有出来ないのは中々胸の奥底に来るもんがあるぞ。

 そいつらが何でその場面でそんなふうになるのか理解はしていてもその感覚を感じることが出来なくなった。

 ワクチンを飲むまではそういう感情がアタシにもあった筈なんだけどな。

 その感情がアタシの中から消えちまってんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アタシは自分の心を取り戻したい………。

 取り戻してアタシはアタシがパウラムをどう思っていたかを思い出したいんだ。

 今の状態じゃ何をしても心のどっかでそれを本気で好きになれねぇ。

 全力で何かに熱を入れてたあの頃のような楽しいって感情が沸いてこないんだ。

 ……こんな人として大事な感情が無いまま生き続けるのは地獄にいるのと同じだぜ。」

 

 

カオス「………レイディーさんがファンクラブを抜けたのってもしかして………。」

 

 

レイディー「………そうだよ。

 アタシはアルバートのことが憧れてた。

 アイツのように多くの人のために頑張る奴を見てたらアタシも頑張って誰かのためになることをしたいと思った。

 ヴェノムが現れてアルバートがレサリナスを去った後もアタシはその思いを忘れずにひたすらワクチンを改良する研究を続けていた。

 ………そして感情が欠落したんだ。

 その後は何もかもがどうでもよくなった。

 そんでファンクラブから逃げたんだ。」

 

 

 レイディーはレサリナスを去ったアルバートを嫌って自ら結成したファンクラブを退会したのではなかった。大切に思っていた自分の居場所を大切に思う気持ちがワクチンの影響で消えてしまっていたのだ。だからレイディーは自分がいるべき居場所を見失ってしまった。

 

 

レイディー「アタシは誰かと一緒にいるとな。

 そいつが楽しそうにしてるのを見ると嫉妬しちまうんだよ。

 アタシは好感を持つことが出来ねぇ。

 好感がねぇんならそいつに対しての思いやりを持つことも出来ねぇ。

 アタシは誰かと一緒にいるとそいつを無意識に気ずつけちまう。

 そうしてアタシはファンクラブがアタシが空気を悪くするせいで無くなるのが恐かった。

 だからカタスに全部丸投げしてレサリナスから逃げ出した。

 あそこにいると嫌でもファンクラブの奴等の顔があるからな。

 今のアタシじゃアイツらの場所には戻れねぇ。」

 

 

カオス「………」

 

 

レイディー「………世界が精霊に破壊されると言ったな。

 アタシにとっては世界も大事だが何よりアタシはアタシのいた世界が無くなるのは耐えられねぇ。

 アタシはいつか絶対にあの世界へと帰るんだ。

 アルバートがいなくなろうとも………既にアルバートが語り継がれるだけの伝説になろうともアイツらはアルバートやお前のような救世主になれる奴が現れるのを信じて待っている。

 アイツ等にはアタシが必要なんだよ。

 そんでアタシにもアイツ等が………。

 

 

 だからアタシはこの精霊の力を一旦放棄する。

 放棄してアタシは自分の心を元に戻す。

 今の体質だと力を手に入れた時の感情が欠落したままのアタシがデフォルトみたいだからな。

 放棄した後はどうやって治しゃいいのかまだ検討はついてないが今よりかはうんと薬とかも効きやすいだろうからアタシは力を棄てる。」

 

 

カオス「そういうことだったんですね………。

 レイディーさんの旅の目的が失った感情を取り戻すことだったなんて………。

 だからそんなに性格が悪いことばかり言ってるんですか?」

 

 

レイディー「…どうかな。

 前のアタシはもっと素直だった気がするがもう百年近くも前のことだから今のアタシが素なのかどうかも忘れちまった。

 早いとこアタシはアタシの気持ちを治したいよ。」

 

 

カオス「出来れば性格も治して欲しいですね。」

 

 

レイディー「………この野郎が。

 アタシに冗談なんか言ってもまともに返すことが出来ねぇって言ってるだろうが。」

 

 

カオス「フフフフ………。」

 

 

レイディー「………この話は終いだ。

 明日はバシバシ使ってやるから覚悟しておけ。」

 

 

 レイディーは廃れた夜の街の中をカオスに背を向けて歩いていった。就寝は一人でするようだ。

 

 

カオス「………明日は失敗は出来ない………。

 俺も早めに寝るか………。」

 

 

カーヤ「あの人と一緒にやればアローネさん達は助けられるの?」

 

 

 レイディーの目的を聞き出していた辺りから静かに話を聞いていたカーヤがカオスにそう訊いてくる。

 

 

カオス「………うん、

 大丈夫だよ。

 あの人に任せていればアローネ達は助かるから。」

 

 

カーヤ「そう………。」

 

 

 それから二人は適当な寝床を探して眠りについた。明日の夜まではアローネ達が殺されることはない。なら今は全力で体を休めることに努めるべきだからだ。アローネ達をイフリートに殺させはしない。そう誓って二人は荒廃した街で意識を闇へと沈めた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローダーン火山 東 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………クヘヘヘ!

 奴等とうとうブルカーンの奴等に捕獲されたみてぇだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時を待ってたぜ………!

 生まれ変わった俺の力でカオスも偽カオスも焼き鳥娘もブルカーンも何もかもを皆皆………焼き付くしてやる!!」



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カイメラの特殊能力

消滅都市ゲダイアン 朝 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「おい!

 起きろ!

 いつまで寝てんだ!

 もう今日しかねぇんだぞ!」

 

 

カオス「……!?

 え!?

 朝ッ…!?」

 

 

カーヤ「朝ァ………?」

 

 

レイディー「何を余裕ぶっこいて熟睡してんだ。

 お前達にそんな余裕はねぇだろ。

 猿達が拐われてからまだ半日しか経ってねぇんだぞ?」

 

 

カーヤ「………すみませんでした。」

 

 

 昨晩はあれから十分もしない内に眠ってしまった。一度深い絶望を味わってからのレイディーの登場による安堵感が思ったよりもカオスにぐっすりと眠れるだけの安心を与えていた。

 

 

 口は悪いがそれほどレイディーの力を信用している自分がいることに気付く。まだレイディーとはそんなに長く一緒にいた訳でもないと言うのに。

 

 

レイディー「………んじゃあ作戦を発表する。

 つってもそんな細かいことをお前達に指示しねぇ。

 アタシが坊やの力を借りてあのローダーン火山の周囲に()()()()()()()。」

 

 

カーヤ「霧………?」

 

 

カオス「よくレイディーさんが使ってた手ですよね。

 火と氷か水の術を掛け合わせて蒸気を作る………。」

 

 

レイディー「あぁそうだ。

 それでブルカーンの連中の視界を削ぐ作戦だ。

 霧とは言っても風の術で吹き払われたらそれで霧が晴れちまうが地の理がいいことにあの山は活火山だ。

 気温自体が高いせいで日頃から連中も煙の中で生活している。

 多少視界が悪いくらいじゃそこまで気にも止めねぇ。

 だからブルカーンの連中はこう思うことだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カーヤ「それでカーヤ達はその隙にイフリートのところへ行ってイフリートを倒すんだね?」

 

 

カオス「アローネ達は放っておいていいんでしょうか………?」

 

 

レイディー「構わねぇだろうよ。

 ブルカーンが猿達を捕らえてんのはイフリートがいるからだ。

 そのイフリートを消しちまえば連中が猿達を拘束している理由が無くなる。

 結果的に猿達は開放されるんだよ。」

 

 

カオス「………分かりました。

 アローネ達のことは心配だけどイフリートさえ倒せればアローネ達が助かるならその作戦に従いします。」

 

 

レイディー「モンスターの方は昨日の通りだ。

 奴等はアタシ達がローダーン火山に入ってから出ていこうとするまで手出しはしてこねぇ。

 捕まりそうになったらまたこの荒野まで逃げてくればいい。

 だがそん時はフリーズリングを付けるのを忘れずにな。

 フリーズリング付けてないとイフリートが飛んできちまう。」

 

 

カオス「………寧ろそっちの方がいいんじゃないですか?

 イフリートが飛んできたらそこを俺達で倒せば………。」

 

 

レイディー「馬鹿なことを言うな。

 イフリート………レッドドラゴンは体はでかいがそれでも飛行生物だ。

 飛び回られたら魔術なんて当てられっこねぇ。

 それにアタシはお前の力を借りて魔術を使わなきゃならねぇんだ。

 アタシとお前が常に一緒に動く必要がある。

 身動きがとりづらい状態でイフリートに自由に空を飛び回られたらそれこそ分が悪くなる一方だ。」

 

 

 レイディーの見解はアローネやウインドラと同じだった。やはりイフリートは火山の中で戦い止めを差す必要があるらしい。

 

 

カオス「………それでイフリートのところへ行くまでは問題ないようですけどイフリートのところに辿り着いたらどうするんですか………?

 レイディーさんは毒撃………殺魔のマナの炎を食らうみたいですけどそれだとレイディーさんが………。」

 

 

レイディー「アタシの役目はそれで終わりだ。

 イフリートのところまで連れていくところまでは付いていってやる。

 そんでアタシは殺魔のマナで瀕死の重症を負って術を放つことも出来なくなるだろうよ。

 

 

 そしたらお前と娘でどうにかやれ。」

 

 

 レイディーはそこから丸投げだった。最初からカオスとカーヤの二人でイフリートを倒させるつもりだったらしい。

 

 

カオス「俺とカーヤの二人だけで………!?

 そんなの無理ですよ!?

 俺達だけでなんて………!

 カーヤに魔術を任せるにしてもカーヤは………!」

 

 

カーヤ「カーヤ今火の魔術しか使えないよ?」

 

 

レイディー「泣き言を言うなよ。

 お前達だけじゃイフリートのところまで行くのもムリだったんだろ?

 イフリートのところまで連れて行ってやるだけでも大した仕事してると思わねぇか?」

 

 

カオス「それはそうですけどそれでも倒せるかどうかは………。」

 

 

レイディー「仕方ねぇだろうがよ。

 ここには氷と火の術しか使える奴がいねぇんだ。

 レアバードには一機二人まで乗せられるとしてもう一人空きはあるがそんな空きの奴を今更連れて来るなんてできねぇよ。

 猿達は今夜にはイフリートに「メェェ………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メーメー「メェェ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………何だコイツ。

 どっから来やがった………?

 ってかここは放射能たっぷりの荒野で普通のモンスターすら来れる筈が「メーメーさん」………メーメーさん?」

 

 

 カオス達がイフリートとどう戦うか話し合いをしているところへ元ヴェノムの主カイメラのメーメーがやって来る。

 

 

カオス「…どこまでも追ってくるんだなこいつは。

 普段はあんまり出てこないのに。」

 

 

レイディー「ん?

 知ってる奴なのか?

 それにしてもこいつはどうやってここまで来たんだ?

 放射能が怖くねぇのか?」

 

 

カオス「あぁ、

 それについては大丈夫ですよ。

 こいつもアローネ達やレイディーさんと同じですから。」

 

 

レイディー「同じって………こいつにも精霊の力を与えたのか?

 何でこんな使えなさそうな動物ごときに………。」

 

 

カーヤ「メーメーさんは使えなくなんてないよ。」

 

 

カオス「………実はこいつ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あのカイメラなんですよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「…………はぁ?

 こいつが…………あのカイメラだと………?」

 

 

 レイディーはカオスの言葉を疑う。確かにカイメラだった時の姿を知っていれば今の姿とは似ても似つかない姿をしているからそれも仕方ないのだが。

 

 

レイディー「何か証拠見せてみろよ。

 こいつがカイメラだってんならあんだけの力を持つ化け物だった名残がある筈だ。

 第一お前達がカイメラを倒したんじゃ「メェェッ!」うるせぇッ!!ちょっと静かに……!?」ピカッッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メーメーの体が発光しだしメーメーの姿が光の中へと消える。

 

 

 ………やがて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲコゲコ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蛙型のモンスターゲコゲコが光の中から現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「え……!?

 何だ……!?」

 

 

カーヤ「メーメー………さん?」

 

 

 マウンテンホーンズという山羊の動物から一転蛙型のモンスターに姿が変わったメーメーに戸惑う二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………嘘だろ………。

 こいつはカイメラの変身能力じゃねぇか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当にこいつがあの………カイメラだってのか………?」



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カイメラとしての真意

消滅都市ゲダイアン 朝 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲコゲコ「ゲルルル……?」

 

 

 メーメーが光だしたと思ったら中からメーメーとは全く違う生物が現れる。モンスターのゲコゲコだ。だがモンスターである筈なのだがカオス達を襲ってきたりはせず喉を鳴らしてカオス達を見ているだけだった。

 

 

カオス「なっ、何でゲコゲコが………?

 って言うかメーメーは………?」

 

 

カーヤ「メーメーさんどこ………?」

 

 

 マウンテンホーンズだったメーメーはカーヤになついていた。カーヤもメーメーのことを大切にしており二人はとても仲のいい間柄だった。そのメーメーが突然現れたと思ったら光に包まれていなくなってしまった。代わりにゲコゲコが光の中から現れてカオスとカーヤはメーメーを探した。しかしメーメーの姿は何処にもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲコゲコ「ゲコ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「……こいつがあのカイメラなのかよ………。

 どうしてこんなチンケな姿になってんだ?」

 

 

カオス「え!?

 これがカイメラ……!?」

 

 

カーヤ「メーメーさんどうしちゃたの?」

 

 

レイディー「…カイメラは食ったモンスターの姿に自在に変えられる能力を持っていた。

 よく見りゃこいつゲコゲコじゃなくてビッグフロスターの超縮小した姿じゃねぇか。

 お前達に倒されてからどういう経緯でこいつを見逃してんのか知らんがこいつにはまだカイメラの時の変身能力があるみたいだな。」

 

 

カオス「!?

 まだあの変身能力がメーメーに……!?」

 

 

 ヴェノムウイルスはカイメラを倒した時に既に取り払っている。それなのにまだメーメーには変身能力があるというのか。しかし何故今日までその能力をカイメラは使わなかったのだろうか。

 

 

レイディー「………こいつ、

 人の言葉が理解出来るんじゃねぇか?

 このタイミングで()()()()()()()に変身したんならアタシ達に協力しようって言いたいんじゃねぇか?」

 

 

カオス「メーメーが協力を………?」

 

 

カーヤ「メーメーさんそうなの?」

 

 

ゲコゲコ「ゲコッ!」ピカッ!!

 

 

 またカイメラが発光した。そして次に変身したのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミニジャバウォック「クオオォォッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かなりスケールダウンしたジャバウォックだった。大きさはカオスよりも少し小さいサイズだ。

 

 

レイディー「今度はジャバウォックかよ。

 ダレイオスでまたこのモンスターを見ることになるとわな………。

 

 

 だがこれでこいつのことを理解できた。

 こいつは喋れはしねぇようだがイフリートと同じく知性がありそうだ。

 もしかすっと()()も使えるんじゃねぇのか?」

 

 

カオス・カーヤ「「!!」」

 

 

ミニジャバウォック「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オマエノイウトオリダ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・カーヤ・レイディー「「「!!?」」」

 

 

 三人の頭の中に直接声が届く。カオス達がオリヘルガと戦っている時にイフリートが語りかけてきたようにその声は聞こえてきたがあの時のような威圧感含む話し声ではなかった。

 

 

ミニジャバウォック『オレノコエガキコエテイルカ?

 オレノコエガキコエテイルナラハンノウシロ。』

 

 

カオス「お前………カイメラなのか………!?」

 

 

ミニジャバウォック『カイメラ?

 オレノナハメーメーダ。

 ゴシュジンガツケテクレタコノナマエイガイニオレニナマエハナイ。

 ソンナナマエデヨブナ。』

 

 

レイディー「ご主人だぁ?」

 

 

ミニジャバウォック『ソウダ。

 オレノゴシュジンハオレノコトヲメーメートヨブンダ。

 ダカラオレノナマエハメーメーナンダヨ。』

 

 

カオス「それって………。」

 

 

カーヤ「カーヤのこと………?」

 

 

ミニジャバウォック『ソウデスゼゴシュジン。

 オレノゴシュジンハアンタイガイニハイナ「!」…』サッ…

 

 

 小さなジャバウォックがカーヤにすり寄ろうとするが見た目が大猿なこともあってカーヤも驚いてそれを避けてしまう。

 

 

ミニジャバウォック『………』パァァ…

 

 

 ジャバウォックがまたあの光の中へと消えていく。そして今度はいつものマウンテンホーンズの姿へと戻った。

 

 

メーメー『サケルナンテヒドイデスゼゴシュジン。

 オレノコトキライニナッタノカ?』

 

 

カーヤ「メっ、メーメーさん?」

 

 

 カーヤもまさかメーメーが言葉をテレパシーが使えるとは思わずいつもの姿であっても少々警戒していた。しかしテレパシーが使えるのなら何故カオス達にそれを使わなかったのだろうか。

 

 

カオス「お前………、

 その力を隠してたのか?」

 

 

メーメー『カクシテタ………。

 カクシテタンジャナイ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

カーヤ「知らなかった?」

 

 

レイディー「つーと最近知ったってことか。

 ………大方、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イフリートのテレパシーを通じてそれが出来るようになったってことか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メーメー『セイカイダ。

 オマエアタマイイナ。』

 

 

 どうやらメーメーがテレパシーを習得としたのはイフリートのテレパシーを見よう見まねで使えるようになったらしい。

 

 

レイディー「けっ………。

 ハイブリッドな奴だぜ。

 流石はカイメラってところか。」

 

 

カオス「でっ、でも待ってくれ!

 お前………!

 カーヤのことご主人って言うけど記憶があるのか………?

 昔カーヤと会ってたこととか………。」

 

 

メーメー『トウゼンダロ?

 ソウデナケレバゴシュジンヲサガシテゴシュジンノトコロヘトモドラネェヨ。』

 

 

カオス「………じゃあカイメラになって暴走してた時のこととかは………。」

 

 

メーメー『ボウソウ………?

 オレハボウソウナンカシテナカッタゾ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハジメカラスベテオレノイシガアッタンダヨ。

 ソンデカルトゾクトブロウンゾクトカイウヤツラヲホロボシテヤッタ。』



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カイメラの援護

消滅都市ゲダイアン 朝 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「お前………ヴェノムウイルスで暴走してたんじゃないのか………!?」

 

 

 急に共鳴によるテレパシーで話し出したかと思うとメーメーはトロークンとグリツサーでのブロウン族とカルト族は己の意思で滅ぼしたと言ってきた。

 

 

メーメー『マァナ。』

 

 

レイディー「なんでんなことしたんだ?

 お前に元々意識があったってんなら奴等を襲う理由はねぇだろ?

 力を手に入れてひけらかしたくなったのか?」

 

 

 メーメーは六年前にカーヤといた際にレッドドラゴンと運悪く遭遇してしまい餌食にされてしまった。しかしその時からメーメーはカーヤによってヴェノムの主となっておりレッドドラゴンを逆に体内から支配した。結果カオス達がこれまで会った中でも恐ろしい怪物へと変貌を遂げてしまった。だが意識はメーメーのマウンテンホーンズのままであったなら温厚なマウンテンホーンズが人を襲ったりなどしない筈。それなのにメーメーは二つの部族を滅ぼした。それには一体どんな動機があったと言うのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メーメー『ゴシュジンノタメダヨ。』

 

 

 

 

 

 

 メーメーは悪びれもなくそう告げた。

 

 

カーヤ「カーヤの………?」

 

 

 カーヤもこれには驚く。カーヤにはフリンク族のフラットからダレイオスの主がどういった経緯で生まれたのか聞かされてあった。そのことが他の部族に露見してしまえばフリンク族は他の部族から敵と認識されてしまうのである。なのでカーヤは六年間フリンク領に半軟禁状態であったがカオス達の働きで彼女をフリンク領から連れ出すことになった。

 

 

メーメー『オレハアノチカラヲモツマエカラゴシュジンニゴシュジンガドウイウアツカイヲウケテキタノカキイテキタ。

 キケバゴシュジンハスンデタトコロノヤツイガイニモキョゼツサレテダレイオスヲサヨッテタミタイジャネェカ。

 コンナニゴシュジンハイイヒトナノニナンデホカノエルフタチハゴシュジンヲキョゼツツスルンダ?

 オレハゴシュジンガダイスキダ。

 ゴシュジンヲオイツメルヤツラヲユルセナカッタ。

 

 

 ダカラオレハゴシュジンヲイジメル()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ゴシュジンヲイジメルヤツガイナクナレバゴシュジンハダレイオスデモスミヤスクナル。

 ダカラオレハチカラヲツカッテエルフドモモコロシテイタンダ。

 ソウスレバマタゴシュジンハオレトイッショニイテクレルトシンジテナ。』

 

 

 メーメーがトロークンとグリツサーで暴れていたのはヴェノムウイルスによる暴走ではなかった。カーヤの境遇を憐れんだメーメーが自主的にカーヤの敵であるだろう人々を殺して回っていたのだ。

 

 

カオス「じゃあお前がウイルスの力を失った時に真っ直ぐフリンク領に向かったのは………。」

 

 

メーメー『ダレイオスノヤツラヲコロシツクスダケノチカラヲオマエニケサレタカラナ。

 オレニハモウコノダレイオスノエルフタチヲホロボスコトハデキナイ。

 

 

 ダガオレハドウシテモゴシュジントイッショニイタイ。

 ムカシミタイニオレニヤサシクシテクレタゴシュジント………。

 ダレイオスノエルフヲホロボスケイカクノトチュウダッタガソレヲアキラメテゴシュジンニアイニイッタンダ。

 オマエタチガイウキョウメイトカデゴシュジンガドコニイルノカサグッテナ。

 ソシタラグウゼンオマエタチモオレトオナジホウコウニススンデヤガッタ。

 オレハサイショオマエタチガホカノエルフタチトオナジデゴシュジンヲイジメルヤツラカトオモッタガヨウスヲミテタラソウジャナイコトガワカッテオレハオマエタチヲゴシュジントイッショニイルノヲミトメタ。

 オマエタチハゴシュジントオナジデイイヒトミタイダカラナ。』

 

 

カオス「そんなふうに思ってたのか………。」

 

 

 カルト族とブロウン族を全滅させたのは赦されないことだとはカオスは思う。だがメーメーの心情を知って本気でメーメーが暴れたいだけ暴れたかった訳じゃないことが分かった。

 

 

 メーメーはカーヤのためを思ってそうしていたのだ。カーヤは六年前フリンク領を追い出されて再びフリンク領に戻るまでに他の部族達から拒絶を受けた。ダレイオスのどこに行っても受け入れられなかったカーヤは最後にはフリンク領に戻ることになった。それが元でヴェノムの主は各地で誕生していったがヴェノムの主の中にはメーメーのように心を保ったままヴェノムとなった個体もいるようだ。

 

 

レイディー「…この分だと他の主達も同じかもな。

 ブルータルやジャバウォックはヴェノム化してもヴェノムになる以前と差はあまりないって話だ。

 イフリートに関してだけは人を食い過ぎて小賢しい知恵がついたようだがな。」

 

 

カオス「アローネ達の考えは当たってたんだ………。」

 

 

カーヤ「それでメーメーさんはカーヤのところに来たんだね。

 でも何で急にメーメーさんカーヤ達に話し掛けてきたの?

 今までそんなことなかったのに…。」

 

 

メーメー『ゴシュジンタチイマコマッテルンダロ?

 コノ()()()()()ガアノヤマノヤツラニツカマッテソレヲタスケダソウトシテルンダロ?』

 

 

カーヤ「その予定だけど………。」

 

 

メーメー『………ダッタラ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレモツレテッテクレヨ。

 コレデモソレナリニハタタカエルンダゼ。』

 

 

 メーメーはそんな提案をカオス達にしてきた。

 

 

レイディー「……連れていくのは構わねぇがお前こいつ等から精霊の力を付与されてるんだろ?

 それだったら術の属性も一つに制限されてる筈だ。

 悪いが今アタシ達に必要な属性はイフリートを倒せる()()()()()。」パァァ…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキィィィンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・カーヤ・レイディー「「「!!」」」

 

 

 メーメーは先程のミニジャバウォックの姿へと変身する。そしてその直後に()()()()を撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミニジャバウォック『オレハヘンシンスレバ()()()()()()()()()()()()()()()

 ゴシュジンタチガホシイジンザイッテノハオレミタイナヤツノコトナンジャナイカ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブロウン族の生き残りハンターをもってしてヴェノムの王とまで呼ばれたカイメラの力は弱体化してもなお能力だけは保持したままだった。メーメーの力を拝見したカオス達はこの後メーメーを隊列に加えてイフリートへと挑むこととなった………。



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救出作戦開始

ブルカーン族が住む街シュメルツェン 檻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュメルツェンのアローネ達が捕らわれている檻の前にオリヘルガはいた。

 

 

オリヘルガ「(…今夜………。

 夜までに昨日取り逃がした餌を捕まえてあの蜥蜴野郎の前につき出さなければ蜥蜴野郎はまた俺達の中から一人食らうだろう………。

 ………その時は俺が………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「オリヘルガ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………気安く声をかけるな。

 お前達と話す気はない。」

 

 

 昨夜捕まえた女が檻の中から話し掛けてくる。オリヘルガはそれに取り合うつもりはなかった。自分達がこの後どうなる運命なのか察して自分達を逃がせと命乞いをしてくるのだ。そんな要求が通ることは………、

 

 

 

 

 

 

アローネ「私達を解放してください!

 そして私達をイフリートの元へと連れて行ってください!」

 

 

オリヘルガ「………はぁ?

 何言ってんだよ?

 そんなに死にたいのかお前?」

 

 

アローネ「私達はこの地へヴェノムの主イフリートを討伐しに参りました!

 私達でイフリートを倒さなければならないのです!

 でないと世界が………!」

 

 

オリヘルガ「世界がイフリート様のものになっちまうなぁ………。

 イフリート様に敵う奴なんてどこにもいやしないんだ。

 そう慌てなくてもお前達は今夜イフリート様のところに連れていく予定なんだ。

 騒がずにそれまで待て。」

 

 

 この期に及んで女は世迷い事を言い出す。ふとオリヘルガはこの来訪者が来たときのことを思い出した。彼等は始めからそればかりを伝えてくる。どういった力と意図が彼等にあるのかは不明だが十日前と昨晩彼等は自分に敗北をきっしている。そんな彼等にイフリートが倒せる訳がない。オリヘルガはそう思って女の言葉を聞き流そうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「聞いてください!

 もしかしたら九日後………、

 イフリート等よりもとても力の強い恐ろしい存在がこのデリス=カーラーンに現れるかもしれません………。

 ………その方は言いました。

 もし私達が期日までの九日後までにヴェノムの主を全て討伐出来なければこの星を破壊すると。」

 

 

オリヘルガ「………何?

 星を破壊だぁ………?」

 

 

アローネ「………はい………、

 ですから私達は何としてもそれを未然に防がなくてはなりません。

 貴方達がイフリートと崇めている者はイフリートの偽者です。

 決して貴殿方が神と信じるイフリートなどでは「だったらよォ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「是非ともそのイフリート様よりも強くて恐ろしい奴ってのを拝んでみてぇな!

 本当にそいつがイフリート様よりも強い力を持ってんのかこの目で確かめてやるよ!

 お前達がイフリート様に食われた後でな!」

 

 

アローネ「!!

 ですからそれでは遅いのです!

 彼が………!

 彼がこの世界に現れたのと同時にこの世界が残っているという保障が「話は終わりだ!大人しくしていろ。」………オリヘルガ………。」

 

 

 オリヘルガはアローネとの話を強引に終わらせ退室する。アローネの言葉はオリヘルガにはどう聞いても恐怖で頭がおかしくなったようにしか聞こえなかった。

 

 

 そんなことよりも今は取り逃がした二人をどう捕まえるかが問題だ。捕らえた仲間の様子からしても仲間を見捨てるような奴等ではないことが伺えるが今日中に見付け出して捕らえなければならないのも事実。だというのにその二人は前々から現れては姿を眩ます氷の術使いの女と共にゲダイアン跡地へ逃亡した。人の身であの地へと踏み込んでしまえば身体に影響を及ぼして数日から数ヵ月で死に至る実例もある。それを知ってか知らずか三人はゲダイアンへと潜伏しているのだ。

 

 

オリヘルガ「(どうやって奴等をあそこから炙り出すか………。

 モンスター共に行かせるか………?

 ………いや蜥蜴野郎の命令でもモンスター共はゲダイアンの中にまでは入ることはしないだろうな。

 それなら俺達で行くしかないが連中の三人の内の二人の女達は手強い。

 数を引き連れていけば奴等に気付かれて逃げられる。

 そうなったらもうお終いだ。

 

 

 

 

 

 

 ………蜥蜴野郎に俺だけ山から出る許可を取らねぇとな。

 俺だけで奴等を捕らえられれば他の皆が病気になったりすることなんてねぇ。

 もしそれで駄目でも俺が蜥蜴野郎に身を差し出せば時間は稼げる。

 最悪()()()()()()()()()()()()()取っ捕まえてくりゃ蜥蜴野郎も機嫌を悪くすることはねぇだろ。

 妙に固執してたしな。)」

 

 

 オリヘルガはイフリートのところへと向かった。イフリートから一方的に連絡をとることは出来るがオリヘルガからはイフリートの元へと赴き話を通さなければならないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「(………世界を破壊する奴か………。

 そんな奴がいたらあの蜥蜴野郎もあっさりとぶっ倒せるんだろうなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だったら九日後なんて言わずに今すぐ出てこいっての………。

 もう今日には俺が死んじまうかもしれねぇってのによ………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローダーン火山 西 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………よし………、

 やれ。」

 

 

カオス「はい!」

 

 

ミニジャバウォック「クオオアッ!」パァァ…

 

 

カーヤ「うん。」パァァ…

 

 

 カオスの側に立ってジャバウォックに変身したメーメーとカーヤが同時に魔術を使う。氷と火の魔術を掛け合わせてローダーン火山の周りに蒸気を発生させて山を覆うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミニジャバウォック「クアアアアッ!!」

 

 

カーヤ「『ファイヤーボール。』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ………!!!

 

 

 蒸気が立ち上っていく。カオスが周囲から集めているマナを借りることによってメーメーとカーヤの術の影響が大きくなる。

 

 

 

 

 

 

 そしてローダーン火山は完全に蒸気に覆い隠されてしまった………。



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オリヘルガの見張り

ローダーン火山 西 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………おし、

 そんじゃ後数回やったらシュメルツェン近くまで行ってそこで夜まで待機だ。」

 

 

カオス「そのまま仕掛けた方がいいんじゃないですか?

 今なら真っ直ぐイフリートのところまで行けそうですけど………。」

 

 

レイディー「この作戦は失敗できねぇ作戦だ。

 共鳴でやっこさんの位置を把握できても視界を百パーセント遮れはしねぇ。

 ブルカーンの目に止まれば連中等が集まってくるんだぞ。

 焦らず慎重に事を進めるために準備は万全にしておかなくちゃならねぇ。

 

 

 そう急ぐなよ。

 暗くなるまでの辛抱だ。」

 

 

カオス「………はい。」

 

 

 アローネ達のことを思うとつい気持ちが逸る。仲間が敵の手にある状況がカオスの心から余裕を無くしていた。

 

 

 …始めからカオス達には余裕など無かったのだ。魔術を使えなくなって期限も迫りラーゲッツまで謎の復活を遂げて仲間まで奪われている。レイディーとの再開で幾ばくかは落ち着きを取り戻したがレイディーも前までのような減らず口を言わない。彼女もそういう状況ではないと理解しているのだろう。下手に刺激してカオスとカーヤの二人が気落ちしたり激昂したりすると今度の作戦は確実に失敗する。

 

 

 平静を保ち気配を消して霧と闇に乗じ忍ぶこと、それが今回の要だ。決してブルカーン達に見つかってはいけない。一直線にイフリートのもとへと向かってイフリートを討つ。それ以外にアローネ達と世界を同時に救う手段はない。もし一人でも見付かってブルカーンか駆け付ければその時は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バサッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!

 誰か………来る!」

 

 

レイディー「チィッ!

 もう飛んで来やがったか!

 一旦フリーズリング嵌めて隠れるぞ!」

 

 

 カオス達は直ぐ様フリーズリングを指に嵌めて岩陰へと隠れる。メーメーも瞬間的にマウンテンホーンズの姿に戻って角に指輪を付けた。これで()()のマナの気配を追われることはなくなった。そしてそこへ飛んで来たのはやはり………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワイバーン「グリュアアアアアッッッ!!」

 

 

オリヘルガ「この辺か………?

 この辺だよな!!

 おいバルツィエ!!

 いるなら出てこい!!

 いるのは分かってるんだ!

 お前の仲間達は俺達で捕らえている!

 仲間達の命が惜しいなら姿を見せろ!!」

 

 

 当然そこに現れたのはオリヘルガだった。昨日と同じでワイバーンに乗って飛んで来たようだ。

 

 

カオス「オリヘルガ………!」

 

 

レイディー「静かにしてろ。

 奴に気付かれたらマズイことは分かってんだろ?

 今はアイツがどっか行くまでじっとしてな。」

 

 

カオス「………分かってますよ。」

 

 

 カオスは物音一つ立てずにオリヘルガの様子を見ていた。発生させた蒸気のせいでオリヘルガからはカオス達がいる場所が分からないらしい。カオス達に呼び声をかけるだけでその場から動こうとしない。

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………クソッ!

 確かにこの辺りから俺でも分かるぐらいに()()()()()()()()()()!

 だがマナがでかすぎてどこにいるのか分かりゃしねぇ!!」

 

 

 今オリヘルガはマナの気配がすると言った。マナの気配を感じ取れると言うことは少なからず共鳴の力を使えると言うことなのだが………、

 

 

レイディー「………お前のマナやっぱフリーズリングでも抑えきれてなさそうだな。

 どんだけマナが滲み出してんだよ。

 これじゃ中々思うように進めねぇぞ。」

 

 

カオス「…すみません………。」

 

 

 以前からカオスは手枷などのマナを封じる力を持つ魔道具が効果を成さない。精霊マクスウェルが集めたマナが人の手によって作られた道具では完全に封じきることが出来ないのだ。

 

 

オリヘルガ「バルツィエ!!

 どこにいる!!

 ここか!?」

 

 

 とうとうオリヘルガがワイバーンから降りて辺りを捜索し出した。

 

 

カオス「ヤバイですよレイディーさん。

 オリヘルガが俺達のことを………。」

 

 

レイディー「…なぁラーゲッツの娘。

 アタシの共鳴にも引っ掛からないんだが今よぉ………。

 

 

 ここに来てるの()()()()()だよな………?」

 

 

 レイディーはカーヤにオリヘルガが単独で来ていることを確認する。

 

 

カーヤ「そうみたい………。

 あの人一人しか今はいない。

 他はまだシュメルツェンにいる。」

 

 

レイディー「そうか………。」

 

 

カオス「どうするんですかレイディーさん………。」

 

 

レイディー「………一人ってんならアタシ達だけでもアイツをのすくらいならできそうだがアイツここら辺から動きそうにねぇなぁ………。

 ………ここは取り合えず………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイツに気付かれないように山を登っていくぞ。

 ()()()()()()()()。」

 

 

 レイディーはオリヘルガに対して何もせずに登頂すると言い出した。

 

 

カオス「倒さないですか?

 今なら一人みたいですし倒せるなら倒しておいた方がいいと思いますけど………。」

 

 

レイディー「奴がここにいるってことはイフリートの共鳴でアタシ達のことを嗅ぎ付けて来たんだろう。

 だがアイツ自身が共鳴を上手く使えないらしい。

 坊やのマナがでかすぎてこの付近にアタシ達が潜伏してんのは分かってるみたいだがそれでもこの霧の中でたった一人でアタシ達を見付けるのはそう簡単なことじゃない。

 そんでアイツを倒しちまえば他の増援がここに来るかもしれん。

 それだけは避けたい。

 アタシ達が見つかるリスクは減らしたいからな。

 

 

 なんでこの状態を維持したまま登っていくんだよ。

 そうすりゃ援軍も駆け付けずにアイツの目を掻い潜るだけでシュメルツェンまで容易く登っていける。」

 

 

カオス「そんなことが………本当に………。」

 

 

 カオス達を捕らえるためにやって来たオリヘルガに対してカオス達は倒しもせずに見つからないまま山を登ることにする。それからはオリヘルガがいることもあって思いの外進みづらくシュメルツェンまでは時間がかかり日も暮れかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてシュメルツェンまで後少しというところまで登ってきた頃シュメルツェンでは()()()()()()がカオス達を待ち受けていた………。



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残酷な種族

ローダーン火山 頂上前 夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………!

 ハァ………ハァ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達が撒いた霧が晴れることなく夜になった。あれからオリヘルガはカオス達を探して右往左往するがカオス達は共鳴の力で霧の中をオリヘルガが進む方向とは逆に逆にと躱していきここまで進んできた。

 

 

カオス「アイツまだ諦めませんね………。」

 

 

レイディー「いい加減アタシ等を一人で見付けるのはできっこないってことを自覚した方が良さそうなんだけどな。

 でもまぁそれも無理もねぇさ。

 アイツも相当焦ってんのさ。

 次辺りミスしたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カーヤ「え?

 あの人………?」

 

 

カオス「どうしてアイツなんですか?」

 

 

 あまりにもハッキリとオリヘルガがイフリートに食されると言うのでその理由をレイディーに問う。すると、

 

 

レイディー「四ヶ月間ブルカーンの奴等が食われていく内に食われた奴等がブルカーンの連中の中でどういった立場の奴なのか調べてみたんだ。

 そしたらそいつ等が順々にブルカーン達の中でも族長に近しい奴等でな。

 実はお前達が来る二十日ぐらい前にとうとう族長のベイブって奴が食われた。

 そんでお前達がオリヘルガとやりあってた日にそのベイブの()()()()()()()()()()()()()って奴がシュメルツェンから消えた。

 状況から見てもうブルカーンには族長の親戚筋は皆イフリートに食われたんだ。

 族長の濃い血筋で残ってんのはもうアイツだけなんだよ。」

 

 

カオス「アイツが族長の息子………!?」

 

 

カーヤ「族長の子供がいなくなったらどうなるの?」

 

 

レイディー「誰かが代わりに族長の代理をするしかねぇだろうよ。

 オリヘルガの次くらいに力を持ってる奴がな。

 んでそいつも失敗したらそいつも食われてそれが最後の一人になるまで続く。

 皮肉なことに強い奴を食わせればその分だけ長くイフリートから生贄を要求する期間は空くが強い奴がいなければ奴等の狩りはどんどん失敗する確率が上がっていく。

 

 

 イフリートもそのことを理解してあんなことさせてるんじゃないか?」

 

 

カオス「イフリートが……!?

 なんでそんなことを………!」

 

 

イフリート「イフリートは今ほぼ()()()()()()()()()()()()

 

 

 人ってのはな、

 この世で()()()()()()()()()()なんだよ。

 なんでか分かるか?」

 

 

カオス「………フリンク族の人達のようにカーヤやハーフエルフを差別する人達がいるからですか………?」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 カオスが思い付く限りでは残酷な人というのはバルツィエやフリンク族達以外にはいなかった。彼等の行いを目にしてカオスは吐き気を催すほど人はあんなにも人に冷酷になれるものなのかと考えるほどであった。

 

 

レイディー「残念だが不正解だ。

 バルツィエもフリンク族もほんの一部の人種だろうが。

 アタシが言ってるのは全エルフ達に共通する部分を残酷だって言ってるんだよ。」

 

 

カオス「………分かりません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「“()()”からだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「え………?

 遊び………?」

 

 

 レイディーが言う人の残酷な面とは人が遊ぶことらしい。しかしそれだけでは何が残酷なのか解釈のしようがない。カオスはその遊びとはどういう意味なのか訊くことにする。

 

 

レイディー「遊ぶっつっても遊ぶだけなら犬や猫がじゃれてるのも遊びと思うかもしれねぇがなぁ。

 アタシが言う遊ぶってのは人は()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「命で………遊ぶ………。」

 

 

レイディー「自然の中の動物やモンスターも他の生き物を殺すのは食うためだったり抵抗して勢い余ってだったりと案外真面目な理由があって生き死にしてんのさ。

 

 

 だが人の場合はこれに更に多くの色んな理由が出てくる。

 そこに住んでる生き物が邪魔だから殺したり珍しい生き物だから生態を調べるために殺したり毛皮や武器の素材なんかが必要だから殺したり実験のために育てては殺したりむしゃくしゃして気晴らしに殺したり子供なんかはそこら辺の蟻なんかを踏み潰して殺して遊んだりもする………。

 ………人だけなんだよ。

 そんなに生き物を殺す理由を作るのは。

 人だけが無駄に生き物を殺している。

 人は他の生き物と違って本能だけでなく理性も持っているってのに比較しても他の獰猛なモンスターが獰猛にもならねぇほど人の方が多く最多の生き物を殺しているんだ。

 中には人の社会には全く関与しない生き物だっているのにな。

 そういう生き物ですら人はその手にかけちまう。」

 

 

カオス・カーヤ「「………」」

 

 

 確かにそうだった。人は生きるためにも他の生き物を殺して食べる。食べる生き物は様々な種類がおりその日の気分で鶏肉や豚肉牛肉などといった複数の肉の中から選ぶ。猟師でもなければそれが生き物であったと意識などしない。ごく当たり前に生き物を糧にして生きている。それだけなら食物連鎖としての話だがレイディーが伝えたいのはそういう自然界の流れとは無関係に人は生き物を殺しているということだ。ミシガンやカーヤのように種は違えど人以外の生き物と仲良くなったりする人々は存在する。そんな人達とは真逆に生き物を見付けたら即殺しにかかる人々もいるのだ。それは人が生きる社会で仕事として殺す人や娯楽で殺す人、運動がてらモンスターと戦い殺す人………。

 数えあげれば限りがない。

 人であるカオス達ですら人が生き物を殺す理由を把握しきれないが確実にカオス達が想像するよりも多く生き物は殺されているだろう。

 それも人の社会による理不尽のために。

 

 

レイディー「…絶滅危惧種を保護して残そうとする団体とかもマテオにはいるけどな。

 その絶滅しそうになった原因は少なからず人が関わってる事案も多いんだ。

 人のせいでデリス=カーラーンから消え去った種は大概は土地の開拓とかによる影響でそういうことになってる。

 百年前からヴェノムが出現してそれで絶滅した種もいるだろうがヴェノム自体は人が作り出したっていう線が濃厚なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり結局は人が全ての元凶なんだ。

 人のせいで生き物が消えて人のせいで世界が精霊に滅ぼされようとしている。

 好奇心、興味本意、出来そうだったから、やれると思ったから、そんな理由でこの星は今無くなろうとしている。

 全ては人という知性という名の病原体が撒いた結末なんだ。

 そんなもん持っちまったイフリートがブルカーンで遊んでるのも分かりやすい話だろ?」



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炎者襲来

ローダーン火山 頂上前 夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「必ずしも頭脳がいいってことはいい結末に結び付くとはならねぇ。

 色々と向上したせいで文明が滅ぶことだってあるんだ。

 発展しすぎた文明社会が滅びるのなんてあっという間だ。

 人の文明はそんぐらい危険を孕んでやがる。

 常に世界を滅ぼすくらいのな。」

 

 

カオス「文明の力が高すぎるのも考え物ってことですね。」

 

 

 シュメルツェンを目前にしてすっかりと油断して放しに老け込んでしまう三人。

 

 

 

 

 

 

 そのせいで間近に這い寄る人影に気付くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャリッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?」

 

 

レイディー「(しまった!

 つい話し込んじまって周囲の警戒が……!?)」

 

 

 カオスとレイディーは一瞬オリヘルガが迫ってきているのかと思った。が、前方では変わらずオリヘルガがカオス達を探す姿があった。と言うことはシュメルツェンからオリヘルガの応援が来たということになる。オリヘルガが援軍を要請しなかったのでシュメルツェンから誰かがやって来る可能性を失念していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその足音は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャリ………………………ジャリ…………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達の側までやって来てそのまま通り過ぎていった。どうやら気付かずに偶然横を通っただけのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「!!

 そこか!!」

 

 

 オリヘルガが足音の主へと武器を構えてり出す。オリヘルガはまだその人物が誰なのか分かっていなかった。

 

 

 

 

 

 

ジャリ…………………ジャリ………………ドサッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・カーヤ・レイディー「「「!」」」

 

 

 霧でよく見えなかったがシュメルツェンから歩いてきた人物がオリヘルガが迫る寸前でその場に倒れた。

 

 

オリヘルガ「んん!!?

 おっ、お前は………!?」

 

 

????「オリ………ヘルガ………。」

 

 

オリヘルガ「ドワイト!?

 おっ、おいドワイト!

 どうしたんだ!!?」

 

 

 倒れた人物はドワイトと言うらしい。当然ながらブルカーンでオリヘルガの仲間であろう。だが何故かドワイトは遠目でよく見えなかったが負傷しているようだった。それもかなりの重傷を負っている。

 

 

ドワイト「……やつ………が………きた………。

 シュメル………………ツェンが………。」

 

 

オリヘルガ「もういい喋るな!

 今他の奴を……………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドワイト「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「…………………クソがっ!!

 一体何が起こってやがる!!」

 

 

 オリヘルガはドワイトを置いてシュメルツェンへと走っていく。ドワイトはその場で事切れたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………行ったようだな。」

 

 

カオス「レイディーさん………あの人………。」

 

 

 オリヘルガが去ったので隠れていた岩影からドワイトと呼ばれていた男の元へと出る三人と一匹。

 

 

レイディー「そいつ………どんな様子だ。」

 

 

カーヤ「………駄目みたい………。」

 

 

レイディー「………そうか。」

 

 

 ドワイトは身体中傷だらけであった。何かシュメルツェンの中で激しい戦闘があったのだろう。そしてドワイトだけがシュメルツェンから逃げてきた。

 

 

カオス「これは………何があったんでしょうか………?

 まさかウインドラ達が………?」

 

 

レイディー「あいつらにブルカーンの集団相手にこんな無数に怪我を負わせるような立ち回りが出来るのか?

 捕まってて逃げるんなら逃げの一手に専念して精々斬りつけるにして一ヶ所二ヶ所程度だろう。

 ここまで趣味悪く痛め付けて弄ぶような真似猿達がするかよ。

 

 

 それにこいつ死に際に()()()()って言ってたじゃねぇか。

 ってことはこれをやったのはオリヘルガがアタシ達のところに飛んで来てから今まででシュメルツェンに入ってきた奴の仕業だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの野郎が動き出したんだ。

 生き返ったあの男が………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルカーンの住む街シュメルツェン 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う………ぐっ………。」

 

 

「ぁっ……………。」

 

 

「…………ゴフッ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「何だってんだよこりゃあ!?

 何があったんだ!!?」

 

 

 オリヘルガがシュメルツェンへと戻ると見渡す限りに同胞達が傷付き倒れている。皆ドワイトのように深い傷を負っていた。オリヘルガはまだ息のある者に駆け寄る。

 

 

オリヘルガ「おい!

 何があった!?

 何でこんなことになってんだ!?

 虜囚達がやったのか!?」

 

 

「ちっ、………違う………。

 アイツらじゃない………。

 やったのは…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「いい加減アイツ等がここのどこにいるのか吐けよ。

 俺はアイツ等を探してんだ。

 これ以上酷い目にあいたくなけりゃ俺のいうことを「ペッ」!?こいつ………!」

 

 

???「誰がお前の言うことなんが聞くか!!

 お前みたいな()()()()()()()()()()()()()()()袋に「ざけんなぁぁっ!!」ぐぉあ…!?」ザクッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「ジグル!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「畜生めが………!

 ここでも俺の噂が出回ってんのかよ!!

 っとにムカつく国だな!!

 どこに行っても俺のことを底辺だのバルツィエでも弱い部類の奴だのと……!!

 そんなに俺のことを下に見るんなら俺なんかに殺られてんじゃねぇぞ屑がッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「お前は………ラーゲッツ!!」

 

 

ラーゲッツ「………次はテメェか?

 テメェが俺の相手すんのか?

 止しとけよ。

 テメェ等ブルカーンじゃ俺の相手なんか務まらねぇんだよ。」

 

 

 ラーゲッツはたった今殺したジグルの死体を踏みつけながらオリヘルガを嘲る。

 

 

オリヘルガ「(こいつ………!

 今まで何度か山に足を踏み入れてはモンスター共が対応してモンスター共を蹴散らして出ていったりを繰り返していたがついにここまで登ってきたか………!

 目的は何だ!?)

 何故貴様がここまで来た!!?

 貴様は何のために俺の仲間を殺したんだ!!!」

 

 

 ラーゲッツの周りには既にラーゲッツに応戦しようとして逆に返り討ちにされた同胞達の亡骸が散らばっている。マテオとダレイオスの百年の停戦中でもラーゲッツは何度かダレイオスへと渡って来てその度にラーゲッツがどれ程の力を持っていたのかは把握していた。ラーゲッツはバルツィエの血を持つ輩ではあったがその技量はバルツィエの中でも特に抜きん出ているような長所はない。それどころか世代が変わるごとに魔力の強さを増すバルツィエの家計の中でラーゲッツは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ブルカーンの民が複数でかかればレアバードという乗り物にでも乗っていない限りこうは同胞達が一方的に倒されラーゲッツが無傷で立っていられる筈がない。霧が多少晴れてラーゲッツを観察してみればラーゲッツはレアバードどころか()()()()()()()()()()

 

 

オリヘルガ「………なるほど。

 バルツィエ御得意の飛葉翻歩でこの視界の悪い霧の中から仲間達の不意を突いて殺したんだな。

 バルツィエの落ちこぼれがやりそうな卑怯な手を使いやがる。」

 

 

ラーゲッツ「………あ”?

 何一人で盛り上がってんだ?」

 

 

オリヘルガ「………だが俺の仲間達は殺せても俺はそう簡単に殺られたりはしねぇ!

 貴様程度の動きなど霧の中からでも「ごちゃごちゃとうるせぇなぁ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「ぐふっ!?」

 

 

 オリヘルガの体に衝撃が走る。それも一瞬のことだったが衝撃が走る瞬間ラーゲッツがジグルの遺体を自分の方へと蹴りあげたのが見えた。

 

 

 そしてその隙にラーゲッツはオリヘルガへと迫りジルガの遺体からジグルが所持していた剣を引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「カオス達の居場所を吐く気がないならとっとと消え去りな!!!

 

 

 魔王炎撃破ッッッ!!!」

 

 

 ラーゲッツはジグルごとオリヘルガを剣から放たれた炎で薙ぎ払った………。



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三度目の邂逅

ブルカーンの住む街シュメルツェン 夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「ぐああああああぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 

 ジグルの遺体が飛んで来たことによって体が一瞬硬直し避けることが出来なかったオリヘルガ。その隙を突いたラーゲッツは火を纏った魔神剣でオリヘルガを薙ぎ払う。これにはオリヘルガもたまらず吹き飛ばされてしまう。

 

 

ラーゲッツ「雑魚に用はねぇ!

 俺が用があんのはカオスとその仲間達だ!

 来てんだろ?

 それともまだ来てねぇのか?

 こんだけの大掛かりな霧を作り出しておいて今日何もしねぇってこたぁねぇだろ?

 夜まで待ってやったんだ!!

 

 

 誰でもいい!!

 カオス達をここに連れてこい!!」

 

 

 オリヘルガは吹き払われはしたがまだ絶命したのではない。負傷はして動けなくなっているだけだった。ラーゲッツもオリヘルガが死亡していないことは分かっている。それでも目の前の傷付き倒れた敵よりもカオス達を優先しまだ動けるブルカーンの民に再度要求を突き付ける。

 

 

「そっ、そんなこと言われても俺達はアイツ等がどこにいるのかも………。」

 

 

「俺達は奴等とは何の関係もない。

 呼んでこようにも相手が応じるかどうか………。」

 

 

「その前に俺達は奴等の敵なんだ!

 俺達が呼んで来るなんてことはありえないんだ!」

 

 

 ラーゲッツの要求はカオス達だがその要求に応じることはブルカーンの民達には出来なかった。応じようにもラーゲッツが呼ぶ相手が昨晩捕らえた捕虜達の中にはいないことは彼等の話から判明している。カオスは取り逃した二人の内の男の方らしい。その人物はどうやらバルツィエの血筋らしいが………、

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「ぐっ……!

 お前はそいつとどういう関係なんだ………!

 お前がカオスという男と仲間同士ならまだカオスが無事であることは知ってる筈だろうが!

 それが何故こんなところでそんな訳の分からないことを………!?」

 

 

 単純に考えれば現在ローダーン火山近辺に潜伏している潜入者は三組いてそのどれもが()()()()()()()()()。三組と言っても二組は一人で行動しているらしくその両方が中々の手練れでこの四ヶ月間モンスターを使ってさえも捕らえることは出来なかった。最初にやって来たのは氷使いの女で目的は不明だったがどうやらイフリートの首を狙っていると先日捕虜が話していた。そしてその後一月程経った辺りでこのラーゲッツがやって来た。ラーゲッツは何をするでもなくただその場で待機していた。モンスターを差し向けてはみたがラーゲッツはそれを容易く討ち払った。あまりに一方的に容赦なく討ちわれたことからイフリートからはラーゲッツ捕獲を一時中断するように指示を受けた。恐らくモンスター達もいづれは自分の餌として食べるつもりで減らされるのを止しとしなかったのであろう。それから今度はカオスという男とその仲間達が来た。イフリートが現れてからの六年でこう立て続けに他所から人が来訪してくる例はなかった。そして昨晩のことで一人目の氷使いの女と最後にやって来たカオス達が仲間であることが分かった。そしてカオスはバルツィエの血筋であることは先の戦闘で知った。合流したカオス達と今目に前にいるこの男ラーゲッツは同じバルツィエ。であるならばバルツィエの勢力がシュメルツェンに襲撃してきたということになるのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「はぁ?

 俺がカオスと仲間だぁ!?

 違ぇよ!

 俺は奴を殺しに来たんだ!!」

 

 

オリヘルガ「何………?」

 

 

ラーゲッツ「奴と奴の仲間達はレサリナスで………そしてフリンク族達のところで俺に恥をかかせやがった!

 

 

 俺がこの手で葬ってやらねぇと気がすまねぇんだよ!

 だから奴等がここに来るまで俺は待ち続けたんだ!

 そんで奴が何か仕出かそうとするタイミングを見計らって俺がここに乗り込んできたんだ!

 最近になって奴等がこの山の上空を何度も飛び回ってるのを確認したし何かやろうとしてることは明白だろう!

 ここで俺はカオスと偽カオス、更には俺の娘とかほざきやがる女も潰す!

 その外野奴等とお前達はついでだ!

 全員俺がぶっ殺してやるよ!!」

 

 

オリヘルガ「………そんな私怨で三ヶ月もの間ローダーン火山の東の方で留まっていたのか………。

 事情はよく分からんがとんだ騒ぎに巻き込まれたってことかよ。」

 

 

 相変わらずバルツィエは無茶苦茶で感情で物事を考える節が見られる。仲間だと思っていた二組は逆に敵同士だったらしい。オリヘルガの仲間達もその争いに巻き込まれ殺されてしまった。今更誰と誰が敵か味方なんて話をしてもオリヘルガにとっては全員が敵であったという事実に変わりはなかったが………、

 

 

 オリヘルガは一つ妙案を思い付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「(………こいつらをどうにかしてあの蜥蜴野郎にぶつけることは出来ねぇか………?)」

 

 

 オリヘルガブルカーンの民にとってはカオス一団とラーゲッツ、そしてイフリートの三つの勢力が出来れば潰しあって共に倒れてしまえばブルカーンは昔のような安静を取り戻す。イフリートが現れてしまってからは毎日が同胞達がイフリートに食われ続けていく日々を過ごしてきた。しかしこれを機にイフリートをどうにか倒すことが出来ないか。ラーゲッツはともかくカオス一団は話を信じるなら他の主達を倒してきたようで生物を不死身の化け物に変えるヴェノムウイルスをものともしない力があるようだ。状況を整理すればラーゲッツもバルツィエでバルツィエは百年も前からヴェノムに関する研究がダレイオスよりも進み最近ではヴェノムウイルスを無力化する手段もあると噂で聴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「(…もうそれしかイフリートを倒せる機会はやってこねぇ!

 こいつを上手く誘導して先にイフリートにぶつけて………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………やっぱり生きていたんだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「やっと来たか………。

 待ちくたびれたぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス!!」

 

 

 イフリートとカオス、ラーゲッツを引き合わせるよりも先にカオスとラーゲッツが対面してしまった………。



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復活の真実

ブルカーンの住む街シュメルツェン 夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ラーゲッツ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「やっと見つけたぜカオス。

 三ヶ月も待たせやがって。

 お前らあそこから真っ直ぐこのブルカーン領に来るんじゃなかったのかよ?」

 

 

カオス「誰からそのことを?」

 

 

ラーゲッツ「俺を掘りおこしてくれたフリンク族の奴だよ。

 名前は………忘れた。

 ってか聞かなかったな。」

 

 

カオス「そうか………。」

 

 

 やはりラーゲッツを土の中から掘り出した者がいたようだ。ラーゲッツが埋まってるであろう場所を知ってるとしたらナトルとフラットの二人だが直前フラットがラーゲッツの首を曝すと言っていたのでフラットが犯人だろう。

 

 

カオス「そのフリンク族の人はどうしたんだ。」

 

 

ラーゲッツ「殺した。」

 

 

カオス「お前を助け出してくれた人だったんだろ?」

 

 

ラーゲッツ「そんなの知ったことかよ。

 どうせ俺の()()()()()()()()()()()()()()()()?

 弱い奴のすることなんざそんくらいしかねぇもんな。」

 

 

カオス「!!

 お前………!

 やっぱり何かして生き返「この馬鹿野郎!!」ッテ!?」ボカッ!

 

 

 ラーゲッツに事実確認をしているとレイディーが後ろからカオスの頭を殴る。

 

 

レイディー「何を堂々と出てきてんだよ!?

 アタシの作戦を忘れたのか!?

 アタシ等はブルカーンの連中がコイツと一悶着してる間にイフリートんところ行ってイフリートを討つって作戦だったろうが!!

 こんなんいきなり計画失敗じゃねぇか!」

 

 

カオス「そっ、そんな打ち合わせしましたっけ……?」

 

 

レイディー「空気を読んで察しろよ!

 コイツが現れるかどうかなんてアタシ等の計画には無かった!

 だったらこの好機を逃す手は無いだろ!?

 コイツがここで好きに暴れてくれたらアタシ等の作戦も郡とやり易くなってたんだ!

 それを何敵陣のど真ん中それもラーゲッツの正面に出ていく必要があったんだ!?

 コイツの相手はイフリートの後でもよかっただろ!?」

 

 

カオス「すっ、すみません………。」

 

 

 ここに来てからカオスは何度も謝りっぱなしだった。つい街の前でラーゲッツがシュメルツェンに着ていると聞いていてもたってもいられなかった。あの男が生きていることを確認したかった。死んだと思われていたあの男が本当に生きているのかどうかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「パパ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「お前もいたか。

 運のねぇ奴だな。

 ここで俺に見つかっちまうとはよぉ。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

ラーゲッツ「俺はお前みたいな娘は認めねぇ。

 俺に恥をかかせるような娘なんざ願い下げだ。

 ここで俺の手でお前がいたっていう事実を無かったことにしてやるよ。」

 

 

カーヤ「戦わなくちゃいけないの………?」

 

 

ラーゲッツ「少なくともお前が俺に刃向かうんならそうなっちまうなぁ。

 戦いたくねぇって言うなら抵抗するなよ。

 俺がお前を殺して終わりだ。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

レイディー「性格が螺曲がってんのと他人へのどうしようもないコンプレックスは相変わらずだなぁ!

 そんなんだからいつまで経っても男爵らから子爵へと上がれねぇんだよ汚点君。」

 

 

ラーゲッツ「!

 テメェは………!」

 

 

レイディー「お前が子爵に上がれねぇのは普段の素行の悪さがあるからなんだけどな。

 お前とお前の娘のことも聞いた。

 他人を蹴落としたってお前は上に行くことは出来ねぇよ。

 そんなの誰も認めねぇ。

 お前が誰を認めようが認めまいが他人は誰もお前を認めねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前は永久に落ちぶれ者のままだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………ムーアヘッドとか言ったなぁテメエ………。

 テメェから消し炭に変えてやったっていいんだぜ?」

 

 

 ラーゲッツは明らかに怒気を増した。気の短さは話し口調からしてそうであることだろうと分かるが()()()()()()()()が何より許せない質らしい。

 

 

レイディー「お前どんな手品を使った?

 こいつらの話じゃ確かに止めを刺したって話みたいだが現に今お前はこうしてアタシ等の目の前にいる。

 何らかの方法でお前は自分を蘇生したんだ。」

 

 

ラーゲッツ「そうだな。

 俺はお前の言う通り()()()()()

 一度目はレサリナスで、二度目はこっから東にある山の中で両方とも偽カオスにな。」

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「(二度死んだ………?

 何の話をしているんだこいつらは………。)」

 

 

 

 

 

 

レイディー「お前が生き返った魔法は………ネクロノミコンが関係してるんじゃないか?」

 

 

ラーゲッツ「………ほお………。」

 

 

レイディー「その反応………どうやら当たりを引いたみたいだな。

 お前らバルツィエがマテオが国として成り立つ前にカタスがバルツィエに渡したっていう書がネクロノミコンだったんだ。

 カタスはお前らバルツィエに国のために役立てるために渡しちまったがお前らはとうとう踏み越えちゃならねぇステージに踏み込んだようだな。

 

 

 死者蘇生の術の魔本ネクロノミコン。

 死んだ奴を蘇らせる?

 そんなことが可能になれば生物の生と死の境界線があやふやになる。

 死んでも蘇るってんなら人は誰しも憎いという理由だけで誰かを殺しちまうようになる。

 命の尊さが限り無く薄れちまう。

 そんな技法人が手を出していい領域じゃねぇんだ。」

 

 

カオス「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んだ者が生き返る。それが可能なのならば祖父は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「いいじゃねぇかよ。

 死んだ奴が生き返るんなら誰だって蘇らせたい奴がいるだろうよ?

 人の命が尊いってんならその命が思ってみもない事故なんかで失われた時ネクロノミコンの力ならそいつを蘇らせることが出来る。

 人に生まれたんなら誰だって思うことだろ?

 どうしてあいつが死ななくちゃいけなかったんだ?

 どうしてあいつが生きてるんだってな。

 ネクロノミコンにはそういう人の命の選別が出来るんだ。

 この力を誰よりも早く手に入れた俺達こそが「まぁお前らは…………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「そうした選別ってのがあるんなら真っ先に地獄に落ちて二度と帰ってこなくていい糞集団だがな。

 特にお前みたいな家の栄光だけしか取り柄がない奴とかはな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………!!

 この………!

 どれだけ俺を蔑みゃ気が済むんだよ!!

 テメェ等みてぇな下等種族がこの俺を馬鹿にするなぁぁぁぁぁ!!!!」ヂャキンッ!!

 

 

 ラーゲッツが激昂して駆け出す。戦闘は最早避けられぬ運命であった………。



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ラーゲッツの異様な成長

ブルカーン族の住む街シュメルツェン 夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「(はっ、始まりやがった………。

 こいつら全員を一辺に蜥蜴野郎にぶつければ蜥蜴野郎をいいところまで追い詰められそうだってのに………!)」

 

 

 咄嗟に思い付いたことであったが下手なことを口にすることは出来ない。イフリートは近くでこの一部始終を見ている。オリヘルガが発言する内容もイフリートに伝わってしまう。表面上はシュメルツェンに侵入してきた賊を捕らえてイフリートの元へと連行しなくてはならないのだ。そしてオリヘルガの企みが成就し最後に生き残っていた者がイフリートでさえなければ良い。イフリートにはどうしても敵わない。が、カオスとラーゲッツのどちらかであれば多少負傷者は出てくるかもしれないが両者を打ち負かすだけの自信はある。イフリートと戦って消耗した後なら尚更だ。カオス達に関してはイフリートが倒されてしまえば敵対する意味は無くなるが仲間を捕らえてしまった手前もう和解することなど難しい。やはり三者とも最終的に敵になるのは確定次項である。

 

 

 

 

 

 

 しかしラーゲッツが生き残ってしまった場合はどうなるだろうか。ラーゲッツと戦い敗れた仲間達は自分よりやや劣る程度の実力だがそれでもバルツィエを相手にしてもそう差が開くほど弱者ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それだと言うのにラーゲッツはその仲間達を傷一つ付けられることなく打ち倒した。………否、傷一つ付けられることないは過剰表現であった。正確には衣類を切り裂くぐらいにはラーゲッツと善戦していた。後数センチだけ深く切り込めていればラーゲッツの体に傷を残すことが出来ていたであろう。

 

 

 ………しかしラーゲッツの衣類の破けは複数箇所付けられていた。それだけあるのならば一つぐらいラーゲッツの体に傷を残してもおかしくはない。と言うよりは必ずどこかに傷を負うだろう。

 

 

オリヘルガ「(治療術使いながら戦ってんのか?

 高速で駆け回りながら受けた負傷を自分で………。

 

 

 ………!)」ジュゥゥゥ…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガの側には倒れていった仲間達が装備していた武器が落ちていた。その武器が煙を上げて()()()()()()()

 

 

オリヘルガ「(………?

 何だ?

 ラーゲッツの炎に金属が耐えられずに溶けてんのか………?

 それにしてはあまり武器の近くから熱気は感じられないが………。)」「オリヘルガ! 」

 

 

 カオス達とラーゲッツの戦闘が開始されて両者から注意がそれた隙にブルカーンの仲間がオリヘルガに駆け寄ってきた。

 

 

「アイツ………とても恐ろしい力を持ってやがるぞ………。」

 

 

オリヘルガ「はぁ?

 そんなもんバルツィエなんだから当たり前「そうじゃねぇよ!」!? 」

 

 

「お前が考えてるようなバルツィエは魔力が高くて強いって話じゃねぇ!!

 そういう次元の話じゃねぇんだ!!

 アイツの力はそんなのが目じゃねぇくらいおぞましい力なんだよ!?」

 

 

「あのラーゲッツはもう俺達が知ってたラーゲッツなんかじゃねぇ!

 昔は今のバルツィエの現世代達の中で一番討ち取りやすそうで数人がかりで掛かりゃ俺達でもやれる奴だと思ってたが今のラーゲッツは何か違う!

 ラーゲッツのくせにラーゲッツの何倍も力を付けてやがる!

 アイツはもうラーゲッツなんかじゃねぇんだよ!?」

 

 

 オリヘルガの仲間達が何やら気が動転しているようだった。見た目はラーゲッツだがラーゲッツではないらしい。

 

 

オリヘルガ「?

 じゃあ………アイツは一体誰なんだよ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分からねぇ………。

 アイツは既に()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 

 

 アイツはラーゲッツでもなくてエルフでもなくて………それ以外の()()だよ………。」

 

 

「アレは多分もうフェデールやアレックスなんかとは比べ物にならないくらいの悪魔に成り果てている………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィイィィイインッ!!キィイイィイインッ!!

 

 

 剣と剣が衝突する音が轟く。カオスとラーゲッツが剣を交える。

 

 

カオス「…生き返りはしたみたいだけど特段あれから強くなったって訳じゃないんだね。」

 

 

ラーゲッツ「テメェの方こそそんなに腕を上げてはいないようだな!」

 

 

カオス「そんなに剣を振る機会が無かっただけだよ。」

 

 

ラーゲッツ「へっ!

 そうかよ!」

 

 

ガキィイイイイィィィィィィィンッ!!!

 

 

 何度も何度も剣を重ねる。二人の剣が交わる度に鼓膜の奥を突き刺すような鋭い音が辺りの人々に緊張が走る。

 

 

ラーゲッツ「……」シュンッ!

 

 

カオス「!」キィイインッ!!

 

 

 ラーゲッツが飛葉翻歩でカオスの背後へと回り斬りつけてくるがこれに反応して素早く弾き返す。

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

カオス「お前の動きは見えてるよ。

 そんな飛葉翻歩じゃ目で追うのも簡単だ。

 お前じゃやっぱり俺には敵わないよ。」

 

 

 ユーラスやランドール、ダイン、フェデールと戦ったことがある経験からかラーゲッツの実力がどれ程のものかカオスには測ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 噂通りラーゲッツは力やスピード任せの脳筋タイプで動きが大分先読みしやすい。そのおかげか技を使えずともカオスはラーゲッツと渡り合えた。この程度の実力なら例えハンデを負っていたとしても負けることは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「なぁお前…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前より弱くなってねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィイイイイィィィィィィィインッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(!?………しまった!)」

 

 

 ラーゲッツの言葉に一瞬反応が遅れて剣を弾き飛ばされてしまった。致命的な隙を作ってしまいカオスは無防備になるがラーゲッツは追撃してこなかった。

 

 

カオス「!………くそ!」

 

 

 カオスはラーゲッツが剣を止めている間に弾き飛ばされた剣を回収した。相手が今までの敵と比べて弱いということで油断したか剣を握る力を緩めてしまっていた。

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

カオス「………ちょっとうっかりしてたよ。

 お前でもそれなりにはやれるようだね。」

 

 

ラーゲッツ「………なぁ何でお前俺と殺り合ってんのに飛葉翻歩を使わねぇんだ?」

 

 

カオス「そんなの教える訳が「魔神剣ッ!!」!」ザンッ!

 

 

 質問を返す瞬間にラーゲッツが魔神剣を放ちそれを剣で斬りさき防ぐ。

 

 

 

ラーゲッツ「…俺の動きが見えてんだよな?

 だったら今のは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 何で魔神剣を使わない?」

 

 

カオス「………!」

 

 

 カオスは冷や汗を流す。この状況でラーゲッツにカオスが本来の力を発揮出来ないことを知られるのは不利になる。それを隠そうと言い訳を考えるが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………お前………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今まともに俺と殺り合う力がねぇんじゃねぇのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった二度の連続したミスでカオスはラーゲッツに自身が力を失っていることを知られてしまった………。



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突き刺した剣は………

ブルカーン族の住む街シュメルツェン 夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「なんか剣を振るのもぎこちないしお前………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(…マズイ………バルツィエ相手なら………一度倒した相手なら軽く倒せると思ったけど今の俺にはこいつを倒せるだけの力が………。)」

 

 

 二度自分と他の人物に敗北する姿を目にして甘く見ていた。ウインドラに関してはラーゲッツを打ち破ったのは長年の研究と対策と修練で培った努力でラーゲッツを打ち破って見せた。自分との戦いで破った時は幼い頃から積み重ねてきたバルツィエ流剣術で圧倒して倒した。

 

 

 カオスにはその力が今は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………ククク!

 こりゃ俺にも千載一遇のチャンスが舞い降りて「そいつはどうかな!」…!」パキィンッ!

 

 

 笑みを浮かべたラーゲッツの横から氷の槍が飛ばされる。ラーゲッツはそれを難なく躱し飛ばした相手を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「坊やが本調子じゃなくたってお前みたいなバルツィエの汚点君は坊やとアタシ二人いれば十分なんだよ。

 何を相手は坊や一人だと勘違いしてんだ?

 アタシにも警戒しといた方がいいぜ?

 アタシはお前をレサリナスで殺った坊や擬きよりかも腕は立つからよぉ?」

 

 

 レイディーがラーゲッツの前へと出てきて参戦の意思を示す。

 

 

ラーゲッツ「ムーアヘッド………!

 テメェまた俺をこけにィッ!!」

 

 

レイディー「こけにされる経歴しかねぇんだから仕方ねぇだろ?

 お前って正直ガキがイキッてるようにしか見えねぇんだよ。

 大した努力もせずに他のバルツィエの奴等の悪口ばっか言ってるしなんか子供のまま大人になった奴って印象しかアタシは感じねぇ。

 お前って今年でいくつになったんだっけ?

 アタシは百三十歳になるんだがお前はいくつ辺りなんだ?

 ちなみに昔バルツィエにアルバートって奴がいたんだが知ってるか?」

 

 

ラーゲッツ「!!!

 ………知ってるに決まってんだろうが!!

 テメェより知ってるわ!!

 俺をどれだけガキに見てんだゴラァァァァッ!!」ボオォォォォッ!!

 

 

 ラーゲッツの持つ剣が燃え出す。

 

 

レイディー「かっかかっかしやすい奴は扱いやすくてやり易いぜ。

 坊や一度下がれ。

 ちょっくら交代してやんよ。」

 

 

 そういってレイディーは自らの足と地面に手を添える。するとレイディーの靴と地面が凍り付く。

 

 

レイディー「んん~……?

 気温が高くて凍り付きが悪いなあ。

 床面もデコボコして補整されてねぇし面倒くせぇ。

 アタシにはここは不向きなフィールドだなぁ。」

 

 

カオス「じゃっ、じゃあ俺も戦いますよ!

 俺がラーゲッツを足止めするんでレイディーさんがラーゲッツ「逆だ。」」

 

 

レイディー「アタシがアイツを撹乱すっから()()()()()()()()

 今のお前とアタシじゃアタシの方がサポートに向いてる。」

 

 

カオス「おっ、俺がラーゲッツを……?」

 

 

レイディー「たりめぇだろ?

 お前から奴に喧嘩吹っ掛けたんだ。

 お前がやらずして誰がやる?

 アタシの特性知ってるだろ?

 ()()()()()()()()()()()()

 火に触れたらそれだけでアタシはK.Oだ。

 アイツとは実際とても相性が悪いんだ。

 アタシの力じゃアイツに止めを刺しきれねぇ。

 だからお前がやれ。」

 

 

カオス「………」

 

 

 長く旅をしてきてカオスはこれまでモンスターやヴェノムを数多く打ち倒してきた。けれども人を殺めたことは一度もない。間接的には人であったヴェノムを倒したこともあるがヴェノムとなった次点で人とは思っていなかった。

 

 

 人を殺めるとなると体が緊張して震える。

 

 

レイディー「………お前………まさか臆してんのか?」

 

 

カオス「……それは………。」

 

 

レイディー「………お前が殺れねぇってんならアイツの娘に頼むことになるがいいのか?」

 

 

カオス「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーヤが離れた場所でカオスとレイディー、ラーゲッツを見ている。カーヤはずっと父親に幻想を抱いて生きてきた。だがその父親は幻想通りにはいかず優しく逞しいと聞かされてきた父親は今目の前で敵としてカーヤの前に立ちはだかっている。カーヤに父親を殺させるなんて出きるわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………分かりました。

 覚悟を決めます。

 俺がラーゲッツラーゲッツを討つ。」

 

 

レイディー「早い決断だな。」

 

 

カオス「カーヤにはこれ以上嫌な思いをさせたくありませんから。」

 

 

レイディー「その言葉信じるぜ。

 お前がしくじったらアタシはラーゲッツとその娘を戦わせるからな。

 

 

 そうならないように上手くやれよ!」

 

 

 レイディーがラーゲッツに特攻する。ラーゲッツは………、

 

 

ラーゲッツ「魔王炎激破ッッッ!!」

 

 

レイディー「『アイスニードル!』」

 

 

 ラーゲッツが放つ技とレイディーの魔技がぶつかる。炎の剣圧と氷の槍の衝突。力関係は互角だった。戦闘が再開された。

 

 

 

 

 

 

カオス「俺がラーゲッツを………。」

 

 

カーヤ「カオスさん………。」

 

 

カオス「ごめんカーヤ………。

 俺は………これから君のお父さんを………。」

 

 

 またカーヤに父親が死ぬ瞬間を見せることになる。前の時はラーゲッツの罵声に耐えきれずウインドラが口を封じる形でラーゲッツを刺した。

 

 

カーヤ「……いいの………。

 もうお父さんはカーヤのこと何とも思ってないみたいだから………。」

 

 

カオス「………ごめん………。」

 

 

 この勝負どう進んでも後味が悪くなることは目に見えている。ラーゲッツに勝つにしてもカーヤを悲しませてしまいラーゲッツに負けるとラーゲッツがブルカーン族やアローネ達を皆殺しにしイフリートは倒せず終いで世界が滅びてしまう。カオス達にはラーゲッツとイフリートを倒すしか選択肢は選べない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「うぉっ!!?」

 

 

レイディー「今だ殺れ!!」

 

 

 レイディーがラーゲッツの足を凍らせてラーゲッツの動きを止める。その隙にカオスはラーゲッツへと走り剣を構えて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「これで………終わりだぁッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブオンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズブリッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが剣をラーゲッツの腹部へと突き立てそのまま貫いた。それでラーゲッツはまた三度目の死を迎えてこの戦闘は終わる………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………これで終わりぃ?

 この程度で終わったつもりになってんのか?」

 

 

カオス「!!?」

 

 

 ラーゲッツは腹部に剣を貫かれても平然とカオスを見つめたまま笑みを浮かべていた………。



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ヴェノムの体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「この程度で俺が死ぬと思ったかぁぁぁ?」

 

 

カオス「なっ………お前……!?」

 

 

 腹に剣が突き刺さっていると言うのに痛みで顔をしかめるどころか逆に笑みを浮かべて挑発するラーゲッツ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「!?

 何だアイツとは………!?

 何でアレで死なない!?」

 

 

 遠くからカオス達とラーゲッツの戦いを見物していたオリヘルガがラーゲッツの様子の変化に戸惑う。

 

 

「やっ、やっぱりアイツ変だよ!」

 

 

「アイツ不死身になってやがる………!?」

 

 

「どうなってんだよアイツの体………!?」

 

 

オリヘルガ「!!

 不死身に………!?

 どう言うことか説明しろ!」

 

 

 自分とは少し違う驚き方をする仲間達にオリヘルガが訳を問う。すると仲間達からは、

 

 

「俺達も何度もアイツを攻撃したんだ!

 けどアイツ死んだかと思ったら次の瞬間には立ち上がって他の奴等が殺られて………!」

 

 

「腕や足をを切り裂いても直ぐにその傷が塞がっちまうんだ!」

 

 

「治療術は使ってなかった!

 アイツ()()()()()()()()()したんだよ!」

 

 

オリヘルガ「何もせずに傷を回復だと………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッ……………ザッ……………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「(………何もせずに傷を回復………… 。

 まるでそりゃあ………)!!「ドワイト………!」………!?」

 

 

 仲間達が自分の背後に目を向けてそこにいた人物の名前を呼ぶ。そこにいたのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドワイト「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「ドッ………ドワイト………?」

 

 

 街の前でカオス達を探している最中に街からオリヘルガの元へとやってきたドワイトがそこにいた。ドワイトは虚ろな目でオリヘルガを見つめる。彼と街の様子に異変を感じたからオリヘルガはシュメルツェンへと戻ってきたのだ。

 

 

「ドワイト!?

 平気なのか!?

 そんな怪我で動いて!」

 

 

「ここは危ない!

 今ラーゲッツと例のアイツ等が戦ってるんだ!

 巻き込まれるぞ!」

 

 

「ドワイトだけでも()()()()()()()()!()

 他の奴等は皆ラーゲッツに殺られちまったからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「(………生きてて良かった………?

 ………いや……俺はドワイトが街の外で………。)」

 

 

 オリヘルガはシュメルツェンへと駆け戻ったのはドワイトの死亡を確認したからだ。心臓や脈を測って確かめたのでドワイトは確実に死亡していた。

 

 

 

 

 

 

 なのに何故彼が………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピクッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!

 ほっ、他の奴等もまだ息があるようだぞ!?」

 

 

「何ッ!?」

 

 

「おっ、お前達まだ動くな!

 肩を貸してやるからじっとしとけ!

 おい立つんじゃない!?」

 

 

 先程までラーゲッツに攻撃されて動かなくなっていたブルカーンの同胞達も次々と立ち上がりだした。それを見ていた他の者達も集まってくる。

 

 

オリヘルガ「!!

 (ジグルまで……!?こいつはあんな直撃受けて直ぐに立つことなんて出きるはずがねぇ!

 俺はジグルのおかげで大分ダメージを抑えられたがこいつは………!)

 待てお前達!?

 そいつらに近寄るんじゃねぇ!!」

 

 

 オリヘルガは嫌な予感がしてラーゲッツに倒された仲間達に近付かないように言う。

 

 

「はぁ!?

 何でだよ!?

 こいつらを放ってはおけ「ガァァァァァッ!」」ガブリッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボタボタッ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………な………………にを………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「グガァァァァァァッ!!!」」」」」

 

 

 倒れていた仲間達が奇声を上げて回りの仲間達を襲い出した。

 

 

 

 

 

 

「どっ、どうしたんだお前達!?

 何するんだよ!?」

 

 

「暴れるな!

 こらっ!

 この………うぁッ!?」ガブッ!

 

 

「何だ!?何してんだよ!?」

 

 

 突然の負傷者達の暴走にブルカーンはパニックに陥った。死んだと思われていた負傷者達を介抱しようとしたら襲ってきたのだ。近くにいた者達は何が起こったのか分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「!!

 ………こいつは…………()()()だ!!

 感染者が出たぞ!!」

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 

 感染者という言葉だけでこの世界に生きる者達には一体何に感染したのかが瞬時に理解できる。ダレイオスにいるのであれば感染者というだけでそれがヴェノムウイルスに感染しているということが。

 

 

 だが彼等の身近にはヴェノムに感染している者はイフリートを除いて他にいない。イフリートは感染者が出たら即その感染者を食い他に感染者が増えないようにしている。感染者を放っておけばその感染者から広まり感染した者がヴェノムの飢餓によって消滅するからだ。イフリートにとってはヴェノムの飢餓は大事な食料達の賞味期限を一気に削ってしまう彼も自分が持つウイルスでオリヘルガ達ブルカーンとの接触はなるべく避けている。なのでイフリートから感染することはない。

 

 

 ………ではどこからヴェノムウイルスが感染したか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………アイツ………、

 ……………ラーゲッツ………死んだ生き返ったってのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………まさか………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「坊や飛び退け!!」

 

 

カオス「!」バッ!

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「オラァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゥンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツはカオスに向けて剣を降り下ろす。それをレイディーの声で止まってしまった体を無理矢理動かして躱す。ラーゲッツの剣は空を切って地面へと下ろされて地面を粉砕する。

 

 

ラーゲッツ「よく躱したなぁ!

 ()()()()()判断能力を失わないのは大したもんだぜ!」

 

 

カオス「お前………その体………どうなって………。」

 

 

 ラーゲッツは刺された剣の痛みに耐えているようには見えなかった。痛み自体を感じていないといった様子だ。ラーゲッツにとってはこの状況になることを狙っていたとも思える。

 

 

ラーゲッツ「クックククククク…!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “モード・インフェクション”!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()!()!()!()!()()()()()!()()()()()!()!()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ッ!!?」

 

 

 ラーゲッツの体に刺さるカオスの剣が落下する。落下音は二回。ラーゲッツの前後に剣の柄と貫いた刃先が転がった。

 

 

 剣が()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「そいつがお前の()()()()()()()()か………。

 剣で貫かれても死なねぇのはそんな秘密があったのかよ。

 バルツィエも終わってんなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の肉体をヴェノムに変えちまうなんてなぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「ケヘヘヘ………!!」

 

 

 ラーゲッツの体は黒く変色しヴェノム特有の蒸気を発していた………。



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感染するブルカーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「その………体………!?」

 

 

 ラーゲッツの異形へと変わった姿にカオスは全身から血の気が引いていく感覚を覚える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「まだまだこんなもんじゃ俺はくたばらねぇぞ?

 俺の力はここからが見せどころなんだからよぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツはヴェノムウイルスに感染していた。それもウイルスを完全にコントロールしているらしくカオスとにらみ合いながらも感染前と何ら様子が変わることなく会話を続ける。このような事例は初めてでカオスも呆然としていた。一体いつから感染を?この戦闘中に?誰か近くに感染者がいたのか?

 

 

 どうしてまだ意識を保っていられるのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「“モード・インフェクション”………。

 そいつがワクチンに代わるお前等バルツィエの新しい力か………。

 そいつはどんな原理でそんなふうになってんだ?」

 

 

カオス「!」

 

 

 レイディーがラーゲッツが言った言葉を復唱して問う。カオスもそれを聞いてはっとする。体が変色する前にラーゲッツはモード・インフェクションと発言してこのような変化を遂げた。この力は自発的に起こしたのだ。偶然どこかでヴェノムと遭遇して感染したのではなく自らウイルスを発症させた。剣で貫かれて常人であるなら致命傷である筈の負傷をウイルスの力で癒したのだ。ヴェノムウイルスという生物を消滅するまで再生させ続けるウイルスの力を利用して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「ククク、こいつか?

 こいつはなぁ、

 ワクチンに含まれるツグルフルフっていう穢れたマナが漂う場所にしか咲かない花を元にして作った新型ワクチンだ。

 こいつを奥歯に仕込んでこの間の山で偽カオスにぶっ刺された瞬間に噛み砕くことで起動した。

 こうなったらもう俺には一切の攻撃が効かねぇぜ?」

 

 

レイディー「そうみたいだな。

 今のお前は正にヴェノムそのものだ。

 ………で?

 んでそれをどうやってコントロールしてんだ?

 居間までのワクチンにツグルフルフが使われてるっていう下りはとっくに知ってんだよ。

 それがどうなって今のお前の意識が保たれてるか訊いてるんだよ。」

 

 

 ツグルフルフという花の話はセレンシーアインでクリティア族のオーレッドから説明された。ツグルフルフを接種すると一時的にマナが強化されるがほんの一過性のもので使用後は暫くするとマナを使いきり心を失った廃人になると。ワクチンはその作用を抑えてどうにか使用できる段階まで改良したものみたいだがそれでも副作用としてやはり心の感情の一部が欠落するらしい。

 

 

ラーゲッツ「ヴェノムウイルスってのはなぁ?

 高いマナ濃度を持った奴には効かねぇんだ。

 ウイルスの力を凌駕する奴には逆にウイルスが耐えられずに消える。

 ワクチンは簡単に説明すれば廃人にならない程度にマナを高めるだけの()()()()()なんだ。

 毒の巡りは早い。

 薬剤を飲んで直ぐに効果が現れるのはそういう理由からだ。

 ワクチンを使って直ぐの間は一応ウイルスには感染してんだぜ?

 でもウイルスはワクチンの効果中に死滅する。

 ウイルスの力を持つととてつもない再生能力を得るがその代わりに自我が破壊される。

 俺達はどうにかこの再生する力だけを手に入れる方法を探した………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして対に見付けたんだよ!

 ワクチンとヴェノムウイルスの力が()()()()()()()()をなぁッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「…ってぇことはアレか?

 お前達はずっとヴェノムウイルスを世界から根絶する研究をしていたんじゃなくて自分達がその力で世界を支配する力をアタシ達に研究させてたってことかよ?

 そうと知らずにアタシ達は長い間利用され続けてたってのかよ………。

 外道共の集まりでも研究が進めば一般にも安くで劣化品でも普及するつもりなのかと思えばそんな下らんことを長々延々と………。」

 

 

ラーゲッツ「ワクチンを一般に普及?

 馬鹿かお前?

 こんな力をそこらの雑草どもに渡す訳ねぇだろ!

 この力があればもうバルツィエは!

 俺達は誰にも()()()()()()()()()()()()()!

 この力は俺達だけが持っていればいいんだよ!

 それで世界が俺達の物になるんだッ!!」

 

 

レイディー「そいつが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 百年前のヴェノムの大量発生でダレイオスにもヴェノムが現れたから攻め混んでもお前達もヴェノムに殺られちまう。

 だからダレイオスの連中にもヴェノムにも………世界全部を纏めて相手どっても勝てる算段をつけてな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「バルツィエがそんなことを………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・カーヤ・レイディー「「「!?」」」

 

 

 カオス達の背後でブルカーンが何かから逃げ惑う姿があった。そこにはラーゲッツに殺されたとおぼしきブルカーンの人達が他のブルカーンを襲っている光景が飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「ヴェノムウイルスを手懐けたって言ってもそれは使用している俺だけの話で俺に触れた奴はあぁしてゾンビになっちまうがな。

 今の俺はヴェノムの力を持った()()()だ。

 ブルカーンごときに俺が殺られることはねぇ。

 無論お前達にもな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ブルカーンの人達が………!」

 

 

レイディー「どうにかしてやりたいのは山々だがこっちはこっちで手一杯だ。

 今はアタシ達はこいつに集中するぞ。

 知能を兼ね備えたヴェノムなんてイフリートだけでなくラーゲッツもだなんて手に負いきれねぇよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………はい。」

 

 

 再びカオス達は決まったと思われたラーゲッツとの戦闘を開始するのであった………。



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戦闘中断

ブルカーンの住む街シュメルツェン 檻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………何だか外が騒がしいですね。」

 

 

ウインドラ「昼間も急に騒々しくなったが今度のはどこか様子が違うな。

 これは…………悲鳴が入り雑じっている。

 何かが外で暴れているんだ。」

 

 

アローネ「カオスとカーヤ………ではありませんね………。

 声の感じからして継続的に何かに追われて逃げているようです。」

 

 

ミシガン「追われている?

 モンスター達が反乱でも起こしてるのかな?」

 

 

タレス「ブルカーンが今頃モンスターなんかに襲われて逃げたりしますかね………?」

 

 

ウインドラ「…ではモンスターではない何かに襲われているのだろう。

 カオス達が何かを連れてきたのか………それとも………。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス達でもモンスターでもない何か………、

 きっと外では恐ろしい存在がブルカーンを襲撃しているのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルカーンの住む街シュメルツェン 夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾンビ「アアァッ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「(………何なんだよ………この状況は………。

 何で街の中に………感染者が………。)」

 

 

 こんなことが起こることをオリヘルガは予測することすら出来なかった。シュメルツェンには今カオス達とラーゲッツ、イフリートがいてこの中でヴェノムに感染しているのはイフリートのみ。イフリートは自らの食料事情があるため他に感染者が出ないようにしている。オリヘルガ達ブルカーンにとってはイフリートさえカオス達とラーゲッツが倒せれば以前のようなシュメルツェンに平和が戻ってくると思っていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それがどういう訳かラーゲッツまでもヴェノムの感染者であった。しかもイフリートのように感染してから自我を失わずに自分の意思で行動しているようにも見える。そしてラーゲッツから感染したであろうブルカーンのオリヘルガの仲間達は感染者らしく心を失い他の同胞達に食らい付いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うああぁぁッッ!?」ガブッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「(………………どうすれば………、

 こんな時どうすれば………、

 ……………!

 そっ、そうだ!

 イフリート!

 イフリートに感染者が出たと報告に)「ガァァァァッ!!」!?」

 

 

 思いもよらない事態に思考が追い付かずやっとイフリートへと事態を収束させようと報告に向かおうとした瞬間目の前に口を開けた感染者が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「しっ!しまっ「ガァァッ、フッ!?」!」ドスッ!

 

 

 一瞬驚いて体が固まってしまい自らが感染者に噛まれて感染することを覚悟したオリヘルガだったが横から誰かが感染者を蹴り飛ばして難を逃れた。

 

 

オリヘルガ「!

 おっ、お前は……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………大丈夫だった?」

 

 

 オリヘルガを救ったのは敵である筈のカオスの仲間だった。

 

 

オリヘルガ「………何故俺を助けた………?

 俺達はお前達の………。」

 

 

カーヤ「………カーヤのせいだから………。」

 

 

オリヘルガ「………?」

 

 

カーヤ「………ダレイオスのヴェノムの主………、

 アレ等をダレイオスに生み出したのカーヤのせいみたいなの………。

 だから助けた………。」

 

 

オリヘルガ「主を………お前が生み出した………?

 何を言ってるのか俺にはさっぱり………。」

 

 

カーヤ「それでいいと思うよ………。

 カーヤもよく分かってなかったから………。」

 

 

オリヘルガ「???

 ………とっ、とにかく俺は行かねばならないところがある。

 お前は………好きにしろ。」

 

 

 少女が何を伝えたかったのかはオリヘルガには分からなかった。だが少女の様子から少女がこの事態に責任を感じていることだけは理解できた。

 

 

 一先ずオリヘルガはこの隙にイフリートの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「走破焔練衝!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオッ!!!バァァンッ!!

 

 

 炎を纏った突進がカオスに迫る。それを受け止めようとしたが力負けし派手に吹き飛ばされてしまう。

 

 

カオス「うぁぁッ!?」

 

 

ザザザザッ…!

 

 

 吹き飛びながらも空中で受け身を取り体勢を立て直すが続けてまたラーゲッツが同じ技で向かってきていた。

 

 

カオス「…!」「もう一丁ッ!!」「そうはさせるか!『アイシクル!!』」パキィィンッ!

 

 

 レイディーが咄嗟にカオスとラーゲッツの間に氷の壁を張った。それでラーゲッツを、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「こんなもんッ!!」バキィィィィンッ!!

 

 

 ラーゲッツは構わず氷にぶつかっていき氷の壁が見事に粉砕される。

 

 

カオス「有り難うございますレイディーさん。」

 

 

 氷は砕かれたがラーゲッツのスピードを減速することにほ成功しラーゲッツの突進を避けることは出来た。

 

 

レイディー「こいつ……!

 パワーまで上がってやがるな!

 もうアタシの知ってるラーゲッツなんかじゃねぇ!」

 

 

ラーゲッツ「今の俺は昔の俺とは違うんだ!!

 この程度の氷なんか障害物にもなりやしねぇ!!

 誰にも俺を止められねぇんだよ!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

レイディー「……そうみたいだな。

 アタシの目から見ても今のお前はあの二人の力を越えている。

 その力を手にしてお前はあの二人を越えたよ。」

 

 

ラーゲッツ「だろうよぉ!

 今のこの俺こそが最強の「つっても」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「越えたのは()()()で頭の方は別に変わっちゃいねぇんだな?

 それじゃまだ総合的な能力は二人の方が上だろうよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………お前から死にたいようだなぁ!!

 ムーアヘッドォォォォッ!!」

 

 

 ラーゲッツがカオスから狙いを変えてレイディーに突撃する。

 

 

カオス「レイディーさん!」

 

 

 カオスが間に入ろうとするがラーゲッツに追い付けずラーゲッツがレイディーに向かっていく。

 

 

 レイディーはそれをどうにか氷の地面を滑って回避した。

 

 

レイディー「坊や!!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

カオス「はっ、はい!」

 

 

 レイディーの指示でカオスはラーゲッツの動きを見て先読みし二人の間に割って入った。そして全力でラーゲッツの力に抗い踏み留まる。

 

 

ラーゲッツ「カスがっ!

 テメェじゃ俺を止められねぇてのが分から「御苦労よくやった。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「『フリーズランサー!!』」

 

 

 レイディーの放った無数の氷の槍がラーゲッツと()()()を貫き二人を凍らせた………。



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ラーゲッツを一時足止め

ブルカーンの住む街シュメルツェン 夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキィィンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイディーが放った槍がカオスとラーゲッツの二人の体を凍り付かせる。

 

 

ラーゲッツ「なっ……!?

 テメェ………!?

 カオスごと………俺を………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツは氷の中へと押し込められる。カオスも一緒に凍り付けにされたが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………おい、

 いい加減さっさと出てこいよ。

 お前には()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…こういう使い方が普通なんですよね………。

 後ろから俺の方に魔術が飛ばしてきた時はどうするのかと思いましたけど………。

 こういうことなら前もって教えておいて下さいよ。」

 

 

レイディー「ラーゲッツがいたのは完全に想定外だったからな。

 即席で思い付いたことを実行に移したまでよ。

 お前に魔術使うと吸収されちまうんだろ?

 だったらお前に干渉しないようにした。

 アタシも()()は使えるからな。

 アタシが共鳴を使えることをラーゲッツに知られればこうは事は上手く運ぶことはなかったさ。」

 

 

 カオスがラーゲッツの足を止めた瞬間にレイディーがカオスを挟んだラーゲッツの死角から氷の術をお見舞いする。あらかじめカオスには作戦を伝えなかったのはこの作戦が一度きりの作戦であるからだ。この一度でラーゲッツを倒せなければ戦いが長引いて体力を激しく消耗してしまっていたことだろう。

 

 

レイディー「どうしてもコイツは早めにケリをつけなくちゃいけなかったんだよ。

 アタシ達はこの後イフリートと対決なんだ。

 ここで無駄にマナを消費してちゃイフリートの相手は………!」ピシッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシッ………!ピキキキッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嫌な音がした。たった今氷の中へと封じたラーゲッツが氷を割って外に出てこようとしているのだ。

 

 

カオス「レイディーさん!!」

 

 

レイディー「チッ!

 こっちは精霊の力を使ってるってのにコイツには精霊の力が通用しねぇのかよ!

 ここでこんな奴の相手なんかしてられねぇぞ!」

 

 

カオス「どうするんですか!?

 このままだとラーゲッツが………!」

 

 

 こうして話している間にもラーゲッツを覆う氷が割れる勢いが増してきた。あとすうふんとしない内にラーゲッツは氷から解放されてしまう。

 

 

レイディー「仕方ねぇ!

 坊や!

 アタシにマナを寄越せ!

 もう一発氷を追加して時間を稼ぐぞ!」

 

 

カオス「はい!」

 

 

 カオスの手を握りレイディーへとマナを送る。マナを受け取ったレイディーはすかさずラーゲッツの氷を補強した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「『フリーブランサー!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキィィィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………やったんですか………?」

 

 

レイディー「…いや………どうも駄目らしい………。

 コイツのまだくたばってねぇよ。」

 

 

カオス「ここまでやってもまだ………?」

 

 

レイディー「そんだけコイツ等バルツィエの新型の性能が優れてるってこったな。

 ラーゲッツはもう放ってアタシ達は進むぞ。

 ラーゲッツの娘も回収しときな。」

 

 

カオス「……分かりました。

 カーヤ!」

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!

 パパ!」

 

 

 カーヤを呼ぶとカーヤはカオス経ちに近寄りラーゲッツを一瞥する。

 

 

カーヤ「………パパ………死んじゃったの?」

 

 

カオス「………」

 

 

レイディー「出来ればそうしたかったんだがコイツ中々しぶとくてな。

 残念なことにまだ生きてやがる。」

 

 

カーヤ「…そう………なんだ………。」

 

 

 ラーゲッツの生存を聞きカーヤはホッとしていた。

 

 

レイディー「…すまんがイフリートを倒したら次は全力でコイツを倒すぞ。

 お前の父親だからっててかげんは出来ない相手だ。

 コイツをほったらかしとくと何をしでかすか分からん。」

 

 

カーヤ「………うん………。」

 

 

レイディー「…ヴェノムの力に頼った時点でコイツ等はもう野放しには出来ねぇ。

 コイツ等がこの力を利用するってんならデリス=カーラーンの全ての種の命がウイルスに脅かされることになる。

 イフリートと決着を付けたらラーゲッツは屠る。

 異論は無いな?」

 

 

カーヤ「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ないよ………。

 カーヤのパパは………始めからカーヤのことなんて何とも思ってなかったんだから………。」

 

 

 気にしていないように振る舞うカーヤだったがそれが精一杯の強がりであることがカオス達には痛いほど伝わってきた。例えどんなに人としての人格に問題がある者でもカーヤにとってはたった一人の父親なのだ。その父親と何度も衝突し最後には決着を付けねばならない。こんな時代でなければいつか一緒に暮らせる日がやってくる、そんな期待にずっと胸を膨らませていたカーヤがそう簡単にラーゲッツを処することに納得できる訳がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「……あいつへのフォローしっかり頼んだぜ。」

 

 

カオス「…大丈夫です。

 本当の家族と一緒になることはできなくても俺達がずっとカーヤと一緒にいますから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルカーンの住む街シュメルツェン 火精霊の祠前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガはイフリートのいる部屋への扉の前で迷っていた。扉の向こうにはイフリートがいる。イフリートに申告して街で暴れている感染者達に対処してもらう。そういう決まりがある。イフリートなら感染者を食べても何ら問題はない。イフリートのマナが上昇するだけで精神が消えることはない。街で他の仲間達を襲っている感染者達はイフリートに対応してもらおう。そう考えてここへと来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのにオリヘルガはその扉を開くことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「(………ここでコイツを呼び出してもいいのか?

 コイツを外へ出せば一旦は収束に向かうだろう。

 コイツがドワイトやジグルを………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ドワイトやジグルを………。)」

 

 

 オリヘルガが躊躇しているのは感染してしまった仲間達のことがあるからだ。一度感染したら二度と元には戻れずに人としての死あるのみ。それでも彼等と過ごしてきた日々がある。イフリートに彼等を処理させれば彼等と会うことももう出来ない………。

 

 

オリヘルガ「(……あのカオスとかいう連中………ラーゲッツとぶつかっても何の変化も見られなかった………。

 アイツ等は感染しないようんだな。

 多分バルツィエの何か薬の力だろう。

 ………それがあればジグル達は元に戻るんじゃ………?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………駄目だ!!

 そんなの無理に決まってる!

 アイツ等がそんな貴重な道具を分け与えたりなんかするか!

 アイツ等は今もまだ俺達の敵なんたぞ!?」

 

 

 ラーゲッツの襲撃で忘れていたが自分達はあのカオス達を捕まえようとしていたのだ。そんな相手に塩を送るようなことは彼等でもしないだろう。オリヘルガは意を決して扉を開くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「イフリート様ッ!!

 大変でございます!!

 街に感染者が現れました!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「シッテオルワ。

 スベテミテオッタゾ………。」

 

 

 オリヘルガの来訪に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()イフリートはそう答えた………。



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切り捨てられるブルカーン

ブルカーンの住む街シュメルツェン 火精霊の祠 夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イフリートはシュメルツェンの住人がどうなっているのかを把握していた。

 

 

オリヘルガ「(見ていた………?じゃあ何で騒動を静めに行かねぇんだ?いつもは何もしなくても感染者を食いに行くってのに………。)

 そっ、そうなのです!

 侵入者がヴェノムに感染していたらしくその者に襲われた者達が発症し今も他の未感染者に襲いかかっているのです!

 

 

 イフリート様!

 どうか貴方様のお力でこの事態をお収め下さい!!」

 

 

 オリヘルガの心意はカオス達とラーゲッツが協力はしないまでも両者の戦いにイフリートを巻き込み一早くイフリートだけを倒してからカオス達とラーゲッツが決着を付ける形に持っていきたかった。三つの違う勢力が争うのであれば始めに倒されるのは()()()()()()()()()()。カオス、ラーゲッツまでは人と人との戦いの領域であったがそこにレッドドラゴンが参戦すればカオスとラーゲッツは先にレッドドラゴンを倒す筈。もし自分よりも明らかに強い相手を残してしまえば先に倒れることはなくともその次は自分の番になる。カオスとラーゲッツと戦いの場にイフリートが現れれば必然的に狙われるのはイフリートなのだ。

 

 

 それがラーゲッツが感染者であるのなら話は変わってくる。イフリートが先に倒されカオスとラーゲッツが残ってラーゲッツが勝った場合ラーゲッツはこの街の住人達を殺して回るだろう。同じヴェノムでもイフリートとラーゲッツでは自分達を容赦無用に殺戮する理由がある。バルツィエは気性が激しく言葉は通じても意思が伝わることはない。それならイフリートとラーゲッツどちらが残るのがいいか………。

 

 

 ………オリヘルガは種が生きるイフリートを選ぶことしか出来なかった。カオス達の力は一人辺りが自分一人にすら及ばない弱者の寄せ集め集団だ。カオス達がラーゲッツとイフリートに勝つことは難しいと判断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガは希望を捨てることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「………ソウカ………。

 ………デハワシハ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………はい?」

 

 

 オリヘルガはイフリートが言い間違いをしたのかと思った。人の言葉は話せても元が竜種ということもあって声量が大きいのと発音が聞き取り辛く時々何を言ったのか分からない時があった。

 

 

 だがイフリートは言葉通りにその場から動くことはなかった。

 

 

オリヘルガ「………イッ、イフリート様ッ!!?

 緊急事態なのです!

 このままでは我等ブルカーンの民がヴェノムに蹂躙されてしまいます!

 貴方様のお力で早く事態の収集をお付けになって「モウヨイノダ。」………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「キサマタチ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ダ。

 アタラシイエサヲモッテコサセルタビニワシノチカラハゾウダイシテイク。

 …ソレガココサイキンキサマラヲクッテモチカラノアガリガテイタイシテキタ。

 ワシハツヨクナリスギタノダ。」

 

 

オリヘルガ「………そっ、それがどういう………?」

 

 

 イフリートは力が上昇しなくなったと言うがそれが何もしないというのはどういう理屈なのかオリヘルガには分からなかった。イフリートにとっては手駒として使っているとはいえ同報達もイフリートの貴重な食料源に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「イマキテイルツヨキモノノチカラヲエラレレバナンピトモワシノチカラニアラガエナイチカラヲエラレル。

 キサマラブルカーンハ()()()()()()()

 イチイチキサマラノノコリヲキニスルヒツヨウモナイ。

 ドウニカシタクバジブンタチデモンダイヲカイケツシテミセヨ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 要約するとイフリートはブルカーンを見捨てると言ったのだ。カオス達の力さえ手に入ればもうブルカーンを一人ずつ捕食する必要もない程の力がイフリートの物になる。イフリートはブルカーンを見殺しにするのだとオリヘルガに言う。

 

 

オリヘルガ「なっ……!?

 我等の窮地をお救いにならないのですか!?

 我等は六年もの間貴方様の命に従ってきたのですよ!?

 そんな我等を貴方様は簡単に捨てるとそう仰るのですか!?」

 

 

イフリート「ソウダガナニカモンダイガアルカ?

 ワシハロクネンモノアイダキサマラヲイカシテヤッタノダゾ?

 ワシノキマグレデキサマラハイキナガラエテキタノダ。

 ホントウナラキサマラハアノロクネンマエニゼンインワシノハラノナカヘトキエテイタノダ。

 ソレヲキョウマデヒキノバシテヤッタ。

 カンシャサレコソスレモンクヲイワレルスジアイハナイゾ?」

 

 

オリヘルガ「………!!」

 

 

 どうやら本当に事態を解決に向かわせる気は無いらしい。イフリートはオリヘルガの言葉に返事を返しはするがずっとオリヘルガとは違う方向を向き続けている。

 

 

イフリート「ワシノエモノハワシノモトヘトムカッテキテオルヨウダナ。

 ココデマッテサエイレバヤツラハワシノトコロヘトクルダロウ。

 

 

 モウヨイゾ?

 キサマラブルカーンハキョウコノヒヲモッテ()()()()()()()()

 ジユウニシテヤルカラドコヘデモスキナトコロヘトムカウガヨイ。

 ヒサカタブリノジユウヲマンキツスルノダナ。」

 

 

オリヘルガ「………そっ、そんな………。」

 

 

 事態を解決するためにここへとやって来たがここでまさかのイフリートの裏切り。………イフリートからすれば裏切りでもなんでもなかった。始めからイフリートはオリヘルガ達を道具か食料としてしか見ていなかった。人の言葉を理解できるからといってイフリートに人の心が備わっている訳ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「ハヤクコイツヨキモノヨ………。

 ワシハキサマノチカラヲエテコノホシノすべてをテニスルノダ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガは希望を打ち砕かれて力なく膝を折ることしか出来なかった。部族を守るために父や兄達を犠牲にして存続させることだけを考えて今日まで乗り切ってきたが所詮自分達は最初から最後までイフリートに屈していいようにされてきた操り人形でしかなかったと深く自覚してしまった………。



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イフリートのいる間へ侵入

ブルカーン族の住む街シュメルツェン 火精霊の祠 夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「ここだ。

 ブルカーンの奴等がここに入って以降高確率でシュメルツェンからいなくなる。

 ここの奥にイフリートがいるのは間違いない。」

 

 

カオス「こんなところにイフリートが………。」

 

 

 外からだとこの場所を見つけることは出来なかった。どこかの建物の中にあるとは思っていたがまさか一番ボロボロな建物の中にあるとは………、

 

 

レイディー「空の上からだと分かりにくいがな。

 一見何の変鉄もない家だがここには六年前ブルカーンの族長邸が建ってたとアタシは見てる。」

 

 

カオス「ここに族長邸が………?」

 

 

レイディー「壁とかよく見てみろよ。

 ボロっちく見えるだろうがこの街の中じゃまだ新しい方で一番最後に作られた新築なんだよ。

 多分六年前にイフリートがやって来てシュメルツェンで暴れまくって前にあった族長邸は破壊されたんだろう。

 そんでイフリートが言葉を介すようになって一旦は暴走は止まったがそれでもイフリートに壊された家なんかを建て直さなくちゃならねぇ。

 他にも崩れた家とかは補強したり作り直したりしてるがここだけは()()()()()()だ。

 イフリートに表面上は従っていても奴を心の底では憎んでいる筈だからここも手抜きで一応は立て直したみたいだな。」

 

 

 レイディーが言うように壁に触れてみるとまだ作られてからそう時間は経っていないように思える。カオスが旧ミストに住んでいた頃百年間放置されていた家なんかは軽く手で押しただけでも貫通して穴が開いてしまったりしたがこの家はそういった建物の疲労が見られない。埃などは溜まっていたがそれでも十数年は持ちそうな感じであった。

 

 

メーメー『ソンデドウスルンダ?

 ノリコムノカ?』

 

 

 シュメルツェンに突入する前から気配を消して付いてきていたメーメーがカオス達に呼び掛ける。

 

 

レイディー「…一回作戦を再確認するぞ?

 この中に入ったら束戦闘が会しされるかもしれねぇからな。

 先ずイフリートと対面して戦いが始まったらひたすら攻撃を仕掛けて弱らせる。

 その内イフリートが殺魔のマナを撃ってきたらアタシはそれを浴びる。

 そんでアタシは戦闘不能になるから後はお前達でイフリートを倒してくれ。」

 

 

 出発前から話していた作戦をレイディーがカオス達に言い聞かせる。作戦とは名ばかりの詰まるところ通常通り戦って倒せというものだ。

 

 

カーヤ「カーヤは何をすればいいの?」

 

 

レイディー「イフリートは元がレッドドラゴンだ。

 アタシ等の攻撃の要はそのカイメラだ。

 カイメラが殺られそうになったら補助してやれ。」

 

 

カーヤ「分かった。」

 

 

カオス「俺はメーメーの側にずっといるだけていいんですよね。」

 

 

レイディー「そうだ。

 お前には今回攻撃も守りも期待してねぇ。

 お前はずっとカイメラの燃料になってればいいんだよ。」

 

 

カオス「………はい。」

 

 

レイディー「………以上だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな仕事はさっさと終えてとっととここからトンズ…!?」ガチャ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイディーがいざイフリートのいる部屋へ入ろうとした時扉が開き中からオリヘルガが出てきた。

 

 

レイディー「お前は…!

 待ち伏せしてやがったのか!

 アタシの計画はお見通しだったってのか?」

 

 

オリヘルガ「………」

 

 

カオス・カーヤ「………?」

 

 

 オリヘルガが登場したことによりカオス達は素早く構えるがオリヘルガの反応が薄い。心なしかカオス達のことが目に入ってすらいないようだった。

 

 

レイディー「………どうした?

 アタシ達を捕まえるためにサキマワリシテ待ってたんじゃねぇのか?」

 

 

オリヘルガ「………」

 

 

レイディー「おい………お前………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………通りたいんなら通れ。

 もうお前達に用はない………。」

 

 

 オリヘルガはそう告げると壁にもたれ掛かって座り込む。

 

 

カオス「………いいのか?

 お前はイフリートの命令で俺達を捕まえに来たんじゃ………?」

 

 

オリヘルガ「…もうそんな指令守る必要もなくなった………。

 ………俺達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《《イフリートの奴に見放されたんだよ》。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガがイフリートにブルカーンが見放されたと言う。どうして今そうなるのか。

 

 

レイディー「梯子を外されたんだな。

 そりゃ気の毒にな。」

 

 

 レイディーは今のオリヘルガの一言で全部察したらしい。

 

 

レイディー「でも始めから分かりきってたことだろ?

 モンスターを信用なんかするなってことは。

 イフリートが何でお前達を生かして使ってたか。

 それはイフリートはお前達にチャンスを与えたんじゃない。

 イフリートはお前達で遊んでただけなんだよ。

 普通は自然のモンスターが他の種と会話が成り立つことは無い。

 だがイフリートにはそれができた。

 イフリートはその対話する力をお前達で試していただけなんだ。

 お前達はいいように使われてただけに過ぎない。

 せっかく人には自分で考える力が生まれた時から備わってるのにな。

 ザマァねぇぜ。」

 

 

カオス「レッ、レイディーさんその辺で………。」

 

 

 オリヘルガが仕掛けてこないのをいいことにレイディーはストレスをぶつけるかのごとく煽りまくる。

 

 

オリヘルガ「………」

 

 

レイディー「………」

 

 

 散々レイディーに馬鹿にされたオリヘルガだったが既にその心は粉々に砕かれて言い返す気力すら残ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………ヘッ!

 行くぞお前等。」

 

 

 レイディーはオリヘルガへの興味を無くしイフリートがいる扉へと手をかけた。

 

 

カオス「………」

 

 

レイディー「もうそんな奴放っておけ。

 どうせそんな奴には何も出来ねぇよ。

 百年も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………勝利をもぎ取り続けてきた………?

 ………俺達が………?

 ………………いつ俺達が勝ったって言うんだよ………。」



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対面イフリート

ブルカーンの住む街シュメルツェン 火精霊の祠通路 夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…レイディーさん。」

 

 

レイディー「ん?

 なんだよ。」

 

 

カオス「…さっきの………、

 ブルカーンが勝利をもぎ取ってきたってどういう意味ですか?」

 

 

 カオスは先程レイディーがオリヘルガに言った言葉が気になり訊いてみた。ブルカーン族の歴史を遡ってもブルカーンがどこかに勝利したという話は聞いたことがなかった。ダレイオスにあった九つの部族の力関係ではブルカーンは第二位。ミーアやクリティアなどの部族よりかは戦闘能力は高かったらしいが直接戦争をしたという話はないのとスラートには一歩及ばないという印象がカオスの中にはあった。そして部族がマテオと戦うために部族が争いを止めて一つの国として立ち上げたがヴェノムの出現により離散。そこからはブルカーンはイフリートの言いなりである。これでいったいどこが勝利をし続けてきたと言うのか。

 

 

レイディー「…んだよ。

 そんなことか。

 ………この世界じゃあな。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「生きているだけで勝利………?」

 

 

レイディー「そうだ。

 人は生きているだけで色んなことが出来る。

 生きてさえいれば人はどんな苦難も乗り越えていけるんだ。

 死んじまったらもう足掻くことすら出来ねぇんだよ。

 

 

 何も出来なくなること、それが真の敗北だ。

 敗北した奴はもうそいつが生きていたって証は残せねぇ。

 生き続けてればその内転機が訪れることだってあるんだ。

 ブロウンやカルトはもうその転機すらやってこないがブルカーンには丁度今転機が訪れようとしている。」

 

 

カオス「………」

 

 

レイディー「法も何も整備されていないこの国じゃ生きているだけで勝利者だ。

 人が生きるか死ぬかの法律が無いのなら戦いが起こる度に始まる勝負の分け目はそこだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ブルカーンはまだ生き続けてんだろ?

 だったら勝者なんだよ。」

 

 

 レイディーにしてはらしくない発言をする。いつもの彼女であればどんな相手に対しても皮肉や暴言を吐き捨てていた筈だ。それがどういった風の吹き回しか項垂れたオリヘルガに励ましの言葉を送っていたのだ。

 

 

カオス「レイディーさん………、

 意外と優しいんですね………。」

 

 

レイディー「急に何だよ?」

 

 

カオス「レイディーさんだったらさっきのはオリヘルガ達に罵声を浴びせていたと思ったんですけど………。」

 

 

レイディー「アタシも時と場合を選ぶんだよ。

 敗けを認めて諦めた奴をいつまでも辱しめるような趣味は無い。

 死体蹴りなんて何の楽しさがあるんだ?

 アタシは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あんな奴をいくら殴ったって心が折れたままだろうが。」

 

 

カオス「だからあんなことを………?」

 

 

レイディー「…ブルカーンはまだ死んでねぇ。

 現状飼い主のイフリートに突き放されたってんなら今のあいつ等は何だって出来るんだ。

 イフリートが現れるまでは百年もヴェノムから戦い続けてきた連中だぜ?

 そんな奴等が何をメソメソしてるんだっつーの。

 メソメソしてる暇があったらとっとと逃げるなり何なりとしろってんだ。

 まだ戦いの決着はついてねぇってのによ………。」

 

 

カオス「…じゃあ俺達が気付かせてあげないといけませんね。

 イフリートと………ラーゲッツを倒して………。」

 

 

レイディー「………そうだな。」

 

 

 

 

 

 

メーメー『オイ、

 ソロソロヒロマニデルヨウダゾ。』

 

 

 カオスとレイディーが話をしながら歩いているとメーメーが注意を促してくる。どうやら着くようだった。

 

 

 

 

 

 

 イフリートの元へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「マッテイタゾ。

 ツヨキチカラヲモツモノヨ。」

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 

 

 通路の先にあった場所は噴火口から崖になっておりそこに精霊を奉るための祭壇があった。崖の下は当然溶岩だ。落ちれば一貫の終わりである。

 

 

 そして祭壇手前にはレッドドラゴン………イフリートの姿があった。

 

 

レイディー「本当に人の言葉を喋れるようだな。

 こいつみたいに共鳴でしか話せないのかと思ったぜ。」

 

 

イフリート「ワシヲソノヨウナコモノトイッショニスルナ。

 ワシニハナニモノヲモアラガエヌチカラヲテニスルノダ。

 ソヤツトドウカクニミラレテハワシノイゲンニカカワル。」

 

 

 イフリートはメーメーと同じに扱われるにを嫌った。イフリートにとっては自らをとても高位に位置する存在だと認識しているようだ。

 

 

カオス「……話が出来るなら一つ聞いてほしいことがある。」

 

 

イフリート「………ナンダ?」

 

 

カオス「お前が手にした力ヴェノムはこの星の全ての生物にとって危険なんだ。

 その力が世界中に広がってしまえば世界はお前以外誰もいなくなる。

 お前は一人ぼっちになるんだ。

 そんなの嫌だろ?」

 

 

イフリート「………ナニガイイタイ?」

 

 

カオス「その力を手放す気はないか?

 その力がある限りこの星は何度も滅亡の危機に向かっていく。

 お前は十分強いよ。

 お前の力は俺達人が何百人も力を合わせないと勝てないぐらいに強い。

 俺達人はレッドドラゴンこそがこの地上で一番強い生物だって思ってる。

 ………分かり会えるなら殺したくはないんだ。」

 

 

 カオスは好き好んで殺生をしない。あくまでも敵となる者がいるから応戦しているだけだ。今までの主達も話し合いが出来たのであれば先ずは話し合って御互いに納得してもらった上でヴェノムの力をどうするか決めたかった。残念ながら全ての主がそうはいかずカーヤとメーメーを残して他は倒してしまったがこのレッドドラゴンとならその機会が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「………ナニヲタワケタコトヲ………。

 ワシガソンナザレゴトニミミヲカストオモウタカ?」

 

 

カオス「………」

 

 

イフリート「キサマラヒトトイウシュハヒジョウニヒレツデジブンタチコソガセカイヲシハイシテイルトオモイコムコウマンナシュダ。

 キサマノハナシニノッタトシテキサマラヒトハヘイキデタノシュヲウラギリコロス。

 キサマラヒトコソガコノセカイニフヨウナシュダ。

 キサマラガツクリダシタチカラコソガコノセカイヲハメツヘトミチビクキョウアクナチカラダ。

 コノセカイデヒトハオノレノツミヲクイヨ。」

 

 

ガガッ…、

 

 

 イフリートは腕を伸ばし側にある()()()()を取った。

 

 

イフリート「ナガイコトヒトヲスキニサセテキタ。

 コレカラハワシノジダイダ。

 ワシガコノセカイヲギュウジラセテモラウ。

 ハムカウモノハスベテワシガスベテナギハラッテクレル。」

 

 

レイディー「交渉決裂だな。

 やっぱ戦うしかないみたいだぜ坊や。」

 

 

カオス「………仕方ありませんね。

 元々こうするしかなかったんですから。」

 

 

 こうしてカオス、カーヤ、レイディー、メーメーの四人で最後のヴェノムの主イフリートとの決戦が始まる………。



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カオスの元に向かうラーゲッツ

ブルカーンの住む街シュメルツェン 火精霊の祠 夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「ドコカラデモカカッテクルガイイ!」

 

 

 イフリートは斧を構えてカオス達にそう言った。

 

 

カオス「斧……?

 武器を使えるのか?」

 

 

イフリート「ワシハイマヤヒトトオナジキョウチニタッテイル!

 キサマラヒトガジブンタチヨリモツヨキチカラヲモツモノニイドムトキブキヲテニトルダロウ!

 

 

 ソレナラキサマラトドウヨウニワシガブキヲモテバダレガワシニカナウ?

 コレガアレバキサマラノヨウナコザカシイチエヲハタラカセルヒトドモヲヨウイニホフルコトモデキヨウ!」

 

 

 イフリートは器用に斧を振り回してみせる。生物の中で武器を持って戦うのは人か人並みかそれ以下の()()()()()()()。その武器を最強種レッドドラゴンが扱えばどれ程のものになるのだろうか。

 

 

レイディー「へっ!

 昔レサリナスでも闘技場で捕まえたドラゴンに武器持たせて戦わせようとしていた()()()()()()()()()()()()!

 自分より劣る人の物真似なんかして恥ずかしくねぇか?

 お前なんかがそんな代物操れるのかよ?」

 

 

 こんな時でもレイディーは挑発を忘れない。彼女にしてみれば武器を使われるのは想定外のことなのだろう。レイディーがここに来た目的はイフリートが使うとされる殺魔の炎だ。斧で戦われては予定外もいいところだ。

 

 

イフリート「キサマラハワシノダイジナショクリョウダ。

 クウニシテモキサマラノカラダハソウ()()()()()()()()()()

 イキタママクロウテコソキサマラノチカラガワシノカラダニシントウシヤスイノダ。」

 

 

 端的に言えばイフリートはカオス達を相手にするのに()()使()()()()()()()()()()。火はそれだけで攻撃としての性能が高い。イフリートはカオス達をあまり傷付けることなく吸収したいようだ。

 

 

カオス「…どうします?

 レイディーさん。」

 

 

レイディー「こいつぁアタシもちょっと考えてなかったぜ。

 まさかここまで舐められてるはなぁ。

 

 

 …だったら早い話こいつに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()。」

 

 

 すべきことは何も変わらない。全力でイフリートを追い詰め倒す。その途中経過でイフリートも炎を使わざるを得ないだろう。

 

 

 四人がイフリートを見上げる。カオスはレッドドラゴンとはニ度目になるが武器を装備しているのとしていないのとで感じる圧力はかなりの違いがある。

 

 

カオス「(前にウインドラはカイメラの体当たりだけで重傷を負っていた。

 素の身体能力が人の何十倍もあるレッドドラゴン………。

 

 

 それがヴェノムの力と武器の力でどれぐらいのパワーが出るんだ………?)」

 

 

 武器を振って生まれる力は腕のみに頼った力と比べても数倍は差が発生する。何も持たなくとも力はイフリートの方が上だがそれに武器まで加算されてしまえば接近して戦うのは圧倒的不利。

 

 

レイディー「手筈通りお前ら二人は遠くから魔術で攻撃しな。

 アタシとラーゲッツの娘は注意を引き付けておく。

 娘、

 やれるか。」

 

 

カーヤ「やれる………かな………?」

 

 

レイディー「頼りねぇ返事だな。

 だがここまで来てやらねぇわけにはいかねぇ。

 やらなきゃ全てがお終いだ。

 こいつをアタシ達の手でやるんだよ。」

 

 

カーヤ「………じゃあやる。」

 

 

 スピードの早い二人がレッドドラゴンの斧が届く寸前まで接近し振り回される斧を躱していく。二人が注意を引き付けておいてくれている内にカオスは、

 

 

カオス「宜しく頼む。

 カイメ………メーメー。」

 

 

メーメー『ベツニヨビニクイノナラカイメラデモカマワン。

 オレノナハゴシュジンダケガヨンデクレレバソレデイイカラナ。』

 

 

カオス「…そんな訳にもいかないさ。

 カーヤが君を友達だって言うなら俺も君と友達になりたい。

 一度は戦った仲だけで俺達はきっと分かり合えるから君がメーメーって名前があるのなら俺は君のことをメーメーと呼ぶよ。」

 

 

メーメー『……カッテニシロ。

 ………デハヤルゾ。

 オレニマナヲヨコセ。』パァァ…、

 

 

 メーメーがジャバウォックへと変身する。メーメーは変身することで六つの属性の術を使うことが出来る。

 

 

ミニジャバウォック『サァ!

 トデカイノブチカマシテイクゾ!!』パァァァァァァァ!!!

 

 

 メーメーに触ると途端にマナが吸引されていくのが分かる。それでもカオスの中のマクスウェルが常時大気から吸収していくマナの割合の方が多いがアローネやミシガンがカオスからマナを吸引するよりも明らかに多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミニジャバウォック『アイシクル!!』パキィィィィィィィィンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルカーンの住む街シュメルツェン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「急げ!!

 無事な奴は急いで街から出るんだ!」

 

 

「街から出る………?」

 

 

「山を降りるってのか?」

 

 

「でも山から降りたらイフリート………様が………。」

 

 

オリヘルガ「奴はもう俺達のことなんか何の気にも止めてない!

 あのカオスとかいう上質のマナを持つバルツィエの男に夢中でもう俺達を縛るつもりはないようだ!!

 今なら安全にこの地から脱出できる!」

 

 

「何ッ!?」

 

 

「本当か!?」

 

 

オリヘルガ「あぁ!

 なんだったら俺が先陣切ってここから去ってやろうか!

 お前達はここに残ってるか!!?」

 

 

「いっ、いや………俺達も………。」

 

 

オリヘルガ「だったらついてこい!

 ここにいても感染者をイフリートは処理してはくれんぞ!!

 もう俺達は自由の身なんだ!!

 あんな奴のところになんか残っている義理はねぇんだよ!!」

 

 

「おっ、おう……。」

 

 

 

 

 オリヘルガはシュメルツェンのブルカーンの同胞達の脱出の手引きをしていた。この街に留まっていては感染者が溢れかえって全滅してしまう。そうならなくするためには今出来ることをやるだけだ。感染者に対して自分達は何も出来ない。ならば未感染者を集めてここを脱出するだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「(…あの女が言っていたことはまだ何のことだか分からない………。

 俺達が何に勝ってきたのか俺達自身に覚えがない。

 

 

 ………あの女が言っていた俺達がもぎ取ってきたもの………。

 一体何のこと………!)」バキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「やっと砕くことが出来たぜ。

 結構出るのに手間取ったな。」

 

 

 同胞達の避難誘導を行っているとレイディーが凍らせた氷の中からラーゲッツが出てきた。

 

 

 

オリヘルガ「!?

 ラーゲッツ………!

 オマエ………まだ死んでねぇのかよ………。」

 

 

 

ラーゲッツ「………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやらそこにいるみてぇだな!

 カオス!!」

 

 

 氷から這い出てきたラーゲッツはオリヘルガ達に目もくれずカオス達が入っていったイフリートのいる場所を見詰める。耳を澄ますと地面の中から激しい爆音が鳴っていた。

 

 

ラーゲッツ「今行くぜぇ?

 俺をこんな氷で止められると思うなよ?

 俺に逆らったお前達には最高の屈辱を味会わせてやるよ!!」

 

 

 ラーゲッツは進む。カオス達のところへと。

 

 

オリヘルガ「………」

 

 

 それを見送ったオリヘルガは暫し考えてから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 捕らえていた捕虜の元へと駆けていった………。



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善戦するが…

ブルカーンの住む街シュメルツェン 火精霊の祠 夜 残り期日九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキィィィィィィィィンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「フシュルルルルル………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミニジャバウォック『アイシクル!!』

 

 

レイディー「『フリーズランサー!!』」

 

 

パキィィィィィィィィンッ!!!

 

 

イフリート「グゥゥッ!!?

 ………オノレェッ!!」ブォンッ!!

 

 

レイディー「躱せッ!!」

 

 

カオス「はい!!」

 

 

 カオスはメーメーを抱えてイフリートが薙いでくる大斧から後方へと下がって避ける。

 

 

イフリート「グッ!

 コノナゼアタラナイ!!?」

 

 

ブォンッ、ブォンッ、ブォンッ!!

 

 

 攻撃を躱わされたことに腹を立てたイフリートが連続で大斧をカオス達に振るってくる。大斧のリーチもあって全てを躱わすのは難しくその内の一刀がカオス達に迫り………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タタタッ!!ゴオオオオオォォォォッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「ナッ…ンダト……!?」

 

 

カオス「カーヤ!?」

 

 

 地上でレアバードを展開させそのターボの高速で大斧の真下を潜ったカーヤがイフリートの大斧を跳ね上げてカオス達を守った。

 

 

レイディー「ヒュ~♪

 やるねぇ!」

 

 

カーヤ「メーメーさんは無事?」

 

 

ミニジャバウォック『オレナラダイジョウブダゴシュジン。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュンヒュンヒュン!!ガスッ!!

 

 

 カーヤによって弾き飛ばされた大斧が回転しながら壁に突き刺さる。カーヤの突撃の衝撃が凄まじくイフリートも大斧を手離してしまったのだ。

 

 

 イフリートはその大斧を回収して、

 

 

イフリート「キサマラァァァッ!!

 コモノノブンザイデヨクモォォォォッ!!」

 

 

レイディー「お前もしかしてだけど武器を使って戦うの()()()なんじゃねぇか?」

 

 

イフリート「ナニィッ!?」

 

 

レイディー「お前さっきから斧を振り回すだけで動きに洗練さが微塵も感じられねぇぜ。

 よく考えてみたら普通の奴がお前の相手が勤まる筈がねぇんだ。

 お前がその斧を振る機会なんて滅多にある訳がねぇ。

 お前が相手にする奴は大抵お前のウイルスの力に殺られて死ぬだけ。

 お前とここまで渡り合う奴が他にいたとも思えねぇ。

 お前は六年前からブルカーンの連中に代わりに家事させてたんだからよぉ?」

 

 

イフリート「グヌゥ……!」

 

 

レイディー「そりゃ楽し過ぎたな。

 武器ってのは持ってるだけじゃ意味がねぇんだよ。

 何度も使い続けてその武器の特性や使い方を学んでいくんだ。

 お前はその大斧を全く活かしきれてねぇ。

 獣が浅知恵を働かせたみたいだがそんなんじゃまだ何も装備してない方がマシだぜ?

 お前一匹じゃ歩が悪いんじゃねぇか?」

 

 

イフリート「グゥ……!

 ………『コイッ!!』」

 

 

 レイディーの指摘が図星だったようでイフリートは焦りを見せ始め何を思ったか共鳴で誰かに思念を送った。

 

 

レイディー「ハハハ!

 ブルカーンの奴等はさっきお前が見捨てたんじゃねぇのかよ?

 ここに一体誰が駆け付けて「ギィィォォォォォォォアアアア!!!」!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワイバーン「グルォォォオアアアアアアア!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高い音を響かせて吹き抜けの天井からやって来たのはワイバーンであった。

 

 

イフリート「キタカ!!

 ヒリュウヨ!!

 キサマモワシヲテツダエ!!

 コヤツラヲトラエテワシニ「『フリーズランサー!!』」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキィィィィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワイバーン「ゲォァッ!!?」

 

 

 レイディーに撃ち抜かれたワイバーンが落下して地面を転がる。

 

 

 

 

 

 

レイディー「こんなところに飛行生物呼んでどうすんだよ?

 飛行する生物の利点は大空を自由に飛び回れることだぜ?

 ここじゃどこにいてもいい的だぞ。」

 

 

イフリート「コシャクナァ……!!」

 

 

 イフリートとの戦いが始まってから完全に流れはカオス達のペースであった。何をしてもイフリートは悪手にしかならず気を荒立たせていった。

 

 

イフリート「コノ………ウジムシドモガァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コオォォォォォォ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボハアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イフリートは殺魔の炎………ではなく通常の炎をレイディーに吐きかける。だがそれをレイディーは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「『アイシクル!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴホォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「ヌゥゥアッ!?」

 

 

レイディー「こんな炎がアタシ等に通用すると思ってんのかよ?

 あんまり舐めてっとお前怪我だけじゃすまねぇぜ?」

 

 

イフリート「…フ………フハハ!!

 タトエワシノコウゲキガフセガレヨウトモワシニハキサマラヒトカラウバッタフジミノカラダガ「『アイシクル!!』」………ウ”ァァッ!?」

 

 

 レイディーに気を取られている間に後ろの方でメーメーが氷をイフリートに放つ。不死身と信じていた自身にダメージが入ったことによりイフリートは驚愕の声をあげる。

 

 

イフリート「ナッ………ナンナノダ!?

 キサマラノチカラハ………!?

 コノワシニテキズヲオワセルソノチカラハナンナノダ!!?

 コノワシガ………!!

 コノワシガヒトゴトキニィィッ!!!」

 

 

レイディー「いい加減観念しろっての。

 殺魔の力を使わない限りお前にはアタシ達に手も足も出ねぇだろうよ。」

 

 

イフリート「サツマ………?」

 

 

レイディー「テメェが使えるって言う黒い炎のことだよ。

 情報が確かならお前が黒い炎、殺魔の力を使えるのは知ってんだよ。」

 

 

イフリート「ナゼキサマラガソノコトヲ………?」

 

 

レイディー「言っておくがブルカーンは悪くないぜ?

 この情報を手に入れたのはお前がブルカーンを支配する六年前の話だ。

 そん時はまだブルカーンはお前の手下になんかなってなかったからお前の情報を持ってる奴は他にも沢山いる。

 お前の話は筒抜けなんだよ。」

 

 

イフリート「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュボォォォォォォォォッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「キサガミタカッタノハコノチカラノコトカ?」

 

 

 イフリートは手に黒い炎を灯して見せた。レイディーがクリティアから訊いた殺魔の炎の話は事実だったようだ。

 

 

レイディー「そうだよ。

 それが見たかったんだ。

 その力がないとアタシ達には敵わねぇぜ?」

 

 

イフリート「………ホウ………。」チラッ…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワイバーン「グゥゥア………ッ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「キサマガナニヲオモッテワシニコノチカラヲツカワセヨウトシテルノカワカランガコノチカラハナ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボスッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・カーヤ・レイディー「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワイバーン「ギィィォ!!!…………ボスッ………!」

 

 

 イフリートは翼を傷つけられて飛べなくなっていたワイバーンに殺魔の炎を放った。殺魔の炎を受けたワイバーンは悲鳴を上げてもがくが次の瞬間には殺魔の炎ごと消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「…ミテノトオリダ。

 コノチカラヲアビタモノハソノソンザイガマナゴトショウメツスル。

 キサマラハワシノダイジナエサダ。

 エサヲショウメツサセルコトナドモッタイナクテワシハセン。

 

 

 …ヨッテワシガキサマラニコノチカラヲツカツコトハナイゾ。」

 

 

 イフリートは殺魔の力を使わずにカオス達を倒しその力を手にいれようとしている。殺魔の炎の力を当てにしていたレイディーにとっては目的を達成しづらくなる宣言だった。

 

 

レイディー「………チッ!

 だったらとことんまでお前を追い詰めて意地でもその力を使わせて「カオスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「見つけたぜテメェ等!!

 もう逃がしはしねぇからなぁ!!」

 

 

 イフリートと接戦を繰り広げている場に氷付けにしていたラーゲッツが乱入する。

 

 

カオス「ラーゲッツ……!?」

 

 

カーヤ「パパ………。」

 

 

ミニジャバウォック『マタアノオスカ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「………コレハ………ナカナカノジョウシツナマナヲモツヤツガアラワレタナ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「まだ決着はついてねぇぞ!!

 まだ俺は生きてる!!

 生きてる限り俺は何度でもテメェ等を殺しにやって「バクンッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉を蹴破って入ってきたラーゲッツは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隣にいたイフリートに気付かずに食べられてしまった………。



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吸収されるラーゲッツ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリッ!ボリッ!!シャクシャク………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツの体が噛み砕かれる音だけが空間に響く。

 

 

カーヤ「パッ……パパ……!?」

 

 

カオス「ラーゲッツが………!?」

 

 

 イフリートがラーゲッツに食らい付いたのは一瞬のことだった。ラーゲッツにはカオス達しか見えておらず斧を回収しに壁際まで移動していたイフリートが彼の視界には映らなかったのだ。

 

 

 今の一噛みは即死だっただろう。カオスはそんな感想を心の中で抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「………スバラシイアジデアッタ………。

 コレホドノマナヲモツモノヲクッタコトハイチドモナイ。

 

 

 ………カンジルゾ!!

 アノモノノマナガワシノモノニナルノヲナァ!!」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

 

 イフリートの放つマナの波動が伝わってか大気が振動する。イフリートとラーゲッツのマナが合わさって力を増幅させていく。

 

 

カオス「魔力が増大していく………!

 これは………!」

 

 

ミニジャバウォツク『マリョクガアガッタトテコイツガコイツノママナラタイシテシンパイシナクテモヨイノデハナイカ?

 サッキマデトカワラズタイショシテイケバコンナヤツニヤラレタリハ………。』

 

 

 

 

 

 

レイディー「………ヤバイかもな。」

 

 

カオス「え……?」

 

 

 ボソリとレイディーが呟く。

 

 

 

 

 

 

イフリート「!!

 オオオ!!

 コレハ………!

 コノモノノチ識ガワシノナカヘト流レコンデイクノガワカル!!

 コノモノノ全テガワシノモノトナルノヲカンジル!!

 コレホドマデトハ!!」

 

 

 ラーゲッツを吸収してラーゲッツが得た知識や経験をまるごとイフリートは取り入れていく。口調も少しずつ片言から人の話し方に近付いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「()()()()()()()()………。

 この言葉を耳にしたことがあるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パラサイティズム、その言葉は約三ヶ月前にとある人物からカイメラがどういった経緯を経てあのような変貌を遂げたかを考察した時に聞いた。

 

 

カオス「………えぇ、

 前に一度だけ………。」

 

 

レイディー「パラサイティズム………。

 他の生物の体内に侵入してその侵入した生物の体を乗っ取るっつーゾッとするような生物の生態だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「フフフフフ!!!

 コレホドマデニワシノ力ヲ高メルトハ……!

 コレデコヤツラモワシノ物トナレバコノ地ジョウニワシヲ害スルコトガデキルモノハイナイ!!

 ワシコソガコノ世界全てノ王トナルノダ!!

 フハハハハハ!!

 フハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「それと前にレサリナスでアタシがバルツィエにヴェノムについて研究させられていた時に()()()()()()()って呼ばれる個体がいたことは話したな。

 その個体の話をした時はそいつが最後は他のヴェノムと化した個体に食われて死んだって話したが………実はこの話には続きがある………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「ハハハハハハハ!!!………調子ニノルナヨ爬虫類………!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「アスラの失敗作と呼ばれていた個体は他のヴェノムに食われて死んだと思われていたがその後の経過観察で失敗作を食ったヴェノムがヴェノム化する前の姿に戻った。

 アタシ達はそれでそのスライム形態だった奴が失敗作から能力を奪って失敗作の代わりになったんだと推察した。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「ナッ、ナニガ………!?

 ワシハ今自分ノ意思トハムカンケイニ言葉ヲ………!?

 ………イキナリ人ノコト食ッテンジョネェヨ!!

 !!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………だがその元の姿に戻ったヴェノムを見ていてある一点が変化していた。

 感染したゾンビってのは実は結構個体によって習性が違うんだ。

 感染する前から俊足で駆け抜けて獲物を狩るような獰猛な肉食の奴や背景に溶け込んで獲物を一瞬の内に仕止めるような奴とかはゾンビになった後もそうやって狩りをする。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフリート「キッ、キサマ!?

 ワシノ………………体ヲ貰ウゼ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「最初に食われた方のアスラはハーピーっていう鳥型のモンスターがアスラ化した奴でな。

 それを食ったのは同じ肉食性でも種類が全く異なる植物型のモンスター、ピーマンヘッドだ。

 二匹は完璧に何もかも違う種類だったんだがピーマンヘッドがスライム形態に変身してからハーピーを食った後にピーマンヘッドに戻ったらピーマンヘッドの習性が変化していたんだよ。

 腕をばたつかせてまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブクブクブクブクブクブクブクブクブクブク!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「そういった実験結果があったことからアタシ達研究チームの結論はこうだ。

 ヴェノム同士が共食いをした場合姿形は食った側でも意識として残るのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュウウウウウウウウウ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「ヴェノム適合率ってのは大半の生物が十パーセント未満だ。

 十パーセント未満で数時間でスライム形態変化、十から二十パーセントで一日で同じくスライム形態変化、三十から六十パーセントで数日でスライム形態変化、七十から九十パーセントでスライム形態変化を避けられる。九十から九十九パーセントで自我を保つことが出来る。今までのヴェノムの主達のようにな。」

 

 

カオス「………じゃあ百パーセントは………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メキッ!メキメキメキッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「そんな個体はこの世にはいねぇ………。

 ………と言いたかったところだがついさっき()()()()()()()()()()()()()()

 ……………百パーセントの個体は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「ヴェノムの力を完全に操り体を自在にスライム形態に変化させられる。

 人の姿でもスライムの姿でも自由に切り換えられるって能力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうなんだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨクコノ姿デ俺ダト分カッタナァ………。

 俺ト気付イタコト誉メテヤロウ………。」



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覇道滅封

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………この………姿は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「ククク!!

 何ダァコノ力ハァ?

 

 

 

 ドンドン力ガ溢レテクルゾオオオォォォォォ!?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

 

 イフリートが突如姿を変え口調を変え興奮した様子で立ち上がる。新たな姿へと変わった()()は自分の姿に酔いしれたように自身の体を見回す。

 

 

カオス「お前………ラーゲッツなのか………?」

 

 

 カオスにはそれがラーゲッツであるとしか思えなかった。所々イフリートの竜の鱗や足はあるのだが上半身の骨格や頭部が人の形をしていた。人と竜の特長が混ざりあって残ったのがこの姿なのだろう。生物としての種類を述べるのであればそれはまさに()()と呼ばれる種になることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ?「………アァ。

 ソノ通リダ。

 

 

 俺ハラーゲッツダヨ!」ガッ!

 

 

 自身をラーゲッツと認めたそれはイフリートが使っていた大斧を手に取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ?「ソシテコレガ………!!

 コノ俺ノ………新シイ力ダァッ!!」グググググ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大斧にマナが収束していく。それだけでこれからラーゲッツが巨大な力を振るおうとしているのが分かる。

 

 

レイディー「マズイ!!

 逃げるぞ!!」

 

 

 レイディーはそう言いラーゲッツが入ってきた扉へと走る。カーヤとメーメーもそれに続きカオスも最後尾で追い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ?「皆、皆消シ飛ベ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てを焼き尽くす灼熱の波動のエネルギーがカオス達の後方から放たれる。火山の内壁はそれだけで破壊され崩落を始める。カオス達も急ぎ外へと駆け走るがエネルギー波が追い付いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!

 危ない!!」

 

 

 カオスは咄嗟に前方を走る三人を庇いエネルギー波を受け止める。

 

 

 

ドドドドドドドトドドドドドドドトドドドドッッッ!

 

 

カオス「ぐぅぅぅ!!

 こっ………れは……!!!」

 

 

 そのエネルギー波がマナを通して放たれていれば精霊の力で封殺できたがエネルギー波によってマナを含まない瓦礫なども飛ばされてきている。全てを防ぎきることが出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(!!?うっ、腕が………!?)」

 

 

 エネルギー波の勢いに負けて石化していた左腕が耐えられず砕けた。片方の腕が無くなったことにより右手だけでは抑えるのがエネルギー波がカオスを押し退けてレイディー達に迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「!?

 『アイシク………、』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォッッッッッッッッッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツの放った一撃でローダーン火山は上半分がシュメルツェンと共に爆砕された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うっ………。」

 

 

 ラーゲッツの一撃で吹き飛ばされたカオスは全身を強く打ち痛みで起き上がれないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ?「フクククク!!

 ナンテ………!

 ナンテ爽快ナ力ダ!!

 コレガ俺ノ力ナノカヨ!!

 コンナニ強クナレタノカ俺ハァッ!!

 ハーッハッハッハ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ラーゲッツ………!」

 

 

 崩れた山の瓦礫の中から巨人と化したラーゲッツが出てくる。火山内部で爆発が起こったのか体に溶岩を浴びていた。そんな溶岩をものともせずラーゲッツは高笑いをしている。

 

 

カオス「(…とっ、とりあえずカーヤとメーメーとレイディーさんを見付けて避難しないと………!

 三人はどこ………に……!?)」

 

 

 痛みを我慢し立ち上がろうと地面に手を付こうとしたところで左腕が無くなっていることを思い出す。石化が進行して肩のすぐ下まで石になっていたおかげで出血はしていないがこれではまともに戦うことすら出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ?「出テキヤガレェッ!!

 カオスゥゥゥッ!!

 マダクタバッテハイネェンダロ!!

 強クナッタ俺ガテメエノ相手ヲシテヤルヨォッ!!

 ホラドウシタァ!!?

 俺ノ力ニビビッテ出テコレネェノカァァァ?」

 

 

 ラーゲッツが自分を探している。しかし今出ていったところでラーゲッツには敵わない。イフリートを逆に吸収し返したラーゲッツの力は本来の彼の力を何百倍にも上昇させている。仲間の援護も無しにラーゲッツに立ち向かうことは無謀としい言いようがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!

 アローネ!?」

 

 

 ラーゲッツの呼び掛けにどうすまいか考えているとカオスの元へアローネがやって来る。

 

 

アローネ「カオス!

 無事………ではないようですね!

 立てますか?」

 

 

カオス「!

 ………なんとか………。」

 

 

 痛みはまだ引かないがそれでも倒れているよりかはアローネを安心させられると思い足と右腕だけで立ち上がるカオス。

 

 

カオス「………どうしてアローネが………?

 ブルカーンに捕まってたんじゃ………?」

 

 

アローネ「そのことでしたら先程オリヘルガが私達の所へ来て檻から脱出させていただきました。

 何やら外で問題が発生したようで………。」

 

 

カオス「オリヘルガが………?」

 

 

 オリヘルガとはイフリートとの戦いが始まる前に遭遇した。彼はイフリートに見捨てられて何もかもに絶望していたが何故そんなことを………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「カオス!

 そこにいたか!」

 

 

タレス「カオスさん!」

 

 

ミシガン「ちゃんと生きてる!?」

 

 

 アローネに続いて他に捕まっていた仲間達も駆け付けてきた。後ろにはぐったりとしたレイディーに肩を貸しているカーヤも一緒だ。側にはメーメーもいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………それでアレは何なんだ?

 俺にはアレが俺が止めを刺した筈のラーゲッツに見えるのだが………。」

 

 

タレス「しかもどうしてあんな大きく………。」

 

 

ミシガン「それでイフリートはどうなったの!?」

 

 

 後方を振り返りカオス達を探す巨人に目を向けてウインドラ達が質問してくる。

 

 

カオス「………実はラーゲッツは生き返ったんだ。

 レサリナスでもリスベルン山でもどっちとも死んでたんだけどバルツィエがネクロノミコンっていうヴェノムの力で人を生き返らせる方法が記されている本の力でラーゲッツが蘇って………。

 イフリートは生き返ったラーゲッツを食べてラーゲッツがカイメラの時と同じようにイフリートの体を奪って………。」

 

 

アローネ「オサムロウさんが仰っていたパラサイティズムですね………。

 ではイフリートは………。」

 

 

カオス「イフリートはラーゲッツに吸収されて死んだ………。

 イフリートは倒されたことになるけど変わりにアイツが………。」

 

 

ウインドラ「ラーゲッツがヴェノムの主と成り代わったか………。

 なんとも理解が追い付かない話だな………。」

 

 

ミシガン「じゃあまだ終わった訳じゃないんだね………?」

 

 

タレス「あのラーゲッツを倒さない限りダレイオスはヴェノムから解放されない………。

 ならあの巨人を倒すだけです。」

 

 

 タレスの一言で皆ラーゲッツへと向き直る。

 

 

アローネ「…カオスは下がっていて下さい。

 その腕ではもう剣を振ることすら出来ないのでしょう?」

 

 

カオス「それは………だけど………。」

 

 

 アローネ達はたった四人でラーゲッツへと挑むようだ。長く共に旅してきたカオスは四人とラーゲッツの戦いの結末が決して()()()()()()()()()()()()ことを予感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(アローネ達だけじゃアイツには勝てない………。

 ………けどアイツと戦えるのはアローネ達しかいない………。

 どうしたら………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「皆!

 カオスとカーヤ………と何故かレイディーにも迷惑をかけてしまいました!

 ここからはバトンタッチです!

 私達であのヴェノムの巨人を倒しますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………ソンナ所ニイヤガッタカ………。

 ………全員纏メテ灰ニシテヤルヨ!!」



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ラーゲッツ改めドラゴニュート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピッ…!

 

 

タレス「!

 スペクタクルズで反応が出ました。

 生態種識別名称があるようです。

 種類は………“ドラゴニュート”と分類されるようです。」

 

 

アローネ「ドラゴニュート………。

 それがこのラーゲッツの種族………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「ドイツカラ死ニタイ?

 誰デモイイゼ?

 コッチハ全員ブッ殺スツモリナンダカラヨォ?

 ナンダッタラ全員一緒ニカカッテキテモイインダゼ?」

 

 

 肩にイフリートの大斧を担ぎラーゲッツがアローネ達に告げる。

 

 

ウインドラ「…性格は変わってないらしいな。

 バルツィエらしく他人を格下にしか見れんようだ。」

 

 

ミシガン「こいつには何の術が効くの?」

 

 

タレス「こいつに効く属性の術は………火以外には耐性はありません。

 火以外の攻撃なら男でも効きます。」

 

 

ウインドラ「それならこいつは()()()()()()と言うことだな。

 カオス達も頑張ってくれてたようだしここは俺達だけで何とかするぞ。」

 

 

 火の属性以外がドラゴニュートに通用するのならアローネ、タレス、ミシガン、ウインドラの攻撃が通る。カイメラのように六属性の異なる属性を持つ主の合体であったなら勝ち目はなかったが今回はレッドドラゴンとラーゲッツの二つの力のみの変身である。()()()()()()()()()()勝つ見込みは十分にあると四人は判断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「皆………。」

 

 

 カオスは少し遠くから四人とドラゴニュートがぶつかる様子を見ていた。

 

 

レイディー「ッ………ハァ…………!」

 

 

ミニジャバウォック『………』パァァ…

 

 

 ドラゴニュートが放った一撃の熱を受け瀕死の状態のレイディーをメーメーが氷の術が使えるジャバウォック形態で介抱する。回復には時間がかかりそうだ。

 

 

カーヤ「パパ………。

 もうやめて………。

 どうしてこんな………。」

 

 

 アローネ達がドラゴニュート………父であるラーゲッツに立ち向かう姿を見てカーヤはとても辛そうだった。一度、二度とラーゲッツが死ぬ瞬間を目撃するもその都度ラーゲッツは復活を遂げる。そして復活してもラーゲッツはカオス達やカーヤに牙を剥く。何度戦ってもラーゲッツは敵のままなのだ。彼と分かりあえることはこの先永遠に訪れることはない。

 

 

 ラーゲッツとは決着をつけるしかカーヤの絶望を止める手段は他に無い………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「総攻撃で畳み掛けましょう!!

 『ウインドカッター!!追撃の二十連撃!!』」

 

 

タレス「『グランドダッシャー!!』」

 

 

ミシガン「『タイダルウェイブ!!』」

 

 

ウインドラ「『インディグネイション!!』」

 

 

 四人の大技がドラゴニュートを襲う。ドラゴニュートはそれを………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「魔神剣ンッッッ・双牙ッ!!!!」

 

 

 バルツィエの剣技魔神剣・双牙で撃ち返し相殺する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「打ち消された……!?」

 

 

ウインドラ「バルツィエ流剣術は健在のようだな……!

 なんて威力の魔神剣だ………!」

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「何ダァ?

 今ノ術ハヨォ?

 ソンナ術ハ見タコトガネェゼ。

 ダガソレデモコノ程度カ。

 

 

 火力ガ全然足リネェヨ!!」

 

 

 一般に使われている術の二段階は上の奥義の重ね技をだの魔神剣二発で防がれてしまう。御互いにダメージは無いが使うマナの消費量が大幅に違う。ドラゴニュートはまだ数十回は魔神剣を放てるだろうがアローネ達の術はそう何度も使うことが出来ない。使えても後十回未満。今のでダメージを与えられなかったのはかなり痛い。

 

 

ミシガン「そんな………。

 ただの魔神剣で私達の術が………。」

 

 

タレス「正面から撃ち合えば魔神剣で防がれます!

 散らばって他方向から撃てば誰かの術は当たる筈です!

 散開しましょう!」

 

 

 真正面から撃って対応されるのなら四人で取り囲むように撃てば全てを相殺することは出来まいとアローネ達はドラゴニュートの左右前後へと回る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「『インディグネイション!!』」

 

 

ミシガン「『タイダルウェイブ!!』」

 

 

タレス「『グランドダッシャー!!』」

 

 

 再び奥義がドラゴニュートへと迫る。流石に魔神剣ではこれには対抗するのは不可能だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()()()………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「魔王炎撃破ッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォオオォォウンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火を放つ大斧が放たれた術を全て薙ぎ払う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「考エガ甘インダヨッ!!

 俺ノ技ガ魔神剣ダケダト思ッタノカ?

 全方位ニ対応スル技ナンテマダ俺ニハイクツモ「『追撃の二十連撃!!』」!?」ザザザザザザザザッ!!

 

 

 

 

 

 

 一泊遅れてアローネが追撃の術を加える。それは見事にドラゴニュートを捉えた。

 

 

 

 

 

 

アローネ「考えが甘いと言うのも頷けますね。

 正面から駄目なのであれば四方から………。

 ならそれも防ぐ手段があればまた結果は同じに終わる………。

 

 

 なので()()()()()()()()()()()()見ました。

 今のは御自分で相殺した爆炎によって完全に死角から撃たれた攻撃です。

 初見で今のタイミングに合わせて相殺することは「今ノニハ驚カサレタゼ………。」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「コノ技ガ無ケレバ掠リ傷グライナラ付ケラレテタカモナァ?」

 

 

 術で発生した煙が晴れてその中からは()()()()()()()()()()ドラゴニュートの姿が現れる。

 

 

ウインドラ「それは………!?

 ()()()………!?」

 

 

タレス「防がれたんですか!?

 今のが………!?」

 

 

ミシガン「あれってカオスの………!?」

 

 

 

 

 

 

アローネ「そんな………!?」

 

 

 タイミングも何もかもが完璧だと思われた作戦を一瞬で破るドラゴニュート。これには四人も動揺を隠せないが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「何ヲ驚イテルンダヨ?

 コノ技モバルツィエノ技ノ一ツダゼ?

 俺ガ使エテモ何ラオカシクハネェ。

 ………ソレヨリモ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()?()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スゥゥゥゥ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「!!?」」」」

 

 

 四人はドラゴニュートの姿を見失う。ドラゴニュートの体が空間に溶けるように揺らめいて消えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「何処ヲ見テンダヨ?

 俺ハココダゼ?」

 

 

ウインドラ「!?何「ハッ、ハァ!!」ぐわっ!?」

 

 

 何の前触れもなくドラゴニュートがウインドラの後ろへと現れウインドラを蹴り飛ばす。

 

 

ミシガン「!?ウイン「テメェモダヨッ!」キャッ……!」

 

 

 続いてミシガンも転がっていく。

 

 

タレス「この技は「陽炎ッ!!」ゥァッ……!!」

 

 

 タレスも打ち飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「その技は………レサリナスでフェデールが「飛葉翻歩。」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「ワリィナ、飛葉翻歩のツモリガ陽炎ニナッチマッタ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…ッ………!」

 

 

 ウインドラ、ミシガン、タレスの三人を一瞬で倒し最後は元の立ち位置に戻りアローネを見下ろす。そしてゆっくりとした動作で大斧を振りかぶる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「サッキ驚カシヤガッタ御礼ダ。

 一撃デ楽ニシテヤルヨ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブオンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネの無慈悲な刃が振り下ろされる。アローネにはこの一撃を回避する手段は無く一振りで切り裂かれ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バァァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「テメェハ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「もう止めてよパパ………。

 もうパパが誰かを傷付けてる所なんて見たくないよ………。」



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殺魔の炎撃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「…アレホド俺ノコトヲ叩キノメシテキタ奴ノセリフトハ思エネェナァ?

 オ前ガ俺ヲフリューゲルデ何度吹ッ飛シテキタノカ覚エテネェノカ?」

 

 

カーヤ「………」

 

 

ドラゴニュート「俺ガ誰カヲ傷付ケルトコロヲ見タクネェダァ?

 ナラ自分ハ誰カヲ傷付ケルノハイイノカヨ?

 ソイツァタダノ我儘ッテモンダゼ。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「………何トカ言エヨ………。

 ソンナ目デ俺ヲ見ルンジャネェヨ………。

 

 

 ()()()()()()ヲ思イダスダロウガァァァァァァァッ!!!!」ゴォォォッ!

 

 

 ドラゴニュートは大斧を今度はカーヤに振る。それをカーヤはレアバードで受け止めようとするが体格と力に差がありすぎて踏み留まれずに薙ぎ飛ばされる。

 

 

カーヤ「ゥゥッ……!」

 

 

ドラゴニュート「オ前モカッ!?

 オ前モ俺ノコトヲ見下シテンノカ!!?

 母親ト同ジ様ニ俺ノコトヲ蔑ムノカァッ!!?

 アノ時ダッテ今ダッテ俺ノ方ガ上ダッタダロ!?

 俺ノ力ハモウ誰ニモ劣ッテナイダロォォ!!?

 ソレナノニテメェ等ガ俺ノコトヲ見下スンジャネエェェェェェッ!!!」

 

 

 ドラゴニュートは標的をアローネからカーヤに変えカーヤを痛め付ける。ヴェノムとイフリートの力を吸収してから実力差は一気に逆転してしまった。今のドラゴニュートにカーヤ一人では太刀打ち出来ない。それでなくともカーヤはラーゲッツのことを父親だと知ってから彼を攻撃することは出来なくなっていた。

 

 

アローネ「カーヤ!!」

 

 

 アローネがカーヤとドラゴニュートの間へと入り込み羽衣で盾を作る。

 

 

ドラゴニュート「!!

 …ッコンナモン!!」ブオンッ!

 

 

 羽衣で仕切りを作ったがそれも一瞬で払われて再度カーヤへの攻撃を続ける。

 

 

アローネ「もう止めて下さい!!」

 

 

 羽衣を突破されたことによりアローネは体を貼ってカーヤを守る。

 

 

ドラゴニュート「邪魔ダ!!

 テメェハ後ニ回シテヤルカラソノ女ヲ殺ラセロ!!」

 

 

アローネ「嫌です!!

 ここを退きません!

 これ以上貴方にカーヤを傷付けさせたりはさせません!!」

 

 

ドラゴニュート「ッノヤロウ!!

 ………ダッタラ二人仲良ク真ッ二つツニシテ………!?」ザスッ…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ヘッ……ヘヘ!

 何処を見てるんだよ?

 隙だらけだったから一発お見舞いしちゃったじゃないか!」

 

 

 ドラゴニュートがカーヤを集中狙いしている間にカオスは足元に走りドラゴニュートの足を斬りつけた。

 

 

ドラゴニュート「テメェ……!!

 カオス………!!」

 

 

カオス「どうしたんだよ?

 飛葉翻歩も使えるのにこんな一撃も避けられないのか?

 案外お前の力ってそんな大したことないんだな。」

 

 

 カオスはドラゴニュートを挑発する。ここまでで彼が格下に見られることに異常に逆上することは見てとれた。アローネもカーヤももう戦えない。なら二人を守るためには自分がタゲをとるしかない。左腕はなくとも剣さえ振って斬りつければドラゴニュートは自分に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「……ソンナニ死ニタキャァ!!

 テメェカラ殺シテヤルヨォォッ!!」

 

 

 ドラゴニュートの大木程の太さもある足でカオスが蹴り上げられる。

 

 

カオス「ガハッ!!」

 

 

 耐えられずカオスが空中で吐血。全身を激痛に襲われる。

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「オラアアアアッ!!」

 

 

 

 

 

 

ボグウウウッ!!

 

 

 ドラゴニュートの目線まで蹴り上げられたカオスの体にドラゴニュートが正拳付きの追撃を加えてカオスを遥か遠くまで殴り飛ばす。

 

 

カオス「バフッ……!」

 

 

 たったニ撃でカオスは身体中の骨を砕かれる。痛みに強いカオスだがこの激痛には意識を手放すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 そこに来てまだドラゴニュートは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「マダ終ワリジャネェゾオオオオッ!!!」ガシッ!!ブンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドオオオオンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水平に飛ばされたカオスの体を飛葉翻歩で追い掛けて掴みそのまま地面へと叩き付ける。

 

 

 カオス「………!?

 ………グフッ………。」

 

 

 叩き付けられた衝撃で失った意識をまた取り戻す。しかし意識を取り戻したところで体を動かすことすら出来ない。

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「千裂浄破ッッッ!!!」

 

 

 ドラゴニュートは大斧を構えて無数の連続突きで地面をカオスごと貫き砕く。

 

 

カオス「うっ………!ぶっ………ッ……!ハッ………!?

 ぶぁっ………!」

 

 

 何度も何度もカオスは割られる大地に体を打ち付けられる。大斧の直撃こそしないがそれでも地を割り揺らす衝撃はカオスを地面と空中の粉砕された岩の中で弄ぶ。

 

 

 

 

 

 

 カオスはこの時自身の死が目の前に迫ってきていることを予感した………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「オイヨォ………?

 モウ壊レチマッタノカ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 カオスはドラゴニュートの言葉に答えられなかった。肺に折れた骨でも刺さっているのか呼吸することすら出来ない。

 

 

ドラゴニュート「………ケッ………!

 情ケネェ奴ダナァ………。

 一度負カシタ相手ニリベンジサレテ負ケルナンテヨォ?」

 

 

 ドラゴニュートはそういってカオスの体を掴み持ち上げる。

 

 

カオス「……!!?」

 

 

 今は体に触れられるだけでも激痛に襲われるというの竜の力で握られれば更に苦しくなる。

 

 

ドラゴニュート「ドウシタ?

 抵抗シテミロヨ?

 抵抗シナイト死ヌゼ?

 オ前。」

 

 

カオス「……!

 ………ッ!!」

 

 

 声にならない音を肺から吐き出して精一杯残っている右腕でドラゴニュートの指を押し退けようとするが微動だにしない。

 

 

ドラゴニュート「限界ノヨウダナァ?

 モウ声ヲ上ゲルコトスラ出来ネェカ?」

 

 

カオス「(………こっ………こんな奴………。

 魔術や技が………使えたら………………こんな………。)」

 

 

 心の中の叫びは外に漏れることはなかった。心の声を表に出すことも出来ずカオスはドラゴニュートに握り潰されようとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「………テメェヲ痛ブルノニモ飽キテキタァ………。

 コノママ握リ潰シテヤッテモイイガドウセナラ俺ノ()()()()()()()デ焼キ殺シテヤルヨ。」

 

 

 そう言うとドラゴニュートの体から黒い炎が吹き出す。その炎はカオスの方にも延びて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジョオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!!!………!………!!!!」

 

 

 カオスの体が黒い炎に焼かれる。殺魔の力は六属性の攻撃を無効化するカオスにも通じてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「ドウダァ………?

 俺ノ炎ノ味ワァ?

 体ノ内カラ暖マルダロウ?」

 

 

 カオスが焼ける姿を見てにやけ顔を浮かばせるドラゴニュート。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの命は殺魔の炎で今にも尽きかけようとしていた………。



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焼かれる体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジョオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「グハハハハハハ!!!

 中々焼ケネェモンダナァ!!

 モウ少シ温度ヲ上ゲテミルカアアアァ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴッッッ!!!ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カッ、カオス………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは殺魔の炎に焼かれて頭の中ではどうやって苦しみから逃れる………ことではなく別のことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………熱い………。体が焼ける………。喉も苦しい………。目も開けてられない………。こんなんならいっそ意識を失ってた方がいいのに苦しすぎて気絶することも出来ない………。

 

 

 ………この黒い炎………殺魔………。この炎はレイディーさんが浴びる予定の………。

 ………レイディーさんは………まだ回復しきってないのか………。

 勿体ないな………せっかくラーゲッツが殺魔の力を使ってるのに………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブシュッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………俺このまま死んじゃうのかなぁ………。

 ラーゲッツの手から逃げることも出来ないし火は熱いしで焼け死んじゃうんだろうなぁ………。

 俺が火なんかで死ぬなんて………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクドクッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………普通の火じゃないか………。

 殺魔のマナ………()()()()()()()()()………。

 俺を精霊ごと焼き殺すのか………?

 ………それならそれで精霊も死ぬなら世界が精霊に殺されることも………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズキズキッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………………さっきから何だ………?

 やけに砕けた筈の腕が………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砕けて失った左腕の方に視線を向けると石化していた部分から()()していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………何で石化した腕が元に戻ってるんだ………?

 さっきまでは石のままだったのに………。

 殺魔の炎で石になってた所が焼かれて無くなったのか………?

 それにしては腕がそんなに多くは削ぎ落とされてはいないような………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツの放出する黒い炎の熱で腕の傷口の血が固まる。それから少しして殺魔の炎が消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「……シブテェナァ………?

 マダ()()()()()()()()()?

 コリャ全部抜キ出スマデニ相当カカルナ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の言葉でカオスは何故石になった腕が元に戻っているのか気付いた。そもそもどうして石化したのか、それはカオスの精霊を体の中に入れておけるだけのシャーマンとしての器が限界を迎えていたからだ。精霊マクスウェルが世界を吹き飛ばすためのマナを際限なく吸収し続けてそのマナがカオスの体に溜め込まれカオスの体を破裂寸前まで蝕み体から生命の色を消した。

 

 

 

 

 

 

 それが殺魔の炎を受けてカオスの中に詰まっていたマナが消滅していく。世界樹カーラーンから発せられた多量のマナがカオスの中から消されていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………即ちカオスの張り裂けんばかりに膨れ壊れかけた器に余裕が出来たのだ。今ならマナが一気に噴出されて暴発することもないだろう。カオスの魔力機能障害は一時的に解消されているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………今なら戦える………!

 けどこの手を先ずは何とかしないと………!

 ………魔術で………でも声が出せない………!)」

 

 

 魔術を使おうにも火に炙られ過ぎて喉が焼けて声が声にならない。満足に力を発揮するには発声は必要不可欠で喉が荒れていては魔術を発動するのも困難だ。どうにかして喉を治そうとしても自身が何も出来なくてはどうしようも………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『ウインドカッター!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「チッ!!

 五月蝿イ蝿ガァッ!!」

 

 

 アローネの声が聞こえてそちらを向くとアローネがレアバードで飛行しドラゴニュートを攻撃している。

 

 

アローネ「カオスを離しなさい!!」

 

 

ドラゴニュート「ウザインダヨッ!!

 コイツハモウ俺ノモンダァッ!!

 

 

 蝿ハ蝿ラシク叩キ落トシテヤルヨッ!!」コオオオッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドラゴニュートの大斧の先端から始めに使用した覇道滅封の炎熱波が放出されアローネの乗るレアバードへと伸びる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…!

 そう易々と落とされはしません!!」

 

 

 それを加速して避けるアローネだったが大斧のから放たれる炎熱波はそれだけで終わらなかった。

 

 

ドラゴニュート「ソレガドウシタァッ!!

 一発カワシタカラッテ何ガドウナルンダァ!!

 俺ノ炎ハコンナモンデ尽キタリハシネェゾォォォッ!!」

 

 

 大斧から放射された炎熱波はドラゴニュートが角度を変えることによって同じように炎熱波の軌道も変わりアローネを追い掛ける。あれではそう長く避け続けることは出来ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして炎がアローネを捉えるその瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……ア……ートエイオオォォッッッッッッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 肺から母音の音だけが外に向かって発声出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「ア”ア”?

 何言ッテンダオ前?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし誰が聞いても今の発音では何を伝えたいのか理解出来るものはいないだろう。カオスも自分で自分が発した人の声とすら呼べない雑音がアローネに何をして欲しいのか伝わるとは思えなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『ファーストエイド!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だというのにアローネはカオスが今やってほしいことを正確に読み取り実行してくれた………。



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戻るカオス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「オ”オ”?

 アノ女………。

 

 

 

 

 

 

 …………ッハハハハハハハハ!!!

 何ヲヤッテンダヨ!!

 今更コンナボロ雑巾ノ怪我ヲ治シタトコロデドウナルッテンダ!?

 マダコイツガ苦シム姿ヲ見タイノカ?

 最低ナ仲間ヲ持ッタモンダナァカオス!!

 オ前ノ仲間ハオ前ガ苦シム姿ヲモット見シテホシイミテェダゼ?

 今ノ無意味ナ援護ガ無ケレバテメェモサッサト楽ニ死ネ「最………テイナンカじゃ………ない!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「俺ニ………トッテハ今の援護は………最高の援護ダッタヨ………。

 最高の仲間だと思エルくらいに!!」

 

 

 弱冠まだ喉が治りきってはいないが声が出せるのならいける。あんな発音で分かってもらえたことが本当に嬉しかった。アローネには感謝の言葉が尽きない。

 

 

ドラゴニュート「ハアアァ?

 アンナノガ一体何ノ意味ガアッタンダヨ?

 治療術ナンカデオ前ガドウナルッテンダ?

 

 

 

 

 

 

 今更回復ナンカシタトコロデオ前は………。」ググッ…、

 

 

 ドラゴニュートがカオスの体を頭上にまで持っていく。この構えから次に取るであろう行動は予測がつく。カオスはその瞬間こそが()()()()()()()()()だと悟った。ここからはもうドラゴニュートの………ラーゲッツの思い通りにはいかない一方試合が展開される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「何度モ何度モ俺ニ叩キノメサレテ最後ニクタバルダケシカネェダロウガァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブオオオンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案の定ラーゲッツはカオスの体を地面へと全力で叩き付けようと投げ飛ばしてきた。普通であれば死を覚悟するところだがカオスはこれを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『ファーストエイド!!』」パァァ…!

 

 

 

 

 

 

 空中にいる間に自身の体の傷を瞬時に回復するカオス。しかしまだラーゲッツの手によって投げ飛ばされてこの後地面との衝突が待っている。魔術による攻撃は回避できるがそうでない攻撃は無効化できない。この勢いで地面と激突すれば最悪衝撃で死亡してしまうだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしカオスにはその衝撃を和らげる術を持っていた。この旅でこの技を使うのは()()()になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「粋護陣ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダアアアアアアアアンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地面に激突する瞬間にラーゲッツがアローネの技を防いでみせて力を使う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……………!!!!

 っつつ………!

 やっぱり完璧には衝撃を抑えることは出来なかったか………。」

 

 

 防御の膜を張っても完全に衝撃を殺すことは出来なかった。それでもラーゲッツの手から離れられたのは大きかった。今の内にカオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『ファーストエイド!』」

 

 

 再度治療術を施し今度は左腕を修復する。これで完全に体の負傷箇所を治し剣を構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「………今更何ノツモリダ?

 俺ニ敵ワネェコトハ分カッテンダロ?

 ナノニソンナモン構エテ………ソンナ目デドウシテ俺ニ向キ合オウトスル?」

 

 

カオス「悪いけど今の俺はさっきまでの俺と違う。

 もうここからは俺がお前を倒すだけの勝負になった。

 もうお前に殺られたりはしない。」

 

 

ドラゴニュート「ア”ア”?

 サッキマデノオ前ト今ノオ前トデ何ガ違ウッテンダ?

 何モ変ワラネェジャネェカ?

 ソレドコロカ俺ノ炎ニ焼カレテマナモ底ヲ尽ツキカケテンジャネェノカ?

 ソレデドウヤッテ俺ヲ倒スッテンダ?」

 

 

 ラーゲッツはカオスがどういう状態にあったのかを知らない。殺魔の力は生物のマナを急速に消滅させてしまう。その力を浴びてしまえば屈強なワイバーンでさえも数秒でマナを干からびさせ体を守るマナが消失したことによって無防備となりイフリートに消されてしまった。

 

 

 だがカオスの場合は逆にそのマナがカオスの体を苦しめていた。強すぎるマナがカオスの体を押し潰そうとのし掛かっていたのだ。そのマナの鎧が軽くなった今ならカオスは何の負担も無く技や術を使える。

 

 

 

 

 

 

カオス「………そうだなぁ………。

 じゃあ先ずはお前との力の差を埋めるためにも………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『シャープネス!!』『バリアー!!』」パァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「!!」

 

 

 カオスは自身に力と守りの能力を高める術シャープネスとバリアーを使用する。これで少しはラーゲッツの圧倒的な筋力と竜の頑強な鱗の守りに近付く。

 

 

カオス「…これなら多少はまともにお前の相手が勤まるだろ?

 お前が凄く強くなったのは認める。

 けど俺だってただで負ける訳にはいかない。

 俺にだって負けられない意地があるんだ。

 アローネや皆が俺に全てを託してくれた。

 俺はお前との勝負………何が何でも負けられないんだ。」

 

 

ドラゴニュート「………ケッ!

 何ガ皆ダヨ。

 ソンナニソイツラガ大事カ?

 モウオ前以外立チ上ガル奴ガイネェジャネェカ?

 オ前一人デ俺ニ向カッテキタトコロデ何ガドウナル訳デモ「魔神剣ッ!!」!?」ザザッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「強くなったのは認めたって言ったけど俺よりも強くなったとは言ってないよ?

 お前一人の相手なんか俺だけで十分だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「………イツマデモ俺ヨリ上ノ気分デイルンジャネェヨ。

 モウ一回ズタボロニシテヤラネェト分カラネェミテェダナ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスとラーゲッツ二人だけの決闘が始まる。これの勝敗によって世界の命運が決まる戦いだ。カオスはこの勝負にどの様に勝つのか………。



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無限に強くなっていく力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「魔王炎激破ッッッ!!!」ブオオオンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うあっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは盛大にラーゲッツの振るう大斧を受け止めようとして吹き飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「何ダ何ダァァァッ!!?

 シャープネスカケテモソノ程度カヨ!!

 俺ノ力ニ全然届イテネェゾオオオッ!!

 ソンナンデ俺ヨリ強イッテドノ口ガ言ッテンダアア!!?」

 

 

 ラーゲッツがいう通りシャープネスを付加してもカオスとラーゲッツには体格差や体重差、間合いの差等多くの要素でラーゲッツの方へと傾いている。この偏りは()()()()()()()()()では追い付けそうもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「いてて………。

 少し力を強くしたぐらいじゃまだ追い付かないかぁ………。」

 

 

 バリアーも付加してあるので派手に吹き飛びはしたがそれほどダメージは負ってはいない。だがそれも今の結果が続くようならカオスの体へのダメージが蓄積されていくだけだろう。

 

 

ドラゴニュート「諦メテイッソ楽ニナッタ方ガイインジャネェカァ?

 テメェニハ一度負ケタダケダガユーラスト違ッテギャラリーハイナカッタ。

 俺ガ一番ムカツイテンノハオ前ノ仲間ノウインドラッテ奴ダ。

 アイツダケハタップリト遊ンデカラ殺シテヤル。

 後ガツカエテンダ。

 トットト死ネ。」

 

 

カオス「………それを聞いたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尚更殺される訳にはいかないんだよねぇ!!」パァァァ……!!

 

 

 カオスのマナが収束していく。また魔術を使用する徴候だが攻撃用の魔術ではなくまた補助系の魔術のようだ。

 

 

ドラゴニュート「何ヲシヨウッテンダ?

 精々シャープネスを一、二回足シタクレェジャ俺トノ力ノ開キガ埋メラレハシネェ」「『シャープネス!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『シャープネス!シャープネス!シャープネス!シャープネス!シャープネス!シャープネス!シャープネス!シャープネス!シャープネス!』」パァァァ!!!

 

 

 カオスは自分に合計()()()()()()()()()()を付加した。

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「ナッ………!?

 何!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「魔術剣ッ!!」ズバアアアアアアンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超特大級の魔術剣がカオスから放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「!!!?

 マッ!!魔王炎激破ッ!!」ブオオオッ!!!

 

 

 ラーゲッツも咄嗟に魔王炎激破でカオスの魔神剣を跳ね返そうとするが規模は魔神剣の方が大きく威力を殺しきれずに衝撃波を受けてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザザザザザッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「グホオアアアアアッッッ!!?」

 

 

 ラーゲッツは盛大に後ろへと吹き飛んでいく。ギガントモンスターの中でも上位に君臨する巨体が軽々と一発の魔神剣によって押し飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズザザザザザザザザザザザッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「チッ!!チクショウガァッ!!

 何ダヨソレェッ!!?

 補償系魔術ノ重ネ掛ケダトッ!?

 ソンナン聞イタコトガネェゾッ!?

 何ナンダテメェノソノ力ハァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………最初からこういう戦い方をしてればよかった………。

 下手に使いなれない魔術で攻撃するよりもよっぽどこっちの方が俺らしい戦い方だったんだ………。」

 

 

ドラゴニュート「ハァ……!?」

 

 

カオス「………ずっと魔術を使うのが嫌だった………。

 魔術を使えばどうしてもあの日のことを思い出す………。

 ウィンドブリズ山で修業した後もどうしても魔術を使って敵を倒すことに慣れてしまうのが怖かった………。

 強すぎる破壊は壊したくない物まで壊してしまう………。

 だからカイメラと戦った後も()()()()()()()()戦ってきた………。

 ヴェノムの主達との戦いも基本はギガントモンスターを相手にする時は魔術じゃないと相手にならないって聞いてたから魔術で戦おうとしてきた………。

 

 

 

 

 

 ………でも俺は俺が普通じゃないってことを忘れてたよ。

 普通じゃない俺が普通の戦い方をしてもこの力を上手く有効活用出来ない。

 どうすれば俺はこの力を扱いきれるのか………。

 ………今思い付いた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の魔術は()()()()()()()()()()()()()

 それなら俺自身に補助系魔術を使って戦えば俺は本気で戦うことが出来る。

 魔術を使いながら俺は剣で戦うことが出来る。

 人とそれ以外で一々剣と魔術を使い分けてたけどもうそんなの気にしなくていい。

 

 

 俺はこれからずっと()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………有り難う。

 俺はバルツィエと戦う度に勉強させられるよ。

 お前みたいな奴と戦うことが無ければ考え付くこともなかった。」

 

 

 カオスはラーゲッツを見上げてそう言った。本気でカオスはラーゲッツに感謝していた。ギガントモンスターでありながら人でもあるラーゲッツと対峙したことでカオスは新たな戦法を編み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「調子ニ乗ルンジャネェッッッ!!!

 モウ勝ッタ気デイヤガルノカァッ!!?

 マダ終ワリジャネェゾ!!

 タッタ一回撃チ合イニ勝ッタダケジャネェカァ!!

 

 

 本当ノ殺シ合イハ………ココカラダアアァァッ!!!」バチバチバチ!!

 

 

 ラーゲッツの構える大斧の先から赤い火花が飛び散る。覇道滅封を撃つようだ。

 

 

カオス「!!

 だったら俺も!!」

 

 

 カオスも剣を後ろに構える。お互いの大技をぶつけるつもりなのだ。カオスが撃つ技は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「焼キ尽キロ!!

 覇道滅封ウウウゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今までよりも一回りは太い熱線がカオスへと飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「魔神剣・槍破ああああああっッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤き閃光と白の閃光がせめぎ会うがそれも一瞬のことで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「何ダトッ………!!!

 ヌオオオアアアアアアアアアアアアアッ!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの魔神剣の光がラーゲッツを呑み込む。最早カオスとラーゲッツの戦いの勝敗はこの時既に着いていたのかもしれない………。



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業火のグレムリンフレア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「(………一分が経過してもカオスのシャープネスの効果が切れる様子が無い………。

 大抵は短くて十数秒から一分が最長と言われているのに………。

 

 

 まさか本当に永続的に術をかけ続けられるのですか?

 そして一度付加してから更にその上に同じ術を………。

 ………それが可能と言うのであればカオスは()()()()()()()()()()()()()

 その力があればカオスに敵う人はいなくなる………。

 星を砕く程の精霊が憑依しているということもカオスの力の要因だとは思いますがこんなことが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………つくづくあの力を手にしたのがカオスで良かったと安心しますね。

 もし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………フゥ………。」

 

 

 手応えは感じた。これまでにない程の力で魔神剣・槍破を放った。今の一撃はこれまでのヴェノムの主であったなら全てを葬れそうな威力を発揮していた。それはイフリートを吸収したラーゲッツであっても………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「ウ”オ”オ”オ”アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 ラーゲッツは生きていた。全身傷だらけだがよく見れば体がうっすらと光っている。

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「グアアアアアアアッ!!

 コンナ……!?

 コンナコトガアッテイイノカ!!?

 コンナコトガ本当ニ起コッテイイノカ!!?

 コッチハ新型ワクチン“()()()”マデ使ッテンダゾ!!?

 ソレガ………!コンナアッサリ簡単ニ追イ抜カレルノカァッ!!?」

 

 

カオス「………粋護陣で防いだのか………。

 それもあったね………。

 でも………。」

 

 

ドラゴニュート「俺ハテメェノソノ力ヲ認メネェ!!

 認メラレル訳ガネェ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソンナ力ガアッチャナラネェンダアアアアアァァァァァッ!!!!!」パアアアア!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「今度はオーバーリミッツか………。

 久々に見たな………。」

 

 

 ダレイオスに来てからは対人戦をする機会は数える程しかなかった。オーバーリミッツは基礎的なステータスを上昇させる力があり使っているのはバルツィエやウインドラくらいだ。

 

 

ドラゴニュート「テメェノ力ハ人ガ持テル限界ヲ越テスギテル!!ソンナ力ガコノ世ニ存在シテイテイイ筈ガネェ!!俺ノ手デソンナ力討チ砕イテヤル!!」ゴオオッ!!

 

 

 ラーゲッツの大斧から今度は()()()が吹き出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「黒覇滅封ゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺魔の覇道滅封がカオスへと放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「オーバーリミッツ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアアアアアアァァァンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「ヌァアッ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは避けるでもなく粋護陣で防ぐのでもなくオーバーリミッツでそれを受けきる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「その力どんどん俺にぶつけてきてくれ。

 そうすれば俺はどんどん力を解放していける。」

 

 

 マナを出し惜しみしていては体が石化していく一方だが相手が殺魔の力の使い手なら遠慮なく力を出しきれる。自分と相手の両方が自分の中に溜まるマナを消費してくれるのだ。殺魔の力の使い手に出会わなければならなかったのはレイディーではなく本当は自分だったのだとカオスは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「(何なんだよ!!

 何なんだよこいつは………!!

 こいつが生まれてからまだ二十年くらいしか経ってねぇって話だろ!!?

 それがどうしてこうも俺が圧倒されなくちゃならねぇんだ!!?

 これが生まれてきた時から決まっている才能の差って奴なのか!!?

 俺とこいつとでこうまで才能の差に開きがあるって言うのか!!?

 同じバルツィエでもこうまで違うってのかよ!!?

 こんなアルバートの孫でもそんなに才能の差があるもんなのか!!?

 俺にはこいつのような力がねぇのか!!?

 どうして俺に無くてこいつにはこんな強い力があるんだ!!

 俺が剣を振ってきた百五十年はこいつの高々二十年に負けるって言うのかよ!!

 俺は………!

 俺はこんな………!!

 こんな………!!

 

 

 ………………俺はやっぱりバルツィエでも失敗作として生まれて………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ラーゲッツ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ラーゲッツ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「………畜生蛾アアアァァァァァッ!!!!

 オ前ニモフェデールニモ()()()ニモ馬鹿ニサレタママデイラレルカヨオオオッ!!!

 俺ハコンナトコロデ終ワレネェンダアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツの体から今までで最大のマナが放出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「『火炎ヨォォッ!!我ガ手トナリテ敵ヲ焼キ尽クセェェッ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 この呪文は……!?」

 

 

 ただのファイヤーボールではない。レサリナスでウインドラとラーゲッツが戦ってる時に見せた技を使おうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレムリンフレア。追撃によって数を増した火球を一つに収束させて撃ち放つバーストアーツ。バルツィエなら誰もが撃てる大技。こんなところで撃たれればシュメルツェンごとアローネ達も巻き添えになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…!」タッ!

 

 

 カオスはシャープネスによって上昇した筋力で空中へと飛び上がった。ラーゲッツの標的は今自分にのみ絞られている。街に被災しないためには空中に逃げるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「消エテナ無クナレェェェッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレムリンフレア!!!

 

 

 巨大な黒い炎がカオスへと迫る………。



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千撃の黒炎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツの繰り出した炎が空の色を変えながらカオスへと向かってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「粋護陣ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バアアアアアアアアッ!!

 

 

 炎に接触する直前に粋護陣を張りそれを難なく防ぎ切る。例え殺魔の力を使っていてもカオスにとってはこの技も耐えきるのも難しくはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そしてラーゲッツの放った炎が晴れて下には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「コノ一撃デ今度コソ終ワリニシテヤル!!カオスゥゥッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大斧に殺魔の炎を宿して構えるラーゲッツの姿。また覇道滅封を撃つのかと思いきや………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「()()!()!()!()()()()()()()()()!()!()!()!()!()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴガガガガガガガガガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺魔の炎を纏った覇道滅封………それの無数の乱れ撃ちがカオスへと穿たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ぐっ……!?粋護………!

 ぐあっ………!?」ガガガガガガガガカッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「消エロ消エロ消エロ消エロオオオオオオオオオッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツが空中のカオスへとラッシュを掛ける。守りを強化しても何度も攻撃を加えられればカオスにもダメージは入り………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うっ、うわあああああッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはローダーン火山から遠くへと突き飛ばされて飛んでいく。頂上から麓までの標高はおよそ二千メートル。流石にそんな高さから地面へと叩き付けられれば怪我ではすまない。

 

 

 カオスは吹き飛ばされながらも落下に備えて自身へ再び守りを強くするバリアーを付加しようとするが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空を自由落下している直前にカオスはラーゲッツのいる方へと視線を向けた。そこには落下するカオスを助けるためにレアバードで飛行してくるアローネ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その背後から自分目掛けてアローネもろとも消し去ろうと大斧に炎を込めるラーゲッツの姿を確認する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネは一直線に飛んでくる。彼女の目にはカオスしか映っていない。そのせいで今自分が狙われていることに気が付いていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「駄目だアローネ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネへ注意を促そうと大声を出すがそれでもアローネは止まらない。このままカオスとラーゲッツの間にいては彼女がラーゲッツに殺られてしまう。なんとかカオスはラーゲッツの攻撃を止めようと空中で魔神剣・槍破の構えをとるがこの位置から黒覇滅封を相殺しようにも二つのエネルギーがぶつかり合った爆発で結局アローネが巻き込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは無我夢中で空中でラーゲッツのいる方とは真反対の方向へと魔神剣・槍破は撃ちその勢いでアローネのところへと高速で飛来して通り過ぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「え……!?カオス!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「仲間モロトモ灰塵ニ帰シヤガレエエェェェェェェェェェッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人一人を軽く呑み込む黒い熱線がカオスへと命中する。カオスは熱線を剣で受けとめるのだが剣が熱に耐えきれずに溶けてしまいカオスは直に食らってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「すっ、……粋護………!!」

 

 

 必死になって熱線が後ろにいるアローネの方へと突き抜けないようにマナのバリアーを張るが空中では踏み留まれず押し流されてしまう。一応は粋護陣の光が他方へと分散させてはいるがこの放射熱線が後ろへと反れてしまえばアローネの身が危うい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「くぅぅ!!

 アッ………アローネ!!

 今の内にどこか安全なところに………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!?」ガッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと背中が急に何かが触れる感触があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「私は貴方を放ってどこにも逃げたりはしませんよ。

 私も貴方と共に戦います。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネが後ろからカオスの背中を支えていた。彼女のおかげでカオスは足場を得ることが出来た。ラーゲッツから放たれる熱線にも踏み留まることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「でっ、でもアローネ!

 これを君が受けたら君は……!!」

 

 

 直接熱線を浴びた身だから分かる。これは自分だから耐えられるのだ。自分以外の者がこの熱線を浴びてしまえばアローネ達でさえも先刻のワイバーンのようにマナを消失させて体が大気に溶けるように消えてしまう。

 

 

アローネ「…何度も言ってきましたよ。

 私達はカオスだけに全てを背負わせたりはしません。

 全てを御自分一人で背負い込もうとなさらないでください。

 貴方一人で戦わせたりはしません。

 私達も一緒に戦います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方が救ってくれたこの命でどこまでも貴方と共に困難を乗り越えていきますから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………アローネ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………………はい…………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……このまま突っ込んでくれ!

 一緒にラーゲッツを倒そう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「はい!!」



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降り下ろされる天剣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「羽虫ガ抗ウンジャネェヨ!!!

 テメェ等ハモウ墜チロオオオオッ!!!」ゴオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

 

 ラーゲッツの大斧から吐き出される熱の放射線は止まる気配がない。長時間熱線を放ち続けられるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…先ずはあの斧をどうにかしないとなぁ………。」

 

 

 両手で粋護陣を張りながらカオスは作戦を考える。現在カオスはアローネと彼女が操るレアバードに乗りながらラーゲッツの周りを旋回している。

 

 

アローネ「突撃するのではないのですか?」

 

 

カオス「そうしたいところなんだけど俺剣が無くなっちゃってさ………。」

 

 

 カオスが持っていた剣はユーラスとラーゲッツから奪ったものでそのどちらともラーゲッツに壊された。なので今カオスに手持ちの剣は無い。剣がなくともラーゲッツに特攻を仕掛けることは出来るだろうが斧で斬り飛ばされるだけだろう。

 

 

アローネ「!

 ………ではこちらを!」

 

 

 剣が無いことをアローネに伝えると彼女は装備していた羽衣を渡してくる。

 

 

カオス「?

 これをどうするの?」

 

 

アローネ「この羽衣はとても使い勝手がいいのですよ。

 これを装備して()()()()()()()()()()()()()()()()()()というイメージを意識してください。」

 

 

カオス「………?

 ………………こうかな………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルシュルシュル………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!」

 

 

 カオスが羽衣を剣を持つイメージをすると羽衣はそれに応えるように形を形成していきやがて剣の形となった。

 

 

アローネ「今の私にお渡しできるのは()()()()()()()

 私はレアバードを操縦しますのでカオスはそれで戦ってください。」

 

 

カオス「………有り難うアローネ!!」

 

 

 思いもしなかった人から剣を渡された。アローネの羽衣にこんな使い方があったとは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「シャラクセェ!!

 チョロチョロト飛ビマワリヤガッテ!!

 コイツデケリヲツケテヤルヨオオッ!!!」パァァァァァァァァァッ!!!!

 

 

 ラーゲッツが一旦黒覇滅封を止めて構えを()()()<()b()r()>()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「来るよアローネ!」

 

 

アローネ「えぇ!!」

 

 

 なんとなくこの後ラーゲッツがとるであろう行動は予測してとれた。ラーゲッツはこれから……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「黒覇滅封・嵐!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒色の覇道滅封が全方位に発射される。カイメラの六射咆哮砲撃(アスタリスク)のラーゲッツ版だ。これを避けるのは不可能だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バアアアアアアアッッッッ!!!!!

 

 

 カオスは羽衣の剣で受ける。アオスブルフを装着した羽衣は先程のように一撃で壊れることはなかった。

 

 

カオス「!!

 今だアローネ!!」

 

 

アローネ「はい!!」

 

 

 今度の黒覇滅封は狙いをつけて撃ったものではない。ラーゲッツが自棄になって全方位に撃っただけの流動力の弱い攻撃だった。だから一度ガードして直ぐに二人はラーゲッツの方へと飛び込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「有り難うアローネ!!

 後はこの剣で俺が………!!」

 

 

 カオスはレアバードからラーゲッツの頭上へと飛び降りた。次の一撃で決着をつける。そう意気込んで。

 

 

ドラゴニュート「!!

 サセルカヨオオオオオオオッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキイイィィィィィィィィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツを斬りつけようとしたらラーゲッツの粋護陣で剣が止められカオスの体が空中で停滞した。

 

 

カオス「!!

 しまっ「食ラエエエエエエェェェェェェェェッ!!!!」」ブオオオンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バゴオオオオオオオオンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの体はラーゲッツの大斧によって天高く打ち上げられてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「コノママ宇宙ニマデ送リ届ケテヤルヨオオッ!!

 

 

 ラーゲッツが黒覇滅封を撃つ体勢に入った。本当に宇宙の彼方にまでカオスを押し飛ばすつもりのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空へと打ち上げられながらカオスは今の一太刀でラーゲッツを仕止められなかったことを省みる。

 

 

 

 

 

 

カオス「(分かっていた………。

 分かっていたんだ。

 アイツにはまだ粋護陣があったこと………。

 アレをどうにかしないと戦いが長引く。

 長引けばまたアローネ達を危険な目に合わせてしまう。

 どうしたらあの壁を………。)」

 

 

 あの防御壁はカイメラの毒撃の六射咆哮砲撃(アスタリスク)さえも防ぎきる。守りの固さはカイメラの御墨付きだ。あれを突破してラーゲッツを倒すには………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「テメェミテェナ嫌ミナ力ヲ持ツ野郎ハコノ星ニイラネェンダ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒覇滅封!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツの黒覇滅封が迫ってくる。一点に収束させたエネルギーは本当にカオスを宇宙にまで打ち上げてしまいそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(……この力………さっきは魔神剣で打ち返せたけど本当は魔神剣よりも破壊力があるよな………。

 ……これどうやって撃ってるんだ………?

 斧にマナを集約してるのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……こんな感じか………?)」パアアアアッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスがマナを込めるとアローネの羽衣の剣にマナが集まっていく。それを飛んできた熱線へと振るうと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズバアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「ウァ……!?ンダトオッ!!

 

 

 熱線は綺麗に両断されてカオスの後ろへと流れていく。熱線の力をカオスの力が上回ったのだ。

 

 

カオス「…こうやって撃ち出してたのか………。

 魔術みたいで使いやすそうだな。」

 

 

 カオスは剣に更にマナを込めてエネルギーを溜める。生半可な力じゃラーゲッツの粋護陣を貫くことはできない。一撃で粋護陣の盾ごとラーゲッツを斬り伏せるつもりでマナを増幅させていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「ヤッヤメロ………。

 ドレダケノ力デソンナモン撃ツ気ナンダ………!?」

 

 

 ラーゲッツは攻撃に使っていたマナを全て粋護陣へとシフトさせる。しかしカオスの膨れ上がったマナに既に覇気を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「これで終わりにするぞラーゲッツ!!!

 今度こそお前をここで倒す!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスがラーゲッツへと落ちていく。二人が衝突するときこの勝負は決着を意味する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴニュート「ウッウオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」パアアアアアアアアアア!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「止めだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()!()!()!()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天と大地の二つを斬り裂く刃がラーゲッツへと振り下ろされた。その一太刀はラーゲッツの粋護陣すらも軽々と破りラーゲッツとの因縁を漸く終結させた………。



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激しすぎた戦いで火山が………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一振りが浴びせられる直前にラーゲッツは自身の終わりを悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼がこの世に生まれてからの百五十年が次の瞬間には全てが消えてしまうのを感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分は今日ここで一太刀を浴びて死ぬために生きてきたのだと………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「天昇天斬!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツの世界が真っ二つに裂かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!

 

 

 ローダーン火山に衝撃が走る。カオスの放った斬撃で火山が崩落を始める。とてつもない一撃によってマグマが噴出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………あぁ!?

 ヤバイ!!

 皆が………!!?」

 

 

 斬撃を叩き込んだ後でカオスは焦った。カオスが撃った一撃の威力が凄まじすぎてローダーン火山が噴火と崩落を始めた。ここにいては災害に巻き込まれるがシュメルツェンにはまだタレス達が残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「カオスさん!」

 

 

 仲間達の安否を確認しようと當を見回しているとカオスの方へカーヤが駆け付けてきた。

 

 

カオス「カーヤ!!

 皆は!?」

 

 

カーヤ「あっちの方………!

 でもカーヤだけじゃ皆を運びきれなくて………!」

 

 

カオス「分かった!

 直ぐ行くよ!」

 

 

 カオスとカーヤの二人は皆が倒れているバショヘト向かった。そこには先にアローネが到着していて、

 

 

アローネ「カオス!」

 

 

カオス「アローネ!

 皆は………!?」

 

 

アローネ「まだ気絶しています………!

 直ぐにレアバードに乗せて脱出したいところですが全員が乗るにはレアバードの数が………!」

 

 

 おおよそレアバードの搭乗出来る人数の限界は一機に二人。アローネの所有するレアバードとカーヤのとで四人まで乗れる。しかしここにいるメンバーは全員で七人と一匹で半分はレアバードに乗れなくなってしまう。最悪体重の軽いカーヤなら同じく体重の軽いタレスとミシガンの三人で飛ぶことは出来ても結局三人がレアバードには乗れない。カオス達は悩むが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………………ンンッア………?

 ………悪い………。

 寝過ぎたようだな………。

 状況は………?」

 

 

カオス・アローネ・カーヤ「「「!」」」

 

 

 ここでレイディーが目を覚ました。奇跡的に目覚めた彼女は直ぐにカオス達と辺りの景色を見て状況を察してくれた。

 

 

レイディー「………なるほど………こりゃやべぇ時に目が覚めたもんだ。

 それとも良いタイミングだったか………?

 ほらさっさとこんなとこズラかるぞ。」

 

 

 レイディーは服の中からウイングバッグを取り出してレアバードを展開する。

 

 

アローネ「!?

 貴女もレアバードを………!?

 どこでそれを………。」

 

 

レイディー「そんなの一々説明してる時間も惜しいだろ?

 お前らも早く寝てる奴等担ぎ込めよ。」

 

 

 レイディーは(恐らく何も考えずに)ウインドラを自分のレアバードに乗せる。これでレアバードは三機。カオスとメーメー以外の仲間達全員がレアバードに搭乗出来た。

 

 

アローネ「ではカオスとメーメーも私のレアバードに………。」

 

 

メーメー『おう。』

 

 

アローネ「!!?」

 

 

 メーメーが共鳴のテレパシーで話しかけてきたことに驚くあろーだったがカオス達意思がある三人が何も驚かないでいるのを見て疑問を訴えるのを控える。

 

 

カオス「俺はいいよ。

 皆乗ったんなら先に逃げて。」

 

 

アローネ「何を仰っているのですか!

 こんな時に!

 カオスだけをこの場に残して私達だけで「俺ならここから飛び降りられるからさ。」………え?」

 

 

 アローネが何かを言い出す前にカオスはシュメルツェンの外まで駆け出す。火山の頂上付近ということもあってカオスは直ぐに火山の崖の方に辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「じゃあ先に行ってるから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一言を言い残してカオスはローダーン火山を飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………何だ今の………?

 盛大な他界か?

 ()()()()()()()()()()()()()だけに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローダーン火山 麓 深夜 残り期日八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュメルツェンにいたブルカーン族達はローダーン火山を下山していた。

 

 

オリヘルガ「急げ!!山が崩れてくるぞ!!」

 

 

「オリヘルガ!!

