フェイト・クロス・オーダー (罪袋伝吉)
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プロローグ① 始まり。

 有栖零児と小牟がカルデア行き。

 フェイト・クロス・オーダーが今、はじまる!!

 


「ひゃーぁ、寒いのう~!」

 

 人員輸送のヘリのタラップを降りつつ、赤い防寒ジャケットに身を包んだ小牟が身体を震わせて言った。

 

 このヘリポートのある場所はまだ吹雪も酷くはないが、向こうに見える目的地、山脈の中腹にあるという施設周辺は、こちらから見える通りかなり吹雪いているようだ。まるで白い靄のカーテンで隠されているかのように、山の全景が見えない。

 

 自然の結界に秘匿され、魔術的な防御を有するという特務機関『フィニス・カルデア』。これはかなりのものなのだろう。

 

 俺は、白い溜め息を深く吐き、小牟の後からタラップを降りる。

 

 どこの国家にも属さない南極という場所、そして観測衛星の目すらからも見えない、太古の曰く付きの山脈、狂気山脈の超古代遺跡に作られた施設。

 

 森羅のエージェントである俺、有栖零児がこれから向かう場所はそんな場所だった。

 

「どうもすみません、ここからは常時ブリザードが吹き荒れている地域ですので、このヘリポートからは雪上車に乗り換えていただいての移動となります」

 

 カルデア機関のエージェントが申し訳無さそうにそう言う。エージェントと言っても彼女は諜報員とかそういうエージェントでは無く、あくまでもカルデア機関側の、他の組織ーーーつまり俺達のようなーーーに対する仲介人、という意味でのエージェントだ。まぁ、そこそこの戦闘訓練は受けているだろうが、俺から見れば素人同然……というか、タラップをそんなおっかなびっくり降りるような玄人は普通いない。

 

 フィニス・カルデア機関は国連に属する機関であり、無論、俺達森羅ともある程度繋がりのある組織でもある。今回の俺達の訪問は所謂、視察調査である。

 

 とはいえ、魔術とか云々は実際のところ俺にはわからない。そこのところ、小牟頼りなのだがはっきり言ってあいつが役に立つかどうかなど俺にもわからない辺りが頭が痛い。いや、頭の古傷が痛むとか言うのではなく、慣用句で、だ。

 

 俺達も日本政府にもその手の魔術師関連のエージェントもいるにはいたが、今回の件では彼らを動かせない理由があった。

 

 その理由というのは、カルデア機関に存在すると言われている万能願望器と呼ばれる物のせいである。

 

 万能願望器と言う物がなんなのかは俺にはわからない。見たことも無い。だが、如何なる願望をも叶える奇跡の宝物であるという。

 

 それを巡っての魔術師達同士の殺し合いが日本でもかつて何度もあり、当時の森羅のエージェントも出動したと言うが、残念ながらそのエージェントはその魔術師達の万能願望器を巡る争いに巻き込まれ、帰らぬ人となったという。

 

 直接の原因は、そのエージェントがその時に協力者として雇った魔術師の裏切りだったという。

 

 その万能願望器と言う物がいかなる物なのか、当時のエージェントが残したという記録は断片的で、何か得体の知れないものだというのはわかったが、残念ながらその正体すら森羅も日本政府のどの機関も掴んではいない。

 

 ただ、万能願望器というものは魔術師達にとって特別な意味を持つ物らしく、わかっていることは『根源に至る為』に必要な物らしく、古い血筋の魔術師、力のある魔術師ほど、それがらみの案件に関わらせるわけにはいかないと言う。

 

 局長曰く、何をしでかすかわかったものではない、だそうで、それが今回の調査、査察に魔術師の協力を仰げない理由だ。

 

 では、それを所有するカルデア機関とはなんなのか?と言えば、これまた事前に目を通した情報だけではよくわからない。人理継続保障機関という名称なのだが、人理とはなんなのか。それがまたわからない。人の歴史を守るとかいう組織のようだが、それがまた何故こんな辺鄙な場所にあるというのか。

 

『有栖さん、こちらです!』

 

 カルデアのエージェントが雪上車の所で俺に手を降る。まぁ、あのエージェントをみる限りでは、なんとものほほんとした感じがして気が抜けそうになるのだが。

 

 わけのわからない機関とか組織とか、この世だけでなくとも過去現在未来、異世界にすらあるのだ。俺と小牟はそれを嫌と言うほど体験させられたのだ。

 

 出来れば荒事も厄介事もない方向で、視察などとっとと終わらせて日本に帰りたいものだがどうも嫌な予感がする。

 

 俺は仕事道具の詰まったトランクの持ち手を握り、その感触を確認すると、雪上車へと歩きだした。

 

 

 

 

 雪上車は、雪と氷の悪路をひた走る。

 

 乗り心地は悪く、ヒーターはさほど効いていない。窓の外はブリザード真っ只中で、本当に目的地の場所を向いて走っているのか?と疑いたくなるようなほどに視界が悪い。

 

「とんだ視察じゃのう、零児。うーっ、なんちゅう寒さじゃ。シタバでホットなカフェラテ飲みたい!」

 

 シタバ、とはシタール・バード・カフェというコーヒーの店だ。紙コップで出されるコーヒーはあまり俺は好きではないが、小牟はどうも今時の若者を気取ってそういうところに行きたがる。

 

……756歳の仙狐が、若者気取りというのもどうかと思うのだが、それは言わぬが花だろう。

 

 ぼやく相方を無視して、車内を見る。

 

 申し訳無さそうにしているカルデアのエージェントが、

 

「流石に、このブリザードでは空調もなかなか効きが……。カルデアに着きましたらカフェラテとは行きませんが、コーヒーをお出しいたしますので……」

 

 と、小牟に言って宥めている。

 

 運転手は筋肉質の中年で、苦笑をしている。余裕が見られるところを見ると、特に遭難の心配はなさそうだ。

 

「悪いね、ここんところブリザードが酷いんだ。ヒーターも全開にしてるんだがこれが限界さ。乗り心地悪いのもまぁ、あと30分程度で着くから我慢してくれよ」

 

「ああ、まぁ、徒歩よりは充分助かっている。しかし良くこの猛吹雪の中で目的地が解るもんだな?」

 

「ハハ、ビーコンの位置情報と、俺の記憶、後は感覚さ。こう見えても元ラリーレーサーでね。目隠ししてても正確に目的地に着けるってのがラリーには必要スキルでね。無事に送ってみせるぜ?」

 

 運転手の発言に小牟が何かいらんことを言うような気配がしたのでとりあえず頭に軽く拳骨を落としつつ、俺は

 

「なに、心配はしてないが、目隠しは止めてくれ。疑うわけじゃないが、いきなりされたらこっちは生きた心地がしない」

 

「ハハハハ、しねぇって。まぁ安心しな。ホレあそこに見えて来たぞ、あれがカルデアのある山さ。麓に着きゃあ、後は搬入エレベーターで登って行くだけさ」

 

 運転手は人懐っこい性格のようだが、外部の人間にやたらと口が軽いようだ。ある種の秘密基地であるのだが、特に情報の機密化はされていないように話す。

 

 まぁ、基地の場所から察するに教えたところで行きも帰りも彼らの手を借りねば、無理な話だ。だからなのだろう。たとえ何かあっても、俺と小牟の二人だけでは到底このブリザードの過酷な環境から日本へ帰るなど不可能だ。

 

 もっとも、運転手もエージェントもそんな事は全く考えている様子もない。おそらくは彼らが知ることは多くなく、そして特に制限も受けてはいないと考えるべきか。

 

……何もなければ良いのだが。

 

 そう思った俺の顔を小牟が覗き込み、ニタリと笑って言った。

 

「のう、零児。人、それをフラグと言う」

 

 長い付き合いだが、こういう時に考えを読まれるのは正直面白く無い。というかムカつく。

 

「うるさい、黙れ。人の思考を読むな!」

 

 ゴチン、と小牟の頭にもう一度拳骨を落とした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 日本:冬木市

 

 

 

 一人の格闘家と、そして闇そのもの、いや、死、そのものと言っても良いと思わざるを得ぬ、髑髏の兜、髑髏の鎧、そして髑髏の意匠をあしらった大剣を持った男と対峙していた。

 

 街中、それも先ほどまで日が射し暖かかったというのに今は辺りは薄暗く、そして大通りの真ん中だというのに人気も無い。

 

 そう、さっきまで街は人で溢れ、賑やかな喧騒に包まれていたというのに、商店の店主も働く者も買い物客、歩道を歩いていた人々さえもが神隠しに会ったかのように、忽然と消えてしまっていた。

 

「…………これは、お前がやったのか?」

 

「…………」

 

 白い道着の男の問いに髑髏のマスクを被った男は何も言わず、ただ両手にチャキリ、と大剣を握って構えた。

 

「問答無用か」

 

 表情無き髑髏の目が青く鬼火を灯した。

 

「む?」

 

 突然、髑髏の男が消えた。いや、常人の目では捉えられぬほどの速度で白い道着の男に詰め寄り、そしたその首筋を断たんと大剣を横に薙いだ。

 

 ブォン!と風切りの音がなった。だが。

 

「……この程度やはり、かわすか」

 

 白い道着の男は最小の動きで髑髏の男の攻撃をかわしていた。

 

「……やはり本気では無かったか」

 

「合格だ」

 

「最初から殺気は無かったが、腕試しはこれでいいか?」

 

「リュウ。正しき道を往かんとする者よ。我はハサン。最初のハサン・ザッパーハにして、ハサンを斬るものなり」

 

「ハサン?」

 

 しかし髑髏の男はリュウの言葉など聞いていないように通りの向こうを指差し

 

「……東へ行け。共に往く者がお前を待つ」

 

 と、言った。

 

「東?共に往く者?わからんが……」

 

「急げ」

 

 髑髏の男は、それだけ言い、すうっと消えて行った。

 

「……また何かあるのか」

 

 リュウはふむ、とあっさり納得すると、道端に置いた自分の荷物を掴み、背負うと髑髏の男が言ったように東に続く道を見据えて歩き出した。

 

 なんだかんだでも、もう厄介事に巻き込まれるのは慣れっこであり、なによりこれまでも様々な人物……豪鬼、、ダルシム、ローズ……によって導かれて来たのである。

 

 今回も何かしらあるのだろう、と特に悩んだり苦悩したりすることなく平然とリュウは進んでいった。




 主人公枠は決定なのが三人。

 有栖零児、ぐだ子、横島忠夫。

 現在、以上が決定してます。

 とにかく混ぜる。

 あと、変態も出ます。多分。



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プロローグ②~ゴーストスイーパーとストリートファイター①

 どこがfgoだって?どこがクロスだって?

 申し訳程度に某怪人出てるし。クロスで出た二人も出てるし。

 ええ、横島忠夫を絡ませるには、女子高生かな、とか思いつつ、もうストリートファイターシリーズってかなりの年数経ってんだよなぁ。




 

 ゴーストスイーパー・・・それは、世の悪霊を祓う現代のエクソシストである。

 

 その中でも美神令子は、超一流のゴーストスイーパーであり、美貌も超一流、そして、困ったことに強欲さも超一流である。

 

 並みのゴーストスイーパーが解決出来ない難解な事件、強力な悪霊、悪魔すらも倒してきた彼女ではあるが依頼した依頼人達は口をそろえてこういう。

 

 悪霊と美神令子、どちらがマシなのだろうか?と。 

 

 依頼人達のその言葉に、かつてのアルバイト助手にして、現在職員としてこき使われているGS横島忠夫はこう語る。

 

 あのちちしりふとももとあの美貌が悪いんや、と。

 

 美神令子の美貌に目がくらんで気がつけばもう数年間。今日も今日とて彼は薄給でこき使われ、命の危険など日常茶飯事、後悔ばかりの毎日である。

 

(それでも……離れられないんだよなぁ……)

 

 まぁ、GS免許を所得し様々な事件を解決した経験を積んだ今となっては流石に時給255円などという労働基準法無視な給金ではないにしても、まぁ、やはりその環境は他のGS事務所よりは……悪かった。

 

「……ううっ、みんな貧乏が悪いんや」

 

 ぼやきながら横島は冬木にある冬木ドリームシアターに一人で来ていた。

 

 所長である美神令子は別件で同行はしていない。美神令子は一昨日から急な案件で国連へ出向しており、代わりに横島が日本での依頼を片付ける事になったのだ。

 

 まぁ、それは横島が仕事を任せられるまでに成長したということであり、また彼の知名度も高まって来ての事ではあるが、今回の依頼においての横島のギャラはやはり少ない。そう、少ない。

 

 というか、法外な所長よりも彼の方が幾分か安いというので彼に依頼をしたがる依頼人もいるほどである。

 

 これには所長の美神令子もあまり良い顔をしないが、とはいえ一人前になったとは言っても横島忠夫はまだまだ経験を積まねばならない時期でもあり、それには目を瞑っているようだ。

 

 まぁ、その代わりに横島の給料や経費などを差し引いてバランスを取る辺りあんた鬼や……と言いたいが。

 

 故に横島は経費を出来るだけ使わないように、車やバイクなどを使わず、電動アシストも付いていない古いママチャリ(普通の自転車)で今回の仕事先である冬木市は冬木ドリームシアターにチャリチャリとやって来たのだった。

 

 この冬木ドリームシアターは二年前に、とある事件が元で半壊した建物を神月財閥が買い取り、更地にされた後に建てられた総合娯楽施設である。

 

 映画館、ゲームセンター、劇場、ボウリング場、カラオケ、スパ、と様々な娯楽を提供する人気スポットなのだが、今回ゴーストスイーパーの横島が呼ばれたのは、ドリームシアターの劇場に夜な夜な謎の怪人が出るという噂があると言うのだ。

 

 夜の誰もいない劇場の舞台に、黒いスーツとマント姿の仮面の怪人が女性らしき人影を連れて忽然と姿を現し「クリスティーヌ……クリスティーヌ……」と悲しげに、美しい声でその女性らしき人影に語りかけているのをシアターの警備員が目撃している。

 

 最初は変質者ではないか?とも思われたが、しかし、目撃した警備員がその怪人に襲われた際に、その傷から何らかの霊障の反応が検出された為に、問題の怪人が霊的な存在であると断定されたのである。

