船乗り志望と医者志望 (kwhr2069)
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曜side
HBP第二弾です。
どうぞよろしくお願いします。
曜ちゃん、Happy Birthday!!
これは、私が高校を卒業して間もない頃の話。
私は、船乗りになる夢を叶えるために、東海大学海洋学部に進学した。
私は静岡を出て、上京したのだ。
大好きな静岡を離れるのは本当に寂しかったけど、本当に船乗りを目指すなら東京に行きなさいとパパに言われたことがきっかけだった。
でも決して、嫌々上京したのではない。
私は、静岡が大好きだった。
だからこそ、静岡にいるままでは確かに何かがダメな気がした。
長年の夢をちゃんと叶えるためにも、私は一歩踏み出さなければならないと思った。
そうして、私は久方ぶりに東京の地を踏んだ。
* * * *
やっぱり東京、人が多いなぁ…
引っ越し先へと向かう電車に揺られながら、ふとこんなことを考える。
静岡でも、人が多いときは確かに多いけど、東京は常にこんな感じなのかな。
もうあと二駅で、目的の駅に着く。
そんな時だった。
突然、頭がなんだかぼんやりとしてきて、私はその場に倒れこんだ。
「(あ、れ…?何、この感覚…)」
そして私は、意識を失った。
「…はっ!」
目が覚めた私は、がばっと起き上がった。
私は、ベッドで眠っていたようだった。
窓からは、見慣れない景色が広がっている。
いったい、ここは――
「あら、目、覚めたんですね」
一人の女性が部屋に入ってくる。
背は、私よりちょっと高いくらい。
白衣をまとっているからか、赤い髪がすごく目立つ。
「は、はい…」
とりあえず返事はしてみたけど、聞きたいことがたくさんあって頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「あなた、電車の中で倒れたんですよ」
手にしたリンゴの皮をむきながら、そう言われた。
言われてみれば、そんな感じだったな…と思い出してきた気がする。
あの時私は、電車内で吊革につかまって立っていた。
そしたら突然、意識が朦朧としてて気付いたらここに来ていた。
じゃあ、ここはいったいどこなんだろう?
どうやって私は、ここまで来たのだろう?
意識がはっきりしだした頭が回転し、疑問が頭の中を駆け巡り始めた。
「特に身体に異常は見られなかったから、何か精神的なものだと思うんですが…あなた、出身は?」
「えと…静岡の、沼津というところから」
「東京には…旅行?引っ越し?」
「引っ越しです。この春から、東海大学に通うために」
「なるほどね、まあ…人混み酔い、とかかしらね」
「はあ、そうですか…」
確かに言われてみれば、東京のような人混み、私は殆ど経験していないけど…。
「はいこれ、リンゴ」
「あ、ありがとうございます」
と、ここで、ずっと気になっていたことを聞くことに決めた。
「あの~ココって、どこのなんていう病院なんですか?」
「あ~、ココはね、実は病院じゃないのよ。私の家」
「…はい?」
「あなたが電車で倒れるのを見かけて、車を呼んでココに連れてきたのよ」
「えっと…え?」
この人の家って?
車を呼んで、って言った?タクシーじゃなくて?
「何?全く分からないって顔してるけど?」
「じゃあその、白衣はどうして?」
「ああ、これのせい?私はね、医学部に通ってるの」
漸く理解できてきたかも。
この人は私を電車で見かけたから、車を呼んで自宅まで連れてきた。
普通なら病院に連れて行くところだろう。
だが、この人は医学部生だった。
車の中で、脈拍とかを計って安全と判断したのだろう、自宅に連れてきた。
ついでに言えば、今日は日曜日だから、近くの病院があまり開いていなかったのかも。
そして一応念のためか、私が病人であることに変わりはないから、白衣を着た。
こんなところだろうか。
「あの、ところであなたの名前は…?」
「私?私は、西木野真姫っていうわ」
西木野、真姫…?
どこかで聞いたような気がするような、しないような…。
「あなたは?」
「えっ、はい。私は、渡辺曜って言います」
「ちなみに私、東海大学に通ってるの。
だから、学部は違うのかもしれないけど、あなたの先輩、ってことになるわね」
「そうなんですか!?」
こんなにキレイな人だし、さぞかし人気なんだろうなあ…。
「そういえばあなた、学部は?」
「えっ?」
「学部はどこなの?って聞いてるの」
どうしよう…。
西木野先輩には世話になった。
だから本当のことを言ってもいいんだけど…。
「実は…医学部なんです」
「ふーん、そう」
あれ?興味なさげ?
