Fate/Silverio answer (いろはす(*´Д`*))
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【炎上汚染都市冬木】
不滅の光/prologue


我慢出来ず投稿。
ゆっくり更新していきます。



 

 

 ───歪み捻れた、七つの歴史を巡れ。

 

 ───その命、魂、意志全てを薪木とし。

 

 ───最果てにて、世界を救ってみせろよ“後継者”

 

 ───その暁に、貴様は◼️◼️へ至るだろう。

 

 ───嗚呼、天に舞い戻れよ◼️◼️! 遍く邪悪、その一切を滅ぼして。煌めく明日を目指すのだ!

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

「……キリエライト。こんなところで何をしている」

 

 白髪赤目の少年、シエル・エンプティは訓練で火照った体から出る汗をタオルで拭きながら、廊下で右往左往とする知り合いの少女を見かけて声を掛けた。

 

「あ、シエルさん。フォウさんを見かけませんでしたか?」

 

 声を掛けられた少女、マシュ・キリエライトはシエルに駆け寄りながら、カルデアを闊歩する謎の小動物について尋ねる。

 

「フォウさん……。ああ、あの謎の小動物の事か。見かけてないけど、どうしたんだ?」

「いえ、朝から見かけないので。少し心配で……」

「心配? 別にアイツをとって食う奴なんてカルデアに、は……いるな」

 

 シエルの脳裏に浮かぶのは、カルデアに在籍するマスター候補の連中だ。アイツらなら謎の小動物を実験台代わりにするなんて事は大いにあり得る事態だ。キリエライトが心配するのも良く理解出来る。

 

「……暇だし」

「え?」

「訓練終わって暇だし、探すの手伝うよ。今度飲み物でも奢ってくれ」

「あ、ありがとうございます! シエルさん!」

「うっ、あ、ああ、気にするな」

 

 顔が熱い。

 多分、頬が赤くなっているだろう。だが、これは決して照れているわけではない。ないからな。訓練後だから、体が火照ってるだけだ。

 顔を背け、ぶっきらぼうにシエルは「ほら、行くぞ」と背中越しに言い放つと、スタスタと足取り早く歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 ──そして、現在。

 

「……案外早く見つかったな」

「フォウ! フォフォウ!」

 

 頭に乗られて、顔を前脚でテシテシと叩かれながらシエルは呟いて、廊下……カルデア正面入り口にて爆睡していた茜色の髪をした少女を見つめる。まだ寝惚けているようで、「ここは…?」やらマシュの質問に対して「自分はここで寝ていたのか……?」と言っている。あと、そろそろ謎動物は顔を叩くのを止めろ。焼くぞ。

 

「フォウ!?」

「っ、いつか焼くぞ。謎動物め……」

 

 頭から降りる瞬間に尻尾で叩くとは油断していた。

 シエルは鼻を抑えて、忌々しそうにフォウを睨むが、当の本人はどこ吹く風と知らん振りをして走り去っていく。

 

 と、そこで。

 互いの自己紹介が終わったのか、マシュと少女の目がこちらに向いていた。

 

「貴方は…?」

「っ、俺は……」

 

 少女の目、それと合わせた瞬間。自分の内側から轟っと、激しい熱が生まれ、すぐに消えていった。初めて感じたその感覚に戸惑いながら、シエルは己の名を告げる。

 

「俺は、シエル。シエル・エンプティ……少し枠は特殊なだがカルデアのマスター候補の一人だよ。よろしく、っと……名前は?」

「私は藤丸立香。よろしくね! えっと、なんて呼べばいいかな?」

「シエルでいい。エンプティ、とはあまり呼ばれないしな」

「うん。じゃあ、シエルくんだね……綺麗な響きだね!」

「っ、あ、ああそうか。一応、ありがとうとは言っておく……」

 

 なんだこいつ、口説いてるのか? いや、そんな感じはしないから……まさか天然物か。……おそろしい。

 シエルは顔を背けて、赤くなっている顔を見せないようにする。この少年、女性に対しては全くと言っていいほど耐性がない。手が触れ合うだけで、頬を染めるぐらいだと言えば分かるだろう。乙女か。

 

「ところで、先輩はどうしてこんなところで睡眠を?」

「先輩? ああ、私のことかー。えっと、なんか変なものと戦ってたんだけど……気づいたら意識無くなっていたんだよね」

「……酔ったんだろうな。入館時のシュミレート、量子ダイブは慣れていないとかなり脳にくる。恐らく、それだろう」

「ああ。そういうことでしたか。納得しました」

「んん? 私は納得してないのだけど? 何を話しているのか、全く分からないよ。専門用語 ワタシ ワカラナイ」

 

 二人が納得した、と頷き合っているのを見て立香は頭上にはてなマークを浮かべる。シュミレート? 量子ダイブ? なんですかそれはー! といった状態だ。

 

 

 

「簡単に言うと、船酔いだよ。彼も言ったが、酔ったのさキミは」

 

 

 

 と、そこでもう一人が登場した。

 シルクハットを被り、緑のスーツに身を包んだ長身の男性だ。その姿を見てマシュは「レフ教授!」と会釈し、対照的にシエルは顔を顰める。初めて会った時から、臭ってくるのだ(・・・・・・・)。今まで斬り伏せてきた悪党供から臭ってくる、同種のモノがそれはもうプンプンと。……しかし、彼はただの技師だ。斬り捨てる訳にもいかず、こうやって顔を顰めるしかなかった。

 

「やあ、マシュ。それにシエルくんも、今朝の訓練も凄かったよ。君の剣は、相変わらず綺麗だ」

 

 しかし、レフはシエルの様子を見ても気にもせず、にこやかにそう言ってみせる。その態度、言動にますます苛立ちが募るが「……そいつは、どうも」と吐き捨てぐっと堪えた。

 

「えっと、貴方は?」

「ああ、すまない。私は、レフ・ライノール。カルデアで働く技師だよ。君は……藤丸立香くんだね、一般公募で選ばれた」

「あ、はい! スカウトされて、ここに来ました。これからよろしくお願いします!」

「こちらこそ。共に人類の為、世界の為に頑張ろう」

 

 握手を交わす二人。

 何故だか、本当に不思議だが……彼女が奴と触れ合っている事が酷く気分が悪かった。胸がムカムカする。

 

「……で、教授。何か用があるんじゃないんですか? 急いでいるようだ」

 

 時計を気にするレフに対し、シエルは食い気味に尋ねた。

 

「ああ。そろそろ、所長の説明会が始まるからね。君たちも急ぎ出席した方がいい。初日早々、睨まれたくないだろう?」

「ははは、そうですね。説明会はどこで? というか場所聞いてもわかんないか……」

「大丈夫です、先輩。私が案内役を務めさせてもらいますので、ご安心を」

「ついでに、俺もな。行く場所は同じなんだし」

「わーい、ありがとう二人とも!」

 

 私は感動した! と笑顔を浮かべてマシュに抱きつく立香。マシュは「せ、先輩!?」と驚きながらも楽しげだ。そんな二人を微笑ましげに見るレフは「ふむ、マシュが行くということは。私も出席しなくてはね」と言い、

 

「では、五分後には中央観測室で説明会が始まる。そろそろ行くとしようか、三人とも」

「はーい!」

「了解です」

「……」

 

 一人は元気に、一人は静かに、一人はテメェが仕切るのかよ結局、と各々がレフの後に続いて行くのだった。

 

 

 

 

 

「……シエル」

「なんですか、アニムスフィア所長」

 

 中央観測室、そこへ到着したレフ一行。

 辺りを見渡すと、既にシエルや立香達以外のマスター候補やそれぞれの部署のトップ達が着席して待機していた。時計をチラ見すると、僅かに数分の遅れが出ている。

 怒られるな、と感じたシエルの勘は当たり、目をギラつかせたオルガマリー・アニムスフィアがシエルの腕を取って、中央観測室の外に連れ出したのだ。

 

「あなた、特別枠(・・・)の自覚はあるのかしら? ねえ?」

 

 特別枠。

 優秀なAチーム、他のチームとは違う枠組み。それがシエル・エンプティが与えられたものだ。所長の権限迄には及ばないものの、それ相応の権限と待遇は所有している。その彼が遅刻していては、下にも示しがつかない。

 

「申し訳ありません。以後、気をつけます」

「……はぁ。今回は許します。ですが、今後は上の立場にいる自覚を持って行動してください。いいですね?」

「了解しました」

「そ、それと……」

 

 そこで口籠もり、頬が薄く染まる。

 

「ん、んんっ。今夜は、その、私と食事をすること。い、いいですね? 返事は?」

「は、え、その」

「返事は?」

「……わかりました」

 

 渋々了承する。

 何故自分なんかと食事がしたいんだ? というか、女性と食事を取るなんて滅多にしないが……作法とか平気だろうか。と頭を悩ませる。

 

「それでは、戻りますよ」

 

 先ほどまでの雰囲気がガラリと変わり、怜悧な雰囲気へと切り替わる。シエルは「はい」と頷いて、中央観測室の扉を開いた。

 

「あっ、シエルくん……」

 

 中央観測室に入り、着席すべく最前列へと向かうと、自分の席はちょうど立香の隣だったらしく、彼女はシエルの事を申し訳なさそうな顔をして見ていた。

 隣に座ると、立香は小声で話しかけてくる。

 

「……ごめんね、私のせいで。怒られたよね?」

「いや、気にするな。藤丸の所為じゃないさ」

「でも……」

「はぁ、今度何かあったら助けてくれよ。それでチャラだ、どうだ?」

「う、うん。任せて…!」

 

 ぎゅっと握りこぶしを作る立香。とても頼りに出来そうもない、普通の女の子だ。まあ、これで気も楽になっただろう。とシエルは「そろそろ黙らないとな、怒られるぞ?」と言って前を見る。立香は「う、ん」と頷くが、どこか心ここに在らずのようだ。

 

「では、ようこそ特務機関カルデアへ。私は所長のオルガマリー・アニムスフィア。貴方たちは───」

 

 ぱたり。

 

「ん? 藤丸……? これは……」

「すぅ……すぅ……」

「寝ている……ああ、マズイな」

 

 そう、大変マズイ。

 先ほどは怒りの矛先がシエルに向いたが、これは───

 

「ふ、ふふ。舐められたものね……。一般公募……素人同然の子が……」

 

「せ、先輩〜。起きて、起きてくださぁーい」

 

 マシュが立香を揺らすが「んんー?」と彼女は寝ぼけたまま、すぐに夢の国へGOしている。

 

「くっ、貴女! ふざけないで!」

 

 パシーンッ、と痛烈な平手打ちが立香にお見舞いされた。

 

「へぶぅっ!? な、なに!? あ、おはようございます!」

「お、おはようございます……? は、ははは……貴女」

「はい、何でしょう!」

「今すぐ、出て、行きなさい!」

「ふぇっ!?」

 

 立香は戸惑いながらも、自分がやらかしたことに気づいて「わかりました……すみません」と中央観測室を出て行く。マシュがその後を追って行ったので、自分は行かなくとも平気だな…と考えたシエルは目の前の人を宥める事に専念する。

 

「落ち着いてください、所長。説明会の続きをしましょう。時間もないでしょう?」

「……そうね」

「それと、彼女……藤丸立香にも悪気は無いんですよ。慣れない量子ダイブで体調が悪かったんです。今回は大目に見てもらえませんか? 彼女も反省しているようですし」

「…………」

 

 長い沈黙、その後に。

 

「……仕方ないわね」

 

 と、一言。

 その言葉を聞いて、やはりこの人なんだかんだで甘いよな……とシエルは思う。こういうタイプは付け込まれやすいし、堕ちやすい。悪に利用されなきゃいいんだがな……と内心で呟いた。

 

「んん。それでは、説明会の続きを──」

 

 そして、説明会は淡々と進んでいき、レイシフトの準備段階へと移行して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────さあて、念には念を。爆破の規模を増やしておこうかな……不確定な要素もある事だからね。

 

 

 

 悪意の顎門が、光を喰らわんと牙を剥く。

 

 




まだprologueは続きます。
というか、タイトルずっと同じです。番号は付けますが。
現在、prologue3が執筆終了。prologue4を執筆中です。
自分は大体3日、4日。調子が良いと1日か2日で一話執筆できます。しかし、展開に行き詰まったり納得出来ないと何度も消して書いてが続くのでかなり遅い更新になると思います。そこのところご了承ください。

では、また次回。


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不滅の光/prologue《2》

とりあえず、二話目です。



 ───地獄絵図。

 

 そうとしか言えない光景が広がっていた。

 周囲にはマスター候補たちだった亡骸が至る所に転がり落ちており、原型をとどめていない者まである。コフィンは無残にもバラバラだ。かろうじて形を保っているのはAチームのもの、それと後数機のみ。全くもって、最悪な状況だ。テロ、外部からは有り得ない。内部からの犯行、つまり何者かによる裏切り。その可能性もあるかもしれないという考えもあったが、実際に起こる確率は限りなく少なかった。だがしかし、現実はこれだ。辺りは血の海、炎の庭園だ、亡骸が散乱する死の世界である。

 

 そして、コフィンに入っていた自分もまた無事で済むわけもなくて、コフィンから放り出されて、

 

「こふっ……ぐぁっ、うぐっ……!」

 

 死に体で、血の海に沈んでいた。

 両足が潰れてぺちゃんこ、右腕はどこかに消えた。左腕は有り得ない方向に捻り曲がっている。身体中に爆散した際のコフィンの破片が突き刺さり、爆炎を浴びてしまったせいで、裂傷まみれの火傷だらけ。外部でこれだけ、内部はもっと酷い。内臓のいくつかが破裂、肺なんて焼け爛れて使い物にならない。心臓が動いているのがおかしいくらいだ。まさに、致命傷のオンパレード。滅多に体験できやしないだろう。

 

「あっぁぁ……」

 

 死ぬ、死にたい、死ぬ、死ぬ、死にたい……と頭に浮かんでくるのはそればかり。だがしかし、しかし──!

 

「ふざ、けるな……!」

 

 身を焼くほどの怒りが溢れ出す。

 ふざけるな、ふざけるなよ。死ぬ? 死にたい? ああ、くそが! そんな無様な事を考えた自分が許せない! 何もできないまま、何も救えないまま、ただのうのうと死んで逝けと? ふざけるなよなんだそれは。

 

「……だ、だ……!」

 

 ああ、この程度で死ぬものかよ。

 

「───まだ、だ……!」

 

 ほら、まだ立てるだろう? 本気になれよ? 意地を見せろよ、◼️◼️の後継者ならば……!

 

「───まだだ……!!」

 

 そう、それでいい。それが、お前だ。それでこそ◼️◼️だ。

 意志は固く、気合いは十分。根性? 見てみろこいつを、死に体で尚も這って前を見て進む姿を! 言うまでもないだろう!!

 

 さあ、あとは───

 

 

 

 

 

「雄々しく、貫くのみ」

 

 

 

 

『──適応番号48、藤丸立香をマスターとして再設定します。

 ──適応番号00、シエル・エンプティをマスターとして再設定します。』

『アンサモンプログラムスタート。霊子変換を開始します』

『レイシフト開始まで、あと3──0』

『全行程クリア。ファーストオーダー実証を開始します』

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 ───外殻、修復率100%

 

 ───内殻、修復率100%

 

 ───魔術回路、正常稼働。

 

 ───特殊武装、星辰光増幅器使用可能。

 

 ───◼️◼️の◼️◼️、正常稼働。

 

 ───全行程終了、問題無し(オールグリーン)。意識の浮上を開始します。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、ここは……?」

 

 霞む視界、鈍痛が走る頭。

 シエル・エンプティは無理矢理頭を刃物でぐちゃぐちゃにされるような、気味の悪い感覚と共に意識が覚醒する。

 段々とはっきり見えるようになった目には、燃え盛る街、倒壊したであろう建物群の瓦礫の山が映る。死体は無く、それが不気味だ。

 

「……レイシフト、か」

 

 そう呟いて、資料で見たレイシフト先を思い出す。確か、日本の地方都市、土地の名前は───

 

「冬木市、だったか。まさか、こんな有様とは……想像以上に酷い状況のようで」

 

 資料で見た冬木市、その時代のこの街でこれだけの災害があったなんて記載されていなかった。つまり、異常事態(イレギュラー)。まあ、カルデア内部でも異常事態(テロリズム)があったから、そこまで驚きはしないが。

 

「さて、先ずは通信が繋がるのか……って、通信端末ぶっ壊れてるし。ああ、くそ……」

 

 何度か通信を試みるが、聞こえてくるのはノイズの嵐のみ。通信状況が悪いとかではなく、完璧に通信端末がお釈迦になっていた。

 

「……どうする」

 

 カルデアとの通信は繋がらず、生存者がいるのかもわからない。爆発の規模、それを考えると限りなく生存者はゼロに近いのだが……。

 

「もしかしたら、まだ生きているかもしれない」

 

 だったら、希望はまだ潰えていない。

 可能性がゼロに近いだけで、ゼロではないのだから。

 

「元凶には報いを受けて貰わなくてはな……高いぞ、こいつは」

 

 獰猛な笑みを浮かべて、未だ見ぬ元凶に想いを馳せる。

 必ず斬る、必ず滅すると。……だが、その前に。

 

「殺気がダダ漏れだ、馬鹿なのか貴様は」

「ウグゥッ……!」

 

 後頭部に向けて飛来した、黒塗りの短剣をそのまま掴み取り(・・・・・・・・)投げ返した(・・・・・)

 真っ直ぐ投げ返された短剣は持ち主の元へと正確に到達して、驚きに眼を見張る敵対者の右肩に深く突き刺さった。苦痛の声を漏らして敵対者はすぐさま気配遮断へ「遅い」入ることも許されず、一太刀で首を刈り取られた。

 

「……英霊。その劣化か、ならばその脆弱さも納得だ。本来の貴様なら、俺の首を刈り取る事も出来たろうに。まあ、簡単に狩らせるつもりもないが」

 

 眼下で消えゆく影に星辰光増幅器()を鞘に納めながら、そう彼は告げる。

 

「それにしても、劣化した英霊……シャドウサーヴァントか。何故こんな場所にいるのか、知る必要があるな。……それで、そこから見ている奴、教えてくれる気はあるのか?」

「お、気づいてたか。奴さん倒した腕前、それに霊体化した俺を看破する目といい。中々やるじゃねぇか、坊主」

 

 楽しげな声を上げ、霊体化を解いて現れたのは杖を携えたフードの男。鋭い眼光、その身から滲み出る強者のオーラ……自分より数段上の実力を持っている事が分かる。

 

「そして、俺の力量を瞬時に測るか……お前さん、面白いな」

「そうかよ。で、さっきの答えは? どうやらさっきの影と違って、あんたとは会話が出来そうだ」

「はは、そうさな。いいぜ、教えてやるよ……と言いてぇが」

「ん? なんだよ」

「名前はなんだ坊主。先ずはそっからだ」

「シエル・エンプティ。シエルでいい。あんたは?」

「俺はクー・フーリン。キャスタークラスとして限界したサーヴァントだ。ここで行われていた聖杯戦争で召喚された、な」

「……大英雄じゃないか。それに、ちょっと待ってくれ。聖杯戦争? この街でか?」

「おう。ま、今となっちゃ聖杯戦争どころじゃねぇがな」

「はぁ、説明してもらってもいいか?」

「はいよ。じゃあ、先ずは───」

 

 説明を聞きながら空を仰ぐ。

 見上げた空は、灰色に染まった昏い曇天だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──と、まあそんな感じだ」

「なるほど……厄介な」

 

 炎上した街を歩きながら説明を聞いて、はあ、とため息が溢れる。

 

「つまり、なんだ。この状況を収集するには、あんたが大聖杯を守護しているセイバーを潰さなきゃいけないわけだ」

「まあ、確実に解決するとは言い切れねぇがな。現状、それぐらいしか思いつかないんでよ。この歪んだ聖杯戦争を終わらせろってね」

「……相手は彼の名高いアーサー王、一級品だな。あんたがあのクー・フーリンとはいえ、聖杯のバックアップを受けたセイバー相手は厳しいだろう」

「あー、まあ負ける気はねぇが、相当厳しいなぁ。ランサーで呼ばれていりゃ、まだどうにかなったんだがねぇ……」

 

 そう言って、遠い目をするクー・フーリン。

 そして、お前さん魔術師だろ? それもやり手の。ならこう、チャチャっとクラスチェンジとかできねぇの? と隣に立つ軍服姿のシエルに目を向ける。シエルは首を横に振り、

 

「そんなこと俺には出来ない。そもそも、俺は魔術師もどき(・・・・・・)だからな」

「あ? 魔術師もどき? どういうこった、そいつは」

 

 シエルが言い放った言葉に、クー・フーリンは眉を顰める。

 

「さっきのアサシン戦、その際だって魔術を使ってたろ。自己強化やら他にも幾つか」

「──素の身体能力だ。魔術回路は有るが、俺には魔術の類は使えないよ」

「はあ? マジかよ……。まあ、そういう奴もいるにはいるが……」

「なんだよ、本当だぞ?」

「信じてないわけじゃあない。だが、お前さんのそいつは───」

 

 ───どこか、違和感がある。

 

 とは口に出さず、気のせいだろうと納得する。俺の時代ぐらいの時なんて、この坊主レベルなんざ普通に跋扈してるし、と。やはりケルトはおかしい。

 

「キャスター、いきなり黙ってどうした。何か問題があったのか? おい」

「いんや、なんでもねぇさ。坊主は気にすんな……っと、本題から脱線しちまったな。クラスチェンジについては冗談だ、出来たらラッキーとしか考えてなかったし問題ない」

「ああ」

「となると、このままアーサー王に挑むわけだ」

「そうなるな」

「俺一人だと厳しいのはさっきも話したな。んで、戦力が一人でも多くいると助かるわけ。お前さんはこの状況を収集したい…だが、そちらも一人だと解決は不可能に近い」

「ああ、つまり言いたいのは」

 

 クー・フーリンはニヤリと笑みを浮かべて手を差し出す。

 

 

 

 

 

 

 ───共同戦線と行こうや、坊主。

 

 

 

 

 

 




次回、prologue3はprologue4、5、6辺りが執筆終了次第投稿します。気長に待ってください。


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不滅の光/prologue《3》

おはようございます。
prologue4が……出来たので投稿します。いや、ちょっと内容削り過ぎたけど、出来たので。はい。
一話一話、大体三千字から四千字辺りを目標に書いているのですが、短いのかな? どうなんでしょう。まあ、しばらくはこのスタイルです。

長くなりましたが、prologue3です。どうぞ。


 クー・フーリンからの提案を受けて、共同戦線を組む事になったシエル。彼らは大聖杯を守護するセイバーのもとへ向かうべく、襲いかかってくるエネミーを排除しながら歩みを進めていた。

 

「キャスター、前方にエネミーの群れだ。おそらくスケルトンだと思うが……わかるか?」

 

 すれ違いざまに首をひと撫で、胴体のみになったスケルトンを蹴り飛ばして、爆炎でスケルトン数十体を吹き飛ばしているクー・フーリンへ声を飛ばした。

 

「ん、ああ。スケルトンが大体……50近くか、さっきよりかは少ねえよ」

 

 つまらなそうにそう言って杖をくるりと一回転。

 

「もっとやり甲斐のある奴はいないのかねぇ……こうも骨、骨、骨と続くと流石に飽きがくるもんだ。坊主、お前さんはどうだい?」

 

 もっと戦い甲斐のある奴らの方がいいだろう? と言いたげな目を向けてくる彼に対して、シエルはスケルトンの頭蓋を粉砕しながら答える。

 

「戦いに飽きるも何もない。ただ俺は、目的の為に必要だから刀を振るっているだけだよ。それ以外には何もないさ」

「へぇ、そんなもんかい。まあ、良いんじゃねえのそれも。んで、どんな目的の為に刀を振るってんだ? 金か、女か、地位や名誉か、それとも別の何かしらか」

「そうだな……強いて言うなら──煌めく明日を目指す為、か」

「煌めく明日? なんだそりゃ」

「───昨日より良く、平和に満ち、希望に溢れた明日(未来)。誰もが笑える、光が照り差す、闇などない世界。それの為に、俺は命を賭けるんだよ」

「そいつは、また……」

「無理難題、無茶無謀、馬鹿な夢だ叶うわけがない? それがどうした。やらなければ、何も始まらないだろうが。出来ないからやらない、そんなものは理由にはならない」

 

 そう語る彼の目は雄々しく、綺麗で、何より……どこか空虚(・・)さを感じるものだった。言わされているわけじゃない、本気でそう願い思っているんだろう。だが、凄まじい違和感(・・・)があった。まるで、与えられた台本を読んでいるだけの様な──。

 

「悪を斬り裂く、雷霆に。悪の敵になるんだ……俺は必ず、必ずッ」

 

 パチリ、と刀から音が鳴る。

 そして瞳は赤から、青へと変わり──。

 

「おい、坊主。しっかりしろ」

「あ──と、すまない。少し、呆けていた……行こうキャスター」

「……ああ」

 

 刀を持ち直し、前を見据えて歩き出すシエルの背中を見てクー・フーリンは確信した。あの身体能力、卓越した剣技。さらに、先ほどの彼の言葉の気味の悪さ。ああ、確信したとも。

 

 

 ───こいつは(・・・・)おかしい(・・・・)

 

 

 警戒度を一気に上げて、シエルの後に続いていく。今は仲間だが、仮に敵対する事になればこいつは「そうか、惜しいが仕方ない」と斬りかかってくるだろう。力量差を理解した上で、何の躊躇も無く確実に。いやはや、これは。

 

「くく、退屈しなくていいじゃねぇの」

 

 斬り合い、殴り合い、殺し合い、真剣勝負。大いに結構、大好きだ。もしそうなるとしたら、此方も遠慮なく業の冴えを見せつけよう。

 

「おいおい、俺にも獲物は残してくれよ!」

 

 スケルトンの群れに突っ込んで、縦横無尽に刀を閃かせる少年を見て、森の賢者は矢を構えているスケルトンを爆散させながら獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 〜β〜

 

 

 

 

「先輩! 大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」

「う、うん。大丈夫だよ、ありがとうマシュ」

 

 藤丸立香は駆け寄ってくるマシュに微笑んだ。するとマシュは安心したのか、ほっと肩の力を抜く。なにせ、戦えるようになったのはつい先ほどからだ。自分がちゃんと戦えているのか、しっかりと先輩(マスター)を守れているのか、不安で仕方なかったから。立香の笑みを見るまで、緊張しっぱなしだ。

 

「マシュは大丈夫? 怪我はない?」

「はい! 大丈夫です!」

「そっか。ならよかった」

 

 立香はそう言って辺りを見渡す。

 どこもかしこも見るもの全てが炎に包まれており、建築物はほとんどが倒壊して瓦礫になっている。見上げた空はどんよりとした曇天で、見ていると「どうしてこんな……」と気持ちが暗く沈んでいく。

 ……しかし、ここで落ち込んでいたらマシュも不安になってしまうだろう、頑張れ私。立香はへし折れそうになる自分の心に活を入れ、これからどうしたものかと考える。カルデアとの通信は繋がらず、ノイズが走るばかり。周囲には生存者も見当たらず、ゲームで出るような怪物が跋扈している。マシュが戦えるようになっているから、辛うじてまだ大丈夫だが……それもいつまで続くかわからない。

 

 ……現状、どうしようもならなかった。

 

 頭が痛くなる。私は普通の女子高生だぞ? こんな映画みたいな状況どうにか出来ると? ふざけんなよ、一般人舐めんな。

 

「って、文句言ってもねー……はぁ」

 

 意味がない。それで現状がどうにかなるなら、自分が分かるありとあらゆる罵詈雑言を叫び散らしてやろう。

 しかし、そうしたって何も変わらない。ただ無駄に体力を消耗して、怪物を呼び寄せてしまうだけである。南無三。

 

「せ、先輩! 先輩! あれ、あれ見てください!」

 

 なんの益もないくだらない事を考えていると、突然マシュが立香の服の袖を引っ張って、何やら前方に指を指し示した。それを辿って、目をそちらに向けると───

 

 

 

「ッ、もう! なんなの! ついてくるな! やめてよ!? もう、やだ! 来ないで! 来ないでよッ! ひいっ、矢、矢がぁ! だ、誰か助けてよぉ! シエルぅ! レフぅ! ああっ、もういやぁぁあ!!」

 

 

 

 銀髪の女性───オルガマリー・アニムスフィアがスケルトンの群れに襲われていた。時折放たれる矢を「ひぃっ」やら「今掠った! 掠ったってばぁ!」とか悲鳴を上げて避けている。

 立香は「うわぁ(HAHA敵がいっぱいだ)」と引き気味の声を上げ、マシュは「凄いです! 全て避けてます!」とどこかズレた発言をして号泣して走るオルガマリーを見ている。と、そこで。

 

「あっ」

 

 立香とオルガマリーの目があった。目と目が合う〜……。

 立香はその目を見て「よしっ」と頬を叩いて、隣のマシュに向き直った。

 

「マシュ」

「はい、先輩」

「助けに行こうか! まだ、頑張れる?」

「はいっ! マシュ・キリエライト、いつでも行けます!」

 

 よし、頼もしい。流石我が後輩だ。

 

「よぉし! 瞬間強化! 一気に行くよ、マシュ!」

「はい!」

 

 礼装を起動して、マシュを強化する。一定時間使えなくなるという欠点はあるが、素人の立香でも起動できるものだ。……彼女は震える足を抑え込む。怖いし、嫌だ。だけど、やらなくちゃいけない。きっと、それが正しいことだから。彼女は恐怖を押し殺して、走り出すのだ。

 

 ───心が磨り減るのを感じながら、必死に……必死に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「マシュ! 先ずは所長の近くに迫っている数体を抑えて! 私はその隙に所長を保護するから! ……頼めるかな?」

「はい、お任せください! ッハァァァァァ!!」

 

 巨大な十字の盾を自らの前に展開して、強化された体のままに勢いよく飛び込む。巨大な盾はそれだけで武器となり、オルガマリーに迫っていたスケルトン数体を纏めて吹き飛ばす事に成功する。さらに、そこで止まらずに彼女は左右に盾を振り抜いて、斬りかかって来ていたスケルトンの体を粉砕した。

 残り、スケルトン六体。吹き飛ばしたのが四体で、その内の三体は腕や足が粉砕されていた。脅威度は下がったが、まだ油断は出来ない。マシュは盾を前方に構え直して様子を伺う。と、そこでオルガマリーを保護した立香から声がかけられた。

 

「マシュ! 所長は保護したから、サポートに入るね。一緒に戦おう!」

「はいっ、頑張ります!」

 

 立香の声を聞いて気合いを更に入れる。私は一人じゃない。先輩がいるんだ。絶対に負けるものか。盾を握る力を強め、立香の言葉に応えるが為に勇気を振り絞る。怖いけど、大丈夫だ。

 

「所長、ちょっと行ってきます。ここで待っていてください」

「はぁ、はぁ、っはぁ、え、えぇ……っ」

 

 立香は疲労と恐怖から座り込むオルガマリーに一言告げて、マシュの後ろに立った。

 

「行くよ、マシュ」

 

 すぅっと息を吸って、ゆっくり吐く。よし、大丈夫だ。

 

「先に負傷したスケルトン三体を倒そう。無理はせず、突っ込みすぎないでね」

「了解です! っはあっ!!」

 

 駆け出す。

 デミ・サーヴァントとなった彼女の身体能力は普通の人間のそれを遥かに凌駕する。ほぼ数秒で負傷したスケルトン三体の前に辿り着き、跳躍。盾を使って押し潰す。粉砕した感覚が手に伝わり、やったと確信する。が、しかし。

 

「っ、だめ! 下がってマシュ!」

 

 辛うじて生き延びたスケルトンの一体が棍棒をマシュの背中に振り下ろした。立香が指示を出すも一歩遅く、勢いよく背中に直撃する。耐久力が上がったとはいえ、当然ダメージはある。肉を打ち、背骨に伝わる強い衝撃に呼吸が一瞬止まる。

 

「マシュ!?」

 

 立香の叫びが聞こえた。心配そうに顔を歪め、今にも走り出しそうだ。いや、走り出していた。責任を感じているのだろう、自分の指示がダメだったからと。

 

 違う。私の力が足りなかっただけだ。

 違う。先輩の指示が悪かったんじゃない。

 

「くっ、このぉっ!!」

 

 立香の右ストレートがスケルトンの頭蓋を打ち抜く。強力なものではなかったが、弱っていたスケルトンには効いたようで、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていた。立香は痛む腕を庇いながら、マシュの側に寄り添う。

 

「〝応急処置〟──マシュ! 大丈夫!?」

「は、い。大丈夫…です。ありがとうございます!」

「ごめんね、私の指示が──」

 

 

「先輩のせいじゃありません。私が至らなかったから……次は大丈夫です。必ず、やってみせます!」

 

 

「……そっか。うん、頼りにしてるねマシュ」

「はい! それでは、いってきます!」

 

 力強く地を蹴り、盾を振り抜くマシュ。先ほどとは明らかに違う、より強くなった一撃がスケルトン三体に打ち込まれていく。立香も時折危ない瞬間、チャンスに指示を拙いながらも出して、さらにマシュの動きは洗練されていった。

 

 そして、最後の一体の頭蓋を砕き、戦闘が終了する。

 盾を支えに荒い息を吐くマシュの元へ駆け寄り立香は「マシュー!」と抱きついた。このこのー、可愛い後輩めー! 頼りになるなー私の後輩はー! と顔をスリスリ擦り付けている。マシュは「せ、先輩!? あ、あの、そのぉ」とオロオロとしてなされるがままだ。

 

 先ほどの殺伐とした空気とは一変して、微笑ましい光景が広がっていく。オルガマリーはその代わりように呆気に取られる。……そして、状況を理解して嘆きの声を上げた。

 

「……なんなの、本当。マシュがサーヴァント? あの一般公募のあの子がマスター? ああ、冗談よしてよ、もうぅ……っ」

 

 頭を抱える。

 カルデアとは通信が繋がらないし、シエルとレフがいないし。どうすればいいのよ、もう……! と唸るオルガマリーの元へとじゃれあっていた立香とマシュがやってきた。立香は「所長? あのー」と声をかけているが、彼女はぶつぶつと何かを呟くだけだ。

 

「……しばらく、そっとしておこうかマシュ」

「……そうですね、先輩」

 

 しばらく様子見をしておこう、と決めた二人は周囲の警戒を始める。辺りにはもう敵影は見えず、大丈夫であろうが念には念をだ。

 

 

 

 

 

 実際、それは正解だった。周囲の警戒をしていなければ、迫るナニカに気づかなかったのだから。

 

 

 

 

 

 苦難は乗り越えた。

 力を合わせて、より絆も深まっただろう。

 

 

 

 

 

 なら、ほら。

 

 

 

 

 

 

「う、そ……」

 

 

 

 

 

 

 もう一度、力を合わせて頑張れよ。絆の力、美しい主従関係をもって勝利の運命を手繰り寄せてみろ。

 

 

 

 

 

 

「そんな……」

 

 

 

 

 

 

 さあ、さあ、さあ───

 

 

 

 

 

 

「さ、サーヴァント……!?」

 

 

 

 

 

 

 ───次の苦難、困難、試練がやってくるぞ。

 

 

 

 

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️────ッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 




はい。如何でしたか?
全体的にハードモードです。
立香ちゃんは原作よりメンタル弱く、より一般人に。まあ、戦えてる時点で一般? え? ってなりますが。原作よりかは比較的メンタル弱く設定してます。つまり、わかるな? 愉悦部なら分かると思う。うん。

さて、次の苦難がやってきたぞい。
果たしてどうなるかは……待て次回!

因みに、次回はprologue6が書き終わったら投稿です。気長に待ってねー。


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不滅の光/prologue《4》

前回、prologue6が書き終わったら投稿すると言いましたが、リアルが忙しくなってきたので、早めに次話を投稿。次回の投稿時期は未定です。なるべく執筆する時間作るけど、気長に待ってくらさい。

では、prologue4です。どうぞ。
あー、さらにトンチキさせたい……オルレアンを早く書きたいぞい。


 

 ───その黒い巨人は悍ましいまでの狂気に囚われていた。空に上げた咆哮には憎悪・怒り・殺意とあらゆる負の感情が込められており、聞いた者がたとえ戦士であろうとも容易く心がへし折られてしまうだろう。

 

 そして、当然。彼女達にそれが耐えられる筈もなく、全身を恐怖と絶望感が支配して凍えるように固まっていた。……それは致命的な隙だ。敵対者の前で、ましてや黒い巨人のような怪物を前にして晒していいものではない。

 

 ───故に、この結果は当たり前に訪れる。

 

 狂乱の咆哮を轟かせて、集まってきたスケルトンの群れすら薙ぎ払い、黒い巨人は両手に持った()を呆然と立ち尽くす立香達を無残な肉片に変えてやらんが為に振り下ろした──瞬間、圧倒的な暴力が炸裂する。

 

「ぐぅぅぅうっっっ!!」

 

 硬直から解けたマシュが力を振り絞り、圧倒的な暴力に対して盾を翳してひたすら耐える。

 

 ───しかし、それがどうした? なんだその抵抗は、矮小な身で立ち向かうと? 笑止、無駄だ。疾く失せよ、砕けて散って柘榴になって死んでしまえよ羽虫共。

 

 黒い巨人は羽虫の抵抗など露ほど意に介さず、力任せに盾ごと彼女の体を地面に叩き落とした。

 足が砕け、体の至る所に激痛が走る。手が赤い……潰れてしまったようだ。臓器の幾つかも駄目になっている。いくらデミ・サーヴァントとはいえ、致命傷に至るものだ。

 

 突如として現れた災害。

 彼女達には成すすべもない。ただ、無残に屍を晒すだけ。運命は潰えた。最早救いはなく、彼女達の死は決定した。

 

「ま、しゅ……! マシュ! ぐっ、どうすれば、礼装も使えないしッ、ああ、ぁあ……!」

「せん、ぱ…ぃ」

 

 あれだけ明るく振る舞っていた立香も涙を流して、恐怖に身を震わせている。必死にマシュを治療しようとするが、彼女にそのような知識はない。治癒魔術など使えない。礼装も待機時間がまだ掛かる。八方塞がり、絶望感が支配していく。

 号泣しながらオルガマリーもマシュに対して治療を施しているが、所詮焼け石に水だ。もっと膨大な魔力、尚且つ優秀な魔術師がもう一人居ないと治療は難しい。

 

「にげて、ください……わたしが、おと、りを……ッ」

 

 耐える。

 耐える。

 耐える。

 痛い、苦しい、もう嫌だ。

 

 マシュは弱気になる心を押し殺して、砕けた足のまま立ち上がる。盾を支えに、ゆっくりと迫ってくる黒い巨人に向き直った。

 

「だめ! そんなの、絶対に嫌だよ! マシュは、マシュがぁ…!」

「……マシュ、あなた」

 

 砕けた足を引き摺り、盾を支えに前へ前へと進んでいく。そのマシュの後ろ姿を見て、立香は「いかないで!」と必死に引き止める。しかし、歩みは止まらない。守る為に、彼女は往くのだ。

 

「いや、やめて、お願いだから……!」

 

 祈る。

 

「だれか、誰でもいいからぁ!」

 

 必死に祈る。

 

「────マシュを、たすけてぇ……っ!」

 

 少女の祈り、それを搔き消すかのように黒い巨人が再びマシュに斧を振り上げて───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ああ、助けよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───絶望を斬り裂くべく、仲間を守るべく、少女の祈りに応えるべく、死の運命を否定するが為に◼️◼️の後継者が降り立った。

 

 

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 

 

「ふ───ッ!」

 

 ──一閃。振り下ろされた斧を弾いて軌道を逸らす。斧を弾く際に筋肉が断裂して骨がヒビ割れたが、さして気にすることでもない。刀を振るうのには支障は無く。むしろ、己の技量でこの程度の負傷で済んだ事だけで十分だ。全くもって問題ない。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッッ!!」

「喧しい。少し黙っていろ」

 

 返し刀で胴を斬り上げ、止まらず畳み掛ける。

 一閃、二閃、三閃、四閃──と怒涛の連撃。黒い巨人の体に無数の裂傷が刻まれていく。

 

「キャスター! キリエライト、盾の少女を保護して退がれ! そちら治療に専念を。こいつは──俺が葬る」

 

 一撃一撃が必殺。

 擦れば即死、塵芥のように吹っ飛ぶであろう暴力の嵐を紙一重で躱し続けて刃を閃かせる。恐れはないし、決して臆したりなどしない。シエルはただ前に進み続ける。──燃ゆる怒りを瞳に宿して。

 

 背後で倒れ臥す少女、マシュ・キリエライト。

 クー・フーリンに回収されて、魔術による治療を受けているが……酷い有様だった。カルデアで短くはない時を共に過ごした仲間。それを傷つけられて、怒りが燃えないわけがない。

 

 そして、なにより。

 

「◼️◼️◼️ッ!? ◼️◼️ッ!?」

「貴様は──」

 

 チリチリと鳴く音と共に、刃に青い稲妻が走る。

 受け流す攻撃で体が削られ、血が舞うが関係ない。ただ、前へ。前へ、前へ、前へ……ッ!

