テイルズオブフィナーレ ~未来を形作るRPG~ (モニカルビリッジ)
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幕はまだ上がらない

 人
 人とは何者だろうか。
 太古から紡がれてきた歴史で進化してきた最果ての霊長類か。
 あるいは神が作り出した自らの分身か。
 それともただなんの意味もなく現れた偶然の産物か。
 


 いずれにせよ答えなど何者が持っていようか。


 彼らが何者なのかは彼ら自信も知らないのだから…。
 


 僕の名前はカオス=バルツィエ。

 この星デリス・カーラーン、マテオ王国の東の果ての小さな村に住む農民だ。

 

 現状王国は海を跨いで隣にあるダレイオス帝国と数百年に及ぶ領土争いで険悪な仲にあり、ある程度はおさまったが今もお互いの大陸の何処かで小規模な小競り合いが頻繁に起こっている……らしい。

 

 らしいというのは僕の住む村が敵国どころか自国の王国、いや近くの村ですら滅多に交流がないというほど秘境の地にあり外の情報は全くと言っていいほど入ってこない。恐らく最後に交流があったのはほんの1()0()0()()()()()()()()()()まだ僕は生まれてないけども。

 

 そんなわけで僕の村は農業で自活していけるため何処かで戦がおころうとも「それがどうした?」を貫き通している。一応○○王国の領土圏内の村ではあるが何代目かの村長が税としてお金と育てた作物を無駄に徴収していく王国騎士を毛嫌いして勝手に人里離れた誰も寄り付かない山奥の秘境の地に村人ごと引っ越ししてしまった。

 

 当時はもぬけの殻になった村を見て徴収しに来た騎士達も驚いていたようだ。

 その騎士達も手ぶらでは帰れぬと思い消えた農民達を探すが一人も見つからず、代わりに廃墟の村のエサを漁るモンスターの群れと遭遇してしまう。

 不意をつかれた騎士達は隊列もうまく組ませてもらえずにモンスターの餌食になり逃げおおせたのは当時の隊長だったものだけ。

 土地勘のない隊長は三日三晩闇雲に走り続けてとうとう疲労で力尽き倒れてしまう。

 そこへ廃墟の村に忘れ物を取りに行った村人に見つけられ隊長は保護される。

 

 

 

 ………話が長くなったな。なにを隠そう、モンスターに襲われて村人に助けられたその情けない隊長こそ僕の祖父だよ!堅苦しい家名も祖父譲りさ!

 祖父は村人達が移り住んだこの村で保護されてから無断で騎士を辞めて農民として生活している。

 祖父いわく「王国はもう部隊と村は盗賊かモンスターに襲われて全滅した、と判断しているだろうから今更帰っても俺の席ねーよ」とのこと。

…随分と自分勝手なもんだな。それでも元隊長かよ。

 

 まぁ、なんだかんだ言って僕も祖父が嫌いにはなれない訳でむしろ幼いときから聞かされてきた王国の話を聞いて騎士だった祖父に強い憧れをいだいていた。今となっては祖父よりも騎士だが。

 何一つ変わらず作物を育てて生きるだけの退屈なこの村では聴くことの出来ない世界の話はとても冒険心を掻き立てられる。

 王国にいた頃の簡単な任務の話や敵国との会談ときに戦闘、教皇カタス様の神木収集、巨大モンスターの討伐、闘技場挑戦、盗賊団アジト襲撃、オルウェイ医師の特別依頼…。

 数々の思出話を聞かされたけど中でも王女様誘拐事件の話が一番好きだ。

 戦いが好きって訳ではないけど誰かを守るために体を張れるのはなんかカッコいい。そんな場面一度でいいから経験してみたい。そして本当の騎士になるんだ!

 税の徴収は置いといて。

 

 「いつか、いつか絶対そんな世界に行ってみたい」

 言葉にしてみたら自分の心にしっくりくるようでこれが自分の夢なんだと自覚出来る。

 この想いが僕の気持ちだ、道だ、全てなんだ!

 この胸の高鳴りは何があってももう止められないところまで来てる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「騎士になりたいっていうけどお前魔術使えんの?」

 

 胸の高鳴りが止み代わりに痛みが走る。

 

「騎士ってのはまず単純に強さがあるやつがなれる職業じゃねぇの?」

 

 村に住む同い年か若干年上かもなザックがからかうようにそう指摘してきた。

 そんなことは百も承知だ。

 

「うっせぇなぁ、だからこうして毎日畑仕事しながら剣術磨いてんだろ!」

 

「ンッフフ、剣術磨いてるって、ただ鉈を振り回してるだけじゃねぇか。」

 

「村の大人達も刃物振り回す頭のオカシー奴だから相手すんなって言ってるぞ。」

 

 

 ザックと一緒にからかいに来たその回りの連中が笑いだす。

 

 ………腹がたって集中出来ない。

 

「笑いに来ただけならどっか行けよ!あとこれは振り回してるんじゃなくて素振りしてんだよ!いつか騎士にスカウトされるために!」

 

「だからぁ!おめぇは魔術使えるのかって聞いてんだよ!」

 

 またそこを衝かれる。

 

「………!」

 

「普通、魔術くらい使えるだろ!人【エルフ】ならよぉ!」

 

「体の中にあるマナを大気中の五大元素にに干渉させて起こす術だよ!」

 

「こんなん俺らより下のガキどもでも出来るぜ!?おめぇ本当は亜人【ドワーフ】なんじゃねぇのか?」

 

「ガキどころか世界中の人からモンスターまで少なくとも一つくらいは扱えるはずだぜ!ドワーフは使わねぇだけだろ。」

 

 

 

 そう、このムカつく連中の言う通り僕は(エルフ)として生まれたが人として当たり前に持っている筈の魔力を持っていなかった。

 

 別に先天的になかった訳ではない。

もう記憶の切れ端程度だが物心つく辺りで魔術を使えたような………願望だったかな?思い出せない。それほど昔ということだ……うん。

 

 冒頭で村が秘境の地に引っ越してきたと言っていたけど、当時の村長はただ見つかりにくいだけでここを選んだ訳じゃない。ここには、

 

 

 

 

“殺生石”がある。

 

 

 

 

 

 文字通り触れた生き物を殺す石である。石なんて言ってるが実際は三階建の家くらいはある大きな岩だ。

 この岩の数㎞周辺には野生の生き物やモンスターは近寄ってこない。

 触れるとどうなるか?触ると生物が生きていく上で水や空気、熱よりも大切な“生命(マナ)”が一瞬にして枯渇しこれを失った人は意識を失いやがて生命活動を止めてしまう。

 

 

 

 僕は昔これに触ったらしい…。

 

 当然意識を失い、気付いた村のみんなは僕の運命に悲観していたがその後奇跡的に目覚め、触れしものを殺す石に初の例外が現れた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな大したことのない奇跡の話もここまで、今ではただの障害者だ。

 当たり前のことが当たり前に出来ない欠陥をかかえた人生。

 他の人は簡単に出来るのに僕はどう頑張っても出来ない。

 治す方法を探して歴史上の最高の人体学者オルウェイの医学の本を読んだよ、今自分がどういう状況下にあるかを。

 それによると先天的に体内のマナが稀にごく僅かしかない状態で生まれる人がいるらしい。

 その人は魔法も使えず20歳前後辺りまでは普通に成長するけどそこから10倍のペースで成長し寿命も6()0()()8()0()()()()()()()()()()()()()()()()普通は1000年くらい生きられるのにな。

 

 

 

 

 さて、困ったことに先天的か後天的かの違いがあるがどうやら僕はこの症状が最も近いようだ。

 多分僕のマナはもう寿命手前のよぼよぼしたお爺ちゃんくらいしか残ってないんだろうね。

 

 今年で10歳、後10年前後で僕は周りよりも早くに成長し始める。短いんだろうなぁ、人生。

 

 そんなわけで僕は魔術が使えない。使わなくても生きていけるが多分長生きはできないだろう。症例あるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いてんのか?このゾンビ!」

 

 おっと悪口に反応してしまった。せっかく自分の世界に籠っていたのに。

 

「おめぇが騎士になって剣振ったところで敵を斬る前に精々ウィンドカッターでひき肉になるだけだよ!」

 

「ファイヤーボールで焼肉になるかもよ?」

 

「敵に近寄れずにライトニングで一発だろ!」

 

「そしたら俺がストーンブラストで墓石建ててやるよ」

 

「ハハッ、じゃあ命日にはその墓石にアクアエッジで水ぶっかけにいってやんよ!」

 

 

 ………このクソどもは本当に言いたい放題だな!

 閉鎖的な村のスペース上他に娯楽がないのも仕方ないがだからといってこうイジッ……いや遊びの相手をしてほしいなんて!なんて構ってちゃんなんだろう!

 うんうん優しいカッコいい騎士道な僕もそろそろ本格的に人が斬りたくなってきたよ。おいおい人が必死に耐えてる間に随分と笑ってくれるねぇ。こちとら好きでこんな体質してんじゃねえぞ!ガキィッそこんとこ配慮できねぇのか!おっ!丁度いぃぃぃぃところに鉈があるじゃないか!最近素振りだけじゃなんか物足りなくなってきたからなぁ!いっぺん赤い血が流れるとこッ…ってまだ悪口続けてん#%@◯∞&▽↑↓←→♂♀……!!!!!

 

 

 

 

 

「ウルセェェェ!!!テメェーらにカン、ケーねェーだろ黙ってロォォォォ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 目の前が真っ赤に染まる。もう止められない、もう許さない、この沸騰した熱はコイツラをヤらないと治まらない!

 騎士見習いカオス!ここで悪を討つ!

 心の楔を解放した僕は手元にあった鉈を持ち一直線にザックに突進する!

 

「ウワッ!っなんだこいつ!マジか!!」

 

「ザック逃げろ!」

 

「やっぱりアブねーやつじゃんかぁ!」

 

「バラけろ!散れ!」

 

 ハハッ今頃そんなことに気づいてももう遅い。ガキどもめッ!最初から狙いは大将だって決まってんだよ!!!

 

 

 

 

「おいおいおい!止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ねェェェェェェ!!!ザックゥゥゥゥゥ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




初投稿です。優しい目で見てくれたら嬉しいです。暴走しすぎて書いてる間に主人公がとんでもないことになってしまいました。

この作品は登場した用語で分かる通りあるテイルズオブシリーズに関係した物語をイメージして書きました。



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友とのふれ合い

 惑星デリス・カーラーン、マテオ王国領秘境の村にて騎士を目指して畑仕事をしながら剣術を磨く少年カオス。

 だが彼は騎士を目指す上で必要な力を持っていなかった。




 それでも彼は夢を諦めきれずただひたすらに努力を続ける。


 そんなカオスは今、












 騎士どころか人としての道徳を踏み外そうと、

 凶器の刃を守るべき民に振り上げていた……


 

「痛ってぇぇぇ!あんにゃろうども散々人のこと見下しておいて5人で袋叩きかよ!タイマン張れっつーの!こちとら障害者だぞ?オラッ!!」ガスッ

 

 

 

 結局あの後魔術で反撃され至近距離でしか攻撃を加えられないカオスはイジめッ子5人衆に鬱憤を晴らすことなく返り討ちにあい村の外れにある河原で汚れた服を洗いに来ていた。

 

「ったく!マナが少ねぇって言ってんだからテメーらみてーなガキの魔術喰らってもシャレにならねぇってこと何回言えばわかんだ!?あの豚どもォッ!!」

 

 そう、マナは人エルフにとって寿命の長さであると同時に魔術的攻撃の鋭さと魔術的強度の堅さの面もあわせ持つ。

 単純にマナが多ければ多いほどこの二つは高くなる。魔術的攻撃は攻撃性の密度とその範囲を拡げ、魔術的強度は敵から受ける魔術をある程度緩和出来る。

 

 僕カオスにはそのどちらもなんら縁もない話になるが。

 殺生石にマナをほとんど吹き飛ばされた僕は今や軽めの魔法一つ射つだけであの世に召されてしまう可能性すらある。

 死ぬ間際のラストショット…、なかなか燃えるシチュエーションではあるが僕程度が放った魔術では村の周辺に住む小型のラビット一匹を驚かすのが関の山だろう。当然魔術攻撃も死にかける。

 つくづく嫌な体質だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、やられたのかいカオス?君もよく熱くなるもんだねぇ。あんな連中ほっときゃいいのに。」

 

 

 

 

 そう言って話しかけてきたのは同い年の幼馴染みのイケメン、ウインドラだった。

 昔は体質のせいもあってなかなか周りの連中に馴染めずにいたがコイツだけは僕をバカにしないで一緒にいてくれる最高の友達だ。

 たびたびひねくれた思考に陥る僕だが絶望せずに立ち上がれるのはウインドラがそばにいてくれるからだ。何よりウインドラは

 

 

 

 

「そんな有り様じゃぁ先に騎士になるのは俺の方かもなぁ」

 

 

 

 

 同じ目標を持つ同志でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラが騎士を目指すキッカケは僕と同じで祖父の昔話の影響だ。

 仲良くなったウインドラを家に招き入れ祖父と引き合わせてからスッカリ外の世界に魅了されてしまったらしい。

 閉ざされた空間だからこそ危険があると知ってても好奇心が外に向く。

 この村だけがこの世界じゃない。見渡せば遠く見える山や谷の向こう、この村以外にも数多く存在する街や港、古代の遺跡後から前人未踏の地……あっ、それこの村のことだった。知らぬ間に踏破してたわ。

 そして国をもしくは国民を守るため勇敢に戦う王国の騎士達!今でもウインドラとは祖父が森の木々で作ってくれた模擬刀でよく遊ぶものだ。

 

 

 

 

 多分この村でも騎士になりたいと思ってるのは僕とウインドラだけだろうしね。

 

 

 

 

「まぁ、口は悪かったけどアイツらが言っていたことはついさっき十分身にしみたぜ」

 

 この国の騎士は武術、そして魔術も磨かなければならない。

 戦場では弓や魔術が広範囲にわたって飛び交うため戦闘が始まったらまず撃ち合いが始まり、そこから膠着していきお互いの進軍具合で徐々に近づいて、ようやく武術に入る。

 

 つまるところ、カオスが武術だけで敵陣にダッシュしたら敵軍の集中砲火を浴びることになる。

 軍としてもわざわざそんなやられるだけの騎士は必要としないだろう。囮専属ならともかく。

 

 騎士は直接戦うだけが仕事ではない。後方支援として治癒術や耐性付加といった援護部隊も存在するらしい。適正によってはあらゆる仕事をこなさなければならない。

 

 

 

「魔術はなくても弓兵として戦場に出る道はあると思うけど。」

 

「それも考えたけど弓に関してはどうにも安定しなくてね。」

 

 僕には魔術どころか魔術を使わない弓の才能もなかった。ようするにノーコンである。

 

 戦場に出るにはあまりにもハンデを負いすぎている騎士。騎士になれたとしてもその先は長くは続かないだろう。それでも、

 

 

 

 

 

憧れた夢は止まらない、子供の見る夢だと笑われてもがむしゃらに努力してればいつかは報われる時が来ると信じて突き進んでみたい。

 

 

「カオスは凄いなぁ」

 

「急に何だよ、別に凄くないよ。」

 

 いきなり褒められると照れるがなんなんだ。

 

「いや、やっぱりカオスは凄いと思うよ。自分の不得意を認めながらそうやって頑張り続けられるなんて。」

 

「……」

 

「確かに魔術は出来ないけど、その代わり剣術や武術では多分村のみんなの中では一番強いと思うよ。」

 

 そう言われても僕にはこれしかないからこの長所で抜かされるようなら塞ぎこんで引きこもってるだろう。

 

 「まぁ、引退したとはいえ騎士の家系だしね。じいちゃんが時々剣術稽古つけてくれるし、ウインドラも相手してくれるからだよ。そんなこと言ったらウインドラも凄いじゃないか。」

 

「うぅん、俺はそんなに凄くないよ。剣術じゃぁ、未だにカオスに勝ったことないし。」

 

「何言ってるんだよ、魔術や弓の腕前は村の中では一番じゃないか。それに剣術だって他のやつら相手にしてるから分かるけど僕にとっては一番キツイ相手だよ。」

 

 この気さくで男前のイケメンの友ウインドラは総合的に見れば村一番の優秀なやつだと思う。女の子たちにもモテモテだし。

 

 こんな都会から外れた村ではあるがウインドラが騎士を目指すのはみんな納得するだろうな。ウインドラ自身はみんなに公表してないけど。

 

「俺は弓と魔術が他の人よりほんの少し上手いだけだよ。大人になれば特に目だった長所にもならないと思う。」

 

 相変わらず謙虚なやつだ。自分のことに自信がないようだ。村一番と評判なのに。

 

「こらこら、そんなこと言ったら目立つ短所を持つ僕に失礼じゃないか!」

 

「アッハハ、ごめん。」

 

「おう。」

 

 お互いに気が合う間柄だからこそこんな会話でもなんだか居心地がいい。ウインドラがいてくれるからこそ僕は僕に絶望しないですむのかもしれない。

 

「そういえばウインドラは僕と同じで騎士になるんだよね?」

 

「うん、そのつもりだよ?」

 

「村長のとこのミシガンとはどうなってるの?」

 

「………あぁ、うん。」

 

 ウインドラは苦い顔をする。この話題は失敗したか。

 

 村の空間が閉鎖的だからこそ将来を見越して一部の意識の高い親たちが子供同士を作為的にくっつけようとする許嫁制度がこの村にはあったりする。

 

 ウインドラはその制度で村長に目をつけられ村長のとこの僕たちより少し下のミシガンという娘さんと許嫁関係にある。次期村長との婚姻は凄いことだと思う。

 羨ましいと思うがウインドラなら仕方ない。

 

「やっぱり連れていくんだろ?」

 

「どうかな、まだ分からないよ、先のことだし…。」

 

「これだから何でも出来る何でも屋は将来有望すぎて色々選べて羨ましいぜ!」

 

「茶化すなよ、そんなこと言われても彼女が将来俺についてきてくれるか分からないし、正直村の村長とかは俺には荷が重すぎて想像できないよ。」

 

「だからミシガンとは結婚しないの?」

 

「………………………………………………しないんじゃないかな。」

 

 まぁ、確かに日頃の村長を見てると何でもハキハキとしてみんなを取りまとめてしまう姿は尊敬は出来るがかといってあれの次代を担うのは少し躊躇うな。いや、大分躊躇うな。

 

「ふぅん、そんなもんなんかなぁ?」

 

「そんなもんだよ、それにやっぱり俺は騎士になりたいからさ。村をいつかは出ていくよ、カオスと一緒に。」

 

 ……顔のニヤケが抑えられない!嬉しいこと言ってくれるぜ相棒!

 

「そっか!じゃあこのままじいちゃんとこで剣術稽古つけてもらいにいくか?」

 

「あぁ!!」

 

 

 

 

 これが僕たちの日常。

 

 農業仕事を手伝いながら空いた時間でしたいことをする。仲の良い友達と遊んだり親の仕事を手伝ったり。

 

 僕たちは剣術の稽古。元騎士様から直々に修行を積ませてもらうんだ。将来のことを考えるとこの時間が楽しみで堪らない。

 

 

 

 

 

僕たちはそのまま祖父………もうおじいちゃんでいいや、おじいちゃんのいる僕の家へと向かった。

 

 

 




2話目投稿です。

書いてるとどんどん筆が進みますね。

暖かい目で読んでくれたら幸いかと。


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祖父の教え

 騎士を目指す少年カオスは危うく騎士になる前に犯罪者になりかけたが、なんとか事なきを得る。

 その場をしのいだカオスは友人ウインドラと合流し将来の夢を語る。

 そしてより現実なものとするため祖父のもとへと向かう。


「ほう、また俺に稽古をつけてほしいと」

 

 

 家について早速僕とウインドラはじいちゃんに剣術の稽古のお願いをした。

 

 僕のおじいちゃんは剣術の稽古をいつも快く引き受けてくれる。

 

 おじいちゃんは僕との剣術稽古はいつも楽しみだと言って毎日暗くなるまでつき合ってくれるからこっちもやる気がわいてくるぜ!

 

 「アルバさん、よろしくお願いします!」

 

 「おう、ウインドラも来たのか。ちょっと待ってろ直ぐに支度して二人まとめて相手してやるからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 僕たちは稽古用の木刀を持ち裏庭でおじいちゃんを待つ。

 

「さぁて、今日こそおじいちゃんから1本取るぞ!」

 

「気合い入ってるねカオス、どうしたの?」

 

「今日の僕はいつもの僕と違うんだよ、何でか分からないけど身体中から力が湧いてくるんだ!今日はなんだか勝てそうな気がするんだ!」

 

 不思議なものだ。昼間に魔術で受けた傷辺りから体が熱くなり痛みも感じなくなる。今日に限っては自分が自分じゃないと思ってしまうくらいに感覚が研ぎ澄まされている。これはあれかな?目覚めたかな。フッ…

 

「それって昼間にアイツらにやられて興奮してるだけじゃないの?」

 

 

 ……なるほど、道理ではらわたから1番力が溢れてくるわけだ。この感じは……怒りからか!

 

「イライラする気持ちも分かるけどそれで剣の筋が荒くなって痛い目見ても知らないぞ?」

 

「」

 

 ごもっともだ。

 稽古といっても僕たちがやってるのはウインドラと2人でおじいちゃんに木刀をもって斬りかかり、それをおじいちゃんが剣さばきで防ぎ反撃する、の繰り返しである。

 この稽古の始めた最初の頃は2人してもうコテンパンに叩きのめされたね。まだ最初の一太刀目だけだったのに。

 その頃はおじいちゃんも引退して長いせいか加減を間違えたと言っていた。長い割には凄い動きしてたぞ?

 

 あれから3年たつけど今では2人がかりだが10太刀前後までは防げるようになった。

 ウインドラがいないときは1人だけでおじいちゃんに挑むけど3太刀防ぎきるのがやっとだな。仲間がいるのは本当に頼もしい。そして10歳児にもたまには遠慮してくれませんかねおじいちゃん?気分落ち目の時は泣いちゃうぞ。

 

 

 

 

 

「なんだカオス、今日は機嫌が悪いのか?」

 

 と、ようやくおじいちゃんが準備を済ませてやって来た。

 

「いやいや、今日はすんごい調子よくてねぇ!体がいつもより動くからじっとしてられないんだよ。もしかしたら今日おじいちゃんに初勝利出来るかも、そのときはおじいちゃんごめんね!」

 

「やけに饒舌じゃないか本当に何があった?いろいろとケガしてるみたいだが。」

 

「昼間に村のザック達とちょっとぉ…」

 

「……あぁ、それでか。おいおい、何があったかはだいたい分かるがその鬱憤で立ち向かって来んなよ…。」

 

「まぁ、悪い目にあっても不貞腐れない不屈なところがカオスの良いところでもありますから。」

 

「不屈か。」チラッ

 

「?」

 

「バカなだけじゃねぇか?」

 

「(^-^;」

 

「ほんにん目の前にして何堂々と悪口かましてんだ、

オラァッ!!」ビュッ、

 

 興奮してるからか目の前で文句を言ってくるおじいちゃんに不意打ちの一閃!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 そんな一撃も難なく木刀で受け止められてしまう。

 

「チョロいなぁ、カオス。この程度か?」

 

 ぐっ!腹の立つ挑発である。

 

「甘いなぁ、カオス。この一回を誘われてるとも気付かずにぃ。」

 

 クソッ!自分の迂闊さにも腹が立つ!

 

「チョロアマだなぁ、カオス!そんな君が俺は大好きだぁぁぁ!!(≧▽≦)カモ過ぎて!」

 

「ドゥハァァ!!キレていいのか喜んでいいのか分からねぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「いや完全におちょくられてるじゃないか、そこは素直にキレていいんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、その場には木刀を構えた1人の大人と1人の子供、そして、

 

 

 

 

 

 散々遊ばれて力尽きた少年の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、日頃からあれほど剣を握るときは冷静になれと教えてるだろうにぃ。」

 

 おじいちゃんはそう呆れたように言うが顔は満面の笑みだ。殴って良いですか?

 

「戦場じゃぁ冷静に己の立ち位置を把握するのが長生きの秘訣だぞ?さっきみたいに少しつつかれた程度で躍起になってるようじゃぁ騎士としてまだまだだな。」

 

 時間がたって頭が冷えたのかな。今日1日を振り返ると酷い有り様だな。ちなみにウインドラはもう家に帰った。今はじいちゃんと家で晩御飯の時間だ。

 

「騎士に限らず外にいるモンスターと戦う猟師や冒険者なんかでも大切なことだぞ?感情を抑えきれずに突っ走ると必ずその先の落とし穴にハマることになるぞ。」

 

 もうこの有難いお言葉はは耳タコである。頭に血がのぼっていたせいで忘れていたが。

 

「でもおじいちゃん、やっつける敵を前にして冷静になれって無理じゃない?僕この間森でボアチャイルドに逢ったんだけどちょこまか動きまわって突進してくるから冷静になんてとてもなれなかったよ。あれがボアだったらと思うとやっぱり無理だよ。」

 

「なんだ、また森に行ったのか?あそこは大したモンスターはいないとはいえモンスターはモンスターだ。調子こいて村の警備隊の俺のマネしてると大ケガするぞ。」

 

「ウインドラもいたからヘッチャラだったよ。」

 

「子供が2人になったところで安全性が万全になる訳じゃないんだよアホ。それに危ないのはそういうことじゃねぇ。」

 

「え?」

 

「ハプニングってのは突然起こるんだ。この場所にはこういう生き物しかいない。なら大丈夫なんて決めつけた考えだとまさしく大ケガ確定だな。」

 

「何でだよぉ、森のボアチャイルドやラビットくらいなら僕達でも倒せるよ!」

 

「ならボアは倒せるか?他にもあの森ではベアが生息してるぞ。」

 

「うっ」

 

 言葉が詰まる。ボアチャイルドは僕よりも小柄で突進されてもすっごく痛いがなんとか対処できるモンスターではある。

 だがボアに関しては前に1度村近くでおじいちゃんが他の警備隊の人と力をあわせて倒したやつを見たことあったがそのボアはじいちゃん達よりも高く、軽く大人5人は入るんじゃないかというくらいの胴廻りもしていた。

 

「ここで答えられないようなら森には入らずにもう少し大人になるまで村の中で稽古をつけてた方がいいぞ。第1ボアなんて出たら大人でも1人じゃあ簡単には倒せん。」

 

 そうなのか、出会わなくて良かった。

 

「それに俺が本当に言いたかったのはそう言うこっちゃねぇ。」

 

 ん?違うのか。

 

「モンスターってのは森にでも草原にでも砂漠にでも海でも空にでもいるもんだ。人らと同じで世界中どこにでもいる。いろんなとこを住みかにしてるが中には時季によって住みかを変えるやつもいる。この村の連中が前の場所からここに移り住んだようにな。」

 

「ヘェー、そんなモンスターがいるんだ。」

 

 世界も広ければそんなモンスターもいるんだなぁ、そういうのは知らなかった。ってかちゃっかり村のみんなをモンスターと同列にしてなかったか。というより村のみんなはおじいちゃんを含めた王国騎士の徴収が嫌で隠れすんでるんじゃなかったか?よく村のみんなはこんなアホ騎士を助けたね。

 

「幸いこの村の周辺は年中、気候差が殆どないからそういった例は聞かないが確実にないとは断言できない。あり得ねーとは思うが今この瞬間にも村の周囲の草原や森にドラゴンが来ることだってあるかもしれないんだ。」

 

 ドラゴン。今まで1度も見たことはないけどおじいちゃんは過去に騎士の任務としてドラゴン討伐に参加したことがあると言っていた。なんでもこの村の殺生石よりも大きかったとか。よくそんな狂暴そうなやつの討伐に参加出来たね。したっぱじゃなかったの?したっぱだからか。

 

「そこんとこ頭にいれとけよ?ボアやボアチャイルドならまだまずくなったら逃げればいいがそうさせてくれない執念深い手強いモンスターに遭遇したら頭の中真っ白になって動けなくなることもあるからな。そう言うときこそ落ち着いて判断しなきゃならん。」

 

「けどおじいちゃんたちは魔術があるから大丈夫じゃないの?」

 

「モンスターをなめたらいかんぞ?同じモンスターでも中には魔術が使えるやつもいる。生物である限りマナを保有してるから気を付けとけ。滅多にいないがな。」

 

 確かに森でときどき遭遇する強い個体のワイルドラビットが水の魔術攻撃アクアエッジなんか飛ばしてくるときがある。ただでさえ人より強いのに魔術まで使われたら勝てないじゃないか。

 

「そんなのが出てきたらいつもおじいちゃん達はどうしてるの?」

 

「罠を張ったり、隠れながら狙撃して攻撃する。そしてあらゆる手を使って倒す。モンスターは単純な力押しを武器にして襲いかかってくるだろ?俺達人はそういった手合いを相手にするときは知略を張り巡らせて対応すんのさ。弱ったら全員で集団攻撃で止めを刺す。」

 

 途中まではかっこよかったけど最後はようするにリンチな訳か。それってなんだが

 

 

 

 

「なんかズルじゃない?みんなでいじめてるみたいでさ。騎士道に反するよ!」

 

 

 

 それを聞いたおじいちゃんは

 

「………」

 

 一瞬僕が何をいっているのか分からないという顔をして見つめてきた。理解出来なかったのか?

 

「だからぁ、たった一匹をみん「んフッ!!ッッッァアッ!ハッハッッッッハハッハッハッハッハッwww!!!!」!!」

 

 僕がもう一度言おうとしたら突然おじいちゃんが笑いだす。どうしたんだ?

 

「ハッハッハッw!!モンスター相手にも騎士道を持ってくるなんてお前ぇッw!!本当にすげぇなぁ!筋金入りだわwもしかして森でウインドラと一緒に行ってるときもボアチャイルドとかに正々堂々と一対一の決闘挑んでるのかw?」

 

…………なるほど今これはバカにされてますね?そうなんですね?

 

「なんだよ!当然だろ!男と男の闘いなんだろ!?わりーかよ!?」

 

 アンタから聴いた騎士の戦いのための騎士道精神だよ!

 

「プグフッッフッフw!!いやいやおもしれーやつだな!本当に!純粋に純水ッつーかぁw!聞き齧りをそのままスポンジみたいに吸収しやがる!根が優しいからそういう感じになっちまうんだろうなぁ…w。」

 

このジジィ、最後までずっと笑い続けてたな。そんなにおかしいことだろうか?もしかして今まで変なことしてたのだろうか。なんだか恥ずかしくなってきた。

 

「なぁカオス、そういう騎士道ってのは公式の試合や決闘なんかでのお互いがルールを決めそれを認めた上でのものなんだ。野生のモンスターなんかにそんなの分かると思うか?」

 

「そんなの…!」

 

 ……言われてハッとなる。

 

「野生のモンスターが俺たち人を見つけたら草食のモンスターならまず縄張りから追い出そうとする。肉食のモンスターなら俺たちを問答無用で狩りにくるぞ。そこに今から貴方と戦います、いいですか?はい、いいえなんてあるわけないだろw?騎士と騎士の闘いならそれでいいがモンスターに騎士道なんてねえよw!アイツらは腹が減ってるから襲ってくるんだぞ?」

 

「くゥゥッ!!」

 

 今まで自分と騎士道しか見えてなかった。笑われて悔しいがその通りすぎて言い返せない。理由は違うが僕は家でも外でも笑われるようだ。

 

「だって…!」

 

「そんなお前のその槍のように真っ直ぐなとこが俺やウインドラは気に入ってんだけどな。」

 

「!」

 

 からかっていると思ったら真顔でそんなことを言い出す。急になんだ。止めろよ笑われて頭にきていたのに怒れなくなるじゃないか。

 

「剣術も真面目に取り組んでるみたいだからみるみるうちに上達するしな。」

 

「本当!?」

 

「あぁ、まだまだ弱っちぃが最近は俺も相手すんのがしんどくなってきたぞ。そろそろ本気で相手しないとそのうち1本とられちまうなぁ。」

 

「…へへっ!」

 

「そんでどんなに怒っててもほんのちょこっとおだてただけで機嫌直しちまうお前のその単細胞なとこも良いとこだな。」

 

「よせよぉ、褒めても嬉しくねぇよ(*´∀`)」

 

 そう言いつつも顔のニヤケが治まらない。

 

 

 

 

 

 

「…将来が心配になるな、今のはそういう反応するところじゃない筈なんだが。」

 

「え?なんか言った?」

 

「いや、何でもない、気にするな。そろそろ飯にするか大分話し込んでたしな。」

 

 そういえばご飯食べてなかったな。話に夢中で忘れていた。

 

「明日も畑仕事あるから飯食ったら歯ぁ磨いて早く寝ろよ?」

 

「はぁーい。」

 

 

 そういって僕は長話で少し冷えた晩御飯を掻き込む。



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その娘、ミシガン

 騎士を目指す少年カオスは友人ウインドラとともに祖父の剣術指南を受けるがやられてしまう。

 その夜カオスは戦闘における基本的な心構えと世界中に生息するモンスターについて話したところで就寝。

そして朝日課の畑仕事にて、


「ねッ、ねェ!…カオスくん。」ボソッ

 

 日課の畑仕事の手伝いの時間、今は皆で昼食休憩をとっているのだがそのタイミングで1人の少女が話しかけてきた。

 

「今ァ…ちょっといいかな?」

 

 そう言って話しかけてきたのは村長のとこの女の子ミシガンだった。

 

 

 

 彼女の顔を見た瞬間一気に顔どころか身体中が熱くなって緊張して震えてしまう。

 

「あッ、!うっうん…な、にィかな!?」

 

 ヤバイ、まともに喋れない!何なんだこれはッ!!?

 

「えっと………。」ジリッ

 

 おっと、不審すぎて警戒させてしまったか。泣きそうな顔をしている。一端、落ち着かなければ!

 

「ンンッ!オッホン!!………どーしたんだい?おっ、おにーさんに何かよーかい?」ハァハァ

 

 フッ、言えたぜ!若干棒読みだった気がするが会話は成りたつ筈だ!顔を見て喋れなくなるなら顔をみなけりゃいいんだ!働くのに忙しいイケメンは女の子なんかにゃ興味ないアピールだぜ!今の爽やかにクールだったろ!?ねぇ!!

 

「あっ、あぁあぁの!……私ィ、ソッチじゃないィィ…。」ボソボソッ

 

 分かってるよ!分かってて顔見ないようにしてんだよ!!作戦が通じないよ!!!どうすればいいんだ!

 

「ごッ、ゴメンね!ち、よっとサギョウにボットウしてたよ!」

 

 とりあえず謝罪と仕事人アピール作戦決行だ!これでなんとか持つだろう。

 

「え…?今ぁ、お昼ご飯…じゃない…のぉ?」

 

 オフッ!流石ミシガンだ!どんな作戦も1発で見破られてしまう!あの村長のとこの娘さんなだけはあるぜ!村長様々だなぁ!

 

「よく、わっ、わきゃっ…ね!」

 

 渾身の作戦を見抜かれてもう満身創痍である。

 

「おっ、おにぎりィ、…持ってた、からァ!」

 

「おにィ!?うぇっ!?…あッ…うん、ソンだね!」

 

 何がソンだよ!作戦が筒抜けじゃねぇか!もうこれ詰みだよ詰み!昼飯時だから作業してるわけねぇじゃねぇか!

 

「………」

 

「………」

 

 重く冷たい沈黙。たまに大人とかが怖い顔してこんな空気出してるときあるけど子供でも出せるもんなんだね。で?

 

「ええっとぉ?」

 

「!う、うん!」

 

「……………………………………何か、ご用でございますか?」

 

 重い空気になってようやくまともに喋れた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程のやり取りでいろいろと手こずったが何とかミシガンに質問できた。頑張った御褒美に今日はおじいちゃんに何か美味しいものを作ってもらおう。

 

「んンッ!…えっ、えぇとぉ!」アセアセ

 

 ミシガンが吃りながらもアマァい声で何か言おうとする。可愛い!

 

「うッ、うんとねぇ…!」モジモジ

 

「う、うん!」

 

 何だ?ミシガンはあの村長とは正反対の人見知りで臆病な性格をしてると日課のミシガンウォッチングで調査済みだがこんなミシガンは初めて見る。可愛い!

 

 

 

「………ごめん、なさいィ~…(T_T)」メソメソ

 

「あっ!いや、コッチコソゴメンね!!」

 

 謝るなよ!ミシガンは何も悪くないじゃないか!悪いのは全部僕だ!僕が悪いからいけないんだ!可愛い!

 

「実はァ、」オドオド

 

 ん?もしかしてもしかするとこの挙動具合からして俺の時代がスタートする前兆じゃないか!?

 

「あっ!大丈夫だよ!?焦らなくてゆっくりでいーからね!」

 

 時間はまだたっぷりある。なんならこのまま夜になっても構わない。ここまで接近してしかも自然(?)な会話をするなんて初記録だ。僕は今日という日を忘れない。僕の物語はここから始まるんだ!可愛すぎる!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ……知らない?」

 

 

 

 

 

 僕の人生は今終わったかもしれない。憎いぜ可愛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやぁー、なんだったんだろうなぁーさっきまでの胸の高揚感はー。気のせいだったのかなぁー。てっきり体の中で炎でも噴いてるんじゃないかと思ったのになぁー。今じゃ冷たすぎて氷でも入ってんのかなぁー。はぁー帰っていいですか?

 

 そうだよ失念していたよ。ミシガンはウインドラの許嫁じゃないか何舞い上がってんだよ現実見ろって。

 

「あっウインドラね、うんウインドラかぁー。」

 

「今日はァ、ウインドラいないのぅ?」

 

 ……さっきは絶望しすぎて気付かなかったけどさりげなく呼び捨て…だと!?あの野郎、結婚しないとかほざいておきながらチャッカリ仲は進めてるんですね!

 

「そっ、そっかぁ、ミシガンちゃんはウインドラと仲がいいもんねぇ…。」

 

「!………(//////)」

 

 なっ何だこの破壊力は!!今までこんな凄まじい力は見たことがない!これが………愛か!!!

 

「ぼぐもぉッ、キョッ、キョーはみてないよぉー。」

 

 いかん、さきほどの攻撃でまた調子が狂いだした!

 

「……?そぅなの?」ボソッ

 

 凄ぇなぁこの一挙手一投足爆弾、僕の急所を的確に破壊してくる。

 

「ん!」

 

「じゃあ、……カオスくんまた、ね。」

 

 そう言って僕のメガミッ、………じゃないミシガンは去っていく。

 

「はぁ~、だよねぇ。ウインドラだよねぇ時代は。」

 

 初恋は叶わないって言うしなぁ。これで僕も大人の階段を1つ昇ったと思えばいい経験だぜ!

 

 

 

 

 

「おぉ~い!アルバさんとこのボウズゥ!そろそろ飯の時間終わるからさっさっと食っとけぇー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 畑の作業も終わり、今日も夜までおじいちゃんと剣の鍛練でもしようかと家に帰りつくとウインドラが先に待っていた。

 

「あれ?どうしたんだウインドラこんなところで。そういえば今日畑にいなかったけどサボり?」

 

 おかげでミシガンに話し掛けられたじゃないか有り難う!

 

「やぁカオス昨日ぶり。ゴメンね畑仕事出れなくて、今日は父さんに連れられて村の警備隊の見学に行ってたんだ。」

 

「あぁ~それでかぁ。」

 

 僕は将来騎士を目指していることを村でも公表している。大半は白い目で見られるが。

 

 そしてウインドラは同じく騎士を目指しているが村のみんなにはぼかしている。ウインドラのお父さん、ラコースさんが村の警備隊の副隊長をになっているからウインドラもそれを継ぐもんだとみんなは思っているらしい。

 

 ちなみに警備隊の隊長はおじいちゃんだったりする。それで僕たちは隊長副隊長の家の子供どうしで仲がいいのかもね。恋敵だが。

 

「いつか来るものだとは思ってたよ。それが今日だったんだ。」

 

 そのわりには何だか暗いなぁ、どうしたんだ?

 

「何かあったのか?」

 

「え?」

 

「顔に申し訳ないって書いてるぞ?」

 

 そう言われてウインドラは驚いていたがやがて隠しきれないと悟ったのか口を開く。

 

「父さんもみんなも何だか俺が大人になったら警備隊として働くことを期待してるみたいなんだ。だから今日みたいに見学に来いってついていったけど、俺騎士になりたいんだ!………だから期待に応えられないのに良いとこ取りしてるみたいな気分で申し訳なくて…。」

 

 あぁ~、なるほどコイツはいかんせんこの村では子供とはいえ他より出来すぎるからなぁ。注目の的なんだろう。警備隊も人材を欲してるからウインドラを狙ってる筈だ。そのうえミシガンとも将来結婚する可能性が1番高いから村長候補でもある。おまけに農作業も器用にこなすし。選り取り緑という訳だ。

 

 多才な人材だからこそ皆の視線を独り占めしてるがその視線がウインドラを期待という見えない縄で縛っているのだろう。そんな視線受けたことないから分からないけど受けている本人を見ると苦しそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そんなちいせぇこと気にすんなよ!」

 

「え?」

 

「ウインドラがなりたいものやりたいことなんて誰かが決められるものじゃないだろ?誰かの期待なんてなんの効力もねぇよ!」

 

「カオス…。」

 

「そんなに回りの期待に応えられなかったときのことが恐いなら僕がこう期待してやるよ!僕はウインドラはウインドラが将来なりたいものに自信をもってなれると期待している!これでいいだろう!」

 

「…………」

 

「……(ドヤァ)」

 

「ウッフフ!何それ!言葉遊びみたいw!」

 

「おいおい、僕今結構良いこと言ってなかった!?ねぇ!」

 

「フフッさぁてねぇw」

 

 

 

 

 

「騒がしいと思ったら随分と恥ずかしいことを大声で叫んどるガキがいるな。ちゃあんと周りに人がおらんこと確認しないとダメだろう。」

 

 家の中からおじいちゃんが出てきた。

 

「アルバさん、先程はどうもありがとうございました。いい経験になりました。」

 

「おう、またいつでも見学しに来い!」

 

「遅いぞ!おじいちゃん、遅刻だぞ!」

 

「おうおう、粋のある孫だなぁ、こっちはさっきまでモンスターの警戒任務で疲れてんのにぃ。」

 

「態々仰々しく言うなよ。どうせ草原や森を見て回って帰ってきただけでしょ?」

 

「このバカタンがぁ…、そんな遊びに行って帰ってきたみたいに言うなよ。これがどれ程大事な仕事か………分かってねぇんだろうなぁ」チッ

 

「そんなことより早く稽古しようぜ!日が暮れるよぉ!」

 

「分かった分かった、後でな。」

 

「早くしてよぉ!?」

 

「おう、 あっそうそうそういえばさっき帰ってくるとき聞いたんだが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おめぇ今日、なんか畑で村長のとこの嬢ちゃんに変なことしてなかったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 せっかく忘れていた黒歴史を思い出させんなよ。

 

 

 



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なにゆえザック

 騎士を目指す少年カオスは秘かに気になっている女の子ミシガンとお近づきになるも即座に失恋する。

 その後将来に板挟みで気落ちするウインドラを励まし彼の憂いを晴らしてみせた。

さてそれから、


 ここ最近ウインドラが畑の手伝いに来ない日が何度かあった。多分例の警備隊の見学とかだろう。

 

 その度にミシガンが話しかけてくるようになって僕は幸せです。こんなに幸福で良いのかしら?お空のお星さまになった、お父様お母様。僕はもうあなたたちと再開する日が近いのかもしれません。

 

 いやいやまだ王都に行って騎士になるまでは行けないな。幸せすぎて夢を忘れかけたわ。だってミシガンちゃん可愛すぎるんだものね。清楚というかおしとやかというか…。それでいて、

 

「でね?そしたらウインドラが…」

 

 

 

 

 恋する乙女だもの…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どぉしたのぉ?カオスくん?」

 

 あれから何度か話してるうちに心を開いてくれたのか最初の吃りも少しずつ無くなっていった。アレはアレでよかったのだが…。

 

 

 

 そういえば、ミシガンについては僕の人生において重要人物なのに大した話をしてなかったな。今更恥ずかしいけど別にいいよね。僕の大切な人さ。あとは分かるだろ?

 

「いや、別に何もないよ、ちょっと考え事してただけだよ。大丈夫だからね。」

 

 大切な人と言ったな!アレは願望だ!このままだと彼女とは全く浮いた話もなく終わりそうだよ。父さん母さんアンタ達のとこへはまだまだ行けそうにないよ!後100年くらいかな?短いぜ。

 

「そう、ならいいけど…。」

 

 しかしすっかりなつかれたなぁ。おかげで僕の方も楽に話せるようになったよ。こうなれるんだったらもう少し早くに話しかけられとくんだったよ。

 無理か。ミシガンから用事がないとね。こうしてお昼の空いた時間で話すことが出来るのもウインドラと繋がりがあってのことだし。

 

「もぉ~、また上の空!ちゃんと聞いてるのカオスくん!!」

 

「あぁっと!!ゴメンゴメン、ちゃんと聞いてるよミシガンちゃん!怒らないで下さい!」

 

 いかんな、年下の美幼女に完全にお熱のようだ!相手は幼女だぞ?僕も幼児なら大丈夫かな。それでいこう採用で!

 

「分かってるよウインドラが最近忙しくてなかなか遊べないってことでしょ?」

 

「そうなの~、お野菜や木の実のシューカクとケービタイのお仕事で夕方からヒマな筈なのになかなかお家に帰ってこないから遊ぶ時間が全然ないの!」

 

 あぁ、その時間帯は僕と一緒におじいちゃんと稽古つけてもらってるから、そりゃぁ、遊べないわな。ハハッ、ゴメンねミシガン。

 …………おっと、そんなどうでも良いことよりも今聞き捨てならないことを言わなかったか?

 

「え?お家に帰ってこない?どういうこと!?2人は一緒に住んでるの?もう許嫁の話って婚約が結婚して離婚に遺恨なの!?」

 

 慌てて喋ったせいで自分でも何言ってるのか分からなくなってきた。後半だったら嬉しいな。

 

「んとね~、お父様がラコースおじ様とお友達だからぁ、たまぁ~に泊に行ったり来たりしてる~。」

 

 ハァハァ、相変わらずの舌足らずな喋り口調に思わずまたドキッとさせられる。全く幼女は最高だぜ!これだから幼女は辞められない!

 

 そっかぁ~、嬉しいなような哀しいような気分になるなぁ。割と順調なんですねウインドラさん野郎。

 

 そんな和やかな空気でミシガンとお話してると

 

 

 

 

「おい、死に損ない!なにヘラヘラしてんだよ!」

 

 

 

 

 お邪魔虫さんがお邪魔しに来た。ザックだ。今日は1人か。

 

「今ミシガンちゃんと大事な話してて忙しいんだよ。あっち行っててくれる?」

 

「おめぇ、女子なんかと話しててかっこわりぃw友達いないもんなぁ!」

 

 何だよまたつまらない絡みかよ。お昼休憩は有限なんだ、後にしてくれる?ミシガンちゃんも人見知りモードじゃないか、恐がらせんなよ。

 

「うんそうなんだぁー。分かったよー。ミシガンちゃんあっちで食べよっか!」

 

「う…うん。」ボソッ

 

 そういって僕達はザックをその場に残してお弁当を持って去ろうしたが、

 

「待ッ、待てよ話の途中だろ!?逃げんなよ!」

 

 まわりこまれてしまった。その話の先って本当に言う必要性あるの?

 

「忙しいって言ってるだろ?友達じゃないっていうなら話しかけんなよ。」

 

 これ以上ミシガンとの限られたお食事の時間を阻害するといい加減僕も怒るぞ?

 

「負け犬が偉そうに女の前だからってかっこつけんじゃねぇぞ!?」

 

「この間は結局僕1人に5人だったじゃないか!フェアに戦えよ!それも遠くからストーンブラストとか痛かったぞこんチクショー!!」

 

「そんなの魔術を使えねぇお前が悪いんだろーがぁ!それで騎士騎士言ってるからバカにされんだぞ!?」

 

「騎士目指すのが悪いかぁ!お前にゃ関係ねーだろォ!!」

 

「ヒッ!」

 

 おっとマズイな、白熱し過ぎて後ろのミシガンが怯えてる。抑えなければ…。

 

 

「……」

 

「……」

 

 ん?ザックも黙ってしまったぞ?どうした?

 

「とっ、とにかくミシガンはこんなムノーよりも俺…俺たちと一緒にいた方がいいんだよ!」

 

「はぁあ!!?」

 

 何だよその暴論は!いきなりの無根拠な発言に大きな声が出てしまった。

 

「コッ、コイツと一緒にいると変なやつって思われるからお、おう、俺と飯食わねぇか?ミシ、ミシガン……。」

 

 おい……おいおいおいおいおいおいおいオオォイィィッ!!!友達少ないって言ってんだろ!?これ以上孤立させんなや?だいたい何だよその吃り具合はミシガンの真似してんなら全然可愛くねぇぞ!?

 

「あっ、おっ俺ザックって言うんだ……よろしくぅ……。」

 

「……そっそう。」キョドキョド

 

 しかもちゃっかり自己紹介までしやがってぇ!!さっきまで女子のことや僕のことをさんざん悪く言ってたのに!一体何が狙いなんだ!その殊勝な態度はどこから出てくるんだ!?

 

「恐がってるだろ!?アッチ行ってろって!」

 

「うるせぇ!、お前みたいな魔力障害者こそ消えろ!」

 

「何だとォッ!!?」

 

「やんのかァッ!!」

 

 僕はお弁当をおいて仕事用の鍬を構える。

 

「いい加減お前の嫌がらせにはうんざりなんだ!ケリをつけてやる!」

 

「ムノーのくせになれるわけねぇことほざくお前の方が目障りなんだよ!!ファイヤーボーッ「騒がしいぞッ!ガキどもぉッ!!畑で火ぃつけんなぁっ!!火遊びするんなら他所でやりやがれぇっ!!!アクアエッジィィィッッッ!!」!!?」

 

 

 

 

 

 ザックとヒートアップしてたら近くにいたおじさんに文字通り水をさされてしまいそのまま追い出された…。僕が火を出した訳じゃないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いッ、つつー!、派手に転ばされて痛いんだけど!お前のせいで!」

 

「ふざけんなよ!おめぇが粋がるからからだろうが!!」

 

 畑仕事を追い出されてから前にザックたちにやられたときに来た村の河原に来ている。水の魔術を浴びて派手に転んだから服がまた汚れたので洗いに来たのだ。

 

「だぃじょぅぶぅ?」オドオド

 

 2人で服を洗ってたら一緒に付いてきたミシガンが心配そうに聞いてくる。フワァー、なんだこのカワイイ生き物はぁ!

 

「ァッ、アッハハハハ!!大丈夫だよこんくらい!いつもコイツらにやられてるから平気さ!」

 

「ソレ大丈夫なのぉ?」

 

 そういって首を傾げるミシガンの愛らしさには先ほどうけた擦り傷の痛みすら癒してしまうほどのものがあった。

 

「でもいちおー……ハーストエード!」パァッ

 

 そういってミシガンは僕に治療魔術を掛けてくれる。擦り傷がみるみるうちに治っていく。あぁー効くなぁ~この感じいいねぇ!疲れ果てた身体中が暖まって気持ちぃ~なぁ~。このまま眠りそうだよ。

 

 魔術効果がきれて目を空けるとミシガンが僕に手を向けながら一生懸命力んでいる。まだかけようとしてくれているのかな。

 

「んんん……!」フルフル

 

「………」ボトホトッ

 

「おい、鼻血出てんぞ。」

 

「え!?」

 

「なっなに!?もしかしてハーストエード失敗?」アセアセ

 

「ぁ、んにゃっ!そんなことはないよ!ちゃんと効いてた効いてたから!」

 

 おっと、あんまり可愛い仕草してたからついつい…。それにしてもハーストエードかぁ、相変わらず発音がちょっとへ……個性的だよなぁ。正しくはファーストエイドだった筈だが。けど傷も治せてたし僕の鼻にもダメージ与えてたからちゃんと成功してたよな(意味不明)。可愛いは正義で正しいんだよ!察しろ!

 

 

「……」

 

 ふと視線を感じて顔をあげるとザックが羨ましそうにこっちを見ていた。仲間になりたいのかな?でもさっきは友達じゃないって言ってきたしどうしよっかなぁ~。

 

 ………仕方ないなぁ、あんまりセコいこと言うのも印象悪いしなぁ。

 

「ミシガンちゃん、あっちのザックにもハーストエードかけてあげてくれる?」

 

「え?うん、えっとォ分かったぁ。」キョトン

 

「なッ!?おまッ!!?」

 

「我慢しないで受けときなよ。痛むんだろ?」

 

「ハーストエード!」パァッ

 

 ザックにも治療魔術がかかり傷が癒されていく。

 他人の受けているところはあまり見たことがなかったがこんな感じなんだな。気持ち良さそうだ。顔が真っ赤だし。

 

 そして魔術が終わり再びミシガンの力み姿。最高ですね!

 

「んんん…!」フルフル

 

「……」ボトホトッ

 

「おい、お前も鼻血出てんぞ。」ボトホトッ

 

「お前こそ」ボトホトッ

 

「え!?また失敗!!?」

 

 

 

 

 フフッ確信したぜ!どうやらコイツはお仲間のようだぞ?

 

「ザックまさかお前…。」ニヤニヤ

 

「!?」

 

 一瞬驚いた顔をしてから真っ赤になったザックが僕の口を手で塞いでくる。

 

「バカッ言うな!」

 

「おヒッ!!ほら離せッ!」

 

「?」キョトン

 

 何だよ今回はそういう訳かよ。

 要するに好きな子の気を引きたくて自分を上げて僕を引き立て役にしてミシガンに絡みたかったわけね。

 最近仲がいい僕とミシガンが話してるときの方が話しかけやすいもんなぁ。思春期男子め。

 僕もミシガンに初めて話しかけられるまではそうだったから分かるよ。

 

「……いいか?余計なことは言うなよ!」

 

「余計なことって?」

 

「だからァッ!分かってんだろォッ!?お前と同じだよ!」

 

 

 

 

 

 

「ふぅーん?同じねぇ。一緒にされたくないなぁ。」

 

「何がだよ!お前だってミシガンのこと……!」

 

「わたし?」

 

「………ッ!!」

 

 頭に血がのぼってたせいでミシガンを忘れていたのだろう。

 危ないとこだったな。そうかっかすんなよ。

 

「ちょっとミシガンちゃん離れててくれるかい?ザックとこれから簡単なゲームをしようと思うんだ。」

 

「?また…ケンカじゃないのぉ?」

 

 不安そうに問いかけてくるミシガン。本当可愛いなぁ、抱き締めて安心させてあげたいぜ!

 

 

 

「大丈夫だよ、安心して!これからやるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



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敗北の糧に得た経験

 騎士を目指す少年カオスは日課の畑仕事中ミシガンと交流を深めていたがザックによってその場から追い出されてしまう。

 その後ザックの日頃の絡みをなんとかしたいと思うカオスはザックに決闘を挑むのだった。


「おい出来損ない何のつもりだよ!決闘ってよぉ!」

 

 

 

 

 

 日課の畑仕事をザックと一緒に追い出された僕はザックに決闘を挑む。

 

 

 

 

 

「何のつもりかって?いい加減下らないお前とのじゃれあいを終わらせるつもりだよ。」

 

 毎度毎度集団リンチ食らうこっちの身にもなってみろ!あんなもん1回でいいんだよ1回で!頻繁にはいらん!

 

「それで受けるのか受けないのか?」

 

「…グッ、クハハハハハァ!お前今までどんだけ俺らにやられてきたと思ってんだよ?」

 

「……」

 

「まさか毎日やられたことを寝て起きたら忘れてんじゃないだろうなぁw今までファイヤーボール一発あたっただけで終わるだけのお前が何でこのタイミングで決闘なんだよw!?」

 

「それは今日が色々と都合が良いからかな。」

 

「ハァ?何がいいってんだぁ?」

 

「で?」

 

「どうせ決闘っていっても魔術なしとかそんなアホなこ「ありだよ。」。」

 

「決闘始まったら相手を魔術でもなんでもいいから攻撃して戦闘続行不可能にすること。時間はもうすぐ日も暮れるから10分でいいかな。いつもお前が僕にやってることだ簡単だろ?」

 

「………いいのかよ?魔術が使えないお前じゃぁそのルールだと不利にしかおもえねぇぞ。」

 

「僕から提案したのにルールを翻す訳ないだろ?騎士道精神に反する。」

 

「何か企んでんのか?そこら辺にでも落とし穴掘ってるとかか?」

 

「今日この場に来るかどうかも分からないのにそんなもの用意できる訳ないだろう?それに魔術を使わずに直接叩きに行く僕の方がそういった罠に引っ掛かりやすいと思うけど?」

 

 疑り深いなぁ、それもそうか。

 今までカモにしてたオモチャが自信満々に刃向かってくるんだもんなぁ。

 何かないかと不審に思っても当然か。

 特にタネも仕掛けもないんだが。

 

「ハッキリしろよ。ミシガンが飽きて帰っちゃうぞいいのか?」

 

「!」

 

 今この場には仕事場を追い出された僕達の他に村長の娘さんのミシガンが来ている。

 最近ウインドラを通じて距離が縮まってたんだが今日はザックの横槍でオドオドしっぱなしだ。そんな仕草も天使のようだ。

 

 さっきもケンカの空気を感じて震えてたんだけども会話だけしかしない僕達を見て安心したのかハシっこの方で小さな虫を追いかけ回して遊んでいる。……スゲーなあの幼女。

 

 

 

 

 

「………分かったよ、受けてやるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ………あっごめん何だって!?今ミシガンウォッチングで忙しいんだけど!何の話だっけ?あらザックいたの。

 

 そうだ決闘だすっかり忘れてたわ。コイツ考え込むの長いからつい余所に気が行ってたわ。

 だってミシガン可愛いんだもの。全くミシガンのせっ……いやミシガンのおかげで僕は今日前に進めるんだ有り難うミシガン!

 

「そうか、じゃぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとにこんなんでいいのかよ!」

 

 僕達は決闘のため2人とも河原の水を横にしてお互いの距離は30メートルくらいに空けている。

 

「あぁ、問題ない!!」

 

 距離があるからいちいち大声で返事をしないといけない。

 

「お前のそれなんだよ!鉈や桑じゃなくていいのかぁ!」

 

 ザックが僕の持っている得物に疑問を感じているようだ。

 

 それもそうだろう。僕は角・材・を・2・つ・装・備・し・て・い・る・。・

 

「いいに決まってんだろ!分かりきったこと聞くんじゃねぇ!」

 

 特にこれといった特徴のない角材。強いて言うなら家などの建物を組むときに使われてた木材の廃棄だ。探せばもっとでてくる。

 

「ますます分からねぇなぁ!勝負捨ててんのかぁ!鉄の武器の方が強ぇだろぉ!!」

 

「それ使ったらお前死んじまうかもしれねぇじゃねぇかぁ!仮にも騎士目指してる僕がぁお前みたいなやつなんかでも一応王国民だから殺したりして捕まりたくねぇよぉ!」

 

 ハァハァ、あいつどんだけ質問してくるんだよ。大声で返事する身にもなれ。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁああのぅ!準備ィいいィ?」プルプル

 

 僕達が質疑応答してると審判役を頼んだミシガンが確認をとる。レディーを待たせちゃいけないな。

 

「ミシガンちゃ~ん!こっちは準備OKだよぉ!」ニコッ

 

「おッ!俺も問題ないよ~!始めて大丈夫だよ~!」キラキラ

 

 コイツゥ、今ミシガンに色目使いやがったな?やっぱり包丁持ってくるべきだった!!

 

 

 

「それじゃぁ「ああっと!ちょっと待ってミシガンちゃんもひとつ忘れてた。ゴメンねぇ」。」

 

 いっけねぇ、勝った後のこと決め忘れてた。後で言っても突っぱねられそうだから先に約束させないと!

 

「おい、ザック!この決闘僕が負けたらサンドバッグでも何でも好きにしていいけど勝ったら金輪際僕に関わるなよ!!後ミシガンちゃんにもッ!」キッ

 

「あ、ハァァ!?お前は分かるが何でミシ「えぇい!うるさぁい!何でもかんでも質問すんなよどうなんだ!」……!」

 

 暫くザックは考えてたようだが顔をあげて

 

 

 

「まぁ、お前が俺様に勝つなんざ都合のいいマグレでも起こらない限り無理だがな。」

 

「僕を相手にしてマグレがあるんじゃぁお前も大したことないんじゃないか?」

 

「」ピキッ!

 

 ほう、どうやらあちらさんに火が付いたようだ。

 

「いいぜ!その条件で!始めてくれ!」

 

「ミシガンちゃん!頼むよ~。」サワヤカ~

 

「はぉ~い。」

 

 可愛いお返事テンション上がるぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではぁ、両者ァ、………えっとぉ、何だっけ?」

 

「両者ともに己が手に待つ剣に誇りと覚悟を乗せて戦うことを大樹カーラーンに誓え」コソコソッ

 

「両者ァ、ともに斧が手に持つ件に埃と覚悟をのせて叩くことを大樹カーラーン近ェ!」カッ!

 

 

 ゴメンねミシガン、【騎士の決闘の誓い】長すぎたよね。でも可愛いから大丈夫だよ!とりあえず、

 

「誓います!」 

 

「ソナタはァ?」ジー

 

「ち、誓います?」

 

 悪いなぁ、ザック!色々と騎士について吹き込みすぎたよ!でもいいもん見れたから満足だろ?

 

「それでは構えェ!」ノリノリ

 

「」グッ

 

「」ジリッ

 

「……はじめ?」クビカクッ?

 

 天使のコールで決闘が始まる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファイヤーボール!」

 

 開戦直後ザックからの無詠唱で火の魔術ファイヤーボールが飛んでくる。村でガキ大将やってるだけのことはありそれなりに速い火球が飛んでくる。だが、

 

「ッよっと!」

 

 こんな開けた場所で10メートル以上も離れた距離からの遠距離魔術など本の少し横にずれるだけでかわせる。こんなのキャッチボールで飛んでくるボールの方がまだ早いだろう。所詮は子供の魔力程度だ。

 

「へへーん、このくらい楽「アクアエッジ!!」うぉっとぉ。」

 

 避けたところに今度は水の魔術アクアエッジの刃が迫る。一発避けたら次が来る当然だ!それも地面にしゃがみこんでかわす。今度は少し危なかった。

 

「ストーンブラスト!!」

 

「!!」

 

 今しがたしゃがみこんだ地面が揺れだし僕の立つ位置を中心にして爆発する。

 

 僕は上空に放り出される。

 

「ハッハーァ!!一丁上がりィィー!!これで俺の「まだだ!」!?」

 

「いつもこんなくらいじゃぁ終わらないだろ?」クルッシュタッ

 

 僕は空中で身を翻す技法リカバリングで吹き飛びながらも体勢を立て直す。

 

「言っとくけどおじいちゃんだけじゃなくお前らのおかげで体の頑強さには自信あるんだ!1発当てたくらいで勝ったと思わない方がいいぞ!」

 

「ハッ!そうみたいだな有り難く思えよ!だけど状況的にはお前がただ攻撃食らって耐えただけじゃねぇか!これからお前に何が「10発!」!」

 

「魔術を使ったことは覚えてる限りないけど魔術を使うと生命力のマナを消費することは知識として知っている。だから当然お前が1日に使える魔術回数にも限界がある。」

 

「!!」

 

 ザックは気付く。僕の狙いがなんなのか。

 

「僕はお前が1日に10発以上魔術を放つところを見たことがない。」

 

 いつもオモチャにされている僕だからこそわかる。コイツはいつも5発目以降は苦しそうにする。恐らくマナが少なくて枯渇仕掛けるのだろう。だから8発目あたりからは子分に任せる。

 

「魔術さえなければお前は常日頃体だけを鍛えてる僕には敵わない。今日はあと7回かな?」

 

 そういえば畑でも最後にファイヤーボールを撃ってたな。……残り6回撃たせればコイツは魔力が使えなくなる。

 

「それがなんだ!お前だってたまに耐える程度でそこまで魔力耐性高くねぇんだろ!後2発もいれりゃ確実にお前は終わりなんだよ。」

 

 その通りだ。僕は今までコイツらとのケンカでま・と・も・に・食・ら・っ・た・魔・術・で・2・回・ま・で・し・か・耐・え・た・こ・と・が・な・い・。・

 

 さっきのやりとりそのままであとアイツが6回魔術を使えるならギリギリ僕はザックに負けてしまう。いや、10回というのも僕が日頃観察してこのくらいが限界だろうと大雑把に感じた予想だ。もし11回目があればキツイかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~ん?そうなのかなぁ?」

 

 

 

 

 

 

「……お前理解出来なかったのか?」

 

 ザックがバカにしたように聞いてくる。

 

「理解はしてるぞ。ただそれがなんでこの勝負の決め手になるかがサッパリだ。」

 

「痩せ我慢してっけど本当は結構効いてるんだろ?足下ふらついてるぞ?今すぐ楽にしてやろうか?」

 

 

 

 ……見抜かれてたか、長話して体力回復の時間を稼ぐチャンスだったんだけどなぁ。仕方ない。

 

「そっかぁ、じゃあ一思いにやってくれ。」

 

「結局こうなるんだろうがよぉ!いったい何が狙いの決闘だったんだぁ!ファイヤーボールゥ!」

 

 

 また火の魔術が飛んでくる。今度は

 

 

「」クルッ、シュタッ!!

 

 

 火の魔球を横にかわしながらザックに走り出す。当初の予定通りザックを直接叩きに行く。

 

「!?」

 

 ザックは驚いた表情を見せる。魔術を全てかわしてマナが枯渇してから攻めてくると思ってたようだ。

 

「誰も魔術切れまで待つと言ってないけど!!」ダダダッ

 

 ザックまで一直線!後10メートル圏内に入る。

 

「!!調子に乗るなァ!ストーンブラスト!!」バッ

 

 先程の地の魔術を発動させる。だがその魔術は…。

 

 

 

 走る僕の後方で地を爆発させるだけで終わる。

 

「!???クソガッ」ガッ!!

 

 そう魔術にも特性がある。火の魔術ファイヤーボール、水の魔術アクアエッジのように術者から直接放たれる魔術があれば術の対象の回りから発生させる魔術もある。今回は後者の方で地の魔術ストーンブラストは対象のいる地面に魔術をかけるものだ。

 

 魔術は物理攻撃と比べて遥かに威力が高いがが対処するのは案外容易い。

 

 そう敵から直線的にくるファイヤーボール等は左右に、そしてストーンブラストのようにこちらをマーキングして放つだけの魔術は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………ただどの方向にでも動くだけでかわせるのだ。

 

 

 

 

 

 

「ウインドカッター!!ファイヤーボール!!アクアエッジィ!」

 

 次々と魔術を避けながら接近してくる僕に対してザックはただ魔術を放つことだけしかしない。ってかバリエーションすげェなぁ。いつもファイヤーボールしか使ってないからそれだけなのかと思ってたぜ。でもこれで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザックとの距離、2メートル。手には角材を持ち、

 

「ほら、どうする?後1発くらい撃てるんじゃないか?」

 

「………!!」グググッ!

 

 僕に角材を突き付けられながらザックは苦虫を噛み潰す表情だ。

 

「こんな筈じゃなかったか?いつもこの逆だもんなぁ。どうしてこうなると思う?」

 

「てめぇ、…普段は手加減してたって言うのかよ!!」ゴホッ

 

 ザックが苦しそうにそう言ってくる。マナが限界近いのだろう。それに対して僕は、

 

「んな訳ないだろ?仕事も稽古もお前らとのいざこざも常に全力だよ!どれ一つ手を抜いたこともないし隠れて特訓してるわけでもない。」

 

「じゃぁ何で俺は今魔術を1つも使えない能無しでいじめられッ子なお前ごときにッィ!」ハァァッ!!

 

 

 

 

 

「単純な話だよ」

 

「……?」ハァハァ…

 

「お前が今ようやく誰かと本気でケンカをした素人だからさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がケンカをしたことない素人だとおっ!?じゃあ、普段のてめぇとのアレは何だってんだ!!」ォッホ!!

