どうやらToLOVEるに転生したらしい。 (雪餅)
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中学生編 プロローグって大事だけどスキップボタン欲しいよね
01.チュートリアルはスキップ可が当たり前でしょう?


初めましての人は初めまして、雪餅ですデス。

今作品は前に間違って消した作品を編集し直した物となっております。あらすじにもある通り、ゆる〜く明るくやっていけたら良いなと思います。

最初なんで少しグタグタかもしれません。どうぞ。


12月の朝は寒い。

 

通学路を一人歩きながらしみじみ思う。冬が一番嫌いな季節だと。

周りには名も知らぬ同校の生徒がちらほらと歩いているのだが、片手で数える程度しか友人がいない俺にとって、通学路を誰かと一緒に歩くなど滅多にない。

 

 

受験という人生で数少ない壁にぶつかっている俺たちなのだが、友人はともかく俺に関しては自分の成績より二つ下の高校を選んでいるため焦りなど感じていない。

人生で()()()となる受験期間を思い、白い息を吐きつつ重々しい足取りで学校に向かって行く。

 

 

どうでもいいことだが、俺は転生者である。と言っても、その事に気付いたのは中学に進級してからだ。

小学生の時は、転生の障害と言うのか、前世の記憶が一切ない状態のまま12年間を生きてきた。その12年間で初めて出来た友達が、この世界の主人公、結城リト。

 

 

だけど、最初に会った時は俺の知っているリトではなかった。どこにでもいるような、サッカー好きの小学生そのものだった。

前世の記憶が無かったからか、小学生の俺はこの世界の最重要人物と簡単に接点を作ることが出来たのだ。子供って怖い。

 

 

でも中学に上がって間もない頃、リトが何にもないところで転んで女子生徒のパンツを見たと言うハプニング起こした。

 

 

その時に、俺は全部思い出した。思い出してしまった。

 

 

自分が【ToLOVEる】の世界に入り込んでしまった事。それによって既に変わりつつある世界のこと。

もちろん、これから先どうなるのかほとんど覚えている。覚えているからこそ、俺はみっともなく、これ以上ないくらいにリトを妬んだ。

 

 

あれだけのラッキースケベを起こしても許され、毎日毎日美少女に囲まれ、そのほとんどの美少女に好意を抱かれている。

 

 

この時ほどリトを妬み、神を恨んだことはなかった。

どうして自分をここに送ったのだと。どうして自分がリトの立場につけなかったのかと。

 

 

紙面上でしかリトの事を知らなかった俺は、リトに強く当たってしまった時期があった。

自分が恵まれていないのをリトの所為にし、一方的にリトが悪いのだと小学生じみた決めつけをしてしまっていた。

 

 

それでも尚、リトは俺のことを助けてくれた。

 

 

どんなに俺が嫌おうと、どんなに俺がリトを拒絶しようと、あいつは俺を見捨てなかった。

 

 

自分が情けなくなった。自分の心の狭さにうんざりした。前のも含めた今までの人生で一番自分を恥じた。

 

 

リトという存在を知り、器の大きさを見せつけられ、自分のちっぽけさを知った。

 

 

彼は苦労しているのだ。望んでもいない幸運(不幸)を手に入れ、自らの意思も御構い無しに起きてしまうそれに大変苦労されているのだ。

 

 

自分の弱さを知った。彼の苦労を知った。なら、自分の役割を果たそう。

 

 

 

そんなことを決意したのがちょうど一年半くらい前。当時のことを思い出しながら、先に着いているであろうリトのいる校門に向かう。

 

 

 

まぁ結局、何が言いたいかというと…………

 

 

 

 

どうやらここは【ToLOVEる】の世界で、俺こと柊 ソラは転生したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、朝から女子生徒を視姦する変態スケべ君」

「朝っぱらからひでぇ言われようだなぁ!?」

 

 

おっと、朝から元気なようで。騒ぐならあちらへどうぞ。

軽い冗談にも本気のツッコミをくれたのが噂の結城リトくん。側から見たら突然叫び出す変人さん。どんまいリトくん。

 

 

「どうどう。それで?今日もいつも通りに視姦?」」

「視姦っておま……!してないよ!」

「は?社会でそれは通用しないんだよ?分かってんの?」

「急に辛辣ッ!?今日のテンションおかしいぞ!?」

 

 

そりゃあ、朝っぱらからリトの所為で恥ずかしい思い出を思い出してしまった八つ当たりです。他意は一切ございません。

ぎゃーぎゃー騒ぐリトが先ほどまで見ていた方向には、ちょうど下駄箱に友達と話しているリトの想い人が。無論、西連寺春菜のことだ。

原作がまだ始まっていないためなんとも言えないが、このままで本当に良いのだろうか。西連寺とほとんど接点ないし、今もこうして見てるだけ。相変わらずの初さになんだが……

 

 

「はぁ…………」

「毒舌の次にため息とかね、もうなんなのお前」

「お前さ、このままじゃ西連寺取られるよ?良いの?」

「は?誰にだよ」

 

いや怖い。さっきまで叫んでた奴が急に真顔になると怖いから。つい笑い出しそうになるからやめようか。

 

 

「冗談だよ、つか早く教室行こ」

「なんだよ、脅かすなよ……」

 

 

大袈裟な動作で安心するリトを他所に、さっさと教室に向かう。

先ほどは冗談と言ったが、強ち間違いではない。だって西連寺さんよ?美人で可愛くて性格良くて可愛くて成績優秀で可愛い西連寺さんよ?

 

 

そんな才色兼備な西連寺さんなので、モテないわけがない。噂で聴いた程度だが、告白されることも多々あるらしい。

今のところ全部断っているらしいが、正直なところ、誰かが西連寺を奪ってしまうのではないかと思ってしまう。それほどまでに、リトは西連寺に手を出さない。うぶな所は良いのだが、安心して良いのだろうか。

 

 

正直なこと言うと、とっとと告白して付き合いやがれこの野郎だ。

 

 

「はぁぁぁ…………」

「なんで救いようのない乞食を見るような目でこっちを見るの?」

「ストレスで胃がキリキリ痛いんだよ、プリン奢れ」

「理不尽ッ!!」

 

はて、理不尽だろうか。結城リトのこれから起きる災難に俺が必ず干渉してしまうのだから、プリン奢るくらいで許すあたり、かなり寛容な心を持っていると自分で思うよ。

 

 

教室に入っても俺たちは近くに座る。なぜか席替えはしないことになっており、あと3ヶ月ほどはこの状態が続いていくらしい。

まぁクラスの中に友達どころか知り合いすらいない俺にとって、リトが近くにいる方が学校生活を満喫できる。主に、リトをからかえるから。

 

 

でも学校は好きではない。それは転生して自分の好きな世界になっても変わらない。義務教育なんてクソ喰らえだ。

そもそもToLOVEるが始まるのは高校に入学してから。その前にある今の中学校生活というのはほとんど謎に包まれたままだ。知ってることもほんの一握りあるか無いかくらい。

 

 

正直早く卒業したい。胃が痛くなることが多くて薬を使うようになった始末だ。

 

 

「前から気になってたんだけどさ、最近考え事多いよな?小学校の頃は馬鹿みたく一緒にはしゃいでたのに」

「消化器割って怒られ、屋上からプールに飛び込んで怒られ。またやる?」

「絶対やだ。なんか悩み事か?」

「友達の恋愛事情が面倒でね」

「それ言われると何にも言い返せなくなる……」

 

 

急にシュンとなるリトを一目見て大きく深呼吸。

 

 

スーー、ハーーー。

 

 

「オーケーマーク。まずは状況整理だ。まず、中三になってから西連寺と何回話した」

「マークって俺かよ……何回って言われても……」

「大方予想はついてる。二回か三回。どっち」

「うぐっ……はぁ……一回だよ」

 

 

…………へーーー。一回なんだ、ヘーーー。たったの一回だけなんだへーーー。

 

 

「一時限目は移動教室だ」

「待って!?どうか見捨てないでくださいッ!!」

 

いや常識的に考えて無理。どんな恋愛小説でも好きな女の子との会話は普通三回くらいしてるもんだぞ。それを一年でたった一回?はっ。

 

 

「俺の前でいつも強い口調で宣言出来るのにどーして西連寺の前で出来ないの?なんなのバカなの?いつでも告れるけど、今はその時じゃないとかイキった思考回路してる奴らと同じ脳みそなの?バカなの?アホなの?死ぬの?」

「やめてッ!無性に傷つく言葉をサラサラ吐くのやめてッ!?」

「重く考えすぎるのもよく無いよな。軽く行け。多分レウス装備の話すれば盛り上がる」

「女の子に急にモンハンの話とか普通するか?お前こそバカだろ」

「はっ、学年トップ10を常に維持している俺をバカと言うとかね、ゴキブリを神様として崇めてるのと同じだよ?」

「そこまで壮大にならないだろ」

 

少し話して分かったのだが、意外なことに西連寺はモンハンネタを知っている。て言うか経験者だな、アレは。ラギア弓縛りで行ったって言ってたもん。PS高いんだろうなぁ。今度誘ってみよ。

 

 

「そんな事どうでも良いけど、実はさ……」

「どうでも良いって言った!?俺の恋をどうでも良いって言った!?」

「どうどう、落ち着け。急がずとも運はお前を味方する。多分、きっと、そうだと良い」

「最近お前、俺で遊んでない……?」

「予想じゃなくて確信か」

「こ、こいつ…………ッ!」

 

 

リトが恨めしそうにこちらを見ながら手を握りしめているが、どうか忘れないでほしい。

俺はリトの友人で、俺自身がリトの恋の成就を願っている。ここには嘘偽りなど無い。本心でそう思ってる。

 

 

だからと言って、ちょっかいを出さないとは言っていない。以上QED(証明完了)

 

 

「お前が好きな人出来たら真っ先にからかってやる……っ!」

「受験シーズンに恋愛沙汰とか、頭の中お花畑だな。失礼、マリーゴールドだけか」

「マリーゴールド?なんで?」

「花言葉は『悲しみ』『嫉妬』『絶望』だ」

「……もう一周回ってすごいと思うよ、お前の頭」

 

 

自論になってしまうが、中3で付き合ったところで高校違ったら別れるしかなくないのでは?遠距離恋愛の破局率は8割を超えると言われているため、付き合った所ですぐに別れるのがオチ。

 

 

そもそもこの世界は高校からが本当のスタート。中学校生活(チュートリアル)から問題を起こすとか冗談じゃない。高校生活からが一番神経を張り詰めるしか無いのだから。

 

 

「痛いなぁ……、胃がキリキリ痛いなぁ……」

「なんか……ごめん」

 

 

ある程度好感度を上げてから本気で攻略しに行くギャルゲーの基本が、リトの場合だと話すことすら難しい事に今更気づいた。下手に動きたくないが、何か手を打つべきなのだろうか。

ちなみに本日の授業は胃が痛いと言って一日中サボりました。少しは僕に休暇をください。頼むから早く中学校生活(チュートリアル)終わってください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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02.嫌よ嫌よも好きのうち。

プロローグを1話で書いたつもりだけど、こっちを読んでもプロローグな気がします雪餅です。


中学校編はもう少し続けるつもりなので、少々御付き合いを。どうぞ。


放課後。それは、学生にとって何よりも響きのいい言葉なのだろう。

 

 

ある者は友との会話に花を咲かせ、ある者は部活動に専念し、またある者は愛する者と帰路を共にするのだろう。

それも無理はない。放課後とは、学生が一日中勉強した後のご褒美みたいなもの。勉強が好きと言う人以外にとって、放課後という単語は甘美な響きなものなのだろう。

 

 

俺の場合、放課後と聞いて真っ先に思い浮かぶのは東野圭吾の推理小説だ。当時本を読むことが好きだった俺は東野圭吾作品の数々を読み漁っていた記憶がある。しかし残念ながら、こちらには東野圭吾の小説は存在しておらず、全く知らない作者の小説を読む羽目になっている。

 

 

だが受験生というのはかくも悲しく、大半が塾や家で数々の参考書と睨めっこしているだろう。それも全て志望校に合格するため、と言えば自然とやるしかないという使命感が出てくるだろうが、俺から言わせれば良いように言い包められているだけだ。

 

 

時に大人は、自ら言った言葉に責任を持たず、矛盾したことを恰も自分が正しいと言わんばかりに堂々と発言する。何故なら、相手は子供だからだ。もしも矛盾点を生徒に突かれたとしても、自分の方が人生を多く生きてきたのだと訳の分からない意見を述べ、自分の間違いを強引に正当化しようとする。

 

 

嗚呼、なんて汚い世の中なのだろうか。教師という立場を利用して生徒たちに間違った情報とやり方を提供し、それを学んだ今の世代が次の世代へと受け継がせてしまう。正に負の連鎖。義務教育なんてクソ喰らえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事を本を読みながら考える冬頃。太陽は西の空へと沈みかけ、夕焼けがとても綺麗に住宅街を照らしている。

 

 

読んでいた小説から栞が落ちる。ため息を吐きつつ栞を拾い上げ、本に挟んで近くの机に本を置く。

世の中は不公平なもので、真面目さと貧弱さで有名な俺に図書室の整頓を全部投げ出してきた。「柊なら余裕だよな?」とか言ってきた教師に軽く敵意を覚える。まぁ案の定サボってるけど。

 

 

「やっぱ寒いな」

 

 

外では北風がビュービュー吹いているのにも関わらず、図書室の窓を全部開けて換気したのを忘れていた。めっちゃ寒い。けど良いや。

 

 

