この魔道具店の店員に祝福を! (銀太郎)
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この物語にプロローグを!

処女作です。
悪いところのご指摘お願いいたします。


駆け出し冒険者達が集う街『アクセルの街』にある魔道具店、店内には客はおらず二人の男女がテーブルを間に向かい合って座っていた。

 

「ウィズ………私が言いたい事を君は察しているだろう……だが、あえて聞かせて頂くよ」

 

「……はい」

 

「あの木箱の山は何だね?」

 

「あ、あれはモンスター避けと言いまして」

 

ウィズと呼ばれる女性は木箱の中身から小瓶を取り出し男性の元に戻る。

 

「この瓶の蓋を開けると非常に不快な臭いを周囲に発してモンスターを寄り付かなくさせるという商品です。その臭いは、まともに嗅げばトロールでさえ気を失う程です!こ、これは絶対売れます!」

 

「………ふむ…では、一度街の外で実験出てみようか?」

 

「……え?」

 

男性はウィズの手を引っ張り、街の外へ連れ出す。

 

 

「さぁ、その瓶を開けるんだ」

 

 

布で鼻と口元を覆った男性はウィズから10メートル程離れた所で指示する。

 

「あの…何でそんなに私から離れているんですか…ハヤトさん?」

 

おどおどした表情でハヤトと呼ばれる男性に問いかけるが

 

「その事は気にしなくてもいい、早く蓋を開けたまえ」

 

お構い無しにハヤトはウィズに瓶の蓋を開ける様に指示する。

 

「は、はい……では、開けますよ」

 

ポンッ

 

「ヒイィィィィィィッ!?」

 

ウィズはモンスター避けの臭いに耐えきれず瓶を手離して気を失ってしまう。

 

「うッ!やはり欠陥商品……使用者にも支障きたしたら仕方ないだろうまったく……」

 

ハヤトは息を止めながらウィズが落としたモンスター避けに再び蓋をして、気を失ったウィズを抱き抱えて店に戻っていく。

 

「努力はしているんだがね、全て空回りしてしまうのがこの人の難点だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店に戻ったハヤトはウィズを寝室のベッドに寝かせ、店の売り場へと戻る。

ウィズが取り寄せたこのモンスター避けの山を倉庫にしまい、売り場のカウンターに座り紅茶を飲んで一息つく。

 

 

「私としては、できればこの店で働きながらゆったりと過ごしたいんだが……家賃も危ういこの状況だと、そんな事言ってられないな。久し振りに稼ぐかな……」

 

 

外出の仕度をして、店の看板を準備中に切り替えてハヤトはある所へ向かった。

 

「さて、今はどんなクエストが貼り出されてるのだろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

魔道具店から数分、ハヤトはとある建物に入った。

中には沢山の冒険者が飲み食いしており、中々賑やかな光景だ。

 

 

「お⁉ハヤトじゃねぇか‼」

 

「あら、本当だわ。久し振りねハヤト」

 

「ハヤト!これからクエストに行くんだが付き合ってくれよ!」

 

「ねぇねぇハヤト~、うちのパーティーに入ってくれないかしら?」

 

 

一人の冒険者がハヤトに気付くと他の冒険者もハヤトに群がり始める。

 

「やぁやぁ久し振りだね皆、元気にしてたかな?」

 

 

ハヤトは笑顔で適当に流しながら、カウンターに座っている女性に話しかける。

 

「久し振りだねルナ」

 

「あ、ハヤトさんお久し振りです。冒険者ギルドへようこそ‼」

 

ここは冒険者ギルド、冒険者がクエストを受ける場所であり、他にも食事等もできる場所である。

 

 

「いや~、今月も厳しくてねぇ。高額のクエストはないかな~と思って来てみたのだが……どうかな?」

 

「ちょうどよかった、ハヤトさんにやって頂きたいクエストがありまして」

 

「?」

 

「これなのですが」

 

ギルドの受付嬢ルナは一枚の紙をハヤトに差し出す。

 

「……ヤマタノオロチの討伐…まさかアクセルの近くにいるなんてねぇ」

 

「はい、突如近辺の山にて目撃情報がありまして、徐々に山を下っているみたいです。放っておけばこの周辺の生態系を揺るがしかねない存在になりかねません。どうか引き受けていただけませんか?もちろん報酬金は高額な1億エリスになります」

 

「野暮なことを聞くものではないよルナ、私が断ると思うのかい?報酬金以前にこの街も危ないのだろ?ならばやるしかないじゃないか」

 

「ハヤトさん…ありがとうございます!」

 

「では行ってくるよ」

 

「あ、あの……ハヤトさん」

 

 

ギルドから出ようとするハヤトは呼び止めるルナ、その顔は少し赤くなっており緊張している様だ。

 

「ん?どうした?」

 

「あ、あぁぁの……こん、今度一緒にお食事でもしませんか?……あ!嫌でしたら…お断りして頂いても……」

 

「じゃあ、クエスト終わったら何か食べに行こうか」

 

「え?………いいんですか?」

 

「1億エリスもあれば余裕あるしね。私も最近外食してないし、いい機会だ。出来るだけ早く終わらせて来るから待っていてくれ」

 

「………はい、お待ちしてますね!」

 

 

ハヤトがギルドから出ると

 

(やったぁ~!ハヤトさんにお誘いできちゃった~!)

 

カウンターで一人嬉しさに悶えるルナ、冒険者達の痛い視線に気付くのは数十秒後である。




次はオリキャラの紹介です。


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この店員にプロフィールと出会いを!

最初はオリキャラのプロフィールです。
プロフィール後に物語が始まります。


名前 不知火 隼人(シラヌイ ハヤト)

 

身長182cm

 

体重81kg

 

職業 バトルマスター

(ハヤトにはオリジナルの職業バトルマスターにしました。バトルマスターとは武器での戦闘の他に素手での戦闘も可能な職業です。本人は武器も使えますが素手での戦闘を好んでいるため、ほぼ武器は使いません。)

 

亡くなった理由 ゴキブリが肩に止まった事によるショック死

 

転生する際に持ち出した能力 超人的身体能力

 

容姿 髪型は左側の前髪を垂らした軽めのオールバック、瞳の色は茶色(戦闘の際はどこを見ているか悟られない様に魔力で瞳を消している)

 

服装 白のYシャツに黒い革のジャケットを来ている、下は紺色のジーンズに靴は黒革のブーツを履いている。

 

数年前に転生したが右も左もわからない状態で戸惑っていた所をウィズと出会い、彼女の魔道具店に住み込みで働く事になる。

ウィズに対して想いを寄せており、中々打ち明けられないでいる。

 

好きな物 酒、茶類、甘いもの

 

苦手な物 虫、鼠

 

 

他にオリキャラの気になる所があったら感想にて聞いて頂ければ可能な範囲の所であればお答え致します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここから本編始まります。

 

 

 

 

ヤマタノオロチを討伐してホクホクと街へ帰るハヤト、山を降りて草原を歩いていると三人の冒険者が巨大な蛙ジャイアントトードを討伐しようとしているのを見かける。

 

 

「………ん?あれはジャージ?」

 

ハヤトが注目したのは三人の冒険者のリーダーと思われる青年が着ている緑色のジャージ。

この世界ではジャージを見ることはまずない、故に彼が転生した人間だというのがすぐにわかった。

 

「彼も転生したのか………しかも転生したてホヤホヤと見た」

 

青年は二人の仲間がジャイアントトードに飲み込まれそうになっていたのを助け出している所だ。

助け出された二人の仲間はジャイアントトードの体液でドロドロのテカテカ状態である。

 

「………まぁ仲間も助け出せた様だし、手は貸さなくても大丈夫だろう」

 

街に帰ろうと歩を進めようとしたハヤトだが

 

「そこのあんた‼蛙が迫ってる、早く逃げろ‼」

 

「ん?………おぉこれは中々、改めて近くで見ると大きいものだねぇ」

 

青年がハヤトの存在に気付き、逃げる様に警告する。

ハヤトが後ろを振り返るとジャイアントトードが迫っていた。

 

「そんな暢気な事言ってないで早く‼」

 

ジャイアントトードはハヤトを飲み込もうと大きな口を開け、ハヤトに襲いかかる。

しかし

 

「さて蛙くん、君には大人しくしてもらうよ」

 

ピシッ

 

「……ゲッ…」

 

ハヤトがジャイアントトードの腹に人差し指を軽く突くと、ジャイアントトードは口を開いたままピクリとも動かなくなってしまった。

 

「蛙くん、これで私が解く事をしない限り動けない訳なのだが……君は間もなく狩られる運命にあるらしいな。精々街の皆の腹の足しにでもなってくれたまえよ」

 

「スゲー!ピクリとも動かねぇ、一体何をしたんだあんた?」

 

緑ジャージの青年がハヤトに駆け寄り、信じられないかの眼差しでジャイアントトードとハヤトを交互に見る。

 

「いやいやそんな大層な事はしていないよ。それよりこの蛙は君のクエスト討伐対象だろう?死ぬまで動かない様にしてあるからゆっくり狩るといい。私は街に戻るので、ここいらで失礼させて頂く」

 

「え、ああ。助かったよ、ありがとうな」

 

ハヤトは青年達を後にして街へ帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクセルの街へ戻り、ギルドでハヤトはクエスト達成の報告をして報酬金を貰っていた。

 

「クエストお疲れ様です。こちらが報酬金の1億エリスになります」

 

「ハヤトが1億エリスも稼いだぞ‼」

 

「……」

 

ルナの『1億エリス』と聞いた、他の冒険者が騒ぎ始める。

 

「マジかよハヤト‼」

 

「今日はハヤトの奢りで飯だぁ‼」

 

「……ハァ…またか」

 

いつの間にか冒険者達の食事を奢る事になってしまったハヤト、彼が大金を稼ぐと大抵こうなる。

つまりお決まりコースである。

 

「あぁ…すまないルナ……かなりの人数で食事する事になってしまったが、大丈夫か?」

 

「ぜ、全然大丈夫ですよ!(うぅぅ……せっかくお誘い出来たのに)」

 

「じゃあ決まりかな……冒険者の皆よ!今日は私が全て出す‼好きなだけ食べ飲みしたまえよ‼」

 

「「おおおおおお‼」」

 

 

 

 

 

 

一気にギルド内は宴会場になり、ハヤトはギルドの隅でルナと共に食事をしていた。

最初は冒険者達がハヤトを囲い騒いでいたが、ハヤト本人は少人数で飲むのを好んでいた為、適当に対応した後に目立たない隅に移動したのだ。

 

 

「ハァ……やっと落ち着いてきたかな」

 

彼は手にしているストレートのウイスキーを飲み干す。

彼が飲んでいるウイスキーはセブン・デッドリー・シンズ、ある7つのウイスキーを混ぜた物で、酒好きのハヤトが考案したオリジナルのウイスキーである。

 

「ハヤトさんは人気者ですからね。前から気になっていたんですけど、ハヤトさんパーティーとかには入らないのですか?」

 

「パーティーか……ウィズにもその事は度々言われてるよ」

 

 

ハヤトはウィズにパーティーの話を持ち掛けられた時の事を思い出す。

 

 

 

ある日の昼、ハヤトとウィズはおやつのチョコレートケーキを食べながらティータイムを楽しんでいた。

 

「そういえばハヤトさんはパーティーとかには入らないんですか?」

 

「モムモム……パーティーか、とはいえ今のところクエストに困った事はないからねぇ……」

 

「いくらハヤトさんでも困る時が絶対来ますよ。例えばクエスト中に今まで避けていた虫型モンスターに遭遇したりとか……ハヤトさんって虫を見ただけで発狂したり、腰抜かしたり、気絶したりしちゃって大変じゃないですか。この前だって蝶が顔の近くに飛んできただけで全力で蹴りを放っちゃって、蹴りの衝撃で蝶どころか周りのお花畑まで吹き飛んじゃう始末で……」

 

「うぐ……虫だけは本当にダメなんだ。しかしそういう事を踏まえたらパーティーの事を考えなければな…」

 

苦い顔でハヤトは紅茶にチョコレートケーキのクリームが付いたフォークを使いかき混ぜる。

クリームが紅茶に溶け始め、フォークが綺麗になった所で紅茶を飲み干す。

 

「その前に君がトンチンカンな商品を取り寄せなければクエストに行く必要はなくなるのだが?」

 

「うぅ……そ、その内きっと売れますよ」

 

「売れればいいね…売・れ・れ・ば」

 

 

 

 

 

 

 

あの時からパーティーの事は頭の片隅に残っていたが、未だにハヤトが惹かれる様なパーティーは見つからず、気が向いた時に他のパーティーや同じくパーティーがいないソロ冒険者の手伝いをするくらいで、殆どソロでのクエスト活動が続いていた。

 

 

「生憎まだまだソロ活動が続きそうだ。すまないがルナ、私はお先に失礼させて頂く、ウィズが心配なんでね。余ると思うが、ここの連中の食べ飲み代として5千万エリス置いておくよ」

 

「え⁉こんなに頂かなくても大丈夫だと思いますが」

 

「余裕あった方が良い方向に倒れたとて、悪い方向には倒れないだろう?余った金銭はエリス教の教会にでも寄付しておいてくれ」

 

「……は、はい。わかりました」

 

「では失礼するよ」

 

 

ハヤトがギルドから出ようと出入口扉のドアノブに手をかけようとしたその時

 

「あ、あの~」

 

誰かに呼び止められハヤトは振り返る。

 

 

「ん?……ああ、先程の」

 

彼を呼び止めたのは、先程ジャイアントトードの討伐をしていた青年だった。

 

「ハヤト…さん…だったよな、あんたのおかげで楽にあの最後の一匹の蛙を討伐する事ができてな。お礼がしたくて話せるタイミングを待ってたんだ。ありがとうな!」

 

「君のお役にたてた様でなによりだよ。そういえばパーティーの人達は大丈夫だったかね?」

 