「で、本当は?」
「えっ?」
「医学部なんて嘘でしょ。本当はどこなのよ?」
ちょっと、なんでバレちゃったの~?
私、そんなに分かりやすかったかな。
意を決する。
「…海洋学部です」
「ん?」
「海洋学部で、航海学を専攻しようと思ってるんです。
将来の夢が船長になることなので。
でも、女子がそんな夢、言ったらバカにされるんじゃないかって。
だから、あんまり口に出さないようにしてるんですよ」
ここまでを、早口で喋る。
西木野さんの反応は…
「あなた、そのためにわざわざ静岡から上京してきたの?
静岡の方にも、そういう学校はあるんじゃないのかしら?」
「まあ、そうですけど…」
やっぱり少し、呆れられてる…?
「すごいじゃない!」
「えっ?」
呆れられて、ないの?
「船長になりたい?立派な夢じゃない!
人の夢をバカにするなんてそんな屑みたいなヤツ、気にしなくていいのよ!」
「呆れたり、しないんですか…?」
「はあ?なにそれ、意味わかんないんだけど?!
とにかく、自分の夢を少しバカにされたからって、それを曲げちゃダメよ。
自分のしたいことを、自分の思うままに叶える、それが一番なんだから」
「……」
「どうしたのよ?」
「いえ、そういう風に言ってもらえると、ホントに嬉しいというか。
私の夢を肯定してくれる人、そんなにいなかったので…」
「…そう」
「はい、ありがとうございました!
なんかすごく、元気になった気がします!」
「そうみたいね。
…体調不良には、そういう悩みも関係してたのかしら」
「船長が体調崩してちゃダメですよね、エヘヘ」
「そうね。上京したてで不安も多いでしょうけど、何かあったら連絡しなさい。
せっかく知り合ったんだもの」
「はい、是非!」
携帯端末を取り出し、連絡先を交換する。
「では…」
「ちょっと待って、送るわよ」
「いえ、いいですよ。ってあれ?ココ…」
「ほら、どこか分からないでしょ?
引っ越し先の住所教えなさい、送ってあげるから」
「いえ、あの…」
「何よ?」
「あそこ、です」
私が指さした先は、西木野さんの家の真向かいにあるアパート。
「え?」
「…こんなことって、あるんですね」
「…そうね」
「では、お世話になりました!西木野先輩!(`・ω・´)ゞ」
「ちょっと、恥ずかしいからやめてよ…。
そうだ。最後に一つだけ」
「はい?なんですか?」
「あなたが医学部って言った時、なんで私はあなたの嘘を見抜けたんだと思う?」
「それは…」
「医者を目指すのなら、自分の体調は把握して行動しないといけないからよ。
あなたは、何かしらの無理をして行動していた。少しの体調の悪さをおして、ね」
「だから、医学部ではない、と?」
「まあ、そんなところかしら。
とにかく、無理だけはダメよ。いいわね?」
「了解です!西木野先輩!(`・ω・´)ゞ」
「だから、それは恥ずかしいからやめてって…」
「では、またいつか会いましょう!さようなら!」
「ええ、またね」
そして私は、アパートの一室へ。
とにかく、助かった…。
私は、電車の中で倒れたのだ。
西木野さんがいなかったら、果たしてどうなっていただろうか?
無理をしていた、と言われた。
確かに、そうだったかもしれない。
不安や心配事で、頭の大半は埋め尽くされていた…気はする。
でも。
西木野先輩にああいう風に言ってもらえて、私は気が楽になった。
本当に、感謝でいっぱいだ。
そうだ、せっかくだし…
「って、うわ!通知メチャクチャ来てる」
母親からのメール、千歌ちゃん梨子ちゃん、それに善子ちゃんからも。
皆、私が向こうに着いたら連絡するね、って言ってたからだろう。
連絡が来ないことを心配している文面が見て取れる。
えーと、ママには『大丈夫、無事に部屋に着いたよ~!』
善子ちゃんには…『無事、堕天したぞ(*^^)v』
こんな感じでいいかな。
千歌ちゃんと梨子ちゃんは、まとめてグループに送ろ。
『大丈夫!ちょっと色々あったんだけど、無事に部屋に着いたよ~』
するとすぐに『良かった~』と梨子ちゃん。
千歌ちゃんからは『色々って?』と来た。
待ってたよ、千歌ちゃん。その返事。
『実は、電車内でめまいがして倒れかけたんだけど、優しい人が助けてくれたんだ~』
『ホントに大丈夫なの?曜ちゃん?』と梨子ちゃん。
『優しい人?もしかして超カッコイイ人?』これは千歌ちゃん。
『大丈夫!ピンピンしてるよ!