無駄に高い椅子から立ち上がり、軽く頭を回してみるとバキバキと音がする。最近運動してなかったしなーなどと思いながら面倒な本の整理を再開する。

こんな所に一人だけでいるのにも理由はある。といっても大した理由はなく、ただ一人で考え事をするだけだ。

 

 

「誰だ、こんなとこに悪魔大百科置いたの」

 

 

知っての通りこの世界は【ToLOVEる】。一見普通のどこにでもある街にいるが、この世界ではどんなに非常識なことも大抵許される一般常識ナニソレの世界だ。

校庭に隕石のような宇宙船が落ちて来ようが宇宙人がいようが受け入れてしまう。そんな世界に生まれ変わった常識人(仮)な訳だが、正直思っていた以上に楽できない。

 

 

多分それは、小学生の頃にリトと会ってしまったからだろう。その時から原作は開始しておらずとも原作介入は確実になってしまったのだ。別にその事を悔やんではいないが、これが結構神経使う。

俺の立ち位置というのは、メインキャラに関わっている友人、即ちサブキャラというところだろう。自分からは大それた事件は起こさないものの、恐らくこれからの話一つ一つに俺が付くのだろう。

 

 

あくまでも俺の願いは何事もなく原作が終わる事。それさえ叶えば後は結果論で全て上手くまとまる。

 

 

ではそうするために何が必要か。自分の脳をフルに使って考えたが、具体的な案には至らなかった。なんせこの世界は俺の知っている原作情報以外は予測不可能。原作で描かれてない日常をどう過ごしているかなんて分かるわけもなく、もしかしたら原作者すら知らないかもしれない。

 

 

それをただの一般ピーポー(仮)がその場で対応して上手く事を運ぶなんて出来るわけない。試験内容を全て予測するくらい難しい。

俺に出来ることは、最悪の事態に備えて慎重に行動すること。石橋は叩いて渡るより、より頑丈な素材で作り直した方が早いだろう。

 

 

頭に思い浮かぶのは、中3のクラス替えで西連寺と別のクラスになった事にションボリしていたリトの顔。そもそも同じクラスだろうがリトの場合は見るだけで精一杯。告白どころか喋ることだって数えるくらい。だが、それでいいんだろう。

 

 

「失礼しまーす……て、ソラだけか」

「やぁ、今朝ノートを運んでいたら女子のスカートの中に頭を突っ込んだ変態くん」

「えっ……!?ちがっ、あれはその……っ!!」

「安心して。偶然だって理解してるし、被害者の方も特に気にしてない」

 

 

当事者と被害者以外に漏れていないはずの情報を出され、顔を真っ赤にするリト。相変わらず女性の免疫がないようで安心するよ。

 

 

「なんでそれ知ってんの!?見てた人誰もいなかったよ!?」

「それは……ねぇ…………ふふふふふ」

「笑って誤魔化そうとするな!」

 

 

静かに怒りながらリトが近づいてくるが、相手にせず本の整理を続ける。淡々と作業こなす俺を見て諦めたのか、近くの椅子に座ったリトが大きなため息を吐いている。

 

 

「えっ、人生終了の時間?」

「ため息ひとつで人生終わってたまるか」

「逃げるのは幸せと名誉と恋心の三点セット」

「なにそれヤダ」

 

 

なにか悩んでいるような表情をしていたリトだが、これだけ話せればもう十分だ。すぐに悩み相談になるだろう。まったく、夜ご飯ご馳走になろう。

 

 

「ソラはさ、進路どうするの?」

「…………あ、今日面談だったのか」

 

 

この時期になってようやく中3らしい悩みをしているようだ。よく見ると、リトの手には一枚の紙が握られている。大方、進路の最終決定をするための資料だろう。

 

 

「うちは両親共々家にいる時間少ないしな、進学しようかすら迷った」

「えっ……進学しなかったら、どうするつもりだった?」

「リトんちで楽しく暮らそうかなって」

「それを本気で言ってるあたり、すごいと思うよ」

 

 

進路調査票を渡された際にそれを妹に話したら、久しぶりに本気で怒られてしまい、その日から一週間ほど口を聞いてもらえなかった。やっぱり、妹も一緒に誘えば良かったのかな。

 

 

「で、要件は?」

「西連寺の進学先知らない?」

「知らない。帰れ」

「対応冷てぇなぁ!!」

 

 

冷たいと言われても、知らないものは教えることができない。まぁ知ってるけど。

西連寺の進学先は九分九厘、あの有名な彩南高校だろう。宇宙人がやって来たり学校崩壊したり変態校長がいたりなどなど。確かに災難な学校だ。原作知らなかったら絶対行きたくない。

 

 

「ちょうど良い、西連寺に直接聞いて来い。そうすりゃこの一年での会話回数が二回に増えるぞ」

「それが出来ないから相談してるんだよ!」

「あー出た出た。何でもかんでもすぐに出来ない!って言って投げ出す若者。これだからゆとりは……」

「ソラ、ちょっと不機嫌?」

「義務教育クソ喰らえ」

「自業自得だと思う」

 

 

自業自得?はっ、笑わせてくれる親友だ。俺がそんなことするわけないのに。

論点がズレそうなので整理するが、結局は西連寺の進学先を知りたいと。俺が素直に教えれば済む話だろうが、面白いからもうちょっとリトで遊ぼう。

 

 

「なんか今すごい嫌な予感がしたんだけど」

「ははっ、何を言ってるんだリト。厨二病は卒業したろ?」

「なんで俺が厨二病だったっていう設定なんだよ!なってもいないよ!」

「まぁお前の場合、厨二病よりかは思春期か。西連寺と上手くいってる?」

「知ってて普通聞くかそれ……」

 

 

無論、上手くいってない。そんなことはとっくの昔から知っている。

なんせ原作でのリトと西連寺の関係は、両思いだがどちらもそれに気づいていない元同中のクラスメイトといったところ。

 

 

故に俺は、中学校生活においてリトと西連寺との関係を進展させるようなことはあまりしなかった。流石に大丈夫か?と思うところもあったが、グッと我慢して何もしなかった。別に案が何も浮かばなかったということでは決して無い。

俺とリトとの会話が響く中、図書室のドアがガラガラと音を立てて開いた。静かな図書室では音は響きやすく、俺とリトは入室者の方に視線を向けた。

 

 

「あっ、柊くんに結城くん」

 

 

まさかのヒロイン登場。唖然とする俺とリト。

なぜこの世界はこう、都合よく事が進んでしまうのだろうか。これも全てリトの主人公補正の所為だろう。そうだろう。そうに決まってる。

案の定、リトは「さ、西連寺……っ!?」と驚いたまま動かない。我が友人ながらなんと情けない姿だ。写真に収めておこう。

 

 

「やぁ、西連寺。いつもの席なら空いてるよ」

「うん、ありがとう」

「どうぞごゆっくり」

「…………ソラちょっと来い」

「痛いですリトさん痛いから……ッ!」

 

 

肩を握力で握り潰さんばかりの力を込めてくるリト。どうやらご立腹らしい。リトに引っ張られるがまま、本棚の後ろ辺りに連れてかれる。

 

 

「聞いてないぞソラ!西連寺がいつもここに来てるって!」

「西連寺は放課後いつもこの図書室で勉強してるぞ。はい今言った」

「そういうことじゃなくて!ど、どうすれば良いの!?」

「いや俺頼りかよ……」

 

 

俺は万能青狸じゃないんだから。都合よく使える道具なんて無いから。

相変わらず、好きな人の事になるとすぐに顔を真っ赤にして戸惑うところは変わってない。そんなリトの姿に安心してため息を吐き、ほんの整理していた手を止め、先ほどとは逆にリトの肩を掴んでやる。それはもう、絶対に逃がさないくらいの力で。

 

 

「いつまでも俺頼りじゃダメだリト。飛び立つんだ。イカロスのように」

「今そんな状況じゃないの把握して?」

「安心しろ、俺の後をついてくれば問題ない」

「一ミリも信用できない」

 

 

一ミリも信用されなくとも、一ミクロくらい信用されてるならそれで良い。俺は常に全力でプラス思考に走っていこう。

西連寺がいる机の近くの本棚で止まり、未だ緊張しっぱなしのリトの肩を軽く叩いてやる。

 

 

「安心しろリト。今日は告白するんじゃない、進学先を聞くだけだ。俺に進学先を聞いて来た時みたいに気安く行けばなんとかなる。多分、きっと、そんな気がする」

「あ、曖昧すぎる……」

「安心しろ、失敗したら愚痴聞いてやる。それいってコーイ」

「うわぁっ!?」

 

 

リトの背中を反転させ、ちょっと力を込めてリトの事を押し出す。友人の悩みにここまで付き合ったんだ、今日はリトに奢らせよう。

小さな小さな決意をしながら俺は本棚に隠れ、二人の様子を遠くから見守る事にしよう。

 

 

「ゆ、結城くん?どうしたの?」

「えっ!?あっ、えーっと……その」

 

 

おそらく今、リトは心の中でめちゃくちゃ焦っているだろう。証拠にほら、目も合わせられないし手で頭をかいてる。あれリトが考え事してるときによくやる癖だ。頭の中パニック状態なんだろう。だが見守ろう。

 

 

「その……さ、西連寺は、さ……その」

 

 

言葉が上手く出て来ていないようだが、少しずつ内容を伝えようとしてる。頑張れリト!あっ、ユキからメールだ。なんだろう……

 

 

「し、進学先は……どこにっ、うわぁっ!?」

「えっ……きゃっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

皆様方が忘れているかもしれないから言っておこう。ここは【ToLOVEる】の世界だ。非日常こそが日常の世界。故に───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───()()()()()()()()()も、この世界では普通のことであることをわかって欲しい。

 

 

 

 

 

結果、バランスを崩したリトが西連寺共々倒れ込み、西連寺のスカートにリトの顔がめり込んだ状態に。なにこれ非日常(日常)すぎ……。

 

 

「キャーーー!!」

 

 

西連寺の叫び声と一緒に響く平手打ちの音。西連寺は顔を真っ赤にしたまま帰ってしまった。

頬を抑えながら固まっているリトになんと声をかけたら良いものか。今回のは流石に俺が悪い気もする。ちょっと強引すぎたかもしれない。まぁとりあえず……

 

 

 

 

 

「西連寺、彩南行くって」

 

 

「もうヤダお家帰る……」

 

 

 

 

 

 

流石にリトが可哀想だったので帰りにアイス奢りました。

 

 

 

 

 

 




あくまでも今作品の主人公は今のところサブという役付なので、ヒロインは悩んでいるところです。要望があれば感想欄ではなく、僕個人に送って来てください。待ってます。


感想・評価気軽にしてください。なるべく返信はします。


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03.ゲームを始めた受験生が落ちる確率は?

小説情報見たらUAが1500を超えてたことに驚きがちな雪餅です。

改めまして、UA1500、お気に入り45件。本当にありがとうございます。自分の趣味でこんなにも見てくださり、更にお気に入りまでされるととても嬉しいものです。

中学校編もそろそろ終わりに近づき、少しずつモチベーションを上げていきたいと思います。


受験の日まで一週間を切った。

 

 

この時期は自由登校期間な為、半分以上の人が家や塾で最期の追い詰めでもしているだろう。

俺も二週間ほど前なら、図書館や家で机に張り付いていたが、参考書のストックが切れてしまった為、この寒い中仕方なく外に出向いている。今日の気温は5度前後だと。

 

 

風は吹いていないものの、凍えるような寒さに体を震わせ、真っ白な息を吐き出す。真っ白な息が出ると言うことは空気が汚い証拠だ。あんまり考えないでおこう。

 

 

「リートーさーむーいー」

「言うなよ、俺も寒いんだから……」

「ドバイって寒くてもクーラーつけるんだって」

「話題変換が激しすぎる」

「地軸あたりは出るぞー。覚えとけ受験生」

 

 

自分から話しておいてなんだが、こう言う話は嫌になる。休養は大事だと思っているが、どうしても心配になってしまう気持ちからこういったことは起きるのだろう。

勉強に飽きた為、気晴らしにリトと本を買いに来たが、やっぱりいつも通りのテンションになれない。今更中学の勉強などと余裕をかましていたが、思った以上に社会が難しくて躓きそうだ。

 

 

「出かけてまで勉強するって、受験生は悲しいよなぁ」

「お前から話してきたんだろうが……」

「でも合格したいだろ?受かれば西連寺と同じ高校だもんな。上手くいけば付き合ってあんなことやこんなこと出来るしな」

「あ、あんなことやこんなこと……」

「落ちたら一気に地獄行きだけどね」

「急に現実突きつけるのやめてくれないかなぁ!?」

 

 

受験前で緊張してるのか、テンションが低かったリトも少し煽ればすぐ元どおり。本番でも上手い具合に煽ってあげよう。

リトのいつも通りの点数ならば、彩南を合格するのには申し分ない。去年までの平均合格点を2〜30点くらい上回っていたため、結構安心できるだろう。数学を除けば、の話だが。

 

 

リトが数学を苦手としていることは周知の事実。正直、受験での数学の点数がリトの合格を左右すると言っても過言ではないだろう。

そのため、今日はこれからリトの家に行って数学の勉強会を開くことになった。教えるの苦手だし断ろうと思ったが、万が一落ちたら美柑ちゃんに悪いし、何よりToLOVEるが始まらない。そうなってしまったら俺の存在意味がほぼなくなる。それは流石にゴメンだ。

 

 

「せっかく気分転換で来たのに、これじゃあテンションだだ下がりだよ……」

「超簡単にテンション上げる方法教えよっか?」

「ものすごく不安だけど…………どんなの」

「好きな娘の裸体を思い浮かべる」

「えっ……なっ!?ちょっ、バッ!何言ってんだ!!」

「ほら上がった」

「し、してない!!」

 