「大丈夫も何も、蛙の体液まみれになっただけでろくな怪我一つもしてないから安心してくれ。おっと、自己紹介が遅れたな。俺の名はカズマ、まだ駆け出しホヤホヤの冒険者だ。よろしくな」

 

「では、私も改めて…私の名前はハヤト、しがないただの冒険者だ。今後ともよろしく」

 

「思ってたんだが、ハヤトって名前……もしかして」

 

ガチャッ

 

「む、これは何の騒ぎですか?」

 

「あら、女神であるこの私を差し置いて楽しそうに宴会なんかしちゃって、私も混ぜなさぁーい‼」

 

「ちょっと待て駄女神」

 

「何すんのよヒキニート!シュワシュワが、お酒が、宴会が風呂上がりの私を待ってるのよ‼」

 

ギルドに二人の少女が入ってきてた。

一人が紅い瞳に赤と黒がベースになった服ととんがりボウシに黒のローブと少しばかり見た目が痛い眼帯と杖が特徴の少女。

もう一人が青い瞳と青髪に青をベースとした服、どこか神聖な雰囲気を出している少女である。

 

「む、君達は!」

 

ハヤトはその少女二人の姿を見て目を見開く。

 

「誰かと思えばハヤトじゃないですか!お久し振りです‼」

 

「ここ最近姿を見ないから心配したんだぞ、めぐみん。しかし元気な姿を見れて安心したよ………」

 

「私を誰だと思っているのです、紅魔族随一の魔法の使い手ですよ」

 

「ああ、そうだったね」

 

ハヤトに頭を撫でられ、めぐみんは嬉しそうに頬を緩ませている。

 

「もしかして、ハヤトとめぐみんって知り合いか?」

 

青髪の少女を引きずりながらハヤト達の元へきたカズマ。

 

「ええ、私がカズマ達のパーティーに入る前、どこのパーティーにも入れてもらえず路頭に迷ってた私に、ハヤトは度々クエストに連れて行ってくれてまして……大変お世話になった方、言うなれば頼れるお兄さん的な存在です」

 

「度々クエストに……ハヤト、大変だったろう?」

 

「大変だったとはどういう意味ですか?ちょっとそこの所を詳しく聞かせてもらおうか」

 

「フフ…念願のパーティーに入れたみたいでよかったじゃないか、めぐみん」

 

「強引に入った様なもんだけどな」

 

「強引とは失礼な、最強の攻撃魔法である爆裂魔法を操るアークウィザードですよ?むしろ感謝して欲しいくらいです」

 

ハヤト、めぐみん、カズマが話していると、カズマの隣にいた青髪の少女が突然声を上げる。

 

「あー‼あんた大分前に転生させた人じゃない⁉」

 

「おや、私の事を覚えていたのかい、アクア?」

 

「そういえばハヤトって名前で引っ掛かってたけど、やっぱりハヤトも転生した人間だったんだな」

 

「その口振りだと、やはりカズマも転生者みたいだねぇ」

 

「ぷ…ふふ……カ、カズマさん……聞いてよ………この人の死んだ理由があなたよりぶっ飛んでるのよ。だからこそこの人の事覚えてるんだけど」

 

青髪の少女の名前はアクア。

ハヤトをこの世界に転生させた女神である、性格が女神らしくないが女神である……女神である‼大事な事なので三回言わせて頂いた。

 

「この人、大の虫嫌いでね。死因は肩にゴキブリが止まってショック死しちゃったのよ………ふぐッ……ふふふ

、あーっははははは‼笑いが止まらないわ‼お、おお、お腹が捩れる~ッ‼」

 

ゴツッ

 

「あだ!」

 

「うるさいぞ宴会芸人」

 

カズマは腰に下げている短剣の柄で、軽くアクアの頭を小突く。

 

「まぁ……今アクアが言った通り、私は非情に情けない理由で死んでしまった訳だ」

 

指で頬をかきながら、はにかむハヤト。

 

「そういえばハヤトの方はパーティーに入れたのですか?」

 

ハヤトのジャケットの袖をくいくい引っ張りながら問うめぐみん。

 

「ん?あ…いや、まだ入っていないよ。ここに入りたい!って思うパーティーが中々見つからなくてねぇ~」

 

「でしたら私達のパーティーに入りませんか?いいですよねカズマ?」

 

「おう、俺もハヤトみたいな戦力が入ってくれれば心強いな。しかも常識人だし」

 

「その言い方だと他のメンバーは変人だと聞こえるのですが、気のせいですかね?」

 

「え?違うのか?」

 

「女神であるアクア様に向かって変人呼ばわりなんて聞き捨てならないわね」

 

「唐突にカズマに爆裂魔法をうちたくなってきたのですが?」

 

「いや待て、落ち着けお前達」

 

めぐみん達が、カズマににじり寄る。

 

「ん~、至らない所があると思うが……それで良ければ入らせてもらってよろしいかな?」

 

ハヤトの一言でめぐみんとカズマの動きがぴたりと止まり、二人共ハヤトに顔を向ける。

なおアクアはカズマにヘッドロックされて、外そうと必死にもがいている所だ。

 

「え?………いいんですか?正直ダメ元で誘ってみたのですが」

 

「マジでいいのか?そりゃあハヤトがいてくれれば助かるんだけどな、本当に入ってくれるのか?」

 

「ちょ、カズマさん、痛い痛い‼」

 

「ああ、何故だろうね。カズマ達のパーティーには他の所にはない何かを感じてね」

 

「ハヤトの感じた物の正体を教えてあげましょう‼それはもちろん私が操る爆裂魔法の……」

 

「んなわけあるかぁ‼」

 

「何を言うか!我が爆裂魔法は最強の攻撃魔法であると同時にロマンが溢れる魔法‼ハヤトも爆裂魔法の魅力に取り付かれたとしか言えません。カズマも早く爆裂道に目覚めないと損しますよ⁉」

 

胸を張りながら自慢気に語るめぐみん。

 

「ハァ…まぁ、俺達に何を感じたのかわからないけど、入ってくれるのなら歓迎する。いや、逆に感謝させて下さい‼」

 

「いやいや、こちらこそよろしく」

 

 

ハヤトがカズマ達に感じた物、それは本人もよくわからない。

彼らはこれから何か大きな事をやり遂げる気がする、ただそれだけ、それだけである。

 

 




次回はあのドM金髪美女のクルセイダーが⁉


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この店員に応えと収穫を!

ハヤトのイメージCVは誰が似合うのかと思いながら更新作業しているこの頃です……


ギルドから帰ったハヤトは魔道具店に戻り、ウィズと共に夕飯を食べていた。

 

 

「ハヤトさん、何から何までありがとうございます。これで当分安定した生活ができます」

 

「いいんだよ。これから取り寄せる商品を、しっかり見定めてくれればね……」

 

「うぅ……努力します」

 

 

シュンとした顔で、スープの具の肉をスプーンで軽く突っつくウィズ。

 

 

「コホン………暗い顔しながら肉を突っついてるウィズに朗報だよ」

 

「朗報……ですか?」

 

「ああ、今まで殆どソロでクエストをこなしていた私だが、何と念願のパーティーに入ることが決まった」

 

「本当ですか⁉おめでとうございます!」

 

さっきの表情から一転して笑顔になるウィズ。

 

「少しばかり騒がしいメンバーだがね。何か不思議な物を感じさせるんだ」

 

「ハヤトさんがそんな事言うなんて、そのパーティーの方々にお会いしてみたいですね」

 

「ああ、今度ウィズにも紹介しようと思う。楽しみにしていてくれ」

 

「フフフ、そうと決まればお祝いしましょう!」

 

ウィズは食卓から席を立ち、自室へ入っていった。

しばらくすると自室からウィズが出てきたのだが、何かを抱えている様だ。

 

「この日が来ると思って、こっそり買っておいたんです」

 

ウィズが抱えて来た物、それは数本の高級な酒のボトルだった。

満面の笑顔なウィズを見て、ハヤトは目を逸らす。

 

「…………ボソボソ…」

 

「え?何か言いました?」

 

「い、いや…ありがとうってね……わざわざこんな物まで用意してくれて」

 

顔を赤らめたハヤト。

実は彼が言った一言は『君の笑顔だけで充分なお祝いだよ』という、恥ずかしいにも程がある言葉だった。

ハヤトはウィズに酒を注いでもらい、次にウィズはハヤトに酒を注いでもらう。

 

「では改めてまして、ハヤトさんおめでとうございます‼」

 

「ああ、乾杯」

 

「ハァ~、美味しいですねぇ~」

 

酒を一口飲み、笑顔でハヤトを見るウィズ。

元々ウィズは、あまり酒は飲まない生活を送っていたのだが、ハヤトと出会ってからは嗜む程度には飲むようになっていた。

 

「せっかくウィズが買ってくれたんだ。ゆっくり味わって飲まなければね」

 

「そんな事言わずに遠慮せず、いっぱい飲んで下さい」

 

「うむ……しかしねウィズ……君、飲むペースが少しばかり早い気が……」

 

「そうですか?ハヤトさんがパーティーに入ったのが嬉しくてお酒が進んじゃったかな、えへへへ」

 

明らかにいつもより早い、まるで水を飲むかの如く酒を飲んでいる。

 

「はぁ……二日酔いになってしまうから、セーブして飲むんだよ」

 

「はぁ~い」

 

言っている事と反対に飲むペースが早くなっているウィズを見てハヤトは溜息しか出なかった。

 

「ハァ………頼むから程々にしてくれ」

 

 

 

数十分後……

 

 

 

 

 

「えへへへ、すごぉ~い!ハヤトしゃんが3人に見える~」

 

(ちょっと待ってくれ………ウィズがこんな酔い方するの初めて目にしたんだが)

 

ハヤトの忠告も空しくウィズは完全にできあがってしまった。

しかも悪酔い状態……ハヤトもウィズがこんな酔い方をするのは初めて見ることで戸惑っているが、これはウィズがハヤトは心を許せる人間であるという現れでもあった。

 

「ハヤトさんがここに来て数年経ちますけどぉ、どうなんですぅ~?」

 

「……何がかな?」

 

「気になってる方とか」

 

「……へ?き、気になってる⁉」

 

「あと……しょの…お付き合いしている方……とか」

 

グラスの縁を指でなぞりながら、言いづらそうにしているウィズ。

 

「ウ、ウィズ……君は少し酔い過ぎてしまったみたいだね。今日のところは大人しく寝て……ウィズ?」

 

ウィズはハヤトの手を握り……

 

「ちゃんと答えて下さい‼」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉッ‼ちょ、待って!…ウィズ、いやウィズ様女神様リッチー様‼ドレインタッチはやめ!やめて下さい‼」

 

ウィズがハヤトに対して使っているスキルはドレインタッチというスキルであり、触れている相手の体力や魔力を吸い取る事や与える事ができるスキルなのだ。

 

「わ、わかったわかったわかった‼言います、言いますから‼白状しますから!」

 

「むぅ~、嘘ついたら酷いですからね………」

 

ドレインタッチを解除され、ぐったりとするハヤト。

彼はドレインタッチをやられる時の何かを吸われる感触が未だに慣れないのだ。

 

「ハァ……ハァ…ハァ、ま………先ずは、交際している女性がいるかいないかだが……」

 

「……ゴクリ」

 

「この答えは『いない』だよ」

 

「そ、そうですか!ふぅ~……」

 

ウィズはハヤトの答えを聞いて何故か安堵する。

 

「それで!好きな方は⁉」

 

「あ、ああ……想いを寄せている女性か……」

 

ハヤトは少し言いづらそうな顔をしており、中々答えようとしない。

 

「……吸っちゃいますよ?」

 

「わ、わかった…答えは……『いない』だ」

 

「いないんですか⁉」

 

嘘だ。

ハヤトは嘘をついている、ハヤトには想いを寄せている女性がいる。

その女性とは、今彼の目の前にいるウィズの事である。

数年前にこの世界に転生して、何をすればいいかわからず、困っていたハヤトに手を差し伸べてくれたのがウィズで、彼女のお陰で今の状態がある。

ウィズの優しさに惹かれて、ハヤトはウィズに想いを寄せているのだ。

しかしそこら辺の部分はヘタレなハヤトは、ウィズに告白できないでいた。

 

今、正に絶好のシチュエーションだったのにも勿体無い。

 

(せっかくのチャンスだったのに……私は本当に根性なしだ)

 

「という事は」

 

ウィズは席を立ち向かいから隣に移動して、ハヤトに寄り添い、ハヤトの腕を抱き締める。

 

「私にも……チャンスはあるんですね」

 

「え………え?……え?……うん?……え?」

 

ハヤトは今の状況の理解が追い付いていなかった。

自分が好意を寄せている人が自分の腕を抱き締めて、とんでもない事を言っている。

 

「……ちょっと落ち着こうかウィズ、いや私も落ち着かねばならないんだが…君は今、酒に酔った勢いで思いもしていない事を言っているだけだ…冷静になろう」

 

「ハヤトさんは……」

 

「……え?」

 

「ハヤトさんは私では……ダメですか?」

 

「う……」

 

酒に酔い若干赤くなった顔で上目遣いをしてくるウィズ、それプラス自身の大きな胸でハヤトの腕が挟まれてるときた。

彼女のお陰でハヤトの思考回路はショート寸前である。

 

「いや、そういう訳では……むしろ私は嬉しいというか、喜んでというか…」

 

「私は本気ですよ……」

 

彼女の『本気』という言葉でハヤトは冷静を取り戻す。

彼女の言葉のお陰で、自分の思いを伝える覚悟を得たのだ。

 

「……ウィズ…本当に私の様な男でも?」

 

「もちろんです…さっき言った通り『本気』ですよ?……ふざけてそんな事は言えません」

 

「そう言うのであれば、私も君の覚悟に応えなければね。ウィズ……私の様な男でも構わなければ………………」

 

「スゥ…スゥ…」

 

「寝てしまったのか……」

 

ウィズの告白に応えようとしたハヤトだが、酔いが回ったウィズは彼の腕に抱き付いたまま寝てしまっていた。

 

