俺がジャンゴに憑依した時の話 (月夜鴉)
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01 目覚め

「おい、おい!」

 

 肩を揺さぶられ目を覚ます。目の前には黒髪をオールバックにした眼鏡をかけた異様に眼光の鋭いスーツの男。

 見覚えがあるような……いやいやまさか、な。

 

 そして男の後ろに暗い空が見える。

 昨日はベッドで寝た。空なんて見えるわけがない。そもそも生まれてこの方、目が覚めたら空だったことなんてない。てか後頭部がいてぇ。

 

「寝惚けてんのか。さっさと起きねェかジャンゴ」

 

 ジャ ・ン・ゴ!?

 うそぉーっ!

 奥さん聞きました? ジャンゴですって。ええ聞きましたわ。ジャンゴって言ったらワンピースのジャンゴよね? そのジャンゴよきっと。だって視界が暗いもの。きっとサングラスのせいよ。

 

 混乱しすぎか。思考がおかしい。

 男の威圧にびびりながら体を起こす。

 

「あ、あぁ」

 

 声ちげーし。

 起き上がり後頭部をさすりつつ、辺りを見渡す。ぽつりぽつりと見える家と木々と柵、そして土がむき出しになっている道。

 

 今の状況から考えるに、ここってシロップ村?

 え、マジで? 夢? けど、夢にしちゃ後頭部が痛いんだよなぁ。

 ちらと男を見るとさらに眼光が鋭くなってる。俺は慌てて立ち上がった。

 目線が高いな。手足の長さ、体感がまるで違う。

 

 うん。俺の身体じゃない。違和感しかない。マジどういうことだ。

 

「ぼさっとするな。来い」

 

「悪い」

 

 状況を把握出来ないまま男、クロ……今はクラハドールか。彼が歩き始めたため慌ててついていく。

 クラハドールが先導していることをいいことに自分の顔を触ってみる。顎、サングラス、帽子。俺の記憶にあるジャンゴっぽい。呼ばれもしたしきっとジャンゴだ。なぜに?

 

 とりあえず体は思うように動く。それどころか身体能力が高いようで元の身体より動きやすい。

 動体視力も良いような気がする。

 

 よし、今のうちに状況を整理しよう。確かちびっ子に催眠術を見せたんだったか。そして自分にもかかって寝こけたと。そのまま放置されていたところを起こされたって感じか。

 後頭部が痛かったのはちょうど頭の位置に石があったからだった。眠って倒れた時にぶつけたらしい。

 

 うーん、これって漫画とか小説で言う憑依ってやつ?

 ジャンゴの記憶があったら良かったけどさっぱりだ。原作もアニメも知ってはいるものの、知ってるからといって出来るわけじゃない。

 

 

 

 

 

 

 そのまま互いに無言で歩いていると海岸へ着いた。

 クロが止まり振り返る。思うところがあるようで鋭い視線に射貫かれる。やっぱ元海賊。すげー怖い。

 

「ジャンゴ。この村で目立つ行動は慎めと言ったはずだ。村の真ん中で寝てやがって」

 

「あれくらい大丈夫だって。目立ってねーよ」

 

 声が震えないよう気を付けながら答える。目立ってはいたが、認めるわけにはいかない。

 

「それで、計画の準備はできてるんだろな」

 

「あぁ、お嬢様暗殺計画だろ? バッチリだ」

 

 確かルフィとウソップが崖の上にいるんだよな。必要そうな情報は出来るだけ出さないと。

 原作から外れて殺されたくないし、殺しもしたくない。というか出来ない。殴り合いのケンカすらしたことないんだぞ……。

 俺は覚えてる限りで原作の台詞をなぞった。

 

 彼がキャプテンクロだということ、処刑されたのは身代わりであること、三年前から計画は始まっているということ。

 あとは……。

 

「催眠術でお嬢様に遺書を書かせてから、不幸にも海賊に襲われたように装って殺しゃいいんだろ?」

 

「あぁ、そこが一番大切なんだ。遺書がありゃ財産の相続は成立する。おれはこの三年でそんな遺書が残っていてもおかしくない状況を作り上げたんだ」

 

 ジャンゴならどんな反応をする?

 

「そのために三年間も執事をしたのか。気の長いことで」

 

 ただ奪うことに意味はなく、政府に追われないためには必要であり、そんな自分は平和主義だとクロは言った。

 皮肉もいいところだ。

 

「自分の望みのため金持ちの一家を皆殺しにするたぁとんだ平和主義者がいたもんだな」

 

 お嬢様の両親が死んだのは偶然で、クロは何もしていないと言う。よしよし、いい流れじゃない? こういうこと話してただろ確か。

 ふと、原作を読んだ時の疑問が浮かぶ。気が付くとその疑問は口をついて出ていた。

 

「てことはお嬢様一人なのか。だったら、あんたとそのお嬢様がくっついちまったら良かったんじゃねェの? そうすりゃわざわざ遺書なんて書かせなくても遺産を相続出来るだろ?」

 

 ずっと気になっていた。なぜそうしないのかと。

 そっちの方がよっぽど平和的で失敗するリスクも低い。ルフィたちに介入されることもなかったはずなんだから。

 

「てめェはバカかッ! 不自然だろうがッ!」

 

 これまでで一番の大声。驚いて思わずクロを見つめてしまった。ビビッて変な声を出さなくて良かった。

 クロの方はというと、不愉快そうに眼鏡を手のひらで押し上げていた。

 

「もう三年も待ったんだ。これ以上待ってられるか」

 

 声量を落とし、俺を睨んでいるのは確かに海賊と言われても納得のできる凄みのある男。

 それもただの海賊じゃない。力もあって緻密な計画を立てる知能犯。実力は折り紙付きだ。

 そんな男が動揺した? 

 

「そうかぁ? 遺書を書かせて殺すんだな」

 

 だが追及なんて怖くて出来なかった。もしお嬢様とくっつくことになったら村を襲う必要も無くなり、分け前も不要になるわけだし、立場的にもしつこく聞くのは変だ。

 

「お嬢様を殺すな!」

 

 そんな声が聞こえてきたので見上げると、崖の上にはルフィとウソップがいた。

 原作を再現しよう。懐を探り紐の付いたチャクラムで催眠術を……待てよ、チャクラムはあったが俺にかけられるのか? 

 くっ、やるしかない!

 

「ワン・ツー・ジャンゴでお前らは眠くなる。ワン……ツー……ジャンゴ!」

 

 チャクラムを揺らし、祈りながら唱える。そして俺の意識は途切れた。

 

 

 再びクロに起こされた時にはルフィは崖の下まで落ちていた。

 

「もう一人はどうする?」

 

 聞くと放っておいても問題ないとのこと。

 殺せって言われなかったことにほっとする。原作を知っていても不安になるものはなる。

 

「明日の朝だジャンゴ。夜明けとともに村を襲え」

 

 クロはウソップがいることも気にせず計画について話す。あくまでも事故であるかのように見せるため民家も襲うということ。

 そしてクロがウソップを見上げて、君が知ったところで無意味だと煽る。

 すげー自信。こういうところがかっこいいよな。

 

 ウソップが声を上げながら走っていく。

 

「あのガキ一人が騒いだところであんたの信用は崩れねぇってか?」

 

「あぁ、あいつの言葉を信じる奴なんていねぇのさ。わかったんなら最終確認でもしておけ」

 

「分かってるって。任せとけよ」



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02 行動決定

お気に入り、しおり、評価等、ありがとうございます!
とても励みになります。

改稿箇所
20190820
・本文中のサブタイトルを削除しました。
・サブタイトルの遠し番号を1つ減らしました。


 あの後、その場で解散になった。クロはというと、嘘の口実がバレないよう実際に隣町へ行くとのことだった。でもって俺は最終確認をすると言って海岸に残った。

 

 クロを見送った後深いため息をつく。き、緊張した。

 チャクラムを取り出し覗き込む。チャクラムの刃に映ったのはハートのサングラスをかけたジャンゴだった。わかってはいたものの、呆然としてしまった俺は悪くないと思う。

 

 切り替えよう。このままぼーっとしていてもい良いことは起こらない。例えばルフィが起きるとか。

 

 俺は海岸に倒れているルフィを見た。

 ルフィは大丈夫なのか? 悪魔の実を食べてない世界線とか言わないよな。

 不安になったのでルフィに近付き耳を澄ませた。うん、いびきが聞こえる。そっとルフィの腕を掴み軽く横に引っ張ってみた。おお、伸びる伸びる。何か感動する。

 こんな状況でなきゃ本人とも話したいのに。

 ルフィが生きていてゴムゴムの実を食べていることもわかったし、そろそろ行くか。

 

 坂を上がりながらどうするか考える。そういえばチャクラムを投げるシーンがあったな。俺にも出来るのか?

 坂を上がったところにある林に入る。試しにと狙いをつけて力を込めつつチャクラムを投げてみた。

 チャクラムは俺の狙った枝を落とし、そのまま弧を描くように斜めに飛んで木の幹をスパッと切った後、地面に刺さった。遅れて木の幹が倒れる。

 

 高い枝にはこれ一個! 枝に向かって投げるだけであら不思議、簡単に枝が切れる! 邪魔な木だって何のその、幹からばっさりカット!

 

 おっと、また思考が明後日に飛んだ。

 

 こんなものが人に当たったらどうなるんだよ。想像しそうになって頭を振りその思考を追い出す。

 こえー。人に向かって投げれんわ。

 

 気を取り直して何回か投げてみる。驚くことに手元が狂うことはなかった。体のおかげなんだろう。どうすれば上手く行くか何となくわかる。

 とりあえず、びっくりするくらい狙ったように投げられることはわかった。

 チャクラムを回収し、手に握ったまま斜めに切れた木の幹をを横に切りつける。やはりスパッと切れた。ゾッとする切れ味だ。

 

 ため息をついて切り株の上に座る。

 さぁ考えろ。俺はどう動けばいい。原作通りに進めればいいのか?

 原作をなぞれば確実だろうな。全く一緒とまでは無理だとしても。

 

 だけどせっかくこのシーン、このキャラになったんだ。

 さっきのクロの反応も気になる。クロとカヤの仲をどうにか出来ないか? クロはカヤを殺そうとしながらも気にかけていたと思うんだ。

 

 アニメでは知らずにカヤを切りそうになって動揺していたし、ルフィにやられる寸前だってカヤのことを思い出していた。あそこのシーンは切なかった。

 それに、坂に来たカヤを見た時だって困惑していたように思える。きっとクロとしての顔をカヤに見られたくなかったんだ。

 

 だからどうにかしたい。そして俺も死なないように頑張る。

 

 だったら何が出来る?

 クロに言ってみるか? カヤのことを気にしてるだろって。認めないわな。生半可なやり方じゃ駄目だ。

 クロに対してはカヤが説得する方が効果的だろうし、俺が説得するのはカヤの方か。

 

 よし、目的をはっきりさせてやることを整理しよう。じゃないと何か見逃しそうで怖い。

 

 最終目標は、カヤとクロを和解させること。

 

 そのためには、カヤとクロが坂で会う必要がある。もちろん、海賊は村へ行かせない。村人が襲われたら和解どころじゃないからな。同じ理由でメリーも無事でいてもらわないとまずい。

 時系列的に今考えないといけないのはメリーについてか。

 メリーがクロに切られることになったきっかけは?

 

 ウソップがクロや計画について触れ回っていたとメリーがクロ本人に言ったことが駄目だったんじゃないのか。 

 あぁでも、メリーが切られなければカヤがクロの本性に気づくきっかけがない。その場合、カヤがあの坂へ来ないということがあり得る。

 それは駄目だ。カヤが坂へ来なければどうにも出来ない。どうすればカヤは坂へ向かうのか。

 

 というかクロが坂にいるってどうやって伝わったんだっけ。それもメリーな気がする。あの辺りは悲しくなるから読み直す時も飛ばしちゃうんだよな。

 

 タイミングもある。早すぎても遅すぎてもダメだ。遅いとカヤの知らないところで決着がついてそのままクロがいなくなる。早いとルフィとゾロがおらず、カヤは捕まって催眠術からの遺書、抹殺があるかもしれない。

 いや、屋敷の入り口にはクロがいたから早すぎるってことはそもそも起きないのか。クロが来る頃にはルフィとゾロも坂に来ているはずだから。

 

 それにしたってメリーがクロに切られずカヤが坂へ来るようにするってどうすればいいんだよ。

 俺はその時海賊を率いているわけだからカヤを連れてくることなんて出来ないんだぞ。

 くそ、一人じゃ手が足りない。協力者がいれば取れる手段も多くなるのに。

 

 いっそ催眠術で仲間を……催眠術? 持続時間はどれくらいだ? モーガンにかけてニセクロを処刑させたからかけ方を工夫すれば長く続くのかもしれない。

 なら、催眠術をメリーにかけて浜まで様子を見に行くように誘導できるんじゃないか。メリーも浜まで来るっていうイレギュラーは起こるがそこは仕方ない。

 

 メリーがあの場所へ来たらどうなる。カヤを助けようとはするだろう。ちびっ子三人とメリー一人。メリーならカヤを抱えて逃げられるかもしれない。後催眠もかけて意識が落ちるようにしておくか。カヤはメリーを置いて逃げられなさそうだし、意識を落とすのは森へ入ってからにすればいいか。

 

 よし、ひとまずメリーに接触して催眠術で明日に浜へ様子を見に行くようにカヤを誘導するようにしよう。さらに何かの合図で意識を失うような後催眠もかける。

 

 そうすれば、メリーが無事でもカヤは坂へやってくるはずだ。

 森へ逃げたのを追いかけてメリーを後催眠の効果で落としたら、彼を放っておくことが出来ないカヤも動けなくなるはず。ちびっ子三人とカヤじゃメリーを運べないだろうしな。早く見つけたらそれだけカヤと話す時間も出来る。

 

 クロを説得するにはカヤの協力が必要だ。カヤをクロに突撃させる。

 

 よしよし。次はどうやってメリーと接触するかだ。

 ウソップが村に危険を知らせて追い立てられた後屋敷へ行く時がベストか。そこならメリーは庭にいるし、護衛もウソップに倒されている。カヤが気絶した後ならメリーは一人だ。こう上手いこと言って催眠術をかければいい。

 

 ……ちょっと待てよ。それってタイミング的に今じゃねーか! やばい、すぐ行かないと間に合わなくなる!