 

顔を真っ赤にさせながら言われても全然説得力がない。

 

 

 

「リトが好きな娘の裸体を想像して興奮してたって西連寺に伝えとこ」

「ちょっ!?それだけは本当に勘弁してくれ!!」

「え〜どうしよっかなぁ〜」

 

 

 

 

 

 

 

雪でも降りそうな空模様の下、原作開始の合図が近づいて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………で、その部分を素因数分解して√内の数を合わせる。そしたら同類項を纏めて次数が高いものから並べていく」

「ううっ、ややこしい……」

 

 

答えを片手、ペンを片手に参考書の問題を答え通りに教えていく。しかし理解が追いつかないのか、リトは頭を抱えて唸っていた。

答え通りに教えてはいるが、やはり勉強を教えるのは苦手だ。そもそも数学が好きなわけでもないし、教えられるほどすごい勉強をしているわけでもない。ただ昔に勉強した記憶があるだけだ。そのお陰で学年上位10位をキープ出来てるから素直に喜ぼう。

 

 

「てかこんなの勉強した?これどこの範囲?」

「高一」

「予習じゃねぇか!意味ないじゃん!」

 

 

ペンを投げ出して大声を張り、そのまま大きくため息を吐いているリト。まぁ怒られるのも仕方ない。

だが正直の話、リトが彩南に行くのはほぼ確定している。だからリトが高校で赤字を取らないように予習しておいてあげようと思った俺の気持ちを理解してほしい。

 

 

「ああもう、なんかやる気が……」

「気分変えるか。何やる」

「マリカー……はクリアしたか」

「大乱やろ」

「は?スマ乱だろ」

「あ?」

 

 

視線が交差し、互いに『何を言ってんだコイツ』と思いながら睨み合う。

 

 

「なんだスマ乱って。スマートランニングみたいで変だろ」

「大乱の方が変だろ。ただの殴り合いに聞こえるじゃん」

「スマートランニングなんて誰も知らねーよ」

「大乱なんて略し方普通しねーよ」

「「…………」」

 

 

昔からそうだが、どうも俺とリトはどうでもいいことでムキになるらしい。今回のような喧嘩は今まで何度したことか。

リビングのドアを開け、テレビをつけてコントローラーを握りしめる。すぐにキャラ選択の画面が現れ、俺たちは何も言わず操作していく。

 

 

「ルールは」

「ストック2個。アイテム無し」

「場所は」

「言わずとも」

 

 

奴が選んだのはスマブラの闇と言われたアイクラ。どうやらガチで勝ちにきてるようだ。

一方こちらは迷いなく青い鳥を選んでいく。相手がガチできている以上、容赦なく勝たせてもらおう。

 

 

場所は何も言わずに終点。とりあえず一回目だ。

 

 

「ああっ!!おまっ、それズルくね!?あっ、ちょっ、逃げんなっ」

「どうした、もう50いったぞ」

「っと!あっ、よし当たりっ」

「舐めんな」

 

 

すっかり手に馴染んだコントローラーを動かし、リトの攻撃を次々に回避する。距離を置いてはブラスターで牽制、近づいたらジャンプと回避で華麗にかわしていく。煽りプレイは御手の物だ。

 

 

「あっ、くっ、つかまえっ」

「ほい」

「えっ、ちょっ!」

 

 

アイクラお得意の投げ連を繰り出されそうだったが、弱攻撃でキャンセル、逆にこちらが掴んで下投げ連を決めてやる。慈悲も容赦もなく端まで追い詰め、最後はメテオで終了。リトがあり得ないと言わんばかりの顔をしている。

 

 

「はっ、最強キャラ使ってその程度とはなっ!」

「ぐぬぬぬぬっ!」

「いいぞいいぞ、もっと自棄になれ」

 

 

こうなったらもうこっちの独擅場だ。自棄になった相手は赤子よりも簡単にあやせる。歴の差を見せつけてやろう。

相手の攻撃をかわしてはダウン連を重ね、%が赤になったところでスマッシュ。青い鳥の勝利だ。

 

 

「はははははっ!PSが違うんだよっ!」

「くっそ、もう一回だっ!!」

「良いだろう、何度やっても同じことだけどな!」

 

 

息抜きのつもりで始めたはずだが、俺たちは何も迷うことなくコントローラーを操作していく。次はメタ騎士様でボコボコにしてやるとしよう。

 

 

「何してんの、あんたたち」

 

 

開いていたドアから聞こえてきた冷たい声に、俺とリトはビクッと肩を震わせた。

ドアの前に立っていたのはこの家の最高権力者であるリトの妹、結城美柑ちゃんです。冷ややかな視線をこちらに送り、まるでバカを見るかのような呆れた表情でため息を吐いている。昔とは違い、刃物のような鋭い視線にゾクゾクしてしまう。

 

 

「受験まで一週間ないのに、随分と呑気なんだね。余裕なんだ」

「いやいやいや!そそ、そんなことはっ!!」

「俺はともかく、リトくんはめちゃくちゃ余裕ないんですハイ」

「そそ、それはそうだけど……でも!ゲームやろうっていったのはコイツで!!」

「息抜きって言ったんだ!そっちがゲームの案を出してきたんだろうが!」

「でもノリノリだっだじゃん!」

「いいや全然!」

「二人ともうるさい。近所迷惑考えて」

「「あ、ハイ」」

 

 

罪のなすり付け合いも、美柑ちゃんの一喝ですぐに終わってしまう。この家ではリト母以外、誰一人として美柑ちゃんには敵わないのだ。俺は論外。

 

 

「息抜きも大事だけどさ、それで落ちたらダサいから」

「うっ、は、はい……」

「ソラもさ、人のばっか見てると足元掬われるよ?」

「それはまぁ……うん、はい」

 

 

いつからだろうか。美柑ちゃんがまるで母親のように俺たちを怒るようになったのは。

考えられるとしたら、俺の反抗期が終わった頃だっただろうか。あれ以来、リトとよく騒いだりバカやったりしては美柑ちゃんに怒られていた。うん、俺が悪いですね、ハイ。

 

 

「はぁ……勉強するからって言うから気を遣って二階行ってたのに、戻ってきたらゲームされてた私の気持ち、分かる?」

「すんません、本当にすんません」

「ご、ごめん、美柑」

「反省して。もし本当に落ちたらダサいとかで済まないから」

 

 

知っている。美柑ちゃんが怒るときは毎回、俺たちの事を思って叱ってくれているのだ。

今もこうして俺たちを叱っているが、恐らく俺たちの事を心配してくれているのだろう。落ちて悲しむのは、自分たちだと分かっているから。ほんとこの小学生、精神年齢何歳なんだよ。

 

 

「ふぅ、もう良いや。ご飯にしよ」

「えっ、あ、もうそんな時間か」

「時間経つの早いんだよなぁ。あ、ユキから連絡来てる」

「食べてけば?ユキも呼んで」

「あー……そうさせて貰おうかな」

 

 

先ほどまでの空気はどこにやら。リトは正座を崩し、美柑ちゃんは鋭い視線を解き、台所の方へ向かって行ってしまった。俺も立ち上がろうとしているのだが、足が痺れてしまって身動きが取れないのだ。

 

 

「彩南に落ちたら、春菜ちゃんと離れちゃうし、美柑にも悪いよな」

「……今更気づいたか」

「なんだかんだ言って、美柑には迷惑かけてるし、これ以上迷惑かけるわけにもいかないよな」

「そうだな。頑張れ受験生」

「よしっ!そうなったらソラ!座るのやめて勉強教えてくれ!」

「ちょっ、タンマ!!今動かされると痺れてるから!!痺れてるから慎重にっ!?」

 

 

 

美柑ちゃんの優しさを改めて知った俺は、痺れた足を引きずりながらリトの勉強に付き合うことになった。が、今はとりあえず足の痺れを何とかしてほしかった。

 

 

 

 

 

 

「結局、略し方は大乱だよなぁ」

「何言ってんだよ、スマ乱だろうが」

「「あ?」」

 

 

結局、もう三戦やることになって、美柑ちゃんに怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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04.最終日の憂いと決意

最近、涙腺が緩くなってるのに気づいてきました。雪餅です。

二週間以上間が空いてしまったことに自分でも驚いています。どうしても新しいゲームを買うとやり込んでしまいますね…。

それはともかく、UA3700越えとお気に入り数95超え、ありがとうございます!!もう少しで3桁に入れると思うととても嬉しいです!


どうかこれからも自分の作品をよろしくお願いします。それではどうぞ


「今日、夢を見た」

「へぇ、どんな?」

「リトが西連寺に振られて泣いてるところに、誰かが打った野球ボールが当たったんだ」

「何でお前の夢で俺被害にあってんの?不吉だよ?」

「そしたら急に笑い出してさ、そこで起きたんだ」

「お前の中で俺の評価どうなってんの!?」

 

 

超純情の癖に神の加護かなんかのおかげで、あらゆる事態をラキスケによって掻き回す存在だとは思う。

朝から安定の全力シャウトをしてくれるリト君。周りの人たちは誰も何とも言わず、もはやリトが叫ぶこと事態日常と化しているのだ。まあその8割くらいは俺のせいだと自負している。

 

 

受験が終わり、とうとう中学校生活最後の日を迎えることになった訳だが、思い出を振り返ることもなくどうでもいい話をしながら登校している。

最後の日なんだから特別なことをしよう、とも思ったが、そういう日に限って問題が起きることは知っている。だから今日も、いつもと変わらずどうでもいい会話を繰り広げていくことにした。

 

 

「まぁ、正夢になることはないと思うから安心してくれよ」

「前に缶で足滑らせた夢見た時本当に滑らせたから怖いんだよ……」

「大丈夫。今回は多分ない」

「なんでそんな自信ありげなんだよ……」

 

 

夢にまでリトが出てくるって、どんだけリトのこと考えてるんだが。いやない。原作のことを考えているだけだ。俺までがあっさり惚れるチョロインなっても誰得だよ。

 

 

「あ、そうだ。今日の夜、卒業祝いをやるからソラたちも来いって親父が言ってた」

「才培さん休んで良いの?締め切りとかあるだろうし」

「この日のために終わらせて、2日だけ休暇取ってるんだって」

 

 

子供のために休暇を取るお父さん、マジかっこいいです。

結城才培。リトや美柑ちゃんの父親であり、同時に三本の連載を抱えている人気漫画家だ。酒が入ると美柑ちゃんにウザいと言われるくらい絡んでくるが、仕事には一切妥協を許さない職人気質の持ち主。

 

 

ついでに言うと人使いが荒い。前なんて中学生だと言うのに俺にバイトを要求し、一日中ペンを走らされた記憶が残っている。あれ以来、受験勉強を理由に断っていたが、今日会ったら再び呼ばれそうだ……。

 

 

「そう言うことならお邪魔させて貰うよ。ついでに西連寺にも連絡するか」

「っ!!こ、今回はやめておこう!!」

 

 

相変わらずの純情さに胸を撫で下ろし、俺たちは中学最後の通学路を歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーっす、リトー。それにソラー」

 

 

教室に入ると、どこもかしこも思い出話に花を咲かせていた。修学旅行楽しかったねーだ文化祭の準備大変だったよねーだと、話が途切れる間も無くどんどん喋り続けている。

そんなクラスの喧騒をBGMに本を読み漁る。すると誰だろうか、名前を呼ばれてしまった。ちくしょう、今良いところだったのに。

 

 

「……あーっ、だれ?」

「2年間一緒のクラスメイトの名前忘れたのか!?俺だよ俺!」

「ごめんなさい、僕子供はいないんで……」

「詐欺じゃねーよ!覚えてないのか!?さから始まってちで終わる!」

「さ……?さ、サンドイッチ?」

「猿山!猿山ケンイチだよ!」

 

 

このクラスでは全力シャウトが流行っているのだろうか。さすがに叫びすぎたよ?

猿山ケンイチ。そう言えばそんな奴がクラスメイトにいた気がする。あまり顔合わせてないし、あんまり人の顔と名前を覚えるのは得意じゃないからうろ覚えだけど。

 

 

でもこいつの声は何度か聞いたことがある。多分、文化祭とかのイベントで前に出てみんなをまとめる役割をしていたのだろう。やけに変なアイデアを取り入れては女子からブーイングが多発しているのはよく覚えている。

 

 

「まあまあ、落ち着けよ山猿」

「お前、わざと間違えたろ!?」

「わざと?生憎、冗談を言うのは好きじゃないね」

「こ、この野郎……!」

「お、落ち着け猿山。ソラが変な奴なのは知ってるだろ」

 

 

ちょっと待ってくれ。どうして俺が変な奴っていう認識になってんの?それ聞いて猿山は納得しちゃってるし、周りから見た俺の評価どうなってんの?殆どの人と顔合わしたことないんだけど。凹んじゃうよ?

