病み琴子(※未完終了) (猫目)
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1話

それは1992年3月28日午後4時の事だった

 

 

「ゆーきちゃん…ここ…どこ?道は覚えてる?」

「道は覚えてるけど…心配なら帰る?」

「…うん、もうすぐ夕方だし、今日はお家帰ろう?」

 

春休みを楽しむ少年と少女がいた

まだ小学二年生で、自分に見える世界しか信じず

何時までもこの日常が続くと信じる無垢な子供達だった

 

「じゃあ光、しっかり手を握ってろよ!」

「うん!」

 

遠出した事に不安がる少女を安心させようと

少年は少女に言い聞かせ、しっかり手を握る

昨日、かすみおねーちゃんと約束したのだ

 

『やっと見つけた、…大丈夫よ、光ちゃんはほら眠ってる』

『勇気くんは反省してる?』

 

 

『走るなら、光ちゃんを置いていかないようにしっかり手を握ってね』

 

 

その言葉は少年の芯に響いた

ただでさえ春休み初日に浮かれて走り回り、

最後は裏山で遭難して、更にはぐれてしまい、お互いを探し回った

TVで言ってた『はっこうだ』という人と同じだ

 

「ゆーきちゃん、早いよ!転んじゃう!」

「えぇ…光はだらしないなぁ、頑張れ!」

「そんな事言われても…無理だもん」

 

子供達は仲良く手をつないで、

少年は有り余る活力に身を任せ走り、

少女はそんな少年に苦言しながら、

知らない道から抜けようと小走りに走り

 

「あっ!?」「えっ!?」

 

ドッと鈍い音がした

 

「イタイっ!」

「っあ…う?…うぅぅ」

 

角を曲がる所で少年が帽子を被った子供と衝突した

前方不注意に走った少年が悪かったのだろう

少年はよろける程度で済んだが、相手は盛大に尻餅をついた

 

「だっ、大丈夫!?」

「ぅ…ぐすっ…う…う…ひっぐ…」

 

少女は子供に声を掛ける

涙を堪えていた子供はその言葉で限界になった

帽子で隠した涙が少女の気遣う声に甘えてしまった

 

 

「う…ウワァァァぁん!!」

「ご、ごめんな!ごめん!」

「ごめんね、ごめんね」

 

泣き出した少年をなんとかしようとする二人

しかし一度泣き出した子は親でも止められない

どうしたものかと二人が困り果てた時

 

「おーおー、泣いとる泣いとる」

 

すぐ頭上のタバコ屋が話しかけてきた

嗄れた老婆の声に驚いた三人は騒ぎが止まる

 

「確か水無月ン所の孫だね」

「え?」

「ちょっと待っとりな。電話して迎えを呼んであげようか」

 

そう告げて奥に引っ込んだ老婆を眺めていた子供達は…とりあえず尻餅をつく子を立ち上がらせた

さっきは慌てていてそれどころではなかったが服装が女の子だ

髪は短く、長髪の光と並ぶと男の子かと思うぐらい短かった

 

「えっと…ごめんなさい」

「え…あ、わたしも…ごめんなさい」

「あ、謝らなくていいよ!悪いのは私達だから」

「…う、…うん」

 

ショートヘアーから活発な子かと思ったが随分と大人しい子だ

何処か怖がりながら二人の顔色を伺うように返事をする

そこでふと、自分が帽子を被っていない事に気付いて慌てて被り直した

 

「えっと…女の子…だよね?」

「…うん」

「え?でも髪が短いぞ?」

「ゆーきちゃんは黙ってて!べ、別に髪が短くても動きやすくて良いよね!」

「あ、うん。楽だし」

「…え?」

「…楽、だから」

 

光が何か特別な理由で髪が短めなのだとフォローに入った

『この子、可愛いし髪が長い方が似合う!仕方なく髪を切ったんだ!』との思いやりだが…

『身だしなみが簡単だから切ってる』という答えが帰ってきた

 

「ら、く…らく?」

「うん…」

「…そ、そっか」

「お風呂とか時間かからないから…」

「そっ、そーなんだー」

 

ただそれだけの理由で女の子である事を捨てる存在

陽ノ下光、9歳、自分の理解できない人間とのファーストコンタクトであった

そんな光がドン引きしている間に、少女が立ち上がる

『とりあえず話を終わらせよう、どうやって終わらせよう?

そうだ、気遣いながらこの子の服の埃を払おう、そうしよう』

陽ノ下光、9歳、処世術というものを体得した瞬間であった

 

「スカート汚しちゃった…ごめんね」

「あ…うん、大丈夫…大丈夫…」

「僕もやr『ゆーきちゃんはダメッ!!』え…?」

「ッ!?」

「え…あ…男の子が女の子のスカートに触っちゃダメだからね」

「あー、そっか」

「ありがとう…」

 

少年に手を出させなかったのは正しい

だが、言った光自身は自分の大きな声に違和感を覚えていた

…これは、そう。かすみおねーちゃんと似てる

 

「琴子ー、大丈夫かいー?」

「あっ!おばあちゃん!」

 

そう考えていた時、少女の祖母が迎えに来たようだ

先程までの大人しさが潜み、年相応の子供の声で祖母に答えた

 

「よしよし、二人共ありがとうね」

「は、はい」

「ううん!私達が悪かっただけです」

 

祖母が少女…琴子の頭を撫でながら二人に礼を述べた

だが妙な威圧感を感じ、二人共畏まってしまった…

 

「わざわざ電話ありがとう。でもよく琴子の顔覚えてたね?」

「こちとら旦那が逝ってもう40年はタバコ売ってんだ、客商売ナメんじゃないよ」

「はー、なのにどうして客の買う銘柄は覚えられないんだか」

「それは黙ってておくれよ…アンタ達は何だっけ?ききょうとしんせいだっけ」

「ききょうはもう5年ぐらい前に無くなったろ?」

「ああ、それで山吹に変えたんだったね」

「山吹は納得いかないって言ってるだろう…小粋をおくれ」

「あー、そうだった小粋だね!そういや確かききょうは80年辺りまでだったね」

「はいっ!?もう10年も前なのかい!?…う、嘘だよね?」

「いーや、覚えてるよ。アンタがその子を見せに来る頃にはとっくに生産終わってた」

 

二人の老人が雑談に花を咲かせる

 

「私は光だよ!陽ノ下光!」

「僕は勇気!小波勇気!」

「私は、水無月琴子」

 

その間に三人の子供達は自己紹介をし合い、交流を育んでいた

 

「琴子ちゃんは近くに住んでるんだ?」

「でも学校で会った事無いなー」

「私、少し遠い私立の小学校だから…」

「そうなんだ」

「何か私立は頭良いって聞いた事ある、頭良いの?」

「…どうなんだろ?」

 

全員まだ小学生の、それも低学年の身

学校による学力の差異は良く分からない

一応、お互いの授業を話し合ったが…

 

「琴子ちゃん、すごく頭良いんだね!」

「僕達の知らない算数なんて凄いな!」

「でも、学校が違うだけだし…」

「それでも凄いよ!」

「そうそう!」

「う、うん…ふふ」

 

琴子の学力は想像以上に高かったらしい

二人は褒められて破顔する琴子を眺めながら

学校の違いとはここまでのものなのかと開いた口が塞がらなかった

 

「何いってんだい、アンタはその記憶力で力技やってるだけだろうに」

「あ、おばあちゃん!言っちゃダメ!」

「二人共、この子は覚える事が得意だからってテストの日しか勉強しないんだ」

「やめ…やめて、言わないで」

「普段は授業聞いてないから抜き打ちのテストだと途端にダメになっちゃうんだよ…困った子だ」

「あー、おばあ…言っちゃった…」

「言われたくないなら普段から勉強おし」

 

思わぬ所からの口撃だった

そして学力のタネを明かされた琴子は帽子を深く被って顔を隠す

しかし…

 

「かすみおねーちゃんが言ってたよ!簡単に覚えられる人は凄いって!」

「ちっ近い、顔近いから…かすみおねーちゃん?」

「うん、近くに住んでるおねーちゃん!凄く頭良いのに、羨ましいって言ってた!」

「そ、そうなんだ…」

「…むぅ…うーん」

 

少年が帽子を掴む手を握り称賛した

下から覗き込むような体制は不慣れなのでやたら顔が近いのがマイナス点だが

その状況が、光は何故か面白くない、何故なのかも分からない

 

「ハハハ、面白い子達だね。二人共、暇なら琴子と遊んでやってくれないかい?」

「うん!」

「良い返事だ!どうもこの子は内気でね…友達らしい友達なんてロクに居ないんだよ」

「お、おばあちゃん!」

「そっちの子も…光ちゃんだっけ?どうだい?」

「え、あ、はい!勿論です!」

 

子供らしくない不穏な空気を感じた琴子の祖母が、その流れを崩した

そしていい加減、夕日が落ちてきた事に子供達は気付く

 

「うわぁ、もう帰らないと!」

「じゃあここでお別れかね。寄り道せずに帰りなよ」

「はい。あ…琴子ちゃん、次はどうやって会おう…」

「何処か分かりやすい所で待ち合わせるのが良いと思うけど…」

 

琴子が考えるが正直、詰まっている

二人はここの土地勘が無い、自分は別の土地勘が無い

待ち合わせする場所…図書館とかどうだろう?

と、思っていた時に少年が声を挙げた

 

「よし!それじゃ、明日ここに集まろう!」

「じゃあ先に来た方はこのババアの家で寛いでりゃ良いだろ」

「ちょ!?…アンタねぇ」

「構わないだろ?どうせ息子夫婦の同居案を蹴って道楽でやってるだけじゃないか」

「…ハッー、全く…好きにしな。待ってる間の茶と菓子程度なら出してやるさ」

 

それに琴子の祖母が相乗りして無茶を言う

無茶を言われた側の老婆は…何処か嬉しそうだった

 

「じゃあ琴子ちゃん!また明日ね!」

「琴子ちゃん、またなー」

「うん、光ちゃんも勇気君も…またね!」

 

いつか必ず出会う運命の三人、しかし何処かがズレて随分早い出会いとなった

これによりある物語は、多くの指向性を持つIFは完全に崩れる

何処かの誰か達にとっては異常も異常の出来事であったが、

三人にとっては「友達が出来た日」だった…

 

「ちょっとちょっと!タバコ買うの忘れてるよ!」

「あー!そうだった!」

「小粋もしんせいもアンタ達しか買わないんだから…もっと顔見せな」

「小粋は煙管だから分かるけど…しんせいもかい?」

「ああ、若いのは吸い方知らないからフィルター付き。しかも、しんせいは人気低く…あ!」

「…どうしたんだい?」

「しんせい品切れだった…そうだった、こないだ和美ちゃん来てたの忘れてたよ」

「あー、確か爆裂山も吸ってたっけ」

「アンタん所のも和美ちゃんも元気だねぇ…何時くたばるのやら?」

「さあ?ウチのはしんせい無くなるまで生きてやるって言ってたよ」

「なんだいそれ…あと30年は生きてそうだねぇ…」

 




あとがき

ときメモ2主人公の名前は小波 勇気(コナミとメタルユーキから)です
琴子の祖母が喫煙者とかは完全にオリ設定です
あと、タバコの銘柄については作者の好み100%です
爆裂山校長がタバコ吸うの?と思うかもしれませんが、声優さん繋がりだったりします
校長ボイスの納谷悟朗さんはルパン三世の銭形警部の声優を長く担当されていて
「あの頃のとっつあんの声」です。10年に引退し、その僅か3年後に死去されました…。
その銭形警部の吸うタバコが『しんせい』なのです
70年程続くロングセラーなのにwikiでは、最も有名な愛煙家が銭形警部…
いえ、銭形警部に文句は無いしありがたいのですが…安タバコなのに最高額という矛盾がちょっと…
多分、2020年辺りに販売終了しても何もおかしくないでしょう


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2話

原作の流れの部分はスルーで
ぶっちゃけ幼年期を真面目に書くと短編じゃ間に合わなくなる




 

あの4日間の事は良く覚えている

私に初めて友達が出来た日からの4日だ

彼に会えなくなるまでは本当に色濃くも早い4日だった

 

初めて友達と歩いた

右も左も分からない道を二人に両手を引かれて

縁日の時間まで勇気君の家でワイワイ騒いだ

 

初めて友達と縁日に行った

二人共、疲れ切った私に合わせて

ゆっくり休みながら取り留めの無い会話を楽しんだ

 

初めて友達と遊園地に行った

華澄さんと出会い、引率してもらいながら…

一応、おばあちゃんも来たけど自分の事で手一杯だった

よく子供3人を中学生1人で面倒見てくれたものだ

今でも華澄さんには頭が上がらない

あの時、無邪気に手を引っ張ってくれた2人にも頭が上がらない

 

 

そして最後の日…何故かおばあちゃんに朝早く起こされ、

二人の家に連れて行かれ…そして…

『大きくなったらあの高校に3人で行こう』と約束した

 

 

「琴子、どうすんだい?奨学生待遇で来てたんだろ?」

「…え」

「琴子、しっかりして。どうしたの?ボーっとして」

 

えっと…まず私は何をやっていたっけ?

ああ、そうだ

何時ものタバコ屋の奥で光とお茶を飲みながら話をしていた

そこでタバコ屋のおばあちゃんが話しかけてきたんだった

…中学校の推薦…いや勧誘と言って良い程の高待遇について

 

「そう…ね」

「…琴子、私は行って良いと思うけど…行かないの?」

「…でも」

「琴子に来たのは、確か他県の私立中学校なんだっけね?」

「はい…たまたま真面目にやった時の成績に目を付けられちゃって…」

 

その中学校は正直遠すぎた

家から通うなんて冗談じゃない

だがお金をかけた中学校らしく、寮もあるらしい

 

「これがそこのパンフレットかい?…ふーん」

「どうかな?私立の良い所だと思うんだけど…」

「うーん…琴子…どうするの?もう他の入試手続きまで時間無いよ?」

「ホント遠いねぇ…ヘタに電車乗るより飛行機の方が良さそうだ」

「琴子…」

 

光が話しかけてくる

正直、今は光と顔を会わせるのも辛い…止めてほしい

そんな想いも虚しく、私の親友は一気に踏み込んできた

 

 

 

 

「別に私の事で遠慮しなくていいんだよ」

 

 

「もえぎの中学校、行って良いんだよ」

 

 

私より先にゆーきちゃんに会って良いんだよ

 

 

__________________________________________

 

 

 

 

 

「光…あなた…」

「ゆーきちゃんも学力上がれば、ひびきの高校に来れるでしょ?」

「でも…それは…」

「私、酷い事言ってるんだよ?向こうに行って奨学生やりながらゆーきちゃんの学力上げろって」

 

確かに一番の問題はソレだ

私達が困っているのは、勇気君の学力不足で『ひびきの高校で再会』という約束が難しくなる事

それが本格的に難しくなった今、これは渡りに船と言って良い

 

「あー、何でゆーきちゃん外国に行っちゃうかなぁ…」

「落ち着きな光、今更どうこう言っても変わらないだろ?」

「うぅ…でも、まさかオーストラリアだなんて…英語は良くなるだろうけど…」

「現地で鍛えられりゃ喋りなら問題無くなるよ、問題はテストの殆どが文章って事だけど」

「…え?」

「アタシも色々やってたからね。英語と中国語の会話だけならお手のモンだよ。でも書くのは微妙だ」

 

…色々やってた事はあまり聞きたくない

何せおばあちゃんに対して家族以外で敬語抜きの会話をして

時折、「あの時、和美ちゃんやひとみがムチャクチャしなけりゃねぇ…いや、それじゃ響野城は無理だったか」

とか「あそこで水無月来なかったら全滅だったねぇ」

とか物凄く意味深な独り言を呟く

正直、聞くのが怖い…おばあちゃんもとんでもない何かに関わってるんじゃないの…?

