オーバーロード ~死告天使と不死の王~ (海のオッキーナ)
しおりを挟む

プロローグ

「ふわあー・・・。」

辺り一面暗い部屋で1人の女性が目を覚ます。
カーテンを閉め切っていると言うのもあるが、
時刻は既に夜。
決して空は見えないが・・・それでも光と言う光は存在していなかった。

「って、しまった!!
超貴重な休みなのに惰眠を貪っているだけで終わりそう・・・。」

現在の時刻を確認した女性がやってしまったとばかりに口にした。
女性の仕事・・・それは。
様々なキャラクター等に声を吹き込む・・・声優である。
本来は収録作業があったが権利者都合により別の日になった為、
女性は数週間ぶりくらいの休暇を取っていた。

「まあ、やっちゃったものは仕方が無いか。 ・・・さて。」

一度溜息を吐きながらも思考を変えた女性は、
己に届いているメールの確認作業を始める。

「(相変わらず凄い量のメールだなぁ、・・・って。)」

次々と受信しているメールを確認している中、
女性はある一つのメールを見て手が止まった。

「(モモンガさんからだ、うっわ懐かしいなぁ!!)」

メールの差出人を見た女性は・・・懐かしさのあまり少しだけ気分が高揚した。
女性が見たメールの内容はこういったものだ。


差出人
モモンガ

内容
突然の連絡すいません。
ご存知かもしれないですが、
今日はユグドラシルのサービス終了日なんですよ。
お忙しいのは分かってはいるんですけど・・・、
どうせでしたら最終日くらい皆さんで集まりませんか?
何時もの場所で待っています。



「・・・そっか、ユグドラシル・・・今日で終わりなんだ。」

メールの内容に目を通し終えた女性は目を閉じつつそう呟いた。
ユグドラシル。
嘗て女性が自由になる時間を全てつぎ込んでまで遊んだゲーム。
そんなゲームが今日で終了するらしい。

「・・・うん、このまま何もしないで終わってもアレですし。
最終日くらいは会いに行こうかな!」

しばしどうするか女性は悩んだ後・・・、
もう随分と使用していない機械を手に取った。
この機械を頭から被り、
暫く待つと女性の体は全く別の物になり、ゲームの世界へとダイブする。
意識は仮想空間にありながらも・・・現実空間に居るかのように遊ぶことが出来る。
それがDMMORPGと呼ばれるゲームの特徴だった。

「って、なっが!?」

軽く埃を被っていた機械を頭に被り、
随分と長い間起動していなかったユグドラシルを起動した瞬間、
その長すぎるアップデートの時間に思わず1人でツッコミを入れてしまった。

「(うーん・・・これ間に合うかなぁ。)」

時刻は既に22時を超えている。
日付が変わると共にサービスが終わるのであれば残りは2時間。
多少の話をするのであればあまり時間の猶予は無い。

「早く、早く!」

逸る気持ちを抑えつつ女性は大人しくただ待つ。
ここで焦った所でアップデートの時間が早くならないと分かっているからだ。

「・・・よし、終わった!!」

一時間程だろうか?
漸くアップデートが終わり・・・女性の前の前にユグドラシルの文字が見えた。

「じゃあ・・・ダイブ!」

ゲームスタートのキーとなる言葉を女性は発した瞬間・・・、
女性の五感はゲームへと入り込んだ。

























「・・・アレ?」

やっとログイン出来た私は、
ログアウトした場所である円卓の間で目覚めたけど・・・周りには誰も居なかった。

「おかしいなぁ、ここに居るかと思ったんだけど。」

そう。
私の所にきたメールの内容だと・・・何時もの場所に居るって書いてあった。
何時もの場所という事であればここの事だと思ったんだけど・・・。

「・・・あ、そうか。」

少し考えたら直ぐに分かった。
ここは確かに何時もギルドの皆と話をしたりしていた場所。
だけど・・・該当する場所はもう一個あるじゃないか。
モモンガさんの性格を考えたら・・・きっとそこに居ると思う。

「そうと決まれば善は急げ! 早速向かいましょ!!」

周りに誰も居ない事に若干気が抜けたのか、
この姿で居る時の声ではなく・・・素の声に戻ってしまった。

「っと、いけないいけない。」

軽く咳払いをしてから調声して・・・と。

「・・・我が名はハサン・サッバーハ、幽谷の淵より暗き死を馳走しに参った。」

良し、完璧!
今の私はどこか甘ったるい声ではなくて、
それはもうナイスで抜群にダンディーな声になった!
いやぁー声優の仕事やってて良かった!!

「・・・しまった、もう時間が無いではないか。」

視界の端に映る時間を確認した瞬間・・・あまり残されていない事実を目にした。
急いでいけば少しだったら話が出来る余裕がある筈!
そう思い・・・恐らく玉座の間に居るであろうモモンガさんの元まで慌てて走り出した・・・。











現在時刻・・・23:59










ヤバイヤバイヤバイヤバイ!
もう時間がないよおおおおおお!!
私は身に纏う鎧からガチャガチャと音を立てつつ慌てて走っている。
っていうか広すぎ!!
誰だ! こんな広さにしたの!! ・・・私達だ!!

「って、ノリツッコミしている場合か!!」

調声したままではあるが、
それはもう見事なノリツッコミを披露した私は、
本当にギリギリのタイミングで玉座の間の扉へと到着した。

「ふぅ・・・ふぅ・・・!!」

仮想空間だけど何故か息を整えつつ目の前の扉を開けようとしたが・・・。
その扉を開けなかった。
無論システムのバグとかではなく、
勝手に居なくなってしまった私を・・・モモンガさんは許してくれるかどうか。
そう思ってしまったため、扉を開ける事が出来なかった。
もう少し早く起きてれば・・・もう少し早くメールを見ていれば・・・、
もしかしたらまたプレイするかもしれないと思いこまめにアップデートしていれば・・・、
そんな思いばかりが私の胸に去来する。

現在時刻・・・23:59:55

しかしそう思ったとしても・・・時間は帰ってこない。
そして同時に・・・時間とは無常に過ぎていくもの。
もう私に・・・時間は残されていなかった。
そして・・・現在時刻 24:00
ユグドラシルのサービス終了時間が・・・来た。

























玉座の間の前でサービス終了時刻を迎えてしまった。
それなのに・・・未だ私の体はユグドラシルにおける私自身である初代ハサン・サッバーハの者だった。
と、いうよりも・・・未だに玉座の間の前に居る?
どう言う事?
サービス終了時刻が延期になった?
いや・・・それならそれで絶対に告知が来るはず。

「実は告知していたり・・・?」

私はそう思ってコンソールを開いてお知らせ一覧を確認しようとしたが・・・、
コンソールの呼び出しを行ってもまったく反応が無かった。

「コンソールが出ない・・・どう言う事?」

・・・コンソールの呼び出しがダメならGMコール!!
あの運営にこの事態の説明を要求しないと・・・!!

「・・・ダメ、なのか?」

そう判断した私はGMコールをしてみるけど・・・結果は同上。
GMコールすら反応が無かった。

「(これは・・・一体何がどうなって・・・!?)」

何が何だか分からない・・・!!
この事態に対して考えが纏まらない私は・・・その場でずっと立ち尽くしていた。
・・・少しして、玉座の間の扉が開いた。

「・・・なっ!!!!!」

完全に開いた扉の向こうから驚愕の声が聞こえてきた。
そこには、たっちさんが作ったNPCである・・・セバス・チャンが居た。

















目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話

「・・・なっ!!!!!」

「どうした、セバス!!」

先程俺が外の探索を命じたばかりのセバスが、
玉座から出ようと扉を開けた瞬間驚愕の声と共に固まっていた。

「そ、そんな・・・まさか!!」

しかし俺の声が届いていないのだろうか。
ただただありえないとばかりに声を出すばかりだ。

「答えよセバス!!」

「・・・はっ!!」

尋常では無い事態が起こったと判断した俺は、
もう殆ど怒鳴り声に近い形でもう一度セバスを呼ぶと、
セバスは慌ててその場で跪いている。
ただその方角は俺の方ではなく・・・扉の向こうに向けてだった。

「(良く見ると他のプレアデス達もセバスと同じ様に?・・・まさか!!)」

プレアデス達の様子を見て・・・俺の脳裏にある考えが浮かぶ。
ギルドメンバー達によって創造されたNPC達がこのような態度を取る。
・・・その理由は一つしかなかった。

「・・・久しいな、モモンガよ。」

そして、その考えは直ぐに肯定される事になる。

「あ・・・アナタは・・・!!!」

そこには・・・、
大きな角の付いた髑髏の仮面と胸部に髑髏をあしらった装飾のある甲冑を身に纏い、
身長が2m以上ある巨躯の人が立っていた。
紛れも無い・・・あの人は・・・!!!

「・・・ハサン・サッバーハ、
汝の召集に応じ・・・少々遅れたが参上した。」

「ハサンさん!!!」

ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」に所属し、
数少ないガチプレイヤーだった・・・ハサンさんが居た。




















「えー・・・。」

色々と考えていた時いきなり扉が開いたかと思うと・・・、
私の姿を見たNPC・・・セバスはそれはもう鳩が豆鉄砲喰らった様な顔をしてフリーズしていた。
うんうん、驚くのは無理も無いよね。
なんせ相当前に居なくなった私がいきなりこの場に居るんだもん。
誰だっておどろ・・・って待った。
何で驚いているの?
セバスって確かたっちさんが作ったNPCでしょ?
そんなNPCが驚きの表情を浮かべるって・・・どういうこと?

「答えよセバス!!!」

「はっ!!!」

私も驚きフリーズしていると、
玉座の間の奥から怒鳴り声が聞こえてきた。

「(・・・この声!)」

この声には聞き覚えがある。
何故か低い声にはなっているけど・・・この声は紛れも無くモモンガさんの物だ。
そう思っていると・・・唐突にセバスは私の足元に跪いてきた。

「(え・・・。)」

最早何度目だろうか・・・私は再び固まってしまった。
何故かって?
いきなりセバスが足元に跪いてきたんだもん。
セバスみたいなナイスミドルが跪いてちょっと気分が高揚しちゃったけど・・・、
って、違う違う。
今度はコマンドを送っていないのに自発的に行動した?
うーん・・・本当に何がなんだか・・・。

「(・・・とりあえず今は置いておこう。)」

こんな情報が少ない中で色々と考えてもどうせ違うんだ。
一つずつ対処していこう。
・・・先ずは、本当に久々に見るモモンガさんに挨拶をしないと。

「・・・久しいな、モモンガよ。」

「あ・・・アナタは・・・!!!」

跪くセバスを蹴り飛ばさないよう・・・ゆっくりと玉座の間の奥に向かいながら、

「・・・ハサン・サッバーハ、
汝の召集に応じ・・・少々遅れたが参上した。」

そう本当に久々に・・・モモンガさんに挨拶をした。

「ハサンさん!!!」

まるで信じられないものでも見たような感じで・・・、
モモンガさんは私の名前を呼んでくれた。













「・・・ここに至るまでの経緯は以上だ。」

「なるほど・・・。」

モモンガさんの前まで来た私は、
何故玉座の間の前に居たかと言う話をした。
それを聞き終えたモモンガさんは顎に手を添えながら考えている。
・・・怒っていないよね??

