にじさんじ的な物語 (ていおう部長)
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気遣うからこそ、斬る。

少女は笑顔が綺麗な子だった。笑顔は隠し事するために使うものなんですよ。

好き嫌い別として、ハッキリ言うのです。


「いいよ、私がやっとくから」

と少女は言う。

夕暮れの音楽室、夕日は彼女の髪の毛を自らの色に染め上げていた。

「それじゃ楓、頼んだで」

と友人たちが退室した。

「…」

彼女は黙ったまま、音楽室の鍵を掴み、部屋を後にした。

 

 

私が職員室に鍵を返却して自転車置き場に向かうと、そこにはせっせと帰宅する準備をする運動部員の人たちが居た。

職員室に行ってる間に、太陽はすでに沈んでしまった。

「早く帰ろう…」

と私は呟き、自転車にまたがる。

「あ、今日は凛先輩の後に配信あるやん」

とスマホで予定表を眺めて思い出す。雑談でもしようかと、今朝凛先輩に言っておいた。

今日は何の話題にしようか…と私は少しワクワクしながら、自転車のペダルに力を入れ、帰路につこうとした。

その時、

「あ…あの!」

と後ろから男子の声が聞こえた。

「ん?」

「あ、あ、あの!」

と自転車にまたがる私の後ろで、男子がこちらを向いて言う。

「何? どしたん?」

凄く震えている。見てるだけで心配になってくる。

「…」

「? 黙っとっても、分からんて…」

流石に暗くなる前に帰りたい。

「こ…これ…」

と彼は両腕で可愛らしい封筒を差し出してきた。

「これなに?」

「読んでください!」

と彼は叫ぶように言うと、その封筒を渡しに押し付けるように渡してきた。

「…はぁ…? これ読めばええの?」

と私が彼に尋ねると、もうそこに彼は居なかった。遠くを見ると走り去っていく彼らしき姿が見えた。

私は視線を封筒に移した。

ピンクで可愛らしい、雑貨屋で売ってそうな封筒だ…

「やば!」

気付くと、時計の針は7時を刺していた。早くしないと、配信時間に遅刻してしまう。

「はよお!!」

と心の中で強く叫び、封筒を制服のポケットに入れて、自転車を急いで漕ぎ始めた。

自転車で帰る道は、何一つ変わっていない。昨日も見た風景だ。

 

 

「はぁ…」

配信中。

マイクがオンになっているのに、ため息があふれる。

『なんかあったの?』

とコメントが流れていくのが見えた。

「え? 私は元気だよ!」

と答える。だがふと気を抜くと、机の上に置いた封筒が目に入る。

「(私、ラブレターなんか貰ったことなかったな)」

こういう時、私はどういう気持ちで居ればいいのだろうか。

渡された封筒はラブレターで、私に向けて。何が何だかわからなかった。

「(話したことないのに…どうして好きになったんだろう)」

本当に疑問だ。LIMEのグループには入ってるけど…まったくもってわからない。

『でろーん? どしたの?』

「え? ああ! ごめん…」

とコメントを見て、自分がしばらく黙っていたことに気付いた。ラジオ番組なら3秒黙ったら放送事故だ。

「…」

私は身体のどこも悪そうなところはない。だが、何かがつっかえたような気持ちだ。

「ご、ごめんね。今日は早めに切り上げるね」

今日は配信を止めよう。みんなが嫌な気持ちになってしまう。

『大丈夫?』

気遣うコメントが流れてくる。

「大丈夫だよ。私は全然大丈夫だから、心配せんといて」

と言って、私は配信を止めた。

マイクとiphoneXの電源を落として、ベッドに倒れこむ。だが、寝る気にはなれない。

私は、机の上の手紙を掴み、ベッドの上に広げる。

「(廊下ですれ違う度、樋口の事が…)」

と黙読するだけで顔が熱くなる。

「なんでこんなん渡すの! もぅ…」

「何で私のこと好きになったん…何で私にこんなの渡したん…何で私に…」

何で私みたいな良いとこ無しな私に興味を持つの?

