戦国†恋姫~水野の荒武者・番外編~ (玄猫)
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1話 秋口の京【幽】

途中まで書き上げていた分を少しずつ放出していきます!


「藤十郎さま!京への先触れを送っておきました!」

「あぁ。……しかし、俺が京に行く程度で護衛はいらんと思うのだがなぁ」

 

 そう馬上でぼやくのは藤十郎。彼を象徴すると言ってもいい紅の髪、そして漆黒の衣。背に負う血染めの朱槍は見るものを圧倒する。鬼すらも恐れ逃げ出す……鬼日向と呼ばれる彼は今や天下人と呼ばれるだけの存在になっているのだ。

 

「藤十郎さまはもう少し御自身の立場と価値を知るべきです」

 

 藤十郎を諌めるように言ったのは飛騨だ。過去の彼女を知る者……剣丞や詩乃たちが絶句したのは今となってはいい思い出だ。今では詩乃と時折文を交わす程度には関係も修復したそうだ。そんな彼女は藤十郎に仕えるべく、文字通り血の滲む努力をし藤十郎の傍に仕えることになったのだ。彼女の着衣には徳川の家紋と藤十郎が好み使っている裏永楽。

 

「はっはっはっ!よく言われるな。とはいえ、飛騨。お前まで出張るようなことでもあるまい?」

「いえっ!私は藤十郎さまのためにこの命も差し出す覚悟があります。どのような場所へでもお供致します!」

「変わったな、お前。いいことだろうが、剣丞の驚いた顔が未だに思い浮かぶぞ。……そういえば、京に今詩乃どのたちも来ているそうだ。俺も剣丞に用があるからその間、詩乃どのと遊んでくるといい」

「で、ですが」

 

 何かを言いかけた飛騨の頭をぽん、とたたく。

 

「友を大事にするのも大切なことだぞ。いいな?」

「……はい」

 

 渋々といった様子もあるが、どこか嬉しそうに返事をする飛騨に微笑むと馬を進める。

 

「しかし中々鬼はいなくならんものだな」

「そうですね。明らかに強さも衰え、数も減っているとはいえ未だに目撃されています。……鬼という存在が結局のところ、何なのかが分からない限り完全に消滅させるのは難しいのでしょうか?」

「子に全てを託す頃までには根絶やしにしたいものだがな」

 

 

 西の都といわれている京。織田と公方……剣丞たちが拠点として現在では使うことの多いこの地は、歴史上でも類を見ないほどに栄えていた。それも剣丞が自重することをやめ、天の世界……未来の知識を解放し始めたことが理由のひとつであることは間違いない。

 

「あっ!藤十郎さまだっ!!」

「藤十郎さまー!」

 

 京の街に入るなり藤十郎に駆け寄ってきたのは子供たちだ。

 

「おう、久しいな。元気にしていたか?」

「うん!藤十郎さまに習った剣、しっかり練習してるぜ!」

「藤十郎さま!私、髪飾り変えてみたの!」

「これは今の流行なのか?今までに見たことがない形だが」

「剣丞さまがでざいん?したんだってー」

「……あいつ、意外と多才だな」

 

 馬から降りて子供たちの頭をなでながら前に進む。本来であれば天下人にも近い藤十郎にこのようなことをすれば打ち首でもおかしくないのだろうが、藤十郎と剣丞が二人で街を闊歩し子供たちと遊んでいたことからそのようなことはない。むしろ、鬼を倒すことのできる二人を子供たちは英雄のように見ているのだ。

 

「飛騨、馬を頼むぞ」

「はいっ!」

「ねぇねぇ、藤十郎さま」

「何だ?」

「飛騨さまって、藤十郎さまのお嫁さんなの?」

 

 純粋な子供らしい質問。藤十郎の馬を引いていた飛騨が一瞬固まる。

 

「いや、飛騨は違うな。……そうだな、俺にとっての懐刀といったところか?」

「飛騨さまって刀なのか!?」

 

