ウボォーがギンギンになっていく (月光法師)
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1話

 少し時間が出来たから書きなぐった。他のも書きたい(切実)


 

 

 

 本来ならば有り得なかった一つの出会い。それは彼にとっての分岐点だった。盗賊として生きる人生に変わりはない。だが、変わったものが確かにあった。故に本来ならば『終わり』となった出来事が、『終わり』にはならなかったのも必然であろう。

 

 なに、気軽に見ていくといい。

 

 論理も倫理も善悪も、無駄にこねくり回して考える必要などない。突き詰めて考える必要もない。求めて手を伸ばす必要すらない。

 

 これはただ強く。ひたすらに強く。誰よりも強くあろうとした男の物語。

 

 単純明快な物語である。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そこは歴史的価値が高いと考えられていながら、未だに発掘及び検分が十分に為されていない古代遺跡群。

 その遺跡群から少し距離のある荒野にて対峙する人影があった。

 一人を中心にして囲む様な位置取り。中心にいる人物以外は既に疲労困憊の者ばかりであった。

 

 中心にいる浮浪者のような人物が面倒そうに口を開いた。

 

 「お前らもう分かっただろ?さっさと諦めて帰れ」

 

 どうやら浮浪者と見紛うような人物──ジン・フリークスは周囲の者たちと争っていたらしい。周囲の者たちのリーダー格が口を開く。

 

 「……なるほど。どうやら今の俺たちでは、どう足掻いても無駄らしい」

 

 比較的体力が残っているのか、ジンから視線を切って振り返り歩き始めた。

 

 それに釣られるように、ジンとの実力差を痛感した面々も退いていく。最後に残ったのは一人の大男であった。

 

 「……お前、名はなんてんだ?」

 「さっさと行けよ駆け出し盗賊。捕まえちまうぞ」

 「いいから教えろ」

 

 悪態を少し付き、それでも退きそうにない大男へ、これまた少しの沈黙を挟んでから名を告げた。

 

 「ジン・フリークス」

 

 大男はその名を胸に刻み込んだ。

 

 自身が完全敗北を喫した男の名を。

 

 手加減されていた。その上で大怪我を負わないよう気を使われていた。そして遺跡へ盗みに入った賊を捕らえることもしない。まるでお前らになど価値はないと言わんばかりだ。

 ジンからすれば、小物の盗賊を捕まえて態々荒野から街へ移動し警察に引き渡す、というような面倒なことをしたくなかったからなのだが。それは当然ながら大男には伝わらず、完全敗北という心の傷を作っただけであった。

 

 「ジン・フリークス。覚えとくぜ。俺はウボォーギン。その内またリベンジに来るぜ」

 「いや来んな」

 

 ジンの言葉を無視してウボォーギンも去っていく。背中を見せて去るウボォーギンへジンが最後に呼び掛けた。

 

 「言い忘れてた。また盗みに入ろうとすんじゃねぇぞ。今度はとっ捕まえるからなー」

 

 ウボォーギンが律儀に手を上げて答える様を見て、あいつ本当に分かってんのかと悪態をつくジン。それが初めての彼らの出会いであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 アジトへ戻ってきたのはジンと争い、そして敗れた者たち。ジンから駆け出し盗賊と揶揄されていた者たちだ。

 彼らの正体はまさにその通り、結成されたばかりの盗賊団。名を幻影旅団。彼ら自身は親しみを込めてクモと呼ぶ。

 まだ十代の者たちばかりで結成されている盗賊たちは今回の仕事(盗み)について反省をしていた。

 

 「今回はお宝盗めなかたね」

 「全部あの浮浪者のせいだ。誰なんだよアイツ」

 

 身長が一番低い細目の少年が呟き、眉なしのいかつい少年が吐き捨てるように言った。フェイタンとフィンクスだ。

 

 「ジン・フリークス」

 「あ? アイツの名前か?」

 「ああ。リベンジしたいし名前聞いといた」

 

 あっけらかんと答えるウボォーギンにフィンクスが頬をヒクつかせた。

 いつもは脳筋バカのクセに、こういう時だけ抜け目がないのはどういうことなんだ。とでも言いたそうな顔。

 

 「シャル」

 「了解」

 

 幻影旅団の団長がジンの名前を聞いて別の少年へ呼び掛けた。

 優しさが滲み出る容貌の少年。本名シャルナーク。彼は団長の言葉に返事をしながら、アジトに持ち込んだパソコンを使いジン・フリークスについて調べ始めた。

 

 「団長。このままじゃマズイんじゃないかい?」

 

 団長へと話し掛けたのは小柄な少女だ。幻影旅団に二人のみの女性。その一人、マチだ。

 

 「んだよ。お前こえーのか?アイツが追っ掛けてくるとか考えてんじゃねぇだろーな」

 「プッ。マチ、乙女ね」

 「バカは黙ってな」

 

