そんな機会はなかった(仮) (ヤサカ)
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新生活への準備
はい死にましたー。
たった今おれは死にましたー。
久しぶりに外へ出たと思ったら死にましたー。
トラックに轢かれて死にましたー。
別に道路に飛び出した子供を助けようとして死んだわけじゃないんだよ?
ちょっと近道をしようとして、左右を確認せず道路に入ったら死にましたー。
右からのライトがまぶしかったです。
というわけで死にましたー。
死にましたー、死にましたー、死にまみたー…………
……はぁ、空しいからもうやめよう。
俺は今、白い空間の中にいる。
前後左右、どこを向いても視界には白しか映らない。
下を見ようが影もない。
こうなると宙に浮いている気さえする。
というか、白ばっかりで気が狂いそうだ。
――それは困りますね――
「ひぃ!!」
いきなり声が聞こえてきたので、つい情けない声をあげてしまった。
全速力で首を回し、あたりを見渡したが誰もいなかった。
「だ、誰だ! どこにいる!?」
未知なる恐怖に、頭がパニックになる。あぱやー。
――落ち着きなさい、サイトウ タケルよ。周りを探しても、私はいませんよ――
そこに私はいなくて、眠ってもいないんですねー。アジャッター。
――まだ混乱していますね…… よろしい。私の話を聞けるようになるまでこの空間にいるといいでしょう――
「そ、それは嫌だ! これ以上ここにいたら頭がおかしくなる! それだけはやめてくれぇ!」
ズビビと鼻を垂らして乞い願っている姿は、さぞ滑稽だろうな。おれのことだけど。
――正気に戻ったようですね。では話を戻しましょうか、サトウ タケルよ。私は今あなたの頭の中に直接話しかけています。だから私の姿は見えないのです――
「あ、あんたはいったい何者なんだ。何でおれをこ、こんな所に閉じ込めたんだ!?」
――私が何者であろうと、小心者であるあなたには関係がないことです。ただ、あなたの理解が及ぶ言葉でいえば、神が該当するでしょう――
「か、神!? え、は、もう意味が分からない」
――わからなくて結構。話を進めます。閉じ込めた理由は、あなたに話を聞いてもらうためです。そのためだけにこの簡易な空間を作って、あなたを放り込みました――
「もしかしてこの空間が真っ白な理由って、簡易だから?」
――そうです――
「ふざけるなよ! もうちょっと真面目に作れよ! こっちは頭がイカれそうになったんだぞ!」
――知ったことではありません。その時はそれまでのことです。いい加減、本題に入りますよ。サイトウ タケル、あなたには転生をしてもらいます――
「それまでって…… って転生?」
――そうです。あなたが引きこもって、仕事も探さず毎日あさるように読んでいる、あのネット小説の設定によくある、前世の記憶を持ったまま生まれ変わる転生です――
「と、ところどころグサッとくる言い方…… なんでおれなんだ?」
言い方が悪いと思うが、人なんて毎日死んでいるだろう。その中から誰が選ばれたって不思議じゃないはずだ。どうしておれなんだ、とても気になる。
――それは宝くじで一等が当たって何故自分が一等を引き当てたのかを考えるのと同じくらい無駄なことだと言っておきます――
つまり、因果とか関係なく偶然なわけね。あまりの拍子抜けに言葉も出なかった。
――ちなみに一等を当てたのはあなただけではありません。計5人、転生者として選ばれることになっています。ついでに言いますと、あなたは拒否することはできません。すべては確定事項ですから――
そうですか、もうどーにでもなーれ♪ という精神状態になるのを踏みとどまって質問する。
「そ、それで、転生先はどこなんだ?」
これは重要だ。記憶がないのなら、こういうものなんだと世界観を受け入れられるけど、前世の記憶があると前の世界と比較しカルチャーギャップのあまり絶望してしまうかもしれない。
――魔法少女リリカルなのはです。原作を知らなくとも、二次創作は読んでましたよね?――
確かにアニメとか見たことはないが、二次創作で読んだことがあるから知ってる。現代の話だったな。途中で異世界に行っちゃうけど。これなら身分差別とかトイレ格差とかそういうものに煩うこともなさそうだ。現代だし。現代だし! パソコン、クーラー、黒い炭酸飲料♪
――後ろ向きながらも納得したようですね。次の工程へ移ります。あなたにとっては待ってましたのお楽しみではないでしょうか? 特典の話です――
特典。転生の物語では選択が難しい、普通の人を差し置いて大きくスタートダッシュをかけられる、前世の記憶と同じアドバンテージだ。
数・制限によるが、うまく選べばマイナスなことにはならないだろう。ふふ、何にしようかな?
