GGDF(完結) (ハヤモ)
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戦略情報部 Category:EDF
《EDF》と 《ストーム・1》


簡易的ながら、情報部の説明?


戦略情報部 Category:EDF

多くの隊員は知っていると思いますが、GGOプレイヤーや新兵に情報を提供する目的で、戦略情報部は収集した情報を随時公開していこうと思います。

 

 

「今更、そんな情報が何だと言うのだ!」

 

「撃って撃って、撃ちまくれ!」

 

「共通しているのは、互いに銃を持っている」

 

「そして撃っている! 以上だ!」

 

 

いやいや。 ベテラン隊員さんも多いですが、知らない人もいるかも知れないでしょ?

それにGGOとEDFは異なる点が色々ありまくりでしょ。

 

 

「どうせ少佐の部下のコトよ。 間違った情報や役に立たない情報を提供するだけさ」

 

「違いねぇ」

 

 

ええい、黙りなさい! そんなコトないもん。

ちゃんと出来るもん。

……たぶん。

 

 

「はいはいリョーカイだ。 誰も見やしないだろうし、心配するな」

 

「間違えるのがオハコなのは皆知ってるし。 とりま、さっさと仕事をしてくれよ」

 

 

ぐぬぬ。 わ、分かりましたよぉ……。

(以下説明)

 

 

 

 

《EDF》(いーでぃえふ)

《全地球防衛機構軍》(ぜんちきゅうぼうえいきこうぐん)

《Earth Defense Forces》(あーす でふぇんす ふぉーす)の略。

 

世界中に存在する、地球規模の軍事組織。

設立は17年前(2022年から遡るなら2005年)、インドの山中で発掘された宇宙船の残骸がキッカケ。 数千年前に墜落したと思われている。

プライマー(エイリアン)の存在を知った者は各国に働きかけ、結果、EDFが設立。

人類の叡智を結集し最高の兵器を開発、世界中に前線基地を設置するなど、過剰とも言えることをやっていた。

そのせいで、市民の反発もあった模様。 少なくとも民間人時代のストーム・1が訪れた228基地はそうだったらしく、市民の理解を得る為に見学の受け入れなど、交流に力を注いでいた。

 

エイリアンとの戦争が始まると、敵の圧倒的な文明差と戦力を前に段々と疲弊。 戦力も底をつき始めていく。

しかし、日本に残っていた僅かな残存戦力がコマンドシップの撃墜に成功。 その後、現れた《かの者》をストームチームが倒し、終戦へ。

その後、暗黒時代に突入してしまった人類の統制や治安維持の為に奮闘していった。

 

 

 

 

「しかし、何であの時、コマンドシップが現れたんだろうな」

 

「人類が滅びるのも時間の問題だったろうに。 司令船がわざわざ出る必要があったのだろうか」

 

「それに、司令船や司令官と思われる《かの者》を倒しても、エイリアンが戦闘を止める保証はなかった。 結果は止めてくれたが」

 

 

うーん。 最後の戦いは戦略情報部や隊員らで様々な憶測が飛び交っていますね。

取り敢えず、EDFの戦力は殆ど残りませんでしたが、終戦後も僅かな隊員らで生存者の捜索や治安維持に努めていきました。

その過程で僅かながらも戦力を回復したEDF。 その戦力の一部は、異世界に飛んでしまったストーム・1の回収に充当しました。

 

 

 

 

《ストーム・1》(すとーむ・わん)

コードネーム。 作中では個人で主人公のこと。 本名ではないので注意。

他にも2.3.4とあるが、其方はチームを指していたりする。

 

元民間人で整備士だった。 開戦時に228基地に仕事で訪れていたところを戦闘に巻き込まれる。 その後、EDFに入隊。

兵科は空爆誘導兵。 空軍や砲兵隊、衛星や基地、潜水艦等に座標を伝達して前線の兵士を支援するのが主な任務。

様々な戦場と絶望を仲間と共に乗り越えていき、いつしか英雄扱いに。 228基地奪還作戦に参加した時、このコードネームを与えられた。

 

《かの者》を倒した後、治安維持や生存者の捜索任務を繰り返していたのだが。

エイリアンの転送技術を弄っていたサテキチおばさん謎の女科学者の所業で、GGO世界へ飛ばされてしまった。

本人はそれに気付いていない。 治安維持の為だと戦闘を行い、結果としてチート扱いを受けて嫌われている。

 

 

 

 

「GGO世界で空軍や衛星、砲兵隊とかの攻撃ってどうやってるんだ?」

 

「通信もどうなってる?」

 

 

女科学者の弄った転送技術を使っているそうです。 機密情報なので、詳細不明ですが。

 

 

「ご都合主義か」

 

 

ええい! 黙りなさい! 細かいコトを気にしてはいけません! 良いですね?

 

 

「アッハイ」




少佐の部下だからね、信憑性や情報量とかね、気にしてはならない(震え声


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レンジャー隊員の銃など。

EDFのレンジャー隊員の武器などの一部紹介。
スペックはあくまでも、おおよそ。 実際とはたぶん、異なります。 初期設定やレベルアップでの能力と大きく異なる可能性があります。 またその他、不備や至らないところがあるかもです。 ご了承下さい。


PAー11

2018年に開発された高性能アサルトライフル。(自動小銃)

安定した性能を持ち、故障などのトラブルが少ないことから、EDFに正式採用されることとなった。

当作中によく出てくるライフル。 軍曹チームやモブ隊員、グレ男も使用している。

弾数120

連射速度12.0発/秒

有効射程距離208.0m

弾速 秒速240.0m

 

M4レイヴン

M3型レイヴンライフルの発展型。 連射速度が劇的に向上したが、安定性を欠き、精度が大きく低下。 失敗作との声もある。

作中では、看守をしていたプロトタイプのクローンが使用。 見た目は大型化したアサルトライフルに多砲身がついた、ガトリングの様な感じ。

弾数660

連射速度60.0発/秒

有効射程距離240.0m

弾速 秒速288.0m

 

M3レイヴンSLS

M3の改修型。 M4型に問題が発覚したため、安定した性能を持ったM3レイヴンの改修を継続することとなった。 その結果誕生したのがこの銃であり、総合性能はM4型を上回るといわれている。 装填機構が改良され、さらにレーザーサイトとスコープ装備。

作中では量産型のクローンが使用。 M4とは見た目に差異がない。

弾数380発

連射速度30.0発/秒

有効射程距離284.2m

弾速 秒速341.0m

 

ミニオンバスター

対コンバットフレーム用に開発された特殊ライフル。 徹甲榴弾をフルオートで発射出来る。

徹甲榴弾は爆薬と遅延信管を内蔵。 標的の装甲を貫通し、内部で炸裂。

弾頭が大きいため、弾速は遅く、射程距離も短いが、破壊力は凄まじい。

グレ男やモブ隊員が使用。 SJ2でも活躍した。

弾数110

連射速度12.0発/秒

効果範囲 半径0.50m

有効射程距離158.5m

弾速 秒速135.9m

 

KFF50

大口径の対物スナイパーライフル。 射程と精度に優れ、はるか遠方の敵を狙い撃つことが可能。 その威力は装甲車を一撃で破壊するほど。 ボルトアクション式。

作中のブルージャケットや狙撃を行う隊員は主にコレ。 グロッケンでヘリを墜としたり、その他の狙撃で活躍。

弾数5

連射速度0.73発/秒

有効射程距離720.0m

弾速 秒速540.0m

 

ライサンダーF

破壊力を重視した大口径狙撃銃。

弾丸が大型のため、装填機構が複雑で連射がきかない。 しかし、その威力はこれまでの狙撃銃を大きく上回っている。

Fはその改良強化型。 弾速は狙撃銃の中でも最高レベル。

作中ではブルージャケットの隊長と思われる隊員が使用。 その後、モブの新兵に拾われて使われていた模様。

弾数8

連射速度0.25発/秒

有効射程距離1267.5m

弾速 秒速5850.0m

 

グラントM31

ロケット弾を発射する個人用火砲。 ロケット弾は着弾すると爆発。 広範囲の敵にダメージを与える。

作中では軍曹チームが地下で使用した。

弾数3

連射速度1.0発/秒

爆破範囲 半径7.9m

 

アシッドガン

強酸を射出する特殊装置。 強酸を連続発射する。

作中では少佐の部下が使用していたが……どこで手に入れたのだろうか。

有効射程距離155.1m

弾速 秒速51.7m

 

グレネードランチャーUMAX

UMグレランの決戦モデル。 巨大な爆炎で敵を粉砕する恐ろしい武器。 読み方は正式にはユーマックス。 ウマックスではない。

作中ではグレ男が使用。 ワンちゃん達を困らせた。

弾数4

連射速度1.0発/秒

爆破範囲 半径18.9m

起爆条件 接触

 

ヴァラトル・ナパームZD

ヴァラトル・ナパームの最終作戦仕様。 歩兵用のナパーム弾射出機。 ナパーム弾は着弾した物体に吸着して炎上。

作中では、グロッケンの裏路地の店にて、グレ男の所為で売られていたのが初手。

弾数4

連射速度1.2発/秒

起爆条件 接触

弾速 秒速198.7m



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戦略情報部 Category:GGO
《GGO》世界


簡単にお話。
EDF隊員らにとっては、何のこっちゃな話。


 

戦略情報部 Category:GGO

我々EDFからすれば、異世界ですね。 銃や怪物がいるのは共通している気がしますが。

 

 

「だが基本的にヤツらは弱いぞ」

 

「怪物は特にな。 群れをなさないから、余裕だ」

 

「無法者は戦術を知ってる分、厄介ではあるが、エイリアンの歩兵部隊よりマシ」

 

「ああ。 エイリアンの兵装の方がヤバかったしな」

 

「駐屯地を何度も襲って来るのは勘弁して欲しいけど」

 

 

そんな世界、GGOですが何の略か。 ご存知ですか?

 

 

「ギャ○ガン・オンラインか」

 

「じぃじぃ……お爺ちゃん、オフパ○か」

 

 

わざとでしょ? 知っててわざと間違ってません!? それと、それ以上はいけない!

 

 

「うるさいなー。 じゃあ早く説明してくれよ」

 

 

お、おのれ。 覚えてろよ……。

 

 

 

 

《GGO》(じぃじぃおぅ)

《ガンゲイル・オンライン》の略。 銃と疾風の名の通り、荒廃した世界でキャラクター達が遠慮なく互いに撃ち合う、銃を使用したVRゲーム世界。

光学銃や実弾銃があり、実弾銃については実在する銃が使われている。

銃だけでなく、手榴弾や防具等も豊富。

 

ステータスを強化するコトで、通常の人間では不可能な行動や速度を出すことが出来る(例:機関銃片手持ち等)。

フェンサーみたいに両手それぞれに武器を持つとか、可能になるワケだ。

 

バレット・サークルやバレットラインと呼ばれる、着弾位置や弾道を知らせる補助がプレイヤーには見えている。

コレはレーザーサイトの様なモノだと思えば良い。 銃の引き金に指を触れることがスイッチとなり、現れる。

ところがEDF隊員らにはコレ、見えていない。 ちゃんと照門と照星等のサイトを使用する。 あとレーザーサイトとか。

でもEDF隊員らは変態な装備や技術が多いので、些細ではある。 問題なんてない。

 

現実の電子マネーとゲーム内通貨の交換が公式に可能。 このため、生計を立てているプロのプレイヤーが存在する。

 

 

「リアルとか、VR世界とか、ワケ分かんねー話ばかりだな」

 

「全くだ。 プレイヤー? 何の話だ」

 

「この世界は充分リアルだろ。 怪物とか恐ろしいじゃないか」

 

「実在する銃? うーん。 コピー品じゃなく正規の、的な?」

 

 

戦略情報部も隊員らも混乱する部分がありますね。 引き続き、情報の収集が必要そうな世界です。

 

 

「結局、いつも通り役に立たない情報ばかりだな!」

 

 

ええい、うるさーい!

とにかく。 怪物も人間も、この世界では危険です。 勿論、友好的に接するコトが出来れば一番ですが、万が一、戦闘になるようなら躊躇してはいけません。

 

 

「ホント、今更過ぎる情報、ありがとよ」

 

「死なない程度に頑張るよ」




先に進まねば……。 でもモチベが上がらずorz


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SJ前の日常
本日の予定


駄文ですが………宜しければ、どうぞ。


「そうだ、レンちゃんとワンちゃん」

「なにー? ピトさん」

「ワン……ちゃん?」

 

岩と砂の砂漠に、俺と女二人。

今日も太陽は見えず、黄色くどんよりした雲が空を覆っている。

 

遠くには廃墟のビル群。

殺伐とした風景だが、明るい会話は未来を感じさせるものだ。

 

「可愛いと思う、ワンコみたいで」

「ピトやレンも可愛いと思う」

「おっ、二人同時にナンパ? やるねぇ」

「そんなワケない」

 

平和な会話。

約4年程前は、こんな余裕が無かったからなぁ。

代わりに悲鳴と銃声を良く聞いたものだ。

 

エイリアンの侵略とか、誰が予想出来ただろう。 戦略情報部は知ってた風だったが、まあ、もう過ぎたコトだ。

 

「ところで、さっき何を言いかけたんだ?」

「よくぞ聞いてくれた!」

「いやいや、ピトさんが言い出したんじゃ」

「そうだっけー? あたしゃ覚えてないなー」

「やれやれ、ピトさんのリアルはお婆さんでしたか」

「ああ! しまった!」

 

これからは人類復興の為に頑張ろう。

笑顔で話す二人を見てそう思う。

 

だが障害があるのも事実。 エイリアンの置き土産、怪物の駆除だ。

それと暴徒の鎮圧。 世紀末ヒャッハー連中をなんとかしなければ。

 

同じ人類を手にかけるのは気が進まないが、仕方ない。

 

「いやあ、別に隠すわけじゃないけど、いや………リアル年齢は隠してるけどさ、そんなに年寄りでもないんだよ?

もちろん、レンちゃんみたいに未成年、なんてピチピチじゃないけどさ!」

「ピトさん……。 ピチピチってもう死語じゃない? 少なくとも、大学で使ってる人、いない」

「はい、レンちゃんは現役大学生!

前から思っていたけどやっぱりか! また一つ判明しましたー!」

「しまったあああああ!」

 

叫ぶ全身ピンクの子供、レン。

可愛い見た目と裏腹に、現役大学生ということは、飛び級だろうか。 相当に頭が良いらしい。

 

「だが、今の地球で大学は機能しているのか?」

「GGOの世界じゃ機能してないだろうね。 てか、またこのパターンか!」

「ワンちゃん、リアルの話だよ。 この世界にのめり込み過ぎ!」

 

いや、リアルの話をしたつもりなのだが。

よく彼女らとは会話が成り立たないが、あまり突っ込まない方が良いだろう。

 

戦時中の辛い記憶から逃れる為の、矛盾の様なものだ。 そう考えて、俺は彼女らに合わせる様にしている。

 

「ああ、すまない。 今は怪物退治に集中しよう。 武器の点検は済んでいるか?」

「ピーちゃん? 大丈夫だよ!」

「私のAKー47もね!」

 

そう返事をして、自分の腕に銃を抱き寄せる二人。 よし、良いコトだ。 武器は自衛の面でも重要だからな。

 

ピーちゃんこと、P90………レンが所持する武器だ。 服と同じ様にピンク色。 長方形の箱の一部をえぐった様な、異形の銃だ。

 

使った事がないが50発の装弾数らしい。 少ない。 近距離での貫通能力はあるらしいが、怪物の大群相手には心許ない。

 

EDFのレンジャー部隊が使用するアサルトライフルがあればな。 ワンマグ3桁のモノが多い。

まあ………セミオートマチック・ライフルは30発前後なので、ソレと比べたら良いとは思う。

 

一方、黒い服に身を包む、ピトことピトフーイの銃。

如何にもアサルトライフルのソレ。

AKー47と言っているが、知っている銃だ。 スラッガー・アサルトライフルだ。 細部は異なるが、多分そのシリーズ。

 

破壊力を重視した代わりに射程距離と精度が犠牲になっている銃………の筈だが。

ピトは改造したのだろう、射程も精度も悪くない、というか普通に良い。

湾曲したマガジンがセミオートと同様の30発になってしまっているのはやはり、痛いが。

 

「そういうワンちゃんは?」

「俺か? 勿論、大丈夫だ」

 

聞かれたので、銃を見せる。 赤い色に包まれた、吸着爆弾を射出する銃を。

 

「相変わらずワンちゃんの銃は変なのが多いねぇ。 ねね、やっぱり売ってくれない?」

「ダメだ。 スピードスターなら良いが」

「オモチャじゃん、アレ! 銃じゃないし!」

「あー、あの200キロくらい出るお掃除ロボットみたいな」

 

そんな会話をしていた刹那、くぐもった爆発音。 ディテクターが起動したか!

 

「かかった!」

「かかった!」

「かかったな!」

 

俺やレン、ピトは素早く行動開始。 良い動きだ。

 

「やっちまえー!」

「やっちまえー!」

「いくぞ!」

 

楽しそうに声を出しながら、俺は真面目な声を出しながら、10メートル程駆ける。

その先にはミミズの怪物が一体のみ。

全長5メートル程度。 10メートル程の怪物が群れを成しているより全然良い。

 

「サポートやるよ!」

「サポートする!」

「りよーかい!」

 

レンが猛ダッシュ。

そしてピトがセミオートでスラッガー発砲。

怪物に命中する、良い腕だ!

 

俺も負けじと、銃を向けて、怪物にトリガーを引く。 大きな缶ジュースの様な、点滅する吸着爆弾が引っ付いた。 よし!

 

「やー!」

 

レンがP90を撃ちまくる。 小さな体で良くやると思う。

子供を戦わせるのは心が痛むが、本人は楽しんでいるものだから、複雑な気分だ。

 

武器がいらない、平和な世界を築かねば。

その為にも、先ずは目の前の怪物を駆除する!

 

「起爆する、離れろ!」

「了解!」

 

そういうと、中々の速さで怪物から離れる。 安全を確認し、すぐさま銃の前方部にある、アンテナのトリガーを引いた!

 

刹那、怪物の表面に付着していた爆弾が爆発を起こし、怪物は木っ端微塵に。

センサーにも反応なし。 勝ったぞ。

 

「EDF! EDF!」

「相変わらずの強さだね」

「そして謎のかけ声だねー」

 

この調子でこの世界に、皆はGGOとか言っているが………平和を取り戻すのだ!




エアレイダーの「空」も出る予定。


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レンとの出会い

ストーム1が、GGOに迷い込んだ時の話。


日本なのか欧州なのか。

砂嵐が晴れた時、俺は荒野に立っていた。

 

おかしい。

今日も市街地に繰り出し、生存者の捜索及び、残存する怪物の駆除任務に当たっていたのだが。

 

途中、砂嵐に巻き込まれた時に、何が起きたというのだ?

 

空は黄色くどんよりした雲に覆われて、どことなく不安を煽る。

 

辺りを見渡すも、岩や朽ちた戦車のみ。 それもブラッカーやタイタンではない。

レールガンやウォーバルガが闘った平原かとも考えたが、やはり違う。 知らない場所だ。

 

「本部、応答してくれ! くそっ、ダメか」

 

本部に連絡を試みるも、繋がらない。

砲兵隊やDE202、KM6、ウェスタ、カムイ、フォボス、ノーブル等の航空機。

潜水母艦エピメテウス、バレンランド基地、衛星砲の操作員等とは何故か繋がる様だが、相変わらず一方的に話すだけで会話が成り立たない。

 

これでは帰れないではないか。

 

「………むっ、センサーに反応」

 

そんな時。 ヘルメット・ディスプレイのセンサーに民間人表示の白丸が4つ。

反応した辺りを見る。 すぐそこに武装した三人組を確認。 レジスタンスだろうか。

此方には気付いていないが、声を掛ければ聞こえるだろう距離だ。

 

もうひとつは、目の前の岩辺りから。 よく目を凝らすと、子供がいるではないか。

ピンク色の服が保護色となり、見難かった。

 

銃を抱えて、ガタガタ震えている様に見えるが。 怯えている?

 

「まさか」

 

三人組に狙われている?

あり得る話だ。 物資を奪い、殺し殺される世紀末な今の時代。

 

物資を持っているのが子供でも、容赦はないだろう。 もしくは『身体』そのモノも狙いか。

 

助けねば。 帰る方法は後だ。

 

「そこの三人組! こっちだ!」

 

声を張り上げて注意を向けさせる。 気付いた連中は案の定、逡巡なく銃を向けて発砲してきた。

実弾兵器だ。 マズルフラッシュを激しく焚いてくる。

 

直ぐに俺は地面を転がりつつ、子供のいる岩場へ退避。 共に身を隠す。

 

「大丈夫だ。 必ず君をまも、うわっ、よせ!」

「ひいっ!?」

 

隣に来るまで気付かなかったのか、驚いたと同時に銃口を向けられた。 トリガーに指が掛かる前に、慌てて取り上げる。

 

守る対象に殺されるとか笑えないぞ。

てかよく見ると女の子だ。 余計にか弱く見えて、いよいよ保護欲が湧き出てくる。

 

「驚かせてすまない。 だが必ず君を守ろう」

「………え、えっと?」

 

困惑しているが、今はヒャッハー連中の駆除だ。 同じ人類を殺すのは抵抗があるが、仕方ない。

 

センサーを見るに、一人だけ撃ちながら前進している。 後はカバーか。 連帯をしている分、厄介そうだ。

 

もう少し近付かれたら、グレネードの類を放り込まれるかも知れない。 かといって、慌てて飛び出せば蜂の巣になる。

そうなれば俺は兎も角、子供は絶命。

 

「だが!」

 

そうなる前に駆除だ。

幸い、エイリアンの歩兵部隊や度々の対人戦闘で慣れている。

 

遮蔽物から身を出さずとも、攻撃手段は色々ある。 そのひとつ、ロボットボムを用意。

 

見た目は丸い、家庭用お掃除ロボットであるがAI搭載の自走式爆弾で、遮蔽物を避けて目標まで進む代物だ。

その前に目標をロックオンしなければならないが、EDFの兵器は遮蔽物越しでもロックオン可能。 これにより隠れながらでも攻撃が出来るのだ。

 

「行って来い!」

 

早速三人をロックオン。 ロボを複数解き放つ。

手前のヤツは素直に命中。 爆音が岩の裏から聞こえてきた。 同時にセンサー反応消滅。

 

だが、それで瞬時に危険物だと判断したのだろう。

後ろの二人は迫るロボを撃って無力化したらしく、爆音が手前で聞こえた。 センサー反応も健在。

 

「残念だな。 それも織り込み済みだ!」

『機銃掃射、開始ッ!!』

 

無線機からKM6パイロットの声が聞こえると、上空を2機の戦闘爆撃機が飛来。

予め要請していたのだ。

 

刹那、指定された座標を機銃掃射で薙ぎ払った。

 

地面を走るボムや俺に気を取られ、空を警戒する間が無かっただろう。

 

丁度、爆音と共に怪物が現れた反応があったが、そこも運良く機銃掃射のエリア。

大量の砂埃を立てて何処かへ飛んで行った後は、センサーに何の反応もない。 皆死んだ。

隣の女の子を除いては。

 

「怖かったろう。 もう大丈夫だ」

 

全てが終わった後、頭を撫でてあげる。

余程怖かったのだろう。 涙を浮かべて、先程よりガタガタ震えている。

 

「俺はストーム・ワンだ。 君は?」

「レン……、です。 こ、殺さないんです、か?」

「そんなコトはしない。 あの三人組みたいに悪いヤツじゃないだろ?」

「……え、えと? 人殺しはないです」

「なら良い。 罪は俺が背負う」

 

さて、保護したコトを本部に………本部。

 

「すまない、拠点があれば案内してくれ。 その、色々あって帰れないのだ」

「は、はい」

 

コレが俺とレンの出会い。

助けた後に保護されるという、格好悪い形から始まった。



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幼女と保護者

不定期更新。


レンは150cmに満たないチビな女の子ですが、それはGGOという、フルダイブのVRゲーム世界での話。

 

現実のレンは身長183cmの女子大生、小比類巻 香蓮(こひるいまき かれん)。

長身コンプレックスな彼女はVRMMO≪GGO≫にて、身長150cmにも満たない理想のチビアバターを手に入れました。

 

レンはヴァーチャル・チビを楽しみます。

また、根が真面目なレンです。

このゲームの戦いもやってみようと思い、チュートリアル等を行い、色々学び、モンスター狩りをして楽しむ日々を送ります。

 

そしてある程度の経験を積んだ頃。

女の子らしい可愛い服を求め、戦闘服をピンク1色にしてしまいました。

 

銃の世界で可愛い服を求めるのは間違いですが、身長と相まって、人の目を引きます。

 

「前も見たが、相変わらずちっこいな」

「ピンクだし、女の子だったの?」

「子供か?」

「可愛いな、おい」

「小さいなあ。 あんなアバターあるんだ」

「やっぱNPCか?」

 

ビルの谷間に、けばけばしいネオンが溢れる町を歩けば、皆は口々にそう呟くのです。

 

普段の彼女なら、口元が緩むトコロでしょう。 実際、ピンクに染める前にも皆に注目され………緩む衝動を抑えられませんでした。

 

でも今は違います。

注目して欲しくありません。 顔も引き攣っています。

 

別にPK(プレイヤーキル)をやっちゃって、報復を恐れている訳ではなく

 

「うわっ! 何だアイツ!」

「なにあれ……? 背負ってるの通信機?」

「隣のヤツの保護者か?」

「格好良いな」

「バイクのヘルメット……じゃないよな」

「レア装備か?」

 

隣を歩く、ストーム・ワンが原因でした。

 

フルフェイスの、バイクのヘルメットの様なモノを頭に被り、顔を覆うバイザー部分は非透明で顔を確認出来ません。

胴には丸みを帯びた防弾チョッキの様なモノを装備。

 

背中には大きな箱状の、通信ユニットを背負っています。

 

他にも様々な通信機が付いており、どれが何用なのか全く分かりませんが………いずれも《GGO》には存在しない装備です。

 

ですから、注目されるのは仕方ないのです。 ただ、本人は《エアレイダー》装備は珍しいのだろう、という少しズレた認識でした。

 

「素晴らしいな、この町は。 人類の復興は夢じゃない」

「あはは………」

「だが町の外は怪物や無法者、か」

 

しかも会話もズレている様に感じます。

レンは世界設定の最終戦争だとか、プレイヤー達は宇宙船に乗って来たとか、その辺の話かと思いました。

 

ですが、レンは付き合うつもりはありません。 助けてくれたとはいえ、装備も会話もオカシイ人です。

 

戦闘で航空機を呼びましたし。 そんな人、聞いた事ありません。 危ない人です。

 

「えーと、それでは。 この辺で」

「駄目だ。 外に行く気なら、俺も行こう」

「ひとりで大丈夫ですので」

「駄目だ。 どうしても行くなら、俺も行く」

 

レンはストーム・ワンから逃げようと思いましたが、失敗しました。

 

その後も似た様なコトを繰り返し、最終的に走って逃げようとします。

レンは俊敏性を高く上げていたので、撒けると考えたのですが

 

「待てレン!」

 

振り返れば、某お掃除ロボットの見た目をした《スピードスター》が凄い速さで迫っており、足元を掬われて追い付かれました。

 

次に町の建物や人を縫う様に走りましたが

 

「レン! 待つんだ!」

 

空からバリバリと唸る機械音と共に声がして、見てみれば戦闘ヘリ《N9エウロス》で追い掛けてこられ、追い付かれました。

 

物陰に隠れても、何故か直ぐに見つけられます。

 

レンは知りませんが、ストーム・ワンはセンサーの反応で探しているのです。 色々とズルいです。

 

小さい頃の鬼ごっこや隠れんぼを思い出して、少し楽しんでいた部分もあるレンですが………こうも一方的だと、ツマラナイ。

 

それに町中でそんなコトをしたものですから、二人はスッカリ有名人に。

 

レンはこれ以上、変に注目されない為にも結局は諦めて

 

「あー、はい。 一緒に戦いましょう………」

「宜しくなレン。 それと、敬語は要らない」

「よろしく、ストーム・ワン………」

 

渋々ペアを組む事にしました。

 

そうして3ヶ月以上の間。

砂漠フィールドは空爆やら衛星砲やらミサイル群の嵐が吹き荒れました。

 

この嵐に巻き込まれた不幸な怪物や無法者は、大抵《蒸発》しました。

 

大抵はストーム・ワンの所為です。

 

それでも人間とは慣れる生き物らしく、レンはこの光景にスッカリ慣れてしまいました。

 

「EDF! EDF!」

 

戦闘終了後の、謎の掛け声にも。

 

そしてある日。 町に戻ると

 

「アイツがストーム・ワンか!」

「アイツひとりに、討伐隊が全滅したってか!? マジかよ!」

 

いつもより騒がれました。

いつの間にか送られていたらしい、ストーム・ワン討伐隊を殲滅してしまった様です。

 

「あのー、君の保護者? なんだけどさ。 武器の使用を自重してくれる様に頼んでくれない?」

 

討伐は無理と認識されたのでしょう。

レンは懇願されましたが、首を横に振るしかありませんでした。

レンにストーム・ワンの制御は無理です。

 

それに保護者じゃない! そう言い返したかったレンですが………その時、声に出す気力がありませんでした。

 

さて。 2025年が最後の月に入った頃。

ストーム・ワンは恐懼の対象としてすっかり有名になり、レンはその子供という誤認が広がっていました。

 

最も、ストーム・ワンに自覚はありませんでしたが。

 

『ピトフーイ』と名乗る女性プレイヤーと会ったのは、そんなときでした。



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毒鳥との出会い

ピトとの出会い。


 

今はレンと共に、きらびやかなショッピングモールで、レンの新たな武器探しをやっている。

 

最初はぎこちない感じだった俺とレンの関係も、大分改善された。 今なんて、楽しそうにウィンドウショッピングをしているし。

 

しかし………本部と連絡が取れないまま、3ヶ月以上も経過、か。

 

テレポーションシップの撃墜方法が分かった日………転機が訪れたのも、それくらいだったが、今回も来るのだろうか。

 

そんな不安を抱えていた時、声を掛けられた。 魅力的な女の声だ。

 

「ねえ! そこのおチビちゃんとヘルメット君。 ちょっとお茶しない? おねーさんがおごるから」

 

振り返れば、長身で褐色肌の女性。 細く締まった肉体で、間違いなく美女の部類だろう。

顔に煉瓦色のタトゥーを入れており、戦闘に不向きな露出過多な服装。

 

俺も男だ。 気になるコトもある。

 

「可哀想に、俺の作業着を貸してやろうか?」

「いや、服はあるから大丈夫。 それに作業着は要らないなあ」

「すいません、こういう人なんです」

 

レンが謝った。 何故だ。

怪物が未だ跋扈する世の中、服装は重要ではないか。

アーマーがないなら、せめて保護色にするべきだ。 レンみたいに。

 

「気を取り直して………私はピトフーイ。 みんな呼びにくいってブーブー言うから、略してピトで良いよ。

おチビちゃんは、レンちゃん、だよね?」

「は、はい。 レン………です」

 

レンのコトを知っているらしい。

小さく、保護欲にかられるからな。 特に女性には認知度が高いのかも知れない。

 

「それとストーム・ワンだね?」

「そうだ。 俺のコトも知っているのか」

 

俺まで知っているとは。

まあ、レンと一緒にいるからな。 オマケで覚えられたのだろう。

 

「そりゃ勿論! 《GGO》ではストーム・ワンは有名人だし! あっ、でも気楽に話そうよ! 敬語はいらないよ!」

 

有名人なのだろうか。 戦時中はサインを求められたコトもあったが。

 

しかし気のいいお姉さんだ。 悪い人ではないだろう。

 

それに、レンの友達になるかも知れない。 ここはお茶に付き合い、仲良くなって欲しい。

 

歳は離れているが、女性が少ない町だ。 同性同士じゃないと話せないコトもあるだろう。

 

一度、遠目に黒髪で長髪の、女性らしき人を見たコトがあるが………アレは男だ。 そんな気がしただけだが。

 

「お茶に行くんだったな。 男の俺は少し離れておくよ」

 

そういうと、レンは目を丸くして驚いたが、まあ、子供故の不安や寂しさを感じたのだろうか。 そう思うと、可愛く感じる。

 

「いやいや! ストームも来なよ! 大切な娘さんが拐われちゃうよ?」

「面白い奴だな。 そう言う分にはやらないだろ?」

 

そう言って、手を振って

 

「俺は町中をぶらついてくる。 また後で会おう!」

 

少し暇を過ごすコトにした。 女同士の方が話も弾むだろう。

 

 

 

町をノンビリ散策する。

万が一、町での戦闘やレンの捜索も兼ねた下見、という意味も兼ねて。

 

相変わらず注目を浴びるのだが、装備が悪いのかも知れない。

そろそろ民間人の格好をしようかと思う。

 

人気のない、狭い道に行くか。

そう思い、目に付いた道を突き進むと、狭くてごちゃごちゃした店に辿り着き。

 

「アレ? ストーム・ワン?」

「おやおや、君もストーカーかな?」

 

レンとピトに再会した。 しかもストーカー扱いされた。 失礼な。

 

それに『も』って。 他にストーカー扱いをしている人物がいるのだろうか。 カワイソラス。

 

「偶々だ。 狭い道を調べていたらな、ここに辿り着いただけさ」

「ホントかなー? レンちゃんも大変だね」

「うん。 大変なの」

 

酷い、冤罪だ。 だが言っても仕方ない。 女性二人に男一人。 多数決で負けている。

 

「まあ、なんだ。 この店はガンショップか」

「そうそう。 そしてレンちゃんの新たな相棒探し! レンちゃん! コレ、オススメだよ!」

 

アッサリ話題逸らすのに成功。

これ以上責められない為にも、話に付き合うコトにする。

 

ピトが指差す品物を見れば、長方形の箱をくり抜いてグリップを付けた様な、異形の銃が。

 

P90という名前らしい。

 

小型で高性能なのかも知れない。 分かるのは、プライスタグに並ぶ数字の破壊力くらいだが。

 

「買いますっ!」

「即決だな」

 

まあ、欲しいモノを買えば良い。 とても喜んでいるし、俺が奢るか。 幸い、3ヶ月の間にクレジットとやらが貯まったのでな。

 

「何これ……、本当に銃なの……。 かわいい……。 なまらかわいい……」

「おっ? レンちゃん道産子?」

 

刹那、戦闘中に破壊してしまった駅や、電波塔、洋館が思い出される。

 

お、奢ろう。 俺はそう心に決めた。

 

 

 

「ありがとうストーム・ワン!」

「あ、ああ」

 

P90を嬉しそうに抱えるレン。 妙な罪悪感があるが、過ぎたコトだ。 色々仕方ない。

 

「名前はどうする? 付けるでしょ?」

「な、名前? 銃にですか?」

 

ああ、自分の持ち物に名前を付けたくなるコトってあるよな。

そして大切にする。 良いことだ。

 

「もちろん!」

「そ、そんなことは………します!」

「でしょー。 で、その子のお名前は?」

「ピーちゃん」

 

安直な名前が付いた。 まあ、うん。 可愛いと思うから良いと思う。

それにこれで寂しい想いはしないだろう。

 

「俺だと思って、大切にしてやってくれ」

「レンちゃん、その武器捨てないでね?」

「うん。 大丈夫」

 

容赦なく会話する二人。

何だろう。 少し寂しくなったぞ。



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武器語り

ピトを中心とした、ひたすら銃の話。 中々戦闘描写が………。


レンとピトが仲良くなり1ヶ月。

時間が合えば、二人は怪物退治に繰り出すようになった。

 

俺としては大人しく、町にいて欲しいのだが………平和の為か。

行き勇んで出掛ける彼女達を止める気が起きない。

 

民間人時代の、俺を見ている様だ。

あの時は228基地から脱出したり、安全な場所を求めるのに必死だったのもあるが。

 

違う点は安全な場所に留まらず、自ら戦地へ赴いているところ。

そして武器が豊富で、使い方も知っている点か。

 

特に後者は良い。 EDFのアサルト・ライフル《PAー11》を渡されて、付け焼刃的に簡単に撃方を教わって、即実戦よりは。

 

俺の場合《リムペットガン》だったが、似た様なモノだろう。

起爆動作が有るか無いかだ。

 

「ところで、今日の武器は何だ?」

「へーん、《L86A2》だよ。 イギリス軍のアサルト・ライフルL85の、銃身を強化して長くした分隊支援火器バージョン。

普通のマガジンしか使えなくてさ、じゃあライフルとどこが違うんだってツッコミどころ満載の1丁なんだけど、命中率は悪くないよ。

重いけど結構好き」

 

ふむ。 ストーク系の《T4ストーク》辺りと思ったが、違うのだろうか。 だが、ストークの開発場所は欧州だったのかも知れない。

 

レンはあまり興味がないのか「は、はあ」と困惑中。

なに、無理して覚えるモノではないからな。

 

「サイドアームの拳銃は、《コルト・ダブルイーグル》! コルト社がガバメントをベースに出したダブルアクションオートなんだけど、格好も性能も悪くて不人気銃なんだ!

いやー、GGOにあるって聞いたときは探したよ! コレクターが持ってるのを見つけて、クレジット積んで買い取った!」

 

イーグルと言うからには、狙撃銃に出来るのだろうか。 拳銃だし無理か。

EDFの狙撃銃《イーグル》を思い出してのことだ。 俺には縁が無かったが。

 

しかし、不人気銃と言いつつ嬉しそうに語るなぁ。 そういうのが好きなのか。

 

「さあ! 今度はワンちゃんの装備を紹介して! さあ、さあ!」

「ワンちゃんって………まあ良い」

 

仕方ない。 親睦を深めるべく、武器の見せ合いといこうじゃないか。

 

そう思い、先ずはお馴染み《リムペットガン》を見せてみる。

 

「コレはよく使う銃だな。 色々種類はあるが、基本は吸着爆弾を射出して、起爆用の引き金を引くと、ボカン、だ」

「いやー、知らない銃だね! でもさ、ソレ味方に着いたらヤバくない?」

「問題ない。 リロードすれば、射出した爆弾は消える仕組みだ」

「どうなってるの………」

 

今度はピトも困惑する時間になった。

俺も詳しい仕組みは知らない。 最早、そういうものだとして受け入れている。

 

「他の銃だと………この、《サプレスガン》だ」

「妙な形だねぇ」

「護身用の武器でな、散弾銃の様なものだ。 目の前に敵がいる際に使用する。 装弾数もなく、射程も殆どない」

 

この銃を使う機会が二度と無い事を願うばかりだ。 使うときとは、他にどうしようもないときなのだから。

 

「散弾銃といえば。 《レミントンM870》は良いと思うんだ! ポンプアクションのショットガンといえば、ベタだけどコレだね!」

 

《スローター》とかだろうか。 詳しくないから分からないが。

 

「ショットガンか。 怪物退治には持ってこいの銃だな。

使っている部隊を見た事はあるが、良いと思う」

「射程や連射、装填の欠点はあるけどさー、良いじゃん!? ポンプアクション!」

 

怪物の大群相手なら、セミオートが良いと思うが。

ソレを言うのは無粋だろうから、言わないコトにする。

 

「コレを見て! 《M16》だよ! 初期モデルだよ!」

「とても見覚えがある様な、そんな銃だな」

 

《PAー11》に似ている。

アレはレンジャーの多くが使用していたが、あまりに強力な怪物や大群相手には少し火力不足が否めなかった。

 

「あっ、ゴメンねレンちゃん! 色々言って、困惑するよね!」

「大丈夫。 聞いてても、そう………楽しいから」

「すまない、レン」

「ホントだよ………」

 

あれ。 俺の時だけ対応違くない? レン、オコなの?

拗ねて目を合わせてくれないんだが。

 

「あっ、ふーん?」

「な、なに? ピトさん」

「いや、べっつにー?」

 

何だと言うのだ。 女にしか分からない何かでもあるのか。

《ウィングダイバー》が女性のみで構成されている様に、きっと何かあるのだろう。

 

「ところでレンちゃん。 《対物ライフル》って知ってる?」

「唐突だね………えと、名前を聞いたことがある、程度しか」

「じゃあおねーさんが説明しよう! 対物ライフル、英語だとアンチ・マテリアル・ライフルってのは、まあ、簡単に言うと、飛び抜けてデカイ弾を使う銃」

 

可哀想だと思ってか、レンに話し始めるピト。 今度は俺が放置を喰らう番か。

 

まあ、静かに聞いていようか。

 

「想像もつかないけど、弾が大きいと、威力も大きいの?」

「とーぜん。 5.56ミリ弾が400メートルくらい、7.62ミリ弾は800メートルくらいまでしか狙えないけど、12.7ミリになると余裕で1000メートル以上まで狙えるよ」

 

弾の種類は分からんが、対物ライフルというと《KFF50》がそうだろうか。

1000メートル以上を狙うというと、《ライサンダー》や《イーグル》か。

 

「せんめーとる? 1キロ?」

「とんでもない長距離でしょ? もちろん、その分だけ銃も大きくて重くなるけどね! 要求される筋力値は凄いことになるよ」

 

レンジャーは凄いんだな、と改めて思う。

だってあのデカイ銃を地面に置く訳でもなく、空中でドッカンドッカン撃ってるから。

 

緊急回避のローリングで、ガードレールや街頭等を吹き飛ばしているし。

俺にレンジャーは無理だな。

 

「わたしにはムリだろうなあ……」

「まあ、銃によってはレンちゃんの身長くらいはあるかな」

「えへへ」

 

一瞬、レンジャーに抱えられるレンを想像してしまい、吹き出しかけた。

そんなコトがバレたらヤバイので、何とか堪えたが。 ヘルメットを着用しているとはいえ、分からないからな。

 

「この手の大型ライフルは、第二次世界大戦までは《対戦車ライフル》って呼ばれていたんだけど、戦車が頑丈になってとても倒せなくなったから、名前が変わったの。

長距離狙撃とか、敵の軍事物資を攻撃できる銃として使われているのよ。

大きいとはいえ、人間一人で運用できるから便利なの」

 

そうなのか。 だが戦車も遠くから撃ちまくれば壊せそうだが。 《ブラッカー》とか。

《タイタン》は………見た目が見た目だからな。 分からん。

 

「ふーん。 大きくて、遠くまで狙える銃、か。 じゃあ、持っていると、ゲーム内で最強になれる?」

 

おい、レン。 何故そこで俺を見る。 ピトもだ。 俺を的にする気か?

 

「いや、全然」

「ありゃ?」

「なにせデカイし重いしで、筋力値の要求も相当高いらしいよ。 超遠距離狙撃だとそれなりの技術も必要だし。

まー、よほどの好き者じゃないと実戦じゃ使わないんじゃない?」

「それでもピトさんは持ちたいんだ……」

 

怪物の大群相手には不利だろうしな。

狙撃部隊のブルージャケットを思い出す。

 

戦場で狙撃兵ほど恐ろしいモノはない、的なコトを言っていた気がするが、数の暴力には勝てなかった。

 

「このクラスの銃、超が三つつくほどのレア銃になるんだけど……実はね、一人持っているキャラクターを知っているんだ。

しかも女プレイヤーでね」

「へえ! その銃はさておき、女性プレイヤーってのが驚き」

「シノンっていうんだけど、知らない? 水色の髪の」

「残念ながら」

 

水色……狙撃。 その人、ブルージャケットだったりしないだろうか。

で、あれば。 どこかの戦場で一緒になっていたりしないだろうか。

 

「………捜して見つけて言ってみたの。 こんにちは! 《へカートⅡ》売って! って」

「ぴとさーん、それで本当に買えると思ったの……?」

「ダメだった! 身持ち堅いわあの子!」

「…………」

 

まあ、なんだ。

色々な武器や人がいる、というコトだ。

 

「会話してるとこ悪いが、お客さんだ」

「あっ、プレイヤー達が来てる!」

「武装は《AKー74u》かな?」

 

それら武器や人が………成る可く俺の敵にならないコトを願うばかりだ。




次回、戦闘&スクワッド・ジャムの話。


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求める者、溶ける者

やっと大会の話へ。


「此方はEDFのストーム・ワンだ! 直ちに武装放棄の上、投降しろ!」

 

いつもの荒野。 ミミズの怪物を倒した後に雑談をしていたら、武装した無法者集団と邂逅、発砲された。

 

その上でこの様な呼びかけを行なっている。

 

プライマーと違い、相手は人間だ。

意思の疎通が出来る希望をもって、声を掛けてみたのだが

 

「ふんっ、噂のストーム・ワンも、実はビビリなんじゃねーのか?」

「PK上等のGGOで何を言ってんだか」

「黙ってやられろ!」

「レア装備を寄越せ!」

 

とまあ、相変わらずだ。

今はピトやレンと共に、かつて建物の一部であったであろう、壁に隠れている。

 

壁には無数の弾丸が撃ち込まれ、砂埃と銃声が止まない状況だ。

 

「くそっ、かつての市街戦を思い出すな」

「PK上等のコソ泥に報復は常識よ! ワンちゃん、気にせず殺っちゃいな!」

「ピト。 瞳孔が開いてるぞ」

 

ピト、嬉しそうに言うな。

戦闘に飢えているのか。 こんな時、とても嬉しそうだ。

 

戦闘で生死を実感し、喜ぶ人もいる。 意義のある死を求めて闘う者もいる。

 

ピトは………どうなのだろうか。 明るい雰囲気の裏に、何を求めているのか。

 

「わ、ワンちゃん………ププッ」

「レン、お前もか」

 

こういうのは、俺は求めないがな。

 

「ほら、多少は緊張感を持て。 身動きとれないんだぞ」

 

そう言いつつ、ロボットボムを解き放つ。 それらは機械音を発しつつ、自走して無法者達に突っ込んで行く。

 

やがて発砲音に混ざり壁の向こうから爆音が聞こえるが、少し音が近いな。 先に処理されたらしい。 ロボットボムは最近ダメだ。

 

まあ、囮程度なら十分だが。

 

「他にもあるんでしょー? 空爆とか砲撃とか! 援護してあげるからさ、ね? レンちゃん?」

「もちろん! ワンちゃんが今頃何を呼んでも驚かないし、楽が出来るなら」

 

そう言って、銃身のみを遮蔽物から出して発砲するブラインドファイヤを行う二人。 根暗撃ち、ゲリラ撃ちとも言ったか?

 

被弾率を低下させる代わりに命中率の悪い撃方で、味方への誤射の危険がある撃方でもあるが、相手への威圧という意味で効果はある。 ありがたい。

 

だが何を呼んでも驚かないときたか。 人間、慣れとは恐ろしい。

無法者が減らないのも、そういう部分があるのかも知れない。

 

ここは心を鬼にして………いや、α型にしてアレを要請しよう。

 

「ああ、少し待て」

 

そう言って発煙筒を側面に投げた。

赤色の煙がモクモク上がり始めたソレは、ビークルの投下地点を指示するもの。

 

その為、安全な場所で焚くのが一般的。 やむを得ない場合もあるが。

 

「ちょっとー、隣が煙たい」

「これくらい我慢しろ」

「砲撃要請?」

「いや、ビークルを呼んだ」

 

ぶーぶー言うレン達と会話してる内、輸送機ノーブルがやってきた。

硝煙弾雨の激しい戦場でも輸送してくれる、頼もしい存在だ。

 

『コンテナ、投下!』

「うわっ! 噂の航空機か!?」

「ティルトローター、いや、ジェット機?」

「低高度をホバリングしてる! 撃て、撃ち落とせ!」

「武装は確認出来ないが、コンテナを投下したぞ!」

 

そして撃たれまくってもビクともしない存在だ。

機体の表面を無数の火花が散っているが、揺れもしない。 一応、コックピットやエンジン部分を狙っている様だが。

 

金色の装甲と良い勝負なのではないか。 言い過ぎか。

 

そして投下されたコンテナが地面に着くや否や、一瞬で消滅。

輸送機が何処かへ消え、煙が晴れてくると見えたのは、小さな戦車だった。

 

《メルトバスター》登場である。

 

見た目はブラッカーだが、溶解液噴射砲(メルトガン)を搭載した特殊戦闘車両だ。

市街戦用に開発された兵器らしいが………荒野でも使えんコトはない。 使おう。

 

「おっ、戦車!? かなり小さいけど」

「乗り込んでくる、二人はここにいろ。 それと………あまり見ない方が良い。 特にレン」

「任せて! 目隠ししておく!」

「ピトさんは良くて、私はダメなの………?」

 

子供にはショッキングだろうからな。

普段の撃ち合いもそうだが、今回はヤバめだ。

 

俺は遮蔽物から飛び出して、素早くメルトバスターに乗り込んだ。 撃たれまくったが、車両の装甲に守られる。

 

「うわっ、戦車だ!」

「怯むな! ちっこい戦車だぞ!」

「機銃もない! オモチャの類だろ!」

 

無法者共め、これで逃げれば見逃したところを。 やはり撃たねばならないか。

 

プライマーではなく、人にやるとはな。 だが、恐怖心を与えねば。

逡巡したが、俺は決意し………トリガーを引いた。

 

「ピトさーん、目隠しされちゃ分からないよ」

「主砲からね、やらしい液体を出したよー」

「は、え? からかわないでよー」

「それでね。 浴びた連中『さ、酸だー!』って叫んでね、皆溶けていくよ! おねーさん、ゾクゾクしちゃう!」

「え、ええ!?」

「あ、盾を持った大男が………あー、ダメだわ。 盾ごと溶けたわ」

「………見なくて良かったかも」

 

よし。 生き残った無法者は逃げたか。

我ながらエゲツないと思う。 だが、確実に相手に恐怖を与えただろう。 これが噂になり、無法者が減れば良いが。

 

「あんなのがスクワッド・ジャムに出たら、大騒ぎだろうねぇ」

「イカの……ジャム?」

「変なの想像させないでよ!」

「でもさ、イカの塩辛って、言わば……、それじゃない?」

 

これでダメなら、次は燃やす。 ウェスタを要請してナパーム弾を投下する。

 

セントリーガンでも良い。 鉛玉と爆発と光線に慣れた連中だからな。

どこまで通用するか分からんが、生理的な悪寒を感じてもらわないとならない。

 

「イカはスクウィド。 今回は、スクワッドね。 おわかり?」

「スクワッドって?」

「英語で《班》とか《分隊》って意味。 軍隊で言う、中隊とか小隊とか、小分けの区分があるでしょ?

分隊は、その最小単位。 だいたい十人くらいらしいけどね」

 

メルトバスターの砲塔を下げつつ、レン達の元へ戻る。 地面に履帯の跡をつけながら。

 

何か話しているが、ショッキングなシーンは見ずに済んだ様だ。 良かった。

 

一生見なくて済むなら、それに越したことはない。

 

「ふーん……。 ジャムは?」

「J、A、Mで、パンに塗るアレの意味もあるけど、元々は、ぎっしり押し込むって意味なの。 トラフィック・ジャムが交通渋滞の意味だって言えば分かるよね」

「うん、分かる。 銃が作動不良起こして、空薬莢や弾丸が詰まるジャムと一緒でしょ?」

「そうそう。 そっちを先に言えばよかったか」

「すると……、分隊が、ごちゃ混ぜ?」

「そういうこと。 つまりはね」

「つまりは?」

「スクワッド・ジャムってのは、この《ガンゲイル・オンライン》の中で、少数チームを組んでバトルロイヤルをやろうって大会なのよ」

 

さて。 レンの隣に戻ってきたぞ。

このままタンクデサントをして、町に帰る方法も考えたが、万が一を考えると危険だ。

 

戦車から降りて、新たな発煙筒を炊く。

 

武装装甲車両《グレイプ》を要請した。 部隊輸送に特化したビークルだ。 兵員輸送用車両、と言えば分かりやすい。

しかし、武装と名にある通り、車体の上部に砲塔が付いている。 輸送用とはいえ、戦闘力は侮れない。

 

戦車はリムペットガンで破壊しておく。 悪用されたら大変だ。

 

「ちょっと、また煙たいんですけど?」

「ああ、戦車が爆発した!」

「色々仕方ないだろ。 ところで何の話をしていたんだ?」

「スクワッド・ジャムの話だよ」

 

イカの……いや。 この場合は軍事用語の類か?

 

「………分隊か?」

「話が早い! そんでね、チームを組もうと思うんだ」

 

チーム? 今もチームだと思っていたが、増やすのだろうか。

それとも書類等の登録系の話か?

 

「いいんじゃないか? 俺も付き合うよ」

「流石ワンちゃん! わっかるぅ!」

「あの、ピトさん? ワンちゃんが参加すると色々マズイんじゃ………?」

「大丈夫! 何とかなるって!」

 

どこがどうマズイのかは知らないが、何とかなるなら良いんじゃないか。

228基地奪還作戦に参加した精鋭部隊も、当初は互いに反りが合わなかったが………何とかなったし。

 

「てな訳で。 レンちゃんとワンちゃん! SJに出て!」

「はい? わたしが? ワンちゃんと?」

「ピトは?」

「そう。 私はダメなんだ。 その日は……、中学以来の親友の結婚式でね。 さすがにそれぶっちぎってゲーム大会出たなんてバレた日にゃあ……、よしんば死なずに優勝しても」

「うん、リアルで殺されるね」

「友人は大切にしろ」

「でしょ? 是非参加して欲しいのだけど、その日、暇? デートとか結婚式とかない?」

「ないよ。 てかピトさん? ワンちゃんを見ながら言ってるけど、リアルで会ったコトないからね?」

 

リアルで会ったコトがない、というのは。 多分、プライベートのコトだろう。

レンが突然いなくなる際、自宅に行ってるのだと思われるが………その度にヘリや徒歩で捜索するものの、未だに何処に住んでいるのか分からない。

連絡は取れるから、無事なのは分かる。 だが、瞬きした瞬間に消えるのは、心臓に悪い。 アレは何度経験しても慣れない。

 

「そうなの? じゃ、取り敢えず参加ね! 手続きはやっとくから! チーム登録だから名前があればオッケーだし」

「ちょ、ちょっと待って! どうしてそうなるの?」

「何事も経験だよ!」

「そうだぞ。 いきなりライフル渡されて実戦より余程良いぞ」

「だって、わたし、ワンちゃんと組むの!?」

「お、やる気が出てきたね。 いいことだ」

「聞いただけ!」

「他にも呼ぶよ。 男だけど、まあ、変なヤツだけど、ぶっちゃけ頭の中はほとんど犯罪者だけど、悪いヤツじゃないから。

いいヤツでもないけどね。 そいつとも組んでよろしく!」

 

おお、戦友が増えるのか! 有難い話じゃないか。 仲間は多い方が良い。

戦友が時間を稼ぎ、その間に俺が空爆や砲撃要請を行うという連帯が出来るからな。

 

「え? 男二人に女一人になるの?」

「うん。 今までと男女比逆になるね! でも大丈夫っしょ!」

「…………。 ピトさーん、それでわたしが『わあい! 分かりました!』って言うと思う?」

 

なんだ。 レンは不満そうだな。 男が増えるのが嫌なのだろうか。 女性の感性は分からない。

 

「何事も経験だよ!」

「ピト、良いことを言うな。 何、深く考えるな。 いきなりライフルを」

「いや、もうその話は良いから」

「ねえレンちゃん。 私が思うに、レンちゃんはリアルでいろいろ抱えてるでしょ?」

「えっ?」

 

そうなのか。 レン、驚いてピトに顔を向けたぞ。

 

「すまない。 俺が側にいながら、気付いてやれなかった」

「あ、いや」

「鬱屈した感情の裏にはワンちゃんもいるだろうけどね、他にもあるでしょ? だから、GGOに、よく言えば鬱憤晴らしに来た。

悪く言えば、逃げてきた」

 

なに!? 俺も原因か! やはりか、自宅探しにヘリを飛ばすのはやり過ぎだったか。

 

「何で分かるの? って顔してるけど、簡単に分かるよ。 だって、私がそうだもん!」

 

すっかり黙り込んでしまったレン。 励ますというか、謝るというか………俺は頭を撫でてやる。 強めに、グリグリと。 嫌がらず、なすがままだ。

倒れないように足に力を入れてるから、放心はしていない様だが。

 

「私は現実で憤ることやどうしようもないことが多すぎるから、ここで暴れているの。

うん、まあ、最近は私が殺る前にワンちゃんが殺っちゃうけどさ」

「ピトさん……」

 

君達、俺のコトが嫌いなのかも知れないがね、本人の前で言うのはやめようか? 俺が放心したくなるよ?

 

「だからね、どうせ現実にできないことをやるんなら、思い切ってやろうぜ! って言いたいのさ!

チームバトルロイヤルの銃撃戦なんて、現実で、できる? というか、やりたい?」

 

何の話か分からないが、撃ち合いは避けたいところだ。

エイリアンの歩兵部隊とのドンパチは大変だった。 囮を相手にしていると回り込まれたり、建物に隠れられたり。

 

「だから、暴れようぜ! 水曜日の朝までになんも返事がなかったら、参加ってことにするね!」

 

そこまで言って………ピトは柔らかな笑顔だけになった。 レンは………黙って、ただただ俺に頭を撫でられる。

こんな時、何て声を掛ければ良いのか。 分からないな。

 

「その、なんだ。 何か有ったら、あー。 俺で良ければ相談に乗るぞ?

今は………取り敢えず車に乗ってくれ。 町まで送る」

 

こんな事を言ってしまう。 他に良い言葉があるだろうに。

 

今日は、いつもよりアクセルが重かったな………。




次回、リアルのレンちゃんとのやり取り?


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『Message1』

不定期更新中。 今回はメールのやり取り回。 短めです……。
矛盾や違和感があるかも……。


2026年 1月2×日 ×曜日 ××時××分

 

storm『無事か?』

 

LLENN『無事だよ。 ところで、このやり取り必要?』

 

storm『必要だ。 突然いなくなる度、トラブルに巻き込まれていないか心配なんだ。 何かあるなら相談してくれ』

 

LLENN『ありがと。 早速相談なんだけど、ヘルメットを着用して、町中をヘリで飛ぶ男がいて困ってるの』

 

storm『すまない。 二度としない』

 

LLENN『お願いね? 騒ぎになるし』

 

LLENN『それと、もうひとつ』

 

LLENN『チームを組むコトになったけど、突っ走らない? 「待て」出来る?』

 

storm『俺は犬か?』

 

LLENN『ワンちゃんでしょ? U・x・U』

 

storm『勘弁してくれ』

 

LLENN『じょーだん。 でも、宜しくね? 私がもし参加出来なくなっても、新しい人と仲良くね?』

 

storm『参加出来ない可能性があるのか』

 

LLENN『まだ分からない。 また連絡する』

 

storm『了解。 だがいないとなると、寂しいな』

 

LLENN『そうなの?』

 

storm『マスコットだからな』

 

LLENN『えー。 因みに何の動物?』

 

storm『ウサギかな』

 

LLENN『犬とウサギかー。 新しい人も動物だったりして』

 

storm『笑えるな』

 

LLENN『そろそろ寝るね。 おやすみー』

 

storm『おやすみ』

 

 

 

2026年 1月 27日 火曜日 16時××分

 

LLENN『暴れてやる。 SJ参加する!』

 

storm『そうか! ピトには言ったのか?』

 

LLENN『言った。 返信待ち』

 

storm『了解』

 

storm『今日はどうする? 会えるか?』

 

LLENN『行くよ。 怪物退治やるよ。 派手にやろう!』

 

storm『了解。 町で落ち合おう』

 

 

 

2026年 1月28日 水曜日 ××時××分

 

LLENN『ピトさんから返信。 30日に指定の酒場に集合だって。 SJの話や新しい人の紹介みたい』

 

storm『了解。 楽しみだ!』

 

LLENN『ところでワンちゃん。 いつもいるみたいだけど、ちゃんと寝てる? 食べてる?』

 

storm『問題ない。 キャリバン救護車両の中で寝ている。 食事は酒場やBARだ』

 

LLENN『救護車両?』

 

storm『戦闘でアーマーや身体が傷付くからな。 その回復も兼ねている。 施錠もしているし、装甲もあるから、寝ている間に多少の攻撃を喰らっても平気だ』

 

LLENN『また変な乗物が。 それとリアルの話だよ?』

 

storm『そのつもりだが………』

 

LLENN『はいはい。 とりあえず、見に行くよ。 お土産はドックフードが良い?』

 

storm『犬小屋じゃないぞ』

 

LLENN『どうかなー? これから向かうね』

 

storm『了解。 待ってる』

 

 

 

2026年 1月29日 木曜日 ××時××分

 

LLENN『明日集合だからね』

 

storm『ああ。 だが今日はどうする』

 

LLENN『会えるかな?』

 

storm『会える。 いつでも来い』

 

LLENN『ありがとう。 今日は町で、少しゆっくりしない? お店とか回ってさ』

 

storm『ああ。 余程高くなければ、奢ってやる』

 

LLENN『じゃあ、いつものカフェで待ち合わせ』

 

storm『了解だ』

 

storm『レン』

 

LLENN『ん?』

 

storm『守ってやる。 心配するな』

 

LLENN『心配してないよー? うん、でも』

 

LLENN『ありがと』




次回、新たな戦力。 ワンちゃんと反りが合うのか否か……。


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会議と新戦力

不定期更新中。
家にて侵略生物Gに怯える日々が。


「やほ! レンちゃん、ワンちゃん! やっぱりあんたらは、私が見込んだ通りの親子だよ!」

 

待ち合わせ場所の酒場にて。

ピトがレンの肩をばんばんと叩く。 余程嬉しいのだろう。 俺も親子扱いされて、不思議と嬉しくなる。

他から見て、微笑ましい光景に見えていると思うと、つい頰が緩んでしまうな。

 

「痛い痛いピトさん! それとワンちゃんは親族じゃないから」

 

否定された。 上がって落ちた。

 

「………あー、なんだ。 新たな戦力は来ているのか?」

「まあまあワンちゃん。 気を落とさず。 そして慌てなーい。

もうすぐ来るからちょい待ち。 いつもの、一杯おごるわ。 支払いはワンちゃんヨロシク」

 

それをおごるとは言わない。 少なくとも俺の中では。 ピトなりに励ましてるのか、俺で遊んでいるのか。

 

「まあ、良いが。 レン、好きなの頼んでくれ」

「ありがとう。 あの、その人はどこかで買い物でも?」

 

ピトの対面席に座りながら、レンは何気なく聞いた。 多少遅れても俺は構わないが。

 

「いやー、まだリアル。 用事頼んでおいたから」

 

ふむ。 その新戦力、プライベートでの付き合いがあるとみえる。

その辺を踏み込むつもりはないが、レンは何か想像したのだろう。 隣で驚いていた。

 

丁度、テーブルの中央からアイスティーが上がってきたから、レンが誤魔化す様に手前に引き寄せて………ストローで飲むその光景は、やはり子供のソレ。 うむ。 可愛い。

 

俺のアイスティーも、ピトの熱帯魚のようなケバケバしい色のサイダーもきたから、少しの間、ヘルメットをズラして飲んで落ち着く。

 

「SJのルールは読んだ? レンちゃんの性格なら隅から隅まで読んでいそうだけどワンちゃんもいるし、一応確認するね」

「ああ、確認は大切だからな。 地底で航空支援を要請する様なマネは避けたい」

「地底?」

「いや、こっちの話だ。 続けてくれ」

 

ピトは色々と説明してくれた。 所持している武器は何を使ってもいいそうだ。

ビークルも使える。 ありがたい。

 

あとは………死体が残るとか、衛星がどうとか、よく分からない話である。

 

死体は良いイメージがない。 エイリアンや怪物のもだ。

奴らは図体がデカい分、射線が遮られて困る。 群れを相手にしている時は特に困った。 死体が邪魔で弾や視界が遮られるのだ。

 

逆に遮蔽物の代わりに使ったコトもあるが。

 

衛星は………《バルジレーザー》や《スプライトフォール》を思う。

後者の開発に関わっているらしい、謎の女科学者の通信は狂気を感じるが………いつか直接会う日が来るのだろうか。 いや、会いたくない。

 

「ここまでで、何か質問は?」

「ピト先生! ワンちゃんが曖昧に覚えてる気がしまーす!」

「大丈夫だ。 問題ない」

「まっ、何とかなるっしょ!」

「………大丈夫かな」

 

レンも心配性だな。 何かあったら俺が何とかする。

 

「あと、注意点として………チームは最低二人、最大六人まで。

仲間への攻撃、つまり誤射、誤爆も通常通りのダメージだからね」

「ワンちゃんの武器、爆発系だもんね。 仲間を巻き込まないでよ?」

「気をつける」

 

レンはこれまた心配している様子。 だが戦時中もその辺は気をつけてきた。 リムペットガン、空爆要請、ガンシップへの支援要請等だ。

 

射線に平気で出て来る味方には苦労したが、今回は大丈夫だろう。

味方の部隊のど真ん中に衛星砲がズドン、ロケット弾がドカン、機関砲の雨霰とはならないハズ。

 

「あとは………通信アイテムが使える。 レンちゃんには常時通話の通信アイテム持たせるから。 前に私と使ったヤツね」

「了解」

「俺はいつも通りだな。 常にオープンだ」

「うん。 ワンちゃんは通信機持ってるもんね。 それもいろいろ」

「ワンちゃん、いつも常時通話みたいだけど、うるさくない? 大丈夫?」

「問題ない」

 

戦時中も本部だったり、戦略情報部や名も知れぬ味方の通信や民間のニュース等ガンガン入ってきたが、苦痛に感じたコトはない。

同じタイミングで混線しなければ大丈夫だ。

 

その後も色々と説明がされたが、今までと違い本格的な行動が求められるコトは分かる。

 

やれ、敵の部隊との距離だの、800メートルで狙撃銃の弾が、600メートルでマシンガンの弾が飛んでくるとか。

 

隊長の話辺りは重要だと思う。

なんでも、皆が持つセンサーには隊長の場所のみ表示されるそうだ。 他は表示されない。 俺のは全部表示されてしまうが。

 

そこでレンが質問をした。 中々良い質問だ。

 

「そのリーダーが死んだら……、どうなるの? その瞬間、そのチームの負け?」

「いや、実際の戦争と同じことになるだけ」

「というと?」

「俺が説明しよう。 軍隊では隊長が戦死したら、次に階級の高い人が、同じ階級なら先になった人が、指揮権を引き継ぐんだ」

「そういうこと」

 

俺は何度も経験した話だ。 といっても、話の通り階級順とは限らなかったが。

生存者を探して集めているうちに、隊長みたいになっていたりとか。

 

なるほど。 そう頷くレン。 納得したか。 そんな仕草も可愛く見える。

 

「がんばってねー。 優勝したらかっこいいじゃん」

「はあ」

「他にも、降参できるのは唯一リーダーだけってルールもあるけど」

 

いや、降参して銃口を下げてくれる保証はない。 徹底抗戦だ。 エイリアンはそうであったろうし。

最近は無法者なんてよい例だ。 この前も呼びかけたが、無視して発砲された。 悲しいコトだが、まだ戦争中ともいえる時代なのだ。

 

「ルールは以上ね。 ストーム分隊長殿」

「えっ、ワンちゃんが隊長? そりゃ強いけど」

「まさかレンに隊長やれ、とは言い難いだろう。 なに、慣れている。 俺に任せろ!」

 

安心させるべく、そう自信をもって言ってみたが。 レンよ、何故ジト目なのだ。 そんなに信用出来ないだろうか。

 

「悪い。 遅れた」

 

そんな時だ。

野太い男の声がして、向けば巨大な男が入ってきたのは。

 

迷彩パンツに、Tシャツ。 胸に防弾プレートでも入っていそうだ。 両の腕はまるで丸太。

レンのウェストより太いんじゃなかろうか。

 

一言で表すならマッチョだ。 《フェンサー》装備も頑張れば持てるかも知れない。 無理か。

感想として言うのは失礼だから可愛く言うと………動物でいうアレだな。

 

「素晴らしい戦力だ。 まるで羆だな!」

 

刹那、ピトは笑い、レンには思いっきり足を踏まれた。 何故だ!?