 

 そもそも人を襲い、傷まで負わせられる霊的な存在は非常に強い怨念や怨みなどを持っている事が多く、何より危険である。

 

 そんな者がよりによってお客様が楽しむための娯楽施設、ドリームシアターに出没するなど以ての外だと神月財閥総帥である神崎かりんは美神令子GS事務所へと除霊を依頼した、というわけである。

 

 この神月かりんは横島忠夫ではなく美神令子を指名する程の金持ちであり、珍しく美神令子のふっかける高額の代金を大抵はあっさりと支払うという気前がいいどころではないような依頼人の一人である。

 

 また、日頃から美神令子とは公私の関係なく友達付き合いしているような人物であり、また、横島も何度か顔を合わせており、さらにその実力も見極めている。

 

 まぁ、そのおかげで美神令子の代理として横島が引き受ける事になっても快く承諾したわけなのだが。

 

「……はぁ、若くて美人なんだけど、おっかないんだよなぁ、あの人」

 

 美人と来ればすぐに食いつく横島であるが危険な相手に対しての警戒心はやはりある。

 

 神月かりんは格闘技の世界ではかなり強く、日本においては『最強の女帝』と言われる程である。多くの格闘技に秀でており、あらゆる格闘技をマスターしており、その全てをあわせると現在、109段と11級なのだという。

 

 無論、横島は初めて彼女に会ったときにすぐさまボコらた。

 

「……偶然、手が乳に行っただけなのになぁ」

 

 いや、真っ直ぐに彼女の乳に手を出したのである。偶然ではなくついつい本能的に。それはボコられても仕方あるまい。

 

 その事が原因で横島はかりんに一目置かれる事になったのだが、それについては横島は気づいてはいない。

 

 なにしろ、あの神月かりんの胸を触って揉んだのである。油断さえさせないほどに自然に、反応すらもさせないほど素早く動いて、である。

 

 武術の世界に身を置く武道家でもある神月かりんは常在戦場の心構えをもち、全くの油断は無かったというのに、横島はその胸を難なく掴み、そして揉んだのである。故に神月かりんは横島という男の実力を量ろうとしたのだが、しかし、格闘技には素人だった横島がいつもの如くボコられただけで終わったわけである。

 

 その後も、神月かりんは美神令子に依頼をする機会が数度あったが、かりんはそのたびに横島を試すような事を行っていた。

 

 例えば、親しくなった女子プロレスラーのレインボーミカと闘わせたり。無理矢理にボディーガードとして雇ったバーディーに襲わせたり。彼女が終生のライバルとして認めた春日野さくらとストリートファイトさせたり。

 

 はっきり言って神月かりん絡みの依頼が事務所に舞い込むたびに横島はボコられ酷い目にあったわけだが、しかし神月かりんは、ますます横島をただ者ではないと確信し、横島を一目置いて見るようになったのである。

 

 逃げ足の速さ、どれだけボコられても一コマ目には平然と回復しているタフさ、普通なら死んでいてもおかしくないような目にあっても「あー、死ぬかと思った」と立ち上がるしぶとさ。

 

 格闘家として驚異的な人物に映ったのである。

 

 そしてさらに、悪魔アシュタロスの討伐の際に横島忠夫が敵の懐に潜入したり、最終決戦において大活躍をし、世界を救うような働きをしたとの情報を得てからはさらに横島という男を買って見るようになったのである。

 

 なお、神月かりんの乳は小さくも無く大きくも無くぢょしこおせぇの淡い柔らかさだった、と後に横島忠夫は語っている。

 

 成長期の青い柔らかさが良かったそうだが、痛い目にあってもなんだかんだあっても、横島が女性を嫌いになることは無いのである。例外はあるのだが。

 

 つくづく横島忠夫という男はこういう奴なので、能力云々はさておき非常にアレである。

 

「……あれはえがった」

 

 というか、胸の感触を思いだしつつ、ハンドルから片手を離してワキワキさせる様はただの変態である。というかよく事故らないな、こいつは。

 

 さて、そうこうしてようやく横島はドリームシアターに着いた。

 

 チャリンコを駐輪場に置き、入り口へと進む。

 

「ちわーっす、美神令子GS事務所から、調査に参りました横島ですー!」

 

 ロビーでそう言うと、二階の階段上から

 

「お待ちしておりましたわ、横島忠夫。今回はよく私の依頼を受けて下さいましたわね?」

 

 と、神月かりんが腕を組んで横島を見据え、爽やかさと上品さ、そして魅力の籠もった笑みでそう言った。

 

 お嬢様然とした清楚で淑やかな白いワンピース。髪は金に近い柔らかくふわっとした縦ロール。しかしてその存在感は誰もが無視出来ぬ圧倒的なカリスマに溢れる。

 

 スキル『真・神月家究極奥義「麗しの瞳」』!!

 

 一見、普通にお嬢様が笑っているだけのように見えるが、これは紛れもなく神月流の奥義である。

 

 神月家の女たるや、5000人の男性を魅了出来てこそ当たり前!という家訓により、神月かりんは横島に最高の笑みで迎えた。

 

 これが普段ならば、神月流社会術奥義「さげすみの目」かもしくはある程度認めた相手に対して権威を示す「覇者の腕組み」で迎えただろうが、そのことから神月かりんがどれだけ横島忠夫という男を意識しているかがわかろうものであろう。

 

(ふっふっふ、横島忠夫。これならば……どうかしら!)

 

 神月かりんは絶対の勝利を確信していた。

 

 だが……。

 

「ああ、ちわーっす、神月さん。いや、ウチの所長が依頼を受けられなくてすみません、と。断腸の思いだと言ってました」

 

 ぺこぺこ、と横島は普段の調子で頭を下げる。頭を下げていて横島には、かりんのスキルである『真・神月家究極奥義「麗しの瞳」』は横島には通用しなかった。

 

 何しろ、見ていない相手には聞かない類のスキルなのである。また、タイミングにもよる。

 

(……くっ、タイミングをずらされた?!)

 

 内心、かりんは苦虫を潰したような思いに駆られたが、しかし気を取り直す。

 

「いえいえ、しかしいつもながら横島さんは腰が低いのですわね。いえ、実れば穂を垂れる稲穂かな、と申しますが、今やあなたもA級GSですもの。もう少し威厳や自信というものを……」

 

 考えても、と言おうとしたが、そのタイミングを崩された。

 

 二階の奥から一人の女性が出て来て、

 

「あーっ!あの時のバンダナの人!かりんちゃん、呼んだゴーストスイーパーってあの人だったの?!」

 

 と、横島を指差して、かりんに大声で話しかけたのである。

 

 かりんはその声に手を額に当てて溜め息を吐いた。

 

「……さくらさん、せっかく私が彼と話しているのです。それに……」

 

 しかし、さくらと呼ばれた女性はかりんの言葉など聞いていないように、ずどどどど、とかりんの横をすり抜けて階段を駆け下り、横島の前までやってくるとその手を取ってはしゃいだ感じでマシンガンの如く話し掛けた。

 

「久し振りだねぇ!覚えてる?三年前に千葉でストリートファイトしたさくらだよ!あはははは、あの時はごめんねぇ、たしか横島くんだったよね!?」

 

「え?あ?あーっと……その鉢巻きは……ああっ?!あの時のセーラーブルマの?!」

 

「あはははは、あの時は高校だったからね!今はもう大学生なんだ!あははははは」

 

 恥ずかしそうにさくらは笑う。そう、ストリートファイトをしていた頃のさくらは学校の制服にパンツが見えるのを防ぐためのブルマを履いていたのである。

 

 とはいえ今思い出すと本人としては少し恥ずかしいようである。何しろ今やブルマはどの学校でもほぼ廃止され、廃れてしまっているのだ。というか、あれってパンツとそんなにかわらなかったよね?とかそういう風潮になってしまって、そりゃあ恥ずかしかろうなぁ、とか思う。

 

 なお、今のさくらはスウェット生地のTシャツ、ジーンズ姿であり、普通のスポーツ系女子大生な感じである。

 

 なお、横島はやはりさくらにも散々ボコられており、その明るく爽やかだが容赦なくボコるスタイルには、当時、かなりの恐怖を感じたようで、両手を取られているがよく見れば逃げ腰である。

 

(あ、あかん、コイツはあの、殴る女子高生や……!)

 

「さくらさん!横島さんはお仕事で来ているのですわ。再会を喜ぶのは後にして下さいまし!」

 

 いつの間にか二階から降りていたかりんが、よいしょっと、と、横島からさくらを離す。

 

「もうっ!」

 

 と、頬を膨らませつつ、

 

「ささっ、横島さん。例の怪人についてわかっていることをお話しないといけません。準備もおありでしょうし、事務所へ行きましょう」

 

 かりんは横島の手を掴むと、ぐいぐいと引っ張り、二階へと連れて行った。 

 




 横島忠夫は。

 書いていて勝手に動きますね、本当に。いかん、メインの主人公になりそうだぞコイツ?!

 というか神月かりんお嬢様も変に動くぞ?!当初の予定とかなり方向が変わって行く……。あれっ?あれれっ?!なんかこの子、横島んこと好きなんじゃね?!


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プロローグ③ シアターの怪人

 
 横島編はサーヴァント出現まで。

 さぁ、誰かなー?


 

 事務所にて、神月かりんは横島に事件の経緯を語った。

 

「……この冬木のドリームシアターのある土地は、廃棄された森を神月財閥が買い取って、新しい冬木市の区画として整備したものです」

 

 数年前の地図と現在の地図を広げ、場所を指し示す。

 

 確かに地図を見比べて見れば数年前にはこの街のこの土地は広い森だった。

 

 かりんはその森の中心部、ちょうど区画が広がる前の冬木市の中心街からちょうど東のある場所をトントン、と指で軽く叩いた。

 

「このドリームシアターのある場所には、日本には珍しい西洋風の洋館、いえ、城の廃墟があったのです」

 

 しかし、かりんが指で示した場所には建物らしき物は何も書かれてはいない。現在の地図にはドリームシアターが記されているのだが。

 

 かりんはその地図の上に、何枚かの写真を広げた。

 

 当時の上空からの写真と、東西南北の廃城の外観の写真、そして内部の写真である。

 

 横島はその写真の中に気になる物が映っているのを見つけた。

 

「……これは、魔法陣?」

 

 小さくしか写ってはいないが、部屋の赤い絨毯に何かの塗料で書かれていた。

 

「……何かを召喚するためのものか?しかしこれは初めて見るな。うーん、神月さん、この部屋はもう?」

 

「ええ、ドリームシアターを建てる際に、元の城は全て撤去いたしましたわ。何より、建物を補修しようにもあちこち破壊されていて、補修工事に危険が伴うほどでしたもの」

 

「……魔法陣も壊された?」

 

「……それが、城の解体を行った部署にも問いただしましたが、その魔法陣を見たという者は一人もおらず、また、ここに写っている、ここ。この壁の所に大きな亀裂が入っているのがわかりまして?こんな亀裂の入っていた部屋は、無かったと」

 

「……ちなみにこの写真を撮った人には?」

 

「コンタクトが取れませんの。その人物は確か……」

 

 かりんは、ファイルをパラパラパラとめくって、ちょうど真ん中のページを示した。

 

「この方ですわ。名前は……エミヤと言う人物ですわね。今は海外に在住しているらしいのですが、所謂、曰く付きの方で、ここ、冬木市で昔にあった大規模なテロ事件に関わっていたのではないか、とか、言われてますし、それにその筋では有名な暗殺者『キリツグ・エミヤ』の養子だと言う話もある人物です」

 

 ファイルには、浅黒い肌に白い髪の男の顔写真があった。横島はその顔を見て、思った。

 

(イケメンなのかっ!イケメンなのかっ!イケメンなのにテロリストなのかっ!!)

 

 非常に、まったく的外れな感想だが、この男の場合それを心の中で思うだけで留めているだけ進歩しているといえよう。

 

……昔ならばどこからともなく藁人形を取り出して金槌で五寸釘を打っている所なのだから。

 

「あの、どうかしまして?」

 

 横島の様子がおかしいことに気づいたかりんが、顔を覗いてくる。

 

 ハッ!と横島は写真から顔を上げて

 

「いやーははは、いや、テロ事件に暗殺者の養子、というのが引っかかってね?」

 

 と言いつつ。

 

 上げた顔の前には、かりん。そしてワンピースの胸元からは……。

 

(少し身を乗り出した神月かりんの……谷間っ?!)

 

 そう、横島を覗きむ為に身を乗り出した事で、かりんの胸の谷間が見えている。ワンピースの布地がひらひらなのて、白く清楚なレース模様のブラジャーの柄までも。

 

(ええ乳やぁ、おぢょおさまの、乳……!)」

 

 目が釘付けである。

 

 かりんはスレンダーな体型に見えて、しかし胸は普通サイズ以上にある。しかも女子高生だった頃から成長しており、さらにスタイルは大人びたものになっている。

 

 しかも、並みの女性ではないのだ。神月財閥の令嬢にして総帥。優雅で上品で、さらに……。

 

 ごちん!

 

「一体、どこを見てますの?」

 

「どわっ?!」

 

 かりんの拳が横島の脳天に落ちた。そりゃあバレる。

 

「たはははは、いい眺めだったんでつい……」

 

「真面目にやって下さいな。ほんとに!」

 

 顔を真っ赤にしつつ胸元を腕で隠す。その仕草はあどけなく年相応の女の子に見えた。

 

 おそらくはこれが神月かりんの素なのだろう。財閥の総帥として君臨する仮面の下が見られたようで、横島は何か得をしたような気分になった。

 

(おおう?!普段、気のキツい女の子がたまに見せるレアな素顔……イイッ!)