「ハァ………やれやれ、寝るときはちゃんと寝室で寝なきゃ駄目だろう」

 

ウィズを抱き抱え、彼女の寝室にあるベッドに寝かせて寝室を出るハヤト。

彼は今、複雑な心境……いや、後悔していた。

自身がもっと早く想いを伝えれば、彼女は聞いてくれたかもしれない。

その一方で、酒が入った状態で話す話題でもなかったし結果オーライという、半場逃げの言葉を自分に言い聞かせてる自分が腹立たしかった。

 

 

 

 

食卓の片付けを済ませて、ハヤトは自身の寝室のベッドに寝転がる。

 

「私の大馬鹿者め」

 

自身を一言罵倒して、彼は眠りにつき一日が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌朝

 

 

「ふぁ~、あれ?私ベッドで寝てたっけ?」

 

目が覚めたウィズは、やはり昨晩の記憶がないようだ。

着替えを済まし、寝室から出るとハヤトが朝食の準備をしていた。

 

「ハヤトさん、おはようございます」

 

「ああ、おはよう」

 

「昨晩の記憶があまりなくて、その……ご迷惑お掛けしました」

 

「……謝る事はないよ。昨晩君は酔ってすぐに寝てしまったからね…特に何事もなかったから大丈夫だ。(そうか……やはり酒の勢いだったか…)」

 

(ハヤトさん、あんな事言ってくれてるけど……ハヤトさんと毎日過ごしてるんです、そんな誤魔化しはききませんよ。一体なにをしてしまったのかしら……今日こそちゃんと聞かないと)

 

「さぁ、朝食ができたよ」

 

一見いつも通りに振る舞っているハヤトだが、数年間毎日ハヤトと接しているウィズからしたら何かを隠しているのはバレていた。

二人は食卓の席に着き、朝食を食べる。

 

「………ハヤトさん」

 

「………何かな?」

 

「昨晩に何かあったんですよね?」

 

「………先程も言ったが、何もなかったよ」

 

「本当にですか?」

 

「ああ、本当だ」

 

「本当に本当ですか?」

 

ウィズはテーブルを乗り出しハヤトに顔を近付ける。

あまりの近さにハヤトは戸惑った。

 

「ちょ……ち、近いよウィズ」

 

「むぅ~、言っておきますけど、私に誤魔化しはききませんよ!」

 

(今回はやけに突っ掛かってくるな、普段だとこんな事はなかったんだがね……)

 

ウィズがここまでムキになるのには理由があった。

ハヤトはあまり自分の事を話そうとしない、これまでうまくスルーされていたが、今日ハヤトが隠し事をしているのを機に彼女の堪忍袋は限界に足していた。

今日は意地でもハヤトを正直にさせる。

 

「ハヤトさん!ご飯を食べた後、お話があります‼早く食べちゃって下さい‼」

 

「…え……は、はい」

 

気まずい空気の中で朝食を食べる二人。

 

 

 

朝食を食べ終えて、リビングにてハヤトはウィズの目の前で正座をしている。

 

「……私が何故こんなに怒っているか、わかっていますか?」

 

「………何で怒っているのでしょうかねぇ~」

 

気まずそうに目を逸らすハヤト。

 

「そうやって誤魔化さないで下さい‼ハヤトさんはいつも自分の都合の悪いことを話さずに、逃げてばかりじゃないですか!」

 

「む………ではウィズ、君に問うがね、君はこの私に対して一つも隠し事はしていないのかな?その言いぐさだと『私はあなたに対して隠し事は一切しておりません!』と言っている様な物だよ」

 

「そ、それは………」

 

「ほら、どうしたのかな?言ってみたまえよ。一言『『正直に!』』ね『私はあなたに隠し事はしていない』と!そこまで偉そうに言うんだ、君は私に正直なのだろう?」

 

「う………うぅ」

 

「言えないのかい?フフ、この様な事も言えずに私を問いただすなどと……片腹痛い。人は誰でも他人には語れぬ事があるのだよ!例えそれが大切な最愛の人であろうとね‼」

 

「………」

 

「……出掛けて来る…帰りは遅くなるから、店は任せたよ」

 

「………はい……」

 

「………」

 

リビングを出る際、ハヤトは今にも泣きそうな顔で俯くウィズを見て何かを言いかけようとするが、結局何の言葉も出せないままリビングを後にした。

 

ハヤトがリビングを出た後もずっと椅子に座り込み動かないウィズ。

 

「………嫌われちゃったかな……あんなに攻め立てるつもりなかったんだけどなぁ……」

 

ハヤトの事がもっと知りたい。

何故彼は教えてくれないのか、自分はもっと彼を理解して少しでも支えになってあげたい。

いつも店に赤字をだして迷惑をかけているばかりの自分だが、彼はそれを受け止めていつも助けてくれている。

そんな彼に惹かれて、気付くとウィズもハヤトに想いを寄せていたのだ。

逆にハヤトもウィズに想いを寄せていて、両想いなのだが……お互い、それにまだ気付いていない状態である。

 

 

 

 

 

一方ハヤトはというと

 

「……私は大馬鹿者であり、最低の屑だったみたいだな………ウィズにあの様な事を…一時の感情だったとはいえ、彼女を傷付けてしまった。あんな事になるのだったらちゃんと答えておけば………いやしかし答えたら答えたで悪い方へ進みそうだ……どうすればよかったんだ………」

 

ふらふらと歩きながら、今日の依頼主の元へ向かう途中である。

依頼主は街の一般人の男で、内容は息子に体術の稽古をして欲しいとの依頼だ。

 

「私はどの面さげてウィズの元へ帰ればいいんだ………」

 

 

 

それからハヤトは無事に依頼を終えたものの、朝の一軒の事で頭が一杯だったからか、全然集中できなかった様である。

 

 

 

 

 

 

依頼を終えた頃には午後になっており、ハヤトは遅めの昼食を食べる為にギルドへ向かった。

ハヤトがギルドに入るとめぐみんが酒場のテーブルに座っており、アクアは大勢の人に囲まれ宴会芸を披露している。

 

「やあ、めぐみん。カズマの姿が見当たらないが、どうしたんだい?」

 

「あ、ハヤト。カズマなら今、盗賊の冒険者の方にスキルを教えてもらっている所です」

 

「そうか、ならば昼食を食べる時間はありそうだな。あ、注文よろしいかな?私が昨日討伐したヤマタノオロチの肉があると思うのだが、それを使ったステーキ定食を一つ」

 

 

ハヤトは近くを通り掛かった店員に注文すると……

 

「あ、あの~…ハヤト?」

 

「どうしためぐみん?」

 

めぐみんが何か言い出しづらそうな顔でハヤトの袖をくいくい引っ張り

 

「生まれてこのかた私は、ヤマタノオロチの肉をまだ食べた事がなくてですね……」

 

「まぁ、食べた事のある人は少ないだろうねぇ」

 

「その、何と言いますか……私は今、成長期真っ只中でして…できればオロチのお肉を分けて頂けたらなぁ~と……」

 

「昼食は食べてないのかい?」

 

「その……食べたのですが…」

 

「わかったわかった、めぐみんも食べればいいだろう。すみません、やはり二つで」

 

めぐみんはその慎ましい体に見会わず、良くたべる。

前からめぐみんと付き合いのあるハヤトはそれを知っていた。

 

「流石ハヤト。あなたの寛大な心意気に感謝です」

 

「毎回君にご飯を奢るときに思うが、変におだてるのやめてくれ。むず痒いよ」

 

「あら、ハヤト来てたの?」

 

アクアがハヤトに気付き、人だかりを押し退けて彼の向かいの席に座る。

 

「ちょっと遅めの昼食にね……(ウィズと喧嘩して、帰るに帰れないとは口が裂けても言えない)」

 

今頃ウィズはどうしているだろうか、今にでも帰って謝りたいが、行動に移す勇気が出ない。

その悩みを紛らす為にハヤトは話題を出す。

 

「そういえばアクアはアークプリーストだったね。回復や支援魔法も使えるし、前衛での戦闘もこなせる万能職。『女神だった』君にはうってつけだね」

 

「だったって何よ!今も現役バリバリの女神様よ‼」

 

昨日カズマ達と話して、彼らの転生した経由など知った。

この世界に転生する特典として、チートな武器、防具、道具、能力等が与えられるのだが、カズマは転生する際に選んだのは目の前にいる女神アクアだったとの事だ。

 

 

「あなたの冒険者カードも見せなさいよ!昨日私も見せたんだから!」

 

「ああ、確かに私のは見せてなかったね。ほら」

 

ハヤトから冒険者カードを渡されたアクア、めぐみんも横からカードを覗きこむ。

 

「あなたバトルマスターなのね。成り手が少ないレア職じゃない」

 

「おぉ、知力、幸運値以外のステータスがずば抜けてますね」

 

元々身体能力が高いハヤトだが、これも自身が転生の特典で得た能力の『超人的身体能力』のお陰でもある。

 

「ご注文のオロチのステーキ定食お二つお待たせ致しました」

 

「どうも、もう一つは隣の子に」

 

「これがヤマタノオロチの肉、こんな早くにも食べることができるなんて!」

 

先程頼んだ定食が来て、ハヤトとめぐみんの前に並べらる。

その様子を見ていたアクアが面白くない様な顔をしてハヤトを見ていた。

 

「私にも何か貢ぎなさいよ。シュワシュワとか」

 

「……好きにすればいいだろう」

 

「すみません。シュワシュワ一つお願いします!」

 

(カズマが駄女神と呼ぶ訳が分かってきた気がする)

 

 

躊躇なくシュワシュワを即注文するアクアに呆れるハヤト。

 

「お、ハヤト。来てたのか?」

 

「やあ、カズマ。スキルを教えて貰ってたんだってね。何を教わったのか……って、クリスとダクネスじゃないか」

 

「昨日はご馳走になったなハヤト」

 

「うぅ……ハヤト久し振り……」

 

「ん?ハヤトと知り合いだったのか?」

 

どうやらスキルを取得した様で、戻ってきたカズマ達。

その連れもハヤトの知り合いだった。

一人は金髪ロングの美女で、クルセイダーのダクネス。

もう一人は頬に小さな刀傷がある銀髪美少女で、盗賊のクリス。

 

「ああ、盗賊からスキルを教わっていると聞いたが、まさかクリスだったなんてね。所でクリス、そんな泣きそうな顔して……一体どうしたんだい?」

 

「うむ、クリスは、カズマにぱんつを剥がれた上にあり金毟られて落ち込んでいるだけだ」

 

「おいあんた何口走ってんだ!待てよ、おい待て。間違ってないけど、ほんと待て」

 

ハヤトはカズマの肩に手を置き、可哀想な人を見るような目で語りかける

 

「カズマ、この世界は私達が過ごしていた世界とは違う……しかし流石にやっていい事と悪い事があってだね……私も君と同じ男だ、欲求不満になるのもわからなくもない、だがね…女性の下着を剥ぐのは……」

 

「ちょ、違うんだって!ハヤト、これには山より高く海より深い訳があってだな⁉」

 

アクアとめぐみんはダクネスの言葉に軽くひいている。

そこでクリスは気を取り直した様で、落ち込んでいた顔を上げる。

 

「公の場でいきなりぱんつを脱がされたからって、いつまでもめそめそしててもしょうがないね!よし、ダクネス。あたし、悪いけど臨時で稼ぎのいいダンジョン探索に参加してくるよ!下着を人質にされてあり金失っちゃったしね!」

 

「おい、待てよ。なんかすでに、アクアとめぐみん以外の女性冒険者達の目まで冷たい物になってるから本当に待って」

 

「このくらいの逆襲はさせてね?それじゃあ、ちょっと稼いでくるから適当に遊んでいてねダクネス!あ、ハヤトもたまにはクエスト付き合ってよ!じゃあ、いってみようかな!」

 

と言いながら、クリスは冒険仲間募集の掲示板に行ってしまった。

 

「えっと、ダクネスさんは行かないの?」

 

自然とカズマ達のテーブルに座ったままのダクネスにカズマは訪ねる。

 

「……うむ。私は前衛職だからな。前衛職なんて、どこにでも有り余っている。でも、盗賊はダンジョン探索に必須な割に、地味だから成り手があまり多くない職業だ。クリスの需要なら幾らでもある」

 

程無くして臨時のパーティーが見つかったのか、数名の冒険者達と連れ立ってギルドから出ていくクリス。

クリスは、出掛けにカズマ達に向かって手を降って出ていった。

 

「もうすぐ夕方なのに、クリス達はこれからダンジョンに向かうのか?」

 

「ダンジョン探索は、できる事なら朝一で突入するのが望ましいのです。なので……モグモグ…ああやって前の日にダンジョンに出発して、朝までダンジョン前でキャンプするのです。モグモグ……ダンジョン前には、そういった冒険者を相手にしている商売すら成り立っていますしね。モグモグ……それで?カズマは、無事にスキルを覚えられたのですか?」

 

ステーキを食べながら喋るめぐみんにカズマは呆れながらも

 

「お前なぁ、物を食いながら喋るなよ……ふふ、まあ見てろよ?いくぜ、『スティール』ッ!」

 

カズマが叫び、めぐみんに右手を突き出すと、その手にはしっかりと白い布が握られていた。

めぐみんは顔を真っ赤にしながら涙目でスカートの裾を下に下げモジモジしている。

 

「……何ですか?レベルが上がってステータスが上がったから、冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか?……あの、スースーするのでぱんつ返して下さい……」

 

「あ、あれっ⁉お、おかしーな、こんなはずじゃ……ランダムで何かを奪い取るってスキルのはずなのにっ!」

 

カズマが握りしめていたのは……めぐみんのぱんつである。

慌ててめぐみんにぱんつを返し、いよいよカズマの見る周囲の女性達の視線が冷たい物になっていく中、突然バンとテーブルが叩かれた。

 