ドンパチまで時間かかりそうorz


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犬が放心しても話は進む

不定期更新中。 進まない………。
おや? ウサギとワンちゃんの関係が。 でも信用してるんです。 多分。


 

「レンちゃん、紹介するね! このバカみたいに無駄にでかいのが………」

 

一通りピトが笑い、レンに踏まれた俺が心傷したあと、新戦力となる羆の紹介が始まった。

 

聞いていると酷い言い方である。

確かにデカいが、エイリアン連中より余程良い。 レンも思うコトがある様子。 ちょっと下向きになっている。

 

デカいといえば《ギガンティック・アンローダーバルガ》を思い出した。 それこそ無駄にデカいと言える。 戦前は、だが。

 

全長47メートルの、移動式………人型巨大クレーン。 架橋作業などを想定し、政府主導で開発されたデカブツ。

完成までに天文学的な資金が投入されたが、運用する段階で安全性やコスト面の問題が多発。

ほぼ使われないままEDFに譲渡。 通称「鉄クズ」。 最終的には担当者の責任問題にまで発展したらしい。

 

民間人時代にも職業柄、話には聞いていたが………まさか兵器として運用されるとは。 エイリアンや怪物の群れを殴り、踏み潰し、多少撃たれてもE1合金製なのでビクともしない。 怪生物エルギヌス、アーケルスとの闘いでは特に活躍した。

 

「ワンちゃーん、聞いてる? 羆扱いした挙句に放心中?」

「ご、ごめんなさい。 ウチのワンちゃんが」

「ん? ウチの? いやー、そこまで関係がいっていたとは」

「違うからね!?」

 

だがなぁ。 殴るか踏むしか出来ないからなぁ。 クレーンだから仕方ないが………せめて、もう少し素早く動けないか。

ああ、レンのコトを思う。 レンは素早く動けるから素晴らしい。 踏まれたのは悲しかったが。

 

「ワンちゃんは放置で。 余程レンちゃんに踏まれたのがショックだったみたいだし、そっとしとこ」

「えっ、あ、その」

「何故分かったか? そりゃ二人の動きや反応を見てりゃーね。 取り敢えず、話進めようか」

「………ピト、用事は全部済ませておいた」

「分かった。 ほら、こっち座れ」

 

他にも悲しい思い出は色々ある。

バルガに関して言えば、228基地にあるモノを回収する為に、命からがら脱出した当基地の地下に逆戻りする羽目になった。

 

照明が落ちた暗い地下には、残存するエイリアンや怪物が蔓延っていたな。

勿論、殲滅したが………リムペットガンやセントリーガンで、味方の援護が精々であった。 それも何度か誤射しかけた。 援護ならぬ援誤である。 空なき地下は苦手だ。

 

「ほら、自己紹介しなさい」

「初めまして。 俺はエムと言います。 よろしく」

「初めまして。 わたしは、レンです」

 

最早、過ぎたコトだ。 クヨクヨしても仕方ない。 エイリアンとの戦争は終わった。 前向きにいこう。

ああ、さて。 何の話だったか。

 

「じゃ、私用事あるんで。 あとは若い三人に任せて!」

「え? あっ」

 

俺が我に帰ったとき。

ピトが消えていた。 残ったのは羆とレン、そして俺だけ。

 

「すまない、俺はストーム・ワンという。 君の名を聞かせてくれ」

「ワンちゃん………人の話はちゃんと聞こ? わたしも悪かったけど」

 

何も言えない。 俺は素直に謝るしかなかった。

 

 

 

「あの……、まあ、あんまり……、緊張しないで、い、いきましょう。 いや、いこう……。 敬語を使うと、ピトのヤツに……、あとで、ボコボコ殴られる」

 

新戦力のエムは、そう言ってきた。 ピトほど社交的ではないようだ。

しかし『殴る』か。 暴力はいけないが、時に格闘戦及び近接戦闘になった際の対応は重要である。

 

「あ、はい。 じゃなくて、うん、それで、お願い」

 

バルガはそうするしかないが、コンバットフレームの《ニクス レッドボディ》《レッドシャドウ》《レッドアーマー》等は近接戦用だ。 悪く言うと近付かないと攻撃し難い。

 

そうなると一気に距離を詰めるか、近付くのを待つ訳だが。 バルガと違い、レッドカラーは機動力が高いのが良い。

 

「ねえ、ワンちゃん? 人の目を見て話すのは大切だと思うよ。 でも、わたしじゃなくて、エムさんを見ようよ」

 

そう、レンのように。 レンをウサギに例えたコトがあったが、丁度ウサギみたいにピョンピョン跳ねて移動すれば、一気に距離を詰められる。

レンがウサギ跳びをしたトコは見たコトないけれども。 いつかやってくれないだろうか。

 

「………そんなに踏まれたのがショック?」

「仲が良いんだな。 俺もそうなれば良いのだが」

 

EDFのビークルは色々あるが。

デカさでいえば、他にもあったな。 《B651タイタン》という全長25メートルの巨大戦闘車両だ。

要は重戦車。 動く要塞というワケだが、やはり機動性は悪い。 装甲と火力は高いのだが。 主砲は本来、艦砲として開発されたという、レクイエム砲を搭載。

搭載する為に砲身短縮をした影響で、初速がやや低下している。 だが当たればビルをも吹き飛ばす威力である。 それでも金色の装甲は破れなかったな。

 

「まあ、ワンちゃんは放置で」

「良いのか?」

「うん。 あとで、わたしが躾とく」

「そ、そうか」

 

あとは………《BMX10プロテウス》。

巨大人型バトルマシン。 陸上戦におけるEDFの切り札ともいえる兵器だが、やはりか、運動性能は低い。

代わりに搭載武装は大型。 火力は高い。 また、全身を特殊な装甲板で覆われており、防御力は戦車を大きく上回る。 さらに大量の弾薬を搭載しており、戦闘継続能力は高い。 歩く要塞である。 ところが、操縦は専任になり、他にガンナーがいなければ戦えない。 ボッチでも固定砲台として使えるものの、仲間はいた方が良い。 今回みたいに。

 

「ピトから、どんなことを聞いてる? 俺が来るまで、どんなことを話していた?」

「SJのルールの再確認と、無線アイテムの使用と、ワンちゃんがリーダーになるってことを」

「そうか。 じゃあ、今日こうして俺達が顔を合わせている理由は?」

「まだ何も」

 

まあつまり、デカいのは機動性や被弾率の問題があるものの、火力や防御力が高いコトが多い。 それにモノを言わせて押し切る戦法も立派なのだと思う。

そう、何時ぞやの《前哨基地突撃作戦》みたいに。

 

「お互い、どれくらいの能力か分からない。 俺はピトから聞いているけど、ストーム・ワンに関しては噂でも聞いているけど………これから演習場に行って、それを確かめたい」

「なるほど。 でも、一つ、どうしても心配なコトが……」

「何か?」

「ワンちゃんがリーダーなコト。 そりゃ武器は強いけど、このとーりだし」

 

最も、火力と防御力に頼り過ぎてはならない。

無法者を取り押さえる際、武器弾薬が尽きた際、最後は自らの身体を武器としなければならなかった。 戦場でふざけて、銃口を向けて来る友人に対してとか。

 

「大丈夫。 考えがあるから、そうしているだけだ。 早速、予約した演習場へ移動する」

「分かった。 ほら、ワンちゃん! 行くよ!」

「はっ!?」

 

レンに声をかけられ、思考の海からサルベージされた。 しまった。 またやってしまった。

なんの話だったか聞いていない。

 

取り敢えず移動らしいので、移動しよう。 親睦会でもやるのかな?




次回、演習場へ。


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演習場

不定期更新中。
やっとこさ、大会日まで進んだ感。


 

「装備を全部身につけてくれ。 通信アイテムも渡す。 ストーム・ワンは……持っているな」

 

着いた場所は演習場であった。 放棄された車両や、遠くに傾いたビル、クレーターのある山が見える。

特筆するべきものはない。 いつもの光景だ。

 

「ふむ。 射撃や運動能力を見たいのか」

「ああ。 二人に指示を出すから、その通りに動いてくれ」

「分かったよ」

 

そんなワケで。 俺とレンは武器を装備し、色々とやって見せた。

 

「40メートル先にドラム缶がある。 あの中央に向けて、立ったまま射撃して欲しい。

レンとストームは武器が違うから、それぞれ指示を出す」

 

先ずは普通に射撃から。

レンはP90で、言われた通りに射撃。 普段から使い慣れているからか、普通に良い腕をしている。

フルオートもそんなにブレていない。

 

「ストームも、その銃で撃ってみてくれ。 起爆はしなくて良い」

 

と、言われたので、リムペットガンを普通に撃った。 ドラム缶の中央に吸い込まれるように、吸着爆弾はピタリと着く。

むぅ、多少ズレた。 精度は悪くないが、スナイプガンの方が綺麗に付着する。 そっちの方が良かったか。

 

「今度は武器を持ったまま全力疾走して欲しい」

 

そう言われたから、レンと共に走る。

レンの方がずっと速い。 比べるまでもないな。

アンダーアシスト付きのレンジャー程ではないにしろ、どんどん離される。

振り返ってドヤ顔をされたが、子供らしくて可愛いじゃないか。 あとで褒めてやろう。

 

「今度は走りながら射撃だ」

 

もう一度、レンと走る。

走りながらの射撃は、体が安定していない分、ブレが激しくなる。

だがレンはそんなにブレていない。 かくいう自分も、先程と差異はない。 ズレ具合も同じである。 ちくせう。

 

レンジャーも、走りながらフルオート射撃をする者が少なくないが………彼らは凄いと思う。 殆どブレていないように感じる。

てか、狙撃銃を走り回りながら撃ったり、ジャンプしながら撃ってるヤツもいたくらいだ。

 

「あそこにある尖った岩まで、目測で何メートルあると思う?」

 

まあ『だいたい、このくらい』で答えた。

射程圏内かの判別はレーザーサイトがあれば頼っている。

 

「目をつぶって歩いて欲しい。 なるべく普通に、そして一定にだ」

 

普通に歩く。 ヘルメットを着用していると、不正していると疑われると思い、外して行った。

それでレンが驚いて、赤くなったり目を背けられたが。 そんなに俺の顔が酷いだろうか。

 

「後ろ向きになるべく速く歩け」

 

戦場でもよくやったコトだ。

敵から目を逸らさず、後退する。 重要だ。

コレはレンより速く歩けたな。 レンが悔しがって、更に足を速めて転んでしまった。

転んだ際の指示通り、そのまま回転して腹ばいになったが、少し可哀想なコトをした。

 

「しゃがんで丸まって、なるべく小さくなれ。 そして、そのまま坂道を転がってみてくれ」

 

ローリングの要領で、難なくこなした。

緊急回避としてではなく、素早く移動したい時にも使える手段だ。

ただ、228基地の非常用だとかいうあの道………あそこまで斜度がキツいトコではやりたくない。 転げ落ちて死ぬのは笑えない。

 

一方、レンもソレっぽく出来た様子。 うむ、良いコトだ。 万が一の回避運動も問題ないだろう。

 

「うん、分かった。 ありがとう」

 

エムがそう言うと、今度は自らも武器………ライフルを装備。

大きな異形の銃だ。 《PAー11》をカスタムしまくって、原型がどっかいった様な………上手く言えないが、そんな感じ。

 

使い込まれているらしく、あちこちが剥げていたり、擦れて色が落ちている。

だがそれが強力なモノである雰囲気を漂わせており、実に良い!

 

「おお! 格好良いな!」

「それがエムさんのメインアーム? 初めて見たけど、なんて言うの?」

「《M14・EBR》。 EBRはエンハンスド・バトル・ライフルの頭文字だ。

その名の通り、M14という古いバトルライフルの強化版だ。 口径は7.62ミリ」

 

改修された銃、ということか?

どれくらい古い銃なのか知らないが、それでも使用されているというのは信頼性が高いのだろうか。 何にせよ、格好良い銃だ。

 

「すると、エムさんの戦闘スタイルは……、セミオートでの中距離射撃?」

「そうだな、俺は、基本的には開けた場所で、相手との距離を保って戦いたい」

 

室内ではこれだ、と言い拳銃を見せてくれる。 いざというときの為に、使い方をレンと学ぶ。 俺にはサプレスガンがあるが、レンはP90のみだからな。

 

そう思い、レンの銃を一瞥して………エムを見ると、服装が変わっていた。 一瞬でどの様に着替えたのか。

装備ベスト、登山にでも行くのかと思えるほど大型のバックパック、服と同じ迷彩柄のブッシュハット。

 

いやはや、驚いた。 彼は只者ではないな。

 

その後も、音がどこから聞こえるかとか、色々やらされた。

俺は平気だったが、レンは終わった時、とても疲れている風であったな。 子供にアレはキツい。 3時間くらいやっていた気がする。

 

終了後に、何か奢ってやろうと思って声を掛けたが

 

「ありがとう。 でも、今日は帰って寝るね」

 

レンはぐったりと、トーン低くそう言った。

 

「分かった。 ゆっくり身体を休めてくれ。 好きな歌でも聴きながらな。

それとも俺が歌おうか。 子守唄は分からないが、EDFの歌ならば」

「あ、全力でお断り」

「………そうか」

 

俺はぐったりと、トーン低くそう言った。

 

 

 

翌日。

レンとはメールのやり取りのみで、会うことはなかったが、明日はいよいよSJ………新たなチームでの初戦闘予定である。

 

今や自宅代わりの、キャリバン救護車両内にて、武装や無線機器を確認していく。

いざとなれば、俺がレンを守らねばならない。

 

さあ、戦いの時間が迫っている。

 

俺は明日に備えて、目を閉じ………身体を横たえた。




次回、メール回?


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『Message2』

不定期更新中。 違和感あるかも。
レンとストームのやり取り。


 

2026年 1月31日 土曜日 00時02分

 

storm『日付が変わってしまったな。 ゆっくり休んでくれ。 お休み』

 

LLENN『お休み』

 

LLENN『ワンちゃん、EDFの歌って?』

 

storm『やはり聴きたいか』

 

LLENN『少し気になる程度』

 

storm『初めはこうだ』

 

storm『我らは歩兵隊 燃え滾る闘志の タフガイだ』

 

LLENN『ごめん。 やっぱいらない、かな(⌒-⌒; )』

 

storm『そうか。 歌も種類があるし、人によって好みがあるからな』

 

storm『だが歌ったり、聴いていると癖になるのもある』

 

LLENN『そうだね』

 

LLENN『私はクラシックが好き』

 

storm『モーツァルトなどか?』

 

LLENN『そうそう』

 

storm『ででででーん、の曲の人だったか?』

 

LLENN『それはベートーヴェン』

 

storm『すまん』

 

LLENN『その辺、ワンちゃんは疎そうだもんね』

 

LLENN『あとは、最近の歌手だと神崎エルザが好き』

 

storm『知らないな』

 

storm『今度、聴かせてくれ』

 

LLENN『良いよー』

 

LLENN『おやすみー』

 

storm『お休み』

 

2026年 1月31日 土曜日 ××時××分

 

storm『無事か?』

 

LLENN『無事だよ』

 

storm『今日はどうする? 休むか?』

 

LLENN『休む。 前日だし、何かあったらピトさん達に申し訳ないから』

 

storm『分かった。 ゆっくり休んでくれ』

 

LLENN『A book At cafe』

 

storm『神崎エルザの曲か?』

 

LLENN『うん。 澄み切った声で、優しい歌詞。 癒し系のアーティスト』

 

LLENN『聴いてみて』

 

storm『分かった』

 

storm『カフェで、お茶が運ばれるまでの間。 本でも読みながら待っている………その様な雰囲気だろうか』

 

LLENN『ワンちゃん、詩人?』

 

storm『軍人だ。 その前は技術者』

 

LLENN『はいはい。 聴けば分かるよ』

 

storm『了解。 ありがとう』

 

storm『ファンなのか』

 

LLENN『うん。 ライブ行きたかったんだけど、チケットが取れなくて』

 

storm『人気だからか』

 

LLENN『それもあるけどね。 会場が広くないから』

 

storm『ああ』

 

LLENN『一度目の前で聴きたいなぁ』

 

storm『既に本人に会っていたりしてな』

 

LLENN『まさか』

 

storm『いつか聴けるさ』

 

storm『その為にも、明日は頑張ろう』

 

LLENN『ありがとう。 頑張ろうね』

 

LLENN『あ、ワンちゃん』

 

storm『どうした』

 

LLENN『踏んだコト、ゴメン』

 

storm『大丈夫だ。 あれは俺が悪かったからな』

 

storm『侘びと言っては何だが、今度EDFの歌を聴かせてやろう』

 

LLENN『それは諦めて』

 

storm『残念だ』




次回、大会編へ。


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大会開始
戦闘前の雑談


不定期更新中。
とうとう大会当日です。


 

新たに編成された我々の部隊。

記念すべき最初の集合場所は、太いメインストリートにある、大きな酒場。

 

酒場といっても、レストランであったり喫茶店であったり、ショッピングモールも隣接。

ゲームコーナーやカジノもあれば、奥には室内射撃場まである。

俺のお気に入り場所だ。 主に食事処として利用させてもらっている。

 

他の者にとっても、お気に入りなのだろう。

毎日混んでいるコトが多い。

だが今日は特に混んでいるな。 部隊登録の会場になっているのだろうか。

 

「げぇっ!? 《荒らしのワンちゃん》がいるぞ!」

「まさかSJに参加する気か!」

「嘘だと言ってよ《ザスカー》!?」

「だが一人ならば、集中砲火で………」

「SJは最低二人からだぞ。 偶々ココにいるだけだろ」

「確かに、ココは《荒らしのワンちゃん》の拠点という噂だ」

「いや、救急車だろ」

「皆待て! もう一人いるだろ! ほら、チビでピンク色の!」

「あかん! やはりSJ参加するんか!」

「GGOが壊れちゃーう!!」

 

いやぁ。 とても賑やかだなあ!

人類の復興は夢じゃないぞ。 だが先ずは無法者や怪物を何とかしなければな。

 

おや。 人混みの中から、ローブ姿の小さな子供………レンが現れた。 身長が低いから即分かる。

 

戦闘服のピンク色を隠しているつもりだろうが、俺には分かる。 そんな恥ずかしがらなくて良いのに。

 

「来たか………っておい。 何処に連れて行く気だ」

 

出会い頭、挨拶もなしに腕を引っ張られ、個室に連れて行かれて………即カーテンを閉められた。

周囲が更にザワついたが、変な誤解を招いていないだろうな。

そして座らされるや否や、凄い不機嫌そうな顔で注意される。 なぜに。

 

「ワンちゃん。 エムさんに言われたコト忘れたの? 周囲に情報を与えちゃダメだよ」

「部隊は違えど、共に戦うのだろ? ここは親睦を深めようと思ったんだが」

 

ムスッとしているレンに説明する。

EDFのみでの治安維持は難しい。 レジスタンスにも協力して貰いたい手前、仲良くなるコトは悪いコトではないハズだ。

 

レンは「はぁ」とデカい溜息を出すと、諦めた様な声で

 

「まあ、ワンちゃんは有名人だしね。 《荒らしのワンちゃん》なんて異名が付いてるし。

装備もそのまま。 性格も………人の話聞かないし。

人目を避ける方が難しいだろうから、何も言わないよ」

 

などと言ってきた。

何も言わない割には、結構辛辣じゃないか?

 

「周りの装備見たの? 銃は違えど、共通してデカネードや爆発物………重火器。

アレ、たぶんだけど、ワンちゃん対策だよ」

「………? 同じ爆発物を扱おうとマネしているのか」

「違うでしょ。 変な乗り物が出てきたら、壊す為だよ。 あと、直接ワンちゃんに使うか」

「その時は協力して破壊しよう。 あと、武器の支給は有難いな」

「ダメだこりゃ」

 

何がダメなのか。 エイリアンの金色の装甲でもなければ破壊出来ると思う。

武器は………レジスタンスにとって貴重だから、貰うんじゃない的な話か?

 

「まあ、なんだ。 何が出て来ようと、俺が守ってやる。 今は飲み物でも飲んで落ち着いてくれ。 奢るから」

「………エムさんにメールしたら、そうする」

 

そうして頼んだアイスティー。 不機嫌な顔ながらも、ストローで飲む姿は可愛いものだ。

それがなくなる前に、最後のメンバー、エムがやってきた。 早いな。

 

「やあ。 今日は頑張ろう」

「頑張ろう!」

「こちらこそ」

 

 

 

作戦が始まるまで、のんびり待機。

すると、何やら店内が盛り上がってきた。

 

ちょっと覗き込むと、モニターに無精髭を生やしたむさ苦しい男。 取材を受けているらしい。 何やら嬉しそうだ。

有名人だろうか。 分からん。 入国理由で「銃を撃つ為」と答えそうになったり、1582年の本能寺の変を「いちごパンツ」で覚えたり、海の中に潜って、無尽蔵に塩を生み出す石臼を探しそうだ。 いや、冗談だが。 特に後者。

 

まあ良い。 今は休める時に休もう。

そう部屋に戻ると、レンとエムは他の部隊リスト……空中に浮かんだウィンドウを見ているところだった。

全二十三チーム。 人数は不明。 多いのか少ないのか分からないが、戦える戦力があるのは心強い。

終戦間際は、残存部隊はおろか、生存者がいるかどうかも怪しかったからな。

 

「開始直後に、酒場ががらんとしなければいいがな」

「その心配はなさそうだ。 部屋の外は減るどころか、増えていたぞ」

「意外と盛り上がってきたね」

 

良いコトだ。

これがエイリアンや怪物ではなく、同じ人類なのだから、嬉しい話である。 そして共に戦う仲間だ。

 

「むっ。 そういえば、俺達の部隊に名前はあるのか? 登録されているならば、その辺もあると思ったのだが」

「あるぞ。 あー、これだ」

 

そう指したチーム名は、とても見覚えがあり、言い慣れたモノだった。

 

《EDF》。

 

「うおおおお! EDFッ! EDFッ!!」

「ワンちゃん、うるさい! おすわり!」

「これが叫ばずにいられるか! いてっ」

 

レンに足を踏まれたが。

だって仕方ないじゃないか!

 

そう。 叫んだ理由というのは。

《全地球防衛機構軍》。

《Earth Defense Forces》を略したもの。

 

それが《EDF》であり。

俺が属する組織であったからだ。

 

「そのEDFってのは一体なんだ?」

「なに、知らないのか。 いや、無理もないのか。 終戦間際は組織として機能していなかった様な感じだったからな。

それでも終戦後は、僅かながらも力を取り戻したと思っていたが」

「………終戦?」

「あー、たぶん、GGOの世界設定の話かと思う。 エムさん、気にしないで」

「あ、ああ」

 

いやあ。 EDFの文字を再び見れて嬉しいぞ。 いや、ビークルや装備品にも書いてはあるがな。 最近感があって、嬉しかった。

いやあ、めでたい。

 

「めでたい………といえば。 ピトは今頃ドレスだろうか」

「だろうな。 SJに参加出来ないのを、さぞかし歯ぎしりして悔しがっているだろう。

どうしてあの新婦の友人はあんなに悔しそうなのか? まさか?

などと、周囲に変な誤解を与えなければいいが」

「笑えるな」

 

ふっ、面白い話だ。 レンも吹き出している。

だがな。 命がけの戦場よりも、ピトにはドレスを着て、平和な場所にいて欲しいとも思う。 時代が時代だから、難しいかも知れないけれども。

 

「エムさん、今日はよろしく。 わたし、参加するかどうかウダウダ悩んでいたけど、もうちょっとGGOを本気で遊んでみようと思います」

「分かった。 でも、敬語はこれきりで」

「あ、了解」

 

さて。 親交を深めあったところで。

そろそろ戦闘用意、か。 ピトと再会する為にも、再び皆で笑い合う為にも。

俺が皆を守らねば。

 

「………レンが戦死して、相手が多数なら、降参するかもしれないとも」

「レンは死なない。 エムもだ。 俺が守る」

 

エムが弱気なコトを言うから、俺が即否定してやる。 仲間が目の前で死ぬ光景を何度も見て、断末魔を何度も聞いてきた。

 

「うまく言えないが………EDFは仲間を見捨てない」

 

レンが一瞬目を丸くして、そして呆れたように、でも安心したかのように、柔らかな笑みになる。 エムも同様に。

 

「俺に任せろ!」

「うん、了解!」

「了解だ、ストーム分隊長」

 

そうして部隊の結束を感じたタイミングで。

 

『スクワッド・ジャム、出場選手の皆様! お待たせしました! 1分後に、待機エリアへの転送を開始します。 お仲間は、全員揃っていますかー?』

 

女性のアナウンスが流れたのだった。




SJ、どうなってしまうのか。


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戦闘準備

中々戦闘回まで行かない焦ったさ。
レンちゃん、ナイフ講義を受けるの巻。 ワンちゃんは良くも悪くもいつも通り。
漫画だとレンちゃんがエム相手に、ナイフ戦をやっている描写があります。 眼窩への攻撃はハラハラする場面ぞ。


エイリアンの転送装置の応用か。

次の瞬間には、薄暗い部屋に立っていたから驚いた。

テレポーションシップや、アンカーから出て来る怪物も、最初はこんなトコにいるのだろうか。

 

目の前には『待機時間 09:59』のカウントダウンウォッチ。

怪物もコレを見ながら、降下されるのを待っていたと思うと笑えてくる。

最も、歩兵部隊はともかく、怪物に数字が読めるとは思えないが。

 

「戦闘用意」

「よーし!」

 

レンが張り切った声を出した。 いいぞ。 子供は元気が1番だ。

しかし。 そんな時こそ危険である。 気持ちだけが前に行き過ぎて、肝心のマガジンを忘れたとか、挙句に武器を忘れてはダメだ。

地底で砲兵隊や空軍に支援要請をするくらい笑えない話になる。

 

子供に最前線を闘わせる気は無いが、こんなご時世。 自衛火器は必要なのだ。

勿論、他の用意も大事。 ケガしたら即治療をする用意は出来ている。 エムもだが、レンは子供。 擦り傷でも命に関わるだろう。

いかん。 急に心配になってきた。 隣で確認作業中のレンに尋ねてみよう。

 

「P90と、マガジンは大丈夫か? 医療品はあるか? 具合は大丈夫か? ご飯食べたか? 歯磨きしたか? ソラスパン食うか?」

「後半関係ないよね。 それにソラスパンって何?」

「怪獣の形をしたパンだ。 アイスティーもあるぞ」

「ピクニックじゃないんだが」

 

レンもエムも、反応が冷たい。 先程の部隊の結束は何処へ行ったの。 隊長悲しい。

 

「真面目に話すけど、ピーちゃんは大丈夫。 マガジンもね。 救急治療キットも持った。

サテライト・スキャン端末もね」

「ああ、スマホみたいなヤツか」

「そう言うワンちゃんは大丈夫なのー?」

 

レンめ。 上目遣いで、ニヤッと笑いおってからに。 全く。 戦闘終了後、ナデナデの刑に処する!

 

「問題ない。 各種無線機器は正常。 リムペットガンも問題なし。 セントリーガンも動作不良はない」

「サテライト・スキャンは?」

「自前のセンサーで十分だ」

「いや、その機器は?」

「強度テスト中、不幸の事故で」

「………何も言わんぞ」

 

何だろう。 更に冷たくされた。 悲しい。

うーん、でも強度が気になっちゃったんだもん。 サプレスガンで撃ちたくなったんだもん。 仕方ないじゃん。

 

取り敢えず。 皆の戦闘準備が出来たか尋ねようか。 ウッカリ忘れ物をしたら大変だ。

 

「まあ………なんだ。 準備は済んだな?」

「バッチリ」

「いや。 レン、これを」

 

むっ。 忘れ物か? そう思った刹那。 エムがレンに鞘に入ったコンバットナイフを渡そうとして………

 

「はい没収!」

「うおっ」

 

素早く取り上げた。 何てものを子供に持たすんだ。 ナイフなんて早い! フォークから始めなさい! 違うか。

 

「P90の弾切れ時、副武装として持たせたい。 駄目か?」

「でもわたし、マガジンは七本装備していて、350発だよ?」

 

そう反論するレン。 表情からして、ナイフが怖い様子。 うん。 怖いと思う気持ちがあって、少し安心した。

俺としては、ナイフなんて直接肉を裂く様なモノは持たせたくない。 手に感覚が残るからだ。

だが………言わせて貰おう。

 

「七本でソレは少ないぞ。 EDFのアサルト・ライフルの中には、ワンマグでそれ以上のモノもある」

「それ、本当にライフルなのか?」

「分類はそうだった」

「えぇ」

 

今度はジト目で見られ始めた。 いけない。 脱線した挙句に戦闘前からコレではマズイ。 背中から撃たれてしまう。

 

「とにかく。 他にも利点があるのは分かる。 音を出さずに敵を倒せる、閉所や近接戦闘での使用。 ケーブルの皮剥き。 だがなぁ」

「ケーブル………?」

 

複雑な表情を浮かべるレンを見ながら言う。

身長や走力を生かせば、一気に懐に潜り込み、人体の急所を狙う等の戦法はあるだろう。 体格差で、相手の身体に纏わりつくのも可能のハズ。

肺、腎臓、心臓は防弾プレートで無理だが、首や眼窩を狙えば………普通の人間なら致命的なダメージを狙える。

 

「ストーム、必ず使う訳じゃない。 だが万が一を考えて欲しい」

「………」

 

結局のところ、首を縦に振った。 レンには悪いが無いよりあった方が良い。

 

「腰の後ろに、水平に装備するんだ。 使うときは、右手で逆手に抜いて………正対したのなら突撃………左右どちらかの内股を斬り付けるんだ。 そこには大腿動脈が走っているから、かなりのダメージを与えられる」

 

その後はナイフのレクチャーを受けるレンだったが、やはり、嫌そうだったな。 使う機会がないコトを願うばかりだ。

 

「銃だけで戦ってきた人間は、白兵戦には思いの外もろい。 もし気付いていない相手を後ろから襲えるのなら………」

 

講義を聞いてると、ふと懐かしくなった。 郷愁にも似た何かだ。

初めてプライマーの歩兵部隊と遭遇し、軍曹の戦術の講義を聞いた時を思い出す。

アレは遮蔽物を上手く使えば、裏をかける、というものだったか。 それと部位破壊。 今回は相手が違うけれど。

 

銃だけで、の部分を思う。 俺もその類だ。

兵科に関わらず、デカい怪物やプライマーを相手にする手前、格闘戦の訓練を受けても仕方ない。 故に殆どやらなかったし、やっても実戦で使うコトはなかった。

一部フェンサー等は装備の都合で、やっていた者もいたが。

ただ、約3年間の間、無法者や悪友を相手にする際に自然と格闘スキルが身についた。

嫌な時代である。 プライマーが跋扈しているより余程良いがな。

 

「以上だ」

「ね、ねえワンちゃん? 白兵戦が苦手なのは私よりワンちゃんだと思うし、ナイフ………持ってくれない?」

「駄目だ。 それでは講義を受けた意味がなくなるだろ。 それに俺も、一応は格闘戦は出来る。 心配するな」

「………うぅ」

 

すまない、レン。 だが大切なコトなんだ。

悲しげにナイフを鞘に戻す様を見ながら、心で謝っておく。 俺に出来るのは、ソレを使う機会が無いように、レンを守ってやるコトだろう。

 

待機時間を見やる。 もうすぐゼロだ。

 

「よし……。 やろうか」

 

エムの落ち着いた声が通信越しに聞こえる。

 

「りょーかい!」

「ああ!」

 

レンと俺は景気良く返事をし、銃に初弾を装填した。 エムも同様だ。

乾いた、異なる金属音が鳴り響く。

 

戦時中は様々な場所で、嫌でも聞いたもの。 雪降る田舎町、土砂降りの都市部。 綺麗な欧州の街並み。

 

そして終戦間際の静寂。

だが今は違う。 仲間がいて、再び銃撃音が鳴り響く。 決して嬉しい状況ではないが、希望を感じられる世界になったのは確かだ。

 

全てがゼロになった瞬間、俺達は光に包まれた。 聞かずとも分かる。 転送だ。

次に立っているのは、命がけの戦場となる。

 

さあ。 銃を再び手に取ろう。

皆を守る為。 地球を守る為だ。




次回、やっとこさ戦場予定。 やっと……暴れられる、のか?


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その者。 空爆誘導兵

不定期更新中。
対プロ戦? これで行こう(乱暴)。


周囲を確認。 森だ。

3メートルはありそうな太い木の幹が重なり、視界が悪い。

空は黒い枝による屋根が覆い、僅かに空が見える程度。 平和な頃にテレビで見た、北米大陸の森を彷彿させる。

 

「森か……。 まずいな」

「森だぁ」

 

北米………俺達、残存部隊がマザーシップNo.11を攻撃している時だ。

同時刻、北米でもマザーシップNo.3への攻撃が行われているのを聞いた。

しかし結果は失敗。 撃墜に至らず。 だが巨大砲台に損傷を与えることに成功しており、破壊可能であることを示唆した。

その情報を元に砲台を攻撃。 破壊に成功する。 最も、その後が大変であったが。

 

「三つあるんでしょ? エムさん。 一つは、エムさんの狙撃が生かせない。 二つ、わたしが目立つ。 三つ、ボケてるワンちゃん」

「ボケる歳じゃない」

「あ、戻ってきた」

 

凄い失礼な言葉が聞こえて戦場にカムバック。 いかんな。 集中しなければ。

 

「そうだ。 ここは不利だ」

 

エムはそう言う。

俺がボケてるコトに肯定しているかは置いといて、実際に不利なのは確かだ。

 

今回は空の下だから要請は出来る。 問題はビーコンガンの使用だ。

空軍への空爆や機銃掃射等の要請は無線機で座標や突入角度を指示するが、衛星砲やミサイル関係は目標にビーコンを照射しなければならない。

砲兵隊の場合は発煙筒を投擲しなければいけないし。 とにかく、木が遮蔽物となる森は不利。

 

戦時中、木には嫌な思い出がある。 アレは市街地での乱戦の最中だ。 目の前の並木にビーコンを当ててしまったのだ。 そのままガンシップによる攻撃が始まり、危うく死にかけた。

《DE202》のパイロットは悪くない。 俺が悪いのだ。 射線に平気で出てくる味方にはキレそうになるのだが。

 

さりとて今は今。 センサーに敵性反応がいくつも出ている。 距離はあるものの、このまま雪崩れ込まれては最悪だ。 怪物にしろ何にしろ、群れの津波に飲み込まれるのは避けたい。 その度に死にかける。

 

直ちに移動する。

リムペットガンを構えつつ、俺は尋ねた。

 

「森を抜ける。 エム、周囲の地形は分かるか?」

「この方角に進めば、廃墟の都市部だ」

 

指で方向を教えてくれた。 都市部があるらしい。 森よりはマシだ。 市街地戦は幾度となく経験しているからな。

ビル群があったとしても、邪魔なら吹き飛ばせば良いし。

 

「了。 其方に向かう。 先行するから、ついて来てくれ。 レン、俺から離れるなよ」

「嫌だよ。 撃たれるとしたら、真っ先にワンちゃんだろうし」

「囮は頼む。 サテライト・スキャンで検知されるのはストームだからな」

 

そう言って、俺から距離をとる二人。 何だろう。 また悲しくなってきたよ。

いや……理にかなっているのか。 今は隊長として二人を守るのだ。 集中、集中だ。

それと射線に出られるよりマシ。 うん、そう考えよう……。

 

リムペットガンを構えつつ、周囲を警戒。 センサーにも気を配って暗い森を進んでいると。

突然遠くから小太鼓を叩くような音が。 発砲音だ。

 

「しゃがめ」

 

迷うコトなく指示を出す。 エムは素早く反応して座ったが、レンには難しかった様子。 一瞬遅れて、慌てた様に座った。 可愛いが、堪能している場合ではない。

 

「ワンちゃんに『お座り』させられたぁ」

「冗談を言っている場合じゃないぞ。 銃撃戦だ。 2秒以上途切れない。 相当数の弾がばらまかれてる。 ここより西のどこかだ」

「ああ。 5.56ミリクラスのアサルト・ライフルだな。 サブマシンガンを撃っているやつもいる」

「は? はあ……」

 

無法者同士で交戦したか。 エイリアンとの大戦後も協力して復興するべきなのに、悲しい話だな……。

 

相手は何人かも分からない。 正確な場所も分からない。 大雑把に空爆や機銃掃射の要請をしては、生き残りが雪崩れ込んで来るかも知れない。 駄目だな。

今はエムと共に状況を把握するしかない。 レンには呆れられたが重要だ。

 

「もう戦闘になったんだ? 早すぎない?」

「戦場では何が起きるか分からない。 地面の下から来るかも知れないし、空からかも知れない。 常に全方向に気を付けるんだぞレン」

「そうだね。 ヘリでストーカーする人もいるもんね」

「すまない」

「………」

「エムさん。 そのうち分かるよ」

 

最初の頃の話を出すんじゃない。 知らない人だっているんだから。

未だ続く発砲音に緊張を持たないとならないのに。 呑気に話をしている場合じゃない。 先に進もう。

 

「この先はゆっくり、周囲を警戒しながら進む」

「了解」

「りょーかい」

 

レンに間延びした返事をされた。 もう少し緊張してくれ。 エムを見習うんだ。

いつ敵と遭遇するか分からない今の状態。 先陣を切っているとはいえ、後方から来るかも分からん。 真下から怪物の群れが出て来るかも知れないし。

常に警戒はするべきなのだ。 センサーも万能ではない。

 

そう思いつつ、森の中を進んで行く我ら《EDF》。 気晴らしに歌でも歌うか。 地底の歌辺りが良いか。 いや、止めよう。 レンに怒られる。

EDFの歌は好きじゃないらしいからな。 ならば神崎エルザの歌ならば。 いや止めよう。 俺、音痴だし。 士気が下がってはいけない。

 

やがて遠くから聞こえていた発砲音はスッと消えた。

結果は知らん。 何人生き延びたか分からんが、敵として出会わないコトを願うばかりだ。 今は無視だ無視。

 

「よし、止まれ。 敵が近いぞ」

 

行軍停止を指示。 森の終わりに差し掛かったので、様子見の為に待機。

エムの言った通り、廃墟の都市部が目の前に広がっている。 大小のビル群がある光景。 敵性反応もある。

場合によっては市街地戦になりそうだ。 久しぶりだ。 最近は見晴らしの良い荒野や砂漠がメインだったからなぁ。

 

「ストーム。 間もなくスキャンだ。 敵が近い場合、攻撃を受ける恐れがある」

「だろうな。 レンを頼む、森の中に隠れていてくれ」

「ああ」

 

さて。 センサーによれば、かなり近い距離に敵がいる。 見やれば、機関銃を持っている連中を五人視認。

先ず様子見だな。 重爆撃機《フォボス》に空爆要請をするのはそれからにしよう。

最悪は10機編隊の《プラン10》を要請だ。

都市部ごと敵を吹き飛ばすのは容易いが、火力によるゴリ押しをしていたルーキーの頃でなし、遮蔽物を全て無くすのは避けたい。

後に自らの首を絞める行為はしたくないのだ。

 

「敵発見。 五人。 200メートル以上離れており、武装は機関銃。 今は瓦礫の陰で動きを止めている」

「スキャンを見るつもりだ。 ストームに気付くぞ」

「様子を見る。 離れた場所にもう1グループいるからな」

「了解。 ふっ、死ぬなよ」

「……えっと? ワンちゃん、いつも通りどかーんといきなよ。 先に見つけたんでしょ」

「順番があるんだよ。 慌てるな」

 

無線越しに、レンの困惑する声が聞こえた。 まあ分からんか。 先手必勝という言葉はあるが、それでは目の前の敵に対してのみになる。

もう1グループが来るのを待ち、銃撃戦が起きるのを期待しよう。

そうしたら纏めて空爆や砲撃でどかーん、といこうじゃない。 漁夫の利を得るのだ。

セコいって? 俺は最近はね、無法者に慈悲はないんだよ。 説得に応じないし、レンにも平気で鉛玉ぶっ放すし。

 

「まあ、見てろ」

「うん。 ワンちゃんが蜂の巣になる光景だね」

「……レン、俺のコト嫌いなのか?」

「えっ? いや、あの、冗談だからね? 嫌いじゃないよ! 本当だよ!」

 

最近、レンは酷いコトばかり発言する気がするので、俺はトーンを落として尋ねてみた。

急に慌てた様に話す辺り、やはり嫌いなのではなかろうか。 話す時は楽しそうに罵倒するし。 しかし何がいけないのだろう。 女の子って難しいと思う。

 

ションボリしつつ、だが蜂の巣にならない為に《電磁トーチカ》を目の前に設置。 青くて半透明な壁が、前方に生成された。

 

見た目はプラネタリウムの装置に見える。 実際、土台の上部に球体がついていて白い斑点があり、グルグルと回る。

その様子はプラネタリウムの装置のソレ。

しかし違う点として星空ではなく、この様にエネルギーの壁を発生させるトコロだ。

 

「何だ、それは」

「ああ。 これは……おっと」

 

説明するタイミングで、激しい銃撃音。 先程のグループが此方に気付き、発砲してきた様子。

ドドドドッと重い音もあればタタタタッと軽快な音も。

そして光の壁に無数の銃弾が当たり……俺のところへ届く事はなかった。

 

「つまり、こうだ。 壁を作る装置」

 

この壁、光学兵器だろうが実弾兵器だろうが防いでしまう。 ただし味方の攻撃であれば識別し、攻撃を通してくれる。

その為、内側から安全に敵を攻撃出来る優れもの。 名前のトーチカはこの特徴からきてるのだろう。

 

「そんな物を持っているのか。 なら俺のは要らなかったか」

「むっ? 同じ物を持っているのか」

「まあ、そんなところだ」

「ならば自分用で使えば良い。 無駄にはならないさ」

「ありがとう」

「うわあ……ムチャクチャ撃たれてるのに、ワンちゃんもエムも冷静だね」

「怪物の群れに飲み込まれて、強酸地獄よりマシだ。 機関銃とはいえ《フェンサー》を相手にしているワケでもないし」

「え? 強酸? ふぇんさー?」

「こっちの話だ。 忘れてくれ」

 

フェンサーは全身を覆う《パワードスケルトン》の恩恵で、普通は持てない重火器を扱うEDFの兵科のひとつ。

機関砲とか、キャノン砲を片手でブッ放す光景は頼もしくもあり恐ろしくもある。

しかもブースターで高速移動をする者もいる。 高火力に高機動……味方で良かったと思う。

特に《グリムリーパー隊》の様な。 あの隊の装備を相手にするとなると、トーチカは意味を成さない。 接近を許したら最期だろう。

あー、ヤダヤダ。 接近戦は大嫌い。

 

「しかし……中々の弾幕だな。 リロードのタイミングも仲間内がカバーしているのか、銃撃が止まない。

だが機関銃だけではバランスが悪い。 撃つのが好きな《トリガーハッピー》なのだろうが、周囲に気を付けるべきだ」

「ワンちゃん。 冷静に敵を評価してるけど、撃たれてから3分過ぎたよ。 反撃しないの?」

 

バチバチと光の壁にぶつかる弾丸の音をBGMに、通信越しにレンが尋ねてくる。

 

「そろそろ反撃するさ。 だが初弾を待ってからだな」

「いや、もうとっくに撃たれてるじゃん」

 

そのときだ。

一人の男がうつぶせに倒れたのは。

 

来たか。

 

他の仲間が遅れて気付いて、撃方を止める。 慌てて状況を掴めていない様子。 そんな混乱の空気に3発の銃撃音が鳴り響く。

 

そして更に二人も死んだ。

最初の1発は仕留めきれなかった分だが、最後の1発は眉間に命中。 射手の腕は確かだろう。

 

「あれ? 銃撃が止んだ? ワンちゃん。 何かしたの?」

「別のグループによる狙撃のせい。 俺としては地上でドンパチしてくれた方が都合が良かったんだがなぁ」

 

建物の中や陰にいられると、攻撃し難いんだよ。 センサー反応で大体の位置は把握出来るがな。

 

「つまり……、どういうこと?」

「あのマシンガン連中以外に、他のチームがいた。 それがこっちに来て背後から襲ったんだ」

「そうだ。 マシンガン連中はスキャンを見てまだ距離があると思って油断したか、それとも、近過ぎるストームに驚いて、そもそも全く見逃したか。 どちらにせよ、うかつだったな」

「エムさん。 それが分かっていて、ワンちゃんを囮に?」

「そうだ」

「ワンちゃん。 ドンマイ。 うん、でも。 ワンちゃんならゼロ距離で撃たれても死ななそうだし」

 

褒めてるのか馬鹿にしてるのか。

まあ良い。 狙撃手のチームが移動を開始している。 様子を見よう。

砲撃にしろ空爆にしろ、慌ててはいけない。 自分の位置に攻撃要請する真似はいけない。

 

「ふむ。 新たなチームは皆お揃いの迷彩服か。 地上に四人、外壁が反っているデザインのビル中層に二人。狙撃手はビルか。

何にせよ、連携が取れている。 プロだな……EDF隊員も皆こうで有れば良いのだが」

 

瓦礫に身を隠している、生き延びた機関銃手二人を始末しに行くのだろう。

付かず離れず、最後の一人だけは後方を警戒しながらついて行く。

よどみない動き。 角を曲がるときは小さな鏡を使う。 よく訓練されている動きだ。

 

「覆面連中、いい動きだな。 連携が取れてる」

「だな。 まあ、俺のやるコトは変わらん。 殲滅だ」

 

俺はそう言って、軍用無線機を取り出した。 昔の家庭用電話の受話器みたいなソレは、今やスッカリ使い慣れたものだ。

フォボスにプラン10を要請する。 KM6による機銃掃射では遮蔽物が多過ぎて効果が薄いし、砲撃は範囲が限られる。

 

遮蔽物が無くなるって?

いや、もうね。 ココは景気良くいこうじゃない。

 

「殲滅? ストーム、何を考えているのか知らないが、無理だ。 動きを見ていたのだろう? 不意打ちで一人倒せても、残りは身を隠される。 銃撃戦になったら最早勝てない。 狙撃手もいる。

最悪、森の中へ逃げるしかなくなるぞ」

「あー、うん。 エムさん。 見てれば分かるよ」

「俺が何とかしてやる」

 

そう。 何とかするさ。

味方歩兵だけで、どうにか出来ない不利な状況。 人数でも戦闘技術でも負けている。

そんな展開は戦時中で幾度となく経験した。

だが。 それを打開する為に俺がいるのだ。

 

「ストームの銃は吸着爆弾を射出する銃だろ? 確かに強力だと思う。 だがそれだけでは」

「銃は使わない」

 

よし。 機関銃手と倒しに向かった四人、ビルの二人に空爆出来る突入角度を指示した。

間もなく来るだろう。 《カムイ》の速度でなくても十分だ。

 

『突入開始!』

 

そして聞こえる若いパイロットの声。 上空に見えるエイの様な重爆撃機フォボスの編隊。

 

その数10機。

 

都市部の上空を一列に通過する形で、突っ込んで行く。 うん。 指定通りだ。

 

「B2爆撃機!? いや違う……いや、何故航空機が!?」

「うん。 わたしも始めは混乱したよ」

「対衝撃体制ッ! 伏せるか、遮蔽物に身を隠せ! ココにも爆風がくるぞ!」

「あ!? ああ」

「はーい」

 

エムが驚き、レンは反応が薄い。 人間、慣れとは恐ろしい。

 

『アタック!』

 

そう無線が入ると、フォボスの編隊が爆弾を落とした。 それも、たくさん。

プロチームが気付いたのか、手頃な屋内に退避したが、意味はない。 建物ごと吹き飛ばすからな!

 

そして次の瞬間。 轟音が鳴り響き地面は大きく揺れ、都市部は巨大な爆炎に包まれた。

そして強風が俺たちのいる森にやってくる。

 

「うおおおおお!?」

「相変わらず凄いねえ!」

 

木々が斜めに仰け反り、葉は散っていく。

匍匐か木の陰にいないと辛いトコロだ。 俺は慣れているけれど。

レンとエムの無線機越しの声も、どこか聞き取り難い。

まあしかし。 先程の銃撃音なんて可愛く感じられる。 2秒と言わず、5秒6秒と編隊が休みなく爆弾を投下し続けて、轟音が止むことはない。

 

俺は立ち続ける爆炎を背後に、拳を天に突き上げて雄叫びを上げた!

 

「EDFッ! EDFッ!!」

「やっぱり、こうなるんだ」

「ストーム。 き、君は……何者なんですか」

 

 

 

ストーム・ワン。

地上から空軍や砲兵隊、衛星や基地等に座標を伝達し、味方の支援を行うのが主であり。

 

これがEDFの兵科、エアレイダー。

《空爆誘導兵》の力である。




何とか第一回SJを終わらせたい……。


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移動と素早い敵

不定期更新中。
駄文続きですが、よろしければ。
原作では住宅地でプロチーム相手に奮闘するのですが、ワンちゃんの所為で早めに退場してしまったので……。


『フォボスの力を見たか!』

 

そう無線から声がすると、フォボスの編隊は何処かへと飛んで行く。

見慣れた光景だ。 しかし彼ら空軍が何処から飛んで来て、去って行くのか全く分からない。

 

何処かに離着陸可能な場所があるのだろうが、開戦時の時点で空軍基地の多くは攻撃されたと聞く。 難を逃れた基地があるのだろうか。

 

終戦間際は有翼型エイリアンの群れが飛び回っており、制空権は喪失したと思われたが……普通に要請に応じてくれた。

 

終戦してから改めて考えると、他にも謎はあるのだが。 座標が分かるから、全力で突っ込んでくれるのか。

 

……あまり考えない方が良いな。

今は戦場にいるのだ。 センサーに反応がある内は集中しよう。

 

「都市部はもう、使えない。 怪物はともかく、人間が潜伏するコトはないだろう」

「そうだね。 私たちも使えないね」

 

瓦礫の山と化した都市部を見て、レンは言う。 別に構やしない。 建物もボロボロであったし、無法者のアジトと化しているのなら壊れた方が良い。

今動いているのは、プスプスと音を立てている煙くらい。 センサーに反応はなし。

 

「移動する。 次の敵を倒しに行くぞ」

 

発煙筒を投げて、ビークルを要請。

いつもの《グレイプ》だ。 レンとエムを守りながら、移動するなら最適のビークル。

赤い煙をモクモクと空へと上がる様を見ながら、エムに周囲の地形を聞こうとして

 

「……エム。 大丈夫か?」

 

振り返ればエムが呆けていた。 空爆の衝撃で、どこかやられたか?

 

「あ、ああ。 僕……俺は大丈夫」

「言葉が変だぞ。 本当に大丈夫なら良いが」

「ワンちゃんが《チート》をやるからでしょ」

 

レンがいつもの口調で言う。

チート……コンピュータ・ゲームにおいて本来とは異なる動作……ズルのことか。

 

確かにズルだったかも知れない。 空爆はやり過ぎだったかも知れない。 だが銃には銃で対抗しなければならない道理はないぞ。

連中だって銃以外にも手榴弾を使うだろう。 この前は楯を持ってる奴もいた。 それをズルとは聞かない。

 

それにコレは《ゲームじゃない》。

 

生きるか死ぬかの話になるなら、生きる方を選ぶ。 そこにルールはない。 特に戦場では。

俺一人の命だけでなく、無法者によって危険に晒されるのはレンやエム。 そして生き延びた者たち。

守る為に必要なら空爆要請もするし、ビークルも使う。 どう思われようと、そのスタイルを変える気はない。

 

「すまないな、エム。 驚かせて。 だが互いに生き延びる為にはこうするのが良いと思ったのだ。 許せ」

「う、うん……いや、分かった」

「さて。 次はこの方向に行きたいのだが、こっちは何かあるか?」

「住宅地と、沼地がある」

「了解。 そちらへ向かう」

 

まだ混乱している様子だが、何とかなるか。 精神崩壊でも起こされたら大変だ。

何時ぞやの、戦略情報部の少佐の部下……は少し違うが。

 

そうこう話してる内にコンテナが投下され、いつも通りビークルが届く。 お馴染みの武装装甲車両だ。

 

「よし、乗ってくれ。 エム?」

「……いや、すまない。 コレは?」

「装甲車だ、ライフル程度の弾丸ならやられない。 安全に移動出来るぞ」

「エムさん。 最初は慣れないと思うけど、ワンちゃんはこんな感じなの。 ごめん」

「……頑張るよ」

 

何がごめんで頑張るんだ。 エムは車酔いし易いのだろうか。 ビークル恐怖症?

だが済まないエム。 遮蔽物のない中を歩くのは危険極まりない。 嫌でも搭乗してくれ。

 

「俺が運転するから、二人は後ろに。 レンは知ってるな?」

「うん。 エムさん、後ろの扉から乗って」

「……分かった。 ところで、砲塔は本物か? 操作員は必要なのか?」

「俺が操作する。 運転しながらでも出来るからな。 二人は乗っているだけで良い」

「了解」

 

エムは良い奴だな。 混乱しているであろうに、役に立とうとしてくれている。

 

「ワンちゃん、成る可く揺らさないで走ってね?」

 

レンは呑気だな。 だが子供故の笑顔に負けた。 許す。

 

そうして二人を乗せて、いざ発車。 道中はひび割れた道路ではあるが、舗装された道に変わりはない。

徐行していたのもあり、そんなに揺れることもなく、あっという間に住宅地へ。 途中で攻撃されることもなかった。

 

さて。 この住宅地は日本というより、アメリカの高級住宅街を思わす風景だ。

庭があり、ガレージがセットなアレ。 人が住んでいないからか、だいぶ荒れ果てている。

 

一応、トラップの類はないか、センサー反応にない敵がいないか警戒。

しかしながら、住宅地に敵影なし。 民間人の反応もない。

当たり前かも知れないが……都市部とは別に漂う寂寥感。 道に空き缶やホイール付きのタイヤ、買い物カートが転がっているからか。

 

「かつてココでも人々が暮らしていたと思うと……悲しいな」

「都市部を吹き飛ばした人の発言とは思えないね」

「いや状況が違う。 コッチは何というか、生活感が残っている」

「そうだな。 実際、住宅地にある物品や新聞はそう思わせる配置だったり、文字が書いてあるようだ」

 

新聞か。 他にも気になるが、降車はせずに沼地へ行こう。

寄り道をしている余裕はないからな。

 

「そういえば。 前にピトさんから聞いた話で、こんなのがあるよ」

 

レンが何かを思い出したかのように、声を発する。 俺への皮肉や誹謗中傷でなければ聞こうじゃないか。

運転中なので、周囲を気を付けながらも、無線越しに耳を傾けた。

 

「小さな協会の廃墟で犬に似たモンスターを仕留めたら、さらに奥にある部屋に入れたんだって。

するとそこには、洋服掛けに綺麗なウェディングドレスとタキシードが掛かっていて……天窓からの光の加減でキラキラ輝いていたみたい」

 

ほう。 それはまた、幻想的というか美しい光景であったろうな。 レンも女の子だし、そういうのに憧れるのだろうか。

 

「でもピトさん。 二着ともショットガンでズタボロにしたって」

「台無しじゃないか!?」

 

思わず叫んでしまった。 何故そんなコトをするのかな、あの女! ホント、素敵な性格をしているよ。

 

「犬が守っていたからかな? 誰かが守っているモノを壊したくなる、みたいな」

「今日の結婚式でも、似たコトをやっていたりしてな」

「笑えないぞ」

 

やめてくれよ……。

狂った様に笑いながら、結婚式を滅茶苦茶にする光景が目に浮かんでしまうじゃない。

スプライトフォールの女科学者と良い勝負になってしまうのではなかろうか。 それはないか。

 

「二人をそんな目に遭わせる気はない。 一緒にいる間は俺が守る」

「え? あ、ああ」

「うん。 ありがとね、ワンちゃん」

 

ヨシ。 住宅地はクリアだ。 敵がいるであろう、沼地へ移る。

センサーを見ると、何やら高速移動をしている。 水上だ。 人の速さじゃない。 レンも速いが、敵はもっと速い。

 

ビークルに乗っているのか、空を飛んでいるのか緑の変異種の類か。 だが倒さずして平和はない。 得意不得意に関わらず、俺は向かわねばならない。 地底もそうであったし。

 

「沼地へ向かう。 敵がいる様だ、気を付けろ」

「先程のスキャンによれば、一チームいるのは分かっている。 市街地の方にいたプロチーム含む5チームは、あー、運悪く爆撃に巻き込まれて全滅したか」

「あっ、スキャンのコト忘れてた」

「沼地の連中、少なくとも人間の速度じゃないな。 レンよりも速い」

「乗り物でも手に入れたか。 残り三チームだが……厄介だな」

 

乗り物、ね。 《コンバットフレーム》や装甲車系ならばエムに《ミニオンバスター》を持たせたいところ。

爆薬と遅延信管を内蔵した徹甲榴弾を撃てる特殊ライフルのコトだ。

 

弾頭が大きくて弾速が遅く、射程距離が短いという欠点があるものの強力な銃である。 持ってないから意味ないけど。

やはり最悪は俺が何とかするしかない。

 

「わたしたちも、乗り物使ってるけどね」

「違いない。 だが相性というのがあるだろう」

「ああ。 腕に自信がない限り、高速移動する敵を仕留めるのは難しいな」

「ん? ワンちゃん、自信あり?」

「ない! 射撃全般は苦手だ!」

「そんな自信満々に言わなくても」

 

これから対峙する敵の対処会議をしながらも住宅地を抜けて、湖沿いに車を走らせる。

センサー反応を見ると、敵が湖を迂回せずに真っ直ぐ此方に向かっているトコロだった。

 

砲塔を操作しつつ見やれば、エムの言う通りである。 乗り物が見えた。

 

「敵だ! 左!」

「視認した! ボートか?」

 

凄い速さで湖の上……水上を移動していたのは、飛行型でも緑の変異種でもなく。

小型のモーターボート。 緑の船体の下には黒いゴムの膨らみ、そして後部には飛行機のような大きなプロペラ。

下に噴射した空気の力で船体を少し浮かせて、プロペラで押して走るその姿は。

 

「ホバークラフトか! 平地なら水陸両用として使えるビークルだったな! 乗ってみたいなぁ!」

「馬鹿言ってないで! ほら、来るよ!」

 

四台中、一台だけが一気に突っ込んできたかと思うと、横殴りにマシンガンを撃ってきやがった。 威力偵察か?

グレイプの装甲表面に火花を散らし、金属音を車内に鳴らして中途半端な嫌がらせをしてくる。 ダメージを与えられないと悟ったのか、次には手榴弾を放り投げてきた。

 

接触式なのか分からんが、地面に落ちると同時にドカァン! と派手な音。

アスファルトを抉りつつ、爆風と飛び散った破片群でグレイプを大きく揺らされた。

 

むぅ。 軽く徐行していたとはいえ、当ててくるとは。

中々の実力者達なのかも知れない。

 

「うわわっ!? 車が揺れる!」

「耐えるか。 強力な装甲だな」

 

だが無法者だ。 倒さねばならない。 乗り物に乗ろうと実力者だろうとなんだろうと、倒す対象に変わりはない。 倒そう。

 

「反撃する。 だがコイツの武装じゃ素早い敵に当てるのは至難の業だ」

「じゃあ、どうするの?」

「俺が狙撃して戦おうか?」

「いや、俺が始末する。 別のビークルを呼ぶ。 二人は中にいてくれ」

 

そう言って、俺は車両を止めて運転席から車外に出た。

それをチャンスと見たのか。 一台、真っ直ぐに突っ込んで来たので

 

「ちょうどいい的だな」

 

ビークルを呼ぶ前に素早く、ビーコンガンを撃ち込んでみた。

射撃が下手でも真っ直ぐに向かって来るなら、簡単だ。 偏差射撃がいらないのは助かる。

 

敵も何をされたのか分からないだろう。 乗ってる運転手と射手は一瞬首を傾げたが、そのまま突っ込んで来る。

精々、拳銃弾を1発早撃ちされた程度の認識か。 そうだとしても、それは間違いであるが。 だって弾丸というか、それビーコンだし。

 

『バルカン砲、ファイヤ!』

 

そしてガンシップへの要請とは思うまい。

無線と共に、遥か上空より降り注ぐ弾丸の雨。

それはビーコン地点に多少のばらつきをもって着弾する。 高速で移動していてもそれなりに当たる攻撃だ。

当然、それは無法者が乗るホバークラフトと周囲に着弾。 無数の水柱をモザイク代わりに、無法者はミンチになった。 悲鳴を上げる暇もなかった模様。

 

「空から銃弾の雨が?」

「あー、ワンちゃん曰く上空を旋回しているガンシップに、攻撃要請をしてるんだって」

「理解出来ないが……いや、したくないが……ストームについて考えるのは後にしよう」

 

残りは三台。 今の攻撃を警戒してか、近寄ってこないな。

まあ良い。 都合が良い。 今の内に別のビークル《ニクス リボルバーカスタム》を要請。

 

これは対空戦闘用にカスタムされたコンバットフレーム……搭乗式の強化外骨格で、見た目はロボット……様々なバリエーションが存在するが、今回は両腕にリボルバーカノンを搭載。

 

上半身の回転速度は速く、高速で移動する物体が狙いやすい。 両肩にはミサイルポッドを搭載。 ロックオンした物体に発射、追いかけ回す。 これらの利点から、対空とは言わず、通常の地上戦闘、素早い敵に大いに役に立つ故、要請してみた。

ただし。 このコンバットフレーム、重量が増しているのか、機動性が悪い。 素早い機動は難しい。 移動手段としては向かない。

 

「外でワンちゃん、頑張ってるねぇ」

「……俺たち、何もしなくて良いのだろうか」

「全部ワンちゃん一人で良いんじゃない?」

「複雑だな。 1発も発砲していないし」

「隊長命令だし仕方ないよ。 それより、さっき読んでいた手紙は?」

「え? あ、いや。 気にするな」

「気になるなぁ。 まっ、いいか」

 

待ってる間は時間が勿体無い。 リムペットスナイプガンで、動き回るホバークラフトを狙ってみた。

乗ってみたかったが、無法者に使われていると思うと破壊衝動に駆られたのだ。 射撃の練習台になってもらおう。

 

射出、失敗。 射出、失敗。 ダメだ当たらん。 リロードリロード……あ、ビークルが来てしまった。 練習短かったなぁ。

 

「なんか、格好良いロボットが登場したけど」

「………」

 

素早く搭乗し、起動。

操縦桿を握り、動き回るホバークラフトに向けてリボルバーカノンを撃ちまくる。

フルオートだ。 容赦はない。 空薬莢を左右に滝のように排出しながらも、撃って撃って撃ちまくる。

 

大きな水柱が無法者の周りにて大量に上がり、視界が遮られるが構わず撃つ。

続けてロックオン、ミサイル発射。 しばらく真っ直ぐ飛ぶと、思い出したかのように目標を追いかけ始めた。

無法者達は必死に逃げ回るものの、やがて命中。 大きな水柱を立ててセンサーから反応を消した。 全滅だ。

 

「クリア。 次へ行こうか?」

「なんか、参加者が可哀想に思えてくるよ」

 

火力差を思ってか、レンが諦めた様に言う。

だが構わない。

二人を守る為にも、他の者たちを守る為にも、そして地球を守る為にも、だ。




まだ戦闘は終わらず。


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天を仰いでも仕方ない。

不定期更新中。
レンちゃん、原作通り撃たれるの巻。 そして……。


 

「あと私たちと敵の二チームだけど……これで優勝しても、嬉しくないなぁ」

 

コンバットフレームを放棄、悪用を避ける為に爆破処理した後。

そう言いながらレンは、グレイプから降車してしまった。 ずっと車内にいるのは嫌だったのかも知れないが危険極まりない。

エムも引き止めに一緒に出て来てしまう。 コレはいけない。

 

「早く中に戻るんだ。 いつどこで、誰が撃ってくるか分からないんだぞ?」

「あと1チームだし。 最後くらい、何かしら役に立たせてよ。 それに、もし撃たれてもワンちゃんが何とかするでしょ?」

「そういった状況は避けたいんだが」

「レン、素直に戻ろう。 危険だ」

 

レンのお気楽な態度に、怒れば良いのか呆れれば良いのか。 俺の味方はエムだけか。

戦時中、レンみたいに悠長なコトを仲間が言った次の瞬間には酷い目に遭ってきたものだ。

 

優勢だと言えば敵の戦略にやられたり、新種に出くわしたり、大軍勢が押し寄せて来たり。 楽な仕事だなんて言った日には巨大な怪生物が乱入ときた。 最悪だ。 いわゆる、お約束というヤツ。

 

だから、あまりそういうコトは言わない方が良い。 その度に何とかしてきたが、散った仲間は数知れず。

 

「スキャンの時間だし、見たら戻るよ」

「おいおい」

 

言うコトを聞かずに、スマホの様な機器……サテライト・スキャン端末を見始める。

何か、戦時前の現代人だ。 そして言うコトを聞かぬ子供ときた。 反抗期の娘を持った親とは、こういう気分なのだろうか。 そう考えると少し口元が緩んでしまう。

 

「さあ、どこだ? どれくらい離れている?」

 

レンが呟く。 俺の端末は壊したから、見るコトは出来ない。 代わりにセンサーを見てみると。

距離は分からないが、そんなに遠くないな。 やはり危ない。 レンが見終わったら、さっさと中に戻って頂こう。

 

「あれ……え……あれ?」

 

そう思った刹那、遠くから発砲音。

飛翔音も合わせて聞こえると、目の前でレンが3メートルくらい吹き飛んだ。

何が起きたのか。 理解するのに時間は要らない。

 

レンが撃たれたのだ。

 

「レェン!?」

 

理解するより早く、弾かれた様に駆け寄るのと、レンの小さな身体がぐしゃり、と地面に叩きつけられたのは、ほぼ同時であった。

 

 

 

 

 

 

「退避だ急げッ!!」

 

レンの小さな身体を担ぎ、全力疾走しながらエムに叫ぶ。

レンは何とか生きているようで「あー?」とか「えー?」と呻き声を上げているが、様子を見る余裕がない!