 シュメルツェンが………!?」

 

 

オリヘルガ「そんなの気にしてる場合か!!

 もう俺達の街は」

 

 

「クソッ!

 アイツ等のせいで…!!」

 

 

オリヘルガ「無駄口叩くな!!

 生きてるだけマシだろうが!!」

 

 

「でもドワイトやジグル達が……!!」

 

 

オリヘルガ「今は生き残ってる奴のことだけを考えろ!!

 住むところなんてまたどこででも探せば良い!!

 イフリートから親父達が守ってくれた命なんだぞ!!

 こんなところで山崩れなんかで消えて良い命なんかじゃないんだ!!

 もうこれ以上一人も欠けることは俺が許さんぞ!!」

 

 

 オリヘルガがブルカーンの仲間を先導しひたすら山を駆け降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!

 オリヘルガ!!

 上から何か降ってくるぞ!!」

 

 

オリヘルガ「火山岩か!!

 皆降ってくる物に気を付けて当たらないように「おわっと!!」!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………いっつ~………。

 バリアー使ってるのに結構足腰に響くなぁ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火山を降りる彼等の行く手にカオスが降ってきた。オリヘルガ達はカオスの登場で足を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガはカオスを前にしてブルカーンの終わりを覚悟した………。



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ブルカーンとの和解

ローダーン火山 麓 深夜 残り期日八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オリヘルガ!!

 こいつは……!?」

 

 

「シュメルツェンでラーゲッツとやり合ってた奴だ!!」

 

 

「アイツがイフリートが探してたカオスって奴なんだろ!?」

 

 

「ちょっと待て今コイツどこから降ってきた!!?」

 

 

「イフリートとラーゲッツはどうしたんだ!?

 ………まっ、まさか!?」

 

 

「いや………あり得ないだろ!?

 イフリートはヴェノムの主だぜ!?

 ラーゲッツもヴェノムに変わってたしアイツ等がやられたなんてことは………!?」

 

 

 カオスの登場で崩落する山のことを忘れてカオスについての話を始めるブルカーン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「イフリートとラーゲッツなら倒しました。

 もういませんよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!!!?」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの宣告にブルカーン達は驚くが直ぐにそれを信じることはなかった。

 

 

「うっ、嘘だ………!

 あのイフリートが倒されたなんて信じられねぇ。」

 

 

「お前がやったとでも言うのかよ!?」

 

 

「出鱈目だ!

 貴様の言葉を信用するに値せんな!!」

 

 

「そこをどけ!

 どかないなら排除するぞ!!」

 

 

「元より貴様等とは敵同士!

 一人で我等の前に立ちふさがったことを後悔するのだな!」

 

 

 

 

 

 

「一人ではありませんよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスとブルカーンが睨み合っている間にレアバードに乗ったアローネ、カーヤ、レイディーも合流する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「このような場所でのんびりと過ごしているお暇があるのですか?

 早く避難しなければ雪崩に巻き込まれますよ?」

 

 

レイディー「イフリートとラーゲッツが倒されたってのは真実だぜ?

 もうお前等ブルカーンを縛り付ける野郎はどこにもいねぇ。

 なんならお前等もう一回シュメルツェンに戻って確認してきたらどうだ?」

 

 

カーヤ「?

 戻ったら危ないよ?」

 

 

メーメー『ゴシュジン、

 タダノヒニクニハンノウシチャダメダゼ。』

 

 

 続々とカオスの周りに仲間が集まってくる。ブルカーンからすれば敵が全員合流してしまった状況だ。

 

 

「どっ、どうする!?

 バルツィエの乗り物に乗ってるってことはコイツら皆バルツィエってことか!?」

 

 

「そんな筈はない!

 奴等の何人かはバルツィエじゃない者もいる!

 オリヘルガが捕まえてこれたのが証拠だ!

 奴等ただアレに乗ってるだけだ!!」

 

 

「バルツィエじゃなくてもあの乗り物に乗ってる二人さっきラーゲッツと戦ってたぞ!?

 感染者じゃないのか!?」

 

 

「何!?

 ヴェノムに感染してる奴までいるのか!?」

 

 

「だったら何で会話が出来るんだ!?

 感染者は理性を失って言葉を話すことなんて出来ないだろ!?」

 

 

「でもラーゲッツは理性を失ってなんかいなかったぞ!?

 それなのにドワイト達はヴェノムに感染していた!!

 またバルツィエが新兵器を開発してヴェノムの精神汚染をどうにかする薬でも作り出したんじゃないか!?」

 

 

「だとするとそれもコイツ等が使って………!?」

 

 

「そうだとしたら俺達がコイツ等と戦っても感染して死ぬだけじゃ………!」

 

 

「にっ、逃げた方がいいんじゃねぇか!?

 こんな奴等相手にするのが間違ってる!!

 オリヘルガ!!

 ここは相手にしないで早く皆を連れて………!?」ドサッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガの取った行動にその場にいた全員が静まり返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガは膝をついて武器を前に置き両手を手を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………何のつもりだそれは。」

 

 

 この静かな空気の中レイディーがオリヘルガのとった行動に質疑する。

 

 

「オリヘルガ!

 何やってるんだ!?

 そんな()()()()みたいに「黙れ!!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「よく考えてみろお前等………。

 イフリートが何で俺達を見捨てたのか………俺達を見捨ててまで何でそこにいるバルツィエを欲しがったのか………どうしてコイツ等がここに来てイフリートもラーゲッツもここにいないのか………。

 ………長年イフリートを見てきた俺達なら分かるだろ………?

 イフリートにこのローダーン火山をこうまで破壊する力は無かった。

 ラーゲッツだってこんな破壊が出来るなら最初からシュメルツェンごと俺達を爆砕していた筈だ。

 それをしなかったのはアイツ等がそれを出来なかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このローダーン火山をこんなにしたのはお前達………、

 ………いや………お前なんだろ………?

 ()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「そんな呼ばれ方をするのは不本意だけどそうだよ。

 俺がちょっとやり過ぎてこうなったんだ。

 

 

 ゴメンね。

 シュメルツェン消しちゃったみたいで。」

 

 

 謝罪はするが大して反省はしていないカオス。カオスからすれば先に手を出してきたのはブルカーン達の方だ。仲間を捕らえられて少しやり返した気分になったので口だけの謝罪の言葉でおあいこにしろと言わんばかりの態度だ。

 

 

「こっ、コイツがこれを………!?」

 

 

「どこにそれだけの力がコイツに………!?」

 

 

「ほっ、本当なのか………!?

 本当にイフリートがこんな奴等に倒されたって言うのか………?」

 

 

レイディー「だから何度もそう言ってるだろ。

 ………そんで後残ってるのはアタシ達と………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イフリートに命令されていたとはいえアタシ達を捕まえようとしてきたお前達ブルカーンだけだ。

 ………どうすんだ?

 そこのソイツは抵抗する気はねぇようだがアタシ達もただの謝罪なんかでお前達を許したりはしないぞ。」

 

 

 レイディーはブルカーン達にケジメを付けさせたいようだ。ブルカーンがイフリートに操られていた事情は知っていたがそれでもカオス達側からしてみればそれで許せるかは違う話である。あと数時間カオス達が攻め混んでなければアローネ達はイフリートに殺されていた。結果的にそれを未然に防ぐことは出来たが命を危険に晒されたことに違いはない。

 

 

アローネ「レイディー………、

 私達は別にそこまで気にはしていませんよ。

 ………私達の知らない事情があるようですしここは穏便に事を解決にはかるのが宜しいかと………。」

 

 

レイディー「甘ったるいこと口にしてんじゃねぇよ。

 今はイフリートがいなくなったことでコイツ等はアタシ達を攻撃する理由が無くなったけどな。

 コイツ等は自分達が助かりたいがために関係無い連中を拉致してはイフリートの土産にしていたんだ。

 早々そんなことをアタシ達の一存で許していい筈がねぇ。

 アタシ達がやらずとも他の部族の連中は黙ってねぇだろうよ。

 どこかで落とし前を付ける必要が「俺が全部やったことだ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………俺がイフリートの命令を聞いてフリンク領からフリンク族を捕らえて来たりカルト領やブロウン領に行ったりしていた。

 六年前からずっと俺が一人でやっていたことだ。

 他の奴等は何もしてねぇ。

 精々俺が捕まえてきた連中が逃げないように見張ってただけで何もしてねぇ。

 お前達の仲間を捕らえたのも俺がやったことなんだ。

 

 

 俺一人を処断して手打ちにしてくれないか………?

 仲間達は見逃してほしい………頼む………。」

 

 

 オリヘルガはそう言って頭を下げる。ブルカーンの仲間のためにオリヘルガは一人で裁きを受けることを申し出た。オリヘルガの潔さにはカオス達も彼を問い詰めることに躊躇するがそんな中で一人彼の発言を否定する者がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………違うよ………。

 お兄さんは何も悪くない………。

 悪いのはイフリートを生み出したカーヤだよ………。

 責められるなら………カーヤの方だよ………。」

 

 

 カーヤがオリヘルガの言ったことを否定して自分を責めるように言う。

 

 

オリヘルガ「………?

 さっきもそんなこと言ってたが一体何のことだ………?」

 

 

カオス「…えと………。」

 

 

アローネ「………ダレイオスのヴェノムの主達はとある事故から誕生したのです。

 一先ずはここを移動きしてからご説明致します。」

 

 

 カオス達はブルカーンにヴェノムの主の誕生秘話を話し出す。一応は彼等も被害者であることに変わりはないので場所を移して一から順に説明を講じることにした………。



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散り行く花弁

ハイス草原 残り期日八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………その話は本当のことなのか………?」

 

 

アローネ「えぇ………。

 フリンク領にてこの事実が発覚しました。」

 

 

オリヘルガ「ヴェノムの主が………そんなふうに生まれて………。」

 

 

 ローダーン火山から一度カオス達はブルカーン族を引き連れてハイス草原まで戻ってきていた。ローダーン火山周域は現在火山の崩壊と噴火で立ち寄るの被災地と化した。なので落ち着いて話せる場所までブルカーン族を連れてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………じゃあその女のせいでギランの兄貴達が………!」

 

 

レイディー「おっと!

 そいつを恨むのは筋違いだ。

 ヴェノムの主が誕生した経緯についてはその娘が原因だがそもそもはその娘は父親である()()()()()()()()()()()()()()()()()始まっている。

 ラーゲッツの馬鹿野郎が余計な寄り道をしたせいでダレイオスはこんなヴェノムにまみれた場所になったんだ。

 もっと突き詰めていけば結局ラーゲッツをダレイオスに寄越したバルツィエのフェデールのせいでもあるがな。

 ヴェノムに感染することなんて今のデリス=カーラーンならどこででも起こりうることだろ?

 その娘はそうして感染しただけだ。

 お前達ブルカーンのここ百年の歴史を振り返ってもブルカーンの中の誰かが感染してそれが他のまたブルカーンの奴に感染して沢山死んだって話ざらにあんだろうよ。

 ラーゲッツの娘に関しては偶々感染してからもヴェノムに飢餓が起こらなかったってだけの話だ。」

 

 

オリヘルガ「…じゃあ俺達の敵は始めから変わらずバルツィエかよ………。」

 

 

 一瞬ブルカーンの怒りがカーヤに向きかけたがレイディーがフォローしたことによりそれを回避できた。それとなくレイディーが立場の弱い者に対して優しさを見せる場面であった。

 

 

アローネ「…というかレイディー、

 貴女が何故ここに………?」

 

 

ウインドラ「普通にカーヤのことを知っているがいつの間に合流していたんだ………?

 昨日もカオス達と一緒にラーゲッツと戦っていたが………。」

 

 

 カオス達とアローネ達が再開した時にはまだラーゲッツとの戦闘が続行していたためにレイディーがどうしてカオスとカーヤの二人と共にいるのか皆は訊ける状況ではなかったためアローネ達がそこをついてきた。

 

 

ミシガン「やっぱりカーヤちゃんが見付けた氷の魔術の使い手ってレイディーのことだったんだ。

 だからレイディーがいるんでしょ?」

 

 

レイディー「ん?

 何だゴリラ。

 お前知ってたのかよアタシがあそこにいるってこと。」

 

 

ミシガン「カオス達は別の人だと思ってたけどね。

 私はレイディーだって思ったよ。

 だってレイディーもこっちの方に来てるって話だったし。」

 

 

カオス「ミシガンは最初からレイディーさんがいるって分かってたの?」

 

 

ミシガン「なんとなくだったけどね。

 ハンターさんとステファニーさんは二人でも住める安全な土地を探して旅することにしてたんだよ?

 だったらいつまでもあんな危ない火山のところにいないでしょ。

 寒い地方に住んでたステファニーさんがいるんだから火山の近くになんていられないだろうし。」

 

 

ウインドラ「むう………、

 言われてみれば確かにあの二人があんなところに来るのも変な話だったな。」

 

 

タレス「レイディーさんだって気付いてたならボク達に教えてくれても良かったんじゃないですか?」

 

 

ミシガン「私も確証が無かったし本当にレイディーがいるのかどうか分からないでしょ?

 もしかしたら本当にステファニーさんがいるのかもしれないしそれか全然私達の知らない人がいるのかも知れなかったし。」

 

 

レイディー「まぁ運よくアタシがいてお前達助かったな。

 坊やだけだったら自分が死んでもお前達を助けだそうとしてたぞ?

 ドでかい魔術でブルカーンをシュメルツェンごと吹き飛ばそうとしてたくらいだしな。」

 

 

ブルカーン「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」

 

 

オリヘルガ「まっ、まさかそんなこと………。

 本当に出来たりは「まぁレイディーさんのおかげで思い止まりましたがね。」(出来るのか!?)」

 

 

カオス「………それとレイディーさん………。

 すみませんラーゲッツ………俺が倒しちゃって………。

 カーヤも………。」

 

 

 話を始める前からレイディーには謝りたかった。レイディーの目的は殺魔のマナの力を浴びてその身に付加された精霊の力を取り払うこと。それはラーゲッツを倒したことによって叶わなくなってしまった。

 

 

レイディー「………アタシの方は気にすんな。

 イフリートもアタシに使うつもりは無かったみたいだしラーゲッツの方も手加減なくアタシを殺す気で殺魔の力を使ってきた筈だ。

 あんなもん食らったらアタシはそのまま蒸発してたことだろう。」

 

 

カーヤ「カーヤも………パパが悪い人だってことはもう分かったから………。

 カーヤを助けてくれたカオスさん達の敵になるんならカーヤの………敵………。」

 

 

 口ではラーゲッツを敵と言うカーヤだが簡単に受け止めきれる問題ではないことは想像できる。後でカーヤにフォローしておこうと思うカオス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………()()()()()()()()()()()………。」

 

 

ウインドラ「!

 ………あぁ。

 約半年もかかったが俺達はとうとう依頼を完遂した。」

 

 

タレス「これでダレイオスのヴェノムの主………九体の悪魔達は全部倒しました。」

 

 

ミシガン「後はダレイオスにいる皆でマテオと決着をつけるだけだね。」

 

 

レイディー「依頼だぁ?

 お前達慈善精神で望んでたんじゃねぇのかよ?」

 

 

カオス「セレンシーアインでスラート族からヴェノムクエストということで俺達ヴェノムの主と戦って来たんですよ。」

 

 

アローネ「それもイフリート討伐で無事仕事を完了させることが出来ました。

 

 

 ………ここまでよく誰一人欠けずにやってこれましたね………。」

 

 

ミシガン「ヴェノムの主皆強敵揃いだったもんね………。

 私カイメラ戦が一番ヤバイと思ったよ。」

 

 

メーメー『ソレハテコズラセタヨウダナ。

 オレガツヨスギタノガイケナカッタカ。』

 

 

タレス・ミシガン・ウインドラ「「「!!?」」」

 

 

カーヤ「メーメーさんはカーヤのために戦ってくれてたんでしょ?」

 

 

メーメー『ゴシュジンノテキハオレノテキダ。

 コイツラモゴシュジンヲイジメルワルイヤツラダトオモッタンダガチガッタヨウデヨカッタゼ。』

 

 

カオス「お前はカーヤをダレイオスの人達から守るためにあんな姿になってまで戦い続けてきたんだ。

 ………もうお前もカーヤの………俺達の仲間だよ。」

 

 

メーメー『………ソウカイ。』

 

 

アローネ「………メーメーのことは後でお訊きするとして今はこれからのことをブルカーンの人達に説明するべきでしょう。

 

 

 私達はダレイオスをヴェノムの主から解放したのですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達がスラート族から依頼を受けて半年、精霊王マクスウェルから世界の破壊を宣言されてから半年………。カオス達は漸くダレイオスをヴェノムの主の魔の手から救いだした。ヴェノムの主は屈強な力を持つ敵ばかりだったがここまで誰も犠牲にならずにすんだ。後はマテオとバルツィエとの決着を付けて世界を平和に導く………それだけだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この時は誰も予測することが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マテオとダレイオスの戦争を解決した蹟に訪れるであろう悲劇の世界を………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスを救った七人と一匹の英雄達………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この中から()()の命が失われてしまうことなるとは………。



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レイディーの完全合流

ハイス草原 残り期日八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「…本当にいいのか?

 俺達はお前達をイフリートの奴に………。」

 

 

アローネ「えぇ、

 事情はレイディーから伺いました。

 貴殿方のことに関しては特に私達から責任を追及するようなことはしません。」

 

 

カオス「ヴェノムウイルスのことについては俺達もどれ程危険なものなのかは知ってますから。

 ………命令されれば従うしかありませんよね。」

 

 

タレス「やられた分はやり返す………そうしたいところですが幸いにもボク達の中から犠牲になった人はいないので不問にすることにしてあげましょう。」

 

 

ミシガン「その代わりにブルカーンには他の部族達と合流してほしいの。

 ダレイオスはこれからマテオと決着を付けないといけないから。」

 

 

ウインドラ「ここでのことは包み隠さず全部話しておけよ。

 後で俺達が合流したときに変に取り繕ってあれば揉め事が起こる。

 揉め事は大きくならない内に処理しておけばいいさ。」

 

 

レイディー「フリンク族が色々言ってくるだろうがそこは御互い様ってことにしておけ。

 ヴェノムの主の起源はフリンク族だがお前達は何も知らずにフリンク族を拉致してたって話だからな。

 互いの犠牲者の数え合いなんかしても話がややこしくなるだけだろ。」

 

 

オリヘルガ「………あぁ。」

 

 

 カオス達はブルカーンにダレイオスの現在の状勢を説明した。彼等とは一日前までは敵同士だったがイフリートがブルカーンを支配していたからと言うこともあって一旦はそのことで言い合うのは止めることにする。

 

 

アローネ「恐らくセレンシーアインに向かえば他の部族の方々とお会いできますのでこれからそちらの方へ出発していただけますか?」

 

 

オリヘルガ「準備が出来たらな。

 ………まだ急なことで整理がついてないんだ。

 皆と今後どうするかを一度話し合っておきたい。」

 

 

タレス「そんなこと言っても今加わらなければこの先同盟を組む機会なんて無いと思いますよ?

 あんまり時間をかけてるとバルツィエの本体がダレイオスにやってきて戦争が開始されるでしょうし。」

 

 

オリヘルガ「お前達のその話が纏まったのは今から約半年くらい前なんだろ?

 それからバルツィエが本腰上げて戦争しに来たなんて話が無いんならまだ当分はバルツィエも動けずにいるってことだ。

 そんなに慌てなくてもいいだろうぜ。

 ………大切なことなんだ。

 即決することは難しい。

 今まではイフリートの奴が全部取り仕切ってたからな。」

 

 

 イフリートがブルカーンを支配していた間はヴェノムによる災害は全てイフリートによって守られてきた。同時にイフリートがマナを集めるために要求する食料を賄うためにブルカーンの中から上の権限を持つ者達からイフリートに食われていった。実質オリヘルガがブルカーンを纏めているようにも見えるが彼にもまだ族長代理としての立場になるには荷が重すぎるようだ。これからのことは一度ブルカーンだけで話し合ってから他の部族達とどうするかを決めるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………で?

 これからお前達はどうするんだ?」

 

 

 ブルカーン達と一度別れてからカオス達だけになってレイディーがそう訊いてきた。

 

 

アローネ「どうするって………レイディーこそどうするのですか?」

 

 

レイディー「アタシか?

 アタシは………まぁお前達がヴェノムの主を全部倒しやがったんだ。

 他に殺魔のマナを扱えるヴェノムがいないか探そうと思ってるよ。」

 

 

カオス「!

 またアスラを探すんですか………?

 レイディーさんがやろうとしていることは殺魔の力を浴びた俺から言わせてもらうと絶対に危険ですよ。

 ………アレは人が浴びせられていい力じゃない。

 レイディーさんだって見たでしょ?

 シュメルツェンでイフリートがワイバーンに殺魔の炎を使ってワイバーンがどうなったか………。」

 

 

 イフリートはカオス達を攻撃する時大斧と通常の炎の攻撃のみで殺魔の力を使おうとしなかった。その理由はカオス達を消滅させてしまってはその力が手に入らないからだと言う。

 

 

 殺魔の力を文字通り殺戮の力だ。浴びれば生き物だろうが魔術だろうが全てを灰にしてしまう。………下手したら灰する残らない。カオスがその力を浴びることが出来たのは殺魔の力よりも精霊マクスウェルの膨大なマナの力がカオスの体を守っていたからだ。それでもマクスウェルが貯めていたマナを大分減らされてしまいそのおかげでカオスも変異したラーゲッツと互角以上に戦うことが出来たわけだが精霊を憑依させていない者が浴びれば恐らくあのワイバーンのように体が崩壊していくことだろう。例え精霊の力を付加された者達であっても………。

 

 

レイディー「そうだったとしてもだ。

 アタシはそのためだけにダレイオスまで来たんだ。

 世界を回ってアタシの精神を元に戻すにはもうそれしか見つからねぇ。

 その方法だけがアタシを救える最後の手掛かりなんだ。

 

 

 …辛いぜ?

 絶対に辛い時に辛いと思えないのは。

 この百年アタシは一度も涙を流したことすらない。

 その間にアタシと仲良かった奴なんか百人は逝ってる。

 奴等の葬儀の時にはアタシは奴等が死んでなんとも思わなくて周囲からは冷血な女だと言われてきた。

 そいつらからしてみれば研究者のアタシは人の命を実験対象だとしか思ってないんじゃないかって噂してたぐらいだ。

 …………そんな馬鹿な話あるわけないのにな。」

 

 

カオス「………」

 

 

ミシガン「………だったらさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その殺魔の力?………ってのを使えるヴェノムが現れるまでレイディーも私達と一緒にいてよ。」



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紙片の燃え残り

ハイス草原 残り期日八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「あん?

 何言ってるんだ。

 アタシとお前達とでは目的が違うだろ。

 アタシは自分の精神病を治すために旅してんだ。

 お前達の旅の目的はバルツィエを倒してミストに砦を建設させないようにするためだろうが。

 何でそれにアタシを巻き込もうとすんだ?」

 

 

ミシガン「でもレイディーだってどこかに行く予定が無いんでしょ?

 何かイフリートを宛にしてここに来たみたいだしイフリートが倒されたんならレイディーだってどこに行けばその殺魔の力を持つヴェノムに会えるか分からないんだし。」

 

 

レイディー「人を勝手に暇人にするんじゃねぇよ。

 予定なんかいくらでもあるっつーの。」

 

 

ミシガン「ふぅん?

 じゃあどこに行くの?」

 

 

レイディー「そりゃあ………。

 まだお前達が行ってないところとかあるだろ。

 お前達がダレイオスで回ってたのは人里が主なんだろ?

 そこ以外でもしかしたらヴェノムの主とまではいかずともそれに近いアスラがいるだろうよ。

 アタシとはそいつを探す。

 お前達とはここで「俺達と一緒に来た方がいいかもしれませんよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「レイディーさんが探してる殺魔の力を持つヴェノム………。

 それなら新しい個体を探すよりも()()()()()()()()()()()()んじゃないですか?」

 

 

 

 

 

 

レイディー「!」

 

 

 レイディーを同行させようとするミシガンに乗っかってカオスがレイディーにそう助言した。

 

 

タレス「…どうしてレイディーさんはその殺魔の力を持つヴェノムを探してるんですか?」

 

 

カオス「ちょっと訳ありなんだけどそれはまた後でレイディーさんから訊いてみて。

 ………それでどうですか?

 俺達と一緒にバルツィエと戦いませんか?」

 

 

レイディー「…アタシがお前達と一緒になってバルツィエと戦うメリットは何だ?

 アタシがこうなったのはバルツィエの薬のせいだぞ?

 アタシからしてみれば奴等に関わって得るものなんて「ラーゲッツが殺魔の力を使ってたじゃないですか。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「バルツィエが開発した新型ワクチン………他にも使うバルツィエがいてもおかしくはありませんよね?

 ランドールとかフェデールとか………。

 そいつらと出会った時にそいつらがラーゲッツのように殺魔の力を使ってきたらどうですか?」

 

 

レイディー「………!」

 

 

アローネ「他のバルツィエがラーゲッツのように………!

 ………十分にあり得る話ですね。

 フェデールはともかく先見隊のバルツィエは皆持ち合わせてると思っていいと思います。」

 

 

ミシガン「あんなのがまだ他にもいるって言うの!?」

 

 

ウインドラ「残念ながら無い話ではないな。

 ワクチン開発などは確実に()()を視野に入れて作られる。

 ラーゲッツ一人があの力を持っていたと言うのは考えにくい。

 ダレイオスに派遣された先見隊は皆あの力を使えると見ていいだろう。」

 

 

タレス「あんなのが他にも………。」

 

 

カオス「薬の力は使ってましたがラーゲッツは感染しても精神を失わないヴェノム………アスラでしたよね。

 殺魔の力だってラーゲッツは使っていた。

 ならレイディーさんは俺達と一緒にバルツィエと戦うのが一番なんじゃないですか?

 他にどこにいるかも分からないアスラを探すよりかはその方がレイディーさんの症状の解決の近道だと思います。」

 

 

レイディー「………確かにな。

 坊やの言う通りだ。

 殺魔の力を持つヴェノムは希少種だ。

 数百万に一体いるかいないか。

 それがそこのラーゲッツの娘によって生産された九体が消えてもう十体目以降を期待出来ないとなるとアタシも他のアスラを探す宛が見つからん………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………しょうがねぇな。

 お前達とバルツィエの決着アタシが見届けさせてもらうとするかぁ。」

 

 

 レイディーはカオス達の旅に同行することを決めた。

 

 

カオス「レイディーさん!」

 

 

アローネ「悔しいですが貴女の力は今の私達にとっても必要な力です。

 私達が十日以上も時間をかけてしまったイフリート討伐を一日で果たしてしまうほどですから。」

 

 

タレス「あまり皆の空気を悪くする発言は控えてほしいですけどね。」

 

 

ウインドラ「これから貴女のお力を頼りにさせてもらうぞレイディー殿。」

 

 

ミシガン「もう!

 一々理屈っぽいんだから!

 素直に仲間になってよ!」

 

 

レイディー「アホ。

 アタシは世界を旅行するためにレサリナスを飛び出したんじゃねぇんだ。

 アタシなりの目的あっての旅だ。

 その旅がお前達の目的と偶然重なっただけだ。

 アタシにもバルツィエと会う理由が出来た。

 ならお前達と一緒にいてやってもいい。

 アタシがいる間はお前達のことをぞん分に利用するつもりだから覚悟しろ。」

 

 

ミシガン「うげぇ………。」

 

 

アローネ「本当に素直じゃない方ですね。」

 

 

タレス「全くですよ。」

 

 

 こうしてカオスのチームに正式にレイディーが加わった。彼女とはこれで三度目になるが今回の参加は長い付き合いになることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………それで一つ思ったんだが………、

 イフリートは討伐………ってかラーゲッツが倒したことになるんだろうけどよ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精霊の方はどうなってるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!!」」」」」

 

 

 ラーゲッツを倒した直後ローダーン火山が崩れ始め避難することに夢中ですっかりそのことを忘れていたカオス達。

 

 

レイディー「イフリートが倒されたって言うなら………、

 ()()()()()()()()()()()()()()()ってのを果たしたことになる。

 精霊はなんて言ってるんだ?」

 

 

カオス「精霊王マクスウェルは………何も………。」

 

 

 時折精霊マクスウェルはカオスに内側から語りかけてくるが今は無言だ。語りかけようとしても何の反応も示さない。

 

 

アローネ「ヴェノムの主達は全て討伐し終えました。

 これで世界は精霊王マクスウェルによって破壊されることは無い筈です。」

 

 

ウインドラ「…ヴェノムの主は討伐したのに当の本人は何も言ってこない………。

 どういうことだ………?」

 

 

タレス「試練をクリアしたかしていないかぐらいはハッキリ言ってきてほしいですね。」

 

 

ミシガン「え………!?

 まさかまだ終わってないの………?

 ヴェノムの主まだ倒してないのとかいないよね!?」

 

 

カオス「そんな筈無いよ………。

 ヴェノムの主は全部俺達が倒して「!パパが………!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ローダーン火山の方で………またパパのマナを感じる………!

 パパはまだ生きてるよ………!」

 

 

 会話に加わらなかったカーヤがローダーン火山の方角を見ながらそんなことを言った。

 

 

アローネ「何ですって!?」

 

 

カオス「あれだけ攻撃したのにラーゲッツがまだ………!」

 

 

ウインドラ「二度も復活を遂げた奴だからな。

 三度目があってももう何とも思わん。」

 

 

レイディー「ラーゲッツが生きてやがったか………。

 だったら直ぐにラーゲッツのところに向かうべきだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 カオス達は再びローダーン火山にいるというラーゲッツのところへと向かった。ラーゲッツを倒さねば世界は精霊によって破壊される。ラーゲッツが生きているのであればそれを見失った時こそが世界の終焉を迎えるということなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「(………でもこのパパのマナの感じ………。

 …………とても凄く弱い………。

 このマナだとパパはもう………。)」



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世界に意思はあるか

ローダーン火山 麓 残り期日八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

 

 ローダーン火山は半壊し溶岩が流れ出ていた。噴出する煙は空へと立ち上ぼり奥の方に行けば行くほど黒くなっていく。

 

 

レイディー「…すまんがアタシはここから先へは行けそうにねぇ………。

 暑くて暑くて死にそうだ………。」

 

 

 溶岩が目と鼻の先と言うぐらいまで近付いてレイディーが溶岩の熱に根をあげる。

 

 

ウインドラ「俺もこの熱気には耐えられんな………。

 本当にラーゲッツはこの中で生きてるのか?」

 

 

カーヤ「うん………。

 この先にパパが………。」

 

 

ミシガン「この先って………もうこれ以上進めないよ………?」

 

 

 火山崩壊によって吹き出てくるマグマは現在進行形でカオス達がいる場所へと迫ってきている。時期にマグマは範囲を拡大して他の地方へと影響を及ぼすだろう。

 

 

カオス「このままこれを放置することも出来ないよね………。

 ………なら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『アイスニードル!』」パキィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが溶岩に氷の魔術を撃つ。半端な力では溶岩に対して氷を撃つのは危険な行為だがカオスの力は一瞬で溶岩を固まらせて周囲の温度を冷やしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………圧巻だな。

 溶岩がこんな一瞬で熱を奪われるとは………。」

 

 

アローネ「そんなに魔術を多用して大丈夫なのですか?

 カオスは先日まで魔力機能障害を起こしていたのに………。」

 

 

カオス「大丈夫だよ。

 ラーゲッツの殺魔の炎で大分マクスウェルの溜めてたマナが削られたんだ。

 今はもうすっかり元の状態に戻ってるよ。」

 

 

 アローネがカオスの体調を心配してくるがカオス自身今はもう不調は感じてはいなかった。精霊はまだマナを大気から吸収はしているがアルターでのような状態になるにはまだ当分時間に余裕がある。

 

 

ウインドラ「その殺魔と言うのは俺達が毒撃と呼んでいたあの力のことか?」

 

 

カオス「うん。

 あれの本当の名前が殺魔のマナって言うらしいんだ。」

 

 

ミシガン「殺魔のマナ………?

 それってバルツィエ達がそう呼んでるの?」

 

 

レイディー「奴等の間じゃそ呼ばれている。

 あの力は具体的に説明するなら()()()()()()()()()だ。

 普通の障気は吸いさえしなければ特に影響は無いが殺魔の障気は触れるだけで生物が持つマナ……の奥深くにある()()()()()()()()を破壊する。

 破壊されれば生命はその姿形を保つことが出来ずに霧散する。

 ワイバーンがイフリートに消されたのもそのせいだ。」

 

 

タレス「あの黒いのが障気………。

 ………それでその殺魔の力を持ったヴェノムを何でレイディーさんは探していたんですか?」

 

 

ミシガン「そうだよそろそろ教えてよ。

 レイディーが一人で旅していた理由。

 何でレイディーはその殺魔の力が必要なの?」

 

 

レイディー「アタシの精神病を治すのに必要なんだよ。

 そのためにも一度アタシは精霊の力を失わないといけない。

 精霊の力はアタシ達の体の性質を異常に丈夫にする効能があるからな。

 精霊の力があったままだとアタシ達は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付いてるか?

 アタシ達が成長が止まってること。

 半年前から髪の毛も殆ど伸びてねぇだろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

レイディー「お前等気軽にこの力を他の奴等にも分け与えているみたいだが言ってしまえばこの力は不慮の事故でも起こらない限り死ぬことが出来なくなったんだ。

 アタシなりに考えた結論はこの力は()()()()()だ。

 寿命という概念が精霊みたいに無くなっちまった。

 食事をしたり用を足したりはするみたいだからまだ生きてるって実感はあるがアタシ達の成長はかなり遅い。

 エルフの寿命が約千年と言われているがアタシ達はその十倍以上は長く生き続けられるだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()はな。」

 

 

ウインドラ「俺達の体にそんな変化が………。」

 

 

タレス「ボクは………ずっと子供のままなんですか………?」

 

 

ミシガン「私達って子供とかも作れないの?」

 

 

レイディー「それはまだ分からんな。

 アタシも試したことがねぇよ。

 だが不用意に力を配りすぎたのは確かだ。

 世界ってのはバランスよく生命が生きられるように出来てる。

 新しい命が生まれれば古い命はいずれ消えなくちゃならん。

 それが新しい命が増え続けて古い命がいつまでもあり続けると人口は直ぐに世界に収まりきらなくなる。

 人が住める場所も無限には無いんだ。

 自然界の食物連鎖も食う側が増えすぎると食糧難に見舞われる。

 土地や食料の確保は争いの火種にもなりうる。

 今は想像もつかんだろうがもしこの力を世界中の奴等が持ち始めたら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古代にあったって言われるカーラーン大戦が再び巻き起こるかもしれん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界はいつだって滅びの道と隣り合わせに成り立っている。この時カオスはそう思った。人の命が失われるのは呆気ないものだが世界が滅びるのはそう簡単な話ではない筈だった。それでもこのデリス=カーラーンはいつも大災厄の可能性を孕んでいる。一度争いが起こればそれは周囲を巻き込んで加速しどうしようもないくらい被害を拡大していき世界がそれに道連れになる。ヴェノム、バルツィエ、精霊の破壊、世界樹カーラーン、精霊の力………五つもの可能性が世界を滅ぼす要因になってしまう。

 

 

 ブロウン族のハンターは言った。世界は滅びたがっていると。人が死なない世界を作るためにヴェノムの主を倒してきたが人同士の争いはどのように止めればいいのだ。人が増えれば増えるほど争いは起こる。それを止めるには片方がいなくなってしまえばいいのか。ダレイオスとマテオの戦いはマテオを滅ぼせば世界の平和は訪れる日がやって来るのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………こんな話をしても今からじゃどうなるか分からねぇけどな。

 誰も争わねぇって未来にもなりうるんだ。

 お前達はそのまま歩み続けていけばいいさ。」

 

 

カオス「………そうですね。

 俺達もこの先の未来がどうなるかなんて分かりませんし目の前の人が傷つくのは黙って見過ごせませんから………。」

 

 

アローネ「今私達に出来るのは精霊王マクスウェルの世界の破壊を防ぐことだけです。

 そのためにもラーゲッツを逃がす訳にはいきません。」

 

 

 カオス達は凍りついた大地を進みラーゲッツを探した。ヴェノムの主を全て倒しダレイオスをヴェノムの危機から救う。それだけを目指した。残り時間は八日。それまでに試練を達成するためだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達がこの時予見した人口爆発による争いの可能性。そんな未来はこの先訪れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。



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ラーゲッツの始まり

ローダーン火山 麓 残り期日八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツを見付けるのにそんなに時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「よオ………。

 こんなところにまデ戻ってきて俺の最期を見届けに来たのカ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツは岩に背を預けてぐったりしていた。体はレッドドラゴンから人の大きさにまで戻っておりマナもごくわずかにしか感じられない。話は出来るようだがそれもやっとで出来るといった具合だ。

 

 

ウインドラ「三度目の復活………とはいかないようだな。

 今度こそお前はここで討たせてもらう。」

 

 

ラーゲッツ「………へッ………、

 そりゃあ用心深いこっタな。

 俺なんかに止めを刺すためだけにここまで来たのかヨ。

 テメェ等も俺ごときに振り回されて大変ダナァ………。」

 

 

レイディー「そうだな。

 お前の言う通りだ。

 アタシ達もお前なんかにいつまでも構っていられる程暇じゃないんだ。

 お前の持つ()()()を壊してとっとと引き上げさせてもらうぞ。」

 

 

アローネ「精霊核………?」

 

 

ラーゲッツ「あぁ………、

 

 

 これのことかよ?」

 

 

 レイディーがラーゲッツに何かを壊す旨を伝えるとラーゲッツは手の甲をかざした。そこには普通の人には無い()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「物分かりが良くて助かるぜ。

 これでお前も逝きな。」パァァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイディーは迷わず氷のナイフを作り出してラーゲッツの手にあった玉を貫き砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………ハハハ………、

 これで俺ももう終わりか………。

 俺も長くこの世界に苦しめられてきたもんだ………。

 これでこの世界からオサラバ出来るとなるとそう悪い気分じゃねぇな………。」

 

 

 ラーゲッツは自身の死を受け入れていた。まるで早く自分が死ぬことを望んでいたかのようだ。ラーゲッツの体は少しずつ蒸発していく。

 

 

カオス「レイディーさん………。

 今のは………?」

 

 

レイディー「アスラと呼ばれるヴェノムの個体には体のどこかに心臓部ともいえる丸い玉が精製される。

 これがある限りアスラは飢餓が来ることはねぇ。

 逆に言えばこれさえ破壊してしまえばアスラはヴェノムと同じ様に飢餓が来る不完全な存在に戻るんだ。

 これでラーゲッツは確実に死を迎えることになった。」

 

 

 レイディーが言うようにラーゲッツの体はヴェノム特有の飢餓が起こり始めていた。意識はラーゲッツのままだがこの分ではもう間も無くラーゲッツは消滅することだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「パパ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツの完全な死を悟りカーヤがラーゲッツの前に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………テメェはまだ俺のことをそう呼ぶのかよ………。

 俺はテメェを娘だなんて認めねぇぞ。」

 

 

 ラーゲッツはカーヤを自身の娘であることを拒絶する。ラーゲッツも昔過ちを犯して出来た不義の家族など受け入れる気は無いようだ。

 

 

カオス「最期までお前はカーヤを自分の娘じゃないと言い張るつもりなんだな………。

 カーヤはお前のことをずっと待ってたのに………。」

 

 

ラーゲッツ「そんなの知るかよ。

 俺がその娘がいたことなんてこの間まで知らなかったんだ。

 そいつがいるってことはあの女がそいつを産んだってことだろ?

 …あの女は俺に当て付けのつもりでそいつを俺にぶつけてきたんだろうな。

 俺のことを自分の子供のそれも女なんかに負ける哀れな奴だと笑ってやがるんだろ?」

 

 

カーヤ「!!

 ママはそんなこと「あの女………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「()()()()は始めから最後までバルツィエの落ちこぼれだと俺に言いたかったんだよな?

 アイツは俺のことを何とも思っちゃいなかったってことだ。

 あんな顔だけの女に本気になってた自分が馬鹿みたいだぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ロベリア………?」

 

 

ウインドラ「本気だと………?

 ………聞いていた話だとお前は十六年前にここより西のゲダイアンで起こった謎の爆発を調べるためにダレイオスを訪れてその帰りにフリンク領でフリンク族の女性を襲って強姦したのだろう?

 そしてお前はマテオへと帰還してカーヤが生まれたんだ。

 お前とロベリアと言う女性にそれ以上の関係は無い筈だ。」

 

 

 フリンク領でフラットから聞いた話ではウインドラが言うようにラーゲッツが過去にロベリアを襲いカーヤが誕生した。フラットが言うにはカーヤはフリンク領防衛のためにロベリアが産んだと言ってはいたがその辺の事情はカオス達は知らない。………知らないのだがラーゲッツがロベリアと言う名前を知っていたこととロベリアにフラットという婚約者がいたこととそのロベリアに本気になっていたというのは一体………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………いい加減こんな世の中には嫌気が刺してたんだ………。

 俺はそいつらのことを知らなくてもそいつらは俺のことを知ってる………。

 知ってるっつっても俺がバルツィエでどういう立ち位置にいてどういう扱いだったかそんな偏見だけで無条件に格下に見られるこんな世界が俺は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ(当時十歳)「結果はどうだったんだ親父。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ父「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日俺が心待にしていた分家本家交えた魔力技能検査の結果が出る日だった。この結果は将来的に自分がどの程度の規模の力を発揮出来るかを確かめられる大事な検査でもあった。この結果次第では同世代に生まれた家の者達のその後の序列が決まる。誰が自分よりも上で誰が自分よりも下になるのか。順位を出すのは競争心を煽るためだ。その結果を公表することが分かれば検査の時に皆が真剣に取り組むことは当然だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「親父!

 早く教えてくれよ!

 俺は何番だったんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ父「………検査の結果は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最も優れていたのはアルバートとアレックス、次いで三から六位がダイン、ランドール、グライド、ユーラス、の順だ。

 フェデールに関してはギリギリ標準からは落ちずにすんだといった評価の最下位だな。」

 

 

ラーゲッツ「!?

 ()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 

ラーゲッツ父「そのようだ。」

 

 

ラーゲッツ「………マジでか………!?」

 

 

 魔力技能検査はバルツィエの家に子供が生まれる度に行われる。そして子供が複数いた場合は優劣をつけるためにも順位をつけるが検査が行われるようになって以来()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今度行われた魔力技能検査で初の本家の子供が分家に負けた。しかもその結果が最下位だとは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………ん?

 ってことは俺は七番目か………?」

 

 

 フェデールが最下位なら八人いる今世代の中で残っている順位は六位しかなくなる。

 

 

 しかしラーゲッツの結果は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ父「………お前はなラーゲッツ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前の力はどう検査しても私達の世代を越えるレベルに達てしていなかった………。

 代を重ねるごとにマナの貯蓄量を上昇させていくバルツィエの家系の中でお前は逆に私よりも能力が下だと判断された………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………お前はフェデール達と競う価値も無い程に能力が満たない劣等種であることが確定したんだ。

 お前は最下位以下のゴミ虫なんだよ。」



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似て似つかない二人の関係

バルツィエ邸 修練場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ!!………フンッ!!」ブン!ブン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ!!………フンッ!!」ブン!ブン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ!!………フ「なぁおい。」ン!!」ブン!ブン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ!!………フンッ!!」ブン!ブン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(………シカトかよ。

 俺のことが見えてねぇのかコイツ………。)」

 

 

 現在ここバルツィエが所有する剣術を学ぶ修練場にてラーゲッツの他にもう一人竹刀を振る少年が一人。二人は別々にここに来て互いに干渉せず剣術の稽古をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ!!!」ブオンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年の方がリズムよく振っていた竹刀をこれまでよりも力強く振り抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………フゥ…………。

 今日はこれぐらいに…………!

 ラーゲッツ………。

 君も来ていたのか。」

 

 

ラーゲッツ「あぁ、

 お前俺に気付いてなかったのか?

 さっき呼んだんだがな。」

 

 

「悪いね。

 集中し過ぎて気付けなかったよ。」

 

 

ラーゲッツ「どんだけ集中してんだよ………。

 まぁ()()()()()()()自分の力の不甲斐なさを反省したくもなるよなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェデール。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………そうだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツよりも先に自主稽古をしていたのはフェデールだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「そんなに力んだところで今更結果は覆らねぇよ。

 今回のあの検査でおおよその俺達の立ち位置は決まったんだ。

 俺とお前はアイツらもよりも格下になることは変わらねぇ。

 俺やユーラスなんかは元からそんなに変わらねぇがお前の場合は………残念だったなぁ。

 昔から本家に決まるのは変わらず本家の奴だったってのにお前が初の異例だ。

 どうだ?

 初代から続く伝統を塗り替えた気分は?」

 

 

フェデール「皮肉かい?

 そんなこと言ってる暇があったら君も自分の剣を鍛えたらどうだい?

 そのために君もここへ来たんだろう?」

 

 

ラーゲッツ「俺か?

 俺は………ただの暇潰しだよ。」

 

 

フェデール「そうなのかい?

 ………でもとてもそうは見えないけどね。」

 

 

ラーゲッツ「あぁ?

 じゃあどう見えるってんだよ?」

 

 

フェデール「そうだな………。

 俺と同じで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

ラーゲッツ「………そんなんじゃねぇよ。

 俺はもっと気楽に自分がやりたいようにやりたいだけだ。

 今はここに来たかった………それだけだ。」

 

 

フェデール「………そうかい。」

 

 

ラーゲッツ「………お前こそそんなに努力なんかしてどうするつもりなんだ?

 俺達バルツィエの家はバルツィエ内で上下はあっても他の家と比べても頭一つ二つは抜きん出てるんだ。

 俺達の力だってそんじょそこらの大人達よりも上って話だ。

 そんなに強くなろうとしなくてもいずれは大概の奴よりかは勝手に強くなるだろ?

 ダレイオスに俺達子供だけで行かせられても多分普通に生きて帰ってこられるぐらいには力は持ってる筈だぜ?」

 

 

 バルツィエに生まれた者は生まれながらにして並みの大人以上の魔力を持って誕生する。末端と位置付けられたラーゲッツでさえも大人十人程の魔力は持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………守りたいんだよ。

 俺は。」

 

 

ラーゲッツ「は?」

 

 

フェデール「君も知ってるだろ?

 マテオは元々ダレイオスから争いを嫌って逃げてきた避難民の人々の国だ。

 今はダレイオスとは力関係は逆転してマテオの方が優性だけど以前としてダレイオスとの睨み合いは続いている。

 ダレイオスの連中がアイツらの好き勝手な戦争の物資供給に目を付けて俺達の国を狙っているんだ。

 マテオを制圧出来れば九ある部族のどこかが必ず首位に立ち世界を支配しようとしてくる。

 それに抗おうと()()()()()()………初代マテオ王が立ち上がりそれに共感した初代バルツィエ家、ゴールデン家、カタフトロフ家が剣を握った。

 俺達バルツィエの家は始めからこの国の防人だったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺はこの国の全てを守りたい。

 この国に生きる人々全てを………。

 俺より強い人がいるんなら俺の力なんてそんなに貢献は出来ないんだろうけどそれでも俺は皆を守れる力が欲しいんだよ。

 強くなれる方法があるんなら何にだって手をだすしこうして修行を積むのも面倒だとは思わない。

 そうしてダレイオスを打ち倒して世界を平和な世界にしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そして………………あの子が安心して住めるような住みやすい国に変えていきたいんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェデールはある方向へと顔を向ける。ここからでは見えないがその方向には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだろう。ラーゲッツはフェデールが誰のことを想っているかは知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「……………ハンッ!

 本当にお前はつくづく残念な世代で生まれちまったよなぁ。

 ()()()()()()()()()()()()()()王家とバルツィエの溝が徐々に埋まってきて俺達の代でとうとう王家との関係が深まってきたところにお前のその体たらく。

 お前とアイツが結ばれる未来なんて絶対に来ねぇよ。

 お前が今度のバルツィエの身内で行われる大会でアルバートやアレックスに勝たねぇ限りはな。」

 

 

フェデール「………勝つよ俺は。

 勝って運命を変えて見せる。」

 

 

ラーゲッツ「大口叩いたな。

 ってかアルバート達だけじゃねぇ。

 お前にはダインやランドール達も倒さねぇといけねぇんだぞ?」

 

 

フェデール「そんなの関係ないよ。

 俺は誰が相手だろうと負けない。

 そんな気持ちで今度の大会に挑もう思ってるから。」

 

 

 魔力技能検査はあくまで個々の身体測定のようなものだ。人にはそれぞれ相性やスタイルがある。それによっては検査を大きく変えるような結果に変わったりもする。今度行われるバルツィエの子供達だけで開かれる大会での結果こそが()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………その大会では魔力技能検査の結果を覆しフェデールはダイン、ランドール、ユーラス、ラーゲッツを下すがアルバートとランドールには結局敵わず()()()()()()()()()()()()………。



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上と下との圧力

バルツィエ邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「おい問題外。

 茶持ってこい。」

 

 

ラーゲッツ「あぁ?

 何で俺が持ってこなくちゃいけないんだ?」

 

 

 ラーゲッツが屋敷で寛いでいるとランドールが命令してきた。

 

 

ランドール「何でってそりゃあお前今後の俺達の関係性をハッキリさせといた方がいいだろ?」

 

 

ラーゲッツ「茶ぐらい自分で注いでこいよ。」

 

 

ランドール「あ?

 俺の言うことが聞けねぇっての?」

 

 

ラーゲッツ「それくらい自分で出来ねぇのかテメェは。」

 

 

ランドール「………表出ろよ。

 ちょっとお前の態度が気に入らねぇ。

 俺より上のアルバート達がいない以上俺の命令がここでは一番なんだ。

 お前は俺の命令に逆らっちゃいけねぇんだぞ。」

 

 

ラーゲッツ「鬼の居ぬ間に………ってか?

 上司がいない時に威張んなよ。

 テメェもアルバートがいたらそんなこと言えねぇだろ。」

 

 

ランドール「何だよ。

 俺がアイツらに微々ってるって言いたいのか?

 お前俺を怒らせたいの?」

 

 

ラーゲッツ「お前は俺を怒らせてるけどな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼ってのは俺のことか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ・ランドール「「!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバート「下らねぇ喧嘩してんなぁおい?

 お前ら格下共が何をどんぐりの背比べしてんだ?

 お前らなんて束になったって俺とコイツには勝てねぇんだよ。」

 

 

アレックス「兄上の言う通りですね。

 お前達は所詮分家の序列第五位と第七位。

 兄上の言い付けに従っていればいい。

 お前達が無駄に争ったところで庭を荒らすだけだ。

 そんなことをしてるぐらいなら雑草でも処分しておけ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランドールと言い争いから本格的な喧嘩に発展しようとする寸前でアルバートとアレックスの二人が割って入ってくる。この二人はいつも分家同士で喧嘩が起こりそうになると仲介にやって来る。言葉は悪かったがラーゲッツは時折この二人には救われる時があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツの幼少期はいつもこのようにランドールやユーラスの二人に弄られて過ごしていた。始めは二人の態度に苛ついてはいたがその内それが当たり前になって気にならなくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーラーン教会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ父「入れ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツは父親に連れられてカーラーン教会に来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「何だよ親父。

 こんなところに何の様があるんだよ。」

 

 

ラーゲッツ父「良いから黙ってついてこい。」

 

 

 連れてこられた目的も告げられずにラーゲッツは父親の後ろをついていく。一体何故自分はこんな場所へと連れてこられたのか。

 

 

ラーゲッツ「(………まさか俺があまりに使えないから捨てるって言い出すんじゃねぇだろうな………?

 俺の力がバルツィエの基準に満たないから俺をここに………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「!」

 

 

 教会の中で待っていたのは修道服を纏った綺麗な女性だった。

 

 

ラーゲッツ父「カタストロフ公爵………。

 本日は例のあの………。」

 

 

カタスティア「あぁ………もうそんな時期なのね。

 それでその子が?」

 

 

ラーゲッツ父「愚息のラーゲッツです。

 ………どうか宜しくお願いいたします。」

 

 

カタスティア「えぇ良いわよ。」

 

 

 父と公爵と呼ばれた女性が何かを話し合っている。どうやら自分に何かを施すようだがどういったものなのかは会話だけては分からなかった。

 

 

 

 

 

 

カタスティア「じゃあこちらにいらっしゃいラーゲッツ。

 私の書斎でするから。」

 

 

ラーゲッツ「なっ、何をするんだよ………?」

 

 

ラーゲッツ父「これから公爵様がお前にするのはだな。

 お前の……………………………………………………………………………………………………………………………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから先の記憶は唐突に途切れている。気がついた時にはラーゲッツは記憶が途切れる前よりも魔力が上がりやすくなっていた。それは同世代の他の子供達も同じだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその辺りからアルバート、アレックス、フェデールの三人を除いた残りの四人の子供達は情緒が不安定になりだした。

 

 

 ラーゲッツは以前よりも気性が荒くなり怒りを抑えることが難しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 二十年後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「お前騎士団長になったのかよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバート「ん?

 そうだがそれ誰に聞いたんだ?」

 

 

ラーゲッツ「小耳に挟んだんだよ。

 巷じゃ結構お前のこと噂してる奴が沢山いるぞ。」

 

 

アルバート「………もうそんなことになってんのか………。」

 

 

ラーゲッツ「何だよ不服そうじゃねぇか。

 次期にクルスタル王女との婚姻も取り付けそうなようだしお前が()()として国中に知れ渡るのも時間の問題だろ。

 それの何が不満なんだ?」

 

 

 アルバートがバルツィエの本家に昇格してから彼は勢いが止まることを知らず様々な功績を上げてきた。彼が進めてきた方針はこれまでの厳格なバルツィエのイメージからは遠く部下を思いやり支え共に任務をこなし信頼を勝ち取るというものだった。普通の軍隊ならばそういった考え方は珍しいものではないがバルツィエとなると話は別だ。バルツィエは過去に起こったとある事件によって自分達以外の者を仲間とも思わなくなった。自分達だけが利益を得ればいい、そういう考えが固まっていた。その精神に逆らいアルバートは部下と等しく収益を分けあった。最初こそ上の世代達はそれに反発したが今ではそれすら黙らせるほどにアルバートとアレックスの力は強くなった。最早アルバートとアレックスに異を唱えられる者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバート「………なぁ、

 一つ聞いてみてもいいか?」

 

 

ラーゲッツ「何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバート「………自分のことを誰も知らない人達しかいない場所………。

 そんな場所がこの世界のどこかにあるんだとしたらそんなところへ逃げ出したりしてみたくなったことはないか………?」



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未知の環境への憧れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………は?

 急に何を言い出すんだよ。

 そりゃ何の冗談だ?」

 

 

 自分のことを誰も知らない人達しかいない場所、そんな場所がどこにあるのか検討もつかない。今やマテオは大国だ。世界の西にダレイオス東にマテオと分けてダレイオスは九つの部族が集結して国を成しているがマテオはほぼバルツィエが上層部を牛耳っている。他国であるダレイオスでもバルツィエを知らぬ部族などありはしないだろう。もしそんな場所があるのだとしてもダレイオスはあり得ない。マテオも自国ということもありバルツィエの名は全土に広まっている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。探すとなれば世界地図かにあるマテオとダレイオスの大陸に面していない無数にあるいくつもの離れ小島からになるだろうがそれだと人自体が暮らしているかどうかだ。

 

 

アルバート「…ねぇのか?」

 

 

ラーゲッツ「真面目に訊いてるのかそれ?」

 

 

アルバート「あぁ。」

 

 

ラーゲッツ「………ん~………。

 考えたことねぇなぁ。

 そんなの。

 大体逃げ出すって何だよ?

 本家の職務はどうするんだ?」

 

 

アルバート「………」

 

 

ラーゲッツ「………何でそんなこと訊いてきたんだ?

 お前どうした?

 あんだけ黄色い声援を他方から浴びておきながら今になって怖じ気ずいたのか?

 ()()()()()()。」

 

 

 ラーゲッツはアルバートはそんなんじゃないと否定してくると思った。いつもの彼であったら常に強気で他人に弱音を見せたりなんかしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしこの時の彼はラーゲッツに心の隙を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバート「………そうだよ。

 悪いかよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「は………?」

 

 

アルバート「俺が家の当主のことだけじゃなく国の仕事も任されるようになってから俺はずっと今まで仕事を失敗したことなんて一度もねぇ。

 俺は与えられた任務は全て完璧にこなす。

 そのことを自慢にしてたし誇りだとも思ってた。」

 

 

ラーゲッツ「………ん?

 自慢?」

 

 

 弱気な発言をしたかと思いきや突然自分の経歴を振り返り自分が一度も任務を遂行できなかったことが無いと言う。失敗が多いラーゲッツとしては聞いていてあまり気のいい話ではない。

 

 

アルバート「お前はいいよなぁ………。

 俺と違って任務に失敗したとして誰からも責められない。

 失敗しても誰にも気にもされない………。」

 

 

ラーゲッん「ん?

 喧嘩売ってる?」

 

 

 アルバートの物言いに少し苛つきが灯る。二十年前から自分はどうも多少の悪口でも本気で受けとってしまう傾向にある。これ以上アルバートが自分を侮辱するようなことを言えば自分はこの怒りを抑えることは出来ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバート「お前も一度味わえば分かるさ。

 自分の実力以上に夢を持たれてそれに応えようと必死にもがいても他人ってのはもっともっと今よりも上を催促してくる。

 俺のミスは他の奴等がするようなミスでも同等に扱ってもらえない。

 俺のミスだけが期待の分も爆上がりしてやがんだ………。

 しかも今では前と同じ様に仕事をこなすことすら出来ない。

 前以上に何か特別なこともしなくちゃならない。

 俺が月一で新しい何かをやるのが民衆の間じゃ当たり前になってんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………こんな地獄が待ってるなんて思いもしなかったよ………。

 ………………どこか………俺の名前を知らない人達しかいない土地がどこかに無いのか………?

 俺は………このままじゃ………もう………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこまで言ってアルバートはラーゲッツの前から去っていった。一瞬沸点に達しそうになったラーゲッツだったが最後のアルバートの異状とも思える程の心の闇を垣間見て一気に冷えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………だから民衆なんかと仲良くすることなんて無理だったんだよ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 弱者ってのはいつも強者に守られておこぼれを貰う曲に時間が経てばそれが当たり前になって対等以上に張り合おうとしてくる。

 自分達が守られているってことを忘れて命懸けで戦うのはいつも俺達バルツィエに押し付けて文句ばかり言ってくるんだ。

 

 

 もうお前も真面目に仕事に取り組むことが間違ってるって気付いたろ?

 努力するだけ無駄なんだよ。

 いつか絶対に限界は来るんだ。

 今お前が感じている絶望は精々調子に乗りまくったツケが回ってきた有名税ってやつだと思いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前が望むような都合のいい場所なんてどこにも有りはしないんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それから暫くして世界にヴェノムが溢れ帰りアルバートが遠方任務に向かって消息を絶った。任務の内容はヴェノムとは関係ない村の近くのモンスターの群れの駆除だった。アルバート程の実力があれば彼がモンスターにやられる筈はないと思われたが消息を絶った周辺地域でヴェノムが目撃されてアルバートはウイルスによって死亡したと判断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分のことを知らない人達しかいない場所………。アルバートが死亡してから彼が言った言葉を思い出したラーゲッツはアルバートが彼の望み通りの世界に旅立てたのだと後になって気付いた………。



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アルバートの代理

バルツィエ邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「兄上の行方が分からなくなった現在私が臨時の当主代理に任命された。

 異論があるものはいるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーラス・ランドール・ダイン「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルバートがいなくなってから一ヶ月。流石に世間の目を誤魔化すことも出来なくなり先代達の話し合いの結果アルバートの不在の穴を弟のアレックスに任せることにしたようだ。

 

 

アレックス「………異論は無いようだな。

 今後の方向性としては兄上の捜索は引き続き行う。

 ダリントンが兄上が消えた付近を徹底して探している。

 その内兄上も見つかるだろう。

 お前達は………、

 …………まぁこれまで通りにしておけばいい。」

 

 

ユーラス「はぁぁ?

 これまで通りって何だよ?」

 

 

ランドール「そんな大雑把な指令があるかよ。

 もっと詳しく分かりやすく説明してくれよ。」

 

 

 アレックスがこれからのことを伝えるた直後にユーラスとランドールの二人アレックスをからかいだした。

 

 

アレックス「………別に説明する程のことでもないだろう。

 自由にしていていい。」

 

 

 わざと二人がアレックスを煽っていたことは彼も気付いていたが普段はアルバートと一緒に彼等を叱責していたので一人で彼等二人を口で相手するのは荷が重かった。

 

 

 しかし二人のアレックスへの嘲りは続く。

 

 

ランドール「自由に?

 本当に自由にしていていいのかよ?」

 

 

アレックス「だからそう言ってるだろう。」

 

 

ユーラス「マジかよ!ヒャッハーァァァ!!

 俺明日から一ヶ月くらいカストルに行ってくるわ。」

 

 

ランドール「じゃあ俺も半年くらいマテオ旅行して回ろうかなぁ?」

 

 

アレックス「おい!何を言ってるんだ!

 お前達には騎士団の仕事があるだろ!

 そんなに休暇さとらさせんぞ!!

 ………待てどこに行く!?」

 

 

 アレックスがユーラスとランドールに反論しようとしたが二人は意に介さず去っていった。ラーゲッツとダインがアレックスがアルバートの代理となることに口を挟まなかったのは単にそうなるだろうことが分かっていたからだ。そして去っていった二人のように本当に自由にする気はなかった。あの二人に関しては急に当主が変わり何もかも()()()()()()()()()()()の言うことなんか聞く気がないのだ。ここにいた五人はどうせ直ぐにアルバートが見付かるだろうとなんとなく思っていた。だからアルバートがいない間はゆっくりと羽を伸ばそうとああした行動に出たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその後アルバートがアレックス達の前に姿を表すことは永遠に無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「………お前達までアイツ等のように振る舞おうと考えていたりはしないよな?」

 

 

ダイン「うっ、うちは………。」

 

 

ラーゲッツ「それよりフェデールの奴はどうしたんだよ?

 何でここにいねぇんだ?」

 

 

アレックス「フェデールはダリントン達と一緒に兄上の情報を集めて貰っている。

 ミストと言う村の近くで部下達と共にいたことは間違い無いそうだが一度兄上が近くの森に入って行ってから行方が掴めなくなったみたいだ。

 ………全く………どこに行かれてしまったのか兄上は………。」

 

 

 アレックスもこの状況に戸惑っていた。アレックス自身歴代最強と言われたアルバートに近い実力は持っていたがアルバートのように誰からも厚い信頼や期待を背負ってきていた訳ではなかった。今のバルツィエのイメージとしては先代までの近寄りがたい印象から国民皆に好かれる心強い騎士集団の家系でそれを形成したのはほぼアルバートの実績だ。アルバートはバルツィエの歴史を振り返っても異例中の異例であった。バルツィエの分家から本家に返り咲き尚且つこれまでとは違う方針を取るバルツィエの新当主。アルバート一人に期待が注がれるのも当然だった。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()信念は尊敬するアルバートと同じく持つアレックスでもいつも注目されてきたのはアルバートの方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 民衆はアルバート以外には何も期待などしていなかった。だからこそこの後百年のアレックスは先代までのバルツィエと同じ政策を取ることしか出来なくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半年後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「よう戻ったぜ。

 アルバートは見付かったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーラス・ダイン・ラーゲッツ・フェデール「「「「………」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………その様子じゃあまだ見付かってねぇようだな。

 どっかでの垂れ死んじまったのかぁアイツ?

 ハハハ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「何辛気くさい空気出してんだよ。

 もっと明るく行こうぜ?

 あんな奴の顔数ヵ月くらい見なかったぐらいでどんだけしょげてんだよお前ら。

 そんなにアイツがどこに行ったのか気になるのか?

 どうせその辺の街とかで俺みたいに遊びまくって「貴様………。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「今まで任務も放棄してどこにいたんだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「あぁ………?

 出ていく時に言ったろ?

 ちょっくら地方に旅行しに「戯け者がッッ!!!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!!パリィィィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレックスがランドールを殴り飛ばしてそのまま窓の外までランドールが飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「ぐほぁっ!!?

 痛ェッ!!

 何しやがんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「私がいつ貴様に半年もの間休暇をとる許可を出した?

 私は一言もそんなことを許可した覚えはないぞ?」

 

 

ランドール「んだよ!

 代理の分際で偉そうにするんじゃねぇよ!!

 お前なんかアルバートの一時だけの代わりだろうが!!

 俺に命令すんじゃねぇ!!」

 

 

アレックス「………まだそんな古い情報しか知らんのか貴様は………。」

 

 

ランドール「あぁ!?

 どういうこったよ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「お前がいない半年で状況が変わったんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「………どう変わったってんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………三ヶ月前の先代達との席でアルバート捜索は断念することにしたんだ。

 それでバルツィエは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「………あぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「兄上を世間に死亡したと報告することに決定したんだ。

 

 

 これからは私が()()()()()()()()()()()()()()()

 従わぬのであれば私は誰であろうと斬る!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここからバルツィエが再び暗黒期に突入することとなった。アルバートが築き上げてきた物は弟のアレックスが全て自分の色へと染め上げていった………。



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深奥を知る者

バルツィエ邸 修練場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「やぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………おう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供の時にフェデールとここで会ってからすっかりここはラーゲッツの溜まり場と化していた。それが分かっていたからこそフェデールはここへとやって来たのだろう。

 

 

ラーゲッツ「………何のようだよ?」

 

 

フェデール「少し昔のことを思い出してね。

 ついここに来たくなったんだ。」

 

 

ラーゲッツ「アレックスが次の当主に決まったことで落ち込んでんのか?

 ………今回もお前は選ばれなかったな。」

 

 

フェデール「………そうだね。」

 

 

ラーゲッツ「………いいのかよ。

 お前昔はダレイオスを倒して世界を平和にするって言ってたがアルバートがやり方を変えてダレイオスと条約を締結して世界を平和にするって案に賛成してたじゃねぇか。

 それがアレックスが先々代までの方針に戻しちまってこれじゃあまたダレイオスと戦うハメになるぞ。」

 

 

フェデール「………仕方ないんじゃないか?

 アレックスにはアレックスなりの考えがあって恐怖政治に戻したんだ。

 今はアレックスが当主になったんだし俺がとやかく言う資格は無いよ。」

 

 

 フェデールは表情を曇らせながら今の現状に満足していると言う。

 

 

ラーゲッツ「(全然納得してねぇって顔してるじゃねぇかよ。)なぁ、何でそんなにお前は拘りが無いんだ?

 お前何でもかんでも受け入れてるじゃねぇか。

 そんなんでお前が望む結果に繋がるのか?」

 

 

フェデール「…俺が望むようになんていくらでもやり用はあるよ。

 それに今の方が俺的には都合が良かったのかもしれない。」

 

 

ラーゲッツ「どう都合が良くなるってんだよ。」

 

 

フェデール「………………世界は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………世界は強くならなくちゃいけないんだよ。

 そのためにもマテオとダレイオスは戦っている状態が好都合だ。

 戦いがあるなら人は強くなろうとする。

 負けないために強くなろうとする努力をしてくれる。

 マテオもダレイオスも共に生き残るためには強くならなくちゃいけないんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………何でダレイオスまで強くするんだよ。

 兵力を強化するならマテオだけで十分だろうが。」

 

 

フェデール「………」

 

 

ラーゲッツ「こっちだけが強くなれればマテオの国民達はダレイオスの連中にやられずにすむんだぜ?

 それなのに何でダレイオスの奴等も強くなることを望んでんだ?

 奴等が強くなったらマテオの陣営側としては喜ばしいことじゃねぇだろ。」

 

 

フェデール「………お前は………、

 

 

 ()()()()()()()()………?」

 

 

ラーゲッツ「覚えてないって何をだよ?」

 

 

 突然覚えていないか訊かれても何の話をしているのか困惑するラーゲッツ。彼とはそこまで深い話をした記憶はない。何か重要な話でもしていただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………覚えていないならいいよ。」

 

 

ラーゲッツ「何だよそりゃ。」

 

 

フェデール「気にするな。

 こっちの話だ。」

 

 

ラーゲッツ「そんな言い方されて気にならない訳ないだろ。

 一体何のことを言ってやがんだ?」

 

 

フェデール「………」

 

 

ラーゲッツ「………言えよ。

 言ってくれねぇと夜も寝付けなくなるだろうが。」

 

 

フェデール「………もし。」

 

 

ラーゲッツ「もし?」

 

 

 

 

 

 

フェデール「………………もし俺達の敵がダレイオスの奴等以外にもいてそいつに挑もうにも今のマテオの総戦力じゃ足りない。

 マテオとダレイオス両方が一緒になって漸く互角かあるいはまだ奴の力に達てしていない………って状況があるとしたらお前ならどうする?」

 

 

ラーゲッツ「ん?

 そんな敵がいるのか?」

 

 

フェデール「いるかどうかはさておいてお前ならそんな奴がいたらどうするんだ?」

 

 

ラーゲッツ「んん~………。

 先にそいつがどんな奴なのか教えてくれねぇか?

 そのお前が言う敵がどんな奴なのか知らねぇとどうにも答えようがねぇよ。」

 

 

フェデール「悪いがそれには答えられない。

 それに答えちゃいけない決まりになってるんだ。

 この問題は一応()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

ラーゲッツ「当主になった奴だけが知る権利………?

 じゃあ何でお前はそいつのこと知ってるんだよ?」

 

 

フェデール「俺は………つい父が先行して口を滑らせたんだ。

 あんな結果になってなければ俺だけの問題だったんだが俺にはもうこの問題をどうにかすることなんて出来ないからね。」

 

 

ラーゲッツ「まぁお前んところならそういう情報とかも教えられててもおかしくはねぇわな。」

 

 

フェデール「………それでどうなんだ?」

 

 

ラーゲッツ「そうだなぁ………。

 俺だったら先ずは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 横槍が入らないように先に雑魚から片付けるだろうな。

 とりあえずはダレイオスの奴等をぶっ潰してからそいつに挑む体勢を整えた方がいいんじゃねぇのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………………そうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「それで誰なんだよそいつは?

 どこにいるんだ?

 ここまで話したんならもう最後まで言っていけよ。」

 

 

フェデール「申し訳ないが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 この話はこれで終わりだ。」

 

 

ラーゲッツ「おい!

 そりゃねぇだろ!?」

 

 

フェデール「そんなことよりも久々に俺と腕試しでもしないか?

 時間余ってるだろ?

 今のお前がどれだけ俺との差が詰められてるのか見てやるよ。」

 

 

ラーゲッツ「話そらすんじゃねぇよ!!」

 

 

フェデール「………もし俺に勝つことが出来たら話の続きをしてやるよ。」

 

 

ラーゲッツ「!!

 言ったな!!

 その言葉負けた後で取り消しとかは無しだからな!!

 口にしたことには責任持てよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の行方はフェデールの圧勝で決着がついた。ラーゲッツはフェデールから最後まで話の内容を聞くことは出来なかった………。



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強くなる秘訣とは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「だあぁぁ!!?

 俺の負けかよ!! 」

 

 

 ラーゲッツは仰向けになりながら叫んだ。

 

 

フェデール「お前………前よりも弱くなったんじゃないか?」

 

 

ラーゲッツ「俺が弱くなったんじゃねぇよ!!

 お前が強くなりすぎなんだ!!」

 

 

 フェデールはここ数年でまた実力を上げてきた。この調子ならもう少しでアレックスに届く勢いだ。

 

 

フェデール「それにしてもラーゲッツ。

 お前はもうちょっと剣の使い方を考えた方がいいぞ?

 民間人相手ならまだなんとかなるがダレイオスだとそれじゃ通じない。

 早々に見切られてカウンター入れられてやられちまう。

 力やスピードに頼った戦い方じゃなくてもっと相手の太刀筋を呼んで自分がどう動けるか、どこに打ち込めば一本とれるかそんな工夫した戦法を身につけた方がいい。

 前の検査で六番目だった俺でもダインやランドール達と張り合えるぐらいにまで上達出来たんだ。

 生まれもった才能に傲るのは愚の骨頂だぞ?

 そんなのは誰よりも強くなってから傲れ。」

 

 

 とフェデールは剣術よりも技術を磨くことを勧めてくる。確かに今の勝負では筋力や速力ではそこまで二人に差はなかった。勝敗を決したのは太刀筋のキレだ。ラーゲッツがひたすらフェデールに斬りかかる一方でフェデールはそれを避け続けて確実な一撃を決めてくる。

 

 

ラーゲッツ「んなこと言ってもよぉ?

 そんなもん感覚の問題だろ?

 俺にお前みたいな観察眼や剣筋が身に付くと思うか?

 お前みたいになるのにどれだけかかると思ってんだ。」

 

 

フェデール「どうだろうね………。

 数年はかかるんじゃないか?

 俺もここまで上達するのにそのぐらいはかかったから。」

 

ラーゲッツ「かぁ―ッ!

 そんなにかかるのかよ!

 駄目だ!

 とてもそんなに長く続けられる自信ねぇよ。

 今のままでも大概の奴なら魔術だけで倒せるしそんなに強くなる気も起きねぇ。

 俺は今のままで十分だぜ。」

 

 

フェデール「それでいいのか?

 今のレベルで落ち着いているようならいつまでもユーラス達に頭が上がれねぇぞ?

 お前見返してやりたいって気持ちはないのか?」

 

 

ラーゲッツ「俺はお前みたいに気長に訓練なんかする性分じゃねぇんだよ。

 強くなって特にやりたいこともねぇしな。」

 

 

フェデール「誰かに強くなった自分を見てほしいとかは?」

 

 

ラーゲッツ「俺にそんな奴はいねぇよ。

 ………てかお前まだそういうつもりで剣を磨いてんのか?」

 

 

フェデール「そうだが何か?」

 

 

 さも当然のことようにフェデールは肯定した。フェデールはある特定の人物に自分の鍛え上げ剣術を披露したいそうだ。彼は子供の時からずっとそのことだけのために修業を積んでいる。自身を鍛えぬいてその相手を影ながら守りたい。そんな切実な想いを剣に乗せて振るってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………お前のそれ………、

 ()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

フェデール「………何?」

 

 

ラーゲッツ「いい加減あの女のことは忘れろって言ってんだよ。

 どうせどんなに足掻いたところでアルバート………今はアレックスか………………アレックスを越えられなきゃお前の努力が報われることはねぇ。

 お前の惚れた女はそういう立場の相手だろ。

 お前はもう失恋したも同然なんだ。

 次の女見つけろよ。

 他の女だったらそこまで頑張らなくても手軽に守れるだろうぜ。」

 

 

フェデール「…俺達は騎士だぞ。

 自分の腕を磨くのは騎士の本分だ。

 彼女だけが理由じゃない。

 俺は強くなることを諦めたりはしないぞ。」

 

 

ラーゲッツ「いつまで当主の椅子を引き摺り続けるつもりだぁ?

 もうその席は別の奴が座ってんだよ。

 お前はそこに座り損ねた。

 あいつの隣に座れるのはアレックス「止めろ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………お前なんかに言われなくても分かってるんだよ。

 俺はもうただの分家だ。

 椅子が変わってしまったことなんてとっくに理解してる。

 彼女を支える役が与えられるのは俺なんかじゃないってことはな。」

 

 

 フェデールは興奮した様子でラーゲッツの言葉を遮りそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………じゃあどうするんだよ………?」

 

 

フェデール「どうもしない。

 これまでと一緒さ。

 俺はこれからも腕を磨き続ける。

 磨き続けて遠くから彼女と………彼女の隣に立つアイツを脅威から救って見せる。

 彼女が何事もなく生活出来るなら彼女の隣に立つのは俺じゃなくてもいい。

 ………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今のフェデールの発言でラーゲッツは悟った。フェデールはラーゲッツが言い聞かせる前から既に彼女のことを追うのを辞めていた。辞めていたと言うよりも始めから追ってなんていなかったのだ。フェデールは彼女の幸せだけを願いそれに尽くすことだけが生き甲斐なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(………不器用にしか生きられない奴なんだなお前は………。

 アルバートやアレックスもバルツィエの歴代の中で異例の存在だったがお前も十分異例な奴だぜ。

 そこまで気負いながら生きてる奴なんてよぉ………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエの家系は皆遺伝子レベルてエリートの血筋だ。本来努力をなどしなくともそれなりには世界に通用する力が将来的に身に付く。それだというのにその血に甘えずに自分を弱者のように扱う彼の姿にラーゲッツも興味が湧いてきた。

 

 

ラーゲッツ「(俺もコイツみたいに誰かを想いながら剣を振るっていたらあの時の大会でもっといい成績を残せてたのか………?

 予想では俺とコイツがワーストワンとツーとなっていたあの大会でコイツは見事にユーラスとランドール、ダインをも撃ち破って見せやがった。

 

 

 俺に無くてコイツにあるもの………。

 それが今の俺を変える切っ掛けになるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしそうなら………俺は………。)」



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先ずは形から

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「親父。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ父「何だ?」

 

 

 あれからラーゲッツは修練場から帰宅し父親に会いに行った。フェデールとの一件があって気になることが出来たからだ。

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「あのよぉ………少し言い辛いことなんだが………。」

 

 

ラーゲッツ父「手短に言え。

 私も暇じゃないんだ。

 このあと用事があるんだ。

 お前に構ってる余裕などない。」

 

 

 ラーゲッツと父親の仲はあまり良いとは言えなかった。ラーゲッツが同時期に生まれた子供達の間で能力が一番劣っていることが発覚してから息子への興味が徐々に薄れていっていた。

 

 

ラーゲッツ「………俺によ………。

 見合いの話とかねぇか?」

 

 

ラーゲッツ父「………見合いだと………?

 お前がか………?」

 

 

ラーゲッツ「あぁ………。」

 

 

ラーゲッツ父「………」

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 フェデールにあって自分に無い部分を見直し自分に足りないのは努力する切っ掛けだ。今まで特に気にしたことは無かったがフェデールに言われたことが妙にラーゲッツの中で引っ掛かった。何故あそこまで他人のために自分を追い詰めることが出来るのか。フェデールを見てどことなく彼のことを愚かな奴だと蔑んでいたが彼はそれでも自分の運命に逆らい先へ先へと突き進んで行っている。子供の時から何も立ち位置が変わらない自分と違い彼は自分をどんどん自分を変えていっている。そこに少し羨ましさを感じた。

 

 

ラーゲッツ父「………無いこともないが急にどうしたんだ?

 今までずっとそんな()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

ラーゲッツ「いいから答えろよ。

 俺にそういった話は来てないのか?」

 

 

ラーゲッツ父「………一切来てないこともないが………。」

 

 

ラーゲッツ「本当か!?

 だったら話を付けてくれよ!

 直ぐにでも俺はそういうのしてみたいんだ!」

 

 

ラーゲッツ父「…分かった。

 今は急用があるから直ぐには話がつけられんが時間がある時にでも相手方に話を付けておくとしよう。」

 

 

ラーゲッツ「サンキュー親父!」

 

 

ラーゲッツ父「それは別に構わんが………。

 ………何に影響されたか知らんがあまり期待はし過ぎるなよ。

 お前からそういった話は全く聞かん。

 お前も女性と付き合うのは初めてだろう?

 家に来る話と言うのは浮わついた気持ちで臨むと後で公開株するぞ。」

 

 

ラーゲッツ「んなことどうだっていいんだよ!

 俺にはフェデールみたいに頑張れる理由が欲しいんだよ!

 誰だっていいんだ!

 早く俺にそういう相手を用意してくれ!」

 

 

ラーゲッツ父「フェデール………?

 フェデールにそんな話があることは聞いてないが………。

 ………まぁいい。

 お前に紹介出来そうな相手の家は少し身分は下にはなるが一応卿の位を与えられているレス家の御令嬢だ。

 いつになるかは分からんがそれとなく話を通しておこう。」

 

 

ラーゲッツ「おっ、しゃぁぁ!!

 じゃあ頼むな親父!」

 

 

 ラーゲッツがフェデールのようになるには彼のように誰かを想って剣を握る心だと思った。例え想いが実らなくても相手との縁談に漕ぎ着けなくてもフェデールは精進して見せた。ならば自分は相応の相手と深くなりその相手のために剣を振るおう。そうすればいつかは自分はフェデールのようになれる。そうラーゲッツは信じ込んで今回の縁談に臨むことにした。動機は不純だがそれでもラーゲッツの意思は本物だった。自覚は無かったがラーゲッツはフェデールに憧れを抱いていた。フェデールのように誰かを一途に想って努力をすることが自分の人生を大きく変えてくれる。そう信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリス「この度は私とのこのような場をご用意して頂き誠に嬉しく存じますラーゲッツ様!」

 

 

ラーゲッツ「おっ、おう………。

 いっ、いやこちらこそ………。」

 

 

 父にお願いしてから暫く経って漸く相手との顔合わせの日がやって来た。相手の女性の名はリリス=レス。一応下調べをして彼女が舞台関係の仕事もしていることは判明している。外見は飾り気が多く遊んでいそうな見た目であったが化粧などしなくとも彼女がとても美人であることは用意に伺えた。

 

 

ラーゲッツ父「では私はこれで………。」

 

 

レス卿「子爵!

 このあとは何かご予定が?」

 

 

ラーゲッツ父「特には何も………。」

 

 

レス卿「では私のお勧めの料亭でお話だけでも………。」

 

 

ラーゲッツ父「結構だ。」

 

 

 顔合わせ早々に両家の両親達が退室していく。必然的にラーゲッツとリリスの二人がその場に残されることとなった。

 

 

ラーゲッツ「わっ、悪………すまない。

 親父………父もこういう場は初めてで………俺も緊張していて進行とかはどうすればいいのか………。」

 

 

リリス「クスッ………。

 そうでしたか。

 実は私もです。」

 

 

 とてもそうは見えない。いかにも男慣れしている雰囲気だ。美人ということもあって男から言い寄られることも多々あったに違いない。

 

 

ラーゲッツ「………じゃあ互いに初めてってことで色々と知っていくところからだな。」

 

 

 一先ずは彼女の意見に乗ってお互いのことを相手に伝えていくところから始まった。その後は食事や行き付けの店などを回って二人の親交を深めることになった………。



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ラーゲッツVSランドール

バルツィエ邸 修練場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ・フェデール「「魔神剣ッ!!」」ズザザッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォォォンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………今のはどんな感じだった?」

 

 

フェデール「俺の剣に合わせて早く振りきるのは良かったけど少し強引過ぎるな。

 技の切れ味を維持するには持っている剣がどの方向を向いているのかも意識して振撃った方がいい。」

 

 

ラーゲッツ「チェッ!

 いい線いってると思ったんだがな。」

 

 

 ラーゲッツとフェデールの二人は久々に修練場で剣の稽古をつけていた。リリスと会ってからの数ヵ月ラーゲッツはここで一人で剣の練習をしていた。そんな時に偶々訪れたフェデールと一緒になって練習することになった。

 

 

フェデール「そう悲観したものでもないさ。

 暫く見ない内に随分と上達したじゃないか。」

 

 

ラーゲッツ「そうかぁ?

 自分じゃそんなに変わってる気はしないが………。」

 

 

フェデール「間違いなくお前の剣の腕は上がっているよ。

 前に試合した時とは大違いだ。

 今ならユーラスやランドールにも引けをとらないくらいにはなってると思うぞ。」

 

 

ラーゲッツ「いやまだまだそこまではいってねぇだろ。

 そう簡単に追い付いたりなんかしねぇよ。」

 

 

フェデール「そうでもないぞ?

 アイツ等騎士団での修練以外ではろくに剣を握らないからな。

 自主練に励んでる分お前の方が基礎的な部分はしっかりしてきている。

 

 

 

 

 

 

 お前は強くなってるよラーゲッツ。」

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………へへへ、

 そうかよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意外にもフェデールが誰かを素直に褒めることは少ない。大抵彼が人をおだてるのは何か仕事を押し付けたりする時に調子に乗らせて顎で使う場合だ。長く付き合ってきてフェデールがそういうことをするのは分かっていた。しかし今はそういった場面ではない。

 

 

 だから今のフェデールの言葉が彼の本心からくる言葉であることは確かだろう。フェデールはラーゲッツの成長を認めたのだ。これにはラーゲッツも照れを隠せなかった。

 

 

フェデール「でもどうしたんだ?

 ここ暫くお前ずっと真面目に練習が続けられてるだろ?

 何かいいことでもあったのか?」

 

 

ラーゲッツ「ん?

 …まっ、まぁな。

 ちょっとお前を見習ってみただけだよ。

 俺もある人のために強くなろうと思ったんだ。」

 

 

フェデール「ある人?

 好きな女性でも出来たのか?」

 

 

ラーゲッツ「好きな女性って言うか………、

 ………俺にも彼女がな………出来たんだ。」

 

 

フェデール「彼女!?

 お前が!?

 全然女になんか興味を持ってなさそうだったお前に彼女!?」

 

 

ランドール「そこまで驚くようなことでもねぇだろ。

 俺達だってもう成人してから長いんだ。

 そろそろ彼女………大事な人ぐらいいてもいいだろ。」

 

 

フェデール「それはそうだが………………、

 それにしてもお前に彼女ねぇ………。

 真剣な交際なのか?」

 

 

ランドール「何を疑ってんだよ。

 真剣に決まってんだろ。

 俺達の家を相手にふざけたことする奴なんかいるかよ。」

 

 

フェデール「………いや………()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「よぉ!

 ここにいやがったかラーゲッツ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェデールとリリスのことについて語っていると修練場にランドールが入ってきた。彼の言葉から修練目的ではなくラーゲッツを探していたようだが………、

 

 

フェデール「………ランドール………。」

 

 

ラーゲッツ「お前………何しに来たんだよ。」

 

 

ランドール「お前のことを探してたんだよ。」

 

 

ラーゲッツ「俺を?

 俺にお前が何の用があるんだよ?」

 

 

ランドール「お前最近あの女連れてるよな?

 レサリナスで前回のミスコン大会で優勝したあの女リリス=レスって女。」

 

 

フェデール「(………リリス=レス………!?

 アイツは確か………!)」

 

 

ラーゲッツ「………彼女がどうかしたのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「あの女を俺に寄越せ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランドールはラーゲッツにリリスを要求してきた。

 

 

ラーゲッツ「………何言ってんだお前。

 そんな無茶な要望俺が聞き入れると思ってんのか?」

 

 

ランドール「お前ごときにあの女はもったいねぇよ。

 お前が所有するくらいなら俺が貰った方がお得だろう?」

 

 

ラーゲッツ「テメェ………!

 リリスを物みたいに言うんじゃねぇよ。

 お前なんかに渡せるか。」

 

 

ランドール「格下が格上に意見すんじゃねぇよ。

 お前は俺の言うことを素直に聞けばいいの。

 ………で?

 今度いつデートすんだよ?

 その日はお前の代わりに俺がリリスとデートしてやるよ。

 そんでそのまま俺がリリスをもらい受けるぜ。」

 

 

ラーゲッツ「言わねぇし行かせもしねぇよ。

 お前はすっこんでろ。」

 

 

ランドール「あ”ぁ?すっこんでろ?

 誰に口聞いてんだお前?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちっと躾してやらねぇといけねぇみた「待てよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「ここは訓練する場だぜ?

 こんなところでガチの喧嘩は止してほしいな。」

 

 

 ランドールが魔術を発動させようとしてフェデールが間に入ってそれを止める。

 

 

ランドール「何だよちょっくらコイツにお灸をすえてやらねぇといけねぇんだよ。

 邪魔すんなフェデール。」

 

 

フェデール「邪魔すんな?

 誰に口を聞いてるのかな?

 これは俺が躾しなしてやった方がいいのかな?」

 

 

 先程ランドールがラーゲッツに言ったことを自分の言葉でアレンジして挑発するフェデール。

 

 

ランドール「………チッ!

 おいラーゲッツ!

 こっちに来い。」

 

 

 フェデールには逆っても勝てないとみてランドールはラーゲッツを外へと連れだそうとする。フェデールに迷惑をかけるのは悪いと思いランドールの言う通りに出ていこうとするラーゲッツたっだがそこへ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「なぁ?

 せっかくだからその案件ここで試合で決めてみたどうだ?」



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研ぎ澄まされた剣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「はぁ?

 どういうこったよ?」

 

 

フェデール「簡単な話だよ。

 ただお前はラーゲッツにリリスを譲って欲しいんだろ?

 そしてラーゲッツは彼女をお前に渡したくはない。

 両者共に引く気がないならこれからお前は腕付くでラーゲッツから彼女を奪おうとしようとしている………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガキだなお前。」

 

 

 フェデールがランドールを嘲笑する。

 

 

ランドール「何ィッ!?」

 

 

 フェデールの馬鹿にした態度にランドールがくってかかる。

 

 

フェデール「餓鬼だって言ってんだよお前に。

 欲しいものを脅して手に入れようとするのはガキ大将と同じだ。

 仮にも俺達は名門貴族だぜ?

 貴族が欲しいものを相手に対価を払わずに得ようとするなんてみっともない。

 そんなのは貴族のそれも大人がすることじゃないだろ?

 だからお前のことを餓鬼だって言ったんだ。」

 

 

ランドール「テメェ………!

 関係ねぇ奴は引っ込んでろ!!」

 

 

フェデール「じゃあお前の方が引っ込んでろよ。

 俺とラーゲッツは今ここで剣の稽古をしていたんだ。

 邪魔しないで貰えるかな?」

 

 

ランドール「くっ…!?」

 

 

 フェデールの正論に反論できずにランドールは苦虫を潰したように表情を歪める。ランドール自身上下関係がどちらが上なのかを自覚しているからこそフェデールには強く出れない。

 

 

フェデール「どうしても俺とラーゲッツの邪魔をしたいってんならラーゲッツと勝負してみないか?」

 

 

ラーゲッツ「は?」

 

 

ランドール「あ?

 コイツと俺が?」

 

 

フェデール「そうお前達二人が()()()()勝負するんだ。

 勝負して負けた方が勝った方の命令を聞くこと。

 それでいいだろ?」

 

 

ランドール「………何だよそりゃあ………?

 それじゃ今から俺達がやろうとしていたことと変わらねぇじゃねぇか。」

 

 

フェデール「変わるよ。

 俺がお前達の勝負の立会人になる。

 もし勝負して負けた方が命令を無視するようなら俺が勝った方に加担して無理矢理にでも言うことを聞かせてやるよ。」

 

 

ラーゲッツ「何!?

 フェデールお前………!?」

 

 

ランドール「………ハハハ!

 おもしれぇ!!

 そいつぁいいなぁ!!

 その方が俺としてもやり易いぜ!!

 要はコイツをぶちのめすだけだろ?」

 

 

フェデール「言っておくけど魔術は無しだ。

 純粋に剣の腕だけで勝敗を決めること。

 いいな?」

 

 

ランドール「ハハハハハ!

 いいぜ?

 格下にはハンデぐらいつけさせてやらねぇと勝負にならねぇからな!

 万が一にも俺がコイツに負けるなんてこたあり得ねぇし!!」

 

 

ラーゲッツ「フェデール!!

 どういうつもりだ!?

 俺はそんな提案受けるつもりはねぇぞ!!

 お前が介入するのにも反対だ!!」

 

 

フェデール「いいから黙ってこの勝負受けろよ。

 ここにいるのは三席の俺と他五席と八席………。

 誰がこの場を取り仕切るのに相応しいか言われなくても分かるだろ?」

 

 

ラーゲッツ「ぐぅっ………!?

 糞ッ!!」

 

 

 ラーゲッツは今回の件はランドールに連れていかれて一方的にボコボコにされるだけで終わるつもりだった。ランドールに脅されても自分が口を割ることさえなければ彼女との関係はこれからも続けられると思っていた。

 

 

 しかしそこにフェデールが加わるのであればフェデールはあの手この手でラーゲッツとリリスの仲を引き裂こうとするだろう。フェデールは話すだけならいい相手だが敵に回すと色々と厄介だ。フェデールは出来ないことを口にはしない。出来るからこそここまで自身を持って言うのだろう。彼は他の家との繋がりがバルツィエの中で多い。きっとラーゲッツとリリスが一緒にいられなくなるほどの悪い噂をばら蒔いたりする。ラーゲッツは言い知れない悔しさに拳を握る。

 

 

 

 

 

 

フェデール「………そんなに力むなよ。

 気楽に構えな。

 精々ランドールとの勝負をいい訓練になる程度に捉えておけ。」

 

 

ラーゲッツ「そんなふうに考えられるかよ………!

 俺がしくじったら………俺はリリスと………。」

 

 

フェデール「………安心しろよ。

 そうはならないから。」

 

 

ラーゲッツ「どうしてそう言い切れるんだよ!?

 俺はアイツに勝ったことなんて一度も「昔の話だろ?それも魔術ありきの。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「俺の全てを賭けてもいい。

 今回の()()()()()()()()()()

 剣の腕ではもうお前はランドールを寄せ付けない域にまで達してるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「…………はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてラーゲッツとランドールが準備を終えて向かい合う。

 

 

フェデール「ルールを確認する。

 この試合は剣術のみだ。

 攻撃性の魔術、補助系の魔術、それから治療術も禁止する。

 それらを使用した場合その場で即敗け判定させてもらう。

 両者異論は無いな?」

 

 

ランドール「あぁ問題ねぇよ。」

 

 

フェデール「ラーゲッツは?」

 

 

ラーゲッツ「攻撃性の魔術はともかく俺には()()()()()()()使()()()()()()分かりきってんだろ………。」

 

 

フェデール「………異論は無いようだな。

 ………では………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始めッッッ!!!」パンッ!

 

 

 フェデールが手を打ち鳴らしてランドールとの試合が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(………どうしてこうなるんだよ………。

 俺がランドールに勝ったことなんて一度も無いってのに俺が勝つなんてそんなことが起こる筈が………。)」「おおおおおおおぉぉぉッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「魔神剣・双牙ッ!!」

 

 

 ランドールが先制の魔神剣で牽制を行ってくる。二つの衝撃波がラーゲッツへと迫りくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(!!

 もうなるようになれだ!!

 せめて善戦ぐらいはしてやらねぇとリリスに申し訳がねぇ!!)魔神剣!!」ザザザッ!!

 

 

 負けじとラーゲッツも魔神剣を放つが一手遅く出してしまったせいで一発だけの魔神剣になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「ぐおぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「…………あ…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランドールの二発の魔神剣とラーゲッツの一発の魔神剣がぶつかった結果ランドールの魔神剣をラーゲッツの魔神剣が突き破りランドールへと直撃した………。



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ラーゲッツの勝利

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「ぐふぅ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランドールが吹き飛び壁にぶつかる。ラーゲッツは一瞬何が起こったのか分からなかった。

 

 

ラーゲッツ「………?

 ランドール………?」

 

 

ランドール「………………ッ………ぶはぁ!!

 なっ、何だ………今のは………!?」

 

 

 ランドールも自分の身に起こったことに衝撃を受けていた。

 

 

ラーゲッツ「……何で今………相殺されずに俺の魔神剣が………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「研鑽の違いだよ。」

 

 

 今の結果は当然かのようにフェデールが言う。

 

 

ラーゲッツ「………研鑽………?」

 

 

フェデール「君とランドールとではマナの出力量はランドールの方が勝っている。

 まともにかち合えばランドールの方に軍配があがっていたことだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………でもそれは直接的な力を比較した時の場合だ。

 槍が何かを貫いたり剣が切り裂いたり出来るのはそれらが鋭利だからだ。

 武器は対象を破壊しやすいように作られているが使い方を間違えばそういった事象を実行出来ない。

 使い手が悪ければ剣もただの鉄の塊だ。

 どんなに大きな力を持っていてもそれを上手く使いこなせなければ意味がない。

 中身が空かすかじゃあ小さな針一つで穴を開けることなんて造作もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君の一点に凝縮された力はランドールの見せかけだけの張りぼてなんかに負けたりなんかしない。

 今の君の剣はランドールの剣よりも鋭いんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の剣の腕がそこまで高まっていることに驚くラーゲッツ。マナの出力や技の強さだけで勝敗が決するものだと思い込んでいた。しかし以前として出力がランドールに劣るフェデールが他のダインやグライドを抑えて上位に居座っていることは紛れもない事実。彼の強さの秘訣が日々の積み重ねによって保たれているのは重々既知だ。

 

 

 ラーゲッツは自分がフェデールが向かう強さの方向に進んでいることを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「ただのまぐれに決まってるだろうが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「!」

 

 

ランドール「たった一回押し勝っただけで勝った気になるな!!

 今のは俺が油断してただけだ!!

 今度はそうはいかねぇぞ!!

 こっからは全力で撃ち込んでやる!!

 食らいな!!

 魔神剣!!」

 

 

 ランドールが大振りの魔神剣を放つ。先の魔神剣よりも衝撃波が大きい。ラーゲッツは気圧されそうになるが………、

 

 

フェデール「ラーゲッツ。

 教えてやりなよ。

 俺達に必要な力は生まれ持った才能じゃない。

 俺達に真に必要なものはその才能をいかに研ぎ澄ませられるかってことだ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

ラーゲッツ「…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランドールの言葉をそのまま使うのであればそこからの試合は()()()()()()()()()。互いに相手に斬りかかっていくもそれが届くのはラーゲッツの剣のみ。時間が経てば経つほど疲弊していくのはランドールばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「ハァ………!ハァ………!」

 

 

フェデール「もう敗けを認めろよランドール。

 どう足掻いても剣じゃお前はラーゲッツに敵わない。」

 

 

ランドール「五月蝿い黙れッ!!

 俺がラーゲッツごときにこんな……!?」

 

 

フェデール「…………ハァ……。

 何をそんなに熱くなってるんだか………。

 別に剣で負けてるだけで()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「!!

 魔術!!

 そうだ!!

 魔術でぶっ飛ばしゃ俺がラーゲッツに負けることなんて有り得ねぇ!!

 『スプラッ「はいそこまで。」』………おはァッ!!?」ドサッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「この勝負………ラーゲッツの勝ち。」

 

 

 頭に血が登って試合のルールを忘れたランドールが魔技を使おうとしそれをフェデールが瞬時に組伏せて止める。

 

 

ランドール「何しやがんだフェデール………!

 俺はまだ戦えるだろうが………!」

 

 

フェデール「お前こそ何言ってるんだよ。

 この勝負で使っていいのは剣術だけだったろうが。

 よって今お前が魔技を使おうとしていたからその時点でお前の負けは確定。

 ラーゲッツの勝ちだ。」

 

 

ラーゲッツ「俺が………勝った………?

 ランドールに……………初めて………。」

 

 

ランドール「くぉあああぁぁ!!

 ふざけるなァッ!!

 誰がコイツに負けたってんだ!!?

 俺が?

 馬鹿野郎がッ!!

 そんなこと認められるか!!

 取り消せそんな判定!」

 

 

フェデール「今更取り消せるかよ。

 ジャッジがルールを覆したら俺がいる意味がないだろ?

 俺は公平に審判をしたつもりだ。

 それでお前が敗北しただけの話だ。

 これ以上文句があるんなら俺が直々にお前をここから叩き出すだけだぞ?

 どうする?」

 

 

ランドール「この………!?」

 

 

フェデール「悔しかったらお前もラーゲッツみたいに真面目に剣を研いてみたらどうだ?

 才能に拘るんならお前はラーゲッツよりも……俺なんかよりも能力が上がりやすいんだ。

 お前が本気になれば俺達なんかお前には追い付けなくなるほど差がつけられる。

 今回の試合は魔術を禁止した試合だ。

 これが魔術有りの試合だったら結果はお前の勝ちだった。

 そうだろ?」

 

 

ランドール「………!」

 

 

フェデール「お前はハンデをした上でラーゲッツに敗北したがこんなんじゃラーゲッツもお前も本当に勝った負けただなんて納得しないだろ?

 ………今は引いておけ。

 どうせお前には何の損も無いんだ。

 敗者は勝者の言うことを聞くってのもお前がラーゲッツとリリスに干渉しない。

 それでいいだろ。

 いいよなラーゲッツ?」

 

 

ラーゲッツ「………あぁそれでいいぜ。」

 

 

ランドール「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………チッ!

 仕方ねぇなぁ。

 今回は俺の敗けでいいぜ………。

 素直に聞いてやるよ。

 俺は餓鬼じゃなくて大人だからな。」

 

 

フェデール「………よし。」

 

 

 ランドールの興奮が治まったのを確認してフェデールがランドールから離れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「フェデール……俺は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………やったじゃないかラーゲッツ。

 お前がランドールを打ち負かしたんだよ。

 お前が日頃努力を惜しまず励んだ賜物だ。」

 

 

 フェデールの言葉でラーゲッツはやっとランドールに勝ったことを実感した………。



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リリス=レスという女性

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………勝った………?

 ……勝ったんだな俺………ランドールに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いよっしゃぁあああああぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 ラーゲッツは声を張り上げて歓喜する。敵わないと思っていた相手に勝った。それがどれだけ凄いことかは分かっている。バルツィエの社会では基本的に下克上が達成されたことはない。生まれ持つ高い基礎能力は周囲の者達と比較して自分は優れていると脳裏に刻まれる。だからバルツィエに生まれた者が必死に努力することなどない。大概の相手は魔術だけで倒せるからだ。魔術さえ必要な時に撃てればそれだけで敵は倒せる。一撃で大抵終了する手があるならわざわざ努力する意味はない。ユーラスやランドール達はそれに甘えて剣を磨いてこなかった。だからラーゲッツは勝利できたのだ。

 

 

フェデール「………どうだラーゲッツ?

 自分より強い相手に勝った気分は?

 最高だろ?」

 

 

ラーゲッツ「!

 あぁそうだな!

 俺でもランドールに勝つことが出来るんだな!」

 

 

フェデール「勿論さ。

 この世には努力で越えられない壁はない。

 やれば俺達は何だって出来るんだ。

 お前にはそのことを理解して欲しかった。

 お前がもっと早く腕を磨いていれ今の序列も変わってきてた筈だぞ?

 俺が出来たくらいなんだから。」

 

 

ラーゲッツ「あぁもう!

 どうして俺は子供の時にお前みたいに頑張ることが出来なかったんだ!?

 そうしたら俺だって今よりも強くなれてた筈なのに!」

 

 

フェデール「だけどお前がこうして勝てたのはあの時の結果があったからだと思うぞ?

 自分が弱いってことを知ることが出来たからだ。」

 

 

ラーゲッツ「………まぁ俺はお前に比べれば弱いがよ………。」

 

 

フェデール「弱いってことを自覚出来たなら俺達は強くなれるよラーゲッツ。

 俺もまだまだ弱い。

 俺の上にはアレックスも………いなくなったアルバートもいるんだからな。

 俺は常にアイツ等を目指して鍛えてるんだ。」

 

 

ラーゲッツ「流石に俺はそこまでは強くなれねぇよ。

 お前なら出来るかもしれねぇけど俺には無理そうだ。

 アレックス達は俺達よりも才能もあるし努力もしてる。

 天才で努力する奴になんかおいつけっこねぇ。」

 

 

フェデール「…そんなこと言ってていいのか?

 お前が修練し始めた切っ掛けはリリス………大切な人が出来たからだろ?

 もしそんな彼女がランドールみたいに他の誰かに奪われそうになった時お前は彼女を守りきれるのか?」

 

 

ラーゲッツ「そいつは………。」

 

 

フェデール「ラーゲッツ………今からでも遅くはないんだよ。

 まだ奪われたりはしないだろうけどいつか今のお前より強い相手がリリスに目をつけたらと思うと今からでも強くならなきゃいけない、

 そう思わないかい?

 これから俺と一緒に剣を「あ~あ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「どうせ振られるだけなのに何をそんなに張り切ってんだか!」

 

 

 蚊帳の外だったランドールが突然大声でそんなことを言い出した。

 

 

ラーゲッツ「………負け惜しみか?

 俺が振られるって何だよ?」

 

 

 

 

 

 

ランドール「このランドール様がせっかく傷が浅い内に収めてやろうと思ったのになぁ!

 よく考えりゃこんな勝負全くの無意味だったわ!

 リリスは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

ラーゲッツ「あぁ………?」

 

 

 負けた腹いせに悪口を言っているのかとも思えるがどうにもここまで自信を持って発言しているところを見るとラーゲッツが振られるという根拠が何かありそうだが………、

 

 

フェデール「ランドール………まだ彼女がそうと決まった訳じゃないよ。

 本当にラーゲッツのことを気に入ってるのかもしれないし………。」

 

 

ラーゲッツ「!

 ………フェデールは何か知ってるのか?

 コイツが何言ってるのか分かるのか?」

 

 

フェデール「………ラーゲッツ………まさか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「まさかお前何も知らないのかよ!!

 お前とリリスは()()()()()()()()()()()()()()()?()

 聞いたんだぜ?

 なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………見合い………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「ハァ!………ハァ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツはレサリナスの街を走る。ランドールに言われたことを彼女に確認するためだ。彼女に限って()()()()()()()()()()()()そんなことだとは信じられない。リリスと付き合うようになってから三ヶ月彼女は献身的にラーゲッツに尽くしてくれた。彼女は自分と相思相愛なのだ。彼女のような女性が側にいてくれるようになったから自分は前よりも真面目に剣に取り組むことが出来た。

仕事にも熱心になり何もかもが充実する毎日を送ることが出来た。リリスのような育ちのいいお嬢様がまさかそんな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「!

 着いた!」

 

 

 修練場を飛び出して三十分。彼女がいる劇団まで到着した。今日は彼女は舞台の稽古があるから会う予定は無かったがいつもリリスとはここで落ち合う。劇団員達もラーゲッツとの仲は知っているしそれを祝福もしてくれた。見合い自体親達の政略結婚から来た話だろうがそんなこと抜きにしてもラーゲッツはリリスに惚れ込んでいた。リリスは甲斐甲斐しく自分の世話をしてくれた。ラーゲッツも彼女を幸せにしたいと思っていた。

 

 

 それがリリスがラーゲッツを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「!」

 

 

 咄嗟にラーゲッツは物陰に隠れる。舞台の入り口からリリスを含めた数人が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてリリスはその中の一人の男に肩を抱かれて楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は彼氏とは会う予定は無いのかいリリス?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリス「別に無いわよ?

 どうして?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリス「そうねぇ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でもそうなる前にラーゲッツなんかよりももっと上の奴の彼氏にシフトするから別にいいのよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランドールが言っていたことは真実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツはただの()()()()()()()()()()()()………。



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「アッハハハハ!

 相変わらず悪女だなぁリリスはぁ!」

 

 

リリス「え~?そう?

 でも先代のバルツィエの奥さん達も同じことやってたんでしょ?

 どうせ旦那にするなら出来るだけ強い権力持ってる男のところに行きたいしラーゲッツってバルツィエでもそんなに発言力がある方じゃないみたいなの。

 私くらいの容姿があればラーゲッツなんかよりも上の連中の目に止まるでしょ?

 ユーラスとかランドールとか………あと望みは薄そうだけどフェデールとかね。」

 

 

「フェデールゥ?

 本気かぁ?

 フェデールはなぁ………。」

 

 

「アイツいつもヤバイ暗殺計画ばっか考えてるって話だぞ?」

 

 

「アイツは手を出しちゃいけない奴だ。

 機嫌を損ねたら何かされるか分かったもんじゃねぇ。」

 

 

リリス「別にいいじゃない。

 アタシの夫になる男よ?

 そんぐらいの男じゃないとアタシに釣り合わないわよ。」

 

 

「何だよ。

 随分と上から目線だな。」

 

 

リリス「じゃあ聞くけどアンタ達私よりも綺麗な女を会ったことがある?」

 

 

「それは………中々ねぇなぁ………。」

 

 

「リリス以上って言うとそうお目にかかれることもないよな。」

 

 

「お前を見たあとだと他の女が女に見えなくなるくらいに顔はいいからなぁ。」

 

 

リリス「顔だけじゃないわよ私は。

 私には誰に対しても上手くやれるだけの演技力と話術があるもの。

 私にかかれば落とせない男なんていないわ。

 現にラーゲッツも私の演技に騙されてるもん。

 今頃アイツ私のことを想って仕事でもしてんじゃないの?

 笑っちゃうわよね?

 私が本気で自分に好意を寄せてるって絶対勘違いしてるわよアイツ。

 

 

 …けど私はラーゲッツなんかで満足はしないわ。

 私の隣に立つに相応しい男は()()()()()()()()()()()()()()()

 そうなると次にバルツィエの本家の当主になる男よねぇ。

 アルバートは落とす前にどこかに行っちゃったけどアレックスなら行けそうよね?」

 

 

「アレックス?

 アレックスって確か今は代理で当主やってたよな?」

 

 

「けどそれも辞任するんじゃないか?

 アレックスには女王クリスタルとの婚姻で大公になるって話だぞ?

 アレックスは無理だろどう考えても。」

 

 

「女王から大公を奪ったりなんかしたら家が取り潰されるぞ。」

 

 

リリス「………そうみたいね。

 アレックスがそうなるって噂はちらほら聞いてたけどアンタ達の様子からしても本格的にそうなりそうね。

 じゃあアレックスは諦めるわ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

「いやだからフェデールは………。

 ………まぁお前の好きにしたらいいんじゃないの?」

 

 

「そうだな。

 そんな話はさておいて今日は俺達の相手をしてくれるんだろう?」

 

 

「最近()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいだからな。

 路地裏で女ばかりを狙った怪奇な連続通り魔が現れるって話だ。

 お前みたいな美人が一人で夜道を出歩いてちゃ危ねぇ。」

 

 

「俺達と一緒に今日は楽しく飲み明かそうや。

 なんなら朝までのコースもあるぜぇ?」

 

 

リリス「ふぅん?

 そうねぇ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちゃんとテクニックはあるんでしょうね?

 私を満足させられるだけのモノが無ければバルツィエに言ってアンタ達の評判を地に落とすわよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リリス達は夜の街へと消えていく。最後までラーゲッツの存在に気付くことなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………なんだよ。

 ランドールの言う通りだったってことか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエの名はマテオでもっとも権力を握っている貴族として多くの者に知られている。大半の者はその権力と戦いに特化した力に畏怖し近付くのを避けるが中にはその力にあやかろうとすり寄ってくる者達もいる。婚姻関係はまさに打ってつけのすり寄り方だ。バルツィエの家の誰かと近しい間柄になれば虎の威を借る狐のようにその者も周囲に幅を聞かせられるようになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして強欲が過ぎる者はバルツィエの上下間でも選り好みしより上の力のある者を手に入れようとする。

 

 

 

 

 

 

 今回ラーゲッツとリリスは見合いという形で出会った。ラーゲッツに来ていた見合いの話は家の格が下にはなるが他にも数十という数の申し入れがあった。バルツィエ程の家となるとそのようなことは当然のことだろう。その中から偶々リリスが相手だった訳だが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リリスは最初からラーゲッツなど眼中に無かったのだ。ラーゲッツを通じて他のバルツィエを狙っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「ラーゲッツ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リリス達がいなくなってからフェデールがラーゲッツの元へとやって来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………よぉ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「!

 ラーゲッツ!

 やっぱりここにいたか!

 ………………リリスは………?」

 

 

ラーゲッツ「………リリスなら他の男と今頃楽しくやってんだろうよ。」

 

 

フェデール「!?

 他の男!?」

 

 

ラーゲッツ「女って何考えてるのか分からねぇよなぁ………。

 一緒にいて楽しそうに笑ってるのを見て相手も俺と同じ気持ちなんだって自惚れてたよ。」

 

 

フェデール「じゃあリリスは………。」

 

 

ラーゲッツ「その内お前等にも紹介しろって言ってくるぜ?

 アイツどうやらお前が本命みたいだしよ。」

 

 

フェデール「俺は………リリスとはそんな関係にはならないよ………。」

 

 

ラーゲッツ「どうしてだよ?

 あんな上玉不意にする理由がねぇだろ。

 俺なんかは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。

 お前やランドール達の母親達も酷な真似するよな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 略奪愛。略奪とは人が持つ価値ある者を奪う行為だ。奪われる側が価値のある者を持つがこそそれを奪いたくなる一部の人々の性だ。それは物に問わず友人やその立場に価値を見出だす者もいる。

 

 

 ラーゲッツの父親はフェデール達の母親達と一度交際をし暫くしてからフェデール達の父親つまり他のバルツィエの同世代の者達に寝とられている。母親もラーゲッツの父よりも上から見初められるのならとラーゲッツの父を切り捨てて他のバルツィエの方へと行った。当然父は憤慨したが当時父はラーゲッツと同じでバルツィエの中でも一番弱い立場にあった。罵声を吐こうが腕付くで取り返そうとしようが無駄だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツは父と同じ一途を辿る最中だったのだ………。



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まだここでは折られない心

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「それにしても女ってすげぇよな………。

 俺以外が自分に靡くって核心があるみたいだ。

 ランドールなんか実際に奪おうとしてきたし………。

 リリスもお前が相手にしないってんならランドールのところに行くんじゃねぇか?

 そしたら俺は親父と同じになるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ハハハ。

 あんな女を想いながら剣を振ってた自分が馬鹿みたいだぜ………。

 ………もう俺も剣を積むのを辞めようかな………。

 俺はお前みたいには「ラーゲッツ!!」」ガシッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「強くなるのを諦めるな!!

 世の中あんな女ばかりじゃない!!

 お前は何も悪くないんだ!!

 お前が剣を置く必要なんて一つも無いんだよ!!」

 

 

 ラーゲッツの肩を掴んでフェデールがそう言って聞かせようとしてくる。

 

 

ラーゲッツ「フェデール………、

 でも俺はどうやったってお前みたいにはなれない………。

 お前みたいに強くはなれないんだ………。

 お前のようになりたくて俺は今日までずっと………。」

 

 

フェデール「今のお前を変えることはない!

 リリスのことはもう忘れろ!

 さっきリリスが俺を本命と言ったんだな!?

 リリスの件は俺に任せろ!

 お前のことを騙していた代償は俺があの女に支払わせてやる!!

 だからお前はお前のままであり続けろ!」

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからラーゲッツはリリスと会わなくなった。リリスからの連絡にも一切返さず彼女とは疎遠になっていった。リリスはリリスでフェデール達を紹介する前にラーゲッツとの繋がりが切れそうになったことで最初は焦ったのか何度も訪問してきたがその度に最近執事となったセバスチャンに追い返してもらっていた。それから暫くしてからリリスもラーゲッツを諦めたのか今度は直球でフェデールに見合いを申し込んできたらしい。遠回しに誘惑するのでは失敗に終わってしまうだけだと踏んでフェデールに直接狙いを定めたようだ。フェデールはこの話を受けるのだが顔合わせには時間を置きリリスに会うまでに彼女の素行調査をして彼女が何人もの男性との深い関係があることを調べあげた。そしてリリスと会う日にそのことをレス家とフェデール、フェデールの父親がいる前で暴露し不貞な娘との関係は断固断る旨を告げた。結果的にレス家は今後バルツィエに関わることが出来なくなりバルツィエに対して不遜な行いをしようとしていたことが発覚しそれが公になって貴族としては致命的な打撃を受け家が取り潰されることとなった。その後はリリスの家族は路頭に迷うこととなり最終的に一家心中をはかっていなくなった。

 

 

 

 

 

 

 ………余談だが何故かリリス達の家族がいなくなってから当時レサリナスを騒がせていた若く綺麗な女性ばかりを狙う猟奇事件も起こらなくなっていた。証拠は掴めなかったがレス家が何かしら関わりがあったと見て捜査が進められたが十年以上経過して具体的な犯行の証拠と動機も掴めぬまま事件は迷宮入りとなった。

 

 

 そして今後このようなことが起こらぬようにフェデールはバルツィエに見合いの席を設ける場合は相手側の身辺調査と見合いの掛け持ちのようなことを禁じるように世間に公表した。一族の看板に泥を塗るような者がバルツィエに加われば政治活動を行う上でも支障を来しかねないとの意見をアレックスや先代達との話し合いの席で認めさせた。ラーゲッツやラーゲッツの父のような境遇はバルツィエ間でも対立が起こりうる案件だ。今回のことで二度目となると流石に動かざるを得ない。これによってラーゲッツに見合いを申し込んでいた家の者達は他のバルツィエに手を出すことが出来なくなりラーゲッツ一択となった。だがラーゲッツはこれらの話を全て蹴った。ラーゲッツに話を持ち掛けてくる家は皆リリスと同じ考えの者達ばかりだったのだ。そんな輩との縁談は辟易するとラーゲッツは女性に対する不信感を募らせて暫くは一人でいいと思い込むようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「フンッ!………フンッ!」ブン!ブン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「調子が戻ってきたようだなラーゲッツ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修練場で一人剣の素振りをしてるラーゲッツのところへフェデールが訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………フェデールか………。」

 

 

フェデール「あれからお前のこと心配してたんだぞ?

 何日も部屋に籠って出てこなくなったって聞いて。」

 

 

ラーゲッツ「………迷惑かけちまったようだな。

 ………それからリリスのことも世話になった。」

 

 

フェデール「気にするなよ。

 あんなふざけた奴は潰して当然だ。」

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

フェデール「………?

 どうした?」

 

 

 ラーゲッツはフェデールを不思議そうに見詰める。フェデールは何故自分が見詰められているのか分からずに困惑する。

 

 

ラーゲッツ「………前から思ってたんだが何でお前は俺にだけそんな普通に接してくるんだ?」

 

 

フェデール「ん?

 ………普通に接することが何かおかしいか?」

 

 

ラーゲッツ「お前ランドールとかユーラスとかと絡む時アイツ等をおだてあげたり挑発したりするじゃねぇか。

 なのに何で俺にはそんなふうにしてこないんだ?」

 

 

フェデール「…あぁそういうことか………。

 

 

 

 

 

 

 ………お前には期待してるんだよラーゲッツ。」

 

 

ラーゲッツ「俺に期待………?

 ………何を期待してるんだよ。」

 

 

フェデール「お前と俺は今の俺達の世代でも下の方からのスタートだ。

 それで俺は早めに自分を鍛えて上に上がれたけどお前は少し遅れて上がり始めた。

 俺とお前だったらもっと強くなれるよ。」

 

 

ラーゲッツ「強くなったところでお前にはお前より強いのはアルバートとアレックスの二人しかいねぇじゃねぇか。

 それかお前が話してた世界全部で挑んでも互角かそれ以下にしかならないって敵か。

 そいつに挑めるだけの強さまでいかなくちゃいけねぇのか俺達は?」

 

 

フェデール「………どうやっても俺達には奴の強さのレベルにまでは到達することは出来ないよ。

 奴は俺達の何千万と先を行ってる。

 まるで()()()だ。」

 

 

ラーゲッツ「お前がそこまで言う程の奴なのか………?

 ………なぁ、

 そいつが誰なのか俺にも教えてくれねぇか?」

 

 

フェデール「…駄目だよ。

 お前に教えることは()()()()()()。」

 

 

ラーゲッツ「まだ?」

 

 

フェデール「………いつかお前にも教える時が来るよ。

 その調子でメキメキと力をつけて行ってくれればいつかお前だけには絶対に話す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからラーゲッツ、

 ()()()()()()()()()()()()()()?

 お前がその答えを知りたければ俺を越えるぐらいにまで進んでいけ。

 俺はお前が俺を越えるのを待ち望みにしてるんだ。」

 

 

ラーゲッツ「………へっ、

 気長に越えていってやらぁ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「(………今はまだお前はランドールと制限無しで戦えば負けてしまうだろうな………。

 ………でももしランドールを越えられるぐらいにまでお前が剣の腕を鍛え上げて見せてくれたら俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今のバルツィエ内の過去に固まってしまった序列の立ち位置を再選定する話し合いを上の連中に審議させる。

 お前の位をランドールやダインよりも上にするんだ。

 ………………そしてお前には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が引退した後の()()()()()()()()と思ってる。

 お前が腐らずに努力を続ければお前は次代のアルバートになれるんだよラーゲッツ。)」



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単独での敵地潜入

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「これから暫くは女になんかかまけてないで純粋にお前を追い掛けることにするぜ。」

 

 

フェデール「ん?

 ………どうしてだ?

 リリスは最低な女だったがお前だけを見てくれる女性は必ずどこかにいるよ。

 そう極端になることもないだろ。」

 

 

ラーゲッツ「俺は昔からお前のようになりたいと思ってたんだ。

 お前のように懸命に生きられる奴が俺には眩しくてな………。

 俺はお前のように輝きたかった………。」

 

 

フェデール「俺はそう褒められるような男じゃないけど………。」

 

 

ラーゲッツ「俺には輝いて見えてたんだよ。

 だからお前と同じ様になりたくてお前が好きな相手を想って剣を握るように俺もそういう相手を作ろうとして………こんなことになった………。」

 

 

フェデール「………そういうことだったのか。」

 

 

ラーゲッツ「俺はそこからおかしかったんだ。

 誰かを理由に強くなろうとするのがいけなかったんだよ。

 お前は俺と違って相手に関係無く腕をつけていってる。

 俺もそうなれるようにするわ。」

 

 

フェデール「心の拠り所を誰かに求めるのは悪いことじゃないよ。

 人は一人だととても弱くなるからね。」

 

 

ラーゲッツ「お前は一人でも強いけどな。」

 

 

フェデール「これでもいっぱいいっぱいなんだよ。」

 

 

ラーゲッツ「そうは見えねぇけどな。」

 

 

フェデール「……何にしてもお前が立ち直れてよかったよ。

 これからも宜しくな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからのラーゲッツはひたすらに剣を振り続けた。体を鍛えフェデールに追い付こうと必死にもがいた。フェデールのように少々魔力で劣る程度であれば剣の腕を少し磨くだけでランドールを越えることは難しい話ではなかったがラーゲッツとランドールでは差が大きくランドールを越える実力を物にするにはかなりの時間がかかった。ランドールも格下のラーゲッツに負ける訳にはいかないと修練を積むようになったので更に時間を要した。

 

 

 

 

 

 

 その状況はフェデールにとっては思惑通りだった。下の者を触発すれば負けじと上の者も追い付かれまいと自分を鍛える。そんな構図が出来上がればバルツィエの主戦力は益々上がっていく。フェデールが敵視する相手へ戦いを挑むにはまだまだ力が足りない。フェデールが危険視する敵は世界の総力を持ってしても勝てるかどうか分からない相手がなのだ。まだ相手が自分達を()()()()()()()()()()()()()()()()()()何としても一番相手の力量に近いバルツィエが率先して力を蓄え続ければ敵の足下を掬うくらいには持っていけるだろう。

 

 

 フェデールはラーゲッツの可能性に賭けてみることしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八十年後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツがランドールを完全には越えられないまま八十年の時が過ぎた。ラーゲッツはあれから女性と付き合うこともなく修練を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 そんな時ダレイオスで変化が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「ラーゲッツ、

 お前にダレイオス偵察の任務を与える。」

 

 

ラーゲッツ「俺がダレイオスに………?」

 

 

 ある時フェデールがラーゲッツの部屋を来てダレイオス向かうように指示してきた。

 

 

ラーゲッツ「……ってーと()()()が関係してんだよな?」

 

 

フェデール「あぁ、

 先日ダレイオスの西にある都で謎の魔力の反応があった。

 それを調べて来てほしいんだ。」

 

 

ラーゲッツ「謎の魔力の反応ねぇ………。

 そういうことならバルツィエの誰かが行くしかねぇよな。」

 

 

フェデール「そうだ。

 俺達以外の誰かに向かわせても()()()()()()こともあるからね。」

 

 

ラーゲッツ「片道切符か。

 この状勢じゃあダレイオスの奴等よりもヴェノムの方が心配だからな。」

 

 

 マテオでは八十年前のアルバートが消息を絶った辺りからヴェノムが出現し始めて各地で被害が相次いでいるが今のところはそこまで恐ろしいものではない。それがダレイオスとなるとどこにいてもヴェノムに襲われる脅威に晒される。彼方の国はヴェノム対策が八十年前からまるで進展しておらず今もヴェノムの被害を抑えることに手を焼いているのだ。

 

 

ラーゲッツ「それで今回は俺の他に誰が行くんだよ?

 ユーラスかダインか?」

 

 

 敵地に足を踏み入れる際は最低でも二人一組で行くことが義務付けられている。片方に何かあったとしてももう片方が情報を持ち帰るためだ。他にも二人の方が視野が広がったり戦闘でも互いをフォローして身を守りやすい。今回のダレイオス訪問もそうなるとラーゲッツは思っていた。

 

 

 

 

 

 

フェデール「いや………、

 ユーラスもダインも別の任務を与えている。

 ランドールもグライドも同じだ。

 皆忙がしいんだよ。」

 

 

ラーゲッツ「は?

 じゃあ俺の他に誰がダレイオスに向かうんだよ?

 残ってるのはお前かアレックスくらいだがアレックスは大公として動くことは出来ねぇだろうし騎士団長のお前も騎士団を離れるなんて無理だろ?

 マテオならまだ話は別だろうが………。」

 

 

 ラーゲッツが考え付く限りダレイオスに向かえるバルツィエは自分以外にはいない。しかしそうなるともう一人が誰なのかが分からない。もしかすると先代達の中から代わりを補充要員として派遣するのかと思っていたらフェデールが予想外の返答を下してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「今回のダレイオス派遣はラーゲッツ………、

 ()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「……………は?」

 

 

フェデール「それじゃあ準備が出来次第出発してくれ。

 レアバードの方は此方で調整したものを用意しておく。

 だいたい半年以内に戻ってきてくれればいいか「おい待て!」」

 

 

ラーゲッツ「俺が一人でダレイオスに行くのか!?

 そんなんが上の連中が認めるかよ!?

 アレックスだってそんな無茶なことは言わねぇだろ!?」

 

 

フェデール「そこは大丈夫さ。

 この話は既に決定したことだ。

 先代達もアレックスも容認している。」

 

 

ラーゲッツ「先代達が容認………!?

 アレックスも………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急遽ダレイオスへと一人向かうこととなったラーゲッツ。ラーゲッツは普通では考えられない任務の内容に愕然としてしまう。何故ならこの任務はこれまでの前例を振り返ってみても死亡率が高くなる任務だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(何でダレイオスに一人で向かわなくちゃいけねぇんだ………!?

 ダレイオスにはその謎の魔力を持った奴だけじゃねぇ!

 ヴェノムだってサムライだっているんだぞ!?

 いくら飛行手段としてレアバードを使うって言ってもずっと飛び続けることは不可能だ。

 マナが枯渇しないように地上に降りなきゃならなくなる。

 それは敵に囲まれたも同然の状況に陥ることは目に見えているだろ!?

 ………それなのにこんな仕事が回ってきたってことは上の奴等は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺のことを()()()()()()()()()()と見てるってことったろ………。

 ………俺は上の連中に不要だって判決を下されたってのか………。)」

 

 

 ラーゲッツはこの任務の裏には自身を切り捨てるために先代達からの死刑宣告をダレイオスを送るという形で下された指令だと思い絶望した………。



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伝説の実在

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツにダレイオスへの調査の任務を出したフェデールは部屋を出てからご機嫌だった。

 

 

ランドール「お?

 何をそんなに嬉しそうにしてんだよ?

 何か良いことでもあったのか?」

 

 

フェデール「ん?

 あぁちょっとね。」

 

 

 部屋を出て直ぐにランドールがフェデールを見付けて話しかけてきた。

 

 

ランドール「!

 ………ラーゲッツとなんかあったのか?」

 

 

フェデール「あぁ、

 これからのことなんだがラーゲッツにはダレイオスに向かって貰うことになったんだ。」

 

 

ランドール「ダレイオスに?

 あの魔力の事件のことか?

 ラーゲッツと誰が行くんだ?」

 

 

フェデール「ラーゲッツだけだよ。」

 

 

ランドール「ラーゲッツだけ!?

 そりゃまた何でだ!?」

 

 

フェデール「上の決定だよ。

 今回はラーゲッツ一人だけになった。」

 

 

ランドール「ラーゲッツ一人だけ………。

 そいつぁよくそんな指令が出せたもんだなぁ………。

 アイツ一人で生きて帰ってこらるか分からねぇってのに………。

 ………お前がにやけてたのってラーゲッツをお払い箱に出来るからにやけてたのか?

 お前も内心アイツのこと嫌いだったんだろ?」

 

 

 ラーゲッツが単独でダレイオスに向かうことを知ってランドールが嫌な笑みを浮かべてフェデールにそう訊いてきた。ランドールはラーゲッツに負けてからはラーゲッツのことを毛嫌いしている。ランドールは事なかれ主義で何事も変わらぬままであることを望んでいるのだ。ラーゲッツに打ちのめされてからは自身より下の者が調子に乗るのを快く思っていない。

 

 

フェデール「違うよ。

 俺はラーゲッツのことは気に入ってるんだ。

 だから可笑しくて仕方ないんだよ。」

 

 

ランドール「は?

 気に入ってるのにアイツが死地に行かせるのを認めたのかよ?」

 

 

フェデール「それも違うよ。

 今度のラーゲッツのダレイオス派遣は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が上に進言したんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェデールの考えはこうだった。バルツィエは将来的に騎士団で上位の役職に就くことは決まっている。その際同役職間での意見が対立した際に生じる命令の優先度を決めるために子供の時に先に順位を決めた。それはバルツィエに関係ない者達にも触れ回り知られている。非常時にはどのバルツィエの命令通りに動くべきなのかは決まっているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツのダレイオス派遣はその過去の決定を再度行うためのテストなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「単騎で危険地域での任務を引き受けて無事帰還出来たらそれはこれまでバルツィエの誰もなし得なかった初のダレイオス単独生還の前例を作ることになる。

 ラーゲッツはその前例となるんだよ。

 アイツの力はもう俺とそう変わらないところにまで来ている。

 この任務を達成したら上は今のバルツィエの序列を見直してラーゲッツをお前達よりも上に繰り上げる機会を与えてくれるそうだよ。」

 

 

 これにはランドールも驚いた。

 

 

ランドール「何ッ………!?

 今までそんな話があった試しはねぇぞ!?

 どうしてそこまでラーゲッツにチャンスを与えるんだよ!?

 って言うか上の親父達がそんな話を認めやがったのか!?」

 

 

フェデール「俺達の世代は少し異例なことが多く起こってるからね………。

 バルツィエ本家の当主が分家と入れ替わったり能力査定で低評価を受けた俺がお前達を追い抜いたりそして当主で活躍していたアルバートが失踪し次席のアレックスが昇格したりと異例尽くしだ。

 今更例外が増えても大した問題じゃない。

 それかこの世代は一つの()()()になるんだ。」

 

 

ランドール「転換期だぁ………?」

 

 

フェデール「お父上から聞いたことはないか?

 バルツィエ当主がある秘密の元で他の分家を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

ランドール「………確かに聞いたことはあるな。

 今でも十分にうざったい民間人共もダレイオスの連中も黙らせられるくらいバルツィエは一人辺りの戦力があるってのにまだ本家の奴等は俺達に力を付けさせようとしてるって………。」

 

 

フェデール「昔のこともあって俺達バルツィエが下の者達に目を向けることは仕方ないよ。

 でもいつまでも下ばかりを見てはいられない。

 俺達は上を目指さなければならないんだ。

 アルバートやアレックスのように一人ででもドラゴンを倒せるほどにね。」

 

 

ランドール「ドラゴンだと………?

 ドラゴンなんてバルツィエが総掛かりでかかりゃ倒せねぇ相手じゃねぇだろ。

 何でそんなに強くならなくちゃいけねぇんだ?」

 

 

フェデール「ドラゴンはまだ序ノ口さ。

 俺達の本当の敵はドラゴンなんかよりももっと餓えの存在………………そう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精霊だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「…………なぁ、

 一つ聞くがぁ………本家の奴等は俺達に精霊と戦わせるために力を付けさせようとしていたのか?」

 

 

フェデール「そうだよ。

 本家はそう考えてる。」

 

 

ランドール「精霊なんて目撃例すら無いんだぞ?

 誰もその存在を確認したことが無いって言われてる奴等だ。

 一説にはとてつもない力を持つ存在と語り継がれる伝説の生物とかだとか言われてるが俺は精霊がそんなに強い奴等だとは思えねぇ。

 だって見たことも無いしな。」

 

 

フェデール「………」

 

 

ランドール「もし本当に精霊がいたのだとしたら今頃デリス=カーラーンの勢力図はバルツィエ一強じゃなくてその精霊一強になってるんじゃねぇか?

 本家の奴等が精霊の存在を危惧してるってんなら精霊は今どこにいて何をしてるんだよ?」

 

 

フェデール「………それは言えない。

 俺も精霊が何をしてるのか知らないんだ。」

 

 

フェデール「アホらしッ!

 どこにいるのかどうかも分からない相手に何を微々ってんだよ本家の馬鹿共は!

 そんな奴がいたら()()()()()()()()()()()()()()()()()!

 ハァ、無駄な時間だったな!

 失礼するぜ!」

 

 

 ランドールはフェデールに背を向けて去っていく。フェデールの話はランドールには何一つ理解することが出来なかった。誰も見たことも無い敵を想定して戦力強化を推し進める行為に無意味さしか感じなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………精霊はいるんだよ………。

 ずっと遥か昔からこの世界を支配しているのは精霊なんだ。

 奴が何を考え何をしようとしているのか本家にも俺にも分からない………。

 だけど絶対に精霊はこの世界にとって良くないことを企んでいる………。

 俺達はそれを止めなくちゃいけないんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達の世代がいよいよ精霊と全面対決することになるかもしれないんだから…。

 俺達の後世に戦いを残したくは無いんだよ。」



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気紛れの行動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「何が精霊だよ!

 親父達の代には痴呆しかいねぇのかよ!」

 

 

ガスッ!

 

 

 ランドールが壁を蹴りつける。彼の正格と立場上自分よりも上に逆らうことはしない。が、不満が全くないという訳ではない。彼等に従って自身が得をするか損をするかで文句を言うこともある。それでも最後には自ら折れる。下手に噛み付いて面倒なことにでもなれば余計な仕事を押し付けられることが分かっているからだ。特に気に入れられるでも気に触るのでもなくなるべく自分にしていたいのだ。

 

 

 そこに来てラーゲッツが自身を追い抜く話が持ち上がっている。現在の自分が座る椅子からずれ落ちるようなことにでもなれば今よりも多くの雑用仕事を任される可能性が高い。そんなことは許容出来ない。

 

 

ランドール「………何でフェデールはそんなにラーゲッツの野郎に固執するんだ!

 アイツが上に上がったところで他の奴等がやる気になったりでもすると思ってんのか!?

 俺は今の自分を変えるつもりはねぇぞ!!

 

 

 ………どうにかしてラーゲッツをその気にさせねぇようにしねぇとな………。

 フェデールが言っていたのはラーゲッツがダレイオスでの任務を無事に果たせたらって言ってたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だったらアイツが()()()()()()()()()()()()ように仕向けりゃいいじゃねぇか。

 アイツが任務を果たすことが出来なかったらラーゲッツ昇格の話を潰すことが出来る。

 そうと決まりゃ俺が行かなきゃいけねぇところは()()()()()………。」

 

 

 ランドールは黒い笑みを浮かべながらレアバードが収容されている倉庫にまで足を運んだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 貧民街

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………何で俺はこんなところにいるんだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街の中をフラフラとしていたらいつの間にか貧民街へと来ていた。普段このような場所に用も無いので足を踏み入れたことが無く自分がどの辺りをにいるのか分からなくなってしまった。

 

 

ラーゲッツ「………まぁレサリナスの街の中だしそう慌てることもねぇか。

 暫くここら辺でゆっくりとしとくか………。

 夕飯までには帰ればいいしな………。」

 

 

 今は知り合いの誰とも会いたくない気分だった。追放と言う口実の追放処分が下り今知り合い会ってしまえば苛立ちをぶつけてしまいそうになる。

 

 

ラーゲッツ「(何で俺がこんな目に遇うんだよ………。

 フェデールに比べて確かに俺には伸びしろが足りねぇのは分かる。

 フェデールは子供の内にランドール達を越えることが出来た。

 それなのに俺は八十年経っても未だにアイツ等を越えられないでいる。

 アイツ等もアイツ等で力を伸ばしてるんだ。

 そう簡単に越えられねぇのは当然だ。

 それでも俺はこの八十年余所見することなく頑張って来た………。

 それなのに俺は上にとって不要ってことか。

 ………フェデールはそれなりに気に入られてるしフェデールがこんな指令を出すとは思えねぇ。

 やっぱり上の連中が出した判決例なんだろうな………。)」

 

 

 一人で考えれば考えるほど真実とはかけ離れた答えしか導き出せないラーゲッツ。実際にはフェデールがこの任務をラーゲッツに与えたのは彼にチャンスを与えるためだ。バルツィエの上の者達だけでは単独派遣という無駄死にするだけの任務を与えたりすることは無い。序列最下位といえど戦力としては数に数えられる。アルバート一人の欠員はかなりの損失で今のフェデール達世代が中々結婚に前向きではないためバルツィエもそう易々と犠牲を出す訳にはいかない。それでもフェデールに強く推されて結局はフェデールの案を通してしまった。フェデールの提案はフェデール自身何のメリットもなく最悪アルバートが抜けて実質序列二位にまで繰り上がった彼の立場が落ちることもあり得るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………何でフェデールはこんな作戦止めてくれなかったんだよ………。

 アイツにとって俺は一体………「止めてください!」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物思いに耽っていると突然近くで女性の悲鳴が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女「こっ、こんなところで何をするんですか!?

 人を呼びますよ!?」

 

 

男1「へっ!

 人を呼んでどうするんだよ?

 どうせ呼んでも無駄だよ。」

 

 

男2「憲兵がここまで来ることはねぇよ。

 ここへは騎士の連中も見回りにはこねぇ。」

 

 

男3「もうよぉ?

 逃げたり出来ねぇんだから尾前も楽しむことだけ考えればいいんだよ。

 お前を助けたりする奴なんて誰もいねぇんだからなぁ。」

 

 

女「だっ、誰か助け「人がムチャクシャしてる時に胸糞悪ぃことしてんじゃねぇよ!」…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男1「ぐぁっ!?」

 

 

 ラーゲッツは高速で男の一人に近付き蹴り飛ばす。

 

 

男2「!

 テメェ!」

 

 

男3「俺達の邪魔すんじゃ「あ”あ”?」ひっ………。」

 

 

男2「こっ、こいつ………ラーゲッツだ!!?」

 

 

男3「ラーゲッツ!?

 バルツィエが何でこんなところに……!?」

 

 

ラーゲッツ「とっとと失せろ!

 小汚ないハイエナ共がッ!」

 

 

男2・男3「「ヒッヒィアアアアアア!!!?」」タタタッ…!

 

 

男1「まっ………待て………俺を置いていくな………!」

 

 

 ラーゲッツを見て竦み上がった男達は一目散に退散していく。残されたのはラーゲッツと襲われていた女性だけになった。

 

 

 

 

 

 

女「………!!」ブルブル…

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 女の衣服は至るところを破られ肌の露出箇所が酷かった。柄の悪い男達に絡まれ一生物のトラウマが植え付けられたことだろう。それなりに整った顔立ちをしているせいで不幸な目に遇ってしまったものだとラーゲッツは同情する。現在は自分も不幸な任務を与えられているのだが………、

 

 

女「………やっ、」

 

 

ラーゲッツ「あ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女「………やっ、止めて………。

 乱暴なことはしないで………下さい………。」

 

 

 女は今度はラーゲッツに襲われると勘違いしてしまいラーゲッツにそんなことを言ってきた。

 

 

ラーゲッツ「俺をあんな連中と一緒にすんじゃねぇよ。

 俺はお前なんか襲ったりしねぇよ。」

 

 

女「でっ、でもバルツィエの家の人達は平気で街の人達を………。」

 

 

ラーゲッツ「そういう奴も家にはいるがな。

 俺はそんなことしねぇよ。

 ………それよりもお前こんなところで一人でいるとまたさっきみたいな目に遇うぞ。

 

 

 早く帰んな。」

 

女「!

 ………はっ、はい!」タタタッ…

 

 

 女はお礼も言わずに去っていった。ラーゲッツ自身過去のリリスの件もあってあまり女性と関わり合いになりたくなかった。

 

 

ラーゲッツ「………相変わらずアルバートがいなくなった後の家の評判は悪いままだな………。

 ………まぁもうそんなの俺には関係なくなるか………。」

 

 

 結果的に人助けをしたラーゲッツだったが彼にとっては鬱憤を男達にぶつけただけだった。女が何も言わずに去っても特に気にすることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「(………アイツにも意外な一面に遭遇しちまったな………。

 アルバートがいなくなった後のバルツィエは腐りきったもんだと思ってたがまだそうでもない奴がいたのか………。)」



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爆心部

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………出発するのかラーゲッツ。」

 

 

ラーゲッツ「あぁ………、

 任務ってんならそんなに長くのんびりしてる訳にもいかねぇだろ?

 そろそろ行かねぇとダレイオスでどんなことが起こったのか分からなくなっちまうしな。」

 

 

 フェデールから任務を承ってから数日、ラーゲッツはいよいよダレイオスへと飛ぼうとしていた。

 

 

フェデール「………気を付けろよ。

 必ず生きて帰って来い。」

 

 

ラーゲッツ「そう出来ればな。

 ………出来ることならそのままいなくなってくれた方が上の連中にも有り難いんだろうがな。」

 

 

フェデール「何を訳の分からないことを言ってるんだ。

 皆お前が帰ってくることを信じて待ってるぞ。」

 

 

ラーゲッツ「…だったら一人でこんな任務に行かせるとは思えねぇがな。」

 

 

 たった一人で補給基地も建設されていない敵地に乗り込ませるのは失敗しても問題無い作戦だと言っているようのものだ。これからラーゲッツが向かう先での作戦の内容はダレイオス西側で感知した謎の魔力の反応の調査だ。ヴェノムが出現してから八十年のダレイオスとの接触は極端に減少した。互いにヴェノムに追われてそれどころではなかったことが原因だが体勢を立て直したマテオはダレイオスとの戦いは中断し先ず国内を纏めることに専念した。アルバート不在の騎士団は弟のアレックスが取り仕切ることになったが兄弟でも方針がガラリと変わってしまい各地で反発が起きていた。それを少しずつ力付くでアレックスは収めていった。実はこうしている間にもフェデールは多くの問題に忙殺されているのだ。

 

 

 

 

 

 

 この調査の任務は本家やアレックス、フェデールだけは()()()()()()()()()()()()()()()。民間人の間でもダレイオス西の都市の情報は出回っており大魔導士軍団なる秘密組織が暗躍しているとされているが真実はそんな大それた組織が動いているのではない。

 

 

 西の都市に出現した魔力の反応は一つ。個人による巨大な魔力の反応だ。噂を否定しないのは本命の敵がバルツィエも噂を鵜呑みにして動いているように見せ掛けるためだ。西の都市の魔力の反応をダレイオスにいる何者かの仕業として追っていた方がフェデール達が敵視する組織もフェデール達を愚かと侮り今はまだ敵と思われにくくなる筈。バルツィエは徹底的に道化を演じる必要があるのだ。ラーゲッツへのテストという体裁があるが実のところこのテストの許可が降りた理由はそこにある。フェデール自身は更にラーゲッツによって上下間の地位が逆転することでランドールやユーラス達の意識向上も謀れる効率的な作戦だ。

 

 

フェデール「………一応これを渡しておくよ。」

 

 

ラーゲッツ「………何だこれは………?」

 

 

フェデール「()()()()()

 レサリナスでは衛生も打ち上げているからこれがあればどこででも連絡が取り合える。

 遭難した時とかはこれで連絡してもらえればお前がどこにいるのか直ぐに分かるよ。」

 

 

ラーゲッツ「ふ~ん………?

 お前でもこれぐらいは俺に持たすことは出来るのか………。」

 

 

フェデール「お前は大事な戦力だ。

 失う訳にはいかないからね。」

 

 

ラーゲッツ「そうかよ………。

 お前がそういうんなら素直に受け取っとくぜ。」

 

 

フェデール「………最後にラーゲッツ。」

 

 

ラーゲッツ「何だ………?」

 

 

フェデール「………」

 

 

 フェデールはラーゲッツに何かを言うか言うまいか悩んだ末にこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「お前がこの任務を経て俺の期待通りの男になって戻って議題時は………俺が前にお前に打ち明けなかった答えをお前に打ち明けてやるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十日後ダレイオス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「なっ、

 何だよこりゃあ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツはダレイオスの西側ゲダイアンと呼ばれる都市の上空にまで来ていた。ゲダイアンは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人も住めない焦土と化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………一体ここで何があったんだ………?

 どうやったらこんな焼け野原が出来るんだ………?

 バルツィエでもここまで焼くのは不可能だぞ?」

 

 

 ここに到着するまでに十日以上は費やしたが焼け跡はまだつい先程火が回ったかのように焼け続けている。人も建物も何もかもが黒く焦げ付いている。ざっと見ても数千人の死体が見渡す限りに転がっていた。それも街の中心から一度の爆風で吹き飛んできたかのような有り様だ。

 

 

ラーゲッツ「……ここで何があったんだ………?

 もっと中央の方に行けば何か分かるのか………?」

 

 

 ラーゲッツは炎上する都市の中心へと移動する。調査をしに来たがこれでは何か大きな爆発が起こったとしか言いようが無い。報告するにしてもそんな誰から見ても分かることではなくもっと真相に近いことを報告すべきだと思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………ここは………?」

 

 

 レアバードを飛ばして街の中心と思われる場所へと向かうとどうやら爆発の中心地は街の中央ではなかった。街の中央にあったのはダレイオスの軍隊が配備していた寄宿舎のようなところで震源地はその隣の………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………この建物の造り………、

 ()()()()()()()()………?

 カーラーン教会で何でこんな爆発が………。」

 

 

 吹き飛ばされた瓦礫を観察するとそれが元カーラーン教会の建物であったことが分かる。それが一体ここで何を意味するのか考えるラーゲッツであったが………。



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任務完了と帰還

ゲダイアン跡地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………なんてことはなさそうだな。

 ()()()()がまた気持ち悪いプライドでカーラーン教会に絡んだんだろうな。」

 

 

 ダレイオスとのマテオとの抗争はダレイオス陣営の九の部族がそれぞれどの部族がこの世界を治めるに相応しい部族なのかという拘りから始まった。九の部族はどこも自身の部族こそが他の部族よりも優れ他の部族より上位の存在であることを訴え認めさせようと争いを続けた。それが拡大して古代のカーラーン大戦に繋がり不毛な戦いは現代まで引き継がれる。戦いが長く続けば戦いに嫌気が差して戦場から逃げ出す者達も出てくる。それがマテオの国民達の祖先だ。マテオの建国以前は九の部族から離れた各部族の者達が力を合わせて一つの街を作ったがそれに目を付けたダレイオスの部族達が街ごと奪い自分達の支配下に置き戦場で使用するための武器や魔道具を作らせようとしてきた。それに対抗するためマテオ、バルツィエ、ゴールデン、カタストロフの初代の家々が立ち向かいダレイオスの部族達を退けてきた。そうして守られてきたマテオはやがて部族同士の血など関係なく子孫を作りダレイオスの者達が嫌う混血のみの国となった。ダレイオスの者達からはハーフエルフなどと見下されているがマテオの住民達からしてみれば純血に拘り争いをいつまでも続けることが無意味なのだ。争いを止めれば互いの長所と長所を掛け合わせて今よりももっと先の力や技術を得ることが出来る。マテオはそうして発展してきたのだ。現状もマテオとダレイオスではマテオが優勢なのがその証拠である。

 

 

ラーゲッツ「奴等の混血嫌いは根が深いな………。

 カタストロフ公爵が仲裁のためにダレイオスに建てたカーラーン教会も奴等にとっては目障りでしかなかったってことだ。

 何か新しい魔術でも開発しようとしてその実験台にカーラーン教会にぶっぱなそうとしたが予想以上に威力が高過ぎて結果街もろとも吹き飛ばした………ってところか?」

 

 

 ダレイオスにカーラーン教会が設置されている背景は何度もマテオに干渉してくるダレイオスの部族達の矛を収めさせるためにカタスティア=クレベル・カタストロフ公爵が交渉した成果だ。一応はマテオの公爵の位は与えられてはいるが彼女はマテオとダレイオスの戦争に加担せず中立を貫き両陣営の架け橋になるように働いている。公爵が必死にダレイオスの部族に語りかけたおかげで九の部族達は一度は槍を収めたが今度はその全てがマテオへと向けられる形となった。これについてはマテオが力を付けすぎたことも原因だがそういう流れに差し向けたのはカタストロフ公爵の働きが大いに関係している。マテオ側からしてみたら九に分裂した相手よりも一つに纏まっていた方が話しがしやすくなるため良い方向へと持っていけたと当初は喜んだがダレイオス側は変わらずマテオの属国化を要求してくる。とても受け入れられる要求ではなくマテオとダレイオスの確執は二百年以上経とうとも残り続けたままだ。

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(………そんなに血が違うことが駄目なのかよ。

 カーラーン教会の奴等はお前達ダレイオスから見れば俺達と同じ血が流れているエルフだ。

 ハーフエルフが嫌いなら何でお前達はハーフエルフを産んだ?

 殺したい程嫌うんなら始めからハーフエルフを産むんじゃねぇよ………。)」

 

 

 ラーゲッツはダレイオスのエルフ達の理不尽さに怒りを抱く。この世に生まれるのに子は親を選べない。カーラーン教会に身を寄せているハーフエルフ達の大半はダレイオスのエルフ達が産んで直ぐに捨てた者をカタストロフ公爵が引き取っていると聞く。公爵自身は()()()()()()()()()で彼女はハーフエルフを差別せずエルフと同様に接する。生粋のエルフだからこそダレイオスとも上手く橋を渡れているようだが彼女の元にいるハーフエルフは変わらず扱いは酷い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………一先ずは任務は完了か………?

 フェデールにでも報告入れとくか。」

 

 

 ラーゲッツは通信機でフェデールに連絡することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール『………そうか。

 西の都市がそんなことに………。』

 

 

ラーゲッツ「この惨状じゃあもう砦どころか人が住めるような環境じゃねぇな。

 恐らくこれをやった奴も死んでるだろうぜ。

 こんな大破壊は人が扱える限界を越えてる。

 この爆発にマナを全部吸い付くされて消滅したか廃人になってそこら辺でくたばってるかだな。」

 

 

フェデール『………その可能性が濃厚だな。

 何にしてもお勤めご苦労様。

 ダレイオスでは何か問題が発生したりしなかったか?

 ダレイオスの奴等と衝突したりとかは………?』

 

 

ラーゲッツ「いや………。

 特に何も無かったな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 結構街の近く飛んでたんだけどな。」

 

 

フェデール『お前を警戒して通したんじゃないのか?』

 

 

ラーゲッツ「………どうもそうみたいだな。

 何故か異様に警戒されてるみたいだ。

 これまでとは警戒レベルが段違いだ。

 こんなことは今まで無かった。

 ダレイオスにそこまで警戒されるようなことはマテオはしてない筈だよな?」

 

 

フェデール『此方側は………ヴェノムが出現してからは偵察くらいで何か仕掛けたりとかはしてないが………。』

 

 

ラーゲッツ「………お前が知らないんなら何も無いんだなよな………?」

 

 

フェデール『アレックスにも確認してみるが俺達からは何もしてないよ。

 単に何か持ち帰られると不味い情報でも握ってたんじゃないか?』

 

 

ラーゲッツ「と言うと………?」

 

 

フェデール『その西の都市の破壊を実行に移した魔術とかさ。

 もしそんなものがあればお前にそれを持ち帰られるとヤバイだろ?』

 

 

ラーゲッツ「いやいやだから術者はここで………。」

 

 

 

フェデール『術式はまだ生きてるってことも考えられないか?』

 

 

ラーゲッツ「!?

 街一つ消す術がまだ残ってるって言うのかよ!?

 そりゃヤベェじゃねぇか!?」

 

 

フェデール『別に俺達にはそこまで驚異を感じる程のことでもないだろ?

 そんな術があったとして使われる場所はダレイオスでだ。

 ダレイオスとの戦争が始まってから一度としてダレイオスの奴等がマテオの地を踏んだことがあったか?』

 

 

ラーゲッツ「そりゃ………ねぇけどよ。」

 

 

フェデール『もう少しすればあの()()()()()()()

 どんなに威力を増大させようともヴェノムの力を手にさえすればそんな魔術も効果を為さない。

 ダレイオスに付け入る隙は無いよ。』

 

 

ラーゲッツ「それは………しかしよぉ………?」

 

 

フェデール『………とにかくこの件に関しての調査は終了だ。

 ラーゲッツは怪我しない内に戻っておいでよ。

 帰ってきたらお前に良い報告があるからさ。』

 

 

ラーゲッツ「俺に良い報告………?

 何だよそれ。」

 

 

フェデール『それはお前が帰ってきてからのお楽しみさ。

 無事に帰り着くまでが任務だよ。』

 

 

ラーゲッツ「…勿体振りやがって………。

 何のことか帰ったら聞き出してやるぜ。

 それと鈴の件もな。」

 

 

フェデール『あぁ、

 約束だからね。

 必ず話すよ。

 だからお前は早く帰ってきな。』

 

 

ラーゲッツ「………そうだな。

 早めに帰るとするぜ。」ピッ、

 

 

 ラーゲッツはマテオへと帰還しようとレアバードを起動させる。何か悪いことでも起こるのではないかと不安があったが何事もなく目的地に辿り着き無事任務を終えた。このまま何も無くマテオへと帰れるのだとラーゲッツは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



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飛行中の故障

バルツィエ邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「ラーゲッツの方は無事に戻ってこれそうだな。

 これなら何も心配することは無さそうだが………。」ピッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「ラーゲッツに連絡入れてたのか?」

 

 

フェデール「!」

 

 

 ラーゲッツとの回線を切った直後ランドールがやって来た。

 

 

ランドール「どんな様子だった?

 任務は失敗かぁ?」

 

 

フェデール「残念ながら順調そうだよ。

 任務も終えてこれから戻ってくるそうだ。」

 

 

ランドール「そうかよ。

 そいつぁ良かったな。」

 

 

フェデール「………?

 お前的にはラーゲッツが任務を失敗して帰って来た方が都合が良いんじゃないのか?

 ラーゲッツが戻ってきたら俺達の序列の再選定が行われるんだぞ?」

 

 

ランドール「そんなの上等じゃねぇか。

 どうせ結果は変わらねぇだろうがな。

 ラーゲッツごときに俺やユーラスを出し抜くことなんかあってたまるかよ。

 返り討ちにしてやるぜ。」

 

 

フェデール「…今のラーゲッツを甘く見ない方が良いんじゃないか?

 前にもそれで痛い目にあっただろ?

 今のアイツは俺の感覚で見ればお前よりも実力は上だと思うぜ?」

 

 

ランドール「前の時から俺が変わってなかったら危うかったかもな。

 でも今の俺には秘策があるんだ。

 もしラーゲッツが帰ってきて再選定が行われることになっても俺は敗けはしねぇ。

 なんならフェデール、

 お前にも負けるつもりはねぇぜ。」

 

 

フェデール「自棄に自信たっぷりだな。

 俺の見てないところで何か特訓でもしてたのか?

 是非ともお前の秘策とやらこの身で体験してみたいなぁ。」

 

 

ランドール「楽しみは後にとっとけよ。

 今はその時じゃない。

 再選定でお前的かラーゲッツと当たった時に見せてやるよ。」

 

 

フェデール「………それじゃあその時まで楽しみに待つとするよ。」クルッ…、

 

 

 これ以上話すことはないと言うかのようにフェデールは背中を向けて去っていく。ランドールが秘策について口を割らないの察して時間の無駄であると見切りを付けたのだ。フェデール自身はラーゲッツやランドールが力を付けるのを快く思っている。騎士団長としての責任か騎士団の団員が力を付けることには積極的に取り組むフェデールからすれば今の物言いでランドールが何も余計なことをしていないと疑うことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「(楽しみに待つだぁ?

 何を楽しみに待つってんだぁ?

 俺の秘策のことか?

 あんなんただの出任せだよ。

 ラーゲッツを気にしてるのがバレないようにアドリブでついたただの嘘っぱちだ。

 俺の秘策なら()()()()()()()()()()()()()………。

 再選定の結果が楽しみだなフェデール。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダレイオス上空

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………本当に何事も無く仕事が終わりそうだな………。

 昔と比べてダレイオスの奴等も俺達に構ってられない程切羽詰まってんのか?

 一人ででも普通に折り返してこれたぞ。」

 

 

 ダレイオス西の都市ゲダイアンの炎上を確認しフェデールに一報を入れてからラーゲッツはレサリナスへと帰投しようとしていた。

 

 

ラーゲッツ「(………ヴェノムが出現してもう長くなるが未だにダレイオスでは打つ手が無いんだなぁ………。

 ダレイオスではクリティア族が対処しそうなもんだがそれでもそう簡単にヴェノムに有効な手段を見つけることなんて出来る訳がないのか。

 マテオじゃ公爵が持ってた古代の文献にヴェノムについての情報が載ってたから案外早めに大作をとることが出来たが………。)」

 

 

 ヴェノム出現以来マテオがヴェノムに対応してこれたのはヴェノムの詳細が記載された遥か昔の遺文書が見つかったからだ。ヴェノムの出現は八十年前が初めてのことではないらしくデリス=カーラーンはヴェノムによって何度か滅びているそうだ。

 

 

ラーゲッツ「………ヴェノムが何回も何回も人の文明が開花する度に現れてはリセットでもするかのように文明を滅ぼしていく。

 人の文明の発展は星そのものにとっては害悪………。

 ヴェノムは星の白血球みたいなものだって誰かが言ってたな。

 今の人の在り方はデリス=カーラーンにとっては遺憾なところなのか?

 デリス=カーラーンは俺達を人類を一掃するためにヴェノムを生み出してるのか………?」

 

 

 柄にも無いとは自分で思いながらもラーゲッツは今の星の状態を見つめ直す。多くの人は常に誰か自分以外の者と戦い続けて生きている。自分でさえそうだ。明確に敵と見据える相手がいてもその相手が見えないところでは身内同士で争っている。人は戦いを求め続けなければ生きていけないのか、そんな疑問さえ浮かぶほどにどうしようもなく今の人類は戦いに身を投じている。本の少しの違いがあるだけでも人は自身の主義主張こそが正しいと言い張り合い争いになる。違いがあるならどちらが優劣かも決めたがりそれが世の中の争いの全ての始まりとなる。戦争は尽きることはない。どんなところにもその切っ掛けは潜んでいるものだ。そうして争いに破れたものは全てを奪われるか何もせず立ち去る以外の他ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………俺もいっそのこと見下され続けるくらいならどこか争いや競争なんてないような場所にでも行けたらこんな惨めな任務なんかには………!?」ピィー!!

 

 

 突然レアバードから警告音が鳴り響く。見ればレアバードのマナの供給が不足していると表示されていた。

 

 

ラーゲッツ「何でだ!?

 故障か!?

 俺はまだまだマナに余裕はあるぞ!?

 何でこれで足りねぇなんて言ってきやがる!?

 クソッ!

 もっとマナを送り込めばいいのか………!?」パァァ…、

 

 

 レアバードに供給するマナの出力を上げてみるがレアバードは見る見る内に高度を下げていく。このままでは墜落だ。

 

 

ラーゲッツ「ふざけやがって!

 さっきまでこの出力でも飛んでたじゃねぇか!

 なのに何でこんな………!?

 こんな…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うおおおおああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツを乗せたレアバードはとうとう浮力を失い墜落していく。ラーゲッツはそのまま飛んでいた場所付近の山へと消えたいった………。



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フリンク族の女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………………んん………?

 ………ここは………?」

 

 

 ラーゲッツを乗せていたレアバードが突然の故障で近くにあったどこかの山に不時着した。不時着の衝撃でラーゲッツは一命はとりとめたものの一時気を失い今意識を回復させた。回復してから始めに目に入ったものは………、

 

 

ラーゲッツ「………ハ………ハハハ………、

 ついてねぇなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 足がイカれちまってるぜ………。」

 

 

 ラーゲッツは右足を骨折していた。他にも体の至るところに出血も多数見られる。

 

 

ラーゲッツ「(………最後の最後でどうしてこうなるんだよ。

 よりによってこんな時にレアバードの故障なんかで俺の命は終わるのか………?

 こんなモンスターがいそうな山奥で回復手段もない俺が一人で生き残るのは厳しい。

 負傷したのが手だったらまだ何とかなったが足じゃまともに走ることすら出来ねぇ。

 

 

 詰んでんなマジで………。)」

 

 

 ラーゲッツは状況を整理した結果自分が生き残れる可能が限りなく低いことに諦めの感情がない交ぜになり感傷に浸る。

 

 

ラーゲッツ「………ったく………、

 整備の行き届いてないマシンを俺に寄越すなよ………。

 そんなに俺に要らないものばかり押し付けて楽しいのか?

 ………思えば俺に回ってくる物はどれも誰かの御下がりばかりだったな………。

 俺が欲しい物はいつも必ず他の誰かに奪われちまう………。

 俺の手に来るときにはそれらもどっか壊れて渡されるんだよなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もうなんか生きてるのも嫌になってくるなぁ………。

 本当によぉ………。」

 

 

 ラーゲッツはそこで再び意識を手放した。怪我を治療する術も使えぬ彼に出来るのはその場で命が尽きるまでの時間を過ごすしかなかった。どうせ果てるのなら意識が無い内にひっそりと息絶えたいと眠りについた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴソゴソ…………ギュッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「スゥ………………スゥ………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

????「………こんなもので大丈夫かな………?

 あんまし私も治療術は得意じゃないんだけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴソゴソ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「スゥ………………ッ………ん?」ゴソゴソ…

 

 

 ふと誰かに体を触られている感触を感じて目を覚ます。目を開けると側には故障したレアバードと颯爽と生い茂る木々、

 

 

 そして一つだけ意識が途切れる前とは違うものがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

????「!

 気が付いたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………お前は………?」

 

 

 ラーゲッツが体を起こすとそこには見ず知らずの女性が自分を介抱する姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「私はロベリア。

 フリンク族よ。

 貴方こんなところで何してるの?」

 

 

 ロベリアと名乗る女性はラーゲッツを見詰めながらそう訊いてきた。

 

 

ラーゲッツ「俺は………つつ………!」

 

 

ロベリア「まだ動かない方がいいわよ。

 治療術はかけたけど私の力じゃ完全に治癒することは出来ないの。

 応急処置程度でそんな直ぐには立ち上がるのは無理よ。」

 

 

ラーゲッツ「お前………何のつもりだ………?

 俺は「バルツィエでしょ?」………分かってんじゃねぇか。

 なら何で助けた?」

 

 

 フリンク族であるのならばバルツィエは彼女にとっては敵の筈だ。息の根を止めるならまだしもこのように介抱される覚えは無い。

 

 

ロベリア「別に?

 私がそうしたかっただけだけど何か文句ある?

 バルツィエは助けてもらって御礼の一つも言えないの?」

 

 

ラーゲッツ「助けてくれって頼んだつもりはねぇぜ?

 尾前が勝手に殺ったことだ。

 恩着せがましく言うんじゃねぇ。」

 

 

ロベリア「へぇ~………、

 だったらアンタあのまま放っておいても良かった訳?

 アンタがアレに乗って落ちてくるから見に来ただけだったんどけどアンタ意識が戻っても自分で傷の手当てもしなかったじゃない。

 自分でその傷治すこと出来たの?」

 

 

ラーゲッツ「そりゃ………この程度の傷なら簡単にだな………。」

 

 

ロベリア「じゃあやってみてよ。

 そしたら余計なことして御免なさいって謝るから。」

 

 

 ロベリアは薄々ラーゲッツが治癒術を使えないことを見抜いていた。状況からして真っ先に傷を癒す場面でそれをしなかったことからラーゲッツが自己回復が出来ないことを見切ったのだ。

 

 

ラーゲッツ「……………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ファーストエイド』………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 治癒術は発動しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「ほらやっぱりアンタ使えないんじゃない。

 自分で怪我も治せないんなら素直に言いなさいよ。」

 

 

ラーゲッツ「何で俺が敵であるダレイオスの奴なんかにそんなことを言わなくちゃならないんだ?

 だいたい俺なんか放っときゃ良かっただろ。

 そうしときゃ俺は………。」

 

 

ロベリア「俺は………?」

 

 

ラーゲッツ「…………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………ここで誰に迷惑かけるでもなく静かに死ねただろうに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………え?

 アンタ死にたかったの?」

 

 

ラーゲッツ「本気で死にたかった訳じゃねぇがお前等ダレイオスの奴等も敵の戦力であるバルツィエの一人が消えてくれるのは有り難いことなんじゃねぇのか?

 わざわざ手を下しにこ来なくても自然といなくなってくれたら嬉しい限りじゃ「この馬鹿ッ!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「ダレイオスの皆が皆そんな考えを持ってるだなんて思わないで!

 敵とか味方とかそんな殺し合いをしたいだなんて私は思ってない!

 助けられる命があるなら私は助ける!

 ただそれだけ!

 アンタも無事だったんなら素直に喜びなさい!

 自分で自分の命に見切りをつけるんじゃないわよ!

 今はその命が助かったことだけを考えるべきね!」

 

 

ラーゲッツ「おっ、おう………。」

 

 

 ロベリアの勢いに圧されてつい返事を返してしまうラーゲッツ。どうしてここまで圧をかけられるのかは分からなかったがこれがラーゲッツとロベリアの二人の出逢いの始まりだった………。



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名を偽って

リスベルン山

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「そういえばアンタ名前は?」

 

 

ラーゲッツ「!

 ………俺は………。」

 

 

 暫くロベリアからの叱責を受けた後でロベリアに名前を訊かれる。恐らく自身の名前はダレイオスでも知られていることだろう。

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

ロベリア「………?

 どうしたの?」

 

 

ラーゲッツ「………俺の名前は………。」

 

 

 ラーゲッツは自分の名前を言うか躊躇った。あまり自分のことをダレイオスの者には知られたくはなかったのだ。自分が名乗ってこれまでいい思いをしたことは無い。マテオではバルツィエと聞いて恐怖する者が大半を占めているがそれなりの地位がある者はラーゲッツの名前まで聞くと逆に嘲るような笑みの表情を浮かべる者達もいる。自分の地位は中途半端に高く、そして低い。ある枠組みで括られた中で最も下に位置する者は誰からもその位よりも下に見られてしまう。例え身分が自分よりも劣る者と話す時にもそうした対応をされたことが何度もあった。自分の預かり知らない場所で知られてしまうのは仕方ない。しかし今自分で自分の正体を明かすのは憚られる。

 

 

 何か名乗らずに済む方法を模索しているとロベリアが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………まさか自分の名前が思い出せない………!?

 記憶喪失!?」

 

 

ラーゲッツ「違ぇよ!!

 ちゃんと言えるっつーの!

 俺の名前はラ………。」

 

 

ロベリア「ラ………?」

 

 

ラーゲッツ「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺の名前は()()()()()だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついラーゲッツは自分の名前を逆さに呼んだ名称を名乗ってしまった。

 

 

ロベリア「ツッ………ゲーラ………?

 聞いたことない名前………。

 割りと最近生まれたバルツィエ………?」

 

 

ラーゲッツ「………そうだよ。

 まだ成人してから()()()()()()()()()()。」

 

 

ロベリア「八十年………?

 じゃあアンタ世界にヴェノムが現れた時期に生まれたの?

 そりゃあ私も知らない筈だわ。

 ヴェノムが現れてからマテオとダレイオスってあんまり争わなくなったからねぇ………。」

 

 

ラーゲッツ「………そうみたいだな。

 俺もダレイオスのことはそんなに来たことは無いしな。」

 

 

 直ぐにバレそうな嘘だと思ったが案外とすんなり受け入れられた。

 

 

ロベリア「それでツッゲーラは何で一人でこんなところにいるの?

 バルツィエってだいたいダレイオスに来るときはいつも二人以上で行動していると思うけど?」

 

 

ラーゲッツ「そりゃあ………。」

 

 

 咄嗟に上手い言い訳を思い付かない。下手に情報を差し出せばそこから次々と情報を聞き出す恐れがある。迂闊に質問に答える程ラーゲッツも愚かではない。ここは黙秘に徹すれば事を大事にはせずに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………もしかしてツッゲーラがやったの………?

 ダレイオスの………西にあるゲダイアンを攻撃したのって………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………は?

 何言ってるんだよ?

 ゲダイアンを攻撃だと?

 俺は………俺達は何もしてねぇよ。

 西の都市があんなふうになったのはお前達ダレイオス側の自爆だろ?」

 

 

 何故かゲダイアンの爆発を自分のせいにされそうになり否定する。

 

 

ロベリア「はいぃ?

 そっちこそ何言ってるの?

 ダレイオスが何で自国の街を攻撃するの?

 普通に考えてアンタ達マテオがやったとしか思えないじゃない。」

 

 

ラーゲッツ「生憎マテオはお前等の街には関与してねぇよ。

 アレをやったのはお前達ダレイオス側の誰かだ。」

 

 

ロベリア「うちに自分達の街を壊すような人達はいないわ。

 アンタが知らないだけで本当はバルツィエの他の誰かがゲダイアンに来てゲダイアンを焼き付くしたんじゃないの?」

 

 

ラーゲッツ「残念ながらそりゃ無理だな。

 いくらバルツィエの能力が他より優れていたとしてもあの街を見てきた限りじゃたった一度の爆風であの街はあぁなってた。

 今のバルツィエにあそこまでの出力が出せる術者はいねぇ。」

 

 

ロベリア「じゃあゲダイアンはどうしてあんなことになったの?」

 

 

ラーゲッツ「確実とは言い切れないがアレはダレイオス側のどこかの部族がカーラーン教会の奴等を葬るために起きた事件だ。

 爆心地が丁度カーラーン教会の残骸が散らばってた辺りにあった。

 直接見てきたからこれだけは間違いない。

 狙われたのはカーラーン教会のハーフエルフでハーフエルフを疎ましく思った連中が纏めてハーフエルフを消し飛ばすために検証もしないで開発した術を発動させようとして暴発し自分達と街ごと消し飛ばしちまったんだよ。」

 

 

ロベリア「それ………本当なの………?

 ゲダイアンが燃え上がったのってバルツィエがやったんじゃなくて九の部族のどこかの手によって起きたって………。

 …しかも対象がカーラーン教会でハーフエルフを………?」

 

 

ラーゲッツ「そうとしか結論が導きだせないだろ。

 爆発した場所の中心にカーラーン教会が建ってたんだ。

 どうしてそんなところが爆発のど真ん中にあるんだ?

 街を消し飛ばす目的で術を放つとしたらもっと別のところになるだろうぜ。

 俺達だったらダレイオスの軍がいそうな場所を真っ先に狙う。

 ………狙ったとしても街全体にまで影響を及ぼすような術は持ってねぇがな。」

 

 

ロベリア「………まさかゲダイアンを攻撃したのが私達ダレイオス側のエルフだったなんて………。」

 

 

ラーゲッツ「俺達にカーラーン教会を攻撃する理由はねぇな。

 カーラーン教会を目の敵にする奴等と言えばお前達ダレイオスのエルフ達だ。

 カタストロフ公爵が中立を維持してマテオにもダレイオスにも教会を建ててんのは気にはなるが刃向かってこない奴等にまで一々バルツィエも絡んだりはしない。

 やっぱりどう考えてもお前達ダレイオス側の仕業にしか思えねぇ。」

 

 

ロベリア「………そのゲダイアンを爆発した人達はどうなったの?」

 

 

ラーゲッツ「あれだけの規模の魔術を使ったんだ。

 術者は先ず生きてはいねぇだろうよ。

 マナを根こそぎ術に奪われて昇天してる筈だ。

 術者は自分の術の影響を受けないとは言ってもあんだけの力を使ったんじゃとてもじゃねぇが生き残るのは難しい。

 ドラゴンでさえも街一つ消すような術は使わねえ。

 術者はそういった観点でも十中八九エルフだ。

 エルフであるならもう死んでいる可能性が高い。

 あんな爆発はもう起こらねぇよ。」

 

 

ロベリア「へぇ~………そんな詳しく分かるんだ………。

 ………もしかしてツッゲーラって………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを調べるためにダレイオスに来たの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつけばロベリアに洗いざらい全てを話していた。自分が何故ダレイオスに来たのか、ダレイオスに来て何を調べていたのか自分から話してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(何やってんだ俺は………。

 さっき自分で言わないように戒めたところじゃねぇか………。)」

 

 

 自分の犯してしまった過ちを悔いるラーゲッツ。助けられたこともあってついロベリアに訊かれるがままに答えていってしまっていた。そんな自分を後で殴り飛ばしてやろうと予定するラーゲッツであった………。



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当面の暮らし

リスベルン山

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「…にしてもゲダイアンがバルツィエじゃなくてダレイオス側の仕業だったなんて意外………。

 どこがやったんだろ………?」

 

 

ラーゲッツ「容疑者は九ある部族のどっかだ。

 無難に使われた魔術の属性から見てブルカーンが怪しいな。

 火を得意としているのはブルカーンだろ?

 ブルカーンがやったんじゃないのか?

 連中ダレイオスの中でも過激な一面が大きいことでマテオでも有名だからな。」

 

 

 おおよそラーゲッツから見てゲダイアンの爆砕はブルカーンが実行したと思っている。西のゲダイアンと東のセレンシーアインはダレイオスの部族がマテオに対抗するために作られた都市で九の部族が関係なく出入り出来る都市である。そして西側にはフリンク、アインワルド、ブルカーンの本拠が近いこともあって人口比率はその三部族に偏っている。ゲダイアンを爆破したとすればその三部族のどれかに絞られるがフリンク族はそういった批難されるようなことは慎む傾向にある。アインワルドは襲われれば迎撃する姿勢で自分から他者を攻撃していくような部族ではない。やはりそういうことを仕出かしそうなのは好戦的で火を扱うブルカーンしか無いのだが………、

 

 

ロベリア「ブルカーンは違うんじゃない………?

 ゲダイアンってブルカーンが住むシュメルツェンの直ぐ隣にあるんだよ?

 街一つが無くなるような魔術を自分達の住んでる場所の近くで使わないでしょ?」

 

 

ラーゲッツ「目測を誤っただけじゃねぇのか?

 標的はカーラーン教会だったようだからカーラーン教会だけを潰すつもりが勢い余って街までやっちまった。

 そんな感じだろう。」

 

 

ロベリア「でも私はブルカーンはやってないと思うよ?

 あの人達も敵には容赦しないけどカーラーン教会のハーフエルフの人達はブルカーンに向かっていったりしないだろうし………ブルカーンだったら屈服させる程度に留めておく筈だよ。」

 

 

ラーゲッツ「…ならブルカーンは容疑から外れるな………。

 そしたら他にあんなことをしそうな奴等と言ったら………総合的に能力が高いスラートかダレイオスの術式開発を担っているクリティアくらいなもんか?

 アイツ等ならやりそうなもんだよなぁ。」

 

 

ロベリア「それも違うでしょ。

 もしそうならわざわざ他の部族がいるゲダイアンでカーラーン教会を攻撃するよりかはゲダイアンとセレンシーアインの中間にあるカーラーン教会の本部を先にやるんじゃない?」

 

 

ラーゲッツ「犯人の狙いがカーラーン教会と他の部族の戦力低下を謀った計画だったら逆にゲダイアンが攻撃されたのも頷けるんじゃないか?

 お前達ダレイオスは俺達と力を釣り合わせるために共闘を組んじゃいるが元々は敵同士だ。

 目障りなカーラーン教会のハーフエルフと敵を同時に消せるなら寧ろゲダイアンが狙われたのは効率的な作戦だ。

 カーラーン教会本部だけが攻撃されたらお前等マテオがやったとは思わねぇだろ?

 ゲダイアンっていうダレイオスの代表都市が攻撃されたら俺達マテオがやったとお前ですら錯覚してたぐらいだし犯人が目をつけたのはそこだろうな。

 俺達マテオに罪を擦りつけようとしたんだ。」

 

 

ロベリア「そう言われるとそんな気がしてくるね………。

 本当にゲダイアンはダレイオスのどこかの部族が……… 。」

 

 

ラーゲッツ「同じ空間にいるからって側にいる奴を信用し過ぎない方が身のためだぜ。

 同族ですら騙し合う世の中だ。

 他部族ならもっとそういったことが多い。

 同じ室内で隣に座ってる奴とは目に見えない壁があると思え。

 そいつ等とは吸ってる空気が違うんだ。

 腹の底に溜まった空気がどんな毒を含んでいるか分かったもんじゃねぇ。

 身内だからって自分に危害を加えてこないとは限らねぇ。

 同盟結んでても部族が九も集まりゃ必ずどっかは他よりも上質な椅子に座りたがる。

 俺から言えることはお前等ダレイオスの都市ゲダイアンを消したのはお前等九の部族の中に絶対にいる。

 用心にこしたことはねぇぞ。」

 

 

 ラーゲッツはロベリアにそう忠告する。ラーゲッツが把握している中ではカーラーン教会を攻撃したのはダレイオスのどこかの部族となる。ラーゲッツに訊いてくる辺りフリンク族の少なくともこのロベリアは関係していない。助けられた借りを返すつもりでラーゲッツはロベリアに自分の考えを全て語った。

 

 

ロベリア「うん………それはなんとなく分かったけど………。」

 

 

ラーゲッツ「どうした?」

 

 

ロベリア「私が訊いておいてなんだけどここまで私に話してよかったの?

 私達って一応は敵同士でしょ?」

 

 

ラーゲッツ「今更何言ってるんだよ。

 俺を敵だって言うならそれを助けたお前の行動の方がよっぽどおかしなことしてるぜ。

 俺がただの敵情視察だってバレてんだ。

 この際もう何言っても変わりゃしねぇよ。」

 

 

ロベリア「そう………?」

 

 

ラーゲッツ「………まぁ敵って言ってもお前フリンク族なんだろ?

 フリンク族なんか俺にとっては敵にすらなりゃしねぇ。

 お前なんか俺が手を下すまでの相手じゃねぇってことだ。」

 

 

ロベリア「…もう少し遠慮した言い方してくれたら私も喜べるんだけどなぁ………。」

 

 

ラーゲッツ「お前を喜ばせて俺に何の特がある?

 ってーかお前いつまでここにいるんだよ。

 もう用は済んだろ?

 俺なんかに構ってないでとっとと帰ったらどうだ?

 こんなところに女が一人でいたら襲ってくれって言ってるようなもんだぞ。

 襲われねぇ内に自分の家に帰りやがれ。」

 

 

ロベリア「アンタはどうすんのよ?」

 

 

ラーゲッツ「………俺はその内帰る………。」

 

 

ロベリア「帰れるの?」

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

ロベリア「………ハァ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………歩ける?

 着いてきて。

 この近くにボロボロだけど雨風くらいは凌げる小屋があるから。」

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「小屋………?」

 

 

 小屋と聞いて逡巡するラーゲッツだったが今自分に出来ることは彼女に案内されることしかないと理解しロベリアの後についていくことにした………。



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縛られた生い立ち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「ここよ。

 ここなら誰も寄り付かないし怪我が治るまでの間だったらそう不自由することはないでしょ?」

 

 

 ロベリアに導かれてやってきたのは長い時間使われた形跡のない山小屋だった。雨風を防げるとロベリアは言っていたが天井の一部が腐敗して陽射しが射し込んでいるのが見える。これでは雨が降れば雨漏りすることだろう。

 

 

ラーゲッツ「………随分と草臥れた所だな………。

 どうしてこんな所にこんなもんを建てたんだ?」

 

 

ロベリア「…私達フリンク族のことは知ってるよね?

 さっき敵にもならないって言ってたし………。

 

 

 ………アンタの言う通り私達はアンタ一人にも部族一同で挑んでも勝てないくらい力が弱い………。

 それはアンタ達バルツィエと比べたからとかじゃなくてダレイオスでもそう………。

 フリンク族はそこまで戦いが得意な部族じゃない………それどころか苦手ってハッキリ言えるくらいにも戦えないの。

 私達はダレイオスでも一番戦いに向いてない部族………。

 戦ったら殺られる。

 戦うことは何としても避けなくちゃいけない。

 戦いを避けるには先に危険を予知してなくちゃいけない。

 この小屋が作られたのはそういった理由よ。

 ここでフリューゲルに近付く他の部族やモンスター達をいち早く見付けてたの。

 今は同盟を結んだことでそこまで危なくなくなったから使ってないけど。」

 

 

ラーゲッツ「フリューゲルっつーと確かフリンク族の本拠地だったな。

 この山を下りた所の。」

 

 

ロベリア「そうだよ。

 私もそこに住んでるの。」

 

 

ラーゲッツ「…世話になったな。

 後は俺一人で十分だ。

 怪我を治したらさっさと出ていってやる。

 お前もここで俺と関わったことなんて他の奴等に知られたら面倒だろ?

 暗くならない内にお前は帰れ。」

 

 

ロベリア「帰る方法が無いんじゃないの?」

 

 

ラーゲッツ「…ここに来るまでに思い出したがそういや通信機がどっかにあった筈だ。

 お前がいなくなったらそれを探して本部に連絡を入れる。

 そしたらお迎えがやって来てそのまま帰れる。」

 

 

 墜落したショックで気が付かなかったがまだ生命線は切れた訳ではない。フェデールに持たされた通信機さえあれば一週間から二週間程でマテオから誰かが迎えに来てくれるだろう。通信機は墜落した時にレアバードと一緒に置いてきてしまった。通信機さえ見付かればこの状況から切り抜けられるが、

 

 

ロベリア「そんなに早く私に帰ってほしいの?」

 

 

ラーゲッツ「俺も暇じゃないんだよ。

 治療術には感謝するがお前にいつまでも居続けられると俺も落ち着かん。

 俺を早く一人にしてくれ。」

 

 

ロベリア「まだそんなに慌てるような時間じゃないじゃない。

 なんならその通信機っての私も探してあげようか?

 あのレアバードの近くにありそうなの?」

 

 

ラーゲッツ「どうしてそんなに世話を焼きたがるんだ?

 俺によくしたところで俺はお前に何の見返りも用意出来ねぇぞ。

 何が目的だ?」

 

 

ロベリア「別に何かあるって訳じゃないけど………。」チラチラッ

 

 

ラーゲッツ「…何もない奴の様子じゃねぇなぁ。

 何をしてほしいんだ?」

 

 

 どう見てもロベリアはラーゲッツに何かを期待していた。一体何をさせようとしているのかは検討が付かず直接訊いてみると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………よかったら………出来ればでいいんだけどね?

 ………………私を………()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………レアバードにだぁ?」

 

 

ロベリア「時折ダレイオスからバルツィエがあのレアバードに乗って飛んで来ることは知ってたけど私前からアレに乗ってみたかったの。

 空を飛ぶなんてまるで鳥になったみたいじゃない?

 私も大空を飛んでみたいの。」

 

 

ラーゲッツ「…お前を乗せて飛ぶにしても俺が乗って来たアイツは壊れてんぞ?

 お前の要望は俺には叶えられんが………。」

 

 

ロベリア「完全にもう動かないの?

 少しだけでも飛ばない?」

 

 

ラーゲッツ「無茶言うな。

 故障した機体で飛んでもまた俺みたいに墜落擦るだけだぞ。

 お前だって怪我するのが分かっててアレには乗りたくないだろ。」

 

 

ロベリア「怪我しない程度の高さで飛べばよくない?」

 

 

ラーゲッツ「それじゃ馬に乗るのと変わらねぇよ。

 地上だとレアバードは馬より少し早いぐらいのスピードしか出せん。

 お前が望んでるのは鳥みたいに空まで高く飛ぶことだろ?

 残念だが諦めるこったな。」

 

 

ロベリア「それじゃあツッゲーラのお迎えが来た時にその人のを借りて飛ぶのは?」

 

 

ラーゲッツ「………あのなぁ。

 俺達は仮にも敵同士なんだぞ?

 お前が俺と一緒にいるところを他のダレイオスの奴等に見られるとマズイように俺もお前達ダレイオスの奴等と一緒にいるところを見られるのは問題があるんだ。

 俺の連れに頼むことなんて無理なんだよ。」

 

 

ロベリア「フリンク族なんて敵にもならないって言うくらいだからいいじゃない。

 私だけならなんともないでしょ?

 私も皆には秘密にするからさ。

 ねぇ迎えに来る人に頼んでよ。」

 

 

ラーゲッツ「駄目だ。

 無理なことは決まってる。

 いくら頼まれてもこればかりはどうしようもねぇよ。

 俺とお前はそれぞれマテオとダレイオスの陣営なんだからな。」

 

 

 中々諦めてくれないロベリアにラーゲッツがキッパリと事実確認を含んで断る。やはり敵側の人物に軍事物を好奇心だけで触れさせるべきではない。ラーゲッツはロベリアを一蹴するがロベリアは………、

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………マテオとかダレイオスとかさ………。

 そんなの、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔の人達が勝手に始めた戦いで今を生きてる私達には関係無いでしょ?

 そんな生まれや古い枠組みのまま無意味に戦い続けるの嫌にならない?

 私達は私達で好きに生きられないの?」



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ロベリアという女の望みは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「…急に何言い出すんだよ。

 停戦中とはいえマテオとダレイオスの決着はまだついてねぇだろうが。

 どちらかが敗北するまで戦争が続くのは当然だ。」

 

 

 ロベリアが発した言葉に今まで疑問を持たずに生きてきた。生まれた瞬間から既にマテオとダレイオスは戦ってきた。マテオが国として建国したのは二、三百年前だがマテオの大陸に最初の避難民が逃げてきてからは千年前にも遡る。最早マテオとダレイオスが戦うのは当然のことだと思っていた。

 

 

ロベリア「どうして決着をつけなくちゃいけないの?

 二つの国は地図で見ても海を挟んで別々の土地じゃない。

 争う必要がどこにあるの?」

 

 

ラーゲッツ「そりゃお前ダレイオスから仕掛けて来たんだからダレイオスの上の連中に言えよ。

 俺達マテオはお前等ダレイオスに侵略されないように応戦してきただけだ。

 今は俺達の方が優勢だしこっちから戦争を止める理由がねぇよ。」

 

 

ロベリア「何なのそれ?

 私はマテオから戦争を吹っ掛けてきたって教えられてきたけど?

 マテオの初代王家のエルフがダレイオスの人達の中から選りすぐりの人材を集めて洗脳してダレイオスを支配しようとしてるって。」

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「それこそ洗脳教育だ。

 マテオのエルフ達はマテオ王家とバルツィエ、ゴールデン、カタストロフの家が自分達が生み出したにも関わらず冷遇扱いされるハーフエルフを見兼ねて一部の共感した奴等を引き連れてマテオに逃げてきたんだ。

 それをしつこく追っ掛けてきて奴隷にしてこようと攻めてきてんのがダレイオスだ。

 九の部族達も自分達が他の部族と戦って数を減らすよりもどうでいい奴隷達が死んででも敵の数を減らしてくれれば大助かりなんだろうしな。

 ダレイオス連中の本命は俺達じゃなくて他の部族を蹴落とすことだ。

 自分達の部族から犠牲は出したく無いって思うのが普通だろ?

 戦いに巻き込まれてんのはこっちの方だぜ。」

 

 

ロベリア「嘘………?

 それ本当のことなの?」

 

 

ラーゲッツ「エルフとハーフエルフ。

 このフレーズだけでどっちが先に生まれたか分かるだろ?

 戦いの歴史を始めたのはエルフの方なんだよ。

 エルフの差別意識がマテオとダレイオスの戦争を生んだ。

 それに嫌気が指してマテオへと避難したのが俺達の先祖だ。

 お前が教えられてきたのは歪められた歴史だ。

 俺達マテオは身を守ってきただけだ。」

 

 

 歴史とは必ずしも正確に後世に伝わるとは限らない。正しく伝えてしまった場合戦いに不要な正義感を持つ物が内輪を乱す可能性がある。そうした者が出てしまうと一団としての士気が崩れ敵に付け入る隙を見せてしまう。思想を統一するためには後続に偽りの情報を流して敵を敵と認識させておく必要がある。こういった話はどこにでもよくある話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………それじゃあやっぱり私達って生まれや育ちだけで戦わされてきたってこと………?

 マテオとダレイオスがこれ以上戦い会う意味なんてあるの?

 何でそこまでして戦おうとするの?

 ………自分達と違うから………?」

 

 

ラーゲッツ「…違う違わないなんて話はもうどうだってよくなってるんだよ。

 始めは世界樹カーラーンを巡って争いをしだしたみたいだけどな。

 その世界樹さえも大戦中に消失した。

 だが世界樹は消えたが世界樹を奪い合った記憶は消えはしない。

 一度敵と定めたら後はひたすら敵のままだ。

 何か大きく状況が動かない限りそれが続く。

 …今は俺達マテオだけに標的を絞ってお前達は仲良くしてるようだごな。」

 

 

ロベリア「…全然仲良くなんてないよ。

 同盟なんて表だけの話で裏では今も九つの部族はいがみ合ってる………。

 自分達以外は信用することなんて出来ないんだよ………。」

 

 

ラーゲッツ「そこはお前達ダレイオスの連中が純血に拘るからだ。

 マテオで医学的に調べた結果の上では九の部族のエルフ共はな。

 ()()()()()()()()()()()()()

 どの系統の魔術が得意かなんて些細な誤差でしかねぇ。

 それをずっと認められねぇ阿呆共が古腐った価値観に縛り付けられてほどこうとしねぇからお前達はいつまで経っても一緒になれねぇ。

 俺達マテオ側もそんな奴等と仲良くなんて出来やしねぇよ。」

 

 

ロベリア「………………私………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マテオに行ってみたいな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………お前がマテオに………?

 ………何でだよ。」

 

 

 ロベリアから思っても見なかった言葉が飛び出しラーゲッツは驚く。

 

 

ロベリア「マテオって今ではもうダレイオスとも遜色無い………ううんダレイオスよりも凄く発展して来てるんでしょ?

 マテオは行ったことはないけどあのレアバードっていう乗り物とか見てたらダレイオスなんよりもずっと先を進んでる。

 それってマテオの人達が手を取り合って協力してきたおかげでしょ?

 マテオがダレイオスよりも後に作られた国だってことは知ってる。

 マテオが出来た時はダレイオスよりもずっとずっと人口だって少なかった筈なのに今では同じかそれ以上に人がいることも。

 それってダレイオスみたいに人と人の垣根が無いからそんなふうに慣れたんでしょ?

 それって素敵なことだと思うの。

 私もそんな人達がいるところに行ってみたいな………。」

 

 

 ラーゲッツは目を見開きロベリアを見詰めた。ダレイオスのエルフでマテオに憧れを抱くような者がいたことが信じられなかった。

 

 

ラーゲッツ「…夢を抱き過ぎだ。

 マテオもそう誉められたもんじゃねぇよ。

 お前が想像するようなもんは所詮空想だ。

 マテオはマテオで汚いところは汚いもんだ。

 お前がマテオに行ったところでガッカリするだけだぞ。」

 

 

ロベリア「………それでもね。

 私はマテオに行きたい………。

 マテオに住んでみたい………。

 マテオならきっとうちのような………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………!」



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決裂しようとして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………お前にも色々と苦痛に感じていること数多くあることはなんとなく理解した。

 それでレアバードに乗りたがってたのか。」

 

 

 ロベリアの訴えを聞いていれば彼女がレアバードに騎乗してみたいと言ったのが単なる好奇心ではなく今の環境から逃げ出したいという願いから来ていた。

 

 

ロベリア「!

 じゃあ私をレアバードに乗せてくれる!?

 それでレアバードで私もマテオに「お断りだ。」…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「お前が俺を助けたのは俺を運び屋にするためなんだろ?

 ………でもな?

 ダレイオスの奴をマテオに連れ帰ってどうなると思う?

 お前が考えてるような自由なんて待ってはいないぞ?

 それどころかお前がマテオに到着した瞬間貴族連中に目を付けられて売り飛ばされるぞ?

 よくて娼婦として一生を過ごすか捕虜や奴隷として利用されるのがオチだ。

 悪いことは言わん。

 マテオに行こうとなんて考えるな。

 お前はお前の住む世界でお前の幸せを探「それが………!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「それが嫌だからこうしてお願いしてるんだよ………!!

 あそこには………フリューゲルには私が嫌いな考えの人しかいない!

 お父さんだって他の人達だってそう!

 あの人達は何も変えず変わらずで流されるだけの生活しかしてない!

 あんな狭く限られた世界だけで過ごして何が楽しいの!?

 私はもっと広い世界が見たいんだよ!」

 

 

ラーゲッツ「……!」

 

 

ロベリア「………私がツッゲーラを助けたのは別にツッゲーラを利用するためじゃないけどダレイオスとかマテオとかの生まれだけで目を会わせた途端に殺し合いが始まる世界って不憫に思わない………?

 今でこそダレイオスはそういうのが無くなったけどもし何かもっと重大な事件でも起こればまたそういう時代がやって来る。

 そういう時代になるんだよ。

 そうやって互いを嘘で繋がった手を取り合うよりかはマテオのような人民に何の差別も無いような世界で暮らしてみたい………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それだけが私の望み………それだけだったんだよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………あぁいう奴もダレイオスにはいるんだな………。

 マテオに行ってみたいだなんてなぁ………。」

 

 

 ロベリアが出ていってから彼女が出ていった方角に視線を向ける。ロベリアはフリューゲルへと帰っていったのだろう。

 

 

ラーゲッツ「…お前達ダレイオスの奴等から見てもマテオはそういう目線で映るのか………。

 差別が無い………争いがダレイオス以外とは無いようなそんな世界に映って見えたのか………?

 ………確かにマテオは民間の奴等はそう本格的か抗争とかはねぇよ。

 

 

 だけどな?

 そんなのは民間の間だけだ。

 貴族や市民連中との壁の隔たりはある。

 お前が抱く理想郷はマテオにはねぇんだよ。」

 

 

 ダレイオスの部族間の確執は無い変わりにマテオでは階級社会による確執が存在する。それに反発して山賊やら盗賊やらがマテオにはあちらこちらにいるのだ。民間人が絶対に安全とは言い切れない。ダレイオスよりかは収束してはいるがヴェノムも全滅はしていない。まだ()()()()()()にもヴェノムに襲われて全滅しかかった村が見付かったりするくらいだ。ヴェノムを克服するには当分かかる。

 

 

ラーゲッツ「(………俺だって恩人の願いを聞いてやりたい気持ちはある。

 だが俺なんかじゃお前をマテオに連れ帰ったって守ってやれるとは限らねぇ。

 お前がマテオに行って逆に後悔するようなことがいくらでもあるんだ。

 夢ってのは叶わねぇから夢なんだぜ?

 落胆させるぐらいならお前はお前の人生を送って………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もっと上の奴の彼氏にシフトするから別にいいのよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 ラーゲッツはリリスのことを思い出した。彼女と別れてから八十年は経つがまだラーゲッツはリリスのことを忘れられないでいた。

 

 

ラーゲッツ「(………そうだよ。

 女なんかに関わってもろくなことになりゃしねぇんだ。

 こっちが本気で考えてやっても俺は所詮パイプでしかねぇ。

 あの女もマテオに連れ帰ってやったとしても俺なんか捨てて他の男のところに行くだろうよ。

 ………俺は女なんかに気持ちを揺らしてる場合じゃない。

 俺は任務のことだけを考えていればいい。

 それで俺は………。)」

 

 

 リリスの件もあってラーゲッツは女性不信に陥っていた。今の立場からはどう女性と付き合っても自分は捨てられてしまうとそう思い込んでいた。ロベリアも以前交際していたリリスのように最初はいい顔をして近付いてきてもある程度のところで自分を捨てて他の男のところに行くと確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(俺は女なんかにかかづらってる場合じゃねぇんだよロベリア。

 俺はもっともっと上にのしあがりたいんだ。

 上の連中も俺が無事に帰って来るとは思ってねぇんだろ。

 そんな奴等の前に俺が出てきたらどういう反応をミセルカ楽しみだぜ。)」

 

 

 強引に任務のことだけを考えることにしラーゲッツはロベリアのことを忘れようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………アイツ………もうここには来ねぇだろうな………。

 まぁそれでもいいが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リスベルン山 山小屋 次の日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………で?

 何でお前はまたここに来てるんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「え?

 ちゃんと生きてるか確認だけど?」

 

 

 昨日あのように会話が途切れたにも関わらずロベリアはラーゲッツの元へとやって来ていた………。



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一宿だけに留まらず

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「一日二日で人が死ぬかよ。

 俺はそこまでヤワじゃねぇよ。」

 

 

ロベリア「何言ってるの!

 ダレイオスじゃ八十年前からヴェノムが徘徊してて危険なんだよ?

 一日二日で人が死んでも何も不思議じゃないんだよ?

 ここもいつヴェノムに襲われるか………。」

 

 

ラーゲッツ「………にしては俺がここに来て一日経ったがヴェノムの姿を見ねぇな………。

 他のところを上空から見て回ったがここはそんなにヴェノムがいねぇ気がするな………。

 何かあんのか?」

 

 

ロベリア「あぁそれはね。

 …自慢にならないけど私達フリンク族って他の部族よりもマナが少ないからヴェノムが他の部族のところに行っちゃうの。

 フリューゲルの隣には九の部族でも二番目にマナが高いとされるブルカーンと三番目のアインワルドがいるからそっちの方に流れて行っちゃうんだよ。」

 

 

ラーゲッツ「そうなのか?

 そう考えると案外力が無い方が得するのかもな。

 バルツィエも昔から………。」

 

 

ロベリア「昔から?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………だから何で俺のところに来るんだよ!?

 お前の要望には応えられないって昨日言っただろうが!」

 

 

 つい話に乗っかって受け答えしてしまったがロベリアがここへ来た目的は分かっている。ラーゲッツがマテオへと帰還する際にそれに同行するつもりなのだ。

 

 

ロベリア「私があの程度で断念すると思う?

 そんなに諦めが良い方じゃないの私は。」

 

 

ラーゲッツ「…口で言って分からねぇなら実力行使しか手はねぇんだがな………。」

 

 

ロベリア「実力行使って何するの?」

 

 

ラーゲッツ「そんなもん………………。」

 

 

ロベリア「………」

 

 

ラーゲッツ「………………女なんかに手は上げねぇよ。

 俺の気が短くならない内にフリューゲルに帰りやがれ。

 お前もそう何度もこんなところに来てたら家のもんが心配するだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………()()()()()?」

 

 

ラーゲッツ「ブッ!?」

 

 

 ロベリアがラーゲッツが言わないようにしていたことを平気で口にする。まさか自分からそんなことを言い出すとは思っていなかった。

 

 

ラーゲッツ「ばっ、馬鹿か!?

 何言ってんだテメェ!!

 女が自分からそういうこと言うんじゃねぇ!!」

 

 

ロベリア「えぇ~?

 でも昨日ツッゲーラが言ってたことじゃん?

 襲うとか襲われるかとかさぁ。」

 

 

ラーゲッツ「俺は………物の喩えで言っただけだ。

 不用意に敵に近付くもんじゃねぇよ。

 恩を売ったつもりかもしれねぇがそんなこと気にしない奴だったらどうするんだ。

 お前襲われて逃げ帰られるだけだぞ。」

 

 

ロベリア「自分からそう言う辺りツッゲーラは大丈夫そうだね。

 ツッゲーラはそういうことしないって信じてるよ。」

 

 

ラーゲッツ「…何でそこまで信用されてんだよ………。

 昨日今日会ったばかりの仲だぞ俺達。」

 

 

ロベリア「………直感なんだけどね。

 ツッゲーラはそういうことしそうにないなぁって………、

 それかそういうこと()()()()って感じるの。」

 

 

ラーゲッツ「あぁ?