「して、モモンガよ。
汝も似たような状況か?」

「ああ、まあ・・・そうだな。
今はとりあえず少ない中でも情報を集めようとしていた。」

「・・・そうか。」

私が聞いた事に対してモモンガさんは肯定してくる。
・・・やっぱりそうだよね。
コンソールは出ないしGMコールは出来ないし、
さっきにしてもそうだけどNPCだったセバス達に表情があるし、
私はまだ見ていないけど喋るとちゃんと口が動いたりなんと自然に表情も動くそうだ。
これではまるで生きているといってもおかしくは無い。

「そうだ・・・、
調査の一環でアルベドの胸を揉んで見た所警告が出てこなかったので、
ここがゲームの世界の可能性が低い・・・あ。」

モモンガさんはそこまで言ってから・・・自分の失言に気がついたのか絶句している。

「・・・ほう?
確認の為とはいえ女子の胸を揉んだ・・・そう言ったか?」

モモンガさんの言葉を聞いた私は、
背後にゴゴゴゴゴゴという擬音が聞こえてきそうな程の威圧感を出しながらモモンガさんに聞いた。

「い、いや! あくまで調査の一環として!!」

「御託は良い・・・首を出せ!!」

「うおおおう!?!?」

「モモンガ様!!」

ブオオン!!
という風切り音と共に放たれた一撃を、
モモンガさんは椅子からずり落ちる事によって回避してきた。

「・・・仕留め損なったか。」

「あ、危ないですよ!!
ハサンさんのその剣はただでさえ俺に特効効果があるのに!!」

アンデッドの為表情は変わっていないけど、
もし表情が分かれば大量の冷や汗をかいていたかもしれないモモンガさんは、
本気で慌てながら私に対して叫んできた。
私が持つ剣は神器級(ゴッズ)アイテムである幽谷の剣。
効果は即死耐性無効化と攻撃に神聖属性付与にアンデッド特攻。
アンデッドであるモモンガさんには効果絶大だ。
これを作る為にこのギルドの動ける人員全員動員したなぁ。
・・・うん、懐かしい。

「モモンガ様に何を!!」

「良いアルベド!
此度のことは私が完全に悪いのだ!!」

「ですが!!」

「良い!!」

突然の私の凶行にアルベドは迷い無く私達の間に立ち先程の行動の意味を聞いてきたが、
モモンガさんは再び椅子に座りながらアルベドを制した。

「ハサンさん程の腕前を持つ者が本気で攻撃すれば私は避けられん!
ハサンさんも分かっているからこそ、先程の一撃は本気ではない!」

うん、勿論本気ではないですよ?
だって本気で攻撃したら下手したら一撃かもしれないし。
その理由は・・・私が持つスキルの為。
常時発動(パッシブ)スキル 境界にて
効果は完全即死耐性と強力な状態異常耐性。
それに通常攻撃時に低確率で即死付与。
100回攻撃して1回発動するかどうかの確率だけど、
もし発動したら有無を言わさずに一撃で倒してしまう危険極まりないスキルよ。

「・・・分かりました。」

モモンガさんの言葉に理解はしても納得はしていない様子だが、
間に立っていたアルベドは渋々と言った様子で退いてから再び跪いた。

「ンン!! ・・・アルベドよ、お前に命じたいことがある。」

その様子を見たモモンガさんは気を取り直すよう咳払いをしてから、

「ハッ! 何なりとお命じ下さい!」

アルベドはまだ僅かにこちらを警戒しているようだけど、
モモンガさんの先程の言葉がある為あからさまな態度は取らず、
モモンガさんの言葉に耳を傾けた。

「第四、第八を除く各階層の守護者に六階層の闘技場まで来るように伝えよ。
時間は・・・今から2時間後だ。」

「・・・畏まりました。」

何か言いたげだったアルベドは、
しかし何も言わずに一礼した後・・・玉座の間を後にした。
その姿を私達は見送り・・・完全に扉が閉まったのを確認してから、

「それにしても・・・本当にお久しぶりです。」

先程までの低い声では無く、
私にとって馴染み深い声になってからそう言ってきた。

「ええモモンガさん、本当に久しぶりです。」

モモンガさんが芝居を辞めたのを確認した私は、
ナイスでダンディーな声ではなく・・・自分自身の声でモモンガさんに答えた。

「ハハ、相変わらず凄いギャップですね。」

突然の私の声の変わり様に苦笑はするが、
特に驚く事も無くモモンガさんはそう言ってきた。
と、いうのも。
モモンガさんは私の性別を知っている。
最初は隠していたんだけど、
声優仲間であるぶくぶく茶釜さんが盛大にカミングアウトしてくれた。
その時に一度元々の声で喋ったときのギルメン達の反応はとても面白かった。

「そういえば・・・何故こちらに?」

その事が疑問だったのだろう。
モモンガさんは首をかしげながらそう聞いてきた。
・・・やっぱり言わないとダメだよねぇ。

「モモンガさんのメールを見て、ですよ。
随分久しく起動していなかったのでアップロードに時間が掛かっちゃって・・・、
やっとログイン出来たと思ったら円卓の間にいらっしゃらなくて、
恐らく玉座の間に居るだろうと思って来てみたら・・・という感じです。」

「あ、あのメールを見てくれたんですか!?」

相当意外だったのか、
メールを見たと言う事に対してモモンガさんは盛大に驚いている。

「ええ、
丁度権利者都合で収録が延期になっちゃって・・・、
起きてからメールを仕分けていたら目に入ったって事です。」

「なるほど・・・ありがとうございます。」

「何でお礼を言うんです?」

なんでお礼を言うの?
正直今まで何でこなかったって罵倒されるかと思ったのだけど・・・。

「お忙しいのに俺のメールを見てくれて、
しかも間に合わなかったとは言えこうして来てくれたんです。
それに対してお礼を言うのは当たり前だと思いますよ。」

私の言葉の意味が分からなかったのだろうか、
モモンガさんは先程のお礼の意味を細かく説明してくれた。

「実は時間には間に合っていたんです。
ただどうしても扉を開ける事が出来なくて・・・。」

「どういうことです?」

・・・うん、ここで言っておこう。
自己満足っていうのは分かってはいるけど、
多分この感情を持っておくと後々厄介なことになりかねない。

「そのまんまの意味です。
勝手に居なくなった事に対してモモンガさんが怒っているんじゃないか。
そう思ったらどうしても扉が開けられなくて・・・。」

「ハサンさん・・・。」

私の懺悔の言葉をモモンガさんはただ黙って聞いている。

「そう躊躇っていたら時間がきちゃいました。」

「でもこうして再会出来たじゃないですか!」

「いえ、それはあくまで結果論ですよ。
今回の事態が発生しなければ・・・、
私はモモンガさんとお会い出来ずにお別れしていました。」

20年行かないくらいの人生でたった一時の事だけど、
それでもここで一緒にプレイしたのはとても楽しかった。
それなのに・・・最後の最後でその思い出を自分で汚す所だった。
少しの間平気だったとしても・・・何時か後悔する。
それだけは確信できた。

「だから・・・一言謝らせてください。」

「・・・いいえ、良いんですよハサンさん。
今の言葉を聞いて俺は確信しました。
ハサンさんは決して望んで辞めたんじゃないって。」

「?」

どういうことだろう?
今の言葉を聞いてそう思った??

「俺は向こうでは営業職でしたからね、
感情の機微はこう見えても分かるほうですよ。」

「・・・自信満々ですね。」

「ええ、当然です。
なので謝罪は大丈夫ですよ。
それに・・・本当に貴重な休日を潰してきてくれたんですから。
俺に取っては・・・それだけで十分です。」

アハハ・・・敵わないなぁ。
謝るつもりだったのに・・・ギルド長さんに此処まで言われたら謝れないよ。

「・・・分かりました!
ではもう謝るなんて言いません!
折角の貴重な私の心の底からの謝罪を受けなかった事後悔させてやりますよ!」

「ええ、期待していますよ!」

その瞬間・・・私達は声を上げて笑い出した。
・・・何故かモモンガさんは途中で溜息をついていたけど。
その理由を聞いたら・・・どうやら激しい感情は抑制されるらしい。
大きく動揺することは無いけど、こういった楽しい感情も抑制されるみたい。
うーん・・・怒りとか悲しみとかは良いかもだけど、
楽しい感情まで抑制されるのはちょっと不便そうだなぁ。
何時か何とか出来たら良いな。

「・・・っと、そろそろ闘技場まで行きますか。
色々と試したいこともありますし。」

一頻り話終えたタイミングでモモンガさんはそう言ってきた。

「試したいこと?」

「ああそうだ。
この世界でアイテムや魔法は使えるかとかだな。」

口調が変わった・・・という事は。
これから先は真面目モードになるらしい。
だったら私もそれに合わせよう。

「ならば同行しよう。
我もスキルの使用が可能か気になる所故。」

「うむ、ならば行こう・・・
リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンはあるな?
(何度聞いても凄い変わり様だなぁ)」

「無論。」

なんか凄い変わりようとか思われてそうだけど・・・まあ良いや。
モモンガさんに言われ・・・指輪を見せた。

「確かに・・・では行くぞ。」

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを見て満足したモモンガさんは、
一度頷いた後に転移した。

「(さて、私も行こう。)」

転移で姿を消したモモンガさんを追いかけるべく・・・、
私も指輪の機能を使い・・・転移した。



















2mを超える見た目骸骨の人がナーベとエントマを足して2で割ったような声で喋る。
・・・これがギャップ萌えか!!(違う)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話

「(はてさて、上手く行くかどうか・・・。)」

今私の目の前では、
モモンガさんが持つギルド武器「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」が持つ魔法である、
《サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル/根源の火精霊召喚》によって生み出された火の精霊と、
双子のNPC・・・確かアウラ・ベラ・フィオーラとマーレ・ベロ・フィオーレだったかな?
その2人が戦闘を繰り広げている。
私?
私は今スキル「気配遮断」の効果で入り口の隣に居る。
・・・いやぁそれにしてもスキルはしっかりと使えるようで良かった。
もしスキルが使えなかったら膝から崩れ落ちていた。
私の時間は一体なんだったんだーーー!!って。
というのも、私の能力はスキル依存な物が多い。
完全即死耐性に強力な状態異常耐性、
それに通常攻撃に低確率で即死を付与する「境界にて」が最たるもの。
さっきは何の確証も無くモモンガさんに冗談で攻撃したけど、
もしスキルが発動していなかったら色々と変わっていた。
それは・・・まあ過ぎたことだし別にいっか。
さて、では何故私が隠れているかと言うと。
話は転移した直後まで遡る・・・。














「どうやらアイテムは無事に使えるな。」

「そのようだ。」

色々と会話をした後指輪の効果を使い転移した所・・・、
無事に転移できた私達は一先ず安堵した。
ここでアイテムすら使えなかったら結構不味かったからね、うん。
一先ずはこのことを喜びましょう。

「・・・ハサンよ、一つ頼みたいことがある。」

闘技場の入り口付近で歩みを止めたモモンガさんは私に向き直って声を掛けてきた。
なんだろう?