「やはり。やはり私の目に狂いはなかった!こんな幼気な少女の下着を公衆の面前で剥ぎ取るなんて、何と言う鬼畜………っ!是非とも……!是非とも私を、このパーティーに入れて欲しい!」

 

「いらない」

 

「んんっ………⁉く……っ!」

 

カズマの即答に、ダクネスが頬を赤らめてブルッと身を震わせた。

 

「なあなあハヤト」

 

「モムモム……なんだい?」

 

「昨日ハヤトに話し掛ける前にパーティー参加希望で来たんだけど、ハヤトはあのダクネスってのと知り合いなんだろ?あれってダメなタイプか?OKなタイプか?俺は前者だと思うんだが」

 

「う~ん、扱い方次第ではないか?彼女の職業は前衛職だ。特に彼女の防御力には光るものがあるよ。しかし一つ、いや二つばかり欠点があってね………」

 

カズマとハヤトの会話を遮るように、アクアとめぐみんがダクネスに興味を持ったみたいであり。

 

「ねえカズマ、この人だれ?昨日言ってた、私とめぐみんがお風呂に行ってる間に面接に来たって人?」

 

「ちょっと、この方クルセイダーではないですか。断る理由なんて無いのではないですか?」

 

ダクネスを見ながら口々に言い始める。

 

「ああクソ!面倒臭い事になりそうだから、こいつらには会わせたくなかったのに!」

 

カズマはため息混じりに真剣な表情になり語り始める。

 

「………実はなダクネス。俺とアクアは、こう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えている」

 

「ほう……魔王討伐を考えているのかね?」

 

「ああ、丁度いい機会だ、めぐみんも聞いてくれ。俺とアクアは、どうあっても魔王を倒したい。そう、俺達はその為に冒険者になったんだ。という訳で、俺達の冒険は過酷な物になる事だろう。特にダクネス、女騎士のお前なんて、魔王に捕まったりしたら、それはもうとんでもない目に逢わされる役どころだ」

 

「ああ、全くその通りだ!昔から、魔王にエロい目に逢わされるのは女騎士の仕事と相場は決まっているからな!それだけでも行く価値はある!」

 

「えっ⁉………あれっ⁉」

 

「えっ?……なんだ?私は何か、おかしな事を言ったか?」

 

予想外の言葉に思わず声が出たカズマだが、ダクネスを諦めめぐみんの方に向く。

 

「めぐみんも聞いてくれ。相手は魔王。この世で最強の存在に喧嘩売ろうってんだよ、俺とアクアは。そんなパーティーに無理して残る必要は……」

 

途端にめぐみんが、ガタンと椅子を蹴り立ち上がった。

マントをバサッと翻しながら。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者!我を差し置き最強を名乗る魔王!そんな存在は我が最強魔法で消し飛ばして見せましょう!………ぶっちゃけ言うと、魔王よりも遥かに最強の称号を持つに相応しい方が身近にいますので」

 

わざとらしくハヤトをチラチラ見るめぐみん。

 

「あ~………私が強いだとか、そんなちゃちな事は置いといて。確かに魔王を倒すのは簡単ではないだろう………多分。まあ、パーティーのメンバーに過ぎない私が言うのもなんだが、どんな問題児パーティーでも頑張れば魔王討伐は可能だと私は思うよ」

 

「おいおいハヤトまでそんな事言うのか?」

 

………と、その時。

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まって下さい!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まって下さい!』

 

街中に大音量のアナウンスが響く。

 

「おい、緊急クエストってなんだ?モンスターが街に襲撃に来たのか?」

 

不安そうな顔をしているカズマとは対象に、ハヤトとダクネスとめぐみんは嬉しそうな表情だ。

 

「いや、恐らくこれは………」

 

「………ん、多分キャベツの収穫だろう。もうそろそろ収穫の時期だしな」

 

「は?キャベツ?キャベツって、モンスターの名前か何かか?」

 

この世界の事をまだ詳しく知らないカズマは、呆然とした顔と感想を告げる。

めぐみんとダクネスが可哀想な人を見るような目でカズマを見つめる。

 

「カズマ……この世界のキャベツはだね……」

 

「あなたのいた世界のキャベツと違って……」

 

アクアと同じく転生者であるハヤトは事情を知らないカズマに何かを言おうと話し掛けようとするが、それを遮る様に、ギルドの職員が建物内にいる冒険者に向かって大声で説明を始めた。

 

「皆さん、突然のお呼び出しすいません!もうすでに気付いている方もいるとは思いますが、キャベツです!今年もキャベツの収穫時期がやって参りました!今年のキャベツは出来が良く、一玉の収穫につき一万エリスです!すでに街中の住民は家に避難して頂いております。では皆さん、できるだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに納めて下さい!くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をしない様お願い致します!なお、人数が人数、額が額がなので、報酬の支払いは後日まとめてとなります!」

 

 

カズマが『お前は何を言っているんだ?』と言わんばかりの表情で固まる中、ギルドの外から歓声が起こる。

 

「実際見てみれば、早く物事を飲み込めるだろう。さぁ、行こうかカズマ」

 

「あ、ああ」

 

ステーキの最後の一切れを頬張り、ハヤトはカズマと共にギルドの外に出る。

外の人混みに交ざり様子を見るカズマ達の目に、街中を悠々と飛び回る緑色の物体の姿が飛び込む。

呆然としながら立ち尽くしているカズマに、隣にいたアクアが厳かに。

 

「この世界のキャベツは飛ぶわ。味が濃縮してきて収穫の時期が近づくと、簡単に食われてたまるかとばかりに。街や草原を疾走する彼らは大陸を渡り海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥で誰にも食べられず、ひっそりと息を引き取ると言われているわ。それならば、私達は彼らを一玉でも多く捕まえて美味しく食べてあげようって事よ」

 

「俺、もう馬小屋に帰って寝てもいいかな」

 

そんな事を呟くカズマだが、その一方ハヤトはというと。

 

「ふふふ………一玉一万……ふふ……一万だ」

 

笑顔ではあるがどこか恐い顔で、やる気満々の様だ。

 

「キャベツ狩りだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「あ、ちょっとハヤト⁉」

 

ハヤトには似合わぬかつ珍しく大声をあげながら、ハヤトは目にも止まらぬ速さで建物の壁を壁キックを使い、上空で飛び回ってるキャベツへ向かい、早くそして軽く指でキャベツを突き、動かなくなったキャベツをいつの間にか背負っていた籠に放り込んでいく。

 

「ふははははは‼そらそらそらぁ!早くしないと皆の分も私が採り尽くしてしまうぞ⁉」

 

地上に降りたハヤトは次に低空飛行しているキャベツを指で突き、動かなくなったキャベツを各所に設置しているキャベツ用の檻に放り込んでいく。

 

「みんなハヤトに採られちまうぞ!急げー!」

 

「「おおおおおおおお‼」」

 

 

他の冒険者達もハヤトに続いて、気勢を上げながら駆け抜けキャベツを捕まえていく。

 

「……本当に勘弁してくれ」

 

呆れ果てながらも、金になる故に渋々キャベツの収穫に参加するカズマなのであった。




次回

ハヤトはウィズと仲直りできるのか⁉

そして!
ウィズがカズマ一行と初対面です‼


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この女店主に交際と新たな出会いを!

誰が喋っているか分かりにくいとご指摘を頂きました。
文章力が乏しく申し訳ありません。次回にカッコの横に喋っている人物の名前を出すか検討中です……


キャベツの収穫が終わり、すっかり真っ暗になった夜のアクセルの街、街にある魔道具店のウィズ魔道具店の前を歩き回っている一人の不審者……じゃなく男性がいた。

彼の名はシラヌイ ハヤト、この店の住み込み従業員であり、只今ここの女店主と絶賛喧嘩中である。キャベツを三玉抱えて、苦い顔しながら店の前をいったり来たりする、その様は立派な不審者だ。

 

「う~む、ウィズにどの様な顔をすればいいんだ……」

 

キャベツの収穫の後、帰りづらい彼は、ギルドで遅くまで他の冒険者達と宴会をしていたが、時間は虚しくも過ぎていき、ギルドも閉館の時間になって冒険者は帰り今に至る。

 

「………しかし、いつまでもこんな所でうろうろしててもなぁ……彼女は許してくれるだろうか……」

 

ハヤトは鍵を開けて店の入り口のドアノブに手をかけ、静かに店の中へ入る。

もうこの時間なので、もちろん店は閉店の時間帯である。店内は暗く、静かだ。

 

「彼女は寝てしまったかな……」

 

ウィズと顔をあわせるするのが嫌なので、足音をたてずにカウンター裏にある階段をのぼりリビングへ向かう。

 

(お願いだ……出来ることなら彼女と顔をあわせたくない………寝ていてくれよ…)

 

ウィズとの気まずい空気を感じたくないが為に、今の彼は謝らなければならないという現実から逃げている。

謝りさえすれば解決するものを、ハヤトはそれを分かっていながら、それを避けていた。

 

リビングのドアを音をたてない様にゆっくりと開けると………驚いたからなのだろうか、目を見開きながら固まっているウィズが目の前にいた。

ハヤトとウィズは目が合い、二人の時間が少しばかり止まっていた。

しばらく時間が経ち、最初に口を開いたのはハヤト。

 

「あ……あの…た、ただいま」

 

気まずそうな苦笑いで言うと。

 

「ハ…ヤトさん……」

 

同じく固まっていたウィズが徐々に表情が緩くなり、涙目になりながらハヤトに抱き付く。

 

「お帰りなさいっ……」

 

ウィズが抱き付いてきた衝撃で抱えていたキャベツを落としてしまうが、今のハヤトはそれ所ではない。

ウィズに抱き付かれているという状態で、頭が真っ白である。

しばらくして、ある程度落ち着いたのか、ハヤトはウィズの頭を撫でながら。

 

「今朝はすまなかった……私は君と過ごして長いのに、何も打ち明けず心を開こうとしなかった…そのお陰で君をとても不安にさせてしまっただろう。全ての非は私にある、本当にすまなかった……」

 

「何言ってるんですか……あんな乱暴に攻め立てた私が悪いんです」

 

ウィズはハヤトの胸に埋めていた顔をあげる。

彼女の目が少し赤くなっている、泣いていた証拠だ。

これを見てハヤトは、自身を憎む。自分が変に意地をはったせいで、大切な人に涙を流させた。何て愚かで阿呆な事をしたのか自分はと。

 

「……ウィズ…」

 

ハヤトはウィズの目尻に溜まった涙を指で拭う。

 

「だけど……今回の件のお陰でというのも変ですが、その……ハヤトさんが私の事をどう思っているか聞くことができましたしね」

 

「ん?(……私が何か言ったか?)」

 

ハヤトは今朝自分が言った事を脳内で高速再生して思い出していた。

 

『人は誰でも他人には語れぬ事があるのだよ!例えそれが「大切な最愛の人」であろうとね‼』

 

自分の心当たりある言葉に、恥ずかしさのあまり少し顔が赤くなるハヤト。

しかしここまで知られてしまっては後はない。

 

「ああ……そうだ。朝言った通り、君は私にとって大切で最愛の人だ。まだ私に至らぬ所があると思う、君に不満にさせる時も多々あるかもしれない………そんな男である私で良ければ、ウィズ……貴女とのお付き合いを許し願いたい………」

 

「でも……私はリッチーで…寿命もないですよ?」

 

「構わない、いつしか私も寿命を克服してみせる」

 

「努力してますけど、お店の売上だって……赤字をいっぱい出しちゃいますよ?」

 

「そんな事、今に始まった事ではないだろう。私が貴女を支える」

 

「こんな……こんな私でも…いつまでも一緒にいてくれますか?」

 

「無論だ。貴女を絶対に手離しはしない」

 

「でしたら私からも言わせて下さい。ハヤトさん、貴方とお付き合いをさせてもらって……いいですか?」

 

「まったく、私からプロポーズしたつもりなんだけどな………逆にウィズからも言われるとはね」

 

ハヤトはウィズを抱き締めながら。

 

「言っただろう、私からも言っているんだ………断る訳ないだろう」

 

「ハヤトさん………」

 

第三者からすると、顔を覆いたくなるくらい恥ずかしい二人。

床にほったらかしになっている三玉のキャベツ、内心『おい、俺ら忘れんな』とハヤトに訴えかけているのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日

 

 

 

 

交際するというステージに踏み込んだハヤトとウィズだが、だからと言って普段の生活のリズムが変わるといったらそうでもない。

正直、交際する前も二人で生活を共にし、よく外出(デート?)したりしているので、特に何も変わらない。

昨夜もプロポーズを成功させた後は夕飯を食べて、いつも通り各自自室で就寝して夜を終えた。

 

唯一変わったといったら、ウィズがハヤトにスキンシップをするようになった所だろうか。

例えば朝起きた時。

 

「おはようウィズ」

 

「おはようございます」

 

「お……ウ、ウィズ?」

 

「うぅ……迷惑だったでしょうか?」

 

「いやそんな事はないよ。ちょっとビックリしただけだ(むしろ私は嬉しいの一言だよ)」

 

ハヤトに恥ずかしそうな顔をしながらも抱き付いてきたり。

 

食料の買い出しの時。

 

「ハヤトさん」

 

「もしよかったら……その」

 

ウィズが手をモジモジさせながら、ハヤトの手をチラチラ見ている。

もう見るからに手を繋ぎたいサインである。

ハヤトはそれを察してウィズの手を繋ぐ。

 

「………ほらウィズ、行くよ」

 

「あ、はい!」

 

と手を繋ぎたがったりなど、恐らく溜めていた何かが溢れてしまった的なやつだろう。

どちらにせよハヤトも喜んで応じているので、結果はウィンウィンだ。

 

 

そして買い出しも済ませて、魔道具店を開店させるが………

お客が来たと思いきや、商品を買わずにウィズの顔を見るなり満足して帰る男性冒険者や同じくハヤト目当てで来店する女性冒険者が来るだけで(この時のウィズから

感じる視線に、冷や汗を流すハヤト)、商品が全く売れない。

 

「………おやつ食べますか?」

 

