鍛冶師の妖精 (みかんブリ)
しおりを挟む

プロローグ

能力がなかなか思いつかなかったのでFateにしたんですが、それならいっそのこと転生してもらおうかと思ったのですけど、日本から転生したただの一般人が急に命懸けのバトルに挑んだり、ハーレム作りに行くのは違和感があって、神様に能力貰うのもなんか嫌だったので、こんな感じになりました。


 カァン、カァンと鉄を叩く音が部屋の中に響き渡る。

 その工房の主であるエルフの青年、エルスは一心不乱に剣を作り続けていた。

 

 

 エルスがこのオラリオに来てから、7年が経過しようとしている。最初はなんとなく、里の外の世界に行ってみたいという好奇心でやって来て、冒険者になるのも面白そうだと思い、【ファミリア】を探し始めた。

 

 

 エルスが【ファミリア】を探し始めた時は、このオラリオの最大派閥である【フレイヤ・ファミリア】も【ロキ・ファミリア】も、入団テストなんてやっておらず、かと言って、商業系の【ファミリア】にはあまり入りたくない、そんなことを思っている時に、あるメンバー募集の紙を見つけた。そこに示された場所に到着すると、ひと目で自分たちとは違う存在だと分かる女性が待っていた。

 

 

 女神――地上の子供たちとは違う、超越存在(デウスデア)――が、そこに集まった彼らに1本の剣を見せ、言った。

 

 

「これを見て違うと思ったら、別の派閥に行きなさい」

 

 

 それを見せられた瞬間、エルスはこの女神の【ファミリア】に入ることを決めた。正真正銘ただの剣、ただのロングソード。しかし、彼は、ただ漠然と剣を打つ技術を鍛えていても、あの極致に到達することは出来ないと確信した。

 

 

「すげぇ……」

 

 

 知らないうちに、そんな言葉が漏れた。あれは間違いなく人の身で打てるものだ。されど、あの高みに到達するには、あまりにも多い時間と自らの才能が必要だろう。だが、幸いにも自分はエルフだ。他の種族よりは寿命が長い。後は自分にあの極致まで到達する才があるか、いや、仮に無くてもあそこに手を伸ばし続ける。そう覚悟を決め、未だに剣から目を離せない他の入団希望者を横目に、言った。

 

 

「俺をこの【ファミリア】に入れてください、ヘファイストス様」

 

 

そうエルスが言うと、鍛冶神は笑った。

 

 

「歓迎するわ、ようこそ私の【ファミリア】へ」

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「よし、完成っと。じゃあちょっと行くか」

 

「なんだエルスよ、こんな遅くにどこに行こうというのだ」

 

「……なんだ椿かよ、勝手に人の工房に入ってくるなよ、ビックリするだろ」

 

「それは悪い事をした、次からは気をつけよう。ほら、そんな事より早くどこに行くのか答えよ」

 

 

 悪い事をしたと欠片も思ってないような顔で迫ってくる椿に、エルスは、少し顔を顰めて言った。

 

 

「ダンジョンだよ。最近、鍛治ばっかりで潜ってなかったからな」

 

「なるほど、今夜はお前と酒を飲もうと思っていたのだがな」

 

「悪い、また今度な」

 

「いや、それは仕方ない。では、この神酒(ソーマ)は我が主神様と飲むとしよう」

 

「待った!やっぱり今日は止めにしよう。さぁ椿、酒を飲もうか!」

 

 

 神酒を飲むと宣言した瞬間に自分の主張を翻したエルスを見て、少し笑った後、あらかじめ持ってきていた杯に、神酒を入れてエルスに渡した。

 

 

「ああ、ちなみにドワーフの火酒もあるが、どうする?」

 

「飲むわけ無いだろ……あんなの飲んでたら明日もダンジョンに行けねえよ」

 

「確かにお前はそんなに酒に強くは無かったな。しかし、お前が入ってきてからもう7年か……あっという間だったな」

 

「そうか?俺はこの7年は結構長く感じたけどな」

 

「お前には色々な事があったからな。なぁ、レベル4第2級冒険者【奇術師(マジシャン)】エルス・ラージェ。そろそろ手前に追いつけるのではないか?」

 

 

 無責任にそんなことを言う椿を見て、こいつをいつか絶対追い抜いてやろう、と決心しながらエルスは酒を煽った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ダンジョンに行こう

ダンジョンに行くとか言ったわりに、ほとんど行ってません。自分で書き始めて小説を書いている人の凄さを思い知りました。


「はい、ステイタスの更新終わったわよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 椿と酒を飲んだ次の日、エルスはヘファイストスのもとを訪れていた。結局、あの後、神酒だけでは満足出来ないという椿に付き合わされて、ドワーフの火酒を飲まされて頭が痛い、という愚痴のようなものや、同じ【ファミリア】の下級冒険者に面白いヤツがいるといった世間話を話すエルスを見て、鍛冶神は柔らかい笑みを浮かべていた。

 

 

「おっと、もうこんな時間か」

 

「今日は何か用事でもあるの?」

 

「まるでいつも用事がないような言い方は止めてくださいよ……久しぶりにダンジョンに行こうかと」

 

「ああ、なるほど、一人で行くならあまり深くまで潜っては駄目よ。調整だけなら深層には行かずに帰ってくること」

 

「分かってますよ、椿じゃあるまいし」

 

「あら、そうなの。こんなに聞き分けが良かったかしら」

 

 

 自分の言ったことを素直に聞いた事が意外だったのか、ヘファイストスはエルスを見て頬を緩ませた。エルスは、自分はもともと聞き分けが良かったほうだ、と言い返そうとしたが、よくよく思い出してみると、ヘファイストスの眷属になったばかりの頃は、オラリオの人々とのふれあいや、未知なるダンジョンに惹かれてほとんどヘファイストスの命令を聞いていなかったかな、とそんなことを考えて何も言えなくなってしまった。そんな自分の心情を察したのか、ヘファイストスがニヤニヤしていたので、彼女には一生敵う気がしないな、そう思ってエルスは笑った。勿論、そのままこの場を離れるのは癪なので彼女の額にデコピンを食らわせたが。額を押さえて涙目になる女神を見てからエルスは出ていこうとしたら彼女に呼び止められた。

 

 

「まったく、不敬ね……それはそうとして、もうすぐ【ロキ・ファミリア】の遠征もあるからその時はあなたもついていくことになるかもよ」

 

「本当ですか!?俺のステイタスなんて未開拓領域に行ってまで誤魔化していけるほど高くないんですけど、もうバラしていいんですか?」

 

「まあ、良いでしょう。もうすぐ貴方もレベル5になるでしょうし、私の【ファミリア】なら貴方のレアな能力も、バレてもそんなに酷いことにはならないでしょうから……たぶん」

 

「ものすごく不安なんですけど……じゃあ行ってきます」

 

「ええ、行ってらっしゃい。気をつけなさいよ」

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 ヘファイストスはエルスが部屋から出ていった後、先程、彼のステイタスを記した紙に目を落とした。

 

 

(あの子の能力は確かにレアだけど『ぶっ壊れスキル』とまではいかないから、大丈夫だと思うけど……)

 

 

  エルス・ラージェ

  Lv.4

  力 :D501→505

  耐久 :D503→506

  器用 :B786→794

  敏捷 :A876→883

  魔力 :A888→894

  鍛冶 :G

  精癒 :G

  耐異常:H

 

  《魔法》

  【投影魔術(グラデーション・エア)

  ・物質の解析と投影を行う

  ・投影されたものは一定以上破壊されると消滅

  ・投影で生み出したものは元のものより精度が落ちる

  ・詠唱式【投影、開始(トレース・オン)

 

  【壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

  ・無機物に魔力を流し込むことで魔力爆発を起こす

  ・速攻魔法

 

  《スキル》

  【魔力操作】

  ・魔法の威力増加

  ・魔法で生み出したものを精神力を消費する事で自在に操作可能

 

  【疾風怒涛】

  ・精神力を消費する代わりに敏捷値増加

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

『オオオオオオン!!』

『ヴォオオオオオオッッ!!』

 

 

「『ヘルハウンド』に『ミノタウロス』がこれまたわんさか出てくるな……ふッ!」

 

 

 軽口を叩きながらも、先日作り上げた長剣を振りかぶり『ミノタウロス』に切りつけて、魔石に変えていく。ここは17階層、レベル2の冒険者でも来れる階層だが、このモンスターの群れに1人で対応できる者はほとんど存在しないだろう。だが、エルスはレベル4、この下の下層や深層に潜れる能力を持つ彼にとっては、こんな敵たちは特に危険でもない。オラリオに来たばかりの彼では確実に勝てない相手を鍛え上げた技術と能力で打破する、それが冒険者の面白いところであると彼は思っていた。

 

 

「これで……最後だなッ!」

 

『グォッ!』

 

「よし……この剣も結構いい感じだな」

 

 

 最後に残った『ヘルハウンド』を倒したあと、長剣について少し考えながら道を進んでいくと、整った直方体の広間にエルスは到着した。ゴツゴツとしている岩石が天井を埋め尽くしているのにも関わらず、左側の壁面は、まるで石工が磨いたのかと思うほどに凹凸が一切ない。冒険者の中では『嘆きの大壁』とも呼ばれるもの。母なるダンジョンが階層主を産み落とす。エルスはここに『ゴライアス』が入れば戦うつもりだったのだが。

 

 

 

「なんだ、アイツはいないのかよ。『リヴィラの街』の連中が倒したのか?」

 

 

 どうしよう、こいつを倒して帰ろうと思っていたのだが、これ以上下に行けば帰りが遅くなるしなぁ、そんなことを考え、やはりもう帰ろうと決めたエルスは帰りの道を進んだ。

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

1階層、冒険者になったばかりだと思われる若者がちらほら見えてきた頃。

 

 

「――――――ぁあああ!」

 

 

 そんな、叫び声が聞こえてきた。モンスターに襲われているにしては、声がどことなく明るい。では、初心者がモンスターを倒して、感極まっているのか、と思い無視していると、周りの冒険者が一斉に自分の背後を見てぎょっとした顔を浮かべた。何事かと振り返ってみると。

 

 

「すいませーん!どいてくださーい!」

 

 

 全身に血を浴びた真っ赤な冒険者が走っていた。そのまま自分の横を、叫びながら通り過ぎていく少年を見てエルスは。

 

 

「馬鹿なのか?あいつは……」

 

 

 そんなことを呟いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

豊穣の女主人

誤字脱字報告ありがとうございます!


「ゴメンね、リュー。お買い物手伝ってもらって」

 

「いえ、気にしないでくださいシル。店の食材が足りなくなったなら、私にも買い物に行く義務がある」

 

「ふふっ、ありがと」

 

 

  リューは、ミアに食材の買い出しを頼まれたシルの手伝いをしていた。『豊穣の女主人』で働いている者は皆、女性であり、その中でも見目麗しい者が接客を行っている。そのため、店はいつも繁盛していて今回のように、食材が夜まで持たないこともたまに起こる。

 

 

 

「それでシル、何を買うのですか?」

 

「うーんとね、野菜炒めのための野菜と、調味料が無くなりそうだから買ってきてくれって」

 

「なるほど、確かに調味料がなくなるのは痛手だ」

 

「そうだよね、――そういえばリュー、本当は私についてきたのは、誰か会いたい人がいたから?」

 

「はい……最近は彼に会ってませんし――はっ!シ、シル!何を言い出すんですか!?」

 

 

  何気ない会話に仕込まれた罠に、リューはすっかり嵌ってしまい、思わず声を上げる。シルはそんなリューを見て、上手くいったとばかりに笑った。これ以上何か言おうとしても墓穴を掘るだけだと思ったリューは、いつも通り無表情を装おうとしたが、頬を上気させ、エルフの特徴である少し尖った耳まで真っ赤になっている彼女は、誰の目から見ても、自らの内心を隠せてなかった。そんな彼女を見て笑みを浮かべていたシルだったが、目の端である人物を捉え、ますます笑みを深くした。リューと同じ金色の髪に紅い目、がっしりとした身体つきではないものの、お店に来る神々が言うところの『細マッチョ』を思わせる。今は数名の女性に囲まれているが、エルフで二つ名持ちの冒険者ならば、人気も出るだろう。

 

 

「ねぇ、リュー。あれってエルスさんじゃない?」

 

「っ!……本当ですね」

 

 

  シルが指さした方を向くとエルスがいて、リューは少し笑みをこぼした。しかし、女性に囲まれているのを見て、少しそわそわしているとシルが。

 

 

「行かなくていいの?困ってるようだけど。このままだったら、取られちゃうかもよ?」

 

「……少し行ってきます。すいませんが、待っていてください」

 

「ふふっ、わかりましたー。ついでにエルスさんも呼んできたら?一緒に買い物に行こうって」

 

「そうですね……」

 

 

 シルに背中を押されたリューは、エルスのもとに歩き始めた。汚れた自分では彼の横に立てないと、もっと他に良い人がいる、と頭ではわかっているのだが、彼の横に知らない女性がいるのが、リューは嫌だった。

 

 

「こんにちは、エルスさん」

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

(【ロキ・ファミリア】の遠征について行く……か)

 

 

  ダンジョンから帰った後、ギルドで換金も済ませたエルスは、ヘファイストスに言われたことを思い出していた。そもそも、彼らの未到達階層は59階層なので、今遠征に行っていて帰った後、直ぐに次の遠征の準備をして、出発するには、団員の休みも必要だろうし、何より大量のお金が必要だろう、と主神に問いを投げかけてみたが、そんな気がする、と言われてしまえばそれまでだった。神の勘ほど不確実なくせに信ぴょう性があるものは無い。

 

 

(流石に深層で魔法を隠してる場合じゃないしな……)

 

 

  エルスに魔法が発現した時、ヘファイストスは彼に他のファミリアの前では決してそれを使うな、と厳命した。彼の魔法はほぼ無限に武器を生み出せると言うもので、更には爆弾にもなると知られてしまえば、【ロキ・ファミリア】などの探索系ファミリアにとって魅力的すぎる。一応、【投影魔術】にもデメリットはあるのだが、自分で作ったものに関しては、そのデメリットもほとんど働かない。いや、仮に働いてもその圧倒的な物量の前には些細なことである。

 

 

  また、エルスは基本的に他者との接触を好まないエルフである。もし、魔法がバレてしまえば、見知らぬ人々に囲まれることは想像に難くない。今でこそ、かなり改善されたものの、知らない人物に自分からならともかく、相手からは少し抵抗があった。そのため、エルスはヘファイストスの命令を守り、基本的に人前では、スキルの【魔力操作】で元々身につけている剣を自在に操作することで戦ってきた。その独特の戦い方が【奇術師】と呼ばれる所以である。

 

 

  閑話休題

 

 

  先程も述べた通り、エルスは見知らぬ人々に囲まれることは、まだ少し苦手である。つまり━━

 

 

「エルスさん!握手して下さい!」

「エルス様!サイン下さい!」

「少しお茶でもどうですか?」

 

 

  このように女性に囲まれると、どうしたら良いのか分からなくなってしまう。先程からやんわりと断っているのだが、グイグイ来る彼女達に押されている。これが冒険者ならばもう少しやりようがあったのだが、一般市民で自分のファンだと言う人を邪険には扱えなかった。いつもなら、同期であるレイグや先輩である椿がいるのでなんとか躱していたのだが、生憎今は1人である。この状況をどうにかするべく頭を回していると……。

 

 

「こんにちは、エルスさん」

 

 

  そんな救いの手が差し伸べられた。

 

 

「リュー!こんにちは、久しぶりだな」

 

「ええ、半月ぶりくらいでしょうか」

 

「悪いな、最近ちょっと忙しくてな」

 

「構いません。ですが、時間があれば是非とも来てください。……なにか困り事のようですが大丈夫ですか?」

 

「えっ……ま、まあ」

 

「なるほど、貴方達、彼が困っていますので、退いてもらえると有難いのですが」

 

「「「……っ!」」」

 

 

  リューの気迫に気圧されたのかそそくさと去っていく彼女達を見て、ようやくエルスは胸を撫で下ろした。

 

 

「ふぅ……助かった、ありがとう。リュー」

 

「いえ……そういえば、エルスさんは何をなさっていたのですか?」

 

「ああ、さっきダンジョンから帰ってきたんだけど、市場に面白そうな食材があるなら買って帰ろうかと」

 

「それならば、私たちと一緒に行きませんか?ちょうど私たちも買い物に来ていたので」

 

「私たちって……シルがいるのか。じゃあ一緒に行こうか」

 