「でも…」

断るにしても、断ったら彼は悲しむだろうか。ドラマでも、逆上する男の子も居たりする。

何より、私は、

「みんなに嫌われないかな」

この事が何かのトリガーになったりしないだろうか。

なんて考えてると…

『楓さん? 今日の配信見てると、すごくモヤモヤします。何か悩み事でしょうか? よければ、私を相談相手にしてくれませんか?』

と、スマホの画面には静凛という名前が表示され、メッセージが送られてきていた。

「大丈夫ですよ。何も問題ありません!」

と即座に返信する。

『私、バカじゃないんで。声のトーン聞いてるだけで分かりますよぉ~』

一時期、メンタリズムとかが流行ったが…その類かな?

再度、問題ないと返信しようとすると、携帯が震えた。

『あ、もしもし楓さん?』

と、スマホから凛先輩の声がした。

「…はい」

『はぁ~よかった~』

「なんですか?」

『いやぁ、相談相手にしてもらえないかと』

少しだけ、イラついた。

「大丈夫ですから! もう気にせんといてください!」

声を荒げてしまった。嫌われたかな…

『ふふっ…楓さん、電話でもしないと相談してくれないと思って、電話したんです』

この人、どうしても話させる気らしい。

『その声の感じだと…まさか恋!?』

と声だけでもテンションが高いのがわかるように凛先輩が言った。

「なっ…私じゃないです!」

と即答する。

『私じゃない? てことは…楓さんが恋してるんじゃなくて、楓さんは恋されてる側なんですね?』

なんて名推理だろうか。大当たりやん。

「なんで分かるの!?」

と敬語で喋るのを忘れた。

『そういうことですか…では、夜も遅いですし、今週どこかでオフあります?』

「え?」

スケジュール表をめくる。すると丁度明日がオフだ。

「明日ですね」

『じゃあ明日。私とデートしましょ!』

「はい…えぇ!?」

私が返事をしたせいで何かが決まったようだ。

「ちょっと待ってって!」

『話しはそこで聞きますね。楓さんのピュアで可愛いところ、沢山見せてもらいますね~』

「はぁ!?」

と私が言うと、電話からはツーツーと音が鳴っていた。

「すっぽかせんやん」

と言って、私はベッドに身をゆだねた。

「色々あったな…」

と天井を眺めつつ呟く。

今にも爆発しそうだ。

ベッドの上に広げた手紙も片付けず、スケジュール表に凛先輩とのデートの事を記入して私は寝た。

翌日。

凛先輩を迎えに行くために、駅まで向かっていた。

「昨日の今日で、よく来れんな…」

と道中で呟く。言っちゃ悪いが、今の先輩は行動力お化けだ。

数分後、駅のホームに紺の制服を着た、見慣れた人が立っていた。

「あ! 楓さん」

とこちらに気付いた先輩が声をかけてきた。

「おはようございます…てか、何で制服なんですか?」

「え? 昨日、楓さんの事を考えてたら、着替えるの忘れちゃいました」

やっぱり行動力お化けだ。

「んで?」

と私は本題に入ろうとする。だが、敬語を使えてない自分が居て、申し訳なく思う。

「それじゃ…そこのカフェに行きましょ」

と言って、私は先を行く先輩についていった。

 

 

「そうですか…ラブレターですか…」

カフェについて、席に向かい合って座り、昨日あったことを先輩に言った。

「そうです…」

なぜか声が上手く捻りだせない。

「楓さんはどうしたいんですか?」

と先輩は注文したコーヒーを置いてこちらに向かって言った。

「…」

私は、YESとは言えない。だがNOと言って断ったら、私はみんなにどう思われるだろうか…

「凛先輩は…嫌われるのって怖くないんですか?」

と私は先輩に尋ねた。

「質問と答えの内容がおかしい気がします」

とコーヒーを口に運びながら先輩はこたえた。

そりゃそうだ。

「私も、嫌われたくはないですよ」

と先輩が答えた。続けて先輩は、

「というか、嫌われるのが好きな人なんてそんなに居ないのでは?」

「でも…」

「でも?」

と間を置かせず先輩はこたえる。

「私は…嫌われたくない…NOって言ったら。彼にもみんなにも嫌われるにきまってる」

と私は言った。

「…」

先輩は何も言わなかった。変なこと言っちゃったかな…

「あ…私変なこと言っちゃいました?」

「なんで変なことだと思うんですか?」

今度はこたえた。

「私の事しか考えてない発言だったので…」

「…楓さん。それが楓さんの悪いところですよ」

悪いところ?