 何だよそれ。」

 

 

ロベリア「昔何かあったの?」

 

 

ラーゲッツ「…どうしてそれをお前に話さねぇといけねぇんだ?」

 

 

ロベリア「やっぱり何かあったんだ………。」

 

 

ラーゲッツ「……!?」

 

 

 ロベリアと話をするとどうにも言うつもりが無いことまで話をしてしまいそうになる。このままロベリアと話を続けていれば失言しかしないと思ったラーゲッツは無言で立ち上がり小屋を出ようとする。

 

 

ロベリア「どこに行くの?」

 

 

ラーゲッツ「…通信機を探しに行くんだよ。

 まだ見つけ出せてねぇからな。」

 

 

ロベリア「それなら私も行くよ。

 二人の方が早く見つけ出せるしね。」

 

 

ラーゲッツ「ついてこなくていい!

 俺一人で探す!」

 

 

 強く言い放ちラーゲッツは一人でレアバードが墜落した場所へと向かった。

 

 

ロベリア「あっ!

 ちょっとまってよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツッゲーラ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(………ツッゲーラ?

 誰のことだよ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺のことだったな………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「ねぇ通信機ってどんな形なの?」

 

 

ラーゲッツ「……ハァ………。

 手帳と同じぐらいのやつだ。」

 

 

ロベリア「手帳?

 両手ぐらいの大きさ?」

 

 

 ここまで面倒見がいいロベリアがラーゲッツと一緒になって通信機を探そうとすることは分かっていた。いくら一人になろうとしても彼女はついてきてしまう。出来る限り無視しようとはしているがそれでもめげずにロベリアは構ってくる。一宿一飯………食事に関しては何か出されたりはしてないが寝床を用意されたのは事実だ。そう邪見に扱うのは気が引ける。

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

ロベリア「ねぇツッゲーラ。」

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

ロベリア「ツッゲーラ?」

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

ロベリア「ツッゲーラったら!」

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「ツッゲーラ「だぁぁぁぁ!!うるせぇ!!分からねぇんならじっとしてろ!」」

 

 

 しつこく呼ばれてラーゲッツはロベリアを怒鳴る。

 

 

ロベリア「何よ!?

 人がせっかく一緒に探してあげてるんじゃない!」

 

 

ラーゲッツ「そんなこと誰が頼んだ!?

 俺は一人で探したいんだよ!!

 お前はそこら辺で休憩でもしてろ!」

 

 

ロベリア「何をそんなに怒ってるの?

 一人で探すよりか二人で探した方がいいじゃない!」

 

 

ラーゲッツ「余計なお世話だ!

 俺に借りを作ろうったってそうはいかねぇぞ!

 通信機だけは俺が一人で見つけてやる!

 お前の出る幕はねぇ!!」

 

 

ロベリア「本当に一人で見付けられるの?

 この森結構広いよ?

 あのレアバードだってどの辺りから落ちてここまで来たのかツッゲーラ分かるの?」

 

 

ラーゲッツ「そんなもん分からなくても通信機はいつかは見つかるっての!

 不時着するまでは通信機は肌身離さず持ってたんだしな!」

 

 

ロベリア「………壊れてたりしない?」

 

 

ラーゲッツ「………!?

 それは………。」

 

 

 ロベリアの指摘に息を呑んだ。通信機さえ見付かればマテオに帰れると思っていたがもし不時着の影響で通信機まで故障していたらもうどうすることも出来ない。

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

ロベリア「………………あのさぁ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ご飯とか食べてないでしょ?

 私お弁当持ってきてるから一緒に食べよ?

 イライラしてるのって多分お腹空いてるからだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……とうとう一飯も御相伴に預かることとなってしまった。ますますロベリアには頭が上がらなくなることにラーゲッツの不安がどんどん大きくなっていった………。



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早かった虚偽の露呈

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「どう?

 お味は?」

 

 

ラーゲッツ「まぁまぁだな。」

 

 

ロベリア「そっかぁ………えへへ。」

 

 

ラーゲッツ「何でお前はまぁまぁって言われて照れてるんだよ。」

 

 

ロベリア「久し振りに料理作ったから普通に食べてもらえるだけでも嬉しくて。」

 

 

ラーゲッツ「料理っつかサンドイッチじゃねぇか。

 こんなもんどうやったら味で失敗するんだよ。」

 

 

ロベリア「サンドイッチでも失敗することあるよ?

 使う具材の組み合わせとかによっては酷い味になるんだから!」

 

 

ラーゲッツ「使う具材だぁ?

 そんなもんそう多くはねぇだろ。

 何を使えば酷い味になんてなるんだ?」

 

 

ロベリア「………果物とかニンニクとか………。」

 

 

ラーゲッツ「冒険しすぎだろ。

 そんなもん入れる奴がどこに………。」

 

 

ロベリア「………」

 

 

ラーゲッツ「………ここにいやがったか。

 どうしたらそんなもん入れようと思うんだ?」

 

 

ロベリア「料理ってね。

 種類が沢山豊富にあるじゃない?

 その分味もそれぞれ全然違う。

 辛かったり甘かったりする料理もその味の感じ方って大分違う。

 あと同じ料理でも料理する人が違えば味付けも変わってくる。

 同じ料理なのになんか違う味に感じちゃう。

 料理って可能性が無限大なんだよ。

 私は私の味を作ってみたいの。」

 

 

ラーゲッツ「素人がやる定番の失敗だな。

 だからって具材まで新しく挑戦してどうすんだ。

 何のために先人のレシピがあるんだよ。

 料理一つでも簡単に作れるものから凝ったもんまで幅広く存在する。

 そういうのは料理人が長年かけて作り上げた味だ。

 手軽な料理でそう新しい旨い味が出せるかよ。」

 

 

ロベリア「もう!

 遊び心が無いなぁ。

 そんなんで生きてて楽しいの?」

 

 

ラーゲッツ「楽しいか楽しくないかで生きちゃいねぇよ。

 生まれたからには自分に与えられたレールの人生を進むだけだ。」

 

 

ロベリア「…私はそういうのが嫌。

 私はどうにかして()()()()()()()()()()()()()()()()()から脱したい。

 あそこにいても自由なんて無いもん。

 私は私が好きに生きられる世界に飛び立ちたいんだよ。」

 

 

ラーゲッツ「…好きに生きられるねぇ………。」

 

 

 ロベリアの話は中々興味深い話ではあった。ダレイオスで生まれたエルフには生まれながらにして他の八部族と睨み会う生活が決定付けられている。同じ大陸にいても周りは敵。味方は己と同じ部族だけ。味方に囲われている分にはそこから逃げ出そうとする者がいるなど考えもしなかった。

 

 

ロベリア「………もしもっと………、

 もっと早くに生まれてたら私もマテオに行けたのかな………。」

 

 

ラーゲッツ「マテオに夢見てるとこ悪いがマテオもそう大した国でもねぇぞ?

 マテオでも上級層にいる俺がそう感じてるんだからマテオは糞みたいな国だ。

 お前のような奴が来るところじゃねぇ。」

 

 

ロベリア「食事中にそんなこと言わないでよ。」

 

 

ラーゲッツ「俺はもう食い終わった。

 休憩は終わりだ。

 作業に戻らせてもらう。」

 

 

ロベリア「あっ!

 ちょっ!

 私はまだ………。」

 

 

ラーゲッツ「お前はまだ休んどけ。

 俺と違ってまた山を登って来たんだろ?

 サンドイッチも作って持ってきたようだし疲れもあるだろ。

 俺はまだまだそんなに疲れは感じてねぇ。

 腹も膨れたし余裕が出てきた。

 お前はそこでゆっくりしてろ。」

 

 

 ラーゲッツは素早く立ち上がりレアバードの周りを探し始める。あまり探すのに時間をかけてしまえばロベリアに心を開いてしまいそうになる。そんなことになるのはラーゲッツは容認出来なかった。少し一人になって敵地にて優しくされたからと言って心を開いているようでは動物と同じだ。本来の立ち位置を思い出しなるべくロベリアを自分から遠ざける。そうしなければ自分はマテオの騎士失格だ。フェデールのように出来る限りマテオの国民を守りたいと思ってはいないが一応は兵士としての勤めを果たさなければならない。

 

 

ロベリア「あ………うん。

 じゃあそうするね。」

 

 

ラーゲッツ「おう。」

 

 

 ラーゲッツは通信機を探すのに集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス バルツィエ邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツが通信機を探す一方でフェデールはラーゲッツの連絡が途絶えて焦っていた。

 

 

 

 

 

 

フェデール「ラーゲッツ!

 ラーゲッツ!

 応答しろ!!

 ラーゲッツ!」

 

 

ピィー………ザザザ………。

 

 

 ラーゲッツに持たせた通信機に何度も話しかけるが一行に向こうから返事が返ってこない。

 

 

フェデール「………どうしたんだラーゲッツ。

 任務は終了したなら真っ直ぐ帰ればいいだけだろ。

 何をしてるんだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「ラーゲッツの奴がどうかしたのかぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「!

 ランドール………!」

 

 

 ラーゲッツに必死になって呼び掛けているとランドールが嫌らしい笑顔を浮かべながらやって来る。

 

 

ランドール「ラーゲッツの奴しくじりやがったのか?

 ダレイオスから帰って来れねぇのか?」

 

 

フェデール「…まだ連絡がつかなくなってから一日だ。

 何かトラブルがあったかどうかさえも分からない。」

 

 

ランドール「そうだな。

 だがもしその何かトラブルがあったんだとしたら俺の秘策を披露する機会も無くなっちまうなぁ!

 ハッハハハ!」

 

 

 言いたいことだけを言ってランドールは去っていった。

 

 

 

フェデール「(アイツ………何か知ってるのか?

 ラーゲッツが突然連絡がつかなくなったことに何か関係してるんじゃないか?

 ………いずれにしてもラーゲッツが今どういう状態なのか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ラーゲッツ、

 アルバートのように失踪だけはしてくれるなよ。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リスベルン山

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピィー………ッ………ザザザ………ゲッツ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「?

 何これ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツが通信機を探す姿を眺めているとロベリアの後ろで歪なな音を鳴らせる物体が見つかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………ッツ!

 ………おい………ラーゲッツ………!

 ………………どうし………だ!

 応………!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………ラーゲッツ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その名はダレイオスでも有名な名前だった。現バルツィエの世代の八人の内の一人。炎の使い手で荒い性格をしているが特にこれと言った活躍を停戦直前までは聞いたことが無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………え?

 これ………ツッゲーラの通信機じゃ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツッゲーラが探している通信機とはこれのことだろう。その通信機からラーゲッツの名を呼ぶ男の声。

 

 

 ロベリアはツッゲーラが偽名を名乗っていることにこの時気付いた………。



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無線を回収して…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………この辺りには無さそうだな。

 もう少し奥の方まで探した方がいいか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「!」

 

 

サッ…、

 

 

 ロベリアはラーゲッツに話し掛けられて咄嗟に通信機を懐に隠した。通信機を掴んだ瞬間指が触れたところが電源のボタンだったらしく電源がオフになり男の声が聞こえなくなる。

 

 

ラーゲッツ「俺はもっと奥の方探してくる!

 お前はどうするよ!」

 

 

ロベリア「えっ、えっと………。

 わっ、私も行く!」

 

 

ラーゲッツ「そうか………。

 一応お前にも教えとくが通信機見付けたら俺に言えよ?

 この辺りのどっかにある筈だからな。」

 

 

ロベリア「そっ、そうだね。

 その通信機って大きさは手の大きさと同じくらいなんだよね?

 色とかは何色なの?」

 

 

ラーゲッツ「色か?

 色は黒だ。

 そんで針………とまではいかねぇがアンテナっていう細い棒みたいなのがついてる。」

 

 

ロベリア「………そう。」

 

 

 

 

 

 

 ロベリアが発見した物体はやはりツッゲーラが探している通信機のようだった。そうなるとこれを所有していたツッゲーラはラーゲッツと言うことになるが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「(………何でツッゲーラは私に嘘の名前を教えたんだろ………?

 ツッゲーラは本当はラーゲッツで………。

 何でそれを隠すの?

 バルツィエであることは隠さなかったのにラーゲッツであることだけ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何か本名を隠さないといけない理由でもあるの………?

 私にラーゲッツだって知られることといけないようなことがツッゲーラには………。)」

 

 

 今のところは何故ラーゲッツが自分の名前を名乗らなかった意図が分からない。どうしてヴェノムが出現した辺りで出生した新参のバルツィエだと嘘をついたのかも。一先ずは自分が通信機を発見したこととラーゲッツの嘘に気付いていない体を装いラーゲッツに接することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………見つからねぇなぁ………。

 どっか見落としてたか………?」

 

 

ロベリア「そうだねぇ………。」

 

 

ラーゲッツ「電源は落としてなかった筈だから近くにあれば音で気付きそうなもんなんだがなぁ………。

 どこに落ちてんだ?」

 

 

ロベリア「………ラ………ツッゲーラがこうしてダレイオスに留まってたら家族も心配するよね?」

 

 

ラーゲッツ「………どうだかな。

 親父は俺のことに興味ねぇようだし俺のことを心配するとしたらフェ………上司くらいなもんだ。」

 

 

ロベリア「上司?」

 

 

ラーゲッツ「フェデール騎士団長………。

 名前くらいは聞いたことくらいはあんだろ?

 八十年前にヴェノムが出現した直後に当時騎士団長だったアルバート………おじさんが失踪して代理で騎士団長に上がったんだ。

 その頃辺りからマテオはダレイオスとは国交が少なくなったからフェデールおじさんが騎士団長に上がったことも知らないんじゃねぇか?」

 

 

 うっかり呼び捨てにしようものならフェデール達との関係が近い間柄だと疑われると思いフェデール達を一つ上の世代だと誤認させるようにおじさんと呼んだ。

 

 

ロベリア「フェデール………。

 うん聞いたことあるよ。

 確かその世代ってフェデールとアルバートの他六人いるよね。

 アルバートの弟のアレックスとダイン、ランドール、グライド、ユーラス………ラーゲッツって………。」

 

 

ラーゲッツ「………あぁ、

 そうだな。」

 

 

 ロベリアが告げた同世代の仲間達の名前の順はやはり階級順だった。ダレイオスでもそういう覚えられ方をしているのだろう。力の序列で自分の名は最下位なのだ。

 

 

ロベリア「………ツッゲーラは誰の子供なの?」

 

 

ラーゲッツ「!

 俺か………?」

 

 

ロベリア「そう、

 私が知ってる世代のバルツィエの後に生まれたんならツッゲーラは七人の誰かの子供なんでしょ?

 誰の子供なの?」

 

 

ラーゲッツ「そいつは………。」

 

 

 今の七人のバルツィエには子供はいない。最近アレックスが上の者達から急かされて作るという話は出てきているがまだそれ以外は独身だ。ラーゲッツは誰の子供という設定にしようか迷い出した答えは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………俺は………、

 グライド父さんの子だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先日グライドが一般の女性と恋仲になったという話を思い出し無難にグライドの子供と言うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「グライド………?」

 

 

ラーゲッツ「おう、

 俺の親父はグライドだ。

 それがどうかしたか?」

 

 

ロベリア「グライド………、

 ………うん、そうなんだ。

 グライドが誰かと結婚してツッゲーラが生まれたんだね。」

 

 

ラーゲッツ「………こういうことはあまりダレイオスの奴に教えていいことじゃねぇんだがな。

 お前も他の奴に言うなよ?

 無論俺とここで会ったこともな。」

 

 

ロベリア「うん………。」

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

ロベリア「………」

 

 

ラーゲッツ「………?

 どうした?

 さっきから何か様子が変だぞ?

 飯食った辺りから急に静かになったな。」

 

 

ロベリア「!

 そっ、そんなに変かな!?」

 

 

ラーゲッツ「大方飯食って眠くなったんだろ。

 山登って疲れて飯食ったらそりゃ眠くもなるよな。

 先に戻っとけよ。

 俺はまだもうちょっと通信機を探してみるぜ。」

 

 

ロベリア「………そうするね。

 今日は少し疲れちゃったみたいだから………。」

 

 

 ロベリアはラーゲッツにそう言って去っていった。ロベリアが去った方角はラーゲッツが間借りしている山小屋とその奥の方にフリューゲルもあるのでロベリアがどちらに向かったのかは判断がつかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………今日中には見付けておきたいんだがなぁ………。

 どこにあるのやら………。」

 

 

 ある程度その場を散策した後ラーゲッツはレアバードの不時着地点に戻ることにした。ここまで探して見付からないとなると不時着時に途中で落としたのでなくレアバードが地面に着地してから投げ出された可能性が高いと見て元の場所に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………!

 あった!

 漸く見付けたぜ。

 こんなところにありやがったのか。」

 

 

 ラーゲッツは昼間ロベリアにサンドイッチをご馳走になった草村の付近で光を反射する物体が視界に入り近付いて確認してみれば通信機だった。

 

 

ラーゲッツ「灯台もと暗しってな。

 レアバードが落ちた付近ばかりに目を向けて自分がどうやって落下したか忘れてたぜ。

 そういや地面に激突した瞬間に前の方に投げ出されてたな。

 その衝撃で通信機も俺よりも前の方に飛んでってたのか。」

 

 

 探すまではどこにあるのか必死になっていて頭を使う余裕すらなかったが通信機を見た途端どうして通信機がそこにあるのか納得する答えを導き出せた。

 

 

ラーゲッツ「…さぁて、

 さっさとフェデールに連絡して迎えに………、

 ………ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………何で電源がオフになってんだ?

 俺電源切ってたっけなぁ………?」



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どちらも魔境なら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「…まぁ落ちた時に地面にぶつかって自然に電源が落ちたんだろうな。」

 

 

 通信機が自分の手を離れたタイミングが曖昧で深く考えても理由が判明しないと思い電源が切れていた訳を追うのを止めた。

 

 

ラーゲッツ「(何にしてもこれで帰れるな………。

 こいつでフェデールに連絡してマテオに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………マテオに………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電源のボタンに指をかけてそこで止まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(………マテオに帰って………どうなるんだ………?

 俺はまたあの日々に戻るのか………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これまでのマテオにいた日々を振り返る。マテオでは顔色を見て機嫌をとろうとしてくる部下やその他大勢と見下してくる自分よりもランドールやユーラスバルツィエの家。そんな上と下の者達との板挟みで居心地が悪い思い出しか無い。フェデールだけは自分を一人のエルフとして扱ってはくれるが彼に促されて真面目に剣を磨いてきた上がってきた腕も始めてから八十年他の誰からも認められることはなかった。しまいにはこんな危険な単独任務まで向かわされる始末。そう簡単には()()()()()()()()()と凝り固まった価値観を覆すことは出来なかった。上の世代に認めらることが無ければ延々と自分はマテオで半端な立ち位置に収まったままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………俺がマテオに帰って何かいいことでもあるのかよ………。

 どうせ戻ったところで俺の居場所なんてあの修練場にしかねぇってのに………。」

 

 

 思い出されるは剣を振り続けた日々。初めてランドールに勝った時は感激して泣いたがいざ魔術を使った模擬戦をしてみるとあっさりとリベンジされてしまった。その後も剣を握り続けてはみたが触発されてランドールも修業し始める。剣術では負けてはいないが魔術だけはどうしてもランドールを越えることは出来ない。人には生まれもった才能が決まっている。自分の力ではどうあっても自分と同様に力をつけていくランドールを追い抜く未来が見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………そういやこの任務の期限は半年だったな………。

 半年は俺がいなくても平気だってんなら俺がそんな直ぐに急いで帰る必要もねぇってこった………。

 

 

 ………まだ少しだけゆっくりしててもいいよな………。」

 

 

 ラーゲッツは通信機の電源のボタンからそっと指を離した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………流石にあの女は帰ってるか………。」

 

 

 通信機を持って山小屋へと戻るとロベリアの姿はなかった。あのまま彼女の家があるフェデールへと帰っていったようだ。

 

 

ラーゲッツ「(………いいよなぁ。

 戻れる家があるってのは………。)」

 

 

 ラーゲッツはレサリナスのバルツィエ邸の様子を思い浮かべる。バルツィエの家の力は大きく作られた豪邸は複数の世帯が住めるほどに広い。そこまでの豪邸を建てたのは過去に起こった事件に起因して一族を一ヶ所に留めるためだ。今ではマテオでもっとも位の高い一族となり他の街にも同じ様に豪邸を建設しそこに分けて暮らしている………、

 

 

 ………が一族は大きくなりすぎた。一族が増えればその中でさえも序列が定められ結束するために同じ家で暮らしているというのに年々険悪な空気が漂いだしている。一族が増えることは必ずしもいい方向へと進む訳ではない。階級社会で上に登り詰めることを目指してきたバルツィエは一族でも上下を気にしだし互いの立場を基準に会話をする。

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツはそんな家に生まれたことを憎んだこともあった。

 

 

ラーゲッツ「(このまま俺がアルバートみたいに失踪したらフェデール達はどう思うんだろうな………。

 …フェデールは大騒ぎしそうだが他の連中は気に止めることもなさそうだな。

 アルバートっつー前例がいた訳だし俺のことを気にかける奴なんてフェデールくらいなもんだ。

 そのフェデールも時間が経てば俺のことなんか忘れるだろ………。

 アルバートみたいに民衆から人気があったんでもないからなぁ………。

 むしろバルツィエの一人がいなくなって清々するんじゃねぇか?

 ………その内俺がいたことも忘れられて俺は誰の記憶からもいなくなる………。

 そうなったら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そうなったら………?)」

 

 

 ラーゲッツは一つの自分の道の可能性を考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(………もし俺がレサリナスで死んだ扱いになって世間から忘れられたら俺は自由の身になるんじゃねぇか?

 俺がいた記憶がマテオからもダレイオスからも消えちまえば俺はラーゲッツ=ギルト・バルツィエとしてではなくただのバルツィエ………。

 

 

 ………いやもうこの際ラーゲッツって名前も捨てるべきか。

 ラーゲッツって名前を聞いただけで記憶力のある奴は俺のことを思い出す。

 ………………考えすぎか?

 いやでもそうするんだとしたら今後はラーゲッツって名前を俺の口から出すのは駄目だな。

 俺は………ツッゲーラで通すのがいいだろう。

 それで頃合いを見て俺はマテオに戻る。

 シーモスは………無理だな。

 シーモスからじゃ砦があるからマテオに帰れねぇ。

 どこか俺が静かに生活出来る場所は………どこだ?

 どこなら俺はバルツィエとしてじゃなく普通の民間人として暮らしていける………?

 マテオでの北側は完全にバルツィエの領域だ。

 かといってダレイオスじゃあハーフエルフが住める場所なんてカーラーン教会以外にはねぇ。

 カーラーン教会は………………論外だ。

 マテオとダレイオスを行き来するカーラーン教会じゃどこで俺の生存が伝わるか分かったもんじゃねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………どこかに無いのか………?

 俺のことを誰も知らない土地で普通の生活が送れるそんな理想の場所が………。)」



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少し打ち解けて

リスベルン山 山小屋 二日目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(…昨日から俺が普通に暮らせそうな場所を探してみたがマテオにそんなところがあるとは思えねぇ。

 ってか先ずどうやってバルツィエに知られずにマテオに帰るかが問題だ。

 マテオとダレイオスの大陸が繋がってるのは北部のシーモス海道のみ。

 陸伝いじゃシーモス砦にいるマテオの騎士団とダレイオス側にいるアイネフーレが通せん簿してやがる。

 シーモスからじゃマテオに戻れないのは明確。

 ならダレイオス東南のミーア族から船を奪ってひっそりとマテオの南側に………?

 いやだが………。)」

 

 

 一度考えたらそれの実行に向けて本気で計画を練。ラーゲッツにとってはそれほどまでにレサリナスでの生活が窮屈に感じていた。生まれた瞬間から大人になってその後までの全てを決められた人生など牢獄でしかなかった。抜け出せるならこの時を置いて他にはないとそう思った。

 

 

ラーゲッツ「もし俺が住むんだとしたらマテオの南側だ………。

 南側は例のあの村のように他にもまだ見付かってない村がある筈だ。

 そこさえ見付けりゃ後はマテオの状勢を教えて騎士団に見付からないようにさせる。

 それが出来たら俺はそこの住人としてのんびりと………。

 ………それを実行に移すには早い段階で船を手に入れるしかねぇ。

 俺がレサリナスで死亡扱いを受けるのを待ってたらそういった村も発見されちまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………早めにここを出ねぇとな。」ガチャッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「お早う。

 通信機見付かった?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人でバルツィエからの脱走を企ててると昨日と同じ様にロベリアが小屋に入ってきた。

 

 

ラーゲッツ「………お前また来たのか?

 そんなに暇なのか?

 何度もここに来てもお前が面白いと思うようなもんはねぇぞ。」

 

 

ロベリア「そんなことはどうでもいいんだよ。

 私はここに来たいから来てるだけだし。」

 

 

ラーゲッツ「…そりゃお前の勝手だが俺は特にお前に用はねぇ。

 お前の相手なんてしてられねぇんだよ。」

 

 

ロベリア「それで通信機は見付かった?

 マテオへはいつ帰れそうなの?」

 

 

ラーゲッツ「あぁ通信機なら………………。」

 

 

 ここでラーゲッツはロベリアがしつこくマテオへ同行させろと要求してきており自分とロベリアでは絶対的に目的地が正反対であることを思い出した。

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(コイツ…………、

 コイツが行きたいのはレサリナスみたいな栄えた場所だろう。

 辺境に連れてってもダレイオスとそんなに変わらねぇしな。

 コイツはレアバードでマテオに行きたいようだが俺は船でこっそりとマテオに渡りたいんだ。

 コイツを連れていくことは出来ねぇ………。

 ………なら………。)通信機は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………まだ見付かってねぇよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「え!?

 見付かってない!?

 嘘………!?」

 

 

ラーゲッツ「何をそんなに驚いてんだよ?

 一人で探しても見付からないって言ってたのはお前だろうが。」

 

 

ロベリア「あ…!

 そっ、そうなんだけど………。」

 

 

ラーゲッツ「またこれから探す予定だ。

 今日は昨日よりももっと遠くの場所まで探そうと思ってる。

 つまらねぇ手間作業になるからお前は帰って「私も探す!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「一日探して見付からないってマズイでしょ!?

 もしかしたらモンスターとかがどこかに持っていってるかもしれないし早く見つけないと無くしちゃうよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「急にどうしたんだアイツ?

 あんなに慌てて………そんなに俺が本部に連絡出来なくなるのが惜しいのか?」

 

 

 ロベリアは外に駆け出していったが彼女がいくら探したとしても通信機は見付かる筈がない。

 

 

ラーゲッツ「………通信機ならもうここにあるんだがなぁ………。」

 

 

 部屋の中にある引き出しを開けて中にある通信機の有無を確認する。通信機はある。この中にあるのならモンスターなどに持っていかれることはない。

 

 

ラーゲッツ「通信機が見つからなければアイツもその内飽きて諦めるだろう。

 それまでの辛抱だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 期待に胸膨らませてるところ悪いが俺はお前を連れてく訳にはいかねぇんだよ。」

 

 

 ラーゲッツは引き出しを閉めてロベリアの後を追った。ロベリアには通信機が既に手元にあることをラーゲッツは伝えない。彼女が根を上げるまでラーゲッツは自分も通信機を探すフリをすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………どこ………?

 どこに行っちゃったの………?

 昨日はここに置いて帰ったのに………。」

 

 

 ロベリアに追い付くと彼女はラーゲッツが昨日通信機を見付けた付近を探していた。

 

 

ラーゲッツ「そこには無かったぞ?

 昨日俺がこの辺りをくまなく探したからな。」

 

 

ロベリア「それいつの話!?」

 

 

ラーゲッツ「は………?

 ………お前が帰ってから大分経って暗くなりだした辺りだったな………。」

 

 

ロベリア「………じゃあ私が帰ってツッゲーラがここを探しに来るまでに動物かモンスターが通信機を………。」

 

 

ラーゲッツ「んん?

 お前もしかして通信機発見してたのか?」

 

 

ロベリア「え………!?

 それは………。」

 

 

ラーゲッツ「何でそれを俺に教えなかったんだ。

 見付けた時点で俺に報告してくれりゃよかったじゃねぇか。」

 

 

ロベリア「だっ、だって………えっとぉ………!

 

 

 ………そっ、そう!

 あれが通信機だって分からなかったんだもん!

 仕方ないでしょ!?」

 

 

ラーゲッツ「仕方ないって………おい………。」

 

 

ロベリア「どっ、どうしよう………。

 ここに無いってことはもうどこにあるのか分からないよね………?

 この辺りに住んでる動物かモンスターが通信機持ってちゃったんだと思う………。」

 

 

ラーゲッツ「そうだなぁ………。

 まいったなぁこりゃあ………。」

 

 

 心の中では全然まいってなどいなかった。通信機は無事に見付けてあるのだ。

 

 

 しかしロベリアは通信機が他の生物に持ち運ばれたと勘違いしていた。ラーゲッツにとっては好機だった。このまま通信機が紛失してマテオに連絡が取れなくなったことにすればロベリアも断念して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………私のせいだ………。

 私が素直に通信機を見付けたって言っておけば………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロベリアの落ち込み様を見てラーゲッツは心が痛くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「私が………私のせいでツッゲーラがマテオに「ちょっと待ってろ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツはロベリアをその場に残して山小屋へと戻っていく。

 

 

ロベリア「………?」

 

 

 ロベリアはラーゲッツが失望して去っていったのだと思った。

 

 

 

 しかし暫くしてラーゲッツが戻ってくると………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………!

 それ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………昨日の内に実は見付かってたんだよ。

 本当は見付かったことは言うつもりはなかったんだけどな。

 これで互いに黙ってたことをおあいこにしようや。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツはロベリアに通信機を持ってきて見せた。するとロベリアはほっとしたような顔をして笑顔を綻ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「あぁ~!

 よかった~!

 無くしたかと思って心配しちゃったじゃない!

 これでツッゲーラもレサリナスに帰れるんだねぇ~!」

 

 

 にこやかに笑う彼女を見てラーゲッツは心の奥底がだんだん暖まっていく感覚を覚える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(………なんだよコイツ………。

 自分じゃなくて俺の心配してやがったのか………。

 よくもまぁそこまで他人のことに構ってやれるなぁ………。

 お人好しすぎるぜ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………でもコイツの暗い顔をしてるのはなんか嫌だったな………。

 

 

 ………どうしたんだ俺?

 何でこんなことを………。)」

 

 

 ラーゲッツの中でロベリアに対する思いが少しだけ変わったのを不思議に思いながらこの日は二人は別れたのだった………。



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秘境を求めて

リスベルン山 山小屋 三日目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「マテオからお迎えが来るのはいつ頃になりそうなの?」

 

 

ラーゲッツ「あん?

 迎え?」

 

 

 ラーゲッツがリスベルン山に不時着してから三日目。一日二日と続けてやって来るのであれば当然今日も来ることは予想していた。

 

 

ロベリア「だって通信機昨日見付けたって言ってたじゃない。

 一昨日の内に見付けてたんならもう連絡はしてあるんでしょ?

 ………で、いつなの?」

 

 

ラーゲッツ「…俺がいつ帰るかが気になってるようだが………、

 

 

 …俺は直ぐには帰らんぞ?」

 

 

 ラーゲッツはロベリアの問いにそう答える。

 

 

ロベリア「え?

 何で?」

 

 

ラーゲッツ「この通信機で既にマテオの方には()()()()()()()は報告し終えてある。

 俺がただ偵察だけで寄越されたと思ったか?」

 

 

ロベリア「他にもまだ何かやらないといけないことがあるの?」

 

 

ラーゲッツ「たりめぇだ。

 たった一つの用事だけでこんな遠くまで人を送れるかよ。

 俺にはまだやらないといけない死後とがある。

 それを終わらせねぇとマテオには帰れねぇよ。」

 

 

ロベリア「…そうだったんだ………。

 じゃあまだツッゲーラの迎えは来ないんだ………。」

 

 

ラーゲッツ「………そうなるな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こういう言い方をすればロベリアがラーゲッツにはまだ他にもやるべき仕事がありそれが終わるまでは帰らないと思うだろう。

 

 

 実際にはそんな任務は命じられていない。ただでさえ一人での敵国潜入で戻ってこれる可能性が低いのに多数の任務を与えられることは無い。ラーゲッツはロベリアに嘘をついた。

 

 

ラーゲッツ「(通信機は見つかりはしたがレサリナスに帰るつもりはねぇ。

 ここでどうにかして情報を集めて迎え以外の方法でマテオへと渡る。

 

 

 そして()()()()()()()()()。)」

 

 

 ラーゲッツはバルツィエの名を捨てる気で生きていくことにした。今はまだマテオにもバルツィエの名が広まってはいない土地も発見されている。ラーゲッツはそこを探して移住することを決意した。だがその場所を探すにしても移動手段が徒歩と船になる。徒歩ならダレイオスとマテオの大陸はどこへでも行けるが海を渡る手段だけはどうしても誰かから情報を仕入れるしかなかった。

 

 

ラーゲッツ「なぁ、

 ダレイオスで船が出ているところはあるか?

 どっかの部族が魚取るために漁をしてたりする港とかはねぇか?」

 

 

ロベリア「漁?

 漁ならミーア族が海に出てるけどそれがどうかしたの?」

 

 

ラーゲッツ「それはどの程度の規模の船を出してんだ?

 大きさは?

 軍艦程はあるのか?」

 

 

ロベリア「軍艦って………漁をするだけならそんな大きな船は出さないよ。

 それに軍艦なんか作っても戦うとしたらマテオとだけでしょ?

 マテオと戦うのに軍艦なんて作っても意味無いよ。」

 

 

ラーゲッツ「………そりゃそうだな。」

 

 

 マテオとダレイオスでは戦争の仕方が違う。白兵戦を得意とするダレイオスに対してマテオは魔術を使った狙撃戦に力を入れている。海から船を使ってマテオに渡ろうものなら忽ちマテオから迎撃を受けてしまう。

 

 

ラーゲッツ「(………船を奪って渡るにしても俺が乗る船が沈められる恐れがあるな。

 陸を渡るならシーモスからだが海を渡るとなるとマテオからの攻撃は避けられねぇ。

 俺がラーゲッツ=ギルト・バルツィエだって分かれば迎撃はされねぇだろうがそれじゃ本末転倒だ。

 俺は誰にも知られずにマテオに渡らなくちゃいけねぇ。

 ………海を渡るならレアバードで空から飛べば一発なんだがそれだと俺が生存してるのがバレる。

 俺が死んだ状態でマテオに戻るにはどうしたら………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「あと他に船が出てるとしたら………カーラーン教会が定期的にダレイオスとマテオを行ったり来たりしてるくらいだけど何で急に漁の話になったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………………カーラーン教会………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それだ!!」ガタッ!

 

 

 ラーゲッツは勢い良く立ち上がり荷物の中から地図を取り出した。

 

 

ロベリア「うわっ!?

 どうしたの!?」

 

 

ラーゲッツ「おい!

 ダレイオスのカーラーン教会ってのはどこにあるんだ!?

 本部と支部両方を教えろ!」

 

 

ロベリア「えっ?

 えぇ?

 それがツッゲーラの任務に関係あるの?

 それくらいならマテオでも調べられるんじゃ………?」

 

 

ラーゲッツ「良いから教えろ!

 カーラーン教会はどこにあるんだ!?」

 

 

ロベリア「…カーラーン教会なら大きい街に一つは支部があるけど………本部ならここに………。」

 

 

 ロベリアはゲダイアンとセレンシーアインの丁度忠臣にある場所を指し示した。

 

 

ラーゲッツ「ここにカーラーン教会の本部があるんだな?」

 

 

ロベリア「そうだけどカーラーン教会に一体何の用があるの?」

 

 

ラーゲッツ「ここか………。

 ここから東に真っ直ぐ行けばカーラーン教会に辿り着けるんだな………。

 

 

 ………ハハハ………ハハハハハハハハ!」

 

 

ロベリア「ちょっとどうしたの?

 何で笑ってるの?」

 

 

ラーゲッツ「そうかぁ!

 ここにカーラーン教会が………。

 ここを目指せばいいのか!

 楽勝じゃねぇか!」

 

 

ロベリア「どういうこと?」

 

 

ラーゲッツ「アッハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

ロベリア「いつまで笑ってるのよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間的にロベリアからカーラーン教会の名が飛び出したことでラーゲッツの計画は完成した。ラーゲッツはカーラーン教会の定期便を利用してマテオへと渡る計画を企てた。無論カーラーン教会の者の会えば自分の生存を確認されてしまう。なのでカーラーン教会の様子を伺い貨物の中に潜み()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(やってやる!

 俺は絶対に誰にも見付からずにマテオへと渡るんだ!

 そして俺は………誰にも馬鹿にされない自由な生活を手にして見せる!!)」



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興味引かれて彼女を

リスベルン山 山小屋 七日目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「ねぇ………、

 最近何の準備をしてるの?」

 

 

ラーゲッツ「何の準備?

 そんなもんここを出る準備に決まってんだろ。」

 

 

ロベリア「ここを出る?

 迎えが来るってこと?」

 

 

ラーゲッツ「迎えは………まだ来ねぇよ。

 俺は俺のやるべきことを終えてからだ。」

 

 

ロベリア「そのやるべきことって何なの?

 この間はカーラーン教会のことを聞いて急に高笑いしてたけどカーラーン教会に行くんだよね?

 もしかして船で帰ろうとしてるの?」

 

 

ラーゲッツ「お前には関係ねぇだろ。

 ってかいつまでここに通い続けるつもりだ。

 俺はお前の要望は断っただろうが。」

 

 

ロベリア「そうだけどここまで一緒にいたら気になるじゃん!

 いい加減教えてよ!」

 

 

ラーゲッツ「禁則事項だ。

 敵側の奴には教えられん。」

 

 

ロベリア「もう!

 本当に秘密ばっかりだね!」

 

 

ラーゲッツ「お前が言えねぇことばっかり訊いてくるからだろ。」

 

 

 ラーゲッツが不時着してから七日。ロベリアは毎日欠かすことなくこの山小屋へと通い詰めている。今のところ飽きる様子は無さそうだ。

 

 

ロベリア「………ねぇ、

 ツッゲーラカーラーン教会に行くつもりなの?」

 

 

ラーゲッツ「怪我が治ったらな。

 それまではここで療養させてもらう予定だ。」

 

 

ロベリア「じゃあまだ当分はここにいるんだね?」

 

 

ラーゲッツ「そうだな。

 当分はここにいるな。

 ここで怪我が治るのを待つだけだ。

 だからここに来ても退屈するだけだぞ。

 もうここに来たとしても何も面白いもんはねぇし来ても突然いなくなってるかも知れねぇぜ?

 お前もわざわざ足を運んでまで俺が不在だったら帰るのが億劫になるだろ?

 そろそろここに通うのは止めてフリューゲルでじっとしてたらどうだ?」

 

 

ロベリア「そんなの私の勝手でしょ?

 私はここに来たいから来てるだけだし。」

 

 

ラーゲッツ「一々俺の様子なんか見に来るなよ。

 お前家の奴にここになんて言って出てきてるんだ?」

 

 

ロベリア「え?

 特に何も言ってないけど?」

 

 

ラーゲッツ「…俺がここにいるのが知られたら非常にマズイ状況なんだがそんなところへお前がノコノコと何日も続けてやって来てたら流石に不審に思うだろ。

 もうお前ここに来るなよ。

 お前がここに来ると他のフリンク族までやって来ちまうだろうが。」

 

 

ロベリア「それは………そうだね………。

 アハハ………。」

 

 

ラーゲッツ「笑い事じゃねぇんだけどな。」

 

 

 ロベリアの様子からこの山小屋に来るのを止める気は無さそうだ。そこまで彼女のダレイオスを脱したい気持ちが高いということなのだが。

 

 

ラーゲッツ「…何がそんなに不満なんだ?

 ダレイオスの中だけでも十分だろ?

 お前がマテオに行きたいのは沢山の料理を食ってみたいからなんだろ?

 確かにマテオには幅広い数のレシピはあるが同盟組んでる内はダレイオスでも他の部族の飯にもありつける筈だ。

 マテオの飯を知る前にダレイオスの飯を制覇するんだな。」

 

 

ロベリア「…残念だけどそれは無理。

 同盟もそんなに強い結び付きじゃないの。

 他の部族との交流なんて滅多に無いしそういうのは族長だけ。

 私なんて一度も他の部族の人達と話したこともないもん。」

 

 

 ロベリアの顔を影が指した。その顔からは今の環境に相当な不満を抱いている様子が窺える。

 

 

ロベリア「………ダレイオスはね。

 言ったと思うけど仲間意識がとても強いの。

 強すぎて自分達の文化を認めない、新しいことをしようとしない。

 どこも同じ。

 古い文化を継承することを第一に考えてて今の生活を変えようとしないの。

 自分達がすべきことは今の生活をこれから先も変えずに送っていくだけ。

 あのフリューゲルにいるとよく分かる。

 私はあの村の歯車の一つでしかないんだよ………。」

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………だから変わりたいの!

 多分私みたいに今の生活に変化が欲しいって思ってる人は沢山いると思う!

 長くダレイオスの中でもマテオとも戦争をし過ぎて感覚がおかしくなってるんだよ皆!

 誰かが何か新しいことをしないと何も世界は変わらないんだよ!

 私がマテオに行って色んなものを見てきてそれを知ってフリューゲルの皆に私が何を見てきたか教えたいの!

 部族とか戦争とかももう終わらせるべきなんだよ!

 私達は三万年前から何も進んでない!

 何も進歩してない!

 その間に歩き出してたのはマテオだけなんだってダレイオスの皆に伝えたい!

 

 

 そのために私は絶対にマテオに渡りたいんだよ!」

 

 

 ロベリアの熱意は本物だった。本気でマテオに向かいマテオの文化を見聞きしてそれをダレイオスに広めると言うのだ。

 

 

ラーゲッツ「…お前は戦争を終わらせるためにマテオに行きたいのか?」

 

 

ロベリア「うん!」

 

 

ラーゲッツ「…そう簡単な話じゃないぞ?

 お前みたいな弱小部族が一人が足掻いたところで何がどうなるってんだ?

 お前一人が粋がったところで世界はそう変えられるもんじゃねぇ。

 下手すればダレイオスには戻ってこれねぇどころかマテオで命を落とすこともあり得る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでもマテオに行きたいのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「行く!

 絶対に私はマテオに行くよ!

 例えどんな目にあっても私はマテオに行きたい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………生意気なこと言ってんじゃねぇよ。

 フリンク族ごときが戦争を止めさせられる訳ねぇだろうが。」

 

 

ロベリア「何よ!?

 私には無理だって言いたいの!?」

 

 

ラーゲッツ「無理だって言わざるしかねぇよ。

 お前戦闘は出来るのか?」

 

 

ロベリア「戦闘は………。」

 

 

ラーゲッツ「出来ねぇんだろ?

 それじゃやっぱりお前をマテオには連れてけねぇなぁ。」

 

 

ロベリア「戦えなくたって出来ることだってあるでしょ!?

 話さえ出来れば人は皆分かり合え「この世界で人に話を聞かせたけりゃそれなりに立場と力が必要なんだよ。」」

 

 

ラーゲッツ「最低でも自分の身を守れる力ぐらいは必要だ。

 交渉の場なんてのは対等な力関係にある奴等が開くもんだ。

 弱者の要求なんて誰も耳を貸しはしねぇよ。」

 

 

ロベリア「弱者って………。

 戦争を終わらせたいのに力なんて必要あるの?」

 

 

ラーゲッツ「あるに決まってんだろうが。

 そもそも力のある奴と無い奴とでは戦争になんかなりゃしねぇ。

 一方的に全てを奪われるだけの蹂躙だ。

 そこに人と人との会話が成り立つ余地はねぇんだ。

 そしてお前には力が無い。

 力が無ければどうなるかは言わずとも分かるな?」

 

 

ロベリア「………」

 

 

ラーゲッツ「ダレイオスとマテオの戦争を止めさせたい………。

 志は立派だな。

 だが志だけじゃ何も出来ない。

 お前に足りないのはそれを実行に移せるだけの実力が備わってない。

 そんなんじゃマテオに連れていっても何の意味もねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前は先ず強さを身に付けろ。

 俺が特別に講師してやる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「聞こえなかったのか?

 俺がお前に特訓してやるって言ってるんだ。

 今の状態じゃお前をとても連れて歩くことなんて出来ん。

 ()()()()()()()()()()()()()()()なんて出来ねぇんだよ。

 だからお前が強くなれ。

 強くなって一人でどこででも生きていけるだけの力を身に付けてみろ。

 俺の傷が治るまでの間だけだが俺もただ治るのを待ってるだけってのもつまらねぇ。

 俺がお前を鍛えてやるよ。」

 

 

ロベリア「いいの………?

 本当に………?

 強くなれたらツッゲーラは私をマテオに連れていってくれるの………?」

 

 

ラーゲッツ「それはお前次第だがな。

 どうだ?

 自分がどれ程強くなれるか試してみるか?

 強くなれたらマテオへの同行を許可してやるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「うん!

 私やるよ!

 ツッゲーラに心配されることもないくらい強くなるよ。

 それでツッゲーラと一緒にマテオに行く!」

 

 

ラーゲッツ「………いい返事だ。

 手加減はしねぇぞ?

 傷が治るのは大体二ヶ月くらいだろう。

 

 

 それまでに俺の目に叶わなければこの話は無かったことにするからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてラーゲッツは体の傷が癒えるまでの間ロベリアを鍛えることにした。ラーゲッツ自身が受けた偵察の任務は半年という猶予がある。つまり半年はマテオからラーゲッツを捜索に来る者はいないということだ。その半年の間にカーラーン教会に近付き船に潜り込めばいいのである。

 

 

 ラーゲッツは気紛れではあったが暇潰しにロベリアへと自分がしてきた修業を施すことにした………。



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怪しむナトル

フリンク族の住む()フリューゲル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「ロベリア。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「ん?

 何お父さん?」

 

 

ナトル「お前………ここ最近どこに行ってるんだ?」

 

 

ロベリア「え”!?

 なっ、何!?

 何でそんなこと聞くの!?」

 

 

ナトル「そりゃ娘が毎日毎日行き先も告げずに村の外へと外出していたら父として気になるのは当然だろう。

 お前は一体何の村の外に何しに行ってるんだ?」

 

 

ロベリア「それはその………。」

 

 

 ラーゲッツと出会ってから一ヶ月。とうとう父親のナトルから自分がどこへ外出しているのか訊かれてしまう。

 

 

ナトル「村の中にいろとは言わん。暗くならない内に帰って来てはいるからこれまでは何も注意せずにいたがまさか領の外に出向いているのではないだろうな?

 だとしたらお前の外出を認める訳にはいかんな。

 今は敵ではないとはいえ他の領地に足を踏み入れるのは危険だ。

 一人で領の外へと出ていけば他の部族の者達に何をされることやら………。」

 

 

ロベリア「だっ、大丈夫だってばお父さん!

 そこのところはちゃんと分かってるから!

 私別に領の外に行ってる訳じゃないから!」

 

 

ナトル「ではどこに行ってるのだお前は?」

 

 

ロベリア「あぁ………うん、

 リスベルン山だよ。」

 

 

ナトル「リスベルン山?

 ………リスベルン山に何をしに行ってるんだ?」

 

 

ロベリア「単なる気分転換だよ。

 最近なんか村の空気が悪いから………。」

 

 

ナトル「………確かにな………。

 もう一月も経つというのにな。

 西の都ゲダイアンがバルツィエに爆撃されてから次はどこを狙われているか皆気が気でないのだろうな。」

 

 

ロベリア「ほぇ?

 バルツィエ?」

 

 

ナトル「お前にも話したじゃないか。

 一ヶ月前に突然バルツィエがゲダイアンを攻撃したんだ。

 バルツィエの攻撃によってゲダイアンは修復不可能なまでに被害を受けた。

 ゲダイアンにいた同胞達は数は少なかったがそれでも犠牲を払ってしまった。

 私達もこれ以上不必要な犠牲を出したくはない。

 いつまたバルツィエがダレイオスのどこかを爆撃するか分からないんだ。

 村が安全とは言えんが少なくともモンスターによる被害だけは回避できる。

 私達は弱い存在だ。

 リスベルン山に行くにしても一人では危ない。

 誰か他に人を連れていきなさい。

 フラットなら一声でお前についてきてくれるだろう。」

 

 

ロベリア「えぇ………フラットォ?。」

 

 

ナトル「フラットでは何か不満か?

 お前の()()()じゃないか。」

 

 

ロベリア「婚約者じゃなくて許嫁でしょう?

 お父さん達が私が生まれて物心がつく前に勝手に決めたことじゃない。

 私は誰かに決められた結婚なんてしたくはないわ。」

 

 

ナトル「フラットの何がいけないと言うのだ?

 年も近いしフラットもお前に気があるようだ。

 彼も両親の後を継いで私の補佐をしてくれている。

 中々優秀で婿としては申し分ないぞ。」

 

 

ロベリア「…それはこのフリューゲルの内だけでの話でしょ?

 案外フラットなんかよりももっと優秀な人が他にいるかもしれないよ?」

 

 

ナトル「フラットより?

 誰か他に候補がいるのか?

 どこの村の者だそれは?」

 

 

ロベリア「………」

 

 

ナトル「私の知るところではフリンク領内でお前に見合うのはフラットくらいしかいないぞ?

 お前の旦那になるということは次の族長にもなるのだ。

 であればそれなりに他の部属とも話が出来る者でなくてはならん。

 フラットは子供の時から親の背中を見て育ちそういった場での礼儀も弁えている。

 彼ならお前を幸せに「ふざけないで!」」

 

 

ロベリア「私が誰と結婚するかは私が決める!

 私の幸せを勝手に決めないで!

 お父さんが押し付けてくる人達って皆有能だとか無能だとかそういう決められ方で選んだ人だけじゃない!

 そんな人と一緒になっても結局お父さんみたいに古びた考えで自分から改革を起こそうとする勇気も無い意気地無しになるのが目に見えてる!

 私は全く同じ日々を過ごし続けるのなんて真っ平ごめんだわ。」

 

 

 話を無理矢理フラットと結び付けようとする父にロベリアは激昂し反発する。ロベリアがフリューゲルでの生活で気に入らないのはこのように父に何もかもを決められてしまうことだ。族長という仕事柄人に命令することに慣れた父は自分の考えこそが正しいと思いがちだ。自分が正しいと思えばひたすらそれに真っ直ぐ突き進む。

 

 

ナトル「しかしなぁ………。

 お前だっていつかはそういう相手と一緒になるのだろう?

 私の娘であるお前の相手となると人は選ばんといかん。

 なにせフリンクの未来を任せられる相手でなくてはならんからな。

 誰でもいいという訳にはいかんのだ。

 上手く部族を纏めあげられる者でなくては部族は崩壊してしまうのだ。

 そうならないようにするにはお前の相手は私の眼鏡に敵う相手でなくてはな。」

 

 

ロベリア「私の意思は聞いてくれないの!?

 私が相手を選んじゃいけないの!?

 私のことなのに!!」

 

 

ナトル「ロベリア………、

 お前にもいつか分かるときが来る。

 部族の長というものは部族を率いる立場として皆にあれこれと命令したり出来るがそれはこの役職の者が粉骨砕身で皆に尽くすからだ。

 私達は恋などというものにうつつを抜かしていることは出来んのだ。

 常に不安定な大地に立たされている私達が生き残るにはより優秀な者を上に据えておく必要がある。

 

 

 私はフラット以上の相手でないとお前の交際を認めんぞ。

 もしそんな相手がいるのであれば連れてきなさい。

 私がその相手が長に相応しいか確かめて「勝手にすれば!」。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「そうやっていつまでも同じ歴史を辿ってるだけの人生なんて何の意味があるの!?

 お母さんもそうなんで選ばれて寂しい思いさせてたじゃない!

 最期までお父さんはお母さんを不幸にさせて………!

 

 

 

 

 

 私は絶対にそんなふうにはならない!

 私は私の好きに生きるから!」タタタッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「自由なんてものは若い内にだけ見れるものだ。

 大人になればなるほど周りのことを考えなくてはならない。

 ………私達力無き者が生き残るにはそうするしないんだよロベリア。」



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努力だけでは届かぬ壁

リスベルン山

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「お待たせ!」

 

 

ラーゲッツ「よう遅かったな。

 寝坊か?」

 

 

ロベリア「うんそんなところ。」

 

 

ラーゲッツ「そうかよ。

 そんなんで体が持つのか?」

 

 

ロベリア「大丈夫だよ。

 一回眠ったらすっかり疲れも取れたから。」

 

 

ラーゲッツ「そうか………、

 じゃあ始めるか。」

 

 

ロベリア「うん、

 それはいいんだけどさ………。」

 

 

ラーゲッツ「ん?

 何だ?」

 

 

ロベリア「修業をつけてもらっておいてなんだけどさ………。

 あの………、

 この修業ってそんなに意味があるの?

 その………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「あるからやらせてんだろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツがロベリアにやらせていたのはひたすら走り込みだった。

 

 

ロベリア「けど強くなるならもっとバルツィエとかがやってる魔術とかの練習とかじゃないの?

 何で足腰を鍛える必要があるの?」

 

 

ラーゲッツ「いきなり技や魔術を教えてもお前にそれが出来るとは思えん。

 最初に身に付けなきゃならんのは戦いの術よりも生き残れるだけの逃走力だ。

 お前には先ず()()()()を覚えてもらう。」

 

 

ロベリア「それってバルツィエみたいに高いマナを持つ人達だけが出来る技だよね?

 フリンク族の私が使えるようになるものなの?」

 

 

ラーゲッツ「さぁな。

 使えるようになるかどうかはお前の覚悟次第だと思うぜ。

 一応レサリナスにも俺達が修業をつけてやって魔神剣を会得した奴はいる。

 俺達が使う技は俺達バルツィエだから使えるんじゃねぇんだ。

 その気になりゃ誰だって使えることは立証されてる。

 要はお前が死ぬ気でやりゃ会得出来るかもって話だ。」

 

 

ロベリア「なら会得出来ない場合もあるんだね………。」

 

 

ラーゲッツ「やる前からそんなんで諦めてたら何も掴むことは出来ねぇだろうな。

 お前の意気込みはその程度だったってことだ。

 今から辞めるっつっても俺は特に責めねぇよ。

 俺も暇だから付き合ってるだけだしな。

 特に困ったりはしねぇよ。」

 

 

ロベリア「………やるよ。

 こんなところで立ち止まってたら私はどこへも行けない。

 絶対にその飛葉翻歩って技を習得して私もマテオに行く。」

 

 

ラーゲッツ「………そうだな。

 じゃあ今日もランニングからだ。

 とりあえずは無理しない程度に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「ハァ………………………ハァ…………………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「だらしねぇなぁ。

 十分もしない内にそこまでへばったのかよ。」

 

 

ロベリア「だって………………こんなに運動したことなかったから………………。」

 

 

ラーゲッツ「基礎体力が全然ねぇなぁ。

 運動能力に関してはダレイオスの方が高いって言われてるんだがお前は………。」

 

 

ロベリア「フリンク族って………どちらかというと敵から走って逃げるんじゃなくて隠れて敵をやり過ごすって考え方が強いから運動なんてそんなにしたこと無いよ。

 私達フリンク族は敵に見付かったら終わりだって思えって習ってきたから………。」

 

 

ラーゲッツ「とことん弱小だなフリンク族は。

 そんなんでよく今日まで他のところに潰されずに残り続けてきたもんだ。」

 

 

ロベリア「………私達って戦ったりするのが苦手だからずっと数を増やすことだけを考えて生きてきたんだよ。

 人が増えればそれだけ強そうに見せられるから虚勢だけで戦いを避けてきたの。

 ………でも人が増えれば増えるほど私達が得意としてきた()()も使えなくなってくる。

 拠点を作ればそこからどこへにも行けなくなる。

 他の部族って()()()()()()()()はダレイオスを端の方から制圧していく傾向にあったから私達が必然的に内陸の方に居住地を構えるしかなくて近くにはブルカーンが住んでるけどアインワルドと早急に同盟を組んで私達はなんとかやってこれたの。」

 

 

ラーゲッツ「アインワルドか………。

 ダレイオスでも閉鎖的な部族で自分達の領域に他の奴等が踏み込みさえしなけりゃ大人しい部族だよな。

 他と違って動き的にも他を制圧しようともしない。

 

 

 巷では三万年前に消えた世界樹カーラーンはアインワルドの奴等が所有してるって話だ。」

 

 

ロベリア「ダレイオスでもそういう噂があったみたいだけどね。

 でももし本当にそうならその力を使ってダレイオスはアインワルドが支配している筈だよ。」

 

 

ラーゲッツ「所詮はただの噂話だってことだな。

 マテオでもその話が出てから暫くしてやっぱり世界樹カーラーンはどこか人がいない場所にでも移動したってことになった。」

 

 

ロベリア「不思議だよね。

 争う原因は無くなった筈なのに未だに争いが無くならないなんて。」

 

 

ラーゲッツ「それだけ人の歴史は争いとは切っても切りきれねぇ存在だってことだ。

 お前もマテオに行くつもりなら覚悟しとけ。

 あっちはこっちみたいに同族が皆が皆仲良しこよしってもんじゃねぇ。

 同族間でもいざこざはある。

 もし争い事に巻き込まれそうになったら逃げ切れるだけの足は持っておいた方が身のためだ。」

 

 

ロベリア「うん。

 そのためにも早く飛葉翻歩をマスターしないとね。」

 

 

ラーゲッツ「それでいい。

 少し休憩したらまた走り込み再開するぞ。」

 

 

ロベリア「分かった。

 頑張るよ。

 私も早く合格点が貰えるくらいにはならないとね。」

 

 

ラーゲッツ「そうだな。

 精々根をあげねぇこった。

 地道な努力が成功への実を結ぶようだしな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後もラーゲッツとロベリアの修業は続いた。ロベリアは徐々にだが体力が上がってはいっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかしロベリアは最終的には飛葉翻歩を習得することは出来なかった………。



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不可能は不可能にしかならず

リスベルン山 三ヶ月後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「最近なんか山を登ってくるのも楽になってきた気がするよ。

 これもツッゲーラとの特訓のおかげだね。」

 

 

ラーゲッツ「お前が毎日断念することなく走り込みを続けてきた成果だろうが。

 俺は横で眺めてただけだ。」

 

 

ロベリア「そう?

 そう言われるとそうなのかも。」

 

 

ラーゲッツ「調子に乗るなよ。

 事実そうなだけでこれで満足しちゃ先には進めねぇぞ。

 飛葉翻歩を体得出来るだけの足腰は身に付いてきたとして実際に飛葉翻歩を使うとなると結構コツと消費するマナの量を加減しなくちゃならねぇ。

 俺達バルツィエは走行手段として用いているがこの技は本来敵の攻撃を避ける技だ。

 一瞬だけ足の裏にマナを集めて爆発させるようにして地面を滑るんだ。」

 

 

ロベリア「足の裏を爆発!?

 足が吹き飛んじゃうでしょ!?」

 

 

ラーゲッツ「例えでそう言ってるだけだ。

 本当に爆発させたりする訳ねぇだろ。

 それが出来たとして技として確立したりなんかするかよ。」

 

 

ロベリア「そっ、そうだよね………。

 あぁビックリした。」

 

 

ラーゲッツ「ビックリしたのはこっちだってぇの。

 何で言葉をそのまま受け取るんだよ。」

 

 

 ロベリアとの特訓を開始してからもうじき三ヶ月が経過する。ロベリアはその間ラーゲッツの言い付けに従い順調に体力をつけてきていた。

 

 

ラーゲッツ「今のお前なら飛葉翻歩に耐えられるだけの筋力はついてるだろうな。

 試しにちょっと見本を見せてやる。」

 

 

ロベリア「見本?」

 

 

ラーゲッツ「飛葉翻歩は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな感じに流れるように進むんだよ。」シュッ!

 

 

 ラーゲッツは一瞬でロベリアの背後へと回った。

 

 

ロベリア「うわわッ!?

 いつの間に!?」

 

 

ラーゲッツ「どうだ?

 今のが飛葉翻歩だ。

 参考になったか?」

 

 

ロベリア「もう一回!

 もう一回だけ見せて!

 早すぎて何が何だか分からなかったよ。」

 

 

ラーゲッツ「よし、

 じゃあ今度は少し離れて遠くからどんなふうにマナを流動させてるか見ときな。」

 

 

 ラーゲッツはロベリアから距離をとりロベリアから見えるように真横を向いて走り出す体勢をとる。

 

 

ラーゲッツ「いいか?

 見るのは足元のマナの流れだからな?

 俺がどんなマナの使い方してるかよく観察するんだ。」

 

 

ロベリア「うん見てる。

 ツッゲーラがどんな感じで地面を滑って移動してるのか私確認するよ。」

 

 

 ロベリアは真剣な表情でラーゲッツの次の行動を待つ。ラーゲッツの一挙手一投足を見逃さないというような気迫を感じさせるような眼差しだ。

 

 

ラーゲッツ「………おし、

 それじゃあ………ッフ!!」シュッ!

 

 

ロベリア「!」

 

 

 ロベリアが見易いように今度は少しだけスピードを遅めて滑る。横を見ればロベリアも自分の動きを追って視線を向けてきていた。

 

 

ロベリア「………凄い………。

 私もあんなふうに風のように駆け抜けてみたい………。」

 

 

ラーゲッツ「どうだった?

 どんな感覚で俺が走ってるか掴めたか?」

 

 

ロベリア「ツッゲーラが言った通りツッゲーラの足から沢山のマナが吹き出てるのが見えたよ!

 私もツッゲーラと同じようにマナを出せればいいんだよね? 」

 

 

ラーゲッツ「理屈の上ではそうだな。

 だがこの技を発動するには見た目よりも複雑なマナの操作性が必要とされる。

 ただマナを放出すればいいってだけじゃねぇ。

 自分の動体視力に見あった速度やマナの残存を考慮して使わねぇといけねぇ。

 マナを使い過ぎれば一気にスタミナが切れるし慣れねぇ内から速力を出しすぎるのも危険だ。

 早く走れるってことはその分何かに衝突でもすれば負う怪我も尋常じゃねぇ。

 加減が大切なんだこの技は。」

 

 

 ラーゲッツは一つ一つ飛葉翻歩についての教わってきた注意事項を説明する。本来は敵に原理を見抜かれて使用されるのは仕方ないが敵である筈のロベリアに原理を細かく教える行為は軍事機密違反ともとれる行為だ。しかしラーゲッツがそれを教えようと思ったのはロベリアがマテオと戦うためにマテオに向かうのではなくマテオを知るためにマテオに渡りマテオの文化を学んでくるというからだ。三ヶ月の間に彼女にはそもそもマテオと戦えるだけの戦闘能力が無いことは知っている。彼女一人になら技術を提供したとして何の問題にもならない、ラーゲッツはそう思った。

 

 

 

 

 

 

ロベリア「足の裏かぁ………。

 こんな感じかな?」

 

 

ラーゲッツ「おいおい込めるのは力じゃなくてマナを意識するんだぞ?

 マナを足の裏から吐き出すような感じで地面との摩擦面をだな………。

 マナを爪先に集中させろ。」

 

 

ロベリア「え………?

 今やってるけど………。」

 

 

ラーゲッツ「何を言ってるんだ。

 何もマナを感じ………………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロベリアに指導しようと近付くと微かにだがロベリアのマナが足元に集まっているのが分かった。

 

 

 そのマナの総量はとても飛葉翻歩を使えるだけの量に満たない微弱なマナであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「これでも全力で集中させてるんだよ?

 後はこれで滑るように移動できればいいの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「…これが全力だと…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツから見てもロベリアのマナは長時間飛葉翻歩を使用し続けるのは厳しい程までに少なかった。敵から逃走するために習得させようとしていたがこれではかえって疲労し動けなくなってしまいそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「どうしたの?

 そんな険しい顔して。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………悪い。

 俺の確認不足によるミスだ。

 お前に飛葉翻歩を習得するのは無理があったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………すまない。」



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気持ちが通じあって

リスベルン山 翌日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「えっほえっほ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「フゥ……フゥ………あと少し………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………よし、

 今日のノルマ達成~「達成じゃねぇよ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「何でまだ走り込みを続けてんだ!?

 お前が今までやって来たことは昨日無駄なことだったって散々言ったろ!?

 もうお前が走る意味はねぇんだ!

 そんなランニングなんかやってもどうしようもねぇよ!」

 

 

 ロベリアが毎日走り続けていたのはバルツィエの秘術飛葉翻歩を体得するためだ。バルツィエにとっては歩行術、戦闘等で使われるが戦闘が苦手なロベリアには護身術として身に付けさせようとしていた。

 

 

 しかしフリンク族ということもあってかロベリアの内包するマナはそれに耐えうるだけの器がなく仮に使えるようになったとしても一度使っただけでマナが枯渇する恐れがある。マナが枯渇してしまえばその場から動けなくなりかえって危ない状況を作り出してしまう。ロベリアには実用的なものではなかったのだ。

 

 

ロベリア「無駄ってことはないでしょ?

 こうして走ってるだけでも体を動かせて気持ちいいしいいダイエットにもなるんだから。」

 

 

ラーゲッツ「主旨が変わってるだろ!

 お前が走り始めたのはそんな理由じゃなかっただろうが!

 お前はどうしてもマテオに行きたかったんじゃねぇのか!?

 お前はマテオに行ってマテオのことを知りたかったんじゃねぇのか!?

 お前がマテオに行くためには自分の身は最低でも自分で守れるだけの力が必要なんだよ!

 

 

 なのにお前にそんな力が無いことも確かめずにただひたすら走らせて疲れさせて挙げ句無理だったなんて話あるかよ!

 お前がやってきた三ヶ月は全くの無意味で無価値なものだったんだぞ!?

 それをそんな未練がましく走り続けて何の意味があるんだよ!?

 そんな行き場のねぇ頑張りなんか捨てちまえよ!

 お前がこれ以上走り続けたってどうにもならねぇんだ!

 お前にマテオは過酷すぎるんだ!

 マテオに行こうだなんてもう思ったりするな!」

 

 

 ラーゲッツは現実をロベリアに突き付ける。ロベリアは膠着しているとはいえ今のマテオとダレイオスの敵対関係を改善したいのだ。マテオに行ってマテオの文化を見聞きしそれをダレイオスに伝える。長年マテオとダレイオスは争い続けてきた。始めに戦争を仕掛けてきたのはダレイオスだが今となってはそれもマテオの猛烈な反撃を受けて状勢はマテオの方が優位に立っている。マテオとしてはバルツィエの方針だがダレイオスとの戦争には出来るだけ犠牲を払わずに勝ちを修める方向だ。どちらとも互いに敗北を宣言したりはしないのならマテオはダレイオスが降伏するまで待ち続けるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「行くよ私は。

 絶対にマテオに行く。

 私はマテオに行くことを諦めたりはしないよ。」

 

 

 しかしロベリアは夢を諦めようとはしなかった。

 

 

ラーゲッツ「どうしてだよ!?

 お前がマテオに来たって野垂れ死ぬのが関の山だ!

 どうせ死ぬことが分かってんならマテオになんか行くことはねぇ!

 お前は俺と会う前の生活に戻るべきなんだ!

 その方がお前もマテオで不幸な目にあったりせずにすむ!

 別に何かが変わる訳じゃねぇんだ!

 お前だって死にたくなんかねえだろ!?」

 

 

ロベリア「うん~?

 そうだね~。

 死にたくはないかなぁ~。」

 

 

ラーゲッツ「だったらこのままダレイオスで平穏に暮らせ!

 ダレイオスからお前は出る「もし私が死にそうになったら………。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「私が危なくなったらツッゲーラが守ってよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………俺が………だと………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「うん。

 私がマテオに行って危なくなってもツッゲーラが一緒なら安全だよ。

 ツッゲーラが守ってくれるなら私ダレイオスから出てマテオに渡ることが出来るよ。」

 

 

ラーゲッツ「なっ、何で俺がそんなこと………。」

 

 

ロベリア「駄目なの?」

 

 

ラーゲッツ「駄目って………。

 お前は………マテオで俺と行動するつもりなのか………?」

 

 

ロベリア「え?

 勿論そうなるでしょ?

 私ツッゲーラに連れていってもらうんだし。」

 

 

ラーゲッツ「おっ、

 俺にはそこまでする義理はねぇだろ。

 お前に傷を治してもらいはしたがマテオまで連れていくだけでも十分だろ。

 そこから先のことなんて俺にお前に付き合う時間は………、

 

 

 ………ってかマテオにはお前は連れてけねぇって………。」

 

 

 危険だから連れていくのを断念させようとしたらロベリアはラーゲッツに護身を頼んできた。

 

 

ロベリア「ならその義理はまだ果たされてないよね?

 飛葉翻歩だって習得するのが厳しいならツッゲーラはまだ私に何もしてくれてないでしょ?」

 

 

ラーゲッツ「そっ、

 そうだがそれでお前をマテオに連れてくのは………。

 第一俺がお前を守りきれる保証は立てられねぇ………。

 俺だけでお前を守ってやることは……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………!?」スッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は十秒にも満たなかったことだろう。それでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「…………お前………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「えへへ、

 これでもまだ私を危険から守ってくれない?

 こんなに長く一緒にいても私とツッゲーラの仲ってその程度なの?」

 

 

ラーゲッツ「…その程度の仲って俺達はまだ出会ってから三ヶ月で………。

 って軽々しくこんなことするなよ………。

 こういうのは深い関係になった奴とだなぁ………。」

 

 

ロベリア「………私にとってはツッゲーラと過ごしたこの三ヶ月は今までの人生を振り返っても一番楽しい時間だった。

 村の皆とは違ってツッゲーラは私を一人の人として見てくれた。

 

 

 ………私にとってはツッゲーラは特別な人だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………………()()()()………。

 お前は俺を………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「なんかツッゲーラを見てると私に似てるって思うんだ………。

 ツッゲーラも私と一緒にいてそう感じなかった?

 

 

 私達同じなんだよ。

 私達は()()()()()()()()()()()

 私はフリューゲルに自分がいられる場がないの。

 ()()()()()()()()()()()()()………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………俺は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「私はマテオって言ってもレサリナスとかじゃなくていいんだよ。

 マテオならどこへでもいい。

 大きな争い事とかが無ければ私はマテオで生きていきたい。

 

 

 ツッゲーラと一緒ならどこへでも………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日は初めて二人で夜を明かした。この日から二人の仲は大分近付いていった………。



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その日がやって来た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツがリスベルン山に不時着してから三ヶ月と半月。事件が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリンク族の住む村フリューゲル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………という感じでここ暫くのことロベリアがリスベルン山に赴くようになって先日とうとう何の報せも無く朝帰りをしてきたのだ。

 ロベリアはリスベルン山に通っていたこと以外は私には話してくれずあの娘が何をしているのか分からない。

 親としては娘が心配で心配で………。

 すまないが少し様子を見てきてくれないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラット。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「分かりました。

 お任せください。

 ロベリアとは子供の頃からの幼馴染みですからね。

 彼女のことは私と私の両親とで何をしているのか探って来ますよ。」

 

 

ナトル「場所が場所だから誰かと逢い引きしている………ということは無いとは思うがどうしてこうも毎日毎日リスベルン山に向かうのだろうか………?」

 

 

フラット「リスベルン山は子供の時によくピクニックに行ってましたから多分懐かしくなってつい足を運んでたのでしょう。

 

 

 ………三ヶ月………いえもう四ヶ月目になりますね。

 ゲダイアンがバルツィエの攻撃を受けてフリューゲルでも不穏な噂が流れて空気がおかしかったですからロベリアも村の空気に耐えられず一人になりたかったのでしょうね。

 それに逢い引きするとしたら村の誰かということになるでしょうがロベリアとそういう話になりそうな者は私の知る限り特に外出とかはしてませんでしたよ。

 ロベリアはほぼ毎日出掛けていたのですよね?」

 

 

ナトル「あぁ………、

 毎日な。」

 

 

フラット「フリューゲル以外の村はリスベルン山とは真逆の方向にありますしリスベルン山を逢い引きの場にするには非効率過ぎますね。

 逢い引きの線はないでしょう。

 アインワルド、ブルカーンの男が相手ならそれもその限りではありませんが流石に他の部族とそんな仲になるとは思えません。

 私はロベリアを信じますよ。」

 

 

ナトル「頼んだぞフラット。

 頼りになるのは君しかいないんだ。」

 

 

フラット「えぇ、

 承知しております族長。

 ロベリアの件は私が調査しておきます。

 そんなに心配なさらずとも彼女のことですからリスベルン山で野兎の面倒でも見ている内になつかれて止め時を見失っているのでしょう。

 ゲダイアンの事件当時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()彼女にフリューゲルに戻るよう説得してきます。」

 

 

ナトル「…何事も起こらなければいいのだがな………。

 万が一ということも考えられる。

 ロベリアには早めにリスベルン山に行くのを止めさせなければな。」

 

 

フラット「まぁ突然止めさせるのも可愛そうですしそれとなく促すようにはしますよ。

 

 

 リスベルン山でロベリアの様子を伺ったあとで。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リスベルン山

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツはあることについて頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「どうしたの?

 ()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………ん?

 あぁ何でもねぇよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「そう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何でもないことは無かった。ラーゲッツは彼女が自分を呼ぶその名前のことで悩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(………本当はツッゲーラなんて奴はいなくて俺はラーゲッツだってことを言わないといけねぇ。

 ………………こいつには隠し事をいつまでも続けたはくねぇんだ。

 

 

 どうやって切り出すべきか。)」

 

 

 名を偽ってからの期間が長すぎて今正直に正体を明かすことに障害を感じていた。もし本当のことを告げてロベリアが自分に失望するのを怖れた。始めから素直に言わなかった自分が悪いのだかここにきてそのことを後悔し始めている。自分の知名度はマテオでも良くない方向で広まっているのは間違いない。それは当然ダレイオスでもそのようで最初に会話した中からもロベリアはラーゲッツという名を既に知っていた。流石に顔までは知らなかったようだが自分がもしラーゲッツであることを打ち明けたらどうなるだろうか。

 

 

ラーゲッツ「(…もしロベリアが俺の正体がラーゲッツだと知ったらどんな反応をするか………。

 リリスみたいに表面的には気にしてないような素振りをして裏で俺のことを下に見るか………?

 隠してた事情まで話せばそれもあるかもな………。

 

 

 ………だがロベリアがそんな反応をするのか………?

 ロベリアは俺のことを受け入れてくれた。

 こいつがリリスみたいな最低な女だとは思いたくないがそれでもこの事実を打ち明けるにはまだ早いか………。

 いや遅すぎるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺はどうしたらいいんだ。

 このまま何も言わずにツッゲーラで通し続けるのは………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「あっ!

 お水少なくなってきてるね。

 私そこの川から汲んでくるよ。」

 

 

 ラーゲッツが迷っているとロベリアは小屋に置いてある飲み水用の容器の水が減っているのに気付き容器を持って外に出ていこうとする。

 

 

ラーゲッツ「!

 待てよ。

 それくらいなら俺がやっとく。

 ここまで来てもらってんのにそこまでさせられねぇよ。」

 

 

ロベリア「いいよいいよ。

 私が好きでやってることだから。

 ツッゲーラも何かやろうとしてることがあるんでしょ?

 そっちを優先して。」

 

 

ラーゲッツ「あっ、

 おい。」

 

 

 一方的にそう言葉を切ってロベリアは川へと向かった。引き留めようとしたが彼女の耳には届かなかった。

 

 

ラーゲッツ「………………このままじゃいけねぇよな。

 アイツが帰ってきたら俺の本当の名前と俺がマテオにどうやって帰ろうとしてるか話そうか。

 

 

 アイツと付き合っていくのに内緒事なんかしたくねぇしな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………遅ぇなロベリア。

 何してんだ?」

 

 

 ロベリアが出ていってから三十分。川へと水を汲みに行くだけならここまでかかったりはしない筈なのだがいつまで経ってもロベリアが戻ってこない。

 

 

ラーゲッツ「………女の力で水を運ぶのはキツかったか?

 それか何かあったかだが………。

 

 

 ………しょうがねぇなぁ。

 ちょっくら様子でも見に行ってやるか。」

 

 

 ラーゲッツは先に出ていったロベリアを探しに出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後に巻き起こる出来事が決定的にラーゲッツとロベリアの仲を引き裂くこととなる。

 

 

 ラーゲッツはそんなことになるとも知らずにロベリアがいるであろう川へと向かっていく………。



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二度目の裏切り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロベリアがいるであろう川へと進むと早速ロベリアを発見するラーゲッツ。ラーゲッツは彼女に声をかけようとして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「ロベ「族長も心配してるんだぞロベリア。」………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「あまりこういった場所で一人で来るのは感心しないな。

 他に誰かと一緒に来るとかなら分かるが。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロベリアと親しげに話す男が目に写りラーゲッツは咄嗟に身を隠す。

 

 

ラーゲッツ「(何だアイツ………。

 ロベリアの知り合いか?)」

 

 

 一瞬何者か疑ったが普通に考えればフリューゲルに住むロベリアの知り合いだろう。ロベリアを心配してここまで様子を見に来たといった具合で男はここへと参ったのだ。

 

 

ラーゲッツ「(………まぁこれまでもこういう奴がここに来るんじゃねえのかって思ってたところだ。

 それが今日だったってことか。

 ここで俺が出ていくのはマズイよなぁ………。)」

 

 

 敵国の兵士である自分がロベリアと親しくしているのを見られるのはロベリアにとっても都合が悪いだろう。本来自分とロベリアは相容れない仲なのだ。ここで出ていってロベリアの立場を悪くするのも忍びないと思い二人の様子を観察することにした。

 

 

ラーゲッツ「(………思えば俺はロベリアのフリューゲルでの付き合いを何も知らねぇなぁ………。

 それを聞いたとしても俺がフリューゲルの奴等のことを何も知らねぇから訊いても何も分からねぇから訊くこと自体あまり意味が無いからだが………。)」

 

 

 

 

 

 

 二人の会話からロベリアがどの様な環境で過ごしているのか聞けるいいチャンスだと思い耳をすませて見物していると思いもよらない言葉が飛び出してきた。

 

 

ロベリア「あっ、

 あのねフラット………。

 私は「()()()()がこんな人気も無い場所で一人でいればもしものことだってあり得るんだ。アインワルドはともかくブルカーンの連中にでも見付かれば拘束されてシュメルツェンへと連行されたりもしかねないんだぞ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(………族長の………………娘………?

 ロベリアが………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラットと呼ばれた男が言うにはロベリアはフリンク族族長の娘とのことらしい。まさかロベリアがそんなに立場が上の娘だとは思いもしなかった。自分に会いに毎日山を登ってくることからフリンク族の中でも役職も無い特に平凡な女性だと思っていた。

 

 

ラーゲッツ「(………族長の娘………、

 そんな女が………、

 ………そりゃ族長も放っておく訳がねぇよなぁ………。

 こうして遣いを出して様子見に来るくらいだからロベリアも大切にされて育って………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「せめて()()()である僕に一言言ってくれればいつでもここへ連れてきてあげるのにどうして今まで黙っていたんだ?

 僕も族長に………お義父さんに言われるまでは君がこんなところに来ていることなんて知らなかったよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………婚………………約者………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男の口から出た言葉にラーゲッツは頭が真っ白になった。男は自分を婚約者だと言った。誰の………とはならない。この場にいるあの男が誰に対して婚約者だと言ったかは明白だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロベリアには結婚する相手がいたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(…ロベリアに………婚約者………?

 ロベリアに………?

 ………………でもそんな………ロベリアは俺と………。

 それなのに………嘘だろ………?

 どうしてそんな相手がいるのにロベリアは俺と………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「君が昔から放浪癖があるのは知ってたがもう僕達も子供じゃないんだ。

 君もいつまでも子供のままではいられないんだよ?

 前々からよくセレンシーアインに行きたいとかゲダイアンに行きたいとか世界を回ってみたいとか言ってたがこんな御時世なんだ。

 少しは危険なことに目を向けてほしい。

 君の望みはとても大きすぎるんだ。

 世界を………マテオにも行ってみたいと言っていたのは叶えられそうにはないけど僕と結婚して僕も族長に就ければダレイオスくらいなら回れるくらいの立場にはなれるからそれで我慢してほしい。

 

 

 さぁ僕と一緒にフリューゲルへ帰ろう。

 父さん達もそこで待ってるから。」

 

 

 二人の後ろを見てみればもう二人ほど男女が待機していた。男の言葉から男の両親だと思われる。男は両親と共にロベリアを連れ戻しに来ていたのだ。そう多くモンスターを見かけることはないが全くいないということもないのでここへやって来るなら人手があった方がいいとは思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが今はそんなことはどうでもいい。ロベリアに婚約者がいたことが問題だ。立場がある者の家系ならそういった相手がいてもおかしくはない。おかしくはないのだがそれでは自分はどうなる。この三ヶ月でロベリアはラーゲッツにとってかけがえのない相手と思えるくらいに存在が大きくなっていた。それはロベリアも同じだと思っていた。そう思えるくらいにロベリアを信頼し始めていた時に婚約者が登場した。婚約者がいるというのにロベリアはどういうつもりで自分に接してきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ラーゲッツなんかよりももっと上の奴の彼氏にシフトするから別にいいのよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 脳裏に例のあの女の顔がよぎる。純粋に好意を寄せていたと思っていたら裏では別の男と遊び自分を踏み台にして上にのさばろうとしたあの………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………ロベリア………、

 お前は俺をただの足に使いたかっただけなのか………?

 マテオに行くためだけに俺に近付いて俺のことを………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツの中でロベリアへの思いがだんだんと暖かい感情から冷たいものへと変わっていく。ロベリアへの不信感が一気に高まりだしラーゲッツは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………!

 お前は………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………教えてくれよ………。

 なぁ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の前に飛び出していた………。



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相入れない関係

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「!?

 ツッ「貴様!

 どこの者だ!?」…!」

 

 

フラット「このリスベルン山はフリンク領敷地内だ!

 他の部族が勝手に足を踏み入れていい場所ではない!

 一体誰の許可を得てここに立ち入ったのだ!」

 

 

 ロベリアが名前を呼ぶのを遮ってフラットと呼ばれた男が詰問してくる。

 

 

ラーゲッツ「お前こそなんなんだよ………?

 お前とその女とはどういう関係だ………?」

 

 

 フラットの問いには答えずにフラットの素性を聞き返すラーゲッツ。

 

 

フラット「質問しているのはこちらだ!

 どこの部族の者かは知らんが大方ブルカーンかアインワルドの者だろう。

 我が領に無断で侵入したこと正式に抗議させてもらうぞ!」

 

 

ラーゲッツ「答えろよ………。

 お前らはどんな関係なのか俺に「こっ、こいつは……!?」」

 

 

 ラーゲッツとフラットが睨み合ってると遠くにいたフラットの付き添いと思われる二人が慌ててやって来て声を荒げて叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット父「下がるんだ二人とも!!

 こいつはバルツィエだ!!

 マテオのラーゲッツ=ギルト・バルツィエだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「何だって!?」

 

 

 フラットは男の言葉に驚く。付き添いの二人はラーゲッツからフラットとロベリアを庇うように前に出てくる。よく見ればフラットとロベリアよりかは大分年上のようだ。齢にして二百、三百はいっているだろう。そのぐらいの年なら自分のことを知っていても不思議はない。

 

 

フラット父「気を付けろフラット。

 下手に戦っていい相手じゃない!

 私達では敵う相手じゃないんだ!

 絶対に手を出すなよ!」

 

 

フラット母「貴方達は先に逃げなさい!

 ラーゲッツは私達で引き留めておくから二人はこのことをフリューゲルの皆に伝えに行って!

 バルツィエのラーゲッツが現れたって!」

 

 

 付き添いの二人はラーゲッツを警戒してか視線をそらさずにフラットとロベリアに指示を出し退散させようとする。

 

 

ロベリア「待って!

 その人は「ロベリア!君だけでも逃げろ!」」

 

 

フラット「父さん!母さん!

 二人を置いて逃げるなんて僕には出来ない!

 僕もこの場に残るよ!」

 

 

フラット父「何を言ってるんだフラット!

 私達のことはいいからお前達だけでも逃げるんだ!」

 

 

フラット母「貴方はロベリアを守らなくてはいけないでしょ!?

 許嫁を危険から遠ざけるのも婿の仕事よ!

 貴方達は将来フリンクを背負って立つ立場なんだから言うことを聞きなさい!」

 

 

フラット「嫌です!

 父さん達だけでバルツィエの相手なんて出来る訳がありません!

 ここは僕も加勢して()()()()()()()()()()()()()!()

 

 

 様子を見てると付き添いと思われた二人とフラットは家族のようだ。両親の二人はフラットに逃げるよう勧告するがフラットはラーゲッツと戦う気だった。

 

 

フラット父「馬鹿なことは考えるんじゃない!

 三人がかりでもコイツには勝てん!

 お前が加わったところでコイツには刃がたたんのだ!

 それなら犠牲になるのは私達だけでいい!」

 

 

フラット母「そうよ!

 もし貴方達まで殺されたらフリンクはどうなるの!?

 貴方達はフリンク族次期族長とその夫になるのよ!?

 貴方達を失う訳にはいかないわ!

 ここは私達に任せて早くフリューゲルへ「おい………。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「お前等がその女とどういう関係なのか訊いてるんだよ!

 いい加減答えやがれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「私の許嫁だ!!

 私とロベリアは将来共に二人でフリンクを導いてくいくのだ!!

 貴様なぞにロベリアは触れさせんぞラーゲッツ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ぐはぁッ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラットとフラットの両親は果敢にラーゲッツに挑むがラーゲッツはそれを見事に返り討ちにする。フラットも中々粘ったがラーゲッツには届かなかった。

 

 

ラーゲッツ「………こんなもんかよ………。

 この程度でよく俺に向かってこれたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それで。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「…!」ビクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「お前にはずっと嘘をつき続けてたことを詫びよう。

 悪かった。

 俺の本当の名前はラーゲッツ=ギルト・バルツィエ。

 知っての通り俺は現世代のバルツィエだ。

 ツッゲーラなんて奴は実際にはいねぇ。

 ツッゲーラと名乗ったのは俺が上の連中に捨て駒として扱われる程バルツィエの中でも身分が低いことを他人に知られたくなかったからだ。

 お前が知っていたように普通はこんな任務自体与えられることは無い。

 俺はいてもいなくなってもいい人材だったんだよ。

 それをお前に悟られたくなかった。」

 

 

 淡々と自分が置かれている状態を話していくラーゲッツ。幾分かフラット達を気絶させたことで冷静にはなれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………そう、

 やっぱりツッゲーラは()()()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………知ってたんだな。

 俺がラーゲッツだってこと。

 いつ気付いたんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「ツッゲーラが………、

 ………ラーゲッツが通信機を探してる時………。

 本当は私ラーゲッツよりも先に通信機を見付けてたの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「俺よりも先に?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「うん………、

 それで通信機から誰かの声が聞こえてその人がラーゲッツを呼んでたから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………だから電源を切った覚えがないのに通信機の電源が切れた状態で見付かったんだな。

 お前そんなに前から俺の正体を知ってたのか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………………うん………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「何でその時点で俺の嘘を追及しなかった。

 知ってたなら俺の名前がおかしいことに気付いてただろうが。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「それは………。

 ………嘘を付くってことは本当の名前を知られたくないって思ったから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「それで俺の嘘に乗っかって今日まで過ごしてきたってことか…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺を騙して利用するためにお前も俺に嘘をついていたんだな。

 俺以外にも男がいてそっちが本命で俺のことは遊びだったんだろ?」

 

 

 ラーゲッツは冷静に克つ冷酷にロベリアをそう問い詰めた。

 

 

ロベリア「違ッ!?

 それは………!

 フラットのことは………!」

 

 

ラーゲッツ「結婚する相手がいるのによく他の男に言い寄れるな。

 そんなにマテオに行ってみたかったのか?

 俺を運び屋にしてマテオに渡って楽しんできてそれでダレイオスに戻ってそこの男と一緒になる。

 俺は都合のいいただの足でしか無かったわけだ。」

 

 

ロベリア「違うよ!

 私はそんなふうにラーゲッツのことを「もういいんだ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「始めから俺とお前とじゃ住む世界が違ったんだ。

 マテオとダレイオス敵国同士のエルフが分かり合うことなんて始めから出来やしなかったんだ………。

 ………俺もお前の理想に付き合ってみるのもいいと思い始めてたんだけどな………。」



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魔境へ帰ることに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「………………ッハ!?

 ぐッ………!?

 ………生きてる………?

 アイツ………………止めは刺していかなかったのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………そうだロベリア!?

 無事か!?」

 

 

 ラーゲッツに気絶させられてから意識を取り戻したフラットはすぐにロベリアの姿を探した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロベリア「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロベリアは簡単に見付かった。彼女は泣きながら遠くの空を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラット「ロベ………………リア…………………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………そっ、そんな……………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ……………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロベリアの様子からフラットはラーゲッツのロベリアが無理矢理暴行を受けたのだと思った。フラットはラーゲッツと偶然鉢合わせして自分達は襲われてしまったのだと誤解してしまった。この時から()()()()()()()にカーヤが誕生したこともあって自分の意識が無い間にラーゲッツはロベリアと事に及んだと錯覚してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「よう俺だ。」

 

 

 ラーゲッツは通信機を起動してマテオに連絡を入れる。通信機に出た相手は勿論………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール『ラーゲッツ!?

 ラーゲッツなのか!?

 今までどうしてたんだよ!?

 何で連絡を寄越さなかった!?

 心配したんだぞお前!!

 どうしてこんなに連絡が遅くなった!?

 詳しく話せ!

 こっちはお前からの通信が繋がらなくなって危うくアルバートと同じ様に殉職で公表するところだったんだぞ!!

 俺がどれだけ苦労したと思ってるんだ!?』

 

 

 ラーゲッツの声を聞いた途端フェデールが早口で捲し立ててくる。久々に聞いたその声は実際にラーゲッツが消息を経っていた三ヶ月という期間よりも長く聞いていなかったのではないかと思うぐらいに懐かしく思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それだけロベリアと過ごした時間はラーゲッツにとってとても楽しい時間だった。永遠に続けばいいと思ってしまうくらいにはロベリアと会っていた時間はラーゲッツにとって何よりも有意義な時間だった。

 

 

 その時間が終わりを迎えた。彼女は始めから自分とは相容れない相手だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「フェデール………。」

 

 

フェデール『何だ?』

 

 

ラーゲッツ「………お前は手に入らないもんのためにどうしてそんなに頑張れるんだ………?」

 

 

フェデール『何の話だ?

 ダレイオスで何かあったのか?』

 

 

ラーゲッツ「………俺はな。

 お前のようになりたかった………。

 お前のように大切な人のために強くなりたかった。

 たとえその相手と一緒になれなくてもその人が大切に思う全てを全部守ろうとするお前のように俺はなりたかったんだ。」

 

 

フェデール『…俺は………俺はあの人だけが理由じゃないよ。

 俺自身がそう思ってるからそうしてるだけだ。』

 

 

ラーゲッツ「それでもすげぇよお前は………。

 今回のことでそれを凄く実感した………。

 お前がとんでもなく聖人のようにも思えてきたんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 俺はやっぱり誰かの支えがねぇとそういうふうには生きられねぇ。

 ………そんでもってどうあっても俺には俺が欲しいもんが手に入ることがないってことも理解した。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール『………本当にどうした?

 何でそんなこと』「リスベルン山。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………そこから南方に降りて大きな森林地帯がある。

 俺はそこにいる。

 レアバードが故障して飛ぶことが出来ないんだ。

 通信機も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

フェデール『………ユミルの森か。

 アインワルドとフリンクの境界付近にお前はいるんだな?

 状況は分かった。

 直ぐに迎えを手配する。

 今少し忙しくて俺は直接迎えにはいけないがダインなら丁度手が空いてそうだから迎えはダインに向かわせる。

 

 

 お前は早くレサリナスに帰ってこい。

 色々と訊きたいことがあるからな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッ………。

 

 

 そこでラーゲッツは通信機の無線を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………一度はもう戻らないと決めたのに………。

 結局俺はレサリナスから離れられないんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺なんかが何を本気になってたんだか………。

 俺がいくらどうやったって上手くいくことなんて一つもない。

 そういう人生だっただろうが………。

 俺が欲しいと思うもんは大概既に誰かのもんなんだよ………。

 それが何でダレイオスならあるって思っちまったのかなぁ………。

 ………俺には………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしよもないくらいに世界に拡散された汚名がついてまわってんだ………。

 俺にはもう何も手にすることなんて出来やしねぇよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後ダインがラーゲッツを迎えにやって来た。ダインはラーゲッツを見て特に驚きはしなかったがこれといった反応もしなかった。元々大した興味も持たれてないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「(ダインですらこうなのか………。

 これじゃあ他の奴等も同じ様な反応なんだろうな………。

 アイツ等の中ではもう俺は死んだことになってたんだ………。

 そういうふうになるのを期待してた筈だったんだがそれももう意味ねぇよ………。

 俺はどうせどんなに頑張っても俺の望みが叶うことはない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………なんかもう全てがどうでもよくなってきてぜ………。)」



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ランドールの不正を見抜き後はラーゲッツが…

バルツィエ邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「ラーゲッツが帰ってくるだと………!?」

 

 

セバスチャン「そのようでございますよ。

 今朝がたダイン様がラーゲッツ様を連れ戻しに向かわれました。」

 

 

ランドール「!!

 そりゃどのくらい前の話だ!?」

 

 

セバスチャン「二時間程前のことです。

 ダイン様は既にレサリナスを発たれました。」

 

 

ランドール「二時間前………!?

 今から邪魔しに行っても間に合わねぇじゃねぇか!!」

 

 

セバスチャン「邪魔?

 邪魔とはどのような………?」

 

 

ランドール「!?

 こっちの話だ何でもねぇ!」

 

 

セバスチャン「左様でございますか。

 それでは私めはこれで。」

 

 

 セバスチャンがランドールの私室から退出しランドールが一人残る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「………あのクズ野郎が………!

 まだ生きてやがったのか!

 とっくにくたばったと思ってたのに何で今更アイツが出てくるんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レアバードのマナ吸引システムが誤作動するように仕組んだだけじゃ足りなかったのか!!

 もっと直接的に何か爆薬でも仕込んどけばアイツが戻ってくることは「やっぱりそういうことだったんだな。」………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もいない筈の部屋にもう一人別の人物の声が響く。その声は窓の方から聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「任務を無事終えて後は帰還するだけなのにどうしてだか突然ラーゲッツとの連絡がかえってこなくなったのはお前の仕業だったんだなランドール。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「フェッ………フェデール!?」

 

 

 フェデールは部屋の窓から顔を出してランドールを一瞥する。

 

 

ランドール「こっ、

 ここは三階だぞ!?

 どうやってここまで………!?」

 

 

フェデール「そんなのいくらでもやりようはあるだろ?

 俺がトラクタービームで空を飛んだりレアバードを使ったりとここに来る手段は沢山ある。

 魔術や機械なんか使わなくてもここぐらいなら手でも登ってこれる。

 今回は気配を察知されないように直接登って来たんだけどね。」

 

 

ランドール「おっ、

 お前………!?

 何でそんな!?」

 

 

フェデール「セバスチャンにラーゲッツが戻ってくるようにお前に報告させに行かせたのは俺だからさ。

 どういう反応するか見てみたくてね。

 君が言う()()()()()が何なのかどうしても知っておきたくてな。

 でも今日まで君がどんな力を身に付けたのか分からなかった。

 だからこうしてラーゲッツが帰ってくるって知ったらどういう反応するか見物しに来たんだ。

 秘策ってのが本当にあるならラーゲッツが帰ってきたとしてもそんなふうに焦ったりはしないよなぁ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前の言う秘策ってのはラーゲッツを正面から倒すことじゃなくてラーゲッツと戦うこと自体を無くすことだったんだな。

 お前はラーゲッツをダレイオスの奴等に消させようとしたんだ。」

 

 

 

 

 

 

ランドール「うッ……!?

 おっ、俺は何も………!?」

 

 

フェデール「今のセバスチャンが部屋に入室してから退出してお前が叫び出すまでの一部始終を()()しておいたよ。

 お前がラーゲッツの任務を妨害したことは証拠としてここに残っている。

 これだけでお前を引き摺り落とすだけのいい材料にはなるよね?

 お前の想定していた通り()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 フェデールはランドールを脅す。ランドールが自白した証言があればランドールの評判を下げられるどころか最悪一族の士気を妨げる障害と見なされ追放処分が下ることもある。一族としての結束がかたいバルツィエでも邪魔者と判断が下されれば容赦はない。

 

 

ランドール「クッ………クソッ!

 こんなことで俺が………!?」

 

 

フェデール「お前もこんな小細工なんかしないでラーゲッツのようにひたすら力をつけ続けることに集中してくれれば俺もこんなことしないですんだんだけどなぁ。

 残念だよ。

 お前には誠実さというものが欠けている。

 それじゃあラーゲッツに追い付かれてしまうわけだよ。」

 

 

ランドール「俺が………!

 俺があんな奴よりも格が下に下がるってのかよ!?」

 

 

フェデール「フフフ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも安心しろよ。

 このことは黙っておいてやるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「………何………?

 何で………。」

 

 

フェデール「このことを父上達に告げればお前は確実に勘当されることになるだろうがそれだとラーゲッツの腕を見せる絶好の機会を逃してしまうかもしれない。

 ラーゲッツはお前が抜け八番目から七番目に上がりはするがそれは俺の望むところじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前は正々堂々とラーゲッツと戦え。

 それがこのことを聞かなかったことにする条件だ。

 お前としても降格か追放のどちらかを選ぶならこれは呑むしかないよな?」

 

 

 ランドールの圧倒的な弱味に握ったフェデールはそう条件を提示する。ランドールはその条件に従うしかなかった。

 

 

ランドール「………ケッ!

 もうどうにでもなれだ!

 降格でもなんでも好きにしやがれ!

 今のラーゲッツに俺が勝つことなんて出来ねぇ!

 そこはよく分かってんだよ!

 前回の試合でアイツがもうお前みたいに強くなってるのは実感してた!

 伸び代がもうそろそろ俺なんか越えられてるだろうよ!

 これで満足かフェデール!?」

 

 

フェデール「あぁ、

 後はラーゲッツが帰ってきて総当たりの試合を行うまでお前大人しくしていろ。

 それまで俺がお前の同行に目を光らせておくからな。

 余計なことはするな。」

 

 

ランドール「分かったって言ってるだろ!!

 もう出ていけよ!」

 

 

フェデール「あぁ、

 そうさせてもらうよ。」

 

 

 フェデールはランドールの部屋を出ていく。部屋の中からはランドールの先程のような怒号が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「これで全てが計画通りにいきそうだな。

 ラーゲッツがランドールや他の連中達も打ち破ればラーゲッツが騎士団長にのしあがる階段が見えてくる………。」

 

 

 自分の計画が目標まで到達する直前まで来ていることを感じたフェデール。周りに誰もいないことを確認し彼は一人邸宅の廊下でほくそ笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかしフェデールの目論みは思わぬところで破綻してしまった………。



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変革は起こらず

王都レサリナス 城壁門上部 三ヶ月後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツは一人で西の空を見上げていた。ラーゲッツがレサリナスに戻ってからはここで過ごすのが毎日の日課になっていた。今日の空は曇っていてほの暗くその内雨でも降りだしそうな天気だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………またここに来てたのか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何もする気が起きず()()()()()()()()()フェデールがやって来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………結果については残念だったな………。

 俺がお前の調子が不調だったことに気付くことが出来なくて悪かった。

 お前も帰ってきたばかりだったんだしもう少し時間を空けるべきだったな………。」

 

 

ラーゲッツ「………そうだな。」

 

 

 ラーゲッツは素っ気なくフェデールに返事を返す。ラーゲッツがレサリナスに帰還したことでフェデールが先代達に話を通していた例の今世代の序列階級の見直しの選考が行われることとなった。これの結果次第ではアレックスを抜いた五人の位階が逆転しラーゲッツは出世するチャンスが得られたかも知れなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その選考でラーゲッツは他の四人全員に敗北した。結果は選考前と変わらなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………体調が優れないんならまだ後一ヶ月程度なら休暇をとることは俺の方で手配する。

 ダレイオスで何があったのかもまだ話してもらってないしお前がどうしてそんなふうになって帰ってきたのかも知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………早めに治ってくれよ。

 俺はお前が騎士団に戻るのを待ってるからな。」

 

 

 フェデールはそれだけ告げると去っていく。

 

 

ラーゲッツ「………あぁ、

 その内な………。」

 

 

 フェデールが去っていた後に誰に聞かれるでもない返事をラーゲッツは返した。

 

 

 そしてフェデールが去ってから少し時間を置いてランドールがやって来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「おう!

 ラーゲッツ!

 まだこんなところで不貞腐れてんのか?

 そんなに俺やユーラス達に負けたのが悔しかったのか?

 ハハハ!」

 

 

ラーゲッツ「………そうだな。」

 

 

ランドール「お前も面白い奴だよなぁ?

 せっかくフェデールが色々と手を回して持ってきた昇格の話を不意にしちまうなんてよぉ!

 こっちは何も変わらねぇから助かったがお前は前よりも評判が下がったんじゃねぇのか?

 所詮はただの出来損ないだったって訳だ!

 哀れな奴だよお前は。」

 

 

ラーゲッツ「………そうかよ。

 じゃあもうとっととどっか行けよ。

 一人にしてくれ。」

 

 

ランドール「………」

 

 

 ラーゲッツを笑いに来たランドールだったがラーゲッツから返ってくる反応が薄くあまり興が乗らないランドール。

 

 

ランドール「………お前暫く暇なんだろ?

 俺も暇なんだ。

 ちょっと今日飲みに付き合えよ。」

 

 

ラーゲッツ「そんな気分じゃねぇよ。

 他を誘え。」

 

 

ランドール「まぁそう言うなって!

 気分が悪いんなら気分転換しようぜ?

 俺の知ってるいい店があるんだ。

 俺の奢りだ。

 お前も飲めばだんだん良くなってくるぜ。」

 

 

 ランドールはラーゲッツを引っ張って店へと連れていく。正直断りたかったラーゲッツだったが振り払う気力すら今の彼には無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ!

 ランドールさん!

 今日も来てくれたのかい?」

 

 

ランドール「おうよ!

 今日もお勧めの一本頼むぜオーナー!」

 

 

 ランドールが連れてきた店は飲み屋というよりもクラブと言った感じの店だった。照明は暗く席も数席奥の方にあるだけで殆どの客はグラス片手に立ちながら飲んでいた。

 

 

客一「ランドールさんお久し振りです!」

 

 

ランドール「おう!

 元気にしてたか?」

 

 

客二「ランドールさんが来てくれるの待ってたんですよ!」

 

 

ランドール「悪いな。

 ここんとこ家の方で立て込んでたんだ。」

 

 

客三「何か事件でもあったんですか?」

 

 

ランドール「ありそうで無かったな。

 下手したら俺が家で降格扱いになるところだったが無事にそんなことにはならなかったぜ。

 またここに世話になりに来るから安心しろ。」

 

 

 ランドールは次々と室内にいた客に話しかけられてはそれに返事を返していく。随分と親しげな様子だ。

 

 

ラーゲッツ「………何だよここは。

 何で俺をこんなところに連れてきた?」

 

 

ランドール「あん?

 まだ悄気てんのかよ?

 もっと店の雰囲気を楽しめよ。」

 

 

ラーゲッツ「…俺はこういう場は場違いだ。

 こんなところで素直に楽しめる訳ねぇだろ。

 ………やっぱり俺は帰る。

 お前はコイツらと楽しくやって「待てってよ。これでも飲んでお前も楽にしろ。」……がぼっ!?」グイッ

 

 

 ランドールは近くにいた他の客からグラスを取り上げてそれをラーゲッツの口に突っ込む。

 

 

客四「あ~!

 何するんですかランドールさん!

 それ俺のカクテルですよ!?」

 

 

ランドール「何だよケチケチすんなよ?

 そんぐらい俺が何杯でも注いでやるよ。

 ほら好きなの頼め。」

 

 

客四「いいんすか!?

 じゃあ同じやつあと三杯お願いしま~す!」

 

 

ランドール「おうおうどんどん飲みな!

 盛り上げてくれよ!

 コイツが楽しめるようにな!」

 

 

 基本的にバルツィエはこのような庶民的な場では浮き勝ちだがランドールは逆に歓迎を受けている。前々から多い頻度で通っているようだった。

 

 

ラーゲッツ「ランドール!

 何すんだ!

 テメェいきなり「ランドールさんその人誰ですか?」」

 

 

 ランドールに突っかかっていくと客の一人がランドールに話し掛けてきた。

 

 

ランドール「あぁコイツは俺の部下だ。

 仲良くしてやってくれ。」

 

 

客五「そうなんですか?

 珍しいですねランドールさんが騎士団の人連れてくるの。」

 

 

ランドール「偶々だがな。

 今日はそんな気分だったんだよ。」

 

 

客五「そうだったんですね。

 俺シリウスって言います!

 よろしくっす!」

 

 

ラーゲッツ「(………何だコイツら………?

 どうしてこんな馴れ馴れしくランドールに………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「肩の力抜けよお前。

 どうせ真面目に生きたって世の中が変わる訳でもあるまいし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「ここにいるのは普段は真面目に仕事してるがどうしてもそれだけだとストレスがたまってノイローゼになりそうな連中ばかりだ。

 煩わしい上司の命令ばかり聞いてるとウンザリするだろ?

 俺も同じだ。

 ウザイのはアレックスとフェデールだけで十分なんだよ。

 もうこれ以上面倒な奴は増やしたくねぇ。

 何かに縛られ続けるのは仕事だけで沢山さ。

 分かるだろこの気持ち。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「俺はお前に感謝してんだよ。

 お前がそのままでいてくれて俺は助かった。

 お前は今のままでも十分なんだ。

 下らない修業なんかして何が楽しいんだ?

 もっとはっちゃけて行こうぜ?

 

 

 今日はいくらでも飲めよ。

 勘定は俺がしとくぜ。

 最近鬱みたいだしそんなもん飲んでこれからも俺と仲良くしようや?」

 

 

 ランドールのこの言葉の裏はつまり自分よりも上にのしあがることを許さないという牽制だ。ランドールは向上心というものを持たないが自分の地位を脅かしそうな者の存在も許すことが出来ない。ダレイオスに飛び立つ前のラーゲッツであったらこれに反抗していたところだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………そうだな………。

 じゃあもう少しだけ飲んでみるか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツはランドールに勧められるままアルコールを摂取していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ラーゲッツは………ここから酷く落ちぶれていった………。



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最上低位の手にするもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランドールに飲みに連れていかれてから一ヶ月ラーゲッツは度々同じ店や別の店へと足を運んでいた。ランドールが一緒の時もあればそうでない時もあった。ランドールは自分を出し抜こうとさえしなければ結構面倒見のいい性格だった。要は自分よりも確実に格下しか可愛がらない質なのである。

 

 

ランドール「おらラーゲッツ!

 もう一件行こうぜ!」

 

 

ラーゲッツ「ハハハ!

 そうだな!

 まだまだ飲み足りねぇなぁ!」

 

 

 すっかりとランドールのノリに流されるようになってしまったラーゲッツ。レサリナスに帰ってきてから修練場にも通わなくなり剣を握るのも任務の時だけ。ロベリアと一緒にいた時は時折モンスターと遭遇していたためロベリアのいないところで剣の稽古だけはしていたがそれももうしなくなった。

 

 

ランドール「おし!

 今日はお前を俺が見付けた秘蔵のところに連れて行ってやる!」

 

 

ラーゲッツ「秘蔵?

 何だよそりゃ?

 酒は飲めるのか?」

 

 

ランドール「酒か?

 飲めたり飲めなかったりするが一応は部屋には完備しとくように言ってあるから心配すんな。

 これからお前を天国に連れて行ってやるぜ?」

 

 

ラーゲッツ「天国だぁ?

 お前天国の行き方知ってるのかよ?」

 

 

ランドール「本物の天国の行き方は知らねぇがまさに天国みたいなところではあるぜ?

 どうだ?

 お前にそこへ行く勇気はあるのか?」

 

 

ラーゲッツ「舐めんなよ?

 それくれぇあるに決まってんだろ!」

 

 

ランドール「よし!

 よく言った!

 それじゃあお前を案内してやるよ!

 この俺様についてきやがれ!」

 

 

ラーゲッツ「おうよぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツが連れていかれたのは娼婦の店だった。金で体を売る女性が働く大人だけの店だ。

 

 

ラーゲッツ「おっ、おいここは………。」

 

 

ランドール「俺も気が向いた時しか来ねぇんだがな。

 当たり外れが多くてしょっちゅう外ればっかりと当たった時は暫く行かねぇ。

 けど最近新人が入ったとかで評判らしいからな。

 お前こういうところ来たことねぇだろ?」

 

 

ラーゲッツ「俺は………こういう金払って女とやるのは………。」

 

 

ランドール「かぁー!

 だからお前は真面目過ぎるんだって!

 男ならたまにはハメを外すくらいしとかねぇと瞑潰れるぞ!?」

 

 

ラーゲッツ「ハメを外すって言うなら今でも………。」

 

 

ランドール「今お前フリーなんだろ?

 何を気兼ねする必要があるってんだ?

 お前にはこういう店行って悪いと思う相手でもいんのか?」

 

 

ラーゲッツ「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬ラーゲッツはロベリアのことを思い出す。ロベリアの顔を思い出して自分が彼女を裏切るようなことをして彼女が嘆く姿を想像するが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「んな奴いるかよ!

 

 

 いいじゃねぇか!

 行ってやるよ!

 それでいいんだろ!」

 

 

ランドール「だろ!?

 そうこなくっちゃいけねぇ!

 今日は朝までコース行ってみっかぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツは欲望に忠実になることにした。心の奥底に写る彼女の姿は水面の波紋のように揺らめいて見えなくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………なぁ、

 最近全然修練場に来ないがまだ調子が戻らないのか………?」

 

 

 ある日フェデールから呼び出されてそんなことを言われる。

 

 

ラーゲッツ「あぁ?

 あぁ………まだちょっと気分が乗らなくてな。」

 

 

フェデール「…ここ数日様子を伺っていたがラーゲッツお前ランドールと一緒によくいるみたいじゃないか。」

 

 

ラーゲッツ「まぁ………そうだな。」

 

 

フェデール「いつの間にそんなに仲良くなったんだ?

 前までお前達はそんなに仲良くはなかったじゃないか。

 犬猿の仲って言うか顔を見合わせればすぐにケンカするほどだったのに………。」

 

 

ラーゲッツ「別にどうだっていいだろ?

 ケンカしてたんならしなくなって良くなったってことじゃねぇか。

 いい傾向だろ?」

 

 

フェデール「顔を見合わせる度にケンカを仲裁しなくていいのはいいんだがお前が修練場に来なくなりだしてランドールも前みたいにお前に対抗意識をもやさなくなった。

 ………いつになったらお前は修練場に戻るんだ?」

 

 

ラーゲッツ「元々好きにやってたことだ。

 お前にとやかく言われることじゃねぇ。

 もうどう頑張っても俺が上に上れることはねぇんだからな。

 最低限騎士団の演習だけで十分だろ。」

 

 

フェデール「十分って………。

 ………考え直せ。

 今ならまだこの間の結果のことも俺が急ぎすぎてお前が本調子じゃなかったって言い分けが通る。

 また俺が話をつけてランドール達よりも上に上がれるようにしてやるから。」

 

 

ラーゲッツ「いいっての。

 俺は今のままで満足してんだよ。

 前みたいに剣だけに生きるのは辞めたんだ。

 もう俺は真面目に剣なんて」ガッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「ダレイオスに飛び立つ以前のお前はどこに行ったんだよッッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 フェデールが胸ぐらに掴みかかってきて叫ぶ。

 

 

フェデール「一体どうしたんだ!?

 ダレイオスで何があった!?

 何があったらこんな別人のように変わり果てるんだ!?

 前までのお前だったらこんなふしだらな生活とは程遠かったじゃないか!!

 それが何でこんなことになるんだ!!

 何でお前は………!!

 

 

 ………こんな熱が冷めてしまったかのように情熱を失ってしまうんだ………!」

 

 

 フェデールは口では怒りを顕にしているがその目はどこか悲し気に涙を訴えていた。

 

 

ラーゲッツ「…うっせぇな………。

 俺は始めから何も変わっちゃいねぇよ………。」

 

 

フェデール「………何?」

 

 

ラーゲッツ「お前が勝手に俺に理想を押し付けてただけのことだろ?

 俺がどうしようがお前にとやかく言われる筋合いは無い。」

 

 

フェデール「ラーゲッツ!!

 目を覚ませ!!

 変わってない筈がないだろ!?

 お前は八十年も剣を振り続けてきたんだぞ!?

 それが何でここで諦めるんだよ!?

 まだお前には希望はあ「希望なんて要らねぇよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「俺が本当に欲しかったものは出世とかじゃないんだ………。

 俺はお前になりたかった………。

 お前のような眩しい奴に俺はなりたかった………。

 

 

 ………でも俺にはそれが無理だってことをやっと分かったんだ………。

 八十年も俺は下らない幻想にしがみつき続けてきた。

 俺はお前のようにはなれない。」

 

 

フェデール「ラーゲッツ………!」

 

 

ラーゲッツ「………話はそれだけか?

 だったら俺は行くぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あばよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………もうお前が帰ってくることはないんだな………。

 俺の知るラーゲッツはダレイオスで死んでしまったんだな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時間を空けてフェデールと会った時彼はラーゲッツに対してユーラスやランドールに接するように嘲笑や挑発、建前などの言葉を並べ立てるようになりフェデールから本心からくる言葉を聞くことは無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………そういやアイツからアイツが敵視する相手が誰なのか聞けずじまいだったな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!

 凄い大きな屋敷だな!

 どんな奴が住んでるんだここ?」

 

 

「知らねぇのか?

 この国で一番の権力者の家バルツィエがここに住んでるんだよ。」

 

 

「バルツィエ!?

 ここが!?」

 

 

「あぁそうだよ。」

 

 

「はぁ~………!

 やっぱすげぇな!

 こんなでかい屋敷なんか建ててまるで城みたいじゃねぇか!」

 

 

「バルツィエならこれくらい普通だけどな。」

 

 

「こんなもん建てられるくらいなら大概のものは手に入りそうだな。」

 

 

「そうなんだろうな。

 欲しいと思ったら多分手に入らないものなんて無いんじゃないか?」

 

 

「違ぇねぇな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷の近くにいた二人組の男達がそんな会話をしてるかのがラーゲッツの耳に入ってきた。会話からしてどこか違う街の住人なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………欲しければ何でも手に入るか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺には手に入れられたものなんて何一つないけどな………。」



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ラーゲッツの分岐点

ローダーン火山 麓 残り期日八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………あの女は俺がリスベルン山に不時着してからずっと構い続けてきた。

 俺も一時期本気でロベリアに応えようと思ったよ………。

 でもアイツは裏で俺のことを騙していたんだ。

 マテオに渡りたいって言うからその手助けをしてやろうと思ってたのにアイツはただ旅行気分で俺の気持ちに応える気は無かったんだ。

 アイツには他に男がいた。

 アイツは()()()()()()()何股もする尻軽な女だったんだ。」

 

 

 

 

 

 

カオス「リリス………?」

 

 

 聞いたことの無い女性を喩えるラーゲッツだったが情報の無いカオス達ではそれが誰なのか分からなかった。

 

 

 だが一人だけその女性を知る者がいた。

 

 

 

 

 

 

レイディー「リリス=レス。

 お前達は二十歳そこらで知らねぇのは仕方ねぇ。

 リリス=レスは昔レサリナスでも有名な劇団に所属していた女優だ。

 家も底辺ながら貴族にまで上り詰めて容姿も祭事に男共が開催したミスコンで優勝するほどの美貌の持ち主だった。」

 

 

ウインドラ「そんな女性がレサリナスに………?

 しかしレサリナスではそんな名前は聞いたことは無かったが………。」

 

 

 レサリナスに滞在していたウインドラでさえもその女性の名前は知らなかったらしい。ラーゲッツが何故その名前を出したのか訝しんでいると、

 

 

レイディー「表の評判は礼儀正しく派手ながらも清楚な印象を持つ女ではあった。

 …だが百年前にバルツィエと関わってからその女の本性が世間に漏れちまったんだ。

 リリス=レスは当時レサリナスで流行っていた少女ばかりを狙った謎の猟奇事件の最有力容疑者にまで浮上したんだ。」

 

 

アローネ「謎の猟奇事件の最有力容疑者………?」

 

 

レイディー「人通りの少ない路地裏に女達が連れ込まれてそこで()()()()()()()()()()()()()()

 女達は血を抜かれ過ぎて当然死亡していた。

 女ばかりを狙うことから事件当時は頭のイカれたどこかのおっさんが性欲を拗らせて犯行に及んだとされていたんだがそれがまさか女の犯行だったってことに世間を騒がせた。

 それもそれなりに顔の売れた女の仕業だったって言うんだから目から鱗だよな。」

 

 

ミシガン「どうしてその人そんなことをしてたの………。」

 

 

レイディー「さぁな?

 ()()()()()が考えることなんてアタシでも理解出来ねぇ。

 血を集めて何がしたかったのか分かりゃしねぇよ。

 血が欲しかったってことは誰か他に輸血を必要とする知り合いでもいたかどうかって話にはなったがそんな知り合いはリリス=レスにはいなかったらしい。

 

 

 結論から言ってただの()()()()()()()()ってことだ。」

 

 

カオス「………」

 

 

 レイディーの話を聞いてカオスは世の中にはバルツィエ以外でもそんな悪人が潜んでいることを改めて知った。サハーンのような盗賊もそうだが何も世界はバルツィエだけが悪人という訳でもない。ラーゲッツやレイディーが知る悪党も少なからず存在しているのだ。

 

 

タレス「そのリリス=レスという人はどうなったんですか?

 やっぱり捕まって処刑されたんですか?」

 

 

レイディー「いや………、

 ………捕まりはしなかった。

 捕まりはしなかったがリリス=レスは悪事の容疑がかかった瞬間に自殺したんだ。

 奴の家族も一緒にな。

 屋敷からは犯行に及んだとされる凶器が見付かりはしたが家族の内の誰がやったかは判明していない。

 リリスだけって線もあるし家族全員が共謀してたかもしれん。

 ………もうリリスの犠牲になる奴はいないがそんな凶悪犯が昔いたんだよ。

 二股だのは今初めて聞いたが………。」

 

 

カオス「………?

 ………リリスって人の件はともかくラーゲッツはロベリアさんと付き合ってたのか………?」

 

 

 ラーゲッツの話とフリューゲルで聞いていたが根本的に食い違っている。フリューゲルではラーゲッツがやって来て族長のナトルの娘であるロベリアを襲った後にマテオへと帰っていったという話だったのだが………、

 

 

ラーゲッツ「そう思ってたのは俺だけだったんだよ。

 俺は本気でロベリアとならやっていけると思っていた。

 ロベリアは俺の全てを受け入れてくれるとそう感じていた………。

 

 

 ………だがあの女には他にも男がいたんだよ。

 ソイツが俺の目の前に来てロベリアは自分のものだって主張しやがった。

 ロベリアもそれに応じていた………。

 いつだって俺は誰からも相手になんかされねぇのさ。

 こんな世の中じゃ俺が本気で生きる価値なんか無ぇ。

 俺はもうここで朽ち果てようと構いやしねぇさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「それがお前が()()()()()()()()()()()()()()()()()なったんだな。」

 

 

 レイディーは確信をつくようにそうラーゲッツに指摘する。

 

 

ウインドラ「十六年前から女遊びを………?」

 

 

レイディー「今でこそレサリナスでも女好きの名で通っているコイツだが十六年前から以前はコイツは女とは無縁の堅物な奴としての印象が強かったんだ。

 女なんかと遊ぶよりかはひたすら剣に打ち込んで真面目な奴だというイメージしか無かった。

 

 

 それが()()()()()()()()()()()()()()()()()()がコイツが長期的に不在の期間があってな。

 アルバートみたいに失踪したんじゃないかっていう噂も流れたが数ヵ月経ってからひょっこりと戻ってきた。

 そしたらコイツはいなくなる前とはまるで別人のように遊び呆けるようになった。

 失踪前はかなりの剣の腕を誇っていた筈が十六年も遊び続けて剣の腕はガタ落ちしていった。

 

 

 

 

 

 

 ………お前ダレイオスに行ってたんだな。

 そしてロベリアっつー女に裏切られて()()()()()()()()()()十六年前からそんなだらしない生き方を続けてんのか?」

 

 

ラーゲッツ「………」

 

 

タレス「この男にそんな過去があったなんて………。」

 

 

アローネ「ラーゲッツはどれ程の期間ダレイオスに渡られていたのですか?」

 

 

レイディー「ざっと半年は姿をまともに見なかったぜ。

 コイツが消える直前実はレサリナスで女が一人ゴロツキ達から助けられてよ。

 ソイツがラーゲッツを探してたから確かな情報だ。」

 

 

カオス「ラーゲッツが女の人を助けたんですか………?」

 

 

レイディー「あぁ、

 アタシもその光景を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………まったく………。

 あのまま前のようなひた向きさがありゃコイツもアルバートに代わる次代のエースになれたかもしれねぇのによぉ………。」



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父すら知らぬロベリアの想い

ローダーン火山 麓 残り期日八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「次代のエース………。

 そんな誰かの代わりに宛がわれた肩書きを俺が喜ぶと思うか?

 そんな大それたもんなんて俺は必要としてねぇんだよ。

 

 

 俺が欲しかったのはただ隣にいてくれる誰かだった………。

 俺が欲しかったのはそんな大きなもんじゃなかったんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それなのにそんなもんすらこの手に掴めないこんな世界は俺にとってはもう不要だ………。

 もう俺はこの世に未練なんて無い。

 止めを刺したんだからとっととどこへなりでも行きやがれ。」

 

 

 ラーゲッツはそっと目を瞑る。このまま身体中のマナが大気へと還り自然に消えるのを待つことにしたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「待ってパパ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自らの死を受け入れて消滅を待つラーゲッツにカーヤが話し掛ける。

 

 

ラーゲッツ「………何だよ。

 お前に話すことなんてねぇよ。

 あんなリリスみたいなビッチに似た女との子供なんて本当に俺の子かどうかも分からねぇんだ。

 バルツィエと見たら誰でもよかったようだしな。

 案外ユーラスとかランドールとかがお前の本当の父親なんじゃねぇか?」

 

 

カーヤ「………ううん、

 カーヤのパパは今カーヤの目の前にいる人がパパだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!?」」」」」

 

 

レイディー「お前………母親から父親について聞いたことがあるのか?」

 

 

カーヤ「うん………、

 何でカーヤには他の皆のようにパパがいないのかママがいたときに一度だけ聞いたことがあるの。

 ママはおじいちゃんがいない時にパパのことについて話してくれたの。」

 

 

カオス「(それって………。)」

 

 

 カーヤの母ロベリアはカーヤを生む時カーヤをラーゲッツへの復讐のために使おうとして生んだと聞いている。ナトルからの話ではそう聞いていたのだがラーゲッツの話では逆にラーゲッツがロベリアを憎しみこそすれロベリアがラーゲッツに復讐する理由が見当たらない。カオス達もナトル達フリンク族も知らないラーゲッツとロベリアの本当の関係がカーヤの口から語られるのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママはね………。

 パパは最初本当の名前とは違う名前をママに言ったっめ言ってた………。

 自分の本当の名前をママに知られたくなかったのかな?って不思議に思ってたんだって。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「違う名前を………?

 それって俺のおじいちゃんの名前?

 アルバートってラーゲッツが?」

 

 

カーヤ「アルバートって名前はおじいちゃん達から聞いた名前。

 でもその時ママが話してくれたパパの名前は違う名前だったと思う………。

 なんかラーゲッツって名前に似ていたような………。」「ツッゲーラだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………それで?

 続きを聞かせろや。

 お前の母親は俺のことをなんて言ってたんだ?」

 

 

 ラーゲッツがカーヤの続きを促す。カオス達はその反応でラーゲッツがロベリアにツッゲーラと名乗って接していたことを悟る。

 

 

カーヤ「………ママはね。

 パパと出会ってからママも何か隠し事があったのが心苦しかったって言ってた。

 ママも族長の家に生まれて勝手にママの将来を決められて窮屈だったって言ってた。

 そこはパパと同じだとも言ってた。」

 

 

ラーゲッツ「!」

 

 

レイディー「生まれに関してはマテオでもダレイオスでも偉い家に生まれたからって自由があるとは限らないんだよなぁ。

 それなりに身分があるからこそ私生活の全てを管理された生活になる。

 バルツィエなんかも細かい話をすれば肩身の狭い扱いを受けてるんじゃねぇか?

 特にコイツだったらな。」

 

 

 レイディーがラーゲッツを哀れむように見詰める。

 

 

ミシガン「え?

 貴族なのに?」

 

 

ウインドラ「貴族だからこそ規律や仕来たりには厳しかったりするんだ。

 普段は自由にしていそうなコイツ等も一応は決まり事には徹底してる。

 ………バルツィエはその決まりをどんどん自分達に優位に法を変えっていってるがな。」

 

 

レイディー「それでもコイツの生活は昔から見ていたが本当に可哀想に思えてくるぐらい荒んでいたがな。

 いつもランドールやユーラス達の駒みたいに使われていた。」

 

 

カオス「コイツがそんな扱いを………。」

 

 

アローネ「残念ながら階級社会ではそういった傾向があることは否定出来ませんね。

 貴族や皇族といった位はその家の国に貢献したという栄誉から送られるものですがそれを鼻にかけて他者を下に見て道具のように使おうとする………。

 家が大きくなればなるほどそうした扱いを受ける方も大勢出てきます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………お前の母親は次期族長だっただろうが。

 そこんところはどうだったんだ?

 俺にマテオに連れていけって話はただの旅行気分だったんだろ?

 俺と本気で添い遂げる気なんてハナッから一寸の欠片も無かったんだよな?

 なぁどうなんだ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………ママは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本気でマテオに行きたいって言ってた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本気でパパとマテオに移り住みたいって………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パパと過ごしている内にママの中でパパの存在が大きくなっていって本当にパパと一緒になりたいとも言ってた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………けど隠してたことを言う前にパパがマテオに帰っちゃって寂しかったとも言ってた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 婚約の話を解消してパパと一緒にマテオに行けたらよかったなってママが泣きそうな顔で笑いながらカーヤに話してくれたのは覚えてるよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………んだよそりゃあ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ロベリアは本当に俺とマテオに行ってずっと一緒にいるつもりだったのかよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………全部俺の早とちりで台無しにしちまったってだけのことだったのかよ………。

 ………情けねぇな俺は………。」



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生まれ変われたならその時は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………おいカオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 カーヤのロベリアとの話が終わりラーゲッツがカオスに声をかけてくる。体はもう半分は消えかかかっている。

 

 

ラーゲッツ「………お前のじいさん………。

 アルバートはお前の村ではどんなふうに過ごしてたんだ?」

 

 

カオス「おじいちゃんがどんな………?」

 

 

ラーゲッツ「俺達バルツィエの名は世界中に知れ渡ってんだろ。

 そんな中でお前のじいさんはお前の村の連中にどうやって取り入ったんだ?

 アルバートほどの奴だったら名前を言って主導権を握ったとかか?」

 

 

カオス「そんなことは「俺達の村の皆は誰もアルバさんのことを知らなかったようだぞ。」!」

 

 

ウインドラ「その昔アルバさんがミストにやって来た時まだミストの周域はバルツィエの名声が届いてはいなかった。

 俺達の村ぐらい王都から離れていると国の為政者やその回りの関係者の名前などさして興味を持たないからな。

 バルツィエと聞いたところで特に問題が発生するというようなことは無かったみたいだ。」

 

 

ミシガン「アルバさんも村の皆とは仲良くやってたよ。

 レサリナスのアンタ達バルツィエみたいに偉そうにしたり住民を脅かしたりなんてしなかった。

 ごくごく普通に生活してたんだよ。」

 

 

ラーゲッツ「アルバートがか………?」

 

 

カオス「…俺にとってのおじいちゃんはちょっと人よりも剣の腕があるだけの普通のおじいちゃんだった。

 元騎士ってだけでそれを自慢したりとかはしなかったし村長達ともうまくやってた。」

 

 

ラーゲッツ「………そんな村がマテオにもあったんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そんなところがあったんなら俺がそこに行きたかったぜ………。」パァァ………

 

 

 ラーゲッツの体がいよいよ首元まで消えてきた。そろそろラーゲッツの終わりが迫ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………最期にお前達に忠告しといてやるよ。」

 

 

 後一分程経過すれば完全に消滅しきるというところでラーゲッツがカオス達に何かを言おうとする。

 

 

レイディー「何だ?」

 

 

ラーゲッツ「お前達はバルツィエを倒そうとしてるんだろ。

 それで世界をバルツィエの手から守ろうとしてる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それで本当にこの世界が救われるのか?」

 

 

 含みを持つようにラーゲッツは笑う。

 

 

レイディー「何が言いたいんだ?」

 

 

ラーゲッツ「お前達やダレイオスの奴等は俺達を目の敵にしてるだろうさ。

 マテオの民間人達もそうだよな。

 

 

 だが俺達バルツィエはダレイオスの奴等を敵ともなんとも思っちゃいない。

 民間人だってそうさ。

 バルツィエの敵じゃねぇ。」

 

 

ウインドラ「市民の力を侮るなよ。

 一人一人の力は貴様達に及ばずとも力を合わせればバルツィエなぞには「そうじゃねぇよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「バルツィエは長いこと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そいつを倒すことだけを考えて俺達は力をつけてきた。

 そいつの力はフェデール曰く世界中が束になっても敵いそうにねぇって敵がいるそうだ。」

 

 

アローネ「世界中が束になっても敵わない敵………?」

 

 

 突然ラーゲッツがそんなことを言ってきた。

 

 

カオス「世界中が束に………。

 ………!

 まさか精霊………?」

 

 

 それほどまでに力を持つ者と言えば精霊しか思い付かなかった。バルツィエは精霊を敵として見ているのか………。

 

 

ラーゲッツ「俺もよくは知らねぇよ。

 それが精霊なのかどうかも定かじゃねぇ

 俺も関係なくなるしな。

 知りたきゃ()()()()()()()()()

 アイツはその敵のことをよく知ってるようだ。

 実際にそんな敵がいるのかどうかは俺も分からねぇ。

 分からねぇが本家の奴等はそいつがいると仮定して動いている。」

 

 

ウインドラ「急にそんな敵がいると言われても………。

 ………そんな強大な力を持った敵がいたとしてそいつの目的やその敵が今何をしているのかは分かってないのか?」

 

 

ラーゲッツ「だから俺は何も知らねぇんだよ。

 何も知らされてねぇ。

 昔フェデールが俺に口を滑らせただけだ。

 バルツィエの代々当主がそれ知る権利があるんだけどな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()してんのさ。」

 

 

ミシガン「何で当主だけしか知ることが出来ないの?

 そんな相手がいるなら皆に情報を共有させておいた方がいいと思うけど………。」

 

 

ラーゲッツ「下手に誰かがそいつに手を出して決戦が早まるのを避けたいからだろ。

 アレックスやフェデールはまだその時じゃねぇと見てる。

 そいつに挑むにはまだまだ今のバルツィエでも力が足りねぇらしい。

 ユーラスやランドールなんかに教えてたら速攻で挑みに行きそうだしな。

 そんで無駄に戦力を削ぎたくねぇんだと。

 ……眉唾みたいな話だよな。

 本当にそんな奴がこのデリス=カーラーンのどこにいるってんだか………。」

 

 

 突発的な話だったが消滅を目前にする者からの言葉には妙な信憑性があった。ここで虚言を口にするような男にも見えない。バルツィエはダレイオスではなくその謎の力を持つ敵との戦いを見据えて行動しているのだろうか。だとすればその敵とは一体何者で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………お前………カーヤっていったな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………俺はお前のことを娘とは認めない………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………お前も俺なんかを父親だと思うな。

 俺のような不良が親だと知られると将来苦労するぞ。

 俺のことは忘れちまいな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………やだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「あ?

 何が嫌だってんだ?

 俺と血縁関係がバレたら面倒なことにしか「それでも」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「ママが好きだった人だから………。

 ママが信じて()()()()()()()()()()カーヤもママと同じで信じたい………。

 やっぱりパパはパパなんだよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーゲッツ「………ケッ………。

 物好きな奴だな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………まぁそれでももし次に生まれ変われることがあるならお前みたいな子供がいたら大切にしてやりたいな………。

 勿論母親も一緒にな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を言い終えてラーゲッツは虚空へと消えた………。



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痕跡から分かることは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュオオオオオオオオオオオオ…………!!

 

 

 ローダーン火山は頂上部での激しい戦いの影響であちらこちらで溶岩が吹き出ている。長居し過ぎればその内カオス達にも被害が及ぶだろう。

 

 

ウインドラ「…一旦ここを離れるべきだな。

 もう溶岩がすぐそこまで迫ってきている。

 飲み込まれない内にどこかへ避難しなければ………。」

 

 

タレス「では南のアインワルド領へと後退しますか?

 あそこまでは溶岩も届くことはなさそうですし。」

 

 

ミシガン「今はあそこもトレント達の影響でモンスターも他にいなさそうだしね。

 そうしよっか。」

 

 

 カオス達がいるのはローダーン火山の南側の麓だ。北から溶岩が降りてくるのであれば南へと直進するのが最も効率的な退避なのではあるがそれをレイディーが止める。

 

 

レイディー「待て。

 アインワルド領に近付くのは坊やにはマズイんじゃないか?

 アタシから見てもアインワルド領周辺は他の場所よりもマナの濃度が濃い。

 今は平気なようだがまた坊やの体が石化するのは良くないだろ。」

 

 

アローネ「…そうですね。

 あそこへは私もあまり近付きたくはありません………。」

 

 

タレス「?

 何かあったんですか?」

 

 

アローネ「………いえ特には………。」

 

 

 タレス、ミシガン、ウインドラが先にブルカーン領へと発ってからのことを三人にはまだ話してはいない。このようなところで説明するのも憚れる内用なので詳しくはアローネも言わなかった。

 

 

 

 

 

 

メーメー『………ヨウガンモモンスターモイナイトイウノデアレバニシノマタアノハイキョニイクノガイインジャナイカ?』

 

 

 行き先が決まらないカオス達に共鳴で話し掛けてくるメーメー。

 

 

レイディー「そうだな。

 とりあえずはあそこなら一息つけそうだしな。」

 

 

ウインドラ「………俺達としてはそいつがその力を持っていたことが今一番気になるところではあるな。

 落ち着ける場所があるならそこでそいつの説明もお願いしたい。」

 

 

タレス「メーメーが話が出来るなんて知りませんでしたよ。

 一体いつからそんな力が………。」

 

 

ミシガン「一昨日の内にレイディーとも合流してたみたいだしそこら辺は後でちゃんと説明してね。」

 

 

カオス「分かってるよ。

 今はここから早く離れよう。

 ここもいつまた噴火して灰や火の粉が飛んでくるか分からないしね。」

 

 

 話し合いは一時中断しカオス達は西のゲダイアンへと足を向けて進み出す。今はとにかく状況を整理するための場が必要だった。カオス達の今後のこともそこでかくにんするためだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………カーヤ………パパの分まで生きるよ。

 パパの分までカーヤは精一杯生きてみる。

 見守っててね………パパ………。」

 

 

 カーヤはラーゲッツが先程までいた場所にそう言葉を残してカオス達の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消滅都市ゲダイアン跡地 残り期日八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………こっ、ここは………。」

 

 

ウインドラ「…見渡す限りに建物の残骸が広がってるな………。

 ここがあの噂のゲダイアンか………。」

 

 

ミシガン「一体ここで何があったの………?

 火山の噴火………?」

 

 

タレス「火山の噴火だったらここにまたローダーン火山とは別の火山が形成されてますよ。

 これは人為的な何かの力を受けてこうなってしまったと見るべきです。」

 

 

 アローネ、タレス、ミシガン、ウインドラの四人は初めて訪れるゲダイアンの有り様にここで起こった出来事を思い浮かべては悲痛な面持ちでこの光景を眺めていた。

 

 

カオス「…俺が最初にここに来たときは夜だったからよく見えなかったけど昼の時間でもなんかここは暗い雰囲気が漂ってますね………。」

 

 

レイディー「まぁそうだな………。

 かつてはここでもレサリナスとはいかないまでも大勢のエルフ達が賑わってたんだ。

 それがたった一発の攻撃で全員何が起こったか知るよしもなく消し飛んだんだ。

 ここにはもう明るい話題なんて何一つ残っちゃいねぇだろうよ。」

 

 

アローネ「一体誰がこのような破壊を………。」

 

 

タレス「この破壊を行ったとされる容疑者は今まではバルツィエではありましたがバルツィエもここでのことについては関係はしていないと発表しているんですよね?」

 

 

ウインドラ「あぁそうだ。

 マテオではこの街の状況と似たような攻撃を仕掛けた街はあるがここのように一度で街を死の街へと変えるような攻撃方法はバルツィエも行ったことはない。

 バルツィエの関与の線は低いだろう。」

 

 

ミシガン「じゃあ他にいるとしたら………。

 例のあの本当の大魔導師軍団かカオス以外の精霊の力を持っているシャーマン?

 確か精霊のイフリートとシルフがマテオとダレイオスにいることはラタトスクも共鳴で感じ取ったって言ってたよね?」

 

 

カオス「言ってたね。

 今このデリス=カーラーンには俺とクララさん以外にもう二人シャーマンがいるって。

 その二人が共謀してここを攻撃したのかどっちかが一人でここを攻撃したのかは分かってないけど。」

 

 

 アインワルドの族長クララはかつてデリス=カーラーンで起こった世界樹カーラーンをめぐった戦いカーラーン大戦で世界樹を守るためにアインワルドが住むユミルの森の奥へ世界樹を隠した精霊ラタトスクを憑依させている。精霊ということもあってか同じ精霊の気配を探る能力があるらしくラタトスクはイフリートとシルフを憑依させたシャーマンがデリス=カーラーンで活動していると言う。彼等が何を思い何を理念に行動しているかはカオス達は知らない。もし彼等がゲダイアンを破壊した犯人であるのならば何故ゲダイアンを攻撃する必要があったのか。

 

 

レイディー「アタシ等に分かるのはここを攻撃した可能性が高いのがそのシャーマンって連中だってことだけだ。

 それを特定するすべなんて何もねぇよ。

 もうここが攻撃されてから十年以上経ってんだ。

 とっくに証拠を見つける手段も消えてるさ。

 

 

 アタシ達はアタシ達の今後のことを決めりゃいいんだよ。

 今は失われた一つの街のことなんかよりも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「………そうでしたね。」

 

 

 精霊の要求は果たしたカオス達。しかし精霊からは何も言ってこず世界がどうなるのかも分からないカオス達。ゲダイアンについてはそこから先の話は憶測の推理を述べたところでその犯人を特定することは出来ない。

 

 

 カオス達は精霊のことを保留にしてこれからどう動くかを話し合うことにした………。



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彼を討たずして終わらぬ戦い

消滅都市ゲダイアン跡地 残り期日八日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「坊や精霊からの反応は何も無いんだな?」

 

 

カオス「今のところは何も………。」

 

 

レイディー「………そうか。

 まだ期限までには一週間あるしな。

 どう転ぶかは判断がつかんか………。」

 

 

カオス「そうみたいですね………。」

 

 

 レイディーの問いにそう返したカオスは何気なくその場に座り込もうとして身近にあった岩に腰掛けようとし手を触れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?」

 

 

ウインドラ「何だ今の音は………?」

 

 

タレス「何かが砕けるような音でしたけど………。」

 

 

ミシガン「カオスがいる辺りで音が鳴ったよね?

 カオスなんかしたの?」

 

 

 大きく響いた音に他の面々も何かが壊れた音だと耳ざとく聞いていた。

 

 

カオス「………なんか俺が石に触った途端石が砕けたんだけど………。」

 

 

ウインドラ「石………?」

 

 

タレス「そんなに簡単に石が砕けるものでしょうか?」

 

 

アローネ「長い時間放置されていたのでこの付近の建物の残骸が脆くなっているのかもしれませんね。

 腰かける際は注意して座るのがいいでしょう。」

 

 

カオス「いや………多分だけど原因はそれじゃないと思うな………。」

 

 

 アローネが客観的にカオスが触れた石が砕けた要因は時間経過による風化が原因だと推測するが砕いたカオスの感想は違った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「おいお前達。

 気軽に今の坊やに近付くなよ。

 今坊や軽く握っただけで岩を潰しやがったからな。」

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「?」」」」

 

 

 カオスが岩を破壊する光景を一人レイディーは目撃していた。岩が砕けた理由にレイディーはいち早く気付いたのだ。

 

 

カオス「………そうみたい。」

 

 

アローネ「どういうことですか………?」

 

 

レイディー「あのラーゲッツとの戦闘中アタシも見てたぜ。

 坊や自分に支援魔術かけまくっただろ。

 シャープネスとバリアーをな。

 何も考えずに岩に腰をおろそうとしたんだろうが坊やの力は今ドラゴンをも凌駕するパワーを宿している。

 そんな力で何かに触れりゃ触れたもんが一瞬でぶっ壊れるぜ。」

 

 

タレス「あの戦闘での支援魔術がまだ機能してるんですか?」

 

 

ウインドラ「いつになったら支援魔術が解除されるんだ………?

 もうあれから半日は経過してるんだぞ。」

 

 

カオス「俺も思い付きでやってみたことだからいつになるかはちょっと………。」

 

 

 ラーゲッツとの戦いの際はラーゲッツを倒すことだけを考えて魔術を使用したがその後のことは何も考えてはいなかった。まさか力の加減も出来ないほど自身の力が上昇するとは思いもしなかった。

 

 

レイディー「フリーズリングはどうだ?

 あれにはマナを拡散させる力がある。

 フリーズリングを装備すりゃお前にかかった術の効果も解けるんじゃねぇか?」

 

 

カオス「!

 やってみます!」

 

 

 レイディーに言われた通り早速フリーズリングを取り出そうと服のポケットに手を入れるカオス。

 

 

 しかし………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あっ!?」

 

 

 カオスがポケットに手を入れてからすぐまた何かが割れるような音が鳴る。

 

 

レイディー「………その分じゃ指輪すら装備するのも難しそうだな。」

 

 

 冷静にレイディーがカオスが失敗した事実を述べる。

 

 

アローネ「………それほどまでに指や腕の力が上がっているとなると着替えや食事もままなりませんね。

 なんとかできないものでしょうか………?」

 

 

ミシガン「確かに………。」

 

 

ウインドラ「このままじゃ身近な動作で余計なものまで壊しかねないな………。

 下手すればカオスともののやり取りも出来ん。

 今のところは特に目立った障害は発生してないが………。」

 

 

カオス「どっ、どうすればいいんだろう………。」

 

 

 動けば動くほど自分が触れるものが壊れていくことを想像してカオスは何も出来なくなっていた。

 

 

レイディー「アタシ等じゃどうすること出来ねぇ。

 今お前にかかってる支援魔術を解除する方法は暫くはお預けだ。

 一回クリティアの連中に頼んで術を解く方法が無いか聞くのが一番だろう。」

 

 

ミシガン「じゃあそれまではカオスはこのままなんだね………。」

 

 

ウインドラ「ラーゲッツとの戦いで剣を壊してしまったようだがそれほどの怪力があるなら戦闘は普通に行えそうだな。」

 

 

アローネ「カオスがモンスターと戦う際に怪我を負うことは無さそうですね。」

 

 

 生活面においては少々不便ではあるがそれ以外ではそう困るものでもなかった。人に怪我をさせたり物を壊したりすることにさえ気を付けておけば支障はないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「…それで精霊の件は置いておくにしてこれからの世界の流れだがアタシやお前達がヴェノムの主達を倒したことによってダレイオスはヴェノムから解放されることだろう。

 主を警戒して封鎖されていた全ての道路や部族の境界も交通が復活する。

 それによってこれから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦争が始まるぞ。」

 

 

 間接的に濁すでもなくレイディーは結論を述べる。遂にダレイオスはマテオと戦う準備が整った。百年もの間ヴェノムの出現によって停戦状態だった二つの国が衝突するのだ。もうダレイオスが一方的に敗北するということはない。カオス達がダレイオス側についた今マテオに敗北することはあり得ない。

 

 

カオス「…戦争が………始まってしまうんですね………。

 ………今度の戦争はいよいよマテオとダレイオスの長い歴史の戦争が終わるんですよね。」

 

 

レイディー「一見マテオとダレイオスの二つの国の戦いだがマテオはバルツィエが牛耳る国の上層部と国民とで軋轢が生じている。

 対するダレイオスは九つの部族………三つがほぼ全滅して六つの部族が結集して一つになる。

 そこにアタシ等が加わり情勢次第ではマテオの国民達もこの戦列に加勢する。

 世界の三分の二が此方側につく訳だ。

 敗北する要素がどこにもねぇ。」

 

 

 数の利ではカオスが与する陣営が優位に立っているのは間違いない。しかしそれでもバルツィエが全員揃った時どうなるかは予測つかない。どちらが勝つにしても互いに傷が深くなるのは確実だ。

 

 

アローネ「戦いになる前にバルツィエが降伏するのが被害が甚大にならずに済むのですけど………。」

 

 

レイディー「バルツィエが数で圧倒されるのはよくあることだ。

 今更数にヒビる連中じゃねぇよ。

 そうさせたいなら()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「大将………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「今のバルツィエの総大将はアレックスだ。

 アレックスを討ちさえすりゃマテオとダレイオスの戦争は終決するんだよ。」



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戦前の身のふりかた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………レイディーさん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………マテオとダレイオスが戦わずに済む方法は無いんでしょうか………?」

 

 

 カオスのそんな問い掛けにレイディーはそう質問してくると予想していたのか意外というような顔はしなかった。

 

 

レイディー「…そんな方法があるとしたら別の()()()を用意してそいつにマテオとダレイオスの両方を攻撃させることだ。

 そしたらマテオとダレイオスの戦争を一旦は止めることが出来る。」

 

 

アローネ「第三者の介入ですか………。」

 

 

レイディー「お誂え向きそうな候補者はどこにいるのかも分からねぇシルフとイフリートのシャーマンくらいだな。

 ここを一撃で吹き飛ばすくらいの力を持っているならマテオとダレイオスの二つを相手取ってもいい勝負をするんじゃねぇか?

 ………だがよ?

 どうやってそいつ等を見つけ出すんだ?

 そしてどうやってそいつ等を説得する?

 マテオもダレイオスも戦って傷付いて欲しくないから代わりに標的になって下さいってお願いしてみるのか?」

 

 

カオス「………」

 

 

レイディー「都合のいい解決方法なんてこの件に関しては存在しねぇんだよ。

 因縁の始まりはダレイオスかららしいがそれももうどうでもいいことだ。

 今は互いに互いを討ちたがっている。

 戦いたいと思い合う二つの陣営の戦いを止めることなんて個人の力だけでは無理だ。」

 

 

カオス「………そう………ですよね………。

 無茶なことを言いました………。

 やっぱりそんな上手い話がある訳が「確かに()()()()には無理なことだが………。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「お前がマテオとダレイオスの二つの敵になってみるか?」

 

 

カオス「!?」

 

 

レイディー「お前がマテオとダレイオスの奴等を無差別に殺戮して回ったら二つの国はお前を無視なんて出来ないだろう。

 お前の持つ精霊の力ならお前が死なせたくない奴等だけを殺さずにそれ以外を殺してしまえば二つの国の戦争は止められるぞ。

 

 

 やるか?」

 

 

カオス「やる訳ないじゃないですか!?

 何を言ってるんですか!?」

 

 

レイディー「そうだ。

 ()()()()()()()()()()()?」

 

 

カオス「…!」

 

 

レイディー「マテオとダレイオスか戦う運命にあることは避けられない。

 そんなことはここに来るまでで十分分かってる筈だろ。

 バルツィエは積極的にダレイオスに侵略しに来てる。

 ダレイオスもバルツィエに攻められ続けてヘイトが溜まってる。

 もう互いに引き際を手放した状況だ。

 ここで引けばこれまで相手に殺されていった仲間達に示しがつかん。

 

 

 現に戦争を止めたいとお前は思ってるだろうがお前の仲間の中には戦争をして勝ちたいと思ってる奴もいるようだぜ?」

 

 

カオス「え………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………ボクはこのままマテオと戦ってマテオを倒したいです………カオスさん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「タレス………。」

 

 

タレス「カオスさんがやっぱり戦争をしたくないと思う気持ちは分かります。

 カオスさんにはこの戦争自体に直接関係はしてませんから………。

 

 

 ………でもボクは違う。

 ボクは戦争がしたい。

 ボクはバルツィエにマテオに連れ去られた。

 その時同胞達も大勢殺されました。

 そしてボクが捕まってる間にアイネフーレはブルータルによって滅ばされた。

 ボクは一人ぼっちになってしまったんです。

 ボクはこの孤独にされてしまった怒りをバルツィエにぶつけます。

 ボクはバルツィエを許すことが出来ない。

 たとえカオスさん達が戦争に参加しなくてもボクは一人でもダレイオス陣営に加わってバルツィエと戦います。

 そしてバルツィエを倒すんだ………。」

 

 

 かたい意思を持ってタレスがカオスに宣言する。タレスはバルツィエと戦うだけの理由がある。カオスにはない明確な復讐心がタレスを奮い立たせているのだ。

 

 

ウインドラ「タレス………。

 そこまで………。」

 

 

タレス「ウインドラさんもトラヴィスさん達の仇を討ちたいと思わないですか?

 トラヴィスさんの仇のユーラスはもういないでしょうけどダリントンさんの仇のフェデールは生きています。

 死んでいった皆の仇を討つことこそがボク達生き残ったものの務めではないんですか?」

 

 

ウインドラ「それは………。」

 

 

タレス「………時間が経ってそんなことどうでもよくなったんですか?

 所詮はウインドラさんにとってトラヴィスさんやダリントンさん達もその程度の仲だったってことなんですか?

 所詮は他人で始めから憎しみなんて持ち合わせてはいなか「いい加減にして!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「それとこれとは問題が違うでしょ?

 そんなに人殺しがしたいの!?

 バルツィエを倒すって簡単に言うけどそれってつまりバルツィエの全員を相手にするってことなんだよ!?

 ウインドラだってトラヴィスさんやダリントンさんを殺されて憎くない訳がない!

 でもバルツィエには私達を手助けしてくれたダインだっているの!

 バルツィエってだけで一括りにして戦争をすることなんてそう直ぐには決断できないの!」

 

 

 タレスの覆う空気が険悪なものになりそれをミシガンが割って入りタレスに諭す。人は誰しも憎き相手に関与するもの全てが憎く思えてきてしまう。そうなると周りが見えなくなってしまうのだ。タレスはバルツィエという組織に憎しみを抱いているがバルツィエの全員がタレスやタレスの部族アイネフーレに被害を与えたりはしていない。ダインのように逆に助けとなった者もいるのだ。そこのところをタレスは失念していた。

 

 

タレス「………ダインについては確かにそんなに悪いバルツィエではないのかもしれません。

 けどこれからそれがどうなるかのか分かったもんじゃありませんよ。

 あの優柔不断そうな性格では他のバルツィエの命令には叛けずにボク達の前に立ち塞がることも考えられます。

 一度の行いで此方側につくと思うのは浅はかですよ。」

 

 

ミシガン「そんなの戦争が始まる前に連れて来ちゃえばいいじゃない!

 ダインだってバルツィエにいづらそうだし話せばきっと分かり合えるよ!」

 

 

タレス「そううまくいくでしょうか?

 もしうまくいかなかったら彼女と戦うことになります。

 そうなったらボクは容赦はしません。」

 

 

ミシガン「だからそうならないように「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…こういったことは私達だけで話し合っても悪い方へとしか話が進みません。

 一度冷静になってこれからそれぞれがどうしたいか話し合ってみませんか?」

 

 

 アローネが熱くなってきたタレスを宥める。タレスもアローネの言葉には反抗はしなかった。カオス達はそれからダレイオスでどうするかを話し合うのだった………。



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バルツィエの敵とは………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「何にしてもアタシ等がダレイオスに加勢するかどうかはまだ決められることじゃねぇだろ。

 坊やの力はバルツィエも分かってるだろうし坊やがダレイオスにつくことはバルツィエ側も想定してる筈だ。

 それを踏まえた上でマテオがダレイオスに対してどう動くかだ。

 戦力差を秤にかけて早々に降伏するか………、

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスと戦うかだ。」

 

 

 半年前まではマテオはダレイオスに宣戦布告を言い渡そうとしていたがここのところラーゲッツ以外の先見隊とは遭遇していない。半年前から方針が変わらなければ戦争になる確率が非常に高いがもし考えを見直しているのであればマテオから攻撃を仕掛けてくるということは無いだろう。そうなればダレイオス側がどう動くかだが………、

 

 

ミシガン「戦争になったとしてダレイオスの人達はどうやってマテオに向かうの?

 マテオとダレイオスを繋ぐシーモス海道は壊れちゃったんだよ?」

 

 

レイディー「その辺はミーア族が大量に船を用意してるだろ。

 海域のことについては九の部族の中でもミーア族が詳しいって話だ。

 戦争するとなりゃミーア族が用意した船に他の部族達も乗せてマテオに向かう。」

 

 

ウインドラ「海で隔れていても両者が互いの大陸を渡る手段は確保されてるのだな。

 それならもう後はいつ戦いが始まってもおかしくはない。

 最初の一手をどちらが先に打つかたな。」

 

 

アローネ「そうですね………。

 ブルカーンも他の部族の元に向かいましたし私達がヴェノムの主を全て倒し終えた報がもうじきスラートやクリティアにも伝わることでしょう。

 

 

 そこからどのような策を練ってマテオに踏みいるかですが………。」

 

 

 深刻そうな表情を浮かべてアローネがマテオとダレイオスが衝突する際のことを懸念する。

 

 

アローネ「真正面から船でまともに踏み込もうとすればマテオからの魔術の砲撃を受けます。

 それによってダレイオス側は甚大な被害を被ることでしょう。

 出来ることならこの戦いは両者共大きな犠牲を払うことは避けるべきです。

 犠牲者が増えれば増えるほど取り返しがつかないほどの憎しみの連鎖が続きます。」

 

 

タレス「憎しみなら既に十分にありますけどね。」

 

 

 アローネの意見に被せるようにタレスが口を挟む。タレスからすればこの話し合いは聞くに絶えない綺麗事のように聞こえるのだろう。戦争でバルツィエを討ち取りたいタレスはアローネが言うような犠牲者を少なく抑えるというのがどうしても共感することが出来ないようだ。

 

 

タレス「戦争は殺し合いをするところですよ。

 そんな甘いことを言ってるとこっちが殺られてしまいます。

 こっちだけが人の生き死にに拘って攻撃の手を緩めるのはかえって危険です。

 その時が来たら徹底的に叩くべきです。」

 

 

 断固アローネの意見を受け入れようとしないタレス。彼が抱く憎悪の念はバルツィエが倒されない限り消えることは無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「人の生き死にに拘ってるのは何もアタシ等だけじゃねぇだろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タレスにレイディーが反論する。

 

 

レイディー「ラーゲッツの話を聞く前からそうなんじゃねぇかと疑ってたがアタシの予想は的中していた。

 バルツィエも結構人の生死に関しては慎重な奴等だ。

 昔カタスからバルツィエがマテオのレサリナスの周辺の村やダレイオスを何度かに分けて攻撃した記録を見せてもらったことがあるんだがそこにラーゲッツが言っていた通りの傾向が見られた。」

 

 

カオス「どんな内容だったんですか?」

 

 

 バルツィエがこれまでどのようにマテオやダレイオスで侵略行為を行ったのか気になったカオスは訊ねてみた。

 

 

レイディー「先ず奴等は村や街を襲う時先にその村に向けて予告するんだ。

 そんで一番目立つ建物を破壊するんだがその後の出方次第でバルツィエがそこの奴等をどれだけ殺るかが決まる。

 

 

 素直に従えば殺すのは一人か二人だ。

 抵抗すればそこから増えていくが多くなっても十人前後。

 その間にそこの奴等は降伏する。

 降伏しなければ降伏するまで殺戮の手は止めない。」

 

 

アローネ「………別段目立った特長はありませんね………。

 軍隊なら普通はそうすると思いますが………?」

 

 

 レイディーの説明を聞いても何かバルツィエに特殊な傾向があるようには思えなかった。今のバルツィエの特長からは何も不思議な行動は見られなかったが、

 

 

 

 

 

 

レイディー「まぁ待て。

 今のは作戦の現場に()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

ウインドラ「当主関係者………?」

 

 

レイディー「そうだ。

 今の世代ではアレックスかフェデールということになるがこういったバルツィエでの立場が上の奴等がいない場合の作戦は問答無用に住民達を殺し尽くす。

 そこには情けや人を相手にしているといった感覚は一切ありはしない。

 ただ目の前に生きてる奴がいるから殺すだけのことしかないんだ。

 奴等は血に飢えた獣さ。

 責任者の目がない場所ではとことん敵を殺しては次の獲物を狩っていく。

 そんな感じの奴等だ。」

 

 

アローネ「フェデール達が通常の制圧方針を取る一方で彼等がいない場でそのように振る舞うとは………。

 ………そのことはフェデール達は………?」

 

 

レイディー「一応はちゃんと正規の手順を踏ませる指令は出してるようだぜ?

 だが現場で目標から激しい抵抗があってやむなく惨殺してしまったって報告で済ませるようだ。

 フェデール達も力は認められてはいるようだが完全に他のバルツィエ達を掌握はしきれてねぇようだ。

 下の奴等が性悪な奴等ばかりだと上の連中も苦労するみたいだな。」

 

 

ウインドラ「………ということはつまり………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「フェデール達は比較的に殺さずに相手の心を折って支配下に加えようとしている。

 ラーゲッツの話を纏めりゃそうして世界を征服して挑みたい敵がいるんだとよ。

 それも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ラーゲッツ達同じバルツィエにも伝えずに本家だけがその情報を握っているってことはそういうことだろ。

 

 

 ………アタシ達も戦争が始まっちまう前にどうにかして奴等が敵視する奴のことを探った方がいいかもしれねぇな。

 奴等が()()()()()()()()()………。」



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フェデールに入れた一太刀

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「それって一度私達でマテオに戻ってみるのがいいってこと?」

 

 

レイディー「あぁ、

 ダレイオスはただマテオに勝つことだけが目的だがマテオはダレイオスじゃない別の組織を追ってるようだ。

 奴等がダレイオスを侵略した後に何がしたかったのか調べてみる必要がある。

 この件はまだ本格的に戦争が始まってない今しか出来ねぇことだろ。」

 

 

ウインドラ「それはまぁ時期的にも今しかないだろうが奴等が口を割るかどうかは分からないんじゃないのか………?

 問い詰めたところでそれを知ってるのはバルツィエの上層部………俺達で直接対峙出来るとしたらアレックスかフェデールのどちらかだが………。」

 

 

レイディー「会うんだとしたらフェデールになるだろうな。

 フェデールは騎士団長としてちょくちょくレサリナスから外出している。

 奴自身部下をあまり信用なんかしてないから作戦を計画するときは先に現場に直々に視察に行ったりしてるんだ。

 そこを抑えて奴に白状させるんだよ。

 “お前らは何に怯えてんだ?”ってな。」

 

 

 レイディーの意見でこれからカオス達は戦争前にマテオに帰還することが決まる。

 

 

カオス「ダレイオスの方はどうするんですか?

 今他の部族も全部集まってるのに。」

 

 

アローネ「部族が集結したとしてもそう直ぐにマテオに攻め込むということはないでしょう。

 恐らくスラートの人達は私達が合流するまで開戦はしないと思います。」

 

 

レイディー「その通りだ。

 部族がまた集まったことについてはお前達の功績によるところが大きい。

 お前達がスラートやクリティアに合流しない限り戦争が始まることはない。

 

 

 アタシ等が部族会議に出席した時にダレイオスはマテオに突入する計画を立てることだろう。

 だからそれまでにフェデールの奴から情報を引き出すんだ。

 バルツィエが実際にはダレイオス制圧して何と戦いたかったのかをな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「マテオかぁ………。

 私達がダレイオスに来てからもう半年も経つんだもんねぇ………。」

 

 

タレス「フェデールに会いに行ったとして奴がそれを正直に話すでしょうか?

 行くだけ行って何の収穫もなく戦いになるのがオチじゃないですか?」

 

 

ウインドラ「俺もフェデールが素直に答えるとは思えんな………。

 バルツィエの当主格が極秘にしている敵の情報なのだろう?

 そんなことをわざわざ俺達に教えてくれるかどうか………。」

 

 

 フェデールの元へと向かうにしてもカオス達が知りたい情報を話すとは限らない。フェデールに会いに行っても戦いになる未来しか想像出来なかった。

 

 

レイディー「そん時は力付くでも喋らせるさ。

 今のアタシ達の戦力ならアイツが他のバルツィエと組みさえしてなければなんとかまともな戦いくらいにはなるだろう。

 叩きのめして無理矢理にでも奴が知ってることを聞き出すんだ。」

 

 

 やや強引だがその方法でしかフェデールから情報を聞き出す手段がないことが分かっている皆はレイディーの言葉を否定はしなかった。

 

 

タレス「戦いになったら勢いあまって殺しても構いませんよね?

 何せ手加減ができる相手ではありませんし。」

 

 

 フェデールと対面し状況によっては戦闘になると分かるとタレスがそう口を挟んできた。

 

 

カオス「タレス………。」

 

 

タレス「相手は騎士団のトップです。

 実力も他のバルツィエとは一線をかく力を持っています。

 そんな敵に油断して殺られそうになるくらいならボクがフェデールを討ちますから。」

 

 

レイディー「………それでいいさ。

 ガキの言うことはもっともだ。

 奴の実力は剣の腕だけで言っても相当なものだ。

 舐めてかかると一人を相手どったとしてもこっちの方が危ない。

 戦うなら全員本気でかかりな。」

 

 

アローネ「フェデールとはそこまでの騎士なのですか………?」

 

 

レイディー「あぁ、

 そこは断言する。

 奴の剣術はここにいる()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 こっちに坊やとラーゲッツの娘がいたとしても絶対にこっちが勝てるとは言い切れねぇ。」

 

 

 レイディーにここまで言わせる程フェデールの実力は計り知れないものを秘めているようだ。その力は数でどうにかなるというものではないらしい。

 

 

ウインドラ「しかしレイディー殿。

 レサリナスではカオスがフェデールに一太刀浴びせていたぞ?

 カオスがいるのならそこまで心配することもないのではないか?」

 

 

 半年前のレサリナスでカオスはフェデールと一度剣を交えている。その際フェデールが使うトラクタービームに捕らえられはしたが隙をついてフェデールに斬りかかりレサリナスを脱出している。それだけ見ればカオス一人でも戦えそうには思うがレイディーは、

 

 

レイディー「あの時の状況を思い出せよ。

 フェデールは坊やをどうしようとしていた?

 自分達バルツィエの仲間に引き入れようとしていたよな?

 他のバルツィエ達は坊やを倒そうとはしていたがフェデールだけは違った。

 大衆の面前で坊やをバルツィエの当主に仕立てあげようとしていたんだ。

 そんな奴があの場で坊やと本気で戦うと思うか?

 次期当主にしようとしてる男を傷つけられると思うか?

 フェデールにとってはあの場で坊やに勝っちゃいけなかったんだよ。」

 

 

カオス「!

 じゃあフェデールは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「お前が一太刀入れられたのは()()()()()()()()()()()

 お前がユーラス達に止めを刺さないのを見て自分が殺されることは無いと見てわざとあの場で負けたように見せたんだよ。

 アタシの考え通りならまだフェデールはお前をバルツィエに加えるのを諦めてはいない。

 フェデールももし次に会った時はお前やアタシ達をぶちのめしてでもお前を拐おうとすると思うぜ。

 奴はどうしてもお前のような強い駒が欲しいみたいだからな。」



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一度マテオに帰還

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

レイディー「どうするよ?

 これから奴に会いに行ってから情報と引き換えに仲間になれって言われたら。

 マテオとダレイオスどっちに付くよ?

 マテオに付けばミストの件は案外お前が言えば見逃してもらえるかもしれねぇぜ?

 バルツィエもお前ぐらい力のある奴の言葉なら無視できないだろ。

 その代わり治安の悪さはこれまでと変わらねぇがな。

 ダレイオスにつけば「俺がマテオに付くわけないじゃないですか。」」

 

 

 

 

 

 

カオス「バルツィエがレサリナスで好き勝手に暴れてる姿は俺も見ました。

 バルツィエが今のままダレイオスまで倒してしまえばもっとバルツィエに苦しめられる人達が出てくる。

 この戦争バルツィエが勝つことだけは許してはいけないんです。

 フェデールに何かを言われたとしても俺がバルツィエ側につくことはありません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………そうだな。

 それでいい。

 ハッキリしてんじゃねぇか。」

 

 

 レイディーはカオスの返事に満足したように頷く。口は悪いが彼女はこういう時両者どちらについた時のメリットデメリットを提示してくれる。それによって自身の意思の揺らぎを固められる。自分がどちら側につくべきなのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「それじゃあマテオに戻るとしてまたダレイオスの東側に行かなくちゃならないんだよねぇ………。

 道のりが遠いなぁ………。」

 

 

 ミシガンがボソッとそんなことを言った。

 

 

アローネ「はい?

 何故ダレイオスの東側に?」

 

 

ミシガン「え?

 だってマテオに戻るんでしょ?

 だったら来た道を引き返すってことになるんじゃないの?」

 

 

 マテオに戻るとだけ聞けばそう考えてしまうのも無理は無いだろう。ミシガンの中ではマテオに戻る方法は船しか思い付かなかったらしい。

 

 

ウインドラ「ミシガン、

 俺達は船でマテオに帰ることはないんだぞ。

 レアバードで空から帰るんだ。」

 

 

ミシガン「え!?

 レアバードで!?」

 

 

タレス「はい、

 それもわざわざ東側からマテオに行かずともこのまま西に向かって海に出て飛ぶんです。

 文字通り世界を一周する感じですね。」

 

 

カオス「でもレアバードって今アローネとカーヤとレイディーさんの三つしかないけど………。

 乗れたとしても六人までだよね?

 それでどうやって………?」

 

 

レイディー「まぁ確かに長時間レアバードで飛行し続けるのはキツイな。

 マナも相当消費するし一回で渡りきるのは無理だ。

 人数も定員オーバーで途中の海で墜落するのは確実だな。」

 

 

ミシガン「じゃあレアバードじゃ無理なんじゃ「って思うだろ?」ん?」

 

 

 

 

 

 

レイディー「だったらバルツィエはどうやってレアバードでダレイオスまで来たんだよって話になるよな?

 そこは奴等と同じことをするんだ。

 奴等は海の真ん中で氷を張って休憩しながらダレイオスに飛んで来てるんだよ。

 だからバルツィエはシーモス海道が無くなってもダレイオスまで渡ってこれた。

 シーモスが無くなるまではあの海道を途中まで歩いて来てからレアバードで飛んで行ってたようだがな。」

 

 

ミシガン「あぁ!

 そういうこと?」

 

 

 レイディーの説明に頷くミシガン。今のカオス達にはレイディーという氷の使い手がいる。カオスも氷の魔術は使えるがカオスが使うと海全体が凍り付いて海洋生物が死滅してしまいかねない。レイディーが入ればカオスの代わりに氷の魔術を使ってマテオへと戻ることが出来るだろう。

 

 

レイディー「一度に全員を乗せるのは無理だが何度かに分けて往復して運べば全員マテオへと渡りきれるだろうよ。

 操縦するのにもマナを使うから猿か娘のどっちかアタシを後ろに乗っけろ。

 良さそうなポイントでアタシが海面に足場を作る。

 それでいいな?」

 

 

アローネ「えぇ、

 それで構いません。」

 

 

タレス「レイディーさんが作る足場ですけど潮の海域に流されて行方が分からなくなったりしませんか?」

 

 

レイディー「それについては共鳴使える奴がアタシの居場所を探れよ。

 アタシが海のどの辺りにいるのかそれで分かるだろ?

 あの辺りの海流は確か()()()()()()()()()()()()()()()大分地図の下の方まで流されちまうから猿と娘で早めに全員を運び終えるんだ。

 時間かけてたらどんどんマテオから遠ざかるぜ。」

 

 

ウインドラ「うむ………、

 ではマテオに渡るとしたら南部の方になりそうだな………。

 おおよその到着予定地は………。」

 

 

 現在地から海流を計算して緩やかなカーブを描くように地図をなぞっていくとカオス達が漂流して辿り着く場所はある村を指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ここ………、

 ミストのすぐ近くだね………。」

 

 

 ゲダイアンの西側から海を越えた先にはミストの村があった。

 

 

ウインドラ「………そうだな。

 ミストが一番近くにある村か………。」

 

 

レイディー「よりによってミストかよ。

 レサリナスから一番遠いじゃねぇか。」

 

 

 カオスとウインドラからすればミストは少し近寄りがたい場所ではある。カオスは過去の事件でミストの住人達とは仲が悪くウインドラについてはダレニモ言わずに村を飛び出した身だからだ。

 

 

ミシガン「あっ!

 だったらちょっとミストに寄っていってもいいかな?」

 

 

 そんな二人の様子も知らずにミシガンがそんな提案をしてくる。

 

 

タレス「何かミストに用事でもあるんですか?」

 

 

ミシガン「………私さぁ。

 カオス達を追って急にいなくなったりしたからさ。

 お父さん達が心配してないかなぁって………。」

 

 

レイディー「そういやお前村の連中に何も言わずに飛び出して来てたんだったな。」

 

 

ミシガン「うん、

 だから一度私がいなくなってお父さん達がどうしてるか見てきたいの。」

 

 

アローネ「村に入るとなるとミシガンはそのまま御実家から出られなくなってしまうのではありませんか?」

 

 

タレス「家出した娘をまた旅に送り出したりはしないでしょうしね。」

 

 

ミシガン「あ!?

 そっか!

 どうしよう………。

 

 

 とうしたらいいと思う?」

 

 

 ミシガンは村のことを知る二人に訊く。

 

 

カオス「どうしたらって………。」

 

 

ウインドラ「俺達は関係者ではあるがな………。

 それを俺達に聞くのは違うだろ………。」

 

 

ミシガン「えぇ?

 でもさぁ。

 カオス達は気にならないの?

 こんなに長くミストを離れてたんだから皆が元気かどうか。」

 

 

カオス・ウインドラ「「………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「村に入らなけりゃいいだけのことだろ?

 村の外から中の様子を観察するだけならお前も連れ戻されずに済むだろうがよ。」

 

 

 中々良案が出ない三人にレイディーが機転を利かせて進言しレイディーの意見を採用することで話が纏まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし結果的にはカオス達はミストの中にまで足を踏み入れることとなるのであった………。



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ミストの惨劇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達一行はゲダイアンを後にしマテオへと帰ってきた。レアバードで数度に分けて休憩を挟みながらマテオへと渡らせたためマテオに全員が渡りきる頃には一日が終わっていた。そしてまた朝日が昇った頃カオス達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストの森 残り期日七日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「うわぁ~………。

 なんかもう大分この森の景色が懐かしく感じちゃうね~。

 半年振りだけどなんか全然違う森に来た気がするよ。」

 

 

カオス「そう?

 そんなに変わってない気もするけど………。」

 

 

ミシガン「そうかなぁ?

 私からすればあっちこっちが半年前とところどころ変わってるように見えるけど。」

 

 

タレス「この森のもう少し行った先にカオスさん達が住んでたミストがあるんですか?」

 

 

ミシガン「そうだよ。

 私とカオスとウインドラが住んでたミストがここの森の中にあるの。」

 

 

ウインドラ「…本当にこの森は変わってないな………。

 昔の景色のままだ………。」

 

 

ミシガン「えぇ~?

 絶対に違うよ~?

 結構変化してるって~。」

 

 

 久し振りにミストに帰って来たこともあってかミシガンのテンションが少し高くなっている。久々の帰省なのだからそうなってしまうのも仕方無いことなのだがレイディーは………、

 

 

 

レイディー「おい、

 あんましはしゃぐなよ。

 アタシ等はミストの奴等に見つかっちゃいけねえんだからな。

 坊やや擬きもそうだがアタシに関してはお前を村長の娘を連れ出した誘拐犯扱いにされてるかもしれん。

 ここにいるのは半分がミストの連中とやっかみ事を持ってる連中だ。

 歓迎されるとしたらお前くらいしかいないんだぜ?」

 

 

 あまりに騒ぐミシガンにレイディーが忠告する。確かにミシガンは村の者に何も言わずに抜け出してきたと言っていた。その時期にレイディーがミストを訪れ彼女が去ったと同時に村からミシガンがいなくなったのだ。レイディーがミシガンを連れ去ったと見られてもおかしくはないのだ。

 

 

ミシガン「大丈夫じゃない?

 私が事情を話せば分かってくれるでしょ。

 私が自分からレイディーについて言ったって言えばそれでさぁ。」

 

 

レイディー「だから村の連中に会うのも駄目なんだっての………。」

 

 

 レイディーの忠告も今のミシガンには浮かれすぎてどこ吹く風のようだった。

 

 

アローネ「…故郷へ帰るのですからミシガンが嬉しがるのも無理はありませんよ。

 故郷というのはそこにあるだけで安心感を得られますから………。

 ………そこが自身の帰る場所だと実感できますから………。」

 

 

 ミシガンの様子を見てアローネが共感する。故郷への想いは彼女も強い方ではあるのでミシガンの気持ちが分かるのだろう。

 

 

カーヤ「ミストってどんなところなの……?」

 

 

カオス「ミスト?

 ミストは………、

 

 

 ………のどかな村だったよ。

 マテオとダレイオスが開戦にまで発展しそうだけど十年前のことがなければ今でも多分国が戦争しようとしてることなんて知らかっただろうってくらい平和な村だったんだ………。」

 

 

アローネ「十年前のことについては誰にも予測がつかない事故だったとして言いようがありません。

 殺生石、精霊の存在は人類の誰しもが未知の領域ですからその力が突然失われてしまってもどうしようもありませんから………。」

 

 

ウインドラ「元がその詳細も知らずに殺生石の周りに村を立てたことが事の発端だな。

 いつ力が機能しなくなるか分からないというのに百年もの間何事もなかったことの方が奇跡だ。

 実際にはあの村を守り続けてきた力が今度は世界の存続を揺るがす存在へと変わり果ててしまったのだからな。

 遅かれ早かれ精霊マクスウェルはいつかミストから離れて行ってただろう。

 今のミストの現状はお前が気に病むことではない。」

 

 

 そこまでミストに対して罪悪感があった訳では無いがカオスを心配してアローネとウインドラが慰めの言葉をかけてくる。

 

 

カオス「うん………、

 俺もミストのことについてはもうそんなに気にはしてないよ………。

 でも村の人達とはまだ仲直りしてる訳じゃないからどうしてもね………。」

 

 

 事件のことをカオスと村人達お互いに状況を振り替える機会が出来れば過去のことを清算すること出来ようものだがやはり個人と大勢の話し合いとなるとそれを説明しようにも相手の見幕に流されてしまいそうになる。カオスからすれば精霊が直接村人達の前に出てきて事情を説明してもらうのが一番手っ取り早いことなのだが精霊は相変わらず何も返事がないようで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………?

 ………なんかあっちの方から変な臭いがするよ………。」

 

 

 ミストの村の方に進んでるとカーヤが異臭がすると言う。

 

 

カオス「ミストの方から?

 どんな臭い?」

 

 

カーヤ「…この臭いは………何かを焼けたような………焦がしたようなそんな臭い………。」

 

 

ウインドラ「焼けたような臭い?

 何かが燃えているのか?」

 

 

カーヤ「この臭いはどちらかというともう火が消えた後に臭うものだと思う………。」

 

 

ミシガン「ミストで何か燃やしてたのかな?

 たまに要らなくなったゴミとかが溜まってきたら焼却してたからそれで臭ってきたんじゃないかな?」

 

 

カオス「まだ結構ミストまで距離あるのにこんなところまで香りが届くかなぁ………?」

 

 

 カオス達がいる場所からミストまではまだ1kmは離れている。そんな距離からカーヤの嗅覚に引っ掛かるとなると相当な規模で焼却処理を行ったのだと伺えるが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………この道を進んだ先にミストっていう村があるんだよね………?」

 

 

カオス「そうだけど………どうかしたの………?」

 

 

カーヤ「………」

 

 

カオス「カーヤ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………………え………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミシガンが何かに反応して立ち止まる。

 

 

アローネ「どうしたのですかミシガン?」

 

 

レイディー「何してんだよ?

 お前の用事に付き合ってやってんだぞ?

 そんなところでボサッとしてんな「嘘!」」タタッ!

 

 

 ミシガンが突然走り出した。一瞬見えたミシガンはとても余裕が感じられないような形相でカオス達も何か緊急を要するものをミシガンが目撃したのだと察した。

 

 

アローネ「とにかくミシガンを追いましょう!

 ミシガンが何を見たのかはそれからです!」

 

 

 アローネの一声で皆ミシガンの後を追い掛ける。もうミストの住人の目を気にせずミシガンに続きミストへと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果的にカオス達がミストの住人達と遭遇することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそもカオス達はミストの住人達を見付けることが出来なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミストの村はミストの住人ごと焦土と化して消滅していたのだから………。



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帰れぬ場所

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにはもう何も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………え………?

 お父さん………?

 ………皆はどこ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 的確に説明するなら何も無いということはない。そこにはかつて人が住み生活していたであろう住居や柵、畑の()()()()()()()()()らしきものは微かに残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「!!?

 ………一体ここで何があったんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何があったかは一目で分かることだったがそれでもそう言わずにはいられない。ウインドラ達の目にはミストが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という悲惨な筋書きだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「どうしてこのような………。

 前に訪れた時は何もこうなるようなことは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミストがマテオで最南端にある村だということからバルツィエに戦略的に狙われていたことは知っていた。だがそれは今目の前に見せられているようなあまりにも無惨な姿に変えられるためではない。マテオの北と南を制圧してバルツィエがより一層支配を敷くためのものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………こりゃ狂暴なモンスターやヴェノムによるものじゃないな………。

 確実に人の手による犯行だ。

 黒炭になってるのは村を囲っていた柵の中だけだ。

 こんなに綺麗に柵に沿って放火するとしたら人以外には考えられん習性だ。

 

 

 それも明確な殺意があっての殺人だ。

 これをやった奴はここを焼気尽くす目的でここに来てそれを実行した。

 そうでなければこんな辺境な土地に来たりはしねぇ。」

 

 

 レイディーが冷静に村の状態を分析する。人がこれを行ったのはおおよそ検討がついていた。肝心なのは()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「この焼け様………。

 ボクの村が襲われた時と同じだ………。

 バルツィエに襲われた時のようなそんな………。」

 

 

カーヤ「バルツィエってこんなことする人達なの………?」

 

 

タレス「…カーヤさんはまだ本当のバルツィエを知らないんですね………。

 バルツィエという一族組織は平気で村や街をこんなふうに滅ぼしたりするんですよ。

 ボクの村もここと同じ様に焼かれて………。」

 

 

 タレスがバルツィエの本性を知らないカーヤに説明する。カーヤにとってはバルツィエよりもフリューゲルで受けた虐待の方が根強くバルツィエのことについては何も知らない。バルツィエがこんな行いをする一団だと知って少し肩が震えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ミストがこんな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………こんなことって………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスにとってはミストの村の住人達は憎かった。幼い時に理不尽に偏見や差別といった扱いを受け更には暴力までも奮われた。いつしかどの様な方法でか自分が受けた痛みを直接返してやろうとも思っていた連中ではあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だがいざこの様にミストが壊滅した光景を見せられてはその気持ちも一時の感情でしかなかったのだと想い知らされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が心の奥底に仕舞っていたものは怒りや嘆きといった感情ではなく本心ではまた昔のように祖父や村の皆と普通に生活してみたいという気持ちが溢れてくるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうそれも二度とそんな生活を送ることは叶わない。ミストはこの世から消えた。カオス、ミシガン、ウインドラの故郷はもうこの世界のどこにもありはしない。ミシガンが望んでいたまた三人が揃ってミストで暮らすという夢は儚く砕けちってしまったのだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………そんな…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうしてこんな………ことに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「!

 ミシガン!?」

 

 

 ショックのあまりミシガンはその場で気を失い倒れる。カオス達の中では一番ミストへの想いが強いのが彼女だ。そんな彼女がミストのこの有り様を目にしてしまえばこうなるのも無理はないことだ。

 

 

アローネ「…ミシガンをどこかで休ませる必要がありますね。

 でもここではまた目を覚ましても気を失ってしまいそうですね。

 どこか休めそうな村を探しましょう。」

 

 

タレス「そうは言ってもここ以外にそんな場所があるんですか………?

 ここは王国の目から逃れるために作られた村なんですよね?

 それならすぐ近くに他の村なんてどこにも………。」

 

 

 この辺りの土地についてよく知らないタレスがそう指摘してくる。ここへ来たことが無いのであればそう思うのが普通だが一応人が休めそうな空間は他に一ヶ所だけあるにはあるのだ。

 

 

 

 

 

 

カオス「………旧ミストに行こう。

 あそこなら人もいないしミシガンも落ち着くと思う。」

 

 

 カオスがミシガンを十年間一人で過ごした旧ミストに連れていくように言う。カオスからしてみればそこ以外にはもう他に安全な場所など思い付かなかった。

 

 

ウインドラ「旧ミストか………。

 お前は確かそこに十年前から………。」

 

 

アローネ「そうです。

 カオスが一人で過ごしていた場所です。

 あそこであればここのように焼かれているということは無いでしょう。」

 

 

レイディー「ゴリラから聞いた話だとそこには坊や以外は他は誰も住んではいなかったんだよな?

 それだったらこのミストのように消し炭にされてるなんてこたぁなさそうだな。

 ここ見る限りじゃ明らかに人が住んでたからこうしたとしか思えん。」

 

 

 一旦カオス達は気絶したミシガンを連れてカオスがいた捨てられた村旧ミストに赴くこととなった。



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犯人を許さない

捨てられた村旧ミスト 夜 残り期日七日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイディーの考えていた通り旧ミストに被害という被害は無かった。ミストの村のように物が焼かれていたということもなくカオスとアローネが旅立つ前と変わらずその場所にあった。今は空いている部屋でミシガンを休ませている。

 

 

ウインドラ「………何故ミストがあんなことに………。」

 

 

タレス「徹底的にやられてましたね………。

 あれじゃあ村にいた人達は全滅でしょう………。」

 

 

アローネ「私達がレサリナスを脱出してダレイオスでヴェノムの主と戦っているこの半年の間にミストがあの様になってしまったようですね。

 一体何の目的があってミストをあの様に灰塵に処する理由があるのでしょうか………?」

 

 

レイディー「計画的犯行ではあるだろうな。

 あんなに周到に村の柵の中だけを焼いたとなると何度も現場に足を踏み入れて焼き払うポイントを確認していた筈だ。

 あれを実行した時期がいつのことだかは焼死体からは識別できんが最低でも()()()()()()()()ミストはあぁなっていたと思うべきだろう。」

 

 

カーヤ「一ヶ月………っていうとカーヤ達ユミルの森にいた辺り………?」

 

 

レイディー「いや………もっと前かもしれん。

 ダレイオスからじゃマテオがどんな様子だったか分かりゃしねぇしな。

 誰がアレをやったかは知らんが()()()()()()()()()()より正確な時期がいつか分かるんだがここにいないとなると生き残りがいる可能性も大分低くなるだろうな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………皆………死んだんですね………。

 ミストの皆が………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポロポロ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞳から雫が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「カオス………?

 ………泣いているのか………?」

 

 

 カオスの事情を知っているウインドラが意外そうな顔をする。カオスが村人達との間に蟠りが生じミストには怒り以外の感情は無いものだと思っていたようだ。

 

 

カオス「…自分でも不思議な気分なんだ………。

 あそこにいた人達は皆嫌いな人達ばかりだったけどそれでも長くミストを離れてるといつかまたあそこに戻りたかったって気持ちが湧いてきてさ………。

 ………俺にとってもあそこはやっぱり生まれ育った故郷だったんだよ………。」

 

 

ウインドラ「………そうだな………。

 あそこは俺達にとっては欠けがえの無かった故郷だ………。

 それがどうして………。」

 

 

 カオスとウインドラは自らミストを出た。カオスは村人達とのいさかいによって、ウインドラは自分の意思でミストを捨てた。しかしいつかはまたミストに帰ってくると思っていた。その機会がもう永遠に失われてしまった。ミストはもう村という形を保てなくなるほどに焼かれていたのだから。

 

 

 

 

 

 

アローネ「………明日もう一度私達だけでミストに向かいます。

 カオスとウインドラはミシガンについていてあげてください。

 私達でミストを襲った犯人の手掛かりを探ってみます。」

 

 

タレス「時間が経って犯人の痕跡が消えているかもしれませんがいちおうやれるだけのことはやってみます。」

 

 

レイディー「まぁつっても()()()()()()()()()()()()()()()

 分からねぇのは()()()()()()()()()()()を調べられるだけ調べてみるぜ。」

 

 

カオス「………お願いします。」

 

 

ウインドラ「……世話になる。

 俺達もミストをあんな惨状にした奴が分からないままなのは気分が良くないからな………。」

 

 

 カオス達は一先ず旧ミストで一晩を明かしカオス、ミシガン、ウインドラを残して他のメンバーでミストへ調査に向かう方針で決定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捨てられた村旧ミスト 残り期日六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「レイディー殿達はミストに向かったようだな。」

 

 

カオス「みたいだね。

 ………ミシガンの方は?」

 

 

ウインドラ「…まだショックから立ち直ってはいないな。

 昨日の今日でそう現実を受け止めるのは難しいだろう。

 

 

 ………かくいう俺も未だに昨日のことが信じられなくてな………。

 ………カオス………やはり昨日俺が目にしたものは真実だったのだろろうか………?

 俺は幻を見たのではないよな?」

 

 

カオス「………幻だったらよかったんだけどね………。

 皆が同じ景色を見たんならそういうことなんだと思うよ。」

 

 

ウインドラ「………そうか………。

 ではあのミストは現実だったのだな………。

 ………俺達の故郷があんなことになってしまうとは………。」

 

 

カオス「………そうだね。」

 

 

ウインドラ「………俺は将来ミストを守りたくて騎士になろうと決意して村を飛び出した………。

 十年前のあの様な悲劇を繰り返さないためにも俺は強い力を求めて騎士となって再びミストに戻る日を由芽に見ていた………。

 ………そんな日はもう訪れることは無いんだな………。

 何故ミストがあんな姿になってしまったんだ………。」

 

 

 ミシガン程では無いがウインドラもかなり心に傷を負っていた。カオスでさえもショックなのだからウインドラも当然そうなるだろう。

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………カオス………、

 …やはりミストをやったのは()()()()だと思うか………?」

 

 

 ウインドラが言うアイツ等とはバルツィエのことだ。バルツィエはウインドラが言うにはミストが見付かった時からミストを占領するという話が持ち上がっていたらしい。バルツィエにはミストを襲う動機があるのだ。

 

 

 だがまだ確実な物証が出た訳ではない。

 

 

カオス「…まだ誰がやったかは分からないよ………。

 バルツィエがやったのかどうかも疑わしいんだ………。

 ミストが襲われたのを知ったのも昨日のことだしそれにバルツィエじゃないかもしれないし………。」

 

 

 バルツィエのことを知れば知るほど彼等はそこまで極悪な人種はないことが分かってくる。死亡したユーラスやまだ生存しているランドールはどうかは不明だが少なくともダインやダインが言うフェデールは好んで人殺しをするような人物では無いようだが………。

 

 

ウインドラ「………もしミストをやった奴が分かったらお前ならどうするんだカオス。」

 

 

カオス「俺………?」

 

 

ウインドラ「もし犯人が分かれば俺はそいつに対してどんな行動を興すか分からない………。

 ………お前ならどうする?」

 

 

カオス「俺は………。」

 

 

 ウインドラの質問は質問というよりは確認だ。カオスが何と答えるか分かっていながらもそれを確かめずにはいられなかったのだろう。

 

 

 ………やがてカオスはウインドラにこう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「俺がこの手でそいつを殺すよ。

 捕まえて罪を償わせるとかそんな甘いことは言わない。

 ミストの人達は正直そんなに好きじゃなかったけどそれでも罪の無い人を殺していい訳が無いんだ。

 

 

 犯人が俺の前に現れたら俺が必ずそいつを………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの意思は固かった。犯人を突き止めることが出来たら喩え世界の裏側に逃げようとも追い掛けて仕止めるつもりであった。ウインドラもカオスの返事を聞き一緒に犯人を討つことを決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………がカオスはミストを炎上させて犯人を突き止めはしたが殺すことは出来なかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 犯人が()()()()()()()カオスはその相手に剣を向けることすら出来なかったのだ………。



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紛失した本

捨てられた村旧ミスト 夜 残り期日七日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガサゴソ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あれ………?

 おかしいなぁ………。

 確かここに置いておいた筈なんだけど………。」

 

 

 カオスはミシガンとウインドラの二人と離れて一人旧ミストで行動していた。カオスがいるのはとある民家だ。旧ミストは十年前から半年前までカオス以外の者は誰も住んではいなかったため実質この旧ミストにある民家は全てカオスの家のようなもので施錠という施錠は何もなく堂々とどこへでも出入り出来る。

 

 

 そしてカオスは()()()()を探していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!

 ………ここにいらしたのですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 …あぁアローネか。」

 

 

 カオスが探し物を探しているとアローネが家に入ってくる。アローネ達は昼間ミストへミストを焼き払った犯人の手掛かりを捜索しに出ていた。そして彼女達が戻ってきてからの現場検証の結果はミストが炎に包まれたのは一瞬のことでミストの住人達が焼け死ぬのにそう時間はかからなかったということらしい。住民達の遺体は住居の中や畑があった場所などに散乱しており住居達が普通に毎日の日課を行っている最中に火が村を包み込んだのだ。だから誰一人として炎から逃げられずその場所で息絶えたのだという。遺体も状態が悪く性別すらも判別するのが難しい遺体ばかりだという。仮に生存者がいるのであれば消去法で誰がいないのかを探すのも困難のようだ。

 

 

アローネ「何をなさっておられるのですか?」

 

 

カオス「ちょっと探し物をね………。

 アローネはどうしてここに?」

 

 

アローネ「カオスを探していたのですよ。

 夕食から姿が見えないので一応安否確認のために………。」

 

 

カオス「大丈夫だよ。

 俺は誰かにやられたりはしないから。

 今俺がそう簡単にやられたりしないことは知ってるでしょ?」

 

 

アローネ「それはそうですが精神的なショックはカオスも以前とお変わりありませんから心配で………。」

 

 

カオス「あぁ………まぁ………少し気持ちが不安定な感じはするけど特に気にする程でもないよ………。

 それよりよく俺がここにいるって分かったね?」

 

 

アローネ「十日程でしたが私もカオスとここで生活しておりましたからね。

 カオスがこの旧ミストでよくどこをお使いになるか分かっておりましたから。」

 

 

カオス「あぁそういうことか。」

 

 

アローネ「それでカオスは何をなされているのですか?」

 

 

カオス「この家に昔の本が沢山あったからよくここで本を読んで暇潰しとかしてたんだけどね。

 何かここにあった本が数冊見付からないんだよ。」

 

 

アローネ「本が………?

 どのような本なのですか?

 何か希少な価値のある本でしょうか?

 カオスが不在の間に盗みに入った者が本を………。」

 

 

カオス「そうなのかなぁ………?

 でもこの旧ミストは百年前からモンスターの襲撃で滅びた村って言われてたようだしミストも王国に認知されたのは十年前だよ?

 俺が十年前にここに住みだしてから盗賊とかもやってこなかったし今更こんなところにやってくる人なんているかなぁ………?」

 

 

アローネ「それでどのような本が紛失していたのか分かりますか?」

 

 

カオス「えっとねぇ………。

 昔ウインドラに持ってきてもらったおじいちゃんの奥義書と俺が()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

アローネ「奥義書………?

 あのカストルで見せていただいた書物ですか?

 確かにあの書物はそれなりに価値はありそうですね………。

 それと一緒に紛失されたもう一冊の方は………?」

 

 

カオス「いや………、

 あの本にそんな奥義書と同じくらいの価値があったりはしないたと思う。

 内容も現実のことじゃなくて人が作った神話の話だし子供とかが読みそうなものだったよ。」

 

 

アローネ「神話………ですか………?

 実用的なものでは無さそうではありますがどなたか著名な方が執筆された値打ち物であれば盗っていくとは思いますがカオスはその本が何という方が旧書かれた本か覚えておりますか?」

 

 

カオス「ううん………。

 どうせ生きてる内に本の執筆者達と出会うすことも無いと思ってたし著者に写真でもついていれば覚えていたかもしれないけど大抵の本って名前だけ書いてて顔とかは写ってないから見たとしても記憶してなかったよ。」

 

 

アローネ「そうですか………。

 ………その他には紛失している物などはありますか?」

 

 

カオス「今のところは何も………かな。

 まだそんなに見て回ってないんだ。

 久々に戻ってきたから誰も来なかっただろうけど何か変わってるところとか無いかなぁって。」

 

 

アローネ「それで奥義書と本が紛失していることにお気付きになられたのですね。

 …それにしても奥義書ならともかく神々について書かれてある本を持ち去ったというのはどういった用法に使うつもりなのでしょうか………?」

 

 

カオス「さぁ………?

 でもまだ俺もこの家の全部を調べた訳じゃないんだ。

 もう前のことだし忘れてるだけで別の家に持っていってから読んでたのかもしれないしね。」

 

 

アローネ「宜しければその本のお話私にも聞かせていただけますか?

 どういったものなのか気になりまして。」

 

 

カオス「うんいいよ。

 その本の始めにね………。」

 

 

 カオスはアローネに本の内容を語り出す。当然のことながらアローネはカオスの話を聞き終えた後よく分からないといったような顔をしていた。カオス自身もその本のことついて語っていく上でだんだん自分がおかしな話をしていることに恥ずかしくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()、それがカオスが探していた本の書名だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その本に書かれていた内容は決して創作などの作り話ではなく………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()を記録したものだった………。



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生き残りを求めて

捨てられた村旧ミスト 残り期日六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………」

 

 

アローネ「大丈夫ですかミシガン………?

 まだもう少しお休みしていてもいいのですよ?」

 

 

ミシガン「…ううん………もう平気。

 もう大丈夫だから………。」

 

 

 故郷の村ミストを失っていたことを知ってからまだ日が浅いが気丈に振る舞おうとするミシガン。本心ではショックから立ち直れてはいないのは皆の目から見ても明らかだった。

 

 

ウインドラ「レイディー殿達に聞いた話ではミストに生存者が残っている可能性は低いのだな………?

 犯人に繋がる物的証拠も何も見付からないと………。」

 

 

レイディー「それについてだがミストを焼いた奴はアタシの考えが間違ってなかったらもしかしたら()()()()()()()()()なんじゃないかと疑っているところだ。」

 

 

カオス「一人………?

 複数ではなく?」

 

 

レイディー「ミストがあぁなったのは()()()()()()()()()()()()()()

 爆発の後に残るクレーターが綺麗に中心から円を描くようにハッキリと残っていた。

 

 

 

 

 

 

 ありゃゲダイアンを焼いた奴の手口に似ている。」

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!?」」」」」

 

 

カーヤ「じゃあこの間の街をあんなにした人と同じ人がミストを燃やしたの?」

 

 

レイディー「いや手口が似てはいるが規模が違い過ぎる。

 アタシの知る限りゲダイアン程の広さのある街を一度で消滅させるのと今回のミストとでは術者のレベルが決定的に差があるんだ。

 もしゲダイアンをやった奴と同じ人物がミストを焼いたのだとすると範囲はミストに限らずミストの森全体にまで火が回るほどの火力を持ってミストを消し去っていたことだろう。

 それが今回の火力は()()()()()()()()のレベルだ。」

 

 

カオス「それならバルツィエでそれも火を得意とする奴がミストを………。」

 

 

ウインドラ「火の使い手となると直ぐに出てくる名前はラーゲッツだが奴はもうこの世にはいない………。

 奴がやったかどうか聞くことはもう出来んな………。」

 

 

アローネ「ですがラーゲッツは三ヶ月前まではフリューゲル付近に潜伏していました。

 そしてそこで一度倒して彼のレアバードは今私が所有しております。

 ミストが攻撃されたのが一ヶ月以上前となると彼にはその期間のアリバイがありますので彼が実行したとは………。」

 

 

レイディー「ミストが燃やされたのが三ヶ月以上前だったらそのアリバイは崩れるがな。

 だが奴が犯人じゃないとはアタシも思う。

 もしアイツがミストを焼いたのだとしたらそれについて一言アイツから口にする筈だ。

 ………しかしそんなことは奴は言ってこなかった。」

 

 

ウインドラ「ではラーゲッツの父親という線はどうだ?

 奴等バルツィエの家系で火を扱うのは奴の父親なら十分容疑者になり「それはない。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「ラーゲッツの父()()()()()()()はもうとっくの昔に亡くなっている。

 公式では存命とはしているがありゃ嘘っぱちだ。

 バルツィエのジジイ共はもうアルバート達の先代達から今の代の奴等しか残ってはいない。

 そんでクレバストールに関してだけは王都で謎の事故で死亡したってのをアタシが確認した。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「ラーゲッツの父親が死んでいるだと………?

 それは確かな情報なのか………?」

 

 

 ラーゲッツの父親についてはフリンク領で一度ウインドラがフリンク領に出没したバルツィエについて候補にあげた。その時はそれから直ぐにラーゲッツだったことが判明したがそれ以降は特に話に上がる人物ではなかった。

 

 

レイディー「奴等の研究室のデータにそう書いてあったんだよ。

 そのデータの内容については世間には出回っていない。

 

 

 世間に出す予定のない内容の項目をわざわざ紙に書いて残しておくのは考えにくい。

 クレバストールが死亡済みなのは確かだ。」

 

 

 ここまで自信をもって発言する辺りレイディーはラーゲッツの父親クレバストールが死んでいるのは確実なものだと見ている。そうなってくるとラーゲッツやクレバストールが容疑者から外れてしまう。

 

 

アローネ「他に思い当たる人物はいないのですか?

 あのような村をまるごと消し去る力を持つ方はそう世界に多くは無い筈です。

 バルツィエ以外でもマテオにいらっしゃる方で候補に上げられそうな方は………?」

 

 

レイディー「マテオに限定するとそうはいねぇな………。

 あのミストが焼ける程となるとマテオじゃ最低でもバルツィエクラスだ。

 そのバルツィエに匹敵する力を持つとしたら一人思い当たる人物はいるが………。」

 

 

カオス「誰なんですかそれは………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「カタスだよ。

 カタスティア=クレベル・カタストロフ公爵だ。

 あの人の力ならバルツィエにも劣らねぇだろうしミストぐらいならカタス一人ででも「あり得ません!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カタスがそんなことをする筈が無いじゃないですか………!