 

「───嗤ったな、貴様。彼女達を見て無様だとッ」

「◼️◼️ッ!?」

 

 ───斬ッ!

 右腕が肩口から斬り裂かれ、血飛沫撒き散らして宙を舞う。

 

「彼女達の足掻きを、戦いを、尊い想いを貴様は嗤ったんだ!」

 

 ───斬ッ!

 左腕内部に青い稲妻が迸り、内側から焦がし尽くす。

 

「ふざけるなよ、なんだそれは!」

 

 ああ、そうだ。必死に生きようとする想い、誰かを守る為に立ち上がる勇気、明日(未来)を諦めない意志。それらは全て尊いものだ、賞賛されるべきものだ。断じて貴様が嗤っていいようなものではない。

 

 ──そうだ。許してはならない。怒り、砕き、斬り裂くのだ。眼前の邪悪、その一切を否定しよう。

 

 昂ぶる感情、それに比例して加速する刀。最早、彼の動きに黒い巨人は追随することは出来ない。

 困惑、驚愕、あり得ない展開に恐怖する。なんだこの男は、なんだこの力は! ただの人間風情が、どうして自分を圧倒している!? ふざけるなよ、矮小な虫けらが!!

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッッ!!」

 

 泥に呑まれ、堕ちて劣化した身なれど。この我を侮るな。宝具の開帳が出来ない? ──やらなければ、わからないだろう。ああ、見せてやろう我が宝具。我が軍勢を。全てを蹴散らしてみせようこの力で。

 

「ぐぅ──ッ! 魔力が高まって……宝具、だと? させるかァ!!」

 

 黒い巨人の周囲の魔力が高まっていき、徐々に形を形成していく。骨が軋み、肉が裂けるが、御構い無しに駆け抜ける。宝具の開帳、それを許してはいけない。チャンスは今、決めなくてどうするよ。加速、加速、加速の連続。そして、刀を心臓目掛けて一直線に抉り抜くッ!!

 

「──◼️◼️ッ!」

「獲ったぞ。そのまま、奈落に堕ちていけ」

 

 宝具の開帳、ならず。発動すんでのところで黒い巨人は霊核を砕かれた。形を形成していた魔力は霧散して、ただの魔力へと変換される。

 黒い巨人は忌々しそうにシエルを睨み、そして───すまなそうに頭を下げた。シエルの背後、マシュ達に向けて。

 元々、バーサーカーで呼ばれた故に狂っていたのだが、泥の影響でそれは顕著なものとなっていた。しかし、霊核を砕かれた事によって、理性が少しばかりだが戻ったのだ。

 それを見て、シエルは目を細める。堕ちたとしても、劣化したといえども、やはり英雄は英雄か。最後にこれとは……そのまま完全な邪悪として消えていけば良かったものを。──モヤモヤするな、くそ。

 

「──お前は……」

「◼️◼️◼️ッ!!」

 

 ───次は、こうはいかない。次に合間見えたその時に、我が最強の軍勢を披露してやろう。次は勝つぞ、雷の如き男よ。

 

「……そうか。機会が来れば、見せてもらおうか。だが──」

 

 刀を鞘に納め、眼光鋭く睨みつける。

 

 

 

 

 

 

 

「───〝勝つ〟のは俺だ」

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いて、黒い巨人は口を歪める。

 おお、我が宿敵よ。新たな敵が、現れたぞ。雷霆の如き、眩しき男だ。どこか貴様に似て───忌々しいな。

 

 

 

 ──暴力の嵐、絶望を与えた災害は魔力の粒子となって消えていった。

 

 

 

 後に残ったのは静寂。シエルは軋む体に鞭を打ち、その場から背を向けて、此方を驚愕の目で見る立香達の元へと近づいて行く。そして、真顔で彼は血を吐いて──?

 

「えっ」

「し、シエル!?」

「ちょ、おまっ」

「すぅ、すぅ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない。治療、頼めないか」

 

 決して倒れず、さらに体から血を吹き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 





では、待て次回。

本当はもっと戦闘シーンとか、その後も長かったけど。削ってこうなりました。まあ、まだこれぐらいで……後々戦闘もっと増えるから。うん。


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不滅の光/prologue《5》

お久しぶりです。
今回も色々削りつつ出来上がりました。

それでは、どうぞ。


 

 

「──一騎、いや二騎か。あの狗、違うな……別の者に打倒されたか」

 

 大聖杯。

 超弩級の魔力炉心、万能の願望機。汚染されて黒い泥が溢れ続けるそれの前、そこに彼女は静かに佇んでいた。

 

 黒い聖剣。黒い鎧。禍々しくも、堂々とした魔力の持ち主。その者の名は──誉れ高い円卓の騎士、それを束ねる騎士の中の騎士。騎士王、アーサー王その人だ。

 

 彼女は金色の目を輝かせ、愉快そうに口端を歪めた。この地で戦える存在、それはキャスターだけだった筈。戦闘能力を持ったサーヴァント、或いは魔術師供は全て殺した。故に、争う存在はもういないものかと思っていたが……キャスター以外にまだ戦える者がいたとは。此の地に訪れた来訪者、彼ら彼女らはそこそこ出来るようだ。まあ、どちらにしても──。

 

「関係ないな」

 

 そう、関係ない。

 彼女にとって、どうでもいいことだ。

 圧倒的な力を持って捩じ伏せる。それでいい、それだけでいい十分だ。油断はしない、慢心もしない。ただ、徹底して潰す。

 

「───アーチャー」

 

 そのために、まずは──。

 

「往け」

「了解した」

 

 ──小手調べ、敵情視察といこう。

 

 

 

 

「簡単に死んでくれるなよ? 星詠みの者たちよ」

 

 

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 

 

 霊脈地。

 各々治療を終え、情報を交換し合った彼らは、そこを目指して歩みを進めていた。

 目的は繋がらない通信の復旧。シエル、マシュ、立香の通信機は損傷しており使い物にならなかったが、辛うじてオルガマリーの物は無事だった。しかし、幾ら通信を試みても繋がらない。そのため、通信を安定させるべく、霊脈地を目指しているわけである。

 

 現れるエネミー(主にスケルトン)は経験を積ませるという形でマシュがメインで戦闘を行っている。シエルやクー・フーリンはそのサポート、もしもの時の救急員を務めている。

 そして、そのおかげかマシュの動きもぎこちないものから徐々に少しずつ改善されていく。同時に立香の指揮も向上していった。まあ、まだまだ荒いところが目立ち、甘い隙も山ほどあるが其処は男組がなんとかする。

 

 今だって、死角から放たれた矢が立香の頭蓋を貫かんと迫っているが──しかし、これを刀が弾き飛ばした。そしてその矢を開いた片手で掴み取り、

 

「──返すぞ」

 

 そのまま投擲。一直線に飛んだ矢がスケルトンの頭蓋を貫き沈黙させる。

 

 どうやら、それが最後の敵だったようだ。

 前線で戦っていたマシュが焦りを浮かべ、立香の元へと駆け寄る。

 

「せ、先輩! 大丈夫ですか!」

「う、うん。シエルくんが守ってくれたから大丈夫だよ。あ、ありがとう!」

「いや、気にしなくていいさ。仲間を守るのは当たり前だろう」

 

 そう言って刀を鞘に納め、辺りを警戒する。奇襲、強襲なんて当たり前にされるため、一瞬足りとも気を抜く事は出来ない。気付かない内に攻撃を受けて死ぬなど、馬鹿な真似は晒す訳にはいかないのだ。

 

「──あった。霊脈地よ」

 

 オルガマリーが「ここで止まりなさい」と言って、通信端末を起動させる。しかしノイズが鳴り続け、画面は砂嵐を写すだけだ。それをみて不安になったのか立香が隣に立つシエルに尋ねる。

 

「繋がるかな……」

「……カルデアもかなりの被害に見舞われたからな、果たして無事な人間がいるのか。そして、通信が可能なだけの設備が維持されているのかは分からない」

「そんな……」

「だが、諦める事はない。彼処にいる人たちは───」

 

 

 

 ───中々にタフだからな。

 

 

 

「っ、繋がった! 管制室! 私です! オルガマリー・アニムスフィアです。応えなさい! 管制室ッ!」

 

 通信が繋がった。

 オルガマリーは必死に声を上げて、管制室からの応答を待つ。まだノイズが残り、通信状況は悪いままだが今を逃せば次はない。

 

「管制室──ッ!」

『──ちら──こちらッ──こちら管制室! ああ、やっと繋がったぞぅ! って所長!? い、生きていたんですね! あ、それに藤丸くんにマシュ、シエルくんも! っとサーヴァント!? えっ、マシュからもサーヴァント反応って…!? それになんだいその破廉恥な格好は!? 僕は君をそんな風に育てた覚えはないぞぅ!?』

 

 通信に応えたのは、ドクター・ロマン。カルデアの医師を担当している男、ロマ二・アーキマンだ。背後からは他の人間の声も聞こえてくるので、無事な人間まだ一定数いるようだ。

 オルガマリーはその事に胸を撫で下ろし、そしてすぐさまロマンに詰め寄るように尋ねた。

 

「ロマ二!? ちょっと、なんで貴方が……レフ、レフは何処なの!?」

『……分かりません。カルデアが爆破されてから、行方が不明です。現場を仕切れる人間がいなかった為、現在は代わりに僕が指揮をしている状況です』

「うそ、そんな──!」

 

 血の気が引く。ああ、頭の中がクラクラと揺れている。気持ち悪い、倒れそうだ。

 顔面蒼白、頭を抱えているオルガマリーの様子を見て、シエルは代わりにロマンとの会話を続けた。いつ通信が途絶してもおかしくないんだ、もっと現状を把握しておきたい。

 

「ドクター。カルデアの現状は? 被害状況を教えてくれないか」

 

 立香とマシュがオルガマリーを座らせて落ち着かせているのを確認しながら、ロマンに問いかける。その問いかけにロマンは顔を曇らせて答えていく。

 

カルデアの設備(・・・・・・・)その八十%が潰されたよ(・・・・・・・・・・・)……。辛うじて管制室は何とか修復して動きつつあるけど、召喚室や他施設は完璧に破壊されている』

「───そうか。職員、他マスター候補の安否は?」

『……職員の半分以上が死亡。残った者たちも負傷している状況だよ。君たち以外のマスター候補は、その──』

「何人、無事なんだ。ドクター答えてくれ」

「……マスター候補、その八割が死亡。辛うじて生き残ったのは数人のみ。それだって、無事な訳じゃない。今は冷凍状態にして治療をしているけど……正直言って厳しいよ。こんな事、医者として言いたくはないけれど……確実に後数人は死亡する」

「……分かった。すまない、辛いことを言わせてしまった」

「いいんだよ、君は気にしないでくれ。さっきはああ言ったけど、僕だって諦めた訳じゃない。最期まで抗ってみせるさ。だから、君たちは──特異点の解決を目指してくれ。此方の心配はいらないさ!」

 

 そう言って、誰から見てもわかる無理した笑みを浮かべるロマン。その姿に強い敬意が生まれ、自分も負けられない、と意気が湧いてくる。ああ、まだ諦める時ではないとも。前へ、前へと進もうか。

 

「ああ、任せてくれ。必ず救ってみせるよ」

「うん、君ならそう言うと思っていたよ。っと、通信が途絶しそうだ……」

 

 ノイズが強くなり始め、砂嵐も発生して映像が見え辛い。

 ああここまでか、と呟いてロマンは此方を向いてサムズアップをする。

 

「こっちは大丈夫! なんとかするから任せてくれ! 君たちは生き残る事、特異点を解決することに集中してくれ! 必ず君たちの存在を証明してみせるさ! だから──頑張っ──………」

 

 通信、途絶。

 

「ああ、言われるまでもない」

 

 必ず救う。

 悪を斬り裂き、滅ぼすために。仲間のために、世界のために、光のために。朽ちて果てるとしても、恐れることは何もない。ただひたすら一直線に、意志を雄々しく貫くのみ。

 

「さて、坊主。これで通信はもう繋がらねぇ。あとはセイバーを打倒するだけだ。さあ行くか、と言いてぇんだが……ここまでの戦闘で多少は出来るようになったが、まだ今の嬢ちゃん達じゃ厳しいぞ」

「確かにそうだな……そのニヤケ顔、何か案があるんじゃないか?」

 

 シエルの肩をポンポンと軽く叩く。俺に任せろ、名案があるぜ? とニヤニヤと笑みを浮かべるクー・フーリン。大変不気味だ。

 

「信用出来ないなぁ……」

「まっ、任せておけよ。嬢ちゃん達を今より強くしてやるさ、セイバーとある程度やれるとこまでな!」

 

 杖をくるりと一回転。宙にルーンを描いて火花が散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようし、嬢ちゃん達。授業を始めるぞー!」

「お、お願いしますクー・フーリンさん!」

「なにこれ」

 

 ──鬱った所長を慰めていたら、いきなり授業が始まった件について。立香の右隣でマシュは両手で小さく握り拳を作って、頑張りマシュ! っと張り切っていた。天使かよ、天使だったわ、天使だよ。

 

「……」

「ねぇ、シエルくん」

 

 マシュとは反対、左隣で腕を組み沈黙しているシエル。

 そんな彼の軍服の袖をくいくいと引っ張って、なにこれー? と目で訴える。いや、本当になんなのさこれ。

 

「……特訓、らしい」

 

 本人は授業と言っているが、とため息。

 

「特訓…マシュと私の?」

「ああ、そうだな。新たなサーヴァントの追加召喚も出来ず、それ以外で戦力強化するには既存の戦力をさらに強化するしか道はないから。いきなり授業を始めると言われても困るが……あの人は大英雄と言ってもいい存在だ。大丈夫だろう、多分きっと」

「そっかぁ……」

 

 まあ、言っている事は間違いじゃないか、と盾を素振りしている天使な後輩(マシュ)を見て和む。

 

「おお、そうだ! 今の一撃は力が入ってよかったぞ、その調子だ!」

「は、はいっ! えいっ、えいっ!」

 

 青空教室ならぬ灰空教室。

 辺り一帯は炎に包まれ、倒壊した建築物が瓦礫となって散らばっている。時折、というか頻繁に現れる一般通過スケルトンは容赦なく粉砕。慈悲はない、南無三。

 

「うっわぁ、こんな教室嫌だなぁ……っあ、マシュ右! 盾をそのまま振り抜いて!」

「はい! やあぁっ!」

「上からも、だ。気をつけろ」

 

 素早く石を投げて、マシュの頭上から降ってきていたスケルトンの手首に当たる位置に着弾。持っていた剣が弾かれて飛ぶ。そして、その隙にマシュが盾を叩きつけて粉砕した。

 

「ありがとうございます! シエルさん!」

「助かったよ……もっと、周りに目を向けないとね」

「あ、ああ。頑張ってくれ二人とも」

 

 シエルの頬が赤く染まる。この男、やはりあざとい。その様子を見て立香の萌えゲージは急上昇だ。

 

「はぁ、戦闘訓練ね……」

「……所長」

 

 大丈夫何ですか、と尋ねると「大丈夫よ、もう大丈夫だから」と手をひらひらと揺らした。それにしても、あの子……とマシュを見る。

 

「すっかり、サーヴァントね。身体能力、魔力…どれも普通じゃないわ」

「そうですね……まだ戦闘経験が少ないから動きはぎこちないですが、潜在能力は高いと思います。時間が経てば経つほど、強く成長していくでしょう」

「そう……」

「心配ですか? キリエライトが」

「……」

「大丈夫ですよ、彼女は強い。肉体ではなく精神が、心が強い。ああいう子は折れません。確信して言えます」

「ふっ、説得力があるわね、貴方がそれを言うと」

 

 それの塊みたいな人間、彼が言うのならば安心だ。きっと彼女は強くあるだろう。自分の心配、そんなものはいらない……資格もなかった。

 

「さて、大詰めみたいですよ」

 

 シエルの言葉に目を向ける。

 そこに見えたのは、力強くも──暖かい宝具の光だった。絶対に守るという意志が強く現れた彼女の盾、それがクー・フーリンが放った巨大な火球を防いでいた。

 

「──綺麗」

「ええ、とても……美しい」

 

 優しい彼女によく似合う──守護の宝具だ。

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

「───アレか」

 

 冬木を見渡せる場所、高い電波塔の頂にソイツはいた。黒いボディアーマー、腰に赤い布の切れ端を巻きつけた白髪の男。冷たく、感情を感じさせない金色の瞳はセイバーと同様のものだ。

 

 ───弓兵(アーチャー)

 

 いまや聖杯の泥に呑まれ、反転した存在となった彼のクラス名だ。文字通り、弓や飛び道具を扱う事に長けた者の通称である。

 そして、その男の目には二キロ先のシエル達の姿が見えていた。風向き問題無し、足場も気にはならない、距離? 愚問だな……届くに決まっているだろう?

 

 故に、射程圏内。

 

「───投影開始(トレース・オン)

 

 投影魔術。

 通常のそれではない、等価交換の法則を無視した彼の魔術。投影するのは己用に調整した黒弓。矢は、そうだな───

 

「あくまで、様子見だが……」

 

 ───螺旋の剣、虹霓剣を投影。アルスター伝説に登場する英雄が使った魔剣。贋作と侮るなよ、聖杯のバックアップを受けた今、この贋作品は真にすら迫るものだ。

 

「さて、君たちに世界を救えるのか。試させてもらおうか」

 

 なに、安心しろ。

 私など、英雄ですらない。ただの紛い物さ、気負う必要は無い。だがしかし、

 

「私ですら超えて行けぬ、そう言うならば───」

 

 ここで、死んでおけ。それがお前たちの為にもなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───そのまま、溺死してしまえよ」

 

 唸りを轟かせ、闇を切り裂いて、空間を抉る必殺の矢が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




長い。
セイバーまでが長いんじゃ……。

次回はストックがいくつか出来たら投稿します。展開変えたから、prologue6の内容一新しなくては……。

まあ、気長にお待ちを。

では、待て次回!

apoコラボ楽しみなのだわ。
最近シンフォギアの曲ばっか聴いてる……誰かトンチキ主人公でシンフォギアss書いてくんねぇかなぁ。


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不滅の光/prologue《6》

お待たせ(採取戦のサーヴァントゲージが消し飛ぶのを見ながら)

お前ら速スギィ!
なんか、採取決戦思い出すわ……あの時の魔神柱の刈られた速さは忘れない。全然周回出来んかったからなぁ、アレ……バルバトス、なんで死んでまうん? 殺したいだけで、死んで欲しくはなかったッ!

いくつかストック作ってから、とは言ったけどね……ちょっと作れそうにないから早めに投稿。なんか、ノリと勢いで書いたから間違いあるかもしれないんで、よろしくどうぞ。


 

 カラドボルグ。

 虹霓剣、螺旋剣。フェルグス・マック・ロイヒが奮った魔剣である。伝承には三つの丘を斬り落としたと記されており、その恐ろしさがはっきりと分かるだろう。

 後の時代、数多の英雄が手にした聖剣・魔剣の原型になったとも言われており、有名な物だと騎士王アーサーが手にしたエクスカリバーなどがそれに該当するものだ。

 

 ──それがたとえ投影魔術で生み出された紛い物だったとしても、その破壊力は計り知れない。弓兵の手によって改良されたカラドボルグ、宝具のランクにしてA。それだけでも脅威だが、聖杯によるバックアップを受けた其れはさらに強力になり、

 

「宝具のランク、Aは軽く超えるだろう。簡単に死んでくれるなよ?」

 

 再度、投影。

 矢へと形状変化したカラドボルグを弓に番える。弓兵は誰が一射だけで終わると言った? と言わんばかりのニヒルな笑みを浮かべた。

 

「さあ、乗り越えてみせろよ──ッ!」

 

 そうでなくては、とてもこの先生きてはいけまいさ。だからこんな困難、軽く乗り越えてくれ────それこそが世界を救うに足る英雄と呼べるだろう?

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

「ッ、キャスターぁぁあ!!」

「わーってるよぉ!!」

 

 赤い軌跡を描きながら空を斬り裂き、空間を抉りながら飛来する必殺の矢。その膨大な魔力反応に最初に気付いたのはシエルとクー・フーリンだ。互いに傍にいたオルガマリー、立香を腕に抱き抱えてその場所から全力離脱。マシュもそれに追随する。

 

「ちょ、ちょっと! いきなり何を──っ!?」

「口を開けない方がいいですよ、舌を噛みますからッ」

 

 いきなり抱き抱えられた事に驚くが、すぐさま顔から血の気が引いた。接近する膨大な魔力反応に気づいたのだ。オルガマリーは「嘘でしょ……」と乾いた声を上げて、遠くの空を見上げた。

 

 ───そこには、十八(・・)の赤い流星が煌めいていた。その全てが凄まじい破壊力を持った宝具である。

 

 クー・フーリンは「あの野郎…ッ、動きやがったか!」と見えない弓兵に歯噛みをしつつ、立香を抱いていない方の手を奮ってルーン文字を宙に踊らせる。その動きに淀みはなく、あっという間に完成したルーンにより立香と自身に防護の効果が付与された。本来ならこれで弓兵の矢を防げた筈だが、聖杯によるバックアップを受けた彼の矢はそれすら貫通して破壊するものとなっている為、意味がない。無いよりはマシ、と言った程度のものだ。

 そして彼は矢避けの加護という、飛び道具に対して無類の強さを誇るソレを有してはいるが、現在この状況では全くと言っていいほど役に立たない。敵対者の姿が視認できない長距離からの直接攻撃。その上、広範囲に及ぶ破壊力の宝具が十八、残念ながら矢避けの加護は発動しない。

 

「くっ、マズイぞこいつは…ッ」

 

 全力疾走。

 飛んで、跳ねて、駆け抜けていく。しかし、逃がれられる気がしない。あのレベルの宝具が十八、回避がどうとかそんなもの関係ない領域のものだ。広範囲に連鎖的に炸裂する圧倒的火力によって蹂躙されてしまう。

 

 切り抜けるには対抗できる宝具、若しくはスキルが必要。

 しかし、マシュの宝具はまだ未熟だ。完成したばかりのソレでは一撃が防げたとしても、次々と放たれる攻撃に崩されてしまう。それに、その場から動けなくなる為、反撃に転じる事が難しくなる。

 となると、スキル。これに頼りたいが……生憎とそんなスキルを持った存在はいない。

 

 つまり、八方塞がり。活路は無い。

 

 では成すすべもなく、大人しく死を受け入れるのか? 否、馬鹿を言えよあり得ない。必ずこの困難、試練を踏破してみせよう。活路が無い? なら無理矢理孔をこじ開ければいいだけだ。

 

 そのために、この命を懸けよう。

 全身全霊を込めて刀を奮い、魂すら薪木と焚べながら──全ては勝利(未来)をこの手に掴むため。空いた片手で刀を引き抜き、彼方先を見据える。

 

 ──弓兵と視線が絡まる。

 

 金色の瞳は愉快そうに細められ、その口は笑みの形を作っている。己を見る少年の瞳には眩い光が煌めき、必ず勝利するという貪欲な渇望が滲み出していた。

 

 ──面白い。出来るのならば、見事成してみせろよ少年。

 

 弓兵の持つ弓矢からギリリッと、弦が軋んだ音を立てて鳴く。

 だが、此方も簡単に首をくれてやるわけにはいかない。彼女(・・)の頼みだ、蔑ろにもできまい。全身全霊を込めて必ず心臓を射抜き、貴様らの生命の鼓動を止めてやろう。

 

 赤い流星が追加で放たれた。──その数、なんと三六。先ほどは手加減、或いは様子見だったのだろう。今度は遊びなど微塵も存在しない、合計“五四”の殲滅の矢雨がシエル達に降り注ぐ。

 

「坊主、抱えた嬢ちゃんこっちに投げろッ!!」

 

 クー・フーリンの声、そちらに目を向けることなく抱えていたオルガマリーを投げ飛ばした。

 

「ぐッ、ぁぁぁぁぁぁぁあッッッ!!」

 

 回避、回避、回避───着弾地点を予測して、さらにそこから着弾した矢の破壊力、それがどこまで広がるのか被害規模を分析、逃げ場を与えない狡猾な攻撃を無理矢理体を動かして潜り抜けていくが、その度に体が悲鳴を上げて、ハイスピードで壊れていく。無知な自分が分かるだけでも、全身至る所の筋肉が断裂し、骨はヒビ割れ、臓器は無茶な動きを行使したお陰で、動くたび常にシェイクされたような状態になっている。

 

 そして、一番酷い状態なのが頭の中───脳だ。

 目まぐるしく動く変幻自在な攻撃、それに対応する為、脳に刺激を与え続けている所為(・・・・・・・・・・・・・・)で頭の中が今にも爆発しそうなほど沸騰しているのだ。

 常人なら発狂してそのまま廃人になるか、それとも死んでしまうかの尋常じゃない激痛。

 

 その致死に至る激痛を歯を食いしばって、気合いと根性で耐え抜く(・・・・・・・・・・・)

 無茶無謀、滅茶苦茶、出鱈目だ? そんな言葉で限界を測れると思うなよ、この程度で死んでたまるものか。意志が続く限り、この鼓動が鳴る限り、勝利をこの手に掴むまで俺は倒れはしない。

 

 ───故に。

 

「───まだだ(・・・)!!」

 

 限界突破。

 不条理を押し潰す、ご都合主義な覚醒を遂げた。片目が仄かに赤から青へと変化し、白髪の一部に金色が混じる。刀には稲妻が走り、刀身に纏わりついた。そして軌跡を描きながら刀を奮い、眼前に迫り来る矢を斬り裂いて一刀両断。その際に爆発が襲うが、それすらも斬り開いて前へと駆け抜けていく。

 

「キャスター! このままでは全滅する。一定数矢を落とした後、一気に奴の元へ向かう! 奴を打倒し、そのままセイバーを討つぞ!」

「っ、おらぁっ! ──坊主、正気かテメェ!?」

 

 傷を負いながら多彩なルーン魔術を行使して、矢雨に対処しているクー・フーリン。マシュも彼にルーンによる強化を受けて、僅かながらだがクー・フーリンが撃ち漏らした矢を全力で防いでいた。

 このままでは弓兵を仕留めない限り、遅かれ早かれ隙が生まれて陣形が綻び始めるだろう。そしてその先に待つのは全滅だ。

 故に、シエルの言葉に納得しつつも、現状を見るに絶望的だ。辿り着くまでに全滅する可能性の方が遥かに高い。

 

 だがしかし。

 

「面白いじゃねぇか! このままでも、どの道全滅だ……僅かな可能性に賭けるのも悪かねぇかッ!」

 

 やってやろう。

 勝率が少なかろうと、絶望的だろうと知ったこっちゃねぇ。このまま尻込みして、牙を剥かずに終わるなんざ──冗談だろ? あり得ない。この絶望をひっくり返し、突き抜けていくのが英雄だろう。それがケルトの戦士だろう。 このまま死んでちゃ、師匠にどやされる。それは勘弁被りたい。

 

「いいぜ、滾るじゃねぇの。坊主! 矢は気にすんな、俺が全て撃ち落とす。お前はいけすかねぇ野郎をぶった斬る事だけ考えてろ」

 

 それと、嬢ちゃん達……と目を立香とマシュ、オルガマリーへ向ける。

 

「死ぬかもしれねぇ、だが反撃するにはそれぐらいやらなきゃダメだ。命を懸けて、全身全霊で、お前達は付いて来る覚悟はあるか?」

 

 断っても構わない。その時は俺と、坊主の二人でやる。そう告げる彼の目には闘志が燃え盛り、見つめられると焼かれているような感覚に陥った。息が詰まり、呼吸が乱れる。恐怖のあまり失神してしまいそうだ。でも───

 

「……ついていきます。私は、まだ死にたくない。このまま、何もせず死んでいくなんて嫌だ──ッ!」

 

 恐怖を押し殺し、立香はクー・フーリンの目を見返した。

 

「私もいきます! お二人に任せてばかりじゃ駄目だと、そう思いますから!」

 

 盾を握る力を強め、マシュは立香の隣に並び立つ。先輩を守る為にこんなところで止まれない、私はさらに強くなるんだと心を奮わせる。

 

「私は、私…は、ッ!」

 

 嫌だ。死にたくない。行きたくない。なんで、どうして? 怖い、怖い怖い怖い怖いッ! ああ、嫌だ……ッ!

 

「嫌だ、嫌だ、嫌なの……ッ」

 

 でも、ああシエル。

 肉が弾け、骨が砕け、血を吹き出しながら刀を奮い続ける少年の背中を見る。その姿を見ると、泣きそうになる。どうして、貴方はそこまで戦えるの? どうして貴方は折れないで進み続ける事が出来るの? どうして、どうして貴方は──自分以外の誰かの為にそこまで命を懸けれるの?

 

 ───怖い、怖いよ。私は貴方が、時折恐ろしく思えるの。

 

 こんなにも、好きなのに。

 こんなにも、愛おしいのに。

 こんなにも、大事なのに。

 

 私は貴方が貴方じゃなくて、他の何かに変貌するんじゃないかって……常々考えて恐怖しているの。ああ──だから、だから!!

 

「貴方の為に、私は行くわ……決して死なせるものですかッ!」

 

 愛おしい人の為に、私は命を懸けて往こう。

 

「よし──いい返事だ。燃えて来る……!」

 

 各々の答えを聞いて、心が震えた。いいぜ、最高だ。気の強い女は好きだが、それ以上に──思いを貫く奴は大好きだ。

 

「行くぜ、嬢ちゃん達! 気張れよ、こっから先は死線を越えた戦場だッ! おい、坊主! やれんのか?失敗(しくじ)るんじゃねぇぞォ!」

「愚問だな、キャスター。お前こそ、付いて来れるのか?」

「ハッ! それこそ愚問ってヤツだぜ坊主! 誰に言ってやがる! 完璧にこなしてやらぁよォ!」

「ああ、そうか───ならば、行こうか」

 

 ───そして、死線を越えた戦場が幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ──ァアッ!!」

 

 ただひたすら前へ、前へ、前へと駆け抜ける。迫り来る矢の雨は数を増やしており、掠りもすれば塵芥と散っていくだろう。だが、決してその攻撃がシエルに届く事は無い。何故なら、頼もしい協力者達がそれら全てを悉く撃ち落とし、防いでいるからだ。

 

「おっと、させねぇよ!」

 

 数十の矢が爆発、炎上して墜落する。

 

「〝瞬間強化〟──右から四、移動しつつ防いで!」

「はい! お任せください先輩! っやあぁっ!」

 

 巨大な盾を奮い、歪曲して迫っていた矢を防ぐ。

 

「ッ、全く! 遠慮がないわね、本当勘弁してよッ!」

 

 魔力弾照射、矢を破壊する迄はいかないものの、幾つかの軌道を逸らして直撃を回避する。忘れてはいけない───レイシフト適正、マスター適正が無くとも彼女は才能溢れた優秀な魔術師なのだ。

 

「やるじゃねぇか! なんだコイツ優秀な魔術回路持ってんのにヘタレかよとか思っていたが、コイツは中々! 悪いな、ナメてたわ!」

「はあっ!? それ今言うっ!? ってか、煩いわね! 貴方は前を見てなさいよ! ほ、ほわぁあっ!? ちょ、ちょっと今危なかったわよ!? ひっ、骸骨!? こっち来ないでよ!?」

「あー、うん。そうだな、悪い。前見てるわ」

「助けなさいよぉお……!」

「こんな時に漫才しないでくださいよ所長!?」

「先輩! 放置が宜しいかと!」

 

 なんともまあ、騒がしい協力者だ。

 しかし、背中を任せられるに値する強力な仲間である。ああ、負けていらないなと、シエルは走るギアスピードを上げる。仲間達に誇れる自分でありたい、その思いだけで──彼は成長し続ける。

 

「ひえっ、まだスピード上がるの!?」

「先輩! 私、私が抱えましょうか!」

「それはノー! 矢が防げないからね! 頑張って走るよ!」

「流石です! 先輩!」

 

 本当、頑張って走ってるよ。

 割と死にそうなぐらい、体を動かしてるから。今にも膝が折れそうだけど、死にたくないからひたすら走る。

 

「キャスター! 見えてきたか!」

「いや、まだ──ッ! 」

「ぐっ、これは──(トラップ)か!」

 

 突然地面が爆発して崩れていく。

 そう、罠だ。弓兵は自分の周囲、半径一キロ圏内に遠隔で爆発できる(爆弾)を設置していたのだ。もしも接近するような状況になったら、それすら想定して。

 

「きゃあ!?」

「せ、先輩──ッァグ!?」

 

 咄嗟に爆発範囲から離脱出来たのはクー・フーリン、マシュ、オルガマリー、シエルの四人。立香は離脱し損ね、爆発に巻き込まれてしまった。辛うじて被害は少なかったものの、足が折れたようで彼女は身動きできずに地に倒れ伏した。そして、その致命的な隙を逃すわけも無く───立香に矢が放たれた。

 

 ──それも、今まで以上に魔力を内包した暴走寸前の矢を。

 

「あ……」

 

 あ……私、死んだ。

 抵抗など許さない、必殺の矢が彼女に直撃する──

 

 

 

 

 

 

 

 

「させるかぁぁぁあぁぁぁぁぁあっっっ!!」

 

 ──その運命を斬り捨てる。

 ふざけるな、そんな結末許してたまるものかよ。稲妻纏った刀を振り翳し、必殺の矢を防ぐ……事はできずに爆発。膨大な魔力の嵐が体をズタズタに斬り裂き、爆発の熱が肌を焼いていく。内臓器官の一部に骨が突き刺さり、口から臓器の一部を吐き出した。

 

「シエル、くん……」

 

 立香はシエルに爆発範囲外まで投げられ、マシュに保護された為無事だ。しかし、シエルは致命的なダメージを負ってしまった。さらにそこに追い討ちを掛けるが如く、矢が雨のように降り注いで襲い掛かる。

 

「うぉぉおおお!!」

 

 間一髪、クー・フーリンがシエルを救出するも──状況は絶望的だ。勝ち筋がもう存在しない。貴重な戦力が脱落、これはかなりの痛手であり、取り戻せないものだ。

 

 

 ああ、普通なら取り戻せない(・・・・・・・・・)

 

 

 斬ッ、と刀が矢の一部を斬り捨てた。

 

「まだ、だ……! まだ、負けていない……ッ! 惚けるな、前を見ろよ。まだ終わっていないぞ……勝つのは、俺だ……ッ!!」

 

 血反吐撒き散らし、溢れる臓器を押さえつけて──シエル(◼️◼️の後継者)は大地に立つ。まだ終わらない、負けてなどいない、まだまだこれからだ。そう眼光鋭く前だけを見据えて歩みを止めない。

 その姿は見るものによっては恐ろしく見えるだろう。誰が、臓物吐きながら、体をズタズタにされても尚歩けるというんだ? それが出来るのは──化け物(英雄)だけだろうが。

 助けられた立香も、デミ・サーヴァントのマシュも、彼を愛しているオルガマリーも、そして弓兵ですらその姿に戦慄を禁じ得ない。だって、余りにもおかしい。破綻している。同じ人間なのか、彼は……と言葉を失う。唯一、クー・フーリンは黙って見ているが──。

 

「は、ははは。こいつはまた……化け物んだな、お前さん」

 

 ああ、俺たち(英雄)と同じものを感じる。

 

「は、知って、いるさ。俺は化け物だとも……だが、それがどうした? どうでもいいな、そんなこと」

 

 知っているとも、自分がどうしようもなく人間として破綻している事など──しかし、それが歩みを止める理由にはならない。もとより、俺は塵屑だとも、救うために殺す事しか知らない……度し難い屑だよ。

 

「……キャスター、俺は行くぞ。止まるわけにはいかん」

「そうかい。なら、俺もご随伴させてもらおうかねぇ」

 

 そう言って、矢の雨を爆散させながら、治癒のルーンをシエルに刻む。これで幾らかマシになるだろう。

 

「助かる。……ッ、所長、何を、止めるなら」

「私も行くわ。置いてなんか、いかせないんだから。絶対、絶対によ」

「……わかりました。キャスターの側にいてください。その方が安全だ」

「ええ……あまり、無茶をしないでください……ばか」

 

 瞳を潤ませ、軽く胸を撫でてオルガマリーはクー・フーリンの後ろに並んだ。まだ此方を睨み付けている。

 

「あ、あの、し、シエルくん……っ」

「……無理はするな。後で、落ち着いた時に聞こう」

「っ、ごめん……!」

「先輩……」

 

 立香の目には恐怖、理解出来ないものを見た感情があった。それを察し、シエルは彼女の言葉を遮って、そして前を向いた。立香にはマシュがいる。フォロー、アフターケアは心配せずとも大丈夫だろう。敵は後僅かなんだ、今はそちらに集中するべきだ。

 

「ッ、ギッ! っぐぉぉぉおッ!!」

 

 激痛、激痛、激痛。

 目が血走る。鼻から血が吹き出る。内臓が崩れていく感覚が分かる。死にゆく体の悲鳴が聞こえる。だが、止まるわけにはいかない。

 

 自分以外の誰かを守るため。

 悪を斬り裂き、光を齎すため。

 煌めく明日を、再び(・・)目指すため。

 

 決して、止まることは許されない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、辿り着く。

 

 

 

 

 

「まさか、辿り着くとは……賞賛を送るよ、少年」

 

 

 

 

 

 褐色白髪の弓兵は拍手を送る。眼前に現れた、満身創痍の少年に対して──かつての光景を重ねながら。

 

 

 

 

 

「しかし、残念だが。君たちはここでお終いだ」

 

 

 

 

 

 黒白の中華剣、手に馴染む双剣を投影。それを突きつけて告げる。ここで死ね、お前の墓場はここだと。

 

 

 

 

 

「──さあ、来い。世界を救えるか否か、試してやろう」

「言われるまでもない。貴様を斬り、必ず救ってみせよう。勝つのは俺だと知れ、アーチャー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





───所長の圧倒的メンヒロ感。どうしてこうなった(困惑)

予定ではもっとあっさり終わるはずなんだけどなぁ……あるぇ??

あと、前半で「こんな矢雨対処できへん!」とか言って、後半バッチリ対処してやがるよコイツら。頭おかしいんちゃうん? いや、気合いと根性でなんとかなるか、うん(洗脳)

少しだけ主人公のトンチキ具合が書けたかな?

というか、これ……まだ序章なんですけど。プロローグなんですけど。一章にすら入ってないんですけどォ! 主人公くんズタボロスギィ!

いや、大丈夫かこれ……?
平気? 平気か? ……平気だな、うん。……アッシュ、ゼファーよりかはマシだろ。うんうんうん! 大丈夫だな!

では、また次回! アドバイス、感想待ってるぜ!

………話は変わるが、早く三作目が出ないものかね。大分ドロドロした内容らしいから、すんごい期待してる。トンチキヒロインとかださねぇかな……ないか。でもわかんないかな、この気持ち? トンチキしたヒロイン口説きたくない? ないか? ない、そうか……。


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不滅の光/prologue《7》

やあ、いろはすだよ。
主人公がズタボロだね……これまだ序章なんだぜ? 笑えるだろう?

では、prologue7です。

どうぞー。
あ、後半は「るんたたるんたたるんたたるん♩」を聴きながら読むのをお勧めします。


 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおおっっ!!」

「ッ、本当に人間かね君は! 出鱈目に過ぎるッ!」

 

 超至近距離での戦闘。鋼と鋼が火花を散らして激しくぶつかり合い、軋んだ金切り音が戦場に響く。攻めているのは、生身の人間であるシエルだ。恐ろしく尖った技量と刹那の見切り、それが弓兵の攻撃全てを受け流している。

 

 その姿は血気迫ったもの。

 身体中から血を撒き散らし、弓兵の攻撃を受け流し続けている腕などズタズタに裂けた状態で、骨が軋む音が聞こえて止まない。まだだ、こんなところで止まれない、もっと強く、もっともっともっと! と際限なく成長し続ける様は悍ましいものを感じる。

 

「っぐ、キャスター! 貴様ッ!」

「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るぜアーチャー!」

 

 横合いから放たれた爆炎、それが直撃する。しかし、弓兵にダメージは見られない。どうやら、咄嗟に投影した宝具で防いだようだ。それに「ちっ、そう簡単に当たらんか」と舌打ちしつつ、次々とルーンを行使して攻撃を続けていく。

 

「面倒な……ッ! 投影開始(トレース・オン)、砕けろォッ!!」

 

 一級品の宝具の剣群をシエルの周囲に展開、さらに一部をクー・フーリンへと勢いよく射出して、それら全てを爆破し内包していた膨大な魔力を暴走させた。

 

 ──壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。宝具を爆破、内包していた魔力を暴走させて大ダメージを与えるものだ。本来、宝具は英雄の切り札だ。それを自ら放棄するなどあり得ないが、彼の宝具は投影したもの……つまり紛い物。幾ら使い潰しても補填が効くため、遠慮なく切り捨てる事ができる。単純に強力で、初見殺しの一面も持つ技である。

 

 英霊であるクー・フーリンならともかく、普通の人間ならこれで沈むはずだ。しかし、彼は──普通ではなかった。故に、生きているはずだと確信して警戒を怠らない。さらに剣群を撃ち込み、爆破させ続ける。聖杯によるバックアップがある今、魔力消費は気にする事じゃない。

 

「っぐ、それがどうしたァッ!!」

 

 咆哮を上げて回避、回避、回避。

 さらに追撃、剣群を斬り払いながら疾風の如く突き進む。軋む体を気合入れて無理矢理動かし、死にたくなる激痛を根性でもって耐え抜く。前に進むたび骨が砕けるが気にする事じゃない。今はただ、ひたすら前へ。眼前の敵を討ち滅ぼさんが為にッ。

 

「──やはり、来るか。全く、恐ろしいな」

 

 苦笑を零す。

 かつての自分に重ねていたが、それ以上だ。こいつはさらに上を行く異常さだよ、全く面倒なことに。

 

「──ッ!!」

「ふっ、甘いッ!」

 

 心臓を狙った突き、首を断とうと振るわれる横薙ぎ、さらに続けて袈裟斬り。怒涛の連続攻撃を受け流して、横腹を蹴り上げる。骨が砕け、臓物がグチュリと潰れる感触が足に伝わった。致命傷だ、完全に再起不能に陥るものだが───

 

「が、ふッ──()だだッ(・・・)……!」

 

 ───それを上回る気合いと根性で致命傷を耐える。まだ、臓物が幾つか駄目になっただけだ、骨が砕けてバラバラになっただけだ。俺はまだ動ける。なら、ほら、問題ないだろう。

 

「は、狂ってるな……貴様」

「ッ、ぉぉおおっ!!」

 

 刀を振り抜き、弓兵の双剣を弾き飛ばす。その勢いで突進。体を吹き飛ばしながら斬り裂いた、がしかし。

 

「だから、甘いと言っている」

「ァグゥッ!?」

 

 背後からの一撃。それが腹を貫き、足を絡めとり、血の花を咲かせた。目を向けて確認をすると、地面から刀剣が生えている。いつの間にこんな仕掛けを──?