とりあえず本当にもらえるか、念を押しておくかな。クールにね。もらえるとわかって舞い上がっている姿を見せるのはちょっと恥ずかしい。冷静に、冷静に。
「ほ、本当にもらえんの? へへ、ふふ、へへへ」
――不快な笑みはやめなさい。取り繕えてないです。もう知っているでしょうが、特典は普通の人間の努力程度では得られない架空の才能や能力を得ることができる、転生者ならではのボーナスです。今回の転生者には3つ差し上げることになっています。さぁサイトウ タケルよ、あなたの望む特典を言いなさい――
さて、どうするか。
――早くしなさい。二次創作を読んでいる間妄想していたではありませんか。なぜ決まらないのです。まだ迷うというのなら、特典の話はなかったことにします。そのまま転生――
「ま、待った! 決めるから、今すぐ決めるからっ! 特典なしで転生開始は勘弁してください!」
もう迷ってる時間はないぞ、サイトウタケル。選択の刻は来た。考えが求まらないなら、もう直感で言おう。自分を信じるんだ!
「お、おれが求める特典は、
①他の転生者の情報が常時欲しい
②一撃必殺が欲しい
③不健康な生活をしても大丈夫な体が欲ちい!」
最後少し噛んでしまったが言ってやったぞ! どうだ神様。
――ふむ、少し意外ですね。あなたはもっと具体的な特典をお願いするかと思っていたのですが。王の財宝や無限の剣製などはいらないのですか?――
「あ、ありきたりなものだと対策を立てられてしまうから、いらない。でも具体的なものも思いつかなかったから、こ、こんな感じになった」
――なるほど。しかし困りましたね。特典はほとんどの場合、作品に出てくる能力・才能だったので、あなたの願いのような抽象的で原作のない特典は難しいです――
「だ、ダメか?」
くそぅ。何らかの作品を例に挙げられたら何とかなったもしれないのに…… 自分の頭の瞬発力が恨めしい。あ、写輪眼とかもよかったかな。
ん、待てよ? ダメだったらどうなるんだ? そのまま転生はないだろう。一応望みは言ったわけだし、無慈悲に放り出されないはず。……多分。
となると、やり直しか? しめた! 言い直すことができるならもっと具体的にすごいものをもらっちゃおう。
「あ、あの…… さっきのやつが無理ならまた考えるんで、もう少し時間w……」
――いえ、その必要はありません。こちらとしても長年魂を転生させてきた意地があります。それに、あなたのケースは過去なかったわけでもありません。アニメや漫画、ゲームを知らずに生きてきた人間を送った実績もあります。こちらの解釈で付加することになりますが、あなたの特典を受理します。それではサイトウ タケル、あなたの二度目の人生に幸あらんことを――
「へ? 受理? そっちの解釈でって…… そんなんでおれの人生大丈夫なのかぁーー!!」
かくして、おれの目の前は真っ暗になった。所持金は半分になるのかと、こんな時でもくだらないことを考えてしまう自分が恨めしい…………
1話終了。2話へ。
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スタートダッシュで
はい転生しましたー。
この世に生を受け5年が経ちましたー。
生まれてから5年の間、何があったかって?