ちなみに女の人で、同じ大学の医学部の人だった!』
『女性で医学部って、かなりすごいわね』梨子ちゃんから。
『名前とか、聞いたの?』と、千歌ちゃん。
それにしても、見事なまでの二人の連携だ。
梨子ちゃんが返答して千歌ちゃんが質問する流れが出来ている。
『えっと、西木野真姫さんっていう人!髪が赤で、すごくキレイな人だった…。
白衣も、それはそれはもうカンペキなくらい似合ってて』
すると。
『『えっ!?西木野さんって、
二人から同じ文面で同じタイミングで返信が来た。
今までの流れはどこへ行ったのやら、そして二人は何を言っているのやら。
『
『曜ちゃん?!覚えてないってマジ?
『本当に、忘れてたの?』呆然と言った感じで、梨子ちゃんからの返信。
そして、かくいう私は、というと。
「…え?」
固まっていた。
言われて思い出してみれば、確かにその通りなのだ。
特徴的な赤い髪、そして釣り気味な目。
家が病院で頭がよくて、医者を目指していた、はずだ。
そして、ここでようやく、車を呼んだ、にも納得がいった。
お金持ちの家の娘だから、そういうことができるということなのだろう。
そして何と言っても、あの美しい外見。
それはまさに、あのμ'sの西木野真姫さんのものだ。
『…曜ちゃん?どうしたのー?』と千歌ちゃん。
『返信、止まったわね…』梨子ちゃんからも。
『あああああああああああああああああ!!!!
やらかしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
『戻ってきたわね』これは梨子ちゃん。
『同じ大学なんだからいいじゃん!また会えるよ!』と千歌ちゃんから。
私は絶望的な気持ちになってしまったので、二人に『…寝ます』と送って、ベッドへ。
さっきまで西木野さん宅で眠っていたはずなのに、眠気は不思議とある。
眠る直前に、善子ちゃんからメッセージが来てる事に気付いた。
『曜、何かあったの?…今は安らかに眠りなさい』
自分がふざけた文面を送ったからこういう返信が来たと考えることは今の私には出来ず、
「善子ちゃん私のこと見張ってるのかな、なんて…」
と呟きつつ、私は眠りについた。
つい数分前に、西木野さんとは連絡先を交換していたことを忘れたまま。
なんか、思ってたよりも長くなりました…。
実は私、曜ちゃんがAqoursで一番好きなキャラでして、だからまあ書くことを決めたのが大きいんですけど、なかなかアイディアが浮かばなくてですね…。
このような話にしよう、と決まったのは今日の午前中でした。
読者さんに反応してもらえれば勿論嬉しいですが、今はとにかく書ききった満足感がでかいです笑。
そして、第一弾に目を通してくださった方ならわかると思いますが。
そうです。明後日には真姫ちゃん誕生日記念話がこの話のスピンオフ的な感じで投稿されるということです。
正直に言って、書ける気がしません!笑
ですが、なんとか頑張ってやり切りたいと思っています。
なので私に、どうか、力を与えてくれれば…。
後書きも長くなってきたので、この辺りで失礼したいと思います。
では。
この度は本作品を読んでいただき、ありがとうございました!
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真姫side
真姫ちゃん、Happy Birthday!!
「ふう…」
口から零れたのは、溜息か。
電車内で倒れる女性を見かけ、家まで連れてきて介抱することになるなんて、今朝の私は考えもしていなかった。
春休み休暇をお手伝い人たちに与え、家には私一人。
運転士を一人残していてよかった。
いや、今日外に出かけていてよかった、というべきかも。
おかげで、特に問題なく女性をしっかりと介抱できた。
一人暮らしを始めて、もうすぐ二年になる。
まだまだ、親の力を借りてるところもあるけど、段々と色んな事が自分の力だけで出来るようになってきた。
「さて…勉強、しないとね」
そうして私は、机に向かう。
ふと、さっきまでこの家にいた女性の顔が浮かぶ。
渡辺曜、って言ったっけ。
ん?