 

 

「そういや、お前ら卒業文集見たか?色んなランキングあったぞ」

「へー。リトは将来性犯罪者になりそうランキング1位だろ」

「そんな訳あるか!だったらソラはむっつりランキング1位だよ!」

「お、それは当たってるぞ」

「な、なぜ……?」

「いや普通のことだろ」

 

 

いや待ってくれ。俺がむっつり?確かに保険の授業で先生も知らない知識を披露したり、帰りにコンビニでエロ本を買っていったことはあるが、決して私欲のためではない。俺はリトの純情さを少しでも変えてあげたくてそういう知識を学んだり買ったりしただけであって、本の内容が近親相姦とかだったのは決して私欲ではない。どうか信じてほしい。

 

 

「まぁそんなことよりだ。実は、ソラとリトに相談したいことがある」

「どうしたんだよ、そんな改まって」

「バナナか?バナナなんだろ、バナナなんだよな」

「実は、卒業式の余韻で感極まってる女子に告白すれば彼女になれちゃうんじゃないかと思ってるんだけど……」

「帰れ山猿」

 

 

真剣な顔して何を相談するのかと思えば、少しでもこの猿を信じた俺が馬鹿だったみたいだ。

 

 

「だからお前はモテないんだよ。少し自重という言葉を学んでこい」

「モテないのは元からだよ!それに、このくらいの勢いじゃなきゃ一生彼女出来ないまま人生終わっちまうよ!」

「でも、そこら辺の女子を適当に狙うのはどうかと思うぞ?」

「俺にだって好みはあるさ!俺より身長低くて、美人で胸が大きくて髪が短くて……」

「あーあー、やめろ聞きたくない……」

 

 

そういやこいつ、高校で梨子に惚れるんだった。今ので全部思い出しちまったじゃねぇか。

確かにこいつは変態で気持ち悪い思考している猿だが、一途なところは素直に褒めよう。けどそれすら絶対に叶わなずに終わるんだから、さすがに可哀想にもなってくる。今度パピコでも奢ってやろう。

 

 

「おいソラ。なんで俺のことをいじめられた挙句に捨てられた子犬を見るような目でこっちを見るんだ」

「いや、うん。まぁ、来世いい事あるよ」

「なんで今世諦めなくちゃいけねーんだよ!諦めないからな!俺は絶対、彼女を作ってみせるんだ!」

「あっ、みんなの卒業文集載ってるよ」

「おー、どれどれ〜」

「俺の宣言無視するなよっ!!」

 

 

 

 

猿山の叶わぬ願いを聞き流し、俺たちは卒業式を迎えることとなった。因みに猿山は『キモ雄猿』という素敵なあだ名をつけられたそうだ。ドンマイ、猿山。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぁ〜!やっぱし、休みの日に飲むビールは美味いもんだな!ソラも飲むか?」

「アウトですよ、才培さん……」

 

 

卒業式終わりの夜、俺たちは約束通りにリトの家で卒業祝いを兼ねたパーティーを開いていた。パーティーといっても形だけで、いるのは俺とリトにユキと美柑ちゃん、それと才培さんの5人だけだ。互いに両親が忙しいため、俺と結城家で打ち上げをする際に全員が揃うのは滅多にない。それでも、行事があった日の夜は必ず2時間以上電話してくるけど。

 

 

そんな訳で、今日も美柑ちゃんとユキの手料理に舌鼓を打っている。パーティー用に作ったからか量も多く、なおかつどの料理も美味しいのだから二人の料理の腕には毎度毎度驚かされる。

 

 

「そんな固いこと言うなって!法律?んなもん、バレなきゃ大丈夫だ!」

「おい大丈夫なのかこの親父」

「スルーしとけ」

 

 

いつも通りの光景にリトも苦笑いしている。まぁ法律なんて言葉はこの街にあるかすら定かではないから、ギリギリオッケーなのでは?

 

 

「駄目だからね、兄さん。お母さんに言いつけるよ」

「あの人の方が酒癖悪いじゃん。飲んでるの60%とかだし……」

「お前、文化祭の打ち上げて度数8%くらいの飲んでなかったっけ?」

「......さぁ?」

「おいなんだ今の間は」

 

 

ふざけた事を言うリトの言葉を右から左へ。僕は未成年飲酒なんてしてません。良い子は絶対にしてはなりません。

そもそも違うんだ。あの時は猿の野郎がふざけで家から酒を持ってきて、それをババ抜きで負けた奴が飲むっていう遊びに発展しちゃったんだ。決して俺の意思ではない。悪いのは全部猿山だ。

 

 

「はぁ、お父さん飲み始めるとすぐあーなんだから」

「もう慣れたけどね……相変わらずテンションが高いようで」

 

 

仕事ではあんなに真剣で妥協を許さない職人気質なのに、酒が入るとこんなにも変わってしまう。やっぱりお酒は怖いですね。皆さんも気をつけましょう。

 

 

「あー、ちょっとお花摘みに行ってくるわー」

「花?何言ってんの?」

「お手洗いだよバカヤロウ」

 

 

リトに一言言っておき、俺はリビングから出てトイレに行かず、そのまま外に出て庭の方へ向かう。近くの腰掛けに座り、リビングから持ってきた炭酸飲料の缶を開けて口に付ける。

 

 

「ふぅ……」

 

 

懐から取り出したのは一枚の写真。そこには、結城家と俺たち兄妹が一緒に撮った姿があった。控えめにピースをするリト、そっぽを向いている俺、そんな二人にに笑顔で肩を組んでいる才培さん、そしてちょっと間を開けて呆れた表情をしている美柑ちゃんに、笑顔で美柑ちゃんと腕を組んでいるユキ。実に良く撮れていると思う。

 

 

小さい頃から、両親はほとんど家にいなかった。父親は会社で夜遅くに帰ってくるし、母親はしょっちゅう海外に行っていたため、年に一回しか会えないという年もあった。

その事について怒ったりなんかはしていない。保育園にいた頃とかは忘れたが、仕事の合間を縫って帰ってきたり、長期休みには絶対家族みんなでどこかに出かけてくれた。本当は休みたいはずなのに、子供のためにそこまでしてくれる両親には感謝している。

 

 

それでもやっぱり仕事は忙しいらしく、今日みたいに行事があっても来れない日は何度もあった。教師には毎度親はいる?と聞かれるのが少し辛かった。

 

 

だから、昔から家庭事情が似ているため、俺は結城家と一緒に行事を共にすることの方が多かった。最初こそ遠慮したり気を遣ったりしていたが、今では家族同然の間柄にまで発展しており、いつも良くしてくれる才培さんには本当に感謝している。口に出したら調子乗るから絶対に言わないが。

 

 

 

 

 

でも一つだけ、不満を言わせてくれるのなら。

 

 

 

 

 

一緒の写真に写るなら、本当の両親と一緒が良かった。中学生の最後の大舞台。俺が自由に行動して良かった時間の最後は、家族と一緒が良かった。

 

 

そんな私欲は炭酸と共に流し込み、持っていた写真を懐に戻す。

中学生生活(チュートリアル)は終わった。高校生活(メインストーリー)はもう目の前だ。

 

 

 

 

 

自分が知っている物語の為に、自分の大切な主人公のために、俺は仮初めの役柄を演じ切ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソラー。今から人生ゲームやるぞー」

「負けた奴は酒一気飲みだ!覚悟しとけ!」

「美柑ー!私たちもやろー」

「もー、わかったから」

 

 

 

 

 

 

誰がなんと言おうと。誰がその道を止めようとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらソラ!始めるぞ!」

「早く来いソラ!遅れると罰ゲームだ!」

「早くしてソラ。付き合ってあげるんだから」

「兄さん、早く早くー」

「……うん。負けても恨みっこなしだかんね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てはそう、結城リト(主人公)の幸せのために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、俺が惨敗したのは別の話。

 

 

 

 




少しだけ解説を。

・猿山との関係性

一応二年間同じクラスメイト。リト経由で知り合ったが、ソラくんは滅多に授業を受けていなかったためうろ覚え。友人の友人だが、あまり気を遣わなくて済む相手。

・飲酒疑惑

どちらとも罰ゲームで負けていますが、決して飲んではいません。寸前ですり替えているでしょう。

・ソラくんの内心

実は両親がいない事を不満に思っている寂しがりや。けど表には決して出せない。


次回からは高校生編です。楽しく書いていきたいと思います!


感想や評価は気軽にしてください。特に感想はあると喜びます。



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高校1年 桜に潜む毛虫は成長すると蛾になるんだってさ。
01.高校生活エンジョイマン(大嘘)


話を重ねるごとにお気に入りが増えていき、嬉しい限りです。皆さま本当にありがとうございます。

UA6000、お気に入り150超えありがとうございます!これからも頑張っていきたいと思います!


高校生活編始動!


高校生になった。

 

 

思った以上に短かった春休みを終えると、俺たち新一年生を迎える入学式が行われた。吹奏楽部の演奏を聞きながら体育館の真ん中を歩き、座るまでのあの時間がどうも嫌いだ。新しい一年はどんな奴なんだろうと品定めされているようで良い気分がしなかった。

 

 

高校でも入学式は長く、来賓の挨拶や保護者代表挨拶などで長い時間椅子に座らされていた。そのせいで最近、腰の調子が悪くなってしまい、慰謝料を請求するための資料作成をしたところ、ユキにバレてこっ酷く叱られてしまい断念。

 

 

しかし驚いたのは、あの変態校長が新一年生の前に立ち、堂々とした姿で至って真面目な挨拶をしていた事だ。その挨拶を聞いていた新一年生の何人かが校長を評価していたが、その後の校長の行動により評価はガタ落ちした。

 

 

その後の学校生活だが、俺はなんとかリトと同じクラスである1-Aになる事が出来た。予定通りに事が進んで一先ず嬉しいが、この程度で安心してはならない。近々、リトの元に悪魔っぽい名前の少女がやってきて安寧とはかけ離れた高校生活を送ることになるだろう。俺の予感は悪い方で当たるため使いたくないが。

 

 

「ほんとにさ、高校生活って良いよなぁ」

「どうした変態視姦魔王」

「それ昔に言われた……奴よりランク上がってない?」

「いや、よく言うだろ?高校からが本番って」

「本番って何!俺のこと馬鹿にしてるだけでしょ!?」

「うん」

「こいつ……っ!!」

 

 

どうやら、俺は1日に3回以上誰かをいじらなきゃいけない体質らしいからね。残念には思ってない。むしろ嬉しいくらいだ。

 

 

「まぁ中学よりは高校の方が楽しいよな。規則緩めだし、先生たち物分かり良いし」

「うんうん。それに、春菜ちゃんと一緒のクラスになれたし!」

「お前それが大方の理由だな」

「そ、そそそそんな訳ないだろっ!?」

「うわ、露骨すぎ」

 

 

こんな風に、リトは進学してからずっと浮かれている。授業中では西連寺の方をチラチラ見てるし、移動教室の時は少し距離を取って歩いてるし、俺との昼食中ほとんど西連寺の話しかしてこない。

 

 

正直に言おう。若干、いやかなり引いている。

中学から好きなのは知ってるし同じクラスになれた事が嬉しいのは何となくわかる。だからといってあまりにも西連寺の事で頭がいっぱいなリトを見てると、こいつ犯罪者なんじゃないかと疑ってしまう。疑っているだけだ。確信はしたくない。

 

 

恋は盲目といった言葉があるようだが、今のリトにはぴったりな御言葉だろう。自分の好きな女性にまっすぐ一直線。それがリトの良い点であり、同時に最大の欠点でもあるのだから。

だからといって俺からは何も口出しは出来ない。なんせ自分から誰かを好きになるといった経験がないガキだ。恋や愛といった物は、精神年齢高めな俺でもサッパリです。

 

 

「そんなに想ってんなら何回かは話したはずだよな。何回話した?」

「え、ええっと……」

「誤魔化したら今まで奢ったアイスの全額請求書送る」

「レシート全部取ってんのかよ……」

 

 

え、普通じゃないの?家に三年前から貯め続けたレシートが箱に入ってるんだけど。もしかして俺だけしかやってないの?

 

 

「昼休みは大抵俺たちといるだろ。朝と放課後は一緒だし、話すとしたら休憩時間だな。何回話した?」

「お前変なところ頑固だよなぁ。はぁ……まだ一回も喋ってないよ」

「…………リト、今度飯奢るよ」

「やめて!急に優しくなるのやめて!」

 

 

わかってたよ。わかっていたことなんだけれども、こいつどうしようもないな。高校生になれば人は変わるという。だがリトを見ていると、その言葉が本当なのか疑わしいものになってくる。

 

 

そもそも、人はそんな簡単に変われるわけがない。変わるのは服装、喋り方、態度などといった外見のみであって、中身も含めて根っこから変わろうとするならば、記憶を失うか死ぬほど努力するかのどちらかだ。前者はともかく、後者はとんでもないストレスと疲労感を感じるためオススメはしない。

 

 

また、過度なストレスや疲労感はうつ病になる原因の一つと言われている。新しい生活、新しい教室、新しい友人。何もかもが始めての高校生が根っこから変わろうとすれば、一ヶ月もしないうちにうつ病にかかってその人の人生を台無しにする恐れがあるため、高校生活では何も意識せず、素の自分で生活しているのが一番いいと思う。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ告ってみよ?」

「話が噛み合ってない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見事な黒髪だと褒められた前髪をいじり、休み時間と変わらないLHRの時間に本を読む。

本来、この時間は自己紹介や委員会などを決める時間となっていたのだが、俺たちのクラスは他のクラスよりも早く決定したため、この時間は自習、もとい休み時間となっていた。

 

 

部活には興味はないし、かといって何もやらないと文句を言われてしまうため、中学生から続けていた安定の図書委員の座を勝ち取ることができた。負けた勝谷君には悪いが、図書委員だけは譲れないのだ。他の委員会と比べて仕事量は少なく、たまにある雑用もリトや猿をこき使えばすぐに終えられるため、楽して評価を上げられる一石二鳥の委員会だ。さらに図書委員なら、追加図書の要望が通りやすくなるため、タイトルだけ健全そうな物を要望すればこの学校に官能小説を置くことが出来ることが判明した。高校サイコーじゃん。

 

 

何度も言うが、僕は決してエロスではない。ただ知識欲が人並み以上にあり、それを堂々と読むことのできる度胸と周りの噂を気にしない図太さが備わっているだけであって、決してエロスではないのだ。俺をエロスと言うなら、ラキスケを体現化した結城リトくんはなんだと言うのだ。未来のハーレム王とでも名付けておこう。

 

 

「相変わらず本が恋人なんだな、お前は」

「……なんだ猿か。バナナやるから森に帰りな」

「やる気がすけべネコ」

「失礼、お前の場合は山だったな」

「表出ろコラ」

「山に帰してやんよ」

 

 

一触即発とはこういうことを言うんだろう。お互いの胸ぐらを掴み合い、正々堂々と戦うために俺の手には限界まで尖らせた鉛筆が握られている。これなら殴られても奴の目は潰せるはずッ!!

