俺がお嬢様学校で念能力を広めた件 (香草)
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俺がお嬢様学校で念能力を広めた件

キャラつめこみ過ぎたかな……?
原作知ってる人向けです。


「また、おかしな噂を広めてくれましたね」

 

 突然学長室に呼び出された俺は、なぜかほんのり微笑んでいる学長にいきなりそんなことを言われた。

 うふふと笑っている学長の横では、憮然とした顔のみゆきが黙って立っている。

 

 俺は冷や汗が止まらなかった。

 

 みゆきはメイド長で、俺の妹的な存在。それが絶対零度の視線を向けている。

 学長はうふふと謎の微笑を浮かべながら、口を開いた。

 

「話は変わりますが、庶民はどのようにイチャつくのか、キスあたりまで是非神楽坂さんに実演をしていただきたく。相手はガチムチの男性を学園で用意して――」

「ちょっ! ちょっと待ってください! この学園ではそういう下品なことはご法度だったのでは?!」

「時代は流れ行くものなのです」

「俺がきてからまだ一年と経ってねぇよ!」

「人の思いに、時間の長さは関係ありません」

「自分で矛盾してること言っちゃってるのわかってます?!」

 

 学長はうふふと笑うだけだった。となりのみゆきは外行きモード、済ました表情で後を引き継ぐ。

 

「安心して下さい。実演は一週間で5回を予定しており、相手はその道のプロです」

「どの道なんですかねぇ?! 回数も多いし安心できる要素がねぇけど!?」

「お嬢様の夜会で実演をしていただきますので、そのおつもりで。ただしあくまで練習なので、よからぬアドリブなどにはご注意下さい」

「あらあら、そうねぇ。脱がれすぎても困るものねぇ」

 

「ほんとにィィィィ! 申し訳ッございません―――ッッッッ!!!!」

 

 

 俺は全力でDOGEZAした。

 こうなってしまったのは、ちょっとした出来心だったんだ。

 床に額を擦り付けながら、俺はそれを思い返していた。

 

 

 

 □

 

 

 

「公人、どしたの? 辛気臭いマヌケな顔して」

 

 庶民部という俺の部屋でやっている部活のネタが思いつかない。

 それで俺が頭を抱えていると、ノックもせずに入ってきた愛佳が珍しいものをみたような顔をした。ひと言余計だ。

 愛佳はいつも通りのツーテールに結んだ赤いリボンという格好で、もはや自室の如き気安さでベットに腰掛ける。こいつも庶民部だから、もはや俺の部屋というより出入り自由な部室という認識なのだろう。

 まぁ、それはいい。他の3人のメンバーも同じだ。

 

「どうってな……」

 

 しかし、部活に悩んでいた、というのも情けない。

 なんと説明したものかと悩むうちに、愛佳(ざんねんな子)が何か思いついたようにニヤリとした。ムカつく顔だった。

 

「わかった! さては変なもの食べたのね! 意地汚いんだから!」

「……ああ、実はそうなんだ」

「やっぱり!」

「腹の中が腐ってるような猛烈な痛みがある……おそらく、このまま死ぬだろう」

「えっ! 死!? ちょ、ちょっと、大丈夫なの?」

「いや、もうダメだ……すまん愛佳、お前のこと、人気者にしてやりたかったけど……ぐあぁっ」

「や、やだ! ど、どうしよう? 病院に行かなきゃ……公人が死んじゃう!」

「病院じゃもう間に合わない……こんなとき、あの儀式ができれば……」

「ぎ、儀式ってなに!?」

 

 掛かった。

 

「コップの水に向かって、とある儀式をすることで浄化の力が宿るんだが……」

「じょ、浄化の力? なんか胡散くs――」

「ぐぁぁああっ!」

「ちょっと大丈夫!? な、なによ、どうやるの?」

「ありがとう愛佳。けど、お前にそんな胡散臭いことをさせるわけには……うぐぅっ(迫真)」

「やる、やるから! 早く教えなさいよ」

「すまない……。そしたら、まずはコップに水を用意してくれ」

「わかったわ!」

 

 愛佳は慌ててコップを持ち出して、そのなかにミネラルウォーターを注いだ。

 

「できたわ!」

「そしたら、そのコップに向けて両手をかざすんだ」

「こう?」

「もうちょっと肘を伸ばして」

「こうね」

「いい感じだ。そのまま、コップに向かって念を送り込むんだ」

「念ってなによ!」

 

 愛佳はいい感じに必死だった。

 

「身体の中に満ちるパワーだ。その力を込めることで、水に特別な力が宿る」

「わかんないわ……どうしたらいいのよ」

「まず、自分の身体の中に水が流れているのをイメージするんだ」

「み、水ね」

「そうだ。それが血管を通り、愛佳の全身を巡っている様子を思い浮かべてくれ」

「巡ってる……巡ってるわ」

「それがパワーだ。正しくは(オーラ)という」

「そ、そうなの? 特別な感じはしないのだけど」

「強く集中するんだ」

 