「はい」

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「ごめんなさいね、荷物を持ってもらっちゃって」

「大丈夫大丈夫、こんなのたいして重くもないからな」

 

 

  市場で買い物を済ませたエルスたちは、帰路についていた。相手が女性なら、あまり荷物を持たせるわけにもいかないし、シルにお礼を言われるようなことでもないとエルスは思っていた。

 

 

「そういえば、エルスさんはこの食材を買ってどうするんですか?」

 

「そりゃあ、料理して食べるんだよ」

 

 

  シルからの問いに、エルスは普通に返答したのだが、余程意外だったのか2人とも思わず立ち止まって、エルスを見つめていた。

 

 

「なんだよ、俺が料理するのってそんなに意外?」

 

「はい……貴方はその……」

 

「そうですよ、てっきり外食ばかりかと思ってました」

 

「それじゃあ、今度食わせてやるよ。明日あたりにミアさんに頼んで厨房貸してもらうか。リューも食べる?」

 

「エルスさんがよろしいのならばお願いします」

 

「了解っと。じゃあ俺はこっちだから、また明日」

 

「はい、さようなら」

 

 

  エルスが去っていくのをじっと見つめていたリューを見て、シルが一言。

 

 

「エルスさんに明日も会えることになって嬉しい?」

 

「シル……いい加減怒りますよ」

 

「ふふっ、ごめんね」

 

「いつかシルに想い人でも出来たら、私も反撃しますから」

 

「リューがやると怖そうだね……」

 

 

 

 

 




先に言っておくと、今作では武器を投影しても使い手の経験や記憶は自分のモノにならないので、本当に武器を生み出せるだけです。でも、武器を作ったのは自分なので、士郎が使う「技術を模倣し〜」の工程は完全再現出来るので、特にデメリットなしにしました。で、スキルの、魔法で生み出したものを自在に操作するというのは、エミヤたちみたいに、一斉掃射が出来たり、剣が自分の周りをふよふよ飛べるようになるというスキルです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

兎との遭遇

「まさか、あの【ロキ・ファミリア】が未到達階層に行けずに帰ってくるとはな」

 

「主神様が聞いた話によると、緊急事態(イレギュラー)が起こったらしいしな」

 

緊急事態(イレギュラー)?何があったんだ?」

 

「安全階層の50階層に新種のモンスターが現れたらしい。なんでも、そいつに触れると酸のようなもので武器を溶かされるらしい」

 

「なるほど、ヘファイストス様が俺を遠征に連れていくことになると言ったわけだ。確かに、そいつは俺向きの相手だな」

 

「ほう、主神様がそんなことを言ったのか。では、手前からもフィンに言っておこう」

 

「その時は俺も呼んでくれよ。実際にダンジョンに潜って魔法を見せた方が早いだろうしな」

 

「了解した」

 

 

 リュー達と会った次の日、エルスは椿の部屋で話をしていた。椿のことだから、大した雑貨なんてないと思っていたのだが、意外にも小物類が置いてあって、エルスは少し驚いた。しかし、それよりもエルスは現在、気になっていることがあった。

 

 

「【ロキ・ファミリア】と遠征かぁ……」

 

「なんだ、苦手なやつでもいるのか。……ベート・ローガか?あやつは基本的にエルフと仲が悪いからな」

 

「いや、ベートは別に仲悪くないんだけど。ティオナとリヴェリア様がな……ティオナはグイグイ来るし、リヴェリア様は身分が高すぎるし」

 

 

 エルスは15歳の頃、里を飛び出してこの『迷宮都市』オラリオに来た。そのため、基本的なことは全て里にいる家族や友人に教わったものだ。その中には、他者との接触をなるべく行うな、といったものから、王族などの高貴な身分の方を敬え、といったものまである。だから、どうしても街やダンジョンでリヴェリアに会うと、エルスは緊張してしまうので、【ロキ・ファミリア】に――特にリヴェリアに――会う時には少し心を落ち着ける必要があった。

 

 

「それならば、【九魔姫(ナインヘル)】には最低限しか近づかなければいいだけの話であろう」

 

「それで良いならそうするんだけど……避けてたら、不敬と思われそうだしなぁ」

 

「お前それでも男か?男なら、もっとしっかりしておくものだぞ」

 

「エルフには色々あるんだよ」

 

 

※※

 

 

 椿と別れた後、晴れた日の昼下がりで、エルスの眠気を誘ってくる。なんとか、睡魔と戦いながら、エルスは『豊穣の女主人』の下に向かっていた。

 

 

(ミアさんに頼み事するのって、なんか怖いな……)

 

 

 エルスは、どちらかといえばミアのことが苦手である。別に自分がエルフであるから、触られると抵抗があるなどという訳では無いが、単純に、彼女の迫力に押されてしまうのだ。今までにオラリオで会って、その迫力に圧倒された人に順位をつけるのであれば、『猛者』、『男殺し』の次にくるだろう。たまに店に来る不届き者を追い払う時に発するあの威圧感は、彼女が第1級冒険者であるためだ、と言われても信じてしまいそうな説得力がある。そのため、エルスは店の前まで来ても、なかなか中に入れないでいた。

 

 

「入り辛いなぁ……いや、でも行くしかな――」

 

「こんにちは、エルスさん」

 

「うわっ!……リューか、こんにちは」

 

「もう来られたのですか?まだ夕食には時間があると思いますが」

 

「いや、ミアさん許可を取りに来たのと、リュー達が何を食べたいのかを聞きに来たんだよ」

 

「許可でしたら、私がミア母さんに取っておきました。夕食は、エルスさんが作るものならば、私は何でも構いませんが……シル達は中にいるので、どうぞ入ってください」

 

「許可取っててくれたのか!ありがとう、リュー」

 

 

※※

 

 

「こんにちは、エルスさん!」

 

「ニャんと、リューが男を連れてきたニャー!」

 

「アーニャ、何を言ってるんですか!」

 

「久しぶりだな、アーニャ」

 

「ニャンだ、エルスか。これはこれで面白いから良いニャ」

 

「アーニャ……」

 

 

 店に入ると、シルとアーニャが出迎えてくれて、アーニャの発言にリューは顔を赤くしていた。リューが顔を赤らめるだけで、反抗してこないと判断したアーニャは、ここぞとばかりに騒ぎ立てるが。

 

 

「何をバカ騒ぎしてるんだ、あんたは」

 

「ニャッ!?」

 

 

 後ろから来たミアに、お盆による攻撃を食らって、アーニャは思わず頭を押さえて、悲鳴を上げた。

 

 

「こんにちは、ミアさん。今日はありがとうございます」

 

「リューの滅多に言わないお願いだからね、別に構わないけど……本当に作れるんだろうね」

 

「ちゃんと作れますよ……ミアさんも食べます?」

 

「それじゃあお願いしようかね。何を作るんだい?」

 

「それについてなんですけど、なにか要望があればそれにしようかと」

 

「それじゃあ、私、お魚が食べたいです!」

 

「魚か……なら、この前椿に教えてもらった『和食』にするか」

 

「へぇ、それは楽しみだね。変なもの出したら承知しないよ」

 

「あはは……お手柔らかにお願いします」

 

 

※※

 

 

 そして夕方、買い物を済ませたエルスは、『豊穣の女主人』の厨房で腕をふるっていた。ちらほらとダンジョン帰りの冒険者がやってきており、彼らを横目に野菜を切っていると、それを横で見ていたリューが。

 

 

「その野菜は何に使うのですか?」

 

「これか?これは『みそ汁』に入れるんだよ。少し味見する?」

 

「なっ!」

 

 

 エルスが『みそ汁』を匙で掬って自分に食べさせようとしている、その事実にリューは顔が沸騰したように赤くなった。普段のリューなら、特に気にせず食べるか、自分で匙を持って食べるのだが、エルスの前で、この状況で、リューは普段通りに振る舞えなかった。彼の前だと、いつもの自分ではいられなくなる。胸の中に温かい何かがこみ上げてくる。そのため、リューには、この状況――それこそ、恋人が食事中にやるようなこと――を意識してしまい、彼に食べさせてもらっても、味などほとんど分からない。「美味いか?」と彼が聞いてきたが、味が分からないなどと言うわけにもいかず、頷くので精一杯だった。エルスはそんなリューの様子を少し訝しんだが、そのまま料理を続けた。

 

 

「そういえば、リューは箸って使えるか?」

 

「はい、一応使えますが」

 

「それは良かった。『和食』を食べる時は箸らしいからな」

 

「ああ、『お米』というやつですね。一度食べたことがあります」

 

 

※※

 

 

「よしっ!出来た。どうぞ召し上がってください」

 

「ほぉ、なかなか美味しそうじゃないか。どこぞのエルフや人間(ヒューマン)とは違うね」

 

「ミア母さん……」

 

「ううっ、痛いところを……」

 

 

エルスの出した『和食』を見て、ミアは素直に褒めつつ、皮肉ったような言葉を口にした。ミアからの精神攻撃を食らったリューとシル(どこぞのエルフや人間)は、多大なダメージを受けた。これでこの料理は、実は見た目がいいだけで味は大したことない、というオチなら、まだ良かったのだが、口にしてみるとやはり美味しい。男性の彼の方が私より遥かに料理が美味い……とリューが内心で悶々としていると、シルがエルスに。

 

 

「エルスさん、今度料理を教えてくれませんか?」

 

「別にいいけど、気になる人でも出来た?」

 

 

 エルスは冗談のつもりで言ったのだが、頬を上気させて頷く彼女を見て、思わず目を見開いた。横を見ると、リューとミアも知らなかったのか、ぎょっとした様子でシルを見ている。「今日来てくれるはずなので、紹介しますね」と笑って彼女は言った。このテーブルに気まずい雰囲気が流れ、ミアは食事を終え厨房に戻ってしまった。そんな時、ふと、シルが後ろを振り返り、席を立って店の外に出ていった。何事かと店の入口を2人が見つめていると、白い髪に深紅(ルベライト)の瞳を持った、どこかエルスに既視感を持たせる少年がいた。

 

 

※※

 

 

 ダンジョンから帰ってきた僕は、エイナさんと少し話をしたあと、換金したお金を持って『豊穣の女主人』というお店に向かっていた。今朝、ダンジョンに行く前にシルさんにもらった昼食のお礼を兼ねて、夕食を食べに行くと約束したからだ。お店の前まで来たものの、中には、綺麗な女の人から顔に傷がある怖そうな男の人までいて、自分がひどく場違いな存在に思えてしまい、なかなか1歩を踏み出せないでいた。でも、そこに━━

 

 

「こんばんは、ベルさん!来てくれたんですね」

 

「シルさん!こんばんは。約束しましたからね」

 

 

 そうでしたね、とはにかんだように笑うシルさんを見て、少し顔が赤くなってしまう。そんな僕の様子を尻目に。

 

 

「ベルさん、どうぞ入ってください!紹介したい人がいるんですよ」

 

「は、はい!」

 

 

 そして、シルさんに押されて店に入っていくと、こちらをじっと見つめる2人のエルフがいた。




受験生だけど今日ラノベを買いに行ってました(白目)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白兎疾走

「じゃあ、紹介するね。こちらがベル・クラネルさん」

 

「は、初めまして!べ、ベル・クラネルです!」

 

「それで、こっちが冒険者のエルスさんと私の同僚のリュー。2人とも仲良くしてあげて下さいね」

 

 

 2人のエルフの前に連れていかれた僕は、なされるがまま、テーブルに座らされていた。エルスさんは、僕とよく似た紅い瞳で僕をじっと見た後、よろしくな、と笑いかけて、リューさんもまた、空色の瞳で僕を見た後、軽くお辞儀をした。エルフの人とこうしてちゃんと会うのは、今までの僕の人生でエイナさん以外無かったので、どうしても緊張してしまう。それに、なんだか2人とも僕のことを凝視していたので、少しやりづらい。何を話せばいいのかわからず、口をぱくぱくさせていると。

 

 

「シル、そろそろ仕事に戻りましょう。ミア母さんが怒ってしまいます」

 

「うーん、お客さんも多くなってきたし仕方ないかぁ。もっと話したかったのになぁ」

 

「では、私たちはこれで。エルスさんもクラネルさんも失礼します」

 

「は、はい!」

 

 

 リューさんがそう言って席を立ってしまったので、必然的に席には、僕とエルスさんしかいなくなってしまう。同性のため、シルさん達よりは幾らか話しやすいと思うけど、まだ名前しか知らない人と話すのは、結局緊張してしまうので、会話の種を探していると、エルスさんが僕を見て。

 

 

「ベルって冒険者になったの最近?」

 

「え、えっと……はい、まだ一月も経ってないです」

 

「へぇ、じゃあほんとに新人か。どこの【ファミリア】に入ったんだ?」

 

「ヘスティア様の【ファミリア】です」

 

 

 エルスさんの質問に素直に答えていると、僕の【ファミリア】を聞いた瞬間、エルスさんが不思議そうな顔をした。……確かに僕のいる【ファミリア】はまだ零細【ファミリア】なので聞いたことがないんだろうか。

 

 

「ヘスティア?ヘスティアってあの背が低くて自分のことを『ボク』って言う?」

 

「あっ、はい!知ってるんですか?」

 

「うちの主神様と仲がいいんだよ。しばらくこっちで預かってたしな」

 

「神様がご迷惑をかけてすいません……」

 

 

 気にすんなよ、と気さくに話してくれて、思わず笑みがこぼれてしまう。純粋なエルフの人はプライドが高かったり、他者との間に壁を作る人も多いから気をつけろ、とエイナさんに言われていたけれど、エルスさんは特にそんなこともなさそうだったのでホッとした。だから、僕は先程の会話で気になったことを質問してみた。

 

 

「エルスさんはどこの【ファミリア】に入っているんですか?」

 

「ああ、俺は【ヘファイストス・ファミリア】だよ」

 

「ヘ、【ヘファイストス・ファミリア】!?」

 

 

 僕が急に大声を出したからか、エルスさんが少し驚いたような顔をした。でも、しょうがないだろう。バベルの中にある店に並ぶ、1本数百万ヴァリスは下らない品物を、この人たちが作っているなんて。

 

 

「ちなみに……レベルって聞いてもいいですか?」

 

「レベルは4、これでも上級鍛冶師(ハイ・スミス)なんだぜ」

 

「えぇぇぇッ!?」

 

 エルスさんの発言に、僕の驚きはいよいよ最高潮に達する。レベル4までいけば、それこそ剣を買うのに数百万では足りないかもしれない、数千万ヴァリスは必要だろう。驚きのあまり言葉も出ない僕の様子を見て、気を良くしたのか、エルスさんはお酒を飲んでいた。そんな時、何かを思い出したかのようにこちらを見て、言った。

 

 

「ベルってもしかして、身体中血まみれでダンジョンを走ったことってある?」

 

「なっ!……知ってたんですか?」

 

「やっぱりあれがベルか。あの時、俺もダンジョンにいたんだよ、何があったんだ?」

 

 

 実はですね、と僕はエルスさんに事情を話した。ついつい調子に乗ってしまって、いつもの探索エリアよりもしたの5階層に行ってしまったこと。そこで何故かミノタウロスに襲われて、危ないところをアイズ・ヴァレンタインさんに助けてもらったことを。何やってんだよ、という目を向けられて、僕は苦笑いを返すことしか出来なかった。

 

 

「お待たせしました、今日のオススメです」

 

「あ、シルさん、ありがとうございます」

 

「そうだ、ベル。お前先にお金払っといたらどうだ?」

 

「えっ?どうしてですか?」

 

「先に払っとけば、勝手に追加されることがないからだよ。『これ以上のお金を払って食べません』って意思表示だな」

 

「エルスさんったら、そんなことしませんよ……多分」

 

 

 シルさんの態度に愕然とする中、僕はエルスさんに感謝した。正直、神様のためにも貯金はしておきたいので、あまりお金を使いたくなかったところだ。今日のオススメの800ヴァリスも少し痛いけれど、これ以上増えるかもしれなかったことを考えると、800ヴァリスで済んだと考えるべきだろう。シルさんに代金を支払って僕は夕食を食べ始めた。パスタを一口食べると、口の中に田舎では食べられなかった味が広がった。美味しい、これは沢山の人が来るわけだ、と1人で納得しながらどんどん口に入れていく。そうして食事も終わって一息ついていると。

 

 

「ご予約のお客様、ご来店ニャ!」

 

 

 そんな声が聞こえた。後ろを振り返ると、一目で僕なんかよりも強そうな、迫力がある人たちが店に入ってきた。

 

 