そんなもの、何にもありませんでしたー。
自分が思っていたほど、赤ん坊は無力だと実感しましたー。
身をもって知りましたー。
人に身の回りの世話してもらうのは恥ずかしー。
でも慣れたらこのままでもいいかなってちょっと思いましたー。
そんなこんなで転生しましたー、転生しましたー、転生しましたー…………
……現実逃避はこのぐらいにしておこうか。
改めて、自己紹介しよう。
おれはオグリ ジョウ。元サイトウ タケルだ。
転生してから気づいたのだが、日本に生まれない可能性だってあるんだよな。
そのことを思いついて恐怖し、日本語が耳に入ってきたときは、もう泣いちまったね。
……赤ん坊だから毎日泣いてるけど。
まあとにかく、これで紛争地帯なんぞに生れ落ちていたのなら、原作どころじゃなかったわけだ。日本でよかった。
ついでに言うと、男として生まれてこれて良かった。おれの精神は男としてほぼ確立している。その魂が女体に入れば、今後の人生において悩み続けること間違いないだろう。
これも神様(?)の計らいかもしれないと思うと、ちょっと信心深くなりそう。
とにかくおれは男でかつ日本人で、おまけに五体満足という好条件で生まれることができました。
じゃあなんで現実逃避なんかしていたのかって?
それは、そうだな…… たとえば「重力に魂を引かれた人間」という名称を聞いたとしよう。これを聞いて人はどう思うだろうか。地に足をつけたしっかりとした人? いつまでも変わらない力強い人? いや、おそらくは空や未来へ羽ばたくことのできない頭の凝り固まったろくでもない地球れ……ではなくそういうマイナスなイメージを想像するだろう。
では、「前世に魂を引かれた人間」という名称ではどうだろうか。これはつまり前世の記憶を何らかの方法によって保持したまま、今の世に生を受けた人と表すのがいいだろうか。転生者と言い換えてもいい。
おれは前に、前世の記憶を持つことはアドバンテージだと言った。それはそうだろう。知識と人生経験を引き継いで1からやり直せるんだ、しかも今回は生前と同じ地球。マイナスなどなさそうに見える。
しかしながら、ことおれにとっては決して良いことばかりではない、むしろマイナスの要素をともなうことが分かってしまった。自分限定で「前世に魂を引かれた人間」は「重力に魂に引かれた人間」の類義語だと気づいてしまったのだ!
発覚したのは入園時。おれは新品の園児服に身を包み、小さい鞄を引き下げて立っていた。正直いまさら幼稚園(笑)とか、これからガキの子守をしなくちゃいけなのかとか、はやくこの幼稚時代終わらないかなとか思っていたんだ。
しかし、だがしかし、現実はおれの傲慢な心を打ち砕いた。
まあ愚痴をこぼしても仕方がない。とりあえず仲のいい子でも作るかと、近くにいた男子園児Aに声をかけようとした、その時だった。
「こっ…………!」
なんだ!? のどが締まりうまく声が出ない。顔もひきつってうまく笑顔を浮かべることができなった。
声をかけられたのに気が付いたのか、男子園児Aは頭を傾けてこちらに問いかける。
「どうかしたの?」
なんて優しい子なんだ、男子園児A! 何とか返事をしてあげたい。けど動悸と息切れが起こってうまく声が出ない。それでも出ろ、一言「一緒に遊ぼう」と!
「ッカ、カキャキャキャキャ!(訳:い、一緒に遊ぼう!)」
よし言えた、いや言えてない!
「ひ、うぇーん! こわいよぉ~!」
突然の奇声に驚いたのか、泣きながら横を走り抜けていく男子園児A。
振り返り、待ってくれと伸ばした手が虚しく空を掴んだ。
そのまま逃げていく姿を、おれは見送ることしかできなかった……
傷つくおれをよそに、先ほどの寸劇を見ていたのか、女子園児Aと女子園児Bがこっちを指さし、とどめを放つ。
「なにあれ、気持ち悪いー」
「うん気持ち悪い、怖いねー」
あっち行こー、と残酷なコメントを残して二人はいなくなった。
残ったのは口をあけて呆然としている、いや真っ白になっている調子にのっていた5歳児だけだった。
それ以降おれは園児たちと最小限の接触を保ち、仲のいい子のいないボッチの称号を得たのでした。ちゃんちゃん。
この出来事がなぜ前世と関係しているのかお分かりだろうか。
その答え、何を隠そう生前おれは子供にもうまく話しかけられないコミュ障な引きこもりだったのだ!
