歪んだ殺人鬼の転生録(凍結) (クルージング)
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設定集
《設定集》


設定集。ちょくちょく更新していく予定です。
物語でも説明はしますが、もっと詳しく書くならやっぱり専用ページも創った方が良いかなと思いまして。


 

 

 

登場人物:能力詳細(ステータス)

 

 

 

ガレア=クレアーレ

 

種族

半神半人(ヘーミテウス)

 

加護:無し

 

耐性

対熱耐性 痛覚無効 自動抵抗 対寒耐性

 

固有能力(ユニークスキル)

 

知ノ恵(チノメグミ)

…解析鑑定 感情操作 絶対記憶 記憶共有 情報隠蔽

 

無創成(イレギュレイター)

…熱源探知 物質具現化 想像強化(イメージアップ)

負担軽減 魔素変換 魔力変換

 

共通能力(コモンスキル)

…声帯操作 自我(エゴ) 霧操作 霧創造 煙操作 煙創造

森羅万象 空中浮游 魔力感知

 

魔素量:約50万

 

 

 

ネフィ

 

種族

大妖精(ハイエルフ)

 

加護:──の加護※1

 

耐性

物理攻撃耐性 魔法耐性 状態異常無効

 

特殊能力(エクストラスキル)

???

 

共通能力

…魔力感知 感覚強化 空中浮游※2

 

魔法

…元素魔法

 

魔素量:36万※3

 

 

 

人物紹介

 

 

・ガレア=クレアーレ

 

 

異世界人で転生人。

 

常人とは異なる思考回路を持ち、殺しを趣味とする典型的なサイコパス。

前の世界では平均的な容姿だったが、転生したことによって全体的に引き締まった体つきになり、道行く人の殆どがその端麗な見た目に一度歩みを止める程に変化した。

原因は不明だが体内に大量の存在値(エネルギー)と魔物のみが持てる筈の魔素を保有しており、それを自在に操れると言う謎の力を持っている。推測の域を出ないが、これらの異常は半神の肉体が影響していると思われる。

余談だが髪の色は赤で、瞳の色は紫。髪はショートカットだが多分髪を長めにしたら後ろ姿はギィと見分けがつかなくなる。

 

・ネフィ

 

耳長族(エルフ)特殊個体(ユニークモンスター)。特徴としてはスラリと腰元まで伸びた長い銀髪に、宝石と見間違うようなエメラルドを彷彿とさせる透き通るような翠の瞳。慎重な性格で戦闘が大の苦手ではあるが、洗練された魔法を手足のように扱える程の実力は折り紙つき。

しかし元素魔法で環境を整えようとしたら、うっかり攻撃魔法を放ってしまうようなドジっ子な一面もある。

ガレアの力の一端を能力で共有された記憶を介して実体験し、その実力に一種の尊敬のような感情を抱いて忠誠を誓うようになった。その後ガレアによる名付けの影響で大妖精へと種族進化を果たした。

 

 

用語

 

・魔素

この世界の魔法の元となり得るもの。主に魔物の体内から放出されている。空気中に分散されているものもある。

 

・魔法

様々な想像(イメージ)を特定の法則によって具現化する力。種類としては『元素魔法』『精神魔法』『召喚魔法』『神聖魔法』の四種類が現在確認されている。

 

能力(スキル)

共通能力、特別能力、固有能力、究極能力(アルティメットスキル)に大まかに分類されており、その能力の効果によって更にその系統が異なる。

この世界にいる大半の生物達が保有している力の名称。

 

・名付け

魔物に名前を与える行為。

人と人の名付けとは違い、魔物の名付けは力を与える、与えられることであり、場合によっては進化することも。しかし、名付けた対象が自身に見合う力以上の者だった場合、その名付け主が死ぬ事もある。

それゆえ、名付けは危険な行為として知られている。

 

 

種族

 

半神半人(ヘーミテウス)

ガレアの種族。

前例も無く、詳しい詳細もない謎の存在。

異常な量の存在値の保有、魔物でしか作ることが出来ない筈の魔素の精製ができる等まだまだ謎な部分が多い。

 

・妖精族

ネフィの種族。

耳長族から希に生まれる特殊個体であり、魔法への適正がとても強い。魔素が生まれつき多く、質が高いという特徴があるが、反対に精神がとても脆く、身体能力が低いと言うマイナスな特徴もある。

 

・大妖精

妖精族が進化した上位個体。

魔素の質が進化前に比べて格段に高くなっており、

妖精族の時にあった欠点が全て克服されている。

 

 

 

※1 名付けの際にガレアから貰ったものなのだが、肝心のガレアの実力がまだ発展途上、つまり未熟な為、効力が発揮されないでいる。

 

※2 名付けの影響により獲得したガレアの能力。

 

※3 上記と同じく、名付けの影響により強化。更に進化により強化。

(元の魔素量は28000。)

 

 

 

 




設定書くのって楽しいですね~。

予定としては7~14話の間隔で設定を作ろうかなと思ってます。


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《第一章 違える歴史・従者との出逢い》
《第1話 創成の道標》


初投稿です。

まだまだ未熟者でして、至らない点や、間違っている点が多々あるかと思いますが、どうか宜しくお願いします。



(はぁ…つまらない)

 

俺は何処にでもいるような普通の高校生…とは少し違う。それも良い意味ではなく、どちらかと言うと悪い意味でだ。

何でかと言うとズバリ、この変にネジ曲がった特殊な思考回路のせいである。まぁ、実際はそれだけではないのだが、ここでは少し割愛しておこう。

 

(何でこんな平凡な日常を過ごさないといけないのか…理解はできるけど、納得はできないな)

 

そう、俺はいつもと変わらない普通の日常生活に退屈を感じていた。これは普通の高校生にしても、同じことでは無いかと思う。このお年頃にもなれば、いつもの日常から少し離れて、刺激的な体験を一つや二つ、したいと思うのは当たり前の事だろう。

しかし、普通の高校生ならば刺激的な体験をしたいと言う思いだけで、肝心の今の生活には、そこまで不満は持っていないだろう。むしろ何でもない普通の日常にも、一応は満足をしている筈。何もないのが一番良いとは誰の言葉なのかは知らないが、これが一般的な論理なんだろう。

だが、俺が抱いているのはそれらの思いとは少し、いや大きくずれている。俺はこの退屈な生活に対して、不満を通り越し、嫌悪感を抱いている。

 

つまり俺は、この平凡な日常が…争いを否定する今の世界のあり方が、この上なく"嫌い"と言う事だ。

 

望んでいるのは今のような平穏無事な生活ではなく、ピリピリしたような刺激的な生活。

それを求める俺にとって何の刺激もない今の退屈な日常は決して耐えられるようなものではなかった。勿論、幸せなど感じる筈もない。

 

「何でも良いから、この変化の無い日常を根本的から覆すような出来事でも起こってくれねぇかな…」

 

心から思っている不満を、天を見上げながら呟く。

だがしかし、それは不注意だったのだろう。次の瞬間、俺は身体を強く叩きつけられたような衝撃に襲われた。

 

(ガハッ…な、何が…)

 

突然の事に対して理解が追い付いていない俺は、一先ず自分が陥った状況を朧気ながら確認してみる。

どうやら気付かないうちに歩道を出てしまい、車に跳ねられたようだ。

身体の所々に激痛が走り、意識が朦朧とする。各部の出血も酷いようだった。

全くと言って良い程に、力が入らない。

声を上げようにも、喉を潰されたようで出るのは赤黒く染まった血液のみ。

 

(身体が焼かれたように熱い…勘弁して欲しいな、頭が上手く回らない)

 

『確認しました。対熱耐性取得…完了しました。続いて痛覚無効取得…完了しました』

 

(耳も可笑しくなったのか?幻聴が聞こえてきた。

…でもこの声、良いな。俺の好きな小説に出てくる世界の声って言うシステムの喋り方に似てる。いや、実際に声を聞いたことはないから想像の域を出ないけど…)

 

"転成したらスライムだった件"。

ここ最近ハマっていた小説の一つだ。

既に物語が完結している事、世界観が俺好みだった事。それらの事からとても読みやすく、楽しく読めた作品であった。

…もうすぐ死ぬ事が分かっている以上、もう読めなくなってしまうのは否めないが。

 

(俺もこんな声で喋れたら…だけど人の声って確か、声帯の手術でもしない限り簡単には変えられないだろう。神とかだったら声を変えるなんて簡単なんだろうがな。生まれ変わったら、神にでもなりたいな…高望み過ぎて絶体無理だろうけど)

 

『確認しました。声帯操作取得…完了しました。続いて神種に相当する肉体の創造…失敗しました。代替えとして、人種と神種の融合体の創造…成功しました』

 

(そう言えば、死んだら孤独になるのか?それは嫌だな…喋れる知恵がある者が側にいてくれたら、少しは気楽になりそうだが…)

 

『確認しました。固有能力(ユニークスキル)知ノ恵(チノメグミ)取得…完了しました。続いて自我取得…完了しました』

 

(視界が霧に阻まれたように曇ってきた…これが死ぬ寸前って事なのか…俺の人生、割と呆気ないな…)

 

『確認しました。霧操作取得…完了しました』

 

心の中で今までの後悔をまるで懺悔のように呟いていく。そんな中、俺は心の奥底にしまっていた、ある不満を心の中で口にした。

何故今になってそんな不満を持ち出してきたのか、それは俺にも分からない。

だが、その一言が後に、後のある世界の行く末を示唆していくきっかけとなっていくとは…

 

 

 

──当時の俺にとっては、予想だにもしていない事であった。

 

 

 

(何で、俺は自分で刺激を創ろうとしなかったんだろうか…無いなら自分で創れば良かった。あの時(・・・)のように。あぁ、何でこんな事を今になって気付いてしまったんだろうな。全く、"自分"って思ったより分からないもんだ…自覚は強い方だと思っていたんだが。)

 

 

『確認しました。固有能力、無創成(イレギュレイター)取得…完了しました』

 

 

(…叶うならもっと…生きたかった……な…)

 

 

その言葉を聞くと同時に、俺の意識は暗転した。




ふり仮名が無くてすみません。ルビの振り方がイマイチ良く分かっていないんです…(´;ω;`)

さてさて、次回は異世界突入です!近い内に次話は投稿するつもりですので、宜しくお願いします。

報告:ルビの振り方について、丁寧に説明してくださった方がいたお陰で、ルビ振りが出来るようになりました。本当に有り難う御座います!

感想、評価等募集しています。


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《第2話 新世界への進出》

深夜投稿。眠いよぉ…。


「うぅ…ここは…?……ッ!」

 

ゆっくりと目を見開いた俺は、今置かれている状況下に、一瞬言葉を失った。

死んでいない事にも驚きだったが何よりも、目の前の景色があまりにも変わりすぎていたからだ。

 

(これはまさか夢?いや、それにしては現実味がありすぎる。夢でない事は確かだろうな。それにしてもここは何処だ?いやに幻想的だな…まるで創作の世界に来たみたいだ…)

 

とにかく今は自身が置かれている現状をいち早く理解する事が先決。そう思った俺はまず、回りの地形をしっかりと観察していった。まず、ここは俺が今まで住んでいた場所ではない。見渡す限りの草原が何処までも広がっているのがその証拠だ。建物の一つすら見当たらない。

しかし、妙に疑問に思ったことがある。今の天気は明らかに晴天だ。だが、何故か熱さを全然感じない。おかしな物でも食ったか?いや、それだけで急に熱さを感じなくなるなんてことはない筈。ならば何故…。

 

(待てよ…そう言えば、死ぬ間際に何か声が聞こえてたな。能力を獲得したとか何とか。それにこの幻想的な景色…もしかしてここは、”転生したらスライムだった件"の異世界か?)

 

ふと、そんな予想が俺の脳内を過った。あまりにも非現実的な予想だが、今の状況を考えたら別に可笑しくもない。

まだ確証は持てないが、ここで変に考えても無駄な時間になるだけだ。ここは軽い気持ちでいこう。

 

 

「そうなると、やっぱり俺もスキルを獲得していると言う事だよな…ちょっと見てみるか」

 

実際にスキル観覧ができるかどうかは分からないが、試してる価値はある。

すると幸運にも、自身のステータスが浮かび上がっている空間ウィンドウが表示された。

 

名前

・無し

 

種族

半神半人(ヘーミテウス)

 

耐性

対熱耐性 痛覚無効 自動抵抗

 

固有能力(ユニークスキル)

知ノ恵(チノメグミ) 無創成(イレギュレイター)

 

能力(スキル)

声帯操作 自我 霧操作 空中浮遊 森羅万象

 

 

…ナニコレ?

 

幸先一番に思った感想はこれである。

半神半人とは何だろうか。ギルガメッシュじゃあるまいし。それに聞いたこともない能力もある。自動抵抗とは…聞いた事も頼んだこともないぞ、そんな耐性。

一体何が起こってるのか…。

 

《解。マスターが神種の肉体を欲した時、その創造に失敗しました。その為代替えとして、人種と神種の融合体を創造しました》

 

…また何やら驚くネタが増えたようだ。

突如脳内に響いた冷静な声。この感覚は死ぬ寸前に聞いた声と似ているな、と思いながらその声に耳を傾ける。

 

《解。固有能力:『知ノ恵』は、世界の言葉の一部を流用して会話しています》

 

成る程。

つまりは大賢者と同じ原理で喋っている訳だ。けど俺が求めていたものとは少し違うが…俺が欲しいのは自由に、楽しく、流暢に喋ってくれる奴なんだが…まぁしょうがないか。

 

 

《…できますよ?》

 

 

え?

 

《いやだから、できますよ?自由に楽しく、流暢に喋る。それがマスターの頼みであり、私自身の望みでもありますから》

 

なん…だと…

 

《そんなに驚かないでくださいよ。こちらとしても反応に困ります》

 

おっとすまない……いや、本当に驚いた。

恐らく今世紀最大の衝撃だろう。まさかここまでスキルが流暢に話すとは。

 

《そのようにするようマスターが頼んだのは、お忘れなく》

 

はいはい。

 

《はいは一回》

 

変に細かい!…どうやら自分の注文通りに、世界の言葉はスキルを用意してくれたようだ。

これは素直に嬉しい。そういえば。

 

(お前の事について少々驚き過ぎたせいで、話がそれてしまったな…知ノ恵。お前、自動抵抗が何なのか分かるか?)

 

《自動抵抗とは、あらゆる物理攻撃や魔法に対して、自動的に抵抗(レジスト)を行うスキルです。なお、抵抗の強さは自身が持つ魔力の高さに依存されます》

 

成る程。

そんなスキルなのか。良くも悪くも自分の実力次第と言うことだな。

それにしてもスキル説明をするときは前と同じなのか。何だかややこしいな知ノ恵。

 

《因みにこの能力が発現した理由は、恐らくマスターが妄想の世界に逃げ、現実世界に抵抗を示したからだと思われます。様は現実逃避と言うことですね》

 

…訂正しよう、全然変わってなかった。と言うか何だその皮肉を固めたような理由!明らかに嫌みが込められている。知ノ恵はさっきの一言を根に持っていたようだ。…なんだかすまない

 

《ふふん、分かれば良いんですよ》

 

…やれやれ。良し、じゃあ残りのスキルも見てみたい所だが…ちょっと待ってくれ。

 

「服がない、切実に」

 

《え、今更気付いたんですか?》

 

悪かったな、気付いてなくて!

