機動戦士ガンダムSEED DESTINY 〜僕の平和〜 (自由の魔弾)
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PHASE 01 戦火の予感

どうも、自由の魔弾です。遂にガンダムSEEDDESTINYを書くことになりました。テンション上げまくりで書きたいと思います!


ここはラグランジェポイント4に建設された新世代コロニーのプラントのひとつ、“アーモリーワン”。その居住区エリアにある一つの小屋で、椅子に腰掛けながら窓の外を眺めている少年がいた。少年の名はソーマ・アイリス。先の戦争の中で、ナチュラルでありながらコーディネーターを遥かに凌駕する操縦技術を持ち、両軍に甚大な被害を与えた張本人だが、今は既にモビルスーツから手を引いて、一般人としてひっそりと暮らしていた。黒髪で黒い瞳、身長も一般人より少し高い17才の少年だ。ただ、一般人と違うことと言えば………

 

「あぁ〜………女の子触りてぇ〜………」

 

若干、変態なだけである。

 

 

 

 

 

初めまして、ソーマ・アイリスです。今日は暇なので、街を散策することにしました。先の戦争からもう2年。世界はすっかり平和を取り戻していました。僕も元オーブ市民だったため先の戦争に巻き込まれて、目の前で家族、友達、大勢の人が殺された現実を目の当たりにしました。

だから誓った。こんな事はいつまでもしてちゃいけないと。

だから求めた。戦争を止めるだけの力が欲しいと。

 

そんな過去を振り返りながら路地をを歩いていると、急に目の前に女の子がふわりと飛び出し、気づく前に僕は思いきりぶつかってしまった。相手もこちらにまったく気づいていなかったようだ。倒れそうになるところを僕はあわてて手を伸ばし、抱きとめる。

 

「おっ………と!大丈夫かい?」

 

柔らかそうな金髪の頭が目の下にあった。相手は驚いた様子で僕の顔を見上げる。きょとんとした大きな目が印象的な、妖精めいた雰囲気の少女だ。白いドレスが、彼女の非現実的な印象をさらに深めていた。はっきり言って、美少女だ。

 

「だれ……?」

 

少女はつぶやいた。なるほど、声も綺麗だ。

 

「ん?僕かい?僕はソーマ。ソーマ・アイリスだよ。君の名前は?」

 

「なまえ………ステラ」

 

この少女はステラというらしい。見たところ一人のようだ。

 

「ステラちゃんね………ちゃんとまわりを見ないと駄目だよ。分かった?」

 

言葉に強制力を加えながら注意する。ステラちゃんも一瞬たじろぐが、ちゃんと聞き入れてくれた。

 

「っ!………ごめんなさい」

 

ちゃんと反省してくれてるようだ。素直な子にはご褒美だ♪

 

「ステラちゃんは良い子だね〜。よしよし」ナデナデ

 

僕はご褒美にステラちゃんの頭を撫でてあげた。決して、ステラちゃんに触りたかったとかじゃないんだからな!

ステラちゃんもいきなり頭を撫でられたので、戸惑っていた。

 

「なに……してるの?」

 

「なにって、頭撫でてるに決まってるじゃないか。ステラちゃんは良い子だから、特別だよ♪」

 

「本当に……?ステラ、良い子?」

 

ステラちゃんは「良い子」という言葉を聞いて、ぱぁ〜っと表情が明るくなる。

 

「あぁ、良い子だよ。僕も素直な子は好きだよ♪」ナデナデ

 

僕の「良い子」という言葉を再び聞いて、微笑むステラちゃん。あぁ、本当に可愛いなぁ………お持ち帰りしたい。というか、お持ち帰りしちゃおう!

 

「ステラちゃん。よかったら、これから僕と一緒に来る?」

 

「駄目……。スティングとアウルが居るから……」

 

残念!お持ち帰り失敗。まぁ、しょうがないか………

 

「そっか……それじゃあ、しょうがないね。待たせてるんだったら、早く行ってあげると良いよ。それじゃ、僕は行くから。じゃあね、ステラちゃん!」

 

僕はステラちゃんに手を振りながら、別れの挨拶をする。

 

「うん……。バイバイ、ソーマ!」

 

ステラちゃんも僕に向かって、手を振りながら街のほうに走って行った。やっぱり良い子だ。あんな良い子が居るなら、戦争を止めるために頑張った甲斐があるってもんだ。

 

その時、持っていた通信機に反応があった。僕はすかさず手に取り、応答する。

 

『あー、もしもし。聞こえるか?ソーマ』

 

「おっさん……久しぶりだな。もう戦争は終わったから、連絡しないんじゃなかったのか?」

 

『おっさん言うな。仮にもお前の機体を作った人間だぞ。それより緊急事態だ。アーモリーワンにある新型MS3機が狙われてるらしい。今、座標を送るから、指定された場所まで行け。お前の機体が待ってる』

 

「了解した。その任務、全力であたらせてもらう」

 

僕は通信を切って、走り出した。これから起こると思われる開戦の火種を消しに………

 

 

 



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PHASE 02 強奪

主人公の出番がとても少ないです。


私達3人は、町はずれの大きな看板の前にいた。ここが待ち合わせ場所だ。さっきからスティングとアウルは「雨がどうこう」と話しているが、私は別の事を考えていた。先ほど町で会ったソーマのことだ。一見、普通のナチュラルに見えたが、妙に強制力のある言葉やネオみたいな暖かい感じがソーマを普通のナチュラルじゃない事を証明させた。

 

「ん?あれだな。待ち合わせの相手は」

 

さっきから腕時計を見ていたスティングが、近づいて来た車に目をやった。前部座席にはザフトの軍服姿の男たちが座っていて、スティングの視線を受け、黙ってうなずく。私達も黙ってバギーの後部座席に乗り込んだ。

バギーが軍事工廠の敷地内を走っている最中も私はソーマの事を考えていた。なぜだか分からないが、ソーマの笑顔や撫でられた時の手の感触が忘れられないのだ。

 

(ネオ以外に私が安心する人物がいたなんて……。また会えるかな?)

 

そんな事を考えていると、走っていたバギーが巨大な格納庫の前で停車した。内部に駆け込んだ私達に、案内役の男たちが武器を手渡す。スティングとアウルが慣れた手つきで銃に弾倉を装填し、私はナイフを鞘から抜き放った。白く光る刃を見たとたん、私の中でスイッチが入る。

 

これからが本番だ。

 

 

 

 

 

アスランとカガリはデュランダル議長に伴われて司令部を出た。突然、議長が工廠を案内しようと言い出したのだ。周囲には格納庫が建ち並び、ときおり広い路面をモビルスーツが地響きを立てて横切る。あたりは明日予定されている式典のためだろう、ひどくごった返している。

 

「姫はさきの戦争でも、自らモビルスーツに乗って戦われた勇敢なお方だ」

 

デュランダルは行き交うモビルスーツや、格納庫の中をときおり指し示して解説しつつ、この行為を言い訳するように言った。

 

「また最後まで圧力に屈せず、自国の理念を貫かれた『オーブの獅子』、ウズミさまの後継者でもいらっしゃる」

 

しかし彼はもの柔らかな笑顔のまま、こう続けた。

 

「だが、力なくば、理念を守り抜くことは叶わない。だからこそオーブも軍備を調えていらっしゃるのでしょう?」

 

力なくば叶わないーーーむろん、カガリもそれは理解しているはずだった。力のない者の言葉など誰も聞こうとはしない。

彼女は思いつめたようにデュランダルに向きなおり、拳を握って叫んだ。

 

「だが!強すぎる力はまた争いを呼ぶ!」

 

カガリは死の道具を生み出そうという行為を黙って見ていることが出来ないのだ。それはアスランも同じだ。

だがデュランダルは動じる気配もなく、ゆるやかにかぶりを振る。

 

「いいえ、姫。争いが無くならぬから、力が必要なのです」

 

カガリは言葉をのんで立ちつくす。その時、警報が鳴り響いた。

 

「なんだ………?」

 

アスランはカガリのそばに寄って、あたりに油断なく目を配った。

ーーと、一棟の格納庫から、巨大な扉を貫いて数条のビームが放たれた。扉は吹っ飛ぶように溶け落ち、ビームの飛び込んだ向かいの格納庫でなにかが誘爆する。

 

「カガリ!」

 

アスランはとっさにカガリを抱いて物陰に飛び込んだ。爆風がさっきまで彼らのいた道路を駆け抜けていく。

 

(一体、なにが起こったんだ!?)