 

「それじゃ英語もそこまで…ゆーきちゃん、日本語は大丈夫かな」

「多分、漢字は何とかなると思うわよ…多分ね」

「お?何か対策立てたのかい?」

「何でも親が日本の豪大使館に勤めている子と仲良くなって、一緒に日本語の勉強やってるらしいわ」

「大使館…名前は分かるかい?」

「ええ…確かパットという子だとか…」

「パット…パトリシア…女の子かい」

 

正直、困る

光だけでも関係が酷く拗れて勇気君が関わると冷戦みたいになっているのだ

これ以上荒波立てるような自体にはならないでほしい

おばあさんが『パトリシア?…豪大使館の父…ああ、マクグラスか』

とか言って当たりを付けているのも頭に入らない

…待って、おばあさん当たりどころか確信してる?

 

「琴子、悪い事は言わない。行ってきな」

「え?」

「マクグラスと日本語を学ぶとか不味すぎる」

「…どういう事?おばあさん?」

「あの家、日本語は日本語でも関西弁なんだよ…」

「ええぇ…」

「しかもアッチの家は日本語をニュアンスで聞き取るだけで本当は半分も理解出来てないんだ」

「えぇぇぇぇ…」

「父親がソレで敏腕外交官やってきてるんだ、その娘と勉強しても…不安しか無いよ」

「「」」

 

よくそれでやってこれたな外交官!?と呆れを超えて声も出ない

…いや、言葉以外で理解するからこそなのかもしれない?

例えば相手が本当に求めてるもの、隠したい事が分かれば…?

 

「可能な限り、早く坊やと合流して、缶詰にする勢いで勉強詰め込むしかないね」

「そんなに不味いの?」

「そりゃそうだ、漢字は小学校で習うのが殆ど全部だろう?それが抜けてるとか半分以上は虫食いの問題文を見るようなもんだ。更に言えば日本語への勘ってもんが出来上がってない」

「確かに。それに歴史関係も危ないでしょうし…」

「でも、小学三年生までは日本だったから何とかなるんじゃないかな…3年間もやってたし」

「光、思い出して。その頃に学んだ漢字はどうだった?特に画数」

「…画数、少ないものばかりだったような」

 

本当に小学三年生のままの漢字力だとすれば入学試験すら危うい

龍とか画数が多すぎる漢字は滅多に無いが、10画ぐらいまでの漢字はとても多い

そもそも年単位で日本語から離れているのが怖い

英語は良くなっていると思う…が、もえぎの中学校の入試の英語がどれぐらい評価されるのか…

 

「うん…私、行ってきます」

「お願い、琴子…頑張って」

「善は急げだ。早く家に帰って、向こうの気が変わらないうちに返事をしてあげな」

「はい」

「じゃあおばあちゃん、私も帰るね」

「気が向いたらまた来なよ」

 

 

 

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

光抜きで勇気君に会うのは悪いから…とか言ってられない

ヘタをすれば中学入試に落ちてしまう

彼のひびきの高校への入学、そしてひびきの市への転居は彼が学業で躓かない事が条件になっている

そこまでやれば父だけ単身赴任させると…何故かおばあちゃんが交渉した

それなのに中学入試で躓いてしまえば、もしかしたら二度と会えない?

 

 

そんなのは嫌だ

 

絶対にそれだけは嫌だ

 

 

 

行こう、光と彼を再会させる為に

私の大切な友達を再会させる為に

 

だから…だから…

何も考えず、友達との再会だけを喜んでほしい

 

 

運が向いているとか考えないように

光抜きで会える事に喜ばないように

 

 

 

鏡を見るのが怖い

私は今、どんな顔をしているのだろう

お願いします、何時もの顔でありますように

 

決して、決して

親友の想い人を、初めての友達2人を

その仲を引き裂けると喜ぶような

浅ましい顔をしていませんように

 

 

 

 

 

____________いいんだよ____________

 

______私より先に会って、思い通りにして良いんだよ______

 

 

 

___________二度と会えないのは絶対に嫌_____________

 

 

_________________じゃあ____それ以外は良いんだ__________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

珍しく、兄さんと長く話した

誰にも見せられないからと

鏡で切った両手を消毒して、包帯を巻いて貰って

更に、鏡を割ったのは兄さんだと言わせてしまった

ロックがどうとか適当な嘘を言わせてしまった

 

 

お父さんとお母さんは私の怪我を見て兄さんを問い詰めたが

おばあちゃんの一声でそれは終わった

 

 

 

 

 

私は何をやっているんだろう

 

 

 







あとがき
分かる人には分かりますが二つ、ときメモ2ではないナンバリングのネタがあります
1つはもえぎの中学校。これは3のもえぎの高校から派生しました…つまりときメモ3の舞台です
もう1つはパットというオーストラリア人。
GB版のときめきメモリアルポケットで追加されたキャラの1人、パトリシアの事です。
実際の国籍は不明ですが、オーストラリアの可能性を匂わせたので…


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3話

時間をガンガン飛ばしてようやく原作寸前です





 

 

『では、アレはあなたのお孫さんの仕業だと?』

「ああ、あの子が電話で泣きながら言ってたよ」

『…なんと?』

 

「ごめんなさい、知らなかった…ってね。まぁ、簡単な事さ」

 

 

 

 

 

 

 

「あの子は、今年の女社を独占した」

 

 

 

 

 

 

『確かアレ等はもえぎの高校の私有地に…あなたのお孫さんはまだ中学生では?』

「だからだよ、分かってりゃまずやらない。分からなきゃ出来ない」

『では偶然、迷い込んで…更にたまたま…と?』

「いいや…あの子は呪われ、流され、やっちまったんだろうね」

『呪われ…』

「あの子は重いモノ抱えてたからね…それを使われたんだろう」

『…』

 

 

暫くの沈黙…そして受話器から女の疲れ切った溜息が聞こえた

老婆はそれに弱く唸る事でしか返せなかった

 

 

 

 

『つまり、あの坂は不安定なままだったと…?』

「残念だけど、そうなるね…」

『大戦で無理矢理裂かれた縁が、こんな結果になるだなんて』

「在校生に赤紙とかタイミングが悪かった…だから可愛いおまじないが呪いにまで至った」

『どうします?ウチは…その…伝説の樹で…』

「鐘も樹も何とか可愛い呪い程度に落とせたけど…しかしアンタん所が羨ましいね」

『そうでしょうか?病弱で、親としては毎日が不安です』

 

 

女の震える声に老婆は溜息をつき返した

 

 

「アンタはその解決の為にわざわざ越してまできたんだろ?」

『でも、未央の体に何かあったら…そう思うと恐ろしいんですよ』

「大丈夫、あの学校には在校生が死なないような呪いもかかってる。あと少しでアンタの勝ちだ」

『…』

「わざわざ皐月の場所に話も付けずに乗り込んだんだ。やるだけやりなよ」

『…そう、そうですね』

「理由が理由だし騒ぎ立てないだろう。もし何かあったらアタシに言いなよ」

『はい、ありがとうございます』

 

 

そして老婆は受話器を降ろし息を吐く

 

「どうするかね…まさか琴子が伝説の坂を乗っ取るだなんて」

「動ける奴は…駄目だ。あっちは力技で何とかとしてたっけね…出来るもんならとっくにやってるさ」

「やれやれ…鐘の目処が付いた矢先にコレか」

 

煙管に細く刻まれた葉を入れ、火を付け、啜るように軽く吸い込む

 

「…フッ!」

 

軽く吸いこんでは一気に吐き出す

やがて葉が全て燃え尽きる頃に纏まった考えをぼやきだした

 

「まぁ、あの子はもう正気だし、こっちに帰ってくれば安心だ」

「問題は今年のは未成立で来年は一気に倍化…学生全員、いや教師も巻き込む恋愛事だらけかぁ」

「政府辺りにバレるのは別に構わないね、むしろ使えるものなら使いこなしてみな」

 

 

「…うん、やっぱり不味いね」

「あの子が手放す…無理だろうねぇ」

「琴子はだんまりだったが、男社は勇気ちゃんのはずだ」

「でも…どうして急に琴子がこんな事…を?」

 

 

暫く動きを止めた後、急に荒れたように煙管の首を捨て皿に叩きつける

木製のそれは長年の痛みに耐えきれず、僅かに罅割れた

 

「そうだ!あの鐘も昔の樹もアッチに捨てたんだ!」

「だから近くに居た琴子に干渉して坂に繋げた!」

「ああそうだ!琴子なら都合が良い!好きな子が居て地元の人間で一途だ!」

「伝説め…最後っ屁も面倒臭いたっらありゃしない…!」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、勇気ちゃんだけ先に帰って来たんだ?」

「ああ、俺の分だけでも荷解きやっとけってな」

「おばさん帰ってくるのは夜かぁ…これは何?」

「ん?それはアイスクリーム作る用の道具だ」

「え?アイス作るの?」

「ああ、何だかんだで評判良かったんだぞ」

 

 

少年と少女はダンボールだらけの一室で荷解きを行っていた

光という予想外の応援のお蔭でもう小物の整理ぐらいしか残っていない

持つべきものは友だと勇気は深く感謝する

 

「勇気ちゃんがアイス…似合わないなぁ…」

「何だと?矢部って奴が食い過ぎでデブになったぐらいだぞ」

「えぇ…アイス食べ過ぎで太るって…どれだけ食べさせたの?」

 

何せ7年振りに会えたのだ

作業しながらでも会話は止まらない

そして、どうという事のない雑談を二人は楽しんでいた

 

「3年間」

「え?」

「一度食べさせたらずっと作れ作れとうるさかった」

「中毒なの?そのアイス、麻薬みたいなもの入ってない?」

「…原材料、まだ少し残ってるけど…食べてみるか?」

「原材料!?怖いよ!食べたくないよ!」

 

 

どうという事のない?雑談を二人は楽しんでいたのだ

 

「食うと胸がスカッとするし元気も出るし怪我も病気もノイローゼも治ると評判で…」

「明らかに危ない何かだよ!?人の身には過ぎた代物だよ!!」

「でも白鳥は美味いけど依存するからって遠慮したな」

「良かった…!良かった…!強い意志の人は…いたんだ…!」

 

どうという事のない?雑談?を二人は楽しんで?いたのだ

 

「琴子は風邪引いても食べなかったな」

「あっ…」

「琴子もアレが原材料なのを知ってるから、それで食べたくなかったんだろう」

「…そうなんだ」

 

今は居ない、もう一人の名前が出た所で光の表情が消えた

そして明らかに変わった態度に勇気は気付かない

 

「あとちょっとで、また3人一緒だな!」

「…うん、そうだね」

「あの時は俺がすぐ引っ越したからなぁ、今度こそ山とか行こうぜ」

「遊園地ぐらいだったもんね…」

「かすみおね…華澄さん、元気でやってるかな?」

「…教師になるって言ってた」

「…光?」

 

作業の手を止め、静かになった光にようやく気付く

 

「あの後ね、大変だったんだよ」

「…」

「琴子も私も…わんわん泣いて…」

「本当、ごめんな」

「…ううん、勇気ちゃんは悪くないよ」

「それでも…な」

「うん…」

 

そして二人とも黙り込んだ

外も車の流れが止まり静まり返る

聞こえるのはカーテンのはためきと、風に煽られた緩衝材のざわめきだけだった

 

「ねぇ」

「ん?」

「琴子…」

「琴子?」

「うん…」

「琴子が、どうした?」

「呼び方…変わったね」

「ああ、それか」

「…うん、ソレソレ」

 

あの時の勇気は『琴子ちゃん』と呼んでいた

だが、今は呼び捨てだ

光が言ったのはそれだった

本題はその先なのだが、聞くのは怖かった

 

「いや、流石に中学生でちゃん付けは不味いだろ」

「そうかな?」

「俺、男だからな」

「あ、そっか。からかわれるんだっけ」

「でもいまさら名字で呼ぶってのもおかしいだろ?」

「うーん」

「お前を陽ノ下って呼ぶ事になるぞ?気持ち悪いだろ?」

 

光の知る限り、小学三年生頃に男子のちゃん付けが無くなった

男女共に距離が生まれ、仲良くしている子は囃し立てられ

昔は名前で呼び合っていた仲が、何時の間にか名字呼びになっていた

 

「男の子が一方的に女の子を気にしてるだけなんだよなぁ」

「でもそうしたら男友達居なくなるからなぁ」

「オーストラリアではどうだったの?」

「ああ、日本と比べれば男女間は断然良かったな」

「やっぱり外国はそんな感じなんだ」

「だから日本に帰って中学入った時は本当に困った」

「女子に気楽に話しかけてナンパ扱いされたとか?」

 

 

 

「いや、琴子と恋人なんだと散々からかわれた」

 

 

 

一瞬で、光の時が止まった

 

 

「へ…え、大変だったね」

「お互い名前呼びだからな、否定しても言うんだよあいつら」

「ふぅん」

「外国帰りと奨学生、どっちも目立つのもあったんだろうな」

「そっか」

「矢部は俺から琴子の事を聞き出そうとするし…」

「うん…うん?」

「あいつ、女の子なら殆ど好きなんだよ」

「え…えぇ」

「流石にスリーサイズ聞いてきた時は絶句した」

「アイス漬けになってよかったよその人」

 

それに気付かず話す勇気によって、流れは戻り

 

「流石に水着姿を何度も見たってだけで分かる訳無いだろうに…」

「え?」

 

また止まった

 

「ああ、夏休みになると琴子とプール行ってたんだよ」

「…他の人は?」

「いや、二人だけで」

「…」

「どうした?」

「あのさ、そうやって琴子を誘う事、多かった?」

「いや、別に多くないぞ」

「そっか」

「奨学生だからって生徒会とかやらされて、ストレス溜まってる時に誘ったぐらいだ」

「琴子、そんな事までやらされてたんだ」

 

奨学生は大変だと、嫉妬した自分を恥じる光だった

 

「そういや高校の部活どうしようかな」

「私は陸上部に入るつもりだよ」

「陸上部があるのか。そういやあの高校大きかったな」

「勇気ちゃんも琴子も学校見学に行けなかったんだよね」

「ああ、遠いからな…合格通知も郵送だったし入試の時だけだな」

「入試の後もすぐ帰らなきゃって事で会えなかったもんね」

 

 

そう、今まで3人揃う事は全く無かった

小学生の頃は子供過ぎて会えず仕舞いだった

中学生になって電話出来るようになったがそれも稀だった

入試で会えると思っても結局会えず終いだった

…ようやく全員揃うのだ

 

 

「滑り止めに受けたのは本来の転居先の方だったからなぁ」

「で、見事合格したからおじさんだけ単身赴任…大丈夫かな?」

「まぁ、父さんも独身時代あったし大丈夫だろ」

「ご飯とか大変だと思うけど」

 

そんな事を話している内に時は進み、部屋に西日が入ってきていた

 

「…そろそろ切り上げよう、腹減った」

「そういえば勇気ちゃんはご飯どうするの?」

「出前」

「何で引っ越しすると出前なんだろう?外に食べに行っても良いんじゃないかな」

「嫌だ、もう疲れた。朝イチにこっち来てからずっと荷物解いてたんだ」

「あぁなるほど」

「更にここらへんの土地勘なんて殆ど残って無いから外に出たら迷いかねない」

「そういえば勇気ちゃん、迷子になりかけてたっけ」

 

昼過ぎに光が応援に来た時、迎えに行った勇気が逆に迷子になりかけたのだ

何とか合流出来たが随分と手間取る事になった

 

「何にしようかなー、光はどれにする?」

「うーん…って、もうすぐ夜だし帰らないとだよ」

「…あ、そうか。もう家が隣じゃないんだったな」

「うん…そうだね」

「あの頃は夜食べてく事もあったからなぁ」

「懐かしいね、おばさんの料理美味しかったなぁ」

 

勇気が出前のビラを床に置いて立ち上がり、光は上着を着てリュックを背負う

 

「…あ、そうだった」

 

そしてリュックを下ろしてチャックを開けた

 