 

「……もう一撃、喰らいたいですか?」

 

「いやいやいや、はい、真面目にやります!真面目にっ!……まぁ、こうしてファイルを見ていても仕方ないので、実働に入りますか」

 

 横島はよいしょっと、とソファの横に置いた自分の荷物をごそごそと探り、そこから仕事道具を取り出した。

 

 それは『見鬼くん』と呼ばれるゴーストスイーパー御用達の悪霊や妖怪を探知するレーダーであり、箱の上に陰陽師をディフォルメされたような人形が付いている。

 この『見鬼くん』は横島用であり、ドクターカオスが改造した高性能チューン版である。

 

 こなカオスチューンの見鬼くんの特徴は、霊視ゴーグルとセットで使うと、霊の居場所をラインで示してくれるという、なんとも便利な機能がついている。

 

 また、霊視ゴーグルにもチューンが施されており、現地の地図データがあれば現在地の表示が出来、さらに現在地がわからなくともマッピング機能さえついている。

 

 この二つはもう至れり尽くせりの道具なのである。

 

 だが、そんな道具を持っているというのに、何故美神令子がそれを取り上げないのか?と言えば、この二つの道具は完全に横島用に作られている為、ほかの霊能者には使えない点が一つ。

 

 ならば美神令子も同様の物を作らせればいいではないか?と思われるかも知れないが、ドクターカオスはこれを作った後に、すぐにこの道具の設計図や作り方を忘れてしまっていたのである。

 

 故に、ワンオフ。解析して同様の物を作ろうとしても並みの発明家では作るのに100年以上かかってしまうらしい。恐るべしドクターカオス。あと老人ボケ。

 

「ええっと、その地図、記録します。ああ、こっちの古い方のも撮っとくか。あとは……このファイルの、エミヤ?この人物の写真も記録しておこう。霊気か何か……ああ、微かに気が残っているな。登録出来た」

 

「はぁ、その道具って、見た目は変ですのにやたら高性能ですのね」

 

「ええ、まぁ。ドクターカオスの魔改造ですから。……まぁ、今は老人ボケが酷いんですけど」

 

「ヨーロッパの魔人も認知症には敵わないのですね……」

 

「ずっと相棒のマリアが甲斐甲斐しく介護してますが……。まぁ、時折正気に戻る時がありますので、まだ……」

 

 ちーん。

 

 二人はなんとも言えない悲痛な気分になったが、いつまでもこうしてはいられない。

 

「まぁ、行きましょうか。霊が活性化する夜までにいろいろと仕掛けとかも作りたいので」

 

「はい、あの怪人は日中は現れた事はありません。調査をするなら……」

 

 かりんはそう言いかけたが、そこへ神月かりんの執事である柴崎が慌てて事務室に駆け込んで来た。

 

「お嬢様、大変です!!怪人がシアターに現れました!!現在、さくら様と劇場視察に来られたモモ様と、フェリシア様が応戦してます!!」

 

 

 




ちょっと短めですが、次のリュウと零児、それにグダ子を出さないといけませんので、切りがいいのでこの辺で。


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プロローグ④~ファントム・オブ・ジ・オペラ(表)

 キャラとしてのファントムが崩れてますが、まぁ、是非もないね!まぁ、キャラがブレていないファントムは怖いですけど。

 こちらのファントムはコロラトゥーラを作らない方のギャグ畑の方に迷い込んだファントムです。

 なお、アマゾーナの子には原作でもなむクロでも名前がありませんので、仮に名前をつけました。


「おおお……これは夢か……」

 

 怪人は薄暗い玄室で声を聞いた。明るく希望に満ちた歌声。

 

 歌の技法はまだ熟練とは言えないが、その声には光があり、それはかつて彼が愛した歌姫のものと同じく、彼の魂を揺さぶった。

 

「我が心を照らす光よ……クリスティーヌ……ああ、クリスティーヌ……」

 

 おおおお……。

 

 手を伸ばし、彼はその光へと誘われるかのように表の世界へと地下から這い上がり、冬木ドリームシアターの劇場のパイプオルガンの裏、その巨大な音響盤の隙間から舞台を覗いた。

 

 舞台の上では、三人の少女がいた。

 

 被り物とプロテクターをつけた少女に、女戦士のようなビキニアーマーをつけた少女。そして、猫耳の少女である。

 

 怪人はそれが演劇の稽古であるのがわかった。

 

 なにしろ台本片手にそれぞれが立ち位置を確認しつつ、そして客席の方で演出家というか監督というのかが指示をしつつ、セリフ回しや殺陣を入れながら、ゆっくりとした身振りや動作をしていたからだ。

 

(あの声……クリスティーヌは……どこだ……)

 

 怪人は舞台の裏から狂気じみた目を見開き、耳を済ませて、かつての自分が愛した者がどの少女なのかを見定めようとしていた。

 

 だが。

 

 舞台に立つ一人の少女が、その気配に気付いて振り返った。

 

 目と目が合い、怪人は歓喜した。

 

「おおおお、クリスティーヌ……!クリスティーヌ!!我が歌姫!!我が愛しのクリスティーヌゥゥゥッ!!」

 

 歓喜の余り、怪人は自分が忍んでいた事すらも忘れ、パイプオルガンの音響盤の隙間、そのメンテナンスハッチを開けて飛び出した。

 

「キャーーーーッ!!」

 

 怪人がクリスティーヌと呼んだ少女は、ビキニアーマーを付けた戦士、アマゾーナ役の少女、天野蒼奈(あまの・そうな)だった。

 

 蒼奈は後ずさりしたが、ここは高い舞台の上であり、すぐ後ろは客席であり、それ以上は下がることができない。

 

 怪人はパイプオルガンを背に、優雅な仕草で蒼奈に一礼をし、彼女の前にひざまずいて、そして。

 

「クリスティーヌ、恐れないでおくれ、我が美姫よ……。我が愛しの人、ああ……もっとその声を聞かせておくれ……。あの時のような恐れの声ではなく、初めて会った時のような希望の声、清らかで明るい日差しのごとき声を……!!」

 

 怪人は愛しの歌姫の顔を見るために頭を上げた。

 

 だが、その瞬間、怪人の視界にはものすごい勢いで顔面に迫る大剣が写った。

 

 みぎゃっ!!

 

「ぶべらっ?!」

 

 アマゾーナが持っていた剣を力いっぱい怪人の顔面に振り下ろしたのだ。

 

「来んな変態っ!!」

 

 嗚呼、不幸なりし怪人。

 

 彼がクリスティーヌと認定した少女は、本物の元悪の女戦士の力を持つアマゾーナだったのだ。

 

 剣が演劇用のプラスチック製だったとしても、そのダメージは一般人ならば顔面骨折していてもおかしくは無い。

 

「ぐおおおお……、何をするクリスティーヌ……。もしや、あの時の事をまだ怒っているだろうか?しかしあの時は……」

 

 しかしそこは流石に怪人、顔面を押さえつつ痛がっているようだがまだ普通に話している。

 

「何わけわかんない事いってんのよ!あんたでしょ?!このシアターに出てくる変態って!」

 

 天野蒼奈は剣を上段に構えつつ、フーーーッ!!と気が立っている猫のごとく唸った。

 

 これには怪人も慌てた。

 

「ま、待ってくれ、クリスティーヌ!私は君に危害を加えるつもりはない!それに変態でもない!!」

 

 また剣で顔面を殴られては敵わないとばかりに怪人は手を突き出して後ずさりする。見ればマスクに罅が入っており、半分顔が見えている。

 

 普通ならば常人の攻撃など通じないはずなのだ。

 

「アマゾーナ、ちょっと待って!もう相手は戦意喪失してるみたいだし、話ぐらいは聞いてもいいんじゃないかしら?」

 

 モモが被っていたヘルメットを小脇に抱え、アマゾーナと怪人の間に割って入る。

 

「そうそう。とはいえ油断はしちゃだめよん?この人人間じゃないからにゃん?」

 

 猫耳の少女がその手から爪を伸ばしてにやり、と怪人に笑顔を向けながら怪人が出てきたパイプオルガンのメンテナンスハッチの前に立った。逃走経路を遮断したのである。

 

「……話を聞いてくれるのはありがたい……。お前はサーヴァント?いや……違うのか?しかしお前こそ人間ではない。何者か?」

 

 怪人はその猫耳の少女、いや、フェリシアを見て首を捻る。怪人が訝しむのも仕方はない。このフェリシアも人間ではない。ワーキャット、つまりダークストーカーなのである。

 

「あー、やっぱりわかるぅ?あたしはダークストーカーのフェリシアだよ。でもあんたはダークストーカーじゃない。悪霊か悪魔の類かとも思ったけど、全然匂いが違うね。あなたこそ何者?」

 

「この変態、人間じゃないの?」

 

「いや、アマゾーナ、変態は少し可哀相な気が……」

 

 かの怪人も変態呼ばわりである。怪人はがっくりと凹んだ。それはそうだろう。全くの人違いであるものの彼はアマゾーナを自分がかつて愛した人であると思い込んでいるのである。それに変態呼ばわりされて落ち込まないわけはない。

 

 普通の亡霊や悪霊ならばとっくに成仏しているほどのダメージである。

 

 とはいえ怪人は亡霊や悪霊ではない。さらに成仏もないのだ。

 

「変態……うううっ、クリスティーヌ……あんまりだ」

 

 しくしくしくしく。

 

「あー、メチャクチャショック受けてるよ~」

 

 彼女達が話を彼から聞き出せるのは、もう少し時間が経たないと無理のようである。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 リュウは髑髏の騎士の指差した方向へと進んでいた。

 

 東西に伸びる街道を進んでいたのだが、それはいつの間にかうっそうと生い茂る木々に覆われた森の、道無き場所へと変わっており、そしてその木々の隙間から、西洋風の城が見えていた。

 

「…………」

 

 リュウは無言で進み続ける。

 

 こういう事は前も数度あった。

 

 異世界にいつの間にか紛れ込み異世界の強豪やゾンビ、怪物、果ては巨大な怪獣まで様々な相手と闘う羽目になるなど、もう両手に数えることすらできないほど体験してきた。

 

 故に、リュウは異空間とも言うべき土地をそれが当たり前だと言うように平然と道無き道を進み、山籠もりをしていた頃に学んだ、木の枝の生い茂る方向で方角を読みつつ、正確に真っ直ぐと進み続けた。

 

 全く慣れというものは怖いというのか、リュウが異常なのかはわからないが、この場合、冷静さを欠きむやみやたらと動き回る事の方が危険である。

 

 幸い、向かう方向の手掛かりはとうに髑髏の騎士が示してくれたのである。

 

 リュウは全く疑いもせず、真正直に東へ進み続ける。良くもまぁあのような不気味で奇妙な者の言ったことが信じられるものだと思ってしまうが、これも経験から得たリュウの人を見る目によるものだろう。

 

 それにそれしか手掛かりは無く、選択肢も無いのだから仕方ないと言えばそうだろう。

 

 そうして進み続け、ようやく広い土地へとリュウはたどり着いた。

 

「む?これは……城?」

 

 そう、城としか形容出来ぬ建物、それも西洋の城である。その城は古いようでまだ建てられたようでもあり、不思議な質感を伴ってそこにあった。

 

「……この城が、あの髑髏の騎士が言っていた場所、なのか?」

 

 リュウがそう呟くと、あたかもリュウを待って居たかのように。

 

 ギギギギギギ……とその城は入り口の戸を開いた。

 

「中へ入れ、と言うことか」

 

 リュウは険しい表情を浮かべるも、誘われるままにその城へと入って行った。

 

 城の内部は暗く、僅かに日の光が差し込んでいる。入ってすぐの所は吹き抜けになっており、正面には階段があった。

 

「……この手の城は、デミトリとモリガンの城ぐらいしか知らないが、あの時程のプレッシャーは無いな」

 

 人間、慣れというものは(ry

 

「あれ?あなたはリュウさん!」

 

 と、柱の影から、声がした。

 

 その影はひょっこりと姿を現すと手を振りながらリュウの前へとやってきた。

 

 どう見てもサラリーマン。それもアタッシュケースを持った、黒縁眼鏡の典型的な営業職。

 

「……ベラボーマン?」

 

「あー、いえいえ、今は変身しておりませんし中村とお呼びください」

 

 そう、彼は中村等。普段は見た目は平凡だが凄腕の営業サラリーマン。しかしてその実体は正義のヒーローベラボーマンである。

 

 リュウはとある事件に巻き込まれた際に、このベラボーマンや他のヒーロー、様々な戦士達と世界を救う冒険を繰り広げた事があったのだが、その時にベラボーマンの正体も見知っていた。だが、変身ヒーローの正体を明かすのはルール違反である。リュウは素直に彼の本名で呼ぶことにした。

 

「うむ、わかった。中村さん、ここは一体……?」

 

「はぁ、私もとんとわかりかねます。というかリュウさんが来たので私もそれをお聞きしようと思ったのですが、どうやらお互いにここがどこなのかわからないと言うことですね」

 

「ふむ……」

 

「ええ、おそらくここに何かがあって我々が巻き込まれたと考えるべきでしょう」

 

「ではこういう時は……」

 

「まずはこの城の調査、ですかね」

 

 異世界転移慣れしている二人である。せねばならないことはもう分かり切っている。

 

 二人はお互いにここに来るまでに何があったのかを話しながら、城の奥へと進んで行った。

 

 

 

 

 

  

 





 ファントム・オブ・ジ・オペラ。

 現在の冬木ドリームシアターに現れたのはアサシンのファントムです。ですが、人形に向かってクリスティーヌの名を呼んでいたファントムも目撃されているわけで……。

 なお、有栖零児は南極でオルガマリー所長に怒鳴られてたり。

 待て!次回っ!!

 


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プロローグ⑤~キーやんとサーちゃんの暗躍


 すべて、キーやんとサーちゃんの仕業だったんだよ!!なんだってー?!

 プロローグは続くよ、かなーり続くよ?