 

アスランは物陰から顔を出して、爆発の方向を見やった。風に吹き流されていく爆煙の陰から、巨大なシルエットが現れる。

 

「あれは!」

 

そこに在ったのは、3機のモビルスーツだった。2つの目と2本の角を持つ特徴的な頭部、"ジン"などと比べてスラリとした直線的なフォルム。それぞれ特殊武装を施されてはいるものの、その基本的なデザインは見間違えようがない。

 

「ーー『ガンダム』………!」

 

「姫をシェルターへ!何としても押さえるんだ!"ミネルバ"にも応援を頼め!」

 

最初の衝撃から立ちなおると、デュランダルはまず、随員にそう指示した。それに従って1人の兵士が「こちらへ!」と先に立つ。アスランは呆然と立ちつくしているカガリの肩を抱き、すばやく彼のあとに続いた。

先導されてアスランとカガリは格納庫の間を走っていた。が、建物の陰を出たところで、アスランは足を止め、カガリを引きずるようにして建物の陰へ飛び下がる。ほんの十数メートル先でモビルスーツ同士が戦闘を繰り広げていたからだ。案の定、爆発が起こり、反応が遅れた先導の兵士が、あっという間に炎にのまれた。

 

「こっちだ!」

 

アスランはできるだけ戦闘区域から離れようとカガリをうながして走る。が、彼らの退路を阻むように、黒い機体が道路の向こうから躍り出た。黒い機体が跳躍し、空中で"ディン"と交錯する。と、見るや、黒い機体の背中にあった二枚の翼が展開し、発せられた光刃がすれ違いざまに"ディン"を両断していた。

落下してきた"ディン"が格納庫の屋根を突き破り、中で激しい爆発を起こす。爆風は物陰に隠れた二人をも襲い、アスランはとっさに自分の体でカガリを守った。

 

「アスラン………!」

 

「大丈夫だ」

 

破片が直撃しなかっただけでも幸運だったのだ。しかしこうなった以上、カガリを何としても守らなければ。

アスランは狂おしい思いで辺りを見回すと、路上に倒れた機体に気づいた。さっき見た新型ーー"ザク"だ。破壊された格納庫から飛び出したものらしい。それを見た途端、アスランはカガリをうながして"ザク"へ向かって駆け出した。

 

「さぁ、乗るんだ!」

 

「え……!?」

 

戸惑うカガリを抱き上げて、アスランは開いたコックピットハッチから身をくぐらせる。すばやくシートに着くと、慣れた手つきで機体を立ち上げる。

 

「こんなところで、きみを死なせるわけにいくか!」

 

エンジンが滑らかな駆動音を伝え、モニターに光が入る。アスランは状況をつかむため"ザク"の身を起こした。が、その動きが黒い機体の注意を引いてしまったらしい。

 

(ーーしまった!)

 

黒い機体がビームライフルを構える。アスランはレバーを操作しビームを回避すると、同時に黒い機体に突っ込んだ。黒い機体はそのスピードに反応しきれず、"ザク"のショルダーアタックをまともに受けて、背後に吹っ飛ばされた。

だが黒い機体はそれで引き下がってはくれなかった。逃げる隙など与えてくれそうにない。となれば、戦ってかちとるのみだ。

 

 

カガリを守るためのアスランの死闘が始まった。

 

 

 

 

 

それと同時に1つの機体が動き出していた。

 

「おっさん!なんか前と装備が違うんだが?」

 

《気にするな!ちょっと高機動なだけだ。他は変わってねぇよ。あと、おっさん言うな!》

 

ソーマは注意されながらも、慣れた手つきで機体を起動する。それはかつて、戦争を止めるために自分の剣となった愛機だった。

 

「へいへい、分かってますよ。ソーマ・アイリス、"グローリー" 出るぞ!」

 




主人公の機体は完全オリジナルです。今後も様々な武装や兵装が登場する予定です。


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PHASE 03 再誕

お久しぶりでございます。ここ最近は色々立て込んでいて、中々投稿出来ませんでした。久々に書いたので、おかしいところもあるかもしれませんが、気にしないでくれると助かります。


〈“インパルス”発進スタンバイ。パイロットは“コアスプレンダー”へーー〉

 

モビルスーツ管制の声が響き渡るミネルバの艦内をシンは走っていた。その身に包んでいるのはエースの証、赤いパイロットスーツだ。彼は格納庫へ駆け込み、自分の愛機“コアスプレンダー”に飛び乗る。

 

〈モジュールはソードを選択。シルエットハンガー二号を開放します。シルエットフライヤー、射出スタンバイ・・・〉

 

発進シークエンスに従って、格納庫から上階へ機体を載せたリフトがせり上がり、ゆっくりとカタパルトデッキの床が目の上から下がっていく。

 

〈ハッチ開放、射出システムのエンゲージを確認。カタパルト推力正常。進路クリアーーー“コアスプレンダー” 発進、どうぞ!〉

 

シンは左手のスロットルを全開した。同時にカタパルトによる加速度が体をシートへ押しつける。“ミネルバ”のカタパルトが“コアスプレンダー”に続いて、三個のユニットを射出する。

その間にも破壊された工廠の上をたどり、間もなく目標物をとらえた。ZGMFーX88S “ガイア”が一機の“ザクウォーリア”と対峙している。しかし、“ザク”のパイロットは“ガイア”に気をとられて、“カオス”の接近に気づいていない。

 

「危ないっ!」

 

とっさにシンの放ったミサイルが“カオス”に炸裂した事により、事なきを得た。同時に、“カオス”の横をすり抜けて、一度上空に舞い上がる。そこで、遅れて射出されたユニットと相対速度を合わせ、同一軸上に並んだユニットにビーコンが発せられ、“コアスプレンダー”が吸い込まれるように合体した。最後に、“シルエットフライヤー”と呼ばれる無人機が運んできたユニットを分離し、それが背面に装着される。

合体した途端、鉄灰色の機体は位相転移システムがオンになった事で、下半身と腕部は白く、肩や胸部は赤く色づく。

シンはモビルスーツの背面に負って長大な二本の剣を抜き放ちながら、地上へ降り立った。

ZGMFーX56S “インパルス” それがこの機体の名だ。シンは一振りが刃渡り十数メートルにも及ぶレーザー対艦刀ーーMMIー710“エクスカリバー”を柄の部分で結合させ、大きく頭上で振りかぶる。

 

「何でこんなこと・・・また戦争がしたいのか!?あんた達はっ!!」

 

シンは目の前の敵を見据えながら、憎しみをこめて叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「さて、目の前で死闘が繰り広げられているところなんだが・・・これ完全に出るタイミング逃したよね?」

 

あっ、どうも。ソーマです。おっさんに指定された場所に来てみたはいいけど、新型機の登場で完全に出鼻を挫かれたようです。割りと本気で駆けつけたのにこれは無いよ・・・。

 

〈お〜いクソ坊主、聞こえるか?急で悪いんだが、作戦内容が変更されたからな〉

 

「おうおう、誰かと思えばいつぞやのおっさんじゃありませんか。僕は今非常に機嫌がわるいのです。なるべく手短にお願いします」

 