さっきまで状況整理に夢中になっていたせいで、そっちの方に意識が全然向いてなかったんだよ。

どうしようかと悩んだ俺は、まず落ち着ける場所を探すために、走って行動を開始した。何で走ったのかって?じゃあ聞きたい。全裸の少年がゆっくりと歩いている姿を見て何を思い浮かべる?完全に変質者って思われてしまうだろう。まぁ走ってても同じかもしれないが。それに走った方が逆に卑猥な事になってるかも知れないが。

 

そんなわけで、俺は拠点探しの行動に出た。

良くも悪くも、これが新世界における、俺の第一歩になったのである。第一歩としてはとてもだらしないスタートになったが、気にしないでおこう。




プロット無しで勢いで書いたら主人公の口調が滅茶苦茶に…少しずつ調整していこう。

感想、評価等募集しています。


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《第3話 無創成(イレギュレイター)

第3話投稿。

今回は対にあの能力を使用します。


「ここらで良いかな…日も暮れてきたし、今日はここで夜を凌ごう」

 

服を着ていない事に気が付き、まず落ち着ける場所を見つける行動に出た俺だったが、思わぬ時間を食ってしまった。

と言うのも、最初に地形を見渡した通り、何処を見ても平原だったのだ。

西も東も分からない異世界にて、隠れ蓑らしき場所を探すのは困難に近く、相当な時間を消費してしまった。

今やっと洞窟らしき場所に入り込めた所である。

 

「それにしても寒いな…外より幾分かはマシだけど、洞窟も空洞だからな…風が通ってくる。服を着てないからだろうが…こんな事なら対寒耐性も頼んでおけば良かったな」

 

現状の厳しさに思わず愚痴が溢れてくる。まぁ仕方無い所ではあるだろう。その場しのぎの拠点は見つけられたものの、服も無ければ食料もない。そんな状態でとても耐えられる自信はなかった。

 

《何言ってるんですか?服などご自分で創れば宜しいじゃないですか》

 

すると何を思ったのか、知ノ恵(チノメグミ)がそんな言葉を放ってきた。いや、本当に一体何をいっているんだろうか。裁縫の成績を2から全く上げることが出来なかった奴に、そんな事出来る訳がないだろう。そもそも裁縫をする道具すらないと言うのに。

 

《裁縫等する必要はありませんよ?無創成(イレギュレイター)で創成すれば良いだけですから、簡単な事です》

 

無創成?そう言えばそんな固有能力(ユニークスキル)があったな…。時間が足りなくて、まだ詳しい詳細は調べてないけど。この際だし見てみるか。

 

 

『固有能力:無創成』

 

詳細:あらゆる物質を周囲の魔素、及び魔力を代替えに創成できる。

 

 

…これはまた出鱈目な固有能力だな。

用は魔素と魔力さえあれば大抵の物を自由に創れると言うことか?流石に制限はあるだろうけど。

知ノ恵にもっと詳しい詳細を聞いた所、創り出せる物質の性能は、自身の想像(イメージ)に依存するようだ。

更に詳しく聞いたら創り出せない物も存在するらしい。例えば、その物質を創り出すのに必要な魔素、魔力量が自身が持つ魔素、魔力量を越えた場合は容量限界(キャパオーバー)で創れない。

後、物質と限定されている通り、生命や能力等の存在は創る事は出来ないらしい。これは当然だろう。そんな事が出来たら正しく神の領域に入ってしまう。

 

「とにかくこれで、服を創れるって事だよな。ならやってみよう。まず想像を固めた後、魔力を全体に張り巡らせて…って、どうやったら魔力を操作するんだ?」

 

《・・・・・》

 

何でもない普通の疑問に頭を悩ませていると、知ノ恵が丁寧に魔力操作の説明をしてくれた。

何処か呆れられている気がしたが、きっと気のせいだろう。うん。そうと思いたい。

 

《はぁ…魔力操作は魔力を持つものにとっては当然の能力ですから、もっと扱えるようにしてくださいね》

 

うぐ…初めてなのだから仕方無いだろう。教えてくれた事には感謝するが。

知ノ恵のあまりに唐突な発言に、俺は少々口を尖らせ感謝も加えながら反論する。

魔力感知はこの先生きていくのに必須な能力だと思っていたから、こう言う気遣いは素直に嬉しい。

 

「まぁいい。とにかく服を創ろう。前の世界で着てた普段着で良いか」

 

前世の服装を思い出しながら、俺は想像を固めていく。そして魔力を全体に張り巡らせて能力を行使し、想像を現実の物へと変えていった。

 

「うぉ、本当に創れた。便利だな」

 

創れた服は下着、Tシャツ、黒のジャンパー、碧のジーパンがそれぞれ一着ずつ。

自分の想像通りに、前世の服装を再現できたようだ。

しかも質はこちらの方が断然上。

これは納得せざるを得ない。しかし…。

 

《マスター、どうしました?何やら納得してない様子ですが。》

 

「うん。そりゃねぇ…確かに創れたよ?自分の想像通りに。けどね…そこに至るまでの過程があまりにも不確かと言うか…理解できないと言うか…。けど」

 

俺は自分が発している言葉とは裏腹に、心の中で高揚していた。

今まで幻想(ファンダジー)は幻想の中でしか無かった。

だが、今俺の目の前で、幻想が現実になった。

これがどれ程嬉しかった事か。

 

「やっぱこの世界…最高だな」

 

思わず口から称賛の言葉が溢れる。

俺がこの世界に対して、明確に好感を示した瞬間だった。すると…。

 

《マスター、報告です。この洞窟の奥に魔力を感知しました》

 

「何?」

 

知ノ恵の突然の報告。

魔力?何かが潜んでいるのか。そうだった。この世界は魔物や魔王等が存在する弱肉強食の世界。

ならばと、俺はその言葉に応じるように、洞窟の奥へと足を運んでいったのであった。




最後の展開ちょっと急過ぎたかな…。
次は洞窟探索です。この先には何が待っているのやら…。

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《第4話 初戦闘、妖精族(エルフ)との遭遇》

またまた深夜投稿です。眠たいけど眠れない。このジレンマってなんでしょうね?


突然だが、俺は今逃げている。何故かって?ついさっき俺は知ノ恵(チノメグミ)の報告に基づいて、洞窟の奥深くへと移動していた。案の定、魔物と遭遇したのだが…そこにいた魔物が問題だった。

 

「何でここに黒蛇が……ッ!」

 

そう。洞窟の奥深くへと進んだ先に待っていたのは、まさかの黒蛇。-Aランクに相当する魔物であった。その魔物はしっかりと俺の背面を捉え、スルリスルリと柔軟に動いて俺を追いかけてきている。

 

《マスター、何故逃げるのです?》

 

知ノ恵の冷静な一言が逃げる俺へと突き刺さる。確かに後の事を考えれば黒蛇程度、難なく倒せなければこの先厳しいことにはなるだろう。だが、自分の力をまだ把握していないこの状態では逃げるのが懸命だと思うのだが。

 

《成る程。そう言う事ですか。しかし、このような雑魚程度ならば、攻撃を放てば一発で仕留められますよ》

 

…それは流石に盛りすぎではないだろうか。一瞬そう疑問を抱いたが、前の【知ノ恵】との会話を思い出してその疑問を押し込む。

 

「なぁ、知ノ恵。それは確率計算に基づいたものか?」

 

《勿論です。私の計算によれば、一撃で対象の生物を死滅させれる確率は100%です。ようは確定事項と言うことです》

 

そう。知ノ恵は大賢者と同じく驚異的な演算能力、及び知性概念を持つ固有能力(ユニークスキル)。俺はすっかりその事を失念していたようだ。自分の鈍感さに思わず頭を抱えたくなってくる。だが、今はそんな事をしている場合ではない。俺は逃げるのを止め、黒蛇と正面から対峙する。

 

「知ノ恵がそう言うのなら…。信じるぞ、その言葉!」

 

俺は知ノ恵の言葉を信じ、掌に力を集中させる。黒蛇は俺がとった行動に危険性を感じたのか、動きを止め威嚇している。今がチャンスかもしれない。そう思った俺は瞬時に黒蛇の懐に入り込み、黒蛇の顔面に掌打を放つ。すると…。

 

「…マジか。」

 

俺の攻撃をまともに食らった黒蛇はその肉体を保たせる事ができずに、見事に四散してしまったのだ。本当に知ノ恵の言う通りの結果になったことにも驚きを隠せなかったが、一番衝撃を受けたのは自身の膂力、そして身体能力の高さだ。俺の攻撃を食らった黒蛇は、明らかに防御の姿勢をとっていた。しかしそれを無いことにするかのように、俺の一撃は黒蛇の肉体をあっさりと散らさせてしまった。更に警戒耐性に入っていた黒蛇の懐に一瞬にして入り込んだ圧倒的な身体能力(ポテンシャル)。どれをとっても前世の自分からしてみれば考えられない事だった。

半人半神(ヘーミテウス)の身体でもこれ程なのだ。そうなると完全な神の身体となると一体どんな事になるのやら…考えただけでも身震いしてしまう。

 

《ね?私の言った通りだったでしょう?》

 

知ノ恵から同意を求められる声が聞こえてくる。あぁ、確かにそうだったな。助かったよ知ノ恵。けど、出来れば逃げる前に教えてほしかったな。

 

《フフッ、マスターの逃走劇は面白く見させていただきましたよ。それにしても見事な逃げ腰でしたね。恐らく前世でも同じような事をしてたんでしょうね。妙に馴れている動きでしたから》

 

グサッ。グサグサッ。

 

知ノ恵の冷酷無比な言葉が俺の脆い精神(トウフメンタル)に深く突き刺さる。

グフッ…常々思っていたけど、知ノ恵は所々で俺をディスって来るよな…Sなのか?

 

《解。私は主を弄る状況に限って、ドSになる傾向があります。気を付けてくださいね、マスター》

 

oh…。これはキツい。もしかしたらこの洞窟を抜ける時、俺は廃人になっているかもしれない。心配だ…俺の未来が心配だ…主に精神面。

 

《さてこんな茶番は置いといて、主。この近くにもう一つ熱源が探知できました。しかし、徐々に弱体化していっている模様です》

 

出来れば茶番ではなく冗談と言ってほしかった。

熱源が徐々に弱くなってる?不思議だな、大抵このような場所にいる魔物は、その環境に適応している筈…もしかしたら、俺の他に外から入ってきた奴がいるかもしれないな。知ノ恵の言葉を頼りに、俺はその熱源が探知されたと言う場所に向かう。

 

「それにしても、この洞窟。奥に進むほど暖かくなって来ているな…。でも風はどんどん強くなっている気がする…考えすぎか?」

 

《マスターの考えていることは当たってますよ。現在、熱源を探知した場所を中心に、大規模な魔素の流れを確認しました。どうやら何者かが魔法でこの周辺を暖めているようです》

 

「魔法で?あぁ、確かに何かが流れているような感覚がするな…これが魔素なのか。今まで魔力の流れしか掴んでいなかったから分からなかったよ」

 

と言うことは、この熱風は誰かの意思で作られたものなのか。だけど、普段からここで生活している魔物がこんな事をするか?これはいよいよ俺の予想が当たりそうな予感だ。そんな事を考えていた時、足に妙な違和感を感じた。

 

「ひゃっ!」

 

ひゃっ?透き通るような黄色い声がいきなり耳元で響き渡り、俺は恐る恐るその声の発信源へと視線を傾けていく。そこには何と、驚くべき光景が写っていた。

 

「うぅ…」

 

目の前にいたのは、一人の少女。スラリとした長い耳を持っている、可憐な少女だった。一目で分かる。実際にあったことは無いし、それに至る確証もない。だが、俺は確信した。この少女が如何なる存在かも。一説では伝説の種族と謳われる種族。個体数が少なく、希少な存在として語り継がれているー

 

耳長族(エルフ)なのか?」

 

思わずそんな言葉が溢れた。

 

「…もしかして、人間…なのですか?」

 

その一言に続くように、少女は口を小さく開く。その目は明らかに怯える小動物のそれだ。俺はすぐに理解した。この少女が…人間に対して、恐怖心を持っていることを。

…これは一波乱ありそうだな。心の中でそう判断した俺は、一先ず恐怖心を解いてもらうような一言を、頭の中で必死に絞り出そうとするのであった。




《フッ、脆い精神(トウフメンタル)って…フフッ。読み方のギャップが…フフフッ。》

「知ノ恵、お前ちょっと黙ってろ」

如何でしたかね?次話はまた深夜に投稿するかも知れません。

「おい作者、何であんな悪意のある編集をしたんだ」

え?面白いから。

「ハァ……」

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《第5話 人間はロクな事をしてないようです》

今回は妖精族(エルフ)との会話です。


「え~っと…」

 

「ひっ…!」

 

…はぁ、またこれか。洞窟の奥で妖精族(エルフ)に遭遇し、会話をしようとした所まではまだ良い。

問題は、目の前の妖精族が人間に対して恐怖していること、そして俺が会話をしようとすると、萎縮して縮こまってしまうことだ。こうも怯えられてしまうと話もできない。完全にお手上げ状態だ。どうしたものかと頭を捻っていると、前の世界で有名なあの言葉を思い出す。

けど大丈夫か?あれはスライムだからこそ効果があるのであって、人間が使っても"は?"と言われること請け合いである。けど他にも使えるような言葉が思い付かない…ん?

 

 

 

「あ、あの…」

 

 

お、まさかあちらから声を掛けてくれるとは。余程勇気を出したのだろう。だが、そんな思いは次の一言で露と化した。

 

 

 

「私を捕まえないのですか?」

 

 

 

…何?少女が言っている言葉に対して、俺は一瞬唖然した。捕まえる?俺がこの子を?いやいや、そんな訳無いだろ…百歩譲ってこれが襲うならまだ分かる。この子可愛いし…いや結局駄目か。

 

「…何で君を捕まえなきゃならないんだ?」

 

「え…だって…人間達はそれが目的で私を追いかけてきましたし…」

 

あー、成る程。やっと理解できた。つまりこの子は人間の奴隷商売の商品にされかけていたのか。人間共もよくやるな。

 

《正直、気分が悪いですね》

 

確かに…。と言うか、前の世界でも同じだったが人間は本当ロクな事しないな。前の世界では資源欲しさに度を越えた頻度で生物を狩り、幾つかの種を絶滅、もしくは絶滅寸前にまで追い詰めているし、この世界では財産欲しさに他種族を平気で貶めている。まぁあまり興味ないことだが、流石にいい気分にはならないな。

 

「……?」

 

おっと、少し考え込んでしまったようだ。妖精族の少女が不思議そうに俺を見つめている。…その上目遣いは止めなさい。

 

「大丈夫。俺は悪い人間じゃない。少なくとも、君を捕まえようとは思っていない。それは信じてほしい」

 

とりあえず少女を安心させる為に、先程考えた言葉に一言二言付け加えて返答してみる。

 

「………」

 

…あれ?言葉を間違えたかな?俺の返答を聞いた途端、人形になったのかのように動かない少女の反応を見て、俺の心に焦りが生じる。するとその時…。

 

「良かったです。悪い人ではないのですね。本当に…」

 

カフッ。

 

少女のあどけない一言が、俺の心を貫通する。止めてくれ、その謙虚な上目遣いは!逆にこっちが堕ちそうだ…。

 

 

 

 

「…じゃあ、君は追い掛けてくる人間達から逃れる為にこの洞窟に潜り込んだのか」

 

「はい」

 

やっと落ち着きを取り戻してくれた妖精族の少女から詳しい話を聞いた所、彼女の同種達耳長族(エルフ)は、魔堂王朝サリオンへの旅路をしている途中、人間の冒険者達に追われたそうだ。て言うか、妖精族じゃなくて耳長族だったのか…。原作の設定見落としてたわ。

 

《確かに一般的なエルフは耳長族ですが、解析鑑定をした結果、彼女が特殊個体(ユニークモンスター)、妖精族だと判明しました。マスターの見方は間違っていませんよ》

 

…なんだと?確か特殊個体は、名持ちの魔物(ネームドモンスター)より上位の種族の筈。よくそんな奴を商品にしようとか考えたな、その冒険者達…。気付いてなかったからこそ商品にしようとか思ったんだろうが。気付いてたら多分そんな馬鹿な行動はしてない筈だしな。ま、その冒険者達がとんでもなく強かったら話は別だけど。…話がそれたな。で、突然の事態に自分はおろか、仲間達さえ対応ができず、只逃げ惑う事しか出来なかったらしい。仲間達とバラバラになり、命からがら、この洞窟に逃げてきたんだそうだ。

 

「成る程…災難だな。その冒険者達は、何処まで追いかけてきたんだ?」

 

「ここから然程遠くない平原まで追いかけてきました。もしかしたら近くで探しているかも知れません。そう考えると、怖くて…」

 

そう言うことか。俺を追いかけてきた冒険者と勘違いして、あんなに怖がっていたんだな。ちょっとショック。けど、人間に追いかけられただけでここまで精神が病んでいるとは。これは彼女も俺と同じく脆い精神(トウフメンタル)なのかな?少し親近感を感じるぞ。

 

《彼女が味わった恐怖は、そちらとは全く違うジャンルかと》

 

…分かってるよ、ジョークだジョーク。

 

《ジョークにしてはあまりにも不謹慎です。空気読んでます?》

 

…どうやら知ノ恵(チノメグミ)はこう言う冗談を気に入っていないらしい。まぁ確かに不謹慎ではあったな。すまない。

 

《分かれば宜しい》

 

…どうやら俺は知ノ恵には頭が上がらないらしい。こんなやり取りを脳内でしながら、俺は心の中でそう思った。

 

《罰として、この件が収まるまで彼女の身を守って上げなさい》

 

え?…まぁそれぐらいなら。悪い気はしないし、問題ないけど…大丈夫か?

 

《何がですか?》

 

いやさ、守るって、ずっと彼女の側に居続けろって事だろ?