 男の子がキラキラした目で飛騨を見る。

 

「い、いや、そういうわけではないぞ!?……と、藤十郎さま!」

 

 かつての飛騨ではありえない子供に対して動揺する姿に藤十郎が笑う。

 

「はっはっはっ!何れはお前にも藤千代の護衛なども頼むことがあるかもしれんから子供にはなれておけ」

「あ、やっぱり藤十郎だ」

 

 そう声をかけてきたのはもう一人の天下人でもある剣丞だ。傍に詩乃をつれているのは藤十郎側に飛騨がいると見越してのことだろう。

 

「剣丞、息災だったか」

「はは、おかげさまでね。……むしろ政務のほうが忙しくてひぃひぃ言ってるよ」

「……剣丞さまはそこまでやっておりませんが」

「うわ、詩乃ひどい!……で、あれは?」

「あぁ、藤千代を任せることもあるかもしれんからな。子供になれるように放置してる」

「はは、スパルタだなぁ」

「すぱるた?……相変わらずよくわからん言葉を使うな。詩乃どのも剣丞のおもりご苦労だな」

「まったくです」

 

 そんな会話をする三人をどこかわくわくしたように見つめる子供たち。

 

「……剣丞、時間は平気か?」

「まぁ、少しなら」

「じゃ、少しだけなら遊んでやれるぞ」

 

 ぱぁっと花が咲いたような笑顔になる子供たちと剣丞と藤十郎はしばしのときを過ごすのであった。

 

 

「藤十郎が来ておると聞いたぞ、主様よ」

 

 子供たちと別れた藤十郎と剣丞は剣丞の部屋で雑談をしていた。そこへと訪れたのは一葉であった。

 

「一葉どのか」

「余と……」

「仕合うのは許しませぬぞ、一葉さま」

 

 やれやれといった風に一葉を諌める幽。

 

「何を言う、幽。幽も藤十郎と遊ぶのであろう?ならば余も遊んでよいではないか」

「何ですか、その駄々っ子のような理論は。剣丞どのも何か言ってやってくだされ」

「はは……ほどほどにね?」

 

 苦笑いの剣丞であったが、今は一葉が本気で武を振るえる場所がないのも事実であるため強くはいえないのだろう。

 

「まぁ、少しなら俺はかまわんが。幽との時間を貰えるのならな」

 

 そう言った藤十郎に一瞬きょとんとした顔を浮かべる幽。

 

「ほぅ、いつの間にやら二人の距離が縮まっておったのじゃの、幽」

「……こほん、藤十郎どの。できればうちの暴れん坊公方さまに攻める好機を与えないでいただきたいのですが」

「はっはっはっ!すまんすまん。だが恥ずかしがることもなかろうに。一葉どのの相手であれば剣丞に押し付けておけば万事よかろう。もしくは双葉どのだな」

「む、双葉を出すのは卑怯であろう」

「まぁ、子供たちと遊んだついでだ。剣丞、一葉どのを借りるぞ」

「はは、むしろ頼むよ」

 

 

「やれやれ、うちの公方さまがすみませぬな」

「かまわんさ。幽の大事な人であり、友の嫁だ。俺にとっても楽しい戦いであるのは事実だしな」

「意外……ではなく、やはり藤十郎どのも戦狂いですな」

「戦はないに越したことはあるまい。だが、武を競うのは嫌いではないな。天下泰平の世が来た以上、今までのように武を振るう場所がなければ、どこかでゆがみが生じてしまうだろう。そのあたりをなんとかするのも考えねばならんだろうなぁ」

 

 藤十郎の言葉にうなずく幽。二人は今、京にある幽の屋敷の縁側でまったりとしていた。

 

「一葉さまもお子ができれば少しは落ち着くのでしょうが……」

「……うーむ、一葉どのが葵のようにはならんだろうがな」

 