 

 咳き込みながらも反論してくるザック。けどそんなものは決まってる。

 

「ケンカだね。」

 

「じゃあお前がいう話が「僕にとってはケンカだけど、お前がやってたのはケンカじゃなくて弱いモノイジメだろ?」!!?」

 

「常に僕はお前達に1人全力で立ち向かっていった。けどお前達からしたら孤独性で魔術を使えない上に畑仕事中に鉈や桑を振り回すおかしなやつにでも見えたんだろうな。はぐれモノが1匹いるからちょっとちょっかいかけてみようぜ、くらいの浅はかな考えから始まったんだろう!」

 

「…。」フゥフゥ…

 

「そしてそれから僕に子分達と一緒になって遊び感覚でからかいに来たなぁ。それも毎日と言っていいほど。気付かなかったか?お前らの無茶な遊びに誰も大人達が止めに入らないことを?別に大人達はお前らが恐いとかじゃねぇぞ?」

 

「はぁ?んなもんおめぇが大人達からもハブ「僕が修行の相手をしてもらってるって言ってたからだよ!」」

 

 いちいち期待通りのことを言ってくるのでついつい喋ってる途中で自分のセリフを被せてしまう。

 

「基本的に暇なときは僕を虐めるくらいしかしない連中どもだ。いつもは集団で向かってくるから勝てる訳がなかったけどバラけさせてみると案外こんなもんなんだな。そのお山のトップがお前だよザック。」

 

「…」フゥ…

 

「確実に自分よりも格下で弱くて勝てるやつしか相手に出来ないんだろ?プライドは高いけど実力は精々平均前後くらいしかないから自分より弱い連中集めて偉ぶってアピールしてないと落ち着かねぇんだろ?」

 

「……」フゥ…

 

「今日のこの結果も日頃お前がどれだけ不真面目な奴か顕著に出るな。ウインドラなんかは僕につき合っていろんなことしてるからその差が「結果ッてなんだ!」る。…」

 

 僕が喋ってるときに被せてきた。さっきの仕返しか?何をいまさら。

 

「まさかもう勝った気でいるのか?」フッ…

 

 ここに来てさっきまでの慌てようから急に不敵な態度をとるザック。

 

「…もう次の1手で決まりそうなんだけど。」

 

「俺がここからもう脱せないと思ってんのか?」

 

「強がるなよ、この距離でもお前の下手な魔術は避けられるぞ?第1魔力もそろそろ限界だろ?ここで降参するなら怪我しなくて済むぞ?」

 

「そうなのか?それじゃぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

避けてみろよォッ!!!アイシクルゥッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突に僕の体が凍った。



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因縁の終わり

 騎士を目指す少年カオスは因縁の相手ザックに決闘を挑む。

 カオスは後一手というところまで追い詰めるがザックの反撃を許してしまいそして、


 急激に辺りが冷え、体が震えだすほどに寒くなる。時間を与えすぎたか?これまでの鬱憤がたまっていたせいで少々長話しすぎたらしい。いつでも避けられる体勢をとっていたのに僕はどうなったんだ。

 

 目を開けるとそこには下半身を氷付けにされた僕と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じく凍り付いたザックの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」ハァーッ、ハァーッ!!

 

「何してんだお前、これじゃぁお前も動けないじゃないか!」

 

「黙れッ!………これでッ……い、いんだよ!」ハァーッ!

 

 息絶え絶えだが大丈夫か?もう降参して帰った方がいいんじゃないか?僕も体が冷たいし終わりにしたいんだが。

 

 まさかこのタイミングで氷の魔術が来るとはな。上下左右に避けても当たるわけだ。コイツはザックの回りを中心に凍り付いてるようだ。

 自分を巻き込む形でなら当たるとふんで放ったのだろう。ザックにそんな度胸があったとは。

 

「この状態なら……ハァッ、…………………確実に次が当たる!」ハッハッハッ!

 

「!!!」

 

「残念だったなぁ!!…次で、、、止めの3撃目だぁっ!!!次は詠唱かけて終わりにしてやるよ!」ハァッ

 

 マズイ!ただでさえ先程の氷が大分体にきてるのに次の1撃を詠唱込みの増幅した威力で放たれたら耐えきれるか分からない!

 

「そんなことしたらお前まで被爆するぞ!?」

 

「お前よりかは魔術耐性は高いつもりだァ!!既に2回耐えきってるお前は終わりだが俺はある程度は我慢できる筈だ!」

 

 筈だ!つって試したことねぇのかよ!?だがある意味説得力はある。

 

「クソッ!!そんなことォ!させるかァァァァ!」ブンブンッ!!

 

 僕は角材をザックに振り回す。……

 

 ブン!ブンッ!

 

 角材は空しくも空を斬るばかり。後数センチが届かない!!

 

 

 

「!!だったら!!!!」

 

 僕は持っていた角材をおもいっきり振りかぶりそして

 

 

 

 

「オラァァァァァァッッッ!!!!」ブオォンッッ!

 

 

 

 

 ザックに向けて投擲した。

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッ!?!???!」

 

 ザックは僕の勢いにビビって避ける体勢をとろうとするが僕と同じで下半身が凍っていて動かないので上半身をほんの少し屈めるしかできなかった。

 

 おいおい、その程度でこの距離から放たれる角材をどう避けるっていうんだい?さっさッと降参しておかないから痛い目に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 フルフルフルフルフル、ッコン!コッコッコッ、カラン………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「」

 

「」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………やッべェ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この状況で外してもうた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ、何故今この距離で外れたんだ!?身動きとれなかったからか?寒さで手の力の入れ具合を計算出来なかったか?焦ってすっぽ抜けたのか?もしかしてコイツまだ11発目の魔術が残ってたとか?風の魔術ウインドカッターならあるいは…

 

 

 

 

 

「フッフッフ、ウハッハッハッハハハハハハ!!!」

 

 唐突にザックが笑いだす。やっぱりお前が何かして

 

「せっかくの攻撃出来るチャンスを放り投げるとはなぁ!とんだお人好しだぜお前は!!それともただのバカかぁ?そういえばお前が弓でマトモに当ててるところ見たことないぜ!?お前、この距離ですらノーコンなんだな!!」

 

 

 

 

 

 

 外した原因は僕だった。

 悪いねザック。お前が何かしたのかと思ったよ、日頃の行いだな。

 

 そういえば僕は遠くにあるものに対して弓でもボールでも当てられた記憶がない。

 自分でもノーコンだとは思ってたがまさか、この土壇場で1メートルもある角材を2メートル程離れた相手にぶつけることが出来ないほどのノーコンだったとは!

 ザック、君のおかげで新しい自分を見つけることが出来たよ!ピンチにピンチの拍車がかかる訳だけど!

 さて考えろ!この動けない状況下でどう切り抜ける!武器は………そういえば今日は……。

 なんて考えてる間にザックが

 

 

 

 

 

 

「『火炎よ、我が手となりて敵を焼き尽くせ…』」ニヤァ

 

 

 

 

 

 

 勝利を確信して詠唱を始める。もう時間はないようだ。だったら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっ飛べ!!ファイヤーボール!!!」カッ

 

 

 

ドゴォォォォォォォオォ!!!!

 

 

 

 直後、火の魔術の爆発によって僕達は吹き飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」グッタリ

 

 

「…」ハァッ…ハァッ

 

 

 爆発に吹き飛ばされて地面を転がる2人は。

 かたや沈黙かたや息も上がっているが意識はある。この決闘の結果が決まったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ!!」スクッ

 

 

 

 立ったのは…………ザックだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、…………クッククククク、ハァッ、ハァッ、」

 

 マナの減少に呼吸もままならないが勝利を確信してザックが笑う。

 

「ハァッ、ハァッ、フックククク、アッハッハッハッハッ!!!何が決闘だ!!何が都合がいいだ!!結局いつものザマじゃねぇかァ!アッハッハッハッハッッハッハッハッハッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせぇよ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」ビクッ

 

 ザックが驚愕の表情を浮かべて声の方向を凝視する。そこには

 

 

 

 

 

 

「何…勘違いしてんだ?……まだ終わってねぇぞ……。」

 

 

 

 

 

 

 予測された3撃目を耐えた自らの敵が立ち上がる姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で、何で…何で立てるんだよ!!今のは確実に入ってたろ!?いったい何しやがったんだ!出来損ないのお前がファイヤーボールをッ……!!?」ゴホッゴホッゴホッ

 

 驚愕過ぎて自分がどういう状況か忘れていたらしい。このままだとマナ欠乏症で倒れるんだぞ?ちゃんと脳にも酸素送ってやれよ。

 

 

「いったいどうして!?」ハァッハァッ

 

「さぁなぁ?戦闘中にワザワザ偉そうに自己解説して痛い目見るのはさっきので、懲りたからかな!!!」ダッ

 

「!!!」ハァッハァッ

 

 僕はザックに向けて走り出す。

 休む時間は与えない、こっちだってもう足の感覚が無くなってきてる。マナを回復される前にここで勝負を決める!!

 正直身体中がヒドイ痛みで今にも崩れそうだ。だが今日この1回を逃したら次はもっと勝ちにくいものになるだろう。だから今日だけは死んでも止まらない!

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!!」ダダダダダッ!

 

 

「待っ、待てェッ!!!来るなぁ!!」ハァッハァッ

 

 爆風に飛ばされて空いた距離が再び縮まる。

 

 

 

 

 

「終わりだぁ!ザックゥゥゥ!!!」ダダダダダ!

 

 接敵まで後5メートル。

 

「うっうわぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてなwライトニングッ!!」ハァッハァッ、ピカッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう来ると思ってたよ。」

 

 僕はとっさに持っていた角材を地面に突き刺し、体勢を角材よりも低くして転がる。ザックが最後の秘策にとっておいた雷の魔術は

 

 

 角材に命中していた。

 

 

 

 

 

 

「なっ!!??」ブハァッ

 

 

 信じられないものを見たという顔をするザック。それもそうだろう。

 まさか武器と思っていた角材を避雷針にして避けるとは思うまい。最初からこのつもりだったんだよ。

 

 ザックとの今までのこともあって僕はコイツが使える魔術を知っていた。アイシクルは想定外だったが。

 今日の決闘でザックは地水火風氷雷の攻撃魔術をどれも使える事が分かった。流石にガキ大将やってるだけあって優秀だなぁ。

 村でも全部使える子供なんてウインドラくらいだと思ってたわ。

 

 だけどウインドラに比べてザックはただ使える魔術をただ放つだけのお粗末な戦い方だ。だからこんなふうに魔術の弱点を突かれる。

 これがウインドラだったらもう少し工夫して僕に勝つだろう。

 本気の勝負じゃウインドラにはかなわない。けどコイツには

 

 

「……ッ!!!……!??」アフッ!ブホォッ!

 

 渾身の12撃目を無効化され慌てふためくザックは次の魔術を放とうとするも欠乏症による不調で声が出せない状態だ。自業自得のサイレンスと言うわけだ。僕は躊躇なくその

 

 

 

 

「フッ!」ガッ!

 

 

「ハガッ!!?」

 

 

 

 ザックの喉に手をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハガッ、アアッ!ハァッ、フッハッ!!」ジタバタ!!

 

 ザックが必死にもがく。

 だがもがいたところで僕のホールドは解けない。もとより子供とはいえ筋力差があるのだ。

 日頃木刀や鉈を本気で振り回す僕だ。畑仕事をテキトウにこなして僕をおちょくりに来るザックとでは軍配はこちらに上がって当然だろう。

 

「どうしたの?またこっちが優勢みたいだけど?」

 

「ヒッヒッヒッ!!」

 

 答えるどころではないようだ。そりゃそうか喉を握られてるんだもんなぁ。

 

「フッハッフッ!!」ガスッガスッ!

 

 抵抗のつもりなのか、ザックが蹴りを入れてくる。

 

「……苦しそうだなザック?それがお前の自慢の魔法か?」

 

「!!?」ガスッガスッガスッガスッ

 

 おじいちゃんに木刀で斬り飛ばされたり魔術で、吹き飛ばされたりして鍛えられてる僕にとってその蹴りは何の妨げにもならない。

 

「常日頃散々カモにしている騎士が目の前にいるんだぞ?カモらなくていいのか?」

 

 初めてここまで追い詰めたことに調子付いて嫌味なセリフが出てくる。おっとここにはミシガンもいるんだった。

 

「ハガガガッ!!!」

 

 そろそろ限界が近いのかザックはツバを吐き出しながら白目を剥きそうであった。ツバが手にかかって汚いな。ではそろそろ、

 

 

 

 

 

 

 

「これで、……お仕舞いだァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」ダダンッ!!

 

「ボハァッ!!!」ゲフッ!

 

 そのままザックを地面に思いっきり叩きつける。

 後頭部を打ち付けてザックは気を失う。今辺りどころが不安だったが多分大丈夫だろう多分。

 

「」ピクピク

 

 うん、生きてる大丈夫!早くこの場を去らなければ!

 

 

 

 

 

「終わったのぉ~?」トテトテ

 

 そう言ってミシガンが近寄ってくる。はい、終わりましたよ。貴女のための勝利です!

 

「じゃぁ、ハーストエードかけるぅ?」

 

 おおぅ、そういえばミシガンは治療魔術使えるんだった。いつもケガしても放置してるから気が付かんかった。

 ゴメンねミシガン、ケガしないとか言っておきながら結局傷だらけになっちゃったよ。

 

「あァ、うんお願いしてもいいかなぁ?」ニコニコ

 

 実はもう立ってるだけで限界。膝が1ミリも動かないんだよね。有り難うミシガン。君は僕が必要とするときに現れる女神様だったんだね。

 

「じゃぁ、ハース…」

 

「ちょい待ったァ!」

 

「またなのぉ?」

 

「ゴメンねミシガンちゃん、でもその前に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからミシガンに治療魔術をかけてもらい傷を治してもらった。あとついでにザックも

 

 

 手足を後ろに縛り上げてから。

 

「…んんん?」

 

 気が付いたようだ。目を開けて辺りを見てから自分の動けない状況を確認する。

 

「……そうか負けたのかよ、クズがぁっ」

 

 それは僕にではなく自分に言い聞かせているようだった。

 

「で?これからどうするんだ?もうチョッカイかけてくんなって約束すりゃいいのか?それとも俺をボコ殴りにすんのか?それかこのまま俺を引き摺って村中に俺をやったアピールでもすんのか?」

 

 

 

 

 

 

 ………その手があったか!

 勢いで決闘組んじゃったから最初の約束くらいしか考えてなかったけどそんな魅力的な案があったなんてなぁぐへへへへっ!そんじゃあさっそく積年の怨みをぉ……。

 

 

 

「そんなことしないよぉ?」キョトン

 

 

 

 はい、しません!代わりにミシガンが答えちゃったよ!?どうしてぇ?

 

「カオスくんはねぇ…!騎士になりたいんだよ?だからァ終わったら笑って握手の有り難うなんだよ?そうだよねカオスくん。」

 

 

 

 

 ………そうだったな。この決闘ももとはただ僕に対しての扱いの改善を謀ってのことだしな。それ以上を求めるのは無しにしておこう。

 今はまだ騎士ではないけどいつか成れたときに胸張って自慢できる過去にしとこう。

 今のうちから腐ってたらまともな大人になれないしな。

 

「フフッ!そうだねミシガンちゃん。ザック、僕はただお前に今後関わってこなければこれ以上なにも入らない。どうだ?」

 

「ハハッ!アマちゃんだなぁ本当に良いのかよ!?それで!」

 

 コイツ、この場面で挑発かよ。もしそれにコッチが乗ってきたらお前は今からボロ雑巾にされたあげく村中引きずり回されてからモンスターのエサにして世界の食物連鎖の環に循環させるとこだぞ?それがお望みか?

 

「いいんだよ!この決闘では絶交するのが目的だしな。もう近づいてくんなよ?」

 

「それを俺が守ると「守るしかないだろ?」?」

 

 またもや僕は被せていう。

 

「お~い、ミシガンちゃん!今までの決闘見てたよね~?ザックが決闘前に言った漢と男の約束を破ろうとするんだ!どう思う?(おちゃらけて)」

 

「!?(焦り)」

 

「守らないのぉ?(小動物ふうに)」

 

「グゥゥッ!(困惑)」

 

「いやぁ~酷いなぁ!こんなボロボロになるまでやったのに終わった後に無かったことにされるなんて、いや全く酷いなぁ~?(嬉しそうに)」

 

「ザックくんヒドイ?(悲哀顔)」

 

「うんひどいひどい(満面の笑顔)」

 

「うぐぅぅぅぅ!!!(鬼の形相)」ダンダンダンダンッ

 

 そうだ、コイツも先程までの流れでミシガンにホノジなのは間違いない。僕と同じだ。

 ミシガンの前ではかっこつけたい思春期少年その2だ!

 正直ミシガンを利用するようで心が痛いですはい。けど恋敵に手加減は出来ねぇ!

 生命的には止めはさせなくても青春的には貴様にあの世に行ってもらおう!

 

 

「アレアレ~?もしかしてザックくんはこの程度の約束も出来ないお子様なのかなぁ~?(悪党顔)」

 

「ザックくんお子さまなのぉ?」

 

「」プルプル

 

「ザックくん~?」

 

「?」

 

「分かったよ…」ボソッ

 

 おっ、ようやく返事が来たぜ!

 

「え!!何だって!!!聞こえないんだけどぉぉぉ!!!!」

 

「分かったッ!つってんだろ!!約束してやるよ!もうお前なんか相手にしないってよぉ!!これでいいんだろぉっ!」

 

 よし、これで当初の予定通りだ。

 

「ハハッ!やったね!ミシガンちゃん!ザックくん約束を守ってくれるみたいだよ!」

 

「やったやったぁ。」

 

 僕と一緒に喜ぶミシガン、多分よく分かってないんだろうなぁこの約束の内容。

 

「……!」キッ

 

 それを見て睨み付けてくるザックくん(笑)。お疲れさまでした~!さて終止符だな。

 

「じゃぁ、ミシガンちゃん今日帰ったらお父さんに今の決闘のことを詳しく話してごらんよ?」

 

「お父さんにぃ~?」キョトン

 

「は?」

 

 ザックが何を言い出すんだコイツという顔だ。

 

「いやぁ~素晴らしいものだったなぁ~、漢(自分)と男(ザック)がお互いの負けられないもののために死力を尽くして戦いあう決闘劇!」

 

「ワァォ…。」

 

「お互いに熱くなる戦いに持てる力全て出しきり得た結果!2人の間には熱くかたい絆と友情が結ばれて芽生える友情!!」

 

「ホォォァッ…」

 

「『お前の気持ち確かに受け取ったぜ!』ザックくんはそう言って誓いあった約束を胸に刻み2人は別々の方向へと足を「そんなこと言ってねぇぇぇぇ!!!!」。」

 

 なんだよまた横槍入れんなっつーの。せっかくミシガンが

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァァ……」キラキラキラ

 

 恍惚の表情を浮かべて聴いているのに。

 

 

 

 

 

 



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この手にあった幸せ

 騎士を目指す少年カオスはザックとの決闘中、予想外の反撃を許すもそこから逆転し無事勝利を果す。

 その後ミシガンを仲介に挟んで約束を取り付けるのだった。

 さて今日は、


「それで、その後どうなったの?」

 

 

 あの決闘の翌日、僕は畑仕事の休憩中に昨日あった出来事を今日は出勤してきたウインドラに話して聞かせた。ミシガンも一緒だ。

 

「なんかねぇ!魔法でばぁーってなってぇ、ばばっとよけて走ってたよぉー!ウインドラも見ればよかったのにぃ!」キラキラ

 

 …ゴメンねミシガン。言いたいことを分かってあげたいのに分からない僕を許して!

 しっかし、ミシガン今日はよく喋るなぁ。いつもは人見知りでボソボソッと近寄らないと聴こえないくらいの声量なのに、馴れたら意外と大きな喋るんだなぁ。この場に3人しかいないからかな。

 

 

 

「ハハハッ、俺は昨日また見学に行ってたからね。惜しいものを見逃しちゃったかなぁ。」

 

 そうウインドラは最近頻繁に警備隊の見学に行くようになった。3日に1回の割合だ。

 

「そんなに警備隊忙しいのか?」

 

「そこまで忙しい訳じゃないみたいだよ?死骸や爪痕足跡を見てこの辺りにはどのモンスターがいるかとか調査してるんだ。それの時間がかかるだけで。後は周辺に仕掛けてある罠の補強や点検かな。」

 

「へぇ~、そんなことしてたんだなぁ警備隊って。モンスター追い払ってるだけかと思ってたよ。」

 

 単純に僕が森に行ってボアチャイルドと格闘してるようなことをしてるのかと思ってた。

 

「うん、それもあるんだけどね。ただ最近はモンスターの生息域が安定しなくて大人たちがピリピリしてるみたいなんだ。」

 

「安定しない?」

 

「しない?」キョトン

 

 僕につられて首かしげなミシガン……あるとおもいます!

 

「そう、ここ最近この辺じゃぁ見たことないモンスターが出没してるらしくてね。モンスター図鑑で見たけどグリーンローパーっていうやつらしい。主に湿った洞窟とかにいる生物らしいよ。」

 

 ふむ、確かに生息域を変えるモンスターがいる話はおじいちゃんからこの間聞いたばかりだから分かる。時季って言ったっけな?ここら辺は年がら年中寒いままなんだけどなぁ。

 

「なにか大変なことが起こってなきゃいいけどね。警戒にはこしたことないって父さんが警備隊の方に来いッっていうんだ。」

 

「なるほど、じゃぁ、別に騎士目指してるのがバレた訳じゃないんだな?」

 

「キシ?」

 

「……んんん!!!ちょっとカオスコッチ来てくれないかい!!」ガシッ

 

 そう言ってウインドラが僕を引っ張っていく。

 

「?」

 

 その場に残されたミシガンが不思議そうにこちらを見ている。

 

 

 

 

 

「ちょっとカオス!迂闊だよ!?ここにはミシガンもいるんだからそういうのはアルバさんと君だけがいるとこで話そうよ!父さんと村長にバレたら俺はすんごいどやされるんだぞ?」

 

 悪い悪いついうっかりしてた。昨日の勝利が嬉しくて口が軽くなってるのかもしれない。抑えなければ!

 

「スマンスマン、でもミシガンはよく分かってないみたいだからいいじゃないか。」

 

「全く君っていう奴は……」ハァ…

 

 ウインドラが諦めたようにため息をつく。

 

「まぁ、君の懸念は最もだけど別に騎士のどうこう

に関してはバレた訳じゃないよ?むしろバレるバレない以前にそれどころじゃないってくらい慌ただしいみたいだよ。」

 

「そんなに緊急事態なのか?」

 

「この村が出来て以来こんなにここらじゃ見掛けないモンスターが発見されるのは初めてらしいよ?」

 

「それってつまり50年住んでて初めてってこと?」

 

「うん!」

 

 なにやら村の周囲に不穏な動きがあるらしい。もしや…

 

 

 

 

「僕がザックに勝ったからか!?」

 

 

 

 

「………関係ないだろ?どんだけ嬉しいんだよ!」

 

 だってお前初勝利だぞ?初勝利!それもいろいろともめてた相手に!そして今後リベンジもないだろうしなぁ。

 

 

 

「そういえば勝った後どうなったんだっけ?」

 

「ん勝った後?僕との間に鎖国を成立させたけど?」

 

「そうじゃなくてその後だよ。」

 

 あぁ、そこが聴きたいわけね。良いだろう、聴かせてやろう約束を結ばせてからどうなったかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はザックに約束を取り付けた後、ミシガンに言って治療魔術ファーストエイドをかけてもらった。癪だがザックにもだ。

 

「で?俺は何時になったら解放されるんだよ。まさかこのままなのか?」

 

 さっきまで調子に乗ってからかってたため多少不機嫌なザック。

 僕なんかいつもこれより酷い扱い受けてんだからこの程度我慢しやがれ!

 

「心配しなくても後で外すよ、でもその前に…」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日お前が負けた理由を教えてやるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けた理由……だと?」

 

 訝しそうな視線を向けてくるザック。この展開は思い付かなかったようだ。

 

「そう、さっきの決闘の反省さ。いつもウインドラと稽古した後はやってんのさ。」

 

「それに何の意味があるっていうんだ!」

 

「まぁ、聞けよ。ためになるかもだろ?」

 

「…チィッ」

 

 手足が動かないため大人しく聴きにてっすることにしたザック。よろしいでは、

 

「この決闘始まる前からお互いにこういう展開になって自分はこう勝つって予測がついてたとおもう。」

 

「…。」

 

 ザックは何も言わないがその視線の動きが肯定ととらえてよさそうだ。

 

「ザックの考えではテキトウに魔術撃てば僕が倒れると思ってたんだろう?」

 

「…あぁ。」

 

「けど実際は魔術を耐えるうえに魔術が当たらない、けっこうギリギリの決闘に焦ったろ?」

 

「…」

 

「おまけに角材を武器にして突っ込んで来るかと思ったらその角材を利用して魔術を避けて向かってくる。」

 

「なんだ、自分を褒め称えてほしいのか?あぁすげぇすげぇ。」

 

 可愛くない称賛だなぁ、ミシガンを見習いやがれ。なにもしていなくてもお前の数億倍は可愛いぞ?流石ミシガンタン!

 

「大雑把に言えば今日の決闘はこんなかんじだったわけだが。この結果どう思う。」

 

「油断大敵だって言いたいんだろう?忠告されなくても「それだけじゃないぞ」」

 

「それだけじゃない、お前の敗因は」

 

「?」

 

 本気で分からないって顔してるなぁ。

 

「お前が負けた本当の敗因は決闘の中でも言ったことだ。」

 

「俺がケンカの素人だっていってたことか?一体何を根拠にいってんだ?」

 

「さっきの決闘中僕はお前が魔法を10回使えると予測した。対してお前は僕が魔術3回で倒せるとふんだ。けど決闘の成績を見ればお前は僕が予測した10回をこえて魔術を使用した。そして僕はお前の魔術に3回耐えきった。」

 

「……」

 

「僕が言いたいことが分からないか?」

 

「なに言いてぇのかサッパリだな。2人して限界を超えて成長していたとでもいうのか?」

 

「………まだ分かってないようだな、この流れでこの成績の内容の意味が」

 

「だからなんだッつーんだよ!勿体ぶらずに言えば、いいだろ!?」

 

「言っておくけど僕が予想したお前の魔術使用限界は10回、これは今でも僕はそうだと思ってる。」

 

「ハッ!じゃあ何で俺はお前の予想した回数よりも多く使えたんだよ!おかしいじゃねぇか!成長してマナの貯蓄要領が増えた以外に理由が「なんもしてねぇお前にそんなもんある分けねぇだろうが!」」

 

 それに子供の努力なんて五十歩百歩だ。僕でさえずっと木刀を振り続けてるのに成果が出せないでいる。何も努力をしないザックにそんなことでパワーアップされてたまるか。

 

「さっき言った僕とお前の予測を超えた結果は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…なにを!?」

 

「お前、決闘中、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徐々に魔術が弱くなっていってたぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の魔術が……弱く?」

 

「そうだ、決闘始まって最初に受けたストーンブラストは凄い痛かったけど、その後に受けたアイシクルとファイヤーボールは大したことなかった。多分ストーンブラスト以降からは半分の威力も出てなかったんじゃないか?確実に当たるかどうかも分からない魔術に最初から本気で撃ちすぎなんだよ」

 

「…そんなことが…」

 

「普段他の取り巻きがいるから僕に攻撃するときは1、2発程度軽く撃つくらいなんだろう?なんせ自分がやらなくても取り巻きが僕を倒してくれるからな。それ以外だととくに実戦してる訳じゃぁ無さそうだし。」

 

「…!」

 

 心当りが有りすぎるのか目を白黒させて聞いているザック。

 

「自分のペース配分が分からない上に魔術を避けて向かってくる僕。冷静さをかいてしまい焦って威力の抜けた無駄弾連発。それのおかげで僕はお前の3撃を耐えられたし、お前も無駄に魔術の回数が多かった訳。お前は自分が放つ魔術すらろくに見えなくなるほど回りが見えてなかったんだ。」

 

「…」

 

「要するに僕は投擲とか遠くのものを狙うノーコンだけどザックは身近な自分の魔力を制御出来ないノーコンだったってのが真相かな。」

 

「」

 

 

「ノーコン?」カクッ

 

 君は成長せずにそのままでいてくれミシガン。その愛らしいままに。

 

 

 

 

 

 

「そんなこと」

 

 

 

「ん?」

 

 縛られてるザックが何か言ってる。そういえばまだ縛ってたな。

 

 

「そんなこと俺に教えていいのかよ?」

 

 縛られながらもまた挑発してくる。お前こそこのタイミングで挑発でいいのかよ?素直にほどいてください、だろ?

 

 

 

「んなもん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいに決まってんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてだよ、お前に教えられた弱点を克服して次は挑んでくるかもしれないぞ?今度は今日みたいにはいかねぇぞ?まぐれは1回きりだ!」

 

格好よく悪党が言いそうなセリフ吐いてもその芋虫みたいな姿じゃぁしまらないなぁ。いい加減立てよ?

 あっ、立てねぇのか!

 

「そのための誓いを決闘前に誓ったはずだけどなぁ」

 

「俺は騎士者じゃねぇ!お前もだ!こんな口約束どうってこと…」

 

「…」ジー

 

「」ビクッ

 

「…」ジー

 

「…」タラタラ

 

「…」ジ~

 

「どうって…こと……」

 

 もう最後の方は聞き取れなかった。

 

「ん~?何かなぁ?この口約束どうなっちゃうのかなぁ?ねぇミシガンちゃんどうなると思う~?」

 

「ん~?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この性悪野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 失礼なお前ほどではない。

 

 このあとちゃあんと足の紐と()()()()()だけ切って解放してあげたじゃないか。

 

 あっ、切る紐間違えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで今朝からザックが妙によそよそしい訳か。」

 

 まだまだザックには他に言わなければならないこともあったがあんまり言い過ぎると逆上して仕返しに何してくるか分からないからなぁ。

 今日は大人しくはしっこの方で作業してたからミシガンの前で約束を反故にすることはないと思うが。

 昨日は後ろ手に縛られて村中を駆け回ってたみたいだから村のみんなからも変な目で見られたようだ。

 

「呆れた、それってミシガンとザックの関係を悪用してるだけじゃないか?」

 

 うぐっ、ウインドラに痛いところを突かれる。

 

「そ、それでも約束は約束だ!別にミシガンが被害を受ける訳じゃないからいいんだよ。」

 

「ミシガンがよく分かってないからまだよかったものの。それってかなり最低なことしてるよ?騎士を目指すものとして村民に守られるってどうなの?」

 

「……」シュン

 

 言われてから自分が好きな子を利用してるのがなんだか後ろめたくなってきた。どうしよう今さら約束を撤回するのもなんだか…。

 

「カオスもザックもそういう単純なとこあるからこの先心配だよ。」

 

 おう親友こんな僕を心配してくれるのかい?なんていいやつなんだ君は。それに比べて僕は………はぁ。

 

「フフッ、けどこれでようやくカオスと安心して一緒にいられるわけだから別にいいけど」

 

 な、なんだ?下げたと思ったらここで急に上げてくる。やめてくれよ、僕には今好きな人がいるんだ!そうやってイケメンフェイスで誘惑してくるのは!僕はお前のことを友人以上にはぁっ…!

 

「カオスに止められてたから何も出来なかったけど本当は心苦しかったんだよ?近くで君がやられてるのを黙ってみてるの。」

 

 あーぁ、至極まっとうな意見でした。なんだよウインドラルートに入ったのかと思ったじゃないか。ちょっぴり期待しちゃったぞ?全く別に勘違いしたわけじゃないんだぞ?

 

「あぁ、けどあれって僕のケンカだからさ。僕はこんな体質だから何か言われても馴れてるけどそれにウインドラを巻き込むのはちょっとねぇ。」

 

 僕は人より何か特別に自慢できるものも大事な人も少ない。むしろないと言っていいほどに。

 だから大切なものは絶対に守りたいんだ。

 

 こんな僕を友達と言ってくれるウインドラやミシガンを傷付けたくない。

 僕が何かされてもこの大切な友人たちには迷惑かけたくない。

 

 

 大切な人達が傷付くなら僕が盾になって守らなくちゃ…!

 

 

 

 

「そうやって強がって、何でも1人で抱え込まなくてもいいのに。」

 

「強がってないさ!これが僕の考えで生き方なんだ。こうでなきゃいられないよ。」

 

「ミシガンを巻き込んでるのに?」

 

「その件は勘弁してください。何かあったら僕がミシガンとウインドラを守るからさ!騎士として。」

 

 思慮の浅さが僕の欠点だな。そこは反省しよう。

 

「フフッ有り難う、なら俺も何かあったらカオスを守るよ。騎士として」

 

 …またウインドラは僕にとって嬉しいことを言ってくれる。よせやい照れるって。

 

「あぁ~パクったぁ!」ハハッ

 

「パクってねぇし、これも俺だから!」フフッ

 

 

 

 

 

 こんな風に将来の夢を語りながらも冗談を言い合える友がいる。

 

 これだけで僕は満足だ。

 

 後はこのままこの気持ちが風化せずに永く続いてそれぞれの思う未来へと歩いていけたらいいなと思う。

 

 ウインドラが隣にいてミシガンが隣にいて、あとおじいちゃんも近くで見守っていてこの幸せがあれば僕は大丈夫だ。

 

 もう他には何もいらない。人より凄い力なんていらない。ただ穏やかなこの時をずっとずっと先に繋げていけたら…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このときの僕は、この幸せがもうすぐそこで終わってしまうことを夢にも思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村長邸宅裏、殺生石前にて

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさかとは思ったがやはりそうだったか。」

 

「触るもの全てを死に至らしめる殺生石」

 

「どうしたというんだ。ずっと我らを護り続けていた殺生石が…。」

 

「だが最近のモンスターの変則的な出現も頷ける。」

 

「モンスターは本能的にこの石に近寄らないとふんでこの地に村をかまえたというのに。」

 

「一体何時からなんだ!?何時から殺生石は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その力を失ってしまったんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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胎動の歴史

 騎士を目指す少年カオスはザックとの決闘を勝ち友人のウインドラとミシガンに事後報告をすます。

 今後ザックと不干渉を取り付けることに成功したカオスはよりいっそう友人たちとの時間を大切にしようと心に決めるのだった。

 一方で村のある場所では不穏な空気が漂う…。


 

村長邸宅裏 殺生石前

 

 

 

 

「原因は何なのだ!?何故こうなった!」

 

「そんなもの分かるわけがない!調べようにもこの石は触れると死んでしまうだろう!?これまでも何人犠牲になったと思ってるんだ!」

 

「有力ゆえに害悪…、この石は凄まじいまでの力を持つがために我らはここを拠点に村を築き上げてきたが本来はモンスターが自然とそうしているように近付くべきものではないのだ。」

 

「我等はこの石が何物なのかまるで知らない。石などと呼んでいるが見た目がそうであるだけで、これはこの周辺にあるあらゆる鉱物との質の違いを見せさらには魔術すらうけつけぬ物だ。」

 

「この状態は一時的なものなのか、それとも永久に戻らぬのか。」

 

「最後に効力を発揮したのは何時なんだ?」

 

「それは確か……5年前にアルバさんとこの子供が最後に、あの例の。」

 

「無敵の殺生石に唯一の例外が出来たときだな?………なるほど、もうその時の前後辺りから殺生石は綻びだしていたのだな。石にも寿命があったというわけだ。」

 

「もう直す手立てはないのですか!?」

 

「そんなものがあったらこんなところで焦っておらぬわ。」

 

「いずれにせよこのままだと村の安全面の確保は難しいのでは…。」

 

「分かっておる。殺生石が死んだ今、時季によって表れるモンスターのことを懸念しておるのだろう?それはもう未知の領分じゃな。」

 

「これまで以上に村の警備を堅くしなくては!」

 

「気候が一定のこの土地に他所から来るモンスターがいないことを祈るばかりだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の村の畑

 

「ねぇ、ミシガンちゃん、ウインドラ好き?」

 

 僕はずっと思ってたことをミシガンに訊いてみる。

 

「エヘヘェ、好きィ!」ニパァッ

 

 おっ、おぉぉぉぉ!、天使や!いや女神や!いやいやそれ以上の何かやぁー!

 この照れながらも素直に朗らかにそして美しく可愛く愛らしく凄まじいまでの笑顔で答えるミシガンはなんていとおしいんだろう!

 これはもう村の宝だ!宝人だ!エバーライトだ!!こんな素晴らしい宝がある村に生まれて僕はなんて幸運なんだろう!まさに世界の宝!

 

 ウインドラの許嫁なのは残念だが。

 

 だからさりげなく僕は本命を訊いてみた。

 

「じゃ、っじゃぁぼっぼぼぼぼ、ぼぼ僕のことはァ?」

 

 いかん、初めて話した頃に逆戻りしている!

 

「?好き?分かんない。」キョトン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アァー!!訊いてみるだけでも体力使ったのに返答聴くのもなにか持ってかれそうだわぁー!!

 結構仲良くしてるつもりだったんだけどそこ疑問系なんですねミシガンさん!

 僕はあとどのくらい頑張れば君を振り向かすことが…!

 

 

「幼い子に何訊いてるんだよカオス。」

 

 ミシガンの返答に悶えてると隣にいたウインドラが僕を現実に引き戻す。

 

「ミシガンはまだ幼いんだからそんなこと訊いても分からないだろう?」

 

 えぇ~?そうかなぁ?少なくともさっきウインドラのこと訊いたときは乙女の顔してたぜ~?

 

「ちょっ、ちょっぴり気になっただけだよ!ほんの出来心というか…」

 

「それって何か変な考えからきてない?」

 

 ドキッ!なっ、なにを根拠に!

 

「なにを根拠に!」

 

「君は態度で分かりやすいからね。さっきの質問もそういうことなんだろ?」

 

 バレバレのようですね。流石僕の友人を名乗るだけのことはある。褒めてやろう!

 

「流石僕の友人を名乗るだけのだけのことは「カオスは」」

 

「騎士になるんだよね?」

 

 

 

 

 

 なにを今さら

 

「あぁ、当然だろ?ウインドラもだよな?」

 

「……そのつもりだけど、でもミシガンは」

 

 そういってミシガンを見るウインドラ。

 

「ミシガンは村長の娘さんだから……」

 

「?」キョトン

 

 もうミシガンと言ったらキョトン顔だよね!危うく真面目な話っぽいのに聞き逃しそうになるよ!

 

 その先は分かるよ。ミシガンの前じゃぁ言いにくいことだって。けど

 

 

 

「またそうやって暗くなるなよ!ウジウジ悩んでたって1人じゃぁ解決しないぞ!生まれなんて関係ないだろ?やりたいことをやるのが人生だぞ?」

 

「え?」

 

「ねぇ、ミシガンちゃんおっきくなったら何になりたい?」

 

「えぇ~?、んっとね~、えっとねぇ~」

 

「カオス何を…?」

 

「黙って聴いてろって。ねぇ、ミシガンちゃん何でもいいんだよ?こういう仕事したいとかこういうふうに過ごしてみたいとか」

 

「んんん~~?」

 

 しばらく考えてたミシガンは

 

「あぁあったぁ~、アレになりたい!」

 

「何かな?」

 

「おヨメさん!」

 

 そしてウインドラを見ながらそう答える。

 また失恋したぜ、僕はあと何回失恋しなきゃならないんだ。

 

「じ、じゃぁさ、騎士についてどんなイメージかな?」

 

「!」

 

「騎士?」キョトン

 

「そう、騎士!僕さそれを目指してるんだ。騎士はいいよ?味方や臣民のみんなを守るために勇敢に敵に立ち向かっていく勇者!まさに最高に理想の戦士だね!」

 

 全て小さいときに聞いたおじいちゃんの受け売りだけど。

 僕はおじいちゃん以外の本物の騎士を知らないから本当かどうかは分からない。

 だけど僕の心を一番熱くさせたのは間違いなく騎士だ。

 

「将来さ僕もウインドラも騎士になりたいんだ。」

 

「…」

 

「だから僕達が騎士になるときさ、ミシガンちゃんもそのぅ……一緒に来ない?」

 

「…!」

 

「う~んと、うん行くぅ!」

 

「本当!」

 

「カオスくんもぉウインドラも行くなら私も行くぅ!」

 

 やベーなぁテンション上がるぜ言質はとったぞ!

 

「そうこなくちゃ!僕達はさ日頃騎士になるために森で訓練積んだりしてるんだ!今日このあと良かったら一緒に行ってみない?」

 

「ぇえと、えとねぇ、お父さんが森には近づいちゃダメってぇ」

 

 テンション上げすぎて余計なこと言っちゃったか。まぁ、そうだよね普段は森って弱いとはいえモンスターでるからなぁ。

 

「そ、そっかぁ、じゃあまた今度かな。」

 

 この話はここまでにしとこう。ザックに勝って解放されたからか最近はついつい調子に乗って変なことを言ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後畑仕事を終えて先ほどの通り森に遊びに行こうとしたとき

 

「カオス、ミシガンには黙っててほしかったな。」

 

 ウインドラに注意を受けてしまった。

 

「ゴメンゴメン、つい口が滑って。」

 

「ミシガンから村長に伝わって村長から僕の父さんにでも話が流れたら僕はきっと騎士目指すどころじゃなくなるんだぞ?」

 

「悪かったって!本当すみませんでした!」

 

 おっとまた冷静さをかいていたようだな。そのことを考えてなかった。抑えなければ!

 

 

 

「全く、それで今日はどうするの?アルバさんとこ?それとも本当に森に行くの?」

 

 僕は少し考えて

 

「今日は森かな、最近は行ってなかったし久々にこの間のボアチャイルドにリベンジしたいんだ!」

 

「そう、なら支度してくるよ。」

 

「おう、じゃあ30分後に集合な!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっそいなぁ、ウインドラ、何してるのかな?」

 

 30分後に約束したいつもの待ち合わせ場所についてもウインドラがいっこうに来ない。どうしたのだろうか?

 

「何かあったのかな?」

 

 まさかミシガンからもう村長伝ってラコースさんに先ほどの話がバレてるのかも。

 …ちょっと様子見にいって見るか。

 

 僕はウインドラの家に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は行けない?何かあったのか?」

 

 ウインドラの家に行くと急なウインドラからドタキャンを受けた。

 

「そうなんだゴメンよ?なんか大人達が騒いでて村長が明後日に村中の人を集めて何か話をするみたいなんだ。それの用意を手伝ってくれって。」

 

 そっかぁなら仕方ないなぁ。

 

「そういうことなら今日はやめとくかぁ、ウインドラいないとつまんないしな。」

 

「そのことなんだけど、最近の森はなんか危ないっていうらしいから森に子供だけで近づくのはやめといた方がいいって父さんが。」

 

 危ない?いつものことじゃないか。

 

「ふぅん?なんか出たのかな?」

 

「分からないけどそうとうなことがおこってるのは確かみたいだよ?」

 

 ………へぇ~。

 

「分かったよ、今日は大人しく帰るとするよ。」

 

「そうした方がいいみたいだね、じゃぁ、また明日ねカオス。」

 

 そういって僕はウインドラと別れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ないかぁ、何が出るのかなぁ?」

 

 あぁは言ったけど僕はなんだか森の異変に興味が湧いた。

 

「最近の僕は調子がいいんだ!ちょっと調べにいってみっか!」

 

 

 

 

 危ない行くなと言われるほどその禁忌を犯したくなる。子供だからこそ理性よりも好奇心を優先させてしまう。

 

 

 

 この時の僕は不屈と言われる自分は頑張れば何でも出来るとそう信じていた。

 

 いや、

 

 そう思い込みの勘違いをしてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だよ、何もいないじゃんか!」

 

 宣告通り森に来た僕は周辺でボアチャイルドとボアくらいしか見かけないことに不満をこぼす。

 ちなみに追い回されて終わった。これでまた黒星記録再開だ。ザックのようにはいかないようだ。

 

 いつものことなので気にしない。

 

「これならおじいちゃんと稽古してた方がよかったかもな。」

 

 これまでに来た森の様子との違いが見られないことに退屈を感じ1人森の中を歩く僕はもうそろそろ帰ろうかと思い始めていた。

 

「今日はウインドラもいないしそろそろおしまいにしようかなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガサッ

 

 

 

 

 

 

 ふと茂みの奥から物音がする。

 またボアチャイルドが来たのかと思って木刀を構える。

 

 が、いつまでたっても現れないので気が急いて見に行ってみる。

 

 そこには

 

 

 

 

 

 見慣れない格好をした若い男が傷だらけで倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰だ、この人?」

 

 カオスは男に歩みより顔を確かめる。

 見かけない男だった。こんな顔の人は村では見たことがない。

 別の村の人が森に迷って行き倒れたのかと思ったがもともとこの周辺は人気がないという理由で移り住んできた土地である。近くに村はない筈だ。60年ほどたってるから今はどうかは定かではないが。

 

 となるとこの男はいったいどこの誰で何をしていたのだろうか。

 

 

 

 

「…た、……いちょう……。」

 

 男が何かを喋った。意識が微かに残っている、まだ生きているようだった。

 

「お、おじさん!どうしたの!?何があったの!?どこか痛いの!?」

 

「み、……水をぉ……。」

 

 なるほどどうやら喉が渇いていて苦しそうだ。

 みたところ何も水や食料らしいものを持っていない。

 

 ふと腰についている棒状のものが目に入る。

 

「何だこれ?」

 

 そう思い掴んでみるとそれはするりと男の腰から抜けて手に重みが乗る。

 

 

 

「………これってもしかして……剣!?」

 

 それは銀色に長く伸びる刃物だった。

 

 

 

「スッゲェェ!本物の剣だァ!!」

 

 村では農機具や弓矢くらいしかないから初めてみる武器に興奮する。

 いや、そういえばおじいちゃんが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あれに比べれば装飾も少なくてシンプルなデザインだ。

 曲がりなりにも隊長をやってたと言っていたし違いがあるようだ。

 

 おじいちゃんは民間の出で応募して騎士になったと聞いている。

 そこで長年一般騎士を務めて小隊長までが限界だったらしい。

 恐らくはこの男もそうなのだろうか?

 本当に騎士だったらいろいろと訊けそうだ。

 

 

 

 もしかしたら騎士ではないのかもしれない。

 世の中には各地を転々とする冒険者という人達がいるそうだ。この人もあるいは…。

 

「水ぅぅ……。」

 

 再び水の催促をされる。

 おっといけない。緊急事態なのすっかり忘れていた。

 

 僕は持っていた水を男に与える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうボウヤ、助かったよ。」

 

 男はお礼を言ってくるがその顔からは深い疲れを感じる。

 

「うん、どういたしまして。ところでおじさんは誰?どこから来たの?」

 

「私はクレベストン、マテオ王国騎士団の隊員だ。」

 

 ……やっぱりこの人は騎士だった。

 その返答を期待していた僕は

 

「わぁ~、やっぱり騎士なんだぁ!凄いやぁ、本物に逢えるなんて感激だよ!もしかして任務で来たの!?他にも騎士がいるの!?騎士ってええっと、何を食べるの!?」

 

 一気に質問を捲し立てる。あっ、最後は別に要らなかったか。

 

「期待してるところ悪いんだが私は任務ではなく、個人的な人探しのためにこの地を訪れたのだよ。あと食べ物は普通のつもりだが。」

 

 律儀に質問に答えてくれた。いい人そうだ。

 自分のこと私って言ってるけど女の子みたいだな。そういえば村長とか偉い人とかも私って言うな。この人って結構偉い人?

 

「人探し?それって誰か迷子になってるの?」

 

 村の住人ならともかくこんなところで迷子になったらモンスターに襲われて大変だ。

 戦えるなら心配はないが、長くさ迷うと疲労で倒れてしまうかもしれない。

 

「迷子……か。確かに迷子だな。もう100年近くになるか。」

 

「100年!?」

 

それはまた随分と長く迷子を続けてるなぁ。

 子供だったら大人になってしまう。

 

「あぁ、この森から少し離れた場所にある廃村ではぐれてからそれくらいになる。とある貴族の当時隊長だったお方でね。あのとき私達の部隊をモンスターの群れから逃がすために1人で囮になってそれっきりなんだがあの方がそう簡単にやられる筈はない。今もどこかで生きているに違いないと私は信じている。」

 

 よっぽどその人のことが大事なんだな。

 話を聞く限り時期的にも合うのでもしかしておじいちゃんかな?とも思ったがおじいちゃんの話ではおじいちゃんの部隊は全滅しておじいちゃんが1人で逃げてきたと言っていたからこの人の部隊とは違うだろうと思ったので口には出さなかった。

 第一、貴族でもないぞ。

 うちのおじいちゃんそんなに人から尊敬されるような質じゃないし。

 

「でもなんでここに探しに来たの?その村とは若干遠いと思うんだけど。」

 

 もともとの村はここから10キロは離れている。何か理由がなくてはここまで来ないだろう。

 

「あの村から王国までの街や村は全部回ったさ。それでも見つからない。だからあの村から徐々に遠くそして人の住めそうなところをくまなく探してここで君と出会ったというわけだ。」

 

 既にしらみ潰しの様子。頑張るねこの騎士様。

 

「でもあの村の様子だとその探してる人も…、とかは思わなかったの?」

 

 よくその探し人を無根拠に探せるものだ、普通は諦めてるだろうに。すると、

 

「私も最初はそう思った。しかし住人の消えた村を探索してるとモンスターに襲われた形跡が全くないことに気付いたんだ。それに生活用品もところどころなくなってる。まるで住人がまるごと何処かへ移動したかのように。」

 

 そんなことまで分かるのか。流石騎士様だ。

 

「だからあの村からそう遠くない位置に住民が移動したんだとふんで私はずっと探し続けていた。」

 

 それで100年も探し続けられるってことは本当に会いたいんだろうなぁ、その人に…。

 その人も幸せだろうな、こんなに想ってくれる人がいて。

 

 

「そういえば君はどうしてこんなところにいるんだい?子供だけでも危険だろうに。」

 

 話を聴くのに夢中になってると今度はクレベストンさんの方から質問がくる。

 

「僕は大丈夫だよ。この近くに村「村があるのかい!?」が」

 

 

 

 

 あ、この流れ……マズイかも。

 

 

 

 

「私を是非そこへ案内してくれないかい?」

 

 そう来ると思ったよ。

 

 どうしようか、というのも僕は大好物だから別にいいんだけどもともと僕の村の人達は騎士様達を毛嫌いして村を移動したのだ。

 

 そこへクレベストンさんを案内するってのも難しい話である。

 

「うぅ~ん、えっとぉー案内はちょっとぉ…。」

 

「……どうやら事情があるみたいだね。私の予測になるが騎士には教えられないというような…。」

 

「え!?何で分かるの!?」

 

「村の団体移動は他でもよく聞く話さ。税の取り立てを拒むという理由でのね。大概は見つかるんだが。」

 

「他でもあるんだ!」

 

 「あぁ。だが安心してくれ!私は君達の村の存在を王国の誰にも知らせない!剣に誓って!」

 

 お、お、おおぉーーー!!そのセリフは昔おじいちゃんが言ってた騎士の誓いだ!!まさしく騎士のセリフだよぉぉー!

 

「で、でも僕はぁ、えっとぉぉ……教えてあげたいのはあるんだけど……。」

 

 確かに剣の誓いを見て信じる気にはなってるんだけど、大人達が後でなんていうか……。

 

 

 

 

「なんならこの剣と鎧は君にあげるよ。」

 

 

 

 

 クレベストンさんがとんでもないことを言ってきた。

 

「えぇぇぇぇぇ!!!?いいのぉぉぉぉ!!!?」

 

 どうしたと言うんだ、大切な剣と鎧をこんな子供に授けて大丈夫なのだろうか?

 

「いいとも私はあの方が不在かどうかを確認できたらそれで満足だ。」

 

「けどそれじゃぁ、どうやって帰るの!?武器も持たないで王国に帰れるの!?」

 

 この周辺は弱くてもモンスターの生息地だ。油断してると足下を掬われかねない。

 クレベストンさんは

 

「大丈夫だよ、私にはもう必要ない。このナイフさえあれば。」

 

 そういって懐から10センチ程度の小さなナイフを取り出す。

 

 ……それで身を守れるの?今だって身体中傷だらけのボロボロなのに?

 まぁ、くれるというなら有り難くありがとうございます!

 

 

 

 

 

「それに私にはもう時間が……」

 

 

 

「なんか言った?」

 

「いや何でもない。それとさっきから気になってたんだがボウヤは騎士について随分興味がある様子みたいだね。誰かに騎士について教わったのかい?」

 

「うん!実は僕のおじいちゃんも昔騎士をやってたんだぁ!おじいちゃんからよく騎士について教えてもらっててね。それからずっと騎士になりたくて毎日剣術の稽古もしてるんだよ?」

 

「それは一騎士として勤勉な後輩に巡り会えたことに感謝せねばな。」

 

 そう言われると照れくさいな、へへっ。

 

「ねえ、クレベストンさんって普通の隊員なの?それとも隊長か何か?」

 

「?私はこれでも一応中隊長職には就いてるがどうして?」

 

「え?中隊長なの?けどこの剣、おじいちゃんの持ってる剣と比べるとなんかシンプルだね。」

 

「ボウヤのお祖父様も剣を?しかし先ほどの話からすると退役したんじゃないのかい?その際には剣は返納する決まりになってる筈だが…。」

 

「アッハハ違う違う!仕事中に自分の部隊ほっポリだして逃げてきたんだって!こんなアブねぇ仕事やってられるかあ~ってね。村が移動する辺りの話だよ?」

 

「……」

 

「だからそのまま剣も持って行っちゃって今の村に住んでるんだ。たまにその剣を手入れしてるときに見せてもらうんだけど変な動物のマークがついててね。」

 

「動物のマーク!!?」

 

「わっ、急にどうしたのさ!?」

 

「ボウヤ!君のお祖父様はなんて名前なんだ!?」

 

 突然クレベストンさんが僕の肩にてをおいて強く掴んでくる。

 

「名前?あっ、まさかとは思うけど僕のおじいちゃんが探してる人かって思ってる?残念だけど多分別の人だよ。おじいちゃん平民の出身って言ってたから逃げ出すときに誰かの剣を間違えて持ってきちゃったんだと思う。」

 

「平……民?」

 

「そうそう、人違いなんてよくある話でしょ?おじいちゃん部隊全滅してて生き残ってるのは俺だけだーって言ってたし、その隊長さんの剣を持ってきちゃったんだよきっと。」

 

 まったくおじいちゃんは!黙って騎士を辞めるだけじゃなくそんな偉い人から盗みまでしてたなんて!

 なんだか隊長職に就いてたってのも妖しくなってきたぞ?

 帰ったら問い詰めてきっちり…。

 

「100年前のあの当時、あの周辺は騎士の税の徴収部隊は私達の隊のみでそれ以外の部隊の話は聞いたことがない。」

 

「え?」

 

 内心おじいちゃんに対して腹を立ててるとクレベストンさんが何かを語り出す。

 

「さらにあの村であったモンスターの襲撃に関しては絶望的な状況に陥りながらも被害は奇跡的に1人のみ。そう隊長だ。」

 

 クレベストンさんは僕に言い聞かせるように話す。

 

 1人

 

 そこから考えられることは1つしかない。

 

 けどいやこの人とおじいちゃんの言ってることの食い違いは何だ?

 

 100歩譲っておじいちゃんがその隊長さんだったとしても部隊が全滅した話や平民だったってのはなんなんだ。

 

 まさかクレベストンさんは僕に嘘を?

 

 だがいくら考えてもその嘘がこの場で必要とは思えない。むしろありのままを語っているとしか…。

 

 じゃぁ、

 

 

 

 じゃぁ、嘘をついているのはおじいちゃん?

 

 何でそんな嘘を?

 

 みんなは知ってるの?

 

 おじいちゃんは本当は一体何者なの?

 

 おじいちゃんは本当におじいちゃんなの?

 

 ダメだ疑い出したらキリがない。

 

 と、僕が疑心暗鬼に陥ってると

 

「それ以後の被害は多少の負傷はあっても隊員の誰かが行方不明になるほどの報告は受けていない。事件もその一件限りだ。異動で別の部隊に移ることはあったが。」

 

 クレベストンさんがもはや確信したかのように言う。

 

 

 

「あの事件で消えた隊長と隊長の剣、そして同時期に同じ現場で辞めた君のお祖父様と()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逢わせてくれないかボウヤ、君のお祖父様、

 

()()()()()=()()()()()()()()()()()隊長に。」

 

 

 

 

 



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きっかけ

 騎士を目指す少年カオスはウインドラと森に行く約束をするが都合により断られてしまう。

 好奇心に突き動かされたカオスは1人で森に向かいそこで1人の騎士と出会う。

 その騎士はかつてアルバが救った騎士だった。


「アルバート=ディラン・バルツィエ?」

 

 

 

 その名前に僕は疑問を持った。

 

「どうしたんだい?君のお祖父様の名前じゃないのかい?」

 

 クレベストンが尋ねる。

 ところどころ似かよっているというかその名前の上下だけなら分かるのだが…。

 

「なんか違うよ?僕のおじいちゃんは()()()=()()()()()()って言うんだ。」

 

 

 

 名前が違うので人違い

 

 と言うにはこの2つの名前は重なるところがある。

 

 アルバート=ディラン・バルツィエ

 

 そしてアルバ=バルツィエ

 

 ファミリーネームが同じ時点で既に少なくとも他人の筈がない。

 

 クレベストンさんの言う通り同一人物なのだろうか?

 

 ………もしかしたらおじいちゃんはそのアルバートなんとかと言う人に成り代わった盗賊の類いかもしれない。

 

 相手は貴族とか言ってたしその貴族の名を名乗って………

 

 

 

 

 いや、やはりこの案はあり得ないし無意味だ。

 

 貴族に成り代わったと言うならこんな村で農業してる訳がない。

 それだったら他人の名を名乗らずに自分の名前で十分な筈だ。

 

 倉庫に置いてある剣も相場は分からないけど素人目にもそれなりにいい剣だと思う。

 盗賊だったらそんなものを売らずに残しておくだろうか?

 

 

 

「アルバ=バルツィエか、なるほど。」

 

 名前を聞いてクレベストンさんは1人で納得している。

 

「何か分かったの?」

 

「十中八九君のお祖父様は私の捜している隊長だ。名前を変えているのは地方によっては貴族を嫌う平民がいるからだろうね。」

 

 そうなのか、名前だけでも嫌われるなんて不便だな。

 

「けどそれならファミリーネームを変えないのは不味いんじゃない?貴族って有名なんでしょ?」

 

 名前だけ変えてもファミリーネームが一緒じゃ即バレしそうなもんだが。

 

「この地域はあまり王国の貴族の勢力とかは詳しくないんじゃないか?だからファミリーネームは変える必要ないと考えたんだろうね。ボウヤも貴族とかって他にどんな家があるか分かるかい?」

 

「貴族ぅ?………知らないなぁ。」

 

 言われてみると貴族についてそれっぽい名前とある程度の権力があるくらいしか知らない。関わりがないと情報なんて入ってこないからだ。

 

 

 

 

 ここまで聞いていてどうやらおじいちゃんは嘘つきだけど悪い人じゃぁなさそうだな。

 

 さっきまでおじいちゃんが何者で何を目的に僕にまで嘘をついてたのかは分からないけど、身元は王国の元貴族様だったらしい。

 

 どうして黙ってたんだろう。

 

 黙る理由、……貴族でも下の方過ぎて自慢にもならいから恥ずかしかったとかかな?

 

 なんだよそういうことだったら素直に言ってくれてもいいのに。

 

 けどそう考えると僕って実は一応どこかの貴族様の血筋になるわけだから、………僕も貴族!?

 やベーなぁ、今までにないくらいワクワクするぞ?僕が貴族なら騎士になるのももしかするとそう難しくないんじゃないないかな!

 

 頭のなかを夢でいっぱいにしてると

 

 

 

「ゴホッ!ガフッ!」

 

 苦しそうに咳き込む。そういえば長話してたけどクレベストンさんはさっきまで倒れてたんだ。休ませてあげないと。

 

「クレベストンさん大丈夫?なんだか苦しそうだけど村まで案内してあげようか?」

 

 騎士を案内するのはいけないことだとは思ってたけど緊急事態だし騎士を目指すものとして困ってる人を見捨てておけないよ!

 

 それに剣も貰っちゃったしね!鎧は体に合わなくて断念したけど。

 

「あ、あぁすまないね有り難う。まだ名前を聞いてなかったね。ボウヤはなんてうんだい?」

 

「僕?僕はカオス!カオス=バルツィエだよ!」

 

「そうか、カオスと言うのか。大きくなったら騎士になりたいのかい?」

 

「うん!そして王国や村のみんな、世界中のみんなを守るんだ!」

 

「ハハハ、世界中かぁ、広いとこまでいくつもりなんだな。将来の有望な後輩君だ。」

 

「へっへへ!あっ、だけどおじいちゃんが言ってた騎士って本当に全部正しいのかな?おじいちゃん名前からいろいろ嘘つきみたいだし。」

 

 憧れの騎士像が曖昧になりそうで恐くなる。すると

 

「大丈夫だよ。アルバート様は昔から嘘つきだったけどあの人がつく嘘に人を傷付けるようなものはなかった。あの方がつく嘘は本の些細な悪戯ごころからだし、後から嘘がバレて人を傷付けるような嘘はつかない。そこはしっかりと弁えてる方だ。」

 

 クレベストンさんが僕の心の不安を悟り補強してくれる。

 

「えっへへ、有り難う!それじゃ行こっか!」

 

 僕達はそのままおじいちゃんのいる家に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 クレベストンさんは朗らかに話をしてくれてたがどこか焦燥感が見える様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだカオス君、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「聞きたいこと?なぁに?おじいちゃんのこと?」

 

「その村で密閉………、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?もし本当にアルバート様だったら少し長くなる話をするかもしれないから夜遅くまで話してるとご近所の方々に迷惑をかけてしまうからね。あとなるべく人目に付かないとことかがいいんだが。もし私が騎士だとバレるとカオス君も怒られてしまうんだろう?」

 

「あぁ~確かに!ん、と~……あるよ!ちょうど僕とおじいちゃんの家の地下に倉庫が!そこにおじいちゃんの剣も置いてあるんだ!」

 

「………流石アルバート様、()()()()()()()()()()()()。」

 

「ん?おじいちゃんがどうしたの?」

 

「何でもないよ、()()()()()()()()()()()()()()()()()。早くお逢いしたいなぁ。」

 

「もうすぐ逢えるよ。急ごう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時のクレベストンさんの妙なところに納得する会話は大分後になってその意味がようやくわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村の入り口付近カオス邸宅前

 

 

 辺りはもう暗くなり始めようとしていた。

 

 

「ここにカオス君とアルバート様が住んでるのかい?随分と他の家から離れてるようだが…。」

 

「そうだよ?おじいちゃんは元々余所者だから家建てるのもみんなの近くに建てさせてもらえなかったんだって。ここに来たときは村でもしたっぱだったって言ってたし、なんせ騎士だったからね。」

 

「……。」

 

「だから殺生石の恩恵を受けるのも一番遠いこの位置にあるんだよ。」

 

「殺生…石?随分と物騒な名前の石だな。一体なんなんだいそれは?」

 

「村の御守りだよ。あそこの奥の方に村長の家があってその裏にあるんだ。この石の近くってモンスターが寄り付かないみたいでね?村を引っ越すときもこの石があったからここに移ってきたんだ。」

 

「……確かにこの付近は森林生い茂る危険地帯だから村を構えるなんて自殺行為だとは思ったがそんなものがあるなら納得だな。恐らく天然のホーリーボトルなんだろう。」

 

「ホーリーボトル?お酒?」

 

「いろんな街で買える薬品だよ。これを振りかけるとモンスターがよってこなくなるんだ。」

 

「なにそれ持ち運び出来る殺生石ってこと!?すごぉい!」

 

 そんなものまで外の世界にはあるんだな。騎士になるだけじゃなく他のことにもいろいろな期待ができそうだ!

 

「その殺生石ってのは具体的にどんなものか判明してるのかい?」

 

「多分何も分かってないと思うよ?触ると死んじゃうし調べられないんだ。僕もそれでひどい目にあったし…。」

 

「ひどい目……?そういえば出会ったときからいつまでたっても君の体内のマナが回復する様子が感じられないんだが大丈夫なのか?」

 

「実は僕、殺生石にマナを消し飛ばされてこうなっちゃったんだ。体的には問題ないんだけどマナが本の少ししか残ってないから魔術が使えないんだ。使うと今度こそ死んじゃうし。」

 

「恐ろしい石があったもんだな。その見恵みを受けてはいるが触れると命を失う石か…。」

 

 

 

 そんな村の世間話をしてると家の中からおじいちゃんが出てきた。

 

「何だ、玄関から話し声が聞こえるのにいつまでたってもは入ってきやしねぇから見に来てみれば見掛けねぇ奴と一緒だな。」

 

「あっ、おじいちゃん只今!」

 

「おう、お帰り。で、こちら………さんは……!?」

 

「この人はね森で「バッキャロー、村に騎士連れてきてどうすんだ!」」

 

ゴチンッ!!

 

 頭に拳骨が落ちる。スンゲー痛い。

 

「待ってっておじいちゃんこの人は…」

 

「待っても何もあるか!オメーこの村の成り立ち知ってんだろ!」

 

 ダメだ言うことを聞いてくれない、どうすれば。

 

「オメーが1人で王国に向かうってんなら構わねぇがなぁ、この非常事態に村に連れてきちゃこの村ももう「アルバート様!」」

 

 

 

 

 

 

「ご無沙汰しております!アルバート様!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういってクレベストンさんはおじいちゃんの前で膝をつく。

 これは膝まずく、って格好でいいのかな。確か男の子が女の子にプレゼントを渡すときがこんな渡し方するって前におじいちゃんが…。

 

 また嘘だったのおじいちゃん?

 

 

 

 

 

「オメェさん、もしかして…。」

 

「はい!100年前にあの村であなた様にこの命を救われた騎士クレベストンです!ずっと他の隊員と各地をお捜ししておりました。今はアルバート様の後を継いで()()()()()()()()()()!」

 

 そういってクレベストンさんは静かに涙を溢す。

 

 大人でも涙は出るんだな。

 

「もう再会出来ることは叶わぬと諦めかけたときにアルバート様のお孫様に救って頂きこうして悲願を果たすことが出来ました!」

 

 お孫様って仰々しい態度にさらに拍車がかかったな。そんなにおじいちゃん見つけられたことが嬉しかったのかな。

 まぁ、なんでもよかったよ。

 

「……。」

 

「残された僅かな時間であなた様と再会を果たせたことを心から神に感謝します!」

 

「よせや、神さんは何もしてねぇだろ。オメェさんが頑張ったから果たせたんだろ。その悲願ってやつが。」

 

「相変わらずですねアルバート様は、1人1人のことを大切にして貰えるそんなあなた様だから私達は今日まで諦めずに捜してこれました。」

 

「たかが一言にどれだけ感激してるんだよ。そんな深いこと言ってねぇよ。」

 

 おじいちゃん照れてるな。照れてるときブスッとした顔で否定し続けるのがおじいちゃんの癖だ。

 

 

 

「私はこれでもう思い残すことなく旅立てます!」

 

 

 

 旅立てる?おじいちゃんを見つけるまで旅をしないとかそんなふうに考えてたのだろうか?上司を差し置いて部下が旅立てるかぁーみたいな?

 

 

 

 

 その一言を聞いておじいちゃんがクレベストンさんの体を見回し傷のあるところを凝視する。

 

 そういえば怪我人だったな。早く手当てをしてあげなくては。

 

 嬉しそうだが顔色も悪いし、よく見ると涙だけじゃなくて汗も凄い掻いてる。

 

 本格的に倒れそうだぞ?早く座れるところへ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス、今日はもう早めに寝ろ。もしかしたら明後日村で集会が行われるから朝早くに村長のとこにいって手伝いに行ってこい。」

 

 

 

 クレベストンさんを休ませようと手を引こうとした瞬間後ろからおじいちゃんにそう言われる。

 

「えぇ~!?クレベストンさんに休んでもらってからいろいろと騎士について聞きたいことあるのに~!」

 

「ばぁ~か、そんなん後にしろ~。今からおじいちゃんはこのクレベストンと積もる話があるからお前の時間はないんだよ。さっさと寝とけ。」

 

「えぇぇぇぇぇぇえ?」

 

 なんだよ自分が話したいだけじゃんか!

 

「もう!今日のとこは譲っとくけど明日は僕の番だからね!クレベストンさんも覚えといてよ?」

 

「あぁ、絶体に忘れないよ。」

 

「よぉ~し、じゃぁちょっくらこの近くの穴場で昔話で花でも咲かせてくらぁ。」

 

 そういっておじいちゃんとクレベストンさんは背中を向けて何処かに行ってしまう。

 

 

 

 

 

「はぁ~、明日が待ち遠しいな!クレベストンさんになに聞こうかなぁ?あぁぁぁ!!」

 

 おじいちゃんとクレベストンさんが何処かに歩いていった後、家の中で僕は本当に世界には騎士がいてしかもその騎士がおじいちゃんの知り合いで部下だったことに興奮してベッドで悶える。

 

 礼儀正しくて剣を持っていて臣民を守る。そして格好いい!

 

 いろいろクレベストンさんから聞いておじいちゃんがたくさんの嘘をついてる可能性が浮上してきたが騎士のとこだけは真実のようだ。

 

 僕の夢は守られたのだ!

 

 早く明日になってお手伝いを終わらせたら戻ってクレベストンさんの話を聞きたい。そしておじいちゃんがどんだけ嘘ついてたかチェックするぞ!もう騙されてやらないんだからな!

 

 

 

 けどクレベストンさんは一体いつまでいられるのだろうか?

 前に世界地図を見たことあったけどここから前の村までも半日はかかる。

 さらにそこからいくつもの街を通ってようやく王都だ。 そうとう時間がかかる筈なのによくここまで来れたなクレベストンさんは。村だってあるかどうか分からなかっただろうに。

 戦争中って聞いてるけど今は暇なのかな?

 

 

 

 まぁ、それだけおじいちゃんを必死に捜してたってことでいいかな。

 命救われたって言ってたし。

 形見くらいは見つけたかったのかもね。

 それなら貴族って言ってたからお屋敷とかで貰えなかったのかな?

 おじいちゃん不在で潰れちゃったとか。

 

 

 

いくら1人で考えても答えは返ってこない。待ちきれなかった僕は明日の支度をしてもう寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 そしたら庭の方から

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャン…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベッドの上で、ほんの微かにだったが外の庭の方で音がした。

 

 「ん?まだ出ていってから10分もしてないのに戻ってきたのかな?」

 

 音には聞き覚えがあった。だからその音でおじいちゃんが帰ってきたと思った。

 

 クレベストンさんが体調悪そうだから帰ってきたのかな?