 

「ッ、坊主!!」

「ああ、返すよ。もう死ぬだろうがね」

 

 シエルを貫いていた刀剣を爆破、力が抜け落ちた体を掴み取り、ルーンを宙に踊らせるクー・フーリンへと投擲する。どしゃり、とその体をキャッチして、血の気が引いた。冷たすぎる。血を流し過ぎだ……というかそれ以前に致命傷が多すぎる。弓兵の言う通り、このままでは確実に彼は死ぬだろう。至急治療を施さなければ、すぐに彼は───。

 

「期待違いだ。その少年は、世界を救うに足る器ではない」

「はあっ、お前さん。目が曇ったか? 目だけはいいと俺は思ってたんだがよ……泥に呑まれ、そこまで堕ちたか貴様」

「なんとでも言えよ、キャスター」

「そうかい。なら、言わせてもらうがよ。よく聞け」

「ああ、どの道最期だ。聞いてやろう」

「こいつらを、あまり舐めない方がいいぞ?」

 

 ───ああ、それと言い忘れていたが……上空注意だ。強烈なのが降ってくるぞ(・・・・・・)

 

「なっ、ぐっ、なんだ───ぐぉぉおッ!?」

 

 クー・フーリンから言われた言葉、咄嗟に上空に剣を向け───真後ろ(・・・)から強烈な打撃が叩きつけられた。それを見て、クー・フーリンは声を上げて笑った。

 

「おいおい。敵の言葉に踊らされるなよ? 本当に目が曇ったみてぇだな、お前さん」

「っぐ、クー・フーリンッ! 貴様ッ!!」

 

 受け身を取りながら、着地する。そして状況確認。左腕が折れ、内臓が二つほど潰れたか……やられたな、くそ。

 

「ナイスだ。嬢ちゃん! いい一撃だったぞ!」

「はい! って、し、シエルさんは大丈夫なんですか!?」

 

 背後から一撃を加えた少女──マシュ・キリエライトはクー・フーリンに駆け寄って、抱えられたシエルの顔を覗き込む。苦痛に歪んではいるが、まだ意識もあるようで……傷も徐々に修復されているのが確認出来た。ほうっ、と安堵の息を漏らす。

 

「ぐ、キャスター。大丈夫だ、降ろしてくれ……! まだ、俺は戦える……ッ!」

「バッカだろお前。却下だ、却下。大人しく寝てろ」

「ふ、ふざけるなよ…! この程度で──ッ!? き、貴様、何を、ぐっ、し……た………」

「あ、寝ちゃいました……魔術ですか?」

「おう。こいつも通常なら気合で跳ね除けたんだろうが、満身創痍で死にかけの身じゃ抵抗すんのも難しいだろ。いや、効くまでこんなに時間掛かるとは俺も思わなかったが──こいつやっぱおかしいわ」

「はい。それには同意します」

 

 実は治癒のルーンを刻んだ際、こっそりと催眠を誘う効果を持つルーンを刻んだのだ。止めるにはコレしかなかった為、手荒になったが仕方ない。後で目が覚めたら文句言われるだろうなぁ、とボヤきながら隠れていた立香、オルガマリーにシエルを引き渡して、マシュと共に森の賢者──クー・フーリンは並び立つ。

 

「……無理しないで、と言ったのに」

「所長、こっちへ。離れておきましょう」

 

 シエルを抱えて下がる二人の姿が消えるまで見守り続け、姿が消えた瞬間、眼光鋭く弓兵を睨みつけた。体から闘志が湧き出ているようで、魔力が活性化しているのが見て取れる。

 

「んじゃ、まあ──やりますかぁ!」

「はい! マシュ・キリエライト! シエルさんの分まで頑張って、共に戦います!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そら、喰らいなぁ!」

「ふ、そんな攻撃……!」

 

 炎が舞い、剣が踊る。

 ひらひら、くるくると踊るように戦う姿は演舞のようだ。宙に描かれたルーンが光り輝いて、繰り出される多彩な魔術が戦場を彩る。それら全てを斬り裂き、爆散させるのは弓兵の鋼の剣だ。魔力の嵐が吹き荒れ、思うがままに暴れていた。

 

「せいっ!」

「ッ、ぉおお!!」

 

 クー・フーリンが作り出した隙、そこにすかさず攻撃を仕掛けていくマシュ。巨大な盾、それは振るわれるだけで脅威となる。筋力値が高いサーヴァントなら難なく対処するだろうが、弓兵の筋力値はDだ。優れた技量により対処できない事は無いが、労力をかなり費やしてしまう。

 

「ちぃッ───作動、爆破せよ(スイッチ・オン)ッ!」

「うっ──!?」

 

 マシュの足元を爆破、盾を蹴り上げるように受け流して、その勢いのまま空中に跳び上がる。そしてすぐさま双剣を投擲、爆破しつつ黒弓を投影して矢の連弾を照射。反撃を与えるチャンスを削り取っていく。

 

「ん、逃したか……流石に早いな。足の速さはキャスターになろうが健在か、忌々しい」

 

 剣を背後に連続射出。爆発が連鎖して起こり、土煙が立ち込める中からマシュを抱えたクー・フーリンが飛び出した。それを追うように矢を放つが、全て紙一重で躱されていった。

 少し距離を取った場所にて、ルーンを使い簡易的な結界を生成、そこでマシュを降ろして治癒のルーンと身体強化を施す。

 

「っと、危ねぇ危ねぇ──嬢ちゃん無事か?」

「は、はい。大丈夫です、まだやれます!」

「そいつは重畳。だが、引き際をわきまえて攻めろ。力技で攻めようとするな、相手を機微をよく見て動くんだ。嬢ちゃんなら出来るはずだ。やれるな?」

「っ、了解です!」

 

 ───とはいえ、野郎を殺せるかどうか……手段はあるにはあるが、チャンスがねぇ。どうやら、聖杯のバックアップってヤツが相当強力なものらしい。さっきから魔力をバカスカ使ってやがるのに、減る気配が微塵も見当たらない。羨ましいにもほどがあるな、おい。

 

「一か八か賭けに出るか……ってまぁ、それしかないよな、ったく。セイバーまで、あまり魔力は使いたくなかったんだがねぇ」

「……? クー・フーリンさん? どうしたんですか?」

「おい嬢ちゃん。俺が合図したら、一気に離れて坊主達のところへ行け。んで、そのままセイバーのところへ向かうんだ」

「え、で、ですが……!」

「心配すんな。必ず奴は倒す、安心してな。だから、いいな?」

「っ、分かりました!」

「おうっ、任せときな! ああ、それとコイツを持ってけ。治癒のルーンを刻んだ石だ。坊主に使ってやんな」

「あ、ありがとうございます!」

「気にすんな。それじゃあ、行きますかねぇ……!」

 

 槍を構えるが如くドルイドの杖を持ち、弓兵の元へと突貫。迫る矢を叩き落とし、回避し、ルーンで燃やし尽くす。身体強化を施した影響か、ものの数秒で距離を詰めて抉るように杖を突き出す。

 回避するも炎を纏ったソレは弓兵の肌を焦がし、じわじわとダメージを与えていく。さらに、

 

「足元注意ってなあ!!」

「なっ、ぐおっ!?」

 

 弓兵の仕掛けた罠の意趣返しをするかのように、地面から木の根を生やして足を絡め取る。動きが止まった瞬間に爆炎を叩き込み、杖で顎を打ち上げる。

 

「っし、嬢ちゃん行けぇ!!」

「っはい!!」

 

 クー・フーリンの傍らを走り抜け、マシュはシエル達の元へと向かっていく。当然、弓兵がそれを許すはずもなく拘束を解いて矢を放つが───

 

「おい、お前さんの相手は俺だろうが。無視は傷つくねぇ!」

「ぬぅ、貴様! とことん邪魔をする奴だなッ!」

「はっ、そりゃどうも!」

 

 ──クー・フーリンが矢を撃ち落とし、弓兵の進行方向に立ち塞がる。この先には行かせない。行きたかったら俺を倒してみせな、と杖を奮ってルーンを描く。

 

「一対一、俺とお前だけだ。いつかの因縁、それの続きといこうじゃねぇの!」

「ごめん被りたいな、そんな因縁! 全く鬱陶しいッ!」

「はは、そいつは俺も───!」

 

 

 

 

 ───同感だッ。

 

 

 

 

 ……いつかの因縁、いつかの戦闘、いつかの過去。それを再現するように魔術師(キャスター)弓兵(アーチャー)は激突した。

 

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 

「ッ、キャスター!! お前ッ……!?」

 

 激痛、高熱、吐き気。

 倦怠感が体を支配し、少し体を動かしただけで死にそうだ。シエルは飛び起きた事で、襲い掛かってきたそれに歯を食いしばって耐えながら辺りを見渡した。──ここは、洞窟の中? 何故? 弓兵とキャスターは何処に消えた? 疑問が頭に浮かんでは消えていく。

 

 すると、背後から足音が。一人、女か? 敵対者かも知れない──とまだ頭があまり働かないまま彼は体を無理矢理動かして、近づいてきた人間を押し倒し、その細く白い首に手を掛けた……そこまで仕掛けたところで自分が盛大にやらかした事に彼は気がついた。

 

 ───ふにゅん。

 

 とても柔らかくハリがあるその山は小さ過ぎず、大き過ぎず……丁度いいそれは自分の手に吸い付くように収まっている。甘い匂いと混じり、少し汗の匂いが香ってきて鼻腔を擽ぐり、どこか胸に甘い感触が走り──って!?

 

「ひゃんっ、っんん、しぇ、シエルくん…! な、う、やめてぇ……恥ずかしいよ……!」

「ごめんなさい、切腹します」

「へっ!?」

 

 ああ、自分は何て事を! か弱い婦女子の胸を鷲掴みにするどころか、それを揉み揉みと揉みしだくなどと……! ──これはもう、腹を切って詫びるしか無いのでは? と白髪の青年が頭の中でサムズアップしている光景が広がっている。

 

「だ、駄目だよ!? 切腹とか、死んじゃうからね!?」

「大丈夫。安心してくれ、切腹して──蘇るから」

「蘇る!?」

「気合いと根性さえあれば、それも苦では無いはずッ! いざ、ご照覧あれ──ッ!」

 

 刀を抜き、震える手で腹に刃を向けて───横合いから盾で頭を叩かれた。

 

 笑顔で仁王立ちするのは、自称後輩マシュ・キリエライト。冷たい目でシエルを見つめている。

 さらに、横に並んでいるのは、ハイライトがオフになった危ない雰囲気を醸し出してフフフとにこやかに笑うオルガマリー・アニムスフィア。

 

「おや、シエルさん。起きたんですね良かったですええ本当に無事でなによりです心配していたんですからフフフ」

「シエル、シエル、シエル……私の胸じゃ駄目なのかしらケアは毎日怠っていないし貴方の好みに合わせるために調べ尽くして色々頑張っているのに貴方は巨乳好きではなかったの私の方が胸が大きいはずよねなんで藤丸なのかしら───ねえ、どうして?」

 

 怖い。

 おかしい、恐怖など感じないはず……何故体が震えているのだろうか? シエルは悪寒が止まらない。

 

「あ、あの! し、シエルくんもワザとじゃないと思うし、その、いきなり触られたのにはビックリしたけど、悪気は無いはずだからね? あの、えっと、許してあげてくれませんか?」

「ふ、藤丸……!」

 

 頬を赤く染めて、シエルをチラチラ横目で見ながらそう言って二人を宥める立香。感激したシエルは目頭が熱くなる。

 

「………先輩が気にしていないのなら、私からは何も言わないです。気をつけてくださいね、シエルさん?」

「あ、ああ。気をつけるよ」

「………」

「しょ、所長?」

「はあ、もういいです。この非常事態に何をしてるんだこの色情魔とか、思ってましたが。いまは許しましょう……あれだけ頑張ってくれた事ですし」

「も、申し訳ありません……ところで、その、ここは一体? 弓兵は? キャスターは何処にいるんですか?」

「それは、私から説明します」

「キリエライト……分かった、聞かせてほしい」

「簡潔に言うと、クー・フーリンさんに弓兵をお任せし、私たちは治療をしつつセイバーの元へと向かいました。そして、ここは大空洞の中間地点──大聖杯がある場所です」

「な、なら動かないと──!」

「駄目です」

「何故? 敵はすぐ目の前、倒せばこの異常事態は解決する。動かない理由がないだろう?」

 

 はあ、と立香やマシュ、オルガマリーはため息を吐いた。自分の姿が見えていないのか、お前は? と呆れた様子だ。

 

「シエルさん。貴方は死にかけなんですよ? 治癒もしましたが、まだ戦える段階にはありません。ですので、まだ攻め入る事は出来ないんです」

「それがどうした、死にかけ? それが動かない理由にはならない。俺は行くぞ、セイバーを斬りに」

「駄目です」

「いや、俺は──」

「駄目よ、シエル」

「しかし、ですね──」

「……私の胸、揉んだの誰だったかな……?」

「ッ、それはいま関係───」

「「「ん?」」」

「あ、ぐっ……わ、わかった。分かりました! 回復するまで、攻め入りません! これで、いいか……ッ」

「はい、上出来です」

「それじゃ、治療の続きね。横になりなさい」

「あ、私たちは周りの警戒をしようかマシュ」

「はい! 了解しました!」

 

 ───体を横にして、各々の行動する姿を見てギリッと歯噛みをする。こんなところで止まれないのに。明日のため、誰かのため、勝つために歩き続けなければならないのに。全く無様だな俺は……不甲斐ないにもほどがある。

 

 治療を受けながら、自身の未熟さに怒りが込み上がる。

 こんな体たらくでは、いつまでたっても(・・・・・・・・)追いつけない(・・・・・・)

 

 あの光に。

 あの剣に。

 あの輝きに。

 

 あの──?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、誰に追いつきたいんだ……?」

 

 口について出たのは、自分でも理解出来ない可笑しい疑問。それはすぐに消え去り、残ったのは──煌めく明日を目指すため、という思いだけだった。

 

 

 違和感の歯車、記憶の不可思議さ、思いの不明瞭さ。それらが表に未だ出る事はなく、順調に光の翼は磨り減りながら飛翔を続ける。全ては◼️◼️に至るため。再び、天上の頂──その玉座を担うために。

 

 

 

 

 




──天上の頂、未だ遠く。しかし、着実に飛翔を続け、近づいて行く。光に焼かれながら、己にはそれしかないのだと思いながら。ただ真っ直ぐ、ひたすら前へと。

前回ドヤ顔して「勝つのは俺だと知れ」とかほざいていたシエルくん無事に瀕死状態に。いや、本来ならもっと戦わせてアーチャーにも勝っていたんだけど──なんか、キャスニキの活躍とか他のキャラも書きたくなっちゃってさ。つい、全部書き直してしまった……。

まあ、未熟な主人公が簡単に勝てるほどアーチャーは弱くないよってね。……こんなんで、セイバー勝てるんだろうか……プロットが崩れてイクゥ!

あと、キャスニキ対アーチャーだけど。アニメ版の戦いみたいに決着ついた感じです。つまり、人形のお手手でペシャンッとね!
本当は戦闘書くつもりだったけど、あまり長くなってもなーと却下に。

あ、シエルくんの性格フラフラしてるようだけど。これがデフォルトです。戦闘時は総統閣下インストしてます。普段は、まあ、初心なチェリーボーイ? 的な。うん。自分でも書いてて、こいつ口調安定しねぇ! もっとはっきりしろや! となってますええ。

では、また次回! アドバイスや感想待ってるぜ!

あと、トンチキ主人公好きな人多いのね。

さてはドSだなテメェ!!(盛大なブーメラン)



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不滅の光/prologue《8》


なんか勢いよく書けたぜ!
ひゃー、投稿だァー!

あ、オリキャラ出ますよっ! タグ追加しとかなきゃね!


 

 

 

 人理継続保障機関、フィニス・カルデア。それは人類が足を踏み入れない雪山深くに建設された、国連に認められた組織だ。

 何のために、どうして創られたのかを簡潔に言ってしまうと、人理を観測し決定的な破滅を回避する──それがカルデアの目的になる。

 過去にレイシフトする技術も、過去の英雄を召喚する技術もその為に創られた。全ては、世界の為に、未来の為に──と。

 

 ──そしてそんな組織が今や、壊滅寸前と来た。冗談はやめてくれと思うかも知れないがな、これは非情な現実である。失ったものは戻らず、行動しなければ何も起こらない残酷なリアルだ。

 

 管制室。

 この状況を打破するべく、数少ない無事な職員達が一丸となって駆けずり回っている。負傷した者は医務室へ搬入し、無事な者は壊れた機材の修復へ全力で取り掛かる。さらに、レイシフトしている生存者達の存在を確立して立証する為に、必死に画面に喰らいつく者もいた。絶対に死なせてはいけない、助けてみせる。覚悟は固く、意志は強い。

 

「ん、ああ! それは向こうだ! 召喚システムを修復している技師へ持っていてくれ! その機材は……確かあそこにいる職員が探していたものだ! 悪いけど、届けてくれないかい? 次は───」

 

 そして、職員達の指揮を執って纏めているのがカルデアの医療スタッフ──亜麻色の髪をポニーテールにした柔和な顔立ちの優男、ロマ二・アーキマンである。厳しい表情を浮かべ、声を張り上げて指示を送る姿は普段の彼からは想像もつかないものだ。

 その姿に職員は驚きつつも、順応する。時折頭を悩ませるが、ロマ二の指示は効率がいい。次々と送り出される指示には間違いが少ないのだ。

 

 ───その彼に近づく女性が一人。その人物はロマ二の背後から肩を叩いて、話しかけた。

 

「やあ、ロマン。無事だったんだね、よかった」

「あ、ああ! 君か! ロイドくんも無事で安心したよ!」

「ああ、夢の道半ばで死ぬわけにはいかないからね。気合いを出して頑張ったよ……ボクらしくもないけどね」

 

 そう言って苦笑するのは──ロイド・ヘレスという白衣に身を包んだ女性だ。艶やかな黄金の髪、鮮やかな鮮血色の瞳。蠱惑的に煌めく唇は自然と目が吸い寄せられてしまう。体は神に愛されているのか、と妬むほど整っており、どこか神聖的な雰囲気を醸し出している。

 

 苦手なんだよなぁ、この女性(ヒト)……。と内心ため息を吐きながら、ロマ二は「今までどこにいたんだい?」と問いかける。するとロイドは微笑んで、

 

「研究室で作品の様子を見ていたのさ──随分、派手にやられていたから心配でね。今は大丈夫だよ。だから、管制室にきたのさ」

「そっか……あ、レオナルドは見なかったかな?」

「ん…? 見てないよ。爆発が起きてから、ずっと研究室にいたからね。今初めて外に出たから……彼なら工房にでもいるんじゃないかな?」

「そうだね──今は早くこの状況を立て直さないと。手伝ってくれるかな? ロイドくん」

「任せてくれていいよ。数十分もあれば十分さ」

 

 ──ニヤリ、と不敵に笑いながら彼女はモニターに向き合った。

 

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 

「──随分とボロボロじゃないか、キャスター?」

「へっ、お前さんは随分と元気になったようでなによりだよ」

 

 互いに軽口を叩きながら歩くシエルとクー・フーリン。

 シエルが治療を終えてから合流した彼は、身体中に傷を負いながらも不敵な余裕の笑みを浮かべていた。現在は大聖杯を守護するセイバーの元へ向かうべく、洞窟の中を進んでいる。

 

「それにしても、長いな。まだ掛かるのか?」

「あー、そうだな。もうそろそろ着くはずなんだが──ん? ありゃ、なんだ?」

「岩、でしょうか? それにしては変な様子ですが」

「凄く黒いね……あ、凄く大きいです」

「……? そうね、魔力も感じるわ。一体何かしらアレ?」

 

 一行の視線の先には巨大な黒い物体が蠢いており、辺りには薄気味悪い黒い霧が立ち込めていた。徐々に近づいていくと呻き声のような、聞くだけで吐き気を催すソレが反響して耳に届いてくる。明らかにアレはこの世にあっていいものではない、四人は共通してそう感じた。

 

「悍ましいな……憎悪を煮込み、それを腐らせたような匂いだ」

「呪いの類だな。それも強力で、厄介なやつ。うへぇ、面倒なもん置いてくれるなぁ、セイバーのやつ」

「気持ち悪い……うっ」

「せ、先輩! 私の後ろに!」

「ありがと…マシュ……」

 

 シエルはそれを忌々しそうに睨み、クー・フーリンは面倒そうに黒い塊を見てため息を吐く。立香などはあまりの悍ましさに吐き気を催し、マシュの背後で項垂れていた。そして、オルガマリーは気分の悪さを我慢しつつも、黒い塊を冷静に分析する。その結果から分かったことをシエルに忠告も含めて告げるが───

 

「ッ、強力な結界があるわね……触れたら駄目よ。いいわねシエル? 貴方の事だから、全て斬り裂けばいいとか思っているんでしょうけど。対策が無い内は大人しく──」

「すまない所長、話の途中で悪いが……動き出したぞ」

「えっ? う、うそ!?」

 

 ───忠告虚しく、黒い塊が動き出した。グチュリグチュリと肉が潰れる音が鳴り、不快な金切り音が洞窟の壁に反響して響く。悍ましい、凡そ人から出るような声とは到底思えない怨嗟の叫びが轟いて、見るも醜い人型の化け物が生み出された。

 

 体全てが腐った肉で組み立てられ、纏うのは毒素の霧。鋭い形状の骨が体の至る箇所から突き出ており、まさに全身凶器と呼べる姿をしていた。口から漏れ出る呪詛の声は、聞く者の精神を鑢でじわじわと削るようなダメージを与えている。

 シエル、クー・フーリンなどは眉を顰めて不愉快そうにするだけだが──立香、マシュ、オルガマリーは顔から血の気を無くして真っ青だ。頭の中では醜悪な想像が蠢いて、彼女達の精神をすり潰していく。悲鳴を上げないだけ立派だ、普通ならとっくに発狂している事だろう。

 

 刀を鞘から抜いてそのまま毒素の霧を斬り払いながら、背後の立香達を後方の岩陰へと連れ出す。この場所にも毒素の霧や呪詛は届いているが、幾らかはマシになるだろう。クー・フーリンから貰った結界のルーン石を作動させて、元の場所へと戻ると「趣味悪りぃなコレ」と舌打ちをして、異形の怪物を焼き払うクー・フーリンがルーンを宙に描いていた。

 

「減る気配が無いな……やはり、大元を叩くしかないか」

「そうなるだろうなぁ。やれるか、坊主?」

「無論、やれるとも。一刀で斬り捨てよう。幸い、こいつら単体はそこまで強くはない。存在自体が凶悪な能力だが……強く意志を持っていれば耐えられる。問題は無いだろう」

「そいつは心強い、っと。喋ってる間にも増えてくな……さっさと片付けるか」

「ああ、そうしよう」

 

 そこで会話を切り、互いに得物を構える。

 

「フッ──!!」

 

 そして、疾駆。力強く大地を蹴り上げ、前方へと加速する。あっという間に異形の大群の中へと辿り着き、己の道を阻む悍ましい怪物を一刀で斬り捨てる。首を断ち、体を粉砕し、対処し辛いものに関してはクー・フーリンがルーン魔術で殲滅していく。

 

「見えた」

 

 未だに異形を生み出し続ける黒い塊を視認する。周囲には守るように巨大な異形が蔓延っているが、なんだそれは──関係ない。見るに堪えないんだよ、貴様らを見ていると苛立ちが募るんだ。怒りのままに刀を奮い、巨大な異形の群れを薙ぎ払う。

 

「果てろよ、雑念──黄泉へと還れ」

 

 黒い塊──怨念の苗床と呼称しよう。

 それの力の核を瞬時に見抜き、そこへ刀を叩き込む。途中で結界が刃を阻むが、数秒の均衡の後に破壊。最後の抵抗か毒素と呪詛を混ぜ合わせた霧を腕に浴び、肉が腐り始めるが──躊躇いなく腐った部分をナイフで斬り捨て、侵食を阻止する。

 

「ガギッアギャギィィヤァァァァァァァァァァァァア───ッ!」

「黙れよ」

 

 斬ッ──完全に核を両断。断末魔の叫びが途絶え、異形の群れもサラサラと砂のように朽ちていく。その姿を見届けて、ようやく刀を鞘に納めた。クー・フーリンの元へ戻ると、彼は苦笑してシエルを見ている。

 

「相変わらずやるもんだ。また剣が冴えてきたんじゃねぇか?」

「戦っていれば成長もするだろう」

「まっ、そりゃそうか──っと嬢ちゃん達は無事か?」

 

 岩陰に語りかけると、立香達が青い顔をしてそろそろと出てくる。まだ気分が悪そうだが、先ほどよりかはマシな顔をしていた。マシュは「一緒に戦えず、申し訳ありません……」と落ち込んで頭を下げるが、クー・フーリンはそれに気にすんなと言わんばかりに頭を撫でつけ、シエルは「アレは仕方ない。次を頑張ればいい」と頬を掻きながら不器用に言い放つ。

 

「あ、ありがとうございます…っ!」

「はいよ」

「っ、ああ。気にするな」

 

 クー・フーリンはひらひらと手を振るい、シエルは頬を赤らめて明後日の方向へと顔を逸らす。その姿に苦笑しつつ、マシュは盾を持つ手に力を入れた。次こそは必ずお二人と並んで戦ってみせるんだ、そう意気高く。

 

「……本当、出鱈目な精神力よね……」

「ええ……所長に同意しますよ、本当……」

 

 マシュを眺め、ほっこりとした気持ちになる一方で二人は吐き気を堪えていた。なんで、素知らぬ顔で対処してるんだ? あの精神力馬鹿(シエル)は……と戦慄しながら、顔見合わせてため息を吐いた。

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

「来るか」

 

 大聖杯、それを守護する黒い聖剣を携えた騎士──白磁の肌の少女は愉快そうに笑みを浮かべる。遂に此処まで至るとは、期待以上に出来るようでなによりだ。そうでなければ、私が剣を奮う意味がない。

 

 ──さあ、来い。我が前へと姿を見せて、どうか立ち向かってくれ。お前達の価値(強さ)を確かめさせてくれよ、星詠みの観測者。世界を救える器か否か、試させてくれ。

 

 上機嫌の少女は鼻歌交じりに入り口を眺める。

 ああ、どうやらもう直ぐそこにいるようだ。飛び出したくなる気持ちを我慢する。そして、ようやく、ようやく──姿を現わした。

 

 黒い軍服、刀を携えた白髪の少年。此方を睨みつける眼光には猛々しい光が宿り、視線だけで焼かれるように錯覚する。どうやら、心臓におかしな気配があるが──随分と厄介な物を抱えているようだ。

 

 青いローブの魔術師、真名はクー・フーリン。アイルランドの光の御子、スカサハからの叡智を授かった弟子。ケルトの大英雄。のらりくらりとしぶとく生き残り、遂には此処に至った猛者。

 

 盾を構える少女──面白いな、あの宝具は。まさか奴の霊基を授かったのか……それを担えるか否か確かめなくては。なに、彼の騎士が認めたのだ。問題無かろう。

 

 銀髪の女……不憫だな、どうやっても死ぬ運命にあるか──それを悟っているが、諦めているわけでもなし……此方も面白い。

 

 そして、最後に──彼女が世界を担う存在か。はは、これは些か酷ではないか? 普通の人間、普通の少女ではないか。いや、しかし。侮るわけにもいかないか……時に普通の人間が大きな事を成し遂げる事もある。

 

 では、試験といこう。世界を担えるか否か、試させてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───さあ、往くぞ。死ぬ気で防げよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───開幕から宝具の開帳。尋常じゃない星の息吹が収束、黒い聖剣が禍々しい光を天に轟かせながら唸りを上げて牙を剥いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




開幕宝具ブッパは当たり前だよなぁ?

やっとこさセイバー戦だ。ちょっと最後端折ったけれど、まあ次回を待てー! って、感じかな。
さあて、主人公達は勝てるのか否か………。

では、待て次回! アドバイスや感想待ってるぞい!

誤字脱字あったらごめんよ。寝ぼけて書いてたからさ……。


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不滅の光/prologue《9》

お久しぶりです。かなり難産でした、はい。
何度目書き直し、やっとこさ出来ました……まだ内容に満足はしてませんが。もしかしたら、修正入るかもしれないです。

さて、何はともあれプロローグ9です。どうぞ。


 

 

 約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 その伝説的な聖剣は騎士王アーサー・ペンドラゴンを語る上で欠かせないものだ。

 

 湖の乙女ヴィヴィアンから貸し与えられたその聖剣は「こうであってほしい」という星の想念が結晶・精製したものであり、真名を解放する事で所有者の魔力を変換、集束・加速させる事で運動量を増大させ、光の断層として究極の斬撃を放つそれはサーヴァントですら一撃必殺を成せるものだ。──まさに最強の神造兵器と呼ぶに相応しいと言えるだろう。

 

 さらに、聖剣の鞘。こちらはさらに出鱈目で、魔力と呼応する事で持ち主に〝不老不死〟と無限の治癒力を齎し、最早魔法の域に至るその結界としての能力は理不尽に過ぎる代物だ。物理干渉を無効化、その時点で恐ろしいのに──なんだ並行世界、多次元からの干渉をシャットアウトとは……理不尽にも程がある。現在、所有してないのが救いだが、もしも有していたらと考えると恐ろしい。

 

 しかし、その出鱈目な宝具を所有しておらずとも───彼女はただ純粋に強い。小柄な少女の見た目に合わない圧倒的な暴力、天才的に冴えた剣技、未来予知に近しい直感。さらに爆発的な移動力、加速力、高機動力を可能とする魔力放出など。まさに暴嵐の化身、竜の如き存在。

 

 アーサー・ペンドラゴン──否、アルトリア・ペンドラゴン。反転した騎士王が最初の試練としては壁が高過ぎるが、これを乗り越えてこそ世界を救うに足る英雄と呼べるだろうさ。

 

「さあ、私の骸を乗り越えていけ。それが出来ないならば、そのまま奈落に堕ちるがいい」

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

「宝具、展開します──ッ!」

 

 星を束ねた光の斬撃、黒く染まった聖剣から放たれる尋常じゃない魔力の奔流を迎え撃つのはマシュ・キリエライトだ。彼女は仲間を守る為、眼前の騎士王から感じる恐怖と畏敬から足が竦むのを必死で耐えて、まだ手にしたばかりの霊基、鍛錬の末に獲得した未熟な宝具を展開して真っ向から立ち向かう。

 

「ッァァァァァァァァァァァァァアアアッッッ!!」

 

 ───そして、激突。

 

 マシュは咆哮を叫んで大地を踏みしめて、超弩級の黒い奔流を防ぐが……一秒一秒凄まじい勢いで出力が増していき、必死の抵抗を嘲笑うが如く闇は盾を喰らい潰していく。

 

「っ、マシュ!」

「大丈夫です……ッ! 今度は、私が──ッ!!」

 

 意地でも耐え抜く。

 大切な仲間を守る為に、あの二人に並び立つ為に。彼女は全身全霊で闇の嵐に立ち向かう。……だが、現実は非情である。幾ら勇気を振り絞り、覚悟を決めたとしても──不条理に逆らう事は叶わず、出来ない事は出来ないし、無理なものは無理なのだ。

 心を奮い立たせ、力を振り絞り、まだ負けていないと吠えていても、それで覚醒できる輩は一部に限られるのだ。それを可能とするのは頭のおかしい狂人か、それとも英雄若しくは化け物と呼ばれる者たちだけ。普通は圧倒的な不条理やどうしようもない理不尽を前にして、気合いと根性だけでそれを凌駕し、踏み越えていくなんてあり得ない。

 

 だから、一人がダメなら──共に二人で。

 圧倒的な死の気配、常人には耐えられない恐怖を堪えて、立香はマシュの隣に並び立つ。

 

「マシュ、一人で頑張らないで──私も一緒に行くから!」

「先輩……ッ! はい、はいっ! 一緒に、一緒に行きましょう!」

 

 手にそっと触れる温もり、優しい光が広がっていく。立香の手から赤い輝きが迸り、マシュは体に活力が湧いてくるのが分かった。

 

「いくよ、マシュ──ッ!!」

「はい、先輩ッ!!」

 

 もう一度、赤い輝きが迸る。令呪の二画を使用して、魔力を大幅に増幅させたマシュの宝具は白亜の城壁を築き、そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう───耐えたか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 セイバーの感心したような声、彼女が見つめる先には盾を共に構える少女が二人。どちらも煤まみれ傷だらけで、途轍もない重圧と疲労から大量の汗を流して、呼吸の仕方を思い出したように息を荒げて喘いでいた。

 

「及第点、と言ったところか」

 

 くらり、と酸欠状態に陥った立香をオルガマリーに預けている様子を見ながら呟く。普通の一般人、まだ未熟なデミ・サーヴァントにしては良くやった方だ。たとえ、全力を出していない──五割(・・)の力で放った一撃だとしても。

 

 ──さて、次だ。

 

 と前に歩を進めた所で、巨大な火球が勢いよく飛来。それを一刀両断して、それを放った者に目を向ける。すると、放った人物……クー・フーリンは驚いた顔をして杖を構えていた。

 

「セイバー。てめぇ、喋れたのかよ……」

「ああ、喋れるとも。鬱陶しい目を向けられていたが、もう関係もない。好きにやらせてもらおう───邪魔立てするなら、叩き潰す」

「あ? そいつは、どういう───」

 

 一瞬目線を大聖杯へと向け、直ぐにクー・フーリンへと向き直る。その様子に訝しげに眉を歪め、真意を図ろうと探るが──吹き飛んで来た魔力の塊に回避せざるを得なくなる。

 

「うおっ!? てめぇ、やってくれんじゃねぇか!」

「避けるか、流石だな。しかし──遅いぞキャスター」

「ぐっ、なっ……!」

 

 魔力放出でロケットのようにかっ飛び、クー・フーリンに迫る。その速さは目で追っているのがやっとで、いつの間に突然目の前に転移したのか? と思うほどだ。高出力の魔力を束ねた聖剣が彼を刈り取らんと振るわれる。

 

「させませんッ!! ぐぅうぅっ!!」

 

 ──しかし、横合いから現れた彼女がそれを防いだ。巨大な力を叩きつけられ、防いだ盾と一緒に勢いよく体が後方に吹き飛んで、地面を転がっていく。なんとか受け身は取れたが、体はボロボロだ。先ほどの宝具を防いだ疲労がまだ残っている。だけど、ここで退くわけにはいかない、とマシュは奮い立った。

 

「キリエライト。十分だ、休んでいてくれ」

「で、ですが!? し、シエルさん!私はッ!」

 

 そんな彼女の前に立ち、シエルは労うように言葉を掛ける。マシュは当然それに反抗するが───その瞬間に糸が切れたように力無く膝が折れて、地面に落としてしまう。

 

「あ、あれ? なんで、どうして──!?」

「仕方ない、初めての実戦だ。当然、そうなるだろう……ここまで頑張れたのが奇跡だよ」

 

 そう、これは彼女にとって初めての実戦。知識や情報で知ってはいても、実際に経験するのでは大きく違ってくる。移動するたび、戦闘を行うたびに蓄積する疲労、磨り減っていく精神、削られる体力──と自分が「まだできる」「まだ大丈夫」と言っていても、実際には予想していた活動時間よりも早く力が尽きてしまうのだ。例えば現在、マシュが立ち上がれないように。

 

「私は、また戦えないで、守られて……ッ」

 

 ポロポロと涙が溢れて、地面に染みを作っていく。悔しい、悔しい、悔しい! 戦えない自分が、守られている自分が情けない! せっかくデミ・サーヴァントになって、力を手に入れたのに──どうして私は見ているだけなんだ! と手を血が滲むぐらい力強く握り締める。

 

「キリエライト……何を言っているんだ?」

「えっ、シエル、さん……?」

 

 そんな彼女が見てられなくて、何故か胸が疼いて──シエルは刀を地面に突き刺して、蹲るマシュの手を両手で包むように優しく握りしめていた。その目は「ふざけるな」と怒りで溢れている。

 

「君が情けない? あり得ないな、そんなこと」

「で、も……」

「でも、じゃない。キリエライト、君は君に出来る精一杯の力を振り絞り、勇敢に立ち向かったじゃないか。仲間を守るため、この世界を守るために。それを、情けないと誰が言う?」

「───ッ」

「そんな言葉、誰にも言わせない……言わせてはいけないんだ。頑張った者が、勇気を出して立ち向かった者が嗤われていい筈がないんだから。尊い思いが貶められる、そんな世界は間違っている──だから、キリエライト」

「は、はい……っ」

「君が自身に言った言葉だろうと、許せない。自分を貶めるような言葉なんて、言わないでくれ……君は間違ってないんだから」

「シエル……さん……」

「さて───俺は行くぞ、見ていてくれ。君の頑張りを決して、否定させない」

 

 刀を地面から抜き取り、大地を力強く蹴り上げる。凄まじい魔力が吹き荒れている戦場を視界に捉えて、大きく深呼吸。これより先は一歩間違えれば、すぐに死を晒す地獄の領域だ。きっと死ぬほど辛いだろう。いや、死ぬかもしれない可能性の方が遥かに大きい。だけどそれでも、歩みを止めるわけにはいかないから。

 

 光のために。

 自分以外の誰かのために。

 雄々しく貫き、証を示そう───煌めく明日を目指すため。

 

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 

「うおらぁ!!」

「ふっ、甘いぞキャスター」

 

 斬ッ! 無数に展開された火球の弾幕を力づくで斬り開き、砲弾のように唯一直線に侵攻する。小細工など一切効かぬ、なんだそれは? 豆鉄砲か、遊んでるんじゃないんだぞ? といっそ愉快なまでに暴れまわるセイバー。クー・フーリンはその姿に冷や汗を流して、口をひくつかせる。──冗談じゃねぇぞ、この人間砲弾ッ。

 

「ちぃッ──!」

 

 セイバーの周囲一帯に魔術を発動、一気に展開する。顕現したのは巨大な樹木の群れだ。それら全てがセイバーへと襲いかかり、四肢を絡めとり、物量で押し潰して覆い尽くしていくが───しかし、黒い奔流が嵐の如く吹き荒れた。斬り裂かれ、消し飛ばされ、跡形も無く滅ぼされる樹木の群れ達。

 

「はは、おいおい。マジかよ、お前──ッ!?」

 

 乾いた笑いが出る。ふざけてる、馬鹿馬鹿しいまでの強さ。聖杯によるバックアップを受けた彼女は無敵に近いだろう。無惨に食い散らかされた樹木、土煙の中から悠々と歩いてくる小さな竜を見つめる。あれは、人間大の災害だ。もはやサーヴァントの枠を超えている存在になっている──。

 

「ふむ……キャスターになった貴様の戦闘は新鮮だな。見た事がない物が次々と出てきて、面白い。大道芸でもやったらどうだ? キャスター」

「はっ、やるかよってんだ。……こいつ、皮肉じゃ無くて真面目に言ってやがる……天然かよ」

「ん? 何か言ったか?」

「いや、なんでもねぇよ」

 

 さて、どうやって倒すか──とルーンによる身体強化を重ね掛けしていると不意に、

 

「ぬっ──!」

 

 セイバーの真後ろから鋭い斬撃。

 未来予知に等しい直感によりそれを避け、聖剣を振るうが──そこにはおらず、側面からの掬い上げるような斬撃が襲いかかる。それを防ぎ、連続して続く斬撃を次々と回避、受け流し、見極める。

 

「ッ──ォォ!!」

「ほう、いい太刀筋だ──だが、まだ未熟だな」

 

 ──豪ッ、と魔力の嵐が吹き荒れる。瞬間、体勢を崩すもすぐに立て直して……しかし彼女にはその隙で十分だった。

 

「はあっ──!!」

「がっ、ぐあっ……!?」

 

 世界が揺れた。

 内臓が掻き混ぜられ、あらゆる神経が断裂し、身体中の骨が砕けて散った。熱いものが込み上がってきて、何かの肉片を口から吐き出す。グチャリと不快な音が鳴って止まず。追い討ちをかけるように斬撃、斬撃、斬撃の嵐。身体中が斬り裂かれて、噴水のように血が吹き出した。

 

 致命傷のオンパレード、死んだ方が楽になれる程酷い。しかし、そんな事は許されないし、許してはならない。故に気合いと根性で途切れそうになる意識を繋いで前を見据える。

 

「ま、だ、だ……ッ!」

「なに──?」

 

 目から血が流れ出るほど集中して聖剣を受け流し、それで腕が潰れるが構わない。懐に入り込んで心臓目掛けて疾風の如き突きを放つ。シエルの思わぬ反撃に少し驚いたが、冷静に対処。刀を拳で叩き落とし、回し蹴りでシエルの胴を蹴り上げ吹き飛ばす。ゴロゴロと塵のように転がっていく少年をクー・フーリンはキャッチ、またかよコイツ! と治癒の魔術を掛けながら牽制で火球を放ち続けた。

 

「おい、無事か坊主!」

「当たり、前だ……! まだ立てる……ッ!」

「はは、やっぱ馬鹿だなお前。よく立てるわ、その体で」

「キリエライト、彼女に……見てい…ろ…と言った…んだ。負けるわけには、いかない。必ず、勝って…みせ、るッ」

「そうかい……いいぜ、女の為に男を見せてみな坊主。俺も手伝ってやるからよ」

「はっ、言われるまでもない…ッぐ……お前こそ、簡単に死んでくれるなよ…!」

「おう、死なねぇさ。奴を倒すまではな──ッ!」

 

 疾走。セイバーへと二人は同時に駆け出す。シエルの体は今も崩壊が続いており、刻一刻と破滅が近づいているが──燃え上がる闘志と、必ず勝利を掴むという執念によって無理矢理体を動かして、眼前の敵を滅ぼす為に刀を奮う。

 

「ふっ──いいぞ、もっと吠えろ」

「ああッ、お望み通り吠えてやるとも──必ず貴様の喉笛を喰い千切るッ」

「ああ、面白いな! やってみせろ!」

 

「おーっと! 俺も忘れんなよセイバーよぉ!!」

「はっ、忘れていたよキャスター、此方にも犬がいたな! まったく、戯れつかれて大変だよ駄犬どもッ!」

「──殺すわ」

 

「おい、キャスターッ! 回避しろ──ッ!!」

「チィッ、馬鹿げた魔力だなちくしょうッ!!」

 

 シエルとセイバーの刀剣が激しくぶつかり合って火花を散らし、クー・フーリンが行使する多彩な魔術が戦場を彩り、セイバーの竜の如き荒々しい魔力が吹き荒れて大地を深く削っていく。

 

「どうした、その程度か──!」

「抜かせよ、セイバーッ!」

 

 禍々しい魔力に真っ向から挑み、刀を幾重にも閃かせる。

 セイバーの聖剣と重なる度に骨が軋み、体のどこかが壊れていく。頭は沸騰して爆破寸前で、目から溢れる血が止まらない。内臓がドロドロと溶けていっているのが分かる。最早、死人同然の姿だ。立っているのが異常だ。──しかし、歩みを止めることはない。

 

「異常、異常だな貴様。今の姿は誰が見ても化け物だと言えるぞ」

「それがどうした──ッ!!」

「そして、哀れだ。無垢な赤子、いや操り人形か──運命に翻弄された哀れな人形。貴様はまるでソレのようだよ」

「ッ、なに、を言ってェ……ッ!?」

 

『■■■■』

 

「なん、だ──!? これ、は──?」

「余所見とは、余裕があるなッ!」

「っ、しま──!?」

 

 脳裏に走った歪な音色(ノイズ)。黄金に輝く呪鎖、鮮血に彩られた天への階段、そして黒い鎖に囚われた───光の翼に焼かれて這いずる灰色の人形。

 

 なんだ、これは。

 なんだ、この気持ち悪さは。

 分からない、分からない、分からない───ッ!!