 

俺が言い終わる前に、エムは既に行動を起こしてくれた。 グレイプに乗り込むついで、後部扉を半開きに。 直ぐに閉められる様にだ。

 

びゅん、びゅん、という弾丸の飛翔音が近くから、遠くから聞こえてくる。 たん、たん、という遠くからの発砲音も。

 

スナイパーだ! クソッタレ!!

 

「頼む!」

「分かった!」

 

レンを後部座席の空間に放り込み、エムが素早く扉を閉めた。 瞬間、閉めた扉に火花が散る。 逃したくないらしい。

 

だが逃げる。

この辺は遮蔽物が少なく、見通しが良い。 ロケット弾の類を撃ち込まれる可能性がある。

レンを安全な場所まで連れて行く。 治療はその後だ。

 

びゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅんびゅびゅびゅん。

 

弾丸の飛翔音が、さっきより遥かに増えて聞こえ始めた。 今度はマシンガンか。

グレイプに無数の火花が散っていき、俺の周りに砂埃が立つ。

 

そして背負っている通信ユニットが被弾してしまったが、構ってる場合じゃない!

 

運転席まで全力で走り、その勢いのまま転がり込む様に入り込む。

ハンドルにしがみつくと、そのまま右足で思いっきりペダルを踏み込み急発進。 身体がシートに押し付けられるも構わず全力走行だ。

 

とにかくこの場から離れねば!

 

激しく風景が変わる中、俺はレンが心配で、声を出してしまう。

 

「エム! レンは生きてるか!?」

「生きてる。 今、救急治療キットを打っておいた。 助かるぞ」

「ワンちゃん、そんなに吠えなくて良いよ。 大丈夫だから」

「……そ、そうか。 良かった」

「ただ、放り込むのは乱暴じゃない?」

「許せ。 あの場から直ぐに避難しなきゃ危なかったんだ」

 

俺の慌てる声とは裏腹に、エムの冷静な声とレンのいつもの口調が返ってきて、俺は安心させられて気が抜けそうになってしまう。

いかんいかん。 まだ安全とはいえない。 走り続けよう。

 

「距離は600メートル先。 スナイパーにもギリギリの距離だったんだろう。 静止目標をやっと当てられる距離だった。

銃は7.62ミリクラスで、発射間隔が狭かったので自動式、最低10発は入るマガジン装備だ」

「ああ。 ボルトアクションより厄介だな」

 

マシンガンと合わせて、あの連射……精度は射手か銃か、特別高くない様に感じたが、制圧力が高い。

あの弾幕の中を1発も被弾しないで、グレイプに乗り込めたのはラッキーと言える。

ただ、レンは被弾してしまったが……。

 

「レン、エム……すまない。 俺がもっと警戒していれば」

「良いよ。 そもそも今まで撃たれなかったのがラッキーだったし」

「ああ。 あと10センチ上に当たっていたらレンは即死だった。 そしてあの弾幕だ、掠めればやはり死んでいただろう。

だが生き延びた。 それはストームの装甲車があって、こうして逃げられるからだ。 ありがたい」

 

二人の優しさが身に染みるよ。

 

心で感謝しつつ、しかし今後の展開を考えねばならない。

取り敢えずあの場から離れつつあるのだが、俺はどこに向かっているのか。

考えなしに走ってしまった。 それを汲み取ってくれたのか、エムが教えてくれる。

 

「ストーム、この先は荒野だ。 前のスキャンからこの距離だ、敵は乗り物を手に入れた可能性がある。

追い掛けてくるだろうが荒野は岩が多い。 車両は厳しいから、敵も徒歩になる筈だ」

「それに! わたしの、ピンク迷彩も役に立てるかも」

「そうか。 なら」

 

レンが撃たれて、吹き飛んだ光景がフラッシュバックする。 その逆方向……居住区。 住宅地に敵はいる。 ならば。

 

「住宅地に戻る」

「へ?」

 

どっちの声か。 困惑の声が聞こえて直ぐに

 

「ワンちゃん、さっきの話……聞いてた?」

「潰しに行く」

「いや、まあ。 ワンちゃんなら一捻りかもよ? でも」

「レン。 敵は非道だ。 戦場にそんなモノを求めるな、と思うだろうが。 レンを平気で撃った連中を俺は許せん」

 

それだけ言うと、俺は1度車両を停止させる。 車外に出て、空爆要請をする為だ。

居住区ごと跡形も無く消し飛ばしてやる。 相手は子供すら容赦なく撃てる惨忍な連中だ。

 

俺は外に出て、無線機器を手に取る。

そして要請……出来なかった。 うんともすんとも言わない。

 

「むっ?」

 

手に持つ無線機器に異常はない。 そしてまさか、と思い、背中に背負った通信をアシストする……通信ユニットを下ろして、見てみると。

 

大穴が空いていた。 先程の、銃撃を喰らった時のだ。 この場で即座に直すのは困難なレベルである。

 

ならば砲撃要請は?

 

発煙筒が無い。

撃たれた時に落としたか? 最低だ。 これでは輸送機も呼べない。

 

「どうしたの、ワンちゃん?」

 

固まる俺を心配してか、レンが声を掛けてきた。 素直に言うしかないか。

 

「……通信ユニットが撃たれて故障した。 空軍は呼べない。 砲兵隊も駄目。 現状持ち合わせている武装で戦うしかない」

「えっ!?」

「何だって?」

 

ヤバい状況になった。

エアレイダーからエアを取ったら、ただの歩兵……いや、それ以下じゃないか?

 

「ど、どどど、どうするのワンちゃん!?」

「俺たちの出番か」

「すまん。 俺も出来るだけ援護する」

 

そう言いつつ、運転席に戻った。 先ずは荒野に向かおう。 そこで潜伏する。

セントリーガンやリムペットガンで戦うしかない。 それと、今乗っているグレイプ。

 

こんな事なら、コンバットフレームを破壊するんじゃなかったなぁ。

過ぎたコトを悔やんでも仕方ないけどさ。

 

「荒野に向かう」

「……ストーム。 その前に大切な話をしたい。 二人で」

 

エムが、何か深刻そうな声を出してきた。

どうしたのだろうか。 大切な話? 戦略上の話か? でも二人って。

 

「助手席に乗ってくれ。 レン、すまんが少し通信を切る」

「えっ? この状況下で?」

「悪いな。 何かあったら、直ぐに通信を直すさ」

「……ストーム、すまん」

 

通信を切って、エムを助手席に移動させる。 大きな身体に大きなバックパックでは、助手席がとてつもなく窮屈そうだ。

だがそれでも、無理矢理ねじ込む様に、エムは入ってきた。 余程話したいのか。

 

「それで、話とは?」

「あ、ああ、えっと、その」

 

歯切れ悪く、エムらしくない。 そう思って見たエムの目は……涙が浮かんでいて。

表情は死への恐怖で歪みまくっていた。

 

「ストームさん! お、お願いします! 降伏を。 降伏をして下さい!」

 

今までの、エムの屈強な大男のイメージが一気に崩れ去った。

まあ……なんだ。 罵倒したり気持ち悪がったりはしない。 死ぬのが怖いのは皆同じだから。

 

俺はただ、エムの顔を見つめて、何時もの口調でワケを聞いてみた。

話くらいは聞いてやろうと思う。 なに、敵が来るようなら、逃げながらでも聞いてやるさ。




矛盾があるかも?
次回、エムとお話予定。


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毒鳥の呪縛。 融かす犬。

不定期更新中。 違和感あるかも。
ピトフーイの手紙。 怯えるクマさん。 その時、ワンちゃんは。


 

「エム。 理由を聞いても良いか?」

 

降伏してくれ。 そう言ったのは死への恐怖に取り憑かれたエムだ。

そんなエムに俺は尋ねる。

 

「分かっているでしょう? ストームさん。 貴方の銃は強力ですが、本来の戦闘スタイルは『そう』じゃないからです」

 

敬語で話し始めた。 涙が流れるのをなんとか堪え、声を震わし、今にも消えてしまいそう。

だがイラついて怒りはしない。 ただ黙って聞くのみだ。

 

「空爆、砲撃、乗り物……貴方が要請と呼ぶ類(たぐい)。 それらGGOのバランスを大きく崩す圧倒的な火力で、敵を捩じ伏せる。 それが貴方です」

 

うむ。 よく分かったな。 エムとは初めての共闘なのに。 だがもう一声くらい欲しい。

 

「ただ、来るまでの間や要請中は無防備。 基本は味方の後方から支援を行い、銃は自衛や援護目的。 最悪は周りの味方に助けてもらうのでしょう。

ですが、今回は……今の貴方はそれら支援が行えない。 残り1チームとはいえ、銃のみでの戦闘。 厳しいでしょう」

 

そうそう。 味方歩兵が敵軍を食い止めてくれないと、たちまち群れに飲み込まれてしまう。 要請どころではない。 俺はワンマンアーミーじゃないのでな。

 

といっても。 リムペットガン一丁でどうにか出来る場合もなくはない。

今回もリムペットガンで十分。 無理か。 スナイパーいたし。

 

「降伏理由にはならない、と思うでしょう。 レンも僕も、弾を1発だって使ってない。 戦う力はある。 勝算が無いワケじゃない。

で、でも僕は……死にたくない!」

「その辺を詳しく聞こう」

 

弱々しくも、死にたくないと訴えるエム。 だが俺が要請出来なくなったコトだけが理由ではないハズだ。

態度が急変した理由はもっと、別にある。

 

「俺が要請出来るコトは、最初の森の時点では知らなかっただろ。 知った後も冷静に、地形や敵の情報を教えてくれたじゃないか。

何があった? 途中で何か『知った』のか?」

 

尋ねてみると、エムはビクッと大きな身体を震わせる。 そして便箋を取り出すと、震える手で俺に差し出してきた。

何だ。 ヤバいコトか。

 

「……これは誰からの、いや。 ピトからのか」

 

無言でコクリ、と頷かれた。

 

「読むぞ?」

 

再びコクリ、と頷かれた。

 

中を開き、手紙を広げる。 他人の手紙を読むのは抵抗があるが、重要なコトが書いてある模様。 話を進める為にも読まねばならない。

 

開いてみると、綺麗な文字が並んでいる。 読み易い。 そして書いてあるコトは大変物騒なモノだった。

 

『やほうエム。 奮闘中かね? ちょうど1時間が経ったら読むようにいいつけておいたけど、破ってないだろうね? 破っていたら殺すよ? 今すぐしまえ』

 

「す、ストームさんの異質さが書いてないか、破ってしまいましたが」

「大丈夫だ。 仲間は売らん」

 

隣のクマ……じゃなくて、エムはウンウンと激しく首を振っている。 嬉しいらしい。

 

続きを読もう。

 

『私の代わりに参加しているんだから、代わりに存分に楽しみなさいよ!

といっても、ワンちゃんのせいで勝手に終わるかもね』

 

手紙に俺のコトが僅かに書いてある。 嬉しい様な、悲しい様な。 複雑な気分だ。

 

『それでも死んだら殺すから。 なんとしても生き残りなさいな。 バトルは緊張感がないと、やっぱり楽しめないよね!

さあさあ、存分に楽しめっ! 生を感じなさい! いじょー』

 

文はここまで。 ふむ。 ピトらしいな。 殺すだのなんだの言っているが、緊張感をほぐす為の冗談や励ましの様に感じる。

遠回しの応援に、俺は少し口角を上げた。

 

「むっ? 裏にも文字が」

 

裏を見てみると、別の文字が書いてある。

俺のコードネームが大きく、デカデカと書いてあるではないか。

 

そこには、こう書かれていた。

 

 

『ストーム・ワンを殺せ』

 

 

「っ!?」

 

笑顔から驚愕へ。

そして慌ててエムを見るも。

銃口を向けられているとか、発砲されるなんてドラマな展開はなく。

 

涙と鼻水でグシャグシャにした顔で、エムは不気味に笑い始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ははははっ! やっぱり……殺せない! あの女、無理難題を押し付けやがる! あははははっ!」

「……エム」

 

笑いつつも狭い助手席で、自身の手元を見るエム。

そこには閉所にて有利であろう、サイドアームの拳銃が右手に握られていた。

セーフティが掛かった状態で、だ。

 

「何ででしょうね? ヘルメットや防弾着を身に纏っている貴方を、ライフルや拳銃で殺すのは難しいでしょうけど。

どうしてか、撃つ気が起きないのです」

「……それは俺も分からん。 自分自身に聞け」

「いや、何となくですが。 理由は分かってるんです」

 

なら聞くなよ。

 

少し思ったが、今は黙っておく。

センサー反応を見ると、そこそこの速度で敵群が向かって来ているのが分かったからだ。

位置がバレた。 そして追ってきたか。 ノンビリは出来ないな。

 

「ストームさん。 貴方を見ていると、どうしてか、もう少し頑張ろうという気持ちが出て来るというか。

それなのに、殺したら全てを否定するみたいで。 だから……上手く言えないですが、そんな感じなのです」

 

涙と鼻水で滅茶苦茶になりながらも、笑顔は穏やかになるエム。

なんて言えば良いのか。 怒れば良いのか、呆れれば良いのか、笑い返せば良いのか。

 

だが手紙の内容といい、俺のコトといい。 別の問題がでてきてしまったぞ。

 

「言っているコトは全く分からんが。 取り敢えず、ピトの指示通り俺を殺さないとなると……どうなる?」

「わ、分かりません。 他に何も書いてなかったから。 『殺そうとしたけど、その前に降伏してしまった』という言い訳を考えたワケですが」

 

ああ。 それで降伏を頼んだのね。

でもなぁ。 レンを平気で撃つ連中に降伏はしたくない。 したところで、結局殺されるだろう。

 

結局のところ、最後まで戦うしかないのだ。 戦時中みたいに。

 

「悪いがエム。 最後まで戦って欲しい。 要請は無理だが、俺も銃や他の装備で援護する」

 

センサー反応が近い。 もうすぐ射程距離かも知れない。 レンも気付いたのか、運転席を隔てる壁をドンドンと叩いている。

 

「安心しろ! エムもレンも、俺が守ってやる! EDFは仲間を見捨てない!」

 

そう言い終わるや否や、近くの地面が大きく抉れて、グレイプが少し揺らされる。

グレネードランチャーか何かだろうか。

 

砲塔を回しつつ、ガンカメラで見ると、装甲を後付けしたトラックが向かって来ていた。

かなりの速度だ。 追い付かれる。 俺は通信をオンに直し、ハンドルを握りしめた。

 

「決着を付けよう。 エム、お前には仲間がいるコトを忘れるな。 自信を持て! 銃を取れ! 先ずは目の前の敵を倒して生き残れ!」

 

エムは一瞬呆けたが、直ぐに涙と鼻水を拭い

 

「了解だッ! ストーム分隊長ォ!!」

 

自分に喝を入れる様に、大きな声で返事をする。 良い声だ!

 

「レン! 揺れるぞ、掴まってろ!」

「わ、分かった! 私に出来るコトあったら、手伝うから。 遠慮なく言ってよ!」

 

レンも良い返事だ!

俺はアクセルをもう一度、踏んづける。 再び走り出したグレイプは、先程より遅めである。 ここで決着を付けたいからだ。

 

荒野に辿り着いて、降車したタイミングを狙われるかも分からん。

装甲も武装もパワーもある軍用ビークル、グレイプだ。 輸送車だからって、トラックに負ける程弱くはない。 急ぐことはない。

 

さて。 やってやろうじゃないか。

 

カーチェイス。 悪友とやった日を思い出しつつ、俺は再び笑った。




次回、ちょいオリジナル回予定。


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カーチェイス

不定期更新中。 違和感あるかも?
運も実力のうち。


 

後方から走ってくるトラック。

ソイツは荷台の幌や操縦席の側面を、いかにもあとから取り付けた装甲板で覆っている。

 

だが軍用設計と比べると、大きく劣るのは間違いない。 グレイプで砲撃すれば廃車確定だろう。

体当たりしても良い。 少なくとも、ビークルとしてなら此方が上だ。

 

「相手はトラックだよ! 纏めて葬っちゃえ!」

「そうさせて貰う」

 

レンに同意する。 敵が纏まっているのはセンサー反応でも分かる。 爆発物で一網打尽に出来るチャンスだ。

 

だが距離があるな。 砲撃を外してしまえば、脅威を感じて逃げてしまうかも知れない。

ココは初弾で決めたい。 命中率を上げるべく、相手を誘う様にゆっくりと走ってみる。

 

すると助手席の奴が、ハーネスで身を支えて、身を乗り出しているのが目に付いた。

 

手には、ライフルストック付きの拳銃。 信号銃の外見に棒状の奇妙な標準器が付いている。

 

そして銃先端には卵の様な塊。

 

装甲車に拳銃弾で対抗するとは思えず、先程の爆発を思い出し

 

「掴まれ!」

 

右に急ハンドル。 助手席が左なので、狙えない運転席側へと逃げる。

車体がガクッと揺れて、体が逆方向へ。

 

刹那。 先程まで車体があった地面が爆発。 地面を大きく抉り、再びグレイプが揺らされた。

 

「拳銃なワケないか!」

「《カンプピストル》。 ハンドキャノンだ」

 

エムが激しく揺れる車内で、冷静に説明。

泣き顔の名残を残しつつも、聞き取りやすい様に話してくれた。

 

「小型の擲弾発射器。 軽装甲なら破壊出来るだろうが、この車両なら大丈夫だろう」

 

ガンカメラを見つつ、耳を傾けた。 その間、背後では助手席のヤツが銃先端に再び榴弾を差し込んでいる。

単発式らしい。 隙が大きいな。

 

「そうか。 ならば接近しても平気か」

「武装があれだけとは思えん。 狙撃やマシンガンの件もある。 先ずは様子を」

 

ズドォン!

 

相手が再度発射。 近付いていたのと、油断してたのもあり、命中を許してしまった。

 

「うひゃあ!?」

 

グレイプの砲塔部分に当たったらしい。 上部でド派手な音と振動が伝わって、レンが悲鳴を上げる。 可愛い。

 

だがエムの言う通りだ。 流石グレイプ、なんともないぜ。

 

 

「ワンちゃん! モタついてないで、早く撃ち返しちゃえ!」

「ふむ。 お返しといこうじゃないか!」

 

距離は十分。 そう意気込んで、グレイプで砲撃! はい戦闘終了!

……とは問屋が卸さず。

 

「むっ?」

「ストーム、どうした?」

「撃てない。 砲身が歪んだらしい」

 

ダメージ・コントロールパネルを指差しつつ、言う。

カーナビを思わすサイズの液晶に、グレイプの簡単な側面図。 その砲身部分が真っ赤に染まっている。 異常状態につき、使用不能だとおっしゃる。

 

おーい。 軍用ビークルだろ、しっかりしろ!

戦時中はこんなコトなかったろ!?

 

「なに、体当たりすれば良いさ」

 

そう思って、更に速度を落とす。 トラックの速度が更に勝り、距離が縮まっていく。

 

すると、トラックは右側面に逃げた。 距離を開けつつも丁度、グレイプと並列。

 

ふん。 わざわざ当てやすい位置に来てくれるとは。 体当たりしてやる!

 

そう思ってハンドルを切ろうと思ったら。

 

「待て! 逃げるんだ!」

 

エムが警告。

何故なのか、それは直ぐに分かった。

 

トラックの幌が破れたのだ。 中が丸見えになったと思ったら……中から人。 全員で三人。 男っぽい見た目だが、全員女だと分かる。

そして助手席含め皆一様に、ハンドキャノンを構えているコトも。

 

狙いは……グレイプの車輪。

 

「くっ!?」

 

慌てて急ブレーキ。 刹那、ポンポンと擲弾を撃たれまくる。

 

逃げ切れずにグレイプの側面装甲や地面に命中、連続で爆発に次ぐ爆発。

装甲を軽く凹ませ、地面を抉り、弱点とも言える車輪が壊れる。

軍用なので、パンクは気にしなくとも、壊れはする。

 

「ちょっと! 止まるなら止まるって言ってよね!?」

「許せ。 ドンドンくるぞ、備えろ!」

 

しかも一度の発射で終わらない。

仲間がリロードしている間は他者が撃ち、撃ったものがリロードする時は、最初にリロードした者が撃つ……ローテーションが組まれていた。 結果、連続で休みなくドカンドカンと音が響く。

 

くそっ。 一斉射なら、その後の隙を突いて体当たりしたものを。 これでは近寄れないし、装甲や車輪が壊れるのを待つだけだ。

 

「ワンちゃん、構わず体当たりしちゃいなよ! 被弾しても、爆発が近くで起きたら、向こうだって被害が出るし。

車輪が壊れても、体当たりするだけの余裕はあるでしょ!」

「そうしたいんだがな。 相手の運転手、かなり腕が立つらしい。

付かず離れず、そして仲間が撃ちやすい様に走行している」

「それに、トラックには五人しかいない。 何処かに一人、潜伏していると思うべきだな」

「それって……この先の荒野?」

「そう考えるのが妥当だ」

 

ドカンドカンと、グレイプの側面やタイヤ、地面を爆発させる相手。

ダメコン表示も、全体的に黄色になった。 被弾して表面の形状が異なっているからか。

ハンドルがガクガクと暴れ始める。 危険だな。

 

体当たりしようと近寄るも、素早く離れられたり、速度を調整されて別の方向へ回避しやがる。

 

それでいて、仲間に負担が行かないようなポジショニング……。 厄介だ。

 

「装甲車がトラックに負ける。 笑えないな」

「ワンちゃんのドライブテクニックが悪い!」

「すまん。 体当たりは諦める」

「誘われたのは俺達らしいな」

「ああ。 そして俺達は」

「運が悪い」

 

エムと共に苦笑した。 こんな状況でも笑えるもんだ。 いや、こんな状況だからか。

 

そして戦場で運に頼る気はないが。

故になんとかしなければ。 行動を起こそう。

 

「エム、運転代わってくれ」

「分かった」

「大丈夫だ! 自分を信じろ!」

「信じるよ。 だが……狭くて動き難い」

「……頑張れ」

 

狭い助手席に巨体とデカいバックパックだ。 何が入ってるのか知らないが、お陰で身動きするのに苦労している。

 

隣の運転席まで遠そうだ……。

だが頑張れとしか言えない。 レンにして貰うコトも考えたが、身長の都合、アクセルに足が届かない。

 

「取り敢えず、ハンドルを握ってくれ」

「ストームは?」

「俺はハッチから、上部に出る。 砲塔が駄目なら、直接戦うまでだ」

「死ぬぞ!?」

「ワンちゃん!?」

「このままじゃな。 とにかく、運転は頼んだ!」

 

そう言い残し、助手席と運転席の間にあるハッチを開ける。 風圧を感じつつ、上半身だけ身を乗り出した。

リムペットガンを当てられれば、纏めて倒せるハズだ。 無理でもトラックを破壊出来る。

 

しかし相手も気付いたのだろう。 反撃させまいと此方に撃ってきた。

加えてマシンガンまで撃ってくる。 直ぐに対応出来る様に、置いてあったか。

 

「くっ!」

 

思わずハッチを半開きに。 俺の周りに無数の火花と金属音。 そして爆音。 何が何でも出させたくないのか!

 

「え、援護する!」

 

そのとき。 レンの声がしたと思ったら、後方のハッチが開き。

半泣きのウサギがヒョッコリ出てきた。 なけなしの勇気らしい。

 

「何してる! 早く戻れ!」

「一人じゃ無理でしょ!」

 

叫ぶように会話しつつ。 ウサギ……レンはP90の銃身をトラックに向けて指切りのバースト射撃。

 

互いに走行し、ましてや此方は安定しない走り方。 当てるのは困難だろう。

 

それでもP90を使い慣れたからか、トラックに火花が散り始める。

これで敵が引っ込んでくれれば、良いのだが……必死らしい。 負けじと撃ち続けてきた。

 

「負けるかぁ!」

 

レンが叫ぶ。 叫びつつも発砲する。

何発かはキャノン持ちの腕に運良く当たり、キャノンが下向きに。 発射するタイミングだったのか、そのままトラック下部へと発射。

 

ズドォン! とトラックのすぐ近くの地面で爆発が起き、トラックが爆風に耐えられずに横転。

 

「うおお!?」

「や、やったぁ!」

 

速度が出ていたので、そのまま地面を横滑りに。 大量砂埃と騒音を撒き散らしながら、俺達の後方でやっと止まった。

 

エムも見ていたのか、合わせてグレイプを停めてくれる。

だが終わりではない。 センサー反応は全て健在だ。

 

俺はすかさず指示を出していく。

 

「………銃撃戦になる。 状況に備えろ。 エム、後方の敵を頼めるか?

一人、別のセンサー反応がある。 最初は近寄ってきていたが、離れたところで止まった。

恐らく狙撃兵だ。 この辺は荒野の境だが、狙撃ポイントは自然と限られると思う。 見つけられるか?」

「了解。 何とか射程圏まで近寄る」

「頼む。 レン、俺とここに残ってくれ。 五人全員、ココで倒す。 援護頼むぞ《ラッキーガール》」

「わ、分かった! やってやるぞ!」

 

それぞれ意気込み、最後の戦いへと身を投じていく。

 

相手は連帯も戦略も技術も武装も人数も。 そして勇気も。 十二分であろう。

 

一歩違えば、やられていたのは此方だった。

 

「俺達は勝てる!」

 

それでも、俺たちは一先ず勝利した。 それは

 

「《ラッキーガール》がいるからな!」

 

運良くも、様々なタイミングが重なってトラックを無力化したレンがいる。

 

運に頼る気はないが……仲間を頼るのは悪くないと思うのだ。




そろそろ決着をつけたい。


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それぞれの戦い

不定期更新中。
何とか第一回SJは終了へ。


エムは岩陰を上手く伝って身を隠しつつ、狙撃手を倒しに行った。

エムも狙撃が得意そうである。 判断能力も高い。 荒野で狙撃手同士のタイマンとなるだろうが、必ず勝ってくれると信じている。

 

「エム。 生き延びてみせろ」

「生き延びるさ、隊長」

 

短いやり取りだけ交わし、荒野の中へ行くのを見届けた後。

俺とレンはグレイプから降車。 勿論、トラックとは逆方向だ。

 

そしてすかさず荒野側に電磁トーチカを設置。 側面にも展開。 狙撃や爆風に備える。

 

万が一だ。 背中から撃たれたり、ハンドキャノンで吹き飛ぶのは御免被るからな。

 

「レン。 五人を相手にする。 厳しいだろうが、全滅させるぞ」

「任せてよ。 わたし一人ってワケじゃないし、何とかなる!」

 

士気は上々だな。 レンに人を撃たせるのは抵抗があるが。 成る可く俺がトドメを刺そう。

 

「でもさ、装甲車で轢き殺した方が良くない?」

 

あれ。 俺が思っているより、レンちゃん汚れてない?

 

「エゲツないコトを言うんじゃない」

「えー? 戦場でそういうの、求めないんじゃないの、たいちょーさん?」

 

子供が言うには、インパクトが強過ぎるよ。

戦場に慣れ過ぎた結果だろうか。 隊長、将来が心配。

 

「……あー、なんだ。 グレイプは車輪をやられている。 動きはするが、ハンドリングは劣悪だ。

一方で、生身の相手の方が小回りは効く筈。

一回で轢き倒し、全滅させてくれる程、相手は甘くはないだろう。 移動中に反撃を喰らって、悪いポジションで身動き取れなくなるかも知れない。

相手側とは100メートル前後か、かなりの至近距離だが……他に遮蔽物もない。 このまま戦う」

 

説明が終わるのが早いか、銃撃音が。 同時にグレイプから金属音。

慎重に覗いてみれば、横転したトラックを遮蔽物にしつつ、敵群が撃ってきている。

 

「マシンガンによる弾幕か。 グレイプを破壊出来るほど、ハンドキャノンの残弾はないようだな」

「やったじゃん。 取り敢えずココは安全だね」

「油断大敵だ。 背後に狙撃手がいるワケだしな」

 

激しい銃撃音の中、レンと話し合う。 無線もあってか、会話に支障はない。

だがしかし。 いつまでも話してるワケにはいかない。

エムが後方で奮闘しているのに、ノンビリしていては示しがつかん。

 

「セントリーガンを使うか」

 

そう言って、大きな緑色の箱を用意。

大きな工具箱の様な見た目だが、壁や地面に張り付いて、起動ボタンを押すと足が伸び、多砲身が顔を覗かせる。

そしてカメラで敵を識別、追尾して自動で敵を撃ってくれるシロモノだ。

 

「ふっ!」

 

そしてグレイプを飛び越える様に、セントリーガンをぶん投げた。

今回使用するセントリーガンは《ZEーGUN10》である。

従来の改良型で軽量化に成功。 防衛線が構築できるほど大量の銃座を設置できる。 基本性能も高い。

 

その数10台以上。 これで2対5から12対5となる。 形勢逆転。

正に十二分の備え。 一時的にだが。

 

「いやいやいや。 多過ぎない?」

「多いな。 まあ全部使おう。 コレ、射程距離が短いんだよ。 こんな時こそ使わなくてどうする」

「いやー、そういう問題なのかな」

 

そして全部投げ終える。 中々大変な作業であった。

敵もロクなもんじゃないと考えたのか。 セントリーガンの箱にも射撃を加えてるが、そう簡単に破壊出来るモノではない。

 

「よし、起動する」

 

ボタンをポチポチポチポチポチッと連続で。

 

そして一斉に箱から脚が生え、多砲身が前に突き出て。 ぐりんとトラックの方へ向いたと思ったら。

一様にマズルフラッシュを焚いていく。

 

ズガガガガガガガガガガッ!!

 

「いやぁ。 地底でもお世話になったが、地上でも世話になるなあ!」

「……うわあ。 どっちがエゲツないんだか」

 

そしてシューと音が聞こえ、銃撃音が鳴り止み、静寂が支配する頃。

センサー反応から敵群消滅。 念の為に、サプレスガンを構えつつ、様子を伺いに行く。

 

そこには穴だらけになったトラック。

慎重に裏を見に行くと……貫通した弾にやられたのであろう、五人の遺体。

 

男っぽい見た目だが、皆女性だと分かる。 匍匐姿勢を取って被弾率を下げようとしたようだが。

 

セントリーガンは優秀だからな。 壁の向こうの敵すら感知する。 姿勢を変えても、銃身も合わせて下向きになったのであろう。 そしてやられたと見える。

ただ、敵がいない時や射程圏外でも無駄撃ちするのは頂けないが。

 

「クリアだ。 エムを助けに行こう」

「……流れ的に後方で勝利したエムさんが、苦戦する私たちの援護に来てくれるドラマを期待してたんだけど」

「戦いは綺麗な話ばかりじゃないからな」

 

余力を残して勝てる分には、構わない。

今はエムを助けに行こう。

 

 

 

 

 

 

《荒らしのワンちゃん》ことストーム・ワンが、特に苦労なく敵を殲滅した後。

 

荒野では銃撃音が響いていた。

それは狙撃手同士の戦い。 変な装置やら要請やらを使わずに《EDF》がSJ内で、GGO基準で戦っていた。 ここにきて、恐らく初めてである。

 

互いに無言。 位置を特定されないよう、そして良いポジションを取れるよう、逆に相手の気持ちや戦略を考えて、移動を繰り返していく。

 

偶に発砲音がすれば、そこから位置と距離を考える。 逆に撃った側は直ぐに場所を変える。 その進行方向に何があるか。 逆にそれがフェイントなのか。 目に見えない心理戦も含みつつ、互いに伏せ撃ちの姿勢をとる。

 

最早、勝利はない。

 

華奢で優美に見えるシルエットが特徴の、ロシア製の狙撃銃《ドラグノフ》を握るトーマは思った。

 

すらりと背の高い黒髪の女で、ドラグノフ用のマガジンポーチを腰の横にいくつも付けて、体の前には胸をカバーする防弾プレートだけ。

スナイパー特有の、伏せ撃ちがしやすい装備。

 

後は前から撃たれるか、背後から撃たれるかの違いだろう。 どうせ死ぬなら、今《まとも》な奴を殺してからだ。

 

ボス達、トラックに乗っていた五人の仲間はストームを倒すのに失敗。 全滅してしまった。 残されたのはトーマだけ。

 

カーチェイスなんて、武装した装甲車相手にするものじゃないだろう。

だが《かの者》……ストームに対抗するには、余程遠い位置からか、至近距離での戦闘だとの判断故に。

 

変な乗り物を用意出来るというから、対抗する武器として小型の擲弾発射器……カンプピストルという、ドイツのモノを使って。

だが、出てきた乗り物は軽装甲ではなく。 破壊するのは叶わなかった。

 

あのチームへの戦果としては、ピンクのチビを撃てたこと。 そしてストームが背負う、変な装置を撃ったこと。

結果としてか、都市部を吹き飛ばした航空機が来なかったこと。

 

勝てなかったにしろ、ストームに……ここまで攻撃出来たのはGGOでは初めてである。

かつては討伐隊が組まれたが、傷をつける事も叶わずに全滅したというから、この戦果は少しだけ、少しだけだが誇らしい。

 

(皆死んだ。 だが私は生きている。 最後まで……足掻いてやる)

 

自身を鼓舞し、スコープ越しに索敵。 相手も同じだろう。 先に見つけた方が勝てる。

そして……生きても死んでも、恐らくこれが最後だという確信にも似た何か。

 

そんな決意をしていたトーマであったが。

空から降ってくる、無慈悲なロケット弾に気付くコトは終ぞ無かった。

 

 

 

 

 

 

「すまないエム、レン。 ガンシップと衛星砲に要請する為のビーコンガンがあった!」

 

戦闘終了後。 勝手に転送されたと思ったら、最初の待機エリア。

そこでエムと再会し《EDF》は全員揃った。 そのタイミングで頭を下げて謝っておく。

 

気付いた時、慌ててビーコンガンを構えつつ、センサーを頼りに敵スナイパーの後方の高台へ。

 

無防備な背中を晒す敵にビーコンを撃ち込み、ガンシップにロケット弾を撃ち込んで貰った。

そしてスナイパーは爆炎に飲み込まれ、全てが終わったのである。

 

「……わたしたちの苦労や不安は一体」

「ああ……」

 

どっと疲れた表情をされてしまった。

い、いいじゃないか。 こうして生き残れたんだから。 結果オーライ! ダメか。

 

「わたしは……、このまま酒場に戻るのが怖いし。 ワンちゃん、あと宜しく」

「僕は……、とても疲れた……。 質問攻めとか苦手だし、今日は落ちる」

「リアルでは、僕なんだ。 エムさん」

「あ? ああ……」

 

互いに疲れた声で会話するレンとエム。 俺のせいか。 申し訳ない。 次はこんなコトないようにしなければ。

あ、そうだ。

 

「ああ、エム。 とりあえず生き延びたワケだ。 俺の件も本気でないと思うし。 もう大丈夫じゃないか?」

「だ、だといいけど……」

「なんの話?」

「男同士の話だ。 気にするな」

「……まあ良いや」

 

レンにピトのコトは話せないからな。 俺とエムが直接本人に話してみるしかない。

だが今は……帰ってゆっくり休んでくれ。 疲れたであろう。

 

「そういえば、優勝しちゃったけど……、何かもらえたよね?」

「あ? ああ……。 優勝賞品、か……」

 

何の話か分からんな。 だが話が長引くのだろうか。

 

「先に帰るぞ。 二人とも、よく頑張った。 ゆっくり休んでくれ」

「ん? ああ」

「帰り方、分かる?」

「分かるぞ。 目の前のパネルに『酒場に戻りますか?』ってある。 『YES』のボタンだろ?」

「……それで大丈夫じゃないかな」

「じゃ、おやすみ」

「おやすみー」

 

そして俺は『YES』を押す。

刹那、「そんな文、あった?」とか聞こえたが無視する。 疲れているのだろう。

 

こんな感じで。

記念すべき《EDF》の初戦闘は終わったのである。




後日談へ。
続きは未定……。 どうしよう。


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後日談
ストームに対する考察と対策


不定期更新中。
文の書き方を少し変えました。

ワンちゃん、ピンチになりつつある?


 

ストーム・ワンが酒場に戻ってきた時。

彼は拍手喝采を浴びるコトもなければ、罵倒されるコトもなかった。

普通、大会の優勝者が帰ってくれば、大なり小なり、称賛されるものであるのに。

ソレがないのは「ストームはチート野郎だから」とか「そういうヤツだから仕方ない」という、一種の呆れや諦めからだった。

 

例えるならば自然災害に近い。

 

その圧倒的な火力や装備品は、どうしようもない嵐(ストーム)であり、《荒らし》なのだ。 そんなヤツを褒める気にはなれない。

地震や台風で家財を失い、喜ぶヤツはいない様に。

 

本人はそもそも、SJが大会だったなんてコトすら知らないのだが。

いつも通り、無法者を倒した程度の認識だった。 今日も平和の為に頑張ったなぁ。 仲間も無事で良かったわー。

そーいえば、いつもより敵は連帯が取れていたなぁ。 でも倒したから良いやー、な感じである。

 

そんなワケで。

 

壊れた通信ユニットを修理するべく、家と化している救護車両に彼が帰った後。

酒場は通夜じゃないが、微妙な静けさに包まれていた。

 

笑顔で話したらバチが当たりそうな気すらする。

居心地の悪さから、皆はサッサと酒場を後にしたりログアウト。

そんな中、僅かに残ったプレイヤー。 彼らはこの酒場の常連で、SJには参加しなかった人達だ。 しかし、モニターで今回の結果を見て、話の種として会話を始めた。

SJの感想というよりは、ストームについての話がメインだ。

 

 

「チートをやってるなら、アカウント停止を喰らっても良いハズなのに。 ザスカーは何をしてる?」

 

 

名も知らぬプレイヤーは口にする。

独り言の様に放たれた疑問は、GGOプレイヤーが皆思うコトであった。

3、4ヶ月前から意味不明な兵装や乗り物でヤツはやりたい放題。

明らかにチート野郎で、1日どころか、半日以内にGGOから追い出されて良いハズだ。

なのに今日まで健在した挙句、大会にまで出場。 皆の予想通り滅茶苦茶な結果になった。 都市部が空爆されて一気に5チーム潰れたときなんて「うわぁ」と嘆きの声が上がったものだ。

 

 

「ザスカーに問い合わせても『調査中』の一点張りらしいぞ」

 

 

隣に座る、顔馴染みのプレイヤーが応答する。 互いに同じ店によく来てるので、その内挨拶をする様になり、会話をする様になった関係だ。

最も、街の外で出会えば殺し合うが。

 

 

「何ヶ月も調査中って。 多くの被害者が出てるんだ、有無を言わさず追放すれば良いのによ」

 

「出来ない理由があるんだろ」

 

「例えばどんなだよ」

 

 

手元にあるジュースを自棄飲みの様に、一気に減らす彼。 自分で話してるコトなのに、ヤツを思えば思う程、どんどんイライラしてきているのだ。

こういったプレイヤーは少なからずいる。 プレイヤーによるが、リアル同様に好んで関わりたくないタイプである。

その感情の矛先を向けられる危険性が、常に孕んでいるからだ。 こっちには関係ないのに。

幸いにも、彼の隣には付き合ってくれる友人がいてくれたが。

 

 

「例えば、GGOの関係者とか」

 

「余計に理解出来ないな。 明らかにプレイヤーを怒らせているじゃないか。 関係者なら、プレイヤーが喜ぶ、楽しめるコトをするハズじゃないのか? お偉いさんの子供だとしても、運営が個人を優先させて滅茶苦茶にするとは思えん」

 

「後は……実はNPCだとか」

 

「NPCに、あんな火力を持たせるか? ゲームバランスを一気に崩してるじゃないか。 バグなら直すハズだし、そうでないなら、ザスカーから知らせが来るだろうに」

 

 

互いに考え、あーじゃないこーじゃないと質疑応答を繰り返す。

こういった議論はGGO内で何度も繰り返されており、公式側でも頭を抱えつつも、似た様なコトをやっている。

結局、答えが出ないまま今日になってしまった。 解決の見通しが立たないのが現状だ。

 

そのせいで、GGOから離れてしまうプレイヤーもそれなりに出始めた。

『あんなチーターが許されるトコロに居られるか!』と。

 

だがしかし。 一方で簡単に硝煙漂う銃の世界を棄てるコトが出来ないゲーマーの方が多かった。

『やっぱこの世界が好きだ。 他所なんてありえねー。 銃を寄越せ! 撃たせろ! もっとだ!』的な。

 

 

「とにかく。 運営がどうにか出来ないなら、俺たちプレイヤーに出来るコトをやるべきじゃないか。 最近はそういう風潮になりつつある」

 

 

彼は明るく言い放った。 SAOじゃないが、プレイヤーによって解決出来るコトもあるであろう、と。

その為にはどうするべきか。 それを皆で考える。 それを実行に移し、ヤツに対抗する。

大会を見ていて改めてプレイヤー達は思った。 ヤツにこれ以上好き勝手させてはならないと。

そしてヤツは無敵ではないと理解した。 被弾したり、逃げる光景を見れば誰にでも分かる。

 

 

「そうだな。 だが、どうする?」

 

 

彼の希望がある発言に、イライラが収まった彼は尋ねた。 ヤツが無敵でないにしろ、あの圧倒的な火力や兵装を掻い潜るのは至難の業である。

何時ぞやの討伐隊は傷ひとつ付けられずに全滅。 大会中の被弾は、偶然であろう。

本格的に対抗するには、そういった運に頼らずに、ハッキリとした方法を確立しなければならない。

 

 

「とりあえず、ヤツの身内……《EDF》のメンバーに接触したりとか」

 

「して、どうするよ」

 

「もう暴れるなと説得してもらう」

 

「それが出来たら苦労しなくね? てか、もうやってるヤツの話は聞いたぞ。 身内にも制御出来ないらしい」

 

「じゃあ、腕の立つヤツにクレジット積んで、暗殺して貰うとか」

 

「並大抵じゃ、ヤツは殺せない」

 

「GGO最強のスナイパーとか、剣で弾丸を弾くヤツとか、ほら、いるだろ」

 

「後者は分からんが……前者は……殺れるか?」

 

「依頼を受けてくれれば、な」

 

「だがなぁ。 殺してもまた復活するのであれば、難しいか」

 

「装備を少しずつ削れば、いけるさ」

 

 

少し前向きな会話になっていく二人。 次第に笑顔が増え、ジュースの飲み方も穏やかになっていた。 持つべきは友達である。

 

絶望するにはまだ早い。

 

この酒場以外で活動するプレイヤー達は思った。 まだだ、と。 諦めるには早すぎる、と。

その想いは結集させ、彼らを強くしていく。

 

そんな希望を抱きつつあったGGO世界であるが。

 

またも皆が仰天してしまう事件が起きてしまうコトになろうとは、誰が予想出来ただろうか………。




どんどん壊れていく世界……。
もうやめて! 運営のライフはもうゼロよ! 状態へ突入………?

どこまで話が続くか未定orz


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GGDF駐屯地

不定期更新中。 雑に進んでいく話……。
お迎えが来たようです。


 

ストームは言わずもがな、監視対象だ。 それは運営からもだが、プレイヤーからもである。

前者は何もしてくれないが、後者については重要だった。 ビルの高台等から彼を監視し、時には追尾し、位置を常に把握するのだ。

危険だが有益といえる。 その情報を知れば、彼がいるフィールドに行かなくて済むのだから。

もしフィールドで邂逅した場合、容赦なく殺されて、大切な武装を失いかねない。 それは避けたい。

 

勿論、その情報はタダではないのだが、需要は依然高い。 フィールドに出掛ける際は必ず見ておきたい。 最早、天気予報感覚だった。

 

 

「よっしゃあ! ストームへの鬱憤を、今の内に晴らすゼェ!」

 

「出来れば本人にやりたいんだがなぁ!?」

 

「出来ないから困ってる!」

 

「とにかく暴れるんだよアクしろよ」

 

 

そんな情報を得て荒野に繰り出した、とあるチーム。

見た目は皆モヒカンで、世紀末な戦闘服を着用。 防御も考えてなさそうであるから、完全に趣味の領域だろう。

良く言えば岩だらけの荒野と相まって、彼らの存在はとても似合っている。

 

そんな彼らは四人編成の《スコードロン》で、とても気が立っていた。 仕方ない。 ストーム・ワンの所為で、大切な武装を失ったのだから。

 

最もPK上等だとストームを襲った結果であるから、全く非がないワケじゃないのだが。

 

 

「プレイヤー見つけたらヌッ殺してエエんだろぉ!?」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「ストームはいないんだ、いんのは普通のプレイヤーだろうよぉ!」

 

「オーバーキルも止むなしだぜぇ!」

 

 

そんなザ・無法者な会話をしつつ、彼らが進むコトしばらく。

 

 

「おい! ありゃなんだ!?」

 

 

大きなテントが複数設営されたエリアを発見。 周囲は頑丈そうな戦闘服を身に付けた人達。 M16の様なライフルを持って警備をし、有刺鉄線付きのフェンスが周りを囲っている。

 

GGOでは見ない光景である。 異様な光景は普通、警戒するなり疑問に持つなりするものだが

 

 

「野郎ヌッ殺したらぁ!」

 

「ヒャッハー! 新鮮な獲物ダゼェ!」

 

 

彼らは何の疑問もなく、そして突撃を開始してしまった。 マシンガンを構えて、当たりもしないのに乱射しつつ。 真っ直ぐでおバカな連中である。

 

ストームがいないなら、怖いもの無し。 とにかく、ストレス発散。 撃って撃って撃ちまくれの興奮状態。

 

そんな連中に襲われたコトに気付いた警備のひとりは、直ぐに撃ち返さずに無線で仲間に報告。

 

すると、テントから同じ格好の人達が大勢出て来て……無駄なき動きで決められたポジションにつく。

 

 

「構えー!」

 

 

そして皆一様に銃を無法者に構え始め

 

 

「此方はEDFだッ! 直ちに攻撃を中止し、武器を捨てて投降せよ!」

 

 

その内のひとりが、何処かで聞いた様なコトを言い始めた。

特にEDFは凄い聞き覚えのある単語だ。 何の略か、プレイヤーの多くは知らないが、ストーム・ワンがいつも叫んでいる為に知名度は高い。 故に無法者は思う。

 

 

「はっ! EDFなんて単語だせば、ビビるとでも思ったかぁ!」

 

「ストームが街にいんのは知ってんだ! テメーらが偽物だってのは分かるんだよぉ!」

 

 

ハッタリ扱いだった。 ビビってるのは向こうだと判断して、足を止めない。

普通、偽物にしたって設営状態とか人数見て考えるものだが、野生的な彼らに説得は困難だった。

 

 

「ブルージャケット。 狙撃せよ」

 

 

それを理解してか、高台にいた狙撃手……青いカラーリングの人が4発、発砲。

その弾丸はそれぞれのマシンガンに当たり、使い物にならなくなった。

そんなに遠くない距離にしたって、立ったままの発砲でこの腕だ。 手練れだろうか。

 

 

「ぐっ! まだだぜぇ!」

 

 

逃げれば良いものを、マシンガンを放棄し、ナイフを振りかざして再突撃。 ここまで来ると特攻というより自殺だ。

その光景に止むなしと判断したのか

 

 

「撃てぇっ!」

 

 

一斉に発砲音が。 無数のマズルフラッシュと弾丸が彼らに向けられて、案の定というか蜂の巣に。 もれなく全滅してしまった。

後には何も残らない。 硝煙が漂っているくらいだ。 良く言えば、今回の彼らは武器を紛失しなかった。

あとは、彼らが何かしら学習していれば問題はない。 たぶん。

 

 

「こんな、無法者や怪物が跋扈する世界に……本当にストーム・ワンがいるのか?」

 

「反応はある。 無線は壊れてるのか、繋がらないが。 スカウトを編成して調べよう」

 

「さっさと回収して、元の世界へ帰ろうぜ」

 

 

警戒状態に移行しつつ、隊長格の人は会話をする。 どうやらストーム・ワンに関するコトの様だが。

 

ただ彼らの戦闘服や武器はGGOには無いものだ。 そして皆が持つM16に見えるライフルはPAー11。

EDFの主力アサルト・ライフルである。

 

そう。 彼らはストーム・ワンと同じ組織に属する本物のEDF隊員ら。 GGOからしたら異世界人だ。

彼らは計画的にこの世界に来て、駐屯地……というにはまだ雑な設備しかないが……を設営していた。

長期滞在になる様なら、本格的に造っていくワケだが。

 

何故彼らがGGOの世界に来ているのか。

 

それは《謎の女科学者》が発狂しながらエイリアンの技術を拗らせてしまい、人類を救った英雄、ストーム・ワンをこのGGO世界へ飛ばしてしまった為だった。

彼を回収するべく、戦略情報部や多くの人達の尽力で、最近やっと迎えに来るコトができる様になり。 それが今の状況となる。

 

なんだか、GGO世界が更にややこしくなってきているが……互いの世界が無事に元の鞘に戻るコトを、ただ祈るしかない。




無事に終わるか否か。


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青き誤解

不定期更新中。
まだsecond・SJ前。 でもフカは出したい。

今回はEDF隊員側の話。 面倒なコトになりつつある……。


第一回SJ終了後。

優勝者となったレンとエム、そして分隊長のストーム・ワンのチーム《EDF》が解散後。

本物のEDFがやって来てるコトなど、プレイヤーの多くは、まだ知らない。

 

挙句、荒野にて勝手に駐屯地を設営。

なんと、自衛の名の下に怪物やプレイヤーをボコボコにし始めた。 まさかの事態だった。

 

運営陣とプレイヤーは、その異端者どもに更に頭を抱える羽目になっていくが、EDFはいたって真面目である。

 

仮想現実としてログインし、遊びや仕事でやってる人達と大きく異なるのだ。 彼らはガチで命を懸けている。

プレイヤーが死んでもSAOのように本当に死ぬコトはない。 リスポーンするだけだ。

しかし。 EDF隊員らは「ナマ」だ。 死ねばそれまで。 再出撃なんて無い。

GGO内で心を持ち、本物の喜怒哀楽を表現し、痛みを感じる。 故に本気でやっている。

 

具体的には、彼らEDF隊員らは、ストーム・ワンを回収する任務を負って来ていた。

その一環として、偵察部隊……スカウトチームが連日GGO世界を調べている。

荒廃したGGO世界にて、ストーム・ワンを回収する主任務の為、先ずは情報の収集をしているのだ。

 

情報は重要だ。 EDF隊員ならば分かるだろう。

空飛ぶ怪物がいると分かれば対空兵器を用意するし、クイーンがいるなら、火力の高い兵器を用意するコトも出来る。

両者は軽くトラウマなので、いるならいると知りたいのが正直なところだ。 空飛ぶエイリアン相手に戦車砲のみで対抗しようなんて誰も思わない。

巨大なα型がいるならロケランを用意して撃ちまくりたい。 後者なんて、卵を産んで繁殖する。 酸も強力だ。 恐ろし過ぎる。

 

そんなワケで。

スカウトは命懸けで情報を集めている。 結果として《中央都市グロッケン》の存在をEDFは知り得てしまうのだが。

 

もうひとつ。

トンデモナイ情報を得てしまった。 なんと、この世界にクイーンがいるというのだ。

この情報が届いた時、駐屯地は蜂の巣を突いた大騒ぎとなる。

 

 

「なんだって!? 異世界に来てもヤツがいんのかよ!?」

 

「スナイパーみたいに、遠距離攻撃を得意とするらしい」

 

「くそっ! 《アイアンウォール作戦》を思い出しちまう!」

 

「青いヤツだってよ!」

 

「遠距離攻撃に、青いヤツ……ブルージャケットみたいだな」

 

「ふざけんな! いてたまるかよ、そんなヤツ」

 

 

クイーンの恐ろしさを知る隊員らは悲鳴を上げた。 しかも話によれば、エイリアンの砲兵みたいに遠距離攻撃をしてくるらしい。

 

普通、異世界に来たら同じ存在がいるのかと疑いもするが、異世界だからこそである。

元の世界より恐ろしい存在がいてもおかしくない。 ココは最悪のケースを考えるべきだ。

 

 

「それで卵を産んで繁殖……恐ろしいぞ」

 

「た、卵……たまご……ひぃい」

 

「うわぁああ! 卵とか、一斉に割れて……トラウマだぁ!」

 

 

「卵たまご」と連呼し始め、産む前に倒さねば、産んでるところを襲おうか、と隊員らは口々にしていく。

 

知らない人からしたら変態共の会話である。 本人が聞いたらどんな反応をするのだろうか……。

 

だが仕方ない。 あの惨劇を知っている隊員らは、本当にクイーン及び卵が恐ろしいのだ。

 

 

「このままでは隊員らの士気に関わる。 位置が分かり次第、討伐に出かけよう」

 

「その時はブルージャケットも?」

 

「ああ。 レンジャー部隊も行くがな」

 

 

隊長格の人はストーム・ワンの回収時の障害になり得ると判断。 討伐対象とする。

かくして。 ブルー同士の狙撃戦が始まる予感がしてくる展開となり、本人にとっては大迷惑極まりない展開となってきた。

 

ただ、対物ライフルを立ったまま撃ったり走りながら撃ったり、時にジャンプして空中で撃ってるEDF隊員らの方が……よっぽど恐ろしく、変態な気がするのだが。




ブルー同士の戦闘は未定。


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second・SJへの準備
新たな問題


不定期更新中。 second・SJ編へ。
評価してくれた方々、ありがとうございます!
駄文ですが、楽しめた方がいれば、とても嬉しいです。


レンとワンちゃんが再会したのは、約ひと月経った後。

 

その間、レンとはメールでのやり取りのみであった。

会えない寂しさはあったものの、その内容は友達が出来た話や実家に帰った話、親友の話などの頬を緩ます明るいもの。

日常的な話で、血生臭さは全く無い。 何時ぞやのドンパチが嘘みたいだ。

 

 

「ふっ。 《オペレーション・オメガ》の後にこの様な内容を見るコトが出来るとは。 俺は……幸せ者だな」

 

 

ワンちゃんは、自宅と化しているキャリバン救護車両にて、メールを見つつ……しみじみ思った。

 

《オペレーション・オメガ》。

それはワンちゃんの世界にて行われた、エイリアンとの戦争における……EDFの最終作戦。

 

敵の司令官と思われるペプ○マンとの交戦の最中に行われた作戦だ。

あの炭酸キャラを守る為か、世界中のマザーシップが集結しようと動き出した。 ソレらの足止めの為に、生き延びた僅かな人々をEDFの兵士とし、戦わせる。 そういった内容である。 もうそれしか無いと、戦略情報部が発動したのだ。

装備の無い素人、本来守らねばならない人々を戦わせ……本部も、ワンちゃんも隊員らも。 様々な感情による憤慨を感じ、思わず叫んだものだ。

 

取り敢えず、ペプ◯マンなのに、空を飛んでいるのは納得出来なかった件を。

 

何故腕を振って足あげて走らないんだ。 独特のマークや模様もない。 歌も歌わない。

色々仕方ないからワンちゃんが歌った。

我らは歩兵隊。 燃え滾る闘志のタフガイだ、と。

 

皆も同じ気持ちだったらしい。 合わせて歌ってくれた。

本部や戦略情報部も「ストーム・ワン!」と応援してくれた。 出来れば、サテライトW1の衛星砲操作員も歌って欲しかったが。 余裕が無かったらしい。

しかしおかげさまで最後は勝てた。 そしてエイリアン連中は戦意を失ったのか撤退した。 良かったと思う。 《バルジレーザー》万歳。

 

《スプライトフォール》? いや、使い難いと思って……。

 

そんな心境で、人類を救った英雄だなんて知る由もなく、希望溢れるメールを連日してくれるレン。

そしてとうとう、再開する日を伝えるメールが来たのだが……素直に喜べるモノではなかった。

 

 

「コレは……マズいな」

 

 

再会する理由が、穏やかではなかったからだ。

 

内容がヤバい。

なんでもエムと再会し、レンの友だちであるお姉さん……ピトフーイの生死が関わる話をされたとのこと。

 

第一回SJに参加しなかったピトフーイ。

エムの話や手紙を鵜呑みにするならば、だいぶイカれた女。

希死念慮や殺人衝動……そういったものがあるのだ。

 

事実。 第一回SJで、エムにワンちゃんを殺させようとしたのだから。

 

ワンちゃんはGGO基準だと、日頃の行いが悪過ぎる。 銃で戦わずに空爆や砲撃、衛星砲等でプレイヤーを殺しまくっているから。

その圧倒的な火力や謎の装備等は側から見てもチートにしか見えず、大変嫌われているのだ。

本人は異世界の、それもゲーム世界にいるとは知らない。 平和の為だと戦っている。

プレイヤーに嫌われるのはEDFがあんな作戦をやったからだろう、程度の認識だ。

 

好かれるには、もっともっと無法者(プレイヤー)を成敗しなければ。

そして殺る度にもっともっと嫌われていく。 悪循環である。

 

そんな男故に、エムが殺したところで誰も責めないだろう。 寧ろ「良くやった!」と褒めるヤツさえいた筈だ。

 

しかし、エムは殺す気が起きず、ワンちゃんに事情を打ち明ける。

そして共に最後まで戦い抜いたという経緯があるのだ。

アレがどこまで本気なのか分からない。 取り敢えず、エムがピトや他のプレイヤーに殺されなかったコトに安堵しよう。

 

 

「エイリアンとの戦争の後遺症だろうか」

 

 

ワンちゃんはピトの異常性の原因を戦争だと予想した。 殺そうとしてくる理由をつけるならば、EDFだから、で片付けられる。

あんな無謀な作戦をやらかしたEDFだ。 恨みも買うだろうし。

 

そんな予想を立てたワンちゃんだが、残念ながら世界が違うので、エイリアンとの戦争は全く関係ない。

ただし「EDFは仲間を見捨てない」とエムやレンに言った様に、本気でこの問題に向かい合う腹でいた。

 

レンとしても放置するワケにもいかず、この問題に向かって行く。 ワンちゃんという目立つ制御不能チーターでも、頼れる者は頼る腹だ。

ただレンの評価としては「なぜか悪いヤツとは思えないし、一緒にいると寧ろ安心する」といった具合。 他のプレイヤーとは違う。 メールのやり取りをしていたのも、そんな理由からか。

 

そんなレンから相談したい、会いたいと可愛い顔でおねだり(されたように感じた)メールが来たものだから、ワンちゃんは張り切ってカフェにて待ち合わせ。

 

服装は兵士だと目立つと思い、民間人の頃の格好……青い作業着と黄色の帽子、ヘッドセットにサングラスという組み合わせにて出撃。

作業着というのもミスマッチだろうが、他に服がない。 仕方ない。 そして戦闘服メインのGGOでは作業着というのは……目立つ。

通信ユニットやヘルメットが無い分、マシではあるが。

 

 

「レン。 久しぶりだな」

 

 

待つことしばし。 時間通りにやって来たレン。 ピンクの戦闘服に小さき身体。 相変わらず保護欲に駆られる幼女な姿であり、今回の騒動からも守ってやりたくなる。

 

 

「うん。 久しぶり、ワンちゃん。 早速格好について突っ込めば良い?」

 

「目立つか?」

 

「まぁ、ヘルメット姿よりは良いかな」

 

 

挨拶を交わす両者。 久しぶりに会ったというのに互いに軽く笑う程度だ。

本題がヤバいので、手放しで喜べないのが現状である。

 

 

「何か飲むか? 奢るぞ」

 

「ううん、いらない。 待ち合わせがもうひとりいるの。 メールにあったでしょ?」

 

「ああ、すまん。 助っ人が来るんだったな」

 

 

レンは向かいの席に座ることなく、さあ行くよと手招き。

これから会う新たな新戦力に期待しつつ、ワンちゃんはカフェを後にする。

 

その新たな戦力というのも、ワンちゃんにとっては保護欲に駆られる姿をしているモノだから、色々と面倒になりそうだ……。




新たな戦力が増える様です。


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未知との遭遇。 或いは再会

不定期更新中。
モチベが上がらぬ……駄文続き。 リアル等で落ち込むコトって……色々あるよね(悲)


 

GGOはゲームのスタート地点……ポイントは決まっている。

 

わざわざそこに行くのは、誰かと待ち合わせしているか、仲間探しの勧誘かブローカーか。

 

ただ、レンとワンちゃんの場合は待ち合わせであった。

 

その場所は首都グロッケンの一角。 大気組成が狂っていつでも赤く見える空の下、天空までそびえるビルと、ピカピカの金属の床と、ケバケバしいネオンが光り輝く、荘厳なんだか乱雑なんだかよく分からない世界……のハズなのだが。

 

 

「「え? ナニコレ?」」

 

 

GGOでは有り得ない、珍百景に声を上げる羽目になった。

 

レンとワンちゃんがGGOスタート地点に辿り着いた時。

そこはレンの知らない光景、そしてワンちゃんには凄い見覚えのあるEDF印の大きなコンテナが積まれていたのである。

 

M4ぽいような……PAー11ライフルを持っているEDF隊員《レンジャー》が複数人警備。 装備品も相まって、米軍を思わす見た目。

 

そして運動会や祭りで使われる様な簡易テントが並んでおり、タイプライターの置かれたテーブルがいくつか並び……受付の様な雰囲気になっている。

その前にはボードが掲げられ『EDF隊員募集中』とか『一緒に地球を守りませんか?』とあった。

 

 

「むっ。 やはりEDFじゃないか!」

 

「スタート地点が占拠されてる!?」

 

 

ワンちゃんは久し振りの仲間の登場に興奮し、レンは突っ込みを始める。

EDFは妄想設定だとばかり思っていたので、衝撃の光景にテンパってしまったのだ。

 

 

「ちょっとワンちゃん!? また何かしたの!?」

 

 

EDFの文字に反応したレンが、ワンちゃんの仕業だと疑い悲鳴を上げた。 チート野郎ならこんなふざけた真似も出来るだろう、と。

目の前の人達はNPC的なヤツだろうと。

 

しかし本人は知らないらしく、首を横に振るだけだ。

 

 

「俺じゃないぞ。 むっ、頭上に気を付けろ!」

 

「えっ?」

 

 

レンが慌てて空を見上げれば、輸送機ノーブルが丁度コンテナを投下しているところだった。 離れてはいるが、当たったらと考えると……ゾッとする。

もし真下でログインした新規がいたら、もれなくリスキルとなるところだ。

そんな第三者災害なんて考えてるのかいないのか……EDF隊員らは直撃してもケロッとしているから、対して気に留めないのかも知れない。

 

そんなコンテナがガシャーンと地面に落下。

いつも通りコンテナが魔法の様に消え、中から第一回SJで見た角張ったロボット……コンバットフレーム登場。

 

 

「おっ。 アレは武装が簡易なA兵装か。 戦争の激化で生産する力が衰えてしまったからな、コスト面もあってミサイルポッドは無いのだろう」

 

「………」

 

 

ワンちゃんの言う通り、肩にはミサイルポッドや散弾兵器等は載っていない。

しかし、簡易的といっても右腕にリボルバーカノン、左腕にロケット砲をマウント。

GGOからしたら、それだけで凄まじい火力だ。

 

ひとりが駆け寄ると素早く乗り込み、ガシャンガシャンと脚を動かして移動開始。

目で追った先には、同型機が並んでおり、他にも武装装甲車両グレイプやブラッカーE1戦車が並んでいるときた。

 

 

「作戦行動をしつつ勧誘とは。 EDFも器用になったものだ」

 

「………」

 

 

あろうことか、EDFは都市侵略と勧誘の同時進行という悪業を行なっていたらしい。

全力でプレイヤー及び運営に喧嘩を売っているスタイルだった。 戦争でも起こす気か。

 

 

「いやぁ! 本部と連絡が取れなくて困っていたが、なんとかなりそうだぞ!」

 

 

そんなコトを微塵も考えず、久し振りに仲間に会えたコトを喜ぶワンちゃん。

しかし一般プレイヤーのレンは、ワナワナと肩を震わせている。

 

真実はどうであれ、ワンちゃん絡みなのは間違いない。 既に多くのプレイヤー達に迷惑を掛けているというのに……まだ足りないのか、と。

 

 

「空爆に飽き足らず、こんなコトまで。 それに嘘まで……ふふっ」

 

「ち、違う! 俺は知らない! 本当だ!」

 

 

目を見開きつつも薄ら笑いを始めるという『レンちゃんウフフ』な表情へ。

見た目幼女とはいえ、瞳がヤバい。 ピトよりマシだろうが、感情に任せてP90をゼロ距離フルオートされまいかと冷や汗が出てしまう。

 

別にレンとしては、憎くて言っているのではない。 皆に迷惑を掛けさせてはならないとか、ピトの件を公にしちゃったんじゃないかとか、自身を大切にしてくれるワンちゃんへの独占欲がちょっと含まれて、ついつい『こんな』顔になっているだけ。

 

その表情には人類の救世主すら一歩下がらせる程。 しかし、知らないのは事実なので否定するしかない。

 

 

「受付に聞いてみれば良いだろう!? 『コレは何の騒ぎですか』と!」

 

「……むぅ。 それもそっか」

 

 

必死の訴えに、冷静さを取り戻したレンにホッとするワンちゃん。 しかし、EDFが絡んで穏やかに済む件があったか?