今思ったけど、もしかしてあの子って…。
思い付きを確かめるため、私はある画像を探す。
「確か、保存してた…わよね。
…あ、あった。…ってやっぱり、そうだったのね」
そうか。
最初に見たときから何となく感じていた既視感。
それは――。
* * * *
「はい、もしもし」
「もしもし、花陽?私、真姫だけど」
「真姫ちゃん?どうしたの?」
「実はね―――」
「嘘!そんなことってあるんだね!」
「そうなのよ。私も驚いちゃって」
「それで?」
「え?あー、用はそれだけよ。…ゴメン、何か邪魔した?」
「いや、邪魔ってことじゃないんだけど…。
私、明日には新潟に戻るの。だから今はその準備をしてて…」
「あら、そうなの?もっとこっちにいればいいのに」
「ははは、それ、凛ちゃんにも言われたんだけどね。
実は、向こうがちょっと豪雨に見舞われたみたいだから、気になっちゃって」
「研究、頑張ってるのね」
「もちろんだよ!大好きなお米のことだもん!」
「ふふ、花陽ってば、やっぱり変わってないわね」
「真姫ちゃんはどうなの?順調に進んでる?」
「えっ?…まあ、そうね。ぼちぼち、ってところかしら。
じゃあ、いきなり電話してゴメンね、花陽」
「大丈夫だよ、また話聞かせてね!」
「ええ」
「…じゃあ、バイバイ」
「バイバイ、またね」
電話を切る。
花陽、新潟帰っちゃうのね…。
せっかく、久しぶりに会ったばかりなのに。
『もちろんだよ!大好きなお米のことだもん!』
電話口での彼女の言葉が、頭の中をよぎる。
でも、私は…。
「って、ダメダメ!こんなこと考えてる暇はないのよ。
今は、目の前のことに集中しなきゃ」
自分に言い聞かせるように、言葉を呟く。
そして、机に教材を広げ、私は勉強を始めた。
ピピピピ ピピピピ
「ん…」
少し遠くで何か音が鳴り続けている。
目覚まし時計の音だ。
時間を見てみると、7:16。
気づかないうちに眠っていたらしく、私の元には勉強の教材が広がっている。
「あぁ…最悪。またやっちゃった」
寝落ち、今月でもう何回目…。
「…ん?」
ふと、自分の声に違和感を抱く。
「あー、あー、って私、のd、ゴホッゴホッ」
咳が出た。これは、やばいかも。
今、私はベッドで横たわっている。
まさか、体調を崩すなんて。
しかも、昨日、曜ちゃんにあんなこと言っておいて、だ。
「何が、医者は自分の体調を――よ。バカみたい、ゴホッゴホッ」
本当にこれはまずい。
病院に行くべきなのは分かってるけど、動く気力がない。
それに、何故か私のケータイが見当たらない。
誰にも連絡の取りようがなく、ベッドで寝ることしかできない。
その時だった。
ゴーン、と、家のベルが鳴った。
「誰、かしら…」
立とうとするけど、立てない。
「はぁ…」
溜息をついたとき、声がした。
つい最近聞いたような声だ。
この声は。
「曜、ちゃん…?」
ふらふらとしながらも、何とか立ち上がる。
重い足取りを、とにかく頑張って進める。
玄関へ行き、鍵を開けr――。
「に、西木野先輩!」
曜ちゃんの声が近くで聞こえる。
何故か懐かしい気持ちを抱きながら、私は自分の意識が遠のいていくのを感じた。
「ん…?」
何やら、鼻に香りが入り込んできた。
「…何?」
「あ、起きましたね、先輩」
「よ、曜ちゃん?どうしてウチに?」
「どうして、って…先輩が開けてくれたじゃないですか。覚えてないんですか?」
「うーん…?」
言われてみれば、そんな気がするような?
「先輩、玄関を開けてくれたと思ったらその瞬間に倒れちゃったんですよ?