「聞こう。」

「うむ、
・・・確かお前は自身の気配を消すことが出来るスキルがあったな?
それを用いて入り口の近くに居て欲しいのだ。」

「ほう?」

モモンガさんのお願いを聞いた私は、
何故そんな事をして欲しいかっていう理由が気になった。

「訳を言え。」

「無論だ、まず一つ・・・スキルが発動するかの確認がしたい。
もしスキルが発動しなければ・・・私が持つスキルも意味を成さないからな。」

うーん・・・確かに。
もしスキルが使えなかった場合、
本人も言った通りモモンガさんが持つスキルが全て死んでしまう。
それに・・・この問題はモモンガさんだけじゃない。
もしスキルが使えなければ・・・私の通称「ハサンビルド」が無に帰してしまう。
あれだけの時間とお金をつぎ込んだのに・・・それだけは嫌だなぁ。

「そしてもう一つ。
先程アルベドに伝えたとおり・・・間もなくここにほぼ全ての階層守護者が来る。
アルベドやセバスが私に従っているのは確認できたが全員がそうである保証は無い。
故にもし他の守護者全員が私に危害を加えた場合、
ハサンにはそのまま此処を離れてもらいたい。」

「断る。」

モモンガさんが頼んできたことに対し私は即効断った。
だってそうでしょう?
1人2人であれば私達が連携すれば倒すことは出来ると思う。
だけど・・・もし全員から攻撃された場合、幾ら私達とは言えやられる可能性がある。
嘗て「アインズ・ウール・ゴウン」は1500人ものカンストプレイヤーを倒したけれど、
その時はナザリックの防衛機構をフル活用して、
且つ面子も揃っていたから出来た芸当。
今同じ事をやれと言われたら絶対に無理だと思う。
幾らハサン・サッバーハが元は無双という言葉すら馬鹿らしく思うほどの力を持っていても、
それを操る私は同じ芸当なんて出来るはずが無い。
だからモモンガさんは、もしそうなったら自分を置いていけって言ってるんだから。
冗談じゃない、そんな事死んでも受けてやるもんか。

「・・・ハサン、お前の言いたい事は分かるが。」

「なれば言葉は不用。
一つ目の頼みは請け負う・・・だが、
友を置いて尻尾を巻いて逃げ出すくらいであれば・・・、
我は一瞬の躊躇い無く共に果てる道を選ぶ。」

全くそんな事を言うんだったら2人で逃げ延びる策でも考えて欲しい。
今の私はハサンの口調で喋ってるから言わないけど。

「・・・ハァ。」

私の忽然とした態度で絶対に受けてくれないと理解したのか、
モモンガさんは溜息をつきながら、

「分かった分かった。
ならば一つ目は頼んだぞ。」

そう嬉しそうに言ってきた。

「承知した・・・では。」

髑髏の仮面を被っている為表情は見えていないだろうけど、
仮面の奥で表情をにやけさせつつも・・・スキル「気配遮断」を発動した。
けど・・・うーん、どうだろ?
自分だと良く分からないな。

「・・・ふむ、どうやら問題無くスキルは使えるようだ。」

「ほう?」

「お前がスキルを使った瞬間、
お前の気配と言うのか?それが全く感じられなくなった。
直接触れない限り気付けないレベルでな。」

モモンガさんはそう顎に手を添えながら自身が感じている感想を述べる。
・・・うん、良かった。
スキルが発動出来ると言う事であれば・・・私の能力は恐らく十全に使える。
初代ハサン・サッバーハ・・・山の翁は、
暗殺者でありながら剣士でもあるから魔法は殆ど使えない。
一応スクロールを用いれば使えない事は無いけど、
あまり進んで使おうとは思えない。
その為スキルが使えると使えないとでは天と地程に能力が変わる。
・・・あれ?
という事は、さっき私がモモンガさんに攻撃した時って・・・結構やばかった?
・・・避けてくれて本当に良かった。
突っ込みの為に放った一撃で即死とか、そんな終わりは笑うに笑えない。
うん、やっぱり情報は大事ね。
次からはもう少し慎重に突っ込みを入れる事にしよう!

「それは重畳・・・では行くとしよう。」

「うむ。」

問題無くスキルが発動しているのを確認できた為、
私達は予定通り・・・闘技場へと入った。













「(とまあ、これが此処に居る理由。)」

丁度火精霊を倒し終えた2人に対し、
モモンガさんが水を与えている光景を目にしつつ回想を止めた。

「(どうやらアウラとマーレもモモンガさんに敵対する意思は無い見たいね。)」

頻りに表情を変えつつ話しているアウラと、
少々たどたどしく会話をしているマーレを見つつそう判断した。
うん、この分なら他の階層守護者も大丈夫そう。
そう思っていると・・・3人の近くで《転移門/ゲート》が開いた。
その様子を見ていると・・・その中から小柄な少女が出てきた。

「(あれは確か・・・、
エロゲーイズマイライフと言って憚らないペロロンチーノさん謹製、
シャルティア・ブラッドフォールンだったかな?)」

相当前の記憶ではあるけど、その姿は見覚えがあったため直ぐに名前が分かった。

「(・・・それにしても、
流石ペロロンチーノさんが外見とか嗜好は全力で趣味に走った結果ね。
パッと見だと殆ど人間の子供と変わらない外見。)」

とはいえそれはあくまでも見た目通りの姿。
その実は・・・全NPCの中でも最高峰のガチ構成をしている。
フル装備で且つ全力で相手をした時・・・多少は苦戦するかもしれない。
そう思っていると・・・次々とNPC達が集合してきた。

「(・・・これで全員かな?)」

シャルティアの後に来たのは・・・武人建御雷さん作のコキュートス。
そして次に来たのは・・・ウルベルトさん作のデミウルゴス。
デミウルゴスと共に来たのは・・・、
先程も遭遇したタブラ・スマラグディナさん作のアルベド。
そして・・・声優仲間であるぶくぶく茶釜さん作の双子、
アウラ・ベラ・フィオーラとマーレ・ベロ・フィオーレ。
今此処に第四と第八を除いた各階層の守護者達が全員揃った。

「?・・・では、皆。
至高の御方に忠誠の儀を。」

目を開きモモンガさんの姿を見たアルベドは・・・、
一瞬だけアレ?という表情を浮かべたが直ぐに表情を戻してから宣言した。

「第一、第二、第三階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン・・・御身の前に。」

まず最初に一番上の層の守護者であるシャルティアが、

「第五階層守護者コキュートス・・・御身ノ前ニ。」

次に第四が居ない為、
飛ばして第五階層守護者であるコキュートスが、

「第六階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラ。」

「お、同じく第六階層守護者マーレ・ベロ・フィオーレ。」

「「御身の前に。」」

次にここ闘技場を含む第六階層の守護者であるアウラとマーレが、

「第七階層守護者デミウルゴス・・・御身の前に。」

次に第七階層の守護者であるデミウルゴスが、

「守護者統括アルベド・・・御身の前に。」

最後に守護者を統括する立場に居るアルベドが跪いた。

「第四階層守護者ガルガンチュア、
及び第八階層守護者ヴィクティムを除き・・・各階層の守護者、
御身の前に平伏し奉る・・・ご命令を、至高なる御身。
我等の忠義全てを・・・御身に捧げます。」

アルベドの言葉通り、
ガルガンチュアとヴィクティムを除いた全ての守護者が揃い、
代表してアルベドがモモンガの前に跪きながらそう宣言した。

「・・・表を上げよ。」

さてモモンガさんはどう行動するかと思い見守っていると、
何故か絶望のオーラを発動しながらモモンガさんは告げた。

「(なんで絶望のオーラ出してるの??)」

多分支配者として威厳を出そうとしたら無意識に使っちゃったとかだろうなぁ。
今モモンガさんは自分自身でツッコミをしてるんだろうなぁ。

「皆の物、良く集まってくれた・・・感謝しよう。」

「(絶望のオーラは仕舞わないんですね・・・。)」

「感謝等勿体無い・・・我等モモンガ様にこの身を捧げた者達・・・、
モモンガ様からすれば取るに足らない者でしょう。
・・・しかしながら、我等の造物主たる至高の御方方に・・・恥じない働きを誓います!」

モモンガさんの感謝の言葉に対し、
アルベドはさも当然とばかりにそう宣言した。

「「「「誓います」」」」
   「誓イマス」

そして、そのアルベドの言葉を当然とばかりに・・・他の守護者達も宣言した。
そのまま待つこと数分・・・突如モモンガさんの口がガパッ!という擬音と共に開き

「素晴らしいぞ!!」

そう賞賛した。

「(あ、その口そんな感じで開くんですね。)」

そんな光景を私は、
まだ姿を現していないのを良い事にそんな感想で眺めている。

「お前達ならば失態無く事を運べると強く確信した!!」

続いてモモンガさんがそう言うと、
明らかに守護者達は笑みの表情を浮かべた。

「・・・さて、現在ナザリック地下大墳墓は原因不明の事態に巻き込まれている。
既にセバスに地表を捜索させているのだが・・・。」

そこまで言ってからモモンガさんが脇を見ると、
そこには既に戻ってきていたのか・・・たっち・みーさん作のセバスがいた。
セバスは一礼をした後モモンガさんの近くまで歩き・・・跪きながら状況の報告を行った。
その内容を私は気配遮断を使用しつつも・・・耳を傾けた。











「(草原? 草原って・・・あの草原?)

状況を報告聞き終えた私はセバスの言葉を頭の中で繰り返していた。

「(ナザリック地下大墳墓は沼地にあったはず。
それなのに・・・草原?)」

なんだか凄く嫌な予感・・・いや違うか。
確実に大事態に巻き込まれている。
元々沼地にあったナザリックが草原にあるという事は・・・、
それはナザリック事どこか違う場所に転移したという事実に他ならない。

「(ユグドラシルの終了に合わせて新作のβテスト?
いやそれはない・・・それなら幾ら運営でも事前に告知くらいはするはず。
それが無いと言う事は・・・運営にとっても想定外?)」

色々と考えは巡らせている物の・・・やはり結論は出てこない。
とりあえず今分かっている事を元に対策を立てていかないと・・・。
私は一度そう結論を出し(問題の先送りとも言うけど)てから、
次々と指示を出すモモンガさんの言葉を聞いた。

「(すっごいなぁ、
緊急事態だっていうのに良くあそこまで冷静に指示を出せるものね。)」

その指示を勿論隠れながら聞いている私は・・・素直に賞賛した。
流石最盛期はランキング9位まで上り詰めたギルドの長。
こういう時に本当に頼りになる。
そうしていると・・・次にモモンガさんは恐ろしいことを口に出した。

「最後に・・・各階層守護者に聞いておきたいことがある。
まずシャルティア・・・お前にとって私とはどのような人物だ?」

「(え、えー!?
モモンガさん何言ってるんですか!?!?)」

自分が居る前で他の人物に自分の評価を聞くとか怖い!!

「美の結晶・・・正にこの世界で最も美しいお方でありんす!」

最初に声を掛けられたシャルティアは・・・顔を赤らめながら即答した。

「コキュートス!」

「守護者各員ヨリ強者デアリ、
正ニナザリック地下大墳墓ノ絶対ナル支配者ニ相応シキ方カト・・・。」

次に声を掛けられたコキュートスもシャルティアと同じ様に即答した。

「アウラ!」

「慈悲深く、深き配慮に優れたお方です!」

「マーレ!」

「す、凄く優しい方かと思います!」

次に声を掛けられたアウラとマーレも同様に即答する。

「デミウルゴス!」

「賢明な判断力と瞬時に実行される行動力を有される方・・・、
正に、端倪すべからざるという言葉が相応しき方です。」

次に声を掛けられたデミウルゴスも同様に即答する。

「(端倪すべからざるって確か・・・)」

何となく聞いた事がある言葉だった為・・・その意味を思い出そうとする。

「(あ、思い出した。
はじめから終わりまでを安易に推し量るべきでない、
推測が及ばない、計り知れないといった意味で用いられる表現の事だった。)」

っていうかこの高評価怖い!!