 

答:否。 状況は最悪な方へと流れるのがEDFのお約束。

 

早速というか、トラブルの素になりそうな声がしたので、ワンちゃんとレンは振り返ってしまう。 休まる暇がない。

 

 

「素敵な嬢さん! 可愛い上に手慣れだよね? その身体を活かす為に、おじさん達とお仕事してみないかい? 結構なお金が入っちゃうよ?」

 

 

見やれば、EDF隊員が中年オヤジ丸出しな顔を突き出して来たのだ。 側から見れば援助交際を求める様でヤバい光景。

 

EDFの名誉の為に言っておく。 彼は開戦から終戦まで生き延びた、ベテランのスカウト(偵察)だ。 幼女なレンをひと目で強いと感じ取り、近付いてきたのである。

見た目と実力は合致しないのを彼は知っている。 γ型なんて、丸まって転がって可愛いと思ったら、次の瞬間には部隊がボーリングのピンのごとく纏めて弾き飛ばされてしまった。 強敵だった。

人間もその例に漏れない。 事実、彼の予想通りレンは強い。 走力は人間離れしてるし、空中リロードもやってのける。

 

ただ勧誘の仕方が頂けない。 誤解を受ける。 挙句に安心させようとして笑いかけたのが「グヘヘ」な表現なので余計にアウトだった。

いつかのEDF広報みたいに、上手く誤魔化す術があれば良かったのだが。

 

そんな勧誘故に、レンは白い目を向けて逡巡なく首を横に振った。 イケナイ事にはNOと言える勇気を持っているエライ幼女(中身は大きな女子大学生だが)なのだ。

 

 

「お断りします」

 

「大丈夫だ問題ない。 レンは既にEDFだ」

 

「ちょっ、ワンちゃん。 なに言ってるの?」

 

「レンこそナニを言っているんだ。 SJに《EDF》で参戦したじゃないか」

 

「そうでしたか。 失礼しました」

 

「だぁーー!?」

 

 

ワンちゃんが余計なフォローを入れて、中年との面倒は避けられたが、コレはコレで面倒だった。

こんなおかしな人達に仲間扱いされたと思うと、本気でGGOから逃げ出したい。

今すぐログアウトしようかとも考えるレンだったが、親友を待ち合わせている以上、自分の都合で逃げるワケにはいかない。

 

 

「あれ。 失礼ですが……ストーム・ワンですか?」

 

「ああ。 久し振りに仲間に会えて嬉しいよ」

 

「おお! 皆心配してましたよ! 今、本部に連絡しますね!」

 

「助かる」

 

 

レンへの対応と、民間人姿だった故にワンちゃんに気付くのが遅れた隊員らが、今度は嬉しそうに声を上げ始める。

スカウト隊員がテントに戻り、皆に報告すると、祭りだワッショイ状態へ。

 

ホント、戦場でも平時でも異世界でも騒がしい連中だ。 絶望を叫ぶより良いけど。

 

 

「やっぱり、ワンちゃんの知り合い?」

 

「仲間だ。 同じEDF隊員。 悪い奴らじゃないぞ?」

 

「十分、悪い奴らに見えるけど」

 

 

一先ず落ち着いたレンは、素直な感想を口にする。 首都の一角を不法占拠して、戦車やらロボットを空輸してくる連中だ。 危険過ぎる。

 

 

「気持ちは分かる。 勧誘目的だとしても、街中でこんなコトをするのはやり過ぎだろう。 だが理由があるハズだ」

 

「どんな理由? 侵略? 嫌がらせ?」

 

「EDFは地球や皆を守る組織だ。 そんな酷いコトはしない」

 

 

ワンちゃんは堂々と言うが、レンはジト目を返すだけだった。 この言葉を他のプレイヤーや運営が聞いたら「ふざけんな」と高らかに叫ぶだろう。 守るんじゃなくて攻撃するの間違いだろ、と。

 

 

「……今は、そう。 美優、じゃなかった。 フカ次郎を待たなきゃ」

 

 

本来の目的を思い直し、レンはスタート地点に接点を戻す。 なんで人を迎えに来ただけなのに、こんなにドッと疲れるのか。

どれもコレもEDFの所為だ。 レンはこれ以上考えるのをやめた。 ピトの件に集中しよう。 そうしよう。 EDFというチート集団に惑わされてはならない。

こちとら人の命を賭けているのだ。 構っている場合じゃない。

 

その願いが通じたのか。 目の前で光の粒子が集まり始め、だんだんと人の形に固定されて……やがて色を持っていく。

 

 

「プライマーの転送技術で、新戦力が来るのか。 どんな人なんだ?」

 

「……見ていれば分かるよ」

 

 

なんか疲れて、新キャラが生まれるシーンに興奮出来ないレン。 ワンちゃんはいつもの調子で勘違いをしており、余計に疲れさせてくる。

 

そんな中現れたのは、レンと同じ背丈くらいの金髪美少女。 フカ次郎の登場である。

そのキュートな見た目には、レンの精神疲労を吹き飛ばすには十分だった。

 

 

「よっ! コヒー! じゃなかった、レン! それと噂のワンちゃんだね? 宜しく!」

 

「「おおっ、可愛い!」」

 

 

その容姿に思わず二人同時に声を上げてしまう。 レンと同様に保護欲にそそられる幼女の姿。 ワンちゃんとしては、またひとり、娘が出来た気分だった。

しかし戦場に連れて行くと思うと、嬉しさ半減といったところ。 やはりか、守ってやらねばならない。 可愛い子らにドンパチはさせたくない。

 

 

「うひーっ! これが、わ、た、し?」

 

「これから宜しくな」

 

 

そんな暗さを吹き飛ばす、明るい笑顔にワンちゃんは頷いた。 おっといけない。 いつだって希望は必要だ。 明るく行こう。

 

 

「いいねいいねー! ちょっと胸がないのが気になるけどさ!」

 

 

初期装備の戦闘服の上から自分の胸を両手で揉み始めるフカ次郎。

ワンちゃんとしては、少しナニ言ってるのか分からないが、幼女なんだし、まだ気にするなと思った。 栄養のある食べ物を食べていれば、その内大きくなるだろう的な。

アバターなので、そういうのは関係ないのだが。

 

 

「おおっと! お姉さん、F8000系だね!

始めたばっかだから、まだ愛着もないよね? アカウントごと、そのアバター売ってくれないかな? 結構なお金になっちゃうよ?」

 

「おおっと! お嬢さん、ルーキーじゃないね? その身体を活かした仕事をやってみない? おじさん達と楽しく仕事しよう!」

 

 

ブローカー男とEDF隊員が再び中年オヤジ丸出しの顔を突きつけてきた。 この場にいる限り面倒は続きそうだ。

 

 

「うーん、どーしよーかなー? おじさーん、いくらくれるー?」

 

 

またしても援助交際のような商談が始まりそうな雰囲気となった。

 

いかん。 大切な娘達が汚される!

 

ワンちゃんとしては本部からの連絡を待ちたいが、それより娘である。

取り敢えず二人の手を取って、この場を後にしたのであった……。




やっとこさ新たな娘、フカ次郎が。
そしてEDFがまさかの都市侵攻? 真実は不明。


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子犬と駄犬と兎

不定期更新中。
同じワンちゃん。 そして操られそう。

誤字脱字、その他間違いがあればゴメンなさい。


新戦力の《フカ次郎》。

そして待ち合わせ場所にいた《EDF》。

 

気になるコトは多く、特に作戦行動中と思われるEDFの目的は謎だ。

聞きたいコトは沢山あったが、中年オヤジが絡んでは質疑応答どころではない。

 

仕方なく、ワンちゃんはレンとフカ次郎を連れて寂れた酒場の個室に避難する。

これはこれでオヤジがいそうな雰囲気はするのだが、他に落ち着ける場所を知らない。

ワンちゃんは申し訳ないと思いつつも、自己紹介と作戦会議を始めるコトにした。

落ち着いたらEDFに合流しようとも思いながら。

 

 

「レンから聞いていると思うが、俺はストーム・ワンだ。 周りからはワンちゃんと呼ばれてる」

 

「わたしはフカ次郎。 《ALO》から《コンバート・システム》でGGOに来たんだ。 フカで良いよ、ヨロシク!」

 

 

明るく言い放つフカ。 金髪で整った顔立ちをしている、明るく可愛い女の子な印象を受ける。 レンの親友らしく、同じ背丈くらいのレンと並んで座っている光景は、見ていて微笑ましい。

 

ちょっと魔女見習いな雰囲気もあり、小悪魔的とも言える風貌でもある。

 

援助交際ぽい交渉の時、金の話を始めたのも納得出来る……気もする。 将来が心配だ。

名前がキラキラネームっぽい、変な名前だから余計にそう思う。

 

その名前で色々苦労しているのでは?

 

ワンちゃんは思い悩んだ。

悩んだ上で、結局は尋ねるコトにした。 これから共に戦う仲間だ。 成る可く戦わせないつもりだが、互いのコトを知って親交を深めたい。

その結果、逆に嫌われないか不安に思いつつ。

 

 

「あー、その。 変わった名前だな。 次郎って、男みたいというかラーメン系というか……犬というか」

 

「おっ! 分かる? 飼っていた犬の名前なんだよ。 同じ『ワンちゃん』同士頑張ろう!」

 

「ならフカは子犬で、俺が親犬としようか」

 

「頼りにしてるよー。 あっ、親犬なら子犬を育てなきゃ! ほらほら、早速行動で示して! 私たちにツマミ奢って!」

 

「はっはっはっ! 任せろ! クレジットならあるからな!」

 

 

嫌われたどころか、認められた気がしたワンちゃんは気を良くして、調子の良いコトを言い始めてしまう。 側から見たら、小悪魔にさっそく操られている駄犬の図だった。

 

 

「………ワンちゃんのバカ」

 

 

そんな光景を見て、ムスッとする隣のウサギさん。 ワンちゃんが有頂天になっているサマがお気に召さない様子。

 

ワンちゃんは、チート野郎でおバカで人の話を聞かず皆に迷惑を掛けまくる最低男であるが、側にいて守ってくれる男でもある。

色々奢ってくれるし皮肉を言っても笑顔で頭をナデナデして蝶よ花よと可愛がってくれる。

 

それに、いざという時は果敢に立ち向かい、どんな絶望にも屈しない。 そう思える存在だ。

 

そんな男の笑顔が、親友とはいえVR世界とはいえ……別の人に向けられているのだ。 心が騒ついても仕方ない。

 

しかし親友の子犬は直ぐに気付く。 置いてかれているレンを仲間に入れるべく、話を振った。 持つべきは心の友だ。

 

 

「あっ、戦うにも武器がいるよね。 何か貸してくれる?」

 

「えっ? ああ、ゴメン。 前に《スコーピオン》や光学銃を持っていたけど、売っちゃった」

 

「と、なると……買うしかないか」

 

「だね。 所持金は?」

 

「えっと、千クレジット」

 

「……ばりばり初期金額だね」

 

 

真面目なレンには、真面目な話を振れば引き込める。

そんな感じで上手くいったのだが、新たな問題が出て来てしまった。 フカの装備を整えねばならない件だ。

 

コンバート・システムはひとつのIDで、別のVRゲームに移籍できるコトをいう。

この時、鍛えたキャラの強さは相対的に引き継がれるものの、装備や金は持ってこれない。 アバターもそのゲームで固定される。 ALOでは妖精さんだった彼女だが、GGOではこの通りの小悪魔だ。

 

ただ例外として、ワンちゃんやEDFは初っ端から最終作戦仕様を持って来れる《強くてニューゲーム》なチート野郎だった。 それは運営にもどうするコトも出来ないレベルである。

でもGGO世界に来た彼らは良い方だろう。 だって銃と硝煙の世界だもの。 SAOやALOみたいな剣とか魔法な世界にログインしたら、《地球舐めるなファンタジー》と化してしまう。 ホント、戦場は地獄だぜぇ。

 

閑話休題。

 

兎も角、フカの所持金では安い拳銃を買って終わりである。

そんな装備では……。

 

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「そうだな。 俺が守れば良い」

 

「問題あるよ!」

 

 

とうていSJ2を生き残れない。 一番良いのが必要だった。

 

ワンちゃんがいる限り、負ける気はしないのは事実だが、前回の件もある。 せめて自衛火器は必要だとレンは思った。

取り敢えず、フカのステータス画面を見せて貰うコトにしたレン。 結果として、どんな武器が良いか見繕うのだ。

金の問題はまあ、おバカな駄犬におねだりすれば何とでもなるだろうし。

 

さて。 ALOで鍛えたであろう、フカのステータス。 それを見たレンはぶったまげてしまう。

 

 

「な、何……、これ……?」

 

 

筋力、敏捷性、耐久力(体力)、器用さ、知力、運。

 

GGOキャラが持つこの六つのステータスのうち、レンが勝っているのは敏捷性と器用さだけ。 他は遥かにフカが上だった。

特に筋力値と耐久力が高い。 これなら重い銃や大量の装備を持ち歩けるだろう。 グレランだったりグレランとかグレランとか。

 

 

「まー、こんなものかねえ」

 

 

長い金髪を顔の前でいじくりながら、フカはさも当然そうに言う。 まったく驚いていない。

 

ただEDF歩兵の方がずっと強く、彼女が知れば驚くと思う。

筋力や耐久力はフェンサー辺りとか。 強化外骨格《パワードスケルトン》の恩恵で、普通の歩兵が持ち運べない、運用出来ない機関砲やらキャノン砲を片手でブチかましているし。 シールド装備もあるし。 俊敏性はスラスターを使えばそれなりに。 ウィングダイバーも飛行ユニットで速く移動出来る。

それらを扱える分は器用ともいえる。 多種多様な兵器やビークルを扱えるレンジャーはもっと上か。 知力は……エアレイダーだろうか。 座標を伝達しなきゃならないし。 運は……終戦まで生き残った隊員らに当てはまるだろう。 戦時中は悲鳴や絶望を叫びまくっていた気がするけど。

 

 

「頼りに! なるっ!」

 

 

そんなEDF隊員らを知らないレンは、心の声が漏れ出した。 ステータス画面が見えないワンちゃんは、二人が指遊びをしている様にしか見えないのだが

 

 

「仲が良いのは良いコトだ」

 

 

勝手に独り言ちて頷き、納得していた。 変に突っかかるよりは良い。 ワンちゃんやEDFが絡むと面倒にしかならない。

 

 

「じゃ、早速武器を買いに行こうぜぃ」

 

「むっ? 自衛火器ならプレゼント出来るモノが」

 

「遠慮しとく」

 

「……そうか」

 

 

逆に絡もうとすると、レンが拒否反応を示してソレ以上は進まないコトもあるが。

しかし、今回は違う。 フカがいるのを忘れてはならない。

ロハ(タダの『只』をカタカナのロとハに分けてロハ読み)程安いモノはないと、話に乗ってきたのだ。

 

 

「ほう! 見るだけならタダだしぃ、ワンちゃん見せてよ!」

 

「よした方が良いよ。 ロクな武器じゃないだろうから」

 

「ナニを言うんだ。 レンと同じ《P90》だぞ?」

 

「「な、なんだってぇ!?」」

 

 

衝撃発言にレンとフカはぶったまげた。

青天の霹靂である。 ワンちゃんのコトだから、てっきりEDFの兵器とかワケ分からんサポート機械とか無線機器だと思ったのだ。

 

ところが、レンと同じP90だという。

コレは正史(?)において、第一回SJで壊れてしまったピーちゃんの2代目として、レンが買い直した品だった。

ワンちゃんの所為で壊れなかったピーちゃんは、ソレはソレで良かったと思うのだが、まさか元凶の駄犬が購入してしまうとは。

 

 

「うっ……ピーちゃんは可愛い……銃だよ」

 

「うむ。 レンとフカでお揃いになるぞ?」

 

「ほう。 レンとお揃い! 良いじゃない?」

 

 

三者三様の反応をする。 レンはまさか愛銃P90の名前が出て来ると思わなかったので、ロクな武器じゃない発言をした自身を悔いていた。

一方でフカは親友とお揃いの武器も悪くないかー、な反応を示す。

ワンちゃんは、自身よりも可愛い娘にぜひ使って欲しい。

 

なんだか、雰囲気的にフカの武器が決まってきた感があるのだが、ワンちゃんが絡んで穏やかに済む事案を期待しない方が良い。

 

 

「ただのP90じゃないぞ!

perfect defender modelだ!」

 

「「パーフェクト ディフェンダー モデル?」」

 

 

何だか怪しくなってきた。 そんな不安をよそに、ワンちゃんは笑顔で二人にブツを見せる。

 

はいドーン。 そんな感じに出て来たのは、箱型弾倉を後方に装填した、プルパップ式に見える黒い銃。

色々ごちゃごちゃ付いており、攻撃的なデザインをしている。

後付けの様に、側面に飛び出る形で箱型弾倉が差し込まれている。 銃上部に寝かせる様に装填する専用弾倉は見当たらない。

 

 

「ゴメン。 コレ、P90?」

 

「いかにも。 『ちょっと』改造したが」

 

 

ワンちゃんは説明をそれっぽく始めた。

コンパクトで高性能なP90をディフェンダー用にパーツ編成したモデルだそうで。

T4ストークぽい見た目と化している。

銃上部に寝かす様に装填した専用弾倉を撤廃。 代わりに専用のP90BOXマガジンを制作、使用。 EDFの謎の技術で驚異の300発以上まで装弾数を引き上げた。

サプレッサー装備により、アンブッシュ時の隠密性を極限まで向上。 敵からの発見を遅らせる効果を狙う。 またクイックマウントベースにより、夜戦時と昼戦時での編成変更を容易に行える……らしい。

 

コレを造るのに、ワンちゃんだけでは無理で、色々な人達の協力や偶然の産物等でこんなゴツいのが出来上がってしまったという。

 

 

「道のりは険しかった。 だが、何とかなった気がする! さあ、ぜひ使ってくれ!」

 

「何だか取り回し悪そう。 それに可愛さが消えちゃってるし」

 

「うーん、強そうなんだけどさ。 ピンとこないわ」

 

「……そうか」

 

 

余計な手間暇を掛けた割には微妙な評価を受けてしまった。

悲しげに銃を仕舞うワンちゃん。 結局はフカの武器は決まらなかった。

このP90 perfect defender modelが使われる日が来るのか、どっかの作業用クレーンみたいなコトになるのか不明。

 

取り敢えず、フカの武器探しが始まりそうだ。 変な展開にならなきゃ良いが。




子は親に似る。 この場合は武器……?


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武器探し

不定期更新中。 モチベが上がらない……リアル疲労が。 ががが。

グレラン回。 EDFが絡む今後の展開が不安。
でも何とかなる。 たぶん。


 

大型ショッピングモール。 その中にある武器屋にワンちゃんとレン、フカは訪れた。

見た目は幼女二人に作業着姿の男。 仕事帰りに玩具や工具を買いに来たように見えなくもないが、ココは硝煙漂うGGOだ。

どっかの宇宙最強エンジニアや、ショッピングモールでゾンビと戦うカメラマンの世界と同列にしてはいけない。 フツーに陳列している銃を見に来ただけだ。

 

ところが、出だしの会話は古くてファンタジーな兵器から始まる。 ALOからやって来た元妖精さん、フカが要因だった。

 

 

「筋力体力あるから、どんなヘビーな武器でも持てるよ? 両手剣とか、戦斧とかいいね。 長いランスも結構好き」

 

「そうは言ってもなぁ、アレは運用が難しいと思う」

 

「またワケ分からないコトを」

 

 

それに反応したるはEDF所属のワンちゃんだ。

 

繰り返すようだが、GGOは銃の世界。

フツーなら「そんなもん、いらん!」と言うプレイヤーは多いだろう。 だって銃撃戦でそんな接近しなきゃいけない武器とか、非効率的だもん。 近付く前に撃たれて死んでしまうのがオチだ。

ところが、謎技術の兵器群を運用するEDFの隊員は常識からちょっぴりズレていた。

 

 

「EDFでは槍やランスで、銃を持った敵部隊を一掃している部隊がいたが。 使っている仲間は殆どいなかったな」

 

「いやー。 話盛ってるでしょ」

 

「冗談言わないで。 ピトさんの件もあるし、真面目に武器を選ぶよ」

 

「………本当の話なのだが」

 

 

そして当然理解されず、冷たい反応をされて拗ねるワンちゃん。

EDFのヤベェ兵器や隊員らを基準にしている時点で、いろいろ話にならない。

 

それに。 ワンちゃんの言うEDFの槍やランスは、先っぽがトンがっている辺りとか、それっぽく見えるけど、刺して終わりな代物ではないのだ。

 

《ウィングダイバー》のランス系や《フェンサー》装備の槍《ブラストホール・スピア》等は、機械的。

ランスは粒子ビーム砲だったり、槍は肉眼では分からない程に一瞬で突出、伸縮。 あらゆる物体を貫通した後、先端から高圧プラズマを放出し物体を内部から崩壊させる恐ろしいモノだ。

ハンマーやブレードも叩いて終わり、斬って終わりな代物じゃない。 コレも衝撃波や斬撃波の様なモノを発生させて、離れた敵にもダメージを与えられる。

ただ、接近しなきゃならないのは共通していて、銃撃戦での運用はEDF隊員をもってしてもムズい。 それでも《グリムリーパー隊》の様に使いこなす隊員がいた結果、今の会話に繋がる。

 

……まあ、どっかのレンジャーは、なんの変哲も無い溶接用ガスバーナーを戦場で振り回していたのだが。

ソレだったら、槍やランスで戦った方がマシではあろう。

 

え? 宇宙最強のエンジニア?

知りませんね……少なくとも元技術者のワンちゃんとはいえ、工具で怪物とドンパチはしていない。

モノは本来の用途で正しく使いましょう。

 

 

「ところでEDFってなーに? スタート地点にいたオジサン達のコト?」

 

「ああ。 EDFは地球を守る組織だ。 悪いヤツらじゃないぞ?」

 

「関わらない方が良いよ」

 

 

話の流れで、フカ達からEDFの単語が出た刹那、余計な面倒ごとを避けたいレンはすぐさま警告を出す。

 

だってEDFとかヤバそうだもん。 スタート地点で見かけた銃はGGOのと似ていたけれど、隊員だというワンちゃんの戦い方はGGOじゃ滅茶苦茶だもん。

その仲間も絶対ロクなモンじゃねーよ。

 

偏見でそう考えたレンだったが、ドンピシャで当たっていた。 そもそも銃撃戦に槍とかランス(オマケで溶接用バーナー)を使っている隊員らがいるトコだ。 普通じゃない。

 

まあ、他にもフカとワンちゃんが仲良くなるのが面白くないという、深層心理も働いているのだが、ワンちゃんは全く気にしない。

 

 

「そう言うな。 これから関わる可能性があるワケだし」

 

「二度となくて良いんだけど」

 

 

レンは眉間に皺を寄せて露骨に嫌がる。

人の命が掛かっているのに、これ以上面倒になっても困る。 ワンちゃんだけでも困るのに。

 

ただ、彼女には「諦めろ」としか言えない。

プレイヤーの拠点とも言うべき首都《グロッケン》にEDFが来ちゃっているのだ。

理由はどうあれ、接していく機会は増えるだろう。

 

一方でスカウトに話しかけられたくらいの被害しかないフカは、事態を軽く見ていた。

その所為で祭りの予感だと楽しげにする。

 

 

「いやぁ、面白くなりそうだねぇ! 銃だけでなくロボットとか戦車まであるなんて。 アレ乗れるの?」

 

「コンバットフレームとブラッカーか? フカには動かせないと思うぞ。 ペダルに足が届かないだろうし、そもそも操縦にはライセンスが必要だ」

 

「そう言うワンちゃんは動かせるの?」

 

「ああ。 あの場にあったビークルに限らず、ヘリや救護車両、特殊なモノまでEDF製のは大凡扱える」

 

「おぉ! 流石パパ! 乗る機会があれば同乗させてよ!」

 

「はっはっはっ! EDFに入隊すれば乗る機会も多くなるぞ?」

 

「はいはい武器を探すよ時間が勿体無いよ」

 

 

ちゃっかり入隊を勧める駄犬にイラッとさせられつつ、レンは武器探しを続行。

中世の武器の話からEDFや乗り物の話にシフトして脱線してしまったので、余計に時間が掛かってしまった。

 

レンはサッサと済ませる為に、フカに実弾銃を紹介していった。 ワンちゃんも雑談はやめて、今までの経験等から言葉を添えていく。

 

 

「フカ、機関銃なんてどう? 連射による火力で広い範囲に攻撃できるよ」

 

「フェンサーは槍の代わりに機関銃を持っている者が多かったな。 弾幕を張れるのは強みだぞ。 群れを成す敵を一掃出来る。 命中率、反動や重量の問題があるが……入隊するか? 《パワードスケルトン》を着れば楽になると思う」

 

「攻撃力とサイズのバランスが取れたアサルト・ライフル(自動小銃)は?」

 

「様々な局面で活用出来る、良い銃種だと思う。 だからか、レンジャーで使う者は多かった。 しかしココのは装弾数が20や30じゃないか。 セミオート限定で、高威力なら分かるが……EDF製ならワンマグ3桁は余裕だぞ。 ここは入隊をしてだな」

 

「少し黙ってろ駄犬がっ!?」

 

 

ウサギは我慢出来ずにキレてしまった。

援護しているのか話の腰を折ってるのか分からないし、しつこく入隊を勧めるのが悪い。 親友としては、EDFに関わって欲しくない。 マトモな銃を握って欲しい。

レンジャーやフェンサー装備を身に付けて槍やランス、ガスバーナーをGGO世界にて握った日には泣いてしまうだろう。 「フカよ、お前もか」と。

 

しかし、そんな親子喧嘩(?)を余所に、フカは微妙な顔をする。

 

 

「ピンとこぬなあ」

 

 

どうやら、どの武器もフカのお眼鏡にはかなわなかった模様。

 

 

「なんか、どれも強そうだけどさ、どれも、全然美しくないね」

 

 

美的印象はどうでも良いから!

レンは言おうとして、言えなかった。 だって自身も外見だけでP90を買ったから。

 

 

「困った……」

 

 

レンは頭を抱えた。

ああ、こんな時。 銃知識の豊富なピトさんやエムさんがいてくれたら。

ワンちゃんは微妙に詳しいけど、どっかズレているから頼れないし。

それは思っても詮無きこと。

 

武器選びは難航。

しかし、ココでワンちゃんが提案する。 考える頭は多い方が良い。

 

 

「ふむ……別の銃種も見に行こうか?」

 

「え?」「おっ?」

 

「裏路地の店に行こう。 ココにはない武器が置いてあるハズだ」

 

「うーん? 分かった」

 

「おっけー」

 

 

ワンちゃんが言うと、全てが怪しく感じてしまうのだが、武器が見つかるならと、レンもフカも付いて行くコトにした。

これから行くのはレアで高威力で高価な武器を扱っている店。

 

きっとフカのお眼鏡にかなう品があるだろう。 そう最初の店に入って、すぐさまフカが目を輝かせる。

やったぜ。 駄犬も役に立つだろ?

 

 

「レン! ワンちゃん! これ! この銃、何? 超かっこいい! 綺麗! 美しい! ビューティホー!」

 

「え! どれ?」

 

「むっ?」

 

 

そこまで歓声を上げるとは。 どんな銃だ?

かつての自分を見るようで楽しくなって、レンはフカに駆け寄った。 ワンちゃんは可愛い娘がはしゃいでいるので、ホッコリしている。

そして、

 

 

「これ!」

 

 

棚にかかっている、指差す銃を見てみた。

 

 

「なに……、これ……?」

 

「なぜコレがココにあるんだ?」

 

 

レンとワンちゃんの顔が引きつった。

レンは不細工な銃だと思い、ワンちゃんはまさかの武器を見つけてファッ!? となる。

 

それは酷く不恰好な代物だった。

全長は70センチほど。 長めのサブマシンガンと同じくらい。 グリップと引き金、肩に当てるストックがついているのだから、銃は銃なのだろう。

色は、ほとんどがデザートタンという土のような茶色。 グリップなど、ところどころが、黒。 レンからしたら、実に格好の悪い銃に見えてしまう。

何より醜くしているのは、中央部にある膨らみ。 リボルバーのような回転式弾倉が、肥満中年のお腹のようにポッコリ膨らんでいるし。 銃身はやたらに太くて短く、これもまた見た目の悪いこと、この上ない。

なんか……これ……サイズ調整をミスったんじゃね? な銃だった。

 

オマケに、隣には色違いというか、茶色ではなく黒色のが飾ってある。 色以外の見た目に差異はそんなに感じられず、お好みであろうか。

 

ワンちゃんは、ソッチの黒色に注視しており、子犬が尻尾振って見ている茶色側は目もくれない。 一体、どうしたというのか。

娘がいるのに、そんなコトをするなんて。

 

 

「レンも知らない? でもこれ、いいね! これに決めたよ! どんな銃なの?」

 

「えっと……」

 

 

そんなワンちゃんと初めて見る銃に、レンはおろおろしてしまう。

それに答えたのはワンちゃんだった。 視線は黒色の銃に向けられたままだったが。

 

 

「………榴弾発射器。 グレネード・ランチャーだ」

 

「ああ、これがそうか……」

 

「ぐれねーど……、何?」

 

 

表示してあるタグを見やれば、《MGLー140》とある。

ついでに、ワンちゃんがジッと見ている黒色も見やれば《ヴァラトル・ナパームZD》と変な名前がついていた。

 

何だろう? いや、まさか。

 

 

「そしてこの黒色のはな、EDFの……歩兵用ナパーム弾射出機だ。 しかも最終作戦仕様」

 

「なん……だと?」

 

「え? え? どしたのー? 何か問題?」

 

 

ココに来てもEDFの単語が出て来ようとは。 レンとワンちゃんは様々な意味で硬直してしまい、子犬は目を輝かせながら首を傾げるだけだった……。




何故か店にあったEDFの兵器。 プレイヤーに持たせてはならない……。


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ウサギは犬たちに振り回される。

不定期更新中。
だいぶ遅くなった感が……。 なかなか進まぬ。

グレラン購入編。 小悪魔に操られるワンちゃん……。


 

裏路地の店に入ったら、あろうことか、EDFの兵器が売られていました……。

 

問題の兵器は《最終作戦仕様》のグレネード・ランチャー《ヴァラトル・ナパームZD》というもの。

歩兵用ナパーム弾専用のグレネード・ランチャーで、レンジャーが扱う武器。 装弾数4発前後とはいえ最終作戦仕様の威力は凄まじく、喰らえば火ダルマを通り越して辺り一帯が蒸発しかねない。

この手のモノは通常の擲弾と異なり、爆発してハイお終いではないのが特徴か。 その場で暫く燃焼する為、単に敵に撃ち込むだけでなく壁や天井面に撃ち込んで、一時的な火の防壁を作るコトも可能。

 

……照明弾代わりに撃ちまくっていた隊員も少なくない。

EDF隊員は愉快だからね。 多少はね?

 

ただ誘導兵のワンちゃんや、武器に詳しくないレン、初日のフカには馴染みのない武器ではある。

しかし目の前で売られちゃってる以上、ほっとくワケにはいかない。 EDFの兵器が悪用されたら大変だ。 印象が悪くなってしまう。

いや、もう遅いけど。

 

ワンちゃんは隊員としてほっとけず、丁度他の接客を終えた若いお兄さん店員に話し掛けて事情を聞くコトにした。

 

 

「店員よ。 アソコのグレランについて聞きたい」

 

「あっ! 連発式グレネード・ランチャーですね! 僕、初めて見ましたよ! つい最近実装されたそうで、どこかの遺跡で発掘されて、先日、《MGLー140》2丁とその……《ヴァラトル・ナパームZD》というのが店に入ったんです!」

 

 

店員は、商売人らしい快活な口調と爽やかな笑顔を送ってきた。 どうやらワンちゃんが隊員であるコトや、売り物が異界の兵器だと分かっていないらしい。

服装が作業着だし、グレランはGGO世界のと酷似しているから、仕方ないとも言える。

だからと言って見過ごせない。

ワンちゃんは引き続き、情報収集を行う。

 

 

「黒いのもソコで?」

 

「そちらは、米軍スタイルでサングラスを掛けた人が売りに来た様です」

 

「サングラス?」

 

「大規模な《スコードロン》に所属しているそうですよ。 皆同じ様な格好で、主にM4かM16と思われる武装等で統一している他、統制も取れている強いトコだとか。 でも売りに来た方は小銃より重火器が好きだと言っていましたね」

 

 

あれれ。 サングラスや米軍風って部分は身に覚えがある気がするよ。

その点はレンだけでなく、ログイン初日のフカすら思った。 特にワンちゃんは既視感が酷い。

 

 

「まさか、ワンちゃんじゃないよね?」

 

「今はサングラスを掛けてはいるが、俺じゃないぞ」

 

「わたしを勧誘したおじさん達かね?」

 

「ああ、そっち側だな。 恐らくEDFのレンジャー隊員。 そして……たぶん、知っているヤツだ」

 

「友だち?」

 

「悪友だ。 学生時代からのな」

 

 

心当たりのある人物を思い、苦虫を噛み潰したような顔をするワンちゃん。

よほど嫌なヤツらしい。 最終作戦仕様を売りに出すくらいだし、ロクでもないのは確かだ。

 

 

「とにかく、だ。 コレはEDFの兵器であり威力の程度に関わらず、売られて良い物ではない。 すまんが店員よ、預からせて貰うぞ」

 

「ええ!? こ、困りますよ! 僕、生活出来なくなっちゃいますっ!?」

 

 

回収しようとしたら、慌てた店員に止められた。 どうもGGOで生計を立てている人のようだ。 コレにはワンちゃんも手を止めてしまう。

 

戦後のヒャッハー共や、虚ろな目をした生存者と比べると、目の前の店員の目は潤っている(涙だが)ではないか。 そして、かなり前向きな生き方に見える。

ココで強制的に武器をロハで奪えば、彼は生活出来なくなり、絶望を味合わせるコトになる。 隊員として、彼の生気を、希望を奪うワケにはいかない。

……一方で、運営の頭を禿げ散らかしているコトには気付かないんだけど。 ソレはソレ。 EDFの知るトコロではない。 無知って恐ろしい。

 

 

「分かった。 ならばコイツを買おう。 それで良いな?」

 

「お、おお! ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

「ついでにEDFに入隊すれば、衣食住は確保出来るぞ?」

 

「え? EDF?」

 

「何でもないです。 気にしないで下さい」

 

 

どさくさに紛れて勧誘するワンちゃんをレンは妨害しておく。 油断も隙もあったものじゃない。

けれども少し遠回りになったが、事態は収集の方向へ向かっていそうだ。 コレならば彼の生活も守られるし、GGOの秩序もちょっぴり守られる。 EDFとしてもレンとしても安心だ。 後腐れなく、さっさとフカの武器を買って帰ろう。

 

ところが、場が冷却され始めたところに当のフカが油をぶち撒けやがった。 小悪魔な子犬は、なんと物欲を満たすべくして、可愛らしくオネダリを開始してしまったのだ。

 

 

「パパー? 茶色の方も欲しいけど、その黒いのも欲しいなー? 全部買ってくれたら、もっとパパのコト好きになっちゃうかも!」

 

「ちょっと美優!?」

 

 

上目遣いで親犬にねだる子犬。 ちょいと欲に忠実な所為で、場を別の方向にバーニングさせてしまう。 これにはレンも思わず本名を叫んでしまった。

お願い。 これ以上、面倒増やさないで。

 

 

「よーし! パパ、最終作戦仕様買っちゃうぞー!」

 

「いえーい! パパ、だぁーい好き!」

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

「この駄犬がッ!?」

 

 

案の定、パパ呼びされた駄犬は調子に乗ってしまう。 一方で思惑通りに操れた小悪魔は小躍りし、店員は命が繋がる喜びに歓喜し、ウサギは頭を抱えてしまう。

 

武器を買うだけなのに、何故こうも騒がしくなるのか。 どれもこれもEDFとワンちゃんの所為だ。 こんな調子で、本当に毒鳥を救えるのかしら。

 

 

「ああ、もう! ピトさんのコト忘れてないよね!? 真面目にやってよワンちゃん!」

 

「うおっ!? 足を蹴るんじゃない!」

 

「だって、ソレ、EDFの武器だよね? レギュレーション違反だよね? そんなの持ったら目を付けられちゃうでしょ!」

 

駄犬をボールのようにバシバシ蹴り始め、レンは荒ぶりだす。 茶色の方はGGOの銃だから問題ないだろうけど、EDFの銃なんて持ったら、絶対後々に面倒じゃないか。 コレは自身だけでなく、親友のフカを守る為でもあるのだ。

 

 

「売られて良いモノじゃないって自分でも言っていたでしょうが! 責任持って自分で管理するなり処分して! フカが可愛いからって、EDF関連の武器はあげちゃダメだからね!」

 

「いや! しかし! 欲しがっているのを与えてナニがイけないんだ!」

 

「いけなさ過ぎるでしょーが!? フカはEDFじゃないし、余計なコトに巻き込ませる気? 大切ならその辺もしっかりしなきゃ!」

 

「ならばEDFに入れば良い! そして強い武器を持てば、それだけでも安心するだろ! ピトを説得するのにも有利になるかもしれないじゃないか!」

 

「強過ぎるのも問題だよ! オーバーキルは嫌われるんだよ!」

 

 

ぎゃあぎゃあと親子喧嘩を繰り広げる両者。 ゲームバランスや銃的な意味でガン無視していれば、どっちの言い分も合っている気がする。

特に今回は遊びでは済まされないのだし。

 

ワンちゃんは娘に甘々の親バカではあるが、仲間やピトの件を忘れてはいない。 言っているコトも本気なのだが、それが余計にレンを怒らせる要因になっている。 多くのプレイヤーがワンちゃんやEDFを敵として見ているのは明らかだからだ。 ソコにこれ以上、首を突っ込む行為はしたくない。

それと、レンとしては…………その、他の子と仲良く話しているのを見ると、イライラしちゃうし。

 

そんなやり取りを側から傍観していた元凶のフカは、知ってか知らずか、どこか嬉しそうにする。

 

 

「いやー。 コヒー、じゃなくてレンに恋人が出来ていたとは」

 

「今のをどう好意的に見ればそうなる!?」

 

「じゃあ親子」

 

「じゃあ!? じゃあって何!?」

 

 

フカの不意打ちで、別の刺激を喰らったレンは蹴るのを中断。

恥ずかしさから否定したい気持ちと、元凶を責めたくとも友情との狭間で揺れちゃったり、恋人や親子だと言われて、ちょっぴりの嬉しさが混ざり合い、でも認めたくなくて……混乱してしてしまう。 ウサギの心境は複雑を通り越してカオスと化していく。

 

そんなレンに対して、チャンスと見たワンちゃんはレンの要望に沿う話を持ち出した。

これ以上蹴られては堪らない。 娘に蹴られるとか、精神的ダメージが酷いので。

 

 

「よし、こうしよう。 EDFの武器は俺が預かる。 代わりに茶色のを二丁、フカにあげる。 コレで良いな?」

 

「え、ああ、うん。 それなら許す」

 

「えー? パパ、黒いのくれないの?」

 

「許してくれ。 代わりにソラスパンをあげるから」

 

「いや、そんな怪獣のパンはいらないよ。 後でツマミをしこたま奢ってくれたら許す」

 

「あのー、買ってくれたのは嬉しいのですが……店内で騒がしくするのは……えっと、ご遠慮願います」

 

「……うっ。 すみませんでした」

 

「……皆、許してくれ」

 

 

店員の言葉で、ようやく場が静まった。

命の恩人(?)に話辛く、今まで黙っていた店員だったが、話が長引いては堪らないと勇気を出した結果だった。 よくやった。

 

大金を落とす客だからって、無遠慮に店内で騒いではいけない。 良い子は周囲に気を付けて、迷惑をかけないようにしよう。

 

 

 

 

 

その後。

店員がグレランの素晴らしさを駅前の路上販売なノリノリトークで語り、店員とフカが盛り上がった。

GGO最強とか言ってもいたが、EDFの兵器群が無ければそうであろう。

1つのランチャーで、煙幕弾やらテルミッド焼夷弾やら照明弾やら《プラズマ・グレネード》を撃てるのは魅力的ではあるが。

 

取り敢えず、2丁の《MGLー140》と大量のグレネードをワンちゃんは買ってあげたのであった。

最終作戦仕様はワンちゃんが借り持ち。 スリングで背負っている格好。

ソレをこっそりフカに渡さないか、隣でレンが睨みを利かせている。 この調子だと、そのうち拠点に押し掛けるかも知れない。 その場合、押しかけ女房と揶揄されそう。

 

 

「なあ、レン。 そんなに睨まなくて良いじゃないか」

 

 

しかし。 当人は大変居心地悪い。 幼女に睨まれても、ちっとも嬉しくない。

 

 

「ワンちゃんが、その武器をフカに渡さないか心配だから」

 

「ちゃんとEDF隊員に渡す。 心配するな」

 

力無く、そう返すワンちゃん。

落ち込んでいるワケだが、調子に乗って子犬に構い過ぎた結果だ。 ウサギの機嫌を損ねた代償は軽くはない。

 

さっさとEDFと合流して、グレラン渡してしまおう。 そうしよう。

ワンちゃんは天を仰ぎながらも、そう思った。 そんなワンちゃんを知ってか知らずか、フカが快活な声を上げる。

 

 

「その前にさ! ソレ、撃ってるトコ見せてよ!」

 

「いやいや駄目だよ後悔するよ、それより装備品とかの買い物しない?」

 

 

フカの言葉に、レンはすぐさま対応。 威力が気になるのは分かるけど、EDFの武器なんて嫌な予感しかしない。

ワンちゃんの武器や座標伝達で、空軍やミサイル群が飛んで来る光景ばかり見てきたから、そう思うのは仕方なかった。

 

だが、アレらは歩兵の持てる火力じゃない点に気を付けたい。 そもそも銃ですらないし。

でも、やっぱね。 ヤバい武器には変わりないよね。 ヤらない方が良いか。

 

 

「そんなのは後でいいっしょ! ね? パパ?」

 

「いやぁ! じゃあ一回だけダゾ?」

 

「だああ!?」

 

 

アッサリと気分がアガり、調子に乗り始めるワンちゃん。 やっぱこうなりました。 この駄犬、ちっとも反省していません。 パパという魔法の言葉で、ホイホイ小悪魔に操られてるんですがソレは。

 

 

「……したっけ(そうしたら)、射撃練習場に行こっか」

 

もう怒る気も起きず、諦めて、力無く提案するレン。 けれども犬どもは、容赦なく追い打ちをかけていく。

 

「なあにを言っとるんだね! バトルができるフィールドにきまっとろうが!」

 

「よし! 早速荒野にでも行くか! ナニ、万が一はパパが守る!」

 

 

今度はレンが天を仰ぐ番になった。 GGOの空は、今日も赤い空である……。




EDF隊員もボチボチ出て来る予定。


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悪友と死神の影

不定期更新中。 リアルがシンドイっす……。

EDF隊員の話。 死神部隊が来る様ですよ……。


GGO世界に来ているEDFの戦力は、首都《グロッケン》に集中している。

それは勧誘のアピール材やストーム・ワンの回収目的もあるのだが、クイーンに備えた軍事行動が主だ。

 

この世界のクイーンは、青いヤツで遠距離攻撃が得意とされる。 クイーンというからには戦闘能力は凄まじいハズだし、卵をポコポコ産んで繁殖しているコトだろう。

そしてEDFがGGOに来る前から跋扈しているのは間違いない……故に隊員らは思う。

 

GGO世界はソイツの所為で荒廃しているんだと!

 

いや、全部がソイツだけの所為ではないにしろ、筆頭して荒らしたハズだ。

そう予想した隊員らは、まだ見ぬ恐ろしき怪物に戦慄と共に身を震わせる。 だが放置は出来ない。 いつEDFに被害が出るか分からないからだ。

そして数少ないであろう、この世界の人類活動拠点である首都《グロッケン》がいつ襲われるかも分からない。

だからこそ首都を防衛し、駆除しなければならない。 世界違えど同じ人類だ。 我々の世界と同じ『人の声が響かない地球』にしてはならない。 隊員らは気を引き締めて、状況に備える。

 

 

「とはいえ。 俺たちの戦力でクイーンをどうにか出来るのか?」

 

 

GGOプレイヤーの初期スタート地点で陣取るレンジャー隊員の1人が、不安そうな言葉を吐いた。 お馴染みの、サングラスに米軍風なスタイルで統一した彼らの手には《PAー11》アサルト・ライフルが握られている。

 

厳しい訓練を積み、手に持つ小銃以外にも様々な武器やビークルを扱える彼らだが。 それでも戦時中は怪物やプライマーの歩兵部隊に苦戦を強いられたのだ。

特にクイーンは戦闘能力が凄まじかった。 雨で増水した川の濁流に飲まれるが如く、真紅の強酸で部隊が溶かされた光景は、隊員らにとって、トラウマでしかない。

 

 

「確かにな。 誘導兵が随行してくれれば心強いのだが」

 

「ストーム・ワンのコトか? さっき合流したんじゃ?」

 

「それがな、子どもを連れてどっかに行ってしまったらしい」

 

「なんじゃそりゃ」

 

「スカウトが子どもにも声を掛けたらしいからな。 守る為じゃないか?」

 

「見境ないな、スカウトも」

 

 

隊員同士、空爆誘導兵……ストーム・ワンの話を始めた。 既にあの英雄がいる事実は、警備のレンジャーにも知るトコロにあった。

英雄である彼……誘導兵が随行してくれれば、クイーンが来ても怖いものはない。 レンジャー達が戦線を支えている間に空軍や衛星、基地に座標を伝達して貰えば、空爆や衛星砲、ミサイル群による、歩兵では携行が不可能な圧倒的な火力でねじ伏せられるからだ。

そうでなくても、隊長として指揮能力のある彼だ。 少ない戦力でも、効率的に運用する術を知っている。 日常での性格はアレだが。

 

 

「だが、いないなら仕方ない。 俺たちだけでもやろう。 AFVや《コンバットフレーム》も来ているし、都市の外ならば《タイタン》や《レールガン》が配備されている。 条件は悪くない」

 

「願わくば、クイーンと戦う前に合流したいのだが」

 

「そうだな。 最悪、この都市の人々にも協力して貰う。 何かしらの銃は所持している様子であるし」

 

「装弾数の割に威力の低い銃が多いのは気になるが」

 

 

会話を聞く限り、誘導兵がいなくても、隊員の士気は低くはなさそうだ。

過去には敵に包囲殲滅されそうになったり、増援が期待出来ない状況なんて、幾度となく経験してきた彼らだ。 こんなコトくらいで絶望するEDFではない。

 

だが戦力はあった方が良いに決まっている。 どんな猛者か分からないから。 だが今のEDFの戦力は全盛期と比べると微々たる力。

この世界の人類にも協力して欲しいのが正直なところ。 幸いにも、雑多な銃火器を皆は持っているコトだし。 EDFの銃と比べると見劣りするが、戦力になり得る存在だ。

 

 

「入隊してくれれば、武器の訓練を受けさせて、EDFの武器を渡す算段だと」

 

「未だに入隊希望者はゼロだがな」

 

「ああ。 それでEDFをアピールするとか言って、グレネード好きなヤツが都市に突入したよ」

 

「アイツか。 《グレ男》とか呼ばれてる」

 

 

なんだかストーム隊が出る前に、新キャラが出てくる予感が。 機嫌が悪そうな名前だが、隊員は特に突っ込まず会話を続ける。

 

 

「ソイツだ。 ストーム・ワンの知り合いらしい。 だいぶ前に《ヴァラトル・ナパームZD》を持って街中に消えたぞ。 たぶん、グレネード系の布教活動だ」

 

「なんちゅうモン持ちこんでるんだ。 本部もよく許可したな」

 

「無断だろ」

 

「……EDFに選り好みする余裕が無いとはいえ、やっちゃマズいだろ」

 

 

隊員の1人は、グレ男の問題行動に溜息を出してしまう。

ただ止めに行こうとしたり慌てないのは、いつ交戦するか分からないクイーンに備えてとか、持ち込む以上のバカはやらないだろうという根拠のない安心からだ。

 

残念ながら期待に反して、裏路地の武器屋に売りやがりましたがねソイツ。 お陰でピンク幼女が荒ぶりました。

 

そんなコトを未だに知らない隊員らは、冷静さを保ったまま話を続けた。

 

 

「今はグレ男に構ってる場合じゃない。 クイーンや怪物、無法者に備えて、防衛線の強化だろう」

 

「どっちにしろ、俺たちは警備でこの場から動けないが……まだ仲間が来るのか?」

 

「来る。 《グリムリーパー隊》の《ストーム・3》が来てくれる。 軍曹のチーム《ストーム・2》と《スプリガン隊》の《ストーム・4》は来ないらしい」

 

「グリムリーパー!? 《フェンサー》の精鋭部隊の!?」

 

「ああ。 そのグリムリーパーだ。 死神部隊とも呼ばれてる」

 

「マジかよ」

 

 

今度は、グレ男の話を吹き飛ばす情報に隊員は驚いた。 まさか、あの死神部隊がGGOに来るコトになろうとは……。

 

《グリムリーパー隊》、今は《ストーム・3》のコードネームを持つ部隊。

《ブラストホール・スピア》に特化した真っ黒なパワードスケルトンを身に纏い、その槍とシールドで戦う部隊。 装備の都合上、敵にサイドスラスターで急接近して攻撃する戦術を取る。

プライマーとの戦争が始まる前に起きた紛争にて、《コンバットフレーム》を破壊した実績があるらしい。

ただ、その時に多くの仲間を失ったらしく、それ以降、隊長は死に場所を求めて……意義のある死を求めて、危険な戦場を渡り歩く。

常に困難な任務に志願し、捨て身の戦術を駆使する彼らを、兵士たちは死神と恐れるようになった。

 

 

「本部も本気、ということかな」

 

「クイーンが何体いるかも分からないからな。 出し渋って戦力を減らすより良いんじゃないか?」

 

「ホントにそれだけが理由だろうか」

 

「……今、俺たちに出来るコトをやれば良い」

 

「そうだな。 ワリィ」

 

 

それだけ言うと、隊員らは黙って警備に戻る。 他に人がいないのと、EDFもその辺は緩いのか、喋っていても咎められない。

とはいえ。 ひと通り喋って満足したのか疲れたのか、それ以上話すコトはしなかった。

 

ただ「死神かぁ」と独り言をいうくらい。

終戦した日。 プライマーの司令官と思われる《かの者》も死神と呼んだ隊員がいたが、EDFにもグリムリーパー隊という死神がいる。 そして……ストーム・ワン。

 

GGOにも少し前に、そういったヤツがいたのだが、今はもういない。

しかし、入れ違う様に新たな死神が来ようとは。 なんというか……皮肉だ。

 

でも今度の死神は、都市伝説の類では終わらないだろう。 それくらい強い部隊なのだ。




なかなか、話が進まぬ……。


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榴弾も人も取り扱いは難しい。

不定期更新中。 違和感あったらすいません……。

まだSJ開始前という……毒鳥やEDF隊員を早く出したい……。


 

ぽんっ、という小気味の良い音が荒野に響けば、次の瞬間には人より少し大きい火柱が出来上がる。

メラメラと燃え上がるソレは、体感が希薄なプレイヤー達すら近寄らせない熱さと迫力、息苦しさがあった。

 

EDF所属、ワンちゃんの所業である。

 

ワケを話せば、フカにEDF最終作戦仕様の歩兵用ナパーム弾専用グレラン《ヴァラトル・ナパームZD》を見せるべく、格好つけて射出しやがったのが原因。

 

誘導兵のクセにレンジャー装備を使うとか生意気だ。 というか、最終作戦仕様を私用でホイホイ使うのもどうかと思う。

 

 

「どうだフカ! 範囲は狭いが、迫力はあるだろう? 敵の侵攻を阻止する、制限する防壁としても役に立つ!」

 

 

しかも自身の兵科に関係ない武器を、さも自分の兵器のように言うワンちゃん。

子犬な娘に好かれたいのは分かるけど、ウサギな娘がゲンナリしているのに気が付かない。

 

一方でフカは、とっくに気付いているのだが、ちょっと意地悪をしたくなって、ワンちゃんの話に合わせていく。

 

 

「こりゃ凄い。 汚物を一瞬で消毒出来るんじゃない? この銃でも出来るかね?」

 

「その武器と購入した擲弾の威力や性能は分からないからな、なんとも言えん。 だが今から試そうじゃないか」

 

「おうよ!」

 

「…………」

 

 

犬どもがキャンキャン騒ぐ中、様々な感情で心労したウサギは一度、深い溜息を漏らしてしまう。

特に楽しそうに会話している二人を見ていると、黒い感情が湧いてくる。

それでも真面目な彼女は、目を逸らさずに武器や二人の観察を続けた。 万が一、自身が孤立したときや武器を使うのを考えてだ。

 

例えば、ワンちゃんは銃撃戦が苦手だから、その辺をレンやフカがカバーしなきゃ。

グレランによる攻撃は爆発物だから、巻き込まれないように気を付けよう。 レンは接近戦は得意だけど、接近しているタイミングで榴弾は撃って欲しくない。 そんなコトされたら、敵と共にバラバラになってしまう。

 

そんな、なるべく真面目な思考をして、ドロドロした形容できない私欲を端へ追いやる。

内側が落ち着かないけど、コレは勉強。 勉強なのだ。 大切なコトだからやらなくちゃ。

 

そう抑えている間にも、二人の会話や距離は縮まっていくから、心身共に乱れるばかりだ。

 

 

「結構力持ちなんだな? 片手で銃を持てるとは」

 

「ふっ。 これでも鍛えてたからね。 このくらいなら二丁持ちとか、ほら。 余裕よ」

 

「最近の子は凄いな。 だが姿勢を安定させる為に、ちゃんと両手で持ちなさい。 ほら、左手で前に付いている……そう、グリップを握るんだ」

 

「えー? 爆発するなら、大雑把でも良いんじゃないの?」

 

「そういうな。 俺は誘導兵だから詳しくはないが、形から入れ。 それからだ」

 

「はーい、パパ」

 

「…………」

 

 

 

 

ワンちゃんが寄り添うように密着し、少し腰を曲げて視線を合わせつつ腕や手を握ったり、丁寧に構え方を教えていく。 フカも素直に言うコトを聞いて騒がない。

 

やっているコトは物騒だけど、親子のやり取りにも見える。 それに珍しくも、レンが嫌う問題が起きる気配がない。

 

 

「……むぅ」

 

 

だけど、ウサギは不機嫌になるばかり。

問題が起きない方が良いのは違いない。 だけど、やっぱり、二人が密着しているのは面白くないのだ。

理由は上手く言えないけど、心がドロドロしてきて気持ちが悪い。

 

コレでふざけていたら「真面目にやれ!」と一喝しつつ、二人を突き放せるのに……。

 

真面目にやってる二人を見て、何故ドロドロするのか。 良いコトのハズなのに。

さっきまで騒いでたから? らしくないから? 親友がEDF寄りになりそうだから? 自身が放置されているから?

 

……最初の頃は、荒らしなワンちゃんと一緒にいたくなかったけど、今は一緒にいたいから。

優しくて、どこか暖かい気持ちになれて、けれどおバカで世話が焼けて、ほっとけない。

でも、いざっていう時は頼りにしたい存在で。

 

そんな男は同時にレンの、GGOでの居場所。 その居場所が取られそうだと感じてモヤモヤするのだろうか?

 

しかし『仮想現実』の世界で、何を思っているのだろうか、とレンは区切りをつけようとしてみる。

 

悩む必要はないハズなのだから。 『現実』の方が大切じゃないか。

ワンちゃんとの付き合いだって、GGOの中やメール止まり。 その程度の関係。 リアルで会ったコトはない。

 

だから。 いつかゲームから離れるとき、ワンちゃんとの関係も冷めていくだろう。

ゲームの世界。 そんなものだ。 だから、悩むコトは全くない。

 

 

けれど。

その事実が、関係が苦しいのは何故だろう。

 

 

自身の真面目さと私欲が、疲労で混合して答えが出ないレンだったが、なら両方満たせとばかりに声を出す。 悩んでも仕方ない。 今は行動あるのみだ。

 

 

「えっと。 わたしもその武器、習いたいんだけど」

 

 

遠慮がちに習いたい、と言ってみる。

これなら教官となっているワンちゃんと会話したり側にいられるし、グレランについて学べるから一石二鳥。 問題なんてないね。

 

ところが、小悪魔がいたコトを失念していたのはイケなかった。

ソイツはニヤリと笑うと、ウサギの心を更に弄んで楽しむべく、言葉を発する。

 

 

「おっ? レンも惚れた?」

 

「ふぇっ!?」

 

 

フカはレンの心にダイレクトアタックをぶちかます。 内なる大きな爆発を抑えきれず、レンは激しく動揺。

そこに敢えて逃げ道を与えてやる。 その先の、レンの反応見たさで。

 

 

「この銃に」

 

「ああ! うん、そう! 持ちたいなぁって!」

 

「そうだよねぇ? 素敵だもんねぇ?」

 

 

コクコクと激しく首を縦に振るウサギ。

そんなサマが面白くて暗黒微笑(だぁくねすすまいりんぐ)を浮かべて楽しむ小悪魔な子犬。 親友で遊ぶとか、なかなかのワルだよ……。

 

 

「てなワケで。 もう片方を貸してやろう! パパ、レクチャーよろしく!」

 

「任せろ。 といっても、知っている範囲でだが」

 

「え、えっと、うん。 二人ともありがとう」

 

 

でもなんだかんだいって、援護してやるのは良い点か。

フカは使っていない方のグレランを渡そうとして、ワンちゃんもレンを受け入れる。

ワンちゃんの場合は最初からそうしろと言いたいが、自分で気付かなきゃ意味ないので……。

 

さて。 一応の目的が達成されそうな雰囲気になってきたが。 残念ながらワンちゃんやEDFがいて平和に終わった試しがない。

早速というか、突如ぽんっ、という音が荒野に響く。 それはフカのグレランからではない。 遠くから僅かに聞こえたもの。

これが小銃のような、たんたん、とかダダダダッ、という重低音なら警戒するだけで済ませられただろう。 ああ、遠くにプレイヤーがいるな、気を付けるかで終わりだ。

 

でもこの音の場合は……。

特にワンちゃんの場合、戦時の悪友との日々がフラッシュバック。 すぐさま《電磁トーチカ》の装置を両手に抱えて状況に備えた。

 

 

「ん? 他にもコレを持ってるプレイヤーが?」

 

「それは厄介だね」

 

「伏せろ!?」

 

 

余裕のある声を出す二人をさし置き、唯一、ワンちゃんが行動を起こす。

迅速にプラネタリウムの装置のような《電磁トーチカ》を設置、起動。 半透明な青白いエネルギー系の壁を前面に作り出すと、側の二人をギュッと手元に抱き寄せて、壁に対して背中を向けしゃがみ込む。

刹那、耳をつんざくデカい爆音。

 

ドコォオンッ!!

 

 

「ぐっ!」「うおおっ!?」「うひゃあ!?」

 

 

同時に衝撃が背中を押した。 フル装備のワンちゃんだったが耐えきれず、悲鳴と共に地面を転がされてしまう。 それでも娘を守ろうと、二人のコトはしっかり抱きしめる。

ソレを嘲笑うかのように、ぽんぽんと連続で音が。 考えるまでもない。 攻撃されているのだ。

 

ワンちゃんは素早く立ち上がると、二人を抱き起す。 こりゃヤバいとばかりに。

 

 

「走れるか!? あの大岩まで逃げるぞ!」

 

「え? え?」「ナニゴト!?」

 

 

二人の手を取り、ワンちゃんは一際デカい大岩まで走り出した。 走力ならレンやフカの方が上なのだが、混乱している二人に指示を出すのは酷かとの判断だ。

彼女らはベテランプレイヤーなので多少問題無いと思うのだが、ワンちゃんからしたら幼い子どもだ。 保護欲や大人としての役割等を考えて、この行動になった。

 

そんな三人が走り出したとき、背後で再び連続の爆発。

今度は電磁トーチカの装置前方で爆発が起き、1発は偏差でほぼ装置の位置で爆発。 爆風はエネルギー壁を通り抜けて地面ごと吹き飛ばし、そのまま装置を吹き飛ばしてしまう。

 

電磁トーチカは銃弾や光学兵器も防ぐけれど、爆風は防ぎきれずに通過させてしまうのだ。

 

そんな一部始終を振り返って見たレンは驚いた声を出す。 敵の場所が分からんのだ。

 

 

「どこから!?」

 

 

周りを見渡しても人影を確認出来ないばかりか、バレット・ラインも見えないとは。

 

スナイパーの類か?

それとも潜伏系スキルで近寄られて撃たれのか見えないところにいたのか。

 

混乱の中での思考に答えるかのように、ワンちゃんは走りながら声を出す。 背後は見ていないが、レンが見た光景や疑問に安易に検討がつく。

 

 

「俺たちのいた場所は遮蔽物が多く、通常の銃なら高所か近寄らねば攻撃は困難だと思うが……大きく山なりに弾道を描くグレランなら出来る芸当だ」

 

「えっと」

 

「音が遠くからだったろ? 砲撃、と言えばしっくりくるか」

 

「……あっ!」

 

 

レンは合点がいったようで、納得し……そして青ざめる。 そんな戦法があったかと。

そして、ソレをやられているわたし達はピンチなんだと。

 

とりあえず、大岩まで生きて辿り着いたワンちゃん達。 VRなので息が切れるコトはないし、ワンちゃんも軍属なのもあり、これくらいは平気だった。 問題はこれからどうするかである。 これ以上撃ってくる音はしないけど……。

 

ここで、未だに状況が分からないフカは首を傾げてレンに尋ねる。

 

 

「どういうこと?」

 

「この銃の弾頭は山なりに、放物線を描くでしょ? だから遮蔽物越しに、安全に攻撃できるんだよ」

 

「そんなところだ」

 

「でも撃ってる側はコッチが見えないよね? テキトーに撃ってのまぐれ狙い?」

 

「位置がバレていたんだ。 たぶん、俺がグレランを使用した時か。 音から位置に当たりをつけて、こちらに着弾するように射角を上げて撃ってきたのだろう。 勿論、射手は目標が見えないから大凡で撃つコトになるだろうが……何せ榴弾だ。 目標に直接当たらずとも、爆風で攻撃出来る」

 

「えーっと。 うん……厄介ってコトね」

 

「フカ、飲み込めてないでしょ」

 

 

ワンちゃんは話しつつも大岩の陰から様子を見て周囲を確認。 やはりか、人影はいない。 遮蔽物に隠れているか、遠いところか。

 

 

「だが、それでも当てるのは難しい。 銃の癖を把握していても、見えない目標に当てるワケだからな。 移動する目標なら尚更だ。 だから味方に弾着観測を行って貰ったり、発煙弾を焚いて貰って目標の位置を教えて貰う方法等があるが……犯人は一人だろう」

 

「なんで分かるの? ワンちゃんの言うセンサー反応ってやつ?」

 

「ああ。 そしてソイツは……青い表示で……あー、コレは俺の予想なんだが」

 

 

ココで歯切れ悪く、唸るワンちゃん。 この状態で言い辛いのだろうか。 敵が強いとか?

でも状況が悪いコトに違いはないし、ならレンとしては情報が欲しい。

ワンちゃんはおバカだけど、戦闘では頼りになる隊長だ。

チートを抜きにしても、指揮能力は頼りになるから、ソコに協力を惜しむつもりはない。

 

フカも同様らしく、ワンちゃんの言葉を待っている。 一丁のグレランを、教えてくれた通りに両手でしっかりと構えてニッと笑っている。 殺る気満々だ。

そしてレンはキリッとした顔になると、我らが隊長を安心させるべく頼もしい言葉を投げつけた。

 

 

「予想でも良いよ。 敵が強くてもワンちゃんは何とかするでしょ? わたしだって協力する!」

 

「ニュービーだからって舐めてるのかねぇ? ALOで鍛えた元妖精さんのチカラ、見せてやるぜぃ?」

 

 

幼女たちが勇敢な姿勢を隊長に見せつける。 ここまでやられては、ワンちゃんも応えないワケにいかず。

やがて決心したのか。 重々しく、予想を話していく。

 

ただ、それはレンにとって、憤慨したくなる内容で……。

 

 

「犯人は恐らく、爆発物やその手の銃火器を好んで使用する、爆弾魔でもあり《グレ男》と呼ばれている……その、俺の、悪友の可能性があってだな……EDFレンジャー隊員なんだが」

 

「またEDFかああああ!!」

 

 

ワンちゃんが言い終わる前に、レンは叫んだ。 心の底から。

 

フカやワンちゃんがその声にビビっている間に、ぽんっ、という音が鳴り響く。

そしてワンちゃん達が隠れている大岩の、前方で爆発が起きた。

 

それはウサギの怒りを表しているようで、二匹の犬はガタガタ震える目に遭った……。




ウサギは爆発(感情的な)してしまったけど……。
次回、グレ男なる隊員が?