 

《そうですが?》

 

そしたらさ、色々状況的にヤバイじゃん?一つ屋根の下に思春期少年と怖がっている少女。今は落ち着いてるけど。

 

《つまり?》

 

…理性を失って隣の少女を襲ってしまう危険性が…。

 

《もしそんな事をしたら、二度と立ち直れない位に主の精神を弄りまくるので、覚悟してくださいね》

 

絶対に目の前の少女を守り抜こう、そうしよう。この鬼畜能力の制裁を受けるのは本当に勘弁願いたい。絶対にろくな事にならないだろう。なら目の前の少女一人くらい守り抜いてやる方が何倍もマシだ。無論、理由はそれだけでないが。そして俺は心の奥底でそう固く決意すると同時に、その決意を目の前の少女に意思表明をするべく、口を開いた。

 

「なら、俺が守ってやる」

 

「え?」

 

俺の唐突な発言に、目の前の少女は余程驚いたのか、眼を見開いてこちらを凝視する。しかしそれは想定のうち。俺はその反応に動揺もせず、言葉を紡いでいく。

 

「この事態が収まるまでは、俺がお前の盾になってやる。だから、安心しろ」

 

「え、あ、はい…」

 

「どうした?」

 

「いや、守ってくださるのは有り難いんですけど…」

 

ん?有り難い…ですけど?何か問題でもあるのだろうか。

 

 

 

 

 

「…貴方、強いんですか?」

 

 

 

────っ。

 

 

 

少女の冷静な一言で、俺は我に返る。そうだった。どんなにカッコつけた行動をしようと、その行動に伴う力が無ければどうにもならない。ましてやここは力の差が明確に現れる弱肉強食の世界。いくら目の前の男が頼もしい言葉を放とうとも、力が分からなければそんなに実感は沸かないだろう。…黒蛇を軽く一発で倒せる位だから、大抵の人間や魔物よりは強いと思うが…それを知らないのでは意味がない。どうしたものかと、俺はまた一人頭を抱えるのであった。





《うっわー、凄い臭い言葉ですね。私なら少し引きます。》

「しょうがないだろ!あれ位しか言葉が思い付かなかったんだよ!」

さてさて、何やら叫んでいる馬鹿は普通に放っておいて…

「誰が馬鹿だ!」

お前だよ。

「ダニィ!?」

次は色々能力(スキル)の詳細を見ていきます。主人公の種族の事とか、まだ公開されてない情報とか、説明したい事が色々ありますからね。では。

感想、評価等募集しています。


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《第6話 能力詳細(ステータス)の確認》

一日投稿開けてすみませんm(_ _)m
学校の課題を進めてました。


さて、どうしたものか…。

俺は洞窟の壁際に身を寄せながら、頭の中で色々と思考を回転させていた。つい先程、入り込んだ洞窟の奥で身をくるめて踞っていた妖精族(エルフ)の少女に対し、俺は守ってやると言った。何故そんな事を言ったのかは自分でもわからないが、多分加護欲のようなものを焚き付けられたのだろう。だが…。

 

──貴方は…強いんですか?

 

そんな身も蓋も無いような言葉を言われ、どうやったら彼女に俺が強いと言うことを証明できるかを考えなければならない状況になってしまった。

一番てっとり早いのは洞窟の中にいるモンスターを片っ端から倒していく事だが、生憎知ノ恵(チノメグミ)が言うことにはこの辺りにもうモンスターはいないらしい。何故モンスターがいないのか聞いてみると。

 

《恐らく、あの妖精族の少女がやったのでしょう。今現在分かっている彼女の能力から推測すれば、その可能性は高いかと》

 

そんな返答が返ってきた。

あの妖精族が?嫌々、あんな可憐な少女がそんな事できるわけ…できそうだな。

知ノ恵の情報に疑問を感じた俺だったが、一瞬でその考えを改める。

その理由は二つ。

一つ目は彼女が特殊個体(ユニークモンスター)だと言うこと。

二つ目は、彼女の能力の強さだ。

俺は彼女と出会う前に、彼女の強さの一端に触れている。

彼女を中心に洞窟全体に流れていた温風。

あれは多分、彼女が発動していた魔法だろう。

 

 

「…恐らく元素魔法の一種。」

 

俺はこの世界に来たばっかりなのでまだ正確な事は分からないが、あれ程の魔法をあそこまで広範囲に広げるのは至難の技では無いのだろうか?

そんな芸当を易々とこなしてしまう彼女の力は、この世界でもかなり上位に位置するのではと思う。

…そうなるといよいよ、この妖精族を捕まえようとした冒険者達は、つくづく愚かだと感じた。

そう言えば、能力について考えていたらふと思ったことがある。

 

「俺、能力の事全然分かってないよな。」

 

そう、この世界に来てから一日と経たずに色々な事があったが、俺はまだ自分の能力について分かってない事が多すぎる。

 

「自分の能力詳細(ステータス)を見たのは一度だけだったし、しかもその時は落ち着いて見れなかったからな…もう一度見てみるか。」

 

名前

 

無し

 

種族

 

半神半人(ヘーミテウス)

 

加護

 

無し

 

耐性

対熱耐性 痛覚無効 自動抵抗(オートレジスト)対寒耐性

 

固有能力(ユニークスキル)

 

知ノ恵

…解析鑑定 感情操作 絶対記憶 記憶共有 情報隠蔽

 

無創成(イレギュレイター)

…熱源探知 物質具現化 想像強化 負担軽減 魔力変換 魔素変換

 

共通能力(コモンスキル)

声帯操作 自我 霧操作 霧創造 煙操作 煙創造 空中浮遊 森羅万象

 

…いつの間にか、能力が幾つか増えている。

能力増える時って世界の言葉さんが教えてくれるのではないのか?原作知識の情報が正しければそうなる筈なのだが…と言うかいつ増えた…。

 

《マスターが魔力を肉体に集中させた際、その影響で存在値(エネルギー)が能力に変換されたようです。追記として、確かに能力(スキル)の修得時にはそれに伴った御報告がなされますが、今のマスターは過剰に存在値(エネルギー)を保持している影響で、能力(スキル)の伝達系統にエラーが生じています。よって、正常時に戻るにはかなりの時間が必要かと。只今伝達系統を早急に修復中ですので暫くお待ちください》

 

…そう言うことか。

つまり、俺の中にある存在値(エネルギー)が、俺の伝達系統に乱れを生じさせて、能力(スキル)系統の報告を害しているって事だ。

…厄介だな。つまり、一々能力詳細(ステータス)見ないと自分の変化を確認できないと言う事なんだろう。

それってかなりの無駄手間になるな。不便…。

だが、何となく理解はできた。納得はまだしずらいけど。って言うか、そんなに存在値(エネルギー)って余るもんだっけ?自分の記憶が正しければそう言うのは無かった気がするんだが…。

 

《通常存在値はその者の肉体に収まる量になるまで、能力等の様々な形に変化します。余る事は考えられません。》

 

やはりそうなのか…だけど俺の存在値はまだ余ってるようだぞ?それは何故だ?

 

《…それはマスターの身体が特殊だとしか言えませんね。存在値が自分では抑えられない状態になったらその流れに耐えきれずに、死滅するのが普通なんですよ?それなのに主の身体と来たら、存在値がこれでもかと余ってるって言うのに全然異常が見られませんし》

 

何…?全然異常が見られないって…マジか。

余ってたら危険だと言うのに、危険性が感じられないとはどう言うことだ?異常が無いって…じゃああの伝達系統のエラーは…。

 

《あれは異常と言うよりは故障に似た現象ですから、異常の内には含まれませんよ》

 

故障か……大方、有り余る存在値(エネルギー)を使った余波って感じなのか?…複雑だな。

もしかしたら、意外とシンプルな理由だったりして。

 

確か俺の種族は…。

 

《これは憶測の域を出ませんが、この特殊な状態は神の肉体が関係してるかもしれませんね》

 

俺が言おうとしていた事を、知ノ恵が一足早く言葉にして口にする。確かに、今の所はそれ位しか理由が思い浮かばない。

 

 

俺と【知ノ恵】の意見が一致した所で、俺の中でもう一つの疑問が頭をよぎった。

今存在値はどれだけ余っているのか?と。

その疑問を知ノ恵に言って解析してもらうと、衝撃の事実が発覚した。

 

《少なくとも究極能力(アルティメットスキル)を一個作り出せる程の存在値はあります》

 

ガチかよ…。【知ノ恵】から放たれた一言が俺を奥底から高揚させる。究極能力って"転スラ"における最強能力だよな…それを作り出せる程存在値が余ってるって、どれだけの量があるのだろうか。まぁ、いきなり創ったら体調が崩れる危険性があるから、いきなりやるつもりは無い。

良くも悪くも自分第一、安全に、そして慎重に行かないとな。

 

「やっぱ半人半神とは言え、神の肉体って凄いな」

 

俺がそんな感想に浸っていると…。

 

《主、もうすぐで深夜になります。彼女の所に帰った方が宜しいかと》

 

ん?あぁ、もうそんな時間か…。

知ノ恵の言葉通りに妖精族の少女の所に帰ってみると、身体を丸めてすやすやと寝ていた。

そりゃこんなに温かいからなぁ…眠たくなるのもしょうがないか。持続型の魔法なのか、彼女が寝た今でも温風は続いている。ここまで心地いい温かさの中だと、眠たくなるのも道理だろう。さて、どうするか…現状彼女の信頼を得る為には自分が力のある存在だと、彼女を証明しなければならない。

だが、今の状態ではそれを示す手段がない。

どうすれば良いのか…と思考していたその時。

 

 

 

 

《それならば、"名付け"をしてみてはいかがでしょう?》

 

【知ノ恵】がそんな事を言ってきた。名付け…?




小説書いてたらいつの間にか昼の時間過ぎてた。

原作の設定が複雑すぎて慎重にいかないとすぐに間違う…。

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《第7話 名付けと"名付け"》

そろそろリアルが忙しくなってきた…
今回は名付け回です。
ついでに主人公の名前も決まります…主人公の名前がついでとはこれ如何に。
熱くて思考が回らない…。


「"名付け"…?」

 

知ノ恵(チノメグミ)の放った一言に、俺は一瞬自分の耳を疑った。

確かにその方法なら信頼を得るどころか、優秀な部下を早々に手に入れる事ができる。

だが、そんなに上手く事が運ぶものなのか?

 

《はい。正確には、記憶共有の能力でマスターが黒蛇を倒した時の記憶を見せてから、ですが》

 

「成る程、その手があったか」

 

ついでとばかりに知ノ恵が付け足した言葉に俺はようやく、欠けていたパズルのピースがピタリとハマった気分になる。

そうだ、その能力があった…。

知ノ恵の内包能力の一つで状況によっては使えるかもと思っていた能力。

まさかこんな序盤で頭角を表してくるとは。

こうしてはいられない。俺はすぐさま記憶共有の能力詳細(ステータス)を開いた。

 

知ノ恵の内包能力:記憶共有

 

『自分と他者の記憶を互いの脳内に表示できる。表示できる記憶は調整可能。全てを非表示にする事は不可能。尚、記憶を共有できる対象は魂の廻廊で繋がっている、もしくは発動者の身体に触れている等の条件が必要。』

 

想像していた通りの能力だった。

記憶共有を使えば、俺の強さを彼女に提示できて、彼女が冒険者達に襲われた時の記憶を俺が見れるかもしれない。

 

「正しく一石二鳥って訳か…流石、良い作戦を思い付くな。知ノ恵」

 

《一石二鳥ではありませんよ、主。名付けも合わせて一石三鳥です》

 

確かにそうだな。

知ノ恵の言葉に対して静かに納得して、行動を開始しよう…と俺は思っていたが、彼女がまだ寝ていることに気付き、抑制する。作戦実行は朝にしておこうか。

 

でも、そうなると残りの時間は何してれば良いのだろうか…眠気は何故か全然ないし、だからと言って他の事をやろうにもそう簡単に思い浮かばないし…。う~ん。

 

《やることがないなら、この際に自分の名前を考えてみてはいかがでしょう?》

 

え、名前?いや俺の名前は・・・あ。

そこまで言って俺はようやく自分の名前が無くなっていた事に気付く。

確か能力詳細を見たとき、俺の名前は名無しになっていた。つまり、前の世界とは違うから俺の名前も違うものにしろと言うことなのだろうか?

ならば新たな名前を考えた方が良さそうだ。今から"名付け"をしようとしてる奴が、名無しだったら真面目に笑える話ではない。

 

《さぁ主、早く新しい名前を自分に付けて、新たな生活をエンジョイしましょう!》

 

心なしか知ノ恵が超ノリノリになってる…。

完全に乗せられている気がするが、まぁ良い。

 

「じゃあ作るか。この世界における、俺の新たな名前を」

 

俺は自分の名前を新たに作ることを決め、早速その名に相応しい物を頭の中で考える…のだが、中々これだと思うのが見つからない。名前なんて前の世界では腐るほど見てきたが、いざ考えるとなるとこれ程難しいものなのだと、俺は心の奥で実感した。結局知ノ恵の助けも借りてやっと納得できる名前が出来上がったのだが、その時には深夜を過ぎてもう早朝と言う、何ともありきたりなオチが待っていたのであった。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「う~ん…」

「お、起きたな」

 

洞窟内もすっかり明るくなった所で、妖精族(エルフ)の少女が眼を覚ました。まだ眠気が残っているのか、うつらうつらと瞼が開いたり閉じたりしている。

 

「おはよう。寝起きで悪いけど、ちょっと聞いてもらいたい事があるんだ、良いかな?」

 

「お、おはよう御座います…。聞いてもらいたい事ですか…?…少し待っててください」

 

そう言うと彼女はゆっくり立ち上がり、そそくさと動きだした。

すると先程まで吹いていた温風がピタリと止み、代わりに少し強めの冷風が吹いてきた。

やはりあの温風は彼女が起こしていたんだな…それに今回は温風とは真逆の冷風。ここまで元素魔法を使いこなしているとなると、やはり彼女が特殊個体(ユニークモンスター)だと言うのは間違いないらしい。

それにしても…可愛いな~。

冷風を正面から受けているからか、彼女の赤みがかっている煌びやかな髪が勢い良く舞い上がっている。

これは絶景ですわ…ん?

 

《・・・・・》

 

…あー、何だろう。知ノ恵からの視線がめっちゃ痛い。知ノ恵に視線なんて無い筈なのに、不思議だなぁ。

いやね?別に不純な事なんて考えてないよ?ただ思わず目の前の少女を愛でたいなと思っただけで…。

 

《記憶共有の際に主の黒歴史も与えておきますかね…》

 

ちょっと待てちょっと待て!

それだけは止めろ!

それだけは止めてください!

 

《じゃあ今回は止めておきます》

 

はー・・・危ない危ない。

危うく彼女の信頼値が100から0に駄々下がりするとこだった。

いやまぁ記憶共有で信頼値が100になるかどうかは分からないけど。

 

「お待たせしました。で、聞いてもらいたい事とは?」

 

おっと、あちらの準備が終わったようだ。

どうやら眼が覚めたらしい、清々しい笑顔でこちらに視線を向けてくる。

思わず見とれそうになるが、そんな反応をしたらまた知ノ恵からクレームが来そうなので必死に耐えた。

 

「あぁ。君、昨日俺に"強いんですか?"って言っただろ?」

 

「あぁ…確かに言いましたね」

 

「その事なんだが、俺には記憶共有と言う能力がある。それを使って…。」

 

「成る程、そう言うことですか…分かりました。貴方の記憶を、私に下さい。」

 

喜んで!…何て言葉は彼女を引かせるだけになるので、口には出さない。

俺はそっと彼女の頭に手を差し伸べる。

 

「ひゃっ…」

 

「あ、ごめん。記憶を共有するのに対象の身体に触れている必要があるんだ」

 

「そ、そうですか…なら仕方ないですね」

 

 

 

記憶と記憶が交差し、互いの脳に送信される。

彼女には俺が黒蛇を倒した時の記憶を。

そして俺には、彼女が冒険者に襲われた時の記憶を。

それぞれが受け取り、そして理解する。

 

「あの黒蛇が一撃で…凄い…」

 

「襲われた時の状況ってこんな感じなのか…そりゃトラウマになるわな」

 

俺は彼女が眼にした冒険者達の様子を脳で体感する。

その表情は狂気に満ちていた。

こんな人間(ゴミ)達が集団で襲ってくるとか正に恐怖だな…。

俺は本心からそう思った。

 

「あの、ごめんなさい!」

「……ん?」

 

突然妖精族の少女が、俺に対して頭を下げてくる。

え、黒蛇倒したのがそんなに衝撃だったのだろうか?

