冥界の女神は元Aチームマスターの夢をみるか (Reji)
しおりを挟む

番外編『偽り』の聖杯戦争 スノーフィールド 
もう一人のイレギュラー


.

本編の主人公使ったFate/strange Fakeの二次創作です


是れはカルデアには記録されていない 

 

()()()『聖杯戦争』 の物語だ。

 

 

 

 

真実は、時に世界の偽りを叩き潰す。

 

だが、『偽りがそこに存在していた』という真実は消すことができない。

 

たとえ聖杯の力を借りたとしても。

 

 

 

 

2018年12月23日 午後2時 カルデアス

 

かつて人理を修復する者の一人だったはずだった男――誠・エルトナム・シリウスは自分が乗り込むはずだったコフィンを昔を懐かしむように優しく撫でるように触っていた。

 

「マスター、あんまり弄らない方がいいんじゃないかしら?」

 

それを止めるのは誠をマスターと呼ぶ少女。誠のサーヴァントの冥界の女神ことエレシュキガル。始めはなし崩し的に契約した二人だったが今ではエレシュキガルの協力を得ることに成功していた。

 

二人は来たるべき時に備えて戦闘シュミレーションでその日の特訓を終えた後だった。26日の査問官訪問だ。いや襲来といった方が正しいのかもしれない。彼らは絶対にカルデアに対して行動して来るだろうと確信していた。いざとなればすぐ戦えるように訓練中なのだ。

 

「ちょっとぐらい大丈夫でしょ」

 

エレシュキガルの注意をさらっと受け流し、ズカズカとコフィンの中に入っていく。

 

その時、誠はカルデアスの色が変色しているのに気がついた。

 

「エレちゃんちょっと!」

「きゃっ!」

 

それに何かを察した誠はエレシュキガルの手を引き同じコフィンに連れ込んだ。

 

すると何者かに閉じられたかのようにコフィンの扉が閉まる。開けようとしてもびくともしない。

時刻は深夜2時。立香達や職員達も床に就き、ダヴィンチもホームズも工房で作業している。そのためこの空間には誠とエレシュキガル以外に誰もいない。

 

次の瞬間、誠は今まで生きてきて体験したことのない感覚に見舞われた。まるで誠にかかる重力が消え完全に無重力空間にいるかのようにプカプカと浮いているような感じだろうか。つま先と手先から感覚が消え体中が光で包まれる。そこから感染するかのようにどんどん体が光の粒子となって虚空に溶けていく。その時、耐え難い眠気とも呼べるようものが誠を襲った。誠は必死に耐えようとしたのが、徐々に意識は遠のいていく。そして誠は諦めたように意識を手放した。

 

 

夢を見た。

場所は、見たことない街。

いくつもビルが天を擦るように(そび)え立ち、地を歩くこちらを青空ごと呑みこもうかという勢いだ。

南北と東西に貫くそれぞれの道路が交わり、上空から見れば巨大な十字架が浮かび上がっているように見える、まさしく『街の中心』とでもいうべき場所だ。

 

この大通りだけを見るならば、NYやシカゴと比肩しうる都市とも受け取ることができるだろう。それほどまでに、この通りは突出した発展を遂げており、街の周囲に広がる様々な自然に対して、自らも自然の一部である―――――いや、自らこそが自然の完成系なのだと主張しているかのようだ。

 

だが――違和感はある。いや違和感しかないだろう。(はた)から見てもすぐにわかるくらいに。

 

その夢の中の街の光景は、()()()()()を残して人間というものが完全消え去っていた。

 

誰もいない交差点。

 

車は一台も走らない。

 

音は疎か臭いすらも存在しない。

 

だが、道路の中心から見る住宅地。そこにある一軒の広い庭付きの豪邸に()()()()はいた。そしてその少女の傍には()()()()()が寄り添っていた。その黒いナニかは形容し難い外観しており黒いモヤのようだった。もはや形等というものはないのかもしれない。その少女は黒いモヤにしきりに話しかけているようだった。

 

誠は自分が何故こんなものを見せられているか分からなかったがこれだけは言えた。

 

――――その少女はとても幸せそうだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

周りの騒音で誠は目を覚ました。

 

「あらマスターやっと起きたのね」

 

目を開けるとエレシュキガルに膝枕されていた。

 

「膝枕ありがとう、エレちゃん」

 

「こ、これは仕方なくして上げただけなのだわ」

 

赤面するエレシュキガルを尻目に誠は起き上がり周囲を見渡す。先程まで深夜だったはずなの太陽が昇り、地を照りつけている。どうやら草原の木の影で寝かされていたようだ。そよ風が頰を撫でるように過ぎ去っていく。誠はこの草原とその風に何か懐かしいものを感じた。

 

「エレちゃん俺達がここにきて何分経った?」

 

「10分くらいかしら?」

 

誠の真剣な声にエレシュキガルは落ち着きを取り戻して答えた。

 

単純に今の状況を説明するとレイシフト―――擬似霊子転移。疑似霊子変換投射。人間の魂のデータ化させて異なる時間軸、異なる位相に送り込み、これを証明する空間航法。時間跳躍と並行世界移動のミックス―――すなわち空間転移やタイムトラベルのことである。それを誰かが行なったのか分からないため確証はないのだが。この不測の事態に通信機持ってきていない自分を恨みながらその場で立ち上がった。

 

「どこへ行くの?マスター」

 

「取り敢えず歩こう」

 

誠とエレシュキガルは草原沿いの道を二人並んで歩き出した。すれ違う人を見てここはカルデアの資料で見た特異点なるものでないと誠は安堵のため息を漏らす。

 

 

1時間くらい歩いただろうか。周囲の風景も草原から賑やかな街へと一転し、誠には見覚えもあるものが見えてきた。

 

そう時計塔だった。

それは通常ならばロンドンの観光名所として受け取られる単語だろう。

だが魔術師達の間では全く違う意味合いを持つ単語である。

魔術協会における三代部門の一角。ロンドンに拠点を置き、時代に適応し、人類史と共に魔術を積み上げる事を是とした魔術師たちの総本山。

 

ここは紛れもなくイギリスである。

 

自分の見知った場所だと誠は安心していると、ふと自分達が少し視線を集めて入ることに気がついた。誠は再度自分の服装を見返した。アトラス院が「最強であるものを作る」目的で試作した魔術礼装を見に纏っている。幸いおかしなところは何もないように思われる。誠は心の中でアトラス院制服製作者にお礼をした。誠がアトラス院に初めて心の底から感謝した瞬間かもしれない。

 

しかし、おかしいのはエレシュキガルの方であった。赤と黒のドレスで身に包んでいるのはいいが太ももから下が丸出しなのだ。これは痴女と言われても否定できないであろう。

 

「何かしらマスター?そんなにジロジロ見て」

 

そして当の本人は無自覚である。その事を誠がそれとなくエレシュキガルの耳元で教えるとエレシュキガルは慌てて近くのトイレに駆け込んだ。そして第三再臨の黒を基調としたドレスを着てエレシュキガル出て来た。余程恥ずかしかったのか顔はりんごのように赤く染まっている。

 

「こ、これなら問題ないわよね!?」

 

「そ、そうだな」

 

誠の肯定の返事に安心したのかエレシュキガルは安堵のため息を漏らす。

 

「早く行こうエレちゃん」

 

「ん?分かったのだわ」

 

しかし、今度は別の意味で視線を集めそうなわけで。周りの男連中に嫉妬されないよう誠はエレシュキガルを連れ足早にその場を後にした。

 

エレシュキガルは誠の手に引かれるがままに歩いた。そして、時計塔の前まで来る誠は足を止めた。

 

「ここは?」

 

時計塔の裏の意味を知らないエレシュキガルは当然の質問をする。

 

「ここは簡単に言うと魔術師達の学校だ」

 

「ふ〜ん」

 

エレシュキガルは誠の説明を興味なさげに返事をすると時計塔を見上げた。

 

「ここに頼りになる顔見知りがいてな、その人ならなんとか力や知恵を貸してくれるかもしれない」

 

前、誠は世界各地を転々としていたためが顔が広いためこういう時に便利だ。

 

顔見知りといっても、ここは元いた世界とは違う可能性の方が高いわけだし、その場合はこの世界の誠自身が彼と関係を持ってくれていることを願うばかりなわけだが。

 

いざ彼の元へ――――

 

簡単に会えるわけがありませんでした。

 

仮にも彼は『君主(ロード)』である。

 

ロード。時計塔の12学部にそれぞれ君臨する、12人の学部長達に与えられし称号。そんな大人物に何の審査もなく会えるわけないわけで―――

 

「お前達は何者だ!」

 

「だから知り合いっつってんだろ」

 

誠達は時計塔の廊下で尋問を受けていた。身分を証明するものなんて持っていないため何をいってもそれ証明するものなどない。

 

――――魔術師は魔術師らしく自分のことだけ考えてろよめんどくせえ

 

「騒がしいな」

 

力ずくで行ってやろうかと誠が考えている時だった、廊下に男の声が響き渡った。

 

思わず誠も声の主の方を見やる。

 

「彼は私の知人だ。早く私の応接室に通せ」

 

「いや、しかし……」

 

警備員が納得しかねるような声を上げる。

 

男は長髪を靡かせる30代前後の男で、赤いコートの上に肩帯を垂らし、その上には如何にも不機嫌といった顔を浮かべていた。

 

男の威厳にたじろいだのか、警備員は観念したのかどこかへ去ってしまった。

 

「流石、先生ですね」

 

「君に先生と言われる筋合いはないのだが……。誠君」

 

「じゃあ、なんて呼べばいいんですか?()()()()()I()I()()さん」

 

彼こそ時計塔の12人の君主(ロード)の一人。現代魔術科学部長である。

 

「プロフェッサー・カリスマを持つグレートビッグベン☆ロンドンスターことマスター・Vに頼みがあるのですが……」

 

「その名では呼ばないでくれ!」

 

誠の弄りにエルメロイは悲痛を叫ぶ。

 

――――どうやら俺の知っているエルメロイ二世と言う男のようだ。

 

エルメロイは誠の後ろに控えている金髪の少女を見て、驚愕の顔を浮かばせる。

 

「な、何かしら?」

 

エレシュキガルはまだ自分の格好がおかしいのかと思い、慌てて自分の来ている服を見る。

 

「に、似ている」

 

「どうしたんですか先生」

 

「いや、ここの生徒に彼女にとても似ている生徒がいるのだが……。つかぬ事を聞くが君姉妹などはいるのだろうか?」

 

「妹ならイシュ――」

 

「彼女は確か一人っ子だったと思います!先生!」

 

エレシュキガルが馬鹿正直に答えるものだから慌てて誠が割って入る。

 

「そ、そうか」

 

「はい!」

 

世界には似ている人が3人いるといのうのは本当のことだったのか、なんてことをエルメロイはブツブツと呟くと気を取り直したように言った。

 

「取り敢えず君たち私の部屋に来たまえ」

 

 

――――――――――――

 

「では先生事情を説明しま――」

 

「残念ながら事情を聞くことはできない」

 

ソファーに腰掛けいざ本題に入ろうとした誠の口をエルメロイは遮る。

 

「そんな!?めっちゃ聞いてくれる雰囲気じゃないですか!」

 

「それを聞くとこちらが協力せざるを得なくなるかもしれない。だが、今はそれどころではないのだ」

 

「そこをなんとか!」

 

「駄目だ。……いや待て」

 

何か名案を思い浮かんだのかエルメロイは口元を緩める。

 

「何ニヤニヤしてしてるんですか先生」

 

「君は私に一つ貸しがあるだろう?」

 

誠は過去の記憶を探り、一つ思い当たる節があった。

 

「忘れたとは言わせんぞ、貴様がどこからか知らんが逃げて来ていきなり匿ってくれなんて言ったあの夜を」

 

誠はアトラス院からの逃亡過程でここに来たのを思い出した。

 

「分かりました、その頼み受けましょう」

 

「ちょっ、今は時間がないのよ!?他人の頼みを聞いている時間なんて……」

 

エレシュキガルが誠の耳の下で小さな声で叫ぶ。

 

「大丈だよ、エレちゃん。なんとかなる!」

 

「今回ばかりはなんとかなりそうにないのだわ……」

 

今、誠達の置かれている状況ははっきり行って異常だ。いきなりイギリスに連れてこられるなんて異常以外の何物でもないだろう。

 

――――抑止力かなんだか知らないがこんなことしておいて、その辺は辻褄合わせてくれるだろう。

 

「受けるとうことでいいのだな?」

 

「はい、でもその前に一つ質問があります」

 

「なんだ」

 

「今は西()()()()でしょうか?」

 

エルメロイはその質問に眉をひそめる。

 

「……今は西暦2015年だが……」

 

「そうですか分かりました」

 

誠の質問で調子を崩したのか、調子を戻すよかのうにエルメロイは自分用の社長椅子に腰を下ろし、話を始めた。

 

「今、アメリカで『聖杯戦争』が行われている」

 

聖杯という言葉に誠は息を詰まらせる。

 

「君はフラットという生徒を知っているか?」

 

誠は記憶を探り持っているフラットに関する情報を口に出していく。

 

「はい、フラット・エスカルドス。期待の神童としてここ時計塔に入学するも魔術師としては欠陥品。中でも他人に干渉する魔術は天才的。たらい回し形式で最終的に先生のところに行き着いたということくらいしか」

 

「あいかあらず、君に記憶力も大概だな。一体その情報はどこで仕入れた?」

 

「ちょっと、記憶力がいいだけですよ。前、来た時に先生が嘆いてましたよ」

 

「そういうことにしておこう」

 

そう言ってエルメロイは話を戻す。

 

「その天才馬鹿が、遊び感覚でアメリカの聖杯戦争に勝手に参加して、これまた勝手にサーヴァントを召喚してしまったのだ。私が現地へ赴きたいのはやまやまなのだが君も気がついていただろう?」

 

誠はこの部屋に来るまでに感じた視線はそういうことだったのかと納得する。

 

君主(ロード)が外部に赴くことは基本禁止されていてな。それで君達に代わりに行ってもらいたい。明後日の飛行機の便でな。それでフラットを守ってもらいたい。君はフラットと比べれば劣るかもしれんが才能もあり、何より実践経験がある。頼んだぞ」

 

誠はエルメロイの提案を呑んだ。それからエルメロイからお金を貰い二人分の私服を買い。そこから装備を整え、夜はエルメロイと『大英帝国ナイトウォーズ』をプレイした。

 

そして二日後、誠達はアメリカに立った。

 

 

誠は今エルメロイに手配された車に乗って、スノーフィールドに向かっていた。助手席にはエレシュキガルが座っている。

 

「それにしても、エレちゃんの買い物長かったよ」

 

数日前のエレシュキガルとの買い物を思い出し、誠は呟いた。

 

「女の子はみんな長いのだわ!」

 

「エレちゃんだけなんじゃないの?それはそうと出発前に渡したメモ持って来てる?」

 

「ああ、これね」

 

エレシュキガルはポケットからメモ帳を取り出し、誠に見せる。それはエルメロイが聖杯戦争に関することをまとめたものだった。電話番号とメールアドレスが最後のページについている。後、フラット宛の手紙もついている。

 

「それ無くさず持っててくれよ」

 

「分かっているのだわ」

 

――――うっかりスキルが発動しなけばいいけど。

 

 

 

スノーフィールドに後少しという場所で誠が車を止めた。

 

「どうかしたの?マスター」

 

「何か違和感を感じない?胸がモヤモヤする」

 

「あれじゃないかしら?」

 

エレシュキガルが指さした方角にはクレーターが出来ていた。それもかなりの大きさの。

 

「かすかに魔力を感じるな」

 

「神代の魔力のようなものを感じるわ」

 

「エレちゃんの知り合いが召喚されているのかもね」

 

エレシュキガルの知り合いとうことは神様がわんさかいる時代。知り合いも規格外の奴らばかりということなので、誠はこの先どうなるか少し不安な気持ちになった。

 

だがまだ誠の胸に違和感は残っていた。

 

 

――――なんで対向車と一台もすれ違わないんだ。ここはスノーフィールドから唯一出る国道だぞ。

 

 

 

何かがおかしい、誠はそう思いながらもスノーフィールドに足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

スノーフィールド某所

 

()ているだけじゃなくて来たんだぁ」

 

少女はあまり気にしていない様子でそう呟いた。

 

「ま、いっか。イレギュラーが何人いようと変わらないし」

 

そしてその少女はケタケタと甲高い声で笑いながら告げた。

 

「さぁ、偽物を駆逐する時間だよ」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

これから彼らが体験することは紛れもない『真実』だが、彼らにしてみれば『偽り』かもしれませしれない

 

 

 




感想と評価求ム。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ 
プロローグ1


ロストベルト楽しすぎたから書きたくなりました。

アナスタシア4まであまり変化がないです




 

 

神代は終わり、西暦を経て人類は地上で最も栄えた種となった

 

我らは星の行く末を定め、碑文を刻むもの。

 

人類をより長く、より確かに繁栄させるための理ーーー人類の航海図

 

これを魔術世界では 人理 と呼ぶ。

 

しかし、ある時それが何者かによって全て燃え尽きた。

 

未来はたった1秒で奪われた。

 

 

 

 

 

 

 

 コフィンの中に入り意識が飛びそうになるのをぐっとこらえる。たった今から人理を修復する旅が始まる。

 

 

そうーーーー今から人理を修復する旅が始まるはずだった。

 

 

突如、耳を擘くような轟音とともに体に衝撃が走る。   

 

事故もしくは第三者の手によって爆発が引き起こされた。おそらく誰もいない時に何者かがコフィンの下一帯にバレないように爆弾を仕掛けていたのだろう。敵のスパイがいるとは誰も想定してはいなかった。

 

ああーーーーここで終わりか。

 

その瞬間、彼は自分の全てがどうでもよくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

どれくらいたっただろうか。

 

 

「ーーーー状況の変化を確認した」

 

ふと、そんな誰かの声が脳裏に響いた。

 

「選ばれし君たちに提案し、捨てられた君たちに提示する」

 

感情など全く籠っていない無関心そうな声でその者はこう告げた。

 

「栄光を望むならば、蘇生を選べ。怠惰を望むならば、永久の眠りを選べ。」

 

「神は、どちらでもいい」

 

どうやら彼を除く7人の魔術師は栄光とやらを望んだようだ。

 

だが彼は自称神の提案には乗らなかった。生憎、彼は魔術に崇高な考えなど持ち合わせていない。一刻も早く家に帰って自室に引きこもり怠惰な生活を送りたかったのだ。

 

 

 

 

「ーーーそうか、それは残念だ」

 

彼の回答に自称神は無機質な声でそう返答した。

 

自称神は彼の返答などどうでもいいのだろう。

 

「私は違う惑星からこの惑星に降り立つ者」

 

「空想樹はこの惑星を初期化する。新たな神話を作り上げる」

 

「汎人類史を押し潰し、神をその手で構築せよ。私を受け入れる、その法則を築き上げよ」

 

ーーー異聞帯(ロストベルト)

 

そう告げると自称神なる者は気配を消した。

 

 

――今日まで人理修復のためにして来た魔術の特訓も戦闘訓練も全てが水の泡になったが別に構わない。

 

――元々そんな大役、自分の背には重すぎた。

 

意識が溶けていくような感覚に包まれる。

 

――もうすぐ自分は死ぬのだろうか。

 

そんなことを思いながら彼はそっと意識を手放した。

 

 

 

 

 

さて、この物語を理解する上でこの男のこれまでの出で立ちを語るとしましょう。

 

彼の名前は 誠・エルトナム・シリウス

 

生まれはエルトナム家でした。その家は優秀な魔術師の家系で彼は2人目の子供でした。既に魔術師としての素質がある女の子が一人、生まれていたのです。

魔術師の家では一人しかその家の魔術刻印を継げないので、もう一人は魔術の存在を知らせずに育てるというのが通例なのですが、彼も姉に負けず劣らず魔術師としての素質があったので、血縁関係のある魔術師の家に養子に出すことにしました。とても合理的な判断です。

それがシリウス家です。シリウス家は200年程続く魔術師の家系ですが、子宝に恵まれず困っていたため喜んでこの話を受けたのでした。

そのシリウス夫婦は互いに魔術師らしからぬ性格で、誠を丁寧に育てました。別に嫌なら魔術の道を歩まずとも構わないと誠に言う程でした。しかし、誠は育ててくれた恩を返す意味も込めて魔術師の道を歩み始めました。ちなみに彼の名前に関してですが、母方側が日本人ということもあって 誠 という名前が付けられたそうです。それと本人は、もう自分とは関係ないエルトナムをあまり名乗りたくなかったようですが、母方に名乗りなさいと言われて名乗るようにしたのでしょう。

 

 

所変わって、十数年、誠はアトラス院で魔術の研究に励んでいました。そこで偶然にも姉と再会したのです。養子に出されてエルトナム家とシリウス家の交流はあったものの数回した会ったことのない姉は誠にとってあまり、姉とは思えないようでした。誠は姉と戦闘訓練をしたり、共に研究したりして時は流れました。外界と隔絶されているアトラス院でどのようにして情報を手に入れたのかは分かりかねますが、誠はシリウス家の研究成果目当てに何者かが襲撃したことを知ります。誠はすぐさまアトラス院から逃亡し、家に帰りますが

もう既に家は焼き尽くされ誰も残ってはいませんでした。

それから誠はやさぐれて生きるため仕方なく、研究成果の秘匿を第一とするアトラス院の追手から逃げつつ、フリーのエージェントをしていたところ、シリウス家の知り合いであったマリスビリーから声がかかったわけです。

ここまで言えばもう充分でしょう。

 

――是は彼が自分の心と世界と闘う物語。

 

――――――シオン・エルトナム・ソカリスより




プロローグはちゃちゃっと終わらせたい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ2

一話3000文字くらいでいこうと思います


  

 ――暖かい。

 

   何故だろうか

 

   さっき死んだはずなのに意識がある。だが、周りを確認しようにも体の自由がきかない。

 

いや自由がきかないと言うより感覚がないと言った方が適切なのかも知れない。

 

誠が戸惑っていると誰かがコツコツと足音を立てて、彼の方に歩み寄って来る人影が見えた。

 

「あら、ようやく目覚めたようね」

 

それは女性の声で聞くもの誰もが安心できるような優しい声だった。

振り向くと彼女に目を奪われた。すらりとした体型にブロンドの髪、真っ赤な瞳その全てがこの世界で最も美しいものではないかと感じられた。まるで荒野に咲く一輪の花のようだった。

 

「驚いているようね、私も最初は驚いたのだわ。此処は冥界でも端の端、本当に何もないところよ」

 

 

――冥界、彼女は確かにそう言った。本当にそんな場所が実在するのだろうか。

 

「しかも、あなたこの時代の人間の魂ではないようね。違う時代の人間の魂が迷い込むなんて初めてなのだわ。それにあなた、まだ死んでいないから今すぐには無理だけど、魂を元の時代の元の体に戻せることができるかも知れないけどどうする?戻らないって言うのなら此処で魂が浄化される――最後まで過ごすことになってしまうわ」

 

――自分はまだ死んでいないのか。

 

戻れるというのなら戻ろうかと誠は考えた。他のAチームの奴らをこのまま放っておいては何かいけないことが起きる。そんな気がしたのだ。

 

目の前の女性にまだ生きたい、しなければならない使命があると伝えた。

 

「えぇ、わかったわ。私に任せておきなさい!」

 

そうにこやかに笑う彼女はとても美しかった。

 

それからしばらく、誠は彼女とたくさんの話をした。誠が一番驚いたことは彼女が本当の女神だったと言うことだろうか。誠は自分が今置かれている状況を話したりもした。彼女はそれを真剣に、まるで自分のことのように聞いてくれた。

 

 

 

「そろそろ時間ね。短い時間だけどあなたと話せて楽しかったわ」

 

人間には理解できないのだろうか、人の身の誠にはその詠唱を聞き取ることが出来なかった。

 

彼女が詠唱を終えると誠の視界がぼやける。

 

「さようなら、未来を生きる人。もう、会うことはないと思うけれど仮に会うことがあるのならあなたの力になってあげるかも知れないわね。べ、別に同情なんかしてないのだわ」

 

その後、彼女は誠におまじないをかけた。

 

そうして、誠は3徹した後にベッドに飛び込んで意識がなくなるのと同じくらいの速さで意識が飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そうしてかなりの時間が経った気がする。

 

誠は気がつくとポッドか何かに冷凍保存されていることがわかった。

 

――彼女のおまじないが効いているのか分からないがあまり寒さを感じない。だが寒さをあまり感じないと言っても久しぶりの自分の肉体に意識も朦朧としているし頭もクラクラする。

 

仕方がないので誠は腕に身体強化の魔術をかけ思い切りポッドを殴った。

 

ポッドが割れ、誠の体ごと外に投げ飛ばされた。その刹那、けたたましくサイレンが鳴り響いた。

 

――十中八九自分のせいだろう。本当は誰かが来るのを待つべきなのだろうが、何故か体が勝手に動く。

 

 

 

 

 

 

――自分でもどこに向かっているか全くわからないが無意識に体が勝手に動く。

 

――右手の甲が焼けるように熱い。

 

――だがそんなこと構わずに行かなければならない場所がある。

 

――ふとある部屋の前で足が止まる。

 

――そこに入ると盾と何かの魔術の術式があるのみだった。だがそれが何で自分が今すべきことが分かった。

 

 

素に銀と鉄。

降り立つ風には壁を 四方の門は閉じ 王冠より出で 王国に至る三叉路は循環せよ

閉じよ 閉じよ 閉じよ 閉じよ 閉じよ

繰り返すつどに五度

ただ、満たされる刻を破却する

 

告げる。

 

そうそれは奇跡を引き摺りだす言葉

 

あらゆる困難を打破するため その武勇を 叡智を求めて紡ぐ詠唱

 

英霊召喚フェイトシステム

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!

 

魔法陣の上の召喚サークルがクルクルと回る。

 

そこに立つ者は過去あらゆる奇跡、あらゆる偉業を成し遂げ数多の伝説をもつ英雄達

 

そうして一人の女神が今、此処カルデアに顕現した。

 

「サーヴァント・ランサー。冥界の女主人、エレシュキガル。召喚に応じ参上したわ。一個人に力を貸すのは不本意だけど、呼ばれた以上は助けてあげる。感謝なさい」

 

そこにいたのはあの綺麗なブロンドの髪、綺麗な真っ赤な目をしたエレシュキガルだった。

 

どうやら彼女のまじないが触媒となったようだ。

 

――彼女が自分のことを覚えているか分からないし積もる話もあるが無理して此処まで歩いてきたせいか今にも倒れそうだ。ああ、俺はあと何回気を失えばいいのだろうか。

 

「……。…………。……………。って、いきなりなんで倒れるのかしら!?」

 

――それからのことはあまり覚えていないが俺の居場所を突き止めたスタッフ達がきて担架で運ばれたらしい。カルデアのマスターもきて俺がエレシュキガルを召喚したことについてとても驚いていたらしい。

 

 

 

立香side

 

査問官の到着日時が迫りあと一周間と言うところで事件は起きた。

その日も特にすることがなかったので部屋で筋トレをしている時のことだった。

 

いきなり緊急警報のサイレンが鳴り始めた。それと同時にアナウンスが流れる。

 

「凍結保存していたAチームのマスターが脱走しました。見つけ次第確保してください。繰り返す……………」

 

どうやら筋トレなんてしている場合じゃないようだ。

立香は急いで着替えて部屋を出るとちょうどマシュと鉢合わせした。

 

「おはようマシュ」

 

今日はまだ会ってなかったので挨拶がてらに声をかける。

 

「あ、おはようございます先輩。監視カメラによるとエルトナムさんはどうやら召喚室方面に向かったらしいです。早く行きましょう」

 

「召喚室?なんでまたそんなところに………」

 

マシュから情報を聞きながら小走りで召喚室に向かった。

 

召喚室に着くとダヴィンチちゃんや他のスタッフも集まっていた。

 

そして奥から担架に乗せられた男が運ばれてきた。そしてその奥にはカルデアにこそ召喚されなかったもののバビロニアで色々お世話になったエレシュキガルが立っていた。

 

そこにダヴィンチちゃんがやってきて

 

「マシュと立香くん、詳しいことは後で話すから誠くんの看病をしてくれないかな?誠くんが起きたら呼んでくれたまえ」

 

それだけ言うとエレちゃんを連れてどこかへ行っていまった。

 

「先輩、とりあえず誠さんの寝ているベッドに行きましょう」

 

「そうだね」

 

そうして今に至る。

かれこれ2時間近く待っている。ダヴィンチちゃんによると彼はAチームでも実践経験が一番豊富で頭が相当キレる奴ということだった。立香とも話が合うかもしれないと言っていたが実際のところはどうなのだろうか。

 

何にせよ立香は起きて話すのが楽しみだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ3

 夢を見た。

 

 カルデアのマスターが数多の英霊を引き連れ、おぞましい人類悪と対峙していた。

 

 もちろんその中にはエレシュキガルもいた。

 

 誰かが人理は修復されたから安心しろと自分に告げているのだろうか。

 

 いや、違う。人理焼却は免れたかもしれないが決してこの世界の危機は去っていない。

 

 何せ人理を焼却しようとした者とあの時神と名乗った者は違う。理由は分からないが何かがそう告げている。

 

自分の使命を再確認する。

 

――他のAチームマスターの達を止めるのだと。

 

自分の心にそう強く誓い意識を覚醒させていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

起きると誠はベッドに寝かされていた。

周りには立香をはじめ、マシュにダヴィンチが誠を囲うように座っていた。何やらマシュの肩に白い犬のような謎の生物が乗っているが誠は気にしないようにした。

 

 

「やあ、おはよう。調子はどうだい?」

 

ダヴィンチにそう言われ、誠はベッドから半身を起き上がらせを体を捻ったり魔術回路を確認するが何の問題もないように思われる。右手の甲には令呪があり自分がエレシュキガルのマスターなのだと実感させる。

 

「特に問題ない。ダヴィンチちゃんと話すのもずいぶんと久しぶりの気がするな」

 

ダヴィンチと話すのはもちろんのことだが実際に声を出すこと自体が久しぶりなのだ。何せ一年眠り続けていたのだから。

 

「状況を整理したいんだけどいいか?ずっと眠っていたせいか少し混乱しているんだ」

 

もちろんだとも、とダヴィンチちゃんの返事と共に誠は口を開いた。

 

 

「人理は修復されたのか?」

 

 

静寂。

 

数秒後、ダヴィンチが口を開いた。

 

「あぁ、ここにいるカルデアーのマスター藤丸立香君の手によってね」

 

そう行ってダヴィンチが立香を指差す。指を指され、立香が照れくさいといった表情をする。

 

「他の藤丸立香の契約していたサーヴァントは?」

 

「一週間後に国連の査問団が来る。カルデアの新所長も一緒にね。そちらの命令でカルデア所長代理の私以外退去命令が出てみんな座に帰ったよ。おかげでこちらも荷物の整理などで大忙しだ」

 

査問団。そう聞き誠が顔を強張らせる。いつの時代もそのような集団は怪しいと相場が決まっているのだ。この時点で誠は査問団が黒だと確信した。

 

「それは大変だな」

 

「だろう?というわけで私は忙しいから職務に戻るとする。人理修復の資料が読みたければ立香君に案内してもらえばいい。万が一私に用事があるのなら工房に来るといい。後はよろしくね立香君」

 

「りょ、了解!」

 

立香は少し緊張しているのだろうかその声は少し戸惑っているようだ。

 

「初めましてだなカルデアのマスター、藤丸立香。マシュちゃんも久しぶりだな」

 

「はい、エルトナムさんもお久しぶりです」

 

「初めまして藤丸立香です。立香でいいですよ」

 

「了解、俺も誠でいい。後、敬語は堅苦しいから禁止」

 

「分かり……分かった。それより誠くんはマシュとはもう顔見知りなんだね」

 

「前は無口で悪く言うと人間味を感じなかったけど今はものすごく生き生きしているな」

 

「あの時は大変失礼な態度をとってしまい申し分けありませんでした」

 

と言い頭を下げるマシュに対して誠はそんなに畏まらなくてもと苦笑する。

 

「早速で悪いが資料室に案内しもらえないか?」

 

そうして誠たち3人は病室を後にした。

 

 

誠は資料室についてからは立香とマシュちゃんと別れ、あの爆発が起こってからの資料や映像を見ている。

 

第7特異点の絶対魔獣戦線バビロニアの資料を読んでいるのだが立香の行動力に誠は驚かされてばかりいた。

 

それから、誠はカルデアの事情を知るべくして片っ端から資料を読んだ。これでも記憶力はいい方だ。資料にあったサーヴァントのデータは全て頭に叩き込んだ。

 

――そろそろダヴィンチちゃんの工房に行くとしようか。エレシュキガルとも話がしたい。

 

そう思い誠は勢いよく立ち上がり、工房に向かった。

 

 

工房に入るとダヴィンチちゃんが出迎えてくれた。

「そろそろ来ると思っていた頃だよ。話があるんだろう?」

そう言われ誠は無言で頷く。

そして誠はあの時に起こった出来事を全て話した。あの神と名乗った者が言っていた異聞帯のことも。

 

 

 

生命には競争があるように、歴史にも勝敗がある

 

現在とは正しい選択、正しい繁栄による勝者の歴史。これを汎人類史と呼び。

 

過った選択、過った繁栄による敗者の歴史。

 

不要なものとして中断され、並行世界論にすら捨てられた行き止まりの人類史

 

 

ーーこれを異聞帯(ロストベルト)と呼ぶーー

 

 

 

「実に面白い!私も魔術協会の動向の調査、霊基グラフの隠匿など色々作業したかいがあったというものだよ」

 

それを聞きダヴィンチは声高らかに笑う。

 

「話は聞いたわよ、マスター。そういうことなら冥界の女主人の名の下に存分に力を貸してあげるわ!」

奥からエレシュキガルとTHE 探偵というような格好をした男が出て来た。

 

探偵からも魔力を感じる、サーヴァントなのだろう。

「サーヴァント?」

 

「そうだとも、真名はシャーロック・ホームズ。以後お見知り置きを」

と軽く会釈する。

 

 

「はあ……なーんで自分から出て来てしまうのかな君は。すまない不知火くん。ホームズの事は秘密中の秘密でね。なにしろこの1年。魔術協会への報告書にはホームズのホの字も書いていない。『カルデアに召喚された英霊の中に、シャーロック・ホームズなど存在しない』そういう事にしてあるんだ。万が一の保険というやつだね。まぁ君のいう事が正しければこの半年色々準備したかいがあるというものだよ」

 

カルデア側も多少はこのまま終わらないという事を予想していたのだ。

 

「新たな戦力を確認したかっただけだよ。それに誠くんがどのような人物か気になってね」

 

確かにダヴィンチ、ホームズ、武装化を長らくしていないマシュだけでは戦力不足は否めないだろう。そこに誠とエレシュキガルが出てきたわけだ。

 

「誠くんの言った事を踏まえてこれからのことを話すけど査問団が来たら君とエレシュキガルはホームズと一緒に地下倉庫に隠れていてもらう。何があるかはその時のお楽しみだ」

 

「そこに査問団のやつらの検査は?」

 

「そこは大丈夫。私がいろいろ細工を施しているからね」

 

「そして時がくれば立香くんとマシュ、スタッフを回収しに行ってもらう。後、この話はここだけ秘密だよ。悟られたらおしまいだからね。立香くんには私がそれとなく説明しておこう。何か質問は?」

 

カルデア側は敵の戦力は未知数故に一旦逃げるという策に出たのだった。

 

「特には」

 

「よろしい」

 

「ところでレイシフトは使えないけど戦闘プログラムは使えるんだよね?」

 

資料には戦闘プログラムのことについては触れられていなかった。

 

「勿論、今すぐ使うかい?」

 

「お願いする」

 

 

誠はなまっている体を動かしたかったし、何よりエレシュキガルの戦闘スタイルを見ておきたいというのもあった。

 

「改めてよろしく頼むよ、エレシュキガル」

 

誠はエレシュキガルに方を向き軽く頭を下げる。

 

「こちらこそよろしくお願いするわ、マスター。上手く私を使いなさい」

 

 

 

 

そこからの一週間、誠は立香と共に戦闘訓練に明け暮れた。

 

 

 

そして、ついにその日がやって来た。

 

 

 




次でプロローグ終わらせます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ4

今回ちょっと雑になったかも


ついにこの日がやって来た。やれる事は全部やった。

 

――――――以上、44名。登録認証 オールクリア。

安全性審査 協会規定 特別免除により、全員のカルデア入館を許可します。

正面ゲート開放。ようこそ、ゴルドルフ・ムジーク様。

並びに、国連審問会の皆様。

当カルデアは 皆様の入館を歓迎します。

 

「いよいよだね……」

 

スタッフ達の間に緊張が走る。

 

「魔術協会から選ばれた新しい所長・・・どんな方なんでしょうか・・・」

 

誠くんはどうせロクでもない奴なんて言っていたけど実際のところはどうなんだろうか。

 

「ゴルドルフ・ムジーク。年齢28歳、男性。錬金術師の大家の嫡子。時計塔での成績は平均クラス。ムジーク家は歴史こそ古いが功績はほとんどない。ただ出来てからが長いので資産が多いという一族だ。要はただの金持ちの坊ちゃんさ」

 

本当にロクでもないやつだったと立香は心の中で苦笑する。

 

「何故そんなやつがカルデアの新所長になったのかは会ってみるまではわからないが、まぁ第三者に促されたんだろう。」

 

「ほーう!ほほーーう!いい!いいではないか!」

 

そんな笑い声が広間に響き渡る。

 

「おいでなすったか。大した胴間声だこと。いいかい、立香くん。基本的には沈黙だぜ?」

 

そのダヴィンチの言葉に無言で頷く。

感情的になるなとは誠くんに耳にたこができるほど言われた。

 

「ほほーう、そこに堂々と立っているのが報告にあったサーヴァントか。いかにもな風体ではないか、あー確かレオナルド・ダ・ヴィンチだったか。使い魔は美しい女の姿をしているに限る!」

 

その言葉がダヴィンチに向けられた物だと分かり、立香はまたも笑いそうになる。

 

「閣下、その発言は少々セクハラかと♡あのサーヴァントは仮にも所長代行。所長不在のままカルデアを1年まとめ上げた人物です。仲良くなった方が特ですわ。まずは世辞から入るべきかと」

 

さらに奥から次はピンクの髪が特徴の女性が出てきた。

 

「ははは、コヤンスカヤ君、そういう事は耳打ちで伝えてくれ給え、耳打ちで!まぁサーヴァントに気を許す私ではない、美女であってもな」

 

どうやらコヤンスカヤという名前らしい。

 

嫌味を言われ続けて数分、またしても奥から神父の格好をした男が出て来た。

 

「ゴルドルフ所長。挨拶はそのあたりで十分じゃないかと。貴方と彼らは『進む者』『去る者』。相互理解は不要です。それと協会の査問団の準備は整いました」

 

「その通りですな、言峰神父。紹介しよう彼は――」

 

ゴルドルフが紹介する前に神父は一歩前に出て頭を下げ自己紹介をした。

 

「お初にお目にかかる。私は言峰綺礼。聖堂協会から査問団顧問として査問が終わるまでの数日間ここに滞在することになった」

 

――聖堂協会

 

立香はその言葉も聞いたことがあった。なんでも聖堂協会の連中は頭のネジが外れたやつしかいないと誠が愚痴っていたのだという。

 

「よろしく、カルデアの諸君。短い期間だが苦楽を共にせんことを」

 

 

 

 

 

 

「・・・まさか、カルデアの謹慎室が独房として使用される日が来るなんて」

 

「ああ、全くだ!こんなことならこっちに予算を割いておくべきだった!」

 

カルデアスタッフの愚痴に便乗してダヴィンチが心底後悔したという風に毒を吐く。

 

立香たちは全員謹慎室に監禁されていた。自由に外に出れるのだが、勝手なことをすれば廊下で待機している兵士に殺されるので監禁というのはあながち間違っていないだろう。

 

暫く、雑談に興じているとドアをノックする音と共に査問団の人の怒鳴り声が響いた。

 

「おい藤丸立香!でろ!」

 

どうやら尋問の時間のようだ。

 

「行っておいで立香くん、まずは相手の出方をみる。くれぐれも下手な発言はしないようにね」

 

「了解、ダヴィンチちゃん」

 

 

 

 

〜6時間後〜

 

6時間も質問責めにされれば流石の立香もクタクタのようだ。

 

「お疲れさま。顔色が悪いわね、ボク」

 

立香は早く横になりたいという一心で謹慎室へ向かっていると、後ろから声を掛けられた。

 

立香が振り向くと、コヤンスカヤが見下すようにこちらを睨んでいた。

 

「こういうオトナの世界の事情は初めて?でも何事も経験、きゃっ!?」

 

コヤンスカヤが話し始めようとした途端に、フォウくんがコヤンスカヤの顔面に突撃したのだ。

 

「フォウ!フォーーウ!キュッ!」

 

「これ貴方の飼い猫?ごめんなさいつい反撃した上に踏んづけてしまったわ」

 

「フォウくんから離れろ!」

 

思わず立香は叫んでしまった。叫ばずにはいられなかった。

 

フォウくんだって共に人理修復を共に成し遂げた仲間だ。

 

「あらワイルド。牙見せちゃって勇ましい」

 

――駄目だ、奴の狙いは俺を怒らせることだ。挑発に乗ってどうする!