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そろそろ反撃のお時間。

不定期更新中。

EDF隊員は恐ろしい。


 

EDFに属する隊員らは、厳しい訓練と実戦で鍛えられて身体能力や技術は総じて高い。

様々な銃種やビークルを扱える他、ローリングすれば街灯やガードレールを吹き飛ばし、どんな高所から落ちても怪我ひとつなく、狙撃銃で600メートル以上先の目標物に走りながら当てたり、ジャンプしながら当てたり、補助装備でレンの何倍もの速度で走ったり出来る。

扱う銃器類もGGO世界より強力で、彼らと真正面から戦えば、木っ端微塵にされて秒殺待ったナシ。 一言にまとめると変態だ。

 

……そんな変態な隊員に榴弾をブチ込まれ続けるワンちゃん一行。

グレランによるもので、放物線を描いて飛んで行く特性を利用した遠方からの攻撃だ。

榴弾が山なりに来るので、遮蔽物を越えてくるのが厄介。 隠れるワンちゃん達に直撃する危険があり、そうなりゃバラバラだ。

しかも此方が見えないのに加えて弾着観測ナシに、移動している此方をそれなりの正確さで攻撃してくる。

銃の癖を知るのみでは出来なさそうな芸当だ。 音やセンサー反応で爆撃しているにしても……隊員スゲェ。

 

そんな隊員から身を守らねばならないという、今の悲しい状況であるが。

 

電磁トーチカは爆風を防ぎきれないのでアウト。 ビークルを要請しようにも投下地点を知らせるスモークを焚くのは危険過ぎ。

離れた所で焚けば安全だろうが、ビークルに乗り込む前に破壊されるのが目に見える。

 

空軍や砲兵隊に要請して殺すのは容易いのだが、仮にも仲間だ。 そんな後味の悪くなるコトはしたくない。 空軍も砲兵隊も望まないだろうし。

というわけで攻撃の類は却下だ。 だけど攻撃は続くし、ソレから娘達を守らねばならない。

 

そして、これらに加えて…………。

 

 

「EDFって、ホント何なの! やっぱ敵だよね!?」

 

「どぅどぅ!」

 

「落ち着け! 冷静になれ!」

 

「殺す! ついでにワンちゃんも殺す!」

 

「うわあ! 目がマジだよ!?」

 

「俺はついでなのか!? ついでの存在なのか!?」

 

「うるさい駄犬!」

 

 

荒ぶるレンがいる。 そして殺されそう。 状況はまさにカオスだった。

 

さっき慕ってるような目を向けて来てくれたのに……今度は殺意の目なんて。

娘にヤられるとかさ、もうね、精神的にも辛いのよ。

 

もうナニ、この縛りプレイ。

インフェルノとは言わないけれどさ、誘導兵には辛くね? 娘に殺意向けられるとか、キツくね? パパ、大人だけど泣きたい。

 

そう思うワンちゃんだったが、レンが荒ぶる要因にはワンちゃんが大いに関わっているので、自業自得ではある。

 

過去今まで航空機やらミサイル群やら乗り物による攻撃というチート行為、本人のおバカさ。

そして無関係ではないだろう、スタート地点の不法占拠や勧誘、銃器の売買、それらによるプレイヤーへの迷惑をやってきているのだ。 それはもう、身内の恥……。

 

抑えていた欲求不満は、隊員からの攻撃がトリガーとなり、その小さきお口から言葉となってフルオート、或いは榴弾で飛び出て来てしまったのだ。

 

 

「ワンちゃんの仲間でしょ! 何で攻撃して来るの、あり得ないでしょ!? それともPKのノリ!? だったら何時ものチートで殺しちゃっても良いよねぇワンちゃん!? てかEDFって何がしたいのか分からないよ!? 《グロッケン》のスタート地点を占拠してるのも皆に迷惑だしチートも迷惑だし! それに《荒らしのワンちゃん》なんて有名になった所為で側に居辛いんですけど! それに美優にばっかり構ってわたしのコト放置だしさぁ!!」

 

 

最後の私欲の方だけチカラ強く述べ終えて、ゼェゼェと息を切らすウサギ。

あの真面目な子が、ココまで感情的に叫ぶとは。 親友の本名まで出している辺り、結構ガチだったのだろう。

気迫に押された二人のワンコは今まで調子にのってすんませんとばかりに、しゅんと大人しく、素直に謝った。 本当の犬なら尻尾下げて「くぅん」と鳴いていそう。

 

 

「レン、えと、ごめん」

 

「すまない」

 

「……わたしこそ、叫んで、ごめん」

 

 

一通り叫び終わって、気が済んだのか。 数秒静寂が訪れて気不味い空気に。

そんな気不味さを吹き飛ばすように、ぽん、と音がして……少しの間を置いてワンちゃん達の背後の方に着弾、ドゴォンと爆発。

 

いかん。 さっさと解決しなきゃ。 でなきゃ死ぬぅ。

 

 

「あー、よし。 作戦会議だ。 のんびりは出来ないが」

 

「うん、分かった。 どう倒すか、だね?」

 

「……すまないが、こんなでも仲間なんでな。 殺さずに拘束する」

 

「もう殺そうよ。 私たちを殺そうとしてくるんだよ? 敵だよ」

 

「まー、最悪はこの武器でドカァンといくよ?」

 

 

怒りが収まれど、殺意は収まらないレン。 フカも、そういうゲームなんだろうと自己完結している。

 

確かにGGOはPK推奨という、珍しいかもなゲームだ。 故に他プレイヤーの武器装備や経験値欲しさや快楽の為に、殺し殺されるのは通常運転の光景なのだ。 ホールドアップを狙うのは稀じゃないだろうか。

ただ、EDF隊員は他プレイヤーと大きく異なって、死に戻りが出来ない。 つまり死んだらそこまでのハードコアモードだ。

彼らはVRで本当に生きている。 能力も武器装備もGGOには存在しないし強力であるから、時にチート扱いや迷惑な存在として白い目で見られても、EDFからしたら「遊びで殺しあって、何度でも生き返れる連中に言われたくねぇ」である。 つまりマジ。

 

そのマジの中に含まれるワンちゃんは、一瞬言葉に詰まったが……今は時間がない。 現状打破の話を優先したい。

 

 

「ヤツに近寄ろうにも道中で攻撃されるだろうし、何とか近寄れても逃げられるだろうな」

 

「わたしの足なら追いつけるんじゃない?」

 

「レン……確かに速いが、ヤツは《アンダーアシスト》という補助装備をつけている。 だとしたら、ヤツはレンの何倍もの速度で走れる」

 

「な、生意気な」

 

「それに、ヤツは格闘戦も出来る。 近接戦になっても油断は出来ない」

 

「じゃ、どうするのさ」

 

「やっぱ殺そ?」

 

「いや、ヤツにとあるコンバットフレームをくれてやる。 それで弱体化……いや、鈍足になるハズだ」

 

 

そう言うと、スモークグレネードを手に持つワンちゃん。 輸送機に投下地点を知らせるものだ。

この様な状況下では立ち上るスモークで、此方の位置や攻撃目標を相手に与えてしまうので、使用するのは危険。 普通の使い方なら。

 

 

「え? どういうこと?」

 

「投下地点をグレ男の近くにする。 ヤツ好みのモノをプレゼントしてやるのさ」

 

「え、いや……それ、相手を強くしちゃうんじゃないの?」

 

「火力は上がるな。 代わりに足を奪える。 そこを俺が襲って、無力化する」

 

「う、うーん?」

 

「つまり、作戦はこうだ」

 

 

首を傾げる娘達に説明するワンちゃん。 それは本当に大丈夫なんでしょーか、と眉間にシワを寄せたくなるような内容であった……。

 

 

 

 

 

ワンちゃんのスモークグレネードの遠投は上手く行き、グレ男の近くから煙が上がる。

センサー反応を見るに、グレ男は砲撃要請だと思ったのだろう、円形のセンサー画面上で青玉が凄い速度で移動しているのが分かる。

やはりか、アンダーアシスト装備だ。 レンが追いかけっこしても、離されてしまうだろう。

 

 

「ねぇ? 本当に上手くいくの?」

 

「普通、敵からのモノって怪しむよね」

 

「ヤツは普通じゃない。 攻撃してくる時点でな。 ともあれ、様子を見よう」

 

 

岩の陰に篭って1分くらい。 センサー反応を見ると、水玉がスモーク地点に戻ってきた。

ゆっくりと移動しており、警戒しているようだが……やがて視界にブツが飛び込んだのか、凄い速度で移動し……今度は物凄い遅さで動き始めた。 コレは間違いない。

 

 

「よし。 ヤツはコンバットフレームに乗り込んだ。 行動開始だ」

 

「罠の可能性は?」

 

「ない、とは言い切れないが、ヤツに限っては心配しなくて良い。 ただ火力が凄まじいから、正面に入らないようにしろ」

 

「う、うん」

 

「分かったぜぃ」

 

 

片や不安そうに、片や笑顔を振り撒きながら前進する幼女2名。 ワンちゃんはその背後を見送っている。

今回は娘にも協力してもらう様子。 いつもワンちゃん1人でドンパチしていたが、今回は拘束というから難しいのだろう。

最前線はワンちゃんが立つだろうけれど。

 

 

「さて。 目には目を。 コンバットフレームにはコンバットフレームを、とはナンセンスだろうが……機動性が大切だ。 味方のレンジャーがいれば《ミニオンバスター》を持たせたいところだった」

 

 

1人になったワンちゃんは、もうひとつのスモークグレネードを下投げで転がすと地面に落下するのが先か後か、赤い煙が上がっていく。

 

今、要請したのは、この煙と同じカラーリングの機体。 近接戦用で機動性が優れた《レッド アーマー》だ。

そしてグレ男にくれてやったのは《ニクス グレネーダー》。 火力では此方が圧倒するが、代わりに機動性は皆無と言って良い程に遅い。

 

グレ男は名の通りグレネードといった爆発物を好んで使うが、それはビークルも例外ではない。

レンジャーでは要請出来ない《ニクス グレネーダー》を見せてやれば、ヤツは興奮して罠の可能性も考えずにホイホイ乗り込むだろう。 そこにつけいる作戦だ。 鈍足になったところを一気に接近、コンバットフレームを無力化してヤツを拘束。

かなり危険だし我ながらアホな作戦だと思うが、旧知の仲だから出来たコトかも知れない。

 

 

「EDF同士の戦いか。 笑えないな」

 

 

投下されたコンテナ側面の、EDFの文字を見てぼやくワンちゃん。

それでも自身と娘たちを守る為、そして悪友のグレ男にオシオキする為、コンテナが消えて現れた赤き機体に乗り込み、素早く起動。 膝をつく姿勢から素早く立ち上がる。

 

そしてウサギ跳びのように、荒野をピョンピョンと跳ねて高速移動。

もちろん、移動先はグレ男の乗る《グレネーダー》だ。

 

EDF隊員同士によるコンバットフレーム戦がまもなく始まる。

 

ただし、ワンちゃん側には頼もしいちびっ子達がいるのを忘れてはならない。




次回、グレ男とドンパチ。 ロボット対戦ゲーじゃないけれど、EDFがいるからね、多少はね?


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赤いヤツは強いに決まってるけど、幼女も強い。

不定期更新中。 駄文続きですが……。

グレ男とのコンバットフレーム戦。
そして幼女たちによる弾着観測。 大会の序盤でレンとフカがやっていたアレ的な。


 

レンジャーな見た目のグレ男。 戦闘服のカラーリングはデフォルトな灰色。

 

その無表情な顔とグラサンからは分からないが、今の彼は天からの贈り物に歓喜し身を震わせているトコである。

 

最初こそ、近くで赤色の煙が上がった時は砲撃要請をされたと焦ったが、降って来たのは砲弾ではなくコンテナだった。

警戒して内容物を確認すれば……なんと素晴らしきコトか!

 

目の前に見えたるは《ニクス グレネーダー》……コレは良いものだ!

 

武装がグレネード系だけの偏ったコンバットフレームで。

右手にグレネードランチャーと左肩部にキャノン砲のような、特殊なグレネード射出装置を備えている。

 

明らかに重量感ある見た目で機動性皆無で使い勝手が悪く、実際に悪くて誰も使わなそうなこの型だが、グレ大好きグレ男にとっては嗜好品。

 

知った彼は喜びを表現するべく踊り始める。

リズミカルにステップし、腕と腰をくねらせつつもEDFと叫んでしまう程に歓喜し、そして抱きつくようにコックピットへ。

 

例え隊長の罠だと分かっていてもだ。

目の前に好きな機体が現れたら動かしたいのが性である。 コイツとひとつになりたい。

これは譲れん。 俺のモンだヒャッハー!

 

男なら分かってくれると信じる。

コックピットの操縦桿や所狭しと並ぶスイッチ群に様々な計器類。 誘っているとしか思えない。

外見の重装備と厚い装甲に加えて中まで唆られる光景を見せられては興奮しちゃう。 使わなきゃ男が、グレ男の名が廃る。

 

そう。 ちょっとだけ。 ちょっとだけだから。 歩いて武装を使って、隊長と戦ってヒャッハーしたら降りよう。 そうしよう。

 

そんなちょっとどころでなく思いっきりドンパチする気のグレ男だが、操縦技術の腕も良いのは確かだ。

 

それを証明するようにして、素早く起動シーケンスを終わらせて立ち上がる。

後は時限信管の榴弾が飛翔中に爆発せずに済む範囲に移動すれば良い。

 

徒歩かそれ以下の速度しか出せないが、そこは了承しなければな。

 

え? それなら搭乗しないで手持ちの接触信管の榴弾を射出するグレランで戦っていれば効率良いって?

 

違うんだよ、ロボに乗って戦いたいんだよ。 ロマンに効率を求めてはならない。 娯楽は必要だ。 彼は戦前も戦時も戦後も、ソコだけは大切にしている。

 

周囲なんて知らない。 俺は俺だ。 自分を見失うな。

戦時の末期戦は特にそうだった。

 

その点、少佐の部下は人類が追い込まれる中での悲鳴と恐怖、絶望を聞き続けて疲労困憊した結果『……神を探しています』なんて言いやがった。

三年以上前の話で、今の彼女は立ち直ってはいるものの、当時の発言には本気で恐怖したものだ。

絶望を受け入れるのは難しいが、あるかも分からない希望に縋った挙句、そうなりたくはない。

いや、最終的に希望はあったがな。 でなければ今のEDFはないだろう。

 

ともあれ俺は俺で楽しませて貰う。 変に気負わない。 そのキーパーソンは隊長殿だ。

 

 

『投降しろグレ男!』

 

 

そしてこうやって、思考の海に沈んでいると隊長の声がサルページしてくれるから、ワクワクさせてくれる。

 

カメラ越しに周囲を探せば、凄い跳躍で一気に距離を詰めてきた赤いコンバットフレームが。

 

 

隊長だ。 人類の首を薄皮一枚で何とか繋ぎとめた英雄だ。

 

 

いやはや。 砲撃や空軍の支援に頼らずに来たということは、いつも通り拘束する気らしい。

 

異世界に来ても隊長は隊長か。 甘くて優しくて、なにより強い。

 

今回は拘束を避けるためにグレランによる砲撃を敢行していたものの、今からコンバットフレームによる近接戦闘になる予感しかない。

 

 

隊長といるとやっぱり楽しい。

 

隊長がいなければ、あの世界は味気ない。

 

『人の声が響かない地球』は辛く寂しい。

 

 

生きていると実感出来る感覚。

戦後の無法者や残存する怪物との戦闘では最早足りない。 重火器で派手にやるだけでは、ただただ虚しい。

死んだように生きる、生存者になりたくない。

 

 

隊長が。 隊長だけが世界を満たす。

 

 

グレ男は肩部の特殊なグレネード射出装置《エクスプロージョン》のトリガーに指を添えた。

グレランも合わせて構える。

 

機動性がない《グレネーダー》は自爆要素含めて近接戦闘は苦手だが、まあ、それを狙ってきたのであろう隊長だけど。

 

銃だけが全てじゃないのは、隊長がよく知っているだろう?

 

さあ、遊ぼうか隊長。 もう戦争は終わったのだから。 この世界でも命のやり取りを、生きている実感を味わおうじゃないか?

 

 

 

 

 

「おお! 特撮を見ている気分だよ!」

 

「……わたし達じゃ、手に負えないんじゃないかな」

 

 

その日。 レンとフカはロボット大戦を目の当たりにする。

プレイしているゲームはGGOで間違いないから、その点は安心してね。 EDFが間違っているだけだから。 存在からして。

 

だが起きちゃっているモノは仕方ない。

子犬は格好良いロボな格闘バトルに興奮し、相方のウサギは戦う前から負けた反応。

運営としては、頼むから《グロッケン》で暴れるなよと願うばかり。

 

それくらい、二機のコンバットフレームの戦闘は激しかったのだ。

 

 

「巻き込まれたら死ねるわ」

 

「それでも、うん。 頼まれたコトはやろう」

 

 

そう言いつつも、移動をせずにもうちょい観戦。 目の前の迫力ある光景に目を見張るチビっ娘コンビ。

 

質量を持った金属の凶器が殴り合い、相撲を取り、時々互いに銃口を向ける度に榴弾による爆音や機関銃の銃撃音、火炎放射器による空気の膨張音や被弾時の金属音、脚部や腕部、腰部の駆動音とブースターの噴射音。

 

普段のプレイヤー間による銃撃戦も喧しいが、コレはそれ以上に喧しく見応えがある。

喧しさで勝負している様なEDFだ、ナメてはいけない。

戦時も戦後も、火力だったり絶望を含めた叫び声だったり歩兵隊の歌でギャーギャーしている連中だ。 その中にはワンちゃんもグレ男も含まれる。

 

たったふたり。 されどふたり。

 

EDFの搭乗式強化外骨格《コンバットフレーム》による大騒ぎは荒野を荒れに荒らす。 まるで嵐のように。 フカの言う通り巻き込まれたら、痛がる余裕すらなく死ねるだろう。

 

 

「ワンちゃんの赤いロボット、まるでウサギみたいに飛び回って面白い」

 

「相手の視界の外に出て腕や脚、武装を狙っている動きだね。 無力化しようとしているんだよ」

 

「でも相手……あー、グレ男だっけ? あっちもやるね。 脚は遅いけど、組みついてきたらぶん殴ったりカウンターとったり。 あー、剣か斧があればなぁ!」

 

「格闘も出来るって言っていたけれど、そういうコトなのかな」

 

「わたしも出来るぜ?」

 

「ここは銃の世界じゃぞ、妖精さん」

 

 

こんな状況でもユーモアのある会話をするレン。

信頼し合える間柄なのもあるけれど、戦っているワンちゃんを信じているのが強い。

 

まあ、銃の世界とはいえど格闘戦が無いワケではない。 ラ◯トセーバーな剣もGGOには存在しているし。 EDFなんて槍やらランスで銃を持った相手と戦ったりする。

 

ただEDFの場合は特殊過ぎる。 参考にしてはならない。

真似した日にはもれなく蜂の巣に変貌。 Mなクマさんも首を横に振るだろう。

やっぱり基本は銃だよ。 剣と魔法なファンタジー世界じゃないのよココ。 オールドタイプにゃ真似出来ないんだよ。

 

 

「それじゃ、そろそろやりますか!」

 

「うん。 行くよ、相棒」

 

 

そんなワケで、ふたりは銃で戦うべく行動を開始。

 

フカはGGOでの実戦は初めてだが、不安の色は全くない。 任せる側も安心させるくらいの笑顔と意気込みでグレランを両手でしっかりと持つ。

もうひとつはスリングで背負う。 弾が切れたら此方に取り替えるのだ。 グレランは回転弾倉内のリロードが手間なので、もう一丁あるなら、この方が早い。

 

一方でレンは銃の代わりに単眼鏡。 観測対象との距離が分かる優れもの。

ワンちゃんが蝶よ花よと色々奢ってくれるお陰で浮いたクレジットにより、購入したものだ。 取り出すついで、念の為に格闘戦用のナイフを腰につけておく。

 

銃の世界と言っても、格闘戦を軽視しているワケではないからね。

流石にコンバットフレーム相手にナイフを使おうとは思わないけれど。 勿論、P90コトピーちゃんも使わない。 あくまでグレ男が生身になったとき用だ。

あのロボット、フカのグレランはまだしも銃弾が効くとは思えないし。

 

 

「フカは、この位置で隠れていて。 わたしは高台に移動する」

 

「おっけー」

 

 

そう言って、レンはリアルなら世界記録を更新する凄い速さで、見晴らしの良い高台へ走り出した。

そこには突然攻撃された時のような、戸惑いは感じられない。

 

たったふたり。 されどふたり。

 

ふたりの隊員も強いが、この幼女ふたりも強いのだ。

 

 

 

 

 

『それじゃワンちゃん! いくよ!』

 

『パパー。 当たったらゴメン。 先に謝っとく』

 

「構わない! やってくれ!」

 

 

無線越しに愛娘たちの声が聞こえたから、ワンちゃんは返答しつつグレ男からバックステップで離れる。

レッドボディの機動力を持ってすれば、距離を詰めるのも空けるのも容易に行えるから便利だ。

 

ただし距離を空けたのは視界を確保する為で、別に格闘を恐れているワケではない。 目的は別にある。

 

刹那。 離れたところでぽん、という小気味良い音が響き、間を置いて爆音。

グレ男の操るグレネーダーを飛び越えて、かなり離れたところでクレーターが出来上がるのが見えた。

 

 

「良し。 レン、初弾の弾着位置を観測しているな? そこからどの方向に修正すれば良いか、フカに指示しろ」

 

『ワンちゃんは指示しないの? たいちょーでしょ?』

 

「操縦で手一杯だ」

 

『それにしては口、回るじゃん』

 

「ふたりを信じているだけさ」

 

『とか言ってると、次にはワンちゃんに直撃したりして』

 

「コンバットフレームは堅牢だ。 気にせず撃ってくれ」

 

『それじゃ、遠慮なく』

 

 

戦闘中だというのに、ペラペラ喋る程度の余裕を見せるワンちゃんとレン。

皮肉を言うことはあれど、信頼は装甲より堅そうだ。

 

一方でグレ男は第三者による攻撃に気がつくが、無視。 ワンちゃんとの戦闘を続行する。

 

センサー反応では離れた場所でふたり、別々の場所にいるのは確認済み。

地形から察するに、ひとりは高台から此方を見ている観測者。 もうひとりは遮蔽物の背後に隠れての砲撃。 弾着観測による攻撃だと直ぐに理解した。

 

同じグレネーダーだと思うと、ほぼ同じ戦法をとられても怒りは湧かない。 寧ろ大変嬉しくある。 まだ見ぬ同士に会いたい気持ちが出てきた。

だが今は無視だ。 隊長との戦闘を楽しんでいる最中であるから。

 

それに、構うことはない。

爆音や機体に当たる破片や風から察するに、コンバットフレームの装甲を抜くには程遠い。

逆に構おうとも、時限信管の弾頭が届く距離ではない。 空中で爆発してしまう。 どちらにせよ気にしない。 それより祭りだ。 祭りだヒャッホイ。

 

 

『修正。 もっと手前』

 

『あいよー』

 

 

レンが真面目な声で、フカに指示。 気楽な声でフカは了解。

そしてフカは射角を少し下げてトリガーを引く。 再びぽん、と音が響けば、今度はグレネーダーに直接着弾、爆発。

 

 

『直撃』

 

『やったか!?』

 

 

A.やってません。

爆炎を突き破ってグレネーダーが出てくると、肩部のエクスプロージョン……複数の榴弾をワンちゃんに撃ってきた。

予想はしていたので、素早く後方に飛び退ける。 同時にグレネーダーは右手のグレランを発砲。 ワンちゃんの予想着地地点に時限信管の榴弾を転がした。

 

 

「流石にやる!」

 

 

刹那、ワンちゃんのいた場所に散らばった弾頭が起爆。 大きな爆炎。

ワンちゃんは構わずにブーストを吹かして更に後方に着地地点をずらす。 すると足下の方で榴弾が起爆。 破片と爆風が飛翔中のレッドボディに当たるも、装甲に弾かれたので問題ない。

 

一方で命中したにも関わらず、何ともないグレネーダーに幼女組は驚愕。

フカのグレランでも駄目みたいですね……。

 

 

『うわぁ……直撃したのに、何ともないよ』

 

『マジで?』

 

「抜くには至らない威力だな。 やはり作戦通りやるとしよう」

 

『出来ればわたし達で始末したかったんだけど仕方ない。 フカ、ほんのちょい上にズラして、もう一発撃って』

 

『おうよ』

 

「……生身になったら、撃ち方を止めるように」

 

 

EDFへの殺意が残るレンは、物騒な言葉を言いつつも観測と指示を続けた。

直撃してもダメージが無さそうなロボに対して、これ以上どうしたいのか。

 

それは直ぐに分かる。

フカがもう一発撃てば、グレネーダーの足下に着弾、爆発。 地面を抉り窪みを作り出した。 実はこの穴が狙いだ。

 

 

『良いトコに着弾』

 

『おっ!』

 

「よくやった!」

 

 

チャンス得たり。

ワンちゃんはグレネーダー胴体にジャンプで飛び込むと、そのまま体当たりをブチかます。

相手の意図に気付いたグレ男。 しかし武装は間に合わない。 次弾を撃つのに、タイムラグが出来てしまっているのだ。

機動力もない為に避けられない。 武装による重量が仇になった。

せめての抵抗として、空いている左手でブン殴りにかかる。

 

 

「悪足掻きだ」

 

 

だが勢いを殺せるワケじゃない。 赤い機体はそのものが弾丸となり、グレネーダーに衝突。

質量を持ったモノがぶつかり、金属音が響き渡ると、グレネーダーはよろけて足下の窪みに片脚を突っ込んだ。

 

その所為でバランスを崩した機体は、勢いで後ろ向きに横転。 どーんと重量感ある音と共に砂埃を立てて横たえる。

側から見たら押し倒したように見える。 ロボの押し倒しなんて誰得過ぎる。 本人たちは真面目なんだけどさ。

 

 

『おお! 勝ったか!?』

 

「まだだ!」

 

 

ワンちゃんは叫ぶと、そのままグレネーダーに馬乗りに。 機体が動けなくなっても、グレ男を捕まえなきゃ意味がない。

 

左手の火炎放射器を投げ捨てて、空いた手……マニピュレーターでコックピットに手をかける。

当然、グレ男は機体をジタバタさせて退かそうとするが、ソコは歴戦のワンちゃん。 暴馬からの落馬はない。

 

 

「このっ!」

 

 

そのまま力ずくでハッチをこじ開けて、空いた隙間にマシンガンの銃身をねじ込んだ!

 

人に例えると、腹を抉って出来た穴に銃を突っ込んだところ。 エグい。

 

 

「遊びは終わりだ!」

 

 

この言葉がシメになった。

一瞬の静寂のち無線が入る。 愛娘たちじゃない。 若い男の、どこか嬉しそうにした声だ。

 

 

『負けた。 流石だ隊長』

 

 

グレ男だ。 好きなようにやって散々皆に迷惑をかけ続けている、EDFの爆発物大好き問題児。

 

 

「俺だけの力じゃないが」

 

『分かっています。 他の2人でしょう?』

 

「……ああ」

 

『ぜひ会わせて欲しい! グレネーダーとしては、是非とも挨拶したいのですよ!』

 

 

殺そうとしてきたのに、全く悪びれもなければ、厚かましいコトに娘たちに合わせろとまで言ってきた。

 

こういうヤツなのだ。 ワンちゃんは戦時から知っている。

知ってるからこそ怒る気力が湧かない。 一生そうなんじゃないかとも思える。

 

ワンちゃんは溜息を吐きながら、銃身を下げてやる。 それでもグレネーダーが動くコトはもうなかった。




コンバットフレームはテロリストとの市街戦を想定して開発された搭乗式の強化外骨格。 兵士を包み込むように保護。 爆弾などの脅威から守る。
人間同様に活動可能とのことなので、格闘を入れました。 ご都合主義ですが……。

グレ男無力化。 次回ご対面?


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増員

不定期更新中。 SJ2、もうすぐだ(長


EDFレンジャー隊員にして爆発物大好き問題児ことグレ男。

 

普通なら拘束するべきヤツだが、コイツなりのルールがあるらしく、負けを認めると抵抗を止める。

 

それを知るワンちゃんにコンバットフレームを爆破処理された後に連れられて、そのままウサギと子犬に合流した。

ホントは娘に会わせるべきではないのだろうけど、野放しに出来ないので……。

 

さて。 いざ合流してキュートなロリっ子戦士の姿を見た彼。

ピンク一色のウサギさんに、ログイン初日故の初期装備な服装の子犬。

 

特に子犬が持っているデザートタンなグレラン《MGLー140》を見て思わず驚愕。 声を荒げてしまった。

 

 

「なっ、コレはどういうコトですか!」

 

 

怒るようにグレ男は問う。 レンとフカの見た目は小さな女の子だったから。 銃を持って戦うにはハードな体格だ。

それにEDFとか関係なくて、普通に守るべき対象だろう年齢に見える。 子は未来であり希望なのだ。

そんな子を危険な戦場に連れまわすなんて……。

 

問題児のグレ男だが、子を思う心はあるらしい。 自身の気持ちを言葉にして、彼はワンちゃんに叫んだ!

 

 

「グレネードは老若男女関係ない、というコトですね! 言葉の壁も国境も!」

「お前のように平等過ぎて壁と仲間の区別なく吹き飛ばすヤツは許せんがな!」

 

 

違った。 ただのグレネード盲信野郎だった。

 

グレネードを持っていれば皆フレンズだと思っているのか。 色んな意味でフレンドリーファイヤ野郎である。

 

そしてウサちゃんズは攻撃されて「もう仲直りだね。 友だちになろう♪」とはならない。 ここはフィールドだ。 背中を向けた瞬間ナニされるか分からない。

 

レンはピーちゃんの銃口を向けつつ、蜂の巣に出来る用意をしておく。

セレクタはとっくにフルオートだ。

 

 

「……ねぇワンちゃん。 この人危ないよ。 殺しとこうよ?」

「おっと、ピンクの君。 俺に向けるのはストーク系ではなくUMシリーズの様なグレランにしてくれないかい? あっ、グレランの場合は弾種は問わないよ。 焼夷弾でも良い」

「フカ、やっちゃって」

「ヤっちゃうよ? 殺っちゃうよ?」

「撃つな撃つな。 話が進まん」

 

 

ご期待通り、グレランを撃とうとする子犬を止めるワンちゃん。

フカの榴弾は自爆を防ぐ為に、一定距離を飛翔しないと起爆しない仕組みになってはいるが……質量を持った弾に当たりゃ物理的に痛い。 下手すりゃ死ねる。

 

それに、こんな男でも仲間だ。

開戦から終戦まで最前線で闘い、生き延びた数少ない人類のひとり。 死んだら目覚めが悪くなる。

だが説教はしなければならない。 形式的に。

 

 

「おい! 《グロッケン》でこの《ヴァラトル・ナパームZD》を売ったのはお前だな?」

「おお! 隊長が買ってくれたのですか! 個人的には都民に買って欲しかったのですが、隊長が《リムペッドガン》だけでなくグレランの素晴らしさに気付いてくれたのであれば、『アリ』ですよ!」

「ふざけるな。 EDFの武器を売るんじゃない! しかも最終作戦仕様だぞコレ。 悪用されたら悲惨なコトになる! 分かっているのか!?」

「はい分かっております! 汚物が消毒されてEDFの知名度が上がり、同士が増えるんですね!」

「汚物はお前だグレ男! 一度焼かれて身も心も綺麗サッパリ消えて欲しいくらいだぞ!?」

 

 

全然分かっていないグレ男とギャアギャア騒ぐワンちゃん。

取り敢えず《グロッケン》の犯人はやっぱコイツでした。

 

その光景を見ているレンとフカは「やっぱ殺しても良いんじゃね」と思えてくる。

だってグレ男、反省してないし。 馬鹿は死ななきゃ治らないとも言うし。

 

 

「それと、何故攻撃してきた! 戦時中と同じ理由か!?」

「はい! 絶望の淵に沈む人類や地球に活力を与えるための余興です!」

「爆音と共に俺の悲鳴を聞くのが趣味か?」

「重火器の素晴らしさ、生きるコトの素晴らしさを伝えるには、隊長を攻撃するのが早いと判断しました。 英雄の隊長とドンパチすれば、隊員ないし生き延びた人類にも知れ渡り、同士が増えるかと!」

「またソレか! 何故そうなるんだ!?」

 

 

敬語(?)で話している辺り、ワンちゃんの方が立場が上のようだけど……攻撃してくるし、その理由が頭オカシイ。

 

やっぱり思考もやっているコトも問題だらけだ。 ワンちゃんやピトさんとは別のベクトルでヤベーヤツじゃね?

 

そんなヤツとはさっさとオサラバしたいレンだったが、グレ男は彼女らを高く評価していた。

その旨を伝えるべく、幼女たちにも絡んでしまう。 褒められると、ちょっぴり嬉しいモンだが面倒臭いEDF隊員に言われても正直微妙だった。

 

 

「時に後ろの幼き戦士たち! 素晴らしい闘いだったぞ! 榴弾の威力にばかり気を取られてしまったが、俺の操るニクスの足下にクレーターを作り出し転ばすとは! 戦術次第では歩兵でもニクスを倒せるんだと思い知らされたよ。 俺もまだまだ勉強不足だった」

「ど、どうも」「やったぜ」

「お前は戦術云々より良識を勉強した方が良い」

「はい! グレネードをもっと使いこなせるようにガンばりまっす!」

「……もう良い」

 

 

何たるグレ馬鹿か。 ワンちゃんは知ってはいるが、怒り疲れて閉口する。

どうせ何度言ってもグレネード愛は薄まりそうにもない。

 

 

「ところで、攻撃したのは俺だからだよな? センサー反応だけでは個人認識は出来ないから、別の場所から見ていたのか? それに、荒野にいるのはお前だけか? 何故ココにいる?」

 

「それはですね、《グロッケン》にいた隊員に頼まれまして。 『幼女を連れてストーム・ワンが酒場に行ってしまったから、事案が起きる前に連れ戻しに行って欲しい』と。 俺が酒場に着いた時は既にいなかったので、聞き込みを行いつつ荒野に来ました。 いやー、いて良かった」

「人をペドフィルみたいに扱った挙句に貴様を送り込んだヤツは誰だ!? しかも連れ戻しに来たのに攻撃したのか! 死体にしてから連れ戻そうとしたのか貴様は!?」

 

 

話を聞いてみたら、微妙な答えが帰ってきた。

まさか人類の英雄をロリコン扱いした上に問題児のグレ男をけしかけたなんて。

 

実のところ、別にその隊員に悪意があったわけではない。 純粋に英雄の身を心配して言ったのだが、二言くらい余計だった。

しかも戦後に入隊したルーキーだった所為で、グレ男を知らなかったのも痛い。

 

そんなモブルーキーにワンコが吼えていると、背後にいた愛娘たちが距離を置き始める。

互いにギュッと抱き合うように密着するキュートなふたり。 怖がらせてしまったか。

 

苦笑して謝ろうとしたワンちゃんだったが、次の瞬間には別の理由で離れたのだとワンちゃんは知る。 悲劇は続くのだよ。

 

 

「ワンちゃん、そんな目でわたし達を?」

「パパ最低。 今後近寄らないでね?」

「ぐはっ!?」

 

 

愛娘たちから《テンペストミサイル》が直撃したような痛恨の一撃。

本人たちは冗談でも、その阿吽の呼吸なコンビネーションの仕草が加わり、英雄は吐血して倒れる。

ヘルメットが内側から真っ赤に染まり、愛する者に見放された彼は生きる気力を失った……。

 

 

「鬱だ死のう。 嫌われた俺は……もう生きる資格が……再出撃も退却もする気も起きぬ」

「ずっと前から嫌われてるよ、ワンちゃん? 気が付かなかったの?」

「心配しないで下さい隊長。 この《グレネードランチャーUMAX》をブチ込んでやります! そうすれば再出撃か退却する気くらい起きますって!」

「それトドメ刺してるよね。 退却先は天国ってオチ?」

「爆発オチとかサイテー」

 

 

レンとフカは、キャッキャッとイジメて快楽を得る。 フカは元からの性格があっただろうけど、レンは今までの鬱憤から面白がっている様子。

少なくとも共通して機関銃に回転弾倉を付けたような《UMAX》を構えるグレ男を止める気は起きない。

 

距離的に考えて、撃てば二人とも被弾する。

EDFに『遠過ぎて起爆しない』弾はあっても『近過ぎて起爆しない』弾はない。

つまり仲良く爆死する気らしいが、くたばってくれるなら、この際何でも良い。

 

 

「バイバイ、パパ。 生まれ変わって身も心も綺麗になって来てね?」

「その前に綺麗に吹き飛ぶと思うけど」

「あははっ!」「ふふっ」

 

 

プレイヤーの《死に戻り》感覚な娘たちは、可愛い顔して悪魔みたいに嘲笑しやがった。 とても可愛がっていたのに……恐ろしい子!

 

寧ろこの発言がトドメになったのか。

ピクピクとキモく痙攣していたワンちゃんはピタリと静止する。

ある意味、戦時より絶望を味わっているかも知れない。

 

 

「あ、ワンちゃんが死んだ」

「ナニやってんすか隊長! 言葉責めでくたばるとか、らしくないです。 爆死以外、俺は認めませんよ?」

「爆殺なら協力するけど?」

「話が分かるな同士!」

 

 

あかん。 殺されるぅ。

 

さっきまでグレ男を敵視していたのに、今や結託してワンちゃんをイジメる娘たち。

コレもワンちゃんの人望がなせるワザだとしても、ちっとも嬉しくない。 死にそうだ。

 

そんな感じに盛り上がった勢いで、グレ男は気付く。 フカの持つグレランに標準器がないことを。

 

 

「むむっ。 キミの持つグレランには光学標準器の類がないな? 平気か?」

「え? GGOには《バレット・サークル》があるから、要らないっしょ?」

「ああ《バレット・サークル》か。 《グロッケン》でも聞いたが……弾着予測円だっけ。 この世界の人には見えてるんだよな……いやはや」

「また変な設定を拗らせて。 ホントは見えてるんでしょ?」

「残念ながら我々には見えていないのだよ。 まっ、そんなモンなくても俺たちは戦えるがな。 だが君の場合、弾着位置が見えて力持ちってんなら…………次から両手にそれぞれ持ってみれば? コンバットフレームみたいにさ。 それぞれの弾着位置も分かるし、爆発に次ぐ爆発……痺れない?」

「いいねいいね! やってみるか!」

 

 

今度はワンちゃんソッチのケで盛り上がりを見せる娘たち。

妙なことに、グレ男の誘惑でフカは二丁持ちスタイルになってしまった。

いや、ほっといても二丁持ちにしていただろうけれども。 原作みたいに。

 

さて。 結局爆殺されなかったワンちゃんは、この間にムクリと立ち上がる。

英雄が下らない理由で死ぬとか笑えない。 娘の言葉はイタイが、ピトやEDFの件もある。

今後を考えねばならない。

 

 

「あ、隊長が復活した」

「……話しているところ悪いが《グロッケン》に戻る。 俺たちにも用事があるし、EDFと連絡を取らねばならない」

「そうなんですか? じゃ、お元気で」

「お前も行くんだよ。 武器を売った罪を忘れるな」

「ちょ、勘弁! 助けてキュートな戦士たち!」

「グレ男さん。 ちゃんと罪を償おう?」

「まっ、今度別の武器でも見せてよ」

「君たちはどっちの味方なんだい!?」

「俺の娘だ、俺に決まってる」

「娘扱い? いやー、もっと別の待遇が良いんじゃないの、レン?」

「何でわたしに振るの!?」

 

 

EDFがいると戦場は良くも悪くも賑やかだ。

ギャアギャア騒ぎつつも、ワンちゃんはいつも通りスモークを地面に転がす。

部隊輸送を行える《武装車両グレイプ》だ。 人数も多いし、丁度良い。

 

 

「せ、せめて《ブラッカー》にタンクデサントさせて下さい」

「万が一攻撃を喰らったらどうする! 危険な行いはしなくて良い!」

「榴弾でヤられるなら本望です! あ、主砲は140ミリ長距離榴弾砲を希望」

「今度、E1型を要請してやろうか?」

「レンジャーでも要請出来る急造品の105ミリ榴弾砲じゃないですかヤダー!」

「A1型の90ミリ滑空砲でも良いぞ」

「貫通より爆発っすよ! テロリストとの市街戦に対応してE1型が普及したんですしおすし」

「よく分からないけど来たよ、いつもの!」

「おー! 飛行機が来たよ!」

 

 

グレ男とワンちゃんで、ブラッカーの型番や搭載主砲についてギャアギャア騒いでると、いつものコンテナが投下される。

 

フカは見るのが初めてなので、これまた興奮しているが、レンやワンちゃん、グレ男は何度も見ているので騒がない。 慣れって怖い。

 

 

「おっ、中からクルマが!」

「グレイプだ。 後ろの扉から入ってくれ」

「前回のSJで活躍したよね」

「隊長。 砲塔のコレ、榴弾砲ですよね?」

「榴弾砲だ」

「なら乗ります!」

「榴弾砲なら何でも良いのか、お前は」

 

 

いつまでも荒野で騒いでいるワケにはいかない。

さっさと《グロッケン》に戻るべく、皆は乗り込んでいく。 運転は例によってワンちゃんだ。

 

助手席はクマ……ではなく、今回は子犬とウサギ。 いや、なんで助手席に来たのか。

小柄な身体でもふたりも来たら狭いだろうに。

 

 

「……フカ、レン。 なぜ俺の隣に?」

「いやぁ、パパの運転を見てようかと思ってね」

「その、わたしは……ワンちゃんの見張り」

「人気者なんですね、隊長?」

「茶化すな。 あー、そこでも良いがな、ベルトは締めてくれ。 俺もなるべく安全に運転するから」

 

 

ふたりの本心はどうであれ、隣に居たいというなら突き離すこともないか。 ワンちゃんとしても内心嬉しいし。

囚人護送をするつもりが、娘とのドライブだぜヒャッホイ。

 

ワンちゃんはゆっくりとアクセルを踏んで、急な運転をしないように心掛けた。

緊急時は仕方なくとも、それ以外は平時の運転をしてみよう。

 

 

「俺も隊長の隣行って良いっすか?」

「全力で断る」「えー?」「ヤだよ」

「……冷たい親子っすねぇ」

 

 

 

 

 

 

荒野のスカウト隊員からの報告にて。

 

二体のニクスが《グロッケン》から少し離れた場所にて戦闘状態であったとのこと。

近接戦闘用のレッドボディと、重武装のグレネーダーだったのだが……主に肉弾戦だったらしい。

 

それは良い。 いや、良くないのだが……戦後の『事故事例』で同類のコトは時々あった。

アレだ。 ストーム・ワンとグレ男だ。 大抵はストーム・ワンの操るレッドカラーで鎮圧される。 何の心配もない。

 

だがしかし。 次にもたらされた報告は隊員が騒つく事態となる。

 

 

「幼女にコンバットフレームが倒された!」

 

 

この言葉が流れたとき、隊員は言葉を失い耳を疑った。 スカウトの誤報かとも思った。

 

コンバットフレーム。

搭乗式の強化外骨格であり、武装も強力で歩兵が太刀打ち出来ないと言っても過言ではない二足歩行の軍用ビークル。

 

それを……幼女が倒したぁ!?

 

 

「おいおい! 何の冗談だ? 幼女がコンバットフレームを倒すなんて……もっと良い笑い話を作ってくれよ」

 

 

駐屯地の皆は首を縦に振る。 だって信じられないんだもん。

コンバットフレームは火力も防御力も高い。

 

小銃や拳銃でどうにかなるモンじゃないし、無反動砲や擲弾射出機を撃ちまくって倒せれば良いなってレベルだ。

勿論、相手は黙ってやられてくれない。 反撃を受けつつの破壊活動となると……困難だろう。

 

それも訓練された兵士ではなく幼女では。

 

 

「それが砲撃の類で倒したらしい!」

「砲撃!? この世界にも砲兵がいるのか!」

 

 

隊員らは顔を見合わせた。

またあの忌々しい放物線を描いて飛んでくる砲弾を見る羽目になるとでもいうのか。

 

遠くや遮蔽物からの攻撃を行えば、確かに幼女でも何とかなったかも知れない。

だが、武器の使用や弾着観測等の技術を持っていたからこそだろう。

やはりか、この世界は恐ろしい。 幼女すら危険である。

 

それにブルージャケットなクイーンの件も片付いていないのに、問題は増えないでほしい。

 

 

「しかもその幼女。 二人いたんだが、ひとりはピンク色だったんだ!」

「ピンク? 赤と白(銀)を混ぜた……くっ!?」

「気付いてしまったか!」

「ああ。 とんでもないぜ、こりゃ」

 

 

隊員らは戦慄と共に身を震わせた。

経験から敵の色は、そのまま強さの目安になるのだ。

赤は強いヤツ。 白(銀)も強いヤツ。

 

その混ざったピンクとは、元の世界では確認出来なかったが、二色も合わされば強いに決まってる!

ぅゎょぅι゛ょっょぃ。

 

 

「とにかく。 そのピンクの幼女をした者には気を付けろ。 状況によっては捕獲だ」

「了解」

 

 

かくして。 どんどん面倒なコトになりつつあるけれど。

こんな調子でSJ2を迎えられるのだろうか……。




早くSJ2を……。


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SJ2開始
そうして彼らは銃をとる。


不定期更新中。 やっとSJ2編へ突入。


グレ男の折檻や《ヴァラトル・ナパームZD》の引き渡し、EDFとの連絡でSJ2当日までドタバタしていたから、つい本来の目的を忘れてしまいそうになる。

 

このままでは、可愛い娘にボコボコにされてしまう。

間違いない。 ワンちゃんは知っているんだ。

 

今回は遊びでは済まされない重大な任務を負っている点に留意して欲しい。 人命がかかっている。

 

その点こと、サディスティック女ピトフーイ。 オマケでヒグマさんのエム。

 

この毒鳥とドMなクマさんの両名の救出が主任務。

 

勝手にSMプレイしたり歌ってるだけなら無害なのに。 そう思っても2022年の事件を拗らせたのか希死願望を持ってるからね。 仕方ないね。

 

何にせよ。 こんな畜生でも助けるべく、我らが隊長ワンちゃんは歴然と立ち上がった。

愛娘の友人でもある毒鳥が勝手に死ぬのも後味悪いし、巻き込まれるクマさんはカワイソラス。

SJ1ではお世話になったし、ここは見捨てるワケにもいかないところだった。

 

急遽組まれた救助隊メンバーは、飼われたウサギに新戦力の快活な子犬とオマケで問題児のウマ(誤字)。

 

獣っぽさは不安だが、EDF隊員がふたりになった。 これなら任務達成は余裕じゃない?

 

だが戦場に絶対はない。

ナニが起きるか分からない。

 

EDF風に言えば優勢だったのに、次の瞬間にはアーケルスが乱入する感じ。

そうでなくても硝煙弾雨を潜り抜けてのSMコンビの救助は困難を極めるだろう。

全部が敵なら纏めて空爆して終わらせるのだが、今回は救出対象も混ざっている。

敵ごとSMコンビを蒸発させるワケにはいかない。 面倒臭い。

 

じゃあ銃撃戦? 無理だよナニ言ってんの。

誘導兵をナメるなよ。 射撃は苦手なんだよ。

 

また、前回から暴れまくっている『荒らしのワンちゃん』は目の敵にされており、敵同士が結託して小隊ないし中隊でボコしにくる可能性があるときた。

だがそんなモン、EDF隊員からしたらワケないコト。 絶望とは言わない。 テレポーションシップや揚陸艇に包囲された時の方が、余程である。

 

 

"ーーEDF歩兵の力、見せてやるーー"

 

 

空軍や海軍に頼らずとも、陸軍歩兵隊は強いってトコ、証明してやる。

 

部隊登録するとき、レンにグレ男も加勢すると言ったら、皺を寄せられたが手段は選べない。 仲間は多い方が良い。

 

 

尚、部隊名は少し揉めての《LFDF》だった。 レンとフカを守る力、といったところ。 可愛くて仕方なかったみたい。

 

因みに《EDF》は全力で拒否された。 目立つからね、仕方ないね。

 

 

 

 

 

「《荒らしのワンちゃん》だぁ!?」

「またかよ!」

「嘘だと言ってよ《ザスカー》!?」

「チクショウ! 今度こそ殺してやる!」

「隣のヤツは噂のスコードロンメンバーか」

「EDFだ。 スタート地点や荒野を不法占拠している迷惑集団だぜ」

「コロス! EDFマジコロス!!」

 

 

そんな感じでSJ2。 集合場所の酒場は黒い盛り上がりを見せており、始まる前から戦意(というより殺意)に満ち溢れていた。

 

だがそれはワンちゃんとグレ男も同様である。 戦術は異なるが、今回も全力で挑む。 遊びでやってるんじゃないんだよ。

 

 

「EDFも有名になって嬉しいです! でも入隊希望者がいないのは何故ッスかね」

「ピトとエムを助けたら、誘ってみるか」

「賛成! いやあ、助けるのが楽しみだなぁ!」

 

 

ケラケラしているが、一応本気だ。 特に彼らEDF隊員は。 死は文字通りの死になるので。

 

 

「ところで、色んな人がいるんですね。 アッチの方なんてアマゾネスとドクロワッペンがいましたよ。 強そうでした!」

「共に戦う仲間か。 同じ戦線で共闘出来れば良いが」

 

 

そう言うワンちゃんだったが、残念ながらソイツら敵である。 もっと言うとSJ1でワンちゃんがボコボコにした連中だ。

 

彼ら(彼女ら)もまた、チーター野郎のワンちゃんにイラッときており、今度こそ負かせてやると息巻いていた。

 

特にアマゾネスに関しては殺意が強い。 レンとリア友になって以降、「あのチーター最低男の魔の手から香蓮さん……じゃなくて、レンを助けるんだー!」と気合を入れている。

 

一体、リアルでどの様な話を聞いて決意に至ったのだろうか。 ワンちゃんは知る由も無い話である。 歯向かって来る以上、その決意をヘシ折るだけなんだけど。 中身がJKでも容赦しないぜ。

 

 

「さて。 レンとフカはまだだから……武装を確認する」

「いえっさー。 えーと、小銃持って来いとの事でしたのでコイツを用意しました!」

 

 

それはそうと、皆の前で武装を実体化させるグレ男。 こういうのは敵に情報を与える愚策なので避けるべきなのだが、御構い無し。

 

 

「じゃーん。 《ミニオンバスター》です!」

 

 

取り出したるは緑色の、少しゴツい小銃。 色合いがオモチャに見えなくもないが、コレも立派なEDFの銃だ。 しかも凶悪な分類に入る。 あと、小銃といっても対人戦闘用ではない。

 

 

「やっぱりソレか。 徹甲榴弾を持ってくるとは思っていたが」

「お褒めに預かり光栄です!」

「褒めてない」

 

 

ワンちゃんは溜息を吐いた。 まあ、グレネードのみよりマシだろう。 コレも似たようなモノだが。

 

というのも、このミニオンバスター。 対コンバットフレーム用に開発された銃だ。 徹甲榴弾と言った通り、特殊な弾を使用する。

信管付きの弾を装甲にめり込ませて、内部で起爆。 内側から粉砕する恐ろしい銃なのだ。

 

人に向けて撃つモンじゃねえ。

もし体内に残ったら……ミンチよりヒデェコトになる。

 

 

「まあ、無法者に容赦はしなくて良い。 躊躇すれば死ぬのはコッチなのだから」

「はい。 ところで隊長、背後で騒いでる女がいるんスけど」

「むっ?」

 

 

そう言われて背後を振り返ると。

忍者みたいなスーツを着た長身の女が、選挙運動みたいに愛想を振りまいて挨拶をしていた。 凄い見覚えのある人だ。

 

 

「分かった! ワンパン世界の忍者コスプレだ! いやぁスッキリした!」

「ナニを言ってるんだ。 彼女がピトだよ」

 

 

勘違いをするグレ男に、ワンちゃんは訂正。 確かにあの忍者と似ている部分はあるが、アッチは男だ。

危うく女になりかけていた気もするが、どっちにしろ関係ない世界である。

 

 

「え、救出対象? なら確保しときます?」

「戦闘中にナントカしないとならないんだ。 今確保しても仕方ない」

「ややこしい事情があるんですねぇ」

 

 

ああ、と相槌を返すがワンちゃんも良く分かっていない。 レンからそうするように言われているのみだ。

 

本当なら事情を聞くべきなのだろう。 でも言い辛かったらしい。 口籠もりになったので、そっとしてあげた。

 

そりゃレンとしては言い辛い。 リアルとVRを混合しているようなワンちゃんに「ピトさんを殺すのが救うコトになる」なんて言ったら混乱する。

下手するとレンが危ない思考に目覚めたとパニクるかも知れない。 それは避けたい。 余計な問題は勘弁なのだ。

 

ただワンちゃんが説得か確保してくれるのにちょっぴり期待しており、最悪はその上での殺害を試みる予定。

目の前で殺ったら、ワンちゃんがショック死するかも知れないので、暗殺の形になる。 ソレの方がインフェルノな気がするけれど。

 

 

「挨拶しときます?」

「いや、良い。 余計な接触が後々に響くかも知れないからな」

「おっけーです。 ところで隊長」

「今度はどうした」

 

 

今度は別の方向に指をさすグレ男。 見ればボブカットで緑髪の女の子。 歳は二十代半ばほどか。 豊満なオッパイが嫌でも目につく。

男の哀しい性である。 オッパイは皆んな大好きだもん。 隊員も例外ではないのだ。

 

 

「ウヒョー! 眼福ッス! 《ウィングダイバー》も素敵っすけど、目の前の子も最高ですね! 爆乳サイコー!」

「戦いを嫌っている顔だな」

 

 

だがワンちゃんは胸より彼女の無言でとても嫌そうで、あまりの仏頂面の顔を見てそう思う。

 

一瞬目があって、目を見開き……直ぐにふいっと顔を背けられた。 何だったのか。

 

 

「フラれたっすね隊長!」

「何でも良い。 今はピトの件に集中だ」

「そうっすね! ピトのお姉さん姿も唆られますし。 顔のタトゥーが無ければ好み!」

「そういう意味じゃないんだが。 しかし……レンたち遅いな」

「レン!? ははぁ、隊長ってロリコンだったのですか。 それともペチャパイ好き?」

「少し黙ってろ」

 

 

勝手なコトを言うグレ男を無視して、ワンちゃんは心配する。

20分前には合流していても良さそうなのに、これは遅過ぎる。 このままでは遅刻で脱落してしまう。

 

連絡を取るべきか。 そう思った刹那。

 

 

「間に合ったーっ!」

「いやー! 危なかったーっ!」

 

 

甲高い叫び声を上げながら、二人のチビが入ってきた。 ローブで体も頭も隠しているけれど、身長と声で分かる。 愛娘たちだ。

 

 

「おーい! コッチだ!」

「どうしたん。 腹でも下したかぁ?」

「えっ! 何で分かったの? 怖いんだけど」

「……マジで下したのか」

「そうみたい」

 

 

遅れたワケを聞けば、フカがアイスを急いで食って腹を下したとか。 アホな理由である。

だけど、そんな理由で不参加にならなくて良かった。

 

ピトの件を最終的に取り纏めるのはレンなのだし、フカは貴重な戦力だ。 仮にEDF隊員のみで本選に参加出来ても、ドッタンバッタン大騒ぎのカオス化になりかねん。

いや、まあ、何とかなりそうな気もするんだけども。

 

 

「なんか飲む暇あるかな? レン」

「まだ飲むのっ? 別に喉が渇くわけじゃないしいいしゃない!」

「気分よ気分。 一杯やろうぜ! 優勝の前祝いだ!」

「気分で……、またお腹下すかもよ?」

「もー、出すもん出したから大丈夫だって!」

「……災難だったな。 取り敢えず、そこの空いてるテーブルに座って」

 

 

レンとフカを空いてるテーブルに座らせると、早速フカがレモンスカッシュとアイスティーを注文。 残り時間1分もない。

 

こりゃ残すな。 そんな下らんコトを考えていると

 

 

「や! レンちゃんにワンちゃん!」

 

 

聞き覚えのある声に呼ばれて

 

 

「…………」

「やべー、バレたっすよ」

「仕方ない」

 

 

その声の主へと顔を動かした。

久しぶりに見るピトは相変わらず。 懐かしくもあり、恐ろしくもある。

 

 

「前回優勝おめでとう!」

 

 

屈託のない、見慣れた笑顔に、

 

 

「ありがと!」

「……ああ」

 

 

レンは一瞬だけ全てを忘れて、ワンちゃんは前回エム経由で殺されそうになったので複雑そうに、そう答えた。

 

その瞬間、SJ2出場者が待機エリアに転送される30秒前のアナウンスが流れ出して、

 

 

「あちゃあ、のんびり話す暇もなかったかあ」

 

 

心底残念そうに、タトゥーの上にある目を細めるピト。 そんな彼女に、ワンちゃんは声を掛ける。 それは決意に満ちた、真っ直ぐな声だ。

 

 

「ピト……迎えに行く。 少し待っていろ」

 

 

ピトは目を瞬きして、

 

 

「ん? よく分かんないけど……、まあ分かった。 でもね」

 

 

一拍おいて、

 

 

「待たせる男は嫌われるよ?」

「焦らしプレイってヤツっすね! ……イテッ!」

「グレ男。 少し黙れ」

 

 

シリアスっぽい雰囲気をグレ男にブチ壊されたので、ワンちゃんは蹴りを1発入れておく。

 

 

「その分、愉しみにしてろ」

「あは!」

 

 

屈託のない笑顔のピトフーイが去ってから、ぽかんとしているレンとフカに向き直ると、

 

 

「行くか。 助けにな」

「お、おう」「おっけー」

 

 

その瞬間、転送が始まった。

決意に満ちた顔のままのワンちゃん、蹴られたスネを痛がるグレ男、少し困惑しているレンと、

 

 

「ちょ、もうちょっと飲みた……」

 

 

慌ててストローを咥えたフカが、光の粒子になって消えたのだった。




レンジャーが加わり、どうなるのか……。


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警戒モードの群れには初弾が重要。

不定期更新中。 レンジャーによる初戦闘。


 

《LFDF》の転送先は町だった。 市街地の道の上にいる。

 

スタート時点で他チームとは最低でも1キロは離れているから、いきなり会敵する事はない。

 

とはいえ、対物ライフルの場合は1000メートルは余裕で有効射程距離内。 見晴らしの良い場所ならすぐにでも伏せねばならない。

 

ブルージャケットや一部の隊員は、逆に撃つ側だったと思うから、意味は分かるだろうか。

平原や田舎町の戦場で《ライサンダー》にお世話になった者もいるだろう。 或いは団地での芋砂。

 

だが今回、敵は歩兵のみで少なく、自分達は家に囲まれている。 狙撃を喰らうコトはない。 隊長のワンちゃんはソレを確認すると一先ず安心。

 

 

「安全確認ヨシ。 現在地急げ」

「了」

 

 

続いてグレ男に指示。 EDF式の、手に持たなくて良くて自動音量調整機能付きの通信機のおかげで、しっかりと声でやり取り出来る。

 

コレはレンやフカの持っている、GGOの通信機も同等の性能。 回線は共通なので、ワンちゃんやグレ男の声もしっかり聞こえてる。 良い事だ。 当の本人たちは、ふたりのやり取りに戸惑っているが。

 

 

「報告。 MAP《AREA1》」

「了。 センサーに敵影は」

「感有リ。 南側に複数。 移動中。 移動先は近いヤツで同一エリアの町中に潜伏する気かと。 次に町中央付近の駅に向かうヤツ、恐らく陣取ります」

「市街戦は遮蔽物が多い分、厄介だ。 警戒を厳にし、CQBは覚悟しろ。 武装も相手が有利だと思った方が良い。 駅の方も……考えたな。 ホームの高低差を利用して待ち伏せする気か。 見晴らしも良いのだろう、ホームがコンクリート製なら銃弾も貫通しない……両方障害に成り得る。 排除するぞ。 現状はトラップ等に警戒しつつ、町中に潜伏する。 先ず最初のスキャンまで様子を見よう。 グレ男、お前が先行しろ」

「了解。 ひとまず大きな家の脇に隠れます、チビッ子たち、迷子になるなよ?」

「もし迷ったら移動せずに連絡をしてくれ。 必ず迎えに行く」

 

 

一気に喋り終えると《ミニオンバスター》を構えてグレ男……レンジャーは移動開始。

ワンちゃんは自身の魔改造P90(正史ではレンの2代目ピーちゃんになる筈だった)を構えてついて行く。

 

その様子にぽかーんと棒立ちしてしまうレンとフカ。

 

どうしたのか。 また腹でも痛いのか。

 

 

「むっ。 具合悪いのか」

「寧ろパパ達が具合悪いんじゃ」

「そうか?」

「なんか……頼もしいから」

 

 

素直に思ったコトを口にするフカとレン。 そりゃ、普段はバカ騒ぎをやって、周囲に迷惑を掛けているからね。

 

今のキリッとした振る舞いを見たら、困惑する。 誰だよお前らと。

いや、思い返せばSJ1でもキリッとしていたか。 全く、普段からこうなら頼り甲斐あるのに。 この差はなんだろう。

 

 

「んー、作戦行動中だからね。 俺、一応兵士だし偶には仕事しなきゃ。 隊長の指揮下じゃなかったら戯れるんだけど」

「戯れるな。 いちいち爆発に巻き込まれる側にもなれ」

「隊長なら死なないと見越してのコトです」

「二度とやるな。 良いから前進しろ」

「りょーかい」

 

 

いや、その理屈はおかしい。 そう思うレン達だったが言わなかった。

 

使えるものは親でも使え。 こんな人達でも戦闘は頼っていこう。 特に今回は遊びではないのだから。

 

チートだろうが何だろうが、このまま付いて行くコトにする。

 

 

「まあ、頼りになるっていうと、フカの格好も言えてるなぁ。 イメチェンか?」

「ん? ああ、戦場に行く以上、ガッチリするべきだってね」

「良い事だ ……装備の金はどこで?」

「もちろん、パパに決まってるじゃん!」

「マジかー。 隊長、俺にもナニか買ってくださいよ!」

「分かった。 お前を拘束する器具で良いな」

「イヤっす! グレネードが良い!」

「……真面目にやってね?」

「俺はいつだってガチだぜ!」

 

 

トボトボと前進しながらも、グレ男の私語は続く。 ガチと言いつつふざけ始めているようにしか聞こえない。

 

だが真面目な話をすると、フカの兵隊さんな格好に関しては大いに関心があるのだ。

フカは同じグレネーダー仲間と思っており、格好もバックパックの中身も気になるのは当然の帰結である。

 

つい昨日まで駐屯地にて「OSIOKI」を喰らっていた所為で、グレ男がこの格好を知ったのは、実はたった今。

 

拘束中は禁欲生活(グレネード禁止)を強いられていたのもあり、ちょっぴり興奮気味。 幼女にハアハアしているサマは、アブナイ人でしかない。

 

 

「……小さな頭を守るヘルメは、まあ子どもだしな。 合わないのは仕方ない。 だが重要だ。 頭への負傷で死ぬのを防ぐ為にはな。

迷彩のコンバットシャツ……《マルチカム》か。 防弾プレートを入れた緑のベスト……グレネード用ポーチ。 同じグレネーダーとしてはニヤけちゃう。 バックパックの中身もグレネード弾か。 取り出しやすいように仕切が設けられているようだな? 良いゾ良いゾ。

茶色の手袋は……素手じゃ流石に危ないからな。 弾を滑らせるのもそうだが、可愛いスベスベなおて手だし、怪我したら大変だもんねぇ……。

スカートっぽいショートパンツに、足は黒いタイツで、茶色のショートブーツ。 ハァ……興奮要素なんですがそれは。

あと可愛いといえば、その髪のお団子も良い。 かんざしを挿しているが……それ、ナイフだね? 必殺仕事人みたいで格好良いじゃない。 寧ろ俺が挿したい!

でも本音としては、お団子が実は手榴弾ってオチならもっとしゅきぃいぃ!!」

「俺の側を離れるなよ」

「うん」「そうする」

 

 

愛娘の危機を感じ、側に寄せる隊長。

先程までのガチムードは、グレ男のアヘ顔トークで霧散してしまった。

 

こんな男を頼もしいと言ったウサちゃんは、早速自身を恥じる。

サイテーだよこの男。 今後、親友に近寄ろうモノなら制裁を加えてやる。

 

そう思うレンだったが、こんなアヘ顔晒しのトークをしつつも、それっぽい家の脇まで移動。 ちゃんと進んでいるのは納得いかん。 これがレンジャーのチカラの片鱗なのだろうか……。

 

 

「よし……隊長、この辺の家脇で待機します。 太い通りに面しているから、敵が来たら分かりやすい」

「良いだろう。 周囲を警戒しつつ、ここでスキャンを確認する。 レン、《サテライト・スキャン》で《PM4》と周囲の確認を頼む」

「任せて」

「フカは通りを警戒。 ノコノコ来るボンクラはいないと思うが、一応な。 それと発見されるリスクと被弾率を下げる為に匍匐姿勢で頼む。 万が一、敵を見つけても無闇に発砲しないように」

「あいよ」

 

 

ワンちゃんは素早く隊員らに指示をしていく。 グレ男、フカで周囲を警戒。

その間にレンにはサテライト・スキャン(衛星走査)による敵分隊の位置把握に努めて貰うコトにした。

 

尚、ワンちゃんが言った 《PM4》とは敵分隊の1つの名前なのだが、コレがピトの属するチームである。 この隊との合流(というか説得)をするのが主目的。

隊名の意味は『ピトフーイとエムの死』らしい。 本当なら凄い名前だ。 EDFの方が凄いけど。 フルや知名度的な問題で。

 

 

「俺たちも衛星使いましょうよ! ドーンってド派手に!」

「《サテライトW1》か? 駄目に決まってるだろう。 見晴らしの良い場所で、敵しかいないならともかく」

「《バルジレーザー》じゃないッスよ。 えーと……アレ。 《神をも滅する光の槍》!」

「更に駄目に決まってるだろ。 《スプライトフォール》の使用は……あー、その。 謎の女科学者が狂喜するから。 良いから周囲の警戒を厳にしろ」

「サー」

 

 

それはそうと、衛星に反応したグレ男が誘導兵に絡む単語を吐き散らす。

もれなくワンちゃんは苦虫を噛み潰したような顔になってしまった。

 

前者は良いが、あのサテキチ姉さんに関しては良い印象がないのだ……。

 

 

「何の話?」

「気にするな。 ピトより危険な女に絡まれたくなければな」

「楽しいの間違いです隊長」

「……戦後《かの者》に使用しなかったのを理由に騒がれた身にもなれ」

 

 

戦闘前だというのに、既に戦い終えた様な、疲れた声を出すワンちゃん。

レン達には何のこっちゃな話だが、同じ世界線のグレ男は「災難でしたね」と同情しておいた。

 

それはEDFの世界にて。 約3、4年前にあった《かの者》との戦闘が原因。

ペプ◯マンのパチモンな見た目だったヤツだが、一方で神とも言われたヤツ。

 

神話に出て来る存在でもあり、強さも桁違いのバケモノ。 隊員に「死神」と言われた程だ。

 

そんなヤツに《スプライトフォール》で消し飛ばせば《神をも滅する光の槍》を証明出来ると思った女科学者がいた。

 

ワクワクして、ワンちゃんからの要請を愉しみにしていたのだが……ところがどっこい。 使用されるコトは無かった。

代わりに使われたのは《バルジレーザー》と呼ばれる、EDFのもうひとつの衛星砲である。 照射時間と総合的な威力、コストや照射中に砲身転回出来るメリットからこのチョイスになった。

 

コレに女は発狂。 戦後、ワンちゃんに無線を繋いでギャアギャア騒ぎやがったのである。

 

転送装置を弄ってワンちゃんをGGO世界に飛ばした犯人でもある彼女だが、偶然の事故ではない。 この案件の仕返しの意味が強かったりする。

 

GGO世界に辿り着いたのは偶々なのだが……どちらにせよ、迷惑な話だった。

 

 

「過ぎたコトは仕方ない。 今はピトの件に集中する」

「……女難の相、出てません?」

「私語は慎め」

「くっそーおおおおおおおおおおっ!」

「うおっ!?」

 

 

突如として大声で叫んだウサちゃん。 ナニか。 自身が頑張って《サテライト・スキャン》端末を見ていたのに、隊員らがペチャクチャ喋っていてキレたか。

 

だが不要に叫ばない方が良い。 グレ男の様な『音』から弾着地点を計算して砲撃する変態グレネーダーがいるかも知れん。

 

実際、荒野で砲撃されている。 グレ男は特例だと思うが、全く無いとは言えないのだ。

 

 

「どうした。 報告してくれ」

「マズいよ。 ピトさんたち、地図の南東の角にいる」

「あー、最も遠い場所ですね。 《AREA7》です」

「そうか。 前進するしかないか」

「仕事が増えたー。 萎えるわー」

「仕方ないだろう。 行くぞ」

 

 

この無慈悲な事実に、レンは空を見上げて嘆いた。 GGO世界には、神も仏もいないのか。 最終戦争で、美しい蒼い空と一緒に、全て滅ぼされてしまったのか。 それとも、こんな世界を見捨てて、引っ越したのか。 EDFという迷惑集団の影響なのか。

くそう! くそう!