 


 

「いやぁ、冬木市の方で仕事がありまして。で、ちょうどモモさんがフェリシアさん達と冬木ドリームシアターに来ているそうで、それならば是非お会いしましょう、と向かっていたのですが……」

 

 中村等は額をポリポリと掻きながら困った表情で言った。異常事態に巻き込まれたというのに余裕があるのはおそらく彼もこういう事が慣れっこになっているのと、彼がヒーローだからなのだろう。

 

「気がつけば、大通りではなく森の中を歩いていた、か?」

 

「ええ。リュウさんも?」

 

 頷くリュウを見て中村は苦笑した。リュウもやはりか、と苦笑する。その顔を見て中村は肩をすくめる。

 

「あー、なるほど私と同じですか」

 

「ああ。俺もさくらちゃんから連絡があってドリームシアターに向かうところだった。中村さんは髑髏の男には会わなかったか?」

 

「髑髏の……男ですか?はて、週末ヒーローのスカロマニアさんの事ですかね?いえ、会いませんでした」

 

「いや、スカロマニアでは無く、髑髏の鎧に身を固めた歴戦の騎士のような男が現れて俺に、東へ行け、と言った」

 

 なお、スカロマニアとは髑髏に全身タイツのストリートファイターで、仕事のストレス発散に骸骨のヒーローのコスプレをしてストリートファイトをしているサラリーマンであり、どちらかと言えばコミックスタイルな人物である。

 

 だが、髑髏の騎士もスカロマニアと一緒にされてはたまったものではなかろう。

 

「はぁ、髑髏の騎士、ですか。そちらにも会ってはいません。しかし、リュウさんの表情を見るによほどの方だと推測しますが……」

 

 中村は彼には珍しく少し険しい表情をした。営業サラリーマンである彼は素の人柄もかなりの善人であり、朗らかで明るい人格をしている。また、業種的にもやはり明るく人に対してあまり嫌悪感を見せないが、そんな彼がそのような表情を見せる時は、ただ一つしかない。

 

 人に害を成す悪。それに対してである。

 

 髑髏=悪、と言うわけでは無いが、なにやら嫌な物を感じたようだ。それを感じたのかリュウは言葉を付け足した。なんとなく余計な先入観を持たれてはいけないような気がしたからだ。

 

「あれは善悪を超えた何かだと感じた。ただ、悪意は無かった。あとは……、そう、確か『最初のハサン』と名乗っていた」

 

「ハサン、ですか?ふむ……中東あたりの名前でしょうか?」

 

「わからない。何しろ普通に日本語を話していたからな。中東訛もなく流暢だった。」

 

「まさか、日本語の『破産』という意味では無いでしょうが……」

 

 二人はそれは嫌だ、と同時に思いつつ、長い廊下を進んでいく。廊下の向こうには大きな両開きの扉が見える。

 

 進むにつれてそこから強いプレッシャーが放たれており、また、何か嫌な匂いも漂ってきた。

 

「……中村さん」

 

「ええ。どうやら変身しておいた方がよさそうです」

 

 中村はそう言うと、超変身物質で出来た銀のメダルを取り出した。

 

「銀の力が私を変える……!」

 

 しかし、いつもの名乗りは控える。大声を出して扉の向こうにいるものを刺激しないためである。

 

 リュウは、扉のノブを掴み中村とタイミングを見計らった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 一方、ところは変わってフィニス・カルデアの所長室。

 

 有栖零児と小牟は怒れる目の前の美少女に辟易とさせられていた。

 

「いや、だから査察については日本政府から事前に通達している!俺達もこちらからの承諾を受けて来ているんだ」

 

 零児はフィニス・カルデラのアニムスフィア財団からの返答の手紙の写しと同じくフィニス・カルデラから送られて来た施設立ち入りの為の許可証をオルガマリー・アニムスフィア所長に見せながら、これで何度目になるかわからない説明を言った。

 

「そんなもの私は許可した覚えもありません!!それに日本政府からそんな査察の申し入れも知りませんし、その査察許可証だって、私は発行してません!!」

 

 はぁ、はぁ、はぁ、とオルガマリー所長は肩で息をしながら凄い御面相で怒鳴った。

 

 これもまた何度目になるかわからない。

 

 許可された、許可していない、で互いに平行線である。

 

 そんな不毛な状況に辟易している様子の、オルガマリー所長の側のなんとも締まりのない優男然とした白衣の男が間に立って

 

「まぁまぁまぁまぁ、所長も森羅の方も落ち着いて下さい」

 

 だが、オルガマリー所長の眉が不機嫌な弧を描く。どうやらこの白衣の男が口を挟むことに何かムッとしているようだ。あるいは嫌われているのかも知れない。

 

 その白衣の男は、へらへらしつつ、零児が示した施設への立ち入り許可証を見た。そして自分の胸ポケットにつけている職員証を見比べる。

 

「ふーむ、この許可証のサインは職員証のサインと同じ、所長の筆跡ですねぇ。それも森羅の方が持っているのはこれ、所長の直筆ですよ?印もちゃんとアニムスフィアの印ですし」

 

 そう、彼の胸ポケットにある職員証と査察許可証のサインの筆跡はどちらも同じ癖で書かれていた。

 

「くっ、ですから私は書いてません!というか、ドクターロマニ、あなただって今がどれだけカルデラが大変な時期なのかわかっているでしょう!?もうプロジェクトは始動し始めている!!そんな時に査察なんて受け入れられるわけは無いでしょう!!」

 

「あー、しかし彼らはこうして来てしまってますし。今更帰れ、とか言ってももう現在外は雪上車も出せないほどのブリザードが発生してますし」

 

「くっ……!」

 

 オルガマリー所長はもう、コメカミにバッテンな青筋を浮かべるも、なにも言えなかった。

 

 なにしろ国連の承認によって活動している財団法人が、国連加盟国の日本の査察団……まぁ、二人だけだが……をブリザードの吹き荒れる中に追い出したりすれば、それだけで大問題である。

 

 なにしろこの季節のブリザードは殺人的どころの騒ぎではない。完全に息の根すら凍り付かせて止めるだろう。

 

「ブリザードが止んだら、即刻帰ってもらいますからね!!」

 

 オルガマリー所長は頭をくしゃくしゃくしゃとかきむしると、

 

「ドクターロマニ!二人についてはあなたに任せます!私はそれでなくても忙しいのよ!!」

 

 そう言って部屋を出て行った。

 

「……あー、気象観測の予報ではブリザードは一週間続くという話なのですがねぇ」

 

 はぁぁぁーっ、とドクターロマニと呼ばれた男は、二人に困ったような顔をしてへらへらと笑いながら二人に右手を差し出した。

 

「そちらも大変だと思うけど、まぁ、よろしく。所長はちょっと最近働き詰めでイライラしてるだけなんだ。頑張り屋なんだけど、ちょっと気難しいところがあってね……。私はロマニ・アーキマン。こう見えてここの医局長さ」

 

 零児も苦笑してその手を受ける。握手しながら

 

「何かの研究者に見えた。医師だったのか。俺は有栖零児。こっちは小牟だ」

 

「とりあえずは、君達に部屋を用意するよ。どういう形で君達がウチを査察するかはわからないけど、頼むから所長の逆鱗には触れないようにお願いするよ。宥めるのが大変なんだ、ウチの所長」

 

 茶目っ気たっぷりにドクターロマニはそう言った。

 

 なんだかんだ言っても、この医師はあの所長に対して悪い感情は持っていないようだ。

 

「まぁ、気をつけるが注意点とか危険区域とかは教えておいてくれよ」

 

「……なんだろう、君達にそういうところを教えたらわざわざそっちに行ってしまいそうな気がするんだけど」

 

「大概、人が隠しておきたい所はそういう部分じゃからのう」

 

 にしししし、と小牟が笑いつつドクターロマニをからかう。

 

 所長とのファーストコンタクトは最悪の部類だったが、この医師とはうまくやれそうだと零児は思った。

 

「ま、短い間だが、よろしく頼む」

 

 こうして、零児と小牟はフィニス・カルデアに逗留する事となったわけだが。

 

 その短い間はやがては一年以上の時間となることを零児はまだ知らない。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 さて、場所は変わってここは日本のとある貧乏長屋。

 

 森羅のエージェントがカルデアの査察という任務が下され、そして、オルガマリー所長の知らない間に許可証が発行された原因がここに集っていた。

 

 それはとある超常、いや、頂上の者達の仕業であったりする。

 

 

「……なぁ、キーやん。ほんまにこんなんでええのんか?」

 

 ここら日本の古いボロアパートの一室。Tシャツ姿にカーゴパンツ姿のだらけた格好の男が、ちゃぶ台の向こうにいる、すこしジョニーデップに似た感じの青年に言った。

 

「……はい、本来ならば我々は傍観すべきところなのですが、しかしながら、ある意味今回の件は父さんの不始末から起こったも同然ですので」

 

「はぁ~、というかウチも関わっとるさかいなぁ、正直なとこウチんとこも無視でけへん」

 

 二人は溜め息を「「はぁぁぁぁぁっ」」と吐きつつ顔をちゃぶ台に向けてうなだれた。

 

「とはいえ、神界も魔界もどちらももう介入は出来ません。もうすでにこの世界は人の歩むところ、新約とはそういう事ですから……」

 

「それやねん。そこが辛いとこやねん。出向いて行って、バチコーン!と一発キツいお仕置きでけたら話は早いんやけんどな……」

 

「まぁ……今はせいぜいがライトスタッフが集まるように御膳立てするぐらいしか出来ませんし」

 

「……まぁ、ウチからはあの坊んに縁のある魔族の部下を送るつもりやけど、そんぐらいは……ええやろ?」

 

「ええ。こちらからは小竜姫達と孫悟空さんを。……まぁ、本当は天使達を送りたいところですがそうは行きませんので……ウリエルとか」

 

「……まぁ、自重せんとそれこそ世界のバランスが崩れてまうからなぁ。取り合えずはお互いやれる範囲でやれることをやってやろなぁ」

 

「はい、では、そろそろこの密会に使っているここも引き払いましょう。以後はホットラインで」

 

 二人の聖と魔はそう言うと、消えた。

 

 あたかもそこに最初からなにもいなかったかのように。

 

 

 





 キーやんとサーちゃんは、GSのキャラ(?)ですな。

 ちょろっと、三蔵ちゃんと悟空のじいさんが再開するフラグが。そこまで続くかわかりませんけど。

 

 


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プロローグ⑥~マスター・横島。

 横島クンがマスター(仮)になっちゃったよ?!


  

 横島とかりんが冬木ドリームシアターの劇場に着いたときには、怪人は舞台の真ん中で正座させられ、女の子達に囲まれてなんとも見るからに哀れな感じになっていた。

 

 横島は一瞬、怪人の格好からドクターカオスか?などとも思ったが、全くの他人であり、また、ドクターカオスよりも若くみえた。

 

 横島は念の為、霊視ゴーグルのセンサーで怪人の霊波を測定して、愕然とした。

 

 ゴーグルの解析結果によれば、怪人が放っている霊波は、亡霊とも妖怪のものとも明らかに違っていた。霊気の強さは霊格的に強く、どちらかと言えば神霊寄りの強さを持っており、さらには肉体まで持っていると出ている。数値だけ見るに、魔族のワルキューレとほぼ同等の数値が出ていた。

 

 つまりはもし、女の子達に囲まれて正座しながら何かうなだれている怪人が敵対行動を起こしたり、暴れていたならば今の横島でも周りに被害を出さずに退治するのはほぼ不可能な相手だと言えた。

 

(……何があったかはわからないけど、なんとか説得してバトル無しの方向で解決しよう)

 

 横島はそう思いつつ、内心冷や汗をかきながら、舞台の方へと早足で近づいていった。

 

 近付くにつれ、霊視ゴーグルが怪人の霊波とは違った、別の霊波を幾つか拾って表示した。

 

(あれ?なんか別の霊波も検出している?)

 

 見れば、スポーツウェアにトレーニング用のぴっちりしたスパッツを履いた猫耳をつけた、ちちしりふとももボンキュッボンなおねーさんから、人間ではない霊波、つまり妖怪の霊波を放っているのが見えた。

 

(え?あれって確かミュージカルスターの、フェリシアだよな?!)

 

 フェリシアから検出された数値もかなりのものだった。妖怪として見ても美神GS事務所の居候のタマモやシロよりも上の数値である。

 

 驚く横島に、その後ろにいるかりんが、

 

「横島さん、フェリシアさんは敵ではありませんわ。彼女は実はキャットウーマンなのです」

 

「猫の妖怪か。……俺も一度遭遇したことがある。まぁ、普通に付き合えば友好的なのは知ってるけど……」

 

 昔、横島は猫の妖怪の母子を助けた事がある。

 

 とは言え、そのせいで美神令子に逆らって戦う羽目になり、結果として猫の妖怪母子は助けられたが、依頼を失敗した美神令子にその後酷い折檻を受けたという。

 

(あの坊主、元気にしてっかなぁ……っと、今は仕事だ)

 

 観客席から舞台の方へとようやくたどり着き、よいしょっと壇上にあがる。

 

「……とはいえ、この状況は一体何があったんだ?」

 

 しくしくしくしく、と怪人は嘆き、女の子達は困ったように「えーと……」と首を傾げた。

 

 怪人の方を見ればその顔に被っていた仮面の一部にヒビが入っており、おそらくは女の子達の誰かにどつかれたか何かしたのだろう。

 

 霊格を見れば、キャットウーマンのフェリシアが攻撃したのではないか、と横島は思ってそちらを見るが、フェリシアの格好はなんというか目の毒というか目の春でありスタイル抜群、引き締まっているところは引き締まって、しかし、ちちしりふとももどーんどーんどーん。しかもスポーツウェアにスパッツで身体のラインがもう、大変けっこうな感じで、汗で張り付いちゃって……。

 

「フェリシアさん!僕ぁもう、僕ぁもうっ!!アイラビューっ!!」

 

 横島は本能的にフェリシアに抱きつこうとして、しかしいち早く後ろから横島の襟首を掴んだ、かりんによって阻止され、そしてそのまま舞台の床に投げを食らって叩きつけられた。

 

「ふげぇっ?!」

 

 ビターン!!あたかもカエルのごとし。

 

「横島さん?あなたは一体ここに何をしに来たのです?というか怪異を前にしてナンパとは……」

 

 ギリギリギリ。襟首を怒れるかりんに締め上げられ、

 

「堪忍や~っ、堪忍なんやぁ~っ、あんなん見せつけられたら仕方ないんやぁ~っ!!」

 

「真面目におやりなさいっ!!」

 

 ドゴン!