 

 俺は慌ててカヤの屋敷へ向かった。



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03 明日への仕込み

ゴールデンウィーク中に上げる予定だったはずが気が付けば終わっていたという不思議。

改稿箇所
20190820
・サブタイトルの遠し番号を1つ減らしました。


 海岸からダッシュで村まで戻り、カヤの屋敷を目指す。

 流石海賊と言うべきことに体力が切れることなく、足がもつれることもなく走ることが出来た。

 

 体が軽い。こんな気持ち良く走れるなんて初めて。もう何も……。

 

 止めよう。覚えのある台詞だと思ったら死亡フラグだったか。

 

 ともかく、これが運動の出来る体か。楽しいな。

 こんなのどかな村で全力疾走とか見られたらすげー目立つってのはわかってるけど、こちとら走らずにいられない状況だ。わかっていても気にしていられない。

 

 

 さて、主観では誰にも見られずにカヤの屋敷に着いた。息すら乱れていない。半端ねぇ。

 

 門番の姿はない。間に合わなかったのか? 屋敷の中を覗いて状況を把握したいところだが、ウソップと鉢合わせたら最悪だ。ややこしい自体になる予感しかしない。

 柵やら木、生垣があるせいで一階部分はあまり見えない。ただ、微かに声が聞こえているので生垣の角に隠れつつ耳を澄ませてみる。 

 

 パーンと一度の銃声が響いた。それは屋敷の敷地内から聞こえた。

 

 そこへちょうどやってきた村人たちがウソップを追い立てている。村人たちはウソップを追って屋敷を離れていった。

 

 海賊の襲撃を知らせているのに信じてもらえず追い立てられる。血の流れる腕を押さえて逃げるウソップの姿が痛々しくて悲しくなる。

 怪我までさせられているのにそれでもカヤや村人を助けようとクロネコ海賊団に立ち向かい、海賊の襲撃を嘘にしようとする。ウソップは凄い。ルフィが言っていた器が大きいっていうのもそういうことなのかもしれないな。

 

 銃声はウソップがメリーに撃たれた時のものだろう。

 どうやら間に合ったようだ。俺は護衛のいない門をくぐり庭へと向かった。庭にはウソップにやられたらしい護衛たちが倒れている。頼むから起きてくれるなよ。

 

 勘ぐられる前に、このパニックから覚めて冷静になる前に計画を押し通す。何だか詐欺師っぽい手口だな。

 

 庭には意識のないカヤを支えているメリーがいた。この二人も見た感じ原作とかアニメのまんまだ。メリーは羊っぽい髪型に執事服で、カヤは病的に白い肌で髪の薄い色素も相まって儚い印象を受ける。体はもちろん、手足だって細い。

 

 メリーは意識のないカヤに気を取られていて俺に気付いていない。

 

「おいあんた。俺は旅の占い師なんだが、良くない相が見えるぞ」

 

 我ながら胡散臭さ爆発だな! ええい、男は度胸だ!

 

「勝手に何ですかあなたは。不吉なことを言わないでください」

 

「近くを通ったら立派なお屋敷なのに門番一人いない。屋敷の中からは銃声まで聞こえてくるもんだから、すわ、強盗か!? って思って様子を見に来たんだ」

 

 不審げなメリーに怪しまれないように答える。

 

「ご心配ありがとうございます。騒ぎはありましたが、落ち着いたので大丈夫です」

 

 それは暗に出ていけって言ってる? まぁ、見た目からしてジャンゴは怪しいもんなぁ。いや、見た目よりも第一声が駄目だったか?

 

「まぁ聞いてくれよ。悪い気配を感じたんだ。近いうちにもっと良くないことが起こる。逃れるためには……先にその嬢ちゃんを運んだ方がいいか。俺はここで待ってるからよ」

 

 カヤを抱えたままのメリーに催眠術をかけてカヤを落としたら大変だ。俺ももうちょっと考える時間が欲しい。

 

「聞くとは言っていないのですが」

 

「別に金なんてとりゃしねーよ。何かを売り付けるつもりもない。親切心だ。タダなんだから聞いても損はねーと思うぜ」

 

 うん、嘘は言ってない。本当でもないけどな。

 

 メリーがカヤをお姫様抱っこして運んでいく。メリーでもカヤを抱えることは出来るのか。この世界の住人は侮れないな。

 

 一階にある部屋の窓は閉じられたままだ。俺は屋敷を見上げた。高い木の近くにある二階の部屋の窓が開いている。

 なるほど、少なくともカヤの部屋はアニメ基準みたいだ。原作の漫画ではカヤの部屋は一階でアニメでは二階だったし。原作でもアニメでもウソップがカヤを連れ出そうとしていたから窓が開いてる方がカヤの部屋のはず。

 

 メリーにどんな催眠術をかけるか考えながら待っていると、しばらくしてメリーが戻ってきた。ひも付きのチャクラムを取り出す。

 

「詳しく占うからこのわっかをよーく見てくれ。集中して見てもらう必要がある」

 

 そう言いながらチャクラムを左右に揺らす。

 

「俺がワン、ツー、ジャンゴと言ったらあんたは疑問に思わず俺の言葉に従う。ワン、ツー、ジャンゴ!」

 

 もちろん、自分は見ないようにハットでガードする。

 

「明日、あんたが自由に動ける状態かつ、お嬢様が悩んでいるようだったら心配事を確認するように後押しする。もし話の通り海賊が襲ってくるなら一人じゃ無理だ。お嬢様と一緒に北の海岸を見に行くべきだろう。『羊の大行進』という言葉を聞いたらあんたは眠る。倒れる時は危なくないように倒れるようにな」

 

 ええと後は。

 

「この後聞く占い師の占いと助言は当たるから従わなきゃならない。俺がワン、ツー、ジャンゴと言ったら話の内容は覚えていてその通り行動しなきゃならない。ただし、俺が言ったということは忘れて意識がはっきりする。ワン、ツー、ジャンゴ!」

 

 原作にはないくらいの長文を詰め込んでるが大丈夫か?

 緊張と不安を抱えながら改めてメリーを見るとキョトンとしていた。これは成功したのか?

 

「よし。占いの結果を言うぞ。近々誰かが贈り物をするだろ? 贈り物はその相手に見つからないように当日まで隠しておくのがいい。そして贈り物は、用意した本人が直接渡すべきだ。じゃないと贈り物は失敗する可能性が高い。そして贈り物が失敗した時、あんたは不幸に襲われる。分かったか?」

 

「え、えぇ。分かりました」

 

「あぁそれと、さっき海賊がどうのって聞こえてたが、そのことは本人には言わない方がいいぜ。嘘だったとしても言われた方も嫌だろうからな。記念日が近いんだろ? わざわざ嫌な思いをさせる必要もない」

 

「そうですね。分かりました」

 

 若干の間。催眠中の内容に触れられないってことは上手くいっているはず。上手くいってることを祈る。

 

「じゃ、そういうわけだから」

 

 何か言われる前にさっさと行こう。ボロが出る前に。

 来てくれよカヤ! ほんとマジで頼むから! メリーも無事でいてくれ!

 それに眼鏡も割られないで欲しい。



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04 思わぬ問題

下書きではオリ主の長考が殆んどだったのでバッサリカット。

改稿箇所
20180701
・あとがきの表記を統一しました。

20190820
・サブタイトルの遠し番号を1つ減らしました。


 幸いにもメリーさんに呼び止められることなく屋敷を出ることが出来た。

 呼び止められるんじゃないかってヒヤヒヤした。

 

 とりあえずこれでカヤさんは海岸へ来るはず。その時メリーさんがいても森で意識を落とせばそこまで原作とは外れないだろう、と思いたい。

 

 それにしても『羊の大行進』か。他に無かったのか俺!?

 メリーさんを見ていると羊が柵を飛び越えていくイメージがどうしても払拭出来なかったんだよなぁ。メリーさん恐るべし。

 後悔しても遅い。いざとなったら叫ばないと。

 

 さて、当日の振る舞い方はどうするか。

 本番は明日なんだ。失敗するわけにはいかない。

 

 飯屋に寄って、その後に北の海岸を下見して海賊船に帰ろう。

 

 

 ……ちょっと待て、帰るったって海賊船はどこにあるんだ?

 

 嫌な汗が背中を伝う。小舟でやって来たのは知ってる。肝心の方向と距離は? 真っ直ぐ進んでいいのか? てか、海で真っ直ぐ進むとか無理じゃね?

 

 遭難とか冗談じゃない!

 

 焦りながらも思考を巡らせる。

 

 よく考えろ。クロネコ海賊団だぞ。何も無い海のド真ん中に船を停泊させるか? 海軍が通りかかってもいいように隠れられる岩場なんかの近くに停泊するんじゃないか。岩場なら海図に載ってそうだ。よし、飯屋で海図がないか確認しよう。

 

 

 

 

 

「邪魔するぜー。この辺りの海図はあるか?」

 

「いらっしゃい。あるよ」

 

「そうか。おにぎりを三つ、持ち帰りで頼む。具はお姉さんのお薦めで。他にも欲しいものがあるんだが……」

 

 元々の用事についても頼んでみる。おばちゃんからはあるとの返答。

 

「その二つも売ってくれ。その海図を見たい。 あと紙が一枚欲しいなー、なんて。ペンも貸して貰えたら凄く助かるんだが」

 

「いいとも。少し待ってな」

 

 おばちゃんがカウンターの奥へ消える。

 

 MESHIと書かれた食事処での聞き込みは上手くいったようだ。

 色々頼むことになったので、おにぎりはこう、迷惑料のつもりだ。お姉さんと呼んで機嫌を取ることも忘れない。

 入る前にちゃんと財布も確認した。ベリーって日本の貨幣とそっくりなのな。助かった。

 

 そんなことを考えてる間におばちゃんが丸められた紙を持って戻ってきた。

 手渡された紙とペン、海図を広げて内容を確認する。

 

 北の海岸から行ける岩場はいくつかあった。思ったより遠くなさそうだ。

 

 

 

「はい。お待ちどおさま」

 

 岩場の位置を紙に書き込んでいると声をかけられたので、料金を払い品を受け取る。大きくて食べごたえのありそうなおにぎりだ。特に欲しかった品に関しても問題ない。

 

 メモを書き終えるとペンを返し、お礼を言って店を出る。

 

 ルフィたちと会う前に北の海岸へ行こう。

 

 何事もなく北の海岸に到着。海岸と林の中の下見をする。林の中についてはアニメに出てきた大きな岩がある場所を念入りに確認してきた。

 

 海岸にはルフィたちの乗ってきた船がある。

 それとは別にジャンゴが乗ってきたと思われる小舟がある。それに乗り込み、海賊船探しに出た。

 まずは大きな岩場へ行こう。

 

 運がいいことに風向きに任せて出発出来た。時には帆を畳んでオールで漕いで岩場へ向かう。

 

 

 

 

 

 どれくらいの時間が経ったかわからないものの、岩場が見えてきた。いや、岩場というよりも小島だな。

 日はだいぶ傾いている。小島を回りながら海賊船がないか確認する。

 小島の半分を過ぎた時、海賊旗が見えてきた。それも猫っぽい。

 はやる気持ちを抑えて様子を窺いながら進むと黒猫の船首が見えてきた。

 

 

 うおっしゃー! ビンゴー! 第三部完っ!

 

 

 いやぁ、見事な読みですね。

 自棄にならずに海図を確認したのが吉と出ましたね。

 しかし苦難はまだまだ続きます。彼はこの後ジャンゴ選手がキャプテンを務めるクロネコ海賊団に接触しなければならないのですから。この辺りはどう対処していくのでしょうか。

 難しいところですね。何より本物のジャンゴ選手を知っている相手とのやり取りが行われるので、些細なミスが命取りになることも十分に有り得ます。いかに自然なジャンゴ選手を演じられるかが鍵になるでしょう。

 まだまだ目が離せないという訳ですね。

 現場からは以上です。

 

 

 一個目が当たりで本当に良かった。

 すげー焦ったわ。

 船が見つからなかったら、島にすら戻れなくなったらどうしようとか、不安不安でしょうがなかった。

 その時になって海図も購入可能か聞いておくんだったと後悔したりもした。

 

 改めて船を見る。うん、クロネコ海賊団の船だ。

 溢れる喜びも脳内謎実況を挟んだお陰で冷静になれた。そう、ここからが大切なんだ。

 

 一度深呼吸をするとドキドキしながら海賊船に近付く。見張り台の男が俺に気付いて何やら合図を出しているようだ。

 

「ジャンゴ船長が戻ってきたぞー!」

 

 小舟ごと引き上げられ船内に入る。

 船員たちが集まってきた。シャムとブチの姿もある。

 

「野郎どもただいま。計画は予定通り明日の朝、決行する。日の出と共に上陸して村を目指す。わかってるとは思うが、これはキャプテン・クロの計画だ。気を引き締めていくぞ」

 

 小舟から降りると船員たちに告げる。

 船員たちが雄叫びを上げた。

 

 

 さて、船長室はどこだ?

 

 

 

 

 ここまで生きた心地がしなかった。

 上着を脱いでベッドに倒れ込む。

 

 結果から言えば、原作で船員に起こされたジャンゴが出てくる船の中央というか甲板の真ん中にある部屋が船長室だった。

 

 考えたいことがあると言ってその部屋に引っ込んだらキャプテンローブっていうのか? それがあった。個室であることから考えてまず間違いないだろう。

 言葉のおかげか今のところ誰かが来る様子もない。

 

 小舟に乗ってる間はおにぎりを食べる余裕もなく、貰ったまま上着に入っているのでお腹が空いたら食べよう。

 

 精神的な疲れもあって眠気を感じる。自分の催眠術にかかって寝た時もあったのにな。

 やらなきゃいけないことがあるからまだ眠れない。

 

 まずは切れないチャクラムだ。あるかどうかわからないけど。

 

 

 横になって少し休憩した後、机の引き出しを下から開けていく。

 いくつか開けると一つの引き出し内で上段と下段に分けていれられているチャクラムがあった。何で分けてあるんだ? 入れようと思えば全部同じ所に入れられるのに。下段のチャクラムは数が少ない。見た感じは普通。

 もしやと思って下段のチャクラムの刃先をよく見る。

 

 やっぱりだ。刃先が丸い。念のため手で触ってみても切れない。もしかして訓練用のチャクラムか?

 良かった! いくつか持っていこう。切れないのは右、切れるのは左の上着のポケットに入れておく。

 

 これがあれば……。

 

 

 

 明日への準備を終え、ホッとしたからか急にお腹が空いてきた。買ったおにぎりを食べよう。

 

 さて、部屋でやりたいことは一通り終わった。明日どう動くかも考えた。

 

 

 ……出航の合図は俺が出さなきゃ駄目なんだろうな。俺が船員の立場なら出航前には船長に起きていて欲しい。

 一応言っておくか。

 

「あ、船長」

 

「俺はこのまま休むことにする。もし出航前になっても寝ていたら起こしてくれ」

 

 近くにいた船員に用件を告げる。その船員も返事をしたのですぐ部屋に戻った。 

 おかしいところはなかったよな?