「ん?忘れ物か?」

「うん、お腹空くだろうからって、軽く食べれるもの持ってきてたんだ」

「お、サンドイッチか」

「出前頼んでも来るまで時間かかるでしょ?食べて食べて」

「おう、それじゃさっそく!」

 

光にとってそのサンドイッチは結構頑張ったものだった

別に料理下手な訳ではなく、どの具材にするかで相当悩んだのだ

何せようやくの再会だ、美味しく食べてほしい

勇気が食べるのを眺めながら光は物思いに耽る

あの頃の日常が帰ってきた、やっと帰ってきたんだ…と

 

「ごちそうさま」

「わ!?もう食べたんだ?」

「うん、美味かった」

「えへへ、お粗末さまでした…と言っても具材を切るぐらいしかやってないけどね」

「それでも美味かったよ、ありがとな光」

 

その言葉が嬉しくて、嬉しさを抑えきれなくて

そんな自分の破顔を見られるのが恥ずかしくて

そそくさとリュックを背負う動きで顔を隠した

 

「ふふふ、それじゃ私は帰るね」

「ああ送るよ」

「んーん、玄関までで良いよ」

「そっか?」

「だって帰り道で迷子になったら大変でしょ?」

「…お前なぁ」

「冗談だよ、冗談」

 

笑ってもおかしくない話をして顔を向ける

 

「にしては笑いすぎだろ」

 

しかしどうも顔を元に戻せていなかった

 

「だって…こんなやり取り出来るのが懐かしくて」

「…うん、そうだな」

「それじゃ、またね」

 

玄関を開けて外に出れば、もう陽が落ちる寸前だ

急いで帰らないと家に着くのは夜になりそうだ

 

「光」

「ん?」

「今の状況で言うのは色々と変だけど」

「うん?」

 

 

 

 

 

「あの時、車を追う光を見て考えてたんだ」

「…」

「再会したらこう言おうって」

「…」

「本当は昼会った時すぐに言うつもりだったけど」

「…」

「迷いかけてそれどころじゃなくなったからなぁ」

「…」

「だから今言うよ」

「うん」

 

 

 

 

「ただいま、光」

「うん…うん!おかえり、勇気ちゃん!」



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4話

4/17 誤字や矛盾等を一部修正
泥酔で書いてはいけませんね


 

 

「…なんというか」

「予想外に大きな話だったね」

 

穂苅純一郎と坂城匠

同じ中学で出会い、同じひびきの高校に入学した顔馴染みの会話である

クラスメートの中に名前で呼び合う男女が居て気になって話しかけたのだ

その時に幼馴染だと聞かせてもらったが…

 

「あー、奢ったせいでもう今月お金無いよ」

「別に喫茶店に入ってまで聞き出さなくても良かっただろうに」

「なんだよ、純もノリノリで聞いてたじゃん」

 

数日後、共に下校した時に匠が話の種に詳しく聞き出そうとしだし

それに呆れて静止した純一郎も聞いている内に続きを促してしまった

既に新しい友人である勇気は途中で分かれ

二人は慣れ親しんだ大通りを歩いて帰っていた

 

「まぁ聞けてよかったよ。女の子はこういうネタに食い付くからね」

「いや、広めるなよ?小波も恥ずかしがってただろ」

「コレが女子の共通認識になれば逆に感謝すると思うけど?」

「…どうして?」

「あー、純は分からないか」

 

匠が立ち止まり指を振る

そして小馬鹿にされたのを察した純一郎は嫌な顔をした

 

「恋愛初心者の純くんに、特別に匠先生が教授してあげよう」

「やっぱりソッチの話か…」

「まぁまぁ、理由が分からないと反対出来ないでしょ」

「…確かに」

 

純一郎は色恋沙汰が苦手だ

具体的に言うと女性というものに逆らえない弱さを持っている

末っ子に生まれ、三人の姉に可愛がられ過ぎた結果であった

そして匠はそれを分かった上でからかってくる

『こうなったら面倒だ、さっさと話を終わらせてやろう』

そんな考えの純一郎だからこその匠の態度なのだろう

彼は根っからのお人好しだった

 

「まず、純は話の3人の関係をどう思う?」

「ん?そりゃ幼馴染だろ?」

「うん、20点」

 

通行人の邪魔にならないよう壁に寄り掛かる

純一郎の家はすぐ近くの花屋なのだが

匠を連れて行くと姉達がめんどくさいのでここで話を終えて帰る気だ

 

「幼馴染ではあるんだろうけど、それだけの関係じゃないんだよ」

「と言っても…後は高校で再会しようって約束ぐらいだろ?」

「それ以上の芽生えてるものだよ、分かんないかなぁ?」

 

そう言われても…と首を傾げる純一郎

実は話の流れで答えは分かった

だが、勇気が言い切った関係を否定したくなかった

 

「本当に分からないのか?」

「…はぁ~、お前は…」

「ん?」

「お前、本当に下世話な奴だな」

「なんだよ分かってるじゃん」

 

匠の言った『恋愛初心者』でもう答えは出ている

どうせ話の三人が色恋沙汰だのなんだのと言いたいのだろう

そんな事を考えながら、純一郎は溜息をついた

 

「つまりお前は、三角関係になってるって言いたいんだろ?」

「そうそう!でも広める理由が分からないと50点かな」

「で、その事を女子に広める事で…」

「余計な横槍が入らないように、そこはノータッチにしようって事さ」

「最後は自分で言うのか」

 

笑う匠にはいはいと純一郎は手を振った

確かに勇気に対する光の態度を見るとなんとなく分かる

もう一人は別クラスなので分からないが…多分、同じだろう

そう思うが、純一郎は勇気が話した男女の友情を否定したくなかった

 

「お前、面白がって言ってないよな?」

「いや、本当に必要…というかやらなきゃマズイから言ってる」

「…だろうな、お前は本当に嫌われる事はやらない奴だ」

「分かってるじゃん」

 

念の為に確認を取ろうとしたら真面目な内容で返された

恐らく既に匠は何かの確信を持っていて

わざわざ勇気に奢ってまで話を聞き出さなければならなかった

腐っても、この変わり者と友人をやっているのだ

大体の行動原理は分かる

つまり

 

「そこまでやらないと三人纏めて不幸になるって言いたいのか?」

「不時着でも良いから何とかして終わらせないとヤバい」

「…そこまでなのか」

「ああ」

 

匠はその小柄さと童顔によって同級生であれ女子に可愛がられて喜び

男に対しては素の冷淡な態度であしらうようなお調子者で

争い事が起きれば、両方の味方のように見せてその実どちらにも味方しない

そんな誠意の欠片も無さそうな酷い男であるが

本当に不味い事態ならすぐに動いて我が身を切れる思いやりがあった

 

「どう不味いんだ?陽ノ下さんと水無月さんの関係か?」

「うん、結局の所でそれが原因だね」

「勇気が仲の良い幼馴染と言ってるその裏で…二人が勇気を巡って?」

「うん、勇気が原因の取り合いが起きてるんだ」

「再会してすぐにそうなったのか…」

「いいや、再会前からもう既に冷戦状態だよ」

「え?」

 

匠の吐き捨てるような声に思わず顔を見る

それは冷めきった、つまらないものを見る目だった

匠の嫌いな女のドロついた闇だった

 

「話からして、陽ノ下さんはずっと勇気を待っていたんだ」

「ああ、それは分かる。そして水無月さんもだな」

「そして約束の為に水無月さんが裏切る事になった」

「…裏切る?」

「フライングして一人だけ勇気と会ってた事だよ」

「いやいや、二人で話し合って決めたと勇気が言ってただろ?」

 

そう、勇気の話では『二人で決めて琴子が助けに来てくれた』だった

そこには裏切りも何も無いのだ

 

「うん、表向きはそうだね。でも仕方なかったって理由があるんだよ」

「だから…勇気の学力が原因だったんだろう?」

「それでも仕方ないって理由があった」

「…全く分からん。お前は何が言いたいんだ?」

「理由があっても、了承があっても、抜け駆けは抜け駆けになんだよ」

 

つまり匠が言いたいのは

表『分かったよ、これは仕方ないもんね』

裏『理由を盾にやりやがったなこのアマぁ!』

である

 

「今のは言い過ぎだけど、陽ノ下さんの心情的にはその方向」

「うーん、分かるような分からないような…」

「それにさ…前の日曜にようやく分かったんだ。水無月さんの中学時代」

「ん?それは入学式の日に勇気に聞き出してたろ?」

「日曜、女子の視点を聞いたんだ。二人と同じ中学の同級生から」

「…もえぎの中学校だったな?かなり遠いのによくもまぁ」

「まぁ、陽ノ下さんと水無月さんのギクシャク感が気になってたからね…」

「…なぁ、もしかして今月、もう金欠だって言うのは」

「ううん。アッチには行ってないよ。でもその娘は2県向こうの高校でさ」

 

わざわざ貯金を切って電車で行ったのだろう

そんな匠に純一郎は溜息をつく

 

「それで、どうだったんだ?」

「完全に彼氏と彼女の関係だったってさ」

「勇気は冗談で言ってたって考えてたが、本気でそう思われてたのか」

「うん、話を聞く限り、本当にカップルだったよ」

「…例えば?」

「ほぼ毎週のようにデートしてた」

「…は?」

「そう、その顔。俺もそんな顔してたと思う」

 

勇気の話では二人で出掛けたのはストレスの溜まった琴子を遊びに誘った時との事だった

それは稀な事で、滅多に無い出来事と言っていたが…

だが、現実は真っ赤な嘘だった

 

「じゃあ…中学時代に付き合ってた?それを隠してるのかアイツ?」

「どうかな?勇気は何処か変だって言ってたし」

「…どういう事だ?」

「なんでも…勇気の友人関係がおかしかったらしい」

「どうおかしかったんだ?」

「ほんの数人しか名前を覚えなかったんだと」

「…ん?」

「今のアイツを見ても分かるだろ?米屋や山田が話しかけても反応薄いだろ」

「…」

「ほら、前の席の今野なんて何度話しかけてもロクに反応無くて、もう諦めたろ」

 

確かに純一郎が思い出す限り、勇気は特定の人物以外には冷めた反応だ

なんというか、わざとというよりは夢の中のような鈍い反応で

何かに誘っても拒否して干渉を防いでいるようだった

 

「確かに…まともな返答するのは俺達だけか?」

「うん、何でか俺達だけなんだ」

「うーん…すぐに出会ったヤツにだけしか懐かないとかか?」

「どうも女性関係もおかしいんだ…本当におかしい」

「そういや、女子は陽ノ下さんにしかロクな対応しないなアイツ…」

 

おかげで今、勇気と話す男子は純一郎と匠だけだった

女子は光と…恐らく琴子の2人のみ

いくら友人を選ぶタイプだとしても、異常だった

何故、最初に話しかけた今野ではなく自分達だったのか?

純一郎はそれを考えたが答えは出なかった

 

「唐突だけど、御田万里って知ってる?」

「おだまり…確か役者だったか?」

「そうそう」

「…話の流れからして、御田万里にはまともな反応だったとか?」

「そう…それならただのミーハーで済むんだけどね…」

「何かあったのか?」

「和泉って彼氏持ちの娘を稀にデートに誘ってたんだってさ」

「…は?」

「うん、俺も暫く声が出なかった」

 

 

純一郎は頭を抱える

勇気は色々とおかしな友人だと認識していたが

まさか彼氏のいる娘にアプローチ等、本当に予想も出来なかった

 

「…その彼氏、どうしてたんだ?」

「とうとうキレて勇気を呼び出したんだと」

「それで?」

「呼び出しをブッチ切って無視したんだと」

「…」

「最後は彼氏が勇気をぶん殴って…でもそれでも無視してたんだと」

「…なんというか…なんて言えば良いんだ?」

「分かるかよ、本当に分からないよ」

 

本気で訳が分からない

純一郎は手で顔を覆い考える

匠は空を見上げながら途方に暮れる

 

「流石に、殴られてからは…」

「いや、全く気にせず…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「アイツ、何事も無かったようにデート誘ったんだって」

「アイツ、何なんだ!?」

「俺が聞きたいよ!」

 

純一郎の叫びに匠は泣きそうな顔で答えた

本当に訳が分からない

彼は…小波勇気は何なのか?正気なのか?

 

「その娘の情報網じゃ全然だったけど和泉さんと昨日コンタクト取れた」

「昨日?平日じゃないか、どうやって?」

「インターネットでホームページやってるんだよ」

「なるほど、そこで…メールを送ってやり取りした訳だ」

「うん、勇気の名前を出したらすぐ返事来た。相当困ってたのが分かる文面だったよ」

「…うわぁ」

 

なんというか、この数分で新しい友人が目も向けられない畜生になっていく

勇気の味方であろうと考えていた純一郎を後悔させる程の酷さだった

 

「殴った後も二ヶ月に一度はデートに誘ってたってさ…」

「ずっとやってたのかアイツ…」

「そこで話を聞いた娘が、水無月さんに直談判したんだって」

「ああ、彼氏を止めてくれとか言ったのか」

「うん…そこで水無月さんの返事が…『ごめんなさい』だったとさ」

「…ごめんなさい?」

「うん、『私ではどうしようもない』だって」

 

色々と気になる所が出てきた

琴子は勇気の異常性の何かを知っている

だが、肝心の琴子は居ない…純一郎は匠の言葉を待った

 

「…問い詰めたらしいけど、その後『ごめんなさい』の一点張りだったとさ」

「…」

「しかも泣きながら」

「泣きながら?」

「その娘が聞いた事じゃないけど、その後『私のせいだ』『でもそれは嫌』と呟いてたらしい」

「一体、何をやったんだ水無月さんは…!?」

 

 

ようやく純一郎は戦慄する

勇気が異常になる何かを仕出かしたのは琴子だと

しかも琴子はそれを止めたくない事に気付いた

吐き気がする…琴子という人物の女に…

いや雌の顔が見えた…男を雁字搦めにして泣く異常な女郎蜘蛛が見えた気がした

しかもそれが『止めれるが止めたくない』という、飢え死にしたくない蜘蛛に見えた

 

 

「分からない…ただ、会った娘の話だと…」

「他にまだ何かあるのか…?」

 

頭がクラクラする…もう嫌だ

それでも最後までと聞こうと純一郎は吐き気を堪え、親友に続きを促した

 

「入学前に勇気と会った覚えがあるらしい」

「え?」

「入試直後に、道に迷ってた勇気と話をしたんだってさ」

「…その娘、入学後の勇気の反応はどうだ?」

「何時も通り、空気同然だったと」

「入試の時は?」

「普通だった。外国帰りでちょっと日本語怪しげな、それでも普通の男子小学生」

「…」

「入試と入学後でまるで別人みたいだったと」

「うーん…その前後に何かあったのか?」

 

情報が少なすぎる

純一郎の頭では推測すら浮かばなかった

 

「本当に何もかもサッパリだ」

「うーん…何も分からず仕舞いか」

「そういや他にもアプローチ仕掛けたって言ってたな」

「ん?またアイツ変な事をしたのか?」

「うん、確か…名前は分からないけど緑髪の関西弁の娘と、地味な眼鏡の娘に」

「二人!?…もうナンパとか言ってられないな」

「しかもさっきまで挙げたのは、勇気が仕掛けた娘は、全員小学生」

「…は!?」

 

聞き間違いではないのか?

勇気ってロリコン!?