「おい、あれ見ろよ。【ロキ・ファミリア】だぜ」

 

「【勇者(ブレイバー)】に【九魔姫(ナインヘル)】、【凶狼(ヴァナルガンド)】まで……すげえ光景だな」

 

 

 周りの人が口々に彼らのことを話しているなか、僕の目には1人の女性が映っていた。金色の髪と瞳、身体の線がはっきりと分かる服を着て、美の女神様にも勝るとも劣らない顔立ち。【剣姫】アイズ・ヴァレンタイン。僕の窮地を救ってくれた人が、そこに居た。彼らの席は入口の近くで、僕らの席は一番奥だったので、彼らには気づかれなかったようだ。正直、僕のことなんかを覚えてるかは怪しいし、覚えていたら、それはそれで気まずいので助かった。少しホッとしつつ、前にいるエルスさんに向き返すと、エルスさんも縮こまって、彼らから隠れているようだった。

 

 

「エルスさん、どうしたんですか?」

 

「いや、ちょっとな……」

 

 

 二人揃って【ロキ・ファミリア】の視界に入らないようにひっそりと過ごしていると、狼人の青年が酔っ払っているのか、大きな声で話し始めた。

 

 

「おい、アイズ!あの話をしてやれよ!5階層に逃げたミノタウロスに追いかけられてた、トマト野郎の!」

 

 

 心臓がドクン、と波打った。彼が話そうとしているのは、間違いなく自分のことだと分かったからだ。

 

 

「あれは傑作だったな、駆け出しが調子に乗って下の階層に降りて殺されかけたんだからよ!」

 

「それって、アイズが逃げられたっていうやつ?」

 

「ああ、泣きながら逃げ回って、みっともないったらなんの!」

 

「アイズたん、逃げられたんかー!マジ萌えー!」

 

「ふふっ、さすがアイズ……!」

 

 

 彼らの声がどんどん遠くなる。あの時逃げた自分が、立ち向かわなかった自分が情けなくなってくる。エルスさんも状況を把握したのか、「気にすんなよ、新人なんてみんなそんなもんだよ。俺達も含めてな」と僕に声をかけてくれるが、それでも僕は、自分を許せなかった。そして――

 

 

「あの状況なら、逃げても仕方なかったと思います」

 

「なんでアイズはあいつを庇うんだ?あいつはただの雑魚だろ?」

 

「いい加減にしろ、ベート。あれは我々の不手際だ」

 

「ふん、どっちにせよ、あいつが雑魚であることに変わりはないだろ。アイズ、お前が一番分かってるだろ━━雑魚じゃアイズ・ヴァレンタインには釣り合わない」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、突き動かされるように、席を立って店を出た。後ろで誰かが叫んでいるのも、僕を見ていることも気にならない。ただ、弱い自分が嫌だった、これ以上あの場に居たくなかった。強くなりたい、強くなるために僕はダンジョンに向かった。

 

 

※※

 

 

「ベル……あの馬鹿!」

 

 

 エルスは店を出ていってしまったベルに、悪態をついた。ベルのあのただならぬ表情、あのまま家に帰ったなんてことはないだろう。ダンジョンに行った、エルスにはその確信があった。だが、ベルは完全な新人、アビリティ評価Hもあれば上出来、そんなものだ。そんな彼がろくな装備も持たずにダンジョンに行こうものなら、もしもの事があるかもしれない。

 

 

「リュー!悪い、お金ここに置いとくし!」

 

「エルスさん!?」

 

 

 エルスの存在を認識した【ロキ・ファミリア】の面々や、リューを横目にエルスはダンジョンに向かった。

 

 

※※

 

 

「くっそ……ベルのやつ何処行きやがった!」

 

 

 エルスは、ベルが彼の普段の探索階層の2、3階層にいると睨んで手当り次第に探っているのだが、一向に見つからない。上層は下の層よりも面積は小さいのだが、だからといって、一瞬で中を一周出来るほど小さくはない。まさか、普段よりも下の階層に行ったのでは、とそこから4、5階層に降りてみても、まだ見つからない。エルスの頭の中に最悪の事態が想像されるが……。

 

 

(まだベルが死んだと決まったわけじゃない!)

 

 

 ベルが死ねば、シルが、ヘスティア様が悲しむだろう。彼女達が悲しむということは、リューが、ヘファイストス様が悲しむことになるだろう。それはいけない、認められない、なんとしてでもベルを救い出す。強い決意を胸に6階層に向かうと━━

 

 

「うぉおおおお!」

 

『…………!!』

 

 

 ベルはそこに居た。傷だらけの身体で『ウォーシャドウ』の群れを1人で相手取っていた。ベルが無事だとわかり、エルスはとりあえず一息つくと、そのままベルを助けるために、武器を投影したが。

 

 

「……止めて欲しくは無さそうだな」

 

 

 支給品のナイフで、飛びかかってくる『ウォーシャドウ』を切り伏せていくベルを見て、エルスは静観することにした。もちろん、命が危なくなったら助け出すつもりだが、これは彼の冒険なんだろう、そう考えると、ここで手を出すのは無粋に思えた。ベルが最後の敵の胸にナイフを突き刺して、魔石を砕いたのを確認してから、エルスはベルに近づいた。

 

 

「ベル、大丈夫か」

 

「エルスさん……僕、強くなりたいです」

 

「……お前は強くなるよ、俺が保証する。お前は必ず【ロキ・ファミリア】の人よりも上に行ける」

 

「ありがとうございます……」

 

「……帰るぞ、ベル」

 

 




今までのダンまちssで、あそこから逃げたけど、しっかり自分でお金を払っているベルくんは、殆ど居ないのではないでしょうか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白兎買物

リューさんはかわいい(確信)
リューさんのファミリア壊滅の原因は、原作と変える可能性があります。最新刊待ってたら、受験でそれどころじゃ無くなるんで。


「確かここら辺にベルのホームがあるはずなんだが……」

 

「ベル君!大丈夫かい!?」

 

「ヘスティア様か、久しぶりですね」

 

「おお、いつぞやのエルフ君か!ベル君は無事なのかい!?」

 

「まぁ、疲れて寝ているだけなんで」

 

 

 ダンジョンから帰ってきたあと、ベルからホームの位置を聞き出したエルスは、ベルを背負って廃教会までやって来ていた。もう日付けも変わっているのに、寝ずにベルを探し回っていた事がはっきり分かるほど、ヘスティアの顔には強い疲労の色が見て取れた。そして同時に、ヘスティアがベルのことをどれほど想っているのかも、エルスには分かった。

 

 

「ヘスティア様」

 

「なんだい?エルフ君」

 

「ベルに何か、隠していることがありませんか?」

 

「……っ!どうしてそんなことを?」

 

「少しおかしいと思ったんですよ。冒険者になって1月もかからずに、6回層のモンスターの群れを打ち破るなんて。少なくとも、俺がそんなことできるようになったのは、もっと後でした」

 

「君はヘファイストスのところの子だ。だから、君は信用できる。……でも、言えない」

 

「……わかりました。俺も人には言えないような【ステイタス】してるんで、詮索はやめときます」

 

「君もなのか……済まない、ありがとう」

 

「いえ、でもベルの装備が下の階層に潜るには流石に弱すぎます。もう少しまともな物がないと」

 

 そうなのだ、今のベルは防具なし、ナイフは支給品で潜ったにも関わらず、6回層までソロで到達している。それは、ベルの戦闘方法も関係しているのだろう。ダンジョンでの様子を見ていた限りでは、ベルはヒットアンドアウェイの戦法を取っていた。このままでも、確かに下の階層には潜れるかもしれない。だが、もし攻撃を受けたら、支給品のナイフでは効かない敵が現れたら、ベルはその時点で詰んでしまう。

 

 

「でも、僕の【ファミリア】にはベル君しか居ないし、お金も……」

 

「はぁ……わかりました。ベルの装備はこちらでなんとかしますので、ベルが起きたらバベルのうちの店に来るように伝えて下さい」

 

「何から何まで悪いね」

 

「ベルに何かあれば、俺の知り合いにも悲しむ人がいるんで。そうだ、一応これを渡しておきます。店に着いたら、これを見せて下さい」

 

 

 エルスはそう言って、ヘスティアにバッジを渡した。ヘスティアがそのバッジを見てみると、2本の剣が交差して、間に弓矢が刻まれている。

 

 

「これは……?」

 

「ヘファイストス様のロゴとは別に、俺のロゴってやつですよ。これを見せたら、俺の所まで通して貰えるはずなんで」

 

「分かった。ベル君に伝えておくよ」

 

「では、俺はこれで」

 

「ありがとう、エルス君」

 

 

※※

 

 

「……う、うん……」

 

「ベル君!目が覚めたかい!?」

 

「か、神様……ごめんなさい、迷惑かけちゃって」

 

「ホントだよ!ボクがどれほど心配したと思ってるんだ!」

 

 

 目を開けると、目の前には涙を堪えている神様がいた。神様をこんなに心配させてしまった、ということに申し訳なく思ってしまう。

 

 

「ベル君、どうしてあんなことをしたんだい?」

 

「……弱い自分が情けなくて、もっと強くなりたかったからです」

 

「そうか、分かった。ボクは君を応援しよう。ボクにはそれしか出来ないからね」

 

「すいません、ありがとうございます」

 

「いいよ。……じゃあベル君、【ステイタス】を更新しようか」

 

 

 神様はそう言って、僕をうつ伏せにして【ステイタス】の更新を始めた。僕はダンジョンで敵を倒した後、帰った覚えがない。多分エルスさんが送ってくれたのだろう。ここには居ないエルスさんに感謝していると、背中で神様が、息を呑むのがわかった。神様が【ステイタス】を写した紙を僕に見せてくれると、あまりの上昇っぷりに絶句してしまった。

 

 

「ベル君、今の君は、いわゆる成長期みたいなやつだ。ボクも、君が初めての【ファミリア】だから詳しいことを言えないけど……間違いなく君は、他の人よりも強くなっている」

 

「で、でも、これって!明らかにおかしくないですか!?敏捷が1日で100以上も上がるなんて……」

 

「それはボクにも分からない。でも、これは誰にも話しちゃいけないよ。何かあったら、今のボクじゃ君を守れないかもしれないから」

 

「わかりました……」

 

「さあ!湿っぽい話はやめにしよう!今からベル君の装備を買いに行こうか!」

 

 

 さっきまでとても真面目そうに話していた神様が、手を、パンッ!と叩くと、急にいつもの神様に戻ってしまったので、【ステイタス】のことを考えていた自分が馬鹿らしくなってしまう。どちらにせよ、僕が昨日よりも強くなって、彼女に近づいたことには変わりないので、それならいいか、と自分に言い聞かせる。

 

 

「買いに行くってどこにですか?」

 

「ふふふ、聞いて驚くといいよベル君!あの!【ヘファイストス・ファミリア】さ!」

 

「えぇええええええっ!!」

 

 

 今日一番の悲鳴が教会に響き渡った。

 

 

※※

 

 

 ベルとヘスティアはエルスに言われた通り、バベルの武器屋に足を運んでいた。ガラスの向こう側には、数百万ヴァリス以上もの値段がする武器が展示してあり、ここに足を運ぶ人は、ほとんどがこれらの武器を買う余裕がある上級冒険者だった。そのため、明らかに初心者と分かるベルの装備や態度を見て、周りの冒険者は怪訝そうな視線を送っていた。

 

 

「か、神様……!本当に大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫だとも……!ボクを信じるんだ……」

 

「あのー、どうしました?」

 

「うぉおお!だ、誰だ君は!?」

 

「うわぁ!えっと、俺はレイグっていいます。【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師です」

 

「ちょうど良かった!君、エルス君に会わせておくれ!」

 

 

 ヘスティア達の不自然な挙動が気になったのか、話しかけてきた人に過剰な反応を見せた後、その人物が【ヘファイストス・ファミリア】だと分かると、ヘスティアは、エルスから託されたバッジを見せた。そのバッジを見たレイグと名乗る鍛冶師は、目を見開いたあと、「こちらにどうぞ」とヘスティア達を案内し始めた。

 

 

「おーい、エルス、入るぞ」

 

「どうした……ああ、ベルか」

 

 

 レイグが部屋の前までヘスティア達のを連れてきて、扉をノックして、開けるとエルスが待っていた。

 

 

「エルスさん!昨日はありがとうございました」

 

「気にすんなよ、ベルが死んだら困るしな」

 

「それでエルス君、ベル君の装備はどうするんだい?」

 

「俺が作ったら、装備と実力に差が出過ぎるんで、昔、俺が作った防具を渡します。武器は、ベルを見た限り両手ともしっかり使えていたので、ナイフ2本を買いに行きます」

 

「君の防具をくれるのはありがたいけど、ナイフにアテはあるのかい?」

 

「とりあえず、ナイフ1本は、ヘファイストス様に作ってもらいます」

 

「えぇええええええっ!!ヘファイストス様にですか!?」

 

 

 ついてこい、とエルスはベル達に告げて歩き出した。レイグも、まさか主神に頼むとは思わなかったのか、呆然とその場に立ち尽くしてしまっている。エルスはそんな彼らを尻目に足を進めた。

 

 

※※

 

 

「はぁ、しょうがないわね。ナイフ1本なら私が作りましょう」

 

「本当かい!?ありがとう、ヘファイストス!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「エルスの頼みだもの。この子には、これから迷惑かけるしね。でも、お金は自分で払いなさいよ、ヘスティア」

 

「うっ……。わかってるよ」

 

「それで、エルス、もう1本のナイフはどうするの?」

 

「ヴェルフのものにしようかと」

 

「そう、あの子のなら問題ないわね。じゃあさっさと作りましょう。ヘスティア、手伝いなさい」

 

「わかったよ!ベル君はもう1本のナイフを買いに行っててくれ!」

 

「わ、わかりました!」

 

「じゃあ、上の階に行くぞ、ベル」

 

 

 ヘファイストスの了解を得たベルとヘスティアは、目に見えて喜んでいたが、恐らくナイフの値段を聞くと固まってしまうだろう。頼んでおいた自分で言うのもなんだが、とエルスは内心で苦笑いをした。だが、ヘスティアはエルスの目には、借金を踏み倒すような神には見えなかったし、それで自分の命が守れるのなら安いものだろう。

 

 

「エルスさん、上に行くって……?」

 

「上には【ヘファイストス・ファミリア】の新人の武具が置いてあるところがあるんだよ。本当なら、防具もそこで買いたかったんだけど、先に買われててな」

 

「それがヴェルフさんっていう人のなんですか?」

 

「ああ、武具に付ける名前がダサすぎて、なかなか買ってもらえないかわいそうなヤツだよ」

 

 

 エルスは、ベルに笑いながら話しているが、ベルとしては、性能が良くても名前で認めてもらえないとは、一体どんな変な名前を付けているのか、と少し身構えてしまう。

 

 

「よし、ここだな。ヴェルフのは……おお、あった」

 

「これが……」

 

 

 エルスに手渡されたナイフを見て、ベルは思わず声を上げた。まだ冒険者になって浅いベルにも分かるナイフの出来。刃渡りは、いつも使っている支給品のナイフよりも少し長いくらいか、銀色に光る刃が天井の明かりを反射している。間違いなく、ここのエリアの武器でも上位に入るだろうナイフを見て、何故こんな隅っこに、隠れるように置いてあるのだろうか、そう思ってこの武器の銘を確認して、察した。『兎刀』(ピョントウ)と書いてある。流石にこの名前はないだろうと、ベルが顔を引き攣らせていると、やはりエルスもそう思うのか、同じく顔を引き攣らせていた。

 

 

「……ベル、どうする、他の見に行くか?」

 

「いえ……名前はアレですけど、この武器がいいです」

 

「そうか、ならこれ位は俺が奢るよ。まだ大したお金も持ってないだろうし」

 

「い、いえ!この位の値段なら買えますよ!」

 

 

 ベルの所持金は15000ヴァリス、このナイフを買うと、ほとんど無くなってしまうが、流石にそこまではしてもらえないと、ベルは断ったのだが、気にするなと言われて、エルスはそのまま会計に行ってしまった。

 

 

「ほらよ、もしこのナイフが気に入ったなら、これからもコイツの武器を買ってやってくれよな」

 

「ありがとうございます……いつか、必ず返しますから」

 

「そうだな、いつか俺の武器を買いに来てくれよ。今日のは、そのための投資ってやつさ」

 

 

 そんなにお金を稼ぐことが、自分に出来るだろうかと自信なさげに呟くベルに、必ずできる、とカラカラと笑うエルス。

 

 