 

 

 よし、明日に備えてもう寝よう。凄く眠い。

 ベッドに横になり目を閉じるとすぐに意識は遠くなった。




原作との違いや考察など

〈一人での帰還について〉
原作ではジャンゴはクロと共に海賊船まで戻っているという。(原作三巻の最終ページ)

この作品内では、海岸での打ち合わせ後、帰らずに下見をすると言ったので解散するという流れに。
憑依主が放り込んだ質問も解散に一役かってるつもりです。
二人で海賊船まで帰ってる時に再度聞かれることをクロが嫌がったという裏設定。

〈訓練用チャクラムについて〉
もちろん原作では訓練用のチャクラムなんて出てきていません。
ただ、原作ではジャンゴよりもニャーバンブラザーズのコンビの方が強いという話が出ていたので、クロネコ海賊団は訓練というか模擬戦的なことをしていたのではないかとの考えから訓練用のチャクラムがあるということにしました。

〈クロネコ海賊団の停泊場所〉
原作三巻の最終ページに1コマだけ海賊船が停められているので小島があるという風にしました。


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05 海賊船での一幕

下書き「事件当日」
本書き「海賊船での一幕」

一章増えました。
合わせて次の章のタイトルも変わりそうです。「開幕」辺りかと思われます。

改稿箇所
20180530
タイトルを追記
前書きに書いてタイトルをつけ忘れるとはなんたるうっかり。

20180701
・あとがきの表記を統一しました。

20190820
・サブタイトルの遠し番号を1つ減らしました。



「見覚えのある天井だ」

 

 けたたましいスマホのアラームで目を覚ました俺の目に入ったのは見慣れた白い天井だった。

 

 横になったまま部屋を見ても自分の部屋だ。

 

 

 

「……というリアルな夢を見たんだ」

 

「すげー楽しそうじゃん」

 

 学校の昼休み、友人にジャンゴになる夢を見たとその内容を話す。

 

「楽しむ余裕なんて……や、少しはあったか。けど、大変だったんだぞ」

 

「はは、まぁ夢だって気付いてないんだから大変だったかもな」

 

「夢で良かったとは思うけど、正直続きがすげー気になる」

 

「続けて見られるといいな。そうだ、ジャンゴになってたんならこんなこと言われたんじゃね?」

 

 楽しげに話していた友人が急に真剣な顔になる。

 

 

「ジャンゴ船長! 起きてください」

 

 

 次にその友人の口から聞こえてきたのは、野太い男の声だった。

 

 

 

 

 

「……夢かよ」

 

 ガバッと体を起こした俺は薄暗く揺れている部屋にいた。言わずもがなクロネコ海賊船の船長室である。

 

 現実を夢に見て別世界で目を覚ますって、それなんて夢幻三剣士? 夢と現実を入れ換えるスイッチどこだよ。

 

 はー、安心させた後に突き放すとかひっどい夢だわ。

 

 

 

 これから、か。

 

 持ち物を確認した後、一度目を閉じて深呼吸をする。

 俺ならやれる。演劇部だろ。脚本とか小道具、大道具とか裏方メインだけど。部員の練習風景は見てきた。ちょい役だってこなして来たじゃないか。

 

 

「よし」

 

 キャプテンローブを羽織ると帽子を押さえて船長室を出る。

 

「野郎ども! おはよう。出航だ!!」

 

 集まる注目、上がる雄叫び。

 

 

 船員が持場に向かい、船が動き出す。俺はそんな船員たちを見ながら二階へ上がって甲板の様子を見る。

 

 さぁ、ここからシロップ村まで耐えられるのか俺!?

 

 即行で船長室に引きこもりたい! 出港命令も出したし、もういいんじゃないか?

 

「船長」

 

 フラグかよ。

 呼ばれたので声のした方を見ると、そこには名前を知っている数少ないキャラがいた。

 

「何だ、シャム」

 

「キャプテン・クロはどんな様子でしたか?」

 

 じっと俺を見ながらそう聞いてくるシャムさんの表情は思いのほか真剣で、思わず見つめたまま返答に詰まってしまった。

 

「……そうだな。執事服に身を包んじゃいたが、あの癖と凄みは相変わらずだ。三年経っているとはいえ、あのキャプテン・クロだと実感したぜ」

 

 そういえば、シャムさんはスピードに自信があったんだったか。でなきゃ馬鹿にされたとはいえクロに向かっていくこともないだろう。

 

「……シャム、ブチを呼んで俺の部屋まで来い。少し話そう」

 

「わかりました」

 

 真剣な表情で静かに言うとシャムさんも返事をしたので、ここでの話は終わりと打ち切るつもりで船長室へ向かう。

 船長室へ入り一息つく。これで自然に船長室へは戻れた。どう話すか考えつつ、椅子に座って二人が来るのを待つ。

 

「船長、お呼びで?」

 

 少しして扉がノックされたと思うとシャムさんでない声が聞こえる。

 

「入れ」

 

 扉が開きブチさんとシャムさんが入ってくる。

 

「ブチ、シャム。言うまでもなく、てめぇら二人がうちの最大戦力だ。予定外のことが起きない限り、今日は船にいてもらうが」

 

「突然どうしたんです?」

 

 ブチさんが怪訝そうに言う。まぁ、当日に話すことじゃないよな。

 

「これから上陸する村の北にある海岸に二隻の小舟があった。一隻は印もなく普通の小舟、もう一隻は道化のバギーの旗印がついた小舟だ」

 

 同じ海域で海賊なんだから名前くらいは知っているはず。

 

「道化のバギーって言ったら妙な技を使うっていう?」

 

 やはり知ってはいるようでシャムさんが反応する。

 

「あぁ。村でそれらしい一味は見ていないが、目的がわからない以上、計画に横槍が入るかもしれねぇ。お前らを呼ぶとしたらその時だ」

 

 なんと言うか、見て話してコミュニケーション取ってると愛着がわくっていうのか? 漫画の登場人物としてじゃなく、一人の人間として見てしまう。原作にない船内での話だから尚更。

 ここまでは原作通りでも戦闘はどうなるか。大きな怪我をしないでくれたらと思う。

 けど、二人のやる気を出させ過ぎたらゾロがキャット・ザ・フンジャッタを食らう羽目になるかもしれない。この葛藤が辛い。

 

「と、らしくもなくマジになっちまったか。まぁ、いざという時には頼りにしてるぜっていう話だ」

 

 これまでと違って少し明るく、らしくないと言われる前に自分で言ってしまう。

 

「邪魔者が現れてもおれたちニャーバンブラザーズに任せてくだせぇ!」

 

「その通りだブチ、切り刻んでやろうぜ!」

 

「あぁ、任せた」

 

 既に原作に無いことを言っている自覚はある。

 それに加えてあともう一つ。

 

「……キャプテン・クロはこの三年間、海から離れていた。戦いとは無縁な長閑な村にいた」

 

 一人言でもあるかのように静かに話し、間を開けつつ二人を見る。

 

「だがよ、あのキャプテン・クロが平和ボケするようなタマか? そこをよく考えて行動してくれ」

 

 だから馬鹿にされてもクロに突っかかるのは止めて欲しい。

 そんな思いを込めてシャムさんを見る。スピードに特化するにはブチさんのような筋肉は重荷になる。鍛えていたとしても、ゾロの重い攻撃は細身のシャムさんにはひとたまりもない。

 

 二人はクロに突っかかった後、焦ってゾロを倒そうとした結果、返り討ちにあったような気がする。焦らなければ少しは傷も浅く済むかもしれない。

 

「船長、キャプテン・クロはこの計画で動かないんじゃ?」

 

「あぁ、奴は依頼人であって計画を実行するのは俺たちだ。……少し気になる夢を見たから念のためだ」

 

 ビビってると思われるかもしれない。

 

「俺からは以上だ。てめぇらからは何かあるか?」

 

「計画が無事遂行できて分け前をもらったら、どっかの町で騒ぎましょうぜ」

 

「美味い食い物に酒。楽しみだ」

 

 二人に頷き、持ち場へ戻るよう言って見送った後、小さく息をつく。

 

 原作をなぞるということは運命とも言うべき流れを受け入れるということ。俺はその流れを変えるようなことをしている。

 さて、この行動が吉と出るか凶と出るか。

 

 

 

 ついに動き出すキャプテン・クロの恐ろしい計画。

 クロネコ海賊団がいる以上、下手な行動は取れないわ。人を傷付けられないのにどう乗り切るっていうの?

 戦いはもう始まってる。今こそ打ってきた布石が活きる時よ!

 

 次回、『原作改変の代償』 デュエルスタンバイ!

 

 

 

「船長、目的地が見えてきました!」

 

 とか考えてる場合じゃない。

 

 船長室から出て進行方向を見る。遠くには海岸とその海岸を挟むように反り立っている対の崖が見えた。




気付いたこと、気になったこと

〈ブチとシャム〉
 この小説を書く前はシャムとブチだと思っていました。ですが、原作を確認するとブチとシャムの順番でした。
 ブチの方が兄貴分なのかもしれないですね。

 作中でも書きましたが、自信が無ければクロに向かって行かないわけで、速さに自信があるだろうシャムの目標はクロだったのではという考察。
 クロを越えてやるという意気込みも彼に向かっていった要因だったのではないかなぁ。足りない力はブチと協力することによって補っていると。

 下書きには「ブチとシャムと話す」くらいしか書かれていなかったんですけどね。


〈道化のバギーの旗印の小舟〉
 原作、アニメではクロネコ海賊団が海岸に到着した時に停泊している小舟に気付いていますが、旗印については何も触れていません。
 オリ主も実際に旗印を見ているわけではないので原作知識からの言葉になります。
 停泊している小舟の帆は畳まれているので旗印はわからないはずですから。


 こうやって書いていて初めて気がつくことがあるので楽しいです。


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06 開幕

長らくお待たせ致しました。
前後半にしようかとも考えたのですが、変に区切ると矛盾してしまいそうだったので遅くなりました。文章量もこれまでのと比べてほぼ3倍の約7000文字です。

今回の箇所は原作の四巻をご覧ください。
あ、シロップ村自体は三巻から始まります。

今回のように遅くなることはあっても完結自体はさせようと思っています。

改稿箇所
20190820
・サブタイトルの遠し番号を1つ減らしました。


 一度大きく揺れて海賊船が海岸に停泊する。ルフィさんたちがいるということもない。原作通り南の海岸にいるってことでいいんだよな。

 

 

「上陸だ! よしてめぇら、村を適当に荒らして屋敷へ向かうぜ!」

 

「「おぉーっ!!」」

 

 これまで待機状態だったらしい船員たちはようやく暴れられると血気盛んに坂を駆け上がっている。そんな様子を見ながら俺も歩みを進める。

 

 

 少しして坂を上る先頭の集団が何かを食らったように飛ばされ始める。坂の上を見上げた船員が坂の上に誰かいるとの声が聞こえる。

 

「おれの名はキャプテン・ウソップ!! お前らをずーーっとここで待っていた!!」

 

 だから戦いの準備は万端で、死にたくなければ引き返せとウソップさんは言う。呼吸を乱れさせながら。

 

「計画を聞いてたガキじゃねぇか。たった一人で何の用だ?」

 

 ウソップさんが続ける。引き返さないと一億人の部下が俺たちをつぶすと。

 

「何!? 一億人!? すげぇ!」

 

 と、狼狽えた振りをする。ジャンゴさんは信じやすい人。俺、知ってる。

 船員に嘘に決まってると言われ、よくも騙したなと言うことも忘れない。

 

 そこからも原作の流れだった。小舟に宝があったこと、それをやるから引き返してくれと言われたこと、宝をもらうからと引き返す理由はないということ。

 俺は懐から紐付きのチャクラムを取り出す。

 

「わかったならワン・ツー・ジャンゴで俺たちの前から消えろ。ワン・ツー……」

 

「バカなこと言ってんじゃないわよ!!」

 

「ジャンゴ!」

 

 チャクラムを左右に揺らしながら見ないように帽子を下げた時そんな声が聞こえた。見るとナミさんがウソップさんを棒で殴っていた。結構がっつり入ったんじゃないか、あれ。

 

 ナミさんがウソップさんに話しながら俺を指差す。

 

「言い忘れたけどあいつのリングを最後まで見ちゃダメ。あいつは催眠術師なの!」

 

 その後も二人は何やら話している。

 

「あんなのには構わず踏みつぶして村へ向かえ野郎ども!」

 

 俺の一言で船員たちが坂へ向かっていく。

 

 

 

 ついに戦いが始まった。二人はまきびしを蒔き、ウソップさんが鉛玉を船員に打ち込み抵抗している。

 それでも多勢に無勢、船員たちを防ぐことは出来ずウソップさんが斧で殴られた。頭から血を流しながらも先へ進もうとする船員の足を掴んでウソップさんが言う。

 

 

 海賊が来るというのは嘘で、村ではいつも通りの一日が始まるのだと。

 

 

 そんなウソップさんが止めを刺されそうになっているのをナミさんが止めるも、船員に飛ばされ崖に叩きつけられてしまう。

 

 邪魔をされた船員がナミさんに標的を変える。

 

「おいてめぇら! そいつらは放っておいて村を襲え! これがキャプテン・クロの計画だってことを忘れたか! あの男の計画を狂わせるようなことがあったら、俺たち全員殺されちまうんだぞ!!」

 

 声を張り上げ船員たちの意識を村へ向ける。これ以上は二人が危ない。

 

 船員たちはキャプテン・クロを脳裏に描いたのか、いくらか固まった後、急いで坂を上がろうとした。

 だが坂を上がりきろうというところで吹き飛ばされる。

 

 

「ナミ、てめェ!! よくもおれを足蹴にしやがったな!!」

 

「ウソップこの野郎!! 北ってどっちかちゃんと言っとけぇ!!」

 

 

 ゾロさんとルフィさんが坂の上に居た。

 

 合流した四人は何やら話しているのでそちらを見ながらも船員たちに問いかける。

 

「おい、てめぇら大丈夫か? 俺たちはこんなところで足止め食ってるわけにはいかねぇんだ」

 

 船員たちの方へ振り返り、チャクラムを左右に揺らす。

 

「よし、お前らこの輪をじっと見ろ。ワン・ツー・ジャンゴでお前らは強くなる。傷は完全に回復する。ワン・ツー・ジャンゴ!」

 

 正直彼らを酷使するのは気が引ける。それも本物のジャンゴではなく偽物の俺が命令するなんて。けど、やるしかない。今更止めるなんて出来ないんだから。

 