〈・・・随分荒れてるな。まぁいいか。変更内容だが、まず『その戦闘に介入しない』こと。次に『これからは“ミネルバ”と行動を共にする』ことの二つだ。度々連絡はするが、基本的にお前の好きに動けばいい。何でもいいから理由並べて“ミネルバ”に乗り込め。分かったな?〉プツン

 

言いたいことだけ言うと、一方的に通信を切られた。あそこに行けって言ったり、そっちに行けって言ったりして・・・僕はおっさんのペットじゃないんだ。そこんとこ勘違いしてもらっては困るのだけど。

 

「さてと、ここに居る用事も無くなったことだし、さっさと“ミネルバ”に乗り込むかな・・・もしかして、僕死ぬかもしれないな」

 

僕はブースターを全開し、一気にその場から離脱した。生憎、レーダーで“ミネルバ”の場所は分かっているので、乗り込む事自体は造作もないことだが、肝心の理由が無いのが困る。少し考えてみよう。

 

「う〜ん・・・オッス!おら、ソーマ!強えぇ奴を探してここまで来たんだ。悪いけど乗せてくれねぇか?」

 

うん、駄目だな。何がってキャラ的に駄目だな。何かの圧力を感じる。

 

「え〜と・・・ここで会ったのも何かの縁。私めもご同行させてはもらえぬか?」

 

却下だな。もはや何のキャラかすら分からない。

 

その時、コックピット内でアラーム音が鳴り響いた。どうやらもう着いてしまったようだ。

 

(結局、ノープランか・・・今更取り繕ってもしょうがない。ありのままの自分で行くしかないな!)

 

僕は素早く手元を操作し、国際救難チャンネルを開いた。もちろん、相手は“ミネルバ”だ。

 

「え〜っと、どうも。ソーマ・アイリスです。好きなものは女の子!嫌いなものは優男!世界中の女の子をこよなく愛する元一般市民です。突然で申し訳ないのですが、僕のこの機体“グローリー”共々そちらに置いてもらえないでしょうか?置いてくれたら、そちらの女性クルーの方々に無限の愛を提供する事を約束します。あと、おまけに戦力として使ってくれて構いません。良い答えが聞ける事を望みます」

 

あぁ、僕はなんて正直者なのだろう?これは確実に死んだ。

 

 



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PHASE 04 戦乙女

ご無沙汰です!長い間、放置して申し訳ありませんでした。頑張って遅れを取り戻したいと思います。


ミネルバside

 

「全くもって意味が分からないわ!一体何なの、今の通信は?」

 

私、タリア・グラディスは酷く悩まされていた。シンが発進したその直後、所属不明のモビルスーツが現れ、ミネルバの配下に入りたいなどという事を言ってきたのだ。ただでさえ、進水式前にこんな緊急事態に巻き込まれているというのに、今度はこれだ。いい加減、うんざりしてきた。

 

「あの……艦長、どうしますか?」

 

ミネルバの管制担当のメイリン・ホークが、動揺した声で聞いてくる。まぁ、無理もないだろう。予想外の敵襲と援軍の緊急要請、そしてあの意味不明な通信と来たのだ。誰だって、混乱するに決まっている。

 

「………とにかく状況が分からない以上、放置しておく訳にもいかないわ。彼の搬入作業に移るよう整備斑に伝えてちょうだい。作業終了後、彼を館長室まで連行して。もちろん、手錠をする事を忘れないで」

 

そう指示すると、メイリンは強く頷き、すぐに命令を伝達する。確かに彼の事も大事だが、今は奪取された三機の方だ。早くなんとかしなくてはという思いだけが、私の中で渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ〜ってと、ミネルバからの返答はどうかな?」

 

さっきの通信から、既に10分は経っただろうか?未だなんの返事も寄越さないミネルバが、段々と不気味に思えてきた今日この頃。でも、“最悪撃ち堕とせばいいんじゃね?”なんてことを考え始めても、誰も文句は言えないだろう。待ちぼうけを食らうのも別に初めてでもない。今まで何回女の子たちに待たされたことか………。それに比べれば、この程度の待ちぼうけなんかどうってことないやい!…………なんか悲しくなってきたなぁ(´・_・`)

そんなことを思っていると、通信がきた。もちろん相手はミネルバからだ。

 

「ミネルバ艦長のタリア・グラディスです。モビルスーツパイロット、聞こえてますか?」

 

僕は即座に返事をした。女性を待たせるのは、僕のポリシーに反するからな。

 

「はいはいは〜い!聞こえてますよ!なんの返事も無かったので、殺されるんじゃないかと思ってビクビクしてたところですよ」

 

会話の間にジョークを混ぜながら話すことを忘れない。交渉において、相手の機嫌を損ねるような事だけは絶対にしてはならない。

 

「はぁ………まぁいいわ。とりあえず、ハッチを開けるのでそっちに入ってもらってもいいかしら?」

 

「了解しました、タリア艦長♪」

 

「………ともかく、よろしく頼むわ。(アーサーとは違う面倒くささだわ………)」プツン

 

なんだか最後、呆れられていた様な気がしてならないけど、初コンタクトは大成功かな?とりあえず、今は言われたとおりに動くとするかな。

 

「人はなんで争うことをやめられないんだろうな。争っていても、虚しいだけなのに……………ん?」

 

足下に何かぶつかった感触を感じ、見てみる。そこには、ひとつのアルバムがあった。よく見ると、手紙が貼り付けてある。

 

「やったのはおっさんだな?律義に手紙まで添えてある。内容はっと………」

 

『ソーマへ

お前がこれを読む時、お前はまた戦いに身を置いているのだろう。本当ならお前にはこんなものに乗らずに平和に暮らしてほしいのだが、世界は残酷だな。だから、これだけ言っておく。

“はやく終わらせて来い”

あと苦しくなったらそのアルバムを思い出せ。気休めかもしれないが、お前の家族の写真が入っている。元々、お前の物だけどな。言いたいことはそれだけだ。あとはお前のやりたいようにやればいい。じゃあな!』

 

「おっさん…………気休めなもんか!まったく、あんたには助けられてばかりだぜ!今度会ったら飯のひとつでも奢らせろよな!」

 

思わぬ応援を受けた僕は、その想いを胸に秘めてミネルバの格納庫を目指した。



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PHASE 05 アプローチ

久しぶりに投稿します!


「さてと、格納庫に到着したはいいけど・・・・・・・・・何してんだ?」

 

言われた通りに格納庫に到着したんだが、どうやらお取り込み中らしい。ていうか、モビルスーツが瓦礫に埋まっていてスペース陣取ってる所為で、僕の“グローリー”が入れないんだけど。よく見ると、パイロットスーツ姿をしてる人が2人ほど居るな。恐らく横たわっているモビルスーツのパイロットだろう。手間取ってるみたいだし、瓦礫退かすの手伝うかな。

 

「おぉ〜い!!モビルスーツの上の瓦礫、退かすから少し離れてくれ!」

 

周りに居た人たちが離れるのを確認し、僕は二体のモビルスーツの上に乗っかっていた瓦礫を退けた。

 

「瓦礫は退かした!もう大丈夫だぞ〜!!」

 

僕が呼び掛けると、赤いパイロットスーツの子が返事してくれた。

 

「誰だか知らないけどありがとー!!」

 

赤いパイロットスーツの子はそう言って、コックピットの中へ入って行った。白いパイロットスーツの子も、こちらに向けて敬礼をしてコックピットに入って行った。ってか、赤い方の子のスタイル、メチャクチャ良くなかったか!?パイロットスーツ越しであれだけのものだったら、解放したらどうなっちまうんだよ!?しかも、声からして10代後半くらいだろ?それで、出るとこ出てて締まるとこ締まってたら・・・・・・・・・・・・考えただけで僕の相棒が対艦刀サイズまでに膨れ上がってしまいそうだ。

というか、さっきから視線を感じるのは気のせいか?

