魔法世界の訳あり物件 (日々空回り)
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一話

 

 

ー出来ないことではなかった。ー

ーだから、彼女達のために、この力を使った。ー

ーその代償がどんなものであるかは、俺が一番よく知っている。ー

 

 

 

「むむむ…」

 

第一管理世界ミッドチルダ、時空管理局本部のある一室にて、一人の青年が項垂れていた。

 

「これで終わり……」

 

青年の名は、リッカ=E=タチバナ。この管理局の片隅にある、特殊装備科に所属しているしがない局員である。

 

「お荷物部署だからしょうがないとはいえ、事務作業多すぎだろ…」

 

そう、リッカの所属している部署は、構成人数がとても少なく、目立った成果もあげていないため周りからお荷物呼ばれされている。

リッカが独り言を言っていると、ドアが開く音が聞こえて来る。

 

「先輩、失礼します」

「おかえり、マシュウ」

 

ドアが開くと、リッカがマシュウと呼んだー本名、マシュルマロール=G=カリエールー紫髪の顔立ちの整った青年が入ってきた。

 

「…先輩」

「何、マシュウ。なんか怒ってる声がするんだけど」

 

マシュウはリッカの机の上を見ると、静かに声をあげる。

 

「いつも言ってますよね、事務仕事なら後輩の僕がやるって」

「そんなこと言ったって、役割分担ってものがあるだろう?お前はこの部署のエースなんだから、どんどん現場に出てもらわないと、ここがなくなっちゃうよ」

「しかし、それでも僕の尊敬する先輩に、事務仕事なんてふさわしくありません」

「じゃあマシュウは俺になにしろっていうの?」

「先輩はここにいるだけでいいんです。後のことは僕たちが全部やりますから」

「お前、ヤンデレかよ」

 

リッカは苦笑を浮かべると、椅子から立ち上がりマシュウの肩をポンと叩く。

 

「じゃあ先輩からのお願いだ。飯でも一緒に食いに行こうか」

「…それが先輩からの頼みならば、僕はどこにでも行きます」

「んじゃ、行こうか」

 

リッカとマシュウは特殊装備科の扉をくぐると、食堂へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「それで今日の任務はどうだったんだ?」

「簡単なものでしたが、先輩がいらっしゃらなかったので、効率が悪かったです」

「それはお前の気持ちだろうよ」

「しかし、事実です」

「はいはい」

 

二人が食堂へと向かっていると、周りからの声が聞こえて来る。

 

『キャー、マシュウさんよ‼︎』

『本当にイケメンよね…』

『顔も良くてランクAオーバー。それに性格もいいなんて、非の打ち所がないわね』

『かっこいい…』

 

そのほとんどがマシュウへの感嘆が漏れたものであった。

 

「手でも振ってやれば?」

「先輩以外からのものなんて、ゴミ当然いやそれ以下です」

「…頼むから、それは俺たち以外に言わないでくれよ?」

「?事実なのですが、何か間違っていますか?」

「この忠犬は…」

 

マシュウはリッカに盲目しており、それにリッカは頭を悩ませていた。どこで接し方を間違ったのか、そればかりを毎日考えている。そんなことをまた考えていると、マシュウではなくリッカのことも言われていた。

 

『ねえ、あの隣にいるのって…」

『ええ、管理局のお荷物よ』

『全く早くやめればいいのに」

『ランクもF–らしいよ』

『そんな無能なのに、マシュウさんを顎で使ってるのね』

 

それは全てリッカに対する誹謗中傷であった。その言葉を耳に挟んだ途端、マシュウは顔を歪ませ噂の元へ足を向ける。だが、それをリッカは腕を掴んで制する。周りは自分たちの方に、マシュウが来ると勘違いし色めき立っている。

 

「やめとけ」

 

静かにリッカはそう言う。

 

「しかし、あいつらは僕の尊敬する先輩を侮辱しました。滅ぼすのには十分な理由であると考えます」

「滅ぼすってそんな物騒な…」

「先輩が手を出さない理由は存じてあります。ですので、代わりに僕が…」

 