「行け! 邪魔する奴らはぶっつぶせ!」

 

 催眠術がかかった船員たちが大声を上げ、ある者は近くの崖を砕き再び坂を駆け上がる。

 

 思い込みの力で強くなった船員たちを見てナミさんたちが驚いているのが見える。

 船員たちに続いて俺も先へ進む。

 

「行くぞゾロ!」

 

 ナミさんとウソップさんは坂の上へ避難し、ルフィさんとゾロさんがこちらへ向かってくる。

 

 

 あれ、ルフィさんにかかってない? 何で……いや、いい。こっからもやることは変わらない。倒されることもなく、村へ行くこともなく、拮抗状態の維持だ。船員に怪しまれることなくっていう条件付きで。

 何それハード。いや、分かってたことだろ。同じようにやったつもりでも原作通りに進めるとは限らない。どうしたって微妙な差異が生まれるんだから。

 

 無強化状態とは言えルフィさんは強い。そもそも間合いが違う。それにゾロさんもいる。催眠状態の船員たちでも厳しい。

 実際、二人に船員たちが押されている。せめてルフィさんをどうにかしないと。

 

 しかしルフィさんは催眠状態になっておらずゾロさんと二人で戦っているためか、原作での船首をもぎ取ろうとするという単独行動を起こさない。

 

「くそ、仕方ねぇ。下りてこいニャーバン・ブラザーズ!」

 

 少し早いが温存出来ない状況だ。

 船までやや距離があるので声を上げ二人を呼ぶ。

 

「あいつら強ぇ……」

 

 聞こえる泣言に振り返ると船員たちはルフィさんたち二人に押しやられ、俺の近くまで来て戦々恐々としていた。

 追い討ちをかけてこないのがまだ救いか。

 

 ブチさんとシャムさんはまだかと視線を船に戻すと二人が船の上から顔を出しているところだった。

 

「早く下りてこいってんだ!! 邪魔が入った、てめぇらも手伝え!」

 

「わ、わかりましたから、そう怒鳴らないでください!」

 

 シャムさんが先に甲板から下りる。

 が、原作とは違って下り方も危なっかしいし、着地にも失敗しよろけてこけている。ブチさんも同じように下りてきたが、よろけるだけでこけなかった。

 

 被ってる猫が大きくなってやいませんか。

 

「俺たちはどうあってもこの坂を抜けなきゃならねぇ。麦わらのガキは俺が相手をする。てめぇらはもう一人の邪魔者をやれ」

 

 坂のど真ん中に居るゾロさんを親指で示しながら告げる。

 

 俺のいる位置は船の近くではなかったけど、そこからは原作で見たような流れだった。自分たちはただの船番で戦うなんて無理、ゾロさんが強そうでおっかないと。

 なので俺も早く行けと怒鳴る。

 

「わかりましたよ。行けばいいんでしょ! おいそこのハラマキ! おれが相手だ!」

 

 涙目になり自棄糞かと思えるようにドタドタとゾロさんたちの方へ向かっていくシャムさん。 

 

「てなわけだ。麦わら、てめぇの相手は俺だ」

 

 前に歩み出るとルフィさんに向かってそう告げる。モーフィアスのように手の平を上にして手招きしてみるのもかっこいいが、やる気を出されては困るので止めておこう。

 

 こうやって一対一に持ち込めば紳士的なルフィさんもそれに答えてくれるはず。

 

 俺の側を通り過ぎゾロさんへ向かっていたシャムさんが加速しゾロさんを切り裂きにかかる。

 金属同士のぶつかる音を響かせ、ゾロさんはシャムさんの爪を防いでいた。そして無くなっているゾロさんの二本の刀。

 

「あれを受け止めたか。流石だな。さて、こっちも始めるか」

 

 受け止めてくれて良かった。

 一言話して時間を稼ぐ。こういう地道さが実を結ぶんだ。

 

「俺の武器はこれだ」

 

 紐付きのチャクラムを取り出し、左右に振る。

 

「よーくこのワッカを見てろよ」

 

 頼むからかかってくれ。

 

「ワン・ツー・ジャンゴでお前は眠くなる。ワン・ツー・ジャンゴ!」

 

 帽子で視界を塞ぎ、暗示の言葉を言って帽子を上げると前のめりに倒れるルフィさんの姿が見えた。

 倒れる前に駆け寄り支えかつぎ上げる。

 崖から落ちても眠ってはいたんだからこのまま倒れたって大丈夫だろうが、念のためだ。それに倒れたのを抱えるより、寄っ掛かってきたのを抱える方が楽だ。

 

 そして飛んできた二本の刀が俺の横を過ぎ後方に落ちた。切られたと見せかけて服だけを切らせたシャムさんが、刀を取りに行こうとするゾロさんを後ろから捕まえ、ブチさんの上空からの一撃、キャット・ザ・フンジャッタを食らわせようとする。

 しかしゾロさんはその直前でシャムさんを振りほどいてかわした。

 

 

「てめぇら、この麦わらに耳栓や目隠しでもして、起こされねぇよう船の近くまで運んで寝かせておけ」

 

 近くの船員に担いだルフィさんを渡して指示を出す。もちろん、大きな声を出さないように。

 

 聞こえる剣戟の音に振り返るとブチさんとシャムさんの二人が刀一本のゾロさんと戦っていた。

 

 次に崖の上を確認するとウソップさんがパチンコを構えて掩護射撃をしようとしているところだった。

 

「おいてめぇら、何しようとしてる! そっちを狙わせることも出来るんだぜ?」

 

「死にてェのか! 手ェ出すな」

 

 俺の忠告にゾロさんもウソップさんが何をしようとしていたのか気付いて言う。

 視界の端にナミさんが崖から下りてくるのが見えた。彼女が刀へ向かって駆けてくる。

 

 

 船員たちに見られないようギリギリまでチャクラムを懐に隠しつつ、刀への最短ルートに立ち塞がり近づいてくるナミを注視する。

 

「刀に何の用だ?」

 

 懐から取り出したチャクラムでナミの肩をこする。ナミが小さく悲鳴を上げ倒れる。

 もちろん切れないチャクラムだ。切れたりはしなくても打撃にはなるから痛いのは痛いだろう。このチャクラムにはケチャップがついているのでナミの肩は赤くなっている。

 

 そう、ケチャップである。飯屋で仕入れた袋にケチャップを入れて、そこへチャクラムを半分ほどつけて赤くする。

 原作通り切れるチャクラムをかすらせることも考えたが、人に刃物を振り翳すなんて出来る気がしなかった。ビビって躊躇ってるところを見せるくらいなら誤魔化すことにした。

 

 見られないようすぐに持っていたチャクラムを交換する。船員たちからの指摘もない。

 ホッと一息つこうと思いながらゾロさんたちの方を見るも黒い人影が映った。

 

 

 坂の上にはクロの姿があった。

 

 

「あ、いや、これはその……事情があって……」

 

「何だこのザマはァ!!!」

 

 クロの怒鳴り声が辺りに響く。空気が張りつめ肌がビリビリし体が震える。

 

「まさかこんなガキ共に足留めくってるとはな。クロネコ海賊団も落ちたもんだな。えェ!!? ジャンゴ!!!」

 

 マジこえぇっ!! この距離でもビビるわ!

 何だよあの迫力! ヤクザかよ! 元海賊だったわ!

 

「待ってくれ! あんたあの時その小僧は放っておいて問題ねぇって言ったぜ!」

 

「言ったがどうした。問題はないはずだ。こいつがおれ達に立ち向かってくることくらい容易に予想できていた。ただてめェらの軟弱さは計算外だ。言い訳は聞く気はない」 

 

「おれ達が軟弱?」

 

「落ち着け」

 

 船で話したこともあって二人はクロに反旗を翻したりはしないが、抑えが効くのも時間の問題そうだ。

 

「まだ巻き返せる! 一人落としたんだ、後はあのハラマキさえやりゃいい!」

 

 クロが俺を見ながら無言になる。

 

 

「5分だ。5分でこの場を片付けられねェようなら、てめェら一人残らずおれの手で殺してやる」

 

 死にたくないと狼狽える船員たち、気合を入れなおしている様子のブチさんとシャムさん。

 くそ、もらえる時間は変わらないのか。だからといってここでもうひと声! という勇気は俺にはない。

 

「5分ありゃなんとかなる!」

 

 不安しかないけどな!

 

「あいつさえ倒せればこの坂道を抜けられる! 頼んだぞニャーバン・ブラザーズ!」

 

 第二ラウンド開始か。カヤさんが来るまで耐えきらないといけない。ブチさんとシャムさんが反抗しなかった分、原作より前倒しになっているはず。

 

 

「ゾロ、刀!」

 

 声が聞こえた瞬間、ナミさんが蹴り上げたであろう二本の刀がゾロさんへ飛んでいくのが見えた。

 

 俺はそのうちの一本目掛けてチャクラムを投げた。それは見事に命中し刀を弾き飛ばした。結果、ゾロさんが受け取れたのは一本のみ。もう一本は地面に落ちている。

 

 刀を弾いたためか思い切りゾロさんには睨まれたが、彼はナミさんにお礼を言って刀を受け取る。その一本を抜いて二本の刀で一閃、ブチさんとシャムさんが切られて倒れた。

 くそ、二本でも駄目か。

 

 ゾロさんは俺が弾いた刀を拾うとクロに刀の先を向け、5分待たずとも俺たち全員潰すと宣言した。クロは右手の平で眼鏡を押し上げやってみろ。と返答する。

 

 倒れたブチたちに目を向ける。良かった。原作同様、苦しそうにしながらもブチさんは体を起こしているところだ。シャムさんの方も意識はあるらしく動いているのが見えて一安心。

 

「ジャンゴ、船長、催眠術をかけてくれ!」

 

 俺は船員たちにかけた時と同じように二人に催眠術をかけた。

 催眠術をかけている時に背後からタッタッタッという地面を蹴る音が聞こえてくる。催眠術をかけ終わるとすぐに振り返る。ルフィさんに向かって駆けていくナミさんの背中が見えた。

 

「今度は何する気だ。大人しくしやがれ!」

 

 アニメで見たような紐付きチャクラムをグルグル回してからのスタイリッシュチャクラム投げはしない。カッコいいけど、この土壇場でやって失敗するわけにはいかないからな。

 

 普通に投げるチャクラムももちろん刃先が丸くなっているものを使う。チャクラムを懐から取り出す前に刃先を触って確認も済ませた。ナミさんに当たった時にはナミさんが凄く硬かったってことにしよう。ルフィさんがゴム人間だってことがわかればナミさんも何かしらの能力者かもと勘違いしてくれるかもしれない。

 

「ナミ! 伏せろ!」

 

 ナミさんがルフィさんを踏み、後ろからはゾロさんの声がする。ナミさんはその声に反応してすぐさま伏せた。

 

 投げたチャクラムは伏せたナミさんの頭上を越え、入れ替わりに体を起こしたルフィさんに当たった。

 

 痛みの雄叫びを上げ、ルフィさんが完全に目を覚ます。

 

 

「ブチ、シャム、いけるか? 引き続きあの剣士を頼む」

 

 二人は頷きゾロさんに向かっていく。

 ルフィさんも船員たちの間を歩いてこちらへ来る。あれ、手に俺の投げたチャクラムを持ってませんか? 何する気だよ。原作と違う行動取らないでくれよ。俺? 自分は棚上げに決まってんだろ!

 

 しかもカヤさんが来ない! 原作じゃこのタイミングで来たはずだ。

 俺的にはカヤさんが来るまで時間を稼ぎたいが、立場的にはクロの言った時間までにルフィさんとゾロさんをどうにかしなきゃならない。

 やりたいこととやらなきゃいけないことが真逆じゃねーか!

 

 ルフィさんと戦うなんてどうすりゃいい。

 催眠術をかける。これは決まりだろ。どんな催眠術だ。眠らせる? ナミさんがいるからすぐ起こされそうだな。

 

 だったら……。

 

「俺たちには時間がねぇんだ。邪魔をするな麦わら」

 

「嫌だ。お前らこそ帰れよ」

 

 ルフィさんは動かない。俺に先手を譲ってくれるらしい。

 

 

「お前、何がしたいんだ?」

 

 

 それは静かな問いかけだった。ルフィさんはじっとこちらを見ている。睨まれているわけでもないのに、まるで己の内側まで覗かれているような真っ直ぐな視線だった。その視線から目を反らすことが出来ず射すくめられる。

 

「……さてな。事が終わって俺が生きていたら答えてやるよ」

 

 背後から聞こえる金属と金属のぶつかる音で我に返ると船員たちに聞こえないよう静かにその問いに答える。

 

 チャクラムを鏡のように使い背後のブチさんたちの様子を伺う。

 シャムさんは再び切られたのか倒れてしまっていた。

 

「おいてめぇら! そこの女が妙なことをしないよう押さえてろ!」

 

「やだ、こっち来ないでよ!」

 

「逃げろナミ!」

 

 肩を押さえながらナミさんは素早く逃げる。

 

「ちっ……おい麦わら、この輪を見ろ」

 

「見ちゃダメよルフィ!」

 

「ワン・ツー・ジャンゴで輪から目が離せなくなる! ワン・ツー・ジャンゴ!」

 

 あっぶねー! 俺も危うく見るところだった。

 

「もういっちょいくぜ。ワン・ツー・ジャンゴであのハラマキと無性に戦いたくなる! ワン・ツー・ジャンゴ!」

 

「うおおおぉッ! ゾローーーっ!」

 

「あのバカっ!」

 

 持っていたチャクラムを手放しゾロさんに向かっていくルフィさん。悲鳴に近い声を上げルフィさんを追いかけるナミさん。

 ブチさんの爪を防いでいるゾロさんに向かって拳を握って延びていくルフィさんの腕。

 

「いい加減どきやがれ!」

「”山葵(わさび)星”っ!」

 

 ゾロさんに切られて倒れるブチさん。ゾロさんはその場を飛び退きルフィさんの攻撃をかわした。その拳が崖に当たり皹を入れる。それと同時にルフィさんの口に吸い込まれるように入っていったウソップさんの山葵星。

 

「カレえぇーーっ!」

 

 止まって辛そうに叫ぶルフィさん。

 

 

「落ち着いたか」

 

「あぁ、サンキューなウソップ!」

 

 呆れた様子ながらもルフィさんの返答を聞き警戒を解くゾロさん。

 眠らせる方が良かったか? けどその場合、誰がルフィさんを起こすんだよ。

 

「俺が催眠術師の相手をする」

 

「悪執事は任せろ!」

 

 ゾロさんが俺の前に来る。

 どうしろってんだよ。ゾロさんに催眠術なんてかかるわけないし、戦うとかさらに無理だ。泣きたくなってきた。

 

 ふと坂道の頂上を見ると、クロは腕時計を確認して上げていた手を下ろした。嫌な予感しかしねぇ。

 

「皆殺しの時間だ」

 

 マジかよ!?