「何がですか?」

「あなたは、自分の事が考えれてないんですよ」

「私は考えてます! みんなのことも!」

堪らず反発してしまう。

「楓さんがどう思うか、なんて発言今までありましたか?」

「私は嫌われたくない。それが本心です」

「あなたはね、バカなんですよ」

と急に文字通りバカにされた。

「私がどれだけ! どれだけ…!」

と言葉が強くなってしまう。

「みんなの事を考えてるか?」

と発言の先を越して、先輩が言う。

「な…」

「楓さん。みんなを思うなら、時には強く行かなきゃだめなんですよ」

と先輩が落ち着いた様子で答える。

「考えるからこそ辛く、強く行かねばならないんですよ」

「でも…私が我慢すれば、それで周りが喜んで笑顔で過ごせるなら…」

堪らず、目から涙がこぼれる。

「楓さん」

と先輩が言って、私は視線を先輩に合わせる。

「私は、あなたにも笑顔で居てほしいんです」

と先輩のコーヒーの容器で温められた手が、私の頬を触れる。

「よし! じゃあ、あなたを笑顔にするために、斬り方を教えましょう!」

と先輩は今までのテンションを入れ替えて言った。

「斬り方???」

私の涙も引っ込んで、斬り方という物騒な単語が気になった。

「男の斬り方よ」

と凛先輩は言った。恐ろしい。

「この動画を見て」

と先輩はスマホを取り出し、私に見せた。

そこには、明らかに隠し撮りされたようなアングルの動画が映っていた。

「こ、これは…」

画面を見ると、凛先輩と向かいに男の子が映っている。

『凛先輩! 僕と…お付き合いしてください!』

と画面の中の男の子が、先輩に言う。

「これって…?」

「私が斬ってきた…男たちよ」

『ごめんなさ~い。私、もうちょっとガタイがよくて声が低い人がいいかな~。でも、言ってくれてありがとう』

と画面の中の凛先輩は言った。

なるほど…斬るというのは、こういうことか。

「じゃあ、次の動画ね~」

「え、1人じゃないんですか?」

「私が今まで何人の男を斬ってきたか…」

と凛先輩は遠い目をする。

二人目。

『ガタイはいいけど、あなたは無理』

三人目。

『ごめんなさい…もうちょっと頑張って』

 

 

「は、はぁ…」

何人分見たか覚えてないくらい見た。

「どうですか?」

「うーん…」

どうですか? って言われても…サムライとしか言いようが…

「私が斬った後の彼らの顔。どうですか?」

と言われて、彼らの顔を見直す。すると先輩が、

「そりゃ悲しそうですけど、どこか異物が取れたような、スッキリした顔でしょ?」

彼らの顔を見る。彼らの表情は凛先輩の言った通りの顔だった。

「あ…」

「気づきましたか? 恋する男は、バッサリ斬った方がいいんですよ」

「でも、私にもできるかどうか…」

「大丈夫ですよ。自分に正直になって」

と凛先輩は笑顔で言う。

「…」

でも、いざやるとなる自信が出ない。

「じゃあ、今から答えに行きましょう。私が付いて行ってあげますから」

「はい…えぇ!?」

すぐに断ろうとしたが、先輩のマジな顔はそれを許しそうになかった。

「行きますか…」

と私は重い腰を上げて、彼をLIMEから探し出して呼び出した。

 

 