「あ、そうだ、『豊穣の女主人』の所にちゃんと行っておけよ。シルが心配してたぞ」

 

「そ、そうでしたね……急に出て行っちゃったからな……」

 

「先にお金払ってなかったら、食い逃げだったな」

 

「た、助かった……」

 

 

 

 




数時間前の自分「おっ!いつの間にか、評価バー赤になってるやん!」

その数分後の自分「もうオレンジになってるやん、早すぎィ!」

……まぁ、この小説は、完全に自己満足のためなんで構わないんですけどね。(இ௰இ`。)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

怪物祭1

そろそろ戦闘シーンを入れなければ(震え声)
あ、後1、2話進めばある筈だから……


「ふっ!はあっ!」

 

 

 早朝、2人の女性が互いに木刀を持って、向かい合っていた。空色の瞳をしたエルフが、接近してきた猫人(キャットピープル)からの横薙ぎの一撃を、宙に飛ぶことで回避する。そのまま、エルフは路地裏の壁を蹴って、猫人に肉薄する。一瞬で接近された猫人は、なんとか攻撃をしのいでいたが、やがてエルフの速度についていけなくなり、焦って木刀を振りかぶったところを、エルフに弾かれた。

 

 

「ふぅ、ありがとうございました、アーニャ」

 

「相変わらずリューの相手はしんどいニャー!誰か代わってほしいニャー!」

 

 

 リューは毎日の日課である早朝訓練を行っていた。いつもならば、この時間帯は、誰も起きていないので1人で行っているが、今日は珍しく、アーニャが起きていたので付き合ってもらっていたのだ。『豊穣の女主人』の従業員達は、本当は、この時間帯には目が覚めていることもあるが、それがリューに見つかるとハードな訓練に付き合わされるので、なかなか起きようとしない。

 

 

「リューは誰か、朝の訓練に毎回付き合ってくれる人を探すべきニャ」

 

「しかし、そのような人はこの『豊穣の女主人』の人以外には……」

 

「エルスがいるニャ!あいつはレベル4だから実力もあるし、リューも嬉しいし、ニャー達も嬉しいし『ウィンウィン』ニャ!」

 

「ダメですよ、彼も多忙な身。毎朝付き合わせるわけにはいきません」

 

 

 アーニャが、閃いたとばかりに発言するが、リューはそれを拒否した。そもそも、リューが冒険者であったこと位は、彼も分かっているだろうが、リューが【疾風】であることまでは知らないだろう。訓練に付き合ってもらっていると、もしもの事があるかもしれない。彼のことだから、自分の正体が知られてしまっても、目に見えて非難などはされないだろうが、今のような関係になるのは無理だろう。未だにニャーニャー騒いでいる、アーニャに目を向けてから、リューは高くそびえ立つ、バベルを見上げた。

 

 

※※

 

 

怪物祭(モンスターフィリア)?もうそんな時期か」

 

「ここ数日、ひたすらお前は鍛冶しかしとらんだろう。行ってきたらどうだ?」

 

「1人でか?どうせ椿は来ないんだろ」

 

 

 手前にはやる事があるのでな、とエルスの質問に答える椿。エルスはベル達と別れてから、ずっと工房にこもって、剣を作っていた。

 

 

「そうだな……ここ数年行ってなかったし、久しぶりに行くか」

 

「楽しんで来るがいい、どうせなら、酒場のエルフを誘ったらどうだ?」

 

「ばっ、馬鹿!何でそうなるんだよ!?」

 

 

 一緒に行きたいのであろう?とニヤニヤしながら聞いてくる椿に、エルスは顔を赤くして叫んだ。エルスがリューの事をどう思っているか、と聞かれれば、好きか嫌いかで答えるならば、迷わず好きと答えるだろう。リューに触れられても、嫌悪感など湧いてこないであろうし、エルスはリューが見せる、花が咲いたような微笑みを見るのが好きだった。しかし、エルスはリューが自分のことをどのように思っているのかなど知らない。リューの態度を見る限り、嫌われてはいないだろうことは分かるが、それで調子に乗ってリューに触れようとして、拒否された日には、しばらく塞ぎ込む自信がエルスにはあった。そんな考えを持っているため、エルスは基本的にリューとの接触を防ぐために、物理的に距離を置く事が多々あった。そんなことをしているから、リューから、自分は避けられているのではないか、と誤解をさせることもあるのだが。

 

 

「それで、どうするのだ?怪物祭は3日後だが」

 

「3日後ならレイグも無理だろうし、一人で行くのも嫌だからなぁ、ダメ元で誘ってみるか」

 

「どちらにせよ、行くならちゃんとした服を着ていけよ。遊びに行くのにも、着流しの男はどうかと思うぞ」

 

「いつもそんな格好のお前が言うのかよ……ダンジョンにも行かないし、鍛冶もしないのにわざわざ着ねぇよ」

 

 

※※

 

 

 その日の昼過ぎ、エルスは『豊穣の女主人』を訪れていた。休日に女性を誘って二人きりで祭りに行くなど、デートと思われても仕方が無い。まして、二人は付き合ってはいないので、リューに気があると言っているようにしか思えなかった。それでも、覚悟を決めて中に入ると、店内にはちょうどリューだけがいた。リューもこちらに気づいたのか、近づいてきたので、少し話がしたいと言って外に出た。

 

 

「仕事中なのに悪いな、リュー」

 

「いえ、今は人も少ないので構いません、それで話とは?」

 

「あー、いや、リューって3日後空いてるか?」

 

「っ!……その日なら空いてますが」

 

「それじゃあ、良かったら一緒に怪物祭行かないか?」

 

「わ、私でよろしいのですか?」

 

「駄目だったら誘わないさ、それで、駄目なら駄目でいいんだけど……」

 

「い、いえ!是非お願いします!」

 

 

 無事にリューと怪物祭に行くことになったエルスは、顔をほころばせ、集合時間と場所を決めたあと、リューに別れを告げて去っていった。そんなエルスをリューが見つめていると、ふといくつかの視線を感じた。嫌な予感がしながらも、振り向くと。

 

 

「作戦大成功ニャー!」

 

「やったね、リュー!」

 

「エルスもなかなかやるニャ」

 

「アーニャ……シルに、クロエまで……見ていたのですか?」

 

「シルがこっちに来るエルスを見つけたから、皆で隠れてたのニャ!」

 

「エルスは照れ屋だから、ニャー達がいたら、言えなくなるかも知れないという気遣いニャ!」

 

「ふふっ、良かったね、ちゃんと休みを取っておいて」

 

「や、やめてください……顔から火が出そうです……」

 

 

 同僚からの容赦ない攻撃を受け、耳の先まで赤くなるリュー。彼女がエルスを憎からず思っているのは、『豊穣の女主人』の者ならば、皆わかっている事なので、今回の件も皆が温かい目で二人を見守っていた。

 

 

「そうだ、デートのためのお洋服を買いに行こっか!私も怪物祭には行きたいし」

 

「シルも行くのですか?」

 

「うん、二人の邪魔はしないから大丈夫だよ。ベルさんに会える気がするんだ」

 

 

 そう言って笑うシルにつられて、リューも薄く笑った。従業員が二人いなくなっても大丈夫だろうか、とリューは思ったものの、毎年、怪物祭の時は出店が増え、ダンジョンに行く冒険者も少なくなるため、いつもより混まないものである。それが分かっていたから、ミアも許可を出したのであろう。リューは彼と過ごす祭りの事を考え、思いを馳せた。

 

 

※※

 

 

 エルスは、『豊穣の女主人』に寄った帰りに市場に足を運んでいた。万事が上手くいったので、このまま帰っても問題ないのだが、椿と今、顔を合わせるとからかわれることは確実なので、直ぐには帰りたくなかったのだ。とりあえず、神酒でも買って口止めをしようかと考えていると、目の前から翡翠色の髪と瞳を持った、どこか気品があるエルフが歩いてきた。エルスは彼女を見た瞬間、急いで逃げ出したくなったが、当然そんな訳にも行かないので、大人しく彼女に向き合った。

 

 

「こうして話すのは久しぶりだったな、壮健そうだなエルス」

 

「リ、リヴェリア様、勿体無いお言葉です……」

 

「そんなに畏まる必要は無い、我々は【ファミリア】も生まれた里も違うのだから」

 

「しかし、高貴なお方は誰であれ敬う対象だと、教えられてきたものですから……」

 

「はぁ、まあいい。それよりこんな所で何をしているのだ?」

 

「神酒を買いに来ました、リヴェリア様はどういったご用件で?」

 

「私も同じだよ、酒好きの主神に頼まれてな」

 

 

 奇遇だな、と微笑むリヴェリアに、少し顔を引き攣らせながら笑うエルス。正直、エルスからしたら、王族であるリヴェリアを使い走りにするなど考えられないことであるが、彼女がいやいや行っているようには見えないので、それならばいいかと自分を納得させた。

 

 

「そういえば、リヴェリア様、【ロキ・ファミリア】はもうすぐまた、遠征に行こうとお考えですか?」

 

「確かにそのような話は出ているが、何故それを?」

 

「ヘファイストス様が、我々も付いていくことになるかも知れない、と仰っていたので」

 

 

「神ヘファイストスの勘か、相変わらず、神の勘とは恐ろしいものだ。フィンもその考えを持っていたからな、おそらくそうなるだろう」

 

「なるほど、ありがとうございました」

 

「いや、気にするな」

 

 

 遠征の時は頼んだぞ、と言って酒を持って会計に行ったリヴェリアを見て、エルスは軽く頭を下げた後、怪物祭が終わったら、しばらくダンジョンに籠るか、とリヴェリア達に無様な姿を見せないためにも、そう決心した。

 

 

 

 

 

 

 




なかなかリューさんが出てきませんね。
エイナさん?ベル君ハーレムの一員かな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

怪物祭2

リューさん可愛い(確信)


 怪物祭当日、エルスは集合場所の広場にいた。集合は午前10時だったが、リューに待たせるのも悪いと思い、その1時間前には到着していた。今日のエルスは、白シャツやネックレスなど、いつもより気を使った服装をしていたおかげで大人びた雰囲気を出していた。そのため、周りの女性からの視線を集めており、エルスが一人なのを見ると、一緒にどうかと誘ってくる人も多々あった。

 

 

「今日、一緒に怪物祭回りませんか!?」

 

「エルスさんですよね!私と一緒に行きませんか!?」

 

「いや、悪いんだけど、今日は他に一緒に行く人がいるから……」

 

「大丈夫です!行きましょう!」

 

 

 何が大丈夫なのか、エルスには全く分からないのだが、先程からこの調子でなかなか相手が退かない。どうにかこの状況を打破しようと、頭をまわしていると。

 

 

「おはようございます、エルスさん。待たせてしまったようで、すいません」

 

「俺もさっき来たところだから大丈夫だよ。おはよう、リュー」

 

「……それで、彼女達は?」

 

「ああ、そういう事で、俺はリューと行くから、ごめんな」

 

「くっ……!その人はエルスさんとどのような関係なんですか!?」

 

 

 どのような関係か、と聞かれてリューはどう答えるべきか少し考えた。別に恋人ではないし、見知らぬ人物でもない、友人と答えるのが正解だろう。だが、それだけでは、彼女達は退いてくれない可能性があるし、そう答えるのは少し、本当に少しだけ、リューは嫌だった。では、どう答えるかと悩んでいると、一つの考えが頭に浮かんだ。これならば彼女達も納得するのではないかと、よく考えを吟味せずに、リューはエルスの手を握って言った。

 

 

「私とエルスさんは、このような関係です」

 

「なっ!?」

 

「そ、そんな!?」

 

 

 白く、強く握ったら折れてしまうのではないか、と思わせるほど細く柔らかい手に握られ、エルスは一気に赤面した。彼女達も、エルフが基本的に触れられるのを好まない種族であるのを知っているため、彼らがかなり深い関係にあると悟ったのだ。勝ち目がないと分かったのか、去っていく彼女達を見た後、エルスは、ようやく自分がしたことを理解したのか真っ赤になって俯いているリューに向かって。

 

 

「……リュー、それは反則だろ……」

 

「つい、やらなければと思ってしまい……」

 

 

 リューが自分の手を握った意味を、何も分からないほど、エルスは鈍感ではなかった。彼女の気持ちは依然としてハッキリしないが、少なくとも、彼女が自分から触れてくる程には気を許してくれているということだろう。数いるエルフの中でも、特に他者との接触を拒むリューに━━それも、自分が意識している女性━━認めてもらったということは、今回の祭りの一番の収穫ではないだろうか、とエルスは思った。

 

 

「……じゃあ、ちょっと早いけど行くか」

 

「……はい」

 

 

 二人はそれ以上何も言わずに、手を握ったまま同じ歩幅で歩き始めた。

 

 

※※

 

 

「ほら、これなんかリューに似合うんじゃないか?」

 

「そう、なのでしょうか。あまりこのようなものを身につけた事がないので……」

 

「大丈夫だって、うん、良く似合う」

 

 

 怪物祭のメインが始まるまでの間、小物店に寄っていたエルスは、リューに似合うアクセサリーを探していた。リューの今日の服装は、丈の短い白色のワンピースで、エルスが持ってきた、青みがかった真珠のネックレスは、彼女の可憐さをより引き出していた。一方、リューは、エルスにネックレスをつけられて、顔を赤らめていた。先程の一件で、リューから触れても大丈夫だと許可を得たようなもののため、エルスがいつもよりも積極的になったからである。

 

 

「そろそろ昼だな、リューはどこか行きたいところあるか?」

 

「そうですね……近くの出店で食べ歩きなどどうですか?」

 

「そうだな、じゃあ行こうか。……また手繋ぐ?」

 

「……はい、繋ぎたいです」

 

 

 まさか、リューが頷くとは思わなかったのか、エルスの目が見開かれるが、二人してまた顔を赤くしたあと、手を繋いで店を出た。

 

 

「なんか、向こうの方が騒がしくないか?」

 

「そうですね、何かあったのでしょうか」

 

 

 怪物祭が行われているため、会場近くでは多くの出店が開店していた。そこで、じゃが丸君や串カツなどの手軽に食べられるものを食べて、腹を満たしていた時、ギルド職員が何やら慌ただしい様子で走っているのが見えた。不思議に思って、二人が近づくと、エルスに気づいたのか、エルフの血を継いでいるであろうことが窺える、尖った耳と美貌を持った妙齢の女性が近づいてきた。

 

 

「エルスさん、少しよろしいですか!?」

 

「ああ、何があったんだ、エイナ?」

 

 

 エイナと呼ばれる女性は、エルスの質問に慌てながら答えた。怪物祭に使用されるモンスターが街中に逃亡したこと、これに対処するために、冒険者を探しているということを。

 

 

「お休みの所を申し訳ございませんが、手伝って貰えませんか?」

 

「わかった。……悪い、リュー、行ってくるよ」

 

「エルスさん……」

 

 

 私も行きます、とリューは言えなかった。リューにはまだ、エルスに全てを伝える覚悟がなかった。リューもエルスと同じレベル4、彼女が行けばより迅速に事件が解決するだろう。それでも怖い、そんな自分を恥じていると、エルスがリューに向き合って、ポケットの中からある物を取り出して言った。

 

 

「はい、今日はありがとう。楽しかったよ、リュー」

 

「エルスさん、これは……?」

 

「さっきのお店のアクセサリーだよ、やっぱりリューにはそれが似合ってる」

 

「……ありがとうございます」

 

「リュー、お前が何を隠しているのかは、俺には分からない。言いたくないならそれでいい。俺はリューを信じてる」

 

「……いつか、必ず話します。その時にはどうか聞いてもらえませんか?」

 

「もちろん、いつでも大丈夫だよ」

 

 

※※

 

 

「これ俺必要か……?」

 

 

 エルスは思わずそんなことを呟いてしまった。モンスターの位置を確認するために、屋根に登ったのはいいものの、モンスターを尽く一撃で倒しきる金髪の剣士を見たからだ。あらかたモンスターが倒されたあと、屋根から降りて、ギルド職員に話を聞きに行こうとすると、不意に地面が揺れた。何事かと思った瞬間、地面から今までに見たことのないモンスターが現れたのが遠くに見えた。

 

 

「なんだあのモンスターは……!?」

 

 

 あのモンスターが出現した所に誰かがいるのがエルスには見て取れた。顔まではハッキリとわからないため、彼女達であれに対応出来るとは言い切れない。

 

 

「とりあえず、あそこに行かねぇと……!」

 

 

※※

 

 

 アイズは焦っていた。怪物祭に使われるモンスターが逃げ出したため、それを狩っていて、残りを確認するために屋根に登ったところ、レフィーヤ達が見たことのないモンスターに襲われているのが見えた。レフィーヤは既に敵の攻撃を受けたためか、負傷しており、モンスターがとどめを刺そうとしていた。ティオネ達もモンスターに手間取っていて、レフィーヤを助けに向かえてない。

 

 

――間に合わないっ!