 

 

『さっさとコックピットから降りようか、変態くん?』

 

うわぁー、気づいたら目の前とか辺り一面にとっても怖いお兄さんたちが・・・・・・・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど・・・・・・・・・それでその子はこんな状態に」

 

「えぇ・・・ここに来る途中も『僕は男になんか興味ないんだぁぁぁぁああ!!』って叫んでましたし・・・」

 

やぁ、どうも。ソーマ・アイリスだよ。今は艦長室で事情聴取中だよ。ちなみにここに居るのは、艦長さん、副長さん、僕の3人だけだよ。ちなみに僕は手錠されてます。束縛プレイはされるよりする方が好きです。だからこの状況には萌えません。あっ、間違えた。燃えません。決して真っ白な灰になんかなってませんからね?

 

「ともかく、あなたの言いたい事は大体分かったわ。正直、今あなたにかまっている時間は無いの。だからこの話は後でゆっくりしましょう。アーサー、ブリッジに戻るわよ。もちろん、彼もね」

 

「えぇ!?彼も・・・ですか?」

 

「当たり前でしょう!捕虜扱いにするわけにもいかないんだから、近くにおいて置かないといけないでしょう」

 

「りょ、了解しました!」

 

2人の会話を聞いていると、副長さんは完全に尻に敷かれるタイプだと分かる。一方、艦長さんは駄目な部下を持った上司という感じだな。ハハッ、そのまんまか。

 

「えっと、ソーマだったな?私はミネルバ副長のアーサーだ」

 

「あっ、よろしくお願いします。艦長さん待たせるのも悪いですし、行きますか?」

 

「あ、あぁそうだな。よし、行くとしよう」

 

なんか頼りないなぁ、この副長・・・・・・まぁいいか。とにかく頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メイリン、現在の状況は?」

 

艦長さんがブリッジに入るなり、質問する。その質問に管制と思われる少女が答える。

 

「現在、“インパルス”、“ザク”が強奪機体三機と交戦中!しかし、“インパルス”のエネルギー残量がレッドに入りました!」

 

管制の子はメイリンというらしい・・・・・・・・・え?どんな子かって?超どストライクな美少女に決まっているじゃないか。状況が状況だからまた後で挨拶ついでにデートにでも誘ってみるかな・・・・・・・・・って、今はそんなこたぁどうでもいいんだ。

聞いたところによると、状況はかなり緊迫しているようだ。もっというと、かなりの高確率で逃げられそうだ。

 

「このままでは“インパルス”まで奪われてしまうわ。仕方ないわね・・・・・・ミネルバ発進!各ブロックに通達!」

 

「は、はい!」

 

ま、マジか!?いや、この状況じゃ正解だろうけど!艦長さん、めっちゃサバサバした性格してますね!嫌いじゃないですけど!

 

「議長も、よろしいですね?」

 

艦長さんが、椅子に座っている長身の男に許可を求める。

 

「あぁ、構わないよ。私もこの行く末を見届ける義務がある」

 

へぇ・・・議長か。議長ねぇ・・・・・・プラントの?

 

「ん?どうしたのかな?私に何か用かな?ソーマ・アイリス君」

 

「いえ・・・・・何故僕の名前を?」

 

さらっと僕の名前を呼んだ?僕なんか一般人レベルにしか知られてないはずだぞ?

 

「いやいや、あまり謙遜することはないよ。私も嬉しいんだよ・・・・・・・・・“災害”に会う事が出来て」

 

この人は何を言っているんだ?それよりも、なんで僕の事を・・・・・・。

 

「初めまして、ソーマ・アイリス君。いや・・・・・・前大戦の影の労働者、“災害”と呼んだ方がいいかな?」

 

『っ!?』

 

な、なんて野郎だ・・・・・・・・・おっさん、どうしよう?俺の秘密バレちゃった・・・・・・。

 

 

 



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PHASE 06 災害の祝福

無言投稿を決め込む


"ミネルバ"のブリッジでは、なんとも言い難い空気に包まれていた。その状況は正に一触即発。原因は一人の少年とプラントの議長によるものだった。

 

「な、何を言っているのか分かりません。何ですか、"災害"って?」

 

やや乾いた口調でソーマは尋ねる。彼としては、この話をされる事が死と同じくらい重要なため、なるべく速攻で話を切り上げたかった。しかし、デュランダル議長はあえて言いふらすかの如く、答えた。

 

「あぁ、悪かったね。君にとっては話しづらい事だったのかな?ましてやこの状況では」

 

ソーマは内心苛立っていた。この男は自分の事を利用するため、わざと知らないふりをしていたのだ。こちらがミネルバを利用する事を、恐らく何処からか情報を得たのだろう。

 

(それなら、こちらも次の手に出るまでだ)

 

心理戦と化したこの状況では、もはや言い逃れは出来まい。ならば、先手を取らせてもらおう。

 

「・・・いやぁ〜、バレちゃいましたか。確かに前大戦時、僕はあの機体に乗って戦いました。やっぱり、ザフトだと死刑になるんですかね?」

 

ソーマは自らを暴露するという、この状況で最も生存率の高い策に出た。自分がそうです、だから何ですか?と言わんばかりのドヤ顔で。

一瞬、呆気に取られていたデュランダル議長も、次の瞬間には柔らかい笑みを浮かべて答えた。

 

「心配には及ばないさ。ザフトの軍人でも無ければ、ましてや一般市民だ。今となってはその行いを知る者も少ないだろう」

 

結果としては、心理戦はソーマが一歩リードといった感じだ。本人としては、今さら死刑なんて糞食らえだとも思っていた。ただ、建前が欲しかっただけのようだ。

 

「んじゃ、この話はここで終了ってことで・・・・・」

 

ソーマは話を切り上げると、すぐさま気掛かりだった管制の少女の所まで駆け寄った。

 

「やぁ!こんにちは。僕はソーマだよ!遠目からでしか見てなかったけど、君ってやっぱり可愛いね!歳も同じくらいかな?あっ、これ僕の連絡先ね。ついでと言っちゃ悪いんだけど、今度一緒に食事でもどうかな?」

 

鬼気迫る様子のソーマに、思わず驚くメイリン。が、戦闘中なこともあり、静かに返す。

 

「何考えてるんですか!今は戦闘中なんですよ!ただでさえ状況が混乱しているのに・・・」

 

メイリンの言葉に、ソーマはわざとさばさばした口調で言い放つ。

 

「それはもう大丈夫だよ。この戦闘は既に終わってるから。ほら、見てみな」

 

ソーマの示した画面を見ると、そこには撤退を始めた三機の強奪機体が映っていた。さらにソーマは、追い打ちをかけるように言葉を続ける。

 

「それにコロニー外には母艦も待機してるはず。こっちのモビルスーツはエネルギー切れ寸前。この"ミネルバ"が出てったところで、敵艦は既に逃亡完了。ついでに戦闘終了ってことだ」

 

ソーマのあまりにも的確な予想が、この状況で最も起こり得る可能性を秘めていた。レーダー担当の管制員がすかさずスキャンすると、コロニー外の味方母艦が次々と撃墜されていることをタリア艦長に報告する。強奪機体はまだコロニーの中にいることから、自ずと外の部隊がいることが裏付けられた。

 

「あなたは・・・一体・・・」

 

メイリンが小さく言葉を漏らすと、ソーマはとびっきりの笑顔で答えた。

 

「僕はただのイケメンな一般市民兼モビルスーツ乗りだよ☆」

 

その笑顔は不思議なことに見たものに恐怖を与えるもの以外には見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「案の定、逃げられた訳だけど・・・・・・納得いかないわね」

 