夕方。例の彼を学校の公門に呼び出した。

凛先輩は影で隠れている。

待ってる時間、とてつもなく緊張する。

空は薄暗くなり始めて、背中を太陽が照らす。

「樋口…待った?」

と向こうから、野球部のユニフォームを着た彼が来た。

彼、野球部に入ってたんだと今知った。なんて考えてると、

「返事、聞かせてくれるんやろ?」

「うん…」

「…」

と彼は黙ってこちらを見る。私は俯いて…

「(…これじゃだめだ…!)」

俯いて答えるのは、彼に失礼だ。だから私は彼に視点を合わせ、

「ごめん。私、あなたとは付き合えない。私は好きな人が居るの。だからごめんなさい…」

とハッキリ答える。すると、

「好きな奴って? 他校?」

と聞かれる。

「私が好きな子は…いつもどこか抜けてて、よく笑って、よく話しかけてくれて…小柄で…」

と好きなあの子の事を思いながら、彼に伝える。

「も、もうええ…わかった」

と彼は私の話を遮った。

「あ、ごめん。つまらんかった?」

「いや…でも、ハッキリ言ってくれて、ありがと」

と言って彼は元居た場所にもどっていった。

彼の顔は落ち込んでいた。でもどこか吹っ切れたような表情にも見えた。

「へぇ~、楓さん好きな子居たんだ~」

と背後から凛先輩が近づいてくる。

「なっ…いいでしょ! 別に!」

「もしかして…楓さんの好きな子って…黒髪であなたの事を『ちゃん』付けで呼ぶ子ですか?」

と凛先輩が小悪魔のように笑って言う。

「もう! いいでしょ! 別にぃ!!」

「あらあら~図星ですか?」

「もう知らん! 私は私の好きなようにする!!」

と答えて、私は帰路についた。

 

私は彼女の為にも、もう迷うことはしない。と思う。

 




最初は凛先輩とでろーんにしようと思ったんですけど…なんかね、指が動いたんだよ。

いつもdiscordでみんなのSSを見てるけど、やっぱ楽しいね。
 
次は気が向いたら、またdiscordで募集するかもです。

わからんけどね。

下記のURLからにじさんじDiscord部へのリンクへ行けます。是非入部して、私たちと話しましょう。
https://twitter.com/Njsnj_Discord/status/983014658075340800


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触って確かめて。

僕、毎年インフルエンザになるんですよ。


「よっこいせ…」

と私は腰を上げる。今日もいつも通り学校へ向かおうと玄関で靴を履いたところだ。

「あ…あれ?」

と急に立ち眩みがする。

「(貧血かな…)」

ともう一歩踏み出そうとするが、足は前へ出ず。

私はその場に座り込んでしまった。

「(なんで?)」

全身に力が入らず、頭がボーっとする。

恐る恐る自分の首元に手を当てると、普段とは比べようのないくらいの温もりがあった。

「こりゃ…熱かな…」

と呟き、私はその日学校を休んだ。

 

 

学校に欠席の連絡を入れて、ベッドで横になる。

今では、横になっていないと気持ちが悪く吐いてしまいそうだ。

「…」

寒気もすごい。これは本格的な熱だ。

「早く寝て、早く復活しましょう!」

委員長の私が長い間、学校を休む訳にはいかない。

早く治して一日でも早く復活しようと、今日は寝て身体を休めることにした。

私はベッドに潜り込んで、天井を見た。

こういう熱のときは、時間が流れるのが非常に遅い。

30分経ったと思いきや、5分も経っていなかったり。

「寝れないなぁ…」

身体は寝る気でいるのに、どうも眠れない。

風邪あるあるなのだろうか。

「そういえば、詩子おねえさんとのコラボ…後で、謝らなくちゃ…」

申し訳ない事をした。待ってくれていた視聴者もいるだろうし。

「はぁ…」

とため息をつくと、

「委員長!」

と詩子お姉さんの声が私の横から聞こえた。

「へ!? あぁ!?」

とそちらを向くと、そこには声の主、詩子お姉さんが居た。

「風邪、辛いですよね…私も結構学生時代は風邪ひいてたんですよ~」

と私の事はお構いなしに、詩子お姉さんは言う。

「それで、学校休んだときはですね。こういう本を読んで過ごしていたんですよ!」

と、彼女が取り出したのは…

「何この本…薄っ!」

と表紙に少年のイラストが描かれた本を私に差し出してきた。

「それでそれで、この本はですね。主人公のAがBの事を好きなんだけど言い出せないっていう典型的なツンデレで!!」

「は、はぁ…」

まずい、ついていけない。

「それで! こっちの本はすっごい純愛系の本でいいんですよ~」

と言って別の同じジャンルの本を差し出してくる。

「えぇ…」

今、私ができることは愛想笑いだけだ。

だが、体調が悪いのに笑顔なんか作るから、余計に気持ちが悪くなってきた。

「それで! それで! こっちが!!!」

と、詩子お姉さんはさらに速度を上げて、完全にショタ本について語る暴走特急と化していた。

「や、や、やめてぇ!!!!」

 

