桜の下にて彼も嘘をつく (柊 言ノ葉)
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第一話 巌窟王のあの言葉は便利すぎ。

 11歳の秋

 

 「どうしたんだ?」 

 

 「あの有馬が」

 

 とあるピアノコンクールにて、

 

 「演奏やめちゃったよ」

 

 1人の少年が途中で演奏を止め、涙を流しながら下を向き耳を塞ぎ蹲ってしまった

彼を襲ったものが何なのか知りもせず観客たちは思い思いの言葉を少年に向けて投げかける

 

 「今までのキャリアが台無し。」

 

 これが、この瞬間がある意味では少年の大事なターニングポイントの1つだったのだろう

これまでが終わり、これからが始まる一つの節目。その第一歩

 

 隣の家に住む同い年の少女が、後に少年の師となる彼の母親の友人が、多くの観客が、その時を見ていた

 

 

 

 そして、もう一人。

 

 「おっ」

 

 少女や女性に負けず劣らず、ステージ上で蹲る少年と深い関わり合いがある少年もその時を沈痛な面持ちで見つめt

 

 

 

 「蚊に刺さられてら、もう秋やぞ生命力高すぎやろ」

 

  てなど居らず、それどころか秋まで生き残っていた蚊に舌を巻いているレベルで演奏を注意深く聞いていなかったどころか

ざわざわとした周囲の異変にも気付いていなかった。が、

 

 「...あれ演奏は?」

 

 ようやく周囲の状況に気付いた彼は周りを見渡した後、ステージの上へと視線を向ける。そしてその場の誰にも届かず、

聞いていたとしても本人にしかその意味が本当の意味で理解は出来ないであろう言葉を発した

 

 「もしかして()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    『桜の下にて彼も嘘をつく』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさしくこれが春だと言わんばかりの朗らかな陽気の夕方少し前、市立墨谷中学校にて部活動中の少年少女たちの声が響き渡る中

その中でもひと際気合の入った言葉の多いある一団が本日の大一番を迎えようとしていた。

 

 それが部活のただの練習であるのにも関わらず、練習試合あるいは大会のような緊張感の中打席に立ったのは『澤部 椿』その人。

ソフトボール部のエース的立ち位置に居る椿はそれは堂々と、明らかに長打を意識した構えでピッチャーを見据えている

対するはこの春入部したばかりのピカピカの新入生。いくら小学校時代に少年少女ごちゃ混ぜの野球チームに所属していたとは言え

この状況で「ふぇぇ」と5,6歳の少女でも発しないような言葉が口から漏れてしまうのも致し方ないと言えるだろう

事前にこういう状況になることが分かればもう少し心の方も含めて準備ができたものを、玉拾いの最中の若干気が抜けている中マウントに立つこと指示され

目の前に立つのはその部のエース。動揺凄まじい彼女がいきなりの状況に目を回すのも無理は無い。

そんな絶賛混乱中の彼女に誰一人として気付く事無く、皆が皆固唾を飲んで彼女が投球するその時を待っていた。

 

 いくら待っていても状況は好転しないか、そう考えた彼女はようやく構えを取り椿を、そして奥に構えるキャッチャーに向ける

サインは当然無し、入部して幾日も経っていない状況ではなにがなんのサインなのかさっぱりわからない、故にキャッチャーはサインを出さない。

その代わりにどこへ投げても捕ってやるという大樹のような気迫と包容力を感じる。その姿に安心しながらも、期待に応えるために彼女も全力を尽くす事を決意する

狙いは内角高め。いくら練習とは言え簡単にポンポン打たれてはこちらのプライドがズタズタになってしまう。

 

 狙いを定め、フォームはコンパクトにコントロール重視で。今第一球を...投げた!

 

 

   キィン!

 

 

 金属バット特有の甲高い音が辺りに響き渡ると同時にキャッチャーミットの中へと狙いを定めて放り投げたはずの投球は打球へと名前を変え

天高く、龍のように昇り、昇って行く

 

「行ったぁ!!」

 

 歓声や、その運動能力に対する呆れた声ががパラパラと聞こえる中、その打球を校舎側へと打ち上げた椿は喜色満面と言った様子でその打球の行く末を見守っている

そしてその打球はある場所に吸い込まれるようにして伸びていく、伸びて伸びて伸びて..