 フィンクスとフェイタンが煽る。がマチは相手にせず、逆に二人がキレ気味になる。なんとなく旅団のヒエラルキーが分かってしまう瞬間だ。

 

 「マチ、続きを言ってみろ」

 

 団長はそれを気にせず、マチへ視線を向けて先を促した。

 

 「単純な話さ。このままだとクモはすぐに死ぬんじゃないか、ってね。今回の仕事で足りない部分が色々と見えてきたからさ」

 

 クモが死ぬ。つまり、幻影旅団という組織が消滅するかもしれない。マチはそう言っていた。

 今回の仕事で見えたクモの未熟さ。そしてジンとの戦闘にて、世界にはクモを簡単に潰せる手合が多数存在するのではないかという危機感。

 ジンという強者が仕事先に存在していたというのも、旅団員の情報網の拙さを感じさせる。

 

 「マチの言っていることは正しい。今回の仕事で俺たちクモは生き残ったが、それは偶然でしかない。あの男、ジンがクモを見逃しただけだ」

 

 その場にいる面々を見渡しながら団長は言った。

 クモの手足はこれからの重要な話であることを悟り、皆が静かに団長を見ていた。それはフィンクスやフェイタンも例外ではない。

 

 「俺たちがクリアすべき課題は主に三つだ。一つ、俺たち個々の実力を練り上げること。肉体面、精神面、そして念能力」

 

 彼らは皆が流星街の出身であり、幼少期からの付き合いだ。念についての知識や基礎はそこで得ており、伸ばすとすれば個人に見合った能力。所謂『発』と呼ばれるもの。分かりやすく言えば必殺技だ。

 勿論、念の基礎能力上昇も行わなければならない。

 

 「二つ、情報戦に強くならなければならない。ああ、戦闘時のことを言っているんじゃない。世界のことについてもっと知るべきだと言っている。更には欲しい情報を欲しい時に入手できるようにもなるべきだ」

 

 現在はシャルが機械関連に最も強く、ついでとばかりに情報収集担当となっている。だが彼らは流星街出身。余りに世界を知らなかった。

 実戦における生き残るための情報戦ならば、彼らは強い。だが広い世界に出たとき、それだけでは足らなかった。駆け出しの彼らは仕事一つこなすだけでも多くの情報を得る必要があると知ったのだ。

 彼らは駆け出し盗賊だ。故に今回の仕事も拙いものであった。欲しいものがあるからと盗みに行ったはいいものの、事前に得た情報がお宝の場所だけという稚拙さ。それも大雑把なもの。遺跡の中に存在する、その程度の情報。

 警備にはどの程度の人数が就いているのか。またその質はどれ程のものなのか。遺跡内部のお宝へ通じるルートは。また脱出時の幾つかのルートは。

 そんな素人であっても思い付くようなことすら出来ていなかった。

 流星街では敵なしであった強さが招いた慢心。傲慢。油断。今回の一件はそれを拭うに足る出来事であった。

 

 「三つ、更なる手足が必要だ。それはクモとしての新たな団員。そして外部の協力者や同盟者。増えれば増えるほどリスクも高まるが、同時に戦力も増えて、情報も得やすくなる。ああ、新たな団員に関しては此方で見繕う。お前たちは考えなくていい」

 

 新たな手足の増加。それが最後の一つ。

 それに付きまとうリスクは大きい。

 

 裏で生きる者にとって、約束やルールは最たる重要度を誇る。その二つが出来ない者は裏の世界において爪弾きにされてしまう。いや、出来なかった瞬間が命の終わり、ということも珍しくはない。

 裏の住人は倫理観に乏しい者も多く、狂った者も珍しくはない。そしてそういった者に限ってルールやマナーを率先して破り、場を掻き乱す。

 しかしそれもまた仕方のないこと。表で生きられない者。裏を好む者。裏で生まれ表に出る術を知らない者。様々なタガの外れた者たちが集まってしまうから。

 そしてルールやマナーを破った者たちは人知れず消えていく。いや、消される。

 表であれば謝って済む問題も、裏では決定的な人生の終焉となる。表ではグレーでも赦される。だが裏は何処までも白黒をハッキリと着ける。

 

 そして怖いのはそのような者たちに巻き込まれることだ。

 

 クモは裏で生きている。故にそんなタガの外れた連中の中から信用出来る者たちを探さねばならない。信用の出来ない者と繋がった瞬間、その者が『黒』であった瞬間、クモの死は確定してしまうだろう。

 

 それからクモは今後についての擦り合わせを行った。当面の目標や、各々の役割をハッキリとさせ、クモをより強く、大きくしていくために。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 『おい、暇ならちょっと付き合えよ』

 

 そんなウボォーの掛け声により、アジトで解散したクモの内の幾人かは珍しく行動を共にしていた。仕事や団長からの命令ではない。故にとても珍しいことなのだ。

 