 

「あ───ッ」

 

 気づいたら、天井を眺めていた。

 腹に空いた風穴から命が溢れて、大地に染みを作っている。赤い、赤い、とても鮮やかな色の花が咲いていく。

 

 指一つ動かない。

 瞼が重い。身体中が寒くて、凍えそうだ。

 

 もう、終わり? ここで死ぬのか──?

 

 何にも成れないまま、負けたままで──?

 

 このまま、奈落に堕ちていけと──?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──まだよね』

 

 まだ──?

 

『ああ、声が届いたのね──私の愛おしい人形(シエル)

 

 キミは──いったい。

 

『私は──いえ、まだその時ではないわね……。さて人形、このまま無様に終わるつもり?』

 

 無様に、死んで──。

 

『違うわよね、ええそうよ違うわ! まだ、終われない──そうよね?』

 

 ………ああ。

 

『ええ、ええ! そうよ! そうなの! まだ終わらない、終われない! だったら、立ち向かいましょう? まだだ、勝つのは此方だと天に煌めく星を目指して飛翔しましょう!』

 

 ああ、ああ──そうだな。

 

『いいわ、いいわよ! それでこそよ人形! 踠いて、這い蹲って、泥を啜って、血を流して──遥か彼方の栄光(破滅)を掴み取るのよ!』

 

 ──遥か、彼方の栄光を……この手の中に。

 

『さあ、行きましょう?』

 

『雄々しく、優雅に、飛翔を遂げるの』

 

『栄光の道を歩むのよ』

 

『天の玉座を担いましょう?』

 

『詠って、栄光(破滅)の証を』

 

『叫んで、光の聖句を』

 

『ふふ、ふふ──恥ずかしいなら、一緒に詠いましょう?』

 

 光が微笑み、枷が壊れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「創世せよ、天に描いた星辰を───我らは煌めく流れ星」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はぁー、やっと詠唱イケるわ……なっげぇよ、おい。
実際はさらに戦闘シーンあったんだけど、カット。長すぎ、ってか主人公がズッタズタだったから、さ(今も死にかけ)

いやー、書くのって難しいね……色々調べながらやってるけどまだまだ向上させていきたいです。
拙い文章ですが、少しでも楽しめていただけたなら嬉しいです。感想、アドバイスなど貰えるとそれも嬉しいです、はい。

さーて、次回はラスト……になるかもしれない! 多分! 長くなったら区切ります。
では、待て次回!

話は変わるけど、ヒナまつり面白くない? 主人公のツッコミしゅき。どこか津田くん臭がしてよき……。


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不滅の光/prologue《10》

おはよう。思ったより早く書けたので投稿します。
いやあー、楽しかった。

ただ、セイバー書いてて「あ、れ? この子女の子だよな?」と不思議になるくらい男らしい戦いしてて困惑。ちょっと修正しました……因みに修正前だと「腕が千切れた? それがどうした?」と笑って主人公蹴り飛ばされてました。はい。

何はともあれ、プロローグ10です。どうぞー。


※本編修正
※後書に記載したステータス修正


 『「創世せよ、天に描いた星辰を──我らは煌めく流れ星」』

 

 高らかに詠い上げた星辰詠唱(ランゲージ)と共に、心臓が胎動して金色に光り輝き周囲を染め上げていく。

 魔力、否───それ以外の別の力が、まるで空に飛翔するが如く際限なく上昇を続ける。世界が震え、その()は許容出来ないと拒絶の悲鳴を叫ぶが、それが止まることはない。

 

「なんだ、アレは──?」

「坊主、てめぇ……」

 

 理解出来ない。なんだ、その力の奔流は? まるで──星そのもののような波動(エネルギー)が箍が外れたように溢れて止まない。僅かな痛みを感じて、腕を確認すると筋肉が痺れたようにピリピリと痙攣していた。空気そのものが帯電しているようで、時折パチリと音が鳴っている。

 

「シエル、うそ、なによそれ……」

「シエルくん……? なんで、あんな……?」

「っ、シエルさん!!」

 

 異様な様子に困惑し、混乱する。

 オルガマリーは彼にあんな力があったなんて知らない、と呆然と光の輝きを見つめ、立香はどこか妙な気配を感じて首を傾げる。マシュは盾を構えて、今にも走り出しそうな勢いでシエルの名を叫んだ。

 

 ──しかし、声は届かず、彼は星を掴むべく飛翔を続けていく。

 

 

 

 

 『「勝利の光で照らされた天地は今は失く、清浄たる王位は希望と共に闇に沈んだ。煌めく明日は訪れず、輝く未来は深淵へと堕ちていく」』

 

 

 

 王位は砕かれ、希望が沈み、煌めく明日は闇の顎門に貪り滅される。未来は深淵の底へと堕ちていき、天地は絶望が支配した。

 

 

 

 『「──しかし、まだだッ!!」』

 

 

 

 ふざけるな、その程度で光が滅ぶと思ったのか? 笑止、あり得ない。馬鹿も休み休み言ってくれよ。

 

 

 

 『「この両眼を見よ、視線に宿る猛き不滅の光を知れ──!」』

 

 

 決意が高まる。嚇怒が燃ゆる。

 

 

 『「再び未来を掴むため、煌めく明日を目指すため。遍く邪悪、その一切を貫いて、約束された繁栄を新世界にて齎そう!!」』

 

 

 全ては未来を、明日を、勝利を掴む為に。いざ、いざ、刮目しろ。

 

 

 

 『「さあ、光輝を纏え! 万物斬り裂く剣を構えよ! その手に偉大な雷火を灯し──たとえ朽ち果てようとも、必ず勝利(栄光)を掴むのだ」』

 

 

 さあ、空に舞い上がれ───灰色の人形(スケイル・ドール)。定めを貫け、未来を取り戻せ、眩い光を魅せてみろッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 『「超新星(M e t a l n o v a)───天煌たれ、光輝の天空神・雷霆之型(M k・b r a z e・K e r a u n o s)」』

 

 

 

 

 

 

 

 ──雷霆の化身。

 遍く邪悪、その一切を貫き滅ぼす光の剣が今ここに顕現した。

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

『ふふ、ふふ……! いい気分よ、星がよぉく見えるもの! まだ完全に至ってはいないけれど──今は十分ね。さあ、人形(シエル)? 全ての邪悪を轢殺し、涙を明日に変えましょう! 煌めく明日を迎えにいくのよ! ふふ、ふふ!』

 

 頭に響く──違う。

 胎動する心臓から響く愉しげな少女の声、まるで幼い子供が新しい玩具を貰って喜んでいるような感情が伝わってくる。同時に恐ろしく艶めかしい気配も漂っており、鎖に四肢を絡め取られる感覚が体を支配している。属性が矛盾している──幼さと妖艶が混ざり合った不思議な存在に、しかし不快な気分は湧かなかった。

 

「──言われなくとも、迎えにいくさ」

『あら、そう? なら余計なお世話だったわね、ごめんなさい。さあ人形、あの堕ちた騎士王に反逆しましょう! ふふ、王殺しなんて心が躍るわね!』

「心が躍る、か」

『あら? 楽しくないの?』

 

 心底から疑問に満ちた声、首を傾げている少女の姿が幻視出来る。しかし、楽しい──楽しいか……そんなこと考えたこともなかった。

 今まではやらなければいけない、その一心で刀を奮ってきたから。邪悪は許して置けない、全てを斬り裂き、煌めく明日を目指す為に凡ゆるものを轢殺してもただひたすら前に進むのだ、と。

 

 だが、目の前にいる騎士王を見つめると──自然と刀を握る力が強まる。そして……あの騎士王に情けない戦いは見せられない、俺も負けてはいられないと敬意と闘志が湧いてくる。同時にこの戦いが自分をさらに強くさせると直感して、段々と胸が熱くなっていく。

 

「ああ、これが──」

『ええ、そう。それが、楽しいという感情! 嬉しいという感情! ふふ、貴方は強者との戦いに心が高鳴っているの! まるで恋する乙女みたいにね!』

 

 くるくる、くるくると少女は廻る。鮮血の階段を一歩、一歩昇っていく。──その先に待つ栄光(破滅)を掴むために。

 

『あら──お話はここまでのようね。もう、せっかちな王様だわ!』

「そうだな……戦場に戻ろうか──勝利(栄光)を掴むために」

『ええ、ええ! 楽しんで戦いましょう? そう全ては──!』

『「煌めく明日を目指すため(約束された破滅を迎えるため)」』

 

 刀に高出力の雷霆を集束、そのまま付与して逃さないように維持性でその場に留め、優れた操縦性により全ての力の流れを把握して常に動か(加速)し続ける。気が狂いそうな作業だが、やれない事はない。ようは、常に耐えていればいいだけだろう? なら簡単だ。狂気ですら気合いで押し潰し、気が遠くなるほどの情報量を処理していく。

 

「往くぞ──」

『ふふ、ええ! ええ!』

 

 体の動きの全て(メカニズム)を掌握。効率よく稼働させるべく筋肉に多量の電流を流して、運動能力を飛躍的に向上。さらに推進力を生み出すべく、空気中の雷に干渉──火花を散らして雷を伴った爆破を起こして加速した。

 

 

「──光翼天墜(レールガン)射出(インジェクション)ッ!」

 

 

 ──瞬間。爆発的なスピードで景色を置き去りにして、セイバーの目の前に辿り着く(・・・・・・・・・・・・・)。驚愕に目を見開く顔を横目に高出力の雷霆を纏った刀で一閃。受け止められたが、しかしそれは悪手だ。本来なら回避が正解。しかし、させるつもりも無い。セイバーの周囲の空気中に漂う雷に干渉して筋肉の動きを阻害したから、動くのにも違和が生じるため回避は難しくなっている。

 

 そのため、自然と取れる選択肢は限られてしまう。

 セイバーは身体中に走った雷に苦悶の声を漏らしながら、天才的な直感で次々と回避するが──全てを回避する事は出来ずに、確実にダメージを負っていく。

 だがそれでも、シエルに幾つも聖剣を叩き込んでダメージを与えているのは流石騎士王と言えた。

 

「ッグ、フッ──!」

「ガッ、グッ……! まだだ、まだ足りない──!」

 

 もっと、もっと強く。まだ速くなれる。まだ剣を研ぎ澄ませられる。まだ動ける。まだ、まだ、まだ、まだッ──!!

 一分前より速く、三十秒前より鋭く、十秒前より強固に、一秒前よりもっと強く、とシエルは際限なく飛躍を続けていく。先ほどとは別人のような動きを見せる彼に対して、セイバーは驚きつつも──愉快そうに獰猛な笑みを見せる。

 

 ──いいぞ、そうでなくては面白くない!

 

「ああ、ギアを上げるぞ(・・・・・・・)! ……遅れるなよ?」

 

 今まで意図して抑えていた力を解放し、一気に力の八割を引き出した。剣が音を置き去りにし、力が尋常じゃなく強化され、魔力が飛躍的に上昇する。雷霆纏った刀を真っ向から弾き返し、体に走る雷を魔力で霧散させる。そして額をシエルの顔面に思い切り打ちつけ──彼もまたソレに応えて、真っ向からセイバーの額に自ら当たりにいく。

 

 人体がぶつかり合ったとは思えない音が鳴り響き、シエルとセイバーは額を付き合わせて瞳をお互いに見つめ合う。これだけ見ればロマンスを感じるかも知れないが、互いに血だらけで悲惨な姿である。そして二人は──修羅場も裸足で逃げるだろう威圧感のある笑みを浮かべていた。

 

「流石──ッ! だからこそ、負けられないッ!」

「は─ッ! いいぞ、貴様が気に入った! さらに斬り込め! さらに前へと来い! 私をもっと楽しませろよ──ッ!!」

「貴様に、言われるまでもないッ!!」

 

 斬ッ、斬ッ、斬ッ! ──と鋼が重なり、死の音色を奏でる。血飛沫撒き散らしながら斬り合う彼らを眺め、援護しようと構えていたクー・フーリンはどこか楽しそうな二人を見て苦笑していた。

 

「はぁ──。邪魔したら無粋だろうなぁ、こいつは。……危なくなったら助けるが……まっ、大丈夫か。気張れよ、坊主」

 

 ──いつだって、男は困難に立ち向かうものだろう? そして、その困難な壁を乗り越えるもの。多少手を貸すのはいいが、最終的には自分自身でやらなければ意味がない。今が、手前自身で壁を壊すときだ。

 

「だから、まあ。見といてやれや、嬢ちゃん達」

「で、でも──!」

「クー・フーリンさん……」

「分かってるわよ、そんなこと……はぁ」

「おう、白髪の嬢ちゃんは分かってんな。まあ、そういう事だ二人とも。──漢見せてんだ、好きにやらせてやりな」

「……納得、出来ませんが。分かりました……今の私じゃ、足手まといですからね……」

「マシュ……。うん、分かった──シエルくんを信じるよ。でも、危なくなったら、助けてあげてくださいね?」

「ああ、任せときな。心配はいらねぇよ……坊主は何かを成す器を十分に持っているさ。

 セイバーは空っぽだとか、哀れな人形だとか言っていたが──この先変わるかもしれないんだ、悲観するこたぁねぇよ。だからよ坊主……勝て、勝って救え」

 

 十分に持っているさ、まで立香達に伝えて、後の言葉は咆哮を上げてセイバーに立ち向かっているシエルに向けて言い放った。

 

 そして激化する戦場に決着の時が近づいてきた。セイバーと凄まじい斬り合いを演じているシエルは限界を既に八回(・・)も突破しており、セイバーも既に全力で力を解放している。ぶつかり合う度に大地が割れ、天が轟き雷鳴が落ちる。

 

「ぐっ、ぉぉぉおおッ!!」

「ハァァァァァァァアッ!!」

 

 激突に次ぐ激突。両者の体は既にボロボロに擦り切れており、いつ倒れてもおかしくない有様だった。だが、気合いと根性でもって耐え抜いて──力強く剣を重ね合わせる。その度に血飛沫が体から噴き出すが、彼らは微塵も気にしない……いや、気にすることが出来ない。少しでも目を外したら、あっという間に斬り殺されてしまうからだ。

 

「ッ、雷よ招来せよ──!」

「唸れ、風王鉄槌(ストライク・エア)ッ!!」

 

 発生した雷雲から落雷を落とすが、セイバーが嵐の如き一撃をもってそれを吹き飛ばす。これは斬り合う内に、幾度も繰り広げられた光景だ。シエルが都度、三回目の覚醒の際に会得した遠距離から放つ高出力の落雷だ。当たれば必殺、それを牽制にしか彼は使わない──何故なら全てが掻き消されてしまうから。

 

「出鱈目だな、聖剣とは──ッ!」

「はっ、お前がそれを言うのか? 幾ら覚醒したら気が済むんだ? 激しくて、私の体が持たないぞ──?」

「ッ、黙れ『貧乳』ッ!? なっ、貴様──!」

『ふふ、愉快ね。見なさいな、人形? 王様のお顔が鬼のよう! ふふ、ふふ!』

「はは、全く面白い冗談だな──?」

「チィッ、面倒な──ッ!」

 

 魔力爆発。間近で受けるわけにはいかないため、後方に全力離脱。離脱する際に落雷を落とすのは忘れない。

 落雷が落ちて土煙が立ち込める中、シエルは刀を構えながら軋む体に電流をさらに流して無理矢理体の活動を維持させる。既に内臓器官の半分はグズグズと溶け落ち、血管は灼け爛れている。骨は砕けている割合の方が多く、無事なものの方が少なかった。

 

「魔力の高まり──遂にくるか、あの極光が」

『そうみたいね。貴方も構えなさいな?』

「ああ」

 

 天を貫く、黒い極光。

 星を束ね、究極の斬撃を放つ宝具。それが最大出力で顕現、シエルの前に現れた。手加減した一撃が開幕のもの……本気の一撃がどれほどのものかは想像に出来ない。

 

 

「──決着の時だ」

 

 

 さらに出力が上昇する。限界を超え、霊基がヒビ割れていくが──なんだそれは、関係ない。ここまで私に喰らいついた少年に手加減なぞ出来るのか? ……ああ、出来るわけがない。

 

 ──私が放てる最高の一撃を手向けに、此度の戦いの幕を下ろそう。それが、命を賭して斬り合った彼へ贈る最大の賛辞だ。

 

「──ああ聞き忘れていた、名は何という?」

「シエル。シエル・エンプティだ──騎士王アーサー」

「シエル、シエル……いい響きだ。それと、私の名はアーサーではない。アルトリア、アルトリア・ペンドラゴンだ。覚えておけよ?」

「ああ、この胸に刻みつけよう」

「そうか、そうか───では、往くぞ」

「──ッ!」

 

 空気が変わる。

 魔竜ヴォーティガーン、かつてブリテンの王の一人だった者。強大な力を持ち、円卓の騎士ですら叩き伏せた究極の幻想種(ドラゴン)。その息吹に近づいた、黒い聖剣が本来の力を発揮する。

 

 

 

 

 

 

 

「卑王鉄槌───極光は反転する」

 

 

 

 

 

 

 

 発動体制、それに合わせて此方も構える。最大出力、防ぐか、避けるか──否、違う。

 

「真っ向から、斬り伏せる──ッ!」

『ええ、そうよ! 今の貴方なら、あの極光を斬り裂ける──裁きの雷霆を見せて頂戴な?』

「──ああ、証を見せよう」

 

 刀身に雷霆が集束していく。周囲に稲妻が発生し、大地を雷が焦がしていく───そして、遂に。

 

 

 

 

「光を呑め───!」

 

「闇を斬り裂け──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガァァァァアン)ッッ!!」

 

「───裁断の雷霆(ジャッジメント・ケラウノス)ッ!!」

 

 

 

 

 黒い極光、裁きの雷霆が激突し───そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──見事だ」

 

 ───黒い極光を斬り裂き、セイバーの体を霊核諸共裁断した雷霆が勝利をその手に掴んだ。

 

「ガッ、ハアッ、ハアッ、ハァッ……ッ!」

 

 勝利を手にしたものの、シエルも無事ではない。己の器、その許容範囲以上の力を行使した代償に身体機能の七割が停止していた(・・・・・・・・・・・・・・)。身体中から力が抜け落ち、痙攣し続けている。

 

『あらまあ、驚いたわ!』

「ぁ、ぐっ──」

『予想では、九割以上が身体機能停止していたのだけれど……流石よ、流石だわ! 私◼️人形! ◼️◼️なら、き◼️と──◼️◼️◼️!』

「な、んだ──?」

 

 少女の声が、聞こえない。いや、待て、待ってくれ───俺は今まで誰と会話をしていたんだ(・・・・・・・・・・・・・・)

 どうして体から別人の声がする? どうして別の意識が存在する? 分からない、分からない──ッ! ああ気持ち悪い、吐きそうだ──。

 

「っと、大丈夫か? 坊主」

「きゃ、すたー……?」

 

 駄目だ、呂律が回らない。頭が痛い、割れそうだ……。意識が闇に堕ちていく──。

 

 

「……お疲れさん。今は眠れ、後は任せな」

 

 

 ──キャスターの妙に優しげな声、それを最後に意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あらまあ、残念───次が楽しみね…? また一緒に踊りましょうね、私のかわいい人形(シエル)




ふへー、疲れました。

主人公の詠唱は閣下とアッシュを混ぜて、少し内容を変えたものです。能力に関しては……最後の方に簡単なステータス載せときます。かなり、独自解釈というかアレなんでご注意を。まあ、あまり気にしないでくださいね。

さあて、本当は所長の「シエル、貴方を愛してる──」やらレフの「醜い人形が──」やらキャスニキの「焼き尽くすは木々の巨人──!」とか書いてましたが、全カット。

すまない、早く終わらせたかったんだ……すまない。

さて、次回は序章の短めなエピローグ挟もうかな、と考えています。その後はいくつか幕間の物語を執筆しようかと──皆さんにもちょっとだけ協力してもらえたらなー、と考えています。はい。
詳しくは活動報告に書いておきますんで、良ければ見てくださいね。

じゃあ、また次回もよろしくね! 感想、アドバイスなどなど待ってます!

↓以下ステータス+その他↓


【天煌せよ、光輝の天空神・雷霆之型】
基準値:C
発動値:A
集束性:AA
拡散性:B
操縦性:A
付属性:A
維持性:B
干渉性:B
集束性に特化した星辰光(アステリズム)
集束性は言わずもがな、全体的に優れている。目立った欠点が少ない、万能型。

※操縦性特化から維持性特化に変更
※ステータスが万能型の優秀な子になったよ! やったね!
※維持性特化からさらに集束性特化に変更

↓以下、セイバー消滅直前の会話↓

セイバー「おい、狗」
キャスニキ「あ?」
セイバー「縁は繋いだ後は分かるな?──と伝えておけ」
キャスニキ「いや、なんで俺が「やれ」──はいはい」
セイバー「よし、では帰る。ああ、お土産を置いて行こうか──貫け」
キャスニキ「なにやってんだ、聖剣投げて……」
セイバー「なに、ちょっとイラっとしたからな」
キャスニキ「なにこの王様こわい」

以上、駄文でした。


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不滅の光/epilogue

初っ端から軽ーく性的な描写あるのでご注意を。苦手な人は飛ばしても大丈夫ですよー!

あと、活動報告にてアンケート設置しました。答えてくれると嬉しいです。今後の展開が変わってくるので、ええ。

では、序章エピローグです。
かなり短いですが、どうぞー。


 

 

「ふふ、ふふ! やっと、やっと始まるんだ……!」

 

 カルデアに存在する研究室の一つ、他と比べると小さめなその部屋の──奥の隠し部屋にて白衣の美女が心底嬉しそうに胸を抑える。はぁはぁ、と息が荒くなり下腹部にゾクゾクとした刺激が走っていく。ああ、下着が濡れてしまった……ボクの悪い癖だなこれは、と濡れた下着を脱いで、そのまま丸めてダストボックスへと放り投げる。

 

「んー、やっぱりノーパンはスースーするなぁ……気持ちがよくて大変結構。さぁて、これから楽しくなるぞぉ!」

 

 部屋の中心に位置する場所に鎮座した鋼の棺桶を手で触りながら恍惚とした笑みを浮かべ、白衣の美女──ロイド・ヘレスはモニターに映る白髪の少年を見つめて頬を赤く染める。まるで、恋する乙女のように。

 

 

 

 

「ああ、ボク()が───キミを英雄にしてあげるよ」

 

 

 

 

 その為なら、世界の一つや二つ滅びたって構わない。あの日見た情景に、この手が届くのならば───幾らだって代償を支払おう。

 

「っあ……んっ……」

 

 滾る熱を冷まそうと、そっと手が下腹部に触れて……彼女は艶やかな声と水音を部屋に響かせた。

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

「……ッ」

 

 医務室のベッドで目を覚ました彼は、頭に響いている鈍痛に顔を顰めた。目が霞んでいて、世界が揺らめいて見える……平衡感覚がしっかりとしない。さらに、腹の中を無理矢理掻き混ぜられたような感覚を感じて──酷い倦怠感と嘔吐感が体を支配していた。

 

 医務室に掛けられている時計を見ると、現在時刻が午後の十四時二十分という事がわかる。レイシフトを始めたのが十九時丁度だったから──一日以上は寝ていた計算になった。

 そんなに寝ていたのか、とシエルは頭を抱え──ようとしたが腕が上がらない。というか体が動かない……ベッドにバンドで固定されているようだ。よく見ると服も着替えさせられており、病衣の隙間からこれでもかと体に巻かれている包帯が確認出来た。

 そしてベッドの傍に置いてあるゴミ箱の中には、血が滲んで真っ赤に染まった大量の包帯が捨ててある。……現状目立った痛み(頭以外)無い為、治療は無事に済んだらしい。恐らく、カルデアに召喚された「私は天才だからね!」と胸を張るサーヴァントと、「キミの体の事ならボクに任せてよ!」とドヤ顔する残念美女が治療を担当したんだろう。

 

「………どうしよう」

 

 凄く不安になってきた。改造とかされていないだろうか? 包帯取ったらロボットになってた! とか勘弁してほしい。あの二人ならやりそうで大変恐怖が掻き立てられる。

 どうか、ドクターがあの二人のストッパーになっていてくれた事を祈りながら、シエルは深いため息を吐いた。

 

 ───分からない事だらけだ。

 

 どうして、今まで使えなかった力があんな簡単に発動出来たのか。自分の中に眠る〝少女〟は一体なんなんだ、とか。何故自分はその少女に対して、何の違和感も感じずに話せていたんだ? とか疑問が頭に浮かんでは消えていき、どんどん疑問が増えていく。

 

「はぁ……一人で考えても、仕方ないか」

 

 ヘレスさんに相談しよう。一応、あんなのでも自分の主治医(・・・)だし、と考えることを中断した。分からないことをずっと考え続けても意味がない。今は別のことを考えよう──あの特異点はどうなったのか、とか。他の人は無事に帰還出来たのか、とか。

 

「……これ、ナースコールみたいなの呼べなくないか?」

 

 縛り付けられている体を思い出して、微妙な位置に置いている呼び出し端末を見て呟く。ああ、届かないな……これ。

 

「ヘレスさんか……この微妙な嫌がらせは。あの人も好きだな、子供みたいだ」

 

 はあ、とため息。誰かが部屋に来るまで大人しく寝ていた方がいいかもしれないな、と彼は目を閉じるが──その時、扉が開かれた。そこから入ってきたのは際どいナース姿の……藤丸立香だ。彼女は顔を赤く染めながら、キョロキョロと部屋を眺めている。まだシエルが起きてないと思っているのか、ゆっくりと彼に近づいていき……そして目と目が合った。

 

 沈黙。立香がベッドの傍で石のように固まり、顔が徐々に赤くなっていくのが分かった。恥ずかしいなら、着なければいいのでは? と思いながら、つい口に出てしまった。

 

「何故、ナース服……?」

「うっ」

「う?」

「わぁぁぁぁぁあんっ! ち、ち、ちちち違うから! これはダ・ヴィンチちゃんがね!? あ、あと金髪のロイドさんって綺麗な人がね!? 「いま、これしか服がないのよー」って言うから、その、仕方なく着ていると言いますか何といいますか!? とりあえず、違うんだからね!! えっ、と、あの、あぅぅぅっ……!」

「あ、ああ。その、何て言うか…ご愁傷様……?」

「それ慰め違う!」

「す、すまない! こう言った時、どうすればいいのか分からないんだ……」

「笑えばいいと思うよ」

「そんな死んだ目で言わないでくれ……」

 

 はは、笑えよ! 似合ってないって笑えばいいんだよぉ! 私なんかがナース服着たところで可愛くも何ともないんだってさぁ! と立香は死んだ目でベッドに顔を埋めて「わぁぁん」と泣き出した。そして、シエルはそんな彼女を何とか励まそうと試みる。

 

「あ、その、なんだ。似合ってる、ぞ……?」

「……そ、う?」

 

 好感触。この前ヘレスに貰った「これでキミもコミュ力モンスターだ!」が役に立ったようだ。この調子でやってみよう。

 

「藤丸の可愛らしい顔立ちに反して、露出が高いナース服がギャップを感じていいと思う。この前、触った感じスタイルも程よくバランスが取れていて、短いスカートから伸びる健康的な脚が綺麗で胸が高鳴ったし、恥ずかしがる様子にグッときた。正直、眼福だよ」

「あ、え、へ?」

「ん? まだダメか……えっと、さらに──」

 

 立香をさらに褒めちぎろうとするシエル、しかし──?

 

 

 

 

「──シエルさんおはようございます」

 

 

 

 

 現れたマシュに冷や汗を流して、言葉を止めた。俺、なんもやらかしてないよな? と何故か心配になってしまう。大聖杯前でのトラブルが尾を引いているのだろうか。

 

「あ、ま、ましゅ…! わ、わたしちょっとお部屋に戻るねぇー!」

「はい。お気をつけてくださいね、先輩」

「うん、また後で……!」

 

 ピューっと走り去っていく立香、その後ろ姿を見ながら──

 

「スカートなら捲れませんよ?」

「キリエライト?」

「……なんでもないです(むすっ」

「いや、いま──」

「はい?」

「君らしからぬ──」

「はい?」

「……問題ない。何も無かった」

「はい」

「……」

「……」

「とりあえず、現状の説明を受けていいか?」

「分かりました。では──」

 

 釈然としないが、ヘレスさん曰く「女の子は不思議がいっぱいなのよ?」との事なので、きっとそういう事なんだろう。

 

 マシュから次々と与えられる情報を纏めていく。そして──それを、聞いた。……聞いてしまった。

 

「未帰還者、一名……所長が?」

「はい……所長は、レフ教授に……」

「そう、か──カルデアスにね……」

「はい。すみません……私が不甲斐ないばかりに……!」

「いや、君の所為じゃない。あまり気にするなよ、キリエライト」

「はいっ、ありがとうございます…シエルさんっ」

「ああ……」

 

 顔を俯かせるシエルを見て、マシュは彼を心配するが──それは必要ない。何故なら、オルガマリーが死んだ事に対して何一つ感じる事が無い(・・・・・・・・・・)のだから。いや、何も無い、というのは些か違う。ただ、そういうこともあるだろう(・・・・・・・・・・・・)……と受け入れているだけだ。命を賭して戦っているんだ、死ぬ事もあるだろう──と。

 

「あ、ドクターから召集みたいです……えっと、あの」

「ああ、行くといい。遅刻してしまうぞ?」

「は、はい! あの、また来ますね! シエルさんっ」

「……ああ」

 

 マシュが部屋から出ていき、そっと扉が閉まる。目を瞑り、彼女(オルガマリー)と過ごしていた日々を思い返して、大変だったけれど確かにそこには楽しかった……という感情があって……とそこで目を開ける。光が煌めく眼は──ただ前を向いていた。

 

「──彼女の死は無駄にはしない……必ず、必ず勝利を掴むとも。未来は取り戻してみせるさ。ああ──煌めく明日を目指そうか」

 

 やはり、それだけだ。オルガマリーに対して、特に強く思えるものはない。無念に散っていった彼女に報いる為、涙を希望の明日に変えるべく──歩みを止めるわけにはいかない。さあ、雄々しく突き進んで行こう……全ては勝利(栄光)を掴む為。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───彼が、後ろ(過去)を振り返る事はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【炎上汚染都市冬木】不滅の光【修復完了】

 

 

 

 




序章、完結ッ!

いやぁ、長い……これ序章だぜ? 第一特異点すら行ってないんだぜ? なのに主人公どんだけ死にかけてるんだか……全く! 鍛え方がなってないなぁ!

次回から幕間の物語を挟みます。それが幾つか終わったら、オルレアン編に入ろうかと。

では、また次回!感想、アドバイスなどなども待ってます!はい!


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幕間の物語
マシュマロの一日


やあ、お久しぶり。いろはすだ。
今回から少しの間は、羽休めで幕間の物語を投稿するよ。オルレアン編も少しずつ同時進行で書いているから、ちょっと待っていてね。

今回はマシュマロの一日、マシュの短編です。
一人称で書いてます。とりあえず、天使かよ……ってなりました。

こんないい子を序章であんなにいじめるなんて! 鬼畜かよ!(犯人)


 

 

 

「よしっ」

 

 皆さんおはようございます。マシュ・キリエライトです。

 私はカルデアに所属する職員でもあり、現在は先輩──藤丸立香のデミ・サーヴァントも務めています。周りからは「マシュ」や「マシュちゃん」などと呼ばれていますね。あ……シエルさんだけ、未だにキリエライト呼びです……っ。何故かむかむかしますが、ぐっと我慢します。朝から怒るのは良くありませんので。

 

「むーっ」

 

 あれ? 笑ったつもりですが、リスのように頬が膨らんでいます。不思議です! と私が鏡の前で自分の顔とらめっこをしていると、部屋に先輩が入ってきました。大変可愛らしく、さらに戦闘の際には頼りになる自慢の先輩です。

 

「あ、いた。マシュおはよー、一緒に食堂行こ?」

「はい! お供させていただきます!」

 

 朝ご飯……今日はなんでしょうか? と先輩とお話ししながら食堂へ向かって歩いていきます。廊下を歩いていると、忙しなく働く他職員の方々が駆け回っています。皆さんの顔には疲労が見られますが、決して諦めるような事はしてません。一刻も早くカルデアを復旧させる為に身を粉にしています。私も、見習わなくてはっ。

 

 ──もう冬木の特異点から帰還して、早くも三日が経ちました。

 

 最初はこの歩いている廊下も酷い状態でした。瓦礫が散乱して、機材がバラバラになって至るとに点在している──遺体だって、転がっていました。見慣れた方が倒れ伏したまま動かない……その光景を見て呆然と立ち竦んでいましたが──シエルさんが、言ったんです。

 

「……無念のまま散っていった者も背負って、俺は必ず未来を取り戻そう。キリエライト、君はどうだ。そのままでいいのか?」

 

 と、瞳に怒りと決意を宿して。その目に見られた瞬間、胸が焼けるように疼いて──気づいたら私はシエルさんの手を握りしめていました。きゅっと、力強く。シエルさんは何故か顔が赤くなっていましたが、どうしてでしょう? ダ・ヴィンチちゃんに聞いてもニヤニヤするだけですし、他の人も微笑んでいるだけで教えてくれませんっ。いじわるです。

 

 そうやって思い出して頬を膨らませていると、前からシエルさんが歩いてきました。どうやら訓練後のようで、首からタオルを掛けています。シャワーを浴びていたのか、まだ髪が乾いておらず、僅かに濡れた髪から水滴がポツポツと垂れていました。かなり薄着で、普段は軍服で隠されていた引き締まった二の腕が見えます……私もあれぐらいになりますかね? 要訓練ですっ。

 

「わっ、なんか……えっちぃ……」

「先輩?」

「わひゃっ!? な、なにかな!?」

「い、いえ。何か言っていたので、気になってしまいました」

「う、ううん! 気にしないでマシュ、何にも言ってない「藤丸、キリエライトか。おはよう」ひゃいっ!」

「だ、大丈夫ですか?」

「す、すまない。驚かせてしまったな」

「だ、大丈夫だよ! 全然ビックリしてないから! うんうんっ!」

 

 と顔を赤らめ引きつった笑みを浮かべて食堂に入っていく先輩を、シエルさんと並んで不思議そうに見つめます。すると、シエルさんは少し落ち込んでいる様子で、

 

「俺、何かしたのかな……」

 

 と呟いています。少し、可愛いかもです……先輩が言っていた事が分かった気がします。これがギャップ萌え、なんですね先輩っ!

 

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 

「あ、シエルさん!」

 

 シュミレータールーム。修復が完了したその部屋の中で、私は壁に背中を預けて立っているシエルさんに声を掛けました。どうやら、何か読んでいたようで、手には分厚い表紙の本があります。

 

「ああ、キリエライトか。早いな」

「いえ、そんなことは……それは本ですか?」

「ん、ああ。勉強だよ、知識は力になるからな」

「なるほど。どんなものを読んでいるんですか?」

「えっと、今日は──宗教、に関しての本だな」

「宗教、ですか?」

「ああ。宗教の成り立ち、役割、何を信仰しているのか……まだ読んで間もないからあまり詳しくは語れないが、中々面白いぞ」

「そうなんですか。私も今度、読んでみますねっ」

「良ければ、貸すが」

「本当ですか! あ、でもまだ読んでいますし……」

「いや、気にしなくていい。他にも本はあるからな……ヘレスさんが押し付けてくるんだよ。プレゼントだ、って」

「あー……」

 

 嬉しそうですが、どこか面倒そうな顔をするシエルさんを見て、納得の声が出ました。ロイドさんがシエルさんに良く構っているのを見かけますし、何かをプレゼントしている姿も日常的です。

 

「だから、気にしなくていいぞ? 読むべきものは、まだ沢山ある」

「そ、それなら、その……お借りさせていただきます」

「ああ、じゃあ後で渡そう。……そろそろ、行こうか」

「あ、は、はいっ」

 

 話すのが楽しくて忘れていました……今からシエルさんとの戦闘訓練なんです。先輩との連携訓練も有るんですが、まだまだ強くなりたい私はシエルさんに頼み込みました。二つ返事で了承してくださったシエルさんとの戦闘訓練、模擬戦は二日前から始めています。……負け続きなので、今日こそは勝ちたいです。

 

 ──というか。何故、サーヴァントに勝てるんでしょう? 人間、ですよね?