 

 それならなんで家に入らないんだろう?

 

 何か用事でも…。

 

 

 

 

 

 

 

 あ、なるほどそういうことか。だからねぇうんうん。

 

 アレを見せにいったんだろうなぁ。だから戻ってきたんだ。

 

 そういえばクレベストンさんも森で昔なくしたーって言ってたしせっかくの再会の記念にでも見せてあげてるんだろう。

 

 そういうことなら大丈夫か。

 

 元々アレはおじいちゃんのものだし。

 

 捜してた人と物だから帰るまえに見ておきたかったんだなクレベストンさん。

 

 

 

 ……それにしても長すぎないかなぁ?いつまで掛かってるんだ?

 

 また感激して長話してるんじゃないか?涙もろそうな人だったし。

 

 ベッドの上で庭の音に耳を澄ませていたがいっこうにもう1度鳴る筈の音が聞こえない。

 

 なんだか落ち着かないなぁ、それほど長く話すことがあるものだろうか?

 

 

 

 そんなふうに思考をこらしてると僕はいつの間にか眠ってしまっていた。

 

 

 

 

 この日はいつもの仕事に加えて、嬉しいことがたくさんあった。

 

 それで気分は高まっていたが体の方は疲れが限界だったのだろう。

 

 クレベストンさんが明日話してくれる王都についていろいろ知りたいと思った。

 

 行く行くは自分が勤めることになる街はどんなものがあってどんなことが普段起きるのか、想像が出来ない!

 

 

 

 

想像が出来ないことは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これから起こると言うのに……。

 

 

 



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誇り

 騎士を目指す少年カオスは森で騎士クレベストンと出逢い、そこから祖父アルバの過去を知る。

 クレベストンをアルバのもとへと連れていったカオスだが2人はそのまま何処かへ行ってしまう。

 しかしその後2人の不審な行動を訝しく思うがカオスはそのまま眠りについてしまう。


村のとある???

 

 

 

 

「お前、大丈夫なのか?その傷。」

 

「今は平気ですけど、いずれは…。」

 

「そうか。」

 

「……。」

 

「すまなかったな勝手にいなくなってテキトーな隊長で苦労してたろ?」

 

「いえこうしてご無事な姿を一目見れただけでも私は…、このことをダリントンにも伝えてあげたいです。」

 

「あぁまぁ~、……アイツか。」

 

「隊長が生きていたと知ったらすぐにでも飛んでくるでしょう。私以上に隊長の捜索に力を入れていましたから。」

 

「よせって、その格好を見るに今はお前がお隊長なんだろう?」

 

「ダリントンも別部隊ではありますが同じく隊長職ですよ。」

 

「後続が出世していくなぁ、出世コースから外れた俺としてはもう関係ないがな。」

 

「……隊長。」

 

「何だ?」

 

「もうお戻りになる気はないのですか?」

 

「……。」

 

「隊長がいなくなってからは王都では表面上は平穏ですが裏では()()()()()が非道の限りを尽くしていますです。」

 

「そうか…。」

 

「隊長の…、マテオの救世主とまで言われたあなた様さえお戻りになられればバルツィエは」

 

「今さら腰抜けが戻ったところでなんの歯止めになるってんだ?」

 

「隊長は腰抜けなどでは…」

 

「1度失った信頼を回復するのは不可能だ。もうお家騒動で俺に勝つ手段はねぇ。俺の席にゃとっくに誰か座ってんだろ?それに俺は現実に直面して折れたんだよ。」

 

「それでも王都の民はあなたを…。」

 

「最初から救世主なんていなかったんだ。いたのはもてはやされて調子に乗ってずっこけたバカな理想掲げた英雄志願者だ。」

 

「…。」

 

「俺に出来たのは最前線で戦うことだけだったろ?」

 

「私はあなたを尊敬していた。あなたこそがこの世界を救ってくれると。」

 

「こうしてこれから逝ってしまうお前1人さえ救えない俺にか?」

 

「…この世界に足を踏み入れてからはいつか来るものと覚悟しておりました。」

 

「………いつやられたんだ?この辺りにいたんだろ?」

 

「ワクチンは打ったつもりでしたが、どうやら手遅れのようです。少々やつらに使いすぎました。討ち漏らしはないとは思いますが…。」

 

「万が一って場合もあるな。ったく、守り神が死んだと思ったら最悪な悪魔が近くに現れたもんだ。これならドラゴンが来てくれた方がまだマシだぜ。」

 

「ゴホッ!」

 

「!」

 

「…どうやら限界が近いようです隊長。」

 

「そのようだな。介錯は必要か?」

 

「いえ、この場をお借りできるだけでも幸いです。ワザワザ隊長を私の血で危険にさらすこともないでしょう。」

 

「すまないな。」

 

「謝らないでください。私の最期が隊長の下で迎えられること私にとっては光栄です。」

 

「まさかこの部屋の最初の使用者がかつての部下のお前だとはな。」

 

「もしダリントンが訪れたら伝えてもらえますか?」

 

「なんだ?」

 

「私の最期はとても幸せなものだったと。」

 

「俺の口から出せる言葉にしてくれよ。」

 

「そこは譲歩してもらえますか?」

 

 

 

 

 

 

「それじゃあな、クレベストン=ケルク」

 

「短い期間でしたがお世話になりました。

 

アルバート=ディラン・バルツィエ様。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日のカオス宅

 

 

 

「起きろ~カオス。昨日言った手伝いに行ってこい!」

 

 

 

ガツン

 

 

 

「いってぇ~!何すんだクソジジィ!」

 

「お前がいつまでも寝てるからだ。さっさと行ってこい。」

 

「はぁ~い!あれ?クレベストンさんは?」

 

「アイツなら疲れたから休みたいって寝てるぞ。起こしてやんなよ?」

 

 なぁんだ、朝くらいちゃんと挨拶したかったんだけどなぁ。

 

「それじゃぁ行ってきま~す!」

 

 僕はクレベストンさんとまた話がしたかったので早めに手伝いを終わらせるため村長の家に向かった。

 

「……。」

 

 ふと家を出て視線を感じ振り替える。

 

 おじいちゃんが窓から僕を見ていた。

 

 …? 

 

 まぁ、いっか。

 

 僕はそのまま気にせずに歩きだす。

 

 

 

 

 

 

「悪いなカオス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長邸宅

 

 

「すみませ~ん!」

 

 村長の家に着いて家の住人を呼ぶ。中から

 

「あれカオスどうしたの?」

 

 ウインドラが出てくる。

 

 ミシガンを期待してたんだが。

 

「ウインドラじゃんか、何してるの?」

 

「何って昨日言ってたろ?村長が何かやるらしいからその手伝いって。ミシガンは畑に行ったよ。」

 

 そういえばそうだった。

 

「んじゃぁ僕と同じだね。」

 

「ってことはカオスも?」

 

「うん、おじいちゃんに言われてさ。」

 

「アルバさんかぁ、なら納得だね。」

 

 アルバさん……か。

 

 昨日はそれが本当の名前じゃないことに驚かされた。

 

 しかも貴族だと言う。どうせ貴族でも大したことなさそうだけど。

 

 

 

 

 そうだ!

 

 

「ねぇウインドラ、昨日ねあの後森に行ったんだよ。」

 

「え?でも昨日はやめとくって。」

 

「なんか急に行きたくなったんだよ。今日はなんかありそうだなー、って思ってさ。」

 

「カオス、あんまり無茶してると本当にケガするよ?」

 

「ごめんって前にも聞いたよそれ。」

 

「その様子見る限りじゃぁ、ケガはしてなさそうだけどどうしたの?」

 

「とくにそういったことは無かったよ。けど代わりに凄いもの発見しちゃったんだ。」

 

「凄いもの?」

 

「ここだけの話なんだけど、本物の騎士様がいたんだ!」

 

「本物の………騎士様!?」

 

「ちょっと、声大きいよ!」

 

 慌てて周囲を確認する。

 

 

 

 

 ………聞いている人はいなさそうだ。僕らは声をひそめながら

 

「………本物の騎士様だよ。鎧って言うの着ててこんな長い剣も持ってた。前におじいちゃんの倉庫で見せたことあるやつに似てるの。」

 

「なんで、こんな村に騎士様が来てたの?」

 

「なんでも人を捜してたら森に迷い込んじゃったみたいで、倒れてたんだ。介抱してあげたんだけどそれで話を聞いてたらビックリ!なんとその捜してた人がおじいちゃんだったんだ。」

 

「アルバさんが?」

 

「そう、だけど最初はなんか話が違ったんだけど、聞いていくうちにおじいちゃんしかいなくてでも名前が違ってて、でおじいちゃんに会わせてみたら、おじいちゃんの名前アルバじゃなかったんだ。」

 

「え?アルバさんがアルバさんじゃない。」

 

「そうなんだよ、なんでもアルバートなんとかバルツィエって名前らしくて平民の出っていってたのにおじいちゃん貴族様だったんだ。」

 

「アルバさんが貴族!?」

 

「僕も最初は驚いたよー。まさかおじいちゃんが僕にいろいろ隠してるなんて思わなかったからさ。もしかしたら昔から聞いてた騎士の話も嘘なんじゃないかと思ったくらいだよ。」

 

「そりゃぁ、そう思うよね。」

 

「でしょ?でもその騎士様クレベストンさんって言うんだけど騎士の話は本当みたいだったよ?そんときは安心したなぁ、」

 

「アルバさんにもいろいろあるんだね。それでアルバさんは何故そんなことを?」

 

「ん?」

 

「どうしてアルバさんは偽名…、というよりそんな愛称みたいな名前を名乗ってたの?」

 

 

 

 訊かれてから僕はその理由をまだおじいちゃんから訊いていないことに気付いた。

 

「訊くの忘れてた…。」

 

 あのときはクレベストンさんとおじいちゃんが本当に知り合いだったことに驚いてたし、おじいちゃんに早く寝ろって催促されてから長くは喋ってなかったな。

 

 クレベストンさんのインパクトが強すぎておじいちゃんにかんじんなことを訊くのが頭から抜けていた。

 

「そこ大事だろ?カオス」

 

「う…、だって昨日はほんとうにいろいろありすぎて優先順位がごちゃごちゃになっちゃってて…。」

 

「帰ったら訊いて教えてくれよ?あとそのクレベストンさんのことも。」

 

「そうするよ。今は手伝いを終わらせることにするか。」

 

 僕はまだおじいちゃんとクレベストンさんの2人がどんな仲だったのかまだよく知らない。

 

 口ぶりからするとおじいちゃんが上司でクレベストンさんが部下みたいな感じだった気がする。

 

 

 

 深く考えても分からないや、後で教えてもらえばいいんだ。

 今は作業を終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だったんだろうなぁ、今日の仕事。」

 

 終わってみてから今日したことを振り返ると何かおかしい。

 

 ウインドラも呼び出されてたみたいだから2人して待ってたら大人達が集まってきていた。

 

 そのメンバーのほとんどが警備隊の人達だった。

 

 それも恐らくおじいちゃんを除いて村中の全員だと思う。

 

 最近何かを警戒してるって話だったからよほどのことなのだろう。

 

 そして今日やった作業といえば村を囲う塀の補強作業だった。

 

 今まであった塀は大人より少し高いくらいの塀だ。

 質も木材で出来てたし、子供の僕から見てもボアなんかが突進しただけで突発されそうな塀だ。

 不思議とそんなことは今まで1度もなかったが。

 多分殺生石があるからそんなことをするモンスターもいなかったのだろう。

 

 何故今になって塀を補強するのだろうか。

 

 殺生石さえあればモンスターは近寄ってこないという話の筈である。

 むしろ今までの簡易的な塀ですら不要な程に。

 

 あるにこしたことはないがこれから塀を補強するようなことでも起きるというのだろうか。

 

 

 

 僕の村は比較する対象がないので分からないが穏やかな村だと思う。

 

 みんなが畑仕事をして、みんなでお喋りなんかして、帰ってご飯を食べて寝てまた起きる。

 

 そんな日常をずっとずっと続けている。

 

 毎日毎日同じことを繰り返し繰り返し続けている。

 

 

 

 だから今日みたいないつもしない仕事をするのはなんだか新鮮だ。

 

 昨日から僕は新鮮続きだ。

 

 

 

 そう、僕はもしかして近々何か大きな事件でも起きるのかと期待していた。

 

 僕は同じことの繰り返ししかしない村に退屈していたんだ。

 

 

 

 その退屈な時間こそが本当に大切なものだと気付くにはまだ僕は幼すぎたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオス宅

 

「ただいま~!」

 

 ……

 

 …あれいないのかな。

 

 出掛けてるみたいだ。

 

 返事がないってことはクレベストンさんもだろう。 

 

 おじいちゃんは大丈夫だと思うけどクレベストンさんは出歩いても大丈夫なのだろうか?

 

 ケガをしていたからモンスターのいる森に行ったとは思えない。

 

 なら村の中?

 

 けど見馴れない人が歩いてたら村のみんなは妖しく思うだろう。

 

 そこにおじいちゃんがいて昔の知り合いだー、とでも言えばみんなは騎士としか思わないんじゃないか?

 

 おじいちゃんのことだからそんな危ないマネはさせないだろうが。

 

 

 

 それにしてもおじいちゃんとクレベストンさんもいないと退屈だなぁ。

 

 せっかく帰ったらおじいちゃんの名前のことや貴族だったときのこととかをクレベストンさんに検証してもらいながら話を訊こうと思ったのに……。

 

 散歩でもしてこようかな。

 

 

 

 退屈解消に外出しようとしたらあるものが目に入る。

 

 

 

 

 昨日貰ったクレベストンさんの剣だった。

 

 

 

「そういえばこれ持ってきちゃってたなぁ。」

 

 昨日クレベストンさんは僕にあげるとは言ってたけど、流石に道案内をしただけでこんな騎士の魂みたいなものを頂いてもいいのだろうか?

 

「ん~、家の中にあってもよごしちゃいそうだなぁ。」

 

 仮に本当に貰えたなら大事にしたい。

 

 僕にとってはこれが初剣となる。

 

 木刀とは違うこの鉄の重みに心の底から込み上げてくるものを感じる。

 

 

 

 やっぱりこれは返そう。

 

 これがないとクレベストンさんはあんな短いナイフだけで帰ることになる。

 

 本当は凄く強いのかもしれないけどそれでもナイフだけでは心許ないだろう。

 

「よし!…とは言ったもののこの剣どこにおこうか。」

 

 大切な預かりものをこんな生活感溢れる空間に置いておいても汚したり最悪壊してしまうかもしれない。

 

 良い置き場を探しているとふと庭の地下倉庫を思い出す。

 

 あそこなら大してものも多くないし、おじいちゃんの剣だって置いてある。

 僕もおじいちゃんもそんなに行くことがないから安全だ。

 

 

 

 よしあそこにしよう!

 

 僕はクレベストンさんから渡された剣を地下倉庫に持っていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 庭に出て地下倉庫の前に来る。

 普段は地下に雨水が浸水しないように小屋があってその中にいきなり階段が出てくる。

 たまにこの階段をころげおちるときがある。

 

 

 

 そういえば昨日おじいちゃんとクレベストンさんは()()()()()()()()()()()

 

 この倉庫の小屋の扉を開けるとき決まって

 

 

 

 

ガチャン!。

 

 

 

 

 この音だ。

 

 昨日聞いた音はこの音である。

 

 昨日は何故か音をたてないように静かな開け方をしていたようだが。

 

 

 

 扉を開けると中から()()()()()()()()()()()()()()

 

 この倉庫はここから部屋まで全部金属で出来ている。

 

 恐らく地下に空間を作るために耐久性を考えて頑丈にしたかったんだろう。

 

 昔おじいちゃんが魔術を使いながら1人で作ったといっていた。

 

 

 僕はクレベストンさんの剣を持って階段を降りる。

 

 

 

 

 結局昨晩は何をしてたんだろうなぁ。

 

 ここに下りてきてから随分長くいたみたいだけどワザワザこんな場所で長話しなくてもいいのに……。

 

 

 

 あっ、今思い出したけどクレベストンさん言ってたな。

 

 この地下倉庫みたいなとこで話がしたいって。だからここに入っていったんだろう。

 

 目的は剣だけじゃなかったみたいだ。

 

 ここで今までを語り合ってたんだな。

 

 長い間離れ離れになってた知り合いだもんね。

 

 

 

 

 

 

 そうして考えているうちに目的の倉庫の空間に辿り着くが様子がいつもと違うことに疑問を覚える。

 

 

 

 何でおじいちゃんは剣を部屋の外に出してるんだろう。

 

 これも目的の1つの筈だ。

 

 一目見てから語り合ううちに邪魔になったのだろうか?

 

 中にはこの剣以外には何もない広い空間だというのに。

 

 

 

 昨日はあれからクレベストンさんを見ていない。

 

 おじいちゃんは寝ているから起こすなと言っていたが今になって思えば、何処で寝ていたのだろうか?

 

 家のなかにはいなかった気がする。

 

 とするとこの中だ。

 

 ここにこうして剣が置いてあるのも中で寝るためにどかしているだけとかそんな理由からか。

 

 仮にそうだとしたら家から近いようでこの遠い空間で1人でか?

 

 布団とかも中にはなかった筈だ。

 

 ここにいるのかは定かでは……いや、これを見ればここにいるとしか考えられない。

 

 確信を持って言える。

 

 

 

 

 

 

 クレベストンさんはこの中にいる。

 

 

 

 

 

 

 この倉庫の扉は室内含めてとても硬い金属を使っていて扉自体も何故そこまでして作ったのか分からないような厚みをしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今その扉の取っ手に何重にも重ねた鎖が巻き付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この扉は押して中に入るタイプのものである。その取っ手に鎖が巻きついて、扉の壁のフックに繋がっている。

 

 これでは中に人がいた場合、閉じ込められて出られない。

 

 

 魔術もダメだ。この扉は火の魔術で加工してあるので扉を熱せれば扉は溶かせるだろうがそれは解放してある状態でのことだ。

 

 このスキマ1つない空間の内側で火の魔法を使ったら一気に酸素がなくなってしまう。

 

 使わなくても時間の問題でもある。いずれ酸欠になって最悪の事態になる。

 

 

 

 こんな鎖は今まで見たことがない。

 

 そこのフックですらこんな使い方だと初めて知った。

 

 もう中に誰かがいるとしか思えない。

 

 ……何だか怖くなってきてる。

 

 

 昨夜の語らいで何かがあったのだ。

 

 クレベストンさんとおじいちゃんとの間に大きな何かが。

 

 普段はものぐさだけどやるときはやるおじいちゃんで怒ったりするのもたまにある程度だけど、まさかここまでするとは思わなかった。

 

 一体何があったのだろうか?

 

 紳士的な人に見えたがおじいちゃんの逆鱗に触れるような何かを言ってしまったか。

 

 

 

 

 

 ……中を見てみよう。

 

 そうすれば真実が見えてくる。

 

 

 

 

 

 

 僕は鎖を外す。

 

 随分と長い鎖だ。

 

 ここまでする必要があるのだろうか?

 

 中にいる人が閉じ込められてからどれだけ時間がたったのか分からないがこんなところにいたら肉体的にも精神的にも死んでしまう。

 

 鎖を外し終わる。

 

 そして扉を開けようとして体が固まる。

 

 

 

 

 

 

 閉じ込めていたということはこれを開けてしまってもいいのだろうか?

 

 いくらおじいちゃんでも怒ったくらいで人を閉じ込めるのだろうか?

 

 本当は中にクレベストンさんはいなくて別の何かをここに閉じ込めていただけなのかもしれない。

 

 きっと今頃どこかでおじいちゃんとまた話でもしてるんだろう。

 

 自分はただ考えすぎてただけで扉を開けてみれば何てことはない肩透かしをくらうだけだろう。

 

 

 

 

 

 僕はそう自分に言い聞かせてこの正体の分からない恐怖を振り払おうとした。

 

 この扉の向こうには最悪の事態なんておこってない。

 

 あるのは森で捕まえた珍しいモンスターかなにかだろう。

 

 鎖までかけて扉を閉めていたのはおじいちゃんとクレベストンさんが2人がかりで捕まえて運んだからだろう!

 

 と、次々とそれらしい理由を考えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

ギギィ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重苦しい空気に鈍い音が響いて扉を開ける。

 

 そこで僕が見たものは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸から血を流して死んでいるクレベストンさんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ヴェノム

 騎士を目指す少年カオスは祖父アルバの言いつけで村長の手伝いをしに村長邸宅に向かう。

 その後家に戻って騎士クレベストンを探しているうちに地下倉庫へとくる。

 いつもと違う様子に不審を感じながらも扉を開けて中に入るとそこには

 騎士クレベストンの変わり果てた姿があった。


 

 

 

 まず目に入ったのは赤い色。

 

 そして水のように滴る液体。

 

 それは日常で目にすることあるもの。

 

 それを目にするさいはなんとも思わない。

 

 よくみる色だから。

 

 

 

 

 普段農機具を使うとたまに出てくる赤。

 

 それは頑張った証だから。

 

 自分が真面目に取り組んでる証だから。

 

 

 

 それが目の前にいる男から流れている。

 

 これほどまでに多く流れている光景は今までに見たことがない。

 

 

 

 

 

 

 これはこんなに多く流れ出るものだったのか。

 

 これはこんなに赤く綺麗なものだったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これはこんなにも、怖いものだったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クレベストン………さん?」

 

 

 

 カオスは問いかける。

 

 

 

「………。」

 

 

 

 

 男は応えない。

 

 胸には昨日のナイフが刺さっている。

 

 

 

 

 

 カオスは本能的に分かっている。

 

 男がもう応えないことを。

 

 男がもう2度と動き出すことはないただのものに変わり果ててしまったことを。

 

 

 

 生き物にはいつかこういうときが来ることは分かっている。

 

 自分も後100年もすればこんな風になってしまうことも。

 

 頭では分かってても心と体が震えることを止められない。

 

 いつも冷静を保つことに気を付けているのにこの時ばかりは冷静になろうとすればなるほど、頭で考えようとすればするほど焦る気持ちが抑えられない。

 

 目の前のものはもう身動きすらしないのに何故こんなにも恐怖が込み上げてくるのか。

 

 何故自分はここから逃げ出したいのに体は云うことを利いてくれないのか。

 

 

 

 カオスにはもうこの場でただ立ち尽くすしか出来ないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッ。

 

 

 

 

 後ろで物音がした。

 

 その音でカオスはようやく体の自由を取り戻す。

 

 振り返るとそこには

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもとは違う何処か悲しそうな顔でカオスを見つめる祖父の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お………じいちゃん……?」

 

「カオス……。」

 

 祖父が自分を呼ぶ。

 

 その声からは怒りとも悲しみともつかない感情が込められていた。

 

 

 

「見てしまったのか、カオス。」

 

「…………なんなのこれ。」

 

「なぁカオスこれは」

 

「どうしてクレベストンさんがこうなってるの!!昨日まで疲れてたけど別になんともなかったのに!!」

 

「カオス、今はここから」

 

「昨日あの後何があったの!!おじいちゃんとクレベストンさんは知り合いだったんでしょ!?それがどうしてこうなるの!?」

 

「カオス話は上で」

 

「おじいちゃんがクレベストンさんをやったの!?あんなに仲良さそうだったのに何で!?」

 

「いいからいうことを」

 

「答えてよ!!おじいちゃん!!!」

 

「カオス!!!!」

 

ビクッ

 

 

 

 

 

「カオス。」

 

「……。」

 

「落ち着ける訳ねぇが、今は聞け。」

 

「……。」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。話はここを出てからしてやる。全部な。」

 

「……おじいちゃんはやってないの。」

 

「………。」

 

「……。」

 

「……俺がやったようなものだ。」

 

「それって……どういうこと?」

 

「クレベストンは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…。…!」

 

「おじいちゃん?」

 

「カオス!!伏せろ!!」

 

 

 

 

 突然おじいちゃんが持っていた剣を振りかぶって向かってくる。

 

「う、ウワァァァァァァァァァァ!!?」

 

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…。」

 

 何がおこった。

 

 おじいちゃんがいきなり剣を持って僕を…?

 

 目を開けてみると、

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんが立ち上がったクレベストンさんに剣を突き刺していた。

 

 

 

「おじいちゃん、何してるの?」

 

 今クレベストンさんは起き上がっていた。

 

 顔色は白く無表情だが目を開けている。

 

 まだ生きていたのだ。

 

「おじいちゃん!クレベストンさん生きてたよ!?何でまたそんなことを」

 

「コイツはもうクレベストンじゃねぇ!!別の化け物に変わっちまってるんだ!!」

 

「何をいって」

 

「クレベストンは死んだんだ!!」

 

 訳が分からない。

 

 何故おじいちゃんはクレベストンさんを殺そうとするんだ。

 

「アァァッ…」

 

「!!」

 

「おじいちゃん!クレベストンさん苦し…」

 

「下がってろ!!カオス!!」

 

 おじいちゃんがクレベストンさんから剣を引き抜き僕を引っ張って倉庫から出る。

 

 

 

ガダンッ!ザララララララララ!ガコッ!

 

 

 

 倉庫から出たおじいちゃんは急いで扉を閉めて最初に僕が外した鎖を巻き付けて再び開かないようにする。

 

 

 

「おじいちゃん!!一体何してるの!?クレベストンさんを早く手当てしないと!!」

 

「さっきも言ったろ!!アイツはクレベストンなんかじゃなくなったんだ!!」

 

「何言ってるんだよ!!現に今部屋の中で動いて」

 

「見ろ!!」

 

 おじいちゃんはそういって一緒に持ってきた剣を見せる。

 

「……黒い?」

 

 剣についていた血は……血ではなく何か黒い液体がついていた。

 

 それは見るからにネバネバしてそうな半液状のものだった。

 

「何……これ?」

 

 おじいちゃんは先程この剣をクレベストンさんに突き刺した。

 

 それを引き抜いてきたということはこの黒い粘液はクレベストンさんの体の中から出てきたということである。

 

 その正体不明の粘液を気になって触ろうとしたら

 

「触るな!!」

 

 

 

ビクッ

 

 

 

 おじいちゃんが僕から剣を遠ざける。

 

「……よく見とけ。」

 

 おじいちゃんがまた僕に剣を見せる。

 

 すると

 

 

ジュゥゥゥゥゥ!!

 

 

 剣から蒸気が湧いたと思ったら剣が溶けだす。

 

 

 

「触るなよ。強い酸性を持ってる。」

 

「!?」

 

「コイツに一滴でも触れたら終わりだと思え。」

 

「これはなんなの!?血じゃないよね!?どうしてクレベストンさんから」

 

 人の体の中にこんなものがあるなんて聞いたことがない。

 

 胃酸でもここまで剣を溶かすものなのか。

 

「クレベストンは昨日の時点でコイツが繁殖していた。」

 

「繁殖?」

 

「俺も詳しくは知らねぇ。コイツは100年前にはもうすでに世界中のあちこちにいた。モンスター図鑑でスライムって見たことあるだろ?あれの突然変異した奴だと王都の研究者は言っていたがその危険性は現存するどのスライムをも凌いで遥かに高い。」

 

「スライム!?」

 

 確かに見た目はゼリー状で図鑑で見た特色通り酸性のようだが。

 

「それが何でクレベストンさんから?」

 

「昨日お前と会う前にコイツに遭遇してたみたいでな。その時にやられたんだ。コイツは感染性繁殖魔法生物であらゆる生物に寄生してはその内側から侵食していきやがて全身をスライムに変えちまう。もちろんスライムだから分裂もするし頭なんてものもないから急所自体もねぇ。」

 

「……!」

 

「おまけに例外なく生物に寄生できることも確認済みだ。コイツのせいでいろんな村の人や家畜や森が犠牲になった。」

 

「そんな生物聞いたことないよ!」

 

「コイツの凄まじいところはその不死性だ。魔法生物のくせにスライムと違って魔術を受け付けねぇ。お前が聞いたことないのも仕方がない。コイツが出た地域は基本的にまず全滅するからな。地方の村に情報は出回ることもない。未だに世界が人の社会で続いていることが奇跡だぜ。」

 

「不死性……魔法が効かない?」

 

 何だそれは。それでは一体どうやって倒せばいいというんだ。こうして武器までも溶かしてしまうのでは人が太刀打ち出きる訳が……。

 

 

 

 

ドンッ、ドンッ、ドンッ

 

 

 

 

部屋の中から扉を叩く音がする。

 

「クレベストンさんが

!?」

 

『アアア』

 

 ただでさえ胸から大量に血を流していてそれで先程おじいちゃんにも刺されたというのに扉の中からはクレベストンさんの声がする。

 

 普通の人があんな状態で扉をこうも強く叩ける筈がない。

 

 部屋の中の彼は本当に別の何かになってしまったようだ。

 

「クレベストンさんはもう助からないの?」

 

「1度ああなっちまったらもう戻れねぇ。ただひたすらに他の奴を襲って食って増えるしか能がねぇ怪物だ。完全にスライムに移り変わったらこの扉が溶けねぇで持つことを祈るばかりだ。」

 

「じゃぁクレベストンはこのまま……?」

 

「……さっき言った不死性だが物理的な攻撃で死なないってだけで殺す方法が無いわけじゃねぇ。」

 

「なんなのその方法って?」 

 

「コイツ……俺たちは【ヴェノム】って呼んでるんだが存在が不安定らしく他の生き物を襲わずに時間がたつと飢餓でくたばる。」

 

「飢餓って何も食べずにいることでしょ?どのくらいかかるの?」

 

「1日前後だ。それでヴェノムは固形化はする。この倉庫ももともとそういう理由で作った。」

 

 やけに地下深くに作った上に部屋も広いとは思ったが、この倉庫にそんな理由が隠されていたなんて…。

 

「クレベストンさん…。」

 

 昨日話してみて親しみやすいいい人だと思ってたのにこんな、あの玄関での会話が最後になるなんて思わなかった。

 

 なんとか助けてあげたいけど…。

 

「クレベストンは死んだ。アイツは既にゾンビみたいなもんだ。」

 

 ゾンビ……。前に言われたことがあったな。殺生石のおかげでこの周辺じゃ見たことなかったけどいざ目にすると体がすくんでしまう。

 

 それが知り合いであればなおさらだ。

 

 

 

 

「……!!そうだ、おじいちゃん!!殺生石は!?」

 

「……。」

 

「殺生石があるならそれでヴェノムって奴だけをさ!」

 

 都合のいい考えだとは分かってる。

 

 過去に自分も死にかけた。

 

 それまで自分以外の触れた者を確実に葬ってきた殺生石。

 

 そのヴェノムという奴がなんなのか分からないが殺生石には敵うまい。

 

 それに可能性は低くてももしかしたらクレベストンさんだけは助かるかも。

 

「クレベストンさんを殺生石のとこに!」

 

「……そのことなんだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャアアアアア

 

ドゴォォォォォォ!!!

 

アアアアアアッ!!

 

ウウウッ

 

 

 

 

 

 地下でそのまま話し込んでたら何やら地上が騒がしい。

 

 何だ?

 

 この騒音具合からして誰かが魔術を放っている。

 

 何をしているんだ?

 

 

 

 

 

 

「!?カオス!一旦話は終わりだ!先ずは上にあがるぞ!!」

 

 おじいちゃんがそういって階段をかけ上がる。

 

「え!?おじいちゃん!」

 

 僕も慌ててついていく。

 

 

 

 

 そして地上に出たら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の至るところが焼けていた。

 

 

 

 



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勇気

 騎士を目指す少年カオスは自宅の地下倉庫で騎士クレベストンがな亡くなっていることに気付く。

 そして祖父アルバを問い詰めるがクレベストンが動きだして2人を襲う。

 アルバからクレベストンがヴェノムというモンスターにやられていたことを知る。

 未知のモンスターに驚愕していると地上で轟音が聞こえ駆けつけてみると……。


「遅すぎたのか…!」

 

 

 

 

 

 

「キャァァァ!!」

 

「ウアァァァァ!!」

 

「来るなぁぁ!!」

 

「ふぁ、ファイヤーボール!!」

 

「痛い!痛いィィィィ!!やめろぉぉ!!」

 

「アアア」

 

 

 

ガブッ、シャムシャム、トガンッ!!

 

 

 

 

 

 辺りから悲鳴と怒号、そして魔術の爆音。

 

 逃げ惑う村人たち。

 

 それを焼かれながらも追いかける同じく村人。

 

 捕まったものは貪られやがて息絶える。

 

 

 

 

 いつからだろう。

 

 いつから僕はこんな地獄にいたんだろう。

 

 僕の村はいつからこんな地獄のようなところに変わってしまっていたのだろう。

 

 

 

 

 

「カオス!しっかりしろ!」

 

 おじいちゃんが僕に呼び掛ける。

 

「…おじいちゃん?」

 

 隣にはおじいちゃんがいた。

 

 僕はこの光景に思考を止めていた。

 

「俺は無事な奴等かき集めてくるからお前は何処か安全な場所に隠れてろ!」

 

 安全な場所?

 

 何を言ってるんだ?

 

 この村が安全な場所じゃないか。

 

 ここ以外に何処に安全な場所があるというんだ。

 

「奴等は動きがのろい!奴等を避けながら安全な場所を探せ!絶対に奴等や怪我してる奴に触るんじゃねぇぞ!いいな!」

 

 そういっておじいちゃんは僕を置いて走り出す。

 

 

 

 待ってよ。

 

 

 

 どうして僕を置いていくのさ。

 

 

 

 僕は1人じゃ何も分からないのに。

 

 

 

 おじいちゃんがいないと1人じゃ何も出来ないのに。

 

 

 

 

 

ザッ、ザッ

 

 

 

 

 背後で足音がする。

 

 そこには

 

 

 

「アァァ」

 

 

 

 身体中血を吹き出しながら呻き声をあげて近づいてくる

 

 

 

 

 いつも畑でお世話になっている人

 

 

 

「ァァッ!」

 

 

 

 知り合いのヒュースさんがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの……ヒュースさん?」

 

「アア、ウ?」

 

 僕の問い掛けに反応するヒュースさん。

 

 

 

「…いっぱい怪我してるよ?」

 

「…」

 

「早く手当てしに」

 

「…」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒュース」

 

「ガァァァッ!!!」

 

 

 

 ヒュースさんが飛びかかってくる。

 

「何するの!?ヒュースさん!!やめてよ!!」

 

「バァァァッ!!」

 

 僕はとっさにヒュースさんから離れようとし

 

 

 

 足をすくませ転ぶ。

 

 

 

カチャン

 

 

 

「!」

 

 転んだ拍子に僕は今までずっとクレベストンさんの剣を握りしめていたことに気付いた。

 

 急いで剣を鞘から抜きヒュースさんに向ける。

 

「こっ、来ないで…!……けっ、剣だよ!?」

 

「カァァァッ!!」

 

 駄目だ!?止まらない!!

 

 

 

「やめて……やめてよ!………来るなって言ってるだろぉぉぉ!!!?」

 

 もうヒュースさんの耳には何も届かないのに叫ばずにはいられない。

 

「アァァァッ!!!」

 

 僕はクレベストンさんの剣を握って

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

 

 

 

 

 

 

ウァァァ

 

キャァァァ

 

オァァァ

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガブッ

 

ブチッ

 

ジュゥゥゥ

 

 

 

 

 

 

 

 通り過ぎるみんなが次々に襲われている。

 

 囲まれて押し倒されて後は……。

 

 そしてやられた人も立ち上がって生きている人を襲い始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ごめんなさい。

 

 魔術も使えない僕にはどうすることも出来ない。

 

 僕はまだ子供だから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何でこうなるんだ。

 

 昨日までは何も変わらなかったんだ。

 

 どうして村がこんなふうになるんだ。

 

 殺生石があるのにモンスターが現れるなんて!

 

 

 

 

 

 

 …殺生石?

 

 そうだ殺生石だ!

 

 あそこが一番安全な筈!

 

 僕は殺生石のある村長の家に向けて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!」

 

 村長の家につくとそこには先に避難してきた人達がいた。

 

 その中からウインドラが僕を見つけて声をかけてくる。

 

 後ろにはミシガンもいる。

 

 よかった。

 

「ウインドラ、ミシガン今どうなってるの!」

 

「分からない。俺も父さんと家に帰ったら辺りから叫び声が聞こえて外に出たらこうなってたんだ。」

 

 状況はみんな同じか。

 

 みんな殺生石の近くが安全だと思ってここに集まってる。

 

 今まで村の中までモンスターが入ってくることはなかった。

 

 この先どうなるのだろう。

 

 嫌な想像が膨らむばかりでなにも考えたくない。

 

「カオス?…それって?」

 

 ウインドラが疑問を口にする。

 

「これはクレベストンさんの」

 

 

 

 

 

「みんな聞いてくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 奥の方から村長の声がする。 

 

 隣にはラコースさんとおじいちゃんもいる。

 

「これからみんなに大事な話がある!」

 

 すると村長が下がっておじいちゃんが前に出る。

 

 

 

 

「今、村はヴェノムというモンスターに襲われている!このモンスターは生物を操って他の生物を襲わせるモンスターだ!操られている奴等には絶対に触られるな!すぐに奴等と同じになるぞ!」

 

 おじいちゃんが先程説明したことをみんなに伝える。

 

「今のとこ村にはこのモンスターに友好打はない!

 

 そこで

 

 

 

 

 今ここに集まってるものたちで村を脱出する!村を出たらまっさきに森を抜けて昔の村に集まってくれ!」

 

 村を脱出?この村はどうなるんだ?

 

 他の人達もざわめき出す。

 

「このヴェノムは繁殖力が凄まじい!それも動物だけじゃなく植物にも感染する!この村の食物はもう全滅したものと思ってくれ!!」

 

 

 

 

 

「そんなこと急に言われても無理だろ!!」

 

「あっちの村についても食糧が持たないぞ!!」

 

 村人達が騒ぐ。

 

 自分達の村を棄てて出ていくなんて言い出すから当然の心境だろう。

 

 そして

 

 

 

「殺生石は!?モンスターなら殺生石でなんとかならないのか!?」

 

「殺生石ならどうにかしておびきだして魔術を使って押し込めば!」

 

「流石にモンスターなら殺生石には敵わないだろ!」

 

 ガヤガヤと村人達が案を出していく。

 

 ここに集まったのはみんな殺生石をあてにしてきたんだろう。

 

 これならなにもしなくても大人たちが解決して…

 

 

 

 

 

 

 

「殺生石は死んだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 突如誰かが叫ぶ。

 

 

 

 ラコースさんだ。

 

「殺生石は死んだ!」

 

 先程と同じセリフを繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺生石が死んだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつからか分からないが殺生石の効力が最近なくなっていることに気付いた。明日の集会ではそのことを伝えるつもりだった。」

 

 ラコースさんが淡々と述べる。

 

「恐らくこの騒動は殺生石の効能が失われたことによって外にいたモンスターがここを攻めてきたのだろう。もうこの村に安全な場所などない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよそれ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でそんな大事なことに気付かなかったんだよ!!」

 

「…。」

 

「それが分かってたらもっと早くにいろいろと対策立てられてただろうが!何で今なんだよ!!」

 

「そうよ!手遅れになってから教えられても何も出来ないじゃない!」

 

「警備隊はなにやってたんだ!!職務怠慢じゃないか!!」

 

 みんなが好き勝手なことをいい始める。

 

「殺生石はこの百年機能し続けてた。ここ数年で力がなくな」

 

「それがなんだってんだ!!今動かねぇと意味ねえだろ!」

 

「…。」

 

「殺生石の管理は村長と警備隊の仕事だろうが!何してたんだお前ら!!」

 

 責任の擦り付けあいがヒートアップしていく。

 

 このままだと正常な人どうしでも暴動が

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんが魔術で地面に穴を開けた。

 

 

 

「……今さら手遅れになったならなかった言ってもどうしようもねぇ。こうして時間を無駄にしている間にも奴等がここを嗅ぎ付けてくる。それでもいいやつはここで好きなだけ無駄口叩いとけばいいさ。」

 

「……」

 

「話を戻すが今村で暴れてるヴェノムは非常に危険だ。間違っても応戦するなよ。粘膜感染だから返り血浴びるとヤバイ。なんなら奴等の手汗ですら感染する恐れがある。」

 

「あのアルバ…さん」

 

「なんだまだ文句あるなら話を聞くやつだけ連れていくが?」

 

「その……感染する可能性はどのくらい…高いんですか?」

 

「…」

 

 おじいちゃんが少し考え込むそぶりをしてから

 

「襲ってくるやつの症状にもよるが意識がねぇ時点で身体中がヴェノムに侵されている。ソイツに掠り傷でもつけられたら100%感染する。」

 

「そんな…」

 

「なんて危険なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おいこのガキ!怪我してるぞ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 僕達から少し離れたところで声が上がる。

 

 そこにいたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…!?………ち、ちげぇよ!!これはさっき転んだだけで…!」

 

 ザックの取り巻きの一人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルバさん!ここに!ここに怪我してるガキがいます!」

 

「だから俺はちげぇって!!関係ないんだこれは!」

 

 

 

 

 おじいちゃんが取り巻きに詰め寄る。

 

「ボウズ、傷を見せてみろ。」

 

「これは、やられたとかじゃ…」

 

「見せてみろ。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「ボウズ…。」

 

「な、なに…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかったな、本当に掠り傷みてぇだ。」

 

「……ハ、ハハハ…。ほ、ほら見ろだからあれほど俺がいっ」

 

 

ザシュッ、ゴッ、ココッ

 

 

 

 

 え?

 

 一瞬取り巻きが消える。

 

 何が起こったのか思考が停止するがよく見たら取り巻きはその場から動いていなかった。

 

 首だけがない状態だが。

 

 

 

 

 

「へ?う、うぉぉぉぉぉ!!」

 

「アルバさん!?アンタ何やって…!?」

 

「こんな子供を何も斬りつけなくても!」

 

 突然子供を斬り殺したおじいちゃんにみんな動揺を隠せない。

 

 僕ですら怖い。

 

 こんな、

 

 こんなことするおじいちゃんははじめてだ。

 

 

 

「いいか!お前らぁ、これから先、脱出して無事を確認するまで何があっても走れ!途中転んだり怪我したりしたやつは放っておくんだ!そうでないとこのボウズみたいになるぞ!」

 

 おじいちゃんがみんなに呼び掛けるが反応に困っているようだ。

 

 目の前で子供を斬り殺すような人にはついていきたくない。

 

 口にしたわけではないが僕にはみんながそう言ってるように見える。

 

 本当に取り巻きは感染していたのだろうか。

 

 本当に取り巻きをやる必要があったのか。

 

 もっと調べてからでもよかったのではないか。

 

 そんな考えでみんなはいっぱいのようだ。

 

 取り巻きの体は頭が取れても立ったままだった。

 

 おじいちゃんの剣撃が綺麗に切断したからだろう。

 

 体はまだ頭がなくなったことに気付いてない。

 

 そんな印象のする光景だ。

 

 だから

 

 

 

 

 取り巻きの体が動き出したことを視界に捉えながらも反応が遅れてしまった。

 

 

 

ガシッ

 

 

 

「え?」

 

 取り巻きの怪我を告知した男が首のない体に捕まる。

 

 回りもその光景に目を奪われる。

 

 ほんの一瞬だけおじいちゃんが本当は殺さずにいてくれたのかと甘い思考に囚われる。

 

 が、見返してみてもやはり首が地面に転がっている。

 

 取り巻きは死んだんだ。

 

 その筈なのにあそこで体だけが動き始めた。

 

 そして

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥ!!!

 

「うぁぁぁぁぁ!!!熱い熱い痛い!!なんだこれはぁぁぁぁ!!」

 

 取り巻きの体が切断面を男にくっつけた途端蒸気が沸き上がる。

 

 男は悲鳴をあげるが振りほどけずそのまま小さな子供の体に飲み込まれていった。

 

 男を飲み込んだ取り巻きの体は切断面から蒸気の上がる液体を溢れさせ徐々に融解していく。

 

 やがて全身が溶けきり、後には昔モンスター図鑑で見たスライムの姿が現れる。

 

「…………!!?」

 

 誰もがその光景に目を奪われる。

 

 

 

 

 

「ボサッとするな!村の入り口まで走れ!!」

 

 おじいちゃんがみんなに指示を出す。

 

 それを聞いて村の人達は我先にと駆け出す。

 

「「「「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」

 

 僕もウインドラも吊られて走り出す。

 

 

 

 あれがヴェノム。

 

 

 

 あんな化物が世界にいたなんて。

 

 

 

 

 

 恐怖で体が竦み上がりそうなのを必死にこらえる。

 

 大丈夫だ。

 

 大人たちはまだこんなにたくさんいる。

 

 この人達に着いていけばなんとか村の外まで辿り着ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

バヒュッッ!!ビシャシャシャシャッ!!

 

 

 

 走っていると前の方から魔術の破砕音が聞こえる。

 

 

ジュゥゥゥゥゥ!!!

 

ウァァァッ!!

 

 そのすぐ後に悲鳴があがる。

 

 誰かが襲われたのだろうか。 

 

 直後、前方を走っていた大人たちが突然引き返してくる。

 

「どけぇ!邪魔だぁッ!!」

 

「早くいけよぉ!!」

 

 僕はそのうちの誰かに突き飛ばされた。

 

「イタッ!」

 

トスッ

 

 いったい何があったんだ。

 

 村の入り口はそのまま向こうの方なのに大人たちは何故逆走しだしたのだ。

 

 起き上がって前を見ると先頭を走っていたと思われる人達が苦しそうに転げ回っている。

 

 体からは蒸気が吹き上がっていた。

 

 その様子から先程の魔術でヴェノムを攻撃した際にヴェノムが飛び散って被ったようだ。

 

 悶え苦しむ大人達。

 

 このままじゃいづれこの人達も…。

 

 

 

 予測通り苦しんでいた大人達は立ち上がってこちらに向かってくる。

 

 逃げなきゃ!

 

 そう思い立ち上がろうとするも足に激痛が走りかが見込んでしまう。

 

 痛い…!さっきの大人達に突き飛ばされたから…!

 

 足を抑えるがそれで痛みは治まらない。

 

 こんなときに治療魔術が使えたら…。

 

 眼前にはもうヴェノムに侵されたゾンビが迫る。

 

 もうおしまいだ…!

 

 

 

 

 

「「アクアエッジ!!」」

 

 後1歩までゾンビが差し掛かろうとしたとき背後からアクアエッジが飛んできてゾンビを押し飛ばす。

 

「大丈夫か!カオス!」

 

「足を挫いてるみたいだねファーストエイド!」

 

 そう話し掛けてきたのはラコースさんとウインドラだった。

 

 

 

 

 

 

「ありがとう…」

 

「気にするな。お前達を安全なとこまで逃がすのも私の仕事だ。」

 

「カオス、村の人達はパニックを起こして散り散りに逃げたり感染を恐れて同士打ちしたりしてる。僕達は一緒になってここを出よう。」

 

「奴等の動きをよくみれば魔術などなくとも逃げ切れる。安全なとこまで出たらお前達が他に逃げてきた人達を誘導してくれ。私は逃げ遅れてる人を救助しにいく。」

 

 こんな状況なのに慌てずに辺りを見回し冷静に各々がやれることを語っていく2人。

 

 凄いなこの2人は…。

 

 僕なんかと違って怖くなんかないんだな。

 

 2人とも魔術を使えるから。

 

 この2人と一緒なら無事に村を抜けられる。

 

 その後は……今はよそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか出られたね。」

 

「よし、このまま廃村まで走れ!私は他に無事な人を探す。

 

「父さん!無茶はしないでね!父さんがいないと俺は。」

 

「分かっている。私の腕前は知ってるだろ?」

 

「そうだけど!今回のモンスターは!!」

 

「お前が素直に継いでくれるって言うなら私も無茶をしないで済むんだがな。騎士になりたいというのは驚いたぞ。」

 

「どうして!?」

 

「お前の父親は私だぞ?お前が警備隊に乗り気でないことぐらい分かってたさ。」

 

「父さん…。」

 

「その話はまた後でゆっくり話してやる。ではな。」

 

 そういってまた村の中へと入っていくラコースさん。

 

 

 

「……カオス。」

 

「ウインドラ?いかないの?」

 

 早く森を抜けないとここもいつゾンビやヴェノムが来るかわからない。

 

 いない今が抜けるチャンスなのだが。

 

「先にカオスは森を抜けてて僕もすぐいくから。」

 

「抜けててって、ウインドラはどうするんだよ?」

 

「……俺は父さんを置いていけないよ。」

 

 急にどうしたんだ。

 

「何いってるんだよ!ラコースさんに言われたろ!?先に抜けろって!」

 

「そんなことわかってるよ。でもダメなんだ。」

 

「ダメってなんだよ!ウインドラは怖くないのか!?」

 

 子供の僕達に出来ることなんてたかが知れてるじゃないか。

 

 ワザワザ危険に足を突っ込んだところで他の人の邪魔にしか…。

 

 それに魔術を使えるのはウインドラしか…。

 

「怖いに決まってるじゃないか。

 

 けど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は騎士になりたいから。子供の俺でもみんなの盾になって守ってあげたいんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………キシ?………………騎士……………。

 

 そう騎士!!

 

 

 何故今まで忘れていたんだ。

 

 

 

 自分は人を守る騎士になりたかったのだ。

 

 

 

 祖父に憧れて自分も騎士にと。

 

 

 

 それがどうしたことか。

 

 

 

 子供だから魔術を使えないからと理由をつけて逃げてばかりで人任せ!

 

 

 

 何のために日頃バカにされながらも剣術や戦闘訓練を積んできたのだ。

 

 

 

 今日このときのためじゃないのか?

 

 

 

 自分がやらなくてもやってくれる人はいる。

 

 

 

 だからなんだ!

 

 

 

 それが僕がやらなくていい理由になるか!

 

 

 

 僕と同じ筈のウインドラさえ他の人を気にかけてるのに僕はどれだけ自己保身に走っていたんだ!

 

 

 

 

「カオス、また後」

 

「ウインドラ!……僕も行くよ。村の人をほうっておけない。」

 

「!!でも君は魔術を…」

 

「魔術なんかなくても僕にはこの騎士様の剣があるから平気さ!」

 

「……」

 

「ゴメン、ウインドラ、さっきまで本当に足引っ張ってた。けど次はもう大丈夫!早く村の人達を助けよう!!」

 

「…」

 

「…」

 

「どうやら普段の君に戻ってるようだね。俺も1人じゃ本当は怖かったんだ。ありがとう。」

 

「礼はみんなを助けてからだよ!」

 

「うん!行こう!」

 

 

 

 

 

 僕とウインドラはもう一度村の中へと入っていった。

 

 

 




主人公の心情風景難しいですね。屍鬼の作家先生の気持ちが分かる気がします。


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助けたい人

 騎士を目指す少年カオスは自宅の地下倉庫で変わり果てたクレベストンを見つけるが彼はヴェノムというモンスターに既にやられていたことを知る。

 その後地上に出てみるとクレベストンをころしたモンスターヴェノムが村を襲っているようでカオスは恐怖で竦み上がる。

 だがこんな状況でも冷静に皆を助けようとするウインドラにカオスは自分の本文を思いだし、村へと駆け出す。


「カオス、上だ!」

 

「…!」

 

 それを聞きとっさに前の方へ飛ぶ。

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥ

 

 

 

 今まで僕がいたところにヴェノムが降ってくる。

 

 

 

 近くの建物から落ちてきたのだろう。

 

 周辺にはゾンビもいる。

 

 左右前後だけじゃなく上にも気を配らねばならないか…。

 

「ウインドラサンキュー!」

 

「どうってことないよ!アクアエッジ!」

 

 ウインドラが進行を遮るヴェノムを押し飛ばす。

 

 どうやら火や地の魔術で攻撃すると破裂して飛散るので危険らしい。

 

 相手はこちらを攻撃する以外にもこちらが攻撃するというアクションで追い詰めてくる。

 

 だったら

 

「ウインドラ!そのまま走って!」

 

「!」

 

 ウインドラが走る。

 

 そこを

 

「ガアアッ!!」

 

 村人の成れの果て、ゾンビが掴みかかろうとして空を空振る。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 そのゾンビを鞘に差したままの剣で峰打ちを決める。

 

「ボアッ…」

 

 そのままゾンビが転ぶ。

 

 剣は………無事のようだ。

 

「カオスありがとう!」

 

「お互い様だよ。」

 

 なんだ、こうして対処できれば案外このヴェノムも大したことないな。

 

 水や風の魔術で相手の進行を遅らせれば捕まることはない。

 

 ウインドラが後衛を張ってくれるのも視界が利いて助かる。

 

 ゾンビに関しては剣で斬ると体液で溶かされて使い物にならなくなり武器を失う。

 

 だったら斬撃ではなく打撃で体液に触れることなく押し飛ばせばいい。

 

 よく見ると動きも遅いしこちらが焦って対処を間違えなければ十分子供でも対応できるようだ。

 

 

 

「この調子で残りの村の人達を外に逃がすんだ!」

 

 僕達がこうして救助に駆け付けてから30人程は脱出に成功したようだ。

 

 僕達の連携を見てそれを真似してくれる人達もいた。

 

「カオス!あっちに人がいるよ!」

 

「分かった!」

 

 僕達で村の人達を全員助けるんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ僕たちも危なくなってきたな。」

 

「……そう…だね。ハァッ、ハァッ」

 

 あれからまた10人ばっかし助けたがそろそろ潮時のようだ。

 

 僕は剣で村の人達を押し飛ばしてるだけだがウインドラはここに来て魔術を連発している。

 

 消耗は僕よりも激しいんだろう。

 

 辺りはヴェノムやゾンビ、そして混乱した村人が放った火で覆われている。

 

 水の魔術が使えるとしても危険に変わりはない。

 

 脱出のことを考えるとここは引くべきか。

 

「ハァッ、ハァッ!…よし、…俺は大丈夫…だよ。」

 

「……。」

 

「カオス…行こう。」

 

「ウインドラ、もうこのくらいにしよう!」

 

「!!何いって…」

 

「このまま村の外に向かおう。後はラコースさんとおじいちゃん達に任せて出よう。」

 

「……」

 

「それに僕もそろそろ体力の限界みたいなんだ。このままだとキツイよ。」

 

「…ゴメン。」

 

「……行こう。」

 

 

 僕達は村の入り口を目指して走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の入り口について

 

 

「思ってたよりも無事な人が多いようだね。これなら村から出てもなんとかなるかな。」

 

「そうだな、それにしても皆何で止まってるんだ?」

 

 せっかく逃げきれたのにこのままだとヴェノムに追い付かれてしまう。

 

「みんなどうしたの?」

 

 進まない村人に声をかける。

 

「おぉ、アルバさんとこの!さっきは助かったよありがとう!」

 

「どういたしまして。」

 

先程助けたうちの1人だったらしい。

 

「みんな何してるの?」

 

 ウインドラが問いかける。

 

「まだラコースさんと村長が出てきてないようなんだ。それからアルバさんも」

 

「それならまだ他の人を助けに出てるんだよ!」

 

 3人とも強い。万が一も考えられないくらいに。

 

 仮にこの3人がピンチに陥るなんてこともないだろう。

 

 もし陥るんだとしたら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そういえばミシガンはどこだ。

 

「ウインドラ……ミシガン見てない……?」

 

「………そういえば村長の家を出てから見てないな。村長の横にいたから村長とは一緒だとは思うけど。」

 

「………」

 

 嫌な想像がまた膨らんでいく。

 

 もし3人の誰かが感染していたら……。

 

 ラコースさんと村長が感染していたらおじいちゃんは迷いなく斬るかもしれない。

 

 さっき見ていたから。

 

 でももしおじいちゃんか感染なんてしていたら……他の2人は攻撃出来るのか?

 

 僕もさっきまで剣で突き回っていたが僕の心の中では斬ると武器が溶かされる以上に見知った顔を斬りつけないですんでよかったというのが殆どだ。

 

 あの3人はよく一緒にいるのを見かけていた。

 

 もしかしたらもう3人とも………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウインドラ、みんなを連れて先に行って!僕はおじいちゃん達を捜すよ!」

 

 そういってまた村の中へと駆けていった。

 

「え!?ちょっ、カオス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村に入るともう辺りはゾンビとヴェノムだらけで人の悲鳴も聞こえなくなっていた。

 

 通りすぎる僕を見てヴェノム達が僕に向かってくる。

 

 動きは遅いが後ろからはどんどんヴェノムが集まってくる。

 

 

 

 

 

 こんなにヴェノムになった村人がいたのか。

 

 うようよと動いては向かってくるそれらにはもう村人だった頃の面影も消え悪食のスライムの習性通り生物を捕らえて食べて増える。

 

 もうそれしかないように思えた。

 

 目からは少し雫が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ!!」

 

 ヴェノムに追われながらも走り続けるがいっこうにおじいちゃん達が見つからない。

 

 入れ違いになったか、あるいはもう既に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 また負の思考にとらわれようとしたとき、前方遠くに見えるヴェノムが村の奥へと向かってるのが見えた。

 

 こちらには気付いてないようでヴェノムはまっすぐ目的あって進んでるように見える。

 

 あの方角は…………1奥のの村長の家だ。

 

 あの家にまだ人がいるのか?

 

 

 

 

 

 

 考えられる可能性で1番高いのは村長かミシガンだ。

 

 なんせその家の主である。

 

 いてもおかしくない。

 

 まだ誰がいるのか分からないが。

 

 

 

 

 

 

 

 こうしているうちにもあのヴェノムは村長の家に着きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 行くっきゃない!

 

 

 

 もとよりおじいちゃんや逃げ遅れている人を助けに来たんだ。

 

 どうせ後ろはヴェノムだらけで逃げられないんだ。

 

 ならすぐにあよ家いる人と合流してこの状況を突発するしかない!

 

 僕はそのまま駆け出し村長の家の方へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「油断したか……ぐぅぅッ…!!」

 

「ラコース…。」

 

「さぁ、さっさとしてくれよアルバ…、意識があるうちに逝っときたいんだ。」

 

「スマン!ラコース!私を庇ってこんなことに……!」

 

「村長、アンタは村の連中を引っ張ってかなきゃならん。アンタを守るのは当然だ。私がドジをしただけ

……ぶほぁっ!!」

 

「おじ様……。」

 

「待てミシガン。私に触ってはダメだ…。」

 

「……。」

 

「君にはウインドラとこの村を託したかったんだがな。ハァ…!あの馬鹿息子めが、そこの不良に唆されやがって…。」

 

「……誰が不良だ。」

 

「まさか、殺生石が死んでいつかお前が言ってたモンスターがいきなり来るとはな……ハァッハァッ!!なるほど確かに恐ろしい化け物だ!今にも私の体を乗っ取ろうとしてくる!体の中が燃えるように熱い!!……ブフッ!!」

 

「ラコース……!!なんとかならんのかアルバ!!」

 

「…俺にはコイツの意識を今すぐ楽にしてやるくらいしか出来ん。」

 

「そんな……。」

 

「アルバ、……やってくれ。」

 

「…他に言っておくことはないな?」

 

「言っておくことかぁ…。お前がいるなら何も心配はいらないだろう。」

 

「そうか

 

 

 

   

 

 

 

 ではまた逢おうラコース=ケンドリュー!」

 

 

 

 

 

 

 

ザシュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!!」

 

「片付いたぞ、村長。ここも直に奴らが来る。そろそろ出るぞ。」

 

「分かった…。」

 

「……。」

 

 

 

ジュゥゥゥ

 

 

 

 

 

 

「ハッ…、剣が持たねぇなこりゃぁ…。」

 

 

 

 

 

ガラッ!!

 

 

「村長!ミシガン!!」

 

 

 

 

ブンッ!!!

 

 

 

 

 村長の家に来て玄関の扉を開けたらいきなり剣が迫ってきた。

 

「ウォワァァァ!?」

 

 

 

ピタッ!

 

 

 

 

「…!?」

 

「…なんだ、カオスか驚かせんなよ…。」

 

 大して驚いてもいない様子でそんなことを言ってくるおじいちゃん。

 

「ごめんなさい…?」

 

 驚いたのはこっちの方だと思うんだが。

 

 

 

 おじいちゃんの後ろから村長と村長におんぶされたミシガンが出てくる。

 

 心配していた3人は無事のようだ。

 

 これで後は…

 

「おじいちゃん!ラコースさん知らない!?」

 

「……。」

 

「さっきまで村の入り口にいたんだけど帰ってこないんだ!」

 

「……アイツなら今は安全なところ見つけてそこで他の奴等と隠れてる。」

 

「え!?そうなの?じゃぁ早くその人達も連れてここから出よう!」

 

「待て待て!そいつらんとこに今向かったらゾンビどもにバレちまうだろ?今は俺たちだけでここから脱出するぞ。」

 

「その人達はどうするの!?」

 

「おめぇの後ろにたくさんヴェノムがいるじゃねぇか。アイツらを撒いてからまた戻ってきて回収する。いいな?」

 

「分かった!」

 

「……。」

 

 僕達はそのまま4人でヴェノムから逃げることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の入り口付近にきてゾンビが減ってヴェノムが増えてきた。

 

 ゾンビだったら剣で突き飛ばせるのだが時間が経ってヴェノム化したか、ヴェノム自体に食べられたか。

 

 体が強酸性のスライムに変化したら後は触ることは出来ない。  

 

 ここは引き返して別の道から外に出ようか…。

 

 

 

 だが

 

「後ろから来たぞ!」

 

 村長が叫ぶ。

 

「どうやら囲まれたようだな。」

 

 いつの間にか大分近くまでヴェノムが接近していた。

 

「「アクアエッジ!!」」

 

 おじいちゃんと村長が同時に魔術で前方側のヴェノムを押し退ける。

 

 イケる!

 

 このまま押し退けて入り口まで行けそうだ!

 

「アクアエッジ!」

 

「アクアエッジ!」

 

「アクアエッジ!」

 

 

 

 

 いいぞ!もう少しだ!

 

 もう少しで村の外に……!!

 

 

 

 

「アクアッ……カハァッ!!」

 

「!!」

 

 突然村長が咳き込み出す。これはっ

 

「チィッ!魔力欠乏症だな!平和ボケしてっからぁ…。ゴホッ」

 

 どうやら村長のマナが突きかけているようだ。

 

 おじいちゃんも悪口を叩いているがキツそうな顔だ。

 

 限界が近いのだろう。

 

 外までは後1歩だというのに。

 

 ミシガンは……恐らく攻撃魔術を使えない。

 

 村長は次撃ったら動けなくなりそうだ。

 

 おじいちゃんも動くのが精一杯に見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 じゃぁ後は僕が……撃つしかない。

 

 

 

 

 

 僕が撃てば他の3人は逃げられる。

 

 

 

 

 

 僕が撃てば3人は助かる。

 

 

 

 

 

 どうせ皆死ぬんなら

 

 

 

 

 

 僕1人だけでいい。

 

 

 

 

 

 ウインドラに言われるまで忘れていたけど

 

 

 

 

 

 僕も誰かを守れる騎士になってみんなの盾になってあげたいから。

 

 

 

 

 皆より少ない命を使えるのはもうこの瞬間だけだから。

 

 

 

 

 最期は大切な人の盾になって死にたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……流水よ」

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

「我が手となりて敵を押し流せ…。」

 

 呪文の詠唱が完了する。

 

 

 

「待て!カオス何をするつもりだ!」

 

「そんなことしたらお前はっ!!」

 

 おじいちゃんと村長が止めに入ろうとする。

 

 だがもう遅い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクアエッジ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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籠城戦

 騎士を目指す少年カオスは凶悪なモンスター、ヴェノムの襲撃で村が壊滅的危機に陥り1人逃げ惑う。

 しかし友の言葉により己の信条を思い出し村の人々を救うべく立ち上がる。

 だが後1歩のところでヴェノムに囲まれ窮地に追い込まれるも使うことを禁じられた魔術で皆を救おうとする。


 

 

『また…ヴェノムが暴れだしたようじゃな。』

 

 心の中で声がした気がした。

 

『また…ワシが屠らねばならぬのか。』

 

 心の中の声はどこか悲しげな声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!起きろカオス!」

 

 村長の僕を呼ぶ声で目を覚ます。

 

「カオス!よかった無事だったんだな!?」

 

 無事?なんのことだ。

 

 ここは……森の中?

 

 何をしていたんだろう。

 

 何か懐かしい声を聞いたような……。

 

 

 

 そうだ。

 

 ヴェノムだ。

 

 今村は大変なことになっている最中だった。

 

 僕はおじいちゃん達を見つけて村から出ようとしてそれから…。

 

 

 

 僕が魔術を使った。

 

 禁止されている魔術を。

 

「そうだ、村長!あれからどうなったの!?ヴェノムは」

 

「落ち着けカオス!ここにこうしているというだけでどうなったか分かるだろう?」

 

「…。」

 

「お前の魔術がなかったら私たちは今頃あのモンスターに食い尽くされていただろう。ありがとうカオス。」

 

 どうやら僕の魔術で危機を脱せたようだ。

 

「よかった…。」

 

「全くお前は自分にもしものことがあったらどうする気だったんだ!お前のマナはギリギリで命を繋いどるというのに!」

 

 村長が僕を叱る。

 

 本当なら死んでたかもしれない。

 

 それでも構わなかった。

 

 おじいちゃん達が無事なら……。

 

 

 おじいちゃん?

 

「ねぇ、村長。おじいちゃんは?」

 

「……。」

 

「村長?」

 

「……。」

 

 村長が村の方を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故だ。

 

 僕はおじいちゃんや村長を助けたいと思って死ぬ気で魔術を撃った。

 

 なのに生きているのは意識を失った僕でおじいちゃんが……。

 

 

 

「アルバは……お前が魔術を放って意識を失った後、私たちを逃がそうとして…。」

 

 なんだそれは?

 

 そんなのどうだっていいのに。

 

 おじいちゃん達が逃げられるように僕は死のうとしたのに!

 

 おじいちゃんがいないんじゃ、僕は何のために…

 

 

 

「今頃は囮になって村の中で…。」

 

 

 

 …!

 

「村長!まだおじいちゃんは生きてるの!?」

 

「お前が開けた穴から抜け出した後はヴェノムを撒くために再び村の中を駆けずり回ると言っておった。」

 

「!!有り難う!村長ここまで運んでくれて助かったよ!」

 

「カオス!どこに行く!?そっちは村だぞ!戻れ!!」

 

「おじいちゃんを置いてはいけないよ!村長は先に森の外へ向かってて!」

 

 僕はそういって村に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの馬鹿は無茶なとこが祖父にそっくりだ!」

 

 カオスがいなくなった森の中で眠るミシガンを背中に乗せながら村長が愚痴を溢す。

 

「まぁ、あの2人なら大丈夫だと思うが。」

 

 

 

 

ガサガサッ!!

 

「今度はなんだ!?」

 

 森の茂みから音が聞こえそこから飛び出てきたのは……。

 

「お前はっ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ふぅ、ふぅ、…」

 

 ヴェノムに追い回されながらもなんとか紙一重でかわしていたがそろそろ体力が尽きかけている。

 

 もうそろそろカオス達も逃げきれたことだろう。

 

 アルバは村の入り口まで向かう。

 

「流石に疲れたな。こんなに魔術を使いながら駆け回るなんざ何10年ぶりだ?」

 

 肉体の限界に伴って精神もまいっているのだろう。

 

 誰に聞かせるわけでもない1人ごとがでてくる。

 

「ふぅ~、まだまだ年齢じゃぁ若い方なんだがなぁ。動かねぇと落ちちまうもんだなぁ。」

 

 軽口を叩けるだけの余裕は出来てきた。

 

 後はカオスが無事なのを確認できれば…。

 

 

 

「ふんッ!死にかけギリギリのマナしかないくせに生意気にも俺達を助けようとしやがって。あの馬鹿がっ…。」

 

 口では悪く言ってても実際のところは嬉しそうなアルバ。

 

「アイツなら………カオスならこの国を変えられるかもな。俺が出来なかったことを。」

 

 

 

「おじいちゃ~ん!」

 

「!!」

 

「(この声はまさか!)」

 

 声の先にはカオスがいた。

 

 

 

 

「おじいちゃ~ん!!」

 

 必死になっておじいちゃんを捜す。

 

 まだ生きているならそう簡単にやられる筈がない。

 

 僕はおじいちゃんに生きていてほしいんだ!

 

 囮なんて馬鹿な真似するなと怒ってやる。

 

 残り90年くらいしか生きない僕よりもおじいちゃんの方が生きていた方がいいに決まっている。

 

 僕は村の中を捜し回る。

 

 

 

 

「おい!カオス!!」

 

 いた!

 

 おじいちゃんだ。

 

「おじいちゃん!!」

 

 再会を喜びたいがまず先に。

 

「「おらぁぁぁぁぁ!!!」」

 

ドゴォッ!!