本当に、覚えてないんですか?」
なんだか記憶が混在してる。
分からないから、とりあえず首を傾げる。
「まあ、いいんです。先輩、朝から何も食べてないんじゃないですか?
ありあわせの材料にはなりますけど、一応お粥作ったので…食べます?」
見ると、曜ちゃんの近くには小さい鍋が。
なるほど、さっきからしてるこのいい匂いの正体は、この――。
「ちょっと、待ってください!」
「ん?」
「あの、私が食べさせるので、先輩はそのままで…」
「ふぇ?」
「ね、ねぇ?ホントに大丈夫なんだけど」
「ダメです!
先輩、昨日言ってましたよね?体調を見極めて、無理だけはするな、って」
確かに言ったけど…。
今、私は4、5歳年下の曜ちゃんにお粥を食べさせてもらっている。
曜ちゃんは料理がうまいらしく、お粥はすごく美味しい。
でも。
正直、それどころじゃないっていうか…。
「は、はい。あーん、してください!」
理由は至って単純。
曜ちゃんが、可愛すぎるのだ。
料理を完食とはいかないまでも食べて、私はまたベッドに寝転がる。
曜ちゃんは、冷却水の交換とか色々やってくれている。
結構、人に尽くすタイプなのかな。
そんなこんなで、夕方にもなると、私も少しは身体が楽になっていた。
だけど。
「スゥーzzz」
私が起きたとき、曜ちゃんはベッドに寄り掛かるように眠っていた。
私、どうしたらいいんだろ…。
「んん…ふぁぁ」
しかし、私が頭を悩ませているうちに、曜ちゃんは目覚めた。
「って、はっ!」
眠っていた事に気付いて焦る曜ちゃん。カワイイ。
そして、目が合った。
「えと…先輩、調子は…?」
「ん、えぇ、まあ、マシになったのかしら」
「それなら、よかったです…」
「ええ、ありがとね」
「いいえ、私は…」
どうしてだろう、会話が続かない。
何か、聞かなきゃいけないことは…そうだ。
「ねえ、曜ちゃん?」
「は、はいっ!何でしょう?」
「なんで、私の家に来てたの?」
「えっと、それは…」
なんだか言いにくそうにしている。
私は、とにかく話してくれるのを待つ。
「朝、8時頃に先輩に電話をかけたんですけど、つながらなくて…。
それで、家の方を見てみたら電気が点いてなくて…。
出かけた音はしてなかったのでおかしいなと思って、そこから2時間くらい経っても全く電気が点く様子がなかったものですから、心配になって…」
「それで、わざわざ?」
「はい。ちょっとなんとなく、嫌な予感がしたので。
まさか、玄関が開いた瞬間に先輩が倒れこんでくるとは思ってなかったんですけど」
その件については、本当に私は忘れてしまっているらしく、いくら考えても思い出せない。
「まあ、おかげで助かったわ。ホントにありがとね」
「いえいえ…」
再び沈黙が流れる。
「…あ、あの!」
今度は曜ちゃんの方から話しかけてきた。
「西木野先輩って、μ'sの西木野真姫さん、なんですよね?」
「…そういうあなたは、Aqoursの渡辺曜ちゃん、よね?」
「ご存知なんですか?!」
「まあね、私の友達に一人、スクールアイドルが大好きな子がいるもんだから、有名な子たちは、私も知ってるわよ」
「ゆ、有名だなんて、そんなことは…」
「優勝したんだもの。有名って言っても、問題はないでしょ?」
「いや、μ'sの方々には到底及ばないと思ってるので…」
やっぱり、こうなってしまった。
いつもこうだ。
μ's。
私たちは、どこかやけに神格化されてしまっていて、話しているとよくこんな感じになる。
それが、なんか、すごく、いやだ。
私だって、ただの一人の人間に違いないはずなんだけど。
ほんっっとうに、申し訳ありません。
無理でした…。
でも、諦めきれないので、二部構成にして(無理矢理)後日改めて続きを投稿することにします。
中途半端に祝う形になってしまい、ホントに申し訳ない限りなんですが、どうか許していただきたいです。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!