 カタスのことは私が誰よりもよく知っています!

 彼女は人を………それも大勢を殺害したりなどしません!」

 

 

 

 

 

 

 ミストを焼いた犯人の候補にカタスティアの名前が出た瞬間アローネがそれを否定する。アローネは容疑者にカタスティアを挙げられたことだけでも激昂する。

 

 

レイディー「………そう怒るなよ。

 アタシはあくまでアレが出来そうな人物を挙げてみただけだ。

 アタシもカタスがそんなことをするとは本気で思っちゃいねぇよ。」

 

 

ウインドラ「そうだな………。

 俺も彼女がそんなことをするとは思えないし第一ミストを滅ぼす()()()()()()()()?

 教皇は犯人では無い。」

 

 

カオス「俺もそう思う………。

 カタスさんはミストの件とは無関係だよ。」

 

 

 カタスを知る者達は彼女がどのような人物かを把握しているため自然と彼女を犯人の候補から外す。カーラーン教会を設立し虐げられる孤児やハーフエルフを保護している彼女がそんな大量殺人を犯すとは思えなかった。

 

 

レイディー「…どちらにしてもアタシ達だけじゃ埒があかねぇよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱここは可能性は低めだがいるかどうかは分からんが()()()()()()()()()()()だ。」

 

 

 その場にいなかったカオス達ではミストで起こったことはどうやっても推察することしか出来ない。それでは具体的に犯人を洗い出すことは不可能だろう。なのでレイディーは実際にそのミストにいた住人で生きている者を探すことを勧めてきた。

 

 

カオス「生きてる人なんているんでしょうか………?

 昨日少し見ただけでもミストの皆が沢山死んでたのに………。」

 

 

レイディー「だからそれはアタシにも分からないっての。

 でもお前達だって調べられるならとことんミストで何があったか調べてみたいだろ?

 それなら手っ取り早いのは現場にいた奴で無事に逃げ仰せた奴を探すんだよ。」

 

 

アローネ「あの村の中にいたとしたらとても助かる見込みはないでしょうがあれだけの数の遺体がある村だとすればお一人ぐらいは村の外へと外出していたかもしれませんね………。」

 

 

タレス「その人がもしミストが焼かれて何処か別の場所に逃げるとしたら………ここになりませんか?」

 

 

ウインドラ「恐らくだがここに逃げてくることはあっても留まることはないだろう。

 この旧ミストもミストからそう遠くはないからな。

 逃げるならもっと遠くの別の村か街だ。」

 

 

カオス「ここからなら一番近いところと言えば………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「()()()()()()()()ではないでしょうか?

 私達がタレスと初めてお逢いしたあの辺りの………。」

 

 

 緑園都市リトビア。初めてカオスがミスト以外で訪れた場所である。そこでカオスはタレスと出逢い旅のお伴となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「リトビア………。

 私もレイディーと一緒に行ったことがある………。

 そこに行けばミストをやった犯人が分かるかもしれないんだね………?」

 

 

 

 

 

 

レイディー「ミストの生き残りがいればだがな。

 行っても無駄骨になるかもしれん。

 どうするよ?」

 

 

ミシガン「………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………行くしかないでしょ。

 私はミストをあんなにした人を絶対に許さない………。

 ミストを燃やした人が分かるなら私はどこにでも行くよ。

 

 

 ………行くしかないんだよ……。

 皆の仇を知らないままだなんて嫌だよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………ではフェデールのことは一旦保留にしておくとして先にミストの生存者が避難してきていないかを確かめるところからですね。」

 

 

ウインドラ「そうだな。

 もし本当に無事に逃げでいてくれるなら誰であっても喜ぶべきことだしな。」

 

 

カオス「………じゃあ行こう………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リトビアへ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達はミストを焼いた犯人の手懸かりを掴むためにミストから無事に逃避した生存者がいることを願ってリトビアへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして後日カオス達はリトビアで限り無く低いと思われたミストの生存者が存在するかどうかの賭けに打ち勝つことなる。ミストから逃げ残れた生存者は一人だけ見付かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかしその生存者との出会いがカオス達を混沌とする世界への第一歩を踏み出させる結果となるのだった………。



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生存者を発見

緑園都市リトビア 夜 残り期日六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達がリトビアに到着する頃また日付が変わりかけている時間帯だった。これまでは一日一日が過ぎるのに焦りを感じていたがヴェノムの主を全て倒した今では以前よりも日々が過ぎ去っていくのに余裕を持てるようになった。

 

 

カオス「…街の明かりが消えてる………。

 もう街の人達が寝静まってる時間ですね………。」

 

 

レイディー「これじゃあ聞き込みが出来るのは明日になるな。

 仕方ねぇから今日は適当な宿を見付けて聞き込みは明日にするか。」

 

 

タレス「そうするしかなさそうですね。

 この街の宿ならボクが知ってるんで案内しますよ。」

 

 

アローネ「お願いします。

 では明日からミストの生存者の捜索ですね。」

 

 

 カオス達はタレスが知る宿へと向かった。幸い宿は日付が変わる寸前までは受付が出来るらしく明かりが灯っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おじいさん「いらっしゃませ。

 本日は何名様がお泊まりになられますか?」

 

 

 宿に入ると宿の支配人と思わしき初老の男性が迎えてくれた。

 

 

ウインドラ「七人だ。」

 

 

おじいさん「七名様ですね。

 お部屋の区分はどう致しましょう?

 同室の部屋がありますがお使いになられますか?」

 

 

ウインドラ「…いや全員個室で頼む。」

 

 

おじいさん「シングルですとお部屋の値段が少々高くなってしまいますが宜しいでしょうか?」

 

 

ウインドラ「構わない。

 一人一部屋で使わせてもらう。」

 

 

おじいさん「連日お使いになりますか?

 それでしたらお部屋の方は明日の朝皆様がお部屋を出られた後にクリーニングを手配しますが。」

 

 

ウインドラ「とりあえず一泊だけにしておこう。

 明日までここでの用事が終わらなかった時は再度またここに来る。

 支払いは今でいいか?」

 

 

おじいさん「はい、

 では七名様で合計三万五千ガルドとなります。」

 

 

ウインドラ「………やはり少々値段が張るな………。」

 

 

 淡々とウインドラが受付を終わらせて皆の元に戻ってくる。

 

 

レイディー「よぉ、

 悪いな宿代奢ってもらってよぉ。」

 

 

ウインドラ「このくらい大した額じゃない。

 部屋も個室でとった。

 明日は結構大変な一日になりそうだ。

 ここも他の都程ではないがそれなりに広い街だからな。

 手分けしたとしてもまた一日時間を費やすことになるだろう。

 移動続きで疲労も溜まってることだし休める施設があるならここで十分に鋭気を養っておくべきだろう。」

 

 

 個室にしたのはウインドラの配慮だった。七人もの人数がいれば常にお互いの目があって気苦労する場面が絶えない。一人になりたい時にも中々なれない今の現状ではこうしてなるべくこういった時間を作るのも悪くはないだろう。

 

 

アローネ「それでは明日は各々起床した人から街で情報を収集することにしましょうか。」

 

 

カオス「ミシガンはまだ休んでていいよ。

 情報集めの報は俺達でやっとくから。」

 

 

ミシガン「…ううん、

 私もやる。

 ミストのことは私も関係者だから私がカオス達に任せて休んでる訳にはいかないもの。」

 

 

 アローネがミシガンを休ませるつもりでそれぞれ別行動をとる提案を出したがミシガンはそれには乗らなかった。故郷が滅ぼされていても立ってもいられないミシガンは自分も捜索に加わる旨を告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「…まぁ何でもいい。

 お前がやるってんならそれを止めることは出来ねぇ。

 坊やと擬きとゴリラの三人がミスト出身なんだ。

 生存者がお前達の知り合いなら一発で探し当てられるだろ。

 アタシ達も聞き込みするよりかはお前達に動いてもらった方が助かる。

 後は明日の進行次第だな。

 

 

 おい支配人。

 アタシの部屋はどこだ?」

 

 

 早々にレイディーが自分の部屋へと向かおうと受付の男性に声をかけた。

 

 

おじいさん「少々お待ちを。

 今係りの者に案内させますので。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()

 この方達をお部屋へご案内しろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・ミシガン・ウインドラ「「「ん?」」」

 

 

 男性が別の部屋で待機していた人物を呼ぶ。それに返事をするのが聞こえて部屋から一人の若い男が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達はその人物の顔を見て驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「おう案内人。

 長旅で足腰がキツいんだ。

 一番いい部屋を頼む。」

 

 

ザック「では二階の突き当たりの角部屋をご用意します。

 お手荷物はこちらの方でお運びしましょうか?」

 

 

レイディー「じゃあ頼………………なんかお前どっかで見たことある顔だな………?」

 

 

ザック「はい?

 私は最近此方に来たばかりでどこかでお会いしましたでしょう…………………か………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ってあ”あああああああああ!!

 アンタは確かミストでミシガンを「こらッザック!!」ヒィィッ!?」

 

 

おじいさん「お客様に向かってアンタなんて呼ぶんじゃない!

 失礼だろうが!

 

 

 申し訳ありませんお客様!

 この者は田舎から出てきたばかりの研修でしてまだ言葉遣いや礼儀もままならない身なんです!

 御宿泊中に何かご迷惑をおかけしましたら直ぐにお言いつけ下さい!

 即刻こんな穀潰しは叩き出しますので!」

 

 

ザック「待ってくれコリーさん!?

 俺ここを追い出されたら他に行く宛が………!?」

 

 

おじいさん「たわけ!

 お前みたいな物覚えが悪くてミスばっかりする田舎者を雇っておくのも一苦労なんだよ!

 何度注意すれば仕事を覚えられるんだ!?

 今度何かしでかしたら追い出すって昨日言ったばかりだよな!?

 私もそろそろお前の面倒をみるのも限界「「「ザック!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その宿で働いていたのはミスト出身のザックだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザック「………へ………?

 ………ミシガン………にカオス………!?

 ………とどちら様………?」

 

 

おじいさん「ザックのことをお知りなんですか………?

 コイツはここから東にあった村から来た奴なんですがそこは何か不幸があったようでして………。」

 

 

レイディー「………支配人………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタ最高だぜ。

 アンタがこの男をここで雇っててくれたおかげでアタシ達がここに来た目的をいきなり果たすことが出来たぜ。

 今ならアタシからこの宿にチップを出してやりてぇくらいだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おじいさん「はっ………はぁ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リトビアに到着し宿泊するために見付けた宿でミストの住人だったザックを発見した。彼がここにいるということは彼からミストについての情報を得られる筈だ。カオス達は支配人に訳を話してザックからミストの話を聞くことにした………。



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カオスに怯えるザック

緑園都市リトビア 夜 残り期日六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…それでザック………。

 君がここにいるってことはミストがあんなふうになったのと関係あるんだろ?

 ミストで何があったか聞かせてくれないか?」

 

 

ザック「あ………う………その………。」

 

 

 ザックが宿での仕事を終わらせた後支配人のおじいさんに相談してザックを呼び出してもらった。ザックからミストのことを聞くためだ。

 

 

ウインドラ「お前がここにこうしているということは他にもお前のように生き残りがいるのか?

 そいつらはどこにいる?

 そして何故お前は助かったんだ?」

 

 

ザック「え………あ………おぉ………。」

 

 

ミシガン「ザック答えて。

 私達どうしてとミストが攻撃された訳を知りたいんだよ。

 私達がいない間にミストで何があったの?

 何でミストの皆があんなことに………。」

 

 

ザック「ミッ………ミシガンその………。」

 

 

 ザックはカオス達の質問に戸惑っているのか中々言葉が続かない。

 

 

 ………と言うよりかは何かに脅えているようにも見える。()()()()()()()()()()()()()………。

 

 

アローネ「三人共そんな問い詰めるよう質問しては怖がらせるだけですよ。

 もっと穏やかにならなくては。

 

 

 ………ザックさん………でよろしいですか?

 貴方はカオス達と同じくミストの方なのですよね?」

 

 

ザック「!

 ………あぁ………そうだよ。」

 

 

アローネ「私達も先日ミストへ御伺いしその際にあのミストの惨状を目の当たりにしました。

 私がカオスやミシガン達をマテオやダレイオスでの旅に同行していただいている間にミストがあの様な姿になっているとは思わず彼等にはとても不幸な旅にお連れしたと悔やんでおります。」

 

 

ザック「?

 カオスはともかくアンタがミシガンを………?

 でもアンタはミストには来てなかっただろ?」

 

 

アローネ「私は村の中にまでは入ってはおりませんが村の外の旧ミストでカオスと出会いカオスを旅に御誘いしそこからウインドラと出会い心配したミシガンを駆け付けてこれまで共に旅をしてきたのです。」

 

 

ザック「………じゃあこっちの女じゃなくてアンタがミシガンを………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………有り難う。

 アンタがミシガンをミストに追い返してたらミシガンまで殺られるところだった。

 俺は運がよかっただけなんだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「二ヶ月前………?

 そんな最近のことなのか………。」

 

 

タレス「これでラーゲッツがミストをやったという疑いは晴れる訳ですが………。」

 

 

レイディー「最初から言ってただろうがよ。

 ラーゲッツだったら自分からそういうことは言ってくるって。」

 

 

ウインドラ「二ヶ月前というとまだ俺達がユミルの森でトレント達に苦戦している最中のことだな。

 その間にミストが焼き払われたということか………。」

 

 

カーヤ「やっぱりパパじゃなかったんだね………?

 カオスさん達の故郷を燃やしたのはパパじゃ………。」

 

 

 ミストを焼いた容疑者にラーゲッツの名前があがりその容疑から外れたことに喜ぶカーヤ。やはり自分の父が仲間の故郷を滅ぼしたとあっては気が気ではなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

アローネ「………それでミストが焼かれて貴方はこうしてリトビアまで避難してこられたのですね?」

 

 

ザック「………あぁ、

 途中旧ミストがあったがあそこは他に誰もいなかったし急に一人になると頭がおかしくなりそうだったんだ。

 一刻も早くあそこから離れないとって思いと孤独になって誰か人のいる場所まで逃げないとって思ってたら前に騎士団の奴等から近くにこのリトビアがあることを聞いたことがあるのを思い出してあとはひたすらここまで走ってきた。」

 

 

ウインドラ「本当に運に助けられたな。

 ミストをやった犯人は恐らく村人を全滅させるのが目的だったことだろう。

 お前だけでも助かったのはまさに奇跡だ。」

 

 

ザック「あ、あぁ………お前もしかしてウインドラなのか………?

 昔突然ミストからいなくなった………?」

 

 

ウインドラ「………そういえばお前とこうして会うのも十年振りになるか。

 久し振りだな。」

 

 

ザック「お前………その服………騎士になってたのか………?」

 

 

ウインドラ「そうだ。

 十年前の事件を通じてどうしても自分の力不足を感じてそれが許せなくてな。

 村に留まっているだけではミストは守れまいと武良を飛び出たんだ。

 ………今となってはそのミストがもう無くなってしまったようだがな………。」

 

 

ザック「………まぁな。」

 

 

 アローネが優しく語りかけるように接したおかげで最初のような吃りが薄れてきたザック。どうにかザックを責めているのではないことだけは分かってもらえたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時にカオスがザックに歩み寄って………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「なぁザック。

 ミストで一体何があったんだ?

 誰があんなこと「ヒィィッ!!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザック「かっ、勘弁してくれ!!

 もうお前の………いやアンタ!じゃなくて貴方のことを邪見になんてしない!!

 どうかこれ以上は許してくれ!!

 頼むお願いだ!

 もう貴方のことを笑ったり蔑んだりしないからぁぁ!!

 だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 尋常と思えない勢いでザックがカオスから部屋の隅まで飛びすさって土下座をする。

 

 

カオス「どっ、どうしたんだよザック………?

 何でそんな………。」

 

 

ウインドラ「ちょっと待てザック。

 お前ミストをやった奴が誰か知ってるのか?」

 

 

 ザックの反応から確実にザックがミストを焼いた犯人を目撃していることを確信する一同。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザック「うっ、うわ!?」

 

 

 ミシガンがザックに掴み架かる。

 

 

アローネ「ミシガン!乱暴なことは「誰なの!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「誰がミストをやったの!?

 誰がお父さん達や皆を殺したの!?

 ザック答えてよ!!

 ねぇったら!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 涙を溢しながらミシガンがザックに訴えかける。それを見たアローネや他の仲間達もミシガンを止めるに止められなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザック「……バ………バルツィエだよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ウインドラ・レイディー「「「「「!」」」」」

 

 

 薄々そうなのではないかと思っていた。ミストは国に存在を知られたとはいえ辺境の奥地の奥地にある村だった。そこに辿り着けるとすれば騎士団やバルツィエぐらいしかいない。

 

 

ザック「………ミストがやられる数日前に()は現れた………。

 半年前からカオス………さんの手配書が色んな街にばら蒔かれて最初は賞金がつくほどの悪人の調査の体で村の皆にカオスさんのことを訊いて回ってるのかと思った………。

 

 

 ………けど実際はこの村がカオスさんに与えた精神的な苦痛や酷い仕打ちの数々を俺達に吐かせた上でカオスさんがこのマテオでも名のある貴族様の血筋であることを明かしたんだ。

 そしてこの村に貴族の次期当主となるカオスさんに対する不当な扱いへの報復としてカオスさんの意向次第で直ぐにでも村を攻撃するって言ってきたんだ………。

 

 

 

 

 

 

 俺達は皆凄く反省したんだよ。

 今にして思えばカオスさんへの仕打ちはただの八つ当たりだったってな………。

 村長もあんなのが来る前にカオスさんと和解しておくべきだったって後悔してたんだ………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 自分がいない間に何者かの訪問によってミストの者達が過去のことを反省していたことについては動揺を隠せなかった。まさかミストの村の者達にそんなことが出来るとは思ってなかったのだ。何者かの手によるところではあったがもしミストが無くなる前に帰ってこれていたらきっと村人達も和解できたのではないかと思うカオス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしミストは既にゲダイアンと同じく消滅してしまった訳でそれはもうこの先ずっと叶わぬ未来と成り果ててしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザック「村の皆でもし今度ミストにカオスさんが帰ってきたらちゃんと謝ろう、過去のことを反省してまた一緒に暮らそう………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そう思っていた矢先にまたアイツが突然やって来たんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール『カオス様の御命令だ。

 この村を即時滅菌する。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!



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フェデールの強襲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………フェデール………?」

 

 

ウインドラ「ミストをやったのは騎士団長フェデールなんだな?」

 

 

ザック「!

 あっ、あぁ………確かカオスさんについて次期当主だって明かし時に自分はレサリナスの騎士団長だとか言ってた。

 そいつで間違いない筈だ………。」

 

 

レイディー「フェデール………だと?

 奴が………。」

 

 

ザック「………なっ、なぁ?

 何でアンタ等今更こんなこと訊いてくるんだ?

 アイツはそこのカオス………さんの命令でミストを消しに来たんだぞ?

 そんなの本人に訊けば直接確かめ「カオスではありませんよ。」」

 

 

アローネ「フェデールとは私達も直にお会いしました。

 そして半年前に一度お会いしてから今日までカオスはフェデールとはお会いしておりません。

 命令についてもカオスは指示していませんよ。」

 

 

ザック「………なんだって………?

 じゃあやっぱりミストは………?」

 

 

ウインドラ「フェデールの独断で攻撃したと言うことになるな。

 カオスの名を使ってあたかもカオスがミストを襲わせたかのように。」

 

 

ザック「………」

 

 

タレス「でも何でフェデールがミストを………?

 まだカオスさんのことを諦めていないということなんでしょうか?」

 

 

アローネ「村の人達にカオスのことを訊き回っていたのはカオスを仲間に引き入れる算段を探していたのかもしれません。

 ですがそこでカオスがミストで容赦ない虐待を受けたことや十年もの間一人孤独に追いやられたことを知って滑降の策と見たのでしょう。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 カオスの敵を葬ればカオスを仲間に引き入れやすくなるのでは?………と。」

 

 

カオス「………俺のせいでミストがフェデールに………。」

 

 

 ミストを攻撃したのはフェデールらしいが動機については自分が関係していることにショックを受ける。ミストの者達はそこまで親密な仲ではなかったがそれでもその空間に長年住みそこを大切に想いいつかカオスとウインドラと三人で戻ってこれたらと願い続けてきたミシガンがカオスの側にいる。カオスにとっては魔境でもミシガンにとっては心落ち着けられる故郷なのだ。

 

 

ミシガン「………よく分かった。

 騎士団長フェデール………。

 その人がミストを焼尽くしたんだね………?」

 

 

ザック「………あぁ………そうだよミシガン。

 あのフェデールって男がミストを焼いたのをこの目でハッキリと見ていた………。」

 

 

カーヤ「見ていた………?」

 

 

レイディー「あん?

 お前その時どこにいたんだよ?」

 

 

ザック「俺は………その時………ミストの森の中にいたんだよ。

 俺ミストでは警備隊に入って森の見回りをしてたんだ。

 騎士の連中だけじゃ心もとないから俺達も用心しとこうとな………。」

 

 

ウインドラ「村には封魔石があっただろ?

 アレがあるならモンスターやヴェノムはミストには侵入することは出来んと思うが………。」

 

 

ザック「あんなのを当てにしてたから十年前はあんな事件が起こったんだ。

 あの事件で俺は親父とお袋を………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 十年前の事件から何も変わってないと思っていたが人によってはあの事件で成長出来た部分があったようだ。ザックのように曖昧な守護の力を頼りにするのではなく自分の力で村を守ろうとする者が洗われたのはミストにとっては大きな進展とも言えよう。

 

 

ザック「………そんであの日森の奥から()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

レイディー「変な気配だぁ?」

 

 

アローネ「それはどういったものだったのでしょうか?」

 

 

ザック「…何か黒いと言うか………黒い闇のような………そんな靄が村と森を覆っててな………。

 前にあのヴェノムってのが現れた後にもなんかそんなのが漂ってた時期があって………。」

 

 

タレス「黒い靄………それって障気なのでは?」

 

 

アローネ「障気が漂っていたということは近くにヴェノムが………?」

 

 

カオス「それでザック………君はその障気のことを調べに森へ出ていったと言うことなんだね?」

 

 

ザック「あぁ………、

 正直またあの化け物経ちに会いたくはなかったがそれでも化け物達がどの辺りまでミストに近付いてきてるか確認しないといけないしな。

 

 

 ………そして結局森には入ってみたがどこから障気ってのが漂ってきてんのか分からなかった………。

 そんで村に戻ろうとしたら村が爆発して入り口にアイツがいて………。」

 

 

レイディー「犯行現場を目撃したってことか。

 顔は見られなかったのか?」

 

 

ザック「その点は大丈夫………だと思いたい………。

 村が焼き果てていく轟音で奴の後ろにいた俺の姿は満てねぇ筈だ。

 奴も暫くは村を眺めていたのを走入ながら確認した。

 俺のことはバレてはねぇと思う………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件を要約すると事件は二ヶ月前のカオス達がダレイオスのアインワルド領でアンセスターセンチュリオンやトレントを相手にしている時に起こった。ミストに騎士団長フェデールが来訪し指名手配犯カオスのことについて身元を伏せて一般の騎士として聴き込みをして回った。調査を進めていく上でカオスがこの村で不幸な幼少期を過ごしていたことを掴みこれを利用してカオスをバルツィエの仲間に引き入れるためにミストに脅しをかければカオスが靡くと考えたフェデール。一度彼は村長や村の者達にカオスがどういっま立場なのかを伝え脅迫しその場を後にするが後日再びフェデールはミストにやって来て凶行に及んだ………。

 

 

 それをその日村の周りに漂ってた障気の発生源究明に勤しんでいたザックがミストを離れていたことで難を逃れ助かった。村に戻ったザックは燃え盛る村とフェデールのすがたを確認してその場から逃げこのリトビアまで来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「(………纏めるとこんなところだがどうも腑に落ちねぇな………。

 奴の手口にしては極端すぎる。

 奴は敵に対しては残忍なことで知られているが一気に人質を殺したりはしたことはない筈だ。

 

 

 ………一度目の訪問の後何があったんだ………?

 一度目の訪問までは奴のいつものやり口だが二度目は何でそんな暴挙に出たんだ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………こりゃまた追加で奴に用が出来ちまったってことか………。

 アタシ等はどうしてもフェデールに逢わなくちゃいけねぇようだな。)」



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偏りのある手配書

緑園都市リトビア 残り期日五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝カオス達はリトビアの広場に集合した。広場には以前カオスが精霊の力を暴走させかけた時に触れた封魔石がある。その手前にカオス達は集まっていた。

 

 

レイディー「いよ~ぉ、

 お前の等昨夜はよく眠れたか?」

 

 

カオス「あまりよくは眠れませんでしたね………。」

 

 

アローネ「私も昨日の話の後では………。」

 

 

タレス「ボクも昨日の話が気掛かりで………。」

 

 

ミシガン「………」

 

 

ウインドラ「眠れはしなかったがザックの話で俺達がすべきことが何なのかは決まった。

 ミストを襲った犯人が誰なのかが分かった今ぼちぼち寝てなどいられんさ。」

 

 

カーヤ「カーヤは眠れたけど………。」

 

 

 昨晩のザックの話からレイディー以外の皆は全員精神が不安定な様子だった。ミストを炎に包んだ犯人は特定した。その犯人がカオス達がマテオに戻る理由となったフェデールだったのだ。

 

 

レイディー「…まぁ寝付きが悪かったのはアタシも同じだ。

 まさかフェデールの野郎があんなマテオの最果てにまで足を運ぶとは思ってみなかったぜ。

 騎士団長が王都の防衛から遠く離れた地まで行く許可がよく降りたもん「レイディーさん。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「そんなことはどうでもいいんです。

 俺達はフェデールに会いに行くんですよね?

 なら行きましょうよ。」

 

 

 レイディーの減らず口に構わずカオスが本題を提議する。元々フェデールに会う目的で帰ってきた、なら早く会ってみなければ、とそんな気迫さえ感じられる程にカオス達ミスト勢の三人から余裕が見えない。

 

 

ミシガン「…そうだよ。

 騎士団長を探して話をするんでしょ?

 だったらこんな街なんかで遊んでないで早く行こうよ。」

 

 

ウインドラ「奴にはバルツィエの本家が敵視している相手とミストの件について詳しく訊問しなければならない

 早いとこマテオとダレイオスが戦争を始めない内に訊き積めねば機会が無くなっていくぞ。」

 

 

 言葉だけではフェデールと話をするだけに聞こえるが彼等の表情からは()()()()()()()()メインにように見える。フェデールと対峙した時問答無用で斬りかかりそうな空気を三人は纏わせている。

 

 

レイディー「………とても話し合いしようって顔じゃねぇぞお前達………。

 奴を見掛けたら瞬間的にぶっ飛ばしそうな面してるぜ?」

 

 

カオス「流石にいきなりそんなことはしませんよレイディーさん………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………余程フェデールに対する怒りの感情が抑えきれねぇくらい膨れ上がってるんだな………。

 こりゃコイツらの頭が冷えるまでフェデールに会うのは止した方がいいんじゃねぇかな?」

 

 

アローネ「そうですね………。

 この様子じゃあ話をするなんてとても………。」

 

 

 カオス達はミストの件を知るまではダインやフェデールといったバルツィエの一部の者は話し合いの通じないあくにんなどではなく御互いを知れば分かりあえる存在なのだも思っていた。フェデールはダインの話からそう想像しただけだったがウィンドブリズ山でカオス達のことを助けたダインが言うならとそう信じてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信じてみたらフェデールはミストを燃やした。カオスは戻るつもりはなかったがミシガンとウインドラがいつか帰る場所を奪われたのだ。彼等二人を大事に思うカオスとしては二人から故郷を奪ったフェデールは許せなかった。喩えダインが良く言っていたとしても………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「…それでレサリナスってところまではどう行くの?

 レアバード?」

 

 

アローネ「いえ………、

 この国………と言いますかこの世界のどこでもレアバードは少々目立ちますね。

 あまり空を人が飛ぶ姿を一般の人達に見せて驚かせてもいけません。」

 

 

レイディー「その通りだな。

 奴等バルツィエの中じゃアタシ等はまだダレイオスにいることになってるだろうよ。

 それがいきなりマテオの国内に現れたら国中大騒ぎだ。

 そんでアタシ等がマテオにいる限りどこにいてもアタシ等の居場所は突き止められる。

 民衆はバルツィエは嫌いだが金で雇われりゃバルツィエに情報を流す奴だっているんだ。

 騎士とかもバルツィエに与してる奴だっている。

 アタシ等はあまり目立つべきじゃねぇのさ。

 国の騎士団長ともいうそれはそれは位がずば抜けて高ぇ野郎と会おうってんならな。」

 

 

 フェデール程の男と会おうとするのであれば正規の手順では直接面会することは難しいだろう。ましてやカオスとアローネについては全国で指名手配中の身だ。逃亡犯に面会する権利など………、

 

 

 

 

 

 

タレス「そういえばカオスさん達の手配書ってどうなったんですかね?」

 

 

アローネ「!

 言われてみれば………。」

 

 

レイディー「そうくると思って今朝方アタシ等がマテオを離れてダレイオスに行ってる最中のマテオのニュースを一通り調べてみたぜ。」

 

 

タレス「いつの間に………。」

 

 

アローネ「仕事が早いですね………。」

 

 

 本来なら皆でしなければならないことだったがレイディーが一人で終わらせていたようだ。そういうところがあるからレイディーには強く文句は言えない。

 

 

レイディー「……アタシ等が不在のマテオの動きだがな。

 四、五ヶ月前にダレイオスで昇った光の魔術にどうも首都の意向が纏まらないらしくてな。

 バルツィエ側はダレに再度宣戦布告を、と考えているようだが他の連中はそれにストップをかけているようなんだ。

 都市伝説大魔導師軍団が実在し戦争になればマテオは負ける、被害を抑えるには戦う前に降伏すべきだとな。」

 

 

タレス「四、五ヶ月前?

 光の魔術………………と言いますと何でしょうか?」

 

 

アローネ「ランドールがセレンシーアインに襲撃に殺ってきた時に空に向けて放ったあのライトニングのことでは?」

 

 

タレス「あぁあれですか。

 ………アレだけで降伏を考えてるんですかマテオは………。」

 

 

レイディー「お前その時四六時中坊やと一緒にいて慣れたかもしれねぇがな。

 あの坊やが使ってる力は普通の奴等からしたら異常なんだよ。

 あんな力を使う奴等となんて戦えるかって評議会じゃ揉めてるそうだぜ。」

 

 

アローネ「そうなんですね………。

 ………まぁ確かに相手の力を見て敵わぬ敵とすれば降伏するのも手だとは思いますが………。」

 

 

レイディー「そんでお前達の手配書についてだがな。

 フェデールが坊やを引き抜こうとしてるくらいだ。

 ()()()()()()()()()()()()()

 代わりに坊やの迷子の届けの紙に変わってたぜ。」

 

 

タレス「話的にはそうなるでしょうね。

 それでアローネさんのは………?」

 

 

アローネ「………私にはカオス達のように撤廃する理由がありません。

 前と変わらず手配書はそのまま「いや内容が変わってたぞ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「アローネ=リム・クラウディア。

 バルツィエが直々に行方を追う旨の超一級犯罪者指定だ。

 情報を提供するだけでも一千万ガルドの報酬金が出るらしいぞ。

 

 

 ………そして何故か()()()()()()に書き変わってた。

 バルツィエは坊やと一緒にお前のことも狙ってるようだな。」



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向かいくるなら誰であろうとも

ムスト平原 残り期日五日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「レサリナスでダレイオスと戦争をするかで話し合いがついてない状態なんですよね?」

 

 

レイディー「あぁそうだ。

 バルツィエはどうにかして戦争に持っていきたいようだが他が反対してるんだよ。

 まだ様子を見るか被害が大きくならない内に和解か降伏すべきだってな。」

 

 

タレス「力がどれだけ大きくともそれを一つに纏められなければ権力なんてたかが知れてますね。

 所詮は人が作ったルールなんですよ。

 破ろうと思えばいつだって破れるんです。」

 

 

アローネ「それでも規律や法が無ければ人の社会は成り立ちません。

 話が纏まっていないのは今の内だけでいずれは一つの決断を下すことにはなるでしょう。

 その時マテオか剣を握るのであればダレイオスがそれに対抗するだけです。」

 

 

ウインドラ「もし今ダレイオスが仕掛けてきたとしたら半年前とは立場が逆にはなりそうだがな。

 戦争の準備も整っていないところに奇襲を仕掛ける。

 半年前はマテオがダレイオスにそうしようとしていたというのに今度はダレイオスがマテオに仕掛けようとしている。

 ダリントン隊が計画していたことがこうも順調に進むとはダレイオスに渡る前からは想像すらできなかった。」

 

 

カーヤ「?

 じゃあどんなふうに想像してたの?」

 

 

ウインドラ「マテオが内輪揉めを起こすとは思わなかったからな。

 マテオが宣戦布告をダレイオスに言い渡しそれにダレイオスが立ち上がりマテオを迎え撃つ。

 それに俺達が加わってマテオと互角にまで持ち込む算段だった。

 それが今や形勢は逆転しつつあるんだ。

 大したものだな。」

 

 

 現在カオス達はレサリナスを目指してリトビアを出発し北上している。ここは以前カオスとアローネ、タレスの三人で通った道ムスト平原だ。

 

 

 

 

 

 

レイディー「…にしても猿の手配書はありゃどういうことなんだろうな?」

 

 

 黙々と歩く………ことの出来ないレイディーがリトビアで調べたという手配書の件を持ち出した。

 

 

カオス「どうとは………?」

 

 

レイディー「ダレイオスに渡る前のレサリナスの城前広場に顔を見せたアタシや擬き、それからガキにゴリラといった面々にも手配書は配布されてんだよ。

 そこは別にいい。

 

 

 疑問に思うのが()()()()()()()()()()()()()()()

 アタシ等にはそこらの山賊盗賊といった程度の額の生死問わず(デッドオアアライブ)、なのに猿だけ超高額のそれも生け捕り(オンリーアライブ)だ。

 どうしてアタシ等とこうまで条件が異なってるんだ?

 アタシ等とコイツとのこの差は何だ?」

 

 

アローネ「と申されましても私にも何故だか………。」

 

 

レイディー「それだけじゃねぇぞ。

 不可解なのはもう一点だ。

 手配書は一応入手してきたんだがな。

 この手配書を作成したのは騎士団じゃなくバルツィエだ。」

 

 

カオス「バルツィエが………?

 バルツィエが俺だけじゃなくアローネを?」

 

 

レイディー「そのようだ。

 そんでこういう物を作る奴と言ったらアタシ等が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

タレス「フェデール………!」

 

 

ウインドラ「フェデールがアローネを………?

 アローネは………カオスの手配書をブラム隊が作った時に一緒に作られはしたが特に何かバルツィエがアローネを欲する理由が見当たらんな………。」

 

 

アローネ「何故私だけこのような………。

 私はバルツィエに関する重要な機密等も保持している訳ではありませんが………。」

 

 

レイディー「手配書を作ったのがフェデールだとすれば奴がまさか一目惚れした女だからとかの理由でこんな手配書を作ったりはしねぇだろうよ。

 そんで本人にも何の心当たりも無いときたもんだ。

 ますます分からねぇな。

 何でお前捕まえるだけでこんな報酬金が出るんだ?」

 

 

アローネ「ですから私にも………。」

 

 

ウインドラ「カオスを確保するのにはアローネを捕まえるのが効率がいいのだと思ったのではないか?

 カオスとは一番長く旅をしているしな。」

 

 

レイディー「もしそうだったとしたら坊やを見付けた報酬金とそこまで差は無いだろうよ。

 だが猿の報酬金は坊やの報酬金の()()()()()()()()()()()()()()

 こりゃ猿に何か坊やよりも優先しなくちゃならねぇ何かがあるってことだ。」

 

 

カオス・アローネ・タレス・ウインドラ「「「「………」」」」

 

 

 ここまで伏せてきたがカオス達にかけられた賞金はタレス、ミシガン、ウインドラ、レイディーの四人が二百万から三百万ガルド。カオスが一億ガルド。

 

 

 そしてアローネについては三億ガルド。これはつまりカオスよりもアローネの方を注視しているということになる。

 

 

レイディー「本当に何も心当たりが無いんだな?

 ここまでの額がどうして自分にかけられたか何もお前は分からないんだな?」

 

 

アローネ「えぇ………、

 私はずっとカオスと旅をしていただけですので………。」

 

 

カオス「よく分からないけどこれどけの金額がついたらどんな人が狙ってくるか分からないよね。

 アローネは俺達で守るよ。」

 

 

アローネ「カオス………。」

 

 

ウインドラ「まぁそのつもりではあるが俺達にも決して少なくはない金額がつけられてるんだ。

 誰か一人を守るのではなく全員が全員を守るんだ。」

 

 

タレス「向かってくる相手に容赦はしません。

 こちらは全力でボク達を狙ってくる人達を迎え撃ちましょう。」

 

 

レイディー「ヘッ、

 そしたらどんどん懸賞金額が上がっちまうわな。

 そんでどんどん腕の立つ奴等がアタシ等を狙ってくるぜ?」

 

 

カオス「誰が来ても変わりませんよ。

 フェデールの元に辿り着くまでは絶対に誰一人捕まることなく突き進むだけです。」

 

 

 

 

 

 

 フェデールへの用事が更に追加された。バルツィエが敵視している相手とミストを焼き払った事情、それとアローネへの謎の執着。ダレイオスでのヴェノムの主討伐が完了してからフェデールに関係する事項が連続で発生している。どうしてもカオス達はフェデールと直接対峙する必要があるようだ。

 

 

 それまでカオス達は何者にも捕まることは出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「カーヤの手配書はないの………?

 皆あるのにカーヤだけないのなんか寂しいな………。」

 

 

カオス「………えっと………この手配書っていうのはね?

 本当は無い方がいいんだよ。

 これは悪いことしたっていうことだから。」

 

 

カーヤ「悪いこと?

 カオスさん達悪いことしたの?」

 

 

カオス「俺達は悪いことしたっていうか………。」

 

 

 その後手配書を見るのが初めてのカーヤに自分達のことを説明するのに苦労するカオスだった………。



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マテオのどこかにいる彼女は

安らぎの街カストル 夜 残り期日四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達はムスト平原、トーディア山脈を越えてカストルの街に到着していた。

 

 

カオス「久し振りだな………この街も。」

 

 

アローネ「前に訪れた時とそう変わってはおりませんね………。」

 

 

タレス「リトビアにいた時もそんなこと言ってましたね。」

 

 

ウインドラ「俺も一度来たことはあったがその時はそんなに長居はしなかったな。

 ここは騎士団と冒険者達とでそこまで仲がいいという訳じゃないからな。」

 

 

カーヤ「そうなの?

 それと騎士団とか冒険者って?」

 

 

カオス「カーヤはまだそこからなのか………。

 騎士団って言うのは国の軍隊だよ。

 冒険者って言うのはギルドとかで依頼されてモンスターを狩ったりする人達のことでどっちもモンスターとかとは戦うんだけど守るスケールに差があるんだ。

 騎士団は国や住民の人達のために戦うけど冒険者は自分達の生活のためにモンスターと戦うんだ。

 モンスターを倒したりしてお金を貰うんだよ。」

 

 

カーヤ「お金………?

 お金って………何?」

 

 

カオス「お金は………その生きるのに必要な「資本だよ。」」

 

 

レイディー「世の中の資源つまりは食い物や貴金属の資材等は数に限りがあるんだ。

 それを欲しいからって好きなだけ取りまくってたら世界中足りない物だらけになるんだよ。

 だからそれを手にする権利の対価として資金っていう紙幣………紙や硬貨といったもので物を交換する仕組みだ。

 それで資源を国の上の連中が管理するんだよ。」

 

 

 カオスがカーヤに金のことについて説明しようとしたらレイディーが横から口を挟んできた。

 

 

カオス「レイディーさん………。」

 

 

アローネ「何だか懐かしいですね………。

 カオスもお金のことについては旅に出てから御存知なかったですからね。」

 

 

レイディー「どうなってんだよこのパーティーはよぉ?

 七人いて金のことを知らねぇ奴が三人もいやがるとはな。」

 

 

ウインドラ「それだけ金に縁の無い世界で生きてきたと言うことだレイディー殿。

 ミストもそうだったしカーヤもダレイオスでは資本自体が停止中だ。

 生きていけさえすればそれでよかったんだ。」

 

 

タレス「関わらなければその存在を知ることすら出来ませんからね。」

 

 

アローネ「世界を練り歩いてこそ見えてくるものもあります。

 自身にとっての常識とは他の方にとっては常識では無いのかもしれません。

 その土地の風習というものは他の場所では考えられないようなことを行う自治体もあるのですからそれを卑下するのは感心しませんよ。」

 

 

レイディー「そうは言うがそっちのラーゲッツの娘はともかくこっちの二人は元々マテオの出身だぜ?

 ミストが国の管理下から離れたのは百年前だ。

 その時には既に資本はこの南部にも流通していた筈だ。

 親やじいさんせだい達は金のことは知ってただろうに。

 それすら教わってこなかったってことになるだろ。」

 

 

カオス「百年も前に他の村と交流を断ってたならその先も教えるだけ不要だと思ったんじゃないですか?

 お金の流通なんて村の中だけで行ってもあんまり意味無いでしょ。」

 

 

 ミストの中だけでは世界の全てを知ることは出来ない。こうして外に出て世界を一周して世界の形がどうであったかを知ることが出来た。自分が憧れていた外の世界は良いこともあれば悪いことも多く経験してきた。そして今自分達は目的をもって旅をしている。そのことに少なからず満足しているカオス。

 

 

レイディー「…まぁそれはそれでいい。

 ここでも念のために情報収集はしておくか。

 ギルドに寄るぞ。」

 

 

カオス「ギルド?

 それは危ないんじゃ………?」

 

 

タレス「指名手配されてるのに堂々とギルドに行くのは捕まえてくれと言っているようなものですよ。」

 

 

レイディー「そんなん関係ねぇよ。

 捕まえようとしてくる奴がいたら逆にそいつらとっちめてやりゃいいんだよ。

 アタシ等はマテオでは野蛮で知られるダレイオスの全土を踏破したんだ。

 マテオの生温い冒険者風情にやられるメンバーじゃねぇよ。」

 

 

ウインドラ「穏便に情報収集するつもりは無いのだな………。」

 

 

 レイディーといると行動の殆どが過激な傾向に偏ってくる。レイディーは争い事を避けて通ろうとはしないのだ。

 

 

アローネ「………!

 情報収集だけであれば別にギルドに拘る必要はありませんよね?

 でしたら一ヶ所だけ揉め事も起こさずに情報を提供していただけそうな場所に心当たりがあるのですけど………。」

 

 

 ふと何かを思い付いたようにアローネが提案するように口を開く。

 

 

レイディー「んあ?

 アタシ等は賞金首だぞ?

 そんな好都合な情報提供者がどこにいるってんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「()()()()()()()です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意表を突かれたようにレイディーが言葉を失う。

 

 

アローネ「あそこであれば何人も突き放したりはしません。

 あの場所なら私達が今訪れられる唯一の安全な情報収集に相応しい場ではないでしょうか?」

 

 

レイディー「………確かにな。

 普段あんなところに行く機会がねぇから忘れてたぜ。」

 

 

タレス「普段行く機会が亡いのにカタスさんと仲が

よかったんですか?」

 

 

レイディー「カタスは学会でもそれなりに顔の効く女だ。

 活動範囲はカーラーン教会だけじゃねぇよ。

 アタシは学業でカタスと知り合いになったんだ。」

 

 

カオス「そういえばそんなこと言ってましたね。」

 

 

アローネ「…フェデールやレサリナスの情報収集もですがカーラーン教会にはもう一つ別のこともお訊きしなければならないことがあります………。」

 

 

タレス「別のことですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カタスのことですよ。

 今彼女の安否がどうなっているのかもカーラーン教会に問い合わせなければなりません。

 ランドールに海上で攻撃を受けてからマテオに戻られてはいるそうですが今頃どこで何をしてるかそれも確かめねばなりません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………それもそうだったね。

 バルツィエに攻撃されてから今カタスさんどこにいるんだろうかも気になるよね………。」

 

 

 カタスティアと分かれてから半年。彼女には教会の中で待つように言われてそれっきりとなってしまっている。アローネはずっとカタスティアのことを気掛かりにしていた。

 

 

アローネ「ダレイオスに渡ってからはカタスがマテオに戻られたとしか情報を受けてません。

 彼女が今マテオのカーラーン教会にいるのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それかバルツィエに捕まっていないか心配で………。」



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マテオから期待の声

安らぎの街カストル カーラーン教会 残り期日四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神父「………教皇でございますか………?」

 

 

アローネ「はい………。

 今どちらにおられるのでしょうか?」

 

 

 カーラーン教会に着くと一人の神父が一日の仕事を終えて教会を閉めるところだった。

 

 

神父「…教皇は現在ダレイオスから帰還なされる途中の海上で荒波に飲まれてから行方が分からなくなっております。

 真申し訳ありませんが私からはこれ以上のことは何も………。」

 

 

アローネ「そんな………。

 ………そうですか………。」

 

 

レイディー「なぁ神父、

 教皇がどの辺りに向かいそうかアンタ等教会のもんでも分からねぇのか?」

 

 

神父「………残念ながら。」

 

 

レイディー「………そうかい。」

 

 

 確実にここでならカタスティアがどこにいるのかを知ることが出来ると思っていたのだが当てが外れてしまった。これではカタスティアが今何をしているのかも分からない。

 

 

カオス「カタスさん………きっと無事だよ。

 多分どこかの街にはいると思うから。」

 

 

アローネ「そうですね………。

 海上で無事だったという報告は聞いているのですからきっと………。」

 

 

タレス「元気出してください()()()()さん。

 カタスさんもかなり修羅場を潜っていると言いますし絶対に生きて「アローネ………さん?」」

 

 

 タレスがアローネの名前を口にした途端神父が反応する。

 

 

神父「………もしや貴女は………手配書の………?

 …よく見れば他の方々もレサリナスで暴れまわったという人達ばかりに思えますが………。」

 

 

レイディー「おう、

 そうだな。

 アタシ等がそうだ。」

 

 

 レイディーは臆面もなくそう言い張った。

 

 

神父「なんと………!?」

 

 

レイディー「それでどうする?

 アタシ等が手配書の人物達だったら何だ?

 騎士団に突き出して金でも受け取ってくるか?」

 

 

 手配書で気付いたのであればそう捉えるだろう。国から正式に報酬金が出るのであれば善行として教会の者であっても犯罪人を捕らえる名義が立つ。

 

 

 

 

 

 

 しかし神父は………、

 

 

神父「………いえ、

 そのようなことは致しません。

 喩え罪人であったとしても人を騙す行為は教えに反します。

 ここでのことは私は見なかったものとします。」

 

 

カオス「…有り難うございます。」

 

 

 見た目通り話の分かる人で助かったと安堵するカオス達。好戦的なメンバーが一人いるが騎士団を呼ばれるということは無さそうだ。

 

 

神父「…それであの………、

 貴女様があの()()()()()()()()()()()()()()様で宜しいのですよね?

 教皇様の妹君様であられる………。」

 

 

アローネ「正式には妹ではありません………。

 カタスとは御兄弟の何方かと結婚していればそうなっていましたね。」

 

 

神父「!

 ではやはり貴女様が本物の………!

 これはこれは先程は大変失礼なことを………。」

 

 

カオス「?

 失礼だなんてことは特に何もありませんでしたけど………。」

 

 

神父「いいえ、

 貴女様方には一つ虚偽の申告をしてしまい………。」

 

 

ウインドラ「虚偽の………?

 何か嘘の情報があったのか?」

 

 

神父「はい………、

 実は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教皇は海上でバルツィエに襲われてから御自身が生存していることを知られてはならないと仰有って各地を転々として身を伏せておられます。」

 

 

カオス・タレス・ウインドラ・レイディー「「「「!」」」」

 

 

アローネ「カタスは生きているのですね!?」

 

 

神父「えぇ、

 半年前にオーギワン港で漂着したらしくそこから暫くは南部の街を移動し続けていたようですが一度北部の本部へとお戻りになる用事が出来たと仰有いそれから一ヶ月程でまた此方に戻ってこられました。」

 

 

カオス「それでカタスさんは今どこに…!?」

 

 

神父「ここへはそれきりでございます。

 騎士団長フェデールが何の用だったかは分かりかねますが二ヶ月前にこの南部を訪れて更に南下しその後リトビアの教会で教皇が確認されたのが私が持つ最後の消息です。」

 

 

タレス「リトビアにカタスさんがいたんですか!?」

 

 

ウインドラ「ではもう少しあの街を探せば教皇が見付かったのかもしれんなぁ………。」

 

 

カオス「と言うかやっぱりフェデールは二ヶ月前にミストに行ったんだな………。

 そして本当にミストをアイツが………。」

 

 

神父「昨今は何やらこの国は慌ただしい御様子でレサリナスの本部も一部バルツィエの暴走とかで取り壊されたとかなんとか………。

 騎士団長フェデールがこの街を通過する際は肝が冷える思いでありました。

 カーラーン教会が国に仇なす存在であるとか冤罪を突き付けられかけたようで私共も毎日が安心して生活を過ごしにくくなっております。

 どうにか国が落ち着くまでここも持つかどうか………。」

 

 

 神父は深刻そうな表情を浮かべる。レサリナスというマテオで一番の都市の教会か壊されたのであれば次は二番目に大きなこのカストルの教会がそうならないか心配なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………安心してください。

 神父。

 私達が教会も国の人々も守って見せます。

 立場を利用して守るべき人達を脅かすバルツィエは私達の手で打ち倒します。

 カタスも教会も何も悩むことなく生活出来るように私達で努力しますから。」

 

 

 アローネは宣言する。自分が、自分達がこの国を変えて見せると神父にそう言った。神父はその言葉を聞いて、

 

 

神父「貴女樣がこの国を変えて下さるのですか?

 教皇もアローネ樣がもうじきこの教会を訪れると仰有っておりました。

 もしやダレイオスの大魔導師軍団という方々の協力を取り次げたのでございますか?」

 

 

カオス「あ………その………。」

 

 

神父「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺達がその大魔導師軍団なんですけど………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神父「………はい?」



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フェデールがしたにしては…

安らぎの街カストル 朝 残り期日三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「一晩御世話になりました。」

 

 

神父「気になさらないで下さい。

 他ならぬ教皇の大切な客人を無下には出来ません。

 一晩と言わず何日でもお泊まりしていただいて結構ですよ。」

 

 

ウインドラ「そうしたいのは山々だが俺達も先に行かねばならないんだ。

 また何かあった時にこの街を訪れた時に利用させてもらうことにするぞ。」

 

 

神父「それではその日が来るのをお待ちしております。」

 

 

 

 

 

 

 

 神父に別れを告げてカオス達は教会を出る。必要な情報は神父から全て聞いた。

 

 

 

 

 

 

タレス「フェデールは二ヶ月前に一度ここを通ってミストに向かったようですね。

 そしてそれから数日後にまたカストルへ戻ってきてレサリナスに帰っていった。

 その行って帰ってくるまでの間にミストを魔術で放火した。

 目撃者の証言もあるのでこれ以上の確証は必要無さそうですね。」

 

 

ウインドラ「動機はカオスに対する自分達バルツィエへの好印象を得るため。

 ミストで住民達に聞き込みを行ったのはカオスをいかにして自分達の軍に引き入れるかを探っていたんだ。

 他のバルツィエとは違って奴だけはレサリナスで見せたカオスの力に興味を抱きまだその力を自分達のものにすることを諦めてはいないんだ。」

 

 

 リトビアとここカストルでの証言を整理するとざっとこうなる。被害にあったミストの住民という目撃者の証言があるのだからフェデールがミストを焼いたという事実は揺るぎようがない。だがレイディーはそれに対し、

 

 

レイディー「引っ掛かるのはフェデールがミストに()()()()()()()()ところだ。

 一度目はそりゃ坊やの調査に来たんだろうよ。

 そんでミストの住人等を脅迫した。

 ここまではいつもの奴の手口だ。

 分からねぇのが二度目の訪問の方だ。

 あのミストのザックとかいう野郎に聞いた話では奴がいちどミストを発ってからまたもう一回ミストに来るのに時間は空かなかったと言っていた。

 どうにもこの部分がおかしい。

 

 

 何故奴は()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 そんな疑問を口にする。

 

 

タレス「どうして戻ってこれたって………ミストを出てから直ぐに考えを変えてミストを葬ることにしたってことなんじゃないですか?」

 

 

カオス「特におかしいようには思えませんけど………。」

 

 

レイディー「いやおかしいぜ。

 奴自身予期せぬ事態に直面したら自己判断で物事を解決しようとするところはある。

 それでも今回の件は流石に奴の手口にしては御粗末だ。

 仮に坊やがミストを好きだったとしたら今回のミスト殲滅は極めて悪手だ。

 フェデールが坊やを仲間にしようとしてるのならもっと慎重に奴は動く筈だ。

 それが何で極端な手に出た?

 何で坊やがミストをどう思ってるかのか坊やに訊く前に決断を下した?

 どうして今までの奴のやり方と今回とで癖が違うんだ?

 アタシにはとてもフェデールの犯行だとは思えねぇぜ。」

 

 

アローネ「…もしやレイディーは今度のミストの件はフェデールではない別の誰かの仕業だとお考えなのですか?」

 

 

 レイディーはミストの疑問点をあげているようでフェデールがミストの犯人ではないと言っている。そこに気付くアローネ。

 

 

レイディー「………突発過ぎるんだよ今回の件は………。

 これがランドールとかがやったって言うならまだ分かるがフェデールがやったとは思えねぇ。

 第一奴は………。」

 

 

アローネ「………?

 第一何ですか?」

 

 

レイディー「………いや、

 何でもねぇ。」

 

 

 何かを言いかけて途中で言うのを止めるレイディー。一体何を言おうとしたのか。

 

 

レイディー「………とにかくこのことはもう少し入念に調べるべきだ。

 フェデールが犯人なんだったとして奴がどうして数日で考えを改めてミストを攻撃したのか………奴等バルツィエは通信機っていう遠くにいても他の連中と話を擦ることが出来る機械っていう物を持ってる。

 もしかすっと実行犯はフェデールでもフェデールにミストを攻撃させた奴がいる可能性がある。

 フェデールはそいつの命令に従っただけかもしれん。」

 

 

ウインドラ「フェデールに命令を………?

 と言うとアレックスとかか?」

 

 

タレス「アレックスならフェデールに命令出来る立場ですが………。」

 

 

レイディー「まだ他にもいるぜ。

 ()()()()()

 奴等はまだフェデールやアレックス世代達にも命令することは出来る。

 今はどこにいるのか知らんがそいつらが暗躍してるってことも考えられる。

 実際奴等が敵視してる奴との戦いに向けてフェデールを急かしたのかもしれないな。

 

 

 そいつらのことも念頭に入れて洗ってみる必要がありそうだぜ。」

 

 

 レイディーは頑なにフェデールが独断でやったとは信じられないようだ。フェデールが実行したとはしてもそれを計画したのはもっと上の者でフェデールは駒として使われただけとカオス達に言い聞かせる。

 

 

 フェデール達バルツィエの先代………。その彼等がミストをフェデールに襲わせたのならカオスはその先代達も仇として見るべきと考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 丁度その頃レサリナスでは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???『………それでそのアルバートの孫が軍勢に加わると言うのか?

 フェデールよ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「えぇ………、

 布石は打っておきました。

 後は彼の故郷ミストをバルツィエの管理下に置き村の者達に彼カオス君への謝罪をさせればカオス君も我々への考えを変えてくれるでしょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???『そう上手く事が運ぶのか………?

 大体お前はアルバートの孫とはろくに話も「この件につきましては………。」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「私がフェデールに一任しております。

 彼の好きなようにさせてみましょう。

 それで昔からフェデールは成功をおさめてきましたから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………有り難うアレックス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「………そうか………。

 だがもしフェデールの策が失敗したとすれば今度こそバルツィエは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()退()()()()

 もう愚か者共の我が儘に付き合うのも御免だ。

 ダレイオスはバルツィエだけで取りに行くぞ。

 そのことを覚えておけ。」



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久し振りに見る顔

オーギワン港 残り期日三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達はカストルを出てレサリナスへ向かうためオーギワン港へとやって来ていた。

 

 

カオス「相変わらずここは賑わいが激しいね。」

 

 

アローネ「そうですね。

 かめにん達が働く姿は一生懸命ではありますが何だか元気を与えられますね。」

 

 

タレス「かめにんは皆趣味が仕事らしいですからね。

 働きながら楽しく趣味に没頭してるようなものなんですよ。」

 

 

ウインドラ「彼等にとってはこれが日常なんだ。

 争いとは無縁の平和そのものでいいことじゃないか。」

 

 

レイディー「あんな運搬作業の何が楽しいんだか、

 アタシには一生理解出来ねぇぜ。」

 

 

 皆オーギワン港で働くかめにんを見てそれぞれの感想を漏らす。

 

 

カーヤ「…なんかこの人達………他の人達と違う………。

 あの背中のアレは………?」

 

 

カオス「!

 そっかカーヤはかめにんは初めてだよね。

 彼等はかめにんだよ。

 人とは違うけど言葉が通じるから普通に話も出来るよ。」

 

 

タレス「ダレイオスじゃうさにんが一般でしたからね。」

 

 

カーヤ「うさにんっていうとマクベル………さん?」

 

 

アローネ「えぇ、

 マテオではうさにんではなくかめにんが運送業を行っているそうですよ。」

 

 

カーヤ「へぇ………。」

 

 

 かめにんにすっかり興味を持ったカーヤ。物珍しそうにかめにんの様子を目で追っている姿はなんとも可愛らしいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもならカオス達の誰よりもかめにんに興味を引かれそうな彼女はここに来てもあまり口を開きそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………その次の北部への連絡船が出る時間帯を調べてくる。

 皆はここで待っていてくれ。」

 

 

 ウインドラがかめにん達の元へと歩いていく。ミシガンの心情を思えばここで和んでいる時ではない。彼女は一刻も早くフェデールの元へと向かいたいのだろう。ミストの村の仇の元へと。事件の真相は既に皆把握している。フェデールがミストを焼いた。カオスへの自分達の印象操作のために。そのためにミストは焼き払われた。彼女はまた大事な時にその場にいなかった。それがまた彼女の心の傷を抉った。

 

 

アローネ「…ミシガン………。

 私達はあちらの方で休んでおきましょう?

 ウインドラがもう少しすれば戻ってきますからそれまで………。」

 

 

ミシガン「…うん………そうだね。」

 

 

 アローネに連れられてミシガンは近くにあったベンチに向かう。ミシガンはまだミストが襲われて失ったショックから立ち直れてはいない。ミストがフェデールにやられたのは二ヶ月前だがミシガンがそのことを知ったのは数日前のことだ。立ち直れていなくても仕方無いことなのだが彼女がこの状態では空の明るさにも少し暗さが混じるように感じてしまう。

 

 

レイディー「………ハァ………。

 ラーゲッツの遺言が気になってマテオに戻ったのは失敗だったのかもな。

 戻るのは部族会議を終えた後にするべきだったか。

 そうしてたらアタシ達はダレイオスの東側の海からマテオの南部じゃなく北部に飛んでミストがあぁなったのを先送りに出来たかも知れねぇってのに………。」

 

 

アローネ「問題を先送りにしたところでいつかはぶつかります。

 ミストが消滅してから二ヶ月も経過していたのですから遅すぎるくらいですよ。

 ミシガンには酷でしたが今回のこの帰還は渡しは正解であったと思いますよ。」

 

 

 レイディーもミシガンのあの様子では減らず口を叩くのも憚られるようだ。ミシガンが落ち込んでからというのもミシガンの前で誰かを挑発するのも控えている。ムードメーカーがナイーブではレイディーも調子が狂うのだろう。

 

 

カオス「…ミシガンにはミストを失った現実を受け止められるだけの気持ちの整理を付けるのはまだ無理だよ。

 もう暫くはミシガンのことはそっとしておこう。」

 

 

タレス「ミシガンさん………。

 ………ボクが同胞のアイネフーレを失ったのと同じように………。

 ミシガンさんのことはボク達も理解できます。

 ここにいる皆は全員これで大切な居場所を牛なったことになるんですから………。」

 

 

レイディー「フンッ………。

 ミストの三人とアタシは故郷を、ガキは故郷と同胞を、ラーゲッツの娘は両親と六年の苦行、猿に関しては世界そのものが変革した。

 ある意味猿が一番抱えてる闇が大きいんだけどな。

 お前等ミスト組はまだお前等同士が生きてるだけマシだとアタシは思うぜ。」

 

 

 これで漸く自分達に追い付いてきたと言わんばかりにレイディーはカオス達がまだ嘆く程のことではないと言いたげだ。

 

 

カオス「失ったもののスケールなんてそんなの比べようがないですよ。

 その人にとって大切だった人や空間が無くなってしまったことをいきなり知ってしまったんです。

 乗り越えることなんてそう簡単なことじゃありませんから。」

 

 

アローネ「傷はいずれ癒える時が来るのかもしれません。

 けど完全に傷が消えることはない。

 傷はずっと残り続ける傷もあります。

 彼女はまだ心に傷を負ったばかり私や貴女のように時間が空いてはいないのですからそんな性急に立ち振舞いを正すことなど二十歳にもならないミシガンに期待するのは可哀想ですよ。」

 

 

レイディー「だったらフェデールに今会わせるべきじゃねぇだろうな。

 フェデールとはアタシ達だけで話を付けるんだ。

 冷静に話が出来ないようじゃ奴も情報をつぐむことだってある。

 ()()()()()………?」ザワザワ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「私の部下達はどうなったのですか!?

 ミストに駐留している彼等はどうなったのですか!?

 どうしてミストに私が行ってはならないのですか!?

 答えてください!」



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ミストにはブラムの部下も…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「ここを通していただきたい!

 私はこの先の村の管理を任されているのです!

 定期的にミストの様子を見に行かねばならないのです!」

 

 

騎士「しかし我等も騎士団長から指令を受けているのです。

 全騎士団員は開戦間近で暫くその現場から動くなと。

 駐留している場所の防衛に勤めよとも。

 

 

 そしてここカストルは北部へと繋がる連絡港。

 ここを横断しようとする者を横断させるなともいい遣っております。

 東の海からダレイオスの密入国者が侵入してくる可能性があるとのことで。」

 

 

ブラム「何を仰有っているのですか!?

 私はその騎士団長直々にミストへ戻る許可を得ているのですよ!?

 私が許可を得たのは先日です!

 貴殿方はいつその指令を承ったのですか!?」

 

 

騎士「指令を下されましたのは二ヶ月程前ですが一週間前に騎士団長はここを訪れて命令続行の旨を伝えられました。

 ですから貴方をここから通す訳にはいきません。」

 

 

ブラム「一週間前ですって!?

 何を仰いますか!

 騎士団長フェデール様は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!

 貴殿方はどなたとお会いになられたのですか!?」

 

 

騎士「いえしかし………。」

 

 

ブラム「もう良いです!

 このことをもう一度フェデール様に問い合わせてみます!

 貴殿方が不当に通行を妨害し任務遂行を妨げになったことを報告します!

 後程貴殿方には相応の処分が下るでしょう!

 後悔してももう遅いのですからね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達は遠くから騎士団隊長のブラムと騎士のやり取りを観察していた。

 

 

カオス「あれ………ブラムですよね?」

 

 

レイディー「何やってんだアイツ………?」

 

 

タレス「何か他の騎士達と揉めてましたね………。」

 

 

ウインドラ「ブラム隊長か………。

 確か彼はミストとリトビアの管理を任されていた筈だが………。」

 

 

アローネ「?

 ブラムさん船に乗るようですね。

 あの船は北部行きなのでは………?」

 

 

 カオス達が見ている中ブラムは北部に向かう船に乗り込む。レサリナスへと帰るようだった。

 

 

 

 

 

 

騎士「…どうなっているんだ?

 騎士団長から通行者をかたく追い返すように言われているが………。」

 

 

騎士二「騎士団長から何者も通すって言われてたよな俺達?」

 

 

騎士「もしかして俺達ヤバイことしちゃったんじゃないか?」

 

 

騎士二「でも騎士団長命令だからな………。

 隊長職であっても例外は無いとも念押しされてたし………。」

 

 

 ブラムが去った後ブラムと揉めていた騎士達が納得のいかない顔でそんなことを呟いた。

 

 

 

 

 

 

タレス「この港から北部に移動するのは難しそうですね。」

 

 

レイディー「どうやら厳戒態勢を強いているみたいだな。

 アタシ達みたいな東の海からマテオに渡ってくる連中を警戒しているようだ。

 こりゃマテオも本腰を上げてきたか?」

 

 

カオス「マテオが開戦しようとしてるんですか?」

 

 

レイディー「まだ分からねぇよ。

 今の様子じゃそうじゃないともとれる。

 戦争が始まるってんなら騎士団隊長格は全員レサリナスに集められるだろうよ。

 なのにブラムは騎士団長フェデールの許可を取ってミストに戻ろうとしていた。

 ………そして何故かこのカストルの駐在達は同じく騎士団長フェデールの命令でここを通さないようにしている。

 変なことになってんな。」

 

 

ウインドラ「フェデールが矛盾した指令を出してるようだな。」

 

 

アローネ「御自分で南北を封鎖なさったのにブラムさんにミストに戻る許可をお出しになり何も報告を受けてない彼等はブラムさんを追い返してしまった………。

 ………彼には手配書を配布された身ではありますがなんだか無駄足を踏まされて気の毒に思いますね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………というかミストのことブラム知らないのか………?」

 

 

 ブラムがここへ来たということはミストに戻るためだろう。しかしミストは既にこのマテオ大陸から消失している。

 

 

レイディー「あの様子じゃ知らねぇんだろうな。

 フェデールの野郎がミストのことをブラムに教えてねぇんだろうよ。」

 

 

アローネ「それに先程彼は部下とも連絡が取れないとも仰ってました。

 彼の部下と言えばミストにいた騎士の方達だとは思いますがもしや………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………まさかミストを襲撃する際フェデールはミストをブラム隊長の部下ごと………。」

 

 

 ブラムの行動と発言から悪い予感が働く。

 

 

カオス「!?

 ブラムの部下ってことは自分の部下でもあるんじゃないの!?」

 

 

ウインドラ「部下というのは確かだがダリントン隊のように自分達バルツィエに反旗を翻そうとしている者達が潜伏している事実もある。

 ブラム隊に関しては今はまだバルツィエ一派とは思われているだろうが彼の部隊はダリントン隊、バーナン隊と同じく反バルツィエだ。

 機を見て此方側につく予定の部隊だ。

 ………そのことをバルツィエに知られてしまったのか………。」

 

 

レイディー「…もし本当にフェデールの野郎がブラムを見限ったんならブラムに何も言わずにミストに行ってミストをブラムの部下達もろとも焼き払ったってのも分かる話だ。

 事前に騎士達に撤退させたりなんかしたらミストの連中が不審に思ってミストから避難する奴がもっといたかもしれねぇしな。

 生存者一人ってのは計算違いだっただろうが。」

 

 

カオス「………じゃあブラム隊は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「ミストの住人達と一緒に葬られたのだろう。

 彼等は何も知らずミストの住人達の巻き添えになったんだ。

 ………ブラム隊長はそのことも知らされずにいたんだな………。

 

 

 ………このことによってますますバルツィエが世界から孤立するように思えるがフェデール達バルツィエは一体何を考えているのだ………?」



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南北の謎の封鎖

オーギワン港 残り期日三日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「船が使えねぇとなると右回りで経由していくしかレサリナスに渡る方法はねぇな。」

 

 

ウインドラ「そうだな。

 地図的にはこの海を船で渡れれば一番近かったんだが通行止めでは迂回するしかあるまい。」

 

 

カオス「それなら東のグラース国道から行くことになりそうだね。」

 

 

タレス「時間がかかりそうですがそうするしかありませんね。」

 

 

アローネ「ではミシガンをよんできますね。

 船に乗船出来なくなってしまったので徒歩で北部に向かうことも説明してきます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一日後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス バルツィエ邸 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「どういうことですかフェデール様!」ガチャッ!

 

 

 ブラムは勢いよく扉を開けてフェデールの私室へと入る。

 

 

フェデール「………?

 どうしたんだいブラム。

 何をそんなに怒ってるんだ?

 君は確かミストへ戻ってる筈だろ?

 

 

 ………と言うか俺の部屋に入るときはノックくらいして欲しいんだが………。」

 

 

 ブラムがまだレサリナスにいることにフェデールは当惑する。半年前に開戦宣言をしようとした際に各地の隊長達を招集してからブラムもレサリナスに滞在していたが中々状況が動かないままなのでブラムが一度ミストの方に戻りたいと言い出しその許可を出して先日出発したばかりだ。開戦についてはダレイオスとダレイオスに渡ったカオス達の同行を探るために先見隊を出していたが一時中断し今は()()()()()()()。暫くはまた以前のように戦況が停滞する見越しだ。

 

 

ブラム「ノックをせずに入室してしまったことについては後程謝罪致します!

 ですがフェデール様!

 何故オーギワン港で南北を現在封鎖していることをお教えして下さらなかったのですか!?

 私はミストに戻る許可をいただきましたよね!?

 それなのに私はカストルで追い返されてしまいましたよ!

 騎士達がフェデール様が何者にもオーギワン港を横断させるなという命令が下されていたとかで!」

 

 

フェデール「何………?

 オーギワン港が封鎖?

 俺がそんな命令を下した………?

 ………何のことだ?

 俺はそんな命令は出してないぞ。」

 

 

ブラム「ですが現に私はこうして南部に向かうことが出来なかったのでございます!」

 

 

フェデール「そんな馬鹿な………。

 本当にそいつら俺の命令でオーギワン港を通行禁止にするって言ってたのか?」

 

 

ブラム「えぇ!

 ですから私はフェデール様に確認のための舞い戻って来ました。

 ではフェデール様は何も御存知無いということでございますね?」

 

 

フェデール「………あぁ、

 まるで心当たりが無い。

 いつからそんなことに………。」

 

 

ブラム「駐在の者達は二カ月前にフェデール様がミストに向かわれてからレサリナスにお戻りになられた辺りでそのように命令を受けたと言っておりました。」

 

 

フェデール「………駄目だ。

 全然記憶に無い。

 第一オーギワン港を封鎖してどんな意味があるんだ?

 俺がそんな指令を下すわけがないだろ。

 ダレイオスの奴等は必ず西の海から侵入してくる筈だ。

 東の海からだと海流に流されて南部に到達する。

 南部からではこのレサリナスに奇襲するのは不可能だ。

 先に俺達が南部に来たダレイオスの奴等を攻めて終わる。

 戦力が集中してるのはレサリナスだ。

 奴等も勝ちに来るわけだからわざわざ東の海から来たりはしないよ。

 来たとしても呆気なく返り討ちだ。」

 

 

ブラム「………分かりました。

 フェデール様はオーギワン港の件は関与なされてはいないのですね。」

 

 

フェデール「そうだよ。

 …一体どこでどう命令を聞き間違えたらオーギワン港を封鎖になるんだか………。

 俺は誰にも指令は下したりせずにミストに行って帰ってきたつもりだが………。」

 

 

ブラム「ではフェデール様。

 改めて私はミストへと戻ります。

 今度はフェデール様の指令書を本日付けでサインしていただけますでしょうか?

 それを見せればオーギワン港の者達も従いますでしょうし。」

 

 

フェデール「いいよ。

 じゃあちょっと用意するから客間で待っててくれるかな。」

 

 

ブラム「えぇ、

 畏まりました。」ガチャ…パタン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「(………何なんだ一体………?

 俺がオーギワン港を封鎖………?

 しかも二カ月前から………?

 俺はそんなことはしていない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺以外の誰かが出したってことか………。

 まさか………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マテオ ???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「………布石は打った………。

 後は何もせずともこの世界は破滅に導かれていくのみ………。

 私自ら手を下さずともこの世界はやがて朽ち果てる………。

 この世界の民等は自ら自分達の世界を壊すのだ………。

 

 

 

 

 

 

 そうして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 精々足掻くがいいさ。

 おのが首を締め上げ続ける愚かな者共よ………。

 我等が悲願の礎となれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして我等は帰るのだ。

 我等が在るべき()()()()()………。」



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迫り来る最期の刻

グラース国道 残り期日一日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

ウインドラ「…とうとう精霊王マクスウェルが宣告していた期日が明日にまで迫ってきたな………。」

 

 

タレス「今日か明日か……それでこの世界がどうなってしまうかハッキリしますね。」

 

 

アローネ「ヴェノムを振り撒きし者ヴェノムの主は既に全て討伐及び無力化しています。

 恐れることは何も無いとは思いますが………。」

 

 

レイディー「本当に今日か明日かのどっちかなのか?

 アタシは実際にアイツが宣言するところは見てないんだがどうなんだ?」

 

 

カオス「………今日か明日のどっちかで正しいと思います。

 俺が今から半年前にアイツからそう言われた時に日付も確認しましたから。」

 

 

アローネ「カオスがセレンシーアインでそのように受けた際の日のことは私も覚えております。

 あの日から半年………つまり今週以内に星の運命が決まることでしょう………。」

 

 

ウインドラ「…デリス=カーラーンのことについて何も言及が無かったからここまでフェデールを追ってきたがフェデールに会うよりも先にこの星がどうなるかが気になるな………。」

 

 

カーヤ「………デリス=カーラーン無くなっちゃうの………?

 カーヤが生きてるから………?」

 

 

メーメー『オレトゴシュジンガイキテタラマズイノカ?』

 

 

レイディー「別に生きててもいいんじゃねぇか?

 少なくとも今のお前達にはヴェノムは感染なんかしてねぇんだ。

 星がどうなるかはまだ誰にも分からねぇ。

 お前達が消えたところでそんなもん精霊の気分次第で決まることさ。」

 

 

ミシガン「…デリス=カーラーンがどうなるかよりも私はフェデールのところに行きたい………。

 フェデールのところに行ってどうしてミストを焼いたのか問い詰めたい………。」

 

 

カオス「ミシガン………。」

 

 

ミシガン「どうしてミストが焼き払われなくちゃいけなかったのか………どうしてミストの皆が殺されなくちゃいけなかったのか………。

 星が砕かれるよりも先にミストが消された理由を聞き出せずに終わるなんて嫌だよ………。」

 

 

 オーギワン港をそっと脱出してからカオス達は東の陸路を辿りマテオ北部までやって来た。ペース的にレサリナスに到着するよりも先に精霊王マクスウェルの課した期日が迫ってきていた。この分ではレサリナス到着までに星が存続するか消滅するかの命運が決する。そうなればここまで来た意味さえも霧散してしまう。

 

 

レイディー「………何も言ってこない奴を気にしてても何も始まらねぇ。

 とにかく開戦前にフェデールを見つけ出して奴等バルツィエがひた隠しにしている情報を吐かせるんだ。

 それがどんな有力な情報かは判断がつかねぇ。

 世界の敵は精霊とバルツィエだけなのか………精霊とバルツィエ以外にも他にアタシ達の敵になりうる奴が存在するのか、まずはそれを知らねぇとな。」

 

 

ウインドラ「そしてそのバルツィエが掴んでいる敵が何を目的にしているかも聞き出さねばな。

 今のところそんな奴がいたとして何かをしようとしている様子は伺えんが………。」

 

 

アローネ「ラタトスクが感知したというシルフとイフリートのことも捨て置けません。

 イフリートに至っては十六年前にダレイオスのゲダイアンを滅したという過去の事件があります。

 彼等が敵視しているのはアルターでお聞きしたシャーマンということも考えられます。

 バルツィエのような強者が恐れるとすればカオスやクララさんのような精霊の力を得たシャーマンくらいしか他に候補が見当たりません。」

 

 

カオス「………何にしても立ち止まってることは出来ないね。

 何も知らないままじゃ何をすればいいのかも分からない。

 フェデールが全ての鍵を握ってるならアイツのいるレサリナスを目指さなくちゃ次には進めないよ。」

 

 

レイディー「…もしもの場合を考えてレサリナスに突入するのはマクスウェルの予告した日付を過ぎた後にした方がいいな。

 レサリナスに入ってからまたあのシーモスの時みたいに人格が変わったりなんかしたら街の中にいる連中も驚くだろうよ。」

 

 

タレス「そうなると予定の日が過ぎる瞬間まではボク達はこのグラース国道で野宿することになりますね。」

 

 

アローネ「最悪の形を想定すればその方が不要な混乱は避けられますね。

 精霊の力の強大さを思えば人込みの中にいては身動きが取りづらくなるでしょうし自由に動ける広い場所でなら精霊が出現した際にも対処しやすくなります。」

 

 

ウインドラ「目標としてはレサリナスからそう遠く離れず一時間………いや数時間歩いた辺りの付近に潜伏するのが妥当だな。

 レサリナスに突入する前にバルツィエやバルツィエに与する者達に見付かるのは面倒だ。

 フェデールに近付く際は此方から奴を発見して接近するのがベストだ。」

 

 

カオス「それで決まりだね。

 それなら今日はそんなに遠くまでは移動しないでよさそうだね。

 ミシガンもそれでいいよね?」

 

 

ミシガン「…大丈夫それくらいならなんとか………。」

 

 

レイディー「レサリナスに突入するのは明後日だ。

 明日さえ乗り越えることが出来たら外壁の警備の様子を見て侵入出来そうな経路を探すぞ。

 それまではこのグラース国道のモンスター達が襲ってこなさそうな場所でも見付けてそこで夜を待つことにする。

 異議は無いな?」

 

 

 レイディーの確認に皆頷く。一刻も早くフェデールに合間見えたいところだが精霊の出方次第ではフェデールどころではなくなる。カオス達はその後レサリナスを視界に捉えた原っぱで夜営の準備をして夜を越した………。



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終末襲来

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………あとどのくらい?」

 

 

タレス「あと………三分ぐらいですね………。」

 

 

カオス「三分か………。」

 

 

タレス「はい………。

 あと三分で………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マクスウェルが指定したという日付に変わります。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遂にこの日が来てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半年前にカオスが精霊から言付かった期日の期限の日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「これで何事も起こらなければ世界は………私達は精霊の試練に打ち克ったことになります。

 ………もし何か起こるのならその時は………。」

 

 

カオス「世界の終わり………。」

 

 

アローネ「………えぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達は精霊が課した試練ダレイオスのヴェノムウイルスの緩和化は成し遂げてはいるが未だヴェノムが根絶出来たとは言えない。ヴェノム出現から百年が経過しその勢いをダレイオスは緩めることは出来ても止めることは出来なかった。ここ六年の内にウイルスが突然変異を来たしヴェノムに感染しても時間経過で飢餓する筈がその飢餓を克服した個体が九体も現れた。それらが九十年堪えに堪え忍んだダレイオスの部族達を苦しめ九つあった部族が六つにまで減らされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「今のところは景色が変わったりなどはしてないな………。

 あの精霊の力なら天候を塗り替えることくらい可能そうだが空を見てもいつも通りの空のようにしか見えん。」

 

 

レイディー「どうなんだろうな。

 ゆっくりと星に攻撃を開始するんじゃなくて一瞬でこの星をバラバラにしちまうんじゃねぇか?

 あの精霊はこの星の誕生よりも前からいる存在なんだろ?

 それこそ宇宙が誕生した時にあったって言われている()()()()()が起こったぐれぇ昔からいそうなもんだ。」

 

 

アローネ「ビッグバン………?

 何なのですかそれは?」

 

 

レイディー「ん?

 ビッグバン知らねぇのか?

 結構物知りな奴だとは思ってたがアインスの時代じゃ教えて貰わなかったのか?

 ビッグバンってのは大昔に宇宙が誕生した瞬間に起こったとされる超巨大な大爆発のことだよ。

 厳密には爆発じゃないって学者もいるんだがな。

 その爆発が起こった要因とされるのが限られた空間内に異常な程の熱エネルギーが集中しすぎてそれに限界が来て破裂した、噛み砕くとそんな感じになるのがビッグバンだ。」

 

 

アローネ「ビッグバン………。

 アインスでは聞いたこともありませんね………。」

 

 

レイディー「なんなんだろうな?

 この時代よりも文明や技術が高そうなのにビッグバンの理論には行き着かなかったのか?

 お前やカタスのように人の時間を止めて時代を越えるような技術なんてこの時代にはねぇんだぞ。」

 

 

ウインドラ「アローネが教わっていないだけなのではないか?

 ビッグバンなら俺でも聞いたことがあるぞ。

 ミストでも探せばその類いの本はあった筈だ。

 カオスも名前ぐらいは聞いたことあるよな?」

 

 

カオス「そうだね。

 天体や星のことについては人並みだけどある程度なら知識はあるよ。

 …本当に名前を聞いたことがある程度だけど………。」

 

 

アローネ「ビッグバン………。

 ………アインスでは宇宙の始まりは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言われてまして星の誕生がいつだったかまでは「静かに!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「………あと九秒で日付が変わります。

 皆さん心の準備を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこう話している間に時間がいよいよ迫ってきていた。日付が変わった時この世界がどうなるかが決定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「七………六………五………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(…やれるだけのことはやった。

 皆も頑張って来たんだ………。

 何も心配することなんて無い。

 心配なんて………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「四………三………二………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タレスが日付が変わる時間を秒読みしてる中カオスは二十日前にアルターで見た夢のことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………あの時見た夢ではアローネが側にいてそれで周りの物が全部吹き飛ばされていった………。

 アローネも爆発に巻き込まれたけど爆発が収まったらアローネは無事だった………。

 無事だったけどアローネはあの夢の中では………。)」

 

 

 残り二秒という時に一気に不安が膨れ上がってくる。カオスが夢に見たものは非現実だ。現実のものとは違う。それにあの時とは状況が違いヴェノムは確実に現象傾向にある。精霊の言った条件は満たしているのだ。

 

 

カオス「(…アローネはヴェノムなんかじゃない………。

 ヴェノムに感染すらしていないんだ。

 ヴェノムに感染することもなかった。

 世界だって精霊なんかに破壊されたりは………)」「一。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………………?

 何も起こりませんね………?」

 

 

ウインドラ「…俺達は生きているよな………?

 世界も崩壊はしたりはしていないよな………?」

 

 

タレス「…えぇ、

 世界の破壊は始まっていません。

 精霊だって何も………。」

 

 

カーヤ「?

 何かが壊れたとかそんな感じはしないよ………?」

 

 

ミシガン「…ってことは私達は精霊との戦いに勝ったってこと………?」

 

 

 日付が変わり精霊が予言した日が訪れたが世界に変化は見られない。精霊も沈黙したままだ。

 

 

レイディー「………坊や、

 どうだ?

 何か体に違和感とかはないか?

 精霊が何か反応とかはしてないのか?」

 

 

カオス「………いえ、

 何も感じません………。

 精霊も出てこようとかはとくには………。」

 

 

アローネ「きっとダレイオスのヴェノムの数が目標よりも減数したので精霊が星を破壊するのを取り止めたのですよ。

 だから精霊は何も言って来ないのではないでしょうか。」

 

 

カオス「………そっ、そうだよね。

 俺達ダレイオスにいたヴェノムの主を全部倒したんだし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マクスウェルもデリス=カーラーンを」カッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如カオスの体が強い光に包まれる。辺りがセレンシーアインで一度体感した時のように昼夜が反転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『審判を下す時が来たようじゃな。

 先に申していたように儂はこの星屑を砕くとしよう………。』



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判決は滅び

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッ………!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの体が突如眩い光を放ち出す。

 

 

カオス「!?

 なっ、何だ………!?」

 

 

アローネ「カオス………!

 うっ………!」

 

 

ウインドラ「これは………!?」

 

 

 カオスの体が発光したのに反応して振り替える仲間達だったが太陽のような強烈な光に至近距離で穿たれ目を開くことが出来ない。

 

 

タレス「一体何が………!?」

 

 

ミシガン「………!」

 

 

カーヤ「カオスさん……!」

 

 

レイディー「ッ………来ちまうってのか!

 世界の終焉が………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うっ…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が更に強くなって体を焼くかのような熱を持ち出す。どうすることも出来ずに苦痛の声をあげるカオス。

 

 

アローネ「カオス………!

 気を………しっかり………!」

 

 

 目は開けられずとも光の中を声だけを頼りに歩み寄るアローネ。彼女はカオスに手を伸ばしてカオスの体に指が触れた瞬間に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光だけがカオスの体から離れ天空へと昇っていく。()()()()()()がカオスから飛び出したことによってカオスは高熱の苦しみから解放される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして天の光は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『時は来た………。

 これより儂はこの星屑を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砕かせてもらうとしよう………。』パァァァァ!!

 

 

 空に浮かぶ光の中から杖を持った老人が現れそう宣言すると魔法陣が空を埋め尽くすほどにまで展開してやがて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ・レイディー「「「「「「「!!?」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法陣が消えると老人から放たれる光も収まり夜の世界が帰ってくる。一瞬時間帯を忘れていたカオス達だったが今は日付が変わったばかりの真夜中だ。夜の闇は濃く寸分先の道すらも深いに包まれて見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその闇が徐々に晴れていく。闇は()()()()()()()()()()()()()()そこにある全ての物に色を帯びさせていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………光が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()()()()()!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段夜になると視界に捉えはするが決して手に届くことのない宇宙で光を放つ星々が光度を上げて接近してくる。夜空に光る無数の流星達がこのデリス=カーラーン目掛けて飛来してくるのが分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『この星屑の子等よ。

 去らばだ。

 儂が手を下さずともこの星屑に生きる者供はいづれヴェノムによって永遠の苦しみを与えられるだろう。

 果てることの無い無限の苦しみを味わい続けるくらいなら今儂がここでこの星屑の全てを終わらせる。

 終わらせて()()()()()()()()()()()()()()()()()

 儂の力であれば痛みも苦しみも死も感じることなく冥府へと誘える。

 安心して儂の力に身を委ね』「お前ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「お前がマクスウェル…………!

 ………殺生石の精霊なのかッ!!」

 

 

 カオスが頭上に浮かぶ老人に叫ぶ。老人もそれに答えた。

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『…左様じゃ。

 儂がお主等がマクスウェルあるいは精霊王あるいは殺生石の精霊と呼ぶ存在じゃ。』

 

 

 

 

 

 

カオス「!!

 ………お前が俺の人生を滅茶苦茶にしたあの……!!」

 

 

 

 

 

 

アローネ「これから何をなさるおつもりなのですか!?

 まさかこの星を砕くのですか!?」

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『そのつもりじゃ。

 儂は今からこの星屑をこの宇宙から消し去る。』

 

 

 

 

 

 

タレス「どうして…!?

 ボク達は貴方の言う条件をクリアした筈です!

 まだ何か他に満たしていない条件があったんですか!?」

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『人の子等よ。

 お主等の頑張りとやらはしかと見物させてもらっていた。

 

 

 じゃが結論から言ってこの星屑からヴェノムが消えることはない。

 ヴェノムを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 張られた根はもうお主等では到底殺ぎきれぬところまで伸ばしておるのじゃ。

 よって儂がその根を断つことにするぞ。』

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「旅の中で幾度となく貴方の力には助けられてきた………。

 貴方の力が無ければ乗り切れない場面も何度もあった。

 ………本当にこれで終わってしまうのか………?

 俺達の未来はここで跡絶えてしまうというのか………。」

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『致し方あるまいよ。

 ここを放っておけば他の星屑にも影響を及ぼす。

 ヴェノムとはそれほどまでに強い力を持つ災いの源なのじゃ。

 この星屑のためだけに他の宇宙の子等に害を広めることはならぬ。』

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………!

 カーヤが!

 カーヤがいなくなれば星を壊すのは待ってもらえない!?

 ヴェノムはカーヤのせいで広まったの!

 だから……!」

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『ことはお主だけの問題ではない。

 お主を葬ったところでこの星屑に巣食うヴェノムは滅び去りはしない。

 この星屑そのものが既にそういう段階まで来ておる。

 誠に残念に思うぞ星屑の子等よ………。』

 

 

 

 

 

 

ミシガン「悪いんだけど私達はまだ死ねないの。

 私達はフェデールに会わなくちゃいけない。

 勝手にこの星の運命を決めないで。」

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『仕方なかろうて。

 他に手段を選んではおられんのだ。

 恨むのであればこのヴェノムにまみれた星屑に生まれたことを恨むのだな。』

 

 

 

 

 

 

レイディー「おいおいじいさん。

 そんなに焦るような話でもないんじゃねぇのか?

 アンタの力なら簡単にこんな星を潰すことは出来るだろうよ。

 そんぐらい力があるならせめて人類が絶滅するまで待ってもらえねぇか?

 人がヴェノムを作り出したって言うんならアタシ達人類がきっちりケジメをつけなきゃいけねぇ。

 それが無理だと思ったらこんな星ぶち壊していいからよ。」

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『そうか………。

 

 

 それならばやはり今壊そう。

 お主等ではヴェノムやヴェノムを生み出し者を倒しきるのは無理じゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………始めから儂がこの星屑を葬るしか方法は無かったのじゃ………。』



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星の雨再び

ダレイオス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達が精霊マクスウェルと対峙していた時間、対岸のダレイオスでは昼を過ぎた辺りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「…どうじゃ?

 儂があの者の血液を解析して作った()()の調子は?」

 

 

オサムロウ「まさかこのようなマジックアイテムを作り出せるとはな………。

 対バルツィエ用兵器か………。

 これがあればダレイオスはバルツィエに敗北すると言うことはあるまい。

 何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からな。」

 

 

オーレッド「長い歴史の盲点を射抜く素晴らしい作品じゃ。

 開戦後は主軸の戦力となるぞ。」

 

 

ファルバン「だがこの魔道具は時間制限があるのだろう?

 一度きりの使い捨てのようだが一人一人に普及することは出来ないのではないか?」

 

 

オーレッド「儂等もこれを作り上げるのに相当時間を費やしたからな。

 戦士達に全て配るのは無理じゃ。

 精々一、二軍に配るのがやっとというところじゃな。」

 

 

クララ「それではどうするのですか?

 兵士に装備できる武具が不足していてはいざ前線の兵士が倒れでもすれば敵は此方の本陣にまで攻めて来ます。

 機動力は彼等の方が上なのですから。」

 

 

オーレッド「その程度のことを儂が思い付かないと思ったか?

 儂としてはアインワルドの長が十年から二十年ごとに代替わりすることの方が心配じゃがな。

 先代のカルラはどうしたんじゃ?

 その前のクルトもまだ若たかった思うが?」

 

 

クララ「母と祖母は………事故で………。」

 

 

オーレッド「またか?

 アインワルドの巫女はどうしてそんなに原因がよく分からん事故で他界するんじゃ?

 

 

 本当に事故なのか?

 本当は儂等を出し抜こうとバルツィエのような非人道的な行いでもしておるのではないか?」

 

 

クララ「アインワルドは決してそのようなことは行っておりません!

 私達はそもそも貴方方他の部族のように自ら他の領域を踏み越えて侵略するようなこと自体行ったことがありません!

 貴方方と一緒にしないで下さい!」

 

 

ファルバン「スラートもそんなことはしてはおらんぞ。

 クリティアと同列にするでない。」

 

 

ミネルバ「ミーアも同意見だね。

 私達こそ自然と共に生きてきた部族だ。

 クリティアやブルカーンのように凶悪な神経は持ち合わせてはいないよ。」

 

 

オーレッド「……なんじゃ?

 まるで儂等が悪者みたいじゃな。

 悪者なら儂等クリティアじゃなくて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すぐそこにおりゃせんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「六年前にダレイオスに出現したヴェノムの主………。

 当初こそバルツィエによる仕業だと思うておったがその発生源がフリンクだったとはなぁ?」

 

 

ファルバン「それには余も驚かされた………。」

 

 

ミネルバ「ミーアもそんな背景があったなんて知らなかったわ………。」

 

 

クララ「アインワルドもまさかダレイオスがヴェノムの主に関与してるとはとても………。」

 

 

 

 

 

 

ナトル「返す言葉もない………。

 ヴェノムの主の出現については全て我等フリンクが責任を追う。」

 

 

オーレッド「ほう?

 どの様に責任をとるのじゃ?

 ヴェノムの主に滅ぼされたアイネフーレとカルト、ブロウン、その他ここに集まった四つの部族でヴェノムの主の犠牲になった者達に謝罪でもしてみるか?

 それで儂等の気がすむと思うてか?」

 

 

ファルバン「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 余は頭を下げた程度でソナタ等フリンクを赦したりはしないが?」

 

 

ミネルバ「…私も父や母をクラーケンに殺されてるんだ。

 アンタ達フリンクも同じくらいの痛みを感じてもらわないと納得出来ない。」

 

 

クララ「アインワルドは………犠牲者は出しましたが………。」

 

 

ナトル「ソナタ等の言いたいことは分かっているつもりだ。

 だが同じ痛みを受けるというのは了承出来ない。

 私達の中から無意味に死者は出したくはない。」

 

 

オーレッド「ではどうするのじゃ?

 フリンクはいかようにして贖罪とするのじゃ?

 生半可な償いでは償いとは認めんぞ?

 アインワルドの話では彼等はブルカーンをも儂等の協定に引き込むようじゃがブルカーンにフリンクの隠蔽を告げれば暴虐なあやつ等がフリンクに何をしてくれるかのう?

 のう?

 とうじゃ?」

 

 

ナトル「当然ブルカーンにも白状する。

 フリンクがヴェノムの主発祥の地であることはな。

 それで我等フリンクが滅ぼされようとも我等は素直にそれを甘んじて受けよう。

 それがフリンクの宿命(さだめ)であっただけのことだ。

 何者も恨みはしない。」

 

 

オサムロウ「………いやに潔いな。

 それだけ自信があるということか?

 貴様等フリンクが我等に支払う賠償に。」

 

 

ナトル「自信か………。

 命や金になるものはない。

 ………が代わりに我等はこれから行われるマテオとの戦争でソナタ等他の部族よりも兵士を徴集するつもりだ。」

 

 

ファルバン「それが何になると言うのだ?

 兵士を徴集するのは当然の義務だ。

 数だけ増やすだけでは何も「そして………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「ダレイオス、マテオの戦争が終結した暁には我等フリンクは何も望みはしない。

 マテオとの戦いで得た戦果は全てソナタ等で分けあってくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファルバン・オサムロウ・ミネルバ・クララ「「「「!?」」」」

 

 

オーレッド「戦いで勝ち取った物資や領土を放棄すると言うのか?

 それではフリンクは我等の戦いに無償で奉仕するということか?」

 

 

ナトル「無論だ。

 我等フリンクは戦争には参加する。

 そしていかに犠牲が出たとしても何も要求したりはしない。」

 

 

ファルバン「それではフリンクは戦争に参列するだけ損なのではないか?

 何のために参戦すると言うのか………。」

 

 

ナトル「我等フリンクが一人でも生き残るためだ。

 百人死のうが千人死のうが種が生き残りさえすればいい。

 そのためなら我等フリンクはボランティアとしてソナタ等を支援させてもらう。

 戦後も口出ししたりはしない。

 ソナタ等と彼等とでこの星の舵を取っていけばいい。」

 

 

オーレッド「プライドを捨てて種の存続に賭けるか………。

 呆れた根性じゃな………。

 それならブルカーンもそう易々とソナタ等を………!?」ゴゴゴゴゴココゴゴ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴココゴゴゴゴゴゴゴココゴゴゴゴゴゴゴココゴゴゴゴゴゴゴココゴゴゴゴゴゴゴココゴゴゴゴゴゴゴココゴゴゴゴゴゴゴココゴゴ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「何だこの音は………!?」 

 

 

ミネルバ「どこから聞こえてくるんだい!?」

 

 

クララ「(………!

 これは………空から………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変です族長!」ガチャッ

 

 

 

 

 

 

ファルバン「何事だ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空から………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空から星が降ってきます!!!」



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王の裁き

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッ………!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの体が突如眩い光を放ち出す。

 

 

カオス「!?

 なっ、何だ………!?」

 

 

アローネ「カオス………!

 うっ………!」

 

 

ウインドラ「これは………!?」

 

 

 カオスの体が発光したのに反応して振り替える仲間達だったが太陽のような強烈な光に至近距離で穿たれ目を開くことが出来ない。

 

 

タレス「一体何が………!?」

 

 

ミシガン「………!」

 

 

カーヤ「カオスさん……!」

 

 

レイディー「ッ………来ちまうってのか!

 世界の終焉が………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うっ…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が更に強くなって体を焼くかのような熱を持ち出す。どうすることも出来ずに苦痛の声をあげるカオス。

 

 

アローネ「カオス………!

 気を………しっかり………!」

 

 

 目は開けられずとも光の中を声だけを頼りに歩み寄るアローネ。彼女はカオスに手を伸ばしてカオスの体に指が触れた瞬間に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光だけがカオスの体から離れ天空へと昇っていく。()()()()()()がカオスから飛び出したことによってカオスは高熱の苦しみから解放される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして天の光は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『時は来た………。

 これより儂はこの星屑を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砕かせてもらうとしよう………。』パァァァァ!!

 

 

 空に浮かぶ光の中から杖を持った老人が現れそう宣言すると魔法陣が空を埋め尽くすほどにまで展開してやがて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ・レイディー「「「「「「「!!?」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法陣が消えると老人から放たれる光も収まり夜の世界が帰ってくる。一瞬時間帯を忘れていたカオス達だったが今は日付が変わったばかりの真夜中だ。夜の闇は濃く寸分先の道すらも深いに包まれて見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその闇が徐々に晴れていく。闇は()()()()()()()()()()()()()()そこにある全ての物に色を帯びさせていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………光が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()()()()()!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段夜になると視界に捉えはするが決して手に届くことのない宇宙で光を放つ星々が光度を上げて接近してくる。夜空に光る無数の流星達がこのデリス=カーラーン目掛けて飛来してくるのが分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『この星屑の子等よ。

 去らばだ。

 儂が手を下さずともこの星屑に生きる者供はいづれヴェノムによって永遠の苦しみを与えられるだろう。

 果てることの無い無限の苦しみを味わい続けるくらいなら今儂がここでこの星屑の全てを終わらせる。

 終わらせて()()()()()()()()()()()()()()()()()

 儂の力であれば痛みも苦しみも死も感じることなく冥府へと誘える。

 安心して儂の力に身を委ね』「お前ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「お前がマクスウェル…………!

 ………殺生石の精霊なのかッ!!」

 

 

 カオスが頭上に浮かぶ老人に叫ぶ。老人もそれに答えた。

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『…左様じゃ。

 儂がお主等がマクスウェルあるいは精霊王あるいは殺生石の精霊と呼ぶ存在じゃ。』

 

 

 

 

 

 

カオス「!!

 ………お前が俺の人生を滅茶苦茶にしたあの……!!」

 

 

 

 

 

 

アローネ「これから何をなさるおつもりなのですか!?

 まさかこの星を砕くのですか!?」

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『そのつもりじゃ。

 儂は今からこの星屑をこの宇宙から消し去る。』

 

 

 

 

 

 

タレス「どうして…!?

 ボク達は貴方の言う条件をクリアした筈です!

 まだ何か他に満たしていない条件があったんですか!?」

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『人の子等よ。

 お主等の頑張りとやらはしかと見物させてもらっていた。

 

 

 じゃが結論から言ってこの星屑からヴェノムが消えることはない。

 ヴェノムを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 張られた根はもうお主等では到底殺ぎきれぬところまで伸ばしておるのじゃ。

 よって儂がその根を断つことにするぞ。』

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「旅の中で幾度となく貴方の力には助けられてきた………。

 貴方の力が無ければ乗り切れない場面も何度もあった。

 ………本当にこれで終わってしまうのか………?

 俺達の未来はここで跡絶えてしまうというのか………。」

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『致し方あるまいよ。

 ここを放っておけば他の星屑にも影響を及ぼす。

 ヴェノムとはそれほどまでに強い力を持つ災いの源なのじゃ。

 この星屑のためだけに他の宇宙の子等に害を広めることはならぬ。』

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………!

 カーヤが!

 カーヤがいなくなれば星を壊すのは待ってもらえない!?

 ヴェノムはカーヤのせいで広まったの!

 だから……!」

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『ことはお主だけの問題ではない。

 お主を葬ったところでこの星屑に巣食うヴェノムは滅び去りはしない。

 この星屑そのものが既にそういう段階まで来ておる。

 誠に残念に思うぞ星屑の子等よ………。』

 

 

 

 

 

 

ミシガン「悪いんだけど私達はまだ死ねないの。

 私達はフェデールに会わなくちゃいけない。

 勝手にこの星の運命を決めないで。」

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『仕方なかろうて。

 他に手段を選んではおられんのだ。

 恨むのであればこのヴェノムにまみれた星屑に生まれたことを恨むのだな。』

 

 

 

 

 

 

レイディー「おいおいじいさん。

 そんなに焦るような話でもないんじゃねぇのか?

 アンタの力なら簡単にこんな星を潰すことは出来るだろうよ。

 そんぐらい力があるならせめて人類が絶滅するまで待ってもらえねぇか?

 人がヴェノムを作り出したって言うんならアタシ達人類がきっちりケジメをつけなきゃいけねぇ。

 それが無理だと思ったらこんな星ぶち壊していいからよ。」

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『そうか………。

 

 

 それならばやはり今壊そう。

 お主等ではヴェノムやヴェノムを生み出し者を倒しきるのは無理じゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………始めから儂がこの星屑を葬るしか方法は無かったのじゃ………。』



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一方バルツィエは…

王都レサリナス 王城

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「アレックス!」ガチャッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「フェデールか………。」

 

 

 慌てた様子でフェデールがアレックスの部屋へと入る。時間は夜中で就寝中かとも思ったがそうも言ってられない事態でフェデールは普段他の者に注意しているノックもせずにアレックスの部屋を抉じ開けた。

 

 

フェデール「アレックス………!

 ………起きてたのか!

 それで大変なことになってるんだ!」

 

 

アレックス「お前か言いたいことは分かっている。

 あの()()()()だろう?

 夜だというのにこうも明るくてはゆっくりと休むことも出来んな………。」

 

 

フェデール「そうなんだ!

 何であんなことになってるのかは原因はまだ突き止めてはいない!

 恐らくアレは魔術の力だ!

 でなければこんな現象が突然起こったりはしない!」

 

 

アレックス「そうだろうな………。

 それでこの魔術がどういった目的で発動してるかは検討はついているのか?」

 

 

フェデール「衛生からの観測によるとどうやらこのデリス=カーラーンの周囲に漂っていた流星を無差別に引き寄せてるようだ!

 標的は疎らで定まっていない!

 デリス=カーラーンの全方位から地上海上関係なく隕石を降り注いでくるぞ!」

 

 

アレックス「流星を手繰り寄せているのか………。

 こんなことが出来るとすればもしや彼の力か………?」 

 

 

フェデール「もし彼だとすればどうしてこんな術を発動させた理由が分からない!

 もしかしたらカオスは精霊の力を上手く扱いきれてないのかもしれないぞ!」

 

 

アレックス「彼の意思とは別に精霊が自発的にこの現象を引き起こしたか………。

 精霊はこのデリス=カーラーンをどうするつもりなのだ………?」

 

 

フェデール「それもまだ分かってない………。

 この間のミストでの調査ではカオスの中に精霊がいることは判明したけど精霊が何を思っているのかは不明のままだ。

 このタイミングでどうしてこんな魔術を展開したのかは俺も………。」

 

 

アレックス「………光が少しずつだが強くなっているな。

 今彼はどこにいる?」

 

 

フェデール「ちょっと待て!

 セバスチャンに確認してみる!」スッ…ピッ!

 

 

 フェデールは無線機を取りだしセバスチャンに繋ぐ。

 

 

フェデール「おいセバスチャン!

 緊急連絡だ!

 カオスは今ダレイオスのどこにいる!?

 まだ二ヶ月前からアインワルドの連中がいる辺りでウロチョロしてるのか!?

 それとももう奴等の足取りからして次のブルカーンの奴等がいるローダーン火山に行ってるのか!?」

 

 

セバスチャン『少々お待ちを………。

 カオス様は………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………?

 フェデール様………カオス様は現在レサリナス近郊のグラース国道付近にいるようでございます。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「なっ……!?

 カオスがグラース国道………!?

 いつの間にマテオに戻ってきていたんだ………。

 それもグラースだと………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャキンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄の鈍い音が室内で鳴った。フェデールが振り替えるとアレックスが剣を手に取っていた。

 

 

フェデール「アレックス………?」

 

 

アレックス「何故このようなことになったかは私も知らぬ。

 だが放っておけばマテオ、ダレイオスの両国が星の雨に穿たれよう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ならばこの星々を降らせる術者を排除すれば一か八かこの非常事態をどうにか出来るやもしれん。」

 

 

 アレックスは鎧や兜を纏っていく。

 

 

フェデール「おっ、お前が出撃するのか!?

 でも術者はカオスだぞ!?」

 

 

アレックス「喩え又甥であっても世界を混沌に誘う輩であるなら私は斬る。

 この事態を終息させるには他に方法はあるまい?

 お前は馬を引かせてここと他の村や街に緊急事態宣言を勧降したことを伝えて参れ。

 

 

 私は軍を率いてこの世界を滅ぼそうとする悪魔カオス=バルツィエを討ちに行く。」

 

 

フェデール「まっ、待て!

 まだカオスを討つかは待ってくれ!

 単なる一時的な術の暴走でカオスならこれを制御して術を解除出来るかも「そんな余裕があるか?」」

 

 

アレックス「あの流星群がいつ地上に到達するか検討もつかん今のんびりと作戦を立ててる暇は無いのだぞ?

 

 

 動くなら今しかない。

 術者がダレイオスにいたのではどうにもならなかったがグラースにいるのであれば話は変わる。

 私がカオスを討ちこの危機を救って見せる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 私が救わずに誰がこの国を救うのだ。」

 

 

フェデール「アレックス………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………分かった!

 緊急事態宣言とそれから緊急避難警報は発令しておく!

 だけどもしカオスを討たずにすみそうなら討つんじゃないぞ!

 アレほどの戦力になりそうな奴は他にいないからな!

 警報を出し終えたら俺もカオスのいるグラースに向かう!

 交渉なら俺に任せろ!」タタタ………!!

 

 

 アレックスが部屋から出るよりも先にフェデールが駆け出していく。アレックスはそれを見送って近くにいた兵士に馬と軍を招集するように命じた。

 

 

アレックス「(………討たずに済むのであればその方がいいのだが果たしてこの事態は討つ以外に手段があるのか………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父様………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「!」

 

 

 いざ城から出てグラースに向かおうとするアレックスに後ろから少女が声をかける。

 

 

 

 

 

 

?????「どうなさったのですかお父様………?

 どうして剣なんか………。

 それにあの空は一体………?」

 

 

アレックス「部屋に戻っていなさい()()()()()

 母上の元にいるのだ。

 私は少しばかり出てくる。」

 

 

アンシェル「お父様が………?

 どうてお父様が………?」

 

 

アレックス「お前もこの空の異常を見にしているだろう?

 私がこの異常を解決してくるのだ。

 すぐに戻る。

 それまで城の中でじっとしていなさい。」

 

 

アンシェル「………分かりました。」

 

 

 アレックスにそう言われるとアンシェルは素直に引き返していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「(………兄はもういない。

 今のこの国の大公は私だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄の血ではなく私が全てに決着をつけねばならないのだ。

 ………カオス。

 フェデールには悪いが奴は私の手で………!)」



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精霊との対決

グラース国道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ふざけるな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『ほう?』

 

 

 天空に浮かぶ精霊マクスウェルに対してカオスが吼える。

 

 

カオス「俺達はお前が勝手に決めた話に従ってヴェノムの主を今日までに倒してきたんだ!

 それなのに当日になって俺達がヴェノムの主を全部やっつけたのにやっぱりこのデリス=カーラーンを砕く!?

 何言ってんだ!

 止めろよそんなこと!」

 

 

マクスウェル『止めることは出来んなぁ。

 先に申したがヴェノムはこの星屑だけの問題ではないのじゃ。

 ヴェノムはこの星屑から流れて他の星屑にも到達する。

 それほどまでの影響力が備わっておる生命体なのじゃ。

 儂はヴェノムを滅ぼし()()()()()()()()()()()()を守らねばならぬのじゃ。』

 

 

カオス「何が悠久の星と空だ!

 お前が守りたいもののためにこの星を壊されてたまるか!

 俺達の星はまだ終わらせたりはしない!

 

 

 アローネ!

 また羽衣であの剣を作ってくれ!」

 

 

アローネ「!?

 何をなさるおつもりですか!?

 まさか……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「戦うに決まってるだろ!!

 アイツを倒してあの星を落とすのを止めさせる!!

 アイツを倒さないとこのデリス=カーラーンが無くなるんだぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『フォッ、フォッ、フォッ………。

 儂を倒すじゃと?

 儂の力で今日まで生き延び全てを乗り越えてきたお主が儂に挑むか。

 儂の力無くば何も出来なかったお主が何を粋っておるのじゃ。

 思い上がるのも大概にせい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うるさい!!

 お前が勝手に貸し与えてきた力だろ!!

 お前の力なんか無くたって俺は………!」「『フリーズランサー!!』」パァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意にカオスの後ろから氷の槍が放たれマクスウェルへと飛んでいく。氷の槍はマクスウェルに直撃する寸前で止まり空間だけが凍り付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『…何のつもりじゃ?

 星屑の子等よ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「うちの大将がおめぇを敵と認定したようだからな。

 アタシ等としてもお前の思い通りにさせるわけにはいかんのよ。」

 

 

カオス「レイディーさん………。」

 

 

ウインドラ「貴方の力の恩恵には世話になった。

 だがこの星に攻撃を仕掛けてくるのであれば貴方は俺達の敵だ。

 敵ならば迎え撃たせてもらう。」

 

 

カオス「ウインドラ………。」

 

 

タレス「そういうことです。

 貴方の力の強大さは熟知していますがそれで大人しく星ごと殺られるつもりはありません!

 全力で貴方を倒します!」

 

 

ミシガン「まだ私達にはやり残したとが残ってるの!

 こんなところで終わらせたりするもんですか!」

 

 

カオス「タレス………ミシガン………。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「……私達は………マクスウェル!

 貴方と戦います!

 戦ってこの星を守ります!

 他の星のことなど関係ありません!

 私達はこの星の住人ですから!!」

 

 

 カオスに続き他の皆もマクスウェルと戦う姿勢を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『儂の力に助けられてきた者達がこうも儂に逆らうか………。

 威勢のいい者共よのぉ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いいじゃろう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブゥン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ・レイディー「「「「「「!?」」」」」」

 

 

 一瞬の内に空間が歪んで別の場所にカオス達が移動する。

 

 

カオス「ここは………!?」

 

 

マクスウェル『あのまま彼処でやるのもよかったのじゃが儂にあの星屑を砕かせたくないというお主等に免じて場所を変えさせてもらった。

 ここはあの星屑から遠く離れた()()()()()()

 この星屑は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ここでなら好きにお主等も暴れられよう?』

 

 

タレス「ボク達をあの一瞬でそんなところに………!?」

 

 

ウインドラ「ではデリス=カーラーンはどこに………!?」

 

 

マクスウェル『左を見るがよい。

 あそこで少し大きく光る星屑、

 アレがお主等の星屑じゃ。』

 

 

 マクスウェルが言うように左を見ると幾つもの揺らめく光の中に一つだけその位置から不動の光を見付ける。

 

 

ミシガン「あれが私達の………!」

 

 

カーヤ「デリス=カーラーン………?」

 

 

マクスウェル『どうじゃ?

 ここから見るお主等の星は?

 このどこまでも広い宇宙の中で僅かばかり大きくは見えるがあんな星屑などよりも大きくそして命の数が多い星は無数にあるのじゃ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 お主等の星でもそう言って人を切り捨てるということはよくあることでないか?

 他の星々のために消えてくれる気はないか?』

 

 

レイディー「そんな気があったらアンタに挑もうとなんてしないだろうがよ。

 アタシ等はアンタに持てる限りの力でぶつかっていく。

 降参するなら今のうちだぜ?」

 

 

アローネ「貴方の仰るようにヴェノムを捨て置けばあの星だけでなく他の星にも影響を及ぼすのかもしれません。

 ですが私達は黙って貴方の力に屈することなど出来ません。

 全力で貴方の力に抵抗します。」

 

 

 

 

 

 

カオス「…お前には感謝しなくちゃいけないこともある………。

 お前の力が無ければここにいる皆は今この場所に集まってなんかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けどもうお前の力は必要ない!

 お前の力なんか借りなくても俺達はヴェノムに打ち克って見せる!

 

 

 そしてお前にも絶対に負けはしない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『フォッ、フォッ、フォッ………。

 お主等も儂の課した試練を乗り越えてこの場にいるのじゃったなぁ………。

 儂の試練には眷属達を認めさせてから初めて儂に挑める資格を得る手筈なのじゃが特別じゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かかってこい。』



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格の違い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『どこからでもかかってくるがいい。

 儂に勝てばあの星屑のことは砕かないでおいてやろう。

 お主等の肩にあの星屑の未来がかかっておる。

 全身全霊で儂に挑んでこい。』

 

 

 マクスウェルはそう言って何も無かった空間から豪勢な椅子を引き座る。そして同じくまた何も無かった空間から今度は分厚い本を取りだして開く。端から見ればこれから戦闘を行うような行動とは思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………何やってるんだお前は………!」

 

 

マクスウェル『何をやってるか………。

 …見て分からぬか?

 お主等を相手にするには()()()()()()()()()()()()

 お主等の相手はこの体勢でも勤まる。

 お主等こそ儂に遠慮せずに存分に向かってきて構わんぞ?』

 

 

 そう言いながらも視線はカオスではなく持っている本に向いている。戦うというよりかはこれから読書するようにしか見えない。

 

 

カオス「随分と舐められてるな………。」

 

 

ウインドラ「それだけ俺達全員と自分との力の差に自信があるということか。」

 

 

タレス「こんなふうに舐めきられるのは初めてですね。

 相手が相手だけにこんな対応されても仕方ありませんが………。」

 

 

アローネ「如何いたします………?

 本をお読みになっている方に攻撃を仕掛けるのも………。」

 

 

カーヤ「攻撃しちゃ駄目なの?」

 

 

レイディー「自分から掛かってこいっつってんだから構わねぇだろう。

 とりあえずは様子見してくれるようだからこっちからバンバン攻撃を仕掛けていくしかねぇ。

 あの野郎はアタシ等の攻撃全部いなすつもりのようだからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………とうした?

 掛かってこんのか?

 掛かって来ないのなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此方から先に仕掛けるぞ。』パァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マクスウェルの体が発光する。何か魔術を発動差せようとしているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「!

 そうはさせるかよ!!

 『フリーズランサー!』」パァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキィィィン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイディーが放つ氷の槍がマクスウェルを凍らせる。今度はマクスウェルに直撃しマクスウェルの体が凍り付く。

 

 

カオス「よし!

 今の内に『こんなものか………。』!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スゥゥ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………こんな氷の力では儂を凍てつかせることなど出来ぬ………。

 お主等の力はこんなものなのか………。』

 

 

 氷の中に封じ込めたマクスウェルが座っていた椅子ごとスライドして氷の中から出てくる。

 

 

レイディー「すり抜けっ……!?」

 

 

マクスウェル『本物の氷と言うのはな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こういう力のことを言うのじゃ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキパキパキッ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マクスウェルからレイディーに向かって徐々に氷が伸びていく。そして彼女に氷が迫ってきたところで、

 

 

レイディー「………!

 アタシに氷の力は効か」パキィィィン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイディーがマクスウェルが使用した何らかの魔術で氷付けになってしまった。

 

 

ミシガン「レイディー!?」

 

 

アローネ「レイディーに氷の力が通用した……!?」

 

 

マクスウェル『儂が貸し与えた力を誤解していたようじゃな。

 お主等の持つ力は絶対的に六大の力を防ぐ力は無い。

 眷属の力を持たぬ者では到底儂の力を押さえ込むことは出来ぬのじゃ。』

 

 

 マクスウェルは淡々とレイディー達に与えられた力について解説する。単一属性に耐性を持つレイディー達がその得意とした属性でやられるとは思っても見なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………それで次は誰じゃ………?

 誰からでも良いぞ?

 その者のようになりたい者はワシに向かってくるがよい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった一度の攻防でこの戦いに勝ち目が無いことが分かった。思い返してみればカオス達の旅でこの精霊の力に勝るものなど何も見付からなかったのだから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからの展開はあっという間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『どうする?

 もうお主等二人か残っておらんが。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「お前ぇ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイディーが倒されてから立て続けにウインドラ、カーヤ、タレス、ミシガンとやられていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『これで分かったか?

 お主等の旅が儂の力無くしては成り立たなかったということが。

 お主等の力は所詮はあの星屑での有象無象に過ぎぬ程度の力しか無いのじゃ。

 

 

 いつからか儂の力を自分の力と錯覚しておったな。

 お主等の力はこの程度じゃ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強すぎる。その言葉の一言に尽きる。これまで相手にしてきたオサムロウ、カイメラ、フェニックス、アンセスターセンチュリオン、ラーゲッツとは次元を超越した力を持つこの敵の力は常軌を逸している。デリス=カーラーンをたった一人で破壊する力を持つのだからそれもそのはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………もう駄目なのか………。

 俺達がやって来たことは全部こいつの前では全然何の意味もない………。

 コイツに向かっていってもウインドラやレイディーさんのように………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「まだです!

 まだ終わりではありません!

 私達にはやるべき使命があります!

 それを果たさずしてこのようなところで終わることは出来ません!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(アローネ………。

 どうしてそんなに………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはとうに心が折れていた。長年恨み続けてきた相手との力量の差が顕著にさらされて剣を握る気力さえも無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………まだやると言うのか。

 星の子よ。

 ならば最期に儂からの餞別をくれてやるとしようか………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!



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終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「これは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 故郷の星から遠く離れたどこか知らない星で十を越える巨大な隕石がカオス達に降りかかろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「この術は………半年前の!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネの反応からこの隕石達が以前シーモス海道を粉砕した術だと知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(…こんなものが当たってきたら人の身じゃ耐えられないな………。

 これはもう………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラァン………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはアローネから借りた羽衣で形成した剣を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カオス?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『どうした星屑の子よ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………もういいよ。

 降参だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは両手を上げて降伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!?

 何を言って……!?」

 

 

カオス「俺達の負けだ。

 お前には勝てない。

 こんな力を使う奴なんかに俺達エルフが敵うことは無いんだ。

 もうデリス=カーラーンでも何でも好きにしろよ。」

 

 

マクスウェル『聞き分けがいいな。

 何か策を講じてのことか?』

 

 

カオス「策なんて俺がある訳ないだろ?

 そのことはずっと俺を見てきたお前が分かってるんじゃないのか?

 

 

 

 

 

 

 ………俺達はお前には勝てない。

 お前を止めることなんて無謀だったんだ。

 そのことがよく分かったよ。

 俺達を殺したかったら早く『カオス!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネがカオスの頬を叩く。

 

 

 

アローネ「何を諦めているのですか!?

 私達が諦めたらあの星に生きる全ての生命が滅ぼされてしまうのですよ!?」

 

 

カオス「………そんなこと言ったって見ただろ?

 アイツの力………。

 俺達がアイツをどうこうするなんて無理なんだよ。

 もうデリス=カーラーンはアイツに壊されて御仕舞いなんだ………。

 もう俺達にはどうすることも………。」

 

 

アローネ「弱音を吐く暇があったらあの隕石を防ぐ方法とあの精霊を倒す手立てを考えてください!

 私達がやらねばならないのです!」

 

 

カオス「そう言われても無理なものは無理だよ………。

 アイツは人なんかじゃ比べ物にならないくらいの力を持ってるんだ………。

 それにほら………。

 あんな隕石も降らせて………あんなもの食らったら俺達なんて一たまりも「隕石がなんですか!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「私には義兄や家族、カタスの御兄弟達それからウルゴスの皆を探し出してアブソリュートの封印から解放するという大事な使命があるのです。

 こんなところで朽ち果てたりはしません。

 何が何でも私は生き残らなくてはなりません。

 カオスだって私の目的に賛同してくれませたよね?

 あの約束は嘘だったのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…だって俺にはあんな力に対抗できる力なんて………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人一人の力はとても無力だ。自然が少し揺らぐだけで大勢の命が灯火のように消えていく。地震、山火事、雪崩、土砂崩れ、津波………そんな災害の上を隕石。抗うだけ無駄な努力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス………。

 貴方は初めてお逢いした時からあの精霊の力を毛嫌いしていましたよね………?

 あの強大な力があるせいで人生が台無しになったと嘆いていましたよね………?

 今貴方は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 今漸く貴方は貴方だけの力を奮うことが叶うのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私に貴方の本当の力を見せて」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネが何かを言いかける前に精霊が作り出した隕石がカオス達のいる地上へと到達しカオス達を吹き飛びした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(……………………………………………………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………ほほう?

 身を呈してこやつを守ったか。

 中々見上げた器量のある娘じゃな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………何で俺は………生きて………?

 

 

 

 

 

 

 ………………アローネ………皆は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが周囲を見渡すとそこには何もなかった。意識が途切れる前には平らな大地だった場所が大きく陥没しその中心にカオスはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 他には何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『お主だけになってしまったな。

 あとの者達は皆儂の力で消し飛んだわい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………そうか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怒りも悲しみも湧いてこなかった。戦う前から破れる戦いになるとなんとなくだが分かっていた。だから何の感情も湧いてこないのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………どうせ死ぬのは皆一緒なんだ。

 誰かが一人で死ぬんじゃない。

 皆一緒に死ぬんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ならもう立ち上がるのは止めよう。

 あの星と一緒に逝けるなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………俺の旅はここが終着点だったってことだ………。)」



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当たり前の人になりたくて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『最期に何か言い残すことはないか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………何も………。

 あったとしてそれを誰に伝えるんだよ?

 お前はあのデリス=カーラーンもぶっ壊す予定なんだろ?

 だったら遺言なんて残しても誰にも伝わらないじゃないか。」

 

 

 誰に聞かせるでもない言葉を言い残したところで意味はなどないだろう。デリス=カーラーンに生きる全ての生命が死に絶えるなら何も言い残すことなどない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………あい分かった。

 それでは()()()()()()

 瞬く間に終わりにしてやろう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精霊が手のひらに光を集中させるとその光はだんだんと色を黒く変色させていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『ブラックホール………この渦に飲まれればお主の体は圧縮され人の目には見えぬほどに凝縮される。

 お主を消した後は今いるこの星屑もこの銀河から消さねばならぬのでな。

 この術で幕引きとしよう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ブラックホール………。

 そんなものまで作り出せるのか………。」

 

 

 名前は聞いたことはある。宇宙のどこかにある重力が星の何百倍もある空間で太陽系の中心にあるのではないかと噂される空間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………本当に終わりなんだな………。

 俺一人じゃどうやったってコイツには敵わないし他に誰もコイツと戦える人なんていない………。

 ………タレスもミシガンもウインドラもカーヤもレイディーさんもコイツに消されて………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………アローネも………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒラ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………?」

 

 

 カオスが身動ぎした拍子に何かがカオスから落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『最期の情けで死ぬ時はお主に選ばせてやろう。

 お主が自らこの穴へ飛び込むのじゃ。

 お主が飛び込むまでは待っておってやる。

 ここであの星屑が儂の降らせた石ころで崩壊する様を眺めておってもいいぞ?

 この穴の中へ入るのはそれからでも善い。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの体から落ちたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネのエルブンシンボルと羽衣だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「これ………お義兄さんの………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネが御守りのように大事にしていた義兄の片身のエルブンシンボルとセレンシーアインでオーレッドに渡された羽衣………。その二つが合わさってカオスを降り注ぐ隕石から守ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………どうして俺なんかを守ったんだよ………。

 俺なんか守るくらいなら自分の身を守れよ………。

 アローネは生きなくちゃいけなかっただろ………。

 俺と違ってアローネにはやらなくちゃいけないことがあったのに………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『む?

 ………お主………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故立ち上がる?

 何故剣を構えるのじゃ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは気が付くとアローネの羽衣を剣の形に変えてマクスウェルに向き合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「何でだろうな………。

 こうしなきゃいけないって体が疼くんだ。

 体が無意識にお前を倒せって訴えかけてくるんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『儂への復讐か?

 お主の仲間達への弔いのためか?

 それともあの星屑を儂の手から守るためか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「さぁね………。

 俺にもよく分からない………。

 どうして自分がまた剣を握っているのか………。

 どうして勝てないと分かっているのにお前にまた向かっていこうとするのか………。

 無駄だと分かっていながらとうしてまたお前に立ち向かっていく勇気が湧いてくるのか………。

 

 

 ………多分違うな。

 これは勇気なんかじゃない。

 勇気ですらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただの悪足掻きだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『悪足掻きとな………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………誰もいない………。

 今だからこそ言えるんだけど俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初からお前のことを恨んでなんていなかった………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「お前と一緒だった十五年………。

 子供の時の頃は魔術が使えない俺はザックや他の子達に苛められてはいたけどウインドラやミシガンが傍にいてくれたからそこまで不自由は感じなかった………。

 

 

 

 

 

 

 村がヴェノムに襲われてからの十年はおじいちゃんが死んじゃって正直あの村に居続けることが辛かった。

 だからあの村から離れられて良かった………。

 俺が生きているのもお前が俺の中にいてくれたからだってことも本当は理解してたんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当はずっとお前には感謝してた………。

 お前がいなかったら今日までの俺はあり得なかったから………。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 俺はアンタを悪者にすることで自分は何も悪くないって自分に言い聞かせ続けてきた。

 ………ごめん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『お前さんがそれを気にすることはない。

 建前とは言え儂はお主に恨みを抱かせるようなことをしてきたのだからな。』

 

 

 カオスの謝罪をマクスウェルは軽く受け流す。カオスの本心を前から知っていたかのようだった。

 

 

 

 

 

 

カオス「(………そっか………。

 ずっと繋がってたんだもんな…………。

 俺が本当はどう思ってたかぐらいはお見通しか………。)」

 

 

マクスウェル『それで今更剣など持ってどうするんじゃ?

 お主一人では儂には勝てぬぞ?』

 

 

カオス「勝つかどうかなんてどうだっていいさ。

 俺にはアローネ達のように大きな目標も何もない。

 俺にはあの世界の命運を握るようなうつわなんかじゃないんだ。

 俺にはもう何も残ってないんだ。

 ミストのことだってどうだっていいって思ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………けど見てみたいんだ。

 俺には掲げることの出来ない目標や夢を持つアローネ達がこの先どんなふうな未来を歩んでいくのか………。

 ()()()()()()()()()()アローネ達が果たしたかった夢や希望がどんな未来になっていくのかこの目で見てみたかった。

 どんな将来が皆に訪れるか見てみたかったんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから俺はお前と戦うよ。

 アローネ達が果たせなかった夢の先にあるものを俺が叶えて見せる。

 アローネ達はいなくなっちゃったけどあいつらの代わりに俺があいつらの希望を引き継ぐんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………まるでお主は()()じゃな。

 人になりたくて人のように生きようとする人形じゃ。

 

 

 儂がお主の中に入り込んでからここまで壊れてしまっていたとはな………。

 お主には随分と苦しい人生を歩ませてきたようじゃ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早く終わりにしてやらねばな。

 お主の物語を………。』



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勝てぬと分かっていても挑まなければならない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『憎しみでもなくあの星屑のためでもなくお主を突き動かしているものは何だ?

 何がお主をそうまで駆り立てるのじゃ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「言ったろ。

 俺にはそんな感情はない。

 おじいちゃんが死んだあの日から俺の心は死んでしまったんだ。

 お前に罪を被せでもしなければ精神を保てないほどに俺は不安定なんだ。

 俺自身に()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『なら何故だ?

 何の意思も無いと言うのであれば黙ってあの星屑が儂に砕かれるのを見ておればよかろう?

 お主の行動は儂にあの星屑を破壊させまいとしているように見えるぞ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「そうだね。

 それでも何でかお前と戦わなくちゃいけない気がするんだ。

 このアローネが残してくれた羽衣からアローネやタレス、ミシガン、ウインドラ、カーヤ、レイディーさんの想いが流れ込んでくるようで………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺じゃない皆の心が俺をお前と戦わせようとしてくるんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………不愉快じゃな。

 貴様のような半端な覚悟しか持ち合わせんような輩が儂に楯突こうとするでない。

 自らの意思を持たぬ者が儂の意向を妨げるな。

 お主には分からぬのじゃ。

 ヴェノムを放置すれば後にどのような世界に移り変わるか。

 お主等星の子に精霊と呼ばれる儂等は遥か昔に()()()()()()()()()()()()()()()

 この宇宙では質量を持たなかった儂等精霊は延々と同じ景色ばかりを眺め続けて心を濁していった。

 変わることの無い世界は時間そのものが止まって感じられた。

 儂はあの移ろわぬ時の世界に戻るのだけは御免被る。

 あの星屑デリス=カーラーンを野放しにすることは出来ぬ。

 よって儂はあの星屑を粉々に砕く。

 お主はそこで静かに星屑が滅ぶのを見ていればよい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「悪いけどそれは出来ない。

 お前が言うようにヴェノムは凄く危険なウイルスだってことは分かるけど俺の星はまだ砕かせることなんて出来ない。

 あそこにはまだ沢山の人達が住んでるんだ。

 お前にも事情があるのは分かるけど俺達の星はまだ終わりじゃない。

 そんなにヴェノムのことを心配するんなら俺達でヴェノムを無くす。

 ヴェノムをデリス=カーラーンから無くしてやる。

 だから星を砕くのはまだ待ってくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『待てぬな。

 すぐにでも砕いてやろう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「どうしてもやるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『勿論じゃ。

 それがこの銀河のためじゃ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………それなら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱりこうするしかないよね。」スチャ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『お前さんのような者はこれまで見たことがないな。

 勝てぬと知りながらも果敢に立ち向かってくるその姿。

 その内にあるのは仲間達の想いだけで己の覚悟はどこにも無い。

 他者に同調することでしか他者と接することが出来図に流されて儂の前に立つ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ぶっちゃけて言うと俺ってアローネ達にただついていってるだけだったからね。

 俺が何かしたかったんじゃないよ。

 俺の周りにいた人が()()()()()()()()()()

 だったら俺もそんなふうに振る舞うしかないよね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスにとっては物心がついた時から周りの者達とは条件が違った。そのため祖父の言葉に従って生きていくしかなかった。その祖父ですら自分とは異なる生き方をしてきたため祖父がいなくなってからはそれとなく罪悪感を背負っているようにミストの者達に見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 カオスはどこまでも普通になりたかった。普通の者がどのように感じどのように物事を考えて発言をするかひたすら模倣し自分を作っていった。成長する過程で少しずつ価値観は変わっていったが根幹は何も変化はない。カオスの意思は常に他人に委ねられている。

 

 

カオス「もし俺が最初にアローネに出会っていなかったら………。

 フェデールやラーゲッツみたいなのと最初に会ってたら俺もあんなふうに平気で人を傷付けるようになってたんじゃないかな?

 俺にとっては誰が隣にいても良かったんだ。

 俺がどんな道を進むかを示してくれたらどんな道でも進んでいける。

 俺はこの通り自分ってものが無いからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポロポロ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『何を泣くことがある?

 お主にとってのあの者等はただの模範に過ぎぬ者達であったのだろう?

 彼等の存在など人の子等の社会に溶け込むためだけの鏡にしか思うておらんかったお主が何故涙を流す。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「そうなんどけどさ………。

 ………そうだったんだけどさ………。

 たった半年の間だったけど………ウインドラとミシガンとは十年の付き合いだったけどそんな時間を過ごしている内にどうしてだかあの皆のことが好き………みたいに思えてきてたんだ………。

 一緒にいただけなのにそれだけで好きになるってまるで猫や犬みたいなんだけどさ……… 。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『…儂がお主に負わせた十五年前の古傷が癒えてきておるようじゃな。

 お主は儂等精霊から本来の人の心というものを取り戻そうとしておる。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「そうなの………かな?

 自分じゃ実感湧かないけど………。

 ………確かにそうなのかも………。

 なんかだんだん人らしくなってきた気はするよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『儂に刃向かうのは儂が憑依したことによって生じた精霊と人との精神の歪みから立ち直ってきたからか。

 お主は人の心を取り戻しつつあるのじゃ。

 無などではなく有。

 その握られた剣からはお主の溢れんばかりの気勢を感じるぞ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…俺は未だに他人の心が分からない。

 人は誰かを蔑んだり貶めたりするものだと思ってた。

 でも中には純粋に人に優しく出来る人もいる。

 他人のために何かをしようとする人だっている。

 死ぬ時までその意思を貫いて死ぬ人だっている。

 ………そういう人の意思を………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このまま星ごと終わりにはしたくない。

 俺は死んでいったあの人達のためにお前と戦うよマクスウェル。」



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足掻いたところで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『契約を反故にしたことは謝罪しよう。

 じゃが儂も手を抜くつもりはない。

 全力でお主を叩き潰す汚しよう。』パァァァァ!

 

 

 マクスウェルの立つ地面から巨大な魔方陣が出現し大地が発光する。その魔方陣はカオスが今立つ場所から遠く見えなくなるまでの距離まで伸びているのが目に見える。

 

 

カオス「(今度は何をしようってんだ?流星群だけでも相当強い力だったのに今度の術は詠唱有りのマナを充填した本気の一撃………。

 俺一人消すためだけにそんな力を………。)」

 

 

 肌に伝わるプレッシャーだけでマクスウェルが持つマナの底知れない力を感じる。デリス=カーラーンを破壊しようとするだけのことはあり下手すれば次の術でもデリス=カーラーンの数百倍はありそうな体積の今いる星も壊れてしまいそうだ。幸か不幸かこの星には現在カオスとこの精霊だけしかおらず気を使うこともないがこの戦いに負ければデリス=カーラーンは滅ぼされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこう考えている内にマクスウェルの詠唱が完成してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『受けてみよ我が力、“デュアル・ザ・サン”』

 

 

 突如カオスを挟むように二つの大きな火球が出現する。

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオゴオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

カオス「(ファイヤーボール………?」

 

 

 その火球はカオスを炙るように火の粉を飛ばしながら迫ってくる。触れてすらいないというのに感じる熱気はそれだけで火傷を負ってしまいそうなほどだ。まともに直撃しては一瞬で灰に変えてしまいそうなその火球を直進して避ける。二つの火球はカオスを追うことはせず重なりあうようにぶつかり………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!

 

 

カオス「!?」

 

 

ビリビリビリビリビリビリ!!

 

 

 二つの火の球が接触した途端に凄まじい大爆発を起こしてカオスを遠方へと吹き飛ばす。間近で起こった爆発音は鼓膜を麻痺させる程の爆音で吹き飛ばされたカオスの方向感覚を狂わせる。思わず耳を押さえて耐えるカオスだったがそんなカオスに()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『“エタニティ・ソォーム”』

 

 

コオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 吹き飛んだカオスに休む暇もなく光の雨が放たれる。先程の火の球のような規模は無いが一発一発が十分な貫通性を持ち地面にどこまでも深い風穴を空けながらカオスに向かってくる。躱しきるのは無理と瞬時に悟ったカオスはその光の雨を羽衣の剣で捌いていくが当然全てを叩き落とすことは出来ず、

 

 

ザシュザシュザシュ!

 

 

カオス「がっ……!この……!」

 

 

 肩、足と光がカオスの体を傷つけていく。術が止まるまでにカオスの体は至るところを削られていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『“プリズミックスターズ”』

 

 

パアアアアア!!!

 

 

 ボロボロになったカオスに更に追い討ちをかけるように次の術が発動される。今度の術は複数のそれぞれ色の異なる球体がカオスに吸引するように押し寄せてきた。赤く火のように熱い球から水のように湿気を帯びた球までもがありそれらが一斉に飛び交いながらカオスへと向かってくるため紙一重でそれらを回避していく。しかしそれらを回避しても地面に到達した瞬間に最初の術のような大爆発を起こしてまたカオスは吹き飛びとうとう避けられなくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『“ブライティスト・ゲート”』

 

 

カッ!!!!

 

 

 最早攻めに転じることすら出来ないカオスに強力な術の連鎖が続く。カオスの真上から光の針を放出する球体が現れ四方八方へと光の槍を撃ち出す。ダメージさえ追ってなければ身を反らして避けられそうな術ではあったが先刻の術でもう避ける力も残ってはいなかった。

 

 

カオス「うぅ………ああぁ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『“エクスプロージョン・ノヴァ”』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 次に発動した術はただただカオスの体を焼くだけの術だった。だがその威力はこれまでの五つの術の威力をも凌ぐ威力で防御も回避もすることも出来ずにまともに食らってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『“マクスウェル・ロアー”』

 

 

 次の術は精霊が作り出した星が高速で回転しそれに合わせたかのようにカオスに強烈な重力がのし掛かってかた。これは避けたり防いだりすることは出来ない。カオスは耐えるしかなかった。

 

 

カオス「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『“ディメンジョナル・マテリアル”』

 

 

カオス「粋護………ッジ!」スゥゥ………

 

 

 最後の力を振り絞って次に来た術を防御しようとするが暗転する光と闇の術はカオスの防御をもすり抜けてカオスを苦しめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………それで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これで終わりということでよいのかな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはその質問に答える力も残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辛うじて意識はあるものの戦いにすらならないこの敵との対決に既に心をくだけ散っていったのだった………。



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飛来してくる力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『儂の力が無ければお主はこの程度でしか無かったということじゃ。

 儂に挑もうとするのであれば最低でも眷属の力を一つでも借りてからでなくては儂には勝てぬ。』

 

 

 倒れ伏すカオスに精霊はそんな忠告をしてきた。眷属とは伝説に聞くウンディーネ、シルフ、イフリート、ノーム、セルシウス、ヴォルトのことだろうがデリス=カーラーンを回ってもそんな眷属はいなかった。半年しか猶予がなかったというのに三万年の歴史を紡いできて誰一人としてその姿を目撃したことのない精霊達をどう見つければよかったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………もう立ち上がる力すら無いな………。

 昔から痛みに慣れてたせいで気絶することも出来ない………。

 

 

 ………始めから分かってたんだ。

 こいつには勝てないってことは………。)」

 

 

 地に伏しながらカオスは全てを諦めていた。ここで立ち上がらなければデリス=カーラーンは滅ぼされその次は自分が消されてしまう。自分が戦って倒さなければいよいよデリス=カーラーンの終末が訪れてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………せめてもの情けだ。

 止めはあの星屑を消した後にしてやろう。

 お主もそこで見ておれ。

 

 

 あの星屑が砕け散る様をな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒れながらデリス=カーラーンを眺める。倒れ伏す前まではまだ周辺で輝いてた隕石郡がデリス=カーラーンを取り囲み遠目にはデリス=カーラーンが光輝いているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………もう駄目なのか………。

 俺しかこいつと戦う人がいないのにその俺が全然刃が立たない………。

 ここでデリス=カーラーンの最期を見届けることしかもう………。)」

 

 

 力が足りないという次元ではない。まず戦いにすらならないという有り様だ。接近することすら出来ないのであれば精霊の敵にもなり得ない。その喉元に剣を突き立てることも無理ならこの勝負は事実勝負ですらなかったということに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………!

 この魔力は………。』

 

 

 ふとマクスウェルが何かに反応を示すように呟いた。地に突っ伏すカオスからはマクスウェルがどのような表情をしているかは伺いしれなかったが予定外の事態が起こったのだと察することが出きる。呟きからデリス=カーラーンの方で何かが起こっているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 しかしデリス=カーラーンから遠く離れたこの星ではデリス=カーラーンの者がこの場に干渉することは不可能だ。援軍を期待しようともカオス達ですら精霊に強制的にワープさせられてここにいるのだ。精霊が今更援軍を認めここへ連れてこようとも勝てる見込みは万に一つも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオ…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精霊の呟きに反応して一時視線を精霊の方へと向けていたのだが再度デリス=カーラーンの方に目を向けるとデリス=カーラーンの輝きが変化しているのに気付く。一時は白いような黄色いような光を放っていたデリス=カーラーンの光が今では何故だか()()()()()()()()()()

 

 

カオス「(………何だ………?

 何があんなに赤く光ってるんだ………?

 デリス=カーラーンで何が………?

 火災でも起こっているのか………?

 ………だけどこんなに離れてるのにあんなに目立つだなんてどんなに規模の火災が………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!?」

 

 

 ここでカオスは今何が起きてるのかに気付く。デリス=カーラーンの輝く赤い光が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

マクスウェル『やはり潜伏していたか…………()()()()()!!』

 

 

カオス「(イフリート………?)」

 

 

 マクスウェルはあの赤い光を見てイフリートだと言う。まさかイフリートがここへとやって来ると言うのだろうか、そんな思考が過ったが何故このタイミングで………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 疑問に対する答えが見つからないまま光は刻一刻と光度を増して接近してくる。あの光が本当にイフリートだとするのならこのマクスウェルを倒しに来たのだろうか。一体イフリートとはどのような姿をしている精霊なのかと光を見続けていると………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ………!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドフォオオオオオオオ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デリス=カーラーンから伸びてきた赤い光は急激に加速し()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてカオスの体を高温の火で炎上させていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「う…………あ………あ………ぁ………。」

 

 

 急に飛んできた熱線に体の内と外両方を焼かれて悶えるカオス。もしかしたら自分の代わりにマクスウェルを倒しに来たのかと思いきやマクスウェルの代わりにイフリートはカオスに止めを刺しに来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 マクスウェルに負わされた負傷もあってカオスはもがくことも出来ずに体を焼きあげられていく。

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………』

 

 

 マクスウェルはじっとカオスが焼かれていく光景を見ているだけだった。どうしてイフリートがわざわざデリス=カーラーンからやってきてカオスにとどめを刺すのかは理由は不明だがそれを推理する時間もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………このままこの炎に焼かれて俺は死ぬのか………。

 俺はこんなところで終わって………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フフ………情けないわね。

 特別に貴方に私の力を貸してあげるわ。』



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火霊の助け

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『…やはり表に出てくるべきではなかったか………。

 儂の力を狙ってこのような場所まで追ってくるとは執念深い奴じゃ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デリス=カーラーンから伸びる赤い光がカオスを包み込む。光の中に捕らわれたカオスの体が外からは焼き尽くされているようにしか見えない。

 

 

 事実カオスは超高温の炎で体が燃え尽きようとしている。対峙しているマクスウェルの加護もない今炎に対しては何の体勢もない。生身で炎を受けて耐えられる筈もなくカオスは徐々にその身を灰にしていきやがて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………?

 どうなったんだ俺の体は………。」

 

 

 光が終息するとカオスの体はマクスウェルによって負った負傷が完治していた。寸前までの激しい痛みや体の疲労も無くなり立ち上がる力まで回復していた。

 

 

マクスウェル『…よもやイフリートが手を貸すとはな………。

 その体………()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。』

 

 

カオス「イフリートの………眷属………?」

 

 

 マクスウェルが言うにはカオスはイフリートからイフリートの力の一部を分け与えられ眷属化しているようだ。何故突然イフリートがカオスに力を与えたかは分からなかったがデリス=カーラーンから光が伸びてきたということはイフリートもデリス=カーラーンをマクスウェルに破壊されるのは都合が悪いのだろう。マクスウェルの眷属であるイフリートならばデリス=カーラーンが無くなって宇宙に放り出されても問題は無さそうだが何かしらデリス=カーラーンを残しておきたい理由があるのだろう。傷が回復した他にも体の奥深くから燃えたぎるような熱いマナの波動を感じる。

 

 

カオス「(………なんだか今ならこいつとも戦える気がする………。このイフリートの力があれば………こいつにも勝てる気がしてくる………。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一度勝負だ!!

 マクスウェル!!」

 

 

 体力が回復したことで再びカオスはマクスウェルに勝負を挑む。

 

 

マクスウェル『来るか。

 一度は折った精神までもがイフリートの力によって回復したようじゃな。

 じゃが果たして儂の眷属の力がどこまで通用するか、お主にその力を使いこなせるかのぅ。』

 

 

 カオスが立ち上がったことでマクスウェルも構える。本を開いてまた術を詠唱し始める。

 

 

マクスウェル『見せてもらうとするか。

 イフリートが()()()()()()()()()()()()()()()、お主がその力を使うことでイフリートが儂にどれだけ近付いておるか量らせてもらおう。

 

 

 “グラビティ”』

 

 

 マクスウェルはこれまでの旅でカオスが何度か使用した術をカオスに向けて放つ。元々マクスウェルから教わった術なので当然マクスウェルも使える。マクスウェルが作り出した超重力空間に捕らわれるがカオスは、

 

 

 

 

 

 

カオス「(………!

 相変わらず強い力は感じるけどさっきまでのような抵抗出来ないほどの力じゃない………?

 この程度ならまだ普通に耐えられる!)」

 

 

 自身が使用していたからこそこの術の凶悪さを知っていたつもりだったが自分が受けることになって術がそこまで重力を発生しないものだと思うのだったが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メキッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 カオスがいる大地の中から硬質そうな金属が術によって引き寄せられ現れ術の円上の空間へと入った瞬間にその体積が十分の一以下にまで縮小させてしまった。音の響きや見た目からも生身のカオスよりかも硬そうな金属ではあった。それが簡単にグラビティの空間によって圧縮されたのだ。

 

 

カオス「(………これは………俺の魔術抵抗力が上がっているのか………?

 イフリートの力の恩恵を受けたことで俺はこのマクスウェルが体の中にいた時のような魔術に対する耐性が………。)」

 

 

 マクスウェルに憑依されていた時は攻撃性のある魔術を無条件に無力化していたがマクスウェルが離れた後はその能力が解除されていた。そしてイフリートの力を授かった今は完全に無効化することは出来ないがそれでも相当の魔術への抵抗力が上がっているように感じる。もう一撃でやられたりはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!」タッ!

 

 

 カオスは術が解け次第マクスウェルへと接近を試みる。次の術が発動する前に一太刀だけでも浴びせておきたかった。飛葉翻歩でマクスウェルに一気に迫り漸く訪れた攻めの機会に全力で剣を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

マクスウェル『筋は悪くない。

 じゃがカオスよ………。

 お主は根本的に精霊の力の使い方が成っておらんのじゃ。

 この程度の力では儂に傷一つもつけられぬぞ。』

 

 

 急接近してから叩き付けた斬撃は楽々片手で止められてしまった。

 

 

カオス「この……!」

 

 

マクスウェル『残念じゃったな。

 イフリートが力を貸してきたのには驚かされたがお主がそれを使いこなせんようでは儂を止められはしない。

 イフリートもあの星屑にいるのも分かったことじゃしイフリートも星屑もろとも消えてもらうとしようか。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり勝てない。イフリートの力があってもマクスウェルには遠く及ばない。デリス=カーラーンでもこの強大過ぎる敵の力に勝る力は無かった。急遽授けられた力があってもマクスウェルに勝つことはどうしても………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カオス』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うおおおああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザクッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に散っていった仲間達のことを思い出したカオスは全ての力を使いきるつもりで剣に力を込める。すると剣から強烈な炎が溢れだしマクスウェルの片腕を切り裂いた………。



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炎の一撃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボトリ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『!!』

 

 

カオス「!」

 

 

 無我夢中だった。どうしても傷一つだけでも負わせたいという一心から剣に力を込めたら剣が炎に包まれてマクスウェルの右腕を焼き切った。

 

 

マクスウェル『………まさかイフリートの力がこれほどまでに上昇しておるとはのぉ。

 油断ならない力じゃ。

 早々にイフリートを消さねばならなくなった。

 悪いがカオス、お主には即刻退場してもらうかとしよう。』

 

 

 片腕を失ったマクスウェルが左腕で本を開きながらまたあの派生していく術の詠唱を唱え始める。

 

 

カオス「………!

 やらせるか!!」

 

 

 カオスは詠唱を止めようとマクスウェルに剣を振りかぶる。またあれほどの力を食らえば今度こそ立ち上がる力すらも残らない。カオスは全力で踏み込み今度は左腕を切り飛ばそうとマクスウェルに詰め寄る。

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『そう何度も同じことをさせると思うてか?』

 

 

カオス「なっ……!?」

 

 

 マクスウェルに剣が届く瞬間にマクスウェルの姿が消える。消えたことに驚き周囲を見渡したところマクスウェルはカオスが踏み込んだ場所まで移動をしていた。

 

 

マクスウェル『これでやっと幕を引くことが出来るのぉ。

 去らばじゃカオス。

 お主とイフリートはこれで………!?』ゴオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

カオス「!」

 

 

 瞬間移動をしたマクスウェルにまたデリス=カーラーンからの赤い光が降り注ぐ。今度の光はカオスに力を与えたような効力は無く純粋に攻撃するためだけのもののようだ。光が当たる寸前でイフリートの攻撃に気付いたマクスウェルは避けようとするが完全には避けきれずに残っていた左腕を本ごと焼かれてしまう。

 

 

マクスウェル『あやつめ………!

 まだこんな力を………!』「うおおおおおおおおおおおおッッ!!!」

 

 

 デリス=カーラーンから射撃してきたイフリートに視線を持っていかれた隙にカオスは再び特攻をしかける。両腕を失ったマクスウェルにカオスの斬撃を止める手段は無く剣の連撃を浴びせる。

 

 

マクスウェル『ぬお!?

 まっ、待て!

 待つんじゃ!

 今儂は………ぐおぉぉぉ!』「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 焦るマクスウェルに次々と剣の一撃を重ねる。剣を浴びせて気付いたことだがマクスウェルの体は見た目のような生身の体ではなく鉄のように硬く剣を弾くような体質だった。全力で剣を叩き込まねばマクスウェルの体に傷を付けることは出来ないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 なのでカオスは息が続く限り斬りまくる。

 

 

マクスウェル『こっ、こりゃ!

 待てと言うとろうが!

 年寄りの話は聞くものじゃぞ!

 待て!

 待ってくれ!

 ぬああぁ……!?』「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『………!!

 調子に乗るでないわ!!』

 

 

フワッ………、

 

 

 カオスの斬撃から逃げるようにマクスウェルは空中へと椅子ごと飛び上がる。剣の届かない位置まで逃げられたカオスはマクスウェルを見上げることしか出来ずにその場でマクスウェルを睨み付ける。

 

 

マクスウェル『ハァ………ハァ………!

 イフリートの力なぞに儂がこうも深傷を負うことになろうとは………!

 見過ごすことは出来んなぁ………!』

 

 

カオス「逃げるな!

 そんなところにいないで降りてこい!」

 

 

マクスウェル『儂の情けで生き長らえておきながらなんたる仕打ちを………!

 お主にはもう容赦はせんぞ!

 イフリート共々儂が無に返してやるわい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “メテオスォーム”!!!』パァァァァ!!!

 

 

カオス「!

 この術は………!」

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 アローネ達を消し飛ばした術をマクスウェルが発動させる。発動と同時に空に幾つもの巨大な隕石が出現する。一発だけでも数百キロトンの爆発を発揮する隕石群がカオスへと振りかかってくる。

 

 

マクスウェル『どうじゃ!

 イフリートの力があったとしてもこれらの星屑からは逃れきれまい!

 イフリートもヴェノムも儂にとっては滅ぼさねばならぬ敵なのじゃ!

 奴等を放っておけばこの宇宙の時が止まってしまう!

 イフリートの力を手にしたお主も同様じゃカオス!

 儂はお主を消すぞ!!

 どうあってもな!!』

 

 

 みるみる内にカオスへと迫ってくる隕石の数々はカオスの逃げ場を無くすように前後左右から狙ってくる。絶対不可避の攻撃にカオスは避けるのではなく防御の体勢をとる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(……違う。

 守っていてもやられるだけ………ここにいたらあの隕石全部を耐えないといけなくなる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …食らうのは………()()()()()。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『!

 ……なんと………我が力に自ら身を投じるか………。』

 

 

 そう、カオスは飛来してくる隕石に自分から当たりにいった。隕石の軌道はカオスに向けて一直線に落ちてくるのならそこで待機していては全弾被弾してしまう。そのことにいち早く気付き一撃だけを耐え凌ぎマクスウェルを討ちに出たのだ。

 

 

 

 

 

 

カオス「(この一発だけを相殺出来れば後はマクスウェルに反撃するだけだ。

 その反撃で決める!

 イフリートの力を借りて俺は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こいつとの因縁を終わらせる!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…紅炎魔神剣!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありったけの力を込めた魔神剣を隕石に向けて放つ。カオスの全てを掛けた一撃は隕石を両断しマクスウェルへと飛び………。



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精霊王を撃退して

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『見事じゃった………。

 この儂がこうもお主にしてやられるとはな………。』

 

 

 カオスの隕石をも真っ二つにした魔神は勢いを殺さずにマクスウェルへと直弾した。それによりマクスウェルは体に深い傷を負う。しかしそれでも痛みを感じているようには見えない。痛々しい見た目に反してまだまだ余裕がありそうだった。

 

 

 対してカオスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中で意識を失い地へと体を落とした。そのまま意識を取り戻す様子はない。

 

 

マクスウェル『マナを全て使い果たしたか………。

 生命として肉体を持つ者がマナを失えば結合する原子を維持出来ずに肉体が解離してしまうというのに無茶をする奴じゃ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポオオオオオ………。

 

 

 マクスウェルが言った通りカオスの体が光を放ち霧のように霧散していく。マナを失ったカオスは廃人を通り越し大気へと体を還元させていった。かつてカーヤの母親が同じ症状を患い消滅した。カオスもこのままでは消えてしまう。

 

 

マクスウェル『奴等を残して果てるのが心残りじゃがここまでよくやったものじゃな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 儂の負けじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスよ。

 お前が勝者じゃ。

 後のこの世界はお前達の好きにするがいい。

 儂は一足先にこの世界から去るとする。』

 

 

 マクスウェルの体が光の粒子を巻きながら消えていく。マクスウェルから放出された粒子はカオスへと流れ薄れ始めていたカオスの体に色彩が戻る。

 

 

マクスウェル『お前に儂の力の全てを委ねるとしよう。

 あの星屑もこの宇宙も全てお前達に任せるとする。

 儂からはもう何も言わん。

 これからは自由に生きろ。』

 

 

 意識の無いカオスにそう語りかけるマクスウェル。マクスウェルの体はもう間もなく完全に消失するだろう。

 

 

 そんな折りに聞いてる訳がないカオスにマクスウェルはこう言葉を残した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクスウェル『この宇宙は生きておる。

 意思は持ち合わせてはおらぬが確かに生きておる。

 この宇宙に真の死が訪れた時、それすなわちヴェノムに支配されてしまったということじゃ。

 そうなってしまえばもう後にも先にも何も変わらぬ世界しかない。

 もしそんな虚無の世界が訪れ永遠にそれが続く世界になったとしたら………、

 

 

 カオス………お前ならそんな世界に生き続けることを望むか?

 それとも全てをまた()()()()()()()()()()()()()()()()?

 儂の力を得たお前なら全ての生命が生き絶えようともいかなる環境においても生き抜く術がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忘れるな。

 お前に授けたその力………常に狙われる身にあるということをな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ス……………………オス………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………オス………?………………………カオス……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………………誰かが………………俺の名前を呼んでる………?

 ………………誰だ………?

 誰が俺を呼んでるんだ………?

 俺のことをそんな親しげに呼ぶ人達はもうこの世には………というかここに誰か他に人がいるわけが………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 その声はすぐ近くから聞こえた。自分を起こそうと体を揺さぶり意識を覚まそうとしてくるその相手は目を開いた時そこにいるはずのない相手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………ア………ローネ………?」

 

 

 カオスを起こそうとしていたのはアローネであった。マクスウェルによってデリス=カーラーンから遠い地に飛ばされそこでマクスウェルからの攻撃を受けてカオスを庇って塵と消えた彼女が今目に前にいる。

 

 

アローネ「大丈夫ですか!?

 どこも異常はありませんか!?

 あのあと一体何があったのですか!

 私()はどうしてこうして無事にここへ戻ってこれたのですか!」

 

 

カオス「そ、そんな一辺に訊かないで!

 俺だって何があったかは………………達………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こう言うことだカオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り替えると驚くべき光景が待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「何があったかは分からんがどうやら俺達も無事なようだ。

 一応言っておくがちゃんと生きてるぞ。」

 

 

カオス「ウインドラ………。」

 

 

タレス「何が起こったんでしょうか………?

 あのマクスウェルの術を受けた直後から何も思い出せないのですが………。」

 

 

カオス「タレス………。」

 

 

ミシガン「あれはなんだったんだろう………?

 気が付いたらまたあの空間に飛ばされる前の場所に戻ってきてるしいつの間にか朝になってるし………皆も無事みたいだしまるで夢でも見てたかのよう………。」

 

 

カオス「ミシガン………。」

 

 

カーヤ「ここは………デリス=カーラーンで合ってるんだよね………?

 また全然知らない違う星なんかじょないよね………?

 ………カオスさん達は………カーヤの知ってるカオスさん達でいいんだよね………?」

 

 

カオス「カーヤ………。」

 

 

レイディー「ここにこうしてアタシ達がいるってことは坊やはあのマクスウェルを倒したってことか?

 アタシは最初にやられちまったからどうなったのか知らねぇがこいつらの反応をみる限りだと坊や以外は全員奴にやられてたみたいだな。

 ………まったくどんな魔法を使ったんだか………。

 奴との勝負に勝ったからアタシ達は奴の力で甦ることができたのか?

 マジでとんでもねぇ奴だったな………。」

 

 

カオス「レイディーさん………。」

 

 

 アローネだけではなかった。マクスウェルによって倒れていった仲間達が何事もなかったかのようにカオスの周りに集まっていた。どこも怪我などしておらずあの戦いが嘘だったかのようにピンピンしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………全員無事ですよ………。

 皆生きてデリス=カーラーンへと戻ってこられました。

 デリス=カーラーンは守られたのです。

 ………カオスが途中で諦めようとしたときはもう駄目かと思いましたよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方に全てを託してよかった………。

 貴方がこの星の窮地を救ったのですカオス………。」



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一触即発を回避して

グラース国道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達がデリス=カーラーンへと帰還した時、それを遠目から観察するもの達がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いかがいたします大公………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「………危機は去ったか。

 

 

 ………撤退するぞ。」

 

 

 カオス達からは高低差がある崖の上から様子を伺い撤退を宣言するアレックス。

 

 

「良いのですか?

 彼等が昨晩マテオ上空から大隕石を落とそうとした術者達なのでは?

 ここで見逃しても同じ様なことが今後何度も………。」

 

 

アレックス「………………そうだな。

 しかし奴等を見てみよ。

 何を目的にしていたのか定かではないがもうそんな気概は無さそうだ。

 以前シーモスを破壊したのも彼等の仕業だろう。

 あれほどの力………恐らく彼等はまだ制御しきれないと見た。

 昨晩の術はもう使うことは無いだろう。

 それだけ負担がかかる術なのだ。」

 

 

「ですが術を改良してまた攻めて来ることにでもなれば今度は我々が危ういのでは?」

 

 

アレックス「案ずるな。

 それまでに奴等を始末すればいいだけの話だ。

 マテオを攻撃しようとしたのなら奴等は当然ダレイオス側の陣営………。

 

 

 そろそろ本格的にダレイオスへと攻めいる必要があるな。」

 

 

「!!

 遂に戦端を開くというのですか………?

 現状評議会が反対していますが彼等はどう説得をなさるのですか?」

 

 

アレックス「問題ない。

 無条件克服など我等バルツィエは考えてはいない。

 多少強引にでも開戦はすべきだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()マテオも反撃するしかないのだ。

 

 

 心の準備はしておけ。

 時期に両国の戦いの火蓋は切って落とされる。

 そうなれば安寧の日々に寛ぐ愚か者共も現実を直視するようになる。

 我等は決して相入れないと………ダレイオスに降伏してもマテオに生きる者達に幸福な未来は訪れないのだ。

 戦うしか道は無いのだからな。」

 

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「(………今はお前との決闘は預けることにするぞカオス。

 お前が持つその力今後どの様に扱うか様子を伺うことにする。

 それによってお前が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………願わくばお前がその力をこの世界野多目に使うことを切に願う………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ん?」

 

 

アローネ「どうかしましたかカオス。」

 

 

カオス「………なんか誰かに見られてた気がしたんだけど………。」

 

 

 そういって視線を感じた方向に目を向けるがそこに人影のようなものは見当たらなかった。

 

 

ウインドラ「誰かに………?

 まさかレサリナスから騎士団がやって来たか!」

 

 

タレス「カーヤさん!

 近くに人の気配は!」

 

 

カーヤ「!

 ………あっちから沢山人の気配を感じる………。

 全部で百人くらい。」

 

 

アローネ「百人………!

 ではやはり騎士団がここに駆け付けて来ているのですね。

 私達の存在に気が付いて捕らえに来たのでしょう。

 応戦しましょうか?」

 

 

 

レイディー「………いやその必要はねぇな。

 どうやら連中帰っていくようだぞ。

 今アタシ等とやりあうつもりは無いようだ。」

 

 

 共鳴で気配を探れるレイディーが騎士団がレサリナスに戻っていくのを察知した。これから騎士団と戦うということは無いらしい。

 

 

ミシガン「!

 その騎士団の中にフェデールは………!?」

 

 

レイディー「フェデールは………多分いねぇな。

 一際目立つ強いマナを放ってる奴がいるがこれはフェデールのマナじゃねぇ。

 

 

 アレックスだ。」

 

 

カオス「アレックス………?

 ………!

 アレックスって………。」

 

 

レイディー「………そう、

 お前の大叔父だ。

 奴がレサリナスから出てくるなんてことは滅多に無いんだが事が事だけに奴が直々に昨日の一件にケリをつけに来やがったんだ。

 まぁそれも無駄足だったみたいだがアタシ等的にも今奴と事を構えることはしねぇで済んで助かったな。

 もし戦闘になってたらここにいる何人か奴に殺されてただろうよ。」

 

 

アローネ「レイディーがそこまで仰るほどの実力者なのですか?

 カオスのお祖父様と御兄弟ということでしたから腕は確かなようですが………。」

 

 

レイディー「強いぞ。

 純粋に今のバルツィエの中でも最強だ。

 生まれを過信せずに剣を磨いてきたアルバートですら歴代最強の騎士だと噂されていたがアレックスはそんなアルバートを尊敬して一緒に腕を上げていた。

 もう全盛期のアルバートよりも相当力を付けてるのは確実だ。

 たかが十年二十年修業した程度の坊やや擬きなんかじゃ相手にならねぇと思うな。」

 

 

ウインドラ「俺は大公が直接誰かと戦っているところを見たことはないが影の噂ではフェデールすらも本気を出さずに敗れるという話を聞いたことがある。

 マクスウェルとの戦いの直後に相手にしたくはない人物ではあるな。」

 

 

カオス「………そんなに強いのか…………あと人は………。」

 

 

タレス「………それで結局マクスウェルの件はどうなったのでしょうか?

 マクスウェルはカオスさんが倒したんですか?」

 

 

カオス「それは………俺も倒したかどうか分からなくて………最後は本気であいつにぶつかっていってそれからどうなったかは………。」

 

 

アローネ「?

 カオス………それは何ですか………?」

 

 

カオス「それ………?

 ………!

 これは………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にかカオスの腰には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。



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真のイフリートの影

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「どうしてこれがここに………?」

 

 

 マクスウェルとの戦いからどれだけの時間が経ちどのようにして戻ってきたのかも分からない。意識が覚醒した時には既にデリス=カーラーンにいて腰にはマクスウェルが所持していたあの本がぶら下がっている。

 

 

ウインドラ「…おい………それは………マクスウェルが手にしていたやつじゃないか?」

 

 

タレス「何でカオスさんがそれを………。」

 

 

カオス「………分からないよ………。

 どうしてこれがここにあるのか俺も………。」

 

 

レイディー「その前によぉ。

 マクスウェルの方はどうなったんだ?

 アタシ達がこうして無事に戻ってきたってことは倒したってことにしておいてそのあとあいつはどこに行ったんだ?」

 

 

カオス「それも分かりません………。

 俺もマクスウェルを倒せたかどうか曖昧で………。」

 

 

アローネ「それにしてもよくあの精霊に打ち勝てましたね。

 私達はたった一撃でやられてしまいましたのに一人残ったカオスが彼に一人で勝つなんて………。」

 

 

カオス「俺一人の力じゃないよ………。

 皆が………アローネが俺を守ってくれたから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それにイフリートが俺に力を貸してくれたから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス・ミシガン・ウインドラ・レイディー「「「「!?」」」」

 

 

カーヤ「イフリート………?

 あそこにイフリートがいたの………?」

 

 

アローネ「どう言うことですか………?

 イフリートがカオスに力を………?

 イフリートとカオスの二人でマクスウェルを倒したのですか?」

 

 

カオス「イフリートは………あそこには来なかったよ。

 来はしなかったけどデリス=カーラーンからイフリートが俺に力を与えてきたんだ。

 赤い光がデリス=カーラーンから伸びてきて俺に一時的に力を与えてくれた。

 その力のおかげでなんとかマクスウェルともまともに戦うことが出来た。」

 

 

レイディー「どうしてそれがイフリートが力を与えたって話になるんだ?

 それだけじゃお前に力を与えたのがイフリートだって分からねぇだろ?」

 

 

カオス「マクスウェルがそう言ったんですよ。

 俺がイフリートの眷属になったとかイフリートが追ってきたとか………。」

 

 

タレス「イフリートが………追ってきた………?」

 

 

カオス「どうもマクスウェルはイフリートに狙われてたみたいなんだ。

 それでイフリートが俺に手を貸して戦うことが出来た。

 結果自体はよく思い出せないけど互角………には戦えてたと思うよ。」

 

 

ウインドラ「イフリートか………。

 やはり実在するのだな………。

 そしてこのデリス=カーラーンのどこかに………。

 しかしバルツィエのダインの話ではイフリートはマクスウェルの眷属なのだろう?

 眷属ということはマクスウェルよりも力関係は下のように思えるがそのイフリートの力でマクスウェルに勝利したのか………?」

 

 

アローネ「一重に眷属だからといって王よりも格下ではないのかもしれません。

 ラタトスクによればイフリートとシルフは長くに渡ってデリス=カーラーンで暗躍しているようですからマクスウェルが殺生石としてミストでゆっくりとマナを補給している間にマクスウェルを凌ぐ勢いでマナを集め回っていたと仮定すればマクスウェルを越える力を持っていたとしても何の矛盾もありません。」

 

 

レイディー「そうだな、

 その意見が濃厚か。

 自分より弱い奴から逃げる意味なんてねぇよな。

 イフリート………の力を持つ霊人って奴が仮にマクスウェルを越える力を持っていたとしたら迎撃するよりかは逃げの一手に努めるだろうよ。

 案外ミストでマナを集めていた理由はそこにあるんじゃねぇか?

 まだマクスウェルの力が完全じゃなかったかあるいは完全な力を持つマクスウェルよりもイフリート達眷属の力が今の時点でその上をいくか………。

 ………坊やにイフリートが加勢したのは有り難いことだが単にただ助けに入ったってだけじゃなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

カオス「!」

 

 

 レイディーの言う通りだ。イフリートの助けが無ければマクスウェルにデリス=カーラーンも仲間達も殺されていただろうがカオス達がいた場所は目視で確認出来るような場所ではなかった。共鳴があったとしても星の外まで感知するのは難しいことだろう。

 

 

タレス「何か………この星にいながら遠くにいる相手の位置を知る方法があるということですか………?」

 

 

アローネ「それならバルツィエが使っているという通信機が怪しいですね………。

 私達が知らないだけでラーゲッツから拝借したレアバードに位置を特定する機能でもあれば私達の姿が見えずとも力を送ることは可能でしょうが………。」

 

 

レイディー「………いや多分だがそういうもんじゃねぇよ。

 仮定を重ねた話になるがアタシ達が使う共鳴によるものだと思うぜ。

 あれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 イフリートは恐らくこの星から坊やに向けてマナを発信したんだ。

 坊やのマナを辿ってな。」

 

 

カオス「………え?

 ………それって………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………お前………、

 この半年の間にもう既にイフリートと直接会ってるんじゃねぇか?

 ひょっとしたらその内イフリートが直々にお前の目の前に現れることになるかもしれんぞ。」



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マクスウェルの本

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………まぁイフリートについての考察はこのくらいでいいだろう。

 半年とはいえ坊やの近くにいた奴なんて数えても切りがねぇからな。

 

 

 それよりもその本だよ。

 そいつにはどんなことが記されてるんだ?」

 

 

 話はイフリートからマクスウェルが所持していた本に移る。他の皆もカオスの腰にある本に目を向ける。

 

 

カオス「!

 少し待ってください。

 今中身を………。」

 

 

 カオスは本を皆に見えるように広げて見せる。

 

 

アローネ「………?

 これは………。」

 

 

タレス「………何ですかこれ………。」

 

 

ウインドラ「これはマテオで使われている文字ではないな。

 タレスでも読めないということはダレイオスの文字でも無さそうだ。」

 

 

カーヤ「誰もこの本が読めないの?」

 

 

ミシガン「そうみたいだね。

 こんな文字初めて見るよ。

 精霊が持ってたくらいだから精霊だけしか使ってない言語なんじゃないの?」

 

 

レイディー「こりゃ使い物にならねぇな。

 精霊の王の所持品とくりゃどんなすげぇ内容の魔導書なのか見てみたかったが一文字も読めねぇとなると流石にお手上げだ。

 アタシ等じゃこいつを読むことは出来ねぇ。」

 

 

 マクスウェルの本を開くとそこに書かれていた文字はこれまでに目にしたことのない理解不能な文字だった。マクスウェルが戦闘中にこの本を開いて術を使用していたことから更なる新術を習得する機会がやってきたのではないかと一瞬期待を膨らませた一行だったが内容を解読できないのではどうすることもできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ一人を除いては………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………読める………。」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「何………?」

 

 

カオス「………俺………この本が読める………。

 この本に書かれている文字が全部分かる………。」

 

 

アローネ「!

 カオス………貴方はこの本の文字を御存知なのですか!?」

 

 

タレス「まさか他にもこれと同じ文字を使った文献を目にしたことがあるんですか!?」

 

 

カオス「…違う。

 俺もこんな文字初めて見たよ。

 けど何でだろう………俺にはこの本に書かれていることが分かるんだ………。

 この本には普通に使われてる基本の術からアローネ達の使ってる術とかバルツィエの使ってる術も載ってる。

 それ以外にも見たことも聞いたこともない術が沢山………魔術ってこんなに多くの種類があったんだ………。」

 

 

レイディー「どうして見たことの無い文字が読めるんだよ?

 テキトーなこと言ってんじゃねぇだろうな?」

 

 

ウインドラ「カオスがそんなことを言うわけ無いだろう………。

 ………とは言ってもこの文字を読めるというのはどうにも………。」

 

 

 カオスだけが本の内容を理解することができても理解している証拠がなくては皆もカオスの言葉を信じていいものか迷っている。

 

 

カーヤ「…試しにどんな術のことが載ってるの?」

 

 

 微妙な空気を察してカーヤがカオスに本の内容について質問してくる。カオスは皆に信じてもらうために勢いよくページを捲っていきこの場の六人も知らない術のナマエヲ言おうとした。

 

 

 そして途中である魔術に目が行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!

 この術は……………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………”メテオスォーム“………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メテオスォーム………あのマクスウェルが使っていた術だ。その名前を見付けてついその呪文の名称を口にしてしまった。

 

 

 すると本が光り天空からまたあの十四の巨大隕石が出現する。

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!

 

 

ウインドラ「なっ、何……!?

 またか………!」

 

 

タレス「どうしてまたあの隕石が!!?」

 

 

アローネ「マクスウェルは倒されたのではなかったのですか!?」

 

 

レイディー「またこの術かよ!?

 あんなん二度は防ぎきれねぇぞ!」

 

 

カーヤ「駄目………ここからだと逃げ切れない!」

 

 

ミシガン「いい加減にして……!

 まだこのデリス=カーラーンにちょっかいをかけてきて!

 一体どこから攻撃を………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「きっ、消えろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシュン!

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ・レイディー「「「「「「!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 カオスが一言消えるよう命じると隕石は大気に溶けるように消えていく。それと同時に本の光も収まった。その様子を見てレイディーが訊いてくる。

 

 

 

 

 

 

レイディー「………今のあいつが使ってた術………お前の仕業か?」

 

 

カオス「………はい……。」

 

 

ウインドラ「………何故お前が奴の力を使える………?

 マクスウェルはまだお前の中にいるのか………?」

 

 

タレス「どうしてカオスさんがマクスウェルの術を………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「!

 またさっきの人達が戻ってくる!」

 

 

レイディー「チィ!

 今の騒ぎで帰ってきやがったか!

 一旦ここから離れるぞ!

 坊やもさっきみたいに不用意に呪文を唱えるんじゃねぇ!

 せっかく見逃してもらえたってのに今度は確実に追ってくるぞ!」

 

 

カオス「すっ、すみません!」

 

 

 一度は危機が去ったかと思えば再び空に隕石が出現したことでアレックス達が戻ってくる。カオス達はアレックス達騎士団との接触を避けるためその場から立ち去った………。



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予定通りレサリナスへ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………それでどうなってんだよ?

 さっきの術はマクスウェルが使ってた術だぞ?

 それをつけたり消したり出来るなんてハッキリ言って異常だ。

 あんだけの術個人で使うとなると一発で体の中のマナを根こそぎ持ってかれる。

 まだマクスウェルの奴はお前に憑依してるとでも言うのか?」

 

 

 レサリナスに向けてグラース国道を進んでいたカオス達は騎士団が駆け付けてきたこともあって見付かって捕らえられないように今はレサリナスとは逆の方向へと進んでいた。

 

 

カオス「………いえ………マクスウェルは………今のところ俺の中にいるような感覚は………。」

 

 

アローネ「分かるのですか?

 精霊に憑依されているかいないかが。」

 

 

カオス「…前にシーモス海道でユーラスにやられる前と後で体の中に違和感があったんだ。

 ダレイオスにいる間中はずっと俺の体の中に俺じゃない他の誰かがいる感覚がしてたんだけど今はそれが無いんだ………。

 半年前に戻ったような気がするよ。」

 

 

ウインドラ「マクスウェルはカオスの体から離れたと言うことか?

 だがお前のマナはこれまでとそう変わってないように思えるが………。」

 

 

タレス「相変わらずカオスさんのマナがバルツィエやヴェノムの主なんかよりも桁外れに高いように感じます。

 まだマクスウェルはカオスさんの中にいるのでは?」

 

 

カオス「マクスウェルは………いるようないないようなそんな感じかな………。

 前まではマクスウェルが貯めていたマナを使わせてもらってる感じだったんだけど今はなんか俺自身のマナを使ってる感覚がある………。」

 

 

アローネ「それにしてはあまり今までと変わっていないようですが………。」

 

 

カオス「俺もどうなってるかよく………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「お前………()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

カオス「!」

 

 

アローネ「カオスが霊人に………?」

 

 

レイディー「お前達がアインワルドの巫女から聞いたっていう霊人ってのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のことを言うんだろ?

 今の坊やがまさにそれじゃねぇか。

 今までは精霊と共生してるような状態だったのが精霊がいないのに力だけは精霊がいた時と同じ。

 坊やが精霊の力そのものを継承してんだよ。

 まさしく霊人ってのに相応しい状態じゃねえかよ。」

 

 

カオス「俺が………霊人に………。」

 

 

 精霊を殺してその力の全てを奪う霊人、あの戦いでマクスウェルを倒せたかは確認できなかったが自分の中にマクスウェルの力があるのであればそういうことになるのだろう。

 

 

ミシガン「この半年でマクスウェルによる世界の破壊を止めることばかり考えていたけど一緒にカオスが抱えていた精霊をどうにかするかって問題も解決したことになるの?」

 

 

カオス「………あいつがいなくなったのはいいけどあいつの力だけがそのまま俺の中に残ったのか………。

 ………なんか妙な感覚だな………。

 結局は俺個人の本来の力がどのくらいだったのか分からない訳だし………。」

 

 

ウインドラ「マクスウェルにあれこれ指示されることも無くなったから好きに扱えばいいんじゃないか?

 これまでとそう変わらないだろうが徐々に受け入れていけばいい。

 もうお前が気に病んでいたミストももう無いのだしな。」

 

 

カオス「それはそうだけど………。」

 

 

タレス「まだ全てが解決とはいきません。

 精霊の力をカオスさんが受け継いだことは置いておいて今はフェデールの居場所を特定することに専念しましょう。」

 

 

ミシガン「私もタレスと同意見。

 マクスウェルのことは一先ず解決して世界の危機は去ったってことにしとこう。

 もう昨日の期日も過ぎちゃったわけだしこれ以上マクスウェルのことにとらわれすぎても話が進まないよ。

 私は早くフェデールのところに行きたい。

 フェデールのところに行ってミストの皆の仇を………。」

 

 

レイディー「そう焦るんじゃねぇよ。

 どうせ今レサリナスに行っても多分封鎖されてるだろうぜ。

 なんせ昨日の騒ぎに引き続いてレサリナスの近くにアタシ達みたいな大物指名手配犯が彷徨いてるのを見られちまったからな。

 正攻法じゃまずレサリナスには入れねぇ。」

 

 

ウインドラ「レイディー殿の言う通りだろう。

 前にもカオス達が南部から北上してきた辺りでレサリナスで検問が敷かれたからな。

 今回も同じ様に検問を開く筈だ。

 正面から行くのは得策ではない。」

 

 

カーヤ「?

 何でそのレサリナスってところに入れないの?」

 

 

アローネ「私達が堂々とレサリナスの中へと入ろうとするとそれを阻もうと騎士団が待ち構えているからです。

 騎士団に会えば争いは避けられないのですよ。」

 

 

カーヤ「そうなんだ………。

 じゃあどうやってレサリナスに入るの?」

 

 

カオス「それを今から皆で話し合おうとしてたんだよ。

 どうにかしてレサリナスの中には入りたいけど騎士団がいたらどうしようも………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタガタガタ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ん………?」

 

 

 カオス達がレサリナスへの侵入の方法を考えていると近くを亀車が通った。その亀車は真っ直ぐ道沿いに進みレサリナスの方へと向かっていった。

 

 

ウインドラ「………亀車か………。

 一瞬騎士団が駆け付けてきたのかと思ったぞ。」

 

 

タレス「そういえばここは道のど真ん中ですからね。

 イクアダから物資を運び込んでる途中なんでしょう。」

 

 

アローネ「あの亀車は検問をお受けになるのでしょうか………?」

 

 

レイディー「そりゃ当然するに決まってるだろ。

 検問をしないのは精々()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「傘下………?

 ………………ブラムとか………?」

 

 

ウインドラ「!

 ………そうだ。

 ブラム隊長だ!

 あの人なら検問も顔パスで通れる筈だ!」

 

 

タレス「ブラムと言うとオーギワン港にいた騎士の人のことですよね?

 前にレサリナスでもボク達を普通に見逃してくれたあの………。」

 

 

アローネ「先日の様子ですとこのグラース国道で待っていればまたここを通過しそうですね。

 どうもミストのことを知らないようでしたしフェデールからもミストのことを知らされていないみたいですし。」

 

 

レイディー「ブラムか。

 そいつぁ丁度いい足掛かりがいたもんだな。

 あいつに頼んで積み荷の亀車にでも乗せてもらえりゃレサリナスに難なく入れそうだな。

 ブラムのマナの感じならアタシが分かる。

 奴が通れば一発で見つけられるぜ。」

 

 

ミシガン「じゃあどこか話し掛けられるいいポイントを探してそこでブラムを待とう。

 もたもたしてたら知らない内にブラムがオーギワン港の方まで行っちゃう。」

 

 

 カオス達はレサリナスに侵入すべくブラムがグラース国道を通るのを待つことした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして思い付きで立てたこの作戦が見事成功しレサリナスへと無事に侵入することが出来た………。



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ブラムの協力

グラース国道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタガタガタ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「ふぅ………やっとカエサルさん達のいるミストへ帰れますよ。

 レサリナスもいい街なのですが私としてはミストのようなのどかな田舎の方が落ち着きます。

 

 

 …それにしても昨日のあれは何だったのでしょうか?

 突然星が輝き出したかと思えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そしたら空の星も落ち着きを取り戻して………。

 もうバルツィエにあれこれと命令されるのは真っ平です。

 ダイン様はともかくランドール様まで私を執事のように扱うとは………。

 ………と言っても私元々執事だったのですけどね。」

 

 

かめにん「隊長さんも大変っスね。

 あっちに行ったりこっちに行ったりと。」

 

 

ブラム「えぇ、

 ここ暫く立て続けに他の隊長が殉職なさっていますから………。

 私がかつて仕えていたゴールデン様も半年前に………。」

 

 

かめにん「ゴールデンさんっスか?

 へぇ~、

 御客さんゴールデンさんの執事だったんスねぇ。

 うちもゴールデンさんのところには色々御世話になってたんスよ。」

 

 

ブラム「…ある時から全く姿が見えなくなったと思ったらまさかの開戦前に処刑が行われるなんて………。

 今でもまだあの日のことが忘れられません。

 惜しい御方を失ってしまいました。

 非常に残念なことです。」

 

 

かめにん「ゴールデン家の人達は民間とも繋がりが深かったっスからねぇ。

 うちも大事な顧客がいなくなって商売に少なからず影響が出てるんス。

 ゴールデンさんが亡くなってうちも大変悲しいっスわぁ。」

 

 

ブラム「悲しみ方は人それぞれ………人とかめそれぞれでしょうが貴殿方は情よりも先にお金儲けの話から悲しまれるのですね………。」

 

 

 亀車に揺られながら他愛もない話をするブラムとかめにん。ブラムが数日にかけてレサリナスとオーギワン港を往復したこともあってかかめにんが話を振ってくる。それに受け答えをするブラムだったがどうしても商売の話に持っていこうとするかめにんに軽いストレスを感じながら二人はオーギワン港へ向かう。昨日やっとフェデールから書類を作成してもらいオーギワン港を通過する許可証を得てミストに向かう道中でのことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァ…………!!パキィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタタタタタ!!!

 

 

 何の面白味もないかめにんとの会話に疲れ無言で外の景色を眺めていると亀車が急停止をする。

 

 

かめにん「なっなんスか!?

 何なんッスかぁ!?」

 

 

ブラム「どうなさいました!?」

 

 

かめにん「ぞっ、賊が襲ってきたんス!

 御客さんは車の中で待ってるっス!

 すぐにぼくが賊を追い払ってくるんで!」

 

 

ブラム「………いえ、

 私も戦います。

 賊程度に遅れをとったりはしません。

 二人で賊を追い払うことにしましょう。」

 

 

かめにん「いえいえ御客さんを働かせるなんてかめにんの名折れですって!

 御客さんはゆっくりと亀車の中で待ってるだけでいいっス!

 賊はぼくが退治するッス!」

 

 

ブラム「過信してはなりません!

 賊は一人ではないでしょう!

 走行中の車両を襲うのなら賊は複数いるはずです!

 四方を囲まれる前に私も出て応戦するのが懸命です!

 二人で賊を蹴散らした方が死後とも早く終わります!

 やはり私も降りるのが最善でしょう。」

 

 

かめにん「聞き分けのない御客さんっスねぇ!

 ぼく一人で十分だって言ってるんスよ!

 そんなに我が儘言うと御客さんから先に気絶させちゃいますよ?」

 

 

ブラム「………何故私が貴方に気絶させられなければならないのですか………。

 本末転倒でしょうに………。」

 

 

 話の流れから敵は賊とかめにんになりかけて焦るブラム。一旦落ち着かせようとかめにんを宥めるブラムだったが賊がいつまでも亀車に攻撃を仕掛けてこないのが気になり窓から外の様子を伺う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「よぉ?

 ちょいとその旅路アタシ達も同行させてくんねぇかい?」

 

 

ブラム「あっ、貴女は………!?」

 

 

 外に待ち構えていたのは現在レサリナスで最上級凶悪犯として手配されている女性だった。

 

 

ウインドラ「突然亀車を止めてすまないブラム隊長。

 貴方にお願いしたいことがあってこんな手洗い真似をしてしまった。

 そのことは詫びよう。」

 

 

ブラム「貴殿方はあの時の………。

 ………と言うことは………。」

 

 

 

 

 

 

カオス「こっ、こんなちは………。」

 

 

ブラム「………やはり臣民様もおられたのですね………。

 賊は貴殿方だったのですか………。」

 

 

かめにん「?

 知り合いっスか?」

 

 

ブラム「えぇまぁ………。

 この方々は賊ではありません。

 私の()()です。

 少し御時間をいただいても宜しいでしょうか?」

 

 

かめにん「構わないッスよ?

 そろそろトータスのトー君を休ませないといけない時間だったんで丁度いいッス。」

 

 

ブラム「有り難うございます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それでは彼方の方に参りましょうか。」

 

 

 ブラムはカオス達を少し離れた岩影へと案内する。ブラムもカオス達と親しそうに話すところを目撃されるのは避けたいようだ。カオス達からしてもブラムが怪しまれてレサリナスに入出することが出来なくてっても都合が悪くなるのでそれに従った………。



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惨劇を知って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「この前のレサリナスでの時は正式な謝罪も出来ずに申し訳ありませんでした。

 臣民様方もレサリナス脱出をお急ぎしていたために私の方が引き留めることも出来ず言葉だけの謝罪になってしまい誠に「そんなことはどうだっていいんだよ。」」

 

 

レイディー「今アタシ達はお前に謝ってほしいんじゃねぇよ。

 お前に頼みたいことがあって引き留めたんだ。

 お前はアタシ達の要求を呑んでくれたらそれでいい。

 黙ってアタシ等の言う通りにしろ。

 いいな?」

 

 

 本来謝罪される必要のないレイディーがブラムのカオス達に対する謝罪を拒否する。性格と口が悪いせいか発言だけ取ると本当に賊のようだった。

 

 

タレス「なんか悪人みたいになってますねボク達………。」

 

 

アローネ「レイディーもう少し言い方を優しく出来ませんか?

 それでは彼を脅しているようにしか聞こえません。」

 

 

ミシガン「仕方ないよ。

 レイディーのこれは注意して治るものじゃないし。」

 

 

ウインドラ「すまないブラム隊長。

 頼みたいことがあるのは確かなんだが別に上から物を言うつもりは無いんだ。

 俺達をレサリナスに極秘に潜入する手助けをしてほしいだけで。」

 

 

ブラム「レサリナスに………?

 ………なるほどそういうことでしたか………。

 今朝方から門前で何やら検査をなさっていましたから今レサリナスには臣民様方のような方々は出入りしにくくなっておりましたからねぇ………。」

 

 

アローネ「やはり検問が敷かれていたのですね。

 迂闊に飛び込まないで正解でした。」

 

 

ブラム「しかしレサリナスに何をなさるのですか?

 風の噂では臣民様方は何やらダレイオスに渡られていたようでございますが………。」

 

 

カオス「そのこととは別に個人的に騎士団趙………フェデールに訊きたいことがあるんです。」

 

 

ブラム「フェデール………様に………?

 一体どの様なことをお訊きされるのでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「何でミストの皆を焼き殺したしたのかをだよ。」

 

 

ブラム「!?

 何ですって……!?」

 

 

 ミストが焼かれたことを言うとブラムは驚く。やはりフェデールからは何も聞かされていなかったようだ。

 

 

タレス「ボク達がダレイオスからマテオに戻ってきたのは一週間前です。

 ダレイオスの西側にあるゲダイアンという都市があった付近から海を渡って帰ってきました。

 マテオに到着した場所がたまたまミストが近くだったので家出するようにミストを出てきたミシガンさんの要望もあってミストの様子を見に行ったんです。

 ………そしたらそこには既に村中が燃え尽きた跡で………。」

 

 

カオス「俺達はどうしてミストがあんなことになったのか調べようとしましたがミストの周りには他に生存者はいませんでした。

 何の手掛かりもなくてどうしようかって時にリトビアにミストから逃げてきたザックっていう知り合いがいたんで話を聞いたらミストをやったのはフェデールだったらしいんです。」

 

 

アローネ「ザックさんが二ヶ月程前に偶然村から出て森の中にいたようでして彼だけがフェデールが放った炎の術から逃れられたようです。

 生存者は恐らく彼一人だけで唯一の目撃者となりました。」

 

 

 

 

 

 

ブラム「そんな………そんな報告は何も………。

 私はこれからミストに………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!

 ぶっ、部下は………!?

 私の部下達はどうしました!?

 あそこには渡しの部隊が駐留しておりました!

 ミストにいた私の部下達はどこに………!?」

 

 

 ミストが焼かれたことを聞いてブラムがミストにいた騎士団の部下達のことを訊いてくる。身近な知人達のことを心配してのことだろうがカオス達はその質問に残酷な答えしか用意できない。

 

 

 

 

 

レイディー「言っただろ?

 ()()()()()()()()()()()()()()だってな。

 生きてた奴は他にはいねぇ。

 お前の部下達もミストの奴等と一緒に灰になってたんだよ。」

 

 

ブラム「そんな………。

 何故同じ騎士団の部下達まで………。

 ………そっ、それは真のことなのですか!?

 何か………!

 どこかの村と見間違いをしていたりなどはしていませんか!?」

 

 

ウインドラ「………俺達もそうだと思いたかった………。

 焼き払われたのはミストとは違う別の村だと信じたかった………。

 

 

 ………だが現実は現実のままだった。

 攻撃を受けたのは確かにミストだったんだ。」

 

 

アローネ「焼き跡から何かの証明になるのではないかと遺品を預かってきました。

 …ブラムさんならこれに見覚えはありませんか?」

 

 

 アローネが鞄の中から黒ずんだ棒状のものを取り出す。カオス達はアローネがそんなものを持ち出しているとは知らずにブラムと一緒に注目する。よく観察して見れば何かマークのようなものが見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「……それは私の………ブラム家の紋章が彫られた鞘………。

 ………カエサルさんの………部下に所持させていたものです………。」

 

 

 

 

 

 

 確定的な証拠が出てきてしまった。それがあったということは間違いなくブラムの部下がその現場にいたことになる。そしてブラムの部下が滞在していたのはミストでそのミストは………、

 

 

ブラム「………ミストが焼き尽くされたというのは真のようですね………。

 ………ミストはどの様なご様子でしたか………?

 あの村にいた方達は本当に村と共に焼かれてしまったのですか………?

 建物や畑が焼かれただけで住んでいた人々はどこかに連れ去られた可能性というのはありませんか………?」

 

 

ミシガン「………悲しいけど生き残りはザック以外にはいなかった………。

 村の中には沢山の炎に包まれて焼かれた黒焦げの遺体しかなかったんだよ………。」

 

 

レイディー「アタシも一度村に入ったからお前の部隊がどの辺りにいたのか把握していた。

 お前の部隊がいた宿舎の周りには体つきからして男と思われる遺体が沢山散らばってたぞ。

 全員似たような格好してたからお前の部下達だろうな。」

 

 

ブラム「………そう………ですか………。

 カエサルさん達が………そんなことに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そんな最期をカエサルさん達が………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラムの顔は怒りや悲しみといった感情は読み取れない。読み取れるのは現実を受け止められないという無感情な表情だけだった………。



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泣きたいはずなのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「………」

 

 

レイディー「気の毒なところ悪いがアタシ達も急ぎの用なんだ。

 なんとかアタシ達をレサリナスまで乗せていってもらえねぇか?

 もうアンタ以外には頼れる奴がいないんだよ。

 この機会を逃すともうレサリナスに入る機会が来ないと思うんだ。

 協力してくれねぇか?」

 

 

ブラム「………」

 

 

ウインドラ「………ブラム隊長………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「………分かりました。

 貴殿方をレサリナスへとお連れしましょう………。

 それで臣民様方への僅かながらの罪滅ぼしとさせていただきます。

 まだまだこの程度では足りませんがせめてもの償いです。」

 

 

 ブラムはカオス達の要求を呑んでくれた。ここからはブラムがカオス達をレサリナスの中まで案内するようだ。

 

 

アローネ「御助力感謝いたします。

 私達だけでは騒ぎを起こさずにレサリナスへと行くのは難しかったですから。」

 

 

ブラム「…臣民様お二人にかけた迷惑に比べればこのくらい安過ぎるものです………。

 ………ですが私もフェデール様にミストへと戻る旨を伝えてレサリナスを出発した身です。

 レサリナスへと戻る言い訳としては忘れ物を取りに戻って来たのだと言えばそれでどうにかレサリナスへは入ることは可能ですが皆様をレサリナスへと招いた後は直ぐにミストに向けてとまた出発しなければなりません。」

 

 

タレス「………?

 何を言ってるんですか?

 だからミストは………フェデールに………。」

 

 

ブラム「貴殿方のことを疑ってるわけではありません。

 

 

 

 

 

 

 ですが私自身の目で確かめておきたいのです。

 ミストがどうなったか………私の部下達がどうなったかをちゃんとこの目に焼き付けておきたいのです………。」

 

 

 ブラムの意思は固かった。止めようとしても彼の決意は変わりそうになかった。

 

 

カオス「………分かりました。

 そこまで言うのなら止めたりはしません。

 俺達の故郷ミストがどうなってるか見てくればいいと思います。」

 

 

アローネ「カオス………ですけどミストに行ってももうあそこには誰も………。」

 

 

レイディー「止しな。

 無駄足だろうが何だろうが個人の自由だ。

 そいつがミストに行くってんなら好きにすればいい。

 アタシ達とそいつはそこまで深い仲でもねぇんだ。

 そいつの自由を縛り付けるようなことは出来ねぇ。」

 

 

ミシガン「本当に行くの………?

 私達が話したことは全部本当のことなんだよ………?

 ミストに行ってもブラムさんの友達の………その………。」

 

 

ブラム「………だからこそ私はミストに向かわねばなりません。

 友には私の帰りを待たせておりました。

 亡くなったとはいえ私は友との約束を果たさねばなりません。

 皆様をレサリナスにお届けした後に私は友との約束を果たしに参ります。」

 

 

カオス「…案外義理堅いんですね。

 バルツィエに近付いて情報源を仕入れているくらいだから薄情な人だと思っていました。」

 

 

ブラム「私にはそういう役割しかこなせませんから………。

 私にしか出来ないのであれば全力でそれに取り組むべきです。

 後ろ指さされようとも誰かが事前にバルツィエが何を計画しているかを知り出来るだけ被害を最小限に抑える。

 ゴールデン家………バーナン様から受けたご恩に報いるためにはそういう間接的な方法しか無かったのです………。」

 

 

アローネ「バーナン………様………?」

 

 

ウインドラ「バーナン・ゴールデン隊長………半年前に城前広場でユーラスに処刑された人だ。」

 

 

カオス「!

 あの人!」

 

 

ブラム「ゴールデン家は代々バルツィエと並びマテオの柱として機能してきました。

 それがバルツィエが力を付けていったことで関係は傾きだし対立するようになってきました。

 このままバルツィエの思い通りに進めばいずれバルツィエには誰も逆らえなくなってしまう。

 ですから私はバルツィエに近付きバルツィエが今以上に成長を遂げないよう影でバルツィエが任務を失敗したり悪評が広まるような噂を流したりしておりました。

 臣民様御二方のこともその例にございます。」

 

 

ウインドラ「バルツィエの身内から手配される程の悪人が出ればそれだけで家としての株は下がっていく。

 そしてカオスのようなバルツィエの生まれでありながらバルツィエと真っ向から戦う者がいればそれだけで人々は希望を持つことが出来る。

 バルツィエと戦うのは俺達ダリントン隊やバーナン隊の部隊だが人民の支持も時には必要になってくるからな。

 カオスとアローネは巻き込まれる形でそうなってしまったんだ。」

 

 

レイディー「そんでもって最終的には二人だけじゃなくてあの広場にいたアタシ達全員が指名手配をバルツィエから直接受けることになったってわけだ。

 もうこりゃバルツィエとの戦いはどこにいても避けられはしねぇな。」

 

 

アローネ「そんなことは始めから分かっております。

 バルツィエとはいつか正式に決着をつけねばなりません。

 ですがその前に私達は知らねばなりません。

 フェデールの真意を………そしてバルツィエのことも………。」

 

 

ブラム「…皆様はとてもお急ぎのようですね。

 では私はかめにんに急遽予定を変更することを伝えてまいります。

 皆様はこちらでお待ちください。」

 

 

 ブラムは待たせているかめにんの元へ向かった。その足取りは話をする前と比べて大分重たそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………辛そうだねブラム………。」

 

 

ウインドラ「唐突に仲のよかった友人達が死んだと告げられたんだ。

 あぁなってしまうのも無理はないさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後戻ってきたブラムに亀車の荷台に乗せられて一行はレサリナスへと向かうのだった………。



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ブラムはミストへ

王都レサリナス バベル邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「ブラム隊長。

 助かった礼を言おう。」

 

 

ブラム「いいえこの程度のこと当然でございますよ。

 私は貴方の御友人を私達の争いに捲き込んだのですからこのくらいのことは御助力させていただきますよ。」

 

 

アローネ「捲き込まれたとは言ってもこの世界の状勢ではいつかは自然に捲き込まれていたとは思いますよ。

 貴方との一件が無くとも私達はバルツィエと戦う運命にあったと思います。

 そう気を負おうとなさらないでください。」

 

 

ブラム「…そう仰っていただけるのは有り難いです。

 しかし騎士団に所属しておきながら臣民様を利用してことには変わりありません。

 このことは私自身が戒めねばならないことなのです。

 故にそう易々と私を許してはいけません。

 私が行った行為は本来悪として断罪されるべき行為ですから。」

 

 

 始めこそ最悪な出会いをしたブラムだったが後々彼がマテオの国を思ってやったことだったことが分かる。騎士団の隊長という立場にあっても民間人に敬服するような対応などはミストでもそれなりに人気があったらしい。もしブラムではなく別の騎士団の者がミストに派遣されていたらどうなっていたことか。

 

 

ブラム「………それでは私は出発します。

 皆様はもう少し暗くなるのを待ってから外出するのをお奨めします。

 臣民様方のお顔はここでは広く知れわたっていますので面倒事に発展しかねません。

 なるべく帽子やマスクといった顔をお隠しできるようなもの等を身に付けて出歩くのがいいでしょう。

 それと服装もこの屋敷に一通り一般の服装は御用意出来ますのでそちらの方に御召し変えください。」

 

 

タレス「そんなことまで世話になってしまうとなんだか申し訳ないですね………。

 こっちはただレサリナスの中に案内してくれればよかっただけなのに………。」

 

 

レイディー「ハハ!

 ブラムに頼るのは正解だったな!

 まさか街中を歩けるように服まで用意してくれるとは!

 これでレサリナスの街中でも歩きやすくなるぜ。」

 

 

ウインドラ「そういえばブラム隊長はバルツィエに気に入られて貴族にまで昇格したのだったな。

 それで俺達が着れるような衣服も揃えているのか。

 …本当に何から何まで世話になりっぱなしで………。」

 

 

ブラム「私がかけた迷惑の期間と照らし合わせればこの程度のことはまだまだ償いにはなりませんよ。

 貴殿方の手助けになれることならなんだっていたします。

 それで国がよい方向に向かうならこの身を粉にしてでも全力で皆様のサポートをさせていただきます。」

 

 

アローネ「そこまでしなくとも………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ブラム………さん。」

 

 

 一頻り話終えブラムが出発しようとしたタイミングでカオスのようなが意を決したようにブラムに話し掛ける。

 

 

ブラム「はい?