 

 

 

「パリーンッ」

 

 片手に飴を遊ばせながら先程出したふざけたような高い声とは裏腹に表情一つ変えずただひたすらにスタスタと歩いているのは我らが主人公君。

名前を..

 

「おっ、さっきのアイス当たってんじゃん。これさっきのコンビニでも交換してもらえるのかしら」

 

七咲 彩人(ななさき あやと)といった。

 

 

 七咲彩人とは転じて生となった者、転生者である

普通の家族に生まれ、普通に暮らし、普通に交通事故で亡くなったはずの彼は気付けばその体躯に見合うであろう小さな椅子の上で寝ぼけていた。

 

 最初こそ混乱で笑いながら保育園の庭を駈け回ったものの、その興奮で疲れてしまえば物事を冷静に捉えられ

現状がどの様な事にあるのかを考える事が出来た。エ○ディシ君のあぁぁぁんまりだぁぁぁぁ作戦も意外と理に適っていることが証明されたとても大事な一日であった

代償として父親のおわす病院へ引きずられていく事になったが

 

その状況で過ごすこと一ヶ月、俺は一つの結論にたどり着いた。

 

「君嘘、始まります。」

 

 『四月は君の嘘』という生前好んで読んでいた漫画によく似た世界に飛ばされたらしい

登場人物とされた人物に何人もあっていたり、同じような状況にあったというのが決め手であったのだが

 

「つっても、憶えているのは最初と最後だけなんだがなぁ」

 

 意図的かはたまた偶然か、所謂原作知識と言うものの間がすっぽりと抜けているのである

不便な事この上ない、憶えていられていればどれほど良いものか。

まぁ無いものねだりもしてはいられない、自分が憶えている最初の場面の終わりももうすぐだそこから先は本当になにもわからない

 

 

 物語としての最後以外は。

 

 

 今更な事だ、諦めたわけではないが直近でそれに対して何かが出来るわけでもない。それをこの14年だかの人生で痛感した。

 

 

だから今はとりあえず。。

 

 

 

 

 

 

「帰ってFFやろ。」

 

セフィロスでもぶちのめしに行くか

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の放課後、俺は昨日のように授業が終わればすぐ帰るような事はせず教室に残っていた

理由は目の前の男、原作主人公、有馬公正。母親の早希さんが入退院を繰り返してた時から時々家の母親だったり椿の母親だったりがご飯を作りに行っていたのだが

俺らが中学に入ってからは家事が得意になった俺がその役目引き継いでいる。父親の隆彦さんもご存命なのだが職業柄何分出張が多い身

時々そうして様子を見に行ってやらんと平気で夕飯食べない事とかざらにあるからこいつ。というか俺は何なのこいつの執事さんなの?..金でも取ってやろうかな。

 

 と、そんな邪な事を考えつつ濁った眼で公正と見ていると視線に気づいたのか気まずそうな顔してこちらを見てきた

 

「彩人..顔怖いよ?待ってるのが嫌なら先に帰ってもいいのに」

 

「いや、待ってるのが嫌なわけじゃねぇよ。ただちょっと公正から金をむしり取る計画を立ててただけだ、気にするな」

 

「堂々とカツアゲ宣言!?えっ本当に僕なんかした!?」

 

「気にするなって言っただろう、冗談だからはよそれ終わらせろ」

 

そういうと納得はしてなさそうな顔をしながらも渋々と作業に戻っていった

俺も暇でも潰しとくか・・おっ今年の夏に新しいプレステが出るのか。おねだりの準備はいいか??俺は出来てる!

 

その状態が10分ほど続いた時、後ろのがガラガラと開いた。

顔をのぞかせたのは我らが誇るソフトボール部エース澤部椿殿。いかにもいたづらっ子という顔をした椿は俺と目が合うとしーっと口元に指を当てながら静寂を所望してくる

そういうとこはかわいいんだけどなぁ..彩人的にポイント高い!おっとそれは別の作品でした。

 

 

 パコーンと音がしたかとソフトボールの玉が目前に転がってくる。どうやら椿が公正の頭にぶつけたものが転がってきたようだ

 

「もー、つまんないリアクション」

 

いやいや椿さん?誰だって突然頭にボールぶつけられたらリアクションなんて取れませんよ?そんな事が出来るのはお笑い芸人さんくらいのものなんですよ?