 

 

「どうして……。 ああああ!」

「お嬢さん……、人生は、そう思い通りには、いかんのじゃよ」

 

 

フカが訥々と語りかける。 もうね、戦闘前から悲しみに包まれてるよ。

 

だがGの如く、しぶとく生き抜いてきた隊員らは、平然とした顔を浮かべる。 この程度でいちいち絶望なんてしない。

増援は期待出来ない? 敵が多い? 装備も弾薬も劣ってる?

 

 

"なんだよ。 いつもどーりじゃん"

 

 

寧ろ楽な方だ。 戦時はこの比じゃない絶望と戦力差だったし。 今回、相手は歩兵のみ。 無数のドローンや10メートル級の怪物の群れを相手にしている訳でもなし。

今までの経験から言わせれば、今作戦はせいぜいノーマルモードじゃなかろうか。

 

 

「安心しろ。 俺やフカという仲間がついている。 必ずピトを救うし、そしてキミたちを守る」

「そうとも。 おぬしのコトは儂が見ておるぞい。 そしてこれからものぅ」

「うん……ありがと、ワンちゃん。 フカ」

「あの隊長。 俺、忘れてませんよね?」

 

 

皆でグレ男を放置して遊びつつ、気持ちを新たにする。

 

そうだ。 やるコトはひとつ! ピトを救うコトのみだ!

 

 

「移動方向は南東。 進行ルート上の部隊は排除する。 周囲を警戒しつつ行くぞ」

「Yes, Sir!」

 

 

レンジャーも気持ちを新たに、先行して敵分隊へと進んで行く。 仕事とプライベートの会話が激しいが、こんなグレ馬鹿でも、頼りになるのはやはり違いない。

 

レンとフカは少し距離を置いて隊員らを頼りについて行き、隊長とグレ男は銃を構えつつ、そして油断なく進行。 暫く歩き続けて

 

 

「敵、確認」

「了。 レン、フカ。 そこの家の中に隠れていろ」

 

 

グレ男が敵の分隊を認む。 愛娘たちを比較的安全な家内に誘導しつつ見やれば、十字路に陣取っている敵の姿が。

見える範囲で四人が、廃車やゴミ箱の後ろでべったりと伏せて小銃を構えている。

 

待ち伏せだ。

 

 

「敵陣地、か。 罠に気を付けろ」

「了。 既に存在確認済」

「解除は?」

「終了。 最低限の道は確保」

「よくやった」

 

 

だが見つけてしまえば怖くない。 罠も素早く解除してしまった。 普段ふざけてるクセに見事な手際である。

 

 

「す、凄い」

「いやぁ、いなかったら罠に掛かっていたわ。 足吹き飛んでたかも」

「そんなコトはさせないさ」

「俺は吹き飛ばすのも、されるのもしゅきい……」

「お前は黙って次の段取りだよ」

 

 

拘束中の禁断症状が治ってない彼は、アブナイコトを口走る。 けれども、なんだかんだ言って次のステップへ進んでいく。

 

尚、正史でフカは、ブービートラップに引っかかる。 結果、足チョンパなグロデスクな目に遭った挙句に敵にバレてピンチに陥った。

レンのお陰で切り抜けたが。

 

そんな罠を解除したグレ男。 普段はアレな性格ではあるけれど、booby(まぬけ)ではないのだ。

 

 

「遠くからグレランによる砲撃、という手もありましたが」

「確実性に欠ける。 お前の腕なら出来るだろうが……その小銃で殲滅出来るか?」

「任せて下さい」

 

 

隊長の指示でヌッと前進していくレンジャー。 ワンちゃんはP90を構えてはいるが、その場から動かない。

 

それを家の窓越しにコッソリ見ていたレンとフカは、心配してしまう。

 

 

「えっ、ひとりで大丈夫なの?」

「グレネード妖精がぶっ殺してあげようか?」

「問題ない」

「グレネード妖精……アイタィ」

「黙って状況に備えろ」

 

 

アヘェ……な声を出しつつ《ミニオンバスター》を構えて進むグレ男。 もう敵は目の前だ。 大丈夫か?

 

 

「お嬢さん方! 特等席から見ているが良い!」

 

 

突如、グレ男は叫ぶ。 敵にバレた。 銃口を一斉に向けられた。

 

だが構わず脚力強化の補助装備《アンダーアシスト》を起動させて

 

 

「EDF歩兵のチカラ、見せてやるよおおおおお!!」

 

 

レンの俊敏性を遥かに超える、瞬間移動したかのような超スピードで敵陣地に突入開始!

 

 

「ナニイイ!?」

「速すぎる!?」

「撃て撃て撃て!?」

 

 

刹那、敵がトリガーを引こうと……出来なかった。 次の瞬間には身体が破裂してミンチになったから。

 

ダンダンダンダンッ! というセミオート音が響き渡る。 《ミニオンバスター》の銃声だ。

 

徹甲榴弾は身体を貫き、そうでないなら身体の内側で起爆、破裂。

 

初期型なのでフルオート機構がないのは面倒だが、この程度の人数なら、グレ男には些細だ。

 

 

「ちくしょう!?」

 

 

銃声は目の前で聞こえるのに、射手が見えない恐怖。 近くに来ているものだから、味方への誤射も懸念されるが、心配しなくて良いコトだ。

 

だってその前に死ねるから。

 

そして気が付いた時。 六人の男達「だった」モノが地面にばら撒かれているときた。 六人はルールで分隊最大人数。 つまり全滅で間違いない。

 

ほんの、ほんの一瞬の殺戮劇だった。

 

銃撃戦が一瞬で終わるのは珍しくないけれど、コレは……エグい終わり方だ。 ゲームとはいえ、見てしまったレンとフカは顔を顰めてしまう。

 

 

「うへぇ……エゲツない」

「敵じゃなくて本当に良かったよ」

 

 

素直な感想を口にする幼女達。 でもね、ウサちゃんの方も正史でエゲツないことやってるからね。 男の股間をナイフで縦にザックリヤるっていう。 漫画版ではSJ1前に、ピーちゃんで男の股ぐら撃ってたし。

 

 

「すまない。 キミ達にこんなコトを見せてしまった」

「やっぱりゅぅだん……しゅきぃいぃ」

「コイツの顔まで見せてしまった」

 

 

謝るワンちゃんと、アヘ顔で戻ってきたレンジャーを見て、レンとフカは……どう反応して良いのか少し迷った。

 

ナニはともあれ。

障害をひとつ排除した《LFDF》。 まだまだSJ2は始まったばかりだ。




何とかSJ2を終わらせたい……。


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砲兵の戦術的有利性

不定期更新中。 砲撃回。 駄文続き。

え? グレランによる間接射撃? いや、誘導兵絡みの方やで。


時間は少し戻り、SJ2前のこと。

EDFと連絡を取ったワンちゃんは、ようやく別世界に来ているコトを知った。

結果「ファッ!?」となった。 遅すぎである。

 

元凶がサテキチ姉さんと聞かされたとき、クソデカ溜息を吐いてしまうワンちゃん。

 

あのアマ……戦後の大変な時代に、ナニしてくれてんだ。

 

思っても仕方なし。 受け入れるしかない。 ワンちゃんは軍人だ。 現実と闘う。 過ぎたコトは置いておき、今後の展開について考えねばならない。

 

当然、本部には合流するよう言われた。 だがこちとらピトの件がある。 放棄は出来ない。

それを遠回しに説明したら、その案件が片付いてからで良いとなった。 寛容で助かる。 末期戦の頃は酷かったが……。

 

だがその際、用事が済んだらEDFの任務に参加するよう指示されてしまう。

これがまた問題だった。 問題ばかりで嫌になる。

 

なんでもEDFはストーム・ワンの回収の為にGGOに来たとなっているが、それは表向き。

 

ストーム・ワンは別の目的があるコトを聞かされた。

 

EDFの、上層部しか知らない目的だ。 それをストーム・ワンに伝えるというのは、余程彼が信用されているからであろう。

 

数々の戦線を生き延び、人類を救った実績もある。 そんな彼……英雄ならば、この重要性を理解してくれる。 そういった判断か。

 

だが当の本人は、

 

 

「……くそっ」

 

 

理解は出来ても共感は出来なかった。

彼は英雄だ。 最前線で戦い続けたひとりだ。 悲劇を見続けたひとりだ。

 

だからこそ悩んだ。

 

それが新たな正義だとして、自分は軍人として、ただ言いなりになるだけで良いのか?

 

確かにソレも地球を、人類を守るコトに繋がるのかも知れない。

 

だがEDFがやろうとしているコト。

 

それは…………。

 

 

 

 

『人の声が響かない地球』から一度手を引いて、まだ平和なGGO世界を拠点に再生活動をすることだった。

 

最近反抗的な都民を黙らせるべく、都市全体に歩兵を配備。 最悪は武力鎮圧も辞さない方針。

 

人為的資源のカバーを行う為にドローンを大量に生産。

 

人間が必要ならば、遺伝子を混ぜて養成ポッドにぶち込んで、無理矢理大人サイズにする……クローンを大量に生成させ。

 

出来た"人形"を使って、この世界や『人の声が響かない地球』を再び我々人類の手に。

 

 

「今度は俺たちが《プライマー》、か」

 

 

ワンちゃんは自傷気味に薄笑い。 天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今のEDFは。

 

憎き侵略者の模倣犯でしかない。

 

 

 

 

 

まだ時間の猶予はある。 今はピトを救おう。 それからだ。 考えるのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?」

「あ、ああ。 えっとだな……目玉焼きに何をかけたら美味いか考えていた」

「突拍子もないコト考えるね」

 

 

レンに聞かれたワンちゃんは、適当なコトを言って誤魔化した。 回想終了タイム。

今は皆で二回目のスキャンを行うところ。 間も無くだ。

 

 

「よし。 スキャンの時間だな。 同じように周囲を警戒しつつ、敵と目標を確認する」

「任せて」「了解」「あいよ」

 

 

そうしてスキャンの時間。

今度はかなり速いスキャン。 かなり忙しいチェックを強いられたものの、全滅・降参チームが七つと知って、なおかつ、

 

 

「よしっ!」

「いるねー」

 

 

ピトが無事なのも知る。 スタート地点から殆ど動いていないし、周囲に全滅・降参チームはない。

つまり、戦闘を一切行っていないようだ。

 

 

「それは嬉しいけど……、道は長いな……」

「コレが敵ならば間接射撃で葬りたい! 山に砲撃とか、絶対楽しいぜ!」

「グレランでは射程や火力不足だ。 砲兵隊か空軍に任せる方法もある」

「お願いだから、二人とも止めてよ」

 

 

レンがEDFのノリな二人にイラッとさせられつつ、先行きを嘆いた。

目標は今いる町から遠い彼方。 道中、多くの障害があるだろう。

 

ワンちゃんとグレ男のお陰か、負ける気はしないけれど、ある意味でコイツらも障害である。 いろんな意味で。

 

 

「次は……駅行くの?」

「ああ。 駅の敵部隊を排除する。 家の陰伝いに移動して、近づく」

「よっしゃ!」「ヤろうぜ同志!」

 

 

するとグレ男とフカが、ニッと口角を上げる。

 

もうね。 コイツらのコトだから榴弾の話をする気満々だよ。 グレ男は特に大好きだしね。 それに相手が固定目標だからね。 仕方ないね。

 

 

「敵は陣取っております! 安全に、一方的に攻撃する方法として《グレネードランチャーUMAX》による間接射撃を進言致します!」

「パパ、ちょっくら活躍させておくれよ」

 

 

一方は子犬が嬉しそうに尻尾を振る姿が幻視され、一方はムカツク馬野郎に見えるワンちゃん。

 

だが言っていることは理にかなっている。 確かに、それなら一方的に葬れるだろう。

特にグレネーダーが二人もいるのだ。 全滅させるのはワケなさそう。

 

だが、ワンちゃんは首を横に振って不許可に。

 

 

「えー! なんでよー!」

「隊長! オアズケとか、酷いです!」

 

 

ぶーぶー言うふたり。 レンも良い作戦だと思っただけに、理由が知りたい。

 

皆が隊長に視線を注いでいると、

 

 

「俺も役に立たせて。 指揮だけってのも……なあ?」

 

 

発煙筒を取り出すワンちゃん。 つまり、フカと似たような理由だった。 ガッカリした。

 

結果、少し揉めたが、結局は我らが隊長に任せるコトに。 大人げない駄犬である。

 

だけど、まあ。 それでも指示に従うのは、彼の人望なのだろう。

 

 

 

 

 

「クリア。 現在地」

「駅から約300メートル北西」

 

 

駅に陣取る敵を排除するべく、移動したワンちゃん御一行。 ゴーストタウンを進み、雑貨店の陰に隠れておく。

 

一応、皆は少し距離を置いて待機中。

纏まり過ぎて行動すると、万が一攻撃を受けた際、全滅の危険があるからだ。

 

一応、相手も警戒してか、団子みたいに固まり過ぎないようにしてはいる。

普通の榴弾1発程度なら、全滅は免れるだろうか。

 

普通が1発、なら。

 

 

「ここで良い。 センサー反応を頼りに、発煙筒を投げる。 他は周囲を警戒」

「……隊長。 グレランによる間接射撃が早いですよ。 それに発煙筒焚いて、敵に悟られるのでは? 弾着まで時間が」

「砲撃要請をする。 したい。 させろ。 お前もこういうの、好きだろ。 するのも見るのもされるのも!」

「モチのロンでぇす! レン、フカ! 俺たちで万が一はカバーするゾイ」

 

 

はあ……と溜息を出す愛娘たち。 バカな大人たちに返す言葉がない。

グレ男は抗議していたのに、アッサリ了承しちゃうし。

 

ホントに人の命がかかっているの、分かっているのかしら。 ウサちゃん心配。

 

 

「投げるぞ」

「気合の一投、投げましタァ!」

 

 

そんな駄犬は、スモークのピンを抜き、思いっきり駅方向にぶん投げた。 良く飛んだ。 肩強いと思う。

 

 

「で、どうなるの?」

「見ていれば分かるさ」

「そうだゾ。 みろよみろよ」

 

 

やがて駅の方で赤色のスモークが立っていき、

 

 

『エアレイダーより砲撃要請ッ!』

「うおっ!? だ、だれ!?」

 

 

無線から見知らぬ、若き男の声が。 フカがビビっているので、ワンちゃんが説明する。

レンとグレ男は何度か聞いているので、今更だが。

 

 

「無線が共通しているからな。 安心しろ。 味方だよ」

「え? 味方? 他のチームと結託でもしたの?」

「砲兵隊だ」

「は? ほうへー?」

『砲撃始め!』

「うわっ、またもや!?」

 

 

無線にビビっていると、今度はヒューッという音。

 

「誰かが口笛を吹いたのか?」と、相手チームは冗談を言っていたが

 

 

「え? ナニアレ」

「たまやー!」

 

 

空を見上げれば、光の玉。 帯を帯びながら、四方八方から、大きな放物線を描いて飛んできている。 それも沢山。

 

グレ男、見て興奮。 フカ、見て困惑。

 

敵、察して絶望。

 

それがスモークの発煙位置周辺目掛けて、一気に落下。 次の瞬間、激しい爆音。

 

 

ドゴン! ドゴォン!!

ドゴオオォン!!!

 

 

「うひゃああ!?」「キターー!」

 

 

光の弾が地面に落下する度、爆発がその数起きる。

駅の方からは爆音が鳴り響き、大地が揺れ、黒煙がモクモクと立ち上った!

 

 

「《迫撃砲 集中運用術》を要請した」

 

 

ワンちゃん、ドヤ顔。 レンは飽きているが、構わず続ける。

 

 

「特別に編成された迫撃砲隊による、集中砲火。 多数の迫撃砲を運用するため、グレランより火力や範囲は広い」

「お、おお」

 

 

簡単に説明してる間も、砲撃はしばらく続いた。 爆音が煩いが、自動音量調整機能のある無線機越しなので問題ない。

 

やがて、

 

 

『砲撃を止めろ!!』

 

 

再び若き声が。 同時に迫撃砲による榴弾がストップ。

 

 

『砲撃終了です。 地上部隊の健闘を祈ります』

 

 

これで終わりらしい。 快活な声にて、無線が切れた。

 

駅の方からはプスプスと黒煙が。 センサー反応もなし。 全滅だった。

 

 

「クリア。 どうだ。 敵の目を見ながら戦うだけが戦闘ではない。 既に経験済だとは思うがな。 間接射撃や砲撃、空爆やミサイル、衛星砲の照射座標もだが……それらは正確な誘導が必要ではあるものの、このように誘導兵の俺がいれば問題ない!」

「流石隊長! ソコに痺れる憧れるぅ!」

 

 

子どもみたいにはしゃぐ男たち。

 

フカのグレランと、レンの誘導という出番を奪ってまでするコトでは無かった。

ダメな大人たちである……。 野郎のチーター戦闘より、可愛い幼女が頑張る姿が良い。

 

 

「……圧倒的じゃないか、我が軍は」

「チートだけどね」

 

 

呆れる愛娘の言葉を無視しつつ、ワンちゃんは気を取り直して次の行動を指示。

二つ目の障害を排除しただけだ。 進撃を続けねばならない。

 

 

「制圧した駅に向かう。 ソコでスキャンを見て、次はドームを目指す!」

「駅……跡形もないと思うけど」

「ソレがイイ! その痕跡って……なんか芸術的じゃない?」

「全然思わないんだけど」

 

 

《LFDF》の快進撃は続く。

このままワンちゃん達はピトの下へ辿り着くコトが出来るのでしょうか……。




サクサク進んではいるけれど、ピトに会ったらどうするん……。


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快進撃と毒鳥の考察

不定期更新中。 いつもの誘導兵と、謎の人物。
違和感あれば、すいません……。

そしてピトフーイの、ワンちゃんに対する考察。


 

 

ーーこの世界はgameだ。 文字通りに。

 

この場で死んでも現実の君達は死なない。 一部を除いてね。 頭に電子レンジを載っけていたり、水槽の中に閉篭もるとか。 事件に巻き込まれたりゲームのやり過ぎでの衰弱死をしなければ。

 

でも俺達はココが現実だ。 そして死ぬ側だ。 この世界で死んだら死ぬ。 それすら文字通りに。 それ以上でも以下でもない。 死ぬんだよ。 理解出来ないかい? しなくて良い。 関係ない世界の話になるからさ。

 

まあ、無理に理解しようとすればNPCに意思があって感情があって、死んだらプログラムとして消滅して消え失せる。 《死に戻り》も《再出撃》もない。 そういうこと。

 

その場合。

殺人にはならないのかね。 うん。 だから気にしないで『いつも通り』銃の引き金を引いてくれ。

 

そうしたら、俺も遠慮なく撃てるから。 偽物を殺したところで罪にならない。

 

おっと。 ドッチが偽物で本物かね。

 

勝てば官軍。 負ければ賊軍。 なら勝った方が本物ってことで。

 

まっ。 同情しなくて良い。 考えなくて良い。 すると別れが辛くなるぜ? 殺すのも含めてな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特にSTORMー01。

LLENN。

 

キミたちだよ。

 

近々キミらは、俺らは殺し合うだろう。

結局はさ。 相容れない存在なのさ。

 

愛し合う者が殺し合う。

 

そのXーDAYが楽しみだなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長に隠しているコトがあります」

「何の話だ?」

「実は《ヴァラトル・ナパームZD》を持ち出してきたんです!」

「懲りない奴だな」

 

 

三回目のスキャン前。 グレ男がやたらイイ笑顔で告白をしやがった。 没収されたヴァラトル・ナパームZDをパクってきたという。

EDFの管理体制の甘さも、コイツのアホさにも、もはや何も言うまい……。

 

 

「……三回目のスキャン、見るぞ」

 

 

ナニはともあれ。 今はスキャンを見なければ。 ワンちゃん達は先ほどまで敵防衛拠点だったホームの間ーー今は崩れたコンクリ破片と剥き出しで変形した鉄筋、ボコボコの地面の上ーーにて端末画面を確認。

死体は爆風で吹き飛んだのか、この場にはなかった。 あっても気にしないが。

 

 

「んんっ?」

 

 

端末を見ていたレンが険しい顔に。 気になるモノでも見つけたみたい。

フカも気になって見てみれば、なんと敵が七つも集まっているじゃーありませんか。

 

しかも見晴らしの良い畑の上。 ナニしてるん。

 

 

「これはどうしたことかね? パパ。 七つも同じ場所にいるよ? あり得なくない?」

 

 

フカが尋ねる。 分隊の最大が六人までだから、普通に数だけでもおかしい状況。

最低ひとりは敵になるのだが……何故殺し合いにならないのか。

 

 

「願い事が叶うボールでも持ち寄ったんじゃね? そして死者を蘇らせたい派とパンツ欲しい派で会議中なのさ」

「違うでしょーが!?」

「俺は榴弾おーくれと高らかに叫ぶぜ!」

「じゃあ、わたしは彼氏と金!」

「そのまま爆発四散してしまえ!」

 

 

答えを知っているクセにボケるグレ男と話に乗っかるフカに突っ込むレン。 コイツらピトさん救う気あんのかね。

 

だが真面目に話すと、そんなノリの展開になった。 駄犬の所為で。

 

 

「無法者同士、結託したんだろうな。 だが問題ない。 《カムイ》に空爆を要請した」

「あっ。 何の問題もないですねソレは」

「問題大アリだよ! どうして穏便に済ませられないのかな!?」

『空爆開始! アタック!』

「うおっ!? また無線が!」

「ああ……またしても」

 

 

駄犬の暴走が始まった。 穏便に進む気がない隊長に頭を抱えるウサちゃん。

 

マトモなのは、わたしだけか!!

 

だがEDF的には穏便な方である。 まとまる敵を空爆で一網打尽にすることで、歩兵の負担は大いに減るからだ。

実際、彼らは結託して憎きワンちゃんを殺そうとしていた。 放置して接近を許していたら、グレ男と愛娘に危害が及んでいただろう。 それを防いだのだから、褒めても良い。 あ、チートだから無理か。

 

因みに正史では結託のち、ピトの分隊を襲っていた。 結果は全滅。 返り討ち。 ピトの鬼の様な強さを感じられる場面でもあるが、どちらにせよ、ワンちゃんがいる以上はその前に空爆で吹き飛ばす。 無法者死すべし慈悲は無い。

 

 

『仕事は終わった! 帰る!』

「センサー反応なし。 悪は滅んだ」

「悪はお前じゃあ!!」

 

 

アッサリ敵小隊が片付き、レンに罵倒された。 悲しかった。 けれども前に進まねばならない。

悲しいけどこれ、戦争なのよね。

 

 

「では予定通りドームに向かう」

「サクサクだね。 もうパパひとりで良いんじゃない?」

「良くない。 誘導兵は銃撃戦や接近戦は苦手だからな。 戦線を支えるには、どうしても歩兵が必要なんだ」

「隊長! やっぱ俺、必要ッスよね?」

「味方に攻撃しなきゃな」

「「「HAHAHA」」」

 

 

ああ……明るいムードなのに、明るくなれないよ、わたしだけ。

 

先行きの暗さの不安に、ウサギは再度頭を抱えてしまった。

最悪、ピトさん逃げて。 超逃げて。

 

 

 

 

 

一方で問題の毒鳥は、というと。

 

寝っ転がりながらも端末を見ていて……そして次の瞬間には遠くからの爆音と共に、畑の方に集まっていた敵表示が一瞬で消えたのを見て、

 

 

「ワンちゃん………………私の楽しみをどこまでも奪うとか。 とことん許せないわね」

 

 

プンプン怒っていた。

ドンパチで生きているコトを忘れたい彼女は、ソレを奪う駄犬を良く思っていない。 少し面白いヤツとは思ってはいるけれど。 交渉する前から決裂しているムードである。

 

 

「いやぁ、エムが前回殺してくれていたらなぁ? こんなコトにならなかったんだけどぉ?」

「…………」

 

 

側のクマさんに明るく言う彼女。 口角は上がっているけれど目は笑ってない。 怖いよサディスティック女。

それでも、一応自論があるのか。 クマさんが間をおいて言い返す。 勇気あると思う。

 

 

「……殺しても、SJ2に参加しなかった保証はない」

 

 

淡々と言うクマさん。 別にSJ1に敗退したからといって、シード権が貰えないだけであり、参加自体は出来るのだ。

 

例として、《ZEMAL》というSJ1に参加していたマシンガン大好きチームも参加している。

このチーム、ヒャッハーなハッピートリガー達で、前回は最初らへんで全滅してしまった。 しかし今大会にもエントリー。 予選を何だかんだいって勝ち残り、当本選に参加しているのだ。 愛すべきマシンガンバカ達である。

 

 

「死んだら、死ぬだけだよ?」

 

 

だがピトはニッと笑ってそう言った。 いつかのベッドの上での会話みたいに。

ゾッとする言葉。 未だにあの時の緊迫を忘れられないエムであるが、その言葉が孕む真髄に迫れない。

震えそうになる声を抑えながら、エムは素直に聞き返すコトにする。

 

 

「どういう意味だ?」

「そのままの意味よ」

 

 

いや、何を言って……そう思い……さしてハッとした。

自身も今現在、リアルで経験しているからか。 或いは彼を殺そうとした時、感じた違和感からか。 そこからとある可能性が生またのだ。

 

 

「いや、まさか。 ありえない」

「どうして、そう言い切れるのかしら?」

 

 

気付いたであろう……気付きたくなかった、そして否定したい顔のエムに、加虐的に笑うピト。

エムには、悪魔が嘲笑している様にすら見える。 愛する女でも、今この瞬間は……この考えは否定したい。

 

 

「プレイヤーでないと参加出来ない筈だ」

 

 

そう。 ピトはストーム・ワンがプレイヤーではない、としているのだ。

playerでなければNPCかAIとなる。 プログラム上の存在。 だがもしそうだとして、参加なんて出来るのか?

 

仮に。 人間との差異を感じさせない程に高度なNPCかAIだとして……プレイヤー間で戦闘を行い勝敗の優越を競う筈のSJに、参加させるメリットはあるのか、という疑問もある。

 

第一、彼の攻撃方法はチートだ。 ゲームバランスを崩壊させている。 他のプレイヤー間でも嫌われているのだ。

わざわざそんな存在を参加させるなんて……。

 

参加……なぜ、参加させる?

いや、出来るんだ?

 

 

「あら? プレイヤーなら、とっくに《BAN》されて良いんじゃない? いろんな意味でね。 ワンちゃん、嫌われ者だし」

「そ、それは……運営にも対処出来ない……高度な……」

「運営側であるから、存在が赦されているとは考えなかった? まあ運営は 『対処方法を検討中』とか『調査中』って繰り返してるから、この考えは一先ず却下だけど」

 

 

そこまで言われて黙りこくるエム。 視線も自然と下向きだ。

反論出来ないと思ってか、論破して相手を抑え付けたという、いつものゾクゾクした心地良い感覚に浸る毒鳥。

更に追い討ちをかけるように、言葉を繋げていく。

 

立ち上がって、エムの耳元に囁くように、ねっとりと。

稀薄なVRでも感じる、生暖かい息を耳に入れる様にして。

 

 

「ワンちゃん含めたEDFの存在がバグだとして……それを長期に渡ってなぜ、放置する? ゲームバランスを崩壊させているし、彼らが運用する武器も実在しないものばかり。 それは『GGOじゃない』。 そう皆は声に出している。 なのに運営は何もしない。 いえ、『出来ない』。 プログラムの世界なのに運営がどうすることも出来ない、なんて余程よね。 詳しくないけどさ。 じゃあ出来ない理由ってなんだろう。 運営側でもプレイヤー側でもない。 じゃあなんなんだって」

 

 

今度はエムの顔正面、キス出来そうな距離で。 そして嬉しそうな顔で語り続ける。

 

 

「ワンちゃんと一緒に行動しているときね、思ったの。 VRで稀薄な筈の五感。 ソレがワンちゃんに対してだけは『本物』だった! そう、ホ・ン・モ・ノ!! 話していると心がくすぐったい! 触れると暖かい! 持ち物もリアルと同じ重さに感じる! 彼の汗の匂いもそう! 貰った食べ物もハッキリ味を感じるのっ!!」

 

 

他のメンバーがビクッとして、ピトとエムを見る。 それでも構わずに、彼女は更に続ける。 頰をほんのり染めて、目はどこか愛おしそうに……まるで恋人のような。 けれど内容はおっかなく。

 

 

「ここまで言ったんだからさぁ……後は分かるでしょ? わたしがシたいコト」

「……ああ」

 

 

エムは頷く。 その考えが合っているとは思わないし、思いたくもない。

けれども、ピトがやりたいコトは分かる。 ストーム・ワンが本物というのは、彼が『この世界で生きている』のであり『殺せば死ぬ』ということ。

そうならば、殺人になる。 いや、殺人になるのか分からないが。 けれどもピトはそう感じたのだろう。 そして望むのだ。 殺人者になる事を。 死ぬ事を。

 

 

「わたしね、ワンちゃんを……本物を殺したい! 正義の名の下に! 嫌われ者のワンちゃんならさ、殺しても誰も文句言わない! それで消えても言われない! 寧ろ感謝されるだろうね! そしてね! 逆に殺されても良いとも思えるのよ! だって本物だよ? 本物に殺されるなんて素敵じゃない……………………ねぇ、そう思うでしょ、えぇむ?」

 

 

そう、笑顔で、瞳孔を開いて尋ねる毒鳥。 顔は陰がかかり、その恐ろしさを増している。 悪魔……いや、魔王だ。

けれど。 エムはそこまで聞いて、ハッキリと相手の目を見て答えるのだ。

そこにはいつかの、毒鳥に怯えていた臆病な熊の面影はない。

 

 

「ああ」

「あはっ」

「だがなぁ!!」

「…………………………あん?」

 

 

普段のエムなら有り得ない、叛逆の目。 ピトは一瞬驚くも、気に食わない目に、ヤンキーみたいな声を出した。 だがエムは怯まない。

それでも。 それでも言いたい事があるからだ!

 

 

「隊長は! STORMは! 死ぬ事はないし、死なせない! そして俺たちを救う存在だ! 本物だとしてもだ、お前には彼は殺せない!」

「………………言いたいコトはそれだけか? 試すだけよ」

「がはっ!」

 

 

思いっきりエムの鼻っ面をブン殴る。 赤いエフェクトが鼻先を散り、巨体は後ろ向きにひっくり返った。 そんな様子を周りの仲間はどうすれば良いのか、誰も分からず動けない。

 

この叛逆因子は、直ちに射殺するべきだろう。 だが利用価値がある内は生かしておく。 終われば殺す。

 

しかし。 ここまでエムに影響力を与えた、いや、自身にも与えたワンちゃんの存在は、もはや無視出来るモノではない。

 

 

「やっぱり、殺すしかない。 或いは私が殺されるか」

 

 

ピトは静かに呟くと。 ウィンドウ操作を始めて、自分の武装を整えていく。

 

 

「どっちに転んでも、レンちゃん悲しむでしょうね」

 

 

戦場に行く前に。 ピトは可愛いウサギを思う。 ワンちゃんに静かな好意を寄せて、私の『ファン』であるウサギを。

 

 

「ゴメンね。 でも、それが私」

 

 

聞こえやしない、けれど。

ピトは無意識に謝った。




あーあ。 気付いちまったか。


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ドーム・ファイヤ

不定期更新中。 駄文続き。

※タイトルネタバレ。 お察しください。


 

…………はい。 我々に合流する事を逡巡しております。 裏切る場合を考慮するべきです。 彼の指揮誘導技術、座標伝達技術は元より、人望の厚さはEDFにとって脅威ですから。

GGOプレイヤーや彼に賛同した隊員を率いて抵抗する可能性があります。 暗殺ないし営倉に入れるべきです。

 

……確かに《死に戻り》は脅威ですね。 火力よりそちらを懸念した方が良いでしょう。 心が折れない限りは、我々が遅かれ早かれ負けます。 《ザスカー》は手をこまねいていますが、彼らの支援を行う事は出来るはずですしね。

 

…………《グロッケン》は入り組んでいます。 完全制圧は困難です。 ドローンを飛ばしてはいますが、やはり……。

 

……ええ。 地下にも空間が広がっております。 かつての地底みたいに。 何日か前に制圧部隊が送られましたが、狂った機械が蔓延っていたと。 《デプスクロウラー》も複数投入されましたが……倒しても倒してもキリがありません。

 

…………いえ。 最深部まで到達したのですが、どこからか敵勢が無制限に湧き出て来るのです。 危険性が高いとして、最近撤退命令が下りました。 ですが、そんな場所にすらプレイヤーは活動していたと報告が。

…………はい。 潜伏場所は多くあります。 正直に申し上げます。 全ての制圧は不可能です。

 

……彼に加担はしていません。 信じるかは任せますよ。

 

…………それでも攻撃を敢行するのですか。

しかし隊員らへの説明は?

 

…………ああ、防衛出動ですか。 かなり強引ですね。

 

…………作戦成功を願ってますよ。

 

 

 

 

 

ではでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………俺はどちらの味方でもないんですがね。 隊長がどちらに着くかも勝手です。

けれど。 俺が楽しくなるように事を運ばせて頂きます。 悪く思わないで下さいね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は巨大ドームの縁。

直径約2キロ、高さ数百メートルの巨大ドームは近づくともう山にしか見えない。

つなぎ目が一切ない謎の材質の白い壁が、緩やかな弧を描いて、赤みがかった鼠色の空へと伸びている。

100メートルおきくらいに扉のようなものが見えるから、中には入れる様子。

 

 

「外も中も汚したくなる建物ッス。 俺のお馬さんでドーンとイきたい!」

「《グレネードランチャー ユーマックス》(UMAX)な。 《ウマックス》(ローマ字読み)は間違いだろ」

「ワザとです!」

「卑猥な発言はやめてくれよ」

「あーはいはいスキャン見るよ真面目にやってよ」

「がってんよ!」「すまん」「俺はいつだってマジだぜ?」

 

 

ふざけてんのか真面目なのか分からないが一度、匍匐で待機。 スキャンを待つ。 中に敵がいるのは分かるけれど、またもや密集している。 同じパターンだよ。 考えることは同じなのかしら。

 

とにかく。 端末で詳細を見てみよう。

 

 

「おっ。 スキャン始まったよ」

「ぐう……ドームのほぼ中央に、三チームもいる」

「固まってるなら榴弾で吹き飛ばして終わりよ」

「まあ待て。 中の状況は分からない」

 

 

今なら密集している。 空爆や砲撃要請でドームごと吹き飛ばす方法も考えるワンちゃんだったが、レンが激おこになるのは目に見えている。 娘に怒られるのは避けたい。

それを抜きにすると、ドームという遮蔽物がなくなって、残りの敵が真っ直ぐ来るかも知れぬ。

ここはひとつ、中の様子を見てからにするか。 状況が悪ければ外に出て、空爆か砲撃で吹き飛ばせば良い。

 

そう考えていると、レンが不安そうな顔でこちらを見てきた。 いけない。 安心させねばならない。 見ていて可愛いが、堪能している場合ではない。

 

 

「ワンちゃん、どうしよう。 迂回すると距離が長い。 しかも北回りだと《MMTM》って敵とぶつかる可能性が高い。 南回りだと、《SHINC》とぶつかる」

「接敵したらレンジャーに任せて後方に退避する」

「ちょ、隊長! 俺はワンマンアーミーじゃないんですよ!?」

「さっき、ひとりで分隊潰したじゃん」

「フカ……それは先に見つけたらからサ。 先制攻撃を出来るのは大きいぜ?」

「心配するな。 今は中の様子を見る。 全てはそこからだ」

 

 

先ずは中を確認。 横開きのドアを開ける際、トラップがないか警戒しつつ、またはCQCやCQBといった近接戦に備えつつ、ワンちゃん一行はドームへと侵入。

爆発物を扱うグレ男とフカは、閉所での戦闘は向かないので、ワンちゃんとレンがP90を構えて進む。 銃口を前方に向けつつ、慎重に前進していった。

 

やがてドーム構造体を突き抜ける、歩行者用の長いトンネルを抜けると

 

 

「トンネル抜けたら、函だ……イギリスゥウウ!」

「いやジャングルでしょ?」

「音楽の話かな」

「グレ男、静かにしろ。 敵がいたらどうする」

「なんで俺だけなんスか!」

 

 

びっくり仰天。 ドームの内部はなんと南国、ジャングルだった。 一面鬱蒼とした緑。 人の背丈ほどの草が乱雑に隙間なく生えており、天までそびえる苔まみれの大木が空を覆っている。 僅かに見える空はホログラムなのか、GGOじゃあり得ない美しき青色。

その光景にグレ男が意味不明な言葉を叫んだお陰で、他のメンバーは逆に冷静になれたが、内心はビビっている。 まるで失われた地球の自然が残っているよう。

 

 

「はー…………」

 

 

目を丸くするレンの脇で、

 

 

「こりゃスゴい! ドームの中だけ別世界だね! いいねえ! 温室かねえ? 自然パークかねえ? なんだろうねえ?」

 

 

フカは楽しそう。 そんな子らにホッコリしたワンちゃんだったが、いつまでも目を奪われているワケにはいかない。

無法者やジャングルが立ち塞がろうとも、EDFは敵に背を向けないのだ。

 

 

「や き は ら え!」

「Yes!」

「ちょ!?」

 

 

駄犬が指示すると、グレ男はフカのMGLー140を黒くした様なグレラン、ヴァラトル・ナパームZDを構えて天に向けてポンポンポンッと連続発射。

草木の隙間からナパーム弾が抜けていき、放物線を描いて敵のいる方向へ飛んでいく。 もれなく、燃える音と悲鳴が木霊した。

 

 

「火の回りが早い。 敵に逃げる余裕はないな」

「ドームを破壊せずに敵を殲滅出来そうだぜ?」

「この駄犬供が!? ドーム抜けられなきゃ意味ないよ!」

「パパ、派手にやるじゃねえか!」

 

 

あっという間に火が回り、熱風や燃える音が大きくなってきた。 最終作戦仕様だからかゲーム世界だからか、短時間でここまで燃えるとは。 早く脱出しないと、こっちまで焼け死んでしまう。

 

 

「だがな、ジャングルは危険だ。 隠れる場所が多い割には銃弾を防げる場所は無い。 先に見つかればアウトだ」

「そうだぞチビッ子たち! ゲリラ戦は市街地でよくやったけど、アッチはコンクリ。 コッチは草木。 弾なんて貫通してくるぜ。 だから敵ごと燃やして丸裸にしつつ、見えない敵をも燃やし尽くす!」

「やりたかっただけでしょ? とにかくドームから出るよ!」

 

 

正解とも間違いともいえる意見を主張する駄目な隊長らに文句を言いつつ、ドームから撤退するワンちゃん一行。

ああ、コレで遠回りだよ。 敵は一掃出来たとしても全然嬉しくない。 ドームの外にも敵がいるってのに。

 

 

「思ったんだが」

「今度は何?」

 

 

やりたい放題のワンちゃんがボソッと言うものだから、レンはイラッとした口調で聞き返す。 これ以上、何しようというんだ。

 

 

「グレイプを要請して、進もうか。 山のふもとまでなら走行出来る」

「……それ、最初からやっていれば早かったんじゃ?」

 

 

ココまできて、もっと簡単で安全にピトの下へ行けそうな方法を提案する駄犬。 今頃過ぎる。 今までの行軍は何だったのか。 散歩かな?

 

 

「隊長、武装は榴弾砲ですよね?」

「ああ」

「なら乗ります!」

「良かったじゃんレン。 楽が出来そうで」

「……辿り着いてからが大変そう」

 

 

楽観モードのフレンズ達に、ウサギは深々と溜息を吐く。

ワンちゃんが要請用のスモークグレネードを転がすと、赤き煙が立ち上り始めた。 見慣れたモノだが、それはGGOの狂った空を更に濃く染め上げていくようにも見えて……レンは改めて天を仰いだ。




ドーム内でのフカが変態に襲われてエロいことされそうになったり、レンが弾をくれた敵にお礼のキスをするシーンをバッサリカット……。


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捕獲と喧嘩

不定期更新中。
アマゾネス を つかまえた !

そして仲間割れ。 けもの ですもの、大目に見てね(殴


 

ドームにせっかく突入した別チーム《MMTM》と《SHINC》は、ドーム内を見て1発も発砲することなく、大変遺憾ながらも即撤退。 不完全燃焼な気持ちを抱えての仕切り直しとなった。

 

ドーム内のジャングルは、どっかの放火魔の所業で火の海へと変貌していたからだ。 この中を進む気はない。 彼らは飛んで火に入る夏の虫ではないのだ。

この様子では中央付近にいた敵チームは焼き死んだか同じ様に撤退したと思われるので、自分達も無理してココにいる必要はない。 出来れば闘いたかったが。

 

そんなワケで。

南側より燃え上がる気合を入れて突入、そして燃えるドームを見て、心当たりのある犯人に怒りで更に燃えるアマゾネス集団《SHINC》。

 

外に出たところで幸か不幸か、その犯人が現れた。 砲塔付き装甲車で。

 

 

「ボス! 凄い見覚えのある車両が!」

 

 

指の代わりに《ドラグノフ狙撃銃》の銃口を向けて言いたるは、前回ガンシップのロケット弾で葬られたトーマ。

長身で黒髪という、素敵な女性だ。 チーム1の狙撃手でもある。

 

そんな彼女が見たスコープ越しの砲塔付きの車両。

砂埃を立てながら此方に向かって来ているソレは前回SJ1で対峙した憎き男が乗っていたものではないか。

今回もヤツが乗っているに違いない。 気付いてないのか、幸い砲塔はこちらに向いてはいない。

見た誰もが予想して、怒りがメラメラと燃え滾る。

 

ココで出会ったが何とやら。

 

今度こそブッ殺す!

 

 

「ソフィー!」

「やるよ!」

 

 

大柄で厳つい顔をした、三つ編みのエヴァ……ボスがすぐに叫ぶと茶髪のドワーフみたいな女、ソフィーが応答。

ウィンドウを素早く操作して物干し竿みたいな長いアンチ・マテリアル《PTRD1941》を実体化。

そしてどかっと胡座をかいて、アウトリガーの如く両手を地面に突き刺して身体を安定させる。

そしてトーマが近寄って、ドラグノフを脇に置くと左肩の上に、その長い銃身を載せた。

 

 

「アンナとトーマは運転席を狙え! ローザとターニャは銃撃を続けて援護! 殺るか殺られるか、ここでケリを着ける!」

「ダー!」

 

 

装甲車相手に戦うつもりらしい。

自殺行為でしかないが、誘導兵の恐ろしさの片鱗を味わった彼女らは、逃げても死ぬのを知っている。

ドームの通路に逃げ込んでも、爆発物でも放り込まれて終わりだろう。

だったら闘いの中で死にたい。 それが戦士である。

そして何より、あの憎きチート野郎を殺したい。 幸い距離はあるので、ココはアウトレンジで決める!

 

 

「あの男からレンを救うんだー!」

 

 

誰かが叫び、トーマが殴っただけで殺せそうな大きな弾丸を装填、引き金を絞ろうとして、

 

 

『こちらEDF空爆誘導兵ストーム・ワン! 直ちに銃口を下げてくれ! 君たちの友人、レンも乗っている! こちらには戦う意志はない!』

 

 

そんな、スピーカー越しの声。

けれど、

 

 

「お命、頂戴いたす!」

 

 

そんなの関係ねぇとトーマは引き金を絞り切った!

 

チーター殺す慈悲は無い。

 

砲撃を思わす重音は同時に二つ響いたが、着弾して吹き飛んだのは残念ながらアマゾネス集団だけであった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「単発で旧式のアンチ・マテリアル・ライフルで、現用グレイプ様の装甲とマジの砲撃に勝てると思ったの? バカなの死ぬの?」

 

 

時間は少し経ち。

停車したグレイプの前に胡座をかくように座る六人のオバさん達。 その前でグレ男は仁王立ちで見下しつつ罵倒中。

アマゾネスの両腕は共通して背後に回されて紐で拘束されている。

そのサマは、戦争捕虜のイメージ。 戦士として死ぬ事を許されず、敵のイイ様にされているのだ。 屈辱だ。

 

ナニが起きたかといえば、グレ男に加減されて砲撃された挙句に拘束されているだけ。

 

トーマの放った弾丸は確かに、グレイプに命中したものの、強靭な装甲表面を凹ませただけに留まった。

一方でグレ男の榴弾砲による砲撃は、彼女らが死なない程度の位置に着弾。

彼女らを吹き飛ばし、地面に転がったところを素早く拘束したのである。

言うのは簡単だしギャグ寄りだが、インフェルノな難易度だろう。 それを可能にするグレ男は凄いのである。 性格はアレでも。

 

そんな感じに、殺すより困難なノーキルプレイを成し遂げたワケであるが。

 

 

「ハッ! チート野郎に言われたくないね」

「そうだそうだ」

「正々堂々勝負しろ!」

「それでも男か!」

「レンを解放しろー!」

「タマついてんのかゴルワァ!」

 

 

拘束されていても、精一杯の罵声で抵抗するアマゾネス達。

苦労してグロッケンの地下でPTRD1941を手に入れたのに、ソレをアッサリ否定する相手に更なる怒りすら覚えて。

 

 

「ああん? 生殺与奪権を握ってるのはコッチだってコト、知っていて言ってんのかぁ?」

「だったらなんだ? 殺せよ」

「ナマ言いやがってぇ……隊長! ガスバーナーで炙ってやりましょう!」

 

 

そう言うと、グレイプの助手席扉がパカっと開く。 見やれば降車する憎き男……ストーム・ワン。

フルフェイスヘルメットと通信ユニットが特徴的な独特の格好だが、GGOでは悪の枢軸扱いのソイツ。

 

《かの者》と呼ぶプレイヤーもいて「名前を呼んではイケナイあの人」状態となりつつある。

ALOな魔法世界なら有名な呪文を唱えたいところだが、硝煙漂うGGOでは似合わない。 いろんな意味で。

 

 

「止めろ。 話をする前に回復させる」

 

 

ワンちゃんは威厳ある声を出しつつスッと白い縦長の、人の大きさはある円柱状のポールを出してアマゾネスの近くに設置。

上側が少し伸びると、サイドにパネル状の羽根が数枚飛び出てクルクルと回り始める。

風車でいう直線翼形の羽根を思わす見た目だが、発電機の類ではない。

 

ボスは気になって、思わず聞いてしまう。

ワンちゃんは丁寧にも答えてあげた。

 

 

「なんだそりゃ」

「《ライフベンダー》だよ。 君たちの所持する注射器状の治療キットの一種だと思えば良い」

「ありがたく思えよババア共!」

「なっ!?」

 

 

こんなデカイのが!?

まさか……アマゾネス達は最悪のケースを予想して戦慄と共に身を震わせた。

 

 

「こんなおっきいのを挿すつもりか!」

「変態だぁ!?」

「おのれストーム・ワアァン!」

「そんなワケないだろ!?」

 

 

トンデモナイ誤解を受けた。 レン以上の大きさのモノをどうして挿すと思ったのか。 注射器の単語を出したのが悪いのだろうか。

EDFは装備も人も変態が多いが、ソコまでじゃないハズだ。 たぶん。

 

 

「いやぁ、このババア共は小さい方が好みらしいですね。 きっと注射器であんなことやこんなことしてるんですよ。 レンを解放しろとか言ってるのも、コイツらがショタかロリ好きだからじゃないですか? 危ないから会わせない方が……あ、注射器の件で想像したら気持ち悪くおrrrr」

「気持ち悪いのはお前だ! それと本当に吐かないでくれないか!?」

 

 

危ない発言で更に煽って、派手に自爆するグレ男。 発言も行動も汚くて困る。

《ハラスメントコード》がEDFに通用しないので、GGO基準でアウトな行動や発言をしても制限されないからタチ悪い。

そのうち事案が起きるんじゃないだろうか。

 

 

「とにかく! コレは近くにいる者の服や身体の傷をナノマシンで塞いで回復してくれるものだ。 長時間浴びるのは毒だが危険物ではない」

「……緑のバレット・ラインが伸びてきているのだが」

「有効範囲にいる者に対して緑のラインが機器から伸びて、回復させるんだよ」

 

 

言われてみると、なるほど。 黄色やレッドカラーだったHPのバーがみるみる伸びて回復していく。

あっという間に全開のグリーンカラーに。 チートだし、やっていることも納得出来ないので礼は言わないが。

 

 

「では本題に入る」

「話を聞くつもりはない」

「嫌われてるっすね隊長」

「……レン、出てきてくれ」

 

 

なおもストーム・ワンの話を聞く気がないアマゾネス。 ならばと話を聞いてくれそうな人物……レンを無線機越しに呼び出した。

レンは彼女らの友人だというから、少しは耳を傾けるだろう。

 

そしてグレイプの後部扉から小さな子、レンと付き添いでフカがひょこっと出て来る。

レンはどこかバツが悪そうにしているが、協力して貰わねば。

 

ところが、先に口を開いたのはアマゾネス達。 レンを視認するや否や訴え始めた。

 

 

「か……じゃなくて、レン! この男に言ってくれ! チートを止めろと!」

「SJ、いやGGO全体の問題に発展してるぞ! 仲間まで増えて滅茶苦茶だ!」

 

 

GGOプレイヤー全体意見を訴えた。 SJ中に言う言葉ではないだろうが、本人がいる前で敢えて叫んでみる。

ところが、レンは更に申し訳なさそうに首を横に振るのみだ。

 

 

「ごめん。 ワンちゃん含むEDFは制御不能なの。 止めても勝手にやるし」

「くっ! 非道男め!」

「何故こんな男とスコードロンを組み続けるんだ?」

「弱味を握られたのか?」

「まさか惚れているの?」

「そ、そんなワケない! ワンちゃんのことはリアルじゃ知らないんだし!」

 

 

好き勝手言う女共。 多人数の女に口で勝つのは困難なので、膨らむ前に本題へ行きたい。

ところがグレ男は首を突っ込んでいく。 リバースから立ち直った彼は、話を面倒くさく拗らせた。

 

 

「ふっ! レンは飼われているからに決まっているだろ!」

「なにいぃ!?」「なんて卑猥な!」「まあ、はしたない!」

「ちょ、何言ってるの!?」

「ナニだよ。 てか事実だろ。 側にずっといてエサ貰って頭ナデナデされて戦闘からは守ってくれてる」

「あぅ……で、でも! 否定は出来ないけど言い方が」

「上のお口で散々言いつつ、心でモジモジしてるのはお見通し……ちょ、ナイフ抜くな! 同士も拳銃抜くんじゃない! そこはグレランで頼む!」

「天誅!」「女の敵がぁ!」

 

 

ギャアギャア騒ぎ始めて無駄な時間を過ごしていくフレンズ達。

フカはM&P拳銃で何処ぞの名人みたいに片手で魂の高速連射を行い、レンは俊足を活かしてナイフで斬りつけようとするも、

 

 

「下手クソでちゅねー!」

「うぎゃー!?」

 

 

至近距離なのに1発も当てられない下手なフカに一瞬で詰め寄り、右手に持つ拳銃を蹴り上げて弾き飛ばし、

 

 

「サッカーしようぜ! お前ボールな!」

「ぐぺっ!?」

 

 

股下を潜り抜ける様にスライディング斬りを仕掛けてきたレンを、頭から踏んづけて止める。

いきなり始まったハードな仲間割れにアマゾネスがポカーンとしていると、

 

 

「うちの娘にナニしてくれてんだぁ!!」

 

 

親犬がキレた。

「うおおお!」と雄叫びを上げながら、愛と怒りのストレートパンチをグレ男に繰り出す。

レンジャー程で無いにしろ、彼も軍人。 鍛えられた身体から繰り出される拳は並大抵のモノでない。

 

 

「CQCなら俺の方が上ですぅ!」

 

 

しかし、ヒョイと避けるグレ男。 そのままワンちゃんの腕を掴み、懐に入れるようにして、

 

 

「ふっ!」

 

 

背負い投げ……というより、腕力に任せて後方に投げ飛ばす。

空中を飛翔する程であるが、しかし、ワンちゃんもそのままでは終わらせない。

 

 

「甘い!」

 

 

そう言って、いつもの間にか構えられているリムペットガン。 空中飛翔しながら撃つ気か。

 

 

「リムペットなら俺、撃たれてから回避余裕なんですけど!」

「レン退避しろ!」

「うん!」

「なっ!?」

 

 

足がどいて解放されていたレンに退避命令。

俊足で離れて安全が確認出来たところで、ワンちゃんは地面にぶつかる前に『起爆トリガーだけ引いた』。

刹那。 グレ男の足下で爆発。 グレ男は吹き飛ばされる。

 

予め足下に吸着爆弾を仕掛けていたのだ。

 

 

「目標に当てるだけが銃でない」

 

 

それだけ言うと、銃を下ろすワンちゃん。 グレ男は死んではいないが、水をぶっかけられた様に地面に横たわって大人しくなる。 熱は冷めたらしい。

 

 

「レン、フカ。 無事か?」

「うん。 助かった、ありがとう」

「レンとパパの連帯。 打ち合わせたワケじゃないのに凄かったわ。 二人とも相性バッチリじゃん?」

「そ、そうかなぁ? エヘヘ」

「フッ」

 

 

そしてアマゾネスそっちのけでイチャつく駄犬と娘たち。

 

 

「……………………あの。 ストームさん。 そろそろ本題に入りませんか?」

 

 

このままでは放置されて去られそうな雰囲気だったので……話をするつもりはなかったボスは、逆に自ら話し掛ける事にした。

素が出て敬語になってしまったが、仕方ないとして見逃して欲しい。




共同戦線へ。
やったね ワンちゃん! 仲間が 増えるよ!


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鬼退治までの道。 或いは舎利の確保。

不定期更新中。
シャーリーと出会います。 ちょっと酷い目に。


 

鬼。

様々な意味合いがある言葉であるが、スゲー強いヤツや人情がなく冷酷な者を指すコトが多いだろう。

 

ピトフーイという女は、そんな言葉が当て嵌まる人物だ。

冷酷というかサディスティックなドSお姉さんというべきかも知れないが、その強さは鬼と言って良い。

正史では結託した小隊を素手で殺してーの、武器を鹵獲してーの皆殺しであった。 エム程でないにしろ狙撃の腕もある。

そんな女を殺さず説得。 その任務は地底進行より困難だ。

 

ワンちゃんはピトが強いのを知っている。

レンがログインしていない時も共に行動していたから、LFDFでは1番詳しいかも知れない。

あの身体のラインがくっきり出るような、ピチピチ全身黒タイツな格好は色々不安にさせるものの、多種多様な銃火器をレンジャーの如く難なく使い熟すし、格闘スキルも高いときた。

判断能力も高い。 戦場に求められる刹那の臨時対応にも優れる。

ひょっとしたら、EDFのビークルも使えるんじゃなかろうか。

訓練をしなければ乗りこなすのは困難なモノも多いが可能性はゼロではない。

使用済みビークルは極力処理するべきか。

 

そんなヤツが相手だ。 戦力が欲しい。 救出するにも周りの露払いとして。

なら現地調達をすれば良いじゃない。

 

その思考になった為に、レンの友人であるアマゾネス捕獲の流れに。

一方的な力で捩じ伏せての捕縛後、スキンシップ(罵倒)をしつつ事情説明。

仲間に引き入れて戦力増強に成功し、グレイプをもう一台要請してぶち込むと、さっさと鬼退治へと走り出した。

どっかのRPGでも敵をボコボコにして仲魔に出来るのもあるから、なんの問題もないね。

そしてワンちゃんは、気が付けば分隊長から小隊長へと昇格。

よし! 人手は確保した。 この勢いで鬼の下へ急ぐのだ!

 

 

『って、ザけんなよチート野郎! 緊急事態なのとレンの頼みもあったから協力してやるだけで、誰も指揮下に入るとは言ってない!』

「とか言いつつ、ちゃんと付いてくるっていう。 ババアのツンデレなんて得しないからマジ止めてくんね?」

『テメェ、後で絶対殺す!』

「ヤレるもんならヤッてみなぁ!」

 

 

ところが、喧嘩ばかりで部隊の纏まりがない。 烏合の集も良いところ。

特にグレ男は吸着爆弾で吹き飛ばされて静かになったのもつかの間、アマゾネスを再び煽り始める。

隊長は予想はしていたのでSHINCとLFDFで車両を分けてはいたが、無線機越しに尚も喧嘩を続行中。

連絡が取れる様にワンちゃんが共通の回線にしたので、耳の中でギャアギャアと騒ぎ立てられているみたいだ。 良い迷惑。

因みにアッチの運転はトーマという狙撃手。

1番運転が上手いらしいので任せている。

今はワンちゃん達の乗るグレイプについて来てくれているが、喧嘩別れは勘弁して欲しい。

そうならないように、ワンちゃんは注意しておく。

 

 

「反目は止めろ。 今は全員でひとつの部隊だ」

「《228基地奪還作戦》時の本部の言葉ですね。 俺も参戦したかったんすけど、ダメだと言われて」

「グレネードで道中派手にやられたら、敵を引き寄せるだろう」

「でも、道中で既にプライマーの歩兵部隊に襲われたって聞きましたが」

「……まあな」

 

 

助手席に座りながら昔の話を引き出したところ、グレ男が喰いついた。 お陰で喧嘩は止まった様子。

戦時の話は良い記憶が無いが、それで争いが止まるなら安いものだ。

プライマーの時みたいに、交渉する気が無い訳でもなし。

 

 

EDFも、あるいは。

 

 

『なんだなんだ? EDFの妄想話か?』

 

 

残念ながら止まりきらなかった。

やられたらやり返すとばかりに、アマゾネスが小馬鹿にしつつ言い返してきたのだ。

止せば良いのに。

 

ああ! 人間って面倒臭い!

ワンちゃんと後部に乗っているちびっ子は、頭痛に耐えつつ、それでも聞こえてくる喧嘩を聞いていく。

 

 

『いるよなー、そういうヤツ。 過剰なロールプレイングってヤツ?』

『痛いわ! EDFって痛い集団!』

「ああん!? ババア、あの《遊撃部隊ストーム》誕生の作戦を馬鹿にするとは良い度胸だ! ココで爆破処理してやんよ!」

 

 

そう言って、グレ男は走行しつつ上部砲塔を背後を走るもう一台のグレイプに向けて挑発。

そして撃たぬ代わりに急ブレーキ。 ぶつかる腹だ。

 

 

「うひゃあ!?」「うおお!?」「ぐっ」

 

 

レンやフカ、ワンちゃんの身体が大きく前に転がされる。

危険運転である。 現代で問題になっている煽り運転等はやめて欲しい。

そして人の喧嘩に巻き込むんじゃねーよと思うワンちゃん達。

 

 

『はっ!』

 

 

しかもトーマにアッサリ横に回避されてしまった。

速度は出ていたが車間距離が開いていたのもあり、余裕の回避だ。 運転技術が違いますよ。

何というか、車の教習ビデオの悪い例と良い例(?)みたい。 丁度、酒場では二人のドライブがモニターさているし。

だがこのままではイカン。 隊長は少し声を荒げて、両者を叱る。

 

 

「おいグレ男! 喧嘩は止めろ!! SHINCもだ! 巻き込んで申し訳ないと思うし、グレ男はこの通りの性格で悪いと思う。 だが人命が掛かっている件を忘れないでくれ!」

 

 

それ、ワンちゃんが言うかな?

 

皆は思ったが言わなかった。

ただ、その言葉はごもっともで、今喧嘩をしている場合ではない。

共同戦線を張り、ピトフーイを救わねば。

それが終われば殺し合いになるだろうが、今は仲間。 手を取り合う時だ。

皆は黙り込み、ひとつの目的に集中することにした。

 

それにストーム・ワンの言葉に重みを感じたのもある。

彼の言葉はきっと、どんな銃声や爆音より身体の奥深くの芯まで響く。

そして指示に従おうと思えるから不思議なものだ。

ゲーム内のスキルでは不可能な、人の心そのものを惹きつける何かが、彼にはある。

 

 

『すまない。 今は集中する』

『グレ男……だっけか? お前とは、ひとまず休戦だ』

「良いぜ。 全部片付いたらボコボコにしてやんよ」

 

 

結果。 仲直りは出来なかったものの、今度こそ喧嘩は終わり。

運転も心なしか穏やかに。 改めて心をひとつに、鬼退治といこうじゃない。

 

 

「よし、情報を整理する。 グレ男」

 

 

すかさず戦場モードにシフト。

求められたグレ男も切り替えてキリッと報告。

いつもこうなら良いのに、とはレン&フカ談。

 

 

「はい。 この先の草原、ログハウスのあるAREA6にターゲットが移動しております。 センサー反応から他にも集まる敵部隊を捕捉。 ひとグループは高速で移動しています。 恐らく我々と同様にビークルを使用しているかと」

「障害となりうる。 ピトに接触する前に、これらを排除する。 1番近いヤツは?」

「1名、遅く移動している者です。 恐らく匍匐移動中。 偵察か狙撃手と思われます」

「危険だな。 この単体を第1目標、高速で移動するグループを第2目標とする! SHINCは後方に待機。 有事に備えて周囲を警戒して欲しい」

『あ、ああ』

 

 

さっきまでのアホなやり取りとのギャップ差に、戸惑うアマゾネス達。

ボスは何とか返答すると、他の仲間も遅れて了解の意を示す。

 

 

「周りは平原。 遮蔽物は殆どない。 だが君たちの乗るグレイプを上手く使って欲しい。 装甲車だ、銃弾から身を守る移動式の楯として十分役に立つ。 砲塔もある、最悪は使って構わない。 トーマ、榴弾砲の取り扱いは気を付けてな。 操作方法は教えた通りだ」

『は、はい!』

「大丈夫。 トーマの運転、とても上手かったぞ。 君なら上手くグレイプを使いこなせるさ」

『……спасибо(スパシーバ)』

「すまねえ、ロシア語はサッパリなんだ」

 

 

彼の褒め言葉に心をくすぐられて、思わず母国語を口にしちゃうトーマさん。

さっきまでの敵意はどこにいったのよ。

ピンクな雰囲気になってピンクなウサギが機嫌を損ねると面倒だと、グレ男が茶々をいれるが、焼け石に水だった。

仕方ないよね。 だって女の子なんだもん。

 

レンは頰を膨らませつつ、不機嫌な声で指示を仰ぐ。

 

 

「……ワンちゃん、わたしはどうすれば良いのかな?」

「SHINCと共にいてくれ。 そこで周囲を警戒。 グレイプの中からな」

「人も増えたんだし、包囲すれば良いんじゃないの?」

「遮蔽物がない。 匍匐で多少は身を隠せるが、バレたら危険だ。 各個撃破されるのは避けたい」

「そうだぞ。 俺たちEDFも平原でドンパチした時は《タイタン》の陰に隠れながら戦ったモンだ」

「たいたん?」

「EDFの重戦車だ。 今は気にするな」

 

 

おおよその方針は決まった。

細かな判断や行動は各分隊長に任せて、先ずはボッチの撃破といこう。

レンは不機嫌なままだが、ワンちゃんは気が付かずに作戦に集中する。

 

 

「まぁまぁ。 今はパパ達に任せとこーぜ? いざって時に助けられる様に、準備だけしといてさ」

「……うん」

 

 

フカのフォローで、気持ちを落ち着ける。

今は個人の感情を出している時ではない。 ピトを救うのが優先だ。

その為には皆の協力と連帯が大切であり、個々が勝手なコトをするワケにはいかない。

 

無事にこの件が終われば、また一緒に行動出来る。 それで良いじゃないか。

 

 

「間もなく第1目標」

「状況に備え! 可能なら拘束する!」

 

 

緑の多い穏やかな大地に似つかわしくない鉄の塊は、草原を駆け抜けていく。

当然目立つのだが、隠密性なんて知らねぇとばかりにワンちゃん達は突っ込んでいくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャーリーという女性について語るなら、アバターの外見が20代でリアルツリーパターン迷彩のジャケットで、緑髪の胸が大きい美女ってところ。

リアルでは24歳。 名前は霧島舞。

東京出身で北海道で働いている。 職業はネイチャーガイド兼エゾシカ猟専門のハンター。

幼い頃から夢見ていた自然の中での職を見つけて北海道へ移住した、という経歴の持ち主。

 

そんな彼女がGGOにいる理由。

それは仲間の誘いを受けて、射撃練習の為にやってきたから。

VRとはいえ、リアルの技術や知識は役に立つし、逆に練習になる。

対人戦闘上等のGGOだが、ソコは避けていた。 『本物の銃』を扱う者としての倫理観からだ。

もし戦闘になりそうな時は、銃をストレージにしまってログアウト。

フィールドでログアウトしちゃうと直ぐには消えず、その間に殺されると次回ログイン時に、その時のペナルティ……経験値や所持していた武器を失うのだが、ストレージにしまっていれば問題ない。 経験値を失っても、目的からして構やしない。

こんな感じに対人戦闘を避けていたのだが……。

では何故、対人戦闘のスクワッド・ジャムに参加しているの? と疑問に思うだろう。

心変わりか、といえばそうではない。 ゲームと割り切ってしまった仲間に誘われてしまったのだ。

遠回しに不参加の旨を伝えたり、仮病を使おうとも思ったのだが、今後の付き合いも考えて嫌々参加する事に。

本当、人間関係とは面倒である。 大人になると余計なのよ。

 

 

「あの女……!」

 

 

そんな彼女の今。

ログハウスから1キロ以上離れたところから、隠れるようにひたすら匍匐前進中。

そして何か怒っている。 どこかで付着したのか全身泥まみれであるが、その鋭い目は怒りと殺意で染まっていた。 怖い。

それを向ける相手はこの先にいるであろう、仲間を騙し討ちにした憎き女、ピトフーイ。

何が起きたかと言えば、仲間がピトたちと組もうとして近寄って、ピトが断った件である。

断られたシャーリーの仲間たちは仕方ないね、離れるまで撃たないでね、と背中を向けて移動していたところ……ピトに『ぱーん』されちゃったのだ。

ワンちゃんとドンパチを控えている彼女は、少し情緒不安定だったのもある。 正史でも嬉しそうに『ぱーん』したけど。

シャーリーは撃たれた仲間を背負って、必死に逃げて逃げて……生き延びたのはシャーリーだけ。

気が付いたら、背負った仲間はどこかに落としていた。 左上の仲間のライフゲージを見やれば、自分以外は全滅というオチ。

隊長権は自然に唯一生き延びた彼女にまわる。

隊長は降参する選択が出来るから、そうしようと思ったのだが……あの憎き女に……あの害獣を駆除せねばと銃を握って戦う決意をする。

 

 

「あんなやつは……、人間じゃ……、ない。 人に害をなす、害獣だ……」

 

 

ブツブツと言いながらも、殺意と怒りを原動力に前進するシャーリー。

 

 

「獲物は、1発で仕留めてやる」

 

 

手には《ブレイザー・R93タクティカル2》というドイツ製の高性能狙撃銃。

汚染された水の中で生まれた奇形魚のような、不気味な形のライフル。

実際に使用している狩猟のノーマルモデルとは、ストック部分が違うだけ。

GGOにはノーマルが存在しなかったので、操作方法が一緒ということで相棒になった。

それは力。

腕力のない女性でも、巨大な相手を倒せる力。

 

その力を手に前進していた彼女だが、

 

 

「……車の音?」

 

 

背後から現代人が聞き慣れた、車のエンジン音が。

首をそちらへ向ければ、二台の砲塔付き装甲車。 その鉄の塊は自然豊かな大地を踏み荒らしながら、真っ直ぐシャーリーに向かって来ている様に見えた。

 

 

(なっ……! 位置がバレたの!?)