 あぁほんと、自業自得とはいえ誰でもいいから助けて欲しい。

 くそ、どうする。

 

 

「クラハドール!」

 

 

 犠牲者が出る覚悟で撤退するべきかと考えていた時、辺りに少女の声が響いた。




原作との違いとその理由(考察)

〈ルフィにかからない催眠術〉
 ルフィに催眠術がかからなかった理由は単に声量不足でルフィに聞こえていなかったからです。

 船長歴のあるジャンゴ(本物)の声の出し方と一般人(憑依主)の声の出し方は違うでしょうから。

〈シャムが気絶しなかった理由〉
 ゾロの刀が二本で威力が落ちていたからです。

 そしてその時、ゾロの手に刀が二本とも戻っていれば憑依主はブチたちに催眠術をかけるのは困難だったでしょう。
 原作だとブチたちはクロに向かっていきます。そして実力差を実感した後にゾロと戦おうとして三本の刀が戻ったゾロにやられて吹き飛びジャンゴの前に倒れます。
 なので今回の場合、三本だったらブチたちはクロ側へぶっ飛ぶので、間にゾロを挟んでの催眠術は困難になるということです。

原作での位置
ジャンゴ  ゾロ  ←ブチたち  クロ

今回の位置
ジャンゴ  ブチたち→  ゾロ  クロ


 二本でもぶっ飛ぶ? ……そこはまぁご都合主義ということで


〈ナミが憑依主のチャクラムをかわせた理由〉
 これは憑依主がゾロの刀をチャクラムで弾いているのを見たため、警戒していたからです。

 掩護射撃をしようとしているウソップに警告の意味合いでチャクラムを投げるパターンも考えていましたが、ナミが刀を取りに来にくくなりそうなので声だけの警告になりました。その辺りは憑依主も考えています。
 その場合でもウソップに掩護してもらいながらナミは刀を取りに行きそうですね
 ブチたちの位置? 憑依主はそこまで考えていないので偶然ですね

〈ケチャップに付け込んだチャクラムの袋〉
 紙や布ではケチャップが染み込んで大変なことになるので袋の材質はポリエステルに似たもの(水分が漏れない)を想定しています。ワンピースの世界にそういう素材はあるのだろうかと考えたのですが、ミス・バレンタインとペローナは傘を持っていますし、カルーの首元のタルにはストローが刺さっているのでそれらしい材質のものはあると仮定しての使用です。

〈山葵(わさび)星〉
 オリジナルです。タバスコ星の前身のつもりです。
 火薬を玉にする前にこういうものは作っていたのでは? という考察からです。

 タバスコという液体を玉にするよりわさびといった固形物の方が狙いもぶれなさそうと思ったのもあります。液体も玉一杯に詰めたら変わらなそうではありますがどうなんでしょうね。


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07 カヤの登場

前回の更新後、お気に入り登録がガンガン増えて気が付けば三倍になっていてとても驚きました。
拙い文章だとわかっているのでお気に入り登録、しおり、評価して頂けて嬉しい限りです。ありがとうございます。

下書きの章数で言えば終わりまで半分を過ぎました。
ただ、下書きが荒いこともあり次はもっと遅い更新になるかもしれません。

改稿箇所
20180717
修正前
SAN値直葬(正気度減少)待ったなしのせい

修正後
クロの手酷い裏切りのせい

修正理由
SAN値直葬と言う表現は正しくなかったため

20190820
・サブタイトルの遠し番号を1つ減らしました。


「クラハドール……ねぇ、これはどういうことなの?」

 

 傍らにはカヤさんを支えながら驚愕しているメリーさんがいる。

 メリーさんは無事、カヤさんも事情を分かっていない。ウソップさんも二人が来たことに驚いて何しに来たと言っている。

 

 ヒヤッとしたが来てくれたか。いやほんと、このまま皆殺しルートかと思って覚悟を決めかけてたわ。

 

「あ、あなたは!」

 

 メリーさんは俺に気付いたようで驚いている。まぁ、クラハドールに対しての驚きと比べたら微々たるものだったけどな。

 

「よお、昨日ぶり。思わぬ再会になったな」

 

 片手を上げて気安くメリーさんに答える。俺としてはメリーさんが無事で居てくれて嬉しかったんだが、メリーさんには苦々しい顔をされてしまった。

 

「屋敷の娘も一緒か」

 

 俺の言葉を聞いた船員たちの目に希望の光が灯る。あの娘さえやれば計画は達成出来るという希望だろう。村へ行かなくても彼女を殺せばいいと船員たちが言っている。

 

 

「これは驚いた……お嬢様……なぜここへ……?」

 

 これまでとは違った丁寧な口調のクロに、言葉は無いまでも船員たちが驚いていることが分かる。辺りは不自然なほど静まり返っており、誰もが事の成り行きを見守っている状況だ。

 

 和解してくれても俺は一向に構わない。むしろそうして欲しい。船員の説得だってやる。何なら今からでも打ち合わせよう。

 

 

「昨日、ウソップさんに言われたことが気になって仕方がなかったの。それに、クラハドールが出ていくのが見えたから私……」

 

 祈っているうちにカヤさんが話し始める。

 

 信じられない、いや、信じたくないといった様子のカヤさん。メリーさんが付き添ったとは言え無理をしたようで顔色はあまり良くない。

 

 

「ウソップさんが言っていたこと、本当なの?」

 

 まるですがり付くような、それでいてはっきりとしたカヤさんの問い掛け。きっとカヤさんだって分かっているはずだ。それでも聞かずにはいられなかったのだろう。

 

「……本当です。自分から来てくれるとは手間が省けました」

 

 手の平で眼鏡を上げる仕草の後、クロは静かにそう答えた。その声の調子からは何の感情も感じられない淡々としたものだった。

 カヤさんの方を向いているためクロの表情は分からない。だが、幾らかの間があったことは分かる。

 

「どうして……」

 

 あぁ、カヤさんの声が震えている。

 

「彼から聞いたのでは? あなたの財産が目的ですよ」

 

 対してクロは涼しい様子で答えている。

 

「三年間お嬢様の側にいて、どうしてこんなことが出来るんですか! 旦那様に拾って頂いた恩をあなたは!」

 

 メリーさんが激昂して叫ぶ。

 

「最初から計画のうちだ。三年もかけた」

 

 夢見がちだった彼女に付き合ったことも、それに耐えたのも、カヤさんを殺すこの日のためだとクロは言った。これまでの鬱憤を晴らすかのようにクロは続ける。

 かつてはキャプテンクロと名乗り恐れられていた自分が、カヤさんのような小娘のご機嫌を取るというのは屈辱的な日々だったと怒鳴っている。

 

 原作通りに話が進む。くそ、この台詞は変わらないのか。

 

 激昂したウソップさんがクロに殴りかかり、それを躱したクロがウソップさんに攻撃しようとする。しかしルフィさんに遠距離から殴られ飛ばされた。倒れたクロに飛び出したちびっ子たちが持った武器で叩く。

 

 原作と同じ流れとは言えハラハラした。ちびっ子たち大丈夫だよな?

 メリーさん? クロの手酷い裏切りのせいで涙を流しながら茫然自失としたカヤさんを支えて呼びかけている所だ。

 ウソップさんがクロに殴りかかる直前、メリーが懐に手を入れたのが気になる。銃、持ってるんだろうなぁ。

 

 クロはというと、ちびっ子たちを無視してウソップさんに蹴りを入れた後ルフィさんを見た。伸びた腕を見てルフィさんが悪魔の実の能力者であることを見抜く。

 

「ジャンゴ! その小僧はおれが殺る。お前にはカヤお嬢様を任せる。計画通り遺書を書かせてから殺(け)せ。目障りな周りの連中もだ」

 

「引き受けた」

 

 クロの命令を受けて俺は歩みを進める。

 後はこの坂道を無事に抜けてカヤさんに追いつけばいい。ブチさんはいないがやりようはある。

 

「クラハドール……」

 

「逃げろカヤ! そいつにゃ何言っても無駄なんだ! お前の知ってる執事じゃないんだぞ!」

 

「お嬢様! 逃げましょう!」

 

 二人の呼び掛けにカヤさんの目に光が戻った。

 

 ゾロさんが刀を横にする。

 

「止まれ。こっから先は通す訳にはいかねェことになってんだ」

 

 ですよねぇ。

 懐からチャクラムを取り出しわざとらしくウソップさんに視線を向ける。

 

「てめェ!」

 

 俺の狙いにゾロさんが気付くと同時にウソップさんに向かってチャクラムを投げる。

 ゾロさんがそのチャクラムを防いでいる間にゾロさんの脇を駆け抜ける。

 

 チャクラムを防いでくれてありがとうゾロさん。当たっていたら切れないことがクロにバレてやばかった。

 見ず知らずのナミさんならともかく、ウソップさんには『実は悪魔の実の能力者!?』作戦は使えない。切れないチャクラムはそれがバレる危険も併せ持った諸刃の剣。刃はないのにな。

 

「ウソップ海賊団っ!!」

 

 ウソップさんが声を張り上げる。言うことを聞けと言われ、ちびっ子たちは逃げない、仇を取ると言っている。しかしウソップさんはカヤさんを守れという。カヤさんを連れてここを離れろと。

 

「出来ないとは言わせない。大切なものを守るために、おれたちは海賊団を結成したんだ!」

 

 ウソップさんの熱い言葉。俺も立ち止まってその話を聞く。

 

 ちびっ子たちはそのキャプテン命令を聞いてカヤさんとメリーと共に林へ逃げようとしている。林は自分たちの庭のようなものだからと言っている。

 

「ジャンゴ」

 

「はっ、思わず聞き入ってた」

 

 カヤさんは何か言いかけていたが、メリーさんに抱え上げられちびっ子たちと林へ急いでいる。

 

「逃がすか!」

 

 カヤさんたちを追って林へ入ろうとした時、腰辺りに小さくて硬い何かが勢いよく当たった。

 くそいてぇ……。何だと振り返ったらウソップさんが、パチンコを俺に向けていた。

 

「ザマァ見やがれ」

 

 俺は一度舌打ちするとクロに注意される前に林へ駆け出し、カヤさんたちを追った。

 

 

 

 

 すぐ林に入ったからまだあまり離れていないはず。坂道からは多少離れて合図を出そう。

 

 いないことがわかっている範囲で切れるチャクラムを投げる。抵抗なく木に吸い込まれていくチャクラム。木々が大きな音を立てて倒れる。

 安定の切れ味。

 

 俺は大きく息を吸った。

 

「羊の大行進っ!!」

 

 もっとましな言葉にしときゃ良かったよマジで!




悩んだ箇所

〈カヤがクロに対してウソップの話が本当だったのか聞くかどうか〉

 信じたくないカヤの気持ちも想像出来るのですが、それだとウソップが不憫で。

 かといって、あの状況で原作のようにウソップに謝るのも違うよなぁと。
 聞き分けが良すぎると言いますか。
 こちらのカヤはメリーがやられていないのでクロに対しての覚悟も出来ていないはずです。

〈メリーがクロに対して発砲するかどうか〉
 クロの言動にメリーは銃を向けるはず。ただそうするとウソップのシーンを奪うことになってしまいます。
 なので、メリーが銃を抜く前にウソップがクロに殴りかかったことにしました。
 ウソップが殴りかかる前にメリーが銃をクロに向けていたら、オリ主はメリーをチャクラムで狙ってゾロの横を抜けていたでしょう。
 その場合メリーになるのは、ウソップの位置関係です。ウソップはクロに殴りかかったから坂にいたのであって、それまでウソップは崖の上にいます。チャクラムで狙えないと思いました。


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08 林の中にて

今更ですが、後書にはネタバレを含みます。今回は時になので、いつも後書きから読んでいる方はご注意ください。


前回のあらすじ
 坂道へとやってきたカヤとメリー、ウソップ海賊団、そこには特殊な武器を付けた屋敷の執事、クラハドールがいた。

 クラハドールことキャプテン・クロはその本性を表しカヤへと暴言を吐き、遺書を書かせてからカヤを消せとジャンゴに指示を出す。

 命令に従いカヤたちを追うジャンゴ(に憑依したオリ主)だった。



次回について
 下書きの展開を変えるかもしれないので遅くなるかもしれません。

改稿箇所
20180812
 頂いた誤字報告を適用しました。誤字報告ありがとうございます。
 ×パッピーエンド 〇ハッピーエンド

20180813
 頂いた誤字報告を適用しました。誤字報告ありがとうございます。
 ×斜線上 〇射線上

20190820
・サブタイトルの遠し番号を1つ減らしました。



 あ、メリーさんてカヤさんを抱えてたよな。一緒に倒れたんじゃ……。うん、そうだったとしても不可抗力だ。危なくないように倒れるように言っておいたし、大丈夫だと信じよう。

 

 立ち止まって耳を澄ませてみるも何も聞こえない。とりあえず進んでカヤさんたちを探す。自分の居場所を知らせてしまうので声を出さず歩きながら周囲を見渡す。

 

 

「……ろ……だん……!」

 

 進んでいたら何やら声が聞こえてきた。

 声の聞こえた方へ進むと座り込んでいるカヤさんとメリーさん、ちびっ子三人組が話している姿が見えた。慌てて木の後ろに隠れる。

 

 メリーさんが起きてるぅ!? 効かなかったのか? いや、よく見ればメリーさんの服は土で汚れている。眠ったのを起こしたのかもしれない。眠らせただけじゃ簡単に起こせるから。

 

 焦るな。今一番警戒すべきは恐らく銃を持っているメリーさんだ。彼をまた眠らせれて、起こされる前に済ませればいい。寝なかったらチャクラムをぶつけて、メリーさんが怯んでる間に接近して銃を奪い取る。

 

 そうと決まれば再度声を上げよう。これっきりにさせてくれよ。

 

「羊の大行進!」

 

 木の後ろからメリーさんへ向かって声を上げる。メリーさんが倒れたので紐付きチャクラムを取り出し、カヤさんたちのいる方へ進む。

 

「「「うわああああ!」」」

 

 ちびっ子たちが俺を見て悲鳴を上げる。声を上げながらもカヤさんをかばうように彼女の前に立つちびっ子たち。凄い覚悟と度胸と男気だ。

 

「め、メリーに何をしたの?」

 

「邪魔されそうだったんで眠ってもらっただけだ」

 

 ちびっ子たちの前で紐付きチャクラムを左右に揺らす。

 

「ワン・ツー・ジャンゴでお前らは眠くなる。ワン・ツー・ジャンゴ!」

 

 帽子で視界からチャクラムを隠して暗示を唱える。次に帽子を上げた時には倒れて眠っているちびっ子たちがいた。

 

 原作から考えるとちびっ子たちは眠った振りをしているだけだろう。だから不意打ちにさえ気をつければいい。

 ここで反撃されて逃げられるわけにはいかない。メリーさんがいるから逃げられないかもしれないけど。

 

「さて、これで……」

 

「来ないでください!」

 

 カヤさんを説得しようと向き直った時、カヤさんは震える手で俺に銃を向けていた。

 

 うおっ!? カヤさんが持ってるのかよ! 撃たないよな? 大丈夫だよな?