「………うん、食べよう」

 

その後全く人が入らなくなり、カウンターで立ち尽くしている二人は、暇なのでおやつを食べる為リビングへと足を運ぶ。

 

「今日はパーティーの方々と会わないんですか?」

 

「ああ、店の勤めもあるからね。今日は冒険者稼業はお休みだ。そういえば今夜、行くのかい?」

 

「はい、行きますよ」

 

ハヤトはショートケーキの苺にケーキにのっているクリームをつけてから苺を口に運ぶ。

 

「モムモム……ならば、いつも通り私も一応護衛として付き添うかな。もっとも、ウィズには護衛など必要ないだろうけどね」

 

「いつもいつもすみません。私の勝手でやっている事なのに……」

 

「気にすることはない。私はウィズのその行いを良い行いで素晴らしいと思う、しかも勝手に付き添っているのは私の方だしね」

 

ウィズは、定期的に街から外れた丘にある共同墓地で、ロクな葬式もされず、天に還る事なく彷徨っている魂達を、天へ還している。

本人曰く『アンデッドの王なので』とのこと。

 

ただ困った事にせっかく魂を天に還しても、形を保ってる死体などはウィズの魔力に反応して、アンデッドとして湧いてしまう。

なので、天に還す→湧く→天に還す→湧く→天に還す→湧く、というループ作業の様な流れになっているのだ。

まぁ、やらないよりはマシだとは思うが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜

 

ウィズは共同墓地で魂を天に還す魔方陣を展開し、ハヤトはそれを見守っている。

ハヤトの主な役割は作業中のウィズの護衛、魔方陣の光やウィズの魔力に反応して来たモンスターなどを始末するのが仕事だ。

始末といってもアンデッド系のモンスターはウィズの魔方陣で天に還ってしまうし、生きて意志を持っているモンスターはハヤトの気当たりで逃げて行くので、そんな大掛かりな事でもない。

 

「何か異常がないか墓地の見回りをしてくるよ」

 

「わかりました。どうか、お気をつけて」

 

「念の為だが、ここ周辺に私の気当たりを残しておく」

 

ハヤトは地面に手をあてる。

手をあてると同時に彼の身体中から赤いオーラの様な波が溢れる様に湧き始め、そのオーラが地面を伝ってウィズと魔方陣を飲み込む様に拡がる。

 

『拳神皇魔帝(けんじんこうまてい)の加護』

 

「ハァッ!」

 

ハヤトの掛け声に反応するかの如く、地に拡がったハヤトのオーラが空へ上がってドーム状になり、やがて何もなかったかの様に消えていった。

 

「これで近付ける者はいないだろう……いるとすれば、魂や意志のないアンデッド……意志があったとしても、かなり危機察知能力や知性にかける大馬鹿者だろうね。では、行ってくるよ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

手を降って見送るウィズに応えて、ハヤトも手を振りながら見回りへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらかた見回りは終わり、これといった異常はなく、行き場に迷っている魂を誘導したりだけだった。

とりあえずウィズの元へ戻ろうとしたその時。

 

「うおおおおおおっ⁉」

 

誰かの叫び声が墓地に響く。

 

「誰か私の気当たりの領域に入ったな?(しかし今の声……聞いたことがある気が…)」

 

声がした方へ軽く駆け足で向かうハヤト。

 

 

「カズマ!しっかりして下さい!カズマ⁉聞こえてますか⁉」

 

「………」

 

「おい、カズマ‼早く起きろ!アクアが行ってしまったぞ!」

 

声の主の元へたどり着いたが、そこにはハヤトの予想通り見覚えのある人物達がいた。

それは、恐らく気当たりに当てられ気絶したと思われるカズマと、倒れたカズマを必死に揺さぶって起こすめぐみん、それを心配そうにするダクネスだった。

 

「こんな所で何をしているんだ三人共」

 

「あ、ハヤト⁉あなたこそ何故?ってそんな事より、カズマが!カズマがいきなり意識を失って倒れてしまって、アクアは墓の奥へ行ってしまって!」

 

「わかった、とりあえず落ち着くんだめぐみん。深呼吸して落ち着こう、カズマは私が何とかする。二人とも、そこより先は行くんじゃないぞ。君達(ダクネスは大丈夫だと思うが)もカズマと同じ目にあってしまう」

 

ハヤトは寝ているのカズマ上半身を起こし。

 

「こういう場合だね、中途半端に揺すったりしてもダメだ。こうやって起こすのが一番だ」

 

ゴツンッ

 

「いっっっったぁぁぁぁぁっ!」

 

ハヤトが施した処置、それは拳骨……しかもスナップをきかせたヤツである。

痛みの余りカズマは起きる所か、転げ回っている。

 

「さて、お次は気当たりの解除だね」

 

ハヤトが透明な領域の壁に触れると、透明になっていたドーム状の気当たりの領域が半透明になって現れ、やがてゆっくりと消えていった。

 

「さぁ、これで大丈夫だ」

 

「いたたた、あれ?ハヤト何でこんな所に?」

 

「カズマ!そんな事よりアクアが!」

 

「あ、そうだ!急がねえと!」

 

「ん、アクアはどうしたんだ?」

 

「ああ、ハヤトが発動させた魔方陣?に、カズマは倒れてしまったが、アクアは特に何もなかったかの様に墓場の中央へ行ってしまったが……」

 

「アクアが………マズい‼」

 

「お、おいハヤト⁉」

 

顔が青ざめたハヤトは即座にウィズの元へ駆け抜ける。

彼は忘れていた、アクアはアークプリーストの以前に女神だ。一目でウィズをアンデッドの王であるリッチーだと見抜く。

彼女は腐っても女神だ。その様な存在を躊躇せず、むしろ自ら進んで浄化しようとするだろう。

つまり、アクアによってウィズは浄化されて消えてしまう。

 

「ウィズ‼無事か⁉」

 

ハヤトが駆け付けると思った通り、アクアが浄化魔方『ターンアンデッド』を発動させて魂の他にウィズまでも浄化されそうになっていた。

ウィズの足元が半透明になり消えかかっている。

 

「きゃー!か、体が消えるっ⁉止めて止めて、私の体が無くなっちゃう‼成仏しちゃうっ!」

 

「あはははははは、愚かなるリッチーよ!自然の摂理に反する存在、神の意に背くアンデッドよ!さあ、私の力で欠片も残さず消滅するがいいわっ!」

 

「スウゥゥゥゥゥゥッ!」

 

ハヤトは思い切り息を吸い上げ。

 

「「やめんかあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼‼‼‼‼」」

 

アクアに対して怒鳴り付ける。

その声はとてつもなく大きく、軽く地面が揺れ、その場にいたアクアとウィズは耳を押さえてしゃがみ込んでいた。

そのお陰でアクアの集中力が切れたのか、ターンアンデッドの魔方陣が消える。

 

「うぅ……は、ハヤトさん?」

 

「あああああ!うるっさいわねっ!………ってハヤト?」

 

「何だ⁉今の爆音は?」

 

「これは………どいう事ですか?」

 

カズマ達も遅れてハヤトの元へ到着し、ハヤトはアクア達の元へ歩み寄る。

 

「ハヤト、こいつに近付いちゃ駄目よ!そいつはリッチー、アンデッドの王なの!」

 

「………」

 

「ハヤト?」

 

ピシッピシッピシッピシッピシッ

 

「え………ハヤトさん?何をしたのかしら?動けないんですけどっ⁉」

 

ハヤトはアクアの身体の数ヵ所を指で突くと、アクアは仁王立ちになったまま動けなくなってしまった。

その後ハヤトは膝を突き、へたり込んでるウィズの手を優しく握る。

 

「すまないウィズ………私が気を抜いていたばかりに、護衛失格だ」

 

「大丈夫ですよ、ハヤトさん………その…ありがとうございます」

 

「少し待っててくれ。ハァァァ………」

 

ハヤトの手から今度は緑色のオーラが出て、ハヤトの手から握られてるウィズへ伝わり、消えかけていた足元が元に戻る。

 

「これで大丈夫だろう………立てるかい?」

 

「はい、大丈夫です……」

 

ハヤトにフォローされながら立ち上がるウィズ、恥ずかしいのだろうか、彼女の顔が少し赤い。

 

「ハヤトさん?動けない上に、今度は……く、クスぐったくなってきたんですけど⁉ぷ……ふふ、ぷ、あああああはははははははははっ‼」

 

動けないアクアは涙やヨダレを撒き散らしながら笑っているが、体がピクリとも動いていない為、その光景は少しばかり不気味だ。

 

「ハヤト、この駄女神に何をしたんだ?」

 

「ひーーひひひっ!だ、駄女神じゃなあああぁぁぁぁはっはっはははは‼」

 

「彼女が私の大切な人を傷付けてくれたんでね。少し御灸をすえてあげただけだ」

 

笑いながらも体が動かないアクアを見て、カズマとめぐみんはひいているが、ダクネスはというと。

 

「な、なんという拷問じみたお仕置き」

 

とか言いながら頬を赤く染めて、羨ましそうに見ていた。

 

 

「アクア、私は謝れとは言わない。ただ、謝った方が君の身のためだよ」

 

「誰がこのリッチーのせいであいやあああ!いーははははっ!」

 

「ならば永久にそこで笑っていたまえ、帰ろうかウィズ」

 

「え、あの方は……ハヤトさんの知り合いなのでは……?」

 

ウィズはハヤトとアクアの顔を交互に見ながら、戸惑った様子だ。

 

「わかりましたわかりました!私が悪かったです‼ごめんなさぁぁぁぁぁぁいっ!」

 

「最初から素直に謝ればいいものを……」

 

ピシッピシッピシッピシッピシッピシッ

 

溜め息混じりにハヤトは、またアクアの身体の数ヵ所を突く。

するとアクアの症状は解除され、笑い疲れたアクアはぐったりと倒れ込む。

 

「ひー、ひー、た……助かった」

 

カズマがアクアに駆け寄り。

 

「いい薬になったな」

 

どことなくスッキリした笑顔でアクアに語りかけていた。

 

「はぁ……はぁ、は、ハヤト、あんたそこのリッチーが大切な人だとか言ってたわね⁉どういう訳か教えて欲しいのだけれど」

 

流石女神といった所か、まだウィズに対して攻撃的な目を向けるアクア。

ウィズはハヤトの背中に隠れ、怯えてる様な困ってる様な顔をしてアクアを見ている。

 

「私からもお願いします。何故ハヤトがリッチーと行動を?」

 

「話せそうなら聞かせてくれないかハヤト」

 

めぐみんとダクネスも不安な表情でハヤトを見つめている。

それもそうだろう、ハヤトはアクセルの街どころか、ここを取り仕切る国であるベルゼルグ王国では、成功以外の結果は出さない冒険者として有名人である。

そんな彼がアンデッドの王、リッチーと行動を共にしているのだ、皆が驚くのも無理はない。

 

「ハァ……まあ、君達にはいずれ話そうと思っていたんだがね、まさかそれが今日だなんて……皆、紹介しよう。彼女はリッチーのウィズ、私の命の恩人であり、私が働いている魔道具店の店主であり、えー……その…私の………ゴニョゴニョ」

 

「すまない、最後のところがよく聞こえなかった、もう一度言ってもらえないか?」

 

めぐみんとダクネスは最後の部分が聞き取れなかった様だが。

 

「ハヤト!お前、その人が彼女って本当なのか⁉あの美人な人が彼女なの⁉」

 

「うお⁉カズマ落ち着くんだ!」

 

カズマはしっかりと聞こえた様で、ハヤトの胸元を掴み揺らしている。

ハヤトが言ったのは『私の恋人』である、その言葉にカズマの何かに火がついた様だ。

 

「ま、まさかハヤトが………」

 

めぐみんは信じられないとばかりに呆然としている。

 

「ハヤトと………リッチーが恋仲?……え、私の聞き間違いかしら?」

 

「いや、間違ってないよ………言っておくがアクア、彼女はただ墓場の成仏されていない彷徨っている魂を天に還していただけで」

 

「そんな事、このリッチーにターンアンデッドをかけようとした時に聞いたわよ!こういう事はアークプリーストであるこの私の役目よ!リッチーなんてお呼びじゃないわ。さぁ、あんたの後ろでこそこそしてるリッチーを差し出しなさい、今度こそ浄化してあげるわ!」

 

「少し落ち着けよ」

 

ゴスッ

 

カズマが興奮してるアクアの頭に、短剣の柄の部分で軽く叩く。

 

「ッ⁉い、痛、痛いじゃないの!あんた何してくれてんのよいきなり!」

 

「あー、大丈夫か?えっと、ウィズだったか?」

 

「は、はい、だ、だ、大丈夫です」

 

「ちょっとカズマ!こんな腐ったみかんみたいなのと喋ったら、あなたまでアンデッドが移るわよ!ちょっとそいつに、ターンアンデッドをかけさせなさい!」

 

「腐った……みかん?」

 

ウィズに詰め寄ろうとするアクアだが、カズマに襟首掴まれて止められる。アクアは浄化に夢中のあまり気付いてないだろうが、ハヤトの顔に静かな殺意がやどっている。

ウィズがハヤトの後ろから出て来て、アクアに警戒しながら口を開く。

 

「そ、その………私は見ての通りのリッチー、ノーライフキングなんてやってます。アンデッドの王なんて呼ばれてるくらいですから、私には迷える魂達の話が聞けるんです。この共同墓地の魂の多くはお金が無いためロクに葬式すらしてもらえず、天に還る事なく毎晩墓場を彷徨っています。それで、一応はアンデッドの王な私としては、定期的にここを訪れ、天に還りたがっている子達を送ってあげているんです」

 

ウィズの言葉に頷いていたカズマだが。

 

「それは立派な事だし善い行いだとは思うんだが………アクアじゃないが、そんな事はこの街のプリーストとかに任せておけばいいんじゃないか?」

 

「そ、その………」

 

アークプリーストのアクアを見ながら何か言いにくそうにしているウィズ。ハヤトはそれを察して彼女の代わりに訳を話す。

 