 

 

 アイズが最悪の場合を想像して、歯を食いしばった時、レフィーヤの目の前に青年が現れた。

 

 

「……大丈夫か?レフィーヤ」

 

「は、はい……ありがとうございます」

 

 

 ほら、と手渡された高等回復薬(ハイ・ポーション)を飲んだレフィーヤは、自分を助けてくれた同胞の青年を見つめた。金色の髪に紅い瞳、今日はいつもの着流しではなく、彼の特徴である装備もないが、間違いなく【奇術師】であることがわかった。

 

 

「エルスー!こいつ強いから気を付けてー!」

 

「ティオナ、なんだこいつは!?」

 

「わかんない、初めて見たもん!」

 

「じゃあ、こいつ新種か……?厄介だな」

 

「エルス、私も手伝う」

 

 

 エルスとティオナが話していると、そこにアイズもやって来た。植物型のモンスターに向かおうとしている、エルスとアイズにレフィーヤは叫んだ。

 

 

「お二人とも、気をつけてください!そいつ、硬いし魔力に反応して襲ってきます!」

 

「魔力に反応……?それが新種の能力か」

 

「私が相手をする。エルスはいつもみたいに沢山武器を持ってきてないし」

 

「そうだな、と言いたいところだが、奥にもうじゃうじゃいやがる。アイズだけだとしんどいだろ」

 

「大丈夫……」

 

「嘘つけ、その武器、いつものやつじゃないだろ。不壊属性を持ってないんだから」

 

「でも、他にどうすれば……」

 

「俺たちで時間を稼ぐ。レフィーヤ、魔法であいつら全部、お前が倒すんだ」

 

 

 レフィーヤは、自分でやれと言われるとは思わなかったのか、驚きを露わにするが、直ぐに覚悟を決めて返事をした。

 

 

「でも、詠唱の時間を相手が与えてはくれないんでしょ?」

 

「それは俺が何とかする。魔力に反応するんだろ?」

 

「はい、でもどうやって……?」

 

「見せてやるよ、俺の『魔法』を」

 

 

 エルスの発言にレフィーヤだけでなく、その場にいたアイズとティオナ、ティオネも目を見開いた。エルフは魔法を使用するのに優れている、と言われているにも関わらず、エルスの魔法を見た、という話は聞いたことがない。そのため、彼の魔法はレアなものか、条件が厳しいものなのではないか、とさまざまな憶測が飛び交っていたからだ。そんな彼が魔法を使用すると言って、前に出て呪文を口にした。

 

「行くぜ、【投影、開始(トレース・オン)】」

 

 

 

 

 




やっと魔法を発動した主人公。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

怪物祭3

エルスの【ステイタス】を少し変更しました。
正直、スキルの魔力の経験値上昇とか、そんな細かいところを付けてレアスキルにするのもアレだったんで。別に要らなくね?と思いました。


「行くぜ、【投影、開始】(トレース・オン)

 

 

 そんな呪文をエルスが口にした瞬間、彼の手に二本の剣が現れた。その後も、エルスの周りに次々と剣が出現していき、初めて見る光景にレフィーヤ達は目を剥いた。

 

 

「これがエルスさんの魔法……?」

 

「ああ、武器を複製する能力、それが俺の魔法だ」

 

 

 超短文詠唱と思われる魔法に破格の能力、レフィーヤ達の驚愕が冷めやらぬ中、剣が独りでに浮遊し始める。これが【奇術師】本来の戦い方、無数の剣を投影し、それをスキルによって操作する。

 

 

「ティオナ、ティオネ、武器を渡しておく。壊れたらまた創るから、どんどん攻めていいぞ」

 

「うわー!すごいね、ティオネ!」

 

「ほんとね……遠征の時にこれがあれば……」

 

 

 

 武器を手渡された二人は、黄緑色の食人花に向かっていく。アイズもやや遅れて走り出し、エルスはレフィーヤの前に立った。

 

 

「敵は……8体か。レフィーヤ、詠唱を敵がこっちに来ても気にせず続けろ」

 

「はい!【――ウィーシェの名の元に願う】」

 

 

 エルスからの指示を受けたレフィーヤは、詠唱を始めた。まだ、レベル3でありながら【ロキ・ファミリア】の中核にいる、彼女にだけ許された『魔法』。使用できる魔法は3つまでという常識を打ち破る、前代未聞のレアマジック。こと使用出来る数だけでいえば、リヴェリアをも超える彼女についた二つ名は【千の妖精(サウザンドエルフ)】。未知なるモンスターにエルフの少女が立ち向かう。

 

 

「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ】」

 

 

 魔法を使用すれば食人花に感知されるが、レフィーヤに襲ってこないように、エルスが投影した武器を、モンスター達に向けて放つことで防ぐ。魔力を帯びた彼の剣に反応した奥にいる個体は、浮遊し攻撃してくる剣を触手で迎撃する。手前にいる個体は、近くで魔法を使用しているエルスに向かってくるが。

 

 

「させないよ!」

 

「エルス……私にも武器ちょうだい、壊しちゃった」

 

 

 武器を手に入れたティオナ達がモンスターに襲いかかる。第1級冒険者の力を存分に発揮した、ティオナの大剣の横薙ぎは食人花の触手を斬り捨てていく。

 

 

「【繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ】」

 

 

 自分を守ってくれる存在の大きさに圧倒されながらも、レフィーヤは詠唱を続ける。

 

 

「【走れ、妖精の輪】」

 

 

 次は自分が彼女達を救う番だと、いつまでも守られているだけではないと。

 

 

「【どうか――力を貸し与えてほしい】」

 

「【エルフ・リング】」

 

 

 レフィーヤの魔法が終わる。しかし、これには続きがある。

 

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏の前に風を巻け】」

 

 

召喚魔法(サモン・バースト)。それがレフィーヤのとっておき、彼女を【ロキ・ファミリア】の中でも特別足らしめている『魔法』。師であるリヴェリアの、同胞の魔法の詠唱文と効果を把握し、その分の精神力を消費することで発動させる。

 

 

「【閉ざされる光。凍てつく大地】」

 

「【吹雪け、三度の厳冬――我が名はアールヴ】」

 

 

 詠唱が完成する。呼びだすはリヴェリアの魔法、敵を、大気をも凍てつかせ、辺りを銀世界に変える必殺の一撃。

 

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 

 魔法円の中心にいるレフィーヤから、とてつもない魔力が溢れ、魔法が発動される。レフィーヤの知る中でも最高位に位置する攻撃魔法は、彼女の認識と違うことなく新種のモンスターを一瞬で氷漬けにした。時までも止まってしまったのでは、と錯覚するほどの静寂が周りを包む。

 

 

「やったね、レフィーヤ!」

 

「ティオナさん、やりました!」

 

 

 そんな静寂を打ち破ったのは、ティオナだった。その後にティオネとアイズ、エルスも魔法の範囲外からやって来た。

 

 

「やるじゃない、レフィーヤ」

 

「うん、凄かったよ。リヴェリアみたいだった」

 

「流石リヴェリア様の魔法だな……寒っ」

 

「皆さん、ありがとうございます。助けてもらって」

 

「気にすんなよ、今回、一番頑張ったのはレフィーヤだ」

 

 

 自分よりも高レベルの冒険者に褒められて、レフィーヤは気恥ずかしくなり、少し俯いた。戦いが終わり、一気に殺伐とした空気が消え去った彼らは和気あいあいとし始めた。

 

 

「エルスさん、大丈夫ですか!?」

 

「おお、エイナ、モンスターは全部倒し終わったか?」

 

「シルバーバックがまだ残っています、ダイダロス通りに行ってしまったようで……」

 

「私が行く、場所を詳しく教えてください」

 

「よろしいのですか?ヴァレンシュタイン氏」

 

「はい、あまり疲れてもいないので」

 

「じゃあよろしくな、アイズ。俺も行きたいところあるし」

 

「うん、じゃあね」

 

「じゃあな、俺ももう行くわ」

 

「エ、エルスさん!本当にありがとうございました!」

 

「ああ、次の遠征の時はよろしくな」

 

 

 「次の遠征?」と首を傾げるレフィーヤ達だったが、エルスも去っていったしまったので、固まって絶命しているモンスターを破壊してから帰路についた。

 

 

※※

 

 

「よう、アーニャ。リューはちゃんと帰ってきたか?」

 

「帰ってきてるニャ!リューをほったらかして何してたニャ!」

 

 

 エルスは、一度バベルに帰りヘファイストスに事情を説明した後、『豊穣の女主人』に向かっていた。中に入るとアーニャがぷりぷりと怒っていて、エルスは思わずビクリとした。しかし、自分から誘って勝手にいなくなったのは事実なので言い訳も通用するか怪しい。

 

「悪いな、モンスターを討伐してたんだよ」

 

「エルスも襲われてたのかニャ、シルの白髪頭も襲われたらしくて、今上の部屋にいるニャ」

 

「ベルもか!?無事か?」

 

「大丈夫ニャ、シルバーバックを倒したらしいニャ。流石あのシルが認めた男ニャ!」

 

 

 言い訳が通用したはいいが、モンスターにベルが襲われていたと知って驚愕がを露わにするエルス。しかも、あのシルバーバックを倒したと聞いて口をあんぐりと空けてしまう。

 

 

「無事ならいいや、リューはどこにいるんだ?」

 

「リューなら買い物に行ったから、しばらくしたら帰って来るニャ」

 

 

『豊穣の女主人』の中は、今日は冒険者達も少ないと思っていたが、見渡してみると意外と数が多い。怪物祭で事件が発生したため、予定よりも早く終わってしまったからだろうか、とエルスが考えているとアーニャが、人手が足りないとミア母さんが怒っていたニャ、とボヤいていた。

 

 

「アーニャ、少し手伝おうか?」

 

「丁度良かったニャ、猫の手もほしいところだったニャ!」

 

 

 ミアに許可を取りに行くと言って厨房に入っていく猫人。しばらくして、許可が下りたのか、これで少しは楽になるとばかりに笑みを浮かべてアーニャが帰ってきた。

 

 

「許可が出たニャ!エルス、厨房に入るニャ!」

 

「了解っと。アーニャ、レシピってあるよな?」

 

「厨房に置いてあるニャ!」

 

 

 中に入ると、周りには忙しなく動いている従業員がいて、腕を振るっているミアに軽く頭を下げた後、エルスはエプロンと包丁を投影した。それを見たミアが目を剥いたが「俺の魔法です」と言えば、納得したような顔でエルスに指示を出して料理に戻った。エルスも今の時間は忙しい時だと分かっているので、黙々と料理を続けていると。

 

 

「ただいま帰りました、ミア母さん」

 

「はいよ!リュー、早く料理を運びな!」

 

「わかりました。――なっ!エルスさん!?」

 

「リュー、おかえり。これ運んでくれるか?」

 

「は、はい」

 

 

 帰ってきたリューは、エルスがいることに驚いたものの、彼女も忙しいのが分かっているのか、そのまま料理を運び出した。

 

 

「――ふぅ、やっと落ち着いたか」

 

 

 5時頃にやって来てから、9時過ぎまで料理をしていたエルスは、客も少なくなってきてようやく一息ついていた。投影したエプロンと包丁を消すと、それを見ていたリューも驚きを露わにしていたが、これが彼の『魔法』だろう、と思ったリューはそれについて何も言わず、エルスのもとにやって来た。

 

 

「手伝ってもらってありがとうございます、エルスさん」

 

「いや、大丈夫だよ。今日はごめんな、リュー」

 

「気にしないで下さい。モンスターを討つのは冒険者の義務ですから。……それで、ここに何か用事でもあったのですか?」

 

「リューに改めて謝りに来たっていうのと、少し言いたいことがあって……」

 

「言いたいこと、ですか?」

 

「ああ、よかったらまた二人で遊びに行かないか?今回は途中で終わっちゃったし」

 

「はい……!また、都合がつけば誘って下さい」

 

 

 リューの返事を聞いたエルスは、少し顔を赤らめて下を向いた後、笑みを浮かべて去っていった。リューは店の外に出て、去っていくエルスを見つめた後、空を見上げた。

 空に浮かぶ満月が白く二人をを照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

事件

最近、「ーー」←これを繋げようと思って、でも繋げ方がイマイチ分からなかったんですが、「クル━━━━(゚∀゚)━━━━!!」のいらない所を消すと「━━━━」になると気づいて、1人で盛り上がってました。


「よう、エルス。魔法バラしたんだって?」

 

「ああ、どうせ【ロキ・ファミリア】には教えることになるだろうしな」

 

「【壊れた幻想(二つ目)】も教えたのか?」

 

「いや、そっちはまだだ。あんなのを街中で使ったら万が一があるからな」

 

「他にも見てた奴くらいいるだろうし、皆にそろそろ広まっちゃうな【贋作者(フェイカー)】、いや【創造者(クリエイター)】かな?」

 

「ほっとけ、……で、用はなんだ?」

 

 

 エルスが魔法を使ったとヘファイストスから聞いたのか、出会って開口一番に同僚のレイグ――橙色の髪と瞳をもつ人間(ヒューマン)――がニヤニヤしながら尋ねてくる。あまりにも愉しそうに聞いてくるため、エルスも流石にイラッとしたが、エルスから『魔法』の事を知らされている数少ない一人で、気の置けない仲でもあるレイグは、そんなエルスの事を尻目に話を続ける。

 

 

「椿が武器の試し斬りをしたいって言ってたんだよ。俺も丁度やりたかったし、お前も行こうぜ」

 

「そうだな、ここら辺の武器も失敗作だし持ってくか」

 

「勿体ねえな、また壊すのかよ。売ればいいだろ」

 

「頼まれた分はちゃんと作ってるからいいだろ」

 

「まあそうなんだけどよ。普通はしねぇよ、大体――」

 

「遅いぞ、何をしている」

 

 

 エルスを呼んでくるだけなのに、何故そんなに時間がかかる、と少し責めるように部屋に入ってきた椿が言った。椿は小太刀を二本腰に差して、背に大剣を背負っている。【ヘファイストス・ファミリア】の中でも最上位に位置する鍛冶の技量と戦闘能力を持つ彼女は、ダンジョンに行く時も、『深層』にでも行かない限り、ほとんど防具を身につけず、主武装以外の物でもモンスターを圧倒出来る力を有している。

 

 

「ちょっと待ってくれ、だいたい、どこまで潜るんだよ」

 

「『下層』までで良かろう、『深層』まで行くのは、戦力は申し分無いが、何かあっても三人では困るやも知れん」

 

「まあそうだな、そんなに下まで潜ったら帰るのが面倒だし」

 

 

 エルスの問いに椿が答え、レイグが頷く。この三人で一番レベルが低いレイグでもレベル3であり、下層ならば、『怪物進呈(パスパレード)』でも問題なく対処出来るだろう。

 

 

「それで、今から行ったら一日で帰るのは無理だろ。『リヴィラの街』で泊まるのか?」

 

「ああ。テントでキャンプでもした日には、手前のようなか弱い女は襲われそうだからな」

 

「どこがか弱いんだよ……」

 

 

 椿の冗談とも取れない発言にエルスは思わず悪態を吐き、レイグも頻りに頷いていた。椿からひと睨み貰うと、直ぐに冷や汗をかいて、明後日の方向を向いたが。変な雰囲気になってしまったと感じた椿は、咳払いをした後、素っ気なく言った。

 

 

「ダンジョンに行くことは、手前から主神様に言っておこう。お前達は先に入口まで行っておけ」

 

「ああ、わかった」

 

「頼んだぜ、椿」

 

 

※※

 

 

『ヴォオオオオオオッ!』

 

「よっと、これで10体目!」

 

 

 17階層。昼過ぎに出発したエルス達は、『嘆きの大壁』に到着していた。ゴライアスが居ないため、『ミノタウロス』などのモンスターが集まっており、レイグは太刀、椿は背負っていた大剣を、そしてエルスは持ってきていた弓を使いモンスターの群れを殲滅していた。

 

 

「ふぅ、あらかた片付けたか。では進むとしよう」

 

「ほんとめんどくせえな。一々1階層から始めるのは」

 

「初めの頃は楽しかったんだけど……一撃で倒せるようになるとな」

 