 

「でも私に牙剥いたんならそう簡単なら解放しないわよ?そうね、今回は私とお話しするだけで許してあげる」

 

コヤンスカヤはフォウ君を片手で摘み上げて、獲物を狙う蛇のような目で立香を目つめている。

 

「いいだろう」

 

――平常心を保て藤丸立香。

 

 

そう立香は自分に言い聞かせる。

 

「そう、カルデアについてお話ししましょう」

 

そう言うと彼女はカルデアについて話し始めた。

ある程度カルデアについて話すと話題がAチームのメンバーに移った。

 

「貴方にチャンスを横取りされた8人はかわいそうよね〜」

 

立香その言葉に少しカチンときた。

 

「まさか知らないなんてないわよね?君の偉大な先輩たちだも」

 

一人はものすごく知っていて仲もいいと言い出しそうになるのをこらえる。

 

「君は彼らから、活躍の場も、その存在主義も、カルデアの居場所さえ奪ったんだから」

自分は誰かがやらなくちゃいけないのならと仕方なくやっただけだ。

そう言い返すのを我慢する。

 

「おっとそろそろ行かないと、じゃね〜」

それだけ言うとコヤンスカヤは去って行った。

 

部屋に戻ると顔色が悪かったのかマシュに心配されたから、さっきの出来事を話した。するとダヴィンチちゃんが誠くん以外のAチームのことについて教えてもった。そこからはまた雑談に興じた。

 

 

 

 

 

 

 

12月31日

 

ようやく監禁生活が終わる。だがそれと同時に新たな戦いの火蓋が切られる日だ。

 

 

Aチームの解凍でダヴィンチちゃんが帰って来ない。昨夜ゴルドルフさんに呼ばれてかれこれ12時間が経つだろうか。

 

 

すると同時にカルデアの緊急警報がけたたましく鳴り響き始めた。遠くから微かに銃声が聞こえてくる。確認しに行こうにも今は外側から鍵が閉められている。所謂、詰みという状況だ。

 

立香を含め皆焦っている時、突然ドアがひしゃげた。外部から何者かが侵入しようとしているようだった。

 

「マスター!武装許可を!」

 

立香の傍で震えていたマシュが声を上げた。

 

しかし、マシュの体の状況を立香は誰よりも知っている。

 

「駄目だ。マシュの体はもう……」

 

「お願いです先輩!今ここで戦わないとみんなで過ごしたカルデアが壊されてしまう。だから……」

 

マシュと目が合う。眼鏡越しのマシュの瞳は立香を捉えて逃さない。

 

現段階でマシュに頼むしかこの状況を打開することが出来ないのも事実。

 

――令呪によって命ずる!

 

令呪でありったけの魔力と気持ちをマシュに注ぎ込む。

 

「頼む、マシュ!」

 

最も頼りにしている後輩であり、自分のサーヴァントの名を叫ぶ。

 

「はい、マスター!」

 

立香の気持ちに答えるようにマシュが体に魔力を宿して、かつての戦闘の記憶を蘇らせていく。

 

マシュは盾を顕現させ、侵入者に備える。

 

すぐさまドアが破られて、黒ずくめの兵士が入ってくる。

 

数秒お互い睨み合ってかと思えば、兵士がカルデアの生き残りを殲滅すべく突進しながら剣を振り下ろす。

 

「くっ!」

 

マシュが盾でその一撃を防ぐ。が、大きく後ろによろけてしまう。その隙をつかんと兵士が再び剣を構える。

 

その場の皆――マシュさえも駄目だと思った時、その兵士が横から飛来した弾丸によって体が弾け飛んだ。

 

 

 

「すまねぇ、一足遅かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警報が鳴り響くなか、誠たちは立香のいる部屋まで急いでいた。

 

が、敵が多すぎるため苦戦していた。

 

誠は魔術で思考を高速化させ、擬似的な未来視で黒い兵士の動きを予測するが案の定、数が多すぎて体が追いつかない。

 

「リロードが間に合わん、エレちゃんよろしく」

 

誠が魔術によって改造が施された、マシンガンを新たに装填するため一歩下がる。すかさずエレシュキガルが前に出て魔力で生成された槍で一気に薙ぎ払う。

 

リロードが完了した誠が再び前に出て、エーテライト――エルトナム家に伝わる鞭状の擬似神経を、思い切りしならせて兵士に打ち込む。距離が少し開いたところでトドメに弾丸を頭にブチ込む。

 

「マスター、こいつら倒しても倒してもキリがないのだわ!」

 

「迂回していくぞ!」

 

 

誠が立香達の幽閉されている謹慎室まで一直線の道まで辿り着いた時だった、誠は遠目にあの兵士が謹慎室に侵入しているところを視認した。

 

――距離20m

 

誠は瞬時に肩にかけていた、スナイパーライフルを構える。スコープ越しに兵士を確認した瞬間引き金を引く。弾丸は真っ直ぐに兵士の頭に命中しその場で爆散した。

 

誠達は急いで、立香の元を向かった。

 

「すまねぇ、一足遅かった」

 

「いえ全然!戦う前なので助かりました!」

 

マシュが心底安心した様子で誠に頭を下げる。そうは言うが武装化がこたえたのだろうか、息も切れて呼吸をするのがやっとのようだ。

 

「早くここから逃げるぞ」

 

難しいことを考えている時間は今はないので誠が残りのカルデア職員に呼びかける。

 

「逃げるってどこに……?」

 

ムニエルはもう諦めて絶望した瞳で顔をあげる。

 

「格納庫です」

 

「格納庫・・・ああ。山の麓に荷物を下ろす用のドックか!確かにあそこならシェルターになる!助かったぞ!マシュ、藤丸!急いで格納庫へ向かおう!」

 

その一言で生き残りのカルデア職員は僅かに心に希望が生まれたのか、皆その僅かな希望を掴むために顔をあげ座った板者も即座に立ち上がる。

 

「それは……そうですが……」

 

マシュが罰の悪そうな顔をする。

 

「ダヴィンチを放ってなんて行けない。」

 

立香がマシュの気持ちを代弁する。

 

「それなら俺とエレちゃんで向かう。お前たち3人は先に格納庫へ行ってくれ。ホームズも待っている」

 

「そうよ。ダヴィンチのことなら私たちに任せなさい!」

 

 

「ダヴィンチちゃんのこと頼んだよ!」

「はい!頼りにしています」

「お前たちも早く格納庫へ来るんだぞ!」

 

立香達は誠とエレシュキガルに全てを任せて格納庫に向けて全速力で駆け出した。

 

 

「愛されてるなぁ、ダヴィンチちゃん」

「そうね、私たちも責任を持ってダヴィンチを連れて格納庫へ行くわよ」

 

 

 

ダヴィンチは動けなくなったら工房へ待っているように指示されている。そのためには占拠されたカルデアスの前を通らなければ行けない。

 

「エレちゃんあれは」

 

カルデアスの前を通過している時、誠が声を上げた。

 

「どうやらあれが敵の親玉のようね」

 

そこには黒い兵士に命令を下しているコヤンスカヤの姿があった。

誠達は攻撃を仕掛けたいことは山々なのだが今はダヴィンチのもとへ向かうのが優先だ。

 

 

 

 

「ああ、やっと来てくれた!もし、来てくれなかったらどうしようかと思ったよ」

 

ダヴィンチは誠を見るや否や抱きついた。だが中身が中身なだけに素直に喜べない誠であった。

 

「ダヴィンチ!早くしないとここにも敵が来てしまうのだわ!」

 

「おやおや、嫉妬しているのかい?女神様は可愛いなぁ」

 

エレシュキガルの扱いに慣れたダヴィンチは早速、煽る。

 

「べ、別に嫉妬なんかしていないのだわ!」

 

だが、赤面しているのでバレバレである。

 

「ダヴィンチちゃんそろそろ行かないと本当にまずくなる」

 

「わかっているさ。冥界の女神様はからかいがいあってね」

 

「まぁ、それは同感」

 

「そこは否定して欲しいのだわ!?」

 

エレシュキガルの悲鳴を虚空へと消えていった。

 

「もう先に行っているのだわ!」

 

そんなことを言ってエレシュキガルは先行してしまう。いつもは5分以内で戻ってくるが、今回は非常自体につき後を追いかける。

 

――非常自体にそんなやりとりをするなって?それは無理な相談だ。

 

誠がエレちゃんをなだめながら走っていると格納庫についた。

 

「無事だったのですね皆さん!」

 

「あぁ、なんとかな。ね、エレちゃん?」

 

「フンだ!」

 

エレシュキガルはまだそっぽを向いたままだ。だがこれはもう機嫌は直っているけれど今直したらまたからかわれそうだから怒ったふりをしている時にする仕草ということを誠は知っている。

 

「エレシュキガルさんどうかしたのですか?」

 

「マシュちゃんは気にしなくていいよ」

「とはいえ、みんな無事だったのですね!みなさんすごいです!」

 

「いや、無事なのは西側に逃げたスタッフだけだ。東館に逃げたスタッフはみんな氷漬けになっちまった。」

とムニエルが申し訳なさそうに呟く。

 

「そんな?氷漬けだなんて!?もう他に生存者はいないのですか!?」

 

その時、アナウンスが比較的静かな格納庫で再生された。

 

「ひいい…来る、来る…!ああ……あああ…………ああああああ!」

 

誰かの悲鳴のようだ。

 

「間違いありません、生存者です!助けを求める声でした!」

 

「おおい、ホームズが急げって怒鳴ってるぞ!そいつにはもう諦めてもうしかないんだ!」

 

「だそうだ」

 

誠もムニエルの意見に便乗する。

 

「我々に余裕はない。スピーカーの向こうの彼が自力で生き延びることを祈るしかない。それともーーあの何処の誰ともわからない誰かのために、君たちもここに残ると言うのかね?」

 

「それは……」

「……………………」

 

立香とマシュはおし黙る。自分達の生存が一番だということは彼らもよく知っている。だが――。

 

そしてまたしてもアナウンスが鳴り響く。

 

「今日という日からカルデアを栄光に導く男!栄光、そう、栄光!そのはずだったのに・・・・・」

 

この口ぶりからするに新所長だろう。

 

「くそう、今まで何もいいことがなかったのに!」

 

皆、黙ってそれを聞いている。

 

「まだ死にたくない!だって一度も、他人に認められいないんだ!まだ、誰にも愛されていないんだよ・・・!」

 

そのセリフが導火線に火をつけたのかみんなの気持ちが一つになった。

 

「その台詞は、もう裏切れない・・・!」

 

立香がそう小さく呟く。

 

「誠くん、君の力を貸してくれないか?ゴルドルフ新所長を助けたい」

 

「オーケー。だがマシュちゃんと立香はここに残ってもらう。ダヴィンチちゃん行くぞ」

 

流石の誠もここは空気を読んで二つ返事でオッケーする。

 

「頼む、エレちゃんの力が必要だ」

 

「そ、そう?なら仕方ないわね!」 

 

「そういうことだムニエル、あと少しだけホームズに待つように伝えてくれ!すぐ戻る!」

 

 

そうして誠たちは格納庫を後にしゴルドルフのところへ向かった。




次で絶対プロローグ終わらせます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ終 空想の根は落ちた





アナウンスが発信された地点を逆探知したので場所はすぐに分かった。

 

 

「ヒュウ!大した悪あがきだ、まだ生きているとはね、Mr.ゴルドルフ!」

 

「な!?貴様はキャスター!それに……貴様はAチームの誠・エルトナム!?お前一体今までどこに隠れていた!それに、き、貴様、ななな、何をしに来たのだ!?」

 

確かにさっきまでひどく邪険に扱っていたカルデアの連中が助けに来るなど想像もしなかったのかゴルドルフはパニック状態にあるようだ。

 

「信じられないかもしれないが、あんたを助けに来たのさ。礼を言うなら立香に言ってくれ。それとエルトナムではなくシリウスだ」

 

「まぁ、君がそんな殊勝な態度に出る事は十中八九ないだろうけどね!」

 

とダヴィンチちゃんが付け加える。

 

敵の黒い兵士が前から6体後ろから2体近づいて来る。

 

「エレちゃん、ダヴィンチちゃん前のやつを頼む!後ろは任せろ!」

 

そう言うと誠は後ろから近づいて来る殺戮兵器と対峙する。

腰に下げているマシンガンを構えて、兵士の脳天めがけて銃弾をブチ込む。アトラス院仕込みの魔術で強化していることもあって、兵士は簡単に爆散する。

 

――体感こいつらには強い奴と弱い奴がいる気がするが特に今気にする事ではないだろう。

 

どうやらエレちゃん達の方も終わったようだ。

 

「ぬうう、余計なことを・・・!貴様ら、今ので私を助けたつもりか!?いや、そもそも私は完全なる被害者だ!カルデアなんぞ、やはり解体されれば良かったのだ!」

 

「ゴルドルフ、愚痴を言うのはいいがダラダラしてたら敵に囲まれて死んじまうぞ」

 

一言二言話しているうちにも際限なく敵はこちらに押し寄せてくる。

 

「わ、分かっておる!ひと段落ついたら今回の件について説明してもらうからな!」

 

――ひと段落つけばいいんだがな。

 

 

 

 

 

「ふぅ、ふぅ、ほふぅ・・・!こんな雪山にきてマラソンとはな・・・!ふっ、先ほどまで孤軍奮闘していた私を!少しも労わんとはなっ!とはっ!ふはぁ!」

 

どうやらゴルドルフは動けるデブのようだ。

 

先ほど、ゴルドルフのもたらした情報によるとあの黒い兵士はオプリチニキと言って人間を苦しめる為に編成された部隊らしい。

 

「マスター!」

 

「分かってる!」

 

前から魔力の気配を感じ一行は足を止める。

いきなり止まったことによりゴルドルフが転んだが誰も気にしてはいない。いや、気にする余裕などない。

そこにはコヤンスカヤが立っていたのだから。

 

「性格の悪い女狐だな」

 

「はーい、そこ聞こえてるゾ♡」

 

ゴルドルフはコヤンスカヤを見て怯えている。カルデアの件で何から何まで利用されたと慣ればトラウマになるのは必然だろう。

 

「あら、よく見ればあなた誠くんじゃない。サーヴァントまで従えちゃって♡死んだと思ったらそっち側についたのね?私人間は大好きだから、あなたさえ良ければこっち側につくことで命だけは助けてあげてもいいわよ?」

 

「そしたら俺にも異聞帯とやらとサーヴァント、プレゼントってか?だがもう異聞帯は残っていないだろう?」

 

「あら、あなた随分と鋭いわね、なおさら生かしておくわけにはいかないわね」

 

「適当だ。過大評価はよしてくれないか?」

 

許してくれる様子もないので誠達は無言で戦闘態勢に入る。

 

「あら、あなた達本当に勝てると思っているの?」

 

「何?」

 

誠が訝しげに声を上げる。

 

「こっちには無敵の皇女様がいるのよ?」

 

その時、特別大きい魔力の気配を感じた。

 

その者は霊体化していたのかいきなり目の前に現れた。

 

「皇帝の威光に従わない者には死を。裏切り者には粛清を。ヴィイ、私が願います。私が呪います。邪眼を開きなさい、ヴィイ!」

 

そのサーヴァントがそう叫ぶとあたりの体感温度が10度は下がった気がした。

 

「あれは東館を氷付けにした魔女だ!もう、おしまいだぁ。そこの金髪の英霊とダヴィンチ君では絶対敵わない!ぐはっ!」

 

誠はゴルドルフを峰打ちで黙らせると、思考を高速化し考える。

 

――確かにエレちゃんは一対一の戦闘では能力を発揮できないがダヴィンチちゃんがいるし逃げるくらいはできるはずだ。

 

「ダヴィンチちゃん策は?」

 

誠は目で無敵の皇女と言われたサーヴァントを瞳で捉えたまま口を動かす。

 

「相手が油断してくれたりしたら楽だったのだが、サーヴァント2騎いるだけあってそうでもないらしい。腰に対霊体閃光弾をつけてある。一瞬でいいから相手の意表をつけばここから勝機はある」

 

誠はちょうど二人にちょうど聞こえるくらいの声量で作戦を提示する。

 

「エレちゃんの宝具を使う。いきなり今立っている場所が冥界になったら流石のあいつらも驚くだろう。隙をついて俺たち4人は権能で上に飛んで逃げる。ダヴィンチちゃんはゴルドルフを回収よろしく」

 

「えぇ…気絶させたのは君だろう?と言いたいところだが今回は君の指示を聞いてやろう。なんたって天才だからね」

 

ダヴィンチが得意げな声を出し、調子を整える。

 

「エレちゃん、合図したらに宝具お願い」

 

「分かったのだわ」

 

多分これが最初で最期のチャンスだ。誠たちの間に緊張が走る。

 

「そこ3人で何こそこそ話しているのかしら?そっちの英霊も大したことなさそうだしもう降参した方がいいんじゃない?」

 

「そっくりそのままその台詞返してやろうか?性悪女」

 

「強がりかしら?汎人類史ごときのサーヴァントが異聞帯のサーヴァントに――――」

 

相手が舐めきっているその時がタイミングだ。

 

「今だ、エレちゃん!」

「あなた達全員冥界まで連れて行ってあげる!」

 

その手に持つのは発熱神殿メスラムタエア。

 

「天に絶海、地に監獄。我が昂とこそ冥府の怒り!出でよ、発熱神殿!」

 

大気が揺れ、地が裂ける。

 

「これが私の『霊峰踏抱く冥府の鞴(クル・キガル・イルカルラ)』!!」

 

地殻変動で山をも崩壊させるアースインパクト。あたり一体の地形が冥界になる。衝撃でオプリチニキをも吹き飛ばす。

 

「神霊を召喚していたなんて想定外だったわ……!」

これにはコヤンスカヤも驚いているようだ。

 

「今だダヴィンチちゃん!」

「はいよ!」

敵に向かってダヴィンチちゃんが対霊体閃光弾投げつける。

 

「冥界の女主人の名の下に汝らに冥界の加護があらんことを!」

 

エレちゃんがそう告げると俺たちの体が宙に浮く。

 

パニックになっているコヤンスカヤ達をよそに誠たちはその場を後にした。

 

 

 

 

走っている途中ゴルドルフも目を覚ました。

 

「ここが格納庫か!資料で見るより広いではないか!」

「感想は後、あのコンテナに走る!後ろから冷気が迫ってきているぞ!」

 

「おーい、こっちだ!早く来ーい!」

ムニエルが半身を出して叫んでいる。

 

「後一歩と言うところで私たちの勝ちさ!殿は私が務めよう」

 

この時背中に寒気が走った。

誠は、なんとも言えない不快な気配を感じ取り、懐から俺の銃を取り出しその得体の知れない何かに突きつけるがーーー

 

「貴様は、あと一歩足りなかった。」

 

ダヴィンチの心臓部をその者の手が貫通する。

 

「グハっ・・・・・!」

 

「失礼。隙だらけだったのでね。手癖で心臓を貫いてしまった」

 

その声の主を俺は知っていた。

 

「言峰綺礼か、貴様…何故生きている?あの日俺の目の前でお前は確かに死んだはずだが」

 

誠はエージェントをしている最中に彼を殺したことがあるのだ。

 

「そうだとも。確かに私は貴様に一度殺されたことがある。この身体が覚えている」

 

そう言って神父は弱者を見る目で誠を見つめる。

 

言われたことは最後までやり遂げる性分の誠は自分の標的(ターゲット)が未だに生きていることが我慢ならなかった。

 

誠が怒りと弾を込めて、引き金を引く。

 

「なら、もう一度ここで死ね」

 

その弾は神父の頭に直撃したかとそう思われたのだがーーーーー

 

「危ないじゃないか。そんなもの人に向けたら」

 

神父は弾丸を軽々と右手で蚊でも潰すように握り潰した。

 

誠はこの時、確信した。

 

――いやこいつは人ではない。ダヴィンチちゃんの霊格にも傷をつけるどころか壊してしまっている。

 

――間違いない。

 

――サーヴァントだ。

 

しかし何故ーーーーー。

 

「ぐーーーこのぉ・・・!」

「ほう、大した胆力だ。腕を抜かず、逆に背中で私を押しとどめるとは」

 

だが今はそんなことを考えている場合ではないようだ。

ダヴィンチの稼いでくれている時間を無駄する誠ではない。

 

ダヴィンチが最後の力を振り絞ってトランクのようなものを誠に投げる。

「それを立香くんに渡してくれ!」

 

誠はこれが何か知っている。

これは彼と縁を結んだ全てのサーヴァントの霊基が保存されているものだ。いわばこれは彼の旅の全てといっても過言ではない。

 

「さあ、急ぎたまえ誠くん。君がこのエセ神父とどういう関係かは知らないが今は逃げる時だろう?」

 

「短い間だったがありがとう――――万能の天才」

 

 

「ああ、さらばだ誠・エルトナム・シリウス!これは私個人の頼みだがあの子達はまだ弱い。だから守ってやってくれ」

 

――ああ、お安い御用だ。

 

「エレちゃんは別れの挨拶しなくてよかったのか?」

「別れの挨拶は余計に悲しくなるからもうしないと決めているのだわ……」

「そっか……」

 

ダヴィンチちゃんを背に走りコンテナに飛び乗る。

 

 

 

 

 

「誠・エルトナム・シリウス、エレシュキガル、ゴルドルフ・ムジーク 以上3名コンテナに収容しました!これで最後です!」

 

「3名?ダヴィンチ氏は?」

 

「分かっているのだろう、名探偵。少しは察しろ」

 

「おっとこれは失敬」

 

この会話を聞き内容を理解したマシュが泣き崩れ、立香が俯きながら涙をこぼす。

 

「ええい!泣くな!あのサーヴァントは所長代行として殉職した!いっちょ前にな!」

 

「後は我々が生き残るだけだ諸君。諸君衝撃に備えたまえ」

そう言うとホームズは倉庫とコンテナをつないであるパイプを外した。

「気圧変化による障害は対処済みだ!安心して6000メートルの滑空を楽しみたまえ!」

 

「「「「「「「「な、なんだってーーーー!!!!!」」」」」」」」

 

コンテナに乗っている人たちの心が一つになった瞬間だった。

 

 

 

20秒くらいジョットコースター状態が続いている時のことだ。

コンテナに強い衝撃が走る。

 

「ななな、なんだ今のーー!回ってるぞ、コンテナが回ってる!」

 

カルデアからの狙撃だ。後2、3発食らえばコンテナが崩壊するだろう。

 

「どうすんだよ!名探偵!」

 

「安心したまえ!コンテナなんてただのガワだよ、ガワ!」

 

誠の叫びに応えるようにすぐ側から、もう聞くことがない筈の声が聞こえる。

 

「私たちは生き延びるとも!だってこんなこともあろうかと半年かけて改造してきたのだらね!」

 

次の瞬間、コンテナが変形して巨大な装甲車へと変貌していた。

 

「これは映画か!」

 

そして、そこには2回りも3回りも小さいダヴィンチちゃんがいた。

 

「やぁ!おはよう、こんにちはカルデアの諸君!初めまして、と言うべきかな?私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。親しみを込めてダヴィンチちゃんと呼んでくれても構わないよ?」

 

「「「「「「「なーーーー、何がどうなってるんだ!?」」」」」」」

 

またしてもみんなの心が一つになった瞬間だった。

 

 

――要約するとこれはダヴィンチちゃんのスペアボディでこの俺たちが乗っている虚数潜航艇シャドウ・ボーダーのナビをするために作られた人工サーヴァントらしい。

エレちゃんなんて大号泣している。

 

――それはそうとこのペーパームーンってどっかで見た気がするんだよなぁ。

 

誠は頭を手で支えて、過去の記憶を呼び覚ます。ふと、アトラス院時代の出来事が脳裏を過る。

 

誠は確かにコレを知っている。アトラス院時代、この製作者の工房に入った時に設計図をチラッと見ていたのだ。

 

だが誠がソレを思い出す前にまたも異変が起こった。

 

 

 

「……ん?待て。なんだあれは?」

 

ふと、誰かが声を漏らした。

 

隕石のようなものが地球に降り注いでいた。

 

 

『通達する。我々は、全人類に通達する』

 

『この惑星はこれより、古く新しい世界に生まれ変わる。人類の文明は正しくなかった。我々の成長は正解ではなかった。よって、私は決断した』

 

『これまでの人類史ーーー汎人類に叛逆すると』

 

『空想の根は落ちた。創造の樹は地に満ちた』

 

『我が名はヴォーダイム。キリシュタリア・ヴォーダイム』

 

『ーーーーこの歴史は、我々が引き継ごう』

 

――やはりあいつがリーダーか。

 

「Aチームのリーダー、私が保護してやろうとした若造が、偉そうに・・・!」

 

ゴルドルフが、怒りで机を叩く。

 

『はーい、こちら一人でボーダーの全機能を統括しているダヴィンチちゃん⭐︎早速だがまたもや問題発生だ。2000メートル先を見てごらん?』

 

そこにはあのカルデアを襲撃した黒い兵士ーーオプリチニキが海岸線を埋め尽くしていた。打開は絶望的だろう。

 

「ダヴィンチ。ペーパームーンの使用許可を。アトラス院からの使用許可は出ていないが、私はあれの使い方を熟知している。何せ彼らの本拠地で直接、その極秘マニュアルも見たのだからね」

 

「構わん、名探偵。許可なら俺が出す。これでも院内ではそこそこ結果は残してる」

 

「了解した」

 

誠の暴論を流して、ダヴィンチがホームズに質問する。

 

『実際のところ成功率はどのくらい?』

 

「成功率は3割以下、おまけに何処に出るか分からない。だがこの先を考えるなら使用することをお勧めする。今後、我々があの連中と戦うために」

 

――ふと立香と目が会う。

 

二人は顔を見合わせニヤリと笑う。

 

「「やるしかない(だろ!!)でしょ!!」」

 

『了解した。虚数観測機ペーパームーン、展開。シャドウ・ボーダー外部装甲に倫理術式展開。実数空間における存在証明、着脱。未来予測・20秒後に境界面を仮設証明。時空摩擦減圧、0.6秒で緩和。』

 

『ーーーー緊急工程、全て良し。いいぞ、ホームズ!処女航海に出発だ!』

 

 

 

 

この戦いは長い旅になるだろう。

 

 

 

 

――――そうこれは未来を取り戻す物語である。




そんななことよりお気に入り210件ありがと奈須!
もっと評価投票してくれてもよくって(ボソッ モチベのためにもオナシャスセンセンシャル
序章終わるまではハイペースで書きましたがこの小説はプロットもなければ書き溜めもないので次回からは亀投稿になります。そんなんでもいいよって人いたら引き続き温かい目で見守ってくれたら幸いです。


ゲームのツイートしかしないツイッターアカウントはこちら→@noushou_96


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

主人公プロフィール

容姿は終わりのセラフのミカエラやと思ってくれ


名前 マコト(誠)・エルトナム・シリウス

年齢 19歳

身長 170cm

体重 60kg

容姿 金髪の碧眼

経歴 生まれはエルトナム家だが、名も付けられない内にシリウス家の養子に。名前が漢字なのはシリウス家の母方が日本人だから。カルデアに来る前はアトラス院で研究していたが、両親が魔術絡みで死んでからはフリーのエージェントをしており、そこでマリスビリーから声がかかった。

 

性格 基本的にことなかれ主義だが、一度やると決めたら物事は最後までやり遂げる。身内は優しいが、それ以外には厳しい。普段お調子者。オンオフの切り替えが激しい。

 

人間関係 

カドック 一番話してたような気がする。でもお前はいっつも自分を卑下しすぎ、なんかこっちまで申し訳なくなるわ。

 

オフェリア 魔眼カッケー(棒読み)

 

ヒナコ 半径1メートル以内で近づいたら、睨みつけるシステム怖いからやめて下さい。可愛い。

 

ペペロンチーノ オネエだけど普通に良い人。敵に回したらヤベータイプの人種。

 

ヴォーダイム 一番嫌いなタイプの人種。仲良くなれる気がしません、先生!

 

ベリル ヤベー奴。好きでも嫌いでもない普通。第三者がいたら話すくらいの仲。

 

デイビッド 一度も話したことないけどヤベー奴。(偏見)

 

エレシュキガル ヒモになりたい。

 

姉 師匠

 

 

好きなもの ゲーム、睡眠

嫌いなもの 努力

得意なこと 暗殺、二度寝、ゲーム

 

能力 魔力量は決して多い方ではないため、それを補うために銃火器、一族に伝わるエーテライトなどを使用する戦闘スタイル。観察眼、空間把握能力、記憶力に優れる。カルデアのデータをみてカルデアに召喚されていたサーヴァントの顔と名前を全て把握している。本人曰く完全記憶能力だが、一瞬で覚えられるわけでもないし、ましてや興味がないことなんてすぐ忘れる。アトラス院仕込みの錬金術。『思考分割』『高速思考』を駆使して6つの思考を分割して行うことができる。いわゆる天才の部類。(5つから天才と呼ばれる)

エルトナム家に伝わっている「エーテライト」も使用する。しかし、シリウス家の魔術刻印を移植した影響で性質が変化しており、本来は医療用に使ったり、人間に接続して思考を読み取ったり操ったりするものなのだが、変化した誠の場合は結界などの魔術に直接接続してハッキングすることができる。他の魔術を使い応用すると結界を自分のものにする事をできる。性質的に戦闘には向いてないように思えるが、どちらもムチのように使用できる。

戦いや立ち回りはアトラス院で再会した姉に習ったらしいのだが……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

永久凍土帝国アナスタシア
1.日常からの浮上


一話何文字くらいがいいんすかね

初めの方は原作に沿ってますので、12話くらいまでは適当に流し見してください
2章からは初めからオリジナルでいきます


ーーーその歴史は、魔獣と共に歩みしモノ。絶え間ない雪嵐、産み落とされる魔獣に対抗するため、人は独自の進化を遂げた。脆弱さは邪悪であり、死は敗北であり、強靭こそが讃えられる。弱肉強食の理論を突き止めた永久凍土の世界。カルデア一行は今、その異なる歴史へと足を踏み出そうしているーーーー

 

 

 

虚数潜航を始めてから早くも一週間が経つ。

 

ボーダーの一室では、マスターを起床させるべく一人のサーヴァントが戦っていた。

 

「マスター、早く起きなさい!もう、7時よ!」

 

「起きても銃の整備くらいしかすることないし別に寝ててもいいだろ……」

 

朝に弱い誠は布団を潜り込み二度寝を決め込む。

 

「昨日も一昨日もそのまた前の日もそのまた前の日もこの時間に起きたじゃん……」

 

気怠げな様子で文句を言う誠。ここでは毎朝7時前に起きる生活が強いられているのだ。

 

それはそうとこの虚数空間に時間という概念はあるのだろうか。

 

「早起きは続けることが大事なの…だ…わ!」

2度寝を許すエレシュキガルではない。誠から強引に布団を奪い取る。

 

「寒い!鬼!悪魔!エレちゃん!」

 

「何でも言うのだわ。あなたが私のマスターである限りグータラ生活は許さないわ」

 

「えー。ならエレちゃんと契約解除しようかなー。魔術使いとしてなら俺そこそこ強いからなんとかなるかもなー」

 

「え、流石に冗談よね?ねぇマスター?ねぇってば!マスターなら本当にやりかねそうで怖いのだわ!?」

 

「流石に冗談だ」

苦笑しながら、誠は一安心したような顔をしたエレちゃんを横目におもむろにベットから起き上がる。

 

エレシュキガルが用意した机の上に朝ごはんが用意されている。ご飯といっても軍用糧食だ。

誠はそれを食べながら今日の予定を決める。

 

――今日は立香と一緒に筋トレでもするか。いやでもあいつのメニューバカキツイしなぁ。2日目立香の筋トレに付き合ったのだが死ぬかと思った。俺は終わった頃には息を切らしていたが、あいつはまだまだ余裕そうな表情でお疲れなんて言ってきた。軽々、片手の人差し指と中指だけで指立てしておいてなーにが一般人じゃ。

 

――取り敢えず、操縦室に顔を出すか。

 

誠とエレシュキガルは操縦室に行くため部屋の扉を開けると立香とマシュちゃんと鉢合わせする。

「おはようございます。誠さんとエレシュキガルさん」

 

「おう、おはようマシュちゃん、立香」

 

それから4人全員それぞれ挨拶を交わし操縦室へ向かう。

 

「ええい、いい加減にせんかヘボ探偵!なぜ浮上しない!もうとっくに安全圏に脱しただろう!」

朝からゴルドルフの野郎が叫んでいる。元気なこった。

 

「それは難しい。『安全圏』とは何を示すか、その定義から始めないといけない。虚数空間に敵がいないから安全という考えは浅はかだ。そう、即ち。我々は”いつ浮上しよう?”ではなく”どうやって浮上しよう”と頭を悩ませるべきなのさ。」

 

「浮上そのものが出来ないというのか・・・!?ほほほ、ホームズ君!どうして君はそう、とても怖ろしい事をソラでほざけるのかね!?」

これがここでのいつも通りの光景だ。少なくとも同じようなやり取りを最低5回は見ているような気がする

 

「(いつも通りホームズと新所長が口喧嘩しているのだわ……。)」

 

「(違うぞエレちゃん、あれは親睦を深めているのさ。)」

 

「(とても親睦を深めているようには見えないけど……。)」

 

「(先輩に同意見です。それに喧嘩というよりあれは新所長が一方的に……)」

 

「ええい、そこ喧しいぞ!全部聞こえておるわ!」

 

耳打ちで話していたのにゴルドルフはどれだけ地獄耳なのだろうか。

 

「おはよう名探偵、おはようございます新所長。それにしても新所長は朝から元気ですね」

 

誠が嫌味ったらしく挨拶をする。

 

「おや、おはよう4人とも」

 

「おはようなのだわ」

 

「おはようございます」

 

「おはようございます、みなさん。状況確認に参りました」

 

一通り挨拶を済ませるとゴルドルフが再び騒ぎ出した。

 

「ええい、ホームズ君。先ほどの話の続きだ!貴様は『浮上しない』ではなく『浮上出来ない』と言ったな。それはどういう事なのかね。せっかく君を新カルデアの経営顧問に任命したのだ。私の采配に恩を感じつつ、この新所長にきちんと説明しなさいよ、ほんと」

 

「ふむーーー肩書きに惹かれる私ではないが、経営顧問、というのはこれまでにない役職だ。正直、胸が躍っている私がいる」

ホームズを経営顧問なんかにしたのか?今まで以上に好き放題やらせてしまうことになるぞ。

 

「ゴルドルフには破滅願望でもあるのか?」

おっと心の声が漏れてしまった。

 

「ええい!お前はいい加減、私のことを新所長と呼べ!」

「はいはい新所長。新所長バンザーイ。」

 

「ぐぬぬ…ふざけた態度をとりおって。あの時私を迎えに来てくれたことを免罪符として先の態度は見逃してやろう!まぁ、私は一向に迎えに来てもらわぬてもよかったのだがな!」

 

「しかしあの時途中から記憶がーーーー」

 

「新所長、ホームズの先ほどの話はどうなったのです?」

 

都合が悪くなったので強引に話を元に戻す。

 

「おおう、そうだったな。どうなのだホームズ!率直に言って我々は助かるのかね?」

 

「助かるのか、という質問は広義的すぎて何とも。ですが浮上の可能性については説明しましょう。我々は浮上できないのではありません。より正確には、浮上できる場所がない。我々が潜航している虚数空間ーーーーーーー マイナス世界から現実へと戻るには現実との『縁』が必要なのです。言うなればアンカー。現実に存在するものがあれば、本来は何であれ『縁』となるはずです。しかし、それが出来ない。つまりーーーーーー」

 

「地球は今クリプターに乗っ取られてまっさらの状態、つまり漂白状態に陥っているということだろ?名探偵」

 

誠は少しドヤ顔でホームズより先に結論を出す。

 

「ご名答。流石にAチームに選ばれたことだけあって鋭い」

 

「ははは、何を馬鹿な。漂白?何もない?確かに、我々は南極で怖ろしいものを見た。七つの隕石・・・のようなもの。巨大な落下物だ。だがあの程度で地球上で地球上全ての国家が消えるものか。何よりーーーーそう、なにより!西暦元年より存在する時計塔が滅びるわけなかろう!」

 

「お言葉ですがMrゴルドルフ。ロンドンの魔術協会もまた、滅びました。地球上の全ての国家は消え去った。人類は我々を残していずこかへ洗い流された」

 

ホームズの言うことが信じられないのか、ゴルドルフは驚愕の表情をする。

 

「バ、馬鹿げたことを言うな。そんな簡単に世界が滅びる筈がない、ないのだ!」

 

ゴルドルフは顔に驚愕の表情を貼り付けたまま叫ぶ。

 

――この間まで人理焼却されようとしてたんですがそれは。

 

「……ないのだよな?、お、お前たちもそう思うだろう?」

 

何故、人類悪に素手で殴りかかるよな人間に常識を問うのか、誠はいいたかったが我慢した。

 

このままでは一向に話が進まないと思ったので、誠が口を開いた。

 

「失礼を承知でお聞きしますが、新所長は次のカルデアのトップです。まだカルデアの特異点記録を見ていないなんてことはありませんよね?第4特異点 死界魔霧都市ロンドンにて時計塔も滅びていましたが……。」

 

それを聞きゴルドルフは目を泳がせる。

 

――こいつ一度脳みそ銃で撃ち抜いた方がいいんじゃないか?

 

「ごほん!こ、これから読もうとしたところであの事件が起こったのだ!仕方ないだろう!」

 

「そういうことにしておきます。」

 

ホームズが何事もなかったかのように説明を続ける。

 

「地上には我々と関係を持つものが一つ、存在する余地がある筈だ」

 

殺戮猟兵(オプリチニキ)か。そうすると俺たちは今浮上すると敵地のど真ん中に浮上できるというわけか」

 

誠が結論を出し、その場にいた皆が暗い顔をする。

 

「シャドウ・ボーダー内の備蓄も残りわずか。いつまでもこうしているわけにはいかないだろう」

 

「そうだ。どのみち我々は浮上するしかない。だがそのタイミングも最善のものを選びたい。幸い、我々にはペーパームーンがある。これを基に何処に出るにしろ比較的安全な場所――――周囲に敵性反応のないエリアを探していた。そうだろう、ダ・ヴィンチ?」

 

『はーい。呼ばれておはようダ・ヴィンチちゃ〜ん!』

アナウンスからダヴィンチちゃんの声が船内に響く。

 

『というか、話は聞かせてもらっていたよ〜。電算室で生体ユニットになっている間、シャドウ・ボーダーの内部の情報は手に取るように分かるのさ☆』

 

――なんだと!?なら俺とエレちゃんのイチャついているところも見られたということか!?