思い返せば第二の人生になってから、親以外とまともに会話をしたことがない。
両親とは普通に話せていたから、今日の今まで事態の発覚が遅れていたようだ。
前世の影響がこんな悪い形で出てくるとは、露ほどにも思わなかったよ……
ま、まあおれは原作介入して特定の人間と仲良くなるから、モブの方々には興味ないし。問題ないし!(震え声)そもそも……
――言い訳タイムが続きます、しばらくお待ちください――
ふう、取り乱してしまった。話を戻すとしよう。
さて、実はもう一つ、おれを現実逃避へと誘う事柄がある。
……特典だ。
単刀直入に言ってしまえば、使い方がわからない。
転生すれば自然と使い方が頭に入っているもんだと思っていた。
だがおれの中にあったのは前世の記憶のみで、能力とかの説明は一切なかった。
そのうち神様(?)が説明に来てくれるのかと期待していたが、5年経ち未だ来る気配がない。
もしかして特典なんておれの幻想だったのではと自分を疑っているのが現状だ。
ついでに言うと、魔力も感じない。感知しないからトレーニングのしようもなく、八方塞である。
このままだと介入もできず、前世からの負債でニート再びの危機に陥ってしまう!
そんな焦燥感にさいなまれているおれに一通の手紙が来たのは、その日の午後のことだった。
差出人は神様(?)。
「おお、神はおれを見捨てなかった」と「よくもここまで待たせやがって」という二つの感情ぶつかり、手紙をくしゃくしゃにしてしそうになったが、何とか抑えて手紙を読んでいく。
一枚目は転生者各位と書いてあった。
『転生して5年が経過し、いかがお過ごしでしょうか。
本日転生者の皆様全員が5歳になったことにより、この手紙を送らせていただくことになりました。
そろそろ自由に動き回れる年齢になられたのでないでしょうか。
同封しました中に、特典の使用方法などを説明した紙がございます。
原作が始まるのはまだ先ですが、この間に二枚目を読み、練習して力をつけていただければ幸いです。
次からはこの世界の注意事項を記させていただきます。
・この世界はたやすく改変されます。原作通りになるとは限りません。
・仮に高町なのは、つまり主人公が亡くなる事態にあっても世界は続いていきます。ご安心ください。
・転生者が死んでしまっても、その転生者に関する記憶・影響はなくなりません。安易な行動は慎みましょう。
以上をもちまして説明を終了します。悔いのない人生をお送りください』
読み終わると一枚目の紙はスッと透明になって消えた。
なるほど、下手に転生者を殺害すれば大事になる可能性があるわけだ。これで転生者に殺される危険性は少なくなっただろう。ラッキー。
二枚目に目を通す。
『オグリ ジョウ(旧姓サイトウ タケル)様へ
転生おめでとうございます。
この紙ではあなたに関する情報を記させていただきます。
はじめに、あなたにはリンカーコアはございません。
残念ながら――』
ここまで目を通して、一旦中断する。
リンカーコアがない? これは何の冗談だ?
リンカーコアとは、おれもよく知らないが、たしか魔力を作り出す核のことだったはず。
これがない=魔法を使えないわけで、原作に介入しようとしている身としては致命的な事態である。
恐る恐る目を戻す。
『残念ながら、この地球では魔力資質を持つ者はほとんど生まれないという設定が反映されます。あなたは特典で魔力を願わなかったため、このような結果になりました』
マジかよ…… だったら最初の時に説明しとけよ、神様(?)!
あまりのエリ・エリ・レマ・サバクタニ状態で、頭を抱えうなだれてしまう。出だしから道を踏み外してるな、おれ。
……いや、王道など邪道。最近の流行はヒトクセあった方がかっこいいという風潮じゃないか、そうだろう?
リンカーコアなんかなくて結構。持てる力を使っておれは立ち向かうぜ!