そこからマシュウは何もいえなかった。掴んでいたリッカの手の力が、強くなったからだ。

 

「なんども言わせんな、やめとけって。ここで手を出せば、お前もあいつらと同じなんだよ。手を出そうが口で言おうが、相手を傷つければ同じなんだ。…マシュウ、それでお前はどうしたい?」

 

静かに淡々と、だがそこに意思は込められていた。その言葉を聞いてマシュウはリッカに並ぶ。

 

「…申し訳ありませんでした、先輩」

「わかればいいのよ、わかれば」

 

リッカ笑うとマシュウと共に食堂へと向かった。残ったのはマシュウが来ると思って、期待していた局員たちだけであった。

 

 

 

 

 

「先輩は席でお待ちになっていてください。僕が食事を取ってきますので」

「おー、悪いな。俺は何時もので頼むわ。じゃあ席とって待ってるわ」

「はい、特盛メガAランチですね。行ってきます‼︎」

「いや、俺のいつものは和食…って、もう行っちまいやがった」

 

マシュウはリッカに頼まれたのがよっぽど嬉しかったのか、鼻息を荒くしてカウンターへと行った。リッカが話しかけた頃には時すでに遅く、マシュウはリッカの目の前からいなくなってしまった。

 

「ま、食べきれなかったらマシュウにあげればいいか」

 

そうこぼすと、リッカは自分たちが座れるであろう席を探す。さすがは昼時、どこも混んでいる。しかしひと席の周りだけは、空いておりそこにリッカは腰掛けた。

 

「しっかし、なんでこの辺は空いてるだろうな」

 

腰掛けた席の周りを見ても、この昼時にここが空いている理由が分からなかった。しかし、その空いていた理由が向こうからやってきた。

 

「あ、リッカ君」

「……」

「げ…お前らがいたからか」

 

リッカに話しかけてきたのは、管理局のエースオブエースと呼ばれる高町なのはで、その後ろに執務官のフェイト・テスタロッサ・ハラウオンがだった。

 

「もう、げって言わなくたっていいじゃない」

「お前ら眩しいから目がくらむんだよ」

「…なのは」

「フェイトちゃん?」

 

なのはは友好的に接したが、フェイトはリッカに目も合わせなかった。

 

「私なんだか気分が悪くなったから、お昼ご飯やっぱりいいや」

「え?でも、さっきはお腹減ったって…」

「おーおー、そんなに俺が嫌かい、執務官殿」

 

フェイトにリッカは口を挟むが、フェイトはゴミを見るような目でリッカを見下す。

 

「意識しすぎなんじゃないかな、誰もあなたのことなんて言ってないから」

「しかし、なのはの言葉から察するに俺がいるから、飯いらねえって言ったんだろ?」

「お前が…」

「ん?」

「お前がなのはの名前を呼ぶな‼︎」

 

フェイトが大きく声を上げると、食堂はしんと静かになり、周りは三人を見た。

 

「…ごめんなのは。これ食べといてくれないかな」

「え、あ、フェイトちゃん⁉︎」

 

フェイトは持っていたトレイをなのはに渡すと、食堂から立ち去っていった。周りの目はだんだんと落ち着き、元の喧騒溢れる食堂へと戻っていた。

 

「まあ、座れよなのは」

「うん…」

 

リッカが促すと、なのははリッカの向かいに座る。

 

「ごめんね、リッカ君」

「なのはが謝ることじゃないさ、俺が悪いんだから」

「そんなこと…‼︎」

「そんなことある」

 

リッカは腕を組むと、視線を上げる。

 

「まだ俺がフェイトと向き合えてないから、こうなっているんだから。言うべきことしかないのに、俺が勇気を出せないから」

「でも、私が助かったのはリッカ君のお陰なのに…それが原因でフェイトちゃんと仲良くできないなんて…‼︎」

「それも俺がしたいから勝手にしただけ、そうあの時も言っただろ?」

「………」

 

なのははまだ納得をしていなかったが、リッカは苦笑いを浮かべるとパンと手を叩く。

 