 

「何も知らずに失礼な事を言ってしまって…」

 

「嫌、そんなに落ち込まなくても良い。こっちとしては分かってくれるだけで問題はない」

 

「…はい。有り難う御座います」

「じゃあ、君の事は俺が守るって事で良いのか?」

「勿論です!」

 

…ふぅ。

これで第1関門は突破だな。次は第2関門だ。

 

「じゃあ、守るにあたって一つ聞きたいことがあるんだけど…君に名前ってある?」

「名前…ですか?勿論ありません。私に"名"を授けてくれるような高位の方何ているわけ無いじゃないですか」

 

成る程。やっぱり"名"は与えられてない…か。なら。

 

「だったら、俺が名前を与えよう」

 

 

「え?」

「俺が守る者の証として、君に"名"を授けよう。」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!そう簡単に言いますが、"名付け"は余程大量の魔素がなければ容易に行えない危険な行為です!そんな大層な物を私みたいな若輩者にやる理由なんて…。」

 

う~ん、予想はしてたけどやはりこんな反応になるのか…。面倒だけど、こう言うのにはしっかりとした理屈が必要だよな…よし。

 

「そう言う堅苦しいのは無しだ。俺がお前(・・)に名前を付けたいと思った。それだけで十分な理由だろ?」

「っ…。」

 

随分カッコつけた一言だったが、効果はあったらしい。

彼女も言葉に出しはしないが、納得はしてくれたようだ。

 

「では、名前を授ける…と、その前に。俺の名前を言っておかないとな」

 

彼女に名前を付ける前に、俺は自分の名を言うことにした。早朝になるまで考えて、やっと完成した俺の新たな名前。その名は…

 

 

 

 

「『ガレア=クレアーレ』。それが俺の名だ。そしてお前には、『ネフィ』の名を授ける。宜しく頼むぞ、ネフィ」

「…はい!これから宜しくお願いします、ガレア様!」

 

初めての名付け。

どうなるものかと心配していたが、上手くできたみたいだ。一瞬力がスッと抜けた感覚がしたが、これが魔素が消費すると言う感覚なんだろう。ネフィの方は名付けられた影響なのか、起きたばかりなのにまた寝てしまっている。

 

「さて、こっからだな…。俺はまだまだ部下を増やしていく必要がある。この世界で生き抜く為に…」

 

俺は改めてこの世界の情勢を見直す。

この世界で生き抜く為には、まず力が不可欠だ。

ならばそれを揃えれば良い。

俺は心の中で、そう硬く決意した。

そして…。

 

 

「ここか?」

「あぁ、確かにここから魔力の流れが感知できたぜ。恐らくあの耳長族(エルフ)のだ」

「やーっと見つけたって訳だな…待ってろよ~。…可愛い子ちゃん……」

 

俺が一番嫌悪する存在が、着々とその距離を積めていたのであった。




今週と来週は用事が詰まってるので、投稿スペースが遅くなると思います。


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《第8話 ネフィの心境》

初めての別視点。
上手く書けてるかな…。


 

 

あの早朝の出来事から、どの位眠っていたのだろうか。

洞窟に差し込んでいた光は、既に朝日を通りすぎ、真昼の日差しに変わっている。

 

「う~…?」

 

気が付くと私は、洞窟の中で毛布を被りながら寝てしまっていた。

 

何故ここにない筈の毛布が?何故またこんな長い睡眠を取ってしまっていたのか?私の脳内を様々な憶測が飛び交う。あまりにも急すぎた出来事な為、私自身も、まだ頭での整理がついてない。

 

「でもそんな事より…ガレア様は一体何処に?」

 

しかし、私が一番気になったことはガレア様の居所だ。まだ会って間もない、詳しい詳細も何も分からない人だけど…あの力、あの風貌、そしてあのカリスマ姓は…ご主人様と言っても納得できる。

 

 

ガレア様と初めて顔を合わせたのは、昨夜の晩の事だった。当時ファルムス王国から故郷に戻る帰路の途中で冒険者に追われた私は、命からがら逃げ延びたものの、心が脆弱になりやすい妖精族(エルフ)の特性のせいで、精神に深い傷を負ってしまった。その時だった。あの人に…ガレア様に出会ったのは。

 

第一印象はとても綺麗な容姿をしているなと思った。

とても引き締まった体つきに、鮮やかに整った顔立ち。そして一番目を引いたのは宝石のように輝いていた紫の瞳。そのどれもが他人からすれば眩しすぎる程、端麗で、美しかった。

 

…正直、目を奪われた。

 

だが、それと裏腹に、私の感情は恐怖に支配されていた。人間が来てしまった。これから何をされてしまうんだろう…そう思ってしまったから。

 

だけど、私の予想に反してガレア様は丁寧な対応をしてくれた。そして私を守ってくれるとも言ってくれた。

 

…けど、人間に精神を傷つけられてしまった私は、同じに人間に助けてもらう事をあまり好意的に受け止められず、「強いんですか?」等と言う失礼きまわりない一言で、その言葉を突き放してしまった。まぁ、仕方ないんじゃないかと思う。誰だって初対面で、素性も分からない人に対して守ってくれると言われても信用できないし、実感もわかない。だが、この時は知らなかったのだ。ガレア様の実力を。まさか黒蛇を一撃で倒せる程、強いとは思わなかった。黒蛇は私の知る限り、この周辺の一帯で一番強い魔物。私も真剣にやれば倒せる程度の魔物ではあるが、それでもかなりの強敵。相当な体力を失ってしまうのは間違いない。それを一撃で…。

 

正直、言葉が出なかった。

私とガレア様との間には絶対に越えられない力の差がある。それは紛れもない事実であり、それを確信した途端、私の心にとてつもない羞恥心が溢れてきた。

 

何故私は、あんな態度をとってしまったのだろう。

ガレア様の実力は紛れもなく本物。私程度が疑っていい強さじゃない。それなのに。

そう考えれば考えるほど、自分に対しての怒りと失望の念が込み上げてくる。

 

私はガレア様への無礼を詫び、"守ってくれる”と言う言葉を信じる事にした。当然だ。

 

それだけでも頼もしく、とても心強いと言うのに、ガレア様は私に、決して失うことの無い大切な宝を与えてくれた。

 

 

―それは『ネフィ』と言う"名前”。

 

 

ガレア様が私に付けてくれた、大切な、『絆』の形。

やんわりとした響きを持つ、私の立派な名前。

 

 

──嬉しい。

 

 

名付けられた時、心の奥底からそんな思いが沸き上がってきた。ずっと敵わない事かと思っていた高位の方からの名付け。自分を守ってくれると言ってくれた、寛大な心を持つ主との出会い。

 

あらゆる出来事が鮮烈で…衝撃で…そして…温かい。恐怖に支配されていた私の冷たい心の氷が、ゆっくりと溶けていくかのようだった。

 

その瞬間、私は誓った。ガレア様に付いていこうと。何処までも信じ抜き、そして守り抜こうと。守ってくれると言ってくれた人を逆に守ろうとするのもおかしな話ではあるが、もう決めたのだ。私はガレア様の"盾”になると。

 

 

 

それが──私の望み。

 

 

 

それにしても、ガレア様は本当に何処に言ってしまわれたのだろうか?辺りを見渡しても、ガレア様らしき影は何処にもない。『魔力感知』で周囲を探知しても、洞窟内に自分以外の魔力は感じ取れない。もしかして外に?何て思考が自分の頭をよぎった。その考えに従い、『魔力感知』を洞窟の外にまで伸ばしてみる。すると案の定、洞窟の入り口付近にガレア様らしき魔力を発見した。しかし、そこで違和感を覚える。

ガレア様の魔力に混じって、他に二つの魔力を感じるのだ。大きさはガレア様と比べて格段に小さいモノだが、微かに感じ取れる。

 

魔力の位置から察するに、ガレア様と二つの魔力の持ち主は正面から向かい合っているようだ。恐らく仲間…と言うわけではないだろう。二つの魔力は荒ぶり、ガレア様に敵対心を露にしているようだ。

それに…私はあの魔力を持っている二人に対して、ある程度予測がついていた。

 

通常なら魔力だけでその者がどういった外見をしているのか見分けるのは不可能ではあるが…一度会っているならば話は別だ。

 

忘れる訳がない。忘れてしまうものか。

あの刺々しい魔力。狂気に満ちた、あの荒ぶり。

 

(これは…私をさらおうとしてきた、あの冒険者達の魔力。ここまで追ってきたんだ…けど、不思議。本来なら恐怖でおかしくなってもいい筈なのに、なんだろう)

 

 

──全然、怖くないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…一応聞いておく。お前達は何しにここに来た?」

 

「この洞窟の中にいる商品を取りに来ただけだ。分かっているならそこをどけ。邪魔だ」

 

 

 

 

「却下だ。この先にいるのは俺の大事な従者。お前達のような馬鹿に…渡すつもりは毛頭ない」



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《第9話 ガレアの狂気》

タイトル通りです。

※超サイコ


「別に興味は無いが…一応聞いておく。お前達は何しにここに来た?」

 

「大した事ではない。この洞窟の中にいる商品を取りに来ただけだ。分かったらそこをどけ。邪魔だ」

 

「そうか。それは…何とも馬鹿な事をしたものだな」

 

 

 

―何故俺が冒険者達と揉めているのか…時は少々遡る。

 

 

 

ぐっすりと就寝したネフィに無創成(イレギュレイター)で作った毛布を被せた後、俺はまず洞窟の外に出ることにした。

 

何故外に?と思う人もいるかもしれないが、良く考えてほしい。

この洞窟に俺とネフィ以外の生体反応はない。

つまり、余程の事がない限りネフィに危険が及ぶ事は無い。今洞窟内でネフィを襲えるのは俺しかいない。そしたら知ノ恵(チノメグミ)から《したらどうなるか分かってますよね?》等と言う脅迫紛いの忠告が来たので絶対しないと心に決めたが。

 

話を戻そう。そして知ノ恵との相談の結果、敵が来るとしたらほぼ外からだろうと結論が出た。俺やネフィがそうしたように、この場所を隠蓑にしようと考える輩が来る可能性は十分にあったからだ。

それに、気になる事もあった。

 

ネフィが言っていた、自分を追ってきたと言う冒険者。

ソイツがまだネフィの事を諦めていないのならまだこの辺りを探し回っている筈だと。

人間と言うのは欲深く、そして執念深い。

金目当てで物を盗んだり、嫉妬に駈られて殺人を犯したりと、ろくでもない生き物だ。

何か物騒な事を企んでてもおかしくない。

 

 

 

そう考えた俺は、直ぐ様移動を開始した。

色々と考える前に、まず行動をしないと話にならない。

洞窟の出口に続くルートは、知ノ恵が算出してくれた。

これのお陰で、道に迷うこともなく、俺は着々と洞窟の外へと近づいていった。

 

その時だ。

知ノ恵から報告が来たのは。

 

《ガレア様。洞窟の入り口付近に、二つの熱源を探知しました。しかしこの洞窟内には入ろうとせず、そこに止まっているみたいです》

 

二つの熱源が入り口付近に"止まっている”と言う情報を聞き、俺はおかしいと思った。

 

洞窟内にいるモンスターを警戒して、入ってこないのならまだ分かる。

だが、それでも準備なり対策なり、何らかの行動はしてる筈。だが、止まっているとなると…。

 

《マスターの推測は的を得ていると思いますよ。あの者達は"待ち伏せ”をしています。恐らく待っているのでしょう。…洞窟の中にいる者が出てくるのを》

 

 

知ノ恵と俺の考えは、ほぼ一致していた。

それと同時に、俺はこの二つの熱源と言うのがネフィを追っていた冒険者達のものだと確信した。

 

どうする?知ノ恵にそんな質問をしてみると。

 

《分かりきってる事です。マスターはあの少女を守ると決めたのでしょう?》

 

瞬時に返答が帰ってきた。俺も迷わず首を縦に降り、ネフィを守ると改めて誓った。

 

 

 

──そして俺は冒険者達と接触し、今に至る。

 

 

 

俺としてはサクッと問題解決したい所なのだが、知ノ恵が《言質を取ってからでも遅くはないでしょう》とか言ってきたので、一応会話はしてみた。だけどな…。

 

 

「お前には関係無いだろうが。さっさとどけよ」

 

 

そもそも会話が成立しない。

何を言おうが、あちらは「どけ」「邪魔だ」の一点ばり。

こいつら一応冒険者だろ?コミュニケーション能力位は身に付けておいてくれよ…。

 

 

 

 

 

(とにかくこのままでは拉致が開かないので、少々思いきった発言をしてみますかね。この人間(ゴミ)共沸点低そうだし、上手く行けば頭に血が上って情報喋ってくれるかも)

 

「そんなこと言われても、そちらの目的が分からない以上ここは退けねぇよ。お願いを聞いて欲しいんなら、キチンをした理由を言え。話はそれからだ。」

 

「はぁ?何言ってやがる。お前に指図されるいわれはねぇよ。」

 

「さっさと道を開けやがれ!」

 

「人にものを頼むときはまず態度を改めろと教えてもらわなかったのか?あぁそうか、お前達は理解力が乏しい馬鹿なのか。それは悪い事をした。馬鹿に何を言っても伝わるわけ無いよな。理解できる程頭が働いてないんだから。」

 

俺はそう言いながら自分の頭に指をコンコンとぶつける。見れば冒険者の顔はみるみる赤くなっていった。これは余程頭に血が上っているな。もう一息だ。

 

「それにしてもお前ら元気な声で喋るな。喉が健康な証拠だよ。きっと病気にも一度もかかってないんだろうな。"馬鹿は風邪ひかない”って良く言うからな…フフッ…あぁごめん、つい笑ってしまった。そうだ、今度のど自慢コンテストにでも出てみないか?まぁ、参加しても大した結果にはならないだろうが。お前達の声、元気ではあるが鬱陶しいからな」

 

「て、てめぇ…あぁ分かったよ、言ってやるよ!俺達の目的はその洞窟の中にいるエルフを取っ捕まえて商品にして奴隷として売ることだ!」

 

「おい、馬鹿!何勝手に喋ってやがる!」

 

「エルフは容姿も身体も申し分ない、商人には高く売れる優秀な種族だからな…お金稼ぎにはもってこいなんだよ!目的は言ったぞ!だから早くそこを退け!」

 

 

…取れちゃったよ、言質取れちまったよ。

仮にも冒険者だからもう少し口固いと思ってたんだが…奴等、本当に根っからの馬鹿なんだな。まぁそんなことはどうでもいい。知ノ恵、あの言質はしっかりと記憶に残したよな?

 

《はい。『絶対記憶』で保管済です。後は好きにやってください。そろそろ苛ついてきたので。まぁ多少は面白かったですけど》

 

面白いけど苛つくのか…何か良く分からない感覚だな。でも、有り難う。

 

だってこちらもそろそろ…。

 

 

 

 

 

殺意を押さえきれなくて(こいつらを殺したくて)仕方なかった所だからな。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

生物にはそれぞれ、"本性”と言うものがある。

 

"本性”と言うのは、本来(生まれついて)持っている性質の事を意味する。

 

それは時としてその者の糧となり、牙となる。

 

けれど、使い方を見誤れば瞬時に破滅してしまうような危険な本性も、存在する。

 

正に俺がそうだった。

 

俺はこの本性のせいで、生物の命を奪うことに、喜びをかんじ取れるようになってしまった。

 

罪に問われるような年齢ではなかったので、表沙汰になることもなく収まったのは幸運と言えるだろう。

 

それから俺はこの本性とどうやって向き合うかを考えた。そしてそれはすぐに決まった。

 

『受け入れよう』。それが俺の答えだった。無理に抗っても消耗するだけ、生きにくいだけ。

 

それならばいっそ全てを受け入れ、共に生きていこうと。そう俺は心に誓った。

 

だが、法と秩序に守られたこの世界で本性を見せる機会と言うのはやはり中々現れず、結局4年間その本性を溜め続けたまま死んでしまった。

 

けど、それは幸運と言えるものだったのかも知れない。

 

 

―何故なら、法と秩序に捕らわれないこの世界に来れたのだから。

 

 

俺自身も危険と言い放つ、その本性は―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"殺人鬼”

 

 

 

 

 

 

他者の命を奪うことを快楽と感じる驚異の性質。

他者を殺すことに一切の躊躇もなく、自らの楽しみの為に容赦なく手を下す狂気の塊。

 

前に言った事があるだろう。人は簡単に他者を貶める存在だと。その最たる者が俺だ。

 

俺が一番嫌悪するのは自分自身。平気で他者の命を刈り取る、俺こそが俺が一番嫌いな存在なのだ。

 

だが、俺が嫌いなのはあくまでも俺自身であり、その本性は嫌いじゃない。むしろ好きだと言っても良い。

 

他者から向けられる憎悪。自分から向けられる嫌悪。それらは全て俺の本性にとって、本意であり、喜びなのだ。

 

だからこそ俺は、自分自身を嫌悪するのだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

実に4年ぶりの開放感。

それはとても清々しいものだった。

 

溜め込んでいたストレス(殺意)を一気に放出した気分だ。

 

あぁ、もう、本当に良い気分だ。

 

正直な所、あの冒険者達を見た瞬間からずっと…

 

 

 

殺したくて。

 

 

 

殺したくて。

 

 

 

コロシタクテ。

 

 

コロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテコロシタクテ…

 

 

…しょうがなかった。

  

 

有り難う、人間(玩具)達。

俺のストレス(殺意)を発散してくれる道具になってくれて。

 

でもちょっと物足りない。

全部のストレス(殺意)を解消するにはまだ殺し足りないな。

 

…そうだ。あの人間(玩具)達を殺した後、どっかの馬鹿な国を1つ、破壊するのも良い手かもしれない…。

 

 

ーーー

 

 

ガレアが本性を晒しだし下卑た笑みを浮かべている最中、知ノ恵はガレアから溢れてくる存在値(エネルギー)の処理に手間取っていた。

 

《霧操作と霧創造を統合…成功しました。霧支配を獲得しました。続いて煙操作と煙創造を統合…成功しました。煙支配を獲得しました》

 

能力と能力を統合し、その間に存在値を練り込んで溢れてくる存在値の激流を抑える。しかし、存在値の暴走を完全に抑える為にはもう少し存在値を練り上げる必要があった。

 

《全く、マスターも人使いが荒いですね…私人間じゃありませんけど。ま、それがあの人の良い所なんですがね。》

 

ガレアの急激な変わりようにも驚きはせず、冷静に物事を処理していく。全ては、マスターの望みのままに。

そして能力は、ガレアの意思に答えて姿を変える。そう、ガレアにとって今一番都合が良い、つまりは一番必要な能力を。

 

《霧支配と煙支配を統合…究極能力(アルティメットスキル)、『死霧之王(シュキーガル)』を獲得。…やれやれ、これはまた厄介な能力が生み出されましたね。まぁ、別に構わないんですが》