 やばいどうしよう。彼女に撃つ気はなくても何がきっかけで引き金を引くとも限らない。

 

 安心した所に銃を向けられ、頭の中が真っ白になった。

 

 やっばい、何するか飛んだ。この土壇場で何してんだよ俺っ!

 

 

 

 

 

「お嬢様に撃てるか? それを撃ったり抵抗すればこの執事とチビどもを殺す。大人しく遺書を書いてもらおうか。それがありゃ他の連中は見逃してやってもいい」

 

 

 

 ……おや? 俺喋ってないんだけど。今、喋ったよな?

 え、は!? ちょっと待って体も動かない!

 

 そして浮かぶのはある可能性について。

 

 いや、そんなわけは……いやいやまさか……ジャンゴさんご存命!?

 ここでモノホンのジャンゴさんすか!? つか本人いるのかよ! ここまで来てなんもできない? じゃなくて、この状況ヤバくないか!? 

 

 いや待て落ち着け。

 ジャンゴさんの意識はいつからあった?

 ジャンゴさんも俺が動いてる間に意識あった感じだよな。じゃないとまず状況を確認するはず。

 そうじゃないなら、ここまで自然に振る舞えるはずがない。

 

 

「……本当に、私が大人しく遺書を書けば、彼らは見逃してくれるんですか?」

 

「あぁ。約束する。これでもおれは正直者で通ってるんだ」

 

 カヤさんの銃をそっと取って羽ペンと紙を渡すジャンゴさん。

 

「書く場所がねェな」

 

 そう言って懐の左ポケットから切れるチャクラムを取り出し近くの木を切る。大きな音を立てて木は倒れ、切り株が出来上がった。

 

 ジャンゴさんの視界を通して見ることしか出来ず、ハラハラしている俺を置きざりにして、ジャンゴさんは紙とペンをカヤさんに渡した。カヤさんが切り株を台にして遺書を書き始める。

 

 これ、まずいんじゃないか?

 

 どうにか体を動かそうとしてみたり、ジャンゴさんに伝わることを祈って強く思考して話し掛けてみる。

 

 

 

「執事クラハドールに私の全財産を譲る。よし、確かにお前の遺書だ。これでお前の役目は終わったわけだ」

 

 遺書を確認した後、ジャンゴさんはそれを懐に入れてカヤさんを見る。

 

 ジャンゴさん! 聞こえてるならカヤさんを殺さないでくれ!!

 

 聞こえているかなんて分からない。

 だが、体を動かそうにも動かせないのだから、聞こえると信じて訴えかけるしか出来ない。

 

 

 

「あんたは、クラハドールに言いたいことはねェのか?」

 

 次に聞こえてきたのは、俺がカヤさんに言おうと思っていた最初の言葉だった。

 

 

「え?」

 

 予想していなかったのかカヤさんはきょとんとしている。

 俺も驚いた。驚きはしたが、その言葉のお陰でやらなきゃいけないことを思い出せた。

 

 よし一度深呼吸を……て、体が動くようになってる!?

 

 小さく息をつくと屈んでカヤさんに視線を合わせる。

 

 どうやらジャンゴさんはカヤさんの説得を任せてくれたらしい。

 イケメン(タル)過ぎて俺のテンションがやばい。そうだな、ジャンゴさん。ここで俺が頑張らないでどうする。

 

 怯えさせないように気を付けながら、俺はゆっくりと口を開いた。

 

 

「嬢ちゃんはこれでいいのかって聞いてるんだよ。嘘ですって言われてはいそうですかって納得できるのか? 三年間、あの男と一緒に居たんだろ?」

 

 無理矢理連れて行っても駄目なんだ。カヤさん自身で動いてくれなきゃ意味がない。

 

「……納得なんて出来ていません。止められるなら止めたいと思っています」

 

 持っていたチャクラムをカヤさんの首元へ突き付ける。

 

 

「それは……」

 

「カヤっ!!」

 

 

 話している途中、突然の大声に思わずそちらを見るとウソップさんを抱えたゾロさんがいた。

 ゾロさんはウソップさんを落とすとこちらへ駆けてくる。

 

 鬼タイミングだな全く!

 

 原作同様ゾロさんが俺とウソップさんの射線上にある枝を切り落とす。

 

 体は問題なく動かせた。

 すぐに立ち上がった俺は帽子に手をかけ、それを外すと顔の前に突き出した。

 

 ウソップさんの撃った火薬星が帽子に当たって爆発する。

 熱と衝撃はそれなりにあったがそれだけだ。

 

「なっ……」

 

 まさか防がれると思っていなかったのかウソップさんが驚いている。

 

 さて、俺が知っているのはここまでだ。原作なら、今の一撃を顔面に食らってジャンゴさんは気絶するんだから。

 つまり、こっからどうなるか不明で、俺のアドバンテージは無くなった訳だ。

 

 もしゾロさんに切られたらどうなるんだ?

 一瞬浮かんだ考えを振り払う。バカ言え。逃げてたまるか。ここで踏ん張らないでいつ踏ん張るんだよ。ジャンゴさんが許してくれるのなら、ここは俺自身の力で乗り切りたい。いや、乗り切らなきゃいけないところなんだ。

 

 ゾロさんが来るまでまだ距離はある。

 帽子を手放し懐から切れないチャクラムを取り出す。カヤさんに突き付けていた切れる方のチャクラムをウソップさんの前方にある木に向かって投げた。少し遅れて切れないチャクラムをその木の外側に当てる。そのチャクラムが当たったことで、木はウソップさんの真ん前に倒れ、その視界を塞いだ。これでウソップさんは撃てないはず。

 

「あんたはどうしたい! このままここにいたら、きっとあんたは助かる。戻れば殺されるかもしれない。それでもあの男を止めたいか!?」

 

 カヤさんに向き直り最終確認をする。

 

「私は……もう一度クラハドールに会いたいです! 彼を止めたいっ!」

 

 じっと俺を見返しながらカヤさんは力強く答えた。

 

「その覚悟があるならおぶってでも連れて行ってやるよ。あの男を説得出来るとしたらあんただけだろうからな」

 

 カヤさんがもう一度クロに会うことを決めてくれたことで思わず口角が上がった。

 

 

 

 再び体が勝手に動いた。ゾロさんのたちの方へ向きながら、懐からは切れるチャクラムを取り出そうとしている。眼前にはゾロさんがいて、その刀が俺に降り下ろされーーーーなかった。

 

「何を企んでやがる」

 

 抜き身の刀を突き付け、ゾロさんが睨みながら問う。

 

「おれはある奴の計画を利用してるだけだ。おっと、クロじゃねェからな? そいつはハッピーエンドが見たいんだと。あまっちょろくて、詰まで甘い杜撰な計画だが、目はある。だからおれはお嬢様を殺さない。やるつもりならてめェらが来る前にやってる」

 

 ゆっくりと懐から手を出し戦意がないことを表しながらジャンゴさんは言った。

 

「お嬢様は死ぬかもしれねェってのを分かっていてクロを止めたいと言っている。てめェらは、そんなお嬢様の覚悟に水を差すつもりか?」

 

 ゾロさんを見ながらそう言ったジャンゴさんの声は低く、流れる空気が重くなった。

 




ジャンゴ「いつからおれが居ないと錯覚していた?」
オリ主「なん……だと?」

 転生ではなく憑依なのでこの展開になりました。本人がいることは下書きから決まっていたことです。

 ジャンゴが動けるようになったのは、オリ主の「誰でもいいから助けて欲しい」(07 開幕の最後の方)がフラグだったりします。そこから動けるようになったという設定です。


〈カヤが銃を持っていた理由〉
 突然眠りに落ちる人が銃を持っていても。という理由です。


〈本編と下書き間の裏話〉
 どうでもいいって方は飛ばしちゃってください

下書きでの流れ
 カヤ説得
 林から坂道へゴー
 ゾロたちと遭遇(短い一章)

でした

本編の流れ
 カヤ説得中
 ゾロたちと遭遇
 林から坂道へゴー

です

本編執筆中
 カヤに対しての説得が納得いかない。

 殺されるかもしれないがクロに会いたいかと問うことの無意味さ
 断ったらその時点でジャンゴに殺されるかもしれないような状況だと問いかける必要なくない? ということ

私「説得どうするかな。でもこの問いは入れたいよな。あー、次の章(ゾロたちと遭遇)のシーンも短いな。今回の章にまとめるか。うーん、大したことしてないし、グダるくらいなら遭遇のシーンはカットもありか」

ひらめき「そこをカットするなんてとんでもない! ユー、説得シーンにゾロたちの遭遇を挟んじゃないなよ! そうすれば、カヤが生き残れる可能性がある状態で、その可能性を棄ててまでクロに会いたいかかって聞けるじゃないか!」

私「その手があったか!」

 というひらめきがあり、めでたく好みの展開にすることが出来ました。

 諦めてカットして投稿しなくて良かったです。


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09 二つの立場

長らくお待たせ致しました。
具体的に言えば、最終更新日から四ヶ月が経ちました。早いですね。

ご都合にならないように気を付けていたのですが、今回はご都合感があるかもしれません。

今回に関しては書き直しや加筆もあるかもしれません。

UA数がカウントされているのを見る度に、覗いてくれている方がいるんだなと嬉しく思います。そして書かないとなとも思っていました。

そして次回もかかりそうです。

なんかこう納得出来なくて。
その納得のしていなさが今回のよりも強いのです。


物語としては次回で終結して、その次でエピローグになりそうです。
もしくはまとめてその両方になるか。


前回のあらすじ

 林へ逃げたカヤお嬢様たちを追って林に入り、発見したまでは良かった。しかしそこで、銃を向けられ頭が真っ白になるという失態を演じてしまうオリ主。
 そのピンチをフォローしてくれたのは思わぬ人物だった。

 カヤお嬢様の説得に成功し、自身が気絶するという事態も回避した。
 無事に坂道まで戻れるのか。戻ってきたカヤお嬢様にクロはどんな行動を取るのか。

 思わぬ人物の狙いとは一体。


改稿箇所
20190820
・サブタイトルの遠し番号を1つ減らしました。


 そして今、ジャンゴさんはカヤさんをおぶって走っていた。

 その後ろにはウソップさんを抱えたゾロさんもいる。

 

 これってどういう状況!?

 

 話は聞いた。理解が追い付かない。

 

「ーーーーそういうわけだ。おれはおれの目的のためにてめェらを利用してる。だが、てめェらにとっても悪い話じゃあない」

 

 てめぇらってのは俺も含めてってことですね、わかります。

 

 崖へ向かっている間にジャンゴさんの目論見とやらについて聞いた。

 占い師から聞いた話だとぼかしてはいたが、どう考えても俺からの情報だろっていうのが多数あった。原作の流れを振り返っていた時に伝わったのか、俺の記憶自体を見られたのかは今のところ不明である。けど確実に、俺がメリーさんに対して『占い師』を自称したことは知っていると思っていいだろ。

 

 ほぼ最初からじゃねーか!

 

 ……よし、それはもういいか。問題はこれからだ。

 ともかく、ジャンゴさんが味方で良かった。

 

 そんなことを考えていると、占い師ねぇというゾロさんの呟きが聞こえた。何かこう、視線をヒシヒシと感じる。

 

「目があるってどういうことだ。あいつはカヤを殺そうと……!」

 

「本当にそれだけが目的ならもっと簡単で確実な方法なんていくらでもあるんだよ。あのキャプテン・クロがそれに気付いていないわけがない」

 

 カヤさんを心配したウソップさんに問いただされ、ジャンゴさんが即答する。

 

 そうなんだよな。クロの狙いって何なんだろ。カヤさんの遺産ももちろんあるだろうけど、それがメインでもない気がするんだよな。

 

 

「その狙いにも目安がついてそうだな」

 

「そりゃあな」

 

 ゾロさんからの問いかけにジャンゴさんは笑みを浮かべる。

 

 マジで!?

 何それ聞きたい。

 

 

 ついに明かされるキャプテン・クロの本当の目的! 裏の計画に隠された真実とは一体!?

 

 これは燃える。何が出来るかわからないけど、俺は全力で手伝いますよ、ジャンゴさん!

 

 

「お前は仲間を何だと思ってるんだァ!!」

 

 話の続きを聞きたかったものの、そうこうしているうちに坂道の付近に着いたらしく、ルフィさんの怒鳴り声が聞こえた。

 

 ちょ、これ杓子後なんじゃ。皆大丈夫なのか。ブチさんとシャムさんは?