 

 本人に聞いても「本気でやれば、出来ないことはないだろう?」と言うだけですし……。シエルさんの〝本気〟はレベルが尋常じゃないんですよね……いえ、私が本気ではない訳じゃないですが。

 セイバー戦、他の戦闘にも共通しますが……勝つことへの執念が恐ろしいほどに高いんですよね。悪いことではないんですが……何とも言えないです。

 

 刀を構えて此方を見据えるシエルさんを見て、私も盾を構えます。一瞬でも目を離せば、その瞬間に懐に入られてしまうので、彼から目を離すのはダメです。初日は姿を見失い、その瞬間に背後から刀を首に添えられて負けてしまいました。昨日も前日の失敗をしまいと意識をしていましたが、飛んできたナイフに気が取られ、またも同様に敗北……今回は引っかかりませんからねっ。

 

「勝利条件は相手に負けを認めさせるか、若しくは戦闘不能に陥らせること」

「敗北条件は負けを認めるか、戦闘不能に陥るか……ですね」

「ああ。前回、前々回と同様だよ」

「……今回は、負けませんっ」

「ああ、いい気概だ。だが、俺も負けられない」

 

 ジリジリと部屋が暑くなっていきます。緊張しているのか、体から汗が止まりません。カウントダウンが始まり、そして──!

 

「フ──ッ!」

「それは、もう見ましたっ」

 

 ナイフが三本勢いよく飛来して来ますが、サイドステップでそれを回避。地を這うように低い姿勢で走ってくる彼を目で離さないようにしながら、私も前進──刀と盾が甲高い音を立ててぶつかり合いました。

 

「ぐぅ……!」

 

 ──四連撃。止まらず繰り出された高速の斬撃が盾を弾き、私の体に迫ってくる。その攻撃を無理矢理体を捻らせて避け、バックステップ。刀の間合いから離れますッ。

 

「……やるな。短い時間だが、成長したんじゃないか?」

「はぁ、はぁ、そう…でしょうか?」

 

 ──嬉しい。

 

 驚いたように目を僅かに見開く彼を見て、その感情が胸に満ちていく。私も成長してるんだ……先輩や彼の隣に立つにはまだ未熟だけど、ちゃんと私も……っ。

 

「さて──じゃあ、続けるぞ」

「はいっ! マシュ・キリエライト、頑張ります!」

 

 ──いつか、いつかは……私もっ。

 

 盾を握りしめる手を強めて、私は駆け出しました。

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

「ふんふんふん〜♪」

「おや、マシュちゃんじゃないか。機嫌良さそうだねぇ?」

「あ、ロイドさん。こんばんは」

 

 シエルさんとの戦闘訓練が終了し、その後は彼の自室で互いに本を読んで過ごしました。借りる、と言っていた「これで君も枢機卿!」も借りれましたし、今日は大変満足な一日です。

 

 ──そうやって鼻歌交じりに自室へと戻る最中、廊下でロイドさんと出会いました。挨拶をすると、和かに笑みを返されます。そして、イタズラ味が溢れた笑みに変わりました。……嫌な予感が。

 

「うんうん、こんばんは。それでぇ〜? どうしてそんなに機嫌が宜しいのかなぁ? お姉さん気になるなぁー!」

「ひゃ、ろ、ロイドさんっ!」

「ふふ、うりゃうりゃー!」

 

 む、胸がっ、わ、鷲掴みにっ!

 

「ははは、ごめんごめん。いやぁ、最近徹夜続きで癒しがなくてねぇ? ちょうどマシュちゃんがいたから、癒されちゃおーって思ってさ。悪気はないのさ、申し訳ないね」

「あ、その…そういう事でしたら……お疲れ様です」

「君はいい子だなぁ……」

 

 しみじみと呟くロイドさん。そして、何かに気づいたように「ん?」と声を上げました。目線が私が持つ本に向けられています。あ、確かこの本はロイドさんが……。

 

「その本……確か、シエルに渡したやつじゃないか。どうして君が?」

「お、お借りしました。他にも読む本があるから、と」

「そっかそっかー、なるほどねぇ」

「は、はい。そ、その、ダメでしたらシエルさんにお返ししますが……」

「ん? ああ、いや、大丈夫だよ。ボクは気にしてないから、読むといい。シエルが君に貸したのだからね、ボクは介入しないさ」

「あ、ありがとうございますっ」

「ただ、うん……」

 

 と、そこで少し顔を俯かせました。体調が悪いのでしょうか? そう思い尋ねると、

 

「体調は大丈夫さ。あ、いや、徹夜続きだし大丈夫ではないか……」

「でしたら、やはり医務室へ!」

「はは、大丈夫だって〜。うーん、ただ、シエルがなぁ……」

「シエルさん……?」

「君みたいな、同年代の子と仲良く本の貸し借り……か」

「えっと……」

 

 柔らかな笑みを浮かべ、まるで自分の子供を慈しむような目をしているロイドさんを見て言葉が出て来ません。このような態度の彼女は見たことありませんでしたから……。

 しばらくそうやって何かを思案していましたが、ロイドさんは何時ものイタズラな笑みに戻り、私の肩を軽く叩いて去っていきます。そして、最後に──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからも、あの子と仲良くして上げてね」

 

 ──と、言って姿を消しました。

 

「な、なんだったんでしょうか……?」

 

 ……ですが、最後の言葉。はい、当たり前です。シエルさんは大切な仲間なんですからっ。あ、あと、その、は、初めての……お友達なんですからっ、はい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───誰もいない静謐な廊下、その真ん中で握り拳を作って少女は顔を赤らめて微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【幕間の物語】マシュマロの一日【おしまい】

 

 

 




──無垢な少女は、自分の感情に気づかない。だが、もし気づいた時には、大きく人間として成長するだろう。

彼女がシエルに抱いている気持ちは「尊敬」「友情」が今のところ大半です。恋愛的な感情については自分でもわかってません。行き着く感情がどう決着するのかは……今後の展開次第でしょう。親友、大切な仲間、それとも恋人か……さあてどうなるかなぁ。

次回は立香編を投稿しようかな、と思ってます。今執筆してるからしばらくお待ちを……。いやぁ、書く題材決めていたけど、これはもう少し進んでからだなぁ、って内容だったんで構想練り直してます。はい。

では、また次回!


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藤丸立香の一日

やあ、いろはすだ。
今回も短編だ。とても難産だったよ……カットしまくったね、うん。

じゃあ、どうぞー。


 

 

 藤丸立香。

 茜色の髪、朗らかな笑顔、可愛らしい容姿の女の子だ。年齢は十七歳、現役の女子高校生である。何故彼女がカルデアに来たのか、それはただ単純で──街中でスカウトされたのだ。

 最初は「宗教の勧誘……?」だとか「ま、まさか私がアイドルに?」だとか頭の中で色々なものが巡っていたが、差し出されたのは「人理継続……はて?」と聞いたことも無いものだった。怪しいなぁ、と思いつつも、差し出された「大体給料コレぐらいです」という資料を見せられた彼女は「じゃ、じゃあ少しだけ……」とノコノコと後をついていってしまう。──悲劇の幕開けである。

 いきなり飛行機に詰め込まれるし、着いたら着いたで雪山登らされるし、そしたら施設が爆破するし、変な怪物達と戦う事になるし、と散々な経験だったなぁ、と布団を頭に被りながら立香は震えた。

 

 ──怖かった。ただただ、恐怖で体が震えていた。

 

 けれど、動かなければならない。そうしなくては解決しないし、助からない。それに、それが正しいことの筈だから。生き残ってしまった者の責任だから、立って立ち向かわなきゃ駄目なんだ。

 

「……ふぅ、よしっ」

 

 布団から出て、シャワールームに入る。傍にある鏡を見ると、疲れた顔がそこに映っていた。うん、これは駄目な顔だ。

 

 ぐにぐに、と顔を触ってほぐしていく。これで、多少マシにはなるだろう。なってほしいなぁ……、と立香は服をスルスル脱いでいく。負傷していたけど、体には傷一つ残っていない。ロイドから「女の子なんだから、傷は残しちゃ駄目だよ」と渡された軟膏が効いたようだ。

 

「わぁ、凄いなぁ……魔法って不思議だ」

 

 ──正確には、魔術と言うらしいが……無知な自分にはよく分からなかった。これから、勉強もあるし追い追い理解出来るだろう。多分、きっと、メイビー。

 

 下着姿のまま暫く鏡を見ていたが、壁に掛けてある時計をチラ見──すると現在時刻は七時四十分くらいだった。そろそろ部屋を出なければならない時間だ。急いで裸になり、シャワー室へと駆け込んだ。

 

「はぁ……きもちぃ〜」

 

 熱いお湯が頭から流れ、鎖骨、胸、お腹、お尻と伝って落ちていく。カルデアの状況は結構ピンチなのだが、シャワーが使えるのは凄く助かった……なんでも「お風呂は文化、大切」とロイドが何とかしたらしい。あの人は色々とやり過ぎだ……自由とも言う。

 

「ぁあ……シエルくん、大丈夫かなぁ……」

 

 最近はそればかり考えている。

 特異点修復から今まで、あまり彼と関わっていない。いや、自分が避けてるのか……と顔を俯かせる。

 彼には沢山助けて貰ったし、御礼もいっぱいするべきなのだろう。避けるなんて以ての外である。しかし、

 

「……」

 

 怖いのだ、彼が。

 傷だらけになりながら、死にそうになりながら、何であそこまで歩き続けられるのか? 普通の人間には分からない。

 

「でも、このままじゃダメだよね……っ!」

 

 まだまだ特異点を修復しなければいけないし、このままの状態じゃダメだろう。何とか彼と話さなければっ! と頬を軽く叩いて、気合いを入れる。

 

「頑張ろうっ」

 

 ──あと、ナース服の件は忘れてほしい……と言わなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、シエルくん」

「ん、藤丸か。どうした?」

 

 カルデアの廊下。

 食事を終えて、立香がダ・ヴィンチの工房へと向かっている最中に黒い軍服を着た背中が見えた。本を読みながら歩いているシエルに駆け寄り、吃りながらも声を掛けるのに成功した。シエルは後ろから呼ばれた声に振り向き、どこか緊張した様子の立夏を見る。

 

 ──やはり、怖がられているのだろうか。

 

 理由は分からないが、きっと自分が何かやらかしたのだろう……ああ、いや……やらかしていた。押し倒して胸を揉みしだき、体の品評をしていた。──これかっ(違います)。

 

「すまない(胸を揉みしだいた事)、やはり怖いよな(押し倒した事)無理しなくても大丈夫だぞ?」

「あ、う、ううんっ。シエルくんは悪くないよっ!」

「だが……」

「え、えっと、その。この前の事は、もう無しにしてさ……私とも仲良くしてくれる──?」

「あ、ああ。勿論……しかし、いいのか?」

「うん、いいの。シエルくんは悪くないし、むしろ守ってくれたんだから……怖がるのは筋違いだよね」

「ん? 守る……(貞操の事、か?)」

「そうだよ、守ってくれたじゃん(命を)」

「……そうか」

「そうともっ。あ、シエルくんも今から工房に行くんだよね? 一緒に行ってもいいかな?」

「ああ、一緒に行こうか」

「やった!」

 

 ───すれ違いにもほどがある。

 

 きっとこれを見た者はそう思うだろう。しかし、何はともあれシコリは取れた。これから先はきっと大丈夫だろう。彼女の心が折れない限り、彼の心が消えない限りは。

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 世界的に有名な芸術家であり、万能の天才だ。カルデアに召喚された二人目のサーヴァントでもあり、このカルデアを支えている人物の一人だ。そして、変態である。自らの体を改造して、モナリザにした生粋の変態である。大事な事なので二回書いた。

 

「やあ、いらっしゃい二人共。そこに掛けてくれたまえ」

 

 彼、彼女──ダ・ヴィンチが、自分の工房にやって来た立香とシエルに対して作業の手を止め、対面の椅子に座る事を促した。それに従って椅子に座り、ダ・ヴィンチの作業の終わりを待つ。

 何をしているのかと立香が目を向ければ、手元には〝金色の札〟が輝いており、どこか不思議な力を感じた。なんだろう? と首を傾げると、隣に座っているシエルが口を開いた。

 

「呼符だよ」

「呼符?」

 

 なんだそれ? とさらに首を傾げる。名前からして何かを呼ぶ道具なのは分かるのだが、果たして何を呼ぶのかは分からない。

 

「アレを使って、英霊を召喚するんだよ」

「え、英霊を!? あ、あのお札で!?」

「ああ、そうだ。レイシフトするメンバー……マスター候補には一人で一枚配られる予定だったんだ」

「そうだったんだ……って、予定?」

「テロが内部で発生しただろ? その時に倉庫も爆破されていたらしく、触媒やら召喚サポートに必要な機材やらが壊されていたんだ。特異点から帰還後、すぐに英霊を召喚しなかったのはこれが理由だな」

「へぇ……あ、でも今あるってことは!」

 

 

 

 

「そう、英霊を召喚出来るようになったのさ! 私頑張ったよ!」

 

 

 

 

「ひゃうっ!」

「……いきなり声を上げないで貰えませんか、レオナルド女史」

 

 バッ、と金色の札──呼符を一枚(・・)掲げて胸を張るダ・ヴィンチにシエルはジト目を送る。それに「ごめんごめん」と舌を出して頭を小さく下げる。シエルはため息を吐き、その後にダ・ヴィンチの持つ呼符を見て目を細める。

 

「それで、完成したのは一枚ですか?」

「あー、そうなんだよねぇ……」

「い、一枚だけ?」

 

 少な過ぎません? 人数分足りないですよ? と疑問が浮かぶ。

 

「いやぁ、頑張ったんだけどね? 召喚部屋は半壊してるし、触媒も全滅。他の機材だってほぼ使い物にならなかったんだ──なんとか召喚部屋ほ修復したけど、英霊を呼ぶための触媒の確保は難しかったんだよねぇ。現状、この一枚しか作れなかった……申し訳ない」

「あ、頭を上げてください!」

「……それで、自分達を呼んだ理由はそれですか?」

「そうだね。英霊は一騎しか召喚出来ない……だから、どちらが召喚するか決めたくてね」

 

 ──一騎しか、召喚出来ない。

 

 それを聞いてシエルは黙り、立香は目を呼符とシエルで行ったり来たりさせる。そして、

 

「俺は大丈夫です。なので、この呼符は藤丸が使うべきかと」

「うぇっ!? な、なんで!? シエルくん、サーヴァントいないじゃん! 君が召喚する方がいいよ!」

「問題ない。サーヴァントがいなくても、俺は負ける気は無い。必ず勝つ」

「そ、そういう問題じゃないよねっ!?」

「?」

「いや、こいつ何言ってんだ? みたいな目止めてっ!」

「すまない。しかし、本当に大丈夫だ。現状、俺にサーヴァントは必要ない。新たな力(・・・・)も得たからな」

「あ、あのビリビリしたやつ?」

「ああ、ビリビリするやつだ。アレがあればサーヴァントとも十分戦える。だから、問題はない」

「それを言われちゃうとなぁ……凄さは見たから、何とも言えない……」

 

 と、立香があの雷霆を思い返しているとダ・ヴィンチが凄い満面の笑みでシエルに詰め寄った。目が輝いている。

 

「そう! それそれ! ずっと気になっていたんだ! ねぇ、見せて? それか体を調べさせてくれないかな!?あ、勿論報酬は弾むとも! なんなら、私の体を捧げたっていいぜ? だから、なぁなぁ! 頼むよぅ! 私に体調べ──「行くぞ、藤丸」ぶべっ!?」

 

 詰め寄る変態(ダ・ヴィンチ)の顔を押しのけ、手に持っていた呼符を抜き取る。立香の手を引いて立ち上がると、シエルは「召喚してくる。ロマンに伝えておけ」と敬語が抜けた言葉で告げて入り口へと向かった。その際立香は「ちょ、て、手が、シエルくん! あ、肩痛いっ!」と赤くなったり、青くなったりしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって召喚部屋。シエルに連れられ、立香は部屋の中心に立っていた。周囲には幾何学的なものが浮かび上がり、目の前には大きな魔法陣。その中にはマシュの盾が設置されていた。キョロキョロと物珍しそうに辺りを見ていると、スピーカーからロマンの声が響いた。

 

『よし、準備完了だ。今から召喚するわけだけど、立香ちゃんは大丈夫かい?』

「は、はいっ! 頑張りますっ!」

『はは、そんなに緊張しなくてもいい。シエルくんだっているんだ、滅多な事じゃ君に危害は加えられないよ。そうだろう?』

「当たり前だ。必ず守ろう」

『ほら、ね? だから、安心して召喚するといい。それじゃ、準備が出来たら呼符を中心に置いてくれ。その後、すぐに召喚が始まるから、シエルくんの近くで待機してなさい。いいね?』

「了解です!」

 

 ──とは言ったけど、心臓が煩い。お腹が痛いし、膝が震える。もしも怖いサーヴァントだったら、と考えると泣きそうになった。

 

 でも、

 

「大丈夫だ。藤丸は俺が守るよ」

「シエルくん──うん、ありがとう!」

 

 ……勇気を出して、一歩前に踏み出そう。呼符を中心に置いて、立香はシエルの近くに待機する。魔力が吹き荒れ、光が三つの輪を広げて、中心に収束。そして、現れたのは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント、ランサー。召喚に応じ、参上した──よう! また会ったな嬢ちゃん、坊主。これから宜しく頼むわ!」

 

 ──朱い槍を携え、快活に笑う青い装束の槍兵だった。

 

 

 






 選ばれたのは、槍ニキでした──。

 てな訳で、立香ちゃんのサーヴァントはランサーになりました。いやぁ、安心感ある奴引いたなぁ……。
 因みに、赤い外套のアーチャーの場合はシエルくんが刀抜いて構え出します。

 幕間の物語は今回で終了になります。もっと書くことがあったけれど、早く本編行きたいからね……。幕間こんなだけど、本編はえっぐいぞー! 愉しみだね! 愉悦部はワインを持って待機してくれよ? まあ、言うてそこまで悲惨じゃないけどもさぁ……。

 唐突な次回予告!


 (怪物)は嗤う。

 ──奪え、殺せ、全てを捧げろ(Give me all)。さすれば、汝を楽園(エデン)へと導かん(引き摺り込もう)

 叛逆者は叫ぶ。

 ──ふざけるなッ殺してやるぞ、光の亡者がッ! 惨たらしく、残酷に貴様の腑を食い破り、屍を踏み潰すッ! 必ず、必ずだッ!!

 第一特異点、オルレアン。
 どうしようもなく歪んだ世界、腐りきった毒に侵されたその土地で遥かな旅路の幕が上がる。光のために、未来のために、自分以外の誰かのために──雄々しく貫け、後継者。

次回「神へ捧げよ汝らの血肉──楽園の創世を此処に」



因みに、まだ一話も書けてない(痙攣)
内容が内容なだけに、滅茶苦茶編集してる……つらい。
頑張って執筆してるんで、投稿遅くなるけど待っててくだせぇ!


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【邪竜百年戦争 オルレアン】
神へ捧げよ、汝らの血肉──楽園(エデン)の創世を此処に


やあ、いろはすだ。
圧倒的難産! 書き上げるのにかなり時間が掛かったよ……。

では、オルレアン編の始まりです。


 

 

 

 太陽の光が届かない、暗く陰湿とした部屋。

 どこか寒々しさを感じる部屋の中心、その場所には巨大な逆十字が床に突き刺さっており、それを囲むように周りには異様な数の直立した棺桶が設置されていた。そして、それら全ての棺桶の隙間からは夥しい量の血液が溢れ出ていて、まるで神に供物を捧げるように──逆十字へと流れていた。

 

 逆十字は血液が捧げられる度に脈を拍って胎動し、歓喜と狂喜に満ちた叫びを上げる。──だが、まだ足りぬ。まだ、捧げよ。

 まだ、血を、命を、魂を寄越せ(Give me all)。逆十字は〝もっと〟だと喚き散らして、敬虔なる信者(愚者)に向けて悍ましい光を放つ。

 

 ──奪え、殺せ、全てを捧げよ(Give me all)。さすれば、汝を楽園(エデン)へと導かん(引き摺り込もう)

 

 その光を浴びた、血の狂信者は狂気に満ちた雄叫びを上げて〝嗚呼、我が神の為〟と男も女も、母も父も、老人も赤子も、その一切を慈悲も容赦も無く命を刈り取り、血を啜り、魂を売って大地を赤く染め上げる。

 

 ──全ては楽園の創世の為に。

 

 誰も彼もがその為に血を流して、〝我が神に、この身を捧げます〟と歓喜に震えたまま死んで逝く。それこそが、真の救いだと錯覚(狂信)して。

 

 あまりにも、悲惨。

 あまりにも、無慈悲。

 あまりにも、冒涜的。

 

 この地は既に……救いようが無い。悍ましい狂気の毒に、侵されてしまったのだから。

 

 逆十字、その前に佇む神父服の壮年の男は嗤う。

 

「楽園の創世は近い──しかし、迷い込んだ子羊がいるようだ」

 

 星詠みの観測者、焼却された世界を救わんと奮い立った英雄の卵。それが、この地に足を踏み入れたようだ。

 

「愚か、というべきか。運が無かった、というべきか──どちらにせよ、彼らには退場頂こうか」

 

 だが、そうだな。

 

「折角訪れた優秀な人材だ……彼らを贄にするのもいいか。嗚呼、それがいい、そうするべきだ」

 

 彼らを楽園創世の礎にしよう。世界の為に役立てるのだから、これ程名誉なこともないだろう? と神父は目を狂気に輝かせる。己こそが正しい、そう信じ切った者の目だ。

 

「さて、ならば──狩人(ハンター)

 

 闇に語りかける──すると、長身痩躯の人間が現れた。その体は血に塗れ、臓物の肉片がこびり付いていた。右手には鋸のような鉈を持ち、左手には古めかしい銃を握っていた。

 

「仕事だ。なに、いつも通りだ。君たちは自由に獲物を狩ればいい。だが、優先順位は異邦の者だ。いいな?」

「◼️◼️」

「ああ、それで結構。では、始めようか──」

 

 ──狂気と信仰の闘争を。

 

「無論、〝勝つ〟のは私だとも」

 

 必ず創世してみせよう──()の楽園を。

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 過去のフランスに特異点が発見され、レイシフトの決行時間や現地での行動を決めるブリーフィング(作戦会議)を終えたシエルは、自室で特異点に持ち込む道具を整理していた。──レイシフト決行時間は今日の午後五時からだ……予想以上に特異点の消滅スピードが速かったので、一刻も早くの解決が求められる。故に、特異点が見つかってからロクに情報も得られないまま速攻でレイシフト、なんて無茶をする事になってしまった。しかし、そうなってしまったものは仕方がないと割り切り、シエルは自室へと準備に戻り、現在荷造りしている状況に至る。

 

 ──扉を開けて手をひらひらと振り、自室に入ってきたロイドを見て小さなため息を吐く。……何をやっているんだ、この人は。

 

「やあ、シエル。特異点が見つかったんだって?」

「ヘレスさん……管制室に居なくていいんですか」

「んー、大丈夫さ。ボクが居なくても何とかなるとも。それに君がレイシフトしたら、ボクだって管制室に戻るしね」

「そうですか」

 

 沈黙。それ以降会話が途切れ、シエルが荷物を鞄に入れる音だけが部屋に響いている。そしてロイドはその隣に座り込み、彼の横顔をじぃっと見つめ続けていた。時折、つんつんと指先でお腹やら頬やらを突いて遊んではニコニコと笑顔を浮かべており、大変楽しそうだ。

 シエルはそれを無視して黙々と準備を進めていく。彼女に悪戯されるのは日常的なので、もうすっかり慣れてしまった。むしろ、ここで反応してしまえば、さらにロイドはシエルを構い倒してくるだろう。まるで、我が子を愛でるが如くそれはもうベタベタと。そうなると凄く面倒なので、反応せずにされるがままが安定するのだ。

 

「んー、癒されるなぁ」

「準備が完了した。管制室に向かいますよ、ヘレスさん」

 

 最後の道具を突っ込み、鞄をキツく閉じた。それを肩に背負って立ち上がると、シエルがいきなり立ち上がった事でバランスを崩した彼女を見下ろしながら、そう言い放った。答えを待たずに入り口へと歩き出し、部屋から出ようとした瞬間──

 

「あーん、待ってよー。渡すものがあるんだーいっ」

「ぅぐっ、こほっこほっ……渡す、もの?」

 

 ──勢いよく首根っこを掴まれて、後ろに引っ張られた。シャツが喉に食い込んだ所為で、軽く咳き込みながらシエルは尋ねる。すると、ロイドは懐から小さな錠剤(・・・・・)を取り出した。その錠剤は赤、青で別れており、カプセル形態のものだ。それが合計四つ、赤二つに青二つ、とそれぞれ頑丈そうな透明のケースに入っている。

 

「これは? 何かの薬みたいですが……」

「うん。君のために調合した特別な薬さ、効果は再生(・・)。負傷した体、内臓器官や神経、骨などを瞬時に再生させるってやつさ。ふふん、凄いだろう?」

「確かに、それは……」

 

 凄い。凄過ぎる、と言えた。回復はまだ分かるが、再生とは……しかし、毎度傷だらけになる自分には持ってこいの効果の薬だった。念の為鞄に治癒魔術が刻まれたスクロールや回復薬を入れていたが、それが要らなくなる勢いだ。

 錠剤を持つロイドの手に手を伸ばし──避けられた。眉を顰め、自分の為に作ったものなのでは? と首を傾げる。

 

「これを使う上で、必ず約束して欲しい事があるんだ。聞いてくれるかい?」

「勿論」

「よろしい。えっと、ね……先ずだけど、これを使用する際は最初に赤、次に青の錠剤を含んでくれ。逆じゃダメだし、同時に呑むのも禁止だ。分かったかい?」

「はい」

「ん、後はだねぇ……使い所をちゃんと見極めるように。もう、どうしようもない! このままでは死ぬっ! って時じゃなきゃ使用は禁止だ。過剰な回復、再生はむしろ身体を壊すからね」

「はい、了解です」

「最後に……本当はこの薬を君に作りたくなかったし、渡したくは無かったんだ。如何してか分かるかい?」

「……カルデアの備蓄が減るから、勿体ない、とかですか?」

「それもあるけど、一番は違う」

「それは、一体──」

 

 ──と、そこでロイドは顔を盛大に顰めて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この薬を使う度、君の命は削れていく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが代償だ、と唇を噛んだ。そしてロイドの言葉を聞いて、シエルは一瞬眉を顰めるが──その程度か、と呟いた。

 

「問題ありません。その程度で済むなら、俺は構わず使用します」

「ん、そっか……分かった。覚悟はしてるようだし、君に渡すよ。だけど、あまり使わないでね?」

「ええ、なるべくそこまで追い詰められないようにします。俺もそんな無様にやられる訳にはいきませんから」

「うん。よしよし、なら安心だっ! じゃあ管制室に向かおうか! ほらほら、遅れてしまうぜ?」

「はぁ、元々貴女が来たから遅れたのでは……」

「何のことかな! さあ、行こう! 新たな特異点が待っているぞぅ!」

「っ、引っ張らないでください。自分で歩けまっ──!」

「まあまあ、良いではないか良いではないかぁ〜」

「ぐっ、ぅおおお!?」

 

 ずるずる、ずるずると引き摺られていくシエル。何でこんなに力強いんだ、この人!? と困惑しながら、二人は管制室へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 

 

 管制室。

 爆破の影響で悲惨な有様だったが、ここ数日の間でかなり修復が進んでいた。壊れた機材は元に戻り、転がっていた瓦礫や亡骸も見当たらない。──カルデアの一般職員、魔術師である職員が共に協力して奮闘した結果である。

 勿論、レイシフトする為のコフィンも修復が完了しており、起動の時を今か今かと待ち望んでいる。だが、もしもの時を想定して現在も不備が無いかのチェックを職員数人で取り掛かっていた。

 その様子を見ながら、シエルは刀を研いで精神を集中させる。これより始まるのは世界を救う旅路の最初の難関──気は抜けない。全力で駆け抜けて、必ず勝利を掴んでみせる。

 

 ──と、そんなシエルの元に歩み寄る男性が一人。

 

 彼はシエルの肩を後ろから叩いて「よう」と、快活な笑みを浮かべて話しかけた。青い装束に身を包んだ槍兵、ランサーのクー・フーリンである。立香に召喚された彼はどうやら冬木の記憶があるらしく、最初からかなり友好的だ。ここ数日はシエルと模擬戦をよくしており、良き指導者となっている。

 

「ランサーか、俺の所に来て藤丸達は大丈夫なのか?」

「おう、問題ねぇよ。マスター達は準備中でよ、暇だからこっちに来た。お前さんと話しとこうと思ってな」

「そうか」

「おう、そういうこった」

 

 そう言って、クー・フーリンはシエルの隣に座り込む。そして、シエルが持つ刀に目を向けて、疑問を口にした。

 

「お前さんが持ってるこの刀……一体何なんだ?」

「何、とは?」

「見たことねぇ金属が使われてるし、柄近くには妙な気配を放つ結晶が埋め込まれてるし──冬木から気になってたんだよ、そいつ」

「ふむ……何と言ったらいいか……」

「なんだ、坊主も理解してねぇのか?」

「いや、そういう訳じゃ無いんだが……いかんせん特殊な物だからな、説明が難しい」

「んなもん、簡単でいいぜ、簡単で。坊主が分かる範囲で問題無い」

「そうか、なら──」

 

 刀の全体を指差して、シエルは「これはアダマンタイトだ」と言い、クー・フーリンは「アダマンタイト?」と首を傾げる。

 

「アダマンタイト、星辰奏者専用特殊合金──らしい。これを使うことで、俺は真の能力行使が可能になる。簡単に言えば、魔術を使う際に必要な触媒だな」

「待て待て、そのアダマンタイトってのは分かったが。先ず星辰奏者ってなんだ? 聞いたことねぇぞ、そんな言葉。それが坊主の身体能力、回復力、後は妙な力に関係あるのか?」

「……そうか、そこの説明もしなければいけないのか。忘れていた」

「おい、坊主」

「そうだな、俺の身体能力やその他諸々に関係している。星辰奏者と言うのは、特殊な強化措置──体を手術して、成功した者の事を言うんだ。高い確率で死亡するが、適正すれば超人的な力を得る事が可能になる」

「人体改造……それがあの力を……はぁ、人間の技術ってのは凄いもんだなぁ」

「びっくり人間代表が何を言ってるんだ」

「ひでぇっ! んで、その強化措置ってのは誰にでも受けられるのか?」

「……受けられるが、ヘレスさんはやらないな」

「あ? あの変な姉ちゃんが?」

「あの人が作り上げた技術だからな。強化措置も、アダマンタイトの武器作成も、セイファートの作成もヘレスさんしか出来ないんだ」

「はぁ……マジかよ。人は見かけによらねぇな、って今聞きなれない単語が聞こえたが、セイファートってなんだ?」

「星辰光、つまり俺が扱う能力を底上げする道具だ。刀に埋め込まれている結晶がソレだよ」

「ほーん、こいつがねぇ」

 

 ツンツンと青い結晶を突いていると、後ろから立香達の声が聞こえてきた。どうやら準備が完了したらしい。立香が「おーい」と呼びかけている。シエルは刀を鞘に納めて立ち上がり、クー・フーリンと共に彼女達の元へ向かうと、立香とマシュは既にコフィンの前で待機していた。見るとどちらも武装しており、立香は腰に一本の短剣を差して、カルデア礼装を着用している。マシュも盾は出していないが、デミ・サーヴァント状態になっていた。

 

「藤丸、その短剣……」

「うん。ロイドさんに貰ったんだ、護身用に持っていきなさいって」

 

 立香の腰に吊られた鞘に入っている短剣、その柄に見慣れた結晶が付いているのを見つけて、不思議に思って尋ねるとその言葉が返ってきた。

 

「そうか、怪我はするなよ」

「……う、うん。ありがとっ」

「ああ」

「……」

「……」

 

 変な空気になったが、そこで丁度ロマンがやって来た。手にはタブレットを持ち、耳にはインカムを装着している。顔は緊張で強張っているが、イレギュラーな冬木を除けば初めてのレイシフト、初めての特異点攻略だ。彼がそうなるのも無理はない。

 

「さて、集まってくれてありがとう。もう一度、目的の確認をするけど、いいかな?」

「はい、大丈夫ですドクター」

「私も平気です」

「俺も問題ねぇよ、優男」

「同じく、問題は無い」

 

 それぞれの返答を聞いて頷く。

 

「うん。よし、じゃあ確認だ──我々の目的は特異点の探索及び修正。そして、何処に存在する聖杯の奪取若しくは破壊。簡単に言ってしまうとこの二つだ。しかし、コレが難しい。沢山の困難があるだろうし、想定内になる事の方が少ないだろう。それでも、君たちは世界の為に戦えるかい?」

 

 ロマンの問いかけ、それに最近に答えたのはシエル。刀の柄を握り、眼光鋭くカルデアスを見ながら雄々しく吠えた。

 

「愚問だな。必ず救ってみせよう──未来を取り戻し、勝利をこの手に掴んでみせる」

 

 恐怖を押し込み、これが正しいことだから──と短剣を強く握りしめて立香は心を奮わせる。

 

「立ち向かわなきゃ、ダメだから……! 私も、頑張ります…ッ!」

 

 マシュは大切な人達を守る為、焼却された世界を取り戻す為に怯えて竦む体を勇気で押さえつけ、前を見据えた。

 

「皆さんと共に、私も──ッ!」

 

 クー・フーリンは英雄の卵を見届ける為、コイツらの道を阻む敵に呪いの朱槍を存分に奮おうと獰猛に笑った。

 

「こいつらの行く末、見届けさせてもらうぜ」

 

 自分より子供の彼らがこんなにも頑張っているんだ、自分が怖がって立ち止まり訳にはいかない。全力で彼らのサポートをして、必ずこの場所に帰還させよう。──ロマンはそう覚悟を決めて、改めて告げる。旅の始まりを、未来を取り戻す戦いの号砲を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより、第一特異点へとレイシフトを行う! 総員、持ち場に戻り、彼らを全力でサポートするぞ! さあ、共に未来を取り戻そうっ!」

 

 

 

 ──第一特異点、どうしようもなく腐った毒に侵された、神亡き土地で、これより始まる遥かな旅路の幕が上がった。

 

 

 




まだ出来に納得してないけれど、まあいいでしょう……本当に書きたいのはもっと先のシーンなのさ。そこまでが長い…ッ!

今回、星辰奏者やその他諸々のお話しましたが、間違っていたらすみません。一応、wikiとか公式見たんだけどね……設定が難しいよ。

さて、オルレアンが始まります。大体は原作沿いですが……。
オルレアン編のテーマは「狂信」「冒涜的」「悲惨」「叛逆」「悍ましい星」などなど他にも沢山あります。
このワードの数々からかなりアレな事が分かるだろう……。あと、冒頭で出てきた狩人の元ネタ分かる人はわかるかな?

それじゃあ、また次回もよろしく! まだ書けてないから、しばらく待っていてくれ。感想、アドバイスなども歓迎するぜ!


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神へ捧げよ、汝らの血肉──楽園(エデン)の創世を此処に《2》

やあ、いろはすだ。
今回からエグい描写、残酷かつ悲惨なシーンが相次いで書かれるので、苦手な方は注意してくれ。

じゃあ、オルレアン編第2話です。


 ──悲鳴が聞こえる。

 

 村の人々が狂ったように殺し合い、老若男女問わず血を撒き散らして死んでいく。神に命を捧げよ、魂を売り渡せと彼らを支配する狂気が目で見えるようだ。

 

 父親が娘を犯し、首を絞めて殺していた。

 犯されている娘が、父親の腹を裂いて臓物を浴びて笑っていた。

 

 母親が膨らんだ腹を掻き分けるように抉り、血走った目で赤子を取り出して、供物を捧げるように天に翳していた。

 

 近所の子供が自分の両親の目玉を抉り抜いて、それを飴玉のように舐めている。そして、暴れ回っている馬に潰されて柘榴になって大地に花を咲かせていた。

 

 ──狂った笑い声が聞こえる。

 

 我が家の中から、悦に浸った(家族)の声が聞こえていた。震える手で戸をゆっくりと開き、中を覗くと──嗚呼、やめてくれ、冗談だろう? 嘘だ、嘘だ、何かの間違いだと言ってくれ。

 

 涙を流す両目に映ったのは、互いに殺し合い、交わって嬌声を上げる家族の姿。ぶっきらぼうだけど頼もしかった父が、()を犯して息を荒げ、その()は自分の母の頭を割って脳を啜っている。小さかった(息子)はバラバラに刻まれて、焚き火の中で呆然とする此方を見詰めていた。

 

 それが、まるで「おまえのせいだ」と言われているようで、私は、私は──嗚呼、嗚呼、神よ……ッ!

 

 発狂しそうになる頭を抱えて、一歩後ろに下がると──元凶(神父)爽やかな(悍ましい)笑みを浮かべていた。吐き気を催して、殺意が芽生えて、頭が痛くなって、嗚呼……気持ち悪いッ。

 

 ──私の血を受け入れたまえよ。

 

 手が近づいてくる。いやだ、くるな、やめろ──誰か助けて。

 

 そう叫んでも、ご都合の良い展開は起こり得ない。これは、残酷な現実だから。白馬の王子さまなんか──手を差し伸べてはくれないのだ。頭に触れられ、私の中に何かが侵入する……意識はそこで途切れてしまい、私が最後に見たのは神父が私の家族を貪る(殺している)光景だった。

 

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 

「……無事にレイシフト出来たようだな」

 

 特異点へと転移した彼は呟きながら、辺りに異常が無いかを警戒する。周囲には自分達以外の人影は見えず、敵性体は現状いないようだ。目を凝らすと、遠くには森林地帯が広がっているのが確認出来た。シエルの傍には小川が流れており、水を飲みに来た野生動物が集まっている。何処を眺めても異常は見えない、平和で長閑な風景だ。

 

 立香は何処か拍子抜けする光景に目を丸くして、小さく息を吐く。いきなり戦場のど真ん中とか、化け物の巣の奥底に転移されなくて良かった。そんな事態になったら、きっと冷静にはなれないだろうから。

 

「なんか、平和だね……」

「はい。大変長閑な風景です。あ、先輩肩に何か……って、フォウさん!? 付いて来たんですか!?」

「ん? あ、なんか肩重いなぁと思ったらフォウさんだったか。付いて来たんだ? 大丈夫?」

「フォウ!!」

「そっか…なら頼りにしてるねっ」

「こ、言葉が分かるんですか先輩!」

「うん。何となくだけどねー、昔から得意なんだ。私の特技だよ、なんてこと無いものだけどね」

「いえ、そんなことはありませんっ! ぜ、ぜひ私にもご教授をお願いしますっ!」

「ははは、落ち着いた時間があったらね」

「はい!」

「フォウ!」

 

 と、和やかに会話をしている二人と一匹を眺めてニヤニヤしながらクー・フーリンはシエルに話しかける。お前さんも混ざったらいいんじゃないか? といやらしい笑みを浮かべて。しかし、それが聞こえていないのか、彼は睨むように空を見上げていた。クー・フーリンがその目線を辿り、空を見上げると───

 

「これは……スゲェな」

 

 ───空を支配するが如く、膨大な熱量を含んだ光帯が其処に存在していた。立香やマシュもそれに気づいて、呆然と空を見上げる。この時代に、いやこの世界にあんな物が果たしてあったか? 明らかに異常だ。アレはあっていいものじゃない。

 

「キリエライト。ここは1431年で合っているか?」

「は、はい。確かに合っています。百年戦争真っ只中の時代ですね、今は休止状態ですが──このような光帯が存在していた、なんてどの文献にも記されていません」

「じゃ、じゃあアレはなんなの──?」

「この状況を引き起こした犯人の物だろうさ。マスターの生きてる時代にもあんな変なもんはねぇだろう?」

「う、うん。あんな光は見えないよ」

「……現状、アレを解決する手立てはない。この地の探査を優先しよう。先ずは霊脈地を目指そう。全ては其処からだ」

「そうですね……先輩、行きましょう」

「了解。気をつけて行こうか」

「斥候はどうする? 俺が行っとくか?」

「いや、固まって動くべきだ。下手に単独行動して、バラバラになるのは避けたい」

「はいよ、マスターもそれでいいか?」

「うん。私はまだそこら辺分からないし、任せるよ……ごめんね、マスターなのに指示出せなくて……」

「なぁに、気にすんな。少しずつやってきゃいいさ、今は勉強してな。耐えるのも立派な戦いだぜ、マスター」

「う、うん! ありがとう、ランサー!」

 

 フォローが上手いなこいつ、とクー・フーリンを見て思う。冬木でもシエル達を導くようにしていたが、所謂兄貴肌というやつなんだろう。そんなことを考えながら、いつでも刀を抜き放てるように手を柄に掛けて、シエルはデコボコとした道を歩き出した。それに続くように立香達も歩き出し、周囲を見回しながら進んでいく。

 

 ──しばらくの間歩いていると、立香が遠くから立ち昇る黒煙に気づいた。燃え盛る冬木の地で嫌になる程見た黒煙、人を焼いて、建物を焼いて、全てを灰燼にしてしまう火から出るもの……つまり火災である。

 

 横にいたシエルもそれに気づいた様で、眼光鋭く立ち昇る黒煙を見詰めていた。刀を抜き去るため手に力を入れ、強く大地を──蹴り上げようとした瞬間、空から巨大な何か(・・)が飛来した。

 

 その何かは黒く大きな体躯を持ち、体にビッシリと張り付く鱗は触っただけで斬れそうなほど鋭利だ。背中には全長四メートルは優に超える翼が生えており、二本の脚には獲物を引き裂く爪が血に染まっている。そして口から漏れ出る涎は血生臭く、恐ろしい牙がズラリと並んでいた。

 

 ──その存在の名は翼竜(ワイバーン)。1431年のフランス、いや地球には存在する筈の無い幻想種である。ソレが次々と空から降ってくる。数は合計で……六十余り。

 

『ふぅ、やっと通信が繋がっ──わ、ワイバーン!? な、なんで!? フランスだよねここ!? レイシフト失敗してないよね!?』

「ドクター、ちょっと煩いです」

『うぇぃ!? な、なんでぇ!?』

「ドクター、シャラップ!」

『り、立香ちゃん!?』

「はぁ……」

『た、ため息!?』

「……」

『何か言ってよシエルくんっ!?』

 

 危機的状況、そうなのだが……ドクターの通信によって一気に空気が緩んでいく。オルガマリーがかつて言った「貴方がいると、現場の空気が緩むのよ!」が理解できる。──だが、現状は変わらない。依然としてピンチである。

 

 ──しかし、この男はワイバーンの群れを見据えて、獰猛な笑みを浮かべて朱槍を回す。

 

「うっし、坊主。ちょっと俺に任せてくれよ」

「何?」

「召喚されてから霊基の強化(・・・・・)だとか、そんなんばっかで暇だったんだよ。模擬戦もやってたが……ありゃ、ちと違う。久々に暴れてぇんだよ、まあコイツらじゃ準備運動程度だがねぇ」

「……仕方ない、俺は了承しよう。だが、最後の決定権は藤丸だ。どうする?」

 

 突然の問いかけ、それに動揺するが──立香はクー・フーリンの目を真っ向から見つめて力強く言い放つ。力を見せろ、敵を討てと。

 

「やっちゃえ! ランサー!」

「おう! 任せなァ!!」

 

 ──疾走。朱槍を携え、猛犬がワイバーンの群れへと突撃した。

 

 ワイバーンの群れの中へと突入して、すれ違いざまに五、六体を貫いてそのまま回転──槍に貫かれていた死体を吹き飛ばし、空を滑空するワイバーンを墜落させる。牙を剥いて四方八方から突撃してくるが、槍を叩きつけて割れた地面を即席の盾にしてコレを防ぐ。そこで止まらず、空中に飛び上がり、槍を投擲……一気にワイバーン十数体を貫いた。

 戻ってくる槍を待つ間に、殺すチャンスだとワイバーンに襲い掛かられるが──

 

「洒落せぇ!」

 

 ──拳打、蹴り、投げ、と凡ゆる体術で次々と処理していく。まさに無双、これぞ英雄と呼べる光景が広がっていた。そうしてコイツはまずい、と勘付いたワイバーンはシエル達の元へ向かおうとするが…悉くその全てが叩き落とされてしまう。

 

「おいおい、その程度かワイバーンよぉ! テメェらも竜の端くれなら、体が欠損した程度で止まってんじゃねぇぞォ!!」

 

 ──それはおかしい。ワイバーンの意思が統一した。

 

「すぅ──飽きた、こいつでしめぇだ……砕けろ有象無象ッ!!」

 

 帰ってきた朱槍を天高く構え、その真名を解放する──!