 

「あんた達の青春って何!?14の春は二度とは来ないのよ!放課後に2人教室で会話もせずに!」

 

どうやら我らが青春大将殿は公生に青春とは何ぞやというありがたいお説教をしにきたようだ..あれ今の俺も含まれてた?

それなら俺は含まないでもらえますかな椿姫。俺は公正と違って青春を謳歌してますから、とかそういう事ではなく14の春二度目なんで

それに加えて俺は今を楽しく生きてますから、趣味も多いし才能があるんだと多くの人に認められたこともこれまた多い。前世で自分は全ての物事において平均的だと思っていた弊害なのか若干能力を持て余してる部分はあるが。そしてそこそこに顔も良い客観的に見れば10人~20人に1人はあっカッコイイと思ってもらえるような見た目である。えっなんか微妙だって?いいだろうがこのぐらいの方が、モテすぎて良太みたいにチャラチャラするのよりましであろうよ、まぁ俺に関しては若干女っ気が無さ過ぎると両親に心配されているが、まだまだ中学生やぞまだ恋愛に(うつつ)を抜かさなくて良いでしょうがと彼等を(たしな)めている。でも仕方ないよね20代後半まで生きてた俺からすれば中学生は子供に見てしまうんだもの、なんだか親戚の子供に接するような態度になってしまう。その結果一部の女子からは「お母さん」なる渾名を頂戴してしまう始末なんだが。せめてお父さんにしてくれ性別を合わせてくれ。

 

「ねぇ!彩人!!彩人ってば!!」

 

はっと気付けば眼前に椿の顔。思ったより思考に埋没してしまっていたようだ、それにしても椿ちゃん近くなぁい??あなた女の子なのよ?

 

「椿、近い。」

 

「聞いてない彩人が悪いんでしょ!!」

 

と顔を離す椿。その顔には照れの字の一文字も見えてこない、これが幼馴染の障害か。でも最後の方は公正にデレッとしてたような覚えがあるんだけどなぁ..記憶違いか?

 

「それに関しては全面的に俺が悪い。悪かった椿、で何の話だ?」

 

もう、と頬を膨らませながらも話を最初から初めてくれる椿ちゃん、こういう所があなたの利点だからぜひ伸ばしていって貰いたいものです。主に俺のために

 

「明日、渡の事が気になるっていうクラスの女の子を渡に会わせてあげるんだけど私とその女の子と渡だけじゃ気まずいから公生と彩人に着いてきてもらおうと思って」

 

あぁもうその話し済ませたのかと独り言ちながらふと疑問が浮かぶ。

 

「あれ、それ俺要らなくない?公生も行くんだろ?」

 

「ほぼ無理やりね」

 

「余計な事言わないでよ公生!」

 

公生の事をギロリと睨みつけた後再びこちらを向いて口を開いた

 

「その女の子バイオリンやっててね、共通の話題が合ったほうが盛り上がると思って公生を連れて行くんだけどどうせなら賑やかな方がいいじゃない?」

 

「俺は賑やかしかよ」

 

「彩人も楽器色々やってるじゃん!それこそピアノもやってたし、バイオリンの方も少しは分かるでしょ?公生だけじゃ静かになっちゃいそうだからさ、お願い!」

 

と手を合わせてお願いをしてくる椿。公生が僕の時と違う、と愕然とした顔でつぶやいているのが見える。いや分かるけどお前強引誘わん限り来なそうじゃんだから椿くらい対応の方が正解だと僕思うんだ。

 