「セバス。」

そんな事を考えていると・・・モモンガさんは次にセバスへと声を掛けた。

「至高の方々の総括であり、
最後まで私達を見放さず残っていただけた慈悲深きお方です。」

うん、分かってた。
きっとセバスも高評価なんだろうなぁって・・・分かってた。

「最後になったが・・・アルベド。」

「至高の方々の最高責任者であり、私共の最高の主人であります。
・・・そして私の愛しいお方です!!」

最後に声を掛けたアルベドもさも当然のように即答した。
というよりも・・・愛しいお方?
さっきの玉座の間でのやり取りと言い・・・何だかアルベドだけ様子が違うような??
後でモモンガさんに聞いてみよう。

「・・・各員の考えは分かった。
今後とも忠義に励んで欲しい・・・のだが。」

「?」

そんな事を考えていると、
モモンガさんの言葉の最後が急に歯切れが悪くなった。
・・・これは、いよいよ来たって事かな?
守護者達の言葉を聞く限り・・・裏切りというのは今現在は確実に無い。
そう断言できる・・・だからこそ、この後姿を表すことになる私は気が重い。

「まず、お前達には謝罪をしなければならん。」

「え・・・!?」

モモンガさんの言葉に対し、
守護者達は明らかに動揺の声が上がった。

「謝罪など・・・!
モモンガ様の忠実なるシモベである我々に・・・何を謝る事がございましょうか!」

いち早く動揺から回復したアルベドは、
平伏しながらではあるがモモンガさんに断言した。

「そうだとしても・・・だ、
私・・・いや、私達(・・)はお前達の忠義を疑ってしまっていた。
だからこその謝罪だ。」

モモンガさんの言葉に対し、守護者達は明らかに顔が曇る。
それはそうだと思う。
何せつい先程見事なまでの姿を披露した守護者達を、
仕方が無いとは言え疑っていたと自ら宣言したのだから。

「・・・モモンガ様、
愚かなるこの身のご質問をお許しください!」

その中でも・・・、
言葉の違和感に気付いたデミウルゴスはいち早くモモンガへと質問の許可を求めた。

「許す。」

「ありがとうございます。
モモンガ様、今・・・私()と?」

モモンガさんの言葉を細心の注意を払いつつデミウルゴスは確認した。
そろそろ移動し始めよう。
一応絶対強者っぽく・・・ゆっくりと歩きつつ気配遮断を解除する形で良いかな?

「フッ、お前なら気付いてくれると思ったぞ。
・・・その通りだデミウルゴス!!」

ゆっくりと・・・歩きながら気配遮断を少しずつ解除していく。

「なっ・・・!!」

「「え・・・!!」」

「おお・・・!!」

「アノ御方ハ・・・!!」

突如として感じた気配に対し、
守護者達は全員その身を振るわせつつ歓喜の声を上げた。

「フフッ、私から・・・お前達に対するサプライズと言う奴だ。」

その姿を見て気分を良くしているであろうモモンガさんは、
それはもう楽しそうな感情を込めながら、

「私からお前達に報告しよう。
・・・我が友ハサン・サッバーハがこの地へと帰還した!!」

そう堂々とした態度で・・・宣言した。
その言葉が聞こえると同時にモモンガさんの隣に立った私は、

「ハサン・サッバーハ。
長き時を経て・・・幽谷よりナザリックへと舞い戻った。」

ちょっと恥かしいなぁと思いつつも・・・宣言した。

「ま、紛れも無く・・・ハサン様でありんす!!」

「おお・・・おお・・・!!!!!」

「紛レモ無イ、アノ御方ハ・・・!!」

「ハサン様!!」

「ハ、ハサン様!!」

私の堂々たる宣言を聞いた瞬間、守護者達は歓喜の叫び声を上げた・・・。

















目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話

「モモンガよ。 随分と高評価だったではないか。」

「・・・言わないでくれ。」

闘技場から玉座の間の前に転移した私達は、
先程の守護者達の評価を聞いていたため早速モモンガさんをからかい始める。

「ならば聞くなという物だ、少々驚いたぞ。」

少々とか言ってるけど、実際は物凄く驚いてるよ!
いきなり自分の評価を聞いたモモンガさんに対してもだけど、
それ以上に守護者達の高評価っぷりが物凄く驚いた。

「裏切られるよりは良いではないか。」

「それは・・・そうだが。」

なんだか釈然としない雰囲気を出しながらモモンガさんはそう言ってきた。
ああ、これはアレかな?
守護者達からの信頼が重いって奴。

「・・・して、これから何をするつもりだ?」

からかうのはこれで終わりにして、
私はモモンガさんにこれからの予定を確認する。
一応スキルや魔法は使用可能と言う事、
更に信じられない事にユグドラシルでは出来なかった友軍への攻撃・・・、
つまりフレンドリー・ファイアも有効なことは確認できた。
という事は・・・ますますこの世界がゲームの世界とは考え辛くなる。

「そうだな・・・。」

壁に手をついていた姿勢から戻りながらモモンガさんは考えるように顎に手を添える。

「まずは装備条件を調べようと思う。
私はユグドラシルでは魔法職しか取っていなかったからな。
その状態で装備条件を満たしていない物を装備したとき、
どのようになるかが知りたい。」

「承知。
では私は外へ出るとしよう。」

「外へか?」

「うむ。」

不思議そうに首を傾げながら聞いてきたモモンガさんに対し、

「セバスの話では外は草原になっている。
それを直にこの目で確かめたくてな。」

そう理由を話した。
実際の所だけど・・・私が直接確かめたい点がある。
それは・・・この世界はガスマスクとか無くても大丈夫なのかどうか。
リアルにおいては汚染が進みすぎた所為で外に出る時は必ずガスマスクを装着してい
た。
それを装着しないと汚染された空気が肺に入り・・・それが原因で死ぬ事もありうるから。
一度セバスが外に出ている以上、多分大丈夫だとは思うけど・・・、
それでも確認したい。

「・・・しかし。」

やはりというかなんと言うか。
モモンガさんは私が外に出ようとしているのを良しとしていない。
まだ情報が集まりきっていない以上、安直な行動は避けるべきだからね。
だけど・・・何時までもここに引き篭もっている訳にはいかない。
いつかは外に出なければならないんだから。

「モモンガよ、汝の言いたい事も分かる。
しかし・・・何時かは必ず行かねばならぬ。」

危険は百も承知。
だけど・・・不謹慎な話だけど。
今私は、凄くワクワクしている。
それは何故かって?
当然・・・目の前に未知があるんだから。
それを前にして・・・手を拱いてるなんてとてもじゃないけど出来ない。

「・・・危険を感じたら直ぐに引き返せ。
それが最大限の譲歩だ。」

暫くモモンガさんは考えた後、ハッキリとそう口にした。

「承知、礼を言う。」

「・・・私とお前の仲だろう、気にするな。」

「・・・そうさせてもらおう。」

モモンガさんの言葉で・・・少しだけ嬉しくなった私は、
少しだけ笑いながら・・・入り口付近へと転移した。



















「・・・。」

誰も居ない空間で・・・私の足音のみやけに大きく聞こえる。
この場には・・・今は誰も居ない。
この階層を守護しているシャルティアは・・・現在第六階層に居る為。
そして・・・暫く歩いているとナザリックの出入り口へと辿り着いた。

「(さて、鬼が出るか蛇が出るか。)」

ここまで来て僅かに足を出すのを躊躇ったけど・・・、
直ぐに決心して・・・ナザリックの外へと出た。

「・・・なんという。」

外に出た瞬間。
私は眼に飛び込んできた景色に心を奪われた。
私の眼に飛び込んできた景色・・・それは、一面の星空。
こんな景色は今まで一度も見たことが無い。
そう即断言できるくらいに・・・ただただ美しかった。

「・・・凄い。」

私は声を変える事すら忘れてただただ呆けている。
しょうがないと思う。
実際私が元々居た世界は、
環境汚染が進み地表は荒れ空には常に霧がかかっているような場所だった。
外に出るにもマスクが必需品というディストピアとも言える世界だったのに対し、
・・・この場所はどうだろう?
答えは簡単、この場所は・・・ただただ美しかった。

「え、あれ・・・?」

どれくらいの間そうしていただろう?
ずっと空を見上げていた時、不意に声を掛けられた。

「ハ、ハサン様!?」

「マーレか。」

声を掛けてきたのはマーレ。
恐らく先ほどモモンガさんに命じられた事をやる為にここまで来たのだろう。

「と、供を連れずに・・・こちらでどうされたんですか?」

私が1人で行動しているのは気が気じゃないのかな?
私の身を心配するような口調で聞いてきた。

「・・・空を、見ていた。」

「そ、空・・・ですか?」

「左様。」

危うく元の声で喋りそうになったけど、
ギリギリでナイスでダンディーな声にしてからマーレに返答する。

「えと、あのぅ・・・何故なんですか??」

私の答えに対してマーレはよく分からないという表情を浮かべている。
うーん・・・まあそれもそうか。

「・・・今は分からずとも良い、何れ分かる日が来るだろう。」

それだけマーレに言った後に外套を翻しながらナザリックへと戻る。
私としてはもうちょっと見ていたいけど・・・あんまり心配かけるわけにはいかないからね。

「マーレよ。」

「は、はい!」

私の言葉の意味がよく分かっていないのかマーレは首をかしげていたけど、
私が声を掛けると直ぐに返事をしてきた。

「ナザリック地下大墳墓の隠蔽・・・任せたぞ。」

「あ・・・は、はい! 畏まりました!!」

声だけ聞いても物凄く恐縮しているような雰囲気を感じさせる返事を聞きながら、
私はナザリックの自身の部屋へと指輪を使って転移した。














数日後













今私はナザリックのある場所にてモモンガさんが行った作業を眺めている。
ではそのモモンガさんは何をしているかと言うと・・・、
遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)の使用方法を把握する為四苦八苦している。
鏡の前で両手をわちゃわちゃしてる姿を見るのって何だか面白いなぁ。

「・・・こうか?」

呟きと共に両手を広げると・・・鏡は反応を示した。
おお、これは成功かな?
そう思っていると・・・拍手の音が聞こえてきた。
その音の源は、作業を行っている間微動だにせず傍らに控えていたセバスからのものだ。

「おめでとうございます、モモンガ様。」

「ありがとうセバス、付き合わせて悪かったな。」

忌憚無く賛辞を送るセバスに対してモモンガさんはそう労いの言葉を掛けた。

「主のお傍にご命令に従うこと。
それこそが、たっち・みー様によって執事として生み出された私の存在意義です。」

モモンガさんの労いの言葉に対し、
セバスはさも当然とでも言うように己の存在意義をモモンガさんへと告げた。

「・・・そうか。
ハサンも付き合わせて悪かったな、退屈だっただろう?」

そんなセバスの言葉に対し、
モモンガさんは少しだけ残念そうな声色で答えた後に、
ずっと椅子に座って眺めていた私に対しても声を掛けてきた。

「(いえ、わちゃわちゃしてるのを見ててとっても楽しかったです!!)」

って言いたいけど流石に言えないから、

「構わぬ。」

変わりにそう返答した。

「・・・ん?」

一度頷いてきた後に鏡へと視線を戻したモモンガさんはそう不思議そうな声を出した。
丁度鏡の風景が見えない位置に座っていた為、
椅子から立ち上がってモモンガさんの背後に回り鏡を見る。