 「しっかしまぁ修行で山籠りするやつ奴なんざ初めて見たぜ、っと!」

 

 人里離れた山奥の奥。眉なしのフィンクスが呆れたように言葉を漏らす。

 そう。現在団長とシャルナークを除いたメンバーはウボォーの誘いにのり、山籠りとも言うべき修行を行っているのだ。

 

 既に山籠りを初めて三ヶ月が経過していた。

 今更なに言ってんだ。そんな目でウボォーはフィンクスを見た。

 

 「やっぱ強くなるならコレだ、ろッ!」

 「うおっ! ホントに脳筋だなこの野郎!」

 

 現在はウボォーとフィンクスが死合いのごとき模擬戦を行っている。

 基礎能力を練り上げ、必殺技に磨きをかけ、一日の終わりに模擬戦を行う。マチ、パクノダ、フェイタン、電話越しのシャルナークで決めた修行メニューだ。その模擬戦闘を夕焼けの中で実行している。

 

 「アハハ、脳筋ってブーメランだよね」

 

 ウボォーとフィンクスの殴り合いながらの掛け合いに、金髪の少年が返答した。

 

 「おいそれどういう意味だッグワァ!?」

 

 フィンクスが殴り飛ばされた。実践でないからと一瞬気を緩めて金髪の少年に反応したのだ。当然そうなるに決まっていた。

 

 「うおぉ……痛ぇ……ってシャル! なんだよハンター試験もう終わったのか!」

 

 金髪の少年はシャルナーク。どうやらハンター試験というものを受験してきたらしい。

 

 「まぁね。ちょっと時間はかかったけど、内容自体は簡単だったからさ。無事にハンター(ライセンス)を取得できたよ」

 「ほぉー、じゃあこれで情報関係の伝が広がったってわけだ。んで脳筋ってどういうことだ」

 

 フィンクス、意外と気にしていた。

 

 「発が腕グルグルとか脳筋だよね」

 「ハイ決めた。今コロす。速攻コロす」

 「そういう短絡的なとこもだよね」

 

 ドカバキドゴ。

 

 二人が殴り合っている横でウボォーはパクノダに近付いた。

 

 「今日の飯はなんだ?」

 「カレーよ」

 「またかよ、お前レパートリー少ねぇな」

 

 粗野な見た目に違わず、ウボォーはパクノダにストレート。パクノダの額に青筋が浮いたのは見間違いではないだろう。

 

 「あなたたちが大食いだからよ。こっちの方が効率的でしょ」

 「そうかもしれねぇがよ。もっとなんかねぇのかよ。フィンは動物丸焼きだし、フェイも丸焼き、マチは毛皮剥ぐけど丸焼き、ノブナガに至っては生肉。………あれ、パクすげぇな」

 

 あれ、旅団やべぇな。

 

 「丸焼きが嫌なら自分で料理するいいね」

 「あんたたち相手じゃ料理作ったって味が分かんないだろ」

 「俺のは生肉じゃなくて刺身だっつってんだろ」

 

 フェイタン、マチ、ノブナガが何かを言っているがウボォーは無視した。

 料理に関してはパクノダが一番マシらしい。

 

 ちなみにこの料理。毎日模擬戦闘を総当たりで行い、一番黒星の多いものがその日の料理当番となる仕組みである。

 唯一ウボォーギンは一度も料理をしたことがない。つまりはまあ、そういうことである。

 

 「それにしてもそろそろ修行に変化が欲しいな」

 

 言い出したのはノブナガ。顔に青アザを作りながら思案顔だ。

 

 「つーかウボォーも料理当番やるべきだろ」

 

 多分こっちが本音。

 

 「じゃあバトル・ロワイアルなんてどう?」

 

 殴り合いを止めてボロボロになったシャルナークが言った。

 これまたボロボロになっているフィンクスと二人で皆が集まっている方へと近より、全員の顔を見渡してから続ける。

 

 「模擬戦したあとにバトル・ロワイアルを追加するんだ。料理当番はバトル・ロワイアルで一番最初に脱落した人がやる。どう?」

 

 皆の顔にはやる気が目に見える浮き上がっている。

 勿論ウボォー自身にもだ。お前らが徒党を組んで挑んできても打ち勝ってやるぞ。そんな気概が溢れている。

 ウボォー以外は料理にケチつけるウボォーを料理当番にしてやると気炎を上げる。早速チームを組んで叩き潰すつもりである。アイコンタクトを取る姿がそれを如実に物語っていた。動機はアホ臭いがかなりやる気である。

 

 「あ、そういえばもう少ししたら団長もこっち来るって」

 

 楽しそうにシャルが付け加えた。

 ──みんな、分かるよね?

 目がそう語っている。

 

 皆のやる気が、天限突破した。

 

 

 

 

 

 





 タイトルは適当。別に18禁のお話ではないゾ。


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