 

「やめて…ハッ!」

と目を開けると天井だった。

「ゆ…夢?」

と辺りを見回すが、詩子お姉さんの姿はない。

気付くと全身が汗でびっしょりだった。

「うわ…悪夢だ…」

熱を出したときは、なぜこんなに変な夢を見るのだろう。

しかも

「うぇ…夢の中での気分の悪さは継続ですか…」

寝てしまう前より、気分が悪くなってる。

と私は机の上に置いてあった水の入ったコップを掴んで、水を飲んだ。

「ふぅ…」

私にできることは今は何もない。こんな真昼間に私の相手をしてくれる人なんて居ないだろう。

「…」

ふと、私は気になった。

熱が治りやすくなる方法はあるのか? 

「調べよう…」

と私は『熱 早く 治す』と検索した。

すると、

『熱が出たときは腹筋をして汗をかけ!』

という記事が何件かヒットした。

「腹筋? バカじゃないの?」

熱の時に腹筋をしたら悪化するに決まってるじゃないか。

なんて思ってると、

「月ノさん? 月ノさん?」

と凛先輩がこちらに歩み寄ってきた。

「え? 凛先輩!? 学校はどうされたんですか…」

「そんなことより! はい!」

と言って、彼女は私の足を押さえ固定した。

「これはどういう…」

「今から腹筋です!」

と先輩は強く叫ぶ。

「えぇ…私今熱なんですけど…」

「やかましい!!!!」

と怒鳴られた。どうやら先輩は私を殺したいらしい。

「ほら、1!」

「いちっ…」

「はい 2!」

「に…ぃ…」

二回目にして早くも死んでしまいそうだ。

この人は悪魔か?

「どうしてこんなことさせるんですか!?」

素朴すぎる疑問だ。

多分誰でも私と同じ状況に陥ったら、こういうだろう。

すると、

「…腹筋しなさい」

と凛先輩は言った。

その声は冷たく、まるで尖った氷柱を投げつけられてるような気持ちになった。

「ほら! 早く! 遅い!」

「ひぃいい! もうやだぁ!!」

 

 

「ごじゅう…ろ…く…」

「ごじゅ…う…なな…」

「もう…死…ぬ…ハッ!?」

夢の中で死ぬ寸前、意識が遠のいたと思うと目が覚めた。

どうやらまた寝てしまっていたようだ。恐ろしすぎる夢だ。

もし夢が現実だったら、私は死んでいる。

「うぅ…気持ち悪いぃ…」

とさっきより気分が悪くなっている。

「悪夢…もう見たくないな…」

寝たら悪夢を見る。

だったら寝なければいいんじゃないか?

いや、それでは体が休まらない。

どうすればいいんだ!?