「祭事か?」

鏡に映されている風景はかなり高い位置からのもので、
小さい点がそこそこな速さで動いている様にしか見えない。

「・・・いえ、これは違うようです。」

今まで微動だにしていなかったセバスは、
モモンガさんの隣まで歩き、腰を曲げて鏡の風景を見ながらそう答えた。
モモンガさんも同じことを思ったのか、
先程操作方法を掴んだ為両手を動かして鏡の風景を拡大させた。

「・・・野盗ではないようだが。」

拡大された為先程よりもずっと分かり易くなった風景を見てモモンガさんは呟いた。
モモンガさんの言葉通り、
馬に跨って何の武装もしていない人を斬り殺しているのは・・・、
見るからにどこかに所属しているであろう兵士だった。

「(・・・あれ?)」

次々と武装をしていない人達が斬り殺されている風景を見て・・・違和感に気が付いた。

「(あんなに派手に血がドバドバ出てるのに・・・何も感じない?)」

勿論血自体は若干ではあるけど見慣れている。
だけど・・・目の前に写っているのは確実に命を無くす程の出血。
こちらに来る前であれば確実に気分が悪くなっていたのに・・・全然平気だった。

「(もしかして・・・体に精神が引っ張られてるとか?)」

その風景を見つつ・・・私は自身に起こっている異常をそう観察する。
あり得ない話では無いと思う。
今の私の種族はアンデッドの状態で特殊な条件を満たすことによってなれる幽谷の主という物。
常に死に触れているという設定の幽谷の主の精神に引っ張られている・・・って考えると納得が出来る。

「・・どういたしますか?」

自身の身に起きている変調を考察していると、
同じ光景を見ていたセバスからどうするかという事を聞かれた。

「見捨てる、助けに行く理由も価値も無いからな。」

セバスの質問に対し、モモンガさんは即答した。
・・・今のを見ると、多分モモンガさんも同じ事が起きているかもしれない。
だけどモモンガさんの言葉も当然分かる。
この世界の事があまり良く分かっていない以上、下手な行動は・・・。

「(・・・あ。)」

そこまで考えてから・・・ふとセバスの姿が目に入った。
それと同時に・・・恐らく幻視なのは間違いない。
だけど・・・確かにセバスの後ろにたっちさんの姿が浮かび上がった。

「(・・・誰かが困っていたら 助けるのは当たり前、か。)」

以前。
アンデッドでぼっちプレイをしていた時、
異形種狩りに合い・・・危うく倒されそうになった時。
純白の鎧に身を包んだたっちさんに助けられたことがある。
何故見ず知らずの私を助けたのか気になりたっちさんに聞いた時、
何の臆面も無く・・・誰かが困っていたら 助けるのは当たり前と言われた。
・・・正直一文字50円の正義降臨っていうアレはださかったけど。
それでもあの言葉には大分惹かれる物があった。
それに、もしあの場でやられていたら・・・私はユグドラシルをその時点で辞めていたと思う。
偶然通りがかっただけだとは思うけど・・・それでも私は救われた。
たっちさん本人に返せないのは残念だけど・・・今此処でその恩を返そう。
モモンガさんの言葉を聞き、
ほんの僅か・・・良く見ないと分からないレベルで落ち込んでいるセバスへと。

「・・・畏まり「モモンガよ。」

主たるモモンガさんがそう言うのであれば、
忠実なシモベたるセバスは異を唱えることは出来ない。
そう思ったからこそセバスの返答を遮る形で私は言葉を発した。

「・・・どうした。」

このタイミングで声を出すとは思っていなかったのか、
モモンガさんは不思議そうに私の方を向いてきた。

「理由も・・・価値もある。」

「・・・聞かせてもらおうか。」

「良かろう。」

私の言葉に対して興味深いという反応を示してきたモモンガさんに対し、
私は立ったままの姿勢ではあるが己の考えを告げた。

「・・・まず、この世界に置ける我々の戦闘力の把握。
ユグドラシルで培った力が通用するか否か、その検証。」

「・・・ほう。」

「次に、我等がこの村を救った時。
この世界の情報を直接収集できる機会が手に出来る。
更に友好的な関係を築くことに成功すれば・・・体の良い隠れ蓑に出来るだろう。」

「・・・確かに一理あるな。」

私が提案したメリットに対し、
モモンガさんは顎に手を添えながら賛同してくれる。
良し、好感触。
後は最後の一手を出す。

「最後に・・・この言葉を当然知っているな?」

私はそう言いながら・・・一度だけセバスを見た。
モモンガさんも私の視線の先に居る人物を見て・・・私の意図が読めたらしい。

「「誰かが困っていたら 助けるのは当たり前。」」

確信を持って告げた言葉を、
一字一句同じ言葉でモモンガさんも言った。

「・・・フッフッフ。」

見事なハモリを披露した為か、それとも別の思いがあった為か。
モモンガさんは愉快そうに笑いながら・・・椅子から立ち上がった。

「セバス、私とハサンはこの村へと行く。
ナザリックの警備レベルを最大限にまで引き上げろ。」

「ハッ!!」

よし、説得成功!
モモンガさんは傍に控えていたセバスへと指示を出し、
セバスは最敬礼を持って答えた。
・・・その声色は心なしか嬉しそうなものに聞こえたのは気の所為じゃないと思う。

「それと・・・アルベドには完全武装で来るように伝えよ。
次に後詰の準備を・・・この村に隠密能力に長けるか、透明化の特殊能力を持つ者を複数送り込め。」

「畏まりました。」

モモンガさんはセバスに次々と指示を出し、
最後に私の方を向いてきた。

「ハサンよ、お前の提案だ・・・自分は行かないとは無論言うまい?」

「無論。」

当然私も行くに決まっている。
そう思っていた為、モモンガさんの言葉に即答した。
その姿を見て満足そうにモモンガさんは頷いた後・・・。

「では行くぞ・・・出陣の時だ。」

「承知。」

≪転移門/ゲート≫の魔法を発動して、鏡に映っていた2人の元へと私と共に向かった。





















楽しい楽しい蹂躙劇・・・はっじまっるよー!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話

「うぅ・・・。」

「ね、姉ちゃん・・・!!」

背中を斬られている女性が、
腕の中に女児を包み呻き声を上げている。

「(何で・・・どうしてこんなことに・・・。)」

背後に居る2人組の兵士は下卑た笑い声を上げながら、
今まさに2人の命を奪わんと手に持っている剣を振り上げようとしていた。

「(神様でも・・・悪魔でもいい・・・お願いします・・・、
私はどうなっても構いません・・・妹だけは・・・ネムだけは・・・!!)」

背中を斬られ出血も酷い状態で、
朦朧とする意識の中・・・そう強く女性は願う。

「ヘッヘッヘ、手こずらせやがって。」

そんな女性の想いを露とも知らずに、
兵士は女性にトドメを刺すべく・・・剣を振り上げて斬りつけようとした。

「(神様!!)」

迫る死の気配を鋭敏に感じ取り、掛け値無しに女性は強く願った。
助けてくれるなら・・・誰でも良いとばかりに強く。
・・・そんな願いに答えるかのように兵士達は振り上げた剣を下ろした。

「・・・?」

何時まで経っても更なる痛みが来ない事に疑問を感じた女性は、
強く瞑っていた目を・・・不思議そうに開いた。

「(え、何・・・? 一体何が・・・?)」

兵士達は顔をスッポリと兜で隠している為表情が伺えない。
そのため何故いきなり攻撃をやめたか女性は理解が出来なかった。

「な、なんだアレは・・・!!」

兵士の声で漸く何が起こっているかを知ったのか。
女性は兵士から目を離し・・・ゆっくりと反対側を見た。
女性が目にしたもの・・・それは。
何も無い筈の場所に浮かび上がる靄のようなものだった。
・・・暫く女性が眺めているとその中から、
豪華なローブを身に纏い先の部分に綺麗な珠を加えた杖を持つ、
・・・おぞましい異形の姿が一つ。
そして、
牛のような立派な双角を備えた髑髏面の奥に青白い眼光を滾らせ、
黒い外套と黒い鎧を身に纏った巨躯の異形が一つ・・・姿を現した。

「ヒッ・・・!!」

突然姿を現した二つの異形に・・・2人の女は短く悲鳴を上げた。

「友よ、私は右をやる。」

「では、我は左をやるとしよう。」

そんな合計4人の戸惑いや恐怖等露とも知らずに、
二つの異形どちらをやるかと言うのを短く伝えていた。

心臓掌握(グラスプ・ハート)!!」

杖を持った異形は・・・魔法を唱えつつ右手を前に差し出し、
手の中に浮かび上がった何か(・・)を潰すように手を・・・強く握った。

「ガッ!!」

瞬間、兵士の1人は外傷が無いのにいきなり崩れ落ちる。
その光景を見ている女性は何が起きているのか理解が追いついていない。

「・・・フム。」

その光景を見ていた異形は・・・結果に満足しているようだ。

「ば、化け物!!!」

味方である筈の兵士がいきなり崩れ落ちた。
その残酷なまでの真実を目の当たりにしたもう1人の兵士は、
声を震わせながらそれを言うだけで精一杯だった。

「フン・・・人を殺しても何も感じないか。
私の予想通り、肉体だけでなく心まで人間をやめたと言う事か。」

「クッ!!」

ゆっくりと・・・2人の女を庇うかのように前に出た異形は、
何とか武器を構えた兵士を見るが・・・やがて興味を失ったかのように視線を逸らした。

「まだまだ私の戦闘力を測る実験をしておきたい所だが・・・、
既に死体となったもの相手に魔法を打ち込んでも仕方が無いな。」

「な、なにを・・・!!」

一つの異形が何を言っているか理解が追いついていなさそうだが、
唯一・・・背中を斬られた女性だけは気が付いた。

「(あの大きい骸骨の人が・・・居ない??)」

本来であれば兵士が一番最初に気が付くべきだった。
靄のようなものから現れたのは・・・2つの異形。
それなのに今自分の目の前に居るのは杖を持った異形のみ。
巨躯の異形は杖の異形と一言交わした瞬間、いつの間にか消えていた。
だが、気付かないのも無理は無い。
いきなり何も無い所から姿を現し見たことも無い方法で1人を容易く葬って見せた。
その圧倒的と形容すべき威圧感を前にしたら・・・誰でもそうなる。
・・・その結果命を失う事になったとしても。