 

 椿の呼びかけにレイグが愚痴を言いながら進んでいき、エルスは少しの間、過去に思いを馳せていた。広間を抜け、出口へと進んでいたところ、出口に冒険者の集まりがあった。通路を塞いでいるような格好になっている冒険者達に、レイグが不思議そうに尋ねた。

 

 

「あんたら何やってんだ、こんな所で」

 

「あぁん?誰だてめえ等……って【単眼の巨師(キュクロプス)】じゃねえか」

 

「あまりその名前で呼ぶでない、手前はその名は好まないのでな」

 

 

 それよりも早く質問に答えよ、と急かす椿を見て、冒険者達はお互いの顔を見た後、口を開いた。

 

 

「まあ、【ヘファイストス・ファミリア】にならいいか。……殺しがあったんだよ、この街で」

 

「……なんだと?犯人は捕まったのか?」

 

「いや、まだ調べてる最中だ。【ロキ・ファミリア】の連中もここに来て捜査に当たっている。犯人はレベル4の冒険者を殺せる女らしい……ぞ」

 

「なるほど、つまり、犯人は椿か」

 

「レイグ、何を言ってるんだよ……」

 

 

彼らもレイグと似たようなことを思ったのか、全員が椿に目を向ける。流石にこれは面倒を見きれない、とエルスは嘆息し、椿も眉を吊り上げた。

 

 

「じ、冗談だって。……それで、ここは封鎖してんのか?」

 

「ああ、【勇者(ブレイバー)】の命令だ。まだ犯人がここにいると考えてるらしい。あんたらなら入ってもいいと思うが、どうする?」

 

「相手が高レベルの冒険者ならば、手前も居た方が良いだろう。もう地上に連絡はしたのか?」

 

「いや、まだ誰も行ってないと思うぞ」

 

「了解した。レイグ、お前は先に帰ってギルドと主神様に連絡を。エルスは手前と残ってもらうぞ」

 

 

『下層』での試し斬りを望んでいたレイグは、不服そうに頷きながらも、自分よりも高レベルの冒険者を殺す人の相手などしてられない、と来た道を引き返した。それを確認した椿はエルスに向かって言った。

 

 

「では、フィンの所に向かうとしよう。エルス、なるべく一人にはなるなよ」

 

「分かってる、椿も気をつけろよ。防具なんてつけてないんだから」

 

 

※※

 

 

「おお、久しいな、フィン!」

 

「椿じゃないか、君たちも来ていたのか」

 

「はい、先程ここに到着して事情を聞きました。協力させて下さい、フィンさん」

 

「そんなに畏まる必要は無いよ、エルス。僕はリヴェリアじゃないからね」

 

「で、ですが……」

 

【ロキ・ファミリア】の所まで行ったエルス達は、フィンと会っていた。フィンから、最近リヴェリアが言ったことと似たようなことを言われたが、フィンはフィンで敬意を払わなければいけないとエルスは思っていた。

 

 フィン・ディムナ。オラリオ最強の名を【フレイヤ・ファミリア】と争う【ロキ・ファミリア】の団長。数少ないレベル6冒険者で【勇者(ブレイバー)】の二つ名をもつ小人族(パルゥム)。そんな彼に【ファミリア】も違う自分が失礼な物言いをしてはいけない、と畏怖のような感情をエルスはフィンに持っていた。

 

 

「まあ、いいか。丁度今からこの広場に冒険者を集めていたんだ。手伝ってくれるかい?」

 

「わかりました。椿、やるぞ」

 

「ああ、それともう一つ。レフィーヤ達を助けてくれてありがとう。ここに彼女達も来ているから、よかったら会ってやってくれ」

 

「承った。行くぞ、エルス」

 

「なんでお前が承ってるんだよ!」

 

 

※※

 

 

「エルスさん、あの時は本当にありがとうございました!」

 

「元気そうで何よりだよ、レフィーヤ」

 

 

 冒険者を集め終わってエルスが広場に帰ってくると、先に帰ってきていたレフィーヤがこちらによってきて頭を下げてお礼を述べた。こちらこそありがとう、とエルスが言うとレフィーヤは嬉しそうに破顔した。そんな二人のエルフの一幕を見た後、フィンは集まった冒険者によく通る声で言った。

 

 

「皆も知っている通り、人が殺された。犯人はまだ見つかっていない、どうか協力して欲しい」

 

「この街でこんな事をやらかした奴は、この俺が許さねぇ!犯人は女――つーわけで女ども、服を脱げぇええええ!!」

 

『うぉおおおおおおお!!』

 

 

 フィンの横に立っていたこの街のまとめ役であるボールスが叫ぶ。その内容に、男が雄叫びを上げ、女はゴミを見るような目で彼らを見る。それを見かねたリヴェリア達【ロキ・ファミリア】の女性陣が前に出て言った。

 

 

「何を馬鹿なことを言っている。安心してほしい、検査は我々で行う。検査と言っても手荷物を調べるくらいだが」

 

「そーだよー!女の人はこっちに並んでねー!」

 

「あ、あれ?ティオナさん、なんか向こうに女の人行っちゃいましたよ」

 

 

 ティオナ達が不思議そうにそちらの方向を向いている頃、フィンとエルスは窮地に陥っていた。

 

 

「フィン、私を調べて!」「私もお願い!」

「隅々まで確かめていいのよ!?」

 

「エルス・ラージェ!あんたが調べて!」

「ずるい、私も!」「向こうに二人で行きましょう!?」

 

 

 【ロキ・ファミリア】の女性の呼びかけに応じず、こちらに押し寄せてくる光景を見て、フィンは遠い目をし、エルスは思わず後ずさり、フィンに群がる者を殲滅せんとティオネがこちらに向かってきていた。彼女達が本気なのか、悪ノリしているのかははっきりしないが、あのフィンでもたじたじとなる程の迫力が、彼女達にはあった。

 

 

「流石に困ったかな……」

 

「フィ、フィンさん……!どうするんですか!?」

 

 

 次々とやってくる女性を見て、万事休すか、とエルスが思った時、後方からふと悲鳴が聞こえた。何事かと後ろに振り向き、絶句した。黄緑色の巨大な体躯のモンスターが、先日見たばかりの新種が『リヴィラの街』を取り囲んでいたのだ。

 

 

「あの時の食人花!?」

 

「……なるほど。アレがレフィーヤの言っていた新種か」

 

「おい、どうするんだよ!?そこら中に急に現れやがったぞ!」

 

 

 新種を見て取り乱すボールスを尻目にフィンは少し思案する。

 

 

(この状況、出来すぎてるな。まさか……!?)

 

 

 そんな事は有り得ない、という考えがフィンの頭をよぎるが、それ以外考えられない。これ程までに大型で高い戦闘能力を持つモンスターを大量に操ることなど、フィンのもつ常識では不可能だとわかっているが、そうでなければ説明がつかない。導き出された答えに驚愕をのせて、フィンは呟いた。

 

 

調教師(テイマー)か……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ソード・オラトリアの8巻買ったんですが、キャラの掘り下げであそこまで印象が変わったのは、ベートが初めてかも知れません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神の恩恵

初めの頃は1000字も書いたら、もうしんどかったんですけど、最近は全く苦にならなくなりました。


「何なんだよコイツら!?攻撃が効かねえ!」

 

「魔導師がどんどんやられてく!何かおかしいぞ!?」

 

 

 冒険者達はパニックに陥っていた。安全地帯である18階層でのモンスターの大量発生。しかも、いつもと違って自分たちの知識に無いモンスター、魔導師を優先して狙うという特殊な特性、何より、自分たちよりも強い。そして、今日この街で人が殺されたという事実が不安をさらに煽り、正常な判断が出来なくなっている者もいた。

 

 

「クソッ!魔法は使うな、武器をとれ!!」

 

「早くやられた奴を避難させろ!?」

 

「どこにそんな場所有るんだよ!?」

 

 

 『リヴィラの街』の住人も負けじと武器を持って背後に現れた食人花を斬りつけるが、なかなか効果が無い。この街に住み着いている冒険者のレベルはほとんどが2か3で、この『ならず者の街(ローグタウン)』を事実上取り仕切っているボールスもレベル3の実力を持っているが、そのボールスですら、あの食人花を一人で倒しきることは難しい。

 

 

「【ロキ・ファミリア】の奴らはどこにいるんだよ!?」

 

「知らねぇよ!あっちも襲われてるんだろ!?」

 

 

 冒険者達は互いに大声で怒鳴り声を上げながら、触手のようなものを躱していく。しかし、戦える者は時間が経つにつれて減るにも関わらず、食人花の数は一向に減る気配がない。遂には囲まれてしまい、自らの命を奪いにきている怪物への恐怖と絶望に体が動かなくなってしまった瞬間。

 

 

『――――――アアッ!!』

 

「……えっ?」

 

 

 自分たちの周りを取り囲んでいた怪物が悲鳴を上げた。怪物たちに、無数の剣が浮遊しながら襲いかかっていた。その光景を見た途端、冒険者達は援軍が来たことを悟った。

 

 

「この戦い方、【奇術師(マジシャン)】か!」

 

「アンタら、今のうちにここから離れろ!」

 

「すまん、助かった!」

 

 

 冒険者が離れたのを確認すると、エルスは呪文を唱え、さらに武器を投影した。魔法を使ったことにより、魔力を感知した周囲の食人花が集まってくるが、エルスはそれでも剣の投影を止めない。エルスの身を危ぶんだ冒険者が叫んだその時。

 

 

「砕けろ、【壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)】」

 

 

 エルスが食人花に向かっていき、その体躯を踏み台にして空高く飛んだ後、そんな言葉と同時にとてつもない威力の爆発が起こった。冒険者が瞑ってしまった目を開けると、食人花は一体残らず討ち取られ、地面にはクレーターが出来ていた。安全を確認した者達が魔力回復薬を飲んでいるエルスに興奮しながら、あるいは安心したのか、どこか揶揄うように言った。

 

 

「【奇術師(マジシャン)】、さっきの武器が増えたのも爆発したのもお前の魔法か!?すげえな!」

 

「助かった、ありがとう!」

 

「おおよそ鍛冶師とは思えねえ魔法だな。【ロキ・ファミリア】とかの方が向いてそうだ」

 

「別にいいだろ。……それより、あんた達も他の場所に向かってくれ。大人数で囲めば倒せない相手じゃない」

 

「分かった、じゃあな【奇術師(マジシャン)】。あとで酒でも奢るぜー!」

 

 

 そんな言葉とともに去っていく気のいい冒険者達を見て、エルスは複雑そうな顔をした後、小さな声で呟いた。

 

 

「鍛冶師とは思えない魔法、ね……」

 

※※

 

 

 『神の恩恵(ファルナ)』により得ることの出来る魔法は、いわゆる自己実現である。何に関心を抱き、憧れ、認め、憎み、誓い、渇望するか、その想いを恩恵を媒介にして発現させる。それにより得ることの出来る魔法は多岐にわたり、効果も詠唱も人によって異なる。

 

 エルスが『魔法』を発現したのは『迷宮都市』オラリオに来てから、一年が経過した頃だった。初めて見る光景の連続で、ほぼ毎日行くダンジョンも安定して攻略出来るようになり、やっとモンスターを倒せるまともな剣を作れるようになった頃。もっと武器を作りたい、椿――自分よりも高レベルの鍛冶師達――がどのような武器を作っているのかもっと詳しく識りたい。そんな想いが【投影魔術(グラデーション・エア)】を発現させた。ほぼ同時期に【魔力操作(スキル)】も手に入れ、半年後にはレベル2になった。

 

 一つ目の魔法を発現させた、その二年後、エルスがレベル3になってしばらく経った頃。その頃のエルスは焦燥に駆られていた。変わらずダンジョンも日々の出来事も楽しいことが多かったが、一つ大きな不安があった。

 

――自分の鍛冶の腕は明らかに上がっている、しかし、あの鍛冶神の腕と比較するとどうだ?

 

――神業を持つ彼女の足元にも及ばないこの身で、あの剣を作るには、あとどれ程の時間が、努力が、才能がいる?

 

――そもそも、自分はあの領域に本当に辿り着けるのか?

 

 

 彼女の領域に至ることは出来ないかもしれない、そんな事は初めから覚悟していた。最後まであの高みに手を伸ばし続けることを誓った。だが、『器』が昇華し神に近づいて、鍛冶の技量もあの頃より遥かに上がった今だからこそわかる。彼我の絶望的な差に、あの椿ですら、未だに至らないという事実に。

 

 そう考えてしまうと、もう止まらなかった。楽しかった事がつまらなくなっていく。世界が灰色になっていく。酒を飲んでも、ダンジョンに行っても、この胸の感情は無くならなかった。やがてエルスはほとんどダンジョンに行かなくなり、ひたすら剣を打つようになった。現実逃避にも近かったが、鍛冶神より、技量どころか剣を打った経験も足りなかったので、これはこれで彼女との間を縮めるものだとエルスは思った。

 

 一月もして、剣の置き場が無くなってくると、ダンジョンにこもり、持ってきた大量の剣を使い潰すまで戦った。それを数度繰り返した時だった、二つ目の『魔法』が発現したのは。

 

 【壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)】。効果は無機物の破壊。自身の内に一時は芽生えたこともあった甘い考えを唾棄し、自分の剣とヘファイストスの剣を見比べた時、自らが作った剣を砕きたくなるほどの憤りを感じていた――実際に砕いたと言っても過言ではない程、荒い使用をダンジョンで行っていた――エルスの心を代弁しているようだった。

 

 

『エルス、少し話があるわ』

 

 

 ついてきて、と【ステイタス】の更新を終えたエルスがヘファイストスに連れられて彼女の私室に入り、目にしたのは、入団する時に見せられた長刀や斧、短剣だった。それら全てが彼女の神業を駆使して作られた物だとエルスには理解出来た。一時はそれに目を奪われていたが、気を取り直して彼女に向き合った。

 

 

『それで、話とは?』

 

『貴方、最近楽しい?』

 

『楽しいか、ですか……?』

 

『ええ、楽しいか聞いているの。……その腰に差してる剣は最近作ったものかしら』

 

『……はい、そうですが』

 

 

 見せてみなさい、と言われてヘファイストスに差し出すと、彼女は少し悲しそうに目を伏せたあと、言った。

 

 

『エルス、武器には作った人の心が表れるの。少なくとも私にはそれが分かる。貴方の今の剣には、焦りや苦しみの様なものしか見て取れない。これでは、私は疎か、椿にも追いつけないわよ』

 

『……っ!確かに、そうかもしれません』

 

 

 自分が気にしていたことを神に見抜かれ、エルスは下を向いて手を握りしめる。そうだ、やはり自分では無理なのか、そんな暗雲たる思いに襲われていると、ヘファイストスが何かに気づいたのか補足をした。

 

 

『ああ、違うわよ。貴方の腕自体はしっかり私たちに近づいているわ』

 

『では、どういう意味ですか』

 

『私も椿も、鉄を打つ時は楽しいもの。思い出してみなさい、貴方の原点を』

 

 

 自分の『原点』とはなんだろうか。鍛冶が楽しくて仕方なかった、【投影魔術(一つ目の魔法)】が発現した頃だろうか。それとも、初めてあの至高の剣を目にした時だろうか。確かに、あれがあるからこそ自分は今ここにいるのだろう。では『原点』はそこか。

 

――いや、違う。俺の、エルス・ラージェの『原点』はそこではない。

 

 【ファミリア】に入るもっと前、何故自分はこのオラリオに来たのか。鍛冶師になりたい、それはオラリオに来てからの目標だ。冒険者になってダンジョンに入りたい、それはあるだろう。だが、違う。もっと根本的なものだ。

 

――そうだ。俺がオラリオに来たのは、ただ、あるものを求めてきただけだ。

 

 まだ見ぬ景色を、人を、感動を、自分は『未知』を求めてきたのではなかったか。好奇心に誘われ、里を飛び出してきたのではなかったか。そうだ、『未知』はきっと楽しいと思ったからだ。それが、エルス・ラージェの『原点』だ。

 

 

『ふふっ、もう大丈夫かしら?』

 

『……はい、ありがとうございました』

 

『良かった、何事も楽しまないと。楽しいと思ってやらないと、出来ることも出来なくなるわ。もしまた辛くなったら、私の所にいらっしゃい。一緒に仕事をしましょうか』

 

『はい……!』

 

 

※※

 

 

「鍛冶師らしくない魔法、ね。確かに剣を破壊する魔法なんて鍛冶師とは思えない」

 

 