 ――ピッ。

 俺はハロゲンヒーターの電源を入れた。

 

「あれ……? なんだか、だんだん身体が暖かくなってきたわ!」

「いいぞ! 今、愛佳の身体の中で、(オーラ)が活性化している!」

「そうなのね!」

「素晴らしい才能だ、愛佳! お前は100万人にひとりの逸材かもしれん!」

「ま…‥まぁね! あたしにかかればこのくらい余裕よ!」

「よし、じゃあその力を水に向かって流し込むんだ」

「ど、どうするの?」

(オーラ)がコップの水に向かっていく強いイメージ。そしてハツ、と唱えるんだ」

「は、ハツ!」

「その調子だ! 何度も繰り返して唱えるんだ!」

「ハツ! ハツッ! ハツゥゥッ!」

「おお! だんだんと水に(オーラ)が移動しているのがわかるぞ!」

 

 ――ピッ。

 俺はハロゲンヒーターの電源を切った。

 

「ど、どうしよう! 熱が、熱が消えてくわ!」

「良いんだ! いま凄まじい勢いで(オーラ)が水に流れ込んでいる! これなら助かるかもしれん!」

「そ、そうなのね!」

「ぐっ、げほ、ゲッホ」

「公人! ま、まだなの?」

「そ、そろそろ大丈夫だ。その水を俺にくれないか……?」

「いいわ! あげる!」

 

 手渡された水を、俺はごくごくと飲み干した。ただの水だ。

 

「おおっ。さすが愛佳だ! 一発で治ってしまったぞ!」

「へ、へへへ……!(ニマニマ)」

「素晴らしい才能だ。もう愛佳は立派な念能力者だな!」

「念能力者?」

(オーラ)を自由に使いこなすマスターのことだ。庶民でも極少数しかいない。さすが愛佳だ。もう俺を越えている」

「あ、あたしにこんな才能があったなんて……!」

「おまえは命の恩人だ、愛佳。本当に助かった。ありがとう」

「え、えへへ……まぁ、ね? そういう殊勝な態度なら、これからも助けてあげないことないわ……。念能力者のあたしに、感謝することね」

「ありがとう愛佳。お前がナンバーワンだ……!」

「んふふ~~~! 良いってことよ!」

 

 愛佳は上機嫌でベットに横になると、身体を真っ直ぐにして、目を瞑っていた。

 

「…………」

 

 ピッ。

 俺はハロゲンヒーターの電源を入れた。

 

「ふっふっふ……」

 

 愛佳が満足そうに微笑んでいる。

 ここまで想像通りのことをしてくれると、もはや滑稽を通り越して純粋に嬉しさを感じるな。

 ふぅ…………さて、そろそろネタばらしして、(ボコ)られとくか。

 

「愛――「公人様!」

 

 ガチャリ、と慌てた様子で麗子が入ってきた。

 麗子はそのままずんずんと俺のところに歩み寄り、くいっと袖を引く。お嬢様・オブ・お嬢様の麗子らしくない焦った様子に、俺も驚いて固まる。

 整った容姿をいまは焦燥に焦らせて、なにかただ事じゃない雰囲気だ。

 

「ど、どうしたんだ?」

「実は、白亜様が廊下で突然、倒れてしまって……」

 

 俺の脳裏に、小学生にしか見えないショートカットの女の子が浮かび上がった。

 

「白亜が?」

「いま、メイドの方が様子を見ているのですが、体調がよろしくないようで……。わたくしどうすれば良いのか分からず、何かご存じないかと公人様に見てもらおうと思いましたの……」

「それなら、念能力者のあたしの出番ねっ!」

 

 瞑想していた愛佳が跳ね起きた。その自信満々な様子に、麗子が嬉しそうな表情を見せる。

 

「まぁ! 愛佳さま、何かお心あたりがありますのね!」

「ふふふ、あたしのオーラで、一発で治して上げるわ! 公人、これ借りてくからね!」

 

 そう言って、止める間もなくコップに水を注いで出ていく。麗子が、慌てたようにそれについていった。

 マズイ。

 俺は冷や汗をかいた。

 慌てて後を追ったが、愛佳はめちゃくちゃ走るのが早くて、一瞬で置いていかれてしまった。

 

「あれ……? おかしい、熱くならないわ」

 

 遅れて俺と麗子が到着すると、愛佳はすでにコップの水を前に念を送っているようだった。

 人混みをかき分けたので。さらに遅れた。

 

「ハツ! ハツッ! ハツッ!! ハッッツゥゥゥゥッ!!!」

 

 もちろん、愛佳のその奇妙な光景は、集まっていた他のお嬢様やメイドに目撃されている。

 あまりの痛々しい光景に、俺は声も無く立ち尽くした。

 