 

その際に作り出された能力がガレアにとっては最高の能力、他者にとっては最悪の能力になったことは、知ノ恵の知った事ではない。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「ア………ガ………」

 

「ヒ、ヒイィィィ!」

 

 

 

気付いたら殺してた。

 

今の状況を一言で表すなら、これ以上の言葉はないだろう。

 

知ノ恵が色々と試行錯誤してくれた結果、俺にも究極能力が発現したらしい。『死霧之王』何て名前だから死に関係あるだろうと試しに放ってみたら…これだ。

 

冒険者の一人が俺が放った刺々しい紫の霧に触れた途端、身体が溶けたように崩れ落ちた。いや、腐ったと言う表現の方が正しいか。

 

アハッ。

 

思わずそんな笑みが零れた。

 

素晴らしい。こんな簡単に他者を殺せる力なんて、俺が喉から手が出る程欲しかったものじゃないか。

 

それにこの能力は何も他者を殺す効果だけじゃなく、洗脳、神経操作等と、使った瞬間他者が苦しむ効果も持ち合わせているオンパレードだった。

 

最高だ。最高じゃないか。

他者を殺す事を快楽に感じる俺にとっては、これ以上ない最高の能力。

こればかりは神様に感謝しないとな。

…俺、神だったな。半分だけだけど。まぁ、それはどうでも良い。どうでも良いことなんだ、今だけは。

 

「な、何なんだよ…何なんだよお前はぁぁぁ!」

 

「誰?俺が誰かなんて…分かりきってるじゃないか。そんな当たり前の事を不思議そうに聞くなよ」

 

 

 

 

人殺しに決まってるじゃないか

 

 

 

俺はその言葉と同時に掌を天に掲げ、能力を発動した。

亡者のような手がうねうねと冒険者の足元から這い出て、冒険者に襲い掛かる。

 

 

「い、嫌だ…死にたくない…」

 

「そうか、死にたくないのか…」

 

「そ、そうだ!助けてくれ…頼む!」

 

だが断る

 

「あ…………」

 

冒険者の表情が絶望に染まる。だが、慈悲はない。

 

塵と化せ(クル・ヌ・ギア)

 

「ギャアアアァァァァ!」

 

 

恐怖にまみれたその悲鳴を最後に、冒険者の命は潰えた。

その場に残ったのは殺人鬼と…腐食し、変わり果てた肉塊のみ…それだけだった。




ついに書けた、ガレアの本性。多分これからもっと人が死にます(白目)

感想、評価等募集しています。


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《第10話 最悪の究極能力(アルティメットスキル)

さてさて前の話で『死霧之王(シュキーガル)』とか『塵と化せ(クル・ヌ・ギア)』の単語で気付いた人もいると思います。はい。あれです。某学戦の最強魔女さんの能力です。煙だけじゃなく霧の性質も持ってるんでオリジナルより質が悪いですけど。

作者はあの作品大好きなので、ちょくちょくそれに似た名前や能力が出るかもしれませんが、笑って見逃してくださると幸いです。


『………っ!!』

 

その瞬間、世界の強者達は感じ取った。

新たな強者の誕生を。

あるものは、背筋が凍りるような恐怖を。

あるものは、心がざわつくような高揚を。

あるものは、身が引き締まるような危機感を。

皆々が受け取った反応は十人十色、様々なものではあったが、思う事は皆共通。この一言だった。

 

『コイツは…危険だ!』

 

 

 

何故こんな事になったのか。その原因は(ひとえ)に、ガレアが放った殺気にある。いや、ここでは殺意と言うべきか。ガレアが放った殺意はとても異常で歪、尋常ではない禍々しさを纏っていた。その質や深さもあるが、異質だったのは殺意の対象(・・)にある。今回、何故世界の強者達が一斉にガレアの殺意を感じ取れたのか。それは、世界の強者達がガレアの殺意に当てられた(・・・・・)からだ。つまりガレアは世界の強者達全てを殺意の対象にした。喧嘩を売ったのだ。

 

「殺してやるからかかってこい」と。

 

それは世界の強者達にとって、侮辱以外の何者でもなかった。わざわざ殺される為に戦いに行くなど愚の骨頂。こんな馬鹿げた挑戦を受けるなど余程の怖い物知らずか死にたがりか、それか単なる馬鹿だけだ。そんな輩は世界に何人もいないだろう。

 

「俺に向かって、随分と強烈な殺気じゃねえか…『調停者』としてコイツは会っておいた方がいいな」

 

「何者だ?このワタシに殺気を向ける奴は…ふふん、良い度胸ではないか、ワクワクしてきたぞ!」

 

「このアタシに殺気を放つなんて…目にもの見せてやるわ!」

 

…この三人はこれに当てはまるそうだが。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「じゃあ行ってきますね、ガレア様」

 

「暗くなるまでに帰ってこいよ」

 

「分かってますよ。夕方までには帰ってきます」

 

前のクズ冒険者達殺害から3日、今日も食料集めに飛び立つネフィを暖かい目で送る俺、GJ

 

《うわ自意識過剰かよないわコイツ》

 

…話を戻して、今俺はネフィと初めてあった洞窟の入り口で国を滅ぼす準備をしていた。あの冒険者達を殺した後、そいつらが持っていた持ち物から奴等が『隷俗国家アルジオ』の冒険者と言うことが判明。原作知識にない国だがネーミングからして怪しかったので少し調べてみた所、案の定この王国がネフィを捕らえようとした国だった。一体どんなやらしい事を……否、どんな酷い事をしようとしていたのか…全くけしからん。

 

《殺人鬼であるガレア様の方がよっぽど酷い事しそうですけどね》

 

それは言わないお約束だよ、【知ノ恵(チノメグミ)

《私心は女なので君付けは遠慮してください》

相変わらず変な所で細かいなっ!細かすぎてその内細切れになりそうだよこの子。

てか心は女なのか…つまり俺は今実質女二人に囲まれてるハーレム状態ってことに…あ、ちょっと待って知ノ恵さん、謝るから、謝るから俺の黒歴史を生き生きしながら喋ろうとしないでお願いします、ぁぁ―………。

 

《さて、次はガレア様が12歳の時──》

 

もう止めろ、俺のライフはもう0だ。これ以上は精神が死ぬ、死んでしまう…。俺の脆弱な精神(トウフメンタル)が断末魔を上げてしまう…ガフッ。

 

《反省しました?》

 

いや、反省はして…

 

《ドMの精神と言うやつですか、良いでしょう。引き続き黒歴史を語るとしますか…》

 

いやまて、反省してるぞ!?何でしての所で決めつけてんだお前!と言うか俺がドMだと!?俺がMな訳ないだろ!俺はれっきとしたドSだ!

 

《えぇ………それはそれでちょっと…》

 

あー、ちょっと知ノ恵さん?悪かったから、自分でSって言ったのは悪かったから、だからそんなに引かないで下さいお願いします(迫真)

 

《仕方ないですね…良いでしょう。》

 

何か上から目線なのが腹立つ

 

《はい?》

 

許してくれて、ありがとう(棒読み)

 

さて、茶番はここまでにしといて…そろそろ準備に取りかかるか。

 

《"マスターの、楽しい楽しい創成講座~”》

 

茶番はここまでって言ったのに何でまた新しい茶番始めるつもりなのかコイツ!?…って言うか創成講座って言っても無創成(イレギュレイター)で創るから講座も何もないぞ…。想像したものを生み出すだけの単純作業でしかないしな。過程だってその一つだけだ。とても作業とは言えないだろう。知ノ恵がやろうとしてる茶番は無視してさっさと創成に取りかかるとするか。今回は生活の必需品を揃えることにした。食材は一応ネフィが調査帰りに採ってきてくれるから問題ないとはいえ、衛生環境は整えないと不味い。ネフィは状態異常無効をつけているから病気等どうってことないと思うが、俺は生憎と持ってない故に健康に気を付けないと死活問題になる。だからまず色々と健康を整える道具を創ることにしたのだ。

 

まず風呂、《水殺!》洗剤、《薬殺!》替えの服、タオル、《圧殺!》…ライター、《焼殺!》……ナイフ《刺殺!》

 

 

《選べる五つの殺人レパートリー♪》

止めろおおぉぉぉ!!

 

 

はぁ…はぁ…

《いや~、流石ですねガレア様。創ろうとしてる必需品全て人殺しの道具として使えるじゃないですか。》

 

そう言った理由で創ろうとしてねぇよ!お前の頭の中は殺し一色になってんのか!

 

《だってガレア様の脳とリンクしてますから。》

 

あぁ…何か納得。心の何処かで納得できない自分がいるけど。コイツ、俺より殺人鬼(サイコパス)じゃねえの?

 

 

今度こそ茶番は終わりにして、俺は無創成の能力でこの先の生活の必需品をとなるものを揃え終えたのだった。

 

◇◆◇

 

(それにしても、俺が創成系の能力を持ってるって不思議な話だよな。俺が望んでいるのは生物の殺害、及び破壊なのにそれと真反対の力を持つなんて。世界の因果でも働いてるんかねぇ?この世界ではシステムなんてのが存在しているらしいし)

 

Web番とは言え、完結まで転スラの原作を読み漁ったガレアは軽薄ではあるが、大抵の知識は持ち合わせている。真の魔王種、覚醒魔王へと至る方法、配下を魔王種に至らせる方法。はては天魔大戦の事や、原作が辿った歴史の詳細まで。ガレアが来たことでその歴史の針は少しずれていくだろうが、大規模な歴史の動きはずれずに進んでいくはずだ。…ガレアが大きく動かなければの話だが。

 

(確定された歴史を生きていくなんてつまらない。予測できない歴史を生きてこそ人生は面白いんだ。)

 

ここまで考えて、ガレアは一つの結論に行き着いた。原作を読んだものなら無謀と言われるかも知れない。余計なことをするなと言われるかも知れない。だが、決めたのだ。元よりガレアに常識はない。いや、正確には常識はあるのだが…本性をさらけ出した彼の行動は、その全てが非常識。非常識な行動こそが、ガレア(殺人鬼)にとっての常識なのだ。

 

(…決めた。俺はリムルの…原作主人公の敵となろう。この世界の歴史が奴によって決まるなら、俺は奴を殺す。【死霧之王(シュキーガル)】を持つ今の俺なら原作開始当初のリムルなら楽に殺せる筈。だが、すぐに殺すのも面白くない。殺すならせめて、奴が魔王になった後だ。そうじゃないと…殺しがいがない)

 

ガレアは口角を釣り上げ、天に向かって高らかに笑う。

自分が歴史に介入したらどうなるか。歴史はどう変わるのか。もしかしたら本来ハッピーエンドになるものが、バットエンドに擦り替わってしまうかもしれない。

だが、ガレアにとってそれはどうでもいいことだ。

重要なのは、歴史をどう変えていくか。歴史をどう破壊していくか。自分の安全性さえも考慮せず、ただ殺害と破壊に飢える。それが、ガレアの中に潜む、殺人鬼(サイコパス)の本性なのだ。例えどんな相手でも容赦はしない。

 

(降伏は無駄だ。抵抗しろ。殺してやるからかかってこい!)

 

思わず殺意が溢れる。この殺気を無意識に世界中にいる強者達に当てた事も知らずに、ガレアは高らかに笑い続けた。

 

◇◆◇

 

 

「さてと、創るものは創ったし今度は能力の練習でもするとしますか」

 

無創成で創るべきものを創り終わった俺は、いつものように能力の練習に勤しむ事にした。

クズ冒険者達を殺した後、俺は実感した。能力は使いこなせて初めて真の力を発揮する。

前の世界にて読んだ小説でそんな言葉は呆れる程聞いてきたが、実感は沸かなかった。力を使いこなすなんて前の世界ではする機会もなかったし、その力もなかった。

この世界に来てその力を行使した事で、改めて実感したのだ。このままではいけない、もっと力を使いこなさねばと。

そう考えた俺はまず自分の能力詳細(ステータス)を開いた。自分の能力の詳細さえ掴めないようでは能力を使いこなすなど夢のまた夢だ。だが、俺の能力詳細は前に見ている。俺が注目したのは新たに習得した究極能力(アルティメットスキル)の一点のみだった。

 

『死霧之王』

 

…霧支配 煙支配 空間支配 状態異常付与 状態異常無効

耐性貫通 万物侵食 結界干渉 無抗 状態異常攻撃強化

 

…ついちゃってるし。状態異常無効ついちゃってるよこの能力。今までの健康への気遣いなんだったんだ!?一瞬にして泡と化したぞ!?

 

《フフフ……》

 

おい知ノ恵、お前知ってたな!?知ってて俺に隠してたな!?…はぁ。何でいつも能力詳細を見ると驚く要素ばかりなんだよ…また見たこと無い能力があったし。無抗ってなんだ?無効とはニュアンスが違うようだけど。

 

『無抗』

 

無効を無効化する能力

 

こりゃまた何とも単純で強力な上書き能力だな…。それに耐性貫通に結界干渉…『死霧之王』の内包能力は一通り分かったけど、とんでもなく強いな。

攻撃手段は霧や煙等の実体がないものだから範囲がとにかく広い。それに状態異常を付与させる事で強力な範囲攻撃が可能。質の悪いことに状態異常強化もついてるし。そしてなんと言っても強力なのが耐性貫通と万物侵食、無抗に結界干渉。 

 

この四つの能力はそれぞれ共通点がある。それは相手の防御を破れることだ。

 

耐性貫通はあらゆる耐性を貫き、万物侵食はあらゆる障害物を侵食し、無抗は無効を無効化し、結界干渉は相手の結界を無力化する。一つ一つが名前の通りに効力を示し、相手の防御を破壊する。あらゆる防御を砕かれた相手は俺の攻撃をかわすしか対抗策がない。だがそれは至難の技だ。何故なら俺が繰り出す攻撃は霧や煙。避けようの無い広範囲の攻撃なのだから。この性質、この特性。正に最悪の究極能力と言えるだろう。だがそれを使いこなすにはやはり練習が必須事項。だから俺はこうやって、3日前から毎日特訓を続けているのだ。何?偉いって?そうだろう、もっと誉めても…

 

《3日続けて練習なんて誰でもやってます。ふざけてる時間があるなら早く練習してください。》

 

あ、はい。辛辣だな…。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

塵と化せ(クル・ヌ・ギア)

 

亡者の如く舞い上がる瘴気(・・)の腕を降り下ろし、草原の生い茂る草木に叩きつける。叩きつけられた場所はまるで溶けたかのように腐り、力無くひしゃげていた。

 

「やはりこの攻撃手段は有効だな…手の形をしているから思ったより扱いやすい。さて、次は状態異常の効力だが…大抵は毒が主流になりそうだ。一番殺傷能力が強いのは毒だろうからな。次は毒の効力を工夫して…。」

 

「ガレア様、大変です!」

 

「ん?ネフィ。戻ってくるのが早かったな。もしかして俺が心配で…」

 

「今はそんな事を言っている場合ではないです!」

 

ネフィも辛辣…。俺って人望無いのかねぇ…まぁ当たり前ではあるけど。

 

「そんなことより大変なんですよ!とんでもない魔素を持った者が猛スピードでこちらに向かってきて…」

 

「おい、ネフィ、主の心配をそんなこととはどういう…あれは」

 

俺は急遽ネフィが飛んできた方向に目をやり、臨戦態勢に入る。その瞬間、本能で理解した。今の自分では到底敵わない化け物の存在を。そしてそれが近づいてくる、尋常ではない恐怖を。

 

 

「…お前か?俺に殺気を当てた命知らずな奴は」

 

それは突如降り立った。俺の眼前に。俺ですら勝てないと思わせるような濃厚な殺気を放ちながら。

 

「"魔王”ギィ・クリムゾン…!」

 

これが俺の、初めての魔王との邂逅だった。




はい、ガレア君初めての魔王との直接対面ですね。
初めて出会った魔王が最強の魔王とはガレアも運の無い奴…え?そう設定したのは作者だって?……。

因みに残りの二人も向かってきてますが、もう一人がもう一人のスピードに合わせてるので遅くなってます。

それとお気づきの方もいるかも知れませんが、今ガレアがいる時間軸はリムルの原作軸のかなり過去に当たります。なら今は何処の時間軸なのか…それは後の展開にて。

GW中は忙しくて投稿できないかもです。ご免なさい。

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《第11話 魔王との邂逅》

お待たせして本当申し訳御座いません!