タリア艦長は小さく繰り返す。もちろん彼女が納得いかないのはこの結果にではない。予想したソーマにでもない。

隣にいたアーサーが強調するように告げた。

 

「艦長は彼が次の戦闘の指揮を執ることに納得いかないのですか?」

 

思わずタリア艦長はアーサーを睨む。地雷を踏んだとばかりに、アーサーは罰の悪そうな顔をして、静かに謝罪する。もちろんタリア艦長も、彼が悪いとは思わない。実際に誰も悪くはないのだから。

 

「アーサー、貴方は彼の事どう思う?」

 

突然の質問にアーサーは戸惑いながらも答えた。

 

「はぁ・・・そうですね。やけに達観しているとは思いました。少ない情報で戦況を素早く理解し、それで次の手を考える。とても一般市民とは思えませんね。まあ、すこしおちゃらけたところもあるようですが・・・」

 

タリア艦長は、お前が言うなと喉まで出掛かったが、話の的は捉えていたのでその言葉を飲み込んだ。

 

「議長が許可したとはいえ、やっぱり納得いかないわね・・・」

 

タリア艦長の憂鬱はまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何で私があなたと一緒に資料を探さないといけないんですか!」

 

ソーマは次の作戦を練るため、"ミネルバ"艦内にある戦闘資料を手当たり次第漁っていた。通信担当のメイリンを連れて。

 

「いや、だってこの船に知り合いって議長と君しかいないし・・・」

 

「私はあなたの知り合いじゃありませんから!」

 

ソーマの言葉にツッコミをいれるメイリンだが、内心既に諦めていた。

 

「うるさいなぁ、君は議長を働かせるつもりか?軍人がそんな事していいの?」

 

ソーマはさっきから同じことを何度も繰り返していた。実際にこの言葉には逆らえないことは知っていたし、何より使い勝手が良い。

 

「うぅ、分かってますよ。はぁ・・・何でこんな事に・・・あっ」

 

「なした!何かあった・・・ブハッ!!」

 

ソーマはメイリンの方へ振り返ろうとすると、飛んできたタ○ンページ並の資料を顔面に喰らい、その場にぶっ倒れた。

 

「ご、ごめんなさい!でも、何でもありま・・・せん・・・よ。あの大丈夫ですか?もしも〜し。あっ、気失ってる」

 

 

その後、約三時間後に目を覚ましたソーマは、メイリンに密かに取り付けた盗聴器で戦闘資料を見ながらほくそ笑んだことで、ソーマは小さな復讐を楽しんだそうだ。

 



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PHASE 07 偽りの騎士

「それでは、敵戦艦及び敵強奪機体追撃作戦の詳細を確認します。あくまで個人的な意見なので参考程度に考えて下さい」

 

ソーマはブリッジにて、逃亡した敵戦艦の追撃作戦の概要を説明する。よく見ると、数時間前には居なかった人物も居るようだが、今はこちらを優先させるべきと考え、振り切るように話を始める。

 

「まず、現在の状況を確認します。現在、この"ミネルバ"は逃亡した敵母艦・・・えっと、"ボギーワン"でしたっけ?それの追撃にあたっています。"ミネルバ"の性能面から見て、恐らく数分後には"ボギーワン"を補足すると思われます。そして、その場所は『デブリベルト』」

 

ソーマの言葉に、その場に緊張が走る。それもそのはずだ。

『デブリベルト』ーーー宇宙開発が始まって以来、廃棄された宇宙ゴミ、小惑星の類いが地球の引力に引かれてたどり着く宙域のことをいう。ソーマはそのデブリベルトが今回の戦闘宙域だというのだ。

 

「ずいぶんと面倒なところに誘われたようね・・・」

 

タリア艦長はいち早くこちらの状況を察知した様子で、ソーマが言わんとすることを理解する。他の面々も大体の理解はしたようだ。

 

「艦長も仰る通り、少々面倒なところでの戦闘となります。ならば、少しでもこちらを有利な状況にする作戦を立てました。

名付けて『ボギーワンをボギッと奇襲大作戦!!』です」

 

その発言に思わずその場が凍りついた。ソーマはその空気を消去するかのように大きく咳払いをして「説明を続けます・・・」と沈んだ気持ちのまま説明を再開する。

 

「まず、この"ミネルバ"の搭載モビルスーツ全機を先行させます。その際、モビルスーツは途中でエンジンを切って、ブースターの余韻だけで移動してください。幸い、この宙域にはモビルスーツの残骸もあるようですし、奇襲に最適です。いかがでしょう、タリア艦長?」

 

ソーマに話を振られ、タリア艦長はそちらに顔を向けたが黙っていた。ソーマの作戦と自分の作戦を天秤にかけて、どちらが最適かを計っているのだ。そして、タリア艦長は答えを出す。

 

「・・・わかりました。その作戦で行きましょう。メイリン、艦内に通達。本艦はこれより"ボギーワン"奇襲作戦を開始する!」

 

指示を受けてメイリンが、うわずった声で艦内に呼びかける。

 

「それでは、各員配置について!」

 

タリア艦長の声でそれぞれが所定の位置に移動を始める。デュランダル議長とその二人とソーマを残して。

 

「君はずいぶんと奇抜な発想をしているようだね。私も驚いたよ」

 

デュランダル議長がソーマに話しかける。ソーマはそっけない返事をする。

 

「はぁ・・・そうですか。あの・・・そちらの二人は?」

 

「あぁ、君には言って無かったね。オーブのカガリ・ユラ・アスハ代表と随員のアレックス・ディノだよ。代表、彼はソーマ・アイリスです。今はこの艦を手伝ってくれています」

 

その事実を聞いて、ソーマは一瞬でカガリのもとに駆け寄り、手を取り挨拶をする。

 

「挨拶が遅れて申し訳ありません。性はアイリス、名はソーマでございます。作戦立案の任があったとはいえ、貴女のような美しい女性をもてなせなかった無礼をお許し下さい!」

 

さっきまでとはまるで別人のような態度と突然の謝罪に、カガリは反応に困りながらも返事する。

 

「いや、そんなに気にしなくていいぞ?我々もつい先ほど来たばかりだ」

 

カガリの言葉に胸を打たれたソーマは、一瞬でその場に倒れこむ。そのうちカガリがオーブの母なんて呼ばれる日も近いなぁなんて思いながら。そのとき、

 

〈敵艦補足、距離8000!コンディション・レッド発令!パイロットは搭乗機にて待機せよ!〉

 

締まらない空気を、鳴り響くアラートが打ち破った。

 

「っと、来ましたね。それでは、失礼します!」

 

ソーマも戦闘に備えるため、その場を離れて格納庫に向かう。その姿をアレックスは、いや・・・アスランは歯がゆい思いで見送るしかない自分を叱責するしかなかった。ソーマと自分。同じ立場でここまでに違う道を歩んでいる理由を見つけられないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈モビルスーツ発進三分前、パイロットは搭乗機にて待機。繰り返す。発進三分前、パイロットは・・・〉

 

アナウンスの流れる格納庫を、パイロットスーツを着用したソーマは、堂々と佇む灰色の機体目指して飛び乗った。かつての感触が脳裏に焼きついている所為か、体が勝手に機体を起動させる。

 

「出来ればもう使いたくは無かったんだけど・・・」

 

起動を確認したソーマは、回線を開く。もちろん相手は味方モビルスーツ全機にだ。

 

「挨拶が遅れて済まない。今回の作戦指揮を執るソーマ・アイリスだ。当分の間はこの"ミネルバ"所属ってことになってる。以後、よろしく頼む」

 

すると、いち早く回線が開き、そこには真紅の瞳を宿した少年が映し出された。

 

〈いきなり出てきて何なんだよ、あんた!〉

 

ソーマは呆れながらも、返事をする。

 

「だから、最初に謝ったろ?それに、僕はあんたじゃない。ソーマだって言っただろ?〉

 