 

 

スキャンまでまだ時間があるはずなのに。

まるで正確に『位置がバレている』みたいに、どんどん近付いてくる。

いや、まだだ。 偶然方向が被ったのだ。 慌ててはいけない。

ここはジッとしてやり過ごそう。 志し半ばで死にたくない。

 

 

『そこの泥まみれの狙撃兵! 此方はEDF空爆誘導兵のストーム・ワンだ! 直ちに武装解除し、投降せよ!』

「っ!?」

 

 

ばれてらぁ。

スピーカーから聞こえる男の声は、やはりシャーリーのことか。

い、いや。 まだだ。 たまたま同じ格好の者がいたのかも知れない。

それはそれで問題であるが、そう思ってジッとしておこう。

 

 

『聞こえているはずなのだが。 寝ているのか?』

『俺が呼びかけます! アレは酒場で見たボイン姉ちゃんッス!』

(ボイン姉ちゃん!?)

 

 

それってわたしのコト? いやいやいや。 女性プレイヤーはあの場に他にもいた気がするし、きっと他のプレイヤーだ!

てかセクハラ発言だよ。 ナニ言ってくれてんの。

 

 

『ヘイ姉ちゃん! 良いケツしてますよねホント! お兄さん達と一緒にドライブしない? これから鬼ヶ島へ行くんだけど、ババアとチビしかいなくてさあ! 若いおんにゃの子が欲しいんだよねぇ!?』

『真面目にやれグレ男!』

『ババアババアって、それしか言えねえのかこの野郎!』

『テメェ、この件済んだら絶対殺すからなァ!』

『チビ……やっぱわたしたち、チビなんだよぉ』

『レン、ナニかトリップしてないか?』

『……チビと言われて悦んでしまう、哀しき女なのさ』

『ちょ、フカ!? 違うよ! そんなんじゃないよ!』

『認めろ! キサマは飼われた挙句に自身に酔うロリビッチなのさ!』

『グレ男さん? あとでお話しよ??』

『レンジャーの俺に勝てると思うなよぉ?』

 

 

ギャアギャアとスピーカー越しの会話が、草原に響き渡る。

もうね。 忍ぶ気ゼロよ。 説得する気もないよ。 てか、ナニがしたいのよ。

ナンパ? 喧嘩?

 

"シャーリーは カオスな てんかいに こんわくしている!"

 

そんなコトしている間にも、装甲車はシャーリーの隣に停車。 やはりバレていた。

シャーリーは自身が持つ銃で、装甲車と戦うか考え……直ぐに諦めた。 無理ゲーだ。

ボルトハンドルを真っ直ぐ引いて、そのまま前に戻す……ストレート・プル・アクションというこの銃独特の機能は、ある意味セミオート並みだとか何とかだが……中の人が出て来たところで、多分勝てない。

装弾数、距離の問題や人数な問題で。 目を付けられた時点で敗北していたのだろう。

駆逐されるのは、わたしの方だったか。

 

 

「グレ男! 拘束!」

「イエッサー!」

「くっ」

 

 

装甲車からひとりの男が出て来ると、凄い速さでシャーリーに近付き、縄で拘束。

匍匐姿勢のままだったので、そのまま縛られて転がされてしまった。 亀甲縛りで。

手足もちゃんと拘束しており、なんとご丁寧に目隠しまで。

豊かな双山が縄でクッキリ浮き出て更に強調され、行動の一切の自由を奪われた彼女は敵の手に完全に堕ちてしまった。

ナニされるか、闇の世界で怯えながらも、自身の身体を敵に委ねるしかないのだ!

なんという、なんということだ(歓喜)!

 

 

「って!? 何よコレ!?」

「ナニだよ。 拘束に決まってるでしょ。 武装解除してたら、もう少し柔らかくしたんだがなぁ。 うん、キミは見栄えが良い!」

 

 

全く悪びれなく、寧ろやたらイイ笑顔で視姦するグレ男。

グレ男はグレネード大好きだけど、若いおんにゃの子も大好きなのだ!

 

 

「ナニしてんだグレ男! 丁重に扱わないか!」

「女の敵!」「サイテー!」「クズが!」「なんてヤツだ!」

 

 

そして再度キレる隊長たち。

すぐさま全員が降車して、グレ男に襲い掛かる。

同じ女として、ウザい男をボコボコにするチャンスとして、部下を躾けるとして。

ところが、襲われた彼は慌てる事なく対応していく。

 

 

「イイぞ! 闘いの基本は格闘だ!」

 

 

笑顔で言い放ち、アンダーアシストを活用したスライディングをアマゾネス集団にかまし、

 

 

「ぐっ!?」「うわっ!」「バカなぁ!」

 

 

もれなく全員足をすくわれ、すっ転んだ。

 

 

「格闘に心得があるようだな同士! だが俺の方が上だぁ!」

「ぐほぅっ!?」

 

 

フカがシャーリーの狙撃銃を拾って、ストックで殴る……というより斬りつけるような動作で襲うも、白刃取りの動作で受け止められて、そのまま手前に引き寄せられた。

手を直ぐに離せば避けられたであろう、腹への膝蹴りをモロに喰らったフカは、腹痛の子みたいにその場にうずくまってダウン。

 

 

「缶蹴りしようぜ! お前、缶役なぁ!」

「うぎゃっ!?」

 

 

レンは今度は飛び掛かって、身体にまとわりついて、ナイフによる滅多刺しをしようとしたが失敗。

飛び掛かったタイミングでかかと落としをモロに喰らい、またしても踏んづけられた。

 

 

「懲りろグレ男ぉ!」

「隊長、ハイ缶踏んだぁ!」

「ぎゃっ!?」

 

 

雄叫びを上げて殴りかかるワンちゃんに、足下のレンを踏む……というよりワンちゃんに蹴り飛ばす。

避けるワケにはいかず、ワンちゃんは全身でレンを受け取った。

その時の勢いでワンちゃんとレンは地面に倒れてしまう。

結果、グレ男により小隊は全滅。 いや、死んではいないけれど、勝負的にはグレ男……変態の勝ちになった。

 

 

「じゃ、テイクアウトしましょうか。 隊長達も寝てないで乗って下さい。 ババア達もな!」

「な、なに!? 何が起きたの!? いや、起きるの!?」

 

 

目隠しで周りが見えず、パニクるシャーリー。

グレ男は醜悪な笑みを浮かべて近寄ると、お姫様抱っこして、グレイプへと乗り込んでいく。 その光景は魔王に攫われていくお姫様である。

 

 

「お、おのれ……グレ男! この件が終わったらお仕置きしてやる!」

「協力するよ」「うん」「あの野郎ぉ!!」

 

 

ある意味で、連帯力が高まったワンちゃん一行。

今は大人しくグレイプへ戻ってやるが、後で酷いよ? と思いながら。

 

こんな調子で鬼を倒せるのか。

次の目標は高速移動中の、第2目標である。



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「所詮ゲームです」

不定期更新中。 駄文続きながらも、完結したい……。

グレ男目線。 彼はただの兵士にあらず。
何を知っているのでしょう。


※所詮:あれこれ努力してみたが、結局のところ。

 

あれこれ考えた結論として。 結局。

 

 

※ゲーム:遊び。 遊戯。 試合。

 

 

 

 

 

泥塗れのお姉さん、シャーリーを捕まえたので、グレイプの後部座席に座らせて拘束を取り、髪や顔周りを綺麗なウエスで拭き取ってあげます。

 

心なしか不機嫌な顔が柔らかく。 良いことです。

反抗してくるようならSJ2終了まで拘束してやろうと思いましたが、このままで問題ないですね。

 

第2目標が爆走の最中、ノンビリは出来ないけど事情聴取といきますか。

他の皆さんは外でノビてますが、一応の形式で。

 

 

「よお美人の姉ちゃん! 俺は皆からグレ男って呼ばれてるんだぜ。 そんで君の名を教えて欲しい。 ついでにメアドも!」

 

 

面と向かい合い、いつものチャラチャラした態度でやってみますが、怪訝な顔をして口を開いてくれません。

 

こんな時は怒ってはいけない。

口を割らせるまでに時間が掛かります。 こちらも疲れますし。

 

代わりに興味のある話を振るものです。

 

幸い、情報を俺は持ち合わせています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は彼女の本名と職業を知っています。

SJに嫌々参加したのも知っています。

降参せずに、闘う理由も知っています。

放置すればどうなるかも知っています。

誰を撃ち、誰が殺すかも知っています。

 

隊長が未来を変えたのを知っています。

EDFが異端であるのを知っています。

俺の存在が間違いなのを知っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界がゲームなのを知っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを軸にして警戒を解きたいところですが……普通なら知り得ない情報をいきなり彼女に言えば、警戒されること間違いなし。

 

通常であれば見た目や仕草、過去の風景や言葉から探りを入れるところですが。

 

……いや。 面倒ですから、『答え』を言っちゃいますか。 時間がありません。

 

 

「キミ、《リアル》じゃ《狩ガール》だろ? 見てりゃ分かるぜ! ラインなし狙撃が得意なんじゃない?」

 

 

そう言うと、目を見開くシャーリーちゃん。

いやぁ楽しい。 楽しいですねぇ。 その反応。

 

やはり世界を大雑把に知っていても、『コレ』が出来るのは愉快なり。

 

ですがコレで満足はしません。 俺の責めは続きますよ? 事情聴取なのですから。

 

 

「GGOには練習で来たのかな? それとも仲間の誘い? いや、両方か。 特にSJ2参加は大変だったね。 『運悪く』予選突破しちゃって本選への嫌々参加、お疲れさん!」

「……なんなの? あなた」

 

 

おお。 やっと口を開きましたよ。 睨みつけられますが、なんて事はない。

本題へ移りますか。

 

 

「今は『本物』とだけ。 それよりさ、キミはこの先にいる女を殺そうとしてたろ? 危うく人殺しになるところだったんだぜ?」

 

 

お前何言ってるの、な顔ですねぇ。

いきなりですからね。 仕方ないね。

 

 

「……ゲームの話。 本当に死ぬワケない」

 

 

まっ。 そうなりますよね。

この世界はゲーム。 間違ってませんよ?

 

特にシャーリーちゃんは、この件でゲームとして割り切るキッカケになってます。

その相手が相手でね、凄い皮肉な話となるワケですが。

 

でもね。 俺たちEDFは撃たれると痛いんですよねぇ。 死ぬんですよねぇ。

 

君たち遊びの所為で死ぬんですよぉ?

 

ピトフーイに関しては、事情が異なりますが。 彼女は『偽物』ですから。

そのくせに死にたがりですからね。 贅沢なヤツです。

 

 

「世の中には変なヤツも多いんだぜ」

「貴方達みたいに?」

「そう。 俺達みたいに」

「真顔で肯定するところ?」

 

 

なかなか辛辣な子です。

ですが口が軽くなって来ましたね。 このままいきましょ。

 

 

「これ、ネタバレなんだけど。 君が殺そうとしている女、ピトフーイはね。 この大会で優勝しないとリアルで死ぬって決めてる狂人なんだよ」

「……嘘」

「嘘じゃないよん? ピトの彼氏、エムからの依頼でね。 俺たちは『ピトとエムの死』を回避する為に奮闘中なのさぁ!」

 

 

そこまで言うと、あらら。 シャーリーちゃん黙りこくっちゃった。

 

闘志も冷めちゃってます。 そりゃあね。 人に銃口を向けるのはアウトな考え方でしたからね。

 

アバターを殺したところで、罪に問われないと思いますが。

結果論でいうと、そうなのかな?

 

 

「まっ! そんなワケでピトを説得するかウチの子兎がボコボコにするまでさ。 殺すのは諦めて欲しい。 でなきゃ」

 

 

一拍おいて、

 

 

「キミ、人殺しだぜ?」

 

 

脅すように、声を低くして言い放つ。

 

そんなワケ、ない……蚊の鳴くような声で俯くシャーリーちゃん。

 

身体が子鹿みたいに震えてません?

ねえ今どんな気持ち? どんな気持ち??

 

別に信じてくれなくても、「ひょっとしたら本当かも知れない」と疑念を抱いてくれれば良かったのですがねぇ。

 

思っていたより効いてしまいました。

可愛そうだと思いますが、仕方ないね。

 

正史だと、ピトフーイの狙撃に成功しちゃうんですし。

ピトもピトで、顔上げなければなぁ。 レンの作戦実行タイミングが悪かった所為ですが。

 

 

「とにかく。 この件は俺たちに任せろ。 それとコレは他言無用だ」

「……わ、わたしは……どうすれば」

「俺たちと、俺たちの隊長と一緒にいろ。 STORMー01なら何とかしてくれる」

 

 

言い終えると、バタンと扉の開閉音。

表でノびてた愉快なフレンズが帰ってきたみたいです。

 

ふっ。 オシオキに備えねば。

 

扉を見やれば、フカに開けて貰い、ピンクのウサちゃんが飛び込んできた光景が視界に映る。

 

作戦は悪くない。 開閉役と飛び込み役を分けるのはね。

 

だが! レンジャーナメるなよ!

 

遊びの時間だぜぃ。

 

 

「今度こそぉ!」

「シールドトリガー発動! ボインガード!」

「ええっ!?」「なぁっ!?」

 

 

落ち込むシャーリーを掴んで、俺の前に素早く立たせる。

飛び込むウサギは空中で止まれる筈なく、そのままシャーリーの胸の谷間へ顔面ダイブ。

 

胸に付着していた泥が、ベッタリとレンの顔に。 ざまぁ。

 

 

「きゃっ」「ぐふっ」

「あらぁ、泥パックかな?」

「うわっ! 女を楯にするとか、容赦ないねグレ男さん!?」

「何とでも言うが良い! 死ぬワケにはいかんのだよ!」

「そろそろ出発する。 グレ男、遊んでないで運転席に戻れ。 報告はそれからで良い」

「了解」

 

 

グヌヌ、と悔しがるレンと、ウエスの綺麗な部分で拭き取ってあげるシャーリー。

レンの見た目は幼子だからね。 母性でも刺激されたのかな?

 

仲良くする分には構わないのですがね。

 

 

「何の話してたのさ?」

「イヤラシイ話さ!」

「やっぱ女の敵だわ」

 

 

フカに尋ねられたので、答えておく。

嘘じゃないよ。

イヤラシイ話じゃない? リアルの話してたし。

 

 

「じゃ、改めて第2目標へ急ぎますか!」

 

 

装甲車が相手になりそうです。

回収したアマゾネスの対物ライフルを使わすのも良し。

 

俺のミニオンバスターで破壊するのも良し。

 

対抗手段は持ってるんですよ。 今回は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ないのは。

STORMー01(隊長さん)に対してだけ、ですかね。




シャーリーが仲間(?)になりました。


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車と榴弾とグレ男。

不定期更新中。 駄文続き。
コミケにいたレンちゃん……カワイカッタデス。


今回は軍用車両同士。

*フェアかって? 腕次第だ。

 

 

 

 

 

「第2目標視認ッ!」

 

 

グレ男の報告で前方を見る。

土埃をモクモクと立てながら、爆走しているビークルを確認した。

 

センサー反応と同様、3台。 爆発物を警戒してか、車間距離を開けての走行だ。

 

平べったく角張った車体。 全長5メートル弱。 全幅2メートル以上。 色はサンドイエロー。

 

四輪駆動車、高い車高、側面に装甲。

 

アレは、

 

 

「《ハンヴィー》だな」

 

 

同じ兵員輸送車だがグレイプ程ではない。 悪路走破能力はアッチに軍配があがるも、武装は確認出来ない。 行き先はログハウスか。

 

ピト達に危害が及ぶ前に排除する。

 

向きはコチラに対して、丁度脇腹を向けている。 装甲の厚さは分からないが、命中率が高い内に先制させて頂こう。

 

 

「撃て」

「撃ちます!」

 

 

間髪入れず、砲撃指示。

グレ男、トリガーを引きっぱに。

 

ドゴォンッ! ドゴォンッ! と車体上部から連続で砲撃音が鳴り響き、少し間を置いて爆音。 初弾で1台目の横腹を抉りつつ、2発目で更に大きく吹き飛ばした。

 

地面をボールみたいに転がると、出来上がったのはスクラップ。

辛うじて車両だったのが分かる鉄屑に成り果てた。 中身は終わりだろう。

 

ふっ。 流石グレ男。 性格は悪いが腕は確かだな!

 

 

「初弾命中、撃破ッ!」

「見事!」

 

 

だが相手もバカじゃない。 連続でやらせてはくれないらしい。

 

残り2台はコチラに気がつくと、左右に分散して……逃げるのではなく突っ込んで来た。

 

 

「連帯が取れている……来るぞ!」

「連中、良い判断です!」

「やれるか!?」

「やります!」

 

 

ニッと口角を上げて楽しそうにしつつ、グレ男は砲塔操作を続ける。

しかしグレイプ砲塔回頭速度は遅い。 相手の機動力に合わせるのは無理。

 

近寄られると、こちらの命中率は上がる様に感じるが、蛇行されながら、速度も不規則では偏差射撃はキツい。

 

その為に砲塔のみで追い掛けず、グレ男はハンドルも操作、間に合わない砲塔や不利な距離を車体の向きと速度でカバーする。

 

相手も分かってやってるのか?

妨害するような動きをして近寄って来るではないか。

 

中々やる。 この短時間でグレイプの特性を理解したか、偶然か。

 

 

「発射間隔が短い。 殆ど連射じゃない」

「でも手動で照準合わせての、移動目標に対して偏差射撃で初弾命中。 砲塔操作の経験は無いけど、凄いよね」

「いやー、性格悪いのにね」

『だが相手も強い。 近寄られているな』

「ハッハー! EDFナメるなよ!」

『黙れチート野郎』

『前回は、トラックに負けそうだったね?』

「今回は俺ちゃんがいる! 安心しな!」

 

 

背後に乗る仲間と会話する余裕を見せつつ、尚も砲撃を続行。

 

ドゴォンッドゴォンッと音は鳴り止まないが、相手は怯まず爆煙を縫うように回避行動をし、突っ込んで来ているな。

 

相手の武装は分からないし、このままでは危険だ。

 

後方にいるトーマ達に指示するか。

 

手持ち無沙汰であるし、折角の対物ライフルがある。 使わせよう。

装甲も厚くはなさそうだ。 旧式でもダメージは通るはず。

 

 

「エヴァ、距離を置いてアンチ・マテリアルで狙撃してくれ」

『砲撃は?』

「しなくて良い。 移動目標だ、当てるのは難しい。 同士討ちは避けたい」

『了解』

「周囲の警戒も怠るな。 グレイプを上手く楯にしろ。 細かな指示はエヴァに任す」

『任せろ』

 

 

よし。 指示は通った。 センサーを見れば俺達のグレイプから離れていく。

 

相手も警戒するだろうが、二方向からの攻撃に対応するのは困難。

 

敵に隙が出来る筈。 ソコを一気に畳み掛けるぞ!

 

 

「……ねえワンちゃん? わたしたちも何か出来ないかな?」

「パパ、ヒマー」

 

 

すると、娘たちが寂しそうな声でねだってきた。 役に立ちたいという気持ちは素晴らしいが、外に出させるワケにはいかん。

 

 

「そうだな、スリット……覗き穴から周りを警戒してくれ」

「直接撃たせてよー?」

「ダメだ。 激しく動く車体から身を乗り出すのは危険だし、装甲車相手では攻撃効果は望めない。 特にレンは」

「落ち込むな小さき戦士たち! 周りを見るのも大切なお仕事だぜ?」

 

 

ガンカメラと周囲の地形と敵車両を見ながらも、グレ男はフォローしてくれた。 器用で助かる。

 

だがレン達は沈黙してしまう。 申し訳ないと思うが、危険に晒したくないのだ。

レンとフカには、後でツマミを沢山奢ってあげよう。 そうしよう。

 

 

「しかし小賢しいハエどもだっ!」

 

 

ドゴォンッドゴォンッと撃ち続けるも、中々敵は倒れてくれない。

 

グレ男の砲撃を掻い潜り、とうとう射程圏内に収めたのか。

上部ハッチから身を乗り出してきた男が。 手には、

 

 

「無反動砲か!?」「やべっ!」

 

 

まさかの重火器。

EDFの《ゴリアスD1》と似ているが、細部は異なる。

 

だが平気な代物ではないな!

あんなの喰らっては装甲を持っていかれるぞ!?

 

 

「対衝撃態勢!」「捕まれ!」

「え? えっ!?」「うひゃぁ!」「捕まって」

 

 

思いっきり右に急ハンドル。 背後から悲鳴が聞こえ、同時に相手が発射。

後尾からガスが噴出されて、前方からは榴弾が飛び出る。

 

本体ではない、横から車体下部を狙われた。

 

爆音と共にタイヤ下部の地面が抉られ、車体が少し浮き上がる。

身体が重力に引っ張られて横にズレていく。

 

敵は破壊を目的としていない!

 

押し倒す気だぞ!?

 

 

「グレ男!」

「了解ッス!!」

 

 

俺が叫ぶと、言葉の意味を理解してか、砲口を倒れそうになる方向へ。

 

刹那、もう一台からも同じ砲撃!

横面で激しい爆音と振動が装甲越しに伝わってくると、そのまま車体が横倒しに、

 

 

「テェッ!」

「イエッサー!」

 

 

ハンドルを切って片輪装甲をしつつ、地面に触れそうになった砲口から爆炎を放たせる。

 

実包だ、ほぼゼロ距離で地面に撃ちこんだのでコチラも無事ではない。 爆風と破片で装甲が抉れてしまった。

 

 

「ぐっ!?」「無茶は何時もの事ッスよねぇ!!」

「うひゃあ!?」「無茶苦茶な運転だな!?」「っ!」

 

 

だがその衝撃で車体を立て直す。 ハンドルとアクセルを上手く操作して、がっしゃんと車体を地面へ戻した。

 

衝撃と悲鳴は凄かったが、グレ男の操縦技術に感謝しなければな!

 

だが安心するのはまだ早い!

カーナビの様な、小さなダメコンパネルを見つつグレ男に車体状況報告。

 

 

「砲塔異常ナシ! 左前輪変形、走行可能か!?」

「ハンドルはガクつきますが、まだやれますよ!」

「了解。 戦闘を続行! 後部座席! レン、怪我人は!?」

「うぎゅ……え、えと」「いないよ! パパ、安心してやっちゃえ!」

「ありがとうフカ! 後で撫でてやる!」

「ツマミも奢ってね!」「…………」

 

 

混乱するレンの代わりにフカが報告。 ありがたい。 連帯は大切だ。

 

敵とはすれ違ったか。 そのまま後方にいるエヴァ達を襲うかと思ったが、そのまま大きく弧を描いて戻って来ようとしている。

 

先にコチラを潰したいらしい。

 

 

「隊長、モテモテッスね!」

「勘弁して欲しいが、このまま囮になる。 エヴァの方、狙撃態勢か?」

『ああ。 今位置に着いたよ』

「任意で良い。 やってくれ」

『ダー!』

「すまねぇ、ロシア語はサッパリなんだ」

 

 

再び茶々を入れるグレ男。

だが構っている場合じゃない。 それに単発のアンチ・マテリアル一丁で二台を相手にさせるのはキツ過ぎる。 あくまで援護射撃だ。

 

このままでは決定打に欠ける。

ならばと、新たな指示を飛ばす。 マシンの火力は強力でも小回りが利かない。

 

ならば小回りの利く歩兵の出番だ。

丁度、対装甲兵器を持っているコイツに。

 

 

「運転交代。 グレ男、降りて戦え」

「ファッ!? 相手は暴走車ッスよ!? 轢き殺されますって!」

「お前なら死なんだろ。 真面目に言えば、ミニオンバスターで連中の装甲を抉ってやれ」

「……援護はして下さいよ?」

「任せろ。 行って来い!」

「いえっさぁ」

 

 

嫌そうに、けれど了解してくれた。

速度が出たまま、シートベルトを外して扉を解放、地面に転がるように表へ飛び出す。

 

直ぐに景色から消えた。

地面は草が多いし、多少は平気だろう。

 

 

「自殺かな?」

「死んだら因果応報ってことで」

「……バカな男」

『1発だけなら誤射かも知れない。 当たっても許せ』

 

 

皆、結構酷いコト言ってるよね。

仮にも仲間なのだから、応援のひとつしてやれよ……。

 

 

「ヒャッハー! みんな、応援ありがとぅー!」

 

 

応援してないぞ。 俺だけでもしておくが。 心で。

 

とにかく。 カラになった運転席に、素早く横移動。

ハンドルを握って、アクセルに足を置く。

 

空いたドアを素早く締めて、ガンカメラを確認。 グレ男、早速アンダーアシストを使ってハンヴィーに突撃しているのが見えた。

 

車と同じように、土埃を立てながら。

 

手には徹甲榴弾を発射する緑色のゴツい特殊小銃、ミニオンバスター。

 

……いや、随伴してグレイプを楯にしながら戦えば良いのに。 ナニしてるんだ。

 

 

「うおおお! EDF歩兵ナメるなよぉ!」

 

 

雄叫びを上げつつ突っ込んで行くも、それでビビるコトもなく。

 

寧ろアクセル全開にされて轢き殺そうとしてきたよ。 しかも無反動砲の代わりに小銃でドカドカ撃ち始めたよ。

 

グレ男も負けじとミニオンバスターを撃ちまくる。

走りながらの射撃にも関わらず、全弾当てているみたいで、片方のハンヴィーの装甲から火花が。

 

……ああ、もうそれで良いか。

 

 

『おっ。 でも小銃では』

「うわぁ……スプラッターな光景、見たくないなら目を逸らした方が良いよ」

「同意見」

 

 

普通の小銃なら、な。

フカとレンがグロ注意してくれる。 一度見てしまったからな。 もう見たくあるまい。

 

刹那。 ハンヴィーの装甲が内側から外へ飛び出るようにして、弾け飛ぶ。

中の連中にも被害が及び、次にはフロントガラスにヒビが入ると同時。 ベッタリと赤い血のようなモノが全てのガラス面内側にこびりついた。

車内の様子は……まあ、見えなくても想像出来る。 したくないが。

直ぐにガラスは粉々に崩れて、後を追うようにハンヴィーは爆発四散。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()

 

 

『…………え?』『…………は?』『…………うぇっ』

 

 

そのエグい光景に、エヴァの仲間から変な無線音声が送られる。

特にスコープでよく見えてしまったであろう、トーマは気持ち悪そうな声を出した。 すまない。 戦士として、目を逸らさずにいたのか。 だが戦場とは残酷な世界なのだ……。

 

 

「もう一丁!」

 

 

最後の獲物をいざ狩らんと、銃口を向け直すグレ男。 相手は悲鳴を上げてるんじゃないかと思えるほど必死に逃げ回り、

 

 

「おいおい……さっきまでの威勢はどうしたんだよ?」

 

 

ミニオンバスターの射程外に行けばグレネードランチャーUMAXに切り替えて、

 

 

「じゃあの」

 

 

ポンッと、発射。

 

放物線を描いた弾頭は、やがて吸い込まれるようにハンヴィーの頭に命中。

 

ドカンッ! と爆発。 炎上。 一瞬世界の照度が一気に上がって、衝撃波の熱風が乱暴に車体側面にぶつかる。

 

軽く車体を揺らされた。 走行に支障はないのだが……一度停車。 嫌な風だな。

 

決戦仕様。 あの爆発だ、誰も助からなかったろう。 せめて苦しまずに逝けたコトを願うよ。

 

 

『……最初からこうしておけば良かったんじゃないのか?』

 

 

間を置いてのエヴァから無線。 いつもならチートだのなんだの罵倒してきそうだったが今回は冷静に……いや。 少し震え声で尋ねられた。 普通なら分からない程度に。

 

ああ。 怖い想いをさせて申し訳ない。

 

 

「いや。 グレ男を最初から外へ出して勝てたかは分からなかった。 勝てても、負傷する可能性があったからな」

 

 

答えてやるも、応答はない。 大丈夫だろうか。 少し休憩させるか?

 

 

「エヴァ?」

『……すまん。 これで障害はないな。 この後、どうする?』

「無理するな」

『平気だ。 戦える』

 

 

強いヤツだ。 だが前線配備は避ける。 引き続き後方支援だ。

 

 

「そのまま、周囲警戒とログハウスを監視してくれ。 俺たちはログハウスに近付いて、ピトフーイを何とかしてくる」

『分かった』

 

 

これで良い。 グレ男を回収して態勢を整えた後、ログハウスに近寄ろう。

抵抗されるだろうが、何とかしなければな。

 

 

「グレ男、戻って来い。 障害は排除した、後はピトフーイだけだ」

「りょおぉかぁい……ハハッ」

 

 

間延びした、スローモーションの声が無線越しに聞こえて来た。

ああ、トリップしてやがる。 相変わらず不気味な声だよ。

 

悪魔だ。 悪魔か。 いや、悪友である。

 

 

「ひぃっ…………、今の……グレ男さん……だよね?」

「ヤベッ、今夜夢に出るかも」

「……あの男は、危険。 人間じゃ、ない」

 

 

ああ、仲間の士気が下がっていく。

怖がらせるなよ。 全く。

 

 

 

 

 

やがて戻ってきたヤツの肩には、誰かの千切れた片腕が心霊写真みたいに乗っかっており、皆に悲鳴を上げられる。

 

それを歓声を浴びたかの様に、ニンマリと笑顔を浮かべるヤツは……。

 

悪魔が嘲笑しているように見えた。

 

 

 

 

思えば戦前からの馴染みであるが、コイツの腹の中は未だ分からない。

何を考えているのか。 そして何か、隠しているのか。

 

EDFと関係ないコトではない気がして……だが今、俺は任務に集中する事にした。



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死の繰り返し

不定期更新中。 駄文続き。

一気にピトフーイまで。 違和感あるかも。


 

*それは異なる。

どんなに歩み寄ろうとも。

 

愛があろうとも。

 

 

 

 

貴方には知っておいて欲しい。

 

本物であるからこそ。

英雄であるからこそ。

期待してしまうのです。

 

面白い世界に変えてくれるコトを。 『()()()()()()()()』という、偽物に縋り本物を捨てて傷口を舐めるEDFを潰してくれるコトを。

或いは偽物に縋る者にチカラを貸して、生への充足を与えるコトを。

 

そして偽物のLLENN達を生かすか殺すのか。

 

世界を知って、ふたりがどう反応するのかって。

 

尚も互いの関係は続くのかって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ココがあの女のハウスね」

「こちらはEDF空爆誘導兵、ストーム・ワンだ! ピトフーイ! いるんだろう? 迎えに来たぞー!」

 

 

俺は叫びつつも、グレ男はワクワクしながらも、グレイプを大きなログハウス脇に幅寄せ。

 

呼び掛けながら来たものの、ここまで何の応答もない。 センサー反応から見るに中で動いているのは分かる。

 

居留守はやめて欲しい。 それとも遅いと思われて、拗ねてるのか?

 

 

「仕方ない。 内部に突入、直接迎えに行くか。 グレ男、ついて来い」

「了解」

 

 

念のため、武器……P90改を持って降車する。 ゴテゴテしている分、取り回しはノンカスタムより悪いが、閉所だ。

装弾数が少なく大きめなサプレスガンより使い勝手は良い。

フルフェイスではP90の小さなサイトは見難いのだが、弾をばら撒けば何とかなる。

 

 

「わたしも、ついて行く。 近距離戦闘は得意だよ」

「同じくぅ」

 

 

すると、レンとフカまで降車してしまった。 いけない。 何が起きるか分からないのだ。 前回みたいに狙撃されるのは勘弁である。 危険な目に遭わせたくない。

 

 

「中で待機していろ。 その、中のお姉さんを見張ってくれ」

「…………」

「じゃあさ、わたしが見張ってるわ。 行ってこいレン」

「ごめん、ワンちゃん。 行かせて。 お願い」

 

 

そう指示するも、フカがカバーしてレンは食い下がった。

そんなにピトに会いたいのだろうか。 いや、違うか。 何か目的がある様子。

 

 

「何を焦っている?」

「焦ってない。 ピトさんと話したいだけ」

 

 

淡々と無感情に努めて言う。

 

いや。 違うだろ。

 

本当の目的は別にあるんだろう?

 

フルフェイス・ヘルメット越しに、レンの小さな身体の、大きな目を見つめる。

そこにあるのは殺意だ。 『ピトさん殺す』という、殺意。 いや、決意。

憎しみも怒りもない。 やらなくちゃいけないっていう、使命感。 EDF(俺たち)に少しだけ似て非なるもの。

仕事をする時の機械的で事務的な命令下での無気力な行為でなく、それが正しいのだという無理矢理な解釈でもない。

 

「本当に殺らなきゃならない」。

 

止めても殺す。 噛み付いてでも何がなんでも。 そんな、決意の目。

ただ……命を刈り取る前にしては、妙な違和感を覚える。 まるで死んでも再開出来るような。 《再出撃》なんて幾らでも可能なような。 殺す理由はそもそも何だ?

 

───この世界はゲーム。

 

───俺たちはキャラクター。

 

根拠もナシ、そんな単語が頭を過ぎる。

だが俺達は確かにココに存在し、銃を握り続けて命のやり取りを続けてきた。

苦楽を感じ、確かな感覚で地面を踏みしめている。

 

その、ハズだ。

 

 

「ワンちゃん?」

「……すまない。 分かった。 背後をついて来い。 周囲の警戒怠るな。 フカも見張り、頼む」

「ありがとう」「いぇい」

 

 

今は集中しよう。 ピトを救ってからだ。

 

本当は連れて行くべきではないが。

目の届く場所にいさせよう。 それが逆に安全かも知れない。

 

後方のエヴァ達に預けても、脱兎の如く飛び出してしまうに違いないから。

 

 

「しかしよお、本当に近距離戦が得意なのか?」

「得意だよ。 狙撃は苦手だけどね」

「ホントかよ。 飼われたウサちゃんが戦場で喰われないか心配だぜ」

「最悪はワンちゃんと貴方を楯にするから」

「良いぜ! 生き延びたら、お前でサッカーしてやんよ」

 

 

グレ男も何だかんだ見てくれている。 ありがたい。 この先は室内戦闘も考慮しなければならない分、彼に頼るコトになりそうだ。

 

最悪はレンにも。 だがレンは殺すのが主目的な気がする。 あまり前に出させたくない。

 

 

「グレ男、抵抗されても無傷で拘束しろ。 良いな?」

「無茶言いますね」

「戦時より無茶ではないと思うが」

「それには同意します」

 

 

よし。 突撃用意だ。 グレイプに乗せているEDF主力小銃《PAー11》を引っ張り出すと、グレ男に渡した。

 

一応受け取るも、首を傾げられる。 不満か?

 

 

「え? フツーのライフル使えと仰います?」

「当たり前だ。 まさか室内でミニオンバスター使う気だったんじゃないだろうな?」

「何の問題ですか?」

「問題しかないわ! ログハウスを破壊する気か?」

「グレランじゃないから問題ナシ」

「爆発物だろうが!」

 

 

なんて奴だ。 そのまま使われたらログハウスごと吹き飛ばされていた。 手榴弾を部屋に投げ込むとは勝手が違う。

武器のチョイスは間違いたくないものだ。 地底での要請とか。

 

 

「グレ男の名が廃ります」

「遊びじゃないんだ。 縛りは止めろ」

「確かにそうですね。 EDF(俺たち)は特に」

 

 

納得して貰えたところでグレ男を先頭。 後ろにレンとフカ。 1番後ろが俺。 最後は1列になるようにクリアリングをかけていくつもり。

どのポジションも重要であるが、前衛と後衛は任せて貰おう。

もし娘たちが飛び出すようなら、止めねばならない。 死なせないし、死なすワケにはいかないんだ。

 

 

「はぁ……条件が拘束やレン絡みじゃなきゃ、纏めて吹き飛ばすのに」

 

 

銃に弾倉を着けて、初弾を込めて。

扉にトラップがないか確認しながら文句を言うグレ男。 レン絡み、というのは……やはり同じ事を感じている様子。

 

 

「そう言うな。 頼む」

 

 

だから俺は願う。 無事にこの一件が終わる事を。

 

グレ男は短く返事をすると、銃口を常に上げて視線とリンクさせつつ内部へと侵入していく。

俺たちは黙って、後をついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ハンヴィー》の連中の代わりに本物が来てやりましたよっと。

 

ログハウス内を姿勢を低くしてユックリ進みながら、ピト達を探します。

もうレンとフカと、アマゾネスに丸投げして傍観してりゃ良いんじゃないでしょうか。

なんとかなるでしょ。 相手の戦力は1人とて減ってませんが。 俺たちの所為でね。

あの緑の子(シャーリー)も死んでませんし。 何かやらかしてくれるかなーとも考えましたが、ビビってたし、フカか見張ってるなら動けませんか。

 

さて。 ナニはともあれ。 さっさと見つけて説得なり殺すなりしてSJ2を終わらせます。 《グロッケン》と《GGDF駐屯地》の件が残っているので。

 

センサー反応からして、ピトたちは二階ですね。

 

この建物、二階に上がる階段は1つしかありません。 知らない連中が待ち構えていると思いますが、殺すしかないですかねぇ。

 

そいつら……4人いるっぽいですが、目標じゃないので殺しても問題ナシでしょ。

 

階段の手前まで来ると、俺は報告します。

 

 

「隊長。 敵は二階。 階段はひとつのみ。 待ち伏せされてます」

 

 

凄い小声で、けれど無線機の自動調整ではっきりと隊長さんに伝えます。 すると、

 

 

「なんとか全員拘束しなければ」

 

 

うん。 無茶振りじゃないですかね。 戦時中も無茶苦茶な作戦が多かったですけど、これはこれでハードモードです。

 

 

「ワンちゃん。 それは難しいんじゃないかな? そもそも拘束する理由って何なの?」

 

 

おっと。 レン絡みが始まりました。 至極ごもっともな意見ありがとう。

そして潮時です。 隊長にはネタバレする頃合いでしょうね。 EDF隊員の殆どは気付いていないですが、隊長にだけはね。

 

そしてレン。 君にもさ。

 

SJ2終了後も銃は握りっぱなしになりますから。 とても忙しくなるので、今のうちに教えておきましょうか。

このタイミングは邪魔が入るかもですが、なに。 闘いながらでも良いです。

 

あの毒鳥(ピトフーイ)も……気付いている可能性がありますし。 なのに、当人が知らないんじゃあ、ね?

越権ながら司会進行をさせて頂きますよ。

 

 

「殺したくないからさ、LLENN(レン)

 

 

え? と声を漏らしたのはどちらでしょうか。 そしてレンは今更ながらワンちゃんに説明し始めます。 こんなところで話すコトではありませんが、構わず進めさせましょう。 襲われるので。

 

 

「SJは殺し合いだよ。 殺さないと大会が成り立たないし、そうでなくても相手が降参してくれないと」

「だそうですよSTORMー01(隊長さん)。 前回は上手く終わったみたいですがね、今回はピトを殺すか我々が死なないといけません」

「え、えっと……? ゲームなんだから遠慮しなくて良いと思う。 わたしも最初は戸惑ったけど、そういうものだよ。 逆にそうしないと皆に失礼ともとれるし。 チートはダメだけどね。 前みたいに殺して良いんだよ。 ピトさんはワケあってわたしが殺すけど」

 

 

レンは優しい口調で殺すだのなんだのと持論を言います。 可愛い顔しておかっない単語が並びますねぇ。

ですがEDFにとっては悪魔みたいな、ゾンビな話です。 我々は死ぬのに、向こうは生き返るんですから。 理不尽ですねぇ。 殺しても殺しても生き返って向かって来る無限兵力。 ホラー映画ですわ。

 

あらら。 緑髪の子(シャーリー)みたいに隊長まで黙ってしまいましたよ。 何を言っているのか理解出来ていない、いや。 したくないみたいですね。

恐る恐る、声を震わせながら隊長は尋ねます。 ああ。 耐性があるわけないですよね。

 

俺も最初は戸惑いましたよ。

 

 

「─────大会? ゲーム? 遊戯感覚で殺し合いが行われているのか?」

「ゲーム世界なんですよココ。 おっと」

 

 

階段からグレネードがコロコロコロ。

敵さんが痺れを切らしてきました。

 

チッ。 良いところなのに。 場所が悪過ぎましたね。

 

 

「下がれ!」「回避」

 

 

隊長が素早くレンを掴み、俺と共に角に隠れます。 流石英雄。 動揺しているのにこの判断能力と反射神経。

直後、爆音。 破片と爆風が壁や床、天井をボロボロにしていきます。

ですがこれをキッカケに突入しますかね。 話の続きがしたいので。 爆煙に紛れていざ突撃!

 

 

「ま、待て! グレ男!」

 

 

命令違反。 独断行動。 今まで何度も行ってきたコトですが。

この異世界で何の役に立つというのか。 罪になるというのか。 何故、偽物相手に命を賭けなければならないのか。 これこそ最大の罪であり無謀で無駄な行いです。 そしてゲームならさっさと終わらせるのが最善でしょう?

戦略情報部はどこまで知り得ているのか。 まさか俺だけですかね。

 

敵どころか味方にも理解されずに散っていく命に、その際に笑われて消えていく者らに、世界の壁で隔たれれば悲しみ怒り、二度と戻らぬ命に、どう向き合えば良いのか。

かつて本部が言っていた風に言えば、本物であるコトを代表してヤツらに1発喰らわせれば良いのでしょうか。 だとしても蘇るだけです。 我々は蘇りません。 いえ……時間が巻き戻るコトはありましたが。 もう、今回で最後にしたいのですよ。

 

今までいなかった、英雄(あなた)が現れたのですから。

 

 

「今度こそ終わりだっ!!」

 

 

アンダーアシストで爆煙を突き破り、階段を1秒未満で駆け上がり……反応出来ない敵を1人、容赦なく殴り飛ばす。

レンジャーの腕力で壁を突き破って飛び出るも、見届けるなく次の標的へ。 あと3人。

 

二階の綺麗な宿泊施設を思わす部屋からは、残りの3人が慌てて銃口を向けるも、

 

 

「遅い」

 

 

幾度となく経験した光景に、迷うコトなく《PAー11》のフルオートを浴びせる。

 

20発どころじゃない。 EDF余裕の3桁レベルの銃弾をマシンガンの如く撃ちまくり、相手に反撃させない。 そのまま押し切って蜂の巣にしていく。

部屋の中に引っ込もうが関係ない。 壁抜きで潰した。 センサー反応で生きてるかは分かる。

 

これも何度経験したか。 何度同じ光景を見てきたか。 何発の銃弾を吐き続けたのか。 機械的な作業とかしてしまい、いかに早く終わらせられるかのタイムアタックと化している。

『人の声が響かない地球』でも異世界でも、同じことがあった。

ホント、ゲームみたいだ。 ハハッ。

 

 

「あらら。 EDF(ホンモノ)が来たみたいねぇ?」

「……相変わらず滅茶苦茶な攻撃方法と火力だな」

 

 

そして出て来る魔王とシモベ。 かたや嬉しそうに、かたや少しの不安と共に。

 

問題はコイツら(SJ2)の後なんですよ。

 

《GGDF》。

 

もう、ハッピーエンドを迎える為にreset(繰り返し)されるのは懲り懲りなんです。

 

終わらせましょう。

 

世界をこのままツマラナイまま終わらせないで下さいね?

 

頼みましたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

STORMー01(隊長さん)




ピトフーイ戦へ。

そしてSJ2の後。 それが最後への道。


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本物と偽物

不定期更新中。


 

*彼女の舞台ですか。

でもね。 俺たちには更に大きな舞台が待っています。

ご一緒に如何でしょうか?

 

その前に。 一度死んで頂きますがね。

 

ウサギの為にも。 英雄の為にも。

俺の楽しみの為にも。

 

 

 

 

 

*本物? 偽物?

関係ない。 俺が信じたもの。

それが本物だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピトさん。 大人しく投降してくれません?」

 

 

侍というか、忍者というか。

そんな姿のピトに俺は、一応の形式で説得を試みます。

 

今の彼女はヘッドギアを頭に着けて、バウンドガンを思わす……スラッガーライフルにドラムマガジンを付けた見た目の小銃や光学兵器の剣と考えられる武器で武装中。

腕には装甲板をシールドとして装備。 裏に取手を溶接して持てる様にしているみたいですね。

 

その華奢な身体からは考えられない筋力と俊敏性、判断力を持ち合わせ、高い戦闘能力で狂った闘いをする女。 油断なりません。

それでも殺すのは容易いですが、俺が殺してしまってはリアルでも死んでしまうコトでしょう。

全く。 贅沢な死です。 《グリムリーパー》が聞いたらどう思うことやら。

 

 

「ヤダ」

 

 

そして、迷うコトなく屈託の無い笑顔で言い切られました。

でしょうね。 予想通りです。 それでも時間稼ぎをしなければ。 少し会話を長引かせましょう。

 

 

「理由は?」

「アナタもワンちゃんと同じ本物でしょ? 殺し合えるなんて素敵な機会」

 

 

嬉しそうに口角を上げる毒鳥。

ああ……本物だと気付いていましたか。 それはそうと足が少し曲がりました。

 

跳躍体勢的な感じです。 ダメですねコレは来ます!

 

このドS女め、少し待てないんですかねぇ!?

 

俺は直ぐにコイン大の《一号弾》を右手にたくさん、鷲掴みにして投擲用意。

相手は鬼です。 そんな鬼の貴女の為に丁度良い武器をご用意致しましたよ!

 

 

「捨てなきゃなら」「鬼は外おおおお!!」「っ!?」「ピトッ!?」

 

 

言い始めた直後、鷲掴みにしていたモノを撒くように前方にばら撒きました。 攻撃なんてさせねぇぜ!

 

刹那。 隣のクマさんが庇う様にピトに覆い被さります。 身体が大きいのでピトを床に押し倒す形になり、上手く全体を守れています。 美しき自己犠牲愛。 戦場で時々見た光景ですがいつ見ても良い! 愛は良いね!

 

そしてドンドンドンドンッ! と爆発に次ぐ爆発。 投げたコイン大のグレネードが小規模な爆発を起こしていきます。

天井や床、壁の綺麗な表面を子どもの悪戯のように抉っていき、木屑が狭い共用廊下を舞っていきました。

 

クマさんの背中には直接接触して起爆したものも複数あり、赤いエフェクトが無数に生まれます。 ですがHPは大して減ってないでしょうね。

 

《一号弾》、スプラッシュグレネードは殺傷能力があるものの、元は暴徒鎮圧用だったモノです。 初期型なのもあり、1発の威力は期待出来ません。

爆発の範囲は狭いので、把握出来ていれば閉所でも被爆ナシでいけるのですが。

 

ですので、

 

 

「鬼は外ッ! 鬼は外ォッ!!」

 

 

連続でバッバッと丸まるクマ公に投げつけました。

なんかね、豆をひたすら投げつけて起爆する度にクマさんがビクビクしてます。

もうコレ、イジメの現場です。 でも仕方ないです。 隊長とウサギが来るまで時間稼ぎですよ。

 

ですが、そうは問屋が卸さない。

 

HPの減りが微々たるモノだと気付いたのか、ピトが自分より大きいエムを楯にする形で持ち上げて起き上がりました。

 

うわっ。 やはり力持ちですねぇ。 そして仲間を楯にするとか容赦ねぇ女です。

 

そしてナニするのかと思ったら、光剣を床に挿しこみ、ぐるっと自身の周りをなぞります。

 

そして丸い形にカットされた床ごとストン、と一階へ急降下……といっても、断熱材と二階天井に阻まれ、もう一度やったようですが……ピトとエムは素早く消えました。 ちょっとした手品のよう。

 

 

「おっと」

 

 

慌ててPAー11に持ち替えて銃口と共に床の大穴に近寄り覗き込みます。

ですが既にいません。 見えるのは間の断熱材と一階天井の木材の断層。

そして一階に落ちた二階の床だった丸みを帯びた木材。

 

行動早過ぎでしょ。

 

…………うーん。 関係ないですが、隊長風に言えば「ホルソーで連続抜きした跡」みたいですね。 合成樹脂製可とう電線管やスピーカー機器を突っ込むにはデカ過ぎる穴ですが。

 

ともあれ逃げられました。 そして一階にいるであろう、隊長とウサギがピンチです。

 

逆に言えばチャンスです。

 

 

「毒鳥と熊がソチラに落ちました。 警戒して下さい」

 

 

無線でそれだけ言うと、二階の客室っぽい部屋へ。 綺麗な部屋にはベッドがあったので、遠慮なく横になります。

追い掛けるのが面倒だからじゃないですよ?

 

 

「俺の仕事は終わりだぜぃ」

 

 

後は……若いふたりに任せて。

説得はほぼ無理として、拘束出来ても殺すしかなくて。

 

そして隊長には世界を実感して頂きましょうか。 この世界は所詮ゲームなんだと。

愛する子は、キャラクターなのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『毒鳥と熊がソチラに落ちました。 警戒して下さい』

 

 

大きな音や銃声が何度も聞こえたと思ったら、今度は何かが落ちて来る音が。 グレ男が派手にやらかしたらしい。

そしてヤツの性格だ、丸投げする気だろうな。

 

全く……この世界の件といい、EDFといい、今回の件といい。 問題ばかりで嫌になる。

 

なんて日だ。 228基地で戦闘に巻き込まれた日と良い勝負じゃないか?

 

 

「…………レン。 俺から離れるなよ」

 

 

レンの小さな頭を撫でつつ、俺は言う。 レンは上目遣いでコクリ、と小さく頷いた。 目に不安はなく、決意に満たされている。 そんなレンも可愛い。 故に守らねばならない。

 

生死に関して言えば、レンを殺させず、殺しをさせず、ピトを説得する。

 

状況は酷いが、良い時の方が少ないのだ。 現実と闘わねば。 そして希望は必要だ。

 

戦時中の時のように。 人が毎日たくさん死んで友人や知人、家族を失い、家や町、基地を失っていった日々を思う。

 

屍に囲まれて、自身だけはポツンと地球に立ち尽くし生き延びている。 皆、俺だけを置いて逝く。

 

ついて来てくれた仲間たち、守るべき筈だった民間人。

生き延びても絶望に押し潰されて、精神を病んだ者も数多くいた。

 

俺もそうだ。 英雄だなんだと囃されたが、内心では生きる理由も何の為に闘うのかも分からなくなりそうだった。

 

それでも無線機を握り続けて闘って。 そして絶望の果てに手にした勝利は、歓声も喜びも湧かなくて。

 

代わりに地球に静寂と暗い影を落としていくばかりとなった。

 

僅かに生き延びた人類同士で殺し合いが始まり、絶望の淵に沈む世界に、それでもEDFは今なお、足掻き続けている。

 

この世に生まれたから。 生きている者がやらねばならないから。

 

惰性と偏在的な考え方だとしても、今この瞬間と任務を遂行する事に邁進する。

それが自身の未来に繋がるのだと。 生きる意味だと。 誰が何と言おうが思おうが、今までそう信じてやってきた。

やっていくしかなかった。

 

ならば今はピトフーイを救うのが最優先であり、その一点に集中するべきだ。

 

そして、レンを守る。

 

その為には行動しかない。 街を跋扈する侵略者(フォーリナー)の歩兵部隊に対しても、建物の影からゲリラ的な攻撃を仕掛けたように。

 

 

「……ありがとうね、ワンちゃん。 でもわたしがピトさんを倒す。 そうしないと死んじゃうから」

 

 

物騒な事を言うな。

 

たぶん、ピトは俺たちを殺す気だから「殺られる前に殺る」と言いたいのだろう。

 

ピトは確かに強い。 とても強い。

 

正規のレンジャー程ではないにしろ、多種多様な武器を扱える器用さと身体能力。

生きているのを忘れたいかの様な、狂った戦闘スタイルの女。 敵意を向けられたら……危険だ。

 

『狂った女』の部分では、EDFにもいるがな。 サテキチな科学者が。

 

だが安心させねばなるまい。

 

 

「レンは死なせない。 俺が守る」

「うん、知ってる。 いつも守ってくれてるもんね」

 

 

なら不安がるな。 俺が信用出来ないか?

 

ところがそうじゃないとばかりに、レンは少し寂しい表情をして言葉を繋いでいく。

 

 

「わたしね、ワンちゃんのコト知った気になっていた。 荒野できっと1番に出会って、たくさん話をして側にいて。 なのに今まで疑問に思わなかったの」

 

 

突然、よく分からない話を始められた。

今は戦場であって、悠長に会話している場合ではない。

 

そうでなくても、この話をしてしまっては全てが壊れる気がする。

いつも通りの関係に戻れない。 そんな気がして、

 

 

「その話は後だ。 今はピトを───」

「感覚が希薄なVR世界なのに、ワンちゃんに触れてると温かくて言葉が心を揺らして困る事も多いけど側にいて楽しくて」

 

 

無視して話し続けられた。 まるで死ぬ前の走馬灯を言葉にしているかの様だ。

 

スゥッ、と意識が遠くへ引っ張られる感覚と共に、世界から時間と色が消え失せた。

 

───俺は口を塞いででも止めるべきだったのだろうか。

 

 

「でも思ったの。 なんでそう思えるのか、感じられるのかって。 ねえ。 ワンちゃんって」

 

 

いや。 いつかはそうなる。

 

それが今だった、というだけだ。

 

 

「───本物(ホンモノ)なの?」

 

 

ああ。 やはりこの世界は。

愛する娘たちは。

出会えた仲間たちは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偽物(ニセモノ)』、だったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからなんだ?

 

俺の気持ちは本物だ。

 

例えレンやフカ、ピトやエムがゲーム世界で動く偽物(キャラクター)だとして何が悪い?

 

偽物を愛していたら罪になるのか?

 

偽物だと知って、切り捨てられる軽い存在ではない。 俺にとっては。

時間が戻る。 色が戻る。 口と身体が動く事を確認し、レンの寂しそうな目を改めて見た。

 

 

ああ、答えてやる。

 

 

これからも、この気持ちは変わらない。 その自信がある。 そう言い切れた。

 

 

「俺は本物(ホンモノ)だ。 そして気持ちは変わらない、この先もずっと。 俺はレンを愛しているし、全てが欺瞞だったとしても構わない! 偽物も本物も俺には関係ない!」

 

 

言ってやったぞ。 レン。

これで良いか?

 

 

「ふぇ……あぅ」

 

 

レンの顔が、茹でタコみたいに真っ赤に染まっていく。 大丈夫か、コレ?

 

 

「じゃ、じゃあさ。 わたしの気持ちも本物なんだよね?」

「…………? レンが信じるなら本物で良いと思う」

 

 

レンの気持ちというのは分からんが、信じたものが本物で希望じゃないか?

その中に節度はあれども他人の意見に任せて右や左に流され続けていると、自我は消える。 腑抜けになるとか。

 

ところがレンは、首を横に振るのだ。

 

 

「ううん。 本物から、わ、ワンちゃんの口から…………その! この気持ちが本物だって言って欲しいの!」

 

 

胸板に寄りかかって言ってくる。

いつになく甘えん坊だ。 可愛いじゃない。 仕方ない、言ってあげよう。

 

 

「本物さ、レン。 安心して良い」

 

 

そう言うと。

ふにゃぁ、と表情がユルユルになって、腕を腰に回された。

顔を見られるのが恥ずかしいのか、胸板……というよりお腹に顔を押し付けて隠れるレン。

 

 

「満足したか?」

「うん!」

 

 

頭を優しくナデナデしてあげながら今後を考える。

 

 

 

 

 

……………………はて??

 

 

 

 

 

俺たちは何でログハウスでスキンシップをしているのだろうか?

 

窓を見る。 草原だ。 ピクニックに来たんだっけか。

 

成る程、センサー反応に映る団体様は家族連れかナニかだな!

隣壁にビタビタに張り付いて聞き耳を立てているであろう2名様は、このログハウスの家主か客か。 ナニかを期待しているのか。

 

フッ、ワルなヤツだな。 存分に聞いて、親子愛(?)で浄化されるが良い!

 

刹那。 その丸太の壁から光の棒がニュッと出て来たと思ったら、ぐるっと大きく楕円に。

 

そして、

 

 

「イチャついてるとこ、ごっめーん!!」

 

 

壁を蹴破り、武装したピトが乱入してきやがった。

咄嗟に飛び散る丸太からレンを庇う。 酷い。

娘からのLOVE powerを補給しているというのに邪魔しおって!

 

 

「わたしを無視してイチャつき始めるとか、どういう案件!?」

 

 

見ろ! 俺のレンがビビってるじゃないか! 壁を壊して登場しおってからに!

 

俺はピトからレンを守るように抱き寄せて、背後に隠れさせる。

側から見たら、浮気現場な修羅場に見えなくもない。 だがそんなやましい行為はしてないぞ。

 

 

「うひゃあ!? 違う違うよ誤解だよピトさんだけど約束守ってよ!?」

「早口で言ってるコトが滅茶苦茶じゃん! 全く! これだから最近の若い子は!」

 

 

ああ! 分かった!

ピトも寂しかったのか!

 

成る程、合点がいった。

ならば3人で仲良くスキンシップを取れば良いじゃない!

それならピトもレンも幸せ、俺も幸せ。 世界は愛に包まれた!

 

我ながら名案じゃないか。 そうだそうしよう。 早速実行だ。

 

 

「それよりワンちゃん! レンちゃんとじゃなくてさ、わたしと楽しまない? ワンちゃんにとっても刺激的なんじゃないかな? 本物なんだし!」

「フッ。 やはり盗み聞きしていたか。 そんな悪い娘はオシオキだな!」

 

 

光の棒を振りかざし、向かって来るピトに素手で構える俺。

格闘戦は苦手だが、出来ないワケではない。 俺はP90改をレンに持たせて後方に下げさせる。

 

武器や装備に頼らずにヤらねばならない。 闘いの基本は格闘だとグレ男も言っていた。

ココで道具を使ってオシオキ出来ても、ピトは納得しないだろう。 純粋なチカラの差を見せねばならない。 ケモノの様にな!

 

 

「行くよワンちゃああん! あははは!!」

「来いピト! 悪戯する相手を間違えたと後悔させてやる!」

「…………ピトがその、ストーム隊長に迷惑を掛けている。 すまない」

「…………こちらこそ、ウチのワンちゃんがすいません」

 

 

背後で何か聞こえるが、今はピトに集中せねばならない!

 

ピトは強い。 だがしかし!

本物の愛は時にスペックを凌駕するのだと教えてやんよぉ!




微妙な勘違いと共に、SJ2は閉幕へ漕ぎ出したっぽい?


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それでも毒鳥は愛される。

不定期更新中。 駄文ですが、SJ2閉幕へ。


*隊長がトリップしてしまいました。 バグでしょうかね?

なんにせよ、SJ2の後が本番ですから。 ふざけてられる内に、愉しんで下さいね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銃使えば? 要請でも良いよ?」

 

 

ライ◯セーバーの様な棒をブォンブォンと振ってきながら、気を使うピト。

俺が格闘戦を苦手としているのを知っていての発言だ。

 

確かに、柄じゃないコトはするもんじゃないな。 避けるのに必死だ。

 

だが、

 

 

「気遣い感謝する。 だが綺麗な小鳥に銃創を作りたくないのでな」

「やっさしー! でも、ワンちゃんを傷モノにするのは構わないよね?」

「その前に躾けるさ」

「あはっ!」

 

 

なんとか剣撃を避けつつ、隙を見て腕を掴もうと試みるも避けられる。

 

共に闘った経験があるだけに癖を読まれている。 厄介だ。 サプレスガンで吹き飛ばしたくなるが、相手は仲間。 偽物でも銃口を向けたくはない。

 

 

「やっぱり苦手みたいねぇ?」

踊り(格闘)はな。 だが綺麗な女性が相手なのは嬉しいところだ」

「あら。 でも愉しませてよ? ワンちゃんのお仲間は強かったけど雑過ぎてツマラナイからさぁ! まあ、その雑さでわたしとエム以外は瞬殺されたんだけど!」

 

 

グレ男のコトか。

確かに雑だ。 強いが仲間と連帯しないし、突撃や爆発物という危険性の高い攻撃ばかりが目立つ。

何を考えているのかも分からないし。

 

剣撃を避けて腕を掴もうとして空振りしつつ、俺は謝っておく。 失礼をしたな。

 

 

「すまない。 そういうヤツだ」

「良いよ? 同じステータスでも、あんたらEDFは強いんでしょーし!」

 

 

斬撃を避けては無力化を試みる。 ダメか。 会話を挟んでも、攻撃の手は緩まない。 殺す気だな、完全に。

 

しかし本物だと知っても尚、笑いながら殺しに来るとは。 怖い女だ。 エムがいつか言ったみたいに、狂っていると言えよう。

 

 

「ねぇワンちゃん!」

 

 

そして狂言を吐く気らしい。 普通なら殺しに来るヤツの言葉は無視したいトコだが聞いてやる。 仲間だからな。

 

 

「本物からしてさ! 生死のやり取りって、どんな感じかな!? 予想だけどEDFはGGOの外から来たんでしょ!? その辺知ってそうだよね! 特にワンちゃんはッ!!」

「くっ!」

 

 

気合いの振り下ろし。 風切り音が聞こえる程の斬撃、勢いがあったが柄の部分を両手で掴んでなんとか堪える。

 

くっ! 見た目の可憐な身体からは想像出来ないチカラだ!

 

それでも、柄の下側越しにピトの瞳孔の開いた目を見つつ答えてやった。

 

 

「っ……最悪だな。 義務や責任の重圧や生き延びた罪悪感、後悔だらけだ」

「ならさぁ! わたしの、為に! 死んでくれない!? 本物を殺す感覚ッ! 知りたいからさぁ!!」

 

 

ピトが叫ぶと同時。

なんと柄の下方から少しずつもうひとつの光の棒が伸びて来た!

 

このままでは串刺し待ったナシ!

 

なんだそのギミックは!?

おかわりなんて、欲しくないぞ!?

 

 

「ワンちゃん!?」

「隊長!?」

 

 

その光景に背後で様子を見ていたらしい、レンとエムに叫ばれる。

見なくとも分かる。 ピトに銃口を向けているだろうが、

 

 

「手を出すな!」

 

 

負けじと叫び返し、抑えるチカラを一気に抜いて、

 

 

「っ!」

 

 

俺の押し返しに負けぬよう、チカラを込めていたピトは当然ながら前のめりに。

 

光の刃も向かって来るが、すかさず横に少しズレて懐に入り込んで、

 

 

「ふっ!」

「がはっ!?」

 

 

渾身の腹パン。 愛と怒りを添えて。

 

細い身体にめり込んだ拳は深く突き刺さり、一瞬身体を浮かすほど。 防弾プレート越しでも衝撃を芯まで響かせる鉄拳制裁。

 

ピトは拳から滑り落ち、どさりと、うつ伏せで床に転がった。

カエルみたいにピクピク痙攣を始めたものの、死んではいない様子。 本物のパンチは効いたらしい。

 

愛のチカラもあったからな!