「この話はこれでおしまい。早く食べないと、飯が冷めるぞ?」

「…そうだね。う、そういえばフェイトちゃん私に二人分食べさせる気なの…」

「いいんじゃないか?なのは細いんだから、食べないと大きくなれないぞ?」

「女の子は色々とデリケートなの‼︎」

「おや、先輩どうして、高町一等空尉と同じなのですか?」

 

そこにマシュウが帰ってきた。その手には大きく盛られた昼食があった。

 

「……なあ、マシュウ俺いつものって言ったよな?」

「?はい、ですから僕のいつものを頼みました」

 

それはリッカの想像を絶するランチだった。

 

「…リッカ君頑張って」

「なのは、お前もな」

「?」

 

なのはとリッカの会話の意味が分からなかったので、マシュウは頭を傾げた。

 

ちなみに、リッカとなのははご飯を食べきれず、余ったものはマシュウによって処理がなされた。

 

 

 



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二話

 

昼食での開口から数日、リッカは相変わらず部署にて事務作業をしていた。

 

「……」

 

マシュウには何もするなと言われたが、そこは先輩の矜持、何もせずになんてできるわけなかった。そのマシュウは今日も、他の部隊への協力のため出ている。なかなか渋っていたが、これは俺のお願いなんだけど、というリッカの言葉にすぐ様部屋を出て言った。

 

ウィーン

 

「おっはー☆今日の調子はどう?」

「定時ギリギリだぞ、リリィ」

「いや〜、発明の手が止まらなくて」

「その情熱を少しでも仕事に傾けたらな…」

「そこは隊長の仕事だろ?」

「これは隊の仕事だ」

 

ごめんね〜と言いながら、大きな杖を携えた少女が部屋へと入室して行った。茶色のウェーブをかけた少女はリリィー本名、リリィ=L=ランジェローで、この特殊装備科に所属している数少ない局員の一人だった。

 

「頼むから仕事してくれよ、マシュウにも言われてるんだろう?」

 

リッカは変わらず書類とにらめっこをしながらリリィに語りかける。語られたリリィはというと、杖を壁にかけ自分の机につき、椅子の背もたれに大きく寄りかかりぐるぐると回っている。

 

「確かにマシュウに毎回言われるよねー。先輩に仕事をさせないでくださいって」

「なら、やれよ」

「ふふふ、このリリィちゃんは、やらなくていいことならやらない主義なんだよ☆」

「ファック」

 

むふふーとリリィは笑うと、自分のデスクのパソコンを立ち上げる。

 

「あ、そういえば」

「どうした?」

「八神二等陸佐が呼んでたよ」

「なんでさ」

 

その名前が聞こえた途端リッカは、筆を置きめんどくさそうな顔をした。

 

「なんだかー、これからのここに関わる話だからだってさー」

「おいおい、それを隊長の俺じゃなくてなんでリリィに話すんだよ」

「私天才だもん」

「天災の間違いだろ」

「あながち間違いじゃないね☆」

 

くるくると回るリリィは、回り続けながら屈託のない笑みを浮かべた。リッカは再びため息をつくと、持ってきた書類をリリィの机に置く。

 

「八神二等陸佐のとこに行ってくるから、これよろしく」

「ええー、なんでさー」

「俺、隊長。お前、隊員。you know?」

「圧政だー‼︎」

 

ブーブーと文句をリリィが言うので、仕方なくリッカは切り札を切る。

 

「第三十二倉庫」

「⁉︎」

 

その言葉を聞いた途端、リリィの表情は固まってしまった。

 

「いやー、色々溜め込んで見るみたいだけど、誰の許可w「完璧にこなしてみせるよ、隊長‼︎」わかればよろしい」

 

リリィが敬礼して仕事を了承したので、リッカは部屋を出る。

 

「ちゃんとやんなきゃわかってるよな?」

「イエッサー‼︎」

「うむ、行ってくる」

 