他の方達の小説をみて自分の小説と見比べてたら、自分の語彙力の無さにちょっと凹んでしまいまして…。

その上色々と用事が重なってしまい。

それでは11話、どうぞ~。


俺は二つの力を手に入れた。

 

一つはあらゆるモノを殺戮する腐食の力。

もう一つはあらゆるモノを創り出す創成の力。

 

過信はしてない。だが、慢心していた。

この力なら自分の欲望を、自分の殺人鬼(本性)十分にを満たせると。そう思っていた。

 

だがそれは幻想。発展途上で、まだまだ未熟なモノなのだと、思い知らされた。

 

「はぁ…はぁ…」

「ここまでか…。思ったよりてこずったな…」

目の前の、圧倒的強者によって。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「強いな…」

 

突如俺の目の前に現れた魔王、ギィ・クリムゾンによって、俺は力無く大地に身体を任せる羽目になっていた。何故こんなことになった?頭の中でもまだ殆ど理解がついていけてない。取り合えず大雑把に整理すると…勝負を受けて見事に負けた。魔王、ギィ・クリムゾンの力は正に絶対的だった。身体能力は勿論の事、身に秘められた魔素、練り込まれた魔力、戦闘面において、どれを取っても超一流。

正直、正面(・・)から戦って勝てるような相手じゃない。まぁ、勝てなかった理由はそれだけではなく、もっと複雑な理由があるのだが、今話す余裕はない。

 

「身体能力や魔素は申し分なし…。まぁ少々物足りない気持ちもあるが、魔王種へと至っていないならば致し方ないだろう。むしろ魔王種への進化も果たしてない状態でこの実力は異常だな。能力(スキル)を全く使用していなかったのが唯一謎だが…」

 

そう。今ギィが呟いた通り、俺はギィとの戦いに全くもって能力を使用していない。つまり純粋な身体能力だけで勝負していたのだ。それは何故か?これは原作を知っているからこその行為である。

 

ギィと言えば最初に何を思い浮かべる?

 

最古の魔王であり、最強の魔王。

 

この印象が一番最初に出てくる筈だ。だが忘れるなかれ。奴は一目見ただけでその能力を究極能力(アルティメットスキル)含め模倣する究極能力、【傲慢之王(ルシファー)】の持ち主。

 

これがある限り、ギィに対して大抵の能力は一回こっきりの使い捨て能力のような存在に成り下がる。

勿論一回使ったからといってその能力が使えなくなると言う訳ではない。だが、一度見られた能力を完全再現されるとなると、自分の強みを一瞬にして奪われると言う事に繋がる。だからこそ能力は無闇矢鱈に使うことができない。

今現在『知ノ恵(チノメグミ)』との交信は完全に遮断しているし、【無創成(イレギュレイター)】や【死霧之王(シュキーガル)】等は戦闘の際に一度も使っていない。そのせいで身体能力だけで戦う事になりこうやって敗北しているのだが。

 

(これじゃあ格好つかねぇな…不完全燃焼も良いとこだ。けど、簡単に手の内見せる訳にもいかんし…どうしたものか)

 

「…おい、いつまで寝てるつもりだ?」

 

「自分でボコボコにしておいて良く言う…」

 

ギィの無責任な一言が聞こえてきたので、やんわりと反論していく。自分でやっといてその言葉は少し理不尽じゃないか…?

 

「所々傷だらけなのに痛みを抑える素振りも見せない奴が良くぬかす。…『痛覚無効』か?」

 

お見通しかよ…。まぁ、痛みが無いだけで疲労や倦怠感は普通にあるんだけどね。動けない程じゃないが。

それでも起きろ起きろと急かすギィ君マジ鬼畜やわ~。

ガチの戦いなら既に死んでるから、それよりかはマシだろうけど。てか腕試しで本当良かった…。

 

 

「ガレア様…大丈夫ですか?」

 

「あぁ…有り難う、ネフィ」

 

ネフィに支えられてようやく草原から身を起こし、正面に居座るギィへと視線を傾ける。改めて見ると良く伝わる。眼前にいる存在がどれだけデカいモノなのかを。

問題なのは、何故コイツがいきなり俺の前に現れたのかだけど…。俺何かしたっけ?少なくとも挑発的な行為はしてないぞ…。

 

 

 

 

 

「さて、起きたばかりの所で悪いが質問に答えて貰おう。先程、俺に殺気を当てたのはお前か?」

 

 

 

 

…この男は一体何を言っているのだ?

俺がコイツに殺気?何でそんな自殺行為わざわざしなきゃならんのよ。俺は死にたいのか?いや、殺人鬼(本性)の意思にしてみれば自分自身も殺害対象に入ってる…だが、まだ死ぬつもりはない。一週間足らずで第二の人生を終わらせてたまるか。俺は出来れば楽な道のりを歩みたい。決して臆病なのではない。俺は慎重なのだ。

 

「勝てないと分かっている相手にわざわざ殺気をぶつける必要性があるか?俺にそんな気はない。少なくとも今の段階で魔王と戦う気はさらさら無かった」

 

「…確かに、俺の素性を知っていながら喧嘩を売る馬鹿はそうそういないだろうな。それこそマゾでもない限り。お前はそれとは縁遠そうだ。…名前は?」

 

「…ガレア。ガレア=クレアーレ。それが俺の名前だ」

 

「覚えておこう、その名前。俺の名はギィ・クリムゾン…いや、お前はこれを知っていそうだな」

 

コイツどんだけ察し良いのよ…勿論知っております。原作知識でね。じっくり読んでいて良かった。鮮明にと言う訳じゃないけど、大抵のキャラの名前は覚えてるからな。能力の詳細も。これでもアドバンテージはけっこう強い。

 

「話を戻そう。何故俺が殺気を放ったと?正直な所全く覚えが無いのだが。」

俺はギィの問いに無言で頷いた後、尤もな疑問を投げつけてみる。自分にも覚えが無い行動を指摘されたのだ。

その詳細を詳しく聞きたいのは当然と言えるだろう。と言うか、何度も突き付けるようだけど、本当に俺は殺気をコイツにぶつけたのか?馬鹿なのか?アホなのか?死にたいのか?今はシャットダウンしてるけど、スタートアップしたら知ノ恵から何と言われるか…うっ、想像しただけで背面に寒気が…。

「なんだ、意識して放ったのではないのか?」

「意識して放ったらそれこそ自殺行為だっての。俺はまだ死にたくない。殺したいとは思ってるが。」

「ははっ、死にたくはないが殺したいか…。どうやら頭のネジが何本か消し飛んでいるようだ。俺がねじ込んでやろうか?」

「それはご遠慮願いたい。自分の意思でネジを外しているからな。と言うか話をそらすな。」

「悪い悪い。そうだな…簡潔に話すと、殺気を放たれたとされる場所にお前がいた。と言うだけだな。」

「はぁ!?」

(それが理由!?それだけで俺はボコられたのか!?いや、思考が脳筋ならそれもあり得るか…。)

「誰が脳筋だ。」

え、声に出てた?

「顔に書いてある。表情が分かりやすいな、お前。」

ダニィ!?マジかよ、黒歴史だけどポーカーフェイスに憧れて何回か練習したことあるんだぞ俺。

それでもそんなに分かりやすいのか…後でポーカーフェイスの練習だな、うん。

知ノ恵に弄られる事請け合いだけど気にしないぞ。脆弱精神(トウフメンタル)もこの際一緒に鍛えてやる。

 

「理不尽過ぎるだろ…。少しは話しをすると言う考え方は無かったのか」

 

「互いを知るにはまず拳を合わせた方が手っ取り早いだろう?」

 

「脳筋の考え方だぞ、それ…」

 

「それは時と場合による」

 

「つまり今回は脳筋が勝ったのか…」

 

何かコイツと話してると疲れるな…。

ギィってこんなキャラだったのか?もっと大人しくて大物感溢れるイメージだった気がするんだが…うん、細かいことは気にしないでおこう、今はそんな事を考えても時間の無駄だ。

 

 

 

「おーい、ギィ~」

 

 

 

ん?上空から場違いな程に甲高い声が聞こえてくるぞ?

…ってちょっと待て。ギィ?ギィと面識を持ってて尚且つ呼び捨てにできる奴なんて大体想像できちゃうんだが。まさか…。

 

「お、ミリムか。お前も当てられて来たのか?」

 

「うむ、面白そうだったから飛んできたのだ。ラミリスのスピードに合わせていたから少し遅れたがな」

 

やっぱりか…おいおい、魔王の双頭が今俺の目の前にいるとかどんな冗談だ…。

死なないだろうな?今さっきギィにボロボロにされたばかりで、体力殆ど残ってないぞ?今この状況でコイツと戦ったら間違いなく死ねるぞ…。

 

「ちょっとー!急にスピード上げるなんて酷いじゃないのよミリム!」

 

「ラミリスが遅いのが悪いのだ」

 

「ド直球!流石の私でも傷つくわよそれ!?」

 

更にに追討ち!今度はラミリスかよ…。ギィが来たからまさかとは思ってたけど、こんな連続で来るものなのか?まるで魔王のスタンピートだな…。

 

 

 

「まさかこんな場所で魔王が勢揃いするとはな。不思議な事もあるものだ」

 

「お、確かにそうだな!う~ん、やはりこの者の影響か?」

「どうでも良いけど、あんたよね?私に殺気を当てたのは。覚悟はできてるんでしょうね?」

 

 

…最古の魔王勢揃い。俺は生きていられるのだろうか…。積み重なるトラブルに、俺は思考を放棄して、遠くを見つめる事しか出来なかった。




書いてる途中で思ったけど、ガレアもギィも赤髪なんだよなぁ…何かややこしぃ。

さーて、まさかの古参魔王勢揃いです。ガレアは一体どうなるのか…。
あ、言い忘れてたけど自分、スマホ投稿です。今更感が凄い…。
では次回をお楽しみに。

感想、評価等募集しています。


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《第12話 魔王って意外と気さくだよね》

ガレア
「はい弁明をどうぞ。」

作者
「許してくれたまえ。」

ガレア
「死刑。」

作者
「アーッ!」


・・・約1ヶ月間投稿放置して本当に申し訳ありません!課題終わらせることに奔走してたのと他者様の小説読むのに熱中してたらいつの間にか時間ががががが。

その分語学力は強化されたので、気合い入れて小説執筆するつもりです。どうぞ宜しく~。


正直に言おう。

 

今からでも逃げたい。

 

すぐさま現実逃避したい。

 

何故か?それはな…。

 

 

「ネフィの髪はモフモフなのだ~」

 

「ちょっとミリム様、辞めてください~」

 

「ふぅ~ん、こんなちっちゃい物から火がねぇ…あつっ!」

 

「ガレア、この柔らかい布貰っていいか?ありがとう」

 

「少しは静かにしろ、このフリーダムサタンどもぉぉぉ!」

 

 

こ  う  い  う  こ  と  だ  よ

 

 

何が好きでこんな自由奔放な魔王共の相手をしなくちゃならんのだ。胃に穴が空くぞ…。ミリムはネフィに迷惑レベルで甘甘だし、ラミリスは生活用品の被害にあってるし、ギィに至っては勝手に生活用品盗もうとしてるし…。

気さくなのは良いことなんだろうが、限度があるだろう…。

何でこんな事になったのだろうか?

目の前に広がる奇想天外な光景に俺は頭と腹を強く悩ませていた。何で腹かって?ストレスを感じたら胃が痛くなるって言うのは良くある話じゃないか。

何故このような事になってしまったのか。それはひとえに魔王の一人であるミリムが俺の創った生活用品に強く興味を持ってしまったせいである。

 

 

つまり、元はと言えば俺のせいなのである。

 

 

驚愕!全ての元凶は俺自身なのだった……はいすみません、本当調子乗りました。

 

 

嫌だってさ、誰が予想できる?

俺はただ決意表明する為に高笑いしてただけだぞ?

まぁこの時点でおかしい所満開なんだけど。

その高笑いから最古の魔王達が終結して来て、こんな混沌(カオス)な光景ができあがるなんて…正直に言って信じたくねぇ…俺の魔王達に対するイメージが壊れる…特にギィ。

 

「あぁ、鬱だ…

「どうしたのだ、ガレダ?」

 

「何でもねぇよ…って、ガレダって誰だ!?俺の名前はガレアだ!」

 

まぁ、そんなこんなあってこんな状況になっちゃった訳だが…端から見たらどう言う訳で?って感じの状況ではあるが。正直、俺もどういう風に対処したら良いのか分からない。一応、ミリムは甘味で何とかできるだろうが…。原作でも蜂蜜に夢中になってたし。ラミリスとギィはまだ良く分かってないけど…意外に物で釣ることができたりしてな。二人ともミリムと同じく俺が創った生活用品に興味津々らしいし。

 

 

「ねぇ、何かすっごい舐められた感じがしたんだけど気のせいかしら?」

 

「奇遇だなラミリス、俺もだ。」

 

「き、気のせい何じゃないか?」

 

「ふーん…なら良いわ」

 

ふぅ……二人とも察しが凄いな…。いや、魔王ともなれば心を読む位の能力は保有していてもおかしくは…いやそう言う問題ではないだろう。

 

「…一々騒いでも無駄だな…。ほら、ミリム。いつまで俺の従者を遊び道具にしてるんだ、さっさと放せ」

 

「うわ、わ、わわ」

 

「あー!ガレア酷いのだ!まだネフィをモフモフしている最中だったのだぞ!」

 

知らん。兎に角これでは話が前に進まないので、問答無用でネフィとミリムを引き剥がす。下手したら年単位でネフィを可愛がるからな、コイツ…。

 

「ありがとう御座います、ガレア様」

 

「うぅ…シクシク」

 

「あからさまな嘘泣きは止めろミリム。このままだと状況が一向に変わらん。…で?お前とラミリスがここに来た理由はギィと同じで良いんだな?」

 

「むー……。…うむ、私がここに来た理由はギィと同じく、お前の殺気に当てられたからだな」

 

やはりか。まぁ、それ意外に理由が見当たらないから概ね予想通りだな。ネフィを愛でたいから何て理由だったら即ツッコミを入れていたが。

 

「ミリムはともかく、ラミリスまで一緒に来ていたのは驚いたがな」

 

「ちょっと、それってどういう意味よ!」

 

「まぁまぁラミリス様、どうどう…」

 

「おいネフィ、ラミリスは馬じゃ…いや、別にいいか。似たようなものだし」

 

「酷いっ!ガレア、アンタの台詞が一番酷いわよ!?」

 

何やら騒ぎ込んでいるラミリス(馬鹿)の事は取り合えず放っておくとして。…つまりはミリムもギィと同じく、俺の殺気に当てられて来たってことか。となるとギィと同様に喧嘩を吹っ掛けられたと勘違いされててもおかしくない…どうするか。いや本当にどうしよう。ギィのようなキチンと加減ができる奴ならともかく、今のミリムは原作と違って加減のかの字も知らないだろう。戦ったら不味い。間違いなく不味い。勝ち目がない訳ではないが、ギィが今いる状態ではその勝ち目もない。完全に絶対絶命だ…。

 

 

次回予告が《第13話 ガレア死す》になってもおかしくない(デュエルスタンバイ!)しないからな!?

 

 

もうこうなったら甘味をあげてご機嫌取りをするしか…。

 

 

「なぁ、ミリム」

 

「ん?なんなのだ、ギィ?」

 

「ちょっとコイツの魔素量を調べて貰っても良いか?さっきコイツと戦ってみたんだが、能力(スキル)を全く使ってこなかったんで正確な量をまだ把握してないんだ。恐らく俺の究極能力を警戒しての事だろうが…」

 

 

ちょっと待て!?