 

 

「まーまーまー、二人共ー。喧嘩しなーい」

 

 

机から立ち上がり、猿を故郷へ返してやろうと思った寸前のところでクラスの女子が仲裁に入ってしまう。物好きな人だ。男同士の喧嘩など無視してれば良いのに。

若干俺より高めの身長、ウェーブのかかった小麦色の髪、軽く着崩した制服。どこかで見たことのある彼女は、猿山を見て大きなため息を吐いていた。

 

 

「はぁ、これだから男子は困るのよねー。少しは自重しなさいよー」

「いいや、今回はこいつが悪いんだ」

「最初に絡んできたのはお前だろうが」

「はいはいどっちでもいいから……あっ、むっつりホモだ」

 

 

籾岡里紗。そういえば、彼女も歴とした原作ヒロイン候補だ。

リトのような事故ではなく、自分の意思で女子の胸を揉むことが多く、恐らく全ヒロインの胸を揉んでいるのではないかと記憶している。今時のギャルと思われやすい格好だが、友達思いでとてもいい人だと思っている。親が共働きでなおかつ一人っ子のため、寂しさを紛らわすために彼女はあのような過剰なスキンシップをとっているのだと思う。

 

 

家庭の事情は家と非常に似ている。家も両親はほとんど帰って来ることはない。しかし、俺には妹がいたため、寂しいと感じたことはほとんどなかった。しかし彼女は一人っ子。誰もいない家で一人でいるのは、とても寂しくて嫌なものだろう。そう考えると彼女に親近感が湧いてくる。

 

ん?あれ?

 

 

「むっつりホモって誰のこと?」

「ん?あんたのことだけど。知らなかった?」

 

 

クラス内での俺の印象は最悪らしい。

 

 

「四六時中真剣な表情で本読んでると思えば内容が過激な官能小説だし、図書室の追加図書要望欄に官能小説のリクエスト5個くらい書いてるし」

「えちょどこ情報」

「あと、登校から下校までずっと結城と一緒だもんね。結城は頻繁に顔赤くしてるし、あんたは楽しそうに笑ってるし」

 

 

リトが赤くなってるのは叫んでいるからだと思う。登下校もただ家が近いからであって、皆が勘違いしているような関係では一切ない。なぜ俺がハーレム王の餌食にされなきゃいけないんだ。俺は普通に美少女が好きなんだ。

 

 

「ちなみにそのあだ名つけたのはどちら様?」

「あたし」

「表出ろビッチギャル」

「ビッチって言った!ドーテーにビッチって言われた!」

「事実だろ!」

「違いますー!恋愛経験豊富だけどビッチじゃありませんー!」

「複数の男と付き合った時点でもうビッチ確定ですー!ビッチビーッチ!」

「むっつりホモのドーテーにビッチって連呼されてる!むっつりホモドーテーのくせに!」

「ビッチよりはマシだよ!」

 

 

「…………柊、籾岡」

 

 

口論がどんどんヒートアップしていく中、後ろにはいつのまにか生徒指導の先生が。

 

 

「二人とも、後で職員室来い」

「「はい……」」

 

 

 

 

籾岡と仲良くなった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何してんだか、俺……」

「口動かしてないで手動かせー」

 

 

2時間以上動かし続けていた手を止め、今更ながら後悔の味を噛みしめる。

 

 

事の発端は一本の電話だった。後数秒早く音がなっていたら教師に取り上げられるハメになるところだった。

 

 

『もしもし切っても良いですか?』

『よおソラ!今すぐ来てくれ!』

『嫌ですよ……締め切り近いんですか?』

『一週間も無いんだよー。背景と消しゴムだけやってくれねーか?給料は色つけるからよぉ〜』

『……給料、いつもの倍近くは貰いますよ』

『おう。サンキューな、ソラ』

 

 

才培さんからヘルプの要請がかかり、給料欲しさに受けた自分は心底バカな男だ。前に安請け合いした時も同じ地獄に遭うハメになったと言うのに。

時刻はすっかり7時を超え、ここに来てから3時間ほど経っていた。他のアシスタントさん達は俺のことを気にすることなく、ひたすら腕を動かし続けている。

 

 

今ごろリトは何をしているのだろうか。過酷な労働を引き受けた俺のことは知らずに西連寺のことでも考えているのだろうか。そう思うと無性に腹が立ってくる。どうやら長時間集中したせいで疲れているようだ。

 

 

「飯買ってくるんで。おにぎりかサンドイッチどっちが良いですか」

「久々に肉食べたいんだよなぁ」

「紙汚れるから却下。皆さんもどうしますか?」

 

 

締め切り前の漫画家の食事は偏りがちだ。大抵作業をしながらご飯を済ませたいため、片手で食べられるものが多い。栄養素の高いウィダーでも良いのだが、ほぼ毎日それだけだと飽きてしまうため今回はおにぎりなどにすることに。

 

 

近くのコンビニまで走って向かい、適当におにぎりやパンなどをカゴに入れていく。今回の給料はかなりの額が入る予定なので、お金のことは気にせず手早くレジに向かってしまう。小銭を出さずに一万円札を出すと、若い店員から舌打ちをもらうが気にせずにコンビニから出る。

 

 

行きとは違って帰りはゆっくり歩き、少しでも右腕の回復に専念する。あの調子だと、今日中には帰れないかもしれない。一応栄養ドリンクを買っておいて正解だった。

 

 

「あれ?柊くん?」

 

 

右手を握ったり開いたりしていると、前にいる人から声をかけられた。だんだんと街灯に照らされていくその顔は、俺の知っている顔だった。

 

 

「やあ西連寺。犬の散歩?」

「うん。マロンが行きたそうにしてたから」

 

 

犬のリードを持っていたのはリトの想い人である西連寺だった。ハッハッと息をしながら俺のことを肉球で叩いてくるのが西連寺の飼っているマロンという犬だろう。

一見、俺に構って欲しくて叩いているのかと思うが、まるで西連寺に近づくんじゃねぇと警戒されているようだ。

 

 

「柊くんは?すごい量の食べ物だけど」

「知り合いの漫画家のバイトしててね。その買い出しの帰り」

「こんな時間までバイトしてたんだ。お疲れ様」

「ありがとう。ちなみに、知り合いってのはリトのことだよ」

「へ、へ〜、そ、そうなんだ……」

 

 

リトという単語が出た途端、明らかな反応を見せてくれる西連寺。やはり西連寺の気持ちは変わっていないようでひとまず安心。

それにしても、こんな時間に女の子が一人と一匹で外に出るのは少々危ないと思う。辺りは既に暗くなっているし、最近では不審者の情報も多く出回っている。ただでさえ彩南町ではトラブルが多いのだから、夜は気をつけた方がいい。

 

 

「あれ?あれって……ゆ、結城くん?」

 

 

西連寺が指差した方を振り返ると、家の屋根の上を必死に走っているリトの姿が。よく裸足であんなに走れるな。あっ、ジャンプもした。痛くないのかな。

 

 

「ああ……うん、多分」

 

 

俺の知らないところで原作が始まっていたらしい。リトの隣には奇抜な衣装に身を包んだ少女の姿が見える。十中八九デビルーク星から来た家出王女のララ姫だろう。その二人の後ろから黒服の二人が追いかけて来ている。

この後の展開としては、黒服がトラック投げる、リトがララの家出を知る、リトたち吸い込まれる、だったはず。俺がいっても何も出来ることはないだろう。とりあえず今は、こっちのフォローをしておかなければ。

 

 

「あれ、結城くんだよね?なんで屋根の上?というかなんで裸足で?」

「西連寺。今日はまっすぐ家に帰って、今日のことは忘れること」

「え?それってどういう……」

「大丈夫、明日になれば全てわかるから、寄り道せずに帰ること。わかった?」

「う、うん……そこまで言うなら」

「じゃあ俺はこれで。気をつけて」

 

 

すっかり時間が経っていることに気づき、必要なことだけ西連寺に伝えると、俺はまた走って戻ることになった。

 

 

俺の知らない間でポンポンと原作が進んでしまったいたようだが。何はともあれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ToLOVEる】が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 




若干、籾岡の喋り方に違和感があるかもしれません。難しいです。

☆9評価を下さったネコココさん
☆8評価を下さった瀬川イラさん
☆7評価を下さったうなむ〜さん

ありがとうございます!高い評価を頂いて嬉しいです!






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02.運ぶだけの簡単なお仕事ですっ

次話を書き終える→小説情報確認する→お気に入り1000超えてる→( ゚д゚)←今ここ

皆様方のおかげでなんと、UA25000越え&お気に入り1000件越えをすることができました。自分の小説をここまでの人に見てもらっているなんて、本当に恐縮です。ありがとうございます。
これからも自分の小説を見てくださったら幸いです。それではどうぞ。


日直の朝は早い。それは高校生になったところで変わらない事実だった。

 

 

昨日の予想通り、今日は最高の天気だ。晴れてはいるが暑すぎず、ひんやりとした風が少し吹き抜けている。可愛らしいスズメの鳴き声を聞きながら、俺は一人で通学路を歩く。

 

 

どちらかといえば夜行性な俺にとって、早寝早起きという言葉は天敵とも言える。夜遅くまで起き、朝はゆっくりと二度寝をするのが日課だったが、日直という仕事は非常にも俺の日課を壊していくのだ。日直のバカっ!もう知らないっ!

 

 

だが嬉しいこともあった。早起きする事をユキに伝えておいたら、いつもより強めに俺のことを起こそうと試み、最終的にはデコピンで俺のことを起こしてくれた。久しぶりに妹のデコピンをくらい、成長しているんだなと感心しつつ、俺は気持ちのいい朝を迎えることができたのだ。

 

 

「うわ、リトからの不在着信多いな……」

 

 

昨日は色々と疲れる1日だった。バイトの方は11時くらいまで続き、帰って風呂入って寝る頃には12時を過ぎてしまっていた。そのため今日の睡眠時間は6時間にも満たない。抜けきっていない疲労感に苛まれながら、重い瞼をなんとか持ち上げている状態。

 

 

そして昨日、俺の知らないところで【ToLOVEる】が始まっていた。俺が見たのは、リトが住宅街の屋根の上を裸足で走っている姿だけだったが、家出姫を連れていたので間違いない。

 

 

そうなると、今日はリトが告白をする日だ。本人は西連寺にしたつもりだが、ララの乱入によりその告白をララが受けてしまう。これにより、ララはリトと結婚すると言い出し事態は急展開を迎える。言わば今日の朝は、原作のターニングポイントだろう。

 

 

しかし生憎と、俺は日直としての責務を全うしなければならない。正直面倒だし、サボっても良いかなと考えたが、軽い気持ちで自分の評価を落とすのは愚策だと思う。リトには悪いが、教室に来たら少しは慰め、もとい弄ってあげよう。

 

 

職員室の側にあるロッカーから日誌を取り、中にあった紙の束を両手に持って教室に向かう。鍵も持って行こうとしたが、なぜか既になかった。

この量の荷物を持って階段を登るのは少し苦だが、昔無駄に鍛えていたお陰でそれほど疲れることなく教室にたどり着けた。人生無駄なことはないっていうけど、その通りだと思うよ。

 

 

既に解錠されていたドアを開くと、中には俺以外にも早く学校に来た人がいた。

 

 

「なんだよ、猿かよ」

「なんだよとはひでぇなすけべ。日直か?」

「そうだよ。そっちは」

「へへっ、野暮用さ」

 

 

俺より早く来ていた猿山が鍵を開けたらしい。窓の方から手を上げてくる猿山に手を上げ返し、日誌の記入欄を適当に埋めていく。これはそれほど面倒ではないのだが、全員分の椅子を降ろし、机の上に手紙を並べるのがめちゃくちゃめんどくさい。正直、日直の仕事をそこまで増やすべきではないだろうに。

 

 

「んで猿山。こんな早く来て何してたの?」

「ふっ、まあこっちに来いって」

 

 

やけに上機嫌な猿山に不信感を抱きつつ、窓際に近づいていく。校門にはちらほらと生徒たちが歩いている姿が見られる。

特に変わったことはないが、猿山の右手に持っているそれを見てようやく理解する。やはり、こいつは中学の時と変わらない奴だ。

 

 

「彼女欲しいからって、朝から双眼鏡用意して待つか普通」

「俺は本気で彼女が欲しいんだ!行動しなきゃいつまでたっても出来ないんだぞ!」

「その性格じゃ当分無理そうだけどな。良い娘いた?」

「何人か可愛い人はいたけど、俺の好みじゃない」

「贅沢言うなよ」

「良いだろ、少しくらいは」

 

 

口だけではなく、ちゃんと行動に移せるのは素晴らしいことだと思うが、双眼鏡まで用意して良い娘を探している様子は、側から見たら即通報ものだろう。俺は心が広いから証拠撮るだけで許してあげる。

 

 