リリィの敬礼を再び見て、部屋の扉をリッカは閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相変わらずリッカが歩くと陰口を叩かれるのだが、それらを無視して八神二等陸佐が待つ部屋へとたどり着いた。

八神はやて二等陸佐。ランクSSランクにして、守護騎士ヴォルケンリッターを束ねる夜天の書の主人である。その経歴は一般的にはホワイトであるが、その裏は知る人とぞ知るブラックである。

 

コンコンコン

 

「リッカ=E=タチバナ三等空士入ります」

『うん。はいってなー』

 

ノックを三回して入室を許可されると、リッカは部屋へと入る。そこには茶髪のショートカットの少女が大きな机と椅子に座っていた。その横には銀髪の生体デバイス、リインフォース=ツヴァイもいた。

二人を見て、リッカは敬礼をする。

 

「リッカ=E=タチバナ三等空士。招集につき参上しました」

「うん、ありがとなー。リィン、お茶用意したって」

「はいです‼︎」

 

主人のはやての命令を聞いて、リィンはお茶の準備をする。

はやては座っていた椅子から退くと、接待用の向かい合ったソファーに座る。

 

「リッカ君、君も座って。あと、言葉遣いも普段通りでええから」

「じゃ、遠慮なく」

 

リッカはソファー深々と座り、はやてと正面で向き合う。

 

「相変わらずやなあ」

「変わらないことって尊いよな」

「またそないなこと言う…」

「お待たせです‼︎」

 

苦笑いをはやてが浮かべると、リィンがお茶を持ってきた。

 

「ありがとな、リィン。…うん、うまい」

「ありがとうです‼︎」

「……」

「ん、どうしたはやて?」

 

リィンの入れてくれたお茶を舌鼓していると、じっとはやてがリッカを見つめていた。

 

「いやな、リッカ君もそんな顔できんのやなーって思うて」

「お前は俺をなんだと思ってるんだ」

「不器用」

「クソダヌキ」

「………」

「………」

「はやてちゃん?リッカ君?」

 

二人の無言のにらみ合いを不思議に思ったのか、リィンは二人の名前を呼ぶ。

 

「ま、別にええわ」

「それで要件ってなんだよ」

 

リッカはお茶を置くと、深々と座り直しはやてを見る。

 

「実はな、うち新しい部隊作ろうってなってねん」

「まさかそこで働けと?この俺が?」

「話が早うて助かるわ」

 

ふふふと笑うはやてだが、一方のリッカは眉を寄せる。

 

「厳密に言えば、リッカ君だけじゃなく特殊装備科全員をうちが作る時空管理局遺失物管理部機動六課に欲しいんよ」

「…マジで言ってんの?」

「おおマジやで」

 

リッカは上を向いて装備が全員の顔を浮かべて考える。一人は自分、事務作業をなんとかこなせてランクは最低。一人はマシュウ、優秀であるが自分の言葉以外は聞かない。一人はリリィ、天才であるがその分だけ周り特に自分に迷惑をかける。もう一人いるが、そいつも別の場所で仕事をしておりかつ人間のゴミのような性格である。

以上のことを考えて、リッカは答えを出す。

 

「やめとけ、はやて。せっかく作った六課がその日のうちになくなる」

「そんなことはならんて」

「いや、ありえる」

 

はやては笑うが、リッカの目は笑っていなかった。冷静に分析した結果、メリットよりもデメリットの方が大きく優ったのだ。

 

「じゃあこれを見て」

「は?……ええ…お前そこまでする?」

「うちはなんでもする女やで」

 

はやてがリッカに見せた紙、それは管理局の三賢人の名前が記された辞令だった。

 

「『特殊装備科を時空管理局遺失物管理部機動六課に加えることを命ずる』って、これはやりすぎだろうが」

「さっきも言った通りやで、それでリッカ君どないするの?」

 

リッカは辞令を机に置くと、ふーっと息を吐きはやてに答える。

 

「受けないわけにはいかないだろうが。…特殊装備科隊長リッカ=E=タチバナ以下四名、辞令の通りに八神はやて二等陸佐の元に参画します」

「そうそれは良かったわ。なあ、リィン?」

「はい‼︎またリッカ君と遊べます‼︎」

「出向だあくまで」

 