よし、意気込みは良好。目が死んでる? そんなことはない。
『次に特典の件について説明させていただきます。
オグリ様が願われた特典をこらちで解釈した結果、それに類する作品の能力を付けることとなりました。それでも差異のあるものは若干の改造を加えることで願ったものに準じたものとして付加しました。
以下は各々の解説となります――』
結局、どこからかの作品からの能力をもらうことになったのか。しかし、その能力を改造するなんて、ちょっと萎えるなぁ。二次創作でも原作そのまんまの能力を転生者が改良するのはありだと思うけど、何の努力もなくはじめから改造された能力をもらうなんて、少し面白味が欠けるっていうか。はぁ。
ちゃんとチートに改造してくれてるんだろうか。
ん? 確かに面白みに欠けるとは言ったよ? でも、してほしくないなんておれ、一言も言ってないよ?
さぁ神様(?)! おれに能力を示したまえ!!
こうして親に呼ばれるまでおれは、肢体をなめまわすように紙を熟読していたのであった。
2話終了。
あまりの適当さに自分が怖いです。
3話へ。
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ぼっちの観測者
はい、オグリ ジョウですー。
神様(?)に手紙をいただいてから、少し時間が経過しましたー。
ただいま特典の試運転中―。
転生者の情報を集めてます―。
みんな特典を使いこなす練習をしてるみたいー。
おや?
なんだかみんな海鳴公園へ集まりはじめたぞー。
なるほど、今日はなのはちゃんが寂しくてひとり公園で黄昏てる日なのか―
まあ緊張しちゃって人にうまく話しかけられないおれには関係ないけどね、ハハハー、ハハハー、ハハハのハー…………
……かなしい。
さて、時刻は子供が帰って夕飯を楽しんでいる頃。
おれはすでにご飯を食べ終わり、自室で特典を試している。
そう特典。一番目にもらった「転生者の情報が得られる」能力を使用しているのだ。
使い方は簡単。
一言、「
するとあら不思議。手元に一冊のノートが現れたではありませんか!
これが「いどえのにっき」と呼ばれるおれの特典。
『魔法先生ネギま!』に登場する能力だ。
ただし改造されてるんだが。
ノートを開いてみると、見開きに4人の名前が列挙されている。
その中の1人の名前に触れると、隣のページにつたない絵と手書き風の文字が浮かび上がってきた。
以下はその文章だ。
『○月×日 コンゴウ ヒデオ
ようやく今日なのはが公園へやってきた。
どの日にちか分からなかったため、ずっと張っていた甲斐があったものだ。
デバイスがあれば、このように我が労力を費やすこともよかったものを。
おかげで毎日公園で遊ぶ健康優良日本男児になってしまった。
いやそもそも探知系の宝具さえ見つかればっ……
今はそんなことを言っているときではないか。
雑種どもがなのはに手を出さないうちにケリをつけなければ』
とまぁこんな感じに転生者の心情が日記方式で描写されるわけだ。
ちなみに挿絵はブランコで打ちひしがれている女の子を、物陰でニタニタしながら見守っている男の子の絵である。
こいつ気持ち悪いという感想は置いといて、能力の改造点をおさらいしておこう。
・対象の名前を呼ばなくとも、本に表示されている名前を選択すれば心情が読める(もちろん、名前を呼んでもOK)
・効果範囲はない。どこにいても転生者が生きていれば心情が浮き上がる
・転生者以外の心情を読むことはできない
こんなもんかな。一般の人の考えを覗くことができないのは残念だけど、これで転生者に翻弄されることないだろう。
本来の能力が気になる人はマンガを買ってくれい。
さて、次の転生者の様子をみてみようか。
『○月×日 アカマツ シロウ
なのはの父、士郎が入院したという情報を翠屋で得た。
得たといっても、お金がないので外からみていただけだが。子供の経済力は世知辛いな。
情報から公園に行く頃だと考え向かってみたら、なのはをみつけることができた。
なにやら同い年の男児に言い寄られているようだ。
あれは転生者か? 多分「踏み台」ってやつだな。
バカだな。女は俺がいただくと決まっているのに。
おっと、なのはも困っているようだし、ここは本転生者としてビシッと言ってやるか。うひひ』