 

「そういえばそうだ!確かオダマリって子役だった!」

「そう…まだ小学生なんだよ、いや今やっと中学に入ったかな?」

「えっと…和泉って娘は?」

「うん、モチロン小学生…よく勇気を殴ったよな彼氏くん」

「本当にな!小学生のお遊びじゃなく本気なんだって事がわかったよ!」

 

純一郎は再び頭を抱える

友人は色々と…いや本当に冗談抜きにアレだった

そのショックもあるし、これからどうしようと途方に暮れるのもある

もう明日から勇気を無視するのが正解ではないのかと思う程だ

 

「…」

「…」

「つまり、勇気のやつは異常なんだ」

「よく分からないが、そうみたいだな」

「だから遠巻きに見る…しかない」

「消去法過ぎるけど…懸命な判断か」

「何か、条件は無いのか?例えばアイツが友達になろうとする条件…」

 

うーんと頭を悩ませる匠

純一郎は何かの救いを求めて祈るように見つめる

匠もそれに答えようとする…

 

「確か…」

「確か?」

「小学生の友人が居たらしい」

「また小学生か!」

「何でもアイス食わせまくってデブにさせったってさ」

「どういう事なんだ!?」

 

希望の答えが出てこなかった

純一郎は頭を抱えるか顔を覆う以外全く動いていない

『おーい?穂苅さんとこの。大丈夫か?』

『アッ、ハイ大丈夫デス』

『そっか、気を付けてな。調子悪いならすぐ家に帰りなよ』

という商店街の顔見知り以外への反応が無い

 

「まぁ、分かったのは勇気が異常って事だけだ」

「どうして俺達にまともな返事するのかもサッパリだな」

「本当にな。これ以上は何か知ってるっぽい水無月さんに聞くしかない」

「とはいえ、中学で3年間黙り続けただろう人が喋るのかと思うとなぁ…」

「言うなよ…そこがネックなんだよ…」

 

匠の反応は至極当然で、何の救いにもならない事を表していた

だが彼等はお人好し

勇気という厄ネタの変人を見捨てられないお人好しだ

 

「それで、三人の関係を遠巻きにする理由は?」

「厄ネタみたいだから、とりあえず隔離」

「後は三人が…特に勇気が変な事しないのを祈るだけか」

「とりあえず小学生には気を付けよう」

「あとは、やっぱり水無月さんから聞き出すしかないか」

「俺、やりたくねぇよ…」

「俺もついて行ってやるから頑張れ」

「いーやーだー…」



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5話

 

「うむ、このメイの下僕にして良いと思うのですが…」

「しかし…メイ、彼は何かしらおかしいよ?」

 

伊集院メイと、伊集院レイ

夏休みは避暑地のが当たり前の二人だったが

今年はメイが家に残ると言い出し、それに付き合って兄のレイも日本の夏を浴びていた

 

「え…」

「メイ…何度も言うが彼はおかしい、気を付けるんだ」

「おかしいとは…何がおかしいのですか?」

「分かっている範囲なのだが…落ち着いて聞いてほしい」

 

曰く、小波勇気は友人を酷く選り好みする

高校2年になっても友人は10人を超えないらしい

以前に居た中学校では小学生に首ったけだった

その中学校が何か起きた…もう数ヶ月経つが全く情報が来ない

 

「妨害…一体、どういう事なのですか?」

「政府が握り込んでいるらしい。情報そのものは、お祖父様達がせき止めているからだろう」

「うーん?」

 

伊集院レイは困っていた

今まで知った事から、ある程度の察しはついている

 

「お兄様でも判りませんか?」

「うん、流石にお祖父様達が出てきては僕ではどうしようもないからね」

「そうですか…」

 

小波勇気はあの樹と同じような何かに干渉された存在だ

恐らく、伝説の坂と呼ばれるものが原因なのだろうが…

 

「それで、小波という人はどういった人物なんだい?」

「ハイ!小波は入学式の日に眼の前に居たので呼びつけただけの奴なのですが…」

「うん…うん?」

「荷物持ちや道案内を申し付けた所、従順に動く者なのです」

「…確か、1年上の先輩だったね?」

「ハイ!」

 

ちょっと後で咲之進を呼び出した方が良いのかもしれない

彼はかなり無茶をする

もしかしたらその小波という人を隠れて脅しているのかもしれない

 

「そ、そうか…で、問題は無いんだね?」

「いえそれがお兄様!奴はなんとメイを…で、デートに誘ったのです!」

「…え?…えっ!?」

 

何それ羨ましい

私は精々、電話をかけてきたときに成金っぽい話題で煙に巻くしか出来ないのに

まともに話せない事に泣いた事もあるというのに

 

「そういえば湖南という奴がお兄様にしょっちゅう電話をかけているようですね」

「え…あ、うん」

「全く、お兄様は伊集院家を背負う身。凡人に付き合う暇等無いというのに!」

「…うん、そうだね」

 

嘘だ

最近では休日に湖南君から掛かってくる電話が楽しみで仕方ない

好きな人の声を聞けて、好きな人が意識しなくとも電話してきて

胸が張り裂けそうになる

もう、お祖父様と話は付けた

残り1年半程…彼がこのままでいてくれれば…

 

「お兄様の時間を取らせるなぞ、本当に凡骨という者は…」

「まぁ落ち着いてくれ。僕も何かと楽しんでいるのだから」

「いえ!これがとても優秀なら少しは受け入れますが、そいつは平凡ではありませんか!」

「あー、メイ。僕はそれなりに普通というものを楽しんで…」

「いけません!お兄様は伊集院の誇り!凡人に振り回される等、あってはいけません!」

 

この妹は本当に純粋だ…純粋過ぎる娘だ

自分の知る事が正義と信じて疑わない

だが、インターネットで学会の論文を読んでは重々しく頷く本当の天才だ

メイはこのまま自由であって欲しい

私はずっとこの生き方をやってきたのだから、私の分まで…

 

「しかしだね。その、小波君のように生まれが違えども変わらぬ友人とは貴重なのだよ」

「では湖南とやらがお兄様にとっての小波だと!?納得いきません!」

「いや…メイ?」

「小波は!小波はメイの好きにさせてくれます!咲之進が居なくとも態度は変わりません!」

「えっと…」

「違うのです!小波は!勇気は!咲之進の脅しがなくともメイの味方であってくれるのです!」

「…メイ?」

 

困った、急に妹が惚気け出した

というか本当に羨ましい

私は湖南君への想いを隠し続けているのに…羨ましい

もしも私がメイなら…いやよそう。何度も折れそうになって耐えてきた道だ

あと2年も経てば…こんな悪習が終わるのだ

卒業式…断られたら…考えるだけで泣きそうだけど…

 

「お兄様…?」

「え…あ、何でもないよ」

「しかし…涙が…」

「大丈夫…勝手に出てきただけだから…」

「しかし…顔色も悪くなっています!医師団の診察を受けるべきです!」

「大丈夫、大丈夫だから」

 

いけない…湖南君に拒絶される事を考えるだけで泣いてしまった

もう無理のようだ…これ以上、湖南君との接触は私の限界を超えるらしい

思えば休日の夜は毎晩泣いている

もう…辛い…湖南君…私…もう、辛い

 

「いえ…いえ!咲之進!お兄様の具合が悪い!すぐに医師団を呼べ!」

「はっ!」

「いや、医師は必要ないよ大丈夫だ」

「レイ様…」

「…大丈夫」

 

咲之進の目から出てくる『本当にメイ様を巻き込まないのか?』という目に

『大丈夫、私で全て終わらせる』という思いを乗せて頷く

 

「…メイ様、レイ様は問題無いようです」

「本当か?咲之進?」

「はい、この咲之進を信じて頂ければ、嬉しく思います」

「…うむ、信じるぞ咲之進」

「それでは、私はここで失礼致します」

 

咲之進の、メイの視野の外なので不躾と言って良い程の

『メイ様に悪い影響を与えるなよ』

という視線を溜息と共に受け流す

行き過ぎた咲之進の従者振りに苦情も出てこない

そんな視線を無視するように視線を外す

その先にあったのはメイの不安そうな顔だった

 

「お兄様、お体の方は?」

「僕は何時も通りだよ、気にしすぎだ」

「…はい、信じます。メイは…お兄様を信じます」

「うん、ありがとう」

 

本当に、いい加減に決着を付けるべきだ

何とか卒業式前に告白する機会は無いだろうか?

正直、電話の話題にダイヤモンドの漬物石なんて変な成金趣味で押し通すのも限界だ

もう何ヶ月、ダイヤモンドについて話しただろう…

私も湖南君もダイヤと漬物石についてなら博士号も良い所の知識量と言っても良いだろう

 

そうだ、もし小波君とやらが私に接触してしまった時に備えて

ダイヤモンドと漬物石の関連性についてしっかり伝えるとしよう

…うん、…うん、これなら何も知識が無くても理解出来るだろう

私と湖南君にはとても敵わないだろうが、それ以外には大きく勝る知恵者になるだろう

 

「お兄様?大丈夫ですか?」

「ん?何がだい?」

「いえ、先程から漬物石とダイヤモンドを交互に呟いていましたが…」

「大丈夫だとも」

 

湖南君と出会ってから…もう2年は続けたダイヤモンドの漬物石の研究

この2年間の蓄積は相当なものとなる

もし、小波君とやらに不意な接触を起こしても

確実に、ダイヤモンドの漬物石がいかに偶然の末に生まれた凄まじい存在なのか理解できよう

ダイヤモンドの漬物石学会の名に賭けて

 

「お兄様…今、なんと?」

「…?」

「今、確かに『ダイヤモンドの漬物石学会』と口走りましたよ…」

 

…さて、どう誤魔化そうか?

『メイにはっちゃけて良いんじゃない?こないだ女性ってバレたでしょ』

という思いが込み上げてくるがソレに流されてはいけない!

まだ私は…僕は伊集院レイ。伊集院財閥の跡取り息子なんだ!

 

「気の所為ではないかな?」

「そ…そうですよね。お兄様はあんなものに気取られる時間等ありませんよね」

「それよりも小波君とやらの話を聞かせてくれるかな?」

「えっ…?」

「ん?メイ?今の反応は何かな?」

「いえ、お姉様…お兄様は小波が気になるのですか?」

「メイがそこまで言う人物なんだ、僕にとっての湖南君の人物…気になるだろう?」

「めっ…メイは…メイは、小波など気にしていません!お兄様の湖南ではありません!」

 

メイが拒絶の目で私に反抗している

これは小波君を取られまいとする目か

…いや、待って!?

 

「メイ?別に僕は小波君に何かしようという訳では…」

「大丈夫です!メイはお兄様を信じています!お兄様の早乙女好雄ぐらいには!」

「…僕の早乙女君への信用はその程度に見えるのかい、メイ?」

「はい!」

 

どうしよう、話が全く進まない

いや、このまま千日手のように無意味に終わっても良いのだが

メイの言う小波君も気になる…別に取らないから。お姉様は湖南君一筋だから

 

「メイ様」

「咲之進?何かあったのか?」

「小波様が一人で伊集院大橋に来ています」

「あいつの家から遠いハスだが…どうしてだ?」

「今週の小波様は運動強化のようで、橋をジョギングの折り返し地点に使っています」

 

小波君はどうやら伸びる人間だ

ひびきの高校は、きらめき高校と同じく毎週強化する分野を選ぶ校風だが

夏休みでも自主的に行える人間はそう居ない

…そういえば彼も湖南君と同じで平日は目立たないが休日に凄まじい伸び方をする

いくら時間があるとはいえ、平日授業の5倍程も伸びるだろうか

 

「小波は関係ないがちょうど外へ行きたくなったのだ」

「はい、車を用意しておきます」

「あー、車だけではなくだな」

「歩かれるかもしれないので、スポーツ医学に基づいたドリンクも用意しておきます」

「うむ!流石に汗をかく程は歩かないが、念の為にタオルも用意してくれ」

「はっ、吸水性の良い高品質のものを」

 

関係ないと言っておいて

応援しにいく準備しかしていない

素直じゃないのか、素直なのか分からない妹に笑みが零れそうだ

 

「では、お兄様。メイはこれから出掛けて参ります」

「いってらっしゃい。のんびりしていくと良い」

「はい!」

 

好きな人を応援…私には夢のまた夢でしかない事だ

ゆかりに頼んで彼への差し入れ等が関の山か

とはいえ…私の性別だけでなくこの思慕を古式家に知られるのは不味い

それに…恥ずかしい

 

「レイ様」

「外井?」

「もえぎの市の調査員から続報が届きました」

「…やっとか…よくやってくれた」

「こちらになります」

 

メイが出ていってすぐ、外井が待ちかねた情報を抱えてきた

私が一人になるまでの暇を使って人払いも行ってくれていたらしい

場所を変える必要はなさそうだ

 

「まずコレは…もえぎの市の進路調査?」

「はい、小波勇気が友好的だった者達の進学先の予想になります」

「予想というよりはほぼ内定のようなものだが…まだ中学二年生だろうに」

「私立なので中学校に入った者はエスカレーター式で進学となりますから」

「そういえば小波君達はそれを蹴った事で日帰り入試の嫌がらせを受けたのだったな」

 

特に水無月琴子はアチラにとって予想外だったろう

確かにひびきの高校の方があちらより大規模…本当に元城塞だけあって大規模だが

まさか奨学生として招いた者が途中離脱を言い出したのだ

担任は点数を稼ぐどころか大きな減点を受けただろう

 

「…これは…これは本当なのか?本当に希望ではなく推測なのか?」

「はい、推測になります」

「では本当に全員?」

「はい」

「…」

 

 

 

「小波勇気様のお気に入りは、全員が私立もえぎの高等学校に進学予定です」

 

 

 

つまり、小波勇気は小学四年生程の少年少女が

同じ高校に入るから接触していた

小学校も殆どバラバラの子供達を?

そんな未来の事を予想…いや分かったから友好的だった?

 

 

「参ったな…手が震えてきた」

「レイ様、気を確かに」

「…ああ、大丈夫だ」

 

資料を読むに、リストの人物達はもえぎの高校入学はほぼ確定らしい

何人か学力的に難しくなりそうだが…それでも第一希望になっている

…ん?一人だけ違う?

 

「外井、この娘だけ第一希望が違うのだが。この学力では、もえぎの高校のレベルが低すぎる」

「…はい、和泉穂多琉は、後に…もえぎの高等学校に行くのでしょう」

「うん?もっと良い所ではなく?」

「…その」

「どうした、外井?おかしいぞ」

「は…い」

 

外井の口が和泉という娘の事になると急に鈍った

何か顔色も悪い、体が少し震えている

 

「外井?…しっかり!すぐに人を呼ぶから!」

「お、お待ち下さい、レイ様!」

「でも…外井…」

「もう大丈夫です…これから話す事に恐怖していただけです」

「…一体、何を告げられると言うんだ」

「恐ろしい話です。ですが進路についての裏付けとなりうる事です」

 

 

正直、怖くて聞きたくない

だが逃げる訳にもいかないだろう

どうせ家を継げば人の血も通わないような輩と笑顔で握手しなければならない

それに比べればこの程度、予行練習にもなりはしない

 

「分かった、聞かせてくれ」

「ではレイ様、落ち着いて聞いて下さい」

「ああ」

 

話から分かるのは第一希望を取りやめ、

もえぎの高校に進学を決めかねない事のようだが…果たして?