 

 お互いの拳がクロスする。

 

「痛ってぇなぁ、何すんだよ!クソジジィ!!」

 

「この馬鹿が!!何のために俺が時間稼ぎしてヴェノムを引き付けてたか分からねぇだろうが!!こんなとこまで戻ってきやがって!」

 

「そんなもんおじいちゃんも一緒だろ!せっかく僕が魔術で道を開けたのにワザワザ残ってかっこつけやがって! 」

 

「お前こそあれほど魔術使うなって言ってたのに使いやがって!生きてたからよかったもののお前はもしかしたら死んでたかもしれないんだぞ!?」

 

「そんなこといちいち考えてた訳ないだろ!あのままなにもしなかったら4人とも終わってたとこなんだぞ!」

 

「「このぉぅぅぅ…!」」

 

 2人して怒声の掛け合い。

 

 やがて

 

「カオス…マナは大丈夫なのか?」

 

「マナ?とくに問題ないと思うけど。」

 

「さっきは魔術を1回使っただけで気絶したんだ。また奇跡に助けられたと思え。次はないぞ?」

 

 そういえば、魔術を使ってから体の感覚がふわふわしてる気がする。

 

 数年ぶりの魔術に体が驚いているのかな。

 

 まぁ、なんにしてもこれで

 

「おじいちゃん、とりあえずは外へ出よう!」

 

「そうだな、ここも危ない。」

 

 僕達はそういって村の入り口まで向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入り口までたどり着いて

 

「何匹か着いてきちまったがもうこの際仕方ないだろう。こっから森を抜けるぞ!」 

 

 おじいちゃんがそう言う。

 

 もとよりそのつもりだ。

 

「分かったよ!それじゃあい……!?」

 

 

 

 

タタタタタッ!

ガササササッ!

ザッザッザッ!

 

 

 

 

 森の奥から何かがこちらに向かって走ってくる。

 

 それもたくさん。

 

「カオス!気を付けろ!」

 

「!!」

 

 そして森の奥から向かってきたもの正体は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先に逃げているはずの村人達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!?アルバさん!!」

 

「なんだお前ら!何故戻ってきたんだ!?」

 

 戻ってきたのは僕とウインドラが最初にここに来たときにいた人達やその後助けた人たちもいる。

 

 一体何があったんだ。

 

 

 

「カオス!!」

 

 そのとき村人の中からウインドラが出てくる。

 

「ウインドラ!?何があったの!廃村はこっちじゃないよ!?」

 

「森を抜けようと皆で向かってたんだけど進んだ先の方からヴェノムが出てきたんだ!それもたくさん。」

 

 何だって!?

 

 じゃぁ、

 

「それで逃げられなくて戻ってきちまったか。」

 

 表情が暗いおじいちゃん。

 

 それもそうだ。

 

「もう何処にも逃げられないよ…。」

 

 怯え出す村人達。

 

 逃げ場と思って走った先にヴェノムが待ち構えてトンボ返りだ。

 

 精神も崖っぷちまで追い詰められて今にも堕ちてしまいそうなのだろう。

 

 

 

 

 

「!?そうだおじいちゃん!ラコースさん達が隠れてる場所は?そこでヴェノムがいなくなるまで待とうよ!」

 

「……。」

 

「父さんが…?」

 

 ウインドラがラコースさんの名前に反応する。

 

「どうしたの?おじいちゃん?もしかして人数が多すぎるとか?だったら行ける「カオス」?」

 

 

 

「悪いなカオス、そんな都合のいい場所はないんだ。」

 

 

 

 

「都合のいい場所?なかった…。どういうこと?じゃあラコースさんはどこに…」

 

「ラコースは……死んだ。」

 

「!!」

 

「父さんが………死んだ?」

 

「済まないウインドラ…。」

 

「村長?」

 

「ラコースは私たちを庇ってヴェノムに触ってしまったんだ。それで感染してしまい…。」

 

「……。」

 

「私達にはどうすることも出来なかった。死にいく彼を安らかに逝かせるく「それで?」」

 

「それで誰が父さんをやったんですか?」

 

「……。」

 

「……。」

 

「わた「俺だ」」

 

 ウインドラが声のした方へと向く。

 

 おじいちゃんだ。

 

「ラコースを最期に看取ったのは俺だ。」

 

「……アルバさん。」

 

 ウインドラがゆっくりとおじいちゃんに近づく。

 

 そして

 

 

 

「今は……緊急時で逃げるの第一ですから何も聞きませんが……後でお話お聞かせ願えますか?父さんの最期を。」

 

 そういったウインドラは今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況は最悪だな。前方にも後方にもヴェノム。引くも押すも出来ない八方塞がりだ。」

 

 人数が増えたとはいえ使える選択肢が少なすぎる。

 

「水で押し流せばなんとか抜けられるんじゃないか?」

 

「アクアエッジで飛ばすのも限界近いんじゃないか?この場にいるやつで後何人魔術が使える?」

 

 …そう言われて手をあげたのは全体の4分の1くらいだった。

 

「ダメだな。この人数をカバーするには少なすぎる。途中で力尽きるのがおちだろう。」

 

「じゃあどうすればいいんだ!?他に手立てはないんだぞ!?」

 

「……。」

 

 他の手など考え付く筈がない。

 

 ただでさえ殺生石のおかげで戦闘からは遠い村の人々。

 

 魔術をろくに使ったことがないものもいる。

 

 言うなれば武器を持っただけの素人集団だ。

 

……

 

……

 

……

 

 先ほど手をあげた人達が集まって何か話している。

 

 何か策でも考え付いたか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダダダダダッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

「まぁ、そうなるわな。」

 

 魔術を使える人達が一斉に森へと駆け出した。

 

 まさか

 

「僕達を見捨てて…!?」

 

「アイツら…。」

 

「他に手立てがないんじゃ生き残れる手を選ぶだろう。連中を恨んでやるなよ。」

 

「じゃぁ、俺たちはどうなるんだ。」

 

「……今の連中についていけばなんとかなるんじゃないか?」

 

「……!?」

 

 それを聞いて駆けていく人達。

 

 残ったのはもう走る気力さえ残ってないもの達だけだった。

 

 

 

「アルバ、どうするんだ?」

 

 村長がおじいちゃんに問う。

 

「……奴等は特性状上下の段差には不向きな体をしている。普通のスライムだったら壁に張り付いたり出来るんだろうが奴等の強力な鉄すら溶かす体質のせいで壁を登れねぇ。つまりここより下に落っことせばいいんだ。」

 

「それっておじいちゃんの!?」

 

「地下倉庫に落っことせば下に落ちた奴等は這い上がれねぇ。それで村のヴェノムはいいだろう。ヴェノムは単純な食欲しか持ってねぇから落とすのはそう難しくない筈だ。」

 

「それで行こう。後のことはそれから考えよう。」

 

 僕らはおじいちゃんの地下倉庫のある庭へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、小屋は外したな。」

 

 庭についてから雨が入ってこないように建てた小屋を解体して地下への階段をむき出しにする。

 

 下を覗きこむと1匹のヴェノムが階段を登ろうとしてたが1段目と2段目が溶けていて上がれないようだ。

 

 …このヴェノムは恐らく。

 

「クレベストン、また会ったな。」

 

 おじいちゃんがしみじみと言った。

 

「クレベストンさん…。」

 

 さっきまではゾンビとはいえ人の形はしていたのに。

 

「ここに落とせばいいんだな。」

 

 他に集まっていた人が言う。

 

「あぁ、こんなときのために中は結構深く広く造ってある。村にいる分だけでも十分に入る筈だ。」

 

「よし、手分けしてヴェノムを誘い込もう。」

 

 みんな積極的に動いてくれる。

 

 もうこれしか手がないと分かると必死だ。

 

「カオス俺達も行こう!」

 

 ウインドラが駆け出していった。

 

 僕も出来ることをやらなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからみんなで動いたら結構早くに終った。

 

「もう村の中のヴェノムは粗方片付いたみたいだ。」

 

 地下倉庫はもう階段自体が溶けてなくなり階下の方にはまるで井戸の水のようにヴェノムがひしめいている。

 

「まだ結構入るな。これからどうすればいいんだ?」

 

「奴等は他にエサがなければそのうち溶けきって消える。後は時間を待つしかねぇ。今のうちに腹減ってるやつは飯でも食っとけ。」

 

 どうやら一応の安全は保てるようだ。

 

 村はどうなるかは分からないが生き残れただけでも幸いだろう。

 

 後は、

 

「森にどのくらいヴェノムがいるかが気になるな。逃げてった奴等がそのまま引き連れて逃げ延びてくれればいいが…」

 

 先に森の外へと向かった人達が今どうしてるかがこれからを左右するらしい。

 

 無事に逃げてくれればいいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウァァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調度森の人たちのことを考えてたら森の方から声がした。

 

 見れば先ほど逃げていった人達だ。

 

「…どうやら無事だったみたいだがな、ヴェノムまで連れてやがる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァ!!も、森に逃げたらヴェノムが…!!」

 

「お前ら!!さっきはよくも!」

 

「し、仕方ないだろ!生き残るのに必死なんだよ!」

 

「まぁ待て待て。で状況は?」

 

 おじいちゃんが冷静に聞き出す。

 

「森に逃げたら他のモンスター達が襲ってきて、なんとかかわしてきたんだけど、攻撃を受けた奴等がヴェノムにぃ…!」

 

「なるほど、ヴェノムが出たからもしやとは思ったんだがな。そこまで酷くなってたのか。」

 

「アルバさん!この森はもう…!」

 

「あぁ、言いたいことは分かる。既に奴等の縄張りになっちまってるだろ?」

 

「!!アンタまさか知っていて俺達を止めなかったのか!?」

 

「何言ってんだお前ら!お前らが勝手に逃げ出したのが悪いんだろうが!アルバさんは具体策を用意していたのに!」

 

「何だとこのぉッ!」

 

「よせ。仲間同士で割れてる場合じゃねぇだろ。責任の擦り付けあいがどんな解決策に繋がるんだよ?」

 

「「……。」」

 

「俺も全てを把握してる訳じゃねぇ。もしかしたら森に逃げたやつらがそのまま脱出出来てたらその後に続いて俺達も逃げれた筈だしな。それができなくなった。それが分かっただけでも進展だ。」

 

「ではこのあとは?」

 

「俺と一緒に残ってたやつらは分かるな?森にどれだけヴェノムがいるか分からねぇ。あとヴェノムがどのくらいいるのか判断つかねぇが落とせるだけ落とすぞ。」

 

「落とす?」

 

「アルバさんとこの倉庫に落として消えるまでやり過ごすんだよ。」

 

 

 

 凄いなおじいちゃんはさっきまでの険悪なムードからもう皆をまとめている。

 

 ブランクがあるとはいえこれが戦場で戦ってきた戦士のカリスマ性なのか。

 

 ザックに勝った程度の僕ではまだまだ遠く及ばないなぁ。

 

 おじいちゃんについけいけば村のみんなは大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「森の中に入るとヴェノム化してねぇゾンビにやられる!ここは奴等が出てくるだけ出てきてから誘き出せ!」

 

 僕達の長い長い籠城戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今どれくらい入った?」

 

「最初の村の中にいた両の10倍は落ちました。」

 

「あとどれくらい入る?」

 

「入っても後20体くらいが限界かとこれ以上落とすと溢れてきそうです。」

 

「そうか、多分まだ森にいる奴等、100体はいると思うんだがな。」

 

「…そんなに!?」

 

「この村なんざ森のほんの少し程度の広さしかねぇんだ。そのくらいは想定しとかねぇとあとで痛い目見るぞ?」

 

「ではどうすれば?」

 

「籠城戦は気長に待ってるだけじゃねぇよ。マナが回復してきたやつはこことおんなじように穴を掘れ。」

 

「はい!」

 

「回復しきってないやつは飯の確保と森の見張りだ。交代制なんてしてる暇はねぇからな。ファーストエイドで騙し騙しやってくぞ。」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからどれくらいたったのだろうか。

 

「「「「「……… 。」」」」」

 

 皆はとっくに疲労が限界だ。

 

 ヴェノムは時間問わずに責めてくる。

 

 1人犠牲になるだけでその補充はとてつもなく皆にのし掛かる。

 

 それが分かっているから皆も誰も犠牲にしないよう努力はする。

 

 けどそれもそろそろ限界だ。

 

 

 

 

 

「もうそろそろいなくなったんじゃないか?」

 

 誰かがそう言った。

 

「……確かに最後にヴェノムが来てから半日はたってる。」

 

 皆ももう終わりたがってる。

 

 僕ですらそれを願っている。

 

「まだだ。この程度の筈がねぇ。」

 

「でもアルバさん!もう村にはこれ以上ヴェノムを入れられるような穴は…。」

 

「……。」

 

 ヴェノムを落とす穴は村の中に10は出来ていた。

 

 どれももう満杯まで来ている。

 

「俺が…見てきましょうか?」

 

「…まて早まるな。」

 

「でも誰かが確認しないと!」

 

「……だったら俺がいく。」

 

「アルバさんが…?」

 

「俺だったら他の連中よりかはヴェノムに精通している。奴等が何処にいるか探すんなら俺が直接行くのが効率的だろ?」

 

「そうですが…」

 

「…ちょっくら行ってくるぜ。」

 

 そう言っておじいちゃんは森に向かう。

 

「おじいちゃん!」

 

「カオス。」

 

「おじいちゃんだけだと心肺だよ!僕も行くよ!」

 

「ダメだ。」

 

「なんで!?」

 

「…後ろを見てみろ。」

 

 おじいちゃんに言われて後ろを見ると

 

「「「「「………。」」」」」

 

 村の皆が僕らを見ていた。

 

「アイツら俺達が行くと全員付いてくるぞ?お前は俺の家族だからな。」

 

「え?」

 

「俺達がそのまま逃げちまうか疑ってんだよ。お前と俺が一緒にいけばそのままふけちまうかもしれねぇからな。」

 

「……。」

 

「皆助かりてぇんだよ。誰を差し置いてもな。なら家族がいる俺がお前を置いていけば俺は戻ってこなければならない。分かるなカオス。」

 

「…でも「だったら俺が一緒に付いていくよ」」

 

「俺だったら子供だから大して村の皆からは注目されないだろう?アルバさんが心配なら代わりに俺がいくよ。」

 

 そういってかって出たのはウインドラだった。

 

「ウインドラ…。」

 

「どのみち誰かが見に行かなければならない。けど安全とはいえない森を皆で見に行って全滅を避けたい。なら確実に戻ってくる人と村の戦力外の俺なら皆も納得だしカオスもそれでいいだろ?」

 

「…。」

 

「俺がアルバさんを守るよ。だから安心して。」

 

「…分かった。」

 

「ありがとうカオス、じゃぁ行きましょうアルバさん。」

 

 そう言っておじいちゃんとウインドラは森中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅すぎないか?」

 

「森に入ってから大分たつ。何かあったか。」

 

「まさか逃げたんじゃ…」

 

「けどアルバさんとこの孫が…」

 

「魔術も使えないガキなんてほっといて逃げるだろ…」

 

 大人達が口々に好き勝手なことを言う。

 

 そんなわけないだろう。

 

 引退したとはいえおじいちゃんは騎士だ!

 

「……。」

 

 それをこいつらに言ってやりたい。

 

 

 

 言ってやりたいけど我慢だ。

 

 ここで僕が言ったところでこいつらは信じない。

 

 なら僕がおじいちゃんの信用のためにここで大人しく待っているしかない。

 

 煽ったところで暴動の誘発になるだけなら僕が我慢すればいい。

 

「カオス…。」

 

 村長が僕をよぶ。

 

「こんな子供でも立派に使命を果たそうとしてるのに…何も出来ない自分が心苦しいよ。」

 

「…。」

 

「アルバは必ず戻ってくる。今はあっちの方で休んでおけ。お前はよくやってるよ…。」

 

「…。」

 

 よくなんてやってない。

 

 僕は子供だからって逃げ出そうとした弱虫なんだから。

 

 人より出来ない僕は誰よりも頑張らなくちゃいけなかったのに!

 

 

 

 

 

 

 

 

ガサッ!

 

 

 

 

 

 

「!!何かいるぞ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声で皆構える。

 

 そして

 

「ハァハァ…!!」

 

 出てきたのはウインドラ1人だった。

 

「ウインドラ!大丈…」

 

「待て!ソイツ感染してるかもしれないぞ!」

 

 僕はその肥を無視しウインドラに駆け寄る。

 

「ウインドラ!何があったの!?おじいちゃんは」

 

「ハァ…ハァ…アルバさんは…」

 

 なかなか息が調わない。

 

 余程急いでここまで来たようだ。

 

「ウインドラ落ち着いて!ゆっくりでいいんだ。」

 

 僕の声を聞いてウインドラが少しずつ落ち着いていく。

 

 

 

「アルバさんと2人で森の奥まで行ったんだ。そしたらそこにここよりも更に多くのヴェノムがいたんだ。俺はそれを見て驚いて逃げてきたんだけど途中アルバさんが囮になるって言ってはぐれたんだ。」

 

 

 

「何だって!?」

 

「ここより更に多いだと!?」

 

「そんな…」

 

「じゃぁ、今まで俺達がやってきたことは無駄だったのか…?」

 

「せっかくここまできたのに…まだそんなにいるのか…。」

 

 大人達が次々と絶望を吐露していく。

 

「もう無理だよ…。」

 

「マナはとっくの昔に尽きている。」

 

「俺達はあの化物に喰われるしかないのか…。」

 

「なんか虚しくなってきた…。」

 

「どうせ頑張ってもあの化物共が押し寄せてお仕舞いだよ…。」

 

 皆連日の奇襲で疲れはてている。

 

 気力も体力も限界をとうに越えている。

 

 そこに来てこの報せはあまりにも酷だった。

 

「俺……森に行くよ…。」

 

「俺も…」

 

「私も…」

 

 どうせこのまま抵抗したところで結局喰われるのなら今楽になろう。

 

 村人達からはそんな空気が漂ってきた。

 

 

 

 

 

「ウインドラ!おじいちゃんはまだ諦めてないんだろ!?」

 

「カオス…。」

 

「諦めてないんだろ!?」

 

「う、…うん。」

 

「だったら僕が諦めるわけにはいかないじゃないか!」

 

 おじいちゃんはここまで皆のために体を張って戦ってきたんだ!

 

 最初はクレベストンさんを刺したり、取り巻きを斬ったりして驚いたけど、おじいちゃんはずっと皆のためだけに動いてたんだ。

 

 今ここでコイツらを死なせたら汚れ役をかって出たおじいちゃんの努力が無駄になる!

 

 

 

「ウインドラ!僕はおじいちゃんを探しに行くよ!」

 

「か、カオス!?」

 

「ウインドラはそこのソイツら繋ぎ止めといて!」

 

 そう言って森へと駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんならなんとかしてくれる。

 

 おじいちゃんなら何か策をくれる。

 

 おじいちゃんは僕にとって最高の騎士だから。



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歴史の始まり

 騎士を目指す少年カオスは村を襲撃するモンスター、ヴェノムに立ち向かう。

 その戦いは数日にもおよび村人も疲れが見えてくる。

 そんなときアルバはウインドラとともにヴェノムの潜む森へと向かい様子を窺いに行くが焦る村人たちを留めるためカオスは1人森へと突入するのだった。


 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、!!」

 

 ここ連日は常に走りっぱなしだ。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、!!」

 

 心の中ではもう走ることを止めたくて仕方ない。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、!!」

 

 だけど今走らないと取り返しのつかないことになる気がする。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、……ハァ、!!」

 

 だから辛くても泣きたくても走ることをやめられない。

 

 止めたら後で泣くことになると思うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~、ついてねぇなぁこりゃぁ。」

 

 アルバは1人で愚直を溢す。

 

「かっこつけて出張ってみたがアイツら行かせないでよかったぜ。」

 

 安心したかのようなセリフを吐くが内心は途方にくれている。

 

「おかげでこんな化物に出くわしちまうんだからな…。」

 

 

 

 

 

 

 アルバの目の前には6メートルはある巨大なヴェノムがいる。

 

「こいつぁブルータルでも感染しちまったか?」

 

 このヴェノムを村に連れていく訳には行かない。

 

 ただでさえ村人達は疲れている。

 

 これ以上は穴は掘れないだろう。

 

 そこに来てこの巨大ヴェノムである。

 

 恐らく今まで掘らせていた穴では落としたとしてもこいつは出てくる。

 

「ったく、こういうやつが出てくることなんざ予測はついてたんだがなぁ。」

 

 今度こそお手上げである。

 

「すまねぇなぁ、カオス。ここで詰まされたらしい。」

 

 今までは村の中の使えるものを全て使って凌いできたがこのヴェノムは何をしても防ぎようがない。

 

 目の前の怪物の触手がアルバに迫る。

 

 

 

「………昔の夢なんざ見るもんじゃねぇな。諦めていたのによぉ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじいちゃん!」

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

ジュッ!

 

 

 

 

 

 横から別の何かがぶつかってきた。

 

 それによってアルバは触手をかすらせる程度ですんだ。

 

 

 

 

「何やってんだよおじいちゃん!避けろよ!?」

 

「カオス…。」

 

 そこには村に置いてきた筈の孫が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でこいつは何!?」

 

 カオスは祖父を襲おうとしていたヴェノムを見て苛立ちながらも問う。

 

「…恐らく、森の主にでも感染しちまったんだろう。ここまででかいのはそうとういろんな奴取り込んでるぞ。」

 

「森の主!?そんな奴がいたの!?」

 

「いたんだろうな。殺生石に守られて知ることもなかったが。」

 

 そうか、そんな奴がいたのか。

 

「出切ればヴェノムに感染する前に見たかったな。」

 

「バカ野郎…。そしたらこんなノロマじゃねぇかもしれねぇぞ?お前なんかすぐ追い付かれてパクっと丸飲みコースだ。」

 

「嫌な言い方するなよ…。」

 

 こんなときに冗談言う余裕はあるのか。

 

「こいつはどうすればいいの?」

 

「…俺1人だったら諦めてたんだがな…。」

 

「え?なに?」

 

「何でもねぇ。諦められねぇ理由が出来ちまったじゃねぇか畜生!」

 

「諦めさせる訳ないだろ!死ぬ気で考えやがれクソジジィ!」

 

 調子に乗って暴言を吐く。

 

 おじいちゃんが無事でよかった。

 

 そのことだけでここまで走ってきてよかった。

 

 後悔しないですんで本当によかった。

 

 

 

 

 

 

「カオス!こんなときになんだが俺はお前に戦う時いつも何に気を付けさせている?」

 

「本当にこんなときにだな!冷静に己の立ち位置を把握して状況を判断することだろ!?」

 

 急に日頃の訓練のお復習してなんなんだ。

 

「そうだいつもいつも言い聞かせてるんだがボアと同じで猪突猛進なお前には学習してもらえなくて手を焼かされてるわ。」 

 

「説教は後にしろよ!」

 

「バカ野郎今から大事な事言うんだから黙って聞いとけ!」

 

 なんなんだよ、何が言いたいんだ。

 

「このデカイの見てどう思う?」

 

「どう思うってデカイとしか…。」

 

「そうだデカイな。こいつ、村の穴に入ると思うか?」

 

「…どうだろう。」

 

「このサイズは流石に無理だ。穴から出てきちまうぞ。」

 

「じゃぁどうすればいいんだよ!」

 

「考えてみろ!」

 

「考えてみろって…」

 

 僕はコイツらのことを最近初めて知ったんだぞ?

 

 分類的にはスライムなんだろうが普通のスライムと違って水は押し飛ばせるだけで効かない、風で切っても再生する、地で突き刺しても同じ、雷と火を受け付けない液状の体。氷で冷やしても即熔ける。

 

 魔術自体が効かないのか。

 

 なら物理攻撃は……いやもっとダメだろう。

 

 斬った剣が溶けるのは確認済みだ。

 

 ましてや他のものを使ったところで同じ結果だろうな。

 

 ならどうすればいい。

 

「……。」

 

「そんなに難しく考えるな。何もこっちの攻撃が全てじゃねぇ。相手の習性が弱点に繋がることもあるんだ。」

 

 相手の習性?

 

 スライムであらゆる生物に感染して増殖してとても強い酸性の体で魔術が効かない物理攻撃が効かない獲物に真っ直ぐ突き進むため誘導しやすい他には分裂するくらいしか…………分裂!?

 

「そうか分裂か!?」

 

「よし、先ずは及第点だな。」

 

「それって何点なの?」

 

「ヒント言うまでこんな簡単なことに気付かなかったから30点だな。」

 

「低くない?」

 

「これから上げるんだよ。じゃあ、分裂させるにはどうすればいい?」

 

「どうすればって…」

 

 どうすればいいんだ?

 

 こんなデカイんじゃぁ風で斬ったりも出来ないし…

 

「木に誘導してぶつけるとか?」 

 

「木が溶けて終わるだけだろうな。」

 

 じゃあどうすればいいんだ?

 

「まだまだお前には戦眼は早いってこったな。とりあえず今回は俺が答えてやる。次からはお前が1人で考えてみろよ?」

 

 どうしたんだ?

 

 こんな状況で勉強している余裕があるのか?

 

「カオス、こいつを引き付けてろ。その間に俺がストーンブラスト、アクアエッジ、アイシクルで土の山を作る。」

 

「土の山!?」

 

「コイツらは最も近くにいる奴に直進していくんだ。そこを利用してコイツには俺の作る山で自分で自分を斬ってもらうのさ。」

 

「でも山が溶けたりは…」 

 

「それで溶けきってたらコイツらはもとよりこうして地面を這って移動すらできねぇよ。」

 

 確かに言われてみればそうだ。

 

「一応は軽く地面も溶けてはいる。だが原理は分からねぇが生物に比べてコイツの酸が大して働いてないようにも見える。意識的にか無意識か使う酸を分けてるんだ。」

 

 そんなとこまで観察するとは…。

 

 僕は落とすことしか頭になかった。

 

 おじいちゃんへの道は果てしなく遠いことをまた改めて認識し直した。

 

「始めるぞカオス!」

 

 僕達はそれぞれの役割を果たすことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、ハァ、ハァ、これくらいでハァ、いいだろう…。」

 

 僕達はあれから作戦通りこなし、ジャイアントヴェノムを4つまで分裂させた。

 

「このくらい分裂させとけば後は大丈夫だね!おじいちゃん!」

 

「あぁ、ハァ、ハァ、そうハァ、だな…。」

 

「おじいちゃん?」

 

 疲労困憊な時に偵察と魔術の連続使用で苦しいのだろうか?

 

「ハァ、ハァ、……ッフゥー、大丈夫だ。コイツら連れて…村へ戻るぞ…。」

 

 息を調えてはいるが顔色は優れない。

 

 早く休ませてあげなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからしばらくして村につく。

 

「カオス!アルバさん!」

 

 ウインドラが出迎えてくれた。

 

 

 

「おいアイツら帰ってきたぞ…?」

 

「ヴェノムも一緒だ。早く空いた穴に落とせ!」

 

 村人達もなんとか気力を繋いだらしい。

 

 僕たちの代わりにヴェノムを引き付けてくれた。

 

 正直助かる。

 

 村に付いた途端緊張の糸が切れたのか今にも倒れそうだ。

 

 

 

 

 

 

ドサッ

 

 

 

 

 こんな風に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森で1晩中走り回ったおじいちゃんと僕は村に付いてから直ぐにでも休もうと村の中に入ろうとした。

 

 だが村に入る直前でおじいちゃんが倒れた。

 

 体力の限界が来てしまったのか。

 

 

 

 

「おじいちゃん!?」

 

「アルバさん!」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」

 

 僕は倒れたおじいちゃんの体を抱き起こす。

 

 だが

 

「あつっ…!」

 

 抱き起こそうとした体からはとても人の体温とは思えないほどの熱が伝わってきた。

 

 なんだこれはおじいちゃんの体で何が起こっているんだ?

 

 

 

 まさか

 

「ヴェッ…ヴェノムに感染してるんじゃないか!?」

 

 村人の誰かがそう言う。

 

「ソイツから離れろ!お前らも感染するぞ!?」

 

 

 

 そんな筈はないだろう。

 

 おじいちゃんはずっと僕と一緒にいたんだ。

 

 おじいちゃんがヴェノムに触ったとこなんて見てないぞ!?

 

 触ったとこなんて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのとき…!?

 

 僕がおじいちゃんを突き飛ばしたときまさか触っていたのか!?

 

 けどあの後特にそれらしい様子を見せなかったから触れなかったんだと思っていたのに何で!?

 

「ハァ、ハァ、カオス……俺から…ハァ、離れろ…。」

 

 おじいちゃんが今にも死にそうな声で言う。

 

「待って!嫌だよおじいちゃん!何でだよ!?さっきまで元気だったじゃないか!?」

 

「アルバさん!?しっかりしてください!貴方からはまだ父さんのことを聞いてないのに!」

 

「ハァ、ハァ、悪いなウインドラ…ハァ、ハァ、今の俺がそのままハァ、ハァ、ラコースそのものだったよ…ハァ、ハァ、。」

 

「!!」

 

「おじいちゃん!風邪何だろう!?ただ疲れて倒れただけなんだろう!?早くベッドに連れていくからね!?」

 

 僕はおじいちゃんに肩を貸して連れていこうとする。

 

 ウインドラも反対側から手伝ってくれる。

 

 

 だが

 

「離せって……ハァ、ハァ、言ってんだろ…。」

 

 

 

 

 

ドンッ

 

 

 

 

 

 おじいちゃんに僕とウインドラは突き飛ばされてしまう。

 

 

 

ドサッ

 

 

 

 そして再びおじいちゃんが倒れる。

 

「おじいちゃん!何するんだよ!?早く休もうぜ!?意地張ってないでさ!?」

 

「……。」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。」

 

「そんなに息があがるほど疲れてんなら部屋でグッスリ眠れよ!連れてくからさぁ!」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。」

 

「別に風呂入ってないから臭うとか気にしない増加僕は!」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじいちゃん…?」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな…。

 

 どうしてだよ…。

 

 あれほど後悔しないように頑張ったじゃないか。

 

 子供だから出来ないからって言い訳しないって。

 

 僕は人に比べて出来ないことが多いから誰よりも頑張らなくちゃって。

 

 おじいちゃんを迎えに行ったのだって必死だったんだ。

 

 

 

 どうしてあのとき…後1秒早く助けられなかったんだ。

 

 どうしてあのとき…後1秒が届かなかったんだ。

 

 僕が……いろいろ足りないせいでおじいちゃんは……………。

 

 

 

 こうして涙が出たところで何も戻りやしないのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、カオス。」

 

「!!」

 

 おじいちゃんが僕を呼ぶ。

 

「おじいちゃん!」

 

「ハァ、ハァ、気に病むなよ…?これは別に…ハァ、ハァ、お前が悔やむ必要なんかねぇんだ…ハァ、ハァ、。」

 

「だけど!」

 

「ハァ、ハァ、本当はあのときお前に助けられなかったら……ハァ、ハァ、あの場で……俺は終わってたんだ。ハァ、ハァ、」

 

 え?…

 

「あの時点で俺はなハァ、ハァ、…生きる自信を無くしちまってたんだハァ、ハァ、」

 

「……。」

 

「あんなハァ、ハァ、バカでけぇハァ、ハァ、ヴェノムを見て俺はぁっ…ガハァ!!」

 

 おじいちゃんが血を吐く。

 

 その血からは蒸気が沸く。

 

「ハァ、ハァ、お前が現れたからハァ、駆け付けてくれたからハァ、ハァ、ハァ、ハァ、助かった…!」

 

 なんだ?

 

 僕はただ駆けつけただけだ。

 

 何かしたわけじゃない。

 

 むしろ何も出来なかったのに。

 

 こうして目の前で苦しむおじいちゃんに何もしてあげられないのに。

 

 

 

 

 

 

「俺はハァ、ハァ、騎士になりたかったんだ…ハァ、ハァ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 騎士…?

 

 突然何を言って…?

 

 おじいちゃんは騎士だったのではないのか?

 

 

 

「ハァ、ハァ、当然、王都でハァ、ハァ、騎士には、慣れたんだハァ、ハァ」

 

「俺はハァ、ハァ、昔から、ある騎士に憧れてハァ、ハァ、それを目指していたハァ、ハァ、。」

 

「ハァ、ハァ、フぅッ、グゥゥゥ!!その騎士は俺の、ハァ、ハァ、師匠でなハァ、ハァ、いろんなことを教えてもらったハァ、ハァ。」

 

「そのうちぃ…ハァ、…ハァ、いろんな武勲を、ハァ、ハァ、取ったりして順調に、ハァ、ハァ、進んでたんだ。ハァ、。」

 

「だが…ハァ、ハァ、あるときからハァ、ハァ、ヴェノムが溢れだしてハァ、ハァ、街や村をハァ、ハァ、救えねぇ時があった。」

 

「ハァ、ハァ、悲しくてなハァ、ハァ、俺の力が足りないばっかりにハァ、ハァ、死なせちまってハァ、ハァ」

 

「そして、ハァ、ハァ、俺は…ハァ、ハァ、盾となって臣民を守るとハァ、誓ったのに、ハァ、」

 

「ハァ、いつの間にかハァ、ハァ、感染した臣民をハァ、斬ることの方がハァ、多くなった。」

 

「ハァ、ハァ、俺は英雄だハァ、なんだと持て囃されていたが実際はハァ、ハァ、その英雄と言ってくれるハァ、ハァ、臣民をハァ、斬り殺す殺人鬼ハァ、ハァ、だった。」

 

「ハァ、ハァ、俺は皆ハァ、ハァ、の期待に応えたかったハァ、ハァ、皆の信用をハァ、ハァ、裏切りたくなかったハァ、ハァ、。」

 

「ハァ、ハァ、そうしているうちになハァ、ハァ、昔なりたかったハァ、ハァ、俺がハァ、俺の中からいなくなってたハァ、ハァ、」

 

「何もかもハァ、虚しくなってなハァ、ずっと逃げることばかり考えてたハァ、ハァ。」

 

「悪かったなハァ、ハァ、貴族だったこと黙っててハァ、ハァ、俺はこんな半端者だからよハァ。」

 

「ハァ、ハァ、名前の件だってそうだ。ハァ、ハァ、嘘の名前で通してハァ、ハァ、」

 

「俺はハァ、昔の自分とハァ、ハァ、別人になりたかったんだハァ、ハァ。だから名前をハァ、ハァ、変えようとした。」

 

「ハァ、けどもし名前を変えたことをハァ、ハァ、昔の俺を知ってるハァ、ハァ、奴が知って訪ねてきたらハァ、ハァ、思うと怖くて、変えきれなかった。」

 

「結果ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、本名を弄ったハァ、ハァ、だけの偽名になったんだ。」

 

「ハァ、ハァ、なんてことはない!只の臆病者を100年続けてたんだよハァ、アッハハッハッハっ!」

 

「お前がハァ、俺に憧れて騎士をハァ、目指すっつーんならハァ、ハァ、ハァ、止めとけ…。半端者が移る。」

 

「ハァ、ハァ、だがら!ハァ、お前はッ!ハァ、そのままのお前になれ!他の誰でもない!お前だけのその真っ直ぐなお前に!」

 

 

 

「おじ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前なら世界を、……バルツィエを変えられるかもな……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんは僕に僕が嘘だと気付かない嘘をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大抵はそのあと他の人からそれが嘘だと知らされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前の件だってそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まんまと今までの人生まるごと騙された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これも嘘だったらよかったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして世界は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなにも僕に冷たいんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして世界は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなにも僕を孤独にするんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな世界に生まれて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は何をしたら幸せになれたんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウインドラが何か言ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうでもいいや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほっといてくれよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕のことなんか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕とおじいちゃんを暗い世界に閉じ込めるのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けどもういいや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このまま溶けて消えてしまいたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな僕とおじいちゃんに残酷なこの世界から

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 消えて、しまい、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『また…ヴェノムが暴れだしたようじゃな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『また…ワシが屠らねばならぬのか。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都の某所

 

『……何のようだ?』

 

「よう、久しぶりだな、元気にしてたか?」

 

『……』

 

「こっちは今明け方なんだがそっちはどうだ?」

 

『…こちらも先程朝をむかえた。』

 

「そうか、前は大分ずれてたのにな。」

 

『…そんなことを確かめるために態々連絡をよこしたのなら切るぞ。』

 

「慌てんなよ、せっかちな弟だな。」

 

『……』

 

「私達が探していたものが見つかったぞ。」

 

『!』

 

「どうやらこっちの方にいるみたいだ。それも私の国にな。今朝がた反応があった。」

 

『……』

 

「永年探していたものが見付かったのに無愛想なやつだなお前は。」

 

『…今どこにある?』

 

「これから捜索させるからそれまで待っとけよ。それかこっちに来ねぇか?」

 

『…お前が持ってこい。』

 

「どんだけ偉そうな弟何だろうな姉に向かって持ってこいとは。」

 

『……』

 

「これでようやく計画を前進させられるんだ。有り難く思えよ?」

 

『……取り逃がすなよ。』

 

「分かってるよ、ずっと探していたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの()()()の精霊をな。」

 

 

 

 

 

 

 

 



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開幕

 騎士を目指す少年カオスは村を襲うモンスターヴェノムに立ち向かう。

 森の奥で巨大なヴェノムを分裂させることに成功したが祖父アルバが感染してしまい命を落としてしまう。

 その後カオスは…。


かつて、

 

世界は高度な文明を築いた1つの国があった

 

しかし、文明の発展はマナの貧窮を招き

 

人々が力でマナを奪い合う戦乱の時代が始まる

 

争いを望まぬもの達は安寧を求め天を目指した

 

 

 

 

そして神の怒りに触れてしまう

 

怒れる神は雨を降らせ大地を引き裂き国を滅ぼした

 

人々が神の存在を忘れるとき

 

神は災厄をもってその姿を再び現すだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神の怒り、か

 

 世界を壊したのは人でもなく国でもなく自然ということなのだろう。

 

 人にはそれぞれ踏み出していい世界の限界がある。

 

 それを勘違いして自らの領域を広げすぎた結果足元を掬われた。

 

 このお話は、人が何かを始めるとき自らを見つめ直せ。とどかぬものはとどかない、と伝えたいのかもしれない。

 

 確かに人の欲は果てしない。

 

 手を伸ばした指先までが世界だというのにその遠くが欲しくなる。

 

 限界を越えて得られるものなどまやかしに過ぎないのに。

 

 世界は広がらない、始めから長さは決まっている。

 

 限界を越えた気になるのはそれまでが本当の限界にすら達してなかっただけ。

 

 人が己よりも外の世界にいるのならその世界に己も行きたいと憧れ、願い、手を伸ばす。

 

 そうして掴めるのは指先から内側の世界だけ。

 

 指先から先の異世界はずっと異世界のまま。

 

 人はそれを知って現実を目の当たりにする。

 

 

 

 随分と子供に厳しい話だな。

 

 教えたところで納得する子供などいるのだろうか。

 

 少なくとも自分は納得しない子供だったろう。

 

 

 

 今では自らの世界を悟ってしまったが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 どうやら自分は眠っていたみたいだ。

 

 子供の頃に読んだことのある懐かしい本を見付けたので手にとったとこまでは覚えている。

 

 あの頃は何のことだかサッパリだったが今になって成熟してきた価値観で読むと新たな側面が見えてくる。

 

 この本が伝えたいことは理解した。

 

 要するに、あまり調子に乗ると思わぬしっぺ返しにあうぞ。分不相応を弁えろ!身の程を知れ、ということだと思う。

 

 

 

 言葉にしてみるとなるほどその通りだと自分の中で納得する。

 

 子供に読ませるにしては難しいような気がしたがこの本は今こうして読むことによってその内容が現れてくるのだ。

 

 一度目は通過儀礼、二度目に理解する。

 

 そんな伝え方があるんだな、勉強になる。

 

 この本を手に取ったとき妙に関心を惹くと思ったらそういうことか。

 

 改めて読んでしっくり来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさに僕のことだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス」

 

 

 

 そういえば誰かの声がして起きたんだった。

 

 ここ最近誰とも会ってないから気のせいだと思って放置していた。

 

 部屋のベッドから起きるとそこには

 

「おはようカオス。」

 

 幼馴染みのミシガンが立っていた。

 

「おはようミシガン、久し振りだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、探してたんだよ?前に住んでた家にいないからどこに行ったんだぁーって。そしたら違う人の家で寝てるし。」

 

「ゴメンゴメン、なんかあっちも良かったんだけどこっちの人の家も気になってね。」

 

「そうやってフラフラしてると癖になるよ?早く直さないとそのうち入っちゃいけない家まで入っていきそうで心配だよ。」

 

 相変わらずミシガンは表情豊かで可愛いな。

 

 そのうえ世話焼きなとこもあるようで僕の様子もこまめに聞いてくるし。

 

 

 

「そういえばミシガンは最近どう?」

 

「最近?ん~と子供たちの教育任されちゃっていろいろと苦労してるってとこかな~。」

 

「みんなの先生は大変だねぇ。」

 

「そう思うんならお手伝いに来てほしいんだけど。」

 

「僕は…僕の仕事があるから。」

 

「…そう。」

 

「アイツとは連絡とってるの?」

 

「うぅん。あれから何の連絡もないよ。」

 

「アイツのことだから元気ではいるんだろうな。」

 

「あの人のことなんて知らないよ。私達を置いていっちゃったんだし。」

 

「…」

 

「今はカオスがいるから平気。淋しくないよ」

 

「……そろそろ仕事に行くよ。」

 

「また…行くの?一人で…。」

 

「そうだよ。ミシガンは先に帰ってて。」

 

「……私も一緒に行くよ!私ならファーストエイドが使えるから…。」

 

「…ゴメン連れていけない。」

 

「…どうして。」

 

「ミシガン達を守るのが僕の仕事だから。」

 

「そうやって一人で抱え込まなくてもいいのに!」

 

「僕の責任だから…。」

 

「けど!カオス一人じゃ何かあったとき…。」

 

「大丈夫だよ。昔ほど弱くはないし身の程を弁えてるつもりだよ。」

 

「カオス…。」

 

「それにまた昔のようにヴェノムが現れたら戦えるのは僕だけだからミシガン達を捲き込みたくないんだ。」

 

「…」

 

「村の皆がヴェノムにならないように僕がしっかり森を見張っておかないとね。」

 

「……いつまでこんなことを続けるの?」

 

「…僕の責「いつまでこんなところでこんなことを続けるの!?」」

 

 

 

「もう十年だよ!?あれから十年!あの事件からみんなおかしいよ!?何でカオスが責任をとらないといけないの!?何でカオスは一人で戦い続けてるの!?何で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオスはこんな誰もいない捨てられた村で一人で住まなくちゃいけないの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここには僕が自分で来たんだ。」

 

「嘘!!知ってるもん!あの事件の後みんながカオスを責め立てて追い出したんでしょ!?」

 

「そんなことは」

 

「あったんでしょ!!そんなことが!!むしろカオスはみんなを救おうとしてたのに!!」

 

「僕はただ走り回ってただけだよ。」

 

「そんなことない!!現に今ああしてミストの村があるのはカオスがヴェノムを追い払ったからだよ!?」

 

「元々を辿れば僕のせいなんだ。それを村のみんな知っているから僕は今ここにいる。ここに住んでるのを黙認してもらってるだけでも満足だよ。」

 

「それだって!物心つく前の子供のときの話でしょ!?そんなのカオスを見ていなかったカオスの「ミシガン!」!!」

 

「父さんと母さんの悪口は…やめてくれ。父さんと母さんを殺したのも僕なんだから二人に責任はないよ。」

 

「…ゴメン。」

 

「いいんだ。」

 

「……本当にいつまでこんな生活を続けるの?」

 

「…」

 

「事件からミストの村が王都に見つかって最近までよく騎士が出入りするようになったの…。」

 

「…」

 

「王都ではヴェノムに関する研究が進んでてヴェノムを街や村に寄せ付けなくする封魔石って言うのが開発されててそれがあるところはヴェノムは近づけないんだって…。」

 

「…」

 

「今度それがミストにも置かれることになってヴェノムによる被害は心配なくなるの。王国の統治下には戻っちゃうんだけど…。」

 

「…」

 

「……だからカオスも村に。」

 

「…ゴメン、出来ないよ。」

 

「…理由を聞いてもいい?」

 

「………子供が犯したとはいえ罪は罪だ。罪は償わなければならない。」

 

「けどヴェノムを心配する必要性はもう!」

 

「それでもだよ。それでも僕はここで村を守らなくちゃならない。もし王都の技術の抜け穴でもあったら大変だから。それに罪は誰かに洗い流されるものじゃない。例え安全が保証されてても僕はここにいるべきなんだ。」

 

「…その罪は一体いつになったら綺麗に洗い落とせるの?」

 

「僕が死ぬまでかな。村のみんなが成長して、ミシガンが他の誰かと幸せになってずっと平和に過ごせるときになるまで…。」

 

「…ッ!!」

 

 

 

パチンッッ!!

 

 

 

「…」

 

「アンタ、自分に酔いしれるのもいい加減にしなさいよ!!そんな自分が与えたみたいな平和を生きてくれなんて言われても大きなお世話よ!!

 

 カッコつけてるつもり!?そんなにカッコつけたいならこんなところで一人で黄昏てないで堂々とみんなにアピールすればいいじゃない!!

 

 アンタ昔騎士になりたいって言ってたよね!!だったら今度ミストが統治下になったら騎士団の募集に応募して騎士になんなさいよ!!

 

 そんなに罪が気になるんなら私がアンタを裁いてやるわ!!アンタは騎士になって居たくもないミストでこれからずっと村のみんなに監視されて凶暴な森のモンスターと戦って生きるの!!」

 

「…」

 

「今度また来るからそのときは全身縛り上げてでも連れていくわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…フフッ。」

 

 ミシガン、君のそういう悪い女になりきれないところが好きだよ。

 

 また泣かせちゃったな。

 

 いつも泣きそうになると感情を爆発させてから涙が目から落ちる前に帰るとこは可愛いんだけど。

 

 昔の舌足らずな人見知りしてた頃がひどく懐かしい。

 

 今では村長のようにハッキリとものを言う。

 

 

 

「年下の女の子に元気付けられてる場合じゃないな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストの森

 

 

 

「ガルルッ!!」

 

「ウウウッ!!」

 

「バウッ!!バウッ!!」

 

 森に入ってしばらくしたらウルフの群れに囲まれてしまう。

 

 全部だ六匹か。

 

「ガアッ!!」

 

 一匹が喉元目掛けて飛んでくる。

 

 それを後ろに仰け反りながら地に手をつき足でウルフの腹を蹴り上げる。

 

「ボフッ!?」

 

 飛んできたウルフが思わぬ反撃に奇妙な声をあげて飛んでいく。

 

 蹴り上げた足はそのまま正面から真後ろまで三六〇度円を描く。

 

「ガハアッ!」

 

「ブゥゥゥッ!」

 

 必然的に背後を取り囲んでたウルフ二匹と距離が縮まり二匹が襲いかかる。

 

「…」

 

 片方を避けもう片方の頭を掴んで思いっきり顎を地面に叩きつける。

 

「ギャンッ!?」

 

 悲鳴をあげて動かなくなる二匹目。

 

「バウッバウッ!!」

 

「グアウッ!!」

 

「ハフーッ!!」

 

「ォォォォッ!!」

 

 今度は残りの四匹が一斉に飛びかかる。

 

 それを

 

 

 

ズブンッ!!

 

 

 

 

 持っていた木刀で横凪ぎ一閃。

 

 木刀とは思えぬ切れ味でウルフ達が半分になっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルルルッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやらボスのご登場だ。

 

 毛並みがさっきの六匹とは少し違う。

 

 こいつは確かブラックウルフ。

 

「ブルァッ!!」

 

「!!」

 

バフンッ!!

 

 突如ブラックウルフがライトニングを放つ。

 

 それを僕はまともに食らった。

 

 そうそうモンスターが魔術を使ってくることはないため油断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが

 

 僕は無傷だ。

 

「バルルッ!!」

 

 こちらにダメージがないと分かるやブラックウルフが突っ込んでくる。

 

 やはりモンスター、力は脅威だが動きが読みやすい。

 

 ブラックウルフの飛び掛かりを難なく避けて真横から

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャヒアッ!?」

 

 ブラックウルフが地を這う衝撃波に切り裂かれて息絶える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 戦闘が終わってから先程倒したウルフ達を見ると体が溶けていった。

 

「どうやらヴェノムだったみたいだな。」

 

 この辺りにまたヴェノムが現れたようだ。

 

「村長に書き置きしておくか。」

 

 村長はミシガンと一緒で僕のことを理解してくれる人だ。

 

 村のみんなには隠れて村長と書き置きの手紙を村の入り口付近の場所に残してやり取りをしている。

 

 これを定期的に行っているため村の内省的なことは把握している。

 

「よし、今日はヴェノム狩りだな。」

 

 一晩中退屈はしない一日にはなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は昔、後天的にマナが薄れ魔術を使えなくなる病気にかかってた。

 

 

 

 一度でも魔術を使えば体内のマナが枯渇し死んでしまう奇病。

 

 

 

 寿命は百年前後、人種エルフには短い時間である。

 

 

 

 先天的か後天的かの違いがあったが症状は同じであったためこの先天性魔力欠損症に掛かってたんだと思っていた。

 

 

 

 そう思い込んでた時期があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は大罪人だ。

 

 僕のせいで大勢の人が犠牲になる事件が起こった。

 

 だから僕は例え失った命が取り返せなくても失う前と同じ環境を作り続けなければならない。

 

 僕がその環境を壊したから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕が村の護り岩、殺生石の力を奪ったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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出逢い

 村を襲った悲劇から十年、大人になったカオスは一人誰もいない旧ミストの村で生活していた。

 心配したミシガンが村に戻るようカオスを説得するが彼の決意は変わらず孤独の道を進む。

 そして森には再びヴェノムが現れるもカオスの前に倒される。


 

お前、感染してないのか!?さ、触るな!!

 

な、何だその力は!?

 

化け物!!寄るな!!

 

それは殺生石の!?

 

お前が奪ったのか!?おまえのせいで村は!!

 

お前がいるから村はこんなふうになったんだ!!

 

出ていけ!!この疫病神!!

 

出ていけ!!

 

出ていけ!!

 

消えろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 あの日のことは鮮明に覚えている。

 

 今でもこうして夢に見るくらいだ。

 

 

 

 昔騎士になりたかった自分が招いたこと。

 

 あのときは弱いことが許せなかった。

 

 人より力のない自分が認められなくて。

 

 それでも僕は特別なんだとどこかで思い込む自分がいて。

 

 だから馬鹿にされながらも真面目に特訓して稽古もしていた。

 

 いつか努力したらおじいちゃんのようになれる気がして。

 

 そうして強くなって本当に騎士になれたらおじいちゃんに見てもらって誉められたかっただけの薄っぺらな子供心。

 

 

 

 僕は忘れちゃいけないんだ。

 

 あの日のことを。

 

 僕が殺した人達をいなかったことにしないためにも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秘境の村ミスト

 

 

 

「カオスはいつになったら戻ってこれるの?」

 

「それはカオスが戻りたくなったらいつでも…」

 

「そう言って、お父さんはカオスと会おうとしないじゃない!!」

 

「ミシガン、彼は自分を戒めているんだ。それを邪魔してはいけない。彼が自分を許さない限りここには戻ってこない。今は彼の気持ちが安らぐまでそっとしておいてあげなさい。」

 

「そんなの待ってたらいつになるか分からない!カオスは十年前にみんなに追い出されてから変わってない!!ずっとだよ!?カオスはずっとこのまま村のみんなのためにモンスターと一人で戦い続けるつもりなんだよ!?」

 

「…」

 

「みんな知らないと思うけどあれから何度か森でヴェノムが現れたときがあったの。その時もカオスが一人で解決したんだよ?」

 

「それは感謝しているよ…。私達にはヴェノムをどうすることもできない。本当は村のみんなも分かっているんだ。幼かったカオスには何の非もないことを。」

 

「だったら!」

 

「理性では分かっているんだ。だが一度心にしこりができると後々それがふとした拍子に出てきてしまう。今すぐカオスが村に戻ってきてもそれはきっと彼を傷付ける結果にしかならないだろう。」

 

「どうすればそのしこりは消えるの?」

 

「分からない、今はまだカオスと村人達の傷が癒えるのを待つしかないんだミシガン。時期に王都からも騎士団の使節が来て状況も変わる。封魔石とやらが届いて安全が保証されてからみんなで話し合ってカオスを迎えにいくかどうか決めよう。」

 

「……こんな村、あのときに滅びればよかったんだ!」

 

「…」

 

「そう言って村の恩人を蔑むだけ蔑んだあげくにカオスの良心を利用して一人で危険なモンスターの相手させて突き放す村の大人達なんかヴェノムに食い殺されればいいんだ!!」

 

 

バタンッ!!

 

タッタッタッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないミシガン、私には中立を保つことしか出来ないんだ。

 

 アルバやラコース達がいなければ何もできない肩書きだけの村長でしかないんだ…。

 

 こんな臆病者な父親ではお前が呆れはてるのも無理はないな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都の某所

 

 

 

『それで?なにか進展はあったのか?』

 

「現在調査中だっつーの!こっちもいろいろごたついてんだよ!」

 

『星砕きを見つけたのではなかったのか?』

 

「私はあくまで反応があったと言っただけだが!?」

 

『…その様子じゃ見失ったようだな。』

 

「悪いのか?ゴラァッっ!!!?

 

 反応があった付近は探させたよ!精霊石を見付けるまでは出来たんだぞ!?だが脱け殻だったんだ!!とっくの昔にいなくなってやがる!!住人の話によると十五年前くらいかららしい!!」

 

『では他の場所に逃げられたか。』

 

「そんな筈はねぇんだよ!反応があったのは十年前だ!そのタイミングで確かにあの付近でマナ感知に引っ掛かってんだ!」

 

『…つまり「つまりぃ!!」』

 

「誰かが持ち逃げしてんだよ!それか星砕き自体がソイツに隠れてんのかもな!」

 

『……やることは分かってるだろうな?』

 

「分かってるから黙って吉報を待ってな!私に恥をかかせて逃がすわけねぇだろ?周辺の村焼き払わせてでも炙り出す!」

 

『……』

 

「そぅだ!あの女を使おう!あの女の眷属としての能力が開花すれば星砕きもなにかしら反応を示すだろう?」

 

『!……彼女には手荒なマネはするなよ。まだ目覚めてすらいないんだぞ。やるにしても護衛付きだ。』

 

「ハハッ、おいおい随分と過保護だなぁ!血の繋がった姉よりも大事なのかい!?」

 

『……お前の失態を私にぶつけるな。』

 

「なんにせよ、あの女は使わせてもらう!手っ取り早いからなぁ。安心しなよ、護衛なんか用意しなくたって死にはしねぇだろ?」

 

『ふざけるなよ?』

 

「こっちにも事情があるんだよ。掛け持ちが多すぎて手がまわらねぇんだよ。突然現れた謎の女になんて言って護衛付けるんだよ?」

 

『ではその案は却「却下しねぇぞ?」』

 

「他に具体的な代案があるんなら聞くがこれ以上の最善策でないならそれこそ却下だ!」

 

『私の部隊を送ろうか。』

 

「そしたらそっちの計画に遅れが生じるんじゃねぇのか?」

 

『……』

 

「私の案で可決のようだな。任せろ。」

 

『勝手に決め「よし!そうと決まれば」』

 

プチンッ

 

 

 

「早速眠り姫をはたき起こしにいかねぇとなぁ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捨てられた村旧ミスト

 

 

 

「また懐かしい本が出てきたな。」

 

 一人で村を徘徊してるとたまに掘り出し物を見付ける。

 

 そのほとんどは昔読んだことのある本だ。

 

 朝目が覚めてこうして散策してから森に向かい、家に帰るのが日課である。

 

「(大樹カーラーン伝説かぁ…。無限にマナを生み出す生命の木…。)」

 

 無限のマナ。

 

 そう言われてもピンとこない。

 

 ただでさえ世界デリス・カーラーンにはマナが溢れている。

 

 そこにこの木が存在したとして何の意味があるのだろうか。

 

 生物には個体差はあるがおおよそのマナの内包する量は決まっている。

 

 マナが多い生物は寿命は長く魔力も高い。

 

 大半はその生物の肉体的な大きさに比例している。

 

 中には例外もいるが基本はその筈だ。

 

 

 

「さて他に目ぼしい物もないし今日は技の練習でもするかな。」

 

 一人言を言いながら指南書を持って森へと向かう。

 

 この指南書はミストから出る際おじいちゃんの書斎から見付けたものだ。

 

 この本には剣術についての技術について書かれていた。

 

 子供の頃は基本的な太刀筋についてしか教わらなかったがこの本はその先の技術が載せてある。

 

 主にマナを使った剣術で幼いころは先天性魔力欠損症に掛かってたと思ってたからおじいちゃんも教えられなかったのかもしれない…。

 

 そんなところでも迷惑を掛けてたと思うと申し訳ないな。

 

 指南書にはバルツィエ流剣術指南書魔神剣と書かれている。

 

 位の低い貴族様が作ったわりには綺麗に細かく記してある。

 

 恐らくは他にもいろいろあったのだろう。

 

 この一冊だけで十分賄えてるので必要なさそうだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストの森

 

 

 

「魔神剣!魔神剣!魔神剣!」

 

 ただひたすらに魔神剣の練習。

 

 言葉に乗せて撃つとマナを込めやすいので魔神剣の発声も付けて行うのがいいらしい。

 

 これを魔神剣が出なくなるまで続ける。

 

 昔はこうやって一人で素振りの練習をしていたから慣れたものだ。

 

 この技はここに来てから習得したが当時はマナをかなり消費した。

 

 今では大分威力を保ったままマナを抑えて撃てる。

 

 このまま夕方までしよう。

 

「魔神剣!魔神剣!魔神剣!……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣!………ふぅ、こんなものか。」

 

 すっかり日が暮れてしまった。

 

 途中魔神剣を撃ってたらモンスターが出てきたので討伐する。

 

 

 

 今でこそマナを使えるようになって他の人やモンスターのマナを感じ取れるようになったが僕のマナは異質だ。

 

 普通はマナを消費するとそれにともなって体力や精神力を消費する。

 

 そこは同じだ。

 

 昔からの直らないノーコンのせいで普段は使わないがファイヤーボール等の魔術を使うとそうなる。

 

 違うのは質。

 

 

 

 どういう原理かは自分でも分からない。

 

 僕は物理的には不死身に近いヴェノムを殺すことが出来る。

 

 おまけにヴェノムに触れても感染しないどころか殺すこともある。

 

 ヴェノムはどうやら生物の持つマナに引き寄せられて行動するようだ。

 

 具体的にはその生物が持つマナに感染して増えていく。

 

 マナは生物にとってのすべての核であり源。

 

 それを根本からつくりかえてしまうヴェノム。

 

 そしてそれを殺す僕。

 

 

 

 結局僕は誰かを守るのではなく殺すことの方が得意らしい…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ帰るか。」

 

 いつもの練習を終えて戻る支度をする。

 

 そういえばミシガンが言ってたな。

 

 封魔石とかいうヴェノムを寄せ付けない殺生石の代わりになるものが届くと。

 

 そうなると僕はいよいよもってミストからは要らない存在となる。

 

 辞めるつもりはないがそうなった場合僕はどうしたらミストに償いを続けられるのだろうか。

 

「平和になるのならそれでいいのかな…。」

 

 ミストには僕が傷付けてしまった大切な人達がいる。

 

 その人達が幸せならそれで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 何だ?

 

 森の奥から不思議なマナを感じる。

 

 普通の人と…ヴェノム!、それと何かがいる。

 

 戦ってるのか!?

 

 まさか村の人が!

 

 何でこんな村から遠くまで!?

 

 行かなければ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ!ハァ!」

 

 遅かった。

 

 辺りにはヴェノムとゾンビ化した誰かがいた。

 

 村の人じゃない。

 

 風貌からして他所の村人だろう。

 

 

 

「ごめんなさい。」

 

 後少し早くつければ助けられたのに。

 

 …まずは

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムと感染者を始末する。

 

 こうしてまた誰かを殺してしまう。 

 

「……」

 

 子供の頃自分がしたかったことを思い出す。

 

 世界中の人を守れる騎士。

 

 その夢がどれだけ困難なことか実感する。

 

 こんなに近くにいる人すら救えない。

 

 十分に手の届く距離にいた人ですら救えない。

 

 何故子供の頃は何でも出来ると思えてしまうんだろうなぁ。

 

 自分の夢もウインドラもミシガンも何もかもを強欲に手に入れられるわけないじゃないか。

 

 たかが人殺しの僕が…。

 

 

 

パァァッ

 

 

 

「!」

 

 そういえば先程感じた不思議なマナは?

 

 今倒したヴェノムのものじゃなかった。

 

 じゃあ一体…

 

 回りを見渡すと先程の人達の乗り物と思われる亀車があった。

 

「この中から?」

 

 新型のヴェノムでも現れたのかと思ったが亀車の中にあるということは違うようだ。

 

 もしや封魔石というものを運んでいたのでは?

 

 …それはなさそうだ。

 

 ヴェノムに襲われている時点で話に聞く代物じゃない。

 

「一体何が…」

 

 意を決して中を確認する。

 

 そこには一つの棺があった。

 

 その中から感じる。

 

「まさか生きた人を入れてるのか!」

 

 一体何故そんなことをするのか。

 

 いくら考えても分からないがもしかしたら誘拐か殺人が行われていようとしていたのではないか?

 

「とにかく先ずは中の確認だ。」

 

 棺の蓋を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中には

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とても美しい身分の高そうな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでいてまた心の奥深くで何かを感じさせるような

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな女の人が眠っていた。

 

 

 

 



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アローネ

 青年カオスは十年前の事件から村を一人守り続けていた。

 森でヴェノムを発見し撃退するがそこで謎のマナを放つ女性を見つける。


ミストの森

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おっと見惚れてる場合じゃない。

 

 ヴェノムを倒したとはいえ安全とはいえここに長居するのは得策じゃない。

 

「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」

 

「……スゥ」

 

 いくら揺さぶってみても起きる気配がない。

 

 気絶してるのか寝ているだけなのか判別がつかないが彼女に自分で移動してもらうことは期待できなさそうだ。

 

「旧ミストに運ぶか…。」

 

 棺の中で眠る女の人を背負い亀車を出る。

 

「……スゥ」

 

「……」

 

 こうして直接触れてみたら分かる。

 

 服の上からでも伝わってくる女の人特有の香りとむ……ではなく、

 

 先程感じた不思議なマナはこの女の人から感じる。

 

 何者なんだ。

 

 風貌からして普通の人じゃない。

 

 質のいいポンチョからしてどこかのお嬢様とかそういった類いの出生だろう。

 

 そんな人が何をしにこんな森奥に?

 

 ミシガンの話からして騎士団関係者なら分かる。

 

 近々ミストに騎士団が在住するからそういう理由でミストに向かっていたという可能性も。

 

 だが騎士団だったらもっと纏まって来るのではないのか。

 

 倒したヴェノムとゾンビからしても人数は精々6人程度。

 

 そんな少人数で行動するだろうか。

 

 昔、本の少しだけ知り合った騎士のクレベストンは一人でいたのでもしかしたら騎士団自体が小数で行動するのかもしれないと思ったが違うだろうな。

 

 第一ヴェノムに対抗できてない状況からしてその線はない。

 

 

 

「……」

 

 考えても分からない。

 

 見聞がミスト以外にないため自分の知識だけじゃ判断材料が少なすぎる。

 

 ただの物見遊山の可能性もあるがそれは彼女が起きてから聞くことにしよう。

 

 この不思議なマナも他の村や街では珍しくないのかもしれない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捨てられた村旧ミスト

 

 

 

 考え事をしているうちに村に付いたので一番綺麗に整ってる家のベッドに寝かせる。

 

「こういう時のためにこまめに掃除しておいてよかったな。」

 

 村には自分一人しかいないが長く住めるように十年前から各家々を大掃除してきた。

 

 流石に古くなりすぎて崩れた家もあるが幸い木材には困らない環境で拙いながらも雨風を凌げる程度の補強は出来ている。

 

 おかげで裁縫や建築技術には自信がある。

 

 仮にこの女の人が本当にお嬢様だった場合このようなところに連れてきてもよかったのか心配にはなる。

 

 起きた瞬間に汚い!とでも言われてしまうかもしれない。

 

 そうなったらどうすればいいだろうか。

 

 ……安全を考えて連れてきたはいいがこのあとこの人をどうするのかも考えないと。

 

 僕はこの村から動くわけにもいかない。

 

 なら必然的にミストの人を頼ることになるのだが。

 

「そのうちミシガンがまた様子を見に来るだろうからその時にあっちの村で預かってもらおう。」

 

 あちらの村ならそのうち騎士団が来る。

 

 そうなってから事情を話してこの人を家まで送ってもらえる筈だ。

 

 考えがまとまったら後は彼女が起きるのを待つだけだな。

 

 そのうち目を覚ますだろう。

 

 今のうちに食事と風呂を済ませないとな。

 

 今日も技の練習で疲れたから汗で服が…。

 

 

 

 …こんな汗かいた体で背負っちゃったけど大丈夫かな?

 

 もし僕の汗とか移ってたら…

 

 意識を取り戻したら素直に謝ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………さい」

 

 

 

 ……?

 

 

 

「……ください」

 

 

 

 ……何だ知らない声?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きてください!」

 

 

 

「!?」

 

 誰かの声で眠りから覚めた。

 

 こんな廃れた村に来るのはミシガンくらいしかいない。

 

 だが声からしてミシガンではない人物だ。

 

 誰だ!?

 

 驚いてベッドから跳ね起きる。

 

「目が覚めましたか?」

 

 そこにいたのは昨日森の中で亀車から運んできた女の人だった。

 

 そういえば別室で寝かせていたのを思い出す。

 

「あっ、とっ、気が付いたんですね!」

 

 驚きすぎて変な飛び起きかたをしてしまったが彼女は動じることなく、

 

「貴方は…どちら様でしょうか?」

 

 当然の質問をしてくる。

 

「僕はカオス=バルツィエ。一応猟師だとは思います。」

 

「りょうし?」

 

「そうですね。この近くに森があってそこでモンスターを倒して生計を立ててます。」

 

「モンスターを…?、盗賊の類いではないんですね。」

 

「盗賊では……ないと思います。」

 

 いきなり失礼な人だな。

 

「それで何故私はここに…?」

 

「昨日森の中で襲われているのを発見して連れてきました。他の人達はそのときに…」

 

「………」

 

「……?」

 

「………」

 

 何だろう。

 

 反応が薄いというか状況が分からないとかそんな感じに見える。

 

「他の人達とはどのような方々でしたか?」

 

 ようやく口を開いたと思ったらゾンビ化した昨日の人達のことを聞いてくる。

 

 ん?

 

「どのようなって…どこかの村の人だとは思いますけど…。」

 

 何故そんなことを聞いてくる?