「い、一体・・・何が・・・!?!?」

「ヒ・・・!!」

杖を持った異形が興味を失った兵士は・・・、
自分の身に起きたことが理解出来ないとでも言うように声を出すが、
その様子を見ていた女性は再び短く悲鳴を上げた。

「・・・既に汝の首は頂戴している。」

「え・・・?」

いつの間にか再び姿を現した巨躯の異形がそう言ったが、
兵士は自分はまだ意識があった為信じられないようだ。

「・・・あれ?」

しかし、やっとここで兵士は違和感に気付く。
先程見ていた風景に比べて・・・視線が明らかに下がっていた。

「え、なんで・・・俺は自分を見上げてるんだ・・・?」

そして・・・兵士は不思議そうに自分の体を見上げる。
この段階で・・・始めて兵士は自分の身に起きたことを理解した。
本来頭があるべき場所には既に何も無く、
今更ながら頭が無い事に体が気が付いたのか・・・ゆっくりと倒れた。
巨躯の異形が行った行動は簡単だ。
巨躯の異形が持つスキル気配遮断で気配を消し去り、
兵士の背後に周り・・・手に持っていた大剣で首を落としただけ。
ただその技があまりにも見事だった為、
頭と体は自分が死んだという事に気が付かなかっただけだった・・・。

















「(・・・やっぱり予想通り、人を殺しても何も感じない、か。)」

一撃で兵士の首を斬り落とした私は、
たった今命を奪った手を見つめても特に何も感じていない。

「(さっき鏡を見て思ったことは正解に近い感じかなぁ、
まあだからといって別段困ることでもないけど。)」

モモンガさんは2人の女性に背を向けつつ中位アンデッド作成を使っている・・・けど。
なんと心臓を握り潰した兵士の上に黒い塊が取り付いている。

「(あれって確か・・・
ユグドラシルの時だと何も無いところから生み出すだけじゃなかったっけ?)」

どうやらモモンガさんが覚えている魔法の幾つかは効果が変わっているかもしれない。
私は別に魔法主体じゃないから気にしないで良いけど、
キッチリとどんな効果を及ぼすかっていうのは把握していたほうが良いかも。
体の乗っ取りが完了したのだろうか、
死んでいた兵士は立ち上がり・・・デスナイトとなった。
壁としてはそこそこ優秀だけど、
所詮Lv30ちょいだから強くないのよね、デスナイト。

「デスナイトよ、この村を襲っている騎士を殺せ。」

そんな事を私が思っているとは露知らず、
モモンガさんは私が首を斬り飛ばした兵士を指差しながらデスナイトへと命じた。

「ガアアアアアアアアアア!!!」

造物主たるモモンガさんの命を受けたデスナイトは、
一度咆哮を上げたあと・・・村の方角へと走って行った。

「え。」

その様子を唖然としながらモモンガさんは眺めている。

「・・・友よ、デスナイトに何をさせようとした?」

唖然としているから、
きっと思ったこととは違う結果になったんだろうっていうのは容易に想像できる。
そのためちょっと呆れながらモモンガさんへと声を掛けた。

「・・・そこの2人の盾にしようとした。」

ちょっと恥かしいのか、
ポリポリと頬の部分を掻きながら白状してきた。

「先程の命令の内容では盾になれとは思えんぞ?」

「うっ・・・。」

冷静な私のツッコミにモモンガさんは言葉を濁す。
そんなやり取りをしていると、
未だに残っていた転送門(ゲート)から・・・全身甲冑姿の人物が現れた。
装備からして、あれはアルベドかな?

「申し訳ございません、準備に時間が掛かりました。」

「良いや、実に良いタイミングだぞアルベドよ。」

「ありがとうございます、それで・・・この下等生物の処分はどうなさいますか?」

「取り敢えずの敵は、あそこに転がっている鎧を着た者達だ。」

「畏まりました。」

取り敢えずは・・・、
アルベドはこの2人に対して攻撃する気は無いと判断しても大丈夫そう。
なら・・・次は怪我をしている背中を何とかしないとね。
痛みもあるだろうし、そのまま放っておくと出血死しかねないし。

「娘、飲め。」

事前に調べていてこの世界でもアイテムボックスは使えると知っていたから、
手を伸ばしてアイテムボックスからポーションを取り出す。
あっちの世界だとたった50しか回復出来ないしょぼいものだけど、
無いよりはマシでしょう。
・・・しかし、何でだろう?
ポーションの小瓶を出しているというのに、
疑っているのか・・・一向に受け取ろうとしない。

「どうした?」

不思議に思ってそう尋ねると・・・意を決したように手を出してきた。

「の、飲みます! だから妹だけは・・・!!」

「姉ちゃんダメだよ!!!」

「ネムは黙ってなさい!!」

覚悟を決めて受け取ろうとした女性に対し、
ネムと呼ばれた子供は必死になってその手を掴んでいる。

「(・・・あれ? なんでだろう?? 思いっきり警戒されている???)」

この世界にはポーションは無いのかな・・・?
魔法もアイテムもあってポーションは無いって考え辛いけど・・・。
だけど・・・そんな私達の様子を見ていたアルベドは何故だか肩を震わせている。
あ、これヤバイ。

「下等生物風情が!!!!」

「ヒ・・・!!」

私の予想通りアルベドは怒気と共にバルディッシュを振り上げて、
今まさに振り下ろさんとしている。

「良い、アルベド。」

「ですが!!」

気にするなと言う意味で言ったのに対し、
アルベドは納得が出来ないかのように反論してこようとする。

「我は良いと告げた、三度目は無い。」

そんなアルベドに対し、
今度は僅かに殺気を出しながら・・・同じ言葉を告げた。

「ッ・・・畏まりました。」

やはりまだ納得は出来ていないだろうけど、
それでもアルベドはバルディッシュを下げた。

「・・・娘、これは治癒の薬だ。
そのままでは出血で死に絶える故、飲むが良い。」

多分警戒しているのは何の説明も無かったからと私は判断した為、
今度はしっかりとポーションの説明をした。
治癒の薬と聞いた女性は半信半疑ではあるけど、
ポーションを受け取り・・・中身を飲み干した。

「え、嘘・・・。」

飲み干した瞬間斬られた背中の傷が塞がったのを確認した。
その様子に対して信じられない面持ちで女性は見ているけど、
私は私でこの世界でもポーションは使えると知れてちょっとだけ安心した。

「(アイテムの効果が変わっている物もあるかもしれないけど、
一応ポーションとかはそのままの効果みたいね。)」

これは今度纏めて検証しないと。
私はそう考えていると、
モモンガさんは先程助けた女性に対して色々と質問をしている。
まあこの世界に魔法はあるかとかだね。
女性の話曰く、この世界でも魔法は存在しているらしい。
ならば話は早いとばかりに次々とモモンガさんは防御魔法を2人に掛け、
最後に課金ガチャのハズレアイテムを投げ渡した。

「(あれって確か・・・吹けばゴブリンの軍勢が姿を現して命令に従うんだっけ?)」

割と数が出てくるから最初は良いんじゃないかと言われていたけど、
結局召喚されるのが低級も良い所のゴブリンで、
私達に挑んでくる様なプレイヤーは殆どカンストだったため壁にもならず、
結局はゴミという烙印を押されたアイテムだった。
うん、まあ所詮ハズレアイテムだしね。
・・・っと、そうだ。
私からも一つアイテムを渡しておこう。
まあ、アイテムって言うよりも・・・服なんだけど。
あえて触れなかったけど・・・実はさっきから気になっている事がある。
モモンガさんは気付いていないようだけど、
なんだかほのかにアンモニア臭が・・・。

「友よ、汝は先に行け。」

「構わんが・・・お前はどうするのだ?」

一緒に行くものとばかり思っていたのか、
モモンガさんは不思議そうに私に聞いてきた。

「我はこの2人に幾つかアイテムを授けてから向かう。
火急の用あれば伝言(メッセージ)を寄越すが良い。」

流石に2人が漏らしてる可能性があるから、
このまま放置するのは忍びないとは言えない。
それを言ってしまえば・・・ネムって子は分からないけど、
こっちの女性は多大なるショックを受けるだろうから。

「・・・フム、まあ良かろう。」

この程度の兵士の力であれば私が居なくても問題無いと思ったのか、
顎に手を添えて考えた後に許可を出してきた。

「あ、あの!!」

モモンガさんがアルベドを伴い村の方角へと歩き出すと、
防御魔法に身を守られた2人は私とモモンガさんの方角を向き跪きながら、

「助けて下さって・・・ありがとうございます!!」

「ありがとうございます!!」

そうお礼の言葉を叫んだ。

「・・・気にするな。」

その言葉を聞いたモモンガさんは一言だけ言った後、再び歩き出そうとする。

「お、お名前は・・・なんと仰るのですか!!」

その姿を見た女性は名前を聞いてきた。
・・・名前?
うーん・・・名前かぁ、何て名乗ろうかな?
そんな事を考えていると、
先にモモンガさんは決めたのか・・・2人に向かって、

「我が名は・・・アインズ・ウール・ゴウン!!!」

そう名乗った。
・・・って、その名前!?
何も聞いてないんですけど!?
そんな焦りが伝わったのかモモンガさん改めてアインズさんは私の方を向いてきた。
・・・後でしっかりと説明してもらいますよ。

「・・・では、我も名乗るとしよう。」

身の丈程もある大剣に手を置き・・・私は、

「我が名はハサン・サッバーハ、
幽谷の淵より死に時を失った者に、天命に替わり死を与える者也。」

堂々とそう名乗りを上げた。






















ちなみにエンリとネムに渡したのは・・・まあアレです。
そこを書いてしまうとハサン株が暴落してしまうので流石に自重しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話

アインズさんとアルベドを先に行かせ、
この子達にあるアイテムを渡した後早速向かおうとしたら、
私の頭の中で何かが繋がるような感覚が走った。
これは・・・多分伝言(メッセージ)かな?
相手は十中八九アインズさんでしょう。
そう思い伝言(メッセージ)を繋げると・・・、

「(ハサンさん、聞こえます?)」

やはりというか思った通りアインズさんの声が響いてきた。

「(あーあー、感度良好感度良好。
こちらハサンです、そちらの状況は如何でしょうか・・・オーバー。)」

何となく昔見た戦争物の映画の通信を思い出したので、
演技することをやめて素の声で伝言(メッセージ)へと返答する。

「(何の真似ですかソレ・・・。)」

返ってきた返答は何故か呆れている・・・解せぬ。

「(やあ通信でこういうの・・・ちょっと憧れてたんですよねー。)」

「(はいはい・・・一つお聞きしたいんですけど、大丈夫ですか?)」

「(どうぞどうぞ・・・あ、オーバー。)」

「(無理してやらなくても良いですって、ところで・・・今どこに居ますか?)」

「(あの姉妹に渡すものも渡しましたし・・・
これから向かおうと思ってました、オーバー。)」

脇目で姉妹を見ながら私はアインズさんに返答する。
アインズさんがこう言うって事は・・・もう終わったのかな?

「(・・・ちょっと待った、
という事はまだあの姉妹はそこにいるんですか?)」

「(そうですけど? オーバー。)」

あれ?
何かマズい事でも起きたのかな?