2人の間に入って、なのはを庇うように立ちニタ男を睨みつける男の子の絵が描かれている。心なしか、目がちょっといやらしい感じに見えるな。
感想として、五十歩百歩な気がするが、つっこまないでおこう。
気を取り直して次にいこうか。
『○月×日 イシグロ レイナ
サーチャーによって監視した結果、今日がイベントの日だったようだ。
まったく、士郎さんが重傷を負って入院してしまい、恭也君が頑張って店を手伝ってるというのに、高町なのはときたら……
とりあえず公園へ行くことにする。どうせエサ(高町なのは)につられて転生者が来るでしょうから、コンタクトをとってみようかしらと思ったからだ。
利害があえば、手を組めるかもしれない。
公園へ到着すると、転生者であろう2人と高町なのはを視界にとらえたので、上空から成り行きを窺っている。
様子をみて、すぐ男2人はバカだという結論に至った。
バカ2人が口喧嘩をしている間に、高町なのはは逃げてしまった。それは仕方がないことだ。私でもそうする。知らない人間が自分を奪い合って喧嘩するのだ。気味が悪いだろう。
2人はそのことに気付かないまま一触即発の口論を続けている。
なんと滑稽なんだ。憐憫の情すら抱いてしまう。
何だか見ているこちらが気疲れしてしまった。こんなものを見るために出てきたわけじゃないが、情報を集めるために必要なことだ。頑張ろう。
すべては目的のために』
空に浮いている女の子(短パン)がゴミを見るような目で、公園の茶番を見下ろしていた。
へぇ~、女性の転生者か。てっきり全員男かと思ってたから、新鮮だな。
目的ってなんだろう。そこらへんも含めてきちんと記してほしいよな。この特典のウィークポイントだ。
さあ、最後だ。こいつはどんな奴なんだろう。
『○月×日 アオヤマ トウジュウロウ
転生者が集まっているこの機会に協定を結ぼうとやってきたわけだが、どいつもこいつも欲望を隠しきれない愚か者ばかりだ。
こんな奴らと会話するのも不愉快だが、勝手な行動をされて予定を崩されるとまずいので我慢しよう。
そういえば残りの1人は来ないな。原作を知らないのか、はたまた関わる気がないのか。
どっちにしろ大人しくしていて欲しいものだな。
裏で暗躍するタイプだったら潰す必要があるが。
まあ、そういう意味ではここにいる3人は御しやすくて良いのかもしれないな。
まずはこいつらからだ。僕の手のひらの上で踊ってもらおうか!』
転生者3人を集め、にこやかにしゃべっている男の子が描かれた。顔は笑顔だけれども、まとっているオーラはどす黒い。
プライドの高そうな奴だな。おれのことを警戒してるし、ちょっと危険かもしれない。気をつけておこう。
ふぅ、ひとまずこんなものかな。
のどが渇いたので、冷蔵庫からくすねたコーラをラッパ飲みする。
ゴク、ゴク、ゴク……ぷはぁっ。
くぅ~、これこれ!
舌に広がる刺激的な甘さが頭を爽快にする、炭酸がのどを蘇らせる、冷たさが食道を癒す、これぞコーラよ!
ゲフッ。おっと失礼。
しかし、これからどうしたもんか。
今日の第一回戦はドロー。(おれは不戦敗だけど)なのはと仲良くなった人間はいなかった。
となると次の戦いは私立聖祥大学付属小学校だろう。
なのはと同じクラスになれるか、それが明暗を分けるかもしれない。
違うクラスなのに顔を出すのも変だし。
クラス替えがあれば、同じクラスになれる可能性が増えて、大変喜ばしいんだけど。
と、あれこれ考えても意味ないか。クラス云々は運だしな。
まずは私立聖祥大学付属小学校へ入学することだ。
受験がある小学校だから、試験をクリアしなければならない。
といってもテストなんて大学までいったおれからすれば余裕余裕。
早速、親にお願いして願書を取り寄せてもらおーと。
以上、鼻歌交じりで階段を下りて行ったら、隠れてコーラを飲んだことがばれ怒られるジョウでした~。
3話終了。
高田純次より適当をモットーに最後まで書き切りたいものです。
設定はあるようでないもの。
4話へ。
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ジョウ、原作介入やめるってよ。
はい落ちましたー。
受験に失敗しましたー。
さよなら私立聖祥大学付属小学校―。
何が悪かったんだろうねー。
学力は大丈夫だったはずだよー。
じゃあ何かな?