 

 一緒にいたのはこの人の筈なのに。

 

 

 

 まさか…

 

「もしかして誘拐されている途中だったとかですか?」

 

 そう考えると昨日何故この人が棺に入っていたかも納得がいく。

 

 都会では誘拐だの身代金だのが頻繁にあると昔おじいちゃんが言っていた。

 

 この人も何かしら事件に巻き込まれて棺に隠されて連れ去られていたところだったのかもしれない。

 

「………」

 

 女の人は何やら考え込んでいる。

 

「……あのぅ。」

 

「……はい?」

 

「お名前お聞きしてもいいですか?」

 

「名前?」

 

 先程名前を訊かれたがあちらからはまだ名乗ってもらっていない。

 

「………」

 

 また沈黙。

 

 ここまで考え込むのが多いと記憶喪失なのではないかと疑う。

 

「……貴方は盗賊の方ではないようですね。ここには他のお仲間の方もいないようですし。」

 

 まだそこ疑ってたのか。

 

 誘拐されてたかもな訳だし仕方無いのか。

 

「私は………アローネと言います。」

 

「アローネさんですね。アローネさんはどちらにお住まいなんですか?」

 

「私は………王都です。」

 

 やはり都会、それも王都か。

 

 ミストでも見ない綺麗な服を着てるからあちらでのファッションというやつなのだろう。

 

「カオスさん?」

 

「あいえ何でもありません!」

 

 あまり女性をジロジロ見るものではないな。

 

 不審者と間違われてしまう。

 

「アローネさん、僕自身は仕事で王都まではお送りできないんですけど、代わりに僕の知り合いの村がこの近くにあってそこでなら安全に王都に帰れるかもしれませんよ?」

 

「知り合いの村ですか?」

 

「はい!そこの村に近々王都から騎士団が派遣されてくるらしいので少し時間はかかると思うんですけど騎士団が到着次第アローネさんの事情を話して送ってもらえると思います。」

 

 本当に出来るかは分からない。

 

 騎士については実際に見たことがあるのはおじいちゃんとクレベストンさんくらいしかいない。

 

 その二人の印象で騎士なら任せられるとは思うのだが。

 

「有り難うございます、カオスさん。」

 

「気にしないでください。人として当然のことですよ。では昼頃にでも行きますか?」

 

「はいお願いしますね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼になって僕はアローネさんとミストに向かうために森を歩いていた。

 

「……フゥ。」

 

「大丈夫ですか?村までもう少しありますし休憩にします?」

 

「……すみません。」

 

 アローネさんの調子が悪いためここらで休むことにする。

 

「カオスさん少しよろしいでしょうか?」

 

「何です?」

 

「今から向かう村はどのようなところなのですか?」

 

 そんなことを聞いてくるアローネさん。知らないところに連れてかれるんで緊張してるのだろうか。

 

「人口は100人前後の村でみんな農業で生活していますよ。」

 

「へぇ~農業…。」

 

「今日はそこの村の村長にアローネさんをお願いしようと思ってます。そこにはアローネさんと同じくらいの女の子もいるので安心かと。」

 

「……。」

 

「他にも村には何人か若い人達もいてみんな畑仕事したり服や農機具とか作ったりでチームワークの取れた仲の良い人達なんで心配しなくていいですよ。」

 

「……。」

 

「あとは村長の家の裏「カオスさん。」」

 

 

 

「カオスさんはさっきいた村でお一人で住んでるんですか?」

 

「!」

 

「今朝カオスさんを起こす前にあの村を少し見て回ったんです。あの村は本当は廃村なんじゃないですか?」

 

「……そうですね。」

 

 疑問に思うのも当然か。

 

「ですから最初カオスさんのことを廃村を根城にする盗賊だと思いました。」

 

 なるほど、やけに盗賊を推すなとは思ったがあの村に住むとそういう風に捉えられることもあるのか。

 

「今日話してみてそんなことはないとは思いました。カオスさんにも話せない事があるんですよね。」

 

「……」

 

「今は聞きませんが私がいる間にその辺りお話しできたらと思います。短い時間ですけどカオスさんは私にとって恩人ですから。」

 

 恩人か…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はそんな大層な人間じゃないのに。



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貴族の娘

 青年カオスは森で訓練中、不思議なマナを放つアローネを見つける。

 翌朝になって簡単な紹介を済ませた二人はアローネを元の住んでいた王都にかえすべく森を歩く。


秘境の村ミスト 入り口

 

 

 

「ここがミストです。」

 

「ここが…」

 

 あれからしばらく森を進みアローネさんを無事ミストまで案内出来た。

 

「この村の一番奥の家が村長の家でそこに向かってもらえますか?」

 

「…はい。カオスさんは?」

 

「僕は……この村へは入れないんです。」

 

「…。」

 

「昔いろいろありまして………すみません!」

 

 とりあえず村の入口の見張りに声をかける。

 

「……お前がこの村に何のようだ?」

 

「森でこの女の人がモンスターに襲われていたんですけど帰り方が分からないということなので騎士団の方に保護してもらいたくて。」

 

「騎士団はまだ当分来ないぞ。」

 

「分かってますよ。それまで村長のところにでもお世話になれないか話を通してもらえますか?」

 

「待て、森でモンスターと言ったな。ヴェノムはいなかったのか?」

 

「…ヴェノムは僕が倒したんで大丈夫です。」

 

「本当か?感染してる疑いのあるものを村に入れることは出来んぞ。」

 

「彼女は感染していません!昨日保護して連れてきたんでヴェノムだったら今頃スライム状になっている筈です!」

 

「信用できんな。お前のような化け物が連れてきたというなら尚更だ。」

 

「それは関係ないじゃないですか!」

 

「帰れ。いちいち我々の手を煩わすんじゃない。また村を滅ぼしたくないからな。」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみませんアローネさん……こんなとこまでついてきてもらったのにこんなことになって。結局無駄足を踏ませてしまいました。」

 

「お気になさらないでください。カオスさんは私のために手を尽くしてもらっている立場ですので文句なんてありませんよ。それに事情を知らないとはいえカオスさんには辛い想いをさせてしまったようで私の方こそ謝らないといけません。」

 

「僕は大丈夫ですよ。さっきのことは自分の身から出た錆ですから。」

 

「…すみません。」

 

「いいですって、けどどうしましょう…。こっちの村がダメとなると最悪あっちの村で騎士団が来るまで生活してもらうしかないんですけど…。」

 

「私はそれで構いませんよ?」

 

「いいんですか?」

 

「私を助けてくれたのはカオスさんですから、カオスさんとなら安心できます。」

 

「そう言っていただけると有り難いです。」

 

「それでは戻りましょうか。」

 

「えぇ。」

 

 僕達は来た森を引き返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストの森

 

 

 

「そういえば先程門番の方と話していたとき…」

 

「はい?」

 

「ヴェノム……と仰っていましたが、この森にも現れるのですか?」

 

 森の中を歩いてるとアローネさんがそんなことを訊いてきた。

 

「そうですね、ヴェノムが出現してもう十年くらいになります。それまではいなかったんですけど。」

 

「十年…。」

 

「どうかなさいましたか?」

 

「それにしてはこの森は穏やかですね。」

 

「といいますと?」

 

「ヴェノムは多くの生物に寄生し体を乗っ取り変化するものと聞いています。それが人、モンスター、植物でさえも…。」

 

「え?植物にも感染するんですか?」

 

「私がいたところではそうお伺いしておりました。」

 

「そうなんですか。けどずっとこの森を見てきたんですけどこの森ではそんなヴェノムは見ませんでしたよ?」

 

「それを不思議に思います。」

 

「多分優先順位みたいなものでもあるんでしょうね。ヴェノムにも。人やモンスターを狩り尽くしてから最後に植物にって。」

 

「……」

 

「しっかし、アローネさんもご存知と言うことはやはりヴェノムはいろんな場所に出現するんですね。十年前を思い出すと納得しますけど、あんな生物いたら世界があっという間にヴェノムで多い尽くされて滅びちゃうんじゃないかと心配になりますよ。」

 

「………その通りの筈なんです。」

 

「え?」

 

「王都は……一度ヴェノムの侵攻によって滅びかけたことがあります。王都だけじゃなくたくさんあった村や街、大勢の人々がヴェノムによって亡くなりました。」

 

「そんなことが……」

 

「えぇ、突如発生したヴェノムには王国はなすすべもなく蹂躙され生き残った人達もなんとか逃げ出そうとしましたがヴェノムはどこまでも追ってくる…。」

 

「……」

 

「だから世界がこうしてまだ人の世界を保ち続けていること、それが不思議でなりません。それまで存在した生態系を大きく塗り替えるモンスター…。物理的な力も魔術的な力も受け付けない無敵の悪魔。増えるだけ増えて飢餓によってしか死滅しないあの悪魔達が何を考えて動いているのか…。」

 

「……」

 

「……すみませんカオスさん。何だが愚痴みたいになりましたね。ヴェノムのことになるとついつい感情的になってしまって。」

 

「いえ、アローネさんにもいろいろ悲しいことがあったんだと思います。経緯はよく分かりませんがヴェノムに対して感じるものは同じだと思います。僕もそうですから。」

 

「カオスさん…。」

 

「…ちなみにアローネさんってどこか有名な豪商の娘さんとかだったりします?」

 

「何故それをお聞きに?」

 

「物腰というか雰囲気というかそういったものが他の人達と違うなぁと思いまして。昔あったことのある騎士の方のような礼儀ただしさを持ち合わせているそんな感じがします。」

 

「……」

 

「あ!?不味いことなら言わないで結構ですよ?誘拐されていたってことは多分そうなんでしょうけど、王都のことはそんなに訊いてもよく分からないので!」

 

「………カオスさんには話しておきましょう。これからお世話になるのですし。」

 

「え!?いいんですか?大丈夫ですよ?」

 

「私を助けてくれた恩人に隠し事はしたくありませんから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はアローネ=リム・クラウディア。王都で貴族クラウディア家の次女に生まれました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きっ、貴族様なんですか!?アローネさん!」

 

 想像以上に偉い人なのかもしれません。

 

「はい。黙っていて申し訳ありません。家柄か昔からよく誘拐等は日常茶飯事でして、始めカオスさんにお会いしたときも身分を明かせばそこから第二の被害にあうことを危ぶんでおりました。」

 

 確かにそんな人ならそういった危険性もあるのかもしれない。やはりよく分からないのだけど。

 

「でっ、ではアローネさん!いやアローネ様は一刻も早く王都にお返しした方がよいのでございますか!?」

 

「そう固くならないでください。私に対しては先程のように……いえ先程よりも近しいくらいでいいですよ?」

 

「そんな訳には…!」

 

「カオスさん………カオスさんは私の恩人なんですよ?カオスさんがいなかったらどうなっていたか検討もつきません。」

 

「そんな大したことしてませんよ!」

 

「それでもです。私は善くしてくれた方に上下関係を作りたくないです。」

 

「……ではアローネ…さんで。」

 

「アローネと呼び捨てにしてもらってもいいですよ?」

 

「それはハードルが高いと思います。」

 

「アローネ。」

 

「うっ…。」

 

「アローネ。」

 

「あっ…。」

 

「あ?」

 

「アローネ…。」

 

「パチパチ」

 

「(///)」

 

「よく言えましたね。誉めてあげます。」

 

「は、はぁ……ではこちらもカオスでいいですよ… 。」

 

「そうさせていただきますね。ではカオス。」

 

「どうしましたアローネ。」

 

「フフッ。」

 

 名前を呼びあうだけなのにアローネさん……アローネは笑っている。

 

 

 

 なんだろう、この感じは…。

 

 この心の暖かくなるような感覚は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうか…、久しく忘れていた。

 

 昔この暖かさを感じたことがある。

 

 昔ウインドラと始めて友達になったとき感じたぬくもりだ。

 

 魔力欠損症で障りものを扱うような目で見られて孤独を感じていたとき、ウインドラが手を差し伸べてくれた。

 

 そのときもこんな暖かさを感じていた。

 

 魔術不安定な僕でも優しくしてくれた。

 

 何も出来ない僕を友達といってくれた。

 

 彼がいたから僕は僕を支えてこれたんだ。

 

 彼がいなかったら僕はなにも出来ずに凍んでいただろう。

 

 

 いつかウインドラはミストに戻ってくるかもしれない。

 

 そのときまで僕は彼の戻れる家を守らないといけない。

 

 ラコースさんもおじいちゃんももういないけどウインドラだけは絶対に守りたいから。

 

 今度こそ失っちゃいけないから。

 

 ウインドラは僕の恩人だから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス?」

 

「!」

 

 呼び掛けられて気がつく。

 

 どうやら昔を思い出してぼーっとしていたようだ。

 

「カオス?涙が…。」

 

「…!何でもないですよ!ちょっと昔のことを思い出してただけで!」

 

「……何か悲しいことでも思い出させてしまいましたか?」

 

「いえその逆です。こうして友達みたいな感じで名前を呼び会うことが本当に久々で…、って言っても昔もそんなに多くはないんですけどね。」

 

「そうなのですか?」

 

「はい!アローネで三人目です!」

 

「三人目…ですか。」

 

「すみません!自虐的に聞こえるかもなんですがボクにとっては記録をできて嬉しいんです!」

 

「そうなんですね、お役に立てて何よりです。」

 

 朗らかに微笑むアローネ。

 

 ミシガンとは違ったタイプの女性だ。

 

「実はですね。私にとっては初めてなんですよ。」

 

「そうなんですか?アローネ程の人なら人気ものになれると思うんですけど…。」

 

「貴族というものは何よりも家柄と階級を気にしますからね。私の家は王家に最も近しい家で、クラウディアの周りにはそれにあやかろうとすり寄ってくる家の人達ばかりでした。」

 

「……。」

 

「そんな人達しかいない世界にいたので友達という関係は私にとって私を利用しようとする人達の常套句のようなものだと思っていました。」

 

「アローネも随分と独りの時代を生きて来たんですね。」

 

「そうかもしれませんね。けど全然寂しくはなかったんですよ?私には兄と姉がいましたから。寂しいときには二人に構ってもらっていたんで。」

 

「お兄さんとお姉さんがいらっしゃるんですね。そういえばさっきクラウディア家の次女と言ってたし、三人兄弟なんですか?」

 

「いえ、姉が一人で兄は姉の夫でしたから義理の兄になりますね。大変仲も良かったので娘もいたんですよ?」

 

「アローネはその義兄さんとお姉さんと娘さんが大好きなんですね。」

 

「はい。三人とも大好きでした!」

 

 …でした?

 

「そのお義兄さんも貴族の方なんですか?」

 

「義兄は……臣民の出身です。」

 

「臣民?普通の平民と言うことですか?」

 

「大まかに言えばそうなるんですけど、義兄の場合は最も低い地位になります。

 

 

 

 義兄はハーフエルフでしたから。」



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ヴェノム殺し

 青年カオスは森で見つけた娘アローネをミストの村に案内するも門番に断られてしまう。

 その後森を引き返しているうちにアローネが貴族の生まれと知るがアローネからは現状維持を求められカオスは旧ミストへと案内を続ける。


 

 

 

「ハーフ……エルフ?」

 

「そうです。」

 

 ………?

 

「あのアローネ。」

 

「はい。」

 

「ハーフエルフって…………何?」

 

 僕は初めて聞くその言葉に疑問を無視できなかった。

 

 ハーフ?

 

 人=エルフだからそれは分かる。

 

 ハーフってなんだろう?

 

「?カオスはハーフエルフをご存知ないのですか?」

 

「……すみません、田舎者でして街や王都の知識とかはほとんどないんです。なんせ王都からは最も遠い村ですからね。この周辺。戦争自体が本当に続いているのかも分からないんですよ。」

 

「そうなんですか。……ハーフエルフというのは敵国の人種ヒューマとの間に生まれた子供達のことを言います。」

 

「ヒューマ、敵国……ですか?」

 

「王都と言っても臣民達には綺麗なところを見せて見えない裏側で奴隷として敵国の民を拉致しては働かせたり慰みものにしたりしてます。」

 

「そんなことが…。」

 

 騎士を目指していたものとしてはあまり聞きたくない話だったかもしれない。

 

 もうどうでもいい夢だが。

 

「実際にあることなんです。」

 

「そのヒューマというのも初めて聞きました。どういった特徴の人達なんですか?」

 

 このデリス=カーラーンにエルフ以外の人種がいたことに驚きを隠せない。

 

 おじいちゃんからもそんなこと聞いたことはない。

 

「ヒューマはマナをほんの少ししか持ち合わせていない種族です。寿命は五十から長くても百年程で魔術も使えなません。」

 

 ………それって、

 

「そのかわり彼らには豊富な知識とドワーフを越える機械と呼ばれる鉄を扱う技術があります。」

 

「機械?」

 

「私も戦場に出たことがないので知りませんが私達エルフの魔術に匹敵…もしくはそれを凌駕する程の力があるらしいです。」

 

 魔術を凌駕?

 

 そんなことが可能なのか?

 

 どういった世界の情勢かは曖昧にしか伝わらない。

 

 話を聞くにこの国マテオと相手国ダレイオスは単純な領土争いをしてるのではなく障害者差別の争いをしてるのではないか?

 

 魔術を使えない人種ヒューマ。

 

 恐らく先天性魔力欠損症の人達をそう読んでいるのだろう。

 

 遺伝によって起こることもあると医学書に書いてあったしダレイオスはそういった人達の国なんだな。

 

 

 

 そんな人達と戦うマテオ。

 

「なんだかこの国に住んでるのが嫌になってきますね。」

 

「カオス?」

 

「実は……僕もそのヒューマというのに掛かってた時期があるんです。」

 

「ヒューマに……掛かってた?それはどういうことですか?」

 

「はい、昔ある事件を切っ掛けに体内のマナが著しく低下して魔術が支えない常態になりまして。医学書でもそういった人の寿命もそれくらいになると書いてありました。」

 

 当時は本当に死のうかと思うくらいに絶望した。

 

 周りよりも先に死ぬ自分。

 

 人より何もできなくてすぐに死んでしまう自分に一体何の価値があるのだろうかと。

 

 

 

 ダレイオスの人達は凄いなぁ。

 

 自分達に能力がないことを認めて他に何が出来るかを探しだしたのだろう。

 

 そうして魔術に対抗する手段を得た。

 

 前の僕は自分の体を鍛えるしか考えられなかったのに。

 

 

 

 

 

 

「すみませんカオス。勘違いしているようなので説明を捕捉させていただきますね?」

 

「え?」

 

「ヒューマは歴とした人種そのものであって、先天性魔力欠損症とは違いますよ?」

 

「違うんですか?どう聞いても魔力欠損症だと思ったんですけど…。」

 

「人は生きているうちに種族が変わることなんてありませんよ。ヴェノムはともかくとして。」

 

 …それもそうだな。症状と特徴が同じだったんでヒューマをただのスラング用語だと思ってしまった。

 

「カオスはエルフです!貴方からは普通の人と違った魔力を感じますがそこは一緒の筈ですよ?」

 

「まぁ、両親はエルフでしたからね。」

 

「こうして魔力欠損症も直っているってことはアイオニトスを使われたんですよね?」

 

「アイオニトス?」

 

 初めて聞く名前だ。

 

 薬か何かなのだろう。

 

「アイオニトスをご存知ないんですか?魔力欠損症の治療には欠かせない鉱石ですよ?」

 

「………魔力欠損症って治療方法見付かったんですか!?」

 

「?魔力欠損症は昔からアイオニトスと決まってる筈ですが。」

 

 そんなものがあったのか。

 

 とすると昔読んだ医学書は相当古いものだったんだな。

 

 不治の病だと思っていたがこんなあっさり言うくらいだからもう出来てから長いのだろう。

 

 何故おじいちゃんは治療方法があることを教えてくれなかったんだろう。

 

 王都にいたというなら魔力欠損症の治し方も知っていそうなものだが…。

 

 そこまで医学に詳しくなかったのかそれかおじいちゃんがいなくなってから治療方法が出来たのか。

 

「アイオニトス自体は希少鉱石なのでそこまで市場には流通していないとは思いますが結構有名な話だと思いますよ?」

 

 そうなるとおじいちゃんがいなくなってから治療方が見つかったという線で正解のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何の話しをしていましたっけ?」

 

「なんだったっけなぁ…。確かヒューマとか機械とかは聞いたんですけど。」

 

「!思い出しました!ハーフエルフです!」

 

「!そう!ハーフエルフ!」

 

 つい僕に関係ありそうな魔力欠損症の話で脱線してしまった。

 

「義兄がハーフエルフなのですが…。」

 

 

 

ガサッ!!

 

 

 

 「「!!」」

 

 このマナの不安定な感じはまさか、

 

 

 

「シュウウウゥ」

 

 

 

「「ヴェノム!!」」

 

 こんなときに出てきたか。でも…、

 

「アローネ!貴女は「逃げてください!!」」

 

「カオスは逃げてください!ヴェノムは私が引き付けます!恩人をヴェノムに殺らせるわけにはいきません!」

 

「アローネ!大丈夫だよ!ここは僕が!」

 

「何を言ってるんですか!?ヴェノムには何も効きませんよ!?貴方だけでも遠くの方へ!」

 

 興奮して話が通じないなぁ。

 

 まぁ、いいか見せてあげれば。

 

「……!」

 

タッ!!

 

「カオス!?ヴェノムに触ってはいけま…!」

 

「魔神剣!!」

 

ザシュゥゥゥッ!!

 

 至近距離で放つ魔神剣がヴェノムを浄化する。

 

「!?その技は!?」

 

「こんなものですよ。ヴェノムは」

 

「……!?ヴェノムが再生しないで溶けていく!」

 

「なんとかなりましたね。」

 

「カオス…貴方は一体……。」

 

 ヴェノムを倒して一安心かと思いきや、

 

 

ガサッ

 

ザッザッ

 

ガササッ

 

サササッ

 

 

 

「「!」」

 

 今度はヴェノムとゾンビに囲まれる。

 

 これではアローネを!

 

「アローネ!僕の後ろに付いてきてください!囲まれてちゃ守り辛い。前方の動きの遅いゾンビを斬り伏せて一気に駆け抜けましょう!」

 

「!え、えぇ!分かりました!」

 

タタタッ

 

ズパンッ!!

 

 僕は木刀でゾンビを斬りつける。

 

「アアアッ………。」

 

 斬られたゾンビはそのまま溶けいく。

 

 よし、作戦通りに抜けれた。

 

 後は、

 

「アローネ!そこに隠れていてください!コイツらはここで倒します!」

 

「!カオス!?ヴェノムを相手にするなんて無茶です!逃げないんですか!?」

 

「心配は要りませんよ、ずっとやって来たことですから!」

 

 そのまま残りのヴェノムを倒す。

 

ザシュッ!

 

ザクッ!!

 

スパンッ!!

 

ジュゥゥゥゥ…

 

 

 

「………。」

 

「片付け終わりましたね。ここも危ない村の方へ急ぎましょう。」

 

「カオスは……カオスは何者なんですか?」

 

「……」

 

「ヴェノムは……あの怪物はいくら攻撃しても死なない不死の悪魔です。次から次へと現れて人々を殺していく悪魔…。」

 

「そうですね…十年前からそういう奴等でした。」

 

「それをこんなあっさりと倒せる訳が……。」

 

 

 

「アアアッ!!」

 

ガシッ

 

「…!?」

 

 しまった!

 

 油断して捕まった!

 

「ウカカカカッ!!」

 

「ぐぅぅ!!」

 

 なんとか噛みつかれないように顎を抑えるがこの態勢ではこのゾンビの方が有利だ!

 

「……チィッ!」

 

 一端噛まれてから顎を外すか。

 

 そう思ったとき…。

 

 

 

「ウインドカッター!!」

 

 僕を掴んでいたゾンビが切り裂かれる。

 

 力の緩んだゾンビを押し飛ばす。

 

「アローネ!戦えるんですか!?」

 

 そうか魔術で援護してくれたのか。

 

 基本的に戦うのが一人だったからアローネがいるのを忘れていた。

 

「はい!出来るのは時間稼ぎまで……ですけど……。」

 

 援護しようと構えていたアローネが攻撃したゾンビを見て言葉を途切れさせる。

 

 アローネに切り裂かれたゾンビはそのまま

 

 溶けて消えていった。

 

「この力は!?アローネも持っているんですか!僕と同じ力を!」

 

「……」

 

「アローネ?」

 

「とうして…?」

 

 アローネの様子がおかしい。

 

 倒したゾンビの姿を眺めている。

 

 まるでこんなふうになるとは思っていなかった。

 

 そんな顔をしている。

 

「……考えるのは後で。今はここから離れて先を急ぎましょう。」

 

「……」

 

 僕はアローネの手を引いて森を歩く。

 

 本当にどうしたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捨てられた村旧ミスト

 

 

 

「カオス。」

 

 あれから森を歩いて村へと戻ってきた僕達。

 

 村に付いてから家に入ろうとしたときにそれまでずっと黙っていたアローネに呼び止められる。

 

「どうしました?」

 

「先程のヴェノムは………何故倒せたのですか?」

 

「……」

 

「ヴェノムは不死身でどんな生物も対抗できない。だから騎士団も国も滅ぶ手前まで追い詰められたのに…。それを一人で四匹も…。」

 

「……僕も始めからこの力があった訳じゃないですよ。ある時偶然手に入れたんです。」

 

「偶然手に?」

 

「僕が魔力欠損症になってたとさっき言ってたと思うんですけどそれには原因があるんです。」

 

「原因ですか?」

 

「はい、あっちの村には殺生石と呼ばれるモンスターを寄せ付けない大きな岩があるんですよ。……あったんですよ。」

 

「殺生石?随分と物騒なお名前ですね?」

 

「それには訳があるんですよ。この殺生石は触れたものを即死させる力がありました。触れたもののマナが一瞬で吸いとられてしまうんです。」

 

「マナを吸いとる…。」

 

「僕や村人は最初マナを吹き飛ばすと思っていたんですがこの力を手に入れて分かるんです。殺生石はマナを吹き飛ばしているんじゃなくて吸収していたんだと。」

 

 この力に目覚めてからは人よりもマナについて深く感じることができるようになった。

 

 モンスターや人のマナの色、使える魔術。

 

「その力があるということは…」

 

「僕は唯一殺生石を触れて生き残った例外です。触れた直後はしばらく魔術を使えませんでしたけど。」

 

「ですから魔力欠損症について色々と言っておいででしたんですね。」

 

「後天的なものは滅多にないと聞きますから自分でも自分の症状を調べ回りました。アイオニトスというのは初耳でした。」

 

 そんな便利なもの早く知っておけば小さいときは悩まずに済んだかもしれない。

 

 原因は違ったが。

 

「殺生石に触れたと同時に僕の中には殺生石の中にあった何かが流れ込んだ。それがずっと眠り続けて僕の本来あったマナを吸い続けていたんです。」

 

「……」

 

「僕の中にはヴェノムすら殺せるもっと恐ろしい怪物の力が流れています。あるときこの力に目覚めてからはこの特殊なマナを自在に操れるようになりました。木刀に込めるだけで本来の切れ味以上の威力を発揮出来ます。」

 

「ヴェノムを倒したのはその力なんですね。」

 

「その通りです。けどこの力はもともとあの村の物ですからこの力はあの村を守るために使っています。………本当はこの力を殺生石に返すのが一番いいんですけど、どうしても返し方が分からずそのままに。」

 

 返せる方法があるというなら返したい。

 

 この力がなかったせいで村は壊滅しかけた。

 

 村を守る外壁を盗ったのは僕だ。

 

 だったら僕が外壁になるしかない。

 

「……その力が…」

 

「え?」

 

「その力が王都にもあったなら……」

 

「アローネ…」

 

「すみませんカオス。それが貴方とあの村の方へ確執だったのですね。余計なことを聞いてしまいました。」

 

「いいんですよ。僕も自分の罪はちゃんと受け止めて進ん出ますから。」

 

「お強いんですねカオス。」

 

「そんなんじゃないですよ…人として当然の意識です。」

 

「その意識を持てる人はそう多くはないと思いますよ。誰しも自分の悪いところからは目を背けたいものですから。」

 

 

 

「……今日はもう疲れましたのでそろそろ寝ますね。アローネは昨日の部屋を使ってもらえますか?僕はこの一階の部屋で十分なんで」

 

 そう言って話を終えようとする。

 

「カオス。」

 

「…?」

 

「お休みなさい。」

 

「……………………………………お休みなさい。」

 

 挨拶を返すとアローネは部屋の階段を上がっていく。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば誰もいないからお休みなんて言うのは久しぶりだな。

 

 ミストに住んでた時はおじいちゃんがいたから寝るときに言っていた……ような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃん…。



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夢の声

 青年カオスは森でアローネという女性を見つけ保護する。

 彼女は王都出身らしく一人じゃどうしようもないカオスはミストに送り届けようとするが断られてしまう。


捨てられた村旧ミスト

 

 

 

『また…ヴェノムが暴れだしたようじゃな。』

 

 

 

 ………?

 

 

 

『また…ワシが屠らねばならぬのか。』

 

 

 

 ………この声は。

 

 

 

 またこの声だ。

 

 

 

 あの時も聞いた誰かの声。

 

 

 

 誰なんだ。

 

 

 

 あの時もこの言葉を言っていた。

 

 

 

 ヴェノムを………屠らねば。

 

 

 

 何を言ってるんだ。

 

 

 

 ヴェノムを屠る?

 

 

 

 そんなの僕にしか出来ないのに。

 

 

 

『………シ……ル………』

 

 

 

 !

 

 

 

 今何か言っていた。

 

 

 

 今まで聞いたことなかったセリフとは違う何かを。

 

 

 

 何だ

 

 

 

 何を伝えたいんだ?

 

 

 

『…………………』

 

 

 

 もっと、もっと何か言ってくれ

 

 

 

 君は一体誰なんだ。

 

 

 

 君は一体何を僕に伝えたいんだ。

 

 

 

 僕は………どうすればいいんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……………ハァ、ハァ、ハァ、ハァ!」

 

「どうしたの?魘されてたよ?」

 

「ハァハァ………何か夢を見ていたみたい。」

 

「夢?」

 

「何の夢か思い出せないけど何か大切なことを忘れているような……そんな夢だった。」

 

「そう、だからそんなに涙が出てるの?」

 

「涙?」

 

 顔を触ると水滴が手につく。

 

 寝ながら涙を流していたようだ。

 

「悪い夢でも見てたの?」

 

「いや、そうじゃない、そうじゃないけど………分からない。」

 

「ふ~ん?悪い夢じゃないけどそこは分からないのね?」

 

「あぁ」

 

「じゃあ、いい夢だったのかな?」

 

「………」

 

「まぁ、何でもいいや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おはよう、カオス。」

 

 

 

「おはよう、ミシガン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝起きるとミシガンが来ていた。

 

「昨日警備隊の人が来てカオスが来たからって追い払っておきました!って言ってきたのその場でその人ぶっ飛ばしたわ!」

 

 どうやら昨日の件でミシガンが様子を見に来てくれたらしい。

 

「あんまり責めないであげてよ。当番の人も安全のためにやったことだよ。」

 

「それでも普段カオスのおかげで助かってる村だよ?とんだ恩知らずだわ。」

 

 ミシガンどうしてこんなに暴力で解決するような娘になっちゃったんだろう。

 

 環境が悪いのかな。

 

 僕のせいか。

 

 ゴメンね。

 

「それで昨日はなんでわざわざ村まで来たの?」

 

「そこは警備隊の人言ってなかったの?」

 

「カオス追い払ったって言ったから聞けなかったんだよ!」

 

 それは君がぶっ飛ばしたからだろう…。

 

「そっか、じゃあ会ってほしい人がいるんだ。」

 

「会ってほしい人?」

 

「そう、ミシガンには是非ね。」

 

 もともとミシガンの家で面倒見てもらおうと思ってたし丁度良いだろう。

 

「今二階にいるんだけど…」

 

トントントンッ

 

 噂をすればだ。

 

 僕達の話し声で起きたのだろう。

 

 二階から降りてくる足音が聞こえてくる。

 

「……誰かいるの?」

 

「その会ってほしい人だよ。」

 

 

 

「お早う御座います、カオス。」

 

「お早う御座います、アローネよく眠れました?」

 

「お陰様で、それでカオス、そちらの方は?」

 

「あぁ、昨日言ってた…「ガシッ」」

 

 紹介しようとしたらミシガンが僕の顔を掴んで引き寄せる。

 

 あの、近いし痛いです。

 

「ミシガン?どうしたの痛いんだけど、痛たたたたっ!!」

 

「カオス!?」

 

 アローネが僕たちを見て悲痛に叫ぶ。

 

「貴女はどなたですか!?カオスに何を!?まさか盗賊!?」

 

 アローネさん本当に盗賊好きですね。

 

 こんな女の子に捕まったことあるんですか。

 

「………カオス、この人をつかまえていきなり盗賊呼ばわりしてくる女の人はアンタの何!?」

 

「さっき言ったじゃないか!この人がぁぁぁぁぁ!」

 

 言おうとしてるのにどうして力入れるの!?

 

「カオスを離してください!カオスを…「ガシッ」?」

 

「カオス?」

 

「だからカオスをぁぁぁ!!」

 

「ちょっ!?ミシガン僕はいいけどこの人はぁぁぁ!!」

 

「うるさぁい!黙れ!」

 

 ミシガンさんどうしてそんなに理不尽なの!

 

 話くらい聞いてくれてもいいじゃないですか!

 

「あ、頭がぁぁぁ!!」

 

「ミシガン止めてえぇぇぇぇ!!」

 

「「うあぁぁぁぁ!!!」」

 

 ミシガンその細腕のどこにそんな力がぁぁぁ…

 

 僕は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?」

 

 あれからミシガンによって気絶させられた僕達は今ミシガンの尋問を受けている。

 

 ミシガンこんなに怖い子だったんだね。

 

 床が冷たいです。

 

「何?」

 

「何って?」

 

「どうしてこんなところに女の人がいるの?」

 

「どうしてって言われても…。」

 

 何故僕はこんなにきつく問い詰められてるんだろう。

 

 何も悪いことはしてないと思うんだけど。

 

「あのカオスだけは助けてもらえませんか?人質なら私だけで「私は盗賊でも山賊でも海賊でもないぃ!!」ヒッ!」

 

 ここまで怒ったミシガンは初めてだ。

 

 一体何にここまで感情を剥き出しにしているんだ。

 

「私はミシガン!ミシガン=リコット!普通の農家よ!」

 

 普通の農家にしてはさっきのアイアンクローとこのプレッシャーは異様だ。

 

 アローネも顔には出してないが足が震えている。

 

「農家?」

 

「そうよ!そこにいるカオスは私の家族!弟よ!」

 

「弟ってミシガン僕の方が年「アンタは黙ってなさい!」はい。」

 

 ずっと妹のような可愛い子だと思ってたらいつの間にか弟にされていた。

 

「あのお姉さん、カオスは私を助けてくれたんです!」

 

「助けた?」

 

「はい!私もよく分からないのですが眠っている間に誘拐されていたみたいで…。」

 

「誘拐?眠っている間にって貴女よく起きなかったわね。」

 

「……面目もございません。」

 

「そこはどうでもいいわ。それで何処から来たの?」

 

「王都です。」

 

「王都!?遠いわね!?」

 

「……はぁ。」

 

「でどうやって帰るの?」

 

「……」

 

 アローネが段々泣きそうになってくる。

 

 ここらで助け船くらいは許してくれるよね?

 

「その事なんだけど昨日村に行ったのはミシガンにアローネの……アローネさんの保護をしてもらいたくて行ったんだよ。」

 

「うちに?」

 

「そう、そのうち騎士団の使節が来るんだろ?こっちじゃ風邪引かせちゃうかもしれないし。だからそれまで村長の家で預かってもらいたくて話に行ったんだよ。門前払いだったけど。」

 

「それは………悪いことしたわね。」

 

「気にしないでいつものことだから。」

 

「……。」

 

 急にいつものミシガンに戻る。

 

 ふぅ、危機は去ったようだな。

 

「つまりこのアローネさんをうちで預かって騎士団の使節の人が来たらそのまま連れて帰ってもらえばいいのね?」

 

「そう!それが言いたかったんだよ!」

 

 やっと伝わって嬉しくなる。

 

 どうして無駄にアイアンクローを食らわなきゃならなかったんだ。

 

 アローネも被害を受けたみたいだし。

 

「……」

 

 ?

 

 アローネが何だか考え込んでる。

 

「そう言うことなら早く言ってよ!女の人連れ込んでるからもしかしてこういう目的でここに住んでるのかと思っちゃったじゃない!」

 

「そんなわけないだろう。ここへは十年前から住んでるんだから。」

 

「それもそうよね。」

 

「僕はここから村を守ると決めてるんだ。女の人目的じゃないよ。」

 

 そこをミシガンに誤解されると何だか悲しいな。

 

「………分かってるよカオスがそういう人だってこと。」

 

「…うん。」

 

 

 

「あのぅ。」

 

「?どうしたんですかアローネさん。」

 

「私、やっぱりカオスとここにいようと思います。」

 

 不意にアローネがそんなことを言ってくる。

 

「え?どうしたんですか!?アローネ……さん。」

 

「そうです!何言ってるんですか!?」

 

「……私も王都には帰りたいとは思うんですけどここにカオスを…恩人を一人で残して行くのは何だか申し訳なくて。」

 

「僕のことなら気にしないでいいですよ!馴れてますし!」

 

「そうですよ!こんな誰もいないところに男女で一緒に住むなんて認められません!ましてやカオスと!」

 

 ミシガンさっきから僕のこと変な風に疑ってない?

 

「私がそうしたいんです。カオスは一人でいるといけない気がして…。」

 

「アローネ…さん。」

 

「ダメったらダメ!何かあってからじゃあダメなんだから!」

 

「でも…。」

 

「ほら行きますよ!アローネさん!」

 

 そう言ってアローネの手を引っ張っていこうとするミシガン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってミシガン。」

 

 部屋から出ていこうとするタイミングでミシガンを呼び止める。

 

「僕は構わないよ残ってもらっても。」

 

「はぁ!?何言い出すのカオス!」

 

「門番の人が言ってたんだ。ヴェノムに感染してないか怪しいって。そんな疑い持たれたままで村で過ごすのは気が休まらないと思うんだ。だから騎士団が来るまではここにいても大丈夫だよ。」

 

「あの人そんなこと言ってたの!?後でもう一発…!」

 

「それに今更だけど村の人を頼るのも悪い気がしてきた。僕なんかの頼みを本当は聞いてもらうのも烏滸がましいし。」

 

「そんなの一々気にしなくても!」

 

「ミシガン、アローネは僕が責任持って送り届けるからミシガンは騎士団が来たら知らせてほしい。そしたら村の入り口までまた行くから。」

 

「カオス…。」

 

「僕を……僕を信じてほしいんだミシガンだけには。」

 

「………分かったわよ、そこまで言われちゃ引き下がるしかないじゃない。」

 

「有り難う。」

 

「…どういたしまして。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秘境の村ミスト 入り口

 

 

 

「ここまでで良いわ。本当によかったの?私に任せればこの村にも入れると思うんだけど。」

 

「いいんだよ。騎士団の人に伝えてもらえるだけで有り難いよ。」

 

「そこは別に構わないんだけど…二人きりだからって変なことしないようにね!」

 

「変なことって何だよ…。信用ないなぁ。」

 

「信用はこれでもしてるつもりだよ?」

 

「それっぽっちしかないんですねミシガンさん。」

 

「それっぽっちでもあるだけましでしょカオス君。」

 

 

 

 ……。

 

 

 

「「フフフフッ!」」

 

「それじゃああっちの村でアローネ待たせてるし行くね。今日は楽しかったよ有り難う。」

 

「まったくぅ、知り合って間もないってのに呼び捨てで呼びあってるみたいだし心配になるんだから。」

 

「それを言ったらミシガンとも呼び捨てで呼びあってるじゃないか?」

 

「私はいいの!家族で弟なんだから!」

 

「さっきも思ったけどなんで弟なの?ミシガンより三つ上の二十歳なんだけど。」

 

「カオスはアルバおじさんがいなくなってからはリコット家の養子扱いなの!後から入ってきたんだから私の方が上なの!年上だけど弟なの!」

 

「横暴だな。」

 

「何?文句ある?」

 

「いやないよそれじゃあ。」

 

 

 

「カオス!」

 

 帰ろうとしたらミシガンに呼び止められる。

 

「どうかした?」

 

「この間のことなんだけど………殴ってゴメンね!」

 

「そのことか。気にしてないからいいよ。」

 

「それでもだよ!カオスは真面目に自分と向き合ってただけなのに。」

 

「ミシガンが僕のことを想って言ってくれてたのは伝わってたからむしろ嬉しかったよ。」

 

「え!?殴られて嬉しかった!?」

 

「そこを拾うなよ…。」

 

 この子は本当に教師として大丈夫なのだろうか。

 

「それじゃあ騎士団が来たら真っ先に知らせに行くから!」

 

 

タッタッタッ…

 

エッミシガンサンッ、ナッナニヲ!?

 

ドゴオッ!!

 

アアッー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 



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義理の兄

 青年カオスはミストの村にアローネを連れていくが断られる。

 翌日村に帰りミシガンとアローネの紹介を終え、ミシガンをミストの村に送り届ける。


捨てられた村旧ミスト

 

 

 

「お帰りなさい。」

 

 村に帰ると家でアローネが出迎えてくれた。

 

「……」

 

「カオス?」

 

「あ、う、うんただいまアローネ。」

 

「どうなさったんですか?」

 

「えぇっとぉ、ここ十年で誰かが僕の帰りを待ってたことなんてなかったからなんかお帰りって言われると変な感じで…。」

 

 一人言を呟くことはあっても誰かと連日して話をすることなどなかった。

 

 こうして十年ぶりに誰かと過ごすのは嬉しいようなくすぐったいような気分になる。

 

「そうなんですね。ではどのくらい入られるかは分かりませんがそれまでは私がカオスのことを待ってますね。」

 

「……えと」

 

「ご迷惑でしたか?」

 

「………」

 

「カオス?」

 

「………」

 

「………」

 

「………!」

 

「カッ、カオス!?」

 

 何でだろう。

 

 涙は子供のときもそんなに出なかった筈なのに。

 

 辛いこと悲しいことはあっても泣かないように堪えきれてたのに。

 

 自然と大人になったらなくなるものだと思ってたのに。

 

 どうして今こんなに溢れてくるんだろう。

 

「……くぅ……ズッ!!」

 

「何かあったのですか!?お気に障ることでもしましたか!?」

 

 目の前でアローネがあたふたしている。

 

 申し訳ない。

 

 そういうことじゃないんだ。

 

 そういうことじゃあ。

 

「………ズズッ!!すみませんアローネ。」

 

「はい!?私は何も悪いこととは感じてませんが!?」

 

「………フゥ、フッフフフ!何だか初めて涙を流したような……ズズッ!気がします。」

 

「初めて?」

 

「こんな気持ちでも……涙が流れることがあるんですね。勉強になります。」

 

「?」

 

「涙って子供だけの特権だと思ってたんです。子供なら何時でも泣けるから。でも今こんな大人になっても出るもんだとは思いませんでした。」

 

「それは……大人でも辛いことがあれば涙は流れますよ。」

 

「違うんです。今は悲しくて泣いてるんじゃなくて幸せで涙が溢れてきちゃって!」

 

「幸せ?」

 

「はい。今僕は幸せなんです。」

 

 ずっと昔にはあった幸せ。

 

 あの時は幸せだなんて感じなかった。

 

 当たり前に持っていたから。

 

 その幸せから離れて長い間感じることがなかったから分かる。

 

 この幸せが自分の心を暖めてくれたことを。

 

 ずっと寒かったのかもな。

 

 僕は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみませんアローネ。帰ってきてすぐおかしなことになってしまって。もう落ち着きました。」

 

「いいえ、何事もなくてよかったです。」

 

 アローネはまだ心配そうにしている。

 

 僕がこんなんじゃぁダメだな。

 

「今日は村の掃除でもしようかな。」

 

「村の掃除ですか?」

 

「はい、村といっても結構広いんで定期的に掃除をしてるんですよ。一日一軒ですけど。」

 

「そうなんですね。それでは私もお手伝いしますよ?」

 

「大丈夫ですよ。一人でも十分時間ありますしアローネはゆっくり休んでもらってても…。」

 

「そう言われましても一人では特に何もすることがないのでカオスのお役にたてればと。」

 

「アローネはお客様ですし貴族のお嬢様にそんなことさせられませんよ。」

 

「むっ!もしかして私のことを清掃もできない子だと思ってます?」

 

「そういう風には…」

 

 割りと全力で思ってる。

 

「分かりました!では私の力をお見せします!カオス案内してください!」

 

「……えー。」

 

「行きますよ!」

 

 どうしたものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

「村の集会所だった場所ですね。この間はここを掃除しようと思ってたんですけど置いてある本を興味本意で読んでいるうちにやり忘れてて…。」

 

「カオスも人のこと言えないんじゃないですか?」

 

「……はい、ごもっともです。」

 

 ミシガンは仕方ないけどアローネも少しずつ逆らえなくなってる。

 

 会って間もないのに女性は強いなぁ。

 

「それでは手分けして行いましょう!」

 

「は、はい!」

 

 もうこの時点でアローネがこの空間を支配してしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、こんなものかな。」

 

 おおよその埃をはたき出し一ヶ所に纏める。

 

 半日かけて室内は大分綺麗にはなった。

 

「アローネ、終わりましたか?」

 

「こちらももう少しで片付きまーす。」

 

 アローネが室内の椅子や机を磨きあげていく。

 

 ずっと見ていたが手際よくこなしていた。

 

「驚きました。アローネは清掃作業得意なんですね。」

 

「はい、王都ではよく行っていましたから。」

 

「貴族様でもご自分でなさるんですね。祖父の話ではそういうのを専門的にしてくれる方がいると聞いておりましたが。」

 

「祖父?カオスのお祖父様は王都にお詳しいんですか?」

 

「うちはずっと前に祖父が王都で貴族だったらしいんですよ。本人は平民上がりの騎士だーって言ってたんですけど、貴族だったときの祖父の部下の人が来て祖父の内情を色々詳しく聞かせてもらって。」

 

「まぁ!お祖父様は貴族でらしたんですね。お名前はなんというのでしょうか?」

 

「アルバ……なんだっけなぁ。………アルバート=ディラン・バルツィエ………確かそんな名前だったと思います。」

 

「アルバート=ディランバルツィエ?バルツィエ家………聞いたことのない名ですね。爵位は?」

 

「そこら辺もよく分からないんですよ。貴族と教えてくれた部下の人もすぐにいなくなってしまって。」

 

「それではどのような方だったのかは……」

 

「いいんですよ。そんなに大した貴族でもないと思いますし祖父も今頃なくなってるだろうといなくなる少し前に言ってましたし。」

 

「そうそう無くなる貴族というのもないと思いますけど…」

 

「祖父については僕のなかで凄い強くてみんなを守った騎士ということで完結してるんですよ。だからもうその先を知りたいとは思いません。アローネも王都に帰ってバルツィエを探したりしないでいいですからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当はおじいちゃんのことをもっと知りたかった。

 

 おじいちゃんが何を思って僕に貴族ということを隠していたか。

 

 おじいちゃんが何故貴族を捨ててまでミストの村にこだわったのか。

 

 おじいちゃんには謎が多すぎる。

 

 けどそんなことを調べたところで僕はこの村を離れられない。

 

 知ったところで僕の自己満足しか得られないならその先は知らなくていい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の集会所の掃除を終えた僕らは次に食事やお風呂の用意をした。

 

「……」

 

「これで一通り終わりですね。」

 

「アローネ。」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「貴族のお嬢様ってこういうことが得意って思わなかったからまだ驚いてます。家事上手なんですね。」

 

「まだ疑ってらしたんですか?私だって女の子ですよ?このくらいは必要スキルです。」

 

「ずっと貴族の方は家事とか家の中のことはメイド?とかいう人たちが担当してると認識してたんですよ。だからこういうスキルを持ってるのが不思議で。」

 

「王都の貴族の家は大半はその認識で合ってますよ?私の家が特別……と言うよりも私と姉が特別こういったスキルを持ってるだけだと思います。」

 

「特別なんですか?」

 

「昨日も話してたんですけど私の義兄の影響なんです。義兄はハーフエルフなので身分が低く姉の家庭教師から専属医師、武術、華道……そういった習い事や管理を全て任されていました。」

 

「そんなに多くのことを?流石にそのお義兄さんハイスペック過ぎませんか?」

 

「ハイスペック………その言葉だけでは足りないほどの能力を持っていたと思います。あの義兄が誰かに何かの腕で負けるようなことはありませんでしたから。」

 

「そんなに凄いんですか。」

 

「義兄の知らない世界だとその限りではありませんが義兄が一度それを学ぶとどんな達人や偉人でも越えてしまう程には力もありました。」

 

 凄い人がいたんだなぁ。

 

 噂に聞く天才っていう奴か。

 

「………唯一つ義兄には越えられない欠点がありました。」

 

「欠点?」

 

「はい。義兄は出生が敵国の血を持つハーフエルフ。唯一つそれだけで国から奴隷としての烙印を押されました。いくら後学に残る程の医学や技術に貢献しても変わらない周囲の評価。私の両親も最初のうちは義兄を軽蔑していました。」

 

 ……なんだそれは。

 

「なんか頭に来る話ですね。努力しても報われないなんて。僕そういう話分かります。」

 

「カオスは分かるんですか?」

 

「僕も昔魔力欠損症で辛いときがあったんですけどそこを堪えて必死に頑張って騎士になってやる!と鍛練してた時期がありました。だからお義兄さんのように頑張ってるのに報われないなんて聞くと許せないですね王都の人達が。」

 

「そこは仕方ないのかもしれませんね。義兄が直接何かをしたわけではありませんが敵国の機械兵器に家族を奪われた方々も多くいる筈ですから。」

 

「そうやって壁を作って同じ国に住む人達を認められないなんて間違ってますよ。」

 

「カオスは本当にお優しいんですね。」

 

「世間知らずなだけかも知れませんが。」

 

「フフフッ、でも義兄はそうした苦境も乗り越えて姉と結婚するに至りましたから少しは報われたのではないでしょうか。」

 

「ご両親はさっき軽蔑してたと言ってましたけどご結婚認めてもらえたんですか?」

 

「姉は優秀な人でしたが体が弱く十五年前までは治療方法がまだ見つかっていない病にかかっていました。」

 

「え?」

 

「その病気にかかったら十五までは生きられないだろう、そう言われている病気でした。」

 

「そんな病気に…。」

 

 もしかしてお姉さんは…。

 

 だけど確か昨日は、

 

 

 

「義兄はそんな姉の病、先天性魔力機能障害を治療しました。」

 

「先天性……魔力機能障害?」

 

「貴族や王族などの強い遺伝子を持つものに希におこるもので体内のマナの量が肉体の強度を越えて暴走してしまう病気です。姉はそれこそ王族に匹敵する程の力を持っていましたが肉体は並の人程度でした。器に入りきらないマナは常に姉の体を蝕んでいました。」

 

「先天性魔力欠損症の逆みたいな病気ですね。」

 

「その通りです。姉はマナが人より多すぎたために死にかけていました。」

 

「単純にマナを使うということでは解決しないんですか?」

 

「……私も最初はそういう話かと思いました。けどこの病気を持つ人はマナを放出する量よりも回復する量が上回るため一日中寝る時間もないくらいに放出し続けなければなりません。」

 

「……」

 

 途方もない病気だな。

 

 強すぎるマナのせいで逆に自らを苦しめるとは。

 

 マナが無くて辛かった時にはそんなものがあるなんて考えもしなかった。

 

「義兄は姉の症状をひたすらに研究しその症例から僅か三年で治療方法を見つけました。王国が出来て数百年見付からなかった治療方法を。」

 

「三年で!?」 

 

「義兄は他にも先天性魔力欠損症などの治療方法も見付けた有名な方なんですよ。その事があって私の両親から認められて姉と結婚出来ました。」

 

「なんというか……とても追い付けない人ですねお義兄さん。」

 

 唯でさえ多才なのにそんなドラマまであるなんて。

 

「そんな義兄を持つと自然とこういう家事スキルも上がってしまうんですよ。義兄がやること一つ一つを真似していくうちに。」

 

 

 

 アローネはお義兄さんのことが大好きなんだろうなぁ。

 

 僕が昔おじいちゃんを追いかけていた頃のように。

 

 憧れから始まってそうなりたいと思い始めて次第に真似してみたくなって…。

 

 越えられないと分かっていても手を伸ばしてみたくなる衝動が抑えられない。

 

 まさに自分が思い描く理想の人だから。

 

 

 

 

 

 

 



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到着の知らせ

 青年カオスはミシガンをミストの村に送り届けた後、旧ミストへのアローネのもとへと戻る。

 それからアローネに過去にあった出来事を聞く。


捨てられた村ミスト

 

 

 

 ミシガンに騎士団の到着の知らせをお願いしてから数日が立った。

 

 アローネと一緒に生活してていろんな場面で助けられてる。

 

 一人だったときには考えなかった食事の献立や民家の家財の整理整頓。

 

 一人でいたときには得られなかった世界が広がっていく。

 

 このままアローネにはずっとここで…

 

 なんて思い始めてしまったくらいだ。

 

 そんなあるとき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「森に行きたい?」

 

「はい。いつもカオスが森に行くときは私は留守を任されていたので今日は一緒に。」

 

 どうしたんだ。

 

 森に行ったところで普通のモンスターかヴェノムくらいしかいないんだが。

 

「僕のことを案じているなら心配要りませんよ?」

 

「それもありますけど今回はそうじゃないんです。」

 

「何か別に目的があってのことと言うことですか?」

 

「はい、お願いできませんか?」

 

「う~ん。」

 

 ここ数日ずっと村の中にいたからなぁ。

 

 もしかしたらストレスでも溜まってるのかもしれない。

 

 家事の能力は高いけど元々はお嬢様だからそろそろ限界なのかな。

 

「分かりました。僕と一緒ならいいですよ?」

 

「ありがとうございます。」

 

 嬉しそうなアローネ。

 

 付いてくるのを許可しただけでここまで喜ぶとは

 

 

 

 刺激がなくてここの生活に飽きちゃったとか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストの森

 

 

 

「それにしても何故急に?」

 

「ずっと確かめたいことがあったのですけど遠回しにしているうちに時間が経ってしまって…。」

 

「確かめたいこと?」

 

 森に何かあったかな?

 

 そんなことを考えているうちに

 

 

 

ガササッ

 

 

 

「「!!」」

 

 

 

「シュウゥゥゥゥ。」

 

「ヴェノム!アローネ下がって「ここは私に任せてください!」」

 

「私がヴェノムの相手をします。」

 

 そういってアローネが前に出る。

 

 前に戦ってるところを見たから大丈夫だとは思うけど。

 

「ウインドカッター!」

 

 アローネの風の魔術がヴェノムを切り裂く。

 

 ヴェノムは切り裂かれて再生…

 

 

 

 しなかった。

 

 

 

ジュゥゥゥ!!

 

 

 

 切り裂かれたヴェノムが溶けていく。

 

「お疲れさまですアローネ。」

 

「……」

 

「アローネ?」

 

 アローネが前に見たときと同じ反応をする。

 

 どうしたのか?

 

「この森の…」

 

「はい?」

 

「この森のヴェノムはこんな風に魔術一つでやられてしまうのですか?」

 

「いえそんなことはないですよ?僕は殺生石の力で倒してますけど村の人達はいくら攻撃しても再生するんで手を焼いています。」

 

「……」

 

「どうかなさったんですか?」

 

「私も……私もそうでした。」

 

「アローネも?どういうことです?」

 

「前に王都にヴェノムが現れた時があってその時私もヴェノムに攻撃したんです。けどヴェノムには利かなくて逃げるしか出来なくて…。」

 

「アローネのその力は最初からあった訳ではないんですか?」

 

「誘拐される前は私も普通の人より少し魔力が高いくらいでヴェノムに対抗なんてとても…。」

 

「誘拐されてここに来てからその力が備わったと言うことですか…」

 

 とするとアローネを誘拐していたあの人達が怪しいんだがもう………

 

 

 

 いや待て。

 

「アローネ、僕がアローネを助けた場所まで行ってみませんか?何か分かるかもしれませんよ?」

 

「助けた場所?」

 

「もう少し先にいった場所に亀車が放置してあるんでそこに行きましょう!」

 

「……はい。」

 

 僕とアローネはアローネを最初に見付けた場所へと歩きそうだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これに………私が?」

 

 亀車はそのまま残っていた。

 

 あの日から雨が降ったりしたからところどころ汚れてきているが内装は無事だった。

 

「はい、この中の棺で眠っていました。」

 

「ここに……」

 

「何か思い出せそうですか?」

 

「いえ……」

 

「そうですか…」

 

「ですがこの棺には高度な術式が組み込まれています。」

 

「術式?」

 

「はい、魔術には簡単に言いますと六属性の攻撃魔術と支援、回復魔術があるのをご存知ですか?」

 

「ファイヤーボールとかの他にあるファーストエイドとかですよね?」

 

「そうです、基本的にはその範囲なんですが魔術には呪術と呼ばれるものがあります。」

 

「呪術ですか?怖そうな話ですね。」

 

「大丈夫ですよ。呪術というのは人に掛けたりしたら厄介ですがこういった棺とかのの施錠に用いられたりしてることの方が多いんです。」

 

「物に呪いを掛けられるんですか?」

 

「魔術や呪術は発動するにはマナを消費しますよね?自然エネルギーを使用して発動する攻撃魔術は発動してから飛ばすまでにマナを使いきりますが物体に魔術を掛ける場合はその物体が破壊でもされない限り残り続けます。」

 

「それは流動する自然エネルギーを維持するのはマナを逐一補充しないといけないけどそれとは関係ない普通の物質には微量のマナで事足りると言うことですね?」

 

「その認識で間違いありません。施錠系の呪術は魔術を使えば簡単に開けられますから大したものではないんですけど。」

 

「ではこの棺もそうだと?」

 

「いえ、この棺には更に上の呪術が組み込まれています。」

 

「更に上の呪術?」

 

「棺には特定の条件を満たさない限り棺を解除出来ないようになっていて、支援魔法も一通掛かっていますね。他にも魔術を寄せ付けない………」

 

「寄せ付けない?」

 

「これは………」

 

「アローネ?」

 

「……この棺は一種のシェルター化しています。」

 

「シェルターってあの災害の時とかに隠れる建物ですよね?」

 

「そう、都市を破壊しかねない程の災害を予見して回避するために作られるもの。棺にはその際に組み込まれる術式と他にも生命維持装置といったものがあります。」

 

「生命維持装置!?こんな棺に!?」

 

「原理は中の生命体を眠らせて外部から生きるのに必要なマナやエネルギーを取り込むのでしょう。これを使えば数百年先まで安全に生きられますよ。」

 

「安全にって…この中で過ごさなきゃいけないんですよね。流石にそれは……。」

 

「この術式は治療方法の見付からない病気を治すために時間を越えて発展した未来で治療するという延命が目的のものです。完全なタイムカプセルとでも言いましょうか…。」

 

「タイムカプセル………そんなものにアローネは。」

 

「私自身はこれといった重い病気に掛かったことはありませんが何故これに私が入れられていたかも分かりません。」

 

「最後の記憶とかは……」

 

「最後……?」

 

「誘拐される前の記憶ですよ。」

 

「………思い出せません。」

 

「その辺りから記憶がないんですね?」

 

「王都があんなことになってからは………とても。」

 

「王都で何かあったんですか?」

 

「………王都は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェノムに襲撃され王都の半分がなくなりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王都が半壊した……のですか?」

 

「私の記憶ではそうでした。王城から近い屋敷だったので王都を見渡せるほどの景色から見たので間違いありません。」

 

「では………今度来るミストの騎士団は…。」

 

「それも分からないのです。王都がほぼ壊滅状態にあったのにこんな短期間で立て直して遠方に使節を送るなど…。」

 

「………」

 

「私にとってはついこの間の出来事………に思えるのですがもしかしたらこの棺で私はとても永い間眠っていたのかもしれません。

 

 今だって思い返してみれば大切な思い出以外のことがもやが掛かったように思い出せないのです。

 

 何故私がこの棺に入っていたのか。何故私にはヴェノムを倒す力があるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は一体何をされたのか。」

 

 

「……」

 

「考えれば考えるほど私は今の私が分からない。

 

 この体の中にあるものはもしやとんでもない「アローネ。」」

 

「落ち着いてアローネ。」

 

「カオス…。」

 

「アローネはアローネだよ。ここ数日間ずっと見てきた僕が保証する。

 

 僕もこの力に目覚めたときは怖かったけど長く付き合ってみるとこの力は使い方によって人のためにもなるし自分のためにもなる。

 

 アローネが自分を見失わなければ何も怖いことなんてないんだよ。」

 

「自分を見失わない……」

 

「今回はアローネのルーツが見付かっただけでも前進したんだ。」

 

「そうなのでしょうか?」

 

「そうなんだよ。だからこれからは一悩まないで「オーイ!!」」

 

 

 

「カオスゥゥゥ!!アローネさぁん!!」

 

 

 

「ミシガン!」

 

「お姉さん。」

 

「探したよ?こんなとこで二人でなにやってたの?」

 

「アローネと少しね…。」

 

「少し…何?言ってよ?」

 

「えぇと…ちょっと難しい話なんだけど…」

 

「難しい話?」

 

「そのことはいいじゃないか。ミシガンはどうしてここへ?」

 

「あぁそうだった!例の知らせを持ってきたんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騎士団がミストに来たんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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再会の約束

 青年カオスは森で見つけた女性アローネと生活をしていた。

 二人はアローネのルーツを探すためアローネの運ばれていた亀車を調べに森に向かうがその後ミシガンから騎士団到着の知らせを受ける。


ミストの森

 

 

 

「騎士団が着いた!?」

 

「そう!本当はもっと早くに着いてたんだけど忙しそうだから事情を話してアローネさんを送迎できる日を教えてもらったの!そしたら今日王都に報告の隊がいるみたいだからそのついでに連れてってくれるって!でもあっちの村に行ったらカオス達いなかったから騎士の人達に待ってて貰って探しに来たんだよ!」

 

 

「ゴメンねミシガン。手間取らせちゃったかな。」

 

「本当だよ!でも私もサプライズにしようかなぁーって思ってたからおあいこだよ。」

 

「お姉さんはご無事なんですか?」

 

「へ?」

 

「この数日で森にはヴェノムが棲息しているのを確認しているのですが。それなのに何度も森を行き来しているようですし。」

 

「あぁ、そのこと?平気ですよ。打ちの村の人達はみんなヴェノムに抗体があるみたいなんで。」

 

「抗体?ヴェノムにですか。」

 

「そうそう。」

 

「ヴェノムに抗体……そんな訳…」

 

「撃退は一人じゃ出来ないんですけどね。十年前から村のあちこちにヴェノム用の穴も掘ってますし大丈夫ですよ!さぁ、行きましょう!早くいかないと騎士団の人達帰っちゃいますよ?」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捨てられた村旧ミスト

 

 

 

「ミシガンちゃん遅いなぁ~。」

 

「さっき行ったばかりだからまだ掛かるんだろもう少し待ってようぜ。」

 

「それもそうだなぁ」

 

「あんな子がこんな王都から離れた村にいるなんて想像も出来なかったぜ。まだあっちの村にも掘り出し物が多くあるのかもよ?」

 

「ハハッ!楽しみだな。」

 

「それにしてもよくこんな廃れた村に住んでる奴がいたなぁ。俺はてっきりあっちのミストみたいにもう一つ王都の知らない村があるんだと思ってたがここはもうほぼ無人みたいじゃないか。」

 

「無人じゃないぜ。一人変わり者がいるんだろ。こんなところに住める変わり者が。」

 

「ここも元々はあっちの村の人達が住んでたらしいけどヴェノムに襲われてあっちに移り住んだみたいだぞ?」

 

「あぁ~やっぱり?そんな気がしてた。」

 

「ヴェノムに襲われてよく生き残れたな。大抵は全滅するだろ?ここの他に潰れた村なんか数えきれない程あるぞ。」

 

「何でもヴェノムの対応に詳しい人がいたらしい。もういないって話だがな。」

 

「ってことはそいつも……」

 

「あぁ、ヴェノムにやられたんだろう。殺し方知ってたのに可哀想だなぁ。」

 

「村を救った英雄なのになぁ。スカウトしたらいい線行ってたんじゃないか?」

 

「生きてたらな。」

 

「じゃぁ無理か!」

 

「「「「アッハハハハハハハハ!!」」」」

 

 

 

「王都の臣民がこんなところまで誘拐かぁ。」

 

「あ、それ俺も!俺も思ってた!」

 

「一体こんなところまで誘拐して何がしたかったんだろうなぁ。」

 

「身代金用意だけさせて受け取ったら足ついてもばれにくいようにこの辺りで殺す手筈だったんじゃねぇか?」

 

「それだったらどれだけ用心深いんだそいつ。」

 

「けどミシガンちゃんが言うにはソイツらもういないみたいだぞ?ヴェノムに襲われたとかで」

 

「え?だったらこれから来るその人もヤバイんじゃぁ…」

 

「数日前の話らしいぜ?まだヴェノムになりきってないんだったら感染はしてないだろ。」

 

「それもそうだな。」

 

「どんな人が来るんだろうなぁ。」

 

「誘拐されるくらいだから小さい子どもじゃないか?」

 

「王都じゃ日常茶飯時だからなぁ。被害届だけでも確認しとくか。」

 

「うわっ、数えきれない程あるぜ!」

 

「面倒くさいなぁ、名前だけでも分かればやり易いんだが。」

 

「なんにしても先ずはミシガンちゃんが連れてきてからだな。」

 

「大丈夫かなぁ、ミシガンちゃん封魔石も持たずに森に入ってったし。ヴェノム出るんだろ?」

 

「大丈夫なんじゃないか?ここらよく来るって行ってたしヴェノムを避けて通れるんだろうよ。」

 

「けど万が一見付かったらここに連れてきちまうだろ?」

 

「その時はこの王都が開発した対ヴェノム用ワクチン剤で消すから安心しろよ。心配なら先にお前に射っとくが?」

 

「おぉ~、ありがてぇ!新型じゃんかよぉ!頼むぜ!」

 

 

プシュッ

 

 

「ほっほっ~!!体の中が浄化されていくみたいだぁ~!」

 

「ハハッやべぇ薬やってるみたいだな。」

 

「何言ってるんだよ。こんな素晴らしい薬に向かって!コイツさえあればこの森のヴェノムなんか俺一人で片つけられるぜ!」

 

「そうか、じゃあ行ってらっしゃい!」

 

「……冗談だってよ、一人じゃ無理だってこんな広い森の中は。」

 

「ヴェノムは倒せても遭難して帰れなくなりそうだな。」

 

「そうなるって確実に……おっ!帰ってきたみたいだぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スミマセ~ン!お待たせしました~!」

 

「お帰り~!その人達が例の人達だね?」

 

「はい!」

 

 ミシガンと鎧を来た六人の男が話をする。

 

 クレベストンさんとはデザインが違うが

 

 この人達が、本物の

 

 騎士。

 

 

 

ドクンッ!ドクンッ!

 

 

 

 ………

 

 

 

ドクンッ!ドクンッ!

 

 

 

 落ち着け。

 

 もうそういう夢は見ないと決めたろ。

 

 

 

ドクンッ!ドクンッ!

 

 

 

 僕はもう騎士になんて馴れないんだ!

 

 僕は多くの人を殺した悪人なんだ!

 

 

 

ドクンッ!ドクンッ!

 

 

 

 今更憧れたって僕は……

 

 もう遅いのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして!私は王国騎士団バベル隊隊長のブラム=バベルです。以後お見知りおきを。」

 

「はい、よろしくお願いします。私はアローネと申します。」

 

「アローネさんですね。ではこのまま我が隊が貴女を「少し待っていただけますか?」」

 

「はい?いかがなさいました?」

 

「少々お世話になったカオスにお礼を言いたいのです。」

 

「……承知しました。では私どもはあちらの方でお待ちしております。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス。」

 

「あれアローネさん話は終わったの?出発は何時くらいになりそう?」

 

「それはまだ…、少しカオスとお話がしたくて…。」

 

「……」

 

「カオス?」

 

「……」

 

 

 

ゴンッ!