 何でございましょうか?」

 

 

カオス「ここまで本当にお世話になりました。

 俺達がレサリナスに入れたのも全部ブラムさんのおかげです。」

 

 

ブラム「お礼など結構です。

 この程度のことは別の私でなくとも「俺達は………。」」

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺達はもうすぐバルツィエと戦います。

 俺達はこの半年でダレイオスを立て直してマテオと戦えるだけの戦力を整えました。

 ………もう暫くでマテオとダレイオスは戦争を始めるでしょう。」

 

 

ブラム「ダレイオスが………。

 ………それは………喜んでよろしいことなのでしょうか………?」

 

 

レイディー「少なくともバルツィエが一人勝ちするようなことにはならなくなったな。

 ダレイオスが一方的にやられてバルツィエが世界を支配するような状態にはならねぇ。

 マテオとダレイオス二つの国がぶつかっていよいよ決着がつく。

 戦況的にはアタシ達がつくダレイオス側の方が歩があると見ていい。」

 

 

ブラム「ダレイオスが………有利ということですね。

 長きに渡るバルツィエの蹂躙からようやく世界が解放されるというのですね………。

 それは本当に………。」

 

 

カオス「そのことについてなんですけど………、

 

 

 

 

 

 

 ………ブラムさんからダインに此方側につくよう説得してもらえませんか?」

 

 

 

 

 

 

アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・レイディー「「「「「!」」」」」

 

 

ブラム「ダイン………様ですか………?

 ダイン様が貴殿方とどういう繋がりで………?」

 

 

 カオスはブラムに再開した時にこの話を持ち掛けようとずっと考えていた。ダインはバルツィエだがウィンドブリズではどういうわけか助けられてしまった。話してみればあっちもブラムと仲良く話をしていたところを聞いて興味を持ったようだった。

 

 

カオス「ダインには彼女が俺達がダレイオスで活動している時に助けてもらったんです。

 ダインと一緒にいたのは三日くらいだったけど話してみてダインとは戦いたくないって思いました。

 ダインはバルツィエに生まれただけでバルツィエのように残忍には染まってなんていない。

 ダインなら………ブラムさんから説得してもらえば俺達と一緒にバルツィエと戦ってくれると思うんです。」

 

 

ブラム「ダイン様がダレイオスで貴殿方と………。」

 

 

アローネ「はい、

 ダレイオスにはあることが原因でヴェノムの突然変異した個体が出現していてそれを私達は倒して回っていました。

 彼女と会ったのはそんな突然変異の中でも一際強力な力を持ったヴェノム、カイメラと戦っていた時で彼女は私達に助勢していただけたのです。」

 

 

タレス「バルツィエは好きではありませんがあのダインって人ならそこまで嫌いではありません。

 あの人なら此方側に来ても何も文句はありません。」

 

 

ウインドラ「正直ダインとはやり合いますたくないんだ。

 どうにかダインを貴方の口から説得してもらえないか?

 できれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

レイディー「アタシは直接ダインがこいつらに加勢したところは見てねぇがそういうことらしい。

 何度も何度も無理なことを言ってるようだがダインくらいの戦力が此方側にくるのは願ったり叶ったりだろ?

 引き受けてやってくんねぇか?」

 

 

ブラム「…ですが私がダイン様を説得したからと言ってダイン様がバルツィエと離反されるとは限らないのでは………。」

 

 

カオス「やるだけやってみてほしいんです。

 ダインとはどうしても戦いたくないんです。

 フェデールやランドールならまだしもダインと戦場で戦うことだけはなんとしても避けたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お願いしますブラムさん。

 それで俺とアローネの件は忘れることにします。

 どうかダインを………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「………まさか貴殿方からそのようなことをお願いされるとは思っても見ませんでした。

 私もどこかでダイン様とだけは戦うようなことにはなりたくないと常々思っておりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………分かりました。

 その任、承りましょう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラムはカオス達のお願いを聞いてくれることになった。バルツィエとの戦いでもっとも懸念していたダインとの対立はブラムがどこかで話をつけてくれることになった。あとはダインが説得に応じてくれるかだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あえなくブラムのダインとの交渉は失敗するという結末を迎えることになった。そもそもブラムはダインを説得することが出来ずに戦争が始まってしまうのだった………。



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戦いが終わったらどうするか

王都レサリナス 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………よし、

 早速情報収集を開始するぞ。

 各自手分けしてフェデールの居所を探れ。」

 

 

 深夜になった途端レイディーが皆にこれから行う作戦についての支持を出した。

 

 

カーヤ「?

 一緒に行動しないの?」

 

 

ウインドラ「複数人で動くのは注目が集まりやすい。

 もし街の中にいる誰かが俺達の顔にピンときたら即通報されてしまうだろう。」

 

 

ミシガン「でも私達が前にレサリナスで暴れた時は街の人達は皆私達の味方っぽかったけどそれで通報なんてされるの?」

 

 

タレス「世の中そう良い人達ばかりじゃありませんよ。

 ボク達は今賞金のかかった逃亡犯なんです。

 お金のためなら人は簡単に人を売ったりするんですから安心してはいられません。」

 

 

アローネ「探索するにしてもカーヤは一人では迷いそうですね。

 私達の位置は共鳴で把握していてもこういった街中では動き辛いと思います。

 どなたかカーヤと共に探索することにしませんか?」

 

 

カオス「そうだね………。

 じゃあ俺と一緒に回ろうか?」

 

 

カーヤ「うん、

 じゃあカオスさんと一緒にいく。」

 

 

ウインドラ「決まりだな。

 それでは皆がどこを探索するかについてだが………。」

 

 

レイディー「アタシと擬きはこの街の滞在歴が長い。

 他はそんなにこの街のことよく知らねぇだろ?

 だったらアタシと擬きでこっから一番遠い貧民街を探索して他の奴等はこの周辺を回ってくれ。

 手が空いてる奴はもしもの時のために逃走経路を確保するのもいい。

 どれだけ時間がかかるか分からねぇんだ。

 ヤバくなりそうならさっさとこんな街からトンズラするのも考えに入れとかなきゃいけねぇ。

 なんだったら坊やとラーゲッツの娘で抜け出せそうなところを探しておいてくれ。」

 

 

カオス「分かりました。

 ではそうします。」

 

 

アローネ「ですがレイディー………、

 調べると言ってもどの様にして調べるのですか?

 聞き込みとかそういった方法ですとかえって目立つのではないでしょうか?」

 

 

 ブラムから借りた服でどうにか一般市民になりきることはできたが情報を収集する方法がまだ定まってはいなかった。カオス達は現在謂いいみでも悪い意味でも有名人だ。不用意に誰かに接触すればそれだけで正体を看破されかねない。

 

 

タレス「前に広場にいたファンクラブの人達に会えればなんとか情報は手に入れられるんじゃないですか?」

 

 

レイディー「それは愚策だろうよ。

 アタシ等の姿はバッチリと騎士団に見られてる。

 もしアタシ等がレサリナスに潜入して接触するとしたらあいつ等だ。

 あいつ等の近くに見張りが張られている可能性は非常に高い。

 第一あいつ等と会ってあいつ等が活気付いたりでもしたら何かあったと見るだろ?

 ファンクラブの連中歩頼ることはできねぇ。」

 

 

カオス「じゃあ一体どうやって俺達はフェデールの居場所を探れば………?」

 

 

 

 

 

 

レイディー「………ぶっちゃけブラムの野郎に訊くのが手っ取り早かったんだけどな。

 その手を使おうと思ったがあまりに正確な情報過ぎてその通りに動くと今度はブラムにスパイの容疑がかかっちまう。

 お前達もダインがアタシ達側に来るまではブラムにはまだバルツィエ側にいてもらった方がいいだろ?

 

 

 情報の収集の仕方は地道に新聞や掲示板、盗聴とかで探し当てるしかねぇ。

 レサリナスに潜入出来ただけでも上場だったっつーことで各自自由に情報集めに専念してくれ。

 以上解散。」

 

 

 そう言い残してレイディーは夜の街へと繰り出す。

 

 

ウインドラ「!

 待ってくれレイディー殿!

 俺も途中まで同行する!

 ………では皆も気を付けて捜索してくれ。」

 

 

 レイディーを追ってウインドラも出発した。

 

 

ミシガン「…なんかドタバタしてたね………。

 ………私もそろそろ行こうかな。」

 

 

 続いてミシガンも街に向かう。

 

 

タレス「ではボクも………。」

 

 

 タレスもいなくなる。

 

 

アローネ「………私も行きますね。

 私は………カーラーン教会を見てこようと思います。」

 

 

カオス「カーラーン教会?」

 

 

 アローネは発つ前に行き先を教えてきた。以前お世話になったカーラーン教会に行くようだ。

 

 

アローネ「はい、

 今あの場所がどうなってしまったのか気になりまして………。」

 

 

カオス「…ランドールの話じゃ俺達のせいで攻撃されたって言ってたもんね。

 ………俺も見に行こうかな。」

 

 

アローネ「一緒に行かれますか?」

 

 

カオス「うん。

 カーヤも別にいいよね?」

 

 

カーヤ「大丈夫。

 だけどカーラーン教会ってどんなところ?」

 

 

 カーラーン教会と聞いてカーヤが訊いてくる。

 

 

カオス「………誰であっても受け入れてくれて落ち着ける………そんな場所かな。」

 

 

アローネ「私の知人が設立した施設で世界で行き場を失った子供や怪我をした人達を介抱したりもしてくださるそんな争いとは無縁の建物です。」

 

 

カーヤ「争いと無縁………?」

 

 

カオス「カーラーン教会はマテオとダレイオス両方にあるんだけどその二つの国とは違う()()()()()()()()()()()()()なんだよ。

 二つの国の両方にあるけどその二つの国同士の争いには参加したりせずに争いで親を失った子とか………ダレイオスで生まれて捨てられたハーフエルフの子とかを積極的に引き取って面倒を見てくれたりもするとてもいい人達がいる場所………それがカーラーン教会なんだ。」

 

 

カーヤ「そんなところが………。」

 

 

アローネ「…もしカーヤが六年前にカーラーン教会へと足を運んでいれば私達はもっと別の出逢い方をしていたことでしょうね………。」

 

 

カーヤ「………でもカーヤは六年前にはヴェノムに………。」

 

 

カオス「うん、

 分かってるよ。

 カーヤは他の人にウイルスを感染させないようにそういった人の多いところを避けてたんだよね。

 カーヤがもしカーラーン教会に行ってたらカーラーン教会の人達がカーヤとうまく付き合える方法とか考えたりもしてくれたんだろうけどそれだと俺達とカーヤは出逢ってなかったかもしれないしね。」

 

 

アローネ「私はカーヤと出逢えて良かったと感じますよ?

 カーヤはどうですか?」

 

 

カーヤ「カーヤは………カーヤも嬉しかった………。

 こんなにカーヤに優しくしてくれて今も………。」

 

 

カオス「俺達もだよ………。

 カーヤと出逢うことが出来て本当に良かったと思う。

 

 

 それでカーラーン教会についてなんどけどカーヤには是非会ってほしい人がいるんだ。

 あの人はどんな人も差別しない、困っている人になら誰にでも手を差し伸べてくれる凄く優しい人がいるんだ。」

 

 

アローネ「カオスの言う通りです。

 あの人ならカーヤも直ぐに打ち解けることが出来ますよ。

 彼女は私がいた国でも多くの人に慕われ愛されてきましたからカーヤのことも気にかけてもらえると思います。」

 

 

カーヤ「差別しない………?

 カオスさん達と同じ?」

 

 

アローネ「勿論です。

 終戦後は私とカオスは彼女のもとに身を寄せる予定なのです。

 その時が来たらカーヤも一緒にカタスのいるカーラーン教会に行きましょうね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終戦。

 

 

 マテオとダレイオスが戦争しその戦いに決着がついた時カオス達は三人で今はどこにいるのか分からないカタスの元で暮らせると思っていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな未来は最終的に訪れることはなかった………。



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捲き込んでしまった負い目

おあめ


王都レサリナス カーラーン教会跡地 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………ランドールが話していたことは本当だったようですね………。

 バルツィエは何の罪もないこの教会の人達を攻撃して………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 カオス達は以前にカタスティアに匿われた教会の前まで来ていた。最後に見たときはそれなりに立派な建物があったが今はその影も形もなく平地と化していた。

 

 

アローネ「…私達が匿われていた時も礼拝に来る人が多くおりました。

 カタスのように教会に住まわれていた方も………。

 ………私達がカーラーン教会の礼服を着て教会の関係者だとバルツィエに勘繰られてしまったせいでこの教会は………。」

 

 

カオス「俺達のせいでこうなったんだよね………。

 ………って言うより俺があの時レイディーさんの忠告も聞かずに広場に飛び出していったから関係ない教会の人達がこんなことに………。」

 

 

 あの時はウインドラを守ることだけしか頭になかった。カオスにとってはウインドラの存在は自身を構成するルーツのようなものだった。ウインドラとミシガンの二人はミストで共に育った幼馴染みだ。その二人を失ってしまえばカオスは()()()()()()沿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。二人の内どちらか一方でも失なってしまうのは実に惜しかった。

 

 

アローネ「………カオスのあの行動は間違ってはいません。

 人は誰しも大切な人、失いたくない人が必ずおります。

 その人のために飛び出でいくということはそれほどカオスにとってウインドラが死なせてはならない人だったということです。

 御自分の身を危険に晒してでも彼を救いたいという想いがあったのであればあの行動を咎めたりはしません。

 こういう結果に繋がることをあの日の私達は予想できませんでしたから………。」

 

 

カオス「…そう………なのかな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直カオスにはどうでもいい話だった。カオスにとっては身近な人物だけを守れればそれでいい。自分の近くにいる人物のことは守ってやれる。しかしそれ以外に関しては関心はなかった。自分のことを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。この教会にいた者で亡くなった者の中にはカオスに親切にしてくれた者もいたことだろう。だがこれまでの経験上カオスは自身が人とは違う力を持ち他者がその力の膨大さを知ると途端に恐怖し化け物扱いしてくる。カオスは交流の浅い者を信用しない。自分を化け物扱いせずに近付いてきてくれたアローネ、タレス、ミシガン、ウインドラ、レイディーのことだけは信用してもいい距離には置いている。カーヤに至っては境遇に近しいものを感じある意味一番仲間達の中で信頼を向けている仲間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはこれまでの旅全てを()()()()()。最初に自身を認めてくれた祖父アルバートから始まり心を許した者達に距離を取られないように性格や傾向を変えていった。カオスにとっては仲間達だけがこの世界に生きる人々だ。自分を人として認めてくれなかったミストの人達は建前上気にしているように振る舞うが実際のところは死んでくれて精々している。ただ祖父が過ごしていた村を焼かれたのには心に痛みを感じるものがあった。フェデールを討つと決めたのはそういう理由からだ。他にもミシガンとウインドラを傷付けたというのもある。カオスはアローネ達を傷付けられることだけは容認出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………にしても一昨日のマクスウェルとの戦いは何だったんだ………?

 アローネ達はマクスウェルに殺されたと思ったのに気が付いてみたら全員無事だった。

 あの戦いは本当にあった出来事だったのか………?

 本当にあったことだったんならどうしてアローネ達は甦ったんだ?

 一度死んだ人が甦るなんてこと有り得るのか?

 ………まさかマクスウェルの力なのか………?

 マクスウェルは人を生き返らせることも出来るのか?

 だとしたらもしかしてこの本にその方法が………?

 それじゃここにあった建物とかもこの本で元通りに………。)」

 

 

 カオスはマクスウェルの本を開こうとする。…が、思い直して本からてを離す。また本を開いて呪文を口にするだけで意図しない術が発動してしまうかもしれない、そう思ったカオスは本を開くのを止めた。

 

 

カオス「(…やっぱりこの本の力に頼るのは止めとくか。

 使いこなせない力を使おうとしても余計な被害が出るだけだし死んだ人を生き返らせようとするなんてそんなの出来たとしても危険すぎる。

 どんな代償がつくか分からないし間違って変なのが出てきても困る。

 

 

 ………ここはこのままにしておくのがいいんだろうな。

 下手なことして騒ぎになってもアローネ達を危ない目にあわせるだけだ。

 たとえ他の誰が死のうともアローネ達だけは死なせない。

 この本の力はアローネ達を守ることのためだけに使おう。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………ここにはこれ以上の進展は見込めませんね。

 他を回りましょうか。」

 

 

カオス「………そうだね。

 そうしようか。」

 

 

 カオス達はカーラーン教会をあとにする。今優先すべきはフェデールの情報の捜索だ。カーヤもカオス達の後についてきて街の中を移動し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはまだ知らなかった。自分が今どのような力を持っているのか。その力があれば()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その力がまさに今狙われていることにも………。



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黒ずむ心

王都レサリナス ??? 深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!

 ここ………。」

 

 

 真夜中と言うこともあってか思うように情報を集められなかったカオス達はとある施設にまで足を運んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「メルザさんのいる孤児院ですね………。

 あれからメルザさんは大丈夫だったのでしょうか………?」

 

 

 カオス達は前回レサリナスを訪れた時に立ち寄った孤児院にまで来ていた。

 

 

カーヤ「ここは………何?」

 

 

カオス「ここは………孤児院だよ。

 身寄りのなくなった子供達がここで暮らしてるんだ。」

 

 

アローネ「ここは前に見た時と変わりませんね。

 カーラーン教会があのような取り壊されていましたからここももしやと思いましたが無事だったようですね。」

 

 

カオス「そのようだね。

 中の様子は………流石にこの時間帯だと消灯しているよね。」

 

 

アローネ「メルザさんが無事かどうか確認したかったのですが仕方ありませんね。

 日を改めて………!」ガチャ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メルザ「さて、

 あとは戸締まりを確認して今日の仕事は終わりかな。」

 

 

 カオス達は達がメルザが不在だと思った矢先にその本人が目の前の扉から出てきた。屋内の明かりが消えていたのはカオス達が中の明かりを見る少し前に消したからだったようだ。

 

 

アローネ「メルザさん!」

 

 

メルザ「!

 誰………って貴方達は………。」

 

 

 メルザは突然話し掛けられて驚いてカオス達の方を振り向くがカオス達だと気付くと近寄ってくる。

 

 

カオス「お久し振りですメルザさん。」

 

 

アローネ「御元気そうで何よりです。」

 

 

メルザ「カオスさん達こそ。

 …貴殿方はダレイオスに亡命したと聞いていましたがこうしてここにいるってことはダレイオスには行ってなかったんですか?」

 

 

 ブラム同様メルザもカオス達がダレイオスに渡っていたことを知っているようだ。ブラムはまだバルツィエ縁の騎士であるからカオス達の情報を知っていても不思議はないがメルザが知っているとなるとこの街の者は皆カオス達がダレイオスに行っていると伝わっていそうだ。

 

 

カオス「ダレイオスには行ってました。

 マテオにはつい最近帰ってきたんです。」

 

 

アローネ「現在マテオの侵略に備えてダレイオスは迎撃体勢に入っています。

 いつでもバルツィエと事を構える準備が整いつつあるので一度こうしてマテオの様子を探るべく戻って参りました。」

 

 

メルザ「ダレイオスの………となれば両国はこのまま………。」

 

 

 カオス達がダレイオスから戻ってきたのであるならだいたい察しはつくことだろう。一部の市民はバーナン隊やダリントン隊が何をしようとしていたか把握していた。このメルザもその例のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メルザ「バルツィエは………討たれるのでしょうか?」

 

 

 疑念と不安が入り交じったような声でメルザがそんな質問をカオス達に投げ掛けてくる。

 

 

カオス「バルツィエは………まだどうなるかは分かりません。」

 

 

アローネ「私達はダレイオスの人々を集ってマテオに対抗する軍隊を編成するように仕向けただけです。

 私達もダレイオス側についてバルツィエと戦いはしますが結果を先に伝えることはできません。

 戦うからには勝つつもりで戦いますが戦争に絶対は無いのです。

 戦う前から勝利したものと油断すれば簡単に足下を掬われてしまいます。」

 

 

メルザ「そうだとは思いますけど………、

 ………皆さんがダレイオスに渡ってから数々のダレイオスから感じた強い魔術と一昨日の夜にあった空の星の光………。

 全てカオスさん達が関わっているのではないですか?

 この時期にここへと戻られたということはそういうことなんでしょう?」

 

 

 メルザは目敏く先日のことをカオス達に結び付けてきた。質問しているようでその実断定しているかのように言う。

 

 

アローネ「よく私達が関係しているとお気付きになられましたね。

 何かそういった噂でも街中でお聞きしましたか?」

 

 

メルザ「一昨日の星の術のことについてはカオスさん達が関係しているって話は出てませんよ。

 騎士団も一昨日のことはダレイオスからの奇襲で失敗に終わったって公報がありました。

 これは私の単なる推測です。

 カオスさん達が一昨日の騒ぎに関与していたってのはカオスさん達がこの街に戻ってきたことでそう思いました。」

 

 

カオス「まぁメルザさんの言う通りなんですけどね。

 一昨日のことは俺達………ではないですが俺達に関係している話です。

 二回目については俺が間違って「お願いです!」」

 

 

 騒ぎの件を認めるや否やメルザがカオスの腕を掴んで詰め寄ってきた。

 

 

 

 

 

 

メルザ「あれほどの術とダレイオスの力があるならマテオとも対等に戦えますよね!?

 いえ絶対に対等以上に戦えるはずです!

 私はこれまでバルツィエがあんな規模の力を使っているところを見たことがありません!

 あの術があればカオスさん達がバルツィエに負けるなんてことはありえません!

 あんな凄い力があるんなら早くダレイオスの人達に言ってバルツィエを倒してください!

 

 

 ………そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエを一人残らず皆殺しにしてください!

 ダリントンお兄ちゃんの仇をカオスさん達にとってほしいんです!」



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憎しみの炎を燃やす女性

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ダリントン……お兄さんの仇………?」

 

 

 ダリントンとはウインドラが所属していた部隊の当時の隊長でウインドラの上司だった人だ。彼はメルザ曰くメルザと同じ孤児院からの排出で血の繋がりはなかったがメルザは実の兄のように慕っていたという。

 

 

 それが年々酷くなるバルツィエの悪政に反抗しようとしてウインドラと共に裏で色々と活動していたところを捕らえられ殺された。城前広場では見せ物にするため首を切り落として腐らないように氷付けにしてユーラスに使われてしまいあたかもダリントンが颯爽とバーナンの危機に駆け付けたかのように演出した。

 

 

 その後バーナンはその駆け付けてきたダリントンに処刑を執行され怒り狂ったバーナン隊の一人と刺し違えるかのようにダリントンは死亡、最後はダリントンはその時には既に惨殺されていたことを知らされる。

 

 

 

 

 

 

メルザ「………はい。

 一刻も早くバルツィエは消えるべきです。

 あんな人を傷付けることしか能のない人達はさっさとこの国からいなくなればいいんです。

 

 

 ………いいえ、

 国からいなくなるだけじゃ駄目です。

 髪の毛一本細胞の一つも残らずこのデリス=カーラーンからいなくなってもらわないと私達民間人が平穏穏やかに暮らすことも出来ません。

 あいつらは誰一人生きてちゃいけない人種なんです………!」

 

 

 初めて会った時は気さくで明るく冗談を言う朗らかな女性だと思ったが今のメルザは口調こそ変わらないもののバルツィエのこととなると言葉に棘……どころか切れ味のいい刃が交じる。ダリントンをバルツィエに奪われたことが彼女の中で相当根強く残っているようだった。

 

 

カーヤ「………!」

 

 

カオス「おっ、落ち着いて下さいメルザさん!

 どうしたんですか!?」

 

 

アローネ「私達はバルツィエと戦いはしますが全員を殺害したりまではしません。

 相手が降伏し投降するのでしたらそこまでにして「何を言ってるんですか?」」

 

 

メルザ「降伏?投降?

 そんなことバルツィエがしたりするとでも?あいつらはプライドの固まりですよ?他人を息をするように見下し続けないと生きていけない人達なんですよ?そんな人達が誰かに負けを認めたりはしません。あいつらは生きている間ずっと誰かを傷つけ続けていないと生きていられないんです。バルツィエが生きてても何の得にもなりません。あいつらは滅ぶべきなんです。それがマテオ、ひいてはデリス=カーラーンのためなんです。バルツィエが滅ぶことこそが世界に真の平和をもたらすんです。そうに決まっています。だからバルツィエはなんとしてでも倒されなくちゃいけないんです。だから早く戦争を始めてください。バルツィエを根絶やしにしてください。あいつらを視界に捉えるだけで体の震えが止まらないんです。バルツィエに比べればヴェノムなんてまだ可愛いものです。私達が普通に生活する上でバルツィエの存在は邪魔なんです。あいつらさえいなくなれば争い事なんてそもそも起こったりしないんです。そう考えるとバルツィエって極悪人ですよね。何で偉そうに騎士団なんかにいるんだろ?あいつらが原因で血が流れることが多いのにおかしいですよね?やっぱりバルツィエなんてこの世には不要な連中なんですよ。一人だって残してなんておけない。一人でも残ってたらそこからまた次の悲劇に繋がる未来しか見えない。これ以上お兄ちゃんのような犠牲を無くす意味でもやっぱりバルツィエは全滅させた方がいいですよね?そうですよね?私何かおかしなこと言ってますか?どうですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「「………」」

 

 

 身近な者を殺されて恨むのは仕方ないことだがメルザは恨みが強すぎて精神が不安定になってしまっている。バルツィエがダリントンを殺したことよりもバルツィエが生きているという事実すら認められないようだった。

 

 

カーヤ「……」

 

 

 今にして思えばカーヤをここに連れてきたのは失敗だった。事情を知らないカーヤにとってはメルザが自分やカオスに暴言を吐いているように聞こえる。メルザもカオスがバルツィエの血族であることは知っているがそのことを気にかける余裕もないぐらいにバルツィエへの呪いの言葉を吐き続ける。

 

 

メルザ「…カオスさん達はマテオの様子………ってことはバルツィエのことを見にきたんですよね?

 私バルツィエのことなら知ってますよ?

 カオスさん達にも私が把握している情報を全部教えて差し上げますよ。

 バルツィエのことならカオスさん達がダレイオスに行っている間ずっと見てきましたから。

 まずユーラスはカオスさん達を追い掛けていって一昨日のカオスさん達が使った術で死んだって聞いてます。

 ランドール、ダイン、ラーゲッツの三人はランドール、ダインがダレイオスに行ってから暫くしてランドールとダインの二人が帰ってきてまだラーゲッツだけは帰ってきてません。

 アレックスと娘のアンシェルはずっとこのレサリナスから出ずに王城にいました。

 フェデールはなんかよく分からなかったですけど南部の方に向かってたみたいです。

 あと何故かランドールがカーラーン教会を攻撃したみたいで………あっ、見てきましたか?

 レサリナスのカーラーン教会無くなっちゃったんですよ。

 もう訳分かりませんよね。

 何でカーラーン教会を潰しちゃったのかな?

 あんなことされたら教皇も黙っちゃいないのに馬鹿な連中ですよね。

 世界中を敵に回しちゃって調子に乗るのも大概にしてほしいですよね。

 これはもう本当にバルツィエを根絶するしかありませんよね?

 そう思いません?」

 

 

 つらつらとバルツィエのメンバーがどこでどうしていたかを語りだすメルザ。メルザがバルツィエの情報を調べていたことにはカオス達も自分達で調べる手間が省けて助かる思いだったが彼女が話を続けていく内に徐々にその表情に陰りを増していくその様子からカオス達は一抹の不安を隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼気としてバルツィエの全滅を唱うメルザはどこか危うげな雰囲気を纏いカオス達を戦慄させるのだった………。



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ダインと再開

王都レサリナス ブラム邸 早朝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「情報を纏めますと主だったバルツィエは現在このレサリナスから出てはいないようですね。」

 

 

レイディー「アタシが調べた情報もどうやらそのようだ。

 連中は今ダレイオスとのことで評議会と立て込んでるらしい。」

 

 

ウインドラ「宣戦布告から半年………未だに宣戦布告を再考しようということで意見が纏まってないようだ。」

 

 

ミシガン「私も新聞とかを二ヶ月くらい前のから読み直してみたけど似たような内容ばかりでマテオ全然進展がないみたい。」

 

 

タレス「半年前辺りの記事では細かくダレイオスの方面のことも載ってありましたがここ最近の記事はどれも国内のことばかりのようですね。

 今マテオはダレイオスに構う程の余裕が無いらしいです。」

 

 

カオス「皆が調べたことは殆ど同じ情報みたいだね。」

 

 

 昨晩それぞれが集めてきた情報を整理するとダレイオスが戦争準備をする中マテオは内輪揉めを起こして戦争をするどころではないようだ。ダレイオスに派遣していた先見隊の部隊も現在は撤収してこのレサリナスに戻ってきているとのこと。

 

 

アローネ「…私達が探しているフェデールはこの街のどこかにいるようですが………。」

 

 

ウインドラ「騎士団長という職に就いていることから居場所は簡単に探れそうなものだがフェデールはとにかくアクティブで行動範囲がとても広いことで有名だ。

 レサリナスの中でも奴がどこか一ヶ所に留まっている時間はそう長くはない。

 狙い目があるとしたら奴等バルツィエの本拠だがそんなところに踏み込もうものならあっという間に警備の者達が駆けつけて取り押さえられてしまう。」

 

 

レイディー「一つの街に留まってくれるのは移動する必要がねぇから楽だがアタシも長くこの街にいて奴がよく行く場所は王城の中くらいしか思い付かねぇ。

 どこかで待ち伏せするにしてもフェデールが行きそうな場所は大抵人目が多いところだ。

 騒ぎを起こさないで奴と対面するのは極めて困難だ。」

 

 

ミシガン「どこか無いの?

 フェデールが一人でいて周りに他に人がいないような場所。

 レサリナスに着いたのにフェデールと会うことが出来ないんなら来た意味ないよ。」

 

 

レイディー「話をするだけならいっそのこと捕まって檻の中にでも入れられたらフェデールも一人でアタシ達のところに来るかもなぁ。」

 

 

タレス「捕まった後にそこから逃げ出せればその方法でもいいと思いますけどね。

 でもそんなに簡単に逃げ出されるなら罪人を捕らえる檻なんて作りませんよ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………協力者………?」

 

 

 タレスが口にした協力者という単語にカオスが反応する。

 

 

ウインドラ「何だ?

 協力者に心当たりがあるのか?」

 

 

レイディー「そんなのがいるってんならこれから自首でもしに行くか?

 フェデールのことだからアタシ達が檻に入ってたらすんなり会いにすると思うぞ?」

 

 

カオス「あ、その………別に捕まる必要は無いんじゃないかなって………。

 この街に()()()がいるなら彼女を頼ってみるのもいいんじゃないかなって思って………。」

 

 

アローネ「!」

 

 

レイディー「ダインだと?

 あいつにフェデールに会えるよう手配してもらう気か?

 本当にあいつは信用できる相手なのか?

 カイメラの時は共闘したみたいだがあいつは一応バルツィエの一員だぞ?

 あっちの国じゃ他の奴等の目が無かったからお前等に手助けしても何のお咎めも無かったがここはレサリナスでバルツィエの本拠地だ。

 あたし等に協力なんかさせたのが他の奴等にバレたらいくらバルツィエの血族でもただじゃすまねぇんだぞ。」

 

 

タレス「それにダインさん自身もどこにいるのか分からないじゃないですか。

 手配を受けてるボク達が大通りを大っぴらに歩いて探すわけにも………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「ブラム………?

 何で帰ってきたの……?

 出張は行かなくてよくなったの……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダインの話をしだした直後に当の本人がカオス達のいる屋敷の中に入ってきた。

 

 

 

 

 

 

カオス「ダイン………!?」

 

 

ダイン「!

 ………え?

 何でカオスがここに……?

 ここブラムの家じゃ………?

 ………入る家間違えたのかな?」

 

 

 ダインは屋敷の前の表札を見に外に戻る。そして直ぐにまたドアを開けて中には入らずに顔だけ覗かせて室内を見渡す。

 

 

ダイン「………あの………ここブラムのお家だと思うんだけど何でカオス達がここにいるの……?

 それとブラムはどこに……?

 セバスチャンからブラムが戻ってきてるって聞いてここに来たんだけど……。」

 

 

カオス「ブラムは………ミストにまた出発したけど………。

 俺達をレサリナスの中に引き入れてくれた後で。」

 

 

ダイン「…そうなんだ……。

 ブラムいないんだ……。

 ………じゃあ帰ろうかな……。

 ブラムもいないことだし……。」

 

 

 ブラムがいないことを確認するとダインは踵をかえして去ろうとする。ここに来たのはブラムに何か用があったからだろう。伝言でも聞こうかと考えたがブラムは暫くレサリナスには帰らない。カオス達がダインの用事を訊いたところでブラムが戻ってくる頃にはカオス達はこの街を去っていることだろう。それならダインからブラム本人に直接用事を聞いてもらった方が早く………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………なぁ………、

 アタシが言うのもあれなんだがあの女を行かせてよかったのか?

 さっきあいつにフェデールに取り次ぐって話してなかったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………あっ!?

 そうだった!

 ちょっと待っててください!

 直ぐにダインを連れてきます!」

 

 

 慌ててカオスはダインの後を追った。不意打ちでダインが登場したためにカオスはすっかりダインへ頼み事をすることが頭の中から抜けてしまっていた。

 

 

 それからカオスはダインをどうにか引き留めることに成功し彼女をブラムの屋敷の中へと案内した………。



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ダインの協力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「フェデールに会いたい……?」

 

 

カオス「うん、

 ダインはフェデールがどこに行けばいるのか心当たりない?」

 

 

 カオスはダインをブラムの屋敷の中へと招いた後フェデールの所在をダインに訊いてみる。

 

 

レイディー「…お前等の話は本当だったんだな。

 本当にバルツィエのダインと仲が良さそうに見えるぜ。」

 

 

アローネ「話してみて分かったことですがダインさんは他のバルツィエのようにいきなり攻撃を仕掛けてきたりしませんから。

 語りかければ素直に言葉を返してくださるので普通に接することが出来ますよ。」

 

 

ウインドラ「俺もウィンドブリズ山ではカオスとアローネが彼女のレアバードに搭乗して戻ってきた時には驚いたがな。」

 

 

タレス「カオスさんが共鳴を使えるのはダインさんから教わったからなんですよ。

 ボク達はカオスさんからダインさんに教わった習得の方法を試して使えるようになりまして。」

 

 

ミシガン「まだカーヤちゃんのように人の気配を探ったりは出来ないけどね。」

 

 

レイディー「ふぅん………。

 ………しかしこうして観察してみると………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ・ダイン「「………?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「…この二人………なんか雰囲気が似てるな。」

 

 

 レイディーがカーヤとダインの二人を交互に見てそう歓送をもらす。言われてみれば二人とも寡黙で人付き合いがあまり得意ではないという点で似通う部分がいくつかあった。

 

 

タレス「バルツィエもこの二人のように落ち着きがあれば今のようにダレイオスだけでなく同じマテオの国民達から不評を買うこともなかったんでしょうけどね。」

 

 

ウインドラ「生まれつきの才能に加えてワクチンの材料ツグルフルフの副作用で人格に影響を及ぼした結果だ。

 そうそうダインのようなバルツィエが誕生することはないだろう。

 ランドールやユーラスみたいなのは今後もずっとあの性格のままだろうな。」

 

 

 敵だけに傍若無人に振る舞うだけならいいのだがバルツィエの大半はマテオの国民達にも同じ様な態度をとる者が多い。そのことでバルツィエは国民達との決して相入れない確執が取り除かれないまま今の現状に至っている。

 

 

カオス「…それでダイン、

 フェデールのことなんだけどこの街でどこかで待っていればフェデールが必ずここに来るって場所無いかな?

 出来ればフェデールがどこに行く予定とかが分かるといいんだけど。」

 

 

ダイン「…フェデールは今凄く忙しくて夜に家に帰ってくる以外はどこに行ってるのかうちでも分からない……。」

 

 

カオス「………ダインでもフェデールの同行が掴めないのか………。」

 

 

 やはりそう簡単なことではないらしい。身内であるダインですらフェデールがどこをどう移動しているのか知らないのだ。ダインの力があってもフェデールと邂逅することは難しく………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「……でも一ヶ所だけフェデールが時間がある時は頻繁に訪れる場所なら知ってる……。」

 

 

カオス「!

 どこ…!?」

 

 

 ポツリとダインがフェデールが行くであろう場所を呟く。

 

 

ダイン「王城の右にある騎士団の訓練所のその奥にバルツィエだけが使える修練場がある……。

 フェデールはよくそこで剣の稽古を一人でしてる……。」

 

 

ウインドラ「修練場……?

 ………確かにそんな場所はあるがあそこが使われているのは見たことがないぞ?

 外観も草臥れて誰かが使っているようには見えなかったが………。」

 

 

ダイン「あそこは今はもうフェデールくらいしか使ってない……。

 ユーラスやランドール達は真面目に稽古したりしなかったしうちもブラムと稽古してた時には使わせてもらってたけど最近はブラムもミストとの往復で忙しそうだからうちも滅多に行かない……。」

 

 

レイディー「…なるほど周りに人がいなくてフェデールだけがそこに来るってんなら打ってつけのポイントだな。」

 

 

ミシガン「そこで待ってればフェデールが一人でやって来るんだね………。

 そこでフェデールと………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイン「…でもフェデールに何の用があるの……?」

 

 

 フェデールに用があると聞いてダインがその理由を聞いてくる。ダインもカオス達が何故フェデールのことを探しているのか気になるのだろう。だが正直に話せばダインといえどカオス達を止めようとするかもしれない。彼女は前にアレックスやフェデールを庇うようなことを言っていた。本当のことを話すわけにはいかないが……、

 

 

 

 

 

 

レイディー「………ダレイオスでな、

 ラーゲッツが最期に言ってたんだ。

 バルツィエがマテオのエルフやダレイオスの連中も知らないこの世界にはもっと強靭な力を持った敵がいるってな。

 ラーゲッツ自身はそれが誰なのかは知らないようだったがフェデールなら知ってる、フェデールに聞いてみなって遺言を残したんだよ。

 近々マテオとダレイオスは戦争になる。

 そうなっちまうとその敵の所在を訊くチャンスは今しかねぇ。

 だからアタシ達はそいつの話を訊くためにマテオまで戻ってきたんだ。」

 

 

 機転を利かせてレイディーがもう一つの目的だけを告げる。カオス達からすればミストの件のことの方が重要なのだがダインには伏せておいた方が良いと察しての発言だった。

 

 

ダイン「ラーゲッツが……?

 ………ラーゲッツ死んじゃったんだね……。

 そんなに仲良くはなかったけど確かにラーゲッツが言うようにフェデールなら知ってる……。

 バルツィエの本家が秘密にしていること……。

 ………でも教えてくれるかどうかはうちも分からない……。

 うちもそういう相手がいるってことは聞いたことはあるけどフェデール達は全然話そうとしてくれない……。」

 

 

カオス「…駄目元でも一度会っておきたいんだ。

 ダイン、

 次にフェデールがその修練場に行く日付と時間を調べてもらえないかな?」

 

 

ダイン「…………………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いいよ……。

 そういうことならカオス達のお手伝いするよ……。

 カオス達は()()()()()()……。」



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フェデールに会うのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「明日の夕刻………。

 その時間帯にフェデールが修練場にやってくる可能性が高いのですね。」

 

 

ウインドラ「そのようだな。

 その時間帯に皆でフェデールを待つことにするか。」

 

 

 あれからダインはバルツィエの屋敷に戻りフェデールの予定を調べてくれた。そしてダインによるとフェデールは明日に修練場で剣の稽古をするかもしれないとのことだった。

 

 

カオス「…ダインを騙しているようでしのびないな……。

 俺達がフェデールに用があるのはあのことだけじゃなかったんだけど……。」

 

 

レイディー「別にいいじゃねぇか。

 ラーゲッツの言ってたことを訊くってのも目的の一つだったんだからよ。

 ミストの件のことまで言っちまうとややこしくなりそうだったから言わなくて正解だったと思うぜ?

 それにそんなにダインのことが気になるってんならフェデールの出方次第だが奴と戦いにならねぇようにすれば…。」ダンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「…何言ってるの………?

 フェデールはミストの皆を焼き殺したんだよ?

 そんなのが目に前に来るのに話を聞くだけで帰すの?

 話をするだけで何もしないの?

 私はフェデールを倒すためだけにここまで来たんだよ?

 なのに何もせずに帰すだなんてできるわけないでしょ。」

 

 

 レイディーの言葉に反応してミシガンが異議を唱える。カオス達の中ではミストのことで一番衝撃を受けていた彼女はただ話をするだけで終わらせるのに納得がいかないようだ。

 

 

レイディー「チッ………冷静になれよ馬鹿が。

 フェデールが一人で修練場とやらに来たとしてもそこはまだこのレサリナスの敷地の中だぞ。

 そんなところでフェデールとおっぱじめようってのか?

 奴はすんなり討てるような相手じゃねぇよ。

 いざ戦いになってみて時間がかかればかかるほどフェデールの援軍がゾロゾロと出てくるだろうよ。

 しかも修練場があるのは王城のすぐ側だ。

 アタシ達とフェデールがドンパチ始めた時点で城の兵士がすっ飛んでくる。

 ここでやりあうのは旗色が悪すぎるんだ。」

 

 

ウインドラ「フェデールのことで腹にすえかねているのは俺も同じだミシガン。

 だがレイディー殿が言うように戦闘になれば退路を確保しておかねばならんしここでの戦闘は余計な手間が多くかかる。

 もしどうしてもやると言うのならフェデールを上手いことのせてレサリナスの外に連れ出すかだ。

 フェデールが俺達の誘いに乗ればの話だが試してみるだけの価値は「そんなことどうだっていいでしょ!?」」

 

 

ミシガン「私達はダレイオスのあのヴェノムの主を倒してこにまで来たんだよ!?

 それを今更何()()()()()()()()()()()()()()!?

 フェデールなんて私一人でも十分だよ!

 皆が戦う気が無いんなら明日は私一人だけでもフェデールを『ナイトメア』……!?」ガクッ…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタン………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 興奮した様子のミシガンが一瞬で気を失う。意識を失い倒れそうになる体をアローネが支える。

 

 

アローネ「ミシガンには少々時間を置く必要がありますね。

 これでは一人でバルツィエに突撃していきかねません。

 明日のフェデールが現れるという時間ミシガンは向かわせない方が良さそうです。」

 

 

ウインドラ「…手間をかけさせてすまない。

 確かにフェデールから情報を引き出すにしても大所帯で行けば奴に警戒されて応援を呼ばれる危険性がある。

 明日は一人………もしくは二人でフェデールにところに行くのがベストだろう。」

 

 

タレス「そうなるとフェデールが襲ってきたとしても反撃できるメンバーに絞られますね………。

 カオスさんとカーヤさんならフェデールとも対等に戦えると思いますが………。」

 

 

カーヤ「カーヤが………?

 でもカーヤ難しい話あんまり分かんないんだけど………。」

 

 

レイディー「おいガキ。

 何でアタシを抜かした?」

 

 

タレス「レイディーさんってなんか会うたびにやられてるイメージがあるんですよね。

 カイメラの時には敗北してどこかに撤退したって聞いてますしシュメルツェンでもラーケッツにやられた姿で再会しましたし………思い返してみればフェデールにも城前広場で組伏せられてませんでした?

 話を面倒くさい方向に持っていきそうなんでレイディーさんはフェデールのところに行かない方がいいんじゃないで「そんな戯言を言うのはこの口か?」………!?」パキィン!

 

 

 レイディーがタレスの口を氷で塞ぐ。普段からレイディーの高圧的な態度に反撃をしたかったのだろうが逆に成敗されてしまった。

 

 

カオス「俺が行くのは確定なんですか?」

 

 

レイディー「…まぁそれでいいだろう。

 保険のためにあと一人欲しいところだが誰にするかは「私が行きますよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「私がカオスと共にフェデールの元へ向かいます。

 私の方も例の私にかけられた高額な手配書のことでお訊きしなければなりませんから。」

 

 

 カオスの同行者にアローネが名乗りをあげる。バルツィエだけが知る敵の存在とミストの独断での殲滅、アローネだけにかけられた高額な懸賞金額の意味、以上の三つが今カオス達がフェデールに訊くべき内容だ。

 

 

ウインドラ「おい待てアローネ。

 お前が行くのはまずくないか?

 手配書のことを考えるとどんな理由があるのかは知らんがお前はある意味カオスと同列に並べられるほどにバルツィエから重要視されているんだ。

 他のメンバーはいいとしてお前が直接フェデールの前に出ていくのはいくらなんでも危なすぎる。」

 

 

 ウインドラが言うようにアローネがカオスに同行してフェデールの元へ行くのは危険だ。他の仲間達が共に行くのならともかく今回は争いを避けるために人員を減らして向かわねばならない。戦闘になればカオス一人では守りきれないこともあり得る。

 

 

アローネ「いえ、

 私の予測ですがこの中から選ぶのであればやはり私が最善の人選だと思われます。

 私はマテオとダレイオスを旅してから特に彼等にあのような手配書を配布されるようなことは行っていないと自負しております。

 …にもかかわらず私に対してだけ異常な程の掛け金………。

 恐らくセレンシーアインで()()()()()()()()()()()()()()のことが関係しているはずです。」

 

 

カオス「ウルゴスが………?」

 

 

 アローネの母国ウルゴス。今の文明から遥か昔にあったとされる国だが現状ではウルゴスに関しての記録はなくアローネとカタスティアの二人だけがその国があったことを知るのみだ。

 

 

アローネ「半年前のレサリナスでの時には私のことはそこまで注目されてはいませんでした。

 ダレイオスでも接触してきたバルツィエはランドールとラーゲッツ、そしてダインさんの三名ですがラーゲッツとダインさんの二人には深い関わりはありませんでした。

 あるのはランドールだけです。

 ランドールと話をした際彼はウルゴスの名を出すと聞き覚えがあるような反応をしておりました。

 それからランドールが私との会話のことをフェデールに話したんだと思います。

 ………バルツィエは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルゴスについての情報を何かしら握っているのです。

 それだけでも私がフェデールに会いに行く理由にはなりませんか?」



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フェデールと対面

王都レサリナス 修練場 夕方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「(………今日も状況は芳しくないな………。)」

 

 

 一仕事を終えてフェデールは王城を出てこの場所へと自然と足を運んできた。

 

 

 

 

 

 

フェデール「(………ハァ、

 半年前から何も話が進まないな。

 いつまであいつら尻込みしてんだ。

 戦場に出るのはお前等じゃねぇって何度も言ってるだろうが。

 何が講和の道を目指した方がいいだ。

 この三百年の間に忘れてしまったんじゃないだろうな?

 ダレイオスの奴等から何でこんな別の土地まで逃げてきたのか………。

 俺達とあいつらが対等になれるわけねぇだろ。

 あいつらと仲良くしようとしたってあいつらが俺達のことを認めることは永遠に来ねぇよ。

 どうしてそれが分からないんだ?

 

 

 先日の流星群だってあれはマテオ単体を狙ったものじゃなくてこのデリス=カーラーンの全てを狙って放たれたものだった。

 結局あの流星群自体は地上に到達することはなかったがあれで更に大魔導師軍団への恐怖を募らせて降伏する案を出してくる奴も出てきてる。

 降伏なんてもってのほかだ。

 それでマテオがどうなるか分かってるのか?

 俺達バルツィエの力に守られ過ぎて平和ボケしたんじゃないのか?

 それでお前達が考えるような理想の結果は絶対にならない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ランドールじゃないがこれはもう()()も視野にいれておくべきなのか………。)」

 

 

 評議会での纏まらない話し合いにストレスを感じ当初から取るべきではない手段を取ろうと考え始めるフェデール。

 

 

 そんな思考を繰り返している内にフェデールは修練場へと辿り着く。

 

 

フェデール「(………ふぅ、

 ここに来た時くらいは気持ちを切り替えないとな。

 でないと稽古の効率が全く………!)」

 

 

 ふと修練場の中に人の気配を感じとる。この場所はそう滅多に人が訪れたりはしない。バルツィエ以外の立ち入りを禁じているため人がいるとしたらダインかランドールのどちらかだがランドールは部下達と飲みに行くと言っていた。だとするとダインだが人の気配がするのは二人だ。

 

 

フェデール「(片方はダインか………?

 そうなるともう一方は誰だ………?

 ダインがブラム以外とつるむところなんて見たことが無い。

 となると必然的にバルツィエでは無い何者かがこの中に………。)」

 

 

 修練場にいる人物達が何の目的で中にいるのかは定かではないがここにいるのであれば確実に自分に用があるのは確かだ。しかも気配の感じ方からして隠れて奇襲するつもりは無いらしい。意を決してフェデールは修練場の中へと入っていく。腰に下げた剣の鞘を握りしめながら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「動くな!

 ここはバルツィエ専用の………!」

 

 

 扉を開けて中にいた人物を確認するとそこにいたのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「お前のことを待ってたんだ………フェデール。

 お前には訊かなくちゃいけないことがある。

 そのためにここで待たせてもらっていた。」

 

 

フェデール「………カオス………?

 ………とお前は………。」

 

 

アローネ「私も貴方にはお訊きしたいことがあってここに来ました。

 貴方も私に何かお話したいことがあるのではないですか?」

 

 

フェデール「…アローネ・リム・クラウディア………。

 どうしてお前達がここに………?」

 

 

 修練場で待っていたのは二日前に流星群騒ぎを起こした張本人達だった。騒ぎは未だ終息はしておらず時間が必要だ。そんな時にこの二人がここに来るとは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「…どうして俺がここに来ると分かってたのかな?

 ()()()()。」

 

 

カオス「………」

 

 

 ダインからここにフェデールが通っていると聞いた………とは言えない。ブラムからダインにダレイオス側に来るようにお願いしてもらうまでは彼女の印象を悪くするのは彼女の立場上問題だろう。ここは口をつぐむべきだと黙秘を遠そうとするが、

 

 

フェデール「黙りかい?

 でも俺がここによく来ることを知ってる人はそんなに多くはないんだよなぁ。

 そしてここに俺が来ることを知ってる人で君達と関わりがある奴と言ったら………、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()?」

 

 

カオス「!?」

 

 

フェデール「お?

 その反応は正解のようだね。

 前々からダインの様子がおかしいと思ってたんだ。

 ブラムが君に負かされたことを知った時は君を殺す勢いで怒ってたのに君達が半年前にここから逃亡を謀ったあたりで君への怒りがすっぱり冷めていた。

 何故急にダインが君への怒りを収めたか………君達があの日ここから逃げ出す時西の門から出ていった。

 その時あそこを警備していたのはブラムだった。

 ブラムはあれでそこそこ腕は立つからね。

 一度負けたのなら今度は油断なんかせずに君達を逃がさないための足止めくらいはできるだろう。

 それがあっさりと君達に抜けられた。

 

 

 ブラムは()()()()()()()()?」

 

 

カオス「ち、違う!ブラムさんは「カオス駄目です!」!」

 

 

 

 

 

 

フェデール「………ほぅらやっぱりね。

 最初からそうなんじゃないかと思ってたんだよ。」

 

 

 何も喋らずともフェデールに次々とカオス達の内情を見抜かれていく。下手に反応をするだけ余計に情報を与えてしまうようだった。

 

 

フェデール「君達の手配書のことだってそうだったんだ。

 ブラムは勝手に君の手配書をファミリーネーム付きで作ってばら蒔いた。

 バルツィエの名を語る逃亡犯がマテオを彷徨けば簡単に国中の話題がそのことで持ちきりになる。

 以降は君達が何かするたびに俺達の家が関係者として疑いをかけられて色々と動きづらくなる。

 仕方なく俺達が直接君達を捕らえるのに尽力しなくちゃならなくなったから面倒だったよ。

 細やかな抵抗くらいにしかならなかったけどね。」

 

 

アローネ「始めから全てお見通しだったというわけですね。

 手配書を撤廃しようとは思わなかったのですか?」

 

 

フェデール「いや?

 別に大した成果じゃなかったし君達がブラムと繋がりがあるならどうせこのレサリナスに足を運ぶと思ってたからね。

 途中どこかで君達が大人しくこっち側の誰かにでも捕まってくれればいいだけの話だしね。

 撤廃するだけ無駄な苦労をするだけだと思ってそのままにしておいたんだ。」

 

 

カオス「ブラムさんをどうするつもりだ?」

 

 

フェデール「今は何もしないよ。

 あいつは泳がせておいた方がいいからね。

 おかげで君達が俺のところまでやって来てくれたんだ。

 あいつにはまだまだ利用価値があるんだよ。

 

 

 さっきの話の続きだけどブラムと君達が繋がってるのをダインが知ったからダインが君達にここのことを教えたんだろ?

 ダレイオスにいる間に懐柔でもしたのかい?

 あいつは人との距離感に慣れてないからすぐに堕ちただろ?」

 

 

 この短時間でフェデールはカオスとアローネがここまで来た経緯を全て言い当てる。恐るべき洞察力の持ち主だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「それで?

 ここに来た目的は何なのかな?

 カオス君。

 俺に何か用があって来たんだろ?

 話を聞こうじゃないか。

 先ずはそこからだ。」



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バルツィエの敵はウルゴス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ラーゲッツがダレイオスて最期に言い残したことがあった………。

 バルツィエはずっと昔から誰かと戦うために準備をしてるってことをダインとラーゲッツの二人から聞いた。

 それは一体誰のことなんだ?

 皆が知ってる人なのか?」

 

 

フェデール「最期に………ってことはラーゲッツはダレイオスで連絡がとれないのは………そういうことなのかい?」

 

 

アローネ「………はい。

 彼は半月程前に………。」

 

 

フェデール「半月前………割りと最近なのか………。

 あいつの行方が分からなくなったのは三ヶ月前くらいだったと思ったがそんなに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………最期まであいつは昔のように努力することを頑張り続けていたあの頃のようには戻らなかったんだな…………。」

 

 

 ラーゲッツが死亡したことを告げると何やらフェデールは感傷に浸るような仕種をして見せる。バルツィエにも仲間が死んで悲しむような者がいたということか。

 

 

カオス「…それで誰なんだ?

 そいつはお前達とどういう関係なんだ?

 何でお前達だけがそいつのことを知ってるんだ?

 そいつは一体何をしようとしてるんだ?」

 

 

フェデール「…そんなに知りたいかい?

 確かに俺はそいつのことを知ってるよ。

 代々バルツィエの当主にしか知る権利が無い極秘事項だが君になら特別に教えてあげてもいいよカオス君。」

 

 

カオス「!

 本当か!

 だったら「ただし」」

 

 

 

 

 

 

フェデール「君が此方側に来るのが条件だけどね。」

 

 

カオス「…やっぱりか。」

 

 

フェデール「他の奴等は君のことを気に入らないみたいだったみたいだけどね。

 ユーラス、ランドール、ラーゲッツと三人も君を殺そうと躍起になってたよ。

 

 

 それも君達との戦いで二人もいなくなったんだ。

 あと五月蝿いのはランドールくらいなものだよ。

 ランドール一人くらいなら俺がどうにか黙らせてみせる。

 君が………君達が此方に来るのに何の障害も無い。

 君と君の仲間達は素晴らしい力を持っているよ。

 広場では単騎でラーゲッツを撃ち破ってみせたウインドラ・ケンドリュー、ダレイオスでランドールを相手に圧倒してみせたという君の義理の妹さんミシガン・リコット、かつてはこのレサリナスでも研究員として働いていたレイディー・ムーアヘッド、あまり目立ったものは無いが戦いになればうちの騎士団でも互角以上に立ち回るタレスという少年………彼等なら俺達バルツィエの家に相応しい実力の持ち主達だ。

 君達が俺達の元に来るというのなら手配書は撤廃するし俺の推薦で貴族の位を授けるのもいい。」

 

 

アローネ「!?

 ただの一騎士にそんな権限があるなんてことあり得ません!

 私達が貴殿方バルツィエに与えた被害を見てみても貴族に推薦など絶対に「可能だよ。」」

 

 

 フェデールがアローネの言葉を遮り肯定する。

 

 

フェデール「俺が()()()()()()()()()()()()()君の言う通りさアローネ・リム・クラウディア。

 だけど俺はバルツィエの家だよ?

 バルツィエは王家の親戚も親戚なんだ。

 国に与えた被害が大きかろうがそれは逆に三百年ダレイオスからの侵攻を防いできたこのバルツィエが守るマテオに傷をつけることができたということなんだ。

 ダレイオスでも出来なかったことを君達()()はやってのけたんだ。

 君達程の力の持ち主は世界でもそうそうお目にかかることはできない。

 君達がマテオの戦力に加わればそれはもう絶対不落の国になる。

 そうなれば世界は一つにすることも夢じゃないんだ。

 俺達は世界を一つにしてあの人に立ち向かっていかなくちゃいけない。」

 

 

アローネ「バルツィエが統一する世界ですか?

 それで本当に世界を統一することが出来るのですか?

 国の人達からあれほどの反感を買い尚且つダレイオスの人々からもマテオの国そのものではなく主にバルツィエに対して悪感情を向けられている貴殿方が。」

 

 

 カオス達が世界を回って聞いてきた話ではどこも皆バルツィエを第一に恐れ嫌悪していた。世界を統一したところで今度は世界中がダリントンやバーナンのように抵抗するだろう。バルツィエが統一する世界は更なる争いを生み出しかねない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「…フッ………フフフフフ………!

 フフフフフフフフフフ!!!」

 

 

アローネ「何がおかしいのですか?」

 

 

フェデール「フフフ………!

 ごめんね。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 アローネ・リム・クラウディア。」

 

 

アローネ「私が………何か?」

 

 

フェデール「他の仲間達がここに来ずに君とカオス君が来たってことは君も俺に個人的な用があるんだろ?」

 

 

アローネ「………えぇ、

 私の手配書だけがウインドラやミシガンと違い生け捕りで賞金も皆の数倍以上とは何の理由があってあのような………。」

 

 

フェデール「そうだね。

 君にだけは他の仲間とは待遇を変更させてもらった。

 君が()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

アローネ「貴方は………貴殿方バルツィエはウルゴスのことを御存知なのですか?

 何故バルツィエがウルゴスを………。」

 

 

フェデール「………ハァ………、

 そのしつもんに答えてあげてもいいけどこれじゃあ仲間になるかどうかの返事を貰わずに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 まいったもんだ。」

 

 

カオス「………は?」

 

 

 さっきの問い………というとバルツィエが隠している敵………。それしかここでのことは………、

 

 

フェデール「…まぁ別にいいか。

 カオス君にはミストのこともあるしね。

 考証材料はまだ取って置きのが残ってる。

 いいよ。

 二つの答えを同時に答えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達バルツィエの敵は君だよ。

 アローネ・リム・クラウディア。

 ウルゴスの血を持つ君こそが俺達バルツィエの………この世界の全てを脅かす災厄なんだ。」



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フェデールの自白

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「私が………災厄………?」

 

 

カオス「なっ、何を言ってるんだ………?

 ウルゴスが災厄だなんて………。」

 

 

 フェデールは世界の敵はウルゴスであると告げた。予想だにしない返答からカオス達はその真意を問おうとするが、

 

 

フェデール「君達ウルゴス側からしたら世界の統一なんて果たされない方が好都合だろ?

 ウルゴスにとってはこの世界の人々が争いあってた方が勢力的にも小規模で潰しやすい。

 ウルゴスの奴等はいつからいるのか知らないが遥か昔からこの世界を裏で操ってきた。

 俺達バルツィエがそのウルゴスの糸から離れたことがそんなに気に入らないのかい?」

 

 

アローネ「ウッ、ウルゴスがそんなことをするはずがありません!

 だいたいウルゴスの何方がどの様な目的があってそのようことをなさるのですか!?

 いい加減なことを「()()()()()()()。」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「今はまだ大した動きは見せていない。

 

 

 けどいつか必ず奴等は動き出す。

 奴等はこのデリス=カーラーンである存在を探していた。

 その存在が奴等の手に渡ればマテオもダレイオスもお終いだ。」

 

 

カオス「ウルゴスが探している存在………。

 まさか………。」

 

 

 ここまででその存在というものには一つしか心当たりが無い。それはずっとカオスと共にあったのだから。

 

 

 

 

 

 

アローネ「精霊ですか………?

 ウルゴスの何方かがウルゴス復活のために精霊の力を欲してるとそう仰るのですか?

 

 

 

 

 

 

 国の再興など人の手で行われるべきものです!

 精霊の力を利用して何になると言うのですか!

 ウルゴスの民が何故精霊の力を利用して復活を望むのですか!

 貴方の仰ることは何一つ理解することができません!」

 

 

 ウルゴスを悪く言われアローネがフェデールに激昂する。ウルゴスが世界の敵などと突拍子もない話をされればそうなりもする。

 

 

フェデール「理解するも何も今こうして君が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 君もカオス君の持つその力を狙って近付いたんだろ?」

 

 

アローネ「何ですって!?」

 

 

カオス「アローネが俺の隣にいることがウルゴスの第一手………?」

 

 

 

 

 

フェデール「()()()()()()()()

 ある時カオス君があの辺じゃ見知らぬ女性を連れていたってね。

 それが君なんだろ?

 アローネ・リム・クラウディア。

 君はカオス君を手に入れるために彼の元へを訪れたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 フェデールは既にミストでカオス君のがその身に精霊を宿していたことを突き止めていたようだ。その上でカオスを仲間に誘いアローネが精霊を狙っていると言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「私はそんなことは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「カオス君、

 その女から離れた方がいい。

 君とその女がどんなふうに出会ったのかはミストでも調べることが出来なかったけど偶然あの辺りで遭難したとか言って君に近付いたとかそんなところなんだろう?

 ミストの近辺は十年前に君が精霊の力を使うまでは誰もが人が住んでいない森林地帯だと思われてきた。

 それを君が精霊の力を使ってしまったことでその女達が探していた精霊の所在がバレてしまったんだ。」

 

 

カオス「………アローネは何も知らないみたいだよ。

 精霊のことだってアローネからは何も言及されてない。

 何かの間違いなんじゃないか?」

 

 

フェデール「そう装ってるだけだよ。

 その女は確実に君の敵だ。

 その女の側にいたら君は絶対に後悔するよ。

 そいつは間違いなく君をいつか裏切る。」

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「カオス………信じてください!

 私は貴方を裏切ったりなどしません!

 ウルゴスだって彼が言うような企みを抱く人など一人も「最後にもう一つだけ聞かせてくれないかな。」」

 

 

 アローネがカオスに語りかける言葉を無視してカオスはフェデールに話をふる。

 

 

フェデール「なんだい?

 最後と言わず君が知りたいことは何でも答えるけど?」

 

 

カオス「……そうか。

 なら答えてくれ。

 ………フェデール………お前はミストに行ったって言ってたな?

 俺達もこの間ミストの近くに行ったんだよ。

 ダレイオスの西側から海を渡ってマテオに戻ってきたんだ。」

 

 

フェデール「!

 …だから君達が帰ってきたのに気が付かなかったんだな。

 マテオの東側は絶壁だからね。

 ダレイオスの奴等があそこを越えてくることはないだろうとむけいかいだったがそれでねぇ………。

 

 

 ………そうだね。

 ミストに行ってきたよ。

 君のことを知りたくてね。

 ランドールの話では君と一緒にいたミシガンが君のお姉さんだって言うじゃないか。

 君がアルバートの孫だとして他に何人アルバートの孫がいるのか知りたくなったんだよ。

 君だけでもあれほどの力があるなら他の孫達も勧誘してみようと思ったんだ。

 まぁ結局アルバートの孫は君だけだったみたいだけどね。」

 

 

カオス「…お前がミストに行った時、

 村の人達はお前に何を話したんだ?」

 

 

 とうとうフェデールに一番重要な話を訊く。フェデールがミストの住人達を脅した上で焼き殺した理由を知るために。

 

 

フェデール「!

 ………あぁ、

 もしかして直接ミストに行ったの?

 君は出禁になってたはずだけどね………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()?

 村を救った英雄を追い出すようなクズ共にはあのくらいしてやらないとね。

 俺としても君の過去の話を聞いてムシャクシャしたんだ。

 あそこの連中には反省してもらう意味も込めて俺が手を下させてもらった。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 全部君のためにやったことなんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェデールはあっさりと自分の行いを認めた。これでカオスがとるべき行動はその返事で決まったようなものだった………。



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誘いには乗らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………やっぱりあれをやったのはお前だったんだなフェデール。」

 

 

 

 

 

 

フェデール「気に入ってもらえたかな?

 君のためにやったことなんだよ。

 俺から君に送れるプレゼントといったら()()くらいしか思い付かなかったからさ。

 君の幼少の頃に味わった苦い思い出もアレで幾らか晴れればいいなってね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェデールが自分の犯行を認めた瞬間だった。フェデールはカオスに近付くための材料を探しにミストへ向かいそこでカオスの過去を知った。その上でカオスの好感を得るためにミストの村人達を焼殺したのだ。

 

 

フェデール「どうだった?

 ミストの連中の具合は。

 どんな様子だったんだい?

 君なら絶対に喜ぶ結果が待ってたんじゃないかな?

 あんな奴等あれくらいの目にあわせてやらないと納得がいかないだろ?

 俺としては君がミストに帰ったところを直に見てみたかったなぁ。

 ミストの連中は君を見「もういいよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………もういい。

 お前に訊きたいことは全部訊けた。

 もう知りたいことは何も無い。」

 

 

 カオスはアローネ達に背を向けて修練場の入り口へと去っていく。

 

 

アローネ「カオス………。」

 

 

フェデール「フフ………、

 いきなりのことだったし君にも衝撃的な内容の話だったろうね。

 でも君がダレイオス側についてもメリットに差は何も無いだろう?

 どうせマテオとダレイオスのどちらかが勝って世界は一つになるんだ。

 それなら現状優勢な此方側についた方が戦争での犠牲は少なくて済むんだ。

 返事はまだいいけど悪い話じゃないだろ?」

 

 

 フェデールの話で気の沈んだアローネとカオスを味方に引き込めることを確信するフェデールの二人。フェデールの洞察力は見事なものだった。ここに来た経緯からアローネとの出会いの全てを言い当てた。フェデールの話が本当なのであれば今までの旅で見てきた彼女の全ては演技であった可能性がある。アローネはカオスの力を手に入れるために近付いてきたウルゴスという古代の国の復活を企む組織の者だったのか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「返事はここで言うよフェデール………。

 ………俺は…………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前達バルツィエの仲間にはならない。

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネを信じることにする。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはアローネを信じることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!」

 

 

フェデール「どうしてだいカオス君?

 君が此方側に付くなら俺は君にバルツィエの当主としてのポストを約束する。

 他の仲間達も同様だよ。

 君達が望むものなら何だって叶えてあげられるんだ。

 それをふいにするって言うのかい?」

 

 

カオス「俺が望むものか………。

 俺は別に何かが欲しいわけじゃない。

 俺に欲しいものがあるとしたらそれは俺の好きな人達の安寧を守ることだ。

 それがバルツィエの味方になんかついたらどんどん失われていくことに気付いた。

 バルツィエは俺の大事な人達の大事なものを奪っていく。

 そんな奴等の味方になんなつかないよ俺は。」

 

 

フェデール「大事なものを奪っていく………?

 ………もしかして俺は余計なことをしちゃったのかな?

 だったら後日ミストに直接「もうミストになんか言っても意味なんてないだろ。」」

 

 

 

 

 

 

カオス「お前が………お前がミストの皆を殺したんだから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「………………?

 ………俺が………………ミストの住人達を………殺した………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ、

 行こう。

 ここでの話は終わりだ。

 皆のところへ戻ろう。」

 

 

アローネ「はっ、はい。」

 

 

フェデール「………………」

 

 

 カオスとアローネはフェデールを無視して修練場を去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 去り際フェデールの様子を伺ってみたが何か考え事をするかのようにその場で佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス ブラム邸 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「よう、

 フェデールの野郎はいたのか?

 話はつけてきたのか?」

 

 

 ブラムの屋敷に戻ると開口一番にレイディーがフェデールのことを訊いてきた。

 

 

カオス「………はい。

 フェデールに会ってきました。」ガタッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「フェデールが来たんだね!?

 それでフェデールをどうしたの!?

 せっかくのチャンスをまさか無駄にしてきたわけじゃないよね!?」

 

 

カオス「ミッ、ミシガン落ち着いて!」

 

 

 フェデールがいたことを告げるとミシガンがかけ走ってきてカオスの肩を強い力で掴んでくる。

 

 

ウインドラ「ミシガン!

 フェデールとはここでは戦わないと最初に言っておいただろ!

 カオス達が暴れたりでもしたら他の騎士達が集まってきてそれどころじゃなくなるんだ!

 万が一俺達の居所が知れでもしたら手引きしてくれたブラム隊長にも迷惑がかかる!

 そうなればダインが俺達の元に来ることも出来なくなる!

 フェデールとやるのは今じゃないんだ!」

 

 

タレス「そうですよ!

 バルツィエのことを憎い気持ちは痛いほど分かりますが時期は今じゃありません!

 ブラムさんがダインさんを説得してから倒すべきバルツィエの人員を確認してそれでダレイオスに戻ってダレイオスの他の部族達と共にマテオに宣戦布告をするんです!」

 

 

 ウインドラとタレスの二人がカオスからミシガンを引き剥がす。あまりに強く握られていたためにカオスも一緒に引っ張られそうになった。

 

 

ミシガン「それは………そうだけど………そうだけど!!

 フェデールが近くにいるのに何も出来ないなんて無理だよ!

 私が直接フェデールを倒して皆の仇を討ちたいの!

 そんなの待ってなんていられないよ!」

 

 

 二人の忠告も聞かずにミシガンは一人ででもフェデールのところへと向かいそうな様子だった。

 

 

レイディー「…手間かけさせんじゃねぇよ。

 おい。」

 

 

アローネ「!

 はい!

 『ナイトメア!』」パァァ…!

 

 

ミシガン「!?

 待っ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガクッ………、

 

 

 アローネの術によってミシガンは眠らされる。それで一旦はその場は収まるが、

 

 

アローネ「そう何度も術で強制的に眠らせるのは体に良くないのですが仕方ありませんね。」

 

 

レイディー「しゃあねぇ。

 丁度いい具合に暗くなってきてるしそいつ連れてこの王都から抜け出るぞ。

 東側の貧民街に外に続く下水道を見つけておいた。

 流石にフェデールが近くにいないのならゴリラも諦めがつくだろうよ。

 一応聞いておくがフェデールから聞ける情報は全て聞き出して来たんだろうな?」

 

 

カオス「はい。

 もうここに留まっている理由はありません。

 早くレサリナスから出ましょう。」

 

 

アローネ「そうですね。

 フェデールから聞いた話は外に出てからお話しします。」

 

 

レイディー「そうしてくれ。

 じゃあ行くぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてカオス達はレサリナスを去った。フェデールから聞かされた話の内容には些か引っ掛かりはあったがカオスはアローネを信頼していたためフェデールの言ったことを世迷い言として片付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………しかしフェデールが言っていたことはあながち的外れではなかったことをカオスは暫く時間が経ってから知ることになる………。



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ウルゴスを目の敵にする理由

グラース国道 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………そうか。

 フェデールは犯行を認めたんだな。」

 

 

アローネ「えぇ、

 彼はミストの惨状が傑作だと豪語しておりました。」

 

 

タレス「目撃者もいたんですからフェデールがミストを焼き払ったというのはまず間違いなかったですけどね。」

 

 

ウインドラ「レイディー殿は疑っていたようだが本人の口から自白が聞けたのであればザックが目撃したのはやはりフェデールだったようだな。」

 

 

カオス「そうだね。

 ミストを燃やしたのはフェデールだったってことだよ。」

 

 

 カオスとアローネの二人は他の皆に情報を共有するために修練場でのことを説明していた。彼等にとって一番注目すべき事項はミストでのことをフェデールがやったのか否かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「うっ………ううん………?

 ………ここは………?」

 

 

カオス「!

 ミシガン気が付いた?」

 

 

 レサリナスから出る直前に術で眠らせていたミシガンが目を覚ました。眠らせる前よりかは幾分かは気も落ち着いたようにも見える。

 

 

ミシガン「………ここ………レサリナスの外………。

 ……ってことは………。」

 

 

ウインドラ「あぁ、

 俺達はレサリナスから今出てきたところだ。

 もうあそこに用は無いからな。

 ミストのことも調べがついた。」

 

 

ミシガン「!

 じゃあ………!」

 

 

 

 

 

 

カオス「ミストをやったのはフェデールで間違いないみたいだよ。

 フェデールはミストの皆の仇だ。

 フェデールだけは絶対に俺がこの手で討ってみせるよ。」

 

 

ミシガン「…やっぱりそうだったんだ………。

 フェデールがミストの皆を………。」

 

 

 カオスの意気込みでどうにかミシガンは気を落ち着けることができたようだ。

 

 

 フェデールは敵だった。始めから敵ではあったがダインが庇っていたので何かの間違いであったならそれにこしたことは無かったが自らミストを殲滅したと認めたのであればもうそれはカオス達の敵であることは変えようがない事実だ。

 

 

タレス「それでこれからどうします?

 バルツィエはダインさん以外が敵と決まった今ブラムさんがダインさんと合流するのを待ってダレイオスに向かいますか?」

 

 

レイディー「それもいいがまだ大事な話が残ってるだろ。

 フェデールから聞いたんだよな?

 

 

 バルツィエが恐れている相手が誰のことなのか。」

 

 

カオス「!」

 

 

アローネ「………」

 

 

ウインドラ「確かにそのことも目的の一つだったな。

 何者なのか判明したのか?

 俺達が知ってる相手なのか?」

 

 

 

 

 

 

カオス「えっと………。」

 

 

 カオス自身全くもって信じてはいなかったがそれでも隣にアローネがいる状況で答えるのは憚られた。バルツィエが恐れている相手というのがアローネやカタスティアと同じウルゴスの者でその人物がウルゴス復活のために精霊を求めていることとアローネをカオスの元へと送り込んできたのだという。そうなると必然的にアローネはその相手と繋がっていることになるのだが当のアローネの様子からはそんな策略染みたことを企てているようには見えない。卓越した観察眼の持ち主ではあったがアローネがウルゴスの復活を望む者と関与しているところだけは外していると思われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「彼等の敵は私の………ウルゴスの方だそうです。」

 

 

 

 

 

 

 カオスが言えなかったことをアローネが事も無げに言って見せた。

 

 

カオス「!

 アローネ………。」

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「ウルゴスの………?」

 

 

タレス「ウルゴスってアローネさんの………。」

 

 

レイディー「あぁん?

 そいつぁ確かお前の国じゃなかったか?

 このデリス=カーラーンが誕生して長い歴史の中で何度も繰り返して訪れた絶滅で滅んだ国だったろ。」

 

 

ミシガン「アローネさんとカタスティアって人以外にも目を覚ましているウルゴス人がいるってこと!?」

 

 

フェデール「フェデールが仰る通りであるならばそうなりますね………。

 そしてその人はカオスに憑依していた精霊マクスウェルを探しているのだとか………。」

 

 

ウインドラ「…まぁマクスウェルが誰かに狙われているということは本人も言っていたしな………。

 しかし何故そんな奴がいたとしてそいつはマクスウェルの力を狙っているんだ?

 力でこの世界の覇権でも取りに行くつもりなのか?」

 

 

アローネ「覇権………かどうかは分かりませんがその方はウルゴス王国の復活を目標に掲げているらしいのです。」

 

 

タレス「ウルゴス王国の復活?」

 

 

レイディー「ウルゴスの復活か………。

 そうなってくるとカタスのように()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 たかが一国民が王国の復活を目指したりなんてしねぇだろ。

 お前の知ってる奴でそういうこと計画しそうな奴に心当たりはねぇのか?」

 

 

 レイディーが目標の高さからフェデールが言っていた人物の具体的な像を挙げる。言われてみれば国一つを復活させようとする程の目的をもつ人物ならウルゴスでも相当な地位にいた可能性は非常に高い。アローネも貴族という高位の身分ではあったが精霊の力を利用しようとしたりせずただウルゴスの同胞達を探しだしてあげたいという想いに留まっている。それでも世界中から一人一人見付けるのは途方もないぐらいの時間と気力を必要とする目標だ。フェデールが言う人物はそれを越える程の目的を掲げていることになる。

 

 

アローネ「………恐らくグレアム様を除いた()()()()()()()()()()()()()がこの時代に目覚めているのであればその様な計画を立案しても不思議はありません。

 彼等王位継承権の順位が上位の方々は王位に固執しておりましたし彼等の力はバルツィエにも勝るものを有していましたから。」

 

 

ミシガン「その王子達ってバルツィエよりも実力が上なの?」

 

 

アローネ「私の所感ではそのように思います。

 バルツィエは数人で一つの街を制圧するようですが王子達は()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

レイディー「その話しの通りなら加えてそのウルゴスの王子達ってのは六大精霊の力も持っているはずだ。

 今のところはイフリートとシルフがこのデリス=カーラーンのどっかにいるんだろ?

 いつどのタイミングで出くわすか分からねぇな。

 

 

 もしお前その王子がアタシ達の前に現れたとしてそいつの計画に荷担するよう言われたらどうするんだ?

 そいつの計画に乗るのか?」

 

 

 ウルゴスのそれも王子からウルゴス復活の計画に加わるように言われれば元ウルゴスの貴族のアローネとしては従うしかないだろう。アローネの家クラウディアは王族にもっとも親しく近い家柄らしく()()()()()()()()()もあって王族に反することは難しそうだったがアローネは、

 

 

 

 

 

 

アローネ「…そのウルゴスの復活がどの様な方法で行われるか存じません。

 マテオとダレイオスの二つの国が有していない島かどこかでひっそりと王国を再興するという計画なのであればそれに協力するのもクラウディアの家の者としての務めだと思います。

 

 

 

 

 

 

 ………しかしそれがマクスウェルの力を利用してのマテオとダレイオスの両国を同時に相手取って征服してウルゴス復活を目指すようなものであれば私はウルゴス王族であっても彼等の命令に従うようなことは致しません。

 この世界は今のこの時代に生きる人々のものですから今更ウルゴスがこの時代に干渉してはならないのです。

 

 

 もし王子達が私にそのような計画を持ち掛けて来るのであれば私は王子達と戦います。

 決してその計画には加勢しません。」

 

 

 アローネは断固として武力によるウルゴス復活には賛同しないという姿勢を見せる。アローネであればカオス達を()()()ということは無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………アローネはよかったの………?

 皆にフェデールが言っていたことを話して………。」

 

 

アローネ「下手に隠し事をして後にそのことを知られるのが余計に疑いをかけられてしまいますかね。

 ウルゴスが疑われたとしても私は気にしません………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういうアローネであったがカオスから見ても精一杯不安を押し隠そうとしているようにしか見えず励まそうにもなんと声をかけてあげればいいのか分からずそのまま何も声をかけてあげられずにその話しはそこで終わった………。



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賢者の本

グラース国道 早朝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「さて、

 ではこれからダレイオスに戻るわけだが………。」

 

 

 次の日の朝ウインドラの一言からダレイオスに帰る方法を探すことになった。

 

 

タレス「またレアバードで海を渡ります?」

 

 

レイディー「勘弁してくれ。

 この間のあれで結構キツかったんだぞ。

 アレをもう一度やるってのは流石に体力とマナが持たねぇ。」

 

 

アローネ「ここからですとマテオの西の海の方が近いですが東側に比べてダレイオスとの距離が遠いですからね。

 海上でモンスターに襲われることも考えますとあまり安全な手段とは言えませんね。」

 

 

ミシガン「それなら普通に東側から前の時みたいにダレイオスに戻ればいいんじゃないの?」

 

 

レイディー「こっから東に行くと街がいくつかあってその先の海の手前にバルツィエも行くの避ける()()()ってのがあるんだ。

 そこには獰猛な竜達が生息してて無闇に突っ込めば忽ち竜の胃袋の中だ。

 アタシはあんなところ行きたくねぇぞ。」

 

 

ウインドラ「ではどうするんだレイディー殿。

 マテオとダレイオスを繋いでいたシーモス海道は破壊され唯一二つの国を行き来していたカーラーン教会の船もこの御時世で出ていない。

 何か他にダレイオスに戻れる方法があると言うのか?」

 

 

レイディー「船が無いわけじゃねぇんだ。

 オーギワン港でパクッてくりゃそれでいけるだろ?」

 

 

アローネ「パクるって………。」

 

 

ミシガン「それ………誰が動かすの?」

 

 

レイディー「こういうのはな。

 誰かに教えてもらうんじゃねぇ。

 自分で感覚を掴むんだ。

 レアバードみたいに空から落ちるわけじゃあるまいしその内ダレイオスに流れ着くだろ。」

 

 

タレス「沿岸に座礁しかねない提案ですね。

 船を盗まれた人が可哀想じゃないですか。」

 

 

 レイディーの前半の意見は気持ちとしては分かる。レアバードで乗り継ぎしていくと時間がかかるのと一々モンスターを相手にしなくてはならない。それに海の中心までくるだんだん方角が分からなくなってくる。マテオに戻る際は潮の流れが一定であったがシーモス海道が消失したことでマテオ西からダレイオス東までの海流の流れは不安定になっている。一度海岸から真っ直ぐダレイオスの方まで進んだとしても途中で方角を見失えばまたマテオに戻ってくることも考えられる。手間のことを思えばもう少しマシな方法を取るべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペラペラ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス………?」

 

 

 カオスはマクスウェルの本のページを捲りだす。

 

 

レイディー「!

 おい。

 またなんか変な術が発動したらどうするんだ。

 そんな本閉じとけよ。」

 

 

 先日マクスウェルとの戦いが終わった直後に懐にあった彼が所持していた本。レイディーに忠告されながらもカオスは本のページを捲り続ける。

 

 

カーヤ「カオスさん………?」

 

 

ウインドラ「何をしてるんだ?

 まさかダレイオスに渡る手段をそれに頼るつもりじゃないだろうな?」

 

 

タレス「いくらなんでもそんな都合のいい方法が本なんかに載ってるとは思えませんが………。」

 

 

 確かに普通の本であればそうだがこの本を所有していたのあのマクスウェルだ。マクスウェルはこれまででもカオス達や魔術の知識に秀でているバルツィエ達すらも知らない術を多用したりまたはカオス達に授けてきた。それならばカオス達が知らないだけで()()()()()()()あるのではないのかとカオスは思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピタッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス………?」

 

 

カオス「………」

 

 

 本を捲っていくととあるページに視線が吸い寄せられた。そのページには聞き覚えのある術が載ってあったのだ。その術はレサリナスで宿()()()()()()()()()が使用していた術だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………これ………使えるかもしれない。」

 

 

アローネ「はい?」

 

 

ウインドラ「おいおい、

 またよく知りもしない術をそう滅多に使うもんじゃ「皆ちょっと集まってみて。」」

 

 

レイディー「…何しようってんだよ。」

 

 

タレス「何か有用な術でも見付けたんでしょうか………?」

 

 

 とりあえずはカオスの言う通りに皆がカオスの周りに寄ってくる。

 

 

ミシガン「集まるってこのくらいでいいの?」

 

 

カオス「うん、

 これぐらいでいいと思う。

 ………もしかしたらなんだけどこれから()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 自信は無かったがカオスは皆にそう伝える。

 

 

カーヤ「術でダレイオスまで移動出来るの?」

 

 

レイディー「ハッ!

 そいつぁすげぇな!

 術を使った程度で人が大海を越えられるってのか?

 一応聞いておくが術の爆風とかで吹き飛んでいくとかじゃねぇだろうな?

 だとしたらダレイオスまで行けたとしてもアタシ等全員あの世行きだぜ?」

 

 

アローネ「カオスのことですからそんな考えを思い付くはずがありません。

 

 

 ………ですがどの様にして私達はダレイオスまで向かうのですか?

 海上を凍り付かせて歩道を作るのか………はたまたレアバードのように空を飛行する術なのか………。」

 

 

カオス「使ったことない術だけど感覚的には空を飛ぶのかな?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カーヤ「人を浮かばせる………?」

 

 

レイディー「………!

 ………まさかその術ってのは………奴の………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「()()()()()()()()!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 

 

 

 

 

 

 カオスが術を唱えると地面が揺れ動き出した。

 

 

タレス「地震………!?」

 

 

ミシガン「こんな時に何なの!?」

 

 

カーヤ「なっ、何これ………?」

 

 

ウインドラ「慌てるな!

 転倒しないように一旦地面にしゃがめ!」

 

 

 ウインドラの一声で皆地面に伏せる。揺れが収まるまで姿勢を低くして待つことにする。

 

 

 ………が、いつまで経っても揺れが収まる気配はなかった。

 

 

アローネ「この揺れ………一体いつまで………!

 ………!

 カオス、レイディー何をしてるのですか!」

 

 

 皆が一同に体勢を低くする中カオスとレイディーの二人はずっと直立のままだった。

 

 

 

 

 

 

レイディー「………本当にやりやがったなお前………。」

 

 

カオス「これならこのままダレイオスまで行けると思いません?」

 

 

レイディー「確かにな。

 だがお前マナは持つのか?」

 

 

カオス「前と同じで魔術を使ってもそんなにマナが減ってるようには感じないんですよね………。

 今のところはまだまだ続けられますけど。」

 

 

レイディー「……ハハハ………なんかもう呆れてくるな。

 お前のそのスペックにはよぉ……。」

 

 

 二人はこの地震をものともせず二人だけしか分からない会話を続ける。アローネだけでなくウインドラ達もこの非常時に呑気に会話をするカオスとレイディーに声をかけようとして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界の隅に異常な景色が映ってしまい驚愕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「なっ…………!?

 こっ、これは………………!」

 

 

ミシガン「なっ、何あれ………地面が無くなってる………!?」

 

 

タレス「なっ、何がどうなって………!?」

 

 

 その時点で漸くウインドラ達も今何が起こっているのか把握したようだ。

 

 

 

 

 

 

アローネ「……人を浮かばせる術というくらいでしたから鳥のように飛んでいくのかと思いきや………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが発動させたトラクタービームは対象の重力を操り宇宙のような無重力空間を作り出す。しかし一人一人の重力をコントロールするのはまだカオスには難しく全員に術を作用させ続けるのは厳しいと判断し代わりにカオス達の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

レイディー「お前がフェデールの得意技を使うとはなぁ………。

 そういやシーモスでもお前この術使ってたな。」

 

 

カオス「?

 そうでしたっけ?

 俺今回この術を使うの初めてだったと思うんですけど………。」

 

 

レイディー「あぁ、

 あん時はマクスウェルの方だったか。

 本当に術なら何でも使えるんだな。

 

 

 海を越えるのに船に乗るんじゃなく()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 こうしてマクスウェルの本の術によってカオス達は丸くくり貫かれた地面に乗ってダレイオスへと戻ることになった………。



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六部族集まるトリアナス

トリアナス砦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん………?」

 

 

「どうした?」

 

 

「……なんか………向こうから飛んできてないか?」

 

 

「鳥か?」

 

 

「………いや………あれは鳥………じゃないな………。

 何だあれは……?」

 

 

「鳥じゃない?

 どれどれ………確かになんか変なのが飛んでるな………。

 ………あれは………岩だな………?」

 

 

「岩がマテオの方から飛んできてるのか………?」

 

 

「何で岩が………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれ俺達の方に飛んできてるよな?

 ここにいていいのか?」

 

 

「いやよくないな。

 早く退避するぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……思ったよりでかいな………。

 それに速度も結構早いぞ。」

 

 

「!!

 おい!

 呆っとしてる場合じゃないぞ!

 あの岩俺達の方に軌道を変えて向かってしてるぞ!

 早く逃げ「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」うっ、うおあああぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピタッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、何だ………!?」

 

 

「止まった………!?

 空中で………!?」

 

 

 海岸で警備していたスラートの二人の男達は一瞬自身の死を覚悟したが想像するような事態にはならなかった。飛来してくる巨大な岩石は男達の手前で停止したからだ。

 

 

「………!

 誰か人が乗ってるぞ!?」

 

 

「!

 バルツィエの奴等か!?

 奴等こんな岩で空も飛べるようになっ「すみません!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「人を見掛けたもので挨拶しようと思ったんですけど驚かせちゃいましたね。」

 

 

 

 

 

 

「「あっ貴殿方は………!?」」

 

 

 岩石の上にいた人物達は半年前にヴェノムの主ブルータルからスラートを救った者達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此方です。」

 

 

 海岸で警備をしていた男達の案内でカオス達はアイネフーレ領に特設された建物の中へと入る。海に面したアイネフーレ領は既に軍事基地として要塞化しておりいつでもマテオからの攻撃に対応できる施設へと進化を果たしていた。

 

 

タレス「スラートはもうここまでのものを作り上げていたんですね。」

 

 

ウインドラ「仕事が早いものだな。

 ヴェノムの脅威が無ければこんな短期間でここまで復興するとは………。

 いつでもマテオからの攻撃に対応が可能ということか。」

 

 

カオス「海の上からでも見えてたけどここに沢山船が集まってるね。

 あれに乗ってダレイオスの人達がマテオに攻め混むんでしょ?」

 

 

 海上から確認したが五十を越える大型の船が海岸に集中していた。あの船に乗ってダレイオスはマテオに戦いを挑むのだ。

 

 

カーヤ「ここ………なんか嫌………。

 ダレイオスの人達がいっぱいいる………。」

 

 

アローネ「大丈夫ですよカーヤ。

 私達の側から離れなければ何も怖がることはありません。」

 

 

 カーヤにとってはマテオよりもダレイオスの人々の方が恐怖を感じるのだろう。戦いになればカーヤが彼等に負けることはないだろうが数のよるプレッシャーはいかに強い力を持つものでも畏縮してしまう。カーヤも実際ダレイオスのどの部族からも拒絶された経験がありダレイオスのエルフ達が苦手なのだ。

 

 

ミシガン「ここに今ダレイオスの部族が集まってきてるの?

 ファルバンさんやオーレッドさん達がここにいるの?」

 

 

「はい。

 先日合流するとは思いませんでしたがブルカーン達も皆さんの指示で来場されております。

 現在六部族の族長方がマテオへの戦線会議を開いております。」

 

 

レイディー「オリヘルガ達も無事にここに辿り着いたのか。

 当初の予定じゃアイネフーレとブロウン、カルトも続く手筈だったんだがな。」

 

 

「彼等もこの場に居合わせることが出来たら戦力的にも十分なものが完成するはずだったのですがヴェノムの主に滅ぼされたとあっては我々にはどうしようも……。」

 

 

レイディー「気にするな。

 そこまで理想を求めちゃいねぇよ。

 アタシ等がもっと早くダレイオスに来れたら良かったんだが次期が遅すぎたんだ。

 今いるだけでやるしかねぇ。」

 

 

 スラートの案内人とレイディーは不服そうに感想を言うがこのトリアナス砦にいる人員だけでもレサリナスの軍にも劣らない数が集まっているように見える。これでもまだ足りないと言うのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、

 お前等も御到着か。

 ご苦労なこった。」

 

 

 六部族の族長達がいるという場所まで向かっているとカオス達に声がかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………オリヘルガか………。」

 

 

 カオス達に話し掛けたのはオリヘルガだった。

 

 

オリヘルガ「お前等ダレイオスを渡り歩いてあんなことしてやがったのか。

 あれだけの力があるならヴェノムの主を全滅させることなんてわけないよな。」

 

 

アローネ「そうでもありませんでしたけど………。」

 

 

ウインドラ「ブルカーンは全員ここにいるのか?」

 

 

オリヘルガ「あぁ来てるぞ。

 俺達もバルツィエとの戦いに混ざりに来たんだ。

 俺達がいれば()()()()()()()()()()向かうこところ敵無しだぜ。」

 

 

タレス「頼もしい限りですね。

 でも油断はしないことですよ。

 バルツィエがどの程度ラーゲッツが使用していたワクチンを改良しているかまだ分かりませんから。」

 

 

オリヘルガ「あのヴェノムの能力を使われたら手も足もでないだろうが全員があれを使うとは限らねぇだろ?

 ヴェノムになった奴等の相手はお前等に任せるぜ。

 俺達はそれ以外を潰す。

 ヴェノム以外は任せな。」

 

 

ミシガン「安心して。

 バルツィエは私達が相手するから。」

 

 

オリヘルガ「頼もしいな。

 あんな糞蜥蜴なんかよりもお前等についた方が万倍は条件がいいぜ。

 

 

 ………それでものは相談なんだけどよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな大人数がマテオに行っても邪魔になるだけだと思わねぇか?

 マテオに攻め混むなら他の連中にダレイオスを守らせて俺達ブルカーンとお前等だけで出撃するのはどう「浅ましいなオリヘルガ。」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

????「今度の戦は我々スラートがカオス様方と計画したものだ。

 それを最後にやってきたお前達が烏滸がましく口出しするんじゃない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガがカオス達に何かを言いかけた時カオス達と離れたところからそれを遮る者が現れた………。



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スラート族のハーベン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「誰………?」

 

 

カオス「さっ、さぁ………?

 スラートの人みたいだけど………。」

 

 

 カオス達がいるトリアナス砦は現在マテオとの戦いに備えて六つの部族が終結し武器や物資を大量に備蓄している。元がアイネフーレが設立していた砦ということもあってか要塞としての機能性も高く戦いに従事していない者から見れば近寄りがたい設備に仕上がっている。

 

 

 そんな中でも後参者でありながら堂々とカオス達に近付き他の部族のように畏まった態度を取らないのはダレイオスに在する部族達の中でも力の関係が上位に食い込むブルカーンが故のことなのだろう。オリヘルガはそのブルカーンの中でも現時点ではトップの力を有し族長代理を努めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなオリヘルガを前にして一歩も退かず前に出る男が一人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「すっこんでろ()()()()!

 お前には関係のない話だ!」

 

 

ハーベン「関係なら大いにあるだろ。

 私達スラートや他のミーア、クリティア、フリンク、アインワルドと共にマテオと戦うことは認めはしたがカオス様方をお前達ブルカーンの野心のために利用しようとすることは断じて許さない。

 とっとと失せろ。」

 

 

オリヘルガ「偉そうにするんじゃねぇよ!

 スラートに力があったのは六年前までの話だ!

 今はお前等の下になんかつくつもりはねぇぞ!」

 

 

ハーベン「私は戦列に加わりたいのなら士気を乱すような真似はするなと言っているだけだ。

 他を出し抜こうだなどと考えるな。」

 

 

オリヘルガ「うるせぇな!

 この俺に……!」ジャキンッ!!

 

 

 オリヘルガは仕込みナイフを構える。

 

 

カオス「!?

 オリヘルガ!!」「大丈夫ですよ。」

 

 

 流石にマズイと思ったカオスはオリヘルガを止めようと走り出………そうとして案内人の男にそれを止められる。

 

 

アローネ「二人を止めなくて良いのですか?

 あのままではあの人がオリヘルガに殺されてしまうのでは………。」

 

 

「まぁオリヘルガは確かにかなりの腕前ではありますがね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーベンさんには()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・レイディー「「「「「「!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「グホォッ!!」

 

 

ズザザ……!!

 

 

 ハーベンと呼ばれた男は飛び掛かってきたオリヘルガを一瞬でに突飛ばした。オリヘルガは悶絶しながら転がっていく。

 

 

ハーベン「…失礼しましたカオス様。

 オリヘルガが言っていたことは忘れてしまって結構です。

 それでは()()()()()()()()()案内しましょう。」

 

 

カオス「あっ、貴方は一体………?」

 

 

ハーベン「…申し遅れました。

 私の名はハーベンと申します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スラート族長ファルバンは私の父にございます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーベンに連れられカオス達は黄木な建物の中へと入っていく。

 

 

カオス「オリヘルガのことは放っておいていいんですか?」

 

 

ハーベン「お優しいのですね。

 ですがあの無礼者は暫くすればその内目を覚ますので大丈夫ですよ。

 それよりも父達の元へ向かいましょう。

 父達がカオス様をお待ちしております。」

 

 

カオス「は、はい。」

 

 

ウインドラ「ハーベン殿と申していたな。

 貴方は前にセレンシーアインでは見掛けなかったがどちらに行かれていたのだ?」

 

 

ハーベン「あの頃はスラート領の各街を回っていたのです。

 セレンシーアインの周辺にヴェノムが集中しすぎるのは危険なので定期的にヴェノムを遠くの場所へと誘導するようにスラートでは決まりがあったのです。

 あの時期は私がその任に就いておりまして残念ながら皆様とお会いすることは叶いませんでした。」

 

 

アローネ「ハーベンさんはファルバンさんの御子息なのですよね?

 族長の御子息自らそのような危険な仕事を………?」

 

 

ハーベン「族長とは皆の生活と安全を守るのが仕事です。

 そこには次期族長は何も関係ありません。

 そういったことは進んで私がやるのが次期族長の務めですから。」

 

 

アローネ「ご立派なのですね。」

 

 

ミシガン「なんか思ってたよりもスラートの人って強いんだね。

 あのオリヘルガを一発で倒しちゃうなんて。」

 

 

ハーベン「オリヘルガは………あの程度の相手ならスラートは他に何人かは軽く叩きのめせるでしょう。

 兄のギランであれば私でなければ相手になりませんでしょうがオリヘルガだけであれば先程のスラートの同胞達でも十分でした。」

 

 

タレス「あの人達もそんなに強いんですか?」

 

 

ハーベン「そう思われるのも仕方がないことです。

 カオスは方がお越しになられた辺りは私達の敵はヴェノムだけでございましたからスラートの力を御見せする機会が無かったのでしょう。

 私達はあの頃はヴェノムに対して退避することしか出来ませんでしたから………。」

 

 

カオス「言われてみればそうですよね………。」

 

 

 ダレイオスに来た頃の時はスラートが戦う姿は見たことが無かった。敵はブルータル、ランドールと現れたがブルータルに関してはウイルスを保有していたので直接戦うことはできなかった。ランドールに至っては地下での奇襲を受け戦うよりも先に避難しなければならなかった。カオス達が居合わせた際のスラートは不利な状況での襲撃に対応するしかなかったのだ。ダレイオスでもっとも優れた部族とは聞いていたが印象としてはブルカーン以外の部族と血からにそこまで差は無いのだと思い込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハーベン「到着しました。

 ここが我がスラートと他の族長達が集まる会議場です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーベンと話をしている間にカオス達は六部族の族長達がいるというかいぎの場まで辿り着いた………。



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集う族長

トリアナス砦 部族会議室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハーベン「失礼します。

 カオス様御一行が御到着されました。」

 

 

 ハーベンが扉を開けて中へと入る。カオス達もその後に続く。すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 カオス様!」タッ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハシッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に入室して早速カオスのところへ駆け寄ってくる者がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「クッ、クララさん………!?」

 

 

クララ「お久し振りですカオス様!

 またこうしてお会いする日を迎えられようとは!

 カオス様が旅立たれてからの毎日はいつ巫女の宿命の日が訪れるのか心配で心配でたまりませんでした!」

 

 

カオス「そんな大袈裟な………。

 まだクララさん達と分かれてから一ヶ月も経ってないじゃないですか。」

 

 

クララ「巫女にとっての一月はそれほど重要な時間なのです!

 私も二十歳を越えますしいつ宿命の日が来ても不思議ではありません!

 さぁ!

 早く私と一緒にどこか二人きりになれる部屋で一晩………。」

 

 

カオス「えっ、えぇぇ……!?」

 

 

 カオスに詰め寄ってきてのはアインワルドの巫女クララだ。彼女はカオスと同じくその体の中にラタトスクという精霊を住まわせていてアインワルドにあるデリス=カーラーンを三万年もの間守り続けてきた一族の末裔である。

 

 

レイディー「何だよ坊や自棄に気に入られてるじゃねぇか。

 アタシと再開するまでに女口説き落とす趣味でもできたのか?」

 

 

カオス「そっ、そんなことはないですけど………。」

 

 

ウインドラ「クララ殿。

 アインワルドから出てきても良かったのか?

 巫女は大じ………………アルターから離れられないのではなかったのか?」

 

 

クララ「御心配ありません。

 アルターは皆に任せて来ましたので。

 それにカオス様達のお話で他の部族達もここに集中していると聞いておりましたからアルターに侵攻するような勢力は今のところはありませんから。」

 

 

アローネ「そうですか………。

 でもカオスと二人きりになるのは駄目ですよ?」

 

 

 

 

 

 

ハーベン「巫女。

 カオス様を困らせるな。

 カオス様は先程ここに来られたばかりなんだ。

 今日のところはそこまで重要な会議も開かない予定であるからこのあとはカオス様方にはゆっくり休まれてもらう予定だ。」

 

 

 カオスを掴んで離さないクララをハーベンが宥める。

 

 

クララ「そういうことでしたら自粛致します。

 カオス様には後日アルターを経ってからのお話を聞かせていただきますね。」

 

 

 ハーベンが注意すると素直にカオスから離れるクララ。クララが離れたことによってカオスは自由になりそこへ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファルバン「よくぞ戻られたなカオス殿よ。

 ソナタ等が戻るのを待ちわびておったぞ。」

 

 

 部屋の奥の席からスラート族長のファルバンがカオス達にそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバ「アンタ達本当にやり遂げたんだね。

 アンタ達がクラーケンを倒した時から期待してたんだよ。

 アンタ達なら絶対やってくれるって。」

 

 

 ミーア族族長代理ミネルバもファルバンの隣で会議に出席していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「漸くこの時が来たのぅ。

 ソナタ等はこのダレイオスを救った立役者じゃ。

 ソナタ等が来ねば話が始まらんぞ。」

 

 

 クリティアの長老オーレッドもミネルバとは反対側の席でカオス達を見据える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「カーヤは………元気そうでなによりです。

 カオス殿に預けて間違いはなかったようだ。

 貴殿方にはフリンクの悪しき流れを断っていただいたご恩があります。

 この戦争私達は貴殿方と共に精一杯尽力することにしました。

 私達の手でマテオに打ち勝ちましょう。」

 

 

 フリンク族の族長ナトルがカオス達に近い入り口近くの席で話し掛けてくる。その隣には空席があった。恐らくクララの席だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「ソナタ等はブルカーンすらも味方にしたようだな。

 先日の空の様子からトラブルでも発生したのかと思ったが今日という日が迎えられたということは危機は去ったのだな。

 

 

 残るはマテオとの対決のみか。」

 

 

 

 

 

 

カオス「オサムロウさん……!」

 

 

 いつの間にかカオス達の後ろにオサムロウが立っていた。

 

 

ハーベン「()()!

 どちらに行かれていたのですか?」

 

 

オサムロウ「カオス達が来たと聞いて迎えに行ったのだが入れ違いになってしまったようで急ぎ追い掛けてきたのだ。」

 

 

ハーベン「そうだったのですね。

 道理で会議室にいた師匠が見当たらなかったわけです。」

 

 

オサムロウ「途中オリヘルガが倒れていたが何かあったのか?」

 

 

ハーベン「カオス様に無礼を働こうとしたため成敗しました。」

 

 

オサムロウ「そうか………。

 ならば会議は明日以降に延期だな。

 オリヘルガがいないのでは話し合いも進むまい。」

 

 

ハーベン「私の方でもカオス様方にはそのように説明してあります。

 これからカオス様方には別室に案内しようと思うのですが宜しいでしょうか?」

 

 

オサムロウ「…ソナタは実に気が回る男だなハーベン。」

 

 

 二人の会話からしてオサムロウとハーベンは師弟関係であることが伺える。オサムロウに師事を仰いでいたのであればオリヘルガを難なく打ち破るのも理解できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファルバン「…この通り今後のことについての話は欠員が出てしまっているために進められぬ。

 事は慎重を要する作戦だ。

 皆が揃って会議を開くとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日のところはカオス殿達が合流なされたのを確認したということで解散するとしようか。」



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ミーア族の様子

トリアナス砦 ミーア居住区域

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「フリンクもアインワルドもブルカーンも無事合流出来ていたようだな。」

 

 

アローネ「スラート族、ミーア族、クリティア族と違い洗礼の儀を行っていないというのによくここまで辿り着けましたね。

 まだヴェノムは根絶してはいないのに………。」

 

 

レイディー「ヴェノムが出現したのは百年前だぜ?

 そんな中百年も生き延びてきた連中だ。

 今更ただのヴェノムごときに臆するような連中じゃねぇよ。」

 

 

ミシガン「本格的に準備が整いだしたね。

 ダレイオスの人達皆バルツィエと戦うためにここに集まってきてるんだ………。」

 

 

タレス「アイネフーレ領がマテオとの決戦の本部に選ばれたのはアイネフーレとして誇らしいことですね。

 今度の戦いは絶対に負けられません。

 ダレイオスの意地をバルツィエに見せてやりますよ。」

 

 

 初めてこの場所を訪れた時と比べてトリアナス砦の面積は数倍にまで拡がっている。軍事施設としては今までに類を見ない規模の仕上がりでカオス達はダレイオスの底力を見せ付けられた。

 

 

 

 

 

 

カオス「…これから始まるんだな。

 マテオとダレイオスの戦いが………。」

 

 

カーヤ「………マテオとダレイオスが戦ってダレイオスが勝ったら………、

 

 

 ()()()()()()()()()()………?」

 

 

 突然カーヤがそんな質問をしてくる。

 

 

カオス「え………?

 どうなるってそれは………。」

 

 

ウインドラ「形式上はマテオとダレイオスの二国間の戦争だがダレイオスが再び戦う力を得たのは俺達のおかげだ。

 バルツィエが倒されたらマテオはダレイオス各部族の領土として分割して管理されることになるだろう。

 しかしダレイオス陣営がマテオに上陸しバルツィエを押し始めればマテオの民衆もそれに便乗してバルツィエに立ち向かっていくことだろう。

 そうなれば敵はマテオではなくバルツィエとその傘下の一団だけだ。

 ダレイオスとマテオ国民達の共闘という形に持っていければダレイオスもマテオの人々を粗末に扱うということはないだろう。

 バルツィエが倒されて今よりも世界は争いの少ない世界に変わっていくはずだ。」

 

 

 ウインドラが言うようにダレイオスの人々も目の敵にしているのは大抵がバルツィエだ。バルツィエにはレアバードという渡航手段があるためダレイオスに書こ攻め混んで来ていたのは全てバルツィエである。ダレイオス側からすれば国民達にはそこまで深い恨みは根付いてはおらずバルツィエに勝利したあともバルツィエのような政策を行ったりは………、

 

 

 

 

 

 

レイディー「そうとも限らねぇよ。」

 

 

 ウインドラの言葉を否定するレイディー。

 

 

ウインドラ「何?」

 

 

レイディー「お前等この戦争がどういった経緯で始まったのかこの旅でみて来なかったのか?

 マテオとダレイオスが何で戦うことになってるのか知らねぇのか?

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 マテオにいる奴等は三万年前から続く部族の領土争いの果てにいつまでも終わりの見えない戦争に嫌気が指した連中や争ってる内に生まれてきたハーフエルフ達があっちの大陸に移って出来たのがマテオだ。

 ダレイオスからしたらマテオの奴等は皆迫害の対象なんだよ。

 アタシ等がダレイオスの連中から()()()()()()()()()()()()でありながら迫害されないのは坊やの力に助けられたことや明確にバルツィエが敵だと断言しているからだ。

 

 

 

 

 

 

 ………それがマテオの民衆達だとどうなるかな?」

 

 

 レイディーは端的にマテオとダレイオスの戦争後にダレイオスの者達がマテオの人々を迫害すると言っている。

 

 

ウインドラ「そんなことはさせない。

 俺達ダリントン隊とバーナン隊はバルツィエの圧政から人々を救うためにダレイオスに共闘を持ち掛けたんだ。

 それでは何のためにダレイオスの力を借りたのか分からなくなってしまう。」

 

 

レイディー「事はどっちが勝つか負けるかだけの話じゃねぇんだよ。

 どっちが勝ってその後にどう響くかも予測しとかねぇとな。

 マテオの国民連中を守りたきゃ先に釘を刺しておくのも大事だ。

 ダレイオスとしても戦争するからには()()()()()なんだよ。

 戦争は勝利して喜ぶだけってせかいじゃねぇ。

 犠牲を払って勝つんだ。

 そこは頭に入れとけ。」

 

 

 カオス達はバルツィエの圧政から民衆を解放することだけを考えてダレイオス復活の協力を惜しまず手伝ってきた………がここに来てダレイオスが勝利した後の問題が浮上してきた。

 

 

アローネ「今の内から各部族が戦後はどの様にマテオを領土化するかを調査する必要がありそうですね。」

 

 

タレス「必要なら次の会議でそのことを聞いてみるのはどうですか?

 具体的にどんな領土の配分になるのかとその際の民衆の扱いはどうなるのかとか。」

 

 

 カオス達は集まった六部族の族長達に領土化後の政策を詰問することにした。そしてそんなところへ早速族長の一人がやって来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバ「どうしたんだいこんなところで立ち止まってさ?

 何か話でもしてたのかい?」

 

 

 ミーア族族長のミネルバがカオス達を見付けて話し掛けてくる。

 

 

カオス「!

 丁度よかった。

 ミネルバさんに聞きたいことがあるんです。」

 

 

ミネルバ「聞きたいこと?」

 

 

アローネ「戦後のことなのですが………。」

 

 

 カオス達はミネルバに先程の話を振ってみた。それで返ってきた返事は………。



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ミーア族の様子2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバ「あぁ………、

 そりゃ気になるよねぇ。

 アンタ達マテオの人だったもんね………。」

 

 

 ミネルバに事情を聞いたところそんな反応が返ってくる。

 

 

タレス「忘れてたんですか?

 カオスさん達がマテオから来たってこと。」

 

 

ミネルバ「忘れていたというよりかはマテオとは違う別のところから来たってイメージだったかな。

 カイクシュタイフの洞窟があった時はアンタ達あのクラーケンを相手に戦ってたんだものだからマテオともダレイオスとも違うどこか異国の人のように思ってたよ。」

 

 

アローネ「私はその認識で合ってはいますが………。」

 

 

ミネルバ「そこのお嬢さん二人は前の時にはいなかったよね?

 二人もアンタ達のマテオから来たお仲間?」

 

 

レイディー「アタシはそうだな。」

 

 

カーヤ「カーヤは………。」

 

 

ミネルバ「んん

 ?見たところなんかフリンク族っぽいけどなんかアンタの顔どっかで………。」

 

 

カオス「!」

 

 

 カーヤは六年前にダレイオスをレアバードで飛び回っていたことがある。その時は他の部族から拒絶されてまたフリンク領に戻ったのだ。拒絶された原因は彼女が当時ヴェノムの感染者だからではなくレアバードで移動していたためにマテオから来たバルツィエと勘違いされたからだろう。

 

 

ミネルバ「………なんだったかなぁ。

 思い出せないや。

 まぁカオスさん達と一緒にいるなら大丈夫だよね。」

 

 

 ミネルバはカーヤに見覚えがあったようだが六年前はカーヤはまだ子供だったということもあり体型や見た目も成長しているので思い出せなかったようだ。

 

 

ミネルバ「それよりもさ。

 前にアンタ達から洗礼の儀とかいうのを皆受けたでしょ?

 あれについてなんだけどさぁ。」

 

 

ミシガン「?

 洗礼の儀がどうしたの?」

 

 

 急にミネルバが前にカオス達が施した洗礼の儀の話を持ち出す。

 

 

ウインドラ「まだ他に施術されていない者でもいたのか?

 だが今はあれは………。」

 

 

ミネルバ「あぁいやミーアは前ので全員終わってるんだけどね。

 

 

 なんか()()()()()()()()()アンタ達と同じように術が一つしか使えなくなってるんだよ。」

 

 

 ミネルバは困ったようにそんなことを訴えてきた。

 

 

アローネ「三ヶ月前………からですか?」

 

 

レイディー「どういうこった?」

 

 

ミネルバ「前にあの術を使ってもらった時はただヴェノムに感染しないってだけで良かったんだけどね。

 今は私達ミーアは水以外の術が使えなくなったんだよ。」

 

 

カオス「水以外………………!

 ビズリーさん達と同じ………!」

 

 

タレス「それ以外に変わったところはありませんか?」

 

 

ミネルバ「アンタ達と同じ様にヴェノムに攻撃が効くようになったよ。

 水の魔術しか使えなくなったのは不便だけど元には戻せないのかい?」

 

 

カオス「それは………その………。」

 

 

 現時点でアローネ達と同じ状態から前の段階に戻ったという事例は存在しない。一度状態が移行してしまえばもう元に戻す手段はないのだ。

 

 

ミネルバ「…まぁ無理言っても仕方無いよね。

 ウイルスに感染しないだけでも有り難いから今のままでもそう困ることはないからね。」

 

 

アローネ「その状態には皆が一斉に変化したのですか?」

 

 

ミネルバ「あぁ、

 三ヶ月前にいきなりね。」

 

 

カオス「三ヶ月前………ウィンドブリズ山にいた辺りから………。」

 

 

タレス「確かカオスさんがダインさんと修業している時にマクスウェルが話し掛けてきたと言ってた時ですよね。マクスウェルという名前もそこで判明しましたし。」

 

 

ウインドラ「カオスの術の効果が変化したのはやはりその辺りからだったんだな。

 ユミルの森でビズリーとダズに付加した際には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

ミシガン「ミーアが水しか使えなくなったってことはスラートとクリティアも?」

 

 

ミネルバ「()()()()()()()()()()()()()()()()()()しか今は使えないみたいだよ。

 それも私はとほぼ同じ時期だったってさ。」

 

 

カオス「そんなことに………。」

 

 

 ビズリー達に術を施術した時には安易に使ってはならないと躊躇っていたが既にもう数百人以上がアローネ達と同じ状態へと変化しているようだ。それも三ヶ月も前に………。

 

 

 

 

 

 

ミネルバ「その分仲間内同士での連携が取りやすくなったとは思うよ。

 この状態だとミーア族同士で簡単に傷を癒やすことも出来るようになったんだよ。

 うちらの中には治療術の適正が無いのが多かったんだけどね。

 ミーア族ならミーア族同士でモンスターやヴェノムに襲われて負傷しても自分達でフォローしあえるから前よりも大分ダレイオスの往来が移動しやすくなって大助かりだとは思うよ?」

 

 

カオス「え?」

 

 

アローネ「!

 …言われてみれば私達と同じ状態になったのでしたら同じ属性の術を使える者同士がフィールドを移動するのに適しているのかもしれませんね。」

 

 

ウインドラ「不便なのは普通に生活することだけなのか?

 他に何か都合がついた方がいいところとかはないか?」

 

 

ミネルバ「今のところは………何も思い付かないね。

 今は電気が欲しかったらスラートに言えばいいし畑を耕すのにもアインワルドとかがいるし火だってブルカーンが来てくれたから何も困ってなんかないよ。」

 

 

カオス「………そうなんですか………。」

 

 

 アルターでカオスが不安に思っていたことはそこまでダレイオスの者達は気にしてはいないようだった。

 

 

ミネルバ「なんならフリンクとアインワルドの連中にもあの洗礼の儀ってのやってあげた方がいいんじゃないかな?

 あれやるだけでも魔力も結構上がるみたいだしね。

 どうせならブルカーンも………あぁそれだと時間が掛かりすぎちゃうかもね。

 そこはアンタ達に任せるよ。」

 

 

 そういってミネルバは去ろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバ「あぁそうそう、

 マテオのことだけどそこまで深く考えなくてもいいんじゃないかな?

 アンタ達がマテオから来たってことは皆知ってるんだしアンタ達がマテオから来た事情も皆知ってるんだ。

 マテオの連中をどうこうしようなんて誰も思っちゃいないんじゃないのかね。」



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アインワルド族の様子

トリアナス砦 アインワルド居住区域

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケニア「おや………?

 これはこれはカオス様。

 娘から此方にお見えしていることは伺っておりましたが娘は御一緒では………なさそうですね。」

 

 

 ミーア族のいる場所から少し離れると今度はアインワルド族が多い場所に着いた。

 

 

カオス「クララさんとは………。」

 

 

ウインドラ「先程まで一緒だった。

 今日のところは俺達がここに来たということだけで話は済んだんだ。」

 

 

アローネ「今はこのトリアナスの様子を見て回っているところなのですよ。」

 

 

ケニア「そうなのですね。

 ところでそちらのお嬢さんはどちら様でしょうか?

 つい先日までは貴殿方とは御一緒ではなかったと思われますが………?」

 

 

 ケニアはレイディーを見て誰かを訊いてきた。アインワルドと別れてからまだ二十日と少ししか経っていないため二ヶ月もカオス達を見てきたアインワルドからすればいきなりカオス達の同行者に一人追加されたのを不思議に思うことだろう。

 

 

レイディー「ハァ……いちいち説明しなくちゃいけねぇのかよ。

 面倒くせぇな。」

 

 

カオス「あぁ………この人はレイディーさんと言って俺達と一緒にダレイオスまで来ていた人なんです。」

 

 

ケニア「カオス様と………?」

 

 

レイディー「アタシにはアタシの目的があってこいつらとは別で行動していたんだ。

 こいつらと合流したのはアンタ達アインワルドとこいつらが別れたすぐ後だ。

 ちょうどいいタイミングでこいつらがアタシが狙っていたイフリートのところに来たんでな。

 そっからこいつらと一緒にいるんだよ。」

 

 

ケニア「そういうことでしたか………。」

 

 

 ケニアはレイディーのことを紹介すると納得したように頷く。

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「それでケニア殿。

 俺達はただ様子を見て回っていただけでなくアインワルド………いや他の部族にも一つ確認しておきたいことがあるんだが宜しいか?」

 

 

 レイディーのことを簡単に説明した後カオス達は先程ミーアにも確認したことをケニアに訊いてみた。

 

 

ケニア「はい?

 何でしょう?」

 

 

カオス「…これからマテオとの戦いが始まるわけだけどダレイオスの敵はあくまでもバルツィエ………ってことでいいんですか?」

 

 

ケニア「…と仰いますとカオス様方が気になさられていることは戦後のマテオのことですね?」

 

 

 ケニアが察しがよくて話を直ぐに理解してくれた。アインワルドはこういったことも予見していたようだ。

 

 

ケニア「私共アインワルドは知っての通りユミルの森の………ここでは名を出せないあの()を守ることを使命としております。

 私共はマテオに勝利したからと言ってマテオの地を占有するようなことは致しません。」

 

 

カオス「!

 そうで「しかし」………?」

 

 

 一瞬ケニアの話がミーア族と同じくカオス達に配慮した返答であって喜びかけたか彼の話にはまだ続きがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケニア「私共としても戦いに勝利しておいて何も得ないというわけにはいかないのです。」

 

 

ミシガン「………どうして?」

 

 

 大樹カーラーンを守るアインワルドはユミルの森から離れることができない。故にマテオに勝利したとしてもアインワルドはマテオに人を送ることはできないはずだがケニアはカオス達の疑問に返答する。

 

 

 

 

 

 

ケニア「私達はあの樹を守るためにも他の部族が力を得るのを阻止しなければなりません。

 スラートやブルカーン、クリティアはマテオとの戦争に勝利した暁にはマテオの土地を確保していくことでしょう。

 私達アインワルドはその流れに出遅れることは許されないのです。」

 

 

アローネ「スラート、ブルカーン、クリティアが………?」

 

 

ウインドラ「どうしてその三部族がそんなことを………?」

 

 

ケニア「こうして今私達は巨大な力を持つ敵に立ち向かうために協力をしていますが我々ダレイオスの九つの部族は元々敵同士で()()()()()()()()()()()()だけなのです。

 マテオとの戦後直ぐに今いる六つの部族が争うということは無いでしょうがどこか一つの部族が力を付けてくればそうなる未来はそう遠くないでしょう。

 ですからそれを阻止ためにも我々もマテオの領地の確保と他の部族達に劣らぬよう力を付けねばならないのです。」

 

 

 アインワルドの言い分としてはマテオという敵がいなくなれば今度はダレイオスは六つの部族同士で争いを始めるかもしれない。そうなった時マテオで得た武器や物資が戦況を分ける可能性があるのだという。アインワルドとしては他の部族に力で圧倒されないよう領地確保の話になれば出ないわけにはいかないらしい。

 

 

レイディー「フンッ………。

 まぁ互いの力が拮抗しているってんなら両者ともに迂闊に手出しはしようとはしないよな。

 だがそれがどちらかに大きく傾けば戦いってのは軽い弾みで簡単に起きちまう。」

 

 

ケニア「そうならぬためにも我々アインワルドも得られるのならそれにこしたことはないのです。

 力とは争いを呼ぶ火種にもなりますがそれを防ぐための()()にもなりますからね。」

 

 

 アインワルドとしては覇権を取りに行くような欲は無いが他がどうかは分からない。なのでもし土地を配分するという話しになれば讃歌しないわけにもいかないということのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケニア「……カオス様方もお気をつけください。

 本当に信頼できる相手というのは数多く人がいる中でもそう多くはいないものです。

 もしかしたら気を許した相手でも心の内でカオス様方が考えているよりももっと恐ろしいことを企てているかもしれません。

 決して安易に人を信用してはなりませんよ。

 

 

 それが()()()()()()()()()()()()()()()()。」



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フリンク族の様子

トリアナス砦 フリンク居住区域

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次にカオス達はフリンク族が集まっている場所を訪れた。

 

 

ナトル「変わりないかカーヤ?

 どこか怪我とかはしてないか?」

 

 

カーヤ「うん………。

 カーヤは大丈夫だよ……。

 カオスさん達が一緒だったから。」

 

 

ナトル「………そうか。

 ならばいいんだ。」

 

 

 フリンク族族長ナトルはカーヤにそれだけ言うとカオス達に向き直る。

 

 

 

 

 

 

ナトル「まだ皆を説得できたわけではありません。

 カーヤのことを受け入れてもらうにはもう少し時間が必要です。

 今度のマテオとの戦いも勝利したとしても私達フリンク族には何も得られるものはありません。

 フリンクが抱える問題は多くそれを少しずつ解消していく段階にあります。」

 

 

アローネ「何も得られるものが無いとは………?」

 

 

タレス「フリンク族はマテオに勝っても何もいらないと言うんですか?」

 

 

 ナトルの発言に驚くカオス達。温厚そうなアインワルドでもマテオの領土確保には分け前をいただくと言っていたがフリンク族は自らそれを放棄するようだ。

 

 

ナトル「ダレイオスの他の部族達が苦しんだこの六年は私達フリンク族だけがヴェノムの脅威から逃れることができたのはカーヤのおかげです。

 そしてそれは同時に私達がひた隠しにしてきた罪でもあります。

 私達フリンクは己の罪と向き合わねばなりません。

 私達は六年の間に他の部族達がヴェノムの主に苦しめられる中で十分に平穏な日々を送ってきました。

 カーヤのこと秘密にしていますがヴェノムの主発祥がフリューゲルであることは既に他の部族にもつうたつ済みです。

 私達は今度の戦でダレイオス勝利に貢献するだけで良いのです。

 それだけでフリンク族は満足するべきなのです。」

 

 

 弱さを言い訳にして罪を認めようとしなかったフリンク族が自分達から罪を告白し迷惑をかけ他の部族達の補助に回るという。それだけでもフリンク族が前に進めていることを実感する。

 

 

カオス「…凄いですね………。

 フリンク族は………。」

 

 

ナトル「まだ半分は納得はしておりませんがね。

 そういえば皆さんが去られた後どうしてだかフラットが失踪してしまったのですよ。」

 

 

アローネ「フラットさんが………ですか………?」

 

 

ウインドラ「俺達は彼とはリスベルン山で見たのが最後だが………?」

 

 

ナトル「フラットがいなくなったのとカーヤが皆さんについていったのが影響してかフリューゲルでカーヤを悪く言う者がめっきり減っていきました。

 ………恐らくフラットがカーヤを悪者にするような噂をずっと流し続けていたのでしょうね。

 そのせいで私達フリンクは六年もの間自分達の間違いに気付けないでいたのです………。

 

 

 本当は族長である私がフラットに惑わされることなくそのことに気付くべきだったのですが………。」

 

 

 ナトルとカーヤのことは客観的に見ても難しい問題だったことだろう。娘の死因が孫娘が関係しており娘の許嫁であるフラットはカーヤのことを憎み続けていた。義理の息子になっていたであろうフラットがカーヤを憎み続けるのを近くで見ていれば自分も同じように憎むべきか迷うところだが………、

 

 

 

 

 

 

アローネ「!

 ナトルさん。

 カーヤのことでお一つ確認したいことがあるのですが宜しいでしょうか?」

 

 

ナトル「カーヤのことでですか?

 何のことでしょうか?」

 

 

アローネ「驚くでしょうが実はローダーン火山で………。」

 

 

 アローネはブルカーン領でのことを話し始める。ナトルに話すのは()()()()()だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「…まさかラーゲッツが生きていたとは………。

 ………もしやフラットが失踪したのもラーゲッツに関係しているのでしょうか………?」

 

 

ウインドラ「確か彼はラーゲッツの遺体を掘り起こして首を晒すとか言ってたな。

 ………その時ラーゲッツが新型のヴェノムウイルスで甦って始末されたと状況的に見るのが妥当だろう。」

 

 

ナトル「…馬鹿なことを………。

 そんなことをしてロベリアが報われるとでも思ったか………。

 フラットも愚かなことを………。」

 

 

アローネ「そのロベリアさんについてなのですけど………。」

 

 

ナトル「?

 今度はロベリアが何か………?」

 

 

 

 

 

 

 ここからが本題だ。ラーゲッツが言っていたことを確かめるためにもロベリアとラーゲッツが接触していたと思われる時期のロベリアの行動を聞かなければならない。

 

 

タレス「ロベリアさんがラーゲッツに襲われたという話のことなんですがそれはどうしてラーゲッツに襲われたという話になったんですか?」

 

 

ナトル「え………?

 それは………ロベリアがラーゲッツの子を妊娠したからで………。」

 

 

ミシガン「その襲われたという現場にいた人がそれを見ていた訳じゃないの?」

 

 

ナトル「その時は………ロベリアが………その………困ったことによくリスベルン山に頻繁に行くようになってフラットが言うには大人しい野兎でも見付けて遊んでいるのではないかと言っていたので彼に様子を見に行くようにお願いして………それでフラットが帰ってくるなりロベリアがラーゲッツに襲われたと言ってきたので………。

 ………私自身はロベリアが襲われたところは目撃していないのです………。」

 

 

カオス「じゃあフラットさんがロベリアさんが襲われたのを見ていたってことですか?」

 

 

ナトル「…いえ………フラットもラーゲッツに襲われてキーワード失ったらしく目を覚ましたらロベリアが泣いていたようで………それから数ヵ月後にロベリアの妊娠が発覚しました………。

 

 

 ………あの………どうしてこのようなことを今更私の口から………?」

 

 

 自分の娘が知らない男に暴行されたという話を蒸し返されるの気分的にも悪いだろう。彼にとっては酷な内容の話だが今の話からおおよその矛盾が矛盾でなくなるのをカオス達は感じていた。

 

 

 

 

 

 

レイディー「アンタの娘のそのロベリアっていう女が何でリスベルン山に行っていたのか明確な理由は分からないんだな?」

 

 

ナトル「………はい………。

 私も族長としての勤めがありましたしあの時期はゲダイアンが攻撃されたと聞きフリューゲルの者達といざバルツィエがフリューゲルに攻めてきた時どう対処するかを話し合いフリューゲルを囲う塀を補強したりなど忙しくてロベリアに構ってあげられなかったのです。」

 

 

レイディー「ロベリアはいつ頃からどのくらいリスベルンに行っていたんだ?」

 

 

ナトル「うちは妻を早くに亡くしていたことと私もあの頃は夜遅くに帰って来たりなどで中々ロベリアが外出していることに気付きませんでした。

 フラットが言うには私が家を空けている時はいつも出ていたとか………ゲダイアンが消されてから三ヶ月以上は通っていたらしいです。

 私もそれを知ってからは危ないから何度も注意をしたんですよ。

 

 

 ですがロベリアは聞く耳を持たず挙げ句にあのようなことに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少なく見積もって四ヶ月以上。バルツィエの印象やフラットの話だけを聞いていればそれが全てなのだと思い込んでしまっていただろう。

 

 

 だがラーゲッツが死に際に残した最期の言葉を思い出せば事実は違うのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………ナトルさん………。

 今から私が話すことはただの推測で真実ではないかもしれません。

 ………ですがラーゲッツが言い残したことを当て嵌めてみればそうとしか思えないのです………。

 ………ロベリアさんとラーゲッツは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()のではないでしょうか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………ロベリアと………ラーゲッツが………恋人………?」

 

 

 アローネが言ったことが理解出来ず困惑するナトル。

 

 

アローネ「二人の間に何があったかは存じませんがラーゲッツが亡くなる直前ロベリアさんの名と彼女に対して裏切られたというようなことを仰っていました。

 ゲダイアンで起きたことはバルツィエは関与していません。

 恐らくラーゲッツはゲダイアンで起きた爆発を調べるために派遣されマテオに戻る途中でロベリアさんと出会ったのだと思います。

 そこからロベリアさんはずっとラーゲッツに会うためにリスベルン山に通っていたのではないでしょうか?」

 

 

ナトル「ちょっ………ちょっと待ってください。

 私には何が何だか………。」

 

 

ウインドラ「簡単に言うと貴方の娘さんはラーゲッツに襲われたのではなく恋仲だったからカーヤが生まれたんだ。

 フラット殿という相手がいたのにも関わらず他の男と関係を持ったことは褒められることではないが許嫁と言うのはロベリアさんは同意してのことだったのか?」

 

 

ナトル「フ………フラットのことについてはフリンクの中でロベリアに相応しく私の跡を継ぐのであればそれなりの能力を持つ者をと思いロベリアの幼馴染みであり親しい彼ならロベリアを任せられると判断して彼の両親と私とで決めました。

 ロベリアも族長の家に生まれた責任があるため最後には………。」

 

 

ミシガン「最後には?」

 

 

ナトル「………色々と言いくるめて許嫁ならいいということで認めてくれました。

 ロベリアの心の内では彼女が本当に納得していたかは正直分かりません………。」

 

 

レイディー「立場で無理矢理合意させたってことかよ。

 そりゃ絶対に納得なんてしてねぇだろうぜ。

 そんな自分の知らないところで勝手に組まれた縁談なんてよ。」

 

 

ナトル「でっ、ですが!

 だからと言ってわざわざバルツィエの男なんかと恋人になんかなるでしょうか!?

 ロベリアだって相手がどういった立場の者か理解していたはずですよ!?

 ラーゲッツと私達は敵同士で住んでる国すら違うんです!

 そんな男と一緒になったとしてロベリアはどうするつもりだったと言うんですか!

 そんな話はとても信じられません!

 だいたいラーゲッツはバルツィエの中でもそこまで目立つような男では………!」ギュ……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「おじいちゃん………パパの悪口は言わないで………。

 おじいちゃんがパパの悪口言ってたらママ多分悲しいと思う………。」

 

 

 

 

 

 

ナトル「………カーヤ………。」

 

 

 

 

 

 

 カーヤに腕を引かれてナトルはロベリアが生きていた頃のことを思い出した。親子でありながら自分とロベリアは根本的に考え方が真逆だった。ナトルが正しいと思ったことはロベリアは違うと言いロベリアが正しいと言うことはナトルの中では間違っていると感じていた。

 

 

 

 

 

 

 自分はロベリアに信頼されていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………そうか…… そういうことだったのか………。」

 

 

カーヤ「おじいちゃん………?」

 

 

ナトル「………ロベリアは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

 ナトルの中でロベリアの行動一つ一つならある事柄が浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「(………カーヤをラーゲッツへの復讐に宛がう………あれはそう私に言うことで()()()()()()()()()()()()()()()()

 私のような古い風習を重んじる者とは違ってお前は常に新しい何かを探していた………。

 同族で助け合い生きていくことを望むよりかは他の部族とも積極的に交流しようとしていたお前なら相手がバルツィエであっても関係が無かったのだな。

 カーヤがハーフエルフとして無意味に蔑まれて生まれてくるよりかは復讐という役目を背負って生かす道を選んだのか………。

 どうしてロベリアがラーゲッツの子供を産むことを決意したのか漸く分かったよ………。

 

 

 お前はフリンク族が他の血を受け入れられるようにカーヤを産んで始めの一歩を踏ませたかったのだな………。

 )」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「………私が………私達が古い考えに囚われてしまっていたからロベリアも真実を言い出せなかったのでしょうか………。

 私達ダレイオスのエルフはどこも他の部族との混血を忌み嫌う………。

 そんな考えは今になって自分で考えれば馬鹿らしいことではあると思いますけどね………。

 

 

 

 ………カーヤ………すまなかったな。

 私達がお前のママを苦しめていたようだ………。

 私達が一人一人を軽視して全体のことしか考えていなかったからロベリアもラーゲッツをフリューゲルへと連れて来れなかったのだろうな………。

 ロベリアを自由にさせてあげていればロベリアは死なずに済んだのかもな………。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

ナトル「………せめてカーヤ………、

 お前だけは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何としても幸せになりなさい。

 お前がそれに辿り着けるのを私はフリューゲルの地から応援しているよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロベリアの真意は誰にも知る術はない。ロベリアがカーに何を託し何をさせたかったのかは誰にも確かめられない。

 

 

 だがロベリアがカーヤを命をとして守った事実は残った。それだけでもカーヤはロベリアから愛されていたことだけは分かる。ならばとナトルは娘の生んだ孫の幸せを願うことにした。そしてできることがあるのならばカーヤの幸せにも助力することも誓う。これまでの過ちを取り戻すべく一つ一つを正していこうと決意した。最終的にカーヤは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………幸せにはなれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これまでずっと不幸を味わい続けてきた彼女はこの先幸運に恵まれることは一切無くこれから暫く経った後に()()()()()()()と向き合うこととなるのであった………。



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クリティア族の様子

トリアナス砦 クリティア居住区域

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「………前に言わなかったか?

 儂の近くまで来たら真っ先に儂のところへ来いと。」

 

 

 クリティア族がいる区域に入って早速自称長老のオーレッドに捕まりカオス達に説教を始める。

 

 

ミシガン「そういやそんなこと言ってたね。」

 

 

アローネ「申し訳ありません。

 まだこの場所を把握しきれていなくて………。」

 

 

レイディー「うっせぇぞジジィ!

 アタシ等の都合を考えろ!

 世界はアンタを中心に回ってんじゃねぇんだよ!」

 

 

オーレッド「!

 おお、御嬢さん!

 彼等とは無事に合流出来たようじゃな!

 御嬢さんのおかげで儂等の研究は捗っておるぞ。

 ヴェノムの主も全て討伐したらしいな。

 おめでとう。」

 

 

レイディー「そんなことはどうでもいいんだよ。

 ………ったく相変わらず騒がしい爺さんだぜ。」

 

 

 以前はレイディーが不在時にオーレッドと顔合わせをしていたためこうしてレイディーがオーレッドと話をするところを見るのは初めてだ。話には聞いていたがレイディーは本当にダレイオスの北側を旅してローダーン火山まで行っていたらしい。

 

 

カオス「オーレッドさん………お元気そうで………。」

 

 

オーレッド「やぁやぁカオス君。

 噂はフリンクやアインワルドの巫女達から聞いておるぞ。

 何やら魔術を使いかなせるようになったとか。」 

 

 

カオス「えぇまぁ………。」

 

 

オーレッド「とすれば先日このダレイオスの上空にも何や

らド派手な術を展開していたようじゃがあれもソナタの仕業かのぅ?

 あれは何だったんじゃ?」

 

 

カオス「!

 あれは………。」

 

 

 グラース国道でマクスウェルが発動させた魔術のことを言っているのだろう。やはりあの術はダレイオスからも目撃されていたということか。どう言い訳しようか迷っているとオーレッドは特に気にした様子も見せずに、

 

 

オーレッド「ソナタ等のことじゃから何かあれだけの術を発動せねばならない事情があったのじゃろ?

 一瞬肝が冷えたが術も不発に終わったようじゃし儂等も特に何も無かったから気にしてはおらんよ。

 サムライがソナタ等の作戦じゃと言うておったからの。」

 

 

カオス「オサムロウさんが………。」

 

 

 事情を知るオサムロウが手回しをしてダレイオスでは大事にはならずに済んだようだ。後でオサムロウに会った時は礼を言わなければならないとカオス達は御互いに顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

オーレッド「…それでソナタ等より授かった力で儂等はあれからソナタ等に言われていた研究を進めておったのじゃ。

 一つはヴェノムについての研究とカオス君に頼まれておったことじゃが………。」

 

 

アローネ「カオスに頼まれていたこと………?」

 

 

カオス「!

 そういえば………。」

 

 

 ヴィスィンを訪れた時カオスは魔術が暴走しないようにマナを抑えるための手錠に代わる新しい魔道具を作ってもらうようオーレッドにお願いしていた。今となってはその必要は無くなったが一応は成果を聞くことにした。

 

 

オーレッド「最初はバルツィエが開発したワクチンとは別のヴェノムに有効な薬の開発をと考えておったのじゃがカオス君に頼まれていたことも同時に進めなければならないと思い研究チームを二つに分けて行っておったのじゃ………。

 ………じゃがこの二つの項目を進めていく内にのぅ?

 

 

 …どうやら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

レイディー「あぁ?

 二つが一つにだぁ?」

 

 

カオス「どう言うことですか?」

 

 

 ヴェノムの研究と人のマナを抑える研究が一つに纏められると言うことにピンと来ないカオス達。そんなカオス達にオーレッドは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「ついてまいれ。

 話はそこでするとしよう。」

 

 

 オーレッドにそう言われカオス達はオーレッドに連れられて怪しげな建物の中にある地下へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「ここがここでの儂等がヴェノムを研究しておる施設じゃ。

 ここなら万一ヴェノムに感染した者が出ようともそのまま閉じ込めることが出来るのじゃ。」

 

 

 オーレッドに連れて来られた場所はかなり地上から深い場所に作られた部屋だった。従来のヴェノムを高低さのある場所で飢餓を待つという手段を流用しての地下研究施設なのだろう。

 

 

レイディー「そんで爺さん。

 ヴェノムと魔道具がどうのこうのってのはここでなら分かるのか?」

 

 

オーレッド「それを説明するためにここへと連れて来たんじゃ。

 儂等はな。

 

 

 ここでワクチンに代わる新たなヴェノムに対抗する手段を得たのじゃ。」

 

 

 オーレッドは自信満々に新訳を開発したと胸を張る。

 

 

アローネ「オーレッドさん………。

 ミネルバさんから御伺いしたのですが貴殿方にはそのような新たな薬を開発する必要は無くなったのではないですか?

 話では貴殿方は私達と同じく三ヶ月前から力が変化したとかでヴェノム自体が通常のモンスターと差が無くなってしまったのでは………?」

 

 

オーレッド「確かにその通りじゃが何かあった時のために研究は続けておった方が良いじゃろ?

 ヴェノムウイルスにはまだ更に変異を遂げる可能性もあるんじゃ。

 いつヴェノムウイルスがまた儂等に牙を向くか分からん現状では研究を止めるわけにはいかんでの。」

 

 

 オーレッドが言うようにヴェノムはカーヤから感染した個体は通常のヴェノムよりも強力な個体が出現してしまった。突発的にそんな怪物が現れるとあってはヴェノムについて生体を調べておくのは悪くないことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「………それでのぅ。

 ここにあるのが儂等クリティアがカオス君の血から作り出した対ヴェノム用兵器………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “()()()()()()()()”じゃ。」



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新兵器の実験

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「オールディバイド………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケルルルル………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!

 あれは………?」

 

 

 部屋の奥から何かの鳴き声が聞こえその方向を見てみれば檻に入れられた蛙型のモンスターゲコゲコがいた。

 

 

オーレッド「このオールディバイドの性能についてはあのゲコゲコを使ってお見せするとしよう。」

 

 

 オーレッドはゲコゲコの入った檻に近付いていく。カオス達もその後に続いていく。一見するとこれといった特徴の無い玉にしか見えない道具だがこれがどの様に作用するというのだろうか。

 

 

オーレッド「…始める前に忠告しておくが少々過激な実験をお見せすることになる。

 気分を害しそうなら見物したい者だけここに残っておれ。」

 

 

ウインドラ「それはこのゲコゲコを切り刻んだりするということか?

 だったらアローネとミシガン、タレス、カーヤは見ない方がいいな。

 実験は俺とカオスとレイディー殿で見物することにしようか。」

 

 

ミシガン「私は大丈夫だよ。」

 

 

タレス「ボクも平気です。」

 

 

カーヤ「カーヤも平気………。」

 

 

アローネ「モンスターとはいえあまり命を粗末にするようなことを行うのを記憶に焼き付けたくはありませんが大事なことですし私も見物させていただきます。」

 

 

 ウインドラが気を使って下がらせようとしたがアローネ達はそれを断った。

 

 

ウインドラ「…そうか。

 無理するなよ。」

 

 

レイディー「爺さん。

 始めてくれ。」

 

 

 全員が実験を見物するということでオーレッドが何かを取り出す。

 

 

オーレッド「ここにクリティア領で確保したジャバウォックの体毛の一本がある。

 実験にはこれを使うぞ。」

 

 

 オーレッドが取り出したのはガラスの容器に入れられたモンスターの毛だった。ジャバウォックはレイディーが倒したという個体のことだろう。

 

 

 と言うことは………、

 

 

 

 

 

 

レイディー「それ………ビーカーに収納してるってことはウイルスが付着してるんだな?」

 

 

オーレッド「御察しの通りじゃ。

 この毛にはヴェノムの主が持っておった強力なウイルスが込められておる。

 ソナタ等の術も無しに触れてしまえば即刻精神をやられてしまうところじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パカッ!

 

 

 オーレッドは容器を開きゲコゲコの檻の中にジャバウォックの体毛を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パラ………、

 

 

 体毛はゲコゲコの頭部へと舞ってから落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲコゲコ「ゲルルルゥ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!!ドスッ!!ドンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「このように凶暴さが通常のゲコゲコの個体よりも増して非感染生物に襲いかかろうとしてくる。

 この時体内では猛烈にマナを削られておるのじゃな。

 その苦しみかは逃れるためにマナを接種しようとしておるのじゃ。」

 

 

 オーレッドが解説した内容はこれまでカオス達が人から聞いたことや自分の目で確かめてきたことだった。今更復習したところで何になると言うのだろうか。

 

 

 そう皆が感じる中オーレッドは滑車を用いて別の個体のゲコゲコの入った檻をカオス達の前に運んでくる。モンスターであることから感情を見てとることは出来ないが最初の個体よりも微妙に元気が無いようだ。

 

 

ゲコゲコ2「ケルル………。」

 

 

アローネ「…この個体も先程のゲコゲコと非感染個体ですか?」

 

 

オーレッド「そうじゃ。

 この個体にも儂がさっきやったようにジャバウォックの体毛を与えるのじゃがその前に………。」スッ…

 

 

 オーレッドは近くのテーブルにあったナイフを手に取る。

 

 

オーレッド「………そら。」ザクッ…

 

 

ゲコゲコ2「ゲッ………ルル………。」

 

 

 オーレッドがナイフでゲコゲコの背中を切りつける。切られたところからゲコゲコの血液が流れ出てくる。ゲコゲコもナイフによる負傷に痛みを感じて反応したがやはり元気が無いのか少し仰け反るだけでじっとしたままだ。

 

 

タレス「うげ………。」

 

 

ミシガン「モンスターって分かってるんだけどなんか可哀想………。」

 

 

 実験のためとはいえ目の前で生き物が逃げられない檻の外側からナイフで切りつけられるのは精神的に来るものがある。

 

 

オーレッド「………続けていいかの?」

 

 

 ミシガン達の声が聞こえてオーレッドが止めるかどうか訊いてくる。

 

 

アローネ「………どうぞ。」

 

 

オーレッド「………よし。

 ではほれ。」パカッ、

 

 

 先程と同じようにオーレッドはジャバウォックの体毛を傷つけたゲコゲコに落とす。体毛が触れたゲコゲコは暫くして苦しみ出すが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナイフで負った傷が塞がっていく。

 

 

レイディー「これはマテオでもやってた実験だな。

 ヴェノムはどういうわけか感染直前に負った怪我を治しちまうんだよな。

 …まぁこの後直ぐに死ぬわけだが。」

 

 

タレス「………ボクもカオスさんに助けられる前に潰れていた喉が治りました。

 ヴェノムウイルスには傷を治す力があるようです。」

 

 

 ヴェノムウイルスにはこうした治癒能力が備わっている。これだけなら文句のつけようがないメリットだがこの後に来る精神汚染はどうしようもないデメリットだ。発症してしまえばもう発症前の記憶や理性が完全に失われてしまい時間経過で面影すらなくなったスライム状の化け物に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 二体目のゲコゲコの様子を見守っていると最初に感染した個体の体が変化し始める。

 

 

ウインドラ「ヴェノム形態に移行しそうだな。

 いいのか?

 ヴェノムになればこんな檻簡単に溶かして外に出てきてしまうぞ?」

 

 

オーレッド「ほほう。

 いいタイミングじゃな。」

 

 

ゲコゲコ「ジュゥゥゥゥゥ!!!」

 

 

ゲコゲコ2「ゲルルルゥ!!!」

 

 

 一体目のゲコゲコがもうすぐヴェノム形態になるというところで二体目の方は意識をヴェノムに乗っ取られたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「………ではとくと見ておれよ。

 このオールディバイドの力を………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パリィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーレッドはオールディバイドと言う魔道具を床に叩き付けて割った。

 

 

 すると割れたオールディバイドから一瞬光が漏れでてきた。あまりの目映さにカオス達はその光から目を背ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァァァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして光が収まったと思い再度ゲコゲコ達の方を見ると………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ・レイディー「「「「「「「!!?」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲコゲコ2「ケルルゥ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達が視線を戻した時檻の中にはオーレッドに切りつけられた方のゲコゲコしかおらずもう一方の檻には始めの方のゲコゲコの姿は無かった………。



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ヴェノムの誕生した理由

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「うむ、

 実験は成功じゃな。」

 

 

 檻の中のゲコゲコの様子を見てオーレッドは満足したように頷く。

 

 

レイディー「爺さん………今何が起こったんだ?」

 

 

ウインドラ「………ん?

 このゲコゲコは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲコゲコ2「ゲコ………?」

 

 

 傷をつけられた方のゲコゲコを見るとオールディバイドという魔道具を使う寸前まで意識をヴェノムに乗っ取られていたかのように低い唸り声をあげていたが今は何も無かったかのように辺りを見回している。心なしか最初に見た時よりもコンディションが改善されているようにも見える。

 

 

タレス「この個体は………ヴェノムウイルスから回復したんですか?」

 

 

ミシガン「今の一瞬で!?」

 

 

 

 

 

 

ゲコゲコ2「ゲコッ!?」

 

 

 ミシガンが急に大声を出すとそれに驚いたように仰け反るゲコゲコ。挙動からしても感染個体の反応ではない。感染個体であれば大きな音ぐらいでは驚いたりはしないだろう。

 

 

オーレッド「過去百年………。

 その感染率の高さからヴェノムにはまともに生態を調べることすら出来なかった儂等じゃったがソナタ等の力の加護を受けたことで飛躍的にこの半年でヴェノムの調査が進んだ。

 これがその成果じゃ。」

 

 

アローネ「何故この個体はヴェノムから回復したのですか?

 それともう一方の個体はどこに………?」

 

 

オーレッド「始めに感染したゲコゲコについては見ての通りもうどこにもおらんよ。

 儂が使ったオールディバイドによってこの世から消えたしまったのじゃ。」

 

 

ウインドラ「そのオールディバイドという魔道具はヴェノムに感染した個体を滅する力があるのか?

 感染個体をこんな一瞬の内に消し去ってしまうとはかなりの威力を持った魔道具のようだが………。」

 

 

オーレッド「その認識は半分正解で半分外れじゃ。

 このオールディバイドは別に攻撃性があるわけではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「大気中のマナを吹き飛ばす………?

 それって………!」ガタッ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「うっ………!?」

 

 

カオス「カーヤ!」

 

 

 オーレッドの話の途中でカーヤが目眩を催したのかふらついた。慌ててカーヤを支えるカオスだったが他にも同じように壁に手をついて体を倒れないように支える仲間達の姿があった。

 

 

アローネ「何故か………急に息苦しく………!」

 

 

ウインドラ「何だ………これは………!」

 

 

オーレッド「安心せい。

 直ぐに元に戻ることじゃろ。

 オールディバイドの近くにいればマナの供給が阻害されてしまうでな。

 暫くしたらまた体調も元通りじゃ。」

 

 

レイディー「………マナを吹き飛ばすか………。

 猛烈にマナを消費するヴェノムにとっては()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

オーレッド「そうじゃ。

 感染個体は次なる姿へと進化を遂げるために体の中で急速にマナを消費していくのじゃ。

 儂等が呼んでおったジェネレイトセルというウイルスはその進化をする過程で他の場所からマナを接種しようとする。

 大気中に始まり他の生物からもマナを取り入れて進化を果たそうとする。

 

 

 その進化の道中で肉体が変貌する時にこのオールディバイドを使用すれば取り入れるマナと自らが持つマナを失い感染個体はあっという間に飢餓に到達してしまうんじゃ。」

 

 

カオス「こんな短時間でヴェノムが飢餓に………。」

 

 

 オーレッドが開発したというオールディバイドはこれまでとはうってかわってヴェノムに対抗できる武器になるだろう。アローネ達のように精霊の力を使わずともそれを使うだけでヴェノム形態が飢餓によって消滅する。それならば精霊の力を持たぬ者でもヴェノムを退けることも可能となるだろう。

 

 

 

 

 

ゲコゲコ2「ゲルルルル………。」

 

 

ウインドラ「こっちの個体が消失しなかったのは何故だ?」

 

 

オーレッド「それは簡単な話じゃ。

 体が変異に至っていない個体にオールディバイドを使用すればその個体の体内にあるウイルスだけを死滅させることができる。

 その作用によってこの個体が助かったのじゃ。」

 

 

タレス「ウイルスだけを死滅………。」

 

 

アローネ「それでこのゲコゲコはもう片方のゲコゲコのように消えずに済んだのですね………。

 それにしては実験前よりかも元気があるような………?

 背中の傷も治療されてますし………。」

 

 

オーレッド「実はのぅ。

 このゲコゲコについては消えた個体と区別するために先に熱を与えたり冷やしたりして弱らせておったんじゃ。」

 

 

カオス「何でそんなことを………?」

 

 

 単にオールディバイドの効果を説明するだけなら経過次第で感染個体がウイルスを除去できるか肉体ごと消滅するかを見せるだけでも十分なはずだがオーレッドはあえて消えなかった個体を弱らせていたという。その行為に一体どのような意味があるというのだろうか。

 

 

 

 

 

 

オーレッド「………前々から儂等はこのヴェノムウイルスは何者かが自然界で生まれるウイルスに手を加えたものだと考えておった。

 これほどまでに凶悪なウイルスが敵対する勢力下で猛威を奮えばその地に生きる生命は皆全滅することだろう。

 

 

 ………じゃがこの結果から分かる通りヴェノムは使い道によっては()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 オールディバイドのような感染して傷が癒えた直後にヴェノムを取り除く術があればどんな病も完治できてしまうのじゃ。

 儂等クリティアの結論はこのヴェノムは兵器として開発されたのではなく………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかの国が総出でこのウイルスを創作したのだと思うておる。

 目的としてはこのウイルスが開発される前に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それを治すためにこのヴェノムは研究し開発されたのじゃ。」



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悪魔の力が神になりえるか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ヴェノムが人の病気を治すために作られたって言うんですか………?」

 

 

 オーレッド達クリティアはヴェノムが作られた目的が誰かしらの病気を治療するために作られたものだと言う。

 

 

オーレッド「ヴェノムウイルスを色々な生き物で検証してみたんじゃがそのどれもが確実に発症する直前にその生物の持病を治す効果があった。

 最強のウイルスとはよく言ったものじゃ。

 オールディバイドでウイルスを除去してみれば末期の癌に侵されていた生き物の癌すら治してみせたんじゃ。

 ヴェノムで治療できる病に例外は無いらしい。

 流石に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はウイルスを除去しても死んだままじゃったが死んでから直ぐの生物なら甦らせた。

 ヴェノムは死者をも甦らせてしまう万能薬じゃな。」

 

 

ウインドラ「待てオーレッド殿。

 オールディバイドは貴方達がカオスに頼まれて作り上げた魔道具なのだろう?

 それとヴェノムを結び付けるのは無理があるんじゃないか?

 偶々ヴェノムとオールディバイドの組み合わせでそういう福音をもたらしただけでヴェノムはやはり兵器として作られたのではないか?」

 

 

 ウインドラが言うようにヴェノムが病を治療するために作られたにしては致死性が高過ぎる。たとえ万病を治す薬として作られたのだとしても過去ウルゴスという国はそれで滅びてしまった。それに国が大掛かりで作り上げたのだとしたらウルゴスの王族カタスティアがそれに関与しているはずだが彼女からはそのようなことは一言も聞いたことがない。どう考えてもオーレッド達の結論は間違いであるとしか思えなかったが………、

 

 

 

 

 

 

オーレッド「開発者の意見として聞いてもらいたいんじゃが儂等が何かを作ろうとする際は先に理論を完成させてから試作品を作るのじゃ。

 理論が確立したら次にそれを実行に移すんじゃが理論を組み立ててもどうしても人というのはどこかに見落としが出てくる。

 その見落としを一つ一つ解消して試行錯誤を重ねた上で次へと進み長い時間をかけて漸く理論に限り無く近い模造品が完成するわけじゃ。」

 

 

ミシガン「限り無く近い模造品って?」

 

 

 理論を組み立てて完成するものが模造品だというオーレッドにミシガンが聞き返す。カオス達もどうして模造品が出来上がるのか理解できなかった。

 

 

オーレッド「所詮人の手で作るものは理想通りには中々仕上がらないんじゃよ。

 人の手で作られる技術には限界がある。

 どうしても調整が難しい時は及第点で作るしかないんじゃ。」

 

 

レイディー「まぁそりゃそうなってくるよな。

 出来ないと分かってくることをいつまでも追い続けていたらどれだけ時間を費やしちまうか………。

 最悪何百年何千年かけても満点にはならないことだってあるんだしよ。」

 

 

オーレッド「そうじゃ。

 

 

 

 

 

 

 そういう観点ではヴェノムはまさに人の叡知の行き着く果てとも言える程に完結しておる。

 殺傷兵器としても医術の方面で見ても文句がつけようがない。

 儂等クリティアがバルツィエと手を組んだとしてもここまで完成されたものは仕上がらないじゃろ。

 儂等がどれ程時間をかけようともこの境地に至るものは到底作れそうにない。」

 

 

アローネ「そっ、そこまでのものなのですか?」

 

 

オーレッド「当然じゃ。

 人が作りしウイルスであることは確かじゃがこれが何を素材にして生み出されたのかはまったく見当がつかん。

 ヴェノムのような至高の品を作れるぐらいなら儂等が作ったオールディバイドなど簡単に作れてしまうじゃろう。

 作製者は確実にヴェノムとオールディバイドの類する別の道具を作り出しておるはずじゃ。」

 

 

 それが出来て当たり前だというオーレッド。

 

 

オーレッド「儂等からすればオールディバイドは作れてもヴェノムは作れん。

 が、ヴェノムを作れる程の人物なら儂等程度が作り出した小物など容易に作れよう。

 それが儂がヴェノムが病を治療するために作られたと思った理由じゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまでの至高品を作り上げた人物にはもう関心を通り越して崇拝してしまいそうじゃわい。

 とてつもない執念の持ち主じゃ。

 余程どうにか救いたい命でもあったんじゃろうな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリアナス砦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーレッドの話も一段落しカオス達はオーレッドと別れて外へと出る。

 

 

 

 

 

 

レイディー「お前はヴェノムを作りそうな奴に本当に心当たりは無いのか?」

 

 

アローネ「はい………?」

 

 

 外へと出るなりレイディーがアローネに質問をする。

 

 

レイディー「あの爺さんの推測とマクスウェルの話を統合するとヴェノムはお前の国があったっていう時代にお前の国で作られた可能性が非常に高いんだ。

 お前がこの時代に辿り着くまでの記憶で誰か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 オーレッドの話ではヴェノムはとてもだいだい的に研究が進められて作られたのだという。だとしたらウルゴスの王族であったカタスティアや貴族であったアローネがそれについて何か知っていると思われるがアローネは、

 

 

アローネ「私の回りで重病を患っていたのは姪のメルクリウスだけです………。

 でも彼女の出生はとても国が総力を結集するほどのものではありません。

 姉がカタスの御兄弟と結婚して生まれた子ならともかくメルクリウスはウルゴスでも最下層のハーフエルフの男性との間に生まれた子供………。

 そんな子供のために国が立ち上がることはありません………。」

 

 

ウインドラ「他に誰か思い付く相手はいないのか?

 国が動くくらいならそれこそ王族の誰かが病に苦しんでいたということもあるだろう。

 確か教皇の御兄弟は他に八人くらいいたんだよな?」

 

 

アローネ「そうですが私の覚えている限り皆健常で病に伏していたようなことはなかったと思いますが………。」

 

 

カオス「アローネでも思い付かないのか………。

 ………だとするとウルゴスじゃなくてダンダルクの方なのかな………?」

 

 

 アローネが生まれたアインスの時代ではウルゴスの他にダンダルクというヒューマと呼ばれる種族が住む国があったという。もしかしたらヴェノムはダンダルクで作られたのではないかと疑うが………。

 

 

レイディー「そのヒューマっていう奴等はマナ………つまりは魔術が使えないんだよな?

 そんな奴等がどうやってヴェノムみたいなマナに感応するウイルスなんか作れるんだ。

 ヴェノムを作ったのは間違いなく()()()()()()()()()()()

 容疑者はウルゴスの誰かとしか考えられねぇよ。」

 

 

ミシガン「やっぱりウルゴスが怪しいの?」

 

 

レイディー「あぁ。

 アタシにはそうとしか思えねぇ。

 お前の国がヴェノムに襲われて滅びたってのは多分研究中にどっかの馬鹿がウイルスを外に漏らしちまったんだろう。

 それが世界的に大流行しちまってウルゴスとダンダルクは滅びたんだ。

 国が一段で動いてたんなら関わってる連中も相当なもんだろう。

 一人くらいヘマする奴も出てくるさ。」

 

 

ウインドラ「他に王族に近しい地位にいた貴族とかはどうだ?

 何か思い当たる家とかは無いのか?」

 

 

アローネ「………残念ながら………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私自身が家督を継げるほど成熟した立場になかったもので他の家との関わりもそう多くありませんでした………。

 私が知っているのは当時ウルゴスがダンダルクという国と戦っていたこととカタス以外の王族とはそれほど縁があったわけではなく………。」

 

 

 アローネはそこで黙ってしまった。それ以上のヴェノムの情報を追及するのはアローネにも無理なようだった。

 

 

 そこでヴェノムのついての考察は一旦保留にすることとなった………。



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うさにん活動再開

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?

 御客さんじゃないでやんすか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 貴方は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「久し振りでやんすねぇ!

 元気でやんしたか?」

 

 

 カオス達が立ち話をしていると向こうの方からアインワルド領のユミルの森で出会ったうさにんのマクベルがやって来た。

 

 

カオス「はぁ………、

 ……何でマクベルさんがここに………?」

 

 

タレス「うさにんの里に帰ったんじゃなかったんですか?」

 

 

マクベル「帰ったでやんすよ?

 俺っち里に一回帰ってまたダレイオスに戻ってきたでやんす。

 ダレイオスの人達がまた交流し始めたんでこりゃもう俺っち達もまた仕事が再開出来そうだと思ったんで皆を連れて来たでやんす。」

 

 

ミシガン「皆………?」

 

 

 辺りをよく見ればミーア族やクリティア族達の中にマクベルと同じく兎の耳を生やした人がちらほらと見える。あれがそうなのだろう。

 

 

マクベル「本当だったらお金を貰っておきたいところでやんすけどダレイオスの人達はこれからマテオに挑むみたいでやんすから今回は後払いで働いてるでやんすよ。

 久し振りに大忙しでやんす。」

 

 

カオス「うさにんの人達は何を運んでるんですか?」

 

 

マクベル「ヴィスィンとセレンシーアインのところから資材を運んでるでやんすよ。

 クリティアとスラートの人達だけじゃ運びきれそうにないらしいんでうちが手伝ってるでやんす。」

 

 

レイディー「…知り合いなのか?」

 

 

ウインドラ「一応前に一度会った程度の中だが………。」

 

 

タレス「まさかここでまた会うことになるとは………。」

 

 

 マクベルとはユミルの森でトレントに襲われていたところを助けただけの関係でそこまで深い仲ではない。再会すると予想していなかっただけに彼にはそう大した用事もないわけで一通り挨拶したらカオス達はその場を去ろうとするのだが、

 

 

 

 

 

 

マクベル「あぁ!

 ちょっと待ってほしいでやんす!

 御客さん達に一つ頼み事をしたいでやんすよ!」

 

 

レイディー「いきなり何だよ?

 アタシ達はここにさっき着いたばかりでお前の頼み事なんか聞く義理も暇もねぇんだよ。」

 

 

マクベル「ちょっ、酷いでやんすねぇ!?

 俺っち達ちょい困ってるでやんすよ!

 御客さん達しか頼める人達がいないでやんす!」

 

 

ウインドラ「…他の者に頼めないことなのか?

 人手なら沢山ありそうだが………。」

 

 

マクベル「俺っちの頼み事には腕の立つ人材がいるでやんすよ!

 セレンシーアインやらヴィスィンやら何度も往復してる内に通り道にモンスターのゾンビが溢れかえってて危なくなってるでやんす!

 他にもヴェノム達が寄り集まってジャイアントヴェノムも何体か出没してるんでやんす!

 アルターであの巨大な木のお化けを倒した御客さん達なら相手がジャイアントヴェノムでも問題なく倒せるでやんすよね!?」

 

 

レイディー「!」

 

 

カオス「ジャイアントヴェノムか………。

 それならスラートの人達でも相手にするのは厳しいところかな………。」

 

 

 スラート、ミーア、クリティアは洗礼の儀によりアローネ達と同等の力を得ている。だがそれでも複数のジャイアントヴェノムと戦うとなると危険が伴うだろう。それに彼等はマテオとの対決に向けて用意を進めている最中で今は人手を割いている場合ではない。かと言ってマクベル達を放置すればその分の遅れが生じてしまう。

 

 

アローネ「どうしましょうか………?

 ジャイアントヴェノム複数なら私達が全員でかかればそう時間はかからずに倒しきれるでしょうが………。」

 

 

ウインドラ「ヴェノムの主を相手にしてきて今更ジャイアントヴェノムにやられることもないだろう。

 各々で各個撃破していくか。」

 

 

タレス「そうですね。

 それなら夜までには終わりそうですね。」

 

 

ミシガン「バルツィエと戦う前の軽い肩慣らしには丁度いいんじゃない?

 いいよ私は。」

 

 

カオス「…じゃあ俺達でヴェノムを「待ちな。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「ちょいと試してみたいことがあるんだ。

 その仕事は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 頼み事を聞くまでは気乗りしないような雰囲気だったレイディーが突然やる気を見せる。しかもカオスとカーヤを指名してだ。

 

 

ウインドラ「試したいこと?」

 

 

アローネ「何をなさるのですか?」

 

 

レイディー「さっき爺さんが使っていたオールディバイドっての借りてくっからよぉ。

 そいつをジャイアントヴェノムに使ってみたいんだよ。」

 

 

タレス「ジャイアントヴェノムに?

 何のためにですか?」

 

 

レイディー「一応アタシ達もあれを使いなれてた方がいいと思うんだよ。

 今後は無駄にマナを消費するより爺さん達が作った魔道具を使った戦いが増えてくるだろうよ。

 だから今の内にあのオールディバイドがどの程度のヴェノムまでを倒せるか知っておきたい。

 ヴェノム、ジャイアントヴェノム、ヴェノムの主………はもういないとしてもバルツィエ達はラーゲッツのようなヴェノムの力を使いこなすワクチンがある。

 ラーゲッツは坊やの力でどうにかなったが坊やに任せっきりってのも芸が無いだろ?

 敵は一軍隊だ。

 坊やがいない場所でラーゲッツみたいなのに暴れられたら対処のしようがねぇ。」

 

 

カオス「でもあれはマクスウェルの力があったからで「お前は黙ってろ。」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「つー訳でアタシ等三人でちょっくら行ってきてやるよ。

 猿達はそこら辺散歩でもしときな。

 まだ回ってねぇところもあるだろうが。

 明日の朝またここで落ち合うとしようぜ。」

 

 

 レイディーは強引に話を切り上げる。最終的にマクベルの頼み事を引き受けることにはなったがアローネ達とは分かれることとなった………。



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カオスに身に起こる変化

ボーデン公道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾンビウルフ「グルルルル………!!」

 

 

 トリアナスを出るとマクベルが言っていたようにヴェノムに感染したモンスターが公道を彷徨いていた。

 

 

 

 

 

 

カオス「本当にゾンビだらけですね。」

 

 

レイディー「そうだな。」

 

 

カーヤ「あのゾンビ達を全部倒せばいいの……?」

 

 

カオス「その予定なんだけど………

 ………レイディーさん。」

 

 

レイディー「何だ?」

 

 

 

 

 

 

カオス「どうして俺達だけでこの仕事を引き受けたんですか?」

 

 

 単に仕事を引き受けるだけならアローネ達と別行動を取る必要性はないはずだ。なのに人数を三人に絞ったのはレイディーなりの何か考えがあるように思えた。

 

 

レイディー「…アタシがトリアナスで言ってたことはただの建前だ。

 アタシが試したいことってのはオールディバイドのことじゃねぇ。

 

 

 ()()()()()()()()。」

 

 

カオス「俺の………?」

 

 

 やはりレイディーはオールディバイドを使用するためではなくカオスの力を試したいという理由からこのメンバーで仕事を引き受けたようだった。

 

 

レイディー「マテオで………あの宇宙空間でマクスウェルと戦ってからアタシ達はお前とマクスウェルの決着を直接見たわけじゃねぇ。

 アタシ達がこうしてこのデリス=カーラーンに戻ってこれたってことはマクスウェルは坊やとイフリートの力で倒せたってことになるんだろう………。

 

 

 じゃあ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

カオス「え?」

 

 

レイディー「あの戦いの最中は今までお前と重なるように融合していたマクスウェルのマナがお前と分離したのを共鳴で感じた。

 あの瞬間マクスウェルはお前と全くの別の敵としてアタシ等の前に立ちはだかった。

 お前はあの戦いでマクスウェルとは別離しマクスウェルが倒されたことでアタシはもうマクスウェルがお前の中からいなくなったもんだと思った………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でもそうじゃなかったんだ。」

 

 

 レイディーはカオスの腰の本に視線を落とす。それを見てカオスは本を手に取る。

 

 

カオス「………?」

 

 

レイディー「お前………その本の文字が読めるんだよな?

 アタシにはその本に書かれてることが全くもって解読できねぇ。

 どうしてお前はその本が読めるんだ?」

 

 

カオス「…自分でも分かりません………。

 何でこの本に書かれていることが俺に読めるのか………。

 

 

 でも文字を辿っていくと不思議とこの本に書かれていることが分かるような気がするんです。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

 カオスでも自分が本の文字を解読できる理由が分からなかった。本を開き文字を見ていくと自然とその術の発音や効果が頭に投影されていくような感じがするのだ。

 

 

レイディー「………小娘、

 お前の共鳴はアタシ等の中で一番繊細な部分まで感じ取れるだろ?

 お前からして今の坊やはどんな様子だ?

 前みたいに一人の体の中に二人分の異質のマナがあるように感じるか?」

 

 

 レイディーはカーヤにカオスのマナを探るように言う。カーヤはそれを受けカオスのマナを探ろうとするが………、

 

 

カーヤ「…今はカオスさんのマナ………だけだと思う……。

 前みたいに他の誰かがカオスさんの中にいるようには感じない……。」

 

 

 カーヤはカオスの体の中にあるマナは現在カオス以外のものは感じないと言う。それを聞きカオスは安堵する。昔から自分の中に知らない誰かがいるような感覚がずっとあって気持ちが悪かったのだ。それが今度のことで無くなって久々に一人になれた気がした。

 

 

レイディー「そうか……。

 アタシも今の坊やは前みたいなマナに異質さは感じないんだ。

 マクスウェルは多分もう坊やの中にはいねぇよ。」

 

 

カオス「………そう……ですよね。

 でも何であいつが持ってた本だけがここにあって俺がそれを読めるんでしょうか………?」

 

 

レイディー「それを調べるためにアタシはお前を呼んだんだ。

 

 

 その本からてきとうな魔術で()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「ゾンビ達を………?

 ………分かりました………。」

 

 

 カオスは言われるがまま本を開き術を選出する。

 

 

カオス「(…って言われてもよく分からない魔術はこの間みたいなことになりそうだしここは無難に………。)」

 

 

 カオスは誰もが知ってるオーソドックスな術を発動させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『ファイヤーボール!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?」

 

 

 カオスの術は発動した。が、マクスウェルが憑依していないにも関わらず術の威力は以前と変わらぬままだった。カオスのファイヤーボールは凄まじい光を放ちながらゾンビ達を焼き付くしていく。

 

 

ゾンビウルフ「ゴアッ……。」ボオオ!!!

 

 

 炎に包まれたゾンビ達はマクスウェルとの決戦前と同じ様に傷を回復することなく消滅していく。

 

 

レイディー「…やっぱりな。」

 

 

カオス「…どういうことですかレイディーさん………。

 マクスウェルは俺の中からいなくなったんじゃ………?」

 

 

 あの戦いの後からマクスウェルの気配は自分の中から感じない。なのにマクスウェルの力がまだカオスの中に残り続けている。カオスは自分の身に何が起こっているのか分からなかった。

 

 

レイディー「マクスウェル………の()()はもうお前の中には残ってねぇだろうよ。

 

 

 だが奴の力はまだお前の中から消えたわけじゃない。

 ………奴を倒したことで奴の力はお前の物になったんだ。」

 

 

カオス「あいつの力が俺の………?」

 

 

レイディー「…そう、

 言ってしまえば………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前が()()()()()()()()()()()

 今のお前はイフリートやシルフと同じ霊人ってカテゴリに分類される人種になってるんだぜ。」



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夜間の客人

トリアナス砦 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからカオス達はトリアナス砦に戻りオサムロウから休息できる部屋をそれぞれに宛がわれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー『霊人ってカテゴリに分類される人種になってるんだぜ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「霊人か………。」

 

 

 アルターでクララとラタトスクから聞いた話では霊人になるには精霊を殺してその力を奪わなければならない。となればマクスウェルは数日前のあの時に倒されたということになる。そしてその力がカオスに吸収されたのだ。

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペラ………ペラ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはマクスウェルの本を開きページを捲っては一つ一つの術の名前を読んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(……ファイヤーボール………アクアエッジ………ウインドカッター………ここら辺はよく知ってるやつだな………。)」

 

 

 精霊の本とだけあって魔術の種類が豊富にある。ざっと数えても既存の十以上は数がありそうだ。

 

 

カオス「(………ここら辺からは知らない術だな………。

 …あいつが使ってた術は………………()()()()………?

 ………何だ物質属性って………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス………戻られていますか?」

 

 

カオス「!」

 

 

 本の中身を調べているとアローネがカオスの部屋に入室してきた。

 

 

アローネ「あ………起きていらしたのですね。」

 

 

カオス「…こんな時間にどうしたの………?」

 

 

アローネ「いえ………少し気になったもので………。

 ………レイディーがオールディバイドの性能を試すことだけでカオスを連れて行きましたから何か他に別の用もあったのではないかと思いまして………。」

 

 

カオス「あぁ……やっぱりそう思うよね。」

 

 

アローネ「!

 やはり別の用があったということですね?

 一体三人で何を………?」

 

 

カオス「…大したことじゃないんだけど………。」

 

 

 カオスはレイディーに言われたことをアローネに話し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………そんなことに………。」

 

 

カオス「実感が湧かないけどね。

 マクスウェルが俺の中からいなくなったってことは分かるんだけど………だから俺の手元にこの本があるんだろうけど………。」

 

 

アローネ「………何か心配事でも………?」

 

 

カオス「心配事………って言うか………。

 ………俺はさ。

 あいつを俺の中から追い出したくてずっと旅してたのにそのあいつはいなくなったけど力だけは俺の中に残った………。

 これってもう俺は他の人みたいに普通の人にはなれないんじゃないかなぁって………。」

 

 

アローネ「………」

 

 

カオス「俺………俺が物心ついた時から他の人達とは違ってたからどうしても普通の人の()()が欲しくて………。

 でもあいつがいなくなったらどうやって俺が普通の人みたいな生活を取り戻すことが出来るのか分からなくなって………。

 

 

 ………俺はもうこの力とは離れられることは出来ないのかな………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「強さや弱さなんて人それぞれですよ。

 カオスは弱さに憧れる必要性はどこにもありません。」

 

 

カオス「アローネ………?」

 

 

アローネ「皆と同じになる必要なんてないのですよカオス。

 カオスからすれば他の方々が同じくらいの力に見えるでしょうがちゃんとその方達にも優劣はあります。

 誰が誰よりも強いとか弱いとかそういう関係を受け入れて人の社会は成り立っているのです。

 カオスが感じている疎外感は幼少の頃に受けた差別が根幹となっておられるのでしょうけどそのようなことなら一度社会に出れば認めていただけるところは沢山あります。

 私達がそうだったように。」

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「人並みなんて目指さなくてもいいのですよ。

 少なくともこのダレイオスではカオスを非難する人なんて一人もいません。

 皆貴方が持っていた力に救われたのです。

 貴方を認めてくださる社会がここにはあるのです。

 貴方が気に病む必要は全く無いのです。」

 

 

カオス「けど俺は………この力とどう向き合ったら………。」

 

 

アローネ「マクスウェルはもういない………。

 でしたらその力はもう貴方だけのものです。

 その力とはゆっくりと向き合っていけばいいのですよ。

 その力の使い方はカオスが決めてください。

 何か有効活用するでもいいですしその力を使わないという選択でもいいですしそれを決めるのはカオスです。

 貴方がこれからの人生を貴方の好きなように進んでみてください。」

 

 

カオス「俺の好きなように………。」

 

 

アローネ「………私としましてはカオスは戦後はカーラーン教会に来ていただけると嬉しいのですけどね。

 

 

 …でも強制することは出来ませんから………。

 私はカオスを私の都合に合わせさせるつもりはありません。

 カオスはカオスが望む道を御自分で見付けてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………貴方はもう自由になられたのですから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………俺の望む道か………。

 ………だったら俺は何を………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

アローネ「御客様………でしょうか?」

 

 

 アローネと話をしているとまた誰かが来たようだ。

 

 

カオス「どっ、どうぞ!」

 

 

 カオスは来訪者に入室するように呼び掛ける。それが聞こえたのか来訪者はカオスの部屋の戸を開けて中へと入ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハーベン「夜分遅くに申し訳ありませんカオス様。

 折り入ってカオス様にお願いしたいことがありましてやって来ました。」

 

 

 部屋に入ってきたのはスラート族族長の息子ハーベンだった。

 

 

カオス「お願いしたいことですか………?」

 

 

アローネ「カオスにどの様なことを………?」

 

 

ハーベン「!

 アローネ様も御一緒でしたか。

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 御二人がいないとどうにもならないことでありまして………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからハーベンはカオス達に頼み事を話し出す。その内容とは………。



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二陣断裂の日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハーベン「カオス様方が以前にスラート、ミーア、クリティアと洗礼の儀を執り行ったと窺っております。

 時間が許す限りでいいですのでその儀をまだ付加していない者達に付加していただきたいのです。」

 

 

カオス「あの術をですか………?」

 

 

 ハーベンの要望はダレイオスに来た当初スラート族やミーア族に付加してまわった術を他の人達にもかけてほしいというものだった。

 

 

ハーベン「はい、

 私はまだ後回しでも構いませんが現状部族間に付加した者とそうでない者とで偏りがあります。

 後々争い事へと発展しないよう平等にする必要があるのです。」

 

 

カオス「…確かにそうですよね………。」

 

 

 カオス達によって洗礼の義を施された者達はこの世界でもっとも凶悪な力を持つモンスターヴェノムに立ち向かう力を得る。だが施しを受けていない者達は相変わらずヴェノムに対して逃げの一手に努めるしかないのだ。

 

 

アローネ「争いを起こさないために洗礼の儀を行うというのは分かりましたが現在あの儀は少し効果が変わってしまい前のようにいくつかの属性の術が自由に使えなくなるのですよ?

 そうなるとこれまでの生活よりも大分不自由な思いをされると思いますが………?」

 

 

 安易に術を施術すればもう後戻りは出来ない。一度アローネ達の側に来ればもう引き返すことは出来ないのだ。それを理解してのことなのだろうかと問い掛けるがハーベンの答えは………、

 

 

 

 

 

 

ハーベン「えぇ、

 承知しておりますよ。

 これは私の意見だけでなく残りのスラートやフリンク、アインワルド、ブルカーンの総意です。

 私と彼等はそうなる道に進むことを自ら望んでいるのです。

 今まで使えていた他の属性の術が使えなくなるのは確かに不便ですが逆にそうなることで()()()()()()()()()()すると私達は見ているのです。」

 

 

アローネ「より結束を?」

 

 

ハーベン「今までのダレイオスは九つの部族がそれぞれ自分達の血統に誇りを持ち他の部族につけこまれないように()()()()()()()()()()()()()()()()()()ある程度使えるようにはしていました。

 自分達だけで水、風、火、地、雷、氷の術を操って生活基盤を保ちモンスターも退けて生活してきたのです。

 

 

 

 

 

 

 それが使えなくなるということは他の部族から力を借りねばなりません。

 そうしないとまともに食事をとることすら出来ませんからね。

 だからそうなると私達ダレイオスのエルフ達は互いに共生関係となります。

 共生関係が出来ればたとえバルツィエを倒して同盟が解消されようとも私達は互いに戦ってはならなくなるのです。

 戦って相手を滅ぼしてしまえば自らも滅びてしまう………。

 そんな愚かな部族はこのダレイオスにはいないでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ですからカオス様に洗礼の儀をお頼みしに参った次第です。

 私達ダレイオスがマテオを討った後も()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 カオスはダレイオスの人達の中からそんな意見が出てきたことに感心した。ブルカーンやクリティアの長老オーレッド達の様子からしてやはり話に聞いていた通りマテオという最大の敵がいなくなれば今度はダレイオスの部族間で争いが起こるのではないかと思っていたがハーベンのように元が敵であるにも関わらずその敵に力を与えることに何の躊躇もなく提案してくることに驚かされた。しかもハーベン自身が争いになることを避けたいという。ダレイオスの人々の中にもこういう者がいればバルツィエが倒されようとも次の争いが起こることは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

カオス「………アローネはどう思う?」

 

 

アローネ「…カオスに人の力の優劣など関係ないと発言した手前気にしなくてもいいのでは………?

 ………と言いたいところですがハーベンさんが仰るように不平等な同盟は後に問題になりかねません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は良いと思いますよ。」

 

 

 あっさりとアローネはそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……分かりました。

 ハーベンさん。」

 

 

 

 

 

 

ハーベン「!

 では………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「そこまで言うなら俺も覚悟を決めました。

 まだ精霊の力を付加していない人達全員に精霊の力を授けることにします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてカオスはダレイオスのエルフ全員に精霊の力を与えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそれには少々問題があった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「何でそんなことアタシに相談してくるんだよ?」

 

 

 カオスはアローネとハーベンの二人と別れてレイディーの元へと向かった。

 

 

カオス「なんか………思ってたよりもやらなきゃいけない人が多くて………。」

 

 

レイディー「そんなもん安請け負いしたお前の責任だろうが。

 自分でどうにかしろよ。」

 

 

カオス「でも()()()()()いるんですよ?

 そんな数の人に一回一回術をかけていってたらどれだけ時間がかかるか………。」

 

 

 ハーベンによればスラート、フリンク、アインワルド、ブルカーンの術を受けていない人数を合計するとそれほどまでに数が膨れ上がるという。一番多いのはフリンク族だ。

 

 

レイディー「フリンク、スラート、アインワルド、ブルカーンの順に数が多いみたいだな。

 フリンクが多いのはまぁ仕方ねぇとしてスラートが予想外に多かったのか。」

 

 

カオス「スラートはセレンシーアインだけでなくスラート領にある他の街の地下にも受けてなかった人がいたみたいで前にやったので全部じゃなかったらしいです。」

 

 

レイディー「面倒なことになってんな………。

 しかもこのトリアナス砦に来てない奴だっているんだろ?

 アインワルドとかはまだ半分くらいはアルターにいんだろうしそいつはの所に行くにしても数日かかる。

 どうしてアルターに行った時に終わらせておかなかったんだよ?」

 

 

カオス「あの時はトレント達を全滅させるのに時間が無くてアインワルドの人達に儀式をする暇が無かったんですよ。

 それで今なら時間はあるんですけど………。」

 

 

レイディー「時間はあったとしてもそんなに人数がいたらお前の方が先に倒れそうだな。

 今お前はマクスウェルの力を使えるようになってるが前みたいにマナを自動で大気中から吸い上げてんのか?」

 

 

カオス「…今はそういうのはないと思います………。

 マクスウェルがいなくなってマナは今のところは安定してますから………。」

 

 

 マクスウェルが憑依していた時はマクスウェルが勝手にマナを吸収していた。そのせいでブルカーンではマナの貯蓄に限界が来て体が崩壊しかけたのだ。マクスウェルの人格が消滅してからはそれは停止されている。

 

 

レイディー「…いっそのこと一人一人やるよりも全員()()()()()()()()()()は出来ねぇのか?」

 

 

カオス「一律に………?」

 

 

レイディー「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()アタシ達が持ってる力を得たそうじゃねぇか。

 治癒術ってのはファーストエイドしか知らねぇが精霊の力にはアタシ達がまだ見たことも聞いたこともない術が多く眠ってるんだろ?

 その中に十年前ミストでマクスウェルが使った術があるはずだ。

 それをその本の中から探してみろよ。」

 

 

カオス「この本の中に………十年前にミストで発動した術が………。」

 

 

 カオスはマクスウェルの本を開きそれらしき術を探す。言われてみれば確かに十年前ミストでたった一度の術でミストにいた住人全てに精霊の力を与えた過去がある。あの時発動した術は無意識に発動したため何だったのか分からないがこの本にはその答えが載ってあるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその術はすぐに見つかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『リザレクション』………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッッッッッッッ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間ダレイオスの全土は光に包まれた。光がダレイオスを包んでいたのは僅か数秒のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数秒でダレイオスは大いなる力を授かることなった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして同時にその光はダレイオス、マテオ両国を巻き込む深い深い闇にもなるのだった………………。



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あの時に何があったのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「カオス!」バンッ!!

 

 

 勢いよく部屋の戸を開けてウインドラが入ってきた。

 

 

カオス「ウインドラ………。」

 

 

ウインドラ「何があった!?

 何をした!?

 今の光は何だ!」

 

 

レイディー「落ち着け騒ぐな。

 別に今の術はこの前のようなもんじゃねぇよ。

 そうだよな坊や?」

 

 

カオス「そのはずですけど………。」

 

 

 本から読み取った情報によれば今の術は治療術ファーストエイドの最上位互換に相当する術だった。単純に今までの洗礼の儀が一人一人に力を与える手間のかかるやり方だったが今度のはカオスが指定したフィールドにいる対象に力を付与するものだ。

 

 

ウインドラ「何………?

 ………では今の術は………。」

 

 

レイディー「なんかダレイオスの連中から頼まれたようだなんだよ。

 アタシやお前みたいに精霊の力を他のまだ与えてない奴等にもやってくれってな。

 んでこいつの持つその本でどうにか比較的に早く終わる方法を探してみろって言ったら今のが発動したわけだ。」

 

 

カオス「…今のでちゃんと精霊の力を与えることができたんでしょうか………?」

 

 

レイディー「気になるんだったら確認してきたらどうだ?

 今の強烈な光で多分寝ている奴等も飛び起きてるだろうぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワ…………!!

 

 

 

 

 

 

 レイディーが言う通り外が騒がしくなってきた。事情を知らない者からすれば突然地面が光だして攻撃を受けたのかと錯覚することだろう。

 

 

カオス「そうですね。

 ちょっと様子を見てきます。」

 

 

ウインドラ「俺も行こう。

 その話が本当なら今頃パニックになっているだろうしここはアローネ達にも事情を話して騒ぎを収めなければならんだろうしな。」

 

 

 ウインドラはアローネ達の元へと向かう。カオスも外に出て騒ぎを止めに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………さて、

 どうなることやら………。

 これで坊や以外の奴は全員()()になったわけだがそれで連中はどうするかだな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「カオス!」

 

 

 外に出て早速オサムロウがカオスを見付け呼び止めてきた。

 

 

カオス「オサムロウさん。」

 

 

オサムロウ「ソナタ………また何か力を使ったな?

 それとも精霊の暴走か?

 今度は何があった?」

 

 

カオス「いえ………さっきのは俺が自分で発動させた術なんです。」

 

 

オサムロウ「ソナタが………?

 どの様な術だ?」

 

 

カオス「えっと………ハーベンさんに頼まれたことなんですけど精霊の力をまだ貰ってない人達にも力を与えて欲しいって言われてそれでその人達の数を聞いたら凄く多かったんでなんとかもっと楽に受け渡すこと出来ないかなって思ったらあんな術になっちゃって………。」

 

 

オサムロウ「…攻撃性は無いのだな?

 しかしそんな術をどのように会得したと言うのだ?」

 

 

カオス「会得っていうか………。

 この本に書かれてあったことなんですけど………。」

 

 

オサムロウ「!

 それは前はソナタは所持していなかったな。

 それに術が記されているのか?

 …一体それは何なのだ………?」

 

 

カオス「…見てみますか?」

 

 

オサムロウ「………うむ………。」

 

 

 カオスはオサムロウに本を渡す。オサムロウはその本を開き中をじっくりと観察してやがて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「…この本の文字の一文字一文字に途方もない程の魔力を感じる………。

 これ程の魔術本は見たことが無いな………。」

 

 

カオス「オサムロウさんでも読めないんですか?」

 

 

オサムロウ「長く生きてきてこのような文字は一度として拝見したことが無い。

 ()()()()とでも言うべきか。

 これはソナタの中にいた精霊の物なのだろう?」

 

 

 改めて説明する必要はなかった。オサムロウはカオス達の抱えていた事情を把握していたためにこれが精霊の本であることを言い当てた。

 

 

カオス「…この前の例のあの日に精霊マクスウェルと俺達は戦いました。

 この本はその時に手に入れました。」

 

 

オサムロウ「精霊と戦った………?

 ソナタ等は期日に間に合ったのでのはなかったのか?」

 

 

カオス「間に合うには間に合ったんですけどどうしてだかマクスウェルはやっぱりデリス=カーラーンを破壊するって言い出して………。」

 

 

オサムロウ「それで精霊と戦いになったと………?

 ………精霊には勝てたのか………?

 あれほどの力を有する精霊にソナタ達が?」

 

 

 精霊と戦いになったと聞いてカオス達が勝つ見込みは少ないとオサムロウも思ったのだろう。これまでカオスが使ってきた強力な術の数々は全て精霊の力によるものだ。その精霊から力を借りているアローネ達ですら精霊の力には遠く及ばない程に力量に差があった。事実アローネ達はマクスウェルに敗北してしまったのだ。

 

 

カオス「…実際は精霊には敵いませんでした………。

 レイディーさんもミシガンもウインドラもタレスもカーヤもアローネも皆マクスウェルにやられてしまって俺一人だけが生き残ったんです………。」

 

 

オサムロウ「生き残った………?

 …まるでソナタ以外の他の者達が命を落としたかのような言い回しだな。

 だがアローネ達は生きているだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう………アローネ達は生きている。マクスウェルと戦う前と後でどこも変わらないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでもカオスの記憶には深く刻みこまれて消えない景色が甦る。降り注ぐ隕石の爆発によって消えていくアローネ達の体………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺にもあの日あの戦いで何があったのか分からないんですよ。

 皆がマクスウェルにやられたかと思えばイフリートが俺に力を貸してきて俺はそのイフリートの力でマクスウェルを倒したみたいでいつの間にか皆も生きてて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺が完全に精霊になってて………。」



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一団ではなく七団

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「ソナタが精霊に………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それは一体何の「師匠!カオス様!」!」

 

 

 オサムロウに精霊とのことを話しているとハーベンが二人に駆け寄ってくる。

 

 

ハーベン「御無事でしたか!?

 先程何者かがこのトリアナスに魔術での攻撃を仕掛けてきたようで不発に終わったようですが次がいつくるのか分かりません!

 急ぎ周辺の警戒に当たるべくチームを編成して敵の対処に「慌てるなハーベン。」!」

 

 

オサムロウ「先程のあれは敵襲ではない。

 カオスの仕業だ。」

 

 

ハーベン「はい………?

 カオス様の………?」

 

 

カオス「すみません………。

 驚かせちゃったみたいで………。」

 

 

ハーベン「…そっ、そうだったのですね………。

 ですが一体何を………?」

 

 

 敵襲ではないと知りハーベンは一旦警戒を解くがどうしてカオスが魔術を発動させたのか訳を訊いてきた。

 

 

オサムロウ「ソナタから頼まれたと聞いたぞハーベン。

 洗礼の儀を皆に施してくれとな。」

 

 

ハーベン「!

 では今のが………!?」

 

 

オサムロウ「そのようだ。

 術が成功しているのであればソナタ等にも効果は出ているはずだ。

 一先ずはソナタはスラートで力を受けてとっていなかった者達を集めて確かめてこい。

 フリンク、アインワルド、ブルカーンには我から伝えておこう。」

 

 

ハーベン「はい!」

 

 

 ハーベンはオサムロウの指示に従いスラートを集めてどこかへ行ってしまった。

 

 

オサムロウ「では我も行くとしよう。

 カオスもついてきてくれるか?

 我だけだと上手く話ができんのでな。

 ソナタがいた方が納得しやすいだろう。」

 

 

カオス「分かりました。」

 

 

 その後カオスとオサムロウは一緒に全ての部族の元へ説明をしに回った。先ずは各部族の族長達に事の経緯を話しそこから他の人々にも話が行き届く。全てが終わる頃には既に真夜中の時間帯となりカオス達は疲弊した足で床へとつくことなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――翌日――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリアナス砦 部族会議室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファルバン「………皆揃っているようだな。

 それではこれから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日になりカオス達と各部族の族長達を集めて会議が開かれた。議題は当然マテオとの対決に向けてだ。

 

 

 

 

 

 

ファルバン「この会議は前ダレイオスの王の余ファルバンが務めさせてもらう。

 異論があるものはおるか?」

 

 

ミネルバ「構わないよ。」

 

 

ナトル「ありません。」

 

 

クララ「同じく。」

 

 

オーレッド「異論は無いからさっさと進めろ。」

 

 

 ファルバンの宣言に族長達からそれぞれ反論は無かった。

 

 

 ………がブルカーンの族長代理オリヘルガから声が上がる。

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「ん?

 七部族会議ってのは何だよ?

 ここにいる族長格は六人しかいねぇじゃねぇか。

 数もまともに数えられねぇとか流石に終わってねぇかスラートの前王さんはよぉ。」

 

 

 オリヘルガが第一声にファルバンが言った七部族会議が間違いであると指摘する。

 

 

ファルバン「…何も間違ってはおらぬぞ。

 ここに集まっておるのは九の部族の内の七部族の長達だ。

 下らぬことを申すなブルカーン。」

 

 

オリヘルガ「だからその七人目の族長ってのはどこにいるんだよ?

 この間からここにはスラート、ミーア、クリティア、フリンク、アインワルドの五つの部族しか集まってねぇじゃねぇか。

 そこに俺達が来て六部族だろ?

 ブロウンもカルトもアイネフーレもいねぇんだから七部族会議ってのは違うだ「アイネフーレならここにいますよ。」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「アイネフーレ代表はボクです。

 ボクが貴方と同じアイネフーレ族長代理を務めます。」

 

 

 タレスがアイネフーレと名乗りでたことに唖然とするオリヘルガ。オリヘルガ達ブルカーンとは始めは敵対していたためにカオス達がどの様な集まりだったのかを知らなかったのだ。

 

 

オリヘルガ「お前がアイネフーレ………だと?

 お前はカオス・バルツィエ達と一緒にやってきたマテオのハーフエルフじゃねぇのか?」

 

 

タレス「違いますよ。

 ボクはアイネフーレです。」

 

 

オリヘルガ「…アイネフーレねぇ。

 そういやここに来てから()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()

 そんでお前みたいな育ちの悪そうな餓鬼がアイネフーレ族長代理?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ハハハ!

 おい!

 他のアイネフーレはどうした?

 何でここにいねぇんだ?

 ここは俺の記憶が確かならアイネフーレ領だったはずだが?

 マテオとの最前線基地で何でそこの()()()()()()()()()()()()()()?

 アイネフーレは今どこにいるんだよ?

 どこで道草食ってるんだ?」

 

 

タレス「………」

 

 

オリヘルガ「何とか言ったらどうだ?

 “ボク以外のアイネフーレは全滅しちゃって寂しいけどボク一人で頑張ります”ってほら俺達に説明………!?」チャキッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハーベン「その耳は御飾りか?

 ちゃんと耳としての働きをしているのか?

 飾りと言うのならばお前には似合わぬから削ぎ落としてやろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 室内にいたハーベンが剣を抜きオリヘルガの首筋に突き付ける。

 

 

オリヘルガ「てっ、テメェ………ハーベン………!」

 

 

ハーベン「第一回七部族会議の進行を()()()()()()()()()()()()()()()と言ったのだ。

 議論をするでもなく嘲笑したいだけならお前をこの場から摘まみ出すぞ?

 なんなら貴様等ブルカーンは我等の戦いに参加しなくていい。

 そうなったらダレイオスの足並みを乱すブルカーンをバルツィエよりも先に排除してやる。」

 

 

オリヘルガ「!?

 わっ、悪かったっての!

 軽い冗談だろが。

 何をムキになってんだよ。」

 

 

ハーベン「今のが冗談だと言うならお前は一生冗談を口にしない方が長生きするだろうな。

 冗談と言うのはそれなりに付き合いの長い相手にしか通じない。

 それと特定の個人を貶めて笑いを誘うなどと性根が腐りきったブルカーンらしいとは思うが今の冗談は一体何が面白いのだ?

 お前達ブルカーン以外には通じないのか?

 私達とお前達とで冗談の定義が異なっているのか?

 今一度お前達ブルカーンが私達と同じ人種であるのか調査してみる必要があるな。」

 

 

オーレッド「ほほう?

 それは興味があるのう。

 ブルカーンの生態調査なら儂等クリティアが請け負ってもよいぞ?

 一通り調べ尽くしたら標本にして資料をまとめて発表してやろう。」

 

 

オリヘルガ「ふざけるな!

 テメェ等になんかに()()()()()にされてたまるかよ!

 つーかハーベン!お前も脱線してんじゃねぇか!!

 会議を始めるんじゃねぇのかよ!

 愚劣王!!

 早く話を進めやがれ!」

 

 

ファルバン「まったく………ソナタが突っ掛かってきたのが原因であろうに………。」

 

 

 

 

 

 

 会議の初っぱなから族長達の間で険悪な空気が漂う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「(…大丈夫なのでしょうか………?

 このような雰囲気で本当に会議など………。)」



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その話題に触れると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファルバン「………では会議を進めよう………。

 

 

 …がその前にカオス殿よ。」

 

 

カオス「!」

 

 

ファルバン「昨晩の件だがあのような大術を使用することを事前に告知してほしかったな。

 バルツィエからの奇襲だと勘違いをしてしまいこのトリアナスにいる者達皆が飛び起きてしまったぞ。

 余もその一人だ。」

 

 

カオス「…すみませんでした………。」

 

 

ハーベン「父上、

 そのことについては私がカオス様に頼んでやっていただいたことです。

 カオス様は悪くありません。

 私が皆から聞いていた話では一人一人にあの例の力を授けていくものだと思っていたもので儀を受けなくてはならない人員が多すぎるために時間がかかりすぎるためにカオス様は昨夜のような一括で皆に力を与える術を行使していただいたのです。

 私の責任です。」

 

 

ファルバン「お前がか?

 ハーベン。」

 

 

オサムロウ「我もそのように聞いている。

 事の発端はハーベンだそうだぞファルバン。

 ハーベンから言われてカオスは昨晩の術を使ったのだ。」

 

 

ファルバン「だが以前は昨日のような一度で力を与えるような術ではなかったが………何故あのような術へと変化を遂げたのだ?」

 

 

オサムロウ「カオスの力についてはまだ発展途上の段階だ。

 カオスですらその全容を把握はしてないのだ。

 何せカオスの中に潜む者の力は我々が想像を越える力を秘めているからな。

 まだまだこれからもカオスは突発的に昨日のような力を使うことになるだろう。」

 

 

ファルバン「…それほどまでに強大な力を持つというのに我々ダレイオスと手を組みマテオを共に討つことを目標に掲げるとは………。

 カオスが敵でなくてよかったな。」

 

 

 ファルバンの一言に他の族長達も頷く。カオス達の活躍でヴェノムの主から救われた面もあるがそれと同時にカオスの力を目の当たりにしているためカオスに対しては巨大な力を持つ者としての畏怖の感情も混じりあい下手に刺激するのは避けようとしているのが分かる。昨夜のような騒ぎを他の者が起こせば注意だけでは済まなかったことだろう。

 

 

 

 

 

 

ファルバン「…では改めて………、

 

 

 

 

 

 

 現状を整理すると我々ダレイオスはアイネフーレの地をアイネフーレ族長殿より借り受け、来るマテオとの大戦に向けて準備を進めてきた。

 マテオとの大陸間はかつてトリアナスとあちらの大陸とを繋いでいた海道が半年前の()()()()にて消失。

 事実上マテオとの陸伝いの国交は絶たれたがバルツィエはレアバードなる乗り物でマテオとダレイオスを行き来できる。

 ヴェノムが出現してからのこの百年の間はダレイオスがヴェノムに対し防戦を強いられる中マテオは早々にヴェノムへの対応を済ませダレイオスへも何度も侵攻を謀っている………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我々は立ち上がらねばならない。

 立ち向かわねばダレイオスはヴェノムとバルツィエの挟撃にて滅ぼされてしまう。

 我々ダレイオスの誇りにかけてバルツィエを討つのだ。

 もう種の滅びを待つだけの時は終わった。

 これからは我等ダレイオスもマテオへと反撃を開始する。」

 

 

 ファルバンがそう宣言すると他の族長達もその言葉を待っていたかのように闘士をたぎらせていく。特段何かをしたわけではないが室内の空気が緊張を帯びていくのをカオス達は感じた。

 

 

ファルバン「…現在このトリアナスにはミーア族族長殿が手配した船を数十隻配備してある。

 マテオへの進撃にはそれに各部族の兵士を乗せてマテオへと渡ることになる。」

 

 

ミネルバ「うちは領地がほぼ海に面しているから沖合いに出て漁で生計を立てていたんだ。

 船と言っても漁業専門の船を改装しただけの脆い造りだから何度も攻撃されたら沈んじまうからそこだけは頭に入れときな。」

 

 

オーレッド「ならば手早くマテオの地に降り立たねばなるまいな。

 海上で総攻撃を受ければ一たまりもあるまい。

 船が一ヶ所に固まって進めば集中砲火を浴びてしまうな。」

 

 

ナトル「そこは私達フリンクがバルツィエの接近をいち早く察知し事前に各船へと信号を送って散開すればすぐに全滅することはないだろう。

 私達フリンクが全ての船に乗り航海士としてどの船も沈ませることなくマテオの地へと送り届けて見せる。」

 

 

クララ「マテオからの攻撃は私達アインワルドが壁を張ります。

 私達の魔術はあまり遠くの方にまで撃つことはできないので現地での戦いはスラート、クリティア、ブルカーンにお任せします。

 それまでその三部族はマナを温存するのがいいでしょう。」

 

 

ブルカーン「そうだな。

 俺達は魔術戦よりかは接近戦の方が活きやすい。

 バルツィエやその他の邪魔な奴等は俺達に任せとけ。

 必ず全員ぶっ潰してやるからよ。」

 

 

ハーベン「では船の運航運転はミーア、警戒をフリンク、砲撃の対処をアインワルドに任せるとしてスラート、クリティア、ブルカーンの三つでマテオのバルツィエないし兵士達と応戦するとしよう。」

 

 

 いざ会議が始まると最初の喧騒はなんだったのかと疑いたくなるようなスムーズさがあった。目的を同じくして集まった者達同士というだけあって空気を読まない行動は慎んでいるようだ。

 

 

タレス「アイネフーレ………ボク達は何をすればいいんですか?」

 

 

ファルバン「アイネフーレ及びカオス殿達は開戦までは特に仕事はない。

 ソナタ等はこれまでよく働いて貰ったのでな。

 こうしてダレイオスがまた再び一つの場所に集まれたのもソナタ等のおかげだ。」

 

 

ウインドラ「俺達も人手が必要だったからな。

 そのために動いていたに過ぎない。」

 

 

ミネルバ「それでもアンタ達がヴェノムの主を倒してなきゃまた私達がマテオに戦いを挑むことなんてできなかったさ。

 アタシからも礼を言わせてほしい。」

 

 

ミシガン「別にそこまで恩に着せたりとかはしないけどさ………。」

 

 

アローネ「…私達にできることは何か無いのでしょうか?