 軽い自虐をするエルスだったが、その口元は緩んでいた。それが自分だ、と。神でさえも予測できない『未知』の結果であると。

 

 

「『何事も楽しまないと』か、じゃあそのためにも、あのモンスターを早く倒さないとな……!」

 

 

 『魔法』を解禁した今の自分ならばあのモンスターを倒せる。救える筈の命を救えないで何が『楽しい』か。

 

 エルスは手に二本の小太刀を投影すると、未だに戦場となっているエリアに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 




とりあえず、これでエルスの魔法はクリア(適当)
まあ、ダンまちのキャラって自分の思いがねじ曲がった感じで魔法を発現させるから……。
ヴェルフだって剣を使えと思ってはいても、魔法を封じたいとは思ってないはず……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

遭遇

何故かいつもの倍くらいの量になりました。


 アイズは赤髪の女性と対峙していた。豊満な双丘をもち、容姿も端麗である彼女は今回の事件の容疑者として、疑われる筈だった。しかし、殺した男性の顔の皮を剥いでそれを被ることで捜査の目から抜けていた。そして、アイズが『魔法』を使った時に言った『アリア』という名前を聞いた瞬間、アイズに衝撃が走った。

 

 

「どうして、その名前を知っている!?」

 

「さあな、どうしてだろう。とにかく、その宝玉(たね)を渡してもらうぞ」

 

 

 彼女が言う宝玉――先程、不審な動きをしていたルルネと名乗る女性冒険者が配達していた品――を目にすると、アイズは様子を激変させた。吐き気がする、言いようのない不安に襲われる。まるで自分の血が騒ぐような。とにかく、相手は自分の秘密を知っている。それが分かってしまい、アイズの剣筋に乱れが見えた。

 

 

「甘いな」

 

「……っ!」

 

「……まあいい、私と来てもらうぞ『アリア』」

 

 

 そんな剣筋の乱れの隙をついて、アイズの剣をあっさりと打ち払った赤髪の女性は、アイズに肉薄する。周りには食人花が多数出現して、レフィーヤとルルネもそちらで戦闘を行っているため、アイズを助けることが出来ない。赤髪の女性が剣を振り上げて、アイズが目を眇めた時。

 

 

「ここまでだ」

 

「アイズはやらせないよ」

 

「くっ……!何者だ貴様ら」

 

「リヴェリア、フィン!」

 

 

 リヴェリアとフィンが杖と長槍によって、アイズに迫る剣を防いだ。リヴェリアは眉を吊り上げ、フィンは相手をじっと見つめたあと、口を開いた。

 

 

「君が今回の黒幕でいいのかな?調教師(テイマー)

 

「今回に限っては……な」

 

「貴様一人で我々に勝てると思うか、大人しく投降しろ」

 

「ふん、いつ私が一人だと言った。駒の一つや二つは持ってきている」

 

「駒……?それはあの食人花の事かい?」

 

食人花(ヴィオラス)もそうだが……もう一人貴様らの敵がいる」

 

 

 赤髪の女性が口にした言葉にフィンとリヴェリアが瞠目する。彼女の様子を見て、その言葉が嘘ではないと判断したフィンが口を開く。

 

 

「君の目的は何だ?闇派閥の生き残りか?」

 

「私をあのような連中と一緒にするな。まあ、先程言った駒はそうだがな」

 

「君のような実力者がもう一人か……頭が痛くなる話だ」

 

「ふん、奴にそれほどの実力は無い。奴は本当に唯の人間だからな」

 

 

 互いに警戒は怠らずに話し合いを続けていたが、一つある疑問が発生して、杖を構えたままリヴェリアが尋ねた。

 

 

「先程からもう一人の情報を話しているが、お前の仲間ではないのか?」

 

「違う。今回は利害が一致したから共に行動しているだけだ。あちらも私の事など仲間と思ってはいまい」

 

「なるほど、では君が窮地に陥っても助けには来ないわけか」

 

 

良い事を聞いた、と呟いてフィンは槍を握りなおす。それを見たリヴェリアと赤髪の女性も戦闘態勢に入り、互いを見つめた。

  ガラッ、と周りにある水晶が倒れた瞬間、三人は一斉に動き出した。

 

 

※※

 

 

「これでここら辺のモンスターはあらかた片付けたか」

 

 

 魔法を駆使して食人花を呼び寄せ、手当り次第に斬りつけ、爆破していたエルスはそう呟いた。

 呼び寄せる段階でかなりの人数に『魔法』を見られたので、この戦いが終わればいよいよ殆どの冒険者に自分の魔法は伝わるだろう。冒険者の追求が激しくなることを考えると今から気が重いが、それはしょうがないと自分を納得させる。

 

 

「まだまだ向こうの方には結構いるな……。【ロキ・ファミリア】も向こうにいるだろうし合流するか」

 

 

 エルスが食人花を引き寄せていたおかげで、怪我人こそ多いものの、死者はまだこちら側では出ていなかった。魔力回復薬を飲んで、走り出そうとしたその瞬間。

 

 ――凄まじい悪寒がして、エルスは自らの直感に従い横に跳躍した。

 

 

「くっ!何だ!?」

 

「アレを避けるのか、凄いなぁ」

 

「……誰だお前は」

 

 

 エルスが後ろを振り返ると、そこにはナイフを何本も携えた黒髪の男が嗤って立っていた。190Cはありそうな長身の男で、顔から首にかけて大きな傷が残っている。

 

 

「俺か、俺はな闇派閥の生き残り、とだけ言っておこうかなぁ」

 

闇派閥(イヴィルス)の生き残りだと?」

 

「ああ、俺達は流石に地上では生き辛いから、地下でひっそりと暮らしてたんだよぉ。ほら、あの事件とかあったしなぁ」

 

 

  地下で暮らしている――つまり、ダンジョンで――と聞いて、エルスは目を見開いた。

 『27階層の悪夢』。闇派閥(イヴィルス)がダンジョン内で仕掛けた、階層主まで巻き込んだ大規模な怪物進呈。多数の冒険者がこの罠に掛かり、死亡し、敵味方含めてほぼ全滅したという凄惨な事件だ。

 

 

「お前もあの場所にいたのか?」

 

「いやぁ、あそこにいたら生きてないって。俺は準備にまわってたから、居なかったんだよぉ」

 

「そうかよ、とりあえず捕まってもらう。色々と聞きたいこともあるしな」

 

「――へぇ、やれるもんならやってみな!」

 

 

 どこか巫山戯た態度を取っていた男が、急に殺意を剥き出しにしてエルスに迫る。急な変化に少し驚きつつも、エルスは剣を投影して相手のナイフを受け止めたその時。

 

 

「ッ!?」

 

「ハッ、どうした!」

 

 

――剣が音をあげて溶けだした。

 すぐさま剣の打ち合いを止めて後ろに飛び退くが、剣がジュワッ、と半ばまで溶けたせいで武器が破壊された。

 

 

「おいおい、今の『魔法』か?めんどくせえな」

 

「勝手に剣が出てくるお前に言われたくねぇよ。俺の魔法は、武器になんでも溶かせる能力を付与する」

 

「なんでもってことは……」

 

「ああ、お前も捕まったら溶けちゃうぜ?【万物よ、溶解せよ】」

 

「【リオスト】」

 

 

 男が超短文詠唱と思われる魔法を発動すると、武器が赤い膜に覆われ始めた。血のように赤い膜がどんどん剣を侵食していく。そのまま持っていたナイフ全てを魔法で覆った男は、エルスに向かって走り出した。

 男が四本のナイフのうち二本をエルスに投擲する。エルスはそれを左に避けて、男のもとに走る。投影した双剣で男に斬り掛かると、男は膜に覆われたナイフを交差する事で防ぐ。また溶けだした剣を捨て、新たに投影しようとするが。

 

 

「遅せぇよ、させると思うか」

 

「ぐっ!」

 

 

 男がその隙を見逃さない。手に持っていたナイフを投擲して、エルスがかわした所を斬り掛かる。ナイフがエルスの頬を掠り、そこから激痛が走る。痛みに顔を歪めるエルスに男は嗤って言う。

 

 

「お前のその魔法、確かに厄介だが、近接には向いてねぇな」

 

「そんな事ねぇよ。ちょっとお前のおかしな魔法との相性が悪いだけだ」

 

 

 軽口を叩くエルスだったが、余裕は少しも無かった。確かに、エルスの【投影魔術】は同格かそれ以上の敵と戦いながら連発するには向いていない。だが、上級鍛冶師であるエルスの武器を一撃ごとに破壊する相手などとは戦ったことがなく、連発する機会も無かった。

 

 

「まぁいい、人と殺し合うのは久しぶりなんだ。まだまだくたばるなよ」

 

「そうだな……【投影、開始】」

 

「おお、そう来るか。いいね」

 

 

 エルスが一度に数十本の剣を投影する光景を見て、男が少し驚いたような声を出す。

 エルスの『魔法』は、注ぎ込む精神力の量によって、大きさや数を増減させることが出来る。戦闘中に創り出す時間が無いならば、今のうちに創るまで。更にそれをスキルで浮かせ、目の前にいる男を見つめる。

 

 

「ほんとに面白いことするな、お前」

 

「そりゃどうも、【奇術師(マジシャン)】って聞いたことないか?」

 

「ああ、なるほど。聞いたことあるぜ、お前がそうか」

 

「これで、武器は圧倒的にこっちが多い。本気で行かしてもらう」

 

「まるで、さっきまでが本気じゃなかったみたいな言い方だな」

 

「いや、さっきまでも本気だったよ。普通に戦うならな」

 

「じゃあ、今から見せるのがお前の真の力か、いいね!」

 

 

 口元に笑みを浮かべながら男が突貫する。エルスは剣を操作して、男を取り囲みつつ、残りを一斉に掃射していく。男も剣を振り払おうとナイフで斬りつけ、次々と溶かしていくが、大量の剣に対処しきれず、次第に体に傷が付いていく。

 男の使用していたナイフの赤い膜も次第に薄れていき、剣が溶かされるペースも落ちてきた。

 

 

「どうやら、その魔法にも制限があるみたいだな。時間か、それともその能力を使用した回数か」

 

「まぁな、そこまでは教えられねえけどなぁ」

 

「まだやるか?もう投降したらどうだ?」

 

 

 そう言って、エルスは剣を操作し、男の首に突きつける。だが、そんな状況でも、男の笑みが消えない。エルスが不審に思っていると、男が口を開いた。

 

 

「お前、人を殺したこと無いだろ」

 

「……急になんだ」

 

「まぁいいじゃねぇか。……闇派閥(イヴィルス)の生き残りで、自分の敵だと分かっているなら、覚悟があるやつなら普通は殺す。俺たちは、そうされても仕方ない位のことはしてきた」

 

「だから、お前を殺していない俺は人殺しをした事がないと?お前を捕まえて話が聞きたいからとは考えないのか?」

 

「それもあるんだろうが……怖いんだろ、殺しが。顔色が悪いぜ」

 

「……当たり前だろ。それが怖くない奴は、きっと何かがおかしい」

 

「そりゃそうだ。まぁ、今回はそれが命取りになるぞ」

 

「どういう――」

 

 

 ことだ、そうエルスが言おうとした瞬間、首に突きつけられている剣も気にせず、エルスに向かってきた。完全に不意をつかれたエルスは自らの不覚を呪いつつも、剣を男の腕や足に刺していく。顔を歪めながらも足を止めず、懐から異様な形をしたナイフを取り出した男はエルスに斬りかかった。

 エルスも剣でナイフを受け止め、後ろに飛び退き、体勢を立て直そうとした時、足元が沈んだ。何事かと足元を見ると、男が始めに投げていたナイフが地面に刺さって、その部分が溶け出していた。

 驚愕に目を見開いたエルスに男が接近し腹を斬りつけ、殴り飛ばした。

 

 

「ぐっ!……お前、その体、どうなってやがる……」

 

「俺の仲間に面白ぇ奴がいてなぁ、そいつが魔道具を作ってくれたんだよ。そいつの道具の中にこのナイフと玉があったんだぁ」

 

 剣を体から抜き取った男の傷がみるみるうちに塞がっていく。動き出す時に深く切った首の傷さえも一瞬で元通りになる光景に、エルスは目を剥いた。

 斬られた腹を押さえながら問いかけるエルスに、男はその二つの道具を見せた。ナイフは鋸上になっており、斬るというよりは相手を痛めつける事に特化した形をとっており、藍色の玉は魔力を流し続けることによって、傷を回復する能力があると、どこか得意げに話した。

 

 

「傷の自動回復って反則だろ……」

 

「殺し合いに卑怯もクソもあるかよ、使えるものは何でも使わねぇとな。……それより、そろそろ気づいたか?」

 

「……ああ、回復薬を飲んでも傷が治らない。それがその剣の能力か」

 

 

 正解、と嗤う男を見て、エルスは悪態を吐きたい気分だった。腹の傷は致命傷などではないものの、このまま血を流し続けるということになるとかなり危険だ。

 相手を戦闘の最中に誘導する技術や、対人戦を想定している武器。相手は自分より明らかに戦い慣れている。

 焼けるような痛みに襲われながらも、エルスは口を開いた。

 

 

「お前の目的は何だ?今出てきて何がしたい」

 

「目的かぁ、――壊すんだよ、このオラリオを。そうすりゃ、みんながまた俺を止めに来る。……あの時遊べなかった代わりに丁度いいだろぉ?今回はちょっとしたお遊びさぁ」

 

「またあんな事件を起こそうってか?正気じゃない」

 

「かもなぁ、実際どうするかは、神サマ辺りが決めるだろうよぉ。今回は俺が勝手に始めちゃったけど、もうすぐ面白ぇ事になるぜぇ」

 

 

 そうかよ、と吐き捨ててエルスは相手を睨みつけた。男は強い。エルスの【ステイタス】はLv.4の中でも上位に位置している。そのエルスと同等かそれ以上の速さで動き、卓越した戦闘技術。相手は恐らくLv.5、『魔法』が無ければとっくにやられていてもおかしくない。

 

「じゃあ続きだ。行くぞ」

 

 男が迫る。高速をもって繰り出される斬撃を、双剣を交差することで受け止める。『魔法』を帯びた剣がエルスの剣を侵食していき、強引に破壊する。

 すかさず追撃を加えようとするが、前後から、浮遊していた剣が男に襲いかかり、ナイフを持っていた右腕を貫く。

 男の動きが止まった一瞬を狙い、ナイフを弾き飛ばし、男の顔面に回し蹴りを加えるが、左腕を使ってそれを防ぎ、お返しとばかりに腹に蹴りを加える。エルスは後方に蹴り飛ばされつつも、剣を操作することで、相手の左腕に数本の剣を高速で向かわせ斬り飛ばす。腕を失った事で初めて男に焦りが見え、その隙を見逃さぬように、エルスは足元にあった男の歪な形状のナイフを投擲した後、地面を勢いよく蹴って接近する。

 

――もらった。エルスがそう確信したその時。

 

「はい、そこまで」

 

「なっ――」

 

 

 エルスの体にとてつもない衝撃が加えられ、宙を舞った。勢いよく真横に飛ばされ、木製の建物に頭から突っ込む。瓦礫の中から顔を上げ、何が起こったか確認しようとすると。女が男の横に立っていた。何かを話しており、どこか険悪そうな雰囲気――男に対する女の怒りのような―― が伝わってきたが、頭を強く打ったせいか、視界がはっきりとせず、顔までは視認できない。この状況からすると、自分に攻撃を仕掛けたのはあの女で、自分の味方でも無いということは一目瞭然で、エルスは眉を歪めた。

 死、そのイメージが強く脳裏に浮かぶ。

 女との話が終わったのか、腕こそは繋がってないものの、一通りの傷を修復した男が建物の中に入ってくると、言った。

 

 

「危なかったぜ、流石に死ぬかと思ったよ」

 

「……さっきの、女は誰だ……」

 

「悪いがそれは言えねぇ。俺と同じ境遇の奴とだけ言っておこう」

 

「……そうかよ」

 

「更に悪いが、お前はここで殺しておく。てめぇみたいなのがいたら厄介な事この上ない」

 

 

 男の言葉が耳朶を打つ。女はもう何処かに行ってしまったのか、見当たらず、周囲も戦いが終わったからなのか、あるいはエルスの耳が音を取り込んでいないだけなのか、静寂に包まれていた。

 男が足元に転がっていた剣を手に取り、振り上げる。その光景にエルスは目を眇め、このままでは終われないと、先程の攻撃で折れた片腕を盾に、口を開き、言葉を紡ごうとした瞬間。

 