 

 

 

 

 

「2日前の日曜日、事故に巻き込まれ…恋人は即死、和泉は重症でまだ意識不明です」

 

 

 

 

 

 

「…じこ」

「はい」

「…」

 

 

つまり

それは

分かっていた

事故は決定していた

それで高校が変わって

変わる理由になって

恋人が死んで

死にかけて

独りに

それは

つまり

 

 

「レイ様!レイ様!」

「ッ!」

「レイ様、大丈夫ですか?」

「…ああ」

「少し時間を開けると宜しいでしょう、茶の用意をします」

「そう…だな」

 

カップを用意する外井を眺める

正直、今の私は頭が回らない

ショックで、自分で考える事が出来ない

 

 

「…」

 

外井を見るのに飽きて逆を向く

ギラギラと輝く太陽がある

そうだった、今は夏だ

暑いハズなのに何も感じない

 

「窓を」

「はい?窓を…何でしょうか?」

「…いや、何でもない。少し寒いと思ってな」

「では室温を調整するよう指示を出します」

「ああ、頼む」

 

正気に戻ってきた

冷房を効かせた部屋の窓を開けようものなら

温度や湿度の差が酷すぎて気持ち悪くなるだろうに

 

「…どうして背筋が凍るような話に…夏だから?」

「夏というよりは伝説に関わるからではないでしょうか」

「…伝説か」

「はい」

 

わざわざ学校を建ててまで確保した伝説の樹

響野城から鳴る大鐘という概念存在、伝説の鐘

そんな凶悪なモノに挟まれた伊集院家

むしろそれらがあったからこその伊集院家なのかもしれない

 

「告白さえ成功すればその後は一生安泰…か」

「羨ましいような恐ろしいような話ですね」

「そうだな…とはいえ、確保出来ればとても有利なものになる」

「…響野家は城を焼いてでも手放したとの事ですが」

「何の因果か子孫が戻ってきているがね…住居はきらめき市だが」

「確か娘が音楽関係のギフテッドでしたね、今年で7才だとか」

「ああ、響野里澄という名前だ。既に作曲家としてやれそうな腕だよ」

 

響野家は読み方を変える事で家名を捨て、遠い地へ旅立ったらしい

だというのに、偶然とはいえ子孫が近くに帰ってくるとは…

 

「…うん、やはり外井の淹れる紅茶は良い」

「ありがとうございます」

 

 

さて、そろそろ頭が回ってきた

和泉穂多琉に起きた事故の詳細を聞こう

目に映る資料には峠は超えたが

ドナーが見つからなければ10年も持たない程の後遺症が残ったらしい

 

 

「外井、そろそろ落ち着いた」

「話を続けてもよろしいですか?」

「事は和泉穂多琉だけでは無いのだろう?」

「はい、他にも少々ありますが…」

「メイが帰ってくるまでには終わらせよう」

「はっ」

 

資料によると和泉穂多琉は

知恵も容姿も身体能力も音楽センスもあって

人間関係も良く、人に好かれ、幼い頃から恋人も居て

なのに打たれ弱い訳でもなく、倒れても立ち上がれる精神を持つ

そんな、天から愛されたような少女が

 

 

「…、独りになり、進学先も大きく落ちて、命を削る後遺症…か」

「はい」

「何もかも上手く行っていた娘が…地獄に落ちた…」

「まさしく地獄ですね」

「一応、聞くが…事故に作為的なものはあったか?」

「いえ、人為的なものはありませんでした」

「そうか、人の手で無理なら…」

 

 

「『伝説』なのでしょう」

「『伝説』か」

 

 

 

「彼女の意識は戻り、現実に絶望し、例え自殺に走ったとしても死ねず」

「恐らく独りで伝説の坂とやらを見ながら、卒業まで死ねないのでしょう」

 

 

 

 

「『伝説』か」

「『伝説』なのでしょう」

 

 

 

 

「そんな化物を相手にして成り上がったのが伊集院家か」

「恐らくは」

「外井」

「はい」

「樹も鐘も怖くなった」

「…」

「出奔したくなった」

「…私は、レイ様について行きます」

「…」

「…」

 

「…冗談よ」

 




※響野にまつわる話
公式設定だとひびきの高校の場所に昔、響野城というものが建っていたそうです
だから市名が「ひびきの」になったんでしょうね
ただそれだけの公式情報だったのでそれ以外は完全に創作です
4のキャラである響野里澄を知った時は「絶対に2に関係するキャラだ!」と思っていました
実際は全く無関係だったのですが…


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本来書きたかった事のダイジェスト

完結まで書く時間が残っていないので、ここでギブアップです
最初に想定していたプロットの説明と、それをダイジェスト風に書き起こします
後半から地の文がロクになく会話だらけでしかも本当に長いので、ごゆっくりどうぞ


まず初めはどうして書こうと思ったのか?…からです

まず考えたのが『水無月琴子はどうすれば正しく評価されたのか?』です

隠しキャラ含めても人気最下位という結果になった琴子でしたが

この理由を考えると

 

1.強制登場な上に敵対的

2.初対面なのに何もしていないのに嫌われるという理不尽

3.デートが難しく、何度も「自分より光を誘え」という楽な道を提示してくる

4.怒られるイベントが目立つ、特にビンタの『シリアスな暴力』が強烈、あと顔怖い

5.どのキャラも最後は明るい青春なのに、琴子だけ光を傷つける昼ドラ展開

6.分かり辛い、クリア後に再プレイしてようやく納得いく事が多い

 

このように心情的にもシステム的にも不遇です

特に『光の親友』という大きな芯がめんどくさい

メインヒロインの~ではなく、光の~というのが大きい

 

光は本当に非の打ち所がないキャラクターです

明るく、元気で、優しく、怒らず、主人公が好きで、距離が近い

MROの酷い環境ですら一人静かに涙を堪えるような、もはや聖人というか聖母でした

正直なところ、「光は嫌い」という人は滅多に見ません

見かけても劣等感や爆弾処理によるものぐらいでした

 

光に関わる事は、もうどうしようもありません

ではそこ以外の問題はというと…近寄りにくさです

嫌われる理由が分からない、仲良くなる必要も無い

プレイヤーの興味というか意志にガンガン水を差して鎮火させてくる

ではどうすれば…というと、『鎮火出来ない程の大きな興味を持たせる』です

 

これで思いついたのが『琴子を幼馴染にしてみよう』です

琴子が幼馴染になる事で

光と出会う前の大人しく引っ込み思案な琴子を知る事でのギャップが生まれます

これでプレイヤーは「あの大人しい子がどうして?」と強く好奇心で琴子を追うでしょう

 

でもそれだけでは光あっての琴子のままです

やはり光が強すぎる…全作プレイヤーに投票取ったら上位争い確定なぐらい強い

じゃあ光と争うのは誰?

1の虹野沙希? 2の八重花桜梨? 3の和泉穂多琉?

 

4の…大倉都子?

そうだ、都子を琴子に植えてみよう

琴子の光を思う気持ち、都子の囲い落としにくるガチっぷりをミックス!

…親友を思って引きたいけど、それでも譲れない板挟みで都子よりもブッ壊れるわ!

 

でもコレはコレで良いんじゃないか?

そもそも悩んで苦しんで友情崩壊して、それで得たものに泣くのが琴子の醍醐味である

もっと重くなって壊れちゃって良いんじゃないの?

 

そうして書き出そうとしたのがコレでした。

そこに昔から考えてた「伝説の~ってぶっちゃけ呪いじみてるよね」が混じり、

迷走した結果、

『琴子が呪いに手を出して圧倒的な優位を持ち、

光の事を思うと手放したい…でも手放すのが怖い』

そんな親友の顔と女の顔の二面性に苦しむキャラを書く事になりました

 

…でも時間が足りなすぎた

流石に数日じゃ書ききれないと途中から巻いて巻いて書きましたが全然時間が足りない

呪った後の琴子を書こうとすると凄く長くなるんでワザと全く姿を出しませんでした

 

 

 

 

 

 

___ここから先はプロットから会話文式のダイジェストになります___

 

 

 

 

 

 

 

本当は幼年期は数話分書きたかったんです

琴子が入るのを理由に、毎日3人一緒に動き回って

幼年期の全イベントに光と琴子を入れた描写をじっくり書きたかった

主人公の転校後も塞ぎ込んだ光と琴子の為に

華澄が琴子祖母と協力して連絡取れるようになる所とか書きたかった

 

 

中学編はひびきの市主観で、もえぎの市とは電話や手紙での離れたやりとりで進めるつもりでした

具体的には琴子が伝説の坂の効果を偶然独り占めしてしまい

1.序盤 自覚が無いので気付いていない琴子と光の普通の電話

2.中盤 異常に気付いた琴子が祖母に話して真相発覚、そして解呪出来るよう手配する(これで神条芹華を呼び出すとかでも良かったかな)

3.終盤 光と主人公の他愛ない電話、だが解呪していない証明が僅かに見える

という、異常性が見え隠れするホラー調でした

あと、前に書いていたような思いっきりおかしく見えるような呪いにするつもりじゃありませんでした

精々、1年ぐらいつるんで「コイツ何か変だ」と思うぐらいでした

具体的に言えば

『出会いがあってもイベント描写されず、出現済みフラグも立たなければ爆弾も起きないときメモ』

『初期キャラの琴子と男友達以外は立ち絵も雑談も表示されないモブ扱い』

『休日は琴子が誘わない限り、どの友人が誘っても断ってフリーにしている』

『休日に琴子に電話してアポ取り→それだけで一日を終える』

『やたらいい印象を与えて琴子が自分を好きになるように動く』

 

 

高校生になってからは一気に群集劇にする予定でした

 

光と運動系部活の縁で出会った美幸が幼い頃に会った3人と気付き

3人との思い出を持っていると知っていた美帆が呼び出され

 

光、美幸、美帆の3人で話している所で仕事から逃げだしたほむらにかくまってと頼まれ

それを追うよう頼まれた茜が見つけ連れて行こうとした所で、ほむらの頭が回り自分も共通の話題があると思い出し

「久々の顔に会ったし多めに見ろよ」と言い出した所で茜も「私もその3人知ってる!」と言い出して…

ほむら連行。今度集まってゆっくり話そうと決める

 

後日、昼に琴子と主人公も混ざったグループが出来た所で匠が自分も混ぜろと入ってくる

男が少ないと匠に引っ張られた純が「いくら何でもうるさくなるし、別の場所にしよう」と提案

じゃあ屋上行こう、昼食は屋上にしようとなって移動

 

屋上へ向かう花桜梨と、野球部マネージャーの先輩に用があった楓子の正面衝突に遭遇

花桜梨のパンを潰してダメにしてしまったと慌て、自分のお弁当を持ってくる

『長身の花桜梨に小さな楓子の弁当じゃ全然足りない』と言い出したほむらによって

『10人の弁当分ければ1人前分ぐらい出来るだろ』と2人も連行

これで1年中に会える全員が集合

 

後日、楓子が変な顔をした花桜梨を見つけ問いかける

話す事を渋る花桜梨に楓子が無理を言ったと謝り、それに慌てた花桜梨が

『今週の教科が運動で、主人公と同じグループになった』

『皆、受験で鈍っていたからメキメキと伸びるのに主人公は全く変わらない』

『心配になった所で急に激的に伸びた』と話す

 

これは3の能力値システムだけが数字ではなくLv式な事

ちなみに2のあって3に無いコマンドは雑学と容姿ぐらいなので授業は特に問題無いかと

まぁ3は育成システムは特に問題なかったから…

問題は服装システムとキャラ数の少なさ…あとトゥーンレンダリングだから

 

1年目はそのへんまでゆっくりやってから最後に琴子とのデート

周囲に知っている顔が居ないか不安で落ち着きのない琴子

それに気付かない主人公

そんな二人を見かけた純は『普段、休日は誰とも付き合わないのに琴子とは遊ぶのか』と驚いた

 

 

2年目からが本番です

メイ登場、だが主人公の中ではモブ判定なので強制イベントをパパッと終わらせて終わり!

そして放置ではないがおざなりだった光に爆弾点灯

爆発寸前のそれに気付いた純が「理由無く休日を開けてるなら陽ノ下さんとも遊べよ」と忠告

『とも』の部分に引っかかった匠が後から幼馴染3人組抜きの場でツッコんだせいで、

かなりの人数が『主人公と琴子のデートを見た事がある』と発言

流石におかしいと話を詰めると『あの二人、中学から付き合ってるのを光に隠してるんだ』と思うぐらいのデートを行っていた

 

三角関係になりそうな厄ネタに触れられず、「とりあえず今度の休みは光と遊べ」と命令

だが主人公は休日をモブに割けるなんて冗談なときメモシステム

光の爆弾を解除しながら休日を開ける方法を取った…平日デートである

放課後デートみたいな形になったが光はまぁまぁ喜んだ

 

間に合わせだが危機が去った事に胸を撫で下ろす皆

そこに何も知らずに出くわしたメイが『琴子と付き合っている事に嫉妬か?』と着火

光、爆弾爆発

琴子、顔面蒼白

2年生、顔を覆う

 

震えながら2人に問う光

主人公は違うと否定したが

琴子はごめんなさいと泣きだした

 

まぁ隠れて付き合ってればなぁ…と皆が思ったが…主人公がおかしい

付き合っていないと本気で言っている

全員でその認識はおかしいだろう?とツッコんだ

しかし主人公は『4年前からずっとこうだ』と返す

 

光も琴子も学校どころではなくなり早退、主人公も悪目立ちするから帰す

ほむらがメイに空気読めと怒り、そこから喧嘩が始まった

そこから場がギスギスしだす

考えてみれば2は女性間の相性が随分悪い

今まで荒れなかった分、一旦荒れるとちょっと酷かった

 

「こんなの見るぐらいなら、退学すれば良かった」

そんな場で花桜梨が呟いた言葉を楓子が聞き取った

「か、花桜梨さん!?今!?今、退学する気だったって言わなかった!?」

驚いた楓子が問い、場が静まった

 

 

「皆がいてくれたから、少し希望を持てた」

花桜梨の言葉で空気が変わった

高校一年で希望を無くして退学?どう考えても尋常ではない!

花桜梨と相性も良く、このグループを気に入っていたほむらと楓子が焦る

組めば友好関係に殆ど穴の無い2人の静止により修繕された

 

だが幼馴染3人組はボロボロのままだ

何とか出来ないかと部活も休み、負い目を感じるメイも加えて話し合った

有効打も出ず、話は主人公達の行ったもえぎの中学校にまで伸びた

 

「そういえば、もえぎの高校って所にも伝説があるようですね~」

「ん?そういえばメイも聞いた事があるのだ…確か、伝説の坂だったな」

「そうなの?白雪さん、伊集院さん」

 

普通の女の子な楓子が触れる

もう時間も遅くなってきたのでお開き寸前となり

気力が尽きてきた皆はその雑談を聞いて解散する流れになった

 

「はい、きらめき高校に知っている人が居て、伝説の樹の話を聞いたんです」

「あ、ボクも聞いた事あるなぁ。常連のお爺さんが教師やってた時の事を話すんだ」

「美幸も伝説の樹なら知ってるよ!伝説の鐘と違って樹の下で告白するんだよね?」

「何処にでもあるもんなんだな、そういうの」

「本当に女の子はそういう話題が好きだな…」

「まぁまぁ、良いじゃん。それで伊集院さん、伝説の坂って何?」

「話からして、坂で告白…?」

「うむ!確か二つの社の中間地点がその坂で、そこで告白するという話だったな」

「じゃああっちは神様みたいなものが関わってるんだね」

 

何となく9人分の一行を書いたけど、これ凄く大変だもう止めよう

労力の割に話もロクに進まないし

まぁ、そんなこんなで伝説の坂の話をした後で「何で遠い高校の事知ってたの?」となる

美帆は『家族(妹)の友人(朝日奈優子)が情報に長けていまして』

メイは『昔から付き合いのある家の、またその付き合いの家が神事関係でな』

マイペース2人が自由に喋り始めたので半分に分かれて話を聞く

 

「何でも…その坂の伝説って数年前から効果が無いそうなんです…確か…」

「何か催事でおかしい事が起きたらしくてな…最初に騒ぎが起きたのは…」

 

「4年前だったっけ」

「4年前だな」

 

ダブった『4年前』が響いた

今日、主人公が話した声が記憶から引きずり出される

『4年前からずっとこうだ』

 

解散する前に情報収集する事にした

電脳部で伝説の坂について調べると確かに4年前に伝説が息を潜めたという情報が多い

主人公になにかしら関係しているのではと皆がバラバラに聞いていた情報を統合すると

琴子、主人公に猛勉強→中学入試→高校卒業式で伝説不発→主人公が変な価値観に

という、2人が何かやってしまったのではと疑う結果になる

 

翌日、光と琴子が休み、主人公は登校してきた

主人公を捕まえ、何時から琴子とそうなった?と日付の詳細を詰める

…もえぎの高校の卒業式の日、もしくはその前後日と結果が出た

主人公に坂の事を聞いてみると

『入学まで暇だったので寂れた場所に社があると聞いて行ってみた』

『琴子も一緒だった』

『その日、卒業証書の筒持った高校生が多かったんで卒業式だったんだろうな』

 