本当に申し訳ないです。どうか御赦しをお願い致します。
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船と病院
前回の続き…というかこのシリーズの締めの話になります。
どうぞ、よろしくお願いします。
「……」
「……」
気のせいだろうか。
なんだかさっきから、空気が少し重いような気がする。
私の正面に座って夜ご飯を頬張る西木野先輩を、チラッと見る。
「…何?」
見てたら気付かれてしまった。
「えっと…夜ご飯、おいしいですか?」
「ええ、おいしいわ。作らせちゃって悪いわね」
「いえ、そんな…」
「……」
再び沈黙。
西木野先輩の体調は回復したけど、私が心配して家に残らせてもらった。
無理はさせられないから、私が軽い食べ物を作って、今は2人でそれを食べている最中だ。
結局、夜ご飯の間に、それ以上私たちが会話をすることはなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
どうしよう。
なんだか、雰囲気がよくない。
理由は…おそらく私のせい。
昔からそうだった。
考えていることがすぐ表に出る。
自分にとって好ましくないことが起こると、すぐ不機嫌になる。
変えたいのに、変えられない。
そんな自分のことが、私は嫌いだ。
じゃあ何故、私は今不機嫌になってしまっているの?
私がμ'sの西木野真姫だと知られたことで、これまでにも同じようなことは何回も経験している。
その度に、『またか』とか『やめてほしいのに』と、確かに思ってきた。
でも、今回は、何かが違う気がする。
なんか表現しきれないけど、どこか胸が苦しいような、そんな感じ。
(…って、考えたところで何になるっていうのよ、馬鹿らしい。)
考えるのはおしまいにしよう。
ちなみに今、曜ちゃんは風呂に入っている。
私が完全に大丈夫な状態になるまでは、絶対に帰らないと言っていた。
ここまで親以外の人に世話を焼かれたのは、いつぶりだろうか。
そんなことを考え、私はふと、懐かしい気持ちになる。
μ'sにいた頃は、にこちゃんがよく私に絡んできてくれていたっけ。
正直うるさいときもあったけど、でも、仲良くしてくれたことは嬉しかった。
絡むといえば、凛もだ。
初めて会ったときは、ただのうるさい子だと思ったりもしたけど、本当は、すごくカワイイ良い子だった。
そしてそんな私たちを、いつも笑顔で見守っていた花陽。
今の私にとっては、花陽は一番の親友だ。
懐かしい、μ'sの皆との記憶の数々をかみしめる。
「西木野先輩!お風呂、いただきましたよ~」
「っ!!」
突然声をかけられて、身体が反応する。
「それと…コレ。洗面所にあったんですけど」
曜ちゃんが、手にしていたのは、私のケータイ。
今思い出した。
昨日、花陽と電話した後に歯磨きをしたから、その時に置き忘れていたんだと。
「…ケータイ、いっぱい着信入ってる」
花陽からのものが多い。
また他には、凛やにこちゃんからも。
「お友達、心配してるんじゃないですか?」
「そうね。ちょっと、失礼するわ」
そう言って私は、部屋を出る。
その時、はたと思い当たった。
私が、曜ちゃんに対して抱いている、何か特別な感情。
それは――。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あの…やっぱり邪魔じゃないですか?」
「別に問題ないって言ってるでしょ。ほら、詰めなさいよ」
「そんなこと言われましても…」
「いいから、早く詰めなさいって」
「…では、お言葉に甘えて…」
「…。うん、それでいいのよ」
「それにしても、どうしてこんな…」
「私の気分だって、さっきも言ったじゃない」
「いや、気分って言われても、ですね…。
どうして、一緒にベッドに入る、なんて」
「いいじゃない。それともあなたには、誰か心に決めた人でもいるのかしら?」
「…。それは、まあ…」
「それなら、別に問題ないじゃない。
別に、あなたを取って食おうなんてわけじゃないんだから」
電話を終えて部屋に戻ってきた西木野先輩。
いきなり、一緒に寝ようと言ってきた。
まだ寝るような時間でもないし、なんで一緒に、と思ったけど、最終的には従うことになった。
そして今、私は西木野先輩と隣で並んでベッドに入っている。
先に口を開いたのは、西木野先輩だった。
「…ねえ、曜」
「よ、曜?!」
唐突に下の名前で呼ばれ、困惑が深まる。