「ど、どうしたのかしら……(オーラ)を感じないわ……」

「愛佳様、一体どうされたのかしら。あのような珍妙な……(ヒソヒソ」

「全くわかりませんわ。春の陽気に当てられてしまったのかしら(ヒソヒソ」

「ああ、お可哀そうに……(ヒソヒソ」

 

 これ以上はまずい。

 俺は愛佳の肩を掴み、とりあえず「ハツゥ!! ハむぐっ」口を塞いだ。

 さすがに、この場で嘘だったと告げると愛佳が絶望で死ぬかも知れない。以前に俺の命も危うい。

 俺は小声で愛佳に耳打ちをした。

 

「愛佳、(オーラ)はどんな達人でも日に何度も使えるものじゃない。今日はもう使ってしまったから、すぐには無理だ」

「そんなことないわ! あたしは1000万人にひとりの天才よ!」

 

 いつの間にかゼロがひとつ増えていた。

 また周囲に焼き肉の部位にしか思われない呪文を唱えだそうとするので、俺は慌てて愛佳を止めた。

 ちらり、と白亜を見てみるが、規則的な呼吸もしているし、寝ているだけに見える。

 大方、腹が減って倒れて、そのまま眠ってしまったんだろう。

 俺はいつでも白亜用に携帯していた駄菓子を取り出し、それを愛佳に握らせた。

 

「まて。さっきは慌てて忘れていたが、これには俺が日頃から(オーラ)を送り込んでいたものだ。こいつを白亜に食べさせれば、きっと回復する」

「でも……あたしが……」

「今は、時間が大切だ。覚醒したばかりで疲れているんだ。愛佳なら、わかるよな?」

「……うん」

「よし」

 

 愛佳は駄菓子を持って、白亜を抱き起こした。そのまま、口元に封を開いた駄菓子――焼き肉さん太郎を近づける。

 果たして、ピクリと白亜は反応し、焼き肉さん太郎をかじった。

 

「わぁっ!」

「白亜さまがお目覚めになりましたわ!」

「愛佳さま、素敵ですわ!」

 

 愛佳は少々面白くなさそうだったが、称賛されて悪い気分でも無いのだろう。少し得意そうに胸をそらした。

 

「のど……乾いた……」

「あ、なら水があるわ。(オーラ)には失敗しちゃったけど、普通に飲めるから。さっき公人が使ってたコップだけど、良いよね?」

 

 愛佳の言葉を聞いた瞬間、しゅぱっと白亜はすばやく手を伸ばして、コップを掴んだ。そのまま、躊躇いもなくコップに口を付ける。

 ぐびぐびと飲みきり、ぺろりと満足そうに唇を舐めた。

 

「……ん」

 

 もぞもぞと白亜は動き、立ち上がる。

 そのまま俺の姿を見つけると、幼い子のように近付いて、俺の袖を掴んだ。

 ざわっ、と近くにいた白亜付きのメイドたちの方から、何か揺れのようなものがあった気がした。

 

「公人……部屋に行く」

「あ、ああ……。そうだな。愛佳も来るか?」

「わたくしもご一緒しますわ、公人さま」

 

 そうして、三人で俺の部屋に戻る。

 子供のような白亜が俺のあぐらの上に座り、俺を座椅子代わりにした。これもいつものことだ。

 対面に愛佳と麗子も座り、さてどうしようかと考えたところで、部屋に新たな人物がやってくる。

 腰に日本刀をぶら下げた危険人物――もとい、本格派ぼっちの可憐だ。武家の娘のような凛とした雰囲気だが、中身は相当なポンコツだということを知っている。

 

「外で結構な騒ぎになっていたが……主に愛佳のことで。なにがあったんだ?」

 

 それを聞きに来たそうだ。

 そりゃそうか。あれだけ目立つ真似をすれば噂にもなるだろう。

 

「実はね! あたし念能力に目覚めたのよ!」

「念能力?」

 

 無邪気に笑う愛佳が、嬉しそうに返事する。俺は胃が痛くなりそうだった。

 他の面々は何いってんだコイツみたいな顔をしていたが、新しい力(偽)に目覚めた愛佳は気にした様子もない。

 

「念能力ってのは、身体に流れてる特別なパワーのことで「愛佳」

 

 俺は意気揚々と説明しだした愛佳を止めた。

 白状するならこのタイミングしか無い。

 

 

「あれは嘘だ。悪い」

 

 

 もちろんボッコボコにされた。

 

 ちなみに愛佳はわざわざ、ハツの直前に堂々と念能力を宣言していたらしく、いま学園では新能力開発がブームになってしまった。

 

 結局、必死のDOGEZAが功を奏し、ガチムチの宴は回避できた。

 それだけは本当に良かった。




原作の方でこんなネタあったかもしれないな、とちょっと不安げ。
既出だったら申し訳ない。時系列的には(どこでもいいけど)8巻とかそのへんです


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