「(・・・声、戻ってますよ。)」

「(・・・あ。)」

何となく通信兵になった気分で伝言(メッセージ)をしていたから失念していた。
・・・私の近くにはまだ2人とも居るんだった。

「(・・・ハァ。)」

さっきの私の反応からして確実に忘れていたことを悟られたのか、
それはもう露骨な溜息をつかれた。

「(兎に角、村を襲っていた連中は始末しました。
その姉妹を連れてこちらに来てください。)」

「(り、了解です、それじゃあ2人を連れて行きます・・・。)」

「(・・・後でお説教だ。)」

「(・・・ウス。)」

その言葉を最後にアインズさんとのつうし・・・伝言(メッセージ)を終えた私は、
恐る恐る姉妹を見ると・・・予想通りとても驚いた表情を浮かべていた。

「・・・どうした。」

どうしたでは無いとは思うけど、
先程までの声からハサンの声に切り替えて2人に聞いてみた。

「・・・え、あ、あれ??」

その余りの変わり様に今度は姉妹共に困惑していた。
このまま誤魔化せれば良いんだけどなぁ・・・。
そう思っていたけど、こういう時・・・子供は残酷だ。
大人が聞き辛い事をズバッと聞いてくるのだから。

「あの、ハサン様!」

「・・・なんだ。」

「さっきのハサン様のお声って女の人の物に聞こえたのですか!」

「こ、こら! ネム!!」

・・・デスヨネー。
頭の中で喋っていたつもりだったけど、
さっきの伝言(メッセージ)の声はバッチリ聞かれていたらしい。
中々無い経験だったからちょっとはしゃいじゃった。
・・・仕方無い。

「ふぅ、しょうがないか。」

「え!?」

ちょっとだけ溜息をつきつつ、私は演技することをやめた。

「それはね、こう見えても私は女だからなのよー。」

「え・・・ええ!?!?!?!?」

アハハーと笑いながら答えると、
姉の方は驚天動地の事態に遭遇したかのように・・・絶叫した。






















「とまあこう言う事でね。
なるべく私が女であることは秘密にしておいて欲しいかな。」

私が女という事をバラした後、
やはり来るのは何故顔を隠して性別を偽っているかという事だった。
流石にバカ正直にロールプレイの為!とはいえなかったから、
宗教的な理由で長である私は人前で顔を明かすことは出来ないのと、
教団は基本的に女人禁制だから声を変えているっていう設定をでっち上げた。
顔を隠す理由は、
名を捨てて教団の為に尽くさなければならないっていうのは当たってるけど、
当然女人禁制なんていうのは存在しない。
だって存在してたら百貌や静謐が居る訳無いもんね!
・・・とまあこんな出鱈目な話を思いのほか簡単に信じてしまった為、
なんだか騙しているような気がしてちょっと悪い事したなぁって気分になる。

「は、はい勿論でございます!
ハサン様が教えてくださった内容は生涯誰にも口外しません!!」

ネムちゃんと手をつなぎながらでは歩けど、
エンリちゃん(さっき名前聞いた。)はフンス!という擬音が聞こえてきそうな程、
鼻息を荒くして叫んでくる。

「ありがとねー、
あ、もしバラしたら夜寝てる時に静かに枕元に立って声を掛けるからね?」

「・・・ぜ、絶対に誰にも言いません!!」

エンリちゃんはその光景を想像したのか、
かなり青い顔になりながら強く頷いてきた。
うん、それはそうだよねー。
夜静かに寝てる時に、
身長2m超えていて髑髏の面をつけている人が立ってたら誰だって絶叫する。
・・・私もアインズさんにやられたら絶叫する自信がある。

「そうしておきなさいな。
さて、そろそろ村に着くみたいだし・・・元に戻すぞ。」

元の私の声から、
先程までのナイスでダンディーな声に切り替えると、

「す・・・凄い差ですね・・・。」

エンリちゃんは相当驚いている。

「無論、この声を出す為に鍛錬を積み重ねたからな。」

これは嘘じゃない。
この声を出す為に入る予定だった仕事を全部キャンセルして、
夜も寝ないで昼寝をしてやっとの思いで出せるようになったんだからね!
・・・事務所には次やったら首切るからな?って脅されたけど。
ていうか一発アウトかと思ったけど、
まさか執行猶予付きだけど許されるとは思わなかった・・・。
ま、まあ!
この声を出せる様になったお陰で仕事の幅が増えたから良かったんだけどね!!

「・・・さて、そろそろ村だな。」

その後も少しだけ会話をしていたら、
気付いたら村の入り口まで到着していた。
























村の入り口でエンリちゃんとネムちゃんと別れた後、
既に色々と情報を入手していたアインズさんと合流してから、
私はやっちゃったうっかりをしっかりと報告した。

「・・・何やってんすか?」

「ス、スマヌ・・・。」

案の定アインズさんはめっちゃ怒ってる。
装備している憤怒の泣き顔のマスク・・・、
確かクリスマスの時に一定時間ログインしたら入手できるという嫉妬マスクだったかな?
それを何故か装備している事もあって、
滅茶苦茶怒っている様に見える。

「あの、俺達は今姿を隠していますよね?」

「う、うむ。」

「その為に態々、
安全を確認出来るまでは要らない情報を与えない様にしようって事にしましたよね?」

「そ、その通りだ。」

「もう一回言いますね? ・・・何やってんすか?」

その場で正座をさせながら怒ってくるアインズさん超怖い。

「ハァ・・・。」

私は微妙にカタカタ震えながらアインズさんのお説教を聴いてるけど、
やがてアインズさんは仕方が無いとばかりに溜息をついてきた。

「まあ・・・やったものは仕方が無いです。
丁度俺の本当の姿を見たあの2人に記憶を弄る魔法で、
俺の姿に関する記憶を弄れたら弄ろうって思ってましたし、
出来たらついでにそっちも弄っておきますよ。」

アインズさんは左手を顔にかけてからそう提案してくれた。
アインズ様・・・アナタは神か!!

「・・・それは不要だ。」

「・・・一応聞いておこうか。」

正座をしたままの態勢だけど、
変えている状態の声でアインズさんに言うと、
アインズさんは不思議そうに聞き返してきた。

「あの2人には、もしバラしたら夜中に枕元に立って声を掛けると言ってある。」

「それが・・・ああ、そう言うことですか。」

私が言わんとしている事が分かったのか、
アインズさんは若干呆れている。

「まあ・・・お前がそう言うのであればそれで構わん。
だが・・・もしナザリックに危険を齎したとき、
その時は覚悟をしておけ。」

「無論だ。」

この人の事だからもし危険を齎したら・・・、
やらかした罰だと言って黒棺に放り込まれて一ヶ月は出してくれないかもしれない。
能力的には突破は容易いけど・・・多分死ぬ、私の精神が死ぬ。
一応人を殺したとしても何も感じないのは分かってはいるけど、
それだけでは判断が出来ないこともある。
まだ私の残滓があると分かっている以上それだけは絶対に嫌だ。

「全く・・・お前がこんな下らないミスをするとは思わなかったぞ。」

・・・やっぱり小言は無くならないですよねー。
ま、まあ・・・小言で済むなら安いもの・・・。

「・・・ん?」

アインズさんの小言を一応聞きながらではあるけど、
なんだか村の中央が少し騒がしいことに気が付いた。

「どうしたハサン。」

私の様子が少しばかりおかしいのに気が付いたのか、
今まで言っていた小言を止めてからアインズさんは聞いてきた。

「村の中央が騒がしくなっている。」

「・・・なるほど。」

アインズさんも村の中央が騒がしい事に気が付いたようだ。

「私は村長の元へ話を聞きにいく。
ハサン、お前はそのまま正座していろ。」

・・・許されてなかったかー。

「・・・仕方あるまい、我の手が必要な時は呼べ。」

「分かっている、行くぞアルベド。」

「ハ、ハッ!!」

アルベドはアインズさんの言葉に対して、
何故か一度どもった後に返事をしてから前を歩くアインズさんの後を追った。

「(・・・これって良い見世物では?)」

1人取り残された私は・・・そう思えて仕方が無かった。

















本当の初代様ならあんな凡ミスはしないですが、
ここの初代様は初代様であって初代様では無いので凡ミスを犯しました。
それの罰として比較的広場に近い所で正座をさせられるという羞恥プレイを喰らってます。
因みにですが、
葬式の描写は正座して待ってろと言われたため、
初代様は参加していません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話

そろそろカルネ村編終わりにしたい


村が再び騒がしくなり、
アインズさんはアルベドと一緒にそちらの様子を見に行っている。
その間の私はというと・・・正座をしている。
正直この鎧で正座は足が痛くなるどころか、
下手をすると所々尖ってる部分の所為でダメージを受けてそう。
なんだか周りの人達は少し慌しく大きな家へと向かっているけど、
私はいつまでこうしてれば良いんでしょう?

「・・・ん?」

暫くそうしていると、
立派な顎鬚がある人とアインズさん達は反対側の方角を見て待っている。
・・・あっちの方から何かが来るって事かな?
とりあえず下手に動く事は出来ないのでこのまま見て待っていよう。
まあアインズさんであれば問題無く対処できるかな、前衛タンク型のアルベドも居るし。
そう思っていると・・・私の予想通り。
さっきの全体的に青かった鎧を着た兵士ではなく、
今度は戦闘に精強な顔つきをした男性が見えた。

「(装備を見る限りはさっきまでの兵士達とは違うみたいだけど・・・。)」

敵か味方か、まだ分かったわけではない。
一応念の為不必要だとは思うけど・・・警戒だけはしておこう。

「(それにしても何を話しているのか全く聞こえない。)」

純粋に距離がありすぎるため、
向こうでどんな会話をしているのか全く分からない。
一応口の動きさえ見えれば読唇術で何とかなると思うけど、
これほど離れていたらなぁ。
そう思っていると・・・頭の中で再び何かが繋がるような感覚が来た。
これは間違いなく伝言(メッセージ)の感覚だ。

「(ハサンよ。)」

そう思って指を耳に当てると、
予想通りアインズさんからの伝言(メッセージ)だった。

「(どうした。)」

流石に二回目は無いと思っていた為、
今度は元の声ではなくハサンとしての声で応答した。

「(来い、少々面倒な事になった。)」

「(承知。)」

その言葉を最後に伝言(メッセージ)が切れた事を確認してから、
私は直ぐに立ち上がってアインズさんの元へと向かった。
















「・・・なんだこのモンスターは!?」

アインズさんの元へと着いた私は、開口一番精強な男性にそう驚かれた。
・・・失礼な。
私はこう見えてもうら若き乙女・・・ではないか。
どこをどう見たら身長2m越えの人がうら若き乙女に見えるのだろうか。

「・・・下「良い、アルベド。」

ふと見ると・・・アルベドが分かり安いくらい怒りに震えているのが見えたので、
何かを言う前に手を出して制した。

「我はこう見えてもモンスターではない。
宗教上の理由故顔を晒せぬが・・・この通り知性を持っている。」

正直人間ではないから敢えて知性を持っているって表現した。

「そういう事です戦士長殿。
この者の名はハサン・サッバーハ、私の友人だ。」

「おお、ゴウン殿のご友人だったか!
これは失礼をした・・・私の名はガゼフ・ストロノーフという。」

どこの馬の骨とも知れない私をアインズさんが自分の友人と紹介しただけで、
ストロノーフさんは自分の非を認めて謝罪をしてきた。
中々に気持ちの良い人だなぁ。

「ストロノーフ殿だな。
我が名はハサン・サッバーハ、
そちらに居るアインズの友人だ。」

名前を名乗られたのだから、
アインズさんから紹介されていたとしても自分からも言わないとね。

「・・・挨拶は済んだな。
少々時間が惜しい・・・早速村長の家へと向かうとしよう。」

アインズさんは頃合を見計らっていたのか、
私達の挨拶が済んだと同時に村長の家へと歩き始めた。














村長の家へと移動した私達は丁度開いている場所から村の外を見ている。
そこには法衣の様な物を着た魔術詠唱者達が、
等間隔で間を空けて村を包囲しているのが見えた。

「一体彼等は何者なのでしょう?」

私達と同じ光景を見ていたアインズさんは、
ストロノーフさんに向けて相手の正体を聞いている。

「・・・これだけの魔術詠唱者を揃えられるのはスレイン法国、
それも神官長直轄の特殊工作部隊の六色聖典の何れかだろう。」

ストロノーフさんはアインズさんの質問に対して確信を持って答えた。
・・・スレイン法国とはなんだろう?
多分どこかの国名の様な気がするけど・・・。
ただ口を挟むと要らぬ誤解を招きそうだったので、
ここは大人しくアインズさんに任せよう。