 

ギィ、お前何言ってんの!?俺の魔素量測定ってつまり事実上の素質測定だろうが!これでミリムが俺の素質に気付いて興味持っちゃったらいよいよ終わるぞ!折角穏便に事を納めようと思ってた時にこの仕打ち…真面目に恨むぞ…。とはいえ決まってしまったモノはしょうがない。精々逃げる準備だけはしておこうか…。

 

「勿論良いのだ!ほらガレア、逃げるでない。大人しく魔素量を見られるのだ!」

 

「止めろ!これ以上はプライバシーの侵害になるぞ!今すぐ止めるんだ!」

 

「ごちゃごちゃ煩いのだ!ぷらいばしー…?とやらは良く分からないが、大人しくするのだ!"竜眼(ドラゴン・アイ)”!」

 

「良く分からないから大人しくしろってそれ完全に横暴だろぉ!会話が全く成立してない!!」

 

 

ピピピ…

 

 

「測り終わったぞ!ガレアの魔素量は…約50万だ!」

 

「50万か…中々だな。まぁ、俺達と比べたら少し見劣りするが」

 

「恨むぞギィ…勝手に他人のプライベートに踏み込んで来やがって…」

 

いや本当に何をしてくれたんだお前…。

 

これでミリムが俺に興味持ったらこの先の人生真っ暗だぞ?聞こえる…俺のこれからの人生設計が壊れていく音が…。これはもうミリムが奇跡的に見逃してくれると言う一縷(いちる)の望みにかけるしか……。

 

 

 

「凄いのだガレア!私はお前と戦いたくなってきたぞ!」

 

 

 

あ、終わった。




ガレアさん終了のお知らせ(理不尽)

まぁ調べられちゃったら興味持たれちゃうのも仕方ないね。さてこっからどうなるのか…。

ではまた~。


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《第13話 決戦前夜》

不定期更新にしていると、何時までもグダグタして進まない事が判明したので、ペースを設定して投稿をしようと思います。

週一にするか月一にするか。

今回は

三人称

ギィ視点

ガレア視点

といった感じで視点を変えながら話をしていきます。


日は既に沈み、空には見事なまでの満月がただすんで綺麗な夜景を作り上げていた頃。

 

半ば強引にミリムとの決闘を因縁付けられたガレアはミリムに対しての不満を静かに押さえ付け、これから起こるであろう戦闘と言う名の暴力に対処するべく頭を抱えながら考えを張り巡らせていた。

正直この理不尽すぎる決定に二、三言程文句を言いたい所だが、残念な事に相手はこの世界の最上位に位置する存在。そんな大物が自分のような得体の知れない人物の話をそう簡単に聞いてくれるとは到底思えない。

それに現段階(・・・)においてミリムと言う生物は戦うと言う行為以外に楽しさを感じない戦闘狂と同時に、まだ子供と言って良い程幼い精神力。話し合いでの解決はほぼ不可能だと断言できる。

 

(戦闘は避けられない…。魔王として一定の矜持を持つギィ、純粋な戦闘力としてはネフィ以下の実力のラミリスは兎も角、ミリムは無邪気な気分屋で歯止めが一切効かないだけでなく、実力もギィと同程度のモノを持つある意味で一番厄介な魔王。戦うと決めたら余程の事がない限りその決定をねじ曲げる事は絶対に無いだろう。原作のリムルと同じようにお菓子を上げたら大人しくなるとは思うが…)

 

しかしそのルートを進んでしまった場合、未来でのリムルが原作で使った方法を使えなくなってしまう危険性があり、後々あちら側に多大な損失を与えてしまう可能性が捨てきれない。

自分の手でリムルを葬り去ろうと考えているガレアにとって、その策はあまり好ましいものではないのだ。

やるなら本当にヤバい時だけ。今はまだその時ではない。

 

(となるとやっぱり最善の策としてはミリムの無力化…あらゆる防御を貫き対抗する手段を無効化させる【死霧之王(シュキーガル)】を使えば勝ちの目はある…だがギィが見ている以上、下手に使用することができない。本当にやりづらいな…)

 

別にミリムを無力化させるだけなら【死霧之王】を使えば危なげなく実行する事ができる。完全な確証があるわけではないが、【死霧之王】はあらゆる耐性を無効にし、その上で相手を無力化する。その特性をうまく使えば例え魔王であろうとその効力を発揮するだろう。

実際の所、ミリムと戦うことはあまり問題ではない。目下最大の問題はそれではなく、この戦いをギィが見ていると言う事。それだけが大きな問題なのだ。

 

世界最古の魔王であり、そして同時に最強の魔王との呼び声も高い魔王、ギィ・クリムゾンは【傲慢之王(ルシファー)】と言う強大な究極能力を持ち、ありとあらゆる能力を模倣すると言う出鱈目な力を持っている。原作ではそれを用いて他の魔王が究極能力を発現したら、その力を使ってそのまま模倣しようとしていた。考えも無しに【死霧之王】を使うようなものなら、即座に【傲慢之王】でその力を掠め取られてしまうだろう。様々な応用が聞く多彩さを持つ能力ならギィに模倣されてもある程度対策は練れるだろうが、生憎と【死霧之王】は単純で強力な能力の括りに入る。一瞬でも認知されれば丸裸にされてしまう。そんな確信があった。

 

(かと言って切り札を使わずに勝てるほどミリムは甘くない。それ所か、一瞬でも躊躇いの念を見せたら確実に潰される。だが使ってしまえばギィの思う壺…。一応一つだけ、その障害をすり抜けて勝負を決める事が可能な手段がある…が、準備をするのに時間がかかりすぎる上に、魔素の動きが激しいから発動前に感づかれる危険性が高い。成功したときのメリットはでかいが、相対的に失敗した時のデメリットも同じように馬鹿でかい。最悪の場合ミリムに成す術無く潰された後、ギィに能力を掠め取られるからな。さて、どうしたものか…ん?そういえば、【傲慢之王】には弱点があった気が)

 

「……い」

 

(そう言えば【傲慢之王】は分析系統の能力は模倣できないって言う欠点があったな。それなら【情報隠蔽】の能力を上手く使えばギィの模倣能力を回避できるんじゃないか?名言はされてない筈だが恐らく【傲慢之王】が発動される条件はギィの対象能力への認知。それを逆手に、俺が考えたギィへの対抗策を合わせれば…)

 

【絶対記憶】によって決して忘れることの無い原作知識を活用し、次々とギィへの対抗策を考えていくガレアだが、そこまで考えて驚愕の事実に気づいてしまった。それこそ気付かなかった方が幸せなのではないかと思えるレベルの。

 

(ちょっと待てよ、それなら【知ノ恵】との交信をシャットダウンした意味がないのでは…ヤバい、とてつもなく不味い予感しかしない)

 

「…ーい」

 

(少し無視したりからかうだけでも手痛い反撃をしてくる【知ノ恵】が何の理由も無しに交信を妨害されて黙っている筈がない!更に勘違いだったなんて事がバレたら…。いや、確実にバレてる…)

 

「おい!」

 

「!?」

 

しまった。そう思ったときにはもう遅い。

確実にあるであろう【知ノ恵】の精神攻撃に戦々恐々していると、突然背後から思わず耳を塞ぎたくなるような荒々しい声が聞こえてきた。何事か、と思わずガレアが背後を振り返ると、そこには額に青筋を浮かべたギィが腕組みをしながら聳え立っていた。

 

「聞いていたのか?」

 

「すまん、考え事に集中していて全く聞いていなかった。申し訳ないがもう一度言ってくれないか?」

 

「はぁ…やはり聞いていなかったか。集中するのは良いが少しは周りも見ておけよ?仕方ない、一度しか言い直さないから良く聞いておけ」

 

「…分かった」

 

どうやら考え事をしている内に周りの音もついでにシャットダウンしてしまっていたようだ。心の中で申し訳ないと思いつつ、ギィが語るであろう言葉に耳を傾ける。ガレアは恐らくミリムとの戦いにおいての注意やアドバイスの類いだろうと予測していたが、その言葉はガレアの予想を大きく斜め上に行くものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「喜べ、戦う相手がミリムから俺に変わったぞ」

 

 

 

 

 

「……………は?」

 

 

 

唐突に投げられたその言葉に、ガレアはただただ呆然としている事しか出来なかった。

 

 

▲▽▲▽

 

 

 

俺、ギィ・クリムゾンが奴に対して初めて抱いた感情は、『疑問』だった。

 

俺が魔王の仲介の場として提案した魔王達の宴(ワルプルギス)の開催地を模索している最中に感じた、並の魔物なら背筋が凍り震えが止まらなくなるレベルの殺気。恐らく無差別に放ったモノだろう。それだけで十分相当な力を持つ存在だと俺には理解できた。

だが俺にとっては何度も経験した事がある程度の殺気だ。何故放ったのかと思わず『疑問』を持ってしまった。

 

とりあえず、ヴェルダに『調停者』としての立場を任された以上、この殺気を放った奴には会っておく必要がある。そう考えた俺は直ぐ様殺気を放ったと思われる相手の元へと向かった。

 

 

思えばこれが、俗に言う運命と言うものだったのかも知れない。

 

 

 

「《魔王》ギィ・クリムゾン…!?」

 

奴が俺の事を認知した瞬間、表情には出さなかったが俺の内心は驚愕に染められた。

 

奴が俺の想定以上に力を秘めていたからではない。

 

予想よりも速く奴が俺の存在を認知したからではない。

 

奴が俺と同じ赤髪だったからでは……無い。似ているな、程度の認識だ。

 

奴が俺の事を《ギィ・クリムゾン(・・・・・・・・)》と表した事に、だ。

 

俺の事をギィと表するのはまだ理解できる。もう数百年名乗り続けているのなら、意識していなくてもその名が何処かで広まっていてもおかしいことではない。

だがクリムゾンは別だ。これは俺の競争相手でありライバルでもある勇者ルドラからつい最近(・・)受け取ったばかりの新しく付けられた名前。

無論、この名前は受け取ったばかりなので無暗矢鱈に公開などしていない。知っているのは他の魔王やルドラ率いる勇者一行だけだと思っていた。だがコイツは知っていた。

勇者の関係者かと思ったが、体内から僅かに漏れ出ている魔素からそれは違うと判断した。魔素を所持しているのは魔物や魔族と言った存在のみで、人間は通常魔素を保持していない。

 

 

 

今俺の正面にただすんでいるこの男は一体何者なのだろうか?俺の知らないヴェルダの関係者?否。

ルドラと戦ったときに近くに隠れていた小賢しい魔物、もしくは魔族?否。

 

そのどれもが確証を持てない、だが違うと言う確証も無い。しかし、不思議と俺はこの予想が違うと自信を持って判断できた。理由は分からない。それを問い詰められてもまともな返答はできないだろう。

 

 

そしてそのような思考を俺にもたらした眼前の男に対する感情は『疑問』から『警戒』へと入れ替わった。

だが、今は圧倒的に情報が無い。何の確証も無しに一方的に『警戒』するのは流石に思う所があったので、まずは相手の実力を確認する為に軽い手合わせをすることにした。

 

 

相手の了承?そんなのある訳無いだろ。

 

 

結果から言って、随分と驚かされた。

純粋な身体能力は俺と比べても何ら遜色はない。だが、戦い方においては俺よりも数段上手だった。

最初は来るなり唐突に攻撃を仕掛けてきた俺に驚いて防戦に重きを置いていたようだが、徐々に相手がこの状況に慣れてくると戦況に変化が生じてきた。さっきまでの動きとは180度打って変わって、確実に、的確に、こちらの動きを観察し見極め、痛打を加えてこようとしてくる。

時には足蹴りや膝曲げ等こちらの体制を崩すような行動をして隙を作らせるような動きをしていた。

一概に言って、力の使い方に関しては俺よりも上手い。俺の場合戦い方を工夫しなくてもそのまま力だけで攻略できる事が殆どなので、こう言う戦い方はしたことが無かった。見た限り体術の一種ではあるだろうが、長い間戦闘をしてきて、このような戦い方に覚えは無ぇ。

俺の知らない技術(アーツ)の一種か…?

 

勿論それだけでは身体強化系の能力で簡単に対応できるので明確な驚異足り得ないのだが、生憎と奴はそれ以上の引き出しをしてくる事もなく、戦いはそのまま俺の圧勝で終わった。

 

 

 

しかし、それが俺の『警戒』レベルを引き上げた。

 

 

 

今回、奴は俺との戦闘で能力を一切使っていない。【痛覚無効】を持っているのは戦いの中で確定したが、それはあくまで耐性であり、能力ではない。使える能力が無いのかと一瞬考えたが、後から来たミリムに魔素量を確かめさせた所、それは無いと判断した。

奴の魔素量はそこらの悪魔や魔物共よりずっと多い。

それに身を守るための体術も習得している。

なら必ず、自衛の為に攻撃系の能力を最低一つは持ち合わせてる筈だ。なのに今回はその能力を使わなかった。と言うことは…。

 

(信じたくねぇが、間違いねぇ。コイツ、俺の能力を把握して警戒していやがる)

 

瞬間、俺の奴──ガレアへの『警戒』は確かなものに変わった。どんな手段を使ったのかは分からないが、ガレアは俺の事を知ってやがる。いや、知っていると確信できたのが俺の事だけであって、ミリムやラミリスの事も知っていてもおかしくねぇ。ミリムがガレアに興味を持って戦うと宣言した時、一瞬顔面蒼白になっていたからな。恐らくミリムがどんな性格か理解してるんだろう。

 

そうなると益々ガレアがどんな手段を使って情報をかき集めているのか興味が湧いてくる。

 

解析系の能力持ちとコネがある?

 

可能性は高そうだが、そこまで相手の情報を網羅する解析系能力者は今まで聞いたことがない。ミリムでさえ魔素量を暴くだけだというのに、能力と真名まで解析する能力者が本当にいるのか?…確証がないな。

 

 

ガレア自身が余程強力な解析系能力の持ち主?

 

一番可能性が高いのはこれだろう。自身が持っていればその能力は自由に使う事ができるし、躊躇う必要もない。先の考察で能力と真名まで解析する能力者が本当にいるのかと疑問を抱いたが、奴がその能力者なら多少は納得できる。他の考察よりは現実味があるが、そうなると俺と戦っているとき何故能力を使わなかったのか。俺の究極能力、【傲慢之王】は知覚さえすれば大抵の能力は模倣できる、だが唯一の欠点として解析系能力だけは模倣できない。俺の細かな情報も知っているガレアがこの情報を知っていない筈がない。そう思っていたのだが…。

まさかとは思うが、忘れていた?いや、そんな訳は無いだろう。(その通り)

何にせよ確証が無いのでは決めつけはできない。

やはり本人に問い詰めるしか、真実を知ることはできないようだ…はしゃいでるミリムには悪いが、今回の戦いは俺に譲って貰うとしよう。

 

 

 

大穴の予想として観測世界からの転移者と言う考察もあったが、流石にそれは無いだろうな。

 

 

ミリムにガレアとの勝負を譲ってくれないかと頼んだが、案の定ミリムは盛大に駄々をこねた。

理不尽な提案なのは良く良く分かっているのだが、このままガレアがミリムに潰されるのは正直あまり宜しくない。もし俺の予想が正しければガレアは後の戦いの際に大きく役立つ事になるだろう。そう易々と手放す事は避けてぇ。

仕方ないので、今度本気のバトルをしてやると言ったら、渋々とだが了承してくれた。

…何かとんでもない事を言ってしまった気がするが、今はこちらに集中だ。ガレアに勝負の相手が俺に変更になった事を報告したがコイツ、考え事をしていて周囲の音を全く拾っていなかった。集中力があるのは良いことなのだが、これは多少イラッと来る。

 

その後俺はガレアに俺が勝ったらお前の事を話して貰うと条件を付けたが、やはり一方的な条件ではあちらが納得しないので逆にガレアが勝ったら魔王の地位を授けると言っておいた。

この提案にガレアは驚き少し考えていたが、やがて納得したように首を縦に振ってくれた。

 

 

さて、見せて貰おうか、お前の真実を。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

「喜べ、お前の相手がミリムから俺に変わったぞ」

 

「……………は?」

 

唐突にギィから延べられた言葉に、俺は呆然とするしかなかった。

だってそうだろう。

今の今まで絶体絶命な状況を打破する為に一生懸命策を労じてたのに、このタイミングで見事な手の平返しを受けたんだから。

「俺の苦労を返せ!」って思わず叫び返してしまう所だった。それはつまり、戦う相手がミリムからギィに変更になったって事なのだろうか?ギィの対抗策も考えておいたからそれ自体は別に問題じゃ無い。むしろ好都合。

けど、些か急展開過ぎないだろうか。

 

「…それに関しては構わないが、急にこんな行動を起こした事には何かしら理由があるんだろ?」

 

「あぁ。お前は俺を知りすぎている。その情報源が何なのか、お前の口から聞いてみたくてな」

 

…成る程。ギィは俺の情報が何処から貰っているのか気になるのか。まぁ、【傲慢之王】を警戒しているのはバレバレだっただろう。

前の戦闘では警戒しすぎて能力一切使わなずに終わったからな。でも、少し提案が一方的過ぎる。多分こちらが勝負を受けるようなメリットは用意していると思うけど。

例えば、こちらが勝てば何らかの地位を与えるとか。

 

「だがこんな一方的な提案が通るとは俺も思っていない。お前もそうだろう?そこでだ、俺が勝ったらお前の情報源を話して貰う。逆に、お前が勝ったらお前を新たな魔王として迎い入れよう。どうだ?悪くない条件だと思うが」

 

予想通りのメリットを用意していたようだ。

確かに後々の行動を考えると自由に動きやすくなり妨害を受けにくくなる魔王と言う地位は魅力が高い。

勿論魔王を目の敵にしている奴らに狙われると言うリスクもあるが、それを引いてもメリットはかなりでかい。だが、負けたときのリスクもこれまたでかい。情報源を洗いざらい話すと言うことは、俺が持っている最大のアドバンテージを失う事と同義であり、俺の素性を話す事にも繋がる。まして話す相手は最強の魔王であるギィ・クリムゾン。下手をすればこれからの俺の行動が激しく制限される恐れがある。それは何としても避けたい。どうすれば…。

 

…別に正直に話さなくても良いのではないか。

ようは相手が納得できるような理由を話せば良いだけだから。幸いにも俺には優秀な解析系の能力【知ノ恵】がある。それであちらの情報を探っていたと言えば万事解決。解析系能力は【傲慢之王】では模倣できないからバレても然程問題じゃない。

そうと決まれば了承するだけだ。

律儀に返答するのもあれなので、単純に首を縦に振るだけで留めておく。厳しい戦いになるのは承知している。

一度戦って負けているのだ、実力差は嫌に成る程分かってる。けど、それは正面(・・)から戦った時の場合。今回は【知ノ恵】がある、【死霧之王】も使える。

策も立てた。後はそれを実行するだけ。

再起動した【知ノ恵】からの罵倒雑言は正直怖いが、背に腹は変えられない。

二度目となるギィとの衝突に向けて、俺はゆっくりと【知ノ恵】の能力を再起動させた。




最近暑くてクーラーが欲しい…。扇風機だと気休めにしかならねぇ…。

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《第14話 知ノ恵(チノメグミ)の制裁》

語彙力が乏しいせいで物語の繋ぎを文章で表現させる事ができなくなってしまい、ここまで投稿が遅れてしまいました。本当に申し訳ありません。

只今小説や辞典を読んで表現力や語彙力を強化している最中なので、長い目で見てくださるとありがたいです。

では、どうぞ。


ギィとの決戦に備え、俺はシャットダウンさせていた知ノ恵(チノメグミ)との繋がりを再起動させようとしたのだが…後少しの所で立ち止まってしまった。

 

何故俺は立ち止まってしまったのか。その答えは簡単、怖いのだ。

知ノ恵に黙って勝手に繋がりを遮断してしまったのは否定できない。しかもその行動が完全に無駄な行為だったのだからぐうの音もでない。

確実に制裁を加えてくるだろう。それも容赦なく、徹底的に、俺の心を折るべく罵倒雑言を際限なく投げつけてくるだろう。それに対して俺は何もできない。そもそもこれは100%俺に非がある問題だ、抵抗する余地すらないだろう。

だから怖い。言いたい放題の知ノ恵がどのような行動に出るのかまるで予測がつかない。制限が付けられていた状態でもかなり俺の心をえぐってきたのだ、その制限がない今、一体どのような仕打ちをしてくるのだろう。

 

 

キチンと反省し謝れば許してくれるかもしれないと言う淡い希望を抱いたとて、俺を精神的にいたぶる事を楽しんでいるのだろうあのドSが、顔は見えないがきっと醜悪な笑みを浮かべて俺の心を抉ってくるあの悪魔が、果たしてそんななま易しい対応をしてくれるのだろうか。いいやきっとしないだろう。むしろしない方が自然だ。

基本的に知ノ恵は俺に対して容赦がない。無論慈悲もない。言いたいことははっきりと言ってくるし、異論がある場合は一切の躊躇もなく物申してくる。何度も心を折られかけた事も勿論ある。実際に心を折られた事もある。この世界に来てから付き合い始め、一ヶ月も経っていない、未だ短い付き合いではあるが、これ位は理解できるようになってきた。理解せざるを得なかった。となるとやはり、希望はかなり薄いだろう。だが、そうやっていつまでもウジウジしていたら何も進まない。

 

そうだ、もしかしたら全て笑って許してくれるかも知れないじゃないか。本当にもしかしたらだが。

そして何処か現実逃避にも似た強引な方法で、思考をポジティブへと切り替えた俺は、知ノ恵が許してくれるかもしれないと言うその根拠も何もない一縷の希望にすがって知ノ恵を再起動させた。

 

 

──どうか、許してくれますように……!