 

 

 

「……どうしたのミシガン。」

 

「アローネさんが話があるみたいだよ。カオスぼーっとしてたから起こしてあげたの。」

 

「……ありがとう。」

 

「カオスどうなさいました?」

 

「あぁ、スイマセン。考え事をしていたもので。」

 

「考え事を?」

 

「騎士団を初めて見て感慨深いものがありまして。」

 

「騎士に?」

 

「はい、祖父が騎士を続けていたらあんな感じの人達を率いて……」

 

「カオスは騎士に思い入れがあるのですね。」

 

「……まぁ小さいときの夢だったんですよ、騎士は。」

 

「夢……。」

 

「と言ってもあの人達みたいに礼儀正しく規律を守るとかそんなのから遠い祖父を見て憧れてただけなんですけどね。」

 

「カオスは本当にお祖父様が大好きだったんですね。」

 

「大好きでしたよ……おじいちゃんに憧れて騎士を目指していたくらいに。おじいちゃんは俺みたいにはなるなって言われましたけど。」

 

「俺みたいにはなるな?」

 

「多分騎士の良いところ悪いところを知って逃げ出した自分のようになるんじゃないぞ、ってことだったんじゃないですかね。昔の僕は長所しか見てませんでしたし。」

 

「それは……悪いことなのでしょうか?」

 

「え?」

 

「興味をもつことはまず良いところから目に入るんだと思います。そこから徐々に全体を見て聞いて感じていって良いところも悪いところも受けとめられること、それが本当に好きになることだと思います。」

 

「本当に…………好きになる。」

 

「カオスはお祖父様のことがお好きなんですよね?」

 

「………はい。」

 

「お祖父様もカオスのことがお好きだったんだと思います。」

 

「おじいちゃんが…」

 

「お祖父様はカオスにご自分を越えてほしかったのではないでしょうか。」

 

「僕がおじいちゃんを………。」

 

「私も家族から可愛がられていましたからなんとなくですけど分かる気がします。」

 

「アローネ。」

 

 

 

「本当はもう少しちゃんとカオスとはお別れしたかったのですけど。」

 

「僕も………同じかな。」

 

「私は帰らねばなりません。あの棺のこともあって家族が心配です。恐らく家族も私のことを…。」

 

「それなら…仕方ないね…。もっとずっと一緒にいたかったけど。」

 

「カオスもですか?」

 

「アローネも?」

 

「はい。カオスは義兄にとてもよく似ておいでなので。」

 

「話に聞く世界一のお義兄さんかぁ。そんなに凄くはないと思うんだけど。」

 

「そういうところじゃありませんよ。カオスが似ているのは不屈なところです。」

 

「……」

 

 不屈…… 。

 

 昔誰かにそう言われたことがある。

 

 誰だっただろうか。

 

「義兄は常に差別と理不尽に晒されながらも耐え抜き、自国のため、敵国のためにその才能を捧げ続けました。

 

 その姿勢が今の貴方によく重なります。」

 

 

 

 ………そんなに凄い人と僕が重なる、か。

 

 そんなつもりはないんだけどここまで言ってくれるアローネのことを信じてみようかな。

 

「アローネ、ここから離れて暮らすことは出来ないけど………そのうち王都に会いに行ってもいいかな?」

 

「!はい!その際は私が王都の中を案内いたします!」

 

「お嬢様の直々の案内かぁ。一緒に拐われたりしないよね?」

 

「カオスは私をなんだと思っているんですか。」

 

「フフッそれはね。」

 

「何を笑っているんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、アローネまた今度必ず会おう!」

 

「はい!約束ですよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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国家反逆罪

 青年カオスは森であった女性アローネと騎士到着を待つ日々を送っていた。

 そしてようやく騎士団が到着しカオスはアローネを騎士団に届けることに成功する。


 

 

 

「いいの?もう少しお話しなくてアローネさん行っちゃうよ?」

 

 アローネが騎士団のもとへ行くとミシガンが話し掛けてきた。

 

「いいんだ。もう話せることは話したし、また会う約束もしたしね。」

 

「会う約束?アローネさんまたここに来るの?」

 

「いや、僕が行くんだよ。王都にね。」

 

「え!?じゃあ!?」

 

「すぐには無理だけどここも騎士団が常駐する。そう遠くない未来にこの森からヴェノムがいなくなったら一度王都へ遊びに行こうかなって。」

 

「カオス!ここから離れていいの!」

 

「ミストの安全が確立されてからだけどね。それまではまだこうしてここで頑張るよ。」

 

「カオス……ここから出るんだぁ。」

 

「すぐに帰って来るけどね。」

 

「……」

 

「ミシガン?」

 

「うぁぁぁぁん!カオス!やっと前に進むことが出来たんだねぇ!!」

 

 ミシガンが泣きながら抱きついてくる。

 

「カオスがヴェノムがいてもいなくても守り続けるっていうから本当は死にたいんじゃないかって心配だったんだよぉ!!」

 

「み、ミシガン!まだ人がいるんだけど!?」

 

「ようやく!ようやくカオスが生きる目標をぉぉぉ!!」

 

「落ち着いてミシガン!」

 

「落ち着けるか馬鹿ぁ!」

 

 

 

 本当は死にたい、か。

 

 もしかしたらそうだったのかも。

 

 僕がここでいくらヴェノムを倒してもあの時死んだ皆は帰ってこない。

 

 それなのに僕が生きててよかったのか。

 

 僕は本当は死んで地獄で皆に謝らないといけないのかな。

 

 そう思ってた時もあったから。

 

 アローネが来て家族の温かさに触れてなんだか心の氷がほんの少しだけ溶けた気がした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「微笑ましい光景ですねぇ!軍人としてこの光景を守りませんとな!それではアローネさん参りましょう!」

 

「はい。」

 

「ところでアローネさんはどのような家柄なのですか?誘拐されるくらいですからさぞや名のある豪商のお嬢様なのでは?」

 

「はい、私はクラウディア家です。」

 

「クラウディア?」

 

「代々王族を側で支える貴族の生まれです。」

 

「……」

 

「?」

 

「クラウディア、クラウディア……残念ながらそのような名の貴族は我が国の貴族にはおりませんなぁ。被害届もございませんし。」

 

「!?そんな!わ、私は!」

 

「本当に貴族のご出身なのですか?」

 

「間違いありません!」

 

「それは困りましたねぇ。貴族様であることは間違いないとそう仰られるということはー。」

 

「……?」

 

 

 

「我が国マテオ王国の貴族ではなく敵国ダレイオスの貴族ということになりますなぁ。」

 

 

 

「……マテ……オ王国?……………ダレイ…オス?」

 

「貴女様はダレイオスの貴族様と言うことで間違いありませんね?」

 

「ち、違います!!私はウルゴス王国の!!」

 

「ウルゴスですか?」

 

「はい…。」

 

 

 

「そのような国はこの惑星デリス=カーラーンの歴史上どこにも存在致しませんが?」

 

 

 

「デリス……カーラーン……どういう…こと?アインスではなく?」

 

「なんと!星の名前も違うと!貴女様は何処から来たのでしょうか?もしや宇宙人ですか!宇宙からやって来たのですか!」

 

「ば、馬鹿にしないで下さい!そんなわけ!」

 

「………いずれにしろ貴女様が何処の誰であろうと構いませんが我等と国民を謀ろうとしたことは見過ごせませんねぇ。ダレイオスのスパイにしては粗が目立ちますが。」

 

「た、謀る!?」

 

「貴女!お名前をどうぞ!」

 

「あ、アローネ=リム・クラウディアです…。」

 

「そうですかぁ、貴族様らしく立派なお名前ですねぇ。

 

 

 

 ではアローネ=リム・クラウディアさん

 

 

 

 我が国民と部隊を謀ろうとした偽証罪及び敵国ダレイオスのスパイ容疑で貴女を逮捕します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?騎士団の人達どうしたのかな?」

 

 一通り泣きとおしたミシガンが騎士団の方を見て言う。

 

「事情聴取でもしてるんじゃないかな。」

 

「けどもう話はつけたんだけどなぁ。」

 

「アローネにも直接聞いときたいことでもあるんじゃないかな?」

 

 アローネは貴族のお嬢様だしそれにあの棺のこともあるし家族のことを騎士達に確認してるんだろう。

 

「見送りに行こうよ!騎士様達が村を出るみたいだからさ。」

 

「そうだねそうしよっか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大人しくしてください。手荒な真似は国民の前であまりしたくはないのです。」

 

「離して下さい!これは何かの間違いで!」

 

「貴女の事情は国に帰ってからゆっくりお話下さいまし。もともとそう言う話でしたよね?」

 

「ですが私は!」

 

「行きましょう。」

 

 

 

「え!?何してるんですか!?」

 

「アローネさん!?」

 

 騎士団の人達を見送ろうとしたらアローネが手枷を付けて連れていかれようとしている。

 

「カオス!!」

 

「アローネ……!待って下さい!これはどういうことですか!?何故彼女は拘束されてるんですか!?」

 

「そうですよ!私は誘拐された人がいるから保護してあげて下さいって言った筈ですよ!?これじゃあ、アローネさんが悪い人みたいじゃないですか!」

 

「……この方はダレイオスのスパイの可能性があります。貴殿方はこちらのご婦人に騙されていたのですよ。」

 

「騙す?アローネが何でですか!?」

 

「我が国マテオは近頃頻発するヴェノム大量発生の原因がダレイオスにあると睨んでいます。ですから敵国の貴族がこの場にいる以上その疑いがあるのは彼女ということになります。ですからこうして参考人として連行しようとしているのですよ。」

 

「そんな!?でも彼女はただ亀車に連れていかれようととしていただけで…」

 

「それにつきましては後程追って詳しくお聞きします。あぁと、別に貴殿方を疑っているわけではないのですよ?貴殿方は大切な大切な大切な我が国の臣民でありますからね。」

 

「カオス、私は…私の国はぁ…」

 

 アローネが目に見えて怯えている。

 

 何を言われたんだ。

 

「彼女は人を騙すような人じゃない!何か事情があるんです!」

 

「そう申されましても現に私共がこうして事情を聞いたところによるとダレイオスと思われる国の貴族みたいですし…。」

 

「違います!私はアインスにあるウルゴスの…!」

 

「アインス?ウルゴス?」

 

「このように訳の分からない星の名前と国名を言うのですよ。恐らく頭でもうって混乱しているだけでしょう。」

 

「頭でもって!そんな適当に!!」

 

「それだけではありませんよ。この方から感じるマナは我々とは異質のものです。ダレイオスで何やら恐ろしい実検でも受けてこうなったのでしょう…。あ!っと貴方のマナは事前にミシガンさんから事情をお聞きしているので心配ありませんよぉ!お辛い人生でしたねぇ。お一人様でヴェノムを!我々が来たからにはもう安心ですから!」

 

「……ミシガン!話しすぎだよ。」

 

「だってぇ…。」

 

「何にしてもこのご婦人に関する謎は明かされぬままです。ですから我々がこうして安全を確保するまで拘束しているのですよ。」

 

「女性の扱い方ではないと思いますが。」

 

「申し訳ありませんミシガンさん。すぐに我等退却致しますのでそれでは…。」

 

「カオス!お姉さん!私は……!」

 

 

 

 アローネが連れていかれる。

 

 さっきまで気持ちのいい別れ際だったのに。

 

 目には涙を浮かべている。

 

 あのアローネがダレイオスのスパイ?

 

 そんなの信じられない。

 

 信じられるわけがない!

 

 ここ数日だけだったけどアローネのことを見てきた。

 

 物腰は柔らかでおっとりしてるけど、

 

 家事や掃除、洗濯から何から何までも懸命にこなして

 

 意外と負けず嫌いなとこがあって、

 

 それでいて優しくて、

 

 綺麗に笑うあの人が、

 

 僕達を騙してヴェノムを……?

 

 

 

 何だそれは?

 

 こじつけにも程があるだろ。

 

 ヴェノムは十年前からいるんだぞ。

 

 最近来たアローネには関係なんてない。

 

 だったらやることは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って下さい!」

 

「カオス!何やってるの!?」

 

「カオス!」

 

 

 

「……いかがなさいましたか?臣民様?」

 

「アローネは置いていってください。このまま僕が預かります。」

 

「!」

 

「それは一体どうして?」

 

「アローネは短い間しか過ごしてないけど僕の……僕の家族です!家族が不当に扱われて黙って見過ごせません!」

 

「はぁ…もしや絆されましたかな?確かに美人ではありますからねぇ。」

 

 そういってアローネを触るブラムさん。

 

「……!」

 

「若い人は一時の感情に流されてしまうんですよ。それで正しい道が分からなくなる。貴方もそういうご経験がおありでしょう?」

 

 確かに僕は昔から感情に突き動かされて生きてきた。

 

 それで失敗したこともよくある。

 

 けれど

 

「正しい道と言うなら今の僕にとってアローネを助けるのが正しい道だ!」

 

「弱りましたねぇ~。通していただけないとなると少々手荒なことをしなければなりませんか。」

 

「アローネを返してください!」

 

「それは出来ませんねぇ。

 お前達軽くお相手しておあげなさい!ケガをさせてはいけませんよ!相手は一人なんですから威かすだけで結構です!」

 

 そう言うとブラムさんはアローネを連れて下がり他の五人の騎士が出てくる。

 

「ふぅ~、勘弁してくれよボウズ。」

 

「こっちはこれから王都まで長い道のりを帰らないといけないんだ。」

 

「手早く終わらせるからじっとしてろよ?」

 

「あんな女くらい村にいんだろ。ミシガンちゃんとかよ。」

 

「ケガしないうちに帰った方がいいぞ?」

 

 五人がそれぞれ勝手なことを言ってくる。

 

「忠告ありがとうございます。けどこっちも引き下がれないので。」

 

「女の前だからなぁ、分かるぞ~。俺も昔…ガッ!」

 

 一番近くにいた騎士に素早く接近し顎を打ち上げる。

 

「「「「!!!!」」」」

 

 それだけで他の騎士達の顔色が変わる。

 

「コイツ!?」

 

「強いぞ!」

 

「ずっと一人で戦ってきたんです。多対一の勝負は得意ですよ?」

 

 とは言ったものの初撃のラッキーパンチで一人はのしたものの、他がそう易々とそれを許してくれはしないだろう。

 

「おらぁぁぁ!!」

 

「おおぉぉぉぉ!!」

 

 スライディングと正拳突きがくる。

 

「……フッ!!」

 

 相手の動きに合わせてスライディングをすれ違い様に顔面に蹴り入れ、正拳突きにはフックをお見舞いする。

 

「ガホォッ!」

 

「ハガアッ!」

 

 そのまま動かなくなる二人。

 

 ……何だまたラッキーが入ったのか?

 

「後二人ですね!」

 

「くっ!」

 

「調子に乗りやがって!」

 

「行きます!」

 

 そう言って駆け出すと横から不意に

 

 

 

ドゴォォォンッ!!!

 

 

 

「すみませんねぇ!臣民様。貴方の動きを見るに私の部下達では敵わないと思いまして不意打ちにはなりますがこうして仕留めさせてもらいました。」

 

「カオス!」

 

「ちょっとブラムさん!ケガさせないんじゃなかったの!?」

 

「その予定でしたがこちらも三人のされているので手をうたせてもらったのです。ミシガンさん我々が去った後で彼にファーストエイドをお願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、口でこちらを油断させる作戦、昔おじいちゃんによくやられましたよ。」

 

「「「!!!」」」

 

「貴方のその口調はそういう作戦からきてるんですね。こちらの身を案じているようで意識の範囲外から容赦ない一撃。」

 

「完璧なタイミングでクリティカルヒットしたと思ったんですけど浅かったですか?」

 

「いえ、なかなかにえげつない威力だったと思いますよ?普通だったら今のでノックアウトでしたね。」

 

「お褒めに預かり光栄です。やはり魔術が効かないようですね。」

 

「ミシガンから聞いたんですか?」

 

「いえいえ、ただの観察眼から来るハッタリですよ。どうやら剣を使った方がよろしいみたいです。」

 

「いいんですか?僕は魔術よりも接近戦の方が得意なんですよ?」

 

「臣民様もかなりの手練れのようですが私共は日々上を目指して訓練に励んでるんですよ。そうして培ったセンスは少々自慢なんですよ。………ではいざ!!」

 

 

「!」

 

 

 

キキィンッ!!!

 

 

 

 

 帯刀していた木刀を抜いて受け止める。

 

 ブラムはそこから更に連撃を放つ。

 

 

 

キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!

 

 

 

「クッ!」

 

 剣撃が早い。

 

 受け止めるだけで精一杯だ。

 

 そういえば誰かと剣で斬りあうのなんて初めてだ。

 

「おや!臣民様もやはり剣術の覚えがあるようですね!」

 

「幼い頃に祖父からかじっていたくらいですからね!騎士様の剣技程ではないですよ!」

 

「謙遜しなくてもいいですよ!私は王国のとある剣術専門の部隊に所属していたこともあるのですから!」

 

「剣術専門の?」

 

「万年したっぱではありましたがね!」

 

 

 

キキィンッ!!

 

 

 

「剣の斬りあいでは互角といったところでしょうか。実に惜しい人材です。貴方なら騎士団でも上に登れそうですね。」

 

「嬉しいお誘いではあるんですが僕はもう騎士にはなりませんよ。」

 

「ほう!騎士になりたいと思う時期があったということですか?」

 

「昔の話ですよ。今は!」

 

 

 

キキィンッ!!

 

 

 

「!?」

 

「村の用心棒です!」

 

「(………剣筋が段々と鋭くなって受けづらくなってきましたねぇ。斬りあいに馴れさせてはこちらが不利か。それではそろそろ…。)」

 

 

 

ジリッ

 

 

 

「?」

 

 距離をとった?

 

 何をするつもりだ?

 

 魔術は利かないとさっき見切った筈だが?

 

「臣民様が想像以上にお強いので私も奥の手を出さねばなりませんなぁ。」

 

「奥の手?」

 

「先程申した部隊に所属していたときに私が研鑽に研鑽を重ねて習得した剣技です。」

 

「………そんな奥の手をハッキリと予告していいんですか?」

 

「この技は応用が利くので問題ないのでございますよ。では失礼して。」

 

カチンッ

 

 ブラムが剣を鞘に納める。

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣ッ!!!」

 

 

 

ザザザザザッ!!!

 

 

 

「!!この技はッ!?」

 

 地を這う衝撃波が高速で迫る!

 

「アレ!カオスの!?」

 

ズザンッ!!

 

 砂埃をたてて吹き飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

「ンッフフフフフ!!!どうですか!?私が二十年かけて体得した奥義、魔神剣の切れ味は?魔術にも劣らぬ威力とその速度!!そうそう拝見出来るものではないのですよ!」

 

「ブラムさん!カオスが死んじゃうよ!?」

 

「安心なさい。手加減はしてありますよ。一日くらい起きられないでしょうがね。それでも魔神剣は流石にやり過ぎましたか。これで終わりに「魔神剣!!」!」

 

 

 

ズザザザザサザッ!!!

 

 

 

「これは!?私の!!馬鹿な!!」

 

ザシュウッ!!

 

「ウゴアッァァッ!!!!」

 

「「隊長ッ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元々騎士団の技でしたから使える人はいるとは思ってたんですけど失念してましたね。自分が魔神剣を受けることになるなんて…。」

 

「な、お前!!」

 

「隊長の魔神剣を食らったのに!?」

 

 

 

 

「スミマセン、魔神剣に関しては僕の方が上みたいですね。」

 

「カオス!」

 

「貴様!!何故魔神剣を使える!!?」

 

「その技は我が騎士団の最高機関の剣技だぞ!!」

 

「最高機関?よく分かりませんがこの技は祖父から譲り受けたものですよ?勝手にですけどね。」

 

「何を馬鹿なことを!?素人がそう容易く扱うことなど!!「お黙りなさい!!」」

 

 

 

「グフゥッ!!何処か骨折したみたいですね。大声などあげるものではありませんか。………臣民様は凄まじい剣術の才をお持ちのようだ。」

 

「隊長!」

 

「お身体に障ります!ここは退いて…」

 

「そのつもりですよ。ですが最後に………臣民様、そのご婦人はお渡ししますが、腑に落ちないことを二件程お訊きしてもよろしいでしょうか?」

 

 ボロボロになったブラムが訊ねる。

 

「………いいですよ。」

 

「そのご婦人は少なくともこの国のものではありません。長く王国を守ってきた私が言うのです。装いと当人からは何か異質と一言では語りきれない何かを感じます。自然のものではないのでしょう。」

 

「……」

 

「そんな得体の知れないものを庇ってもいいのですか?もしかしたらあのミストの村にも危険が及ぶかもしれないのですよ?」

 

「……そうだとしても僕はこの数日の間の彼女を知ってます。彼女はそんなことを望むような人じゃない。少なくとも今こうして捕まるような悪い人では。」

 

「望む望まないは関係ないのです。爆弾が爆発したくないと望んだところで導火線の火には逆らえないのですよ?」

 

「だったら僕が何度でもその火を消しますよ!アローネに降りかかるのなら何度だって!」

 

「……臣民様のご意志は分かりました。ならばそのことにはもうふれません。ですがそれを野放しにするわけではないのでお忘れなく。」

 

「分かってます。」

 

「よろしい!では最後に、臣民様!お名前をどうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は……カオス。カオス=バルツィエ!」

 

 

 

「「「!!!!」」」

 

「!?バルツ…ィエ!?」

 

「嘘だろ!?こんなところにいるわけが…!」

 

「だがさっきの剣技は紛れもなく……!」

 

「バルツィエ………魔神剣………本物なのか?」

 

 

 

 何だ?

 

 名前を言ったらざわめきだしたぞ?

 

 貴族とは聞いていたが有名な名前なのか?

 

 

 

「これは………どうしたものでしょうな。」

 

 

 

 ブラムが何かを考えている。

 

「恐らくは偶然名前が同じ………というものではなくまさしくあの家のものなのでしょうなぁ。先程の撃ち合いはまだまだでしたがそれも発展途上故でしょう。しかしどういうわけかは存じませんがこのような場所にいる!これは使えますね。」

 

「何をいって!?」

 

「アローネ=リム・クラウディアさん、カオス=バルツィエさん貴殿方を国家反逆罪で指名手配する旨をこれから上にご報告いたします!!」



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旅の始まり

 青年カオスは騎士団に森で出逢った女性アローネを届ける。

 だが騎士団から不穏な空気を感じカオスはアローネを取り返すことにする。

 騎士団はカオスとアローネに国会反逆罪を言い渡す。


捨てられた村旧ミスト

 

 

 

 あれからブラム達は去りアローネとミシガンが残る。

 

 アローネが手枷に繋がれていたので手枷を切り落とす。

 

「カオス!スミマセン!私のせいでカオスが!」

 

「アローネのせいじゃないよ。悪いのはあの人達だったんだから。」

 

「でもカオスは騎士団に…」

 

「もう諦めた昔の夢だって言ったでしょう?そんなに大袈裟にしないで。」

 

「カオス…。」

 

 想像していたよりもショックは受けなかった。

 

 全くない訳じゃないけど自分が思っていたよりはあまり未練はないようだ。

 

 あれほどなりたかった騎士に剣を向けてその夢に自ら終止符をうつ。

 

 本当はもっと昔に終わっていたのかもしれないな。

 

「それにしても何があったの?アローネ。」

 

「そうですよアローネさん!騎士団の人達となにをもめていたんですか?」

 

「私にもよく分からないのです。」

 

「「分からない?」」

 

「はい…。私は………この国の貴族ではないようなのです。」

 

「この国ってことは………ダレイオスってこと?」

 

「え!?ダレイオスって戦争相手国じゃない!?何でそんな国の!?ってか貴族!?」

 

 そういえば貴族ってことはミシガンには話してなかったな。

 

「いいえ、ダレイオスでもありません。私の国の名は……ウルゴスと言います。」

 

「ウルゴス?」

 

「聞いたことない名前ですね…。」

 

「騎士の方々にもそう言われました。この星が出来てからずっとそのような国は聞いたことがないと…。」らないんだけど前はもっとたくさん国があったそうですよ?戦争で無くなったり合併したりして名前が変わっちゃったみたいですけど。」

 

「………」

 

「もしかしてアローネさんの国はこの周辺にあったウルゴスって名前の国なんじゃないですか?」

 

「そうなのかもしれませんが、だとしたら私は……」

 

 

 

 確かにその線でいくとあの棺のことも納得できる。

 

 アローネがあの棺で眠っている間に国が滅たか合併してマテオの一部になったということに。

 

 時間がたちすぎて国が変わったのならあの騎士達も情報の食い違うアローネを不審に思ったのかもしれない。

 

 ならアローネは何故あの場所にいたのだろうか。

 

 あの亀車のあった場所は前にも僕が行ったことある場所だった。

 

 あの亀車は最近になって来た。

 

 何が目的で何のために来たんだろう。

 

 

 

『望む望まないは関係ないのです。爆弾が爆発したくないと望んだところで導火線の火には逆らえないのですよ?』

 

 

 

 あのブラムが言ってたことが気になる。

 

 アローネが………爆弾?

 

 そんな馬鹿な。

 

 アローネはヴェノムを殺せる力があるだけで他は普通の人だ。

 

 どこもおかしいところはない。

 

 ただの女の人。

 

「……」

 

 こんな今にも壊れてしまいそうな姿を見るととてもそうには思えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからどうするの?」

 

「「………」」

 

「今ならまだ間に合うかもしれないよ!?さっきのブラムさん達に追い付いかけてさ、謝ってきなよ!指名手配なんて間違ってるよ!」

 

「ミシガン…。」

 

「カオスが指名手配なんてことになったらもうミストの村に入れなくなっちゃうよ!?いいの!?騎士団の人達だってもう村にいるんだよ!?ブラムさん達に追い付けないってんならミストの村の人達に言って取り消ししてもらいに行こうよ!!」

 

「いいんだミシガン…。」

 

「何がいいの!?指名手配だよ!?いろんな賞金稼ぎから狙われるかもしれないんだよ!?誰も守ってくれないんだよ!?」

 

「大丈夫だよ分かってる。」

 

「分かってないよ!カオス!この村でずっとヴェノムと戦ってたから感覚がおかしいんだよ!どうやってこの先ここで生きていくの!?」

 

「………頃合いだったんじゃないかなぁ。」

 

「頃合い?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕はこの村を出るよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今なんて言ったの?」

 

 

 

 ミシガンが問いかけてくる。

 

 

 

「僕は村を出るよ。」

 

 

 

「何で!!」

 

 

 

「ずっと考えてたんだ。どうしたら僕はミストの村に償えるかを。」

 

 

 

「そうだよね!カオスはずっと頑張ってきた!それが何で村を出るって話になるの!?」

 

 

 

「騎士団が来てミストもヴェノムに怯えずに住む。だったら僕はもうこの村には必要なくなるんだ。」

 

 

 

「必要だとか必要じゃないとかそんなの考えなくてもいいじゃん!カオスはここにいてもいいんだよ!?」

 

 

 

「全ての人が僕を許せる訳じゃないんだよミシガン。僕がいるだけで嫌な想いをする人だっているんだ。」

 

 

 

「そんなの勝手に思わせとけばいい!!カオスは何も悪いことなんてしてない!!堂々としてればいいのに!!」

 

 

 

「どっちにしても僕は指名手配犯になるんだ。もうこれ以上は村に迷惑は掛けられないよ。ミシガンにも。」

 

 

 

「その思い込みが迷惑よ!何で!?何で伝わらないの!?私はカオスに戻ってきてもらうためにやってきたのにどうしてカオスは遠ざかって行っちゃうの!?あの人みたいに村や私たちを置いていくの!?」

 

 

 

「ゴメン、ミシガン。もう決めたんだ。」

 

 

 

「ねぇ~、どぉしてぇ?どぉしてそんなに私のことから逃げるの?」

 

 

 

「……」

 

 

 

「どうして一人で何でも決めちゃうの?カオスがいなかったら私は………」

 

 

 

「………ゴメン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス。私のために……スミマセン。」

 

「もう僕が決めたことだからいいんだよアローネ。」

 

「ですがお姉さんのことは!」

 

「こうなるってのは分かってたんだ。ミシガンは僕を家族みたいに思ってるから。」

 

「私が……私一人が出ていくだけでいいのでは。」

 

「アローネは地図とか分かる?」

 

「それは……」

 

「一人じゃ心配だよ。飢えて倒れちゃいそうだし。」

 

「それは私の事情であって…。」

 

「乗り掛かった船だ。このまま一緒に行こう。もとから僕はあの村にいないも同然なんだ。」

 

「カオス…。」

 

「それに僕も目的があって出るんだ。アローネがいたから切っ掛けになってよかったよ。」

 

「……貴方は優しい人だと思っていましたが強引なところもあるのですね。」

 

「そうかな?そうなのかも。」

 

「けど私の国が何処にあるのかも分からないのに…」

 

「それはさ、他の街をまわって少しずつ情報を集めて行こうよ。そうすれば何処かでウルゴスのことが分かるかもしれないよ?」

 

「カオスはいいんですか?私にはカオスに何かお返しするものもないのに…。」

 

「お返しなら前払いでもう貰ってるよ。」

 

「貰ってる?」

 

「この数日間、本当に楽しかったんだ。こんな人殺しに生きる活力が貰えただけで満足だよ。」

 

「私は別に…。」

 

「あと、一人旅ってなんか勇気湧かなくてさ。誰か一緒に着いてきてくれたら物凄く助かるんだけど。」

 

「……」

 

「ダメかな?僕と一緒じゃ!」

 

「……こんな私でよろしければ喜んで。」

 

「ありがとう!アローネが一緒にいてくれるだけで心強いよ。」

 

「私も同じです。カオスと一緒ならウルゴスも見つかると思います。」

 

「じゃあ、まず始めに出発の準備して近くの街へと行こう!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都 宿

 

 

 

「で、今ある情報は何処まで調べてる?」

 

「奴等が王城の何処かでヴェノムの研究をしているということを掴んでいます。出処は奴等の息のかかった研究者を追ったところ研究資料を屋敷から王城へと運び出していたので間違いないかと。」

 

「奴等め、これ以上権力を欲して何がしたいんだ!」

 

「ダレイオスとの停戦が続いてからは大人しくしてると思ったらまた戦争の準備を始めていると聞きます。このまま行けばいずれは…。」

 

「そうなった場合、奴等は邪魔な部隊を真っ先に前線に立たせるぞ!我等も例外ではない!」

 

「我々がいなくなればマテオは奴等の手に落ちたも同然…。」

 

「あの方さえ戻られたら…。」

 

「……」

 

「すまない、お前はその場にいたのだったな。」

 

「いえ…」

 

「だが王妃様に奴等の暴走を止めるすべなど…」

 

「ならどうする!?この先に見える未来は確実に奴等の独裁だぞ!そうなればこの国は滅ぶ!」

 

「滅びはしない。滅びはしないが奴等に逆らうことすら出来ない奴隷国家として繁栄していくだろう。」

 

「そうならないためにも奴等の研究資料だけでも奪取しなければならない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダリントン隊長、その任務引き受けます!バルツィエを必ず倒しましょう!」

 

「ウインドラ、アルバート様の弟子である君がこちらについてくれて心強いよ。」



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戦闘について

 青年カオスはブラム達騎士団を撃退し拘束されたアローネを解放する。

 その一件からカオスは村を発つことを決めるがミシガンと決別してしまう。


捨てられた村旧ミスト

 

 

 

「よし、アローネ準備は出来た?」

 

「えぇ、もう出来ました。ですがこれから何処へ向かうのですか?」

 

「村に残ってた地図を頼りに一番近い街から情報を探していこうと思うんだ。古い地図だけど二人ともこういうことに関しては初心者だから手探りでいくしかないしね。」

 

「そうですね。私も土地勘もないですし。」

 

「ここからだと……少し遠いけど森を抜けてこのムスト平原を通るとリトビアってとこにつくみたいなんだ。そこを目指そう。」

 

「分かりました。」

 

「食事とか寝るとこは野営になるんだけどアローネは平気?」

 

「平気ですよ。こう見えても義兄のおかげでいろいろなことを知ってるんです。」

 

「お義兄さん、野営とかの経験あるんだ!?」

 

「小さいときは屋敷から出してもらえなかったのですが私が退屈してると義兄がこっそり連れ出してくれたんです。日帰りではありましたが義兄が王都の周辺でキャンプに使っていた場所に行き野営の仕方も教えていただきました。」

 

「話には聞いてたけどお義兄さん、何でもやってるんだね。家庭教師とか医学とか…」

 

「多才な人ではあったんですよ?本当に多才な人ではあったのです…。ですがそれを認めない人が大勢いて義兄も相当な苦労をしてきたんです。」

 

「力があるのにそれを認めないだなんて間違った世の中だね。」

 

「私もそう思います。」

 

「じゃあ、このまま森に進んでも大丈夫そうだね。」

 

「えぇ、行きましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストの森

 

 

 

「ふぅ…、やはりこう要り組んだ場所ですと少々疲労を感じますね。」

 

「アローネはお嬢様なんだもんね。仕方ないよ。」

 

「屋敷では義兄と姉の教練に私も参加させてもらって魔術の勉強をしていたんですよ?体力には自信あります!」

 

「そうみたいだね、この間も魔術でヴェノムを撃退してたし。どのくらい使えるの?」

 

「基本六元素は全て使えますよ?」

 

「へぇ~、ウルゴスではみんな使えるの?」

 

「騎士団や戦闘に関係した職の方々は使えたと思いますよ。それぞれ属性に不得意があるので基本は一、二属性を極めるのが通例です。」

 

「そうなんだね。ミストの村では三つか四つ使えるのが普通だったよ。」

 

「属性は六つありますがそれぞれに攻撃系と補助回復系があるのはご存知ですか?」

 

「補助回復系?ファーストエイドのこと?」

 

「そうですね。それも補助回復系の一つです。無属性の回復魔術になりますね。」

 

「無属性?」

 

「単純に基本六元素の枠組みに当てはまらない属性のことです。」

 

「七番目の属性ってことだね。」

 

「はい、私はその中でも風の魔術が得意のようです。」

 

「風の魔術かぁ。後衛タイプ?」

 

「どちらかというとそうですが前衛も出来ますよ。カオスは両方出来ますか?」

 

「………僕は前衛だけかな。魔術は使えないんだ。」

 

「魔術が使えない?」

 

「そのかわり魔神剣が使えるからそこまで遠くでなければ離れた距離からも攻撃できるよ。」

 

 

 

ガササッ!!

 

 

 

「分かりました。それでは私が状況を見て両方を務めますのでカオスは前衛に従事してくださいますか。」

 

「あぁ、それで行こう。さっそくモンスターも来たみたいだしね!」

 

 

 

「「ガアアッ!」」

 

 

 

「こいつらは………トレントだ!僕が引き付けるからアローネは離れて魔術を!」

 

「はい!」

 

 

 

「えいやぁぁぁぁ!!」

 

 接近して一体のトレントを斬りつける!

 

 

ザシュッ!

 

「…ゴアッ!?………アアアッ!」

 

 

 

 植物系のモンスターだけあって一撃じゃ決められない。

 

 

 

「『烈風よ、我が手となりて敵を切り裂け』……ウインドカッター!」

 

 

 

ザッ!ザッ!ザッ!

 

 

 

 仕留めそこなったトレントをアローネが空かさず追撃を加える。

 

 

 

「ありがとう!アローネ!」

 

 

 

「まだ終わってませんよ!後もう一体です!」

 

 

 

 アローネの指摘通りもう一体が迫る。

 

 

 

「間に合わない!ウインドカッター!」

 

 

 

ザザザッ!

 

 

 

 アローネがウインドカッターを放つが詠唱なしでは先程の威力は出ず枝を切り落とすだけで終わる。

 

 

 

「グアオッ!」

 

 

 

「…ッ!」

 

 

 

 トレントがアローネに突進する。

 

 

 

「アローネ下がって!魔神剣!」

 

 

 

スパァンッ!!

 

 

 

 アローネとトレントが接触する寸前に魔神剣でトレントを斬り飛ばすことに成功する。

 

「これで全部片付いたね。」

 

「えぇ、もう安全ですが。」

 

「どうしたの?」

 

「カオスはエルブンシンボルかエルブンリングを装備していますか?」

 

「エルブンシンボル?とエルブンリング?」

 

「そのご様子では装備していないのですね。ではどうやって闘気術を…。」

 

「闘気術?」

 

「それもご存知ないのですか?」

 

「もしかして魔神剣のこと?そういう種類とかあるの?」

 

「先程のエルブンシンボルとエルブンリングは紋章や指輪の形をした装備品です。これを装備すると装備者の能力を上昇させる効果がありましてウルゴスでは皆がこれを装備していたのでカオスもかと思ったのですが。」

 

「僕は特に着けてないよ?」

 

「無装備ということですか……先程の魔神剣も?」

 

「え?魔神剣は昔から練習してたら出来るようになったんだけどマナを消費すれば誰でも出来るもんじゃない?ブラムさんだって使ってたし。」

 

「捕まってから分かったのですがあの騎士の方々は皆エルブンシンボルを装備していたので使えても不思議ではありません。」

 

「ってことは普通は使えないの?」

 

「魔術は通常ならエルブンシンボルを利用しなくても人なら誰でも使えます。ですが闘気術に関してはよほどの特殊な例でない限りエルブンシンボルやエルブンリングなしで使える例は聞いたことがありません。マナを扱うことは本来呪文や魔法陣を作ってから行うのが効率的なので時間がかかるものなのです。」

 

「魔神剣ってそんなに難しいものだったのか…。それが使えるってことはこれも殺生石の力なのかな。アローネもそのエルブンシンボルって言うの装備しているの?」

 

「えぇ、今は服の中なのでお見せできませんが装備はしています。」

 

「服の中?」

 

「肌に直接触れさせた方が効能が高まるのです。」

 

「ふ~ん?そういえばアローネは前衛も出来るって言ってたけど武器とかは持たないの?」

 

「武器ですか。実は今既に装備しているんですよ?」

 

「………何処にあるの?」

 

「これです。」

 

「上着?」

 

「はい、これは特注で大気中のマナに干渉する術式を施しています。これを装備しているだけで通常よりも魔術を効率よく使用できます。」

 

「通りでよく光る服だと思ったらそんな凄い服だったんだね。」

 

「それを言うならカオスのその木刀もかなりの業物だと思いますよ?」

 

「木刀が?」

 

「木刀がモンスターを切り裂いたり鉄の剣と斬りあえるなんて想像できませんもの。」

 

「おじいちゃんが木刀作ってるのを見よう見まねで作っただけの簡単なやつだよ。」

 

「ではこれといった特殊な加工をしているということではないんですか?」

 

「敵を切り裂いてるのは木刀にマナを纏わせて斬りつけてるからだよ。そうした方が威力上がるしね。」

 

「……簡単に言ってますがそういうことは通常戦闘用の装飾品を装備して可能なのであって素で出来る人はいませんよ。」

 

「アローネはお嬢様なのに戦闘に詳しいね。」

 

「こういうのはむしろ貴族の方が詳しくなくてはいけないのですよ。日頃から敵国だけでなく同じ国の身内同士で命を狙われたりするので。私もよく狙われました。」

 

「結構危ない内容だと思うんだけどさらっと言ったね。大丈夫だったの?」

 

「大丈夫です!困ったときは義兄に助けてもらいましたから。この魔導服も義兄の作品の一つなんですよ!」

 

「……最初は面倒見のいいお義兄さんの話だったんだけど何だか不憫に思えてきたよ。働きすぎでしょ。」

 

「言われてみれば……義兄は常に何かしら研究と私達姉妹の相手をしていましたね。」

 

「そんなに働きづめだと体壊したりしないか家族とかも心配だったんじゃない?」

 

「義兄は天涯孤独の身で家族はいませんでしたよ。いるとしたら結婚して身内となったクラウディア家のみ。」

 

「……聞いちゃ不味い話かな。」

 

「不味くはないですよ。義兄のお母様はヒューマで義兄を産んでから亡くなっています。お父様は誰なのかは知らないそうです。」

 

「話してよかったの?」

 

「私は義兄の、ハーフエルフのことをもっと世界の人に知ってほしいのです。ハーフエルフはこんなにも優秀で朗らかなのにどうして差別されなければならないのか。恐らく皆が周りに流されてよく知らないのに差別しているだけだと思うのです。私はそれを消し去りたい。」

 

「差別か…酷い話だね。」

 

「ハーフエルフを知ってもらえたらそんな意識は無くなると思います。そうしてエルフもヒューマも自分を見つめ直してみて悪いのはハーフエルフではなくその差別をする人の心だということを私は世界に伝えたいです。」

 

「悪いのは……人の心か。」

 

「カオスはハーフエルフに出逢っても優しくしてあげてくださいね。彼等は愛情に飢えていますから。」

 

 

 

 愛情に飢えている。

 

 そのフレーズを聞いて自分も昔はそうだったと思う。

 

 無能な僕は人から相手にされなくなるのが怖くて何でも全力だった。

 

 僕が真面目と言うことを知ってもらえれば周りの皆は僕のことを構ってくれるから。

 

 それでも限界はあった。

 

 魔術を使えば簡単に火をおこしたり、服を洗ったりと生活には便利である。

 

 それが出来なかった。

 

 優しいのは最初だけ。

 

 僕が出来ないことはたくさんあった。

 

 皆はそれが出来る。

 

 僕が出来ることは少しだけだった。

 

 皆はそれが出来て当たり前。

 

 年を重ねるごとに自然と周りは少なくなる。

 

 甘えてられたのは本当に小さい子供のときだけなんだ。

 

 そうして僕はウインドラやおじいちゃんくらいしか相手にしてもらえなくなった。

 

 本当はもっと多くの人に構ってほしかった。

 

 ウインドラが誰かの相手をしてるとそれを見て嫉妬したりもした。

 

 けど不満は漏らせなかった。

 

 その不満をぶちまけてしまうとウインドラも僕から離れていってしまうと思った。

 

 

 

 何故今こんなに昔の自分を思い出すのだろう。

 

 ハーフエルフが僕に重なって聞こえるからかな。

 

 実際のとこは僕の幼少期はそのハーフエルフよりも救いがなかった。

 

 魔術を使えただけましだろうに。

 

 

 

 ………ダメだ、何を知らない人達に嫉妬してるんだ僕は。

 

 こんな思考ではアローネの言う心の悪い人ではないか。

 

 痛みを知っている僕がこんなんではいけないな。

 

 先ずはその人達を知ってからでないと。

 

 

 

 

 

 

 



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本当の自己紹介

 青年カオスはアローネと二人で旧ミストを離れることを決意する。

 モンスターとの戦闘も交えてカオスはアローネから戦闘の知識をおしえてもらう。


ムスト平原

 

 

 

「おぉ~、森を抜けたぁ~。」

 

「長かったですね。途中何度もモンスターに襲われたので疲れました。」

 

「じゃあ今日はこの平原で野宿しようか。」

 

「はい、そうしましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「薪はこのくらいでいいかな。」

 

「では火をつけますね。ファイヤーボール!」

 

 

 

ボッ!パチパチッ!

 

 

 

「有り難うアローネ。」

 

「このくらいいいですよ。」

 

「アローネがいなかったら火を起こすのも一苦労だよ。」

 

「カオスは本当はマナを扱えるのでしょう?何故使わないのですか?」

 

「アローネは結構深いとこまで聞いてくるね。」

 

「私は義兄のように偏見で見られたりすることが嫌ですから。これから旅をする貴方のことを何が良くて何が良くないかはもっと知っておきたいのですよ。」

 

「そうなんだ。……まぁ話すけど僕は前に魔術を使ったら大変なことになったんだ。」

 

「大変なことに?」

 

「前にも言ったけどあの当時は自分が魔力欠損症で少し魔術を使うだけで限界を簡単に越えてしまう………そう思ってたんだ。」

 

「でも違ったのでしょう?」

 

「うん違った。村にヴェノムが現れて一度魔術を使ったんだけどその時は気絶しちゃって覚えてないんだ。そしてもう一度使ったときはハッキリ覚えてる。」

 

「その時はどうなったのですか?」

 

「僕はその時………ヴェノムに食いつかれていた。身体中をヴェノムに包まれて体がバラバラに溶かされようとしてた。周りは見てなかったけど一斉にヴェノムが襲いかかってきたらしくて僕以外にも襲われている人は大勢いたんだ。」

 

「よくぞご無事で……。」

 

「もう痛みとかそんなのどうでもよかったんだ。おじいちゃんも僕が襲われる前にヴェノムに感染して苦しんだ末にいっちゃって……。」

 

「………」

 

「そうしてヴェノムに包まれて意識を失いかけたときにね。声が聞こえたんだ。」

 

「声?それは村の人達のですか?」

 

「分からない。村の人じゃないかもしれない。その声は今でも眠っているときとかに聞くことがあるんだ。その声は何だか悲しそうな声で何かを言うんだ。なんて言ってるかは毎回忘れちゃうんだけどその声を聞いたら僕がなんとかしなくちゃって思って、それで無意識のうちに魔術を使ったんだ。」

 

「……それで村は助かったのでしょう?今こうしてあのミストがあるということは。」

 

「そうだね。僕が発動した魔術でミストと森の広範囲にいたヴェノムを消し去ったよ。」

 

「なら何故カオスはあの村から批難されているのですか?」

 

「………」

 

「カオス?」

 

「………さっき僕が襲われているときに他にも襲われている人がいたって言ったよね。」

 

「……まさか!?」

 

 

 

 

 

 

「その時発動した魔術でヴェノムとゾンビだけでなくほんの少し掠り傷をおった人達も一緒に消し飛ばしたんだ。」

 

「……」

 

「まだ意識があった人もいた。必死にヴェノムから逃げ惑う途中の人もいた。その人達も消したんだ。」

 

「それがカオスが頑なに魔術を使わない訳…。」

 

「僕が救う救わないで救えなかったとかいう比喩の話じゃないんだ。単純に僕が殺した。僕が発動した魔術で。」

 

「スミマセン…カオス。そんな話だとは…。」

 

「いいんだよ。別に隠してたんじゃない。むしろ知って欲しかった。僕は魔術を制御できないから次に発動したとき抗体を持ってる人も巻き添えにしてしまうかもしれないからね。」

 

「それは私も………ということですか?」

 

「僕の見立てではアローネも抗体持ちだと思う。とにかく僕の力はヴェノムとヴェノムを触ったことがある人も影響下にあるから村の人からしたらヴェノムも怖いけど僕も怖いんだよ。」

 

「………もういいです。」

 

「気にしなくていいよ。人に話せばしっかりと自分の罪と向き「もういいのです!」」

 

 

 

「今日までのカオスを見てきて分かりました!カオスはずっとその事を後悔していることを!カオスがずっとその事を負い目に感じて村の人と同じように自分を責めているということも!」

 

「アローネ…。」

 

「本当は貴方はミストの村から離れたくなかったのではありませんか?貴方が村を離れる決意を決めたのは私に気を使って着いてきてくれたのもあるのでしょうが、本当はミストから離れたくなかった。だから私に着いてきた。」

 

「!」

 

「そうすることで貴方は貴方が苦しむ事を望んだから。」

 

「僕は………そんな風に………思って……なんて。」

 

「カオスは優しいところと強引なところもあります。それ以上に今の話を聞いて自己顕示欲が強いのかもしれません。そうした幼少期の心の傷が貴方を子供のまま成長させてしまった。」

 

「僕が………子供…?」

 

「自己顕示欲が自慢話とかであれば良かったのですが今の貴方からは贖罪だけしか感じません。

 

 貴方の贖罪と顕示欲が合わさってそんなトラウマのようなことをを何でもないようなことみたいに話せるのですね。」

 

 

 

 贖罪に顕示欲か。

 

 確かにそうだったのかもしれない。

 

 僕は罪を償っているつもりでいたが周りから見たらそんな自己満足に見えてたのかも。

 

 だったら僕はどうしたら罪を償えたのだろうか。

 

 僕のしてきたことが自己満足で何の償いにもなっていなかったなら今まで僕は何もしていなかったのではないか。

 

 

 

「アローネ、有り難う。」

 

「………どうしたのですか?」

 

「アローネに指摘されるまで全然自分のことを見つめ直すことが出来なかったよ。僕がどんな気持ちで臨んでいたかを見直すことが出来た。僕はアローネのおかげで前に進めるんだ。」

 

「それほどのことは言ってませんが……カオスは怒らないのですね。」

 

「怒る?」

 

「私は出逢ってから昨日までカオスに助けられっぱなしでその上で先程のような偉そうな指摘を…。」

 

「大丈夫だよ。アローネは昨日捕まりかけたんだ。それで不安定になってたのかもしれないし。言われたことに関しては素直に受け止めたよ。」

 

「……スミマセン、カオス、私は本当は嫉妬していたのです。」

 

「嫉妬?」

 

「私は、私のウルゴスは昨日の騎士団の話でこのデリス=カーラーンにはないと聞いて私は心の支えを失いました。

 

 棺のこともあってすんなりとその事実は受け止められました。

 

 ですが心の中では、

 

 何故こうなってしまったのか。

 

 私は何故私の最後を思い出せないのか。

 

 と焦りで情緒不安定になっていました。

 

 私にはもう居場所はないのかとストレスがあったのかもしれません。

 

 

 

 そんな私にカオスはカオスの居場所を捨てて私についてきてくれると言ってくれました。

 

 私は嬉しさと同時に嫉妬したんです。

 

 貴方が貴方の居場所を放り捨てることに。」

 

「……」

 

「本当に申し訳ありません。カオス初日の夜からこんなに最悪な空気にしてしまって…。私がでしゃばるからこんなことに…。もしカオスが私と行動するのが嫌になったのなら「安心した。」」

 

「安心したよアローネ。」

 

「安心……何故?」

 

「僕は一人だったから子供のままじゃいけないと思ってしゃべり方とか生活とかを自分なりに気を使ってた。

 

 けど今指摘されたみたいにそれにも限界があったんだ。

 

 やっぱり中身は子供なんだと思う。

 

 それが恥ずかしいとも感じる。

 

 だけどアローネも完璧じゃないんだって聞いて安心した!

 

 アローネは同じくらいの年に見えるのに口調から動作まで何でも大人みたいで差を感じてた。」

 

「私はそんなに大層なものでは…。」

 

「僕の主観で見た印象だよ。

 

 アローネは貴族のお嬢様で家事や料理何でも出来て完璧な理想の大人だった。

 

 それでも僕見たいに感情を吐き出すこともあるんだって知れて良かったよ!」

 

「……私だって普通の人のつもりです!それくらいありますよ!」

 

「初日からアローネとこう言い合えて良かったよ!

 

 アローネの本音を聞けた気がするよ。」

 

「………それほどのことは言ってませんよ。」

 

 



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盗賊の襲撃

 青年カオスは森で出会った女性アローネと村を出ることを決意する。

 森を抜けてムスト平原に着いた二人はほんのささいな衝突をする。


ムスト平原 夜

 

 

 

「今日はいろいろ収穫だったよ。アローネ。」

 

「貴方といると本当に暗い悩みも吹き飛んでいきますね。」

 

「ん?褒めてる?」

 

「最高に褒めているつもりですよ。」

 

「アローネ何だか雰囲気変わってきたね。

 

 口調は変わらないんだけど言うことが家族みたいに近いというかえぐいと言うか。」

 

「それは褒めてます?」

 

「え?正直な感想だけど?」

 

「そこは嘘でも褒めてるというんですよカオス…。」

 

「?」

 

「まぁ、お互いに親睦を深められたと感じられたなら今日が今日のままで良かったと思います。」

 

「そうだね。出逢って数日だけどまだ知らないことも沢山在るようだからこれから知っていこう。」

 

「フフッ、そうしましょう。それでは今日はもうこのまま明日に備えましょうか。」

 

「そうだね、もう日も落ちてから時間経つし明日も移動だけだから「ガサッ!!」!!」

 

 

 

「アローネ。」

 

「はい気付いてます。」

 

 話に夢中になる間に敵の接近を許してしまったようだ。

 

「モンスターでしょうか。」

 

「この感じは………モンスターではないな。」

 

「分かるのですか?」

 

「森に長らくいたから野生の生物の気配の消し方は知ってるよ……………おい!隠れてる奴等出てこい!」

 

「「「「………」」」」ザッザッザッ

 

「四人か。」

 

「この方達は………風貌からして盗賊でしょうか?」

 

 その場に現れたのは三人の男と一人の子供だった。

 

 

 

「こんな平原に火を焚いてる奴がいると思ったらガキが二人で何してんだぁ?」

 

「まさか旅行で回ってんじゃねぇんだろ?」

 

「まぁ、そんなこと聞いても興味はねぇがな。」

 

「……」

 

 

 

「……それで僕達に何の用ですか?」

 

「用だと?分からねぇか?つってもお前らハブり悪そうだな。」

 

「金も持ってなさそうだし女だけ回収しとくか。」

 

「おい!お前は今すぐ痛い目見たくなかったら女置いて消えな!」

 

「…」

 

「やっぱり盗賊だったね。」

 

「そのようですね。どうしましょう。」

 

「そんなの決まってるでしょ?」

 

「そう言うと思ってました。」

 

 

 

「相談してんじゃねぇ!ファイヤーボール!」

 

 

 

ボォォォッ!

 

 

 

「ハッハァァァ~ッ!!さっさと消えねぇからそうい「ドスッ!」」バタッ

 

「「「!!!」」」

 

「後三人だね。」

 

「バーラァ!!」

 

「テメェ!」

 

「攻撃してきたのはそっちだろう?狩られることも念頭に入れときなよ。」

 

「ふざけんじゃねぇ!ウインド「ウインドカッター!」」ザクザクザクザク!!

 

「ギャァァァァ!!」

 

「女と思って油断しましたね。私も戦えるのです!」

 

「これで二対二だね。」

 

「クッ!タレス!!ここはお前に任せる!」

 

 そういって残った一人の男が駆け出す。

 

 

 

「逃げた?」

 

「ですが一人残ってます!」

 

 二人は気絶させた。

 

 後はこの鎖鎌を構える少年だけだった。

 

「君も戦うの?」

 

「…」

 

「何もしないならこのまま見逃すけど?」

 

「…」

 

「…」

 

「…………………………………」

 

 

 

ブンッ!!!!

 

 

 

「!!」

 

 突如少年が鎖鎌をこちらに投げる。

 

 

 

キキィッン!!

 

 

 

 一瞬反応が遅れるが木刀で弾く。

 

 殺意のこもった鋭い一撃だった。

 

「…」

 

 タレスと呼ばれていた少年は虚ろな目でこちらを見る。

 

 その目は黒く深い闇を映していた。

 

「何があったらそんな目が出来るんだよ……。」

 

「……」ブンッブンッブンッ!!

 

 鎖鎌を振り回し始める。

 

 回旋する鎖鎌はタレスから半径三メートルの草を刈り取る。

 

 その様からは遠心力によって相当な運動エネルギーが込められていることが分かる。

 

 まともに当たったら相当のダメージになる。

 

 

 

 

 

「……」ビュッ!!

 

 

 

「!」

 

 その鎖鎌は前方の僕ではなくその後ろにいたアローネに向けて投擲された。

 

「アローネ!!」

 

「…!」

 

 

 

 僕はその一撃を横から突き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タレスはその隙を見逃さなかった。

 

 いつの間にかタレスは僕の懐にまで接近していた。

 

 そして、

 

 

 

「…」シュッ!!

 

 

 

 手甲の鉤爪で斜め一閃に振り切る!

 

 

 

スパッ!ビシャシャシャッ!!

 

 

 

「カオス!?」

 

 辺りに鮮血が飛び散る。

 

 鉤爪は左肩から右脇腹を切り裂きカオスは全身が赤に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで…もう終わりかな?」

 

 

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

「今日はもう休みたいんだけどまだ続ける?」

 

「か、カオス!?無事なのですか!?血が!血が出血してますけど!?」

 

「血が出血?あぁ、このくらいの怪我なら森でモンスターと戦ってたときにしょっちゅうしてたよ。」

 

「ですが……痛くはないのですか?」

 

「痛くないわけじゃないけどまだまだ許容内だよ。……で君はまだ………?」

 

 

 

「……!???」

 

 さっきまで無表情で攻撃してきたタレスは顔を青ざめさせて狼狽している。

 

 血を見るのは初めてか?

 

 いや、さっきの鎖鎌の躊躇のない一撃からして殺すのは馴れてそうだが。

 

 そうしているうちにタレスは戦意喪失したように腰を抜かしている。

 

 何に脅えてるんだ?

  

「どうしたの君?」

 

「……」フルフルッ

 

 様子がおかしい。

 

「何を怯えているんだ?」

 

「……!!!?」ズリッズリッ

 

 タレスが後ずさる。

 

「?」

 

「……!!」ズリッズリッ

 

 このまま逃げるのだろうか。

 

「立って逃げた方が早いと思うんだけど。」

 

「カオス、血塗れの貴方が怖くて立てないんでしょう。」

 

「え!?」

 

「こんな小さな子供を脅しているようにしか見えませんよ?」

 

「そんなつもりは…。」

 

「後ろから見てたらそうとしか見えないのです。下がっててください。」

 

「はい…。」

 

「コホン、…貴方お名前は………あら?」

 

 

 

 

 

 タレスは急に地面に踞って小刻みに震える。

 

 これは……

 

「降参ってことでよろしいみたいですね。」

 

 タレスのその土下座を見て僕達はそう受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで貴殿方は何者なのですか?」

 

 さっきタレスが投げた鎖鎌で気絶していた男二人とタレスを縛り上げる。

 

 当然鉤爪やその他の武器も押収しておいた。

 

「俺たちゃこの周辺を根城にしてる盗賊団ダークディスタンスの一員だ。」

 

「ダークディスタンス?」

 

「知らねぇのかよ!前に近くの街を襲ったせいで王都から頭が札付きになった手配書が回ってんだぞ!?」

 

「知らないなぁ。」

 

「知りませんねぇ。」

 

「へっ!とんだ田舎者だな!お前ら街とかに行ったことあんのか!あぁ!?」

 

「…」ゲシッ!

 

「へぶぅっ!?」

 

 縛られて動けないのにどうしてこんなに態度がでかいんだろうなぁ。

 

「そのブラックディスターがどうして僕達のとこへ?」

 

「ブラックディスターじゃねぇ!ブラックディスタンスだ!舐めてんのか!?」

 

「…」ゲシッ!

 

「うぶぅッ!?」

 

「どうして僕達のとこへ?」

 

「うおぉぉっ……、いてぇ。お前らのとこに来たのはこんな夜中に火付けてたから旅商人でもいるのかと思って襲いに行ったんだよ。」

 

「ふ~ん、旅商人ねぇ。でこうなったわけだ。」

 

「へっ!こんな金も持ってなさそうなガキ二人に当たった上にやられるなんざついてねぇぜ!」

 

「…」

 

「!?」ビクッ

 

「ねぇ」

 

「な、何だよ!?蹴るのか!?」

 

「そうじゃないよ一つ聞いていいかな?」

 

「んだよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「金って何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「は?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやだから金って何なのかな~って…。」

 

「か、カオス?」

 

「金は金だろ?」

 

「そうだ、そこら辺の奴等なら皆持ってんだろ?それを俺らが奪って…」

 

「その金っていうのは何か畑の肥料にでもなるとかかな?」

 

「なるわけねぇだろ!何言ってんだお前!?」

 

「土に撒いてどうすんだよ!?」

 

「…」ゲシッ!ゲシッ!

 

「「グオッ!」」

 

 

 

「…で?」

 

「はい?」

 

「その金っていうのを何に使うつもりなんだ?」

 

「な、何って…」

 

「あ、あれば困らねぇし多いにこしたことはねぇよな?」

 

「だから何に使うんだ?」

 

「沢山集めるんだよ!?」

 

「沢山あれば一生暮らせるだろ!?」

 

「………察するにそれはとても重要なアイテムのようだね。」

 

「重要なって…。」

 

「そりゃあ国で生きていく上では重要なアイテムと言えなくもねぇが…。」

 

「フム、なるほど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 要するに食材のことだね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「違ぇぇぇよ!!」」

 

 

 

「え!?マジか!?マジなのかコイツ!?本気で言ってるのか!?」

 

「じょっ、冗談だろ!?何で金を知らねぇんだよ!?」

 

「ん?食材じゃないの?」

 

「カオス、お金は食材ではありません…。」

 

「アローネは知ってるの?お金?金?」

 

「お前!その服とか木刀はどうやって手に入れたんだ!?本当はお前も盗賊とか追い剥ぎなんじゃねぇのか!?だから金のこと知らねぇんだろ!?」

 

「…また盗賊か。二度目だぞ。」

 

「何だよそれだったら早く言えよ!同業者かよ!驚かせやがって!お前らはなんて名前の盗賊団なんだ?」

 

「「盗賊じゃない!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かりましたかカオス。」

 

「お金って大事なものなんだね。村じゃ全く見ないから知らなかったよそんなのがあるなんて。」

 

 村の外の世界ではお金というものをまわして服や食材をもらえるのか。

 

「そうです。資本は大事ですよ。街に泊まったりするときや物を購入したりするときに必要でお金がないとなにもできなくなったりすることもあるんです。」

 

「そうなんだ。お金ってどんなのか分かる?」

 

「お金は…」

 

「何だお前!金すら見たことねぇんだな!どんだけ田舎者なんだよ!仕方ねぇな!このバーラ様の金をちょっくら見せてやるよ!おい!俺様の腰に付いてる袋を開けてみな!」

 

 そう言ってバーラと名乗る盗賊が腰を浮かす。

 

「どれどれ……。」

 

 バーラの腰の袋を漁ると中には軽めの円い何かがぎっしりと入っている。

 

「これが……お金?」

 

「そうだよ!この間成功して儲けがいいからなぁ!二万ガルドはあるぜ!」

 

「……ガルド。」

 

 お金とやらを観察しているとアローネもお金を凝視している。

 

「どうしたのアローネ?」

 

「いえ、私の知っているお金と形が違ったので…。」

 

「形が違うだぁ?女ぁ、もしかしてお前もダレイオスの奴隷ってんじゃねぇんだろうなぁ?」

 

「お前も?私の他にもいるのですか?」

 

「一緒に縛られてるこのガキもダレイオスから拉致ってきた奴隷だよ!」

 

「……」

 

「この子が?」

 

「そうさ。前に襲った街の領主んとこにいた奴隷でな。領主の所のガキと勘違いして連れてきちまったんだよ!」

 

「どうやら魔術で抵抗出来ねぇように喉を潰されてるみてぇでな!コイツ声も出せねぇし魔術使えねぇ能無しなんだよ!」

 

「「!!」」

 

「最初は身代金にもならねぇから放り出そうとしたんだけどな。コイツ泣きそうな顔でスケッチブックに何でもするから捨てないで下さいって書いて見せてきたんだよ。そしたらお頭が捨て駒にでもとっとけって言うから俺達が使ってやってんだよ。」

 

「「……」」

 

「ガキの腕力じゃ話にならねぇからってこの振り回せる鎌持たせてたが結局ダメだったな。ゴミはゴミ程度しか働かねぇ。」

 

「大体ダレイオスから拉致られてきた時点で生きるの諦めろっつーの。何が捨てないで下さい、だ。どうせ長生きしたところでこのガキはろくな目にしかあわねぇんだからよ。」

 

「そこら辺に捨てとけばヴェノムに食われてお仕舞いだしな。誰かが生かしといてやんないとダメなクズなんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、アローネ。お金って使ったら無くなるよね?どうやって増やせばいいの?」

 

「「は?」」

 

「そうですね。一般的には仕事というものをしてお給料をもらうか、物を売ったりしてその対価を得たりですね。」

 

「そうなんだ。じゃあ物を売るってのはどういったものが売れるの?」

 

「鉱物や素材といったものを高値で取り引きして貰える市場もありますよ。」

 

「へぇ~、だったらこの盗賊っていくらぐらいで売れるの?」

 

「「!?」」

 

「先程この盗賊団のお頭様が手配書を作られたらしいのでそれなりに高値で引き取って貰えるでしょう。」

 

「そっかぁ~嬉しいなぁ。お金は沢山あった方がいいんだもんね?」

 

「勿論です。お金が沢山あれば一生暮らしていけるそうですからね。」

 

「お、おいおい!何言ってんだよ!?俺達を突き出せばダークディスタンスが黙っちゃいねぇぞ!?四六時中狙われることになるぞ!?」

 

「俺たちゃダークディスタンスだぞ!?そんじょそこらの下級盗賊じゃねぇんだ!?まさかボス達にまでケンカ売る気じゃねぇだろうなぁ!?」

 

「あいにくと放浪旅でね。どうやら僕達、暇とお金に困ってるらしいんだ。」

 

「長旅には旅費が掛かるんですよ?」

 

「お前らおかしいって!たった二人でどうすんだよ!?悪いことは言わねぇ!さっきの金やるからここは俺達を逃がしてお互い見なかったことにしようや?」

 

「貰えるのなら有り難く貰っておくよ。但し戦利品としてだけどね。」

 

「き、汚ねぇぞ!俺の二万ガルド!」

 

「開放してほしいのならそれなりの物と交換していただかないといけませんね。」

 

「それなりって…もうなんも持ってねぇよ!」

 

「もう一人の方お金持ってない?」

 

「探してみますね。えぇっ、とこの辺りかしら。」

 

「や、止めろ!姉ちゃん!俺は別に持ってな………あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「お財布見つけました!」

 

「俺の一万ガルドがぁぁぁぁぁ!!」

 

「全部で三万かぁ。相場が分からないから多いのか少ないのか分からないね。」

 

「少ないのではないでしょうか?盗賊という不安定職をしてますと一定のお金は入ってこないと思うので。」

 

「そうなのかぁ、残念だなぁ。おじさん達これじゃ足りないってさ。」

 

「ふざけんなこら!!有り金全部掠め取ってまだ足りねぇってのか!?」

 

「もう服ぐらいしかねぇよ!!ひん剥くのか!?あぁあん!?」

 

「もう一つあるだろ?情報をくれよ。」

 

「じょ、情報だと!?」

 

「私達貴殿方のことをよく知らないんですよ今日ここまで来たものでして。ですからその……盗賊団ダークタンスという方々の住んでいる場所を、教えてほしいのです。」

 

「盗賊団ダークディスタンスだ!!」

 

「そう、それを教えて欲しいんだ。そいつらは何処にいけば会えるの?」

 

「二人しかいねぇのに乗り込むのか!?命がいくらあっても足りねぇぞ!?」

 

「君らみたいな小悪党がいくら束になったところでモンスターやヴェノム以下だと思うんでね。」

 

「拝見しましたところ貴殿方は三人ともエルブンシンボルも装備していないようですし大して危険は無さそうですね。」

 

「エルブンシンボル?そんな高価なもん騎士団くらいしか付けてねぇだろ!?」

 

「なら僕達だけで十分だね。」

 

「調子に乗るのも大概にしろよ!?うちには三十人のメンバーがそれぞれ魔術を三種前後マスターしてんだ!お前らみたいな田舎者がたった二人張り切ったところで返り討ちになるのが落ちだろ!」

 

「普通だったらそうなんだけど僕達ちょっと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通じゃないんだ。」



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盗賊サハーン

 青年カオスはアローネと共に旅を始める。

 森を抜け平原へと出た二人を待っていたのは盗賊の襲撃であった。


ムスト平原 南西 魔界の森

 

 

 

「ここは……!?」

 

「………!」

 

 ここに来るまでに遠くから見て不審に思ったが近づいて確信に変わる。

 

 この森は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムの森だ。

 

 

 

「この奥に俺らのアジトはあるんだよ。」

 

「……よくこんなところで生活できるね。周りの木々や土を見て分からないの?もうここの森、死んでるよ?」

 

「やはりヴェノムは自然を破壊し尽くしてしまうのですね。ここのヴェノムは全て死んでしまった後のようですが。」

 

「ミストの森はこうはならなかったけど他じゃこうなのかな?」

 

「あの森が本当なら異例なのですよ?ヴェノムが現れた森はこのような風景になるのが普通なのです。」

 

「……この臭いってヴェノムが死んだときの!?」

 

「はい、これは障気と呼ばれるものでして生物にとっては有害です。長く吸っていたら後遺症が残るほどに。」

 

「盗賊団よくこんなところに住めるなぁ。」

 

「そこら辺の街には封魔石ってのがあんだろ?俺達盗賊は街には入れねえからよ。こんなとこでも住んでないと生きていけねぇんだよ。」

 

「どういうこと?」

 

「ヴェノムは生物のマナに引き寄せられて行動してます。そして障気はマナを寄せ付けない特性があるのでこの森にはヴェノムが近寄らないのでしょう。」

 

「そういうこった。そこらの木々さえ触らけりゃここらは空気がヤベぇだけのヴェノム避けになんのさ。」

 

「盗賊って大変なんだな。今からでも転職したら?」

 

「それができんならとっくにしとるわ!余計なお世話だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えたぞ。あそこがうちのアジトだ。」

 

 森の中を歩いていくと奥に大きな屋敷が見えてきた。

 

「随分と豪勢だね。よくこんなの作れたもんだ。」

 

「別にダークディスタンスがこの屋敷を立てたんじゃねぇぞ?この屋敷は捨ててあったんだ。」

 

「捨ててあった?」

 

「あぁ、それを俺達が拾っただけだ。こんな森だから誰も近寄らねぇし盗賊のアジトにはもってこいだったから使ってんだよ。」

 

「いいの?空気悪いんでしょ?そのうち倒れたりしたら…」

 

「そんなもん盗賊始めた時点で知ったこっちゃねぇんだよ!捕まって退屈な余生を送るくらいなら好き勝手に暴れて死ぬほうがいいに決まってんだろ!」

 

「人に迷惑かけないならそれでもいいと思うんだけど…。」

 

 

 

「おら、アジトに付いたんだ!さっさとこの鎌外せよ!いつまで三人で巻き付けたままなんだ!?歩き辛ぇぇよ!」

 

「そうだった。………アローネ入り口の方に行ってて貰える?」

 

「?分かりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だよいつまで時間かけてんだよ!鎌外すだけだろうが!」

 

「……」

 

「何だ!まだ情報が欲しいのか?何だよ何が知りてぇんだ!?」

 

「服ってさ」

 

「あん?服だぁ?服がどうしたんだ!?」

 

「…………服ってさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お金になるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盗賊団ダークディスタンス アジト入り口

 

 

 

「遅かったですね。どうかなさったんですか?」

 

「ちょっと野暮用でね。聞きたいことは聞けたからもういいよ。」

 

「聞きたいこと?」

 

「パンツは残しといたから大丈夫だよ。」

 

「はい?」

 

「何でもないよ、行こう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中は綺麗なものだね。」

 

「障気は…中には入ってないようですね。」

 

「換気はしてあるみたいだ。団員達は何人か一階にいるね。」

 

「こういうときは………どうすればいいんでしょう?」

 

「手当たり次第しかないんだけどなぁ。囲まれたりしたら厄介だし。」

 

「……」

 

「どうしたものか…。」

 

「カオスはこんな危険なことしてよかったんですか?」

 

「ん?」

 

「先程は私もカオスの口に乗ってここまで来ましたけど盗賊のアジトの情報を知っておくだけでもよかったのでは?」

 

「……」

 

「私は今更ですがカオスを無茶なことに引き入れてしまったのではないかと…」

 

「違うよ。これはアローネが気にすることなんて何もない。僕がやりたいだけなんだ。」

 

「ですが…」

 

「あの盗賊達と一緒にいたタレスって子いたよね。」

 

「あの子ですか?」

 

「なんか他人な気がしなくてね。放っておけないんだ。」

 

「確かに境遇は可哀想ではありましたがそれも街についてから警備に任せればいいのでは?」

 

「それじゃダメなんだ。それだとあの子は盗賊達と一緒に捕まるかもしれない。最悪盗賊達のボスにでもしたてあげられてね。」

 

「流石にあの年齢の子でそこまでは無理がありません?」

 

「どっちみちこのまま通報したらあの子はずっと人生を流されて終わってしまう。あの子は昔の僕みたいだから助けてあげたいんだ。」

 

「……カオスは優しくて強引で罪の意識と自己顕示欲が高くて陽気で前向きで、優しいのですね。」

 

「どんどん増えていくね。同じの二回言ってなかった?」

 

「同じでも意味は違いますよ。」

 

「そうなんだ。じゃあそろそろ行こう。ここにいると見つかっちゃうよ。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盗賊団ダークディスタンス 五階屋上

 

 

 

「………たまには屋上に出てみるもんだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく屋敷の中を探索した。

 

 途中現れた盗賊達は気絶させたあとにそれぞれの部屋でロープで縛って放置しておいた。

 

「ふぅ、二人でもなんとかなるもんだね。」

 

「それはやはり私のエルブンシンボルの影響もありますね。」

 

「それってそんなに違うものなの?」

 

「これがあるのとないのとでは大分違いますよ。カオスも………カオスはないのにお強いですよね。」

 

「僕はほら、小さいときから体を鍛え続けてたのと殺生石があるからね。」

 

「その殺生石の力はどのように使っているのですか?」

 

「戦ってるときに体の中のマナを体の表面に纏わせてるんだよ。木刀にも流れるから切れ味もあがるみたいで。」

 

「それですとエルブンシンボルと差は無さそうですね。」

 

「そうなの?なんかあったら面白そうだったんだけどなぁ。」

 

「それでしたら見つけ次第回収してお試しになります?」

 

「そうだね。強くなれるならそれにこしたことはないし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ~う、侵入者ぁ~!こんなところで何してんだ?」

 

 

 

「「!」」

 

 

 

「さては賞金稼ぎか?よくこんなところまで来たもんだなぁ。ヴェノムの森ならいい隠れ蓑だと踏んでたんだがなぁ。雑魚どもを着けてきたのか?」

 

 階上からの声に反応して上を見上げると大きな曲刀を持った男がこちらを見下ろしていた。

 

「お前は…誰だ!」

 

「はぁ?惚けてるのか。ここに来たってことは俺の手配書くらい見て来たんだろ。」

 

「悪いね、お前の部下が言っていた手配書につられて直で来たんだ。実は名前すら知らない。」

 

「ハハッ!ってこたぁここへは雑魚どもと来たわけだ!雑魚は雑魚なりに有能ぶってりゃいいってのに結果無能を晒したわけか。」

 

「口が悪いな。お前の仲間だろ?」

 

「仲間?仲間ってのは俺と同格に殺りあえるくれぇ有能なやつのことだろ?ここにいる奴等は全部俺の駒でしかねぇカスどもだ。」

 

「お前……。」

 

「貴方は本当にそう仰っているのですか?」

 

「当然だろ?それと俺はお前でも貴方でもねぇよ。俺の名はサハーンってんだ。以後それで呼びな。」

 

「サハーン。サハーンにとって他の盗賊達やタレスは駒と本気で言ってるんだな?」

 

「あ?タレス?誰だそりゃ?雑魚どものことか?いちいち名前を覚えちゃいねぇよ。」

 

「……よくわかった。それを聞いて安心したよ。」

 

「彼を連れていっても良さそうですね。」

 

「何のことかはよく分からんが雑魚どもは俺の名声によってくる。代わりの聞く連中だから好きにつれていっていいぞ。お前らがそれを気にする必要があるとは思えねぇがな!」

 

 

 

タッ!