 

 頭に一撃食らい、横島はぶっ倒れた。

 

「……しかたないんやぁ……」

 

 ガクッ。

 

 だが、そんな横島に駆け寄り、手を差し伸べた者がいた。

 

「ああっ、なんと乱暴な。君は穢れ無き愛を歌っただけだと言うのに……!」

 

 怪人であった。

 

「……怪人?」

 

「ああ、そうとも。愛を歌う者よ。君は間違ってはいないのだ!」

 

 怪人の手を取り、横島は立ち上がり

 

「俺は……間違ってない?」

 

「そうとも!愛は力、愛は希望!そう、この世の光、そして希望!愛を歌う気持ちに間違いは無い!」

 

「か、怪人……!」

 

「君よ!!」

 

 ひしっ!と横島と怪人は抱き合った。

 

 非常に奇妙と言うよりもシュールであった。

 

「あはは、かりん~、これナニ?」

 

 フェリシアは二人を指差してケタケタ笑い、かりんは手を額にやって溜め息を吐き、天野蒼奈ことアマゾーナは変態を見るような冷たい目で二人を見、そしてワンダーモモこと神田桃は目をキラキラと輝かせて、

 

「……友情っ、素晴らしいです!」

 

 と、喜んでいた。

 

「えーと、一体何があったの?」

 

 シアターの売店でみんなに差し入れのジュースを買いに行っていたさくらが戻って来て、舞台の上の状況を見て首を傾げた。

 

 

 

 

「ファントム・オブ・ジ・オペラ……。ではあなたはオペラ座の怪人ですの?」

 

 ようやくごたごたというか、脱線していた状況から話が出来るようになり、神月かりんが主となって話を進めた。

 

 横島に任せていては話が進まないと思ったからだ。かりんは横島がGSとしては有能だが、女の子絡みだと単なる高機動な変態になることを知っていた。

 

 怪人は、自らをアサシンと言い、そして名を名乗った。

 

「そう、それが我が真名。我は……かつてパリのオペラ座の地下に潜みしエリックという男の残滓。無辜の英霊という形でこの地に現界したが……。ふむ、何故か我が狂気が抑えられているな。歌わずに普通に話が出来るとは……ありがたい」

 

「英霊?」

 

「本来ならば英霊は何者かによって召喚され、召喚した者と契約し、主従関係を結び、使役されるようになっている。その際に、召喚したものをマスター、使役される英霊をサーヴァントと呼ぶ……」

 

「つまり、あんたは誰かに召喚された、と?」

 

 横島がファントムを霊視ゴーグル越しに見て、霊波を再び計測しつつ言った。無論それもファントムに承諾を取ってやっているが、それだけではなく、舞台の上のあちこちを見て、霊波の残滓も記録しているようだ。

 

「いや、それがおかしいのだ。普通ならば召喚陣で呼び出され『問おう、汝が我のマスターか?』などと呼び出したマスターに問いかけて契約を結ぶものなのだが、出て来たらこの劇場の地下で召喚陣も無く、マスターもいなかった。そもそも、召喚されるというのは英霊にとって一つの見せ場。そう、たとえるならば社交界に初めて出場するデビュタントのようなもの!カッコいいセリフでマスターに印象付けてなんぼなのに!!初めての現界がそんな惨めなもので我はもう、地下に引きこもっていようと思っていたのだ……」

 

 かっくり、と怪人ことファントムはうなだれた。どうやら彼は今回が初めての召喚だったらしい。

 

「……そう、せっかく「我が顔を見る者は恐怖を知ることになるだろう……お前も」とか相応しいのを考えていたのに……」

 

 どうやらファントムは英霊として召喚されるのはこれが初めてだったらしい。

 

「まぁまぁ、気を落とさずに。でも、地下に引きこもっていたはずなのにどうして出て来たんですの?」

 

 かりんが再び聞く。

 

「……歌が聞こえてきたからだ。そう、ミュージカルと言ったか?オペラとはまた違うが、懐かしい声が、そう、クリスティーヌの声が」

 

 ファントムはアマゾーナの方を愛おしげな目で見た。

 

 だが、アマゾーナは、

 

「うわっ?!」

 

 と後ずさりして、嫌そうな顔をした。どうやらアマゾーナはファントムの事が苦手のようである。

 

「……ああ、愛とはなんだろう、少年よ」

 

 横島にそう言うとまたファントムはかっくりと頭を垂れて落ち込んだ。

 

「まぁまぁ、ドンマイ!つまり、えーとアマゾーナちゃんの声がクリスティーヌって人に良く似ていた、と?」

 

「……クリスティーヌはクリスティーヌだ。代わりなど居ない。そう、私には解る。姿は変わっても、だ」

 

 ギロリ、とファントムの目に剣呑な光が宿り、横島は慌てた。

 

 ファントムは英霊と名乗ったが、しかし霊には違いあるまい。そう、霊の類には生前に執着したものを求め続けるという、そういう厄介なタイプの者もあり、そういうケースの霊は駆除する時には往々にして非常に厄介な事が多い。特に暴走したときは周りに及ぼす被害も大きいのだ。

 

 故に横島はファントムに話を合わせた。

 

「……あー、まぁ、そういう事なんだな、なるほど!」

 

 おそらくは、ファントムは生前に愛したクリスティーヌという女性に執着していたのだろう。そしてアマゾーナをそのクリスティーヌだと思っているのだ。

 

 もし否定してこのファントムが暴走したならば、かなりの被害が出るだろうことは間違いない。

 

「わかってくれたかね?少年よ。君とはなかなかに話が合う。まるで長い年月を経た友のようだ」

 

 にっこりとファントムは笑う。横島はなんとなく微妙な表情である。

 

「……ですがわからない事がありますわ、ファントム。あなたはこのアマゾーナさんの声に惹かれて出て来たのですわね?ですが、ミュージカルの稽古は本日から。では、数日前にこの舞台でウチの警備員が襲われた時、あなたはどこにいたのです?」

 

「……ふむ、私がこちらに来たのは昨日の夜。しかし、数日前ならば我はまだ『英霊の座』に刻まれていた。いや、わかりやすく言えばまだ来ていない、というべきか」

 

「……やはり、か」

 

 横島はわかっていたように言った。

 

「やはり、ですわね」

 

 かりんも頷く。

 

 横島はこの舞台を先ほどから霊視ゴーグルで見ていたのだが、舞台にいくつかの強い霊波の痕跡が残されており、そのうちの一つがファントムの物、そしてもう一つがフェリシアの物、そして、最後にやはり大きな霊波の痕跡が残されていたが、それはファントムの物ともフェリシアの物とも違う霊波であり、しかも強い波動値を示していたのである。

 

 かりんもこのファントムが警備員を襲ったとは考えて居なかった。

 

 彼女は小説『オペラ座の怪人』を読んだ事があり、また、小説の元となったパリのオペラ座の事件も知っていたのである。

 

 ファントムが人に危害を本当に及ぼしたのは、全て彼が愛した女性、小説ではクリスティーヌ・ダーエという女性の為であり、つまりはクリスティーヌが現れてからなのである。

 

 そう考えると、彼が警備員を襲ったというのは非常に辻褄が合わないのである。

 

 なにしろ彼がクリスティーヌだと思っているアマゾーナがミュージカルの稽古だとは言え、この舞台に上がったのは今日からなのだ。

 

 つまり、彼が犯人だとは思えなかったのである。

 

 横島は現場検証による証拠によって、かりんは推理によってそれぞれが違う方向から検証して同じ答えを導き出したわけである。

 

「ええっと、何がやはり、なの??」

 

 さっきから置いてきぼりなさくらが二人に聞いた。

 

「さっき計測したんだが、ファントムの霊波はどれも真新しいのしか残って無かったけど、一つだけ少し前の霊波がそこの真ん中にこびりついてた。ちょうどそこが警備員が襲われた所だ。だけど、ファントムの霊波とは違う別の霊波だった」

 

「それに、昔に起こったパリでのオペラ座での一連の事件も、クリスティーヌ嬢がファントムと出逢った後に起こっていますわ。つまり、ファントムとクリスティーヌ、つまり彼とアマゾーナが出逢ったのは先ほど。まぁ……彼がこれから殺人事件を仕出かすのは勘弁して欲しいですけれど」

 

「……ふむ、つまり私の容疑は晴れた、と?」

 

「数日前の事件のはね。しかし、霊波の残滓はそこのパイプオルガンの向こうにまで続いてるけど、ファントム、あんたはその霊波の持ち主は見てないのか?」

 

「不快な気配の跡はあったが、今はもぬけの殻だ。持ち主はわからないが、正体はわかる。犯人は私と同じ、英霊だろう。すなわちサーヴァント、私の本来の敵だろう」

 

 ファントムは手の鉤爪をカチャカチャ鳴らしつつそして、

 

「よろしい。幸いながら私はアサシンのクラスでね……。探索は得意なのだよ。協力しよう、少年。幸い君と私はなかなかに相性が良いようだ……」

 

 と言い、ファントムは横島の手を取った。

 

「仮だが契約だ……。汝を我がマスターとして認めよう。『……我が顔を見る者は恐怖を知ることになるだろう……お前も』」

 

 横島はそうしてファントムのマスターとなってしまったのであった。

 




 ちちしりふとももーっ!!ちちしりふとももーっ!!

 まぁ、フェリシアのナイスバディはやはり横島もたまらんわけで。

 やはり妖物に好かれやすい性質の横島。ファントムにも好かれたようです。

 


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プロローグ⑦~ドクター・カオス。あとロマニ。

 やはり、ドクター・カオスとマリアははずせません。

 あと、なんか横島ばかり目立って、肝心のクロスの主人公達も本来の主人公もまーったく目立たないという。

 やっとこ立香ちゃん登場です。


 ヨーロッパの古びた屋敷。

 

 かつて『ヨーロッパの魔王』、『天才錬金術師』と呼ばれたドクター・カオスだが、その頭脳はもはや1000を過ぎて認知症を発症し、そこで人造人間のマリアに介護され、療養しながら日々を過ごしていた。

 

 とはいえ、彼の認知症は通常の認知症ではない。

 

 天才錬金術の彼、ドクター・カオスは300歳の時点で彼は自らの脳を秘薬や錬金術の秘法などで100%使えるようにしてしまったのだが、その年齢が1000歳を超えた時点で、脳の記憶容量の限界を超えてしまったため、物覚えが悪く新しいことを覚えると、ところてん式に昔のことを忘れてしまうようになってしまった。

 

 通常の認知症は脳神経の老化や空洞化や変質によって起こるが、ドクター・カオスの場合、脳そのものの異常では無く、脳の記憶容量の限界によるものである。

 

 では、その記憶領域をなんとかして増やせたならば、と彼は自分の病に立ち向かう為にヨーロッパのかつての彼の隠れ家に戻り、療養しながらも治療薬の研究をしていたのであった。

 

 たとえ認知症になっていても彼は天才錬金術師である。記憶が抜け落ちても、その知能、才能は衰えてはいない。

 

 彼は自分の助手であるマリアにその研究を映像記録として逐次残させて、忘れたらそれを見、思い出したら続きを行うといった方法で記憶の欠損を補い、日常生活動作以外の事を極力しないようにしつつ、地道で過酷な研究を続けていたのだ。

 

 だが、その彼の療養生活も終わりを告げる時が来た。

 

「ふふ、ふはははは、出来た。完成じゃ!」

 

 ドクター・カオスはフラスコを振り、中の薄紫色がかった透明な水薬『記憶容量倍増薬』を見て、にやりと笑う。

 

「くくくくく、これさえあれば、ワシの脳みその記憶は最適化され記憶容量は倍増する。マリア、再びワシはかつての『ヨーロッパの魔王』として復活する!!」

 

「イエス・ドクター・カオス!」

 

 彼の創造物の中でも最高傑作であり、そして最高の助手、最高の相棒である人造人間のマリアが答える。

 

「本当に、お前には今まで苦労かけたなぁ」

 

「いいえ、ドクター・カオス。それは言わない・約束です」

 

 彼女は実に健気である。

 

「くぅぅっ、すまんなぁ本当に感謝しとるぞ、マリア。じゃが、それもこれまでの話!復活の暁には、もう苦労はさせん!!さぁ、ドクター・カオス復活の時じゃ!!」

 

 ドクター・カオスはフラスコに口を付けると、一気に飲み干した。

 

「ドクター・カオス?」

 

 何故かマリアがドクター・カオスを止めようと動いたが

 

 ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ぷはーっ!!