「名前で呼ばれるのは、嫌かしら?」
「い、いえ…。別に大丈夫ですけど、いきなりでびっくりして。
それにしても西木野先輩、さっきからなんかへn――」
話す口が、先輩の人差し指で遮られる。
「真姫、よ」
「ふぁい?!」
「だから、私の呼び方。真姫って呼んで、って言ってるの」
「そっ、そんなこと、出来ませんよ!」
「出来ないわけないじゃない」
「出来ません!だって私にとってμ'sは、かm――」
またも指で口を止められる。
「真姫」
ぐいっと顔を近づけられ、力強い眼差しを向けられる。
「…真姫、ちゃん」
「ちゃん付けも別にいいわよ」
「そこは譲ってくださいよ、に…真姫ちゃん」
二度目の真姫ちゃん呼びをすると、手が私の頭に。
「よくできました♪」
その可愛さ、私は死ぬかと思った。
「曜って、花陽に似てるって、言われたことない?」
「花陽、って…μ'sの小泉花陽さんですか?」
「ええ」
「…実は、何回かあるんです。
特に、何度もライブにいらっしゃるような熱狂的なファンの方にはよく…。
ありえませんよね。私とあの小泉さんが、なんて」
「そんなことないわ。本当に似てるもの」
「ホントですか?!」
「ええ。三年間一緒に過ごした私が言うんだから間違いないと思うわよ」
まさか、本当に似ているというお墨付きが得られるなんて。
憧れのμ'sの小泉花陽さんと、私が――。
「一つ、聞きたいんだけど」
「なんですか?」
「曜は、どうして船長になろうと思ったの?」
いきなりの質問。
真姫ちゃんの顔は、なんだか今までよりすごく真剣なものに見えた。
「…私のパパが、船長なんですよ。
私は、小さい頃からずっと、将来はパパみたいになるんだ、ってずっと思ってました。
確かに普通は男の人がなるものかもしれないけど、私は絶対に船長になるんです!」
「そう…」
「真姫ちゃんは、確か両親が病院をやってるんでしたよね?」
「…よく知ってるのね」
「友達に、色々教えられてたので。
やっぱり、親の影響で今の道に進んだんですか?」
「…そう、ね」
すると、一時の沈黙の後で、真姫ちゃんは語り始めた。
彼女の現状と、それに対する想いを。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
μ'sは、絢瀬絵里、東條希、矢澤にこ、この三人の卒業をもって解散した。
最後は色々と起こったりしたけど、終わりの時はきた。
三人の卒業を機に、μ'sは解散したわけだが。
うち何人かは、そのままスクールアイドル活動を続けた。
私、西木野真姫はというと。
アイドル研究部に籍は一応残したままだったが、活動に出ることは殆どなかった。
大学の医学部は、どこであろうと難関だ。
生半可な勉強量では、合格できない。
そう思った私は、二年生であったこのうちから、勉強の習慣をしっかりと身につけるために動き出した。
だから、部活に出ることは減っていった。
でも、ピアノは続けていた。
理由はいろいろあるが、一番はスクールアイドルとして活動を続けていたメンバー達に曲を作ってあげるため。
作曲を続けることで、皆との繋がりを保っていたかったのかもしれない。
そうして、時はどんどん過ぎ去っていった。
三年生だった、元μ'sの高坂穂乃果、園田海未、南ことりの三人も卒業した。
私は三年生、すなわち大学受験生になった。
そして更に時は過ぎ、大学受験も終わり、私は東海大学医学部に進学した。
主席として合格を果たした私は、嫌でも注目を集めることになっていた。
親が病院を経営しているような、金持ちの娘で。
三年前にはラブライブ!を優勝したμ'sのメンバーで。
言ってみれば、私はこの頃から悪目立ちしていたんだと思う。
友達も、たいしてできなかった。
まあ、作る気もそんなになかったけど。
日が経つにつれて、段々と自分の孤立感が高まっていくのを感じながら日々を過ごした。
一番面倒だったのは、親のことについて色々と訳の分からない噂を立てられたこと。
大学と私の両親が裏で繋がってるだとか、そんな感じのことだ。
だから、二年生に上がってから一人暮らしを始めた。
より孤独感は増したが、寂しくはなかった。
そして私は、勉強、研究に打ち込む日々を過ごす。
唯一の癒しは、花陽や凛など、μ'sの皆とたまに会う時間だけ。
私の中で、彼女たちだけが救いだった。
だから、彼女たちと別れる瞬間がとても辛く、悲しかった。
でも、私は同学年の人達に負けるわけにはいかなかった。