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)ッッ!!」

 

 空に舞い上がった朱槍は幾重にも枝分かれして、ワイバーンの群れを貫き穿ち鏖殺していく。血が雨のように降り、ワイバーンの亡骸が次々と墜落していく。漸く終わった頃には、生きたワイバーンは一匹も空に羽ばたいていなかった。

 

 クー・フーリンは「骨がねぇなぁ……」とボヤきながらシエル達の元へと戻ってきて、「よし、行こうぜ!」と次の獲物を見つけたい! と言わんばかりに黒煙を指差して言った。立香とロマンはそれに「『なんて、出鱈目……』」と絶句し、マシュは「凄いです!」と目を輝かせる。

 

 一方でシエルは──俺も負けられん、と刀を抜いて黙って歩き出していた。

 

「あ、ちょ、シエルくん! 単独行動はしちゃいけないんじゃなかったけ!?」

「あ、待ってください!」

「さて、次はもっと遣り甲斐のある奴を期待するかね」

『き、君たち! 慎重にね! 分かってるかい!?』

 

 その後に続き、立香達は走り出した。

 

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 

「嗚呼、我が神の為に──!!」

「それは聞き飽きた」

 

 長剣と短刀、左右それぞれに持った武器を自在に操り、鎌を持って突進してきた農夫をサイドステップで回避、すれ違いざまに短刀で首を斬り裂く。さらに横から首目掛けて突き出された槍を頭を逸らして紙一重で避け、長剣と短刀で槍を細切れにしながら懐に潜り込んで──長剣を心臓に突き刺した。即死を確認して、まだ周囲を取り囲む哀れな獣(狂信者)達に目を配らせる。

 

 ──嗚呼、何て残酷な……己を見失いただ神の為と全てを捧げ、悍ましい獣に堕ちるなど。とても、見てはいられない。

 

「だから、刈り取ろう。貴方達は私が裁く──どうか安らかに眠ってほしい」

 

 瀟洒な外套を翻し、帽子を深く被り直して長剣と短刀を構える。ああ、度し難い屑だな私は……そう自分を嗤いながら、彼女は白銀の髪を揺らして獣狩りを再開する。

 

 ──斬り裂き、貫き、心臓を抉り出す。踊るように彼女は血に狂信した獣を刈り取り続ける。老若男女問わず、赤子だってその手で斬殺した。その度に心が悲鳴を上げて軋み、かつて見た光景(許されない罪)が脳裏に過ぎって止まない。

 

 ああ、誰か助けてくれと。何度叫んだことか。

 冷たい牢獄の中、鎖に繋がれた哀れな娘。誰かが目の前で殺されていき、それをただ見ることしか出来ない無力な娘。所詮は私はその程度の矮小な存在だ。しかし、しかし、しかしッッ!!

 

「必ず、必ず殺すぞ狂信者ッッ!!」

 

 怒りのまま長剣を振るい、獣の数匹を両断。短刀で間接を斬り裂き、その場で飛び上がり膝で頭を挟んで、動けなくなった対象の首をへし折る。そのまま一回転して曲芸のような動きで獣を細切れに変えた。ああ、こんな化け物染みた動きも造作も無く出来てしまう──気持ち悪くてしょうがない。

 

 だが、あの狂信者を殺す為なら、辱められるならば──躊躇なくこの力を奮おう。その為に、私は存在しているのだから。

 

「◼️◼️」

「狩人……奴の猟犬か」

 

 気づいたら全ての獣を刈り取っていた。背後に現れた無数の気配に鼻をヒクつかせる。ああ、ああ、一際目立つな……一際獣臭い連中じゃないか。態々此処まで来るなんて、愁傷な事じゃあないか。

 

 

 

 

 

「───匂い立つなぁ、血に狂った獣の匂いだ」

 

 

 

 

 

 長剣と短刀を構える。もっと血を寄越せ、血が足りないんだ、ッグ、違う、いや、違うッ──私は獣ではない。獣を狩る狩人だ……殺すのでは無く、刈り取る者だ。ソレを忘れてはいけない。そうしなければ、奴らのような血狂いと化してしまうだろうから。奴の犬になるのは死んでもゴメンだ。

 

「◼️◼️◼️──ッッ!!」

「ああ、焦るな。私は逃げないよ、貴方達を刈り取らなければならないからね」

 

 三人の狩人が疾走。普通の人間では目に見えない速さで彼女に襲い掛かり、手に持つ血生臭い歪なノコギリ鉈を振り下ろす。ガイィンッッと金属音響かせて、変形。いきなりリーチが変わった武器に動揺──

 

「するわけないだろう。それは見飽きたよ……」

 

 ──などせず、冷静に三つの斬撃を潜り抜けて長剣と短刀を目にも留まらぬ速さで連続して振るう。三人の狩人を過ぎ去り、そのまま残りの狩人へ襲い掛かる。確認? する迄も無い。既に死んでいる(・・・・・・・)

 

 バラ、バラ、バラ……と体がブロック状に斬り刻まれ、地面に落ちていく。彼らはきっと、何をされたのか理解せずに死んでいっただろう。

 

「ほら、まだ終わってないぞ」

 

 古めかしい銃から放たれる鉛玉をステップで回避、体を霞ませるスピードで残党に辿り着き──ガイィィンッッ!! と甲高い音と共に長剣と短刀を変形、合体……それを縦横無尽に閃かせる。シュィン、と遅れて斬撃音がその場に響いて、彼女は変形させた武器を長剣と短刀に戻した。

 

 パシャン、と血が破裂して──雨が降る。瀟洒な外套は血を弾き、ポタポタと彼女の足元に血溜まりを作っていく。全ての戦闘が終了した事を確認して、長剣と短刀を鞘に納める。

 

「……嗚呼、気持ち悪い」

 

 血に濡れた道、それを見て自嘲する。やはり、私は──とそこで近く存在に気付いた。迫る剣に「まだか…」と呟いて、長剣と短刀を引き抜き、鋼を打ち合わせる。目をそちらに向け眉を顰めた。

 

 ──何だ、この少年……?

 

 何処不思議な気配を醸し出している。獣でも無いし、狩人でも無い、まして狂信者にはとても見えなかった。飾り気のない、黒い軍服を着た少年。妙な刀を持っているが、人のことは言えないだろう。考えを巡らせていると、信じられない事に──正気な声が聞こえてきた。

 

「応えろ。この惨状は貴様が起こしたものか」

「ぁ───」

 

 絶句。あり得ない。なんで、どうして、とあんなに冷静だった心に漣が現れる。この少年は、どうして……会話が出来るんだ?

 

「おい。黙っていないで、なんとか──ッッ!?」

「貴公、聞いてもいいか」

「尋ねているのは、此方なんだが」

「……貴公は、正気なのだろうか?」

「貴様、何を──?」

 

 シエルは眉を顰め、目の前に立つ長身の麗人を見詰める。此方を信じられない物を見るような目で見ており、長剣と短刀を握る手が僅かに震えているのが分かった。

 

「まだ、正気な者がいるなんて……」

「正気な者? おい、貴様何を言っている」

「ああ、すまない……人との会話は久しぶりでね。危害を加えるつもりはない、どうか剣を納めてはもらえないか?」

「──いいだろう。この状況を説明して貰えるならな」

「勿論。それと、そちらにいる者達も仲間なのかな?」

「気付いていたか……出てきていいぞ、藤丸、キリエライト、ランサー」

「──ランサー……?」

「どうかしたか」

「いや、何でもないよ。それにしても、正気を保つ人間がまだこんなにも……」

 

 シエルの元へ合流した立香達を見て、彼女は驚きを露わにする。今まで正気を保った人物は見たことない。だからこそ、珍しい存在に驚いたのだ。

 

「さて、説明を受けていいだろうか」

「ええ、勿論。けれど、無粋だな──獣が集まってきたようだ」

「何?」

 

 首を傾げ、獣とは何かと尋ねようとするが──自分達を囲む殺気に溢れた集団に眉を顰めた。何だこの悍ましい気配を放つ人間は……まるで考えなしの家畜のようだ。目は血走り、涎を垂れ流し、全身から血の匂いを漂わせている。

 

「申し訳無いけれど、話は獣達を狩ってからだ」

「そうか……コイツらは敵か」

「狂気に満ちたただの獣、何かを貪ることしか考えていない哀れな者たちさ」

「──ならば、俺も斬ろう。その姿、見るに堪えない」

「……一応、人の形をしているが?」

「問題ない。斬り裂こう」

「分かった。では、半分お願いしてもよろしいか?」

「ああ──藤丸、マシュ。君たちは下がっていろ。狂った者と言えど、人間の形をしたものだ。まだ、荷が重いだろう」

「し、シエルくんっ、でも!」

「シエルさん、私は──」

「ランサー、頼むぞ」

「はいよ、油断すんなよ?」

「当たり前だ。油断などしない──全てを斬り裂こう」

 

 雷霆を刀に集束して付与、身体能力を向上させ──シエルは獣の群れへと斬り込んだ。

 

 

 

 

 

 




狩人の元ネタ分かる人いて嬉しいです。
まあ、本物では無いのですが──かなり参考にしました。

最後の戦闘シーンはカット。あまり長くなってもね。

因みに、登場した名もなき麗人。彼女の容姿はマリア様をイメージしてくださると分かりやすいかと。わからない方はブラボ、マリア様で検索すれば出てくるでしょう。

では、また次回。感想、アドバイスなどお待ちしています。


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神へ捧げよ、汝らの血肉──楽園(エデン)の創世を此処に《3》

やあ。いろはすだ。久しぶりだね、うん。

全話執筆後に更新するつもりだったけれど、中々終わらないので──とりあえず一話だけ更新します。次回は未定かな。

………今週のイベント、頑張ってあの子を引き当てなければ。俺は既に、石の準備は出来ている。さあ、武蔵ちゃんの二の舞にはならない事を祈るぞ(十数万が水の泡)


 草花が生い茂り鬱蒼とした森の深く、木々に囲まれてその小屋は建っていた。その小屋の周囲には白い花が広範囲に咲き誇っており、その中心には──手造りだろう──名前は彫られていないが、石で出来た墓が三つ並んでいた。それを横目で見ながら、シエル達は麗人の背に着いて行く。そして石で出来た簡素な階段を登り、何処か気品を感じさせる古びたドアを両手で開け放った。

 

「「わぁ……」」

「へぇ……」

 

 その部屋を目にして立香とマシュは目を見開いて「すごい」と右往左往とさせ、傍に立っているクー・フーリンは部屋の至る所に存在している仕掛けに感心の声を漏らした。──まるで、狩人の巣のようだ、と。

 

 一方、シエルは関心を持たずに麗人の警戒をし続けていた。刀の柄に手を添えて、いつ襲われても抜刀出来る態勢にある。その対照的な面々の様子に麗人は苦笑し、それぞれに座るように促した。それに従い、暖かい火が燃える暖炉の前、そこにある木製の椅子に立香とマシュ、クー・フーリンは座る。と、座る様子のないシエルに麗人は銀色の目を向けた。

 

「君はいいのかい?」

「ああ、立ったままでいいさ」

 

 そうか分かった、と苦笑しつつ麗人は頷き「お茶を用意するから、少し待っていてほしい」と部屋の奥に消えていった。フワリと揺れる銀の束を観ながら、シエルは部屋を見渡す。入室する際に確認はしたが、もしもがあったらマズイ。念には念を入れなければ駄目だろう。

 

 天井から吊り下げられている楼台、そこに灯る複数の蝋燭に灯る火は入室と同時に点灯されていた。さらに、普通より大きい蝋燭と言えど、この室内全体を明るく照らすのは不可能だ。蝋が熱で溶ける様子もなし、恐らく特殊なものだろう。暖炉の火も同様だ。

 

 壁に立てかけられている絵画、其れ等からも妙な気配を感じていた。監視されているような、興味を持たれているような視線がシエル達に刺さっている。今のところ危害を加える気は無いようだが、もし戦闘になれば分からない。警戒していた方がいいだろう。

 

 まだ沢山違和感、気配はするが──一際目立ったものを感じて止まないのが麗人が入っていった部屋の奥である。悍ましい迄の血の匂い、染み付いた狂気を感じる。それと、それを凌駕する憎悪もだ。必ず殺す、挽きずり墜とす、凌辱してやるという念が此れでもかと溢れていた。

 

 やはり、危険か。そう判断して、刀を握る手の力を強めていると。

 

「フォウ」

「っ、おい。何をするんだ……ッ!?」

「フォウ、フォウッ!」

「グッ、ッ」

 

 シエルの頭の上で寝ていたフォウが唐突に彼の顔面を尻尾で叩きだした。それも一回ではなく、連続で力強く一切の手加減も無く。たまらず刀から手を離して、フォウを右手で掴み取った。そして、何のつもりだ謎動物? と目を細める。

 

「フォウ! フォ、フォウ!」

「……あの人間は、悪ではない。だって、シエルくん」

「……藤丸?」

 

 何かを訴えかけるフォウに首を傾げていると、立香が横からフォウを奪い取って、その腕の中に抱えた。シエルは立香から告げられた言葉に目を丸める。あ、この表情はレアだ、と呟く立香。

 

「キミは、フォウの言葉が分かるのか?」

「何となく、ニュアンスぐらいだけどね。シエルくんが怖い顔してるから、フォウが落ち着けってやったんだと思うよ」

「怖い顔……藤丸から見てもそう思うか?」

「うん」

「そ、うか……すまない、少し気を張りすぎたかもしれないな」

 

 力む体から力を抜き、深呼吸。立香とフォウに「ありがとう」と礼を述べて、壁に背を預けた。先ほどのようにピリピリとした雰囲気は感じず、穏やかな雰囲気が感じられた。立香はその様子に笑みを浮かべるとフォウを連れて椅子に戻っていく。去り際にフォウは「フォ……」と子供を見るような目でシエルに対してため息を吐いていた。それを見てこめかみがピクリと動くも、まあ今回は……と気持ちを鎮める。

 

 ──そんなこんなで騒がしくしていると、漸く麗人が戻ってきた。手にはトレイを持ち、その上に人数分の紅茶が湯気を立てて置かれていた。

 

 トレイをテーブルに下ろし、紅茶をそれぞれに手渡していく。毒物等は混入してないようで、通信機越しにロマンが『大丈夫、毒は入ってないよ……いいなぁ、紅茶』と呟いていた。そして最後にシエルが紅茶を受け取り、麗人が立香達の対面にある椅子に座る。

 

「その紅茶の茶葉は私が作ったものなんだが……口に合わなかったら申し訳ない」

 

 手に持つ紅茶を見ながら苦笑する。その言葉に立香やマシュは「自分で作ったんですか!」と目を輝かせ、クー・フーリンは珍しそうに紅茶を眺めている。彼の時代には無かったのだろうか。

 

「ああ、元々農家をやっていてね。知り合いに茶葉を作る人がいたから教えて貰ったんだ。まあ、付け焼き刃だけどね」

「いえ、そんな! すっごい美味しいです! ね、マシュ!」

「はい、暖かい気持ちになります……あ、先輩っ、フォウさんが!」

「フ、フォウッ!?」

「フォウくん!? だ、ダメだよ!? 火傷しちゃうから!」

「猫舌かよ……って、猫なのか、そいつ?」

「俺に聞くな。まあ、少なくとも、猫ではないだろ」

 

 ──しかし、美味いな。シエルは少し量が減った紅茶を見て、純粋にそう思った。マシュが言った通り、何処か安心して暖かい気持ちになる味だ。……最も、自分に味の品評などできないが、とシエルは内心で苦笑する。

 

 そんな騒がしくも楽しげな彼らの姿を見て、麗人は己の家族、村の人々を思い出して涙が出そうになる──が既に枯れてしまった目から雫が流れる事はない。胸に走る過去の思い出(痛み)に耐えながら、今は小さな笑みを浮かべる。

 

「ふふ、仲が良いんだね。いいことだ……大切にするといい」

「は、はいっ」

 

 立香はその微笑みに顔を赤く染める。今まではっきりと見ていなかったが、顔を隠すマスクと帽子が外されており、その美しい素顔が晒されていた。白磁の肌、銀色の髪、銀色の瞳、怜悧な目は冷たい印象ではなく知的且つ気品溢れる雰囲気を感じるものだ。

 

「ん? どうしたのかな……? やはり、口に合わなかったかな?」

「あ、あっ、そんなことないです! はい! ただ、その、き、綺麗な髪だなーっと思いまして!」

「綺麗な髪、か……」

 

 そうやって立香が銀色の髪を褒めると、何故か顔色を曇らせる麗人。何か不味い事を言ったのか!? と慌てるが、麗人は「ああ、大丈夫。気にしないでくれ」と立香を落ち着かせた。マシュはその隣で立香に「せ、先輩、落ち着いてください」と立ち上がりかけていた彼女を座らせていた。クー・フーリンは紅茶を飲んで「おお」と目を見開いていおり、シエルはというと、そろそろ本題に入ってくれないか? と麗人に対して目を向けている。その視線の訴えを受けて、麗人は紅茶を一飲み、喉を潤してから口を開いた。

 

「ふぅ、さて──そろそろ、本題に入ろうか。ああ、その前に、自己紹介がまだだったね……私はアリア、只の狩人アリアだ。短い間かもしれないが、よろしく頼むよ」

「私は藤丸立香です! よろしくお願いします、アリアさん!」

「先輩のデミ・サーヴァント、マシュ・キリエライトです。よろしくお願いしますね、アリアさん」

「ええ、よろしく二人とも。立香さんにマシュさん、と呼んでいいだろうか?」

「「もちろん!!」」

「ありがとう。それで、そちらの二人は?」

 

 チラリと流し目を送り、男組二人の名前を尋ねる。クー・フーリンは飲みきった紅茶のカップを机に置いて、自らの名前を明かした。

 

「ランサー、クー・フーリン。まあ、よろしく頼むぜ、美人さん」

「クー・フーリン……ランサー……やっぱり、貴公は──」

「あん? どうした?」

「いや、何でもないよ──と、あとは少年だけだね。君の名は何という?」

 

 ──銀の瞳と赤い瞳が交わる。互いの視線に敵意はもう無く、警戒の色も無かった。しかし、何処か見覚えのある気配が互いに感じられる。まるで、同類(・・)のような。

 

 シエルは静かに口を開き、名を告げた。

 

「シエル。シエル・エンプティだ……よろしく、アリアさん」

「ああ、よろしくシエル。さん、は付けなくていいよ、その方が君も楽だろう?」

「……そうだな、その方が助かる。では、改めてよろしく」

 

 

 ──アリア。

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

「では、自己紹介も済んだ。改めて、本題に入ろうか」

 

 紅茶のカップを置き、麗人──アリアはシエル達に向き直る。その言葉に緩んでいた雰囲気が霧散して、緊張感が広がっていく。同時に、このフランスで体験した異常事態が脳裏に思い起こされた。この土地、時代、星にはいる筈の無い幻想種存在。さらに、理性を無くして狂気に染まった住民達に……異様な武器を持ち、血に塗れた装束を着込んだ集団。

 

 ──そして長剣と短刀の二つを巧みに操り、それらを惨殺する狩人アリア。

 

 惨たらしく惨殺された現場を思い出して、立香は吐き気が込み上げてくる。アリアのことは怖くない……出会った当初は恐ろしい気持ちもあったが、彼女は正気を保った人間だった。自らの拠点にシエル達を招き入れ、笑みを浮かべて紅茶をご馳走してくれる人間が悪辣とはとても思えないのだ。

 

 ──だからこそ、あのような状況になった原因が知りたい。知らなければいけない、と立香は手を力強く握る。

 

 シエルはその様子を見て感心しながら、挙手をしてアリアに尋ねる。幻想種が現れた原因、住民達が理性を失い獣の様になった原因、あの異様な集団はなんなのか、そしてこの特異点で戦うべき()は誰なのかと。

 

 その問いを全て聞き入れ、アリアはゆっくりと語り出す。この地に染み込み、今も侵食を続ける毒について。

 

「先ず最初に、君たちが言う幻想種──あの怪物が現れたのは、つい最近だ。竜の魔女、復活した聖女ジャンヌ・ダルクがオルレアンに現れたと同時に発生し、その脅威を今も拡大させているよ」

「竜の魔女、聖女? 待ってくれ、ジャンヌ・ダルクと言ったな。彼女は死んだ筈──まさか、英霊……? しかし、召喚されたとして彼の聖女がこんな事をするのか……?」

「まあ、英霊だって人間だ。してもおかしくないんじゃねぇか? 生前に起きた事含めて、恨みぐらいあんだろ?」

「そうだな……」

 

 クー・フーリンの言葉に頷き、確かに聖女にした彼らの所業を考えれば、恨みの一つや二つぐらい持ってもおかしくはないだろう。しかし、どうにも納得出来なかった。──憧れている英雄、その一人だからだろうか……つい過剰に反応してしまう。

 

「うーん、偽物とか? ほら、敵が用意したさ。そんな事無いかな?」

「偽物……英霊の力を持った偽物ですか。あり得る可能性もありますね、流石です先輩!」

「えへへ……」

 

 立香の頬が緩み、赤く染まる。シエルは立香が言った偽物、という言葉に反応して考え込んでいた。確かに敵が用意した偽物の可能性もある。聖杯を持っている可能性もあるんだ、それが出来ても不思議ではないだろう。それだけ、聖杯というのは出鱈目な物なのだから。

 

「……実際にこの目で見ない限り、正確な判断は下せないか」

 

 そう呟いて、一旦ジャンヌ・ダルクの件については傍に置いておく。どの道、何処かでぶつかり合うだろう。その時にこの目で確認し、悪であれば斬り裂けばいい。──そう結論を出して、シエルはアリアの話を途中で止めた事を謝り、その続きを促した。

 

「次は……そうだな、あの住民達について話そうか。そうすれば自ずと猟犬達の説明も出来る」

「猟犬……?」

「そう、猟犬さ。忌々しく、悍ましい狂信者(光の奴隷)のね……。この世界を楽園に変え、闇を全て滅ぼす事を目的として、その実現の為に手段は選ばず、無辜の民ですら磨り潰す塵屑だよ、あの神父は」

 

 アリアは眦を吊り上げ、憎悪で目を染めながら吐き捨てる。力強く噛んだ唇からは血が流れ、手に持っていた紅茶の中へと滴り落ちた。その様子を見て、シエル達も彼女の境遇を察した。おそらく、いや確実に被害者の一人なんだろう。そうでも無ければ、このように強い憎しみの感情は露わにならないから。

 

「──申し訳ない。少し、気が昂まったようだ……続きを話そう」

 

 ふぅ、と昂まった意気を吐き出し、アリアは再び口を開く。しかし、まだ完全には落ち着いていないのか、目は憎悪で染まったままだ。

 

「狂信者──神父が現れたのは今から一ヶ月前になる。私も正確には把握してはいないが、その辺りからおかしくなりだした(・・・・・・・・・)から、そこまで間違ってはいないだろう」

「おかしくなりだした……?」

 

 立香の疑問に「ああ」と頷き、小屋の外を指差して目を細める。

 

「先ほども見たように、正気を失った人間が段々と増えていったんだよ。そして、それと同時にあの黒尽くめの猟犬もね──地獄だったよ、まさにあの光景は」

 

 かつての光景を思い出して、ギリッギリと歯を鳴らして噛み締める。それほどまでに悍ましく、狂気に満ちたものだった。狂笑を叫びながら互いに殺し合い、貪り合い、犯し合う。そこに性別、年齢の差なんて有りはせず、一つとして例外は無い。

 

「……私のように、辛うじて狂気に染まらなかった者達も居たけれど、それも猟犬共が根刮ぎ刈り取ってしまった。だから、君たちを見た時は嬉しかったよ……まだ、正気な人間がいる事にね」

「アリアさん……」

「ん、ああ、立香さん気にしないでくれよ。ふふ、すまない。少ししんみりとしてしまったね──さて、シエルくん」

「ああ」

「雑な説明になったけれど、これで十分かな?」

「問題ない。この地の状況は把握出来た──俺が戦うべき敵も定まってきたよ」

 

 ──復活した聖女、竜の魔女と呼ばれるジャンヌ・ダルク。そして、狂気に染まった人間達に、それらを狩る猟犬共。さらに、その猟犬を飼い慣らす狂信者、神父と呼ばれる男。

 

 

 

「──眼前に塞がる、この地全ての悪を斬り裂こう」

 

 

 

 ──それが、時代を救うことにも繋がるだろう。

 

 シエルは定まった未だ見ぬ()に対して意志を高めながら、刀の柄を強く握りしめた。

 

 

 




簡単な説明会でしたね、はい。
一応、次回で動き出す感じの展開にしてあります。みんな大好き教授も出てくる予定だぞい!やったね!

続きはしばらく待っていてください。頑張って執筆してますので。


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神へ捧げよ、汝らの血肉──楽園(エデン)の創世を此処に《4》

お久しぶりです。

書き溜めが一向にたまらん………ので、もうその場その場で書き終わったら投稿していこうかな、と(諦め)

それでは、オルレアン編第四話です。後々修正入るかもなんで、よろしくゥー!

沖田ちゃんかわいい……犠牲になったものも惜しく無いね(白目)
以蔵さんもしゅき……主人公と斬り合わせたい……
夏イベ……新夏イベは八月ぐらいからか………何が来るか分からないからとても怖いです。

長くなってゴメンネ!


「──ふむ、星詠みの者達はどうやら彼女と合流したようだ」

 

 狂信者──神父、ケルヴィン・レイズデッドは敬虔な信者の首を跳ね飛ばしながら、顎に手を添えて薄い笑みを浮かべる。長剣と短刀を巧みに操り、白銀の軌跡を描く血の狩人……そして、それと対峙する星詠みの一人である白髪の少年。己が手下である狩人、猟犬と視界を共有(リンク)した彼は遠く離れた場所で起きた出来事を正確に把握していた。

 

 ──この地で、彼の目から逃れるのは困難を極める。唯一、逃れる事が出来るのはそれ相応の力量がある者か、隠密に特化した輩ぐらいだ。そして、この地でそれらに見合う人間は少ない……ほぼいないと考えていいだろう。

 

 故に、この地で彼は絶対的な支配能力を発揮する。無数の監視の目、猟犬の嗅覚、そして──大地に染み込んだ毒。それら全てを駆使する彼は、たった一人で軍隊を軽々と相手する事も可能だ。それほどまでに恐ろしく、悍ましい……どうしようもない狂気の力である。

 

「連鎖的に召喚される者も出てくるだろう……竜の魔女はそれと同時に動くはず。そろそろ、頃合いか──おや、何の用かな? 魔神殿」

 

 血の海に佇み、にこやかに微笑んで思考を続けるケルヴィン。彼は背後に感じた雇い主(・・・)の気配に和やかに、親しみを込めて声を掛けた。──それと同時に空間が歪曲、そこに緑の装束に身を包んだ男性……レフ・ライノールが現れた。

 レフは顕現する前兆を簡単に感じ取り、さらに親しみを込めた笑みを向けてくる薄気味悪い神父(ケルヴィン)に顔を盛大に顰めながら、尊大な態度を崩さぬままオルレアンの大地に足をつける。

 

「──かなり好き勝手やっているようだな、血の奏者(レイズデッド)。我等の指示は全て無視か?」

「ええ」

 

 ──即答。

 

 レフの言う通り、ケルヴィンは出される指示に従った事が最初の「特異点に赴け」しかない。それ以外の指示にはある程度しか耳を貸さず、そしてそれら全てを流して無視している。レフはなんでもないように即答したケルヴィンに青筋を立て、鋭く睨みつけた。

 

「貴様、どういうつもりだ。我等の指示が聞けぬ、そう言ったか」

「そうですとも。私達(・・)は確かに、貴方方に雇われた──けれどね、それにずっと従うわけではないんだよ。特異点には赴こう、人理を焼却させる手伝いもしよう……しかし、それだけだ。私達は各々の欲に従い、好きにやらせてもらう……それが私達だからね。それに、最初に言われた筈だろう? 彼らの制御は難しい、と彼女に」

 

 両手を広げて堂々と「指示は受けない」と言い、ケルヴィンはレフに笑みを向ける。

 

「──諦めてくれ。これは性分なんだよ、魔神殿」

「……全く、性能だけだな貴様らは。揃いも揃って、傍若無人とは──呆れを通り越して、失笑すら出んよ」

「ふむ、苦労掛けてすまないな。しかし、ある程度は従う者もいるだろう?」

「ああ、ある程度はな(・・・・・・)……しかし、それも多少は、と頭につくよ。──仕方がない、妥協してやる。貴様らは居るだけで人理に対して、カルデアに対してカウンターになる。精々、その力を利用させて貰おう」

「存分に利用してくれていいとも。こちらも、それ相応の働きはしようじゃないか──それが、契約(・・)だからね」

 

 そう言って微笑むケルヴィンを見て「やはり、薄気味悪い」と吐き捨て、レフ・ライノールは特異点から転移した。その姿を見届け、ケルヴィンは「さて」と口の端を吊り上げながら呟いた。

 

「愉しくなってきた──」

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 小さな村で出会った狩人、銀の髪のアリアからこのオルレアンで起こっている事態について説明を受けたシエル一行。彼らは一先ず、竜の魔女が居座るという首都に向けて歩みを進めていた。しかし、穏便な道中になる筈も無く──猟犬の集団、正気を失った人間達と激しい戦闘を繰り広げていた。

 

「──逃すか」

 

 刀がキラリと閃き、一刀の元猟犬の首を断つ。さらに、断たれた頭を鷲掴みにして──背後の農具を振りかぶる男性に向けて投擲、周囲にいた数人も諸共に巻き込むように投擲した頭を爆散させ、暴走寸前まで溜め込んだ雷霆をブチまけて黒こげにした。ここまでに掛けた時間はわずか数秒足らず、今も尚成長し続ける彼にとってはこんなものは造作も無い。

 

 これだけ出来れば上等だが、しかし彼は──。

 

「足りない。駄目だ、もっと疾く──もっと鋭く」

 

 ──さらに、さらにと貪欲に力を渇望する。その度に飛躍し、一瞬に振れる一刀が二刀に、前に進む一歩が二歩に変化していく。

 

「凄まじいな」

 

 彼らに同行を申し出て、限定的な共闘関係を結んだアリア。彼女は巧みに二刀を操り、敵を殲滅しながら驚きに目を見開いて呟いた。彼が戦う瞬間を見るのは二回目だが、最初に見た時よりも洗練された剣技、効率良く体を動かす能力、常に思考を重ねて動き続ける頭脳──それら全てが向上している。一体、どれだけの才があるのだろうか……馬鹿げてる成長速度だ。

 

 そして、もう一組。迫る槍を避け、細切れに変えながら視線を横にずらして前線で暴れまわる槍兵、盾を持つ少女、その二人を指揮する少女に目を向ける。

 

「ランサー! 後ろの弓兵を潰して! マシュは前線の維持! 敵を後ろに通さないようにお願い!」

「おう、任せなァ!!」

「了解です、先輩!」

 

 紅の槍を携え、一歩でトップギア──矢を番えて放とうとする弓兵の集団に数瞬で到達、槍を高速で振るい弓兵を細切れに変える。さらに、上空に旋回している翼竜を叩き落として、周囲の敵を巻き込んで潰した。

 一方で、盾の少女……マシュは迫り来る猟犬達の武器を受け流し、弾き返し、カウンターを時折叩き込むといった戦法を行なって前線の維持をしている。後ろに誰一人として通さない、といった覚悟が伝わってくる勢いだ。だが、未だ人を相手取るのに慣れていないのか被弾数も多く見られた。

 

「ッ、ガンドォ!!」

 

 そして、それをフォローするのが指揮する少女…立香だ。短剣を片手に持ち、礼装による補助を受けながら魔術を行使する。観察眼に優れているようで、まだ未熟な面はあるがしっかりとしたサポートが出来ている。

 

「……なるほど、これは」

 

 ──敵対する事にならなくてよかった。アリアは辺りに敵がいなくなってきた事を確認し、長剣と短刀の血を拭って鞘に納め、同様に戦闘が終了したシエルの下へと向かう。シエルは近づいてくる気配に眉をピクリと動かすも、見知った人間である事に気付いて刀から手を離して振り向いた。

 

「……早いな、あれだけの数をこの短時間で片付けるなんて──どこでその戦闘技術を?」

 

 そしてふと思った疑問をアリアに対してぶつけてみる。長剣と短刀を巧みに操り、さらに曲芸染みた動き方をする彼女が何処でその技術を得たのかが気になったのだ。そして、その技術を自分にも使えないか否かも確認がしたかった。

 

 果たしてそのシエルの問いにアリアは困ったように苦笑しつつ答えた。

 

「私の戦闘技術は……ある力の副産物と言うのがいいのか、ズルをして得たものなんだよ」

「副産物、ズルとは?」

「それ、は……すまない、言えない。勘違いしないで欲しいのだが、決して君達を害する様な事ではないよ。これは信じて欲しい」

「ああ、安心してくれ。こちらもそれに関してはもう疑っていない。貴女が信用に足る人間というのは分かったからな」

「──感謝を、私の様な醜い者の言葉を信じてくれて」

「……別に感謝される事ではない。その、先ほどは申し訳なかった」

「ふふ、ええ。ああ貴方って、思っていたよりも……」

「な、なんだ……?」

 

 急に口調が変わったぞ? いきなり女性的な雰囲気が──とシエルは緊張してしまう。あいも変わらず慣れていない女性に対しては弱い男である。一方でアリアも思わずと言った風に笑みを浮かべた口元を手で覆って隠し、咳払いをした後に帽子を深く被り直す。……微かに見える耳は少し赤くなっていた。

 

「こほん」

 

 と、気まづい空気を醸し出す二人の間に割り込むようにマシュが咳払いを一つ。それに驚いたようにアリアは体をピクリと揺らし、そしてマシュ達に負傷が無いことにホッと息を漏らした。

 

「っ、マシュさんか。驚かせないでくれ……ああ、そちらも無事に終わったようでなによりだよ」

「はい。まだ皆さんには及びませんが、なんとか戦えています。先輩の指示やランサーさんの援護があってこそですが……」

「それでも戦えているんだろう? 成長している、ということじゃないか。実際、俺から見ても成長が見て取れる……俺も負けられないな」

「あ、ありがとうございます!」

 

 マシュは頬を朱色に染めながら、顔を俯かせる。どうやら褒められた事で照れてしまったらしい。クー・フーリンを伴い隣にやってきた立香はそんなマシュの様子を見て「癒し」と呟いて抱きついて頬を擦り付ける。荒んだ心に、一滴の癒しを──マシュ・キリエライトはいかがですか? と妙な映像が立香の頭の中で流れていた。

 

「ああ、藤丸も指揮が向上していたな。戦術が安定していたようだし、援護も出来ていた。まだ拙い部分はあるが、それも時期に改善できるだろう。まったく、成長が早いな君たちは……」

「へ? え、は、うぇ?」

 

 唐突に褒められた事により、マシュと戯れている立香の動きがぴたりと止まった。そして自分の事かと理解すると羞恥心や嬉しさやらで顔が真っ赤に見る見るうちに染まっていった。ポスンとそのまま豊満なマシュの(マシュマロ)に顔を埋めると「うぅぅ〜」とか細い声で呻き出す。

 

 「いきなりはやめろよぉ〜」

 

「何か言ったか?」

「なんでもないやい! ありがと!」

「あ、ああ」

 

 困惑しながら息を荒げる立香にそう返し、シエルは傍で朱槍を肩に掛けながらニヤニヤと笑うクー・フーリンをジトっとした目で見ながら話しかけた。

 

「ランサー、ここまで戦って分かったことはあるか?」

「分かったことねぇ……さっき狩人の姉ちゃんが言っていた通り、奴らはおかしい。まあ、狂人ってやつだ。それと元からあった(・・・・・・)意識が妙な力で無理矢理上書きされてやがる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。ただ、その力が何なのかは俺にはさっぱりだね」

「上書き、か……確かにそれに近いか」

「アリア、何か知っているのか? 無理矢理上書きとはなんだ? それはどういう──」

 

 ──ことだ、と続く言葉は遮られた。

 

『話の途中で申し訳ないけど、強い反応が君たちの先に複数確認出来た! この反応は──サーヴァントだ!』

 

 その言葉と同時、轟音と共に爆風が吹き荒れた。

 

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

「あらあら、無様な姿ね聖女様ァ?」

「ぐ、うっ」

 

 まだ炎が燻る焼け焦げた平原、辺りには複数の死体が転がり落ちており、中には原型をほぼ留めていない猟犬の姿もあった。クレーターだらけになった地面は戦闘が激しいものだったと見て分かる有様だ。

 そして、その中心地に膝をついて血が滴る腹部を抑える女性がいた。聖女、ジャンヌ・ダルク。救国の英雄その人だ。──しかし、その偉大な英雄の姿は見る影もない様子だった。額に激痛から流れる脂汗を滲ませ、腹部は大きく切り裂かれており鮮血が地面を赤く染めている。さらに、霊基そのものが損傷していた。これで戦闘を続行するのは不可能であり、もし無理矢理動けば霊基が歪んで崩壊していくだろう。

 

 ──つまり有り体に言って、彼女は瀕死の状態であった。

 

 そして、その無様な姿を見てもう一人の聖女──黒い装いに身を包んだジャンヌ・ダルク。別名、竜の魔女が心底愉快そうに嗤っていた。

 

「アハハハハ!! いいわ、いいわよ! その状態の方がお似合いだわ? くふ、ハハハハハハッゴホ、ゴホッ……!」

「ぉお、ジャンヌ! こちらをお飲みくだされ!」

「ん、気が効くわね、ジル──って、なにこれ!? 生臭いんだけど!?」

 

 傍に佇むジル・ド・レェから受け取った水を飲むが、喉を通った瞬間に感じた生臭さと生温さに咳き込み、彼女は容器を地面に投げ捨ててた。

 

「ふむ……海魔に持たせていたのですが、お気に召しませんでしたかな?」

「あったり前よ! 生臭くて飲めたもんじゃないわ!」

「ぉお、申し訳ございません聖女よ!! 」

 

 コント染みたやり取りを繰り広げる黒いジャンヌ、ジル。忘れてはいけないが、此処は戦場である。今も転がる躯を踏み潰しながら、彼女達は喜劇を繰り広げているのだ──それは外から見たら狂気的だろう。死体が転がっている惨状の中、それが出来るのはそうとしか言えないから。

 

 そして、それを見ていたジャンヌも同様で──痛みに堪えながら、眼光鋭く二人を睨みつけた。正確には二人と、惨状を作り出した張本人達であるサーヴァントを。

 

「あな、たは……!」

「あらん? 何よ、何か言いましたか? 負け犬の聖女様?」

「ッ、貴女は! 無辜の民を殺し、国を守護する兵達を惨殺したのですよ! こんな、こんな──どうも思わないのですか!」

「ええ、ええ。悲しいわね、とても残酷だわ! 胸が痛くなる……」

「ぐっ、ならば……!」

「なーんて、言うとでも? 馬鹿ね、あり得ないわ。寧ろ胸が空く思いよ! ああ、なんて痛快で愉快なんでしょう! ってね? 愚かな者達が惨たらしく死んだって、別にどうでもいいもの!」

「そう、そうですともジャンヌゥ!! 貴女を見捨てた民衆、貴女を辱め磔にした国の奴隷供! それらが消えたところで何が悪いのでしょう!! 寧ろ、自ら死を選ぶべきは彼らなのですッ!!」

「っ、ぐ……!貴女、達は──ッ!!」

「──いい加減、煩いわよ貴女?」

 

 ジャンヌは歯を食いしばり旗を地面に突き立て、無理矢理立ち上がろうとするも──それを敵が許すはずもなく、黒いジャンヌの背後で控えていた弓兵が放った矢によって彼女は吹き飛ばされる。

 そして地面を転がりながら鮮血を撒き散らし、数十メートル先にあった岩に衝突することで止まった。

 

「ガッ、ハッ……ッ!」

「あらあら、まだ生きているの? 全く、しぶといのね……面倒だし最後は私がトドメを刺してあげる──さよなら、愚かな聖女様?」

 

 黒いジャンヌの手に悍ましい炎が生まれ、それを倒れ臥すジャンヌに向けて発射──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランサー! 宝具ブッパして!!」

「はは! そりゃいい!! んじゃ、行くぜぇ!!」

 

 ──する事を許さないかのように、無数に枝分かれした朱槍が空から降り注いだ。

 

「──貰って行くぞ」

「ッ、いつの間に!」

 

 そしていつの間にか現れたシエルが、倒れ臥すジャンヌを抱き上げてその場から離脱する。……置き土産に爆弾を残して。

 

「ぐっ、なんなのよもう──!!」

 

 ──竜の魔女の憎憎しげな恨み言は、雷霆の渦に掻き消されて消えるのだった。

 

 

 




ゼファーさん! 技が真似されてます! 真似されてますよ! 頭爆弾ですよ!──初見で見た時、思わず笑ってしまった技です。はい。彼がこれを見たら、盛大に顔を顰めそうな気がするんだ……

というわけで、シエルくんの新必殺──頭爆弾(頭以外も可能)が実装。さらに強くなる、ヤッタネ!