 

『誠くんとエレシュキガルちゃんはみんなの前でイチャつかないでおくれよ?胸焼けしちゃいそうだ。』

 

「べ、別にイ、イチャついてなんてないのだわ!?」

 

『そうかい ?なら音声データをみんなに聞いてもらってーーーー』

 

「わーー!わーー!それを流すのは駄目なのだわ!?」

 

「ダヴィンチちゃん、今日はここら辺で勘弁してやってくれないか?」

 

『そうだね。誠くんの顔に免じて今日はこのくらいにしておこう』

 

「もう、冥界に帰りたくなってきたのだわ……」

 

よほど恥ずかしいのか顔を赤面させその場でうずくまるエレシュキガル。

 

『さて。殺戮猟兵(オプリチニキ)が存在する領域はもう目星をつけてある。そちらに向かって浮上するコースも計算済み。ちょうどいい流れが来ている。今なら5分後にコースに乗れるだろう。次の波がくる頃にはシャドウ・ボーダー内の電力はほぼ落ちている』

 

浮上するなら今が好機だと言わんばかりにホームズが口を開く。

 

「さてどうする諸君?浮上には絶好の波が来ているようだが、覚悟の程は?」

 

すると誠は自然と立香と目が会った。

 

そして、お互い笑いながら叫んだ。

 

 

 

「「やるしかないでしょ!!」

 

 

 

「ふむ、いいだろう」

 

「待て待て!私のいうことは無視か!?」

 

ホームズとダヴィンチはゴルドルフの言う事を無視して浮上の為の準備に取り掛かる。

 

『ペーパームーン惑星航海図プラスマイナス収束開始。シャドウ・ボーダー、間も無く実数境域へ入港します。実数空間における存在証明、投錨。対象を殺戮猟兵(オプリチニキ)に固定』

 

 

『虚数潜航、終了。これより実数空間へ浮上します』

 

 

 

Lostbelt No.1 異聞深度 D

 

A.D 1570? 永久凍土帝国 アナスタシア

 

獣国の皇女

 




そーいえばお気に入り500超えてました!
ありがとうございます 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2.極寒の地

これ評価してくれた人一人一人名前見られるんですね。(今更)
評価してくれた人ありがとうございます。


『実数空間にアンカー固定。実数証明完了。シャドウ・ボーダーの存在確立。ゼロセイルによる帰港に成功しました』

 

いきなりの虚数空間からの浮上でみんな放心状態の中、アナウンスが船内にこだまする。

 

――生きているという実感が湧いてくる。

 

――それと同時に体に一気に負荷が掛かるのを感じる。

 

無重力空間にいた人が久しぶりに地球に足をつけた瞬間はこんな感じなのだろうか。

 

『報告。境界突入の際に一部装甲が剥離しました。再度の虚数潜行は、現状では不可能です。今後の安全な巡行のため、資源補充、乗組員の食料調達、シャドウ・ボーダーのメンテナンスを提案します』

 

「そうか、いや。ぶっつけ本番でよくここまで保ってくれ――む?」

 

ホームズが何か言いかけるが、何人かのスタッフはもうコックピットの非常口に駆け寄り開けようとしている。

 

「やった、地上だ!外だ!やっと新鮮な空気が吸えるぞ!」

 

「うんうん、外はどうなっているのかしらね!車は揺れてないから海上ではないと思うけど!」

 

「押すな、気持ちは分かるが落ち着け、押すな!ロックが外せないだろう!」

 

みんな久しぶりの外に浮かれているのだろう、気持ちテンションが高いような気がする。

 

「いやはや。まぁそうだろうとも。誰だって地上の様子が知りたいんだ。何しろ自分の家であり守るべき世界だ」

 

「みなさん、コックピットの非常口に殺到していますね。先輩はいいんですか?」

 

マシュも少しウキウキした様子で立香に話しかける。

 

「もちろん!今すぐ行く!」

 

それに元気よく答えマシュと一緒に非常口へ向かう立香。

 

「エレちゃん、俺たちも行こう」

 

頷くエレちゃんと共に誠も非常口へ向かう。

 

「えーとボルトも外したしこれで開くぞ!」

 

「非常口、開きます!先輩、外からの光が――――」

 

非常口が開く。あたり一面銀世界の光景が目に飛び込んでくると同時に尋常じゃない冷気が車内に流れ込んでくる。

 

 

「「「「「「「「さーーーー」」」」」」」」

 

「「「「「「「「むーーーーーい!?(のだわ!?)」」」」」」」」

 

「ここ、こいつはきつい!私のコートに霜が付くとは!諸君、急いでドアを閉めるんだ!」

 

これにはホームズもびっくりの寒さのようだ。

 

「は、はい・・・!」

 

やってしまった様な顔でスタッフが急いで非常口を閉める。

 

「いやー、どうなる事かと思った。咄嗟に空調を上げておいて良かったよ」

 

奥から苦笑しながらダヴィンチが出てくる。

 

「もーみんな無事かい?私が止める間も無くドアを開けてしまうんだから。でもいい教訓になったかな?これから外の調査が終わる前に外へ出るのはNGだ」

 

そこから状況整理してカルデア一行のいるロシア全体を謎の嵐がまるで外界と隔てる様に『世界の壁』のように覆っているらしいということが分かった。

 

「我々が未知の世界に閉じ込められた、ということになるのだ」

 

 

ホームズを筆頭にこれからの方針を決めて行く。

 

「現地の調査と修正を行う、という方向で問題ないかな、ゴルドルフ新所長?」

 

「新所長……う、うむ」

 

新所長と呼ばれるのに慣れていないのだろう。ゴルドルフが歯切れが悪く答える。

 

「そして現在、シャドウ・ボーダー装甲に損傷があり、スタッフが直すまでは動くことができない。」

 

そして、誠、エレシュキガル、立香、マシュが現地調査員として派遣されることになった。

マシュは皆が声をそろえて反対したのだが、本人の強い希望で同行することになった。勿論、武装は極力しないという条件付きだが。

 

「よしよし。では、こんな事もあろうかと調整しておいた極地用の魔術礼装をプレゼントしよう!」

 

 

 

 

今は、ダヴィンチちゃんからもらった魔術礼装を着用し、4人は非常口前で用意していた。

今回はフル装備で臨む。腰に愛銃のマシンガンを下げ、肩にスナイパーライフルを担いで準備完了だ。

 

「立香、これ」

 

誠はあの時預かった物を立香に手渡しする。

 

「これは……」

 

それは誠がダヴィンチちゃん(大人ver)から預かったトランクだった。

 

「霊脈を確保できればサーヴァントの召喚も可能になるらしい。電力に関してはダヴィンチちゃんとホームズがなんとかしてくれるだろう。お前には特異点での歴史がある。その中には召喚に応じてくれる英霊がいるだろう。エレちゃんがいるから縁で女神イシュタルなんかが召喚されちまうかもな」

 

誠は自身の魔力だけでエレちゃんの現界を維持しているため、召喚するサーヴァントは立香が契約するのだが、もしイシュタルが来たら大変そうだと誠は心底思う。

 

「イシュタルが来たら旅が賑やかになるよ」

 

立香も反射的に苦笑する。

 

「それは冗談でも言わないで欲しいのだわ……」

 

エレシュキガルもそう言って憂鬱そうな顔をする。まぁ、イシュタルとはお世辞にも仲がいいとは言えない訳だが。

 

「先輩、こちらも調整がすみました。出発しましょう!」

 

 

非常口を開けるやはり凄い吹雪だった。

 

「フォウ……」

 

するとフォウ君がマシュの胸から顔を出した。大方、盾の聖杯スペースに隠れていたのだろう。

 

「フォウさん!こんな気温で大丈夫ですか!?」

 

「コートに潜り込んでいるから大丈夫だと思うよ」

 

誠はエレシュキガルにアレには余り関わらない方が身のためと忠告されているが、気になるものは気になるのだ。今度、接近してみようと思う誠であった。

 

『はーい、テステス。どうかな、聞こえてるー?』

 

そんなことを考えているとアナウンスからダヴィンチちゃんの声が響いた。

 

「こちら誠、聞こえている」

 

『よし、通信はなんとかいけそうだ。遠く離れるとどうなるか分からないけど。それじゃあまず、4人には霊脈調査を行なってもらいたいと思う』

 

一行はダヴィンチの指示で移動していると興味深いものを見かけた。

 

「……特異点にあった光帯ではなさそうです」

 

遠く離れた場所に、天に向かって樹木のようなものがそびえ立っているのは見つけたのだ。

 

その樹木らしきモノを観察していると周りから呻き声が響いた。

 

『低ランクの幻想種かな?敵は六体。エレシュキガルちゃん頼むよ?』

 

無言で誠は腰のマシンガンに手に取った。

 




短いけど眠いからここまで


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3.ヤガとの邂逅

――気がつくと俺たちは魔獣に囲まれていた。オプリチニキ同様に倒しても倒してもキリがない。とはいえ、こんなところでエレちゃんの宝具を使うわけにはいかない。

 

「悪いけどマシュちゃんには武装してもらって群れの薄くなっているところから一旦逃げるぞ、立香!」

 

咄嗟に誠は立香とマシュに指示を出す。

 

「分かった!」

「分かりました!」

 

そしていざ逃げようとすると

 

「てめらぁ何考えてやがる!」

 

そんな叫び声とともにライフルの発砲音が鳴り響く。弾は見事に立花の真後ろにいた魔獣に命中する。

 

「クリーチャーチのど真ん中に飛び込むとか、頭いかれて――――」

 

近づいて来るその者の容姿に四人は絶句する。その野太い男の声の持ち主はお伽話などに登場する人狼にそっくりだったのだ。

 

「⋯⋯何?」

 

困惑しているのは向こうも同じなようだ。

 

「て、てめえら何者だ!そのツルツルした顔は何だ!?」

そう言って誠達にライフルを突きつける。そして誠が相手の動揺している隙をついて素早く人狼の股下を潜る抜け、腕の付け根を抑え頭に拳銃を突きつける。

 

緊迫した空気がその場を支配する。

 

「待って!待ってください!」

 

「落ち着いて!誠くんもストップ!」

 

マシュと立香の真剣さが伝わったのか二人が銃を下ろす。

 

「いきなり銃突きつけてすまねぇ」

 

「こっちこそ、すまん」

 

こんな状況のため体が反射的に動いてしまった。

「⋯⋯もしかしてお前ら、魔術師か⋯⋯?」

この世界にも魔術師がいるのだろうか。

その時あたり一帯にクリーチャーチと呼ばれる獣の鳴き声が響き渡る。

 

「チッ⋯⋯。クリーチャーチは臆病だが、仲間を呼んで際限なく押し寄せて来るんだよ!お前らついてこい!」

そう言って倒した魔獣を軽々と持ち上げる人狼。狼というだけあって筋力はそれなりにあるということだろう。

 

「行くぞ、マシュちゃん、立香」

唖然としている立香達に声をかけて走る人狼を追いかける。

 

10分くらい走った頃だろう、一つの村にたどり着いた。

 

「到着はしたが……」

その村には見える範囲でオプリチニキが4体確認できる。

「⋯⋯くそ、オプリチニキの巡回だ!税金代わりに、獲物を奪われちまう!」

どうやらこの国の情勢はあまりよろしくないようだ。

 

「いいかお前ら、あいつらと他のヤガには絶対見つかるなよ」

ヤガというのは人狼のことだろうか。そんな事より今は隠れないとまずい。今エレちゃんを使ってあいつらを倒す事もできるが上に連絡がいって存在がバレるのはあまり得策ではないからだ。

 

「⋯⋯なるほどな、オプリチニキに追われてんのか?なら俺の味方だ。何かくれるなら匿ってやらなくもないぜ」

 

小声で人狼がこちらに提案をして来た。

 

「マスター⋯⋯?」

 

「助けてもらおう」

先に口を開いたのは立香だった。

 

「⋯⋯了解だ。ついてこい」

 

「おい、パツシィじゃないか」

 

その矢先、道を歩いてきた人狼ーもといヤガに声をかけられた。

 

「⋯⋯少し隠れてろ」

 

「⋯⋯何だ少し変な臭いがしないか?」

 

「この魔獣だろ。血抜きがたりなくてな」

 

「貧乏暇無しとはよく言ったもんだ。そんなので冬は生き延びられるのか?」

 

「アンタは生き延びられそうだな」

 

「ハハハハハ、たっぷり溜め込んだからな。もし食料が欲しけりゃ、安値で売ってやるぞ?ただし、お前の持ってる狩場の情報と交換だがな」

 

「⋯⋯考えておくよ。じゃあな」

いつの時代も感じの悪いやつはいるもんだな、なんて考えているうちに会話は終了した。

 

「よし、とっとと家に戻るぞ。他の連中の鼻に引っかからない内にな。」

 

 

 

「⋯⋯よし。とりあえずオプリチニキに気付かれてはねえ」

 

「ありがとうございました」

 

「例なんか要らねぇよ。代わりになんかよこしな。物事ってのは等価交換だろ」

 

「何か⋯⋯ですか。どうしましょう先輩」

 

困った時のーーー

「聞いてるんだろ名探偵」

 

『情報、というのはどうかな、そこのキミ』

 

その声と同時に空間にホームズの顔が浮かび上がる。

 

「うわあ!なんだこれ!?」

 

人狼はよほど驚いたのかその場で飛び上がって奇声を発する。

 

「魔術の一種だ。心配はいらん」

 

その人狼を宥めるかのように誠は制する。

 

『その反応を見るに、キミたちにとって魔術は知っていても身近ではない、という感じかな。それで繰り返しになるが、キミの有益になるような情報があれば、提供しよう』

 

「⋯⋯狩場の情報、そんなのはあるか?」

 

そこからはトントン拍子でホームズによりことは進み、今度はこちらから質問する番になった。

 

『ではまず、このロシアについて、知っていることを教えて欲しい』

 

「待った!」

口を開いたのは立香だ。

 

「まず、名前を教えて欲しい」

 

「⋯⋯名前、ねぇ。コルドゥーンに名前を教えると、呪われるって噂なんだが⋯⋯」

 

「コルドゥーン、とは何のことでしょうか?いえ、状況的に考えて私達のことでしょうか」

 

「魔術師って意味だ。俺は見たことないが、今の王家にゃ魔術師が詰めかけてんだろ。まぁ、いいだろう」

そして人狼は一呼吸開けて名前を告げる。

 

「俺の名前はパツシィだ。で、テメェらは?」

 

「私はマシュ・キリエライトです」

 

『シャーロック・ホームズだ』

 

「僕は藤丸立香です」

 

「俺は誠・エルトナム・シリウス。そしてこっちのさっきからだんまりの金髪ツインテールがエレシュキガルだ」

 

「だ、だんまりで悪かったわね!」

なんとこの女神、長い間冥界で一人で篭りすぎて対人スキルがE-なのである。

 

「ふーん、変わった名前だな。で、テメェらは何者なんだよ。オプリチニキに追われてるってことは叛逆軍か?」

 

「叛逆軍?ええと待ってください、私たちはーーーー」

どこから説明したものか。

 

『説明は後で私がうまく説明しておこう。先に我々の番だ』

 

「先に俺の質ーーーーー」

 

パツシィの声を遮るようにスピーカーから声が響いた。

 

『今西暦何年かね?』

 

「……馬鹿げた質問だが、答えてやるよ。西暦2018年だ。それがどうした?」

 

『そうか。では、あの巨大な嵐⋯⋯暴風の壁のようなものに見覚えは?』

 

「俺はこのロシアで20年生きてるけどあんなの見たことがねえ」

 

「なら俺からも一つ質問だ。遠くにちらっと見える空に向かってそびえ立つ塔のようなものはなんなんだ?」

 

そこに誠が割って入った。

 

「都市の方から生えてるって噂だがそれしか知らねぇ」

 

『最後に一つオプリチニキとは何者だ?』

 

「おい。そんなことも知らずに生きてきたのか?殺戮兵器、オプリチニキ」

 

ここら辺に住んでいる人達にとってオプリチニキはどうやら恐怖の象徴のようだった。そんなものは知らないなんてパツシィは信じられないのだろう。

 

「イヴァン雷帝の親衛隊だろうが」

 

『16世紀のロシア皇帝の一人だね』

 

イヴァン雷帝ーイヴァン4世は16世紀のロシアの皇帝の一人である。気性も荒く残虐な政治をしたことは有名だ。

 

「待ってください。パツシィさんは教えてくれました。今は2018年だと。仮に今生きているとしたらーー」

 

「450年間くらい生き続けていることになるな」

 

「サーヴァント……?」

 

「十中八九そうだろうな」

 

「お前ら何も知らないって言っても限度があるぞ」

 

「俺達はマジで何も知らないからな」

 

「パツシィさんお願いです、歴史を教えてくれませんか……?」

 

「……いいだだろう」

 

説明を要約するとこうだ。

450年前にこの地球に大寒波が来た。隕石の落下によるものらしい。そしてこの星はどこだろうと分け隔てなく極寒の世界になった。ロシア以外の他の国の人たちは寒さに耐性がなく滅んでしまった。だがロシアも人口の9割近く失われ、国そのものがなくなる一歩手前だった時にイヴァン雷帝が手を打ったのだと。それが魔獣と人間が合わされたヤガということだった。

 

「それで結局アンタは一体何なんだ?」

 

「私たちは人理保証継続機関カルデアのメンバーです」

 

「⋯⋯ますます分からん」

 

「俺たちは世界を救いに来たんだ」

 

「へぇ、そりゃスゲえや。⋯⋯馬鹿か?馬鹿なのか」

 

確かにいきなり存在するはずのない自分達とは別の種族が現れて世界を救うなんて頭のおかしいことを言い始めたのだ。パツシィに誠達の正気を疑われるのも無理もないだろう。

 

『冗談に聞こえるだろうが、我々は一向に本気だとも』

 

「…………面白ぇ。この国のどん詰まりが動くならそれはそれで面白ぇ」

 

パツシィはニヤニヤと笑いながら言った。どうやら交渉は成立したのうだった。

 

「そいつはどうも」

 

「話は終わりか?ならさっさと狩場の場所を教えな」

 

場所を聞くと勝手に外に出るなと告げてパツシィは颯爽と狩りに出て行ってしまった。

 

『ともかく、キミ達が相対すべき相手は信じがたいが存命しているイヴァン雷帝だ。とはいえ、こちらの手札がエレシュキガルくんだけでは心元ない。まずは霊脈の確保だ』

 

「当てはあるんですか?」

 

『実はさっき走って逃げるときに見つけたんだよね!』

とダヴィンチちゃんが答える。

 

そこから対策をいろいろ練っているとパツシィが帰って来た。

 

「いよう。お陰で無事大猟だった。次の狩場を教えてくれ」

 

『おっとその前に一つ頼みがあるのだが』

 

「何だよ。もう交換できるものなんぞねぇぞ」

 

『いや簡単なことだ。今から材料を指定するので、それらを集めて来てほしい』

 

それは(カイト)を作るのにいろ素材だ。サーヴァントを召喚するのに電気が必要なのだが雷からそれを得るために凧を作らなければならないのだ。

 

10分後

「市場に売ってるものばかりだったから簡単だったぞ。じゃ、これで別の狩場を教えてくれるんだよな?」

 

『もちろん。これは対等な取引だからね』

狩場の場所を聞くとまたも颯爽と狩りに出かけてしまった。

 

 

『それでは図画工作のお時間だ。それで凧を作ったことがあるものはこの中にいるかな?』

 

「私は全く」

とマシュ。

 

「僕も」

と立香。

 

「右に同じく」

と誠。

 

「あるわ!」

とエレシュキガル。

 

『そうか誰もいな……ってエレシュキガルくんあるのかい?』

これにはホームズもびっくりだ。

 

「エレちゃんのことだから冥界で一人で暇すぎて暇つぶしに作ったんでしょ」

 

「うぅぅ……、言い返せないところが何とも言えないわね……」

 

だがエレちゃんもウロ覚えだったのか

『あー違う違う!そっちじゃなくてこっち!そっちを切るの!違うって!もー!』

とダヴィンチちゃん。

 

『だからそこではない!そこを切ったら凧が飛ばなくなるではないか!』

とゴルドルフ。

 

『いや、そこで合っているよ。次に切ろうとしているところが逆なんだ』

とホームズ。

 

そんなこんなで長い時間をかけて凧が完成した。

外はもう雨が降っていた。今にも雷が落ちてもおかしくない様子だ。

 

『⋯⋯と、じゃあ最後に帆に描く絵は何がいいかな〜』

「いらないです」

とすかさずダヴィンチちゃんにツッコミを入れる立香。

 

『ええ!?ボイジャーに乗せてもいいような、素晴らしい人体図を描こうと思ったのに!』

 

『いらんわ!むしろ怖いわ!』

ゴルドルフもいいツッコミだ。

 

『ミス・キリエライト。何か適当に描いておくといい。遊び心は大事だ』

「はい。デザインアートでしたら得意分野です。お任せを、マスター」

 

そうして魔除け風の立香が完成した。

 

『もう時間がない、パツシィ君には悪いが待つ余裕がなさそうだ』

 

外には心なしかヤガが多いような気がした。




アプリ内でいう3章まであんまり変化ないけど許してお兄さん


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4.金星の女神

 誠がヤガが多いなんて思っているも束の間、街中にラッパの音が鳴り響く。

 

「おや⋯⋯今の音は何でしょう?」

 

「動かない方がいいんじゃないかな⋯⋯」

 

 マシュの疑問に対する立香の答えも最もだが少しくらいなら大丈夫だろう。

 

「いや、ちょっと覗くくらいなら大丈夫だろう、状況確認は大事だ」

 

「了解しました、誠さん。では、こっそり忍び足でいきましょう」

 

「はーい、ヤガの皆さんコンニチワー!今日も今日とて自転車操業ライフご苦労様♡生態的に、どんなに働いても貯蓄は不可能。どんなに努力しても出世は不可能。そんなお先真っ暗な皆さんの生活を助けるキュートな天使がやって参りました〜☆」

 

 そこにいたのはあのカルデアで誠達を襲ったあのコヤンスカヤだった。それにいち早く反応したのはゴルドルフだ。

 

『あれは⋯⋯!?蜂蜜に蜂蜜をかけ、さらにアイスを乗せた後にやはり蜂蜜をかけて焼いたような甘い声は!?』

相当な慌てようである。

 

『お前達、物陰に隠れろ!いいか、遠くから様子を窺うのだ!決して近寄ってはならん!私のようにハニートラップで全てを失いたくなければな!』

被害者というだけあって説得力が段違いだ。これには全員無言で首を縦に振るしかできないだろう。

 

「TV・コヤンスカヤ、TV・コヤンスカヤのハニーキッチン、開店でーす!今日もたくさんのお客様、こんにちは。アコギな商売と承知の上でありがとうございます」

 

どうやら食料を提供しているようだ。

「⋯⋯こ、コヤンスカヤさん。今日も、食料を売ってください⋯⋯」

そこに一人の男がやってきた。目と腹が出ている。人間が栄養失調になった時の症状と同じだ。

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

「あ、あの⋯⋯コヤンスカヤさん?」

 

「⋯⋯悲しい。私、とても悲しいです。ヤガの皆さんの記憶力はピロシキほどもなかったのね。全くー飼い主への敬称もロクにできないなんて。ここは『コヤンスカヤさま』でしょうに」

 

 そこからのコヤンスカヤの所業はとても見ていられないものだった。ヤガにはどう考えても不釣り合いな金額で肉を無理やり買わせ、自分に反発した者は抹殺。挙げ句の果てにはヤガに甘い餌をチラつかせヤガ同士で殺し合いをさせるなどとても人の所業ではなかった。まぁサーヴァントなのだが。

この国の実態を垣間見たがこの国はもう駄目だと思う誠であった。恐怖で人をもといヤガを支配するやり方は絶対駄目だ。過去の歴史もそれを物語っている。それをするには国のトップが凄まじいカリスマ性を持っており、国民からの信頼が必要だ。イヴァン雷帝がそんなものを持っているとは到底思えない。それにこの国のヤガは日々恐怖に怯え続け生活しているように感じる。

 

 そうこうしていると満足したのかコヤンスカヤは馬車に乗って帰って行った。

 

『浮かない顔だなお前達。何があったのか、できるだけ簡潔に報告しろ。要点だけでいいぞ』

マシュと立香が説明する。

 

『⋯⋯ふむ。間引きが目的だったとしても、趣味が悪いな。結果として食料を取れないヤガは半分になり、全体の生存率は上がったかもしれないが⋯⋯』

 

『ええい!辛気臭いのはなしだ!結論としてコヤンスカヤは悪魔だ!これでいい!!』

しんみりした空気をゴルドルフが打ち破る。

 

『お前達の気持ちもよく分かる。よく耐えたな』

初めてゴルドルフが所長らしく見えたと思う誠であった。

 

『しかし⋯⋯やはり、コヤンスカヤ君がいるとは⋯⋯。彼女には要注意だな』

 

『ああ。彼女は間違いなくサーヴァントだからね』

と付け加えるダヴィンチちゃん。

 

『要注意といえばもう一人。言峰神父だ』

その名前を聞き誠は自然と手の平に痣ができるほど力が入る。

 

『言峰綺礼は西暦2004年に日本で死んでいる。少なくとも2017年の聖職者リストにはいない』

 

何!?なら3年前に父さんが身を犠牲にしてまで殺したあいつは何なんだ⋯⋯。まさか死んだふりでもしていたというのか?そんなことサーヴァントくらいにしかー待てよならあいつは本当にサーヴァント?エレちゃんと同じパターンか!それなら全て納得がいく。

 

「擬似サーヴァントでしょうか?」

俺の思考を先読みしたかのようにマシュが質問する。

 

『その線が高いだろうね。何にせよ注意が必要だ。特に誠君、彼とは過去に何かあったようだが見つけたとしても怒りで暴走したり自分勝手な行動は抑えて欲しい』

 

「そんなことは分かってる名探偵。無茶なーー」

その時、強力な魔力な気配を感じた。

 

「エレちゃん!」

 

「分かってるわ!」

エレちゃんが反射的に槍でソレを薙ぎ払うがーーヒョイっと躱されてしまう。

 

「きゃー危な〜い」

そこにいたのはさっき帰ったはずのコヤンスカヤだった。

 

「はぁーい、生還おめでとうカルデアの皆さま♡まずはその幸運と生命力を讃えるとしましょうか」

その言葉と同時に全員が戦闘態勢に入る。

 

「いやーん、そんな戦闘態勢に入らなくっても大丈夫よ。だいたいそこの神霊が強くたって自衛の手段がないマシュちゃんと立香くんを守りながら戦うなんて無理でしょう?」

と背後にいるオプリチニキをちらつかせる。

 

「今日はまだ別の業務が終わってないため、寛大な気持ちで見逃してあげましょう。その方がこの先もっと面白くなるでしょうし。こちら側に有利なんてフェアじゃありませんし」

 

「⋯⋯貴方はカルデアを破壊しただけでなく⋯⋯Aチームと先輩と不知火さん達を戦わせるというんですか!」

 

「⋯⋯マシュちゃん落ち着いて」

感情的になっても何も始まらないことにはたくさん経験してきた。誠はマシュを落ち着かせる。

 

「ええ、そうよ。カルデア側とクリプター側で殺しあってもらうのよ。そのために色々準備してきたんだもの。それが一人目であっさり終わっては大損というもの」

その時は経験の違いというやつをみせてやろうではないか。

 

「ああ、それとヒントは一切差し上げませんので悪しからず♡こちらも一年間、身を粉にして舞台を整えたのです。不明点、疑問点、そして反省点。それらは全て自分達で解明しなさい。というわけで後は自分達で何とかしなさい。さぁ、ネズミのように這い回ってこのロシアを生き延びなさい」

そう言って去っていった。

その時であった。ヤガの悲鳴が街中に響きわたる。

 

「確かに私の兄は叛逆軍に入ろうとして殺されましたが、私は全く関係ありません!ましてや魔術師の居場所なんて!」

しまった、バレたか!

 

「もう一度問う。魔術師はどこにいる?」

 

「ですから、そんな方知らない⋯⋯!」

 

「⋯⋯ならば、皇帝(ツァーリ)の威光を未だに理解していないという証左である。破壊し、殺せ」

 

「あ、ああ⋯⋯やめて⋯⋯」

容赦無くナイフを喉元に突きつけるオプチニキ。

 

「お待ちを!知っています!皇帝(ツァーリ)に逆らいし者を!そのヤガの名はパツシィと申します。あのヤガは怪しいです!あの男の父もあなた方に逆らって殺されました!」

あいつ有る事無い事言いやがって。

その時、偶然狩り帰ってきたパツシィが割り込む。

 

「おい!テメェふざけんな!」

 

次の瞬間パツシィがオプリチニキに発砲した。それと同時に立香とマシュが飛び出した。

 

「しょうがないな。エレちゃん頼む」

 

通信でゴルドルフが騒いでいるが皆が御構い無しに戦闘態勢に入る。

 

「任されたのだわ」

 

この距離からエレちゃんがメスラムタエアを小さく分身させたものを撃ち出す。それが命中しパツシィと対峙していたオプリチニキは倒れる。しかし一人倒したくらいでは終わらない。村中のオプチニキが湧いてくる。

 

「エレちゃんは立香達の援護を、俺はここからエレちゃんを援護する」

「了解よ」

俺は素早く肩にかけてあるスナイパーライフルを構えその場でしゃがんで狙撃態勢に入る。対物ライフルを魔術で色々と弄っているためその威力は絶大だ。

 

そしてエレちゃんの背後に近づくオプリチニキの頭を的確に撃つ抜く。その場で倒れるかと思えば跡形もなく消滅する。

オプチニキを20体くらい倒したところでこの村のオプチニキが全滅した。しかし、別の村からいつ援軍がくるか分からないため急いでここから逃げなければならない。

 

「とりあえず逃げるぞ!お前ら!」

 

そうして誠たちは村を後にした。パツシィは未練があるようだが覚悟を決めてついてくるようだ。

 

『よし、なんとか村を出たな。犠牲がなくて何よりだよ。』

 

ホームズのその言葉に一同安心する。

「助かったぁ!」

 

「誠さんとエレシュキガルさんのおかげです!」

 

「いやいや困ったときはお互い様ってことよ」

 

「戦闘は私たちに任かせておきなさい」

 

『安心しきっているところ悪いが目的地を目指してもらうよ。ミス・キリエライト、パツシィ君に見せてあげてくれ』

 

「ここは⋯⋯了解した。ところでなんであんた達、俺を囮にしなかった?」

当然の疑問だ。普通の人なら絶対に囮にするだろう。

 

「まだ恩を返してないので」

 

だが立香は違う。

 

「魔術師ってのは意外にそういう奴なのか?」

 

「いや普通の魔術師なら絶対に見捨てるだろうね。なんせあいつら基本自分のことしか考えない自己中野郎ばっかだからな。俺と立香が変わってるだけだ」

 

そこからはパツシィの案内で無事霊脈までつくことに成功した。

 

『さ、立香くん、凧を揚げて揚げて!マシュも一緒にね。』

 

「ダヴィンチちゃん、それ立香もマシュちゃんも感電するのでは?」

 

「あ、」

あ、じゃねえよ!俺が言ってなけりゃどうしてたんだよ!

 

『しょがない、ミス・キリエライト、霊基トランクにワイヤーを接続。凧を持って水平に勢いよく走ってくれ』

 

「はい!マシュ・キリエライトーー凧を揚げます!」

 

「集電カイト準備オッケー!いつでも召喚できます!」

 

『パツシィ君、大変申し訳ないがここら先は魔術師にとっての秘儀でね。洞窟の外で待っていてもらえないだろうか?』

 

「は⋯⋯はぁぁぁぁ!?」

 

そうして先に誠以外の三人が洞窟に入っていく。

 

「パツシィ」

いつになく真剣な面持ちで誠が口を開く。

 

「なんだよ」

 

「これからも多分君を俺たちの戦いに巻き込んでしまうだろう。これまで以上にな」

 

「⋯⋯何が言いたい?」

 

「君にその覚悟と勇気があるのならその目に焼き付けるといい。君にはそれを見る権利がある」

 

英霊召喚――奇跡を引き起こす魔法をね

そう言って誠は洞窟へ入っていく。

 

――ここまできたら後には引けねぇよ

では秘儀とやらを拝見させていただこうじゃないか

 

 

 

そうそれは奇跡を引き起こすため、複雑巧緻に編纂された術式の紋様。

 

 

 

その少年――立香は右手を突き出し声高らかに告げる。

 

 

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!

 

 

 

そうそれは奇跡を引き摺りだす言葉

 

 

 

あらゆる困難を打破するため、その武勇を、叡智を求めて紡ぐ詠唱。

 

 

 

 

英霊召喚の秘儀である

 

 

 

「女神イシュタル、召喚に応じ参上したわ。美の女神にして金星を司るもの。豊穣、戦い、破壊をも司るこの私をせいぜい敬い、恐れながら貢ぎなさい」

 

 

 




イシュタルかわいいよイシュタル


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5.女神2人

ドラクエ5初見でビアンカと選ばなかった人とは分かり合える気がしません


そこにいたのはエレシュキガルと瓜二つの少女だった。唯一違う点を挙げるのであれば髪の色が黒で露出が多いということだろうか。

 

 そしてすぐさま女神イシュタルを名乗る少女はエレシュキガルの存在に気がつく。

 

「な、なんであなたがここにいるのよエレシュキガル!」

 

「そ、それはこっちのセリフなのだわ!イシュタル!よりにもよってあなたが召喚されるなんて⋯⋯完全に想定外だったわ⋯⋯」

 

「くー!何よ!最悪なのはこっちもなんだから!立香たちのピンチに颯爽と現れてかっこよく救って女神ポイントをがっぽり稼ぐチャンスだったのに!」

 

 初めはいきなり人が現れてパニック状態に陥っていたパツシィだったが今では一緒にこの光景を傍観している。

 

少女達の口論は10分にも及んだ。 

 

「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯さすがに疲れてきたのだわ⋯⋯」

 

「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯奇遇ね、私もよ。今日のところはここまでにしおくわ」

 

 今日のところってまだこれ続くのだろうか。最終的に宝具ぶっ放しはじめそうである。

 

「しばらくぶりね、立香にマシュ。召喚に応じて参上してあげたのはいいけど、またあなた達厄介ごとに巻き込まれているのね。契約した以上は助けてあげる。感謝なさい!」

 

「こっちこそよろしくイシュタル!また力を貸してくれて嬉しいよ」

 

「はい!イシュタルさんがきてくれるとこちらとしても心強いです!」

 

立香とマシュの反応からするに相当信頼している英霊なのだろうと誠は推測した。

 

「そしてあなたがあのエレシュキガルのマスターね。ふーん」

 

 そう言って誠を品定めするように見つめるイシュタル。

 

「いいんじゃない。度胸もありそうだし数々の修羅場をくぐってきたようね」

 

――すげぇよ女神、なんで見ただけでそんなの分かるんだよ。

 

「お褒めに預かり光栄です、イシュタル神」

 

「それに女神に対する姿勢も完璧」

 

「なんか私の時と態度が違うのではなくて!?」

 

自分との態度の違いに、声を荒げるエレシュキガル

 

「それはあれよエレシュキガル、身から漂う女神オーラが違うのよ。辛気臭い冥界に籠っていたあなたにはないものね」

 

そう言って勝ち誇ったように笑うイシュタル。しかし、事実なのでエレシュキガルも言い返すことが出来ない。

 

「ぐぬぬぬ⋯⋯」

 

「まぁ、ほらあれだエレちゃん。これまでの付き合いが長いってのもあるし、仲がいいに越したことはないでしょ?エレちゃんが態度を改めろっというならこれまで見たいに気軽に訓練や食事に誘えなくなるけど⋯⋯」

 

「わーやっぱりマスターはそのままでいいにだわ!そ、それに今の関係私もそ、その気に入ってるし⋯⋯」

 

――ふ、ちょろい。

 

「あなた完全にエレシュキガルの扱い方に慣れているわね⋯⋯」

 

「生半可な気持ちでこのポンコツ女神と契約してないったことですよイシュタル神」

 

「別にそんなにポンコツじゃないわよ!」

どの口がそれを言うか。

 

『コホン!そろそろ今後の方針を決めていこう』

そして自己紹介が一段落終わったところを見計らってホームズが話しを切り出す。

 

『ゴルドルフ新所長、よろしいかな?』

 

『う、うむ。決定権は私にあるよな?』

 

『もちろんですとも』

 

日に日にホームズのゴルドルフの扱いが上手くなってきているのは気のせいではないだろう。

 

『話を統合すると、我々はここにくると途中パツシィ君が話していた叛逆軍の下に向かうべきだと考える』

 

「名探偵に意見に賛成だ。話によると軍のリーダーはサーヴァントらしいしな」

それに今はできるだけ戦力が欲しい。協力してもらえるといいんだが。

 

「そんな回りくどいことせずに私とエレシュキガルで敵の本拠地に殴り込みに行くのは駄目なの?一応私たち神霊よ?」

 

「敵の戦力が分かっていて尚且つそれで行けそうなら良かったんですけど、敵の戦力は未知数です。イヴァン雷帝と敵対している以上自分達に協力してしてくれる確率が高いです。それにここは異聞帯(ロストベルト)。あの世界と勝手が違います」

 

――RPGとかでもそうだ、徐々に仲間を増やしていって最後にボスだ。ボスに喧嘩を売るのはまだ早い。

 

しかし、そうするとこの物語の主人公は間違いなく立香だろう。ヒロインはマシュだ。しかしそうすると自分はドラクエ5でいうところのパパス枠の気し、誠は考えるのを辞めた。

 

「そうよ、イシュタル。ここでは慎重に行動するべきよ。いつものような自分勝手な行動は控えなさい」

 

「あなたに言われると無性に腹がたつわね!」

 

――お前達はいちいち喧嘩しないと気が済まないのか。

 

「いやー、それにしても叛逆軍はどこにいるんだろうね!」

 

露骨に話題を変える立香。

 

「パツシィが知ってるんじゃいか?」

 

誠は立香に便乗して、話題を上手いこと叛逆軍関係に戻した。

 

「叛逆軍に協力してるって噂されてる村が幾つかあるのは知ってる」

 

話を聞くところによると叛逆軍に食料を提供したり匿ったりしているところがあるらしく、そこに向かうということになっていたのだが、その中間地点にある村をどう通り抜けるか話し合っていた。

 

しかも村の手前で。

 

 

「やっぱりここは走り抜けるのがいいんじゃないでしょうか?」

 

マシュが案を一つ出した時、案の定と言うべきか、村の警備のヤガに見つかってしまった。

 

「いやここはバレないようにコソコソーーー」

 

「待て!お前達そこで何している!」

 

見つかったら答えは一つだろう。

幸いにも相手は一人。誠は初めてパツシィと会った時と同じように反射的に腰に備えつけている銃を抜く。そして両足に身体強化の魔術を使い素早く相手の懐に飛び込み弾が避けられないようそのまま相手を押し倒し、頭に銃口を突きつける。ヤガは力だけは強いため身体強化しないと逆に押し倒されてしまう。

 

「ま、待ってくれ!お、お前達叛逆軍になりに行くんだろ?」

 

「なんだ、お前達にそれが何か関係があるのか?」

 

誠はいつもの陽気な雰囲気とは裏腹に、非情な声でヤガを追い詰める。

 

「こっちは今大きな声で叫んで巡回に来ているオプリチニキに知らせてもいいんだぞ」

 

「そんなことをすれば分かっているだろうな?」

 

そう言って数回トリガーを引く。何発か顔をかすめヤガが呻き声をあげる。サプレッサーを装着しているため銃声は響かない。

 

「誠君!」

 

立香がその様子をみて思わず声を荒げる。

 

「分かってる」

 

もとより、誠は殺しはあまり好きじゃない。

 

「おい、俺達は魔術師(コルドゥーン)だ。このことを言いふらせばお前を呪い殺す。分かったな?」

 

「は、はいぃぃ!!」

 

相手の返答を聞き失神しかけている相手にさらに追い討ちをかけるように峰を銃のグリップで強打させ気絶させる。

 

「オプチチニキの巡回も来ているらしい。走るぞ!」

 

 

 

 

「流石にここまでくれば大丈夫でしょうか」

走ったせいかマシュちゃんがかなり疲労していた。早く休める場所を見つけないとな。

 

「しかし誠、あなた中々エグいことするわね」

 

「この切羽詰まった状況で相手にあげるものなんて何もありませんからね。見つかれば脅すなりするのが一番だと判断しましたイシュタル神」

 

「でも、あれは流石にやりすぎなんじゃないかな?」

 

『いや、脅しとはああいうものだよ立香君』

とホームズ。

『そうだぞ、貴様は甘すぎるのだ』

とゴルドルフ。

 

「まぁ絶対殺しはしないから安心してくれ立香」

立香は渋々納得したようだがその顔には不満しか残っていないようだった。

 

「しかし叛逆軍とはどうコンタクトを取るんでしょうか?サーヴァント、マスター、異聞帯⋯⋯そう言った単語をそれとなく告げるとか、どうでしょう!」

 

マシュの疑問ももっともだがここはシンプルに行くべきだろう。

 

「いや、ここは叛逆軍に加わりたい、という意思を見せるんだ」

なるほどと頷くマシュ。

 

「というわけでパツシィ、叛逆軍に加わるつもりはあるか?」

 

「⋯⋯雷帝がオプリチニキを率いてこの大地を支配してから、もう四百五十年になる。不死身の雷帝、偉大なる皇帝。あの御方の執政に俺たちは震えながら生きてきたが」

 

パツシィが神妙な面持ちで告げる。

 

「このまま縮こまって死ぬのは嫌だし、それにもう覚悟は決めてある」

 

「いい返事だ」

 

「ところでシャドウ・ボーダーの復旧はまだ時間かかりそう?ホームズ」

と立香がホームズに質問する。

 

『ああ、しばらくは動かせそうにない』

動かせたら楽だったんだけどなぁ。

 

そこから歩くこと10分到着した。

「オプリチニキがいるかもしれないから、まず俺が確認してくる」 

そう言ってパツシィが一人で行ったきり帰ってこない。 

 

「⋯⋯日が暮れて来ましたね。流石にもう村に入っていいんでは⋯⋯」

マシュが痺れを切らした時、村から大勢のヤガが出て来た。

 

「あー、パツシィって奴の連れはあんた達だよな⋯⋯?」

「そうだが?」

 

「全員頭にかぶってあるフードとってくれねぇか?」

それを聞き俺たちは全員フードをとり顔をさらけ出す。

そもそもイシュタルは私の美が隠されるのは嫌とかなんとか言って元からフードをかぶっていないのだが。

 

「⋯⋯驚いた。あの野郎が言ってたことはマジだったんだな」

ヤガ達は初めは動揺していたが、落ち着きを取り戻し全員が全員、戦闘態勢に入った。

こうなることは経験上なんとなく分かっていたが⋯⋯。

 

「あら、あなた達どうして私たちに向かって銃を向けているのかしら?女神に銃を向けるなんて感心しないわね」

 

「そりゃ、簡単な話さ。ここ最近の話だがーーーーイヴァン雷帝の傍に人間の魔術師がいるそうだ。人間体のサーヴァントもな!悪いが容赦はしねえ!」

 

「エレちゃんは大丈夫だろうけどイシュタル神、うっかり殺しちゃった☆とか無しですからね」

 

「分かってるわよ!」

ここまで信用できない『分かってる』は他にあるだろうか。

 

 

それはまさに戦闘ではなく蹂躙だった。

ヤガの攻撃は全く意味をなさず。エレシュキガルとイシュタルの魔力を使った遠距離攻撃に、ヤガ達はことごとくその場に倒れていく。隙を見て誠がエーテライトを鞭のように使いヤガ達をその場で動けぬよう縛り付けていく。

その様子を見るに耐えなくなったのか敵の親玉が顔を出した。

 

 

「待て!!!!」

 

 

頭にはケモ耳、肩に猪の頭を乗っけている銀髪碧眼の少女だった。

「あなたがリーダーかしら?全く女神に攻撃を仕掛けるなんて其れ相応の覚悟があってのことでしょうね?」

 

「そうだ。⋯⋯それに関しては申し訳ないと思っている。だが汝らが皇帝(ツァーリ)の手の者かどうか確認する必要があった。それは強者でありながら、慈愛を持つことなき非道の所業を行うかどうかによる。だが汝らはこれだけの数の者を全て峰打ちで済ませた。感服だ」

 

ケモ耳少女はそこで区切って、先程とは違う優しい声音で告げた。

 