 何でもいいのです。

 私達もバルツィエと戦わせてください。」

 

 

ファルバン「そうは言うが………しかしな……。」

 

 

オサムロウ「…ソナタ等はバルツィエのように空を飛ぶ手段があるのだったな?

 だったらもしバルツィエが我々でも手に負えないような兵器や力を投入してきたらそれに対応してほしい。

 奴等の力は未知数だ。

 そんな力を使われてダレイオスが押し返され始めたらソナタ等の力でそれを排除してくれ。」

 

 

レイディー「要は非常時にのみ助けてくれってことか。

 事が上手く運びゃアタシ等は何もしなくていいってことかよ。

 最高じゃねぇか。」

 

 

 ダレイオスの各部族の役割が決まりカオス達にも仕事が与えられる。マテオとの大戦での流れは滞りなく進められる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな折にとある議題でダレイオスはこれまでの軽快な流れを断ち切り後日ダレイオス間で争い合う事件が発生する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファルバン「…さて、

 作戦は一通り決まったところでこれからダレイオスの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 誰か我こそはと王に名乗りを挙げる者はおらぬか?」



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他から見たアローネの印象は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

 ファルバンが次に出した議題で空気が更に重くなる。ダレイオスはまた一つになったことでかつてのように新しい王を選ぼうとしている。議題が出された瞬間誰もそれに名乗り出る者はいないが他の王になり得る候補者達を睨み牽制する。いつまでも誰も発言しないことからオサムロウが口を開く。

 

 

オサムロウ「………フッ………、

 やはりこうして集まれたのも()()()()()()()()()とあって自ら立候補する愚か者はおらぬか。

 なら我から一人推薦使用と思う。

 

 

 そこにいるカオスを「儂が新王に立候補するとしよう。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「この場におる者達の中では儂こそが生まれ変わったダレイオスの次の王に相応しいじゃろうて。

 儂が次のダレイオスの王となろうぞ。」

 

 

 オサムロウが言い終わる前にクリティア族長老のオーレッドが名乗りを上げた。

 

 

オサムロウ「…貴様が次代の王だと?」

 

 

オーレッド「当然じゃろう?

 儂はこの中の誰よりも長く年を越している。

 その分ダレイオスのことは誰よりも熟知しているということじゃ。

 他の候補者達とは違い長としてのキャリアも十分にある。

 他の族長達は経験が浅かったり代理だったりとで儂以外にダレイオスの王は務まらんよ。

 儂が新ダレイオスの王になるのじゃ。」

 

 

ナトル「………」

 

 

オリヘルガ「老害の戯れ言も大概にしとけよ?

 誰がテメェなんかを王として認るんだよ?

 俺達ブルカーンはテメェが王になるのなんざ認めねぇぞ。」

 

 

オーレッド「族長代理の分際が何か喚いておるのぅ。

 言うておくがブルカーンには立候補する権利などないぞ?

 七部族の中じゃ一番最後に来た遅刻組じゃからな。

 あるとしたら儂等クリティアかスラート、ミーアの三部族の中からだけじゃろう。

 フリンクは自粛するのじゃったな。

 アインワルドに関してもブルカーンとそう変わらん時期に到着しおったし何より十年程度で族長の代が変わる新参顔に王は無理じゃ。」

 

 

クララ「くっ…!」

 

 

 

 

 

 

オーレッド「とは言ってもスラートに関しては前回そこの若造が言っていたように愚劣王………スラートを王に据えて失敗に帰した前例がある。

 スラートを王に選ぶことは断じて認めぬ。

 ミーアについては短所という短所は見つからんがそこの女も代理なのじゃろう?

 代理ごときに王が務まるか?

 ソナタはミーアこそが王に相応しいのだとプレゼンでもできるか?」

 

 

ミネルバ「それは………無理だけど………。」

 

 

オーレッド「ほれ見てみい。

 クリティア以外に王に相応しき部族がおらぬではないか。

 よってクリティアの長老である儂がこの新生ダレイオスを導いて「異議あり!」」

 

 

 王選別の話になると途端にオーレッドが他の部族を下げて自身こそ王にと主張してくる。そんなオーレッドに制止をかけるものが現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハーベン「クリティアの………それも貴様が王だと………?

 笑えないジョークだな。

 貴様なぞよりもここにはより相応しい御方がいるだろう。」

 

 

 ハーベンがオーレッドの主張に真っ向から対立した。

 

 

オーレッド「…フン!

 愚劣王の息子か。

 ソナタも所詮は臨時で即位させた偽王の息子でしかない。

 そんなソナタが儂に口答えか?

 儂にものを申すなら親父から長の座を譲ってもらってから意見しろ。」

 

 

ハーベン「貴様の言う通り本来であれば私に発言権は無いだろう。

 だが貴様が王になるのは御門違いではないだろうか?

 我々がこの場に集まれたのも彼等の功績あってのことだろう?

 それならば候補者の中に彼等も入れるべきだ。

 貴様だけで話を進めるな。」

 

 

ファルバン「そうだな。

 スラートとしてもソナタの言うように新たに生まれ変わるダレイオスの王はスラートの中から選出するのは遠慮すべきだと思う。

 スラートは一度マテオに敗退したのでな。

 スラートは今回の選出では辞退させてもらう。

 

 

 

 

 

 

 代わりに彼等の中から王を出すのが最善ではないだろうか?」

 

 

 ファルバンがそう言うと全員の視線がカオス達に向かう。

 

 

オーレッド「ほう?

 まぁそうした意見が出るのも当然のことじゃろうな。

 彼等がいなければダレイオスはばらばらのままだったわけじゃしな。

 クリティアもそこのところは分かっておるぞ。

 ………じゃがしかし彼等は王になりたいと思うておるのか?

 王とは一時的なものではないのだぞ?

 マテオとの勝利したその後も王としてダレイオスのことを第一に考えねばならぬ。

 果たして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………のぅ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………は?

 アタシか?」

 

 

 オーレッドは何故かレイディーに問い掛ける。

 

 

オーレッド「御嬢さん………ソナタは儂等ダレイオスを戦後も引っ張っていく気概があるか?

 儂等ダレイオスの女王となって戦後も君臨し続けることを誓えるのかな?」

 

 

レイディー「おい。

 どうしてアタシにそんなこと訊いてくるんだ。

 アタシは別に王なんてなりたくはねぇよ。」

 

 

オーレッド「ほれ。

 彼女はこう申しておるぞ?

 ()()()()()()がこう申しておるならもう儂以外おらんぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………代表………?」

 

 

 何故だかオーレッドから見るとレイディーがカオス達のリーダーのように思われていた。

 

 

アローネ「待ってください。

 そういう話でしたら私が「え!?その人達の代表ってそのミシガンっていう娘さんじゃなかったの!?」!?」

 

 

 

 

 

 

ミシガン「わっ私!?」

 

 

 

 

 

 

ミネルバ「前にカイクシュタイフでその人達の力を見たことがあるんだけどそこの女の子がクラーケンを倒しちまうところをこの目で見たよ?

 その女の子が代表じゃないの?」

 

 

 今度はミーア族が誤ったことを言い出す。更に………、

 

 

ナトル「実力の程は存じませんが私達のところに彼等がおこしになった時はそのウインドラ殿が主に話をしていましたが何方が代表だかは私達は………。」

 

 

クララ「何を言ってるんですか?

 カオス様が代表ではないですか。

 カオス様こそが新ダレイオスの王位につくべきお方です。

 カオス以外あり得ません。」

 

 

オリヘルガ「…カオスがボスじゃねぇのか?

 カオス以外の奴等はそんな言うほど突出した力は持ってねぇだろ………。」

 

 

 オーレッドに始まりミネルバ、ナトル、クララ、オリヘルガとカオス達の中のそれぞれ違う人物を王候補にあげる。

 

 

 

 

 

 

ハーベン「ミーア、クリティア、フリンクは認識が間違っているぞ。

 カオス様方のチームはカオス様こそが代表なのだ。

 よってカオス様に王位に立候補できる立場にあるのだ。

 私達スラートもカオス様がダレイオスの新たな王となっていただけるのだあれば安心して「待ってください!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「そういった話はカオスではなく私が立候補します!

 私も新生ダレイオスの王選出に加えてください!」

 

 

 ここで他の部族達がカオスやレイディー、ウインドラを持ち上げる中アローネが前に出て訴える。カオスやウインドラ、レイディーもこれで自分達が選ばれずに済むと安堵する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファルバン「………アローネ様が立候補するのですか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「はい、

 何か問題でも?

 私はカオス達と共にダレイオスのヴェノムの主を討伐してきました。

 私にもその資格はあるはずです。」

 

 

ファルバン「………いや、

 立候補すること自体は余は構わないと思うのだが………。」

 

 

 ファルバンはアローネに対し言い辛そうにしている。

 

 

 そこへ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………お前ってカオスのただの同行者に過ぎねぇ奴だろ?

 何でお前なんかが新ダレイオスの王になれると思ったんだよ?

 

 

 お前大したこと()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガの言ったことを否定する者はいなかった。ファルバン、ミネルバ、オーレッド、ナトル、クララも同じように考えていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り替えってみればアローネは旅の間ずっとカオスと共にいたがアローネはここまで活躍と言えるような活躍をとうとう今日ここに集まるまで何もしてこなかったのだ………。



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ウルゴスの危険性

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「そいつに立候補する権利があるなら俺達ブルカーンにもあるんじゃねぇのか?

 どうなってんだよスラート。」

 

 

ハーベン「それは………カオス様のお仲間だからあっても………。」

 

 

オーレッド「…まさか御嬢さんが頭だと思うてたら別の者が代表者じゃっただと………?

 御嬢さん以外は助手じゃなかったのか?」

 

 

 各部族でカオス達の印象が違い誰がリーダーであるのか分からない様子だ。アローネが名乗りを上げたことでブルカーンのオリヘルガが対等に権利を主張する。それに続き、

 

 

ミネルバ「ちょい待ちなよ。

 だったら私達ミーアにもその権利があるんじゃないのかい?

 ()()がそんなに必要ないんなら私達だってその権利はあるよね?」

 

 

オーレッド「代理風情は黙っておれ!」

 

 

ミネルバ「何さ!」

 

 

 たった一人の発言により会議の場は一気に雲行きが怪しくなってきた。先程まで纏まっていたというのに一つの議題が提示されただけでこうも荒れだしてしまうとは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファルバン「…この件については後日改めて決めるとしよう。

 今日で粗方マテオへの対策も立てられたのだ。

 王選出については数日後に代表をそれぞれの部族で出しあい公平に決めることとする。

 

 

 これにて解散だ。」

 

 

 これ以上場が混乱しないようにファルバンが会議を終わらせた。カオス達や他の族長達ももう一度作戦を練ってからこの議題に対応するためにその場は応じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「……しかしのぅ。

 あの御嬢さんではなく助手の方が王になりたいとは………政治を任せられる器なのかのぅ?

 王は御遊戯ではないのじゃぞ?」

 

 

 去り際にクリティア族長老オーレッドがそんなことを言いながら部屋を退室していった。他の族長達もアローネを訝しむような目で見ながら去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ………。」

 

 

アローネ「………私が…………私が力を握らなければならないのです………。

 私に力が無ければウルゴスの同胞達は救われない………。」

 

 

 アローネがダレイオスの王になりたい理由はウルゴスの同胞を見つけるためだ。王となってバルツィエとの決着がついた後にマテオ、ダレイオスの力を借りて世界中に散らばるウルゴスの同胞を捜索にあたるために立候補した。

 

 

 だがダレイオスの族長達からのアローネの印象はただの付き人に過ぎず特別に彼女が何か偉業を成したという話も無くただただどこかの()()()()()()()()()()にしか捉えられなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリアナス砦 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「明日もう一度ダレイオスの王に誰が相応しいか話し合いが設けられるそうだ。

 今度こそそこで次のダレイオスの王が決定するそうだぞ。」

 

 

 ウインドラがスラート達のところから戻りそんなことを言ってきた。

 

 

アローネ「明日………明日までに私がダレイオスの王となれる材料を手に入れなくてはならないのですか………。

 厳しいところですね………。」

 

 

レイディー「………お前何で王なんかになりたがるんだよ?

 一国の王になんかなっても多忙な毎日に追われるだけだぞ?

 そこのところ分かってんのか?」

 

 

 レイディーがアローネが本当に王になりたいかどうかを確かめる。その立場からくる責任はそう簡単に決めていいことではないからだろう。それに対しアローネは、

 

 

アローネ「………ですが同胞を探すにはそれしか手はないのです。

 この数百年の内でウルゴスの同胞が私とカタスの二人しか見付かっていない以上カーラーン教会だけでは手が足りないのが現状です。

 もっと人手を増やさなければいつまでもウルゴスの同胞達は………。」

 

 

 アローネからすればウルゴスの同胞達が心配なのだろう。彼女達ウルゴスは過去のヴェノムによる災害で時代の終わりを迎えた。生き残った人々はヴェノムが滅びた時代まで眠りにつくことにしたのだがその眠りについている間にウルゴスの人々は世界に散り散りになってしまったらしい。その世界の各地に散らばった同胞達を見付け出すためにアローネはダレイオスの王になって各部族に同胞達を探す手伝いをしてもらいたいのだ。

 

 

レイディー「ウルゴスか………。

 ウルゴスと言やぁフェデールが言ってたことも気になるな………。」

 

 

カオス「フェデールの………バルツィエが長年敵視していた相手がウルゴスだって話ですか?」

 

 

レイディー「あぁ、

 何でバルツィエがウルゴスを危険視してるのかは知らんが奴の話が真実だとしたら………、

 

 

 

 

 

 

 ウルゴスの奴等は目覚めさせない方がいいんじゃねぇか?」

 

 

アローネ「!!

 何故ですか!?」

 

 

 レイディーが言った言葉にアローネが反論する。

 

 

レイディー「落ち着けよ。

 アタシの話を聞きな。

 オーレッドの爺さんや精霊の話を纏めてみるとヴェノムが作られたのはウルゴスがあった時代だそうじゃねぇか。

 ウルゴスの時代でヴェノムが作られそれが世界中に流出して結果ウルゴスもダンダルクも滅びた。

 ヴェノム自体は一国家………もしくは世界中が総力を上げて作った病薬らしいがそれを制御する力も作り出しておきながら()()()()()()()()()()()()()って話も事実だ。

 ウルゴスの技術は安易に復活させない方がいいぜ。

 この時代にはまだ早すぎるんだ。

 行き過ぎた力は文明を滅ぼす。

 まだまだ成熟してないこの世界には危険すぎる。」

 

 

アローネ「そんなもの………!

 ごく一部の人達だけです!

 そんな技術を持つのは限られた人達だけのはずです!

 その方達のせいで他の関係の無いウルゴスの人々も復活させてはならないのですか!?

 そんなの理不尽にしか「復活させちゃならねぇのはどちらかというとお前の知り合い連中だよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「国の総力ってことは少なからずウルゴスの王族も関わってる可能性が非常に高いんだ。

 お前やカタスが知らないだけで他の()()()()()()()が関わってないっていう保証はねぇだろ?

 お前達の話じゃウルゴスの王族ってのは()()()()()()()()()()()()()()()表向きは味方同士でも裏では覇権をぶんどるために兄弟であっても殺し会いが行われてたんだろ?

 お前ですらそんなに関わりは多くなかったってんならそんな奴等のために世界を動かすべきじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は国どころじゃなく世界が滅ぶぞ。

 ウルゴスの技術力はそれほど凶悪なんだよ。

 この時代にとってはな。」



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枢機卿として

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………貴方にウルゴスの何が分かると仰るのですか………?

 私の知る人々にヴェノムのようなおぞましきウイルスを製作するような人などおりません!

 勝手なことを仰らないでください!」

 

 

 レイディーのウルゴスへの考えを聞いてアローネが激昂する。

 

 

レイディー「別にただそういった奴等がいるって可能性を指摘しただけだろうが。

 お前が知る連中は本当に()()()()()()だと言い切れるか?

 お前の前でだけ善人ぶって影で何やってるかなんて誰にも分からねぇんだぞ?

 ウルゴスってのがどんな国だったかはアタシは知らねぇ。

 けどヴェノム製作に関わった容疑者はダンダルクって国とウルゴスの国しかねぇんだ。

 そんでダンダルクって国はあまり魔術に関して詳しい国じゃねぇんだろ?

 そんな奴等にヴェノムが作れると思えねぇ。

 ヴェノムは十中八九高貴なエルフの作品だ。

 お前が目覚めさせたいウルゴスの連中は主に同胞って言うよりは()()()()()()()()()()()だろ。

 そいつらがヤバイんだ。

 早々そんな連中を目指させたりすりゃこのデリス=カーラーンの時代が第二、第三のアインスになっちまうだろうよ。」

 

 

アローネ「そんなことには………。」

 

 

レイディー「ならねぇって言い切れるのか?

 お前が言うように数百年の内にカタスとお前しかウルゴスの奴が見付かってねぇってのはつまりだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カタスも()()()()()()()()()()して積極的にウルゴスの奴を見付け出すのを躊躇ってるんじゃねぇのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カタスが躊躇っているですって………?」

 

 

カオス「どうしてカタスさんが………?」

 

 

 ウルゴスを批難され激昂していたアローネもレイディーの発言に耳を傾ける。

 

 

レイディー「頭のいいあの人のことだ。

 バルツィエに昔渡したっていうネクロノミコンやその他の書物とかは今バルツィエによって悪用されてるよな?

 要するにそれらはカタスの手に余る代物だったから人に渡しちまったんだろうがそれらの出所は()()()()()()()()()()()()()()()()?

 目覚めたカタスの側にあったってことはそういうことだろ。

 

 

 ウルゴスでは()()()()()()()()()()()ってことだ。

 それも王族が直接研究してたんだろうよ。

 お前や他の貴族の連中に対しても極秘でな。」

 

 

 レイディーの推測は反論もしようが無いほどに合理的だった。カタスがバルツィエに授けたという資料にはヴェノムについての詳しい研究成果が記されていたからこそバルツィエは誰よりも早くにヴェノムに対する対処法をとることができたのだろう。

 

 

アローネ「そんな………。」

 

 

レイディー「カタスはウルゴスの技術を利用しようとは思わなかったみたいだがな。

 多分あの国が建国時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 それを治すために力を貸したんだろうがバルツィエは返却することはなかった。

 筋書きはこんなところだろう。

 それで今のバルツィエの完成だ。

 バルツィエですら最悪なのにヴェノムを作り上げた奴なんかを復活なんてさせてみろ。

 それこそ取り返しのつかない事態にだって陥ることもある。」

 

 

アローネ「………」

 

 

レイディー「…悪いことを言うようで心苦しいところではあるが王になりたいって言うんならもっと他のことに目を向けろ。

 今のこの時代はアタシ達の時代なんだ。

 ダレイオスだってあの六部族の国だってことを忘れるな。

 その頂点に立つってことはそいつらのことを第一に考えなくちゃならねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルゴスのことはカーラーン教会だけに任せておけばそれでいいんだよ。

 信用のある奴にお前の仲間達を見つけてもらってからその眠ってる奴が本当に目覚めさせていい奴なのかもカタスと慎重に目覚めさせるか決めろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボーデン公道 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからアローネは一人でトリアナスの外のボーデン公道まで出てきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………ヴェノムが………まさかウルゴスで作られたものだったなんて………。」

 

 

 アローネからすればショックが大きかった。ウルゴスが滅びた原因はヴェノムだがそれは敵国ダンダルクの攻撃によるものだと思っていた。それかウルゴスやダンダルクの時代よりも遥か昔に作られたものを偶然発見してしまいそれが流出しただけなのだとも。

 

 

 だが過去のことを調べれば調べるほどウルゴスがヴェノムに関与している証拠しか上がらない。誰が作ったのかは不明だがもしヴェノムを作りし者に携わる輩でも目覚めようものならどうなるか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………やはりダレイオスを利用するような形でウルゴスの人々を救う方法は間違っているのでしょうか………。

 ………私はどうしたら………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何かお悩み事ですか?

 ()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネが物思いに耽っていると不意に彼女に声をかける人物が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!

 貴方は………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――翌日――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリアナス 部族会議室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝になって昨日のメンバーが会議室に揃って行く中アローネの姿だけがいつまでも会議室の中になかった。

 

 

オサムロウ「………カオス、

 アローネはどうしたのだ?」

 

 

カオス「…昨日あれから俺達も見てません………。」

 

 

オサムロウ「見ていない………と?」

 

 

ミシガン「部屋にはいなかったから先にここに来てると思ったんだけど………。」

 

 

ファルバン「フム………、

 どうしたものか………。

 昨日のことが無ければこのまま本題に移ってもよいのだが………。」

 

 

 今回の議題はダレイオスの王に誰が相応しいかだ。それについて話し合うためにここに皆集められたのだが昨日立候補したアローネがいないのではどうしようかと迷うところだ。

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「恥かいたから出るに出られねぇんじゃねぇか?

 自分がダレイオスの王になれるだなんて思い上がったこと口にしちまったもんで途中で恥ずかしくなって出席出来ねぇんだろ。」

 

 

 アローネがいないのをいいことにオリヘルガが好き放題アローネの悪口を言う。

 

 

ハーベン「口を慎めオリヘルガ!

 ダレイオスの復興に尽力したお人だぞ!」

 

 

オリヘルガ「つっても昨日の感じ見た限りじゃお前等のところもそこまであの女が活躍した場面なんて無かったんだろ?

 結局はカオス=バルツィエが全部手柄を上げたようなもんだろうしな。

 カオスさえいたら他なんてただのオマケみたいな連中だろ。」

 

 

ウインドラ「何………?」

 

 

タレス「言ってくれますね。

 イフリートの傀儡と化していたブルカーンが何を大層な口をきいてるんですか?」

 

 

オリヘルガ「あ”ぁ?

 ……カオスには勝てる気はしねぇがテメェ等には腕っぷしで負けるつもりはねぇぞ?

 会議の前にテメェ等を畳んじまってもいいんだ「遅くなりました!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラ達とオリヘルガの間に剣呑な空気が流れ始めたところでアローネが会議室へと入ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてアローネに続いてもう一人の男性が部屋の中へと入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………昨日と同じく私はダレイオスの王選定に立候補します!

 昨日はカオスの旅の同行者という扱いで立候補しましたがそれは撤回します!

 代わりに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーラーン教会ダレイオス支部所属()()()アローネ・リム・クラウディアが立候補します!

 此度の戦はカーラーン教会も参戦させていただきます!

 カーラーン教会の代表として望むのであれば何も文句はないはずです!!」



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カーラーン教会参戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「カーラーン教会が参戦!?」」」」」」

 

 

 アローネが宣言したカーラーン教会参戦に会議室にいた族長達が盛大に驚いた。

 

 

 

 

 

 

カオス「カーラーン教会が戦いに参加するの………?

 でも教会は中立なんじゃ………。」

 

 

レイディー「あぁ、

 カーラーン教会の方針は二つの国のいさかいには干渉しないっていう決まりがある。

 それが何で教会がダレイオスに肩入れするんだ………?

 

 

 ………いやそれよりもだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「どういうことだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()

 何故ソナタがここにいる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネと一緒に会議室へと入ってきたのはカーラーン教会のコーネリアスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「小生がこの場に参ったのはカーラーン教会の今後の旨を伝えるためです。

 オサムロウ氏。」

 

 

オサムロウ「今後だと………?」

 

 

コーネリアス「えぇ、

 実は先日のこと………、

 

 

 我が主カタスティア教皇の生存を確認いたしました。」

 

 

 

 

 

 

カオス・タレス・ウインドラ・レイディー「「「「!!」」」」

 

 

 コーネリアスからカタスが生存していたことを聞く。長らく行方が分からなかったカタスがダレイオスに戻っているということなのだろうか。

 

 

オサムロウ「真か!?

 それでカタスティア様はどちらに!?」

 

 

コーネリアス「大変恐縮でありますが主様はまだマテオにおられます。

 マテオでバルツィエの同行を探っておられるようです。」

 

 

オサムロウ「………そうか。」

 

 

 残念ながらカタスはまだマテオにいるようだった。情報としてはオーギワン港から南部にかけてのどこかにいるようだが結局行方は掴めないままだった。

 

 

 落胆する一同にコーネリアスは更に言葉を続ける。

 

 

コーネリアス「主様は御不在ではありますがその代わりといって()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「言伝て?」

 

 

コーネリアス「一つが先程アローネ様が仰ったように彼女を正式にカーラーン教会の枢機卿に任命することです。」

 

 

オサムロウ「そうそれだ。

 読師やら助祭などの過程を省いて卿と同じ枢機卿の地位だと?

 何故カタスティア様がそのようなことを………。」

 

 

コーネリアス「主様からはアローネ様は祖国で十分な教養を得ているとのことで急遽この位階が贈与されました。

 小生とは同位の称号ではありますがもう一つの言伝てで小生よりもアローネ様の立場は更に上へと上がります。」

 

 

カオス「もう一つの………?」

 

 

コーネリアス「我が主はこのように仰いました………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()<()b()r()>() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()<()b()r()>() ()()()()()()<()b()r()>() ()()()()()()()()()()()()()()()、とのことです。」

 

 

 

 

 

 

 カタスからの言伝ては想像以上の内容だった。たった一日の間にアローネがカーラーン教会のトップにまで上ってしまった。

 

 

アローネ「…昨日のことも踏まえて昨晩コーネリアスさんと二人で話し合いました。

 私がダレイオスの王に立候補する目的はダレイオスの方からすれば不純なものだと思います。

 私はダレイオスのためではなく私の祖国ウルゴスの人々のために王になろうとしておりました。」

 

 

オーレッド「そういえばそんなこと言っておったのぅ。

 前に見せてもろうたウルゴスとやらの技術力は驚嘆に値するものじゃったしな。」

 

 

クララ「このダレイオスのためではなくウルゴスのため………?

 ウルゴスとは一体どこにある国なのですか?」

 

 

ナトル「ダレイオスにはそのような国があったという話は聞いたことはありませんが………。」

 

 

オリヘルガ「こいつマテオからの来訪者じゃなかったのか?

 ウルゴス?

 そんな国あんのか?」

 

 

 ウルゴスのことを聞くと族長達は突如聞いたこともない謎の国のために王になりたかったというアローネを妙なものを見るような目で見詰める。

 

 

ファルバン「…カーラーン教会がマテオとの戦いに参戦したいということは理解した。

 だが今から会議に加わったところで我等の方は既に戦に向けての準備は完了している。

 カーラーン教会として立候補するとは申すがそれではかえって立場的に余計王にならんとする資格が遠のくのではないか?」

 

 

オリヘルガ「今更カーラーン教会が来たところで遅いんだよ。

 テメェ等教会に何が出来るんだっての。」

 

 

 ファルバンやオリヘルガが言うようにこの時点でカーラーン教会が加わっても何もすることは無いように思える。ブロウン、カルト、アイネフーレの戦力が欠けている分を補充するにしても数が足りることはないだろう。そんな状況で教会から他の部族のように王に名乗りを上げる権利を得るのは流石に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「御心配無用です。

 小生等教会はここにおられるどの部族よりも早くマテオとの戦いに備えて準備をしてきましたので。」

 

 

ファルバン「準備とな………?

 それはどの様な準備だ?」

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「()()()()()()()()()()()にございます。」

 

 

ファルバン・ミネルバ・オーレッド・ナトル・クララ・オリヘルガ「「「「「「!」」」」」」

 

 

 コーネリアスの一言で族長達が反応する。

 

 

コーネリアス「貴殿等は自国の体勢を整えるばかりでこれから戦う相手の情報を詳しく存じておられますか?

 バルツィエがどれ程の戦力を持ちどこを拠点にしているかやどの辺りが警戒が厚いのかまたは薄いのかを把握しておられますか?

 敵はバルツィエの隊長達ばかりではないのでございますよ?

 彼等に従う傘下の者達やそれぞれが使う武器をお調べになられましたか?

 お調べになられておりませんよね?

 貴殿等はダレイオスから一歩もマテオへと足を踏み入れてはおられないのですから。

 教会は半年前に本部を襲撃された際から既にマテオとは中立ではなくなりました。

 ですのでいつかこのような日が来ることを待ち続けていたのですよ。

 貴殿等のような無鉄砲にマテオへと挑もうとする慌て者にはマテオの詳細な情報を欲するのではないかと。」

 

 

ファルバン「………ソナタの言う通りだ。

 確かにマテオと戦うにしてもあちらの国のことについては何も情報を掴めてはおらぬ。」

 

 

ミネルバ「正面突破することしか考えてなかったからどこが守りが手薄なのか知ることが出来たら船を沈めずに済んで助かるけど………。」

 

 

オーレッド「此方の武器を揃えるので手一杯だったのでな。

 マテオの情報については手付かずじゃったわい。」

 

 

ナトル「内陸側のフリンクとしても大陸を渡る術は持ち合わせていなかったのでマテオへの偵察は出せないところでした………。」

 

 

クララ「アインワルドとしては教会が味方につくのは助かるところですが………ブルカーンはどうなのですか?」

 

 

オリヘルガ「ハーフエルフの集団はあまり好きじゃねぇ………………がブルカーンとしてもイフリートのせいで多く仲間を失ってるんだ。

 仲間が犠牲にならないためにも敵のことをよく知る奴等が味方につくのは願ってもねぇことなんじゃねぇか?」

 

 

ファルバン「………ということだそうだ。

 コーネリアス枢機卿とそれからアローネ()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソナタ等の要望は聞き届けた。

 我等ダレイオスをソナタ等の戦に加えて欲しい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!

 はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてマテオとの戦いに向けた勢力はマテオとダレイオスの戦いからマテオとカーラーン教会の戦いにダレイオスが教会側につく形となって成立した………。



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リーグ戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「これは………どういった組合わせだ?」

 

 

 コーネリアスが提示した紙に書かれたリーグ表を見てオサムロウが問う。

 

 

コーネリアス「御覧の通りでございますよ。

 先ず始めにブルカーンとカーラーン教会の代表が戦い勝者が次のアインワルドと戦いそのまた勝者がミーアと戦いそしてそこでの勝者が決勝戦でクリティアと戦うことになります。

 最後の決勝を征した者こそがこのダレイオスの大王となるのです。」

 

 

オーレッド「なんと………!

 儂等クリティアが決勝に進むことは決まっておるのか!?」

 

 

コーネリアス「はい、

 各々が大王になるためにはブルカーンとカーラーン教会は()()、アインワルドは()()、ミーアが()()、クリティアが()()するだけで大王の座へと辿り着くのです。」

 

 

クララ「…なんとも偏ったシード権ですね………。

 これを貴方が一晩で………?」

 

 

ミーア「これかなりクリティアに傾き過ぎなんじゃないのかい?

 私等が言うのもなんだけどクリティアに都合が良すぎるだろ。」

 

 

コーネリアス「話し合いで解決出来ない以上これ程の解決策がございますか?

 それに王を名乗られるのならそれなりに力を示さなくてはなりませんでしょう?

 半端な者に大役は任せることは出来ますまい。

 後々文句を仰られぬようにこの組合わせなのです。

 

 

 これに参加するということはその場でこの大王の取り決めに合意したものと見なします。

 ここで敗北しても抗議一切を受け付けません。」

 

 

ファルバン「とは言ってもこれを見た限りでは一つ一つの戦いは一対一の戦いなのであろう?

 一つの勝敗が決してもその後の休憩などの時間を挟めばブルカーンにはそこまで不利なものでは「休憩時間はありませんよ。」!」

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「戦いに決着がつき次第即座に次の相手と戦っていただきます。

 休憩を挟む余裕などありません。

 始めのブルカーンとカーラーン教会の勝者は五分と経たぬ内に次の相手アインワルドと戦っていただきます。

 その後も同様です。

 

 

 ………どうなされますか?

 このダレイオス大王位決定戦を執り行う方向で宜しいでしょうか?」

 

 

 コーネリアスは事も無げに淡々とルールを説明する。クリティアやミーアは万全な状態で戦いに望めるわけだが始めの方のブルカーン、カーラーン教会、アインワルドはその後の戦いのことも考えてペース配分に気をつけねばならない。かといって初戦から相手を甘く見ているといきなり敗退に消えることになる。

 

 

オーレッド「儂等は構わんぞ。

 これ以上ない程の条件じゃ。

 他はどうする?

 なんなら儂等の不戦勝ということになるが?」

 

 

ミネルバ「まだそうと決まったわけじゃないでしょ。

 ………って言っても私達もこれ以外に案があるわけじゃないしブルカーンやカーラーン教会はそれでいいのかい?

 断然不利な戦いを強いられることになるけど………。」

 

 

アローネ「私達から提案したのですからこれで構いません。

 ブルカーンはどうなさい「ククク!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「俺達ブルカーンもこのリーグ戦でいいぜ?

 合意してやろうじゃねぇか。

 勝っても負けても後で愚痴は言ったりしねぇよ。」

 

 

 カーラーン教会と同じくもっともリーグ戦で不利なブルカーンのオリヘルガが笑みを浮かべながら大会の開催に賛同する。

 

 

クララ「自棄に嬉しそうですね?

 貴殿方ブルカーンはカーラーン教会、私達アインワルドとミーア、クリティアと四人の候補者に勝たねば優勝出来ないのですよ?」

 

 

オリヘルガ「たった四人………だろ?

 スラートは大会に参加しないんだよな?

 だったらこの大会は俺達の優勝が決まったようなもんじゃねぇか。

 大会に参加するのは全員()()()()()のクリティアやミーア、アインワルドの連中じゃねぇかよ。

 たった四人だけなら接近戦に持ち込んで潰しちまえば大した消耗もねぇ。

 

 

 

 

 

 

 何より一回戦の相手はこの間この俺に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 負ける未来が想像できねぇよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「おいカーラーン教会、

 俺達ブルカーンはこの大会の開催を支持してやる。

 堂々と俺達ブルカーンが優勝をかっさらってやるから覚悟しな。

 俺が大王になった暁にはハーベンテメェを濃き使ってやるよ。」

 

 

ハーベン「それは貴様が勝てればの話だ。

 貴様こそ油断して足元を掬われないようにな。」

 

 

オリヘルガ「そんなことあるわけねぇだろ。

 それでどこでこの大会を開くんだよ?

 俺達はいつでもどこででもいいぜ?

 なんならここでケリをつけたっていいんだ。

 さっさと会場を用意しろよ。」

 

 

コーネリアス「それでは大会はダレイオスの頂点を決めるのに相応しく()()()()()()()()()()()()で行うというのはいかがですか?」

 

 

オサムロウ「闘技場か………。

 しかしあそこは諸事情により半壊しているぞ。

 整備もそれから怠っている現状だが………。」

 

 

コーネリアス「御心配なくその程度の作業であればカーラーン教会でさせていただきます。

 マテオの情報だけでは手土産としては不足でしょうし人数にしてもそう多くは必要ないでしょう。」

 

 

オリヘルガ「!

 待てよ。

 それなら俺達ブルカーンがやってやる。

 教会になんか任せてたらどんな小細工を仕込まれるか分かったもんじゃねぇからな。

 結局ブルカーンはここに来て何もしてねぇし手の空いてる奴しかいねぇんだ。

 それぐらいなら俺達だけでやってやんよ。」

 

 

オーレッド「そういうお前さん達が小細工を仕込むのではないか?」

 

 

オリヘルガ「言っただろ?

 テメェ等なんかにブルカーンは負けねぇ。

 勝てる試合にわざわざ卑怯な手段を使う必要なんてねぇんだ。

 正攻法でテメェ等全員ぶっ潰してやるよ。

 

 

 

 

 

 

 会議は終わりだろ?

 俺達ブルカーンは一足先にセレンシーアインに向かってるぜ。

 精々不様を晒さないよう作戦でも立てときな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタン……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガが会議室をあとにする。それに続きクララとミネルバも立ち上がる。

 

 

ミネルバ「出場選手は族長じゃなくてもいいのかい?

 うちで一番腕に自信のあるのを出場させたいんだけど………。」

 

 

クララ「武器や道具の使用はどこまでを許容されるのですか?

 それによってはこれから準備を始めませんといけませんし………。」

 

 

コーネリアス「出場選手は何方でも宜しいかと。

 武器や道具は何でもありです。

 ただ同盟国同士の大会でもあるので最低限殺生は禁ずるものします。

 ですので刃物の類いはお奨めしません。

 使うとしても峰打ちにしか使えないと思います。」

 

 

オーレッド「殺すのは無しか………。

 まぁ当然じゃろうな。

 じゃが道具が何でも有りとは良いことを聞いたわい。

 早速儂等のオールディバイドを実験するのに持ってこいの大会じゃな。

 この大会は儂等の優勝は確実なものじゃろうのぅ。」

 

 

 コーネリアスに質問を終えると他の族長達も退室していく。残されたのはカオス達とスラート組とナトル、アローネ、コーネリアスの二人だ。

 

 

ナトル「………これで私達の真の王が決まるのですね。」

 

 

ファルバン「四つの部族とカーラーン教会の五つの勢力から一人………。

 スラートとしてはブルカーンとクリティアには勝ち残ってほしくはないところだな。」

 

 

ハーベン「カーラーン教会はあのリーグの組分けで宜しかったのですか?

 ブルカーンと同じく初戦から四戦………。

 教会が活動していた時期からしてもクリティアと同位かクリティアよりも上の方でもよかったと私は思いますが………。」

 

 

コーネリアス「いいえ、

 本来は教会はこの戦いには参加する権利すらなかったのです。

 中立を貫きダレイオスともマテオとも別の陣営と位置していたのを強引にダレイオス側に率いれていただいたのですからこれぐらいの不利を背負うのは至極当然です。

 お気になさらずに。」

 

 

オサムロウ「そうはいうが………初戦の相手は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「アローネ様。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「はい。」

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「貴女様が人の上に立つのであればこの程度の試練は軽く乗り越えなくてはなりません。

 貴女様の掲げる目標はとても高く険しく長い道のりの果てに叶えられるものです。

 ここで乗り越えられなければ貴女様はこれから先に貴女の願いが成就することはないでしょう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自らの誓いを貫き通したくば勝ち抜きなさい。

 それしか貴女様がウルゴスの民を救う方法はありません。

 それが無理なのであれば潔く諦めなさい。

 貴女様には夢を追う資格はありません。

 諦めて小生と共に教会に一生その身を捧げていただきます。

 ウルゴスの民を探すことも許されません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴女様にこの戦いを勝つ覚悟は有りますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「勿論です!」

 

 

 コーネリアスの言葉に勢いよくアローネは返事をする。

 

 

 

 

 

 

 こうしてアローネと他の部族との大王を決めるダレイオス大王位決定戦が開幕した………。



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亀裂

トリアナス砦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「何やら大事になったな。

 ダレイオス大王位決定戦などという大会が開かれるとは………。」

 

 

ミシガン「案外すんなり決められるもんだと思ってたけど皆王様になりたかったんだね………。」

 

 

タレス「大会のこともそうですがアローネさんがコーネリアスさんを連れて会議室に入ってきたのにはびっくりしましたよ。」

 

 

カオス「そうだね………。

 昨日のうちに何があったんだろ………?」

 

 

カーヤ「アローネさん他の王様になりたい人達と戦うの?」

 

 

レイディー「そうなるだろうな。

 最後にあのコーネリアスって奴との話を聞く限りじゃどうしてもウルゴスの奴等を目覚めさせたいようだしな。

 よっぽどウルゴスの奴等のことで根を積めてやがる。

 自分達であんな大会を開かせるんだからよ。」

 

 

 カオス達と同じ立場で発言すればアローネにはこれといった活躍も無く王の選出の話には混ざることもできなかった。そこで立ち位置を変えてカーラーン教会代表として王の選任に名乗りを上げることでアローネにも王を狙えるだけの権利を獲得した。これで勝ち上がればアローネは念願の王座につき戦後は世界の各地に眠るウルゴスの同胞達を探す手助けを世界中に具申できるだろう。

 

 

 だが問題はその大会で勝ちを納めることが出来るかどうかだ。

 

 

レイディー「自分達で言い出したことだろうから何か策があってのことなんだろうが初戦は()()()()()()()だ。

 アタシの目から見てもあいつにあの猿が勝てるようには思えねぇ。」

 

 

ウインドラ「昨日のあのカオスの術によって精霊の力は皆に配布された。

 それによってどの部族も今は使える術の属性は一つになっているはずだ。

 風を得意とするアローネの対になる地属性の術者が大会に参加していないのは救いだがどうなるか………。」

 

 

タレス「大会に参加するのは火属性を使うブルカーン族と水属性のミーア族、氷属性のクリティア族と………元から精霊の力を宿しているアインワルドのクララさんです。

 クララさんの力が今どうなってるのかも気になりますね………。」

 

 

ミシガン「クララさんが地属性の術を使えなくても四人全員に勝たなきゃいけないんでしょ………?

 途中でマナが底をついたりでもしたらいくらアローネさんでも………。」

 

 

 考えれば考える程アローネにとっては厳しすぎる条件の大会だ。この大会はブルカーンと同じく連戦を強いられることになるが初戦の相手からして既に勝ちの目が見えない。一体どういう真意でこの自らに不利な大会を申し出たのか………。

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………!

 アローネさんが来るよ。」

 

 

カオス「!」

 

 

 大会について考察しているとアローネがコーネリアスを連れてやって来る。

 

 

 

 

 

 

アローネ「!

 皆………ここに集まられていたのですね。」

 

 

カオス「アローネ………とコーネリアスさん。」

 

 

コーネリアス「御無沙汰しております皆様。

 先程はさぞ驚かれたことでしょう。」

 

 

ウインドラ「一体どういうことなんだ?

 カタスティア教皇と連絡が取れたというのは行幸だが彼女からアローネを枢機卿に任命され更にはカーラーン教会代表だと?」

 

 

レイディー「本当にカタスの支持なのか?」

 

 

コーネリアス「左様、

 先日教会の遣いの者から報告が御座いまして皆様がマテオのオーギワン港で船に乗れずに立ち往生している現場を教皇が確認されていたとのことです。」

 

 

カオス「あそこにカタスさんがいたんですか!?」

 

 

ウインドラ「何故一言声をかけにこられなかったんだ?」

 

 

コーネリアス「丁度皆様をお見掛けになった辺りで南部の方へと御用があったとかで皆様にお声掛けをするのを躊躇っていたようでございますよ。

 それで仕方なくその場は皆様と再開する機会を逃してしまったようです。」

 

 

タレス「南部に用ですか………?」

 

 

コーネリアス「今度の戦ではダレイオスの軍は南部の方からマテオへと侵入する手筈となっております。

 なんでも今マテオは北部に勢力を集中しているらしく南部の警備は手薄になっているとのことで教皇が調査をなさっていたようです。

 教皇がアローネ様を枢機卿及び教皇代理へと任命された件につきましてはいつかマテオとダレイオスの決戦の日が来ることを予見していたからです。

 もし御自分の身に何か不幸があった時には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()申されておりました。」

 

 

ミシガン「それがアローネさんなの………?」

 

 

コーネリアス「マテオでも貴方様方がダレイオスに渡られたことは広まっております。

 敵国であるダレイオスに向かわれたということはその敵の手を借りてバルツィエと対峙するというのは想像に難くありません。

 教皇はダレイオスの状勢も存じておりましたのでアローネ様がどこかで御自身の力が至らぬことで悩んでおられるだろうということで私にアローネ様の元へと向かうように命を受けました。」

 

 

レイディー「随分と猿は()()()()()()()()

 過保護もそこまでいけば本物だな。」

 

 

アローネ「カタスの信頼に応えるためにも私は今度の大会で負けることは許されません。

 絶対に他の四名を倒して王の座につきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………つきましては暫く皆とは御一緒できません……。

 これから私はコーネリアスさんと共に大会の日までつきっきりで稽古をつけていただきます。」

 

 

 唐突にアローネはカオス達と別行動をとることを告げる。

 

 

カオス「え………?」

 

 

タレス「アローネさん、

 修業するんですか?」

 

 

アローネ「今のままでは自分でも他の候補者達を押さえて勝ち上がるのは難しいと自負しております。

 ですので私は大会の日までに戦いの技術を上げねばなりません。

 勝手なことだとは思いますがどうか分かっていただけませんか?」

 

 

ウインドラ「…まぁ事情が事情だしな。

 無事に勝ち残るには修業しかないだろうしな。」

 

 

タレス「コーネリアスさんはそういった手解きは得意なんですか?」

 

 

コーネリアス「小生はこれまで何人もの教会に在籍する者を見てきましたから指導については問題はないかと。」

 

 

ミシガン「!

 確かオサムロウさんがコーネリアスさんって自分と同じくらい剣の腕があるって前に言ってたね。」

 

 

レイディー「あのオサムロウってのがどんぐらい強いのか知らんがそこまで言うんなら任せてもよさそうだな。

 程ほどに鍛えてやってくれ。」

 

 

 コーネリアスがアローネをみるということでウインドラ達はアローネの要望を受け入れる。別行動とはいっても大会が終了すればまた戻ってくるので素直にアローネを送り出すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中カオスだけが浮かない顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(…本当にアローネにオリヘルガ達が倒せるのか………?

 どんな特訓をするのか分からないけど大会まではそんなに時間は無さそうだし………。

 数日………数十日でアローネがあの人達全員を相手にするまでに強くなれるのかな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはアローネの勝利を信じることは出来なかった。カオスはこれまでの旅で一番アローネと長く過ごし彼女のことを見てきた。だからこそ彼女の実力では大会でどのような結末を迎えてしまうか想像してしまい彼女の敗退する姿を強くイメージしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてカオスはアローネに対して()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それがカオスとアローネの二人の間に溝を作る原因となってしまうのだった………。



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大会への準備

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー一ヶ月後ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都セレンシーアイン 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「こんなもんでいいんじゃねぇか?」

 

 

コーネリアス「えぇ、

 小生も十分ではないかと思います。」

 

 

 ダレイオス王位決定戦の開催発表から一ヶ月、ブルカーンとカーラーン教会の者達でセレンシーアインにある以前カオスが半壊させた闘技場を修復しそれが今日漸く作業が完了した。

 

 

オリヘルガ「………ヘヘ、

 ここで俺達ブルカーンが頂点に立つのか。

 大会はいつ開く予定なんだ?」

 

 

コーネリアス「そうですね………。

 貴殿方ブルカーンはこの一ヶ月ここでの工事に携わりきりでしたし調整の期間をとらなければならないですからまた更に一ヶ月程時間を空けてからに致しましょうか。」

 

 

オリヘルガ「また一ヶ月か?

 そんなに待ってられるかよ。

 一週間後………なんなら三日後くらいでもいいぜ?

 調整なんて必要ねぇよ。

 俺だって空いてる時間に多少なりとも腕は磨いていたつもりだ。

 」

 

 

コーネリアス「その程度の時間で宜しいのですか?

 修復作業も終わったばかりですし体調を整えるのも大事だと思われますが………。」

 

 

オリヘルガ「どうせ俺がストレートに勝つ大会なんだ。

 他のところの連中だって大王が決まるのを引き伸ばしてばかりだと気が滅入るんじゃないのか?

 さっさと結果を出して()()させてやろうじゃねぇか。

 

 

 勝つのはこの俺オリヘルガなんだからよ。」

 

 

コーネリアス「…そう仰られるのであればそのように通達します。

 

 

 では大会は本日から()()()()とします。」

 

 

 

 

 

 

 その後カーラーン教会から各部族に大会の日取りが決まったという話が広まる。それからはどの部族も浮き足立ったように騒がしくなる。大会に参加する選手はそれ以上に士気を高め大会に向けての修業に熱を入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「いやぁなんかダレイオスも盛り上がってきてるでやんすねぇ。

 ダレイオスに戻ってきてから俺っち達うさにんが珍しく大忙しでやんすよ。

 久々の仕事なもんでうっかり御客さんの荷物を置いたまま現地に行ったりしてしまうこともしばしばでやんすが。」

 

 

タレス「またてきとうな仕事をしてるんですか?

 ダレイオスからいなくなる前からそんな感じだったじゃないですか。」

 

 

マクベル「そうだったでやんしたっけ?

 俺っち達過去は振り返らない主義なんで。」

 

 

ウインドラ「相変わらず反省はしないようだな。

 そんなことではかめにんに仕事を奪われるんじゃないか?」

 

 

マクベル「かめ達はダレイオスまでは来ないでやんすよ。

 あいつらは建設的だとかでマテオの儲かる方にしかいないでやんすから気楽なもんでやんす。」

 

 

ミシガン「本当にこの人達に仕事任せててもいいの?」

 

 

 運搬業は専属的にうさにんに任せきりであるためどこかで要らぬ支障を来さないかと心配になるカオス達。うさにんに頼るぐらいならかめにんを連れてきた方がよいとは思うが生憎とかめにんはマテオにしかいない。

 

 

マクベル「あ………そうでやんした。

 御客さん達にちょっとだけ()()させてもらってもいいでやんすか?」

 

 

カオス「取材………?」

 

 

レイディー「また面倒なことを押し付けようってんじゃないだろうな?」

 

 

マクベル「また何かをしてもらおうって言うんじゃないでやんすよ。

 御客さん達はダレイオスを回ってヴェノムの主を倒したりダレイオスの人達をウイルスに感染しなくなる術をかけてきたでやんすよね?

 御客さん達のおかげでダレイオスにいたうさにんの仲間達もヴェノムを恐れずに仕事が出来るようになって大助かりでやんす。

 

 

 そこで俺っちこれを機に()()()()()()ってのを作ろうと思うでやんすよ。」

 

 

タレス「ヴェノム図鑑………ヴェノムの図鑑を作るんですか?」

 

 

 急にマクベルはヴェノム図鑑という聞きなれない単語を語り出す。

 

 

マクベル「感染個体って今までは一重に変異前をゾンビ、変異後をヴェノム形態って分けていたでやんすからそんなに分けて考える必要は無かったでやんすけどまたいつか御客さん達が倒してきたヴェノムの主に変わる新しい種のヴェノムが出現した時のためにヴェノムについては詳しく調べておきたいでやんすよ。

 俺っち達ヴェノムの主が現れてからはダレイオスからとっとと逃げ出したでやんすからヴェノムの主については名前ぐらいしか知らないでやんす。

 なんで御客さん達に御客さん達が倒してきたヴェノムの主の特長を教えてほしいでやんすよ。

 もし図鑑が完成してブルータルヴェノムがダレイオスの西側に出現した時に西側の人達がブルータルのことを知っていたら対処法に困らないでやんすよね?」

 

 

ウインドラ「確かに………一理あるな。」

 

 

 マクベルの言うことは分かる。ダレイオスの各部族は自分等の領にヴェノムの主が出現してからはその主達に対処するために一度領へと戻った。そうした動きから他の地方の主のことをよく知らない傾向にあったのだ。オサムロウやオーレッドなどはそれぞれの地方に現れたヴェノムの主こそが最強の主だと思っていたくらいだ。

 

 

マクベル「では順番に御客さん達が相手にしてきたヴェノムの主から特長を教えてもらっていいでやんすか?

 今メモをとるんで。」

 

 

ウインドラ「………そういうことなら先ずブルータルからだな。

 

 

 ブルータルは巨大を駆使した突進攻撃と牙から発する雷撃で真正面から対峙するのは危ない相手だった。

 気を抜けば一瞬で遠くまで突き飛ばされてしまうほど激しい攻撃をしてくる大猪だ。」

 

 

マクベル「フムフム………なるほど。

 ………次はクラーケンお願いしますでやんす。」

 

 

ミシガン「クラーケンは八本の触手を伸ばして私達を絡めとろうとしてきたよ。

 最初はカイクシュタイフの洞窟の中にいたんだけど地面の中に息を潜めて触手だけ伸ばして攻撃してきたの。

 触手は切り落としても洞窟内のモンスターを吸収してまた再生して襲ってきた。

 一晩かけてモンスターを駆逐してから本体が出てきて漸く倒せたよ。

 とんでもない大きな蛸のモンスターだった。」

 

 

マクベル「ほうほう、

 再生能力がヴェノムの中でもずば抜けて高い個体だったでやんすね。

 次は………ジャバウォックをどうぞでやんす。」

 

 

レイディー「…ジャバウォックはとにかく五月蝿い奴だった。

 獲物を見付けるにしても咆哮、攻撃する時にも咆哮、攻撃を食らっても咆哮、何もしていない時にも咆哮………。

 …直接食らってはいないが腕を振り回してくる攻撃にはそれなりに破壊力はあったと思うぜ。

 それぐらいだな。」

 

 

マクベル「雄叫びが第一に来るモンスターだったんでやんすね?

 それは………遭遇する前に雄叫びを聞いて遠くまで逃げられそうでやんすね。

 ………えっと………今何体目でやんしたっけ?

 あと何体残ってたでやんすか?」

 

 

カオス「あとはビッグフロスターとカイメラとアンセスターセンチュリオン、イフリートとそれから「その四体だ。」!」

 

 

 

 

 

 

レイディー「ヴェノムの主は全部で()()しかいなかった。

 フェニックスについてはありゃデマだった。

 フェニックスなんざ始めからいなかったんだよ。」

 

 

 カオスがフェニックスの名を出そうとしてそれを遮りレイディーが嘘をマクベルについた。

 

 

マクベル「ありゃ?

 フェニックスはいなかったんでやんすか?」

 

 

ウインドラ「!

 ………あぁ、

 フリンク領に行ったがフェニックスなんてヴェノムの主はいなかった。

 フリンク族自体がそこまで戦闘が得意ではないために普通のジャイアントヴェノムをヴェノムの主として報告してしまったんだろう。」

 

 

マクベル「そうだったでやんすか………。

 まぁいないならいないでそれにこしたことはないでやんすね。」

 

 

 ウインドラの咄嗟の機転でどうにかマクベルを騙すことに成功する。実際にはフェニックスは存在したがそれは今もカオス達と共にいるカーヤがそれに擬態した姿だからだ。彼女はヴェノムの主などと呼ばれるような凶悪なモンスターなどではなく普通のフリンク族だ。バルツィエの血も受け継いではいるが彼女自身はとても穏やかで人に害を与えるような人柄ではない。カオス達はフェニックスは元々いないということにするのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………………有り難う………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隣にいたカーヤから小さな声で御礼を言ったのが聞こえた。マクベルには聞こえなかったようだがカオス達はその声をはっきりと耳にするのだった………。



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ヴェノム図鑑

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクベル「アンセスターセンチュリオンについては俺っちでデータは既に取ってるでやんす。

 俺っちも現場にいたでやんすからね。

 最後のあの大山のようなアンセスターセンチュリオンは俺っち的にはトレント達が集まってできた化け物だったんで別名に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と名付けたでやんす。」

 

 

カオス「ユナイテッド・アンセスターセンチュリオン………もうあんなヴェノムは出てきそうにはないですけどね………。」

 

 

マクベル「てなわけで他の残り三体をお願いしますでやんす。

 ビッグフロスターとカイメラとイフリートが残ってるでやんすよね?」

 

 

タレス「ビッグフロスター………については実はボク達は戦ってないんです………。」

 

 

マクベル「?

 どういうことでやんすか?」

 

 

 ブロウン族を襲っていたというビッグフロスターはカオス達がトロークンに着いた時にはカイメラへと吸収されていた。実際にはカイメラがビッグフロスターでありカイメラでもあるのだからどう説明すべきか。

 

 

レイディー「ビッグフロスターはカルト族のところにいたカイメラっていう別のヴェノムの主に吸収されて更に変異していたんだよ。

 ありゃ他の主達の中でも頭一つ飛び抜けた怪物だった。

 アタシも一人で挑んでみたが五つの属性の攻撃を受け付けない凶悪なモンスターだった。」

 

 

マクベル「ヴェノムの主がヴェノムの主を吸収したんでやんすか!?」

 

 

ウインドラ「あぁ、

 そしてどうやらカイメラには()()()()()()()()()()()にも変身出来るらしくてな。

 カイメラがビッグフロスターの姿に変身して俺達を襲ってきた。

 他にもバタフライやらブルータルやらマンティコア、ビッグフロスター、ジャバウォック、レッドドラゴン………最終的にはその六つの個体の首を持つ異形の化け物へと姿を変えていった。

 その形態の時は六属性全ての攻撃を無効化された。

 あれを倒せたのは奇跡としか思えない程だった。

 カオスが倒せなかったら恐らく世界はカイメラによって滅びて終うのではないかと想像したくらいだ。」

 

 

マクベル「えぇ!?

 あのユナイテッド・アンセスターセンチュリオンよりもヤバそうなのがいたでやんすか!?

 俺っちはユナイテッド・アンセスターセンチュリオンだけでも世界の終わりを予感したでやんすけど。」

 

 

ミシガン「ユナイテッド・アンセスターセンチュリオンも相当だったと思うけどね。

 でもカイメラ………と最後のイフリートについては本当に世界が滅ぼされてしまうんじゃないかって怖くなったくらいだったよ。

 カイメラとイフリートの二体のどっちかが残ってたら多分ダレイオスは終わってたと思う………。」

 

 

マクベル「そのカイメラって主も結構キツそうな相手でやんすのにそれに比肩する主が更にいたでやんすか!?」

 

 

レイディー「実際のところはイフリート………は案外簡単な相手だったぞ。

 人並みに知性をつけた分逆に自分の種としての持ち味を完全には活かしきれずにあっさりとやられそうになってたぜ。

 殺魔の力を身に付けてても存外大したことない相手だった。」

 

 

マクベル「殺魔の力………?」

 

 

レイディー「時折ヴェノムの個体が持つ黒いオーラ状の光だ。

 あれに触れれば普通の奴だったら忽ちマナを消滅させられて原子的に体が分解されちまうんだ。」

 

 

マクベル「黒い………?

 なんかユナイテッド・アンセスターセンチュリオンもそんな光を纏ってたでやんすね。」

 

 

ウインドラ「高位のヴェノムともなると殺魔の力が使えるようになるようだ。

 俺達もその力を使っているのをカイメラ、フェニ………ユナイテッド・アンセスターセンチュリオン、イフリートで確認している。」

 

 

マクベル「ほ~ん?

 となるとブルータル、クラーケン、ジャバウォック、ビッグフロスターはまだまだその域ではなかったってことでやんすね?

 こりゃヴェノムの主も別の格分けが必要になるでやんすな。」

 

 

カオス「ブロウン族の生き残りの人がカイメラのことをヴェノムの王だって言ってました。

 分類分けするならヴェノムの主と王とでいいんじゃないですか?」

 

 

マクベル「ヴェノムの王でやんすか?

 まあ確かに話を聞く限りじゃ王に相応しい力を持っていたようでやんすね。

 でもイフリートはそんなに苦戦しなかったんでやんすよね?

 どうしてそんな相手がカイメラと同じくらい世界を窮地に追いやれるでやんすか?」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「パパがイフリートを吸収したからだよ………。」

 

 

カオス「カーヤ………!」

 

 

 イフリートについて話をすれば必ずラーゲッツが話題に出てくる。ラーゲッツの話題は避けるべきかと思ったがカーヤからそのことを口にする。

 

 

マクベル「パパのイフリートを吸収………?

 またカイメラみたいなヴェノムの主がいたでやんすか?

 ってかパパ?」

 

 

カオス「………マクベルさんは俺がバルツィエの血族であることは知ってますよね?

 実はここにいるカーヤもそうなんです。」

 

 

マクベル「え!?

 御客さん以外にもバルツィエがいたでやんすか!?」

 

 

ウインドラ「ここにいるカーヤは今のバルツィエの世代でラーゲッツの娘だったんだ。

 カーヤ自身はマテオで暮らしていた経験は無いがとある事情でカーヤはダレイオスで生まれダレイオスで生活していた。

 少々込み入った話になるからそこは省かせてもらうぞ。」

 

 

マクベル「……なんだか立ち入ってはいけない話が詰まってそうでやんすね。

 そこは根掘り葉掘り聞くことはしないでやんすよ。」

 

 

ウインドラ「助かる………。

 それでラーゲッツの件だがラーゲッツは何やらバルツィエで開発した新型のワクチンを使用していてな。

 これまで二度奴を倒したんだがその二度ともに復活を遂げた。

 三度目にはイフリートとの対決時にイフリートに食われたらしいんだがイフリートとラーゲッツでヴェノムの力関係がラーゲッツの方が上だったようでイフリートを吸収した人の形態に近い竜の姿になった。」

 

 

マクベル「人に近い竜でやんすか?

 そういえばイフリートってヴェノムの主も原型はレッドドラゴンだったみたいでやんすから人と竜の姿が合わさった形になったでやんすか………。

 ………ちょっと絵の上手い人いないでやんすか?

 どんな姿だったのか見てみたいでやんす。」

 

 

タレス「分かりました。

 イフリート………ラーゲッツのものだけでいいんですか?」

 

 

マクベル「出来れば全部の主をお願いしたいでやんす。

 姿が分からないと図鑑だけの説明じゃ分かりづらいでやんすから頼むでやんす。」

 

 

タレス「では………。」

 

 

 マクベルに頼まれてタレスはヴェノムの主を一つ一つ描き上げていく。こういった描く作業は得意なのかタレスが描いたヴェノムの主達は見事に特長そのままだった。

 

 

タレス「………こんな具合のモンスター達でした。」

 

 

マクベル「おぉ………これが主達の姿でやんすか。

 これにさっき御客さん達が言ってた能力が備わってるでやんすね?」

 

 

ウインドラ「あぁ。

 と言ってももうあんなのはこれから出てくることはないと思うがな。

 ダレイオスのヴェノム達も今はもう殆ど数を減らしていってるようだしな。」

 

 

レイディー「能力もさっきアタシ達が説明した通りだ。

 他にはこれといった目立ったもんはなかった。

 以上だ。」

 

 

マクベル「なるほど。

 

 

 有り難うでやんす。

 早速これを資料に纏めて図鑑を作って配布してみるでやんすよ。」

 

 

 マクベルは図鑑を早く完成させたいのか大急ぎで駆け出していく。

 

 

 

 

 

 

 後日その図鑑は完成しダレイオスとそしてマテオにも配られ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ただ一点だけその図鑑の内容には()()があったことを彼等はこの時はまだ知らなかった………。



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勝率の低さ

()王都セレンシーアイン 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 カオスは一人で闘技場に来ていた。闘技場は前にオサムロウと一対一での勝負を申し込まれてその戦闘の影響で客席を大きく吹き飛ばしてしまっていた。それが今では完全ではないが修復されている。年期的な違いのせいかカオスが吹き飛ばした箇所は吹き飛ばされていない客席に比べて風化した様子は無くそこだけ見ればそれなりに見栄えはいいのだが全体で見ればやはり違和感を拭うことは出来なかった。これは一度全部立て直さなければ違和感を払拭することは難しそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「爪竜連牙斬ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 闘技場から聞き覚えのある声が響く。見ればブルカーンのオリヘルガが訓練用に使う木人に向けて技を放っていた。

 

 

オリヘルガ「………まだ改良の余地があるな。

 こんなんじゃバルツィエ達との戦いで仲間達に迷惑を………、

 

 

 ………!

 なんだお前かよ。

 何見てるんだ?」

 

 

カオス「オリヘルガこそここで何してるんだよ?」

 

 

オリヘルガ「見て分からねぇか?

 術技の練習だよ。」

 

 

カオス「術技の………?」

 

 

オリヘルガ「…ローダーンじゃ()()()()世話になったからな。

 今度のマテオとの戦いじゃあんな格好悪いところは見せられねぇよ。

 そのために訓練は欠かすことは出来ねぇ。」

 

 

カオス「………今でも十分に強いのにどうしてそんな………。」

 

 

オリヘルガ「俺が強い………?

 ………俺が強いってんならお前はどうなんだよ?

 嫌味なくらい力を持ってる奴から強いなんて言われても嬉しくねぇよ。」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………俺が強かったらギランの兄貴だって死なずに済んだんだ。

 俺はまだまだ弱いんだよ。

 弱いからこうして力を磨かなきゃいけねぇ。

 せっかくお前から精霊の力とか言うのをいただいたんだ。

 この力はバルツィエとの戦いでいい働きをするだろうぜ。」

 

 

カオス「…そうなるといいね………。」

 

 

オリヘルガ「そうなるんだよ。

 でもその前にお前の連れていた女アローネつったか?

 あの女は遠慮なく潰させてもらうぜ?

 俺達もブルカーンの威信がかかってんだ。

 下手に手を抜いたりはしねぇ。

 他の奴等に対しても同じだ。

 俺は今度の大会勝ちにいくぜ。」

 

 

カオス「………そう。」

 

 

 カオスから見てもオリヘルガが優勝するのは目に見えた結果の大会だった。ローダーン火山で戦った時もそうであったがオリヘルガは一ヶ月の間にあれから更に力を伸ばしていた。マジックアイテムに頼らずとも実力を遺憾無く発揮できる精霊の力はオリヘルガの能力を大幅に上昇させていた。

 

 

オリヘルガ「!

 そうだ。

 お前に面白いもん見せてやるよ。

 って言ってもお前が()()()()()()()()使()()()()()だけどな。」

 

 

カオス「……当たり前に使ってる技?

 ………!」ザスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間的にオリヘルガが視界から消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャキ…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「どうだ?

 お前のそれを真似てみたんだ。」

 

 

カオス「……()()()()………。」

 

 

 オリヘルガは一瞬にしてカオスの背後に回りカオスの首筋に腕に仕込んだ短剣を突き付ける。カオスの飛葉翻歩に比べて目が追い付けない程ではないが十分飛葉翻歩と呼べるレベルのものは完成していた。

 

 

オリヘルガ「当日はこの技で一時間もしない内に全員と決着をつけてやるよ。

 ………順調に決めていけば十分くらいで終わるんじゃねぇか?

 お前からこの力を貰ってから頗る調子がいいんだ。

 まだまだ俺の力はこんなもんじゃねぇ。

 大会までが待ちきれねぇぜ。」

 

 

 今のオリヘルガの様子からして大会当日はまた腕を上げていることだろう。精霊の力がオリヘルガを予想以上に成長させているようだ。コーネリアスとどの様な稽古をしているかは見学していないので分からないが一ヶ月前のアローネのままでは彼女はこのオリヘルガには勝つことは不可能だろう。

 

 

オリヘルガ「俺はもう少しだけ特訓を続けてるぜ。

 お前やハーベンが大会に参加しないんならこの大会は俺の独壇場だ。

 俺がお前達に華麗に優勝する姿を拝ませてやるよ。

 楽しみにしてな。」

 

 

 そう言ってオリヘルガはまた木人に向かって技を放っていく。カオスは暫くそれを眺めた後他の出場者達の元へも向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そして他の出場者達の様子を見てもやはりアローネの勝ちの目が低いことが分かる。四ヶ月前のカイメラとの決着辺りからミーアやクリティア族の者達は精霊の力をアローネ以上に引き出しているようにも思える。オリヘルガをどうにか倒したとしてもその次に控えるクララ達はアローネにとってはどれも勝利が難しい相手だ。一つ一つの試合の合間に休息を挟み体力を回復する時間があれば可能性は無きにしもあらずだが連戦では二回戦までが関の山といった具合が妥当なところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………一番付き合いの長いアローネだから応援してあげたいけどどう見てもアローネじゃオリヘルガ達全員を相手にするのは厳しすぎる………。

 

 

 

 ………一度アローネの様子を見に行こうかな………。

 コーネリアスさんとの稽古で今アローネがどれくらい強くなってるか見ておきたいし………。)」

 

 

 カオスはアローネがいるカーラーン教会まで向かうことにする。歩いて向かえば数日かかるところだが飛行手段を得たカオスは数時間でカーラーン教会まで辿り着くことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこでカオスはアローネの今の現状を知りアローネ優勝には届かないことを悟るのだった………。



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カオスの見立て

カーラーン教会 ダレイオス支部

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーラーン教会に着くと外でアローネとコーネリアスが対峙していた。

 

 

コーネリアス「…では行きますよアローネ様。」

 

 

アローネ「はい!

 どこからでも掛かってきてください!」

 

 

コーネリアス「それでは遠慮なく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()。」

 

 

 コーネリアスがアローネに対し無数の剣撃を放つ。カオスでもその剣筋は見切れない程に早く一瞬でアローネの体に幾つもの傷を刻み………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『バリアー』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガガガガガガガガガ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………込むことことはなかった。咄嗟にアローネが光の壁を張りコーネリアスの剣撃から身を守る。

 

 

コーネリアス「反応は宜しい。

 ではこれならどうでしょう?

 

 

 『テトラススペル』。」パァァ……!

 

 

 コーネリアスが術を唱えると空中にそれぞれ火と水、風、地の塊が発生しアローネへと飛んでいく。

 

 

アローネ「『レジスト』!」

 

 

 それをバリアーとは違う別の種類の術で防いでいくアローネ。

 

 

コーネリアス「物理的な力も魔術における力も防げるようになられましたね。」

 

 

アローネ「はい。

 コーネリアスさんのおかげです。」

 

 

コーネリアス「ダレイオス大王位決定戦では貴女様は四名の方と続けて戦わなければなりません。

 大会に出場するのはブルカーンから族長代理のオリヘルガ様、アインワルドからは巫女のクララ様、ミーアからは族長代理であるミネルバ様の旦那様()()()()()、クリティアからは長老のオーレッド様です。

 小生の目に狂いが無ければ彼等の御力は順にクララ様、オリヘルガ様、オーレッド様、シーグス様となっております。

 現時点でアローネ様の御力は()()()()()()()()()()

 とてもではありませんが優勝など夢のまた夢。

 アローネ様には現実的に遠い話です。」

 

 

アローネ「…重々承知しています。

 今までも私はカオス達に頼りきりで私自身は何かカオス達の役に立つようなことは一度たりともありませんでした………。

 ですから大会の話もあのような形にしなければ私にはそもそも資格すら無かったのです。

 また私はカオス達だけでなくカーラーン教会の力までも借りて私個人の力は何のお役にも立っていないのが今の私が置かれている状況です。

 カタスに与えられたチャンスを不意にしないためにも私はこの大会勝たなければなりません!

 

 

 コーネリアスさん!

 続けてください!」

 

 

コーネリアス「では正確に小生の技に対応してみせてください。

 運などに頼らず自身の目で戦いの目を養うのです。」

 

 

 そこからコーネリアスがアローネに休む間も無く猛攻を仕掛ける。落ち着いた雰囲気からは想像もできないくらいにコーネリアスはアローネの周りを駆け回っては死角から剣撃を浴びせていく。オサムロウと互角の実力は伊達ではないようだ。そんなコーネリアスの攻撃をアローネは巧みに弾いたり避けたりしてなんとかやられないように頑張ってはいる。

 

 

 …がそれも一分と経たずに………、

 

 

コーネリアス「そこです。」

 

 

アローネ「…ッ!?」チャキ!

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「どうなさいましたか?

 これだけでもう疲れを感じておられるのですか?」

 

 

 あっさりとアローネの懐へと入り剣を肩へとゆっくりと乗せる。

 

 

コーネリアス「ここまで簡単に入り込まれてしまえば首が跳ねられたことにすら気付かずに貴女様の人生は幕を閉じることでしょう。

 油断しないようにと何度も忠告はしましたよ?

 何故小生は貴女様に剣を突き付けることが出来るのでしょうか?」

 

 

アローネ「………申し訳ありません………。

 少し気を抜いていました………。」

 

 

コーネリアス「気を抜いていた………?

 アローネ様………貴女様にそんな余裕などございません。

 貴女様はウルゴスの方々をお救いしたくダレイオスのトップに立ちたいのだと仰られましたね?

 人々の上に立つ方というのは常日頃用心していなくてはなりません。

 人は誰しも親切な人ばかりではないのです。

 貴女様も人には良い一面もあれば悪い一面もあることを存じておられるはずです。

 元貴族であられたのであれば貴女様を利用しようと近付く者や貴女様を蹴落としてでも貴女様の座る椅子に座ろうとする方がいたことでしょう。

 競争社会とは何も先へ先へと向かわずとも勝つ手段はあるのです。

 競う相手がいなくなれば良いのですからそうなれば貴女様の次点に来る方が貴女様の代わりとなります。

 ………小生が申されていることの意味が理解できますか?」

 

 

アローネ「私がどのような時でも命を狙われている覚悟で挑めということですよね?

 私がなろうとしているのはダレイオスの一番高みの存在………。

 バルツィエからは当然狙われるでしょうしダレイオスでもたとえ優勝しその座に修まることができたとしても私が()()()()()()によりその座からいなくなってしまうことも考えられますから。」

 

 

コーネリアス「アローネ様はこれからそういった環境へ身を投じようとなさるのです。

 事故は何度でも起きますよ。

 その度に貴女様はそれを御自分の力ではね除けなければならないのです。

 

 

 貴女様に必要なのは先ず第一に()()()()()()()()()()()()()()()()

 貴女様が一人で全てをこなせる御力があればカオス様に功績が偏ることもなかったでしょう。

 始めにそこを自覚しておいてください。」

 

 

アローネ「はい!」

 

 

コーネリアス「ではもう一度参りますよ。

 今度は二分耐えきって見てください。」

 

 

 コーネリアスは再びアローネに攻撃を開始する。アローネは言われた通りに二分間コーネリアスの攻撃を捌き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人を見ていたカオスはどうしようもない不安にかられる。アローネは一ヶ月という期間の間に大分成長はしたのだろう。だがそれでもアローネにはまだもう一つ致命的に足りない部分がある。コーネリアスとの特訓を看る限りでなその部分には()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………あんなんじゃ駄目だ………。

 防いだり避けたりする力なんか身に付けても結局()()()()()()()()()()()が欠けてるじゃないか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはやっぱり俺の力で………あの()()通りに………。)」



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約束を建前にして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「………如何でしょう?

 カオス様から見て彼女の成長は。」

 

 

カオス「!」

 

 

 ある程度アローネへの撃ち込みをしてから一本入れた後にコーネリアスがカオスへと話し掛けてきた。

 

 

アローネ「え………?

 カオス………?」

 

 

 特訓に集中し過ぎてカオスに気付くことの無かったアローネがそこで漸くカオスがいることに気付いた。

 

 

コーネリアス「小生としてはまだまだ未熟なところが多いですが攻撃に対しての反応速度は大分向上してきたと思います。

 これで大会中は即負けてしまうということはないでしょう。」

 

 

カオス「………コーネリアスさんが言うようにアローネも上達しているとは思いますけど()()の方はどうなってるんですか?

 アローネにオリヘルガ達を倒すだけの何か特訓は………?」

 

 

 いかに回避が上達しようとも相手を倒せなくては大会を勝ち抜くことはできない。クララやオーレッドはともかく初戦のオリヘルガは回避も相当なものだ。何かオリヘルガを一撃で倒せるような術でも教えているのかと思ったがコーネリアスの返事は………、

 

 

コーネリアス「そちらに付きましてはまだ()()()()()()()()()()()()()()

 何事も持久力が大切ですから小生が教育しているのは生存術のみでございます。」

 

 

カオス「生存術………?」

 

 

コーネリアス「人は誰しも魔術を使用することができます。

 魔術を使えば自身よりも大きな相手を倒すことは可能でしょう。

 魔術とは便利なものです。

 ですがその魔術には使い時というものがあります。

 使い方を間違えれば時に自身の破滅へと繋がる危険もあります。

 ですから魔術に頼るよりも先に小生はアローネ様には御一人でも戦場を生き抜く術を講師しているのです。

 アローネ様の立ち振舞いからして彼女は決定的に戦場での戦いを知らなさすぎます。

 なので小生はそれを叩き込むところから始めているのです。」

 

 

アローネ「…コーネリアスさんの仰る通りです。

 私はいつも誰かと一緒にいる時にしか誰かと戦うということをしてきませんでした。

 だから敵の攻撃に直接晒されてから直ぐに対応するのに慣れていないことを知りました。

 私は大会までそれを鍛えることにしました。

 コーネリアスさんとの特訓で私も大きく自分が成長出来たと自負しております。」

 

 

カオス「………」

 

 

 確かに戦いにおいて相手に勝つには第一に自分が相手よりも先に倒れないことは必要なことだはカオスにも分かる。だがこうしてアローネが特訓をしている様にオリヘルガ達だって特訓をしている。アローネとは別のもっと先のことを深めていっている。のんびりと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

アローネ「見ていてくださいねカオス。

 私は次の大会までにオリヘルガさん達を倒せるぐらいにまで強くなってみせます。

 そして私の手で必ず義兄様達を救ってカオスにも私の家族と「そのことなんだけど………。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「コーネリアスさん、

 少しアローネと話をしてきてもいいですか?」

 

 

コーネリアス「構いませんよ。

 そろそろ休息の時間をもうけようとも考えておりましたので。」

 

 

カオス「有り難うございます。」

 

 

アローネ「私に話………?」

 

 

 カオスはアローネを連れて人が少ない教会の裏に回った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「それでお話とは何でしょうか?」

 

 

 アローネがカオスが何の用で自分を連れ出したのかを訊いてくる。突然呼び出されたらそういう反応が返ってくるのも仕方ない。

 

 

アローネ「もしやカオスも私の特訓に付き合っていただけるのですか?

 そうなりますとコーネリアスさんとカオスの御二人に指導していただく形になりますが体力的に少しばかり御手柔らかに御願いしたく「アローネ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………前にしたあの約束………。

 今ここで果たしたいんだけどいいかな?」

 

 

 単刀直入にカオスは約束の話を持ち掛ける。それに対しアローネは、

 

 

アローネ「約束………?

 カオスとの約束と言えば………!

 あの精霊の力で私のマナを強化していただく話ですか?」

 

 

カオス「うん………。

 遅くなってごめん………。

 でも今なら大丈夫そうだから。」

 

 

アローネ「そこまで気になさらないでください。

 精霊の力や共鳴という技術が無ければ普通は親しい人に攻撃用の術を行使する機会などありませんから。

 でも何故突然?」

 

 

カオス「え………その………大会まで特に何かする予定もないしマクスウェルの件も片付いて何もすることが無いんだ。

 でアローネとの約束のことを思い出してから慌ててアローネに会いに来たんだけど………。」

 

 

アローネ「そういうことでしたか。

 約束のこと思い出していただいて有り難うございます。」

 

 

カオス「!

 じゃあ今すぐに「ですがそれには及びません。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネはカオスの申し出を断った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「以前はヴェノムの主という強大な力を持つ相手に挑むために力が必要でしたが今度の大会はルールも決められた正式な人同士の戦いです。

 なので私だけカオスに力を強くしていただいてもフェアではないではありませんか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネはダレイオス大王位決定戦ではあくまでも自身の今の力だけで挑むつもりのようだ。先日のカオスの術で今はダレイオスにいる全てのエルフ達がアローネ達と同等の力を持っていることになる。マテオでは魔術、ダレイオスでは武闘に秀でているとされる中での条件は魔術よりのアローネにとっては長所で並ばれてしまえば他にダレイオスのエルフ達に勝ちうる特技は何もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはアローネの力を疑っている。彼女の望みを叶えるためには彼女のその正しくあろうとする精神が夢への障害となっているようにも思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは拒否されながらもアローネに術を行使しようか考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日から一週間カオスはアローネに会うことはなかった………。



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断裂する二人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ………あのさ………。

 アローネが正しいってことは分かってるんだけど………俺にはアローネに負けてほしくないって言うかさ………。」

 

 

アローネ「応援なさってくださるのですね。

 感謝の言葉につきません。

 カオスとはもうかれこれ一年の付き合いにもなりますからね。

 しっかりと私の勇姿を客席で見ていてください。

 必ず優勝してみせますから。」

 

 

カオス「いやけど俺も何かしたくて………アローネだけ頑張ってもらうのもなんか悪いし………。」

 

 

アローネ「私のことはお気になさらないでください。

 カオス達に負担をかけていた分ここで私が頑張らなければなりませんから。」

 

 

カオス「………オリヘルガ達は強いんだよ。

 さっき見てきたけどアローネと同じ様に大会の特訓をしてるんだ。

 一朝一夕の特訓でオリヘルガ達を倒すのは難しいんだよ。」

 

 

アローネ「彼等も部族の誇りのために鍛えておられるのですね。

 それは私も負けられませんね。

 早くまた私もコーネリアスと特訓を再開しなければ「アローネは!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネだけの力じゃ駄目なんだ!!

 アローネの力なんかじゃあの人達全員には敵わない!!

 途中で絶対に誰かにアローネはやられる!

 正攻法で優勝なんてアローネには無理なんだよ!!

 

 

 ずっと見てきたから俺には分かるんだ!

 アローネの力とオリヘルガ達の力を比べてみてもアローネはあの人達の誰にも勝てない!

 アローネが勝つにはあの人達よりも何か別の力が必要なんだ!!

 俺が持つ精霊の力とかさ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは思いの丈をアローネにぶつける。彼女のことを誰よりもよく知るからこそカオスはそういった言葉を口にした。信念や希望だけでは彼女の想いが成就することはない。だったらと彼女に早い内に現実の厳しさを教えて軌道修正した方がいい、無惨な結果に終わるよりかはここで自分から力を与えられておいた方が悲しい想いをすることもなく大会で優勝することが出きるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………それが貴方の本心ですか………?

 カオス。」

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 アローネの言葉はとてつもなく底冷えていた。怒りとも哀しみともつかない冷たさだけが言葉から滲み出てカオスを畏縮させる。

 

 

アローネ「私は貴方と出逢ってから今日までの間貴方に助けられてばかりいました………。

 貴方がいなければ私はシーモス海道でユーラスに殺されていたことでしょう。

 それからは私は貴方の力になりたい一心で貴方と共に旅をしてきました。

 貴方はその力に戸惑いを感じ貴方一人ではそれを制御できないでいたので私としても貴方のせめて心の支えだけにでもなれないかと側におりました………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それが貴方の目には私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()としか映っていなかったのですね………。

 貴方がいなければ私は何もできない………。

 貴方がいなければ私は何も成すことができない無力な娘にしか………。」

 

 

カオス「そっ、そこまでは………。」

 

 

アローネ「そこまで?」

 

 

カオス「あ………!?

 違っ………!」

 

 

 カオスは失言をする。今のははっきりと否定しておくところだった。

 

 

アローネ「“そこまで”とは少しはそう感じる伏があったということですね?

 カオスからすれば私はそのように見えていたのですね。

 ………カオスからすれば私はそのように頼りない姿にしか映ってらっしゃらなかったとは………。」

 

 

カオス「違うんだアローネ!

 話を「結構です。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…私は不正をしてまで勝ちに拘るつもりはありません。

 今の私の力が貴方からいただいたものなのかどうかは私にも分かりませんが少なくとも大会に出場する方達とは条件は同じです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は私の力で優勝します。

 貴方の力は絶対に借りるつもりはありませんのでお引き取りを。」

 

 

 アローネはカオスに背を向けて去っていく。もうこれ以上話すことはないのだとその背中が物語っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………どうして………アローネ………。

 俺はただ………アローネのためを思って………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは物心ついた時から力とは無縁だった。それがふとした切っ掛けでこの星でも最強の力を手に入れた。そして気軽に人にその力の一部を譲渡出来ることから人の努力よりも自分の力を宛にすればと思うようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それがアローネのプライドを傷付けた。アローネからしてみればそんな努力は無意味と告げられたようなものだ。アローネはアローネなりにカオスに追い付けずとも追い掛けはしていた。その当人から自身の力は非力であると言われてアローネも黙ってはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 結果がまさにカオスとアローネの仲違いである。持つ者と持たざる者の価値観の相違が今回の事態を招いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「カオス様にはカオス様の人生や考えがあります。」

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 気配よりも早く声が聞こえる。カオスの隣にいつの間にかコーネリアスが並んでいた。

 

 

コーネリアス「それと同じ様にアローネ様にもアローネ様の人生があったのです。

 彼女の出生は何もきらびやかなことばかりではなかったでしょう。

 彼女にも辛い経験や苦い思い出などもあったはずです。

 そうした経験を積み重ねてアローネ様には今があるのです。

 

 

 

 

 

 

 アローネ様を御一人にさせてあげてください。

 今彼女は自らの壁とぶつかっているのです。

 その壁は他の誰かが壊していい壁ではなく彼女自身で登っていかなければならない。

 カオス様のそれは親切ではなく成長の妨げです。

 アローネ様は一人で立ち上がる力を持っているのです。」

 

 

カオス「………」

 

 

コーネリアス「………心配せずともアローネ様のことは小生にお任せを。

 当日にはきちんとアローネ様はお返ししますしカオス様のこともフォローさせていただきます。

 大会までにはアローネ様の御機嫌をとっておきますので今日のところはこれにておいとまします。

 

 

 では後日大会で。」

 

 

 アローネが去った方へと歩み出すコーネリアス。それに対し何も言えず立ち尽くすだけのカオス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺は………また余計なことを言っちゃったのかな……。」



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意外にも分裂

旧王都セレンシーアイン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「ねぇ、

 大会前にアローネさんの様子でも見に行かない?」

 

 

 アローネと喧嘩して数日経ってからミシガンがそんなことを言い出した。

 

 

カオス「………!」

 

 

タレス「そうですね。

 ここ最近アローネさんとは会えませんでしたし。」

 

 

ウインドラ「俺は構わんぞ。

 あれからどのくらい腕を上げているか俺も気になるしな。」

 

 

レイディー「あのコーネリアスってのがあいつをどんだけパワーアップさせてるか見物だな。

 変わってなかったら皮肉の一つでも言ってやるのも悪くねぇな。」

 

 

ミシガン「何で皮肉を言う必要があるの………。」

 

 

カーヤ「カーヤもアローネさんに久し振りに会いたいからカーヤもいいと思うよ………。」

 

 

 アローネとは彼女の修業の理由で会えていなかった仲間達が次々に会いに行く方向へと話を進める。

 

 

 そんな中でカオスはその話に同意することは出来なかった。

 

 

カオス「………俺はいいかな………。

 アローネも頑張ってるみたいだし俺達がいくと邪魔になるかもよ?」

 

 

レイディー「ん?

 お前は行かねぇのか?」

 

 

カオス「俺は………いいです………。」

 

 

ウインドラ「どうしたんだ?

 アローネの様子が気にならないのか?」

 

 

カオス「………うん………実はこの前一人で行ってきたばかりだし………。」

 

 

タレス「カオスさんアローネさんのところに行ってきたんですか?」

 

 

ミシガン「なんだそれならその時一声かけてくれてもよかったのに。」

 

 

カーヤ「それでアローネさんはどんな様子だったの?」

 

 

カオス「アローネは………。」

 

 

 

 

 

 

 一言で言うと話にならない。アローネが身に付けようとしている技術はただの時間稼ぎだ。どれだけ持久力や回避能力を上げたとしてもそれでオリヘルガ達を倒せる決定打にはならない。大会では四人全員を相手にしなくてはならないのに大会一週間前の時点で攻撃に関する特訓を何一つ行っていないという。コーネリアスはかなりの達人であることは伺える。そのコーネリアスから一ヶ月前足らずで数分持ちこたえるところまでに至るのはかなりの修練を重ねてきたことは分かる。

 

 

 だが結局それがオリヘルガ、クララ、シーグス、オーレッドを纏めて相手にする力になるとはとても思えない。ただでさえ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()なのだ。何かもっと必殺技のようなものでも持っていれば優勝の目は出てくるだろうが今のところそのような様子は皆無なわけで………、

 

 

 

 

 

 

レイディー「………お前………なんか猿とあったんじゃねぇか?」

 

 

カオス「え…!?

 そんなことは………。」

 

 

ウインドラ「…今のは俺でも分かった。

 カオス、

 アローネと何かあったのか?

 だからアローネの様子を見に行くのを渋ってるんじゃないのか?」

 

 

ミシガン「正直に話してよ。

 アローネさんと何があったの?」

 

 

タレス「数日前からカオスさんが何か様子がおかしいことは気になっていましたがアローネさんのところに行ってたんですね。」

 

 

カーヤ「カーヤもカオスさんが変なの気付いてた………。

 どうして変なのかは分からなかったけど………。」

 

 

 アローネとあのような別れ方をしてから隠してたつもりだったが仲間達にはバレていたようだ。付き合いの長さから隠し事は出来ないとカオスは悟った。

 

 

カオス「………実はアローネと………、

 ………喧嘩しちゃったんだ………。」

 

 

 カオスは正直に話すことにした。隠し通したとしても大会の日には知られてしまうことになるだろう。カオスはウインドラ達に先日のアローネとのことを説明した………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「カオスの目から見てもアローネの優勝は難しいのか………。」

 

 

レイディー「そんで事実を突き付けて言い合いになったのかよ。

 アタシが日頃猿に言ってたことと同じだな。」

 

 

カオス「言い合い………って言うか俺が一方的に怒らせちゃっただけで………。」

 

 

ミシガン「それが本当なんだとしてももっと言い方があったと思うよ………?

 そんなはっきり無理だって言われたら私でも怒っちゃうだろうし………。

 まだ大会だってどうなるか分からないのに………。」

 

 

タレス「ボクとしては………カオスさんがアローネさんに言ったことは別に間違ってはいないと思います。

 ずっとアローネさんと一緒だったカオスさんならオリヘルガ達とアローネさんが戦ってどうなるか容易に想像できるでしょうし早い内から良い方向へと方向転換しておかないと勝つのは厳しそうですし。」

 

 

レイディー「アタシもガキと同じく坊やを指示するな。

 どうしても叶えたい目的があんなら綺麗事言ってる場合じゃねぇ。

 その手を汚してでも掴み取る覚悟が必要なんだ。

 …あいつはそこのところ理解してねぇよ。」

 

 

 意外にもタレスとレイディーがカオスを肯定する。二人共カオスが言うようにまともなやり方じゃアローネが大会を勝ち抜くとは思っていなかったようだ。

 

 

 反対にウインドラとミシガンはと言うと………、

 

 

ウインドラ「俺は………………アローネを尊重しても良かったとは思う………。

 俺にもマテオの騎士団にいた頃はミシガンやカオスを自分の手で守ってやりたいと思っていた。

 こういうことは自分の手でやりきらないとどうしても後でしこりが残りそうだからな。」

 

 

ミシガン「私もアローネさんの好きにさせてあげた方が良かったんじゃないかなって思うよ。

 何でもかんでもカオスに頼りっきりじゃなんか自分のいる意味があるのかって時々分からなくなるしアローネさんだって頑張ってるんだよ?

 それを分かってあげてほしいな。」

 

 

レイディー「努力が必ずしも報われるとは限らねぇ。

 必要なことは最善の結果を残すことじゃねぇのか?

 人ってのは一人じゃ何も出来ねぇんだ。

 あの猿だって大王になりたい動機は人の手を借りたいからだろ?

 今からでも人を使う練習をしておくべきなんじゃねぇか?

 人の上に立つってのはそういうことだろ?」

 

 

ウインドラ「中身のない者に人は誰もついていかないだろ。

 人の助けで大王になったとして誰がアローネを認めるんだ。

 カオスありきの王に即位しても何も意味など無いぞ。」

 

 

タレス「戦後は解消される立場じゃないですか。

 今アローネさんに必要なのは絶対に勝つことですよ。

 素直にカオスさんに力を与えてもらえば後々ウルゴスの人達を探し出すのに苦労することはないんですよ。」

 

 

ミシガン「そんなやり方で結果を残しても後ろ指指されることになるのはアローネさんなんだよ?

 ズルして勝っても皆納得しないよ。

 アローネさんが自分の力でやりきるって言ってるんだからそこは私達が受け止めてあげないといけないでしょ。」

 

 

 見事にカオス、タレス、レイディーの三人とアローネ、ミシガン、ウインドラの三人の意見が衝突する。正しい道をとるか不正をしてでも勝つかで四人は揉めた。それは半日にも及び討議されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………カーヤはどう思う………?

 俺の考えは間違ってたのかな………?」

 

 

 未だ意見を言わないカーヤにカオスは訊いてみる。彼女から返ってきた答えは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「カーヤには………分からない………。

 そういう自分でやらないといけないこととか人に助けでてもらうこととかカーヤはあんまり体験したことないから………。」

 

 

カオス「………そっか………。」

 

 

 

 その日は結局アローネのところにはいかなかった。アローネとは大会当日になって会うこととなった………。



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ダレイオス大王位決定戦

――大会当日日――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファルバン「選手は………揃っておるようだな。

 それではこれより………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオス大王位決定戦を執り行う!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 けたたましい歓声と共にダレイオス大王位決定戦が開幕する。客席は綺麗に部族事に埋められ満員状態だ。進行は以前変わらずのスラート族族長ファルバンだ。今回出場しないスラートとフリンクは大会中は審判を務めることになっている。彼等にとってはどこが勝利したとしても自分達に影響が出ないためにその役を担うこととなった。

 

 

ファルバン「始めに宣言しておく。

 この大会はあくまでも同盟同士の大会である。

 故に対戦相手の殺生は難く禁じる。

 もし選手の中から死者が出た場合その時点で対戦選手は即失格となりその選手の部族も同盟から追放するものとする。

 勝利条件は相手を気絶させるか敗けを認めさせることのみ。

 武器に制限は無い。

 以上だ。」

 

 

 事前に闘技場にいる者には通達してあった内容を再度説明し直す。改めてこの場で伝えることで後で知らなかったとは言わせないだめだろう。

 

 

ファルバン「…此度の大会の出場選手は五人という極めて少ない人数で行われる。

 この五人の勝敗の行方次第でこの大会後のマテオとの戦いで獲得する領有権を優先的に発言する権利を手にすることが出来る。

 

 

 我等はヴェノムの影響でかつての栄光は見る影もなく衰退してしまった。

 マテオとヴェノムによって失った同胞達は数知れず既にブロウンとカルトは全滅アイネフーレはただ一人を残してヴェノムに滅ぼされた。

 我等はここから巻き返しを行う必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリティア、ミーア、アインワルド、ブルカーンそしてカーラーンの王達よ!

 ソナタ等から我等を導く真の王を決めるのだ!

 その昔我等スラートがなし得なかった打倒マテオを果たす王をここで決めろ!

 優れたる指導者よ!

 我等が前に出でよ!

 我等は王の手となり足となりマテオと戦うことを誓う!

 この命は真の王と共にある!

 

 

 さぁ!

 我等と共にダレイオスに勝利の旗を掲げようではないか!!」

 

 

 

オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 ファルバンの言葉に同調したように客席から大歓声があがる。それと同時に闘技場の中心に向かって五人の男女が歩いていく。

 

 

 

 

 

 

ナトル「…では今大会に出場する選手の紹介を行います。

 エントリーナンバー一番、クリティア族長老オーレッド前へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「さて………儂は誰と戦えばいいんじゃろうな………。」

 

 

 フリンク族族長ナトルによって名を呼ばれるオーレッド。大会の形式から彼は勝ち上がってきた一人を相手にするだけなので余裕からかそんなに緊張した様子は見せない。

 

 

 

 

 

 

ナトル「続いてエントリーナンバー二番、ミーア族からは族長代理ミネルバの配偶者シーグス前へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーグス「………何で俺がこんなところに………。

 俺絶対どうあっても勝つ見込み無かっただろうに………。」

 

 

 オーレッドの次に紹介されたシーグスはオーレッドとは違いガチガチに体を震わせながら出てきた。族長代理ではないがミーア族の中では彼が実力が高いようだ。

 

 

 

 

 

 

ナトル「エントリーナンバー三番、アインワルド族現在の巫女クララ前へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「…私は負けません。

 負けられません。

 私にとってはこの大会は王になる以外の意味もあるのです。

 ………私は必ずあの人に………。」

 

 

 クララはシーグスのように緊張しているわけではないがオーレッドとも違い余裕があるようには見えない。クララからは大会のことよりも別の戦いに目を向けているように感じられた。

 

 

 

 

 

 

ナトル「エントリーナンバー四番、ブルカーン族からは族長代理オリヘルガ前へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「どうせ俺が勝つ!

 こんな退屈なオープニングなんか飛ばしてさっさと始めようや?」

 

 

 自分が勝つことを全く疑っていない様子のオリヘルガ。彼にとっては最早自分がが優勝するのが当たり前だと思っているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナトル「最後はエントリーナンバー五番、急遽中立を破り我等ダレイオスと共闘することになったカーラーン教会枢機卿アローネ・リム・クラウディア前へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

 他の族長達のように意気込みも何も言わないアローネ。彼女は何も言わない変わりにある一点を睨み付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その先にいたのはカオスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「(………カオス、

 貴方からすれば私はとても小さな存在に見えることでしょう。

 貴方がいなければここまでやってくるのは無理だった………。

 ………でも私はいつまでも弱いままではありません。

 それをこの大会で証明して見せます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………貴方の力など無くとも私は優勝して見せます!

 その時はカオス………私は貴方に………。)」



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コーネリアスの異様な自信

旧王都セレンシーアイン 客席

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ………。」

 

 

 開会式の選手紹介中に一瞬視線がアローネと合った。アローネはカオスに怒りの表情を向けてきた。そのことからまだアローネの中では一週間前のことは許してはいないようだ。

 

 

ミシガン「大丈夫かなアローネさん………。」

 

 

ウインドラ「この一ヶ月でどれだけ腕を研鑽出来たのかは分からんが直ぐに追い詰められるようなことにはならないだろう。

 だが初戦の相手はオリヘルガだ。

 俺達も奴の実力はローダーン火山で見ているしアローネもそうだろう。

 あの時の奴の力を越えるぐらいには追い込んでいると思うが………。」

 

 

タレス「オリヘルガは………いえ出場選手は皆カオスさんによって精霊の力を体に取り入れています。

 クララさんに至ってはラタトスクの力もありますし一ヶ月そこらで彼等を追い抜かす技量を身に付けるのは困難だったはずです。

 アローネさん一人でどうにかなるとは………。」

 

 

レイディー「あいつそもそも一人での戦いに慣れてんのか?

 アタシの記憶じゃあいつはいつもお前等の誰かしろと一緒だった記憶しかねぇが。

 今回はサシでの戦いにはなるだろうが前衛も後衛も一人で全部やらなきゃならねぇ。

 後衛同士の戦いならどうにかなったとしても初戦からほぼ()()()()のオリヘルガだ。

 あの猿が接近してくる相手に適格に攻撃を受けきって反撃する隙があるかどうか………。」

 

 

 ウインドラ達もアローネが如何にして最初のオリヘルガを攻略するのか考える。コーネリアスの特訓を思い出すと攻撃に対する反射神経は問題なさそうだった。

 

 

 問題があるとすればアローネにオリヘルガを接近戦で撃退するような力があるかどうかだが………、

 

 

カーヤ「アローネさん接近戦出来ないの?」

 

 

カオス「一応魔技は使えるから牽制は出来るんだよ………。

 でもあのオリヘルガ相手に魔技は………。」

 

 

ウインドラ「マテオではあまり見なかったが魔技はダレイオスの者達がよく使う技術だ。

 加えてこの大会はクララ殿以外は誰がどの属性の術を使うのかも周知済みだ。

 全員魔技や術を回避するのくらい難なくやってのけるだろ。」

 

 

ミシガン「じゃあそれ以外の要因で勝たなくちゃならないんだね………。

 そしたら武器とかの話にもなるけどアローネさんは………。」

 

 

レイディー「羽衣つったか?

 あの猿が羽織ってるあれ。

 ローダーンじゃ結構自在に操れてたがありゃ剣とかみたいに形を固定できるのか?」

 

 

カオス「試したことはないですけど出来ると思います。

 元々はオーレッドさんから貰ったアオスブルフっていうマジックアイテムのおかげですけど。」

 

 

ウインドラ「ただ形を操れたところでそれを使いこなせるかどうかだが………剣術をアローネが使っているところは見たことが無いな。」

 

 

ミシガン「アローネさん………勝てればいいんだけど………。」

 

 

 様々な検討をしてもやはりアローネの勝ちの目は極端に薄い。一ヶ月の特訓があったとはいえそれはオリヘルガ達も同様にもうけられた時間だった。アローネが成長するのであれば他の選手達も同じだ。条件が同じになればなるほどアローネが勝つ可能性がぐんと下がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「御隣よろしいでしょうか?」

 

 

カオス「!

 コーネリアスさん。」

 

 

 アローネの試合が開始される直前になってアローネを講師していたコーネリアスがやって来る。

 

 

レイディー「ようアンタ。

 一ヶ月前の会議以来だな。

 丁度いい。

 アンタには一つ訊きたいことがあったんだ。」

 

 

コーネリアス「はい?

 小生に何か?」

 

 

 コーネリアスが来るなりレイディーがコーネリアスに質問をぶつける。

 

 

 

 

 

 

レイディー「………アンタ何でこんな大会を開こうと思ったんだ?」

 

 

コーネリアス「こんな大会とは?」

 

 

レイディー「惚けんなよ。

 アンタはあいつに一ヶ月前にあの会議室でこの大会を開こうと提案することは教えていたはずだ。

 でなきゃアローネの奴もファルバンやオーレッド達のように反応を見せたていただろう。

 その反応が無かったってことはアンタ達があの会議室に入る前からアローネは大会のことを知ってたってことだ。」

 

 

 そう、一ヶ月前の話の流れからしてアローネは既に大会をコーネリアスが言い出すのを分かっていたのだ。だから大会を開催することが決まった後直ぐにコーネリアスと特訓する話になった。まるで始めからそうする予定だったかのように。

 

 

レイディー「どうしてこんなアローネにとっては不利な条件での大会を開くことを提案したんだ?

 会議の日の前日にアローネと会っていたみたいだがアンタあいつの実力を確認したのか?

 アローネにとっちゃこんな大会でも開かれない限りチャンスは無かっただろうがそれにしても無謀過ぎる。

 ダレイオスのカーラーン支部にいたってんならダレイオスの連中があんな温室育ちの御嬢様が勝ち抜けるほど甘くはない相手だってことも分かってただろ?

 

 

 

 

 

 

 ………もしかしてだがこの大会は()()()()()()()()()()()()()()?

 大会で勝つとかじゃなくただ正式にカーラーン教会をダレイオスに組み込むだけが目的だったんじゃねぇか?

 それだったらダレイオスとマテオの戦争でダレイオスが勝った後に中立の教会の立場は微妙に位置に置かれることになるだろうしアンタは始めからアローネに勝たせるつもりなんて「アローネ様は勝ちますよ。」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コーネリアスはレイディーの質問攻めを一刀する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「アローネ様はこの大会勝ちますよ。

 なんなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あの方の力は貴方様方が思っているよりも遥かに高いのです。

 小生の目的はカーラーン教会の肩身を考慮してのことではなく始めからアローネ様が望むように差し向けることだけですから。

 それ以外の目的など御座いません。

 

 

 

 

 

 

 どうぞ御観覧下さい。

 アローネ様がどれ程の力を有しているか。

 彼女にかかればこの大会で勝つことなど容易く………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いえ、

 大会どころか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」



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勝機の無い試合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………それってどういう意味ですか?

 アローネにそんな力が「試合が始まりますよ。」!」

 

 

 コーネリアスざ最後に言ったことが気になったが闘技場の中を見てみれば既にアローネとオリヘルガが向かい合っているのが見えた。もうすぐ始まるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「…それではダレイオス第王位決定戦第一試合を始める!

 両者試合のルールはしっかりと呑み込めているな?」

 

 

 アローネとオリヘルガの他に闘技場の中にはオサムロウがいる。オサムロウが今大会中は審判を勤めるようだ。

 

 

オリヘルガ「あぁ、

 問題ねぇよ。」

 

 

アローネ「私もです。」

 

 

 オサムロウの問い掛けに返事をする二人。その視線は互いから外れることはない。二人の間には一触即発の空気が流れている。試合が開始されれば二人とも一気に仕掛けるといった流れになるだろう。

 

 

オサムロウ「再度試合の流れを確認する!

 この試合で勝てば即次の対戦相手と戦ってもらう!

 敗者が闘技場から退出した瞬間に二回戦が始められる!

 その次の三回戦準決勝も同様だ!

 当然決勝も同じ様に行われる!

 異論は無いな?」

 

 

オリヘルガ「ねぇ!」

 

 

アローネ「ありません。」

 

 

オサムロウ「試合には時間制限は無い!

 相手に敗けを認めされるか気絶してから十秒経過した時点で勝者が決まる!

 敗北を宣言された方の選手は即刻退場してもらう!

 宜しいか?」

 

 

オリヘルガ「あぁ。」

 

 

アローネ「大丈夫です。」

 

 

オサムロウ「………両者悔いの残らぬよう全力を尽くせ。

 この大会の結果次第でマテオとの戦役で優位な立場となるのだ。

 敗北した者にはそこで何かをとやかく言う資格は無い。

 勝った者だけが意見を通すことが出来る。

 

 

 ここで勝った者こそが()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「ダレイオス最強の座ねぇ………。」

 

 

アローネ「………」

 

 

 オサムロウが最強の座と口にした瞬間オリヘルガは少し暗い笑みを浮かべる。アローネはそれに対しより表情を強張らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………………両者覚悟はいいな?

 ………それでは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合始め!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とうとうダレイオス第王位決定戦の火蓋が切られることとなった。先に動いたのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『ウインドランス!!』」

 

 

 アローネだった。アローネが風の魔技ウインドランスで先制攻撃を仕掛ける。それをオリヘルガは軽く躱す。

 

 

オリヘルガ「ハハ!

 おっと油断したぜ。

 先手を取られたか。」

 

 

アローネ「反撃の隙は与えません!

 『ウインドカッター!』」

 

 

 続けて今度は詠唱破棄の魔術を浴びせる。それもオリヘルガは横にスライドして躱していく。

 

 

オリヘルガ「おうおう。

 よく見て狙えや。

 そんなんじゃ当たらねぇぞ?」

 

 

アローネ「!

 でしたら『疾風よ!我が手となりて敵を斬り裂け!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドカッター追撃の二十連撃!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初からアローネは全開に飛ばしてオリヘルガに猛攻を仕掛けていく。不可視の刃がオリヘルガへと迫っていくがオリヘルガはその刃を全て………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「こんな見慣れたもん当たるわけねぇだろ。」

 

 

 

 

 

 

 回避してしまう。

 

 

アローネ「………何のつもりですか?」

 

 

オリヘルガ「あ?

 何がだ?」

 

 

アローネ「何故反撃してこないのですか?

 余裕のつもりですか?」

 

 

オリヘルガ「余裕かって?

 そりゃそうだろ。

 この大会にはカオス=バルツィエもサムライもハーベンだって参加してねぇんだ。

 そんな大会でこの俺が全力を出すとでも思ったか?

 何がダレイオス最強の座が決まるだ。

 はなっから俺の相手になる奴なんざ出場してねぇじゃねぇか。」

 

 

アローネ「………」

 

 

オリヘルガ「おまけに何でか知らんがフリンク族も出場してねぇし手頃な雑魚を四人ぶっ飛ばせば俺の優勝が決まるだろ?

 お前入れても四人相手にするだけで今日のこの大会は終わっちまうんだ。

 

 

 そんなのつまらねぇだろ?

 時間だって無制限なんだ。

 もっと第一試合から時間を使っていかねぇと盛り上がりに欠けるだろうが。」

 

 

 オリヘルガの中では既に優勝することは決定事項のようだ。完全に遊び感覚でアローネとの試合に挑んでいる。

 

 

アローネ「………甘く見られたものですね。

 貴方の中ではもう既に優勝することは決まっておられるのですか。」

 

 

オリヘルガ「そりゃそうだろ。

 お前もこの大会までに色々と何かやってたみたいだが俺は前の俺と同じだと思ってると痛い目みるぜ?

 もうちょっと本気でかかってきた方がいいんじゃねぇか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それともそれがお前の精一杯ってところか?

 アローネ=リム・クラウディア?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………そんなわけないではないですか。

 私が本気を出すのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これからです!」タッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「!?」

 

 

 アローネがオリヘルガへと急接近する。オリヘルガもアローネが急速に迫ってきたのに驚いた。

 

 

 アローネは羽衣を地面を叩き付けて加速したのだ。その勢いを利用してオリヘルガに突撃し………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ハァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「うぉっ!?」ガキィィン!!

 

 

 攻撃の手前で羽衣が剣の形に変わりオリヘルガに降り下ろされる。それを間一髪で受け止めるオリヘルガ。

 

 

アローネ「………これでも私は貴方にとってまだまだ容易く倒せる相手ですか?」

 

 

オリヘルガ「…その起動力にはびびったがこの程度で俺が倒せると思ったか?

 全然軽いんだよ。

 まだまだ半分の力ぐらいで足りるぜ。」

 

 

アローネ「余裕を感じていられるのは今だけです。

 ここからは全力で行かせていただきます!」ブオンッ!

 

 

 それからアローネとオリヘルガの熾烈な技の押収が繰り広げられる。アローネとオリヘルガが互いに攻撃を仕掛けてはそれを相手に防がれ一進一退の攻防が続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 客席

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「すっ、凄い………アローネさん………。」

 

 

ウインドラ「一ヶ月でここまで仕上げてきたのか………。」

 

 

 接近戦でアローネがオリヘルガと互角に戦っているのを見てミシガンとウインドラが感嘆の声を漏らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………いや………、

 このままだとアローネは………。」

 

 

 そんな二人を横目にカオスは一抹の不安を感じていた。オリヘルガにはまだ()()()を出してはいないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「!?

 しまっ………!?」

 

 

 攻防を繰り返している内に一瞬オリヘルガに隙が出来る。アローネはその隙を見逃さなかった。

 

 

アローネ「そこです!」

 

 

 その隙をついてオリヘルガの懐に痛烈な一撃を叩き込むアローネ。渾身の一撃が決まりアローネがオリヘルガに勝利するかと皆が思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「なんてな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渾身の一撃が決まるかと思いきやオリヘルガの姿が消える。アローネは攻撃を外して大きく仰け反った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに非情な一撃がぶつけられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!!?

 く………フッ……!?」

 

 

 腹部に強烈な一撃をもらいアローネが膝をつく。アローネも一瞬何が起こったのか分からなかったが見ればそこにはオリヘルガの膝があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「あまり女をいたぶる趣味はねぇんだ。

 悪いがそれで終わってくれよ。

 もうこれで分かっただろ?

 あんなフェイントに引っ掛かる辺り俺とお前には徹底的に経験の差があるってことだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前は俺には勝てねぇよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「飛葉………翻歩………!?

 貴方が………!?」

 

 

 吐血しながらアローネは信じられないようなものを見る目でオリヘルガを見上げる。オリヘルガにはこの技があるのだ。

 

 

オリヘルガ「どうするよ?

 こっからはもう多分お前がいたぶられるだけの試合になるぞ?

 俺としてはここらで降参してくれると余計に疲れずに済むんだがどうだ?」

 

 

アローネ「………!

 いいえ!

 まだ私はやれます!

 このくらいで降参などしていてはカタスに示しがつきません!」

 

 

オリヘルガ「へぇ………、

 まだやるってのか。

 まぁ別にそれでも構わねぇけどな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからの試合はアローネが一方的にオリヘルガからの攻撃を防ぐだけの試合になった。時折攻撃が掠めることもあったがアローネは敗けを認めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観客達の目からはこの試合の結末は既に見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 攻撃を当てることが出来ないアローネの敗北に終わる結果が………。



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アローネの敗北………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合が始まって一時間が経過した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ハァ………!ハァ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………なぁ?

 もう止めにしねぇか?

 そろそろ俺もお前の相手をすんのに疲れてきたんだが………。」

 

 

アローネ「では………ハァ………降参しては………いかがですか………?

 その方が………御疲れにならずに………。」

 

 

オリヘルガ「お前がそれを言うのかよ………。

 誰が降参するかっての。」

 

 

 状況は火を見るよりも明らかだ。オリヘルガの圧倒的優位は揺るがない。この状況下でオリヘルガが負けを認めることないだろう。

 

 

アローネ「…ハァ………!

 私には………大事な使命が………………あります!

 それを………果たさずして終わるわけにはまいりません!」

 

 

オリヘルガ「まだやんのかよ………。

 お前かれこれ三十分は俺に攻撃を当てられてねぇじゃねぇか。

 お前の直進だけの加速じゃ俺を捕らえることはできねぇぞ。

 後遺症が残らねぇ内に引けよ。

 もうお前は十分に戦ったさ。

 誰もお前を責めたりなんかしねぇって。」

 

 

 倒しても倒しても起き上がってくるアローネの執念にオリヘルガは辟易としていた。勝負事とはいえ勝つためには相手を倒さなくてはならないがその相手がしぶとく立ち上がってくるのだ。予想以上に長引く試合にオリヘルガは少々焦りを感じていた。

 

 

アローネ「たとえ………私を責める人がいなくてもここで負けてしまうようであれば私は自分自身を許せません………。

 何のためにこの大会を開いたのか………何のために私はここまでやって来たのか………私には私の使命があります………。

 この大会で優勝することこそがその使命への第一歩なのです!

 絶対に引きません!」

 

 

 オリヘルガの忠告を断固として拒否しアローネはオリヘルガへと羽衣を構える。まだ闘志は折れてはいない。

 

 

オリヘルガ「………ハァ………、

 なんだかなぁ………このままなぶり続けても俺が悪者みてぇじゃねぇか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………しょうがねぇな。

 ほどほどのところで気絶しとけよ。

 治療術で時間稼ぎしてもこの力の差はどうにもならねぁからな。」

 

 

 オリヘルガは再度アローネへの攻撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 客席

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ………だから俺が言ったのに………!」

 

 

ウインドラ「…この試合はもうアローネの勝機は無いも同然だ。

 だと言うのにアローネはまだやるつもりなのか………。」

 

 

タレス「どうにかオリヘルガが離れた隙に負傷は治癒していますがここからどうやってもアローネさんに巻き返すことは………。」

 

 

ミシガン「でっ、でもオリヘルガも結構疲れて来てるみたいだよ!?

 どこかでオリヘルガに反撃出来ればまだ「馬鹿かお前?」!?」

 

 

レイディー「あいつの目標はこの大会での優勝だろ?

 初戦の相手でこんだけ消耗して残りの三人に勝てるのか?

 オリヘルガを倒したとして次はアインワルドの巫女やミーア族の男とそれからオーレッドのジジイまでいやがるんだ。

 

 

 

 

 

 

 ………ハッキリ言って無理だろ。

 あいつが降参しないのは単なる意地だ。

 ここまででオリヘルガの野郎は傷一つ負ってないってのにアローネの奴は術を避けられたり自分を回復したりでマナを殆ど使いきってる状態だ。

 現にアローネはどんどん術を使う頻度が落ちてきている。

 もうあいつは限界なんだよ………。」

 

 

 

 

 

 

ミシガン「そんな………アローネさん………。」

 

 

 仲間達の目から見てもアローネがここから逆転するとは思えなかった。このまま続けてもアローネがいたぶられて試合が次の試合へと移行するだけだ。アローネに出来るのはオリヘルガの気力を削って後続の選手達を有利にすることだけ………………だがこの大会はあくまでも部族を代表した個人戦であってここで負けてしまえば何もかも終わりだ。アローネにとっては何のメリットもない。せめてマテオとの戦後にアローネ達カーラーン教会に積極的に協力してくれそうな部族に望みを託すしかないが………、

 

 

 

 

 

 

カオス「………コーネリアスさん。

 こんな状況ですけど本当にアローネが優勝できると思ってるんですか?

 オリヘルガを相手にアローネは全然刃が立ってないみたいですけど…………。」

 

 

 カオスはコーネリアスにその真意を問う。試合が開始される直前にコーネリアスはアローネが優勝することは確実だと言っていた。それがこの状況でも意見は変わらないのかを確認する意味で。それに対してコーネリアスは、

 

 

コーネリアス「左様でございます。

 この大会を考案したのはアローネ様が勝つことを前提にした大会です。

 アローネ様以外の優勝は有り得ません。

 ………皆様はどうやらアローネ様が優勝すると信じられないようでございますね。」

 

 

カオス「だってアローネは試合が始まってからオリヘルガに一発も攻撃を当てられてないじゃないですか。

 それでどうやってアローネが勝つなんて………。」

 

 

コーネリアス「…やれやれ………。

 カオス様方のお瞳は雲っておられるようですね。

 そんな瞳ではアローネ様の()()()()が見えていない御様子。

 一度お顔を洗ってきたらいかがですか?」

 

 

カオス「アローネの真の力………?」

 

 

コーネリアス「…ご静観なされていればいづれ分かりますよ。

 小生がアローネ様に手解きしたのは強くなるための稽古などではありません。

 小生が施したのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真の力を解き放つための時間稼ぎなのですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………けっ!

 これが部族の威信がかかってなけりゃ俺が引いてやってもよかったんだがな。

 弱い奴を殴り続けんのも心労がたたるぜ。

 悪いがそろそろケリをつけさせてもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この一発でお前は沈んどけや。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガは飛葉翻歩でアローネの背後に回り首筋に手刀を叩き込み意識を刈り取ろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガの気配を察知したアローネは前に出てオリヘルガの手刀を避けようとした。それによってオリヘルガの手刀は首には当たらなかったが変わりに背中へと直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキィィィィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かが割れるような音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはアローネが装備していたエルブンシンボルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凄まじい強風が闘技場を包み込んだ………。



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覚醒するアローネ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「うおっ!!?

 何だこの風は………!?」

 

 

 突発的に発生した風にオリヘルガは吹き飛ばさて転がっていく。闘技場にいた者達も突然発生した台風のような強風に煽られて悲鳴をあげて狼狽えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 客席

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「なっ、何この風!?」

 

 

ウインドラ「どうしてこんな時にこんな突風が………!」

 

 

タレス「なっ、飛ばされ………!?」

 

 

カーヤ「………!」

 

 

 客席にいた者達はその急な風に吹き飛ばされないように席へとしがみつく。中には風が強すぎて客席事吹き飛ばされていく者達もいた。

 

 

レイディー「バルツィエの襲撃か!?」

 

 

カオス「一体どこからこんな攻撃を………!?」

 

 

 辺りを見回してバルツィエの姿を探す。だがどこを見てもバルツィエは闘技場の中にはいなかった。

 

 

ウインドラ「まさか外からここを攻撃しているのか!?

 この大会で集まったダレイオスの全部族を一網打尽にするためにこの日を狙って………!」

 

 

タレス「情報が漏洩していたって言うんですか!?

 この大会が開かれるのはダレイオスの関係者しか知らないはずですよ!」

 

 

 奇襲するにはうってつけの今日この場所でバルツィエが攻めてきたのだと思ったカオス達だったが一人涼しげな顔で席に座り続けるコーネリアスが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「フフフフフフフフ………フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ…………。」

 

 

 怪しげな笑い声をあげていた。

 

 

カオス「コーネリアス………さん………?」

 

 

コーネリアス「貴殿様方は共鳴が御使いになられるのですよね?

 ではこの風を発生させておられるのが誰なのかお分かりになられるはずですよ。

 マテオのバルツィエはまだ襲撃しに来てはいません。

 大会はまだまだこれからなのですから。」

 

 

カオス「………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!

 このマナは………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間が経つと自然と風の勢いが収束していった。

 

 

オリヘルガ「………なんだったんだ今の暴風は………?

 …おいサムライ!

 試合は続行していいのか!」

 

 

 一時闘技場全体がパニックとなったが被害という被害は出てはいない。突如吹き荒れた風も今は止み静けさのみが残った。

 

 

オサムロウ「………」

 

 

オリヘルガ「………おい!

 何を呆けてんだ?

 試合は続けてもいいのかって訊いてるんだよ!」

 

 

オサムロウ「………………!

 ………ぁ………あぁ………問題無い。

 続けてくれて構わないぞ。」

 

 

オリヘルガ「………?」

 

 

 二回声をかけて漸く返事をするオサムロウ。彼の視線の先には背中を打たれて膝をつくアローネの姿があった。彼女は先程から微動だにしない。

 

 

オリヘルガ「……ん?

 どうした?

 さっきの一撃がそんなに堪えたのか?

 お前ひょっとしてもう気を失ってんじゃねぇか?」

 

 

アローネ「………」

 

 

オリヘルガ「………なぁ、

 サムライ。

 ちょっと確認してくれねぇか?

 そいつもう………!」スク………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネは静かに立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァァァ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その直後に体が淡い光に包まれて傷が治っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………………ハァァァァ………!

 お前には本当に呆れてくるぜ。

 まだやるつもりなのかよ。

 そうやって回復してももうどうにもならねぇだろ。

 さっさと負けを認めて退場しろよ。

 さっきから同じパターンじゃねぇか。

 どんなに足掻こうがこの俺には勝てねぇよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この一撃で楽になれ。」シュンッ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガがアローネに迫り先程のように腹部に蹴りを入れてアローネを突き飛ばそうとする。アローネは今度はその攻撃に反応せずに棒立ちのままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もがそれで決着がつくと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 客席

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ!!

 ………!?」パァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこでまたあの突風がやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「ぐおおあっ!?

 またか!!?」

 

 

 アローネに接触する瞬間にまたオリヘルガは風により体が投げ出される。人の体を浮かび上がらせる程の強風にオリヘルガは受け身を取れずに地面を転がっていく。

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………ッ!!

 畜生!!

 何だってんだよ!?

 さっきから何なんだこの風は!!?

 いい加減にしやがれ!!

 何だって俺が止めを刺そうとするタイミングで………、

 

 

 

 

 

 

 ………!?

 ………まさかこの風は………お前が………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネはじっとオリヘルガを見つめる。アローネの瞳には先程までのようなオリヘルガへと食らい付いていた時のような必死さは感じられない。

 

 

 あるのはどこまでも暗い闇の光を漂わす瞳がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「………ここに来て何だこの力は………?

 お前こんな力を隠してやが「このエルブンシンボルは………。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………このエルブンシンボルは私がウルゴスで過ごしてきた大事な証です………。

 このエルブンシンボルは私の義兄からいただいた大切な宝物だったのです………。

 

 

 それを貴方は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 客席

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!!!?」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリヘルガ「……………………アローネ=リム・クラウディア……………………………………………………お前今…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………な………にを………し………………ぁ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガが倒れる。その胸には深い切り傷が残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………さぁ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の試合を始めましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガには目もくれずにアローネは次の対戦相手へと視線を送る………。



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対決ラタトスク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「オリヘルガァァァッ!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 闘技場の入場口からブルカーンのオリヘルガの仲間がオリヘルガに駆け寄ってくる。

 

 

オリヘルガ「………く……お………ぁ………。」

 

 

 オリヘルガは息はあるがこれ以上試合続行は見込めないといった具合だ。血飛沫が身体中を染めてこのまま放置しておけば出血多量で死亡してしまうことだろう。

 

 

「オリヘルガ……!?

 くそ!

 一体何が………!?」

 

 

「しっかりしろオリヘルガ!

 ………だっ、誰か救護を呼んできてくれ!」

 

 

「何でだ!?

 さっきまで優勢だったのにどうしてこんな!?」

 

 

「誰だ!!

 どこのどいつだ!?

 誰がこんなオリヘルガに()()()()()()()()()()()()()()()()!!?」

 

 

 試合を応援席から見守っていたブルカーン達にはオリヘルガが深手を負ったのは対戦相手からの攻撃ではなく別の者による狙撃を受けて負ったように映った。

 

 

 

 

 

 

 そこへ………、

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「落ち着け。

 今スラートの治療術が使える者を呼んだ。

 ソナタ等はオリヘルガを闘技場の外へと運んでくれ。

 間もなく()()()()()()()()。」

 

 

「!?

 待てよ!?

 こんな状況で第二試合だと!?」

 

 

「オリヘルガが奇襲を受けたんだぞ!?

 この傷は試合によるものじゃない!

 大会を一時中断しろ!」

 

 

「そうだ!

 まさかこれで俺達ブルカーンの敗北が決まったわけじゃねぇよな!?」

 

 

「こんな試合は無効だ!

 他の奴等もバルツィエが襲ってきたって騒いでるし今はバルツィエに対応するのが先決だろうが!!」

 

 

「それかカーラーン教会の奴等があのアローネとかいう女の援護でもしたんじゃないのか!?

 この流れで俺達が負けるだなんてあり得ないだろ!?」

 

 

 オサムロウから試合を続行すると聞いてどよめきだすブルカーン。だがオサムロウは非情にも淡々と事実を述べていく。

 

 

オサムロウ「ソナタ等には残念だが今の試合はバルツィエが来たのでもカーラーン教会の他の者からの援護射撃があったのでもない。

 

 

 純粋にオリヘルガとアローネが戦い()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それだけだ。

 よってソナタ等の代表オリヘルガの敗退が決まった。

 早く次の試合へと移行するぞ。」

 

 

「「「「「……!?」」」」」

 

 

 ブルカーン達はアローネへと振り返る。アローネはオリヘルガに一瞥もせずに次の対戦者がやって来る入場口に眼を向けている。そこから次の対戦相手クララが入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………まさかオリヘルガが貴方に敗北するとは思いませんでした………。

 一体どの様な手を使って………。」

 

 

アローネ「次の対戦者はクララさんですか………。

 貴方とは一度戦ってみたかったのです。」

 

 

クララ「…申し訳ありませんが貴方の相手は私ではなく別の人に任せます。」

 

 

アローネ「………?

 では何故ここに………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!」パァァァァ!!

 

 

 アローネが見ている前でクララの体が光だす。光に包まれたクララの装束が徐々に巫女の衣装から動きやすさを重視した剣士のような格好へと変わっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『次のお前の対戦相手はこの俺だ。

 クララに変わってこの精霊ラタトスクがお前の相手をする。』

 

 

 

 

 

 

アローネ「………私の次の対戦相手はラタトスクでしたか………。

 相手にとって不足はありませんね………。」

 

 

 光が収まると中から剣士風にドレスアップした金色に輝く髪のクララが現れる。人格はラタトスクのものだろう。

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「…巫女もどこか様子がおかしいが選手は揃ったか。

 

 

 

 

 

 

 ならこれよりダレイオス大王位決定戦第二試合を行う!!

 両者構えて………試合始め!!」

 

 

 ブルカーンがまだ何か言っていたがスラートの者達がブルカーンを退場させて第二試合が始められる。先に動いたのはラタトスクだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『蒼破刃!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュウウゥ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラタトスクは剣を引き抜き様に剣からマナを込めた空気の塊を打ち出す。球筋も早く直撃すれば並みの者であれば吹き飛んでいくことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァアアンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネはそのエネルギー弾を羽衣で難なくラタトスクのいた方へと弾き返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「この程度の攻撃はコーネリアスさんとの特訓で『倒せないことは想定済みだ。』………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラタトスクはアローネがエネルギー弾に気を取られている内にアローネの背後へと()()()()をしていた。オリヘルガの飛葉翻歩とは違い座標軸そのものを跳躍したその移動方法にはアローネも声が聞こえてからしか反応できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『お前は油断ならない相手だ。

 悪いが全力でお前を叩き潰すぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “アイン・ソフ・アウル”!!!』カッッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 アローネの背後からラタトスクが剣に光を収束させそれを勢いよく放つ。その光はローダーン火山でのラーゲッツの覇道滅封にも劣らぬ力を威力を誇るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジジジジジジ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『………!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「精霊の力とは………この程度なのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラタトスクの技アイン・ソフ・アウルはアローネの手前で停止した。まるで光が見えない壁にぶつかったかのようにその勢いを封殺される。

 

 

ラタトスク『お前は………………その力は()()()()()()()()………。

 ………やはりお前が()()()()()()()()()()()!!』

 

 

アローネ「何を仰っているのか分かりませんが私はシルフではありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名はアローネ=リム・クラウディアです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザザザザザ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後ラタトスクの体に無数の切り傷が刻まれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク『ぐぁ…………!?

 ………この俺が…………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガに続いてラタトスクまでも崩れ落ちた。それによりアローネの三回戦準決勝進出が決まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「(………何故でしょうか………?。

 力がどんどん溢れていくのが分かる………。

 私の知らない力が次々と私の中に満ちてくる………。

 

 

 ………だというのに私はこの力を昔から知っているような………そんな不思議な感覚がするような………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………この調子で行けば私はこのまま一気に優勝を手にできる………。

 そしたら次は………。)」



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シーグスの策

旧王都セレンシーアイン 客席

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………何だあのアローネの力は………。」

 

 

ミシガン「オリヘルガだけじゃなくクララさん………ラタトスクにも勝っちゃったけど………。」

 

 

タレス「……あの力は普通じゃありません。

 何かボク達とは違う別の力があるように感じます。」

 

 

カーヤ「アローネさんどうしちゃったの………?」

 

 

 闘技場の舞台で戦うアローネの様子に困惑するウインドラ達。劣勢から逸機に巻き返し優勝候補とされていたオリヘルガを破った後にそのオリヘルガを凌ぐ力を持つであろうラタトスクまでもが撃ち破られてしまった。

 

 

 

 

 

 

レイディー「………おい坊や。

 お前いつの間にあいつに力を与えたんだ?」

 

 

カオス「………え?」

 

 

レイディー「あいつのあの魔力の高さは尋常じゃない。

 お前あいつに密かに力を分け与えていたんじゃないのか?」

 

 

 怒涛の快進撃を繰り広げるアローネの力に疑問を抱いたレイディーがカオスにそんなことを訊いてきた。

 

 

カオス「………」

 

 

 それに対してカオスは事実だけを伝える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「……………俺は何もしてませんよ………。

 俺は先週にアローネと喧嘩になってから今日まで会わなかったんですから………。」

 

 

 

 

 

 

レイディー「………じゃああいつのあの力は何なんだよ………。

 あんな力が急に発現したりはしねぇだろ。

 それかあいつが今までアタシ達にも隠してたってんなら話は別だが一体何でこんな突然………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「………見せてもらいましょうか………。

 アローネ様………貴方の持つその()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 カオス達の隣では相変わらずコーネリアスが不適な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーグス「だああぁぁ!!

 あんなのに勝つなんて無理だろうが!?

 俺は次の試合辞退する!!

 あんなのと戦っても俺が酷い目にあうだけだろ!?」

 

 

ミネルバ「弱気なこと言ってんじゃないよ!

 アンタが一番ミーアで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 闘技場の袖では出場するミーア族の選手シーグスと族長代理のミネルバが言い争っていた。

 

 

シーグス「お前だって見てたろ!!?

 俺はオリヘルガかクララが勝ち上がってくると思ってたのにその二人を瞬殺するような相手だぞ!?

 俺が敵うなんてことはあり得ねぇよ!」

 

 

ミネルバ「何言ってるんだ!

 アンタにまともな戦闘は期待なんかしてないよ!

 アンタは最初に考えていたアタシの作戦の通りにやればいいんだ!

 ここでアタシと言い合ってるとあの子の力がどんどん回復していくよ!

 休憩する時間を与えちゃいけないんだ!」

 

 

シーグス「でっ、でもよぉ………!?」

 

 

ミネルバ「あぁもう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いいから行ってこい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドカッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーグス「ぐわっ!!」

 

 

 アローネの対戦相手シーグスがミネルバに蹴り飛ばされて闘技場の中央までやって来る。戦う前から既にシーグスはミネルバによって蹴りのダメージを入れられダウンした状態だった。

 

 

オサムロウ「………どうするのだ?

 試合は出来そうか?」

 

 

 地面に突っ伏すシーグスにオサムロウが話し掛ける。オサムロウとしても試合を開始する前から既に倒れているシーグスを前に試合開始を宣言してもよいものかと困惑していた。

 

 

シーグス「………………………あぁくそ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いいぜ!!?

 さっさと始めろ!!

 こうなりゃ自棄だ!!

 勝てる気はしないがここで辞退なんかしたらミネルバの奴にどやされるだけだ!!

 やれるだけやってとっとと俺は帰らせてもらうぞ!!」ズザザザザ!!

 

 

 言葉とは裏腹にシーグスは後退りをしていく。そのまま闘技場から出ていくのではないかという勢いだ。

 

 

オサムロウ「………本当にやれるのか………?

 ………まぁやると言うのなら始めるか。

 

 

 これよりダレイオス第王位決定戦三回戦準決勝を行う!!

 試合始め!!」

 

 

 オサムロウが開始の宣言をするがシーグスはアローネから距離を取るばかりで攻撃を仕掛けてこない。アローネもその行動の真意が分からずにシーグスの様子を伺うがシーグスもアローネの様子を伺っている。二人の間で膠着した時間だけが過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがてシーグスから仕掛けるつもりがないと判断したアローネは先に行動に出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………どうやら先手は譲っていただけるようですね。

 では遠慮なく………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『()()()()()()!!』」

 

 

 魔技のウインドランスではなく魔術のウインドカッターでもない更に上位の術であろう風の力がシーグスへと放たれる。前回の試合でラタトスクを撃ち破った力がシーグスを襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパパパパパバパ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーグス「!

 来た!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シーグスはアローネの術が炸裂する瞬間右に避けて術を回避した。一度発動した場面を目視していたため技の兆候からどの様に術が迫ってくるのかを予測してのことだろう。術を発動させた硬直からシーグスがアローネに反撃してくるとかと思われたがシーグスは回避しただけで反撃をしてくることはなかった。

 

 

アローネ「………?」

 

 

シーグス「どうした………?

 次来いよ?」

 

 

 シーグスはアローネを挑発する。アローネもシーグスの挑発に返事を返すように術を撃つ。

 

 

 

 

 

 

アローネ「『エアスラスト』。」

 

 

シーグス「ほっと!」サッ!

 

 

 そして次もシーグスは最初と同様回避するだけで反撃はしてこなかった。アローネもそれでシーグスの狙いが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーグス「…カイクシュタイフじゃアンタには世話になったがな。

 俺としてもミーアのためにこの大会は勝たなくちゃいけないんだ。

 ズルいとは思うが俺はアンタが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 アンタのマナが枯渇した時が俺達ミーアの勝利だ。」



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更に力を上げるアローネ

旧王都セレンシーアイン 客席

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「シーグスの奴は攻撃を仕掛けてこないな………。」

 

 

タレス「アローネさんは二回術を使いましたがシーグスさんは避けるだけで撃ち返してきませんね。」

 

 

 

ミシガン「あんなに離れた位置にいてもアローネさんに攻撃なんか出来ないよね………?」

 

 

 客観的に見てもシーグスはアローネの力に怯えて逃げ回っているようにしか見えない。こうしている間にもアローネがシーグスに術を続けて撃ち込んではいるがそれら全てを避けるだけでアローネに攻撃しようとしない。

 

 

 

 

 

 

レイディー「…ありゃ恐らくアローネの消耗を待ってんだろうな。

 見たところ戦う気が無いのに降参しないってことはあぁやって逃げまくってアローネのマナが切れるのを狙ってるんだ。」

 

 

カオス「!

 じゃあアローネはこのまま術を当てられずに撃ち続けてたら………。」

 

 

レイディー「確実にマナが底を尽くだろうよ。」

 

 

カーヤ「でもそのことはアローネさんも分かってるんじゃ………?」

 

 

 シーグスの狙いがアローネを疲弊させることならわざわざその作戦に付き合わずともシーグスのように何もせずにいれば御互い攻撃が交錯することはなくアローネはオリヘルガとラタトスクで消耗したマナを回復させる時間に当てられる。言ってしまえばシーグスの作戦は大穴の空いた作戦なのだ。時間が無制限である分アローネにとっては逆に有利な運びになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だというのにアローネは逃げるシーグスにひたすら攻撃を仕掛けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『エアスラスト』。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーグス「よっとぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闘技場の中ではアローネが術を撃ちそれをシーグスが避けるといった流れが続く。

 

 

 

 

 

 

シーグス「(………そろそろマナが尽きてくる頃だろうな。

 後三、四回避けたら俺も仕掛けてみるか?

 ()()()()()()()()()()()()()()()は撃ち続けてるんだ。

 今ぐらいマナが無くなってくれば俺でもこいつを………!)「『エアスラスト』。」とあぶな!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザザザザザザザザザザザザ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬考え事をしていたせいで軽く頬を風の刃が掠める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーグス「(………気のせいか………?

 マナはもう大分減って術の威力が落ちてくる頃だってのに逆にだんだんと強まってきてないか………?

 

 

 

 

 

 

 それに術の範囲も広く………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『エアスラスト』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーグス「!!?

 やっぱり気のせいじゃ…………ぐぁぁ!?」ザスッ!!

 

 

 今度は掠めるだけに留まらず右腕が切り裂かれた。激痛に悶えるシーグスであったが素早く術から逃れて次の攻撃がくるのを警戒する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………この力の使い方にも慣れてきました………。

 今ならもっと………()()()()()使()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネの周囲に巨大な魔方陣が組上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーグス「なっ………!?

 これだけ撃ってまだそんな力が残って………!?」

 

 

 アローネがそれまで撃ち込んできていた術よりも強力な力を使おうとしているのを見てシーグスが慌てふためく。徐々に能力が向上してきていたエアスラストでさえも避けるのが困難であったのにその上位の力を使われてしまえばどうなるかはシーグスにも予想がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーグス「待っ、待った!!

 待ってくれ!!

 こっ、降参するから!!

 俺の負け「『龍王随風、神魔を裁斬せよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()』」って言ってるじゃないかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪文を完成させ術が発動すると観客席を巻き込んで闘技場を覆う特大の竜巻が発生する。それはアローネがオリヘルガに義兄の形見であるエルブンシンボルを砕かれた際に巻き起こった竜巻そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーグス「うおおおあああああああああああ!!?

 なっ、何なんだこの力はああああぁ!!?

 こんなのどうやって避け…………!」

 

 

 

 

 

 

ミネルバ「シーグス!!?」

 

 

 竜巻に飲まれたシーグスが遥か上空で何やら叫んでいる。下にいたミネルバがそのシーグスに向かって叫ぶが轟音のせいで彼に声が届くことはないだろう。

 

 

 

 

 

 

ミネルバ「しっ、審判!!

 降参だ!

 シーグスはもう戦えないよ!!

 私達ミーアの負けでいいから早いところこの術を止めてくれよ!!」

 

 

 不思議なことに闘技場を包み込む竜巻はシーグスにしか作用してないらしく他の者がシーグスのように空中へと投げ出されることはなかった。そのことにいち早く気付いたミネルバが闘技場の中へと入ってきてオサムロウに降参すると言ってきた。

 

 

オサムロウ「…だそうだぞアローネ。

 シーグスを降ろしてやれ。」

 

 

アローネ「…分かりました。」スゥゥ…、

 

 

 アローネからマナの光が消えると途端に竜巻も消え去る。そして竜巻によって浮かされていたシーグスは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーグス「うおおおおおおぉぉぉ!!!?

 急に竜巻を消さないでくれよおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まっ逆さまに落下してきた。

 

 

ミネルバ「シーグス!?

 ちょっ、ちょいとあれどうするのさ!?

 シーグスがこのままだと「『ウォールウィンド』」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地面に激突する寸前アローネが風のクッションを作りシーグスの体を浮かせる。

 

 

 

 

 

 

シーグス「おわっ!?

 今度は何だ!?」

 

 

 空中で落下の勢いが無くなり浮遊する自分に目を白黒させるシーグス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「御無事でしたか?

 ミネルバさんから降参すると申されていますが一応貴方からも降参するかどうか御伺いしたいのですが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーグス「あ………………はい………。

 もう俺の負けでいいです………。」

 

 

 

 

 

 

 アローネの力で空中に浮かぶシーグスはアローネの質問に素直に降伏するのだった………。



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決勝戦

旧王都セレンシーアイン 客席

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネが………あんな竜巻を起こすような力を………。」

 

 

レイディー「信じられんがあれで本当に坊やの補助無しにあんな力が発現できるとはな………。

 もしかすっと時間差でアタシ達もあんなふうに()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

タレス「覚醒?」

 

 

レイディー「アタシ等は半年前に直に精霊マクスウェルから与えられて今の力が使えるようになっただろ?

 そんでお前達がスラート、ミーア、クリティアに分け与えた力はアタシ等程の能力はなかったがそれが四ヶ月前くらい前からアタシ等の力に自然と追い付いてきた。

 この精霊の力は時間の経過で成長していってるんだ。

 そんで坊やから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あれが本来アタシ等が到達する予定の力なんじゃねぇか?」

 

 

 アローネの魔力が上昇したの見てレイディーがそう考察する。レイディーの説明から確かにアローネがカオスと一緒にいた期間が長く覚醒というのが本当なのであればここでそれが起こったのだとしても理解できる。

 

 

カオス「精霊の力が覚醒………。」

 

 

タレス「…ではもし精霊の力が覚醒するとすればボク………?」

 

 

ウインドラ「いやそれだと十年前から精霊の力が使える俺とミシガンはどうなるんだ?

 十年前経っても特にアローネの様な変化は感じないがアローネとカオスが一緒にいた期間は精々七ヶ月程度だろ?

 たった七ヶ月で俺やミシガンの十年を越えられるものなのか?」

 

 

 レイディーの推測通りだったのだとしてもそれだと十年前のミストでの事件から力が与えられていたウインドラとミシガンはアローネのような覚醒には至っていない。時間経過で覚醒するのだとすればアローネよりも先にウインドラやミシガンが覚醒を起こすはずだ。

 

 

レイディー「力の覚醒には個人差があるんじゃねぇか?

 アタシはジャバウォックとの戦いで今まで聞いたことも見たこともなかった術を体現できたがお前達もそれなりの力を身に付けてるだろ?

 ………アタシ等とアローネとでは生まれもった()()()()があったんだ。」

 

 

ミシガン「才能の差………アローネさんあんなに凄い力を使える才能があったってこと?」

 

 

レイディー「あいつの話を聞く限りあいつはアタシ等と違っていいところの元御嬢様だ。

 王族貴族ってのは一般とは違ってより優れた高潔な血を掛け合わせて世代を交代していく。

 あんまり言いたくねぇがバルツィエだってその類いだ。

 生まれてくる連中は皆始めから“天賦の才”を持つ奴等ばかり。

 優秀な血ってのはそれだけで平凡な奴等とは違うスタートから始まるんだ。」

 

 

カーヤ「カーヤは………そんなつもりないけど………。」

 

 

カオス「だからアローネにあんな力が………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なんか妙じゃないか?

 あのカーラーン教会の女………。」

 

 

「いきなりあんなに強くなって………。」

 

 

「さっきまでオリヘルガにやられそうになってたのに急に強くなるなんて変だよな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 アローネの力について話していると周りから不穏な会話声が聞こえてきた。

 

 

レイディー「…まずいな。

 急激に強くなったアローネに対して他の奴等が不信感を持ち始めたか。」

 

 

ウインドラ「何か不都合でもあるのか?」

 

 

レイディー「ここにいる連中は皆坊やの力のことを知ってるんだぜ?

 全員坊やから力をもらった身だしな。

 当然坊やの力が()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ここにいる奴等の目からはアローネが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こりゃアローネが優勝したとしてももう一悶着起きそうだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 闘技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチパチパチパチ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオス大王位決定戦準決勝第三試合が終わりシーグスが退場すると最後の対戦選手のオーレッドが拍手をしながら入場してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「素晴らしい………実に見事な力じゃった。

 まさかソナタが決勝まで進んでくるとは思わなんだ。

 儂の相手はブルカーンのオリヘルガかミーアのシーグスあたりだと思うておったが御嬢さんが上がってくるとはのぉ………。」

 

 

 たった今天変地異にも匹敵する力をアローネが使ったにも関わらずオーレッドはアローネに対して臆するでもなく大胆にもアローネに歩み寄ってくる。

 

 

 

 

 

 

オーレッド「…その力は………彼からの賜り物かの?

 この大会を開催したのもその授かり物に自信があったからこそなんじゃろう?

 自分達を不利な一回戦に配置することよって儂等クリティアやミーア、アインワルド、ブルカーンがソナタ等の話に乗ると狙ってのことじゃろう。」

 

 

 オーレッドはアローネの力をカオスの力だと誤解していた。実際この闘技場でアローネの試合を見ていた者全てがそう思っていた。

 

 

アローネ「……生憎ですが私はカオスからは何も受け取ってはいませんよ。

 受け取っているのは貴方方だけです。

 今にして思えば私は傷を治していただいたことはあれど貴方方のように特別な力を授かることはなかった………。

 

 

 これまでの旅は私は私の力だけで乗り切ってきました。」

 

 

オーレッド「フフ……、

 そんなわけなかろうが。

 彼の………精霊の力の恩恵も無くヴェノムと渡り合ってきたということか?

 そんな生き物がこの世におるはずがない。

 そんな嘘で儂が誤魔化せると思うたか?」

 

 

 アローネの言葉はオーレッドは信じるに値しないと切り捨てる。どう説明してもオーレッドがアローネの言葉に納得することはないだろう。

 

 

オーレッド「…じゃが力を過信し過ぎたな。

 彼が持つ精霊の力は何も生物だけを進化させるだけではない。

 精霊の力で研究の幅が広がったことによって儂等クリティアは更なるマジックアイテムの可能性を見出だした。

 この大会で使える武具を制限しなかったことを後悔するのじゃな。

 どんなに強い力を持とうともそれが()()()()()()()()()()()ソナタは儂には勝てんぞ。」

 

 

 大胆にもあれほどの力を見せつけたアローネに対しオーレッドは自分の勝利を宣言する。余程自身の使うマジックアイテムに自信があるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………両者覚悟はいいか?

 泣いても笑ってもこれが最後の戦いだ。

 これに勝利した者が今後のマテオとの戦いでダレイオスの人道指揮をとることになる。

 それではダレイオス大王位決定戦最終試合決勝を行う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合始め!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いよいよ最後の決闘のが始まる………。



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オーレッドの卑怯な戦法

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………!」バッ!

 

 

 アローネは決勝開始と共に後退する。オーレッドの様子から彼が何か秘策を用意しているであろうことはアローネも検討がついた。なのでオーレッドの様子を見るべく距離を取って彼の出方を伺う。

 

 

 

 

 

 

オーレッド「ほほう………、

 どうした?

 前の試合のように撃ってはこんのか?」

 

 

アローネ「…その様な挑発には私は乗りません。

 私に術を使わせようとしているのが見え見えですよ。」

 

 

 試合が始まる前から何かを企んでいる様子のオーレッドに下手に攻撃するのは手痛い反撃を食らう恐れがある。そう考えたアローネは反対にオーレッドがどう動くか見てから迎撃することにする。

 

 

オーレッド「ファッファッファッ………。

 こんな老い耄れが随分と警戒されたもんじゃの。

 やれやれ………では………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 儂から先に参ろうかの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『アイシクル』。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………!

 ………これは………?」

 

 

 オーレッドがアローネに向けて氷系の攻撃魔術を撃ち込んでくる。しかしそれはアローネに直接は当たらずにアローネの周囲を取り囲むように氷が張られた。

 

 

オーレッド「どうじゃ?

 その氷はソナタをそこから出さぬために張った氷の檻じゃ。

 そう簡単にはそこからは出られぬぞ。」

 

 

アローネ「………こんな氷が何なのですか?

 このくらいの氷なら簡単に「それはできんのぉ。」!」ポイッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーレッドがアローネを囲む氷の中に何かを投げ込む。それはトリアナスでアローネにも見せたオールディバイトだった。

 

 

オーレッド「これで数分間今オールディバイトが割れた辺りから半径二百メートル以内では魔術による攻撃はできんぞ。

 ソナタはその氷を砕いて外に出ることはできんというわけじゃ。」

 

 

アローネ「………………どうやらそのようですね。

 ですがそれだと貴方も術で私を攻撃することはできないのではないですか?

 それなら私はオールディバイトの効果時間が途切れるまでこの氷の中で待つだけです。」

 

 

 オールディバイトが使われたことでアローネとオーレッドの両方が術の使用を制限されてしまう。それはつまりアローネだけでなくオーレッドまでも攻撃する手段がないということだ。見たところオーレッドは鞄を所持しておりその中には大量のオールディバイトが入っているのが分かる。その他には武器らしい武器なども持ち合わせてはいなかった。

 

 

オーレッド「儂にはこのオールディバイトさえあれば十分じゃ。

 このオールディバイトが儂にとっては武器にもなる上に盾にもなるんじゃよ。」

 

 

アローネ「………?

 オールディバイトが武器と盾に………?」

 

 

オーレッド「さて御嬢さんや。

 知っておるかな?

 この闘技場はその昔大会の参加者と捕獲したモンスターとの決闘も行われておったんじゃ。

 モンスターは体も大きいから闘技場もそれに合わせて広く作ったんじゃ。

 おおよその端から端までの長さが四百メートルはある。」

 

 

アローネ「それが何ですか?

 直径四百メートルということはこの闘技場ではオールディバイトは………………!?」

 

 

 そこでアローネはオーレッドが何をしようとしているのかを理解した。

 

 

オーレッド「直径が四百メートルの闘技場と半径二百メートルに効果を発揮するオールディバイト………。

 言葉通りに捉えれば今このフィールドで魔術を使うことはできんよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはソナタが闘技場の中央に立っておったらの話じゃがの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………!」

 

 

 オーレッドの怪しげな雰囲気に気圧されてアローネは決勝開始直後に後退した。それでなくとも決勝の開始時点の位置ですらやや中央からはずれた位置だった。

 

 

ザッ………ザッ………、

 

 

 オーレッドはゆっくりとアローネに背向けて真反対の方へと歩いていく。

 

 

オーレッド「こうも上手く儂の作戦通りに動いてくれるとはのぅ。

 やはり最後にものをいうのは人が神より授かりし知恵こそが人にとっての最大の強みということじゃ。

 

 

 どんなに体が大きくともどんなに強大な力を持とうともそれに奢ってしまえば崩すのは容易い。

 儂等エルフはこれまでの歴史で自分達よりも力を持つ生き物達を数多く倒してきた。

 それは数による力でも優れた武器によるものでもない。

 

 

 

 

 

 

 それは学ぶ力あったからこそじゃ。」ザッ…、

 

 

 オーレッドが足を止める。オーレッドが位置する場所は闘技場の客席の最前列の真下だった。

 

 

オーレッド「ここでなら問題なく術を撃つことができるな。

 あとはここから御嬢さんの檻の上に()()()()()()()()()()()()

 御嬢さんはそこから出られずに儂の攻撃を受け続けねばならん。

 

 

 どうじゃ?

 実質詰んでおるが今なら怪我もせんで終わりにすることができるぞ?

 素直に敗けを認めよ。」

 

 

 勝ちを確信したオーレッドがアローネに試合を放棄するかどうか訊いてくる。こうも完璧に術中にはまってしまえばアローネにはどうすることもできない。前の三つの試合は力押しで勝てたがオーレッドはその力を封じてしまった。アローネには氷の檻を破壊するような腕力も武器もない。羽衣もオールディバイトによってマナを封じられてはただの布切れにしか過ぎずアローネの肩に被せられた状態のままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…何を既に勝った気になられておられるのですか。

 私はこれしきのことで負けたりはしません。

 ここからでも私は形勢逆転して見せます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「…物分かりが悪い御嬢さんじゃ。

 前の試合を見た限りでは御嬢さんにはもう何も出来ることはないじゃろ。

 威勢や志しだけでは乗り越えられん山があることも知るべきじゃ。

 根性だけでは儂等ダレイオスは誰もついては来ぬぞ。

 ()()()()()()()()()()()()()じゃ。

 この状況を理解できぬソナタに王の器があるとは思えんな………。

 

 

 ………仕方あるまい。

 少しは現実を直視させてやらねばな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『フリーズランサー』。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫くの間オーレッドの氷の槍がアローネの檻の中へと撃ち込まれていった。アローネはそれを避けたりするが全てを避けきれずにボロボロになっていった………。



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快進撃が止まり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ハァ………!

 ハァ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「フム………。

 この状況はオリヘルガの時と同じじゃのぅ。

 オリヘルガはさっさと勝負を決めんかったから御嬢さんの屈強な力の前に破れたんじゃ。

 儂は油断もせんし慎重派じゃ。

 念のために一応もう一度………ほれ。」ポイッ…、

 

 

 

 

 

 

パァァァンッ!

 

 

 最初のオールディバイトの効果が切れる前にオーレッドは再度オールディバイトをアローネがいる氷の中へと放り投げる。オールディバイトは割れまた周囲のマナが消えていくのが分かる。

 

 

オーレッド「まったく頑固な御嬢さんじゃな。

 オリヘルガと戦っていた時は攻撃の合間合間に自分の自己治療も行っておったが今度はそうはいかんじゃろうて。

 それなのにようそんなに耐えるのぅ。

 儂じゃったらそんなに傷つく前に先にまいったと一言で済ませるんじゃがな。

 勝てぬと分かっておる勝負にいつまでも抗っておっては前に進めぬぞ。

 そんな苦しい思いをせんでも御嬢さんが敗けを認めてくれればいいんじゃ。

 そこまで傷ついておきながら気が付けばベッドの上だったというのも酷じゃろ?

 御嬢さんはやれるだけのことはやった。

 

 

 もういいじゃろ。

 どうせ勝ったところで大した栄誉があるわけでもなし。

 ちょっとした特権があるだけじゃ。

 カーラーン教会が何を欲しているのかは存ぜぬが教会の教示は確か平等や平和を謳い文句にしておったかの?

 そんなものは別にこの大会で勝ち抜かなくてもできる話じゃ。

 大王の座は儂に譲って早く体を休めることじゃな。

 この大会の後に待つ戦こそが本番なのじゃから。」

 

 

 魔術を封殺されてなすすべのないアローネにオーレッドは降伏を催促する。オリヘルガとの試合でも急に驚異的な力で押し返したアローネだったが今度ばかりはそれも難しそうだ。アローネは氷の中から動けず一方的にオーレッドがオールディバイトの効果の範囲外から攻撃を仕掛けアローネだけが回復もできずにダメージを負うばかりだ。

 

 

アローネ「………何度申されても私は敗けを認めたりはしません!

 私は私が勝つまで戦います!

 そのオールディバイトも数には限りがあるはずです!

 だったら私は貴方が全てのオールディバイトを使いきるまで耐えきってみせます!」

 

 

オーレッド「フッ…、

 その割りには一個目でもう肩で息をしておるようじゃがな。

 つい今しがた二個目を使ったばかりじゃぞ?

 儂はこの大会のためにオールディバイトをあと()()用意しておるわ。」

 

 

アローネ「四つ………。

 あと四回分のオールディバイトを耐えしのげば私の勝利が決まるのですね。」

 

 

オーレッド「生意気言いおるわ。

 そんななりで強がってどうすると言うんじゃ?

 まさか本当に耐える気ではあるまいな?」

 

 

アローネ「…どうでしょうか………。

 私よりも先に貴方の方がマナを切らせてしまうかもしれませんね………。

 そうなっても私が勝つことになりそうですが………。」

 

 

オーレッド「………フォッフォッフォッ………、

 こりゃ末恐ろしい御嬢さんじゃったわ。

 無駄話しておる場合ではないな。

 

 

 では儂もそろそろ本気でやらせてもらうとしようか。

 『フリーズランサー』。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキパキパキィィン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネへの攻撃が再開する。気丈に振る舞うアローネだったが撃ち込まれる氷はなおもアローネの体を傷付け続ける。体から流れ出る血が徐々に増え精神的には持ちこたえても体力がそれに追い付かずにいずれ意識を失ってしまうであろうことは誰の目から見ても明らかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「くぅぅ………!

 ここまで粘られてしまうとは!

 もう最後のオールディバイトが無くなってしまった!」

 

 

アローネ「……それなら………ハァ………!

 私の………勝利………で………ね………!

 ハァ………!」

 

 

 アローネはあれから四回分のオールディバイトの効果時間を耐えきった。いつ倒れてもおかしくないというところまで体力を削られてはいるがそれで意識を保ち続けてはいる。

 

 

 だが押せばそのまま倒れてしまいそうな程にまでダメージを負ってしまった。

 

 

アローネ「………ハァ!………ハァ!

 ……この最後の………オールディバイトの効果が切れた時が………ハァ………貴方を倒して………私の優勝が決まる時です………ハァ………!」

 

 

 足元もおぼつかないながらもアローネはオーレッドにそう宣告する。最後のオールディバイトの残り時間はそれまでのオールディバイトの効果時間から計算して一分もない程度だろう。そのオールディバイトの効果が途切れた瞬間にアローネは一気にオーレッドとの決着をつけるつもりのようだ。

 

 

オーレッド「ぐぅぅ……!

 ここまで儂が追い詰められるとは……!!

 ソナタ本当に化け物染みておるな!

 これだけの傷を負わされてもまだ立っていられるとは……!」

 

 

アローネ「観念………するのですね………。

 これで………私が晴れて………。」

 

 

 そうこうしている間にアローネの周囲にマナが戻ってくる。オールディバイトのこうか時間が終わる。それでオーレッドとの戦いに終止符をうてる。

 

 

オーレッド「うぅぅぅ………!

 おのれぇぇぇぇぇ!!………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………とでもいうと思うたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………………え………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「いやぁ~すまんのぅ御嬢さん。

 儂の見間違いじゃったわ。

 オールディバイトはあと()()バッグの底に残っておったわ。

 すまんすまん………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここからが本番じゃぞ。

 精々死なないでおくれよ。」



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星を貫く風

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「オールディバイトが………あと六つも……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「それでは行くぞい。

 『フリーズランサー』。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 使い果たされたと思われたオールディバイトが使用されアローネはまた氷の雨に晒される。アローネにはもうそれに耐える気力も残ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ!ザスッ!ザスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ぁ………ッ……ぐ………ぁぁ………!」

 

 

 氷の檻の中で頭上から降り注ぐ氷の刃に貫かれて意識が飛びそうになる。それでも使命感から意識を手放すことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「ほほ!

 よう耐えるよう耐える!

 それでもそろそろ終いじゃろ?

 そんなに血を流してはもう立っていられるのがやっとじゃろ?

 そこで倒れてしまえばその地獄から解放されるんじゃ。

 安心して倒れてしまえ。

 フォッフォッフォッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「(………始めからこれが目的だったのですか………。

 オールディバイトが六つとあえて私に伝えることで私がそれを耐え凌ぐことを想定して更に六つを用意していた………。

 私を絶望の淵に叩き落とすためにそんな虚言を………。

 ………元に私はもう心が折れかかっている………。

 もう残り六つのオールディバイトを耐える体力は残っては………。

 ………オーレッドさんは何故マナが枯渇しないのでしょう………か…………………、

 

 

 ………!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「儂のマナ切れを狙っておるなら無駄じゃぞ?

 攻撃を耐えることに夢中で気付かなかったか?

 ちゃんとマナを補給するために()()()()()()は準備しておる。

 儂がこの作業でマナが切れることはあり得ん。」モグモグ…、

 

 

 攻撃を耐えることに集中していたせいでオーレッドのマナが回復していたことに気付けなかった。

 

 

 

アローネ「(………道理で何度も何度も魔術を使っているのにその威力が衰えないと思ったらそんなことを………。

 ………これではもう完全に詰まれていますね………。

 私にはこの状況を打開する術はない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………もういっそ諦めてしまいましょうか………?

 そうすればこの痛みから逃れられ………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「そんなものですか?

 貴女様のウルゴスを思う気持ちは。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………!」

 

 

 オーレッドの氷の雨に晒される中何故か至近距離でコーネリアスの声がはっきりと聞こえた。身をよじって客席の方へ目を向けるとコーネリアスが真っ直ぐこちらを見ていた。その隣にはカオスもいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「ここで終わってしまうようであれば貴女様の気持ちはただの願望止まりだったということです。

 貴女様は結局のところ誰かの力に頼らなければ何も出来ない無力な御方だったのです。

 そんな方にウルゴスの民を救うことなどできませんよ。

 ウルゴスの民も貴女様に救われたいとは思ってはいないでしょう。

 貴女様がその程度の力しかないのであれば所詮はウルゴスの民も救うに値しない存在だったのです。

 そんな方々をまだ救いたいと仰るのであればここにいるカオス様に全てを任せて貴女様はゆっくりと人形のように椅子にでも座って待っておられるのはいかがですか?

 貴女様には荷が重すぎたのですよ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ=リム・クラウディア。

 貴女は最後の最後までカオス=バルツィエに守ってもらわないと何もできないお姫様だったということだ。

 そんな御飾りでしかない貴女はカオスの前で不様に散るのがお似合いだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「………ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!!!

 

 

 闘技場上空の大気が音を立てて吹き荒れる。ゆったりと流れていた雲は川の流れのように流れ天空を覆っていく。

 

 

オーレッド「なっ、なんじゃ!?

 何が起こっておる!?

 何故大気がこんな………!?」

 

 

 先程までは晴天を彩っていた空が暗雲に立ち込める。今にも大雨が降りだしそうなそんな暗い空へと景色が変わる。

 

 

 

オーレッド「!……ソッ、ソナタ………!

 何をした!?

 何故オールディバイトの圏内でこんな………!?」

 

 

アローネ「………誰が御飾りですか………。

 誰がカオスがいなければ何もできないのですか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアアアアアア!!!

 

 

 闘技場に急速的にマナが集約していく。オールディバイトで吹き飛ばされたマナがアローネへと集まっていく。

 

 

パキパキ……!!!

 

 

 アローネを閉じ込めていた氷が風の圧力で割れていく。少しずつだがアローネが力を取り戻していく。

 

 

オーレッド「!!?

 馬鹿な!?

 このオールディバイトはあのカオス=バルツィエの血で作られた魔道具じゃぞ!!?

 理論的には複数用いればカオス=バルツィエの力すらも封じるオールディバイトがお前ごときに………!!

 ………ええぇい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前には残りのオールディバイト全部使ってやろう!!

 これならいくらなんでも魔術は使えないじゃろうが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアァンッ!パアァンッ!パアァンッ!パアァンッ!パアァンッ!

 

 

 残り五つのオールディバイトが全てアローネのいる氷の中へと投げ込まれて割れる。それにより一瞬風の勢いが止まったかのように見えた。

 

 

 

 

 

 

オーレッド「………ふっ、ふぅ………!

 驚かせおって………!

 これでお前も終わり………!?」ゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

 

 風の勢いが止まったのはほんの一瞬だけだった。それどころか五つのオールディバイトを使う前よりも風の勢いが増していく。

 

 

オーレッド「どっ、どうなっとるんじゃ!?

 お前の力はカオスから与えられたもののはずじゃろ!!

 カオスすらも封じる力が何故お前には効かんのじゃ!!

 お前は一体………!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………私はカオスがいなくとも私一人でウルゴスの民を捜しだしてみせます!

 私は守られるだけの存在などではありません!!

 こんな逆境など私一人で………!

 私一人で打ち克ってみせます!!

 これが私の最強の術………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 天から光が照らす。雲すらも貫くその光はかつてのカオスがここで撃ち放った光よりも眩しく輝いていた。

 

 

 

 

 

 

オーレッド「まっ、待て!?

 そんなもん食らったら儂は死んでしまうじゃろうが!?

 殺すのは反則じゃぞ!!

 止めろ!

 止めてくれ!!」

 

 

アローネ「止めるわけにはまいりません。

 私はダレイオスの新たな王となるのです。

 貴方に勝って私は晴れてカオスに………。」

 

 

オーレッド「ひっ、ヒィィィ!!?

 分かった!!

 降参じゃ!!

 儂は降りる!

 こんな怪物に太刀打ちなどできるか!!

 儂の負けじゃ!!

 今すぐ止めろ!!」

 

 

 あまりのマナの大きさに恐怖したオーレッドは大声で自分の負けだと叫ぶ。

 

 

 だがアローネはそれでも術を発動させるのを止めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『()()()()()()!()!()』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッ………………ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天空より穿たれる光が闘技場を貫く。その時その光を見た者達はその力が闘技場だけでなくデリス=カーラーンごと砕いてしまうのではないかと()()()思ったそうだ………。



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優勝はアローネ、しかしまだ大会は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パラパラ………、

 

 

 天から落ちた光は闘技場に大穴を開けた。闘技場の地下にはスラートが作り上げた地下都市シャイドがあったがそこの地面すらも貫通し穴はどこまでも続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「………ッ……………ハァ………………ハァ…………。」ブルブル…、

 

 

 アローネの光はオーレッドには当たらなかった。オーレッドが立っていた場所からほんの少し手前に光が落とされ間一髪オーレッドは助かった。

 

 

アローネ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッ…、

 

 

 

 

 

 アローネはオーレッドに向かって歩を進めていく。やがてオーレッドの前に来るとアローネはオーレッドに問う。

 

 

アローネ「まだやりますか?

 今度は外したりはしません。

 確実に貴方に今の力を行使しますが………。」

 

 

オーレッド「ァ………ァァァ………!

 ヒッ…………ァ……………………………………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサ…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーレッドはアローネの問いには答えず泡を吹いて気絶する。余程恐ろしかったのだろう。そのままオーレッドが目覚めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………オサムロウさん、

 判定を。」

 

 

 オーレッドが気絶したのを見てオサムロウに確認するアローネ。

 

 

オサムロウ「………あっ、あぁ………、

 ………………オーレッド………………これはもう………戦闘続行は不可能………………だな。

 ………ここまでか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………只今の試合!

 ダレイオス大王位決定戦決勝!

 オーレッドの試合続行が困難と見なしオーレッドの敗北を言い渡す!!

 

 

 よってこの勝負はカーラーン教会枢機卿アローネ=リム・クラウディアの勝ち!

 アローネ=リム・クラウディアの優勝が決定したことを宣言する!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これによりダレイオス大王位決定戦は以上をもって終了とする!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 危うい場面が多かったがどうにかアローネは優勝を修めることができた。念願だったアローネはこれでダレイオスの頂点へと躍り出た。あとはこれからマテオとの戦いに備えて準備を進めるだけでマテオとの戦い後に漸くウルゴスの民を見つける足掛かりを取り次ぐことができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そう思われたが闘技場の空気は少し和やかとはかけ離れた辛気臭い空気が流れていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファルバン「………ではここに我等ダレイオスの新たな王の誕生を告げる。

 ()()()()()()()前へ。」

 

 

 あれから少しして六つの部族とカーラーン教会の人々を整列しての閉会式が行われる。顔を合わせればいがみ合う六部族も今は静かにしている。それは壇上に立つ()()にその不満が向けられているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………………」

 

 

ファルバン「では新女王よ。

 何かこれからについての意気込みや方針をお聞かせて願いましょうか。」

 

 

アローネ「私は………。」

 

 

ファルバン「………?

 どうされた?」

 

 

 アローネは何かを言いかけて止める。それから中々言葉が続かないアローネにその場にいる者達がざわめき出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?

 どうしたんだ………?」

 

 

「緊張で声が出せないのではないか?」

 

 

「ハン!

 こんなことくらいで緊張してたら先が思いやられるぜ。」

 

 

「おい、

 あまり失礼なことを言うな。

 彼女に聞こえてしまうぞ。」

 

 

「自分達が負けたからといって野次を飛ばすようではブルカーンは底が知れてるな。」

 

 

「それを言うならミーアの代表なんかは終始逃げ回ってただけで一度も攻撃しないで負けたんだぜ?

 俺達ブルカーンが負け犬ならあいつ等は何なんだ?」

 

 

「はぁ?

 何で矛先を俺達ミーアに向けるんだよ。

 あんだけの力を持った相手にシーグスはよく頑張った方だ。

 相手が強すぎたんだから仕方ないじゃないか。」

 

 

「それはどうかな?

 僕達クリティアの目から見てもあの強さは正直納得がいかない。

 この大会に参加した選手は勿論僕達にもあの彼から精霊の力は受け取ってはいたけど彼女のあれは僕達のそれとは力の上昇の仕方が違い過ぎる。

 何か彼女だけ彼から僕達とは違うもっと強い力を与えられていたと思うのが普通じゃないかな。」

 

 

「珍しくクリティアと意見が合うな。

 

 

 大体この大会はダレイオスの最強を決める戦いでもあったんだろ?

 何が最強だよ。

 サムライもハーベンもましてやカオスさえも出場してないのにそんなのが決められるわけないだろ。」

 

 

「そうだよな………。

 もしサムライ達が出場していたらサムライが優勝してたんじゃないか?」

 

 

「前に長老から聞いたんだがサムライとカオスって人が戦ったことがあるらしいぞ。」

 

 

「本当か!?

 でどっちが勝ったんだ?」

 

 

「その勝負は俺達スラートも見てた。

 結果はカオス殿がオサムロウ………サムライに勝利したが………。」

 

 

「………ハァ………何だよそりゃ。

 じゃあやっぱり………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが一番強かったってことだろ?

 カオスの力を借りれば誰でも優勝できたんじゃねぇか。

 あの女が優勝できたのは大会前にカオスから俺達に与えられた精霊の力なんかより強い力をもらってたから優勝できたようなものじゃねぇかよ。

 

 

 あ~あ、

 とんだ茶番に付き合わされたもんだぜ。

 カオス達が出ないっていうから期待してたのに結局はズルして勝っただけかよ。

 こんなん有効にしていいのか?

 もう一回今度はカーラーン教会抜きで大会をやり直した方がいいんじゃねぇのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」ビクッ!

 

 

 突然コーネリアスが壇上を剣の鞘で強く打った。それに驚き静まり返る部族達。そしてアローネが口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…私がこのダレイオス大王位決定戦で勝ち抜いたことに不満の声があるようですね………。

 私が不正をしているのではないかと皆さんは疑っておられる………。

 ………誓って言いますが私は今大会で皆さんが考えているようなことは一切しておりません。

 私は自分の力だけで優勝まで辿り着きました。

 そこには()()()()が関与していたなどといあ事実はありません。

 私は私の力だけでブルカーン、アインワルド、ミーア、クリティアを倒しました。

 それが全てです。」

 

 

 疑念を抱く大衆に身の潔白を訴えるアローネ。カオス達にはそれが真実であることは当然分かるのだがアローネのことやカオスのことを知らない者達からすれば言葉だけでは証明にはならない。アローネが話終えるとまたヒソヒソとアローネに陰口のような声が囁かれる。

 

 

「そんなこと言ったってよぉ………。」

 

 

「力を借りたか借りてないかなんて私達には分からないしねぇ………。」

 

 

「試合中いきなりあんなに力が上がったりするわけないだろうに………。」

 

 

「やっぱ卑怯な手を使ったんじゃないの?」

 

 

 やはり不自然な力の覚醒はカオスから何かを受け取ったと見るしかなく皆アローネに疑心を抱いたままだった。こうなっては何かしらの方法でアローネが皆を納得させるしかないようだ。

 

 

 

 

 

 

アローネ「………口で言うだけではここにいる方々を納得されられないことは始めから分かっておりました。

 皆さんの目には信じられないような出来事だったと思います。

 私自身も未だにこの力に戸惑っておりますから………。

 ………ですがそれでも私は誰の力も借りていないということは確かなのです。

 それを証明するには()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 そういってカオスは壇上からとある方向へと顔を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!

 アローネ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………私はこの大会でもし優勝することができたらやってみたい………試してみたいことが一つだけありました。」

 

 

ファルバン「試してみたいこととな………?」

 

 

オサムロウ「それはどのようなことを………?」

 

 

 含みのある言い方に近くにいたファルバンとオサムロウが聞き返す。

 

 

アローネ「…私はこれまで世界を回って共に旅する仲間がいました。

 彼等とは御互いに支えあい助け合って何度も苦難を乗り越えてきました。

 

 

 それがある時ふと気付くと最初は互いが互いをカバーしあっていたはずなのにいつの間にか私達は彼の存在なくしてはここにはいない、ここにはいられないようなそんな力不足を感じていました。

 ()の存在は私達の中ではとても大きくダレイオスでの旅の後半はほぼ彼一人でヴェノムの主を倒してきました。

 ………そのせいで()の中では私の存在はとても小さく守ってあげなきゃいけないと思われていたようです。

 私はそんなふうに思われていたことがとても情けなくそして不甲斐なく感じます………。

 私の故郷では私の家は軍師の家系で守るべき一般人にそう思われていたことが何よりも悔しく思います………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ私は()()()()()()()()()()()()()()()!

 弱く惨めな私とは決別するために!

 そしてそんなふうに私のことを思っていた彼の私への印象を名誉挽回するためにも!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス=バルツィエ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私アローネ=リム・クラウディアは………!!

 ダレイオス大王位位決定戦()()()()()の相手にカオス=バルツィエを指名します!!

 カオス=バルツィエ!!

 貴方に決闘を申し込みます!!

 私と戦いなさい!!



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真の決勝戦の幕開け

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「俺が………………アローネと決闘………?

 ダレイオス大王位決定戦の真の決勝って………。

 ………え?」

 

 

 アローネの一言で皆の視線がカオスに集中する。

 

 

オサムロウ「アローネ。

 どうしてカオスと決闘という話になるんだ?

 順を追って説明してくれ。」

 

 

 オサムロウもアローネの真意が掴めずアローネに質問をする。それに対しアローネは、

 

 

アローネ「今日行われたダレイオス大王位決定戦は誰がより優れた指導者なのかを決める大会でした。

 この大会で優勝した者こそが今後のマテオとの戦いを勝利へと導く方を決める戦いだった。

 それに優勝したにも関わらず不満が出るのは私の力に疑いがかけられているからです。

 私の力がカオスから与えられた偽りの力なのではないかという根も葉もない疑惑があるからこそ誰も私を王とは認めない………。

 

 

 でしたら私はカオスを倒して私の力が私だけのものであることを証明しなければなりません。

 だから私はカオスをダレイオス大王位位決定戦の最後の相手に選びました。」

 

 

 道理としては一応は筋が通る話ではあるのだろう。大衆もまさかここでアローネがカオスに戦いを挑むとは思わず直ぐには反論が出せなかった。しかし少し時間が経つとクリティア族長老のオーレッドから質問を投げ掛けられる。

 

 

オーレッド「…それでどうするんじゃ?

 御嬢さんと彼は仲間内同士じゃろうが。

 それで決闘とやらを行ったとして儂等に御嬢さんが彼に勝つところでも見せつけたいのか?

 そんなものは予め彼に切りのいいところで()()()()()でもすればいいと思っとりゃせんか?

 そんなもので儂等が納得すると思うてか?」

 

 

 オーレッドが言うように彼等からすればカオスとアローネは長く旅を共にしてきた仲間だ。二人が本気で決闘をするとは思えず決闘をするフリをして()()でカオスがアローネに勝ちを譲るのではないかと疑われる。オーレッドの質問に他の者達からも共感の声が上がる。

 

 

アローネ「…オーレッドさんが言う通り私とカオスはこれまでずっと旅をしてきた仲間でした。

 私が大会で優勝してこうした不満が出てくるのを見越して私がカオスに決闘を申し込むという予定であることも想定済みだったと受け取られてしまうのも無理はありません。

 

 

 それでは私とカオスの決闘は一部()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

ファルバン「ルールを変更………?」

 

 

 

 

 

 

アローネ「このカオスとの最後の決勝戦は特別に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 審判である皆さんが私達の試合が八百長であると判断した瞬間に試合は中断しそこで私は大王の資格を失います。

 私の不正が発覚し大王の座から退陣したあとは後日ブルカーン、アインワルド、ミーア、クリティアの今日出場した人達で再度大会を開き今度こそ本当の大王を決めるのです。」

 

 

オサムロウ「なるほど…、

 カオスほどの強者が相手なら誰も文句は言うまい。

 それにカオスの力が優勝に貢献しているというのであればそのカオスを倒してしまえばソナタの力はカオスとは無関係の力であると証明できるわけか。

 そしてそのカオスとの勝負が真面目に行われているものであるのかも我々に審判させることで完全に身の潔白を晴らすというのだな………。」

 

 

アローネ「えぇ、

 ですからカオスと勝負を望んでいるのです。」

 

 

オサムロウ「勝てば不正は無かったと立正し負ければ再び自ら王の座を退いて再度大会を開かせる。

 そこまで言うのであれば本当にソナタは不正をしていないように思えるがソナタの提案には()()()()()()()()()()()()()()()………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………アローネ………ソナタは()()()()()()()()()()()()………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネの考えた案が通れば確かにアローネの不正が無かったと証明できるがそれにはカオスと真剣勝負をして勝たなければならない。ここで負けるようであればアローネが大会を勝ち進んできた意味が無くなり結果オリヘルガ、クララ、シーグス、オーレッドの四人の中からダレイオスの大王を選ぶことになる。それでは何のためにカオスと戦わなければならないのか分からなくなってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「……勝ちます。

 私はカオスと戦って必ず誰もが認める大王になります。

 彼は今や世界最強の力を持つ不敗の剣士です。

 彼を倒さずして私は大王になどなれません。

 

 

 ………私は今日ここでカオスと戦うためにこの大会を勝ち進んできたのです。」

 

 

 アローネの意思は難くカオスを強敵者として見据える。そんなアローネの視線にカオスはどうすればいいのか分からず固まっていたが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「フォッフォッフォッ!!

 それは面白い!!

 是非ともやらせよう!

 それだけデカイ口を叩くのであれば好きにやらせてみるのがいいじゃろう!」

 

 

 オーレッドがアローネの話を受け入れる。それに続きオリヘルガ達も賛成する。

 

 

オリヘルガ「俺達ブルカーンとしてはまたとないチャンスだ。

 そんなに言うんならお前らの試合を見物してやるよ。

 それでカオスが勝てば儲けものだしな。

 試合始まってカオスから降参するのは無しだからな?」

 

 

クララ「カオス様にアローネさんが勝てるとは思いませんがそこまで御自身の力に自信がおありなら試合を行ってもいいと思います。」

 

 

シーグス「ん?んんん………。

 どっちにしろ俺達ミーアがまた大会やっても勝てそうにはないが他の奴等が結果に満足してないんであればやらせるしかないよな………。」

 

 

 オリヘルガ達も異論は無いようだ。その様子を見てファルバンが口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファルバン「………宜しい………。

 では早速準備に取り掛かるとしようか。

 そうでもしなければ皆凝りが残るだろう。

 

 

 ダレイオスの頂上決戦カオス=バルツィエとアローネ=リム・クラウディアによる最終試合は特別ルールに則って行うとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この結果によってアローネ=リム・クラウディアが我等が王に相応しいかどうかが決まる。

 我等が期待に応えられる王か我等に示してみるがよい。」



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思わぬ展開

旧王都セレンシーアイン 地下シャイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………どうしてこんなことに………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在カオスとアローネはスラートが作った地下空間シャイドに来ている。ダレイオス大王位決定戦の決勝でアローネが魔術で闘技場の地面をくり貫いたために真の決勝のフィールドがここに決まったのだ。アローネが撃ち抜いた地面は相当深くまで穴が空いていたので修復が間に合わず仕方なくシャイドの住居を取り壊してそれらの瓦礫を穴を塞ぐのに使ってどうにか平らな舞台を整えることはできた。それでも時間が足りずにあちらこちらが凸凹しておりカオスはゲダイアンの街のことを思い出す。

 

 

カオス「(…そういえばあの街もこんな感じだったな………。

 今回のこのシャイドは事故とかでこうなったんじゃないけど瓦礫とかの崩壊した感じとかはゲダイアンと一緒だ。

 こんなところで俺は………。)」

 

 

 対面に立つアローネを見ると彼女は険しい顔でこちらを向いている。一週間前にアローネと別れた時から彼女がカオスを見る時の表情は変わらない。敵意を隠すこともなくカオスから視線を反らさない。

 

 

 

 

 

 

カオス「………本当に戦うの………?

 ………俺………アローネとは戦いたくないんだけど………。」

 

 

アローネ「…今頃何を仰っているのですか。

 私はあの日から今日のダレイオス大王位決定戦で貴方に私の力を認めてもらうために日々を過ごしてきたのです。

 今更後には引きませんし引かせません。」

 

 

 アローネは一週間前にカオスに言われたことを相当根に持っているようだ。カオスから直接弱いと言われたことが悔しかったらしい。

 

 

カオス「あの日俺が言ったことは謝るよ………。

 アローネは俺の力なんか無くても()()()()()()()

 俺の力なんか無くてもアローネは凄く強かったよ。」

 

 

アローネ「十分?

 俺の力なんか無くとも?

 …そう言いながらも貴方は私や他の人々を常に格下に置き続けてきたのではないですか?

 貴方が持つ力はこの世界の何者にも優る力があります。

 その力と貴方御自身の剣士としての本来の力が合わさって誰にも負けないそんな無敵の戦士が完成した………。

 

 

 だから貴方はそうやって上から目線で人に強いと言えるのではないですか?

 どんなに強くとも貴方が持つ力には誰も及ばない。

 そんな自信があるから貴方は簡単に人に弱いだの強いだの言えるのではないですか?」

 

 

カオス「そんなつもりはないけど………。」

 

 

アローネ「私はあの日の貴方から言われたことは忘れませんよ。

 あの時感じた屈辱は決して忘れることができません。

 ………貴方に私の力を知らしめるまでは絶対に………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 言葉だけではアローネを宥めることは無理だと悟るカオス。アローネはとことんカオスとやりあって自分の力をカオスに見せつけたいようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(…けど俺はアローネと本気で戦うなんてできないしアローネに勝つとアローネは大王にはなれなくなる………。

 俺がアローネの邪魔をすることなんてできないよなぁ………。

 

 

 ………ここは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。)」

 

 

 試合を始める前にカオスは自分がどのようにすべきかを考え客席で見守る六部族達に自分が本気で戦っているように演じてアローネに負けるという流れにしようと思った。

 

 

 ここまででカオスは自分が本気のアローネと戦って負けるとは微塵も考えていなかった。その理由としてカオスには()()()()()()()()()()()()()からだ。精霊マクスウェルが自身に憑依していると発覚してからの十年でカオスにダメージを与えられた攻撃は二つ。その一つは魔術系統が関与しない物理的な攻撃でもう一つがヴェノムの主が使っていた殺魔の力だ。その二つの内アローネがカオスにダメージを与えられるとすれば物理的な攻撃のみでカオスとしてはアローネに接近戦を挑みに行き自分がアローネから数発攻撃を受けて倒れるという流れに持っていければ何不自然なくアローネに負けることができると作戦を組み立てた。

 

 

 

カオス「(アローネだって俺に魔術が効かないってことは分かってるしアローネも俺を倒すなら接近戦に持ち込むしかないって考えるはず。

 だったら俺は普通にアローネに向かっていくだけでアローネが俺に攻撃したのを受け止めればいい。

 そうすれば俺とアローネが本気で戦って俺がその勝負に負けたっていうふうに回りの目からは見える。

 

 

 それで行こう。)」

 

 

 カオスはまともにアローネと勝負する気は無かった。あくまでもアローネに勝たせるために立ち回るつもりでこの試合に臨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「それではこれよりダレイオス大王位決定戦緊急試合を行う。

 試合のルールを確認するが今回のこの試合は我とここにいる観客達全てがソナタ等の試合の立会人だ。

 もしソナタ等の試合に手を抜くというような違和感を感じた時は観客達から旗が上がる。

 観客達の旗が全て上がったらその時はアローネ=リム・クラウディアの問答無用の不戦敗が決まる。

 

 

 試合形式は一対一の時間無制限の真剣勝負だ。

 勝敗の落としどころはどちらかが気絶し戦闘続行不可能となった時のみ。

 なおカオス=バルツィエはこの試合中の降参は認めない。

 その時も当然アローネ=リム・クラウディアの敗北が決定する。」

 

 

 オサムロウが言うようにカオス達から見て頭上の観客席にいる全員が手に旗を持っている。あの旗が上がるということは彼等から見てカオスがアローネを相手に遠慮してると見なされるわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この試合はどちらかというと試合というよりはアローネへのテストのようなものに近い。勝負というのは対等な決まりによって行われるものだが今回に関してはアローネの敗因の要素が極端に多すぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「ルールも確認したところで……

 

 

 ………試合始め!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「………!」バッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スッ………スッスッスッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合が始まって直ぐ客席の一部から旗が上げられる。旗を上げているのは殆どがクリティア族だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何時間稼ぎをしているんだい?」

 

 

「彼女は後衛型なんだからさっさと攻めないとね。」

 

 

「そうやって彼女のマナが回復するのを待ってあげるつもりなのかな?

 だとしたらやっぱりわざと負けてあげるつもりなんでしょ。

 不正で間違いないな。」

 

 

 クリティア達が次々と旗を上げていく。御互い様子見のために離れただけだというのにこれだけでアローネは追い詰められていく。旗が全て上がってしまえばアローネの敗北が決まるのだがカオスがアローネに攻めにいったとしても彼女がカオスの攻撃を捌けなければアローネにダメージが入り彼女の勝ちが遠退く。カオスとしてもアローネに先に動いてもらわねばどうしようもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…私が提案したことですがこの状況はかなり厳しいところですね………。

 私には休む暇も与えられない………。

 ………仕掛けるしかありませんか。

 では参ります!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウインドカッター』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネが客席の声に煽られる形でカオスに術を飛ばしてくる。

 

 

カオス「(!

 やっときたか………。

 それで俺はこれを()()()()()からアローネにどんどん攻めてもらって………。)」

 

 

 カオスに魔術が効かない以上アローネが使ってきたウインドカッターは恐らく牽制や目眩ましのためのものである。本命はこの後アローネがオリヘルガの時に見せたような羽衣を使っての急接近から連続攻撃をカオスに食らわせて勝ちに来ると見た。実際ウインドカッターが直撃する寸前に術の後ろでアローネが飛び込むような体勢を取るのが見えた。カオスはそれを見て安心して術を受け止める姿勢に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポタ………………ポタ………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間的に体が切り裂かれるような痛みを感じた。何故そんな痛みを感じたのか不思議に思い自分の体を確かめてみると実際に体が鋭い剣で斬りつけられたかのように血が溢れ裂けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!……なっ………これは………!?」

 

 

 対面に立つアローネは驚いた顔をしてその場で立ち止まっていた。

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「なっ………何が起こった………?

 何故カオスが………。」

 

 

 オサムロウが声を発したことでカオスは一瞬この傷をつけたのはオサムロウなのではと疑ったが彼もアローネと同様に驚いている。彼ではなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では一体誰がこの傷を………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………目の錯覚じゃないよな………?

 今アタシの目には坊やのあの体についた傷は………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」



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死闘

旧王都セレンシーアイン 客席

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………今の見てたか………?」

 

 

ミシガン「うん………けど何で………。」

 

 

タレス「アローネさんの術でカオスさんが………。」

 

 

 

 

 

 

 客席で見ていたウインドラ達も今の出来事に衝撃を受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「…何がどうなってやがる………。

 いくらあのアローネが爆発的に魔力が高まったって言ってもありゃ魔術での攻撃だったろ。

 それが何であの坊やの体に傷を着けることが出来るんだ………。」

 

 

タレス「………」

 

 

 これまでカオスと共に旅をしてきてカオスが魔術による攻撃で傷を負ったことはなかった。カオスの体は精霊マクスウェルに守られて攻撃系の魔術であればどの系統のものであっても無効化できていたはずだ。

 

 

 それが今しがたアローネが撃った魔術に関しては無効化されていなかったように見えた。

 

 

ミシガン「………何か風に乗って瓦礫片でも当たって斬ったとか………?」

 

 

ウインドラ「…それだとカオスの体にその瓦礫片が残るだろう。」

 

 

タレス「特にそんな瓦礫が飛んでいたようには見えませんでした………。

 ボクの目にはアローネさんの術がカオスさんに命中して直接斬ったようにしか………。」

 

 

レイディー「………」

 

 

 カオスの傷の原因を究明しようにも今起こった出来事はアローネが風の術でカオスを攻撃しカオスがそれで負傷したという答えしか導き出せなかった。周りにいた部族達からも同様の声が上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、なぁ……?

 あの人って魔術が通じないんじゃなかったか?」

 

 

「前にここに来たときもそんなこと言ってたような………。」

 

 

「ローダーンで確かあいつに火の術使っても綺麗に術を消されてた記憶があるんだがあいつ風の術は効くのか?」

 

 

「他の奴等から聞いた話だとあの人が無効化できるのは全属性だって話だったけど……。」

 

 

「何で今あいつ攻撃食らったんだよ?」

 

 

「…自分で斬ったとか?」

 

 

「はぁ?

 自分で斬った?」

 

 

「やっぱりヤらせだったってことだろ?

 本気で仲間同士で傷付けあうわけないよな。

 俺達にあのアローネって女がいかにも自分を攻撃して傷を負わされたように見せたんだろ。

 風の術が当たる寸前に自分で自分の体を斬って出血したんだ。

 それならあんなふうになってもおかしくないだろ。」

 

 

「あの男が自分で自分を斬ったようには見えなかったが………。」

 

 

「だったら血糊とかでも服の中に用意してたんじゃないか?

 それだったら別に自分で自分の体を斬る必要もないしあの女に血糊を斬り裂かせればいいだけの話だろ。」

 

 

「あぁ………それなら納得するな。

 やっぱヤらせだったのか。」

 

 

 カオスの傷が本当に負ったものなのか信じられない他の部族達は各々で勝手に理由をつけて不正をしていると決めつけていく。そのせいでクリティアに続きブルカーン達までもが不正と見なす旗を上げていった。現在クリティアとブルカーンが旗を上げスラート、ミーア、フリンク、アインワルドがカオス達にまだ旗を上げていない状況だ。彼等からしてもこの事態がうまく解釈できずに旗を上げるべきかどうか迷っているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「フフフ………これが()()()()()()………。

 ()()()()()()()()()()()()………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あの力がいつか()()()………フフフ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 地下シャイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポタ………………ポタ………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………何で俺から血が………。

 どうしてこんな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…何故カオスが負傷を………?」

 

 

 カオスとアローネの二人も何が起こったのか状況をのみ込めずに動けないでいた。こうしている間にもクリティア、ブルカーンと不正と判断する旗が上げられていく。時間だけが過ぎればアローネの敗北が決まってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「何を呆けておられるのですかアローネ様。

 今が攻め時です。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「「!」」

 

 

 コーネリアスの一声で二人は我にかえる。今は試合中であることを思い出した。

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………コーネリアスの言う通りだ。

 時間制限は無いが何もしなければアローネは負けてしまうぞ。

 それでいいのか?」

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タタッ!

 

 

 アローネが急に走りだしカオスへと近付いていく。そして接触する瞬間にカオスに例の羽衣の剣で斬りかかる。カオスは反射的にスラートから試合前に渡されていた剣でそれを受け止める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カオス………、

 一応確認しますが貴方は今何か御自身の力を封じるような魔道具でもお使いになられているのではありませんよね?」

 

 

 つばぜり合いになってからアローネがカオスに質問してきた。

 

 

カオス「!

 …別にそんなのは使ってないけどレイディーさんからフリーズリングでも借りて装備してたらよかったかな………。

 そうしたらアローネにもっと簡単に勝たせてあげ「ふざけないでください!」!」ギィィィンッ!!

 

 

 カオスの返答に激昂したアローネが剣を思いきり振り抜きカオスを弾き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………私が貴方に勝負を申し込んだのはそんな小細工など無しに貴方と本気の勝負をするためです。

 私に気を使って勝ちを譲られてもそんな勝利には何の勝ちもありません。

 

 

 カオス=バルツィエ!!

 私と本気で勝負をしなさい!!」

 

 

 アローネはカオスに怒声を飛ばしカオスの本気を引き出そうとする。カオスはそれでもアローネの命令に従うべきかどうか悩んでいた。

 

 

 

 

 

カオス「…でも俺はアローネと戦うなんて………。」

 

 

アローネ「………このままではいつまで経っても貴方は私と本気で戦おうとはしてくれないみたいですね………。

 ………こうなっては私も手段を選んではいられません………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オサムロウさん!」

 

 

 体はカオスに向けたままアローネがオサムロウを呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「?

 ………どうした?」

 

 

アローネ「既に試合が始まっている中で申し訳ありませんが一部ルールの変更をお願いします。」

 

 

オサムロウ「ルールの変更………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「何を言うておるんじゃ!

 今更ルールの変更なぞ認めるわけないじゃろうが!!」

 

 

 アローネの声はオーレッドにも聞こえてたようでアローネの意見を聞き入れようとしない。しかしそれでもアローネは言葉を続けた。

 

 

 

 

 

 

アローネ「…この試合での勝敗についてですが相手を気絶させた方が勝利というルールに付け加えて相手を気絶()()()()()()()()()()()というものに変更してください。」

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「気絶及び………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………絶命………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?

 アローネ………!?」

 

 

 アローネが提示した新たなルールはカオスが予想だにしなかったものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………こうでもしないと貴方は私と本気で勝負をお受けにならないではないですか………。

 

 

 

 

 

 

 ………カオス………私は本気ですよ。

 私は本気で貴方の命を奪う覚悟があります。

 貴方も私に殺されたくなければ私を殺すつもりでかかってきてください。

 そうでなければ貴方は貴方の人生がここで終わることになります。」



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手が出せないカオス

旧王都セレンシーアイン 客席

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なぁあいつ………、

 今なんて言った………?」

 

 

「気絶及び………絶命………。」

 

 

「絶命ってことはあの女………カオスを殺す気か?」

 

 

「え?

 だけどあいつらって仲間同士なんだろ?

 仲間同士で殺し合いのルールを提案したってことか?」

 

 

「嘘だろ………たかだか試合なんかで仲間を本気で殺そうってのか?」

 

 

「いやまさか………、

 俺達に本気で戦ってるように見せるためにそんなこと言っただけだろ。

 本気で殺し合いなんかしねぇよ。」

 

 

「そっ、そうだよな………。

 いくらなんでもそこまではしないよな普通………。」

 

 

「さっきのカオスの血糊作戦が俺達にあんまり効果無かったからそう言っただけだろ。

 どうせ今回のも口裏合わせてそういうこと言う予定だったんだろ。

 そうに決まってる。」

 

 

「第一殺し合いってんなら殺されるとしたらあの女の方だろ。

 マジで殺り合ったらあの女がカオスに殺られる筈がねぇ。

 あいつはイフリートやラーゲッツまでも倒した奴だしな。」

 

 

 客席からの声は相変わらず未だにアローネが本気でカオスを殺す気で戦いを臨んでいるとは思えないという感想だった。大王を決める戦いとはいえこれまで共に旅してきた仲間が殺し合いをするとは到底思えなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしそのルールを提案したアローネは本気だった。本気でカオスを殺すつもりでカオスへの攻撃を仕掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 地下シャイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………どうして………アローネ………。

 …そんなに俺がこの前言ったことが許せなかったの………?」

 

 

アローネ「ここまで言わないと貴方は私と本気で勝負をしてくれないではないですか。

 今だって私の本気を疑っておられるようですね。

 私はいつだって本気ですよ。

 本気で貴方との勝負がしたい。

 貴方の本気を引き出すためならたとえ私が不利な状況に追い込まれたとしても望むところです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オサムロウさん!

 私の提案は受理していただけるのですか!?

 ハッキリしてください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………」

 

 

 アローネの呼び掛けに戸惑うオサムロウ。彼もこんな場で殺し合いの試合を容認していいものか迷っているのだ。客席の声のようにオサムロウもカオス達が本気で殺し合いをするとは思っていなかった。カオスの様子を見る限りでもカオス自身がこの試合自体を真剣に臨んでいるようには見えず殺し合いのルールを儲けたところでそれが成立するとは考えられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそれを提案するアローネはカオスに殺意を剥き出しにしている。アローネの意見を通せば恐らくはアローネは本気でカオスを殺しにかかるだろう。二人の間に何があったのか知らないオサムロウはもし安易にアローネの提案を受け入れてしまえばカオスがアローネに殺されてしまうのでないかと危惧している。

 

 

 どうしたものかとオサムロウが考え込んでいると再びオーレッドが声をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「ハンッ!

 どうせハッタリじゃろうが!

 そこまで言うからにはそれなりのものを見せてくれるんじゃろうな!

 そこまで大口を叩いてもし手緩い試合なんかしてみろ!

 その時点でここで見ている全ての者達からソナタの敗けを決定する旗をあがるじゃろうな!

 

 

 いいぞ!

 やってみるがいい!

 ソナタにカオス=バルツィエが殺せるのならな!!」

 

 

 前の試合からどうもアローネが気に入らないらしくオーレッドはアローネに対して挑発的な態度をとる。最初にここで会った時とは大違いのその態度に彼の本性が意外と好戦的な性格をしていたことが分かる。

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………こうなっては一度吐いた言葉は取り消せんぞアローネ。

 

 

 ………ではこの試合に限ってはカオス、アローネの互いに相手を処してしまっても反則にはしない。

 その場合は生き残った方を勝者とする。」

 

 

 アローネの意見が正式に認められてしまった。

 

 

アローネ「…これでもう貴方は私と本気で戦うしかありませんよね?

 私は貴方を倒して私の力を認めさせます。」

 

 

カオス「アローネ………何でそこまで………。」

 

 

アローネ「この期に及んでまだそのようなことを訊いてくるのですか………。

 ………私は申した筈です。

 貴方に私の力を認めさせると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早く私と戦う覚悟を決めなければ貴方が死ぬことになりますよカオス!!

 『ウインドカッター!!』」パァァ!

 

 

 

 

 

 

 オリヘルガ戦から通常のウインドカッターの数倍は早い速度のウインドカッターがカオスへと飛来する。その一撃は真っ直ぐカオスの首元へと飛んできた。

 

 

カオス「(アローネ………本気で俺を殺すつもりで………。)」

 

 

 初撃のこともあってアローネの術はカオスにも有効だということは分かっている。カオスも飛んできた魔術を身を反らして躱す。

 

 

 

 

 

 

 そこに更に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『エアスラスト!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパパパパパパ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?

 ……いっ………!?」

 

 

 今度はラタトスク戦でのアローネが習得した新たな術がカオスに炸裂する。全身を切り刻まれておびただしい傷跡が出来ていく。

 

 

アローネ「まだまだこれからですよ!

 

 

 『()()()()()()()!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…!?