確信を得た2年生が調査を決めた時、メイがやってきた

昨日、兄に話したら是非、主人公に会いたいと言われたと言う

今日行こうと放課後にメイと比較的友好な美帆、花桜梨を連れて伊集院家へ

 

待っていたレイは主人公にある中年女性を会わせる

美帆は妹と入れ替わった日に会った古式という少女にどこか似ているなと思った

そしてその女性は『消えた男社の霊気は彼に移っている』と言った

 

また翌日、流石に2日連続で休む訳にいかなかったのか光と琴子が登校した

お互い、相手の顔を見ると塞ぎ込む

グループは琴子を呼び出した

 

調べた情報を告げると観念した琴子は地面にへたり込む

 

「どういう事…琴子…」

 

こっそり後をつけた光が呟き

 

「ひ、ひか…り…あ…あ、ああああああああアアッ!!」

 

それに気付いた琴子が顔を手で覆い、絶叫した

 

 

騒ぎを聞きつけた野次馬で授業を受けるどころではなく、

爆裂山校長に許可を取り集団で早退し

一番近く人数の入る、茜のバイト先でまだ仕込み中の大衆食堂にメイが呼んだ車で向かった

リムジンではなく普通車を数台にして、主人公と光と琴子は別々の車だった

車内は静まり返っていた

 

大衆食堂の大将に話をボカして頼むと、気を使い男子3人を連れて二階に篭ってくれた

暫くの沈黙の後ポツリポツリと琴子が話し出した

 

『最初は気付かなかった』

『1年程経って主人公のおかしさ、琴子を最優先する事に気付いた』

『伝説の坂に関わる事なのはすぐ悟った』

『光の辛そうな顔を幻視して』

『霊的な事はよく分からないので顔の広い祖母に泣きついた』

『祖母が清めや破魔の道具を送ってくれた』

『でも主人公のソレを手放すのが辛くて道具は使わず終いだった』

『祖母にお礼の電話をした時に悟られ怒られた』

『それでも使うのは嫌で、道具を捨てた』

『道具を見ると、使う前に体を使ってでもと別の繋ぎ止めようとか考えてしまうから』

『そのうち訳が分からなくなって』

『むしろそうしようと思えてきて』

『鏡の向こうの自分が嗤っているのに気付いて怖くなった』

 

「ごめんなさい…こんな女で、ごめんなさい…浅ましい女で…醜くて…ごめんなさい…」

「…」

「…」

「…琴子」

「…」

「そこまで好きなんだよね…ごめんね、私こそ」

「…違うの…光は悪くないの…」

「ううん…私も琴子の事を分かってたのに中学に行ってって背中を押しちゃったから」

「…え」

「琴子に遠慮させて、辛い思いさせちゃうんだろうって分かってたんだ」

「…」

「もし行くのが私だったら、琴子の顔を思い出して辛いだろうから」

「そんな…こと…」

「ううん、私も…同じ事をやってたと思うよ」

「…」

「知ってるもん、ずっとずっと一緒に待ってた仲じゃない」

「…ひ、かり」

「同じ人の手を繋いで笑って、あの日も二人でわんわん泣いて」

「…うん」

「琴子のおばあちゃんが連絡取れたって言った時、やったやったって大騒ぎしたよね」

「うん…うん」

「だから、私達は親友で…同じ人を好きで居続けたライバルで…だか…ら…」

「…光、泣いて…」

「許す…よ…ことこの…ヒック…こと…」

「ひか…りぃ…」

「ごめ…ごめん…ことこ…くるし…ませ…て…ヒック…」

「ひかり…わるいの…わたしだから…ゥ…なかないで…」

「なの…に…ズルい!…って…思うなんて…わた…しが…ずるい…ヒック…う…うぅ」

「ごめ…なかな…ぅ…いで…ひか…ひ…ヒック…ひか…ァァア…」

 

「ウワァァァン!」

「アアアァァァ!」

 

そして二人は抱き合い、散々泣き続けた

見守っていた皆は貰い泣きを抑え続けた

ようやく会えた、ようやく光と琴子は再会出来た

 

「琴子…」

「うん…」

「呪い、解いてね」

「勿論よ」

「それでね、そこからが始まり」

「光?」

「これからは遠慮無しだよ」

「それで良いの?」

「琴子は散々苦しんだし、私も待つの疲れすぎちゃったから」

「…ありがとう」

「あっ!でも騙すのとかは嫌かな!もう少し明るく勝負しよう!」

「うん、私ももう騙すの疲れちゃった」

 

そして男達に終わった事を告げ、店を後にした

大将に礼を良い、待機していた車に乗り込み、匠と純は話を聞いた

向かう先は伊集院家、既に現地で解呪する為の足は用意出来ていた

 

 

そして解呪が終わり、主人公は普通に戻る

とはいえ、校内で騒いだのもあり3人の関係は有名になっていた

今更、この3人に色恋沙汰で寄ってくる者は居ない

助けてくれた皆に見守られ、光と琴子は仲良く争った

 

「一年も上映してた癖に…沈没船恋物語ってダメ映画ね…」

「え?そうだったかな?」

「そうよ、あんな船の上で愛を誓い合って死に別れ…そんな軽さじゃあね」

「ううん、軽くないよ熱愛だったよ」

「私なら婚約者に致す姿でも見せて婚約破棄や勘当された後に死ぬ」

「うわぁ…重い…重いよ琴子…」

「光に勝つには、それぐらいの醜い女じゃないと無理だもの」

「うぅ…吹っ切れた琴子が怖いよぉ…」

 

そして夏になり

 

「楓子…あっちに行っても…」

「うん!そっちもバレー部、頑張ってね」

「うん、大会は出れないけど、私の青春…取り戻さないと」

「花桜梨さん、着いたら手紙…ううん、電話するね」

「待ってる…あと、さん付けはどうにかならない?」

「うーん、実は年上だったって知っちゃったから呼び捨ては…ちょっと」

「はぁ…ところで穂苅君も来るんだよね?居ないけど、何かあったのかな…」

「あ、純一郎君は昨日お別れ済ませたんだよ」

「昨日…花火大会!?」

「へへっ…」

「2人とも来ないと思ったら…隠れて会うなんて、抜け目ないなぁ…」

「ゴメンね」

「本当だよ、楓子とお別れだからって皆で予定開けてたのに」

「え…そうだったの!?」

「メイさんも寂しがってたよ」

「あぁ…荷解き終わったらすぐ電話して謝ろう…」

 

秋になり

 

「じゃあ3人の言う、かすみおねーちゃんって言うのは~」

「華澄ちゃんの事なんだね!」

「寿さん、ちゃん付けは止めてね?」

「え~、良いじゃないですか。かわいーですよ」

「そうそう、かーわーいーいー」

「…ほんの数歳差なのに、年を感じるわ」

「ふふふ~」

「華澄ちゃん、華澄ちゃん!」

「はいはい、何ですか?」

「分かってると思うけど、手を出しちゃダメだからね!」

「えっと…流石に年が離れてるし、有り得ないわよ?」

「ホントー?」

「そんなドラマみたいな事、現実には起きないからね」

「でも私達、ドラマみたいな事を見ちゃいましたし~」

 

冬になり

 

「おーい、パソコン壊れたぞー」

「そう簡単に壊れるか!見せてみろ!」

「すいませーん、生徒会長来てませんかー?」

「一文字先輩、ここに居るぞ。そして壊れてないじゃないか、赤井ほむらぁ!」

「なんだよぉ…これだからパソコンは面倒なんだ」

「デジタルが分からない輩はメンコや花札でもやっていれば良いのだ」

「あ?メンコ馬鹿にしてんじゃねーぞ?」

「あーもー。落ち着いて、ほむらもメイちゃんも!」

「茜!校長室行くぞ!和美ちゃんにメンコ出して貰ってコイツを泣かす!」

「ハッ!勘でしかやれない奴に理論派のメイ様が負けるものか!」

「…ふたりとも?」

「「ヒィ!」」

「仲良くしようね?」

「「…」」

「…返事は」

「「ハイッ!!」」

 

また新しい春が来て

 

「本気みたいだけど…?」

「ええ、生徒会長に立候補して、ほむらを蹴落とします!」

「…本当に赤井さんに頼まれたんじゃなかったのね」

「華澄さん、まだ疑ってたんですか…ほむらも信用無いわね」

「だからです。信用の無い生徒会長など、神輿にすらならん」

「部活は大丈夫なの?電脳部長と生徒会長の兼任になるけど」

「構いません!副部長が動けるようになって暇が出来たので!」

「伊集院さんが会長かぁ…何かやりたい事はある?」

「まずは予算を変えます、最初にやるべきは、やはり茶道部だな!」

「あーあー…とうとう来たわね」

「まぁ文化祭も酷い出来だったって聞くし…仕方ないかな」

「部員が二人しかいないとか…そんなのは同好会です!」

「でも茶道部室は校長先生のお気に入りよ?琴子ちゃん、通ると思う?」

「学生時代の思い出とか言ってるし、無理でしょうね」

「うぅ…そうなのか…。華澄先生、校長の弱みとか知りませんか?」

「まぁまぁ…茶道部は諦めて他の事にしよう?ね?」

「…メイ、資料を見せなさい。ほむらから預かってるんでしょ?」

「おお…おお!琴子さん!琴子さんが、本気を出してくれるのだ!」

「そういえば琴子ちゃん、中学は生徒会長だったっけ」

「ええ…テニス部の予算削減した後に来年廃部と脅しなさい。美幸が死ぬ気でやれば大会勝てるわ」

「おお…おお…美幸さんが…命懸けになってしまった…」

「上手く行けばスポーツ大学に推薦だけど…上手く行くと良いわね」

「どうせ三流企業ですら落ちるでしょうし…あ、バレー部は増やしておいて」

「ほむらも何とか農業大学に受かってくれれば…メイも安心なのだがなぁ」

「…生徒会の予算は…良し。それじゃあ、私はそろそろ帰るわね」

「琴子ちゃん…帰るって…」

「今日もアッチですか」

「いえ、おば様は朝帰ってきたから今日は真っ直ぐ家に帰るわ」

「…何度も言うけど、身持ちはしっかりしてね?」

「大丈夫です。華澄さんが解任されるような事はしません」

「食事を作る為だけにわざわざ通って…琴子さんも良くやるのだ」

「おばさん、どう考えてるのかなぁ…」

「お義母さんと呼んで、と言われますけど…光にも同じ事言ってるんですよね」

「強かな奥方のようで」

「あの時の小さい子達が…ほんと、どうしてこんな事になったんだろう…」

 

また新しい夏が来て

 

『大門高校、優勝おめでとう!』

『ありがとう美帆ちゃん!』

『ウチは仕方ないとして、きらめき高校が負けるとは思わなかったな』

『そうだね、真帆の話だと野球部は本気だったらしいのに』

『真帆さんかぁ、私会った事無いんだよなぁ。双子なんだっけ?』

『うん!私が姉で真帆が妹。たまにお互いの服を来て成りすますんだ』

『バレた真帆を追い掛け回したのがあたしの最後の会長業務…ホントどういう事だよ?』

『あはは、真帆も謝ってたじゃん、許してあげてよ』

『顔は同じでも性格は似てないんだよね?喋り方とかも違うのかな?』

『今まで私が書いた文章をハッキリした私の声で想像してみて?それが真帆だよ』

『そうそう、本当にメールやチャットの美帆そのまんまなんだよ』

『実は楓子ちゃんも会った事あるんだよ』

『え!?そうなの!?』

『うん!楓子ちゃん、私だと思って真帆と話してた事は何度もあるって言ってた』

『おい、入れ替わりで学校に来だしたのは2年の秋からじゃなかったのか?』

『あっ…やっばい!』

『バレちゃった!』

『ははは、わざわざ2回書き込まなくても』

『…おい、コイツ同じ秒に連投しやがったぞ』

『え?同じ秒って…無理だよね?』

『ああ、予めマクロでも組んでないと無理だ』

『まくろ?』

『ああ、予めキー入力のリスト作ってRUNだけでリスト通りに動く仕掛けだ』

『らん?』

『それもかぁ…説明ならメイの仕事なのに…何であいつ居ないんだ』

『えっと…ゴメンね、ほむらちゃん?』

『で、お前らそろそろ出てこい。あたしを騙せると思ってたか?』

『ごめんね二人共。今までずっとほむらと電話しながら時間稼ぎの指示貰ってたんだ』

『ネタは上がってんだぞ。片方、串刺してIP変えてたのが運の尽きだったな』

『上の楓子の書き込みが「まくろ」とか「らん」とか変になってるだろ』

『その時にお前達を調べた。バレてんだ、とっとと出てこい』

『えーと』

『意味は良く分からないけど』

『ごめんなさい』

『ごめんなさい』

『うわぁ…本当に2人でチャットしてたんだ』

『やっぱり2人だったか』

『え、どういう事?』

『もしかしてカマかけられた?』

『電話をかけたのはお前等がミスった時からで』

『本当は専門的な難しい事とか、意味ありげな事を言って自白させようって作戦だったんだよ』

『ほむらずるいー』

『ほむらずるいー』

『おまえ等、どうやって同時に書き込んでるんだよ?隣にでもいるのか?』

『こっちは電話しながらタイミング合わせるから大変だよ』

『じゃあ別に』

『合わせなくていいじゃん』

『そりゃ、何だか負けた気がして』

『ちょっと悔しいからだよ』

 

また新しい秋が来て

 

「ねぇねぇ見て見てヒラヒラのフリフリ~」

「わぁ、美幸かわいい!」

「茜ちゃんも着ようよ~」

「…いやボクは止めとくよ、似合わないしさ」

「そんな事ないよ!ねぇ、一緒に着ようよ~」

「でもサイズ合わないから無理だよ」

「フフフ…ククククク…」

「どうしたの、変な笑い方して…怖いよ?」

「サイズが合えば…着るんだよね?」

「え…まぁ、サイズが合うのが有ればね」

「じゃじゃーん!」

「え…それって…もしかして」

「この寿美幸!茜ちゃんサイズのウェイトレス服を作ってきました!」

「うわぁ…あれ、これ何だか和風っぽいような?」

「うん!琴子のおばあちゃんから和服の事を詳しく聞いて作ったんだ~」

「わぁ…可愛い!わぁ!」

「もう出来上がってる書き割りを壁にすれば簡易更衣室の出来上がり~」

「えっ!?そこで着替えるの!?更衣室じゃなくて!?」

「大丈夫大丈夫!男子が見ないように女子で見張るから」

「えええ…ってもう書き割りで壁作ってるし…」

「ほら入ろう入ろう」

「美幸も来るの!?」

「うん!ほらほら」

「とっとっと、…仕方ないなぁ。皆、見えないようにお願いね」

「一名様ご案内~っと」

「強引だよ美幸ー」

「テニス漬けでストレス溜まってるの!付き合ってよ!」

「しょうがないなー…えっと」

「まず脱がないとだよ」

「同じ女子でも恥ずかしいよ…」

「でも一人で着るのは慣れが要るから結局、最後は下着姿見せる事になるんだよ」

「うう…」

「はい、制服は畳んでおくね」

「うん…あれ、これ何処から着るの?」

「あ、そっちは腕だよ、首はコッチ!」

「ああ、こっちか…んっしょ!」

「んで、こっちをこう…背中は私が抑えとくね」

「うん…あれ?腰は一番締めるボタンでもブカブカだよ?」

「じゃーん!この帯を直ちに装備シタマエ!」

「ああ、帯で…ってコレ、結構良い物なんじゃないかな?」

「そうなの?琴子のおばあちゃんが要らないからあげるってくれたものだけど」

「うーん…帯だけ高級品ってのも何だかなぁ…」

「…よし、後はこっちを」

「…出来た!美幸、これでどうかな!?」

「えっとね…ねぇ、ちょっと来て~うん…茜見てみて」

「え、何?何で何人も見に来るの?」

「うん…やっぱり…だよね。オッケー、見張り戻っていいよ」

「なんなのさ一体…ボクの格好が変なの?」

「茜…それ、エッチぃ」

「え?…エッチ?」

「うん、ちょっと胸にパット入れたからさ、ただでさえ大きい胸が…凄い事に…」

「え…ああ、ほんとうだ…」

「そして胸で見えないだろうけど、腰細いのを帯でギュッとして…胸が袋みたい」

「わー!わー!」

「しかもミニスカをチュチュで膨らませてるからボン・キュッ・ボン」

「待って!言わないで!」

「これじゃあ袖のフリフリは可愛いというより…こけしっくなえろしちずむを感じるよ~」

「やーめーてー!」

「調子に乗って白サイハイ持ってこなくて良かった…」

「まだ何か着せるつもりだったの!?」

「うん、ニーハイブーツとどっちにしようか迷って持ってくるの忘れた」

「あんまり服とか分からないけど…それ履いたらどうなってた?」

「膝の上まで隠すからさ…茜は褐色肌だし…」

「うん…」

「もう、えっちとかじゃなくてエロイ!」

「キャー!」

 