そっけない返事に、シンは声を荒げて突っかかる。

 

「そんな事はいいんだよ!大体、何であんたみたいな部外者に命令されなきゃいけないんだよ!」

 

それは正論だが、今はそんな事言っている場合ではないので、すぐに引き下がる。

 

「分かった分かった。僕が悪かったから早く出撃して、ほら早く!」

 

そう言うと、シンは煮え切らない思いのまま回線を閉じた。一息つくのも束の間、すぐに新たな回線が開く。

 

〈ごめんなさい、シンってばすぐに突っかかるんだから・・・。あっ、私はルナマリア・ホークです。よろしくお願いします!〉

 

映し出されたのは、赤い髪の少女だった。そう、以前も見た子だ。

 

「気にしなくていいよ、慣れてるから。それより、君って妹いる?」

 

〈あ、はい。メイリンっていう通信担当の。でも、それがどうしたのですか?〉

 

「同じ赤髪だからもしかしたらと思っただけだよ。いや、あの子はいいね。正直言ってタイプなんだよね!よかったらで良いんだけど、あの子の連絡先教えてくれないかな?いやさぁ、さっき突撃したらボッコボコに叩きのめされちゃって。アッハッハ!!」

 

ルナマリアは困惑しながら、ソーマをフォローする。

 

〈勝手に自暴自棄にならないで下さい!いいですよ、後でレクルームに来てくださいね〉

 

「すぐ行きます!!速攻で、一瞬で!」

 

恐らく向こうの画面いっぱいにソーマが映っているだろう。度が過ぎると自主規制されるので注意しなくては。

 

〈あ、あはは・・・じゃあ私もう行きますね?」

 

「あ、うん。頑張ってね。エンジン切るの忘れないでね!」

 

そう言って回線を閉じた。さて、あと一人か。

 

〈レイ・ザ・バレルです。よろしくお願いします〉

 

「あ、うん。よろしくね」

 

回線を閉じた。あまりの掴み所の無さにびっくりしてるのはソーマ本人なのだが。

ソーマは軽く頭を掻きながら、他の機体が発進するのを待つ。

 

「何ていうか・・・曲者ばかりだよな、この部隊。ってそれは僕も一緒か」

 

そんな事言っている場合じゃないと、改めて意気込む。

 

「さぁて、頑張ってくれよ・・・」

 

彼の微笑が表すものは、喜怒哀楽のどれも当てはまるものではない。それは彼のみが知ることだろう。

 



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PHASE 08 栄光の証

〈あんまり成績よくないんだけどね、デブリ戦って…〉

 

ルナマリアが通信機越しにぼそりと呟く。彼女が言っているのはシミュレーションでの戦歴の話だ。小惑星やコロニーの構造材らしき破片が時折視界を遮るのを不安に感じているらしい彼女に、シンが発破をかける。

 

「向こうだってもうこっちを捉えてるはずだ。油断するな!」

 

それに負けじと言い返すルナマリア。

 

〈わかってるよ!レイみたいなこと言わないでよ。調子狂うから!〉

 

彼らと僚機のゲイツR二機、その少し後ろをレイのブレイズザクファントムが追従している。破壊されたコロニーの破片が漂う前大戦の墓場のようなデブリの海を進んでいくと、戦艦の位置を示す大型の熱量が手元のモニターに光点として表示されている。敵艦のボギーワンだ。その光点は先程からずっと同じ地点にとどまり、こちらを待ち構えているかのように動かない。

 

〈…妙だな。これほどまで接近しているにもかかわらず、護衛のMSの影すら見えないとは〉

 

〈奴さんの作戦通りにアイツらの裏を取れたってことでしょ?さっさと例のMS、回収しようぜ〉

 

レイの言葉にゲイツRを操縦するショーンが楽観的に捉えるが、シンは徐々に不審を抱き始める。

 

(何でだ?何でまだ手を打ってこないんだ…まさか!?)

 

シンは一拍遅れて事態を悟った。それと同時に付近のコロニーの残骸の陰で何かが動いた。

 

「不味いッ!囮だ!!」

 

シンが味方機に向かって叫んだのとほぼ同時に、デブリの陰から飛び出したのはカオス、ガイア、アビスの三機だった。シンは息をのみ咄嗟に回避運動に入る。残りの四機も散開し、アビスのビーム斉射がその間を駆け抜ける。しかし、カオスから分離した兵装ポッドで一機のゲイツRを両側から押し包みビームで串刺しに、もう一機のゲイツRを不意をついたガイアの放ったビームライフルが逃さなかった。戦闘開始後、僅か数秒で味方の機体が二機も炎に包まれた。

 

〈ショーン!デイル!あっという間に二機も…。そんなッ!〉

 

ルナマリアが悲痛な声を上げ、シンも苦いものを堪えて歯をくいしばる。

 

「くそっ!動きが無いからって油断してた…。まさか待ち伏せされてるなんて!」

 

交錯するビームをかわしながら、シンの脳裏にふとある思いが浮かんだ。

 

ーーーなぜ、ソーマはこの場に居なかったんだーーー

ーーーまさか最初から知っていたのかーーー

 

発進して間もない頃、気づけばいつのまにか彼のMSだけが自分たちの集団から消えていたのだ。シンは苛立ちと不信感を抱きながらモニターの光点を睨みつける。すると、その光点が画面上から消えると同時に自分たちの旗艦ミネルバの後方付近に再度光点が表示された。

 

〈ボギーワンがミネルバの後ろに!?私たち、まんまとハマったってわけ!?〉

 

ルナマリアもそれを見て驚愕の声を上げる。

 

「あぁ、そういうことだね!」

 

カオスの兵装ポッドから放たれたビームを回避しながら、ヤケになったように叫び返す。

 

「散開して奴らを振り切る!ミネルバを援護するんだ」

 

レイが冷静に命じ、赤いザクとインパルスがその言葉に従って離れていく。シンは次々と追いかけてくるビームを避けながら悔しげに叫んだ。

 

「けどこれじゃ、戻れっていったってッ!!」

 

自分たち主力MSを引き離されたミネルバが叩かれる、と焦る気持ちと裏腹に、戦況は不利なままだ。敵機を振り切って帰還するどころか、撃墜されたゲイツRのあとを追わずにいるのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後ろを取られたままじゃどうにもならないわ!回り込めないの!?」

 

グラディス艦長が苛立ちを露わに尋ねるが、ミネルバの操舵士は首を振る。

 

「駄目です!今は回避だけで手一杯です…!」

 

「小惑星に阻まれているんじゃ、こちらの火器の半分も…!」

 

艦長が悔しそうに呻く。主砲などの射角では背後の敵を捉えることが出来ない。ミサイルも周囲に浮遊している岩の破片やデブリに当たり、敵艦まで届くことは望めないのが現状である。

 

「ミサイル接近!数六!」

 

その時、索敵担当兵が敵艦からの砲撃を告げ、「迎撃!」とグラディス艦長が反射的に命じる。が、ブリッジに入っていたアスランがミサイル群の予想コースを見て思わず席を立って叫んでいた。

 

「…不味い!艦を小惑星から離して下さい!」

 

グラディス艦長が振り返りかけるが、だが既にミサイルが眼前に迫ってきていた。もう遅いと確信した矢先、次の瞬間には自分たちが思い描いていた光景とは違う景色が広がっていた。艦に向かって放たれたミサイル群は直撃はおろか、全て撃ち落とされていたのだ。

 

〈彼の言うとおりです!直ぐに艦を離脱させて下さい。後方の敵機は僕が引き受けます〉

 

ソーマからミネルバへ通信が入る。彼が駆るMSが飛来するミサイル群を狙撃して撃ち落としたのだ。

 

「一体どういうこと!?」

 