そして、やはりポンコツ臭が拭えないオルタちゃん……まあこの章のボスだからね一応、うん。なんとかボス感出すよ? ……うん。

それで、いきなり瀕死のジャンヌ登場。まあ、サーヴァント複数に襲われたら例えルーラーでもねぇ? 相手も同じルーラーいるんだし。

次回は未定です。ある程度は書けてますが……まだ掛かるかと。ごめんね、遅筆で……許して。

今回は気になるワード、反応なども出てきましたが……簡単に予想されそうで怖いれす……。
では、感想など良ければお待ちしております。


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神へ捧げよ、汝らの血肉──楽園(エデン)の創世を此処に《5》

やあ、いろはすだ。頑張って書き上げたぜ……今回は少し長めです。

では、オルレアン編第五話です。

後々修正入るかもしれないので、よろしくお願いします。


 

 

 黒い鉄格子の中、一人の少女が鎖に繋がれて囚われていた。身体中にはかなりの数の注射痕が見当たり、白い肌にそれが痛々しく映る。体は痩せこけており、碌に食事を取れていない事がわかった。ストレスからか、赤い髪の中には疎らに銀に近い白髪も垣間見える。

 

「ぁ……」

 

 久しぶりに声を出した。掠れたその声には絶望が宿り、瞳に光は灯らない。──いったい、どれだけの時を過ごしたのか。この暗い牢獄の中では其れさえもわからない。時間の感覚が麻痺していた。

 

「た……す……っ」

 

 ああ、足音が聞こえる。また、また始まる──始まってしまう。発狂してしまいそうな心を必死に耐えて、彼女は嗚咽を飲み込んだ。

 

 

 

 

「───大人しく待っていた様でなにより。さあ、今日も始めようか。なに、すぐに終わる……君はただ、血を受け入れればいいのさ」

 

 

 

 

 ──ああ、神さま……助けてください。その救いを求める声さえ、もう誰にも届きはしない。

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 黒いジャンヌ・ダルク、ジル・ド・レェや後ろに控えるサーヴァント達に奇襲を仕掛け、聖女ジャンヌ・ダルクを救い出したシエルは気絶している瀕死のジャンヌ・ダルクを腕に抱き抱えて森の中を疾駆していた。

 

「ッチ、追っ手がしつこいな……!」

 

 今も頭や心臓、手足を狙った矢が恐ろしい速度で迫ってきていた。それら全てを叩き斬り、回避しながら走り続けるのだが一向に矢が途切れる事は無い。

 

「どうするのシエルくん!」

 

 クー・フーリンに抱えられて並走する立香から声が掛けられる。シエルはそれに矢を斬り捨てながら答えようとするも──

 

「ああ、そうだな──っと、危ない! 避けろ!」

 

 ──炸裂した矢雨に遮られてしまう。彼らの中心地に炸裂した矢は地面を砕き、抉り抜く。砕かれた地面が辺りに勢いよく飛び出し、武器と化してシエル達に襲い掛かる。進行方向にある邪魔な物だけ

 斬り捨てるが、その間にも矢は途切れる事なく彼らに降り注ぐ。

 

「先輩、シエルさん! 一先ず森を抜けるべきかと! この遮蔽物が多い森の中では一方的にやられてしまうだけです!」

 

 盾で撃ち払いながら、マシュは弓兵が居るであろう所に指を指し示して告げる。確かに、このままではジリ貧だ……その内ミスだって起きるかもしれない。彼女の提案にすぐさま頷き、シエルは軽やかに矢を避けるアリアに声を飛ばした。

 

「アリア! 森を抜ける最短ルートは分かるか!」

「ああ、分かるとも! だだ、木々や草花が入り組んでいるから足を取られないように気をつけて欲しい!」

「了解! ランサー! アリアの後に続いてくれ! それと、キリエライト。聖女を頼んでもいいか?」

「は、はい! 任せてください! えっと、シエルさんはどうするつもりですか?」

「ああ、俺は奴の足止め──囮を担おう。倒せるようなら、そのまま斬り伏せる」

「ひ、一人でですか!? 危険です! 私達も──!!」

「キリエライト、今はこれが最善だ。瀕死状態の聖女を戦闘に巻き込む訳にはいかない、早急に回復するべきだ。貴重な戦力、情報源を失うのは痛い。さあ、早く行け!」

「ッ、分かりました! どうか、ご無事で!」

「ああ」

 

 走り去って行くマシュ達の背中を見届けて、シエルはその場で立ち止まった。辺りに目を配らせ隅々まで気配を探る──と、木々に紛れて音もなく、全方位から矢が飛来しているのが把握出来た。刀を構えて、高密度の雷霆を付与。

 

「ふぅッッ──!!」

 

 刀を円状に振るい、雷霆を辺り一帯に放電。迫る矢を焼き落とし、通り抜けた矢は回避する。

 

「隠れんぼが好きなようだが……見つけたぞ、弓兵」

 

 そして、遂に弓兵の姿を捉えた。離れた木の上、太い枝に止まって弓を構える緑衣に身を包んだ女だ。頭には獅子の耳、腰からはしなやかな尻尾が生えており、時折揺れている。目は虚ろだが、意識はあるようで、此方の目を睨みつけていた。

 姿を見られた女はその場から離れようとするのだが──それをシエルが許すはずも無く、

 

光翼天墜(レールガン)多重加速(インジェクション)──ッッ!」

 

 瞬間加速。

 音を置き去りにして、離れた距離を一息で踏破する。しかし、代償を何も支払わずに出来た行動でもなく──身を裂くような激痛を歯を食いしばって耐え抜き、目の前で驚愕している女に向けて一閃。雷霆伴った斬撃は咄嗟に回避行動を取った女の右腕を斬り落とした。

 

「ッ、出鱈目な──!」

「まだだ!!」

 

 さらに、宙を舞う女の右腕を掴み取り雷霆を集束、付与して後退する女に投擲。それを目の前で爆破し、雷霆の渦を浴びせた。

 

「ぐっ、ァァァァア!!」

「チィッ、しぶといな……!」

 

 繰り出された蹴撃を回避、バックステップでその場から離れて様子を伺う。血走った目で此方を見据える女は獣のような唸り声を上げ、弓を構える。そして──口で矢を番え(・・・・・・)天に向けて発射した(・・・・・・・・)

 

◼️◼️◼️◼️◼️(ポイボス・カタストロフェ)ッッッ!!」

「ッ、宝具か──!」

 

 空を見上げ、目を見開く。

 無数に煌めく光──星ではない、全てが必殺の矢である。地形を変えるであろう圧倒的な物量による攻撃、それがシエルただ一人に向けられていた。手負いの獣は恐ろしい……という言葉が脳裏を過ぎった。確かに、コレは恐ろしい。

 

「死ネェェエッ!!」

 

 殺意に満ちた声、狂化された霊基が悲鳴を叫ぶ。

 

「断る。俺は死なない──この手に明日を掴むまではッッ!!」

 

 ──真っ向から星々の如き矢の群れに立ち向かう。この程度で臆していては、何も救う事さえ出来ない。必ず、必ず踏破してみせよう。

 

「ォォオォォオォォオッッッ!!」

 

 激突。

 無数の矢が彼を襲う。回避、斬撃、爆破、刺突、ありとあらゆる技術を駆使して矢雨の中を潜り抜け、刃を閃かせる。目指すは一人、眼前で立ち塞がる弓兵のみッッ!!

 

「ぬぐっ、っぜぁっ!!」

 

 腹が貫かれた──それがどうした。

 

 腕が抉られた──それがどうした。

 

 足が折れた──それがどうしたというッッ!!

 

 俺はまだ動ける。意識があるぞ、死んではない──なら立ち向かえるはずだろうがッッ!! 多少の負傷で立ち止まれるものかよッッ!!

 

 狂気的な気合いと根性、諦めを知らない精神でもって進撃する。彼を止めるには即死を狙うしかなく、たとえ足を殺そうが腕を殺そうが肺を抉ろうが関係無く進み続けるだろう。全ては明日を掴むため、未来を取り戻すため、悪を滅ぼす為──その為なら、彼はどんな困難試練苦境だろうと躊躇いなく身を晒す。それだけの意志、覚悟がある。

 

 

 

「勝つのは、俺だ──!!」

 

 

 

 故に、この結果を手繰り寄せる事が出来た。傷だらけになりながらも、前へ前へと走り続け──遂に弓兵の霊核を斬り裂いたのだ。驚愕する弓兵の体がぐらりと傾き、前のめりに倒れていく。意識を失う間際、女がか細い声で「ありがとう」と言ったのを最後にパタリと倒れたのを見届け、一気に痛みと疲労感が襲ってきたシエルは片膝を地面につけて荒い息を吐き出す。

 

「ハアッ、ハアッ、グッ……」

 

 懐から回復のルーンが刻まれた石を複数個取り出し、一気に纏めて砕く。体に淡い光が灯り、消える。徐々に回復していくのを感じて呼吸を整えた。

 

「早く、合流しなければ……」

 

 刀を鞘に納め、立ち上がる。シエルは最後に黙祷すると、その場から駆け出した。

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

「──止まってくれ」

 

 シエルが弓兵と戦闘を開始した同時刻。森を抜ける道を駆け抜ける立香達は不意にアリアから立ち止まるように言われ、その場で足を止めた。立香はクー・フーリンに抱えられながら首を傾げる。何故止まったのか、もう森を抜けられる所まで来たのに、と。

 

「ランサー殿、マシュさん。気づいているかな?」

「ああ。待ち伏せられたな(・・・・・・・・)

「ま、待ち伏せ!? 本当なの……?」

「はい、先輩。サーヴァント、いえ、この反応は……私達が戦った猟犬に近しい? ドクター、この先にいる存在について分かりますか?」

『ちょっと待ってくれ──うん、確かにマシュの言う通りだ。サーヴァントでは無いけど……なんなんだ、これ? 反応が異常だ。霊基では無いけど、異質な力が観測出来るし……分からないな。現地人であるアリアさんならわかるんじゃないかな?』

 

 ロマンの言葉に視線がアリアに集中する。目を向けられたアリアな苦々しい顔で、歯軋りをしながら前方を忌々しそうに睨みつけていた。身体中から殺意と憎悪が溢れ、今にも爆発しそうだ。

 立香はその尋常じゃない様子に息を呑みながら、アリアへと話しかける。

 

「えっとアリアさんは、何か知ってるんですか……?」

「………ああ、知っているよ。知っているとも、嫌なくらいに、悪夢を見るほどにね」

 

 その言葉を吐き捨てたと同時に、森の出口の先から神父服(・・・)の人間が現れた。肌は死人のように青白く、顔の上部を白塗りの仮面で覆い隠している。唯一見える顔の部分である口は三日月に歪み、そのまま硬直したかのように動くことはない。右手には無骨な石鎚、左手には重心が短い散弾銃が握られていた。今まで見てきた敵とは違う、異質な雰囲気に緊張が走る。

 

 クー・フーリンに「後ろに下がりな」と言われた立香は背筋に走る悪寒に体を震わせながら、彼の体の後ろに下がった。マシュもクー・フーリンの隣に立ち、その盾を用心深く構える。

 

 神父服の人間が立香達から六メートル離れた辺りの場所で足を止めた。そして、恭しく頭を下げて──掠れた声を発した。

 

「お初にお目にかかる。星詠みの者、人理を救わんとする者よ。私はレイズデッド、神父をしております。そして、ああ! アリア! こうして言葉を交わすのは久しぶりだね、壮健そうで何よりだ」

「──黙れよ、狂信者ッッ! その薄汚い口を閉じろッッ!!」

 

 アリアの怒りと憎しみに染まった叫び。間近でそれを聞いた立香やマシュは目を見開いて驚愕し、初めて見る彼女の恐ろしい剣幕に身が竦んだ。

 神父服の人間──レイズデッドと名乗ったそいつはその叫びに一切の動揺を見せず、寧ろ心底から愉快そうな声を上げた。

 

「おやおや、随分と嫌われているようだ。悲しいなぁ、私と君の仲じゃないか。もっと親しみを込めてくれたまえよ、アリア」

「ッッ、黙れと言っている。レイズデッド、貴様に私の名を呼ぶ資格はない」

「ははは、手厳しいなぁ──それじゃあ、仕方ない」

 

 散弾銃を構えた瞬間、多数の猟犬が立香達を囲んだ。数は数え切れない、森の奥にまで潜んでいるようだ。皆一様に武器から血を滴らせ、獣のような呻き声を響かせている。

 

「っ、こんなに沢山……!」

「え、いつの間に!? 今まで姿形も無かったのに! これじゃ、まるで──!」

「ああ、マスターの言いてぇ事は分かる。いきなり、何もないところから現れた(・・・・・・・・・・・・)みてぇだ。おい、いけ好かねぇ神父。一体どんな手品を使いやがった?」

 

 クー・フーリンは朱槍を構え、辺りに気を配りながら尋ねる。その問いにレイズデッドはあっさりとにこやかに答えた。

 

「何、簡単さ……召喚したんだよ(・・・・・・・)、彼ら全てをね。それだけだよ、単純明快だろう?」

「ハッ、確かに簡単だな。だが──それを可能にするテメェは何だって言うんだ? サーヴァントでもねぇ、かと言って魔術師にも見えねぇ」

「さあて、何だろうな。それは自分で考えるといい」

「けっ、一々仕草が腹立つな……。マスター、俺やマシュから離れんじゃねぇぞ。この状況はちと不味い……魔力も不足してっからな、全開の宝具開帳は無理だ。何とか隙を見て離脱するしかねぇ、こっちには聖女(そいつ)もいるからな」

「うんっ、分かった。マシュ、その人は頼むね……私も頑張って援護するから!」

「了解です、先輩。マシュ・キリエライト、全力で守ります!」

 

 それぞれ得物を構え、緊張感が徐々に高まっていく。そして、最初に火を起こしたのは──アリアだ。両手に長剣・短刀を携えながら俊足の足で駆け抜けて、レイズデッドの前へと躍り出た。殺意と憎悪に満ちた雄叫びを轟かせながら刃を振るい、レイズデッドが持つ石鎚と激しい音を鳴らしながらぶつかり合った。二人の視線が絡む。一方は愉快そうに、一方は憎悪に染まった目を。

 

「レイズデッドォォオォォオッッッ!!」

「これは、恐ろしいな」

「死ね、死ね、死ね死ね死ねぇぇえ!! 躯を晒せよ、地獄に落ちろ! 踏み躙ってやる! 貴様は、貴様だけはぁぁぁぁあッッッ!!」

 

 戦場に鋼が重なり合う戟音が響く。それが開戦となり、周囲の猟犬の群れが一斉に立香達に群がり始めた。アリアとレイズデッドの方へは向かわないところを見るに、彼女らの邪魔をするつもりはないようだ。寧ろ、立香達をアリア達に近づけまいとしているように思える。

 

 クー・フーリンは朱槍を振るい、マシュはジャンヌを庇いながらも盾で攻撃を弾き、払い、受け流して奮闘する。立香は恐怖に震える体を抑えつけながら、指示を二人に送り、支援魔術を打ち込んで援護を担う。

 

「っ、やあぁあっ!!」

「ありがと、マシュ! さっすが私の後輩っ!」

「あ、ありがとうございます!」

「おらよっ!! っと、きりがねぇなこいつら!」

「頑張ってランサー! 必ずチャンスは来るはずだから! そこを狙って、一気に突破すれば大丈夫! っ、ガンドッ!!」

「おっ、助かったわマスター! そうさな、んじゃあそれまで踏ん張りますかねぇ!! マシュの嬢ちゃんも気張れよォ!!」

「任せてください!!」

 

 群がる猟犬の群れに対処しながら立香は必死で突破口を探す。それが私の役目、それが正しいことだと自分に言い聞かせる。あと一つ、いや二つ何かキッカケがあればチャンスは作れる筈だ。

 

 ──さあ、探せ。探せ、探せ、探せ探せ探せッッッ!!

 

 立香達が奮闘する中、もう一方の戦場はというと……凄まじい速さで攻防が展開されていた。

 

「死に晒せッッ!!」

「それは、御免被るなぁ」

 

 長剣が閃き、レイズデッドの首を断たんと迫る。それを散弾銃の側面を使って撃ち払い、石鎚を振るって逆方向から襲い掛かる短剣を叩き落とす。しかし、アリアは止まらない。体を回転、曲芸染みた体勢から蹴りを顔面に放って顎を蹴り飛ばした。さらに、短刀を投擲。これは避けられたが、隙は出来た。長剣を振るい、レイズデッドの右腕を斬り裂く。

 

「ぉお、凄いじゃないか! 目を見張る成長ぶりだ! 私の血──」

「黙れよッッ!! そのまま堕ちろォォオ!!」

 

 怒涛の連続斬撃。文字通り目にも留まらぬ速さの斬撃がレイズデッドの体をズタズタに斬り裂いていくが、彼は不気味な笑みを浮かべて、石鎚の柄を捻り──思い切り引き抜いた(・・・・・・・・・)。甲高い音を立てて、石鎚という鞘から赤い刀身が現れる。そして、あってはならない詩を彼は言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

「創世せよ、天に描いた星辰を──我らは煌めく流れ星」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、形勢が逆転した。レイズデッドの体から流れた血が生き物のように蠢き、鋭い鞭となってアリアの体を強かに打ち付け斬り裂き、さらに槍状と化した血槍が彼女の腹部を貫く。

 

「ぁがっ、ごはっ──ッッッ!?」

 

 盛大に血飛沫をばら撒き、彼女の体は吹き飛んでいく。ドチャッと血に濡れた体が地面に跳ね、激痛が体に襲い掛かる。目の前が痛みでチカチカと点滅し、頭を打ち付けたせいか眩暈で感覚が覚束ない。

 

「──ふむ、こんなものか(・・・・・・)。いやはや、脆いものだな。人の体というものは……こうも簡単に崩れてしまう。君もそうは思わないかね?」

「ッッ、貴様……!」

 

 アリアは気合いで薄れゆく意識を繋ぎ止め、長剣と短刀を構えて立ち上がる。穴が空いた腹部から血が流れ続けているが、気にすることはない。この体なら(・・・・・)すぐに治ってしまう(・・・・・・・・・)。それよりも、早くコイツを殺さなくてはいけない。

 己の手を見つめ溜息を吐いているレイズデッドへ武器を向け、鋭い殺意を突き刺す。それに彼は嗤い、周囲に血の武装を精製した。

 

「さて、壊れるまで遊ぼうじゃないか──使えよ、アリア」

「言われずとも──ッッ!!」

 

 長剣と短刀を合体、一つの武装に変化させる。力を解き放たんと口を開くが──横合いからの斬撃にそれは止められた。

 

 そう、シエルである。雷霆を伴った斬撃で血を蒸発させ、そのままレイズデッドの体を真っ二つへと斬り裂いたのだ。さらにレイズデッドが離れた場所に目を向けると、増援らしきサーヴァントが数体見受けられた。見覚えがある。ああ、数少ない生き残りを匿う健気な英雄達だったか。だが、まあ、今はそれよりも──。

 

「ほう──君が、後継者か」

 

 レイズデッドは白髪赤目の少年を下から見上げる。ああ、これは中々、狂った仕様じゃないか。流石、というべきだろうか。

 

「シエル……」

「余計な横槍だったか?」

「………いや、いい。気にしないでくれ、まだ本命は残っている」

「そうか……では、立香達と合流しよう。先ほど、新たなサーヴァントに出会ったんだが協力してくれるらしい。拠点もあるようだから、早く移動をしよう。敵についてこられても困るからな」

「………了解したよ。すぐに追いつくから、先に行っていて貰えないか?」

「ああ。では待っている……手短にな」

 

 そう言うと、シエルは立香達の元へと向かって行った。味方が増えたようだから、彼方の戦闘ももうじき終了するだろう。だから、その前に──残った時間で憎悪を吐き出す。

 

「待っていろ、狂信者(光の奴隷)。必ず殺す、絶対に殺す、残酷に貴様の腑を喰い破ってやる──貴様の亡骸を踏み躙ってやる」

「ああ、待っているよ。私のアリア──はは、はは、ははハハはっはっはハハッはっハっはッッ!!」

 

 心底楽しそうに笑い声をあげるレイズデッド。アリアは倒れ臥す亡骸の頭に長剣を翳し───抉るように貫いた。

 

 

 

 

 

 

 




ひゃあー、疲れました。
というか書いてる途中にあれ? この時期ってまだアーチャー召喚してねぇ! ってなりましたが、そこはあれだ、オリジナル展開的なもので誤魔化しました。まあ、そもそもからして今のところ原作沿いではないからね……どうしてこうなった。

色々と描写を端折りましたが、テンポ良く行きたかったのです……申し訳ない。……作者の実力が足りないから、とも言えます。はい。書き方模索してますが、中々上達せんのです……練習あるのみだね。

次回の更新も未定です。
なるべく早くお届け出来るよう頑張りますが。

では、また次回!
良ければ感想、アドバイスなどなど待ってます!




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神へ捧げよ、汝らの血肉──楽園(エデン)の創世を此処に《6》

やあ、お久しぶり。遅筆ですまねぇ……。
今回も難産でした……後々加筆修正入るかもしれないです。

では、オルレアン編の六話です。


 

 

 ──端末の死亡を確認、共有意識(リンク)が終了します。

 

 脳裏に走るノイズ混じりの音声、それにより閉じた瞼を開いた。レイズデッドは視界に宙吊りになった逆十字を捉え、血が滲む脇腹を抑えてくつくつと愉快そうに笑みを浮かべる。

 

「想像以上、予想外、まさにそれだ。アリア、君の飛躍的な成長には目を見張ったよ」

 

 憎悪に染まった悪鬼の表情を浮かべて、彼女が振るった二刀流により体を刻まれた瞬間を思い出して身体中が歓喜で震える。あの脆弱な少女が、罪の意識に苛まれて涙していたか弱き少女が──まさかあれ程の力を手に入れてしまうなんて。ああ、やはり、私の目に狂いはなかった。

 

「そう……まさに、君は私の為に生まれてきたかのような少女だ」

 

 ──必ず、手に入れてみせようじゃないか。

 

「もとより君は、私の分身そのもの(・・・・・・・・)。私と共にあるべき存在なのだから」

 

 無残にも喰い散らされた(斬り裂かれた)黒い鉄格子を愛おしげに見つめ、至る所から響く断末魔にレイズデッドは恍惚とした息を吐いた。

 

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 

 オルレアンから離れた森林地帯、太古の森。未だ人の手が入らない未開の土地、数多の動植物が蔓延るその中に──木々を束ねて作成された柵、石や岩で重なった簡易的な砦が建設されていた。監視所の役割なのであろう高台にはバリスタらしき装置が置かれ、さらに投石機のようなものも目に入った。

 シエルは未だに意識が戻らないジャンヌ・ダルクを腕に抱え、前方を歩く案内役に続いて砦の中へと足を踏み入れる。中に入ると同時に喧騒が聞こえ、正気を保った人間がこんなにもいた事に目を見開く。それは立香やマシュ、クー・フーリンも同じく驚き、そして、一際大きな衝撃を受けていたのは──アリアである。彼女は目を目一杯に見開きながら、口を開いたり閉じたりといった姿を見せていた。それもそうだろう、今まで彼女はシエル達と出会うまで正気を保った人間を真面に見たことが無かった。総じて出会うのは狂気に染まった(人間)、血を啜る猟犬にそれを従える狂信者(糞野郎)のみである。だから、彼女が大きな衝撃を受けるのは当たり前だろう。

 

 そして、それを見ていた案内役──ゲオルギウスは柔和な表情で住民達に挨拶をしながら、驚く様子を見せているシエル達へと説明をし始めた。

 

「彼らは私、いえ…私たちが保護した人々です。黒装束の狩人、狂気に染まった人々に殺されそうになっていたところを救出し、皆でこの森に避難して拠点を作ったんですよ。ここの周囲は森に囲まれ、入り組んでいる。隠れるには最適の場所ですから」

 

 そう言って微笑む彼は聖ゲオルギウス、または聖ジョージと名高い聖人である。聖剣アスカロンを所有しており、ドラゴンを討伐した逸話が有名だ。彼はシエルが立香達に合流する前に出会い、事情を聞き入れてシエルに手を貸すために同行してくれた英霊の一人だ。後数人居たのだが、別件があるらしく今は居ない。

 

「凄いですね! 先輩! 正気を保った人がこんなにも……!」

「うん、ここに来てからずっと出会うのは狂人ばっかりだったから、生き残っている人がいるのには驚いたよ……よかった」

 

 立香は走り回って遊ぶ子供達を眺めて笑みを浮かべる。ここに来て少しは緊張が解れたようで、ホッと息を吐いていた。

 

「これは、こんなにも……」

「アリアさん? 大丈夫ですか?」

 

 茫然と住人達を眺めるアリア。信じられないといった様子の彼女に立香は心配そうに声を掛ける。アリアはその声掛けにハッと気を取り直して「大丈夫だよ」と、安心させるように笑みを見せる。そして、改めて辺りを見渡し「ああ」と漏らすと、

 

「よかった……本当によかった……! まだ、こんなにも人間(・・)が生き残っているなんて……!」

「アリアさん……」

 

 昂ぶった感情を隠すように帽子を深く被り直し、顔を下に向けて熱を吐き出した。その姿に立香は胸を締め付けられる……どれだけ、どれだけの重圧が彼女に降りかかっていたのかを考えて。

 

「感謝を! 貴方達へ感謝を……!」

「気にしないでください、私は私がすべき事をしたまでですから。むしろ私達こそ、貴方に感謝を告げなければ」

「そんな、私は、何一つとして……」

「いいえ、違います。貴女のおかげで助かった者も大勢居るのです。貴女は気づいてはいなかったようですが……確かに、成したことはあるのですよ」

「──私が、助けを……?」

「はい。だから、あまり一人で抱え込まないように……今の貴女には手を差し伸べる者がいるのだから」

 

 アリアは自分の手をそっと握りしめて笑う立香、マシュ。自分の頭をポンと軽く叩いてニヤリと笑うクー・フーリン。そして、力強い目を向けて頷くシエル。それぞれから共通して「任せろ」という想いが伝わってくる。

 

「大丈夫! って言っても私は頼りないかもしれないけど、こうやってアリアさんの手を取ることは出来るんですから! 絶対離しませんよ!」

「私もです。この盾で守ることができます!」

「んで、俺は矛だな。有象無象を蹴散らしてやんよ」

「仲間を守るのは当たり前だ。当然、アリアのことも守って見せよう」

「皆……ああ、私は……いや、違うな」

 

 ──醜い私などに、と口走りそうな口を閉じて言い直す。そう、この場合はきっと……。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 ああ、これが正しい答えだろう。

 満面の笑みで抱きついてくる立香を優しく受け止めて、頭を撫でながら、アリアは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、こちらに寝かせてください」

「ああ」

 

 拠点内に建てられたテントの一つに案内され、シエルは簡易的なベッドにジャンヌ・ダルクをそっと寝かせる。立香やマシュ達は別のテントにいるので、今この場に居るのはゲオルギウスとシエルだけだ。

 ゲオルギウスは寝かされたジャンヌに目を向けて、外傷を確認。本格的な治療は出来ないが、呪いなどは別だ。彼女の傷からは呪いに近しい力を感じる。それが傷を広げ、自然治癒力を阻害していた。

 

「ふむ、強い呪いだ。憎悪、まるで燃え盛る炎のような……ここまでの呪いは久しく見ませんでしたね」

 

 目を細め、顎に手を添える。シエルはその様子に首を傾げ、治すのは難しいのか? と尋ねる。その問いにゲオルギウスは「少し、難しいですね」と答えた。

 

「霊核にまで達しています。私一人では完全な治癒には時間がかかるでしょう。短縮方法もあるにはありますが……」

「それは?」

「……浄化までの間、呪いを肩代わりする者がいれば時間短縮が出来ます。ですが、これはあまりに危険だ。生半可ではない激痛に苛まれ、気を狂わしてもおかしくないのです。ですから、ここは安全に時間をかけて──」

 

 ──治療をしましょう、という言葉は続かず、なんでもない事のようにシエルが口を開いた。

 

「なんだ、そんなことか。ならば、俺が肩代わりしよう」

「……はい?」

 

 絶句。彼が何を言っているのか理解出来ない、といった様子のゲオルギウスにシエルは首を傾げて再度言った。

 

「俺が呪いを肩代わりしよう、と言ったんだ。痛みなど気合いで耐えられる。死ぬわけじゃないんだ、軽いものだろう。それで彼女が治療出来るのならするべきだ」

「本気、ですか?」

「当然。ならば、口を開かんだろう」

「死ぬほど痛いですよ?」

「死なないなら問題無い」

「……貴方は」

「どうしたんだ?」

「いいえ、何でもありませんよ。もう一度聞きますが、本当によろしいんですね?」

「ああ、構わない」

「わかりました。では、準備をしますので少々お待ちを」

「了解した。外で刀を振っているので、準備が完了したら呼んでほしい」

「……ええ」

 

 シエルは終始表情を変えずに言い切り、刀を手に持ってテントの外に出ていく。直ぐに風を斬る音が聞こえ出したので、素振りを始めたのだろう。ゲオルギウスは額に浮かぶ汗を拭い、ジャンヌの身を苛む呪いに目を向ける。

 

 悍ましいまでの怨み、辛み、妬み、憎悪がこれでもかと詰まった呪い。燃え上がる炎が幻視出来る程だ。コレを肩代わりなどすれば、どのような目に合うかなど容易に想像出来る。のたうち回り、発狂し、死ぬほどの激痛と憎悪が身を襲うだろう。

 

 ──それを知りながらも尚、顔色一つ変えずに肩代わりするなどと言うとは。鋼の意志、揺るがない覚悟でしょうか。彼の目からはそれが感じられた。

 

「……だが、あまりにも」

 

 そう、あまりにも──。

 

中身が無い(・・・・・)……空虚そのものだ。気づいている様子もない、周囲もそれを疑問に感じてはいない」

 

 一人、青い槍兵が気づいているようだったが、どうやら干渉はせずに傍観に徹するようだ。彼自身に気づかせ、それを克服させる為だろう。もしくはただ楽しんでいるだけか、だ。

 

「……ふぅ、あの様子では言ったところで大して意味は無いでしょうね。傍観しているしかない、ですか。なんと歯痒い……前途ある少年に助言も出来ないとは、私もまだまだのようだ」

 

 ゲオルギウスは治療の準備を進めながら、己の無力さに不甲斐ないと歯噛みする。この手の問題は確かに本人が気づかなければいけない事だ。他者が幾ら助言したとしても、本人の意識が変わらなければ完全な解決はしないのだから。

 

「さて、準備が終わりましたね……シエルくん! 準備が出来たので戻ってきてくれますか!」

 

 外に呼びかける。すると風を斬る音が止み、刀を鞘に納める音が聞こえた。やがてテントの入り口が開かれると、そこから多量の汗をかいたシエルが現れた。この短時間でそんな量の汗を出す運動をしたのですか、と驚き、その状態で肩代わりして大丈夫なのだろうか? と悩む。

 しかし、シエルは変わらず「初めてほしい」と告げた。それに、仕方ないと苦笑すると、ゲオルギウスは浄化のために口を開いて──。

 

「ぁぐ……ッ」

「くぅ……ッ」

 

 前者の声はシエル、後者はジャンヌだ。互いの体には黒い炎が巻きついており、それが段々と横たわるジャンヌからシエルの側へと移されていく。体を締め付けるように燃える炎から尋常じゃない熱と痛みが持続しており、徐々に熱と痛みが増えていく。彼はのたうち回り、鳴き叫ぶようなソレを歯を食いしばり、堪える。

 

「耐えてください……! まだ重なりますよ……ッ!」

「ッ──!」

 

 視界に紅蓮が燃ゆる──瞬間、ノイズ混じりの映像が脳裡に流れ出した。これは、ジャンヌ・ダルクの処刑時の記憶……俯瞰視点で全体を見ている感覚だ。

 

『魔女、卑しき魔女めッ!!』

『死んでしまえ!!』

『あんたなんて、ただの人殺しよ!!』

 

 怒り、苛立ち、憎悪。それらを一緒くたに混ぜ込んだような表情で石を投げつける民衆。己の行為に間違いは無く、むしろ魔女を痛めつける快感に酔っているようだ。自分達が正義で、お前は悪だ、と。

 

『………』

 

 その間もジャンヌ・ダルクは俯き、一言も口を開かない。小さな十字架を握りながら、ただ淡々と足を処刑台に運ぶだけである。

 

 ──『魔女』『死ね』『地獄へ堕ちろ』兵士達も揃って口汚く罵り、長い棒で彼女の体を打ちのめす。愉悦を感じているのか、口が三日月型に歪んでいた。

 

 そして、映像が切り替わる。

 

 焔が揺れていた。激しく、天まで焦がすような勢いの焔の柱。中心に縛り付けられているのはジャンヌ・ダルクだ。しかし、様子が違う、雰囲気が違う──金の瞳と視線が絡まる。

 

『アハ、アハハ──!』

「貴様……」

『何も知らない無知で愚かな民衆、上を信じて疑わない馬鹿な兵士、欲の為に救国の英雄を切り捨てる阿呆な国。どうしようもないわね、ええ、まったく。死んでしまえばいい、消えてしまえばいいんだわ! こんな国、こんな世界なんて跡形も無くね! ──貴方も、そうは思わないかしら?』

「──貴様の戯言には耳は貸さん」

『あらあら、生意気ね。思わず殺したくなったわ。というか、死んでちょうだいよ、死ね』

「幻影が、本物ではないソレに屈するとでも? 消えろ雑念」

『ムカつ──ッ!』

 

 

 

「二度は言わん──〝消えろ〟」

 

 

 

 強固な意志、気合いを持って眼光一つで呪いによる幻影を斬り払う。同時に映像が途切れ、霧のように霧散していった。

 取り戻した視界には寝台に横たわる落ち着いた様子のジャンヌ・ダルク、傍にはホッと息を吐くゲオルギウスが見える。体を締め付けていた呪詛の焔は消え失せ、服に染み付く多量の汗しか残っていない。どうやら、解呪に成功したようだ。

 

「無事に終了したようだな。ジャンヌ・ダルクの傷は?」

「ええ、ランサー……クー・フーリン殿に頂いたルーン石が効いたようだ。傷も魔力も徐々に回復していますよ、早ければ明日にでも意識が戻るでしょう。それまでは安静にさせておくといいでしょう」

「そう、か──了解した。改めてご助力感謝します、聖ゲオルギウス。貴方がいなければ解呪は難題だっただろう」

「私はするべき事をしたまでですよ。それに、貴方の強力無しでも出来なかった事です。私一人の成果ではありません」

「そう言って貰えるなら、此方も受けた甲斐がある。さて……眼が覚めるのは明日以降か、こればかりは待つしかないな」

「はい。ですので、今日は貴方も休みなさい。その様子だと鍛錬するつもりだったでしょう?」

「勿論」

「まったく……兎に角、今日はもう休みなさい。警備は私たちがしますので、ご安心を。彼女達にも私から説明をしておきます」

「……了解した。今日は貴方の言う通りに休もう。ただ、寝る前に少しだけ刀を振るいたいんだが、構わないな?」

「……それでもいいです。しかし、少し、少しですからね? 分かりましたか?」

「ああ。では、失礼する」

 

 シエルはテントを後にして、数時間鍛錬に費やした後に就寝した。──ゲオルギウスの言葉が上手く伝わっていなかったようである。

 

 

 




【速報】ゲオル先生、主人公の異常に気づく。【二人目】

いやぁ、今回はあまり動きがないですね。というか、原作沿いにする筈が何故こんな流れに……? くそ、これも全部変態神父って言う奴のせいなんだ! 俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇ!

早くトンチキ合戦したい……具体的には第七特異点……プロットの段階でホモ……なんでもないです、はい。

では、また次回! 感想、アドバイスなどなど良ければお願いします!