「――何をしておる、貴様!」

 

「――がっ!?」

 

 壊れた屋根から降りてきた黒髪の女性が男に踵落としを食らわせた。余りの衝撃に床が陥没し、男が地面に叩きつけられる。

 すぐさま飛び起き、エルスから距離を取った男は頭から血を流しながら黒髪の女性を見つめ、ふっ、と笑みをこぼす。

 

 

「つ、椿か……?」

 

「そうだ、こやつは敵だな。……少し待っていろ、直ぐに片をつける」

 

「そいつは不味いなぁ、まだ捕まるわけにはいかないんだよ」

 

「巫山戯たことを……。手前の後輩をこのようにしておいて、無事で済むとでも思っていたのか」

 

「ああ、良かったなぁ【奇術師】。助けてくれる人がいて、それじゃあ俺はこの辺で逃げさせてもらうよ。――俺の名前はヴァイス、次は始めから殺しに来い」

 

「逃げられると――」

 

 

 思っているのか、と椿が言葉を続けようとした時、男が血塗れのズボンから小さな玉を取り出し、地面に叩きつけた。すると、辺りに一瞬で黒い煙が立ち込め、視界が封じられた。すぐさま椿が大剣を振るい、風圧で煙を吹き飛ばしたが、男の存在は煙のように消え去っていた。

 男が――ヴァイスが居なくなったことで、エルスの張り詰めていた緊張の糸が切れ、腹部から未だに血が流れていることを感じながら、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




申し訳程度のオリ展開


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帰還

「……ん、ここは……」

 

「 目覚めたか、エルス!大丈夫か!?」

 

「椿か……。ああ、なんとかな。さっきは助かった」

 

「気にするでない。それより、先程の者は何者だ?」

 

「それは後でゆっくり話す。……どのくらい経った?」

 

「一時間も経っておらぬ。しかし、些か状況が悪い。すぐに上に連れていくぞ」

 

「連れていくって、何か――」

 

 

 あったのか、そう口にしようとしてエルスは思い出した。顔を上げて腹部に目を向けると、未だに血が流れ続けていた。他の傷跡は椿が処置してくれたのか、概ね消えているが、あの剣で斬りつけられた傷は痛みを発し続けている。

 

 幸い失血死する程の量は流れていないが、このままでは確かに危険である。

 そこでエルスは何かを思いついたのか、立ち上がり呪文を口にした。

 

 

「何をするつもりだ?」

 

「悪い、少し集中させてくれ。――【壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)】」

 

 

 

 

 エルスが魔法を発動したが周りからは爆発音などは聞こえず、椿が不思議そうな顔を浮かべていると、エルスが自分の体に目を落とし、溜息した。

 

 

「やっぱ駄目か……」

 

「エルス、今何をしたのだ?」

 

「この傷を付けた剣を破壊したんだが、治らないみたいだな」

 

 

 口惜しそうな様子で回復薬を傷口にかけながら呟くエルスに、椿は目を剥いた。

 エルスの『魔法』の効果を椿も共に検証したことがある。エルスの様子が落ち着いた頃にダンジョンに赴き、【壊れた幻想】の威力や効果範囲を試したのだ。

 

その結果、【壊れた幻想】の威力は剣の大きさに比例し、大剣の方がナイフよりも威力が高く、ナイフで大剣以上の威力を出すのは不可能だった。

 これは、実力に関係なく、エルスに言わせれば単に、ナイフでは魔力を溜め込める上限が低いからだ。

 

 また、効果範囲はエルスが目に見える範囲程度ならば自在に爆破できたのだが、あまり離れすぎると魔法を発動しようとしても爆破が起こらなかったのだ。エルスはまだ魔法に慣れていないからだと言っていたが、椿は流石にそこまでは出来ないだろうと話半分に聞いていた。

 

 だから、それを知っている椿だからこそ、敵が遥か遠くまで持ち去って行った武器を破壊したという事実に驚愕したのだ。

 

 

「……まあよい、エルス、先程の騒動は片付いた。【ロキ・ファミリア】の者もそろそろ事後処理を終えてやってくるだろう。手前は事情を話してくるから、小さめの氷の魔剣でも投影してその傷口を塞いでおいたらどうだ?」

 

「それ大丈夫か?なんか危ない気がするんだが」

 

「何にせよこれ以上血を流すのは宜しくない。すぐに戻ってくるから、待っておれ」

 

 

 一人で帰って途中で倒れられたら適わんからな、と言って椿は街の中心に向かって走り出した。それを見送ったエルスは、椿に言われた通りに小さな青色のナイフを投影した。

 

 自分で作ったものを投影してはどうしても威力が高いので、他人が作っていた魔剣を創り出す。

 少し抵抗を覚えるものの、放っておいて何かあっても困るので覚悟を決め、腹部に魔剣を使って氷を纏わす。どんどんと熱が奪われているため冷たくなっていくが、見てみると一先ず血は止まっており、胸を撫で下ろした。

 

 しかし、これは一時的な処置に過ぎず、傷が治った訳では無いので余裕が出来たとはいえ、一刻も早く傷を治す算段をつける必要があった。

 

一般人ならば体の一部を凍らせていたら凍傷にでもなってしまうかもしれないが、短時間かつ『器』を昇華させているエルスならば大事には至らない。

  すると、話をつけたのか椿が帰ってきた。

 

 

「フィンに事情は話した。後日また話を聞きに来るそうだ」

 

「そうか、悪いな、椿」

 

「気にするでない、それでは地上に向かうぞ。【ディアンケヒト・ファミリア】に向かわねばな」

 

「そうだな……アミッドなら治せるだろうし」

 

「では背中に乗れ、おぶってやろう」

 

「いるか!」

 

※※

 

 

「ふむ、思っていたより到着が遅れたな……こら、暴れるでない」

 

「いいから降ろせって!一人で歩けるっつうの!」

 

「先程そんな戯言を口にして倒れかけたのは誰であったかな?」

 

 

 それを言われると返す言葉がなく、エルスは黙ってしまう。

 18階層から帰る時は、一人で大丈夫だと言い張っていたものの、途中で思わずふらついてしまい、それを椿に見られて結局運ばれる形になったのだ。しかも背中では不安だからと、いわゆるお姫様抱っこという形で。

 

 この対応にはエルスも抵抗したのだが、椿の方が【ステイタス】は上のため、反抗は不可能だった。ダンジョンの外に出ても椿が面白がっているためか、それとも、本当に心配しているためかは不明だが全く離そうとせず、通る人皆にぎょっとした目で見られて、エルスの顔は真っ赤に染まっていた。

 

 

「ああくそ、行くなら早く連れて行ってくれよ!」

 

「それが人にものを頼む態度か?」

 

「連れていってください、椿様!」

 

 仕方があるまい、と笑みを浮かべて椿は進み出した。

 

 

 

「これを解呪ですか……。暫くお待ちください」

 

「ああ、よろしく、アミッド」

 

「任せたぞ、【戦場の聖女(デア・セイント)】」

 

 

 中央広場から北西のメインストリーム、通称『冒険者通り』にやってきた二人は、光玉と薬草のエンブレムが飾られた清潔感を感じさせる白壁の建物の中の一室でアミッドに会っていた。オラリオ一の腕を持っているといわれる彼女は、エルスの傷を見ると顔を顰め強い決意を胸に言った。

 

 

「これは必ず私が治します。このような呪いを残したままにはしておけません」

 

「そう言ってもらうと頼もしいな。……そうだ、一応これを渡しておく。無いよりはあった方がいいだろ」

 

「これは……呪道具ですか?いえ、しかしこれは……」

 

「ああ、俺の腹の傷を付けたやつの劣化版って感じだ」

 

「そんなものをどうやって……いえ、【奇術師】には不思議なことが出来ると最近噂になってましたね」

 

 

 エルスの持っている呪道具をを見て驚くアミッドに、『魔法』のことを説明するか悩んでいると、何か事情がある事を察したのかアミッドはそれ以上の追求をしてこなかった。治療を開始すると言ってアミッドが詠唱を始め、魔法が発動し、患部が淡い光に包まれる。

 

 

「……終わりました。まだ完全に塞がったわけではありませんので、数日は安静にしておいて下さい」

 

「ありがとう、アミッド。その武器はお前が持っていてくれて構わないから」

 

「しかし、【戦場の聖女】でも完全に傷が治らぬとはな」

 

「はい、この武器を作った人物は恐ろしい妄執の持ち主なのでしょう、それほどまでにこの呪いは強い」

 

 

 くれぐれも気をつけてください、とアミッドはエルスの目を見て言った。エルスは頷いた後、礼を述べてこの建物をあとにした。

 

 

※※

 

 

「やあ、エルス。元気そうでなによりだよ」

 

「わざわざ来てもらってすいません、フィンさん、リヴェリア様」

 

「気にするな、用があるのは私たちの方だ。ならばこちらから伺うのが筋だろう」

 

 

 数日後、付けられた傷が治った頃にエルスのもとをフィンとリヴェリアが訪れていた。あの後の事後処理などに奔走していた為か、二人とも疲れが溜まっているのが見て取れた。やはり大手ファミリアの団長にもなると大変だな、とエルスが漠然と考えていると、顔に出ていたのかフィンが苦笑いして言った。

 

 

「やっぱりこういう事件が起こるとしんどいな……じゃあ早速だけどあの時何があったのか話してもらえるかな?」

 

「はい、実は―― 」

 

 

 エルスはそう言って事情を話し始めた。闇派閥の生き残りと名乗る男――ヴァイスと戦闘をしたこと、オラリオを破壊することが目的だと言っていたこと、そして、ヴァイスと同等の力を持っていると思われる女性がいた事を。フィンとリヴェリアは話を聞くうちに眉をひそめ、話し終える頃には大きくため息をついていた。

 

 

「はぁ、こちらで戦っていたあの女だけでも頭が痛い話だというの に、第1級冒険者程の力を持つものが少なくとも二人もいるとは……」

 

「全くだよ、それに加えて呪道具のようなものまで持っているとはね」

 

「今アミッドに武器は渡してあるので、他に何か判明したら【ロキ・ファミリア】にも伝えるように頼みましょうか?」

 

「そうだね、よろしく頼むよ。……実はもう一つ話があってね、椿からは聞いているかい?」

 

 

 重い空気を払拭するかのように、明るい口調でフィンがエルスに問いかける。椿から何か聞いていたかと自分に問いかけると、すぐにある事が頭に浮かんだ。

 

 

「遠征の事ですか?その新種の対策という話なら聞いていますが」

 

「そうだ。本来なら魔剣を使用するところだったのだが、お前の力があればだいぶ楽になる。」

 

 

 もちろん、そんなに働かせるわけにはいかんから魔剣は買うがな、と翡翠色の目を細めて微笑むリヴェリア。絶世の美女といっても差し支えないほどの美貌を持ったリヴェリアの笑顔を見て、エルスは少し顔を赤らめた後、気を取り直して言った。

 

 

「遠征に行くのは構いませんが、余り期待されても俺の能力にも限度というものが……」

 

「大丈夫だよ、そんなに君ばかりに頼るわけじゃない。君の『魔法』は武器を創ってそれを爆発させる、そういうことでいいのかな?」

 

「はい、一応合ってます。……良かったら見せましょうか?」

 

「いいのか?お前の『魔法』は【ファミリア】の者にも隠していたのだろう?」

 

 

 リヴェリアが少し心配そうに問いかけてくるが、エルスは問題ないと答える。怪物祭が終わった後、このまま自然と『魔法』の存在がバレてしまうくらいなら、いっその事自分から話してしまおうと考え、ヘファイストスの許可を得て皆に教えていたのだ。

 

 エルスの『魔法』を知った時の反応は、すごい魔法だと感心する者と武器を破壊する魔法とはどういう事か、とやや非難の目を向けるものに二分した。

 非難していた者も『魔法』の発現した時期を聞き、エルスが荒れていた事を思い出したら、「ああ……なるほど」とどこか納得したような感じでエルスを温かい目で見つめるようになったが。

 

 

「何にせよ教えてくれるのはありがたい。作戦が立てやすくなるからね」

 

「ではダンジョンに向かうか。ここでは些か問題だろう」

 

 

 

「では、説明しますね」

 

 ダンジョンに向かう際に椿と遭遇し四人でバベルへと歩いていくと、全員が――特にフィンとリヴェリアが――名の知れた人物であるため、大きく視線を集めた。エルスはつい最近このように好奇の目にさらされる経験があったため、居心地が悪そうにしていた。

 

 ダンジョンの中に入ってからも衆目を集め続けたエルスたち一行は、急いで人の少なくて広いエリアがある階層へと足を進めた。そして、無人のエリアに到着した後に『魔法』の説明を始めた。

 

 

「――以上が俺の『魔法』です。何か質問はありますか?」

 

「君の『魔法』の欠点は何があるのか聞いてもいいかな」

 

「……そうですね。【投影魔術】なら他人が作った物の複製はあまり得意ではないことで、【壊れた幻想】なら爆発の威力の調整が出来ないので、近くでは使えないという事ですかね」

 

「あとは魔力の消費が激しいことだな。こやつが魔法の練習だと言って手前とダンジョンに潜った時、【壊れた幻想】の使い過ぎですぐに精神疲弊(マインドダウン)になっておったからな」

 

「なるほど、流石にそこまで都合よくもないか。……しかし、これは凄いな」

 

 

 リヴェリアが感嘆したように呟き、翡翠色の瞳をダンジョンの広間の奥に向ける。そこにはエルスの魔法によって空けられた大穴がいくつも存在していた。

 

 

「まさか、魔剣まで投影して破壊できるとはね……」

 

「そんなこと滅多にしませんけどね。魔剣はただの剣とは違って消費する魔力が桁違いなので」

 

 

 エルスは基本的に魔剣を投影することはない。魔剣を一本投影するのに必要な魔力が通常の物の数十倍に上るからである。

 だが、その見返りとして炎や氷といったエルスが本来使えないはずの魔法の代わりを務めることができ、【壊れた幻想】で破壊すれば通常の魔剣の一発よりも遥かに高い威力を放つことが可能である。

 

 そのため、魔剣を爆破する場合は普段よりも少し離れて行う必要があり、エルスが先日の男の呪道具を魔法発動が可能な状態にしたにもかかわらず、それをしなかったのは呪道具に対して『魔法』を使ったことがなく、爆破したあとに何が起こるか分からなかったからであった。

 

 

「ふむ、エルス、お前の『魔法』は自分で創り出した物以外も破壊出来るのだったな」

 

「はい、自分の物以外では俺の魔力が中に入っていないので、直接手で触れて魔力を注ぎ込む必要がありますけどね」

 

「そういえばエルス、お前いつの間にあれ程離れた距離の物を破壊できるようになったのだ?」

 

「Lv.4になって暫くしてからだな。俺とその武器との間に魔力の線みたいなのが出来ているのに気づいたんだ」

 

 

 エルスがいつも通りダンジョンで『魔法』の訓練をしていた所、意識を集中させると、剣と自分との間にラインが存在しているのが分かった。そのラインに従うように魔法を発動させると、魔力がラインに沿って自分から出ていき、剣に到達して爆発するのが感じ取れた。

 それから、遠くの物を爆破する時はラインを感じ取るように意識すると、みるみるうちに効果範囲が広がっていった。

 

 

「まあよい、……どうだフィン。手前の後輩は中々やるだろう?」

 

「そうだね、エルスがいれば遠征が楽になりそうだ」

 

 

 エルスの説明が一通り終わり、地上に帰還した四人はバベル内で別れの言葉を交わしていた。太陽は既に傾いており、一日の稼ぎを冒険者たちが換金していた。

 

 

「フィン、そろそろ戻るぞ。まだ仕事が残っているのだからな」

 

「せっかく忘れていたのに思い出させないで欲しかったかな……。じゃあ椿もエルスもまた会おう」

 

「ではな、フィン」

 

 

 そうして二人が去っていくのを見ていたエルスであったが、自分も帰ろうとした所、違和感に気づいた。

 

(もう二人とも帰ったのに、俺たち見られすぎじゃないか……?)

 

 やはり、先日の一件がそれほど強烈だったのか、とエルスが何度目か分からない溜息を付いていると、主婦といった感じの女性が子供を抱えながらこちらにやって来て、ニヤニヤしながら言った。

 

 

「そこのお二人さん、付き合ってるんですって?若いっていいわね~」

 

「え」

 

「なに?」

 

「あら、違うの?あんなに仲良しだったのに」

 

 

 その後、大きな声で噂を否定する妖精が至る所で目撃された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




息抜き


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。