 

 時すでに遅し。もうドクター・カオスは薬を飲み干してしまった。

 

「ふはははははは、これで!」

 

 喜色満面のドクター・カオスだが、マリアは少し落ち込んだように見えた。何故、マリアはドクター・カオスが水薬を飲むのを止めようとしたのか。

 

「ドクター・カオス!」

 

「あん?なんじゃ?」

 

「……記憶容量倍増薬は・頭に・掛ける薬だと前に言ってましたが?」

 

 マリアは、ドクター・カオスが薬の成分や使用法を忘れた時の為に自分で調剤用のデスクの真ん前に貼り付けていたメモを指差した。

 

 そう、つまり『記憶容量倍増薬』は頭皮から浸透させる薬品だったのだ。

 

「………なんじゃと?!」

 

 ドクター・カオスはマリアの人差し指の方のメモに顔を突き出して読もうとしたが。

 

「老眼でよく読めん!誰だこんな細かい文字で書いたやつは!」

 

 カオス本人である。

 

 もうドクター・カオスは先ほどまでの記憶をすぐに忘れてしまうほどにその認知症を悪化させており、メモを残す事で自分にメッセージを残すのを習慣としていたのだが、近頃では何を書いていたのかすら忘れる事があり、急いで書くため、早く書き留めるようになったのだがその為に往々にして文字も小さくなっていた。

 

 さらに彼は認知症のせいですぐにメモを読む事すらも忘れてしまって、また老眼で細かい文字が読みにくくなっていたのである。

 

 哀れなりドクター・カオス。

 

「ドクター・カオスは・胃液の酸で・薬品の成分の効果が・半減すると・仰ってました」

 

 マリアの声には悲しみと憐れみの色があった。ドクター・カオスは老眼鏡を掛けてメモを読んで、自分が失敗したことを知った。確かに胃液の酵素が成分の一部を中和して効かなくなる、とある。

 

「……ごほん!あ~、こんな失敗はいつもの事じゃ、マリア。後でこのメモを拡大コピーしてまた貼り付けておいてくれ。それにこのメモがあれば薬の成分を忘れてもまた作れるんじゃ、また忘れるだろうからワシに教えてくれ。ん……?いや、この成分じゃと、頭に掛けなくても効くはずじゃ。はて?いや……」

 

「ドクター・カオス?どう・しましたか?」

 

「……マリアや、半分ほどは成功じゃ。確かに頭に掛けねば100%の効き目は無い。確かに胃に入ると消化液で成分の効き目は落ちるが完全に効かんわけでは無いようじゃ。ふむ、ふむふむ!おおっ、頭がすっきりしとる!」

 

 ドクター・カオスは懐から電卓を取り出し、

 

「胃液のペーハーがぁ、こんだけだから、薬の成分の変質がこうでー、と、そいでもってこうなって……」

 

 だいたいの効き目を計算しだし、ふむふむ、と唸る。

 

「……正しくは約20%の効き目じゃな。計算器使っててもいつもは変な操作して間違うのが、今はまーったくそれがない。うむ、つーか、計算器などまだるっこしい!暗算で一瞬で追計算しても同じ値がでるわい!おおっ、記憶容量がちょっと増えただけでこれか!!」

 

「ドクター・カオス、おめでとう・ございます」

 

「いいや、まだ終わりではないぞ、マリア!そう、今ならば完全な記憶容量倍増薬、いや、それよりもさらに効果のある薬を作り出せるじゃろう!よしっ、早速材料を集めに行こうではないか!行くぞ、マリアよ!!」

 

「イエス・ドクター・カオス!」

 

 そうして、認知症がある程度治ったドクター・カオスとマリアの二人は館の研究室のドアから元気に出て行った。

 

……そこに、サーちゃん、つまり魔族側の最高権力者による巧妙に貼られた転移門が有るなど、神でも悪魔でも無い彼らが気付く訳も無く。

 

 あっさりと冬木へと転移して行った。

  

 哀れなり、ドクター・カオス。彼の認知症の全快は当分先のようである。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 

 

 

 

 さて、ところは南極はカルデア。

 

 有栖零児と小牟の二人はドクター・ロマニの案内でとりあえず宿泊するための部屋へと案内された。

 

「はぁ、私の休憩(サボり)ルームだったんだけどね。まぁ、君達の世話を仰せつかったんだし、まぁ、遊びに行ってもいいだろう?」

 

「うむ、ゲーム機持参で来るが良い!ついでに茶菓子もな!」

 

「仕事をサボる口実に俺達を使うな。あと小牟。後で尻叩き100発な」

 

「そ、そうは言うがな、零児ぃ、ワシとてここの研究の邪魔は極力したくないと思ってだな?ショチョさんのあの剣幕、相当なものじゃったし?」

 

「研究所の職員と遊ぶ、人、それを邪魔という!」

 

「あはは、君達は本当、仲が良いんだねぇ。っと、ここが君達の部屋だよ……っと?」

 

 ドクター・ロマニがカードキーを使って部屋のドアを開けると、そこにはカルデアの制服を来た少女と白衣の少女が居た。

 

 カルデアの制服を来た少女は東洋系の顔立ちをしており、赤茶色の髪をサイドテールにしており、どことなくあどけない。

 

 白衣の少女の方は白衣を除けばまんまどこかの学生のような格好をしており、メガネを掛けてシャツにネクタイ、セーターに、というような文学少女のような雰囲気である。人種はおそらくは白系であるという事しかわからないが、やや色素の少ない髪は薄い桜色か紫に見える。

 

「ドクター・ロマニ?」

 

 白衣の少女は少し目を見開いて部屋を開けたロマニを見て驚いたような表情をしている。

 

「やぁ、マシュ。ええっと、どうしてこの部屋に?」

 

「いえ、先輩がファーストミッションを外されたので部屋に案内していた所です」

 

「先輩?」

 

「はい、先輩です」

 

「あ、一般枠の最後に来た子かぁ……。状況はなんとなくわかったよ。つまりその子は所長のカミナリを受けてファーストミッションから外されたってところだろ?というか、あー、そうなると困ったなぁ」

 

 ロマニは頭をポリポリ掻いた。

 

「ええと……そちらの方達は?」

 

「日本から来た査察の方達だよ。開いてる部屋に泊まってもらおうと適当に連れて来たんだが……」

 

「おい、今テキトーとかこのゆるふわ男、言ったぞ零児?!」

 

「まぁ、そんな事だろうと思った。つまりこの子の部屋になってしまったわけだな?」

 

「まぁ、ドクター・ロマニのする事ですから」

 

 マシュと呼ばれた少女は苦笑しながらそう言い、零児は、ここの職員の皆にそんな感じで認知されてるんだこの男は、と思った。

 

「ええっと、そうなると私はどうなるの?」

 

 サイドテールの少女は少し不安そうにしたが、しかしロマニは、あはははは、と笑って、

 

「いや、普通に他にも部屋あるしね?隣の部屋も空き部屋だから……って、君の肩に乗っかってるのって、もしかして噂の怪生物?うわぁ、初めて見た?!」

 

 ロマニはサイドテールの少女の肩に乗っているリスのような、猫のようなモフモフの生き物を見て驚いた。

 

「……フォウさんです」

 

 マシュがにこにこしつつ、その生き物の名前を紹介した。

 

「うーむ、本当にいたんだねぇ。……どれ、ちょっと手なづけてみるかな。はい、お手。うまくできたらお菓子をあげるぞ?」

 

 にこにこ顔でロマニはフォウさんなる生物に手を出した。

 

「なんかワシらほったらかしじゃのう。つかこの男、マイペース過ぎるじゃろ」

 

 小牟が呆れ顔で言うがロマニは全く動じず、ほーらお手、などとやっている。

 

「…………フゥ」

 

 しかしフォウさんは知性を感じさせるような、哀れなものを見るような目でロマニを無視した。

 

「…………小動物に哀れまれるとはのう」

 

「差し出した手のこのやる方の無さ、ええっと、おーい、お菓子いらない?」

 

「……(ぷいっ)」

 

 フォウさんは思い切りそっぽを向いた。

 

「た、多分、フォウさんの機嫌が悪かったんですよ、きっと」

 

 マシュがなんとかフォローしようとロマニを宥める。

 

「いや、小動物にかまけてる場合か?」

 

 零児はこの脱線だらけの状況を修正するために口を挟んだ。

 

「話を戻そう。今の現状は俺達の部屋はここの隣と言うことなんだな?ドクター・ロマニ」

 

「まぁ、そうなるね。ただカードキーは管理室だからまた取りに行かなきゃいけない。めんどうだけど仕方ない!」

 

「面倒言うな。つかとっとと取りに行けぃ!あと、最上級のホテル並の部屋を要求するっ!!」

 

「いや、無茶言うな。……まぁ、寝泊まり出来るだけで良いんだ」

 

「あー、カードキーを持ってくるまで、それまではここにいて欲しいな。動き回られると探すの面倒だし。えーと、良いかな、っと、まだ先輩くんの名前を聞いてなかったね?私はロマニ・アーキマン。医療部門のトップだよ。何故かみんなからはDr.ロマンと略されていてね。理由は分からないけど言いやすいし君も遠慮なくロマンと呼んでくれて良いとも。実際ロマンって響きはいいよね……」

 

 どうもこのロマニという男はやたらと思考が飛び飛びになる癖があるようで、すぐに話を脱線させる。

 

 それに小牟が苛立ち、

 

「ええい、とっととカードキーを取りに行かんかっ!!フリーダムなのか?!自由君なのかっ!?」

 

 と、バチコーン!!とドクター・ロマニの尻を叩いた。

 

「痛ったぁっ?!何をするんだ君はっ?!というか今日初対面なのに尻を叩くなんてっ?!叩いたね!親にも叩かれたこと無い……訳ではないけどっ!!」

 

「叩いて何が悪い!とっとと行かぬかっ、話が続かんではないかっ!」

 

 ひぃぃっ!とロマニは逃げるようにして小牟から飛び離れると、小走りに部屋のドアへ向かって出て行こうとした。

 

 その後ろから、サイドテールの少女が、

 

「ええっと私、藤丸立香と言います、ロマンさん!」

 

 と、声を掛けた。それにロマンは手を上げつつ、隣のカードキーを取りに駆けていった。

 

「……まぁ、悪い男では、無いな」

 

「そうじゃな。ああいう男は大抵は実は全ての黒幕だった!とかそういうケースが多いんじゃが、あれはただの天然じゃ」

 

「ええっと?あの、私、マシュ・キリエライトと言います。あの、任務があるので私はもう行かなければなりません。すみませんが、先輩、後はよろしくお願いします」

 

「あ、行ってらっしゃい!気をつけてね!」

 

「はい!先輩!」

 

 マシュが部屋を退出していった。どうやら急いでいるようだ。

 

 ロマニとマシュが部屋から出て行って、残りは三人となった。

 

「ふむ、すまないな。俺達は日本の森羅のエージェントだ。俺は有栖零児。こっちは小牟だ」

 

「よろしくのう、ええっと藤丸……立香、じゃったか?お隣じゃのう」

 

「はい、藤丸立香です。ええっと森羅というと、情け無用の赤ジャケット、逆らう者には打ち首獄門、のあの?」

 

「フォウ?!」

 

「おい、零児、なんじゃろう、ワシ等巷じゃそんなJ9な連中だと思われとるんか?つかこの小動物、なんかえらいビビっとるんじゃが?」

 

「……全くの誤解だ。俺達は霊的な害意に対しての特務機関だ。言ってみればゴーストスイーパーの公的機関版、もしくは怪異に対する警察官、か?そういうものだ。一応、俺達はこう見えても日本の公務員だからな?」

 

 どうも、以前の事件(ナムコクロスカプコン)以来、なにかやたらと一般人にも森羅という組織は有名となってしまったが、しかしどういうわけか話に尾鰭葉鰭がどんどんついてしまったようで、人斬り集団とかジェノサイド機関のようなイメージを持たれてしまっているようだ。

 

 実際は全く違うのだが。

 

「……公務員ですか。日本の。……はぁ、良いなぁ、公務員。給料安いとか言いながら、普通のサラリーマンより良いし、ボーナスは良いし。私なんて就職活動頑張っても内定取れずに派遣社員でブラック過ぎる仕事ばっかりで……。ようやく条件の良い仕事にスカウトされて給料に釣られて契約したら、いきなりヘリに連れ込まれて、なんかめちゃくちゃ厳しい環境の雪山に連れて来られて私、こんな感じですよ、ええ」

 

 ……どうやら立香はまだ若いのにいろいろと苦労してきたようだ。

 

「……公務員舐めとるんかこの小娘は、とか言いたくもあるが、なんじゃろう、現代社会の闇を背負っとる感たっぷりじゃな、この娘は」

 

「俺達は普通の公務員とはかなり違うが……。まぁ、雪山にあるとは言え、ざっとみた感じではこの機関の建物も職場環境は悪くは無いと思うがな。まぁ、ブラックだったら俺達がいる間に言え。国連に報告しておいてやるから」

 

「はい……お願いします」

 

 立香は頭を軽く下げた。と、

 

「ちょっとちょっと!物騒な事を言わないでくれよ?!というかどういう話になったらこのカルデアがブラック企業に?!」

 

 ロマニが息を切らせて帰ってきた。

 

「あ、戻って来おったわ、ゆるふわ天然男が」

 

「まぁ、世の中の辛酸を舐めた若者の闇を見たところだが、ドクター・ロマニのような医者がいられるような職場だ。ブラックというのは無いだろうな」

 

 零児は立香に笑ってそう言った。

 




 ドクター・カオス参戦。

 あと、なんかロマニが単なるゆるふわ天然男になって行っているような……。


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プロローグ⑧~バゼットさん巻き込まれる。

バゼットさんは……良いよね。

このバゼットさんは愉悦神父とは接触しておらず、またランサーも召喚していません。

故に左腕も健在です。


 バゼット・フラガ・マクレミッツは魔術協会のエージェント、封印指定執行者である。

 

 彼女は第五次聖杯大戦に際して魔術協会側から派遣され冬木市へとやって来ていたのだが……。

 

「どうして聖堂教会の監督者も魔術師も誰もいないのっ?!」

 

 そう、聖杯戦争のせの字すら無いかのように、聖杯戦争の参加者が冬木には居なかったのである。

 

 また、最初に任務の協力を頼もうと思っていた聖堂教会側の監督者、言峰神父も教会には居ないどころか、その教会には誰かが居たような形跡も無く、生活していた痕跡も無い無人の空き家であった。

 

 これはおかしいと思ったバゼットは次に間桐家を調査したが、やはり誰も住んでは居ない廃屋になっていた。

 

 彼女は何らかの魔術的な隠蔽か、それとも聖杯戦争を妨害する何者かの手によって参加者達が人知れず始末されたのか、と考えたが、しかしそのような真似が出来るような魔術師などあり得るはずが無い、とその考えを否定した。

 

 なにしろ 間桐家も遠坂家も、そしてアインツベルン家も古くからある魔術の家系であり、たとえ強大な力を持っている魔術師相手であってもただではすまないだろうし、それに監督者である言峰神父まで居なくなると言うのもおかしい。

 

 魔術協会にその旨を報告したが、協会の対応はこうであった。

 

『徹底的に調査せよ』

 

 明らかに異変、明らかに異常事態であるというのに、増援も支援も無く、いつものように単独でこき使われる。それが魔法協会の対応だった。

 

 普通の諜報機関だったなら最低でもバディぐらいは組ませてくれる筈だし、現地でのバックアップ要員などはやはり当然あるだろうが、魔術協会における彼女への評価故にそれも無かった。

 

……評価が高いか低いかは推して知るべし。

 

 故に彼女は、現在も調査中であり、そして今、アインツベルンの森と呼ばれる最後の調査地点の中心、アインツベルン城に居るわけだが……。

 

 彼女はそこで、神父的な人物には会うことが出来たのだが、しかしそれはどう見ても言峰神父ではなく、かつて『野獣神父』と呼ばれたルチャ・ドーラー、つまり格闘技の世界で有名なキングであった。