答えは簡単、面接でしたー。
緊張のあまりに意思疎通ができなくて、後ろにいた親もびっくりしてましたー。
面接してくれた先生の引きつった顔が忘れられないや、メモリー、メモリー、メメント・モリー…………
……マジでやばい
もう前世に魂を引かれたレベルじゃ済まされないぐらいに、おれのコミュニケーション能力はマイナスを帯びている。
これはいく作品を間違えたかもしれん。魚の名前が主人公のジャンプ漫画ならこのマイナス、きっと利用価値あったのに。
とにかく認めたくないが、おれは私立聖祥大学付属小学校の受験に失敗し、海鳴市立海鳴小学校へ入学することになった。
あれね、義務教育で普通にいく小学校ね。私立聖祥大学付属小学校と比べたらまさに天と地の差、月とすっぽん、ナチュラルとコー……は例えとしてダメか。
落ちたものは仕方がない。受かる人間もいれば落ちる人間もいるということだ。気持ちを切り替えよう。さよなら、高町さん。
現在、おれは海鳴大学病院にいる。
怪我はしてない。リスクを負うようなことはチキンで落ちこぼれなおれにできるはずがないだろう。魔法なんて恐ろしい。
ということはアニメ第2期『魔法少女リリカルなのは A's』に出てくるヒロイン、八神はやてさんと接触するためと思うだろ? はじめの一歩で躓いてしまったから、挽回のため今のうちにA'sへの布石を打っておくという作戦だと思うだろう?
だが残念、今回はとても私的なことで来たのだ。
それは「ジョウくん、始めるよ」ん、時間になったか。
先生に声を掛けられ部屋に入る。
「じゃあまず、いつも通り挨拶からはじめようか」
「は、はい。せんせぃ、ぉはようござぃますぅ」
「うん、よくできました。それでは今日も元気にトレーニングをしよう」
「は、はい。がんばりみゃす」
……そう、おれは対人コミュニケーションのリハビリを受けている。
今のまんまでも生きていけるさと楽観視していたのだが、現実は甘くはなかったと実感させてくれたお受験。(ちなみに他の転生者は全員合格)
両親も面接で問題の大きさに気付いたようで、事態の解決にのり出し、言語療法のある海鳴大学病院に週3回ほど通院することになったというわけだ。
さすがは大きな病院だな。なんでもそろってる。
先生は優しくて、辛抱強くおれなんかの言葉を待ってくれて、きちんとできたときは我がことのように喜んでくれる。いい先生だ。
男だけど。
熊が白衣を着たみたいな男だけど。
あれがよかったな。初対面のとき診察室で、鮭一匹を咥えて事もなげに座っていた先生。あれを見て吹き出しまい、一気に距離が縮まった感じがする。
そんな熊な先生とのリハビリの経過としては、徐々にだが成果があらわれてきている。素直にうれしい。前は挨拶すらできなかったしな。これで普通の日常に一歩近づいたわけだ。よかったよかった。
もう、原作なんてどうでもいいくらいに。
…
……
………
…………さて、勘のいい人ならもうお気づきかもしれないが、お受験を経ておれの心にも少し変化があった。
単刀直入に言うと、原作介入なんてやめようということだ。
なにを弱気な、と考える人もいるだろう。
だがな、教室に入って誰かとおしゃべりしたいのに、声が緊張で変になって気味悪がれ、次第に孤立していく感じは筆舌しがたいものがあるんだよ。
これが大学生とかだったらいいよ。最初からひとりだったりするし。
でもここは小学校。友達100人できるかなの空気で友達候補がいなくなっていく喪失感は、人生2回目のおれだからこそ余計にくるものがある。
特典を持っても、心は昔と変わらないひび割れたガラスさ。
だからこそ、リハビリを繰り返しおれは普通の日常をもぎ取ってみせる。
そう、アニメじゃないんだ!
ぼくらはみんな生きている、二次元のキャラクターじゃありませんえん!