その後はやてはリッカに書類を渡し、出向のための確認をした。

 

「ん、そう言えばリッカ君」

「なんだ?」

「文体の名前どうする?」

「俺が決めていいのか?」

「うん。今ある、スターズとライトニング、それとロングアーチと被らなかったらなんでもええで」

「簡単に決めてくれるなぁ…」

「こう言うのはインスピレーションが大事やで」

「知っとる」

 

うーんっと少し悩むと、手元の書類に分隊名を書く。

 

「これが俺たちの名前だ」

「…何々、うん、ええ名前やな」

「うう、リィンにも教えて欲しいです」

 

はやては書類を見てわかったが、リィンは机の上で作業をしているため見ることができなかった。リッカは苦笑すると、リィンに自分の隊の名前を教えてあげた。

 

「俺たちの名前はカルデア。独立装備遊撃隊カルデアだ」

 

そう言ったリッカの顔は、どこか健やかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみにライトニングの分隊長、フェイトちゃんやから」

「やっぱりやめさせていただきます」

「そないなことできるわけあらへんやろ」

 

笑うはやてに、このたぬきいつか殺すとリッカは思った。

 

 



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三話

 

「えー、そんなわけで私たち特殊装備科は、六課に組み込まれることになりました」

「あららー、私たちのことを必要としてくれるところがあるなんて意外だね☆」

「やっと先輩の実力が分かる上司ができるのですね‼︎このマシュルマロール、闘魂不屈の勢いで先輩の名が広まるように頑張ります‼︎」

「はいはい。まずリリィ、君が原因であることを理解するように。お荷物呼ばれするのは君が原因でもあるんだから。それとマシュウは、俺のためじゃなくて社会貢献に尽くしてくれ。いや頼むから」

「私はいつも通りだよー?」

「全ては先輩のためですよ?」

「この馬鹿二人は…」

 

後日、はやてから言われた部隊の統合を、特殊装備科に伝えるとやはりと言ったほうがいいか、思ってたような返答が帰ってきた。わかっていたとは言え、頭を痛めるリリィだった。

リッカが頭を痛めていると、マシュウが手を挙げた。

 

「先輩」

「はい、マシュウ」

「あの人には伝えなくていいのでしょうか、このお話を」

「あー…あいつにか…」

 

ふと特殊装備科最後の一人の顔が浮かんだ。しかし、その顔はニヤニヤとこちらを見定めているようで、すぐにでもその顔をぶん殴りたかった。

 

「いらんだろう。このままいなくなってしまってもいいし」

「そうだねー。それにあいつなら持ち前のスキルでなんでもお見通しって感じだしね」

「そういうことで連絡は無しだ。わかったか、マシュウ」

「承りました」

「そういえば部隊創設式って今日なんだろう?急がなくていいのかい?」

「ん、まだ時間にはあるだろう。ほら時計ではまだ十二時指してるし」

 

そう言ってリッカは自分の時計を見る。確かにその針は十二時を示していた。

 

「…先輩、ただいまの時刻は一時過ぎです」

「え?」

「ほらほらー、この天才が作った時計を見てごらんよー。きっかり一時十五分を指し示してるよー☆」

 

ギギギっとリリィの時計を見ると、たしかにリッカの時計とは違う時刻が刻まれていた。

 

「あれぇぇぇぇ⁉︎いや、なんでぇ‼︎」

「あ、この前仕事押し付けられた腹いせにいじったの忘れたままだった」

「こんのクソ天災がぁぁぁぁ‼︎」

「ふぇふぇふぇ、そんなにひわなくへもわかるほ」

 

リッカはいたずらを仕掛けたリリィの両ほっぺを思い切り伸ばすが、当のリリィにはあまり聞いていないようだ。

これ以上の時間ロスは無駄と考え、リリィのほっぺから手を離しマシュウに迫る。

 