 それはそれとして、先に椿が言ったように俺も過去ピアノをやっていた経験がある、期間で言えば物心ついた頃から12歳になるまで。その間では色んな人に教えてもらったりした。――若い頃は凄かったとかのたまっている母さんとか存在が魔女っぽい落合さんとか公生のお母さん、早希さんにも元気なころに少しだけ教えてもらった事もあるし、後はあの人。旦那さんと喧嘩するたびに家とか公生の家に泊まりに来てたあの人。最近見ないけど旦那さんと上手くやっていけてるのかねぇ。

 止めてしまった理由も公生のように重い理由ではなくただ単に色んな事に挑戦してみたいという思いからであった

またピアノがやりたくなればやる気でもいる。ピアノで知り合った子達とかもいるし。そういやあの子らにピアノ一旦やめるって言ってなかったな..まぁ大丈夫か、大丈夫だな。

 

「まぁそういう事ならいっか。いいよ、行ってあげる。」

 

「よかった!!彩人も来るんだから公生もちゃんと来てよね」

 

「分かった、分かったって」

 

一見強引そうに見えながらその裏側にちゃんと優しさが見える椿とそれにタジタジな公生を見ながらひっそりと笑う

こんな日常が続けばいいのにと叶わぬ理想を想いながら

 

 

 

 

 

 その日の帰り道、用事があると学校に残った後公生といつもの帰り道を歩いていた

そんな中公生の顔が少しだけ曇っているのを感じる中公生が突然俺に声を掛けてくる

 

「彩人はさ、」

 

「ん?」

 

「彩人は僕がピアノにしがみついているにように見える?」

 

「・・椿に言われたのか?」

 

下を向きコクリと頷く。言葉にしたことによって一層顔の曇りだ増したように見える

 

「まぁ、そうも見えるよな。今のお前は。」

 

「・・そっか」

 

それくらいしか俺が掛けてやれる言葉見つからない。そんなことはないと言うのは簡単だがそんなものは一時しのぎにしかならない

それに、それを俺に聞いてきたという事は心のどこかではそうであると納得してしまっている自分が居るのだろう。

 

テテテーテー↑テ↓テー↑テッテレー(ファンファーレ)

 

沈黙が空間を支配している中俺の携帯に一通のメールが届く。呆れている公生。いいだろうが、着メロくらい好きなのにさせろや

内容を確認する...そうか、姫様ももう知ったか。笑みがこぼれる。公生に光をもたらしてくれるであろう存在が、雲がかった空に太陽で照らしてくれるような奴が、バリバリとやる気に満ちているのが

メールの文面だけでも感じられる。

 

 

 

春が来るな。

 

 

 

「早希さんが亡くなってもう3年が経つ」

 

「彩人?」

 

突然にやけたかと思えば、過去を語りだした俺に公生が眉の間にしわを寄せて呼びかけてくる

 

「3年だぞ?背も大分伸びたし、声も低くなった。雰囲気も大人のそれに向かって行ってるだろうよ、お前もそして俺も」

 

「そうだけど、いきなりどうしたの?」

「椿も変わったし、良太も奈緒も変わった。それに準じるよう周りの接し方も変わってきた」

 

「??」

 

欠片も意図が理解出来ないという様に頭の上に?マークを出す公生。――えっなにそれどうやってんのそれ!?俺もその能力欲しい!!

 

「俺たちが変わりたくなんか無いって大声で叫んでいじけてぐずっても止まってなんてくれない。止まってると思っても水面下では少しだけでも動いているもんなんだよ」

 

「理不尽だよな、全く、何もかもが突然なんだ、気付いた時にはもう遅い」

 

「結局彩人は何が言いたいのs」

 

「公生。」

 

長々と色んな事を語ってはいるが結局俺が言いたいのはこれだけなんだよ、言ったところでお前には何も分からないだろうけど。

備えろよ、蓄えろよ、なぁおい公生よ

 

「嵐が来るぞ、巻き起こるぞ。辛くて苦しいこともある、でも同じくらい暖かくて、心地よい嵐が。お前をきっと、日の当たる草原へと連れ出してくれる。」

 

「だからよ、『待て、しかして希望せよ』だ。」

 

その日一日中、飯を食っている間も公生の頭の上の?マークは決して取れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




その日の思いつきでガリガリと書き連ねてしまった
エタらないように頑張りたいと思うます。


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