孤独と戦いながら、ここまで歩んできたのだ。
曜を初めて見た時、私の本能が『この子は花陽だ』とでも感じたのだろうか。
なんだか、どこか懐かしく、どこか落ち着いていられるような、そんな子だった。
だからこそ、私のことを仰々しく扱われることが、すごくイヤだった。
ずっと一緒にいられる。いても、全然苦じゃない。
そう、強く感じた。
* * * *
一隻の大きな船が、港に泊まっている。
これから出航するらしく、それを祝うセレモニーが近くで執り行われている。
船長として紹介されたのは、栗色がかった髪が特徴的で、まだ20代後半くらいの若い女性。
紹介によると、今回が初めて船長としての航海らしい。
送られる声援に、笑顔で手を振って応えている。
続いて紹介された副船長は、船長の父のようだ。
娘の、初の船長としての航海を父として、ベテランとして、支えることになるだろう。
セレモニーも終了し、船も出発するようだ。
船長の女性は、船に乗り込む際、若干陰りのある顔を空に向けていた。
そして、船は走り出した。
ところ変わって、ここは船内の医務室。
2、3人の人が、早々に体調を崩してしまったのか、診察を受けている。
中心となって診察している医師は、短めの赤髪で、これまた20代後半くらいの若い女性。
室内にいるのは船に酔ってしまった子供が多く、その子たちに素早く適切な処置を施していく。
とそこへ、船長の姿が。
走り出した船に乗る人々の様子を、まず見て回っているようだ。
船長と医師、二人の女性はしばしの間目を合わせた後、各々の仕事へと戻っていく。
その二人の顔は、どこかほころんでいるようにも見えた。
船は順調に進んでいたが、ここで天候が悪化する。
少し強めの雨が降り出してきた。
しかしそのことを予想していたのか、意外と焦った様子は見られない船長。
ただ、アウトデッキで遊べず退屈そうな子供たちを見て、何かできないかと考え込んでいる。
そこに微かに聞こえてきた、ある音。
それを聞き、船長は子供たちを連れて、とある場所へ。
そこは、小さいコンサートホールのような所。
そして音の正体は、ピアノだった。
演奏していたのは、本来は医務室にいるであろう、あの女性の医師だった。
弾いているのは何の曲なのだろうか、女性は、非常に慣れている風に弾いている。
”I say~♪”
女性が弾き語りを始めると、ホール内の人々はその美しい音色に魅了される。
気づけば、船内にいたほとんどの人がホールに集まってきていた。
”Hey,Hey,Hey,START DASH!!"
旅の門出を祝うのに相応しい、その歌の最終節を彼女が歌い終えると、ホール内は拍手に包まれた。
すると、一人の少女がホールの扉から見えるあるものに気が付く。
皆がホールから外に出る。
外に出て、皆は歓声を上げる。
雨があがった空には、キレイな虹が掛かっていた。
虹を眺める船長に、歩み寄る女性が一人。
先ほどまで、ピアノの弾き語りで人々を魅了していたその人だ。
二人は顔を見合わせ、同時に空を見上げる。
その視線の先には、水色の空と、虹の中でもひと際輝く赤色の放物線があった。
完
まずは、ここまでの読了、本当にありがとうございました。
これにて、ようまきHBPは完結、となります。
本来ならば4月19日に投稿しなければならないところ、不可能だった件については私の完全なる準備不足でした…。
次回からの自分への教訓とします。
尚、船長となるための資格等々については、あまり詳しく調べる時間がなかったため、私のある程度の想像と若干のググリによって、こういう形をとらせていただきました。常識的にはありえない部分もあるかと思いますが、そこは大目に見てもらいたく思います。
ストーリーについての話ですが、一つ。
空白の数年間については、読者の方々の想像にお任せしようというところです。
是非、色々と妄想していただければ、と思います。
遅れておいてなんですが、書きたかったことは書けたので自分としては大満足です。
次のHBPの構想もこれから考えていくこととしつつ、後書きもとじさせてもらいます。
最後になりますが、ここまで温かい目で見守って下さった読者の方々には、感謝の気持ちでいっぱいです。
本当に、ここまで読んでくださって、誠にありがとうございました!!
【楽曲一部拝借】
・START:DASH!!(ラブライブ!、μ's)
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