 

 

「後はおれにまかせとけ」

 

 そう遠くないところでカヤさんたちには待機してもらい、帽子を被り直しながらジャンゴさんが林の出口へ駆ける。

 先ほどよりも抑えられたトーンは緊迫感を、その言葉からは頼り強さを感じた。

 

 その手には、ドロッとした赤い粘り気のある液体、俺の用意したケチャップの付いた切れないチャクラムを持っている。

 

 

 

 

 

 林の出口はすぐだった。場所は入った時とそう違わない坂道の上。

 

 坂の上からはクロの杓子によって切り裂かれたと思われる船員たちの姿が見える。

 

 クロの方はというとルフィとやりあったようで、右手の猫の手は折られ、頭からは血を流している。

 二人は対峙しながら何やら会話をしていた。

 

 

「クロっ!! こりゃどういうことだ? あの技を使ったのか!?」

 

 舌打ちの後、響いたのは怒声だった。俺の出した時とはまるで迫力が違う。

 

 

「ジャンゴ船長! キャプテン・クロは最初から俺たちを生かして返すつもりはなかったんだ! ジャンゴ船長のことも殺す気なんです!」

 

 ジャンゴさんに気付いた船員の一人が叫ぶ。遅れて無事な他の船員たちも口々に何が起きたかを言う。

 曰く、クロはジャンゴさんを含めて最初から全員を消すつもりでいるということ、その理由はクロの生存を知る者が生きていると困るからという独善的なものであること。

 

「こっちは言われた通りお嬢様に遺書を書かせてきたってのにひでェもんだ」

 

 坂を下りながらケチャップのついたチャクラムを見せつけるように手で弄びながらジャンゴさんが言う。

 うん、まぁ確かにカヤさんには遺書を書いてもらったから嘘は吐いていない。誤解不可避な言い方だけどな。

 

 そうして坂を少し下ったところでチャクラムをしまった後、懐からカヤさんの遺書とライターを取り出す。

 

 

「ここにお望みの遺書がある。これと引き換えに奴らは見逃してもらおうか。無理だってんなら燃やしちまうぜ。姿を消しても燃やす。シナリオは変わっちまうが、これがあればあんたならどうにかできるだろ?」

 

 クロの動作一つ見落とさないよう、彼を睨みつけながらジャンゴさんが言う。

 

 

 

「ちっ……少しは頭を使うようになったか」

 

 

「長いことあんたの計画を傍で見てきたからな」

 

 

 

 クロの言葉にジャンゴさんは皮肉げな笑みを浮かべた。

 

「もっとも、まさかおれたち全員切るつもりだとは思わなかったが」

 

 そう言ったジャンゴさんの声音が、俺には少し悲しそうに聞こえた。

 

「あんたにとっちゃはみ出しものの野犬の寄せ集めせかもしれねェが、慕ってはいたんだぜ? 三年間、黙ってたんだ。今さら言いふらすような真似はしねェよ」

 

 クロと視線を合わせたまま、時が止まったかのような沈黙が訪れる。

 

 

 

 

「……いいだろう。見逃してやる」

 

 

 その沈黙を破ったのはクロだった。

 ジャンゴさんが小さく息をつき、そしてそれ以上に息を吸う。

 

 

「聞いたとおりだてめェら!! 今のうちに負傷者を担いで引き上げろ! 絶対に戻ってくるんじゃねェぞ! お前たちとの航海、楽しかったぜ。この広い海のどこかでまた会おう、野郎共っ!!」

 

「ジャンゴ船長……!」

 

 決死の覚悟で船員たちを逃がそうとするジャンゴさんの思い。

 船員たちは涙ながらに負傷者に肩をかし、気絶したブチさんとシャムさんを船まで運び込む。

 

 その間ルフィさんもクロも動かない。

 

 

 

 

 

 

「さっさとそいつを渡せ」

 

 船が沖まで進み小さくなった頃、もういいだろと言わんばかりにジャンゴさんを睨みながらクロは口を開いた。

 

「それは構わねェが実はもう一つ言っておかなきゃならねェことがあるんだ」

 

 坂を下りクロに近付きながらジャンゴさんは言う。

 

 そう、ジャンゴさんのターンはまだ終わっちゃいない!

 

 クロが鬱陶しそうに舌打ちをする。

 

 そしてジャンゴさんは合図を出した。

 

「こっちは終わったぜ。次はあんたの番だ!!」

 

 

 

 

 坂へと振り返り声を上げる。その言葉が終わった後、林から出てきたのはカヤさんだ。

 

 クロがジャンゴさんを睨む。これまでで一番鋭い気がする。

 

「どういうことだ?」

 

 地の底から響くような低い声、カヤさんから外れた視線はこちらを睨むクロへと移る。

 

 クロがこの坂に到着して開口一番に怒鳴った時とはまた別の恐ろしさがある。あの時が烈火のごとき怒りなら、今は鋭い刃物を首に突き付けられたような、背筋が凍りそうな怒りを感じる。前者が単純な恐怖を呼び覚ますものだとすると、後者は命の危機を感じさせるものだった。

 例えるなら、両親や先生に怒られた時と、強盗に刃物を突き付けられた時の違いだろうか。刃物を突き付けられたことなんてないけど。

 

 

「ちょっとした取引をしたんだ。お嬢様はあんたに話があるらしいぜ。聞いてやるか、聞かずに殺すかは好きにすりゃいい」

 

 そんなクロに対して変わらない様子でジャンゴさんは答える。

 

「望みの品だ。催眠術なんて使わなくても書いてくれたぜ」

 

 中身が見えるよう広げられた遺書を眉間に皺を寄せたクロが受け取りさっと目を通すと懐へしまった。

 

 

 

「クラハドール……伝えたいことがあるの。聞いてくれる?」

 

 苦しそうにしながらもカヤさんは覚悟を決めた様子ではっきりとそう言った。

 か細くはあったもの、静寂であったことや崖に囲まれていたこともあり風に乗ったその声はよく通った。

 

 クロが眼鏡を手の平で上げた後、カヤさんを見上げる。

 

 

「……怨み言くらいなら聞きましょう」

 

 

 坂道を下り始めるカヤさん。辛そうにしながらも一歩一歩進んでいる。

 

 

 

 

 

「お嬢様が来るまで反省会でもしてみるか?」

 

「てめェらのヘマだろうが」

 

 こちらを射殺さんばかりの視線。そんな視線を受けながらもジャンゴさんは肩をすくめるだけだった。

 

「実行した計画については確かにおれたちのヘマだ。だがよ、他にもやり方はあっただろ。そっちなら成功してたんじゃねェのか? お嬢様の性格を知ってるあんたなら、遺書だって書かせられただろ?」

 

「くだらねェ問答だ。言ったはずだ。事故に見えなけりゃ意味がねェんだよ」

 

 しばしの沈黙の後、ジャンゴさんは口を開いた。

 

「偶然この村へ立ち寄った海賊が丘の上に屋敷を見つけて襲う。その時は偶然にもボディーガードや屋敷で働く者は休暇を取っており、屋敷にいたのは二人の執事だけだった。哀れ資産家のお嬢様は海賊に襲われて亡くなってしまう。そんなお嬢様は誠実に仕えてくれていた執事に財産を譲るという遺書を残していた。だが、その前日には村の嘘吐き小僧が海賊が来ると騒いでいた。その海賊ってのはお嬢様の遺産を継ぐことになった執事の仲間だという」

 

 偶然という言葉を強調しながらジャンゴさんはつらつらと話す。

 

「これのどこが事故に見えるんだ? あんたらしくない穴の多い計画だな」

 

 ちょ、ジャンゴさん、そんな風にクロを煽って大丈夫……なわけないよな。

 

 ジャンゴさんの言葉にヒヤッとした瞬間には首元に突き付けられている猫の手。正確には『ジャンゴさん』と呼び掛けた時には突き付けられていた。てか浅く刺さってますけど!?

 

「おれの計画に口を出すたァ随分偉くなったもんだな。殺されたくなけりゃその喧しい口を閉じろジャンゴ」

 

 場の緊迫感が増し、誰かが息を飲んだような音が聞こえたような気がした。

 

「……あんたは海賊を辞めたんだろ? だったらもっと別の生き方だってあったはずだぜ。お嬢様を信じてやりゃあ良かったんだ」

 

 帽子に手をかけながらジャンゴさんが呟く。

 

 そんなことを話している時、左手からビシビシ、バキバキという不穏な音が聞こえてきた。

 

 

 何事!?

 その音にジャンゴさんも反応し視線が移ると今も音を立てながら皹が入っている崖が見えた。罅は勢いよく伸びていき、ついにはカヤさんの近くの崖にまで広がった。

 

 ヤバいんじゃと思う時には崖が大きな音を立てて倒壊を始める。

 

 カヤさんの悲鳴が上がった。

 

 助けに向かうには距離があり、ジャンゴさんが走っても間に合わない。崖崩れに巻き込まれたらカヤさんはひとたまりもないだろう。

 おいおい嘘だろ!?

 割れて落ちていく岩が俺にはスローモーションに見えた。

 




 崖崩れについては、ルフィが崖に一発入れたり薄い伏線が地味にあります。


気になった点、考えたことなど

〈計画についてのジャンゴの考察〉
 実際によく考えてみるとクロの計画って不自然だと思いませんか?
 カヤの暗殺に成功したとしても村人に怪しまれそうです。

 そしてその不自然さは副船長としてクロの近くにいたジャンゴならよくわかるでしょう。オリ主が色々考えたこともその不自然さに気づくきっかけの一つ(情報源)となったという設定です。


〈ジャンゴの賢さについて〉
 Q ジャンゴってそんな賢かったっけ?

 A 信じやすいだけでバカではないと思う

 そう思う理由としては、クロが船長を辞める時に替玉を用意して世間体的に殺すという計画もすぐに理解している、実力的にはブチとシャムのコンビに敵わないが船長であったということ。でしょうか。下克上されないように上手く立ち回っていたのかもしれません。
 後はクロの恐ろしさも一番理解していたように思います。


 Q バカでないなら(クロに消されそうと察しそうなので)シロップ村に来ないんじゃない?

 A 持ち前の信じやすさと人情に厚い性格が発揮されたのでは

 それに可能性としては気づいていたとしても、船長という立場もあって逃げる(来ない)訳にはいかなかったのではないだろうかと思います。
 引くに引けないというのもクロの計画の一つではないでしょうか。
 ジャンゴも計画に失敗したら消されるのは俺たちだと言っていましたから。


〈その他〉
 本編が終わったら番外編を書けたらなぁと思っています(未定)。

 ジャンゴに交替せずオリ主が一人で頑張るパターンとか。

 切れないチャクラムを使ってルフィやナミに不審がられていることもまるで使えていないので、この辺りも良いところで生かせないかと思っています。
 現状エピローグあたりにしか使えなさそうです。

 もっとルフィたちとのやり取りがさせたいです。


 それから、今回の話に見覚えがあるという方もいらっしゃるかもしれません。三人称視点で書いたのを密かに別のサイトに上げているので。そちらはカヤの誕生日に合わせての投稿なので、今回の方が断然満足したものが書けています。

 このサイトの禁止事項『(本人確認ができない状態での)他サイトとのマルチ投稿』があるので記載しました。書き方は違いますが念のためです。
 こちらが終わるまで非表示にしておくつもりです。


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10 確かに息づくもの

長らくお待たせ致しました。
更新が滞っているにも関わらず覗いて下さってる方ありがとうございます。モチベーションにつながります。

さて、前回に引き続き今回に関しても書き直しや加筆等が多くなるかもしれません。
その場合には変更点などをこの前書きに記載致します。


 音が聞こえて振り返った時に見えたのは広がっていく皹だった。

 

 その皹が数々の岩となって落ちてくる風景を見て自身の置かれた状況を理解した時、カヤは自らの死を悟った。

 

 決死の覚悟はあった。それでもこんな終わりは納得の出来るものではない。

 

 大切なことをまだ伝えられていない。

 

 走馬灯を見るかのように遅くなった景色の中、カヤは彼と目があった。

 

 まだ出来ることがあるならと彼女は微笑み、口を開いた。

 

 

 

 

 衝撃は思っている以上に優しいものだった。

 掬い上げられたかと思うと強い風が体に吹き付けられる。反射的にというべきか、飛ばされないようにカヤは目の前にあったものに抱きついた。

 

 風圧がなくなって恐る恐る目を開けた時に見えたのは、見慣れた執事服だった。

 

 見上げるとそこに彼がいた。眉をひそめてとても不機嫌そうな顔だった。

 

「ありがとうクラハドール」

 

 ピクンと彼の眉が跳ね、向けられた視線がカヤと交差する。

 

「それで、話ってのは?」

 

 これまでとは違った聞いたことのない低い声音と荒い口調。

 

 クラハドールは無言でカヤを地面に立たせた。それはいつか足を挫いて運んでもらった時のようにとても丁寧だった。あの時はベッドだったなと思い出し嬉しくなった。

 

「私、クラハドールのことが大好きよ。あなたがいてくれたから頑張れたの」

 

 頬笑みカヤが静かに告げたのは紛れもない本心だった。

 

「まだ理解してねェのか。この三年間は演技だと言ったはずだ」

 

 理解出来ないと言わんばかりに彼は眉を顰めていた。彼はそう言うが、全てが演技だったとはカヤには思えなかった。

 あの人から聞いたクロとクラハドールには共通点もあった。

 結構短気なことも、頑固な所も、几帳面さも仕種だって彼と一緒。

 

 だからこそカヤは彼が赤の他人だとは思えなかった。

 

「そうだったとしても私が感じた気持ちは本物だもの。一緒に居てくれて嬉しかったし楽しかった。お父さんとお母さんが亡くなった時、私は居なくならないって言ってくれて凄く救われた。とても感謝しているの」

 

 事実、もしもクラハドールが居なかったら、カヤは食事も取れず衰弱して死んでいたかもしれない。それほどクラハドールはカヤの支えになっていた。

 

「今だってこうやって私の話を聞いてくれてる。さっきだって助けてくれた」

 

 カヤはクラハドールを見つめた。

 

「私はこれからもあなたと一緒にいたい」

 

 だから居なくならないで欲しいとカヤは続ける。

 

「このおれにあれを続けろってのか? うんざりなんだよっ!!」

 

 怒鳴り声にカヤは怯みそうになる。

 それでもクラハドールから目をそらしてはいけないとカヤは思った。

 

「これからは演技なんてしなくていい!  好きなことも嫌いなことも教えて。私はあなたのことが知りたいの!」

 

 無理に演技なんてしなくていい。本当の彼のことが知りたいとカヤは言う。

 

「クラハドール、一緒に帰りましょう」

 

 カヤは手を差し出した。

 

「……自分が何を言ってるかわかってんのか?」

 

 眉間に皺を寄せたまま、理解出来ないと言いたそうにしている。

 

「わかってるつもりよ」

 

「殺されたいのか」

 

 殺されたいとは思わない。けれど、

 

「あなたがそうしたいなら、あなたの手で殺して」

 

 それでも一緒にいたい。

 

 それがカヤの正直な気持ちだった。

 

 手を差し出したまま無言の時が流れる。

 

 

 

「……全く、カヤのワガママにも困ったもんだ」

 

 クラハドールの口調が変わる。それは聞き覚えのある困ったような呆れたような優しげな声音だった。けれども言い方は少し荒い。

 

「えぇ、クラハドールのこと、諦めないわ」

 

「後悔するぜ」

 

「今諦めたらそれこそ後悔する。だからお願い」

 

 

 

「チッ……わかった。計画は延長だ」

 

 クラハドールがカヤさんの手を取る。

 

 この時、俺とジャンゴさんの内心は同じだったのだろう。自然とガッツポーズをしていた。

 

「クラハドール、ありがとう!」

 

 カヤさんが嬉しそうにクラハドールに抱き付く。

 

「淑女が人前ではしたねェ。離れろ」

 

「気にしないわ。もう少しだけ……」

 

 そう言うカヤさんの声は震えていた。

 クラハドールは小さくため息をついてカヤさんの頭を撫でる。

 

 

 

 

 

「で、てめェらはどうするんだ?」

 