 

「……いや、『野獣神父』と呼ばれていたのは初代で、私は神父じゃない。孤児院の経営はしているしクリスチャンなのはそうなのだが」

 

「あ、そうなんですか?」

 

 バゼットは最初、そのジャガーのマスクを見て南米系のジャガーマン、つまりテスカトリポカなどを奉じる魔術師の一派かとも思ったが、

 

「いや、これは単なるマスクだ」

 

 と、冷静に言われた。キングは世界的に有名なルチャドーラーであるのでバゼットも知ってはいたが、本人に会うことになるとは思っていなかったのである。

 

 もちろん、彼は聖堂教会の関係では無いし聖杯戦争など全く関係のない人物であるのは間違いなく、しかしながら、彼とある意味、協力関係を結べたというのは幸運だった、と言えるかも知れない。

 

 先ほど、この城でいきなり三体の殺人機械人形に襲われたのだが、彼は獣の如く吠えて戦闘し……いや、もちろんバゼットも戦闘には加わったが、バゼットが一体倒しているうちに彼は残りの二体を易々と倒す、というよりはぶち壊していた。

 

 普通ならばたとえ格闘家だとしてもいきなりあんな怪物じみたものにすぐに対応など出来はしないはずなのだが、彼の反応は早かった。というか、普通の人間が魔術回路を搭載していると思われる機械人形に攻撃出来るのがおかしいわけなのだが、彼は、

 

「……以前も巻き込まれた。ああいうのは慣れている。不本意ながらな」

 

 と、溜め息混じりに言った。一体彼の過去に何があったというのか。

 

 それに、この城でであったのはキングだけではない。

 

 魔術師らしき人物にようやく接触出来たと思えば、全く聖杯戦争とは関係のない人物であった。

 

 ドクター・カオスとその助手マリアである。

 

 彼らはバゼットとキングの戦闘している音を聞きつけて押っ取り刀でやって来たわけであるが、はっきり言って彼らも全く聖杯戦争には関係が無い。というか聖杯戦争に関しては知ってはいたが、下らないの一言で関与したくないと言った。

 

「だいたいじゃな、第二次世界大戦前にドイツがじゃ、その手のモンに手を出してどうなったか知らんわけでもあるまいに!汚染されてろくでもない事になった、ちゅーオチだったではないか。全く!」

 

 ドクター・カオスとマリアは魔術協会にもどこにも属さないフリーランスの錬金術師であり、また認知症を患ってからは『無害』指定されているが、今の彼からはそのような様子は無く、認知症など患っていないように見える。それどころか頭脳明晰である。

  

 今も彼はバゼットとキングが破壊した機械人形の分析をしているが、何というか彼はかなり不機嫌な様子であり、先ほどからぶつくさぶつくさと文句を言っている。

 

「……この悪趣味なオート・マタはなんじゃ!悪意しか感じられん!!おい、嬢ちゃん、あんたらの敵は何なのじゃ?!」

 

「はぁ、敵というか襲撃者については私にも皆目見当がつかないですが……悪趣味?」

 

 バゼットはドクター・カオスの言った意味がよく分からなかった。

 

 たしかにこの機械人形は彼、ドクター・カオスが全盛期にその技術の粋を集めて作り上げた人造人間マリアに比べればおそらくはスペックや性能的に一段も二段も落ちるだろうが、しかしその様式はわりと芸術的とも言える感じであり、不気味ではあるものの悪趣味とは思えなかった。

 

 故にバゼットはドクター・カオスがバラしている機械人形の方を見てみて、そしてかなり後悔した。

 

「うげっ?!」

 

 そこにあったのは、人形の中に納められている人の死体。顔のマスクの中身は皮膚を剥がされた人の頭部である。さらには脳みそが露出しており、その脳みそには様々な電極が刺されている。身体の方も肋骨の中に肺や心臓だけが最低限に生きられる、いや、駆動するためだけに残されているような状態だった。

 

「普通ならばこんな事をされれば、改造される前に死んでおるじゃろに、『死ねないように』何らかの魔術的な処置をされ、生きながらにこの人形に組み込まれておる。それも、人などパーツとして組み込むより全て機械で作った方が手間要らずじゃろうに、わざとこのような事をしとる。これを作った物はよほど狂った美学を持っとるじゃろう。吐き気がするわい!」

 

 ビクトル・フランケンシュタインを見習えぃ!などとと言ってドクター・カオスは憤慨したが、しかし人形にされた被害者の遺体が哀れに思えたのか、バラした装甲とマスクを戻してやり、両手を合わせてナンマンダーと拝んだ。

 

「……ただの機械人形だと思ってましたが、こんな……」

 

「おお、神よ……!!」

 

 バゼットとキングも黙祷した。

 

「……また現れたら手加減など、せんようにな。もう、彼らは人には戻れん。脳や残存した身体の一部は、人形の身体に込められた魔力で維持されておるが人形の身体から外そうとすれば、すぐさま腐り果てて……死ぬ。元より、自我も精神も壊れておる。倒してやるしか助けられぬのじゃ……」

 

 ドクター・カオスは悲痛な表情で、拳を握りしめて怒りを露わにしていた。

 

 彼の言うとおり、すでに壊れた機械人形の壊れた装甲の隙間からは腐敗臭が漏れ出している。

 

 ドクター・カオスが装甲を戻したのは、これも理由だったのかも知れないとバゼットは的外れなことを思った。それはある意味現実逃避じみた感情のなせる思いだったのかも知れない。

 

「マリアよ、薬の材料集めは後じゃ。このような悪事をしでかすような悪漢、ワシの目の黒い内は許してはおけぬ!!」

 

「イエス!ドクター・カオス」

 

 ドクター・カオスは二人に向き直り、

 

「嬢ちゃん、それに……キング、と言ったか。この城には、コレを作った奴がおるのじゃろう。操っておる奴がおるのじゃろう。そやつはワシらを生かしてこの城から出すつもりは無いようじゃ……」

 

「ドクター・カオス。適性反応体無数接近中!」

 

 ガシャガシャガシャガシャ……。

 

 大広間の向こうの扉から、先ほど戦った機械人形の駆動音と足音が無数に響いてきた。

 

 ああ、やっぱり、とバゼットは思った。

 

「協力せい!生きて出たくば、そやつを倒す以外に無く、違うとしてもこのドクター・カオス、元より許しておくつもりは無いわい!!」

 

 ドクター・カオスもマリアも、この事件の首謀者を倒すつもりのようである。

 

 状況的に、もはや誰彼も否応無しに戦わねば生き残れないだろう。いや、もしくは今すでに腐敗臭をあげはじめている機械人形の材料に自分達もされるかも知れない。それは死ぬよりも悲惨である。

 

 バゼットは、表情のあまり変わらない……いや、どういう仕組みになっているかはわからないが、怒りの表情を浮かべる豹頭のルチャ・ドールを見て、少し情けない表情を浮かべた。

 

「なんでこうなるのよぉ……?」

 

 そう、厄介事、それも聖杯戦争絡み以外でこんな訳の分からない状況から、バゼットはとっとと逃げてしまいたいと思った。

 

 が、しかし。

 

 ドアを破ってこの大広間に押し寄せようとする機械人形達の群れ、群れ、群れ。

 

 もはや、バゼット・フラガ・マクレミッツは、逃げる術もなく戦う羽目になったのであった。

 

 




 なお、このバゼットさんはダメットさんであることは言うまでも無い。

 キングさんは苦労人。

 ドクター・カオスはやや天才復活。


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プロローグ⑧~サイド・横島プロローグ終わり

さて、横島サイドのプロローグは終わり。

零児・小牟がもはや影薄いですが、冬木の異変Fが起こるまでに横島やリュウ達に動いてもらわないと……。

ぐだ子はもう空気……いえいえ、後にかなり出てきますから。

なお、英霊達が原作ゲーム順に出てくるとは限りません。




 ファントムに連れられて、横島は冬木ドリームシアターの地下の隠し通路を見鬼ちゃん(改)と霊視ゴーグルを使いつつ、進んでいた。

 

 横島の見鬼ちゃん(改)は通常の見鬼くんとは違い、おキヌちゃんをディフォルメした巫女が上に乗っており、持っている祓櫛(はらえぐし、もしくははらいぐしとも言う)で霊の方向を指してくれる。

 

 また、ドクターカオスのチューンが入っており、霊視ゴーグルと使うことで高機能化され、霊の探査が非常に高精度で出来るようになっている。

 

 「ぴこーん、ぴこーん、ぴこーん」という探査の音も、おキヌちゃんの声をサンプリングしたものを使っており、非常に可愛い。

 

 が、地下の薄暗い通路でおキヌちゃんの声が響くその様は非常にシュールである。

 

 その後ろからぞろぞろついてくる女性陣。

 

 なにかこう、なんとなく間抜けな気もするが、致し方ない。

 

「あのー、かりんさんはまだわかるんですが、なんでみんなまで?」

 

 かりんは、美神令子GS事務所に依頼をする際に同行するのが常になっており

 

『帝王たるもの未知から常に学び見聞を広めるべし!ですわっ!』

 

 と、宣い、常に同行費用を上乗せしてくれている為、横島は断れないのである。

 

 彼女はゴーストスイーパーの仕事を邪魔するような事も、素人にありがちなミスや現場を引っ掻き回したりするようなことが無い。

 

 さらには、霊体に対してさえも打撃を加えられるほどの精神力を持っており、なによりいざと成ればゴーストスイーパー顔負けなほどの戦闘能力も持っている。

 

 故に美神令子としても安心して同行させられる人物かつ、金払いの良い上得意として扱っているのである。

 

 しかし、他の女の子達に関しては正直な話、ミュージカルスターやアイドル、普通の女子大生なので、所属事務所などの手前や、一般人を巻き込むのは問題があった。

 

 しかし、

 

「あれぇ?来ちゃいけなかったのぉ?」

 

 と、あっけらかんとフェリシアが首を傾げ、かりんに聞く。付いて行くのは当たり前、といった態度だ。

 

「……そういえば、普通にみなさん付いて来ちゃいましたわね」

 

 まるで今気づいたかのように、かりんは着いて来た四人を見る。

 

「あはは、前の事件の時の癖で……」

 

「ええ、付いて来ちゃいましたね」

 

 さくらとモモも、あははと苦笑する。彼女達は以前の事件(ナムコクロスカプコン)のせいで何か異変慣れをしてしまっており、いざ異変となると団体行動というかチームをすぐさま組んで対応しようとする癖が身についてしまっていたのである。

 

「……私は、モモに付いて来ただけだけど」

 

 アマゾーナは前の事件では操られ、洗脳されて敵方だったが、彼女は二度とそういう目にあいたくない一心でモモを追って来たのである。

 

「まぁ、付いて来てしまったものはしかたありませんわ。それに、みなさん戦闘になったとしても慣れてますし、問題は無いですわ」

 

 かりんが言うのだから戦闘とかそういう部分では大丈夫なのだろうが横島としては、

 

「所属事務所とか訴えられへんやろな、これ……」

 

 という問題で頭が痛い。いや、アイドルスター達の所属事務所よりも何よりも、そんなことになったなら雇い主であり所長の美神令子が怖い。

 

「まぁ、黙ってればだいじょーぶ!それに、ママも言ってた。『困っている人がいたら助けなさい』って!」

 

 フェリシアはあっけらかんとそう言い、ウィンクばちこーん。一瞬、目から星がキラキラ零れるようなエフェクトがかかっていた。

 

「ふぅむ……、ミュージカルスターと言うものもなかなかにカリスマがあるのだな。無論、クリスティーヌが一番だが」

 

 ファントムがフェリシアのその仕草を見つつ、目を細める。

 

「えーと、今回のバトルミュージカルでは私達三人が一つのチームとして正義、友情、そして希望を振り撒くってお話なんですよ」

 

 モモがにこにこしながら言う。

 

 モモは仕事柄、変な性格の業界人達は慣れっこであり、そういう人々と会っていても全くストレスが溜まらない性格をしていた。なにしろ、某961の事務所の社長の嫌みにもなんとも思わないほどなのである。

 

 また、人の善悪に対して敏感ではあるが、目の前のファントムに対してはその二極では当てはまらないと感じていた。

 

「ほう?ヒロインは一人ではないと?」

 

「神田桃さんもアマゾーナさんもフェリシアさんも、三者共にトップアイドルとトップミュージカルスターですもの、当然ですわ!」

 

 かりんはモモの言葉を補足するように言った。ここでアマゾーナがメインヒロインではないとか思われてはファントムが暴走し、モモやフェリシアに襲いかかるかも知れないと思ったからである。しかし幸いな事に、今回のミュージカルは三人が三人とも主人公なのである。

 

「オペラでは、プリマドンナは一人……。しかしミュージカルでは違うのだな」

 

 だが、ファントムは非常に落ち着いた感じで納得したようである。

 

「一年に一度のスペシャルイベントですもの。豪華三ヒロイン揃い踏みの舞台、故に万難を排して万全にせねば成らないのですわ!」

 

 かりんはそう言い、ファントムが快く事件解決に協力するように誘導する意味でそう言った。

 

「なるほど……。クリスティーヌが喝采を浴びる為には私も頑張らねばならないのだな。うむ、クリスティーヌの敵は私の敵。今も昔も変わらぬ。我はかつて全てを捧げた。愛、心、魂までも。クリスティーヌ、おおクリスティーヌ……!」

 

 ファントムは優しく囁くように歌うように、鉤爪をカチャカチャっと鳴らしつつ言う。

 

 かなりやる気になったようで、モモとかりんから離れて先導するように一行の一番前へと進んで行った。

 

「……ヒソヒソヒソ(かりんちゃん、その、もしファントムがアマゾーナさんがクリスティーヌって人じゃないって気づいたらやばいんじゃ?)」

 

「……ヒソヒソヒソ(大丈夫ですわ。その時はみんなで一斉に……)」

 

「……ヒソヒソヒソ(暴走したらかなり危険だと思うしねー、あの人)」

 

 横島にはさくら、かりん、フェリシアの話している物騒なヒソヒソヒソ話が聞こえており、

 

(……生きてる人間の方が霊より怖いんだよなぁ)

 

 と、何故に自分が知り合う女の子達はやたらとアグレッシブかつ怖い事をさらりとやらかしそうな人ばかりなのか、とファントムを見る。

 

 彼には全く聞こえておらず非常に上機嫌である。

 

 その様を見るに、ああ、気づかなければいいなーと、本気で思う横島である。なにしろ、かりんとさくらの強さは、かつてボコボコにされたために横島自身、よく分かっている。

 それに、モモ、アマゾーナ、フェリシアの三人とても、かりんが太鼓判を押すほどの実力者なのである。

 はっきり言って、ファントムが気づいた時には、はっきり言って不幸な未来しか見えてこない。 

 

 出来ればなんとか庇ってやりたいものだが、いかんせん暴走してしまったら退治する側の横島も除霊せねばならないのだ。

 

 横島は左手の甲に浮かぶ赤い令呪を見る。ファントムが言うにはこの令呪というのはサーヴァントに対して強制的に命令を行えるものであるという。

 

 正直『強制的に命令』というのは横島には気にくわない。内心、聖杯戦争とか云々は訳が分からないしそのシステムについてファントムの言った説明も、それらを考えた連中はド外道なんではないか、と思いつつある。

 

「……本当にいいのかしら」

 

 アマゾーナが小声で言うが、おそらくそれはファントムの思い込みにつけ込んで利用している現状について言っているのだろう。まぁ、勝手に思いこまれてしまった彼女としては非常に困惑しつつ迷惑にも思うところなのだろうが、悪いと感じている辺り、実はアマゾーナが一番常識的な人なんじゃなかろうか?と横島は思った。

 

「どーだろなぁ」

 

 横島は言葉を濁す。全く判断しにくい。

 

 なにしろ横島は仮にとはいえファントムのマスターになってしまっており、要するにファントム側なのである。

 

(いざとなったら令呪というので止めよう。……止めれるのか?)