「叛逆軍へ歓迎しよう」

 

 




ちなみに僕の一番好きなキャラはフローラです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6.叛逆軍

ドラクエ6初見でやったんですけど面白かったです


「まずは自己紹介をしておこう。我が名はアタランテ。カリュドーンは魔獣の力を手にせし者だ」

 

「なるほど、反転状態か」

 

いわゆるオルタというやつだ。オルタはそこそこイレギュラーな状態なのだが、カルデアにゴロゴロいた影響か立香達は見慣れていた。カルデアの資料でしかサーヴァントの知識がない誠もそうである。

 

「まあな。だが、取り立て悪いものでもない。元々、私の霊基はこの魔獣に適正があった、ということだろう。お陰で、ヤガにも仲間と認めてもらえるからな」

 

そんなことをドヤ顔で語るアタランテ。

 

誠はその様子でアタランテを凝視していた。服装もかなりエロいからだ。

 

ジロジロ見ているのがバレたのか誠はエレシュキガルにお腹を小突かれる。

「いてっ」

 

「全くどこを見ているのかしら?そんなに見たければお腹くらい私でも⋯⋯ぐぐぐ⋯⋯」   

 

「エレちゃんも落ち着ついてくれ」  

 

「そこ勝手にイチャつかないでくれる!?」

 

「イチャついてないです。ただの日常会話ですよイシュタル神」

 

「その日常会話二人の時にやりなさいよね!」

 

「⋯⋯コホン!話を戻すぞ」

 

アタランテは咳ごみをし話題を戻す。

 

「気がつけば私はこの土地に立っていた。呼ぶ声によってな。あれは世界の断末魔だったのだろう。この、我々の歴史にないロシアに上書きされた、本来のロシアのな」

 

「なるほど、抑止力か」

 

そこに立香が割り込む。

 

「抑止力ってなんだっけ?」

 

――よくそれで人理救えたな⋯⋯。

 

誠は呆れ半分といった感じで説明した。

 

「抑止力といってもいろいろあるが簡単にいうと、世界が危機に陥った時にその原因を排除するためになんやかんやしてくる機関のことだ」

抑止力のことについて説明し始めると複雑で時間かかるのでやめておこう。

 

「なるほど」

 

「ともあれ砦に戻るぞ。皆はそこで傷を癒せ。汝らもついてこい、砦に案内する」

 

皆で砦に向かう雰囲気になっているなか、マシュが声をあげた。

 

「あのもう一人いるんですが!」

 

誠もパツシィのことをすっかり忘れていた。

 

「ああ、あの男か⋯⋯。よし、いいだろう。奴も連れて行ってやれ」

 

「パツシィさん、大丈夫でしょうか⋯⋯」

 

そして、案の定マシュの心配通りーーー

「しぬかとおもったしぬかとおもったしぬかとおもったしぬかとおもったしぬかとおもったしぬかとおもったしぬかとおもったしぬかとおもったしぬかとおもったしぬかとおもったしぬかとおもったしぬかとおもったしぬかとおもったしぬかとおもった」

縄で縛られて死にかけてました。

 

「おーい生きってかー?」

 

「⋯⋯!お、おう、⋯⋯生きてる俺⋯⋯」

確認のため声をかけるがどうやら無事のようだ。

 

「では、砦に向かって出発する。双角馬(バイコーン)に乗れ、行くぞ!」

 

「私はマアンナに乗って行くから大丈夫よ」

 

「私もメスラムタエアに跨っていくから大丈夫なのだわ」

なるほど女神は女神らしく庶民の乗り物には乗らないということか。

 

そこから1時間

「よし、到着だ!」

そこは三方を崖で囲まれた砦だった。砦の門上には複数大型弩(バリスタ)が付けられていて乗馬対策の拒馬(バリケード)。それにここへ来るには来る途中に通った洞窟を通るしかない。伊達に叛逆()を名乗ってはいないらしい。

途中魔物が出たり魔物が出たり魔物が出たりしたが、その度イシュタル神とエレちゃんとアタランテが瞬殺していた。

ピピッと電子音がなる。どうやら途中で切れた通信が回復したようだ。

『おっと、通信が回復したか』

 

『報告だ!報告をせよ!一体何がどうなったのか!』

冷静に分析するホームズと騒ぎ立てるゴルドルフ。

 

「はい、私から報告します」

マシュがゴルドルフに状況を説明する。

 

「開門!開門せよ!」

アタランテがそう叫ぶと僅かに砦内が騒がしくなる。

 

「!ボスだ!ボスが帰ってきたぞー!門を開けー!」

門が開かれるとぞろぞろと叛逆軍の兵士が出てきた。

 

「ボス、よくお帰りで!⋯⋯そちらの方は?」

「ああ、彼らに関しては後で説明する!それと肉を多数確保できた!全員に配給できるだけの量があるからな!」

 

肉とその単語を聞くと同時にその場にいたヤガ達が歓声をあげた。ここでは食料がそれほど大事なのだ。

 

「⋯⋯食事をした後は、幹部は全員集合だ!会議を開く!」

 

みんなで魔獣の肉を頬張った後会議の時間まで、誠は一人で散歩していた。ちなみに味は少し生臭さがあったものの普通に食べられるものだった。

すると走り回っていたヤガの子供が誠にぶつかった。

 

「いてて⋯⋯ごめんない。あ、お兄さんニンゲンって奴なんでしょ?」

 

「まぁ、そうだが」

 

「本当に耳と尻尾ないか頭触らせてよ!」

 

「尻尾はダメだぞ。こんなとこでケツ出したらお兄さんが後で怒られちゃうからな」

 

腰を落とし頭を触らせる誠。

 

「本当にないんだぁ!ところでお兄さん名前なんて言うの?僕はジョン!」

 

「俺は誠だ。ところであれお前の母ちゃんじゃないのか?」

その子の母らしきヤガが手招きしていた。

 

「あ、本当だ!バイバイ、マコト!」

そう言って母さんらしきヤガに一礼すると散歩を再開した。

 

「お前さっきから一人で何してるんだ?」

不審に思われたのか一人のヤガに話かけられる。

 

「散策だ。新しい拠点のな。それより女と子供がやけに多いな」

「ああ、叛逆()っつっても村を焼かれて、家族で逃げてきた連中もかなりいるんだよ。俺とかもその一人だ」

ジョンもその内の一人なのだろう。

 

「成るほど、それは嫌なことを聞いてしまったな、すまん」

 

「別に気にしてねーよ、それに俺はまだ幸運だ、家族全員生き残ったからな。目の前で両親をぶっ殺された子供もいるからなあ」

軽い感じで説明してくれたが、その目は決して笑ってはいなかった。

 

しばらくするとカルデア一行は招集された。

「まず我々の目的だ。イヴァン雷帝の打倒ーーーそれは一致している。しかしだからと言って我らが汝らの指揮下に入ると勘違いされても困る」

話が長く成ると感じた誠は口を挟む。

 

「周り文句はいいアタランテ、信用を得るために何をさせるか要件だけかいつまんでくれ」

 

誠は慣れた感じで交渉を進めていく。

 

「⋯⋯了解した。少人数、かつ精鋭でなければこなせない任務が、ずっと放置されている。これをお前達に頼みたい」

 

そこにホームズが割って入る。

『失礼。通信越しにすまない、ミズ・アタランテ。道中で話は聞いていると思うが、改めて自己紹介を。私はシャーロック・ホームズ。君と同じサーヴァントだ。そしてこちらがーーー』

モニターに勢いよくダヴィンチちゃんが映し出さらる。

『はーい。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。訳あって省エネ霊基だけど、そこは割愛させてくれ。アタランテ。君と同じ、汎人類のサーヴァントだ。そして天才だ。困ったことがあるのなら相談してほしい。天才だからね」

果たして天才を2回言う意味はあったのだろうか。

 

「とはいえ、私たちもまだまだ情報が不足していてね。一つ質問したいんでけどいいかな?」

そう言って子供が母に物もねだるときのように上目遣いでアタランテをみるダヴィンチ。

 

「⋯⋯子供の頼みとあらば聞かない訳にはいくまい。何だ?」

 

「(((ちょろい)))」

ちなみに中身は多分30かそこらのおっ(以下略

「あの大樹の事だよ。ロシアはもちろんの事、地球にあんな大樹はなかったはずだ。あれが何なのか、君は知っているかな?」

 

「⋯⋯世界を支えるかのような大樹だ。私たちの神話体系には一つ、該当するものがあるが、あれとは無関係だろう。すまないが、私にも分からない」

アタランテの言っているソレはギリシャ神話に登場するドリュアスの事だろうか。小さい時は本をよく読んでいたためこういうのは詳しい。

「だが、ヤガ・モスクワに忍び込ませたスパイから、一つだけ情報を入手した」

 

『ほう、それは一体?』

ホームズが身を乗り出す。

 

「ふむ⋯⋯。ダヴィンチの顔に免じて教えてやろう。我らが入手したのは名前だけだ」

その場の全員が身を乗り出す。

 

「名前⋯⋯ですか?」

マシュが聞く。

 

「そう。あの樹の名前は空想樹(くうそうじゅ)。街を散策していた旧種(ヒト)の姿をした宮廷魔術師が呟いていたらしい。『空想樹はまだ根を張らない』と」

 

「その宮廷魔術師がどんな容姿だったかは分からないか?」

 

「すまない、そこまでは」

多分Aチームの奴らだから分かれば相手が誰か先に身構えれたりできたんだが。

『ふぬ。空想の樹、クラウド・トゥリーといったところかな。一応、こちらのデータベースで空想樹に関する手がかりを探してみよう。何も掴めなさそうではあるがね』

 

「好きにせよ、それらの方はどうだ。任務を引き受けてくれるだろうか?」

 

「もちろん!」

立香が勢いよく答える。

「では早速、諸君らに最初の任務を与える!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ミレーユ一位か二位争うくらいドラクエキャラで好き


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7.檄文とカルデアの者

訳あって再投稿


カルデア一行に課せられた任務は周辺の村を巡り、檄文を配れというものだった。要は彼らに叛逆軍の存在を知らせ、可能であれば協力してくれるよう説得しろということだ。無理そうでも臨機応変に対応してくれ、とのこと。

ちなみにカルデアから要求したシャドウボーダーの修理に必要な素材の半分は前払いとして頂いた。その時ゴルドルフが文句を言っていたのはまた別の話。

 

『一度、こちらに合流してもらえるかな?今手に入れた食料を運んで欲しい。その他、シャドウボーダーを修理する前に、やらなければならない事があるそうだよ』

 

そしてホームズの案により村に寄った後、一度シャドウボーダーに帰ることになったのだった。

 

「一つ目の村だ。んじゃ手筈通り、俺以外全員フードを被ってく」

パツシィの指示で全員フードを被る。

「今度はイシュタル神もちゃんと被ってくださいね」

 

「分かってるわよ!」

 

 

「止まれ!何者だ!」

村の入り口の門番に早速声を掛けられる。

「えーと、我々は暴君暗軍たるイヴァン4世に正義を行使するための軍である!こちらには首領より檄文を届けにきた!受け取り、返答を聞かせて欲しい!」

 

「⋯⋯叛逆軍⋯⋯!」

こちらの言い分を聞いて警戒しているようだった。

 

「いいだろう、中に入れ!」

すんなり入らせてくれたためこちらも警戒態勢に入る。誠は腰のマシンガンをリロードする。

 

その村に入ると村長らしきヤガが待っていた。そのヤガにパツシィが説明する。                           

「⋯⋯という訳で、可能であれば食料と薬品の供給を」

 

「老いたのか、拐かされたのか。⋯⋯あるいわ、このロシアを取り巻く"何か"のせいなのか。いずれにせよこも3ヶ月、皇帝ツァーリは言葉を発さず、オプリチニキが暴虐が繰り広げられている。この村が被害に遭ってないのは、単純に貧しく、主要な国道からも外れているからだ」

そこで一呼吸置いてヤガは話を続ける。

 

「だがな、お前たち。それでも皇帝は皇帝だ。我々が日々を営めるのは、あの御方のお陰だ。叛逆軍には協力できない」

この状況で未だに皇帝を支持するなんて見上げる愛国心だ。

 

「⋯⋯だが、オプリチニキの暴走は恐ろしい。あれはヤガではなく、かつて存在したヒトでもない。皇帝にあの暴威も押し留める気がないなら、我らも自衛するしかない。となれば、気になるのは貴様たちの力量だーーーー」

 

というわけで村の鍛えているヤガと魔物と殺しなしの勝負をすることになったのだが⋯⋯。

こちらのはポンコツ女神が二人。うっかり力加減を間違えて殺しかねない。

「「どうしてこっちを見るのよ(かしら)!?」」

 

「立香も何か言ってやってくれ」

 

「あはは⋯⋯二人ともどこか抜けてる性格だからじゃないかな?」

これには立香も苦笑を漏らす。

ここだけ話、エレちゃんなんてシャドウボーダーの生活中に俺にコーヒーもブチ巻いた回数なんと3回!!!

などと雑談している間に相手の方は準備が完了したようだった。

「じゃあ、みんな峰打ちでよろしく!」

立香の掛け声のより戦闘を始まった。まぁ、戦闘と言ってもこれもまた一方的なわけだが。

立香と誠がガンドで敵の動きを止め女神二人が峰打ちするという戦い方だ。

 

「本当に一人も殺さなかっただと、だと⋯⋯。そこのフードの二人はもしや⋯⋯サーヴァントか⋯⋯?」

 

「その通りだ、爺さん」

 

驚いた顔をした村長が言った内容に誠が肯定する。

 

「サーヴァントというものの存在は知っておったがここまでとは⋯⋯。よかろうこの村は全面的に叛逆軍に協力する」

食品や薬品などは得られなかったものの、これから訪れる村での話が円滑に進むように手紙を貰った。

その二つの村とも最近はあまり連絡が取れてないらしくカルデア一行は急ぐことにした。

 

 

 

 

「ひどい⋯⋯!」

マシュが声が荒げる。それもそのはず、その次に行った村が崩壊していたのだ。

「あー、こりゃダメそうだな⋯⋯。次の村に行くことにしよう」

 

「⋯⋯。あの、生存者を探すべきなのでは?」

パツシィの帰ろうとする腕をマシュが掴んで止める。

 

「いねぇって、これは」

そう行って立香たちがあたりを見回す。吹雪が吹き荒れ、建物がのほとんど崩壊し見る絶えない状況だ。

「おい名探偵、シャドウボーダーの諸君。そちらから生体探査を頼む」

 

『シャドウボーダーの探査機能は旧型でね、直接呼びかけた方が早い』

ホームズの返事を聞き皆が生存者を探すため声を上げる。

 

「了解だ」

 

「おーい、誰かー!」

立香が思い切り叫ぶ。

 

「うっ⋯⋯。こ、こっちだ⋯⋯」

近くの崩れた家の瓦礫の下から声が聞こえてきた。

 

「マスター!」

 

「大丈夫ですか?」

マシュと立香が駆け寄る。

「ああ⋯⋯気絶していただけだからな⋯⋯」

 

「一体何が起きたんだ?」

 

「盗賊だ⋯⋯。こっちも抵抗したんだが⋯⋯。四日間で攻め落とされた⋯⋯くそ。俺の他に生きてる奴はいるか?」

ヤガはパツシィの問いに悔しそうに答える。

 

「残念ながら、それで、その盗賊連中はどこに向かったんだ?」

 

「近くの村のどちらかだ」

とすると、次に行く村が襲撃されている可能性がある。

薬品と食料を置いて立香たちは駆け出した。

 

走ること10分、村のある方角から赤色の狼煙が上がっていた。

「あれは救難用の狼煙だ!」

パツシィが叫ぶ。

 

「まだ間に合うかも!」

立香がそう言った直後前方から盗賊らしきヤガが走ってくるのが見えた。まるで何かに怯えているかのように。

「どけ!そこをどけええええええ!どかねぇなら殺してやる!」

 

「エレちゃん、よろしく」

剣も構えて突進してくるが、間髪入れずにエレシュキガルがヤガの足をぶち抜く。

「ぐがっ!」

 

その場にヤガが倒れこむ。よく見るとそのヤガは右腕がなかった。

恐る恐る誠がヤガに近づき確認するが気を失っていた。

「大量出血でもうじき死ぬだろうな、これは」

 

「そんな⋯⋯。でも、どうして腕がなかったんだろう」

立香の疑問も最もだ。何せこのロシアにきてみた武器と言えば銃と到底すんなり四肢を切断できるとは思えない剣。

 

「しかし、よく斬れてんな」

その腕の断面には凹凸がなく一振りで両断されたことがわかる。斬った者は相当な腕前のようだ。

「考えるのもいいですが、今は急ぎましょう先輩!」

 

 

 

 

 

 

「これは⋯⋯。一体、何が⋯⋯?」

それもそのはず、着いた村は盗賊に襲われたなんて面影は全くなく、ヤガたちが普通に生活を営んでいた。

 

「おお、おお」

そこに村長らきヤガに声をかけられた。

 

「お前さんたち、カルデアの者か?」

 

そしてそのヤガから驚かずにはいられない単語が飛び出した。

「え⋯⋯!?」

 

「カルデア⋯⋯!?」

 

これには誠たちも驚かずにはいられなかった。

「違うのか?」

 

「いや⋯⋯そうだが⋯⋯」

 

「ああ、あの時は大変お世話になりました。あの時はお礼も言えず、まことに申し訳ありません」

そっちの話が全く理解できずパニック状態だ。

 

「あ、救難信号の狼煙が上がりっぱなしでしたな。おーい、誰かさっさと消しておけー!」

 

「「「「(紛らわしいわ!!)」」」」

 

「事情を聴かせてください!!」

 

マシュがかなり食い気味にヤガに事情を聞こうと迫る。

 

話を聞くところによると、盗賊が襲ってきた2日目、旧種ヒトの姿をして顔を隠した二人組(・・・)が現れて細い剣のようなもので盗賊を撃退したというんだ。そして村長が最後に名前を聞いたところ『カルデアの者だ』と答えたらしい。もう一人も何か言っていたがイマイチ聞きとれなかったらしい。細い剣というのはおそらく刀だろう。かつて立香が契約していた英霊だろうか。

 

「おっと、忘れるところだった。叛逆軍の檄文だ。一応目を通して置いてくれ」

 

「ああ、なるほど。カルデアとは叛逆軍の⋯⋯。命を救われて断る道理もありません。全面的に協力させていただきます」

 

「よし。三村の内、二村の協力は取り付けた」

 

「俺たちは他によるべきところがあるから一旦ここで解散だ、パツシィ」

 

「げ、俺一人で帰れってのか?マコト」

 

「パツシィは一人の方が身軽でいいんじゃないか?」

 

「⋯⋯しょうがねぇ、村長に頼んで、双角馬バイコーンを引っ張ってくるわ。んじゃ、報告は俺に任せろ。砦にはなるべく早く戻ってこいよ」

 

「了解」

 

そうして誠たちはシャドウボーダーに向かうのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8.一時の休息

ゲッテルデメルング面白かったすね


「誠・エルトナム・シリウス、帰還しました」

 

「藤丸立香、帰還しました」

 

「マシュ・キリエライト、帰還しました」

 

ボーダーの仲間たちに帰還を知らせる。

 

「へぇ〜、これがシャドウ・ボーダーね。案外広いじゃない」

 

初めてのシャドウ・ボーダーにイシュタルは興味を示しているようだ。

 

「イシュタル神いらん事して問題起こさないでくださいよ」

 

「誠、あなたの中で私ってどう映ってるのよ⋯⋯」

 

 

 

「⋯⋯し⋯⋯し、神霊が複数か⋯⋯。この私が責任者を務めるボーダーに⋯⋯」

今更何をと言いたい所だがゴルドルフはエレシュキガルが神霊のことも最近知ったようだった。

 

「うむ!この際だ。私も覚悟を決めるとしよう!本の一冊二冊書く前提でのレポート作成を、だな!」

 

「(いや、仕事しろよ)」

 

「何はともあれみんなお帰り!バビロニア以来だね、イシュタルは。また頼りにしているよ!」

 

奥から出て来たダヴィンチが昔を懐かしむように再会の声を上げる。

 

「任せなさい!それよりわざわざ帰還させた理由は近況報告―――以外にもありそうね」

 

「ああ。そろそろ診察の時間だからね。マシュ。わかっているね?」

 

「あ―――は、はい!」

ダヴィンチちゃんの問いかけに立香も頷く。

 

誠は自分に知らされてないことがあるのかと内心少し驚いたが、自分の知らないところで立香とマシュが頑張っていると思い心の中でエールを送った。

 

「じゃ、診察室に行こう」

そう言うとダヴィンチちゃんはマシュを連れて診察室へ向かって行った

 

「ではまず、持ち帰ってきた情報を基に、次の一手を考えましょう―――」

ホームズの一言で作戦会議が始まった。

 

「名探偵考えがあるのだが」

 

「聞こう」

 

「俺とエレちゃんでヤガ・モスクワ偵察に行くのはどうだろうか。戦力についてはイシュタル神一人入れば大抵なんとかなるだろうし、アタランテもいる。敵も叛逆軍の存在を知りつつも放置していることからまだ大きな行動には出ないだろう。それに多分敵はコヤンスカヤの言い分から察するにクリプターの内の一人だ。誰か分かるだけでも情報アドバンテージが大きい」

 

「成る程、余裕のある今のうちにしかできない作戦か。許可する。ただし絶対一週間以内に帰ってくることだ」

 

「了解」

 

取り敢えず俺とエレちゃんが偵察、立香たちが叛逆軍のところに一旦戻ると言うことになった。他に何かないのかって?

 

「このロシア領が野蛮な獣人の住処となっていることしか分かってないじゃないか!」

ゴルドルフが叫ぶ。

 

「Mr.ゴルドルフ。彼らは獣人ではありません()()です」

 

「いやだから、獣人がヤガと呼ばれているのだろう?」

 

「いいえ、違いますとも。獣人とヤガは、外見は同じでも進化基盤が異なるのです。Mr.ゴルドルフの言うところの獣人⋯⋯、ウェアウルフ、ライカンスロープなどですが、あれは有り体に言って血の覚醒に伴う魔獣。一方ヤガは魔獣と人間の合成体。どちらかといえばキメラですか。ああいう、合成された幻想種に近い」

 

「ああ、源流が異なるのか⋯⋯」

 

「ええ、しかし問題はむしろ違う部分にあります」

 

「む?」

 

自分の予想とは違った解答にゴルドルフが疑念の声を上げる。

 

「いいですか、ヤガは―――は国を築いている。生活基盤を、文明に築き上げている」

 

「⋯⋯貴様らが解決したという特異点とは違うのか?」

 

「ええ、違います。かつて解決された7つ特異点は歴史の『if(もしも)』も引き起こすもの。喩えるなら、列車のポイント切り替えの瞬間です」

 

「成る程。ここは特異点を放ったらかしにしてしばらく放置した結果できた世界ということか、名探偵」

話を呑み込んだ誠が口を挟む。

 

「そういうことだ。ポイントが切り替えられたのは大寒波に襲われたことでイヴァン雷帝がヤガになった四百五十年前でしょう」

 

「問題は"イヴァン雷帝を打倒すれば解決するのか"ということか」

 

「⋯⋯ポイントがイヴァン雷帝である以上、必ず何らかの影響は出ると思います」

 

「ええい、世界一の名探偵だろう。もっとこう、ズバッといかんのかズバッと!」

ゴルドルフが焦れったいといった様子でホームズを問い詰める。

 

「状況証拠すら、碌に揃ってないので。それに―――」

 

「「それに?」」

 

誠と立香がハモる。

 

「⋯⋯今はまだ語るべき状況にない、ですな!」

 

「くそ、この男本当に言いやがった!」

 

今日もホームズは通常運転だ。

 

「ははは。まぁ、状況は不明点だらけだが、問題はそう複雑でもないさ。何しろ、はっきりした敵がいる。我々の歴史にあるロシア領との最大の相違点。五百年近く存命しているというイヴァン雷帝。この人物がキーパーソンであるのは間違いない。当面は叛逆軍に手を貸そう」

そうして作戦会議の幕は閉じた。

 

誠と立香たちは次の日に備えて十分な休息を得るためそれぞれ部屋に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

「さぁ、朝よ!起きなさいマスター!」

 

時刻は午前7時、いつも通りエレちゃんに叩き起こされていた。

 

「Zzz⋯⋯]

 

「起きていることは分かっているわ!」

 

誠は狸寝入りを決め込むがどうやら許してはくれないらしい。

 

「後5分⋯⋯」

 

「だーめよー!」

 

「分かったよ⋯⋯、令呪を持って命じる―――」

 

「わー!!!、そんなことに使うなんて駄目なのだわ!!」

 

何とこの令呪は特別性で一日一画回復するんだぜ⭐︎

 

「しょうがないなぁ」

 

誠は悪態をつきつつも体を起こしエレシュキガルが用意してくれた服を着てエレシュキガルが運んで来てくれた朝ごはんを食べる。

 

――まるでお母さんみたいだなぁ。俺この戦いが終わったらエレちゃんのヒモになるんだ⋯⋯!

 

「またロクでもないことを考えてそうな顔ね⋯⋯」

 

「失敬な、いつも俺がいつもロクでもないこと考えているよう言い方はやめてくれママ」

 

「誰がママよ!!ママ!!」

 

 

 

そんなくだらないやりとりを続けながらも操縦室に行くと偶然、立香達も今来たようだった。

 

「おはよう、ミスター立香に誠。ほんの少しの休息時間ですまないね。温かな毛布とは、またしばらくお別れだ。さて。状況を再開しようか。我々の目的は、依然としてこのロシア領の解明だ。今までの調査によって判明した幾つかの真実⋯⋯新人類のヤガ。五百年生きる雷帝。世界の果ての嵐。そして謎の大樹。これらの正体を突き止めることが、今後の我々の行き先を決定づけるだろう。その為にはまずイヴァン雷帝の情報が欲しい。その為二人にはそれぞれで情報の収集も行ってもらう。後は叛逆軍の成長を助けたい。彼らが殺戮兵器を打倒できる勢力になってくれれば文句なしだ」

 

「アタランテはギリシャ神話でも名高い女狩人だが、イヴァン雷帝に抗するのは難しいだろうな」

そこにゴルドルフが口を挟む。

 

「強力なサーヴァントを召喚できんのか。こう、英雄王だの征服王だの騎士王だの」

 

――英雄王はカルデアの資料で見たことある。何でも宝具がチートで全力解放したら抑止力さんに止められる程だとか。

 

「現状では望み薄でしょう。このロシアに召喚されれば強力なサーヴァントならいやでも噂になる。叛逆軍にもそんな噂が届いていなかった以上、単騎で世界を救えるほどの英霊は現れていない」

そんなうまい話はないと言うことだろう。

 

 

よし、そろそろ出発の時間だ。

「いってらーしゃい!」

ダヴィンチちゃんがにこやかに手を振る。

 

「行ってきます!」

「行ってくる」

 

どうやらマシュはナビゲーターに戻るようだった。

 

「ヘマするなよ立香」

「そっちこそ」

互いに拳と拳をぶつけ正反対の道を歩き出した。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9.新たな仲間

土佐生まれです
立香のことずっとリッカと読んでたので初投稿です


誠とエレシュキガルがシャドウボーダーを出発して2時間ほどたっただろうか。いきなり天候が荒れ出した。

 

「前が見えにくくなってきたわね……」

 

「これはまずいな……」

 

雪が宙を舞い散り吹雪となり、誠達を襲う。

 

―――シャドウ・ボーダーに連絡するか。こっちと連絡を取ると立香の方と連絡が取れなくなるがしょうがないだろう。

 

こういう場合豪雪地帯でこういう場合は簡易イグルーを作るのがいいのだが、ここら一帯の雪は硬いため作れそうにない。だが前が見えないまま移動して輪形彷徨にでもなったら大変だと誠は考えたのだ。

 

『こちら誠、ブリザードに見舞われた。何でもいいから近くで身を置けそうな場所を教えてくれ』

すぐに移動をやめシャドウ・ボーダーに連絡する。

 

『こちらダヴィンチちゃんだよー、えーとね……そこから一番近くで身を休めそうな場所はねー、途中、山を越えることになるけど叛逆軍の檄文を届ける過程で通った潰れた村が最短だね』

 

『そこまでナビゲートをお願いする』

 

風が強いと言ってもまだ歩けない程ではない為、強くなる前に早めに移動しておきたいのだ。

 

『そこを右に曲がって〜』

 

時間が経てば経つほど風は一向に強くなる。

 

「少しペースアップしよう!」

 

声を大きくしないと吹雪で声が掻き消されるほどに。

 

早く着きたい、その一心で足を一歩また一歩と前に出す。

 

「マスター?大丈夫?大分疲れてない?」

 

「まだ、全然歩ける。それに何だかんだ大分歩いた」

登山の心得が生きたようだった。

 

「それで後、どれくらいだい?ダヴィンチちゃん!」

声が聞き取れるよう声を大にして喋る。

 

『後、その山を駆け下りて5分と言ったところかな』

「了解」

 

それから勢いよく山の斜面を駆け下りた。道無き道を出てようやくこの世界のヤガ達が利用している道路に出た。

 

「あれは何かしら?」

ふと数メートル先にある()()にエレシュキガルが気がつき声を上げる。

 

誠は遠見の術で警戒しつつソレを観察する。そこには大きな大蛇のような巨大な生物が血まみれで横たわっていた。

 

「どうやら死んでいるようだな…」

 

―――おそらくパツシィの言っていたジャヴォル・ドローンという魔獣だろう。

 

近づいて確認すると三つある首の内二つが切り落とされており、体にはいくつも斬り傷が見受けられる。

死んでいるのは分かっているが、誠は恐る恐る体に手を触れる。

 

「微かに温かいな」

 

「まだ、じゃあ近くにいるかも知れないわね……。これを殺した人物が」

 

―――まぁ要警戒ということでいいだろう。

 

「それはそうとこいつ食えるのか?」

 

「流石に辞めたほうがいいんじゃないかしら?このグロテスクな色、いかにも毒がありそうなのだわ」

 

しかし永久凍土の極寒の地、常に食料不足なわけだ。誠達がいつかこいつを食べる日が来るかも知れない。

 

こいつから酒が作られることを知って誠が騒いでエレシュキガルに怒られるのは、また別の話。

 

「そういえばマスター、ダヴィンチちゃんとの通信は?」

 

「ああ、この吹雪だ。通信機の調子が悪いのか知らんが途中で切れた」

 

「それ結構まずいのでは!?」

 

「何とかなる、気がする!」

 

「駄目な人は皆そういうのだわ……」

 

エレシュキガルが落胆するが、アクシデントなんぞ誠の計算の内だ。逆に起きない方がおかしいのだ。

 

「まぁ目標地点は目と鼻の先だ。これ以上、風が強くなる前に走るぞ」

 

3分くらい走ると村に到着した。

 

「何回見てもひでぇな」

かつて栄えたヤガの営みすら感じさせない。

 

「マスター、かろうじて壊されていない家を発見したわ!」

 

「ナイスだ、エレちゃん!」

俺たちは警戒しつつその家に入った。

その家は決して大きいとはいえないこじんまりとした家だった。だから一回目に来た時気がつかなかったのかも知れない。

 

外も誰かの足跡もなかったし、この家もしばらく誰かが来た痕跡もない。暖炉もまだ使えそうだし、少しの間休むにはバッチリだ。

 

「少し仮眠するから、起こしてくれエレちゃん」

 

その時、誠達は外から近づいて来る何者かの気配に気がつかなかった。

 

「ええ、分かっ―――」

 

その瞬間ドアが勢いよく開かれ、三度笠を深く被った怪しげな男が侵入して来た。三度笠の破れた隙間からこちらを凝視している。

 

「何じゃあおまんら?」

 

その気配はサーヴァントのモノだった。

 

すぐさま戦闘態勢に入る。

 

くそ!気配遮断―――アサシンか!

 

「おまんら人か、まぁ死ねや」

 

そう言うといきなり三度笠の男はエレちゃんに斬りかかった。

 

「ちぇりゃあああ!」

 

「くっ!」

 

間一髪でエレシュキガルがメスラムタエアを顕現させ振り下ろさせる刀を防ぐ。

 

「ちったぁやるようじゃのう」

 

この狭い部屋では部が悪い、それに援護もしにくい……。いっそここで宝具を……。

 

「以蔵ー、大きな音したけど大丈夫――って何やってんのよ!?」

 

またサーヴァント!?

そこには同じく三度笠を被ったサーヴァントが立っていた。声から察するに女性だろうか。

 

「怪しいやつらがいたからっていきなり斬りかかるのは駄目って()()()()言ったでしょう!」

 

「じゃが人なんて久しぶりに見たき、血が騒いで……」

男がバツの悪そうに答える。

 

「言い訳無用!刀もしまう!」

 

その気迫の押されたのか男は無言で納刀した。

完全に尻に敷かれているようだ。

 

「それであなた達何者なの?」

 

「俺たちはカルデアのマスターとそのサーヴァントだ」

 

相手を挑発しないように慎重に答える。

 

「立香君以外のカルデアのマスターなんて見たことも聞いたこともないのだけれど……。証拠はあるかしら?」

 

「ああ、その証拠に君の真名とプロフィールなら知っているよ、うどん好きの宮本武蔵さん。そして、そっちは三度笠してた時は分からなかったけど、岡田以蔵だろう?2人ともカルデアの資料で見たから覚えているよ。人の顔と名前を覚えるのは得意でね。詳しいことは立香に聞いてくれ」

 

記憶力に感謝する誠であった。

 

宮本武蔵、日本人で知らない人はまずいないであろう江戸時代初期の剣術家で二刀流の代名詞だ。そして、岡田以蔵。こちらも宮本武蔵には知名度では劣るが江戸時代の有名な人斬りで都では人斬り以蔵の名で恐れられていたらしい。

 

「分かったわ。立香君の仲間みたいだし信用してあげる!」

 

「こんなどこの馬の骨ともしれん奴を信用するがか!?」

 

武蔵の返答が予想外だったのか以蔵が驚いたような声をあげる。

 

「大丈夫よ、人を見る目だけはある自身があるから!」

 

立香の顔が広いのは知ってはいたがここまでとは。何とか穏便に済ませそうだ。

 

「改めて自己紹介しておこう、俺の名前は誠・エルトナム・シリウス、カルデアのマスターの一人だ」

「私はエレシュキガル、ランサーのサーヴァントよ」

 

「サーヴァント、セイバー。宮本武蔵よ。そんでこっちがアサシンのサーヴァントの岡田以蔵よ」

「な、わしのクラスは『人斬り』じゃあ!」

 

「それで立香君達は?」

 

「立香もいるぞ、今は別行動だがな」

 

「あなた達この荒れ果てた村で何してたの?」

 

「ここからヤガ・モスクワに敵城視察だ。吹雪が強すぎたからここで少し休憩してたとこだ。そっちは?」

 

「私たち二人は行くあてもなく彷徨っていたのよ、そうだ!私たちあなた達ついて言っていい?戦力は多いに越したことはないでしょう?」

 

「まぁ、それは願ったり叶ったりだけど」

 

誠達、カルデアからすれば戦力増えるのは大歓迎だ。

 

「それにあなた達について言ったら立香くん達に会えそうだし!」

 

「何でわしまで着いて行くことになっちゅうがじゃ!?」

 

「別にいいでしょ?以蔵も暇だし行く当てがあるわけじゃないし、それに早く立香くんに会いたいでしょ?」

 

「何でそこで立香の名前が出てくるがじゃ!」

 

「だって心配してたじゃない」

 

「別に心配しちゃあせんわ!」

 

――ツンデレボイスいただきました。しかし土佐弁は所々何を言っているか分からないな……。

 

「これからよろしく頼む、宮本武蔵」

「よろしくお願いするのだわ」

 

「ええ、よろしく誠くんとエレシュキガルさん。後、私のことは武蔵ちゃんとでも呼んで、堅苦しいのはあまり好きじゃないの」

 

「分かったよ、武蔵ちゃん。それに以蔵もよろしく頼むぞ、以蔵」

 

「人の名前勝手に呼びなや!」

 

しばらくは愉快な旅が出来そうだ。

 

 




立香sideの話いる?書くならダイジェストか回想風ですね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10.4人での初陣

この小屋に来て2日が経った。

 

「なーるーほーどー」

 

誠は武蔵に世界の状況を説明している最中だった。

 

「ここは異聞帯(ロストベルト)。違う世界……剪定事象がなぜか続いているロシア、と。それで君たちは世界を台無しにした悪党……クリプター、だっけ?の後を追いかけて奮闘中なわけね、それであなた達モスクワに行ってそれからどうするの?」

 

これからの作戦を誠に問う新たな仲間―――宮本武蔵。

 

「敵の戦力を確認するっていう大雑把な理由で行こうとしているだけだからな」

 

―――まぁなんとかなるだろう、なんとかならなかったらその時はその時だ。

 

「随分と大雑把じゃのう」

 

そしてもう一人の新たな仲間―――岡田以蔵。

 

「それはそうと、村の前のでかい大蛇みたいなやつは武蔵ちゃん達が倒したのか?」

 

「以蔵が一人で倒したようなもんだけどね」

 

「やるな、以蔵」

 

「馴れ馴れしく人の名前呼びなや!」

 

岡田以蔵、こいつ扱いやすいと思った誠であった。

 

4時間くらい作戦会議、もとい、駄弁っていると外の吹雪も穏やかになってきた。

 

「そろそろ出発するか」

 

そう言って誠は床に降ろしてあった銃などの荷物を肩にかける。

 

「マスター、カルデアとの通信はどう?」

 

エレちゃんに言われ、誠は腕についてある通信機で連絡を試みるが、うんともすんともいわない。どうやらブリザードの中での長時間移動によって調子が悪くなったらしい。最悪、これから一切連絡をとることが出来ないかもしれない。

 

「ここまで何も聞こえないと通信回復は期待しない方がいいかもしれないな」

 

「取り敢えず、出発しましょう」

 

武蔵ちゃんの一言で4人全員が立ち上がる。

 

「では、ヤガモスクワに向けて出発する!」

 

そして誠が掛け声と共に扉を開けようとするが―――開かない。

 

「雪か」

 

ここヤガのロシアでも扉は押し扉のため、雪が降り積もると開かない。

 

「武蔵ちゃんお願いします」

 

「任せて」

 

「ほどほどにお願いしますね」

 

誠の声は聞こえていないだろう、宮本武蔵は背中に二本の日本刀を引き抜く。

 

「五輪の真髄、お見せしましょう!」

 

そう告げる彼女の背には修羅の化身が見えた。

 

「剣豪抜刀……!」

 

そして、その魔神と一体化したかのような宮本武蔵から勢いよく剣が振り下ろされる。

 

「伊舎那大天象!」

 

ドアが吹き飛ぶどころか、家が半壊し魔神に道を開けるかのように雪がない部分が一直線に続いていた。ドアをこじ開けるために宝具を使った最初で終わりの剣豪ではないだろうか。

 

「「「やりすぎだ!(じゃ!)(なのだわ!)」」」

 

「ごっめーん!久しぶりだから加減がわからなくて……。えへへ……」

 

そう舌を出して笑う姿は先ほど身に修羅を宿した人物とは別人のように思えた。

 

「(オンオフの切り替えが凄いな……)」

 

「気を取り直して行きましょ!」

 

「「「お、おー」」」

 

――――――――――――――――――

 

森を抜け、直線の道に差し掛かったときに武蔵が口を開いた。

 

「半分くらいきたんじゃない?」

 

「エレちゃん、地図で確認してくれ」

 

「分かったわ。えーーと」

 

地図を表示して確認するエレシュキガル。

 

「もう3分の2くらい来ているわよ」

 

「すんなり着きそうだな」

 

その時、目的地の方角からヤガの悲鳴が聞こえてきた。

 

「どけ!そこをどけええええええ!どかねぇなら殺してやる!」

 

必死に()()()から逃げているようだ。

 

「(デジャブだ……)」

 

「どうするの、マスター?」

 

「殺―――」

 

誠が殺せと指示しようとした瞬間、そのヤガの首が吹き飛んだ。

 

皇帝(ツァーリ)に栄光を。あらゆる愚物に粛清を」

 

その()()()に首を刎ねられたのだ。

 

「オプリチニキだ!」

 

誠がそう叫ぶと同時に1人の魔術師と3人の英霊が一歩後ろに下がる。

 

皇帝(ツァーリ)の威光に影をもたらせるものに死を」

 

そして、無機質な声で物騒なことを呟きながら誠たちに明確な敵意を向ける。

 

「お前たちも皇帝(ツァーリ)に仇なすものなり。一人残らず嚙み殺し、一人残らず塵に返す」

 

「(おいおい、飛んだとばっちりだな)」

 

素早く相手と距離を取り敵の数を瞬時に確認する。

 

「(なんだ、たった3体じゃないか、一時は20体くらい相手にしたんだぜ)」

 

その油断がまずかった。

 

誠は腰のMP7手に取り的確にオプリチニキの頭に撃ち込む。

 

「な!?」

 

それもそのはず、打ち込んだ弾丸の6割はカンッという甲高い音をたて弾かれたのだ。

 

弾薬にはちゃんと『強化』の魔術をかけたはず、だが弾かれた。

 

「こいつら今までの奴らとは違うぞ!」

 

明らかに今まで倒してきた奴とは違う。

 

「頼む、武蔵ちゃん、以蔵、エレちゃん!」

 

「応とも!」

「いちいち命令しなや!」

「任されたのだわ!」

 

そして相手もこっちに一斉に向かって来ると同時にこちらも一斉に突っ込む。

 

「ちぇすとおお!」

 

初めに斬りかかったのは以蔵だ。刀を大きく構えそのままオプリチニキを斬り込んでいく。そのまま切り伏せたかと思いきや、オプリチニキは手に持った斧のような武器でガードする。そこにすかさず武蔵が斬り込もうとするも、後ろにいたオプリチニキが突っ込んでくる。刃物と刃物がぶつかり合った時に鳴る、特有の音が周囲に響く。

 

「ちっ!鬱陶しいわね!」

 

 

そこから武蔵は態勢を立て直すと、力ずくで先ほど突っ込んできたオプリチニキを吹き飛ばす。

 

「なんの!」

 

オプリチニキがそこでよろけるのは見逃さす以蔵ではない。すかさず対峙していたオプリチニキの足を払い蹴り飛ばす。そしてすぐ後ろのよろけている相手の心臓を見据えて一刺し。

 

そして、

「天っ誅!」

 

刃の向きを逆さにし、そのまま思い切りアッパーカットのように刀を思い切り斬りあげる。流石のオプリチニキも縦に真っ二つだ。

 

次に以蔵に先ほど蹴り飛ばされたオプリチニキが態勢を整え再び以蔵に突撃するモーションに入るも、横から武蔵の一太刀が入る。こちらも胴体の上と下、横に真っ二つだ。

 

 

一方、誠とエレシュキガルside

「こちらは1体、突っ込んで来るぞエレちゃん。援護する」

 

「了解よ!」

 

近づいて来るオプリチニキにエレシュキガルはメスラムタエアで応戦する。

 

「(エレちゃんは接近戦が得意ではない)」

 

誠がMP7でエレシュキガルと対峙しているオプリチニキの頭に残りマガジン全てぶち込む。半分以上は弾かれたいるが、確実に効いてはいるようだ。

オプリチニキが攻撃対象を誠の方に移し、斧を振りかぶりながら走る動きに入る。

その隙にエレシュキガルがナニカの魂の入った檻を掲げる。それと同時に地面の中から恐竜が現れてオプリチニキに襲いかかる。為す術もなく、オプリチニキは地の中に引き摺り込まれた行った。某デッドスパイクに似ているのは言わないお約束。

 

「お疲れ、マスター」

 

「ああ、お疲れエレちゃん」

 

「こっちは終わったわ、そっちも終わったのね。お疲れ」

 

武蔵ちゃんと以蔵が納刀しながら、こちらに歩みよって来る。

 

「おお、お疲れ武蔵ちゃん、以蔵」

 

「儂は、はよう人じゃのうてもえいき血が通った生き物を斬りたいぜよ」

 

「その内斬らせてやるから安心しろ」

 

難なく倒せはしたが、次もこう上手く行くとは限らない。こんな雑魚、いわゆるモブ敵に使う時間も魔力はない。

 

「モスクワに行くにつれてオプリチニキが強くなっている可能性もある。気を引き締めて行くぞ」

 

 

――――――――――――――――――

 

 

そこからモスクワに着くまで、2回オプリチニキと戦闘になったが苦戦することなく突破することができた。

 

「着いたー!」

 

時刻は体感午後7時くらいだろうか。

 

達成感により、おもわず大きな声を出してしまう誠。

 

「静かにしなさい!マスター!今は潜入中なのよ」

 

「分かってるよ、エレちゃん」

 

今は極力、人目につかない方がいいだろう。武蔵ちゃんと以蔵には霊体化してもらっている。エレちゃんは神霊であるため出来ないのが痛いところだ。

 

「いつまでもこの路地裏にいるわけにはいかない、二手に分かれて空き家を探すぞ」

 

「ここは首都よ?ヤガも村とは比べならない程住んでいるし、空き家なんてそうそう見つかるかしら……」

 

エレシュキガルの疑問も最もだろう。

 

「大丈夫だ、首都から逃げて来たっていう叛逆軍のやつもいた、可能性はある」

 

これは事実だ。だがそう簡単には見つけることは出来ないだろう。だから――――――――――――――

 

「ペアは俺と以蔵、武蔵ちゃんとエレちゃんだ」

 

「なんで儂がおまんと組まないかんがじゃ!?」

 

「いいじゃないか、男同士の話をしようぜ。それにこれは()()だ」

 

「……ちっ、分かったぜよ」

 

誠の本気の声音にしぶしぶ了承する以蔵。

 

「じゃあ、1時間後にここで」

 

4人は夜のモスクワに駆け出した。

 

 

 




主人公の起源弾の設定は消えました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11.仕事

訳あって再投稿(2回目)

はたらく魔王さまと円卓組のクロスオーバー書き始めたからよろしく!!!!!!!