「やってもらいたい気持ちは山々なんだが……この街のプリーストは金銭を貰わなければ何もしない、実に冷たい人達でねぇ。だから彼女が代わりに彼らを導いているんだ」

 

その場にいる全員の無言の視線がアクアに集まる中、アクア本人はばつが悪そうにそっと目を逸らす。

 

「それならしょうがない。でも、ゾンビを呼び起こすのはどうにかならないか?俺達がここに来たのって、ゾンビメーカーを討伐してくれってクエストを受けたからなんだが」

 

ハヤトとウィズは目を会わせ、ウィズが困った表情を浮かべ。

 

「あ……そうでしたか……。その、呼び起こしている訳をじゃなく、私がここに来ると、まだ形が残っている死体は私の魔力に反応して勝手に目覚めちゃうんです。………その私としてはこの墓場に埋葬される人達が、迷わず天に還ってくれれば、ここに来る理由も無くなるんですが………えっと、どうしましょうか?」

 

「よしアクア、お前毎日が暇で仕方ないだろ?ウィズの代わりに浄化へ行くんだ」

 

「暇って何よ!失礼ね、私は女神なのよ?毎日が忙しくてたまらないわ。まあでも、迷える魂を導いてあげるのは本来私の役目だし、リッチーに導かれちゃあ可哀想だしね。私が引き受けるわよ!」

 

一言二言余計だが、流石腐っても女神と言った所か、アクアは墓場の浄化を引き受ける。

 

「という訳だ。これで大丈夫だろハヤト、ウィズ」

 

「申し訳ないなカズマ、後アクアも」

 

「ありがとうございます」

 

「よし、これで一件落着だな。となるとやることもないし帰るか」

 

「え……一件落着って……」

 

話が上手く収まったかと思いきや、まだめぐみんとダクネスは納得しきっていない様だ。

 

「私も冒険者の端くれだ。モンスターを見逃そうと言われ、はいわかりましたと納得する訳には……」

 

「もういいだろ?ウィズはリッチーだが、ハヤトが信頼してるパートナーなんだぞ?悪いこともしてないじゃないか」

 

「確かにハヤトが選んだ方ならば……」

 

めぐみんはハヤトを信頼しているからなのか、今のカズマの説得に理解を示し始めている。

 

「しかし今日はやってないにしても、今までも悪さをしていないという証拠が………」

 

「お前まだそんな事………」

 

カズマが溜め息混じりに言っている時だった。

 

「ああ、ハヤトさん!」

 

「ハヤト、あんた……」

 

「ハヤト………」

 

「確かに彼女が、今まで悪事を働いていないという確実な証拠はない。そんな私が今できるのはこれくらいだ。信じて欲しい。ウィズは今まで悪さをした事はない、人を襲うなどもっての他。自分より他人を思いやる優しい女性だ」

 

ハヤトがやっているのは土下座。

両膝を地面につき、権力者に媚びへつらうかの様に背中を丸め、頭を……顔を地面の土に擦り付けているのだ。

 

「ハヤトさん、顔を上げてください!」

 

「ちょっとハヤトやめなさいよ。あなたの言っている事はわかったから、土下座なんてみっともないからやめなさいったら!」

 

「わ、わかりましたから!お願いです、顔を上げてくださいハヤト!あなたのその様な姿、私は見たくありません‼」

 

ウィズ、アクア、めぐみんが土下座しているハヤトを起こそうとしているが、ハヤトはビクともしない。

 

「おいダクネス……お前、ハヤトがあそこまでやってるのに、まだ納得できないのか?あいつがあそこまでやるって事はさ……」

 

「わ、わかっている!」

 

ダクネスはハヤトへ駆け寄り、彼の肩に手を置く。

 

「ハヤト………わかった。あなたがそこまでするということに、私は納得するに値する『証拠』を見た。だからどうか顔を上げてくれ」

 

静かに顔を上げながらハヤトはニヤリと笑い。

 

「納得してくれたかね」

 

それに対してダクネスはやれやれと言った笑顔で。

 

「私がそう答えると見越して(土下座を)やったな。まあ、どっちにしろハヤトがそこまでして守ろうとする人だ。私はハヤトを信じよう」

 

「これで今度こそ一件落着だな」

 

 

 

 

 

 

墓場からの帰り道

 

 

カズマサイド

 

 

「浄化を引き受けたのはいいけど、よく考えたら私の睡眠時間減るって事じゃない」

 

「今さら気付いたのか……」

 

カズマはウィズに渡された一枚の紙切れを眺めながら呟く。

 

「しかし、リッチーが街で普通に生活してるとか、この街の警備はどうなってんだ……ハヤトがその従業員だってのと彼氏だってのも驚いた」

 

カズマが持っている紙はウィズの住んでいる住所が書かれた紙だ。

お礼という訳ではないが、ウィズがカズマにリッチーのスキルを教えるという事で彼女の名刺を受け取っていた。

 

「でも、穏便に済んでよかったです。いくらアクアがいると言っても、相手はリッチー。もし戦闘になってたら私やカズマは間違いなく死んでいましたよ」

 

何気なく言うめぐみんにカズマはぎょっとする。

 

「げ、リッチーってそんなに危険なモンスターなのか?ひょっとしてヤバかった?」

 

「ヤバいなんてものじゃないです。リッチーは強力な魔法防御、そして魔法の掛かった武器以外の攻撃の無効化。相手に触れるだけで様々な状態異常を引き起こし、その魔力や生命力を吸収する伝説級のアンデッドモンスター。むしろ、なぜあんな大物にアクアのターンアンデッドが効いたのかが不思議でならないです」

 

それに続く様にダクネスが。

 

「それに加えハヤトもいるとなると、最早リッチー以前の問題だろう」

 

カズマが冷や汗を流しながら、めぐみん達に聞く。

 

「ち、因みにハヤトと戦闘になってたら……?」

 

「まあハヤトの事ですから、殺しはしなかったでしょう……私達がリッチーと出会った記憶を消されるくらいでしょうか。以前、私がちょっとした失敗で他の冒険者に怒られている所をハヤトに助けられた事がありまして。ハヤトは指で冒険者の頭を突くと、その冒険者のまる1日の記憶が無くなったんです……恐らく今回も危うい状況になってたら、私達は例の冒険者と同じ目に会っていたと思われます」

 

最後にめぐみんはボソッと。

 

「ハヤトに殺意があったら今頃私達は肉塊になり、雑草の糧となっていたでしょうね」

 

それを聞き逃さなかったカズマは軽く失禁しそうになる。

しかしカズマは思った、自身はハヤトという存在をよく知らない。

強いというのはわかる、だが彼の穏やかな性格を前に彼の『脅威』は鳴りを潜めている。

それにどの様なスキルを使い、どの様な立ち回りが得意なのかもわからない。

そんな事を思い知らされたカズマは、改めてハヤトを理解しようと決心するのであった。

 

 

 

ハヤトサイド

 

 

ハヤトとウィズはお互いの手を繋ぎながら歩いていた。

 

「ウィズ……さっきは申し訳なかった、あの青髪も悪い人ではないんだよ。ただ、よく周りが見えなく事が多くてだね」

 

「ふふふ、別に気にしてないですよ。それにハヤトさんが入ったパーティーの方々ですよ?悪い人はいない事くらいわかってます」

 

「……ありがとう」

 

笑顔で返してきてくれるウィズに、ハヤトは感謝した。

 

そんなハヤトに一つだけ気になる事がある……それはアクアに、何故彼の気当たりが効かなかったのかだ。

気当たりが効かないのは、意思のない低級のアンデッドモンスター、捨て身の覚悟を持つ者、それか危機判断力が乏しい程に知力が欠けている者のどれかだ。

もしかしてアクアは相当なおバk……いや、それ以上は言うまい。

 

「さて、早く帰って休もうか」

 

「あ、ハヤトさん⁉」

 

ハヤトは恥ずかしがるウィズを気にせず、彼女を抱き抱え走って帰って行った。




次回はオリジナルエピソード
魔王軍幹部候補がアクセルの街に?
ハヤトの戦闘回です


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この幹部候補達に現実を!前編

少し長くなりそうなので前・後編で分けます。


駆け出し冒険者が集う街であるアクセルの街。

そこに四つの影が近付いて来ていた。

 

「本当にいるのか?あんな駆け出しの雑魚共が群がってる街に」

 

「魔王様が仰ったのだ。間違いはないだろう」

 

「近日中に幹部のベルディア様がアクセル付近を調査する為に、近くの廃城に滞在するとの事だ。拳神皇魔帝を始末すればベルディア様も調査がしやすいだろう……」

 

「幹部のご機嫌取りなんざどうでもいい事。拳神皇魔帝と死合いができる、これ以上に喜びを感じる事はないぞ」

 

「皆の者落ち着け……相手は過去単身で魔王城に乗り込み当時の幹部数名を屠り、あのハンス様とシルビア様にベルディア様を戦闘不能に追い込んだ化物。油断していると私達の首が飛ぶぞ。先程貴様が言った通り、ベルディア様はここいら周辺の調査をする予定だ。拳神皇魔帝がアクセルに在住してる事はベルディア様は知らん、幹部になるという事も大事だが、速やかに奴を討伐しベルディア様が安心して調査に赴ける様にする事が第一だ。わかったな?」

 

どうやらこの者達はアクセルの街にいる、拳神皇魔帝と呼ばれる冒険者を倒す事が目的の様だ。

それぞれ口にしている内容からするに、魔王軍の手先の様だが。

 

 

 

 

 

 

一方その頃、アクセルの街にてハヤトは。

 

 

「これは本当に売れるんだろうね?」

 

売れそうな商品を見付けてきたというウィズが、大量の手のひらサイズの箱を店に持ってきていた。

余程自信があるのだろう、彼女は胸を張り少しばかしドヤ顔だ。

 

「はい!今度こそ売れますよ‼何とこれは体が鋼の様に硬くなり、物理的防御力を極限に上げるという凄い薬なんです!」

 

ウィズは大量にある箱の一つを手に取り、中身を見せる

中には小さな青い玉の形をした薬が一つ入っていた。

 

「それだけ聞けば良い響きだが……まさか体が硬くなり過ぎて、身動きがとれなくなるとかはないだろうね?」

 

「………」

 

ハヤトの問いに、目を逸らしながら手にしてる箱の蓋を開けたり閉めたりしているウィズ。

しばらくして、開き直ったかの様に笑顔でハヤトの手を握り。

 

「ハヤトさん……きっと売れますよ」

 

「笑顔で誤魔化さなくていいよ………図星なんだろ?」

 

「………はい」

 

魔道具店の女店主ウィズ、先日ハヤトがヤマタノオロチを討伐した報酬金で、本日欠陥商品を大量に買い込む。

 

「よし今すぐ返品してくるんだ」

 

「ええ⁉」

 

「ええ⁉……じゃない。まったくせっかくの報酬金を、値段に釣り合わない、よりによって欠陥商品を持ってくるなんて………それにあのお金は今月の家賃も入ってるんだ。支払日が間近に迫ってるというのに全額使ってくるんじゃない!早く返品してお金を返して貰うんだ!」

 

「う~、今回もダメだった~」

 

渋々とウィズは商品を返品する為に店を出ていく。

彼女の商品の見る目のなさは最早才能の域に達している。

 

「やれやれ、少し目を離すと毎回これだ………とりあえず家賃は何とかなりそうだな」

 

そう言ってハヤトも店を出て、店の看板を準備中に切り替えてギルドへ向かった。

今回ギルドへ行く目的はクエストをこなす為ではなく、カズマから聞きたい事があるとの事でギルドへ向かっている。

 

 

 

 

 

 

場所は変わって冒険者ギルド

 

ハヤトがギルドに入ると、奥のテーブルにカズマ達の姿があった。

 

「おーい、ハヤト。こっちこっち」

 

カズマはハヤトの事に気付くと、手を降ってハヤトを呼ぶ。

 

「皆この前はすまなかったね」

 

「いやいやこの宴会芸の女神が馬鹿みたいに、いや実際馬鹿なんだが、突っ掛からなければ穏便にすんだんだ。なあ、アクア?」

 

「馬鹿とは聞き捨てならないわね。それに宴会芸の女神って何よ!私は水の女神よ!水の女神!わかってるのヒキニート⁉」

 

「とりあえずこのわめき散らしてる、宴会プリーストは放っといて。今日ハヤトを呼んだのは、俺達パーティーがハヤトの事を知りたいからだ」

 

隣から突っ掛かってくるアクアを突っぱねながら、カズマはハヤトに言った。

めぐみんとダクネスも意見は同じみたいだ。

 

「………確かにカズマとアクア、以前から付き合いのあるめぐみんとダクネスにも私の事はあまり話していなかったな」

 

店員に紅茶を注文した後、ハヤトは手を組んでカズマ達を見渡しながら言う。

 

「私が答えられる事であれば全て答えよう。さて、何が知りたいのかな?」

 

「先ず知りたいのは、ハヤトの職業だな」

 

意外にも普通な質問が来た、ハヤトの予想だとカズマの事だから録でもない事を聞いてくると思っていたが。

 

「めぐみんとダクネスとアクアは知っていると思うが、私の職業はバトルマスター。あらゆる武器を使用でき、素手での戦闘も可能な職業だよ。私としては素手での戦闘が好みでね、武器は滅多に使わない」

 

「成る程。次にハヤトはどんなスキルを使うんだ?」

 

これにめぐみんはかなりの期待を寄せているのだろうか、目をキラキラさせてハヤトを見ている。

 

「私のスキルは他に使い手はいない、独自のスキルでね。先ず、私が主に使用しているのが『点穴師』というスキル、確かカズマは漫画やアニメが好きだったね。早くいえば某世紀末漫画に出てくる拳法だと思ってくれればいい。私は生き物の血や気の流れを視ることができて、それを利用し自身の気(闘気)で相手の点穴(ツボ)を突き体内の気や血の流れを変えて、身体に影響を及ぼすスキルだ。相手をボンッとするのも可能だし、病気や怪我を治す為の治癒力を上げたり、一時的な身体能力の強化など色々な事に使える。そしてもう一つ私が使用してるスキルが」