また新しい冬が来て…

 

「もう…あと一ヶ月かぁ」

「うん、早かったね」

「…うん、色々あったなぁ」

「本当に色々あった…凄い三年間だった、予想もできなかった」

「皆、同じハズだよ」

「あの時、楓子にぶつかってから…こうなるなんて…」

「どうかな、花桜梨」

「ん?」

「忘れられるぐらい、楽しかった?」

「…」

「どう、かな?」

「…フフ」

「あ!笑うなんて酷いよー、ちょっと不安だったんだよ?」

「ごめんなさい、言われるまで…忘れちゃってた」

「…なら良かった」

「…ありがとう、光」

「私こそだよ、あの時の花桜梨がこんなの嫌だって言わなかったら…私と琴子はどうなってたか」

「あの時は、本当に、少し期待してた所だったから…つい喋ってたんだ」

「皆も言ってるよ、あの時の花桜梨が居なければ…うちのグループは無かったって」

「私も、皆が…うん、皆だったから卒業まで…そう思ったんだ」

「3年の進級時は皆怖かったんだからね」

「もう退学する気なんて無かったのに…皆、何度も聞いてきたっけ」

「メイなんて泣きそうだったもんね」

「私はほむらが進級出来るのかでハラハラしてた」

「うん、本当にね。まさか学年末試験で再々々追試とか…血の気が引いたよ」

「アレが最後の追試って言ってたけど、まだ何回か残ってたんじゃないかな」

「メイに頭下げてようやく合格点だったから…回数での望みは薄かったような…」

「それで見かねたメイが学校の恥になるってほむらのお尻を蹴ったね」

「物理的な意味でもね。まさか農業大学に行けと言い出すなんて思わなかった」

「ほむらはりんご園を継ぐんだから、ウチの園で勉強するのが一番だ、って言い返して」

「それに対して、書類も出来ない奴が自営業出来ると思うな!って掴み合いの喧嘩」

「危なかったね、椅子とか飛ぶし、窓も割れるし」

「あの時は二人共、本気だったろうからね」

「ほむらは早く継いでお爺さんを安心させる事しか考えてなかったし」

「メイはそれじゃ途中で廃園確定だって信じてたからね」

「…二人ボロボロだったね」

「頬も腫れて…3日ぐらい殆ど喋らなかったっけ」

「どうしようどうしようって思ってたら、ぼそっとお互い名前で呼び出すんだから」

「フフフ…」

「あははは」

「あれでようやく12人、全員…うーんと」

「…」

「えっと…は、腹を割ったって事かな!?」

「フフ…フフフフ…おじさん臭い…ふふ」

「お、思いつかなかったんだよー!ほむらならどう言うかって考えたら…」

「最初に腹を割ったのは光と琴子だけどね」

「やめてー。思い出すだけでも恥ずかしいんだから」

「…でも、あの時の貴方達だったから、皆、こうなれたんだよ」

「う、うん」

「皆、二人のようになりたいって思ったから…だから、自信を持って」

「でもやっぱり、ただの友達だった頃の皆の前であんな、あんなさぁ」

「あんなって?」

「花桜梨ー!何を言わせたいのさ!?ここ廊下だよ!廊下!」

「でも、1年でも知ってる程じゃない」

「もぉー…男の子の取り合いする修羅場が、何で語り継がれるのー!?」

「ふふふ…私達は何時でもあの泣き声を忘れないよ」

「花桜梨って時々鬼畜だよぉ…」

「流石に琴子の覚悟を聞き直すのは勇気がいるけどね」

「…は、孕んでも良いって啖呵切った時はどうしようかと…」

「ああ、女子だけで着替えてる時の…あれでクラスの皆、琴子さんって呼び出したっけ」

「そうそう、遊びに来たメイが『これが…女の覚悟…!?』ってナワナワ震えて」

「ふふふ…琴子さん」

「ぷふぅ!」

「ふふふ…ふふ…ふふふ…」

「あはははっ…はっ…はははっ…ハハハハハ!」

「あの時の琴子の顔」

「ハハハハハハハハ!止めて!笑わせないで!お腹、おなか痛い!」

「『琴子さん!』」

「アハハハハハハハハ!!!メイ…似てない…ハハハ!…はーはー…ひー…ひー…」

「『人生の先輩!尊敬を籠めてそう呼ばせてもらいます!』」

「ハハ…ハー…ハー…アハハハハハ!」

「メイは色々と変わった娘ね」

「ふーふー…鬼!悪魔!花桜梨!」

「呼んだ?」

「…こっち来る前の花桜梨って絶対に小悪魔タイプだったでしょ」

「んー、どうだったかなぁ…内緒っ!」

「えー、教えて下さいよ花桜梨先輩~」

「あ、今の凄く部活の後輩っぽかった」

「そう言えばまだ楓子をさん付けで呼んでるの?」

「うん意地になっちゃって、素直に花桜梨って呼んでくれるにはまだかかるのかなぁ」

「もぅ…花桜梨が楓子を可愛がりすぎたからだよ」

「だって、あんな悲しそうに『また何時か会おうね…』って言っておいて…」

「あー、うん。アレは楓子にとって痛恨のミスだったね」

「あの時、メイが力強く頷いてたのは…分かってたのかな」

「うん、絶対『やはりこの絆は裂ききれない運命なのだな』とか思ってたハズ」

「まさか一ヶ月程度で、修学旅行先で再会するとは…」

「そうそう、それで純と楓子の花火大会すっぽかしを囃し立てて…」

「あの時の二人は顔真っ赤過ぎて死ぬんじゃないかと思った」

「一番、遊んでた人が何を言う」

「光も大門高校の人達に『この娘、この通り先約ありますからね』って釘刺したじゃない」

「匠の『なおキャンセルは受け付けておりません』よりはマシ」

「あの後、純は部屋から出ないし、楓子のメールは怖いしで苦労した」

「何食わぬ顔した琴子がスッと携帯電話を純に渡した時は何が起きたのかと思ったよ…」

「光も知らなかったの?琴子が携帯電話持ってた事」

「本当に知らなかった…すっごい驚いたよ」

「何でも旅行前日の夜に1日で携帯電話の説明書を丸暗記したらしいよ」

「もー、本当にどうでも良い時に本気だすなー琴子」

「まぁまぁ、純と楓子には一大事だったし…ね」

「そもそも楓子が携帯電話を持ってるか分からないってのにもー」

「メイに調べさせたんでしょ、佐倉家の電話契約とかで」

「メイを便利屋扱いし過ぎだよー」

「琴子は覚悟が決まってるというかブレーキが無いから…」

「呪い解いた時にブレーキもへし折れたんじゃないかな」

「…ああ、呪い解けたか確かめた時の」

「うん、皆に普通の態度取ってて、琴子優先じゃなくなった時のアレ」

「声も出さず無言で涙流したよね」

「無表情で泣く顔って威圧感あるね」

「で、それを見た陽ノ下さんは心の中で琴子ザマァと罵った」

「言ってないよ!思ってないよ!」

「えー?本当に?」

「何で私を悪女にしたがるのかあ…」

「だって光が綺麗過ぎるもの…あ、知ってる?」

「何を?」

「伝説を知った1年が付けた光の異名」

「新しい伝説にされちゃってる…なんだろう、聞きたくない」

「聖女」

「…えぇ…私、聖人なんかじゃないよぉ…」

「でもアレを許せるのは真人間じゃないと思う」

「私だって怒る時は怒るんだよ?」

「…うん、ごめん」

「全くもう」

「うん、全然怖くないから、怒った顔はやめよう?」

「…酷いトドメの刺し方だよぉ」

「まぁ…光が聖女じゃなかったら殺傷沙汰だったろうし、良かったよ」

「え、何?今度は怖い事言い出したこの人」

「うん、まぁ、光達の3人抜きで集まった時が何度かあってね」

「ああ、そういう事もあるよね」

「その時、光が許さなかったらどうなってた?って話になったの」

「人の修羅場を話の種にしないでくれるかな?」

「結果は美帆の予想に全員賛成だったよ」

「美帆かぁ…メルヘンな事言いそうだけど…」

「壊れた琴子が、あなたを殺して私も死ぬで、無理心中」

「えぇ…えぇ…美帆はそんな事言わない…あ、真帆だ!絶対に真帆だ!」

「うん、まさかの13人目でしたとさ」

「13人いる!」

「ああ、美幸がハマった小説」

「そうそう、眠る為にって読んでたのが思いの外ハマって舞台まで見に行ったやつ」

「茜がこの世の終わりかって顔してたっけ」

「赤点仲間が減る事が茜には辛すぎたんだね」

「ほむらが勉強しだしてテストの最下位争いに入ったからかな」

「で、映像じゃなく生の舞台見に行きたいって言い出して」

「メイがほむらより上の点数取ったら自家用機で日帰りツアー組んであげるとか言って」

「ほむらには更にやる気出させる為に勝ったら農業大学の推薦取ってやるって言って」

「…どうして美幸が勝ったんだろうね」

「分かんない、アレって奇跡だったんじゃないかな」

「ほむら、涙の男泣き」

「彼女は女性です」

「それはペンですか?」

「いいえ、それはトムです」

「あの時のほむらの絶叫は凄かったね」

「美幸、泣いて謝ったもんね」

 

そして終わりが来た

 