「マシュウ‼︎今日の創設式は何時からだ⁉︎」

「はい‼︎本日十三時三十分ちょうどです‼︎」

「あと、十五分しかないだと…」

「今の問答で、あと十分に減ったけどねー☆」

「黙らっしゃい‼︎」

 

リッカは残り時間とここから六課までの距離を計算する。どんな乗り物を使っても、一時間はかかる。つまり定刻には遅れる。大失態である。

そのためリッカは苦渋の決断を下した。

 

「マシュウ…行けるか?」

「…‼︎はい‼︎このマシュルマロール‼︎先輩のご命令ならば、なんでも成し遂げます‼︎」

「はあ…こればっかりは使いたくなかったけど、しょうがないよな。ほらリリィ、マシュウに掴まれ」

「りょーかい」

「その笑顔、後でぶち殺す」

「怖いよ、マシュウ〜」

「僕はいつだって先輩の味方ですので、先輩が殺すというならば僕も殺します」

「…ひどい忠犬ぶりだ」

「それがマシュウだからな」

 

マシュウの後ろにリッカはおぶさり、リリィはその手に犬のように抱えられた。

 

「ねえー、普通女の子がそっちじゃない?」

「男の背におぶさる俺の気持ちにもなれ。結局のところは、腹を抱えるられるか、おぶさるかどっちの方が見栄えがいいと思う?俺は隊長だからおんぶを選ぶ」

「それでも〜…」

「準備はよろしいですか?それでは行きますよ‼︎」

「口閉じとけ、死ぬぞ」

「知ってるるるるるるる⁉︎」

 

マシュウの声に合わせて、景色が遅れて行った。

リッカが取った方法は一つ、マシュウのスペック任せの超高速移動である。

 

(こんな時はマシュウがエース並みの力でよかったって思うわ)

「ぶぶぶへくせやまね‼︎」

(馬鹿は相変わらず、何か言ってるし)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして定刻になり六課の創設式が開催された。

 

 

「ええー、それではまだついていない部隊もありますが、定刻になりましたので始めたいと思います」

 

はやてはうんざりしながら、開会の宣言をする。

 

足りない部署はどこなのか、それは隊長のはやてのみが知ることで分隊長のなのはもフェイトも知らないことだった。

 

(ほんま、期待を裏切らんわ…まあ、こういうのも含めてリッカ君らしいけど)

 

続けて話そうとしたはやてが息をすうっと吸おうとした時、六課に風が吹いた。

 

「え?」

「あー…すみません、独立装備遊撃隊カルデア現時刻を持って到着いたしました」

「リッカ君⁉︎」

 

六課全員に衝撃が走った、追加で召集される部隊があることは知っていたが、まさかそれがお荷物部隊である特殊装備科であるとは、はやてとリィーンフォース以外知らないことだったからだ。

 

「ええ…なんなん、その格好は?」

「深い事情がありまして…」

「ただの遅刻なんだけどねー」

「マシュウ」

「はい、先輩」

「ひで⁉︎」

 

リッカの声で、マシュウに抱えられていたリリィは重力に逆らうことなく下に落ちた。

 

「あー…そんなわけで本日よりここ六課に召集されました、特殊装備科改め独立装備遊撃隊カルデアです。何卒よろしくお願いします」

 

ぺこりと頭を下げるリッカ。それに続いてマシュウとリリィも続いた。

しかし、衝撃から戻ってきた団員たちから帰ってきたのは疑いの声だった。

 

『まさかあのお荷物部隊が?』

『出来損ないばかりらしいじゃないか?』

『ほんと、自分たちの身分が分かっているのかしら?』

「マシュウ、落ち着け」

「……承知しました」

 

危うく手が出そうになったマシュウを、頭を下げながらリッカは制する。

しかし、次の言葉でリッカは動いてしまった。

 

『ほんとマシュウさんを置いて、ここからいなくなっちゃえばいいのに。マシュウさん以外何もできない無能なんだから』

「あ?」

 