「おっ、あの娘美人だぞ!しかも巨乳だ!」

「結局胸目当てかよ。まぁ、あれは美人だわなぁ」

「黒髪ロングってのも良いよな!どこのクラスか気になるぅ!」

 

 

確かに美人だけど、猿山が近づいたらすぐに破廉恥な人と思われるだろうな。見た目というか、オーラから猿山は変態な感じがする。多分、生まれつきなんだろう。

 

 

「あっちの茶髪の娘も良いぞ!スポーティーな感じだな」

「あそこにいる娘良いぞ。足すらっとしてるし結構白い」

「この学校、女子の偏差値高いな!おぉ!あの先輩すげーデカイぞ!」

「どれどれ…………84、56、85だな」

「うわ気持ち悪っ」

「表出ろ猿」

「やってやんよ骨」

 

 

 

 

 

「お前ら」

 

 

 

お互いの胸ぐらを掴みながら振り返ると、そこには生徒指導の鳴岩先生が。

 

 

 

 

「今すぐ生徒指導室来い」

「「はい……」」

 

 

 

 

説教された。不幸だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ…………」

「お疲れだなリト。俺もだ」

「ソラの場合は自業自得だろ。俺のなんか……はぁ」

 

 

13回目のため息を吐いてるリトの幸せはとっくに下限値を超えているだろう。周りからしたら、リトのラキスケは幸運の塊だと思うだろうが、本人からしたら不運でしかないのだから。

 

 

ずっと暗い顔をしているのはやはり、今朝の告白に失敗したからだ。失敗?あれ失敗って言うかな。一応婚約者ゲットできたんだし、少なくとも失敗では……当事者にしか分からないか。

西連寺には誤解されたのがよっぽど悲しいのか、登校して来てからずーっとこんな感じだ。暗い、暗すぎるよこの子。

 

 

「そんで、婚約者になったその姫さんはどちらに?」

「どっか行っちゃったよ。あと婚約者になってない」

「ふむ、じゃあこれから更衣室ワープか。よし分かった、早く飯食おう」

「お前、今小声で何呟いた?」

「告白する相手間違える奴がいるかよボケがって言った」

「ガハッ……!」

 

 

よし誤魔化せた。代わりにリトは情けなく机に突っ伏しているが気にせずに。

 

 

昼休みなのだから、ゆっくりお昼ご飯を食べることにしよう。妹の作ってくれた弁当に感謝の言葉を捧げ、一口一口味を噛み締めていく。

確かこの後、猿山がリト捜索中のララ姫がいることを伝えにくる。そこでララとの関係を男子生徒が聞くとララ姫が衝撃の花嫁宣言。嫉妬に溺れた男子生徒たちに追われたリトたちは、ララの発明品で脱出。制服をその場に残し、さらには女子更衣室内で裸のまま西連寺に誤解されるのがオチだ。

 

 

考えてみると可哀想な話だ。ララの発明品の所為もあるが、ララの花嫁宣言まともに受けて嫉妬に溺れる男子生徒たちが主な原因だ。高校生で盛んなのは分かるが、是非とも自重という文字を辞書で千回引いてほしい。常識でも可。

 

 

出汁の効いた卵焼きを頬張る。ふわっとしていて味もしっかり効いている。そのまま作り置きしといた混ぜご飯を食べるとなんとも素晴らしい。もしかしたらうちの妹は天才かもしれない。

 

 

「っかしーな……弁当がねェ」

「不運だね。でも大丈夫、いいことあるよ。多分、きっと、だと思う」

「曖昧すぎっ!はぁぁ……多分あの時だ……」

「煮干しいる?」

「無塩じゃん!てか友人に煮干しあげる奴初めて見た!」

「うちの子は好んで食べるのに……」

「なんで不満そうなんだよ!わかったから、食べるから!」

 

 

俺が戻そうとした煮干しを奪い取り口に入れるリト。しかし塩味が効いてないため、微妙な顔をしながら煮干しを噛みしめている。その姿を側から見たら、飼い主がペットにおやつをあげている光景にでも見えるのではないだろうか。周りから『ソラ×リトか?』『主従関係逆転でリト×ソラもあり』などと言われているが、気にせずひじきの煮物を味わう。

 

 

「おいリトっ!スッゲー可愛い女の子がおめーのこと探してんぞ!」

 

 

リトは煮干しを、俺はひじきを味わっていると、猿山の嫉妬が混じった叫び声が教室内に響いてきた。その声を聞いた途端、リトは猿山と共に教室から走り去ってしまった。煮付け美味しい。

 

 

ご飯を噛みながら考える。この状況において、俺は何をすればいいのだろうか。リトと一緒に行くのは論外だった。行ったところでワープしたら俺まで被害に遭うし。

男子生徒たちを止める、これも無理かな。嫉妬に狂った男子ほど怖いものは存在しないのだから。

 

 

『結城ィィィィィ!!』

『よくも俺より先にそんな可愛い娘と!!』

『リア充は死すべし。死すべし』

 

 

ほら、あんなにも怖い発言をする男子たちを止めるなど俺には不可能。ていうか怖い。無理。

ワープ先は更衣室だったかな。しかも女子用の。まぁ西連寺の誤解はリトがなんとかするから大丈夫だろ。うん、問題ない。

となると、俺のやることは制服回収かな。女子更衣室に制服持ったまま堂々と入るのはさすがにやばいと思うが、リトが全裸のまま制服取りに帰るよりは幾分マシだ。

 

 

「おーっす柊〜。なんの騒ぎ?」

「名前を付けるなら、『美女と嫉妬』が一番良いかな」

「ゴメン、全然理解できない……」

 

 

さらっと近くに座ってきた籾岡にため息を吐かれるが、これが一番タイトルにぴったりだと思う。

残しておいた卵焼きを口の中に放り込み、俺はそろそろ置かれているであろう制服を回収しに行くことにした。

 

 

「籾岡、あとは頼んだ」

「え、ヤダ」

「プリン2」

「よし、任せな」

 

 

 

現金な奴め。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、それっ、えいやっ!って、全然当たらないよー!」

「初めてにしてはセンスあると思うよ。あとでダウン連教えるよ」

「だうんれん?教えて教えてー!」

「初心者にダウン連って、普通おかしいよね……」

 

 

楽しげに会話をしている中、俺は容赦なくアイクラでメテオを決めていく。負けてしまったが悔しがることなく「もう一回!」と言ってくれるのは、非常に向上心が高くすぐにでもダウン連くらいはマスター出来そうだ。

 

 

あの後、男子生徒たちがぞろぞろと教室に戻ってくることを見計らい、誰にもバレないように制服を女子更衣室に届けたつもりだったが、学校内では『堂々覗き』『勇敢なるむっつり』『女子でもイケるホモ野郎』などの噂が立っているようだが、一切気にせずに生きていこう。気にしたらあかんやつやん。

 

 

女子更衣室内という現実的に考えて有り得ない場所でララ姫と初めて対面したわけだが、彼女は特に気にすることなく、俺をリトの友人として受け入れてくれた。やはり地球と宇宙とでは常識が違うんだろう。身体的なものもあるけど、やっぱり宇宙人は心も大きくなくちゃね。

 

 

これから三年間はずっと関わっていくことになるのは分かっているため、とりあえず俺はゲームで仲を縮める作戦に出た。さすがに子供っぽい作戦かと思ったが、まぁ案の定というか知能指数が子供よりなのか。

 

 

それにしても、ララさんの器用さには驚かされた。つい数十分前にコントロールを教えたばかりだというのに、もうCPレベル7の相手を倒せるレベルにまで到達している。出鱈目な機械ばかり作っているため忘れがちだが、彼女は天才気質なのだ。ダウン連の次は投げ連教えてあげよ。

 

 

「やっぱり、地球の文化ってすごいよね!こんなゲーム初めてやったよー!」

「それは何より。地球の文化は色々あるけど、アニメとかも良いかもね」

「あにめ?なにそれ!」

「今度オススメの持ってくるよ。ひぐらしかanother、あとはBLOOD-Cかな。どれが良い?」

「絶対持ってくんな!!その三つは今でもトラウマだから!!」

 

 

俺の提案に全力否定してくるリト。確かにこの三作品は結構ヤバめなシーンがたくさんあるし、アニメを知りたい人に見せるものではないと理解している。ちょっとしたジョークだったが、ララさんがどれにしようか悩み始めたため、ジョークは控えるようにしよう。

 

 

「ララさんは確か、お見合いが嫌で地球に逃げてきたんだよね?」

「そーなの!パパったらずーっとお見合いばっかさせるんだよ!しかもほとんど私の知らない人だし、うんざりしちゃって」

「そして逃げてる途中のワープ先がリトの家だったと。運いいなリト」

「良くないよっ!今日だってあの機械のせいで春菜ちゃんに……あぁ」

「急にテンション下げるなよ……美柑ちゃん、これどこ運ぶ?」

「放っとけば治るんじゃない?そこでいいよ」

 

 

今日の不運を思い出したのか、リトは何事かを呟きながらため息を吐いている。同情したいけど、一般的な男子から見たら不運っぽい幸運だからいまいちフォローし辛い。あくまでも常識的な考えを持っていると自負しているため、自分の立場をわきまえた上で発言し、行動する。さすがに今回ばかりは、友人として同情するが。

 

 

『それにしても、よくララ様が宇宙人だと言われて受け入れましたね。大抵の方は驚くと思ったのですが……』

「俺から言わせれば、尻尾生えてる人より喋る機械の方が気になるんだよね。ころばしやとかない?」

『何ですかそれは。はぁ、こんな方が地球にはたくさんいるのですか』

「いや、感性おかしいのそいつだけ」

 

 

万能コスチュームロボットの意見は至極当然のことだが、男の子ってロボットって聞くと興奮しない?近未来っぽくて俺は結構好きなんだけど。

 

 

大抵の一般人は、ララさんの尻尾を見てもコスプレの装飾品だと思うし、髪の毛の色とかも海外から来たってことにしとけば通じてしまう世の中だ。宇宙人ですって言われてもそこまで騒がないのがこの世界の常識。これくらいのことで驚いていたら、この先驚きの連続で心臓止まっちゃう。

 

 

「おっと、もうこんな時間か。悪い、買い物に行かなくちゃ」

「てっきりうちで食べるかと思ったけど、違かったか」

「いつもお世話になってるし、今日はね」

 

日は暮れ始めたとはいえ、リトの一日はまだ終わらないのだ。この後ララと外で話をしているところ、付き人の乱入により事態は急変。襲いかかってくる付き人をなんとかしたり、リトが愛の叫びをしたりと色々盛り沢山なのだ。その場にいてもただ見ていることしか出来ないし、俺は素直に帰宅することに。今日の晩ご飯は親子丼と野菜スープで良いかな。

 

 

「そっかー、ソラ帰っちゃうのかー」

「ダウン連は今度教えるよ。あと、健全なアニメもいくつか持ってくるから」

「うん!楽しみにしてる!」

「そんじゃリト。頑張れ」

「なにを頑張るかは分からんけど、また明日」

 

 

身体的にも精神的にも疲れるであろうリトに激励の言葉をかけ、俺はそそくさと退散していく。

何事も一番最初が肝心だ。運動するときには運動前の準備運動、料理するときは料理する前の手洗いなど、一番初めの行為を怠ると、のちに大変な目にあうことが多々ある。

 

 

本心では、積極的に原作と関わって少しずつ変わっていくストーリーを楽しみたい欲求もあるが、どうしてもシリアス多めなダークネスを考えると、迂闊に動けなくなる。あれね、下手すると本当に危ない目に遭うから、いざとなったら家の中に引っ込んでおこう。

 

 

確かスーパーで卵の特売やってたなーなどと考えながら。俺は一人でスーパーへと向かっていった。途中、変な人に道を聞かれたため、とりあえず交番までの道を教えておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




猿山と絡ませるといつもあんな感じに。男友達とバカやってる感じは個人的に気に入ってるんですけど、やっぱり別のやつも考えた方が良いですよねぇ。


評価をしてくださった沢山の方々、本当にありがとうございます。お陰で色が付きました。感想での指摘も本当に助かっています。本当、感謝感謝です。




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03.朝チュン時々110番

更新速度遅くてすみません。許してくださいなんでもしますから。


梅雨が迫って来てるというのに晴れの日が続く今日この頃。

朝の目覚めがすこぶる悪い俺は、今日も今日とて不機嫌オーラを醸し出しながらリトの家に向かう。昨夜はリトからの電話に付き合ってしまったため、寝る時間は遅くなるわ5時前に目覚めちゃうわでかなり眠い。

 

リトの話によれば。昨夜は何も変わることはなく原作通りに行ったらしい。ザスティンに斬られそうになるし、ララに勘違いされるしで散々だったらしいが、予定通り進んでいるようでとりあえず一安心。

 

ララが編入するのは明日だろうか。転校初日から何かやらかすような気がするが、そんなに大きな出来事はなかったはず。最近不眠症の悪化が進んでいるような気がするし、保健室でサボっても大丈夫かな。ダメですよね、ハイ。

 

くだらないことを考えながらドアを開ける。

 

「おはよ。リトー?」

「あっ、ソラ。悪いんだけど、リト起こしてくれる?まだ部屋だから」

 

結城家に入ると、エプロン姿の美柑ちゃんが偶々通りかかった。しかし朝は忙しいため、俺に用件だけ伝えるとすぐに台所へ向かってしまった。ここで立っているのも邪魔なだけだし、靴を脱いで揃えておく。

 