 

 

《マ~~ス~~タ~~?》

 

 

……駄目みたいですね(絶望)

 

 

 

◇◆◇

 

 

「さて、始めるか…って何だその生気が根こそぎ抜けたようなそのだらしのねぇ顔は」

 

「すまない、少し待っていてくれ…」

 

「?」

 

ギィの疑問は分かる。今さっきまで普通に会話をし、いざ戦おうとしている相手が急にゾンビ見たいにうなだれていたら誰だって不思議に思うだろう。

抱いた希望は奇しくも届かず、案の定ガレアは知ノ恵にじっくりと絞られた。人を殺しても全く動じることが無かったガレアの鉄の心は、既に皹割れた硝子のようにボロボロになってしまっている。

その時の様はあまりにも酷く、とても詳しく表現できるものではないのだが、本来哀れられる筋合いのないガレアがとてつもなく可愛そうな人に写っていたほど酷かったと、ここに記そう。

 

能力(スキル)の恩恵で忘れる筈の無い原作知識を活用せずに一方的に後手に回るとか言う馬鹿を晒してしまったんです、自業自得じゃないですか。》

 

知ノ恵は慈悲と言う言葉を知らない。正確には知っているのだが、ガレアに対してそれは不要と判断しているのだ。ガレアに反論の言葉はない。反論できる要素がないのだから仕方がないのだが、あまりにも一方的に責められ続けて心がポッキリ折れてしまった。

これからギィとの戦いが待っていると言うのに酷い有り様である。

 

《ほら、早く立ち直ってください。いつまで無様な姿を晒しているおつもりですか?》

 

──お前のせいでこうなったんだが…。

 

《何か言いました?》

 

──いえ、何でもないです。

 

本当に酷い有り様である。(マスター)が従者に頭が上がらないとはこれ如何に。

 

結局ガレアが立ち直るまで、かなりの時間を有することになってしまった。他二人の魔王はともかく、案の定待つのが苦手なミリムは相当ご立腹に…

 

「ほらミリム様、菓子ができましたよ」

 

「おぉ~!ネフィ、これは何と言う菓子なのだ?」

 

「これはホットケーキと言う菓子です。ふんわりしてて美味しいですよ~」

 

「ふむ……うむ、これもまた美味しいのだ!ネフィ、お主は菓子作りの天才だな!」

 

「そ、そんな…畏れ多いですよ、ミリム様…。私なんてまだまだ…」

 

「謙遜するでない!私も長い時間を生きてるが、こんなに美味しい菓子を食べたことは無かったぞ!お主がガレアの配下でなければ、私が配下にしていたぞ!本当に惜しいものだ!」

 

「あ、ありがとう御座います…。…ガレア様と出会っていなければこの菓子を作る事すらできなかったんですが…

 

「ん?何か言ったのだ?」

 

「いえ、何でもありませんよ」

 

……普通ならなっていたのだが、ネフィがミリムに餌付けをして見事に対応してくれていたので、幸運にも大事に至ることは無かった。ガレアはネフィに相当感謝するべきだろう。しかし肝心のガレアは度重なる精神的なダメージのせいで周りが全く見えておらず、ネフィとミリムのやり取りも全然頭に入っていないが。

 

何度も言うが酷い有り様である。

 

人を殺しても全く動じることがない程精神が強いのならば、もう少し持ちこたえて欲しいものだが、その精神を持ってしても耐えられない程、知ノ恵の言葉責めが凄まじかったのだろうか。

どちらにしても、ガレアが救われたのは事実である。割と真面目にガレアはネフィに感謝するべきだろう。

今の現状ではとても無理そうだが。

 

 

「ちょっと、あたしの分は?」

 

「あっ…忘れてました」

 

「ちょっとーー!」

 

ラミリスは相変わらずだった。

 

◇◆◇

 

 

「待たせたな」

 

「いや本当に待ったぜ。まさか戦おうと言ってから二時間近く待たせられる事になるとはな…」

 

「それは真面目にすまない」

 

「まぁいい…で?覚悟は決まったのか?」

 

「それに関しては、既に最初からできている」

 

「はっ…そりゃいい」

 

 

様々な問題が重なり、長引いてしまったが…ようやく、

 

 

「ミリム~、あんたの目から見てどう?」

 

「うむ…細かい事は実際に見ないと分からないのだが、恐らく…」

 

「恐らく?」

 

「ほぼ間違いなくギィが勝つだろうな」

 

「…でしょうね、ギィが負ける姿なんて予想できないし」

 

 

始まる。決戦が。

 

 

片や最強最古の魔王、ギィ・クリムゾン。

 

片や神の力をその身に宿す者、ガレア・クレアーレ。

 

 

両者共にこの世界の上位者、そして、規格外。

 

「…どうでしょう」

 

「ん?ネフィ?」

 

「勝負はやってみないと分かりませんよ。ガレア様には秘策があるようですし。それに…」

 

 

その二人が余程の時を得て、今。

 

 

「例え勝ち目が薄くても私は…ガレア様の勝利を、信じます」

 

「…うむ。それでこそ、従者だな」

 

 

ぶつかる。

 

 

「それじゃあ始めようぜ…血湧き肉踊る戦いを!」

 

「準備はいいか、知ノ恵」

 

《いつでも》

 

 

戦いの火蓋は既に切られた。

 

 

「良し…決戦開始(バトルスタート)だ」




文章下手でも書き続けないと成長しない、いつまでも経っても前に進まない。

小説家になるための心構え等を説明している様々なサイトを徘徊して、ようやく分かった事。それでもすぐに実践できる訳ではないですが、少しづつ実践していこうと思います。

至らない所がありましたらどんどん言って貰って構わないです。作者のメンタルが何処まで耐えられるかは分かりませんが、できる限り遵守し、改善していこうと思います。

まだまだ未熟な作者ですが、これからも宜しくお願いします。


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《第15話 魔王VS半人半神①》

ようやくの戦闘回。



では、どうぞ。


先に動き出したのはギィだった。

 

常人には知覚できない程のスピードでガレアの懐へと接近し、無造作に拳を振るう。

並の相手ならこの一撃で呆気なく撃沈しているだろう。だがしかし、この魔王が対峙している者は当然ながら並の相手ではない。

ガレアはその一撃を片手で軽く下に受け流すと、空いたもう一方の腕でギィに向けてカウンターを放つ。だがギィはそれを読んでいたのか、受け流された腕を垂直に上げ、それをカウンターを仕掛けていたガレアの腕に強くぶつけることでその一撃の軌道を上手くそらした。

 

「ぐっ…」

 

同時に、ガレアの表情が苦いモノへと変わる。

先の衝撃でカウンターを仕掛けていた腕が大きく上へと逸れてしまい、懐ががら空きになってしまったからだ。

 

《っマスター、防御を!》

 

「分かってる!」

 

間髪入れずにギィの攻撃がガレアに襲いかかる。咄嗟の判断でもう片方の腕を戻し、何とか受け流したが、咄嗟だった為完璧に受け流せず、その衝撃で後方へとかなり吹き飛ばされてしまった。【知ノ恵】が最適な行動パターンをガレアの脳内に伝達し、それをガレアが即座に実行しなければ、これだけではすまなかっただろう。

直ぐ様体勢を立て直し正面へと向き直るが、その時既にギィはガレアの眼前へと即座に移動しており、目にも止まらぬ激しい追撃を仕掛けてきた。早く、そして鋭い一撃が目にも止まらぬ程のスピードで迫ってくる。しかしガレアもやられっぱなしではいられない。紙一重でその一撃を見切ると同時に反撃して攻勢を五分へと持ち直した。そして戦いは純粋な殴りあいへと発展する。

 

まだ戦いは始まったばかりだ。こんな序盤でつまづくようでは話にならない。そう思ったガレアは気合いを引き締め、正面の敵へと意識を向けた。

 

 

◇◆◇

 

 

「これは…驚いたのだ」

 

「まさかここまでギィと渡り合えるだなんて…」

 

その一連の戦いの様を、観戦しているミリムとラミリスが驚愕の表情を浮かべながら表現する。ミリムとラミリスはギィの実力を良く知っているから余計に驚いた。まさかここまで戦況が緊迫するのは予想外だったのだろう。ギィの実力は、能力を抜きにしてもかなりのモノ。対抗できるとしてもほんの一部の強者達のみ…なのだが、まさか今ギィが相対している者がその一部だとは思いもしなかった。

 

「激しくなるぞ…この戦いは」

 

「えぇ…間違いなくね。本当に驚きだわ…」

 

二人の戦いはこの先、更に激しさを増していくだろう。そう確信したミリムとラミリスは先程より真剣な顔付きでこの戦いを見つめる。そこには並々ならぬ意志が確かに感じ取れた。

 

(ガレア様…)

 

その一方で、ネフィの心境はとても落ち着いたモノだった。例えガレアが強かろうと、相手は世界の支配者である魔王。勝てる保証はない。ただでさえ以前負けているのだ。勝つ確率等限りなく低いだろう。だと言うのに何故ここまで落ち着いていられるのか。

 

答えは当然。信じているからだ、自分の主の力を。

 

例えどんな強敵だろうと、自分の主は──ガレア様は勝ってくれる。そんな確信が彼女にはあった。勿論、その確信が本当に正しいのかは分からない。けど、信じることしか今の彼女にできることはない。だから、ネフィは自分の主の勝利を信じ、静かに手を合わせて祈るのだった。

 

(ガレア様は、勝ちます。私は、そう信じます)

 

 

◇◆◇

 

 

一連の攻防の最中、ガレアは目の前の違和感に気が付いた。

 

(……以前とは、戦い方がまるで違う。)

 

ガレアとギィが最初に戦ったときにもこのような肉弾戦をしたのだが、ギィの近接格闘術はただ相手を叩きのめす為の大雑把で単純な威力重視の一撃が多かった。だからこそ技術で対応し、有利に進めることができたのだ。結局その時はガレアが有利なまま進行し、不利だと感じたギィが能力を頻繁に使い始め、ギィが持つ【傲慢之王(ルシファー)】の能力を過剰に警戒し過ぎて能力を使うことができなかったガレアがそのまま力押しされて敗北してしまったが、今回はそうはいかない。

 

【知ノ恵】のサポートもあるし、多少ではあるが能力も解禁させている。無論切り札となる能力は勝負の時まで温存させるつもりだが、以前の時よりは戦える筈だ。そう思っていたのだが…それは見通しが甘かったと言わざるを得ないだろう。

 

ギィの動きは明らかに以前とは違うモノへとなっていた。前回のような力任せの大雑把な動きではなく、淡々と獲物を追い詰めていくような細かで線密な動き。恐らくだが、前回は本気で戦っていた訳ではないのだろう。今回になってようやく本気を出してきたと言うことか。戦いを楽しむ戦闘狂なら別の反応を示したのかもしれないが、生憎ガレアはそこまで戦いが好きと言う訳じゃない為、そこまでいい気分にはなれない。いくら戦い方が上手かろうが、ガレアの本質は殺しであって、戦闘ではないのだ。

正直、今の戦況は多少ギィの有利へと傾いている。このままではその勢いでギィが押し勝ってしまうだろう。だがしかし。

 

 

ここで一つ問おう。引き金を引き、殺しを行っても全く心を動じさせない者が、たかが戦闘で一度劣勢になった程度で、心を折られる事があるだろうか。

 

《マスター、今です》

 

答えは──否だ。

 

 

◇◆◇

 

 

(ククク…そうこねぇとなぁ!)

 

止めどなく繰り返される激しい攻防の中、ギィは身体から湧き上がる熱気を強く感じていた。

 

七日七晩休むことなく戦い続けたミリムとの死闘。

 

世界のあり方を賭けたルドラとの激闘。

 

両者共に世界の命運すら分けた、正しく激戦と言って良いモノだ。戦いの激しさこそ劣るが、今この戦いに迸る熱意は、それらの戦いにも決して劣らない。現に今この瞬間にも戦いは激しさを増し続け、それに呼応するようにギィの闘志もまた、更にその勢いを増していく。今、ギィは最高に燃えていた。

 

(どうした、まだ踊れるだろ!)

 

現状、戦況はギィの有利。しかし当然、ギィは追撃の手を緩めるような真似などしない。容赦なく追撃を仕掛けていく。頭部、胸部、鳩尾と、的確に急所を狙い、強烈な打撃を放つ。しかしそれらの攻撃は全て届く前に寸前で弾かれてしまった。それにギィは苦渋の表情を浮かべることなく、寧ろ更に獰猛な笑みを浮かべて、次の追撃を放つ体勢へと即座に移る。しかし。

 

(───っ!?)

 

その瞬間、不意にギィの右腕に激痛が走る。途端にギィの表情が苦悶に歪み、思わず衝動的にガレアとの距離を取った。

 

(何が…っ!)

 

すぐに何が起こったのかとその激痛の原因である右腕へと視線を寄せるが、その右腕は二の腕より先が丸ごと切り落とされなくなっていた。

 

一体何故と思ったが、答えは分かりきっている。今の状況でそんな芸当ができる相手は一人しかいないからだ。

 

その原因となったであろうガレアの左手には黒く輝く剣がいつの間にか握られていた。間違いなく、ギィの右腕はそれで切られたのだろう。しかも只の剣ではない。ギィの身体は並の剣では傷一つ付かない程強靭だ。むしろ逆に斬り付けた剣の方が折れてしまうだろう。だと言うのにあの剣はギィの身体に傷を付けるどころか、あろうことか切断してしまった。それだけでも脅威なのだが、問題はそれだけではない。

 

(傷の治りが遅せぇ……クソッ)

 

ギィが【傲慢之王】で模倣し得た能力の中には、当然回復系の能力もある。失った腕の一つぐらいすぐに再生させられるだろう。

だが、その能力は阻害されているのか上手く機能せず、その再生速度はとても遅いものになっていた。

 

(詳しくは分からねぇが間違いねぇ、能力を使った攻撃だ。一体どういった能力なのかはまだ掴めねぇが…チッ、やってくれる)

 

ガレアは内心でそう愚痴を吐いた。今付けられたこの傷がこの戦いの最中に治るのは難しいだろう。

ギィは苦虫を噛み潰したような気分になった。それは腕を切り落とされた事にではなく、それに対応できなかった自分自身に対して、だ。

ガレアとの殴りあいに少々気分を熱くさせて冷静さを欠いていたのは事実。正直、情けなくて泣きたいくらいだ。だが今はそんな余裕はない。この序盤で片腕を失ったのは流石に痛い。間違いなく、これからの近接戦は不利になるだろう。そう確信したギィは改めて気合いを入れ直し、眼前の相手へと対峙する。

 

(面白れぇ…上等じゃねぇか…!)

 

戦いは、更に佳境へと差し掛かろうとしていた。




余談ですが、今まで投稿してきた話を大幅に改善することにしました。設定がどんどん矛盾してきましたので…辻褄合わせに。


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