「・・・では先程、村を襲った奴等は。」

「装備は帝国の物だったが・・・どうやらスレイン法国の偽装だったようだな。」

「やはり・・・。」

やはりという事はアインズさんはある程度予想していたのかな?
それにしても偽装かぁ・・・うん、簡単に言うと気に喰わない。
ここで打って出て殲滅するのも良いけど・・・
まだアインズさん達の様子を見ておきましょう。

「ふぅ・・・この村にそんな価値があるのでしょうか?」

「なるほど、ゴウン殿に心当たりは無いか。
・・・となると、答えは一つだな。」

・・・なるほどね。
ストロノーフさんは随分と恨まれているみたいね。

「戦士長殿は随分憎まれているのですねぇ。」

アインズさんも同じ結論に至ったのか、
呆れたような口調でストロノーフさんへと聞いた。

「フッ、本当に困ったものだ。
・・・まさか、スレイン法国にまで狙われているとは。」

そんなアインズさんの口調に対しても、
別段気分を害していないとでも言うようにストロノーフさんは返した。
にまで・・・って事は。
恐らくは帝国にも恨まれているって事なのかな?

「(・・・それにしても。)」

まだ2人は話しているけど、
そんな2人を尻目に外に居る魔術詠唱者の近くに佇んでいる浮遊体を見た。
・・・その姿は、私達にとってはとても馴染み深いものだ。

「(アレって見間違いじゃなければ・・・炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)?」

そう。
その姿は紛れも無く炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)だった。

「(なんでユグドラシルと同じモンスターが居るんだろう?)」

正直言って分からない。
ん?・・・という事は。
他のユグドラシルのモンスターが居る可能性もあるって事?

「(・・・いや、早計かな。)」

そこまで考えた後、頭を軽く振ってその考えを消した。
情報の少ない今の現状で判断するのはちょっと危ない気がする。
決めるのは・・・もう少し情報が集まってからかな。

「・・・ゴウン殿、サッバーハ殿。」

「ん?」

「なんだ。」

丁度考えの切り替わりのタイミングで声を掛けられた為、
私とアインズさんは同じタイミングで声を発した。

「・・・良ければ雇われてくれないか?
報酬は望む額・・・は難しいかもしれないが、
満足頂ける額を用意しよう。」

へぇ随分と気前が良い。
ちょっと魅力的ではあるけど・・・。
とてもじゃないけどそんな額をストロノーフさんが用意できるとは思えないし、
向こうが何かしら私達が知らない切り札を持っていたら・・・危ないのは私達だ。
ここはちょっとだけ心が痛むけど・・・ストロノーフさん達で強さを測るとしようかな。

「お断りさせていただきます。」

「断る。」

アインズさんも同じ考えなのかは分からなかったけど、
また同じタイミングでストロノーフさんの依頼を断った。

「そうか・・・
ではゴウン殿にサッバーハ殿・・・お元気で。」

私達が同時に断る事は想定済みだったのか。
ストロノーフさんは嫌味の一つも言わないで清々しいほどの笑みを浮かべていた。

「だが・・・これだけは言わせてくれ。
この村を救っていただき・・・感謝する。」

ストロノーフさんはアインズさんへと歩み寄り、
ガントレットを装備している腕を取り固く握手をしながら・・・、

「本当に・・・本当に感謝する!!
そしてわがままを言っている事は重々承知しているのだが。
・・・もう一度、もう一度だけ・・・村の者達を守って欲しい!!!」

そうお願いをしてきた。

「(・・・自分は死ぬかも知れないのに、
見ず知らずの他人の事の方が心配、か。)」

その光景を黙って見つつ、内心ではストロノーフさんの評価を上げた。
・・・なんという高潔な人物なのだろうか。
その人柄は・・・とても好ましい。

「・・・良いでしょう、
村人の事はこのアインズ・ウール・ゴウンの名に懸けて必ずお守りしよう。
・・・良いな、ハサンよ。」

「無論だ。」

「おお・・・!!」

アインズさんの言葉に私はしっかりと頷き返し、
その光景を見たストロノーフさんは晴れやかな笑みを浮かべていた。

「ありがとう・・・!
これで後顧の憂いは無くなった・・・!
貴殿達のお陰で私は前のみを見て進んでいける!!」

「・・・では、こちらをお持ちください。」

ストロノーフさんの覚悟を聞いたアインズさんは、
手に木彫りの何かを乗せながらストロノーフさんへと差し出した。

「(アレって・・・課金ガチャのハズレアイテム?)」

そのアイテムを見たことがあった私はそんな感想を抱く。
・・・アレの効果ってなんだったっけ??

「おお・・・君からの品だ、ありがたく頂戴しよう!!」

差し出されたアイテムを一度だけ不思議そうに眺めたけど、
ストロノーフさんはアインズさんからの品という事で躊躇い無く受け取り、

「・・・では、お元気で。」

私達に頭を下げて・・・覚悟を決めた表情で村長の家から出た。

「・・・ご武運を。」

「・・・汝に祝福があらんことを。」

その様子を・・・私達は思い思いの言葉を送った。















ストロノーフさん達を見送る為に外に出た私達は、
馬に跨り敵に突貫していく姿を眺めている。

「・・・友よ。」

その姿を眺めつつ・・・私はある事を決心していた。

「・・・気配遮断状態であれば許可する、
だが危険を感じたならば直ぐに撤退せよ、これが最大限の譲歩だ。」

私が言いたい事が既に分かっていたのか、
呆れ半分嬉しさ半分といった声色でアインズさんは許可を出してくれた。
・・・私が決心した事、それはとても簡単な事。

「承知した。」

一言だけ返した後に、
アインズさんの言葉通り私は気配遮断を使用する。
・・・ここであの人物は死ぬべきじゃない。
ナザリックの為とかではないけど、
彼がここで死ぬのだけは・・・ちょっと許容出来ないかな。
だから・・・ちょっとだけストロノーフさんを助けてあげよう。
どうやらその思いはアインズさんも同じなのかな?
情報が少ない中では許可できないって普段は言うはずだけど、
条件付とは言え直ぐに許可を出してくれた。
アインズさんの精神がどうなってるかは分からないけど、
体はアンデッドになっているとはいえ、
少しだけでも人間の残滓が残っていると信じたい。
そう思いつつ・・・気配遮断のままストロノーフさん達の後を追った・・・。










「な、め・・・るなあああああああ!!!」

普段通り歩いてストロノーフさん達の後を追っていた私が戦場に着いた時には、
既に配下の者達は全員倒れ、
自身も傷だらけの状態のストロノーフさんが咆哮していた。

「俺は王国戦士長!!
この国を愛し、守護するもの!!
王国を汚す貴様に・・・負ける訳にはいくかあああああああ!!!!」

・・・それは、魂からの咆哮だった。
全身傷だらけ、身に纏う鎧も既にボロボロ。
しかも配下の者達は全員既に動けない。
それなのにストロノーフさんは・・・、
その言葉通り、愛国心のみで自身を奮い立たせていた。
そして・・・その姿はあまりにも美しく、気高く映った。

「フッ、そんな夢物語を語るからこそ・・・貴様は今ここで死ぬのだ。
ガゼフ・ストロノーフよ、その体で何が出来る?
お前を殺したのに、村人達も殺す。
無駄な足掻きをやめ、そこで大人しく横になれぇ。
せめてもの情けに・・・苦痛無く殺してやる。」

・・・今、コイツなんて言った?
ガゼフを殺した後・・・村人も殺す?
打算はあるとはいえ・・・折角我等が助けた者達を・・・殺すと言った?

「ク・・・クックックックック。」

しかしその言葉を聞いたガゼフは、
心底可笑しいものを聞いたとばかりに笑い声を出した。

「・・・何がおかしい?」

その態度が気に触ったのか。
アレは不愉快そうに吐き捨てるようにガゼフへと聞いた。

「・・・愚かなことだ。
あの村には・・・俺よりも強い御仁が居るのだぞ。」

アレが吐き捨てるように言った言葉に対し、
確信を持っているかのようにガゼフは答えた。

「・・・ハッタリか、まあいい。
・・・天使達よ、ストロノーフを殺せ!」

アレはガゼフの言葉をハッタリと決め付け、
傍に居た大量の天使達へと命令を下した。

「(・・・もう良いか。)」

恐らくこのまま放っておけば、
アレの言葉通りガゼフは死ぬだろう。
だがそれをさせぬ為に・・・我はここに居る。

「(打って出るか。)」

手に持つ幽谷の剣を力強く握り締め・・・その場で天使達へと一閃を放った。
ただ・・・それだけだ。
我がした攻撃はそれのみだ。
ただ・・・それだけで。
ガゼフを襲おうとした天使共は消え去った。

「「なっ!?」」

その光景を目撃していた人物達は全員驚愕する。

「・・・ストロノーフよ。」

「き・・・貴殿は・・・!!」

その場で悠然と佇みながら、
今にも倒れそうなガゼフへと声を掛けた。

「汝の輝き、しかと見届けた。
故に・・・我は汝を救おう。」

ゆっくりと歩きつつ・・・ガゼフへと我は声を掛ける。

「・・・フッ、俺の依頼は断ったのではなかったか?」

我の姿を目にしたガゼフは気が抜けたのか、
気合のみで立っていた足が崩れ落ちた。

「その様な些事、気にするな。」

敵が目の前に居ると言うのに我等は談笑をしている。

「・・・礼を言う。」

・・・しかし、流石にガゼフは限界が来ていたのか。
その言葉を発してから・・・完全に気を失った。

「・・・息はあるか、ならば良い。」

「だ、誰だ貴様は・・・!!」

唐突に現れた我に対し、
アレは最大限の警戒だろうか?
すぐさま命令を下せる状態のまま我に向かって叫んできた。

「・・・名乗る程の名は持たぬ。」

「なんだと・・・!」

「だが・・・我に挑もうとする蛮勇を称え敢えて名乗るとしよう。
しかとその記憶に留めよ・・・幽谷の淵より、暗き死を馳走しに参った。
山の翁、ハサン・サッバーハである。
晩鐘は汝等の名を指し示した。
汝等の命、天命のもとに剥奪せん―――!」




























次回、ただの蹂躙

アインズ様が何故簡単に行くことを許したかというと、
気配遮断を使用していたとは言え、
その場に居た階層守護者全員が気付かなかった事を省みて、
釘を刺しておけば物指しさんを見捨てて退却してくれると思っていたからです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。