 

そう言ってハヤトが右手を出すと。

彼の右手から赤く揺らめく炎の様な物が溢れるように出てきた。

 

「おお!ハヤトこれは何ですか?」

 

「魔法……か?私は見たことのない魔法だが…」

 

めぐみんとダクネスは興味深そうにハヤトの右手を見いる。(因みにアクアは飽きたのか、他の冒険者達に宴会芸を披露して楽しんでいる)

しかしカズマは既に理解していた様で。

 

「あれか、闘気って奴だろ?」

 

「流石カズマ、ご名答。そうこれは闘気、皆が言う魔力とは別の概念でね。闘気には『質』というのがあって、種類が多く存在する。この赤い闘気は『破壊』の性質を持っている。使用例として……例えば」

 

隣のテーブルで酒瓶を逆さにおでこに乗せてバランスを取っているアクア。

ハヤトはアクアのおでこに乗せている酒瓶に右手を向けると、闘気が酒瓶に向かって放たれ、闘気に直撃した瓶は割れて中に入っていた酒がアクアの顔に降りかかる。

 

「うわっぷ⁉お酒が鼻の中に入って痛い!」

 

「という感じで純粋な破壊ができる。そして次に『回復』の性質を持つ闘気」

 

すると今度はハヤトの右手の闘気が鮮やかな緑色に変わる。

 

「これは私の闘気を相手に生命力や魔力に変換して分け与える事が可能だ。今は使う必要はなさそうだからまた今度見せるよ。次は『氷結』の性質を持つ闘気」

 

次にハヤトの右手は蒼白い闘気に包まれ、そこに丁度店員が注文していた紅茶を持ってくる。

 

「ありがとう、うむ……では、この紅茶を使ってみようか」

 

ハヤトが紅茶に右手をかざすと。

 

「紅茶が凍っていきますよ。氷結魔法に似た効果だと思えばいいんですかね?」

 

「ああ、それがいいと思う。現に氷結魔法を見て編み出した闘気だからね」

 

氷結魔法はウィズが得意としてる魔法の一つである。

ハヤトはこれを見てこの闘気の性質を編み出したのだ。

 

「次が『滅殺』の性質を持つ闘気だ」

 

今度はハヤトの右手に金色に輝く闘気に包まれる。

 

「おお、何て輝かしい」

 

ダクネスがハヤトの右手に触ろうとした瞬間。

 

「「その手に触れるなダクネス‼」」

 

「ど、どうしたんだ二人共?」

 

ハヤトとカズマが同時にダクネスに警告する。

真剣な表情の二人に流石のダクネスも動揺しているが、二人がここまでになるのも無理はない。

安心した様に息を吐きながらハヤトは説明する。

 

「ダクネス、先程言ったがこれは『滅殺』の闘気。絶対的な熱をもってして、対象を滅ぼす。熱の加減は調整できるが、今の状態で触れたら……君の手が無くなっていた所だよ」

 

カズマも『滅殺』という言葉で気付いてダクネスを止めたのだ。

ハヤトは凍った紅茶に指を当てると。

 

「威力を弱めれば、氷を溶かして沸騰させるくらいに押さえられるが」

 

すると、凍っていた紅茶が一瞬で溶け沸騰し始める。

 

「本来はその名の通り『滅殺』を目的とする闘気だ」

 

ハヤトの右手の輝きが増し、紅茶の入ったティーカップを右手で触れるとカップが消滅していく、まるで最初からそれが存在しなかったかの様に。

やがてカップは紅茶ごとハヤトの闘気によって完全に消滅した。

 

「流石のダクネスもこれに当たると危ない……理解してくれたかな?」

 

「う、うむ……承知した」

 

とか言いつつ頬を赤く染めてハァハァと興奮してる様に見えるのだが。

 

「とまあ主に使用してる闘気はこれくらいだ。他にもいくつかあるが、またの機会という事でいいかな?」

 

ハヤトの問いに三人は無言で頷く。(アクアはまだ懲りずに隣で宴会を行っている)

 

「後は聞きたい事はあるかな?」

 

「あ、一つ聞きたい事があるんだが」

 

「………」

 

ハヤトは気付く、今のカズマの顔はとても悪い顔をしている。

絶対に録な質問をしてこない。

 

「恋人のいるハヤトさんに質問です。リア充野郎なハヤトさんは恋人であるウィズさんとどこまで進んでるんですか?Aですか?Bですか?Cですか?どうなんですか⁉」

 

この類いの話題になるとカズマは高確率で冷静さを失う。

 

「いや、カズマちょっと落ち着こう」

 

ハヤトの制止もきかず、胸ぐらを掴んで問いただしてくるカズマ。

めぐみんとダクネスに助けてくれと視線を送るも、二人共ジュースを飲んで視線を逸らし見て見ぬふりな状態だ。

二人もこの状態のカズマは相手にしたくないらしい、まあ誰しもそうだろうが………

 

「いいよなハヤトは!背も高くてルックスも良くて強いし、他の女性冒険者からもモテモテだしよ!おまけにあんな美人な恋人もいるなんて反則も良いとこだろ!」

 

「ちょ、カズマ⁉揺するのはやめっ!気持ち悪くなってきた」

 

嫉妬に燃えるカズマに揺すられて、ハヤトは吐き気を催し片手で口を押さえる。

 

 

「俺だって!俺だって春が欲しいんだよ!」

 

「うっぷ………本当に、ヤバイ……」

 

「そろそろハヤトがヤバそうなのでやめてあげて下さい!」

 

「と、とりあえず落ち着けカズマ!」

 

「ハァ、ハァ、何でこんなに荒れてんだ俺………」

 

ようやくカズマの暴走を止めに入っためぐみんとダクネス。

 

「大丈夫ですかハヤト?」

 

「た、助かった……」

 

何とか口からとんでもない物を吐かずに済んだハヤト。

彼が一安心した矢先にアナウンスが街中に響く。

 

 

『シラヌイ ハヤトさん!シラヌイ ハヤトさん!至急街の正門へ向かって下さい!指名討伐が入りました!繰り返します。シラヌイ ハヤトさん!シラヌイ ハヤトさん!至急街の正門へ向かって下さい!指名討伐が入りました!』

 

「何だ?また緊急クエストか何かか?」

 

「指名討伐?ハヤト、指名討伐とは一体なんですか?私も聞いたことがないんですが」

 

カズマとめぐみんは聞いたことのないアナウンスの内容に首を傾げ、めぐみんは名があがっていたハヤトに対してどういう意味かと問う。

 

「なになに?何かイベントやるの?」

 

アクアはというと、能天気なのか先程のアナウンスの内容が楽しい行事をやるのかと思っている様で、ウキウキしてる表情だ。

そんな女神を尻目にハヤトは溜息をつき、やれやれと言わんばかりに。

 

「今回はやけに期間が空いたからね。三人共知らないのも無理ないか」

 

「そうかカズマ達は知らなかったか。実はたまに魔王軍の魔物がハヤトを指名で戦いを挑んでくる時があるんだ」

 

唯一事情を知っているダクネスが三人に説明する。

 

「恐らくあちら(魔王軍)側にもハヤトの名は知れ渡っているという事なのだろうが、まあアクアが言った通り……一種のイベントと化しているのも事実だ」

 

苦笑いになりがら言うダクネス、それに続いて。

 

「おお!指定討伐だ!」

 

「よっしゃ!今回こそ当てるぞ!」

 

他の冒険者達が嬉々として、盛り上がっている。

内容からすると結構物騒な事だと思うのだが、冒険者達の反応を見てカズマとめぐみんは戸惑いを隠せない。(ご存知アクア様は事情を知らぬか知ってか、冒険者達と一緒に盛り上がっている)

 

「とりあえず門前に行こうか、カズマもめぐみんもいくらかお金を持って行った方がいいと思うよ」

 

「え?いや、これってどういうイベントなんだよ?」

 

「あ、待って下さいハヤト!」

 

ギルドを出て門前へ向かうハヤトに続いてカズマ達も彼の後ろをついていく。

 

 

 

 

 

 

ハヤト達が正門にたどり着くと他の冒険者達がワイワイと金銭を出しあっている。

 

「いいか、ハヤトか魔物が攻撃を加えた時点で開始だからな」

 

「今日は四体か。よし、5分以内に始末するに五万エリスだ!」

 

「オイラは8分以内に三万エリス!」

 

「あのデカブツはタフそうだな……10分以内に七万エリスで賭けるぜ!」

 

どうやら掛け金を出しあっている様だ。

 

「え、今何分以内にって言ってたけど……何を賭けてんだ?」

 

カズマは首を傾げながらダクネスに問う。

 

「あそこに四体の魔物がいるだろう?」

 

「ああ、いるな。何か皆ボス格っぽい奴らだけど………」

 

ダクネスが指を指す先には屈強な魔物が四体。

一体一体がそこいらにいる雑魚の魔物ではなく、上位に位置する奴らだと一目でわかるくらいだ。

 

「そう、あいつらはただの魔物ではない、魔王軍幹部の候補達だ」

 

このダクネスの一言に、カズマとめぐみんが目を見開きながら。

 

「幹部候補⁉」

 

「な、何故その様な輩達がここに?」

 

ここは駆け出し冒険者が集まる街である、幹部候補とはいえ強力な力を持つ魔物である事には変わりない。

そんな魔物がアクセルの街に何故来るのか、ただ一つ、一つだけの理由があった。

 

「本来なら幹部候補になる程の魔物ならば、こんな所には訪れないだろう。しかし彼らにはここへ来る理由がある、それは彼、ハヤトを倒す事だ」

 

「ハヤトをですか?」

 

「うむ、前に挑んで来た幹部候補曰く魔王軍の間でハヤトを倒した者には幹部の席と多額の報酬金が用意されてるらしい。無理もないだろう、最強と謳われる冒険者ハヤト、彼のおかげで魔王軍側は各所で甚大な被害を被っている。魔王の必死さが伺えるな。因みに皆が賭けているアレだが、ハヤトが何分以内に幹部達を葬れるかを賭けている」

 

と説明しているダクネスだが……

 

(違うんだよな~、賭け事はその通りだけど……魔王が必死になって手先を送ってるというのは違うんだよな~)

 

心中で真っ先に否定しているハヤト。

彼が語っている通り、魔王がハヤトを倒す為に幹部候補を送っている訳ではない。

では何故なのか……それはただ単に魔王軍の中で、制御の効かない身勝手な魔物、変に魔王に対して媚を売りすぎて逆にウザがられた魔物など、他にも様々な問題を起こした魔物を処理するのが面倒だからと、魔王がハヤトに送りつけてるだけである。(ウィズを通して魔王が泣き付いてきた為、ハヤトは渋々承諾した)

いわゆる後始末だ。

当然幹部候補というのは名だけ、幹部の席や多額の報酬金などはそいつらを釣る餌にしか過ぎない。

 

 

ハヤトとしては非常に面倒な事だが、アクセルの街もといウィズの店を守る為に魔物達の目の前に出る。

 

四体の魔物のメンツは。

 

一体目が自身の身の丈程ある斧を軽々と担いでいる、2メートルは越えてるであろう牛の頭を持つ魔物ミノタウロス、物静かな印象で中央に立っている事から彼がリーダー格だろう。

 

二体目がボロボロな武道着を身に付けている虎の人型の魔物ウェアタイガー。

 

三体目がライオンの頭と前肢、背中にはヤギの頭と後肢、尾が蛇の合成獣の魔物キメラ。

 

四体目が左手に巨大な鉄棒を持つ単眼の巨人サイクロプス。

 

駆け出しの冒険者からしたら、相手にすれば無理ゲーな魔物達だ。

そんな魔物達の目の前まで歩いて来たハヤトに、リーダー格のミノタウロスが彼を睨み付ける。

 

「我はミノタウロスのガイラス。貴様が最強の冒険者と名高い拳神皇魔帝か?」

 

「………ああ、魔王軍の各々方にはそう呼ばれてるねぇ」

 

ハヤトの答えにガイラスとウェアタイガーとキメラ以外のサイクロプスはケラケラと笑い出す。

サイクロプスは前に出て、ハヤトに指を指しながら口を開く。

 

「へへへへ、この優男が噂の拳神皇魔帝だあ?笑わせないでくれよ、こんな奴指一本で捻り潰せるぜ⁉」

 

「あー、少しいいかね木偶の坊君。今私に向けているその汚ならしい指をどかしてくれないか?言っておくが、君らが殺意を持って私に戦いを挑むのであれば、死を覚悟したまえよ」

 

ハヤトは目の前に向けられたサイクロプスの指を軽くあしらう様に払いのける。

 

「この……丸腰の人間風情が…このブルタス様を木偶の坊扱いか?ぶっ潰してやる!」

 

サイクロプスのブルタスがハヤトに鉄棒を振り下ろす。その力はすざまじく、風を切る音が鳴り、鉄棒が地面につくと辺りが砂煙に被われる。

 

「ねぇ……あれじゃあ流石のハヤトもヤバイんじゃないの?」

 

額に汗を流しながらアクアはチラチラとカズマを見ながら言う。

 

「……は、ハヤト?」

 

カズマ達も心配しながら砂煙を眺めてる中、少しずつ砂煙が晴れていく。

 

「がぁっ、ゲホ!オエエッ!」

 

砂煙が晴れて現れたのは鉄棒に潰されているハヤトではなく、ハヤトに水月を蹴りで突かれ苦しんで膝を着いているブルタスの姿だった。

 

「まったく心配させんじゃねーよハヤト!」

 

「あ……あの鉄棒の一撃を受けると考えただけで……んんっ……⁉」

 

「お前こんな時に興奮してんじゃねえよ」

 

「してない!」

 

心配するカズマ達だが、ダクネスはというと………彼女は平常運転だった。

 