いつもなのはなのはと呼び捨てにしてすいませんでした! 土下座します!
Yes平穏No魔法!
……まあ魔法使えないんだけど。
あ、だからと言ってすっぱり断ち切る気はないよ?
これから海鳴市へ危険がやってくると知っているのに、何も情報がないのは死につながるわけで。
そこは「いどえのにっき(改)」を使って収集させていただきます。
頑張ってくれよ、介入組。炭酸飲料飲んで待ってるから。
介入組といえば、
アーカイブで紹介しよう。
『◇月▽日 アオヤマ トウジュウロウ
予定通り、私立聖祥大学付属小学校に入学してしばらくたった。
協定を結んだ3人も入学しており、原作の人間含め皆同じクラスだ。
教室ではアリサ・バニングズが権威をふるっている。
月村すずかをからかい始めるのも時間の問題だ。
それに対して転生者は協定を守り、静かにしている。
出だしは順調といったところか。
……順調なはずなのにこの胸騒ぎはなんだ?
何かを見落としている? もう1人の転生者のことか。
やつはこの学校には来ていないという結論に至った。もしうまく隠れて同級生になっているのだとしても、原作が始まれば尻尾を出すに違いない。そのときに対処すればいいだけのこと。
ではなんだろう。僕は何を見落としているのだろう』
『◇月●日 イシグロ レイナ
アリサ・バニングズの専横な振る舞いが、ついに月村すずかにむかった。
高町なのはがこの両者と仲良くなるイベントだ。
原作の流れを変えてはいけない、という協定通りスルーすることにする。
というか、ケンカの仲裁とかめんどくさい。
メリットもないし、ケンカの様子でも見てメシウマでもしようかしら? でも結果ありきのケンカをみても楽しくないか。
あら? 高町なのはの後ろを金と赤が追いかけてるわ。
我慢の限界なのかもね。忍耐力なさそうな顔してるし。
ふふ、これはちょっと見ものね。
面白くなりそう』
『◇月●日 アカマツ シロウ
原作介入するのなら過程・流れを変えずに結果を変えろ、とアオヤマは言った。
この場合なら、ケンカをして3人が仲良くなる流れを変えずに、結果の「3人が」を「4人が」に変えろということだな。
造作もないことだ。
待ってろよ、3人とも。
今までは流れを気にして話しかけられなかったが、今日から解禁だ。
さあ、そのスカートの中身をわが手に!
ウヒヒヒヒ』
『◇月●日 コンゴウ ヒデオ
またアカマツか!!
前は邪魔されたが(結局なのはは我らを覚えてなかった)、今回はやらせんぞ!
途中でアカマツを追い抜き、そしたらアカマツが我を追い抜く。また我が抜き去る。その繰り返しをしながら花壇へ到着する。
そこでは、今まさになのはがアリサにビンタをしようと手を振り上げていた。
まだわって入るには早いな。
そう思い、足を止めようとした、その時だった。
石に躓いて、転んでしまう。……横のアカマツをまき込んで。
競走していたスピードそのままで3人の足元まで転がってしまう。……アカマツと一緒に。
痛みを抑えながら起き上がり見た光景は、アリサがカチューシャをすずかに投げつけ、その場を後にするところだった。
……こんなシーンあったっけ?』
とまあ、アカマツくんとコンゴウくんがケンカの途中でやってきてしまい、空気がしらけてアリサさんはどこかへ行ってしまいましたとさ。
簡単にいうと、原作からずれたようです。
この2人、碌なことしないな。
この出来事によってアリサさんの横暴は影を潜めたみたいだが、なのはさん・すずかさんの2人とは仲良くなっておらず、元凶の赤金コンビが仲をとり持とうとしても、それが逆にアリサさんを意固地させて溝が深まっているようだ。
原作からずれたことでイシグロさんは笑い、アオヤマくんはおかんむり。
これによってどんな乖離があらわれるのかは分からない。でも、必ずどこかで影響するだろうなあ。
願わくは、海鳴で悪影響を及ぼしませんように。
あ~、のど乾いたな。コー●飲もっと。
4話終了。
うまく書けないものですね。
5話へ。
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