 断言する藤十郎に返す言葉がない幽。

 

「それに一葉どののお子もそれはそれで心配ではあるなぁ。……やんちゃそうだ」

「……それはご自身のことを言っているのですかな?」

「……」

 

 特に言い返すことができずにふぅとため息をついて空を見上げる。

 

「そういえば幽。葵から言伝を預かっているぞ」

「おぉ?何ですかな?」

「『普段甘えることができないのですから、しっかりと甘えてください。子はいいものですよ』と」

「……あ、葵どのも一体何を仰っているのやら……」

 

 あきれた様な様子を見せながらも頬を染めているのは何を考えたからなのか。

 

「ははは!幽でもそのような表情をするんだな」

「それがしを何だと思っているのです。まったく……」

「だが、今日はもう時間をもらえたのだろう?」

 

 ぐいと少し強引に肩を引き寄せる藤十郎。すとっと藤十郎の胸に落ち着く形になった幽。

 

「……はは、それがしも完璧に蕩らされてしまったようですなぁ」

 

 先ほどとは違う形で頬を染めながらも藤十郎に身体を預ける幽。

 

「よし!出かけるか!」

「……は?」

 

 

「……藤十郎どのの考えは全くわからぬな」

「……それは同意するけどさ、一葉。流石に覗きはよくないんじゃない?」

「あの、そう言ってる旦那さまも覗いていると思うのですが……」

 

 そんな会話をしているのは剣丞、一葉、双葉である。一葉主導で幽の幸せを見守るために追跡と監視が行われている最中なのだ。

 

「出かけるみたいだな。主様、追いかけるぞ」

「え、まだ追うの!?」

「お姉さま、流石にそれは……」

「二人は気にならんのか!あの藤十郎が、あの藤十郎がちゃんと幽を幸せにしているかわからぬではないか!」

「うーん……わからないけど、藤十郎なら大丈夫だと思うけどなぁ」

 

 

 藤十郎と幽(あと三人ほどいる)が向かった先は渡月橋……以前に幽が案内した場所だった。

 

「やはり秋場はいい風景だな」

「そうですなぁ。……しかし、何で此処に?」

「俺にとっては幽との思い出の場所なのだがな。幽は違うか?」

「……仰るとおりですな」

 

 橋を渡りながら周囲の景色を楽しむ。

 

「春には春の。秋には秋の顔があって、やはり楽しいものだな。隣に嫁がいるのであればなおのことだな」

「……藤十郎どのもやはり蕩らしの才があったようですな」

「こと、ここに及んでは否定もできんさ。で、幽は違うのか?」

「また否定しづらいことをお聞きになりますなぁ」

「たまにはよかろう?」

「……たまに、ではないから困っているのですよ、それがしは」

 

 少し吹いた風が冷たく、幽が身震いした。そっと藤十郎が肩を抱き寄せ、羽織を被せる。

 

「思ったよりも冬が近くまで来ているようだな」

「ですな。……ふふ」

「どうした、何かおかしなことでも言ったか?」

「いえいえ、そういうわけではありませんとも」

 

 羽織をどこか嬉しそうに着なおす。そのようなことに藤十郎が気づくわけはないが。

 

「ならいいか。さて、少し早いが帰るとしよう」

「そうですな。これ以上、一葉さまと双葉さまのお身体を冷やすのもよろしくありませぬしな」

「はは、流石に気づいていたか」

「……あれだけ気配を消すことをされていなければ当然でしょうな」

 

 

「で、だ」

「ほ?」

「もし夜覗かれていたらどうする?俺はかまわんが」

「そ、それはやめてくだされ」




後日談で書けなかった(リアル都合による打ち切り)部分などを少しずつ更新していきます。
前作は完結済みをつけたので番外編としてこちらでも反応がよさそうであれば書いていこうと思います。
感想や誤字・脱字報告などもありましたらお待ちしております♪


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