 

 

「おやおや?巨人族ともあろう者が人間の『軽い』蹴りで膝を着くか?」

 

水月にめり込んだ足を抜いて、やれやれと首を振りながら挑発を始める。

 

「ヌゥ……貴様…許さんぞ!このブルタス様をバカにしやがって、お望み通り俺様の本気を見せてやるわぁ!カハァァァァァァ…」

 

フラフラと腹をおさえながら立ち上がるブルタスは、頭に血管を浮かばせながら何か力を溜め始める。

 

『アイアンスウェット』

 

ブルタスの体の色が黒く変色していく。

 

「グハハハハ!今の俺様は何の攻撃も通さぬ鋼の体よ‼これで終いだ!」

 

「ほう、どれどれ?」

 

バチッ‼

 

ハヤトはブルタスの顔面の目の前に飛び上がり、一発のデコピンを打ち込む。

 

「うぐっ⁉………む、無駄だ。今の俺は爆裂魔法を撃ち込まれても傷一つつかん!フン!」

 

ペコッ

 

ブルタスは衝撃で後ずさるが、頭がへこんでいるものの、ブルタスが力を込めるとへこみが元に戻り何もなかったかの様に振る舞う。

その様子を見ていためぐみんは。

 

「その言葉聞き捨てなりませんね。我が爆裂魔法を前にそんな口叩けるか試してみますか?」

 

「バカやめろって!ハヤトも巻き添えになるだろうが、今はあいつに任せておけ」

 

「むぅ……」

 

めぐみんは自身が手にしている杖を掲げて爆裂魔法の詠唱を始めようとするが、案の定隣にいたカズマに止められ渋々と詠唱を取り止める。

 

 

 

「私のデコピンを耐えるか……ではこれは耐えられるかな?」

 

ハヤトはブルタスに自身の右の掌を向ける。

 

「何だ?その手は?なんもしてこねえなら、こっちから行くぞ!死ねえ!」

 

ブルタスは再び鉄棒をハヤトに振り下ろそうとした瞬間。

 

「フン!」

 

「うおっ⁉おああああああああ!」

 

ハヤトの右の掌から赤い破壊の闘気が放出され、ブルタスに直撃し後方へ吹っ飛ばす。

あまりの衝撃に数回バウンドしながら吹き飛び、やがて電車道の様な引きずった跡を地面に残して、ブルタスは大の字になり倒れていた。

苛立ちから歯を食い縛りながらゆっくりと立ち上がるブルタス。

 

「ぬぅぅぅぅ……何の魔法だか手品を使ったかは知らんが、俺の防御力は無敵。何度言わせれば……グゥッ」

 

ピキピキパキペキ

 

ハヤトの元へ戻ろうと一歩足を踏み込んだ瞬間、彼の黒く変色した鋼の様な体に罅が入る。

 

ジュルジュルズル

 

「あ、あああああ!うあああああ!」

 

ブルタスの罅が入った体から、肉やら骨が鋼の皮膚を押し出す様に飛び出てボトボトと落ちていく。

その光景を見ている女性冒険者は、口元を抑えたり、目を背けたりしている。

男性冒険者達も顔に青筋をたててその光景を目にしている。

彼らもモンスターを狩るのが日常茶飯事とはいえ、こんな光景は目にしたことがない。

いや、見たことはあるが、全てハヤトの処刑ショーの時である。

 

やがてブルタスの体が不自然に膨れていき。

 

「うがぁぁぁぁぁああああっ!」

 

ボンッ

 

断末魔をあげながら弾け跳び肉塊と化した。

 

 

「これで無敵と語るとは片腹痛い……さて、次は誰が相手してくれるのかな?」

 

「……俺が行こう」

 

次はキメラが前に出る。

 

「あの時は兜が邪魔で顔を拝めなかったが、まさかこんな優男とはな……驚いたぞ」

 

そのキメラの姿を見てハヤトは眉をひそめ。

 

「私の勘違いかもしれないが、君……前に私と会った事あるかい?」

 

「……貴様が魔王城に単身攻めて来た時…」

 

キメラは牙を剥き出し腹立たしそうに言った。

 

「ハンス様が戦闘不能になり真っ先に貴様に襲いかかったキメラのザンゲだ……覚えているだろう!」

 

ハヤトは心当たりがあった様で唸り声で威嚇しているザンゲを意に介さず、逆にスタスタとザンゲに歩み寄り、距離をつめる。

 

 

「ああ、シルビアの部下のキメラか。随分逞しくなったじゃないか」

 

「あの時、貴様に殺されかけた所……駒にしか過ぎない俺をシルビア様は庇ってくださった。そんな無抵抗のシルビア様を手にかけた外道め、貴様を倒す為に耐えられるかもわからぬ高度な強化合成を施したんだ。この連中と共に来たのもシルビア様に変わって拳神皇魔帝を倒す為、幹部の地位なんてどうでもいい!」

 

ザンゲの言葉を聞いて、先程まで軽い表情をしていたハヤトは殺意の籠った真剣な表情で答える。

 

「成る程成る程、上司の為に覚悟を背負った君の意思は伝わったよ。正直感動したよ………しかしだ、私にも守るべき人達がいる。手加減はしないぞ」

 

「加減なぞいらぬ!」

 

ザンゲはハヤトに飛び掛かりながら、獅子の強靭な前肢でハヤトを切り裂こうとするが。

 

「遅い!」

 

ハヤトは跳び上がって宙返りをしザンゲの爪を空を切らし、彼の背にあるヤギの頭を仕留めようとする。

 

「やはり跳んだか!喰らえ!『氷河期の吐息』ッ!」

 

ザンゲの初撃は囮だった、攻撃を避ける為に自身の真上へ跳んだハヤトに対して、今度は背にあるヤギの頭がハヤトに氷属性のブレスを吐きかける。

 

「いやはや私の行動パターンを読んでいたのか………ブレスも中々の威力みたいだ。では、これでどうかな?」

 

ハヤトは絶対熱の『滅殺』の闘気を放出して、ザンゲのブレスと相殺させて防ぐ。

 

「ぐぅっ!こいつも防ぐか………」

 

すかさずザンゲは尾の蛇を伸ばしハヤトの腕に絡ませて地面に叩きつけるが、ハヤトは地面へ叩きつけられると同時に受身をとりながら体制を立て直す。

 

「こいつで『チェックメイト』だ!猛毒に苦しんで逝け『ヴェノムタスク』ッ!」

 

ハヤトの腕に絡んでいる蛇が紫色の液体を滴らせた牙で、彼に噛み付こうとするが。

 

「ところがどっこい『詰み』ではないんだな」

 

ハヤトがそう言うと、蛇が散り一つ残さず消えていく。

 

「がああああ!貴様ぁぁぁぁぁ!」

 

苦痛で顔を歪ませるザンゲ。

ハヤトが使ったかのは、先程と同じ『滅殺』の闘気。

闘気によって蛇は消滅したのだ。

 

「私の行動パターンを読んで対処したのはよかったよ。ただ私に触れ続けたのが汚点だったな」

 

「ま、まだ……まだだ!まだ闘えるぞ!」

 

ザンゲはライオンの頭で炎属性のブレスを吐きながらハヤトに突進していく。

 

「頭に血が上ったのかい?……ザンゲ。君の今とった行動は、自身の死を決定付けた」

 

ハヤトは炎を跳んでかわし、そこに氷属性のブレスで追撃しようとするヤギの頭を蹴りで怯ませて、そのままヤギの角を土台に倒立をする。

 

「さて、次は私が言わせて頂くよ。チェックメイトだ」

 

倒立の状態からハヤトは両足を振り子の様に回して、自身の体ごとヤギの頭を回転させる。

周囲には骨が折れて砕ける音が響き、ヤギの頭は血泡を吹いて力なくあらぬ方向を向いて力尽きた。

 

「ぐぁぁぁっ!ま、まだ、終わっていないぞ」

 

ザンゲの本体であろうライオンの頭は歯を食い縛りながら、踏ん張り立ち上がる。

 

「いや、終わりだよザンゲ……」

 

「貴…様……」

 

ザンゲが見上げると、ハヤトが腕を掲げて立っていた。

 

「はぁぁぁぁっ!『斬手刀』ッ!」

 

「ゲハッ⁉」

 

掲げていた腕をザンゲの首へ振り下ろし、ハヤトの手刀がザンゲの首を切断する。

ゴトッと重い音を発ててザンゲの首は落ちた。

 

「………さて、次は誰が相手かな」

 

ガイラスに向き直りながらハヤトが言うと、ガイラスは鼻で笑いハヤトに指を指す。

 

「フ………拳神皇魔帝よ。僅かなる油断も時として死を招くぞ」

 

「………なに?」

 

「おいハヤト!後ろだ!」

 

カズマが叫んだその瞬間、何者かがハヤトにしがみつく。

 

「………首を跳ねられても、食らい付いてくるのか」

 

しがみついていた者の正体は本体のライオンの首がないザンゲの体だった。

ハヤトは察してザンゲの落ちた首へと目を向けると、風前の灯だが僅かに、気が巡り回っている。

つまりまだザンゲは生きている、これこそとてつもない執念を持つが故と言わんばかりの生命力だ。

体をハヤトの拘束に使い、ザンゲの首は目を開きゆっくりとハヤトに向くと。

 

「シルビア様の為!ここで潰えろ拳神皇魔帝!」

 

ザンゲの首は蛇の様に這いずりながらハヤトに近付いて、自身も彼の首を食いちぎらんと口を大きく拡げて飛び掛かってくる。

 

「………君のその執念、魔物といえど尊敬に値する。故に私も応えよう!」

 

するとハヤトは拘束されている腕を広げて、その勢いで拘束に使っていたザンゲの体の前肢が千切れ飛ぶ。

 

「今度こそこれで終わりだ!天に滅せよザンゲ!」

 

「ガアアアア!」

 

「『完遂捻り貫手』ッ!」

 

「………ッ!」

 

ハヤトの捻りを加えた貫手がザンゲの顎下から脳天を貫く。

それと同時に前肢がなくなりのたうち回っていたザンゲの体が、ピクリとも動かなくる。

 

(シルビア…様………申し訳ありません……)

 

ザンゲの目から一滴の涙が落ちゆっくりと閉じられる、今度こそザンゲはこの世から去った。

 

ザンゲがこの世から去った同時刻の魔王城。

城内の廊下を、下級悪魔の革を使った赤いドレスとライオンの鬣を使ったショールを身に付けた女性?が歩いていた。

彼女?の名はシルビア、魔王軍幹部の一人である。

 

「ザンゲったら何処に行ったのかしら、最近姿を見ないから心配だわ」

 

その時、シルビアの身に付けているショールの紐が切れて地面へと落ちる。

 

「あら……ザンゲから貰った彼の鬣で作ったショールが」

 

シルビアは落ちたショールを拾い、切れた紐の部分を見つめる。

 

「シルビア様!ザンゲ様の事でお話が!」

 

後ろからシルビアの部下と思われる魔物が大慌てで駆け寄ってきた。

 

「ザンゲの居場所がわかったの?」

 

シルビアは部下の言葉に顔を曇らせる、何か嫌な予感がする。不安を誤魔化すかの様にシルビアはショールを握りしめた。

 

「い、居場所というか……その…我が軍の預言者にザンゲ様の捜索をさせたのですが……あの方は独断で魔王軍幹部候補隊に加わり拳神皇魔帝の討伐へと向かったとの事です」

 

拳神皇魔帝の討伐、その言葉を聞いたシルビアの顔が青ざめる。

部下の肩を掴み、揺すりながらシルビアは訊いた。

 

「幹部候補って……ただ名前だけの処刑行事じゃないの!ザンゲは……あの子は無事なの⁉どうなのよ⁉」

 

シルビアにとってザンゲは特別な部下だった。

常に自身の後ろを付いて回り、誰よりも自身を慕っていて、そんな彼とシルビアは部下と上司というのは建前の友人となっていたのだ。

 

「……それが…たった今……魔王軍幹部シルビア様の側近、強化合成獣のザンゲ様は……拳神皇魔帝と闘い…戦死致しました……」

 

「……え」

 

言葉を詰まらせながら語られた知らせを聞いてシルビアの時が止まる。

あのザンゲが死んだ。

身近にいた親しい者の死は時が止まったシルビアの膝を崩た。

最後に部下は口を噛み締めながら。

 

「預言者によるとザンゲ様は最期までシルビア様の事を思い逝かれたとの事です……あの方は自身を庇ったシルビア様を傷付けた拳神皇魔帝を目の敵にしていましたから………恐らくシルビア様の敵討たんと、幹部候補隊に加わったのでしょう」

 

シルビアはザンゲから貰ったショールを見つめる。

このショールについてる鬣の持ち主はもうこの世にはいない、つまりこれはザンゲの形見。

彼はもうこの世にはいない、そんな現実がシルビアの心の中でぐるぐると渦をまいていた。

 

「敵討ちなんて……死んだら元も子もないじゃない………」

 

シルビアはショールを握り締め、それで顔を覆う。

声は出していないが、部下は一目で理解した。シルビアは泣いている、直接声を出さずとも心で泣き叫んでいる。

部下は何の言葉も出ない、きっとシルビアは自身が想像しているよりも大きな傷を心に刻んでしまっただろう。

そんな状態で安易に声は掛けられない。

部下はただただ顔を隠してヘタリ込んでいるシルビアを、黙って見守る事しか出来なかった。

 

今日ここに大切な存在を失った『魔物』がいた。

今日とある街のそばで大切な存在の為に闘った『魔物』がいた。

今日……そこでその魔物の命を奪った『冒険者』がいた。

 

この日魔王城で魔王軍幹部シルビアはその冒険者に対して、ある誓いをたてた。

大切な友人、ザンゲの命を奪った冒険者『シラヌイ ハヤト』をいつか必ず殺すと。




オリジナルなシナリオのせいなのか、一際駄文感が目立った気がします……
次回はいよいよハヤトと魔王軍幹部候補の決着です。


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