 ジャンゴさんがルフィさんたちに振り返って尋ねる。

 

「あっちはいい感じにまとまったみたいだぜ」

 

「あいつがカヤを、誰も傷付けないっていうならもういい」

 

 と、ウソップさん。

 

「あなた、こうなるってわかってたの?」

 

 と、ナミさん。

 

「いや。だがまぁ、クロにお嬢様を殺せないってのはわかってた。だからわざわざおれ達を使ったんだ。直接手にかけなくて済むように。そうでもなけりゃ、ここまでのリスクを負う必要がない」

 

 それは何となく思った。けどだったら……。

 

「あの子のことが大切なら、計画自体止めれば良かったじゃない」

 

 そう、それだよ。

 

「それはあいつのプライドが許さなかったんだろ。あのキャプテン・クロが情に絆されて計画を覆すなんてな」

 

 うーん、俺には分からないなぁ。でも、プライドの高いクロなら嫌なのかも。それにカヤに海賊としての姿を見られる前にいっそのことっていうのもあったかもしれない。

 

「それで、あなたはどうするの? お仲間は遥か遠くよ」

 

 確かに。原作じゃ一人で船出して何やかんやで海軍に入ったってのは知ってるけど、どうするんだろ。

 

「合流できるまでお前らについていくのも面白そうだな」

 

 マジすか!? え、何それ楽しそう。じゃない。それはいいとして俺はどうなるんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、後始末というかメリーさんやちびっ子三人組と合流して事の顛末を伝えた。メリーは非常に不安そうだったが、カヤさんが頑張って説得していた。メリーさんはウソップさんにも申し訳なさそうに謝った。

 

 クロネコ海賊団との死闘はなかったこととしようということになった。

 ウソップさんがいつものように海賊が来たという嘘を吐いたということになるのだろう。

 

 屋敷へ戻って各人の手当が終わる頃にはすっかり日暮れだった。

 船もお礼にルフィさんたちに譲るということで、原作からもそう外れていないと思いたい。

 

 それからルフィさんたちを屋敷へ招き食事会というかパーティーが行われた。ケーキが出てきた時には驚いたが、何と勤めて三年のクラハドールを祝う会を予定していたのだという。

 

「クラハドール、これからもよろしくね。これ、プレゼント」

 

 パーティーでカヤがクラハドールに差し出したのは、ラッピングされた手のひらサイズの長方形のものだった。

 それを開封すると出てきたのは眼鏡ケースだった。中には新しい眼鏡が入っている。

 

「ありがたく頂きます」

 

 そう言ってクラハドールはかけていた眼鏡を外してその眼鏡にかけかえるとカヤさんに微笑んだ。

 

「よく似合ってるわ」

 

 カヤさんもそれを見て微笑んだ。

 

 

 

「ところで、お前が乗った計画の発案者は何処にいるんだ?」

 

 ウソップさんのもっともな疑問。これ、どう答えるのが正解なんだろ。俺自身よく分かってないからな。

 

「おれも直接会ったわけじゃねェからどこにいるかは分からない。だが、事の顛末は見ていたはずだ。満足してるだろうぜ」

 

 大満足です。まぁ、憑かれてるなんて答えられないわな。

 

「そいつにもお礼を言いたかったんだけどな」

 

 

 

 パーティーは深夜まで続いた。

 

「お嬢様、そろそろお休みください」

 

「でも……」

 

 メリーさんに退室を勧められているが、カヤさんは眠そうにしながらもまだ残りたそうだった。

 

「お休みください。お体に障ります」

 

 見かねたクラハドールもカヤに休むようにそう言うと、カヤはクラハドールを見た。

 

「その口調でなくてもいいのよ? あの時の口調もかっこ良かったわ」

 

 何を言うのかと思えばカヤさんはそんなことを言って微笑んだ。

 

「話を誤魔化さないで頂きたい。それに、この口調はもはや習慣のようなものです」

 

 

 三年経っても手の平で眼鏡を上げる癖は抜けてなかったもんな。口調だって習慣になってもおかしくないか。

 

「誤魔化したつもりはないわ。嫌でないならいいの」

 

「ではもうお休みください」

 

「……まだ寝たくない」

 

 あ、クラハドールが少し険しい表情になった。

 

「なぜですか」

 

「……朝になったらクラハドールが居なくなってそうで怖いの」

 

 デレ来た! いや、カヤさんは不安だろうからそんなこと言っちゃ駄目なんだけども。甘くて素敵だ。

 対してクラハドールは?

 

「メリー。私はカヤお嬢様を部屋までお連れします」

 

 と言ってカヤさんを横抱きにした。

 メリーさんは心配そうにしながらも返事をして二人を見送った。

 

「ひ、一人で歩けるわ」

 

「今日は随分無茶をされましたから、少しでも休んでもらいませんと」

 

 恥ずかしそうなカヤさんは遠慮するも、クラハドールも引かない。

 

 

 

「まるで別人ね」

 

「あぁ、あんな奴は初めて見た。難しそうな顔は相変わらずだがな」

 

 言いながらジャンゴさんは小さく笑った。

 

 その後少ししてクラハドールは戻ってきた。

 

 

 

 

 0時を回り、メリーさんは眠気に負けて部屋に戻った。

 ルフィさんたちも途中で眠りこけ、起きているのはジャンゴさんとクラハドールだけだった。

 

 

 

「これこそあんたのいう平穏じゃねェか?」

 

「おれの計画とはまるで違う」

 

「執事業も似合ってるぜ。お嬢様もあんたと一緒に居たいって言ったんだろ? 色男」

 

「お人好し共が。嫌になるぜ」

 

 ひねくれてんな。まぁ素直なクロっていうのも想像つかないけど。

 

「そういうあんただって随分丸くなった」

 

 否定する気はないのか、クラハドールは何も言わずに酒を煽った。

 

「計画だって、半分は達成だな」

 

 ニヤリとジャンゴさんが笑う。

 

「今のあんたはキャプテン・クロには見えねェからな」

 

 

 

 

 そして夜は更け、俺の視界もやがて真っ暗になった。




ということで終結です。
次回はエピローグとなります。
エピローグの投稿はそう遅くならないと思います。早ければ一週間以内に投稿できそうです。


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11 エピローグ

先週の私よ。早ければ一週間以内とか余計なことを
けど、そうでもしないとなかなか書けないという


 そして旅立ちの日。

 

 海岸でゴーイング・メリー号の説明を受けるナミさん。坂の上から転がってくるウソップさんを足で止めるルフィさんとゾロさん。

 

「やっぱり海へ出るんですね、ウソップさん」

 

「あぁ。決心が揺れねェうちにとっとと行くことにする。止めるなよ」

 

「止めません。……そんな気がしてたから」

 

 そういうカヤさんは少し寂しそうだった。

 

 そしてウソップさんは、村に帰ってくる時は嘘よりも嘘のような冒険譚を聞かせてやると笑顔でカヤさんに言った。

 

 次にウソップさんはクラハドールを見た。

 

「クラハドール、カヤを頼んだぞ」

 

「君に言われるまでもない」

 

「カヤを泣かせるようなこともするんじゃないぞ」

 

「善処はしよう」

 

 クラハドールが手の平で眼鏡を上げる。

 

「他人の心配よりも自分の心配をしたらどうだね? 君たちのような甘い考えじゃまず生き残れない。海上で病にかかったらどうする? 交戦した海賊が毒を使ってきたら? 君たちで対処出来ることがあまりにも少ない」

 

 ウソップさんを見た後ルフィさんの方を見る。

 

「わかってるさ。だから仲間と一緒に航海するんだ」

 

 そういうとウソップさんはルフィさんの方を見た。

 

「お前らも元気でな。またどっかで会おう」

 

 ウソップさんの言葉にルフィさんは不思議そうに何でと尋ね、そのうちどこかの海で会うかもしれないだろとウソップさんは答える。その返答にゾロさんが早く乗れよと言う。

 

「おれ達もう仲間だろ」

 

 呆然とするウソップさんにルフィさんは当然のように言う。

 

「キャプテンはおれだろうな!」

 

「ばかいえ! おれがキャプテンだ!」

 

 こうして俺たちはメリー号に乗って出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見覚えのある天井だ」

 

 目が覚めたら俺が見たのは白い天井。覚えのある部屋。

 

「夢かぁー」

 

 いやにリアルで濃い夢だった。

 今日は日曜日。

 

 せっかくだ。夢の内容を投稿しよう。

 タイトルは

 

「ジャンゴに憑依した時の話」

 

 奇をてらうよりもいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 月曜日、昨日のような夢も見ることなく普通に起床。

 

「お前その痣どうした?」

 

「痣?」

 

 体育前、更衣室で体操服に着替えている時のこと、友人が俺の背中を指差して言う。

 別に痛かったりしないのでなんのことかわからない。

 

「あー、動くなよ」

 

 友人がスマホを取り出し俺の背中を撮る。その画像を見て俺は言葉を失った。

 俺の背中には、丸い痣があった。

 

 そう、夢で鉛星を食らった箇所に。夢で感じた痛みと同じ箇所にそれはあった。

 

「嘘だろ……?」

 

 

 その後、俺と同じようにキャプテン・クロに憑依した奴、具体的には顔面にパンチ跡のある奴を探し回り、無事発見する。

 マスクをつけていたが、昼食時の油断が決め手だった。いた。という友人からの連絡に俺はその教室へ向かった。

 

 

 そして、カヤさんと何を話していたか聞き出し小説に加筆するのだった。

 

 余談だが、その彼はキャプテン・クロ視点で話は進んだものの、体を動かしたりといったことは出来なかったとのことだった。

 

 なぜこんな現象が起きているのかも謎だ。

 

 

 

 

 

 友人にワンピースの漫画を借り、日々読破しては寝るということをしていたある日のこと、それはまた起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた時に見えたのは暗闇だった。

 しかもゆっくりと揺れている上、ベッドではない何かに横になっている。その何かは網状で、自分の体重でたるんでいることが分かる。ハンモックかな?

 

「うおっ!?」

 

 辺りを見ようと体を起こしたらバランスを崩して落ちてしまった。ドスンと結構な音が鳴る。

 

「うるさいわね。静かにしなさいよ」

 

 聞き覚えのある女性の声が迷惑そうに言う。

 

「わ、悪い」

 

 俺の口から聞こえたのはつい最近もどこかで聞いた声だった。

 寝起きでいつも謝ってんな俺。

 

 俺は体を起こして小さな窓から明かりの差し込む扉を開いて外に出た。

 月明りに照らされて浮かび上がったのは甲板だった。

 

 少し進んで振り返ると麦わら帽子を被った海賊旗が見える。

 

 ……なるほど。

 

 

 

 

 ジャンゴさんジャンゴさん! 聞こえてるなら返事してください!

 応答せよ応答せよ!

 メーデーメーデー!こちらクイーンゼノ……これ別ゲーだ! じゃない。ジャンゴさんヘルプ!

 

 

 

 

 俺が内心でジャンゴさんに呼び掛けていると扉が開く音が聞こえた。

 

「交代にはまだ早いわよ」

 

 上着を羽織ったナミさんが眠そうにしながら甲板に出てくる。

 

「夢見が悪かったもんで少し気分転換をしようと思ってな」

 

「そう」

 

 ナミさんがじっと見てくる。え、何? 気まずいんですが。

 

「じゃんけんしましょうよ。負けた方が何か面白いこと話すってのはどう?」

 

「は?」

 

 ナミさんが良いことを思い付いたとばかりににっこり笑ってそんなことを言ってくる。

 

「じゃんけんぽん!」

 

 了承を取らず不意打ち気味の掛声。慌てて出したため、俺はグーになってしまった。対してナミさんはパー。

 

「私の勝ちね」

 

 してやったりなナミさん。は、はめられた。

 

「あなたが『占い師』かしら」

 

「な……」

 

 何でバレて!?

 しかもナミさんは疑問系でなく確信を持っているようだった。

 

「ジャンゴは右利きよ。じゃんけんで出すのも右」

 

 言われて気付く。俺は左利きで、出した手も左だった。

 

 

 

 

「……俺のこと、聞いたんですか?」

 

 誤魔化せそうにもなかったため、俺は素直に白状した。

 

「えぇ、この前ジャンゴからシロップ村では『占い師』の幽霊に憑かれてたって聞いたわ。あなたは幽霊なの?」

 

「幽霊というよりは生霊の方が近い気がします。カヤさんのお屋敷でパーティーした後、自分の部屋で目覚めましたから。それから今日まで普通に過ごしていました」

 

 だから生きているはず。生きていると思いたい。

 

 とはいえ、この現象も良く分からない。

 ジャンゴさんがメリー号にいるってことは前回の続きだよな。

 

 マジかぁ……。

 

「何とも変わった体質ね」

 

「直したいような、それは勿体ないような、複雑な気分です」

 

「ジャンゴが丁寧な口調っていうのは違和感があるわね」

 

 ナミさんが微妙な顔をしている。

 

「俺のことはルフィさんたちも?」

 

「えぇ、全員聞いてるわ。皆会いたがってたわよ」

 

 俺も幽霊を見てみたいから気持ちは分かるような気がする。

 

 そんなことをナミさんと話した。

 

 次の日は変わらずジャンゴさんで、海上レストランが見えてきた時には軽く目眩を感じた。

 

 

 

 

 

 その後も現実に戻ったり夢(?)の世界に来たりすることになるのだが、それはまた別の話。

 




 ここまで読んで頂きありがとうございます。番外編は書くかもにれませんが、これにて一応の完結です。

 途中までオリ主が自室で目を覚ますところまで飛ばして書こうとしていました。
 見送りがないのはいかんね!
 というわけで急遽追加しました。

 この設定ならもっといい感じに料理できるぜ! という方がいればぜひ使ってください。読んでみたいです。

 というのも、この小説を書き始めたきっかけとしてはクロとカヤが和解している話を見たかったからです。そういう話を探して二次創作を読むものの、まぁクロが倒されている話が多かったです。
 クロとカヤが和解するような話が増えたら嬉しいと思いながら書きました。


〈オリ主について〉
・高校二年生の男
・演劇部の裏方、ちょい役
・左利き
・最近ワンピースにはまり原作知識は序盤の方はある

 以上です。オリ主は意図的に名前をつけていません。
 つけると愛着が沸いて優遇してしまいそうな気がしたからです。
 私としてはオリ主は原作キャラを立てるために使いたかったので、あまり目立たせないためです。

 それにしては他のキャラのセリフが少ない?
 ……オリ主は動かしやすくてつい。それからこのキャラはこんなこと言わない! という葛藤もあり、他のキャラました。
 ジャンゴは使いやすかったです。今回一番目立ったのはジャンゴなのでは。


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