 うあぁぁぁ………!?」

 

 

 身体中を切り裂かれた後に凄まじい下から上へと押し上げるような突風にカオスの体は打ち上げられる。またアローネはこれまでにない秘術を習得していたようだ。

 

 

アローネ「戦う覚悟が出来ないのなら貴方がただ死ぬだけですよ!

 いい加減覚悟を決めたらどうですか!

 私と本気で勝負をなさい!」

 

 

 なおもアローネはカオスに戦うよう要求してくる。カオスはそれでもアローネと本気で戦うことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(……どうしてこんな………。

 ………アローネ………俺は………君と戦うことなんて出来ないよ………。

 俺には君と戦う理由なんて何も………。)」



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火がつくカオス

旧王都セレンシーアイン 客席

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、なぁ………?

 なんかあの二人本気で戦ってないか………?」

 

 

「どっ、どうだろうな………。

 今のところアローネって女の方はカオスを殺りにきてるように見えるが………。」

 

 

「あのカオスの体の傷もとても偽物になんか見えねぇよ………。

 本当に風の刃に切り裂かれて血が出てるぜ………?」

 

 

「あぁ………血糊袋を服の中に入れてたとしてもあそこまで全体的に血に染まったりはしねぇよな………。

 切り裂かれた服の下の腕とかも結構太い腕してるから袋入れてたとしても服の中にあんだけの血糊入りきらないだろ………。」

 

 

 

 

 

 

「………本当に攻撃を食らってるのか………?

 あのカオスが………。」

 

 

「俺の目にはそう見えるが………。」

 

 

「マジで仲間同士で殺るつもりなのか………?

 あの女は………。」

 

 

「………分からない………。

 だがカオスの方はまだ殺る気はないみたいだが………。」

 

 

 客席の各部族達がアローネから伝わる底知れない殺意に当てられ彼女の空気にのまれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでもカオスはどうしてもアローネに剣を向けることが出来なかった。カオスにとってはアローネは大事な仲間で彼女が望むことであれば出来る限りのことは叶えてあげたいのだがそれがこと生死を賭けた戦いとなると話は別だ。

 

 

 

 

 

 

 カオスにアローネを殺すつもりは無いのだ。それなのにカオスはなかば強制的に殺し合いの決闘に参加させられて自分の身の振り方をどうすればいいのか分からずひたすら攻撃に耐えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧王都セレンシーアイン 地下シャイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ぅ………ぁぁ………!

 ハァ………っ………!」

 

 

 

 

 

 

アローネ「そのまま抵抗もせずに死ぬ気なのですか?

 そこまでの傷を負わされて私に怒りや殺意の一つでも覚えたりはしないのですか?

 貴方は。」

 

 

 既に身体中に数えきれない裂傷が出来ている。全てアローネの魔術による攻撃で与えられたものだ。

 

 

カオス「……俺は………アローネを殺したりしたくない………。

 仲間なのに何でそこまでしなくちゃいけないんだよ………。」

 

 

アローネ「…私もこのような方法は不本意でした………。

 こんな形でしか貴方の本気を引き出せないなんて………。

 

 

 ………それでもカオスはここまでしてもまだ貴方は私と本気で戦おうとはしない………。

 一体どうすれば貴方は私と戦っていただけるのですか?

 貴方が私と戦わないとは貴方の中でまだ私が貴方の庇護下であると思われているからですよね?

 私の攻撃を受けてまだそのような考えが拭えないのですか?

 私はカオスが無理だと仰ったダレイオス大王位決定戦をカオスの御力を借りずに優勝に至りました。

 自画自賛するつもりはありませんが私は貴方が考えているほど脆弱ではありません。

 寧ろ大抵の人には負けない自信があります。

 だからこそ私は大会を勝ち抜けたのです。」

 

 

 

 

 

 

カオス「………うん………、

 アローネは強かったよ………。

 俺が考えていたよりもずっとずっと強かった………。

 アローネは俺なんかの力が無くても大会を優勝できた………。

 間違ってたのは俺の方だった………。

 

 

 

 

 

 

 ………ごめん………。」

 

 

 体をボロボロにされてアローネがこれまで戦ってきたどの相手よりも強い力を持つ相手だとカオスは認める。カイメラやカーヤ、イフリートの力を吸収したラーゲッツ達が使っていた殺魔の力は精霊マクスウェルの魔力である程度は相殺しどうにか耐えることは出来た。

 

 

 

 

 

 

 ………がこのアローネの使う風の力だけは何故か精霊の加護が全くもって作用しない。これまで幾度も他者からの魔術を打ち消してきた力がこのアローネに限ってだけは少しも意味をなさない。

 

 

アローネ「………少しは私の力をお認めになられたようですね。

 では私と戦って「でも俺は………!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「やっぱりアローネと戦うなんて無理だよ………。

 俺にはアローネと戦って殺したりなんかしたくない………。

 アローネは大事な仲間なんだからさ………。

 こんなことしたくないんだよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………『エアブレイド!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズザザザザザザッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うわっ……!?」

 

 

 疾風の弾丸がカオスを突き飛ばす。会話の途中で急に魔術を使われ正面からカオスはその攻撃を受けてしまう。

 

 

 

 

 

 

アローネ「…これだけ言っても貴方には何一つ御理解いただけないようですね………。

 残念です。

 貴方がそこまでの分らず屋だったとは………。」

 

 

カオス「アッ、アローネ………?」

 

 

 それまでは攻撃を浴びせ続けながらカオスに戦うよう命じていたアローネだったが急にどこか肩の力を抜いた様子を見せる。

 

 

アローネ「………カオスには失望させられました………。

 これだけ言ってもこれだけ攻撃を受けても頑なに私と戦おうとはしないとは………。

 そんなに本気での勝負に負けるのが怖いのですか?」

 

 

カオス「!

 ………。」

 

 

アローネ「これだけの大衆に自身が負ける姿を見られるのがそんなに怖いですか?

 

 

 貴方が持つ力は確かに強い………。

 その力は今や完全に貴方のものになった。

 その力を持ってしても私に負けるのがそこまで私と真正面から向き合うのに臆していると言うのですか?

 そうだとしたら貴方はどれだけ()()()()()()のでしょうか………。

 貴方には心底がっかりさせられます………。」

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

アローネ「まぁそう育ってしまうのも無理はありませんね。

 貴方はずっと孤独で一人で育ってきた。

 貴方は誰からも何も教わらずに旧ミストで十年という月日を過ごしてきた。

 その過程で人として大事なことを何方からも教わらずに何も学ばずにモンスターやヴェノムと戦う日々だったのでしょう。

 それはそれは大層立派な生き方をしてこられたのだと御察しします。

 そのせいで性教育すら知らなかったのは驚きましたけど。」

 

 

 

 

 

 

カオス「………………」

 

 

 

 

 

 

アローネ「貴方の生い立ちには同情しますよ。

 大好きだった祖父を十年前の事件で亡くして貴方は一人で生きていくしかなかった。

 両親も親代わりであった貴方の祖父までも失って貴方は色々と人として大切な経験や知識までも学ぶ機会が奪われた。

 家族のいない貴方は心の拠り所として私やウインドラ、ミシガンにその代わりを求めようとしていたようですがそんな不甲斐ない姿の貴方を見ているとそんなことを求められるのは迷惑です。

 止めてください。」

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「貴方は永遠に孤独のままですよカオス。

 そうやって誰にも本心をひた隠しにしたままでは誰も貴方の側にはいようとはしません。

 誰の期待にも応えられないのであれば貴方はこれからもずっと一人のまま………。

 

 

 ………フフ………、

 戦うべき戦場から逃亡した貴方の祖父の教えだけは貴方はしっかりと学んでいたようですね。

 その調子でこれからも貴方の祖父のように貴方はすっと全てのことから逃げ続け「止めろ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺のことを悪く言うなら我慢できる………。

 だけどおじいちゃんの悪口だけは許さない。

 おじいちゃんは立派な騎士だったんだ………。

 それは知ってるだろ………?

 ………それなのに死んだおじいちゃんの悪口をアローネに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()!!

 訂正しろアローネ!!

 今言ったこと全部!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………では訂正させてみてはいかがですか?

 貴方が()()()で私に訂正の言葉を言わせてみるのです。

 当然私も反撃しますが。」



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激しすぎる戦い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャキ…

 

 

 

 

 

 

 カオスはここで漸く鞘から剣を引き抜いた。

 

 

カオス「後悔するなよアローネ。

 これまでは君のためを思って手は出さなかったけどこうなったら俺ももうここからは少しも遠慮なんかしたりしない。

 全力で君を倒す。」

 

 

アローネ「覚悟を決めるのが遅すぎますよ。

 私はもう既に万全を期して貴方と対峙しているのです。

 無抵抗の相手を倒しても何の有り難みもありません。

 どうぞ思う存分全力で掛かってきてください。

 私はそれすらも乗り越えてみせます。」

 

 

 カオス、アローネ両者共に互いを倒すという覚悟が決まった。これからが本番である。

 

 

アローネ「では先ずその体の傷を治療したらどうでしょう?

 そのくらいの傷を治す時間程度なら待って差し上げても宜しいですよ?」

 

 

カオス「言われなくてもそのつもりだよ。

 ここからはどんな攻撃が来ても逐一回復していくからね。

 君がもう俺に勝つことなんてできっこないよ。」

 

 

アローネ「それならば貴方が回復しきれないほどの攻撃を仕掛けるだけです。

 私の力はまだまだこの程度ではありませんから。」

 

 

カオス「そんな攻撃が来たとしても俺はそれ以上の力で君の技を防いでみせる。

 

 

 …いや防ぐだけじゃない。

 君の技を君ごと薙ぎ払ってやる。

 君の希望を俺の力で全て吹き払ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『()()()!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの体の傷が即座に治っていく。ボロボロに破かれた衣服も術の影響を受けて元通りに修復されていく。

 

 

 

 

 

 

カオス「………これで君の勝ちは無くなくった。

 ここからはずっと俺の一方的な試合になるだろう。

 後で謝ってももう遅いんだからな。」

 

 

アローネ「謝る必要なんてありませんよ。

 この勝負に勝つのは私です。

 貴方は私に敗れるのですからそんなことを心配する意味はありません。

 無駄な忠告をする前に私を倒したいのであれば何か攻撃を仕掛けてみてはどうでしょう?

 貴方の攻撃など今まで通りの規模ばかりが大きいだけの大した技術もない粗末なものでしょうけど。」

 

 

カオス「…君なんか魔術に頼らなくても倒せるよ。

 俺が得意としているのは剣術だ。

 剣術だけで君を倒して見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔神剣・槍破!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザザァァァァッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地面を抉りながら衝撃波がアローネへと向かっていく。その威力はローダーン火山でのラーゲッツを屠った一撃にも匹敵するものだった。巻き込まれれば華奢なアローネの体では耐えるのは難しいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「私を相手にこれほどの力を………。

 ………貴方が漸く本気で私と向き合っていただけたことが実感できます………。

 

 

 ならば私も全力で貴方の本気の力に応えなくてはなりませんね。

 貴方の全力に私の全力をぶつけます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コオオオオオオオオオ!!!

 

 

 アローネの剣に翡翠の光を放つ風が収束していく。その光は渦を描くように振りかぶった剣の先へと集まっていく。

 

 

カオス「!?

 アローネ……その技は………!?」

 

 

アローネ「特とご覧あれ………。

 これはコーネリアスさんとの特訓で身に付けた貴方のその技に対抗するために編み出した技です。

 これが私の……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “シュタイフェ・ブリーゼ”!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 アローネの剣から光の風が穿たれる。その光はカオスの魔神剣に真正面からぶつかり………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ………!!!!!

 

 

 

 

 

カオス「なっ………!?

 魔神剣と互角…………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!

 

 

 二つのエネルギーがぶつかり相殺されたかのように見えたがそれも一瞬停滞しただけで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

カオス「うわわっ………!?」

 

 

 カオスはかろうじてそれを横に飛んでかわす。エネルギー波はカオスのいた地点を通過しその後ろにある壁へと激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボフオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおあああああ!!!?」「キャアアアアアアアア!!? 」「なっ、何だあああああああぁぁ!!!?」「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」………、

 

 

 エネルギー波はそのまま壁を直通し真上にいた闘技場の観客達が下へと落下していく。

 

 

オサムロウ「なっ……!?

 いっ、いかん!

 この試合は一時中断だ!

 直ぐに闘技場の中へと落ちた者達を外に「止めないでください。」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「闘技場の中へ落下してきたあの方々は私とカオスの試合に旗をお挙げになったブルカーン族とクリティア族の方々です。

 彼等は私とカオスが真剣に勝負に臨んではいないと判断して旗を挙げたのです。

 

 

 

 

 

 

 ………それならじっくりと私達の試合を一番近い場所で見物していてもらいましょう。

 そうすれば私達の本気の熱意も彼等に伝わると思いますので。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはつまりアローネはカオスとの勝負で彼等が巻き込まれても構わないと言うことだ。カオスやアローネが放つ膨大な力の波に彼等が巻き添えをくって死に絶えようとも気にも止めない。それほどまでにアローネはカオスとの勝負に集中していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「………これは………とんでもない試合になってしまったな………。

 カオスだけならまだしも()()()()()()()()()()()()()()()()がカオスと本気での戦いをしようとは………。

 今の内に上にいる者達を避難させなければどれほど被害が拡大するか分かったものではない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……最悪二人の勝負に巻き込まれてここに集まったダレイオスの部族達は皆全滅してしまうのではないか………。」



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二人だけの戦争

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「魔神剣・双牙!!」「シュタイフェ・ブリーゼ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 

 

 

 

 二つのエネルギーが衝突を繰り返す。その度に爆散したエネルギーが周囲へと飛び散り建物や壁を壊していく。

 

 

「うわああああ!!?」「こっ、こっちに来たぞ!!?」「逃げろおおおおおおおお!!!」「ぐあああああああぁぁぁぁッ!!」

 

 

 カオスとアローネの周囲への影響を省みない激しい攻防の余波を受けて客席にいる者や足場が崩れて二人の戦う舞台に落ちてきた者達から悲鳴が上がる。

 

 

クララ「なんて激しい戦いでしょう……。

 こんな死闘を見るのは初めてです。」

 

 

ビズリー「クララ様!

 そんなことを仰っている場合ですか!

 こんな危険な場所からは一刻も早く避難すべきです!

 ここもいつ彼等の攻撃が飛んでくるか………。」

 

 

 客席が全て崩壊するのは時間の問題だった。カオスとアローネの大技と大技のぶつかり合いは拮抗し勝負の決着は見えない。長期化すればするほど周りへの被害は拡大していくだろう。

 

 

ミネルバ「私達も避難するよ!

 こんな戦いをこんな近くでなんて見てられないよ!

 シーグス!

 皆を順番にここから避難させて!」

 

 

シーグス「おっ、おう!

 そうだな!

 俺もこんなところからはさっさと逃げ出したいぜ!」

 

 

オーレッド「まっ、待て!?

 この試合はどうなるんじゃ!?

 あやつ等試合に関係のない者達までも巻き添えにしておるのじゃぞ!?

 こんな試合は無効じゃろ!?

 無効になればあの小娘の大王の資格も剥奪じゃよな!?

 そうじゃろう!?」

 

 

ファルバン「残念だがそんな決まりは無い。

 ここでの決闘に観客まで被害が及ぶ試合など過去に例が無くそんな決まりは想定していないのだ。

 決闘とは常に互いに全力を尽くして戦うもの。

 あの二人はその決まりに則って戦っているだけだ。

 故に二人の戦いに誰が巻き込まれようともこの試合には影響しない。」

 

 

オーレッド「なんじゃと!?」

 

 

ファルバン「それでもどうしてもこの試合を止めたくば直接二人のところへ行って二人を止めてきたらどうだ?

 ソナタにあそこへと飛び込む勇気があればの話だがな。」

 

 

オーレッド「………ッ!」

 

 

 闘技場の下、地下シャイドでは最早人が立っていられるような安全な場所は存在しない。二人が放つエネルギーが乱れすぎて激流のような旋風が巻き起こっている。

 

 

ファルバン「………さて、

 ハーベンよ。

 ソナタならあの暴走する力の奔流を掻き分けてオサムロウのところまで向かえるな?

 そろそろオサムロウもあそこから脱出させねばならん。

 行ってくれるか?」

 

 

ハーベン「はい、

 師匠を彼等の戦いで失うわけにはいきませんからね。

 行ってきます。」

 

 

 ファルバンに指示されたハーベンが闘技場の中へと飛び降りる。そしてオサムロウのところまで行きそのままオサムロウと二人でシャイドから引き上げていく。

 

 

ファルバン「では我々もここから避難するとするか。

 オーレッドよ。

 ソナタはどうする?」

 

 

オーレッド「………」

 

 

ファルバン「………余は始めからこうなるのでないかと懸念していた。

 あのアローネ女史の力はカオス氏の力に引けをとらぬ力があるのを感じ取っていたからだ。

 ここまで見ての通り彼女は()()()()()()()()()()()()()()()ようだ。

 そうでなければ彼から与えられた力で彼の力を越えるような力を放つことなどあり得んからな。

 

 

 彼等は共に全力で死闘を行っている。

 ソナタ等が臨んだ決闘だが最後まで見物していくか?」

 

 

オーレッド「………ッハッ!?

 こっ、こんな危険なところにいられるか!

 儂等クリティアもここから待避させてもらう!!

 おい!

 早くここから離れるぞ!

直ぐにだ!」

 

 

 アインワルド、ミーアに続いてクリティアも闘技場から出ていく。大勢がいっせいに駆け出したのとカオス達の戦闘の激しさもあって客席は大きく傾いてきていた。

 

 

 

 

 

 

ファルバン「……ここも相当ガタがきておるか。

 それなりに強度も考えて作られておるはずなんだがやはり立て直さないと使い物にはならないな………。」

 

 

ナトル「貴方はここから待避なされないので?

 ファルバン殿。」

 

 

ファルバン「そういうソナタも………他のフリンクは避難させておるようだな。」

 

 

 客席で見ていた六つの部族がいなくなり客席に残ったのはファルバンとナトルの二人とウインドラ達とこれから上がってくるであろう落下した者達だけである。

 

 

ナトル「私は………フリンクの責任者として彼等の戦いの行く末を見守らなくてはならない。

 誰かが彼等の決闘がどう決着するかをしっかりと見届けなくてはまたこのような試合を開いてもそれの繰り返しになるでしょう。

 ですから私はここで彼等の戦いを最後まで見ていることにしますよ。」

 

 

ファルバン「…そうだな………。

 それなら余も同席するとしようか。

 スラートとフリンクの代表二人がいれば他の者達が危険をおかしてまで見物することもないであろう。

 この試合は余とソナタで最後の瞬間まで見届けることにしようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「!

 何をしている!

 ファルバン!」

 

 

 丁度その時下からオサムロウとハーベンが駆け上がってきた。

 

 

ハーベン「下に落ちた者達は全員避難を終えました!

 父上………族長方も一刻も早くここから避難しましょう!」

 

 

ファルバン「そうか………、

 ではソナタ等も直ぐにここを離れるがいい。

 余とナトルはここに残ることにする。」

 

 

オサムロウ「何………?」

 

 

ハーベン「族長………それはどういう………?」

 

 

ファルバン「当然であろう?

 余とナトルはまだ彼等の試合が決着するのを見ておらんのだ。

 余とナトルはまだ()()()()()()()()()

 この試合は彼等が決着をつけるか観客達全ての者が旗を上げなければ終わりはしないのだ。」

 

 

ナトル「私から見ても彼等は真剣に勝負に臨んでいます。

 この試合はまだ終わってはいない。

 私とファルバン殿が旗を上げるのはもっと先のことになりそうですね。」

 

 

オサムロウ「………」

 

 

ハーベン「そんなことを仰っている場合ではないでしょう?

 あれを見てください。

 今にも彼等の力がここまで届きそうだというのに呑気なことを「お前は逃げろハーベン。」………師匠?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「長い付き合いだからな。

 ファルバンが一度こう言い出したら梃子でも動きはしないだろう。

 それなら我がここに残ってカオス達の攻撃が飛び火してきたらファルバン達を守る。

 それなら文句はないだろう。」

 

 

ファルバン「理解が早くて助かる。

 流石余の親友だな。」

 

 

 ファルバンとナトルが残ると言い出しオサムロウまでもがそれに便乗する。

 

 

ナトル「別に御心配なさらずともよいですのに。

 私達はただ義務を果たしているだけなんですよ?」

 

 

オサムロウ「フッ…、

 それなら我にもその義務があるだろう。

 この大会中審判を務めていたのは我だ。

 審判が不在で試合の結果など報告できたものではないからな。」

 

 

ハーベン「………でしたら私も残ります。

 師匠だけでは父上とナトル殿二人を同時に守るのは負担が大きすぎるでしょう。

 ナトル殿の護衛は私に任せてください師匠。」

 

 

オサムロウ「ハーベンお前は………。」

 

 

ハーベン「師匠だけにいい格好はさせませんよ。

 私もここに残って彼等の試合を見守ります。」

 

 

ファルバン「フフ…、

 では余の警護はお前に任せるとしようハーベン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今世紀最大の()()()()()()()をゆっくりと眺めているとしようか。」



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先に限界が来たのは…

旧王都セレンシーアイン 地下シャイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「「はああああああああ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の力がせめぎあっては弾け散る。拡散したマナのエネルギーが辺りの壁や建物だった物を砕き細かくしていく。砕けて無造作に積み上がった瓦礫の残骸が山を作ってはまた吹き飛んでいく。いつしか瓦礫は砂のように小さくなり風に乗って場外へと流れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「シュタイフェ・ブリーゼ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「魔神…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………!?」バッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 カオスは魔神剣でアローネのシュタイフェ・ブリーゼを撃ち返そうとしたが少し反応が遅れたため回避行動をとった。寸前までカオスがいた場所にアローネの巨大な槍のような風が突き抜けていく。そのシュタイフェ・ブリーゼがまた壁を打ち崩し地上から岩盤が雪崩れ落ちてくる。崩れた岩盤が積み重なって山道の傾斜のようになりちょっとした坂道が出来る。

 

 

 

 

 

 

アローネ「よく躱しましたね。

 ですが次は外しませんよ。」

 

 

カオス「元々当てるつもりで撃ってきてたんだろ?

 次も躱してみせるさ。」

 

 

アローネ「フフフ…、

 そこは素直に躱すと言うのではなく“今度は俺の番だ”と仰るべきところなのではありませんか?」

 

 

カオス「別にどっちでもいいだろ。

 躱すでも俺の番でも変わらないんだ。

 

 

 最後に勝つのは俺なんだから。」

 

 

アローネ「そうはなりません。

 この勝負に勝つのは私です。

 私が貴方に勝って大王の座を正式に手にしてみせます。」

 

 

カオス「………そうなるといいね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 内心カオスは焦っていた。何を焦っていたかというとアローネとの撃ち合いについてだ。

 

 

カオス「(………アローネの奴………だんだん技の威力が上がってきてる気がする………。

 何度か撃ち合ってみて俺の魔神剣が悉く相殺されている。

 加減してるわけでもないのに俺の力に張り合ってくるなんて一体どれだけアローネは強く………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………気のせいじゃないな。

 やっぱり一回撃つごとに技の精度が上がってきている。

 威力だけじゃなく速さも増して………。

 これはそんなに長引かせるとまずいな。

 早くケリをつけないと俺が………。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『()()()()()()!!』」

 

 

 カオスは自分に攻撃力を上げる付加魔術を使う。実はアローネとの撃ち合いになってから小まめに自分の力を底上げしていたのだ。

 

 

カオス「(これだけ使ってもまだアローネの力が俺の力に追い付いてくる………。

 アローネの力の上昇幅に限界は無いのか?)」

 

 

アローネ「自身の能力を上げるだけで反撃はしてこないのですか?

 そうやって補助をかけ続けなければ私の力に対抗できないようですね。」

 

 

カオス「…何だか凄い上から目線だけど俺が本気になったらこんな試合は一瞬で勝負がつくよ?

 いいの?」

 

 

アローネ「だったら最初から本気で来られてはどうですか?

 口ばかりでは何の説得力もありませんよ。」

 

 

カオス「……へぇ………だったら………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは飛葉翻歩でアローネの周りを縦横無尽に駆け回る。

 

 

カオス「一気に勝負をつけさせてもらうよ!!

 

 

 魔神連牙斬!!!」

 

 

 

 

 

 

ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザァァァァァッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 全方位から津波のような魔神剣がアローネへと浴びせかけられる。単発で打ち返されるのなら連続して畳み掛ければアローネにはこの猛攻に対処することは………、

 

 

 

アローネ「バルツィエ御得意の撹乱からの魔神剣ですか………。

 

 

 

 

 

 

 考えが浅はかですよ!!」

 

 

コオオオオオオ………!!

 

 

 アローネの剣にまた翠の光が集まっていく。先程と変わらずシュタイフェ・ブリーゼで撃ち返してくるようだがこの数の魔神剣を全て同時に防ぐのはいくらなんでも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?

 うぁっ!?」ズバンッ!!

 

 

 普通に魔神剣をシュタイフェ・ブリーゼで()()()()()()()。アローネはその場で横に回りながらシュタイフェ・ブリーゼを撃ち全ての魔神剣を凪ぎ払ってみせた。全方位からの強襲を逆手にとった見事な返し技だ。おかげで今度はカオスがそのシュタイフェ・ブリーゼを避けられずに左腕を()()()()()()()()()()()

 

 

アローネ「今のも避けられてしまいましたか。

 惜しかったですね。」

 

 

カオス「……当たってるんだけど……。」

 

 

パアアアッ!!

 

 

 吹き飛んだ左腕に治療術をかけて即腕を再生させるカオス。回復手段が無ければ今ので終わっていただろう。

 

 

 

 

 

 

カオス「(………ヤバイな………。

 今まで俺の力を跳ね返されたり削られたりはしたことはあったけど撃ち負けたことなんて無かった………。

 どれだけアローネは強くなるんだ………。

 このままじゃ俺も………。

 

 

 

 

 

 

 ………まだもう少し力を上げるか……。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『シャープネス』。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはそれまでと同じ様に自分の力を上げるためにシャープネスを使った。これでまたアローネの力に拮抗するとにらんで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシッ………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!?」

 

 

 どこか聞き覚えのある音と感触がした。それはたった今再生させた腕からだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………そんな………どうしてまた腕が………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の器が精霊の力に耐えきれずに限界に達したとき人の体は石化する。アインワルドの巫女達が背負った宿命だ。カオスにもローダーン火山でその現象が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが今このアローネとの戦闘中に再発してしまっていた………。



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打つ手無き敵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………何でこんな時に石化が………!?」

 

 

 アローネの力に対抗すべく攻撃力を上昇させるシャープネスを使うとカオスの左腕が石化を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「シュタイフェ・ブリーゼ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 

 

 

 

カオス「!!

 魔神剣!!!」

 

 

 

 

 

 

ドッ………!ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 シュタイフェ・ブリーゼと魔神剣がぶつかりどうにか今の一撃は起動を反らすことには成功した。だがこの調子でいくと徐々にカオスの体が固まっていき勝負どころではなくなる。

 

 

 

 

 

 

アローネ「どうかしましたか?

 急に動きが鈍られておられるようですが。」

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 今なおあれだけの攻撃を放っておきながらアローネからは余裕が感じられる。精霊王マクスウェルの力を持つ自分が術の酷使で体の限界が近いというのにアローネはまだまだ限界とは程遠そうだ。

 

 

 

 

 

 

カオス「(………一体何なんだ………?

 何でアローネにこれだけの力があるんだ………?

 

 

 

 

 

 

 ………アローネは………………一体何者なんだ………?)」

 

 

 カオスのように人ならざる者の力があるわけでもないというのにアローネは個人の力だけで大会を勝ち越しその上カオスまでもが圧倒されている。彼女のどこにこれ程までの力があったというのか………。

 

 

 切っ掛けは恐らくオリヘルガ戦でのことだろう。あの一戦でアローネの中に眠る何かが目覚めたのだ。思い当たる節はオリヘルガに砕かれたあの()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。あれを壊されたことによって彼女の闘争本能に火をつけて急激にアローネは強くなった。

 

 

カオス「(あれに何か特別な仕掛けでも施してあったのか………?

 あのエルブンシンボルを外すことで力が増すようなそんな効果が………………、

 

 

 ………いや………そんなマジックアイテムなんて聞いたことが無い………。

 装備して外すだけで強くなるならマジックアイテムとしての意味がない。

 それなら寧ろ外すことで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っていうならアローネがいきなり強くなったのも分かる。

 手枷やオールディバイトのようなそんな効能があのエルブンシンボルに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けどそれだけじゃない何か別の要因もある気がする………。

 人の力だけで精霊の力を持つ俺の攻撃を撃ち消したりは………………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カ………オス………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 アローネの力の根幹がどこにあるのか探していく内にふと以前一度だけ見た()のことを思い出す。ユナイテッド・アンセスターセンチュリオンを倒した後にカオスが気を失ってまる十日間眠り続けていた時に見た夢を。

 

 

カオス「(……どうして今あの夢のことを思い出すんだ………。

 あれは俺が見た夢であってアローネとは何の関係も無いじゃないか………。)」

 

 

 夢の内容をそのまま現実に結びつけようとしてカオスはその考えを思い止まらせた。あの日見た夢は所詮自分だけが見た夢であって現実はあの夢のように世界は終わりを迎えてはいない。あの夢は自分の中だけの妄想であって現実の彼女とは全く関与はしていないのだ。

 

 

 

 

 

 

 あの夢の中での彼女はその後は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………俺は何を考えているんだ………。

 アローネがヴェノムだなんてことあるはずがないじゃないか。

 約一年も一緒に旅をしてきて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のにどうして俺はあんな夢を見たんだ。

 どうしてそれを今思い出した?

 アローネはヴェノムに感染したことなんてないしヴェノムの特長なんて一つも無い。

 

 

 アローネの強さは……ヴェノムとは関連性が無いんだ。

 こんな下らないことを考えてる暇があったらアローネをどうにかする方法を考えなくちゃ………。)」

 

 

 

 

 

 

アローネ「何か私を討つ算段でもついたのですか?

 私はどんな手段を使おうともそれらを撃ち破ってみせます。」

 

 

カオス「…悪いけどあまり時間はかけていられなくなったんだ。

 ここからは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術戦に切り換えていくよ!!」バサッ!

 

 

 カオスは剣を戻し代わりにマクスウェルの魔導書を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「魔術での勝負ですか。

 受けて立ちま「『グラビティ!!』」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 アローネを中心に強力な重力場が発生する。丸いドーム状の空間が周辺にあるシャイドやセレンシーアインの建物全てを飲み込み押し潰していく。

 

 

 

 

 

 

アローネ「………!!!!

 ………っぁああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 グラビティの重力に耐えきれずに膝をつき苦悶の声をあげるアローネ。これは流石に効果覿面のようだ。

 

 

カオス「いっけええええええええええええぇぇぇ!!!!」

 

 

 カオスはグラビティを操作して範囲を狭める代わりに重力を上げていく。アローネはグラビティからは逃げられずこれで決まるかとカオスはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………!!

 『サイクロン』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 

 

 超重力空間に捕らわれていたアローネが強引に魔術を発動させるとグラビティが号風によってかき消されてしまった。

 

 

カオス「なっ………!?

グラビティが………!?」

 

 

 これには思わずカオスも驚愕せずにはいられなかった。剣術だけならまだしも自分の魔術までもがアローネに越えられた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ハァ………!!

 ハァ………!!

 今のは………危なかったですね………!

 でも勝負は………これからですよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………こんなことが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの中でアローネの印象が変わり始める。誰にも破られたことのない絶対的な力がこうも簡単に破られるとは思わなかった。アローネの力は既にカオスの手に負えないところまで成長していた………。



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対等以上に戦うアローネ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「さぁ!

 次は何を出しますか!

 どんな術でも構いませんよ!

 私は逃げも隠れもしません!

 全力で全てを受け返してみせます!」

 

 

カオス「………」

 

 

 カオスはこの時点でアローネに対する自分の勝機が途方もない程に低いことに気付く。アローネの魔力は既にカオスを上回る能力がありこの先どの様な術を出してもアローネはそれを跳ね返してくるだろう。

 

 

カオス「(…魔術の勝負で負けた………。

 この俺が………。

 アローネの力がここまで強かったなんて………。)」

 

 

 今の自分とアローネを比べたとしてカオスが勝っているとすれば飛葉翻歩を使っての機動力の高さだけだろう。しかし足が速いというだけではこのアローネには勝てない。アローネは飛葉翻歩の速度にも対応してくる上にカオスが真面目にアローネと勝負を始めてからまだ彼女は()()()()()()()()()()()()()()()。スピードだけあっても彼女の隙をつくことなど出来ないのだ。

 

 

 

 

 

 

アローネ「………来ないのであればこちらから参ります!!

 『エアブレイド』!!」

 

 

 カオスが自身を無くしている内に先にアローネが仕掛けてきた。少し考え事が過ぎたようだ。

 

 

カオス「!!

 『グランドダッシャー』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

ザザザザザザザザザザザザザザザザアアアアアアアアァァァァァ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 地のエネルギーと風のエネルギーがぶつかり慟哭を起こして消滅する。二つの力は等しかったようだ。

 

 

 

 

 

 

カオス「………そんな………、

 この術は地の属性の中でも………一番強い術なのに………。」

 

 

 魔導書に載っていた術でアローネの風の力に対抗するには地の属性が有効だと思い地の上級魔術グランドダッシャーを使った。それがまさか風の《《中級魔術であるエアブレイド》と互角の威力。

 

 

 アローネにはまだグラビティをも打ち消す風の上級魔術サイクロンと更にオーレッド戦で使ったサイクロン以上の術がある。だというのに自分の上級魔術がアローネの中級魔術で相殺されてしまったことにカオスは深い絶望を覚える。

 

 

アローネ「…エアブレイドが防がれてしまいましたか。

 でしたら今度は………。」

 

 

カオス「!?」

 

 

 ショックを受けている場合などではなかった。まだまだ余力を残すアローネが次の術を発動させようとしている。アローネとまともに撃ち合っていけば押しまけるのはカオスの方だ。

 

 

 

 

 

 

 カオスはもう冷静な判断が出来ない状態にあり無我夢中で魔導書を捲って手当たり次第に魔術を発動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『エアスラ…』「『スプレット』!!、『スプラッシュ』!!、『タイダルウェイブ』!!、『イラプション』!!、『エクスプロード』!!、『スパイラルフレア』!!『イグニートプリズン』!!、『ロックブレイク』!!、『グランドダッシャー』!!、『グレイブ』!!、『フリーズランサー』!!」、『アブソリュート』!!、『インブレイスエンド』!!、『サンダーブレード』!!『インディグネイション』!!、『グラビティ』!!、『プリズムソード』!!『デイバインセイバー』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドゴゴゴゴゴゴゴゴゴボフォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!

 

 

 アローネが魔術を発動させる前に片っ端から目に入った術を発動させていく。発動させた術はどれも莫大な破壊力を生み出し闘技場やシャイドだけじゃなくセレンシーアインの街全体を包み崩壊させていく。これだけの術が全てアローネに対して行使されたのだ。いくらアローネでもこれだけの攻撃を全て受ければ跡形なく消滅して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「『サイクロン』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネは消滅しなかった。それどころかたった一度の術でカオスが発動させた無数の術を全て吹き飛ばしてしまった。

 

 

 

 

 

 

アローネ「………確かに私はカオスに本気を出すように言いましたが流石にやりすぎではないでしょうか?

 一歩間違えればウインドラ達やダレイオスの方々………もしくはダレイオスそのものが今ので無くなっていたかもしれませんよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシ………ピシシッ!!

 

 

 

 

 

 

 あれだけの攻撃を全て吹き飛ばしておいて他人の心配までもするアローネにカオスはもう恐怖を通り越して呆れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………俺が誰かにこんなことを思う時が来るなんてなぁ………。

 ………アローネ………君は俺なんかが足元にも及ばない()()()()()()だよ………。)」



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互いの全てをぶつけて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシ………ピシシ………!!

 

 

 

 

 

 

 一度に多くの魔術を多用しカオスの体は外からは見えないが服の中では左半身が石化が進んでいた。

 

 

カオス「(…もう後数回くらいしか魔術は使えないだろうな………。

 回復に当てたとしてもアローネは倒せない………。

 数回の内に決めないと俺がアローネにやられるだろうけど半端な術じゃアローネに防がれる………。

 

 

 ………もう()()()()()………。)」

 

 

アローネ「打ち止めですか?

 それならそろそろ勝負に決着をつけようと思います。

 私達の勝負でダレイオスが滅びても仕方ありませんので。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアア!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネが周囲のマナを吸収し始める。マナの量から見てまたあのサイクロンだろう。それでカオスに止めを刺す気でいるのだ。

 

 

 カオスはアローネに倒されるにしろ体の限界で達するにしろアローネには敗北する。それならどちらがよりアローネに勝機があるかは明白だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは最後の最期で悪足掻きに出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!

 ………………何でしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………正直君がここまでやるだなんて思ってもみなかった。

 君は俺の………………、

 

 

 

 

 

 

 ………()()想像していたよりも遥かに強かったんだね………。」

 

 

アローネ「!」

 

 

カオス「僕は僕が持つ力こそがこの世界で一番強い力だと思っていた。

 それがこうも君に全部押し返されるとは思ってもみなかった。

 僕が力を使う度に僕の力は誰かを殺す、それが当たり前だと思っていた。

 君の力は僕の中にいる精霊の力なんかよりもずっと上だ。

 僕は僕以上の力を持つ相手に会ったことがなかった。

 ………だから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()………、

 君になら僕の全力が出せる。

 僕の全力で君を倒して見せるよ。

 星をも砕く精霊の力を君になら全力で撃てる。

 受け止める覚悟はあるかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今までとは比べ物にならない程のマナをカオスはその身に集めていく。残り数回撃てる魔術を次の一撃に全てを込めることにしたのだ。

 

 

 

 

 

ピシシ!!………ピシピシピシ!!!

 

 

アローネ「!

 ………その体は………!?」

 

 

 ここでカオスの体の異常にアローネが気付く。術を発動させるためにマナを収束させただけでカオスの体は石化が首元にまで上がってきた。

 

 

カオス「君を倒すならこれくらいしないとね………。

 僕がここまで全力を出せるのは君みたいな僕以上の力を持った人が相手だからだ。

 

 

 

 

 

 

 ………最初は君のことを人のこと言えないけど世間知らずなどこかのお嬢様くらいにしか思ってなかった。

 僕のことを盗賊呼ばわりするし戦闘でもろくに動けないのにいやにに前に出たがるしなんというか()()()()()な女の子だとも思った。

 弱いくせに他人のために誰かを守ろうとしようとしたりして危なっかしくて見ていられなかった。

 よく自分とは関係のない人のためにあれだけ一生懸命になれるよね………。

 俺にはそれが理解できなかった。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「………リトビア辺りのことですね。」

 

 

カオス「うん………。

 あの頃は僕とアローネは御互いのことを知らずにギクシャクしてたよね………。

 僕は自分のことや自分が嫌いって言いながらも自分の力以外を認めてはいなかったんだ。

 それをこの間のアローネとのことで今更だけど思い知ったよ。」

 

 

アローネ「貴方から僕だなんて久し振りにお聞きしましたね………。

 貴方は会った時から他人に嫌われないようにいい人を演じ続けてきました。

 それがカストルでのレイディーの一件で少しは私達に心を開いてきたのだと思いましたが貴方の心はまだまだ分厚い氷を張ったままでした。」

 

 

カオス「僕が魔術を使いたくなかったのは本当は魔術を使って誰かが傷つくとかじゃなくて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが怖かったんだ。」

 

 

アローネ「ダレイオスに渡ってからの貴方は魔術を使うかどうかで悩んでいましたね。

 魔術を使っても嫌われる、

 魔術を使えなくても嫌われる………。

 そんな思い込みに捕らわれて一人で苦しんでおられましたね………。」

 

 

カオス「………うん………、

 ダインの助けが無ければ僕はずっと前に進めないままだった。

 ダインや待っててくれた皆のおかげで僕は魔術を使えるようになったんだ………。」

 

 

アローネ「………ですがその後から貴方はずっと孤独を感じ続けていたのではないですか………?

 貴方が魔術を使えるようになれば必然的に貴方の力は皆と比べて一人だけ桁外れに大きかった。

 カオスが時折一人になりたがるは貴方が皆を本当に心の底から受け入れてはいなかったからではないですか?」

 

 

カオス「………そうだね………。

 これまでの旅で僕は強い人や強いモンスター達には出会ってきたけどどれも僕が戦い方を変えるだけで簡単にそれらを越えることが出来た。

 全ては精霊の力のおかげだけど僕は僕より本当に強い相手に出会うことがなかった。

 僕の中の精霊マクスウェルはこの星すら破壊できるほどの強い力を持った精霊だったからね。

 そりゃ当然だよ………。」

 

 

アローネ「そういえばあの時アルターで貴方は家族が欲しいようなことを仰っておりましたがそれは少し違うのではありませんか………?

 貴方が欲しかったのは家族ではなく………、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()を欲していたのではないのですか?

 最強の力を持った貴方の境遇を真に理解できるのは貴方と同じ力を持つ人か貴方と対等に戦えるような存在………。

 そういった方が現れるのを貴方は待ち望んでいたのではないですか?」

 

 

カオス「…まさかアローネがここまでの力を持っていたことには驚いたけどね。

 もしこの戦いで僕が負けたら君は名実ともにこの世界で最強の力を持つエルフになるわけだ。

 僕としては僕以上の怪物が現れてくれたことが本当に嬉しいよ。」

 

 

アローネ「怪物ですか………。

 貴方にそう言われてしまう程に私が強くなったとは思えませんが………。」

 

 

カオス「何言ってるんだよ。

 十分怪物じゃないか。

 この力は今まで誰にも破られたことなんてなかったのにすごい簡単に撃ち返したりして………。

 

 

 

 

 

 

 ………本当に君と決着をつけなきゃいけないことが残念だよ………。」

 

 

 本心からそう思うカオス。やっと自分と同じぐらいの力を持つ人物に出会えたというのにカオスはアローネと戦わねばならないのだ。

 

 

 

 

 

 

アローネ「…私も試合の途中で投げ出すようなことはしたくはありません。

 ここまで………こんな胸が熱くなるような勝負を半端なところで終わらせたくないです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方の全力で放つ魔術を私は全力で吹き払ってみせます。

 手加減などせず思う存分撃ってきてください。

 私が貴方の全てを受け止めますから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の纏う光が強くなる。両者から次に放たれる一撃が最後の攻撃となるだろう。これでいよいよこの戦いの勝者が決まる………。



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漸く巡り会えた強敵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!!

 アローネ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「「!」」

 

 

 これから二人の最大の術が発動しようとする時にカオス達の元へ駆け寄ってくる者達がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「カオス!

 アローネ!

 もういい!

 十分だ!

 お前達はよく戦った!

 お前達が本気で戦っていたことは十分ダレイオスの皆にも伝わったはずだ!

 だからもういいんだ!

 これ以上お前達が暴れたらダレイオスにいる皆がお前達の戦いに巻き込まれる!」

 

 

ミシガン「そうだよ!

 これだけやったらあの人達もアローネさんが大王になることに文句なんて言えないでしょ!?」

 

 

タレス「彼等もカオスさんとアローネさんがセレンシーアインがこんなになるまで戦うとは思ってなかったでしょう。

 これだけの戦いを見せつけられればアローネさんを大王と認めざるを得ないはずです。」

 

 

レイディー「せっかくお前達が苦労して集めてきた戦力をお前達が台無しにするのか?

 ………お前等二人ともちっとやりすぎなんだよ。」

 

 

カーヤ「他の人達はもう皆いないよ………?

 ここにいるのはカーヤ達とあそこにいるお爺ちゃん達だけ………。

 他の人達は街の外に避難した………。」

 

 

 ウインドラに続いて他の皆もカオス達のところへやって来る。争いが激化し人がいなくなったために止めに来たのだろう。

 

 

ウインドラ「もうこんな不毛な争いは止めるんだ。

 アローネも何を考えている。

 カオスが相手だというのにわざわざ試合中にルールを変更して互いに互いの殺生の許可を取るなどと………。」

 

 

レイディー「頭に血が上り過ぎだ。

 そういうのは仲間同士でするもんじゃねぇよ。

 坊やが今までどんな生活を送ってきたかお前も分かってるだろ?

 坊やからしたらお前に限らず皆が坊やの力より下なんだ。

 お前だって今回のことがあるまではアタシ等と力に差なんて無かったじゃねぇか。

 人ってのはそんな綺麗なもんじゃねぇ。

 見くびられたくらいで殺し合いなんかしてたら世の中戦争が絶えることなんてねぇんだよ。

 少しは大人になれよ。」

 

 

タレス「さっきまでの戦い見てましたけどアローネさん凄かったですよ。

 カオスさんの術をアローネさんが押し返したりしてボクビックリしました。

 アローネさんもカオスさんにも負けないくらいの実力があるんですね。

 アローネさんなら大王に相応しい力を持っていますよ。」

 

 

ミシガン「ね?

 もういいでしょ?

 殺し合いなんてもうする必要ないよ!

もう終わりにしようよ?

 今止めたっていいでしょ?

 誰もこの試合が不正だなんて言わないよ。

 アローネさんはカオスを圧倒して見せたんだし皆もカオスと本気で戦ってたのは見てたからこれ以上二人が戦うことも無いんだよ。

 今までみたいに二人とも仲直りしてまた一緒にこれからやっていこうよ。」

 

 

 カオスとアローネが戦うことになったのは一週間前の仲違いが原因だ。そのことをカオスが直接皆に言って聞かせたからこそ彼等は二人がまだそれで戦っているのだと思っている。彼等もカオス達が街が無くなる程の戦いをするとは思っていなかっただろう。ましてや本気で二人が互いを攻撃するとは思ってなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして自分達がこの場に来ることで二人の争いが止められるとそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス・ミシガン・ウインドラ・レイディー・カーヤ「「「「「!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…ごめん………、

 皆下がっててくれるかな………。」

 

 

アローネ「私とカオスは一週間前のことが切っ掛けでこの決闘をすることにはなりましたが今私とカオスが戦っているのはもうそんな些細なことなど関係ありません。」

 

 

 ウインドラ達が止める声を無視してカオス達は術の発動準備に入る。カオスとアローネの二人は決闘の決着がつくまで止めるつもりはないようだ。

 

 

ウインドラ「待つんだ二人とも!!

 どうしてそうまでして戦おうとするんだ!?

 これ以上やったら本当にどちらかが死ぬぞ!?」

 

 

タレス「!

 カオスさん体がまた石になってるじゃないですか!?

 そんな体でアローネさんとやりあうのは無茶ですよ!

 今すぐに決闘を中止すべきです!」

 

 

ミシガン「カオス死にたいの!?

 やっぱり精霊の力を使い続けるのは無理なんだよ!

 そんな体になって元に戻らなかったらどうするの!?

 一生その体のままかもしれないんだよ!?」

 

 

レイディー「お前………………死ぬ気か?

 そんな体になっても猿との勝負が大事か?

 

 

 ………お前はアローネのことを殺してやりたいほど憎く思ってるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………違うよ。」

 

 

 カオスはレイディーの質問にそう返した。

 

 

レイディー「じゃあ何でお前はアローネと戦ってるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…僕はアローネと出会ってから今まで………、

 ………十年前のミストでの事件から僕は誰かと本気でぶつかりあうのが怖かったんだ………。

 僕が本気で誰かと喧嘩でもしたりすれば僕はその人を殺してしまう………。

 誰も僕と対等な人なんていなかったんだ………。

 そのせいで僕はずっと一人だった………。

 一人で十年も旧ミストで過ごしてきた………。

 

 

 アローネに出会って………タレスと出会って………レイディーと出会って………ウインドラと再開して………ミシガンが追い掛けてきて………カーヤとも出会えたけど僕が一人なのは変わらなかった。

 皆といても僕は結局一人のままだったんだ………。」

 

 

 ポツポツと自身の心情を語り出すカオス。孤独に苛まれながら誰かの影を追いかけ誰かと一緒にいることで気を紛らわそうとしても自分が一人であることをどこかで自覚させられる。カオスはそんな想いでアローネやウインドラ達と共にいたのだ。

 

 

ウインドラ「…お前………そこまで根を積めていたのか………。」

 

 

ミシガン「きっ、気持ちは分からなくもないけど………。」

 

 

タレス「ボク達じゃカオスさんとは力に差がありすぎますからね………。」

 

 

レイディー「お前とタメ張れるってったら………猿くらいしかいねぇよな………。」

 

 

カオス「そう………、

 僕にとっては初めてなんだよ………。

 初めてアローネが僕の力と同等に並んでくれた。

 僕は初めてこんなに誰かと全力でぶつかれるんだ。

 アローネになら思う存分力を使うことが出来る。

 

 

 

 

 

 ………だから止めないでくれ。

 僕はやっと僕と対等な喧嘩が出来るんだ。

 人生初めての同じ条件での喧嘩をもっと楽しんでみたいんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「………なんだそりゃ………。

 そんなことを命の賭けてまですることかよ………。」



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孤独同士

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「申し訳ありませんがこの戦いに水を指しても無駄ですよ。

 私とカオスはもう止まりません。

 レイディー達も早くこの場から離れてください。

 巻き込まないという保証は出来ませんので………。」

 

 

カオス「次に撃つ魔術………それが本当に最後だから………。

 もう止められないんだよ。

 この決闘は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 

 

 二人の術の影響を受けて天候の流れが変わる。カオスの頭上には真っ黒な雲が立ち上ぼりアローネの周囲には強風が吹き続ける。今までにない最大の一撃がここで衝突する。

 

 

レイディー「………チッ!

 おいお前等。

 とっととここから離れるぞ。」

 

 

ウインドラ「!

 しかしカオス達が………!」

 

 

ミシガン「二人を止めなくていいのレイディー!?」

 

 

タレス「このままじゃどちらか死人が出てしまいますよ!?」

 

 

レイディー「説得しても二人は聞きやしねぇよ。

 アタシ達に出来ることはこいつらの喧嘩が決着するのを見届けることだ。

 もう行くとこまで行かせてやれ。

 それでどっちかが死んでもそれはこいつらが選んだ道だ。

 アタシ達はそれを受け入れるしかねぇ。」

 

 

 レイディーが背を向けて去っていくと他の皆も渋々といった感じでその場から離れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…やっと決着がつけられそうですね。」

 

 

カオス「うん………、

 そうだね………。」

 

 

アローネ「………カオスは覚えていますか?

 カストルで私が貴方に言ったことを………。」

 

 

カオス「カストルで………?

 ………カストルじゃ色んなことがあったから何のことか………。」

 

 

アローネ「私が貴方のことを義兄のように思っていたと伝えたことです。」

 

 

カオス「………あぁ、

 そのことなら覚えてるよ。」

 

 

アローネ「貴方と過ごしたこの約一年………、

 やはり私から見ても貴方はサタン義兄様に似ています。

 カオスを義兄の代わりとして見ないようにはしてきましたが義兄様とカオスとでは類似点が多すぎて中々そうしないようにするのが難しかったです。」

 

 

カオス「…そんなに似てるのかな………。

 僕なんかと多くの人を救ってきたお義兄さんが似ているだなんて………。」

 

 

アローネ「似ていますよ。

 それどころか考え方や出生までが何から何まで似ています。

 義兄様もカオスのようにずっと孤独を感じておられたようですから。」

 

 

カオス「義兄さんが?」

 

 

 アローネの話ではサタンはハーフエルフに生まれウルゴスの奴隷として働かされカタスの兄弟で医学に通ずるグレアムの紹介でアローネ達家族と出会ったと聞く。孤独という点では同じようだがそれ以外に共通点があるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

アローネ「サタン義兄様はいつも一人でした………。

 奴隷としての仕事がない時は時折誰もいないところに行っては一人言を言ったり誰かと一緒にいるのを避けようとしたりしていました。

 私達クラウディア家に迎えられるまでは誰のことも信用せずまた誰も近付けないようにしていました。

 誰も彼のことを理解することが出来なかったから………。」

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「義兄様も一人でいることの方が楽だと感じていたのでしょう。

 誰からも理解されなかった彼はあまり誰かに御自分の力をお見せするようなこともありませんでした。

 知識から医術、武術、剣術といった数々の秀でた部分を持ちながらも彼は人と接するのを嫌った。

 彼は()()()()でしたからそういった行動を取っていたのでしょう。

 私達クラウディア家も最初の頃は彼のそんな行動を静観していました………。

 

 

 ですが姉アルキメデスはそんな彼に積極的に近付き彼の固く閉ざした心を優しく解きほぐしていった。

 そして彼が本当は一人でいることを寂しく感じていたことを知りました。

 誰も寄せ付けなかった彼が本当は誰かの救いを求めていたことをそこで聞けたのです。

 

 

 

 

 

 

 ………貴方と義兄様はまったく同じとは言いませんがそこはかとなく似たような境遇だと思いませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………そうかもしれないね。

 僕も自分が辛いって時誰かに側にいてほしいとは思ったことがあったけどそれを誰かに相談とかしたり出来なかった………。

 僕は皆とは違う………。

 皆は僕とは違う………。

 そんなふうに考えて誰にも自分の気持ちを伝えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 ………君は凄いよねアローネ。

 一年前までは君も一人だったのに君はあんな環境にいながらも前向きでウルゴスの手掛かりを探していた。

 僕だったら一人じゃ何も出来なかったのに………。

 

 

アローネ「私は………カオスやタレスがいましたから………。

 私は貴方に出会った時から自分が一人だなんて思っていませんでしたし。」

 

 

カオス「僕やタレスを信用してくれてたんだね………。

 けど僕はあの時はまだ君達のことはそんな対象には見れてなかった。

 まだあの頃の僕は君達と一緒にいながらも自分が一人だと思ってた。

 一緒にはいたけど僕には君達のように目的なんて何もなかったから………。

 ただなんとなく一人になるのが嫌だったから君達についていってただけなんだ。」

 

 

アローネ「人の心とは複雑なものですよね。

 自分がどうしたいか、どうなりたいかという形は心の中にしっかりとあるのにそれとは正反対の行動をとろうとしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 ………カオスは一人になりたいのですか?

 それとも誰かの隣にいたいのですか?」

 

 

 

 

 

 

カオス「………僕は………………。」

 

 

 アローネの問いにカオスは黙る。カオスの中でその答えを正直に人に打ち明けるだけの勇気が彼にはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「正直に話してくださっていいのですよ。

 ここには私以外には誰もいないのですから。

 私は決して貴方の願いを笑ったりはしません。

 貴方の出す答えは私は素直に受け止めます。」

 

 

 

 

 

 

カオス「………僕は………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………僕は一人になんかなりたくない………。

 誰かと一緒にいたい………。

 今までこんなこと恥ずかしくて言えなかったけど僕は誰かに甘えてみたかったんだ………。

 けど僕みたいな………ミストでも異端だった僕は誰にもそんなこと出来なかった……。

 ずっと寂しかったんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは思いの丈をぶちまけた。強すぎる力を持つが故にカオスは誰にもすがることをしてこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………本当に貴方は彼と同じ悩みを抱えておられたようですね。

 では私が貴方のその悩みを解消してみせます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……()()()()()()()()()。」



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勝ったのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………それじゃあ………行くよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「えぇ………、

 お好きな時にどうぞ。

 私はいつでも迎え撃つ体勢は整っているので。」

 

 

 二人は共にそれぞれのマナを最大限まで高めていく。残りのマナ全てを最後の一撃に込めていく。

 

 

カオス「………アローネ………、

 僕は君のことが羨ましかった。

 君のその人のために何かをしようと出来る生き方を僕もしてみたかった………。

 

 

 どうか………この力を………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『()()()()()()()』。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ………………………………オオオオオオオオオオオゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 

 

アローネ「来ましたね………。

 やはりその術ですか。」

 

 

 天空より十四の巨大な質量を持った隕石がアローネのいる地上へと降下してくる。一度直にあの隕石が地上に到達したのを見たことがあるがあの時精霊マクスウェルが降らせた隕石よりも更に体積は大きかった。あれらが地上で爆発すればダレイオスはその後数百年は人の住めない土地となり果てるだろう。

 

 

 

 

 

カオス「君にこの術を防ぎきることが出来る?

 僕の持てる力全てをこの術に託した。

 後はあれらを君が対処しきれるかどうかだけど………。

 

 

 

 

 

 

 …君にこの術を突破することが出来れば君の勝ちだ。

 出来なければ君はダレイオスにいる他の皆と一緒に死ぬことになる。」

 

 

アローネ「…確かにこの術はそう易々とは撃ち破れそうにありませんね。

 私がこの術を払いきれなければダレイオスは全滅する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして貴方も………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシピシピシ!!!

 

 

 カオスの石化が進んでいく。切り裂いた服の間から除く素肌が灰色に染まっているのが見える。恐らくもうほぼ全身に石化の進行がいっているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「僕の力の全てがあの隕石達に込められている。

 あの隕石を止めることが出来たら君はやっとダレイオスの大王になれるんだ。

 もう君を相応しくないなんて言う奴なんていない。

 あれがこの星での最強の力だ。

 

 

 ………君にあの力を撃ち破ってほしい………。

 僕の中のこの無敵の力をどうか君の力で………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「必ず防ぎきってみせます。

 防ぎきって貴方のその十年の歳月の重圧を取り払ってみせます。

 私が貴方の代わりにこの星の最強の座を手にすることで貴方を救ってみせますカオス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ゴッドブレス』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間アローネから発せられた光がデリス=カーラーンを覆い尽くした。一年前にここでカオスから発せられた光の何倍も眩しい光が空を日の光よりも明るく照らし空の色を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コオオオオオオオオ!!!!ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 一本の光の柱が天より舞い降りる悪魔の一撃達を撃ち貫いていく。一つ、また一つと隕石はアローネの光によって滅されていく。瞬く間に十四もあった隕石が砕け散り紙のように消えていく。

 

 

 

 

 

 

 そして最後の一つも………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンン…………!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日ダレイオスの空は降り迫る隕石を撃滅した光の爆撃により夕暮れよりも赤い色に染まった。空一面に立ち込める煙がダレイオスを覆い隠し数日間晴れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ハハ………大したものだね……。

 僕の力に………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシピシピシ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………勝っちゃう………なんてさ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴトッ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは仰向けに倒れる。体は首から下が石化していた。マナを多量に使う魔術を行使したために生命器官を司る部位まで固まってしまいそのまま意識を失った………。



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ウルゴスの民の力?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスは誰よりも強かった。その強さの根幹は精霊によるものだが今となっては精霊の力は自分だけのものだ。それを誰かに分け与えることはできても全て委ねることは出来ない。そうした能力があるからこそ人はカオスの元に集まる。そしてカオスから人は遠く離れていく。人のために何かをすればするほどカオスは人々の中で神格化が進み誰もカオスを人としては扱わなくなっていく。誰も敵うことのない力がカオスをどんどん人ではない何かに変えていく。カオスはそれがたまらないくらいに嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 いつかこの力を超越する力を持つ者でも現れない限りカオスは永遠に人には戻れないと信じ混んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!」

 

 

 自身の名を呼ぶ声でカオスは目を覚ます。…が体が思うように動かせない。かろうじて上半身と腕は動き体を起こすと下半身は石化したままだった。

 

 

 

 

 

 

アローネ「まだ安静にしていてください。

 少しずつですが石化が解けていっているようなのでもうしばらくは動かない方がいいかと。」

 

 

カオス「………僕は生きてるの………?」

 

 

アローネ「えぇ、

 ちゃんと生きておられますよ。

 石化はどうやら一時的なもののようでカオスの体力が戻り次第完治することでしょう。」

 

 

カオス「………そうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ねぇ………アローネ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「はい、

 何でしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………僕は………負けた………んだよね………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…あれからまだそんなに時間は経ってはいませんが私とカオスの術が止んだことでファルバンさんやナトルさんが私達の様子を見に来ました。

 それでカオスがもう戦闘続行は不可能だということを他の方々に伝えに行きました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………それじゃあ………やっぱり………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………私と貴方の勝負は私の勝ちで決着となりました。

 これでダレイオス大王位決定戦は終わりです。

 私は正式にダレイオスの大王となることが叶いました。

 カオスが私と本気で戦ってくれたおかげで………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………そう………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツー………、

 

 

 カオスの頬から涙が溢れた。

 

 

アローネ「…どうしてカオスは泣いているのでしょう?」

 

 

カオス「………どうしてだろうね。

 なんか自然と涙が溢れてきたよ。

 アローネに負けて悔しいからかな。」

 

 

アローネ「悔しいと言うことは私には負けたくなかったということですか?」

 

 

カオス「本気を出したのに負けたからだよ。

 本気の本気で僕はアローネを倒すつもりでいた。

 それなのにこんな体になってまであんな大技を出したのにそれでも負けた。

 ………負けるって悔しいものだったんだね。

 もう十年以上もこんな本気になって負けたことなんてなかったから忘れてたよ。」

 

 

アローネ「決闘には勝敗がつきものです。

 決して勝利だけではありません。

 時には敗北を味わうことだってあります。

 貴方には精霊の力がありますがそれは絶対的な力ではなかったということですよ。」

 

 

カオス「………アローネって何者なの?

 どうして君に精霊を越えるようなそんな力が………。」

 

 

アローネ「…私にも分かりません。

 何故私にこれほどの力があるのか………。

 私は数先年から数万年もしくはそれ以上の時間あの棺の中で過ごしていたとしか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「それがウルゴスの民の力です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

アローネ「コーネリアスさん。」

 

 

 二人で話をしていたらコーネリアスがやって来る。

 

 

コーネリアス「ウルゴスの民アローネ様は術式アブソリュートによって永き時を越えてこの時代にやって参りました。

 そうして時代を幾つかの時代を越えていく内にアローネ様や主カタスティア様のマナは変化と成長を繰り返してこの時代の平均的なマナを大きく逸した存在へと進化したのです。」

 

 

アローネ「!

 カタスにも私のような力があるのですか!?」

 

 

コーネリアス「はい、

 とは言っても進化には個人差があるようでしてアローネ様ほどの力は主にはないようですが………。」

 

 

カオス「カタスさんにもアローネみたいな力が………。

 ………それも精霊王の力でも刃が立たないような強い力が………。」

 

 

コーネリアス「もしこの時代に他にもアローネ様や主のようなウルゴスの民が目覚めることとなると世界の情勢は大きく動くことでしょう。

 アローネ様御一人でもカオス様を倒してしまうほどの力………。

 あと数人でもアブソリュートから目覚めればどうなることやら………。」

 

 

カオス「!

 ………もしかしてバルツィエがウルゴスを目の敵にしてるのは………。」

 

 

アローネ「そういった背景があったからなのですか……?

 私や………ウルゴスの民がこの時代で目覚めると世界のパワーバランスが急激に傾いてしまう。

 バルツィエがトップではいられなくてなってしまうからだからフェデールはレサリナスでウルゴスが敵だと………。」

 

 

コーネリアス「そこについての考察は小生も存じ上げない部分ではありますが恐らくはそうかと………。

 

 

 

 

 

 

 バルツィエがマテオを牛耳って二百年………。

 長期に渡って世界を支配してきたバルツィエが突然現れたウルゴスの民に敗戦を喫することとなれば彼等はその椅子からは引き摺り下ろされてしまう………。

 バルツィエが怖れるのも無理はないのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ様の………ウルゴスは力でも技術でもこの時代よりも遥か先を行く者達なのですから………。」



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ダレイオスの王の誕生

トリアナス砦 数日後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達とカーラーン教会、そして六つの部族達はトリアナス砦に戻ってきていた。

 

 

 

 

 

 

オーレッド「…未だに納得がいかん。

 何故あんなダレイオスとは関係のない小娘に先陣の指揮を任せるハメになったんじゃ。」

 

 

オリヘルガ「俺だって試合の途中からどうなったかが分からなくなった。

 気が付いたら俺が負けてた。

 そんなのあるかよ?」

 

 

クララ「貴方がアローネさんに倒されるところは皆が見ておりました。

 揺らぎようのない貴方の敗北です。」

 

 

シーグス「本当にあれだけの力があの女の子一人の力だってのか?

 カオスから何か術でもかけてもらって優勝したんじゃないのか?」

 

 

コーネリアス「それについては先日御話した通りです。

 彼女は我等が教皇カタスティアと同郷のウルゴスの御出身なのです。

 貴殿方もカタスティア様の御力は知っておられると思いますが………?」

 

 

オーレッド「ぬぅ………、

 あの者の同じ生まれであるのならあれほどの力があっても説明がつくが………。」

 

 

クララ「私はカタスティア様の力量がどれ程のものなのか存じませんがそれほどのものなのですか?」

 

 

ミネルバ「私は教皇様の伝説は聞いたことがあるよ。

 二百年前辺りでマテオがダレイオスに比肩するぐらいに力をつけてきた時に急にダレイオスにカーラーン教会っての設立するってんでセレンシーアイン辺りの土地を譲ってくれって言ってきた話でしょ?

 最初はどこの部族も族長達が相等ごねたらしいけど教皇様の目的がハーフエルフ達を引き取るための施設を作りたいってんで最終的にはそれを認めたってやつ。」

 

 

シーグス「俺達がまだそんなに大人じゃなかった時の話か。

 けど全部族がそん時は同意してなかったよな。

 ブロウンとクリティアとブルカーンがそんな誰かに譲れるような余った土地があるなら自分達に寄越せって言い出して騒動を起こして………。」

 

 

オリヘルガ「………うちのじいさん達の話だな………。

 とにかくいちゃもんつけてスラートが謙譲する予定の場所に殴り込みに行って逆に教皇直々に追い払われたらしいな。」

 

 

オーレッド「ソナタ等もあの者を前にすれば儂等と同じ様に逃げ帰ってくるじゃろうて。

 

 

 あやつからは何か底知れぬ力を感じるものがあったんじゃ。

 何か………触れてはならん気配というかなんというか………。」

 

 

シーグス「ハッキリしねぇな。

 カーラーン教会と何があったんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「………何も無かった。

 何かありでもすれば今儂はこうしてここにはおらんかったじゃろう。

 彼女からはそれぐらいの桁外れの()()を感じたんじゃ………。

 アローネとかいう娘も常識外れの力はあるが彼女からはそれとは違う別の………()()のようなものを纏わせておったわい………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーグス「悪意ぃ?

 カーラーン教会が何か良からぬことでも企んでるってのか?

 こういっちゃなんだが教会はこの二百年でとくに目立ったようなことはしてねぇだろ。

 あいつ等はダレイオスではハーフエルフを、マテオでは紛争被害にあって親を亡くした子供達を引き取っては育ててるだけの善良な奴等だ。

 良く言えばでは善人主義、悪く言えば物好きの御人好し連中だ。

 別に誰かが何かされたりでもしたわけじゃねぇのに。」

 

 

ミネルバ「カーラーン教会がダレイオスに出来てから今まで教会が悪さをしたって話は聞かないねぇ。

 実害が皆無なら大事に捉えるべきじゃないと思うけど………。」

 

 

クララ「基本的にハーフエルフはブルカーンやスラート、クリティアなど精力的に強い部族が他の部族を襲って生まれてきました。

 彼等を偏見の目で見る前に自分達の行いを反省してみるべきでは?」

 

 

オーレッド「そりゃもう同盟を組む前の話じゃろうが!

 マテオと戦い出してからはもっぱらバルツィエによって生み出されてくるハーフエルフの方が多いじゃろ!

 今更そんな話をするな!」

 

 

オリヘルガ「………ハァ………、

 そんでそのカーラーン教会の教皇代理の女がダレイオスの暫定王位についたわけか。

 教会はカタスティア教皇が設立したってのに当の本人が同じ国の女にその座を譲るか。

 教皇ってのは何一つ自分に得がないが奴は何が楽しくてあんな混血児達を集めてんだろうな。」

 

 

ミネルバ「さぁね。

 人ってのは欲に突っ走る奴もいれば人のために何かをしたいって人も世の中にはいるってことなんじゃないの?

 少なくともミーアは人助けする前に私達が助けてほしいところだけど。」

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「…そろそろ宜しいでしょうか?

 これから新ダレイオスの新たな王の誕生の門出を祝って祝典としたいのですが皆様が準備が宜しければ小生が進行させていただきますが………。」

 

 

ファルバン「待たれよコーネリアス殿。

 それは余が務める。

 前王として余が()()()()()()()()にこのダレイオスの未来を託す任を承る。」

 

 

ナトル「ファルバン殿は彼等のようにアローネ様が即位されることに何の抵抗も無さそうですね。」

 

 

ファルバン「余は前王である前にスラートの長でもある。

 どういった選択がスラートのためになるか行動するのが長の勤めだ。

 余としてはクリティアのオーレッドやブルカーンのオリヘルガなどよりは彼女にダレイオスを任せた方が断然良いだろう。」

 

 

ナトル「彼女は………カーラーン教会がダレイオスの王になることがスラートのためになるのですか?」

 

 

ファルバン「そうなるに決まっておる。

 余は始めから次の王は()()()()()()()()()()()()()()こそが相応しいと思っておった。」

 

 

ナトル「縁のない者が?」

 

 

 

ファルバン「カオスが当初はその候補者だったがマテオもダレイオスも王がバルツィエでは後々面倒なことになりそうだった。

 王になるにはそれなりに力のある者で九の部族以外の者から選ぶのが最善ではあったのだが良いところに彼女が現れてくれた。

 カオスさえも打ち負かす彼女なら余はダレイオスの次の王を任せられるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そう………彼女アローネなら余が思い描くようなそんな素晴らしい世界へと変えてくれるはずだ………。」



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新ダレイオスの立ち位置

トリアナス砦 部族会議室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「それではこれから対マテオ作戦会を始めます。」

 

 

 

 

 

 

 アローネの号令によりカオス達とカーラーン教会、六部族族長達を交えての作戦会議が開かれる。以前とは違い長方形の机の側面にスラートを含めた六人の族長とカオス達それぞれが座る。アローネとコーネリアスは上座の席に座っている。

 

 

アローネ「…では()()()()()()

 現在我が軍の勢力はどれ程ありますか?」

 

 

 数日前までは敬称を付けてコーネリアスを呼んでいたが立場もあってかコーネリアスの名を呼び捨てにするアローネ。

 

 

コーネリアス「事前に調べ上げたデータによりますとスラートが四百、ミーアが百、クリティアが五十、フリンクが千、アインワルドが三百、ブルカーンが百の計千九百五十です。」

 

 

アローネ「フリンク、スラート、アインワルドが隊列に加われる数が多いですね。

 ミーア、クリティア、ブルカーンが少ないのは何故ですか?」

 

 

ミーア「勘弁しとくれ。

 うちはクラーケンの被害が大きくてそれ以上は出せないよ。

 戦える男達はそれで全部さ。」

 

 

オリヘルガ「俺達ブルカーンは今のところ百人だがそれで部族全員だ。

 蜥蜴野郎に殆ど食われて百人しか残ってねぇが全員でマテオと戦う。」

 

 

アローネ「そういうことでしたか………。

 それなら何も言うことはありませんが………、

 ………クリティアはどうして他よりも数が少ないのですか?

 貴殿方も他の部族のように数を出すべきではありませんか?

 クリティアは確か以前御伺いした時はジャバウォックの被害はそこまで無かったと思いますが。」

 

 

 ミーアとブルカーンがヴェノムの主によって大半の数を失っている。そうした事情もあって彼等が兵が少ないのは分かるがクリティアに関してはマテオでヴェノム避けに使う封魔石のような術式を施しヴェノムの主ジャバウォックの目を欺いていた。なので人口的にはそこまで数は少なくないはずだが………、

 

 

 

 

 

 

オーレッド「儂等は兵に貸し出すマジックアイテムの製造で忙しいんじゃ。

 その上戦場にまで出ろと言い出すのは流石に儂等を酷使し過ぎではないか?

 五十も兵を出すだけ有り難いと思ってほしいところじゃ。」

 

 

アローネ「マジックアイテムの製造………?

 ………オールディバイトのことですか。

 私自身が身を持ってあのアイテムの強力さを体感したので製造に人員を割くのであれば構いませんが兵に貸し出すにしても千九百名分もの数を生産が可能なのですか?」

 

 

 兵器を他の部族にも渡すことで自分達は出兵する人数を減らすのが当然というオーレッド。だが一部族で他五つの部族の分のオールディバイトを賄えるとは思えなかった。アローネの質問にもオーレッドの返事は予想通りに、

 

 

オーレッド「そんな数儂等だけでカバーできるわけないじゃろ。

 そこまでの数揃えるのに半年から一年はかかるぞ。

 それでもいいのか?」

 

 

アローネ「半年から一年ですか………。」

 

 

ファルバン「…コーネリアス殿、

 カーラーン教会で調査したというマテオのレサリナスの情勢はどうなっておるのだ?

 七ヶ月前にマテオはダレイオスに奇襲から開戦をしようとしていたらしいがそれはカオス殿達のおかげで大分延びたと聞くがそれはまだ幾ばくか時間はあるのか?」

 

 

コーネリアス「それについてなのですがここ一月辺りでレサリナスのバルツィエに()()()()()()()との報告を受けました。」

 

 

レイディー「妙な動き?」

 

 

ウインドラ「俺達が一度レサリナスに潜入した時期か。

 妙な動きとは具体的にはどの様な様子なのだ?」

 

 

 それまで先見隊を送るばかりで大々的に何かをしていたわけではないバルツィエに変化があったということで皆がコーネリアスの次の言葉に注目した。

 

 

コーネリアス「はい、

 何でもバルツィエ一族とその傘下の者達が慌ただしく積み荷をレサリナスから運び出してるとか………。」

 

 

ミシガン「積み荷?」

 

 

タレス「どんなものを運び出してるんですか?」

 

 

コーネリアス「どうやら武器や兵器、それから食料などのようです。」

 

 

カオス「武器や兵器………と食料?」

 

 

アローネ「軍がそういった品を運び出す際はどこかへ遠征と決まっていますが今回は()()()()()()()があるようでして………。

 普通なら遠征は精々数日から数十日分の食料程度で済むらしいのですがそれがどうもそれ以上の………数ヵ月分の食料を運び出しているようなのです。」

 

 

クララ「そんなにですか………?」

 

 

コーネリアス「えぇ、

 密偵からはそのように聞いております。」

 

 

カオス「そんなに食料を持ち出して一体何をするつもりなんだ………?」

 

 

 レサリナスといえばマテオの首都であり堅牢な外壁で守りを固めたバルツィエの本拠地だ。そこから武器や食料を大量に運び出すことにどの様な意味があるというのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「…ひょっとするとそりゃ………()()しようとしてるんじゃねぇか?」

 

 

 ボソリとレイディーがそんな一言を呟いた。

 

 

ウインドラ「!?」

 

 

ミシガン「独立?」

 

 

コーネリアス「教会も同意見です。

 バルツィエ達はマテオから独立しようとしているのでしょう。」

 

 

アローネ「もし本当に独立であるのならば早めに手を打たなければなりません。

 でないと大勢の人が犠牲になります。」

 

 

カオス「アローネ………独立って何?」

 

 

 一部の者達は独立が何を意味するのか理解しているようだがカオス達バルツィエとの歴史が浅い者達はその言葉の意味を理解できないでいた。

 

 

アローネ「…私もコーネリアスから先日説明いただいたばかりでして………。

 ………独立というのは「マテオから離れるってことだよ。」」

 

 

 アローネを遮りレイディーがそういった。

 

 

カオス「マテオから離れる?」

 

 

レイディー「あぁ、

 バルツィエ達はマテオから身を引くってことだ。

 地位や家何もかも捨ててレサリナスから引き上げんのさ。」

 

 

カオス「え!?

 それって「どういうこと!?フェデール達が逃げるってこと!?」」

 

 

 バルツィエが引き上げると聞いてバルツィエであるフェデールがいなくなってしまってはミストの住人達の仇を取れないとミシガンが身を乗り出してくる。

 

 

レイディー「落ち着けよ。

 独立ってのはそういうことじゃねぇよ。」

 

 

アローネ「そうですミシガン。

 これは由々しき事態なのです。

 もしバルツィエが本当に独立するのであればバルツィエはこれから恐ろしい計画を企てているはずです。」

 

 

ミシガン「だから独立って何なの!?

 フェデール達はどうするつもりなの!?」

 

 

アローネ「………フェデール達………バルツィエはこれから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マテオとダレイオス両国を相手に戦争をけしかけて来ます。

 独立とはつまりマテオ、ダレイオスとは別の()()()()()として組織を立ち上げるのです。

 

 

 ………独立が実行されたらマテオでミストのように焼き払われる街が数多く出てくるでしょう………。」



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バルツィエの独立とは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ミストみたいな事件がまた他にも起こるっていうの………?」

 

 

タレス「そんなことをする意味があるんですか?

 マテオ………レサリナスだけでも結構な守りなのにそれを捨てるなんてことが………。

 それだけじゃなくダレイオスという大国を敵に回しているというのにマテオの人達まで敵にするような………。」

 

 

 アローネ達が言う独立はカオス達からすればそれだけ聞いてもバルツィエがそれを実行するだけのメリットがあるとは思えなかった。マテオを独立するということは大国である利を捨てるということになる。そうなればそこらにいる盗賊と変わらないただの暴力集団に成り果てるのではないかと。

 

 

レイディー「元々マテオはクリスタル女王………マテオ王家が立ち上げた国だ。

 それを百年前のアレックス大公とクリスタル女王の婚姻によってバルツィエに乗っ取られる形になった。

 バルツィエはマテオで力のある奴等を傘下に集めてはいたが中にはバルツィエに反抗する奴等もいた。

 そりゃ始めはバルツィエもそいつらと同じで王族ではなかったからな。

 バルツィエをよく思わない貴族連中はかなり数が多い。

 そいつらのせいでバルツィエは今まで色んな作戦にケチをつけられてきた。

 逐一反対されてたら中々バルツィエも動き辛かったろうぜ。

 

 

 独立ってのはそういう足を引っ張ってくる連中とオサラバ出来るってことだ。

 本当だったらアタシ達がダレイオスに最初に亡命してくる前の城前広場での騒動が起きてなければバルツィエは軍を率いてダレイオスを占領しに来てたはずなんだ。

 それをしなかった………出来なかったのはそうした反抗貴族達がバルツィエの作戦に異議を唱えていたからだ。」

 

 

アローネ「それが独立を決行することで指揮系統が一つになります。

 バルツィエが独立でどの程度の騎士団を引き抜くかは分かっておりませんがバルツィエに付き従う者はかなりいることでしょう。」

 

 

コーネリアス「国というしがらみがあったからこそバルツィエは百年も前に世に広まるヴェノムへ早い段階で対処が済んでいたのにダレイオスに攻め込めずにいたのです。

 バルツィエがレサリナスを離れるとなればバルツィエは各方面へ総攻撃をしかけて制圧していくでしょう。

 そうなればもう残ったレサリナスの貴族の方々では止められようがありません。」

 

 

 

 

 

 

カオス「…想像していたよりも結構まずい事態に直面してるってことだね………。

 あいつらの性格で何でちょっかい程度の襲撃しかしてこないんだろうと思ってたらそんな状態だったなんて………。」

 

 

 国と一言で言ってもそこに住む人々が皆同じ考えではないことはカオスも分かっていた。カオスの中ではマテオの組分けとしてはウインドラ達ダリントン隊とバーナン隊が民衆の支持を受けてバルツィエ達国を取り仕切る一団に立ち向かう構図があったがまだその中にもバルツィエに反抗する者達がいたのだ。その者達の働きのおかげでこれまでマテオとダレイオスが本格的に戦争に突入することは防がれていた。

 

 

 

 

 

 

 それが今バルツィエはマテオから離反し別の組織を立ち上げマテオすら相手取ろうとしている。常識で物を考えれば国に敵うはずがないのだがバルツィエは一人一人が一騎当千と格付けされる一族だ。六年前にはバルツィエだけでタレスの村を襲い制圧したこともあってバルツィエだけでもダレイオスと渡り合えると称される程の力がある。独立するのならその両方を相手に出来る自身があるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「なんじゃややこしいことになっておるのぅ。

 

 

 ………して、その独立とかなんとかをバルツィエが()()()()()()()()()()()()()のが今の儂等の戦法として最善じゃと思うんじゃがどうじゃ?」

 

 

 独立についての説明を終えた途端オーレッドがそんなことを言い出した。

 

 

カオス「!?」

 

 

ウインドラ「おい!

 事は急を要する事態なんだぞ!

 バルツィエが独立するのを待ってたらマテオの多くの街が襲われてしまうんだ!

 独立する可能性があるなら直ぐにでもマテオに向かってバルツィエを叩くべきだ!」

 

 

ミシガン「あいつら皆何するか分からないんだよ!?

 独立するのなんか待ってたらマテオの皆殺されちゃう!」

 

 

オーレッド「………はて?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それの何が問題があるんじゃ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことは問題にはならないといったふうにオーレッドはそう聞き返してきた。

 

 

ウインドラ「何……?」

 

 

オーレッド「確かに儂等ダレイオスの者達はソナタダリントン隊とか言うたかの?

 そのダリントン隊と協力関係にある。

 言わばダリントン隊はダレイオスの一部に与したわけじゃ。

 それなら身内として数えられるのはダリントン隊と他亡命者及びカーラーン教会の者達だけじゃ。

 それ以外に関しては特別同盟も結んでおらん………端的に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()じゃ。

 それなら敵が敵同士で争っているのを儂等はここで決着がつくまで待っておればいい。

 残った疲弊した方と戦えば儂等は戦で払う犠牲が少なくて済む。」

 

 

ウインドラ「オーレッド殿………、

 本気でそんなことを言ってるのか………?

 もしそうなら「ウインドラ殿。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファルバン「すまないが余はオーレッドの意見に賛成だ。

 戦というのは勝つためにするものだ。

 ソナタ等がダレイオスにいる以上はマテオのことは気にすべきではない。

 

 

 全てを救う道など理想でしかないのだ。

 マテオの民のことは考えるな。」



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マテオの国民達の安否

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーレッドが言ったマテオの民衆達を見捨てるという意見にファルバンが同意した。

 

 

ファルバン「我等ダレイオスは遊びでバルツィエと戦うのではない。

 生き残るためにバルツィエと戦うのだ。

 そんな生き残りをかけた戦いで自陣の兵士達ならともかくマテオの民まで気を配る余裕は無い。

 バルツィエが独立をするのであるならそれを待ちバルツィエがマテオの民等と争い消耗したところを狙うのが戦略として正しいだろう。」

 

 

オーレッド「ほれ。

 儂以外にもこう申す者がおるじゃろ。

 非情だとは思われるじゃろうがそれが戦というものじゃ。

 攻め時を見計らうのも軍師としての役目じゃぞ。」

 

 

 ファルバンが同意したことでオーレッドも自分が正しいことを主張してくる。これにはウインドラも異議を唱えようとするが………、

 

 

ウインドラ「マテオの民は「漁夫の利を取ろうってか。そいつは名案だな。」」

 

 

オリヘルガ「俺達の宿敵バルツィエは油断ならねぇ連中だ。

 俺達もシュメルツェンじゃラーゲッツ一人に大分殺られた。

 敵の戦略を削れるんなら開戦を敷くのは時期を見合わせた方がいいな。」

 

 

クララ「戦えない人々を囮にするようで心苦しいですがバルツィエと戦う前に彼等がどの様な力を使ってくるか知っておくべきでしょうね。

 バルツィエがマテオの民衆にどの様に攻撃を仕掛けるのか………。

 乗法を収集して作戦を改めるのも必要なことです。」

 

 

ミネルバ「私等ミーアもそう思うよ。

 マテオに乗り込むとしても敵さんの力が見れる機会があるなら見とくにこしたことはないね。

 その独立ってのをバルツィエがしてから船を出せば安全にマテオまで渡りきれると思うよ。」

 

 

ナトル「私も同族から死者を出さずに済むのならその方法に従います。

 戦死者は多くならないのが一番です。」

 

 

 次々とオーレッドに賛同する声が上がる。民間の出であるカオス達は反論したかったが国には国の戦略の立て方がある。それを強引にねじ曲げるのは子供の我が儘でしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・ミシガン・ウインドラ「「「「………」」」」

 

 

レイディー「まぁそう言われちゃアタシ等に言えることは何もないよなぁ………。

 わざわざ敵国の国民のために危険を侵してまで無茶してくれなんてことはアタシ等の口からはな。」

 

 

 カオス達が反論できずにバルツィエの独立を待ちマテオとバルツィエが戦い出してからそこへ参戦するという流れに話がまとまりかける。

 

 

 

 しかしその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「小生の意見としては今直ぐにでもマテオに向かうのが得策だと思われますが。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達の陰鬱な空気を察してかコーネリアスが即行動を起こすべきだとファルバン達に向かって言う。

 

 

オーレッド「んん?

 何でそう思うのじゃ?」

 

 

ファルバン「コーネリアス殿、

 情報には感謝するが我等はなるべくなら危険な橋を渡りたくはない。

 バルツィエが独立するのであれば好機は独立後のマテオでの紛争が発生した後に乗り込むのが良案だと我々は意見が一致しているのだ。

 それを何故独立前に乗り込む必要があるのだろうか?」

 

 

コーネリアス「皆様はどうも悠長に構えすぎてる伏がありますね。

 小生はバルツィエが()()()()()()()()()()()段階だと申しました。

 それなら今彼等はその準備に勤しんでいるところ………。

 海上の警備は手薄になっているとは思われませんか?」

 

 

ファルバン・ミネルバ・オーレッド・ナトル・クララ・オリヘルガ「「「「「「!」」」」」」

 

 

コーネリアス「独立の準備に専念しているのであれば今なら用意に海を越えてマテオの地に踏みいることが可能でしょう。

 隙を突くのであれば相手の体勢が整った独立後ではなく体勢が整う独立前の今しか他に好機は無いと思うのですが………、

 ………ダレイオスの皆様はバルツィエが迎撃の準備が整うまでお待ちになるのが最善だとそう仰るのですか?」

 

 

ファルバン「………一理あるな………。

 確かにバルツィエが独立を果たしてしまえば最早奇襲を仕掛けるどころではないな。

 敵は万全の状態で我等ダレイオスを迎え撃ってくるだろう。」

 

 

オーレッド「じゃがオールディバイトはまだ兵士全てに回せるほどの量は生産出来ておらんぞ?

 それはどうするんじゃ?」

 

 

コーネリアス「全兵士に持たせる必要はありませんよ。

 あれが必要になるのはバルツィエを相手にした時だけです。

 バルツィエは多く見積もっても五十名程度。

 五十個ほどあれば十分です。

 傘下の騎士程度であれば此方の兵士でも対等以上に戦えると思います。

 なので実力の高い兵士だけがオールディバイトを所持していれば良いのですよ。」

 

 

ファルバン「なるほど………。」

 

 

コーネリアス「それに此方にはヴェノムの主達を倒してきたカオス様とそのカオス様に打ち勝ったウルゴスの民アローネ様がおられるのです。

 万が一にも我々の勝ちは揺るぎありません。

 今日明日にでもマテオへと向かう船の準備をされた方が賢明かと。」

 

 

ミネルバ「………そっ、そうだよね………?

 よく考えてみればこっちってバルツィエなんか目じゃないくらい強い味方がついてんだもんね?」

 

 

シーグス「案外そんなに武装しなくてもバルツィエ達に勝てるんじゃないか?

 なんならカオス達だけでどうにかなりそうな気がすんだけど………。」

 

 

クララ「これほど心強い方々がダレイオス側にいるのです。

 負ける理由がありません。」

 

 

オリヘルガ「あるとしたら弱くて数だけ多い連中が捕まりでもしない限りは大丈夫だろ。

 足引っ張んなよフリンク。」

 

 

ナトル「そうならないように注意はさせます。

 もしフリンクが捕まりでもすればその時は見捨ててもらっても構いません。」

 

 

 

 

 

 

 コーネリアスが少し話をしただけで族長達の考えが変わる。どうにかバルツィエが独立をする前にマテオへと乗り込めそうだ。

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…コーネリアス殿、

 恩に着る。

 これでマテオの民衆が犠牲にならずに済む。

 独立前にバルツィエを倒せればそれで…。」

 

 

 

コーネリアス「礼には及びませんよ。

 小生は()()()に従ったまでです。」

 

 

カオス「カタスさんの………?」

 

 

コーネリアス「えぇ、

 我が主は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう()()()()()とのことで早い内にバルツィエにはこの世界からご退場いただかないとならなくなってしまったので………。」



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バルツィエが独立する前に

トリアナス砦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「マテオへの出陣は一週間後となりました。

 一週間後…………私達はミネルバ達ミーア族の船でマテオへ向かいます。」

 

 

 カオス達が休む部屋までやってきたアローネがカオス達にこれからの計画の段取りを話す。

 

 

 

 

 

 

 一週間後、その日長き停戦が終わり遂にマテオとダレイオスが激突する。

 

 

カオス「始まるんだね………戦争が………。」

 

 

ウインドラ「今度の戦争の敵はバルツィエのみだ。

 奴等が独立を果たすか果たさないかはさておきマテオの住民はなるべく被害を出さぬよう心掛けないとな。」

 

 

タレス「これでやっとバルツィエとの決着がつくんですね………。

 そう思うとバルツィエが倒された後の世界はどうなってしまうのでしょうか………。」

 

 

カーヤ「?

 バルツィエがいなくなるなら戦いが無くなるんじゃないの?」

 

 

ミシガン「そうだよ。

 皆戦う相手がいなくなるんだからそれで平和に「なるとは限らねぇな。」」

 

 

 

 

 

 

レイディー「お前らもダレイオスを回って見てきただろ?

 ダレイオスの連中はあくまでも()()()()を結んでるんだ。

 同盟ってのは一時的な共闘関係に過ぎねぇ。

 巨大な力を持つバルツィエが倒されることで今度はダレイオスの奴等が互いに覇権をかけて争いあう可能性があることはアインルドの巫女って女が話してたろ。

 これで全て万事解決ってことにはならねぇよ。」

 

 

ウインドラ「…確かにここでの様子を見てると表面上は協力はしあってはいるが六の部族達は決して仲がいいわけではないな。

 挑発したり見下したりといつ殴り合いが起こってもおかしくないような様子だった。

 戦後もクララ殿が言っていたようにそれぞれの部族が軍事力を高めることに勤しむことになるだろう。

 それが戦争規模にまで発展しないことを祈るばかりだが………。」

 

 

 人という種族は一人では生きられないとはよく使われる言葉だ。だが人が集まれば気が高まり強くなったと錯覚してしまうと自分達とは違う集まりを敵視するようになる。

 

 

 

 

 

 

アローネ「そのような争いは私が大王になったからには全て食い止めてみせます。

 私だけじゃなくカーラーン教会の皆と協力して次の戦争は絶対に回避するよう指示しますので御安心を。」

 

 

カオス「アローネ………。」

 

 

 カタスティアによって地位を得たアローネは強気にそう宣言した。

 

 

ウインドラ「………アローネがそう言うならそういった争いは防げるかもな。」

 

 

ミシガン「大会では皆アローネさんの力を見ていたもんね。

 アローネさんに逆らってまで戦争しようっていう馬鹿な人なんてダレイオスにはいないでしょ。」

 

 

タレス「もしそんな人達がいてもアローネさんやカオスさんを前にすれば何も出来なくなりますよ。」

 

 

レイディー「戦後はお前等が抑止力になるのかよ。

 そうなったら大変だぜ?

 自分の時間なんて作れやしなくなるぞ。」

 

 

アローネ「大丈夫ですよ。

 争いを止めるだけならそこまで時間はかかりませんでしょうし。」

 

 

カオス「………そうだね。

 ぼ………俺もアローネと一緒に争いが起きそうになった駆け付けて止めるよ。

 アローネはウルゴスの人達も見付けてあげなきゃいけないんだし戦争が終わってそんなことが起こりそうなら俺が………俺一人ででも皆を止めて見せる。」

 

 

ウインドラ「………そうか、

 カオスがいるなら安心だな。

 アローネも動いてくれるというのであれば俺の方でも現場に居合わせたら仲裁ぐらいにはなるはずだ。

 バルツィエを倒したらそういった問題の発生も警戒しておかないとな。」

 

 

レイディー「バルツィエを倒したらねぇ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今よりかは息苦しい世の中に変わってなけりゃいいがな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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王都レサリナス ブラム邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーマス「………ブラム氏、

 本気でござるか?」

 

 

ブラム「このようなことを冗談で言いません。

 バルツィエはもうレサリナスを放棄しこれまで懸念してきた独立をなさろうとしています。

 そうなった時にバルツィエが狙うのはこのレサリナスです。

 臣民様方が多く四方を壁に囲まれたこのレサリナスでは襲撃にあってしまえば逃げ出すのも困難です。

 ………ですのでトーマス様、

 貴方に一つお願いがあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はこれから各所に潜伏している者達を呼びつけて軍を組織したいと思っています。

 貴方のお力で私の収集に応じてもらえそうな方を片っ端から呼び掛けてはいただけませんか?

 

 

 

 

 

 

 …今こそバルツィエを討つべきときなのです。

 これまではバルツィエの出方を伺っておりましたがそれももう私の部下達の死で無意味だということを実感しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はこれより打倒バルツィエを目指して行動を開始します。

 座して待っている期間は終わるのです。

 私達の手でクリスタル女王を救いだしマテオの国を我々の手に取り戻すのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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王都レサリナス バルツィエ邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「フェデール。」

 

 

フェデール「!

 ………アレックスか。

 どうしたの?」

 

 

アレックス「計画の方はどうだ?

 いつ事に及ぶつもりだ?」

 

 

フェデール「粗方運び出す物資は運び出したし後は君と女王陛下とアンシェル姫がここを出さえすればいつでも始められそうだな。」

 

 

アレックス「………いよいよ実行に移すのだな。

 最後まで独立に反対していたお前がとうとう腹を決めたのだ。

 

 

 何かあったのではないか?」

 

 

フェデール「………出来ることならカオスが俺達の味方になってほしかったんだけどね。

 ………もしかしたら()()()が動いてる可能性があるんだ。

 あいつが俺達の邪魔をしたせいでカオスが此方側につくことは無くなった。

 それなら早急に俺達もダレイオス征服に向けて腰を上げなくちゃならない。」

 

 

アレックス「………」

 

 

フェデール「………もうどうにもならないさ。

 もうやるしかないんだ。

 俺達バルツィエが生き残るにはこうするしかないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()

 その日にアレックス達を回収しに来るからそこでマテオ、ダレイオス両国に一斉に宣戦布告をしよう。

 ……今度こそこの世界を一つにするために………」



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それぞれの動き

トリアナス砦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「マテオへの出陣は一週間後となりました。

 一週間後…………私達はミネルバ達ミーア族の船でマテオへ向かいます。」

 

 

 カオス達が休む部屋までやってきたアローネがカオス達にこれからの計画の段取りを話す。

 

 

 

 

 

 

 一週間後、その日長き停戦が終わり遂にマテオとダレイオスが激突する。

 

 

カオス「始まるんだね………戦争が………。」

 

 

ウインドラ「今度の戦争の敵はバルツィエのみだ。

 奴等が独立を果たすか果たさないかはさておきマテオの住民はなるべく被害を出さぬよう心掛けないとな。」

 

 

タレス「これでやっとバルツィエとの決着がつくんですね………。

 そう思うとバルツィエが倒された後の世界はどうなってしまうのでしょうか………。」

 

 

カーヤ「?

 バルツィエがいなくなるなら戦いが無くなるんじゃないの?」

 

 

ミシガン「そうだよ。

 皆戦う相手がいなくなるんだからそれで平和に「なるとは限らねぇな。」」

 

 

 

 

 

 

レイディー「お前らもダレイオスを回って見てきただろ?

 ダレイオスの連中はあくまでも()()()()を結んでるんだ。

 同盟ってのは一時的な共闘関係に過ぎねぇ。

 巨大な力を持つバルツィエが倒されることで今度はダレイオスの奴等が互いに覇権をかけて争いあう可能性があることはアインルドの巫女って女が話してたろ。

 これで全て万事解決ってことにはならねぇよ。」

 

 

ウインドラ「…確かにここでの様子を見てると表面上は協力はしあってはいるが六の部族達は決して仲がいいわけではないな。

 挑発したり見下したりといつ殴り合いが起こってもおかしくないような様子だった。

 戦後もクララ殿が言っていたようにそれぞれの部族が軍事力を高めることに勤しむことになるだろう。

 それが戦争規模にまで発展しないことを祈るばかりだが………。」

 

 

 人という種族は一人では生きられないとはよく使われる言葉だ。だが人が集まれば気が高まり強くなったと錯覚してしまうと自分達とは違う集まりを敵視するようになる。

 

 

 

 

 

 

アローネ「そのような争いは私が大王になったからには全て食い止めてみせます。

 私だけじゃなくカーラーン教会の皆と協力して次の戦争は絶対に回避するよう指示しますので御安心を。」

 

 

カオス「アローネ………。」

 

 

 カタスティアによって地位を得たアローネは強気にそう宣言した。

 

 

ウインドラ「………アローネがそう言うならそういった争いは防げるかもな。」

 

 

ミシガン「大会では皆アローネさんの力を見ていたもんね。

 アローネさんに逆らってまで戦争しようっていう馬鹿な人なんてダレイオスにはいないでしょ。」

 

 

タレス「もしそんな人達がいてもアローネさんやカオスさんを前にすれば何も出来なくなりますよ。」

 

 

レイディー「戦後はお前等が抑止力になるのかよ。

 そうなったら大変だぜ?

 自分の時間なんて作れやしなくなるぞ。」

 

 

アローネ「大丈夫ですよ。

 争いを止めるだけならそこまで時間はかかりませんでしょうし。」

 

 

カオス「………そうだね。

 ぼ………俺もアローネと一緒に争いが起きそうになった駆け付けて止めるよ。

 アローネはウルゴスの人達も見付けてあげなきゃいけないんだし戦争が終わってそんなことが起こりそうなら俺が………俺一人ででも皆を止めて見せる。」

 

 

ウインドラ「………そうか、

 カオスがいるなら安心だな。

 アローネも動いてくれるというのであれば俺の方でも現場に居合わせたら仲裁ぐらいにはなるはずだ。

 バルツィエを倒したらそういった問題の発生も警戒しておかないとな。」

 

 

レイディー「バルツィエを倒したらねぇ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今よりかは息苦しい世の中に変わってなけりゃいいがな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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王都レサリナス ブラム邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーマス「………ブラム氏、

 本気でござるか?」

 

 

ブラム「このようなことを冗談で言いません。

 バルツィエはもうレサリナスを放棄しこれまで懸念してきた独立をなさろうとしています。

 そうなった時にバルツィエが狙うのはこのレサリナスです。

 臣民様方が多く四方を壁に囲まれたこのレサリナスでは襲撃にあってしまえば逃げ出すのも困難です。

 ………ですのでトーマス様、

 貴方に一つお願いがあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はこれから各所に潜伏している者達を呼びつけて軍を組織したいと思っています。

 貴方のお力で私の収集に応じてもらえそうな方を片っ端から呼び掛けてはいただけませんか?

 

 

 

 

 

 

 …今こそバルツィエを討つべきときなのです。

 これまではバルツィエの出方を伺っておりましたがそれももう私の部下達の死で無意味だということを実感しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はこれより打倒バルツィエを目指して行動を開始します。

 座して待っている期間は終わるのです。

 私達の手でクリスタル女王を救いだしマテオの国を我々の手に取り戻すのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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王都レサリナス バルツィエ邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「フェデール。」

 

 

フェデール「!

 ………アレックスか。

 どうしたの?」

 

 

アレックス「計画の方はどうだ?

 いつ事に及ぶつもりだ?」

 

 

フェデール「粗方運び出す物資は運び出したし後は君と女王陛下とアンシェル姫がここを出さえすればいつでも始められそうだな。」

 

 

アレックス「………いよいよ実行に移すのだな。

 最後まで独立に反対していたお前がとうとう腹を決めたのだ。

 

 

 何かあったのではないか?」

 

 

フェデール「………出来ることならカオスが俺達の味方になってほしかったんだけどね。

 ………もしかしたら()()()が動いてる可能性があるんだ。

 あいつが俺達の邪魔をしたせいでカオスが此方側につくことは無くなった。

 それなら早急に俺達もダレイオス征服に向けて腰を上げなくちゃならない。」

 

 

アレックス「………」

 

 

フェデール「………もうどうにもならないさ。

 もうやるしかないんだ。

 俺達バルツィエが生き残るにはこうするしかないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()

 その日にアレックス達を回収しに来るからそこでマテオ、ダレイオス両国に一斉に宣戦布告をしよう。

 ……今度こそこの世界を一つにするために………」



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開戦前夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――一週間後――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………それではこれより我等ダレイオスはマテオへと進軍を開始します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 アローネの号令で集まったダレイオスの兵士達が猛りの声を上げる。

 

 

オリヘルガ「ヘッ!

 いよいよ決戦だな!

 この時を待ってたぜ!」

 

 

クララ「三百年に及ぶマテオとの戦いがこの進攻作戦で終結するのですね………。」

 

 

ミネルバ「私が生きている間にこんな大きな戦に立ち会えるなんてね。

 全くついてるんだかついてないんだか………。」

 

 

シーグス「ミッ、ミネルバ!

 俺から離れるなよ!?

 お前は俺が絶対に守ってやるからな!

 何があってもお前だけは俺が………!」

 

 

ミネルバ「はいはい、

 アンタも私から目をそらすんじゃないよ。」

 

 

ナトル「出来ることなら被害が甚大になる前にバルツィエを討てればよいのですが………。」

 

 

ファルバン「なに案ずるな、

 此方側にはカオス殿とアローネ女王がついておられるのだ。

 我等ダレイオスの勝利は約束されておる。」

 

 

ハーベン「私も微力ではありますが女王のために剣を奮います。

 ダレイオスの力をバルツィエに見せてやりましょう。」

 

 

オーレッド「ソナタ等の力なぞ当てになるか。

 儂等クリティアが開発したオールディバイトさえあればバルツィエなぞ一捻りじゃ。」

 

 

 まだ戦いは始まってはいないというのに闘志をたぎらせる面々。ダレイオスに来た当初では考えられない気の高ぶりが彼等から溢れ出ている。

 

 

アローネ「先に申し上げておきますが我等の敵はバルツィエとそれに与する者達だけです!

 戦闘の意思の無い市民を攻撃することはこの私が許しません!

 見付け次第私がその者とその部族一同には直々に制裁を加えますので覚悟しておくように!」

 

 

 ここに集まっている者の全てはバルツィエに対して強い敵愾心を抱いている。その中にはバルツィエだけでなくマテオの民に対しても敵意を向けている者達がいる。そんな者達からマテオの罪無き民を守るためアローネは牽制として民を攻撃した者だけでなく団体責任を取らせると宣告した。意外なことにこの宣言には誰からも不満の声は上がらなかった。

 

 

 

 

 

 

カオス「…マテオの人達が攻撃される心配はなさそうだね。」

 

 

ウインドラ「実際バルツィエが独立をしたとしてマテオの民を攻撃する意味は無いからな。

 ダレイオス側としては厄介なのはバルツィエだけなんだ。

 そのバルツィエが孤立すれば民達を攻撃してもバルツィエは痛くも痒くもない。

 バルツィエとの戦いに集中すべき時に余計に敵を増やしたりするような愚か者はダレイオスにはいないだろう。」

 

 

レイディー「皮肉なことにマテオはバルツィエが支配していたことによって封魔石が置かれてでヴェノムによる人口減数の影響は殆ど無いがダレイオスはヴェノムの主出現でフリンク以外の部族はどこも人数が激減しているって話だ。

 戦う力が無いとはいっても大数が集まりゃどれだけの力になるかこいつらも理解してんのさ。

 わざわざ自分から敵を作りにいくのはよっぽどの阿呆だろ。」

 

 

タレス「ではダレイオスはバルツィエだけに目を向けていればいいんですね。

 ボク達はまっすぐバルツィエに向かっていけばマテオ側からは横槍は入らずバルツィエとの決着だけに集中できる………。」

 

 

ミシガン「これだけの人数がいるんだもん。

 ………絶対に勝てるよね………?

 カオスやアローネさんだっているんだしバルツィエなんかに私達が負けるわけが………。」

 

 

コーネリアス「戦う前から勝利を確信してはなりません。

 戦いには必ず不足の事態がつきものです。

 とある国の言葉ですが“背水の陣”というものがありまして追い詰められた相手というのは時に戦況を巻き返すほどの大きな力を発揮することがあります。

 一手一手着実に打たねば戦場では何が起こるか………。」

 

 

オサムロウ「そうだな。

 カオスとアローネが此方にいるとはいえバルツィエは我々が知らぬ力がある。

 

 

 ローダーン火山ではラーゲッツがヴェノムの力を取り込んで主と一体化したらしいな。

 バルツィエがもしその力を自軍の全員に使ったとしたら敵はヴェノムの力を持った軍勢が出来上がる。

 そうなったらどれほどのものになるかは想像すらできんな………。」

 

 

カオス「!

 ………ヴェノムの力か………。」

 

 

 カオスがローダーン火山でラーゲッツを倒した際ラーゲッツは殺魔の力までも操っていた。カオスとアローネが直接戦うのならその様な力を持っていたとしても敗れることはないだろうが敵は一人ではない。カオスとアローネ二人が戦っている隙に他を攻撃されれば軍勢は簡単に崩壊するだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「出航を開始してください!

 いざマテオに向けて出陣します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………大丈夫………だよな………。

 俺とアローネがいるんだしこれだけの人数がいれば何か起こっても俺とアローネで………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエが持つ力に不安を感じてはいたがとりあえず軍は出航を開始した。これよりマテオとダレイオスの歴史上最大の決戦が始まる。生き残る国は果たして………。



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マテオ上陸

――ダレイオス軍進軍開始十時間後――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マテオ西海岸 海上 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダレイオスを出発してからダレイオスの艦隊はマテオの沖まで接近していた。

 

 

アローネ「フリンク部隊、

 陸地にマテオの警備はどのようなご様子ですか?」

 

 

ナトル「灯台が点灯しているようですが見張りの数はそこまで多くはありません。

 今なら押しきって上陸できるでしょう。」

 

 

アローネ「そこまで手薄なのですか………?」

 

 

コーネリアス「マテオ側も百年間一度もダレイオスに進攻された経験が無いために今日此方が攻めいって来るとは思ってもいないのでしょう。

 警備が年々緩くなるのも当然のことです。」

 

 

オーレッド「ハッ!

 舐められたもんじゃのぅ。

 ()()()()が儂等の力を甘く見ておるわい。」

 

 

ファルバン「オーレッド。

 そのような物言いは止めよ。

 その雑種風情にこれまでしてやられてきたのは我等ダレイオスだ。

 凝り固まった価値観で挑むようなら過去から前には進めぬぞ。」

 

 

オーレッド「黙っておれファルバン。

 誰が貴様のような愚王の指図なぞ受けるか。

 おどれのやり方が不出来故にこれまではマテオの好きにされてきたのじゃ。

 もう貴様に儂に意見される謂れは無いわい。」

 

 

 マテオに上陸前だというのに船上で言い争いを始めるファルバンとオーレッド。見かねたアローネが二人を諫める。

 

 

アローネ「御二人共そのような論争は上陸してからにしてください。

 まだ私達は上陸する済んでいないのにここでその様に騒がれては警備の者に気付かれて「!見張り達に動きがあるようです。」…!」

 

 

 アローネがファルバンとオーレッドに忠告しているとナトルが陸地の警備達の動きに変化を感じとる。

 

 

ウインドラ「まさか気付かれたのか………?

 灯台の光もまだこの船の場所にまでは到達していないが………。」

 

 

レイディー「小娘、

 お前の共鳴で警備の連中がどんな様子か探れるか?」

 

 

カーヤ「えっとね………、

 ………あそこにいる人達とは別にもっと奥の方から人が大勢向かってきてる………。」

 

 

タレス「増援ですか?」

 

 

ナトル「………いえ、

 どうやら違うみたいです。

 何故かは分かりませんが岸にいる者達が駆けつけてきた者達と共にどこかへ去っていくようです。」

 

 

ミネルバ「何だって?

 見張りがいなくなるって言うのかい?」

 

 

シーグス「おいおい、

 何のために人を置いてたんだよ。

 俺達のこと本当に気付いてなかったのか?」

 

 

 原因は分からないが海上を警備していた者達が引き上げていっているようだ。それに伴い灯台の灯りも消灯する。

 

 

カオス「………今なら一気にマテオに乗り込めるんじゃない?

 上陸するなら今しかないよ。」

 

 

アローネ「…何があったのでしょうか………?

 いくらなんでも突然こうも私達に都合よく警備がいなくなるなんて………。

 ………何か罠でも仕掛けているのでは………。」

 

 

クララ「それなら迂闊に敵陣に飛び込むわけにはいきませんね。

 上陸した途端襲撃を受ければ船が沈められ私達の退路が無くなる事態も考えられますし………。」

 

 

レイディー「そんなこと言ったってここまで来て引き返すわけにもいかねぇだろ。

 もしここで引き返して実はアタシ等が来ていたことに気が付かれてたら次はこの大船団に合わせた大掛かりな仕掛けを施すだろうよ。

 戦ってのは一発勝負なんだ。

 時には引くのも手だと思うがここは攻めるところだぜ。」

 

 

 見張りが姿を眩ましたのもあって罠を覚悟で進むか今は様子を伺うかで二つの意見に別れる。

 

 

 

 

 

 

 しかし直ぐにカオス達はこのまま進攻することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアア!!!

 

 

 アローネ達が上陸すべきかどうか決めあぐねていると陸地の方で謎の光が灯る。

 

 

アローネ「………?

 何でしょう………あの光は………。」

 

 

カオス「誰か……人がいるのは分かるけど………。」

 

 

ウインドラ「あの光………、

 確実に俺達の方に向けられているな。

 俺達がここまで来ていることが騎士団に知られてしまったのか?」

 

 

レイディー「それだったらあんなことせずにアタシ等を誘い込んでから不意討ちかます方が手っ取り早いだろ。

 あそこにいる奴は多分だがアタシ等にコンタクトを取りたいんだろ。

 ………が馬鹿正直にあそこに行くのもな………。」

 

 

ミシガン「だったら誰かが様子を見に行くのがいいんじゃない?

 船で行くんじゃなくてレアバードで空から様子を探るとか。」

 

 

アローネ「…それがいいでしょうね………。

 ですが念のために………、

 

 

 ………カーヤ、

 今あの場にはどのくらい人の気配を感じますか?」

 

 

 謎の光を発する者が何者かは分からぬがいつまでも戦場では待機しているわけにもいかずミシガンの提案通りにレアバードで偵察に行くことにする。その前にカーヤに敵の人数を探らせるのも忘れない。

 

 

カーヤ「………今は一人だけ………。」

 

 

カオス「一人………?」

 

 

ウインドラ「たった一人しかいないのか?」

 

 

レイディー「もしかすっとあそこにいるのは騎士団じゃねぇかもな。

 だがそれだと民間の奴ってことになるがこんな時間に一人であんなところに何しに来てんだ?」

 

 

アローネ「とにかく先ずはどなたが何の目的であの場に居合わせているのかを確かめましょう。

 

 

 

 

 

 

 私が様子を見てきます。

 皆はここてお待ちを。」

 

 

 アローネがレアバードを展開し浮上しようとする。すると………、

 

 

ハーベン「!?

 お待ちくださいアローネ様!

 御一人では危険です!

 と言うか何故そのようなことをアローネ様がなさる必要があるのですか!?

 貴女様はこのダレイオスの大王、則ち総大将であらせられるのですよ!?

 その様な雑務をアローネ様がなさるくらいなら私ハーベンが行ってまいります!

 アローネ様は此方でお待ちしていてください!」

 

 

 飛行しようとした瞬間ハーベンがアローネを呼び止める。

 

 

レイディー「あん?

 こいつ何を言ってんだ?」

 

 

ウインドラ「ハーベン殿、

 貴方はレアバードを操縦できるのか?」

 

 

ハーベン「いえ、

 その様な乗り物はこれまで一切触れたことすら無いので私が動かすことは出来ません!」

 

 

ミシガン「じゃあ何で自分で行くなんて言ったの………。」

 

 

ハーベン「…御言葉ですが皆様は御自身等の立場というものを御理解ください!

 貴殿方は皆我等ダレイオス陣営の重役を担う方々なのですよ?

 そんな方々を罠かもしれぬ場所に差し向けるなど愚行としか言いようがありません!

 貴殿方を危険に晒すくらいなら私か他の者が偵察に向かうべきです!」

 

 

レイディー「おっ、おう………。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「どっ、

 どうされたのですか彼は………?」

 

 

オサムロウ「…ソナタ等のことを話しているうちにな。

 ハーベンの中でソナタ等に対してのイメージが偶像化してしまったようでな。

 面倒くさいとは思うが根は悪いやつではないんだ。」

 

 

アローネ「………ハァ………。」

 

 

 

 

 

 

ファルバン「おいハーベン、

 ならソナタはどうやってあそこに渡るつもりだ?

 近付くにも小型の船なぞないぞ?

 バルツィエのレアバードがあるならそれを使って向かうのが一番安全で確実だと思うが………。」

 

 

ハーベン「船やレアバードなどなくとも魔術で海面を凍らせて陸地に辿り着けばいいんです父上!

 すまないがクリティア族、

 私が偵察として出向くので海面を氷らせるのに協力してほしい。

 行くのは私一人で構わ「その必要はありませんよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアア!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷の術を使えないハーベンがクリティア族に協力を頼もうとした瞬間岸に見えている光と同じ光が船上にも灯る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリアス「御心配なく、

 あの場にいる人物は小生等と同じカーラーン教会の者です。

 彼等は皆小生が持つこの発光体()()()と同じ物を所持していますので。」

 

 

 



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待ちわびた再会

マテオ西海岸 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「無事上陸し終えましたね。」

 

 

ファルバン「ハーベン、

 皆が船から降りたか確認しろ。」

 

 

ハーベン「はい!」

 

 

オーレッド「案外すんなりと上陸できたな。」

 

 

ミネルバ「一時はどうなるかと思ったけど教会の人がこっちにいてくれて助かったね。」

 

 

シーグス「そうだな。

 俺達ダレイオスのエルフはこっちの大陸に渡るのなんて三百年振りだしな。

 マテオの力が強すぎて奴等との戦いは専らダレイオスの方でだったしな。」

 

 

クララ「なんしてもこれで上陸作戦は成功ですね。

 ここからが本当の戦いです。」

 

 

ナトル「とうとうここまで来ましたか………。

 後は無事にバルツィエのところまで辿り着けるですが………。」

 

 

 マテオに足を踏み入れたことでダレイオスの者達の緊張が高まる。マテオという国が建国されてからの三百年間これまでダレイオスの者がマテオに潜入できたことはなかった。歴史を振り返ってもここまでダレイオスの者達がやって来たのは初めてである。

 

 

ハーベン「父上!

 全員の確認を終えました!

 船には誰も残っておりません!」

 

 

ファルバン「よし、

 では女性陛下これからの作戦の指示を。」

 

 

アローネ「はい、

 ですがその前に此方にいた教会の方に話を伺いましょう。

 あの方からバルツィエの動向が聞ける筈です。

 先ずはそれからです。」

 

 

 ダレイオス軍がマテオに無事に上陸出来たのは直前にカーラーン教会の者が海上にいた此方に合図を送ってきたからだ。それまでは騎士団らしき集団がいたのだが突然彼等はこの場を去った。そのことについても教会の者から何か聞けるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアア!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」

 

 

 アローネ達が教会の者を探そうとした時灯台の上の方からまたあの光精石の光がアローネ達を照らしてきた。

 

 

カオス「アローネ、

 またあの光が………。」

 

 

ウインドラ「どうやら先程の者はあそこにいるようだな。」

 

 

レイディー「ありゃ全員であそこに入るのは無理だな。

 数人で上に登るっきゃねぇ。」

 

 

タレス「でも何であんなところに………?」

 

 

ミシガン「どうするの?

 私達はここで待ってた方がいいの?」

 

 

ハーベン「いかがなさいますか女性陛下………。

 バルツィエの罠という可能性も捨てきれません。

 此方にいる教会の者がバルツィエに光精石を奪われてしまったということも考えられます。

 ここは私が一度先に安全を確認してから向かわれるのが宜しいかと。」

 

 

 どういった意図があるのか分からず教会の者らしき人物は今尚灯台の上から此方に光を送り続けている。恐らく彼処に来るように促しているのだろうが誘いに乗るべきかどうか………。

 

 

 

 

 

 

アローネ「…ここは私とカオス達で上の様子を見てきます。

 教会の関係者であるなら私達が向かった方が話は早く済みますしバルツィエであったとしても私達なら彼等に遅れをとることはありません。

 不意を突かれたとしても対処しますので。」

 

 

ハーベン「しかしアローネ様………。

 女王自ら危険に飛び込むようなことは私は………。」

 

 

オサムロウ「ハーベンよ、

 そんなに心配だというのなら我が護衛としてついていくそれでどうだ?」

 

 

ハーベン「師匠………?」

 

 

オサムロウ「我ならカオス達の戦闘は知っている。

 我なら異常があっても対応できる。

 ソナタなら我の腕は知らぬわけではあるまい。」

 

 

ハーベン「………師匠が一緒に向かわれるなら心配はいりませんね。

 …私達はここで待機しております。

 異変があれば魔術で知らせてください。」

 

 

オサムロウ「うむ、

 

 

 そういうわけだ。

 アローネ、カオス、

 我もソナタ等に同行するぞ。

 行って教会の者から情報を聞き出すとしよう。」

 

 

 そう言ってオサムロウがカオス達の元へとやって来る。

 

 

アローネ「分かりました。

 では参りましょう。」

 

 

カオス「オサムロウさんがいてくれるなら安心ですね。」

 

 

ウインドラ「気を許し過ぎるなカオス。

 こいつは一時お前を見捨てようとした奴だぞ。」

 

 

タレス「別にオサムロウさんがついてこなくてもボク達だけで大丈夫ですよ。」

 

 

ミシガン「そんなに大勢で行っても邪魔になるだけだしね。」

 

 

カーヤ「………」

 

 

 オサムロウが同行するということでカオスとアローネはそれを受け入れたが他はオサムロウの同行に難色を示す。

 

 

レイディー「なんだよ、

 いやに嫌われてんな?

 お前こいつらに何かしたのか?」

 

 

オサムロウ「まぁ仕方なかったとはいえカオスを切り捨ててヴェノムの主討伐を優先しようとしたのでな。

 こういう反応が返ってくるのも無理はなかろう。」

 

 

アローネ「別に戦いになるとは限りませんのでそんなに気を張る必要もないと思うのですが………。」

 

 

 ウインドラ達とオサムロウの間に剣呑な空気が流れるがとりあえずアローネ達一行は教会の者と思われる人物がいる灯台の頂上部まで上がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マテオ西海岸 灯台内部 夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カツカツ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「それにしても何故わざわざ灯台の中へと入られたのでしょう?」

 

 

ウインドラ「俺達がこうして少人数でやってくることを見越してのことじゃないか?」

 

 

レイディー「もし上にいる奴が敵だったらアタシ等は敵の思惑通りに向かっていってることになるな。」

 

 

タレス「…武器の用意はしておいた方がいいですね。

 上に到着した途端魔術で吹き飛ばされたりするかもしれませんし。」

 

 

ミシガン「………バルツィエだったら私がやるから。」

 

 

カオス「まだ誰か分からないのにそんなに殺気立てなくても………。」

 

 

 螺旋階段を一段一段上がる度にウインドラ達から発せられる警戒心が増していく。不意を突かれたとしてもこれなら十分に応戦できるだろう。

 

 

オサムロウ「………一体何者なのだろうな。

 騎士団が去るのを予期していたとしか思えん行動だ。

 また戻ってくるやもしれぬのにこのような逃げ場の無い場所まで来て………。」

 

 

アローネ「それなら敵である可能性が高そうですね。

 それも御一人で私達の相手をなさるおつもりで………。」

 

 

 

 

 

 

 

 などと話していると屋上への扉が目の前にまで近付いてきた。アローネ達は一旦立ち止まり扉をゆっくりと少しだけ開けて外の様子を伺う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに警戒しなくても私は何もしないから出てらっしゃい。

 貴女達を待っていたのよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?

 貴女は………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいた人物はカオスが会ったことのある人物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその人物は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でずっとその消息が分からなかった人物でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カタス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「………久し振りねアローネ、それからカオスにタレス。

 ずっと心配してたのよ?

 私の言い付けを破ってバルツィエとやりあったそうね。

 大変だったでしょ。

 

 

 

 

 

 でももう大丈夫よ。

 私が来たからにはバルツィエの好きになんかさせないし貴女達も私が守ってあげるわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灯台の頂上部でカオス達を待っていたのはアローネと同じくウルゴスの時代から眠りにつきこの時代で目覚めたウルゴスの王女にしてカーラーン教会の現教皇カタスティア=クレベル・カタストロフその人だった………。



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長き潜伏の訳

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カタス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タタタッ!!ガバッ!

 

 

 

 

 

 

 カタスティアの姿を確認するとアローネは一目散に彼女の元まで駆け出し彼女を抱き締める。

 

 

アローネ「カタス………!

 ………もう!

 心配したんですよ!?

 今までどこにいたんですか!!」

 

 

カタスティア「御免なさいねアローネ。

 私の方も色々と大変だったのよ。

 巡礼を終えてレサリナスに戻ろうとしてたら船の上で襲われて………。

 ………どうにか海を越えてマテオに戻ることは出来たのだけれど何か良くないことが起こってると思って神父に変装させてレサリナスの中の様子を探らせたら教会がランドールに壊されていて………。

 私も貴女達のことを心配していたわ。

 まさかダレイオスに行ってたなんてね。

 行き違いになってしまってたわ。」

 

 

アローネ「!

 申し訳ありません!

 あの後レサリナスでバルツィエと騒動を起こしてしまって………マテオにいられなくなって急遽皆でダレイオスに亡命することにしたのです………。

 ………言い付けを無視してしまって申し訳ありませんでした………。」

 

 

 改めて思い返すとアローネ達はカタスティアに教会から出ないように忠言されていたにも関わらず街の広場にまで赴きそこで大衆が見守る中バルツィエ剣を交えた。結果ウインドラを助けることには成功したが彼等はそのままレサリナスを飛び出してダレイオスに向かった。アローネ達が騒ぎを起こしたせいでカタスティアと教会にまで被害が及ぶ形となってしまった。

 

 

カタスティア「そんなことはどうでもいいのよ。

 貴女達が無事ならそれで………。

 カオスとそれからウインドラを助けるためだったのでしょ?

 私も貴女達のことを調べて事情は知ってるわ。

 バルツィエの横暴に立ち向かっていったのよね?

 偉いわアローネ。

 よく立ち上がったわ。

 流石ウルゴスの懐刀クラウディアと私も誇りに思うわ。」

 

 

アローネ「ですが私達のせいでカーラーン教会がバルツィエの標的になってしまって………。」

 

 

 宥めようとするカタスティアであったがそれでもアローネは彼女に対して罪悪感が強く震える体で涙を流している。アローネにとってカタスティアはこの世界で唯一見付けたウルゴスの同胞であり大切な友人なのだ。その友人を危険に晒してしまいアローネはひたすら謝罪を繰り返す。

 

 

カタスティア「………バルツィエのことを考えたらいつかはああなっていた筈よ。

 遅かれ早かれバルツィエは教会のことも狙っていたのだから。

 

 

 国民達から多大な信頼が集まる教会はいつバルツィエへの対抗組織が作られるかバルツィエだって予見していたわ。

 実際に私も教会に来た人達に裏でそういう呼び掛けもしていたもの。

 アローネのおかげでそれを本格的に実行に移すことが出来たの。

 貴女達は何も悪くない。

 私がモタモタしている間に先にバルツィエが行動を起こしただけ。

 それだけなのよ。」

 

 

アローネ「カタス………。」

 

 

 

 

 

 

 二人があつい包容をかわす。やはり互いが互いを信頼し心配していたこともあって人目を憚らずアローネは涙しカタスティアがそれを優しくなぐさめる。

 

 

 カオス達は暫く二人が落ち着くのを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「…御無事で何よりですカタスティア教皇。」

 

 

カタスティア「えぇ、

 貴方達には大分心配をかけていたようね。

 でも私はこうして健在だからもう大丈夫よ。」

 

 

ウインドラ「………レサリナスのカーラーン教会の件………ダリントン隊を代表して謝罪させて下さい。

 事の発端は俺達ダリントン隊とバーナン隊がレサリナスで暴走したことが原因でカオス達を巻き込み結果としてカーラーン教会がランドールに攻撃されることになりました。

 …俺達のせいで教会の者達が犠牲に………。」

 

 

カタスティア「アローネにも言ったけどそれは違うわよウインドラ。

 貴方達が私に謝罪する必要なんてないわ。

 貴方達は国民のために立ち上がっただけ。

 誰かがバルツィエに立ち向かわなきゃバルツィエはいつまでも暴走を続けていたでしょう。

 それが貴方達のおかげで七ヶ月前に始まるはずだったマテオとダレイオスの戦争が未遂のまま今日まで保つことが出来たの。

 あの時もしバルツィエがダレイオスに戦争を仕掛けていたら今頃ダレイオスはバルツィエの手に落ちていたと思うわ。」

 

 

アローネ「…確かに私達がダレイオスに亡命した頃はダレイオスはどこの部族もマテオと戦えるような状態じゃありませんでした………。

 最近になって漸くダレイオスはバルツィエとも戦えるほど国力を取り戻してきました。」

 

 

オサムロウ「カタスティア様、

 カオスやアローネ達にはダレイオスの皆が感謝しております。

 彼等がいなければダレイオスはバルツィエによって滅ぼされていました。

 

 

 彼等はダレイオス復活に大きく貢献しました。

 貴女様のお作りになられたカーラーン教会は無駄ではなかったのです。」

 

 

カタスティア「あらオサムロウ。

 久し振りね。

 アローネ達と一緒にいるということは貴方もカオス達と一緒に旅をしていたのかしら?」

 

 

オサムロウ「はい………とは言っても我はヴェノムの主カイメラを討伐する際にカタスティア様からいただいた刀を折ってしまいそこからは彼等とは………。」

 

 

カタスティア「そうよね………、

 刀が無くなったら貴方は本来の力で戦うしかないものね。

 その力はまだダレイオスに皆には秘密にしてるんでしょ?」

 

 

オサムロウ「………はい………。」

 

 

カタスティア「…まぁ私もそろそろ貴方に渡した刀が折れる頃だと思ってちゃんと()()()()()()()()()()()()()()()()

 受け取って。」

 

 

オサムロウ「!?

 これは………。」

 

 

 カタスティアは驚いたことにオサムロウがここに来ることが分かっていたかのように彼に渡す刀を用意していた。まるで始めからそうする予定だったかのように。

 

 

 

 

 

 

ミシガン「……ねぇカオス。

 あの人がアローネさんやカオス達が言ってたカタスって人なの………?」

 

 

カオス「ん?

 あぁそうだよ。

 前にも話したけどこの人がレサリナスで俺とアローネとタレスを助けてくれたんだ。」

 

 

ミシガン「ふぅん………あの人が………。」

 

 

 カタスティアと初対面のミシガンが彼女をじっくりと観察する。

 

 

 

 

 

 

レイディー「おう()()

 アタシには挨拶は無しかよ?

 アンタとは浅くはない仲だと思ってたのにそんな連中にばっか構いやがって薄情だな。

 嫉妬しちまうぜ。」

 

 

カタスティア「あらあら貴女可愛いこと言うわねレイディー。

 そんな不安になることないのよ私はいつだって貴女のことを忘れたりなんかしないから。」

 

 

レイディー「どうだかな。

 先生は顔が広いからアタシ一人にかまけてなんてられねぇだろ?

 どうせアタシに話しかけられるまでアタシのことなんて一度も「ミスリル」………!?」

 

 

カタスティア「他にもヒヒイロカネ、リヴァヴィウス鉱石、アダマンタイト、魔導鉱石、竜の骨………。

 貴女の症状を緩和するために私もあちこち探して使えそうな素材を見付けてきたわ。

 ………どれが使えるのか私には分からないんだけれどね。」

 

 

レイディー「………これ先生が見付けてきたのかよ………。

 ………全部アタシが専門書でピックアップして手にいれようとしてものだ………。」

 

 

カタスティア「そうなの?

 じゃあ丁度良かったわね。

 貴女に会った時のためにずっと持ってて正解だったわ。」

 

 

レイディー「………………ハハ、

 本当に先生は先生だな。

 これ全部探すのに結構手間かかったろ。

 それなのにこんな沢山………アタシのために………。」

 

 

カタスティア「慕ってくれる教え子を放置するほど私は薄情じゃないわよレイディー。

 貴女のことだってちゃんと覚えてたんだから。」

 

 

レイディー「先生………。」

 

 

カタスティア「ウフフ、

 ………!

 あっ、

 それからタレス。

 貴方に一つ朗報があるのだけど今いいかしら?」

 

 

タレス「!

 ボクですか?

 特に問題はありませんけど朗報とは一体………?」

 

 

カタスティア「ランドールに船を沈められてしまったことで私はレサリナスじゃ死亡者扱いになってたでしょ?

 そのおかげでこの七ヶ月間身を隠しながら自由にマテオを移動出来たのだけれどその途中で見付けたのよ。

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がね。」

 

 

タレス「!!?

 本当ですか!!?」

 

 

カタスティア「本当よ。

 今は南部のカーラーン教会で保護させてるわ。

 百年の停戦のせいでダレイオスから流れてくる拉致被害にあった人達が少なくてね。

 皆一つの家に奴隷として纏めて買われてたの。

 それを私が全員引き取ったのよ。」

 

 

タレス「どっ、どうやってそんな人から皆を………。」

 

 

カタスティア「私これでも一応公爵の爵位があるのよ?

 お金ならたくさん持ってるわ。

 その家の人も奴隷が買った時の値段よりも高く値がつけば簡単に手放すでしょ。

 少し足元を見られちゃって値段が高くなったけどタレスのお友達かもしれない子達を救うためならそれくらいまったく惜しくなかったわ。

 これでタレスもアイネフーレの子達に会えるわね。」

 

 

タレス「………あっ、

 有り難うございます!!

 こんな………こんなことってあるんですね……!

 ボクは………一人じゃなかった……!

 ………また皆に会え…っ……!」

 

 

カタスティア「安心するのはまだ早いわよ。

 タレスはまたアイネフーレの皆と一緒にダレイオスに帰るのでしょ?

 タレスを養子にしようかとも思ってたのだけど他に家族がいるのなら仕方がないわ。

 また元の暮らしに戻るためにも今はやるべきことをやりましょう。」

 

 

タレス「………はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………なんか凄いねカタスさんって………。

 皆あの人と話をするだけであの人がなんでも悩みとか辛いこととかを解決していってるみたい………。

 

 

 ………まるで()()のような人だよ………。」

 

 

カオス「………そうだね。

 一部の人からは聖女って言われてるくらいだし俺やアローネだってあの人に救われたんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あの人が何でもああして人助けをするから俺もあの人のためにあの人の力になりたいってそう思えるんだ………。」



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彼女を見詰めるその目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カツカツカツ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カタス………?」

 

 

 先程まで和やかにレイディーやタレスと話をしていたカタスティアが急に会話を止めとある方角へと歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カツカツカツ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピタッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして歩みを止める。カタスティアが立ち止まった先にはとある人物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「……なっ………何………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カタスティアが進んだ先にはカーヤがいた。カタスティアはカーヤの前で無言で彼女を見詰める。カーヤは気まずくなり後ろへ後退りをする。

 

 

レイディー「どうしたんだ先生?

 そいつは坊や達が連れてきたダレイオスの「貴女………ラーゲッツの関係者?」………!?」

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

カーヤ「あっ、

 あの………。」

 

 

カタスティア「………………肌はあまり手入れをしていないようだけど子供特有の水分を多く含んだ肌をしているわね。

 年齢は十五、六歳前後かしら。

 身長は平均的な身長だけど体重の方は少し軽そうね。

 今のコンクリートを踏み締めた音の感じからして四十にギリギリ届かない程度。

 でも痩せてはいるけど筋肉に関してはまったくないわけじゃなさそうね。

 寧ろ一般的な十代の少女が持つ筋肉にしては発達し過ぎている。

 余程過酷な環境に身を置いていたのね。

 利き腕は………右腕が若干太い………右利き。

 体温は………そろそろ眠いのかしら?

 熱を放出し始めているわ。

 こんな時間だものね。

 血流は………食後六時間といったところね。

 口から漂う香りからして夕食にとったのは軽めのサンドイッチってところかしら。

 これだけ発達した筋肉を持ちながら表情筋だけは人より劣るのは人と話すのが苦手なのか元々人と話す環境にいなかったのか………。」ブツブツ………、

 

 

アローネ「カッ、

 カタス………?」

 

 

 何やらカーヤを見てブツブツと一人言を呟くカタスティア。先程までは女神でも見るような目で見ていたミシガンも彼女のその様子には少し引いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「………このマナの感じ………。

 バルツィエが持つ固有の純度の高いマナを持ちながら同時にフリンク族のマナの特長も備えている………。

 バルツィエとフリンク族のハーフエルフなのは確かなようね。

 そしてこの熱い炎を連想させるマナはラーゲッツのものに似ている………。

 

 

 

 

 

 

 ………そう………、

 ………貴女はラーゲッツの親族なのね。

 彼のマナの特長の引き継ぎ用から見ても彼とはそう遠くない血族一等親………。

 ラーゲッツの娘で間違いないわね。」

 

 

カーヤ「うっ、

 うん………。

 カーヤのパパはラーゲッツって人だけど………。」

 

 

 何も情報を与えずにカタスティアはカーヤをラーゲッツの娘だと言い当てた。

 

 

 ………更には、

 

 

カタスティア「ラーゲッツに娘がいるだなんて聞いたことがない。

 すると貴女はダレイオスで生まれ育ったのね。

 ダレイオスでは部族が違ったり他の部族との間に生まれた子供を毛嫌いする風潮があるからハーフエルフの貴女はフリューゲルで虐げられて育ったんじゃないの?

 そこをアローネ達と出会い彼女達に保護される形で一緒にいる。

 そうでしょ?」

 

 

カーヤ「うっ、

 うん………そうだけど………。」

 

 

 なんとカタスティアはカーヤがこれまでどのような生活を送ってきたかも言い当ててしまう。ここまでくると推測ではなく実際に見ていたかのようだ。

 

 

レイディー「相変わらずすげぇな。

 ()()()()()はそんなところまで分かるのか。」

 

 

カタスティア「別にこのくらい大したものではないわ。

 人ってのはね。

 よく観察してみればそれまでどう過ごしていたか、

 どう生きてきたかなんて分かるものなのよ。

 その人が今何を感じているのか。

 ………楽しそうにしてるのかとか今機嫌が悪いのかとかね。」

 

 

ウインドラ「いや………それにしてもお見事です。

 今教皇が仰ったことは全てにおいて間違いが一つもない………。

 よくそこまで一目見ただけでお分かりになりますね。」

 

 

カタスティア「フフ、

 元王女という立場上人の仕草や動作を観察するのが癖でね。

 会議や交渉では相手が何を求めているのかを追い掛けている内に自然とここまで分かるようになったわ。

 少し意識すれば貴女達でもできるはずよ。」

 

 

アローネ「カタスほどの読み取る力を得られるとは思えませんが………。」

 

 

 再開して早々カタスティアの奇特な特技を垣間見たカオス達は彼女が聖女と呼ばれる由縁が今の一部始終にあるのではないかと感じる。一見するだけで人が求めているものを見抜くカタスティアはその力を使い人のために行動する女性だ。そのような力があれば人はもっと私利私欲のために使いそうなものだがカタスティアはそれをしない。それどころか私財を擲ってでもタレスの知り合いかどうかも分からぬ相手に手を差し伸べてみせた。

 

 

カタスティア「…貴女………名前をカーヤっていうのね。

 貴女はこれから起こる戦が終わったらカオス達からカーラーン教会に来ないかって誘われてるんじゃないかしら?」

 

 

カーヤ「………うん、

 カオスさん達から一緒に来ないかって誘われた………。」

 

 

カタスティア「そう、

 じゃあこれから私達は家族ね。」

 

 

カーヤ「家族……?」

 

 

カタスティア「そうよ。

 私はね?

 もしマテオとダレイオスの戦いが終わったらカオスを正式に私の養子にする予定なの。

 そうなったら貴女も私の子になりなさいな。

 カオスと兄弟になれるわよ。」

 

 

カーヤ「カーヤがカオスさんと兄弟……。」

 

 

カオス「………いいんですか?

 俺は間接的にカタスさんを追われる目にあわせたのに………。」

 

 

カタスティア「何言ってるのよカオス。

 子供ってのはね。

 親に迷惑をかけてこそよ。

 親は子のためならどんなに苦しいことでも耐えられるわ。

 バルツィエに追われることになったのだってそんな迷惑の範疇ですらないわ。

 子供なら親にどんどん迷惑をかけてみなさい。

 

 

 私は貴女達のすることは全て受け入れてあげるから。」

 

 

カオス「………カタスさん………。」

 

 

 カオス達によってバルツィエに襲撃を受けたにも関わらずカオス達を受け入れるという彼女の人としての器の大きさには人以上の神々しさすら感じさせる。カオスはカタスティアを尊敬する気持ちが膨れ上がっていくのを感じた。

 

 

アローネ「カオスとカーヤがカタスの子供になるのなら私もカタスの娘になるのですか?」

 

 

カタスティア「何言ってるのよアローネ。

 貴女はずっと昔から私の妹だと言ってるじゃない。」

 

 

アローネ「妹………ですか………。

 ですがそれは私がカタスの御兄弟とのその………。」

 

 

カタスティア「アローネ、

 別に私の兄弟との結婚なんて関係ないわ。

 血の繋がりや婚姻なんてなくても人は姉妹になれるの。

 今更私と貴女に他の関係なんて必要ない。

 貴女にはずっと私の妹でほしいの。

 そこだけは貴女には分かっていてほしいのよ。」

 

 

アローネ「血の繋がりも婚姻もなく姉妹に………。」

 

 

カタスティア「そうよ。

 貴女だって私が母親を思える?

 ………思えないでしょ。

 妙によそよそしくなるよりかは私は今の関係のままでいい。

 貴女とはこれからもずっと姉妹のままよ。」

 

 

アローネ「…カタスがそう仰るのならそれでいいのかもしれませんね。

 カタスが仰ることが今まで間違っていたことなんてありませんから。」

 

 

 カオスとカーヤを養子に迎えるというカタスティアはアローネだけは頑なに妹と言って譲らなかった。アローネとしても特にそれで不自由するわけではないのでこの話はそこで終えることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「(………それにしても………。)」

 

 

 一瞬皆の視線がカタスティアから外れた隙に彼女はカーヤを横目に観察する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「(………ラーゲッツの娘のカーヤ………。

 ラーゲッツとは違って恵まれた才能を持っているようね………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニヤァ……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カタスティアの口角が皆に気付かれない程度にほんの少しだけ上がる。その表情は彼女の美しさもあって傍目からは普通の笑顔のようにも見えるがどことなく歪さが混じっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「(“鳶が鷹を生む”とは正にこのことよね。

 ラーゲッツの遺伝子でこれほどの()()が生まれてくるなんてねぇ………。

 

 

 

 

 

 

 ………漸く巡り会えたわ。

 あの子こそが私達の………。)」



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王都突入

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「…ところでカタス。

 この辺りには先程まで騎士団がいたはずなのですが私達が様子を伺っている最中に何故かこの場を去っていきました。

 騎士団が持ち場を離れる理由にカタスは何か心当たりはありませんか?」

 

 

カタスティア「!

 あぁそのこと?

 私も近くの茂みから見ていたのだけれどさっき()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「!?

 フェデールがここに………?

 俺達が来るのがバレてたんですか!?」

 

 

カタスティア「いいえそうじゃないみたいよ。

 コーネリアスから聞いてないかしら?

 バルツィエに独立の動きが見らることを。

 ここにいた騎士団はバルツィエの傘下だったのよ。

 それでフェデールが“準備は最終段階に入った。お前達は一旦レサリナスに戻れ”って命令していたわ。」

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ・レイディー「「「「「「!?」」」」」」

 

 

オサムロウ「真ですか……?

 カタスティア様。

 その話は………。」

 

 

カタスティア「私が人の言葉を聞き間違えたことがあるかしら?

 確かにフェデールは騎士達にそう告げたわ。

 これからバルツィエ達はレサリナスを放棄すると思うわ。

 だからこんなところを警備させていても意味は無いと判断したのでしょうね。

 フェデールはこれから騎士達と一緒にレサリナスにまだ残ってるアレックスとクリスタル女王それと王女アンシェルを回収する予定よ。

 三人がレサリナスを離れてしまえばバルツィエの独立が成立してしまう。

 そうなったらもう私でも彼等の足取りを追うことは出来ない。

 急いでレサリナスに向かってフェデール達を止めないといけないわ。」

 

 

 バルツィエの独立まで時間が無いことは分かっていたがまさかカオス達がマテオに到着するのと同時に独立が果たされようとしていたとはカオス達も予想できたかった。

 

 

アローネ「…では下にいるダレイオスの皆を急ぎレサリナスまで進軍させます!

 バルツィエの独立が完了すればマテオの人々は………!」

 

 

ウインドラ「一刻を争う事態だ。

 早々にレサリナスを包囲せねばならんな。

 アレックス達を取り逃してしまえばどれ程マテオの街々に被害が出るか………。」

 

 

レイディー「急げお前等!

 まだそう騎士団が去ってから時間は経ってねぇ!

 今ならレサリナスを出られる前に待ち伏せできるかもしれねぇ!」

 

 

タレス「独立だけは阻止しないといけません!

 これ以上厄介なことになる前にフェデール達を確保しましょう!」

 

 

ミシガン「…今度こそ!

 フェデールを私の手で……!!」

 

 

カオス「カタスさんはどうするんですか?

 俺達と一緒に来ます?」

 

 

カタスティア「悪いけど私は一緒にはいけそうにないわ。

 もしバルツィエが暴れだしたら大変だから貴方達とは別に一般人の避難勧告をする必要があるの。

 だから貴方達は先には行って。」

 

 

カオス「分かりました。」

 

 

アローネ「カタス………!

 ………どうか御無事で!

 この戦いが終わって必ずまた御会いできると信じております!」

 

 

カタスティア「貴女もねアローネ。

 バルツィエにやられる程クラウディアの名は廃れてはいないことを証明して見せなさい。

 必ず貴女達がバルツィエに勝利すると信じているわ。

 ………さぁお行きなさい。」

 

 

 

 

 

 

 カタスティアをその場に残しカオス達は急ぎレサリナスに向けて進軍する。フェデール達が出発してからまだそう時間は経過してはいない。今ならまだフェデール達がレサリナスに到着してもアレックス達に逃げられることはないだろう。カオス達はレサリナスへと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「………今貴方達の元に死神を遣わせたわアレックス、それからフェデール。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()抹消されるべきよ。

 精々首を洗って待っていることね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 外 数時間後深夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ達はカタスティアと別れてレサリナス手前までやって来ていた。

 

 

アローネ「………どうにかここまで順調に進むことができましたね。」

 

 

オサムロウ「あれがレサリナスか………。

 頑丈そうな外壁に囲まれているな。

 セレンシーアインよりも敷地は広そうだ。」

 

 

タレス「突入はどうしましょう?

 このまま突っ切りますか?」

 

 

レイディー「カタスの言ってたことが事実なら今レサリナスの守りは手薄だ。

 大勢でけしかければ簡単に制圧できそうだな。」

 

 

ウインドラ「アローネ、

 攻め混む前に一度中の様子を見てきた方がいいのではないか?

 レアバードなら空から中がどうなっているか確認できるだろう。」

 

 

アローネ「そうですね。

 では………………「ザワザワザワ……!」………?

 何でしょう………?

 レサリナスの中が騒がしいようですが………。」

 

 

 これから突入しようという時にレサリナスの中から異様な騒々しさが伝わってくる。よく確認してみれば明かりも少なからずついている。

 

 

カオス「………!

 アローネ!

 入り口のところに騎士団が集まってるよ!」

 

 

アローネ「!

 ………本当ですね………。

 何をなさって入るのでしょうか………。」

 

 

ウインドラ「………ん?

 あれは………、

 

 

 ………()()()()()じゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!

 これは一体何の真似だ!?

 何故我々を拘束するんだ!?」

 

 

「我々はフェデール騎士団長の直々の命が下されている!

 こんな不当な行為をされる覚えはない!

 今すぐ子の縄を解け!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「残念ですがそれは出来ません。

 私達はこれより現バルツィエ政権に反旗を翻します。

 ですのでバルツィエ派である貴殿方はここで私達の軍門に下っていただきます。

 私達はこれからバルツィエとバルツィエに従う者全てを捕らえて女王クリスタル様をバルツィエの手から奪還します。

 

 

 

 

 

 

 ………マテオをバルツィエの手から取り戻すのです!」



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内乱

王都レサリナス 西入り口

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザ………!

 

 

 

 

 

 

ブラム「!?

 なっ、

 何事ですかこれは………!?」

 

 

 カオス達がブラムに近付くと彼は悲鳴のような声をあげて驚いた。

 

 

アローネ「それは此方のセリフです。

 ブラムさんこそ何をなされているのですか?」

 

 

ブラム「何を………、

 ………私はバルツィエが独立をなさる徴候がありましたのでこの機にレジスタンスを立ち上げようと………。」

 

 

カオス「そうだったんですね。

 ………それでこの騎士達は………?」

 

 

 ブラムの隣には縄で締め上げたと思われる騎士団の者達がいた。

 

 

 

 

 

 

騎士一「くそッ!

 貴様等!

 俺達に手をあげてただで済むと思うなよ!」

 

 

騎士二「ブラム隊長!

 アンタは此方側だと思ってたが違ったようだな!

 今にアンタはランドール隊長やフェデール騎士団長に粛清されるだろう!

 覚悟しておくんだな!」

 

 

 

 

 

 

ブラム「私がそうした覚悟も無くこのような行動に出ているとお思いですか?

 侮られたものですね。

 この百年バルツィエに付き従ってきましたがそれももう終わりです。

 いつかはバルツィエもアルバート様のように皆の信望を集めるような方針へ転換する時が来るのではないかと願っていましたがそんな希望を抱いているだけでは無駄だということが友を失って漸く気付きました。

 

 

 

 

 

 

 これから私達は真っ直ぐバルツィエの元へと向かいます。

 そして彼等を私達の手で討ちます!」

 

 

 腰に下げた剣の柄を固く握りブラムはそう騎士達に告げる。決して冗談などではなく本気でそうしようとしているのだろう。ブラムからはその固い決意の他にも友を殺されたことに対するバルツィエへの憎しみの念も含まれているようにカオス達は感じた。

 

 

 

 

 

 

ハーベン「アローネ様………、

 この者は一体何者なのでしょうか?

 アローネ様方とお知り合いのようですが………。」

 

 

アローネ「えっと彼は………。」

 

 

ブラム「!

 とっ、

 ところで臣民様方。

 何やら以前に比べお連れ様がその………大分お増えになっておられるようですがどういった経緯でこの様な団体を引き連れて此方まで………?」

 

 

 ブラムからすればカオス達だけならまだしもその後ろに千人以上にも及ぶ数の人々が一斉にレサリナスの入り口に集中しているのだからその光景にただならぬ気配を感じているのだろう。

 

 

ファルバン「我等はダレイオスの者だ。

 マテオと………正確にはバルツィエと戦争しに参った。」

 

 

ブラム「なっ…!?

 ダレイオス!?

 敵国がいつの間にこの様な場所まで侵入を……!

 こっ、

 これからバルツィエと戦うという時にダレイオスまでもがここまで……!」チャキッ!

 

 

 ブラムがダレイオスの名に驚き剣を引き抜こうとするがそうすることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュッッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャキッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「!?」

 

 

オリヘルガ「おっと動くなよ?

 少しでも動けばこの短剣がお前の首をかっ切るぜ?」

 

 

 オリヘルガが飛葉翻歩でブラムの背後に回り込み彼の喉元に腕の仕込みナイフを突き付ける。

 

 

ブラム「ぐっ…!?

 これからという時にまさかダレイオスの軍勢が押し寄せてくるとは……!!」

 

 

オリヘルガ「おい?

 誰が喋っていいって言った?

 お前に喋る権利なんて与えてねぇよ。

 勝手に口を開くんじゃねぇ。

 下手に動かれると俺も手が滑るかもしれねぇだろうが。」

 

 

ブラム「……!」

 

 

 

 

 

 

「ブ、

 ブラム様!」

 

 

「ダレイオス共めぇ!

 ブラム様を離せ!」

 

 

 入り口前でバルツィエ傘下の騎士達を拘束していた者達がブラムを解放するようオリヘルガに訴える。よく見てみればその者達は騎士団ではなく普通の一般市民のような格好をしていた。

 

 

カオス「…オリヘルガ、

 離してあげてくれないか。

 その人は俺達の知り合いなんだよ。」

 

 

ウインドラ「その人とは俺達がマテオからダレイオスに亡命する際に手助けしてくれた人で俺達の味方だ。

 短剣を下ろせ。」

 

 

オリヘルガ「………ケッ!

 そうかよ。」

 

 

ス…、

 

 

 オリヘルガはカオス達に言われ素直に首元に突きつけていた短剣を下げた。

 

 

ブラム「……これはどういった状態なのでしょうか………?

 皆様がダレイオスの者達と一緒にいるというのは………。」

 

 

アローネ「…ブラムさんと初めて御会いした時のことを思い出しますね。

 あの時は貴方にダレイオスの者と勘違いされたことから私とカオスの旅が始まりましたが今ではその勘違いが現実のものとなってしまいました。」

 

 

ブラム「どっ、

 どういうことでしょうか?」

 

 

アローネ「………現在私はこのダレイオス軍の“将”としてマテオに来ています。」

 

 

ブラム「将………?

 アローネ様が………?」

 

 

アローネ「えぇ、

 この度私はカーラーン教会教皇カタスティアから辞令を受けカーラーン教会枢機卿の位を承りダレイオスと同盟を結ぶことにしたのです。

 そしてダレイオスの六つの部族と私とで誰がこれから始まる戦争の主導者に相応しいか競い会いました。

 その結果私は他の王候補者を退けダレイオスの王の地位にまで上り詰めました。

 

 

 ………状況を教えてください。

 バルツィエは今どちらにおられるのですか?

 私達はこれからバルツィエを討ちに向かいます。

 ブラムさんは私達に彼等の情報を提供次第街の人達を避難させてください。

 これからこの街は()()()()()と思われますので………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「アローネ様がダレイオスの王に………………?

 ………アローネ様………貴女は一体………。」



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またもやフェデールの矛盾した行動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「それでブラムさん、

 バルツィエの本隊はどちらにおられるのですか?

 先程フェデールが此方に向かわれたという情報をいてやって来たのですが彼はここを通過したのですか?」

 

 

ブラム「いっ、いえ………、

 騎士団長フェデールは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………?

 現在は王城にて大公アレックスとクリスタル女王陛下、それと王女アンシェル様並びに他フェデールの部隊が王城の中に籠られております。

 フェデールもそちらにおられるかと………。」

 

 

レイディー「何………?」

 

 

カオス「フェデールが昨日からここに………?」

 

 

タレス「それは変ですね………。

 フェデールはさっき西の海岸で騎士達に独立の準備ができたとかでレサリナスに戻るよう命令を下しに来ていましたが………。」

 

 

ブラム「?

 ですがフェデールの同行は私の方でも追っておりました。

 一月前に皆様と御会いしてミストの惨状を確認し戻ってきてからも彼がどこで何をしていたかもずっと見張っておりましたが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしたよ?」

 

 

ウインドラ「………どういうことだ?

 だが現にこの騎士達は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騎士一「フンッ!

 我々がこうして捕まっていることは直ぐにフェデール騎士団長に伝わるだろうな!」

 

 

騎士二「騎士団長は先程我々に帰還するよう御命令されたのだ!

 我々がいつまでも戻って来なければ様子を見に駆け付けてくれるだろう!

 その時は貴様等を皆纏めて成敗してやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシガン「………ほら、

 フェデールがこの人達のところに来たってさ。」

 

 

ブラム「………おかしいですね………。

 西の海岸に向かわれて戻られるのであれば必ずこの西門を通るはずですが私共はフェデールが出ていくところも入ってくるところも確認しておりません………。

 フェデールは私共の目を掻い潜っていつの間に外へと………?」

 

 

レイディー「ここ最近目立つな………フェデールの不審な行動が………。

 これで二度目か。

 オーギワンでも南北を一時封鎖してたんだろ?

 そんで戻って来てみたらそんなことはしてないって言ってたって。」

 

 

ブラム「はい………、

 私も何故フェデールがそのような命令を下していたのか皆目見当がつきませんが………。」

 

 

アローネ「………オーギワンのことに関しては理由は分かりませんが今回のことに関してだけはどの様にブラムさん達の目を欺いて外へと出入りしていたかは予想がつきます。

 彼等には()()()()()がありますので。」

 

 

ウインドラ「!

 そうか…!

 あれを使えば門を一々通らなくてもレサリナスに行き来ができるな。」

 

 

レイディー「まぁ確かにそんな方法はあるだろうがよ?

 何でそんな回りくどいことをするんだ?

 騎士団なんだから堂々としてりゃいいだろうが。」

 

 

アローネ「…ブラムさん、

 貴方は先程バルツィエと戦われると仰っていましたね。

 バルツィエと戦うとなれば相当な数の人手が必要なはずです。

 それは既に集め終えているのですか?」

 

 

ブラム「えっ、えぇまぁ………。

 バルツィエに対する不満を抱えていらっしゃる臣民様方は数多くおりますので集めるだけでしたら直ぐに数百から数千名の方々が集いました。」

 

 

アローネ「………なるほど………。」

 

 

カオス「アローネ、

 何か分かったの?」

 

 

 ブラムの話を聞きフェデールに対して何か確信めいたように呟くアローネにカオスが質問する。

 

 

アローネ「…断定は出来ませんがオーギワン港での封鎖は独立の準備を整えるための()()()()だったのかもしれませんね。」

 

 

タレス「時間稼ぎ………?」

 

 

アローネ「…ブラムさん、

 貴方はバルツィエと共にいた期間がそれなりに長いのでしたよね?

 ウインドラ達の話によれば貴方はダリントン隊やバーナン隊が裏でバルツィエに反抗する計画を立てている間もバルツィエの元にいたと聞きました。

 もしかすれば貴方がダリントン隊と繋がりがあることがフェデールに感付かれていたのではないですか?」

 

 

ブラム「…その可能性はありますね。

 私の部隊がミストでフェデールに襲われたのは彼等が私の部下であることが理由だったからでしょう。

 私の部下ならダリントン隊やバーナン隊のようにバルツィエに消されたのも納得がいきます。

 ………ですが時間稼ぎとは………?」

 

 

アローネ「貴方はミストで部下の方達が亡くなったのを確認して今このように勇姿を募ってバルツィエに立ち向かおうとしています。

 バルツィエも独立を果たす前にマテオの反抗勢力と争うのは避けたかったのでしょう。

 彼等に反感を抱く人は大勢います。

 力があるとは言っても一勢力に大数で向かってこられては何が起こるか分かりません。

 貴方をオーギワンで足止めしたのは貴方がレジスタンスを組織する時間を延ばしたかったからでしょう。」

 

 

ブラム「!?

 でっ、ですがそれなら一度皆様とここへ戻られる前に私はミストに戻る許可をフェデールから得ました!

 私にレジスタンスを組織されたくなかったのであればオーギワン港で足止めしなくともレサリナスから私を出さなければよいだけの話ではありませんか!?」

 

 

 ブラムが言う通りレジスタンスの組織化を防ぎたかったのであればブラムをレサリナスから出さなければブラムが行動に移すことはなかっただろう。それなのにフェデールはブラムにミストに戻る許可を出した。それによってブラムがミストに向かい彼とバルツィエは決定的に袂を別つこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「…そりゃつまりだ。

 時間稼ぎが()()()()()()()()だけで十分だったってことじゃねぇか?」

 

 

カオス「僅かな時間だけ………?」

 

 

レイディー「独立にかける時間はそれほど必要無かったってことだよ。

 計算高い奴のことだ。

 ()()()()()()()()()()()ってことだ。

 今日今この時点でな。」

 

 

カオス・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「!!?」」」」

 

 

アローネ「…王城へ向かいましょう!

 アレックス、フェデール彼等バルツィエがまだこのレサリナスにいるのであれば確保して独立を阻止するのです!

 バルツィエに独立をさせてはなりません!」

 

 

ハーベン「アローネ様!

 我々はどうすれば………!?」

 

 

アローネ「ダレイオス軍は予定通りレサリナスを包囲してください!

 万が一にもバルツィエを逃してはなりません!

 彼等には飛行手段もありますがもしレアバードで逃亡を謀るようであれば撃ち落としてください!」

 

 

ハーベン「分かりました!

 そのように全軍に通達します!」

 

 

アローネ「急ぎますよ皆!

 ここでアレックスとフェデールを取り押さえねば予想を遥かに凌ぐ死者が出ることが懸念されます!

 

 

 彼等がこの街の中にいる間に拘束して彼等から他のバルツィエの足取りを追います!

 彼等さえ押さえてしまえば大規模な戦争に発展する前にこの戦いを終わらせられるのです!

 一刻も早くアレックスとフェデールの確保を!」

 

 

 アローネの指示によってダレイオス軍はレサリナスを取り囲みカオス達はレサリナスの中へと入っていった。レサリナスの中にいるというアレックスとフェデールを捕まえることができれば無用な戦いをせずにマテオとダレイオスの永き戦いに終止符を打つことができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………が結局カオス達はアレックスとフェデールを捕まえることはできなかった。バルツィエが持つ彼等の()()()()()()()()それを阻まれてしまった………。



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女王クリスタルの奪還

王都レサリナス 王城

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

 

 

 

 

 

フェデール「騒がしくなったな。

 反乱が起こったか。

 俺達がこれから何をしようとしているのか嗅ぎ付けたようだな。

 

 

 ………でももう遅いよ。

 今更騒いだところで誰にも俺達の計画は止められない。

 出来ればこの戦いでマテオからもダレイオスからも多くの死人を出したくなかったんたが聞き分けのない連中を黙らせるには()()()()()()()()()()()()

 今に俺達バルツィエが正しかったと民衆やダレイオスの連中も思い知ることとなるだろう。

 俺達に従っていれば世界はこのまま歴史を紡ぎ続けていられるんだ。

 

 

 あいつら………ウルゴスの奴等にこの世界を好きにさせたりはしな「フェデール様!!」」

 

 

 フェデールが城の窓から街の様子を伺っていると一人の少女が彼の元へとやって来る。

 

 

アンシェル「フェデール様!

 大変です!

 街の人々が暴動を……!」

 

 

フェデール「…アンシェル様でしたか。

 御安心を。

 街のことは騎士団に一任させておりますのでアンシェル様はお早く()()()()()()()()してください。

 私も直ぐにこちらを発ちますので。」

 

 

アンシェル「フェデール様………、

 フェデール様も御一緒に………。」

 

 

フェデール「私にはまだやらなければならない仕事が残っておりますので………。

 アンシェル様と女王陛下が脱出されたのを確認して私もアレックス………お父君と共にここを出ます。」

 

 

アンシェル「………また………フェデール様とは御会いできますよね………?

 私はフェデール様にはいなくなってはほしくなくて………。」

 

 

フェデール「………」

 

 

アンシェル「………この暴動は一時的なものなのですよね?

 またいつもの日常が帰って来るのですよね?

 独立の説明は母上からお聞きしましたがこれでフェデール様との今生の別れになったりするのであれば私は「アンシェル。」………。」

 

 

 

 

 

 

ダイン「………迎えに来た……。

 外の人達が城の中に入ってくる前にここを脱出しよう……。」

 

 

アンシェル「ダイン………。」

 

 

フェデール「ダインか。

 女王陛下と姫の護衛任せたぞ。

 騒ぎが落ち着くまで女王陛下と姫を()()()()()匿っていてくれ。

 窮屈な思いをさせるとは思うが俺達がマテオとダレイオスに決着をつけるまでだ。

 いいな?」

 

 

ダイン「…そうしたいのは山々だけどでもクリスタルが「私も貴殿方と共に行きます。」」

 

 

 

 

 

 

フェデール「!?

 クリスタル………女王陛下………何を仰って………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスタル「私はこの国の女王です。

 王がこの国の未来を左右する戦いで一人安全な場所で待機など出来ますか。

 私も貴殿方バルツィエと共にあの場所へと赴きます。

 

 

 

 

 

 

 私達王家は長い間バルツィエに不快な仕事を押し付けて来ました……。

 過去のお祖父様と貴殿方バルツィエとの事件は前面的に私達王家の不始末です。

 その事件のせいで貴殿方バルツィエと民衆との間には深くて埋めようのない溝が出来てしまいました。

 ………それならせめて貴殿方が行おうとしている今度のことの責任は私が取ります。

 

 

 私は最後までバルツィエと共にあり続けます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェデール、

 貴殿方バルツィエの新たな基地へと私を案内してください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「……貴女だけは巻き込みたくなかったのですけれど御命令とあらば私は従うほかありませんね………。

 

 

 

 

 

 

 ………いいでしょう。

 では此方に。

 道中は私が全力で護衛致します。

 決して貴女を誰にも傷付けさせはしません。

 安全を確保しつつアレックスのところまで貴女をお届けします。

 私から離れないように。」

 

 

クリスタル「えぇ、

 ではアンシェル。

 ………どうか無事に脱出してください。

 貴女は………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。

 貴女だけは何としても生き延びてください。

 いいですね?」

 

 

アンシェル「御母様!!

 私も御母様に付いていき「なりません!」!?」

 

 

 

 

 

 

クリスタル「………分かってくださいアンシェル。

 母はこれから遥か昔に犯した王家の罪を償いに向かうのです。

 今まで彼等バルツィエに背負わせてきた罪に報いるためにも私は彼等と行かねばなりません。

 私と共に来れば貴女にも罪の裁きが降りかかる。

 ………罪を償うのは私一人で十分です。

 貴女はどうかこの先平穏豊かに暮らしてください。

 もし叶うのであればいつかどこかでまた再び会える日を祈って待っていてください。」

 

 

アンシェル「御母様………。」

 

 

クリスタル「………では行きましょうかフェデール。

 ここで時間を費やしている暇はありません。」

 

 

フェデール「ハッ!」

 

 

アンシェル「御母様………フェデール様も………。」

 

 

ダイン「アンシェル……、

 早く避難して……ここもいつ外に人達が来るか分からない……。

 戦えない貴女がここにいても足手まといになるだけ……。」

 

 

アンシェル「うっ、

 うん分かってる……。」

 

 

ダイン「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ブラム……ゴメンね………うちは………そっち側にはやっぱりいけない………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 街中央

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行けぇぇッ!!城へ乗り込めぇぇッ!!」

 

 

「バルツィエを絶対に逃がすなぁぁぁ!!」

 

 

「女王陛下をお救いしろおおぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「偉い騒ぎだな。

 あっちこっちで民間人達が暴れてやがる。」

 

 

カオス「そうみたいですね………。」

 

 

 見渡す限りのレサリナスにいる人々が騎士団に対し桑や家庭用の包丁などを持って攻撃を仕掛けている。剣や槍といった武器を持った者がいないのはバルツィエが前々から()()()を施行していたのでそういった武器を手に入れるには南部に向かわなければならない。しかしバルツィエの独立に間に合わず皆身近にあった武器の代わりになるもので代用しているのだろう。

 

 

 

 

 

 

騎士三「くっ!

 おいこっちに応援をくれ!

 突破されそうだ!」

 

 

騎士四「無茶言うな!

 こっちも人手が足りないくらいなんだ!」

 

 

騎士五「どうにか持ちこたえろ!

 直ぐに隊長達が来てくれる!

 それまで耐えるんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「レサリナスの方達のおかげで私達は一直線に王城まで迎えそうですね。

 騎士団が立ち往生している内に先に「お待ちください!」!」

 

 

 アローネ達が王城に突っ切ろうとすると後ろから声がかかる。振り替えるとそこにいたのはブラムだった。

 

 

ブラム「良かった!

 まだ王城には入られていなかったのですね!」

 

 

カオス「どうしたんですかブラムさん。」

 

 

ブラム「王城に入られるのであれば一つ皆様にお願いしたいことがございます!」

 

 

ミシガン「お願いしたいこと?」

 

 

ウインドラ「ブラム隊長、

 俺達は戦いに出向くんだ。

 あまりそんなことを聞く余裕は「どうか!クリスタル陛下の保護をお願いします!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「クリスタル女王陛下さえバルツィエと切り離してしまえばバルツィエは正規の軍ではなく国賊として扱うことが出来ます!

 女王陛下は…!

 彼女はバルツィエに捕らわれて言うことを聞かされているだけなのです!

 どうか皆様の手でクリスタル女王陛下をバルツィエの魔の手から奪還してください!

 お願いします!」



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ブラムはダインに会えず

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「クリスタル女王陛下?」

 

 

 追い掛けてきたと思ったらブラムはカオス達に女王クリスタルの保護を要求してきた。

 

 

ブラム「はい!

 私共のこの反乱は現在騎士団を相手にすることは出来ていますがもしバルツィエが現れれば簡単に流れを押し返されるでしょう!

 

 

 私共の軍はまだまだ総数が圧倒的に足りません!

 バルツィエは独立を宣言してはいない故に臣民様方の中には逆賊の汚名を恐れて立ち向かう意思を持つことが出来ない方々が数多くおります!

 そこでクリスタル女王陛下を此方側に迎えることが出来れば彼女の口からバルツィエを反逆者として告訴し未だ動かれぬ臣民様方も武器を手に取って我が軍に加勢していただけることでしょう!

 それで王城に向かわれる皆様に女王陛下をバルツィエの手から救いだしていただきたいのです!」

 

 

レイディー「そういうことか。

 騎士団や評議会を牛耳っているとはいえ女王がバルツィエから離れられれば国に逆らってるのはバルツィエの奴等だってことを大衆に示したいんだな?」

 

 

ブラム「お願いします!

 皆様の御力で女王陛下を………この国をバルツィエから取り返してください!

 これ以上バルツィエの自由にさせておくことは出来ません!

 独立が果たされてしまえばマテオは今以上にバルツィエの独裁下に置かれてしまいマテオ全土で困窮に苦しむ方が増えていくでしょう!

 何としてもそれだけは阻止しなければなりません!

 今こそ私達マテオはバルツィエに抗う時なのです!

 その機会をどうか皆様の手で………!」

 

 

アローネ「事情は分かりました。

 そういうことでしたら私達の方でもクリスタル陛下の救出を最優先に動きます。

 クリスタル陛下を此方に引き入れられればバルツィエを孤立させることが出来るのですね?」

 

 

ウインドラ「確かに俺がこのレサリナスで過ごしてきた十年間は女王陛下ではなくバルツィエが執政を行っていた印象があるな。

 彼女がバルツィエに逆らえないのは奴等の持つ力や何か弱味でも握られているかだと思うが………。」

 

 

タレス「女王の他に誰か彼女の親族でバルツィエに捕まっている人はいないんですか?」

 

 

ブラム「陛下の他には御息女のアンシェル姫がおられますが彼女は………。」

 

 

ミシガン「アンシェル姫………?」

 

 

レイディー「アレックスとの間に生まれた娘だな。

 あいつはまだ子供だが血は半分バルツィエの血を受け継いでいる。

 ………正直アンシェルが此方につくかバルツィエにつくか検討がつかんな………。」

 

 

ブラム「…とにかく女王陛下が姫を理由に此方の陣営に引き入れるのが難しいのであればアンシェル姫も陛下と共にお救いください!

 この戦いは何としても皆様や臣民様方の協力が無ければバルツィエに勝つのは厳しい状況です!

 バルツィエが独立を本格化する前に一刻も早く陛下と姫を城からお連れください!

 私は臣民様方の加勢に向かいます!

 それでは「ブラムさん!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「…ダインとは会えましたか………?」

 

 

 去り際にブラムに対してダインのことを訊く。ダインはバルツィエの生まれだがバルツィエにしては良心的な心の持ち主でカオスとしても彼女とは争いたくなかった。ブラムがミストに向かう前に彼にダインの説得を頼んではいたのだが………、

 

 

ブラム「………申し訳ありません。

 私はダイン様とはお会いにはなれませんでした………。」

 

 

カオス「そんな………。」

 

 

アローネ「ではまだダインさんはバルツィエにおられるのですか………?」

 

 

ブラム「私の方でも彼女と会おうとはしましたが何分バルツィエが独立の動きを見せそれに伴いダイン様ともお目見えする機会が無く彼女とお話しすることも叶いませんでした………。」

 

 

ウインドラ「それならダインとは城の中で会うことになるかもな。

 ………彼女とは敵として出会わないことを願うばかりだが………。」

 

 

ミシガン「…ダインさんなら私達と戦うなんてことにはならないでしょ。

 あの人だってバルツィエのやり方には反発してたんでしょ?

 だったらフェデール達がミストにやったことを教えてあげればダインさんだってきっと………。」

 

 

 このような事態にはなってしまったがダインがまだバルツィエに属しているのであればカオス達としても彼女を敵だとは思いたくはなかった。もしこの先で出会うことになればブラムの代わりにカオス達がダインの説得を試みようという話になるが………、

 

 

カオス「………ダインに会ったら味方になってもらえるよう俺達から説得してみます。

 一緒に戦うのは無理でもダインにはこの戦いに巻き込みたくはない。

 ダインだけは何も悪いことなんてしてないんだから………。」

 

 

アローネ「ダインさんとは私も分かり合えると信じています。

 これから始まる戦いの間だけ彼女にはどこか安全な場所で身を隠していてもらいましょう。」

 

 

ブラム「…ダイン様のこと宜しくお願いします。

 何もかも臣民様にお任せしてしまうのは申し訳ないのですが私も出来る限りの私に出来ることをやる一存です。

 皆様もどうかご無事で。

 私はこれにて失礼します。」

 

 

 一言そう言い残してブラムはカオス達から去っていく。

 

 

アローネ「やらねばならないことが二つほど増えましたね。」

 

 

カオス「女王陛下と姫の救出、

 それからダインをこの戦いに巻き込まないことだね。」

 

 

ウインドラ「バルツィエとは決着をつけねばならないがその前にその二つを先に終わらせておくべきだな。」

 

 

タレス「なんにしても時間がありません。

 バルツィエに女王と姫を連れ去られる前に城へと乗り込みましょう。」

 

 

ミシガン「どのみちお城には行かなくちゃ行けないんだもんね。

 ………必ずフェデールは私達の手で倒そう。」

 

 

アローネ「えぇ、

 皆覚悟はいいですか。

 これから私達は城へと乗り込みアレックスとそれからフェデールを討ちます。

 

 

 皆心してこの戦いに臨んでください。」

 

 

 そうしてカオス達はアレックス達バルツィエが待つ城へと向かった………。



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二度目のランドール

王都レサリナス 城前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達は城の前まで足を進めていた。

 

 

 

 

 

 

カオス「思ったより簡単にここまで来れたね。」

 

 

アローネ「ブラムさん達のおかげで私達の進行を阻む騎士団が私達どころではないのでしょう。

 今のうちに私達は王城へと侵入を試みましょう。」

 

 

 意外なほど呆気なく白の前まで来れたカオス達。城の警備ですら街へと駆り出されていあたりバルツィエの傘下の殆どが独立のために街の外へと出向いているのだろう。そこにアレックスとフェデールが加われば本当に独立が現実のものとなる。カオス達はそれを阻止すべく王城へと踏み込もうとするのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????「ようお前等!

 何を堂々と城の中へ入っていこうとしてるんだ?

 ここは関係者以外立ち入り禁止だ。

 お前等みたいなのが気軽に足を踏み込んでいい場所じゃねぇんだよ。

 分かったらとっとと帰りな。」

 

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 

 その声はカオス達が進んできた方向つまりは背後から聞こえてきた。振り替えるとそこにいたのは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「久し振りだなカオス。

 スラートのところでやりあった以来か?

 暫く見ない内にお仲間も増えてやがるな。」

 

 

 

 

 

 

カオス「お前は………………ランドールッ!!」

 

 

 

 

 

 

 カオス達に声を掛けてきたのはランドールだった。このタイミングで現れるということはカオス達が城まで来ることを予見していたということなのだろう。ランドールはゆっくりとカオス達と()()()()()()()()()()()歩き出す。

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッ………、

 

 

ランドール「ここに来たってことはこれから俺達が何をしようとしてるのか分かってるんだよな?

 街の連中も薄々それに感付いて俺等を止めようと必死になってやがる。

 

 

 ………そうさ、

 俺達はこんな()()()()()しか持ち合わせられない国なんか捨てるのさ。

 俺達は俺達で勝手にさせてもらう。」

 

 

 話を続けながらもランドールは歩みを止めずやがてランドールはカオス達に立ち塞がるように城の扉の前で足を止める。

 

 

ランドール「もう少ししたらすげぇ面白いことが始まるんだよ。

 マテオの奴等もダレイオスの奴等もあっと驚くようなそんな心踊るような楽しい祭がな。

 お前等にその邪魔はさせねぇよ。」

 

 

 ランドールは腰に差した鞘から剣を抜く。以前ランドールはダレイオスで一時的に取り押さえられたが逃げる際に自分からオサムロウの刀に飛び込み両腕を切り落とした。今は切り落とされた筈の腕が両腕ともに再生でもしたかのように肩から手の指の先まで治っている。

 

 

アローネ「…邪魔なのは貴方です。

 そこを退いてください。

 私達は貴方に構っていられる時間などありません。

 この城の中にいるアレックスとそしてフェデールを確保して貴方達バルツィエの独立を何としても阻止してみせます。

 立ち塞がるのであれば容赦はしませんよ。」

 

 

ランドール「おう怖い怖い。

 前にウルゴスだなんだと言ってた女か。

 ダレイオスでいろいろとやってたようだがあんなカス連中を手下に置いたくらいで何を強がってやがる?

 あんな雑魚共なんかいくら集まったところでバルツィエには敵わなかったんだぜ?

 その気になりゃ俺達だってダレイオスを屈伏させられたんだよ。」

 

 

ウインドラ「それはどうかな。

 お前は今のダレイオスの力を知らない。

 ヴェノムが出現する百年前でダレイオスを制圧できなかったお前達に今のダレイオスが抑えられるとは到底思えんな。」

 

 

ランドール「偽カオス………ウインドラ=ケンドリューだったか?

 ………ウインドラ、

 テメェはレサリナスになんか来なけりゃよかったのにな。

 お前達の事情は大体は知ってるぜ?

 お前がミストって村を離れなけりゃカオスやそこのミシガンって女もレサリナスに来ることも無かったんじゃねぇのか?

 お前さえレサリナスに来るのを我慢してりゃ今頃お前達もその農村で………、

 ………おっとそういやその村確か………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達の知らない間に()()()()()()()()()()()()()()()()?

 馬鹿な奴等だよな。

 自分達ごと村を焼いちまうなん「瞬迅槍ッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 ウインドラがランドールに突撃する。ランドールはウインドラの槍を難なく受け止めた。

 

 

ランドール「何をそんなに熱くなってんだよ。

 事実だろ?

 どうしてそんなことになってたのかは知らねぇがフェデールからはそう聞いてるぜ。」

 

 

フェデール「ミストは自滅したのではない。

 そのフェデールが村を焼いたんだ。

 フェデールがカオスの名を使って俺達の村ミストを攻撃したんだ。」

 

 

ランドール「ふぅん?

 そうなのか?

 ………だがよぉ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「………」

 

 

ランドール「そんなことは俺には関係ないぜ?

 俺はお前等の村がどうなろうが知ったことじゃない。

 俺の仕事はここでお前等を止めておくことだ。

 城の中には入れさせねぇよ。」

 

 

 ウインドラを吹き飛ばしたランドールはカオス達と戦う姿勢を取る。彼は一人でカオス達と戦うつもりのようだが………、

 

 

レイディー「お前一人でアタシ等を止める気か?

 やめとけよ。

 お前じゃアタシ等の相手には不十分だ。」

 

 

ウインドラ「俺達はこれまでダレイオスでバルツィエをも越える力を持つ怪物達と戦ってきた。

 貴様等バルツィエの飛葉翻歩もカオスと旅している内に目で追えるようにもなった。

 今更お前が出てきたところで俺達の誰も止めることなどできんぞ。」

 

 

 ランドールの実力は以前と同じであればウインドラやレイディーでも相手にすることが出来るだろう。タレス、ミシガンはまだバルツィエの域には達してはいないがここには確実にランドールよりも強いと思われるカオス、アローネ、カーヤの三人がいる。力で勝る者が三人もいる上に数の利でも此方が圧倒的優位なこの状況でランドールにやられる可能性は限り無く薄いがランドールはというと………、

 

 

 

 

 

 

ランドール「ヘヘヘ!

 今までの俺だったらお前等全員を相手にするとなりゃ大分厳しいところさ!

 ………だったらよぉ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラッ!

 

 

 ランドールが嫌らしい笑みを浮かべる。彼の口内からは何か鈍く光るものが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

カオス「あれは………!」

 

 

 バルツィエにはヴェノムの力を操る謎の秘術があることを失念していた。しかしまさかそれをこのような街中で使うとは予想できなかった。ランドールは奥歯に仕込んだそれを強く噛み砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキィィインッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「行くぜ!!

 モード・インフェクション!!」



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先を行くカオスとアローネ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランドール「ハァアアアアア!!!」

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

 

 ランドールのマナか上昇を始める。それに伴いランドールの手や足といった一部の部分が黒く変色していく。

 

 

アローネ「こっ、

 この様な人気の多い場所であの力を御使いになるというのですか!?」

 

 

カオス「ラーゲッツがローダーン火山で使ってたあのヴェノムの力………!

 こんな人が密集する街中であいつが暴れだしたりなんかしたら……!!」

 

 

ウインドラ「…とにかく奴を止める必要があるな!

 街の人達もバルツィエを捕まえにいづれはここにやって来る!

 大勢が押し寄せればそれだけヴェノムの感染者が増えていくぞ!」

 

 

レイディー「混乱は今のバルツィエにとっては願ってもない逃亡のチャンスだ。

 奴はアレックスとフェデールをこの機に逃がすつもりなんだよ。」

 

 

ミシガン「絶対にそんなことはさせない!

 他の誰を逃がすことになってもフェデールだけは何としても逃がさない!

 私の手でフェデールは必ず倒す!」

 

 

タレス「ここは城の中に潜入する人とランドールを止める人とで分かれましょう!

 あいつ一人に全員が立ち止まっていてはアレックス達に逃げられてしまいます!」

 

 

カオス「そうした方が良さそうだね。

 でもランドールの相手だったら俺がここに残「お前とアローネは先に行け!」!」

 

 

 ヴェノムの力を使い力を大幅に上昇させたランドールの相手が出来るのは自分だけしかいないと思いカオスはその場に残ろうとしたがそれをレイディーに止められる。

 

 

 

 

 

 

レイディー「二手に分かれるってんならアレックスとフェデールはお前等二人じゃないと相手にならねぇ!

 こいつの相手はアタシ達に任せて先に行きな!」

 

 

カオス「でっ、

 でもレイディーさん達じゃあのヴェノムの力には敵わないんじゃ……!」

 

 

ウインドラ「見くびるんじゃないぞカオス。

 確かにローダーン火山ではラーゲッツにしてやられた俺達だがいつまでもお前の足を引っ張るだけの俺達じゃない。」

 

 

タレス「そうですよ。

 ボク達だって一度負けた力に負けっぱなしのボク達じゃありません。

 ローダーン火山ではラーゲッツが相手でしたが同じ力を持つ相手とこうしてまた戦えるならあの時の雪辱はランドールに勝つことではらしてみせます。」

 

 

カオス「皆………。」

 

 

ミシガン「…私も本当はついていきたいところだけどその代わりフェデールは捕まえておいて。

 私達も()()()()()()()()すぐ追い掛けるから。」

 

 

カーヤ「カオスさん達は先に行ってていいよ……。

 皆のことはカーヤが守るから……。」

 

 

 仲間達は全員レイディーの意見に同感のようだ。カオスとアローネを先に行かせランドールは五人で相手をし倒す。それで時間を浪費せずにアレックス達を追える。

 

 

アローネ「………分かりました。

 カオス行きましょう。」

 

 

カオス「でも皆が………。」

 

 

アローネ「カオス……、

 貴方は確かに皆より強い力をお持ちですがだからといって皆は決して弱くはありません。

 これまでのことを思い出してください。

 彼等はどんなに強敵が相手でも臆せず立ち向かってきたではないですか。」

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「私の時と同じですよ。

 御自分の力を過信し過ぎないでください。

 皆は精霊の力に頼らずとも十分な腕前をお持ちです。

 仲間のことを信じてあげてください。」

 

 

カオス「アローネの時と同じ………。」

 

 

 カオスは二週間前のことを思い出す。あの時はアローネが彼女だけの力で大会を優勝することは不可能と決め付けてしまい彼女に酷いことを言ってしまった。そのせいで彼女とは大会が終わるまでの間険悪な空気が流れていた。

 

 

ウインドラ「アローネの言う通りだカオス。

 俺達を信じろ。

 こんな時くらいお前の背中を俺達に預けてくれ。」

 

 

レイディー「逆に考えろ。

 こいつの力は確実にアレックスやフェデールには劣るんだ。

 ここをお前達に任せたとしてアタシ等がアレックス達のところに行くのにお前は安心できるか?」

 

 

カオス「それは………。」

 

 

タレス「悔しいですがボク達じゃフェデール達を捕まえることはできそうにありません。

 ダレイオスで多くの戦いを経て強くなったといってもまだボク達はアレックスどころかフェデールの域にすら到達していないんです。

 彼等を捕まえられるとしたらカオスさんとアローネさんの二人しかいません。」

 

 

ミシガン「モタモタしてる時間なんて無いんだよ。

 直ぐに行動しないと。

 ここで私達の心配なんかしてる暇があったらさっさとフェデール達を止めて。」

 

 

カーヤ「カオスさんとアローネさんの二人なら大丈夫だって信じてる……。

 カーヤを救ってくれた二人なら……。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「………ここまで皆に支持されてそれでも貴方はここに留まりますか?

 私は彼等を信じられますよ?

 貴方は信じられないのですか?」

 

 

カオス「………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………有り難う皆………。

 

 

 

 

 

 

 ………分かった。

 俺とアローネで城の中に向かうよ。

 ここは皆に任せる。

 俺とアローネでアレックスとフェデールを止めてくる!」

 

 

 多少不安なところもあるがカオスはウインドラ達にランドールの相手を任せることにした。

 

 

アローネ「それでいいのですよカオス。

 ………では皆気を付けてください。

 行きますよカオス。」

 

 

カオス「うん!」

 

 

 カオスとアローネはランドールを避けるように大回りして城の扉へ向かった。

 

 

ランドール「!

 行かせるかよ!!

 『メイルシュトローム!!』」パァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 荒れ狂う水の竜巻がカオス達へと放たれる。

 

 

カオス「!

 スプレッ「『スプレット!!』」!」

 

 

 

 

 

 

ザバアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 

 カオス達へと放たれた竜巻をミシガンが水の柱で打ち消す。

 

 

ランドール「チィィッ!

 だがこのくらいの距離ならまだ追い付け「『フリーズランサー!!』」!!」

 

 

 今度はレイディーが氷の術を使いカオス達とランドールの間に氷の槍で境界を作る。

 

 

 

 

 

 

レイディー「敵に背中を見せるとは随分と余裕かましてくれんなぁ。」

 

 

ミシガン「アンタの相手は私達だよ!」

 

 

タレス「カオスさん達の邪魔はさせませんよ。」

 

 

ウインドラ「モード・インフェクションとか言ったか?

 それを見るのは二度目になるな。

 …そしてその力を破るのもお前で二人目になるわけだ。」

 

 

 

 

 

 

ランドール「…その反応………、

 テメェ等まさかラーゲッツと………。」

 

 

レイディー「そのまさかさ。

 ダレイオスでその力を使ったラーゲッツは案外とあっさりやられたぜ?

 お前もそれに続きそうだなランドール。」

 

 

ランドール「!!

 ………俺をあの落ちこぼれと一緒にするなぁ!!

 テメェ等纏めてこの俺が始末してやるよ!|」

 

 

 ランドールはウインドラ達の挑発に乗りまんまとカオス達への意識を外してしまった。

 

 

 それによってカオス達は城の中へと侵入することに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………本当に有り難う。

 ウインドラ、レイディーさん、タレス、ミシガン、カーヤ………。」

 

 

アローネ「皆のためにも私達は先を急ぎませんと。」

 

 

カオス「そうだね。

 皆が期待してくれてるんだ。

 

 

 

 

 

 

 絶対にバルツィエの独立はここで止めて見せる。」



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この戦いが終わった後の世界

王都レサリナス 城内内部

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 カオス達が城の中へ入ると外から激しい衝撃が伝わってくる。ウインドラ達がランドールと戦っているのだろう。

 

 

カオス「ウインドラ達………大丈夫かな………?

 ランドールを相手にするのはやっぱり無理があったんじゃ……。」

 

 

アローネ「カオス、

 ランドールのことは皆にもう任せることにしましょう。

 私達は私達のここでの目的を遂げることだけを考えるようにするのです。」

 

 

カオス「アローネ………、

 ………うん………そうだね………。」

 

 

アローネ「…皆のことが心配なのは分かりますがここにはラーゲッツをパワーアップさせたようなレッドドラゴンもいないのですし皆だけでランドールを抑えることはできますよ。」

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「………行きますよカオス。

 ここで止まってフェデール達を取り逃がしたとあってはウインドラ達に示しがつきません。

 彼等は彼等の勤めを果たしておられるのです。

 私達だけが何も成果を残せなかったとあれば皆が何のために私達を先に向かわせてもらったか分からないではないですか。

 

 

 ほら私についてきてください。」ハシッ、

 

 

 アローネはカオスの手を取り先に進んでいく。レサリナスの城の中へは初めて入るというのに疑うことなく通路を歩いていく。

 

 

カオス「アローネ、

 この城の構造が分かるの?

 フェデール達がどこにいるのか知ってるの?」

 

 

アローネ「いいえ、

 ですが城というものは大抵が上層の方に高貴な方の資質を配置する傾向にあります。

 ウルゴスでもそうでしたので上階に向かえばフェデール達もそこにおられるかと。」

 

 

カオス「一応フェデール達ってこの国の王族と貴族なんだから玉座の間とかにいるんじゃないの?」

 

 

アローネ「公務でならともかく常に王族が玉座にいるというわけではありませんよ。

 そういった場所は来客者が来て面会などの用がない限りそこに留まっていたりはしません。」

 

 

カオス「そうなんだ……。」

 

 

アローネ「えぇ、

 ですからフェデール達はここよりも上部にいるはずです。

 今の私達のような不穏分子が攻めてきた時に低層階から制圧されていきますので王族やその関係者は被害を真っ先に受けないように入り口とは遠い位置に部屋を用意するのです。

 入り口から遠い………即ちこの城では最上階付近にアレックスとフェデール、それからクリスタル陛下とアンシェル姫がおられると思われます。」

 

 

カオス「じゃあ階段を探して上に登っていけばいいんだね?」

 

 

アローネ「えぇ、

 それでフェデール達を見付け出すことができるはずです。」

 

 

 アローネの提案によりカオス達は城の階層を上がっていくことにする。アレックス、フェデールの両名を捕らえるために。

 

 

カオス「…アローネがいてくれて助かったよ。

 俺だけだったら多分一々一階からくまなく探していってただろうから凄く時間がかかってただろうしこんな広いお城の中どこから手をつけたらいいのやらで………。」

 

 

アローネ「カオスはこの様な建物の中に入られたことがないので仕方ありませんよ。

 私もクラウディアの娘として王族をお守りするためにこうした知識を父から教わっただけですので。」

 

 

カオス「クラウディア………、

 前に聞いたけどアローネの家ってウルゴスでは貴族の中では一番の家だったんだよね?」

 

 

アローネ「そうですが………。

 …それも姉の不祥事により格が落ちてしまって一番とまでは………。」

 

 

カオス「義兄さんとのことだよね………。

 ……ごめん、

 変なこと言って………。」

 

 

アローネ「別に構いませんが私の家がどうかしたのですか?」

 

 

カオス「…この戦いってさ。

 アローネがダレイオスの王様になったことでクラウディア………ウルゴスの最高貴族とマテオの最高貴族バルツィエがぶつかることになるんだよね?」

 

 

アローネ「!

 ………言われてみればそうなりますね。

 形式的にはそうなりますが………。」

 

 

カオス「………アローネを見てたらアローネの家クラウディアが本来の貴族として正しい姿だったんだと思う。

 バルツィエみたいに力の無い人達を不必要に傷付けたり無意味に敵を虐殺していったりするのなんて国として間違ってる。

 バルツィエがこのままマテオでのさばり続けてたら世界はもっともっと良くない方向に向かっていく。」

 

 

アローネ「………そうですね………。

 彼等が世界を支配してしまった世界………。

 そんな世界が訪れればミストのようにバルツィエの被害にあう村や街が次々と出てくるでしょう。」

 

 

カオス「…もしこの世界が誰かのものになるんだとしたら………それはバルツィエじゃなくて………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「私の………ですか?

 何故そのようなお考えに………?」

 

 

カオス「アローネがバルツィエの代わりに世界を見ていてくれたら誰も傷付かないそんな世界になりそうだと思ってさ。」

 

 

アローネ「一応ダレイオスを代表する立場にはありますがあくまでも同盟でバルツィエとの決着がついたら解消されるのですよ?

 そうなったらカーラーン教会の一会員になります。

 私の上にはカタスがおりますからそんなことにはならないと思いますが………。」

 

 

カオス「じゃあカタスさんと一緒にアローネが世界が悪くならないように見張っててよ。

 カーラーン教会………他の人達がするような差別をしないカーラーン教会ならこんな世の中を変えてくれそうな気がするんだ。

 二人が統治する世界ならもうこんな争いだって起こらない。

 ずっと平和でいられる。

 誰も傷付いたりなんかしない………。

 

 

 ………この星の戦争はこの一回で最後にするんだ。」

 

 

アローネ「………えぇ、

 これからは決してマテオとダレイオスの二国ではなく()()()()()()()()()にしてみせます。

 もう部族や生まれなとで人を隔てる時代は終わるのです。

 

 

 

 六部族と混血が数多く所属するカーラーン教会が手を組んだ今私達はもっと先の文明を築いていけるのですから………。」



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待ち構える宿敵

王都レサリナス 城内内部上層

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ…!

 

 

アローネ「………ここにもいませんか。」

 

 

カオス「変だね………、

 さっきから一人も誰とも出会わないし人の気配がまったくしない………。」

 

 

 城の内部の捜索を開始して十分。カオス達は上の階まで足を運んでいたが誰とも遭遇することなく進んでこれた。

 

 

アローネ「…まさか既にレサリナスから脱出を………?」

 

 

カオス「だけど正面の入り口にはウインドラ達がいるんだよ?

 もし城から出ていったんならあそこを通るでしょ?」

 

 

アローネ「これだけの建造物で出入り口があそこ一つとは限らないでしょう。

 人目につかない脱出口が他にあるのかもしれません。」

 

 

カオス「!

 だったらもうフェデールはここには………!?」

 

 

アローネ「ランドールがすんなりと私達を通したことに着目すべきでした………。

 ランドールも私達が城に入ってから追ってくる様子はなかった………。

 ウインドラ達がランドールを押さえていてくれているのかと思いましたがその実彼は既に役目を終えていたということなのでしょうね。

 私達が城の中の捜索に時間をかければかけるほどフェデール達が逃亡する時間を稼がれることになる………。

 ………始めから私達は誰も残っていない城の中でフェデール達を探していたことになりますね………。」

 

 

カオス「一体どうやって城から出たんだ………?

 街の中だと人目につきそうだしフェデール達は有名人だから隠れて逃げ出すなんてことは出来ないよね?」

 

 

アローネ「………念のためにカオス、

 共鳴で人の気配を探ってもらえますか?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「!

 そうだった。

 そういう手があったね。

 カーヤほど高範囲までは調べられないけどこの城の中くらいだったら………。」

 

 

 カオスは共鳴で城の中の人がいないかを調べる。共鳴の抜けが無いように今いるこの階からゆっくりと下に感覚を伸ばしていく。

 

 

 すると………、

 

 

 

 

 

 

カオス「………!

 ………いる。

 一人だけだけど下の階の方に人がいるよ。」

 

 

アローネ「!

 それがどこだか分かりますか?」

 

 

カオス「………多分これは二階辺りじゃないかな………。

 そんなに離れてはないみたいだけど………。」

 

 

アローネ「その方はどの様なご様子ですか?

 どこかに向かおうとしておられるのではないですか?」

 

 

カオス「…いや………、

 ()()()()()()………。

 じっとその場に留まってるよ。」

 

 

 カオスの共鳴に引っ掛かった人物はこのような状況下で何もせずその場に居続けている。

 

 

アローネ「……?

 給事の方でしょうか………?

 戦うことが出来ないのでどこかに身を隠しているといった感じでしょうか………。」

 

 

カオス「どうする………?

 その人のところに行ってみる………?」

 

 

アローネ「…この様子ではフェデール達はもう城の中にはおられないようですね。

 ですが城の中にいらっしゃる方ならフェデール達がどこに向かったのか聞き出せるかもしれません。

 カオス、

 その方の場所まで案内していただけますか?」

 

 

カオス「分かった。

 じゃあ先ずは下の階に行かないとだね。」

 

 

 カオス達は一旦引き返して二階へと向かう。そこにいる謎の人物にバルツィエのことを聞くためだ。

 

 

アローネ「…しかし何故()()()()おられるのでしょう………?

 誰一人として城内にいないというのにその方はこんな無人の城で一人で何をするために残って………?」

 

 

カオス「分からないけど会ってみるしかなさそうだよね。

 このまま帰ってもウインドラ達に申し訳ないし………。」

 

 

アローネ「…そうですね。

 せめて情報だけは入手しておきませんと………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城内玉座の間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カオス、

 この先にその共鳴に反応された方がおられのですか?」

 

 

カオス「うっ、うん………、

 今もまだ共鳴使ってるけど気配はここからする………。」

 

 

アローネ「…ですがここは………。」

 

 

 カオスの共鳴に反応した謎の人物は玉座の間の方から感じる。玉座の間は恐らくこの城で最も広く作られているのだろう。天井も三階と四階を突き付けて見下ろせるような間取りだ。こんなところに一体どんな人物がいるというのだろうか。

 

 

カオス「………いる………。

 あの椅子の向こうに………。」

 

 

アローネ「椅子の向こう………?」

 

 

 カオスが指を指してその人物がいるであろう場所をアローネに教える。それは三つ並んだ椅子の後ろだった。

 

 

 

 

 

 

アローネ「………そこにおられるのは何方ですか?

 隠れずとも私達には貴方がそこにおられるのことは分かっています。

 出てきてください。」

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 アローネが椅子の裏にいる人物に話し掛けるが警戒しているのか出てくる様子はない。

 

 

カオス「………出てこないね。

 こっちから見に行くしかないか。」

 

 

アローネ「今からそちらに向かいます。

 危害を加えようというわけではありませんのでここで何があったのかをお話「それには及ばないよ。」」パチンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアアアアアア!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達が椅子に近付こうとすると椅子の裏にいたであろう人物が何かのスイッチを押す音が聞こえた。それと同時に室内のマナが()()()()()していくのを感じた。

 

 

アローネ「こっ、

 これは………!?」

 

 

カオス「オールディバイトの………!?」

 

 

 この空間にいる間はマナが消失し術技の使用が制限される。カオスとアローネは人よりも高いマナを持つため完全には封じられたりはしないがそれでも通常事の半分以下まて力が落ち込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタンッ!!

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「「!?」」

 

 

 マナが消えるのと同時にカオス達が入ってきた扉が勢いよく自動で閉まる。慌てて扉に駆け寄ったが扉は頑丈に出来ていて抉じ開けるのにかなり時間がかかるだろう。

 

 

 

アローネ「………罠だったというわけですか………。

 私達はここまで誘き出されたのですね。」

 

 

カオス「始めからここに来ることが分かってたってことか………。

 だけど一体誰が………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「俺だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「「!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玉座の後ろからすっと一人の男が出てくる。その男はカオス達が今もっとも探していた男だった………。



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フェデールとの死闘

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「フェデール!!」

 

 

アローネ「この仕掛けを施したのは貴方だったのですね。

 城の中で私達が来るのを待ち伏せし罠に嵌めるために………。」

 

 

フェデール「別にこれは君達のために用意したものじゃないけどね。

 元々この場所では武器やその類いの物を持ち込むことは禁止されているんだ。

 この椅子に座る王や姫を守るためにね。」

 

 

 椅子の頭に手を置きながらフェデールはカオス達の前へと出てくる。

 

 

フェデール「外の様子を見る限りだと国民達の反乱に乗じてダレイオスも乗り込んで来てるみたいだね。

 ………残念だけど一足遅かったよ。

 もうここには俺の仲間はいない。

 いるのはこの俺だけさ。」

 

 

アローネ「他のバルツィエはどこにいるのですか!」

 

 

フェデール「そんなこと訊かれて教えると思うのか?