「えらい迷いのない走りじゃのう、どっかもうアテはあるがか?」

 

夜のモスクワの路地裏をかけながら以蔵が誠対して口を開いた。

 

「いや?走りながら見てるだけだ」

 

分割思考で思考を分けて、隠れ家の条件に合う家を探しているのだ。

 

「ちょっと、待ちや。そこ角曲がったくに―――」

 

「分かってるって、暗殺よろしく」

 

そう言って近くのゴミ箱に身を潜める誠。

 

「まっこと人使いが荒い奴じゃ……」

 

面倒くさそうな反応をしながらも、霊体化する以蔵。

 

数秒経つと誠たちのいる路地にオプリチニキが顔を見せる。それと同時にオプリチニキがスパンと真っ二つにされたかと思えばその場で爆散した。

霊体化した以蔵が後ろに回り込んでいたのだ。

 

「こいつら人気のない所もちょくちょく徘徊しててめんど臭いな」

 

――――――――――――

 

「大分奥まで来たき、この辺の家でいいがやないかえ?」

 

どうやら、この辺ではオプリチニキが徘徊していないようだ。

 

「この家にするぞ」

 

街の中心部からも離れており、大きすぎず、小さすぎない一軒家。4人の隠れ家にするにはぴったりな家を誠が指差す。

 

「2階の明かりが着いちゅうな……」

 

()()と言っただろう?」

 

「……二人組に分けたのはこの為かえ?」

 

「可愛げな女の子に血を見せたくないという粋な計らいだぞ」

 

――もう何人か殺しているので今更な気がするが、今回は無抵抗なヤガを殺すのだ。2人とも根が優しすぎるから罪悪感を覚えてしまうかも知れない。ちなみに都市から逃げたきた叛逆軍というのは嘘だ。都市に住めると言うことはある程度金を持っており、裕福な暮らしをしているということだ。それらを手放してまで叛逆軍にくるヤガはまずいないだろう。

 

「ほんなら、行くぜよ」

 

「了解」

 

以蔵を戦闘にし玄関を開ける。どうやら鍵はかかってないようだ。物音を立てないように家に侵入する。テーブルも先程使ったのだろう、食器が使ったままになっている。食器の数から推測するに2人暮らしのようだ。

 

「この様子だと、1階には誰もいないみたいだな」

 

下の階を一通り見て回った後、2人は物音を立てずに2階へと繋がる階段に向かった。

 

そして2人は階段を上がり明かりのついた部屋の前に来た。聞き耳をたて、部屋の様子を伺う。

 

中ではどうやら男のヤガと女のヤガが会話しているようだ。会話の内容かは察するに夫婦のようだ。

 

以蔵に突っ込めとハンドサインを送り、思い切りドアを開けた。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「おまんは立香とおんなじカルデアのマスターじゃが、全然違うのう」

 

「確かに立香はあまり殺しは良しとしないだろうな」

 

勿論、俺もあまり殺しは好きじゃないがと誠が付け加える。

 

「儂が言うのはあれじゃが、本当に良かったがか?」

 

「立香にバレなければいいよ、バレたら本気で殴られそうだ」

 

誠はそう言いながら苦笑する。

 

「それに今更一人殺そうが殺さまいが、変わらないくらい俺の手は汚れている。まぁ。魔術師だから当たり前っちゃ当たり前かもしれんが」

 

「よお、おまんも儂らと同じコッチ側いうことか」

 

「まぁ、魔術師だからな当たり前だ」

 

誠は基本殺しは好まないが、それは無益な殺生というだけで必要に迫られば殺しもする。この業界で生きていれば当たり前のことだ。

今は不安要素は一つでも削ぎ落としたいと考えたのだ。

 

「それにこいつら放っておいても最後にはみんなどうせ――――」

 

そこまで言って誠は最後まで言うのはやめる。それを最後まで言うとせっかくの覚悟が鈍りそうだから。

 

「以蔵はエレちゃん達を向かいに行ってくれ」

 

「後始末は任せたぜよ」

 

「了解」

 

今こそ培ってきた工作員レベルを発揮する時。誠はベッドの上で永眠についたヤガの遺体に一礼すると肩に担ぎ上げた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「あら中々いいところね」

 

以蔵に連れられてきたエレシュキガルは感嘆の声を上げる。

 

「隠れ家的な感じでいいわね!」

 

武蔵もこれから拠点にあるであろう家を見上げ、テンションを上げた様子で声を上げる。

 

「中はオプリチニキに荒らされてるけどね」

 

誠が2人に割って入る。生活感をなくすためにはオプリチニキに襲われたと言うことにするのが一番都合が良かったからだ。ヤガの遺体と血のついたシーツは裏手にある見つかりにくそうなゴミ箱に放り込んでおいた。

 

そこから4人で一通り家を見て回り、疲れているだろうということで就寝についた。実際、誠も久しぶりの未知の地での長期間の戦闘体制を敷いていたためかなり疲労していた。

 

「カルデアとの通信は戻らないし一週間で帰る約束は守れそうにないわね」

 

完全に寝る体制に入った誠が陣取っているソファーのテーブルを挟んで反対側の椅子に座っているエレシュキガルはため息をつきながらぼやいた。

 

「まぁ、経験上元々こういうことになるのは薄々わかっていたけどね」

 

誠はカルデアに来る前の父と戦場を駆けた日々や師に教えをこうていた日々に想いを馳せながら答えた。

 

「それに約束は破るもんだよ、エレちゃん」

 

「それはダメ人間のセリフなのだわ!」

 

エレシュキガルの叫びを聞いて苦笑しながら、誠は眠りについた。

 

 

 

翌朝

 

「起きなさーい!」

 

いつも通り誠はエレシュキガルに叩き起こされていた。

 

「後5分……!」

 

「ちょっと離しなさい!」

 

エレシュキガルがタオルケットを無理やり剥がそうとするが、誠も負けじと必死に抵抗する。だが、サーヴァントの筋力には流石に勝てなかったのか結局タオルケットはエレシュキガルの手に渡ってしまう。

 

「お〜とっとっと、あいて!」

 

引っ張り合いで誠の手からタオルケットを奪ったその反動でエレシュキガルは後ろに仰け反りかえってそのままゴツンと壁に衝突してしまう。

 

「朝は弱いって言ってるだろう!起こすのはもうすこし後にしてくれ!」

 

誠は奪われたタオルケットを名残惜しそうに見つめながらそう叫ぶ。

 

壁でぶつけてできた、たんこぶをさすりながらエレシュキガルも反論する。

 

「今は緊急事態なのよ!それにマスターがグータラ人間だなんて私嫌なのだわ!」

 

「緊急事態だからこそ満足するまで寝る必要があるんだよ!ポンコツ女神!」

 

「何ですって!?」

 

「「ぐぬぬぬぬ!!!」」

 

「おまんら何をしゆうがじゃ……」

 

以蔵はそんな二人のやり取りを見て呆れたようにそう呟きため息を吐く。一方の武蔵はと言うと二階の部屋で剣の素振りをしている。どこまで剣術馬鹿なのだろうか、以前のように罷り間違って壁を壊したりはやめていただきたいと残り3人は深くそう思っていた。

 

「あ、以蔵お疲れ」

 

渋々起きた誠は非常時用のレーションを食べながら以蔵に挨拶した。

 

「儂らが働きゆう間もグースカ寝ゆうやつに言われとうないわ」

 

昨日は異常が起きたらすぐ察知できるようにサーヴァントの3人が交代で夜間この家の屋根で見張りをしていたのだ。その最後の番が以蔵だったのだ。

 

「そんなことより作戦会議だ」

 

誠は露骨に話を逸らしながら、円卓状のテーブルに手をつき椅子に腰をかける。いつの間にか戻ってきていた武蔵にギョッとしながら2人も席に着く。

 

「それでは会議はじめまーす」

 

誠のやる気のなさそうな掛け声で会議が始まった。

 

「「「「…………」」」」

 

そして10秒ほどの静寂。

 

「何で誰も言わないんだ?ふぁ〜」

 

それを打ち破ったのは誠だった。

 

「マスターがこの中のリーダーだからみんな言葉を待っているのだわ!」

 

エレシュキガルは大きなあくびをして何とも締まらないマスターにツッコミを入れる。

 

「朝だから脳を起動するまでに時間がかかるんだ」

 

「屁理屈言わず早くするのだわ!」

 

「へいへい」

 

エレシュキガルに言われ少し考えるようにそぶりをする誠。

 

「取り上えず、これからの方針としてカルデア一行がここに来るまでここを拠点に調査をする。その際24時間体制で見張りをする。カルデアの奴らが来たらすぐわかるようにな。勿論、俺も入る」

 

戻るという考えも誠は視野に入れていたのだが、シャドウ・ボーダーの修理が完了している場合を考慮して待機することにしたのだ。それに立香達はホームズにイシュタル、アタランテがいるため戦力的は何も問題ないだろう。

 

「もし、立香達が来たらどう知らせればいいの?」

 

「これを使う」

 

誠が腰にかけたバッグからトランシーバーらしきものを二つ取り出す。

 

「通信機だ。こんなこともあろうかと倉庫から二つ拝借してきた」

 

「了解したのだわ」

 

この後は細い決め事や戦略などを相談し作戦会議は終了した。

 




感想と評価よろしく!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12.激励

最近頑張ってるから見込み点として評価7以上くれ、いやください


「寒い、交代まだかなぁ」

 

『まだ1時間しか経っちゃあせんわ!』

 

通信機越しの突っ込みに誠は思わず苦笑する。

 

24時間、6時間交代のシステムだ。しかし、以蔵は地図作成のために特別に駆り出されている。今は外側を誠、内側を以蔵が担当している。

 

「こっち未だ異常なし、そっちは?」

 

街の大きな時計塔の鐘が町中に鳴り響き、それで任務を思い出したかのように誠は真面目な雰囲気を醸し出す。

 

『特になしじゃ』

 

「暇」

 

『知るか!』

 

家の屋根を駆けながら二人は1時間ずっとそんなくだらないやり取りを繰り返している。見張りという任務は案外に暇なもので話し相手がいないと務まりそうになかったのだ。

 

それから4時間くらいたっただろうか。

 

「車の出入りもなければ、魔物一匹出入りもな〜い。平和だな〜。ラーメン食べたいな〜。チャーシュー麺に味噌ラーメン♩豚骨ラーメンに」

 

誠は町の入り口付近の一番高い建物の屋上に座り毛布に身を包み即席で何とも形容しがたい妙な歌を歌っていた時だ。その時通信を切っていた以蔵から連絡が入った。

 

『街中を歩きゆう()()を見つけたぜよ』

 

「本当か!?容姿は?」

 

先ほどまで少しうとうとしていたのが嘘のような真剣な声音で話しかける。

 

『銀色の髪の毛の奴じゃ、なんかブツブツ言いもってひっとりで街中徘徊しゆうわ』

 

誠は心の中でその人物がカドックと確信した。どうせ、また自分の悪口でも一人でつぶやいているのだろう。

 

「以蔵、場所を教えろ。そいつと話しがしたい」

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

カドック・ゼムルプスは少し複雑な感情を抱いていた。一人で王宮の自室を抜け出して、街に散歩に来るくらいには。周りのヤガからの奇異の目で見られる感覚も最初は不快に思っていたが今ではもうすっかり慣れてしまった。

 

「はぁ……」

 

カドックは何度目かも分からないため息をついた。ため息を吐くと幸せが逃げるというけれど、今現在の幸福度を数値化すると0と思っているカドックにとってはどうでも良かった。

 

「今更あんな奴……」

 

コヤンスカヤから存在が告げられた人物――誠・エルトナム・シリウス――かつての友人、いやこっちが一方的に思っているだけかもしれないので知り合いということにしておこう。

 

かつての知り合いが敵サイドに現れただけで気持ちがぐらつくほど、自分の決意は緩いものだったのだろうか――否、そうではない。

 

カドックの中でその存在が大きすぎるのだ。カドックの目に映る誠・エルトナム・シリウスという人物は頭が良く、人当たりが良くて、才能にも溢れ、自分にないものを全て持っていた。自分とは対極の位置にある人物だ。今思えば自分は彼に憧れに近い感情を持っていたのかもしれない。彼は自分がこんなことを思っているなんてこれっぽっちも思っていないだろう。他のAチームの奴とも距離を縮めることができたのも彼のお陰だった。才能がないことをコンプレックスを感じて距離をとっていた自分にしつこく絡んできたも今となってはいい思い出だ。ヒナコにも同じようにしつこく絡んでいたがことごとくいなされいたのも懐かしい。

 

 

 

 

「やっぱ、お前は才能あっていいよな」

 

ふとカドックはいつかした会話を思い出す。

 

「何言ってんだ、俺は何もかも中途半端な男だぞ」

 

カルデアの自室前の廊下のガラス前で二人は話していた。

 

「Aチームに選ばれたのも親父のコネだ、そんなこと言うんだったらお前のが才能あるよ」

 

「…………」

 

カドックは男の語りを黙って聞いていた。

 

「俺は努力が嫌いだしさ、魔術に対して何も崇高な考えがあるわけでもない。魔術なんて生きる上での手札でしかない。俺はそれが初めからちょっとばかし強かったから、ダラダラ魔術師続けてるだけだ。その点お前は真面目に魔術の研究してるし、それを人一倍に努力している。天才ってのは自分と他人との違いを明確に把握しているもんだってどっかの誰かも言ってたしよ」

 

「そんなこと言うのはお前だけだ、所詮は結果だ。結果を示さなければ意味がないんだよこの世の中」

 

「そんなことないだろう、俺みたいにその過程を見る奴だっている。まぁ、お前がやりたいようにやればいいんじゃないの」

 

「……僕は何をするべきなんだろうな……」

 

「んなもん俺が知るわけないだろ。はいもう疲れた難しい話やめー。そういえばヒナコがさー」

 

そこから先の会話は覚えていないが、他愛ない話をした気がする。それがカドックと男との最後の会話だった。

 

 

 

願わくば交える前にもう一度話しを―――――――

 

「浮かない顔してんな、便秘か?」

 

「無礼者、僕が宮廷魔術師と知っ―――」

 

叱責しようとカドックが声の聞こえた方が振り向くと路地裏通りの入り口にコートのフードを深く被り如何にも不審者と言った格好の男が経っていた。フードの隙間から金髪の髪を見え隠れさせながら笑う男の声にカドックは懐かしいものを感じた。

 

「久しぶりだな」

 

そう言って男はフードを脱ぎ、顔をさらけ出す。久しぶりに見る友達を顔は前よりも一層にたくましくなっているように思えた。

 

カドックは内心動揺しながらも、それを取り繕うように冷静なふりをして声をかける。しかしそれがバレたのか男はおどけた調子で笑った。

 

「そう、緊張するなって、俺とお前の仲だろ?()()()()

 

それで調子を取り戻したのかいたって冷静にカドックは質問を質問で返す。

 

「それで何ようだ?僕とお前は敵同士だろう?()

 

「敵味方以前に友達に街で話しかけて何が悪い?」

 

「今はそんな状況じゃないだろう。僕が令呪でサーヴァントを呼んでお前を殺したっていいんだぞ。いくらお前が強くても僕のサーヴァントには絶対に勝てない」

 

「いや、お前はそんなことしないだろう、したくても出来ない。友達を殺すことなんかな、お前は優しいからな」

 

「……!」

 

図星なのだろう、見透かされていると言った感じでカドックは言葉を詰まらせる。カドックは本当は今すぐ()()()()()として頼ってしまいたいが、今の関係性がそれを許さない。

 

「説得しに来たけど今のお前なんか弱っちいから興が覚めたわ」

 

誠は先ほどのおどけた口調から素の口調に移行する。

 

「…………」

 

どこまで見透かされているのだろうか。実物を目の前にしては決意はろうそくの残り火のように弱々しくなる。

 

「……僕は何をするべきなんだろうな……」

 

ふといつかした質問がぽろっと無意識のうちにカドックは口から溢してしまう。

 

「んなもん俺が知るわけないだろ。強いて言うなら」

 

誠はそこで区切って、カドックの方を向きなおって再び口を開く。

 

 

 

「お前が使命とか立場とか関係なしに()()()()()があるならそれをすればいいんじゃね」

 

 

 

誠は最後に"知らんけど"と付け加える。

 

誠の口からふと出たその一言で再び決意の炎が燃え上がる。カドックは口元を緩ませながら言った。

 

「最後の一言は余計だ」

 

「自分の言葉に責任を持ちたくないもんでね、後で上のやつに怒られても知らんぞ」

 

「もう十分影響されてるよ」

 

そう言って笑うカドックの顔は珍しく自身に満ち溢れていた。

 

「証明するんだ、僕でも世界が救えるってね」

 

誠はカドックの意気込みを黙って聞いている。本人は無意識だろうが、誠の口元もまた少し緩んでいた。

 

「僕はこの異聞録における唯一のマスターとして、勝利をもたらす。 汎人類史のマスターにはできないことを、僕は絶対に成し遂げる! 」

 

カドックは自分自身を鼓舞するかのように、声高らかに宣言した。

 

「暑くなってるところ悪いが、お前の彼女が迎えに来てるぞ?」

 

背から感じる冷気によってカドックも自分と誠の存在以外にようやく気がついたのか、驚きの声をあげる。

 

「いつから!?」

 

「みっともなく敵に頭を垂れているところくらいからかしら?」

 

「ほとんど初めからじゃないか……!」

 

カドックは赤面しながらその場で悶えそうになるのを我慢する。

 

「あなたも私のマスターを誑かすのはやめてくださる?」

 

「いやぁ、道端でたまたま会ったもんだからついついね。アナスタシアちゃん」

 

アナスタシアは誠の方を向き今にも戦闘態勢に入ろうとしている。

 

「お前カドックにめっちゃ信用されてんのな、()()の俺から見ても妬けちゃうぜ」

 

「当然よ、マスターとサーヴァントですもの。信頼するということと強さは直結すると言っても過言ではないわ」

 

「なら俺と俺のサーヴァントは向かう所敵なしってことか?」

 

誠も挑戦的な笑みをうかべてマシンガンを片手に構え、前傾姿勢で戦闘態勢に入る。

 

「アナスタシア、奴を捕らえろ」

 

マスターの命によりアナスタシアが攻撃を開始する。

 

「『思考分割』『高速思考』展開」

 

誠はそう呟くとアナスタシアの指先から無数の氷塊をいとも簡単に躱してしまう。

 

「分割思考による未来予測か……!」

 

カドックは悔しそう顔で分析する。『思考分割』と『高速思考』の二つの魔術を使えば擬似的な未来視が可能になるのだ。

 

それからも誠はアナスタシアの手先から無数に放たれる氷塊を鼠のようにすばしっこく躱していく。誠もアナスタシア目がけて隙をみて発泡するが全て氷の壁でことごとく防がれてしまう。しかし今すぐ退かないのは相手の攻撃パターンを見て覚えるためだ。残念ながらこっちから向こうに損害を与える手札は今現在のち合わせていない。

 

「(宝具を使われても厄介だ、取り敢えずこれくらいで退くか)」

 

誠は腰からスモークグレネードを取り出すと思い切り地面に叩きつけた。それと同時に誠は地面を思い切り蹴り逃走を始めた。

 

「マスター追った方がいいかしら?私としてはあの男は早く潰したいのだけど」

 

アナスタシアにしては珍しく不機嫌そうに自分の要望を告げるが却下されてしまう。

 

「今はいい、それより早く城に戻るぞ」

 

戦闘が終わった頃には野次馬大勢が集まって来ていた。路地裏で人通りが少ないとはいえ氷塊が飛び散る音などの戦闘音を聞いて駆けつけて来たのだろう。氷の破片が家の壁に刺さり、煙幕がもくもくと立ち込めるその光景は街で普通に暮らしているヤガにとっては物珍しいものだった。

 

「それもそうね、これ以上ここにいるとめんどうな事が起きかねないもの」

 

アナスタシアはすぐさま実体化をとき霊体化する。

 

そうして二人は足早に路地裏を後にした。

 

後に新聞で宮廷魔術師vs凶悪犯罪者として報道されることになるのはまた別のお話。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「なんか嫌な予感がするのだわ……」

 

誠が寝ていたソファーに座りエレシュキガルは呟いた。

 

「どうしたの?エレシュキガルさん」

 

その様子を見ていた武蔵が声をかける。

 

「また、マスターが無茶しているような気がするのだわ」

 

「サーヴァントってやっぱそういうの分かるものなの?」

 

「そういうの?」

 

それが何かわからず、エレシュキガルは質問を質問で返す。

 

「マスターの今の状況というか以心伝心的な?」

 

「どうなのかしら、私がマスターの性格を理解してるっていうのもあるかもしれないわね」

 

「ふ〜ん、何か恋人みたいね。マスターとサーヴァントの関係って」

 

その言葉にエレシュキガルは一気に顔を赤らめる。

 

「わ、私とマスターは、こ、こ、恋人とかそういんじゃないだわ!」

 

武蔵は美少女の赤面はいいなぁと思ってエレシュキガルを観察していた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

逃走中の誰か

「今エレちゃんが誰かにいじられている気がする」

 

 

 

 

 

 

 

 




カドックの扱いが難しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13.罪悪感

3人称の地の文のコツをようやく掴んできました


「どうしたんだ以蔵、賭博で有り金全部溶かした人みたいな顔して」

 

「……」

 

「え、何本当に全部使ったのか!?」

 

今は誠と以蔵は情報収集のためカジノに来ていた。こういう場所の方が情報が多く集まると考えたのだ。この国には娯楽がカジノのくらいにしかないため大勢のヤガで賑わっていた。誠はフードを以蔵は三度笠を深く被り顔を隠しているのだが、訳ありのヤガも少なからずいるためかあまり怪しまれる様子もなかった。

 

誠は賭博で有り金全部溶かした人のような顔をした以蔵を見て呆れていた。

 

「いやぁ、最初は勝手がよお分からんで負けっぱなしやったけんど最後の方はちょくちょく勝てよったき大丈夫じゃ!」

 

「何も大丈夫じゃねえよ!?金にだって限りはあるんだからな!?」

 

誠は以蔵にツッコミを入れながらバックのジッパーをスライドさせる。

 

「本当にこれで最後だぞ」

 

そして、念を押すように一言を放ち、後ろ髪をぽりぽりと掻きながらニヤニヤする以蔵に誠は現金を渡した。誠はニートでダメ男の息子に金を渡している気分になった。

 

「分かってるとは思うけど、情報収集もちゃんとしろよ?」

 

「分かっちゅう、分かっちゅう。んじゃまたちょっくと行ってくるきのう」

 

「はいはい、期待してるからな」

 

こちらの言い分を全く聞いていない様子の以蔵の背を見ながら誠は全く期待などしていないといった様子でため息を吐いた。

 

「以蔵連れて来たのは間違いだったか……」

 

誠は憂鬱な気分になりながらテーブルに向き直り、自分の背と同じくらいの高さまで積まれたチップを見やる。勿論、誠はイカサマなどは一切使っていない。過去に何度か誠は父とカジノに来たことがあったが、その時も誠の父が驚くらいには勝ち続けていた。

 

「ひょっとして、俺カジノで食ってけるんじゃないか……?」

 

「次、お客さんの番ですよ」

 

「あぁ、悪い」

 

ディーラーの声で気を取り直したように、誠はダイスを振った。

 

 ――こうなればとことんやってようじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、はっはっはっは!」

 

カジノを出た誠は上機嫌な様子で高笑いしながら民家の家の屋根の上を駆けていた。

 

かたや、以蔵の方はというと浮かない顔で誠の右後ろ付いて来ている。

 

「7割方負けたからってそんな顔をしなくてもいいんじゃないか、以蔵君」

 

「おまん、ええ加減にせえよ!?なんじゃそのうざったい顔!叩き斬っちゃろうか?!」

 

おどけた調子で笑いながら煽る誠に腹が立ったのか、以蔵は刀を顕現させる。

 

「やれるもんならな!」

 

そういって誠は札束をうちわを代わりにして顔を仰ぐ。すると以蔵はその札束だけを叩き斬った。

 

「うわっ、割とマジで危ないだろ!?」

 

「おまんが言うたんじゃろうが!」

 

「本当にやると思わなかったんだよ!」

 

誠は宙を舞う真っ二つに両断された多くの紙幣を見上げると同時にその場で立ち止まり4階建ての家の屋上から街を一望する。

 

 

 

城を中心に円形に建てられた民家の数々。

 

家の前で世間話をする二人の女のヤガ。

 

明日を生きるために必死に働くヤガ。

 

路地裏では住む場所も金もないため地べたに横たわっているホームレスのヤガ。

 

カジノでは買ったり負けたりで一喜一憂するヤガ。

 

もう後がないのか、真剣な面持ちでダイスを振るヤガ。

 

 

 

どれも外見は違えどやっている事は、彼らはまぎれもなく()()だった。皆が必死に今を生きている。

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

誠は罪悪感が背を這い登ってくるのを感じた。そのまま押しつぶされしまいそうなくらいだったのだろう。

 

少し前までの誠なら罪悪感なんて覚えることはなかっただろう。だが、誠はたくさんのヤガの生活を見て新たに思うことがあった。

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

誠自身やるべき事とそれがもたらす影響は考慮していたようだが改めてそれがどのようなことが思い知らされたようだった。

 

「そげなとこで止まってなんかあったがか?」

 

以蔵の言葉で自分の世界に入っていた誠は現実に引き戻される。

 

「いや、なんでもない」

 

誠は行き場のない罪悪感を紛らわすため先ほどから見下ろしているホームレスらしきヤガ達に手持ちの紙幣をばらまいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誠達がカジノで手に入れた情報は有益なものが多かった。

 

曰く、城内では仮面の音楽家が24時間ずっとピアノを演奏しているのだとか

 

曰く、ヤガの誰もがイヴァン雷帝の姿さえ見たことがない

 

曰く、よっぱらって城へ間違えて入ってしまったヤガが庭で人間でもヤガでもない身長5メートルくらいの化け物を見たのだとか

 

曰く、よく城と街を行き来している人間の神父は辛いものが好きだとか

 

最後のは余計だがどれも参考になるに値するものだろう。

 

 

 

そして、誠達は今地図と情報の数々を照らし合せて難航していた。

 

「これ多分、城の中心から生えているわよね、空想樹」

 

あの人工的なものに生えるという表現を使っていいのかという疑問は今は置いておいて、誠も同じ結論に辿り着いていた。

 

「魔術で隠蔽してるような感じもなかったから多分じゃなくて絶対だ、エレちゃん」

 

「それでどうするの?」

 

腕を組み黙っていた武蔵が口を開く。

 

武蔵の問いに悩むそぶりをしてから誠は答えた。

 

「もう行っちゃうか」

 

「立香達はどうするのかしら!?何のために方針を決めたのかしら!?」

 

「魔術師の勘ってやつがさ、今行けっていってるんだ。時として事前に決めたルールより勘を信じることも大事なのだよ」

 

誠の返答に頭を悩ませるエレシュキガル。城に攻め込むということは絶対に敵マスターや敵サーヴァントと戦闘になる。それをエレシュキガルは器具しているのだろう。

 

以蔵はというと壁にもたれ掛かり黙って話だけを聞いていた。

 

「それに害木駆除は早くするのに越したことはないだろう?」

 

 

2日後

 

 

「準備はいいか?」

 

誠達は攻め込むべくして城門の上に潜入していた。

 

「儂はとっくに出来ちゅうぜよ」

 

「以蔵も私も準備万端よ、エレシュキガルさん」

 

以蔵と武蔵は返答を聞いて腹を括ったようにエレシュキガルは顔を引き締める。

 

「私もいつでもオーケーなのだわ」

 

「そんじゃ、行くか」

 

誠は手からエーテライトを取り出し、試しに近場に展開されている結界に接続する。

 

――敵の本拠地にしてはえらく薄い結界だな。元々侵入者対策などしていないのか……?

 

だが誠は細心の注意を払って、城そのものを覆っている結界に接続する。勿論のことだが、是は誠だから出来るのであって、平凡な魔術師では演算処理に失敗して、敵の瞬時に位置がバレてしまうだろう。

 

誠が何事か詠唱を口にしたかと思うと、一時的に城を覆っている結界の機能が停止する。このサイズになると、誠でもハッキングするのは困難なようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全然人がいないな」

 

誠が城に入って最初に感じたことそれだった。部屋らしき扉はいくつもあるのに人影の一つも見当たらない。

 

「それはこっちにとっては好都合だわ、早く行きましょう」

 

誠が武蔵の言葉に頷き、前を見据えた時だった。

 

 

西洋風の城内の雰囲気に似ても似つかないサイレンがけたたましく城内に鳴り響いた。

 

 

「これ絶対俺たちのせいだよな?でも結界は無効化したはずだが……」

 

「私達以外に誰がいるっていうのかしら……」

 

「そうだな……って後ろだ!」

 

誠が指をさしてその先には大量のオプリチニキが迫ってきていた。その数100はいるだろうか。

 

まさしく絶望的な状況だ。ここでオプリチニキの交えていると誰にも気付かれずに玉座に辿りつくのは難しいだろう。

 

「ここは儂に任せて先に行きや」

 

その時、一人の人斬りが声を上げた。

 

「それ完全に死亡フラグだぞ、以蔵!」

 

その手には一振りの刀が構えられてる。今にも敵陣に一人で攻め込んで行きそうな勢いだ。

 

「それなら私も残るわ」

 

かつて天元の花と謳われた剣士が誠の不安を取り除くように名乗りを上げた。

流れるように背に掛けてあった二刀の刀を鞘から引き抜き、二天一流の構えをする。

 

「ほんなら儂も二刀流でも見せちゃろうか!」

 

それを見た以蔵も感化されたのか、もう一つの刀を鞘から引き抜き()()()()()()()()()と全く同じ構えをする。

 

「囲まれたら背中は任せたわよ、以蔵!」

 

「そげなこと言われんでも分かっちゅうちや!」

 

そして一瞬だけ振り向いて、

 

「誠君とエレシュキガルさんは早く先に行って!」

 

と言ったかと思うと敵を目掛けて突っ込んで行った。

 

「行くぞ、エレちゃん!」

 

そう言って誠は立ち止まるエレシュキガルの肩を叩く。

 

2人は後ろを振り返ることなく駆け出した。

 

 

 

 

 

 

二人の足止めのおかげで玉座の間まではすんなりと辿り着くことが出来た。

 

「やっと着いたわね」

 

そこは今までの場所とは全く違う空気が充満しており、先程までいた城とは全く違う場所のようだった。

 

まるで現実とは違う世界に隔離されているかのような場所に『()()』はいた。カーテンで全貌は掴めないがピクリとも動かずに玉座に座りソレは確かに存在していた。そして、その玉座を中心に渦を巻くように重苦しい空気がこの部屋一帯を支配しているかのようだった。まるで、世界がこの場を中心に廻っているような感覚に誠は陥った。

 

誠はその空間に一歩踏み出しただけで謎のプレッシャーが体に押し寄せてくるかのように感じた。これ以上そこへは踏み入れるなと誰かが警告しているかのようだった。

 

それまで機械的に動かしていた足を思わず止めてしまった誠だったが、その警告を無視してその空間へと次の一歩を踏み出した。

 

一歩一歩、足を前に押し出す度に前から謎のプレッシャーが押し寄せてくる。吹雪をなか風上に向かって歩く方が何十倍も歩きやすいとさえ誠は思った。

 

誠が玉座へと続く階段の1段目へと足をかけた時に一段とプレッシャーが強くなり、その正体が玉座に座っている者から抑えることができずに漏れ出す魔力だということに気がついた。

 

一段また一段と次の段へ足を踏み出す度にその異常な魔力に呑まれそうなり、誠はたじろいでしまう。

 

誠はカーテンの向こう側の存在を見据えるが、誠達に気がついていないのだろうか、一向に動く気配すら見せない。

 

自分のような矮小な存在には構うような時間がないのだろうかと誠は考えると、口の中の唾を一気に飲み込んだ。

 

ようやくカーテンを超えなければ先へと進めることが出来ない段まで来た時、誠は今までなんとか続けてきた足を前へ踏み出すという運動を止めてしまった。

 

「どうしたの、マスター?」

 

それまで黙って誠の後ろにピタリとくっついてきていたエレシュキガルが声を上げた。その様子からするにエレシュキガルはこの場の雰囲気に全く呑まれていないようだった。

 

「いや、ちょっとな」

 

誠はエレシュキガルの方を向きそう答えると、すぐさま前を向き直り再びカーテンの向こう側を睨みつける。

 

誠は息を整えるようにその場で肩にかけた対物ライフルを下ろしてリロードする。

 

「ここから決める」

 

誠はそう呟くと、ライフルを構えて僅かに視認できる頭と思わしき部分に銃口を向ける。本来、対戦車などに使うそのライフルの威力は絶大な上に魔力で弄っているためサーヴァントといえど無防備の状態で命中すれば決してタダではすまないだろう。エレシュキガルはその様子を固唾を飲んで見守っている。

 

 ――この引き金を引けば全てが終わらせることが出来るかもしれない。だが……。

 

誠の脳裏をよぎるのはこの街で今を生きているヤガ達の姿だった。

 

 

「ちょっと、さっき眠りについたばかりなのだから起こすのはやめてくれないかしら」

 

次の瞬間、誠の躊躇いを見抜いたように第三者が声がその空間に響いた。

 

誠は慌てて銃口を声の主に向ける。エレシュキガルもその場で戦闘体制に入り、敵を視認する。

 

声の主の隣には白髪をなびかせる青年の姿もあった。

 

「そんな中途半端な覚悟でここまで来たのか?今のお前なら藤丸立香の方が脅威になり得るな」

 

立香の名前が出て来て誠は顔をこわばらせる。

 

「安心しろ、ちょっと挨拶して来ただけだ。じきにここにも来るだろう」

 

「少し声が大きいぞ、君達。彼が起きてしまうぞ、ほら」

 

いつのまにかそこにいた神父の登場に誠のライフルを握る手が強くなる。それと同時に、カーテンの向こう側から唸り声が聞こえ、その空間の皆がそちらを見やる。

 

『ソレ』が少し動いたことでカーテンが揺蕩(たゆた)う。

 

その瞬間、誠は見てしまった。『()()』の姿を。カルデアの資料にも同じような化け物はいたが実際に見るとその迫力に圧倒されてしまう。

 

「それにシナリオ通りに進んでくれないとこちらが困るのでな」

 

誠は再度、神父の方をみるとそこには先ほどまではいなかった別の化け物が存在していた。

 

その怪物が何かを叫んだかと思うと誠とエレシュキガルは目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

誠は目を開けるとテーブルに手をつき椅子に座っていた。いや、座らされていたの方が正しいだろう。机の上にはポツンと蠟燭(ロウソク)が一人寂しそうに弱々しい火を灯してその狭い部屋全体を照らしていた。そして向かいには先程の白髪の青年とそのサーヴァントが座っていた。

 

「なんだ俺を拷問でもするか?カドック」

 

3人の中で一番早く口を開いたのは、誠だった。

 

「そんな事、僕が出来ると思うかい?」

 

「なら、なんなんだ。俺を見せしめに殺すか?」

 

「そんな事じゃない、僕は君に少し手助けしてもらいたいんだ」

 

カドックがそう提案してしばらくの時が流れた。

 

1分程立っただろうか、ついに誠が口を開いた。

 

「いいだろう」

 

「ほ、本当にいいのか?」

 

誠からの肯定の返事にカドックは驚いた。これから事情をいろいろと説明をしなければとカドックは準備していたのだが、二つ返事でOKが貰えたからだ。

 

「なんでお前が驚いてんだよ、それにこれはお前の言う証明とやらに関係してるんだろう?」

 

誠は苦笑しながらそう返した。

 

「……」

 

カドックは誠の言葉を黙って聞いている。

 

「友としてその頼み受けてやろう。ギリギリのところまで手出さずに、お前の言うその証明とやらを見させてもらうよ」

 

誠はそこまで話すと、一呼吸開けておどけた声音で言葉を続けた。

 

「それに最近、頭使いすぎて疲れてんだ。俺は誰かに頼まれたり、命令されたりする方が性に合ってる」

 

誠が最後まで話したのを確認するとカドックが指をパチンと鳴らした。

 

「ならもう少し彷徨っていてくれ」

 

すると再び誠の目の前が白く染まっていった。

 

 

 

 

再び目を開けると誠は神殿のような場所に直立不動に一人突っ立っていた。

 

 ――やはりこれはあの怪物の宝具だな、何せよまずは状況確認だな。

 

誠はそのまま深呼吸しながら魔術回路や刻印に魔力を通わせて身に異常がないことを確認すると、現状を把握するためにその建物を見回ることにした。だが、誠はすぐに自分の行動と運に後悔することになる。

 

誠は自分が立っていた廊下のような場所から近くに、大きく開けた場所があるのを確認した。中に誰もいないのを確認して勢いよく、誠が飛び出たと同時に別の広間へと通ずる道からこの迷宮を作り出した張本人が出てきたのだ。

 

「おいおい、マジかよ……」

 

そこには、体長は5メートルはあるだろう巨体に二つの大きな角を生やし、両手に大きな鎌も持った怪物が誠を一直線に睨み立っていた。




感想と評価よろしく!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(モチベのために)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14.死闘

モチベのために感想と評価よろしく!!