今年の水着鯖は誰なのか今から戦々恐々としているこの頃。


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神へ捧げよ、汝らの血肉──楽園(エデン)の創世を此処に《7》

| 壁 |д・)チラ

| 壁 |д・)チラ

(*ノ・ω・)ノ⌒七話


 小鳥の囀りに沈んでいた意識が刺激され、窓から差し込む陽の光が覚醒を促す。目を開くと先ず見えたのが天井、材質から見ると大型のテントのようだ。戦時中、野営の際によく見た物に似ていた。軋む体を動かして、そっと上体を起こした。

 

「ここは……」

 

 辺りを見渡す。自分が寝ている簡素なベッド、あとは木箱に置かれたランタンが幾つかにテーブルと椅子が一つしかなかった。

 体に目を移すと包帯が幾重にも重なっており、治療された形跡が確認出来る。さらに、拘束されてない事から敵対関係ではないのだろうという事が察せられた。

 

「ッ、まだ、痛みますね……」

 

 身体中に走る痛みに顔を顰める。まあ、あれだけ派手にやられたのだ、これは当たり前だろう。命があるだけマシだ。

 

「お礼を、言わなくては……」

 

 ベッドから出ようと足を地面につけるが、バランスを崩して前のめりになって倒れてしまった。咄嗟に手を出そうとするも、思うようには動かず、そしてそのまま地面に激突──すると思われたが、彼女の体は柔らかく受け止められた。

 

「っ、大丈夫か」

「は、はいっ、すみません……ありがとうこざいます」

「礼はいらない。大人しくしてるといい、まだ傷は癒えてはいないだろう?」

 

 そう言って彼女をベッドに下ろし、数歩離れた位置でシエルは告げる。その言葉に彼女は目を瞬かせ、自分の体に巻かれた包帯などを見て目の前の少年へと尋ねた。

 

「貴方が治療を?」

「いや、俺は手を貸しただけだ。貴女を治療したのはゲオルギウスだよ」

「そうなんですか……ですが、ありがとうございます。それとゲオルギウス……それは彼の聖人ですか?」

「ああ、本人だよ。サーヴァントとして召喚されたようだな……貴女もだろう?」

「えっと、その、そうなんですが、あの……」

「歯切れが悪いな、何か問題があっただろうか?」

 

 言いづらそうに口籠る彼女、それを見てシエルは尋ねる。その言葉に彼女──もとい、聖女ジャンヌ・ダルクは「その、ですね……」とか細い声音で答えた。

 

「私、実は……召喚されたのはいいのですが、聖杯から与えられる知識の大部分が無く……」

「……それは」

「貴方方には情報が必要な様ですが、私では協力出来そうもありません……申し訳ない限りです」

「いや、気にしなくてもいいさ。情報ならある程度は得られた、現状では貴女を救出出来ただけで上出来だよ」

「それなら、よかった……。その、他の方々は?」

「今は食事中だな、俺は貴女がそろそろ起きる頃だと思って来たんだ。──待っていてくれ、食事を持ってくる」

 

 シエルはそう言ってテントを出て行く。ジャンヌはそれを茫然と見送ると、再びベッドに体を倒した。そして、静寂が訪れる──と同時にもう一人の自分の姿が思い浮かんだ。復讐の焔を燃やし、憎悪で目を染めた黒い自分を……。

 

「……もう一度、会わなくては」

 

 その為にも一刻も早く、霊基を修復させないといけない。ジャンヌはテントに近づいてくる足音に耳を傾けながら小さく呟いた。

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

「さて、早速だが始めよう」

 

 シエルは集まった面々に目を向けながら口を開く。因みに集まった場所はジャンヌが居るテントだ。彼女は未だ動けない為、自然と集まる場所はそうなった。

 

「シエルくん、シエルくん」

 

 立香はアリアに髪を櫛で梳かされながら、その場で挙手してシエルに声を掛けた。シエルは「どうした?」と首を傾げる。そんな様子の彼に立香は苦笑しつつ言う。

 

「初めての人もいるんだし、簡単な自己紹介ぐらいはしよう? 名前も分からずに作戦会議も何もないでしょ?」

 

 そうだね、と通信機越しにロマンの声が聞こえてくる。確かに自己紹介も未だしていなかった、共に戦うのに互いの名前も知らないままでは駄目だろう。シエルは立香に頭を下げる。

 

「……そうだな、すまない。急ぎ過ぎたようだ」

「ううん、気にしないで。シエルくんが凄く頑張ってくれているのは分かってるから。えっと、じゃあ、言い出しっぺの私からだね!」

 

 立香はシエルに対してそう告げると、快活な笑みを浮かべて自己紹介を始めた。

 

「私は藤丸立香、カルデアのマスターやってます! これからよろしくお願いします!」

「私はマシュ・キリエライト。藤丸立香のサーヴァントです、皆さんよろしくお願いします」

「フォウ! フォーウ!」

「俺もこの嬢ちゃんのサーヴァントだ。クラスはランサー、真名はクー・フーリン。まっ、気楽にいこうや」

『僕はロマニ・アーキマン。彼らのサポートを担当しています。心強い仲間と出会えて良かった……彼ら共々よろしくお願いしますね』

「シエル・エンプティ、カルデアのマスター……ではないな、今は。とりあえず、戦闘要員と覚えて貰えればいい。以後よろしく頼む」

 

 そうやってカルデア組の自己紹介が終わると、立香の後ろに立つアリアに目が向けられた。アリアは一礼をすると、帽子を外して自らの名を告げる。銀の髪が揺れて、光を浴びて輝いた。

 

「私は、アリア。ただのアリア、この地で狩人をしている。貴方達には及ばないが、戦闘も問題ない。よろしくお願いするよ」

 

 彼女の自己紹介が終わり、次に口を開いたのはゲオルギウスとジャンヌだ。

 

「私はゲオルギウス、クラスはライダーです。この拠点で指揮を執っています。改めてよろしくお願いしますね、カルデアの方々。そして、アリア殿」

「真名、ジャンヌ・ダルク。クラスはルーラーです、助けてくださり本当にありがとうございます。すぐに動けるようにするので、皆さん、よろしくお願いします」

 

 ジャンヌはベッドに腰掛けながら、頭を深く下げて感謝を告げた。まだ体は痛むようだが、少しずつ動けるようになっているようだ。短時間でここまで回復出来るのは、ゲオルギウスの治療がよく効いたのだろう。

 そして、面々の前に姿を見せたのは偉丈夫の男だ。大剣を背中の鞘に納め、軽装の鎧に身を包んだ彼はシエルらに一礼。

 

「セイバー、ジークフリートだ。未だに未熟な身だが、全霊を賭して戦おう。よろしく頼む」

 

 見た目に合わない、少し下からの言葉に驚き──次いで、それを上回る彼の正体に目を見開いた。彼が言い放った真名に驚愕するカルデア面々の中で唯一、立香は「何処で聞いたような、ないような……?」と首を傾げる。そんな立香にロマンが通信機器越しに興奮気味に説明をした。

 

『ジークフリートと言えば大英雄だよ! 邪竜ファブニールを討ち倒し、その血を浴びて不死身となった者! 叙事詩“ニーベルンゲンの歌”の主人公その人さ! これは凄い、特異点に来てから散々だったけれど、ここに来て漸く風が吹いて来たぞぅ!』

「おー、つまり凄い人なんですね! 分かりました!」

 

 ヒャッホーウ、と歓声を上げるロマン。立香は彼からの説明に大体把握したようで、ジークフリートをキラキラとした眼差しで見つめていた。その純粋な眼差しにジークフリートは少したじろいでるようで、目線が泳いでいた。

 

 こほん、と咳払いを一つ。少々脱線しそうな雰囲気を断ち切り、シエルは改めてジークフリートに向き直る。

 

「大英雄と呼ばれる貴方と共に戦えるとは、光栄だ。よろしく頼む、ジークフリート」

「ああ、こちらこそ。微弱ながら力になろう」

 

 力強く握手を交わし、二人は互いに頷く。

 

『さて、これで紹介は終わったかな?』

「そのようだな……これが全戦力でいいのか? ゲオルギウス」

「ええ、この場にいる者が今の全戦力です」

「今の、という事は他にも何かあるのか?」

「はい。はぐれサーヴァントを数人確認しています。私達の味方になるのかは分かりませんが……」

「……接触する価値はあるか。仮に敵になるならば、その場で斬り捨てれば問題ないだろう」

「じゃあ、とりあえずはぐれサーヴァントに接触する感じでいいのかな、シエルくん?」

「ああ、それでいいと思うが……藤丸はどう思う?」

「ん、そうだなぁ……私もそれで大丈夫だと思うよ。話が分かる人だといいんだけど」

『うぅん、今までの経験からだと……不安だなぁ』

「そうだよねぇ……」

「あ、安心してください先輩! 何があろうと、私が守ります! こう、盾でドカンと! はい!」

「私もいる。大丈夫だよ、立香さん」

「マシュ! アリアさん! 好き!」

 

 立香がマシュとアリアに抱きつく。それを苦笑しつつ見ながら、シエルは周囲を見渡して、

 

「では、第一目標ははぐれサーヴァントに接触し、仲間にする事。敵対するならば──その場で斬り捨てる事、でいいだろうか?」

 

 その確認の言葉にそれぞれが頷き、一先ず第一の目標が決定した。一番は聖杯の確保、特異点の修復だが、今のままでは厳しい状況だろう。相手の戦力は無数にして強力、こちらもそれに対応する為により戦力の補強が必要になる。シエルとしては今のままでも勝ちを譲る気はあらず、負ける事など考えてはいないが──勝利を揺るぎないものにする為にも準備はするに越した事は無い。

 

「さて、はぐれサーヴァントに接触する人員は……俺達が担った方がいいだろうな」

「まあ、こっちには嬢ちゃんって言うマスターもいるし、その方が色々と分かりやすいだろ」

「そうですね……では、カルデアの皆さんに任せてもよろしいですか?」

「ああ、任せてくれ。藤丸、キリエライトもそれでいいか?」

「うん、任せて!」

「はい、大丈夫です!」

「そうか、ありがとう。それで、アリアだが……どうする?」

 

 付いてくるのか、それとも別行動をとるのか、それを尋ねる。アリアはその問いかけに立香をちらりと見た後に答えた。

 

「私も同行していいだろうか」

「勿論ですよ! アリアさんがいれば百人力です!」

「ふふ、ありがとう。足手まといにはならないよう、私も頑張るよ」

「わ、わ、頭撫で……」

「ああ、すまない。嫌だったかな」

「い、いえ、嫌だなんてそんな! た、ただ、お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなぁ、って思って……ご、ごめんなさい」

「───」

「アリアさん?」

 

 視界が霞んだ。

 目の前で首を傾げる少女に、赤髪の少女の輪郭が重なる。太陽のような笑みを浮かべた彼女は───。

 

「ど、どうしようマシュ!? アリアさんが固まっちゃったよ! 私変なこと言ったかな!?」

「お、落ち着いてください先輩! えっと、こういう時は何を……!」

「く、ぶっ、はははっ」

「もう、何で笑ってるのさランサー!」

「いんや? な、何でもねぇよマスター……くくっ」

「もーっ!!」

 

 ──在りし日の光景が、頭を過ぎった。もう手に入らない、ささやかで暖かな世界。………悍ましい血の怪物が破壊した世界。

 

「アリアさん? だ、大丈夫ですか?」

「っ、あ、ああ。私は平気だよ、さあ出発の準備をしようか」

「アリア、さん……?」

 

 軋む心、増す憎悪、復讐の鎖に囚われた狩人(アリア)は立香の頭を去り際にひと撫でし、テントから出て行った。立香は撫でられていた頭を触り、眉を顰める。

 

「また、あの目……」

 

 嫌な感情だ。仄暗い、何かに囚われた者の目。感受性豊かな立香はアリアから放たれる激情をしっかりと感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と、同じ……」

 

 ──ぼそり、と小さな呟き。それが誰かに聞こえる事は無かった。

 




遅れてすまない・・・

今回は顔合わせ回というか、説明回というか、場繋ぎというか・・・まあ、大して動きはないです。はい。なんで、文量もいつもより少ないです。

キャラが増えたお陰で書きづらくなっていくぅー!WHO!

なんか、俺のジャンヌ褐色なんだけど・・・読み聞かせのお姉さんなんだけど・・・・・あるぇー?

次回は未定です。なるべく早くお届けしたいですが、まあ気長に待っていてください。調子良ければすぐ書き終わるんですがねぇ・・・。

それでは、また次回で会いましょう。
感想、アドバイス、誤字脱字などがあれば是非どうぞ。


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神へ捧げよ、汝らの血肉──楽園(エデン)の創生を此処に《8》

久しぶり過ぎて何書いてんのか忘れてる件。

後々修正、もしくは書き直しが入るかもです。中々上手い文書が書けなくてなぁ……。


 当初の作戦通りに分散したシエルら一行、彼らははぐれサーヴァントが目撃されたとされる場所へ向けて歩を進めていた。

 

「目撃されたはぐれサーヴァントはこの先にいるんだよね?」

 

 立香は前を歩くシエルに尋ねる。シエルはそれに顔だけを後ろに向けて、質問に答えた。

 

「ああ。この先で目撃されたサーヴァントは二騎だ、着物を着た女の子にツノがある女の子らしい。片方は日本由来のサーヴァントだろうが、もう片方はなんだ? ツノがある……鬼か?」

「鬼かぁ……大丈夫かな? 人間め! って襲われたりしないかな?」

「大丈夫だろう。仮に襲われたとしても、負ける気は無い」

「はは、相変わらずだねシエルくん。んっ、どうしたのフォウくん?」

 

 立香の頭の上にいるフォウが急に「フォウ、フォ、フォウ!」と騒ぎ出す。驚き、フォウを抱き抱えて立香は首を傾げる。

 

「先輩、フォウさんがどうかしましたか?」

 

 未だに騒ぐフォウが気になったのか、後方で警戒していたマシュが立香の側に寄ってきて、立香の腕に抱かれているフォウを見下ろした。

 

「うぅん、危ない? 何かくる? ……えっ、嘘っ! シエルくん、皆! フォウくんが何かくるって!!」

「フォウ!!」

 

 立香がフォウから読み取ったそれを焦りながら伝えると、同時にカルデア管制室からも通信が入った。映像に映ったロマンは額に汗を流し、目を見開いていることから焦っているのが見て取れる。どうやらあちらでも確認出来たらしい、そうなると──

 

「敵、か」

『分からない! ただ、サーヴァント反応が二騎分、その後方からはかなりの数のワイバーンや狂人達が迫ってきてる! 恐らく敵、というか敵だね確実に! 回避は間に合わない、戦闘態勢に移行してくれ!』

「ああ」

 

 ──やはり、サーヴァント。そしてワイバーンに狂人供か、とシエルは各自に目を配らせて「やれるか?」と一言。それにランサー、クー・フーリンはニヤリと笑う。

 

「いつでもやれるぜ。任せな」

「そうか、頼もしいよ。ではキリエライト、アリアは後方支援を頼む。指示は藤丸に煽いでくれ」

 

 前衛は二人で十分、立香を守る人員を増やす方がいいと判断して彼女らに委ねる。彼女達も相応に強い、ならば心配はないだろう。

 

「ああ、承知したよ」

「はい! お任せを!」

「う、うん。頑張るよっ」

 

 彼らの心強い返答を聞き、自らも刀を引き抜く。瞬時に雷霆を纏わせて、戦闘態勢へと移行した。これで、いつだろうと対処が出来る。シエルは通信機越しのロマンに視線をやり、会敵迄の時間を尋ねた。ロマンはそれに苦々しく口を開く。

 

『会敵まで、残り数十秒──そろそろ対象が見える筈だよ』

 

 その言葉に視線を前方へ戻し、やがて──ソレ(・・)が目に映り込んだ。恐らくサーヴァント、前方の二騎は年若い女だ。シエルより年下、若しくは同年代程の見た目をしている。綺麗な着物を着た緑色の髪の女の子、さらに捻れたツノを頭の横から生やした赤い女の子。その二人が後方に大量のワイバーンや狂人、果てや狩人を引き連れて全力疾走していた。そう、互いに──口汚く罵り合いながら。

 

「このエリマキトカゲ! アンタのせいでいっぱい追いかけて来てるじゃない! どうしてくれるのよ!」

「何をおっしゃっていますの!? 元はと言えば貴女が“さあ、集まりなさい! 私の歌に聞き惚れなさいなっ!”とか街のど真ん中で叫ぶのがいけないんでしょう!」

「はあっ!? それは、アンタが“あら、そこまで歌に自信がおわりなら、歌ってごらんなさいな。ほら、あそこに丁度良い舞台(処刑台)がありますし”とか言うからでしょっ! あそこまで言われて黙ってられないわよ! ナンバーワンアイドルたる私が、あんな言葉で大人しく引き下がるなんてありえないもの!」

「ナンバーワンアイドル? ワスートワンアイドルではなく? ……ふふ」

「笑ったわねぇっ! この山椒尾!」

「黙りなさいエセアイドル!」

「「あぁん!?」」

 

 顔を突き合わせ、乙女にあるまじき形相で互いに睨み合う二人の少女。そして、それを追う異形の怪物の群れ。その光景を目の当たりにして、一同が思ったのは──

 

「なにこれ」

 

 ──うん。これに限るだろう。立香が遠い目をしながら呟き、シエルは頭を抱えて「あれは、敵、か……?」と苦々しく顔を歪める。流石にあんなものを見ては「貴様は敵だな、ならば斬る」とはいかない。それに、少女二人の姿には見覚えがあった。

 

「藤丸、キリエライト」

「どしたの、シエルくん」

「は、はい、なんでしょうか?」

「あの少女二人、ゲオルギウス達から聞いたはぐれサーヴァントの容貌に当てはまるんだが……どう思う」

「まあ、確かに当てはまるよねぇ……まじかー」

「と、とりあえず、その、確認をしますか?」

「あー、嬢ちゃん達。その必要は無さそうだぜ?」

 

 苦笑しながら槍を前方へ向ける。その穂先を辿っていき、彼女達を見ると──?

 

「「助けて!!」」

 

 と、こちらを見つめていた。目は見開き、顔は必至だ。正直後ろから追いかけて来ている者を含めてかなり恐ろしい。まあ、敵ではないと分かっただけいいだろう。

 

「……やはり、アレがはぐれサーヴァントか。味方になるかは分からんが、敵にはならんだろうな」

「そうだね……」

 

 立香はそれに同意する。アレが敵として出てくる事は無いだろう。狂化されたり、洗脳された場合などは別ではあるが。

 

「ふむ、彼女達を助けるでいいのかな? 私としては、後ろにいる獣共を狩りたいからどちらでもいいのだが……」

「ああ、それで構わない。さて、では──往くぞ」

 

 姿勢は低く、刀を持った右腕を弓のように引き絞る。そして、猛る稲妻の如く敵の群れに突貫。数秒も要らない、光の帯を残しながら搔き消えて接敵。すれ違いざまに前方にいるワイバーン数体を両断、血走る目の狂人の肢体を感電死させる。

 

「追加だ、爆ぜ散れ」

 

 さらに、感電死させた狂人の死体に付与させた雷霆を解き放ち、辺り一帯に爆散させて周囲を巻き込んだ。序でに余波が追いかけられていた二人に掠ったが些細なことだろう。兎にも角にもある程度の人数は消し去った。その穴が空いた空間にクー・フーリンが突貫、槍を振るい、瞬間細切れにする。

 

「やるな──俺も負けていられない」

 

 そして、その動きを見ていたシエルもさらに加速していく。刀を振るい、雷を使役し、体術を駆使して縦横無尽に暴れ回る。それを後ろから見ている立香は「相変わらずだなぁ……」と呟き、流れてきた敵に相対していた。

 

「ふぅ……マシュ、右側から六、後退しつつ応戦。アリアさんは正面の四人を倒したらマシュのカバーをお願いします!」

「っはい! お任せください、先輩っ!」

「ああ、狩りの時間だ──!」

 

 立香の指示に合わせ、二人は勢いよく駆け出す。マシュは握られた大盾を使い、拙いながらも上手く攻撃を受け流し、見切り、そして隙を作り上げて強烈な痛打を浴びせる。シエルとの模擬戦、戦術や戦略の勉強による効果が現れた結果だ。彼女は「まだ、いけます……!」と呟き、しかして慢心はせずに着実に一人一人ノックダウンさせて戦闘を繰り広げていく。

 

 だが、時には彼女にも隙ができて、凶刃が迫る──

 

「ガンド…ッ! マシュ、今の内に立て直して!」

「了解です、ありがとうございます!」

 

 だがそこはマスターである立香がカバーする。彼女も特異点が見つかるまでただ呆けていた訳ではない。自分に出来ることを考え、実行し、学習する……その成果が彼女らの連携だ。何もかもが突然で、恐怖に震えていた冬木に比べるとかなりの進歩と言えるだろう。

 

「よしっ、その調子だよ!」

「頑張ります! 先輩もご無理なさらず!」

「ふふん、私はだいじょーぶっ! なんたって、頼りになる後輩がいるからね!」

「ッ、──はいっ! マシュ・キリエライト、先輩には指一本触れさせません!」

 

 まだ人を相手取るのは怖い、けれど彼女達は一歩前へ進んだ。その姿にシエルは頬を少し緩め、クー・フーリンは笑みを浮かべる。──そしてアリアは、立香とマシュを羨むような表情を見せていた。顔に影が落ち、目を伏せる。

 

「……ああ、私には眩しすぎるな」

 

 羨ましい、妬ましい、様々な暗い感情が浮かんでは消えていく。そして脳裏には血が舞う光景、誰かの悲鳴、嬌声が過った。忌々しい、忘れ難い原初の記憶。復讐を胸に誓った日のこと。

 

「待っていろ……必ず、殺してやる」

 

 今一度、誓う。奴の腑を引き摺り出し、踏み躙り、亡骸を斬り刻んで、血の一滴すら残らず滅ぼしてみせると。

 

「その為にも、ああ、先ずは──」

 

 そう、先ずは。

 

「──貴方達を刈り取ろう。血に狂った哀れな獣、生きた屍。さあ、安らかな眠りを与えよう……ッ!」

 

 疾駆。白刃が煌めき、首を刈り取る。宙を舞ったそれを蹴り飛ばし、後ろから突然転移(・・)した血塗れの狩人に対して打つける。弱くわない衝撃に怯み、体勢を崩したところで待っていたのは……心臓を貫く冷たい鋼、アリアの突き刺した短刀だ。突き刺さった短刀を捻り、確実に心臓を潰す。ぐちゅり、という感触が伝わり、吹き出した血を外套が弾いた。

 

「すまないな、私はあまり器用じゃないんだ……手荒い埋葬になるが、許してくれよ」

 

 そう吐き捨て、短刀を勢いよく引き抜く。そしてそのまま横薙ぎ、剣を振りかぶっていた農民の手首を両断し、長剣で首を斬り裂いた。残りは二人──いや、血の池から現れた狩人二人を含めて四人だ。

 

「見ているのか……趣味が悪い、最悪だ。脳漿をぶち撒けて死ねばいい」

 

 カタリ、カタリと長剣と短刀が音を立てて揺れる。左右から仕掛け武器をギャリギャリィッ! と甲高く鳴らしながら迫る狩人。正面、真後ろにはそれぞれ鉈を持った農民が「血を、血を」とうわ言のように呟きながら、滲み寄って来ていた。

 

「……」

 

 長剣と短刀を捻り、一つの武器として変形させた。円を描くように体を動かし、四方からの攻撃を受け流し、その勢いのまま狩人と農民の五体を斬り刻んだ。残心、辺りに気を配り、転移して来ないことを確認。その後に一つ息を吐き、騒めく心を落ち着かせた。

 

「アリアさん! 大丈夫ですかっ!」

「申し訳有りません! 突然、狩人が二人現れ、対処に時間が掛かってしまいました! そちらは平気でしたか?」

 

 息を荒げた立香とマシュ。どうやら二人のところにも現れたらしい。アリアは心配そうにする二人の少女に薄く微笑み、何でもないように手を振った。

 

「私は問題ないよ。二人もよく無事で……怪我はないようで良かった」

 

 その言葉を聞いて、立香とマシュは安堵の表情を見せた。……ああ、本当に良い子達だ……私の様な人間もどきにここまで優しさを見せるなんて、本当に……私には勿体無さすぎるよ。

 

「どうしましたか?」

「……いや、何でもないよマシュさん。さて、彼らも終わったかな?」

「えっと、まだやってますね……大分派手に……地形が、ヤバイことに……あちゃぁ」

「わぁ、あのお二人は流石ですね。私もあれくらい出来るように……!」

「うーん、まあ、そうだね。頑張ろっか、マシュ」

「はいっ」

 

 そうやって暫く彼らの暴れっぷりを鑑賞していると、背後から少女二人が立香に話しかけて来た。敵を連れて逃げていたサーヴァントだ。片方は何処か疲弊した様子で、もう片方は何故か目をギラつかせて頬が紅潮して興奮気味だ。というか、一息ついてこちらに歩いて来ているシエルを見て鼻息を荒くしている。え、こわい、と立香は身を引く。圧が半端なかった。

 

「はぁはぁ、助かったわ! お礼を言うわね、あっ、歌がいいかしら!?」

「結構です」

「なんでよ!?」

 

 さあ、なんとなく。

 

「あ、あの、もし、そこの目が隠れたあざといお方っ!」

「あ、あざとっ…? えっと、私ですか?」

「ええっ、あの、あの黒い服の殿方はまさか──!」

「えっ、お知り合いなんですか!?」

「安珍さまでは!?」

「へっ? あ、安珍さまとは? 彼はシエルさんですが……」

「シエルさま……ええっ、私の目に狂いはありませんっ! あの方は安珍さまの生まれ変わり──!」

「助けてください! 先輩!」

「ごめん、今手が空いてない!」

 

 涙目で立香に助けを縋るも、彼女は「歌うわっ!」と何が何でも歌ってやると気迫立っている少女を宥めている為、手が空いていない。ならばアリアさん! とマシュは目を向けるも、

 

「シエルくん、ランサー殿もいい暴れっぷりだったよ。お疲れ様」

「ああ、ありがとう。しかし、まだ荒い箇所が目立つな……」

「アレで荒いねぇ……大分やれるようになってんじゃねぇのか?」

「いや、まだまだだよ。さらに強くならなくてはいけないんだ……っと、アリアもお疲れ様。其方に何人か零してしまったからな、すまない」

「気にしないでほしい。私にとっては苦でないよ」

「……そうか」

 

 と、既に離れてシエルらと談笑している。ソレをガン見する着物の少女の圧が膨れ上がった。

 

「ああ、どうすれば──っ!」

 

 天を仰ぐ。

 空には相変わらずの光臨が浮かんでいた。

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

「ふふ、はは、はははっ」

 

 笑う。嗤う。嘲笑う。

 黒い装束に身を包み、瞳を濁らせた幼い少女。垣間見える素肌は継ぎ接ぎで、浅黒かったり、色白だったりと統一性がない。

 

「全く、化け物ねこいつ。……気色が悪いわ」

 

 血塗られた玉座の間、至る所に血肉が敷き詰められ、見回す限りの赤、赤、赤。その真ん中で仕掛け武器を携えた幼い少女らしき存在が愉しげにクルクル踊る姿は不気味で、気色が悪い。見る人によっては芸術的かも知れないが、少なくとも彼女(黒いジャンヌ・ダルク)は吐き気を催すほどの嫌悪感を感じた。ぼたぼたと腹部から溢れる血を手で押さえ、怒りやら憎悪やらで顔を歪めたまま「最悪ね」と吐き捨てる。

 

 既に召喚したサーヴァントは半数を切っている。その半数も少なくはない傷を負っているし、疲弊していた。全ては目の前で嗤う少女の皮を被った化け物の所為だ。新たな戦力を召喚している最中に突如として出現、ワイバーンや海魔、サーヴァントらを惨殺していったのだ。嗤いながら、その細腕で引き千切り、捻り潰して、血を啜り。

 

「……ジャンヌよ」

「なにかしら、ジル。今、さいっこうに気分悪いから、変なジョークとかはやめてよね」

「離脱してください。なるべく早く、そして遠くへ。戦力を補充するのです」

「っ、はあぁ? 何を言っているのよ、私、冗句はやめてと言わなかったかしら?」

「冗句では無いですよ、さあ行くのです」

「嫌よ、拒否するわ」

「まったく……頑固な方だ」

「あら? ジル元帥ともあろうお方が、ジャンヌ・ダルクは頑固だと知らなかったのですか?」

「いいえ、知っています。よぉぉぉく、知っていますとも!」

 

 ──ですから、仕方ありません。

 

「……聖杯よ」

「っ、何を……! ジル、貴方ッ!」

「申し訳ありません、ジャンヌ」

 

 傷だらけのジャンヌ・ダルク、その姿が眩い光に包まれて──跡形も無く消える。そして、残ったのは狂化されたサーヴァントが三体に、ジル・ド・レェの一人、歪な少女のみだ。

 

「■■■■■■?」

 

 ふと、少女の動きが止まった。虚空を見つめ、血涙を流し、何かを呟いている。──チャンスだった(・・)、そう直感してしまった(・・・)狂化されたサーヴァント三騎。各々の武装を手に突き進むが、ああ、しかし、ソレはダメだ。

 

「ァア■■アガァッ!■■ッッ!!」

 

 少女を中心に血飛沫が舞い散る。ソレは鋼鉄をも穿つ槍となり、サーヴァントの霊基を粉々に穿ち貫いた。そして、その血液がその身を貶すべく侵食する。

 

「恐ろしい少女ですねぇ……これは、これは……何を混ぜたらこうなるのでしょうか」

 

 外殻、そして呪いや毒に耐性がある海魔を複数召喚、この期に及んで魔力を節約するなど考えない。そんなことをすれば、瞬間この怪物に食い散らかされる。ソレはいけない、決して犯してはいけない。

 

「ぉお、ジャンヌよ……! どうか、どうかッ!!」

 

 戦端が開かれる。海魔の群れが少女を飲み込──「■■■ッッ!」斬り裂かれ、霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァ、アァ……■ねぇ■■ん……?」

 

 

 ──狂気は加速する。

 

 

 

 

 

 

 




よお、久しぶりだな(半年ぐらい)

プロット見直したり、遊んでたり、書き直しめちゃくちゃしたり、ゲームしてたり、書き方忘れたり、ディエスイレに手を出し始めたり、ウィッチャー3にハマり出したりしてました。書き溜め? うん、無いよね……。

最近、トリニティのCS版が出るのを知りました。生きる活力が湧きました。さあ、もう一度閣下を讃えよう! めっちゃ楽しみ!

さて、これからも書き直したり、プロット見直したりとかで時間はかかりますが、エタらせる気は無いのでどうか最後までお付き合いください。今年までには完結目指したいなぁ……。

では、アドバイスや感想、気になった点などありましたらよろしくお願いします。

では、またいつか会いましょう! さらだばー!


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神へ捧げよ、汝らの血肉──楽園の創生を此処に《9》

お久しぶりです。いろはすです。
四周年のfesは楽しかったですね、土曜日に参加したのですがファミレストークが印象強くてそれしか記憶に残ってないです私。ああ、ヤベェなぁって改めて感じました。

前々からちまちま書いてはいたのですが、なかなか進められず申し訳ないです。相も変わらず進展が遅いですが、お付き合いくださると恐縮です。ホント、本編からズラすと書くのが難しい……書ける方は素晴らしいです。

では、オルレアンの九話です。

あ、今更ですが最近シンフォギアを見始めました。まだ無印の途中ですけど、いいですねアレ。響ちゃんドストライクでした。


「……あぁ、潰えたか」

 

 廃墟と化した家屋の中、手駒になり得るであろう人間を無数の血の鎖で雁字搦めに拘束して、無感情な瞳で変容していくそれらの姿を眺めていたケルヴィンは共有した視界の先で狂ってしまった英雄ジル・ド・レェが塵に帰る光景を目の当たりにしてそう呟いた。聖杯によって生み出された贋作を逃したようだが些事である。支障はない。

 本当は最後に刈り取り、新世界の礎の為に贄にしてしまう予定だったが……しかし早めに手に入れておくに越した事はない。ああ、計画に狂いはないとも。唯一の計算外だったアリアも結局は私の手中に収まるだろう。彼女の存在、その在り方はそう出来ている。私がそうやって設計した(・・・・)。なに、彼女に対するとっておきがある。もしも、なんて事はありえない。

 

「楽しみだなぁ、アリア。君はどんな顔をするのか、早く見たくてたまらない……」

 

 かつての、私のような顔だろうか。無力で何もできなかった生前の()──は、いや、最早、どうでもいいか。そうだ、どうでもいいことだ。

 

「全ては、楽園の為──私を止めるには魔神ですら及ばない。さあ、もうすぐだ。もうすぐ……全てが終わり、始まる」

 

 きっと、その時には───。

 

 

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、そういうことなのね。いいわよ、協力してあげる! 散々追いかけ回されて、いい加減に鬱陶しくなっていたのよ。熱烈なファンには慣れているけれど、それにも限度があるもの!」

 

 敵を殲滅するより、彼女たちを宥めるのが大変だった。立香は疲れ果てた姿で、胸を張って高らかに宣言し、私って人気者ね困っちゃうわ! と言いたげな様子のサーヴァント──鮮血魔嬢エリザベート・バートリーの言葉に力無く「あ、ありがとうございます……」と何とか返す事が出来た。ああ、仲間になっちゃったよ、大丈夫かな? なんて失礼な事を思ってしまったが……きっと頼りになるはずだ。なるよね? なればいいなぁ。

 

「……藤丸」

 

 遠い目をして彼方を眺めていると、横から男性のか細い声が聞こえてきた。いつも凛々しく、雄々しい彼がこんな声を出すなんて珍しいな、と振り向くと──ああ、と納得してしまった。一言で言うならば、大変困った顔をしている。というかクー・フーリンは顔を背けて笑いを堪えているし、助けてあげなよ。私関わりたくないんですけど、あの子やばいでしょと思いながらも「……どうしたの?」と彼に応えた。

 

「助けて、くれないだろうか……流石にこれは、その、慣れていなくてな……かなりマズイ状況だ」

「ぁぁ、シエル(安珍)さま、シエル(安珍)さまぁ……」

「だから、俺は安珍さまなどでは……」

「いいえ、いいえっ。貴方は安珍さまの生まれ変わりですっ! 嗚呼、やはり、こうして私達は結ばれるべくして出会うのですね……清姫嬉しいっ。これが運命(fate)っ」

「……助けてくれ、藤丸」

「……ごめん、無理かな」

「キ、キリエライト……?」

「……えっと、すみません」

 

 そっと目を逸らして断る立香、申し訳そうな顔で頭を下げて謝罪するマシュ。ならば、アリアはと目を向けるが「……」無言で目を逸らされた。クー・フーリンは笑うのをやめろ、そのニヤケ面を叩き割るぞ。

 シエルは「俺は、安珍さまではない……ないよな……?」と延々と耳元で囁かれる言葉に力無く項垂れた。しかし、これで戦力──戦力に数えていいサーヴァントは増えた。エリザベートは立香とパスを繋いだし、清姫もシエルとのパスを拒みはしないだろう。擦り寄ってくる女性に狼狽えるが……彼自身、勝利の為なら我慢は出来る。

 

「さて、これで頭数は増えたこったし、攻め入る準備は出来たんじゃねぇか? なあ、マスター」

 

 ヘラヘラとした笑みを収めて、今度は獰猛な笑みを隠そうともせずに浮かべて立香に尋ねるのはクー・フーリン。迫る戦さの気配にうずうずと楽しげで、早く戦いたい様子だ。流石、ケルトの戦士にして大英雄。いや、彼がそういう性なだけか。そう勝手に納得しながら、彼女は頷いた。

 

「うん。シエルくん、マシュ、アリアさんにランサー……もうクー・フーリンでいっか。それにジークフリートさんにゲオルギウスさん、仲間になってくれたエリザベー「エリちゃんでいいわよ、子鹿?」んんっ、エリちゃんと清姫ちゃん。ジャンヌさんは療養中だけど──そろそろ回復する頃合いかな?」

「はい、そう聞いています先輩。ゲオルギウスさん曰く〝完全な回復には時間がかかるが、今日中には戦う事が出来る程度にはなるでしょう〟とのことです」

「付け足すならば、完全な回復にはあと二、三日はかかるとあの御仁は言ってらしゃったよ。立香さん、マシュさん」

「ありがとう、マシュ、アリアさん。……らしいから、戦力は十分だと私は思う。出来るなら、あと何人か欲しいけど──そんな簡単には居ないよね」

 

 敵は二大戦力、戦える者が多いことに越した事はない。故に欲を言えば、もう一人……二人は欲しかったところだ。しかし、特異点修復にあまり時間をかけることも出来ないし、ここが攻め時だろう。よし、では集合してどちらに攻め入るかを──と告げようとしたその時、不意にエリザベートが挙手をして口を開いた。

 

「あ、私、戦力になりそうなサーヴァント知ってるわ!」

「えっ、エリちゃん本当?」

「その怪音波が言っていることは嘘ではありませんわよ、立香さま」

「……そうらしいな」

「当たり前よっ……って、怪音波ってなによ!?」

 

 ぎゃあぎゃあ、わちゃわちゃとまたしても取っ組み合いをする二人。ああマシュ、もう放っておいていいと思うよ。ドクターとクー・フーリンは賭け事しないでね。

 

「どうやら、清姫は真偽を見抜ける(・・・・・・・)らしい。実際、俺が虚偽を言った際には燃やされたぞ」

「え、も、燃やされ……? うっ、ううん、それよりエリちゃーん! その戦力になりそうなサーヴァントって何処にいるの!」

 

 地面を転がり、土に塗れた彼女の背中に問いかける。

 

「いったぁぁあっ!? うう、えっと、あっちよ!! って、痛いじゃないっ!?」

「あら、申し訳ありませーん」

「申し訳なさそうじゃないわよ!!」

「そうですもの」

「むきーっ!」

 

 どたばた、どたばた。互いに激しくなる攻防から目を逸らし、そのまま立香とシエルは指し示された方向に目を向けた。

 

「あちらは……確か」

「うん。私達がレイシフトした地点の近くだね。だよね、ドクター?」

『僕はエリザベートに……あっ、うん、そうだよ。確かに彼女が指し示した先は君達がレイシフトした地点のはずだ。その地点から離れた場所には中規模の街が一つあるようだね』

「そっか……じゃあ、そこに」

『うん。彼女が言う〝戦力になりそうなサーヴァント〟がいる可能性は高いと思う。アリアくんはその付近には詳しいのかい? それらしい存在を見かけた事は?』

「狩の為に出向いた事はある……しかし、残念だがそのような存在を見かけた事は無いよ。私が見たのは荒廃した街、殺し合う狂人達だけさ」

『そうか……ううん、どうしたものか。現状、戦力は整いつつあるし、無闇に出向いて危険を冒す必要性は無いからね。……迷いどころだなぁ』

「まっ、俺はマスター達に任せるぜ。何処でだろうと、何であろうと戦い抜いて見せるからよ! 安心しな!」

「言ったね! すんごい頼るからね!」

「はは、任せなぁ!」

 

 クー・フーリンは快活に笑い、立香の頭をくしゃくしゃと撫で回す。立香は「ちょっと、痛いよっ」と抗議しながらも、それを受け入れて笑みを浮かべていた。それを見ていたマシュは複雑そうな、そんな微笑みで自分のマスターを見ていた。

 

「……どうした、キリエライト」

「い、いえっ、何でもありませんよ?」

「……自分が頼りない、なんて考えるなよ。君は立派だ。俺のような塵屑よりも、もっとずっと、な。だから安心しろ、君は大丈夫だ」

「そう、でしょうか? 私にはクー・フーリンさんのように先輩をあんな風に……」

「ありきたりな言葉だが……彼は彼だ、君は君だ。比べる事はない、といっても難しいか……。しかし、キリエライトにはキリエライトにしか出来ないことがあるだろう」

「私にしか、出来ないこと……それは一体……?」

「さて、俺にもわからないよ。それは自分で見つけるべき答えだ。他人が出せるものではない。ああ、そうだ、自分で選ん──……ッ?」

 

 

 

『そうよ、貴方が選びなさい』

 

 

 

「──っの、あのっ、シエルさん? 大丈夫ですか?」

「っん、ああ、少し目眩がな。問題ない、行動するに支障は出ない」

「そうですか……。あの」

「なんだ?」

「……ありがとうございます、シエルさん」

「ああ……いや、いいんだ」

 

 ──彼は無垢な少女に向けて微かに微笑む。頭に過った幻影を振り払うように、逃げるように。彼らの間を一陣の風が吹く頃には、もうその幻影は深く深くに消え去っていた。……子供が宝箱の中に大事な物をしまうように、大人が見たくないものに蓋をするようにして。

 

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

 

 廃墟となった街、その外れの古ぼけた教会。この場所も崩れてはいるが、他の家屋ほどは酷くなく、また掃除がされているのか清潔感が多少感じられる様相であった。

 そして、その教会の中心地。そこにはステンドグラスの割れ目からキラキラと陽光を浴びて輝く気品溢れるものを感じさせる少女が、目の前に突然現れて倒れてしまった存在を見て「あら」と驚いて目を見開いている光景があった。

 

「大変! もしもし、貴女大丈夫かしら?」

 

 大丈夫ではない、見て分からないのかしら──と倒れている者に意識があったなら嘲笑交じりにそう言い放っただろう。しかし血を流し過ぎたのか、力を使い果たしたのか、声をかけても彼女の意識が戻る事は無かった。

 

「マリーッ! 凄い魔力を感じたんだけど、無事なのか───いぃっ!?」

「あら、アマデウス! 丁度いいところに来てくれたわね! 大変なの、この子意識が無くて……怪我もしているの! 治療してあげたいのだけど、貴女も手伝ってくれないかしら?」

「なっ、ま、マリー……? その子のことを知らないのかい?」

「……知っているわ、アマデウス。ジャンヌ・ダルク、よね? 竜の魔女、フランスを滅ぼす為に死からの生還を遂げた救国の聖女さま……」

「知っているなら尚更のことだ! 彼女は敵だ、僕らだって彼女の配下達に襲われただろう? ……この状態なら、そのうち──だから、君は……って、はぁ、その目……まったく君ってやつは」

 

 相変わらずだね、とため息混じりに苦笑する。彼女のことはよく知っている。だから、彼女は目の前の魔女を決して見捨てないだろうということも。ダメで元々で言ったが、彼女の目を見てしまったら察してしまう。

 まったく、と呆れるが、それでこそ、とも思ってしまった。ならば、もう仕方ない。

 こうなった彼女は止められない。だったら、少しでもいい方向へと行くようにフォローするのが僕の役目だ。……こんな時に、デオンが居てくれたらと思うが、ないものねだりだろう。

 

「ありがとう、アマデウス。それでも私は、ええ、彼女と──ジャンヌ・ダルクとお話しがしたいの。英霊、英雄同士では無く、私という個人として、王妃として……彼女に感謝と謝罪を言いたいのよ」

「それで殺されてもかい?」

「ええっ、そうよ!」

「まっ、そう言うだろうねぇ……先ずはベッドに運ぼう。掃除をしたと言っても、ここは不衛生だ。はぁ、肉体労働はあまり好きじゃないんだけどなぁ」

「私も手伝うわ! さあ、頑張りましょう!」

「喜んで、王妃様?」

 

 







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