流石に看過できなかった。リッカはざわつきが続く集団へと進む。リッカが通ろうすると、まるでモーゼの十戒のように人々が退いて行った。リッカの表情がいつものヘラヘラしたものではなく、憤怒に染まっていたからだ。

 

「てめえだよな、俺たちのことを馬鹿にしたのは?」

「…え?」

 

言ってしまった局員の前まで行くと、リッカは静かにそう告げる。その声音に局員は震え上がってしまった。

 

「別に俺のことは馬鹿にしてもらっても結構、実際無能だし、それにこの部隊がお荷物であることも事実だ。けどな…」

「グフ…」

 

リッカは女性局員の襟をつかみ、宙に浮かせた。

 

「何も知らねえてめえが言うな…マシュウの前に俺が殺すぞ…‼︎」

「ヒ…」

 

リッカの睨みに局員は息もできなくなってしまった。それを止めたのは金色の閃光だった。

 

「そこまでだ、リッカ=E=タチバナ三頭空士。今すぐ、その手を離せ」

 

フェイトはデバイスであるバルディッシュを展開され、リッカの首元にザンバー突きつける。

「舐められたまま黙ってろってのか?それともここの部隊は、馬鹿にされてそれを見過ごせって言うのかよ」

「確かに彼女に非があったのは事実だ。だけど、手を出したお前の方が悪い」

「手をしたら悪いってのか?じゃあ言葉で傷つけても何も悪くないってか。立派な考えをお持ちだこと、執務官様は」

「…もう一度通告する、その手を離せ。さもなくばその首を跳ねるぞ」

「…ふん」

「…‼︎ゲボゲボ…ありがとうございます、ハラウオン執務官」

 

フェイトに言われリッカは手を離した。すると、リッカたちにはやてが近づいてきた。

 

「あなたの処分は追って連絡します、いいですね?」

「…はい」

「それにしてもみんなカルデアが認められんようやね」

 

はやてが周りを見渡すと、皆声には出さないが同意のようだ。

 

「なら、カルデアの力を見せつけてみようか」

「どうやって見せつけるん?」

 

リッカの提案にはやては促す。

 

「確かここの部隊には、カルデア以外の分隊スターズとライトニングあると聞く。そこと俺たちカルデアが模擬戦して買ったら認めてもらうってことで」

「ええな、じゃあそうしようか」

 

突然決まった模擬戦にスターズ、ライトニング両名の隊員は驚く。しかし、関係ないとリッカはマシュウたちに続けた。

 

「マシュウ、リリィ」

「はい‼︎」

「なんだい?」

「こいつらに格の違いを見せてやれ、どこの部隊が一番強いかってな。できるか、二人とも?」

「先輩のご命令ならば、そして先輩を貶めたこいつらに地獄を見せます」

「私もいい気分じゃないからねー、久々に本気出すよ」

「いいね」

 

リッカはニカッと笑うと、六課に宣告する。

 

「現実ってやつを見せてやるよ、エリート共」

 

 

 

 

 

 

 

 



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四話

 

「あー…すまんな、二人とも」

 

控室に通されたカルデア一行、リッカの口から出たのは謝罪の言葉だった。

 

「あの場のノリで合わしてくれたのかもしれんが、俺の我儘に付き合わせて」

 

リッカはそう言うが、マシュウは首を横に振りリリィは笑った。

 

「いいえ、先輩らしい素晴らしい言葉でした。このマシュウ、先輩の名を遂行して見せます」

「マシュウの言う通り、あそこで怒れるからリッカなんだよねー。ま、大船に乗ったつもりでまーかせて☆」

 

マシュウとリリィがそう言うので、リッカも泥舟の間違いだろうが、と言い笑みをこぼした。

 

「んじゃ頼んだ、二人とも。意識高い系エリート共に一泡吹かせてやれ」

 

リッカはそう言って両手を握り、マシュウとリリィにグッとする。二人はそれに笑みをこぼしながら、拳を合わせた。

 

「拝聴しました。先輩のためならば、どのような席にもたってみせます」

「ぶっ飛ばすよー☆」

「ほどほどにな」

 