誠は今現在危機的状況に陥っていた。

敵サーヴァントとのタイマン状態。相手はバーサーカーなのか対話での説得は絶望的だろう。それに令呪によるサーヴァントの強制転移も不可。

 

 ――これ結構詰んでね?

 

誠がそう思うが後か、バーサーカーが魔力を集中させて地を蹴った。

 

バーサーカーが広場の端から、何十メートルという距離を数秒で詰めてくる。

 

誠はそれを瞬時に察知して、身体強化と分割思考の魔術を起動させて、間一髪でバーサーカーの斧の大振りを避ける。

 

「あっぶねぇ」

 

誠はバーサーカーの斧が振り下ろされエグりとられた場所を見ながら呟いた。その一撃一撃が秘めた威力は岩盤すら砕きかねない威力である。一発もろに喰らえばゲームオーバーだろう。

 

 

誠は分割思考を使い、目の前のバーサーカーの特徴を元に思考を高速化させ脳内の検索エンジンにかけていく。

 

 ――名前はアステリオス、別名ミノタウロス

 ――クラスはバーサーカー

 ――宝具はこの迷宮のみ

 ――記憶にあるデータとは容姿が違うが、異聞帯の影響だろう

 ――次の攻撃は右の大振りからの、足で地を蹴る振動攻撃

 

その間僅か3秒。

 

すぐさまバーサーカーの巨体が飛んでくる。続く第二撃第三撃の攻撃が誠を襲う。が、どれも単調な攻撃で得意の分割思考の魔術とエーテライトを鞭のように使い簡単にいなしてしまう。

 

 

その後の攻撃も簡単に躱す誠。バーサーカーが地を蹴る瞬間に、誠も地を蹴って斧の大振りを躱す。これの繰り返しだった。

 

相手の攻撃パターンも完全に記憶し、情報を整理した誠は次はこちらから行くぞと言わんばかりの笑みを浮かべ、銃を手に取り攻撃を開始する。

 

 

 

誠は目の前のバーサーカーの体の動きだけに意識を集中させる。些細な動きまで事細かに。

 

それを元にバーサーカーの次に取るであろう、あらゆる動きの可能性を完全に()()する――()()()()()()()()()

 

誠が隙をついて、スコープを外したスナイパーライフルでバーサーカーに発砲した。弾丸は真っ直ぐに進み胸に直撃し、大きな血しぶきを上げた。

 

「アァ……!」

 

バーサーカーが小さな呻き声を漏らすが、それをもろともしないようにバーサーカーは突っ込んでくる。

 

「とんだ、体力馬鹿だな……!」

 

 

 

その後も擬似的な未来視で華麗に攻撃を躱しながら、隙をついてライフルで効率よくバーサーカーに発砲していく。この動作を何回何回も繰り返す。普通の魔術師なら体がついて行かず、よくて数分続けるのでやっとだろう。だが誠は今だけでこの状態を20分続けさせている。ライフルも身体強化の魔術も併用しているため、立ったまま打てるとうわけだ。

 

「攻撃が効いてて安心安心っと!」

 

それでも衝撃は凄まじいもので、誠はのけぞりそうになる。

 

「漫画とかでは簡単に目に命中させってけど、簡単にそんなことできるわけねーだろ」

 

誰でも目玉を攻撃されるのは怖い、化け物でさえ。極力、誠もバーサーカーの目玉を狙うようにしているのだが幾分慣れないことをしている上に手元がぶれて中々思ったところに命中しない。だが相手は5メートルの怪物である。適当に撃ってもどこかには必ず命中する。既にもうバーサーカーの白いたてがみは血で赤く染まり、激しい動きをする度に床に赤い液体が滴り落ちている。

 

その時、バーサーカーが悲鳴めいた声をあげた。

 

「アァァァアア!……コロス!」

 

色濃い怨嗟と憎悪に満ちた声があたりに響く。

 

どうやら確実にダメージは蓄積されているようだった。

 

自分の攻撃が一発も当たらないバーサーカーも次第に腹が立ってきたのか、スキルを発動させた。

 

「コロ……シテ……クッテヤル……!!」

 

天性の魔――英雄や神が魔獣と堕としたのではなく、怪物として生まれた()に備わる固有のスキル。

 

バーサーカーは両手の斧を地面に突き刺し、身体中に魔力を集中させる。すると、バーサーカーの体がどんどん肥大化していくではないか。それと同時にバーサーカーの体を縛る拘束具のようなものが増大した筋肉に耐えられず、バリンと音を立てて砕け散る。

 

誠はバーサーカーの見たことのない挙動に警戒し、今まで以上に距離を取る。

 

「ハテシナイ『死』!オワリナイ『死』!」

 

「くそ、なんだこの感じ!」

 

奇妙な感覚が誠を襲う。

 

「立ち止まっていても、ずっと走っているような……!無理矢理頭を揺さぶられているような……!」

 

誠は脳が強く振り回されるような感覚に陥り、次に頭に激痛が走る。

 

それもそのはず、誠は今脳をフル回転させて魔術を行使しているからだ。あまりの激痛に誠はその場で立ち止まり左手で頭を押さえ右手を地面に手をついてしまう。その時には床に突き立てた斧を再び手に取ったバーサーカーが迫ってきていた。

 

誠は咄嗟に地面で体を支えている右手で再び魔術を行使する。片手で銃のような形を作り、人差し指の先端から魔術の弾丸のようなものが発射される。

 

北欧に伝わる魔術の一種――ガンド

 

使用者によって効果は様々だが、誠のは麻痺させるタイプだった。

 

弾は一直線に標的に向かっていき、こちらにいざ飛びかからんとするバーサーカーに命中する。

 

先程までバーサーカーの勢いは殺され、鎖で拘束されたかのようにバーサーカーはその場でビクビクと痙攣している。しかし、このスタンがすぐとける事を知っている誠はスモークグレネードを地面に叩きつけ一目散に逃げ去った。

 

 

 

 

10分程、全速力で走り逃げた誠は廊下のど真ん中で寝そべっていた。

 

「頭いってぇ……」

 

どうやら頭痛はまだ引いていないようだ。

 

「しかし、これからどうしたものか……」

 

 ――銃で発砲してその音の反射で出口を特定しようともしようともしたけど、聴力を最大に強化しても無理だったしなぁ。あいつ倒すまでこの迷宮消えないし、一か八かで殺るしかないか。でも場所分からんしなぁ。

 

「……ん?」

 

誠はその時、視界の端にどこまで行っても白色の床と天井と柱しかないこの神殿に本来あるはずのない赤色を確認した。案の定それは血だった。

 

 ――量からしてあの怪物か。血の落ちた形状から向かった道の方向はわかるな。

 

誠はなるべく足音を立てずに血の続いている方に走り出した。

 

 

 

 

 

こちらは所変わって立香達。

 

立香も奇妙な感覚に陥り、それぞれが本領を発揮できずに追い詰められていた。

 

「くそ、何だよこの感覚は!」

 

アメリカ西部開拓時代の代表的なガンマン――ビリー・ザ・キッドは悪態をついた。

 

「あと少し押されれば、悔しいけど、敗北(まけ)だな。以蔵君何か手はないのかい?」

 

立香達といち早く合流した幕末の人斬り――岡田以蔵にビリーは問いかけた。

 

「儂は人斬りじゃ!化け物らぁ斬ったことないき、殺しかたなんち知らんちや!」

 

以蔵はそう言いながら、バーサーカーの攻撃を避ける。

 

「……くそ、ごめんマスター……!」

 

「ビリー!!!」

 

ビリーにバーサーカーの斧が振り降ろされ、後数センチで当たるかという時、立香達のいる空間に一つの大きな銃声が鳴り響いた。

 

弾丸はバーサーカーの目の付近に直撃し、途端に顔から血しぶきが上がる。痛みからバーサーカーは斧を手放し、両手で目を押さえながら悶えて始めた。その隙にビリーは落ちてくる斧を躱してバーサーカーから距離を取り、体制を立て直した。

 

勿論のこと銃を撃ったのは、ビリーではない。

 

「おっしいな、もうちょい下だったら目のど真ん中直撃してたのにな」

 

「誠君!」

 

立香は銃声の聞こえた方を振り返ってその名を読んだ。

 

「おお、久しぶりだな立香、って以蔵お前生きてたか!?」

 

「わしゃあ死んじゃあせんわ!」

 

「どう考えてもあれは死ぬ流れだったのに!?」

 

割と本気でもう会えないと持っていた誠は以蔵との別れ際の記憶を思い出しながら言った。

 

バーサーカーはというと痛みが徐々にマシになっていったのか、穴の空いた顔から手を離し再び斧を握ろうとしていた。再び戦闘になると身構えた全員だったが

 

「……ハライッパイ。アシタニトッテオコウ」

 

コンセントを抜かれた電化製品のように静かになり、そう呟くと何処かへ消えていった。

 

 




頑張り始めてから伸びなくなるのは何故なのか


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15.危機

エレシュキガルss書いてるのにスキルマじゃない奴おるってマジ?

投稿する位置間違えたので2回目


バーサーカーが去って、緊張の糸が切れたのかその場の全員が棒のようになった足を休めるように座った。

 

「さっきは助かったよ、ありがとう。僕の名はビリー・ザ・キッド」

 

「世界一有名なガンマンにお礼されるなんて光栄ですよ、誠です」

 

誠は恐る恐ると言った感じで自分の名を告げる。

 

「敬語はいいよ、誠。ところで君腰に銃いっぱいつけてるよね?僕と早撃――」

 

「嫌です」

 

誠はビリーが最後まで言い終える前に答えた。即答である。

 

「ちぇ〜フラれちゃった」

 

次はそのやり取りを黙って見ていた立香が口を開いた。

 

「誠君、今までどうしてたの?」

 

誠は立香と別れてからのことを軽く説明した。

 

 

 

「武蔵ちゃんもいるんだ!それは心強いよ!」

 

「今は逸れちまってるけどな」

 

次は退屈そうに話を聞いていた以蔵に誠は質問を投げかけた。

 

「そういや、他の奴らはどうした?以蔵」

 

「儂もあの時――――」

 

 

 

 

「ふむ今はここからどう出るかだな、シャドウ・ボーダーとの連絡は?」

 

『マスター……良かった!』

 

立香の通信機からマシュの顔が投影された。

 

「やあ、マシュちゃん」

 

『誠さん!無事だったんですね!』

 

「しかし、ここからどうでたものか……」

 

 

立香の方針で取り敢えず、歩き回る誠達だったが……。

 

『……ダメです、また同じ座標に戻っています』

 

同じところを行ったり来たりしてしまっているのだ。

 

「あいつ殺すしかないねぇのかなぁ……」

 

「ところで誠、あのバーサーカーを一人であそこまで弱らせたのかい?」

 

「まぁ、そうですね。最後は割と死にそうになったから逃げましたけど」

 

ビリーの質問に銃を弄りながら答える誠。

 

「ちなみに戦い方は自己流?」

 

「いや、アトラス院って場所にいた時に師匠的な人がいたんですけど、その人の戦い方を見たり、教えて貰ったりしてましたね」

 

「その師匠ってのは強いのかい?」

 

ビリーのその質問に誠は昔を懐かしむような顔をして答えた。

 

「それはもう、ちなみに名前はシ――」

 

誠がそこまで言いかけた時にビリーが会話を中断させた。

 

「止まって。誰かいる」

 

ビリーの視線の先には一人のヤガが立っていた。

 

「ああ……アンタ達か……」

 

それはひどくやつれた様子のパツシィだった。

 

「パツシィじゃないか」

 

誠は少しテンションを上げてそう叫ぶが、周りの皆が白い目でパツシィを見ているのに気がついた。

 

「え、何だ空気」

 

「彼、裏切ったんだよ」

 

誠はその言葉に驚愕の表情を顔に貼り付かせた。

 

「殺すんなら殺せ。抵抗はするけど、どうせ無駄だろう」

 

「パツシィ!」

 

思わず怒りで立香はそのヤガの名を叫んだ。

 

「俺の名を呼ぶな!」

 

「呼ぶなって言われたら余計に呼びたくなるだろう?パツシィパツシィ……」

 

「君は小学生か!」

 

重い空気に耐えられなくなった誠がパツシィを茶化すが、すぐにビリーに止められる。

 

「俺は――見ちまったんだ、雷帝を」

 

その言葉に以蔵と誠が以外が言葉を詰まらせる。

 

「いや、俺も見たけど」

 

またしても重い空気を破ったのは誠だった。それまで頑なに誠を無視していたパツシィも反応してしまう。

 

「なら、お前だって分かるだろ?あれは決して――」

 

わざとパツシィに最後まで言わせないように誠が口を開いた。

 

「まぁ確かに初見ではビビリハしたが、次会うときは絶対殺す。あれを見てよくそんな事を言えるって顔をしてるいるな。俺達はお前らのように馬鹿みたいにペコペコ皇帝ツァーリに頭下げるわけにはいかないんだよ。何せそれじゃ生きていくこともできない」

 

「でもあれを見たお前なら分かるだろ!?あの御方にだけは、手を出しちゃいけないんだよ!」

 

パツシィは心底怯えきった様子で叫ぶ。

 

「そんなことは知らん。勝手にお前の価値観を押し付けないでもらおうか」

 

イライラして誠もだんだんと口が悪くなっていく。

 

「はいはい、二人ともそこまで。今は言い争っている場合じゃないでしょ?」

 

険悪な雰囲気を醸し出す二人を放置しておくとまずいと感じたのかビリーが止めに入った。

 

「……テメェらは、一体何なんだ。何もかもがわからない、わからないんだよ!」

 

『黙っていて申し訳ありません、実は私達は――――――――」

 

混乱しきったパツシィのマシュはさらに混乱するような要素を含んだ話をした。自分達は汎人類史の者であるということ。そして、そこでは四百五十年前に大寒波が起きなかった平和な世界であるということ。

 

「……平和な世界……なんだそれ。ますますわからねえ。わかねえが……」

 

「ようはこことは違う歴史のロシアって事。彼らの世界のロシアはここまで極寒ではなかったのさ」

 

パツシィの腑に落ちていない様子を見て、ビリーが補完した。

 

「……なるほど。だからヤガになる必要がなかったわけか」

 

ふと、その会話を見ていた誠はパツシィの時折ピクピクと動かせるモノに注目した。

 

「おい、パツシィ」

 

「……なんだ」

 

先程の口喧嘩で気まずくなったのか、パツシィが罰が悪そうに答える。

 

誠は先程一人の時に考えていた、銃の反響音で出口を探るという考えを話した。

 

 

 

立香の類い希なるコミュニケーション能力で普段通りに戻った皆は、どういうわけ立香のカルデアに来る前の日常の話しをしていた。

 

『学校……そうですね。正直に言いますと、かなり憧れがあります』

 

「儂は勉学は嫌いじゃ」

 

「以蔵見るからに馬鹿そうだもんな」

 

「あぁ?」

 

「本当のこと言っただけだろ!?」

 

無言で刀を構える以蔵にビビる誠。

 

『ふと気になったんですけど、先輩と誠さんはテストの順位などはどのくらいだったのですか?』

 

「僕は確か真ん中くらいだったよ、良くも悪くもなかった」

 

「俺は記憶力だけは良かったから代々一桁だったぞ」

 

誠は、ほとんど高校はにはいってなかったけどと付け加える。

 

珍しくドヤ顔する誠の視線の先には以蔵がいた。その顔に余程、腹がたったのか以蔵が誠に飛びかかった。

 

「儂は頭がえい奴は嫌いじゃきのう!」

 

「嫉妬かぁ?」

 

さらに誠が以蔵を煽る。

 

二人が命を賭けてじゃあっているときだった。

 

「複数の反応がある!」

 

ビリーがそう叫ぶと皆が身構える。

 

「なんだ、オプリチニキか」

 

誠はそう呟き周りを見た。周囲はもう囲まれているようだった。

 

『挟み撃ちの状態は危険です!』

 

「君達は二人は後ろを頼んだよ!」

 

ビリーは二人にそう命令すると誠達は逆の方向を向き銃を構えた。

 

その命令に以蔵と誠は頷き、二人は目前のオプリチニキを見据えた。

 

「今ちょうど腹が立っちょったきのう!えい、すとれす発散じゃ!」

 

「以蔵は前の奴を、後ろは俺がやる」

 

「いちいち命令しなや!」

 

以蔵はそう叫ぶと一人で敵陣に突っ込んだ。

 

「そういうとこが馬鹿って言うんだぞ!」

 

ついで誠も以蔵の後を追うように魔術を発動させて、マシンガン片手に突っ込んだ。

 

 

迷宮内に銃の発砲音と金属と金属が擦れあう音が鳴り響く。

 

「以蔵よろしく!」

 

誠がリロードしている隙に近寄ってきたオプリチニキを以蔵が力ずくで斬りふせる。

 

「しっかし倒しても倒してもキリがないのう!」

 

「こいつら限りってもんを知らないからな!」

 

誠がマシンガンを撃ちながら、悪態をつく。

 

ゾンビの如く湧き出てくるオプリチニキに立香達3人も苦戦しているようだった。

 

「しまっ――」

 

ビリーが撃ち漏らしたオプリチニキが立香が捨て身で突撃した。

 

その声を聞いた誠は瞬時にマシンガンを宙に投げ捨て、肩にかけたスナイパーを手に取り振り返りざまに狙撃する。弾丸は立香の肩、擦れ擦れを通過しそのままオプリチニキの顔面に直撃する。そしてそのままオプリチニキは爆散する。

 

しかし、今度は誠がピンチに陥った。3方向からオプリチニキが捨て身の姿勢で迫ってきていたのだ。

 

マシンガンは誠の手に届く位置には落ちてこず、以蔵はオプリチニキ3体と一気に斬り合っていてサポートにはこれそうにはない。

 

誠は思考を高速化し打開策を練る。

 

 ――スナイパーだと一体しか殺れない

 ――腰のハンドガンを使おうにもリロードしてない

 ――取り敢えず、来てない方向に飛び込むか

 

誠が地を蹴った。

 

が、その瞬間3人のオプリチニキがそれぞれの理由で爆散した。

 

 

1体は二刀の刀に斬り倒されて

 

1体は光の弾丸のようなもので消し飛ばされて

 

1体は大きな槍で吹き飛ばされて

 

 

誠は心のそこから頼りにしているサーヴァントの名を呼んだ。

 

「エレちゃん!!」

 

「遅くなって悪かったわね、マスター」

 

そこには一人の剣士と二人の女神が立っていた。




杭200個くらいくれ

以蔵も使うし足らんわハゲ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16.迷宮からの脱出

ギル祭お疲れ様でした。僕は一般人なので100箱で終わりました。皆さん何箱開けましたか?


「ちょっと、私のマスターにちょっかいかけてるんじゃないわよ!」

 

「暫く、暫くぅ!年端もいかない青少年に銃口を向ける悪漢ども!私好みの青少年を襲うのなら、こちらもそちら斬り伏せよう!」

 

好戦的な笑みを浮かべた二人の女神と剣豪の登場により、残りのオプリチニキは数秒のうちに一層された。雨のよう魔力の槍と魔神の一太刀がオプリチニキを襲ったのだ。オプリチニキもたまったもんじゃないだろう。

 

「うわお、マスターってばまた物騒な人斬り包丁とも知り合いなんだ」

 

「……サーヴァントってなあ、寒さを感じないのか?」

 

ビリーとパツシィが少し呆れたようにそれぞれの感想を述べる。

 

「おっとヤガの人か」

 

武蔵が興味ありげにそう呟くと、音もなくパツシィに近付きいきなり耳を手で掴みもふもふし始めた。

 

「うんうん、いつものことながらたまらぬモフモフ感……!」

 

「それいつもやってるのか!?」

 

「ああ、誠君、数時間振り!」

 

武蔵の相変わらずの切り替えの速さに誠もすっかり武蔵のペースに乗せられてしまう。

 

「武蔵ちゃん!」

 

それまで黙っていた、立香が感極まってその剣豪の名叫ぶ。

 

「ええ、ええ。武蔵ですとも。きみも随分と逞しくなっちゃって」

 

武蔵も昔を懐かしむように誠が聞いたことのないような優しい声音で話しかける。

 

「元気そうで何よりです。そしてやっぱり、君は戦っているのね。ならば私が出来ることもあるでしょう!なーに、皆まで言わない、事情はなんとく察したわ!新免武蔵、これから君のボディガードを務めましょう、はい、そういうわけで契約、契約♪」

 

先程までのしんみりした空気をどこへいったのか、武蔵は立香にささっと近付き慣れた手付きで魔力のパスをを繋げてしまうではないか。

 

『お、驚きの契約速度です。マスターと手を繋いで、あっという間に簡易契約をなされました』

 

立香のサーヴァントのマシュもこれには驚きを隠せない。

 

契約を果たした武蔵の顔は満足げだったが、次は赤面に変わっていた。どうやら成長した立香の手を見て萌えているようだ。

 

「以蔵も数時間振り!」

 

調子を取り戻す様に武蔵は以蔵の方を向く。

 

「何するがじゃ!やめ――」

 

武蔵は以蔵に近寄ると頭をわしゃわしゃと撫で始めた。

 

「以蔵、なんか聞いた話によると私に憧れて剣道始めたそうじゃない!」

 

「誰が言うたがじゃ!?」

 

その様子をニマニマ笑いながら誠は見ていた。そして、それに気付かぬ以蔵ではない。

 

「おまんかぁ!」

 

「さぁ?」

 

「でもそれだと納得がいくのよ、以蔵。あの時二天一流使ってたわよね?しかも、ほとんど完璧だったじゃない!今度手合わせしましょ!」

 

「そもそも儂の知っちゅう武蔵は男じゃったき、本当の武蔵かどうかもわからんじゃろ!」

 

「もういいよ、以蔵君。潔く認めたまえ」

 

「誠、おまんには絶対言わんいうき教えちゃったが、もう知らん叩き斬っちゃる!」

 

武蔵の拘束から解放された以蔵が刀を構えて煽る誠に飛びかかる。

 

「出来るもんならな!」

 

「ちょっと危ないのだわ二人とも!?」

 

そんな二人のじゃれ合いをあたふたと慌てた様子のエレシュキガルが止めに入る。

 

テンションの上がった武蔵は次にビリーの方を向き直る。

 

「あなたがビリー・ザ・キッドね!ビリーって呼ばれてたから、そうじゃないかと期待してたんだけど、ばっちりそうだった!うんうん実にいいわねー……」

 

そう言って武蔵はビリーの方をじっと見つめている。その理由をいち早く察知した誠が以蔵の剣戟を交わしながらツッコんだ。

 

「鯉口切るのは禁止だよ」

 

「いやぁ、ついね。つい。早撃ちと居合いって犬と猿っていうか。"どちらが早いか?"を競う以上、どうしても試したくなるっていうか。ガンマンのクイックドロウは何度も斬り伏せてきたけど、早撃ちキッドは別格よ」

 

「そんなこと言っても駄目だよ、武蔵ちゃん」

 

立香も露骨にテンションを上げた武蔵を釘をさす。

 

「ちぇー」

 

武蔵は唇をとんがらせて、拗ねたような顔つきでビリーの方を見やる。

 

「僕もちょっと嫌かなぁ」

 

ビリーが武蔵の二振りを刀を見て厄介な獲物を見たような表情をする。

 

「距離が近すぎる。キミ、まず眉毛をガードした後で僕を斬るつもりだろ?"早撃ちは見たいと言ったが速さを競うとは言ってない。御免"とか言ってさ」

 

「あはは、分かっちゃうかー。お互い、根っからの卑怯者(アウトロー)ね、私達!」

 

「「はははは」」

 

 

 

「何はともあれ、これも私の普段のおこないが良いからね!私、女神だし」

 

いきなりそんなことを言い出したイシュタルに誠とエレシュキガルと立香が白い視線を送る。

 

「――――って何よ、アンタ達!」

 

横暴(おこない)

 

と誠。

 

「我が事ながら、恥ずかしいのだわ……」

 

とエレシュキガル。

 

「あははは……」

 

立香までもが弁解できないといった感じで乾いた笑いを漏らす。

 

「立香まで何よ!」

 

「バビロニアでは作戦の要となろうとしていたグガランナを無くし、夏の水着イベントではレースと称して他のサーヴァントを駒代わりに使い、挙げ句の果てにはカルデアの大勢に人に迷惑を……」

 

「なんであなたがそれを知っているのよ!」

 

「カルデアの記録で少々……。俺達は次、イシュタル神が何をしでかすか心配です……」

 

「何かする前からいろいろ言うのはやめてくれないかしら!」

 

そうこの女神、基本善かれと思ってやっているため余計にタチが悪いのだ。

 

「そんなイシュタル神にお願いがあります。これをすれば俺達だけじゃなくボーダーの皆までがイシュタル神を讃えるでしょう」

 

「……な、何よ?」

 

残酷な事実を突きつけられてすっかり弱々しくなったイシュタルが反応する。

 

誠が迷宮の一部分の壁を指差す。

 

「俺謎解きゲームって製作者の裏をかいてクリアしたいんですよね」

 

某ゼルダを思い出しながら誠は言った。

 

「……ああ、そういうこと」

 

始めは頭の上にクエスチョンマークを浮かべていやイシュタルだったがどうやら理解したようだ。

 

その場でそれを理解したのは誠とイシュタルだけのようで他の者は何言ってんだこいつらという表情で二人を見つめている。いや、とある名探偵は気付いているようだ。

 

「どうなっても知らないわよ?」

 

「方角も方向もそのまま()()でやっちゃってください」

 

そう言われイシュタルはマアンナに魔力を込め始める。

 

「ちょっ!イシュタル何してんさ!」

 

「マスター止めなくていいの!?」

 

慌てる立香とエレシュキガルを他所にイシュタルはその場で目を瞑り意識を集中させる。

 

 

それは遠近法を利用した置換魔術。無造作に金星の概念を掴み取り、弾として弓に込め、地球に向けて放つトンデモ宝具。地をも砕くアースインパクトである。直撃すると何であろうと傍迷惑な破壊によって死ぬ。嗚呼、エビフ山。

 

 

「撃ち砕けっ!山脈震撼す明星の薪(アンガルタ・キガルシュ)!」

 

 

イシュタルが真名を解放すると同時に高濃度の魔力を宿した光の矢が勢いよく放たれる。

 

矢が壁に到達すると同時に凄まじい衝撃が誠達を襲う。その場で構えていなかった誠とイシュタル以外が後ろに吹き飛ばされる。

 

そのまま矢は轟音を伴って壁を貫通し、そのまた次の壁も次の壁もぶち壊して凄まじい勢いで直進していく。その矢は勢いを弱めるということを知らないのか、逆に強くなっているのではないだろうかと思わせる速さで直進していく。

 

そして矢が遠ざかっているのだろう。音も衝撃も徐々に弱まっていく。

 

そのまま少し上向き放った矢は放った時と同じ威力のまま迷宮を突き破ってキラーンという効果音と共に空の彼方へと消えてしまった。

 

 

「流石、イシュタル神。馬鹿でアホみたいな威力です。これはエビフ山が吹き飛ばされたのも理解できます」

 

「それ褒めてるのよね!?」

 

「ええ、見てください。スーパーショートカットです」

 

 

誠が指差した先は壁や階段、柱などお構いなしに一直線のドリルでぶち抜いたかのような通路ができていた。そして数百メートル先に開いた穴からはこちらに向かって光が僅かながら差し込んできている。

 

「これで頭を使わずここから抜け出せます」

 

「誠、あんたも大概脳筋よね……」

 

「イシュタル神に言われたくないです」

 

そこで今の今まで口をポカンと開いて唖然とした内の一人のエレシュキガルが口を開いた。

 

「それやる前に言って欲しかったのだわ!?」

 

その発言に残り全員、モニター越しのマシュまでもが頷いていた。

 

「ああ、ごめんごめん」

 

 

誠は残りをなんとか宥めて、一行はここが迷宮だと忘れて、直線の道を歩き始めた。

 

『こんな強引な方法で脱出するとは思いませんでした……』

 

モニター越しに綺麗にくり抜かれた迷宮を見てマシュが呟いた。

 

「力こそ正義だ、マシュちゃん。覚えておくいい」

 

『はい!メモしておきます!』

 

「そんなことメモしなくていいからね!?マシュ!誠君も余計なこと吹き込まないでくれる!?」

 

立香のツッコミも虚しくマシュは既にメモをとっていた。

 

 

 

『脱出――成功です!』

 

なんと誠達が出た場所は叛逆軍の砦()だった。砦は見るも無残に内側から破壊されており、見た所生存者は誰一人いない。

 

『ふう、ようやく脱出したのか。全く油断しおって馬鹿者が!』

 

不満たっぷりな様子のゴルドルフが投影される。

 

「無茶言わないでくださいよ、新所長」

 

『ぬっ、貴様は誠・エルトナム!よくぬけぬけと私の前に顔を出したな!』

 

「そこはほら、新たな戦力も2人も確保したしチャラってことで」

 

誠は後ろに立つ武蔵と以蔵を見やる。

 

『ミズ・宮本。君もしかして()()()()()()?』

 

それまで黙っていたホームズが何か違和感に気がついたのか声を上げた。

 

「ええ、浮いてる、浮いてる。流石伊達な名探偵。指摘、お見事です」

 

『浮いている……?』

 

それがどういうことか分からずマシュが首をかしげる。

 

『彼女はこの異聞帯(ロストベルト)にしっかりと根を下ろしたサーヴァントではない――――』

 

ホームズが言うには武蔵は『世界にいてはいけない仲間はずれ』という認識でいわば半霊状態らしい。吹けば飛ぶような状態らしい。

 

その説明を聞き武蔵は一瞬顔を曇らせたが、数秒後には笑顔が戻っていた。

 

「ま、そういうコト!立香君や以蔵の歴史にはいない、女武蔵が私だし!元々帰る場所のない根無し草、剣の高みを目指すだけの私でしたが今はその"目的"すらなくなっちゃったしね!」

 

でもそう笑う武蔵の顔は少し悲しみが混じっているようだった。

 

「武蔵ちゃん……」

 

思わず立香が名前を呼ぶ。

 

「いえいえ、心配ご無用。ぜーんぜん気にしてないから!あやふやでも私は私。美少年と美少女と、うどんとお金と強敵がいればそれで毎日楽しいのです」

 

 

 

『話は終わったか?それよりそこのヤガはもう用済みだ、蹴り飛ばしてやれ!』

 

「まぁ、そうなるわな……」

 

ゴルドルフの言うことがわかっていたのかパツシィはため息交じりに呟いた。

 

「待った!」

 

それを許す立香ではなくゴルドルフに直談判する。

 

『何だね』

 

不機嫌そうにゴルドルフが返事をする。

 

『密告については責めはしない。叛逆軍がどう考えるかは別としてね』

 

そこにホームズが割って入った。

 

『だが、情報が欲しい。――イヴァン雷帝について』

 

「……倒す気か?無理だ!」

 

『ほほう、無理とは?何故、どうして無理なのかな?』

 

「それは……。言えねぇ」

 

「それについては俺が言う、名探偵」

 

パツシィの態度にまたしても腹が立った誠が不機嫌そうに言う。

 

「あれを生物と言っていいのか分からないが、強いて言うなら――」

 

誠が説明を聞きながら一行は途中合流したベオウルフと含めボーダーへの帰路に着いた。

 

 

 

 




疲れた


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17.決戦前

このSS多分ダラダラと2部終わるまで書くのでモチベのために不満な部分を直します。その際、型月キャラと血縁関係があった方が原作に馴染んで面白いと思ったので名前まで変えます。苗字だけですが。でもその場合、誠・カタカナ・カタカナ っておかしくないですかね……?(誰かは分かると思いますが)
後それに伴って、序盤の方の文章直したいのでアクセス数が落ち着いてきたくらいに一回非公開にして、一気に修正したいと思います。
展開は変えませんが、修正し終えたら読んでくれると幸いです。


追記。10/21日に修正しました


現在、シャドウボーダーでは誠達が入手した情報とベオウルフのアタランタが拉致されたという情報を元に作戦会議が行われた。

 

 

「首都で陽動を起こそう、僕が単騎で囮になって引き付ける」

 

その場の誰もが、それを発したビリーを見る。

 

「……正気か?首都のオプリチニキの強さは異常だぞ」

 

そう首都のオプリチニキの強さはそこらの村を見回っているものとは桁違いの戦力なのだ。それらと正面からやり合うということは、たった一人でサーヴァント百騎を相手するようなもので、ベオウルフが心配するのも無理はない。

 

「なら、儂もその仕事引き受けちゃる」

 

誠の隣で退屈そうに座っていた以蔵が声を上げた。

 

「いいのかい、以蔵?多分帰ってこれないけど」

 

「儂は頭が悪いきよう分からんが、この作戦が失敗したら世界が終わるいうことはよお分かる」

 

「なら決まりだね。()()()()()()()()()じゃないか!」

 

一つことが決まれば次の問題が出てくるわけで。

 

「次はアタランテとサリエリのことだが……」

 

「捕縛されてるらしいな」

 

誠が情報をパソコンでタスクを複数開き情報を整理しながら呟いた。

 

「ああ、自分一人ならどうとでもなったんだろうが、ガキを人質に取られてしまったらしい」

 

「サリエリはアタランテが降伏したことで諦めたといったところか、問題は場所か」

 

「ミズ・アタランテほどのサーヴァントを捕縛したとして、その先は一つ。首都以外にないのでは?」

 

「いや、追跡したヤガたちの知らせじゃ、首都を回避して別の場所へ向かっているらしい、昔の砦を流用した牢獄だとさ」

 

会話に入ってきたホームズにベオウルフが説明する。

 

「ふむ、首都に近付かないで済むのは僥倖だが……。なぜ回避する?」

 

「アタランテを首都に近付けたくなのか……?」

 

誠にしては珍しく、真面目に会議に参加しているのでエレシュキガルが驚いたような顔をする。

 

「なんだい、エレちゃん?まるでニートの息子が働いているところ見た母親みたいな顔をして」

 

「なんでもないのだわ……。普段からそれくらい真面目に取り組んで欲しいものね……」

 

エレシュキガルの呟きは虚空に消えていった。

 

先程の誠の呟きにホームズはあることを思い出した。そう、オプリチニキだ。彼らは皇帝(ツァーリ)が目を覚ませばどうなるのか。

 

「誠君」

 

「なんだ、名探偵」

 

スイッチが入ったかのように再び誠は真面目な雰囲気に戻る。

 

「首都の様子を教えて欲しい、イヴァン雷帝を恐れていたか?」

 

誠はモスクワでの生活を脳内で振り返る。頭で再生されるのは、街の風景。巡回するオプリチニキに敬意を表すように頭を下げるヤガ。見たこともない皇帝(ツァーリ)を神のように崇めるヤガ達。

 

「いや、あれは()()から皇帝(ツァーリ)を信仰していたな。中には洗脳でもされてるのかってくらいに忠誠心が高いやつもいたぞ。あれはまさに宗教だな、なんだ詳しく知りたいのか?」

 

「いや、もう十分だ」

 

そして、ホームズは考えた末にある結論に至った。

 

「だが、それがなんだというのだ。首都ヤガで皇帝(ツァーリ)……イヴァン雷帝が讃えられるなど、当然であろう?」

 

そこにゴルドルフが口を挟む。

 

「ヤガ達の思考は強食に寄っているとはいえ、人間と同一の感情を持っていますよ。先程のパツシィ君のように、恐怖を感じないヤガはいないです。ましてやそれが、神の代理人たる皇帝(ツァーリ)なら尚更のこと。もし、モスクワのヤガ達がに恐怖がなく、皆が真実皇帝(ツァーリ)を讃えているだとすれば」

 

「すれば?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ホームズの言っている意味がわからず、その場の誰もが首を傾げる。いや、一人分かりかけている者がいるようだ。

 

「どういうことです?」

 

立香がそう質問した時に。ホームズがドヤ顔でフッと口からため息を漏らす。

 

誰もがいつものやつが来ると確信した時、一人理解していたものがパソコンに文字を打ち込みながら、独り言のように口を開いた。

 

 

「成る程、イヴァンが目覚ましそうってことか」

 

 

自分よりも先に答えも漏らした誠をホームズは怒りの顔で近付く。

 

「あ、すまん名探偵って痛い、痛いって!無言でバリツしないで、腕折れるって!」

 

 

閑話休題

 

 

「コホン!」

 

ホームズが仕切り直すように咳ごんだ。

 

「いってえなぁ、少しは加減ってもんをしろ」

 

「つまりね、イヴァン雷帝は目を覚ましかけてるのだよ」

 

「無視か!?」

 

誠を無視して淡々とホームズは解説していく。

 

「だが、雷帝以外の権力者にとっては、彼は何が何でも眠らせておかなきゃいけない。恐らく現状こそが雷帝には耐え難い。叛逆された上に、サーヴァントが続々と召喚され始めている。それは皇帝にとっての否定であり、彼にとっては侵略だ。だから――――首都で騒動が起きれば、イヴァン雷帝はそれだけで、容易に目を覚ます、大量のオプリチニキに悪戦苦闘するには、恐らく短時間で済むだろう!」

 

 

アタランテとサリエリを助けた後に首都に突撃するとういう形で作戦会議は幕を閉じた。

 

 

久々に部屋でゆっくりしようとした誠だったが。

 

 

「人口密度が高すぎる……」

 

それもその筈、その部屋にはイシュタル、エレシュキガル、以蔵、誠の4人が押し込められていた。

 

「だいたいイシュタル神は自分の部屋に戻ってくださいよ」

 

「部屋で一人でいたって退屈だし?立香のとこ行こうにもマシュと話があるからって追い出されるし、ここしか面白そうな場所がないから仕方ないわ」

 

「一人でいるの嫌ならウチの女神そっちにあげますから」

 

「いやよ私、イシュタルと同じ部屋だなんてまっぴらごめんなのだわ」

 

「私もよ、絶対喧嘩に発展する自信があるわ」

 

「ウチの女神達がめんどくさ過ぎる件について」

 

その時、誠の部屋の扉がコンコンとノックされた。

 

「武蔵よ」

 

「どうぞ」

 

そうして4人の部屋が5人になった。

 

「以蔵、手合わせどうかしら?」

 

「わ、儂か?」

 

「いや、お前以外に誰がいるんだよ」

 

少し慌てる以蔵に誠がツッコむ。

 

「武蔵ちゃん、コイツ連れてってくれ。人口密度が高過ぎる」

 

「分かったわ、さぁ以蔵行くわよ!」

 

「分かったき、引っ張りなや!」

 

そんなやり取りをしながら以蔵は武蔵に連れられトレーニングルームに連れ去られてしまった。

 

続いて、ボーダー内にアナウンスが鳴り響く。

 

『あーあー、ダヴィンチちゃんだよー。銃の整備が終わったから誠君とビリー君は工房に来てね!』

 

「というわけだから、二人とも仲良くね。物壊したりとかだけはやめてよ」

 

「ちょっ――!」

 

それだけ告げると誠は足早に部屋を出た。その後二人が喧嘩を始めたのは言うまでもない。

 

誠は廊下でビリーと合流すると、ダヴィンチちゃんの工房に向かった。

 

「この後、射撃場にでもどうだい?」

 

「いいですね」

 

「なんだか浮かない顔をしているね、誠」

 

そっけない返事をした誠にビリーが問いかける。

 

「えぇ、人に自分の銃の整備と改造を任せるのって何か怖いんですよね……」

 

誠はアトラス院で学んだ技術が簡単に越されるのが嫌だったのだが、それは悪い形で裏切られることになるのだった。

 

 

 

 

「やぁやぁ、待ってたよ」

 

誠達が工房に行くとダヴィンチが今か今かと待ち構えていた。

 

「ビリー君には少し話があるから誠君からだね」

 

そう言って取り出したは誠の渡したライフルとは似ても似つかないモノだった。バレルは完全に原型を留めてなく、未来兵器のようになっていた。

 

 

「俺のDSRちゃんに何してくれてんの!?」

 

誠の叫び声がボーダー内に木霊した。

 

「まぁ聞いてくれたまえ、誠君。何とこれは私が君のライフルを魔改造して出来た超電磁砲(レールガン)さ!撃つまでに時間は多少かかるが、威力は絶大!サーヴァントの霊核さえ傷つけられる優れもの!ただ難点を言えば術者の膨大に魔力を使うため、撃てる数は数回といったところかな」

 

「デメリットが致命的すぎるね……」

 

ビリーも苦笑しながら誠に同情しているようだった。

 

「戻してくれ!ダヴィンチちゃん!せめて原型はとどめてくれ!」

 

「わ、分かったから落ち着いてくれたまえ」

 

誠が泣いて懇願するものだから、流石のダヴィンチちゃんも可哀想に思ったのか元に戻してあげることにしたのだった。

 

 

その日の夜、柄にもなく誠は一人で黄昏れていた。時折、現実を全て拒絶するかのように瞼を閉じる。それ故、後ろから近づいてくる人影に気が付かなかった。

 

「あら、先客がいたようね」

 

「げっ」

 

「いきなり何よ、人の顔をにてげっとは失礼ね」

 

ボーダーの上で一人で黄昏ている誠に近づいたのはイシュタルだった。

 

「隣座るわね」

 

誠が無言で頷く。10程経っただろうか。ふと誠がこんな質問をした。

 

「イシュタル神ってどれくらい本気なんですか?」

 

「どういうことよ」

 

「この戦いですよ。イシュタル神からすれば世界が滅んだってどうでもいいでしょう?」

 

「いやぁまぁそうなのだけど、立香達にはカルデアで世話になったしその借りを返すってのも含めて力を貸してあげてる感じね」

 

それに今は立香のサーヴァントだし、とイシュタルは付け加える。

 

本来、彼女はニマニマ笑いながら、人類の行く末を見守るといった性格の持ち主のはずだった。すなわち情が移ってしまったということなのだろう。

 

「それに今回は奥の手も用意してるしね」

 

それを聞いて誠が顔をしかめる。彼女が張り切っている時は大抵ロクなことがないと、誠はエレシュキガルに耳にたこができる程聞かされていたからだ。

 

――世界滅ぼす級の失敗しませんように……。

 

「あなたはどうなのよ、誠。何か調子悪そうじゃない」

 

誠の心の内を見抜いたかのようにイシュタルは誠に語りかけた。

 

「なんか腑に落ちないというか、自分が寝てる間に世界滅びそうになったけど阻止されたけど、またまた滅んじゃったって。それで、2回目で自分が加わって戦場に立ったら自分たちが悪者みたいな風潮なんですよね。勝手に外からやってきて世界乗っ取って、はいお前ら悪者なんだぞって。どんだけ自己中なんですかね。異界の神の顔面一発本気で殴りたいですよ」

 

複雑そうな表情で誠は虚空を見ながら自分の思いを語った。

 

 

 

「戦う理由なんてそれで十分じゃない」

 

 

 

イシュタルが明後日の方向を見ながら呟いたその一言で誠はずっと空虚だった傷口が満たされたような気がした。

 




あ、10万UAありがとう奈須!UAの意味イマイチよく分かっていませんが!