美柑ちゃんのエプロン姿を見たのは久しぶりな気がする。あれは美柑ちゃんが小学校上がったばかりの頃かな。美柑ちゃんが料理を作ると言い出して、まずは形から入ろうと進言した時以来だろうか。あの時から随分成長したもので、毒舌に磨きがかかりすぎているような気がする。その毒舌を欲しがるようになりつつある俺はすぐに通報された方が良いかもしれない。

 

朝から自虐しながら、言われた通りにリトの部屋のドアに手をかける。

 

「起きろ未来のラキスケ…………」

 

 

 

顔を真っ赤にしている友人(パンツ+Tシャツ)

 

 

未だに眠そうにしている美少女(裸)

 

 

ポツンと座っている衣服用ロボット(存在が服)

 

 

 

「……………………」

「あっソラだ!おはよー」

「そ、ソラっ!?これは、ちがっ……」

 

そういえば。この日は美柑ちゃんがリトの部屋に来てこの光景を見るんだったっけ。その立場が俺に変わっているとは神様もひどいことをするものだ。

チラチラと視界に入ってくるララさんの四肢から目をそらし、くるりと回って一言。

 

 

 

「ごめん」

「待って違うから話を聞いてッ!!」

 

リトの悲痛な声を背に、俺は美柑ちゃんの味噌汁を飲みに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………てな訳で、俺は別に何もしてないからな。本当だからな!」

「あー、うんわかった。俺は何も見ていないぞー」

「話聞けよ」

「ララさんの四肢を眺めた気分は?」

「何も言い返せねぇ……」

 

友人の朝チュンを目撃してから数分後。リトの弁解を聞きながら通学路を歩いていく。こうして二人で登校するのもあと僅かか。明後日くらいにはララが加わり、来年くらいにはその妹のナナとモモが加わって賑やかな登校をすることだろう。

 

別に寂しくはない。俺はヒロインが増えて自分の立ち位置が無くなりそうで不機嫌になる幼馴染系ヒロインなんかじゃない。こうして二人で馬鹿な話で盛り上がるのも楽しいが、色んな人と話せた方が楽しいと理解している。俺は物分かりが良い方だ、すぐに慣れる。

 

「で、ララさんにプロポーズされたんだって?」

「されたっていうか、ララが俺の発言を変なふうに捉えたんだよ」

「感想は?」

「聞くなよ」

「嬉しいと」

「言ってない!」

 

いつもの感じは変わらないが、少しばかりリトも疲れているらしい。叫び声がいつものより迫力に欠ける。

 

俺がリトの部屋から出た後、ララはすぐにどこかへ行ってしまったらしい。まあ十中八九あの校長に直談判しに行くのだろうが、急なお願いを許可して大丈夫なのだろうか。制服とか体側服とか予備でもあれば良いんだけど、あの校長なら生徒が体育で汗をかいた後の体操服の方が好みそうなんだよなぁ……。校長の考えが予想できてしまう時点でもう手遅れかもしれない。

 

「そんなことより、裸の件はどうした」

「まだ謝ってない。はぁ……絶対、春菜ちゃんに嫌われてるよなぁ……」

「だろうね。裸の男女が女子更衣室のロッカーにいたんだ、誰だって誤解する」

「…………ちょっと待って、ロッカーの中にワープしたことなんで知ってんの?」

「ん?それは......うん。勘」

「勘かぁ……」

 

女子更衣室に裸の男女がいただけでアウトだろうに、あの学校には常識という概念が乏しいのかもしれない。実際乏しいね。校長が所構わず脱ぎ出すし。

 

しかしまぁ、落ち込みようが半端じゃないな。さっきからずーっと唸ってるし、どちらにせよ放課後には元に戻るだろうから今は放っておこう。

 

「どうすればいいかな……」

「さぁ。キリンを通常弾縛りで倒した話でもすれば?」

「お前ホントそれ好きだよな。てかガチ過ぎだろ」

「西連寺もきっと喜ぶ」

「急にモンハンの話振られて喜ぶ女の子は普通いないと思う」

「いるんだけどなぁ……」

 

実際、俺と西連寺が話すようになった理由はモンハンだ。モンハンは人を繋ぐって分かるんだね。

 

「大丈夫。最悪、お前が手違いで女子生徒を孕ませてもなんとかなる。きっと、多分、そんな気がする」

「曖昧だ……」

「あ、ユキに手ェ出したら容赦なくぶん殴って豚箱にぶち込む」

「真顔で言うなよこえーよ」

 

なにを言っているのだこの友人は。周りが引くくらい清々しい笑顔だというのに。

法律とか常識とかは乏しいクセに風紀を取り締まる人たちはいるんだ。母譲りの真っ白な柔肌に触れるものがいるならば容赦なく取り締まってもらうことにする。友人でも譲れない一線はあるのだ。

 

「てか、お前今日日直じゃなかった?」

「え、そうだっけ?」

「確かね。早めに行って日誌書いとけば?」

「それもそうだな。んじゃ」

 

リトが手を振りながら駆け足で走って行くのを見送る。今日の日直が西連寺と一緒だと教えそびれたが、まぁ別にいいだろ。教えたところで気まずくなるのは分かりきっていることだ。

 

「さて、と……」

いじり相手がいなくなってしまった俺は、携帯を取り出してメール作成画面を開く。件名はそうだな、【結城水】とでもしておこう。卑猥な香りがしそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。日直の仕事が残っているリトを教室に残し、俺は一人で帰路についていた。今ごろリトは教室で甘酸っぱい青春を味わってるのだろう。放課後の教室っていうのがまた少女マンガっぽいよな、あれこれって少年マンガよね?

 

特にやることがなかった俺は、久しぶりに晩御飯を作ることになり、スーパーまで買い物に行ってたところだ。

家のご飯を作るのはほとんど妹だ。料理が出来ないわけではないが、味を比べられると圧倒的に妹の方が上だ。昔から勉強熱心な妹と気が向いたときに行動してきた俺とでは一目瞭然な話だが。

しかし、今日は美柑ちゃんと一緒に勉強会をすると連絡がきたため、久方ぶりに俺が台所に立つ権利を頂いたわけだ。

 

両手に花、もといレジ袋を持ちながらマンションの自室に向かうと、ドアの前に誰かがいることに気付いた。緑色の髪に全身ガッチガチの鎧を纏ったひと目でわかる変人。しかし、見たことがあるような気がするのはなんでだろう.....?ていうかドア先にいるから入れないじゃないか。

 

「あのー……どちら様で?」

「ん?おぉ!貴方はあの時の!」

「……?……あ、どーも」

 

ザスティン。デビルーク星一の剣士の称号を持っている【ToLOVEる】内で数少ない男性の強い人だ。この少年マンガって女の子の方が圧倒的に強いんだよなぁ。一応、強い男性ならクロとかも出てくるけど、アレほぼ敵だからなぁ。なんとか仲間に出来ないかなぁ、無理だねうん。

 

「あの時は助かった。おかげですぐにララ様の元に向かうことが出来た」

「あぁ、うん。それじゃ」

「ああ待ってくれ!今日は折り入って頼みたいことがあるんだ!」

「ちょっ、首、締まってるって……ちょっ痛い、痛いっつーの!!服ビリっていきそうだったぞ!!」

 

ザスティンから手を離させ、荒くなった息を整えるため深呼吸を何度も繰り返す。

知っての通り、デビルーク星は地球人など比べ物にならない程の身体能力を持っている。限界以上に力を消費すると体が小さくなる制限付きだが、力を少し籠められるだけでこれだけの威力。もうヤダ宇宙人。みんな怪力すぎるんだもん。いつかポロっと逝っちゃいそうで怖い。

 

「で、何?しょーもないことだったらお前の上司に言いつけて慰謝料貰うかんな」

「す、すまない。それだけは勘弁してくれ」

 

流石のザスティンもギドさんには頭が上がらないらしい。そりゃそうか、怒っただけで星壊すくらいだもん。ギド目の前にして俺チビらないかな。戦闘能力とかずば抜けて強いし、お願いだから地球に来ないで。

ようやく息を整え終えると、ザスティンが改まったようにごほん、と咳払いをする。

 

 

 

 

「彩南高校の女子制服が欲しい」

 

 

 

 

 

ピ、ポ、パ、ポチ。

 

 

プルルルルル…………カチ。

 

 

 

「もしもし、警察ですか?」

「待て!?私の言い方が悪かった!!」

「ちっ。すみません、掛け直します」

 

ザスティンが真剣な表情をしたからなにかと思えば、とんだ変態だなこの野郎。特大ブーメラン乙。

 

「もう一回聞くぞ、要件は?」

「ララ様の制服が欲しい」

 

 

ピ、ポ、パ、ポチ。

 

 

プルルルルル…………カチ。

 

 

「度々すみません。変質者です。え、いや俺じゃないですよ?俺の目の前に……いや違いますから。俺じゃないって。目の前にいる鎧きたムキムキの人が……おい話聞けよ」

「どうして上手く伝わらんのだ……」

 

話が噛み合わない警察との電話を一方的に切る。こちらの理解力が乏しいのは知っているが、もしかしたらこの街の警察は意外とポンコツかもしれない。というかどうして俺の声だけで変質者と断定されるのだろうか。変質者はあの校長でしょ、え、違うの?

 

「すまない、きちんと説明する。ララ様から彩南高校の女子制服を用意して欲しいと頼まれたのだ」

「なんだよ、最初からそう言えよ……」

 

てっきりザスティンが自分の仕える姫たちに欲情する変態ロリコンクソ野郎かと勘違いするところだった。そうだよね、ザスティン君は普通だよね。このマンガ、殆どのヒロインが中々に濃いからザスティンはそのまま普通でいてお願いだから。

 

話が長くなりそうなため、とりあえず家 部屋の中にザスティンを通す。うちの中には誰もいないが、飼い猫のましろがザスティンにめちゃくちゃ警戒しながら出迎えてくれた。うちの猫は妹に似てお利口で優しいのだが、どうやらザスティンは動物に嫌われる体質らしい。

 

「すぐ出せるのはアイスティーかほうじ茶しかないけど、どっちが良い?」

「いや、そこまでしてもらう訳には……こ、こら引っ掻こうとするなっ」

 

まぁいいや。簡単にほうじ茶で済ませよう。

うちの母親はお茶をこよなく愛しており、棚の中には数十種類もの茶葉が置いてある。母親からお茶の淹れ方などを教えてもらったことはあるが、今でも茶葉に関しては分からないものが多い。俺は緑茶よりかはほうじ茶の方が好きなため、昔からよく淹れて飲んだことがある。ちなみに妹は玄米茶派だ。健康に気を使っているらしい。

 

「ほい。んで、ララの制服がなんだって?」

「かたじけない。実は……」

 

ほうじ茶を啜りながら聞いていたが、まとめるとこうだ。

 

本日、ララさんは校長に直談判し彩南高校の生徒として転入することを許可された。しかし体操服は校長が持っているが、制服は予備の物がないと。てかなんで体操服持ってんだよあの校長。校長だから?それで片付けられるんだよなぁ……。

それに困ったララさんがなぜか俺を頼りに。なんで俺が、と思ったのはザスティンも同じで聞いたところ、

 

『リトに内緒にしたいのもあるけどね。リトが言ってたの!ソラは基本やる気ないし興味ないととことん何にもやらないし人の不幸を腹抱えて笑う奴だけど、時と場合によっては頼りになる奴だって!だからソラに頼ってみるの!』

 

だそうだ。ララさんからの過度な信頼を寄せられているのはとても光栄です。リトには今度ボールペンでも渡そう。すごくビリビリするやつ。

 

「といっても、彩南の女子制服なんて……」

「そこをなんとか……む、これは美味い」

「どーも。良ければ茶葉持ってく?淹れ方も教えるよ」

「おぉ、それはありがたい。ぜひいただきたい」

 

いつの間にかお茶仲間が増えたことを嬉しく思いつつ、肝心の制服の件について思案する。

当然のことだが、俺が彩南の女子制服など持ってるはずがない。え、持ってないのとか思わないでね、俺そこまでヤバい人じゃないから。

 

彩南町の仕立て屋に頼むという手もあるが、流石にザスティンたちが確認しただろう。在庫は無しか、それとも今すぐには準備できないか。どちらにしたって無いものはしょうがない。

 

「まぁ、あてがない訳じゃないんだけどなぁ……」

 

正直、あんまりあてにしたくない。頼ったら多分『え〜どうしよっかなぁ?そこまでお願いするなら考えるけど、やっぱり対価は必要だよね〜?』とか言って来そうだから極力協力を仰ぎたくない。

 

しかし今回は非常事態だ。ここで制服が手に入らなければララは高校に編入出来ず、俺はララが高校に入れない理由を作ってしまった後悔を抱きながらこの先生きていくんだろう。

 

俺のちょっとした意地と、これから起きるハプニングの喪失。天秤にかける前からどちらを取るかなど決まっている。

 

「わかった。ちょっと頼んでみるよ」

「本当か!?かたじけない。この恩はいつか必ず返させてもらう」

「あ、ああ……楽しみにしとく」

 

そこまで大それたことをするわけでも無いのに、そこまで感謝されるとどうも変な気分だ。変な空気にならないうちに俺は電話帳からある人の電話番号を探す。あの人のことだ、きっと明日までに制服を送ってくれるに違いない。代償として俺の休日と体を差し出さなければいけなくなるが、この際仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもしもし、柊ですけど。彩南の女子制服ってありません?」

『ついに下切る覚悟が出来たの?』

「違うから話聞こう?」

『まっかせて。いいとこ紹介してあげるから』

「……お願いだから話聞いてください」

 

 

 

 

 

 

 

ソラは制服を手に入れた!