 

 

 

 

「「!!」」

 

 飛び降りた!?

 

 

 

 

 

「ヒヤッハァァァァァァ!!!ファイヤーボール!!」

 

 

 

 

 

ボオォォォォッ!!

 

 

 

 

 

 

「(攻撃と同時に着地の緩和か!?)アローネ下がって!受け止める!」

 

「はい!」

 

 

 

ギキィィィィィィィィィィン!

 

 

 

「ハッハー!!この程度はあるよなぁ!!オラッ!!」

 

 

 

ギキィィィン!ギキィィィン!ギキィィィン!!

 

 

 

「どうしたんだサハーン。このくらいなら他の盗賊達と同じだぞ。」

 

「言うねぇぇぇ!!どうやらお前は雑魚どもよりは有能見てぇだ「ウインドカッター!」!」

 

 

 

ザザザザザッッッ!!

 

 

 

「おっとぉ!!」タッ!

 

 

 

「身軽だね。今のタイミングは際どかったと思うけど。」

 

「動きが早いですね。」

 

 

 

「雑魚どもと同じ扱いしてると一瞬で終わらせちまうぞ?」

 

 

 

 上から飛び降りたのと今の引き下がり、常人とは思えない動きだった。

 

 こいつ、何か特殊な能力を持ってる!

 

「カオス、彼は体の何処かにエルブンシンボルを装備しています。」

 

「エルブンシンボル?」

 

「先程の飛び降りたときのリカバリングとウインドカッターを避けたときのバックステップはエルブンシンボルを介して装備したレンズのものです。」

 

 

 

「お?詳しいなぁ、お前。そんなこと知ってんのは騎士どもと決まってんだがな。その通りだ、騎士どもに捕まって隙を見て奪ったんだよ。お陰で手配書が出回ることになったがな。」

 

 

 

「カオス、サハーンのあの手に付いているものがそうです。あれを外せますか?」

 

「あの円い石みたいなものが…。」

 

「あれさえ外せればサハーンは運動能力が低下します。」

 

「分かった!」

 

 僕はサハーンに向けて駆け出し木刀で斬りつける。

 

 

 

ガキィィィィィィン!!

 

 

 

「ハッ!こいつのこと知ってんならどうせここ狙ってくるんだろ?動きが素人過ぎて読みやすいぜ!」

 

 

 

ギキィィィン!クォォォォンッ!ギキィィィン!!

 

 

 

「グッ!」

 

 盗賊団のボスだけあって強いな。 

 

 斬り込んでも斬り込んでも止められる。

 

「『落雷よ、我が手となりて敵を打ち払え!ライトニング!』」

 

「ちょれぇって言ってんだよ!ライトニング!」

 

 

 

バチバチバヂィィィィィッ!!!

 

 

 

「うっ!?」

 

「アローネ!?」

 

 二体一なのにこちらが圧されている!?

 

 サハーンは今のライトニングもかわした。

 

 それだけサハーンとの差が大きいのか!?

 

 

 

「おいよぉ?二人だけで来たからどんな粒かと楽しみだったんだがなぁ、まるでダメだな!!退屈で仕方ねぇ!所詮は無能なのかぁおい!そろそろ殺しちまうぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直なめていた。

 

 盗賊のボスがこれほど手こずる相手だとは思わなかった。

 

 おじいちゃんの話ではもっと簡単な感じで捕まえていたから僕も出来ると思っていた。

 

 だがコイツは予想以上に強い!

 

 このままではアローネもやられてしまう。

 

 どうすればいい!?

 

 ここは引くか?

 

 いやダメだ!さっきの動きを見る限り足の早さはサハーンが上だ!

 

 僕が囮になればなんとかいけるか?

 

「アローネ。僕が時間を稼ぐからアローネは森を出て逃げるんだ。」

 

「!?何を言ってるんですか!?」

 

「コイツは強い!多分僕達二人かがりでも勝てないくらいに!だから一旦引いて体勢を立て直そう!先ずはアローネから先に逃げて!」

 

 

 

 

 

 

「嫌です!!」

 

「アローネ!?今は我が儘を言ってる場合じゃ!」

 

「カオスを置いて逃げるなんて出来ません!逃げるなら一緒にです!」

 

「アローネ!さっきのコイツ見てたろ!?サハーンは相当に俊足だ!二人で逃げてたら追い付かれるよ!!」

 

「それでも嫌です!カオスは私を助けてくれました!恩人を一人残して自分だけ逃げるなんて真似は死んでもしません!」

 

「いい加減にしてよ!本当に死ぬかもしれないんだぞ!?」

 

「カオスと一緒になら本望です!」

 

「ふざけるなよ!何のために僕がいると思ってるんだ!」

 

 

 

「カオスこそ私のことを甘く見ないでください!私のことを信じられないんですか!?仲間ですよね!?」

 

 

 

「!?」

 

 

 

「カオスは一人で戦わなくてもいいんですよ!貴方は私を守ろうとしてくれますけど私だって貴方を守りたいんです!貴方の背中には私がいるんです!

 

 私を信じてください!貴方は私が絶対に守ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言われてから気付いた。

 

 

 

 僕はまた一人で突っ走っていたみたいだ。

 

 

 

 またアローネに迷惑をかけた。

 

 

 

 どうして二体一なのに勝てないんだろう。

 

 

 

 そんなもの単純にサハーンが強いからだ。

 

 

 

 経験の差や技術が大きいのだろう。

 

 

 

 けど勝てない理由はそれだけじゃない。

 

 

 

 もっと大事なことがあった。

 

 

 

 この戦いは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アローネゴメン。また独り善がりだったみたいだ。もう逃げるなんて言わないよ。」

 

「カオス大丈夫ですか?」

 

「頭は今の渇で覚めたよ。もう大丈夫。」

 

「……」

 

 

 

「アローネ頼みがあるんだ。」

 

「何でしょう?」

 

「僕と一緒に……戦ってくれないか。」

 

「!………はい!!」

 

「よし行こう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相談は終わったか?次から殺せる隙あったら殺すから覚悟しとけよ?」

 

「もうそんな隙はないぞ!」

 

「どうだか!」

 

 

 

ギキィィィン!ギキィィィン!ギキィィィン!………

 

 

 

 

「打ち合ってるだけじゃさっきみたいになるって学習し「ファイヤーボール!」ファイヤーボール!」

 

 

 

ボボッ!ボボッ!ボフゥゥゥゥゥン!!

 

 

 

 アローネが出したファイヤーボールを空かさずファイヤーボールで返すサハーン!!

 

 二人のファイヤーボールが衝突し爆発を起こす。

 

 サハーンの対応力には驚きを隠せない。

 

 

 

 だが今回は攻撃が目的じゃない。

 

 むしろこれを狙っていた。

 

 

 

 爆発で砂煙が舞う。

 

 そこから

 

 

 

 

 

 

 僕とアローネが同時にサハーンに迫る!

 

「あぁ!?」

 

「魔神剣!」

 

 サハーンに迫りながらも魔神剣を放つ。

 

「チイッ!」

 

 サハーンが魔神剣を曲刀で受ける。

 

 その隙に僕が木刀を叩き込む。

 

「うっ!オッ!ハッ!さっきより!マシになったが!」キン!キン!キン!キン!

 

 サハーンに見切られて木刀の連撃をことごとく防がれる。

 

 そして

 

 

ガンッ!!

 

「よ~し、覚悟はいい「アローネ!!」ファイヤーボール!」

 

「アクアエッジ!!」

 

 木刀と曲刀の剣が止まった隙にアローネがサハーンの至近距離で魔術を発動する!

 

「グオアッ!!」

 

 流石のサハーンもこの距離からでは間に合わないらしい。

 

「魔術剣!」「ライトニング!」

 

 吹き飛んでいったサハーンにだめ押しの一撃を放つ。

 

 

 

「オァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 サハーンが一際大きな悲鳴をあげる。

 

「アッ……アアッ………バハッ!」

 

 変な声をあげたあと床に倒れこむサハーン。

 

 

 

 どうやら勝利したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか勝ったみたいだね!」

 

「はい!あんな凄い人に私達勝ちました!」

 

「強かったね!勝てないと思ったよ。そうだ!エルブンシンボル回収しないと。」

 

「そうでした!起き上がらないうちに外しときましょう!」

 

 倒れているサハーンからエルブンシンボルをとる。

 

「これで気が付いても大丈夫だね。油断は出来ないけど。」

 

「気絶している間に他の人達みたいにロープで縛っておきましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで起きても危険は無さそうだね。」

 

「エルブンシンボルを取り上げたうえに両手が使えないとなるともう襲ってはこれないでしょう。」

 

「後はリトビアって街に行ってここのことを知らせるだけでいいんだよね?」

 

「はい。情報が正しいと確認してもらえれば謝礼が頂けると思いますよ。街での一先ずの生活は保証されましたね。」

 

「………アローネ。」

 

「はい?」

 

「さっきは本当にご免なさい!」

 

「………どういうことだったのか私に話してみてもらえますか?」

 

「………僕、ずっと、ずっと一人でモンスターと戦ってきたから仲間で戦う連携とか全然分からなくて焦ってたんだ。」

 

「……」

 

「サハーンに会うまでは敵が一人でも倒せるようなのばっかりだったから問題なかったんだけどサハーンと対峙した瞬間頭の中がアローネを守らくちゃっていっぱいいっぱいで…。」

 

「それで貴方は私を真っ先に下がらせてサハーンが私に近づかないような立ち回りをしていたんですね。」

 

「僕そんなことしてた…?」

 

「後ろから見てたら分かります。

 カオスは私に戦闘をさせないようにしてました。」

 

「ご免なさい。」

 

「貴方は何でも一人で抱えすぎです。私は前に前衛も出来ると言っておいたでしょう?」

 

「……」

 

「サハーンが降りてきたとき、…いえそれ以前からモンスターとの戦いの際は常に私を下がらせて貴方が前に出ていましたね。」

 

「……」

 

「貴方が私を信頼して頼ってくれないと本来の二人いるという武器を生かしきれません。そこが今回の苦戦の原因です。」

 

「…うん。」

 

「カオス、私のせいで貴方まであの村を出ることになりました。そのことについてはとても私は感謝しています。感謝してもしきれないほどです。」

 

「別に大したことは…。」

 

「私にとっては大きなことでした。ですから私はカオスをどんなことがあっても守りたいとは思います。そして信頼もしています。」

 

「……」

 

「カオスは……カオスを守ってあげてください。」

 

「…え?」

 

「貴方の戦い方は貴方自身を盾のように扱ってる。そんな戦い方は仲間としてしてほしくありません。貴方を傷つけてまで私は貴方に守ってほしくありません。」

 

 

 

 僕が僕を盾として……?

 

 それは………いけないことだったのか?

 

 

 

「カオス、貴方は貴方の大切な人が傷付くところを見たいですか?」

 

「そんなの、見たくないに決まっている!」

 

「私もそう思います。私は大切なカオスが傷付くところを見たくない。」

 

 

 

 大切?

 

 

 

「私達が今後上手く戦えるようになるにはもっともっとお互いのことを知る必要があります。出逢ってから十日から二十日程経ちますがお互いの知らないことや不満に思っていることはあると思います。それを後程話し合いましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔から好かれるよりも嫌われることの方が多かった。

 

 

 

 特に何かしたという訳じゃない。

 

 

 

 逆に何も出来なかったからだ。

 

 

 

 何もしなかったをしたとも言えるのかな。

 

 

 

 そんなやつが口だけは偉そうなことをほざくから嫌われる。

 

 

 

 だから誰かから嫌われることには馴れている。

 

 

 

 今更何とも思わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネは僕を大切と言った。

 

 

 

 小さいときはそれを言われたいがために頑張った。

 

 

 

 おじいちゃんやウインドラはよくいってくれたな。

 

 

 

 あのときは嬉しかった。

 

 

 

 けどどうしてかな。

 

 

 

 あのときは純粋に嬉しかったのに。

 

 

 

 何で今は

 

 

 

 心がこんなに落ち着かないのかな…。



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盗賊団壊滅

 青年カオスはアローネと共に旅をしている。

 盗賊の襲撃を受けた二人は逆に盗賊を退治しに赴くことにした。

 しかし盗賊のボス、サハーンは想像以上に強く苦戦を強いられるのだった。


盗賊団ダークディスタンス アジト

 

 

 

「今後の私達の課題は連携戦です。同じフィールドにいるのに個人で戦っていては二人の利点に繋がりません。私達はまだお互いの動きの癖を把握できていないことがこれからポイントになってくるでしょう。」

 

「分かった。次に戦うときはアローネをよく見て戦うようにするよ。」

 

「お願いしますね。貴方のそういう反感せずに素直に受け止められるところはいい長所です。この分ではすぐに連携もこなせるようになると思います。」

 

「僕は完璧じゃないからね。正しいこと間違ってることを理解して身に付けることが僕に必要なんだ。」

 

「……本当は二日続けて険相な空気にするつもりはなかったんですけど。」

 

「仕方ないよ。足りてないことがまだまだ多いんだ。僕も性格的にアローネと相性がいいと思ってたけど実はアローネに甘えて自分を通してたことを確認できたんだ。至らないところがあったらどんどん言い合って行こう。アローネも僕に悪いところがあったらズバッと言っちゃっていいから!」

 

「それはカオスもですよ。遠慮なさらずにいきましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お勉強会は済んだか?」

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

 この声はサハーン!?

 

 そこに………いない!?起きたのか!

 

 何処に?

 

 

「油断しちまったぜ。こんな素人どもの即席コンビにやられるなんざ俺も無能になったもんだな。」

 

 少し離れた位置の窓からサハーンが話しかけてくる。

 

「サハーン!」

 

「だかまぁいい線いってたと思うぜ?その女が前衛もできるとは予測出来なかった俺の落ち度を踏まえても。次はもっと強くなってこいよ。」

 

「それはどうも。だがお前に次はないぞ。ここで他の盗賊達と一緒に捕まるんだからな。」

 

「あの状況で俺を殺さなかったお前らにはもう俺を捕らえることは出来ねぇよ。俺から奪った装備はくれといてやる。」

 

「後ろ手に縛られながらなに言ってるんだ。それじゃあ戦えないだろ!」

 

「盗賊ってのはな、盗むこと、気配を消すこと、殺すこと、そして何よりも逃げ足がねぇと務まらねぇんだ。足を縛るか潰しておけば逃げられずに済んだのにな。教訓にしとけ。」

 

 

 

 それを言うのと同時にサハーンは窓を突き破り外へ飛びでて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファイヤーボール・追連!!」

 

 

 

 

 後ろ手にファイヤーボールの火球を六つ屋敷に放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

 

 

 

「なっ、アイツ!あんなにファイヤーボールを!?」

 

 

 

「カオス!それどころではありません!屋敷が燃えています。消しにいかないと!」

 

 

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクアエッジ!!」

 

 

 

 僕とアローネは外にでて火のもとへと向かい鎮火しようとする。

 

 

 

 だが火の手はなかなか消えてはくれない。

 

 

 

 それどころかここ以外の五ヶ所の火が激しさをまして屋敷を焼き尽くしていく。

 

 

 

 サハーンは何がしたかったんだ!?

 

 

 

 このままではアイツの気絶した部下達が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッチィィィ!!何事だ!?」

 

 

 

「バーラ!アジトが!アジトが燃えてる!?」

 

 

 

「……!?」

 

 

 

 入り口から少し離れた陰から道案内させた盗賊達の声が聞こえる。

 

 

 

「貴殿方!無事だった……キャァァァァ!!?何て格好してるんですか!?変態!!」

 

 

 

「ハァァァァァ!!?誰が変態だ!!バーラ様だって言っただろうがぁぁぁ!!」

 

 

 

「どうしてそのような格好をしているのですか!?」

 

 

 

「お前の相方に縛り上げられたまま服を剥ぎ取られたンだよぉ!!」

 

 

 

「そういえばそうだった!」

 

 

 

「カオス!?どうしてそのようなことを!?」

 

 

 

「そんなことはどうでもいい!今は火を消すのを早くしないと!魔神剣!!」

 

 

 

「は、はい!アクアエッジ!」

 

 

 

「お、お前ら!これやったのお前らなのか!?」

 

 

 

「残念ながらこれをやったのはお前達のボスサハーンだよ!」

 

 

 

「ボスが!…何で自分の城にこんなことを!?」

 

 

 

「そんなの知らないけど、捕まるくらいなら捨てるとかそう思ったんじゃない!」

 

 

 

「貴殿方!アクアエッジは使えますか!?私一人では火の廻りに追い付きません!協力してください!」

 

 

 

「わ、分かった!じゃあ、コイツ外してくれ!このままじゃ撃ちにくい。」

 

 

 

「これでいいか!」

 

 

 

 盗賊達三人を纏めていた鎌を外す。

 

 

 

 そして、

 

 

 

「オラァッ!!」ドゴォッ!!

 

 

 

「ウアッ!!」

 

 

 

「カオス!?貴殿方何を!?」

 

 

 

「ヘヘッ!!どうせこのあと俺達ぶちこむ予定なんだろ!?ならこの隙に逃げるんだよ!」

 

 

 

「こんな簡単な手に引っ掛かるなんざお人好し通り越してバカだな!!ハハハッ!!」

 

 

 

「待ってください!!この屋敷の中にはまだ貴殿方のお仲間が残っているのですよ!?」

 

 

 

「そんなの知るかよ!逃げられねぇ奴等が悪いんだろ!じゃあな!!」

 

 

 

「そんな…お仲間を見捨てて…?」

 

 

 

「痛てて、……アローネ、今は出来ることをやろう!このままだと盗賊達が!」

 

 

 

「………はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ダメだったか。」

 

 結局屋敷は全焼し中にいた盗賊達は皆………。

 

 サハーンと案内役の盗賊達にも逃げられ後味の悪い事件になった。

 

「あの時サハーンを止められてれば……。」

 

「カオス………恐らく……それは無理だった…でしょう。」

 

「無理だった?」

 

 アローネは魔術の使いすぎで疲労している。

 

 安全なところで休ませてあげないと。

 

「サハーンが……屋敷に放ったファイヤーボール……。サハーンはまだ……力を隠していたんだと……。」

 

「縛られながらもまだ僕たちより上なのか。」

 

 サハーン、

 

 強いだけじゃなく残虐非道で自分のためなら仲間も犠牲にする男。

 

「……戦利品はこれだけか。」

 

 サハーンから回収したエルブンシンボルと盗賊達の三万ガルド。

 

 これを手にするだけでこの屋敷と盗賊達が灰になった。

 

 悪人でも目の前で死なれるのはキツいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界の端で何かが音をたてた。

 

 そちらを見ると盗賊達と一緒にしていたタレスが膝をついて焼けた屋敷を見ていた。

 

「……」

 

 言葉は話せないがその様子からは絶望が伝わってくる。

 

「貴方、タレスって……言いましたね。どうなさったのですか。」

 

「……」

 

 返事はない。

 

 喋れないのだから当然だ。

 

「アローネ、ここも敵がいないとはいえ危ない。一旦離れよう。」

 

「そうですね…。タレス……歩けますか?」 

 

「……」

 

 返事はないが一応はついてこれるみたいだ。

 

「それじゃあ行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムスト平原

 

 

 

「「「……」」」

 

 何とか森からは抜けたが今回は失敗続きで空気が重い。

 

 アローネに指摘されてサハーンを倒すまでは良かった。

 

 そこで今後のことを話している最中にサハーンを見失い気付けば他の盗賊団をまるごと消されていた。

 

 アイツは、アイツだけは許しちゃいけない。

 

 悪人とはいえアイツは仲間を捨て駒にして逃げた最低野郎だ。

 

 次にあったときは容赦はしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タレス、少しお話いいですか?」

 

 無言で歩いているとアローネがタレスに話しかける。

 

「……」

 

 タレスは話しかけられてアローネを見るが顔は暗い表情のままだ。

 

「タレスは先の盗賊団……ブラックディスタンスに捕らわれていた訳ですがブラックディスタンスは壊滅し貴方は解放されたようです。よろしければ貴方をもといたところへお連れしますがどうでしょうか。」

 

「……」

 

 タレスは暗い表情でそれを聞いていたがやがて懐から手帳を取り出して文字を書き始める。

 

【ぼくはダレイオスからつれさられてマテオにきました。おとうさんおかあさんはもういません。ぼくにはかえるところはありません。】

 

 タレスは手帳に書いた文章を見せてくる。

 

 どうやら帰る宛先がないらしい。

 

「盗賊団に捕まる前はどこかの領主のもとにいたんじゃないの?」

 

【そこはもうヴェノムによってつぶれました。つぶれてなかったとしてもながいじかんもたってぼくのかわりがいることでしょう。まじゅつがつかえないぼくではもうどこにもいばしょはない。】

 

「……」

 

 この顔は………幼いときの自分に重なる。

 

 回りと比べて劣等感を感じて塞ぎ混んでいた時期の僕に。

 

 あのときはおじいちゃんやウインドラがいたから立ち直れた。

 

 けどこの目の前のタレスにはそんなものはいない。

 

 もとよりダレイオス出身となるとこの国には味方などいないのは当然だ。

 

 見た目や能力はこの国とも変わらない。

 

 それなのに出身だけで差別される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、僕達と一緒に行かない?」

 

 

 

 

 

「…!」

 

「……」

 

「僕達は今旅しているんだけどよかったら来ない?二人旅だからいろいろと危なっかしくて仲間が欲しいんだ。」

 

「…!」

 

 タレスがまた手帳に文字を書きなぐっている。

 

【どうしてぼくを?ぼくはおふたりをさくばんおそったばかりですよ?ぼくにはなんのりようかちもないんですよ?】

 

「利用価値とか襲ったとか関係ないよ。僕は君が僕達に必要だと思ったから誘っているんだ。」

 

「カオスならそう言ってくれると思ってました。」

 

「……」

 

【ぼくはこえもだせないしまじゅつもつかえない。おかねももっていない。それでもいいんですか? 】

 

「僕達は君が、タレスがいいんだ。タレスは僕達と同じだから。」

 

「…?」

 

【おなじ?ぼくはあなたたちとおなじなんですか?】

 

「そういえば名前を言ってなかったね。僕はカオス。」

 

「私はアローネです。タレス私達はただ旅をしている訳ではないのです。私は故郷を探しているんです。」

 

「僕は……僕の持つ力をあの村に返したい。その方法を探しているんだ。」

 

「?」

 

「カオス、貴方はその力をミストにお返しになるのですか?」

 

「アローネにはまだ言ってなかったね。この力は最初から僕のものじゃない。借り物なんだ。だから返したい。あの村に留まってても力を戻すことは出来ないし、この力が他に前例があるなら知りたい。」

 

「ですが村には騎士団がいるのでもう必要ないのでは?」

 

「あの村の人達はもともと国に縛られることを嫌ってあそこにいるんだ。今騎士団があそこにいるのは僕のせいだ。殺生石さえ復活すれば騎士団は必要なくなる。あの村を元に戻したい。」

 

「カオスは騎士を追い出したいとそう言ってるんですね?」

 

「……騎士は好きだよ?それは昔から変わらない。けどそれを村の人たちに押し付ける気はない。村の人達が騎士が嫌なら僕は殺生石をなんとしても復活させないと!」

 

「カオス…。」

 

「そんな訳でホームレスの旅なんだ。タレスも加わってくれると有り難いよ。」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

「!?どうして泣くんですか!?」

 

「…!」

 

【わからないです。わからないけどなみだが】

 

「そっか。けどその涙は悲しい訳じゃないんだろ?」

 

「…」

 

【はい。】

 

「ならこのまま好きなだけ流そう!最近僕もその体験したから分かるよ!」

 

「あの時のですか!?おかえりなさいで泣いたときですよね!?」

 

「アローネ慌てすぎだよ。そんな大袈裟なことじゃないから。」

 

「…」

 

 僕達が話してたらタレスが何かを書き出した。

 

 それには

 

【これからよろしくおねがいします。】



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最初の街

 青年カオスはアローネと共に旅をしている。

 盗賊団ダークディスタンスのアジトへと乗り込みサハーンを倒す二人だったが一瞬の隙を突かれサハーンに逃げられてしまう。

 その後、盗賊団は壊滅しカオス達は盗賊団のタレスを仲間に迎え入れる。


ムスト平原

 

 

 

「………スミマセン、時間が経ちすぎているようでこれは…。」

 

「…」

 

【ありがとうございます。ためしてもらえただけでもうれしいです。】

 

「タレス…。」

 

「……」

 

 あれからタレスの喉を治せないか試してみたが結果は失敗だった。

 

「…」

 

【こえがだせないのはざんねんですがおふたりのやくにたつためならぬすみでもころしでもなんでもしますよ。】

 

「「……」」

 

「…?」

 

「タレス、少しずつ、少しずつ僕達と分かりあっていこうか。」

 

「盗みなんてすることないんですよ?そんなことしなくても大丈夫です。大人の私達がなんとかしますからね。」

 

「?」

 

【ではぼくはなにをすれば?ざつようですか?それともていさつですか?】

 

「……よほど酷い扱いを受けてきたようですね。役に立とうとしてくれるのはありがたいのですが思い付くことが子供の発想とは思えません。」

 

「役に立つことで自分の存在意義を保とうとしてるんじゃないかな。」

 

「カオスが二人いるみたいですね。」

 

「端から見るとこうなんだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっかり夜だな。今日はこの辺りで休憩しよう。」

 

「そうですね、まだ街まで距離がありますし夜営の準備をしましょう。」

 

「…」

 

【わかりました。ではカオスさんとアローネさんのねどことしょくじのじゅんびをします。】

 

「タレスそれは僕もするから一人でやろうとしなくてもいいよ。」

 

「タレスも疲れてると思いますし私達に任せてここで座っててもいいですよ。」

 

「!」

 

【いけません!それではぼくがいるいみがありません!】

 

「いる意味とかそんなのはいらないよ。」

 

「仲間なんですから一人でしなくていいんですよ。分担してやればすぐに終わります。」

 

【ではしょくじのためにそのあたりからラビットでもかりにいきましょうか?】

 

「率先して危ないことをしてくれるのは助かるけど。」

 

「タレスは気負いすぎですよ。モンスターなら三人でやります。」

 

【ではようどうはまかせてください。】

 

「あくまで自分が危険なポシションをするのは譲らないんだね…。」

 

 

 

 

 

 

 

「タレスはあの盗賊団にどのくらいいたの?」

 

【ながいとはおもいます。かまをわたされてからつかいこなすまでかかりましたしひづけもよくわからなくなりました。】

 

「鎌だけで戦ってたんですか?」

 

【けんとかおのとかもあったんですけどおもたくてつかいこなせなくてにげるときもじゃまになるのでかるくてふりまわせばおとなにもたいこうできるこのかまにおちつきました。】

 

「ってことは鎌だけしか装備してないんだね。」

 

【はい。ほかのそうびひんはほかのひとがつかっていましたから。】

 

「そうなのか。じゃあ丁度いいしこのエルブンシンボル装備してみない?」

 

「サハーンから回収したものですね。」

 

「!?」

 

【そんなこうかなものぼくにはわるいですよ。】

 

「大丈夫だって、サハーンから盗ったものだから。」

 

【それでもですよ!】

 

「サハーンも盗んだものみたいですよ。気兼ねなく使っても良いのではないですか?」

 

【ではカオスさんかアローネさんがそうびしたほうが。】

 

「僕はさ………魔神剣!」ザザッ!

 

「このようにカオスはエルブンシンボル無しでも闘気術が使えるのです。ちなみに私は装備済みです。」

 

「…」

 

「危険な旅だけど誰も欠けることなく旅していたいんだ。だからこれはタレスに受け取ってほしい。」

 

「…」

 

「う~ん、まだなんか理由が必要かな?」

 

「タレスが強くなると私達も安心してタレスに背中を任せられるんですよ。」

 

「そ、そう!タレスが強くなるならその分戦闘も楽になるからね。勿論任せっきりにはしないけど!」

 

「……」

 

【そういうことでしたらおかりします。ひつようになったらおかえしします。】

 

「よし、これで正式に僕達は皆同列だからね。」

 

「タレスもかしこまったりしなくていいんですよ。カオスの悪いところは指摘してあげてくださいね。」

 

「僕が悪い前提なんだね。」

 

「タレスは一人で独走するときがありますからね。」

 

「…」

 

【なんだかマナのあつかいがしやすくなったきがします。】

 

「エルブンシンボルはマナのコントロールを簡易化する作用があるので術技やスキルを発動しやすくなるのですよ。」

 

「…」

 

【そういえばカオスさんきのうはごめんなさい。ケガはだいじょうぶですか?】

 

「そのことなら平気だよ。傷も残ってないし。」

 

「あれほど出血していたのにもう治ったのですか?」

 

「これも殺生石の力なのかな。傷の治りが早いんだ。」

 

「カオスは……異常ですね。」

 

「僕もそう思うよ。タレスも気にしないでね。」

 

【カオスさんをまもるのにぼくはひつようないのですか?】

 

「そんなことないさ、こう見えて僕もアローネもまだまだ戦闘は初心者さ。」

 

「私達もタレスと差は無いんですよ。」

 

【ですがきのうのせんとうでいちばんおくれているのもじじつです。おふたりにおいつけるようしょうじんします。】

 

「今後は三人の連携だね。予定では明日にはリトビアにつくからタレスも一緒に頑張っていこう。」

 

【はい。】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑園の都市リトビア

 

 

 

「やっと着いたね!ミスト以外の街なんて初めてだよ!ミストよりもおっきいなぁ!」

 

「フフッ、はしゃいじゃって、カオスまるで子供みたいですね。タレスでも落ち着いているのに。」

 

「仕方ないじゃないか本当に初めてなんだよ!ミストから出るなんてことなかったからこういうところに来たら落ち着いてられないよ!」

 

【カオスさん、まちははじめてなんですか?】

 

「そうなんだよ、僕がいたところは村と畑とかしかないし本で街の風景を想像するくらいしかしたことないんだ!」

 

【それならまずはまちをまわってなにがあるかをたんけんしましょう。】

 

「そうだね。こういう時何をすればいいのかも分からないし。」

 

「では宿の場所を確認してそれからまわりませんか?」

 

「そうしようか。じゃあ宿探しだね。あっちの方に行ってみよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、兄ちゃん達!見かけない顔だね。冒険者かい?」

 

 

 

「え?はい。」

 

 宿を探して歩いていたら知らない人に声をかけられる。

 

 冒険者か。

 

 まぁ、間違ってはいないよな。

 

「そうかぁ!ってこたぁ来たばっかりかい?アイテムは補充しといた方がいいんじゃねぇかぁ?安くしとくぜぇ!」

 

「アイテム?」

 

「旅してんならアップルグミとか足りなくなるだろ?うちゃ道具屋だ!」

 

「カオス、どうやらお店のようですね。」

 

「お店?お店って屋外でもやってるようなもんなの?」

 

「大きいお店は大概が屋内ですが扱うものによってはこうして外でも開いているお店があるのですよ。」

 

「なんだ兄ちゃん、店も知らんのか?どっから来たんだい?」

 

「はぁ、まぁ田舎育ちなもので。ミストと言うところから来ました。」

 

「ミスト?どこだそりゃ。」

 

「地図じゃ一番近い村の筈なんだけどな。百年も隠れてたらそりゃ誰も知らなくなるよね。」

 

「店員さんウルゴスと言う街は知っていますか?」

 

「ウルゴス?そっちも知らねぇな。その村だか街だかはこの辺りにあるのかい?」

 

「……空振りですね。」

 

「そう簡単に見つからないみたいだね。」

 

「悪いねぇ兄ちゃん達、力になれねぇようで。そのかわりこっちのアイテムでお助けすっから多目に見てくれや!」

 

「アローネ、もしかしてここがガルドを使うって言ってた…。」

 

「そうです。こういう場で道具や武器、アクセサリーを得られる代わりにこの方に対価であるお金を支払わなければなりません。」

 

「丁度お金持ってるしなんか買っていこうか。おじさんどんなのがあるんですか?」

 

「冒険者には欠かせないアイテムが揃ってるぞ!回復アイテムのアップルグミから始まってオレンジグミ、ライフボトル、パナシーアにモンスター図鑑揃えるのに必要なスペクタクルズも置いてらぁ!」

 

「どれも聞いたことないアイテムだなぁ。」

 

「ウルゴスではアップルグミは聞いたことありますね。」

 

「兄ちゃん達、アップルグミ初めてかい?よくやってこれたな!冒険者の必需品だぜ?これ一個で戦況を変えるっつってもいいくらいだ!」

 

「そこまで!?」

 

「アップルグミは消耗品だが使えばファーストエイドと同じ効果を得られる。使い方は簡単!そのまま食べればいいのさ!そうすりゃ即体力を回復してくれる!詠唱込みのファーストエイドと同等に効力を発揮してくれるから皆買ってくぜ!」

 

「凄いアイテムのようだね。」

 

「その話が本当なら大きな戦力にはなりますが…。」

 

「なんだ疑ってんのか?じゃあこの三個のアップルグミやるから試しに食ってみな!俺の言ってることが間違ってねぇって信じるからよぉ!」

 

「後からお代を請求したりはしませんよね?」

 

「その三個は試食だよ!どうせそれ食ったらアップルグミを買うことになるから構わねぇぜ!」

 

「自信あるみたいだね。」

 

「ここまで仰るのなら期待は出来そうですね。タレス貴方にも。」

 

「…」

 

【ありがとうございます。】

 

「では」パクッ

 

「「「モグモグモグモグ」」」

 

「どうだ?」

 

 

 

 

 

「「うん!美味しい!」」

 

「何だろう!体の疲れが飛んでいった気がするよ!」

 

「この味と食感、癖になりますね!女性の私でも食べやすい大きさですしこれなら戦闘中に素早く取り出して食べることも出来そうです!」

 

「な?言った通りだろ?冒険者は皆街についたらこれを確実に購入するんだ!コイツぁ食いもんだが状況を見極めて使えば大きな武器になる!買っといても損はねぇぞ!」

 

「アローネ!これは持っといた方がいいよ!買い物をする練習がてらにここで買ってみよう!」

 

「そうですね。買っておいて使わないということはなさそうですし購入しましょう。」

 

「おじさんアップルグミ三個ほしいんだけどいくら?」

 

「よしきた!値段は一個2千ガルドの合計六千ガルドだ!」

 

 

 

「!?」

 

 

 

「六千ガルドかぁ。結構かかるんだなぁ、はい六千ガルド。」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

「え!?あ、あぁ!ま、まいどあり……!」

 

 

 

「戦闘に使える道具ならそのくらいかかるのでしょうね。安全を心掛けるなら安いものでしょう。」

 

 

 

「!!!??」

 

 

 

「そ、そうだとも!!モンスターと戦って生き残るためならみんなこの値段でも大漁に買ってくぜ!」

 

「他の冒険者もたくさん買うんだなぁ。アローネもう三個買っとかない?」

 

「えぇ、他の冒険者の方々に習って安全第一です。」

 

「へ、ヘヘヘヘ!兄ちゃん達いい買い物したねぇ!どうだい他にもお勧めのアイテムがあるんだが!」

 

「う~ん、買いたいのは山々なんだけど後一万八千ガルドしかないからなぁ。宿代がいくらぐらいなのかも分からないからちょっとぉ…。」

 

「宿についてから余裕があれば買いに来ますね。」

 

「宿代だってぇ?そんなもん精々三人で千ガルド前後だぜ?気にするほどのもんでもねぇって!」

 

「そうなんですか?」

 

「おうよ!まだ一万あるんだろ?旅してると何があるか分からねぇ!要心するにこしたこたぁねぇぞ?」

 

「と言われても…。」

 

「今ここで買っとかないと後で後悔するかもしれねぇぞ?その時になって後悔したくねぇだろ?」

 

「後悔は……………したくないけど。」

 

「兄ちゃん、仲間が大事じゃねぇか?」

 

「大事ですよ!」

 

「なら買っておいた方がいい!こういうもんは後々に効いてくるもんだ!ここぞというときに持っといて良かったと思えるときが必ずやってくるんだよ!保険として持っていれば仲間も救える!精神的にも余裕ができる!まさに一石二鳥!」

 

「………」

 

「兄ちゃん、仲間を助けられるのは兄ちゃん次第だぜ?」

 

「……買い「ガシッ」!!」

 

「……」

 

「タレス?どうしたの?」

 

「何か気になることでもありましたか?」

 

「…」カキカキ

 

【カオスさん、アローネさんほんきなんですか?】

 

「「本気?」」

 

【ほんきでそのアイテムをかうつもりなんですか?】

 

「ん?あ、あぁ買うつもりだけど。」

 

「皆の安全を守るためと思えば先行投資のようなものですよ。」

 

「…」

 

【わかりました。ならかうことにかんしてはなにもいいません。】

 

「う、うん」

 

【しかし!さきほどのこうぜつにはいちぶまちがいがあります。】

 

「ドキィッ!?」

 

「え!?間違い!?」

 

「どういうことですか店員さん!?」

 

「な、なんのことかな!?アップルグミはさっきの説明で何も間違っちゃいないぜ!?」

 

【たしかにアップルグミのせつめいはあれでいいとおもいます。いわれてみればアップルグミもそうつかえないアイテムでもないですしね。】

 

「説明はあってるのか。」

 

「では何が気になるのですかタレス。」

 

【アローネさんにはきづいてほしかったです。ふつうアップルグミはいっこ2000ガルドもしませんよ?】

 

「二千もしない?」

 

「本当なんですか?」

 

【はい、おみせでかうときはいっこ100から200ガルドがいいとこです。2000ガルドもあったら10こはかえますよ。】

 

「と僕の仲間が言ってるんですけど。」

 

「店員さん嘘を付いたんですか?」

 

「い、いやぁ……ま、まいったねぇ冗談のつもりだったんだけど気付かなかったみたいだな!アップルグミ!ほら残りの27個!後から渡すつもりだったんだよぉ!ボウヤにネタバラシされちゃったなぁ!ハハハッ!」

 

「「「……」」」ジトー

 

「ハハハ…」

 

「「「……」」」ジトー

 

「…」

 

「「「……」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪かったよ!ボウヤのメモ通りが相場で合ってるよ!」

 

「タレスが言わなかったらそのまま通すつもりだったんじゃない?」

 

「私達が無知なのをいいことに騙してお金を巻き上げようとしてたんですね。」

 

「最初はボケてツッコミ待ちしてたんだよ!けどいつまでたってもツッコんでくれないからちょっとイタズラしたくなったんだよ!」

 

「イタズラでやっていい範疇を越えてませんか?お金のことに関しては世界共通で法が黙っていないと思いますよ?」

 

「だぁ~!それだけは勘弁してくれよ!?こうして金額通りにアップルグミ渡してんだからよ!?」

 

「おじさん詐欺師だったんだね。」

 

「分かった!分かったから!アップルグミはそのままで金は半分でいいから!ほら三千ガルド返すよ!」

 

「いいの?アップルグミ百ガルド計算になるけど。」

 

「悪い冗談のお詫びだよ!それで通報だけは待ってくれよ!」

 

「けどタレスのメモにはアップルグミ百ガルドともあるんだよなぁ。これってそのまま買っただけになるんじゃない?」

 

「悪いことを反省したと言うわりには誠意が感じられませんね。」

 

「おいおい…しょうがねぇやつらだなぁ。ライフボトル一本持ってきな!」

 

「「有り難うございました。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…たくっ、本当に知らなかったのか?逆にカモにされた気分だぜ。」

 

 

 



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酒場での情報集め

 青年カオスはアローネと共に旅をしている。

 盗賊団ダークディスタンスを倒し新しい仲間タレスが加わりカオス達はようやく街にたどり着く。


緑園の都市リトビア

 

 

 

「有り難うタレス。タレスがいなかったらあっというまにお金をなくすところだったよ。」

 

「タレス貴方がいて本当に良かったです。」

 

【はなしからしてアローネさんはしってそうだとおもったんですけど】

 

「そうだよ!アローネお金とかお店とか知ってたのに値段は分からなかったの?」

 

「……お恥ずかしながら私の知識は義兄の体験話によるところが多く私の体験は殆どないのです。義兄はお店に行って道具を買うという話をしてはくれましたが具体的な値段とかは……。」

 

【あに?】

 

「タレスには話してなかったね。アローネのお姉さんの旦那さんのことで話を聞く限り凄い人らしいんだ。アローネもそのお義兄さんのこと尊敬してるみたいなんだけど若干ブラコン?っぽい。」ボソボソッ

 

「ブラコンって何ですか!!」

 

「あっ、ゴメン、聞こえた?」

 

「目の前で言っておいて何言ってるんですか!!」

 

「ハハッゴメンね。」

 

「もう!!」

 

【……ではカオスさんもアローネさんもおかねのことにかんしてはまったくのむちということですね。】

 

「うん、ガルド自体最近知ったからね。タレスも僕が知った現場にいたろ?」

 

【あの時ですか。】

 

「あれは別に冗談とかで言ってたんじゃないんだ。本当に知らなかった。」

 

「私も世間知らずではあると思いますがカオスはそれ以上でしたね。」

 

「僕にとっての世間はミストだからね。」

 

【おふたりはどのようにすごしてきたのですか?】

 

「私は屋敷に軟禁されていましたのでお金を直接使うことはありませんでした。欲しいもの義兄が買ってきてくれましたから。」

 

「僕の村は皆でものを共有してたからお金がかかるものなんてなかったよ。」

 

【おふたりがおかねのかんりにたずさわってこなかったことはわかりました。ではおかねをつかうさいはぼくにひとことおねがいします。】

 

「頼める?」

 

「私達ではどう管理すればいいか分かりませんからね。使えば増えるとは聞きますが。」

 

【なにもしないでふえるということはありえませんよ。しごとをしたりものをうったりしてふやすんです。】

 

「物を売る?じゃあここに来るまでに取ったモンスターの毛皮とか爪とか売れるかな。」

 

【これはぼろぼろでよごれているのでうりものになりませんね。モンスターからはぎとるさいはきれいにはぎとりませんと。】

 

「スミマセンカオス。私もこうした物を取っておいた方がいいとは知っていたんですが保管方法はあまり…。」

 

「タレスはモンスターから素材を集めたり出来る?」

 

【ぼくはこのてのことにかんしてはいろいろとやらされてきたのでできますよ。つぎにそとへおもむくさいはおおしえします。】

 

「有り難うタレス!君がいて本当に助かるよ!」

 

「これからはタレス先生と呼びましょう。」

 

【おふたりのおやくにたてたのならほんもうです。それとせんせいはやめてください。】

 

「じゃあさっそく素材集めに街の外に行こう!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

【やどのほうはとらなくていいんですか?カオスさん!タレスさん!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ~、すっかり目的を忘れて素材集めしてたよ。」

 

「私達は情報を得るために街を訪れたのでしたね。」

 

【おかねをかせぐことはいいことなのでなりゆきにまかせていましたがこんごはどうするおつもりなのですか?】

 

「ん~。知ってるひとがいれば聞きに行きたいんだけどそれがどこにいるのかも分からないしなぁ。」

 

「街に来ていきなり詐欺を働こうとした人に捕まってしまいましたしその情報が確かなのか判断がつけばいいのですが。」

 

【それではぼうけんしゃがたまりばにつかってるさかばとかはどうですか?】

 

「さかば?」

 

「お酒を飲むところですね?」

 

【さかばはいろんなばしょからぼうけんしゃたちがおとずれるのでじょうほうがほしいならうってつけですよ。】

 

「その冒険者達って一目で分かるかな?」

 

「それに関しては私達と同じような格好をしている人を探せばいいのではないでしょうか?」

 

【ぼうけんしゃはけんやつえをもっていますからみつけやすいですよ。】

 

「よし決まりだね。その酒場ってところに行ってみよう。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑園の都市 リトビア 酒場

 

 

 

「ここが酒場?」

 

「思ってたよりシックなお店ですね。」

 

【ここへはおさけをのむいがいにもギルドをやっていたりするんでないそうはひかえめなんですよ。】

 

「ギルド?」

 

「ここにギルドがあるんですね。ギルドとは街の人や国から仕事の依頼を受けその仲介をしてくれる人達の集まりのことですよ。依頼はモンスターの討伐や素材の採集、護衛と様々な種類がありますがクリア出来れば必ず報酬が貰えます。ですよねタレス。」

 

【アローネさんのせつめいどおりです。ただほうしゅうがおかねのときもあれば武具や防具といったかんせつてきなものもあります。もしかしたらぼくたちにはつかえないものだったりするのでいらいをうけるさいはほうしゅうのかくにんもひつようです。】

 

「お金が貰えるのかと思ってクリアしたら全然お金に関係ないものだったとか?」

 

「報酬の武具が欲しいのならそれでいいですけどそうでないのならお金が報酬の依頼を受けた方が良さそうですね。」

 

【いらいのけいじばんがあっちのほうにあるのでみにいきませんか?】

 

「そうだねどんなのがあるか見てみようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【キラービーの巣を発見し焼却せよ】【下水道のマウス退治】【新薬の治験】………。」

 

「どれも……なんか嫌ですね。」

 

【このようにできるけどじぶんじゃやりたくないといったしごとがメインのいらいです。だれでもできるのでほうしゅうもそこそこといったがくです。】

 

「よく考えたらここに来る冒険者に依頼を出すくらいだからそんな緊急性のある依頼はないのかもね。」

 

「生活するうえでそのうち解決してくれたらいいといった内容のものなのでしょう。」

 

「ウルフとかトレントみたいなそこら辺にいるモンスターの討伐とかはなさそうだね。」

 

【そういったものはいらいをださずにじぶんでたいじするのでしょう。かりにそういういらいがきてもすぐだれかにとられちゃいますよ。】

 

「う~ん、何か気軽に出来そうな依頼とかはないのかな………………………………ん?」

 

「どうしました?」

 

「これは………。」

 

「どの依頼ですか?………【盗賊団ダークディスタンスの情報求む】…。」

 

「…」

 

「これって依頼主がこの街の騎士団になってるね。」

 

「騎士団………ですか。」

 

「この間のこともあるから騎士団とは関わり持つのは気が引けるな。」

 

【騎士団と何かあったのですか?】

 

「………そのうち分かると思うよ。」

 

「あの言葉通りならそうなるのでしょうね。」

 

「?」

 

「ああいうのってすぐに張り出したりしないのかな。」

 

「彼等は王都に帰ると言ってましたよね。私達のことは王都に戻って報告してからになると思いますよ。私達がリトビアに到着する前にこの街を訪れたのだとしても騎士団の隊長一人の独断で手配書を作ったりは出来ない筈ですから。」

 

「作れないの?」

 

「作れるとは思います。作れはしますけどそのさいの手配書の賞金は国からではなくブラムさん個人のものになります。そうなった場合ブラムさんは訪れる街々で出費しなければなりません。」

 

「なるほど、ならこの街で僕達の手配書が作られてることはないんだね。」

 

「ブラムさんが余程の大富豪で、出張する度に大金を持ち歩く人でなければ安全ですよ。」

 

「よかった。ならこの依頼、直接騎士団にのところに行こうかな。」

 

「カオス?ダークディスタンスはもう…。」

 

「分かってるよ。ダークディスタンスがもう首領以外は全滅してるって教えにいくだけだよ。」

 

【このいらいしょはきしだんからせいしきにいらいされているためあのやけたアジトがダークディスタンスのアジトだったとしょうめいできなければふとうなクエストクリアとみなされてさいあくばっきんもありえます。】

 

「ばっきん?僕はダークディスタンスがもういないからこの依頼は必要ないですよって伝えにいくんだよ?」

 

「どういうことですか?」

 

 

 

「この依頼書って騎士団が盗賊達を捕まえたくて出してるんでしょ?その手助けが出来ればいいなぁとは思ったけど盗賊達はもういない。いない盗賊達を追い掛けてるのはなんか虚しいなって。そんなことしてるくらいなら他に誰かの為に頑張ってほしいんだ。だから騎士団にアジトのことを確かめてもらって依頼を取り下げてもらおうよ。」

 

「!?」

 

「そうしますと報酬は受け取らないということですか?」

 

「うん。だって盗賊達捕まえられなかったしね。それで貰ったらズルいだろ。」

 

【このいらいしょはあくまでじょうほうがほしいというだけでたいほするかしないかはぼくたちにはかんけいないんですよ?】

 

「それでもさサハーンはまだ逃げてるわけだし、アジトには死体が転がってるだけでどうすればいいのか騎士団も困るだろ。」

 

「「……」」

 

「早いとこ言ってこよう。これくらいしかできそうな依頼ないみたいだし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス………貴方は正直者でもあるのですね。」



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ギルド

 青年カオスはアローネと共に旅をしている。

 盗賊団を壊滅させタレスという仲間を得て無事リトビアについたカオス達は質の悪い商人から洗礼を受けかけるもタレスのおかげで難を逃れる。


緑園の都市リトビア

 

 

 

「有り難うタレス。タレスがいなかったらあっというまにお金をなくすところだったよ。」

 

「タレス貴方がいて本当に良かったです。」

 

【はなしからしてアローネさんはしってそうだとおもったんですけど】

 

「そうだよ!アローネお金とかお店とか知ってたのに値段は分からなかったの?」

 

「……お恥ずかしながら私の知識は義兄の体験話によるところが多く私の体験は殆どないのです。義兄はお店に行って道具を買うという話をしてはくれましたが具体的な値段とかは……。」

 

【あに?】

 

「タレスには話してなかったね。アローネのお姉さんの旦那さんのことで話を聞く限り凄い人らしいんだ。アローネもそのお義兄さんのこと尊敬してるみたいなんだけど若干ブラコン?っぽい。」ボソボソッ

 

「ブラコンって何ですか!!」

 

「あっ、ゴメン、聞こえた?」

 

「目の前で言っておいて何言ってるんですか!!」

 

「ハハッゴメンね。」

 

「もう!!」

 

【……ではカオスさんもアローネさんもおかねのことにかんしてはまったくのむちということですね。】

 

「うん、ガルド自体最近知ったからね。タレスも僕が知った現場にいたろ?」

 

【あの時ですか。】

 

「あれは別に冗談とかで言ってたんじゃないんだ。本当に知らなかった。」

 

「私も世間知らずではあると思いますがカオスはそれ以上でしたね。」

 

「僕にとっての世間はミストだからね。」

 

【おふたりはどのようにすごしてきたのですか?】

 

「私は屋敷に軟禁されていましたのでお金を直接使うことはありませんでした。欲しいもの義兄が買ってきてくれましたから。」

 

「僕の村は皆でものを共有してたからお金がかかるものなんてなかったよ。」

 

【おふたりがおかねのかんりにたずさわってこなかったことはわかりました。ではおかねをつかうさいはぼくにひとことおねがいします。】

 

「頼める?」

 

「私達ではどう管理すればいいか分かりませんからね。使えば増えるとは聞きますが。」

 

【なにもしないでふえるということはありえませんよ。しごとをしたりものをうったりしてふやすんです。】

 

「物を売る?じゃあここに来るまでに取ったモンスターの毛皮とか爪とか売れるかな。」

 

【これはぼろぼろでよごれているのでうりものになりませんね。モンスターからはぎとるさいはきれいにはぎとりませんと。】

 

「スミマセンカオス。私もこうした物を取っておいた方がいいとは知っていたんですが保管方法はあまり…。」

 

「タレスはモンスターから素材を集めたり出来る?」

 

【ぼくはこのてのことにかんしてはいろいろとやらされてきたのでできますよ。つぎにそとへおもむくさいはおおしえします。】

 

「有り難うタレス!君がいて本当に助かるよ!」

 

「これからはタレス先生と呼びましょう。」

 

【おふたりのおやくにたてたのならほんもうです。それとせんせいはやめてください。】

 

「じゃあさっそく素材集めに街の外に行こう!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

【やどのほうはとらなくていいんですか?カオスさん!タレスさん!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ~、すっかり目的を忘れて素材集めしてたよ。」

 

「私達は情報を得るために街を訪れたのでしたね。」

 

【おかねをかせぐことはいいことなのでなりゆきにまかせていましたがこんごはどうするおつもりなのですか?】

 

「ん~。知ってるひとがいれば聞きに行きたいんだけどそれがどこにいるのかも分からないしなぁ。」

 

「街に来ていきなり詐欺を働こうとした人に捕まってしまいましたしその情報が確かなのか判断がつけばいいのですが。」

 

【それではぼうけんしゃがたまりばにつかってるさかばとかはどうですか?】

 

「さかば?」

 

「お酒を飲むところですね?」

 

【さかばはいろんなばしょからぼうけんしゃたちがおとずれるのでじょうほうがほしいならうってつけですよ。】

 

「その冒険者達って一目で分かるかな?」

 

「それに関しては私達と同じような格好をしている人を探せばいいのではないでしょうか?」

 

【ぼうけんしゃはけんやつえをもっていますからみつけやすいですよ。】

 

「よし決まりだね。その酒場ってところに行ってみよう。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑園の都市 リトビア 酒場

 

 

 

「ここが酒場?」

 

「思ってたよりシックなお店ですね。」

 

【ここへはおさけをのむいがいにもギルドをやっていたりするんでないそうはひかえめなんですよ。】

 

「ギルド?」

 

「ここにギルドがあるんですね。ギルドとは街の人や国から仕事の依頼を受けその仲介をしてくれる人達の集まりのことですよ。依頼はモンスターの討伐や素材の採集、護衛と様々な種類がありますがクリア出来れば必ず報酬が貰えます。ですよねタレス。」

 

【アローネさんのせつめいどおりです。ただほうしゅうがおかねのときもあれば武具や防具といったかんせつてきなものもあります。もしかしたらぼくたちにはつかえないものだったりするのでいらいをうけるさいはほうしゅうのかくにんもひつようです。】

 

「お金が貰えるのかと思ってクリアしたら全然お金に関係ないものだったとか?」

 

「報酬の武具が欲しいのならそれでいいですけどそうでないのならお金が報酬の依頼を受けた方が良さそうですね。」

 

【いらいのけいじばんがあっちのほうにあるのでみにいきませんか?】

 

「そうだねどんなのがあるか見てみようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【キラービーの巣を発見し焼却せよ】【下水道のマウス退治】【新薬の治験】………。」

 

「どれも……なんか嫌ですね。」

 

【このようにできるけどじぶんじゃやりたくないといったしごとがメインのいらいです。だれでもできるのでほうしゅうもそこそこといったがくです。】

 

「よく考えたらここに来る冒険者に依頼を出すくらいだからそんな緊急性のある依頼はないのかもね。」

 

「生活するうえでそのうち解決してくれたらいいといった内容のものなのでしょう。」

 

「ウルフとかトレントみたいなそこら辺にいるモンスターの討伐とかはなさそうだね。」

 

【そういったものはいらいをださずにじぶんでたいじするのでしょう。かりにそういういらいがきてもすぐだれかにとられちゃいますよ。】

 

「う~ん、何か気軽に出来そうな依頼とかはないのかな………………………………ん?」

 

「どうしました?」

 

「これは………。」

 

「どの依頼ですか?………【盗賊団ダークディスタンスの情報求む】…。」

 

「…」

 

「これって依頼主がこの街の騎士団になってるね。」

 

「騎士団………ですか。」

 

「この間のこともあるから騎士団とは関わり持つのは気が引けるな。」

 

【騎士団と何かあったのですか?】

 

「………そのうち分かると思うよ。」

 

「あの言葉通りならそうなるのでしょうね。」

 

「?」

 

「ああいうのってすぐに張り出したりしないのかな。」

 

「彼等は王都に帰ると言ってましたよね。私達のことは王都に戻って報告してからになると思いますよ。私達がリトビアに到着する前にこの街を訪れたのだとしても騎士団の隊長一人の独断で手配書を作ったりは出来ない筈ですから。」

 

「作れないの?」

 

「作れるとは思います。作れはしますけどそのさいの手配書の賞金は国からではなくブラムさん個人のものになります。そうなった場合ブラムさんは訪れる街々で出費しなければなりません。」

 

「なるほど、ならこの街で僕達の手配書が作られてることはないんだね。」

 

「ブラムさんが余程の大富豪で、出張する度に大金を持ち歩く人でなければ安全ですよ。」

 

「よかった。ならこの依頼、直接騎士団にのところに行こうかな。」

 

「カオス?ダークディスタンスはもう…。」

 

「分かってるよ。ダークディスタンスがもう首領以外は全滅してるって教えにいくだけだよ。」

 

【このいらいしょはきしだんからせいしきにいらいされているためあのやけたアジトがダークディスタンスのアジトだったとしょうめいできなければふとうなクエストクリアとみなされてさいあくばっきんもありえます。】

 

「ばっきん?僕はダークディスタンスがもういないからこの依頼は必要ないですよって伝えにいくんだよ?」

 

「どういうことですか?」

 

 

 

「この依頼書って騎士団が盗賊達を捕まえたくて出してるんでしょ?その手助けが出来ればいいなぁとは思ったけど盗賊達はもういない。いない盗賊達を追い掛けてるのはなんか虚しいなって。そんなことしてるくらいなら他に誰かの為に頑張ってほしいんだ。だから騎士団にアジトのことを確かめてもらって依頼を取り下げてもらおうよ。」

 

「!?」

 

「そうしますと報酬は受け取らないということですか?」

 

「うん。だって盗賊達捕まえられなかったしね。それで貰ったらズルいだろ。」

 

【このいらいしょはあくまでじょうほうがほしいというだけでたいほするかしないかはぼくたちにはかんけいないんですよ?】

 

「それでもさサハーンはまだ逃げてるわけだし、アジトには死体が転がってるだけでどうすればいいのか騎士団も困るだろ。」

 

「「……」」

 

「早いとこ言ってこよう。これくらいしかできそうな依頼ないみたいだし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス………貴方は正直者でもあるのですね。」



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封魔石

 青年カオスはアローネとタレスと共に旅している。

 三人は街で情報を集めるため酒場を訪れそこでギルドの存在を知る。

 情報を集めることをすっかり忘れて遂行不可能の依頼書を見つけお節介を焼こうと騎士団の在留地に向かう。


緑園の都市リトビア 騎士団停留所

 

 

 

「どうやらここに在留しているようですね。」

 

「なんだか思っていたより小さい建物だね。民家二つぶんくらい?」

 

【ここらにくるきしはおうとでもかいきゅうがひくいきしがおおいようです。なのでたてものもこのおおきさになるのでしょう。】

 

「階級が低い?」

 

「ウルゴスでもあったことなのですが主都から離れると情報や物資の流通が遅くなります。それは戦時ですと大きなリスクを負うのです。ですから階級の高い方は主都から離れず階級の低い方は遠方にまわされることがあるのです。」

 

【とおいむらやまちにぶっしをおくってもモンスターやとうぞくにおそわれてとどかないことがあるのでそうなるのでしょう。】

 

「そうなんだね。僕は遠いところまで行く人の方がカッコいいと思うけど。」

 

「騎士という職業上何処にいても危険はありますからね。王都のように堅牢な城壁で固められているところよりモンスターのいるフィールドを往復する騎士の方々が戦馴れしてそうです。」

 

「よし、じゃああの門のところにいる人に伝えようか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、こんにちは。いかがなさいました?」

 

「こんにちは、酒場のダークディスタンスの依頼書を見てやって来ました。」

 

「あぁ、あれの!貴方達は情報提供者ということですか?」

 

「はい。」

 

「分かりました。では中の方でお名前、ご住所、ご職業、それから依頼書の情報をお教え願えますか?」

 

「その件なんですけど!」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……既に盗賊団はボスを残して壊滅している、ということですね。」

 

「はい、この街から南西にあるヴェノムに汚染された森の奥に屋敷があったんですけどサハーンが燃やして団員達は皆…。」

 

「そうですか…。」

 

「なので森に行って確認をしてほしいのと、この依頼書の回収をしてください。」

 

「回収?」

 

「僕達はたまたま現場に居合わせただけなのでお金は入りません。本当なら捕まえてた方がよかったんですよね?」

 

「……捕まえられるのならそれにこしたことはないですが…。」

 

「サハーンはまだ生きています。サハーンに逃げられたままその報酬を受けとるなんて出来ませんよ。」

 

「……」

 

「それでは僕はこれで。」

 

 

 

「………ちょっ、ちょっとお名前を!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうでしたか?」

 

「やっぱり森のアジトの調査に向かって確認してかららしいよ。」

 

「これであの依頼書はクリアですね。」

 

「報酬は……この前の盗賊から先に貰ってたからいいよね。」

 

「えぇ。ではこの後はどうしましょうか。」

 

「何してたんだっけ?」

 

【さかばでじょうほうをさがすのでは?】

 

「そうだったね。あ!アローネ。今思い付いたんだけど情報探すなら僕達もあのギルドでウルゴスと殺生石のことを依頼に出してみない?」

 

「私もそうしようとしたのですがあの依頼書を見ていったら依頼者の方々は名前と報告と居住地とも載せていました。私達はこれから各地を回ることになるので一定の資金と報告先が必要になります。そうしますと先の件で…」

 

「依頼じゃなくて騎士団がくるかもしれないなぁ。聞き込みして回るしかないのか。」

 

【なにかふつごうでも?】

 

「僕達少し不味いことしたんだよね。」

 

「あくまでも私達は冒険者でいきましょう。」

 

「そうだね。聞き込みだけにしとこうか。殺生石といえばこの街ってヴェノムとかの対応はどうしてるのかな。」

 

「言われてみればあの森もヴェノムの痕跡がありましたからこの街の周辺にもいそうなものですが、」

 

【しらないのですか?このまちのがいへきにはふうませきがせっちしてあるんですよ?】

 

「封魔石?確かそんな名前の石がミストにも届いたってミシガンが言ってたなぁ。」

 

「ヴェノムを近寄らせない結界のようなものですか。そんなものが存在していたなんて知りませんでした。」

 

【ふうませきはむかしおうとでかいはつされたものですよ。ふうませきはしゅういのマナのけはいをけしてヴェノムにきづかれないようにするものらしいです。】

 

「マナの気配を消す?………本当だ、この街の中人がたくさんいるのにマナを感じないな。」

 

「たしかにマナ………は感じませんね。こんなことが…。」

 

【まちのちゅうおうにもおおきなせきぞうがみえますよね。あれもふうませきなのでみにいってみますか?】

 

「行ってみようかどんなものか気になるし。」

 

「急ぎの用事もないですし見物してみましょうか。」

 

【ではまいりましょう。】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが封魔石ですか?何か特別なものは感じませんけど。」

 

【あまりちかづきすぎないほうがいいですよ。これにさわるとしばらくまじゅつをつかえなくなりますし。ひとによってはそのまましょうがいがのこったりします。】

 

「障害ですか?そんな危険なものが剥き出しでおいてあっていいのですか?」

 

【まちのひとはにちじょうでまじゅつをつかうきかいがほとんどないのでさしてきけんとはおもってないんですよ。ぼうけんしゃもふうませきがそういうものだとしっていますしわりとゆうめいなんですよ?】

 

「ウルゴスではこんなものを見たことありませんでした。」

 

【そのウルゴスというまちではまだふきゅうされてないんですね。】

 

「ウルゴスは街ではなく国ですよ。」

 

【マテオとダレイオスいがいにまだのこっているくにがあるのですか?】

 

「………やはり誰もウルゴスのことを知らないのですか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

「カオス?」

 

【どうしました。】

 

 

「……」

 

 

「「?」」

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは………殺生石だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故だか分かる。

 

 

 

 これが殺生石だと感覚的にわかる。

 

 

 

 殺生石がこんなに早く見つかった。

 

 

 

 この街には、いやこの国には殺生石が多くあるのか?

 

 

 

 こんな簡単に見つかるのならミストはもっと早くにこの石をみつけておけば…。

 

 

 

 最初は半信半疑だったけどこれならヴェノムを遠ざけられる。

 

 

 

 ………だけどこの殺生石はミストのものと何か違う。

 

 

 

 何だ?

 

 

 

 何が違う?

 

 

 

 何故それが分かる?

 

 

 

 この石は一体……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はいつの間にか封魔石に触れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……は逝ってしまったのか……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まただ。

 

 

 

 また夢の声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!」

 

 

 

「!」

 

 

 

 何だ?

 

 今何が起こっている?

 

 力が…

 

 体の中から力が溢れてくる。

 

 

 

「カオス!マナを!マナを抑えてください!!このまま解放すれば街がっ!」

 

「…!?体がぁっ!体が熱いぃィィッ!!うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!」

 

「…!?」

 

「カオスゥゥゥ!」

 

「…!!」

 

「タレス!離してください!カオスが!カオスがぁっ!!」

 

「ぐぅぅぅぅぅッッ!!これはぁぁぁっ!!?」

 

 

 

 この感覚は……十年前の!

 

 いや、それよりもマナが多い!!

 

 既に余波だけで破壊されている!

 

 このマナが爆発すればヴェノム関係なく街を吹き飛ばす!

 

 どうにかしないと!

 

 

 

「落ち着いて下さい!カオス!どうしたのですか!?」

 

 

 

 そんなの僕にも分からない!

 

 この封魔石に触れた途端体の中のマナが封魔石を全力で攻撃しようと暴れている!

 

 抑えるだけで精一杯だ!

 

 とにかくこの封魔石から離れないと!

 

 

 

「んんんッ………!!」

 

 

 

 駄目だ!

 

 体のコントロールが利かない!

 

 動こうとしても体が吸い寄せられるように封魔石に向かっていく!

 

 

 

ナンノサワギダッ!?

 

アイツナニヤッテルンダ!?

 

フウマセキコワソウトシテナイカ?

 

ソンナコトシタラマチガ!

 

ダレカヤメサセロ!

 

ダメダアツクテチカヨレネェ!!

 

 

 

 騒ぎを聞き付けて街の人が集まってくる。

 

 

 

「止せッ!来るなぁぁ!逃げろォォォォォォォォ!!」

 

 

 

 僕にはもう叫ぶことしか出来ない。

 

 力が……マナが………決壊する。

 

 

 

 また僕は誰かを殺してしまうのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス!」

 

 

 

「アロー…!!ネェ!!」

 

 いつの間にかアローネが僕のそばまで来ていた。

 

 さっきの余波で所々怪我をしている。

 

 

 

「アローネ!……今すぐッ!!………離れてもう持ちそうにない!」

 

 

 

「カオス……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうか落ち着いて下さい。」

 

 

 

「アローネ……ッ?」

 

「落ち着いて………貴方なら出来ます。マナを押さえ込むのではなく循環させてください。大気のマナと一体になってその力を少しずつ解放してください。」

 

「無理だ!前にこの力で僕はッ…!」

 

「大丈夫です。カオスはそのことを悔やんできた。貴方はそれが間違いだと知っているんです。間違いを知っているのなら………貴方は次は間違えない。」

 

「!」

 

「カオスはカオスを信じてあげてください。」

 

 

 

 そう言ってアローネは僕の手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生きていたか……よ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 !

 

 

 

 これは…。

 

 

 

 荒ぶっていたマナが急速に静まる。

 

 

 

 力が抜けていく。

 

 

 

 感情が流れてくる。

 

 

 

 暖かな心が流れ込んでくる。

 

 

 

 



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旅の進路

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 最初についた街リトビアにて情報集めの途中封魔石に興味を示し向かうが封魔石に触れたとたんカオスが暴走してしまう。


緑園の都市 リトビア

 

 

 

「大丈夫ですかカオス?」

 

「……もう収まったみたい。」

 

「よかった。カオスが無事でなによりです。」

 

「有り難うアローネ。アローネが……アローネが僕のマナを静めてくれて、僕はまたたくさんの人を殺すところだった。」

 

「カオスはそんなことしませんよ。貴方はそんなことが出来る筈がありません。貴方は人の命の大切さを知っている人ですから。」

 

「アローネ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナンダッタンダ?

 

アイツナンカヤバクナイカ?

 

キシヲヨンデクルヨ!