 アローネ=リム・クラウディア。

 ウルゴスの民の女。

 ウルゴスの奴に教えることなんて何一つ無いさ。

 知りたきゃ自分で調べるといい。

 この城はもう君達の自由にしてくれて構わない。

 こんな城からは俺達は手を引くからさ。」

 

 

カオス「何………?」

 

 

アローネ「…調べたところで何も手掛かりは無いのでしょうね。

 そういった痕跡は全て消しておられるのではないですか?」

 

 

フェデール「まぁそういうことだよ。

 抜かりはない。

 この城をいくら調べても無意味さ。

 アレックス達がどこに行ったのかは誰にも分からないだろうね。」

 

 

 カオス達を見ながら不適に笑うフェデール。もうこの城の中にはバルツィエを追う足取りは何も残されてはいないのだろう。

 

 

 

 

 

 ………()()()()()()()()()………、

 

 

 

 

 

 

アローネ「…そこまでしておいて貴方がここに残られている意図が分かりません。

 先に言っておきますが私とカオスはこの程度の術式では完全に力を封じられたりはしませんよ。

 私とカオス二人を相手にして貴方はここからどの様に逃げおおせるおつもりですか?」

 

 

フェデール「一番警戒していたのはカオス君だけだったんだけど君もこの()()()()()()()()()が効かないみたいだね。

 さてどうしたものか………。」

 

 

 言葉だけなら困ったようにも聞こえるがフェデールは一貫して余裕の表情を崩さない。まだ何か他に策でも仕掛けていそうだ。

 

 

カオス「またラーゲッツやランドールみたいにヴェノムの力を使う気か?」

 

 

アローネ「たとえヴェノムの力をお使いになられても私達にそれで勝てるとお思いであるなら考えが浅はかと「いや?残念ながら俺にはこれしかなくてね。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャキッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェデールは剣を引き抜き構えた。

 

 

フェデール「君達二人が相手なら()()()()()()()()()()()()()()んだよ。」

 

 

カオス「剣だけで俺達の相手をするのか………?」

 

 

アローネ「気を付けてくださいカオス。

 あぁ言うからには何かあの剣にも仕掛けを施しているに違いありません。

 剣だけで私とカオスを倒しここから脱出を謀ろうというのです。

 迂闊に飛び込めばやられるのは此方です。」

 

 

カオス「うっ、うん。」

 

 

 わざわざカオス達を一人で待ち構えるぐらいだ。余程自分の状況に自信が無ければこうも挑発的な態度を取ったりはしないだろう。

 

 

フェデール「………カオス君、

 戦う前に最後に君にもう一度だけ忠告とお願いをしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その女とは縁を切るべきだ。

 君は本来俺達バルツィエと共にいるべき存在だ。

 マテオでもなくダレイオスでもない俺達だけが君の味方なんだ。

 その女と一緒にいても君は不幸にしかならない。

 今ならまだ間に合う。

 俺と一緒に来てくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一言でフェデールが何故一人でここでカオスとアローネの二人を待ち伏せしていたのか判明した。フェデールはまだカオスの勧誘を諦めていなかったのだ。

 

 

アローネ「貴方はまだそのようなことを………!」

 

 

カオス「………」

 

 

フェデール「ミストのことについてはちょっとした誤解があるんだ。

 あの村に行って君のことを聞いて村の連中には脅しはかけはしたが俺はミストを「俺はバルツィエに染まるつもりはないよ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「いくら俺を説得しようとしても無駄だよ。

 俺はどんなことがあってもお前達の仲間になるつもりは無いからさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャキッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスも剣を構えた。それに続きアローネも羽衣を剣の形に整える。

 

 

 

 

 

 

フェデール「………そうか………、

 だったらもうこれ以上俺から何も言うことはない。

 

 

 今俺の前にいる二人は俺の敵として認識してもいいってことだよね?」

 

 

アローネ「始めから貴方とは敵であることは変わりありません。

 貴方を取り押さえて他のバルツィエがどこに行かれたのか吐かせます。」

 

 

カオス「ミストの村は確かに俺にとっては憎い人ばかりだったけど苦い思い出ばかりじゃない。

 あそこにはおじいちゃんやウインドラ、ミシガンと過ごした大切なおもいでの場所でもあったんだ。

 それを壊したお前を俺は絶対に許したりはしない。」

 

 

フェデール「………そうなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『()()()()()()()()。』」パアアッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フワ………、

 

 

 フェデールは重さを無くすトラクタービームをあろうことか自身にかけた。

 

 

カオス「!」

 

 

アローネ「私達にではなく自分自身に術を………?」

 

 

 

 

 

 

フェデール「()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()な………。

 アルバートに勝つためにこの戦法を思い付いたんだけどね。

 今の君等なら久々に本気を出しても良さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()

 君を敵と見なす。

 敵として君を全力で排除する。

 その女に与する君を野放しには出来ない。

 ここで君等二人はこの俺が始末するとしよう。」



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受け流される力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フワ………、

 

 

 フェデールは床からほんの少しだけ空中に体を浮かばせている。前は騎士団の殆どを高い壁を乗り越える程に浮かばせていたことから今使用しているトラクタービームは制度を少し落としているのだろう。

 

 

フェデール「好きな時に攻めてくるといい。

 俺には君達の攻撃を全て()()()()()()()できるから。」

 

 

カオス「受け流す……?」

 

 

アローネ「誘いに乗ってはいけませんよ。

 あぁ言うからには接近戦は油断なりません。

 ここは遠距離から攻めるべきです。」

 

 

カオス「…分かった。」

 

 

 これまでユーラス、ラーゲッツ、ランドールとバルツィエの面々と戦ってきて彼等は基本的に剣術と強力な魔術による二つの戦法を武器に強気に攻める傾向があった。性格が粗暴な三人ならばそれでしっくりとくるところがあるが人付き合いが苦手で臆病なダインですら他三人と戦闘の癖は似通ったら一面がある。アレックスはどうかは分からないが祖父アルバートもどちらかといえばユーラス達と同じで自分から攻めていくスタイルだった。

 

 

 

 

 

 

 それならこのフェデールはどうだ?本気で行くといいながらも自分から攻めたりはせず此方の出方を窺っている。バルツィエにしては慎重なタイプのようだが………、

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カオス、

 同時に攻めてみましょう。

 五秒後に私と一緒に同時に撃ってみてください。」

 

 

カオス「!

 いいよ。

 それで行こうか。」

 

 

 やはり最初はカオス達とフェデールとの間に距離があるため遠距離から放てる技に限る。カオスは魔神剣、アローネはシュタイフェ・ブリーゼの構えをとる。

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「魔神剣!!」

アローネ「シュタイフェ・ブリーゼ!!」

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 二人の力が同時にフェデールに向かって放たれる。一方はマナを込めた斬撃、もう一方はマナを込めた風の槍。室内の魔力を低下させる術式が影響してダレイオスで二人が使っていた程の火力は無いが人一人は吹き飛ばすぐらいの威力は十分にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

フェデール「へぇ………、

 この部屋の中にいてこんなにも大きな力が出せるのか………。

 もっと術式を改良する必要があるな。

 君達でこれなら()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「「!?」」

 

 

 カオスとアローネの二人から放たれた力はフェデールに着弾する瞬間寸前で二つに裂けて消えた。

 

 

フェデール「出力は中々だけど攻撃が()()()()()()()

 そんな攻撃じゃ俺は倒せないよ。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「………今フェデールは何を………?」

 

 

カオス「………俺には俺達の魔神剣とシュタイフェ・ブリーゼを切り裂いたようにしか見えなかったよ………。」

 

 

アローネ「魔神剣とシュタイフェ・ブリーゼの二つの攻撃を同時に切り裂く………そんなことが可能なのですか………彼には………。」

 

 

カオス「……アローネ、

 もう一度やってみよう。

 今度は俺の魔神剣に合わせて撃ってみてくれないかな。」

 

 

アローネ「…分かりました。

 ではもう一度だけ………。」

 

 

 再度カオスとアローネは自分の剣に力を込める。恐らく先程の現象が錯覚でなければ次に撃つ攻撃もフェデールに防がれるだろう。だがカオスはそれを()()()()あえて同じ手段で攻撃を仕掛けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「魔神剣!!」

 

 

アローネ「シュタイフェ・ブリーゼ!!」

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 先程とは一拍違いの魔神剣とシュタイフェ・ブリーゼ。

 

 

フェデール「またこの攻撃かい?

 君達にはこの攻撃しか手は無いのかな?

 

 

 

 

 

 

 こんなものは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザンッ!!ザンッ!!!

 

 

アローネ「!

 また………!?」

 

 

 フェデールはさも埃でも払うように魔神剣とシュタイフェ・ブリーゼの二撃を切り伏せてみせた。やはりフェデールにはこの攻撃は通用しないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「『シャープネス!!』」パァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・フェデール「「!?」」

 

 

 そのカオスの声はフェデールの()()()()()()()()()()。魔神剣とシュタイフェ・ブリーゼに隠れて飛葉翻歩で一気にフェデールの懐まで入り込んでいたのだ。

 

 

カオス「騙し討ちみたいで気が引けるけど俺達もこんなところで時間をかけてるわけにはいかないんだ。

 さっさとこんな戦いは終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 剛・魔神剣!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガスゥンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもだったら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが他のバルツィエやモンスターが相手だったらこの攻撃で決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャープネスの補助もあって豪快な一撃を受けたフェデールはそのまま壁まで吹き飛びこの戦いは決着がつくはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「かはぁっ……!?」

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオス!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 攻撃で吹き飛んだのはカオスの方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「凄い力だったね。

 いやはや驚いたよ。

 飛葉翻歩の速さもだけどシャープネスでこんなに君の腕力が強くなるなんてねぇ………。」

 

 

 

 

 

カオス「…っ………何が起こって………!」ガラッ…、

 

 

アローネ「カオス!

 ………カオスが力で押し負けるなんて……!」

 

 

 ローダーン火山ではレッドドラゴンの力を吸収したラーゲッツにも勝ったカオスの力が()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

フェデール「大した力だよ。

 ()()()()()()()()()使()()()()()()()()俺の方がそうなってただろうね。」

 

 

カオス「トラクタービーム………?」

 

 

アローネ「あの術は物体の持つ重量を無くして物体を浮かせる術ではないのですか……!?」

 

 

フェデール「君達もトラクタービームについて知ってるみたいだね。

 けどその認識は少し違うなぁ。

 あれはただ重さを無くすだけじゃない。

 重さを無くした物体を()()()()()()()()()()。」

 

 

アローネ「意のままに………?

 それがカオスが貴方に押し負けたのとどう御関係が?」

 

 

フェデール「君達は何か勘違いをしてるようだね。

 さっきのは俺の力でカオスを突き飛ばしたんじゃないよ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「俺が………俺を………?」

 

 

フェデール「そう、

 俺は君の力をただ受け流しただけ。

 受け流して流した力を君に突き返したんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この俺の特技()()()()()()()()でね………。」



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力あっても追い付けぬ領域の敵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ハァ………!ハァ………!」

 

 

アローネ「ハァ………!………ハァ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「どうしたの?

 俺を捕まえるんじゃなかったのかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「ハァ………!

 クソッ………!」

 

 

 先程からカオス達は数では勝ってはいるというのに劣勢を強いられている。

 

 

 

 

 

 

アローネ「シュタイフェ・ブリーゼ!!」

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 この様に遠くからの攻撃は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「ワンパターンだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザンッ!!

 

 

 一刀のもとに切り裂かれてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「瞬迅剣!!」シュッ!!

 

 

 強靭な力と速度を誇るカオスの攻撃は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「攻撃が短調過ぎるな。

 十分に反応出来るレベルだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィンッ!!!

 

 

 

 

 

カオス「うわっ!?」

 

 

フェデール「空破絶掌撃!!」

 

 

ザスッ!!ズザザザザ!!

 

 

 

 

 

カオス「ぅああぁ……!!」

 

 

 どういうわけかフェデールはどんなに力を上げてもカオスの剣を受け止め逆に()()()()()でカオスが吹き飛ばされてしまう。最初の斬り込みではフェデールがカオスを凌ぐ程の腕力でカオスを押し返したのかと思ったが今みたいに一度剣を止めてからの反撃ではフェデールにはカオスを越えるような腕力があるようには感じられない。

 

 

 

 

 

 ………では何故こうもカオスはフェデールに押し負けるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「腑に落ちないって顔してるね?

 君達もそろそろ気付いてきた頃だろ?」

 

 

カオス・アローネ「「!」」

 

 

 

 

 

 

フェデール「力や足の早さじゃ決して俺には負けてない、それどころか君の方が俺よりかも遥かに優れた能力があるのにどうして今俺の方が君達を圧倒してるのか………。

 

 

 

 

 

 

 ………簡単な話だよ。

 君達の力は()()()()()()()んだ。

 そんな真っ直ぐに俺に攻撃してきても俺はそれらにただ別のベクトルを加えるだけで攻撃を反らすことが出来るんだよ。

 だから君達の魔神剣やシュタイフェ・ブリーゼとかいう技は弾かれてるのさ。」

 

 

アローネ「なっ……!?

 ベクトルを加えるだけで………!?」

 

 

カオス「そんなことが………!?」

 

 

フェデール「驚くようなことじゃないよ。

 これが本当の()()()()()さ。

 武術や剣術、魔術なんかは元々人が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだ。

 力で圧倒してくる相手に勝つために工夫をする戦い方こそが本来の人としての戦い方の正しい在り方なんだ。

 今の君達は少し強くなりすぎてそれを忘れてるみたいだけどね。

 ()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「弱者の視点………。」

 

 

 フェデールの戦い方は今までカオス達が戦ってきたバルツィエとは根本的に戦闘の仕方が違っていた。他のバルツィエ達は自分達が持つ力に自信に溢れてそれで圧倒してこようとしてきたがこのフェデールはその逆だった。自分を弱い立場に置くことで強者に対して上手く立ち回る戦い方だった。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

アローネ「…力………ベクトルの向きですか。

 そのようなことを私達にお教えして宜しかったのですか?

 それを私達が知ることで私達が貴方の戦い方に対する対策を講じるとは思わなかったのですか?」

 

 

フェデール「君達に知られたところで君達にはどうすることも出来ないよ。

 俺はこのやり方を一生涯かけてずっと磨いてきたんだ。

 君達のような輩にはこれを教えたとして理解するには百年は時を要するだろうね。

 

 

 

 

 

 

 君達には俺の領域に追い付くことは出来ない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スゥゥ…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「「!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェデールの姿が空気に溶けるように消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ!!

 

 

カオス「うあっ!?」

 

 

アローネ「カオス!?

 ………キャッ!?」ドスッ!!

 

 

 二人はフェデールを見失ったのと同時に攻撃を受ける。今の攻撃は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「()()………、

 日の光を利用して姿を眩ます技さ。

 前にも君達には見せただろ?」

 

 

カオス「…そういえばそんな技がお前にはあったな。」

 

 

アローネ「カウンターだけではないのですね。

 私達からの攻撃はベクトル可変とペインリフレクトのカウンターで防ぎ攻撃には陽炎………。

 中々隙の無い戦い方をされるようですね………。」

 

 

フェデール「これが俺の戦法さ。

 俺は生まれた時からバルツィエの標準的な能力に劣る力しか持ち合わせていなかったんだ。

 アルバート、アレックス、ダイン、ランドール、グライド、ユーラスと俺よりも魔力の高い連中達と肩を並べるにはこういった技術を身に付けるしかなかったんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラーゲッツと同じで俺は()()()()()()()()()()()だったからね。

 ()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「………!」

 

 

 フェデールがカオスと自分が同じだと言う。その言葉にカオスはつい反応してしまう。

 

 

フェデール「君はミストで精霊マクスウェルに憑りつかれてなければ幼少期は悲惨な日々を過ごすこともなかっただろう。

 俺ももし俺が期待されるだけの力を持って生まれていたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「………?

 それはどういう意味だ………?」

 

 

フェデール「………それはね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………!

 カオス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………な………にが………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸が苦しいと思った時に既に胸から鮮血が流れ出ていた。フェデールの話に耳を傾けた隙を狙われカオスは胸から腰にかけて深い傷を負ってしまった。意識を刈り取るその一撃に回復する暇もなくカオスは意識を手放してしまった………。



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炎の援護

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「カオ「動くな。」…!」

 

 

 アローネの喉元に剣が突き立てられアローネは身動きを封じられてしまう。

 

 

 

フェデール「まだ殺しはしてないよ。

 俺も下手にウルゴスの関係者を殺したりするのはマズイからね。」

 

 

アローネ「…この間から貴方は何を仰っておられるのですか。

 カオスはウルゴスとは関係ありません。

 ウルゴスに関係しているのは私です。」

 

 

フェデール「それは分かってるよ。

 君本人がずっとそう言い続けてたしカオスだってウルゴスの時代の生まれじゃなくこの時代の生まれだってことも判明している。」

 

 

アローネ「貴殿方バルツィエはウルゴスの何を知っておられるのですか?

 どうしてバルツィエはウルゴスを敵と認識しているのですか?

 ウルゴスは貴殿方に一体何をしたと言うのですか。」

 

 

フェデール「具体的にはまだ何もされたことは無いよ?

 何かされるとしたら()()()()じゃないかな。」

 

 

アローネ「被害妄想も甚だしい………。

 それでは貴殿方がご勝手にウルゴスに悪意を感じているだけではないですか。

 それで私に高額の懸賞金をかけたりと………バルツィエも案外と臆病な方が多いようですね。」

 

 

フェデール「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「!?」ビクッ!

 

 

 フェデールは鞘を腰から取り外して壁に投げつけた。

 

 

フェデール「………そうやってお前等ウルゴスは人を騙し続けてきたんだろ。

 言葉巧みに人を偽って利用してお前達は何を企んでいるんだ?

 今のこの状況だって………この反乱だって元はお前の与するウルゴスが仕向けたことだろうが。

 何を自分は関係ない体を装ってるんだ?

 アローネ=リム・クラウディア。」

 

 

アローネ「わっ、私がこの反乱を………?」

 

 

フェデール「今街で反乱を先導してるのはブラムだ。

 あいつは前々から怪しいとは思ってたんだ。

 俺達バルツィエに尻尾を振って近づいてきてここに来て手のひらを返してきた。

 あいつがどこかで俺達を裏切ることは察してた。

 その引き金になったのが()()()()()()()()?」

 

 

アローネ「…ミストでのことは貴方が仕出かしたことではないですか。

 貴方がミストを………そこにいた住民とブラムさんの御友人もろとも攻撃して「惚けるな!!」!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「()()()()()!()!()

 

 

 

 

 

 

 俺はミストを焼いてなんかいない!!

 俺がミストにやったのはカオスに対して行ってきた奴等の横暴に脅しをかけただけだ!

 それ以上のことは何もしてなかった!!

 なのに何で俺がミストの連中を殺ったってことになってるんだ!

 俺はこの件に関しては全くの無実だ!

 俺はミストの住人達もブラムの部下達も手にかけてなんていない!」

 

 

 フェデールは珍しく声を張り上げて自らの冤罪を主張する。フェデールとは三回対峙したことのあるアローネだったが彼がここまで感情的に何かを訴える姿は初めて見た。

 

 

アローネ「しっ、しかし現にミストで生き残った方が貴方がミストを攻撃する瞬間をしっかりと目撃されているのですよ………?

 貴方がやったとしか私には………。」

 

 

フェデール「白々しい!

 それはお前達達ウルゴスが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!

 カオスに俺達バルツィエ………いやこの俺に対しての悪印象を植え付けるために生かしてミストをやったのは俺だと錯覚させるために残しておいた駒だろう!

 お前の仲間に()()姿()()()()()()()ミストを攻撃したのが俺だと誤認させてカオスやブラムを動かしたんだ!」

 

 

アローネ「!

 貴方に変装………?

 ………しかし変装出来る方がいたとしてバルツィエ以外に村一つを焼き付くすような力があるような方は………。」

 

 

フェデール「ここまで言ってもまだ俺が犯人だと言い張るか?

 今ならカオスも意識が無いし正直に話してもいいんだぞ?

 俺はお前と話をするためにカオスを眠らせたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 質問に答えろ。

 ウルゴスの目的は何だ?

 最終的にお前達ウルゴスは何をしたいんだ?

 言わなければ俺はここでカオスを殺す。

 さぁ言え!

 アローネ=リム・クラウディア!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネにはフェデールが何を言っているのか全く理解出来なかった。分かることといえばフェデールはミストの件を否認していることと否認した上でフェデールはミストを攻撃したのはウルゴスだと言う。ここまで必死に訴えられればアローネもミストのことは本当にフェデールは関与してなかったのではないかと思い出す………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メラッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ・フェデール「「!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 突然アローネとフェデールの間に火の玉が浮かび上がったかと思うとそれは二人を遮るかのように炎の壁が発生した。

 

 

アローネ「これは………!?」

 

 

フェデール「………これで確定した。

 アローネ=リム・クラウディア……貴様はやはりウルゴスの………!?」ゴオオオオオオオ!!!

 

 

 フェデールが何かを言いかけたがそれを言い切る前に火の壁がフェデールに迫っていく。フェデールは炎から逃れるように後退していく。やがてフェデールは窓際まで後退り………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェデール「アローネ=リム・クラウディア!

 俺はどんなことをしてでも貴様達ウルゴスの野望を阻止して見せる!

 貴様と貴様の組織がこのデリス=カーラーンで何をしようとしてるのかは知らないがどうせろくな企みじゃないだろう!

 俺はそれを何としてでも食い止めてやる!

 バルツィエを舐めるなよ!

 俺はたとえ一人になったとしてもウルゴスの計画を邪魔しにいくからな!

 覚悟していろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パリィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 フェデールはそう言い残すと窓を蹴破り外へと逃げていった。部屋に残されたアローネはそれを呆然と見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………何だったのでしょうか………?

 どうして彼はあそこまでウルゴスを………。」

 

 

 フェデールの捨て台詞が気になるアローネだったがいくら考えてみても彼女には何のことだか分からなかった。それに急に現れた炎の壁もフェデールが飛び出ていったのを確認したかのように消えてなくってしまった。

 

 

 

 

 

 

アローネ「………とにかく今はカオスの傷を治療しなくては………。」

 

 

 この短時間で色々なことが起こりすぎて頭の整理が追い付かないアローネ。一先ずは無人となった城の中でアローネはカオスの回復を待って皆のところに戻ることにした………。



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まんまと逃げられて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………!」

 

 

アローネ「気が付かれたようですねカオス。」

 

 

カオス「………アローネ………。」

 

 

 カオスが目を覚ますとアローネがすぐ隣にいた。そして妙な感触を胸に感じ見てみると服が裂け血がべっとりと付着していた。それを見て自分が先程まで一人の男と戦っていたことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

カオス「………フェデールは………?」

 

 

アローネ「…逃げられました。

 そこの窓から飛び出していって………。」

 

 

カオス「窓から飛び出していった?」

 

 

 視線を窓に向けると確かにそれを頷けるような痕跡があった。人一人分が通れるような穴が開いていて破片も室内にはそう多く散乱していないことから外に向かって圧力をかけて破られたのだろう。

 

 

カオス「…あれから何があったの?

 俺がフェデールに斬られてアローネは一人でフェデールを追い払ったの?」

 

 

アローネ「………いえ、

 カオスが気を失ったあとに私もフェデールに追い詰められて彼に尋問を受けている最中に突然どこかからか魔術による援護を受けて私は助かりました。」

 

 

カオス「魔術による援護を………?」

 

 

アローネ「…そこの床の焦げ痕です。」

 

 

カオス「!

 これか………。」

 

 

アローネ「本当にいきなりでした。

 私とフェデールを遮るように炎が出現してその炎がフェデールに迫っていきました。

 フェデールはそれで撤退しました。

 私にも一体何が起こったのかは………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 カオスは特に意識したわけではないが手で床の焼き目をなぞってみた。すると微かにだが床にはまだ術者のマナが残っていた。

 

 

 そしてカオスはそのマナに弱冠の()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………このマナ………?

 なんだろう………。

 ………俺このマナの感触をどこかで………。)」

 

 

 微量ながらもカオスにはそのマナの感触に記憶があるようでならなかった。つい最近このマナと同じものをどこかで自分は感じたことがあるような気がした。しかしそれがどこで体感したかまでは思い出せなかった。

 

 

 

 

 

 

アローネ「………カオスも意識が戻られたようですし一度ウインドラ達のところへと戻りましょう。

 ランドールとどうなったかも気になりますし。」

 

 

カオス「………そうだね。

 もうフェデールもいないみたいだしここにいてもバルツィエがどこにいるのか分からないみたいだしね。」

 

 

 アローネが見た炎については何か見落としがあるようで気掛かりだったがウインドラ達にはランドールの相手を任せっきりになっている。早いところウインドラ達の応援に向かうのが今は先決だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一先ずはフェデールのことは置きカオス達は城の外に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 城前

 

 

 

 

 

 

 城から出ると入り口でウインドラ達が待っていた。

 

 

ウインドラ「戻ってきたか。」

 

 

ミシガン「フェデールは……!?」

 

 

アローネ「残念ながら取り逃がしてしまいました………。

 申し訳ありません。」

 

 

タレス「そうですか………。」

 

 

レイディー「こっちもランドールを後一歩ってところで逃げられた。

 もう一息でいけると思ったんだがな………。」

 

 

カオス「ランドールが逃げたんですか!?」

 

 

アローネ「彼はどちらに…?」

 

 

ウインドラ「レアバードで街の外にだ。

 ダレイオス軍に街は囲ませてはいるがあのヴェノムの力があっては撃ち落とすことが出来たとしても捕らえることは出来ないだろうな。」

 

 

カオス「………ウインドラ達の方も失敗か………。」

 

 

 城に入るところまでは良かったが結局本命には逃げられてしまった。共鳴で人の気配を探りながら戻ってきたがやはり城の中にはもう誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「!

 皆様!

 御無事ですか!?」

 

 

カオス「ブラムさん………。」

 

 

 情報を共有していると街の方からブラムがやって来る。

 

 

ブラム「城には入られましたか!?

 女王陛下は………姫様はおられましたか!?」

 

 

アローネ「…申し訳ありません。

 既に陛下と姫はこの城の中には………。」

 

 

ブラム「!

 ………そうですか………。

 既に陛下と姫様は街の外に連れ出されていたのですね。

 ………しかし一体どうやってバルツィエは御二人を人目に触れずに街から連れ去ったのでしょうか………。」

 

 

レイディー「アタシ等はこの城の構造がどんなふうになってるかは知らねぇ。

 誰かこの城に詳しい奴はいねぇのか?

 どっかにバルツィエの連中だけが知ってる秘密の抜け穴みたいなのがあるはずだ。

 それが見つからないことにはクリスタルもアンシェルの行方を追うことは出来ねぇ。」

 

 

ブラム「!

 それなら先程私達の方でバルツィエの行方に心当たりのある方とお会いしました!

 ()()()()()()()バルツィエの情報を聞けるはずです!」

 

 

アローネ「あの方………?」

 

 

 ブラムがバルツィエについて何かを知っている人物を呼びに街の方へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………だがその瞬間………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!



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魔獣生誕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!

 

 

 不意に地震が起きる。激しい揺れにレサリナスにいた者達はまともに立ち続けることが出来なかった。それは当然カオス達も同様だった。

 

 

カオス「なっ、何だ………!?」

 

 

アローネ「こんな時に地震………!?」

 

 

ウインドラ「これは………かなり大きいな………。」

 

 

ミシガン「何なのいきなり………!?」

 

 

タレス「…いえ、

 これはただの地震じゃありません!

 何か………()()()()()()()()()()()()()()()です。」

 

 

レイディー「おいおい……、

 こんだけ地盤を揺らすようなのが近くにいんのか?

 一体これから何が始まるってんだよ。」

 

 

カーヤ「!

 あっ、

 あの山の方………!」

 

 

カオス「山………?

 山がどうし……………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………何だ………あれは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――数分前――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜の巣ヴィッファレート ?????

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェデールとランドールは無事にレサリナスを離れたようだな。」

 

 

アレックス「そのようですね………。」

 

 

クリスタル「では………()()()()()()()()()()………。」

 

 

「……うむ。」

 

 

 そう言って見上げる彼等の目の前には山のように巨大な白骨化した何かしらの生物の骨があった。骨格の形状からして爬虫類であることは確実だがよく観察してみると背骨と思われる箇所には翼のようなものがあることも確認できる。これに該当する生物といえば最強の火竜レッドドラゴンが当てはまるが各所で目撃される個体とは明らかに大きさに違いがある。レッドドラゴンは最大でも体長が四十メートル程であるがこの骨はその()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「グルルルルルル…………!!」」」」」」」」」」

 

 

 その巨大な竜の骨のすぐ側には何匹もの檻に入れられた竜の姿があった。種類は様々でダイナソーからワイバーン、エルダードラゴンと竜であること以外には特に統一性が無くそれぞれが檻を破ろうと火を噴いたり暴れたりしている。

 

 

アレックス「…どうしてもこれを起動させなくてはならないのですか………。

 これを動かすには貴方の………。」

 

 

「………仕方なかろう。

 今やバルツィエは世界から孤立してしまった。

 マテオもダレイオスも敵にまわってしまったのなら我等がこれらに勝利をもぎ取るにはこの力を使うしかあるまい。

 私のことは心配するな。

 バルツィエの種を繋げるための戦いだ。

 私は既に息子へと代を引き継いだ。

 流石にこの竜を動かすとなるとお前達か私達の世代の者しか操ることは出来んだろう。

 それなら()()()である私がこれを使うべきだろう。

 わざわざお前達の世代から失敗する可能性のあるこの実験台になることもない。

 ………私の意識が途絶えたら後のことは任せるぞアレックス。」

 

 

アレックス「………はい。」

 

 

「………では………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プスッ…、

 

 

 男は何かが入った注射器を自分へと刺す。その中にあった液体が男の体の中へと注入される。そして男は自ら凶暴な竜のいる檻の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「ギィアアアアオオオオオオオ!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 竜達は一斉に男に襲いかかる。竜達による男の奪い合いが始まった。どの竜が男を食らうか竜達の争いが繰り広げられる。

 

 

「さぁ、

 どいつが私を食らうのだ。

 私はどれでもいいぞ。

 どうせお前達の誰に食われようとも同じだ。

 お前達の力の全て………、

 

 

 ………私が貰い受けるとしよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グカアアアアッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バクリ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男が一匹のダイナソーに食い付かれてそのまま飲みこまれていった。男がダイナソーに捕食されたことで他の竜も獲物がいなくなり諦めたのか途端に大人しくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイナソー「バキッ………バキッ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………………………グッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」

 

 

ダイナソー「ル………ゴアッ………ガガッ………!!」

 

 

 男を食ったダイナソーが急に苦しみだしその場でのたうちまわる。他の竜達はダイナソーのその様子に驚き距離をとって様子を伺っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイナソー「………」

 

 

 やがてダイナソーは一頻りもがいた後立ち上がってフラフラと歩きだした。しかし檻の中に囚われている以上檻の外には出られず歩いた先にいた他の竜に体がぶつかった。

 

 

 

 

 

 

「ボオオアッ!!」

 

 

 ぶつかられた竜はダイナソーに軽く威嚇しダイナソーから離れようとするが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガブリッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッギィイガガガアアアッ!!!?」

 

 

「「「「「「「「「「ゴオオオアアアア!!!」」」」」」」」」」

 

 

 ダイナソーがぶつかった竜に噛み付いた。首元に鋭いが牙が食い込みそのまま食いちぎらん勢いだ。噛み付かれた竜は必死に逃げようとするがいくら暴れても逃れることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュウウウウウウ!!!

 

 

 突然ダイナソーの体から黒い蒸気が吹き出し体がみるみるうちに溶けていった。食い付かれていた竜もダイナソーに巻き込まれる形で体が溶解していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くするとその溶けた体が他の竜達をも飲み込みだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「グオオアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 竜達の断末魔が竜の巣ヴィッファレートに響き渡る。そうして檻の中には謎の液状の物体だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュウウウウウウ!!!バキンッ!!

 

 

 物体は檻を壊して外に出てきた。それからアレックス達が見守る中物体は前述の骨を吸収していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メキッ!!メキッ!!メキメキッ!!

 

 

 巨大生物の骨を吸収した物体は徐々にその体を液体から個体へと変化させていく。物体が生物の形を形成しているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは最終的に巨大な竜の姿へと形を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

????????「ブルルグゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「遂に………この時が来た……。

 この()()()()()()()()で我等が世界を取るときが………。」



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最古の祖竜ラグナサンライズ

王都レサリナス 東入り口

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワザワザワ………!!

 

 

 カオス達が城から出た頃レサリナスの外では大変な騒ぎとなっていた。

 

 

 

 

 

 

オーレッド「なっ、何じゃあれは………!?」

 

 

ミネルバ「動いてるよね………!?

 あれは生き物なのかい!?」

 

 

ファルバン「ドラゴン種………だがあれほどの巨体の竜種は見たことが無い………。」

 

 

クララ「………この短期間でユナイテッド・アンセスターセンチュリオンに並ぶ巨大生物を目にすることとなるとは………。」

 

 

オリヘルガ「どうなってやがんだマテオは!?

 あんな竜がマテオにはいたのか!?

 あんなもんがいてどうやって今まで生活してこれたんだ!?

 レッドドラゴンの何十倍もデケェぞ!?」

 

 

 地震が起こったかと思いきやレサリナスから北東の山が崩れだし何事かと眺めていると大きな翼を広げた謎の怪物が登場した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「ファルバン!」

 

 

ファルバン「!

 アローネ陛下…!」

 

 

 ダレイオス軍一同が驚愕する中アローネ達もそこに合流する。

 

 

ハーベン「陛下!

 お怪我はありませんか!?」

 

 

アローネ「私なら心配ありません。

 それよりも今はあの怪物をどうにかするのが先です!」

 

 

ファルバン「陛下………、

 我々はマテオにあのような化け物がいることなど聞いておりませんぞ。

 マテオには前々からあの様な種が存在しておられたのですか?」

 

 

レイディー「そんなわけねぇだろうが。

 あんなどデカイのがいたらマテオになんて暮らせてねぇよ。」

 

 

オサムロウ「…となるとアレは今この瞬間に出現したということか。

 一体何なんだあれは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クララ「………!

 “ラグナサンライズ”………。」

 

 

 

 

 

 

 皆が怪物に注視する中アインワルドの巫女クララが怪物に向かって名称らしきものを呟いた。

 

 

アローネ「ラグナサンライズ………?」

 

 

カオス「ラグナサンライズ………どこかで聞いたような………。」

 

 

ウインドラ「ラグナサンライズだと………!?

 馬鹿な!

 あれは考古学者によって遥か昔に絶滅したとされる種だ!

 現代にいる筈の無い太古の竜種が何故マテオに現れる!?」

 

 

 ラグナサンライズ、あらゆる竜の祖先とされる生物でデリス=カーラーンで起こった数度の絶滅以前にこの星に生息していた生物だ。発見された骨からレッドドラゴンが最も近い種とされているがその大きさは人とレッドドラゴンを比較した関係図をそのままレッドドラゴンとラグナサンライズに置き換えたような形となる。

 

 

 

 

 

 

レイディー「………おいお前、

 どうしてアレを見てアレがラグナサンライズだと思った?

 何かアレについて知ってんのか?」

 

 

クララ「!

 私は………。」

 

 

アローネ「………!

 もしやクララさん、

 ラタ…………………()からお聞きに?」

 

 

クララ「…はい………、

 彼はこの星の歴史に精通していますのであの竜についても見たことがあるらしく私達がラグナサンライズと呼ぶ種で間違いないようです………。」

 

 

アローネ「…そうですか………。

 

 

 ………レイディー。

 あの怪物はラグナサンライズという種で確かなようです。」

 

 

レイディー「何………?」

 

 

ミシガン「どうしてそんな大昔の竜が突然………。」

 

 

タレス「………考えられるとしたら()()()()()()()()()

 奴等が何かしたに違いありません。

 フェデールとランドールに逃げられた直後に現れたのですから。」

 

 

カオス「あれがバルツィエの仕業………。」

 

 

 タイミング的にバルツィエが関与している可能性は非常に高い。ダレイオス軍の侵出に始まりレサリナスでの反乱とカオス達の襲撃を含めてここでの出現はフェデールやランドールのより確実な逃亡にも作用するだろう。

 

 

レイディー「………ラグナサンライズか………。

 アタシがまだレサリナスのヴェノムの研究室にいた時にやけに多くの生物の資料をバルツィエが集めてると思ったら全ては()()()()()()()()()()()()()()()だったんだな。

 

 

 ヴェノムウイルスは不安定なウイルスだが生物の傷を癒やす力を持ってるんだ。

 もしヴェノムウイルスを完全にコントロール出来たらその内()()()()()()()()()()()()()なんじゃないかと思ってはいたがまさかバルツィエがあんなもんを復活させたかったとはな………。」

 

 

ミシガン「でっ、でもあのラグナサンライズってのを復活させたかったんだとしてもあの竜がバルツィエに大人しく従うとは限らないでしょ!?

 逆にあの竜にバルツィエが襲われたりは「忘れたんですか?」」

 

 

 

 

 

 

タレス「ラーゲッツのことを思い出してください。

 ラーゲッツはヴェノムウイルスに意識を取り込まれずに制御してました。

 それどころかイフリートに食べられたにも関わらずその体を乗っ取ってしまいました。

 バルツィエがただあのラグナサンライズを甦らせたとは考えられません。

 ………恐らくあのラグナサンライズもバルツィエの誰かによって意識を………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??????「その通りでございます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」

 

 

 カオス達がラグナサンライズに危機感を募らせているとレサリナスの中から白髪の紳士風な男がやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セバスチャン「あのラグナサンライズは計画的にバルツィエが復活させたものです。

 あれを操っているのは先代のバルツィエの当主バリスでしょう………。

 バルツィエはあの力を駆使してこれから恐ろしいことを始めるおつもりなのです。」



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教会の遣いセバスチャン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「あれ………この人!?」

 

 

ウインドラ「バルツィエ傘下のフェデールの側近のセバスチャン!?

 何故こんなところに……!?」

 

 

ミシガン「え!?

 バルツィエの人………!?」

 

 

 セバスチャンの登場とバルツィエの傘下と聞いて皆セバスチャンに対して武器を構えて警戒する。他の者達もカオス達を見てセバスチャンを敵であると認識し取り囲んでいく。しかしそこに………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラム「お待ちください!

 この方は皆様の敵ではありません!

 此方の味方です!」

 

 

 ブラムがやってきてセバスチャンを庇うように前に立つ。

 

 

ウインドラ「味方だと………?

 しかしこいつは………。」

 

 

ブラム「先程私が皆様に紹介しようとしていたのはこの方でございます!

 この方はバルツィエに密偵として潜入していただけなのです!」

 

 

レイディー「密偵………?

 どこの密偵だよ?」

 

 

 

 

 

 

セバスチャン「皆様は私のことを御存知でおられるようですね。

 では再度正式に自己紹介をさせていただきます。

 

 

 私の名はセバスチャン=ゼパル・ナベリウスと申します。

 これで一応侯爵の位を陛下より賜りましてバルツィエの執事として仕えておりました。

 バルツィエには百五十年程御世話をしておりましたがそれより以前は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「!?」」」」

 

 

アローネ「総大司教………?

 では密偵というのはカーラーン教会の………。」

 

 

セバスチャン「左様でございますアローネ様。

 私はその昔バルツィエの素行が問題になってきた頃にカタスティア様の御意向でバルツィエの同行を探るよう仰せ使われました。

 私が真に所属するはバルツィエではなくカーラーン教会でございます。」

 

 

レイディー「総大司教ねぇ………。

 百五十年となるとアタシもその辺りのことはカタスとは大して関わりが無かったから知らねぇ範囲だな。

 ………それにしてもよく百五十年もあいつらに仕えてたな。

 苦痛じゃなかったのか?」

 

 

セバスチャン「確かにバルツィエの方々は少々気の荒い方達が多く執事の仕事は大変ではありましたが全ては私を拾っていただいたカタスティア様のためと思えばそれほど苦ではありませんでした。」

 

 

 

 

 

 

ハーベン「アローネ様………、

 彼は教会の者と見ていいのでしょうか?」

 

 

アローネ「………えぇ、

 カタスのお知り合いの方のようですし先ずは彼を信じてみましょう………。」

 

 

 今までバルツィエの仲間と思われていた男が急に実はカーラーン教会の密偵だったと知らされ中々警戒心を解くことは難しかったがとりあえずは彼の話を聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

セバスチャン「…バルツィエはこれからあの先代当主バリスが操るラグナサンライズでマテオに先制攻撃を開始するでしょう。

 先代当主バリスはバルツィエが開発した新型ヴェノムワクチンを自らに投与しあの場所竜の巣ヴィッファレートに生息する竜達に自身を食させその体を奪ったのです。

 竜の力を得たバリスはその後も他の竜達を吸収し最後にあの地で発見された最古の古竜ラグナサンライズの骨に乗り移りあのラグナサンライズが完成しました。」

 

 

ウインドラ「ラーゲッツがやっていたアレか………。」

 

 

ミシガン「それとアンセスターセンチュリオンの合体もだね。」

 

 

タレス「あれだけの巨体の骨となると動かすための肉質が足りずに竜で補ったんですね。」

 

 

レイディー「バリス………っていやぁ()()()()()()()()じゃねぇか。

 ………それであのラグナサンライズにはバリスの精神は残ってるのか?」

 

 

セバスチャン「()()()()バリスの意識はあるでしょうね………。」

 

 

アローネ「“今はまだ”とは?」

 

 

 

 

 

 

セバスチャン「新型ヴェノムワクチンは一度摂取すると周りの生物を吸収しながら急成長していきます。

 摂取直後暫くは投与した本人の意思は残りますが現段階で新型ヴェノムワクチンに()()()()()()()()()()()()()()

 ヴェノムワクチンに適合出来ない投与者はいずれヴェノムに精神を乗っ取られてただのヴェノムと成り下がってしまうのです………。」

 

 

 セバスチャンが言っているのは恐らく精神汚染のことだろう。あのラグナサンライズを動かしているのはバリスという人物らしいがその内理性を失いヴェノムと成り果てるようだ。

 

 

 ………要するに厄介なことになる前にあの巨竜を倒さなくてはならないのだが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと山の方から強い風の音がした。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「!!?

 ブレスが来ます!!」

 

 

アローネ「なっ……!?

 全員避けてゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラグナサンライズが口から黒い熱線を吐き出した。その熱線は一吹きで山の上からカオス達がいるレサリナスにまで届きレサリナスの南部側に作られた堅牢な外壁を消し飛ばした………。



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巨竜の咆哮

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラ………!!

 

 

 

 

 

 

カオス「レサリナスの壁が………!?」

 

 

アローネ「ただの竜の息吹きではありません!

 あれは殺魔の息吹きです!」

 

 

ウインドラ「あんな距離からここまで攻撃が届くのか!?

 あそこからここまで十キロは離れてるんだぞ!?」

 

 

レイディー「デカイ図体してるだけあって射程距離は相当だな。

 多分だがありゃその気になればダレイオスまであの息吹きは届くぞ。」

 

 

タレス「破壊性能もラーゲッツの時の比ではありません………!

 もしあの息吹きが此方に飛んできていればそれだけでダレイオス軍は全滅していたでしょう………!」

 

 

 ラグナサンライズが放った殺魔の力はたった一度の砲撃でダレイオス軍の戦意を殺ぐ程の力を持っていた。あれがもしレサリナスの中心を正確に捉えていればその中間にいたダレイオス軍は崩壊の一途を辿っていたことだろう。

 

 

オーレッド「おっ、おい!?

 あんな攻撃はオールディバイドでも防ぐことは無理じゃぞ!?

 カオスと陛下であの咆哮を防げんのか!?」

 

 

ファルバン「情けない話だがあの力に対抗出来るのはカオス殿と陛下の力以外には我々には手がないな。

 あの咆哮がある限り我等はあのラグナサンライズに近付くことすら出来ぬ………。」

 

 

オサムロウ「カオス、アローネ、

 どうにかあのラグナサンライズの攻撃を二人で受けきることは出来ないか?

 何もせずここで立ち呆けていても次の砲撃が飛んでくるだけだ。

 我々だけだったら何も出来ず撤退するしかないがソナタ等がいればあの咆哮の一撃は防げると思うが………。」

 

 

 オサムロウが言うように現状ではあのラグナサンライズの力に対抗出来るのはカオスとアローネだけだろう。他の者達ではラグナサンライズの力に力負けし無惨に散るだけだ。千を越える数の軍であっても一人一人の力はバルツィエに毛が生えた程度の力しかない。それらが全て合わさったとしてもあのラグナサンライズには到底及びはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラグナサンライズ「コオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 そんなことを話し合っている内に次の第二破をラグナサンライズが撃とうとしていた。

 

 

オリヘルガ「やべぇ!!

 もう一発来るぞ!?」

 

 

クララ「総員待避してください!!

 ここはまだ射程軸圏内です!」

 

 

ミネルバ「下がって!!

 もっとあの攻撃が届かないところまで下がるんだよ!」

 

 

シーグス「急にはそんなところまで走れねぇよ!?」

 

 

 またラグナサンライズから殺魔の光線が飛んできそうになりダレイオス軍は慌てふためく。あれに当たれば周辺の景色ごと消し飛ばされてしまうだろう。その恐怖からダレイオス軍は散会して後方へと避難しようとする。

 

 

アローネ「全員散らばらないでください!

 皆纏まって私とカオスの後ろへ……!」

 

 

カオス「駄目だ間に合わない………!」

 

 

 砲撃に対応しようとカオスとアローネが前に出るが後ろにいるダレイオスの者達が散り散りに逃げていくためにもしそちらを狙われたら守りようがない。

 

 

 

 

 

 

 ………とそんな中カオスとアローネの隣にセバスチャンが歩み出てくる。

 

 

アローネ「!?

 何をなさっているのですか!?

 早く私達の後ろへ「その必要はなさそうです。」」

 

 

 

 

 

 

セバスチャン「恐らくですが次の攻撃は此方には来ませんよ。

 バルツィエが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 どういうわけかセバスチャンはラグナサンライズが次に攻撃する場所を予言する。何故そんなことが分かるのかとセバスチャンに問おうとした瞬間ラグナサンライズは砲撃を発射した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラグナサンライズ「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「「!?」」

 

 

 

 

 

 

 セバスチャンが指摘した通りラグナサンライズの砲撃は此方には飛んでは来なかった。代わりに砲撃は南の方のカストルがある付近に発射しその辺りから轟音が響いてきた。

 

 

セバスチャン「やはりカストルを攻撃しましたか。

 私の考えは正しかったようですね。」

 

 

カオス「どっ、

 とうしてカストルが狙われるって分かったんですか?」

 

 

アローネ「普通に考えれば私達ダレイオスが集まるこの場所を攻撃する筈ですのに何故バルツィエはカストルを………?

 貴方にはバルツィエがなさろうとしていることが分かるのですか?」

 

 

セバスチャン「はい、

 バルツィエはこの後もイクアダ、リトビアと随時攻撃を行うでしょう。

 

 

 彼等の目的は各地に設置されている()()()()()()()()()()()()。」

 

 

アローネ「封魔石を破壊………?」

 

 

 封魔石とは内部にヴェノムを寄せ付けない障気を封じ込めた岩のことである。封魔石はバルツィエが開発し統治した村や街に置かれているものだが何故それを破壊するのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セバスチャン「バルツィエは封魔石を破壊することによってそれが置かれていた街々にヴェノムを雪崩れ込ませようとしています。

 マテオ各地にある封魔石のある街には人口が密集しています。

 そこにヴェノムが侵入すれば感染が大規模に拡大しマテオ中はヴェノムで溢れかえることでしょう。

 

 

 バルツィエはヴェノムを広げることで貴女方ダレイオスとの数の開きを一気に縮めるつもりなのです。」



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各地に降り掛かる竜の砲撃

安らぎの街カストル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

「どうした?」

 

 

「何か………遠くの方から音がしないか?」

 

 

「音?」

 

 

「ほらよく耳を澄ましてみろよ。」

 

 

「……本当だ。

 何の音だ?」

 

 

「さぁ………?」

 

 

「………何かこの音段々大きくなってないか?

 こっちに近付いて来るような………。」

 

 

「何だろうな………?

 亀車でもこんな音は出さないだろ。

 一体何がドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 

 

 

 

 

「なっ何だ!?」

 

 

 音が澄まさずに聞こえる程大きくなった途端二人の男達の近くで爆発が起こった。

 

 

「なっ…!?

 攻撃を受けたのか!?

 このカストルが…!?」

 

 

「どこからだ!?

 どこから攻撃が飛んできた!?」

 

 

「!?

 それより見ろ!

 今のでこの街の封魔石が……!?」

 

 

「何……!?

 ………あぁ!

 封魔石が砕け散っている!!」

 

 

「マズイんじゃないか………!?

 封魔石が壊されたら街の外からヴェノムが入ってきちまうぞ!!」

 

 

「直ぐに騎士団にこのことを伝えろ!

 封魔石が何者かによって破壊されたこととこの街の周辺にいるヴェノムがカストルに侵入してくる危険性があることを!

 俺はギルドに行って急いで街の皆を安全な場所まで誘導するよう応援を頼んでくる!」

 

 

「わっ、分かった!」

 

 

 男達は手分けして街に危機が訪れたことを報せに走った。ラグナサンライズの熱線で封魔石を砕かれた街はどこもこの様に奔走することとなった。これまでは封魔石のおかげで街の中は安全であったが封魔石が無くなった今街の中にいてもヴェノムがやってこれるようになり安全ではなくなった。ヴェノムの大出現以来の大事件でマテオ中はどこもパニックに陥っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都レサリナス 東入り口

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セバスチャン「このレサリナスも直にヴェノムが侵入しに集まって来るでしょう。

 南の門が破られた今ヴェノムは南方よりレサリナスへの侵入を試みます。

 レサリナスの外壁は封魔石と同じ造りをしていましたためそれが破壊されたとあってはヴェノムに入ってきてくれと言わんばかりの状態です。

 ここを放置するとこのレサリナスの市民達が皆感染する恐れがあるでしょう。

 そうなれば()()()()()()()()()が皆様の敵となります。」

 

 

オーレッド「すっ、数万じゃと!?」

 

 

クララ「私達がやっと二千に達したというのにこのレサリナス一都市だけで私達の軍勢の五倍以上の人が………。」

 

 

シーグス「けっ、けどよ?

 ヴェノムってんなら別に俺達でも倒せなくないよな?

 数万っつってもヴェノムの知能ならそんなに怖くは「レサリナスだけじゃないだろ?」…!」

 

 

ミネルバ「考えてもみなよ。

 レサリナスで数万ってことは他の都市にもまだそんぐらいの数のマテオの連中がいるってことになる。

 全部の村や都市を合計すると“十万”にもなるだろうね………。」

 

 

シーグス「十万………………五十倍………。」

 

 

 カオス達もレサリナスの総人口がどれ程に上るのかは把握してはいなかったがカストルもレサリナスに劣らない広さがあった。イクアダとリトビアもそれに準じて面積が広く人もそれなりにいた記憶がある。

 

 

ファルバン「…今はまだ暴れだすことはないがもしここを放置してヴェノムが蔓延すればそれだけの明確な我々の敵となるわけか………。

 総数比五十倍とは末恐ろしいな………。」

 

 

オサムロウ「それだけじゃないぞファルバン。

 敵はその辺のヴェノムに限らず今我等の目先にいるあのラグナサンライズまでいるのだ。

 あれを倒せなくてはダレイオスに未来は無いぞ。」

 

 

 もしマテオ中に感染者が溢れかえれば精霊の力を得ていたとしても数に圧されて敗北するのは濃厚だろう。そうなればダレイオスに逃げ帰るしかないがラグナサンライズがいる以上ダレイオスに戻ったとしても先程の殺魔の光線で砲撃されるかもしくはラグナサンライズ自身がダレイオスまで追ってくるだろう。

 

 

アローネ「ラグナサンライズと感染者を同時に相手するとなると流石に私とカオスだけでは皆を守りながら戦うのは厳しいところですね……。

 どうにか片方のラグナサンライズに集中したいところですがそうなるとマテオの人々をヴェノムから遠ざけなくてはなりませんし………。」

 

 

ハーベン「………!

 アローネ様!カオス様!

 あの術を御使いになられてはいかがですか!?

 あの一月前に私共ダレイオスの者達に付与されたあの術ならマテオの者達がヴェノムに変貌することを防げるのではないですか!?」

 

 

ファルバン「!」

 

 

カオス「!

 そうか………あの術なら………精霊の力をマテオの人皆に与えられればマテオの人がヴェノムに感染することはなくなる………。」

 

 

 ハーベンがカオス達に提示した策であれば直ぐにでも精霊の力をマテオの者達に分け与えることができマテオの者達の感染を食い止めることが可能だ。

 

 

アローネ「では早速それを実行し「待て!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「早まるな!!

 まだあの力をマテオに渡してはならん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスが術を使おうとした瞬間オーレッドが何故かそれを引き止めに来た。

 

 

 

 

 

 

カオス「え………?

 何でですか………?」

 

 

アローネ「オーレッド………事態は一刻を争うのです。

 マテオの人々がこのままでは全員ヴェノムに「まだ感染するとは決まってないじゃろ!?」」

 

 

オーレッド「ここで()()()()()()()()()()マテオの連中に渡すのは早計じゃ!

 バルツィエが暴走したとあってはマテオの連中もバルツィエとは敵になるのじゃろうが儂等の味方になるとは限らんぞ!?

 儂等に敵意を向けてくることも考えられる!

 今ソナタ達は儂等ダレイオス側についておるではないか!

 ダレイオスの負担を増やすようなことはせんでくれ!」

 

 

 オーレッドは頑なにカオスに精霊の力を与える術リザレクションを使わせようとするのを阻止してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーレッド「とにかく!

 儂はマテオの連中に力を与えるのは反対じゃ!

 どうしてもと言うなら儂等がそこらのヴェノムをどうにかするわい!

 それで問題は解決じゃろ!?」



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フェデールのあの言葉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「「………」」

 

 

 

 

 

 

オーレッド「頼む!

 まだあの力を使うのは待ってくれ!

 ただでさえ儂等ダレイオスに状況は不利なのじゃ!

 マテオの連中がどう動くか分からん状態で不用意にあの力は使わんでくれ!

 もし儂等に向かって来ればヴェノムより厄介じゃ!」

 

 

ウインドラ「そんなことを言っている場合か!

 こうしている間にも封魔石が破壊されて各方面にヴェノムが押し寄せているのかもしれんのだぞ!?

 マテオの人々を見殺しには「余もオーレッドの意見に賛成だ。」何!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意外にもオーレッドの意見に乗っかる人物が現れた。

 

 

ファルバン「マテオの者達に精霊の力を与えるのは賛同しかねる。

 人は力を持てばそれを使おうとするだろう。

 これは戦争だ。

 不確定要素が多い中でマテオの者達に説明も無く力を与えればどうなる?

 ………無論彼等は我等にも抵抗してくるだろう。

 そうなれば払わなくていい犠牲者が出てくる。

 犠牲を避けるためには彼等には()()()()()()()()()()()方が我々も動きやすい。」

 

 

ウインドラ「………しかしだな。

 今この瞬間にもヴェノムが街を襲っていないとは言い切れないのだぞ?

 俺達と違ってマテオの皆は………。」

 

 

ファルバン「そう急くことでもないだろう。

 ヴェノムと戦う力が無いのであればマテオの者達もヴェノムから逃げるほかない。

 

 

 オーレッドが言ったようにマテオの者達は我等六部族の方で対応することとしよう。

 陛下等はあのラグナサンライズの対処にあたってくれまいか。

 我等の力ではあの竜に返り討ちにされるだろう。

 その点陛下とカオス殿の力があればあの竜に勝てるだろう。

 ここは役割を分担すべきなのではないか?」

 

 

 ファルバンの意見にダレイオスの他の部族達も同意しそのように動こうとする。

 

 

レイディー「…こりゃこいつらの考え通りに動くしかねぇだろうな。

 ラグナサンライズはアタシ等でなんとかするしかねぇ。

 あんなギガントモンスターをこいつら引き連れて倒しに行ったとして無駄に死人が出るだけだ。

 アタシ等だけであの巨獣を退治しに行くぞ。」

 

 

アローネ「………そうですね。

 現状ではそれが最善のようですし………。」

 

 

タレス「少し心配な部分がありますがマテオの人達は彼等に任せましょう。

 ボク達はあのラグナサンライズのところへ。」

 

 

ミシガン「フェデールとランドールもあの竜の場所に行ったんだよね?

 だったら私もそれでいいよ。

 フェデールは今度こそ私が倒すから。」

 

 

アローネ「!」

 

 

カオス「それじゃあ直ぐにでも行こうか。

 前みたいに俺が皆を連れていくよ。

 トラクタービームでなら一っ飛びであそこまで行けるしね。」

 

 

ウインドラ「早急にラグナサンライズを倒すぞ。

 恐らくあれがバルツィエにとっての最後の切り札だ。

 あれを倒してしまえばバルツィエにはもう後が無いだろう。

 クリスタル女王陛下もきっとあそこにいる。

 彼女を助け出してこの戦争を一刻も早く終わらせるんだ。」

 

 

 カオスがトラクタービームを発動させ地面から岩石を持ち上げる。カオス達はそれに乗り竜の巣ヴィッファレートに飛び立とうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「ちょっと待てカオス。」

 

 

カオス「!

 オサムロウさん。」

 

 

 いざ進もうというときにオサムロウがカオス達を引き留めてきた。

 

 

オサムロウ「………我もそれに乗せてくれまいか?

 我もソナタ等と共にバルツィエとの戦いに出陣したいのだが………。」

 

 

カオス「オサムロウさんが………?」

 

 

タレス「他のダレイオスの人達はどうするんですか?」

 

 

オサムロウ「そちらは大丈夫だろう。

 人員は十分に居るからな。

 それよりもソナタ等の方が心配だ。

 レサリナスではフェデールとランドールの二人を取り逃がしたのだろう?

 やはりソナタ等だけに任せきりな部分があったと思う。

 実力はあっても七人という人数じゃどこかで隙が生じるだろう。

 それなら我がソナタ等に同行してその隙を少しでも埋めることとしよう。」

 

 

レイディー「要するにアタシ等だけじゃ心許ないって言いてぇらしいな。」

 

 

カオス「………どうしようかアローネ。」

 

 

アローネ「………」

 

 

カオス「………アローネ?」

 

 

アローネ「……!

 はっはい!?」

 

 

ウインドラ「どうした?

 また少し気が緩んでいるようだな。

 何か心配事か?」

 

 

アローネ「べっ、別にそのようなことは………!

 それよりもラグナサンライズの元へ向かうのでしたよね。

 では早速向かうとしましょう。」

 

 

カオス「オサムロウさんはどうするの?」

 

 

アローネ「オサムロウさん………?

 オサムロウさんがどうかされたのですか………?」

 

 

オサムロウ「………」

 

 

ウインドラ「こいつが俺達と一緒に行くと言い出したんだ。

 俺達としては別にこいつがいなくても構わないと思うが………。」

 

 

カオス「アローネはどうするべきだと思う?

 俺は一緒に来てもらった方が助かるけど………。」

 

 

 

 

アローネ「…それならば共に参りましょう。

 オサムロウさんであれば私達の至らぬ部分をカバーしていただけると助かります。」

 

 

 アローネが出した結論はオサムロウも同行させるというものだった。

 

 

オサムロウ「すまんな。

 精一杯ソナタ等の剣となれるよう努めるとする。」

 

 

ウインドラ「先に言っておくが俺達には俺達のやり方ってものがある。

 先走り過ぎるなよ。」

 

 

レイディー「かなりの手練れのようだがアタシ等に付く以上は勝手な真似は許さねぇぞ。

 一つ一つアタシ等の指示を仰いでから行動しな。」

 

 

オサムロウ「………そうさせてもらうとしよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからカオス達は遠望に見えるラグナサンライズのところまで進むのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺じゃない!!

 俺はミストを焼いてなんかいない!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「(………彼のあの発言はどういう意味だったのでしょうか………?

 まさか本当にフェデールとミストは無関係………?

 あの感じでは彼が嘘をついているとは思えませんでしたが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………私達は本当にこのままこの先に進んでもよいのでしょうか………。

 何か私達は大きな見落としをしてしまっているのでは………。)」



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激突の最古竜

竜の巣ヴィッファレート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!

 レサリナスより飛来してくる物体を確認!!」

 

 

アレックス「飛来してくる物体だと………?

 ランドールか?」

 

 

「これは………ランドール様ではありません!

 巨大な岩石が真っ直ぐ此方へ向かってきております!」

 

 

アレックス「岩石………?

 ………と言うことは我等の()で間違いあるまい。

 

 

 

 

 

 

 伯父上。

 あれを迎撃してくれ。」

 

 

 アレックスが頭上を見上げて指示を出す。するとアレックス達を見下ろす巨大な竜がそれに返事をする。

 

 

 

 

 

 

ラグナサンライズ「アレヲ撃チオトセバヨイノダナ?

 任セテオケ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ッッッコオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 

 

 竜は大気をその巨大な肺へと吸い込む。その動作だけで辺りの物が勢いよく竜の口内へと吸い込まれていく。近くにいる騎士団も気を抜けば空気と一緒に口の中へと取り込まれてしまうだろう。そうならないように皆木や岩にしがみついている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして竜は肺に空気が溜まったのを確認してそれを思いっきり吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラグナサンライズ「ゴッフォオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラース国道 上空

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「ブレス来たぞ!!

 避けろ!!」

 

 

カオス「はい!」

 

 

 カオスは術を操作してカオス達が乗る岩を左に移動させる。

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 見事にラグナサンライズの放射する熱線を回避するカオス達。

 

 

 ………だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 ラグナサンライズはカオス達を逃がしたりはしなかった。熱線を吐き続けながらカオス達の方へと頭を向きな直すことで熱線がカオス達を達を追ってきた。

 

 

レイディー「坊や!

 もっと速度を上げろ!

 じゃないと被弾しちまうぞ!」

 

 

カオス「そんなこと言われてもこの術はそんなに上手には操れませんよ………!」

 

 

 魔力は高くともカオスにはそれを精密に操作する技術は無かった。単純に力が大きいだけで加減の微調整はまだ無理だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「……!!

 止まってください!」

 

 

 熱線に当たらぬよう飛び回っているとタレスがカオスに停止するよう要求してきた。

 

 

ミシガン「何言ってるの!?

 動き続けてないとあの炎に当たっちゃうでしょうが!!」

 

 

ウインドラ「タレス、

 何かあったのか?」

 

 

タレス「()()()()()()()()()()()()()()()()()!()

 そっちの方に逃げたらレサリナスに命中します!」

 

 

カオス・ミシガン・ウインドラ「「「!?」」」

 

 

 攻撃をかわし続けるのに夢中で後ろの方に気が付かなかった。あのままかわし続けていたらどこかでレサリナスに直撃していたことだろう。

 

 

レイディー「そいつはマズイな。

 さっきのであの竜の息吹が外壁を貫くのは見たんだ。

 街の中にあんなレーザーが突っ込んでったら少なくても数千人は消し飛ぶだろうな。」

 

 

オサムロウ「一度引き返して迂回するしかないか。

 撤退する姿勢を見せれば砲撃も止むだろう。

 その後は後方を気にせずともよい方角から再度攻めるしかないな。」

 

 

カオス「……そうした方が良さそうですね。

 じゃあ一旦後ろに「いえ直進しましょう!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「今ここで私達が退けばラグナサンライズは他の街へと攻撃を再開するでしょう。

 それでは私達が退く意味がありません。

 私達に攻撃が集中しているからこそここは進むべきなのです。」

 

 

 皆がラグナサンライズの熱線を警戒し別のルートから攻め込む案を推す中アローネは退かずに進むと言い出す。

 

 

ウインドラ「アローネ………、

 しかし近付けば近付く程あの砲撃に当たり易くなるのだぞ?

 カオスもまだ術の制御が難しそうだ。

 他の街のことならダレイオスの皆に任せておけばいいんじゃないか?」

 

 

タレス「そうですよ。

 それに今はボク達が攻撃を浴びないようにしなければいけないのに………。」

 

 

アローネ「あの殺魔の炎は()()()()()()()()

 私が炎を食い止めるのでカオスは私達をあの竜がいる場所まで運んでください。」

 

 

カオス「アローネがあの炎を止める?」

 

 

ミシガン「出来るの!?」

 

 

 最初にレサリナスを攻撃した時から今までの攻撃はどれもセレンシーアインでカオスとアローネが戦っていた時の威力にも匹敵するものだ。一発一旦がアローネのエアスラストやエアブレイドにも相当するだろう。

 

 

 

 

 

 

アローネ「…今の私ならあの竜ともまともに撃ち合える筈です。

 ここで撃ち負けるようであれば誰もあの竜には敵いません。

 

 

 私がやるしかないのです!

 私しかあの竜と戦えるのは………!」

 

 

 アローネから強い意思を感じる。戦時中限定ではあるがダレイオスの王として自分が立ち向かわねばならないという確固たる強さが今のアローネには備わっているようだ。

 

 

 

 

 

 

カオス「………いいんだねアローネ。

 じゃあこのまま行くよ。」

 

 

アローネ「はい、

 ラグナサンライズの攻撃は私に任せてください。

 必ず私が皆を守ります。

 ………そして私が………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのラグナサンライズを倒してバルツィエを捕まえてみせます!

 このような無益な争いはここで終わりにするのです!」



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敗戦………かと思いきや………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラグナサンライズ「コオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「来るぞアローネ!!」

 

 

アローネ「大丈夫です!

 このタイミングなら間に合います!!

 

 

 

 

 

 

 『エアブレイド!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 アローネから真空の刃が放たれる。ラグナサンライズの殺魔の炎にも劣らぬ風の力がラグナサンライズへと迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラグナサンライズ「ゴッホオオアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 ラグナサンライズもアローネの術に一拍遅れて殺魔の炎を放射する。

 

 

 

 

 

 

ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 二つのエネルギーが互いに引き寄せられるように直進しやがて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッ!!!!ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 風の刃と黒の炎が衝突し中心で大爆発を起こす。

 

 

 

 

 

 

グラグラグラ……!

 

 

 二つのエネルギーの衝突で爆発が起こり大地が揺れ動く。空中にいるカオス達にもその余波が伝わっていく。

 

 

アローネ「くっ……!!」

 

 

ウインドラ「なんて風圧だ……!

 ここまでまだ相当距離があるというのに……!!」

 

 

レイディー「振り落とされんなよ!

 全員固まって岩にしがみつくんだ!」

 

 

オサムロウ「カオス!

 平気か!」

 

 

カオス「なんとか……!」

 

 

 皆どうにか風圧に耐えてはいるがとても長くは持ちそうになく………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツルッ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タレス「!?

 しまっ………!?」

 

 

カオス「!!

 タレス!!」

 

 

 一番体重の軽いタレスが風に吹き飛ばされ空を舞った。カオスは慌てて術を止めてタレスを連れ戻しに行こうとするが爆風の勢いが強くタレスとどんどん引き離されていく。

 

 

ミシガン「タレス!!

 鎌をこっちに!!」

 

 

タレス「!!

 そうかこれで!!」

 

 

ヒュッ!!ガスッ!

 

 

 ミシガンがタレスには鎖鎌があることを思い出しそれを使ってカオス達がいる岩に引っ掛けて戻ってくるように指示を出す。タレスは言われた通りに鎌を投げるが鎌は岩に突き刺さらずに弾かれタレスは地面へと落下していく。

 

 

カオス「タレ「カーヤに任せて。」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハシッ!!

 

 

 カーヤが岩から高速でタレスの元へと跳びタレスを掴むと空中でレアバードを出してそのままカオス達のいる岩まで戻ってくる。

 

 

タレス「…助かりましたカーヤさん。」

 

 

カーヤ「このくらいのことなら………。」

 

 

カオス「有り難うカーヤ。

 おかげでタレスが無事だったよ。」

 

 

ウインドラ「カーヤの機転に助けられたな。」

 

 

レイディー「一瞬ヒヤッとしたがどうにか救助は間に合ったようだな。」

 

 

 皆の無事を確認し再度ラグナサンライズに視線を向ける。

 

 

アローネ「申し訳ありません………。

 私の力が足りないばかりにタレスを危険な目に合わせてしまい………。」

 

 

オサムロウ「やはり正面から突き進むのは無理があったか………。

 奴の力はアローネとほぼ互角か………。

 これではこのまま先に進むのは危険「」コオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラグナサンライズ「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 間髪入れずにラグナサンライズから第二波が飛んでくる。アローネは術後の影響で直ぐにはこれに対応出来なかった。

 

 

ウインドラ「なっ…!?

 こんな短時間で連続で撃てるのか!?」

 

 

カオス「これは………避けられない!!

 皆逃げて!!」

 

 

レイディー「チィッ!

 一か八かアタシの氷で相殺………!?」

 

 

タレス「駄目です間に合いませんよ!!」

 

 

アローネ「ぶつかる……!?」

 

 

 爆炎が晴れたと同時にもう一発ラグナサンライズから殺魔の炎が放たれカオス達はそれを直で食らってしま………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ・カーヤ・レイディー・オサムロウ「「「「「「「「!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺魔の炎からカオス達を遮るように燃え上がりそしてその青い炎は…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュッ………ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラグナサンライズ「ギィオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺魔の炎を押し退けてラグナサンライズへと流れ滅却した………。



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何かがおかしな決戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラグナサンライズ「ギィオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ………!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間から出現した青い炎はラグナサンライズの殺魔の炎を掻き消しラグナサンライズ自身も包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

カオス「………何だ………?

 あの炎は………?」

 

 

ウインドラ「…お前の仕業ではないのかカオス?」

 

 

カオス「………俺は何もしてないよ………?」

 

 

タレス「じゃあ一体誰が………。」

 

 

ミシガン「まさかカーヤちゃん………?」

 

 

カーヤ「カーヤも何もしてない………。

 カーヤは今タレス君を助けにいって戻ってきたからこんな炎を出す暇もなかった……。」

 

 

レイディー「…どっかに援軍でも来てるのか?

 誰だか知らねぇがアローネが押し留めるのがやっとだった熱線を押し返しやがった。

 只者じゃねぇことは確かだが………。」

 

 

オサムロウ「あの青色の炎は………ラグナサンライズにも通用するようだな。

 ヴェノムによって構築された体がみるみる朽ちていくぞ。」

 

 

 炎に包まれたラグナサンライズの体が炎に耐えきれずに消えていく。ユナイテッド・アンセスターセンチュリオン級のジャイアントヴェノムがこうもあっさりと終わりを迎えるとはカオス達の誰も想像もしなかった。ある種ヴェノムの主に数えたとしてどの個体をも凌ぐ力を持っていたであろうラグナサンライズは誕生して恐らく最速の時間でこの世から消えることとなった。ラグナサンライズを消滅させたことから青い炎にはカオス達と同じく()()()()()宿()()()()()ことだけは分かるが………、

 

 

 

 

 

 

アローネ「あの炎は………王城での………。」

 

 

オサムロウ「王城?」

 

 

レイディー「フェデールを取り逃がした時に出現した炎ってのはもしかしてあの炎だったのか?」

 

 

アローネ「………確証はありませんがフェデールに襲いかかった炎はあの炎ではないかと………。」

 

 

カオス「あの青い炎が………。」

 

 

 カオスの意識が無い時にもアローネがあの炎を目撃したという。何者かは分からないが状況からしてカオス達の助けに入ったのは確実だ。カオス達が窮地に陥ったのを見て助太刀したのだろう。敵では無さそうではあるがラグナサンライズが消えた跡にも姿を見せないことからカオス達の前に出てくる気はないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………うっ………。」

 

 

フラッ…

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネ!?」

 

 

 ラグナサンライズが倒されたのを確認し気が緩んだ瞬間アローネがふらつきその場で膝をつく。

 

 

アローネ「…大丈夫です。

 少し力を使い過ぎてしまったみたいで………。」

 

 

ウインドラ「………アローネがそうなる程にあのラグナサンライズの力が強力だったということか………。

 そんな相手をあの炎の術者は一撃で………。」

 

 

レイディー「あんなのをほいほい倒しちまうくらいなら出てきてバルツィエも一緒に倒してくくれりゃ楽なんだがな。」

 

 

オサムロウ「我等のサポートはしてくれるつもりみたいだが自ら表立ってバルツィエとやりあう気は無いようだな。

 バルツィエや我等に顔を見せられぬ事情でもあるのか………?」

 

 

タレス「何なんでしょうか………?

 目的が全く分かりません。

 あれだけの力があってバルツィエとは正面から戦おうとしないなんて………。」

 

 

ミシガン「それよりもアローネさんだよ。

 本当に大丈夫?

 立てそう?」

 

 

アローネ「えぇどうにか………。

 少し休めば問題ないと思います。」

 

 

カオス「………下に降りて一度休憩しようか。

 王城からここまで休む暇もなかったしラグナサンライズは………もう誰かが倒しちゃったみたいだしね。」

 

 

 アローネの体調を重んじてカオス達は地上に降りることにする。

 

 

 

 

 

 

 ………ラグナサンライズを倒した炎の術者に関しては謎が残るもののこの件は一旦保留することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「皆有り難うございました。

 私はもう平気です。」

 

 

 地上に降りてから一時間アローネの体力が回復しきったようだ。

 

 

ウインドラ「もういいのか?」

 

 

アローネ「えぇ、

 私一人のために時間を浪費してはいられません。

 私達は一刻も早くバルツィエを倒さねばならないのですから。」

 

 

オサムロウ「あまり無理はするなよ。

 戦況的にはラグナサンライズが倒されたことで此方がやや有利だ。

 バルツィエの独立は防げなかったが奴等がそれで何かしたかと言えばマテオにある封魔石とやらを壊したくらいのものだろう?

 他の街のことならファルバン達に任せていればいい。

 我等は着実にバルツィエの元へ辿り着けばいいのだ。」

 

 

レイディー「つってもそうのんびりはしてられねぇぞ。

 バルツィエが用意したのがあのラグナサンライズ一匹だけとは思えねぇ。

 他にもまだ別の隠し玉を用意してるだろうよ。

 時間を与えれば与えるほどじょうきょうがややこしくなるのはこっちの方だ。

 体力が戻ったんなら早急にヴィッファレートに向かうぞ。」

 

 

アローネ「………そうですね。

 ゆっくりはしてられません。

 被害が最小限に抑えられている間にヴィッファレートへと進みましょう。

 カオス、

 お願いします。」

 

 

カオス「分かった。

 

 

 『トラクタービーム』。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはトラクタービームでまた岩を浮遊させる。アローネが回復したことでいよいよヴィッファレートに乗り込む準備が整った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「あ………!」

 

 

 岩を浮遊させる際足場が少し揺れアローネが体勢を崩し岩から転げ落ちそうになった。近くにいたカオスはそれにいち早く気付きアローネが滑り落ちないように手を掴もうと手を伸ばした。

 

 

カオス「危ないアローネ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付くのが早かったこともありカオスはアローネの手を上手く掴むことが出来た。周囲の皆もカオスの反応が早かったためアローネが体勢を崩していたことに気付かなかったがカオスが無事に支えた様子を見て一息ついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………その直後、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾゾゾ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!!?」

 

 

バッ!

 

 

アローネ「カオス………?

 どうかされましたか?」

 

 

カオス「………」

 

 

アローネ「………?」

 

 

カオス「………あ、

 ゴメン何でもないよ。」

 

 

アローネ「?

 そうですか………。」

 

 

カオス「うん………、

 気にしないで………。」

 

 

アローネ「カオスがそういうのであればそうしますが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネの手を取った瞬間カオスはどこかからか強烈な()()()()()()()()。その殺気はカオスがこれまで経験したことのないような冷たさを帯びていた。単なる獣の殺気とは違う異質なその殺気にカオスは一瞬気を失いかけた。そのせいでアローネの声も耳に入ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………何だったんださっきのは………。

 誰がどこからあんな殺気を………。

 ………あんな殺気を感じたのは初めてだ。

 ………………考えられるとしたらさっきの炎を使ってた人なんだろうけどどうして俺にあんな殺気を………。

 ………俺はただ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()………。)」



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クリスタルを発見

竜の巣ヴィッファレート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………ここが竜の巣ヴィッファレート………。」

 

 

レイディー「そうだ。

 ここには種類豊富な竜系のモンスターが数多く生息している。

 基本的に人が足を踏み入れられる場所じゃねぇ。

 竜は獰猛かつ体格が大きい。

 竜一匹を相手にするのにも人手が百人は欲しいところだ。

 バルツィエでさえも数人がかりでやっと相手になるだろうと言われている。

 油断の出来る場所じゃねぇってことをしっかりと頭に入れておけ。」

 

 

タレス「こんなところに本当にバルツィエがいるんでしょうか………?」

 

 

ウインドラ「ラグナサンライズがここに出現したことから奴等が潜伏している可能性は十分にあるだろう。

 独立をするとなれば周りが全て敵になるんだ。

 バルツィエとしても簡単には攻め落とされない拠点を設ける必要がある。

 そういう点ではここはまさに最適な拠点だったのだろう。

 人知れずに独立の計画を進めることが出来るからな。」

 

 

オサムロウ「竜がいてはマテオの者達も安易にこの場所へ入ってはこれぬだろう。

 自分達で拠点を守らずとも竜がこの場所を守ってくれる。

 命令せずとも自分達で動いてくれる兵がいるとはバルツィエも考えた場所に基地を置いたな。」

 

 

ミシガン「…でもそんなに竜の姿が見えないよ………?

 ここって沢山竜がいる場所なんじゃないの?」

 

 

アローネ「セバスチャンさんが仰っておりましたが先のラグナサンライズは多くの竜の体を使って復活させたようです。

 あれほどの大きさの竜の肉体を形成するのであればかなりの竜が必要だったはずです。

 そのせいでここにいた竜の頭数も激減しているのでしょう。」

 

 

レイディー「あんなのが一頭いりゃ守備もなにもは要らねぇだろうからな。

 

 

 ………そのバルツィエがあてにしていたラグナサンライズもあっさりと殺られちまったわけだが。」

 

 

カオス「あの術者は………何者だったんでしょうか………?」

 

 

レイディー「考えられるとしたらあの術者こそが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「イフリート……!?」

 

 

レイディー「ここ最近話題には上がってなかったが単純にアローネのようなウルゴスの民の力は捨て置けない秘めたもんがあるがそこに精霊の力が加わってあのラグナサンライズをも凌ぐ程の力ならバルツィエがビビるのも頷ける話だ。

 

 

 バルツィエは精霊とウルゴス両方の力を兼ね備えた“誰か”の力を恐れているんだ。

 それでこんな独立で無理矢理戦い吹っ掛けて強攻策に出た。

 実際にイフリートの力を目にしたらもうフェデールの言ってたことを馬鹿にできねぇ。

 ありゃマジで比喩なんかじゃなく怪物だ。

 今のところ何を目的に動いているのか検討もつかねぇ。

 あんだけの力がありながら表に出てこない辺り覇権を握りたいわけじゃないみたいだが………。」

 

 

 それについては皆も考えは同じだった。間近で感じた印象ではイフリートの力はカオス、アローネ、ラグナサンライズの力を越える力を持っていたことは確かだ。それなのに表舞台に出てくることはなく過去ゲダイアンを壊滅させダレイオスを怯えるだけ怯えさせてその姿を闇に隠したままだった。その影響でダレイオスとマテオは互いにゲダイアンを相手側の攻撃だと思い込んだまま十六年の歳月が経過した。

 

 

アローネ「マテオでは大魔導師軍団と称される謎の組織………本当に組織なのかあるいは個人なのかは未だ憶測でしか語れません。

 しかし何かしらの目的があって行動しているのは間違いありません。

 今回のことで御自身ではバルツィエと正面から戦うつもりはなくあくまでも()()()()()()()()()()()という方向性に持っていきたいのでしょう。」

 

 

タレス「そこまでしてボク達に任せる意図は何なのでしょうか………?

 何か自分がやるとマズイことでもあるんでしょうか?」

 

 

オサムロウ「もしバルツィエを倒してしまえばマテオでもダレイオスでも名が上がる。

 そうなると思うように動けなくなるのではないか?

 人というものは功績を上げれば注目を浴びる。

 …が注目を浴びることは何もいいことばかりではない。

 四六時中人の目がつきとまえばその内その視線が段々と煩わしくなる。

 その大魔導師とやらが何か目的を持っているのであれば大々的にバルツィエとは対立はせんだろうな。」

 

 

ミシガン「バルツィエは邪魔には思ってるけど自分から倒しに行こうとは考えてないってことだね。

 まぁ私達の妨害をしてこないんなら別にいいけど。」

 

 

 ゲダイアンを訪問してから妙に大魔導師軍団の影がチラホラと見えてくるが特段カオス達に不都合なことはなかった。それどころか逆に助けに入ってきたのがこれで二度目である。

 

 

 

 

 

 

カオス「………けど何だったんだんだろうな………、

 さっきのは………。」

 

 

アローネ「!

 しっ!

 ………前方に人影が見えます。

 皆ここからは慎重に音を立てないようにしてください。」

 

 

 ヴィッファレートに入ってから暫く進むと進行方向に人の気配がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隠れても無駄ですよ。

 そこにいるのは分かっています。

 大人しく出てきなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「貴女は………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスタル「貴殿方があのラグナサンライズを倒した方々ですね。

 ここに来たということはバルツィエを捕らえに来たのでしょう。

 そうであるなら不肖このクリスタルが貴殿方の御相手をさせていただきます。」



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対峙するマテオの女王

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「女王陛下!?」

 

 

 

 

 

 

 バルツィエの潜伏しているであろう場所を探索しているとカオス達の前にマテオの女王クリスタルが現れる。彼女の出現に驚くカオス達だったが直ぐにウインドラが、

 

 

ウインドラ「………陛下!

 御無事でなによりです!

 私は元ダリントン隊の隊員ウインドラと申します!

 ………レサリナスではバルツィエに連れ去られていたようでお助けすることが出来ませんでした。

 申し訳ありません。」

 

 

クリスタル「………」

 

 

ウインドラ「ですがこうして陛下の無事を確認できレサリナスにいる者達も喜ぶことでしょう。

 ここは危険です。

 私達が護衛しますので急ぎここを離れ「それは出来ません。」」サッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガササササ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「なっ…!?

 こいつらは………!?」

 

 

 クリスタルが手を上げると茂みから多くの騎士が現れカオス達から彼女を守るように立ち塞がる。

 

 

レイディー「やっぱり女王を一人になんてしてねぇよな。」

 

 

タレス「罠だったってことですか……… 。」

 

 

オサムロウ「女王を餌に我等を誘き出したか。

 ………フッ………だがこの程度か。」

 

 

ミシガン「見たところバルツィエっぽいのはいないみたいだね。

 それならこんな連中なんかに………。」 

 

 

アローネ「直ぐに蹴散らして女王陛下を保護しましょう!」

 

 

カオス「最初は俺が斬り込む!

 皆は向かってきた奴の相手を!」

 

 

 

 

 

 

騎士団「貴様等がバルツィエに逆らう愚か者共か!

 たった八人で何が出来る?

 かかれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オサムロウ「…こんなものか。

 マテオの騎士団も百年の間に質が落ちたものだ。」

 

 

カオス「案外早くに片付きましたね。」

 

 

 騎士の数は三十を越す程だったが一人一人の戦闘力はそこまで高くはなくほぼオサムロウとカオスの二人で騎士を倒していた。取り零しもウインドラやレイディーが対応にあたり難なく騎士団を壊滅させた。

 

 

クリスタル「………」

 

 

ウインドラ「陛下、

 もう安全です。

 応援が駆け付ける前にここから立ち去りましょう。

 陛下の身の安全は私達が保証しますのでついてきていただけますか?」

 

 

ミシガン「一緒に連れていけばいいんじゃないの?」

 

 

ウインドラ「それは駄目だ。

 陛下にもしもしのことがあればレサリナスはどうなる。

 レサリナスだけじゃない。

 陛下はこのマテオに必要な御方だ。

 怪我でもさせるようなことがあれば一大事だ。

 陛下には城に帰還していただかないと。」

 

 

レイディー「そうだな。

 これからバルツィエと本格的にやりあうって時に陛下に気を取られてたらどこかで隙ができちまう。

 戦えない奴はこの先に連れてはいけねぇな。

 一度レサリナスに引き返すしかねぇか。」

 

 

 囚われの身であったクリスタルを保護したカオス達は一度クリスタルを安全な場所に連れ出してからバルツィエと戦う流れに落ち着く。ブラムから依頼されていたこともありクリスタルを戦いに巻き込むようなことは避けなければならなかった。カオス達は他の騎士団が駆け付けてくる前にクリスタルをヴィッファレートから連れだそうとするが………、

 

 

 

 

 

 

クリスタル「………救援にお越しいただき感謝します。

 貴殿方は皆ダリントン隊の方々なのですか?」

 

 

ウインドラ「私はそうですが他は違います。」

 

 

レイディー「アタシは元研究者だ。」

 

 

タレス「ボクはダレイオスのアイネフーレ族です。」

 

 

ミシガン「私は南部にあったミストの出身………です………。」

 

 

オサムロウ「我はダレイオスの………スラート族だ。」

 

 

カオス「俺は………俺もミストの出身で………。」

 

 

カーヤ「………フリンク族………。」

 

 

 クリスタルに素性を訊かれ各々が自分の立場を明かしていく。

 

 

クリスタル「…皆さんは特に統一された部隊ではないのですね………。

 マテオの方からダレイオスの方まで………。

 

 

 貴殿方の部隊の()()()()()()()()?」

 

 

アローネ「この部隊に限った話ではありませんが今マテオに来ているダレイオス軍の指揮を取っているのは私です。」

 

 

クリスタル「貴女が………?

 ………!

 貴女は………手配書の………。」

 

 

 アローネの顔を見てクリスタルは何かを確信する。

 

 

クリスタル「……では早速レサリナスに戻りましょうか。

 道案内を宜しくお願いします。

 ()()()()()。」

 

 

アローネ「えぇ、

 では此方に………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネがクリスタルに背中を向けた直後クリスタルの懐から何か銀色に光るものが出てくる。クリスタルはそれを持ってアローネに近付き………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィィィンッ!!………カランッ!

 

 

クリスタル「…ッ!?」

 

 

オサムロウ「そんなものを取り出して何をするつもりだった?

 我はダレイオスから来たと申したはずだ。

 マテオの女王のことなど始めから信用などしてなかった。」

 

 

レイディー「そもそもが話が出来すぎてんだよ。

 ブラムの話を聞いた時にはアンタがバルツィエに拉致されたのかと思っていたがそれにしてはアンタの近くにバルツィエが控えていないのが不自然だ。

 命令には従うとはいえバルツィエは自分達以外の奴を信じたりはしない。

 あんだけ簡単にやられる騎士達にアンタの見張りを任せたりは絶対にしないんだよ。」

 

 

 クリスタルが取り出した()()()をオサムロウが刀で弾き飛ばした。レイディーもクリスタルがそういう行動を起こすのを予想していたようだ。

 

 

クリスタル「始めから疑われていたのですね………。

 私としたことが相手を甘く見ていたようです。」

 

 

ウインドラ「何故ですかクリスタル女王陛下………。

 貴女はバルツィエに政権をいいようにされてきた被害者ではないですか………。

 それなのにどうして………。」

 

 

クリスタル「貴殿方こそ何故バルツィエに刃向かおうとするのですか?

 何故バルツィエの意向にそぐおうとしないのですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエのやり方こそがこの世界を唯一救える手段なのです。

 それはアルバートがレサリナスを去ったあとも変わりません。

 我が夫アレックス率いるバルツィエこそが管理しなくてはならないのです。

 貴殿方にはここで()()()()()()()()()()()()()()()()()。」



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堕ちた女の悲しき最期

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイディー「…この女………完全にバルツィエに染まってやがったか。」

 

 

オサムロウ「どうする?

 バルツィエではないようだがバルツィエと同じ境地にはいるようだ。

 処理していいのなら我に任せろ。」

 

 

ウインドラ「!

 待て!

 この方はバルツィエに洗脳されているだけだ!

 バルツィエさえ倒したら正気に戻るはずだ!

 殺したりするな!」

 

 

アローネ「それでは一時拘束してレサリナスに連れ帰るのが良いですね。

 申し訳ありませんがクリスタル女王陛下、

 貴女の身柄を預かります。

 大人しく投降してください。」

 

 

 クリスタルがバルツィエ側につき敵とはなっているがクリスタルはバルツィエを討った後のマテオを纏めるのに彼女の力が必要なのも確かだ。ここで彼女を討ち取るのは後々マテオにも影響が出るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスタル「生憎ですが私に投降の意思はありません。

 貴殿方と共にレサリナスに戻る気はありません。」

 

 

 クリスタルはアローネ達の要求を断る。

 

 

レイディー「状況をよく見ろよクリスタル。

 お前一人でアタシ達から逃げられると思ってんのか?」

 

 

タレス「抵抗するようなら力付くでも連れていきますよ。」

 

 

ウインドラ「あまり貴女を傷付けたくはありません。

 ここは大人しく私達に従ってください陛下。」

 

 

 元々がマテオの歴史に名を残してきた王族であるため不敬ではあってもバルツィエに属しているのであれば彼女を捕らえなければならない。全員が取り囲むようにクリスタルの周囲に集まる。

 

 

クリスタル「…私もただで捕まるわけにはまいりません。

 バルツィエのためにもせめて貴殿方の()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

アローネ「戦うおつもりですか?

 王族であるなら相応の実力はあるのでしょうが………。」

 

 

 

レイディー「アタシの知る限りこいつを含めて王家がまともに戦った話は聞いたことがねぇ。

 どうせ大したことはでき………!」パァァァ!!!

 

 

 

 

 

 

 レイディーの話の途中でクリスタルが光のオーラのようなものを身に纏いだす。マナの量も桁外れに上がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスタル「貴殿方のその力が精霊の力によるものだということは存じています。

 それなら私も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()しかありませんね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………!!!!

 

 

オサムロウ「!?

 この魔力の大きさは……!?」

 

 

タレス「何ですかこのマナの感じは………!?」

 

 

ウインドラ「お止めください女王陛下!?

 一体何をされるというのですか!

 何故そこまでバルツィエに拘るんだ!?」

 

 

 

 

 

 

クリスタル「…私はバルツィエこそがこの世界を救ってくれると信じています。

 彼等の信念を理解できない貴殿方はここで消えてください!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『リバヴィウサー!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッッッッッッッッッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスタルから強烈な光が発生しそれが全方位に爆発的に放たれる。

 

 

アローネ「皆私の後ろに隠れてください!!」

 

 

 アローネが咄嗟に皆を庇うように前に出てクリスタルの術を防ごうとする。しかし術の発動が早く光は全員に………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………あれ………?

 なんとも………ない………?」

 

 

ミシガン「今………何が起こったの………?」

 

 

ウインドラ「皆大丈夫か………?

 何か体に変化を感じる者はいるか?」

 

 

オサムロウ「我は特に異変は無いが………。」

 

 

タレス「ボクもありません。」

 

 

カーヤ「カーヤも大丈夫……。」

 

 

レイディー「一瞬焦ったがダメージを食らった感覚はねぇ………。」

 

 

 術の様子からして波状に広がる広範囲の攻撃系の術かと思われたがカオス達には一切の負傷はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………」

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネも平気そうだね…………。

 それならよかっ……!?」フラ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネが片膝をつく。どうやらアローネにだけはダメージがあったようだ。

 

 

カオス「アローネ!!」

 

 

アローネ「………」

 

 

ウインドラ「どうしたアローネ!?

 どこかやられたのか!?」

 

 

ミシガン「大丈夫なのアローネさん!?」

 

 

レイディー「騒ぐな!

 先ずは治療術だ!

 外傷は見られんところを見ると呪いの類いかもしれねぇ!

 直ぐに専門家に見てもらう必要が「それには………及びません………。」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………少し目眩がしただけです………。

 あまりにも強い光を間近で目にしたものですから………。」

 

 

 アローネは目を押さえながら普通に立ち上がった。どうやら本当に大したことはないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスタル「…私の全ての力を持ってしてもやはりこの術は私の手にあまる力でしたね………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァ………、

 

 

 

 

 

 

 クリスタルの体が先程とは違う光を放ちだす。

 

 

ウインドラ「なっ…!?

 陛下!

 もう止めてください!

 これ以上抵抗するのは「違う!」!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーヤ「………この感じ………カーヤ前に見たことがある………。

 この人………ママと同じ………。

 

 

 ………多分この人の体もうすぐ()()()()()()………。」

 

 

カオス・アローネ・タレス・ミシガン・ウインドラ「「「「「!?」」」」」

 

 

レイディー「マナが生命としての肉体を形成する限界を使い果たしたか………。

 かなりえげつない術を使おうとしたんだな。

 その代償か………。」

 

 

オサムロウ「不発とはいえそれほどまでにマナを消費する術か………。

 発動していたらどれほどの被害を受けていたことか……。」

 

 

 こうしている間にもクリスタルから流れ出てくる光の粒子は止まらず彼女の体もそれに伴って実体が透け始めていた。

 

 

 

 

 

 

クリスタル「所詮は御飾りの王でしかなかった私には何もなし得ることなど出来なかったのですね………。

 バルツィエのために役立つことは何一つ………。」

 

 

ウインドラ「陛下………!

 何故御自分の命を捨ててまで………!

 ………カオス!アローネ!ミシガン!

 どうにか陛下の命を繋ぐことは出来ないのか!?

 マナが無くなったのであれば俺達のマナを分け与えればそれで陛下は助か「施しは受けません。」」

 

 

 

 

 

 

クリスタル「たとえこの命が助かろうとも何度でも貴殿方に私は挑むのをやめたりはしません。

 私を救うだけ無駄な行為と言えるでしょう。」

 

 

 クリスタルは頑なにカオス達に対して敵意を顕にし続ける。カオス達にもそんな彼女を救うべきなのか判断に迷っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスタル「………そろそろ限界のようですね。

 一人も倒せなかったのは悔しいですがこの際仕方ありません。

 後はアレックスとフェデールに任せるとしましょう。」

 

 

ウインドラ「!

 待ってください陛下!

 何故陛下はそこまでバルツィエに固執して………!?」

 

 

クリスタル「敵である貴殿方にそれを話す義理はありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()()()

 どうか貴方だけは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスタルはそれだけを言い残して虚空へと消えた。人質として連れ去られたのだと思われていたクリスタルがバルツィエの味方をしたのにも驚かされたがなんとも後味の悪い死に際だった………。



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止まれない歩み

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「クリスタル………女王陛下が………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 あまり接点のある人物ではなかったが人が死ぬ瞬間に立ち会うのは気持ちのいいものではなかった。死因は自らのマナを解放し過ぎたことによる自壊でカオス達がそれを見るのは二度目である。

 

 

アローネ「彼女にとってはバルツィエは御自分の命を擲ってでも守りたかった存在だったのでしょうか………。」

 

 

レイディー「流石にアタシにもクリスタルとバルツィエの関係がどうだったかは知る由がねぇな。

 クリスタル先代の子があいつ一人しか生まれずに大公がバルツィエからアルバートが抜擢されてそれで二人が国を支えていくんじゃねぇかと噂されてたがそのアルバートが失踪して弟のアレックスが大公になって………。

 ………王女のアンシェルは生まれたが正直アレックスとクリスタルの仲はそこまで良くはなかったと思う。

 アンシェルに対しては普通の親子のようには接していたな。」

 

 

オサムロウ「そのアンシェルの姿は見えないようだがこの奥に向かえばきっとそこにいるのだろう。

 クリスタルのように向かってくるかもしれんが。」

 

 

ミシガン「もしかしてそのアンシェルって姫が人質に取られてるからバルツィエの言いなりになって私達に襲い掛かって来たんじゃないの?」

 

 

ウインドラ「だとしたら娘の安否も確認しないまま自ら死を選びはすまい………。

 俺達に攻撃してきたのは明らかに陛下の意思だった。」

 

 

タレス「騎士団はバルツィエを恐れて従ってるだけでしょうがさっきの女王はそんな感じは見受けられませんでした………。

 本当に彼女はバルツィエが正しいと信じきっていたんでしょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「………何にしてもクリスタル陛下は亡くなられました。

 これで彼女の力でバルツィエを国賊とすることがかなわなくなりました。」

 

 

 クリスタルさえ保護できれば彼女の名のもとにバルツィエを反逆者集団としてマテオの各街に報せることも出来た。それが彼女の死によってそのことを伝えることが出来なくなってしまった。

 

 

レイディー「つっても今の状況でも十分マテオに被害を与えてるんだ。

 バルツィエが謀反を起こしてることは伝わってるだろうぜ。」

 

 

タレス「女王のことはどうするんですか?」

 

 

ウインドラ「…彼女の死を利用するようで気が進まないがここは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということにしよう。

 そういう風に伝えれば彼女の………王家の名誉が傷付くこともないだろう。」

 

 

ミシガン「本当のことを皆に報せないの?」 

 

 

レイディー「真実を教えたところでどうなるってんだよ。

 国民達が敬愛する王家が最後の最期で国民よりもバルツィエを選んだなんて知れたら混乱どころの話じゃ治まらなくなる。

 ここはウインドラの意見で決まりだ。

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()

 これを後でブラム達に伝えるぞ。

 どっちにしろバルツィエ側に寝返ったんなら国民の怒りを買ってただけだ。

 死んだ奴のことを悪く言われるくらいなら()()()()()()()()()で誤魔化すのも一つの手だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして女王クリスタルの死はバルツィエによるものだと後で広められた。マテオの民達の間ではよりいっそうバルツィエに対する反発心が高まることとなった。

 

 

 

 

 

 

 “全ての悪事はバルツィエに繋がる”。そんな世間の風がこのデリス=カーラーンに流れ出す切っ掛けとなった出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスタルの死に立ち会ったカオス達の直ぐ近くに実はもう一人彼女の死を目撃していた人物がいた。その人物はカオス達に接触することなく静かにその場を立ち去った。人の気配に敏感なカオス達もその人物がその場にいたことには誰も気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ラグナサンライズがこうも早くに倒されるとはな………。」

 

 

()にとっては我々の三百年の研究の成果もとるに足らんガラクタに過ぎなかったということか。」

 

 

「バリスが制御するに至ったあの古代竜が復活させて一時間と持たずに焼き消されたか。

 これはもう耐久性に問題があったという話ではない。

 それだけ奴の力が我々とかけ離れていたということだ。」

 

 

「これまでの奴等の静観ぶりから我等の独立に興味を持つことは無いだろうと思っていたのが失敗たったな。

 まさかここに来てダレイオス軍の連中に手を貸すとは………。」

 

 

「フェデールからの情報によるとダレイオスの中心となっている人物は以前にアルバートの孫で話題になったカオスと一緒にいたとされる小娘だそうだ。

 名前は確かアローネ=リム・クラウディアというらしいがこの小娘が自らをウルゴスの出身だと名乗っているそうだ。」

 

 

「ウルゴス………ではその小娘は奴の手先である可能性が高いな。」

 

 

「ウルゴスめ………。

 何故我々の邪魔をするのだ。」

 

 

「奴は()()()()()()西()()()()()()()()()()()()()()()()()()十六年間表に出てくることはなかった。

 今回と十六年前とでどんな共通点があるというのだ。」

 

 

「半年前にランドールが仕出かした件が関係しているのではないか?」

 

 

「確かにあの件に関しては肝が冷える思いをしたが()()()()()()()()()今度のことはどうにも回りくどい気がしてならない。

 あの女の力があれば我等など一瞬で消し炭に出来よう。

 

 

 

 ………だが関係していないとは言い切れない。

 此度のランドールと過去のダレイオスの誰かが奴等が所有する()()()()()()()()()()()()()()()()

 それご結果的にあの女の逆鱗に触れてしまったのではないか?」

 

 

「こうなってしまってはもう我等に残された手立ては何一つ残されてはいない。

 ヴェノムの力もランドールが言うにはダレイオスの連中には意味をなさなかったそうだ。」

 

 

「いつの間にダレイオスはヴェノムをも超越した力を手に入れたのだ。

 ………やはりアルバートの孫の仕業か。

 それともウルゴスか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「今更そのようなことを改めて考える必要はないでしょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレックス………、

 しかしな………。」

 

 

 

 

 

 

アレックス「貴殿方は何を弱気になってらっしゃるのですか。

 まだ我等の敗北が決まったわけではありませんよ。」

 

 

「敵側にはウルゴスがいるのだぞ?

 ウルゴスの力は侮ってはならん。

 奴等の力はとても強大で冷酷なものだ。

 奴等に刃向かったところで我等に勝機など「だから諦めるのですか。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「貴殿方が勝手に諦めるのであれば好きにするといい。

 だが私は最後まで戦い抜きます。

 最後の一人になったとしても私は決して貴殿方のように諦めたりはしない。

 

 

 騎士として()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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旧世代のバルツィエ達

バルツィエの秘密研究私設

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達がヴィッファレートの奥地まで進むとそこには人の手を加えて作られたと思わしき洞窟があり中にはレサリナスにあったような研究私設があった。

 

 

レイディー「バルツィエの奴等こんなところにこんなもんを設備してやがったのか。」

 

 

ミシガン「ここにバルツィエが皆集まってるんだね。

 ……フェデールもここに………。」

 

 

ウインドラ「とうとうここまで追い詰めたか。

 あとは奴等とここで決着をつけるだけだな。」

 

 

オサムロウ「永き戦いが今日ここで終わる………。

 三百年の戦いの月日がいよいよ終幕を迎える時が来たか。」

 

 

タレス「バルツィエは一人も逃がしません。

 全員を捕らえて六年前に殺されたアイネフーレの皆の仇を取ります。」

 

 

 

 

 

 

カオス「本当にこれで最後なんだね………。

 ここでバルツィエを倒したらもう誰もバルツィエに苦しめられることもなくなるのか………。」

 

 

アローネ「えぇ、

 バルツィエはこれまで敵国であるダレイオスだけでなくマテオの人々にも数々の暴虐の限りを尽くして来ました………。

 いくら権力があるとは言っても国の民を無暗に傷つけてよい理由などありません。

 彼等の行いは明らかに越権行為です。」

 

 

レイディー「人は力を持てばそれに溺れることだってある。

 世界からヴェノムを根絶するために研究していたってんならまだ分かるがヴェノムの力を兵器として利用するのはどうかと思うぜ。

 ラーゲッツやランドールが使ってたあの力を他の奴等も使ってくるようならアタシもようしゃしたりはしねぇ。」

 

 

オサムロウ「バルツィエがヴェノムの能力を使ってきたら迷わずそいつを処分するぞ。

 放置しておけばまたあのラグナサンライズのような生物を甦らせたりするやもしれん。」

 

 

ウインドラ「あんなものがもし複数復元されれば流石にイフリートの手にも負えんだろうしな。

 人を辞めた化け物に情けをかける必要は無いだろう。

 俺達の手で引導を渡してやるさ。」

 

 

アローネ「……皆ここから先へは何が起こるか分かりません。

 私やカオスがいたとしても油断しないでください。

 フェデールのように力押しだけでは敵わぬ相手が出てきたらその時は「そこまでだ。」………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バルツィエ一「何人たりともここから先へは行かせんぞ。」

 

 

バルツィエ二「バルツィエの誇りにかけて貴様等をここで成敗する。」

 

 

バルツィエ三「我等が大願が成就するという時に邪魔立てはさせん。」

 

 

バルツィエ四「ここで貴様等は始末する。」

 

 

 

 

 

 

 カオス達にが施設に入ろうとすると中からぞろぞろと男達が出てきた。

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「こいつらは………!」

 

 

レイディー「久し振りに見たな………。

 こいつらは先代と先々代のバルツィエの奴等だ。

 方々に散らばっていたはずだったが独立に合わせて帰ってきてやがったのか。」

 

 

タレス「………およそ三十人はいますね。」

 

 

ミシガン「フェデールは………いないか………。」

 

 

オサムロウ「バルツィエが三十か………。

 以前まではそれだけ集まれば退散を考えるほどの脅威を感じていたが今は()()()()()()()()()()()としか感じないな。」

 

 

カオス「この人達がバルツィエ………………、

 ………この人達がおじいちゃんの………。」

 

 

アローネ「貴殿方が先程のラグナサンライズを復活させた方達ですね。

 あの様なものを復活させるような人達を放っておくことはできません。

 全員速やかに降伏なさってください。

 そうすれば貴殿方の身の安全は保障します。

 大人しく「ウルゴスの犬が何をほざくか!」」

 

 

 

 

 

 

バルツィエ五「ここで我等が貴様等ウルゴスに破れたとあってはこの世は終わりだ!」

 

 

バルツィエ六「ウルゴスなぞにこの世界は渡さんぞ!」

 

 

バルツィエ七「この身が打ち砕かれるようなことがあろうとも絶対にウルゴスになど屈したりはしない!」

 

 

バルツィエ八「我等は後生に未来を繋げていかなくてはならん!

 ウルゴスがどれ程この世界にとって害悪であるかを!」

 

 

バルツィエ九「刺し違えてでも汚ならしいウルゴスの血は排除する!」

 

 

バルツィエ十「覚悟しろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヂャキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 先代のバルツィエ達が全員武器を構えた。話し合いでは済みそうにない雰囲気だ。

 

 

レイディー「やっばこうなるよな。」

 

 

ウインドラ「バルツィエに交渉するだけ無駄だな。

 こいつら全員を打ち倒して先に進むぞ。」

 

 

タレス「これ以上何かする前に捕まえないといけませんね。」

 

 

ミシガン「ここにいる人達でバルツィエは全部なの?

 アレックスとフェデールは?」

 

 

カオス「ここにいないってことはこの奥だろうね。」

 

 

アローネ「二人がいないのであればまだ何かラグナサンライズとは別の他の生き物を復活させようとしているのでしょう。

 それを実行に移される前に二人とここにいる彼等を捕らえます。」

 

 

バルツィエ一「行かせはせんぞ!

 ウルゴスの輩にこの国は渡さぬ!」

 

 

バルツィエ二「貴様等全員皆殺しにしてくれる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから直ぐにカオス達とバルツィエの激闘が開始された。彼等の戦いはその後一時間にも及ぶものとなったが最後には決着がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ドサッ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………もう終わりなのか。」

 

 

 

 

 

 

 結果はカオス達の圧勝だった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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バルツィエの真の計画

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バルツィエ「……ぁ………ぅ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「こんなものなのか………。」

 

 

 時間はかかったがカオス達は先代のバルツィエ達を打ち倒すことに成功した。今は先代達は全員カオス達にやられて気を失い倒れている。

 

 

ウインドラ「これでバルツィエはアレックスとフェデール、ランドール以外は全員なのか?」

 

 

レイディー「アタシの知ってる奴等はニコライトってガキを除けばこれで全部だ。

 まさかほぼ総力でぶつかるとは思わなかったがラグナサンライズが屠られたことでこいつらも焦ってたんだろ。

 全員でかからないとアタシ等に勝てないと思ってこんな強行手段に出たが坊やと猿がいなけりゃ危なかったな。」

 

 

オサムロウ「バルツィエの連中も昔から何も変わってないな。

 相変わらず力に頼った戦い方で手玉にとりやすい。

 そこに我以上にバルツィエとの戦いに精通した者が七人もいればこの結果は当然だな。」

 

 

 数時間前にフェデールにしてやられたばかりだったがフェデールに関してはバルツィエの中でも例外的な力ではなく技術を駆使した立ち回りをされたためにカオス達も想定外の動きに惑わされて敗北した。しかしあのようか戦法をとるのはどうやらフェデールだけのようだった。正攻法同士で戦い会えば勝つのはカオス達だ。

 

 

 

 

 

 

タレス「残りはアレックスとフェデールとランドール、ニコライトの四人ですね。」

 

 

ミシガン「ニコライト……っていうと前にレサリナスでランドール達といた子供だよね?」

 

 

アローネ「ニコライトは子供ですが強さはバルツィエの名に恥じぬ力をお持ちです。

 私やタレスもイクアダでは危うく彼と戦って命を落としかけました。」

 

 

レイディー「ニコライトはここにいねぇってことはこの中にいるかもしくはどっか別のところにいるんだろ。

 出てきたとしてもアタシがぶっ飛ばしてやるよ。」

 

 

アローネ「このメンバーなら残り四人と一斉に戦うことになっても大丈夫ですね。

 フェデールにはもう負けません。」

 

 

カオス「もしフェデールが現れたら俺かアローネが相手をするよ。

 あいつの力は多分俺達じゃないと倒すのは難しいだろうから。」

 

 

ウインドラ「お前達が二人がかりでも圧倒されるくらいだからな。

 俺達ではフェデールの相手は厳しいだろう。

 頼りにしてるぞ。

 今度は勝てよ。」

 

 

アローネ「はい。」

 

 

カオス「うん。

 今度は絶対に負けないよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達はそれからアレックス達が待つと思われる施設の中へと入っていった。バルツィエ達は既に大半を入り口で倒してしまったため施設の中は暫く誰とも会わずに進むことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ゴポゴボボボ………。」

 

 

 

 

 

 

カオス「これは………。」

 

 

 施設の中を進むといくつかの水槽が置かれた部屋が出てくる。その水槽の中には培養液と思わしき液体が入っており一緒に何かの生物が浮かんでいた。

 

 

レイディー「生物の実験室だな。

 ここでヴェノムを人に適応化させる実験を行っていたようだ。」

 

 

 近くの机から資料のような紙を数枚見てレイディーがそう口にする。

 

 

ウインドラ「ラーゲッツやランドールが使用していたワクチンがここで作られていたのか………。」

 

 

ミシガン「あの………人を変異させる危険な道具がこんなところで………。」

 

 

タレス「アレックス達を押さえたとしてもここは捨て置けませんね。

 そんな野蛮な薬を開発している現場を残しておけばまたイフリートやラグナサンライズのようなモンスターが生み出される可能性があります。」

 

 

オサムロウ「全てが終わったらここは爆破してしまうのがいいな。

 こんな世界に害にしかならん研究所など在ってはならん。」

 

 

アローネ「誰か他の方に利用されても困りますしね。

 この様な場所は無くしてしまった方がいいでしょう。」

 

 

 バルツィエとの戦いが完全についたらカオス達が今いる施設は破壊するとのことで意見が皆一致した。ヴェノムウイルスを世界から無くすための薬ならともかくヴェノムウイルスを使った兵器実験のための施設であるなら残しておいても災いの元にしかならないだろう。

 

 

レイディー「つっても色々と研究していたみたいだがバルツィエの研究は目標としている地点にはほど遠いようだがな。

 奴等はここで()()()を作りたかったらしい。」

 

 

アローネ「アスラ………?」

 

 

カオス「またアスラか………。

 アスラって結局何なんですか?」

 

 

レイディー「“人の限界を超越した魔人”、“神の域に手を伸ばす超人”、“()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 はっきりとした定説はここには無いがとにかく神に匹敵した力を持つ奴だってことだろう。

 バルツィエはヴェノムウイルスを使ってそれを人工的に作り出そうとしてたんだ。」

 

 

ウインドラ「神か………。

 バルツィエがいう神とは恐らく精霊のことだろう。

 ヴェノムを使って何か殺したい精霊でもいたのか?」

 

 

タレス「精霊と言えばボク達に馴染み深い精霊は殺生石の精霊マクスウェルですがバルツィエが倒したかったの歩は多分イフリートでしょうね。

 マクスウェルとの戦いから何故かボク達の周りでもイフリートの影が目立ちますしバルツィエと敵対しているのは明らかです。」

 

 

ミシガン「だけどヴェノムを使ったとしても精霊の力には全然届きそうにないと思うけどね。」

 

 

アローネ「ここまででヴェノムが精霊を越えたような事象は確認していません。

 マクスウェルの力が強大過ぎるのもありますが精霊とヴェノムとではやはり精霊の力が勝っているようですね。」

 

 

カオス「ラーゲッツやランドール達のあの力確かに凄かったけど精霊程の力は感じなかった。

 本当にバルツィエはヴェノムの力で精霊に勝つつもりだったのかな………?」

 

 

レイディー「………ん?

 ………………こいつは………。」

 

 

オサムロウ「何かあったのか?」

 

 

 資料を調べていたレイディーが苦悶の表情を浮かべる。何か彼女が困惑するほどの内容が書かれていたのだろうか。

 

 

アローネ「………………【現時点で人工的にアスラを作り出すことは我々の技術では不可能。過去のウルゴスの記述では精々ヴェノムに対し一時的に精神を保つのが限界である。ツグルフルフを介してヴェノムを摂取しても数時間から数日もすれば最終的に通常のヴェノムと同じく理性を失い自我そのものが消滅してしまう。そもそも入手したウルゴスの資料が研究資料としては内容が不十分で大半の生物がヴェノムウイルスに適合することは先ずない。】」

 

 

 アローネがレイディーの持つ資料をカオス達にも分かるように読み上げていく。内容からアスラをバルツィエが自分達で作りだそうとしていたみたいだがどうしてもそれが難しく断念せざるをえないといったものだった。

 

 

 

 ………しかし文章は最後の辺りで………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「【これ以上研究を進めても我々の持つ知識ではウルゴスに追い付くことは難しいだろう。だが来るべきウルゴスとの戦いに備えてアスラの力は必要不可欠だ。我々にはどうしてもアスラの力を手に入れなくてはならない。今のところは()()()()()()()()()()()()()()までは行動を興す様子はないようだ。ウルゴスがアスラを入手する前に先に我々がアスラを見つけ出さなければならないだろう。そうしなければ我々はウルゴスの力に破れ去る運命にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで我等が取るべき手段は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。人工的にアスラが作り出せない以上は生物が持つヴェノムウイルスに対する個人差の能力にかけるしかない。ヴェノムウイルスに感染した生物達はそれぞれ自我を失うまでの期間に時間差がある。アスラであれば理論上ではたとえヴェノムウイルスに感染したとしても自我に影響が出ずヴェノムウイルスの利点である再生能力だけを残した超人となることだろう。

 

 

 我々は必ず見つけ出す。ヴェノムによって世界中の人口が九割減少することになろうともこの計画は遂行しなければならない。】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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疑いの目はバルツィエに向けられる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウインドラ「ヴェノムを拡散………?」

 

 

ミシガン「何………それ………?」

 

 

タレス「アスラを探すためだけにバルツィエはヴェノムを今以上に蔓延させようとしているんですか?」

 

 

 アローネが読み上げた資料にはそうだとしか思えないような内容が記載されていた。未だウルゴスの関係者はアローネとカタスティアしか見付かってはいないが余程バルツィエはウルゴスの存在に恐怖しているようだ。ウルゴスを恐れるあまり存在するかどうかもよく分からないアスラをヴェノムを使って探しだそうとしている。その方法が無差別にヴェノムを撒き散らし感染して変異するかどうかを検証するというもの。大概の生物はヴェノムに感染すれば精神を侵され異形の姿へと変貌を遂げてしまう。早々アスラなど見付かることはないためにバルツィエは強引な手段を取ろうとしていた。

 

 

オサムロウ「そんなことが現実的に出来るものなのか?

 バルツィエとて人員はそこまて多くはないだろう。」

 

 

レイディー「…いやそうでもないらしい。

 

 

 このフロアよりももっと下層圏に()()()()って呼ばれるもんがあるようだ。

 そいつが世界各地で撃たれればそのミサイルがヴェノムウイルスを含んだガスを大量に噴出するらしい。

 一度ガスが気流に乗れば結構な範囲にガスが行き届く。

 世界中がヴェノムに飲まれるのもそう時間はかからないだろう。」

 

 

アローネ「ミサイル………ダンダルクのヒューマが作り出した破壊兵器………。

 どうしてバルツィエがそんなものを………。」

 

 

カーヤ「アローネさん知ってるの……?」

 

 

カオス「大昔にウルゴスと敵対していた国が持ってた兵器みたいだよ。

 前にアローネに教えてもらった時は核ミサイルって名前だったと思うけどそれとは別の種類の兵器っぽいね。」

 

 

ウインドラ「あの話ではミサイルが一つだけでも街一つが吹き飛ぶ程の力があると言ってたな。

 ゲダイアンも当初はバルツィエがそれを使ったのだと思ったが………。」

 

 

オサムロウ「ミサイルというのはそれほどまでの破壊力があるのか………?

 そんなものを所有しているのであればやはりゲダイアン消滅はバルツィエの仕業なのではないのか?」

 

 

タレス「それが………ボク達にもよく分からないんですよね………。」

 

 

ミシガン「ラーゲッツやダインさんはゲダイアンのことはバルツィエとは関係ないって否定してたよ?」

 

 

レイディー「アタシ等の考えじゃゲダイアンの件はバルツィエじゃなくてイフリートの仕業だってことになってる。

 何でゲダイアンをイフリートが攻撃したかの理由はまだ分かってないがな。」

 

 

オサムロウ「…しかしイフリートは姿を見せてはいないが我等に加勢してくれているようにも感じる。

 そう考えるとイフリートがゲダイアンを攻撃したとは到底思えん。

 寧ろダレイオスの都市が無くなってもっとも利を得るのはバルツィエなのではないのか?

 バルツィエからしてみれば敵であるダレイオスの重要拠点が滅びるのは好都合だろう。

 こうしてゲダイアン消滅の事件は()()()()()()()()()()()()という証拠がここにはあるのだぞ?」

 

 

 オサムロウが言うようにゲダイアン消滅はバルツィエにも犯行が可能だったことがここで分かった。ミサイルという攻撃手段があったのであればラーゲッツやダインが知らぬ内に使われていた線が出てくる。バルツィエ自体が当主とそれ以外で情報量に差がついている。末端であるラーゲッツ達が聞かされていないだけでアレックスやフェデール達はゲダイアン消滅の真実を知っているのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

アローネ「…核程の力があるか分かりませんがミサイルがあると知っては放っておくことは出来ませんね。

 早急にミサイルが撃たれぬようにしなければなりません。」

 

 

カオス「どうするつもり?」

 

 

アローネ「ミサイルを飛ばすには発射するための発射装置がどこかにあるはずです。

 そこさえ破壊してしまえば一先ずは無力化は可能です。

 発射装置を探すことにしましょう。」

 

 

レイディー「ミサイルはどうするんだ?」

 

 

アローネ「知識に浅い私達が安易に触ればそれだけで爆発してしまうかもしれません。

 今のところは発射装置を壊すことに専念してミサイルは後日にどうするかを話し合いましょう。

 解体出来そうであれば解体し、解体が不可能であれば人の手に触れないところで管理するしかありません。」

 

 

ウインドラ「そうだな。

 下手に触るのは危険だ。

 取り扱えないのなら触らないでおいた方がいいだろう。」

 

 

タレス「発射装置………どの辺りにあるんでしょうか?」

 

 

オサムロウ「地上に近いところにあるのではないか?

 飛ばすというくらいならより高い場所から発射するだろう。

 この場所の見取り図がどこかに無いか?

 それが見付かれば発射装置かどこにあるのか分かりやすいのだが………。」

 

 

ミシガン「それならあそこにあるのがそうじゃない?

 あの部屋の入り口にあるの。

 図面っぽいし間違いないよ。」

 

 

 部屋に入った時は気付かなかったがミシガンが言うように部屋の入り口の壁にはこの施設の現在地を示すであろう地図が掲げられていた。

 

 

アローネ「……この図によりますとどうやら発射装置は上層部ではなく一つ下層の更に奥にあるようですね。」

 

 

レイディー「ここは………だいたい山の反対側か。

 ここにあるってことはミサイルはここからダレイオス側に向けて撃つんだな。」

 

 

オサムロウ「………やはりゲダイアンはここからミサイルで………。」

 

 

ウインドラ「直ぐに発射装置の元に行くぞ。

 まだ一発も撃たれていない内に発射装置を破壊するんだ。」

 

 

アローネ「えぇ、

 ヴェノムウイルスを撒き散らすようなミサイルを撃たせてはなりません。

 一刻も早く発射装置を破壊するのです。」

 

 

 カオス達はそれから発射装置があると思われる場所へと向かった。バルツィエの誰かが起動させる前に発射装置を破壊するために………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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VSアレックス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス達は施設のミサイル発射装置のある場所まで移動してきた。

 

 

ウインドラ「これがミサイルを発射するための発射装置なのか………?」

 

 

ミシガン「かなり大きいね………。

 これだけ大きいとカオスかアローネさんじゃないと壊すのは無理かも。」

 

 

タレス「あの大きな鉛筆みたいなのは何ですか?」

 

 

アローネ「あれがミサイルです。

 もう既に装填されているようですね。」

 

 

オサムロウ「何!?」

 

 

レイディー「早くも発射準備が整ってたってわけか。

 さっきの紙に書かれてたことはいつか遠い未来に実行するもんじゃなく今日明後日にも実行する計画書だったんだろうな。」

 

 

 発射装置にはミサイルが装填されいつでもマテオ、ダレイオスのどこにでも撃てる準備が出来ていた。ミサイルが発射装置に装填されてる以上は安易に装置を攻撃するとミサイルも爆発してしまうだろう。

 

 

ウインドラ「これは………どうするべきなんだ?

 ミサイルが発射装置の側にあるとなると発射装置だけを破壊なんて出来ないだろ?」

 

 

レイディー「アタシもこういったもんにはあまり詳しくはない。

 第一これはどうやって飛ばすんだ?

 どっかに導火線でもあるのか?」

 

 

アローネ「いえ、

 このフロアのどこかに発射装置を操作する制御装置があるはずです。

 それを操作することが出来ればミサイルを発射装置から取り外すことが出来ると思います。

 なのでその制御装置を皆で探してもらえますか?」

 

 

カオス「制御システム………?

 ………よく分からないけどこの装置を動かすことが出来そうなのを探せばいいんだね?」

 

 

ミシガン「って言ってもどれがどれだか………。

 ………あれとかは?」

 

 

 ミシガンが指を指した先を見ると何やら複数のボタンのようなものが取り付けられた机状のような台があった。ボタン以外にもその台には黒板のように文字が多く書かれた端末が備えられていた。

 

 

アローネ「!

 ………どうやらあれが制御装置のようですね。

 あの()()を操作すればミサイルと発射装置を分離できます。

 早速作業に取り掛かることにしましょう。」

 

 

 アローネは制御装置と思われる機械へと足を進める。制御装置を操作することが出来ればミサイルを別の場所へと移動させ発射装置だけを壊すことができバルツィエの野望を一つ阻止することが出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブウン……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ「「!?」」

 

 

 制御装置にあと数歩で触れようという時に室内のマナが抑圧される感覚に襲われる。

 

 

ウインドラ「!

 何だ………?

 急にマナが薄く………。」

 

 

タレス「クリティア族のオールディバイドを受けた時のような体の中のマナが無くなっていく感覚がします。」

 

 

レイディー「今誰か何か触ったか?」

 

 

ミシガン「誰も何も触ってなかったと思うけど………。」

 

 

オサムロウ「もしやこれは………罠か?」

 

 

カーヤ「………!

 誰かそこにいる………。」

 

 

カオス「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここに来たということは叔父上達はやられてしまったのか。

 ここのことは部下達にも秘密にしていたのだが真っ直ぐそれに向かっていくということはそれが何なのかも知っている様子………。

 やはり貴様等はウルゴスに縁のある者達のようだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機材の物影から一人の男が現れる。その男とは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはその男とはいつか直接話をしてみたいと思っていた。彼とは少なからず()()()()を通してカオスには繋がりがあるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「その発射台をお前達に壊されては困るのだ。

 それは我等バルツィエが世界にヴェノムを振り撒くための重要な器物だ。

 貴様達には指一本足りとも触れさせはしない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現バルツィエの当主にしてマテオ大公のアレックス=クルガ・バルツィエがカオス達の行く手を阻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「そこを通して下さい。

 この様な大量殺戮兵器などこの世にあってはなりません。

 私達は何としてでもこの発射装置を破壊し貴殿方バルツィエの悪質で空虚な企みを断固阻止します。」

 

 

レイディー「お前達はそのミサイルを使って世界中からアスラを炙り出そうとしてんだろ?

 お前達のその身勝手な思惑に何十万の奴等を犠牲にしようとしてんだよ。」

 

 

タレス「ヴェノムウイルスを世界に振り撒くだなんてそんなこと一国の大公であっても許されることじゃありません。

 ………当然一国の女王であってもそれは同じです。」

 

 

アレックス「…その物言い………。

 クリスタルが我等バルツィエに賛同していたことは既知のようだな。

 彼女はどうした?

 ………という質問をするだけ無駄か。

 貴様等がここに来たのであれば彼女の身柄を拘束したか………あるいは彼女は既に………。」

 

 

ウインドラ「陛下は………亡くなられてしまった………。

 貴様達バルツィエはどの様にして陛下を謀ったのだ?

 あの民に等しくお優しい女王陛下がバルツィエの計画を知って同調するとはとても思えない。

 何か陛下には全く別のことを伝えたんじゃないだろうな?

 それこそお前達がやろうとしていることは伝えずにマテオのためだとか言って彼女を騙したんじゃないか?」

 

 

ミシガン「女王様は最後は自分でバルツィエのためにって私達に向かってきたよ。

 私達が見たこともない術を使ってその反動で………。」

 

 

オサムロウ「自身の命を擲ってでも貴様等バルツィエにとあの捨て身の術を使ったのだろう。

 どれ程の覚悟があれば人が自ら命を絶つというのか………。

 敵国の王ではあったが女王の覚悟には敬服する。

 一体どんな口上でたらしこんだのだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「………何も謀ってはいない。

 彼女にはバルツィエの意思、目的、計画の全てを話していた。

 その上でクリスタルは()()()()()()()のだ。」

 

 

 

 

 

 

アローネ「何ですって………?」

 

 

カオス「女王様がバルツィエの計画を知ってた………?

 それなのにダレイオスもマテオも巻き込むような恐ろしい計画を女王様が………。」

 

 

 クリスタルは何もかもを知っていたとアレックスは言う。それが事実であるのならクリスタルは自国の民が死に絶えることになる可能性のある行為を容認したということになる。

 

 

 

 

 

 

アレックス「………そんなことを一々確認しに来たのでもあるまい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スチャ………、

 

 

 アレックスが剣を引き抜く。

 

 

 

 

 

 

アレックス「武器を取れ。

 元より貴様等は私を捕らえに来たのだろう?

 だが私には私の使命がある。

 アスラを必ず確保しなければならないのだ。

 ここで貴様等に捕まったりはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………アレックス=クルガ・バルツィエ、

 いざ………参る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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制限されてなお彼の剣は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「気を付けて下さい。

 この空間の中では術技が使用出来なくなっています。

 いつものようには戦えなくなっていますよ。」

 

 

ウインドラ「……本当のようだな。

 しかしそれは………。」

 

 

タレス「アレックスもそうなんじゃないですか?

 ボク達と同じでこの部屋にいると言うことは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの人も術技が使えなく「先ずは一人。」っ………。」バキンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス・アローネ・ミシガン・ウインドラ・レイディー・カーヤ・オサムロウ「「「「「「「!!?」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 一瞬の出来事だった。一瞬アレックスが視界に映ったかと思ったら直ぐに消えた。それと同時にタレスが壁際まで吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「これであと七人か。

 案外と脆いものだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アローネ「今何を………。」

 

 

ミシガン「タレスがやられた………?」

 

 

オサムロウ「今のは飛葉翻歩……………、

 

 

 ………()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

レイディー「坊やの足の早さで目が慣れてたんだがな………。

 ………まるで捉えられなかった。」

 

 

カーヤ「カーヤよりも早く動ける人がいたなんて………。」

 

 

ウインドラ「アルバさんの実弟だけあって実力があることは分かっていたがここまでとは………。」

 

 

 王城と同じで術式によりマナを介した術技はここでは使えない。単純な武具による闘技で戦わなければならないこの場所でアレックスはそんなハンデを感じさせない力をカオス達に見せ付けた。

 

 

 

 

 

 

アレックス「これしきのことでそこまで驚くか?

 こんなものはただの肩慣らしに過ぎん。

 ………では次は二人ほど持っていくとするか。」

 

 

アローネ「!

 来ます!

 皆迎撃を………!」ズバンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからの戦いはカオス達がアレックスになすすべもなく蹴散らされていくだけだった。全員がアレックスのスピードと攻撃に対応出来ず一人ずつ一撃で倒れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の身でありながらカオス達をこうも翻弄し討ち取っていく様からカオスは以前に味わったマクスウェルとの戦いの時の絶望感を身体中で感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「とうとうお前だけになったな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………」

 

 

 仲間達は既に全員アレックスによって地に伏した。残っているのはカオス一人だけだ。

 

 

 

 

 

 

アレックス「お前の魔力は確かに強い。

 バルツィエの歴史の中でもお前程強力な術を使いこなす者はいない。

 マテオ全土にまで影響を及ぼすような力はバルツィエの史上でもお前だけだろう。

 

 

 

 

 

 

 ………が魔力だけしか取り柄が無いのでは話にならん。

 真の強さとは全てにおいて長けていることだ。

 ただ術を封じられただけでお前の仲間はこの様だ。」

 

 

カオス「………」

 

 

アレックス「………お前で最後だ。

 お前を倒して私はこのミサイルをマテオとダレイオスの両国に撃ち込む。

 始めからバルツィエに逆らおうとしなければこの様な手段に出ることもなかったがお前達がダレイオスに手を貸したことでこのような状況になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなことになってしまったことは非情に残念だがウルゴスに勝つにはこうするしか「貴方は………。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………貴方はどうしてこんなやり方しか出来なかったんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「………何のことだ?」

 

 

 カオスの漠然とした質問にアレックスは何のことかと聞き返した。

 

 

カオス「ミストを出るまではおじいちゃんが俺に何か隠し事をしていることは分かってました。

 おじいちゃんが俺に隠していたことはおじいちゃんの家がマテオでも有名な凄い貴族の家だったことでそれを俺はミストを出て知りました。

 おじいちゃんがミストに来るまではおじいちゃんと貴方は二人でそれまでのバルツィエとは違う別のやり方で国から人望をだったの集めていたんですよね?

 百年経った今でもまだおじいちゃんのことを信じて待っている人達がレサリナスには沢山いました。

 それだけおじいちゃんが色んな人のために必死で頑張っていたんだってその当時を知らない俺にもそれが伝わってきました………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それなのにどうして貴方はおじいちゃんと貴方が二人で作り上げてきたものを自分で壊すようなことをするんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「………」

 

 

 カオスの祖父アルバートは弟であるアレックスと二人でバルツィエの虎牙破斬と呼ばれていた。二人はいつも一緒でモンスターの災害に困っている人々のために奮闘しいつしかそれまでのバルツィエの悪印象を払拭しダレイオスにもその名が轟くようになった。

 

 

カオス「話を聞いた限りだとおじいちゃんと貴方の仲が悪かっただなんてことはなかった………それどころか貴方達二人は何をするにしても一緒だったって………。

 ………おじいちゃんがいなくなったことを貴方はどう捉えたんですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしかして本当はおじいちゃんのことが嫌いで「兄のことは………。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「………私は兄のことを心から尊敬していた………。

 兄………アルバートこそがこの国を背負って立つべき男だとあの当時はずっと考えていた………。

 アルバートならばこの先の未来でマテオもダレイオスも上手く纏めあげ誰もが穏やかに過ごせる日々を作り上げていけるとそう信じていた………。」

 

 

 アレックスがアルバートのことを語り出す。アルバートを語るアレックスはどこか懐かしそうに昔のことを思い出しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「兄は誰からも愛されていた。

 強きを挫き弱きを助けるあの人の在り方は長年の冷えて固まった民とバルツィエの間を取り持つように少しずつ二つの遠く離れた心の距離を埋めていった。

 私はあの人に憧れていた。

 あの人のようになりたいとそう願った。

 あの人についていけばいつかは自分もあのようになれるのではないかと信じひたすら兄の後ろ姿を追っていった………。

 ………そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫くして兄は私の前から姿を消したのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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アレックスの真意

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

アレックス「兄と私が作り上げてきたものを何故壊すのかと訊いたな。

 それは少し違う。

 

 

 兄は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 兄一人がそれまでのバルツィエのイメージを塗り替えていった。

 兄は偉大な人だった。

 たった一人でバルツィエと民との間に流れていた険悪な空気を変えてしまった。

 

 

 そんな兄が私は誇らしかった。

 兄がいればその先どんなことがあろうとも乗り越えていけるとそう私は信じていた。

 兄の支えになれるなら私は何もいらなかった。

 兄が側にいてくれたらそれだけでいい。

 そう思っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなのにアルバートは私に何も言わず突然私達の前から姿を消した。

 それまでにあいつが作り上げてきたもの全てを捨ててあの愚兄は逃げた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()()()()あの臆病者はバルツィエを捨てたのだ。

 お前の祖父はその程度の男だだったということだ。

 

 

 

 

 

 ………始めはアルバートがモンスターの群れに襲われ行方が分からなくなったと聞かされた時は耳を疑った。

 当時はヴェノムという正体不明の生物が現れだし兄はヴェノムにやられたのだと思った。

 だが誰よりも強く逞しいあの兄がヴェノムなぞに遅れをとるとは到底思えなかった。

 私はダリントン達と共に兄が消えたとされた現場に向かい兄を数ヵ月に渡り捜索した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それでも兄は結局見付からなかった。

 

 

 

 

 

 

 それから叔父上達も兄は死んだものと見なし兄の役目を私が引き継ぐこととなった。

 バルツィエ当主、騎士団長と多忙で責任のかかる仕事を任された私は兄のことを考える暇もなく職務に全うした。

 せめて兄が不在である間は私が兄の代わりになろうと懸命に体を動かした。

 もしかしたらその内兄が帰ってくるのではないかと淡い期待を抱きながらも私は兄の代行を勤めた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そこからの日々は私にとっては耐え難い()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「地獄のような日々………?」

 

 

 祖父アルバートがレサリナスを去ってからバルツィエは人との付き合い方をアルバートより以前のものに戻した。カオス達は当主となったアレックスが昔からのバルツィエと同じ考えを持つ人物だったからそうなったのだと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「………()()()よ。

 お前は………人は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

カオス「自分以外の人物に成り代わる………?」

 

 

アレックス「例えばだ………。

 お前がこれまで出会ってきた者達の誰かが急にそこからいなくなったとしてその者がそれまでやってきたことを誰かが引き継がなければならない。

 お前にはその者の代わりを務めることが出来るか?」

 

 

カオス「………その人がどんなことをしていたかにもよりますけどいきなりは………無理ですね………。

 少しずつその人がやってたことを覚えていって………………でも完璧に出きるかどうかは………。」

 

 

アレックス「………そうだな。

 それが普通だ。

 それが当然のことなのだ。

 人は誰かと同じにはなれない。

 他人が積み重ねてきた経験を人はそう一朝一夕で真似することは出来ない。

 人はそれぞれ歩んできた人生が違うのだ。

 人によっては得意なこと苦手なこともある。

 私に出来て他の者には出来ないこと、他の者に出来て私には出来ないことも必ずある。

 人として当たり前にそれはあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それが私には許されないことだったのだ………。」

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

アレックス「重ねて言うが兄は偉大だった。

 兄がレサリナスに在住していた頃は兄は何にでも挑戦しその度に様々な伝説を作った。

 バルツィエの歴史の中でも兄ほど名がなんです残る偉業を為し遂げ続けてきたものはいなかった。

 そんな兄アルバートの後任に選ばれた私は兄の名誉に恥じぬよう兄のやって来た全てを引き継ぎマテオのために身を粉にして働いてきた。

 

 

 

 

 

 

 ………が私では駄目だった………。

 大衆が求めていたのは兄だけだった。

 

 

 兄と同じことをしたところで誰にも見向きもされなかった。

 

 

 私では何をやっても兄の二番煎じにしかならなかったのだ。

 

 

 兄と私とでは人を惹き付けるだけの魅力に天と地ほどの差があった。

 

 

 力では追い付けたとしても私には人を惹き付けるだけの能力がなかった。

 

 

 失踪してからも兄の名声はずっとマテオ中に残り続けていた。

 

 

 兄が行方不明になったことで兄の残した伝説は一人歩きをしていきいつしか誰も兄の場所へは到達し得ないような領域にまで上っていった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………こんな惨めで理不尽なことが他にあるか!!?」

 

 

 アレックスは激しく言い放つ。アルバートへの憎しみの念を。

 

 

 

 

 

 

アレックス「奴は百年前にマテオから!国の責務から逃げ出した男だぞ!?

 百年前にいなくなった敗残兵にいつまで私は引き摺られなければならないのだ!?

 百年間何もしてこなかったアイツと何故私は随時比較されなければならないのだ!!

 私はアイツとは違う!!

 アイツのように逃げたりなどしていない!

 それなのに大衆は常に私と兄とを比較して私に落胆する!

 

 

 

 

 どうしてだ!?

 どうしてアイツはまだマテオでも()()()()()()()()()()()!?

 大公となってもまだ私は兄の弟でしか扱われないのか!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンッ!!

 

 

 アレックスは思いっきり剣を地に振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

アレックス「………この先のいつの日かウルゴスは必ずこの世界を破滅へと導く日がやってくる。

 ヴェノムでも精霊でもない………ウルゴスこそがここデリス=カーラーンに災いをもたらす。

 その時になって死んだ男にすがってなんになると言うのだ?

 この場にいない男の影を追ったとして何がどう変わるというのだ?

 

 

 ………何も変わりはしないさ。

 所詮は英雄と呼ばれていたのも過去の話だ。

 死んでいった者にこの世界を救うことは出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 救うのはこの私だ。

 私がこのデリス=カーラーンをウルゴスの魔の手から守ってみせる。

 兄の忘れ形見である貴様はバルツィエには不要だ。

 ………ここで、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレックスがカオスへと迫る。そして倒れていったアローネ達のようにカオスを………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「………!」

 

 

 アレックスの剣が初めて止められた。カオスはアレックスの剣を受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………おじいちゃんが貴方にそこまで迷惑をかけていたことは代わりに俺が謝ります。

 すみませんでした。」

 

 

アレックス「…今更そんな謝罪などには何の意味もない。

 私は貴様を倒しヴェノムウイルスを世界に放出することに変更はないのだからな。」

 

 

カオス「…そうですね。

 でも貴方には謝っておきたかったんです。

 おじいちゃんのせいでそんな辛い目にあってきた貴方にもうおじいちゃんは謝ったりすることは出来ないから………。」

 

 

アレックス「フンッ………、

 馬鹿馬鹿しい。

 謝ったところでこの百年の私が受けた屈辱の日々は消えはしない。」

 

 

カオス「…俺にとってはおじいちゃんはズボラでマイペースなところもあったけどおじいちゃんがそこまでこの国に必要な人だったなんて知りませんでした。

 レイディーさんからもおじいちゃんのことは聞いていましたけど俺達は貴方がおじいちゃんのことを本当は邪魔に思ってたんじゃないかと疑っていました。

 

 

 ………でも本当はその逆だったんですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方が本当は俺と同じくらいおじいちゃんのことが好きだったんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィンッ!!

 

 

 

 

 

アレックス「…!」

 

 

 カオスは剣を振りアレックスを押し返す。

 

 

カオス「…ごめんなさい。

 おじいちゃんが死んだのは全部俺が悪いんです。

 おじいちゃんが死ぬ切っ掛けを作ったのは俺だから。」

 

 

アレックス「………それがどうした。

 どうせ奴は生きていたとしても私の元に帰ってくることはなかっただろう。

 それなら生きていようと死んでいたようと同じことだ。」

 

 

カオス「…だとしても貴方とおじいちゃんがもう一度会える機会を奪ったのは俺です。

 俺のせいでおじいちゃんは貴方のところに帰れなくなった。

 ………だから俺は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方を止めて見せます。

 おじいちゃんのせいで貴方がヴェノムを使って世界を滅ぼそうとするなら俺が止めなくちゃいけない。

 おじいちゃんを好きだった貴方にそんなことはさせちゃいけないんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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一騎討ち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「私を止めるだと?

 お前が一人でか?」

 

 

カオス「えぇ。」

 

 

アレックス「………今しがた私の力は見せたはずだがそれで私を止めると言うのか。

 術技を封じられたこの状況で私に勝つつもりでいるのか?」

 

 

カオス「勝ちます俺は。

 ()()()()()俺は勝てます。」

 

 

アレックス「………そこまでの自信があるというのならやってみろ。

 今度は先程のように手加減はせぬぞ。」

 

 

カオス「それなら今度は本気で斬りかかってきてください。

 貴方の剣はもう既に()()()()()()()()。」

 

 

アレックス「見切っただと?

 この短時間で私の剣を………?」

 

 

カオス「試してみれば分かりますよ。

 貴方の剣は俺には一太刀も届きません。」

 

 

アレックス「………………面白い。

 その様な安い挑発をされるとは私も甘く見られたものだな。

 ではその挑戦受けることにしようか。

 

 

 本当に私の剣が止められるのか証明してみろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュッ!!

 

 

 

 アレックスの姿が消える。目にも止まらぬ早さでカオスに接近しその剣を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

アレックス「……!」

 

 

 だがその斬撃はまたもやカオスに止られてしまう。カオスはアレックスがどこに打ち込んでくるのか分かっていたかのように剣を先に用意して待っていた。

 

 

カオス「………やっぱりだ。」

 

 

アレックス「貴様………私の剣筋が見えているのか?」

 

 

カオス「いえ、

 ()()()()()の剣が見えていたわけじゃありません。

 なんとなく大叔父さんは打ってくるとしたらここだって分かったんです。」

 

 

アレックス「なんとなくだと………?

 そんな曖昧な感覚で私の剣を止めたというのか?」

 

 

カオス「…似てる………。

 似てるというより同じなんです。

 大叔父さんの剣は()()()()()()()()()なんです。

 昔おじいちゃんと稽古をしていた時の動きに貴方が………。

 

 

 

 

 

 

 だから俺には大叔父さんの剣がどこから来るのか分かる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツー………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣を重ねながらカオスは涙を流す。

 

 

アレックス「…お前は今何故泣いている?」

 

 

カオス「………こうしてるとなんだか懐かしくて………。

 ………駄目だな………最近よく涙が流れやすくなってて………。

 こんな気持ちになるのは十年ぶりなんです………。

 十年ぶりにおじいちゃんと稽古をしているみたいで………もうおじいちゃんと稽古をする機会なんて無いと思ってたのに………。」

 

 

アレックス「私はお前の祖父アルバートではない。

 これは命を賭した戦いだぞ。

 そんな温い感情があっては剣が鈍るぞ。

 私に勝ちたくば全力で挑んでこい。」

 

 

カオス「………そうですね。

 これは剣の稽古じゃない。

 マテオとダレイオスの存亡をかけた戦いでした。

 ごめんなさい。

 

 

 ここからは本気で行きます!」

 

 

アレックス「………それでよい。

 お前と私は敵同士なのだからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから二人は数時間に渡り剣を交え続ける。御互いに相手を打ち負かす覚悟で剣を振る攻防は激しさこそあるものの決定打となる一撃が決まらぬまま時間だけが過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

カオス「また防がれたか………。

 惜しかったな………。」

 

 

アレックス「剣の腕は互いに互角か………。

 私もフェデールに任せきりで腕が落ちたか。」

 

 

カオス「それでも大叔父さんは強いですね。

 ウインドラやオサムロウさんと剣の腕を磨いてなかったら俺も結構際どい戦いになってしました。」

 

 

アレックス「………もう十分だ。」

 

 

カオス「え………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチンッ!ブゥゥン………、

 

 

 アレックスが何かのボタンを押すと室内のマナが正常な状態へと戻っていくのを感じる。

 

 

カオス「これは………。」

 

 

アレックス「このまま続けたところで決着がつくことはあるまい。

 ここからは()()()()()()()()()()

 お前も持てる力全てで私を討ち取りに来い。」

 

 

カオス「いいんですか………?」

 

 

アレックス「お前もこんな制限された戦いでの決着など納得がいかんだろう。

 私もあの兄の弟子であるお前とは本気でぶつかってみたい。

 それで負けるのであれば私もそこまでの男だったというだけだ。」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

アレックス「………決着をつける前に一つ訊いておきたいことがある。

 

 

 ………兄はミストという村ではどの様に過ごしていたのだ?」

 

 

カオス「おじいちゃんがですか………?」

 

 

アレックス「奴程の豪傑のことだ。

 お前達の村でも奴は皆から慕われていたのか?」

 

 

カオス「…はい。

 おじいちゃんは村の警備隊に所属していてそこのリーダーをしてました。

 おじいちゃんが村で一番腕前が凄かったので。」

 

 

アレックス「…そうだろうな。

 兄ぐらいの力があればそうなるのも当然か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どうして兄上は私を一緒には連れていって下さらなかったのか………。

 そしたら私も()()()()()()()()()()()()()こともなかったというのに………。」

 

 

カオス「え………?」

 

 

アレックス「何でもない。

 ただの一人言だ。

 ………それよりも私も久々に全力を出せる好敵手が現れた。

 手加減はしない。

 次の一撃でお前を殺す。

 覚悟はいいな?」

 

 

カオス「えぇ、

 いつでもいいですよ。

 俺も全力で大叔父さんを迎え撃ちます。

 大叔父さん達がやろうとしていたことは俺が絶対に止めて見せますから。」

 

 

アレックス「…生意気な口を叩く兄の孫だな。

 出来ることならお前がこの先この世界をどう切り開いていくのか見ていきたかったが私にもこの戦いを引くことは出来ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオス=バルツィエ!

 私は貴様を倒す!

 貴様は私を越えて見せろ!

 この戦いで生き残った者こそが後の時代のバルツィエの名を冠することになるだろう!

 私の行く道が正しかったのか兄の意思を受け継ぐお前の方が正しかったのかこの一戦の勝敗がそれを証明してくれるだろう!

 

 

 アレックス=クルガ・バルツィエ!

 マテオの正義の名の元に貴様を討つ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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悪は討たれた………しかし世界は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 終わりは唐突に訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「…剣を折られたか………。

 これではもう私に打つ手はないな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラァン………!

 

 

 

 

 

 

カオス「!」

 

 

 アレックスが折れた剣の柄を投げ捨てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「この戦い………、

 お前の………お前達の勝ちだカオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレックスはカオスにそう告げた。

 

 

カオス「…もういいんですか………?

 てもまだ大叔父さんは………。」

 

 

アレックス「剣士として戦いそれで剣が折られた。

 お前の腕が私よりも上だったのだ。

 これ以上やったところで私がお前に勝つことはない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッ!………ゴオオオオオオオ………!

 

 

 アレックスが制御装置のボタンを押すとミサイルが発射台から取り外されていく。

 

 

アレックス「ミサイルは地下の格納庫へと戻した。

 今ならその発射装置を安全に破壊することが出きる。

 これが望みだったのだろう?」

 

 

カオス「そうですけど………。」

 

 

アレックス「そろそろお前の仲間も意識が戻る頃だろう。

 その者達の意識が回復したらお前達は早々にここを出ていけ。

 

 

 

 

 

 

 ………私はここを()()()()()。」

 

 

カオス「!」

 

 

 アレックスとの勝負に勝利したと思ったらアレックスがこの施設を自爆すると宣告する。

 

 

アレックス「バルツィエの独立は失敗に終わってしまった………。

 この戦いの勝者はお前達とダレイオスだ。

 ………私達バルツィエにはもう帰る場所などない。

 私はこの研究所と運命を共にしよう。」

 

 

カオス「!?

 ここに残る気なんですか!?

 大叔父さんも一緒に…!?」ビー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『自爆装置が作動しました。施設の中にいる方は速やかに避難してください。自爆装置が作動しました。施設の………。』

 

 

 またアレックスが何かのボタンを押した直後研究所内に避難警報が鳴り響く。そして音声が研究所内にいる者に避難勧告を伝える。

 

 

アレックス「急げカオス。

 ここももう後三十分後には爆破される。

 その前にお前達はここを脱出するんだ。

 ………安心しろ。

 自爆装置は作動してもミサイルの格納庫には影響はない。

 ミサイルは爆破することもなくここと共に深い地に埋まるだけだ。」

 

 

カオス「大叔父さんも一緒に逃げましょう!

 ここが爆発するなら大叔父さんも外に「それは出来ない。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「ここまでの騒ぎを起こしたんだ。

 私が生きて外に出たとしてマテオとダレイオスの両方からこの騒ぎの責任を取らされるだろう。

 そうなったら結局私に生きていく道はない。

 

 

 ………私は自分の最期は自分で決める。

 私の死場所はここだ。

 ここで私は最期の時を迎える。

 …お前達には迷惑をかけたな。

 すまなかった。」

 

 

 アレックスはその場に座り込む。もうそこから一歩も動くつもりはないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………大叔父さんは始めからミサイルを撃つ気は無かったんじゃないですか?」

 

 

アレックス「………何故そう思う?」

 

 

カオス「もし本当に使う気があったなら俺達がここに来る前に起動させることが出来た筈です。

 けどそれをしなかった。

 本当は大叔父さんにとってもバルツィエの独立は不本意だったんじゃないですか?」

 

 

アレックス「………確かにな。

 私は本当ならこのような手段に出ることだけは何としても避けたかった。

 叶うのであれば私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 ………それは無理な話だったのだ。

 私は兄ではない。

 誰かに出来るからといってそれが私に出来るとはならない。

 私は暴君としての道しかなかった。

 私にはそれしか………。」

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

アレックス「………もういけ。

 今すぐ脱出しなければお前もお前の仲間達も間に合わなくなるぞ。」

 

 

カオス「!

 みっ、皆!」

 

 

 アレックスに促されてカオスは気絶しているアローネ達を起こす。アレックスの言った通りアローネ達はカオスの呼び掛けに反応して意識を取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 そしてカオス達は施設を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレックス「………フ………フフフ………、

 やはり私では世界は変えられはしなかったか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうね………。

 貴方ではそこまでのことは無理だったでしょうね。

 貴方の()じゃ私達を止めることは無理なのだから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエとダレイオスの二つの戦いはダレイオスの勝利となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦時中マテオ国女王クリスタルが崩御したことでマテオ中がバルツィエに対してより一層強い憎悪の念を燃やすこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエはといえば大公アレックスがヴィッファレートで殉職したことをカオス達が世間に報告し事実上壊滅したことにはなっているがヴィッファレートでカオス達が倒したバルツィエ達は逃亡を謀り依然行方が掴めていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マテオもバルツィエの暴走によって各街にヴェノムが押し寄せる事態となったがダレイオス軍によってヴェノムは追い払われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マテオとダレイオスの両国を脅かしていたバルツィエが討たれたことで世界は一時の安寧を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルツィエが壊滅したことで世界はこれから誰もがより良く健やかに生活を送ることが出来る………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そうなるはずだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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悪のない世界

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――五年後――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル カーラーン教会支部

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「それで最近は皆の近況はどんな様子なのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「皆相変わらずですね。

 ウインドラとミシガンはミストを元通りにしようと頑張ってますしタレスもカタスさんが見付けてくれたアイネフーレの子達と一緒にアイネフーレ領でバルツィエやヴェノムに荒らされた土地を綺麗にしようとしてます。

 レイディーさんは自分の病気を治すのに忙しいみたいで中々会えなくて………。」

 

 

カタスティア「そう………皆どこも大変よね………。」

 

 

カオス「そうですね………。

 バルツィエを倒したら全部が上手くいくと思ってたけどまだまだ抱えてる問題が山積みで一つ一つに対処していかないといけないのが現状みたいです。」

 

 

カタスティア「この国も昔みたいに気軽に隣の街への往き来も出来なくなったからかしらねぇ………。

 前までは()()()()()()()()()()()………。」

 

 

カオス「…俺もまさかマテオが()()()()()()()()()()()思いませんでした………。

 バルツィエが討たれれば世界がもっと平和で豊かになると思ってたのに今じゃ………。」

 

 

カタスティア「バルツィエがいた頃の方がまだマシかしら?」

 

 

カオス「………俺には分かりません。

 あの時どうすればよかったのか………。

 俺達がやって来たことが本当に正しかったのか今でも時々考える時があるんです………。

 こんな世の中になるんだったら俺達は本当は何もしない方が良かったんじゃないかって………。」

 

 

カタスティア「後悔しているのかしら?

 バルツィエを自分の手で潰してしまったことを。」

 

 

カオス「………」

 

 

カタスティア「私個人の意見だけど私は貴方が間違っていたとは思わないわ、

 事の切っ掛けは騎士団のブラムがアローネを連れ去ろうとしたことから始まったの。

 貴方がアローネを助けたからバルツィエとも貴方が戦うことになったの。

 貴方はただアローネを救っただけ。

 それの何が間違いだったのかしら?」

 

 

カオス「そこは別に間違ったことをしたとは思ってません………。

 あの時は不等にアローネが騎士団に連行されようとしてたから………。」

 

 

カタスティア「そうね。

 ブラムもアローネのことに関しては普通に仕事をしようとしただけ。

 貴方のことについてはバルツィエの評判を落とすために利用しようとしただけ。

 結果的に貴方は最後の最後まで巻き込まれてきただけ。

 貴方は被害者なのだから気に病むことはないわ。」

 

 

カオス「………そうなんでしょうか………。」

 

 

カタスティア「そうやって思い詰めていたって何も進まないわ。

 もう結果は出てしまったのですもの。

 

 

 バルツィエはもういない。

 この事実はもう変えられようがない。

 ならこれから先は私達がどうやってこの世界をもっとよくしていけるのかを考えるべき。

 過ぎたことを悔やむよりかは今起こっている問題にどう対処していくかが何より貴方が思い悩む事柄を解決していく道だと私は思うわ。」

 

 

カオス「………そうしてみます。

 もう過去が変わることはないですもんね………。

 だったら俺は………俺の出来ることが何なのか考えてみることにします。」

 

 

カタスティア「それでいいのよ。

 もし何かあったらいつでも教会にいらっしゃい。

 私はいつでも貴方の相談に乗るわ。

 元々教会は迷える子羊の悩みを聞き入れる場所でもあるのだし気軽にここへ通うといいわ。」

 

 

カオス「…はい………。

 もしまた何かあったらよろしくお願いします。」

 

 

カタスティア「えぇ、

 ………ところで今はカオスは何をしてるのかしら?」

 

 

カオス「俺は………バルツィエの()()()()()()()()()。」

 

 

カタスティア「バルツィエの残党………というと()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 五年前のあの戦いからあの二人だけがまだ見つかってないのよね?」

 

 

カオス「はい………、

 もう何もしてこないとは思いますけどもしまたあの五年前のようにヴェノムを使ってラグナサンライズを復活させるようなことをしでかそうとしてたら危ないですからね。

 世界を回ってフェデール達の行方を探しているんです。」

 

 

カタスティア「バルツィエで残っているのはもうあとはその二人と………()()()()()()()()()()?

 その三人さえ居所が掴めればこれ以上バルツィエの被害にあう人はいなくなるものね。

 教会の方でも情報網を回してどこかで目撃情報が無いか手配してみるわ。」

 

 

カオス「有り難うございます。」

 

 

カタスティア「お礼を言われる程のことではないわ。

 私もアローネに教皇を継いでもらってから大分時間に余裕が出来るようになったの。

 アローネも教皇として頑張ってくれてるみたいだから私も好きに出来るのよ。」

 

 

カオス「凄いですよねアローネは………。

 教皇になってから忙しそうだけど愚痴の一つも言わないで真面目に働いて………。」

 

 

カタスティア「推薦人としての私の目は狂いはなかったようね。

 アローネですもの。

 あの子なら大丈夫だと信じてたわ。」

 

 

カオス「………あの………カタスさん………。」

 

 

カタスティア「なぁに?

 あと私のことは本当のお母さんのようにお母さんって呼んでくれてもいいの「アローネとのことなんですけど………。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「俺………………アローネと()()()()()()()()()()()………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「………………どういうことかしら?」

 

 

 

 

 

 

カオス「アローネとはアローネが五年前に教皇になってからあまり会う機会がなくなりました。」

 

 

カタスティア「それは知ってるわ。

 あの子が多忙なのは私も知るところですもの。」

 

 

カオス「ですけど一年くらい前から俺が一人でダレイオスを旅してた時に偶然あっちの教会で再開してそれから少しずつ会うようになって………。」

 

 

カタスティア「まさかあの子が………、

 ………貴方達どちらの方からそういう関係になろうと迫ったの?」

 

 

カオス「えと………それは………。」

 

 

カタスティア「………その様子だとアローネの方からなのね………。

 ………あの子がそんなことを………。

 

 

 

 

 

 

 ………………少し目を離しすぎてたのかしら言い寄ってくる男達は沢山いたけどバッサリ切り捨ててたから大丈夫だと思ってたのにあの子に限ってウルゴスへの忠義を忘れてこんな男に………。

 ………姉妹揃って情けない男に靡くなんてそんなところも姉に似てるわね。メイデスと同じことになるなんて()()()()なんて説明したらいいか………。」

 

 

カオス「カッ、カタスさん………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「………カオス………、

 少し場所を変えて話がしたいのだけどいいかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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カタスティアとの密談

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消滅都市ゲダイアン跡地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスはゲダイアン跡地に来ていた。

 

 

 

 

 

 

カオス「カタスさん………こんなところで話って一体何だろう………。

 どうしてこんな場所を指定してきたのかな………?」

 

 

 カオスがゲダイアンに来たのはカタスにここで話があると言われたからだ。カタスから重要な話があると言われては断るのは失礼だと思い言われるがままにここへと赴いた。

 

 

カオス「………カタスさんはもう着いてるのかな………?

 着いてるならどこにいるんだろう………?

 まだ来てないのかな………?」

 

 

 カオスは歩き出しカタスティアを探す。元大都市だったというだけあって人一人探し出すのにもおおいに時間がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 ………ここは………。」

 

 

 二十一年前の事件から未だに事件の爪痕が癒えずに残害の積もる街だったがある物がカオスの目に止まった。それはマテオ、ダレイオス両国に建つカーラーン教会の建物だった。教会は華麗さは無いが丈夫さに力を入れているらしくバラバラに砕かれてはいたがその石造りの瓦礫片が一ヶ所に固まっていたためにそこがカーラーン教会があった場所だったのだと推測できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「よくこきまで来てくれたわねカオス。

 こんなところまでわざわざ足を運んでくれて感謝するわ。」

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 カタスさん。」

 

 

 教会の崩壊跡を観察していると背後からカタスティアに声をかけられる。彼女もこの場に来ていたようだ。

 

 

カタスティア「ごめんなさいね。

 ここ………こんな有り様だから何か目印になるものがあればよかったのだけどあいにくそんなものが思い浮かばなくてゲダイアンとだけしか言うことが出来なかったわ。」

 

 

カオス「それは別に気にはしてませんけどどうして場所をここに選んだんですか………?

 話をするならここ以外のどこでも………。」

 

 

カタスティア「………私が今からする話は他の人には絶対に聞かれたくないの。

 この話をするなら私と貴方だけしかいない環境が欲しかった。

 それだけよ。」

 

 

カオス「他の誰にも聞かれたくない話………ですか………。」

 

 

 確かにここは人が滅多に訪れることはないだろう。ここには被災してから放射能と呼ばれる人体に有害な物質が残っているようでモンスターすら近寄らない。それだけでなく五年前に近隣にあったローダーン火山が噴火し溶岩がこの辺り一帯にも流れてきていた。今はその溶岩は街の東側で冷えて固まりそれ以上流れてくることはないがいずれにしても人が住めるような環境が整うには時間が必要だろう。

 

 

 

 

 

 

カタスティア「………話をする前に貴方達のことを確認してきたわ。

 どうやら貴方の話は本当だったみたいね。

 セバスチャンから貴方達二人のことを聞いてきたの。

 貴方達が近頃仲睦まじい姿をよく目にするとね。」

 

 

カオス「セバスさんからですか?」

 

 

カタスティア「………本気で貴方はアローネと結婚する気なの?

 アローネはこれからももっともっと多忙になるわ。

 貴方といられる時間なんて殆ど取れない。

 そんな子と貴方は本気で一緒になりたいの?」

 

 

カオス「………はい。

 俺はアローネとこの先ずっと……一緒に生きていきたいと思っています。」

 

 

カタスティア「本当にそれでいいの?

 貴方にはもっと相応しい相手がいるのじゃないかしら?

 結婚=幸せになれるとは限らないのよ?

 貴方と違ってアローネには今後一生をかけて果たさなければならない使命だってあるの。

 貴方と結婚しても貴方を最優先になんて出来ないわ。

 寧ろあの子はあの子の使命を優先する。

 結婚して一緒になるといっても夫婦で生活間の違いに悩む家庭だってあるの。

 先ずはアローネがどんな生活をしているか一度見てみてそれで判断するといいわ。

 半端な気持ちであの子との婚姻だなんてもし結婚後に思っていたイメージと違って失望して去られても困るわ。」

 

 

カオス「………」

 

 

 この分だとカタスティアはアローネにカオスが相応しいのかを試しているようだった。カタスティアがアローネを大切に想っていることはカオスも理解している。なにせアローネとカタスティアはたった二人だけのウルゴスの時代の民だ。アローネもカタスティアを心の支えとしカタスティアもまたアローネを支えにしている。そこには親が子を想うような慈しみの心があることはカオスでも分かっていた。

 

 

 

 

 

 

カタスティア「結婚はね、

 慎重になるべきなのよ。

 本当に相手のことを理解するのは一緒になってからなの。

 一緒に過ごしてみれば相手の悪いところがよく見えてくるわ。

 貴方とアローネは五年前は一緒に旅してきた仲だけどそれは仲間としてのものだったでしょう?

 夫婦となると話は全くの別物なの。

 淡い感情だけは苦楽を共にすることは出来ないの。

 貴方達は同棲だってしてないのよ?

 それなのにいきなり結婚だなんてそんな急には「カタスさん」」

 

 

 

 

 

 

カオス「………俺はそんな中途半端な気持ちでアローネと結婚しようと思ってる訳じゃありません。

 カタスさんが言うようにアローネの他にももっといい相手だっているのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 ………けど俺はそれでもアローネがいいんです。

 アローネは本当の俺を見せても俺に失望せずに一緒にいてくれた。

 この五年間でアローネがいない日々を過ごしてみてやっぱり俺はアローネがいないと駄目なんだって気付いたんです。

 アローネじゃなきゃ俺は………。」

 

 

カタスティア「………決意は変わらないのね………?」

 

 

カオス「はい………、

 ………()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

カタスティア「………………………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………何ですって………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾワリ………!

 

 

 

 

 

 

カオス「!?

 

 あっ、あれ………?」

 

 

 一瞬カオスの体に悪寒が走る。がそれもほんの一瞬のことでカオスはその悪寒はゲダイアンの汚染された空気による影響だと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「………まぁいいわ。

 ()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「本題………?」

 

 

カタスティア「えぇ、

 私が貴方をここに呼び出したのはその話をするためだったのよ。」

 

 

 あまりの剣幕にカオスはカタスティアがアローネとのことを試すために呼び出したのだと勘違いしていた。よくよく思い出してみればカタスティアも先程の質疑の前にそのようなことを言っていた。

 

 

カタスティア「………カオス、

 貴方は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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世界の真実

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「何故ヴェノムが誕生したか………ですか………? 」

 

 

カタスティア「えぇ、

 貴方はヴェノムについてどこまで知ってるの?」

 

 

カオス「………ヴェノムについては五年前に皆と旅してきた中でのことについてしか分かりませんけど………、

 ………()()()()()()()()()()()()()()はヴェノムは誰かの何か重い病気を治すために作られたんじゃないかって言ってました。」

 

 

カタスティア「…それでヴェノムがいつどの時代で生まれたのかは分かる?」

 

 

カオス「それについては皆の情報を纏めると………カタスティアさん達の時代に………かなり大きな組織によって作られたとか………。」

 

 

カタスティア「………()()()()()。」

 

 

カオス「え………?」

 

 

 カタスティアがカオスの言ったことを肯定した。それはつまりヴェノムが誕生した時期がこの星がアインスと呼ばれていた時代であることをカタスティアが知っていたことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「………今から()()()()()()()………。

 アインスのウルゴスでヴェノムが作られた………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………………………………………………………

 ………………えッ!?

 百三十八億年前………!?」

 

 

 

 

 

 

カタスティア「………」

 

 

カオス「ちょっ、

 ちょっと待ってください………!?

 百三十八億年前って………!

 昔本で読んだことありますけどこのデリス=カーラーンが誕生したのは確か現代から()()()()()()だろうってどこかの学者が地質学を研究して調べたって書いてありました!

 百三十八億年前っていくらなんでも遡り過ぎじゃないですか!?

 百三十八億年前だとまだデリス=カーラーンだって誕生してなかったんじゃ………。」

 

 

カタスティア「いいえ、

 確かにヴェノムが作られたのは百三十八億年前で間違いないわ。

 そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ずっとこの星はデリス=カーラーンの総称で呼ばれていたの。」

 

 

カオス「え………、

 それだと前にレサリナスでカタスさんが話していたことは………。」

 

 

カタスティア「御免なさいね。

 あれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「アローネを傷付けないための嘘………?」

 

 

カタスティア「アローネから聞いていたと思うけど私達の国ウルゴスはヴェノムによって滅びた………。

 それだけは嘘じゃないわ。

 ウルゴスで生き残った者達がヴェノムから逃れるために時を止める術式アブソリュートでヴェノムのいない遠い未来へとタイムスリープした。

 

 

 

 

 

 

 ………けれど本当の史実ではその後タイムスリープをした大半の人々がアブソリュートから目覚めることなくこの世を去ったの………。」

 

 

カオス「………何があったんですか………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「アインスが………()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………星が砕かれた………?」

 

 

カタスティア「…国は滅びはしたけどヴェノムの性質上そう長くはヴェノムが栄えることはない。

 私達はウルゴスで極秘に開発していた()()()()王族とその関係者を乗せて宇宙へと避難した。

 宇宙艇に乗り切れなかった人々はヴェノムにも探知されない地下深くに移動させてそこでアブソリュートで眠ってもらうことにした。

 全てはヴェノムが飢餓で死に絶えるその時までの辛抱だと民に言い聞かせて眠ってもらったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………でもあいつだけはそれを待つことが出来なかったようなの。

 

 

 

 

 

 

 “星砕き”。」

 

 

 

 

 

 

カオス「星………砕き………?」

 

 

カタスティア「星砕きというのは()()がそう呼んでるだけ。

 本来はあいつ自身には名前は無いわ。

 その呼び名の通りあいつは世界にヴェノムが蔓延して早々にアインスを見限りアインスをその力で砕き破壊した………。

 アインスで生き残ったのは宇宙艇で避難していたごく一部のみ。

 このデリス=カーラーンをいくら探したとしてもウルゴスの民なんてひとっこひとり見つからないわ。」

 

 

カオス「そんな………、

 

 

 ………その話が本当だったとして何でアローネにそのことを教えてあげないんですか!?

 アローネはバルツィエとの決着がついてから五年もの間他の()()に呼び掛けてウルゴスの人達を探してるんですよ!?」

 

 

 五年の内にアローネが各地を奔走してウルゴスの情報を集めていたのはカオスも見てきた。それだというのにそのアローネが探している人々が実際にはどこにもいないと分かっているのにカタスティアはそれをアローネに告げずにアローネに無意味な捜索を続けさせている。

 

 

カタスティア「人はねカオス………。

 心の強い人ばかりじゃないのよ?

 真実を知って乗り越えて行ける人もいれば真実を知って打ちひしがれる人だっているの。

 ………あの子アブソリュートで眠りにつく前後の記憶が無いでしょう?

 私はあの子がアブソリュートで眠りに入る直前まで一緒にいたのだけどあの子と親しかった友人達はアブソリュートに入る寸前ヴェノムに感染していて亡くなってるの。

 アローネにとっては不幸な出来事だったでしょうね………。

 でもアローネの記憶喪失のおかげでどうにか友人達のことを誤魔化すことは出来たわ。」

 

 

カオス「!

 じゃあアローネに本当のことを言わないのは………。」

 

 

カタスティア「本当のことを言ってしまえばアローネはショックを受けるでしょうね………。

 それこそ心に深い傷が残るわ。

 一生癒えるかどうか分からない傷が………。

 体についた傷は魔術で癒すことは出来るけど心の傷だけはどうやったって癒せない。

 ………心苦しいことだとは思うけど今はまだウルゴスの人達は生きていることにしておきたいの。

 アローネも必死に皆を探そうと懸命になってる。

 アローネの意気込みに水を差すようなことはしたくないの。」

 

 

カオス「…全部………アローネのためについた嘘だったんですね………。

 それなら俺からは何もアローネには言わないことにしておきます。」

 

 

カタスティア「そうしてもらえるかしら。

 アローネが十分事実を受け止められる頃合いになったら私から説明するわ。」

 

 

カオス「………………分かりました。

 ………それにしてもまさかアインスがこの星とは違う星だったなんて………。」

 

 

カタスティア「それは()()()()()()()()()()よ。

 このデリス=カーラーンも元はアインスの一部だったの。

 アインスがあいつに砕かれてアインスの星の破片が宇宙に散らばりそれが長いこと時間をかけてこのデリス=カーラーンが創られた。

 だからここはアインスでもあるのよ。

 アインスと比べてほんの()()()()()()()()()()だけどね。」

 

 

カオス「デリス=カーラーンが星屑って………どれだけ大きかったんですかアインスって………。

 ………………星屑………?

 

 

 ………!

 まさかそのアインスを砕いたのって………!」

 

 

 カタスティアがデリス=カーラーンを星屑に例えたのを聞きカオスはカタスティアの他にもデリス=カーラーンを星屑と呼んでいた者のことを思い出す。そしてその者の力があれば十分星を砕くことは出来るだろうとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「…えぇそうよ。

 私達の世界アインスの星を砕いたのは二十年前に貴方へと憑依したマクスウェルよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………あいつが………アローネとカタスさんの星アインスを………。」

 

 

 以前にタレスが言っていたがマクスウェルは一度その力を歴史のどこかで使っている筈だ。そうでなければマクスウェルの存在自体が誰にも知られずマクスウェル自身が()()()()()()()()()()()()()()()()()()。マクスウェルは正体は分からないが何者かにその力を狙われていた。マクスウェルの力は世界中………宇宙中を駆け回ったとしてもその力を越える存在はいないだろう。それほどまでの力があるのであればその力を利用しようと企む者がいたとしてもおかしくはない。

 

 

 ………だがそうだとするとマクスウェルを狙っているのは必然的にカタスティアが言う()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。

 

 

カオス「………それでヴェノムは何故ウルゴスで創られたんですか………?」

 

 

 一瞬脳裏に過った疑問を引っ込めてカオスは本題であるヴェノムについてカタスティアに問うた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「ヴェノムが創られた切っ掛けは()()()()()()()()()()からよ。」

 

 

カオス「不治の病………?

 カタスティアさんのお父さんと言うと………、

 ………!

 ウルゴスの王様のことですよね!?

 御病気だったんですか!?」

 

 

 王が病気を患っていたことはカオスも初耳だった。アローネの話ではカタスティアの父()()()()()()が病魔に冒されていた話は無かった。

 

 

カタスティア「そうよ。

 父はウルゴス史上最強の王だった。

 そんな父がダンダルクとの戦争中にとても重い病を発病した。

 勇猛で日々国民に逞しい姿をさらしてきたあの男が突然病気に倒れたことは王家の誰もが驚いたわ。

 そしてそのことが国中に広まってしまうと国民達が不安と恐怖に襲われることを怖れた王家はマクスウェルが不治の病にかかったことを伝えずに内密扱いにしたの。」

 

 

カオス「………戦争中に王様が病気にかかっただなんて広まったら多分相当の騒ぎになりますもんね………。」

 

 

カタスティア「えぇ、

 だからマクスウェルが病気にかかったことを知るのは一部の医師と王家だけだったのよ。

 アローネ達貴族にもこのことは伝えてないわ。

 この問題は私達王家だけでどうにかすることになった。

 

 

 そんな時に父マクスウェルは私達にとある話をしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “私の命はもうすぐ潰えることとなるだろう。助かったとしてももう戦場に立つことは難しい。私の後を継ぐ次代の王を選任しなければならない。そこで私はお前達の中から後継者を選びたい。私が選ぶ王の条件は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”」

 

 

 

 

 

 

カオス「!?」

 

 

カタスティア「………ヴェノムが創られたのは父のその発言が切っ掛けよ。

 マクスウェルの息子娘である私達兄妹は部族の将来をかけた競争に参加したの。

 そしてその過程でヴェノムウイルスが生まれてヴェノムウイルスが不手際により漏洩してアインスが星砕きに破壊された。

 その時にはヴェノムを無効化する手段も確率していたのだけどウイルスが広まるのは想像以上に早く王家の力だけでは抑えきれない勢いにまで発展してしまった。

 それがアインスの全てよ。」

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 カオスは今日だけでもとても多い量の情報を知ることとなった。それを一つ一つ整理するだけでもかなりの時間が必要だった。王からしてみれば自分の病気を治すだけでまさか世界が無くなる運命になるとは思いもしなかっただろう。

 

 

カタスティア「そこからはあっと言う間だったわ。

 宇宙艇で眠りにつく寸前母星であるアインスを眺めていたら突然アインスが崩壊を始めて最後には宇宙の塵となった。

 私達は絶望したわ。

 いつになるかは分からなかったけどいつか自分達がヴェノムが消え去ってから再び降り立つ筈の星が目の前で消えたのだもの。

 私達は悔しかった。

 何故私達の星が無くならないといけなかったのか。

 誰が私達の星を壊したのか………。

 

 

 そして私達は星砕きの存在を知った。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾワリ………、

 

 

 

 

 

カオス「(またか……!)」

 

 

 どうもここにいると嫌な気分になる。

 

 

カタスティア「さっき貴方が言ってたわよね?

 このデリス=カーラーンが誕生したのは四十六億年前だって。

 アインスにもそうい統計があったの。

 それによるとアインスは百八十億年前に誕生したようなの。

 百八十億年前に星砕きがその強大な力を使ってアインスを創ったのだと研究者達が発表したわ。

 

 

 酷い話よね。

 星砕きによって創造された星が星砕きによって砕かれて………。

 

 

 

 

 

 

 そこに生きていた私達は行き場を失ったの。

 私達にとっては全てだったアインスが星砕きの勝手な自己判断で………。

 ………私達は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星砕きに()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 カタスティアがカオスから視線を外しゲダイアンの街を見渡す。

 

 

カタスティア「………ねぇカオス、

 貴方はこの街がどうしてこうなったのかに心当りはあるかしら?」

 

 

カオス「いっ、いえ………、

 それは………。」

 

 

 ゲダイアンがこの様な惨状になった原因は今のところイフリートがやったという嫌疑があるぐらいしかカオスには分からなかった。星砕きの話から突然ゲダイアンに話が移りカオスは困惑する。

 

 

カタスティア「この街があった頃はね………。

 今の世間の状勢が映すように格部族達が互いを詰りあうような空気だったわ。

 同じダレイオス同士でも皆自分達の部族にプライドを持っていた。

 同盟は組んでいた状態だったけどセレンシーアイン程バルツィエの脅威が無かったゲダイアンは部族間での争いが絶えなかった。

 そのせいでいつも問題を起こし続けていたわ。

 ………皆自分達とは違う血が許せない質なのよね。

 ハーフエルフなんてもってのほかでこのカーラーン教会にも時々殴り込みに来る人達もいたの。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「………?

 ゲダイアンが無くなった日………?」

 

 

 どうしてカタスティアがゲダイアンが無くなった日の当時のこの街の情報を知っているのだろうか。それを知っているということはカタスティアも当日このゲダイアンにいたことになるのだが………。

 

 

 

 

 

 

カタスティア「何を思ったのか暴徒達は教会の職員達を襲い出し教会の中にあるものを物色し始めたの。

 私は必死に彼等を追い返そうとしたけど数が多くて全部を捌ききれなくて………、

 そしてとうとう彼等は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ………だから………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

カタスティア「本当はここまでするつもりはなかったんだけど流石にあれにだけは誰にも触られたくなくてね。

 ついものの弾みでこの街を吹き飛ばしちゃったわ。

 今は少しだけ反省してる。」

 

 

カオス「……そっ、

 その宝物って何だったんですか………?

 随分大切にしていたみたいですけど………。」

 

 

カタスティア「()()()()()()()()()()()()()()()よ。

 何せそれは()()()()()()()()()()()使()()()()()()だもの。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 きっと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 でもおかげで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ドクン………、

 

 

 動悸が激しくなっていく。身体中から汗が止まらなくなる。カタスティアが言う宝物は()()()のことだろう。より正確にはあの棺の中にいた()()のことだ。話の流れからカタスティアは彼女に触られそうになってゲダイアンを………。

 

 

 

 

 

 

カタスティア「私にとってはあの子とあの子の姉の存在はとても大きかった………。

 私は部族ボルケーノの代表として兄や弟達と毎日競い会う日々だった。

 そんな日々に嫌気がさした日なんかはいつもあの子達のところでその疲れを癒してもらってたわ。

 あの子達と一緒にいると次期後継者争いで汚れきった心が浄化されるようなそんな居心地の良さがあったの。

 ………私にとってはあの子は家族よりもかけがえのない大切な子なのよ。

 そんな子が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 もしそんな男が現れたら私があの子の目を覚まさせてあげないといけないわ。

 

 

 

 

 

 

 そしてあの子を拐かすような悪い男は………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………カオス、

 逃げろ………こやつは………。』

 

 

 

 

 

 

カオス「!

 マクスウェル………!?」

 

 

 突然カオスの頭の中に声が響いた。その声の主は忘れもしないあの精霊王マクスウェルだった。

 

 

マクスウェル『今すぐこの場を離れるのじゃ。

 そやつに近付くな。』

 

 

カオス「………何を言って………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキンッ!!ガサッ!!ゴトッ!

 

 

 

 

 

 

 カタスティアの方から何かが落ちる音が聞こえた。そちらの方に振り替えってみるとカタスティアの足元にアクセサリーのようなものが落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の瞬間………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カタスティアを中心にマナが収束していく。あまりの量のマナに肉眼でマナの赤い光が可視化できる程だった。

 

 

 

 

 

 

カオス「ッッッ………!!!?」

 

 

 

 

 

 

カタスティア「封印を解くのも久し振りね。

 いつ以来かしら?

 ………そうね。

 前にこれらを外したのは()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スゥ………、

 

 

 ゆっくりとカタスティアがカオスに手のひらを向けてくる。

 

 

カオス「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「フランベルジュ。」

 

 

 

 

 

 

ボオオオオオオッ!!!パキィィンッ!!

 

 

 カタスティアの手が燃え上がったかと思うと彼女の手には一つの剣が握られていた。その剣は炎を象った形をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「紅蓮剣。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴッ!!!ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カタスティアが剣を一振りするだけでゲダイアンの天地の全てが紅蓮の炎に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「うっ、うああああああああああぁぁぁッッ!!?」

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオッ!!!

 

 

 カタスティアの放った炎がカオスを襲いカオスの体を熱していく。炎の勢いが激し過ぎたのかカオスは炎の()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズザザザザ………!!

 

 

カオス「………!

 ゲホッ!!

 一体何が………!」

 

 

マクスウェル『状況判断はいい。

 今すぐに奴のいない遠いところまで逃げるんじゃ。』

 

 

カオス「!!

 どうしてお前が今更出てきてそんなことを……!」

 

 

マクスウェル『早くしろ。

 まだ儂も完全には戻ってはおらぬ。

 ………奴こそが儂を百三十八億年もの昔から付け狙う者達の一人………。

 眷属達を殺してその力を奪った一味じゃ。

 奴は………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………カタスさんが………イフリート………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「えぇそうよ。

 私の中にはイフリートの力がある。

 星砕きの眷属であるイフリートの力を私は宿してるの。」

 

 

カオス「………そんな………カタスさんがイフリートだったなんて………。」

 

 

カタスティア「実感が湧かないかしら?

 貴方には何度か私の力で手助けしていたのだけれど。

 貴方達が星砕きによって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 他にもレサリナスでフェデールを追い払ったりラグナサンライズを消したのだって私よ。

 私が貴方達に力を貸してあげたから簡単にバルツィエの根城まで辿り着けたでしょ?

 感謝してほしいものね。」

 

 

カオス「…どうして今………こんなことを………?」

 

 

カタスティア「さっきも言った筈よね?

 ()()()星砕きに復讐するという目的があったの。

 私達のアインスを奪った星砕きに復讐するためにずっと星砕きの行方を追ってたのよ。

 そしたら貴方の中に星砕きがいると分かった。

 だから星砕きと同化した貴方を()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「………それだけ………なんですか………?

 それだけのためにこんな………。」

 

 

カタスティア「………勿論それだけが目的じゃないわ。

 百三十八億年前から私達は星砕きに復讐すること以外にも()()やるべきことを見付けたの。」

 

 

カオス「………」

 

 

カタスティア「一つは星砕きを殺して()()()()()()()()

 星砕きは過去百八十億年前にたった一人でアインスを創造した。

 言うなればこの広大な宇宙の全ての創造主よ。

 

 

 

 

 

 

 それだけの力があるなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能だと思わない?」

 

 

カオス「!?」

 

 

 

 

 

 

カタスティア「それが一つ目の目的。

 私達はもう一度アインスを星砕きの力で甦らせるの。

 そのために()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「太陽系の全てを消去………だって………?」

 

 

カタスティア「………そしてもう一つ………。

 これが()()()()()()()………。

 私達は()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「…何でアスラが………?」

 

 

カタスティア「それは今の貴方の()()()()()()

 

 

 星砕きの眷属達は殺して力を奪ってから精霊の意識が復活することはなかったけど流石に星砕きともなればただ殺しただけじゃ時間が経てばまた体を乗っ取りかえそうとしてくるみたいね。

 ()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

カオス「………」

 

 

カタスティア「このことは私達が長い長い調査の中で判明したことよ。

 星砕きは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それなら精神を奪い返されない器を造り上げてしまえば問題は無くなるわ。」

 

 

カオス「………アスラって何なんですか………?

 本当にそんなのが作れるんですか………?

 そんな人が本当にこの世に………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタスティア「()()()よ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「!?

 ………カーヤ………?」

 

 

カタスティア「この五年でカーヤをしっかり調べさせてもらったわ。

 カーヤは私達が理想とする基準の全てをクリアした理想通りの器よ。

 カーヤの体があれば星砕きを吸収したとしても星砕きに精神を支配されることはない。

 あの子がいれば新しいアインスに絶対的な力と権力を兼ね備えた無敵の真のウルゴスの王が誕生するわ。

 

 

 私達の()()()()()が漸くその時成就するのよ。

 これまでの百三十八億年そのためだけに活動してきたの。

 星が生まれる度にその星で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ちなみにアスラがどう言った種族かと言えば()()()()()()のことよ。

 全ての生命体の起源は精霊だったの。

 精霊が生物の形を取り戻していく仮定で少しずつその力を失っていったのよ。

 でもその境界が非情に狭くてね。

 非物質の精霊から物質生命体になるまでにアスラは見付かる筈なんどけど力が定着せずにそのままただの生命体に成り下がってしまう。

 だから私達はアスラを見付けるために先祖返りに期待することにしたの。

 その間ただ待つだけなのも退屈だしバルツィエみたいに遺伝子情報を弄くってアスラが生まれやすいようにしたりしてみたんだけどね。

 まさかあの()()()()()()からアスラが誕生するなんて思ってもみなかったわ。」

 

 

カオス「ゴミ………、

 ………ラーゲッツのことか………。」

 

 

カタスティア「!

 そういえばそんな名前だったわね。

 記憶力には自信あったのだけれどどうでもいい存在過ぎて記憶に残すことすらしてなかったわ。

 ラーゲッツには直接感謝したいくらいだわ。

 鬱陶しいバルツィエの一員たったけどラーゲッツだけは生かしておいてもよかったかもね。

 シーモスで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それでどうにかしてバルツィエを全滅させてやろうと思ったのだけれど貴方に渡した()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………。」

 

 

カオス「………!

 どうしてユーラスがアローネを斬りつけたことを知ってるんですか………!?」

 

 

 今の発言だけはどう考えても不可解だった。先程からカタスティアはその場にいなかったにも関わらずその時の情景を見てきたかのように語る。

 

 

カタスティア「レサリナスで貴方に渡したレンズには()()()()()()()()()()()()()()()というものが仕掛けてあるのよ。

 それがあればそのレンズから貴方達がどこで何をしていたか何を話していたかも私に伝わってくるのよ。」

 

 

カオス「そんなものが………。」

 

 

カタスティア「…まったく………、

 よく今日まで貴方は生き延びられたわね。

 運が良すぎよ。

 もし貴方がレサリナスでのあの日に私の忠告通り何も事を起こさずに教会の中で大人しくしていれば私はダレイオスから帰ったその日に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「え………。」

 

 

カタスティア「奪うと言っても貴方を殺さずに星砕きだけを貴方から抽出しようとしてたのよ。

 でも貴方は私の忠告を無視してアローネを連れてダレイオスに行ってしまった。

 貴方程度の()()()()()でも()()()()()()()のクララはつがいになろうと誘ってもらってたのにどうして貴方はアローネを選ぶの?

 貴方はあの子には分不相応だわ。

 身の程を知りなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザ………ガッ!

 

 

 

 

 

 

カオス「うっ………!?」

 

 

 カタスティアがカオスの首を掴みそのまま体を持ち上げる。とても女性の出せる腕力ではなかった。

 

 

カタスティア「アローネは私達ウルゴス王家の物よ。

 あの子は将来私達が復活させるアインスの世界で私達王家と一つになるの。

 それが()()()()()()()()()()()()()()()()()

 余計なちょっかいをかけてあの子の経歴に傷を残さないでくれるかしら。」

 

 

 口調は穏やかだが手に込める力は今にもカオスを殺さんと万力が宿っていく。

 

 

カタスティア「貴方のような不良品は私達のアインスの世界には不要だわ。

 ここで消えなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーニング・ブレイク。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灼熱の炎がカオスの体を包み込む。今度はカタスティアによって拘束されているためにその炎から逃れることはかなわなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………くっ………苦しい………息が………火も………。)」

 

 

 普段なら六属性の攻撃が効かない筈のカオスの体がその炎だけは防ぐことが出来なかった。

 

 

カタスティア「セレンシーアインではコーネリアスからウルゴスの民の力は特別だと聞かされていたようだけどそれは違うわ。

 星砕きの力は膨大すぎて()()()()()()()()()()()()()()()()

 逆に言えば精霊の力は貴方には通用するってことよ。

 星砕きが言ってたでしょ?

 本来はあの星砕きに挑むためには六の眷属達を認めさせてからでないと挑む資格は無いのよ。

 眷属達の力を借りないとまともに貴方には()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「(………)」

 

 

カタスティア「………私の言っていることの意味が分かるかしら?

 つまりは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あの子には()()()()()()()()()を与えているの。

 心配性な()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

カオス「(アローネがシルフ………。

 だから俺はアローネに………。

 

 

 

 

 

 

 ………でもアローネにそんな様子は………。)」

 

 

カタスティア「あの子の記憶は一部消してあるわよ?

 もし真人類計画の記憶があるまま星砕きに接触してしまえば星砕きに逃げられると思ったからね。

 安心して。

 直ぐにあの子の記憶は戻して見せるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方を殺した後にね。

 そうしたらあの子もアインスのことを思い出すでしょ。

 貴方とのこともどうでもよくなるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方とはただの遊びだったのよ。

 アローネも貴方ごときに本気になんてなったりしないわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシ………ピシピシピシ………、

 

 

 炎に包まれたカオスの体がだんだんと石へと変化していく。カオスはここでやっと腰に下げた剣に手を伸ばし炎とカタスティアを振り払おうとするが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………今更抵抗して何の意味があるのかな………。

 カタスさんは………始めから俺を………。

 アローネも………。

 ………アローネにもう一度会いたい………けどアローネはこの人達の仲間………。

 アローネは俺を裏切って………。)」

 

 

 カタスティアの話を聞いてしまったせいで心を揺さぶられ思うように体が動かないカオス。やがて石化は頭部にまで伸びて………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス「(………どうしてだよ………。

 どうして俺はこんな目にばかり………。

 何で俺はこんな目にしか会わないんだ………。

 ………せっかく………やっと心を許せる人達に出会えたと思ったのにどうして俺は最後にはこんな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………僕は………どうすればよか………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスの体が完全に石化してしまった。アインワルド人の住む森にある巫女達の石像達のように………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピ………ピッ!

 

 

 

 

 

 

カタスティア「はぁい♪

 此方()()()のカタスティアよ。」

 

 

???『何のようだ?』

 

 

カタスティア「無愛想ね………。

 人が折角久々に連絡を寄越してあげたのに。」

 

 

???『お前………、

 話し方が元に戻ってるな。

 前のはどうした?』

 

 

カタスティア「あぁ、

 ()()はこっちにいる少しだけ有能そうな奴のを借りてただけなのよ。

 あいつの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

???『そうか………、

 それで用件は何だ?』

 

 

カタスティア「朗報よ。

 星砕きとアスラの器を手に入れたわ。」

 

 

???『!

 遂にか。』

 

 

カタスティア「えぁ。」

 

 

???『では早く此方にそれを渡せ。』

 

 

カタスティア「そう焦らないでよ。

 手に入れたと言ってもたった今手に入れたばかりでね。

 私もクタクタなのよ。」

 

 

???『………星砕きの力はどうだった?』

 

 

カタスティア「大したこと無かったわ。

 星砕き自身が百三十八億年前にアインスを砕いてから力を回復している途中だったってのもあるけどね。

 でも星砕きが入っていた器に一時的にだけど体の支配権が移っててね。

 その器自体が私やアローネに情が出来ちゃってたみたいだから何の抵抗も無く()()()()()()()

 今はまた体力を回復するための休眠期に入ってるところよ。

 

 

 ………まぁそうでなくとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

???『御託はいい。

 それよりも星砕きを此方に送れ。』

 

 

カタスティア「はいはい送ってあげるわよ。

 ()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

???『()()()()()()()()()()()

 あそこは比較的自然が多く研究が捗るからな。』

 

 

カタスティア「そうなの。

 またジャパンに行ってみたいわね。」

 

 

???「それでいつ送る予定なんだ?」

 

 

カタスティア「そうねぇ………、

 送るにしても星砕きの入っている器は必要?」

 

 

???『アスラの器とは別なのか?』

 

 

カタスティア「面倒くさいことにアスラの器の方とは別よ。」

 

 

??? 『………私が欲しているのは星砕きだけだ。

 アスラでないのなら器の方は必要ない。』

 

 

カタスティア「そういうと思ったわ。

 なら星砕きだけを抽出してからそっちに送るわね。」

 

 

???『なるべく早くに頼む。

 アスラと星砕きを()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

カタスティア「分かったわ。

 それじゃ近いうちにそっちに届けるからしっかりとやりなさいよ?」

 

 

???『誰にものを言ってるんだ。

 私だぞ。』

 

 

カタスティア「えぇ、

 貴方ならやり遂げられるでしょうね。

 それじゃ期待して待ってるから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッ!

 

 

 そこで相手との通話が切れる。

 

 

カタスティア「………フフフフフ………、

 もうすぐ………もうすぐ私達のアインスが復活する………。

 念願のこの瞬間が遂にっ!

 こんなみすぼらしい宇宙の塵を末梢するこの時が今………!!

 百三十八億年前に実現出来なかったウルゴスの王がやっと………やっと!!」

 

 

 感極まったかのようにその場で踊り出すカタスティア。彼女の側には横たわった一体の石像が置かれている。

 

 

カタスティア「………!

 あっしまった。

 アローネのことを言うのを忘れてたわ。

 アローネがもしかしたら…………………………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………もしかしたら………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………どうして私は()()()()()()()()()()()()()()()………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安らぎの街カストル 某邸宅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはカストルにあるとある豪商の家の中でのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン、

 

 

 

 

 

 

「御坊っちゃま。

 今宜しいでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

ロン「何のようだい?

 オードリー。」

 

 

オードリー「夕食の準備が調いましたのでお呼びに参りました。」

 

 

ロン「あぁ、そうか。

 もうそんな時間だったね。」

 

 

オードリー「御忙しいでようであれば御坊っちゃまの御部屋までお持ちいたしますがいかが致しましょうか?」

 

 

ロン「う~ん………、

 部屋に匂いが残るのも嫌だし食卓の方で食べることにするよ。」

 

 

オードリー「畏まりました。

 それでは参りましょう。」

 

 

 執事風の男が部屋にいた十歳前後の少年を案内する。少年も執事であるオードリーの後についていく。

 

 

ロン「パパは帰ってるの?」

 

 

オードリー「残念ながら旦那様は只今外での御仕事のためにまだ戻られてはおりません。」

 

 

ロン「また今日もパパは帰ってこないのかぁ………。

 パパが帰ってこないと暇で暇でしょうがないよオードリー。」

 

 

オードリー「どうかそこは何とぞ御辛抱下さい。

 旦那様も御坊っちゃまのためをとこの御時世でも立派に職務についておられるのです。

 これが他家であれば旦那様のように仕事をいただけずに路頭に迷っているところですぞ。」

 

 

ロン「それはそうなんだけどさぁ………。

 ………今は僕だけじゃろくに外にも出られないし………。

 

 

 ………あれ?

 ねぇオードリー、

 夕食の準備が出来たんじゃなかったの?」

 

 

 オードリーに連れられて食卓に到着したが食卓には食事の一つも用意されてはいなかった。

 

 

オードリー「………」

 

 

ロン「………ねぇ、

 どうしたのさオードリー?

 夕食はどこに………?」ドス!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタッ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年が床へと倒れる。少年の胸には食事用のナイフが深々と刺さっていた。少年が倒れた床に赤い血が流れて広がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オードリー「申し訳ありません御坊っちゃま。

 今日が()()()()()()()()()なのです。

 この家の主が不在のこの時しかチャンスはないのです。

 私はこの時を待っておりました………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベリッ!

 

 

 オードリーは自らの頬を力強く握るとそれを思いっきり引っ張った。すると顔が紙のように破けて中から別の人物の顔が出てくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サハーン「ハハハハハ!!

 やっとこの執事の仕事から解放されるぜ!!

 ここからは本業の盗賊に復帰させてもらうぜ!

 給料はこの家の金目の物全部だ!!」

 

 

 オードリーの顔の下から現れたのはマテオでも有名な賞金首のサハーンだった。サハーンは変装を得意としており執事であるオードリーに化けていたのだ。

 

 

サハーン「ハァ~!!

 ったく!

 この二ヶ月間肩がこって仕方なかったぜ!!

 二ヶ月前にこの家に目をつけてから執事の仕草や動作を記憶した後に執事の野郎をぶっ殺して入れ代わったはいいものの中々隙を見せねぇからどうしようかと思ったぜ!

 ガキも外に全然出る気配無かったからどうすりゃいいのか迷っちまったが家主が帰ってくる前に殺して盗むもん盗んでずらかりゃどうだっていいよな!

 ハハハ!!」

 

 

 サハーンは執事に変装せずによくなったことで浮かれていた。浮かれながらも屋敷の中にある金品類を所持していた袋に詰めていく。

 

 

サハーン「おおおぉ!!

 結構沢山あるな!

 こりゃ全部は持ち出せねぇな!

 どうすりゃいいっか………、

 

 

 ………よし!

 価値のありそうな物から持っていくことにするか!」

 

 

 サハーンは一打ちのありそうな物を集めて並べていく。それらをゆっくりと観察し気に入った物を袋に入れていく。

 

 

サハーン「さぁて、

 後はさっさとズラかるだけだな。

 警備の連中に見付かる前に裏口からこっそりと………。

 

 

 ………!

 ………………この臭いは………。」

 

 

 物色を終えて袋に詰められるだけ詰めたサハーンが裏口の扉に向かったところどこからか嗅ぎ覚えのある香りがしてきた。

 

 

サハーン「(………こりゃ()()()()()()

 それも若干だが少し腐臭もする。

 死んでから結構時間が経った時の死体の臭いだ。

 この家のどっかに死体でも隠してあんのか?

 そういや前に貴族の連中の一部の家が道楽で人を玩具にしてから殺すって話を聞いたな。

 ひょっとしてこりゃその死体の臭いか?

 だとしたらちょっと興味あるな。

 

 

 元貴族の奴等が誰をどんなふうに殺ったか見てやろうじゃねぇか。)」

 

 

 サハーンは血の臭いを辿った。すると臭いはロンの部屋の中に続いていた。

 

 

サハーン「(おいおいあのガキ………、

 十歳でどんだけだって話だよ。

 十歳で人殺しだと?

 やっぱ貴族だった連中にろくなのはいねぇようだな。)

 

 

 ………さて、

 あの糞ガキはどんな奴を殺して………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()()()()()()()()()!()!()!()!()?() ()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サハーンはロンの部屋に入り血の臭いが漂ってきていたクローゼットを開けた。そこにはサハーンの見透し通りに死体が隠されてあった。

 

 

 だが普段から人の死体を目にしてきたサハーンがこれほど驚のは珍しかった。それだけそこにあった死体が衝撃的だったからだ。そこにあった死体というのが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サハーン「(なっ、 何だ………!?

 どうなってやがる!?

 どうしてこのガキの死体がここにあるんだ!?

 このガキはさっき俺が()()()()で殺した筈!!

 それがどうしてこんなところにあのガキの死体があるんだ!?)」

 

 

 サハーンがロンを殺害してからまだそう時間は経過していない。死体をこの短時間で食卓からこのクローゼットにサハーンの目を盗んで運ぶのは不可能である。

 

 

サハーン「(それにこの腐敗臭………!?

 死んでから数日は経ってる臭いだ!

 このガキは数日前には死んでたってことか!?

 そんな馬鹿な!

 俺が殺したのはつい数分前だぞ!?

 

 

 ………ってこたぁこの死体と今リビングで転がってる死体は別物ってことか?

 何だよそれ!?

 どういうことだよ!?

 整理しようとしても余計こんがらがるぜ!?

 ワケわからねぇよ!!?)」

 

 

 屋敷に潜入するにあたってサハーンはこの屋敷の住人のことについては調べてあった。屋敷は主人とその一人息子であるロン、それとオードリーと他数名の使用人がいることが分かっている。現在主人と他の使用人は仕事で出払っている。なので屋敷に残っているのはロンとオードリーに変装していたサハーンのみ。他にいる筈がないのだ。

 

 

サハーン「(…何なんだよこいつは………!?

 あれか?

 双子の兄弟か何かか?

 だとしたら何でこんなところで死んでるんだよ!?

 だいたい兄弟だったとしても俺は何も聞かされてねぇぞ!?

 この屋敷の主人は俺に()()()()()()()()()()()って言われたんだ!

 だとしたら息子が二人いる筈がねぇ!!

 ()()()()()()()()()()!!

 俺と同じで誰かがガキに変装してたんだ!!)」

 

 

 サハーンの読みは当たっていた。屋敷には子供は一人しかいないのだ。そうなるとリビングの死体とクローゼットの死体のどちらかが偽者となるのだが………、

 

 

サハーン「どっちが偽者だ!?

 あっちか!?

 こっちか!?

 どっちも同じ顔をしてるからどこで見分けていいのか分からな………。」

 

 

 ふとサハーンはあることを思い付いた。

 

 

サハーン「………いや、

 よく考えてみりゃどっちかは()()なんだよな………?

 だったら俺みたいにどっちかの死体がマスクを被ってるだけだよな………?

 ………こっちの死体はどうだ………?」

 

 

 サハーンはクローゼットのロンの死体の顔を触る。死後数日のその死体の感触はゴムを触るかのような感触だった。

 

 

サハーン「………こっちの死体は本物のようだな。

 ってことはあっちのリビングにある死体の方が偽者ってことか………。

 ………俺は偽者の方を殺しちまってたのか………。

 …にしてもあっちの偽者の方は偉く()()()()()()()()()()………。

 顔もだが声や身長、本人の癖の何から何までが本物と見分けがつかなかったぜ。

 この死体が数日前のものだってことは俺がここで働いている間に偽者が本物と入れ代わったってことだよな………?

 全く気付かなかったぜ………。」

 

 

 変装を得意としているサハーンだからこそ人の癖や特徴には敏感だ。そのサハーンに気付かせなかったというのであればかなりのクオリティである。

 

 

サハーン「………一応あっちの死体も見てくるか。

 一体どんな奴がこのガキに化けて「何を見てくるって?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロン?「やぁ、

 オードリー。

 夕食はまだ出来上がらないのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 五年前、約三百年続いたマテオとダレイオスの戦争に決着がついた。

 

 

 

 勝ったのはダレイオスだ。

 

 

 

 

 ダレイオスではダレイオスを勝利に導いた七人の男女に敬意を評して大英雄と呼んだ。

 

 

 

 彼等は戦後各地で巻き起こる問題を解決すべく奮闘していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そんな英雄達の中でもっともダレイオスに貢献したとされるカオス=バルツィエが突如世界からその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数年後、故郷であるミストを再生しようとしていた同じく大英雄のウインドラ=ケンドリューとその妻ミシガンが焼死体となって旧ミストで発見される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更に彼等の仲間の一人であるカーヤもカオスと同じく消息が絶たれてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大英雄達の中で生存を確認出来るのはアイネフーレ国国王のタレスとカーラーン教会教皇のアローネ=リム・クラウディアのみとなっていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




映画で鮫や蛇とかが出てくるパニック映画の冒頭で名前は出ないけどとりあえず襲われてモンスターの恐怖を引き立てる襲われ役。

二年半かけてやっとその冒頭がおわった感じ。


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