グラディス艦長がソーマに問いただす。ソーマの駆るグローリーはミネルバに向かってくるダガーLのメインカメラをビームライフルで潰しながら答える。

 

〈今ミネルバが居る小惑星はMSならともかく、戦艦の退路を確保する余裕がないんです。今のミサイルも艦を狙ってではなく付近の岩石や破片で動きを封じるのが目的なんです。戦艦は足を止められたら終わりですからね〉

 

ソーマのあまりにも的確な判断に、グラディス艦長以外の乗員が驚きの表情を浮かべていた。

 

「…なるほどね。分かったわ、ミネルバはこのまま離脱する!上げ舵十五!」

 

艦長の声が指示を飛ばす。次第にゆっくりと動き出すミネルバを守るようにグローリーが迫り来るMS部隊を撃墜していく。その実力は前大戦で災害と呼ばれた謂れを感じさせる。

 

「旧式の機体であそこまでの動きが…」

 

グローリーの動きを見ていたアスランは、その巧みな操縦技術に魅せられていた。パイロットの腕次第で限界以上の力を発揮するMSを知っている。かつて何度も対峙した親友の機体を。

アスランは内心自分を責めた。ソーマと自分はお互いの立場も境遇もそう変わらないはず。なのに彼は持てる力を発揮して今も戦場に身を投じている。対して自分はと言えば、戦う力を否定しながら戦いの中に身を置いて、やはり力を欲している自分の矛盾を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしッ…ミネルバは上手く離れてくれたみたいね。あとはあのMAを…クッ!?」

 

ボギーワンから発進したMS部隊を全滅させたソーマは指揮官機と思われるMAの迎撃に向かおうとした最中、後方からMSが接近している警告アラームが鳴る。

廃コロニーの陰から飛び出してきたのは、振り切ってきたレイを追ってきたガイアだった。その振り切ったレイはと言えば、指揮官機と思われるMAのみをまるで執着するように狙撃していた。遊び相手を失ったガイアはまるで新しいおもちゃを見つけて気が変わったかのようにビームサーベルを抜き放ってグローリーに肉迫してきた。

 

「クッ…!連戦とはね。手当たり次第にってか?」

 

対するグローリーもビームサーベルを抜き放って対峙する。互いの太刀筋をシールドで受け止め、隙をついて斬りかかる。ソーマはこのガイアのパイロットがかなり出来ると感じていた。機体に触って数時間でここまで機体を自分のものにできるなんて。

 

「連合の艦ってことは、パイロットもナチュラルのはずだよな…。天性の才能なのか、はたまた俺と同じか…」

 

機体の回収を命じられてるミネルバに従っている以上、なるべく無傷で手に入れなくてはならない。手っ取り早い話はコックピットだけを潰せばいいわけだ。

 

「この獣みたいな動きの奴を相手にか…?」

 

愚痴を漏らしながら、ソーマは衝動に突き動かされるまま機体ごと急旋回させて、付近のデブリに向けて小型のグレネード弾を炸裂させる。次の瞬間、その空間は爆発に包まれ一時的にセンサー類を狂わせていく。多数の熱源と爆音によりメインカメラ以外の計器を使わせないためだ。さらにこの状況でビームサーベルを使用するのは暗闇でペンライトを振るようなもの。相手に自分の位置を知らせることになるし、機体の回収を考えると不用意に振るって間違っても機体を破損させるなんてことはあってはならない。よってここで使うべき戦法は一つだった。

 

「効いてくれよ!」

 

ビームサーベルを手放し、そのままメインカメラに向かって掌底、コックピット部にエルボーと膝蹴りをくらわせる。衝撃を与えることでパイロットの気絶を促すつもりだ。まぁ、たかだか二、三発の衝撃で気絶するほどそう上手くはいかないのだが。

 

「ぜ、全然ピンピンしてるじゃないか…。本当に獣かよ」

 

ザフトの最新鋭機と旧世代の機体。その性能は月とスッポンほどの差があることは言うまでもなく、シールドと頭部バルカンのみの兵装しか残されてないグローリーにとってはまさに死闘と言えるものになろうとしていたが、不意に信号弾が三つ打ち上げられ宇宙の闇を彩った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー…」

 

ガイアの動きが糸の切れた操り人形のように、急に大人しくなる。コックピットの中では、さっきまで殺気立った表情を浮かべていたステラの顔から跡形もなく拭い去られ、彼女はうっとり光を見上げていた。この光が彼女はとても好きだ。帰っておいでという意味だということもあるが、ただ純粋に綺麗だと思っているからだ。

ガイアの傍らにいつのまにかカオスとアビスの姿があった。通信機からアウルの声が入る。

 

〈チッ、二点勝ちで終了かよ〉

 

〈仕方ない。ステラ、ネオが呼んでるぜ。帰ってこいってさ!〉

 

「うん…。次は、負けないもん…」

 

ステラは複雑な気持ちのまま頷く。彼女も自身の戦績には不満だった。前回も現れた白いヤツをまた堕とせなかったし、赤いのも目障りだった。しかし、それ以上に今回新しく現れた古いヤツだ。アイツには一太刀も当たらなかったし、素手でも勝てなかった。まるで大人が子どもをあやすかのように。

でも次はきっと堕とせるだろう。今はもう帰る時間だ。ネオも待ってる。彼女たちは遊び疲れた子供のように、喜び勇んで母艦を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE 09 受け入れる少年

「ボギーワン、離脱します!」

 

どこかホッとした声で、バートが告げた。続いてメイリンも報告する。

 

「インパルス、ザクルナマリア機、レイ機共にパワー危険域です」

 

次々と寄せられる報告は、全てタリアにひとつの事実を教えていた。これ以上、戦闘は継続できないと。

ミネルバのMS部隊は満身創痍だった。今動けるのはソーマのグローリーとミネルバのみ。ボギーワンを目の前にしながら、もはや打つ手がなかった。

 

「グラディス艦長、もういい。あとは別の策を講じる」

 

苛立つタリアを制するように、後部座席からデュランダルが声をかけた。その言葉は任務の失敗を意味していた。最新鋭の戦艦とMSを与えられておきながら、自国と友好国の元首をさっきは撃沈の危険にさらしてしまったのだ。しかも、その危険を救ったのは部外者たるアレックスもといアスラン・ザラと民間人のソーマ・アイリスだった。そんな自分の不甲斐なさが口惜しいのだろう。彼女は忸怩たる表情で頭を下げた。

 

「…申し訳ありません」

 

ほどなく彼女はデュランダルともう二人の客人に付き添い、艦橋をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスラン・ザラ?アイツが!?」

 

「もしかしてとは思ったけど、本当だったとはねぇ…」

 

帰還したシンやルナマリア達は驚きの声を上げた。当直を終えたメイリンが艦橋で起こったことを告げたのだ。驚愕する二人をよそにレイだけは眉ひとつ動かさないが、一応の興味はあるのか黙ってメイリンの話を聞いている。

 

「だってぇ、議長が言ったのよ、『アスラン・ザラ君』って。それで彼、否定しなかったんだもの。でもでもっ!それだけじゃないの、もう凄かったんだからぁ!」

 

ルナマリアの妹のメイリンは、姉と正反対の女の子っぽい甘えた口調で話す。危機的状況においてアスラン・ザラが呈示した起死回生の案によって艦が救われたということを。

 

「…でもぉ、ホントに名前まで変えなきゃなんないもんなの?」

 

みんなでレクリエーションルームに向かう間も、メイリンとルナマリアはなおもアスラン・ザラの話題を続けていた。女は気楽なものだとシンは苛つきながらも、ふとさっきの戦闘が蘇る。まんまと敵に翻弄され、ミネルバの危機をアスラン、そしてもう一人の部外者であるソーマに救われた事実に不満だった。