と脳内で自問自答をしていると…

「無駄ですよ」

と声が聞こえた。

「ヒィ…! 剣持さん!?」

「そう、あなたに名前を…刀をとられた男です」

「なんでここに居るんですか!?」

「あなたはね…これからもっと怖い悪夢を見るんです…」

と刀也はこちらに歩み寄ってくる。

そのスピードに合わせて私も逃げようとするが、体調のせいか身体が動かない。

「身体が…動かない…」

「言ったでしょ? 無駄ですよ」

「ちょっと…少し名前を間違えただけじゃないですか…」

「ちょっと? ふざけたことを言わないでください! あなたのせいで、私は力也という呼び名になってしまったんです!」

と刀也は悲しそうな顔を浮かべる。

確かに私がやってしまったことのせいで、彼は彼の名前で呼ばれる機会を奪ってしまった。

「あなたにね…天誅を下します…」

「ちょ…やめ…」

と彼は顎を近づけてくる。

このままでは彼の殺害者リストに私の名前が載ってしまう。

「動いて…」

と願いながら全身の筋肉に力を入れるが、まったく動けない。

「いやだあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

「うぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!」

「それ以上やったら! いわながさんに言いますよ!」

「もう! やめろ!!」

「ハッ!」

と目が覚める。もう何度この状況に陥ったか…

今回は一瞬で「私が悪夢をみていた」と理解できた。

窓の外を見ると夕方になって、空はオレンジ色に変わっていた。でも私の部屋は朝から変わらず、私一人だけだった。

ピンポーン

「え?」

家のベルが鳴って、来客が来たことを知らせた。

病人だからと言って無視はよくないと思い、玄関に行った。

「はーい」

と玄関を開ける。

そこには、

「やっほー。熱大丈夫?」

「楓ちゃん?」

「熱出たって言ってたから心配になって、お見舞いにきたんよ!」

と彼女は笑顔でいう。

だが、

「まてよ…」

「?」

彼女は不思議そうな顔をする。

「これは夢だな」

「はぁ!?」

今までの経験からして、誰かが私のもとに来ると私は決まって夢を見ていた。

楓ちゃんも例外ではない!

「だまされませんよぉ!」

と私は自信満々に指をさして言い放った。

「何が…」

「とぼけても無駄ですよ! 悪夢め! くらえぇ!!!」

と私は拳を強く握り、楓ちゃんに殴りかかる。

だが、

「う…」

と糸が切れた人形のように、急に全身の力が抜ける。

「ちょっと、美兎ちゃん! 美兎ちゃん!」

と彼女が私を呼ぶ声がどんどん遠のいていった。

「ほら…夢だったでしょ…」

「何わけわからんこと言うてるん…」

 

 

「…」

と目が覚める。私の視界には自室の天井がうつっていた。

「はぁ…」

今日は災難だった。

悪夢をこんなに連続で見るとは…

「もぉー!」

と言うが、私が何もできないのは、さっきと変わらない。

しかし、

「あれ?」

机に目を向けると、剥かれたリンゴが皿に盛られていた。

「誰が…」

と考えてると、自室のドアが開いて、

「あ、起きたんやな!」

「楓ちゃん? 夢? え?」

やばい、困惑してきた。

「何言っとるの…美兎ちゃん、私が来るなり飛び掛かってきて、倒れたんよ?」

どうやら、楓ちゃんは悪夢じゃないらしい。

「ほら、リンゴ食べ?」

と促され、リンゴを食べる。

風邪の時に食べる果物は何故かとても美味しく感じる。

「そういえばさ、私の他にもお見舞い来てたみたいやけど、気付いてた?」

「え?」

私の身に覚えはないが、楓ちゃんが、

「ほら、これ」

と彼女は手紙を二枚と数冊の薄い本を取り出した。

「詩子お姉さんがこれ持ってきて…凛先輩がこの手紙置いて行ってたよ。辛いけど頑張ってだって」

詩子さんと凛先輩は夢の中で出てきた。でも夢じゃなかった?

「あぁ! もう頭がこんがらがってきた…」

誰が居て、誰が居ないのか…

「楓ちゃん…」

「何?」

と私は混乱しすぎて何をしたらいいかわからなかった。

「楓ちゃんは…居るよね?」

と私は尋ねる。

「そりゃあ、おるやろ」

と笑いながら答える。でも、悪夢ばかり見ていた私は何も信じれない。

「ほんと?」

とさらに聞く。

「じゃあ…確かめる?」

と言って、楓ちゃんは私の手を掴んだ。

「ほら! 触れるし、暖かいやろ? 生きとるやろ?」

と楓ちゃんはいう。

「ううん…楓ちゃんの手…冷たいよぉ…」

と私は思わず泣いてしまう。今日初めて現実の人間に触れられた。

「リンゴ剥いてやったんやから…そりゃあ冷たいわな…」

と楓ちゃんは苦笑して、私にリンゴを食べるように促してくれた。

そのリンゴの味はさっきよりおいしく感じた

 

 

「てか美兎ちゃん? このリンゴって…だれが置いていったものなの?」

「え? 楓ちゃんが持ってきてくれたんじゃないの?」

「いや? 玄関に置かれてたで?」

「一体だれが…」

 

 




委員長が見た夢は、ぼくの実態系に基づいています。


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