 

マタアバレダシタラテニオエネェ。

 

 

 

「カオス騒ぎが大きくなりそうです。ここは一旦離れましょう。タレスも。」

 

「うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムスト平原

 

 

 

「ごめん、二人とも、僕のせいで一日もしないうちに街から出ることになって。」

 

「いいのですよカオスはなにも悪くありません。」

 

【ぼくはもりやそうげんになれています。】

 

「有り難う、本当にごめんね。」

 

「もういいですってば。それよりも」

 

【カオスさんさっきはどうしたのですか?】

 

「……自分でもよく分からない。あの封魔石を見てたらなんだか気持ちが悪くなって。」

 

「封魔石を?」

 

「あの石は何か殺生石に近い……けど何か嫌なものを感じたんだ。嫌というか苦しいというか……悲しいというか。」

 

【せっしょうせきとはどんなものなのですか?はなしにはきいていましたけどふうませきとどのようなかんけいが?】

 

「殺生石は僕がいた村にあった護り石でモンスターを寄せ付けない力があったんだ。」

 

【よせつけない?】

 

「殺生石は触った生物のマナを消滅……違うな触った生物のマナを吸い付くす力があって、敏感な生物はそれを気取って村に近づかない。そんな石があったんだ。」

 

【ふうませきのこうのうににていますね。】

 

「何故だかあの封魔石を見てると意識が遠退いて気がつけば手を伸ばしていた。そしたらさっきみたいにマナが暴走して。」

 

【カオスさんやアローネさんのマナがほかのひとたちとちがうものをかんじるのはどうしてですか?】

 

「……」

 

「その殺生石は十五年前までは機能していたんだけど最後に僕が触れてから力をなくしてしまったんだ。そのときに殺生石の力が僕の中に流れ込んでいたせいで。」

 

【カオスさんはぶじだったんですか?】

 

「マナが消し飛んだけど奇跡的に助かったと思い込んでたから平気だったよ。タレスと違う症状で五年くらい魔術が使えない期間があったね。」

 

【カオスさんも…。】

 

「いろいろあって今こうしてマナは戻ったんだ。質は他の人達と違うらしいけど詳しくは僕でも分からない。恐らく殺生石の中にあった何かがまだ僕の中にあるんだと思う。」

 

【カオスさんの中に?】

 

「そう、体の中に何か別のものがいてそれがさっき暴れだして…。」

 

【このまえはそれをそとにだしたいといっていたんですね。】

 

「この何かがあるおかげでヴェノムと戦えるけど本当だったら今でもミストで村のみんなを守り続けていなきゃいけないんだ。だからこれを調べるために旅をしようと思ったんだけどさっきみたいに暴走すると止められなくなる。」

 

「それももう収まったようですね。」

 

「さっきアローネが手を握ってくれたとき夢の声が聞こえてそこからマナの暴走が止まったんだ。」

 

【アローネさんに?】

 

「アローネかな。もしかしたらアローネのマナかなにかに反応したんだろうね。」

 

「私のマナで…。」

 

【アローネさんのマナがちがうのはいったい?】

 

「実は私もよく分からないのです。ウルゴスがヴェノムに侵攻されてそれからの記憶がないのです。それまでは他の人達とかわりないマナをしていたのですけど…。目覚めてからはカオスと同じくヴェノムを倒せる力が備わっていました。」

 

【おふたりのちからはよくわかりませんがヴェノムをちょくせつたおすほうほうはおうとのかがくしゃがつくったワクチンいがいではきいたことありませんね。】

 

「ワクチン?」

 

「ヴェノムに対抗する手段が他にあるのですか?」

 

【はい、ヴェノムはせかいでしられるかぎりさいきょうのウイルスをもっています。ぞくにいうヴェノムウイルスというものでおうとのけんきゅうしゃたちがそのヴェノムウイルスのワクチンをかいはつしたんです。それをつかえばヴェノムのぞうしょくをおさえることができるんですよ。】

 

「それはどう使うの?」

 

【かなりおかねがかかるらしくてぼくもひとづてにしかきいたことないんですがそのワクチンをひとにうつとしばらくのあいだかんせんもしないうえにそのひとのまじゅつにヴェノムをたおすふかこうかがつくそうですよ。ふうませきもそのけんきゅうしゃたちがつくったんです。】

 

「封魔石とワクチン……。」

 

「カオスの力もその研究者の方々に調べてもらえれば何か分かるのでしょうか。」

 

「もし分かるのなら行ってみる価値はある。街を回って情報を集めていずれは、って思ってたけどこの際真っ直ぐ王都に行かない?」

 

「直接王都へ?

 ですが私たちはもうじき……」

 

「それはどこにいても同じことになると思うよ。

 今回みたいな発作がいつ起こるか分からない。

 なら極端に一番大きくて人の多いところへ行くのがウルゴスの件も含めて解決に手っ取り早いんじゃないかな。」

 

「ではこれから王都へ向けて出発ですね。」

 

「街で休む暇もなくて申し訳ないんだけどよろしく頼むよ。」

 

【ひろわれたみなのでかまいませんよ。やどもとってなかったですし。】

 

「そうだったね。街の中が珍しくて後回しにしてたのが幸いだったかな。」

 

「フフッ、いきなり口車にのってお金を失いそうになったりもしましたけどね。」

 

「あれはあれで勉強にはなったよ。」

 

【おうとへむかうのならきょうはムストへいげんをもうすこしほくじょうしましょう。】

 

「あぁ、そうしよう、じゃあ出発しようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都の某所

 

 

 

『その後成果はどうだ?』

 

「私の予測通りだ。あの女を使って正解だったよ。やはりあの村の住人だったようだ。今日の昼頃女がいる街で反応があった。一緒にいるみたいだぞ?」

 

『それが分かっているのなら早く彼女を迎えに行け。』

 

「急かすなよ。下手なことして星砕きに逃げられたくねぇだろ。さっきだってとんでもねぇ高濃度のマナが集約してたんだ。危うく大陸が吹き飛ぶところだったぜ。心配しなくてもあいつらこっちに向かってるさ。今は久方ぶりの自由を満喫させてやろうぜ。」

 

『……』

 

「心配しなくてもいいと思うぞ?あの女がどういう役割しているのかハッキリしたからな。星砕きはあの女がいるなら力を封印するだろう。待ってれば来るのならこちらは万全の体制で歓迎してやるつもりさ。」

 

『護衛の件はどうなった。』

 

「無理だって言ったろ?それに星砕きがついてるならそうそう滅多なことにはならねぇよ。星砕きとあの女なら確実にここまで来る。お前のお人形に狙われでもしねぇかぎりな。」

 

『……逐一彼女の所在地は掴んでおけ。』

 

「常にやってるっての。」

 

『星砕きを迎えるにいたって私も準備をしなければならない。絶対に逃がすなよ。』

 

「逃がした場合は私が星砕きかお前のどちらかに殺されるんだろ?慎重にことを進めるさ。」

 

『頼んだぞ。』

 

「あいよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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スペクタクルズ

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 最初に立ち寄った街リトビアにてカオスが暴走してしまったため街にいられなくなりカオス達は急ぎ次の街へと向かう。


ムスト平原 北

 

 

 

「ここから北上してトーディア山脈を越えて三つほど街を通り抜けたら王都につくね。」

 

【ヴェノムがあらわれてからはひとのこうつうがすくなくなりましたからモンスターとヴェノムがあふれかえってるそうですよ。

 ていきてきにぼうけんしゃやきしがかりにでているみたいですがだいじょうぶでしょうか?】

 

「ヴェノムが出たら僕とアローネに任せてよ。タレスはモンスターが出たらひきつけててくればいいからさ。」

 

「本当は子供の貴方に戦闘はさせたくないんですけど。」

 

【そんなわけにはいきません。

 おふたりのたすけになれなければぼくにはいみなんてありませんから。】

 

「前もいったけどそんなこと気にしなくていいんですよ。タレスはリトビアで活躍してくれましたから。」

 

「そうだよ。タレスがいなかったら僕達はここまでこれなかったんだから。」

 

「(ただ一般常識を教えただけでこのいわれよう…。)」

 

「それにしてもモンスターって時間帯によってかわるもんなんだね。」

 

「夜行性のモンスターもいますから眠る際には気を付けないといけませんね。」

 

【ぼくがよるはみはりをしましょうか?】

 

「タレスだけにはまかせないよ。交代でしよう。」

 

「私もしますよ。」

 

【おふたりにはヴェノムをたいおうしてもらいますしこのふきんはずかんによるとそんなにつよいモンスターはでないのでひとりでもできますよ?】

 

「図鑑?図鑑持ってるの?」

 

【はい、ぼくはじぜんにしらべておかないとあぶないときがあるのでモンスターにかんしてはしたしらべはにゅうねんにします。これがずかんです。】

 

「どれどれ?」

 

「……ほとんど情報が載ってませんね。」

 

【あまりとちをいどうしませんのでこのあたりのモンスターしかのってないんですよ。】

 

「これって記入式?」

 

【スペクタクルズをつかってにゅうりょくされたせいたいをこのずかんにセットするとずかんがこうしんされますよ。】

 

「へぇ~、面白そうだねこれ。」

 

【スペクタクルズはきのうのしょうにんとおなじようにかくまちでとりあつかっていますよ。かかくもやすいです。】

 

「ではこれから街を訪れる際は購入しておきましょう。」

 

【じつはいまひとつだけもってますよ?つかってみます?】

 

「これがスペクタクルズ?」

 

「虫眼鏡のような形ですね。」

 

【つかいかたはしらべたいあいてにむけてスイッチをおすだけです。モンスターとそうぐうしたらつかってみてください。】

 

「ふ~ん…。」

 

「カオス?モンスターに向けるのですよ。私に向けてどうするんですか。」カチッ

 

「あ」

 

「カオス!」

 

「ゴメンゴメン、つい使っちゃったよ。」

 

「もう!」

 

【ひとにむけてつかってもモンスターずかんにはきさいできませんよ?】

 

「本当だ。簡単な特徴だけで他のモンスターみたいに詳しくかかれてないなぁ。」

 

「私はモンスターではありません!」

 

「分かってるって冗談だよ。」

 

「まったく!」

 

【いまのでスペクタクルズがなくなりましたね。】

 

「カオスが無駄遣いするからですよ!」

 

「悪かったよ。次はちゃんとすらからさ。」

 

「次から気を付けてください!」

 

 

 

【アローネさんおこっちゃいましたね。】

 

「ゴメンねタレス。」

 

【どうしてあんなことを?】

 

「…ここ数日さ。毎日真面目にアローネに叱られてるんだ。」

 

【アローネさんにですか?そんなにおこるようなひとにはみえないんですけど。】

 

「アローネは僕に対して頭が上がらないというか上げられないというか…。

 色々あってね。

 アローネしゃべり方も丁寧だからストレス溜めてないか心配なんだ。短い間でいろいろあったし。」

 

【それがアローネさんをおこらせることとどうかんけいが?】

 

「もう少しアローネには肩の力を抜いてほしいんだ。

 僕は正義でも聖人でもなんでもないそこらへんの普通の人……とはちょっぴり違うけど中身はそのつもりだよ?

 笑ったり泣いたり怒ったりもする普通の人。

 だからさっきみたいに自分の身を省みず危険なことをしてほしくない。

 一歩間違えてたら死んでたかもしれないんだ。

 アローネはいい子だよ。

 僕なんかのために死んでいい子じゃない。」

 

【それでおこらせてきょりをおこうと?】

 

「その逆にしたかったんだけどなぁ。」

 

「?」

 

「怒らせて距離をおくんじゃなくてより近づきたくて怒らせた…そんな感じ。

 アローネとは恩人とか上下関係みたいなのじゃなくて冗談言い合える友達になりたいんだ。」

 

「(カオスさん…。)」

 

「って言うのは実は建前なんだ。

 本当はアローネを怒らせるのが楽しくてやってたりする。」

 

「…」

 

【どうしたんですかカオスさん。こどものようなことをいって。】

 

「やった後になってそれに気付いたよ。

 けどさ、アローネとこうしてバカなことしてるのがとても楽しく感じるんだ。

 アローネはどうなのか分からないけど家族みたいになったような気持ちになってね。」

 

「(カオスさんは…もしかして。)」

 

「昔おじいちゃんに散々からかわれていたのが懐かしく思えるな。アローネはそれを咎めてくれるお母さんかな。」

 

「(ボクとそんなに精神年齢変わらない?)」

 

「僕に対してあんなに真剣になって怒ってくれる人はミストでも一人くらいしかいなくて新鮮なんだよ。

 それが面白くて楽しくて……嬉しくて。

 アローネとは対等でいたいんだ。」

 

【それってさっきいったことをうやむやにするためのてれかくしですか?】

 

「指摘するなよ…。今言ってて恥ずかしいんだから。なんでこんなこと言ったんだろ。」

 

【アローネさんにいってみてはどうですか?】

 

「タレスだから言えるんだよ。本人になんて言えないよ。」

 

 

 

「何が言えないんですか?」

 

「うぉわっ!?アローネ!先に行ってたんじゃないの!?」

 

「カオス達が何時までたっても来ないから迎えに来たんですよ。」

 

「あ……ハハハゴメンすぐ行くから。」

 

「ちゃんと来てくださいよ。

 ……変に気を使わなくても私達は対等ですからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いてたんじゃん。」

 

【カオスさんがはなしにむちゅうになっているさいにうしろできいてましたよ。】

 

「なんでおしえてくれないんだ。」

 

【スミマセン、おしえようとおもったのですがアローネさんにジェスチャーでとめられました。】

 

「アローネ…、まぁもう怒ってないみたいだからいいか。」

 

【カオスさんのきづかいをアローネさんはわかっているんですよ。】

 

「…そうみたいだね。」

 

【おふたりともかんがえはおなじなのでないですか?】

 

「え?」

 

【カオスさんとアローネさんはおなじかんがえだったということです。】

 

「前後逆にしただけじゃない?」

 

【おふたりをみているとこのひょうげんがいちばんてきしているかと。】

 

「…アローネと同じ考えか。」

 

【ではそろそろアローネさんがまたよびにくるのでいきましょう。】

 

「そうだね、そうしようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(アローネと同じ…。)」

 

 最初は誰かが傷つくのを見たくなかった。

 

 目の前で傷つく人がいたらあの光景がよみがえる。

 

 絶対に忘れてはいけない記憶。

 

 あんなことが二度と僕の前で起こってほしくない。

 

 だからアローネも助けなきゃって思ってた。

 

 でも今回はアローネに助けられてしまった。

 

 アローネがいなかったらあの悲劇を繰り返すところだった。

 

 アローネは僕のことをなんか変に持ち上げて見ている。

 

 今はアローネが僕を救ってくれたことの方が大きい気がするのに。

 

 恩人には気負わずに前を向いていてほしい。

 

 アローネもそんな風に考えていたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、合流しないとな。」ポトッ

 

 ?

 

 あぁさっきのスペクタクルズか。

 

 さっき使ったときは冗談のつもりだったけどこれでアローネのことが分かれたらアローネの体のことも診てあげられたのに。

 

 書かれていることは……他を知らないから分からないけど多分一般的なことがかかれているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名称 エルフ

 

攻撃 ???

 

防御 ???

 

魔攻 ???

 

魔防 ???

 

種族 魔法生物



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再戦ジャイアントヴェノム

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 先日の一件から気負いがちなアローネに気を使ってカオスは彼女をからかい距離を縮めることに成功する。


トーディア山脈 麓

 

 

 

「大きい山だねぇ。」

 

「ウルベスタ山よりも大きいかもしれませんね。」

 

「ウルベスタ山?」

 

「ウルゴスではそう読んでいる山があるのですよ。ウルゴスからも見える大きな山です。登ったことはありませんけどね。」

 

「アローネは山道辛くない?」

 

「気を使いすぎですよ。ここまで来たのですからこんな山こえるくらいなんともないです。」

 

「アローネは無理でも無理って言わなさそうだしなぁ。ミストの森でもそうだったし。」

 

「あのとき疲れたと言っていたのはカオスではありませんでしたか?」

 

「そうだったね、じゃあ途中で休憩挟んで登っていこうか。」

 

【にんずうがいるばあいはたいりょくがばらつきますからそのほうがよさそうです。】

 

「疲れたら遠慮なく言っていいですからね。」

 

「モンスターもいるようだし気を付けていこう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーディア山脈 中腹部

 

 

 

「ここらで休憩しようか。丁度それらしいポイントみたいだ。」

 

「分かりました。タレス疲れていませんか?」

 

【だいじょうぶですよ。たいりょくにはじしんがあるのです。】

 

「一旦荷物おろして休んでてよ。その辺り見回ってくる。」

 

「カオス、それは私が…。」

 

 

 

「…」

 

【いっちゃいましたね。】

 

「カオスはなんでも一人でやろうとしますから…。私達のことを甘く見すぎです。」

 

【それがカオスさんのいいところなのではないですか?】

 

「いいえ!カオスの悪いところです!カオスにばかりああいうことされては私達の能力が育ちません!パーティを組むからには能力は平均的に上げていかなければならないのに!」

 

【アローネさんはあんがいかっぱつてきですね。どこかのごれいじょうのようなかただとうかがえるのですけど。】

 

「私はウルゴスと言う国の貴族ですよ。

 戦いの基本に関しては義兄から教わっていたんです。」

 

【うわさにきくおにいさんですね。きしかなにかだったのですか?】

 

「義兄は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま。」

 

「それでですね。義兄が…お帰りなさいカオス。」

 

【おかえりなさい。】

 

「なに話してたの?」

 

「少し昔の話をしていました。」

 

【カオスさんがアローネさんをブラコンといっていたわけがわかりました。】

 

「アローネ話始めると止まらないでしょ?」

 

【しゅうしおにいさんのことをはなしていましたよ。】

 

「まぁ!私が義兄のことを話して何か問題でも?」

 

「別にないけどお義兄さんが好きなんだなって。」

 

「?私はハーフエルフだからと言って差別することはないので義兄のことは好きですよ?」

 

「堂々とハッキリ言ったね。」

 

【さべつ?】

 

「僕達エルフとヒューマって種族の間に生まれた種族のことを言うらしいんだ。

 ヒューマはマナの変わりにキカイっていう道具が使えるんだって。」

 

【ヒューマ?ダレイオスでもきいたことありませんね。】

 

「私の前ではハーフエルフの差別は許しませんからね。」

 

「そんなつもりはないよ。

 けど話に聞く分にはハイブリッドな種族でとても優秀な種族だと思うんだけどなぁ。」

 

「プライドの高いエルフは自分達より優れた種族を認めようとはしないのです。」

 

「エルフが優れているか…そんなことないよなぁ。

 僕みたいなモンスターと戦うくらいしか出来ないのもいるし。」

 

【ぼくにいたってはだれかといっしょじゃなきゃいきていけないものもいますし。】

 

「それを素直に認められない人達がいるのですよ。

 自分達は他者などに頼らずとも生きていけるのだと、私も義兄に会うまではそうでした。」

 

「アローネが?献身的なアローネからは想像つかないなぁ。」

 

「貴族社会は常に能力を求められます。

 それ相応の態度と志向を持たなければならなかったのです。

 私は病弱で大人しい姉の代わりにまわりの人を牽制してました。

 それも義兄が来てからはやめましたけど。」

 

「お義兄さんが来てから?」

 

「いくら能力を誇示しても誰も義兄に敵う人などいません。

 それなのに誰も認めようとしない。

 そんな背景を見ていますとその人達と同じことをしているのが嫌になったんです。」

 

【よわいもの……ではなくつよいものをなかまはずれにするのがみっともないと?】

 

「私からはそう見えました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仲間外れ。

 

 子供のときの僕を思い出す。

 

 子供の頃の僕はお義兄さんとは違って弱いだけだった。

 

 1度勝ったくらいで強くなった気になるような子供だった。

 

 実際はまだまだ弱いままの子供で。

 

 

 

 アローネは僕をお義兄さんと似ていると言った。

 

 本当にそうなのだろうか。

 

 お義兄さんはどんな気持ちだったのだろうか。

 

 どんなに頑張っても誰に勝ててもいっこうに認めてもらえないそんな環境でお義兄さんはどう自分を保てたんだろう。

 

 僕がそんな環境におかれたら…。

 

 子供のときは報われることを目指して努力は出来た。

 

 じゃあ報われないことが分かってるのなら…。

 

 僕はお義兄さんのようになれるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーディア山脈 峠

 

 

 

「ふぅ、やっと登りきったね。あとは降りていくだけだから気が楽だね。」

 

「そのようですね。ここまでモンスターと戦いながらでしたから思ったより体力を使いましたね。」

 

【きをぬかないでください。やまみちはのぼりもくだりもたいりょくをけずられます。】

 

「そうだね。気を抜かないでいこうか。

 まだ半分きった辺りだから何が出るかわからないからね。」

 

【きゅうにおおがたモンスターとであったりするかもしれません。】

 

 

 

 

 

ダダンッ!

 

 

 

 

「こんな大きな足音が聞こえてくるかもしれないしね。」

 

【はい、きをつけていきましょう。】

 

 

 

ダダンッッ!!

 

 

 

「……気を付けるもなにももうこちらに向かってきているようですよ?」

 

「この方向は……進路から来てるね。」

 

【かくれます?】

 

「この気配は……ヴェノム!?」

 

「タレス下がっていてください。」

 

「…!」

 

ダダンッ!

 

「遅かったか、大股だね。」

 

「この爬虫類は…。」

 

【ダイナソーです。】

 

「ダイナソー?」

 

「ドラゴンの一種で翼はありませんが地上でのスピードはドラゴン系でもトップクラスです。」

 

「そんな強そうなのがヴェノムにまで感染したら手強いなんてものじゃないなぁ。」

 

「!来ます!」

 

 

 

 

グオアアアアアアアアアァァァァアァ!!!!

 

 

 

 

「「「!!!!」」」

 

 

 

 こんな巨大なモンスターはおじいちゃんと一緒に戦ったあのジャイアントヴェノム依頼だな。

 

 こいつもそのうちあれみたいになるんだろうけど。

 

 

 

「魔神剣!!」ザザッ!!

 

 

 

グアォォォッ!!

 

 

 

 一々雄叫びが響くな!

 

 

 

 それだけで体が空くんでしまいそうになる。

 

 

 

 一撃じゃ決めきれないか!

 

 

 

「アローネ!攻撃は僕が受ける!援護をお願い!」

 

 

 

「はい!疾風よ我が手となりて敵を切り裂け!ウインドカッター!」ザシュッ!

 

 

 

ゴアアッ!

 

 

 

 よし、両足を………切断したら中から液状化した体液が出てくる。

 

 

 

 これだけでかけりゃ簡単には終わってくれないよね。

 

 

 

オアアアッ!!

 

バスッ!バスッ!バスッ!

 

 

 

 口から体液の弾を発射してきた!

 

 

 

「グウッ!」ガスッ!

 

 

 

 感染はしないがそれなりに痛い!

 

 

 

「うっ!!」ガスッ!

 

 

 

「アローネ!」

 

 

 

「大丈夫です!私もヴェノムは効かないようです!」

 

 

 

 一瞬ヒヤッとした。

 

 

 

 攻撃したことはあってもアローネが攻撃を受けたことはなかったから焦った。

 

 

 

「タレスは!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」ザンッザンッザンッ!

 

 

 

 後ろの方で別のモンスターと戦っている。

 

 

 

 このダイナソーの雄叫びで別のモンスターが集まってきたんだろう。

 

 

 

 早くコイツを倒して加勢してあげなければ!

 

 

 

ゴアアッ!ジュゥゥゥゥゥ!!

 

 

 

 足から出てきたヴェノムがダイナソーを覆いっていく。

 

 

 

 

 久し振りに見たな。

 

 

 

 

 ジャイアントヴェノム。

 

 

 

 おじいちゃんを死なせるキッカケになった敵。

 

 

 

 あの時のやつとは違うけどコイツは、コイツらはあってはならない存在なんだ!

 

 

 

 体の力が溢れてくる。

 

 

 

 コイツなら遠慮はいらない。

 

 

 

 本気で全部弾き飛ばしてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔神剣!!!!」ザザザザザザザザッ!!

 

 

 

 地を這う衝撃波が駆け抜けた後それを追って更に衝撃波が発生する。

 

 

 

ジュゥゥゥゥゥ!?

 

 

 

 衝撃波はジャイアントヴェノムを達磨落としのように削り斬っていった。

 

 

 

 ……………今のは?

 

 

 

 一振りで今までよりも多くの魔神剣が出せた。

 

 

 

「カオス!今の魔神剣はッ!?」

 

 

 

 アローネが話し掛けてくる。

 

 

 

「…分からないけどいつもよりマナが手に集約して出せるような気がしたんだ。」

 

 

 

「マナを集約…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」ザンッ!

 

 

 

「おっとこうしてる場合じゃない!タレスを助けないと!」

 

「えぇ!」



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感染する仲間

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 旅の途中辿り着いたトーディア山脈でヴェノムに感染したダイナソーと戦いカオスとアローネはなんとかこれを撃破する。

 一方でタレスは…


トーディア山脈 峠

 

 

 

「タレス!」

 

 

 

「……!」

 

 

 

 タレスがサイノッサスと戦っている!

 

 

 

 !

 

 

 

 コイツは!?

 

 

 

 「タレス離れて!魔神剣!!」

 

 

 

 魔神剣がサイノッサスを吹き飛ばす!

 

 

 

「タレス!」

 

 

 

「…」

 

 

 

 無表情だが足が震えている。

 

 

 

 立っているのがやっとのようだ。

 

 

 

 

 

 

 やっぱり………感染している!

 

 

 

ブルルッ!

 

 

 

 さっきのサイノッサスが立ち上がって向かってくる!

 

 

 

「『疾風よ!我が手となりて敵を切り裂け!ウインドカッター!』」ザシュッ!

 

 

 

ブル!

 

 

 

「アローネ!有り難う!」

 

 

 

「そんなことよりもタレスがっ!」

 

 

 

ドサッ

 

 

 

「「タレス!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タレス!タレス!!」

 

「しっかりしてください!タレス!」

 

 タレスの体が凄く熱い!

 

 感染したサイノッサスの攻撃を受けたんだろう。

 

 あの雄叫びで寄ってきた時点でヴェノムだと気づくべきだった。

 

 タレスにはヴェノムを判別できないことを忘れていた。

 

 作戦通り対応させてしまった。

 

 僕が!

 

 僕がもう少し冷静に対応していれば!

 

 こんなことには!

 

 

 

「…。」

 

「カオス!タレスの意識が…!?」

 

「!?」

 

 下らないことを悔いているうちにタレスが…!

 

 このままではタレスもおじいちゃんのように!

 

 どうすればいい!

 

 どうすればタレスを救える!

 

 

 

「傷口はどこ!?」

 

「どうやらこの脇腹のようです!」

 

 脇腹をやられているのか。

 

 脇腹では手足のように切り落とすことができない。

 

 素人が下手なところを傷つければそれだけでヴェノムとは無関係にショック死させてしまう。

 

 この間にもタレスの体の中ではヴェノムが繁殖していく!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またなのか。

 

 

 

 また僕は救えないのか。

 

 

 

 結局僕は誰も救うことが出来ないのか。

 

 

 

 大人になって現実を見て世界中の人を救うことも騎士になることも諦めてせめて目の前の人だけは救おうと妥協したのに。

 

 

 

 妥協した目標ですら僕には不可能なのか。

 

 

 

 僕にはヴェノムに抗う力があるのに。

 

 

 

 僕がダメだから救えないのか。

 

 

 

 僕以外の人が使えてたらもっと上手く使えたのだろうか。

 

 

 

 僕が持っているからいけないというなら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ウゴァァァ!」

 

 

 

「!」

 

 

 

「タレス!声が!」

 

 

 

「ヴェノムは高い再生能力を持っています。

 このタイミングでタレスの喉を再生させたのでしょう。」

 

 

 

「……でもこのままじゃタレスがゾンビに…。」

 

 

 

 死の間際に声が戻るなんて酷い皮肉だ。

 

 

 

 命あってのものだねだろう。

 

 

 

 神なんてものがいるのならこれが救いだとでもいうのか。

 

 

 

 こんな小さな命にはこれがやっとの救いなのか。

 

 

 

 タレスをが何をしたっていうんだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス……さん、………」

 

 

 

「タレス!」

 

 

 

「さ……いごに……こえ…がもどっ…てよかっ…た。」

 

 

 

「最期だなんて言うなよ!何か!何か手はある筈だから!」

 

 

 

「もう……いいん……です。

 ……マテオに……つれてこられてから……さんざん……悪いことを……したから……そのむくい……なんでしょう。」

 

 

 

「そんなのタレスが望んでやったことじゃないじゃないか!タレスは本当だったらダレイオスで!」

 

 

 

「いいんです………これが…戦争だった……んです。

 ……自分の声で……お礼を……いえるだけで…僕の…人生は。」

 

 

 

「タレス!」

 

 

 

「喋るな!今街に連れていくから!」

 

 

 

「間に合…せんよ……僕が……ヴェノムに……なったら……お願いし……ます」

 

 

 

「嫌だ!僕にタレスを殺せっていうのか!そんなこと出来るわけないだろ!」

 

 

 

「僕は………僕を……人扱いしてく……二人を…………傷つけた……ない……。

 この国に……来て………初めて優しくしてくれた……二人だから。」

 

 

 

「そんなの当たり前だろう!タレスは人なんだ!これからだってずっと!」

 

 

 

「短い間……でしたけど……敵国の……奴隷………の僕を人にして……くれて…………………………………ありがとう…………………………………。」

 

 

 

「「タレス!!」」

 

 

「」

 

 

 

「…………クソッ!!またっ!僕のせいで!僕が連れ出したから!」ガッ!

 

 

 

「カオス…。」

 

 

 

「なんなんだよ!?こんな力があっても役にたたないじゃないか!?ふざけるな!誰が誰を助けられるって!?くっだらない夢をみるんじゃねぇよ!?消えてしまえ!!」ザシュッ!

 

 

 

「!?カオス何をッ!?」

 

 

 

「こんな無能の俺なんか殺してやる!!生きてたって人を不幸にしかしない俺なんて!」

 

 

 

「止めてください!自分を斬りつけてもなんの解決にもなりませんよ!」

 

 

 

「こんな痛みタレスや死んでいった人に比べればぁっ!」

 

 

 

「貴方には旅をする目的があったのではないですか!?」

 

 

 

「どうせそんなもの!出来るわけないんだよ!俺が死なないと!!」

 

 

 

「カオス!!!」

 

 

 

「!!」

 

 

 

「カオス!また貴方は自分を見失ってますよ!貴方はいなくなった人のために生きなければなりません!」

 

 

 

「…」

 

 

 

「カオスは誰も不幸になどしてません!タレスも!」

 

 

 

「でも!タレスが…!」

 

 

 

 

 

 

「自棄を起こしたところで問題は解決しません!それにまだ終わってません!」

 

 

 

「!」

 

 

 

「貴方の村の人達は抗体があると仰っていましたね。

 あのミストの森も。」

 

 

 

「う、うん…。」

 

 

 

「通常では考えられません。ヴェノムは無差別に生物に感染して増殖していき村や森……最終的には国が滅ぶほどのウイルスです。」

 

 

 

「それは……殺生石の。」

 

 

 

「それです。

 その殺生石の力を受けてあの村は助かったのです。」

 

 

 

「そんなの分かってるよ!それが今なんの関係があるのさ!」

 

 

 

「十年前からヴェノムに感染した話は聞きましたか?」

 

 

 

「……他所から移動してきたモンスターだけだと思う。

 それ以外ではもとからいたモンスターもいるからそのモンスターも。」

 

 

 

「貴方のその殺生石の力を一度受けるとどういう原理かは判明しませんが抗体とやらがが出来るのです。

 その後もずっと。」

 

 

 

「………アローネはタレスに力を使えって言ってるの?」

 

 

 

「………はい。それがタレスを救う方法かと。」

 

 

 

「この力は十年前に使ってからまともに使ってない。

 コントロールも出来ない。

 第一あの時はヴェノムに感染した人ごと殺したんだ。使えばタレスだって…。

 もしかしたらアローネも。」

 

 

 

「気付いてませんか?貴方はごく最近その力をコントロールしたのです。」

 

 

 

「!あの時は………!それにたまたまかもしれないし!アローネがいたかもしれないし!」

 

 

 

「たまたまでもなんでも貴方がコントロールしたことに変わりありません。

 それにあの時も今も私がついています。」

 

 

 

「失敗したらアローネも吹き飛ぶかもしれないんだよ!?」

 

 

 

「ここでカオスがカオスを殺そうとするのならそれでもいいのかもしれません。

 私はカオスにブラムさん達から助けていただきました。 あのまま連れていかれて異国の犯罪者がどういう扱いを受けるのかは想像できます。

 私の命はカオスとともにあります。」

 

 

 

「どうしてそんな簡単に命を捨てられるんだ!せっかく助かった命をそんなに軽く…!」

 

 

 

「貴方に救われた命です。

 貴方の為に使ってこそ恩が返せるというものでしょう?」

 

 

 

「僕は……恩とかそんなもののためにアローネを助けたんじゃ!」

 

 

 

「早くしてください!ここで時間を潰していたら助けられるかもしれないタレスを助けられなくなるかもしれませんよ!今ならまだゾンビ化していないので体はタレスのままです!」

 

 

 

「!」

 

 

 

「貴方がその力を使うのが怖いということも伺っています。

 ですがここにいるのはそんなことを気にする必要のない人しかいません。」

 

 

 

「アローネ…!僕は……。」

 

 

 

 

 

 

「カオスはカオスを信じてあげてください。貴方が救いたいと願えば救われるものもいるのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………………………………………………………………やるよ。もうそれしかないのならやるしかない。」

 

 

 

「はい。」

 

 

 

「失敗したら一緒に死んでくれ!」

 

 

 

「はい!」



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助けられた命

 青年カオスはアローネとタレスとともに旅をしている。

 王都へ向かう途中トーディア山脈でヴェノムに感染したダイナソーに襲われ撃退するもその間に別のヴェノムがタレスを襲いタレスは感染してしまった。


トーディア山脈 岬

 

 

 

「アローネ……どうすればいい?」

 

 

 

「マナを掌に集めてタレスに送り込むのです。ファーストエイドは使えますか?」

 

 

 

「習ったことはあったけど僕は……使ったことがない。」

 

 

 

「ではマナを集めることだけに集中してください。やり方は私が見せます。癒しの力よ、ファーストエイド!」パァァ

 

 

 

 アローネが掌にマナを集めて僕にかけて見本を見せてくれる。

 

 この感覚は………ミシガンが昔かけてくれたものを思い出す。

 

 懐かしい……ミシガンもこうやってかけてくれたっけ。

 

 

 

「アローネ…有り難う、なんとか分かったよ。やってみる。」

 

 

 

 掌にマナを………なんだなマナの扱いがさっきの戦闘から、いやあの街の封魔石に触れてからしっくりくる。

 

 あれで僕の中の何かが解放されたようなそんな感覚を覚える。

 

 

 

「出来たよ!これをタレスに!?」

 

 

 

「はい!なるべくタレスに直接流し込むようにしてください!癒しの力は魔術と違ってただ放てばいいのではありません!直接かけなければ拡散して効力が薄れていきます。タレスに触れて体内に送り込むのです。」

 

 

 

「こんなふうかな?」

 

 

 

 タレスに触れてマナを掛けようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここまでヴェノムが寄ってきたか。』

 

 

 

「!アローネ!何か言った!?」

 

 

 

「いえ、私は何も言ってませんよ。それよりも術に集中を。」

 

 

 

「う、うん。」

 

 

 

 今ハッキリ聞こえた。

 

 あの夢の声だ。

 

 アローネの声じゃない。

 

 嗄れたお爺さんのような声だった。

 

 とうとう夢の中だけじゃなく現実でも聞こえ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォオォォォォオォォォ!!!!!

 

 

 

「!カオス、マナを抑えてください!そのマナからは破壊滴な力を感じます!」

 

 

 

「ア、アローネ!まただ、またマナが熱くなってきた!」

 

 

 

「コントロールに集中してください!タレスごと辺り一面吹き飛びますよ!」

 

 

 

「やってる……やろうとしてるんだけど力が大きすぎて…………!!」

 

 

 

「カオス!」

 

 

 

 アローネが僕の手を上から握る。

 

 

 

「大丈夫です、落ち着いてください。私がついています。」

 

 

 

「アローネ。」

 

 

 

『シ………フ、そなたか。』

 

 

 

 !

 

 マナが収縮していく。

 

 アローネが触れたらまたマナが…。

 

 

 

「アローネ!なんとか収まったよ!このままやろう!」

 

 

 

「はい、このまま握っているのでカオスはタレスに!」

 

 

 

 凄い。

 

 こんな大きなマナなのに今では体の一部かのように操れる。

 

 これなら……

 

 

 

 目の前で意識を失ったタレス……。

 

 失敗したらタレスは…。

 

 果たして本当に僕に出来るのだろうか。

 

 マナを操りやすくなったとはいえ人を治すなんて初めてだ。

 

 一歩踏み外したらタレスだけじゃなくアローネも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオスは何も心配することはないんですよ。」

 

 

 

「……。」

 

 

 

「貴方がいなければなかった命、ここで失ってもそれは貴方のせいではありません。

 貴方のおかげでここまで長らえたのです。

 カオスはカオスのやりたいようにやればいいんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローネ、

 

 

 

 僕の負担を無くそうとしてくれてるのは分かる。

 

 

 

 けどその言い方だとどうなっても言いように聞こえるぞ。

 

 

 

 信じてくれてるって言ったじゃないか!

 

 

 

 だったら必ず成功しますって言ってくれよ。

 

 

 

 そんなふうにせっかく助かった命を僕の匙加減で拾ったり捨てたりするみたいに言われちゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対に死なせるわけにはいかないじゃないか!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファーストエイドォォォォォォォォッッ!!」パァァァァァァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………う、うぅん?」

 

 

 

「タレス!」

 

「気が付いたのですね!タレス!」

 

「ここは……?……!ボクはヴェノムに……?」

 

「助かったんですよタレス!カオスがタレスを治してくれたんです!」

 

「カオスさんが……?」

 

「どこか体の痛いところとかない?初めての治療魔術だから上手く作用したか……。」

 

「………どこにも異常は感じられません。それどころか声まで出るようになってさっきまでの疲労もなくなっています。」

 

「やりましたねカオス!」

 

「あぁ!タレスが無事で本当に善かったよ!」

 

「何があったのですか?ボクはヴェノムに感染して死んだ筈では?」

 

「カオスの殺生石の力を使ってタレスに治療魔術を施したんです!そのおかげでタレスのヴェノムは消え去ったんですよ!」

 

「治療魔術で?」

 

「うん!アローネがミストの人達のことを思い出してそこからタレスに…!」

 

「?」

 

「要するにですね……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェノムに村ごと抗体を持った人達が……。」

 

「そうなんだよ!アローネがいなかったら考えもつかなかったよ!アローネのおかげだな。」

 

「何を言ってるんですか。カオスがこの力を持ってたからこそタレスを救えたんですよ!カオスの功績です。」

 

「そんなことないさ!アローネがいなかったら僕はまた暴走してたし、この方法だって行きつかなかったよ!」

 

「カオスがいたことこそがこの結果に繋がるのですよ。」

 

「いやアローネが!」

 

「カオスが!」

 

「アローネ!」

 

「カオス!」

 

 

 

「お二人がボクを救ってくれたんですね。」

 

「……そうなるのかな。」

 

「そういうことにしときましょう。」

 

「拾っていただいただけではなく命も救っていただいて何をお返しすればいいのか……。」

 

「そんな深く考えるようなことではないさ。」

 

「そうですタレスはそのままのタレスでいいんです。

 こうして喉までも治ったのですから。」

 

「タレスってそんな声してたんだね。」

 

「お恥ずかしながらこの年になって声変わりもまだなのであまりお聞きにならないでください。」

 

「なんだよ、せっかく喉が治ったのにあんまり嬉しそうじゃあないなぁ。」

 

「まだどこか悪いところでもあります?それなら治療を試みてみますが?」

 

 

 

「助かったことは嬉しいんです。

 嬉しいんですが理解が追い付かないんです。

 今なんともなく生きているのが不思議で喉の方も。」

 

「どうして?」

 

「ヴェノムは触れたら感染率、致死率百%のウイルスです。感染したらまず諦めろというのがヴェノムの常識でした。万が一腕や足に負傷して感染したら即切り落とすのが唯一助かる道と言われるほどに。」

 

「そうでしたね私もそう聞いていました。」

 

「お二人がヴェノムに抗体を持つと言われたとき半信半疑だったんです。前に話になったワクチンかそれに類する何かを使っているだけかとそう思っていました。」

 

「僕達はとくにそういったものは使ってないよ?」

 

「それが有り得ないんです。お二人はヴェノムに触っても感染しないどころかヴェノムを殺すことが可能でなおかつボクのような感染者を治療…、いえ感染だけではありませんね。

 さっきボクは死んでいたのですから。」

 

「けどこうして生きているじゃないか。」

 

「カオスさん達は死者を蘇らせることが出来るということになります。これがどれほど不可能なことか……。」

 

「それは……。」

 

「スミマセン、せっかく助けていただいたのに問い詰めるようなことを。

 本当は嬉しいんです。

 感染したというのに死なずに済んで声まで取り戻して……人の扱いを受けて………けどボクはこの気持ちを素直に表現することが出来ないようです。」

 

「タレスは正の感情を失っているようですね。」

 

「正の感情?」

 

「嬉しいや楽しいといった明るい感情のことです。

 タレスは長い間酷い扱いを受けてそういった正の感情を表現出来なくなっているのです。」

 

「スミマセン、今は言葉でお礼を言うだけしか出来ません。

 カオスさん達に会ってから急にいろんなことが起こりすぎて。

 久しぶりに喋るので気持ちを上手く伝えられません。」

 

「タレス…。」

 

「…」

 

【いまはかんがえがまとまらないのでもうすこしおじかんをください。

 そしたらちゃんとおふたりにはかんしゃのきもちをすなおにつたえられるとおもいます。】

 

「なんで手帳に戻ったの?」

 

【こっちのほうになれてしまって。】

 

「タレスがそうしたいと言うならいいですけど。」

 

【かんじょうをうまくひょうげんできるようになるまではこれでいきたいとおもいます。】

 

「……声が出せるようになったんなら前進したってことでいいんだよね。」

 

「はい、後はタレスの心のケアでどうになかなりますよ。」

 

【いったんこしをすえられるばしょについてからまたおはなししてもいいですか?】

 

「いいよ、じゃあタレスも助かったことだしこのまま一気に山を降りよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーディア山脈 岬 カオス達から少し離れた上空

 

 

 

「いつの間にマテオは一般人がヴェノムを撃退できるようになったの?」



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戦闘について2

 青年カオスはアローネとタレスとともに旅をしている。
 
 トーディア山脈でタレスがヴェノムに感染するもカオスとアローネの能力で一命をとりとめる。


ルルカ街道

 

 

 

「山を降りてみたら随分道が整った場所に出たね。」

 

「このルルカ街道は王都の統治下に入ってから長いので商人や騎士が舗装しているんですよ。」

 

「あれ?手帳は?」

 

「事実を述べるだけなら感情は込めなくてもいいですから。」

 

「……タレスが喋れるようになってから逆に淡々としてて冷たくない?」

 

「あの年頃の子供はもう少しはしゃいでいるのが普通ですからそう感じるのでしょう。

 それだけタレスが心を殺して過ごしてきたということです。

 今は様子を見てあげてください。

 タレスも悪気があってあのしゃべり方ではないのですから。」

 

「どうしました?」

 

「なんでもないよ。」

 

「カオスが疲れたから休もうと提案してきたんですよ。」

 

「分かりました。夜営の準備をします。」

 

「……馴れないなぁ喋れるようになったのに無感情な口調だから。」

 

「ダメですよ!タレスだって練習中なんですからそんなふうに言ってはいけません!」

 

「分かってるんだけどなぁ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【カオスさんはぼくがしゃべらないほうがいいとおもいますか?】

 

「え!?どっ、どうしてそんなこと思ったの!?」

 

「そうですよ!カオスはただ戸惑ってるだけで怖がってなんて…!」

 

【マテオにきてからおとなをおこらせないようにしてきました。

 なのでひとのかんじょうのきふくをよみとるのにはなれています。

 カオスさんはぼくがしゃべるたびになにかおもうところがあるのではないですか。】

 

「カオス!」

 

「ご、ゴメン!そんなに露骨だった!?別にタレスのことが悪いとかじゃないんだ!」

 

「では何を考えていたんですかカオス!」

 

「大したことじゃないんだよ?本当に!

 ただ…、タレスの口調が………ミストの村の人達にそっくりだったからさ、それだけのことなんだ。」

 

「!」

 

【ミストのむらのひとたちと?】

 

「うん、ちょっとした………知り合いと喋ってる気分になっただけなんだ。

 そのうち馴れるからタレスはどんどん喋ってもいいんだよ。」

 

「…」

 

「……分かりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カオス。」

 

「うん?」

 

「スミマセン。」

 

「どうして謝るのさ。」

 

「私は……貴方とミストの方々の会話を聞いておきながら気付けませんでした。」

 

「アローネが謝ることじゃないよ。

 アローネだって聞いていたのはあの見張りとのほんの一、二分程度の会話だけだし。」

 

「あの方のようにカオスに向けられる無機質な言葉をタレスと重ねてしまうのも無理はないことです。

 思えば確かにタレスの喋り方はあの方と……恐らくあの村の殆どがあの口調なのでしょう。」

 

「…」

 

「やはりそうなのですね。

 私は愚か者ですね…。

 幼いタレスのことばかり気にかけてすぐ隣にいる貴方の心の傷に気付かずに……。」

 

「ダジャレ?」

 

「話をそらそうとしなくてもいいのですよ。

 貴方はそうやって自分よりも誰かを優先しようとすることは今日まで一緒に過ごしてきて分かっています。

 タレスの心のケアの他にもカオスのケアも必要です。」

 

「僕は別にケアなんて……」

 

「カオスは隙を隠そうとしますから気付けませんでした。

 カオスもタレスや義兄と同じ孤独を味わっていることを。」

 

「タレスの方がもっと辛い目にあってるよ。

 お義兄さんだってそうでしょ?

 僕だけが辛いんじゃない。」

 

「……あのトーディア山脈でタレスが死にかけてカオスが自分を傷つけたとき。」

 

「…」

 

「カオスの絶望を知りました。

 貴方の心の闇が相当なレベルにまで膨れ上がっていることに。」

 

「そんな大層なものじゃないよ。」

 

「いいえ、とても大事なことです。

 カオスの心の中が……いつも悠然としていた貴方が初めて見せた本当の弱音。」

 

「あの時は………見苦しいものを見せちゃったね。

 謝るよ。」

 

「そんなことはいいんです。

 おかげでカオスをまた一つ見つけてあげられたのですから。

 カオスが心のうちではあのようなことを考えていてああいう喋り方をするのだと知ってあげられたのですから。」

 

「…」

 

「あの喋りでもいいんですよ?

 私達に合わせて朗らかにしなくても男性なら少しくらいワイルドな方がいいです。」

 

「……もうこの口調に馴れちゃったから今更かな。」

 

「まだまだ貴方との仲が浅いということですね。

 いつか本当な貴方を見せてください。」

 

「………その時が、きたらね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お話は終わりましたか?」

 

「はいお待たせしてしまいましたねタレス。」

 

「いえ、いい練習の時間になりました。」

 

「練習ですか?」

 

「さっきモンスターが一匹現れたので退治しておきました。」

 

「まぁ、お一人でですか?」

 

「お二人がお話中だったので。」

 

「言ってもらえたら私達も加勢しましたのに。」

 

「危ないことはしちゃダメだよタレス。

 タレスは昼間死にかけたんだから。」

 

「大丈夫です。

 試したいことがあったので。」

 

「試したいこと?」

 

「声が出せるようになったので魔術が発動するかどうか気になったんです。

 結果は問題ありませんでした。」

 

「魔術?タレス魔術使ったの?」

 

「まだ大した威力はだせませんが一応は発動できました。これでお二人を御守りする力が上がりました。

 それから魔技も使えます。」

 

「「魔技?」」

 

「魔技は魔術の接近専用に編み出された技です。アローネさんもご存知なかったのですか?」

 

「初めて聞く技法ですね。」

 

「お義兄さんからは教えてもらわなかったの?」

 

「義兄は過保護でしたから私が屋敷を外出するのも心配してました。

 接近専用と聞く限り義兄は私にモンスターに近付き過ぎないように魔術だけを教えたのかもしれませんね。」

 

「サハーンのときはアクアエッジを間近で撃ってたけどね。」

 

「遠距離用の魔術を間近で?」

 

「私は集中力があるので詠唱を邪魔されても平気なんですよ。

 ですから前衛にでてもいいんです。」

 

「アローネさんはあまりうたれづよいようには見えませんけど…。」

 

「それでその魔技ってどう使うの?」

 

「使える魔術によって変わるんですけどボクは地属性のストーブラストが得意なのでまず地属性の詠唱を唱えてからそれを手に集約して大地に放つだけです。

 このように…グレイブ!」ドゴォッ!!

 

「「!!」」

 

「これはグレイブという技で地にマナを送り込んで操り相手を串刺しにする技です。」

 

「こんな技が……!」

 

「これはどこで覚えたんですか?」

 

「魔技はダレイオスにいた頃は皆使ってましたよ?

 この技自体はサハーンが使ってたのを見て見よう見まねでやってみました。」

 

「見よう見まね……ってことは僕たちに会う前から使えたの?」

 

「いえ、魔技と魔術はあくまでも声に出して呪文を唱える必要があるのです。

 大気中に含まれるマナ……属にいう精霊と言われるものに干渉させなければならないので。」

 

「精霊?」

 

「基本六元素のそれぞれを司る六体の霊的存在のことですね。」

 

「はい、ウンディーネ、ヴォルト、シルフ、ノーム、イフリート、セルシウスの六の精霊がいるとされていてその精霊の力を借りてボク達は魔術を使えると言われています。」

 

「そんなのがいるんだね。」

 

「実際に存在するかは定かではありませんけどね。」

 

「精霊は昔からの神話やお伽噺の存在とされています。

 ですから本当にそんな精霊達に力を借りているかどうかも判明していません。

 話を戻しますがそういうわけでボクは先程ストーブラスト、グレイブを使えることが分かりました。」

 

「この短時間でそんなすぐに技が使えるなんてタレス凄いね。」

 

「……」

 

「どうしました?」

 

「ボクはこんな生い立ちですが特別才能があったとかではないんです。

 回りと比べても埋もれてしまうような凡人で……。」

 

「そうは思わないけどなぁ。」

 

「そうです、タレスは優秀な子ですよ。」

 

「……この技は恐らく魔術を使える人がエルブンシンボルを装備すれば誰でも使えます。」

 

「え?そうなの?」

 

「魔術を覚えてさえいれば出来ますよ。

 ボクが出来たくらいですから。」

 

「アローネも?」

 

「は、はい、ではやってみますね。……グレイブ!」ドゴォッ

 

「出来た!……けどタレスよりも迫力がないね。」

 

「人には得意系統があるんですよ。

 ボクは地属性で、アローネさんは…」

 

「私は風属性です。」

 

「今後ボクは地属性の能力を高めていこうと思います。」

 

「私は一応は六属性使えますが…。」

 

「時間がおありでしたらそれでもいいのですがアローネさんも得意の風属性を極めていった方がいいですよ。」

 

「そ、そうなのですか?」

 

「一つのことに集中して鍛えていけば成長も早いですしマナの消費も抑えられますよ。

 得意系統の属性とそうでない属性とでは火力、速度、効力、燃費、操作性、発展性といったステータスに開きが出ます。

 なのでバランスよく全てを鍛えるよりかは一つに絞って上限を伸ばしていくのがいいでしょう。」

 

「……なんかタレス戦闘マニアだね。」

 

「戦闘を学ぶことは生きることに繋がっていましたからね。

 魔術もなしに武器だけで戦っていましたから、戦いの知識と工夫に関しては自信あります。」

 

「そ、そうだね、この話の時えらく饒舌だったもんね…。」

 

「私も戦闘知識は義兄から教わっていましたがタレスはそれ以上ですね。」

 

「……才能が無かった分、強さへの憧れが大きかったんですよ。

 知識だけはどんどん吸収していってそれに対して実力が伴わない。」

 

「何を言っているんですか!タレスは戦えているじゃないですか!」

 

「ボクの力はこのエルブンシンボルの力が大きいです。

 これがあるから戦える。

 これがなければ魔技だって……グレイブ!」ドゴォッ!

 

 

 

「……今エルブンシンボル外したけどさっきと変わってなくない?

 さっきと違った?」

 

「……?」

 

「タレスはエルブンシンボルなしでも強いってことですね。」

 

「……おかしいです。」

 

「おかしいって、何か変なところでもあった?」

 

「エルブンシンボルを外したのに……術が使えた………。」

 

「!?」

 

「術を?

 それってつけてないと使えなくなるものなの?」

 

「一度これを装備したら分かります。

 体の中にあるマナをまるで手足のように……むしろ新しく手足が生えたかのように扱うことが出来てました。

 これを装備したらそれまでの自分は丸腰で戦っていたんだなと思えてしまうほどに。

 」

 

「…」

 

「今はエルブンシンボルを外しても何も感じない。

 それどころかエルブンシンボルを外した方がマナを操りやすい気がします。」

 

「……タレスもなんですか。」

 

「アローネ?」

 

「カオスには言ってませんでしたね。

 私もエルブンシンボルを装備していたんですが今は外しています。」

 

「エルブンシンボル装備してなかったの?」

 

「はい、あの日目覚めてからずっと着けていたのですけどある時私は私の成長具合を知りたくなって一度外して術を発動させました。

 そしたら……。」

 

「今のタレスのようにない方が強かった?」

 

「…はい。」

 

「どうしたんでしょうか…?

 カオスさん達に助けられてから自分の体が自分のものじゃないように錯覚してしまいます。」

 

「けど今は特にどこか困るとか言うことでもないんでしょ?」

 

「それはそうですが。」

 

「僕達も僕達の異変について調べるために旅をしているんだ。

 そのうちいいお医者様のところに行って診てもらうつもりでいるから今は強くなって助かったくらいに思っとこうよ。」

 

「……そうですね、今は体に不調どころか絶好調ともいえるくらいですしね。」

 

「カオスのいう通りですね。

 私も後々でいいと思います。

 私達だけで考えても先に進めないでしょうから。」

 

「今はもう休もうよ、今日も忙しかったからね。」

 

「そうしましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 



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次の街へ

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 トーディア山脈で感染したタレスを助け、タレスはヴェノムによって回復した声で術技の練習を始めアローネが新しい技を習得する。


ルルカ街道 夜

 

 

 

「アローネ。」

 

「カオス…、タレスとの特訓はもういいのですか?」

 

「それはもう一段落したから。

 昼頃から元気ないね、どうしたの?」

 

「……」

 

「浮かない顔してるけど何か気になることでもあったの?」

 

「いえ……、何でもありません……。」

 

「そう?それにしてはなにか思い悩んでいるように見えるよ?」

 

「……」

 

「アローネにはいつも助けられてばかりだからたまには相談にのるよ。」

 

「……」

 

「もしかして話せないこと?」

 

「……カオスは。」

 

「ん?」

 

「カオスは……ウルゴスが本当に何処かにあると………そう思いますか?」

 

「何言ってるんだよ。

 アローネはウルゴスからきたんだろ?

 ウルゴスはあるに決まってるじゃないか。」

 

「ウルゴスというのも私が一人であると言っているだけなのですよ?」

 

「それじゃあ、アローネはウルゴスがないと思ってるの?」

 

「そうではありません!

 ウルゴスは確かに実在して今も何処かに……」

 

「ならあるんだよウルゴスは。」

 

「………どうしてカオスは私のことを信じられるんですか?

 私は……」

 

「アローネは僕のことを頼ってくれた。

 一緒にいてくれた。

 それだけで信じられるのは十分だよ。」

 

「それだけで?」

 

「あの日アローネが森にいて、ミストに行ったとき僕を選んでくれた。

 あの短い時間だったけど……あの日から僕にとってアローネは家族みたいなものだよ。

 家族を信じるのは当然じゃないか。」

 

「カオスが……家族……。」

 

「僕はアローネのことをそう思ってるよ。」

 

「私は……」

 

「アローネはどう思ってるかは分からないけど僕はアローネの助けになりたい。」

 

「私だってカオスの助けになりたいと思ってますよ!

 ですが!」

 

「それが聞けてよかった。」

 

「カオス…。」

 

「どんな悩みかは聞けなかったけど話せるようになったらいつでも言ってね。

 それまでは僕とタレスがアローネを支えるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……本当はカオスにも打ち明けたいんです。

 私が思っていることを。

 けれどそれを言ってしまったとき返ってくる答えが違ってしまったら私は……

 

 

 

 私の旅は………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルカ街道

 

 

 

「地図によるとこの先にパルコーって街があるみたいだけど今日中にはつくかな。」

 

「パルコー?

 少し地図を見せてもらっていいですか?」

 

「いいけどどうしたの?」

 

「………随分古い地図ですね。

 今は街の名前が変わってカストルになっている筈ですよ。」

 

「そうなの?」

 

「カオスさん達はずっとこの地図で旅してきたんですか?」

 

「ミストにはこれしかなくてね。

 これを頼りに進んでたんだよ。」

 

「……ボクが一枚持参してるので今度からこれを使ってください。

 三年前に更新されたもののようですからその地図よりかはあてにはなります。」

 

「有り難うタレス。

 ………なんだかこっちの地図と比べると街は大きくなってるけど全体的に数は少なくなってるね。」

 

「それも仕方ないことなんです。

 ダレイオスでもマテオでもヴェノムの襲撃で多くの街が無くなっているみたいですから。」

 

「おじいちゃんの話には聞いていたけどそんなに酷いんだね。」

 

「未だ停戦中とはいえ両国が敵国を放置してもヴェノムへの対策に手が追い付いてない状況にあるので封魔石の建設に間に合わない村や街はそうなってしまうんです。」

 

「ヴェノムは世界規模にまで上ってあるんだね。

 ダレイオスでもやっぱりいるんだ。」

 

「ダレイオスではヴェノムによって人のいる街だけではなく森林や川などの自然もダメージを受けて生態系が大きく崩れ荒れ果てた荒野が国の四分の一にも広がっています。

 」

 

「そこまでヴェノムの影響を受けているの!?」

 

「ダレイオスでは当初ヴェノムに対してマテオからの生物兵器作戦とも言われていたくらいです。」

 

「マテオが!?

 そんな筈ないよ!

 おじいちゃんも百年前にはヴェノムと戦っていたって言ってたからマテオもヴェノムに被害を受けているんだよ!」

 

「分かってますよ。

 リトビアでも封魔石というヴェノムに対する処置がなされているのでこっちにきて知りました。

 ヴェノムが現れたのはもっと昔ともされています。

 マテオで判明しているだけでもこのデリス=カーラーンが出来た原初時代からです。」

 

「そんな大昔から?」

 

「一部の科学者では隕石が落ちてそこに含まれたウイルスがそのまま在留して後にデリス=カーラーンに生物が生まれてから漏れだして今に至るという人もいるそうです。」

 

「そんなに昔からあるのによく滅びなかったね。」

 

「いえ、何度か滅んだそうですよ?」

 

「滅んだの!?」

 

「大昔の祖先の遺跡が見つかって文明を築き上げてはいたようですがその辺りにヴェノムの遺骸から発生する障気が充満していたみたいです。」

 

「あれかぁ、盗賊のいた森にも漂ってたね。」

 

「そうですね。

 本来は有害性気体なので近づいてはならないんですがそのお陰でいい隠れ蓑にしてました。

 障気のせいで詳しくは調べられなかったそうですが今の文明を遥かに凌ぐ科学技術を持っていたみたいです。」

 

「遥かに凌ぐ技術かぁ。

 そんなに凄い文明だったらヴェノムを世界から消すことも出来なかったのかなぁ。」

 

「世に出ているあらゆる技術は全てその時代にいる一人の天才から広まっていくそうですよ。

 そこを最先端にしてから少しずつ開発が進みます。

 最初の延び上がりは急上昇してある段階から平面に近い状況を続けるようで。

 ですから原初時代もヴェノム対策は今とそう変わらなかったのではないですか?」

 

「だから何処かでヴェノムにやられて滅んだと…」

 

「それが今想定できる当時の状況ですね。」

 

「ヴェノムかぁ。

 僕やアローネのような力はなかったのかなぁ。」

 

「無かったのではないですか?

 あったとしても一人二人いるかいないかでヴェノムの駆逐よりも先に人類が駆逐されてしまったとしか。

 カオスさんとアローネさんは特別な存在だと思いますよ?

 その力はダレイオスでもマテオでも聞きませんから。」

 

「僕はともかくアローネの力は誰かに与えられたものだと思うんだよなぁ。」

 

「アローネさんの力がですか?」

 

「僕はこの力を手にする切っ掛けがあったんだけど、アローネには空白の時間があってその際に誰かが何かしたみたいでね。

 だからそんなことが出来るならアローネの他にも同じような人がいるかもしれないよ。」

 

「それでしたらもっと多くいそうな気がしますけど。」

 

「できない理由があったとか?」

 

「適正があるか、その処方に限度回数があるか、もしくは……」

 

「もしくは…?」

 

「実験の段階で現実的な段階には至ってないとか…。」

 

「けどアローネは特に悪いところなんて無さそうだけど…。」

 

「それはボクにも分かりませんよ。

 偶然の産物でたまたま成功しただけでこれから徐々に実験を重ねていくんではないですか?」

 

「嫌な話だね。

 アローネが実験動物みたいで。」

 

「それもどうかは分かりませんよ。

 何処の誰がやってる実験なのかも判明しませんし。

 アローネさんが成功例なのか、実験段階なのか、それすら分かりませんし。」

 

「分からないことだらけだね。」

 

「ボク達では限界がありますね。

 少なくともアローネさんに力を与えたという人がいるのならその人は相当の生体学者だということがうかがえます。」

 

「生体学者?」

 

「今マテオにあるワクチンや封魔石は王都の……ある貴族がお抱えの生体学者達が百年前に少しずつ開発したんですよ。

 その学者たちでさえも一時的なワクチンを作るのがやっとなんです。

 それを凌ぐ能力を人に付与出来るとなるとその人は生体学者以外には考えられません。」

 

「もしかしてその王都の生体学者の人達がアローネを…。」

 

「今このデリス=カーラーンでは最もヴェノムに精通している人達です。

 可能性は高いですがそれだとアローネさんのような対ヴェノム要員となりうる人をこのような辺境の地に送る理由がありませんよ。」

 

「……ということはウルゴスの誰かってことなのかな。」

 

「アローネさんに心当たりはないのですか?

 今日はあまりお話になりませんが。」

 

「昨日の昼からなんだか思い詰めてるようでね。

 アローネも分からないんだって。

 街につくまでそっとしておこう。」

 

「そうですね……大きい街ですしそろそろ見えてくる頃ですが……。」

 

「あ!あれがそうじゃない?」

 

「地図だと………丁度あれですね。

 あれが旅人が絶対に訪れる旅の安らぎの街カストルです。」



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バルツィエ家

 青年カオスはアローネ、タレスと共に旅をしている。

 調子の悪いアローネの様子を気にかけるカオスだったが原因がよく分からずそのまま進み三人はようやく次の街へとたどり着くのだった。


王都 とある貴族邸

 

 

 

「みんな集まってっか?

 いねぇのもいるな。

 今朝方面白そうな二人組が全国氏名手配されていたぞ?」

 

「面白そうなヤツ?」

 

「先日遠方に出ていたブラムがマテオに逆らうダレイオスの手先が見つかりましたって届け出があったらしくてな。」

 

「何故その場で捕まえないんだアイツは。」

 

「何でも返り討ちにされたんだとさ。」

 

「二人がかりでか?何人か部下もいたんだろ?」

 

「いや片方に部下もろともやられたって。」

 

「ダッセーヤツだなアイツも。」

 

「うちがせっかくみてやったのに…」

 

「アイツもその辺の石ころ程度だったと言うわけか。」

 

「んなもん最初から分かりきってたことだろ?

 下げてやんなよ。」

 

「フェデール、貴様が一番蔑んでると思うが。」

 

「所詮ヤツは四天王でも……最弱だっけ?」

 

「二番手か三番手じゃなかったっけ?」

 

「ってか残ってる他の隊長は何人いるんだ?」

 

「半数減った辺りまでは数えてたんだけどなぁ。残りは………四天王でいいんじゃね?」

 

「誰か覚えてるヤツいないのかよ?」

 

「………十年前にクレベストンが死んで三人になった。」

 

「じゃあ三天王だね。

 やはり最弱か!

 面汚しめ。」

 

「全然見ないと思ったらいなかったんだなクレベストンのヤツ。」

 

「もともとよくどっか出掛けてたヤツだからなぁ。」

 

「アルバートの伯父さん探しに行ってたんだとよ。」

 

「は?とっくに死んでたろ!

 未練ったらしいヤツだなぁ。

 死んだヤツなんか追いかけて。」

 

「クレベストンの補充は出来てんのか?

 いずれは騎士団を掌握するにしても遠方までまわるのめんどくせぇだろ。

 そこら辺の雑草にでも行かせとけよ。」

 

「そう言うわけにはいかん。

 反乱分子は早めに粛清しておかねばならんのだ。

 補充は我等の傘下から出しておいただろう。」

 

「そういや俺の配下から出したな。

 前任者とか興味なかった。」

 

「あんたの大好きだった兄貴を探していたヤツの穴だぜ?

 なんとも思わねぇのか?」

 

「いないものを追い続ける程私も暇ではない。

 クレベストンには私も世話にはなったがそれだけだ。」

 

「冷たいねぇご当主様は。」

 

「この家に暖かさなどあったか?」

 

「ねぇな。

 あるわけねぇ。」

 

「本当だったら今頃その席にはアルバート=ディランが座ってたんだろうになぁ。」

 

「口を慎め。

 私に対する無礼は許さんぞ。」

 

「堅苦しいこと言うなよ。

 そんなもん外面だけ整えときゃいいだろ。」

 

「図に乗るなと私は言ってるんだが。」

 

「アレックス様よぉ、ちょいとばっかしハメ外してもいいだろう?」

 

「………どうやらこの中に粛清しなければならない者がいるようだな。」カチャン

 

「おっとよせよせ悪かったよ。

 つい退屈で調子にのっちまったぜ。」

 

「アレックス怒らせると止まらねぇぞ。」

 

「俺達でも命拾いすることがあるんだな。」

 

「貴様等も私に剣を握らせることのないようにしておけ。」

 

「ハーイ」

 

「返事もろくに出来ない駄目な大人がいるとはな。

 えぇ?貴様達?」

 

「はいはい肝に命じておきますよ。

 ご当主様。

 ったくラーゲッツのせいで下げたくねぇ頭下げちまったじゃねぇか。」

 

「お前も下げてねぇだろ!」

 

「うち関係ねえし。」

 

「……で?話が逸れたがその手配書の奴等がどうしたんだ?

 石ころがやられた程度の話なのか?」

 

「見れば分かるさ。

 コイツらだよ。」ピラッ

 

「……アローネ=リム・クラウディア。

 …………美人だなぁ。」

 

「かなりレベル高くね?

 いけるっしょ?」

 

「氏名手配犯だぜ?」

 

「知るか!

 犯罪者なら何しても構わねぇだろ!?

 俺が拾ってもいいよな!?な!?」

 

「何でもいいのかよお前。」

 

「犯罪者にしておくには勿体ねぇよ。

 俺がもらうぜ。

 エコ精神だよ。」

 

「俗物が。」

 

「何かあんのか?ダイン。

 国が入らねぇもん貰って誰が困るんだよ?」

 

「家名に泥を塗るような真似は止めとけよ。」

 

「今更綺麗さを取り繕ったところで格が落ちるような家じゃねぇだろ。

 多少の汚れなんざどこの家にだってある。

 文句言われるんなら握り潰しちまえよ。

 そんくらいできんだろ。」

 

「お前のケツを何回拭けばいいんだよ。」

 

「常習犯のくせにウゼー。」

 

「ケツの汚ねぇ野郎だな。

 拭き方教えてやろうか?」

 

「んだと!ゴラァッ!!」バンッ!

 

 

 

「お前らそっちの女に注目しすぎだろ。

 注目してほしいのはこっちだって!」

 

「コイツがうちのブラムを……!」

 

「男になんか興味ねぇよ。

 女捕まえたらソイツは殺すだけだ。」

 

「どれどれ……カオス?カッコつけたつもりの名前…………これは!?」

 

「ご当主。」

 

「……」

 

「コイツらがブラムをやったのは丁度アルバート=ディランがいなくなったあの辺りの村だそうだ。

 死んだと思ってたが生きていた。

 生きて子供がいた、もしくは本人か。

 そういうことだろ?」

 

「同姓なだけか、それか俺達の威光にすがろうとそう名乗っただけの可能性は?」

 

「それで氏名手配されてちゃ馬鹿だろ。

 おかしなヤツだぜこいつは。」

 

「この村は数年前まで存在が知られていなかった村だ。

 生計も作物を育ててたてていたような。

 そんな村にいた奴が威光にすがるとして何になる?

 俺達を知っていて家名を名乗るのならもっと大きな都市でやる筈だ。

 これは間違いなく本名ととっていいだろう。」

 

「俺達の家名を名乗った奴なら前にもいたぞ。

 即刻捕らえて薬の被験体にしたがな。」

 

「アルバート=ディランの死んだと思われていた地点、その付近で見つかったコイツ。

 十中八九アルバート=ディランの血筋だぞコイツは。」

 

「その村にいるんじゃねぇかアルバート=ディラン。」

 

「そんな報告は受けてないが…。」

 

「受けてたら俺達の耳に届くだろ。」

 

「……さらにもう一つこの手配書には嬉しい話がある。」

 

「嬉しい話?なんだよそれ。」