感想と評価よろしく!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18.決戦前2

BO4楽しすぎるから投稿遅れました


それはそうと僕はワルキューレを交換しましたがみなさん何を交換しましたか?




(恋愛描写書いたことなかったからうんこだけど許して)


誠は上機嫌でようやく懐いてきたフォウ君を肩に乗せて、ボーダーの廊下を足取りも軽やかに歩いていた。

ダヴィンチに預けていたスナイパーが、帰ってきたのだが謝罪ついでに原型を留めた程度に威力向上の改造が施されていたのだ。初めは複雑な感情を抱いた誠だったが、ダヴィンチちゃんは天才だし英雄だし勝てる訳がないという考えに落ち着いた。

 

「マスター、早く操縦室に行かないとみんな集まっているのだわ」

 

傍を歩くエレシュキガルは悠々と歩く誠は急かす。実はもうこの異聞帯での最後の作戦は決行中。今はアタランテとサリエリを助けるべく収容所なるところに向かっている最中である。

 

「えぇ……、俺達どうせボーダーに待機だし行っても意味がないだろ?」

 

心底怠そうに答える誠。皆が収容所に救出に向かっている間はボーダー警備の為、誠とエレシュキガルはボーダーの外で待機なのだ。

 

「それでも来いと命令されているから行くのだわ!」

 

エレシュキガルは逆走を始めようとした誠の首根っこを掴んで、引き摺りながらも操縦室に向かうのだった。

 

「痛いって!分かった!自分で歩くから!」

 

 

 

 

 

誠達が操縦室に着いた頃には案の定、ダヴィンチ覗く全員が集まっていた。

 

「遅いよ、誠・エルトナム・シリウス君。時間はきっちり守りたまえ」

 

「俺は時間にルーズなんだ、名探偵。覚えておいてくれ。それと何故フルネームで呼ぶ」

 

「それ全然偉そうに言うことじゃないの気がするのだわ……」

 

「やかましいぞお前達!緊張感を持てお前達!人類の歴史が掛かっているんだぞ!」

 

自分の乗るこの人類最後の砦ことシャドウ・ボーダーが完全に修復されて、駄々をこねながらも待機もとい隠れていた場所から移動する決意をようやく固めたゴルドルフが叫んだ。

 

「今の今まで駄々こねてた奴はどこの誰なんだか」

 

「何か言ったか?誠・エルトナム」

 

「いえ、なにも?」

 

誠とゴルドルフが無言で火花を散らしながら睨み合う。

 

「まぁまぁ2人ともそれくらいにしておいたらどうかな?」

 

制御室で雪原を走るボーダーの制御をしながら、操縦室の様子をチラっと見たダヴィンチが仲裁に入る。

 

「そろそろ目的地に着く」

 

ボーダーを操縦していた、ホームズも振り返って告げた。その言葉に緊張しているのか立香とマシュが顔を強張らせた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「久しぶり外だな」

 

腕の中でフォウ君を撫で、極寒の空気を肺に取り寄せながら誠が呟いた。

 

「私達はここで留守番ね」

 

誠とエレシュキガルはボーダーの警護だ。

 

「じゃあ、行ってくるよ。誠君」

 

「ちゃっちゃと帰ってきてくれよ、立香」

 

二人は立香達を見送るとボーダーの甲板の座ることのできそうな場所で、背中合わせにして腰を下ろした。

 

「不思議なくらい静かね」

 

エレシュキガルが違和感に気が付いたのか声を上げた。

 

「エレちゃんも気がついたか?」

 

「やっぱり首都に二人ともいるのかしら?」

 

「それしかないけど、何故こんな回りくどいことをするのか分からない。まぁ楽が出来るのはいいことだ」

 

「今、楽になってもそれが後回しになっただけよ?」

 

「俺は夏休みの宿題は最終日にやるタイプの人間だ。嫌なことは後で纏めてやるに限る」

 

「こんなこと聞いた私が馬鹿だったわね……」

 

辺りを静けさと雪の銀色だけが支配する。そこでは二人の会話だけが響く。

 

「マスター寒くない?」

 

「礼装のお陰でなんとか」

 

生身の人間がこの極寒の地で呼吸一つでもすれば内臓から肌まで一瞬で凍傷になるだろう。

 

「わ、私は少し寒いのだわ」

 

エレシュキガルは顔を紅潮させ、銀色の空を眺めながら言った。

サーヴァントだから寒さは感じないだろうなんて、野暮なことは言わず誠もそれに応えるように無言で手を出して、エレシュキガルの手を上から握りこんんだ。それは前後の配慮を忘れた行動だった。初めは少し驚いたエレシュキガルも自分から握り返すように誠の指に自分の指を絡め始めた。二人は任務中ということも忘れ、しばらくぶりに会う恋人達のように互いに温もりを求めるように激しく指をこすり合せた。

 

二人の間に言葉はない。指先と通して気持ちを伝えているのだ。

 

決して、今その気持ちを口に出すことはないだろう。少なくても今は違うと彼と彼女は分かっている。

 

二人はしばらく互いに背中と両手で体温を感じながら、1分が1秒かと思われる程に心地よい時間を過ごしたようだ。

 

作戦中の二人がこれでいいのか。いや良くないだろう。

 

そして、この状況を見ている者が二人いた。

一人は制御室でいつ声を掛けようかと悩んでいるダヴィンチである。遠くの方で魔物の反応があったので一応警戒するように言おうとしたが完全にタイミングを見失ってしまったようだ。まぁ、その魔物も空気を読んだのか近付いてくることはなかったのだが。

 

そして、もう一人は

 

「フォウ、フォーーーーウ!!!(堂々といちゃつくな!!!)」

 

「きゃっ!」

 

誠のフードにずっと隠れていたフォウ君である。いきなり飛び出たことでエレシュキガルが悲鳴を上げる。

 

「なんだ時間を知らせてくれたのか?」

 

誠が生物の気配すらロクに感じない砦を見ると、立香達が少し浮かない顔をして出てきた所だった。それを遠目で確認した誠とエレシュキガルが名残惜しそうに絡めた指を解いていく。

 

「収穫なしだったか、立香?」

 

スイッチを切り替えた誠が立香に声をかける。

 

「うん……。でも二人共首都にいるから早く行かなきゃ!」

 

だが、人間そう簡単にスイッチを切り変えられるわけもなく、金髪の少女は乙女思考から抜けきっていないでいた。

 

それに気が付かぬイシュタルではない。

 

「エレシュキガル、顔が少し赤いようだけど何かあったのかしら?」

 

「ななななな、なんでもないのだわ!?」

 

アドリブに弱いその少女は慌てふためく。

 

「何でもないですよ、イシュタル神」

 

「エレシュキガルの慌てようからしてかなりの怪しいのだけれど」

 

「ええ、()()ありませんでしたよ。冥界の女神に誓います」

 

エレシュキガルに何か喋らせると瞬時に理解した誠はエレシュキガルに発言させることなく、話を上手く丸め込んで一行をボーダー内に押し入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイシフト適正を持つ選ばれた魔術師たち。

Aチームはその中でも特別な存在だった。

 

アニムスフィアの後継者と囁かれた天才――――キリシュタリア・ヴォーダイム

 

エルトナム家出身の天才錬金術師――――誠・エルトナム・シリウス

 

現代の戦乙女――――オフェリア・ファルムソローネ

 

陽気で、人気者で正体不明の男――――スカンジナビア・ペペロンチーノ

 

魔術師というよりギャングのような伊達男――――ベリル・ガット

 

無口で人間嫌いの癖に、付き合いは良かった技術者――――芥ヒナコ

 

現実に空いた『孔』のような人物――――デイビット・ゼム・ヴォイド

 

 

 

――――僕は多分8番目だ。

 

僕は僕の実力不足を理解している。魔術の腕は平凡で、一族の刻んだ時は薄く短い。せいぜいが200年。とても誇れる血統じゃない。

 

それでも、マスター適正によって選ばれた。血統でも術式でもなく、生まれ持った力で。半生を無駄にしたかのような苦しみがあって、その上で必要だと言われた喜び。

 

カルデアに来て、Aチームに加わってからその誇りと劣等感は一際強まったように思う。

 

誰もが掛け値なしの才人で、一流だった。

 

マシュ・キリエライトはカルデアで生まれ育ったデザインベビーで、備品のようなものだった。

 

彼女はそこに在ればいい、と正当な魔術師であるヴォーダイムは考えただろう。無論、僕も同じだ。デイビットも芥も必要以上の接触はしなかった。ぺぺとオフェリアは女の子同士なんて言って彼女を誘い、誠はたまにウザ絡みしてぺぺとオフェリアに怒られてたっけ。

 

他のメンバーはレイシフト適正以外にも様々な拠り所を持っている。僕にはそれがない。コレ以外何もない。優れたサーヴァントを使役できるという偶然にしがみ付くしかない。

 

 

 

「もう、そんな偶然じゃないわよ?能力の優劣と人理修復の適性は分けて考えないとね?」

 

カルデアの一室でカドックはペペロンチーノに諭されていた。

 

「個人の能力は劣っていようと関係ない。誠もそう思うでしょ?」

 

「何故、俺に振る。そもそもお前達なんで俺の部屋でそんな真剣な話するんだ」

 

そうここは誠のカルデアの部屋なのだ。そして、誠が不貞腐れたように答えた。

 

「だってあなた暇そうだし、一緒にお茶でもしながらどうかと思って」

 

「ぺぺ、毎度毎度俺を巻き込むのはやめろ」

 

「あなた、放っておくとまたマシュちゃんにウザ絡みするかもしれないでしょ?」

 

「だから、あれは違うと言っているだろう。キリシュタリアが俺に説教してくるからその場の雰囲気でマシュちゃんが巻き込まれに来たんだ」

 

「言い訳無用よ。話が逸れたわね、コレは必然よカドック。だからまずこの運命をものにしちゃいなさいよ。そこからが本当のスタートよ、カドック」

 

「まぁ、頑張れよカドック」

 

「何言ってるの、あなたも頑張るのよ誠」

 

「程々程度にな」

 

 

 

しっかりしろ、言うようにぺぺと誠は僕の肩を叩いた。彼らの言う通り、運命を我が物にしなければ。

 

屈辱も、侮辱も。侮りも、噛み砕いて。

 

だが、そんな思いも無駄に終わったのだ。何もかもが無意味だった。有用性の証明はなされず、一歩も踏み出すことすら出来ずに僕の生命は薙ぎ払われた。

 

それでも。コレで終わるはずだったのに。僕が生前抱き続けた劣等感も消えてなくなるはずだったのに――――

 

 

救ったのだ、という。

ただ一人残った、オマケのオマケの補欠が、

それもただの素人が。

舞台に上がることさえなかった僕達の代わりに、誰もが認める偉業を成し遂げたのだ。

 

――――他人事だ。どうあれ他人事と流せるものだ。

 

普通なら。普通なら!

 

なのに胸の飛来したのは激しい妬みだった。

 

……悔しい。

 

悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!

 

ああ、たまらなく惨めで悔しい!出来るはずだった、僕にだって!

 

僕にも世界を救うことが出来るって!

 

 

 

 

 

カドックは胸に様々な思いを秘め、意識を覚醒させていく。

 

 

そうして、決戦の日の朝を迎えた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19.人斬りとアウトロー

エレちゃんを当てるべく課金しました。

皆さんはエレシュキガル引けましたか?


「もう間も無く、首都付近に差し掛かる」

 

一行はもう間も無くモスクワに到着する。この異聞帯の最後の戦いを迎えるだろう。

 

「ここがオプリチニキの探知に引っ掛からないギリギリの領域だろう」

 

ボーダーの運転をムニエルに任せたホームズがいつになく真剣な面持ちで指示を出す。だが、左手にはいつも通りパイプが握られている。

 

「停車次第、ベオウルフとビリー、それとパツシィはバイコーンを調達してきて欲しい。夜明けまでには揃えてもらわないとね。その間、我らが二人のマスターには仮眠してもらおう。ん……?誠君はまた遅刻か……」

 

ホームズが大きな溜め息を吐く。そして、彼にはいささかマスターとしての自覚が足りないのではないかとぼやく。これが操縦室でのいつもの光景になりつつあった。

 

 

―――その頃の誠の部屋にて

 

 

「おい、誠!はよう起きんか!」

 

どうやら今日の起し当番は以蔵のようだ。だが、怒鳴られた程度で起きる誠ではない。

 

「……眠い。……おやすみ……」

 

この所、誠は働きすぎたと言う理由で隙あれば部屋のベッドでゴロゴロしているのだ。

 

「しょうがないのう……」

 

以蔵も誠の態度に腹がたったのか、いつも戻り刀を抜き誠の顔面に当たるか当らないかのスレスレの部分で突き立てる。

 

「はよう起きんかァァ!!!ボケェェェ!!!!」

 

その時、ボーダー内に以蔵の叫びが木霊したのだった。

 

「起きなかったら何してもいいとは言ったが刀を突きつける奴がどこのいるんだ……」

 

コレには流石の誠も起きずにはいられなかったようだ。だが、それでもまだ眠いようだった。

 

「そういや以蔵、うっかり忘れる所だった」

 

「なんじゃ?」

 

以蔵が訝しげに誠を睨む。

 

「そう睨むなって。手を出せ――――」

 

 

 

 

それとこの出来事と同時に武蔵がマシュを連れ出したのだが、二人にマスターそれを知る由もないだろう。

 

 

 

そうして様々なイベントがいろんな所で発生しながらも、シャドウ・ボーダーは朝を迎えた。

 

 

 

その日は誠も珍しく二度寝を決め込まないどころか、早起きしていた。

 

ベッドに座り何か考え事をしている誠。その傍らにはエレシュキガルが見守るように座ってる。

 

「エレちゃん今日は頼む」

 

誠がエレシュキガルに向かってそう告げ、顔を引き締める。

 

「マスターこそしっかりしなさいよね」

 

エレシュキガルも優しく笑いながら返事をする。その笑顔には

 

「ああ、今日の俺はいつもの2倍くらいにはやる気に満ち溢れている」

 

「0に何をかけても0だって習わなかったかしら?」

 

いつからそこに立っていたのか、エレシュキガルと全く同じ声の殆ど同じ容姿の人物が割って入る。僅かに違うとしたら髪の色が黒髪だというところだろうか。

 

「人がせっかくのカッコつける時に邪魔しないでくれますか、イシュタル神」

 

イシュタルはニマニマと笑いながら二人を見ている。

 

「イシュタル神こそ下手な真似して失敗しないでくださいよ?」

 

「ふふ、その言葉そっくりそのまま返してあげるわ。あなた達は大船に乗ったつもりでいるといいわ!」

 

イシュタルがテンションを上げながら高笑いした。その様は悪魔と言っても差し支えないだろう。

 

「誰が悪魔よ!」

 

「誰もそんなこと言ってませんけど」

 

そしてそんないつもより明らかにテンションの高いイシュタルを見て二人は声を合わせた。

 

「「いつになく心配だ(わ)……」」

 

――――――――――――

 

「さてと僕と以蔵はこの辺りでお別れだね」

 

ボーダーから降りて、バイコーンに跨ったのはビリーと以蔵だ。首都を撹乱させるために彼らとはここからは別行動となる。陽動作戦ため彼らとは二度と会うことが出来ないかもしれない。

 

「おう、大暴れを頼むぞビリー」

 

ベオウルフが拳を突き出し、エールを送る。ソレに応えるようにビリーも拳を突き出しコツンと合わせた。

 

「可能な限り努力するよ」

 

「その刀でモスクワを恐怖に陥れてこい、以蔵」

 

誠も一応以蔵に最後の一言になるかもしれないので声をかけておく。

 

「任せちょきや、一人で多く切り殺してきちゃるわ」

 

「殺すのはオプリチニキだからな?」

 

一緒にヤガまで殺しそうだな……。なんて思う誠を余所にバイコーンは二人を乗せて駆け出してしまった。

 

「立香あまり動じてないようだな」

 

先ほどから決戦前だというのに立香は少し笑っていた。

 

「頼れる仲間がたくさんいる何も心配してないよ」

 

「……ちっ。おう武蔵殿。あれだな。なんか照れるな」

 

そんなことを真顔で平然と言いのける立香にベオウルフが恥ずかしいと言った顔で武蔵の方を見る。

 

「信頼には応じないとねー?」

 

「立香に言われたからには私も本気を出すしかなさそうね!」

 

「イシュタル神はもうちょいテンション下げてくれませんかね……」

 

誠の思いは虚しくイシュタルはそのままのテンションを維持したままモスクワに突入したのだった。

 

 

モスクワ中心部にて

 

ビリーの銃が幾度となく火を吹く。

 

「チッ……再装填!」

 

「ちぇりゃあああ!」

 

ビリーがリロードしている最中のオプリチニキに以蔵が斬りかかる。

 

「センキュー以蔵。それはそうと何人倒したかな?」

 

「知らん。百人を境に数えるのらあ辞めちゅうわ」

 

絶え間なく二人に襲いかかるオプリチニキ達。倒しても倒しても押し寄せるソレの数は無限と称してもいいだろう。

 

「僕の弾丸は無限だけど、そっちも心底無限らしいや。ゲリラ戦は割と得意だけど、流石にきついや!」

 

「ゴチャゴチャ言わんでええ気、もっと暴れや!」

 

以蔵が二刀の刀を使用し、オプリチニキを斬り伏せながら叫ぶ。魔力で最大限にブーストしているのか、一振りするだけでオプリチニキが霧散する。

 

「なんか以蔵、ヤケにテンション高いね。ってかそんな魔力どっから持って来てんのさ!」

 

なんとかビリーも応戦しながら叫ぶ。明らかに以蔵はどこからどう見ても魔力を外から持って来ている。

 

そう以蔵はあの夜、誠と仮契約し魔力のパスを繋げたのだ。おかげでシャドウ・ボーダーから魔力を引っ張ってくることで出来る。

 

「まだまだぁ!」

 

その時、以蔵の体を魔力が包む。

 

以蔵の纏う魔力が一気に濃くなったかと思えば以蔵が魔力を解き放り、オプリチニキが風圧に吹き飛ばさる。

 

紅い月に雲がかかる。

 

どこからともなく現れた、霧が路地の一角に蔓延する。

 

そして、モスクワに闇が訪れる。

 

 

「お初にお目に掛かります」

 

 

そこに立つのは京の都にて恐れられた一人の人斬り。

 

 

「今宵は異国の摩天楼に巣食う怪人――――」

 

 

空気が変わる。

 

僅かな月明かりがその場で彼だけを照らす。

 

三度笠の裂け目から赤い不気味な目を覗かせオプリチニキを捉えて逃さない。

 

 

「『人斬り以蔵』じゃあああああ!!!!!命がおしゅうないもんから掛かって来いや!!!」

 

 

モスクワの路地裏の一角にて、以蔵の咆哮が轟いた。

 

 

 

 

オプリチニキの戦術、動きの全てを完璧に覚え、この場で『霊基再臨』を果たした彼を止められるものはいるのだろうか。

 

「僕も負けていられないなぁ」

 

以蔵の姿を見て触発されたビリーが銃を構えて呟く。

 

一匹狼(アウトロー)の役割で負けるわけにはいかない。小僧っ子(ビリー)の名に掛けて、だ」

 

ビリーが手に持つ相棒に集中する。

 

「……起動方法はただ一つ。集中し、克服し、踏破せよ」

 

ビリーの体が以蔵の時と同じように魔力を纏う。ビリーもこの場で霊基再臨を成し遂げようとしているのだ。以蔵はその場のノリと勢いだけで簡単に霊基再臨に成功したが霊基を再臨させるという行為は本来そう簡単に行くものではない。

 

 

 

 

―――限界の限界のその向こう。

 

 

―――彼方に輝く雷光。

 

 

―――そこに向けていざ走らん。

 

 

―――愛馬にまたがり、栄光と破滅に向けてまっしぐら。

 

ビリーの体を吹雪が覆う。

 

「勝負だ、オプリチニキ」

 

吹雪が過ぎ去り、姿を露わにしたビリーは先程までとは明らかに違っていた。

 

 

いかにもガンマンといった黒服に身を包み、カウボーイハットをかぶり、首に巻いた赤いスカーフをなびかせる。

 

左手に握るは、ダヴィンチに魔術的に強化された相棒サンダラー。

 

 

「このビリー・ザ・キッド、」

 

 

ビリーが不敵な笑みを浮かべる。

 

その瞬間、オプリチニキ3体が同時に霧散した。意思のない、ある一定のプログラムを施された彼等では理解するのは難しいだろう。

 

それは「この拳銃を手にしたビリー・ザ・キッドの射撃」自体が逸話として昇華された宝具。

 

なんとビリーはその一瞬のウチに3度その引き金を引いたのだ。

 

目にも留まらぬ速度の射撃にオプリチニキは追いつかない。

 

 

 

「お前達が今まで嬲ってきた連中たぁ、次元が違うぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 




銀から金でアナ3体出てマジでキレた

それはそうと青ブタの二次創作近々投稿するからよろしく


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20.救出

展開の都合上、アナスタシア編は原作まんまで面白くなくてすみません
2章からスーパー超絶オリジナル展開を考えております




こちらは所変わって、首都モスクワ。

 

誠達はメインストリートに直接繋がった路地に身を潜めていた。過去にアナスタシアと誠が交戦した場所である。

 

『マスター・立香、誠の座標、確認。首都ヤガ・モスクワへの侵入、確認した。ハロー、通信の調子は良好だ』

 

「名探偵か、どこにいるんだ?」

 

『ここまで敵地に食い込んでいるのでね、ボーダーもいつ襲われないともかぎらないだろう?』

 

まぁ、いつでも突撃できる位置にいるがねと付け加える。

 

『では状況を整理しよう。ミズ・アタランテの処刑執行までは。まだ時間があるようだ』

 

その言葉で処刑具が設置されている死刑執行される場所であろう、広場を誠達がみる。皇帝(ツァーリ)の威光を知らしめるために公開で処刑するようだ。

 

『以蔵、ビリーとその部下も陽動を始めた。首都詰めのオプリチニキの個体数が想定していたよりは少ないな、とはいえ充分に多いのだがね。さて、そちらに何か気付いたことは?』

 

「……ここら辺は雪が弱いです」

 

辺りを見回しながら、立香が呟いた。後で聞いた話だがここは皇帝(ツァーリ)のご威光で吹雪も比較的強くないそうだ。

 

『問題は……ふむ。山積みであるが、目下の課題は向こう側のサーヴァントだ。重要なのは神父……ではなく、コヤンスカヤでも、アナスタシアでも、イヴァン雷帝でもない』

 

「ミノタウロスか」

 

ホームズの思考を先読みするように誠が答えた。

 

『その通り。この場に置いて重要なのは、ミノタウロス。彼がどこにいるのか、我々の一手が決まる。さて――』

 

カップラーメンが完成するくらいの時間が経っただろうか。

 

「宮廷魔術師がいらっしゃったわよ」

 

表に集まっていた、ヤガの市民達が騒ぎ始めた。

 

「……不遜かもしれんけど、やっぱり旧種(ヒト)の顔は独特よねえ」

 

カドックだ。その後ろには処刑されるであろう、アタランテ。

 

「―――ではこれより、叛逆軍の処刑を執り行う。執行手段は首切りだ」

 

その口は至って冷静で、非情さに満ちていた。

 

「だが、生憎なことにギロチンなんて大層なものはない。なので、今回は特別だ」

 

カドックがそう言った直後だろうか、その後ろから膨大な魔力が湧き上がった。()()()()()()だ。

 

「ハァァァァァァァァァァァァァ……!」

 

ミノタウロスが霊体化をとき憎悪に満ちたような呻き声をあげる。

 

「叛逆軍首領、アタランテ。それじゃ、おさらばだな」

 

「…………」

 

アタランテは黙ったままだ。自分の首に斧が振り下ろされるのを黙って待っている。

 

しかし、これはカルデアにしてみれば悪くない展開だ。

 

今、ミノタウロスがアタランテの首を斬り裂かんとズシリズシリと躙り寄る。

 

そこで、ホームズの指示とベオウルフの掛け声で誠達が飛び出した。

 

「よし、そんじぁまぁ正面から突撃するぞ!」

 

「同じく。宮本武蔵、見参!」

 

「行くわよ、マスター!」

 

「気合い入れて行くわよ!」

 

「さぁ、パツシィ君はとっとと離脱!」

 

「……来るな!カルデアのマスター!」

 

アタランテの制止の声もそんな彼らには届かない。

 

パツシィの離脱を確認すると各々が武器を構え、ミノタウロスに対峙する。

 

流石にその騒ぎに気がつかないミノタウロスではない。

 

「キタ、ナァ。コンドコソ、クッテヤル……カラナァ!」

 

怨嗟に支配された瞳で誠達を捉えると、アタランテのことなどどうでも良くなったように誠達の方面に暴走列車の如く突進してくる。そう彼――いやこの怪物は理知と理性と言ったものがこれぽっちも存在しない。故にこの作戦が通用する。

 

「宝具を使われたら厄介だ!早々にケリをつけるぞ!」

 

誠はそう指示すると、人差し指を突き出し拳銃の形を作るとガンドを放った。

 

「『万古不意(ケイオス)』―――」

 

ガンドは見事、猛進するミニタウロスに的中し体の自由を奪った挙句宝具の詠唱を中断させた。痙攣しながら抵抗するが、力量のある魔術師のガンド程恐ろしいものはない。

 

そして、動作不能のミノタウロスなんて、ただのデカイ的に過ぎない。

 

「今だ!」

 

誠がそう叫ぶと4基のサーヴァントの総攻撃が始まった。

 

「覚悟しろよ!バケモン!」

 

「飛ぶわよ!マアンナ!」

 

すかさず、作戦通りにベオウルフとイシュタルが宝具を展開すると即座に真名を解放した。

 

源流闘争(グレンデル・バスター)!』

 

山脈震撼す明星の薪(アンガルタ・キガルシュ)!』

 

ベオウルフが両手に持つ片手剣を破壊し、武器が拳だけの状態になる。そしてその拳に生前の凄まじい膂力を一時的に蘇らせ、身動きが取れないミノタウロスの顔面にインファイトすると、最後のシメに渾身の一発を叩き込んだ。ガンドの効果も薄くなってきたミノタウロスだったが、そんなものをモロに食らってはまともに立つことさえ敵わないだろう。

 

さらにそこへ、トドメと言わんばかりにイシュタルから放たれた、金星の一撃がミノタウロスを襲う。破壊と暴力に満ちたその一撃はミノタウロスの立っていた周辺を焼き尽くす。

 

「おっかねぇ」

 

思い切り素手で殴るのが宝具のベオウルフもこの一言である。

 

金星の一矢はミノタウロスを押しながら何処までも一直線に進むように思われたが、遂にミノタウロスの体を貫通した。光に包まれたミノタウロスの状態を確認することは出来ていないが、恐らくもう―――。

 

「取り上えず、一段落ね」

 

飄々とした態度でそう呟くイシュタルに突っ込むものはいなかった。

 

誠は目の前の半壊した都市を目に映しながらこの女神が豊穣ではなく破壊の女神だと再認識するのだった。

 

 

 

その後、誠はアタランテを救出に立香は体に大穴が空いた()()()()()()の処分に向かった。このまま放っておいても消滅するだろうが、立香の強い申し出によて直接手を下すことにしたのだった。

 

「じっとしててね、手元が狂うから……!」

 

「鎖を切ったか、見事な腕だ」

 

武蔵の見事な剣術により、枷から解放されたアタランテは呟いた。

 

「まさか宝具を使わせず倒すとはな」

 

「数の暴力だ、霊基が弄られているとはいえ所詮はサーヴァント。一気に4基も相手出来る程霊気の強いサーヴァントじゃない、アイツは」

 

「それもそうか、そして助けて貰ったことには感謝する」

 

そういうと何か含みのある笑みを浮かべたアタランテと誠は握手を交わしたのだった。

 

 

 

 

 




それはそうとSwitch版ドラクエ結婚相手選べるのずるすぎひん?
ニマ大師とあんなことやこんなことしたいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21.雷帝

原作通りに展開するのみ飽きて来たのでアナスタシア編終わったら彷徨海編に飛びます



誠達が為すべきことを成している時、パツシィとアナスタシアの問答が行われていた。

 

「馬鹿な!なに、考えて、やがる!」

 

突如、パツシィが激怒した。アナスタシアが皇帝(ツァーリ)に叛逆すると言い出したからだ。

 

「正気、テメェは!?」

 

パツシィはその目で雷帝を目にしている。声を荒げるのも無理はない。

 

「私はずっと前から随分と正気よ、ヤガ」

 

だが皇女の声音は冷徹で冷淡だ。

 

「そして、今が千載一遇の好機。カルデアのそのサーヴァント、カドックと私」

 

「……アイツらが、イヴァン雷帝を倒すってのか。あの山を」

 

二人して、遠くに聳え立つ雷帝が眠る宮廷を見た時だった。モスクワ全土が大きく震動した。

 

「な、なんだ!?」

 

「目を醒ましたのよ、皇帝(ツァーリ)が」

 

揺れは次第に大きくなり、ヤガ達の間でパニックを引き起こす。

 

「――夢から醒める。――眠りは終わる。我らの王は夢から生まれし者。覚めれば、塵に還る。皇帝(ツァーリ)に栄光あれ!皇帝(ツァーリ)に栄冠あれ!」

 

逃げ惑うヤガ、倒壊する建物。それに各地で光の粒子となって消えるオプリチニキ。

 

それらによって驚いているのはヤガだけではなかった。

 

 

 

ボーダーにて

 

「ヤガ・モスク内に偏在していた霊基反応、次々と消滅していきます!オプリチニキが消滅しているようです」

 

レーダーを見ながらムニエルが叫んだ。

 

「ヤガ・モスクワで戦えばそうなるさ。雷帝も夢を見てはいられない」

 

そう言うホームズの声は至って冷静だったが、額から少し液体が湧き出ていた。

 

「――――聞いてはいたが、本当にコレが動くのか!?」

 

「あわわ、あれは私の錯覚か、モニターの故障か、ダヴィンチの悪戯か!?」

 

ゴルドルフが驚くのも無理はないだろう。

 

「どうなっているのかねホームズ君!今モニターに写っているアレ――――」

 

スタッフ一同が見ているモニターに映し出されていたのは、モスクワの一部が大きく盛り上がりソレが徐々に正体を露わにしているところだった。

 

 

 

 

 

――――おお。

 

――――おお、おお、おお。

 

我が夢、ここに醒めたり。正しき現実を認識したり。

 

そう、余はまだ夢半ば――――。

 

数多の叛逆者を誅戮し、版図を拡大しなくては!

 

午睡は終わった。

 

余は立ち上がらなくては……立ち上がらなくては!

 

 

突如、そこに姿を現したのは人でもヤガでもない。一言でソレを表すなら『災害』だ。

 

そこに在るだけで吹雪が強さを増し、雪崩れが起きる。

 

闊歩するだけで、天は怯えるように恐怖の闇色の染まり、地は恐れおののきヒビ割れる。

 

その光景はまさに世界の終焉だった。

 

「でけー」

 

「流石にこれは予想外だったわ……」

 

「……魔獣の相手をしたことも、巨人を相手取ったこともあるが……、この規模のものは見たことがない……」

 

「神代にゃあ、巨人種がゴロゴロいたって聞くがなぁ!少なくとも俺のとこじゃ10メートルだった!」

 

「大きさだけで言えば、ティアマト神(母さん)にだって負けてないわね」

 

「だから、あんな山みたいな怪物どうしようもないんだって!」

 

目の前の光景に皆それぞれ率直な感想も漏らす。呆然と立ち尽くす彼らだったが直ぐに目の前の怪物の倒す方法を模索し始める。

 

「そもそもデカすぎて攻撃が出来るかどうか」

 

「それに関しては大丈夫だ」

 

誠が何故かドヤ顔で答えた。

 

「エレちゃんの宝具を使えばな!」

 

誠の作戦はこうだった。エレシュキガルの宝具でモスクワ一帯を冥界化させて、そこに雷帝を落としてなんやかんやするというものだった。

 

「適当すぎない?」

 

「作戦なんて建てても8割上手くいかないからこのくらいでいい」

 

立香のツッコミも最もだが、この男基本脳筋なので意味がない。

 

「話は聞かせてもらった」

 

そこに現れたのは元Aチームで7人のクリプターの内の一人、カドック・ゼムルプス。と突如カルデアに現れて氷漬けにし、閉館まで追い込んだカドックのサーヴァントのアナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ。

 

「……何しにきた?」

 

立香がドスの利いた声で真意を尋ねる。

 

「まだ生きてるなら丁度いい、―――手伝ってくれるんだろう?」

 

「どういうことだ?」

 

「察しが悪いな」

 

「俺たちは利用されたってわけか」

 

ベオウルフが歯切りが悪い感じで呟いた。

 

「そういうことだ、新しいロシアを築くには、アンタ達がやって来た今が好機だった」

 

もとよりカドックはカルデアの戦力が目的だったのだ。

 

「……回りくどいコトをしたものね、素直に言ってくれたら協力したわよ、立香君は」

 

「そら、藤丸立香」

 

カドックは武蔵の呟きを無視して両目で立香を見据えた。直後、大地が大きく震動した。『災害』が近付いて来ている。

 

そして、彼は自嘲気味に皮肉げにこう呟いた。

 

「さぁ、世界を救いに行こうか?」

 

「……分かった」

 

この二人のやり取りを聞き終えた誠はエレシュキガルに宝具を展開を指示した。『災害』すぐそこまで迫って来ている。

 

「地の底まで落として上げるわ!」

 

エレシュキガルが地に発熱神殿・メスラムタエアを突き刺した。するとモスクワを両断するように大地に一つの裂け目が発生した。裂け目は次第に大きくなっていきしまいにソレは地上にあるもの飲み込み大穴へと変貌した。そしてその大穴はイヴァン雷帝をも飲み込んだ。

 

普通なら足をつけていた地がなくなれば地の底に叩きつけられるが、カドック達は気が付くと宙にプカプカと浮いていた。エレシュキガルがこの場にいるサーヴァントとそのマスターに浮游権を与えたのだ。そう、ここはもう冥界なのである。

 

「カドック、魔力を足先に集めて地面をイメージしろ。それで少しは飛べるようになる」

 

カドックは誠のアドバイスを黙って聞き、指示通りにするとすぐにコツを掴みある程度自由に身動きが取れるようになっていた。

 

これはエレシュキガルに色々な権限を与えられた者達限定であって、そうでない者は問答無用に地の底に叩きつけられる。

 

「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!?」

 

宝具に巻き込まれたイヴァン雷帝はズルズルとそこまで滑り落ちた。穴の深さはイヴァン雷帝の高さより少し高いくらいだろうか。頑張れば抜けることができるかもしれない。だが、頭に血の昇ったイヴァン雷帝には見えていない。アナスタシアの姿を見つけ次第こちらに突進してくる。

 

「アナスタシア!アナスタシア!オプリチニキより報告が入った!平和は、幸福は、何もかも嘘だったのか!アナスタシァァアアアアアアァァァ!」

 

だが、その動きを許すような冥界ではない。

 

冥界の防衛機構が熱線を放ち、イヴァン雷帝を焼き尽くす。これだけでは終わらない。

 

「私だけで決めて上げるわ!冥界のガルラ霊よ、立ち並ぶ腐敗の槍よ!あれなる侵入者に我らが冥界の鉄槌を!全員総攻撃――――!」

 

エレシュキガルの一声で冥界に存在する無数のガルラ霊が実体を伴って、イヴァン雷帝に突撃する。

 

「とんでもない、能力だな」

 

カドックがそれに戦慄したように呟いた。

 

「だろ?」

 

それにそう誠がドヤ顔で答えた。

 

これらが冥界ではエレシュキガルには勝てないと言われる所以である。今回の場合は簡易的な冥界で、権限も防衛機構も本物のソレとは比べ物にならない程弱くなっているわけだが。

 

イヴァン雷帝を熱線が焼き尽くし、数多のガルラ霊が突撃が魔力による攻撃をする。戦いは一方的に思われたが、今まで攻撃に呻きながら対応するだけだったイヴァン雷帝に変化が見られた。

 

「許せぬ許せぬ許せぬ許さぬわぁ!!」

 

強大な体の一部の筋肉が隆起し、体を肥大化させていく。

 

「皆、備えろ!!」

 

誰かがそう叫んだが、もう遅い。

 

「『我が旅路に従え獣(ズヴェーリ・クレースニーホッド)』!!!」

 

イヴァン雷帝咆哮する。

 

肥大化させた体を存分に、鼻を大きく振るい上げ、ガルラ霊を蹴散らすとその先から膨大な魔力に満ちた光線を放った。

 

光線はガルラ霊を蹴散らしながら、アナスタシアに向かって一直線に突き進む。

 

「ヴィイ、お願い」

 

アナスタシアが手に持つヴィイと呼ばれる人形を掲げた。

 

「『残光、忌まわしき血の城塞(スーメルキ・クレムリ)』!!」

 

ソレは皇帝(ツァーリ)の血を引く者のみに許された、ロシアのあちこちに点在する城塞の再現。自分達の前に大きな城壁のようなものを作り出す。その壁は極めて堅固かつ壮麗な銀色をしている。

 

途端に光線と壁が激突し、轟音が冥界に轟く。

 

「そっちも大概、壊れ能力だな」

 

それを見た誠が楽しそうにカドックを見た。なんとその強固な壁は光線を相殺してしまったのだ。

 

「こっちも負けるわけにはいかないんでな」

 

カドックが自慢げな顔でそう言った。

 

「な、なんなのだわ!?」

 

エレシュキガルが困惑するのも無理はない。その光線が冥界の防衛機構を破壊したのだ。今もなお、肥大化した体でガルラ霊を壁に押し潰している。ガルラ霊はイヴァン雷帝に向かっていくが、いとも容易く返り討ちに遭っている。

 

「あわわわわわ」

 

予想外の出来事にパニックになるエレシュキガル。そうこうしているとイヴァン雷帝は再度、宝具を使うべく魔力を集中させていた。接近して戦うようにするには何か別のものに気をとらせておく必要があるようだ。然もなくば、今突撃するとガルラ霊のように押し潰されてしまうだろう。

 

「どうやら、次は私の出番見たいね!」

 

破壊の女神が自信満々に呟いた。

 

「不安しかない」

 

「完全に同意するわ」

 

時は来たれり。

 

大気が蠕動する。渦巻く魔力が抑えきれず、冥界すら怯えるように震え始めた。周囲からあらゆる大源(マナ)を奪い尽くすその顕現は、それ自体が災害というほかなかった。

 

宝具を展開しようとしていた雷帝も警戒するように、動きを止める。

 

油断しないはずもない。そこに顕現したるは、女神イシュタルの持つもう一つの宝具。

 

突如、雷鳴轟く雲の中に放り出されたように、冥界を雷が支配する。

 

空気中の魔力も水分も残らず沸騰させて、神代の、かの英雄王さえも圧倒したソレははただ暴虐のままにその地に降り立った。




モチベが無いのでモチベを下さい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22.象vs牛

あけおめ
今年は福袋からイリヤが出てなんとも言えない気持ちから始まりました。
皆さんは福袋から何か出ましたか?