その時、先を歩いていたルナマリアがぴたりと足を止めた。彼女に並んでいたメイリンが飛び上がり、後ろに続いていたレイの背後に慌てて隠れる。その理由はレクルームのベンチに腰かけていた二人の人物だった。共に艶のある黒髪の、自分たちより一、二歳ほど歳上に見える青年達が話していたのだ。

 

「さっき艦長さんから聞いたよ。君の機転がミネルバを救ったんだってな…本当に感謝してる」

 

「いや、俺は別に…あなたがミサイルを撃ち落としてくれなければ、損傷はもっと酷かったかもしれないし…作戦もしっかり練られていたおかげでしょう」

 

「…そうでもないよ。俺の立てた作戦は完璧なんかじゃなかった。もし完璧なら、きっと全員生還できたはず「アンタの言う通りだなッ!!」ッ!」

 

割り込むように発せられた言葉にその場に居た当人以外は、驚いて声の方を見やる。シンはズカズカと歩いてくると、座っていたソーマの襟首を掴んで立たせ、更に責め立てた。

 

「アンタの作戦の所為で、戦死した奴だっているんだ!ミネルバも沈むかもしれなかったんだ!アンタは自分だけ離れて俺たちを先行させた!それは俺たちを囮にして奴らを引きずりだそうとしたんだ!そうだろ!?」

 

「ち、ちょっとシン!?」

 

堪らず陰に隠れていたルナマリアとレイがシンをソーマから引き剥がす。ソーマは持っていたドリンクを落とした際に、中身が服にかかってしまったのを拭こうとするもちょうどいい拭くものを持ち合わせていなかったため、仕方なくそのまま言い返す。

 

「…どう受け止めてくれても構わない。さっき艦長さんと話して、暫く監視付きで営倉に入ることになった。いつでも文句言いに来てくれ。じゃ、そういうことで」

 

白々しく聞こえるくらい淡白に答えると、ソーマはレクルームを出てこうとする。

 

「なっ!?オイ、まだ話は終わってない!」

 

なおも摑みかかろうとするシンを、レイが制する。

 

「シン!それ以上は止めるんだ。彼は軍人ではない、あくまで一般人だ。それに作戦立案や戦闘指揮は議長が認めたことだ。それを否定することは、議長を否定することと同義だ」

 

ぐうの音も出ないほどの正論を並べられ、カッとなっていた考えも次第に冷静さを取り戻していくシン。

その場にいた全員が安堵の表情を浮かべると共に、一つも反論しないで全てを受容したソーマの行動を不審に思った。特に作戦前の彼の行動や性格を少しでも知っていたメイリンは、その激しい落差を不思議に感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい起きろ、お前に客人だ」

 

数時間後、営倉で仮眠をとっていたソーマは監視を命を受けている士官に扉越しのブザーで起こされる。その扱いはまるで捕虜に等しいものだった。手錠をかけられていないのが唯一の救いだが、四六時中監視されていてはそれもまるで意味を成さなかった。

 

「誰だ…?まぁいいか。どうぞ〜…」

 

寝起きだった所為かほとんど生返事をしたソーマ。すると扉が開き、訪ねてきた人物が明らかになる。

 

「あ、お休み中のところすみません。食事と替えの服を……って!!な、何で裸なんですかァ!?」

 

訪ねて来たのはメイリンだった。どうやら仮眠をとっている間にとっくに夕飯と時間を過ぎていたらしく、いつまで経っても食堂に来ないのでちょうど食堂に来ていた彼女が頼まれたというわけらしいが…。

 

「いや、濡れたの乾いてないし、寝る時いつも裸だし…ちゃんとパンツは履いてるし。その割には全然視線をそらす気配が無いじゃん。メイリンちゃんはエロい子だな〜」

 

ハッハッハ〜と特に気にもとめずメイリンが持ってきた夕飯を受け取るソーマ。羞恥心が頂点に達したのか、メイリンは顔を真っ赤にしながら持ってきたザフトの軍服(緑)を強引に手渡す。

 

「は、早くそれ着てください!もぉ〜、本当はお姉ちゃんが行くはずだったのに…」

 

ぶつぶつと消え入りそうな声で一人、押し問答を続けているメイリン。勿論ソーマが服を着ている際も彼の肉体をチラチラ覗き見していた。

 

ーー閑話休題ーー

 

「それで、何か用があったんじゃないかな?」

 

流石にお粗末な営倉で何時間も少女を監禁するわけにはいかないので、メイリンの部屋に招かれた。危機感を感じたソーマは最後まで抵抗したが「子どもじゃないんですから、言うこときいて下さい!」と歳下の女の子に本気で説教され見事に撃沈したのは余談だ。

ソーマが切り出すと、メイリンは何か意を決したのか体の前でぐっと小さな拳を握りしめて話し始めた。

 

「…一つ、聞いてもいいですか?さっきシンに責められた時、何で言い返さなかったんですか?シンが怒るのも分かりますけど、“アイリスさん”だけが悪いわけじゃないのに…」

 

「作戦が悪かったのは事実だよ。相手の手の内を明かしたかったのは本当だし、その為にシン達を利用したのも認める。チームって感じ、慣れなくてさ…」

 

苦笑しながら食事に手をつけるソーマ。メイリンは話を聞いているうちに、先程との何とも言えない違和感をひしひしと感じていた。

 

「君たちと別れてから、一緒に出撃したショーンとデイルの供養をしてきたよ。話したことはないし、よくは知らないけど俺の作戦の所為で二人が戦死したのは事実だ。だから、俺だけは絶対忘れちゃダメなんだよね…ん、ご馳走さまでした」

 

「…どうしてですか?」

 

ソーマは飲み物を飲み干して手を合わせた後、静かに、そして確固たる意志を持って答えた。

 

「俺は、あくまでも自分の意思で戦場にいるから。戦場で生きることは、誰かを殺すこと。そこにはルールも秩序も存在しない。だからこそ考えの中心に“自分”を含まなきゃいけないんだ。組織に属していると、何が正しくて何が間違いなのか分からなくなるから」

 

ソーマの強い意思の宿った言葉を受けたメイリンは、その緊張を次第に緩めるように溜息をついた。

 

「ハァ〜…何か心配して損した。やっぱり私の思い違いだったのかなぁ」

 

いきなり年相応な少女の反応に変わり、思わず呆気にとられるソーマ。

 

「だって、あの時の“アイリスさん”スッゴイ怖い目してたんですもん!こーんな感じで!」

 

メイリンはそう言って、自分の指で目をつり上げて彼女なりの怖い目つきを再現してみせた。勿論怖くなんかならず、どちらかといえば悪戯っ子のような…。最初は笑うのを我慢していたソーマだったが、その笑いの堤防はすぐに決壊した。

 

「…ふッ、ふふふ、ちょ、メイリンちゃん…その顔、ダメだッ…ハハハハハハッ!?」

 

「な!?何で笑ってるんですかぁ!!酷いですよ…むぅ〜!」

 

ソーマの爆笑により、自分が辱められている事に気づき不満げな頰を膨らませて態度で示すメイリン。が、その顔は次第に自然な笑みに変わり、お互いに二人で笑い合った。

彼女の中でソーマという得体の知れない存在は、自分たちとそう変わらない等身大の男の子という認識に変わりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

 

「ていうか、そろそろソーマって呼んでよ。あと早く連絡先を交換してほしいな」

 

「な!?…ダメですダメです!どっちもダメですから!?」

 

「えぇー、んじゃせめてミネルバの中、案内してよ。暇なときでいいからさ?」

 

「…本当に暇な時だけですよ?」

 

「うんうん、全然オッケーさ。ハァ、今からデート楽しみだなぁ〜」

 

「で、デートじゃありませんから〜!!」

 

「な、何この甘々空間は…」

 

メイリンの同室の女性士官が部屋に入るタイミングを完全に見失っていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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