ゴン

音こそ小さかったが、それは三人の胸に刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、とうのライトニングとスターズの分隊メンバーは困惑していた。晴れの創設式かと思いきやいきなりの模擬戦。しかもその相手は噂のお荷物部隊、特殊装備科だという。

 

「何でこうなったのかしら…」

「わかんないよ、ティア」

 

スターズのメンバー、ティアナとスバルは頭を悩ませていた。それはライトニングのメンバーである、エリオとキャロも同様であった。

 

「いきなり模擬戦…」

「しかも相手は噂の…」

 

はあ、と四人のため息がシンクロした。

 

「ま、こんなに落ち込んでてもしょうがないでしょ。さあやるわよ」

 

ぱんとティアナが手を叩くと、分隊メンバーの顔つきが変わる。

 

「作戦…と言っても相手の力量がわかんないわね」

「でも、今回の模擬戦に隊長クラスは出ないんですよね?」

「うん、だから私たちだけなんだよね」

 

エリオの問いにスバルがうんと頷く。

今回の模擬戦のルールは

①各隊の総力戦、そして殲滅戦。

②時間無制限。

③しかし隊長クラスは不出場。

④リタイアの判定は、六課の隊長であるはやてが行う。

以上が今回のルールだった。

 

「だから、なのはさんもフェイトさんも観客席で見てるんでよね」

 

今回の目的は、分隊カルデアの実力を示すため。なので六課の局員のほとんどがこの模擬戦を観戦している。

 

「キャロの言う通り、今回は私たち若手だけの模擬戦よ。でも、みんなこれまでの訓練を思い出して。私たちが遅れる要素なんてあると思う?」

 

ティアナの問いに三人が首を横に振った。スバルに至っては、訓練を思い出したのか少し顔色が悪くなっている。

 

「とりあえずはスバルとエリオが先行して、対象にぶつかり次第交戦。多分、タイプ的にカリエール隊員が対応すると思うわ。私とキャロは二人のサポートしてもう一人のランジェロ隊員を牽制、うまくいけばそのままって感じね。何か意見のある人はいる?」

 

ティアナの問いにエリオが手を挙げる。

 

「そんなに簡単に行きますか?カリエール隊員は局内での実力は折り紙つき、それにランジェロ隊員に至っては実力が不透明です」

 

エリオの言うことにティアナたちはうんと頷く。

 

「確かにエリオの言う通りね。でも、強いと分かっているからって手を出さないのは、ナンセンスよ。それに二人ならできると思って言ったんだけど、やっぱりできない?」

 

ティアナの挑発に二人はにかりと笑う。

 

「そんなに言われて黙ってれるわけなんてないじゃん‼︎やってやろう、エリオ‼︎」

「そうですね、何事もやって見なきゃ分からないですよね‼︎」

「私も皆さんを全力でサポートします‼︎」

 

三人の意気込みにティアナも続く。

 

「みんないいみたいね。それじゃああいつらに見せてやりましょう、六課の力ってやつを‼︎」

 

おおー‼︎とスバル、エリオ、キャロは勢いづく。しかし、一方のティアナの胸の中にはある不安が残っていた。それはこの控室に通される前に言われたことであった。

 

『頑張ってなー、これもええ経験になると思うで』

『カルデアの皆から教えてもらえることたくさんあると思うから、頑張ってね』

『無茶だけはしないでね?それと…ううんやっぱり何でもないや。何があっても驚かない、それだけかな言えることは』

 

(今、思えば誰も私たちが勝つなんて言ってこなかった。もう、やる前からわかってるから?)

 

順にはやて、なのは、フェイトのアドバイスだった。そう今思えば誰もティアナたちの勝ちなど期待していなかった。ただこれもいい訓練になると思っていることだけが分かった。

 

「?ティアー、行くよ?」

「え、ああ。今行くわ」

 

スバルの声に戻されティアナは部屋から出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簡潔に結果だけ言おう。スターズ&ライトニングvsカルデア、その模擬戦の結果はカルデアの勝利。しかも余力を大いに残してのものだった。

 

 



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