 

 見鬼くん(改)の上の巫女ちゃんはぴこーんぴこーん、と音を鳴らしてまだ霊の方向も位置を特定していない。霊視ゴーグルも英霊の通った跡を映し出しているのだが、しかしそれも微かだ。

 

「……ファントム、犯人ってか、追っている英霊はまだどこにいるかわからんのか?」

 

「うむ、ここを通ったのは跡でわかるが、おそらく一度きり。しかし、この地下通路はなにかおかしい。私が出て来た時には古く埃が被り通路も途中で分断されていたが、瓦礫が無くなり、まだ奥がある。まるで……」

 

「まるで?」

 

「今通っているここは、新しくなっている。時間が巻き戻ったかのように」

 

 そう、言われてみれば入った時には石壁の破片や砂、埃などがあったが、今進んでいるこの通路はあたかも掃除でもされているかのように、何も落ちてはいない。

 

 薄暗かったので気づけなかったが、確かに新しくなっているかのような感じなのだ。

 

 横島は急いで自分の腕時計を見た。横島の腕時計はGS試験に合格したときに厄珍堂の厄珍から貰った電波時計(なお、質流れ品)であり、電波によって自動で日時や時間を調整する。

 

「……200×年の1月?!」

 

 電波時計のデジタルが示す年月は、十年ほど前の年月だった。

 

「横島さん、どうしまして?時計が何か?」

 

「……時計の示している日時を見ると、いま、十年前に俺達は来ているようです」

 

『200X。冬木・アインツベルン城』

 

 そう、横島達は第五次聖杯戦争直後の世界にいつの間にか飛ばされていたのだった。




 ファントム、というよりオペラ座の怪人はかなり大好きな作品ではあるのですが、映画のオペラ座の怪人は多くの監督作品があり、ファントムの設定はそれぞれ違います。

 例えば単なるストーカーホラーだったり、ヒロインのクリスティーヌとは実は生き別れの親子という設定だったり、ラブロマンスだったりと、演出もかなり違います。

 まぁ、アンドリューウェバーのミュージカルが今では一番有名ですが、その辺の違いもまた面白いのですよ。

……横島×ファントムだと、なんかギャグになりがちでしょうけど。


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ドクターカオス、合流そして脱出。

ドクターカオス、マリア、バゼット、キングとリュウ・ベラボーマンが合流。




 

 かなりの臭気を放つ、機械人形の残骸。いや、機械人形にされた者達の遺体と言うべきか。

 

 無数の機械人形に群がられつつも、バゼット、キング、ドクターカオス、マリア達は大広間で激闘を繰り広げていた。

 

 機械人形達の一体一体の強さは、彼らにとってさほどでは無い。また、集団になったとしても機械人形達には全く連携はとれておらず、常人ならばそれでも脅威と成っていたかも知れないが、ドクターカオスの的確な指示によってバゼットとキング、そしてマリアの連携によって機械人形達はことごとく破壊されて行った。

 

 戦闘能力よりもむしろ破壊された後に腐って行く遺体の腐敗臭とガスが問題だった。

 

 とにかくすざまじい臭いであり、広い大広間とはいえ、室内に充満するそれに的確な判断と行動が遮断されそうになる。

 

「マリアー!窓じゃ、窓を全部ぶち抜けい!!」

 

「イエス・ドクターカオス」

 

 タタタタタン!!タタタタタン!!

 

 ドクターカオスの指示でマリアが窓ガラスを腕に内蔵された短機関銃で破壊した。

 

 だが、窓から入る空気は新鮮な空気では無く、何かが燃えているような、煤や煙の臭いが混ざった空気だった。

 

「くっ、なんじゃ?!これは?!」

 

「……遠くで・大規模な・火災が起こっているようです。都市災害・レベル!この城・に火災は・無い模様」

 

「かぁ~っ、外じゃ一体何が起こっとるんじゃ?!」

 

「この城の・異常事態との・関連性は・不明」

 

 焦臭い空気でも、腐敗臭よりはマシではあるが、しかし、都市災害レベルというのは尋常ではない。

 

「くっ、前回の聖杯戦争と同じ現象が起こっているというの?!というかもうすでに戦争自体終わっていたとでも?!」

 

 バゼットは驚愕した。

 

 バゼットが言っている前回の聖杯戦争とは、第四次聖杯戦争をさす。第四次聖杯戦争は、最後には『冬木大火災』と呼ばれる大災害が起こっている。

 

 だが、バゼットは知らない。

 

 いつの間にか自分達が過去に戻って……いや、過去の時間軸である冬木市、フィニス・カルデアの言うところの『特異点・F冬木』にいつの間にか転移している事に。

 

 しかしそんなドクターカオスとバゼットの驚きなど一瞬のこと、押し寄せる自動人形の群れが雪崩の如く殺到する。

 

「ぐっ、まだこんなに……っ?!どれだけの人を殺めたというのか?!」

 

 キングが攻撃を仕掛けてきた自動人形の一体の腕を取り、その攻撃の勢いを利用して押し寄せる他の人形達にぶんなげる。

 

 投げられた自動人形にぶち当たって数体の自動人形が砕け散ったが、しかし焼け石に水、すぐに周りを取り囲まれ、四方八方から斬撃、突き、蹴りを浴びせられる。

 

 統率のとれていない群れとはいえ、交わすのは至難の技である。バゼットもキングもその俊敏さでなんとか対応出来ているが、たとえマリアの的確な援護射撃やドクターカオスの遠隔からの破壊光線があったとしても、このまま行けば必ず押し切られるだろう。

 

「くっ、このままじゃジリ貧じゃ!!」

 

 ドクターカオスがシャツをはだけさせて破壊光線をぶっ放しつつ叫ぶ。

 

(くっ、平穏な病床生活しとったからマリアの武装もマシンガン以外外しとった!!せめて精霊石か爆弾、いや、ロケット弾でもあれば!!)

 

 今のドクターカオスの聡明な頭脳はもはや撤退するしか無いと計算していたが、しかしそれをするにもこの群がる自動人形の群れをなんとかせねばならない。

 

 そう、少なくとも距離を離せねばこの自動人形の機動力はスペック的にかなりの脅威である。撤退しようと背を向けた瞬間に一斉に高速で飛び込んで来るだろう。

 

 幸いといって良いのか、この自動人形の目的は攻撃から割り出せている。この自動人形は人を殺すのが目的では無い。いや、不幸にもというべきかも知れないが。

 

 ドクターカオスが先ほど機能停止した自動人形を調べた際に、その一体一体一体一体がその内部に予備のパーツを持っている事がわかったが、しかしそれはあまりにも不可解だとドクターカオスは思っていた。

 何故ならば、自動人形達はどれだけ損傷しても自分達で修理したような形跡は無いのだ。

 

 今、ドクターカオス達を取り囲んでいる自動人形にも古い損傷や行動に支障のあるような破損が見られるものが混ざっており、だが補修も修理もされてはいない。

 

 では自分達の修理に使わない予備パーツは一体何のためにあるというのか。

 

 ドクターカオスには、もうその答えがわかっていた。

 

(こやつらは被害者をその場で自分達の仲間にするための部品を持ち歩いとるのじゃ!)

 

 そう、その予備パーツは生きている人間を切り刻んでその場で自動人形に改造するために搭載されているのだ。故に自動人形達は人間を即死させるような攻撃はしてこない。急所を避けて手や足をまず切り裂こうとするのだ。

 

「命は奪わんが、命という部品を狩ってこやつらは仲間を増やしとるのか……!!」

 

 そのおぞましさにドクターカオスは顔をしかめた。

 

 ギチギチギチ……!自動人形達は群をなし、関節を軋ませつつ後から後からわいてくる。果たして一体何体いるというのか、懸命にカオス達が壊しても壊してもその数は一向に減りはせずむしろ増えている。

 

「ぐっ、撤退しかないが、このままではそれも出来ん!!、一発、そう、ドデカい一発、必殺技とかぶちかませんか、二人とも!!」

 

「そんな事言われてもすぐには無理ぃぃっ!!周りの対処で精一杯よ!!」

 

 バゼットも家伝の宝具はあるが、こう囲まれ、隙を見せられない状況ではそのためのルーンすら刻めない。また、キングはルチャドーラーであり、飛道具を撃てる格闘家とは戦った事はあるが自分で出すのは無論、無理である。

 

「くっ、万事休すか!」

 

 だが。

 

 バン!と自動人形達が入って来ている扉とはその向かい側の扉から勢いよくヘルメットを被った男と空手道着の男が飛び込んで来た。

 

「ベラボー参上っ!!ベラボーキック!!」

 

「おぉぉっ!真空ぅぅっ!波動拳っっっ!!」

 

 飛び込みつつ二人の男が技を放つ。

 

 ボーーーン!!ドゴーーーン!!とベラボーキックと真空波動拳によって、自動人形達が吹き飛んだ。

 

「ぬぉっ?!誰じゃ?!」

 

 驚くドクターカオス。だがキングが見知った二人の名を呼ぶ。

 

「リュウ!ベラボーマン!」

 

「キングさん、それにそこのお二方!早くこちらに!こちらに脱出口があります!!」

 

 乱入して来たリュウは自分達の入って来たドアを死守するように波動拳を連発する。ベラボーマンも前に出て手足を伸ばして強烈なパンチやキックを繰り出し、三人とアンドロイドの退路を確保する。

 

「おおっ、地獄に仏じゃ!マリア、キング、嬢ちゃん、行くぞ!」

 

「わかったわ!!」

 

 4人はリュウとベラボーマンの来た扉へと走り抜けた。それを確認すると同時にリュウが気を溜める。

 

「雷迅っ…!波動拳っっっ!!」

 

 追いかけようと群がる自動人形達に、強烈な雷プラズマを含んだ波動拳が放たれた。

 

 バヂバヂバヂバヂバヂバヂバヂ!!

 

 自動人形は連鎖的にその放電を受け、中から弾け飛んで行く。

 

「リュウさん、早く!!」

 

「応っ!」

 

 リュウが廊下へ出ると、ベラボーマンがその扉を締めそして五人は長い廊下を走り抜けて行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 さて、一方こちらは南極のカルデアである。

 

 有栖零児と小牟はようやく藤丸立香の部屋の隣の空き部屋で落ち着く事が出来た。

 

「ふふーん、ベッドの柔らかさでホテルの質はわかるのじゃー!」

 

 そう言って、ぱふーん、と小牟はベッドへダイブする。

 

「ここはホテルじゃない。というか、通信機器を借りて本部に報告しなければ。というかワケのわからん事態だからな」

 

 零児はそう言うが、

 

「うーっ、長旅でワシャ疲れとるんじゃー。つか連絡ぐらい零児だけで良かろう?身体休めたい~っ!!」

 

 と、小牟はベッドの上で駄々を捏ねる。小牟のこういう怠け癖はいつもの事ではあるが、しかしまだ任務中なのである。

 

 零児は額に手を当てコメカミを揉むようにすると、溜め息を吐いた。

 

「……はぁっ、お前なぁ……」

 

 いつもならば、尻百叩きだ、などと言うのだがしかし、急に小牟はベッドからガバリと起き出し、そして耳をピクリと動かした。

 

「これは……!」

 

 その直後、ドカーン!と、遠くから爆発音が聞こえた。

 

「零児!」

 

 小牟はベッドから降りる。零児も小牟に言われるまでもなくすぐさま自分のトランクへ手を伸ばし持った。

 

 ガチャガチャガチャっ。

 

 トランクの外装が外れ、彼の仕事道具である『護業』が現れる。

 

 護業は、有栖零児が使う退魔用の武器を纏めたラックである。

 納められている武器は、ショットガン『柊樹(ハリウッド)』、拳銃『金(ゴールド)』、刀『火燐(かりん)』『地禮(ちらい)』『霜燐(そうりん)』。

 

 それぞれに陰陽五行に則った力が込められており、零児はそれを駆使した『護業抜刀法』によって悪霊や妖怪、様々な怪異と戦うのである。

 

……むろん、人間相手でもやたら使ったりしているわけなのだが。

 

「行くぞ、小牟!」

 

「合点承知の助じゃ!」

 

 二人はドアの向こうへと駆け出して行った……。

 

 

 

 

⬅To be Continue 




次回、全員合流……な、ハズ。

お待たせしていた方、すみません。趣味にかけている時間が全くない状況だったもので……。



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