(雷帝は強化されているような気がしますが演出上の都合です。)




隕石落下(メテオストライク)にも等しい大破壊。

 

輝く空が落ちてくる。美しい光を放つ明けの明星が空を埋め尽くすかの如く、黄金の大蹄は大地と空との間にあるすべてを磨り潰すのであろう。

 

それは女神イシュタルが従える、天の牡牛(グガランナ)

 

かつて、彼女がウルクを破壊するために遣わした最大にして最強の神獣、まさにその姿は山の如し。

 

「完っっっ璧!完璧に成功したわ!今度こそ完璧な使いどころに、完璧な出来よ!」

 

悪魔のような笑い声が冥界に木霊する。

 

「一回目は誰かに盗られて、二回目は壊されても、また作り直せばいいだけよ!!」

 

この女神、前回の件についてこれっぽっちも反省していないように見えるが、なにはともあれ、今のイヴァン雷帝にぶつけるにはもってこいだ。ちなみにグガランナの顕現によって生じるこの雷は、敵味方問わずイシュタル以外に全員にダメージを与えるが、今回は冥界の加護でなんとか防げているようだ。

 

「雷の化身か、面白い」

 

正気を取り戻したイヴァン雷帝が不敵に囁く。

 

「グガランナMk.3やっちゃいなさい!!」

 

金色の巨体がイヴァン雷帝に向かって突撃する。巨体と巨体、山と山が衝突する。

 

吼える雷帝。鼻を振り上げ、天から雷を落とす。

 

それを正面から受け止め、積乱雲を手足のように操り多方面から電撃を放つ天牛。

 

雷は雷帝の皮膚に直撃する――、その余波が無人の建物を吹き飛ばす。

 

そして、雷帝は皮膚の損壊箇所が、巻き戻されるように塞がっていく。

 

轟く雷鳴。蠕動する大気。怯えるように震える大地。今にも空が落ちてくるとも思える、その世界の終焉のような光景を見た者は口を揃えてこう語る。

 

"まさに神話の、創世記の戦いだ"

 

と。

 

グガランナと雷帝のタイマンは続く。

 

グガランナは雷帝の攻撃をものともしない様子で反撃しているが、確実にダメージは蓄積しているだろう。かく言う雷帝の方は、傷ついた箇所は瞬時に修復させグガランナに立ち向かう。

 

「ちょっと、これじゃキリがないじゃない!!!」

 

イシュタルが怒りを露わにする。

 

誠が推測するに、雷帝はグガランナの電撃を吸収しているように思える。もう一つの要因としてはこのグガランナは3基目。所々に模造品のパーツで代用しているため、本来の力を発揮出来ないのかもしれない。

 

だが、グガランナの役割は雷帝を倒すことではない。気を逸らすだけでいいのだ。

 

「ヴィイ、お願い。魔眼起動――疾走せよ、ヴィイ!」

 

「燃ゆる影、裏付きの矢、我が憎悪を受け入れよ! 闇天蝕射(タウロポロス・スキア・セルモクラスィア)!」

 

「ぶっ飛べ!源流闘争(グレンデルバスター)!」

 

アナスタシアとアタランテとベオウルフの宝具が容赦無く雷帝を襲う。が、三人の宝具で受けた傷など何事もなかったように修復されてしまう。

 

「くそ、硬えし再生能力まで持っていやがるとは!」

 

「目潰しにもならないとはな……!」

 

「チッ……!分かっていたが強すぎる……!」

 

カドックが悪態をつく。

 

「後はただ、勝つだけ。なんてことはない。僕はただ、勝つだけだ。なんてことはない!」

 

「落ち着け、カドック」

 

感情を荒ぶらせるカドックに対して、誠は至って冷静だ。

 

「何か策があるのか?」

 

「ない」

 

「……」

 

「そんな白い目で見るなよ、でもなんとかなる気がする」

 

その時だった。この戦場にそのピアノの音が流れ始めたのは。

 

「この音は……この怒りは……やめろ!余の心を縛るな!」

 

その音は命を賭け天才(アマデウス)の領域に到達するのみが弾くこと出来るモノ。天才では踏み入れようとしない、凡人故の感情に寄った音楽。

 

それに技量などは必要ない。必要なのは理不尽への憤怒。それだけだ。

 

『それだ。その姿の君に、技量など必要ない。その理不尽への憤怒を響かせろ。指に叩きつけるがいい。我が同胞よ!』

 

禍々しい姿へと変貌したサリエリの中に残るアマデウスの妄執が愉快に笑う。

 

「やかましい!黙って聞いていろ!私は、我は違う道を行く!」

 

彼が――いや、この世界で彼だけが天才(アマデウス)の闇を知っている。それ故、彼は弾かなければならない。

 

「さあ、聞け皇帝(ツァーリ)!イヴァン雷帝!哀しみのヤガ、怒りのヤガ!」

 

「余の精神に入り込みおって……!」

 

「今の貴様は生きているだけで罪深い……!」

 

この曲には、アヴェンジャー、アントニオ・サリエリ。灰色の男。その人生の全てが詰まっている。だからこそ、心に響く。

 

先程まで瞬時に再生させていた傷も塞がらず、雷帝は音楽を止めるべく宮廷に雷を放った。

 

「醜悪なる芸術め!滅びろ!」

 

轟音と共に宮廷が崩れ落ち、音楽を奏でるサリエリがむき出しになる。トドメを刺さんと鼻を振り上げるが、そこにグガランナが突っ込む。

 

「おのれ、雷の獣如きが余を拒むか!余以外の者が宮殿を守ると言うのか!」

 

そして、再び取っ組み合いになる。

 

「許さんぞ。許さんぞ、不敬どもが……!」

 

怒りをむきだしにした雷帝は大きな牙でグガランナを圧倒しながら鼻を大きく天に掲げた。

 

「我が鮮血に稲妻奔る、天鼻にて嵐を呼ばん!」

 

「まずいわよ、マスター!」

 

天から状況を監視していたイシュタルが最前線で指揮している立香に向かって叫ぶ。

 

「それは神霊の雷撃クラスよ!そんな急造の冥界の加護じゃ耐えきれないわよ!」

 

「言い返したいけど、あれを防ぐのは無理かも!逃げなさいカルデアのマスター!」

 

しかし、サリエリの音楽なしでは勝つことは困難。ようやく掴んだ勝ち筋、逃すわけにはいかない。だが今現在雷帝は嵐を纏い邪魔立てすることは不可能。であるなら、あの雷撃を防ぐしかあるまい。

 

 

 

『諦めるのはまだ早い』

 

突如、響き渡るホームズの声。

 

『今、最後の戦力をそちらに射出する!』

 

 

ならば必要であろう――最強の盾が。

 

 

 

瓦礫を勢いよく跳ね除けやってきたシャドウ・ボーダー。

 

「マシュ!?」

 

そこから弾丸の如く放出されたのは紛れもなく立香の後輩であり最強のサーヴァントのマシュ・キリエライトだった。

 

 

そして彼女は、時間神殿(ソロモン)での出来事を思い出した。

 

己が終わりを実感させる強烈な光と、命がどこにあるのかを報わせた光を。

 

 

――盾を持って、前に出た瞬間。あの時、わたしが前に踏み出せたのは、そうするべきだと感じたから。怖さよりも誇らしさがあって、そして、胸に染み入るような寂しさがあった。たとえ勝利しても、この先の時間に、自分がいることはない。それがちょっと悲しかった。

 

 

――でも今は違う。誇らしさも、そうするべきだという確信もない。わたしは悩んだままで、悲しさより怖さがある。本当に自分が正しいのか。わたしたちの行いは、残酷な勝利宣言ではないのかと。

 

 

「ああ、でも――」

 

 

――怖いから、分からないといって手を話すことは、もっと恥ずべきことだとわかるのです。

 

 

 

ある騎士王は言いました。

 

「貴方と私の信じるものを救いましょう」

 

 

――――この願いが、例え誰かの望まぬ希望だとしても

 

 

ある悲運の王妃は言いました。

 

「愛する人々の世界を救うわ!」

 

 

――――この救いが、例え間違っていたとしても

 

 

ある天才は言いました。

 

「マリアの愛する世界を救おう」

 

 

――――その光が、例え誰かの暗闇だとしても

 

 

ある冥界の女神は言いました。

 

「貴方が安心して死ぬことが出来る、この世界を救うわ」

 

 

――――この行為が、自分達の()()なのだとしたら

 

 

ある抑止の守護者は言いました。

 

「叶うことならその全てを救おう」

 

 

 

そして、運命を背負わされた一人の少女は叫ぶ。

 

「マシュ・キリエライト!先輩との未来を救います!」

 

 

――――是は 『自分』を救う闘いだ

 

 




男主人公って一人称俺だっけ僕だっけ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23.正義のぶつかり合い

スイッチとスマブラ買いました
(FGOイベントのモチベが)ないです


世界の理は二つに一つ。

 

正義などないか、正義しかないか。

 

答えを得た少女は今、容赦無く自分の正義を振りかざす。

 

 

 

「消え失せろ、音楽家!」

 

雷帝の天高くあげられた鼻から放たれる必殺の一撃。それが宮殿に直撃するかどうか、そんな時だった。その一撃が何かに防がれたような凄まじい轟音がモスクワを震撼させた。

 

「せんぱーーーーいっっっっ!!」

 

それは今の体に合うように装備を一新させたマシュだった。頭にはバイザーを、体には身体能力を補強するために装着されたアーマー。それに加えて盾にはバンカーボルトが増強され若干近代仕様になっている。

 

「———来たんだな!マシュ!」

 

立香が最愛の後輩の名を呼ぶ。

 

「はい!ま、間に会いました!お待たせ申し訳ありません!」

 

「新たなサーヴァントだと……!?くだらぬ。諸共吹き飛ばしてくれる!!」

 

だが、感傷に浸っている時間は今はないようだ。再び、雷帝が天に届くばかりの長さのある鼻を天に掲げる。

 

「真名、凍結展開」

 

その場の誰もがマシュ・キリエライトを信じている。

 

だが彼女の中にはギャラハッドはもう存在しない。それ故、これは彼の円卓の白亜の壁ではない。マシュ自身の、デミ・サーヴァントとして今の今まで培ってきた全て、ありったけを目一杯に楯に込めた彼女の宝具だ。

 

「これは多くの道、多くの願いを受けた幻想の城」

 

 

『——永遠に続く城砦はないんだよ、マシュ』

『あるとすれば、それは再起する心の在り方。朽ちてもなお立ち上げる、その姿が永遠に見えるんだ』

 

ふとそんな言葉がマシュの脳内に響いた気がした。

 

 

 

「呼応せよ!『いまは脆き夢想の城(モールド・キャメロット)』!」

 

彼女の前にかつて白亜の壁だったものが展開される。

 

直後、轟く轟音と雷鳴、捲き上る吹雪。

 

「————お、おおおおおおおおお!その光はまさしく!安寧を施す御使いの光!」

 

雷帝が発狂する。なんとマシュは二度も雷帝の宝具を防ぎきったのだ。

 

「マカリー、おお!師よ!ご覧になられたなられたか!聖なるかな!我が目前に御使いは降臨せり!」

 

正気を失った雷帝はマシュの盾以外は何も見えていないのか、マシュに目掛けて猛進する。

 

「手に入れなければ!手に入れなければ!その光こそ、我がロシアに礎になるだろう!」

 

だが、それを許すグガランナではない。

 

巨体と巨体が再び激突する。

 

その時だった。雷帝はグガランナの存在を完全に忘れてたいたのか、それとも気にしてなかったのか。グガランナの全身全霊のタックル攻撃に不意を突かれ、頭にある本体を覆っていた雷撃を一瞬、ほんの一瞬解いてしまった。

 

「————勝機。稲妻の守りを失ったな、デカブツ天狗」

 

時間にして1秒にも満たないだろう。だが、その機を始めからずっと狙っていた者からするとその時間は十分すぎた。

 

「いくぞ、剣轟抜刀!」

 

「ぬうっ!」

 

「伊舎那、大天象!」

 

気づいた時にはもう遅い。雷帝の視界が二つに裂ける。今こそ最大にして最期の勝機。

 

「イシュタル神!」

 

「分かってるわよ! これが私の、全力全霊……! 打ち砕け!『山脈震撼す明星の薪(アンガルタ・キガルシュ)』」

 

イシュタルが全霊を込めて宝具を雷帝の本体目掛けて放つ。そして容赦無く金星ブラスターが雷帝の本体と皮膚の間に突き刺さる。

 

「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

雷帝が悲鳴にも似た咆哮をあげる。

 

山をも崩壊させるアースインパクトは雷帝を貫いたのだ。

 

「山岳型魔獣、完全停止!それと同時にグガランナの崩壊を確認!」

 

本体とそれが操っていた巨体が分離されたため、巨体の方はこの世界を見渡すようにその場で立ち尽くしている。グガランナは方は役目を果たし終えたかのようにいくつかのパーツに別れて崩れ落ちている。そのパーツをイシュタルが急いで回収している。

 

「やったわね、マスター」

 

「だが、本体は生きている。あれでサーヴァントというのだからおそロシア」

 

「…………」

 

「その冷たい目はやめてくれないか、エレちゃん」

 

雷帝本体の方はというと3メートル程ある巨体を動かしながらアナスタシアと対峙している。

 

「……やるべきことはまだ残っている。行くぞエレちゃん」

 

そう、この異聞帯でやることは雷帝の撃破ではない。空想樹。カルデアにとって最大の排除対象である。

 

「カドックの方は立香に任せるとして……」

 

そう呟いて誠は辺りを見回す。

 

————武蔵ちゃんはもういないか。

 

「ちょっと誠、どこ行くのよ」

 

「イシュタル神もついて来てください」

 

「はぁ?立香達はどうするのよ」

 

イシュタルが怪訝そうな顔を浮かべるのも無理はない。少し離れた場所では立香とカドックが対峙している。

 

「あっちは最悪なんとかなるでしょう」

 

仮に立香達が負けてもカドックは殺しはしないだろうと、誠の中には確信めいたものがあった。

 

「問題はこっちです」

 

そう言って誠は空想樹を見上げる。

 

「今のうちに倒しとかないと邪魔が入るかもしれませんし」

 

それを聞いてイシュタルは渋々納得したようだった。

 

そして誠はエレシュキガルとイシュタルを連れて、未だ吹き荒れる雪嵐の中、空想樹の根本へと向かった。

 

「でけぇ」

 

根本に着いた誠は感嘆の声を上げた。空想樹はこのロシア全土を見渡しているかのようにそこにそびえ立っていた。

 

どう戦おうか試行錯誤している時だった。

 

「……待て……貴様ら」

 

後ろから声が掛かった。

 

「後は死にゆくだけのお前が何用だ?」

 

「……不敬極まる輩どもめ……名を名乗れ」

 

なんとそこに立っていたのはイヴァン雷帝だった。

 

「我が名はエレシュキガルよ」

 

「神代の冥界の女主人か、ではそちらは?」

 

「我が名はイシュタル」

 

「豊穣と破壊の女神か、そして男よ。貴様の名は何という」

 

一呼吸空けて誠が答える。

 

「俺の名は誠・エルトナム・シリウスだ」

 

「では貴様に問う、何故世界を滅ぼそうとする?貴様の世界に、その価値が本当にあるのか?ここで苦しむ民達を一人残らず殺戮するほどに!!」

 

「当たり前だ」

 

誠はその質問に物怖じするわけでもなく、昨日の夕食は何かという問いに答えるのと同じくらいのノリで。

 

ここに遍く全ての正義に、今問いかけるその覚悟を。

 

「既に俺達の世界の住民のほとんどがお前達サイドよって死に絶えている。今更、そんなことをお前に言われる筋合いなどない」

 

「なら余は覚悟を問う。お前の世界をお前が救うということはこの異聞史を破壊することになるぞ。故に問う!故に訊す!貴様のその権利があるのか!?この大地に住むヤガ達に”死ね”とお前は命じるのか!」

 

雷帝に怒りは収まるどころかどんどんヒートアップしていく。

 

「質問を質問を返すようで悪いが、先ほどまでお前が操っていたあの巨体。アレを維持するために何百人何千人のいや何万人のヤガを犠牲にしてきたか知っているか?それにこれはあらゆる世界の生存競争。こちらにも意地があるし、それにそちらの言う覚悟は出来ている」

 

「余は……余はまだ敗北しておらぬ……!」

 

「分かったらそこをどけ死に損ない」

 

「……くくっ、体はまだ動く」

 

雷帝が右手の杖を掲げ、雷を纏う。

 

「——いや、お前は終わりだ」

 

————こい

 

誠が右手に力を込める。

 

右手の甲が赤い閃光が放つ。

 

「お初にお目にかかります」

 

突如、雷帝の後ろにサーヴァントが現れる。

 

「じゃあ、死にや!」

 

刀が雷帝の心臓部を綺麗に貫いたかと思えば、止めを刺さんばかりにそこから思いきり刀が振り上げられた。

 

「……おお……おおお……ここまで……ここまでか……。その心の……強さ……余は認めよう……貴様の勝利を……」

 

———すまないな、正しさだけじゃこの世界は誰も生きていけない。

 

そこまで言うと雷帝は粒子となって消滅した。

 

「こちら雷帝の消滅を確認」

 

誠がシャドウボーダーに連絡するが返事がない。あっちはあっちで大変なようだ。

 

「以蔵が生き残ってるのは予想外だった」

 

「まだ、仕事が残っちゅうきのう。まだ死ぬわけにはいかんぜよ」

 

「なら後はこいつだけだな」

 

4人はこちらを悠々とこちら見下ろす大きな大樹を見上げた。




ゼロスーツサムス可愛い


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24.鎮魂歌

(ラブコメ要素)これいる?

クリプターは大令呪ないと生存できないなんていう設定あったとしても知ったことではありません。

後、直すのでこの作品のダメな所を教えください。(ボロクソに言っていいよ)


いざ、空想樹を折るべくして根本まで来た誠達だったが、その規格外のサイズに困惑していた。太さは数百メートル、高さは木の終わりが見えないので数キロはあると推測される。

 

「上空五百メートル付近にこの木の核のような魔力が渦巻いてる箇所を見つけたわ」

 

空想樹を調べる為、上空に観察に行っていたイシュタルが報告する。

 

「取り敢えず、そこに行ってみるか」

 

「こ、こっからそンな所どうやっていくがじゃ!?」

 

以蔵一人が驚くのも無理はない。何せ、冥界の加護を目の当たりにしていないだから。

 

「こうするんだよ、頼むエレちゃん」

 

「分かったわ」

 

エレシュキガルが発熱神殿メスラム・タエアを足元に勢いよく突き刺した。すると、徐々に大地が変形していき空想樹を含む辺り一帯が不思議な雰囲気に包まれた。再び、擬似的な冥界を生成したのだ。

 

「何じゃあああああ!?」

 

そうとは知らず、以蔵は地の底まで落ちていく。

 

 

——青年説明中——

 

 

「宙に浮くらぁいうんは初めてじゃが、妙な感じやのう」

 

「俺も初めはそんな感じだったがすぐ慣れる」

 

ぎこちなく宙をプカプカと浮かび刀を振り回す以蔵と自在に宙を泳ぐ誠。

 

「アンタ達早くしないとあっちが終わって面倒になるわよ」

 

二人に見兼ねたイシュタルが声を上げる。

 

「おっとそうだったな、おい以蔵」

 

「分かっちゅうわ」

 

4人は上空遥か五百メートルにある核なる部分に向かった。

 

「どうしたものか……」

 

——そもそも太さ直径数百メートルもあるものを折れるのか、これは樹という名の通り植物なのか?

 

「ええい面倒だ、火力担当のイシュタル選手お願いします」

 

この中で一点集中系の高火力を持った宝具を持つのはイシュタルのみ。

 

「誰が火力担当よ」

 

だが、イシュタルはうだうだ愚痴を垂らしながら宝具を展開する。

 

「打ち砕け!『山脈震撼す明星の薪(アンガルタ・キガルシュ)』! 」

 

金星ブラスターがイシュタルが搭乗するマアンナから放出される。それは大気を押しのけながら轟音と伴って空想樹に激突した。そして霧のようなものが辺り一面を覆った。

 

「くそ、どうなってやがる!」

 

次第に霧は晴れ、空想樹は本性を露わにする。

 

「凄い魔力量だな……!」

 

樹にある無数の裂け目から溜め込んでいた溢れんばかりの魔力を放出させ、明らかにこちらに敵意を剥き出しにしている。

 

「こんな魔力どこから溢れてくるのかしら」

 

「多分、地下から吸い取っているようね。今は私が色々地形を弄っているから魔力は吸い取れていないようだけど」

 

「なるほど、空想樹は大地から魔力(マナ)を吸い上げるためのものだったのか」

 

冷静に分析する3人の対して以蔵は一人驚いていた。

 

「何じゃああ!?」

 

そして空想樹は以蔵の声に反応するよう裂け目から魔力弾を放出した。

 

魔力弾は大きく楕円を描きながら的外れの方角に飛来した。

 

「何……?」

 

誠が疑念に満ちた声を上げる。

 

先程まで敵意を剥き出しにして聳え立っていた空想樹が充電の切れた家電製品のように静止したではないか。

 

「……どういうことじゃ?」

 

ゲームでいざ挑んだラスボスをレベルを上げすぎて瞬殺してしまった時のように呆気に取られていた。

 

「どうやら魔力が枯渇したようね」

 

「私が冥界を使って根元の魔力を弄ったばかりに、現界と戦闘に必要な魔力に供給が追いつかなかったようね」

 

「それだと相当燃費が悪いことになるが、それとも———」

 

———タイミング的な問題なのか。

 

「……見てあそこ。何かいない?」

 

空想樹に拍子抜けだった全員はイシュタルが指差す方向を凝視する。

 

そこは空想樹の根元。

 

幹が最も太い箇所。

 

”何か”がそこに立っていた。

 

この距離なのにその顔はっきりと誠達にも認識できる。女性の顔だ。

 

だが()()は確実にそこに存在しているのに、そこに何かがいる実感がというものがまるで湧かない。

 

在るのはただの”空白”。

 

この世界にぽっかりあいた孔。

 

「何んだあれは……?」

 

誠がそう呟いたのも束の間、世界が大きく振動した。謎の女性が両手を空想樹に向けて振りかざしたのだ。すると太さ数百メートルはあろう空想樹が一瞬のうちにバキッと鉄が折れるような音と共に崩壊を始めたではないか。

 

「空想樹……あんな一瞬で……」

 

「あれは——いったい何だったのかしら……」

 

4人が愕然と立ち尽くしている時だった。空想樹が在った場所に光り輝く何かが湧き出てきた。

 

「次から次へとリアクションが追いつかないわね……」

 

「空想樹版かぐや姫でしょうかね、イシュタル神」

 

「何よソレ」

 

二人がくだらないやり取りをしている時だ。

 

「これって———」

 

エレシュキガルが声をあげた。

 

「聖杯じゃない!」

 

「何たってそんなものが……」

 

「まぁ取り敢えずボーダーまで持って帰りますか」

 

誠達を待ち受けていたのは何ともカオスな光景だった。

 

地面に佇むカドック、マシュに肩を貸してもらってようやく地に足をつけている立香。その様子を眺めるベオウルフとサリエリとビリー。

 

空想樹は完全に崩壊し、抑止の力で召喚されたサーヴァント達は座に還っていく。ソレで一旦区切りがつく誰もがそう思っていた。

 

だが、現実はそう甘くはない。

 

「お疲れ様。諸君」

 

そこに現れたのは神父の姿をしたサーヴァント。その場の緊張のパラメーターがぐっとマックスになる。

 

「失敬、自己紹介が遅れていたな。我が名はグレゴリー・ラスプーチン。以後、お見知り置きを」

 

口ではこう言っているが、実際に所はどうなのか。この時は誰も知る由はない。

 

「何だ僕を笑い来たのか?」

 

カドックが歩み寄って来た神父を睨みつける。

 

「いや、少し忘れ物をしてね」

 

そして、神父は音もなくカドックの背後に回り込んだかと思うと———。

 

「カドック後ろだ!」

 

誠の叫びはもう遅い。

 

「があああああああああああ!!ラス——プーチン——お前……!」

 

何と神父はカドックの令呪のある右腕を素手で切断したのだ。

 

カドックが悲痛の声を上げる。

 

「敗北者に用はない。だが、利用出来るものは使う。ではな」

 

言峰が消えると、誠は急いでカドックの元へと向かった。

 

「おい、カドック!くそ、気絶してやがる」

 

腕の断面からはドクドクと血が溢れ出ている。誠は一人で手早く応急処置を施していく。

 

その後誠が呼び掛けるまで、その様子をカルデアの者達はただただ傍観することしか出来なかった。それもその筈、クリプターの排除もカルデアの目的の一つ。殺すはず相手の命を救うことになるのだから。

 

 

 

 

「まだ消えてなかったんですか」

 

「君結構、口が悪いとこあるよね」

 

「それで天下のアウトローが俺に何か用ですか」

 

「誠に贈り物をしようと思ってね」

 

そこには体の端に方から光の粒子となって消滅しているビリーが立っていた。

 

「これを」

 

何と差し出されたのはビリーが愛用するサンダラーだった。

 

「次に会えたら、早撃ち勝負だ」

 

「格闘と狙撃なら得意なんでいつでも大歓迎ですよ」

 

「ははは、考えておくよ……」

 

そう言い残してビリーは完全に消滅した、誠一人を残して。もう皆はシャドウ・ボーダーに戻っている。

 

「……もっと聞いていたかったがしょうがないな」

 

誠のその呟きは時折、吹き荒れる吹雪に攫われた。

 

 

空想樹は完全に切除され、この異聞帯はもう時期終焉を迎える。それに伴い、抑止の力で召喚されたサーヴァント達が次々と座へ帰っていく。ある一人の音楽家を除いては。

 

「全く……アマデウスの奴め、結局あいつの思惑どうりになってしまったな……」

 

———全てが終わったら、キラキラ星を弾いてくれ

 

音楽長はは大好きで大嫌いな男の言い分を律儀にも守り、この世界の中心で鍵盤を叩く。

 

音と振動に混じり心地の良い何かがロシアに染み渡っていく。

 

空にまで届く何かが崩れる、音。

 

世界を支える何かが消えていく振動。

 

そして、その荒廃しきった世界に鳴り響く美しい音。

 

———空が砕ける、星が落ちてくる。

 

———お前が残した音楽を鎮魂歌(レクイエム)に眠る、この世界のなんと贅沢で、なんと哀しいことだろうか。

 

 

 

 

アナスタシア編 〜終〜                                        

 

 




次回 彷徨海編

吹雪の壁を突破したカルデア一行。そこに謎の女性からの一通のボイスメッセージが届く。誠はその内容に二重の意味で顔を青くする。

『こちら彷徨海、彷徨海—バルトアンデルスである』


誠の運命はいかに!デュエルスタンバイ!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25.再開

お久しぶりです
このSSを元にして1から全部書きなしたい……。書きなしたらここにURL貼ります。
後、ヒロイン変えていいですかね。


シャドウ・ボーダーにて、密室で話す男の2人の姿が在った。

 

「義手にはもう慣れたか?」

 

「……作ったやつが世紀の大天才というだけはあるな」

 

皮肉げにそう笑う男の名はカッドク・ゼムルプス。元Aチームマスターの7人の内の一人でありクリプターの一人でもある。

 

そして、それに語りかける男の名は誠・エルトナム・シリウス。元Aチームマスターの一人でありカルデアのマスターでもある。異聞帯が崩壊した後、カルデアでカドックを捕縛したのだ。

 

捕縛といっても独房で手足を縛っているというわけではない。いや、当初はその予定だったのだが誠の頼み込みで誠と同室にして監視するということに落ち着いたのだ。

 

これは所長含むカルデアスタッフ全員がカドックが不審な働きをすれば迷いなく殺すと、誠・エルトナム・シリウスという男を信用しているのだ。

 

「そういや、お前はあいつらのとこにはいかないのか?」

 

カドックのいうあいつらとは立香達のことだ。彼らは寝る時以外は操縦室に集まるということを原則としている。

 

「あのお通夜のような空気に混じるなんて御免被る」

 

遡ること数週間前。

 

宛てもなく白紙化した地球の上を走っていたシャドウ・ボーダーに一通のボイス・メッセージが届いたのだ。

 

ロシアの異聞帯を抜けて一週間だが、ボーダーの中は未だに暗い。お通夜の雰囲気といっても差し支えない。だがそれは仕方のないことだ。ロシアの異聞帯では完膚無きまでに真実を付きつけられたのだから。

 

雷帝は誠同様に、立香にも覚悟を問うた。

 

世界を救うには残る異聞帯を全て消滅させなくてはならない、即ちそれはそこに生存する生命全てを見殺しにしなくてはならない。

 

それは一度世界を救った英雄を落ち込ませるには十分すぎる理由だった。

 

そんな中だった。ボーダーに通信がメッセージが届いたのは。

 

「おい名探偵!所長!」

 

いち早く気がついたのは地下の通信室で無線傍受の仕事をしていた誠だった。急いで操縦室まで駆け上がってきたのか誠は息を切らしていた。

 

「ええい!騒がしいな、誠・エルトナム」

 

「何かね、誠君。これ以上、我々を驚かせるものがあるのかね?」

 

「通信だ!」

 

「なんだと!?」

 

「メッセージ内容は!?」

 

ゴルドルフもホームズも驚愕の表情を顔に張り付かせる。

 

「ムニエル、暗号化されたコードをそちらに送る!」

 

「ちょいま、解読完了!読み上げます!」

 

ボーダーに緊張した空気が張り詰める。

 

『我 凡人類史の魔術師

 我 正しい歴史の魔術師なり』

 

『この信号を聞き届けるものがいれば合流されたい』

 

『こちらバルトアンデルス。現在、北太平洋を移動中』

 

『生存者を待つ。繰り返す。正しい歴史の生存者を待つ』

 

『次に示す座標に、どうか合流を』

 

『こちらはバルトアンデルス。彷徨海、バルトアンデルスである』

 

「ムニエル!座標を早くメモれ!」

 

「もうやってるよ!」

 

ボーダーに満ちる静寂。それもその筈、”彷徨海バルトアンデルス”。魔術を学ぶ者なら誰もが知っている名前である。時計塔、アトラス院に並ぶ魔術協会で、魔術師たちはこれらを合わせて通称3大部門と呼んでいるのは常識だ。

 

彷徨海はそのなかでもトップシークレットで情報が完全に秘匿されており、知られていることといえば北海漂う神代の島。通称”生きた海”であり、『文明による魔術の進歩・変化を認めず、西暦以前の神秘───神代の魔術のみを魔術とする』という思考概念を持っているということだけだ。

 

それ故にボーダーの者達が絶句するのも無理はないのである。

 

「……ともかくだ!」

 

その静寂の波を打ち破るようにゴルドルフが声を上げる。

 

「経営顧問、ホームズ君!念の為に、君の意見を聞いておこう。彷徨海からの信号は本物かね?」

 

「それは私には何とも。ダヴィンチ、そちらの見解は?」

 

「半々かなぁ時計塔基準の通信ではないんだけど、この波長、アトラス院の魔力地形に近いんだよねぇ」

 

だが、彷徨海のデータを持っていないカルデアはそれを確かめる術がない。でも物資的に精神的にも限界の今、信じて立ち寄ってみり価値はあるというのが、ダヴィンチの意見だった。

 

その回答に誠の胸の不安は大きくなる。

 

————ボーダーといい、あのどこかで聞いたことのあるような声……偶然であることを願いたいものだ……。

 

誠の不安を知る由もなく、周囲ではとんとん拍子に話が進んでいた。

 

「よし、では今から示された座標に向かうということで」

 

それを誠が止める理由はない。そして今に至るというわけである。

 

「俺もうダメかもしれん……」

 

「俺からしたらお前が死ぬのは好都合だよ」

 

 淋しさというのは、いつの間にか、人の気持ちに染みてくる。そんなこんなでシャドウ・ボーダーでの旅は続く。

 

『誠、交代の時間だ』

 

「了解」

 

あれ以来シャドウ・ボーダーの電力の節約のため、自動運行システムをオフにして手動運転に切り替え、ホームズ→ムニエル→誠→スタッフの数人のローテーションで回しているのだ。

 

誠が立ち上がろうとした直後、ガチャンと音をしてあらぬ方向に左腕が引っ張られる。

 

「……んん、痛いだろ」

 

「そういえばこんなん着けてたな」

 

なんと誠の腕とカドックの腕が手錠で繋がれているではないか。

 

「これつける意味あるのか?」

 

「知らん、所長命令だ」

 

「おい、立て行くぞ」

 

流石に運転するときは、外すが鍵はゴルドルフが所持しているため操縦室に向かわなければならない。寝起きのカドックは機嫌が悪そうにしぶしぶ、立ち上がると誠と一緒に操縦室へと向かった。

 

「ムニエル交代だ」

 

時刻は夜というだけあって、そこに居たのはゴルドルフとムニエルだけだった。

 

「お前遅いよ」

 

「5分くらい気にするな」

 

そんな記録にも残らないようなやり取りをすると、あくびをしながらムニエルは自室へと向かった。誠は()()しているゴルドルフのコートの内ポケットから音もなく鍵を抜き取ると、手早く手錠の鍵を外し運転席に座る。そして、カドックを助手席に座らせる。

 

「前世は盗賊か?」

 

「かもな。そんなことよりシャドウ・ボーダーがAT車と操作方法が同じでよかったぜ」

 

なんとこの男、AT限定の免許しか持ってないのである。

 

「いいからちゃんと前を見ろ」

 

「どうせ障害物なんてないから平気平気」

 

相変わらず、モニター越し外の景色は毎日毎日同じ顔をしていて空虚な寂しさが心にのしかかる。どこを見ても凹凸のない地面が果てしなく続くその真っ白な荒野を永遠と進んでいると、月面に取り残されたような恐怖さええも感じる。今なら世界の中心で愛を叫ぶ人の気持ちも分かるかもしれない。機能を停止したこの惑星はどこへ向かっているのか、誰にも分からない。

 

紅い気味の悪いの月が不機嫌にの月がシャドウ・ボーダーを照らす。その眩しいくらい明かりは地表に反射して、かなり先まで見通すことができる。

 

「おい、誠止まれ」

 

「なんだ?」

 

カドックが指差す先には月明かりに反射して何かがうねうねと蠢いているのがわかった。そして、次第にソレが()であると分かるまでにはそう時間は要さなかった。

 

「魚って生きてるんだろうか」

 

「知らん」

 

「取り敢えず、呼び出しかけるか」

 

そこで陸地を完全に一直に途切れていて、地震で生じた断層にようだ。波は怒り狂ったような轟音を立てて、こちらを威嚇しているようだ。呼び出しを掛けて、数分程でいつものメンバーが集合した。

 

「おはよう、ムニエル。よく眠れたか?」

 

「今しがた、夢の世界に入ったところだよ!ああ、アストルフォとデオン待ってくれよ……」

 

「ダメだこいつ早くなんとかしないと」

 

「ふむ、どうしたものか」

 

ホームズが海と睨めっこしながら、いつも手に持っているパイプをふかした。煙はもくもくと室内の上層に浮上していく。

 

『車内は禁煙でーす』

 

「おっと、それは失敬」

 

ダヴィンチに注意されて、わざとらしく口からパイプを話す。

 

「どうする名探偵?迂回するか?」

 

「そもそも迂回して、指定された座標にたどり着けるかどうか」

 

「取り敢えず、バックして海沿いに走って様子を観察してみるか」

 

誠が普通車でいうところのサイドブレーキに相当する箇所をバックに入れようとしたときだった。大きな揺れがシャドウ・ボーダーを襲った。

 

「地震!?」

 

その影響で、地が大きく傾き、シャドウ・ボーダーが海の方へと滑り始めたではないか。

 

「誠くん!ブレーキ!」

 

ゴルドルフが叫ぶ。

 

「わかってる!」

 

誠が思い切り、足元のレバーを踏み込んだ。

 

「あ」

 

しかし、シャドウ・ボーダーは止まるどころか勢いを増して、海の方へ直進し始めた。

 

「アクセルとブレーキ間違えたあああああ!!」

 

「何をやっているのかね!?誠君!?」

 

「マスター!?何をやっているのかしら!?」

 

「ちょっと誠!何やってんのよ!!」

 

「誠君!?」

 

慌てて、ブレーキに切り替えるが、速度が速度なので止まれない。

 

「すまん、止まれん!衝撃に備えろ!!!」

 

そのままシャドウ・ボーダーは数々の悲鳴と共に勢いよく海にダイブした。それからシャドウ・ボーダーが落ち着くのは2回も3回も回転した後のことだった。

 

「あいたぁ〜、腰を打ったぞ腰を!このダメージ、ブレーキが効かずに丘から落ちた以来だ!そんなことよりどうなっている誠君!体感10メートルは落下したが!?」

 

「だ、大丈夫だ。バックで陸地に引き返せば————」

 

誠が状況を確認しようと窓の外を見て絶句した。

 

「どうした誠君————」

 

続いて、外を覗き込んだホームズも驚きの余り、パイプを落としてしまう。

 

なんとシャドウ・ボーダーは突然、荒波戯れる嵐のど真ん中に放り出されていたのだ。陸地へ戻ろうにも、どこを見ても陸地なんてものが見当たらない。不幸なことにシャドウ・ボーダーはこの嵐を突き進む、機能を有してはいないのだ。

 

そして、現在シャドウ・ボーダーでは、誠は椅子に縄で括り付けられて、誠への怒号やら批判だけ飛び交っていた。阿鼻叫喚である。

 

「……俺より縛る奴が横にいるだろ」

 

無言で誠は隣のカドックを見る。カドックは耳に突き刺ししていたイヤホンを引っこ抜いて、振り向いて誠のを睨んだ。

 

「あ?」

 

その剣幕に誠も萎縮してしまう。

 

「ごめんなさい」

 

「しばらく貴様は運転禁止だ!」

 

「なんてことしてくるのよマスター!このままじゃここで全滅なのだわ!?」

 

その時だった。

 

「————ん?」

 

ホームズが小さく声をあげる。

 

「Mr.ムニエル、回線を開いて!すぐにだ!ダ・ヴィンチは役に立たない!」

 

「あ、ああ、任せろ!」

 

絶対絶命のボーダーに垂らされたまさに蜘蛛の巣。このチャンスを逃すわけにはいかない。ムニエルが通信を受け取りの体制に入る。

 

「シーキュ、シーキュー。こちら、彷徨海船港(ドック)

 

皆が息を呑む。

 

「なるほど!それがカルデアの船だね?船……船じゃないな。そうかタンクか!合理的だ、とてもね!でもセンスは最悪だ!だってどう見ても鉄の棺桶だものね、それ!可愛さの欠片もないし!私の設計したペーパームーンがなければ帰っては来られなかったんじゃない?ともあれ。よくここまで辿着いてくれたね!」

 

そんなこと嬉々として語る謎の人物の声に誠は思い当たりがあった。

 

「通信!彷徨海からです!でもどこから!?」

 

「さぁ————この島が12月31日以外に姿を現わすなんて、まさに2000年ふりだ!

 

次の瞬間、ボーダーの前に突如として大きな水飛沫と共にシャドウ・ボーダーを見下ろすように、巨大な島が立ちはだかった。

 

「ようこそ原初の魔術工房、彷徨海・バルトアンデルスへ!」

 

その人物は陽気な声でカルデアの者達を歓迎した。

 

その出来事から数分が経った、シャドウ・ボーダー内では。

 

「誰から出るんだよ」

 

そう呟いた瞬間に、集まる誠への視線。

 

「じゃあ、俺がマシュと一緒に……」

 

「駄目だ、立香君。ここは誠君に行かせよう」

 

「なんでだよ!」

 

「元はと言えば、貴様のせいでこんなことになっているんだからな!」

 

「ぐぬぬ」

 

シャドウ・ボーダーのハッチにて立ち往生していた。

 

「ここでいけば、さっきのはチャラにしてやる」

 

「……しょうがない。いけばいいんだろいけば」

 

「気をつけてね、マスター」

 

何故か後ろでビビっているエレシュキガルの声と同時に誠はハッチを開けた。目に飛び込んできたのは、まるで絵に描いたような秘密基地を模した魔術工房であった。

 

そしてそこに誠が一歩足を踏み入れようとした時だった。

 

誠の頭上に勢いよく何者かのかかとが振り下ろされた。誠は冷静にそれを回避し、素早く拳銃をその人物に突きつけるが、向こうも素早く体制を整えてお互いに拳銃を突きつける形になってしまう。

 

「アトラスの錬金術師はいつでも格闘遊戯をする準備をしておくように教わらなかったかしら?反応がコンマ1秒ほど遅れていたわよ?」

 

「姉さんが強すぎるだけだ。見てよこの地面、かなりえぐれてるよね。真っ向からこんなの受け止めたら死ぬよ人間は」

 

「おい今大きな音がしたけど大丈夫かね?」

 

そして、その音を聞いたシャドウ・ボーダーの人間がぞろぞろと出てきた。誠が姉と呼んだ人物は素早く銃をしまうと、カルデア一行に頭を下げた。

 

「ああ、私はシオン・エルトナム・ソカリス。どうぞお見知り置きを!」

 

それから時が経つのは早いものでまず二週間が過ぎた頃。天才錬金術師で誠の姉のシオンとそのサーヴァントの通称キャプテンが彷徨海の中にカルデアを再現して見せた。

 

住めば都とはよく言ったもので、休暇という名のそこでの生活は快適を極めた。

 

そして、カルデアを再現するということは、召喚システムも内蔵されているわけで……。今現在、カルデアの召喚術式で召喚に応じてくれるサーヴァントを待機中なのだ。

 

「俺たちの扱い雑すぎるよな」

 

「お前の日頃の行いのせいじゃないか?」

 

召喚室に待機させられているは誠とカドックだ。いざ英霊が召喚された時に事情を説明するの係りが必要だからだ。

 

「誰でもいいから早く来てくれないかな」

 

誠が急かすように召喚陣を触れる。

 

「な、なんだ!?」

 

それに反応するように、召喚サークルが呼応する。

 

そして()()は召喚されてしまった。

 

「サーヴァント、アサシン。虞美人よ。本当に仕方なく応じてあげたわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




それはそうとグラブルのSS書きたいな……。モニカすこだ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。