 

ちっとも嬉しくない。

 

 

 

 

 

 

 

 



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04.憂鬱な放課後バイト

気がつけば二月。6ヶ月も投稿せずにいて申し訳ないです。





「はぁ……幸せだなぁ……」

「溜め息吐いてるからプラマイゼロじゃん」

「中学の時に俺を見ててくれたなんてなぁ……」

「猿山とかよく見てたな」

「もしかして春菜ちゃん、俺のこと好きだったり……」

「話聞けよ.....」

 

 

朝。今日も今日とてリトと談笑しながら通学路を歩いていく。周りから見たら仲のいい友人同士に見えるだろう。しかし、先ほどからずっと無視されている。

理由はわかっている。昨日の放課後、教室にて西連寺とあんなことやこんなことがあったからである。別にただ中学の時のことを話しただけだろうが、リトにとってはとても嬉しい事だったのだ。

 

 

さて、好きな人に褒められて惚けている友人を放置しているのも良いが。これを放置したままにすると学校生活に支障が出る恐れがあるため、友人代表として俺自身が責任持って直すことにしよう。

 

 

「とうっ」

「いたっ。え、何?」

 

 

昔からテレビが壊れたら叩いて直すのが常識のように、会話が成り立たなくなった友人を直すにはチョップが一番。昔、家のテレビがつかなくなった時にたまたま帰国していた母親がテレビを叩いた際、そのまま修理に出す羽目になった経験があるため、効果は十分にあることは確信を持って言える。

 

多少強引なのは認めるが、あのままのリトを放っておいて学校に向かわせるとしよう。ニヤニヤしながら学校に向かい、ぶつぶつ呟きながら教室に向かう。その道中、道行く人に怪訝そうな顔をされ、友人にさえどうしたんだこいつと変な視線を向けられる。それらを気にせず教室にたどり着いたリトの評価はどうなっているだろうか。無論、問答無用でアレなんとかしろよとでも言いたげな視線がこちらにぶつかるハメになる。それらの可能性を考え、仕方なく俺は強硬手段に出たのだ。合法合法。

 

 

「そういえば、昨日ララがお前の家に行かなかったか?」

「ララさん?なんかあったの?」

「いや、なんか今朝変に上機嫌だったし、独り言で『ソラに感謝しなきゃ♪』って言ってたから」

「敬え、奉れ」

「家無神教だよ」

 

 

ララさんってば、少し口軽すぎよ?たんぽぽの綿毛並みに軽いんじゃないかな。ちなみにたんぽぽの綿毛は風速十メートルで十kmほど飛んでいくらしい。興味ない?そっか……。

昨日は色々と大変だったんだ。電話してから一時間後に制服来たこととか、サイズ合わせするために指に針刺したりしながら制服を縫っていたりした。スリーサイズ?んなもん目測。

 

 

そんな苦労もあったようななかったような気もするが、夜中にこっそりとララさんに制服を渡し、帰宅途中交番に寄ってからお家に帰ったので嘘をついてるわけではない。そういえばララさん、今日学校来るんだね。正直疲れたから何にもしたくない。

 

 

「そういえば、ララがウキウキした様子でなんかの準備してたし、美柑も弁当多く作ってたし……なんだ?今日何があるっていうんだ?」

「素敵な出会いがあるんだよ、きっと」

「…………合コン?」

「美柑ちゃんが合コンかぁ……」

 

 

どんなに頑張って考えても、来る男たち全員をバッサリ切り捨てる光景しか思い浮かばない。

 

 

「大丈夫。なんとかなるさ、多分、きっと、そんな気がする」

「お前、それ好きだな」

「何も言わないよりは言ったほうがいい。でも相手の心配を晴らす言葉が思いつかない。そんな時の魔法の言葉さ」

「つまり確信がないんだな」

「直球に言うのやめてよね」

 

 

なんでこの子は俺の心にグサグサくる言葉を言ってくれるのだろうか。さすがだよ結城家。兄妹揃って僕の心を的確に刺してくる。

 

 

「ていうか、肝心のララさんは今朝は何処に?」

「なんか、用事があるって言って出かけた」

「ふーん」

「そっちが聞いたのになんで興味なさげなんだよ……」

 

 

疑問というよりは確認みたいなものだから。教室行ってHRにはララさん登場だろ?そんでリトがララを屋上に、その後西連寺がララさんの学校案内で、その後は……駄目だ。頭痛くなってきた。これ以上考えても無駄だろう。

 

 

後で頭痛薬を飲んでおこうと決意し、俺とリトはララの待っている学校へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間というのは早いもので放課後。柊ソラはとある会社の前で悩んでいた。

 

 

誰にだって悩みの一つや二つほどある。例えばララさんの件。今頃にはララさんの悪魔の発明品『ぶんぶんバットくん』がその猛威を振るっているところであろう。犠牲者はリトとザスティンの二人。投手とか知らない。

最初は止めようと思った。そのために万能ツールを絶対に見つけられないであろう所に隠したり、西連寺に校庭には向かわないようにと遠回しに伝えたけど、悲しいことに気づかれることはなかった。

 

 

その後どうなったかは知らないが、特にこれといった傷を残すことなくこの展開は終わったはず。最大限の注意だけリトに伝えておき、自分は恩を返すべく遠くに来ている。

 

 

「嫌だなぁ……」

 

 

ビルの入り口までの距離50mほど。元気な子供にとっては短いその距離をゆっくりと歩み始め、ロビーへと向かう。

 

広い空間に受付嬢が二人。スーツ姿の人たちが集まって話し合っている、よくある会社の光景。これといって目立ったものはなく、ごく普通の一般企業と言っていい会社。その広い空間の中にいるであろう女性の姿を探す。

 

探すこと数秒。一際存在感が強い彼女を見つけるのは、そう難しくはなかった。

 

 

「お待たせしました、秋穂さん」

「30分遅れ。ま、ちゃんと来たから多めに見てあげる」

 

 

西連寺秋穂。西連寺春奈の実の姉であり、有名なファッション雑誌の編集者をしているプロフィールだけ見れば有能なToLOVEるの登場人物。

会社に勤めて日が浅いというのに、会社にあったサンプルの制服を融通出来るほどの権力をすでに獲得済み。そんなんで大丈夫なのか、この会社……。

 

 

「あーあ、ソラ君がもう少し早く来ればなんか奢ってあげたのになぁ~」

「前、たい焼き奢ってもらったと思ったらその三倍くらいの値段のジュース奢らされたんですけど?」

「私、奢ってあげるけどおごり返してもらわないなんて言ってないよ?」

「屁理屈っすね」

「女の子の気まぐれって言ってほしいな」

 

 

信用できない。そんなもの女子がたかる時に使う魔法の言葉じゃないか。そもそも女の子なんて歳じゃないだろうに。

 

 

「聞こえてるよ?」

「……ジュース奢らせてもらいます」

「うん。あと、今日の撮影時間延長ね」

「……一時間?」

「ううん、二時間」

 

 

悪魔だ。ここに悪魔がいるぞ。

 

 

「服によっては拒否しますからね」

「もっちろーん。モデルの嫌がることはしない主義だもん。嫌がることは、ね」

 

 

もうやだこの人。俺じゃ手に負えないんですけど。秋穂さんには絶対に逆らえない気がする。

出会ったときだってそうだ。教室に入るなり「モデルに興味ない?無くはないよね?ちょーっとお姉さんとお話しよ?」てな流れで連行されたし。

 

 

結果的にこちらとしては助かっているのだが、代償がかなり大きいんだよ。それでも原作に影響を及ぼすことなく進行しているし、結果オーライとでも言えばいいのかねこんちきしょう。

 

 

「てか、まだ誰か待ってるんですか?」

「うん。ソラ君よりも真面目でとってもいい子」

「へー」

「興味持ちなさいよー、つまらないなぁ」

「お待たせしました」

 

 

何気ない会話に入ってきた一つの声。聞き覚えのない声に疑問を抱きながら、声のした方に顔を向ける。

黒髪のショートヘアー、紫色の瞳、俺と同じくらいの身長。その時点で考えることは放棄することにした。

 

 

「初めましてですよね?霧崎恭子です。よろしくお願いします」

「wow…………」

 

 

 

マジカルキョーコが、そこにはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいねぇ……はい、笑顔笑顔!そうそう、そんな感じ!」

 

 

熱の入ったカメラマンの声が会場に響き、まぶしい光とともにシャッターが切られる。時間とともに撮影は熱を増していき、撮られている側は着せ替え人形と化している。

着替えては撮られ、また着替えては撮られの繰り返し。常日頃からこの一連の動作をこなしているファッションモデルの方はさぞかしストレスが溜まっていることだろう。

 

 

心の中の考えを決して表には出さず、指示される表情を必死に貼り付ける。時にはポーズを変え、興奮して近づくカメラマンのレンズに笑顔を向ける。

 

 

「いいね、()()()()()()!良い表情してるよ!」

 

 

上下セパレート型のセーラー服に身を包み、長い髪は一つにまとめ上げている。丈が寸分短いスカートから見える黒のタイツ。

 

 

確かに柊ソラは西連寺秋穂からスカウトを受けた。ただし、()()()()()として。

秋穂さんは最初から、俺のことを女装させてモデルにしようと企んでいたらしい。話だけなら……とか言って付いていったのが運の尽き。あっという間にメイクされて撮影された。

 

 

うちの家族は皆美形が多いため、俺の女装姿はそこら辺のモデルよりレベルが高く仕上がったらしい。幸い家族にはバレてないし、秋穂さんにも口外しないように再三注意喚起しているため、このことを知ってるものは数少ない。

 

 

これも仕事だと割り切っているものの、撮られるたびに大切なものがどんどん無くなってるような気がする。男の女装姿とか誰得だよ……

 

 

「一回休憩入れます!10分後にまたお願いします!」

 

 

スタッフの言葉でようやくカメラから離れられる。運動はしていないはずなのに、その何倍もの倦怠感に襲われる。近くのテーブルに体を預け、大きなため息を吐く。

 

 

「お疲れ様です、シュウちゃん」

「やめてください……霧崎さん」

 

 

霧崎恭子。お察しの通り、ToLOVEる原作ヒロイン候補。原作では魔法少女ものの主役として描写されることが多かった。ToLOVEるに出てくる多くのヒロイン中、比較的まともな部類に入る女の子。

彼女の正体は、炎を操るフレイム星人と地球人との星をまたいだハーフ。その能力は引き継がれており、爆熱少女マジカルキョーコ炎-フレイム-は、そんな彼女の能力をうまく利用して作った番組なのである。

 

 

後に出てくるルンの恋心を応援しつつ、その実リトが自分の好みにドストライク過ぎという葛藤に悩むヒロイン力の塊。いつになったら彼女が正ヒロインに君臨するのだろうか。

 

 

「始めに出てきたときビックリしちゃった。あの男の子がこんなに可愛い女の子になってるんだもん」

「よく言われます、そのグサッと刺さる言葉」

「ふふっ、可愛いから安心して?」

「後輩いじめだ。権力を盾にか弱い後輩をいじめる先輩がいる!」

「実はそれ、結構気に入ってる?」

「何人かの男は釣れました」

 

 

その気は無かったんだけどね。チョロい男もいるもんだ。

 

 

「驚いたと言えば、シュウちゃん……ソラ君も宇宙人の存在を知ってたことだよ!ほんとに地球人?ハーフとかじゃなくて?」

「準日本人です。あっ、一応ロシアとの混血か」

 

 

隠す気も無かったため、霧崎さんには宇宙人の存在を知っていることを話してある。まぁ、このスタジオ内に何人か宇宙人は混じってるし。蛙っぽい人とか、タコみたいな吸盤持ってる人とか。なんで秋穂さんは、疑問抱かずに仕事出来てるんですかね。

 

 

「何々~?美少女二人で何話してるの?おねーさんも混ぜて混ぜて~」

「俺がモデルになった経緯について話してたんですけどね。強引に引っ張って詐欺まがいの言葉で騙すなんてひどいなぁ、と」

「いやぁ、照れるねぇ」

「今ので褒められたって思えるとか神経どうなってんだよ……」

 

 

妹はあんなに普通でおとなしくて良い娘なのに、姉妹で差がありすぎる。それに関しては俺と妹との兄妹間でもスペックに差があるため何も言えない。

 

 

「ソラ君をスカウトしたのは、授業参観の時だっけ?調べ物の発表会やってたっけ」

「へぇ、何を調べたの?」

「人間と動物の進化構造についてです」

「なんで論文みたいになってるの……」

 

 

中学二年生の中旬だっただろうか。家で動物番組を見ている際に思いついて、それなりに良いものが出来たから発表した。発表内容は自由だったし、中学生の発表会なんてたかが知れてるしで出してみたら、中々に好評だったのを覚えている。

 

 

「あの発表聞いて、面白い子だなーって思って。よく見たら女の子みたいな顔だったから、そのまま連れてっちゃったんだよねー」

「くそ、あのとき男のモデルですかって聞いとけば詐欺の立証できたのに」

「ソラ君って、頭の使い方間違ってると思う。きっと」

 

 

ウィッグは蒸れるし、スカートは短いしヒラヒラしてるし、口紅までつけられるなんて思ってなかったからね!給料で決めたあの時の俺を往復ビンタしたい。

 

 

「受けちゃったもんは仕方ないよね~。てことでシュウちゃん。チャイナ服とメイド服、どっちにする~?」

「嫌ですからね!?霧崎さんに譲っときますから!」

「ええ!?私!?」

「ふふふ……良いではないか良いではないか~!」

 

 

 

 

結局、チャイナ服とメイド服を着た二人の撮影会は、一時間以上伸びて無事終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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