「今、登っていったの九段下さんだよな?」

「また総番長と遊びにでも来たのかもね」

「でも華澄さんが居ないな」

「ほら今、華澄さんは吹奏楽部と写真撮ってるし」

「あぁ…じゃあ潜り込んでる事も気付いてないのか」

「どうする?吹奏楽部の娘に電話して伝えてもらう?」

「別に良いだろ、今日ぐらいは」

「卒業式だもんな」

「そうだな…」

「そうそう」

「…」

「純、佐倉さん来るまでまだ時間かかるから落ち着けって。まだ電車だろ?」

「あー、いや。それだけじゃないんだ」

「アイツがどっちを選ぶかって事?」

「陽ノ下さんも、水無月さんもどっちも頑張ってきたからなぁ」

「本当、どっちでもおかしくないからね…賭けでもする?」

「やめてやれ」

「はーい…ん?」

「どうしたの?」

「いや…もしかして、さっきの九段下さん…鐘を鳴らしに来たんじゃないか?」

「あ、そうだよ!だから一人で大手振るって校内徘徊してたんだ」

「手続きとかも伊集院さんがやってくれてるんだろうな」

「…そういや純、皆の事を結局さん付けのままだったよね」

「お前も同じようなもんだろ」

「まぁ、俺は相応の親愛を籠めて呼んでたから」

「俺もだ」

「…純、変わったなぁ」

「急に何だよ」

「いや、入学したての頃は女の子に近づくなんてハレンチな!って感じだったのに」

「何だよお前だって変わっただろうが」

「ん?そうかな?」

「今じゃ女子の前でも猫かぶらなくなったろ」

「いやいや。これは仕方ないだろ」

「まさか女子が分かった上で可愛いとか言ってきていたとはな」

「それ知った時は本当に血の気が引いた…目の前が真っ暗になった」

「後は、他人に深入りするようになった」

「うん、自分のスタンス曲げちゃったなぁ」

「それと…無条件に年下嫌ってたのも治ったな」

「…まさか、伊集院に指摘されるとは思わなかった」

「素の顔で淡々と話してるの見つけた時は本気で焦ったぞ」

「俺もだよ。女子9人がわいわいやってるの見てたら…どうしてああなった」

「あの時、俺は後から来たから分からなかったけど…どういう流れだったんだ?」

「忘れたの?喧嘩の内容はその時に言ったじゃん」

「いや、そうじゃなくて…何で伊集院さんがお前に噛み付いたのか知らなくてな」

「あー。急に、『お前は何時もそうやって部外者の顔をするな』って言われたんだよ」

「…なるほど、女子だけ仲良しなのが気に入らなかったのか」

「そうそう、男共も入ってこいよって…」

「男はなぁ…そういうのじゃないからな」

「そう言って拒否してたら売り言葉に買い言葉で…あんな事に」

「まさか陽ノ下さんと水無月さんの次がお前達とか…本当に想像出来なかったぞ」

「俺、八重さんと赤井さんだろうなと思ってたよ」

「俺もだ。あの二人、何でか相性良いもんな」

「だって言うのにさ…まさか最後は泣きながら本音ぶちまけるなんて…恥ずかしいよ…」

「まぁ、あれがあったから俺達2人もあの輪に入る事になったし…良かったよ」

「もう二度と喧嘩なんてしない…お前等、強すぎる」

「お前が弱すぎるだけだ、最初は気絶したフリかと思ってたんだぞ」

「純はまぁ分かるとして…アイツは反則だろ!」

「呪いの副作用なのか、何でか鍛えたものが鈍りにくいからなアイツは」

「先月走ったからって何だよ…そんなので喧嘩強くなるかよ…」

「お蔭でどんどん超人化して…頭も学年トップ当たり前だったな」

「あの修羅場が無かったら、アイツ女子が虫みたいに纏わりついてただろうな」

「頭良くて運動も出来て社交性も問題無し…欠点は、察しの悪さぐらいか」

「3年になるまで二人の取り合いに気付いてなかったもんな…」

「怒った水無月さんがぶっちゃけて、暫く混沌としたな」

「新任なのに3年を任された上、初日の朝に妹分達のド修羅場を見せられる華澄さんの明日はどっちだ」

「止めようとしたら『華澄さんは黙ってて!』『ごめん華澄さん』『華澄さんごめんね』」

「アレで皆、麻生先生じゃなく華澄さんって呼ぶようになったんだろうね」

「あんなに連呼されたらなぁ…頭に染み込む」

「呼び方変えるよう言ったら寿さんが『じゃあ華澄ちゃん!』って」

「アレは酷かった…華澄さんの途方に暮れる顔は酷かった」

「あの人、学生時代は総番長達に説教して回ってたらしいし…生粋の苦労人なのかなぁ」

「説教されてアレか…もうどうしようも…ん?」

「ん?…ああ、メール届いたの?佐倉さん?」

「ああ、駅に着いたら三原さんが待ってて、車に乗せてくれたって」

「また伊集院か…じゃあ思ったより早く着きそうだね」

「…そうだな」

「佐倉さん、インターハイの応援に来てたんだっけ?」

「わざわざ三原さんが新幹線を手配してくれてな」

「正月に会わせようと画策してたのに失敗したからだろ」

「三原さんにも慣れたなぁ…」

「佐倉さんの事で散々お世話になったから頭が上がらない」

「そういや、こないだ久しぶりに銃構えられたよ」

「ん?何やったんだ?」

「いや、スケート行った時、伊集院がコケて悲鳴あげた」

「ああ、条件反射か」

「他の客が全員、偽装したSPらしくてさ…四方八方から…銃を…心底怖かった」

「うわ…」

「あ、そういや九段下さんもバイトでSPやってたよ」

「あの人、伊集院家ですらバイトするのか…」

「かなり勧誘頑張ってるけど正規雇用は嫌だって断るんだと」

「あの人は本当にサッパリ分からん…よっと」

「あれ?もう行くの?」

「ああ…でも、その前にだ」

「ん?」

「結局、お前は誰の所に行くんだ?」

「…さぁね?」

「寿さんか?頭空っぽで話せて楽って言ってたし」

「どうだろう?」

「…一文字さん?胸が胸がって言った事あったよな」

「いやいや、白雪さんかもしれない。純粋に可愛いし」

「八重さんは?お前、年上好きだろ」

「赤井さんと伊集院は今頃、別れを惜しんで泣きじゃくってるだろうなぁ」

「…言わないつもりか」

「うん、大衆食堂でのお楽しみだ」

「…まさか打ち上げで貸し切りしてくれるとはなぁ」

「あの時の席に座ろうって話になってるね」

「じゃあ、俺達は二階か?」

「流石にそれは嫌だよ」

「だな。…なぁ、匠」

「どうしたのさ、急に真面目な顔して」

「大丈夫だよな?」

「何が?」

「今度はお前が原因で修羅場にならないだろうな?」

「…」

「匠?」

「…ごめん…自信無い…」

「お前…お前!水無月さんの件で女は怖いって分かってるだろ!?」

「やばい…どうしよう…俺、刺される?」

「そこまでか!?無防備になりすぎだろお前!」

「うわ…うわぁ…どうしよう…純…俺、俺死ぬ」

「…まさか全員に粉かけてた訳じゃないよな?」

「流石にそれは無い…でも3人…じゃあ2人に殺される?」

「水無月さんが宣言した内容みたいになりそうで怖い…」

「…振られても、みっともなく泣きわめいて再判を求めるって?」

「ああ、選べないとか言ったらそれを口実に陽ノ下さんを縛ってでも2人で押しかけてやる」

「自分が一番になるまで争ってやる、それまでは子供が生まれても止めない」

「料理で胃袋を掴んでやる」

「たま…あーっと…下世話な方も握ってやる」

「周囲にアイツの女だと思わせて外堀埋めてやる」

「過剰に世話を焼いて自分が居ないと生きられなくしてやる」

「先に子を孕んで事実婚になってやる」

「…ただし、高校出るまで節度は守る」

「…怖いな」

「…俺の方は、大丈夫だよな?」

「むしろ水無月さんを手本に大暴走するかもしれん」

「あぁ…どうしよう…本当にどうしよう…」

「骨は拾ってやる…」

「殺されないけど別の意味で死にそう!」

「お前、昔ウチに来た時に言ってたろ?家族とはいえ女性だらけの生活なんて羨ましいって」

「なんだよ…それがどうしたんだよ…」

「明日…いや、夜辺りからその3人に囲い込まれる生活になるな」

「水無月さんが増えるとか勘弁してくれ!」

「そろそろ俺は行く。頑張れよ匠」

「待って!純、知恵貸して!一緒に考えて!」

「とは言っても、俺じゃあな…あ、そうだ」

「何か思いついたか?」

「いや、そうじゃなくてだな…」

「ん?」

「お前は3人の認識だけど…向こうはどうなんだろう…って思ったんだ」

「…1人に減る?」

「ヘタすりゃ増えそうなんだが…」

「お前は良いよな!1人で!」

「いや、俺に当たるなよ」

「いや、でも、それはただの予想だから…」

「そういやバレンタインデーの時の事なんだが」

「ん?ああ、あの9人合作巨大チョコ?」

「うん、あの時に女性陣だけでコソコソやってたろ?」

「佐倉さん、まさか前日にジェットで来てたとはなぁ」

「8人合作だと思ってたら…本当に三原さんには頭が上がらないな」

「また出たよ旦那ヅラ、でそれがどうしたのさ?」

「バレンタインデー後も女性陣だけでコソコソしてないか?」

「…まって、マジまって…」

「多分、お前の事で話し合ってたんじゃ…」

「うそだ…」

「そういえばお前の入る地元新聞社って、伊集院系列の広告増えたよな」

「…」

「新聞社だし、変な会社命令もあるんだろうな」

「…」

「何処へ飛んで、何を撮るまで帰ってくるな、ってのもありそうだな」

「どうなるの!?俺、どうなっちゃうの!?どんなネタにされちゃうの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さてと」

 

「…ええ」

 

「泣いても笑っても…だね」

 

「いいえ、私は泣いて喚くと宣言してるから」

 

「…ずるい」

 

「そうでもしないと勝ち目が無いからよ」

 

「絶対ウソだ…私、勝てる気がしないよ」

 

「まぁ…っ!」

 

「…あ、やっと来たね」

 

「…それじゃあ、単刀直入に聞くわよ」

 

「うん、私も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっち?」「どっち?」

 

 

 




という訳でお終いです。
ありがとうございました!


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ダイジェストのおまけ

本当は卒業で終わりのつもりでしたがちょっとだけ
※直接描写はありませんが性的な内容もあるので注意!


その後、匠は入社したが暫くして酷い指示を受ける

『全て自由にやっていい、仕事もしなくて良い、出社も要らない』

という、完全放任なのかリストラなのか判断に困る内容だった

それはメイが行った伊集院の圧力であって

高校を卒業し、既に少女とは呼べなくなってきた6人の女の意志であった

 

「それで、花桜梨はどうするの?」

「…そっちは純と楓子だけで良いなぁ」

「なんというか…俺達だけ楽にしててすまない」

「…えっと、美幸やほむらは普通だったんだよね」

「うん、高校の頃の『こちらからの誘いは禁止』が解けて、よく遊びに誘う程度」

「じゃあ、あの二人は問題無かったのか」

「で、そこで美帆が真帆を呼び込んで思いっきり荒れ出した…と」

「そう、それで茜が…」

「ああ、だからこんな時期に…」

「料理で胃袋落としてたのに下の袋も握りに行った…かぁ」

「まさか茜が一気に飛び込むなんて思わなかったよ」

「一文字なんて誰も予想が付かないだろう…」

「身体を使うのは条約違反だったの?」

「ううん…別にそういうのは無かったし、茜もちょっと胸を強調する服装ぐらいだった」

「ああ、それじゃあ特に何も言えないな」

「うーん…こうなったら…」

「こうなったら?」

「…何なんだ、楓子?」

「もう、全員で同棲してみたらどう?」

「…え?」

「いや、皆の仕事はどうするんだ?」

「でも、匠の職場は既にメイの言いなりで、メイが有利なんてもんじゃないんでしょ?」

「うん、だから茜が焦ってあんな事…」

「まさか…寿と八重を退職させる気か!?」

「うん!そこまでやって、一緒に住んで、リセットするんだよ!」

「…それなら…私も…皆も…」

「待て…待ってくれ八重!正気に戻れ!バレーはどうする!?」

「もうここまで来たら伊集院家に丸投げするしか無理だよ!」

「そうかな…そうかも…茜だけじゃなく…美帆真帆もだし」

「白雪姉妹もヤッたのかよっ!?」

「皆、ここで全て捨てる勢いじゃないと無理だよ…もう覚悟の闘いなんだ」

「ほむらと真帆は大学は県内だし…茜は大衆食堂…美帆なんて在宅の小説家…」

「後は美幸と花桜梨がこっちの実業団に移籍すれば…」

「あぁ…確かに上手く全員住めるな…待て?同棲って言ってなかったか?」

「うん!メイに何とかしてもらって家を用意してもらう」

「でも、それはメイに負担が…」

「この状況を作ったのはメイだよ!?なら飲んでもらうしか無いって!」

「楓子…お前、伊集院を脅す気か!?」

「でも茜が動いたのも、元々はメイへの危機感だって言ってたし…」

「…匠の意志は?」

「知らない!そこまで放置した匠が全部悪いんだもん!」

「匠には悪いけど…もう、ここまで来たら皆で堕ちようって説得する」

「匠…これからもっと大変だけど…頑張れよ…」

 

 

 

「ようやく帰ってきたぁ…」

「本当だ…ようやく一息付けるな」

「まさか、全員と合同結婚式だなんて…」

「法律上の籍を入れたのは俺達だけだけどな」

「うん、それが私達の自慢だね」

「フッ…そうだな、皆羨ましがってたもんな」

「でも琴子と光は婚姻届は諦めてないけど」

「もう、あの二人はどうしようもない。何せ琴子が本気過ぎる」

「ホントだよ、でも…私達はそんな琴子が好きだから」

「…そうだな」

「そうだよ」

「…なぁ、楓子…俺にも楓子以外が居たら…お前もああなってたか?」

「ううん、私は弱いから何も出来なかったんじゃないかな」

「そっか」

「…」

「さて、お土産整理しないと…」

「…ねぇ」

「ん?どうした?」

「…何でそんな事聞いたの?」

「…え?」

「さっきの…私が純と取り合う娘が居たらって話…」

「ああ、アイツ等見てて、そんな子が居たらどうだったかってな」

「…本当?」

「…楓子?」

「他に好きな子が出来てない?」

「…楓子?」

「私を捨てたりしない?」

「いや、心配するな。俺はお前しか…」

「…ねぇ、純」

「楓子、ふざけてないで…」

「真面目に聞いて」

「…おぅ」

「私も女のつもりだよ?」

「知ってる」

「純…ねぇ純」

「何だ?」

「もしあなたが私以外を抱くなら…」

「…やめろ、そんなの考える事すら嫌だ、反吐が出る」

「聞いて?」

「分かった、聞こう」

「もしね…純が他の女を好きになって、他の女を抱こうものなら」

「…なら?」

「私は、あなたを縛り付ける」

「…」

「あなたの生存を握る、食事も私が手で直接…」

「楓子、怖いぞ…」

「あなたの性欲も全部私が受ける…」

「…いや、その…」

「私しか見えないように…変態な性癖だって植え付ける」

「へっ、変態!?」

「うん…私の身体でしか…私でしか悦べないようにする」

「…かっ、楓子…?」

「他の女に純を取られるぐらいなら…縛ってでも…手足を折ってでも離さない」

「…う…ぁ…」

「もう私に依存させる…私が居ないと生きていけなくする」

「…や、やめ…」

「一緒に死のう?って聞いたら、すぐ頷くように壊す。…そう、純を壊す」

「か…かえ…で…こ…?」

「お腹の子に不安定でも、純を抱いて、抱かれて…二人で堕ちよう」

「…お…落ち着け!」

「一緒に…一緒に死のう…ねぇ、純…一緒に死のう…」

「あ…あああ……ぁあ…」

「凄く気持ち良いよ…私も純が好き…だから一緒に死んでくれるよね…」

「…は…はぁ…ふぅ…かっ、楓子?」

「…このまま、抱きしめたまま…ねぇ、純も抱きしめて…」

「…う…うぅ…」

「うん…いい子だね…」

「…あ…ぁぁ…」

「…このまま死のうよ…私達だけで終わっちゃおう…」

「あ…う…うわぁぁああああ!!!」

「…」

「…」

「…なんてね」

「…え」

「冗談だよ」

「…あ…そ、そうか」

「ふふふ…」

「…驚かすなよ、ちょっとどうにかなりそうだった…」

「一緒に死んで良いって?」

「ああ…」

「…私は本気だよ」

「えっ?」

「まだ死にたくないだけだもん」

「死にたくないだけって…まだって?」

「うん、まだ純との子も産んでないし、もっと一緒にいたい…」

「…そうだな、俺もだ」

「だからまだ…ね」

「うん?」

「一緒に…終わろうね」

「ああ…と言っても、二人仲良く大往生ってのは難しいだろうが」

「知ってる?男と女では、女の方が遅く死ぬんだよ」

「…確かそうだったな」

「うん、だから…」

「だから?」

「一緒に死んであげる」

「…ぇ」

「死ぬ時が違うなら…一緒に死のう」

「ここまで一緒だもの、最期も一緒に」

「皆には悪いけど、私は純と二人になれるなら…喜んで…」

「何時、死のうか?子供が就職してからだよね」

「孫も見たいよね…じゃあお爺さんお婆さんになってから」

「大丈夫、茜の家に日本刀があるから」

「包丁とか銃じゃ味気ないもんね」

「一緒に抱きしめながら繋がって」

「私が純を後ろから刺したら、仰向けに倒れてね」

「そしたら私が上から飛び込むから」

「抱きしめて…私も抱きしめる…」

「一緒に、抱きしめ合いながら」

「そのまま死のう」

「凄く気持ちいいよ」

「凄く幸せだよ」

「嬉しいままだよ」

 

「串になっても一緒だよ」

 

 

 

 

 

「えっと…来年の入学式は…誰と誰だっけ」

「しっかりして光…ほら、この6人よ」

「…ああ、って仕方ないよ!子供多すぎるんだよ!」

「今更の話でしょうに」

「もう、あっちよりも子供多いんだよ!」

「女7人相手に上回るなんて…私達も凄いものよね」

「私は4人しか産んでないから」

「じゃあ、私が毎年産んでるのが大きいか」

「本当だよ!皆、妊娠や出産しても『ああ、その時期か』って扱いだよ」

「でも同じ月じゃないしそこまで年間行事って事でも無いでしょう?」

「新年に産んで、その年末にも産んだ時はどうしようかと…」

「…あの子の時は怖かったわね、体重も軽すぎたし…」

「抑えよう?ほら2年前とか逆子で琴子も危なかったじゃない」

「うーん…でもねぇ」

「もう20人超えそうだよ…琴子何人産んでるの…」

「24人ね、一番上の子はようやく大学卒業か」

「年間1人なら20人切ってるぐらいなのに…出産直後にすぐ妊娠して…もー」

「胸も随分と重くなったわねぇ」

「本当だよ…子供達に『光おかあさんの胸は小さいね』って言われたよ…」

「全く、あの子達は」

「皆も刺激されて、1人しか産まないって言ってたのが3人産んだり…」

「ほむらの時は怖かったわね…」

「ほむらのお母さんのように出産で死ぬんじゃ?、て冗談が本当になりかけたね」

「出産のショックで心停止、伊集院家の医療団じゃなければどうなってたか」

「あれで皆、次は止めたけど…ほむらは産むって聞かなくて大変だったっけ」

「結局、匠が責められたわね」

「まぁ、ほむらは女としては普通だから良いんだけどさ…楓子は本当にもぉ…」

「子を産む為でもなく、幸福の為の心中とかカマキリの雌より酷いわね」

「本当だよ…純のお姉さんがアポ無しで来なかったら間違いなく死んでたよ」

「楓子は息を吹き返した後、凄い形相で恨んだけどね」

「もー、学生時代のグループ外には辛辣なんだから…」

「まぁまぁ…楓子は私達のせいだし」

「琴子だけだよ…琴子の覚悟に魅せられて、楓子が…ヤンデレ?みたいになったんだよぉ…」

「まぁまぁ、少しは楓子の気持ちも分かるでしょう?」

「…まぁ、少しだけね?」

「あー、こっちはそんな最期は迎えられないのが悲しいわ」

「止めてよ…私だけ生き残っちゃうよ…」

「日本刀の刃渡りって3人までなら同時に刺せない?」

「私も死ぬの!?」

「ええ、彼を中央に私と光で抱きしめて…」

「絶対に嫌だからね、止めるからね」

「…そうね。彼がどちらを向くかで揉めるし」

「それ以前だよ…そもそも死にたくないよ…」

「…あ…光…ちょっと…来たみたい」

「来たって…あ!産気づいた!?救急車!救急車!」

「あと1週間は先だと思ってたけど…ふぅ…」

「もう若くないんだから、その子で最後にしない?」

「いいえ、止めないわ」

「もぅ…聞いてくれないなぁ…」

「ええ勿論…」

 

 

 

 

 

「あの人の一番になるまで絶対に止めないわ」



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