 

 

「どうだピトフーイッ! 本物は痛いだろう! だがお前の所為でもっと痛く辛い思いをしている仲間が多くいるのを忘れるな! 貴様の贅沢な希死願望に振り回されて、涙を流す者の存在を! 救おうと必死に銃を握り続ける友だちを!!」

 

 

友人が、恋人(?)がいるだけでもEDF(俺ら)からしたら恵まれているのに、死にたいなどと抜かしおって!

 

死神(グリムリーパー)に会わせて話合わさせようか!?

 

しかし……。

 

グレ男にオシオキしている内に鍛えられた拳だったが、まさかヤツ以外で使うコトになろうとは。

 

この時ばかりはヤツに感謝だ!

 

だが一方で謝らねばならない。

 

俺はエムとレンに向き直り、深々と頭を下げる。 ヘルメット越しなのと問題のピトを足下で転がしているのは失礼だと思ったが、戦場なので許して欲しい。

 

 

「すまないエム、レン。 望んだ形ではないと思う。 エムに関して言えば、大切な人を目の前でヤられて良い気はしないだろう。 レンからしたら大切な友だちだ」

「あ、ああ。 仕方ないです。 寧ろこのまま平和的に解決すれば良いとも思っていますよ。 僕は誰も殺さず、そして死なずに済みそうですから」

「ワンちゃんは強いね。 素手でピトさんを倒せるんだから。 でもまだ終わりじゃないよ。 ピトさんが納得しなきゃ解決しないんだし」

 

 

しまった。 レンの言う通りだ。

 

1発殴っても満足しないかも知れない。 グレ男の様な事例もある。

 

何度も殴って説教垂れても改心する保証がない。

 

 

「最悪は、わたしが殺すしかないかな」

 

 

そう言って俺が渡した黒い、P90改を構えるレン。

 

その光景を見れて不謹慎にも幸福を感じてしまったが、イカンと首を横に振る。

 

 

「そうしたら、ピトは……あー、君たちの世界で死んでしまうのだろう?」

「他の人が殺したらね」

 

 

どういうコトだってばよ。

 

何故レンならオッケーなのか。 その疑問に応えるべく、クマ……じゃなかった、エムが説明してくれる。 エムは俺の味方。

 

 

「レンとピトは、約束を交わしているんです」

「約束?」

 

 

なんだろうか。 勝てたら言うことなんでも聞くとか?

 

 

「勝ったら、本物の世界で会おうとか?」

「あれ!? わたし説明したっけ!?」

 

 

レンに驚かれた。 ミラクル正解だった。

何故、コレが宝クジじゃないのか。 もしくはレンとフカのスキンシップコース券。

 

…………冗談だ。

 

 

「つまり、その約束を果たす意味で、死なない選択をピトが取る。 それが救うコトに繋がると」

「さすがです、隊長。 僕としては貴方とも会いたかったのですが」

「もう会っている。 目の前のが俺だ」

 

 

そうですね、とエム。 少し寂しそうな表情をされたが、どうしようもない。 俺の居場所はこちら側なのだ。

 

 

「とにかくピトを起こそう。 武装解除してな。 エム、手伝ってくれ」

「了解」

「レン。 周囲警戒しつつ、フカ達に連絡を」

「分かった」

 

 

ピトを俺だけで剥くのは抵抗あるので、身内に手伝って貰う。

 

ヘッドギアだの、光学兵器だの、バウンドガンだの拳銃だの手製のシールドだのを取り外して弾倉やら初弾やらバッテリーやらを抜いて無力化していく。

 

 

「重武装だが、良く身軽に動けるものだ」

「そのピトに勝ったんですよ」

「まだ説得が残っている」

 

 

エムと話しつつ、でも手は止めず。

 

やがて、共に荒野を駆けていた頃の服装まで剥いた頃に、

 

 

「うぐっ……わ、ワンちゃん」

 

 

おっ? 起きたか。 口を開いた。

コレは早速説教だな。

 

 

「寝起きで悪いがピト、何か言うことは?」

「死ね!」

 

 

ガバッと起き上がりざま、殴りかかられた。

予想はしていたので、腕を掴んで横に流してやる。

 

しかし回復が早いな。 元気があってよろしい。

 

 

「っ!」

「ピトッ!?」

 

 

今度はエムに襲いかかり、素早く腰の拳銃を抜いて安全装置解除と銃口を構えるのを迅速に行い、

 

 

「懲りろ!」

「ぐぅっ!?」

 

 

俺に首を抑えられつつ、床に倒された。 拳銃は俺が抑えている間にエムが素早く取り上げて、弾倉と初弾を抜いてくれる。

 

 

「ナイスカバー!」

「はい」

 

 

やはりかピトは判断能力が高い。 あの一瞬でここまでやるとは。 危なかった。

 

普通ならば、状況把握をするべく少し時間のロスがあったり、起きた時に混乱をきたすだろう。 それが短い。

 

それと懲りない。 いい加減、諦めろ。

 

 

「エム、何度も邪魔すんな! 殺すぞ!」

 

 

俺の下で鳴き喚く毒鳥(ピトフーイ)

身内すら仲間とも思ってないかのような発言に思うコトはあるが、俺は何も言わない。

 

ただ見下ろすのみだ。

 

 

「ワンちゃんも何ボケッと見てんのよ!! 早く殺しなさいよ! そしたらシヌだけなんだからさぁ! 本物になら殺されても良いと思ってるからさぁ! あははは!」

 

 

適任者は俺じゃない。

 

 

「社長、もう止めましょう」

 

 

静かに語り始める人物。

1番側にいたエム。 彼に、任せる。

 

 

「これで分かったでしょう? ストーム・ワンは、隊長には勝てないし殺せない。 存在からして違い過ぎるからです。 そして貴女も痛みの中で感じたハズです。 本当に死ぬのは怖いと。 だから止めましょう」

 

 

後半、涙声になりつつ、そしてボロボロと涙を流し始めるエム。

 

SJでも見せた滂沱だが、今回は恐怖からではない。 愛ゆえに、だ。

 

 

「ひゃはああああっ! 何泣いてるのよ豪志君!」

 

 

不快な声をログハウス中に響かせながら、死に掛けの蝉みたいにジタバタする。

 

レンも、凄い変わり様のピトに引いている。 無線の向こうでは、心配してか、フカ達が応答を求めているようだ。 娘たちと表に待機している仲間の為にも、早く終わらせねばな。

 

手元で暴れるピト。 だが俺の筋力が上回り、起き上がることはない。 だが、死ぬこともない。

 

 

「こんな怖くて楽しいことを止めろって言うの?」

「はい」

「イヤね! ましてや本物と会えるなんて、思いもしなかった! これはね、絶好のチャンスよ! ワンちゃんを、EDFを、本物を殺して、殺されるね!」

「…………今は、どちらも叶いそうにありませんよ。 拘束されている貴女が1番理解しているでしょう?」

 

 

はあ。 無限ループになるかも分からない。

仕方ない。 少し口を挟ませて貰う。

 

俺は力を緩めてやる。

ピトはその意図が分からなかったのか、抵抗をピタリと止めた。 最初からそうしてくれ。

 

 

「俺だけに対して、だが」

「えぇ?」

「殺しに来ても良い」

「隊長!?」「ちょっとワンちゃん!?」

 

 

2人に驚かれた。 そりゃそうか。 殺しても良いなんて、それこそ正気の沙汰ではない。

 

1番、目を見開いて驚いているのは、ピトであるが。

 

狂ったヤツでも狂ったコトに驚くんだな? 新たな発見かも知れない。

 

 

「いつでも殺しに来い。 ピトが満足するまで付き合ってやる。 だが俺とも約束して欲しい」

 

 

な、なに? とピト。

 

途端に、しおらしくなって。 可愛いじゃないか。 最初からそうしとけ。 俺のレンには敵わないがな?

 

 

「今回は俺の勝ちだ。 それは認めろ。 そして降伏してくれ。 それと殺されても死ぬのはダメだ。 俺を殺しに来るのは許すんだから、良いだろう? 後、レンとはそっちの世界でも仲良く会ってくれ。 それから」

「まだあるの?」

 

 

あるんだよ。 黙って聞いてくれ。

コレが俺にとっての本題だ。

 

 

「頭、撫でさせろ」

 

 

刹那。

周囲が白けた。

 

外で間欠泉が吹き上がる音が聞こえたのは、辛うじての慰めか。

 

銃と硝煙の世界にて、こうも静かな瞬間というのは中々あるまい。 偶には良いじゃないか?

 

だけど……俺、そんな変なコト言ったか?

 

 

「だ、ダメだったか……!?」

 

 

(エム)を見る。

すとーむさぁん……と、別のベクトルで涙を流している気がする。 何故だ。

 

(レン)を見る。

目を見開きつつ、にっこり笑いかけられた。 『レンちゃんウフフ』状態。 耳の無線機から子犬(フカ)達の応答を求める声を無視して、こちらを見つめて来る。

無言で。 ちょ、凄い怖い!

 

小鳥(ピトフーイ)を見る。

真下の、押し倒した状態の彼女に希望を託す。 この状況から前進するには、ココにしかない!

 

 

「ぴ、ぴとふーい……?」

 

 

駄犬(おれ)、情けなくクーンと鳴いた。 求めるように。 欲しがるように。

希望は必要だと本部も言っていた。 絶望を受け入れるのは難しいとも。 今、この瞬間もそうではないだろうか。

 

やがてピトは恥ずかしそうに頰を染めて、身をよじりながら、

 

 

「………………良いよ?」

 

 

そう言ってくれる。

先程の狂い振りが嘘みたいだ。 そして周囲の状況も嘘だと言ってくれ。 頼む。

 

 

「あ、ありがとう?」

 

 

ぎごちなく礼を言い、取り敢えず願望を満たす為にピトの頭を撫でる。

行動しないと次へは進まないのだ。 良い意味でも悪い意味でも。

 

右手の手袋を外して、そっと、壊れ物を扱うように優しく頭に触れて、前後に撫でてみた。

 

艶のある黒髪は滑らかで触り心地がとても良く、気持ち良い。 撫でられているピトも心地良さそうに綻んで、俺の下で身を委ねている。 撫でているコチラまで幸せになってしまう……。

 

ああ、最高。 戦場にいるコトを忘れそうだよ。

 

 

「わぁんちゃああん?」

「そんな! パパが浮気してる!」

「伝説の英雄が強◯なんて! スキャンダルですねぇ!?」

「クソがっ!? 貴様も女の敵か!」

「レンだけでなく、他も毒牙にかけようとは!」

「やはりEDFは敵……!」

「変態」

 

 

直ぐに戦場だと思い知らされた。 もう少し夢を見させてよね!?

 

ワラワラとログハウスに集まる女性陣(と、野次馬1名)。

冤罪だ。 誤解だ。 そう言っても多人数の女性に勝てる筈もない。

 

エムとグレ男が味方をしてくれるコトもない。 くそっ! 同じ男仲間としてカバーしてくれないのか!?

 

 

「あっ、皆さん集まったところで」

 

 

ギャアギャア揉めているところ、おもむろにグレ男が口を開いた。

 

な、なんだ? 助けてくれるのか!?

 

 

「《C20爆弾》をログハウスにセットしときました! 皆で《お土産グレネード》風に爆発オチで締めたいと思いまーす!」

「ファッ!?」「何言ってんだ!?」「どういうこと!?」「ちょおま」

 

 

とんでもない話をしやがった!

プレイヤーはともかく、俺とお前は死ぬだろうが!?

 

 

そう言いたくも、止めたくも。

女性陣に囲まれて身動きが取れぬ間に、

 

 

「ポチッと!」

 

 

手に持つ、俺の持つ無線機に似た起爆装置のボタンを押された。 最悪だ!?

 

刹那。

ログハウスごと俺たちは吹き飛ばされる。 緑な匠も納得の爆発オチ。

 

爆発オチとかサイテーだ!?

 

 

 

 

 

……悲しいことにも、俺とグレ男はEDFのアーマーのお陰で辛うじて生きていた。

愛娘たちは全員、爆死してしまったが。

 

ある意味救われたのか、そうでないのか。

分からなかったが、これ以上闘う気は起きない。

 

まだチームが残っている様子だったが、俺は指でGGOのウィンドウを開くと降伏する。

優勝が目的じゃないからな……。

 

 

「いやあ! まだ死ねませんでしたね俺たち! あはははは!!」

 

 

1番狂ってるのはピトやサテキチ姉さんじゃない。 コイツだ。

 

俺はため息と共に、光の粒子となってSJ2から退場する。

 

とりあえず、ピトを救えたコトに……なっただろう。 たぶん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はこの後、何が起きるか、まだ知る由もなかった。

 

EDFが、GGOが、あのような形で銃口を向けあうなんて。




後日談のち、GGDF編へ。
EDFがGGOプレイヤーに牙を剥きます。


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後日談。 始まるのは希望か絶望か。
犬小屋の思い出


不定期更新中。 駄文。

EDF、大人しくGGOから撤退……する訳もなく。


 

SJ2終了後。

駐屯地に召集するよう言われているが、俺は未だグロッケンに留まっている。 拠点を処理しなければならないからだ。

 

具体的には、履帯で動く救急車の様なビークル《キャリバン救護車両》の解体作業。

武装は無いとはいえ、EDFの技術を放置して良い理由にはならない。

異界の物品とは即ち毒だ。 本来存在しないものは特定外来生物の様に在来を駆逐し、環境を破壊して悉く駄目にする。

 

例えばGGO基準での戦いはEDF基準から見ると火力不足が否めないが、それを前面に出してしまえば彼らの存在を否定する事に繋がる。 俺の要請はその筆頭だ。 空爆や砲撃なんて世界を崩壊させて余りある。

プレイヤーがEDFに反発するのも当然と言えた。

 

ソレをEDFは理解してか、グロッケンから撤退。 気が付いたら、みな駐屯地へ行ったようだ。

 

せめて仲良くなってから別れて欲しかったがな、世界も違えば考えも合わない。 仕方ない。 同じ人類だからこそ、喧嘩もするし戦争が起きるのだ。 仲良く出来ても永久の仲間にはなれない。 逆も然り。

その点、戦争が起きる前に撤退したのは正解と言えよう。 EDFが武力に訴えようとしていたが、中止にしてくれたのだろう。 良いことだ。 大人しく元の世界へ帰ろうではないか。

 

リムペットガンで吸着爆弾をビークルに付着させ、安全な位置まで離れる。

周囲に危険物や人が無いのを確認。 あとは起爆トリガーを引くのみだ。

 

 

「さらばだ、我が拠点よ」

 

 

世話になったビークルとの別れを惜しむ。 走馬灯の様に思い出が脳内再生されると涙まで出てきた。 我ながら女々しいヤツだな、と自傷する。

 

悪戯されて落書きされたり、終始ビルの上や物陰から監視されたり、鍵を掛けているのにレーションや下着を盗まれたりロクなコトはなかったが。

大抵、その後は寝床のシーツが変に湿っぽかったり、良い香りがしたり、時に整理整頓されていたのだが、嫌がらせの類だと考えている。

何者かに不法侵入された痕跡を敢えて残し、睡眠不足を狙ったのだろう。

GGOに迷惑を掛けた身としては当然の報いといえる。

 

だが良いコトもあったな。

レンやフカ、ピトやエム、SJ2に出会ったシャーリーやアマゾネス集団、後はなんとなーくどっかで会った子が何人も来た件だ。

 

ある子は「やっぱ犬は嫌いだぁ!」と叫んで逃げてしまったが。

ありゃなんだったのか。 遠くから見ていたので、シャイな子だったのかも知れない。

迷子だと思って追い掛け回したのも悪かったか。 何時ぞやみたいに《スピードスター》で転ばしたのもマズかったか。

ついレンとの最初の頃を思い出してハッチャケてしまった。 悪いことをした。 嫌いと叫ばれて酷く落ち込んだし……。

 

 

 

 

 

それはそうと。

 

人それぞれ様々な理由で来訪してくれたのは嬉しい。

 

レンは最も来てくれたな。

GGOで最初に仲良くなり、共に世界を駆けた可愛い子。

背が低く、中性的な顔立ちと髪型。 燻んだピンク色の戦闘服に身を包み、足が速く近接戦闘が得意。 狙撃は苦手。 真面目で酒のツマミ類や可愛い物が好き。 小さいコトを言われると喜ぶ節がある。

 

その為、車両内はレン用のツマミやプレゼント用のぬいぐるみが常在。

レーションは凄い不評で、一度出して「うぇぇ」な顔をされてからはツマミには出していない。

同じEDF隊員すら嫌がる者は多いのだ、世界が違っても味覚は大凡同じと見える。

それなのにレーションを盗む奴は何なのか。 最初は知らないから仕方なし、二度三度と続くと首を傾げた。 セキュリティを強化せず、場所だけ変えていた俺も悪いが。

うーん。 移動先を知っているのは一部だけなのだがな。 当時はレンだけだったし。 いや、監視されていたのだ、多くの者は知り得るところにある。 犯人は不特定多数である。

ともあれ。 外では嫌がる素ぶりを見せる頭ナデナデも、車内じゃ帽子をとって頭を押し付けて「もっと撫でて!」とねだられた。

可愛かった。 もう出来ないと思うと悲しいところである。

リアルでは無事、ピトに会えたそう。 正体がファンの歌手である神崎 エルザだった件は酷く驚いたという。 俺も聞いたときは驚いたな。 見た目と中身は合致しないと改めて学ばせて貰ったよ。

そんな彼女からはキスされそうになり、そしてやめられたらしい。 「想い人が先の方が良いでしょ?」とのこと。 なんたる百合か。 危うかったな、とレンに言えば赤らめてチラチラ俺を見て来たが。 そりゃ恥ずかしがるよな。 同性にキスされそうになったというカミングアウト。 同情して気にするな、と言ってやれば不機嫌になりソッポを向かれたが。 なぜだ。

ともかく、ピトとは疎遠になることもなく、仲良くやっていくという。 俺は賛成した。 レンはやはり、良い子である。 これからもそうであってくれ。

 

フカは出会って浅いが、会いに来てくれた。

フカはレンの親友で、別のゲーム、ALOとやらから《コンバート》して来たらしい。 レンのSOSに駆けつけて来た形である。 明るく快活な子で、レンが悩んだり沈んでいると励まして元気付ける。 とても良い子だ。

レンと同じ背丈ほど。 金髪で可愛くて、俺をパパ呼びしてくる。 レン同様甘やかしてしまった。

今の装備であるバックパックやヘルメット、ポーチやかんざし風ナイフ、ニーソやブーツ等は全て俺の支払いだ。 レンには酷く拗ねられたな。

会いに来てくれたのは興味本位らしい。 どんなところに住んでいるのか気になったとのこと。 実際に見てみて、救急車なビークルにゲラゲラ笑われたが。

そんな快活な、太陽みたいな笑顔を見てこちらまで元気付けられる。

『人の声が響かない地球』では希少性が高く、必要な幸せだ。 だが連れて行けないし、行かせる訳にはいかない。 世界が違うのだ。 本人も行きたがらないだろう。

車内ではレン同様にツマミを沢山あげた。 喜ばれたついでに色々オネダリされたので断ろうとも思ったが……可愛らしく上目遣いで「パパ?」なんて呼ばれてからは折れた。 完全敗北である。 その時みたフカの笑顔は「計画通り」な、小悪魔的な顔である。 ソレは要らないと思った。

 

ピトも来た。

SJ2終了後、落ち着いてきたと思ったら夜中に突然突撃してきて、第一声が「中に入れろー!」である。 元気な声で。

彼女は多種多様な武装を持ち出して、ビークル表面装甲をビシバシと傷付けて嫌がらせしてきた。 寝ているというのに睡眠妨害だ。

仕方なく扉を開けてやり、中に招いてやった。 刹那、SJ2でも見た、フォトンソードなる光剣が飛んで来たので、躱してピトをブン殴ってやる。

殺しても良いと言った手前、文句を言い難いが「今何時だと思ってる?」とだけ言っておく。 そのときはノビて床に倒れていたのだが、言っておかねばならない。 形式的に。

回復してからは車内で暴れはしなかったものの、武器を見せろだの寄越せだのこの手の武器はロマンがあるだのと武器談義で盛り上がる。

最初は面倒だったが、会話とは時間と共に盛り上がりを見せるものだ。 俺も様々な武器を見て来たので、会話が出来ない事もない。

だがEDFとGGOとは武器の見た目は似て非なるものだ。

形状の微細な差異も性能も弾薬も装填数も重量も名称も異なる。 そしてEDFの武器をGGOで使う訳にはいかない。 バランスも世界観も壊してしまう。

ピトには悪いが、記念に何かをあげるコトは出来なかった。 ブーブー言われたが、許せ。

 

エムは今回の礼で来た。

ピトを救ってくれた感謝、会えた喜びや別れを察しての哀しみ。 頭が良いエムだ、言わなくても別れが近いと思ったのだろう、 その件で再びの号泣。 よく泣くクマさんだ。 だが泣けるのは素晴らしい事だと思う。 無感情で死んだように生きる者よりも、ずっと生き生きとしているから。

だが別れる前の土産話としてか、名前のエムはアルファベットのMでマゾであるとか、ピトに調教された日々は素晴らしい的な話を始められてゲンナリしたが。 そんな情報、知りたくなかった……。

 

アマゾネス集団こと《SHINC》やシャーリーも来た。

そして集団リンチの目に逢う。 羽交い締めにされてボコボコにしてきやがった。 爆発オチにした件や今までの絡みだという。

まさかのお礼参りだった……。

くそっ。 やったのはグレ男だというのに。 当の本人は駐屯地に戻ってしまったからか。 その捌け口として俺らしい。 酷い。

そして倒れる俺に、一応の感謝と二度とSJの様な大会には出るなよと言われてしまう。

まあ……言われずとも出る事はないだろう。 偽物だと知り得た今、皆に迷惑を掛けたくないし、俺も死にたくない。 そして大人しく世界と別れるつもりだ。

シャーリーにも礼を言われた。 あのまま闘いを続けていたら、ひょっとしたら人殺しになっていたかも知れなかったからと。

俺は気にするなと言っておく。 知らなかったでは済まされない事になる前に、知ることが出来たしやらずに済んだ。 それで良いんだと。 そして普通は知り得ない情報である。 ピトも普通のヤツではない。 普通はゲーム世界で死んだからってリアルで死ぬのは変なのだ。 馬鹿げている。 悪いのは向こうであろう。

慰めに頭を撫でてやる。 レン同様、綻んだ顔になってこちらまで幸せに。

そしてアマゾネス集団に見られて再びのリンチ劇へ。 そんなに集団虐め、楽しいかい?

 

 

 

 

 

まあ、とにかく。 色々あったが。

そんな拠点とも、《グロッケン》ともお別れだ。

 

レンたちには何も言わずに出て行くつもりである。 元よりEDF含めて俺は存在しない。 静かに消え去るべきだから。

 

そして起爆トリガーを引く。

 

目の前の、キャリバン救護車両はリムペットの起爆に合わせて爆発四散する。

さらば我が拠点。 さらばGGO。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところが予定していた爆発より大きく、ストーム・ワンは後方に吹き飛ばされてしまう。

 

それは他所からの攻撃が加わったからであり、それも()()()()()()()()だと気付くのには…………。

 

同じEDF隊員であっても、理解するのには時間が必要であった。




GGDF編へ。

圧倒的な兵器群相手に、GGOは飲み込まれてしまうだけなのか。
その時、ストーム・ワンは。
グレ男の正体は。
ストーム隊はどうなるのか。
レンたちGGOプレイヤーは。
EDF隊員たちは。

本物と偽物が殺し合うとき、生まれるのは悲劇か喜劇か。

遂に(?)完結編へ。


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GGDF編
グロッケンからの脱出


不定期更新中。
軍曹チーム登場。 そして始まるEDF同士の戦闘。


 

突如、大口径の機関銃やロケットランチャーを装備した二足歩行する搭乗式外骨格及び105ミリ榴弾砲を装備した小型戦車に市街地にて追い回されたらどうするか? そして自身の条件は火器を持たない生身の歩兵であり、味方はいないとする。

この質問に対して、ここで戦いを挑む選択をした者は勇敢と言えば聞こえは良いが、素手で重火器と装甲に覆われた鉄の塊を倒せる力が無いなら自殺者かい? と尋ねることだろう。

では逆に、逃げるか隠れる選択をした者は懸命な判断だ。 戦時の時のように、プライマーの歩兵部隊に襲われた際は、近くの建物や狭い路地裏などに隠れてやり過ごしたり、裏から奇襲を仕掛けたものだ。

これは戦時中、EDF市街戦闘の基本のひとつである。 正々堂々戦ってはいけない。

戦闘は如何に損害を出さずに迅速に終わらす事が出来るかが重要である。

武士の時代ではないのだ。 正面向き合ってやあやあチャンバラはしない。

時には遠距離から一方的に、背中を撃ちまくる。 そして逃げる時は逃げる。

男じゃないとか卑怯だと宣うヤツは、スポーツと間違えているのだろう。 ぜひ戦場に出掛けて来て頂きたい。

向こうも同じ戦法をとるのだ、挙句に火力も兵士の数も圧倒的に向こうが上。 此方がやってはならない理由があるなら納得出来る説明を頼む。 ハハハ。

 

 

「………………」

 

 

すまない。 話を現実に戻そう。

突拍子もない思考を巡らせたところで、現実は変動しない。 そろそろ向き合うとするか。

ナニやら遠くの方から銃声や爆音が聞こえてくるが、状況把握の為にも起きねばな。 爆発に巻き込まれて気絶したフリをしても仕方ない。

例えその先に、恐れていた事態が起きていたとしても。

この世界が偽物でも、俺は本物だ。 故に逃げられはしない。

さあ、闘えストーム・ワン。 目蓋を開くんだ。

 

 

「よぉ、大将!」

「久し振りだな、ストーム・ワン!」

「ワンちゃんと言った方が良いか?」

「ご無事でなによりです」

 

 

複数の強化外骨格(ニクスA型)戦車(ブラッカーE1)に囲まれ、命の恩人である特戦歩兵チーム、《STORMー02(軍曹チーム)》達に覗き込まれていた。

 

 

「ウワアアアアアーーーッ!!?」

 

 

その事実に、仰向けの状態で歓喜と驚愕を混ぜた声を口から垂れ流してしまう。 再会に嬉しくも状況意味プーな事態に恩人らを前に酷い醜態を晒してしまったが、仕方ないと言える。

軍曹! 軍曹じゃないか! また会えて嬉しいです!

そしてナニが起きてるん? 状況不明であります!

 

 

「驚かして悪いが、説明は後だ。 立てるか?」

「いぇ、イェッサー!」

 

 

そして尋ねられて思考するより素早く起き上がる俺。

身体に染み込んだ行動と恩人に対する敬意からだ。 状況把握は後回し。

コンバットフレームやブラッカーがいるのと、軍曹の鬼気迫る言い回しの時点で危険な状況下であるのは違いない。

この場合、優先するべきは状況を知り得ているであろう軍曹チームと周囲のビークルからの指示。 予想だが戦闘に巻き込まれたと考察出来る。

だとすれば、あの時みたいだ。 また俺は守られているのか、と。

あの時。 開戦した日。 228基地での地下で侵入して来た怪物に襲われて、運良く来てくれた軍曹たちに助けられた時。

そして今も似た状況か。 懐かしい感覚だ。 不謹慎ながらも、少し口角が上がる。

 

 

「開戦時を思い出します」

「実際に開戦した。 してしまった」

 

 

だがそんな俺に反して、軍曹は悔しさからギリリッと奥歯を噛み締める。 それ以上は口を開かずに、ハンドサインでついて来いとだけいわれた。

こんな軍曹、初めて見た。 考えたくないが、恐らく状況は戦時中並みに最悪か。 発言からEDFによるGGOへの攻撃が敢行されたと考える。

撤退したと思っていたが、思い違いか。 攻撃準備をしていたのだろう。

その攻撃に巻き込まれた俺を助ける、合流する形で軍曹たちが来たのではないだろうか。

ならば、GGOへの攻撃作戦に参戦する流れと考えるのが妥当。 俺もEDFだから。

だがな、そんなのお断りだ。 勇気を持って言うべきものは言わねばならない、レンたちを殺したくはない。 偽物でも愛した者たちであり、ここはその世界なのだ。

 

 

「軍曹! 俺はGGOへの攻撃作戦へは参戦致しません! 偽物の世界でも、俺には大切な───」

「そう言うと思っていた。 だから助けに来た!」

「え?」

 

 

軍曹達は小走りで移動しながら、俺はついていきながら。 ビークルは歩兵の楯になるべく、先行しながら。

軍曹は感情を殺しつつ、移動を続けながら静かに語る。 その最中でも銃口を前に向けて警戒は怠らない。

見通しの良い大通りは避けつつ、けれど市街戦を想定した設計であるコンバットフレームやブラッカーは、狭い路地裏を難なく進む。 途中で何人ものGGOプレイヤーとすれ違ったが、悲鳴を上げるのと銃声と爆音から逃げるのに必死で気にも止めてこない。

そんな中で俺たちが何処へ向かっているのか。 今は軍曹の言葉に耳を傾けるのが最優先だ。

 

 

「俺たちはEDFを抜けた。 今のEDFはプライマーのそれだからだ。 軍人としては失格だろうが……反旗を翻すぞ」

「俺たちは今、反乱軍ってトコだ!」

「孤立無支援の、な」

「ですが対抗手段がゼロではありません」

 

 

反乱軍? 孤立無支援? 対抗手段?

 

気になる点は多くあり、だが聞き返さずに聞いていく。 一体どうするつもりか。

EDFの武器は現在随行しているビークルや、軍曹が所持する……今は、《ブレイザー》ではなく《PAー11》ライフルであるが……それだけではない。 最終作戦仕様の兵器群や決戦兵器と言えるブツもあるのだ。

それこそグロッケンを幾度となく更地に出来るほどの。 戦後のEDFでも、それだけの力は持っている。

更に空軍や海軍、基地や衛星の凄まじい火力を含めれば、到底敵う相手ではない。 仮にそれらの戦力が味方ならば、分からないが。

待て。 味方? 味方なのか?

 

 

「気付いたか」

 

 

走りながら、軍曹は口を開く。 後姿から表情は見えないが、今度はニッと口角を上げているのだろう。 口調から容易に想像出来た。

いや、しかし。 通信ユニットを所持していても、空軍や海軍等は要請に応じないのではないだろうか。

 

 

「俺のビークルを破壊したのは、EDFの重火器と思われます。 EDFは俺を危険因子としているのでは? そうであれば要請に応じるとは」

「全てじゃない。 お前に味方する側とEDFにつく側で割れた。 それは陸海空問わずにだ」

「つまりだ大将、その一部は助けてくれるということよ!」

「陸軍歩兵だけじゃ、EDFに勝つのは厳しいからな。 これで空軍や海軍に多少なりとも対抗出来る」

「いつも通り要請可能です」

 

 

嬉しそうに言われても、俺は複雑な気持ちになる。 本格的に戦争状態、いや。 内戦状態ではないか。

舞台がGGOというのは迷惑極まりない話だが、偽物の世界で本物同士が殺し合うとは。

元の世界、戦前にも似た事例はあったようだが、EDFに属していた身としては、同じ仲間を傷付けたくはない。

いや、そもそも殺し合う必要はあるのか。 多くの何故が脳内を駆け巡り、その癖答えは出ない。

俺は、俺たちは仲間同士を傷付け合う為に銃を握って来たワケじゃないだろう!?

 

 

「思う事はあるだろう。 だがEDFは本気らしい。 説得しようと試みた者は隊員、プレイヤー関係なく殺害されてしまったからな」

「なっ!?」

 

 

信じられない話が連続で飛び込んで来る。 勘弁してくれ。

一体、俺たちはどうなるんだ。

 

 

「まるで昔の出来事をなぞっているみたいだろ? ハッ、人類は過ちを繰り返すって本当だな!」

「だが身内だ。 俺たちが止めねばならない、力尽くでも」

「その為には空爆誘導兵(エアレイダー)の力が、大将の力が必要なんだよ!」

 

 

視界がぐらつくも、グッと足に力を込めて堪える。 堪えてただ走る。 走るしかない。 それが最善だと、自分に言い聞かせて。

どちらにせよ、立ち止まれば死ぬのだ。 爆音と銃声、悲鳴は続いていく。 レンは、フカは無事なのか? ピトとエム達は!?

だが考えるのは後だ!

戦場の空気、嫌でも分かる。 そしてだんだんと小さくなって、静寂が訪れる事も。

 

 

 

だが今は煩い。 良くも悪くも『()()()()()()()()』なのだ。

 

()()、な。

 

 

 

「ッ! 12時方向真っ正面!!」

「《ニクスB型》二機!」

 

 

正面の道を塞ぐようにして、曲がり角からニュッと二足歩行型のロボットが立ち塞がる。

青く角張ったボディ、両腕のリボルバーカノン、両肩にミサイルポッド。

 

EDFの普及量産型コンバットフレーム《ニクスB型》。

ああ、くそっ。 本当にEDFは敵になっちまったのか……!

 

 

『歩兵は後ろにいろ!!』

 

 

そして味方も、完全に相手を敵として見ている。 間髪入れずにブラッカーは戦車砲をブチかまし、マシンガンとロケットランチャーで武装した簡易武装の味方コンバットフレーム《ニクスA型》も応戦。

目の前でEDF同士が交戦した。

 

その爆音と銃撃音で、ワラワラと周囲にEDF(プライマー)が集まり始める。 敵だろう。 それらは。

 

ああ。 くそっ。 今のビークルの火力と歩兵だけじゃ、この数はどうにもならない。

 

歩兵とビークルだけなら。

 

ああくそっ! くそっ!

戦場はいつだって最悪だ。 突然始まり、考えさせてもくれない。

このままでは皆、死んじまう。 軍曹も俺も。

行動を起こさなければ皆の、俺を助けてくれた味方の思いを踏みにじってしまう。

 

俺の取るべき道はひとつだ。

 

 

「ストーム・ワン!」

 

 

軍曹が叫ぶ。

ああ、そうだ。 そうなのだ。

戦闘は迅速に対応し、損害を出さずに終了させる。 今まで通りだ。

 

 

『こちら地上制圧機DE202。 攻撃目標を指示せよ』

 

 

無線機からガンシップパイロットの声。

聞き慣れたそのワイルドボイスも、今は俺に決意を迫る声に聞こえてしまう。

 

 

「あぁ、あぁあ、あぁあぁあ! そうだ………そうだッ! 当然、そうするべきですよねぇ!!」

 

 

最悪な状況下に思わず絶叫。

同時にEDF(プライマー)への怨嗟を込めて叫んだ。

 

その勢いで雄叫びを上げながら、光学照準器のついた拳銃みたいなビーコンガンを取り出す。 そして前方に群がり始めたコンバットフレームの群れとかつての味方歩兵部隊に、容赦なく撃ち込んだ!

 

 

『150ミリ砲、ファイヤッ!!』

 

 

刹那。 空から光弾が凄い速度で4発、前方の群れに降り注ぐと、ドゴォンドゴォンドゴォンドゴォンッ! と轟音と共に砂埃が舞っていく。

その衝撃は離れた位置にいる筈の俺たちの足元にもビリビリと伝わってきた。

 

戦域上空を旋回飛行しているであろう地上制圧機DE202(ガンシップ)に《150ミリ4連装砲》の支援を要請した。

口径がデカいと威力も高くなるが、ガンシップ内でのリロード時間が長くなる。

今回は航空機搭載限界らしい、150ミリ砲だ。 限界といいつつ180ミリや190ミリ砲もあったりするのだが。

 

そして、そんなモノを喰らった相手。

ビークルは木っ端微塵になり、歩兵は吹き飛んで消えていた。 みな、死んだ。

ああ、迅速に終わったよ。 これで、良いだろ?

 

 

『君の上空には味方がいる事を忘れるな』

 

 

無線機から再びの声。

励ましの声も、この時ばかりは喜べない。

敵は何か。 味方は誰なのか。 本物や偽物、異世界での殺し合い。

様々な言葉や感情がグルグルと回っていくが……今はただ、生き残らねばならない。

 

 

「……よくやった。 このままグロッケン地下に潜伏する。 そこで情報を整理しよう」

「EDFはグロッケン全てを掌握し切れていないんだ。 そこなら、少しは休めるさ」

 

 

俺が気にしないようにと、肩を叩いて励ましてくれる軍曹。 そして部下も気にしてくれる。 皆、良い奴だ。

 

良い、奴なのに。

 

俺は軍曹たちのように強くない。

この先、俺は何が正解なのか。 何をして行動して殺さねばならないのか。 それを考えねばならない。




GGOプレイヤーも巻き込まれていきます。


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兎と青き者

不定期更新中。 駄文続き。
違和感やミスがあるかも……。

スカウト、ブルージャケット、そしてヘリやライサンダー登場。


*狙撃で援護する。

 

 

ある日、突如として始まったEDFによるグロッケン攻撃。

その圧倒的な穢れた力に純粋なGGOプレイヤーは悲鳴を上げて侵されるしかなかった。

 

戦闘ヘリ、戦車、二足歩行ロボ。

 

歩兵の持つ武装だけでもチートなのに、ビークルが加われば蹂躙される他ない。

 

対空兵器もないし、GGOの武器で装甲を抜くのは困難。 勇猛果敢に挑む者達も次第に減っていき、今や一方的な殺戮劇。

 

 

「なんじゃこりゃぁ!?」

 

 

レンは思わず叫んでしまった。 ログインそうそう、銃弾飛び交いロボがドンパチしているカオスな光景を見たら大抵そうなる。

取り敢えず普段の癖か、棒立ちせず物陰に隠れて流れ弾や跳弾から身を守ったのは良い判断だと言える。

 

取り敢えずの安全を確保すると真っ先に浮かぶ人物、ストーム・ワン。

あの駄犬が何かやらかしたのではと一瞬脳裏をよぎったが、彼はグロッケンを無差別攻撃する輩じゃないと頭を振って否定。

 

おバカでチーターで最低な男でグロッケンの外じゃ容赦無いけど、グロッケン内で暴れる風に見えない。

 

そんなチーターを知り合いに持つレンはEDF隊員として何か知っているかもと考えた。

知らずとも、きっとなんとかしてくれる。 そう思わせてくれる。

 

そして戦火を避けつつ、なんとかワンちゃんの拠点があった路地裏へ到達したのだが、

 

 

「っ!?」

 

 

あったのはバラバラになった鉄屑の小山。

それはワンちゃんが拠点にしていたビークルだったもの。

その小山から漂うムワッとした熱気が皮膚を撫で、レンは最悪の事態を予想してしまう。

 

ワンちゃんが襲われた!?

でも誰に?

プレイヤー?

いや、EDF?

ワンちゃんが死んじゃう!

助けなきゃ!

 

でも本人は見当たらない。 一体どこへ?

 

 

「そ、そうだ……無事なら、メールすれば分かるよね。 今どこって」

 

 

レンは混乱するも希望に縋るようにウィンドウを開いてメールを打ち始めた。

何もしない、という選択はレンにはない。 安全地帯を探すよりもワンちゃんが心配なのだ。

 

彼は、EDFは本物だ。 この仮想現実に肉体を持って存在し、ゲーム内での死は文字通りの死を意味する。 SAO事件とは似て非なる状況だ。

大きく異なるのは現実に肉体を持たない者である点か。 ソレを「本物」と明記するのは疑問が多く寧ろレンたちからしたら偽物、近いものでNPCと言う方がしっくりくる。

そのくせ、彼の物品や体温、言動はVRの希薄な五感と大きく違う。 しっかり暖かくして心地良く心を揺さ振る。

俄かには信じ難い話で、レンも気になる部分は多々あれど「本物だ」と思っている。 確証も無しにそう考えるのは、真面目な彼女らしからぬ思考だが、そうさせるのも「本物」故なのだ。

 

そして特別な感情を抱くのも。

 

側から見れば「ゲームキャラに恋してる痛い女」に見えなくもないが…………。

 

そんな彼、ワンちゃんにレンは『今どこにいるの?』とショートメッセージを送ってみる。

 

お願い、応答して。 そう祈りながら。

 

その期待に応えるように、返信は送ったほぼ直後に。 少しビクッとしてしまうも、無事な事に安堵しつつ、落ち着いて文面を読んでみる。

 

 

「え、えと……『グロッケン地下へ』。 ダンジョンのコトかな」

 

 

それ以上の文も情報もない。 慌てて文を打ち込んだのかも知れない。

聞き返したいが、向こうも緊迫していると予想してやめておく。

 

とにかく、地下へ向かおう。

少なくとも地上よりは安全だろうから、誰かしら避難者がいるかも知れない。

 

いや、高難易度のダンジョンにいるか、そもそも安全か怪しいけど……。

いや、逆に強力なエネミーがEDFへの防壁として役に立つのか。 いや、でもプレイヤーも襲われて危険だよね?

 

 

「悩むな! 行けば分かる!」

 

 

レンは自身に言い聞かせて、P90を強く握る。

目指すは地下。 解決するかも分からないし、会えても進展はないかも知れない。

 

でも今は、ワンちゃんに会いたい。 会いたいよ。

 

胸を焼く感覚を冷ます為、レンは再び走り始めた。 いつだって希望は必要だ。

 

そんな時。

上空でバリバリバリと、リアルでも聞いたことのある音。

()()()()()()()()()()、乗り物の音。

 

 

 

 

 

 

───悪夢は彼女だけを逃してはくれない。

 

けれど。

 

彼女はラッキーガールなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら《偵察部隊(スカウト)》! EF31を確認! ウサギへの攻撃を開始しました!』

 

 

無線から聞こえる味方偵察兵からの情報に、戦闘服の一部分を青色に染めたレンジャーは思わず舌打ちをしてしまう。

グロッケンを見渡せる高層ビルの屋上から下界を見やるとヘリは何機も見えるが、明らかに一機、形と起動が異なるヘリがいる。

 

ソレは上から見るとホバリングしているだけであるが、ヘリ下方では砂埃が舞いに舞っていた。

間違いない。 アレだ。

 

 

「EF31……対地制圧ヘリコプター《ネレイド》か」

 

 

彼は「ゾンビ兵(プレイヤー)には分が悪いな」とボヤくが、相手はあのネレイド。 地上に地を着いて歩く者達にとってはヤベェ相手だ。

 

ネレイドとは他に何機も飛んでいるEDF主力武装ヘリ《N9エウロス》と同じ戦闘ヘリだが、対地制圧と言う通り、武装は地上への攻撃を主体としたものである。

 

自動補足式オートキャノンやロケット砲で武装。 地上殲滅能力が高く恐ろしい兵器だ。

ただし、攻撃は下方へ限られる為に上部への敵には対処出来ない。

 

そう、今の彼のように高度がヤツより上ならば。

 

 

「こちら《狙撃部隊(ブルージャケット)》。 援護射撃を開始する」

 

 

彼は手に持つ《ライサンダーF》という大きな物干し竿のような、大口径狙撃銃を構える。

それはEDFが誇る高威力、高弾速のライサンダー狙撃銃の改良強化型。 そのデカさと重量で何処かに置くこともせず、()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()

武器のスペックも彼……《ブルージャケット》のスペックも並みのGGOプレイヤーとは差があるが、撃たれたら死ぬ。 それだけは忘れない。

 

 

「各員、指定されたエリア内を飛行する棺桶(ヘリ)を全部叩き落とせ! 終了後、地上のビークルの破壊を優先! なければゾンビ兵(プレイヤー)を助けてやれ!」

『イエッサー!』

 

 

他のビル屋上にいるであろう、散り散りの仲間に指示を出す。

いよいよだ。 かつての仲間にトリガーを引くのは気がひけるが……仕方ない。

 

周りの、高度が少し低めの複数のビル屋上からマズルフラッシュが瞬き始めた。

同時に爆音が響き始める。 ローターを撃たれて制御出来なくなったヘリの墜落音だ。

 

自身もやらねばならない。

 

彼はスコープを覗くと、無防備に、遠くでホバリングしているネレイドのローター中央に照準を合わせた。

 

 

(二兎追うものは一兎も得ず、というが)

 

 

獲物は下方で逃げ回るウサギに夢中らしい。

上からの攻撃なんて、全く警戒してないようだ。

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

トリガーを引く。

 

銃撃音、というより爆音がグロッケンに響く。

 

有効射程距離1200m以上、弾速5800m/s超えの弾丸(バケモノ)()()でヘリに命中(喰らいつく)

 

一瞬、ネレイドは揺れたと思ったが、けれど墜落はしない。 高威力の弾丸がソレを許さない。

 

結果、ヘリは空中で爆発四散。

終了させた。

 

 

「次だ!」

 

 

傲ることなく次の獲物をスコープ越しに見る。 ウサギの進路上にいる、道を封鎖している《武装装甲車両グレイプ》を見据えた。

オートマチックとはいえ、装填機構が複雑で連射は出来ないのが、もどかしい。

 

だがそれを補って余りある威力と精度を持つ、最高レベルの狙撃銃《ライサンダーF》。

 

前に使用していた、今は他の仲間が使用している《KFF50》とは全然違う。

この銃は、間違いなく英雄とウサギの助けになる!

 

もう少し早く手に入れば、()()()()()()()を倒せたかも知れないのに逃げられてしまった。 過ぎた事は仕方ない。 今を集中だ。

 

 

「上から、お前を守るように言われているからな!」

 

 

約1秒掛けて装填が済んだ銃のトリガーを再度引く。

 

ドゴォンッ! と爆音が響くと同時。

スコープ越しの装甲車を揺らすと、次には爆発四散。 周囲にいた随伴歩兵も纏めて吹き飛ばした。

 

スコープの倍率を減らして、ウサギを確認。 突然の爆発等に戸惑いつつも、止まらずに進行中。

 

良い調子だ。 幼子に見えるが、しっかりしているのかも知れない。

彼もしっかりしようと、次なる獲物を探す。

 

 

「だからよ、期待して良いな」

 

 

そして思う。

走り続ける偽物の為に本物を殺しているのだ。 それだけの価値が生まれて良いよな、と。

 

 

「俺たちの戦いを無駄にしないでくれ」

 

 

そして……銃の構えを解いた。

 

突然、闘いを辞めたのだ。

目の前でEDFのヘリ《N9エウロス》が至近距離でホバリングしていたから。 機銃の銃口は此方に向けられている。

 

 

「あー、誰か俺の《ライサンダーF》。 運良く拾ったら使って良いぞ?」

『え? 隊長、突然何を……ッ!?』

 

 

ライサンダーFの次弾装填は間に合わない。 逃げる時間もない。 他の武装も無い。

同じ場所で派手なマズルフラッシュを焚いていたのだ、そりゃバレるか。

 

 

『隊長ォッ!』

 

 

仲間に格好悪いところを見られたか。 無線で悲鳴が聞こえてくる。

 

ハハハ……あーあ。

 

 

「僅かな天下だったなぁ」

 

 

諦めた、けれど笑顔で言い放った刹那。

エウロスからの機銃掃射。 ズガガガガガッと屋上に撃ちまくり、モクモクと埃を大きくさせる。

 

そして死体が出来たかを確認せず、エウロスはその高機動で後退。 容赦無い追撃のミサイルをブチかます。

 

そして着弾と同時、屋上は彼と共に爆炎に包まれた。

ビルの上は崩壊。 生存は絶望的。

 

ただ死に際に放ったのか。

《ライサンダーF》は無傷でビルから落ちていき。

 

傷も変形もせず、地上へと横たえた。

 

一方で味方が放った弾丸は、遅れてエウロスに着弾。 バランスを崩し、クルクルと空中で回転すると、ビル側面に激突。 大きな爆炎を上げる。

 

着弾がもう少し早ければ、彼は助かったかも知れない。 だが味方は悪くない。 それぞれの持ち場に集中していたし、気付いた味方はすぐさま撃った。 それでも……間に合わなかったのだ。

 

 

『くそっ……! 各自、任務を続行せよッ!!』

 

 

地団駄しても仕方ない。 哀しむのはいつでも出来る。

今は目の前の敵に、ウサギを守る事に集中するのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、突然爆発したり、ビルにヘリが激突したり……不良品なのかな? なんにせよ、好都合!」

 

 

そして知らずに守られる、()()()()()()のウサギは笑顔で走り抜けていく。

 

所詮ゲーム世界。 そして死の実感が無い。 そういうことだろうか。

 

だが撃ち合いは続く。

戦争は始まったばかりだ。




偽物は知らずに守られて。
彼の犠牲を知らずに笑顔走り去る……。


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地下に空無し希望有り。

不定期更新中。 駄文続き。

地下へ。 そして反攻準備。


 

「……レン」

 

 

俺は薄暗い地下道をライトをつけて歩きながら、愛娘の心配をする。 死ぬコトはないにしろ、怖い思いをしているだろうから。

 

初めて会った時みたいに、ビクビク震えて身を隠しているだろうか。

 

だがEDFのセンサーで映る以上、ピンクの戦闘服が役立つ荒野や砂地に隠れても見つかってしまうだろう。

 

だからメールが来た時は地下に来るように即行で返信はしたが、今や街中が戦場。 危険は避けられない。

 

すまない。 この重大な時に助けに行けず。

再会したら抱き締めたい。 ハスハスしたい。

 

でもどうしよう。 会ったら「ワンちゃん(パパ)なんて嫌い」なんて言われたら!

 

そうしたら立ち直れないぞ。

蹴られたり歪な笑顔を向けられるコトは多々あれど、愛している者に嫌いなんて言われたら……ねぇ?

 

そんな俺を安心させる為か、前方に銃口を向けて警戒しつつも軍曹たちが声をかけてくれた。 良い人だと思う。 本当に。

 

 

「心配するな。 ブルージャケットやスカウト、一部の仲間が助けてくれる」

「プレイヤーがEDFの兵器群に対抗するのが難しいのは、俺たちも知っているからな」

「目には目を、EDFにはEDFをってな。 皮肉なモンだぜ」

「きっと大丈夫です」

 

 

成る程。 それなら安心か。

EDFの兵器群、ヘリや装甲車に対しては小銃やレンの持つP90のみでは歯が立たないだろう。

 

だが、スカウトの観察眼とブルージャケットの持つアンチマテリアルの威力の組み合わせなら破壊は可能だ。

 

GGOでの対物狙撃銃というコトなら、知っている中でトーマが使用していたモノ等があるが、アレだけでは厳しいと思う。

 

ドローンや歩兵相手なら有効でも、見た感じは旧式の単発式だし一丁だけでは群れに対処しきれない。

 

それにレンジャーみたいにチカラがあるワケでなし、持ち運びの際はもう1人の助力が必要だった。

 

仲間と連帯し、戦術次第では何とかなるかもだが……今は何処も混乱の渦に巻き込まれて統制が取れていない。

 

やはり、GGOプレイヤーのみでEDF(プライマー)の相手はキツイ。 何とかしないと。

 

 

「この先に行けば、俺たちの拠点だ」

「もう少しだぜ大将」

「分かった」

 

 

よし。 そこで情報を整理して、地上のEDFを掃討しなければ。

 

かつての仲間を殺すと思うと抵抗あるが、やはりEDFは間違っている。 この世界で戦力を悪戯に減らすなら、元の世界で使うべきではないか。

 

本部はナニをしているんだ。 全く。 繋がらない以上、戦闘を止めるよう言うことも出来ない。

 

 

「ライトを消せ」

 

 

突然、軍曹が指示。 反射的に俺と仲間はライトを消して行軍停止。 前方に銃口を構える。

 

どうしたのか。 俺もリムペットガンを構えて同じ方向を見やると、プレイヤーの群れが見えた。

 

その先には暗くてよく見えないが、蜘蛛みたいな機械が沢山見える。 この地下を跋扈する《エネミー》か?

 

 

「……いや、あれは」

「ああ」

 

 

それは蜘蛛みたいなシルエット。

 

脚は4本しかないが、微動だにせず壁や天井についている。

センサー反応からしてビークル兼、敵。 そんなコトが出来るEDF製ビークルはアレしか思い浮かばない。

 

 

「地底戦用歩行タンク、《デプスクロウラー》じゃないか?」

「だろうな」

 

 

フックアームにより天井や壁を移動出来るからな、アレ。 その利点から地底とはいわず、地上での市街戦でもビルをよじ登って敵を追撃する、等の戦略がとれる。

 

それが目の前の天井と壁にワラワラとついていた。 気持ち悪いくらいに。

積載している大型ライトは、待ち伏せの為に消している様子。

 

悲しいかな、やっぱ敵である。 武装は両端にあるキャノン砲。 初期型か。

 

歩兵には驚異的な武装だが……どちらせによ、放置する気はない。

 

 

「地下の敵を殲滅しなければな」

「そうですね。 地下の安全を確保しましょう」

「待ち伏せだな、ありゃ。 ヘッ、本当の蜘蛛みたいじゃねえか」

「俺たちが来るのを知っていたのか? どちらにせよ、闘わないとな!」

 

 

軍曹と部下たちが臨戦態勢へ。 どうやら、休憩は後になりそうだ。

 

空無き地下は苦手だ。 要請が出来ない。 けれども軍曹たちをサポートするコトは出来る。

 

 

「了解。 援護する!」

 

 

俺はサポート装置をスタンバイ。

 

空爆誘導兵(エアレイダー)から空を奪っても、何も出来ないコトはないのだよ。 苦手なだけでな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このダンジョンに行くように言われたが」

「お前もか。 こんな危険な場所に行かすなんて、罠だったんじゃ?」

 

 

複数の男たち、服装もバラバラのプレイヤー達は周囲を警戒しながら前進していく。

 

突如として地上が戦場になってしまい、逃げるしかなかったとはいえ……味方をしてくれた隊員の言われるがまま地下に来てしまった。

 

 

「俺は良い! お前らは地下へ行けっ!」

「無理なら建物の中に隠れろ!」

 

 

押し寄せる敵歩兵隊(侵略者)に、EDF隊員たちはフルオートによる制圧射撃で敵の行動を阻害。 プレイヤーの為に殿を務めた。

 

その後ろ姿は格好良い映画のワンシーンで、自己犠牲に思わずゲーム世界でありながら感涙したのだが、落ち着いて考えると実は罠だったんじゃ……と疑問に思う。

 

だってこんな危険な場所に、何があるのだ。 あるのは文字通りの罠と敵じゃないのか?

 

そもそもEDF同士が撃ち合いなんて、どういうコトだ。 仲間じゃなかったのか?

 

 

「な、なあ……やっぱ戻ろうぜ?」

 

 

ひとりが弱々しい言葉を吐いた刹那。

 

パッと目の前でライトがつけられた。 眩しさにウッとなるも、目を細めて何とか前を見る。

 

そして見えたのは、大きな蜘蛛みたいなロボット。 2人分くらいの大きさはあるだろうか。

 

それが床天井、壁にビッシリと。

 

所狭しと張り付いていて、生理的に悪感が走るおぞましい光景。

 

そして側面にはキャノン砲と思われし武装。

無機質なモノが何も言わずに、コチラを向いている恐怖。

 

 

「「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーッ!!?」」

 

 

思わず叫んでしまうと同時に。

無数のキャノン砲による発砲炎からか、地下はとても明るく照らされる。

 

派手な発砲音が地下に反響していく。

それは太鼓を滅茶苦茶に打ち鳴らしているかのようで、心を折るかのよう。

 

 

もう終わりダァ!

 

 

プレイヤーたちは思わず目を瞑る。

やっぱり罠だったんだ!

 

EDFは俺たちを蹂躙して愉しむつもりなんだぁ!

 

派手な着弾音。 舞う砂埃。

 

だが彼らは無事だった。

彼らの前方にあった謎の光の壁に阻まれて、弾が届かなかったのだ。

 

 

「……え、え?」

 

 

その謎現象に、恐る恐る目を開く。

そこにはひとりの男のシルエット。

 

酒場でもモニターでも、よく見たことのある……ヘルメットを被り通信ユニットを背負った有名人。

小さな子と共にいる所為で、ロリコン疑惑があるチート野郎。

 

 

「間に合ったようだな」

 

 

そして聞き慣れた声。

あ、ああ……アイツだ。 間違いない。

 

 

「あ、《荒らしのワンちゃん》!?」

 

 

なんとGGOの《かの者》、ストーム・ワンだった!

 

彼の前にはプラネタリウムの装置みたいのが置かれており、更に前方には薄青色の半透明な壁が出来ている。

 

弾丸は全てその壁に遮られており、着弾の度に光の壁が軽く点滅。

 

よく分からないが、きっと長くは持たない。 ゲーマーとしての勘が警笛を鳴らすが、

 

 

「軍曹ッ!」

 

 

だが崩壊するより前。

彼が叫ぶと後方からロケット弾が白煙で軌道を描きながら4発、横並びに飛翔。

 

光の壁を貫通し、そのまま蜘蛛の群れに突っ込むと複数の爆音と爆炎が包み込む。

 

一部、難を逃れた蜘蛛は逃げようともがくも、周りに出来た鉄屑に阻まれて行動出来ない。

 

その場で飛び跳ねれば、逃げられたかもしれないが、

 

 

「操作を見直すんだなルーキー」

 

 

そうなる前にワンちゃんは長方形の形をした銃を構えて、大きな缶のようなモノを射出する。

 

それらは生き残りや、その周囲に吸着。 赤く点滅しだすと、

 

 

「終わりだ」

 

 

ワンちゃんが銃前方の、アンテナ部分のトリガーを引いた瞬間。

 

ボカンッ! と爆発。 爆炎が再度巻き起こると、鉄屑が派手に飛び散った。 あっという間の出来事だった。

 

煙が晴れれば、後に残るは鉄屑の山。 あの恐ろしい蜘蛛は獲物を取るどころか、返り討ちに遭い全滅してしまう。

 

 

「…………スゲェ」

 

 

それがチートでも。 褒められた武器類でなくても。 地下で重火器という、崩壊する危険性を顧みない攻撃も。

 

助けてくれた人物たちに、思わず感嘆の声が出てしまう。

それでも、ワンちゃんは振り返ると驕るコトなく、コチラの気を使ってくれるのだ。

 

 

「怪我はないか? あれば言って欲しい。 治療する」

「あ、えと大丈夫です!?」

 

 

助けてくれた恩人に、思わず直立してしまうプレイヤーたち。

 

よく分からないコトだらけだが、どうやらワンちゃんは敵ではないようだ。

 

そして、思っていた印象と違う。 なんというか、チーターの癖に無法者ではなく優しく強い男という感じがする。

 

そして不思議と従いたくなる。 強制じゃない何か。 あのピンクのチビも、この感覚を抱いて側にいたのだろうか。

 

 

「よくやった、ストーム・ワン!」

 

 

そして後方から、見るからに重火器……ロケット弾の発射筒と思われる深緑の筒を持った男たちが現れる。

 

服装からしてEDF隊員のようだ。

 

彼らもまた、味方らしい。 だがなんというか他の隊員よりも、かなり歴戦の強者に感じる人たちだ。

 

 

「軍曹たちが《グラントM31》を持っていたからです」

「いや、コイツだけでは威力不足だった。 やはりお前のお陰だろう」

「本当はもっと新型で高威力の、それも《ゴリアス》シリーズを持ち出したかったんだが」

「武器や残弾が多く残っているのがコレだったんです。 他は……殆ど無くて」

「まっ、旧式でも役に立てば良いけどよ!」

 

 

話し始める隊員ら。

アレが旧式ならば、新型はどれほどのチカラがあるのだろうか。

 

下手すれば《荒らしのワンちゃん》のミサイル群や空爆より危険なのだろうか?

 

EDFの底知れぬチカラに戦慄する。 なんにせよ、今はどうするべきか。 状況が分からずアタフタするしかない。

 

すると、気付いたワンちゃんたちが声を掛けてくれた。

 

 

「すまん、話してしまった」

「お前たちは、ココに来るように言われて?」

「え、ええ。 でも一体全体何なのか」

「ついて来い。 そうすれば分かる」

 

 

指示を出されるプレイヤー。

他にどうしようもない以上、ついていくしかないと思い、困惑しつつも頷いてみせる。

 

それに今何が起きているか、皆知りたいのもある。

 

EDFは何故、グロッケンを攻撃し始めたのか。 そしてEDF同士が闘っているのか。

 

そもそもEDFは何だ。 システム上、プレイヤーには出来ないコトをやっている。

 

それらの疑問が解決するかも知れない。 その情報が役に立つ立たないは別として、知りたいものは知りたい。

 

情報屋だって、その辺は良く分からないのだ。 だからココで知り得る情報は今現在、最も価値のあるモノだと判断出来る。

 

どちらにせよ、GGOの火力じゃEDFのチート武器や装備品には勝てない。 そうでなくても、地下に元々いるエネミーに襲われたらひとたまりもない。

 

ココは共に行動するのが安全だろう。 はぐれたら、オシマイだ。

 

そうして地下に降りたプレイヤー達は、様々な思惑があるにせよ、ワンちゃん達についていくしかなかったのだ。

 

そうして、自然とバラバラだった戦力は、ひとりの男の元へと集結していく。

それは戦時中の時のようでもあり、軍曹は薄らと笑みをこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まるで228基地の地下ですね」

 

 

俺らがプレイヤーを救助して、辿り着いた先。

 

反乱軍の拠点とやらは、EDF印のコンテナがつみかさなり、ブラッカーやコンバットフレームが多数鎮座していた。

 

その光景は、まるで228基地の地下倉庫。

 

既にいた隊員らが整備作業と警備をしていたり、共に来たプレイヤー達は興味深そうに観察している。

 

軍曹曰く、グレ男がEDFのグロッケン攻撃の計画を知って、ソレを教えてくれたらしい。

 

そこで同意見の仲間を集めて交渉をしつつも万が一に備えて、勧誘目的で空輸されてきた装甲車やニクス等のビークル、弾薬や武器等の物資をちょいちょい地下に移動。

 

それが目の前のビークルやコンテナに繋がる。 良くバレなかったな。 改めてEDFの管理体制が杜撰だと思う。 お陰で助かったが。

 

だが、と軍曹は首を横に振った。 ココまでしてもEDF側の戦力が上だからだ。

 

 

「あの時と同じく状況は最悪だ。 交渉団は殺害された挙句、潜伏先も大凡バレている。 地下に来たのはあの《デプスクロウラー》の群れだけのようだが、いずれ大群が押し寄せるだろう」

「地上掃討が終われば、な」

「ゾンビ相手だ。 ましてや複雑に入り組んだグロッケン、時間は掛かるし完全制圧は無理だろう」

「それでも武器を失い、ひたすら殺され続けたら……心は折れる」

「そうなりゃオシマイってワケだ。 俺たちはココから巻き返さないとならない」

「この世界まで《人の声が響かない地球》になる前にな」

 

 

なるほど。 そこで空爆誘導兵のチカラが必要不可欠となるワケだ。

 

歩兵の数も装備も弾薬も。 相手より劣っているが、そんなもん過去に幾度もなく経験した。

 

それらを押し返したのは裏を取る戦略と、火力。

 

空軍や海軍による爆撃、基地や衛星からの攻撃。 砲兵隊によるロングレンジ戦法などだった。

 

そして乱戦の中、正確に攻撃する為には前線に立つ俺の誘導が必要となる。

 

 

「まず、グロッケンで市街戦ですね」

「そうだ。 それには俺たちより詳しく、死なないプレイヤーの協力が不可欠だ」

 

 

軍曹。 それは歩兵同士、地上戦闘のみを考えた場合でしょう?

 

いやぁ。

もう面倒なのでフォボスの《プラン10》で都市部を吹き飛ばします……。

 

それは遮蔽物の建物を壊すルーキー染みた悪行だが、どうせGGOはゲーム世界。 世界を守れれば良い。

 

彼らが《再出撃》する時には復旧しているだろうし。 隊員と愛する娘だけ退避させれば良いや。

 

運営(ザスカー)の苦労?

そんなもん知らん。 EDFを成敗するんだから目を瞑って頂きたい。 コルテラル・ダメージだ。 空爆万歳。

 

そもそも歩兵戦闘や、その銃撃戦に俺を巻き込むのが間違いなのだ。

 

空爆誘導兵舐めるな!

 

……………………あれ。

 

軍曹はこの世界について、グレ男に聞いたのか?

 

グレ男はどうやって、その情報を知り得た?

 

というか、グレ男は今どこでナニしてる?

 

 

「軍曹。 この世界が偽物なのは、グレ男に聞いたんですか?」

「ああ」

「ヤツはどうやって今回の攻撃作戦を知り得たんでしょうか」

「分からん。 ヤツの行動は誰にも読めないからな。 今まで最初から全て知っていたかのような行為や結果は目立つが、どのように知り得ているのか……戦略情報部だという噂だが謎だな」

 

 

軍曹は淡々と答えてくれる。 疑問に思うところあれど、首を突っ込もうとは考えなかったようだ。 その余裕がなかっただけかもだが。

 

思えば、俺はグレ男の正体を知らない。 それなりの付き合いだというのに。

 

しかし戦略情報部、ね。

 

ならスカウト隊員かと思うが、重火器をドッカンドッカン撃つヤツだ。 その可能性は捨てておく。

 

それともヤツなりの独自ルートで仕入れているのだろうか。 情報部に知り合いがいるとか?

 

だが問題児のグレ男に、重要な情報を教えるだろうか。

 

例えるなら危険物に油や火をかけるようなものだ。 爆発や恐いもの見たさな狂人でなければやらないだろう。

 

……まさかサテキチ姉さんが絡んでる?

 

いや、あの人は《神をも滅する光の槍》と武器や装備品に興味を示しても、人の行動にピクピク反応しない。

 

 

「ヤツを最後に見たのはGGDF駐屯地だったな。 内部に《C20爆弾》でもセットしているのか……ヤツなりの考えがあるのだろう。 それより俺たちは俺たちで、やるべきコトをやるとしよう」

 

 

軍曹はそういう。

 

そうだな。 今は俺たちに出来るコトをやろう。

 

そのうちグレ男がヒョッコリ出て来るだろう。 その時、改めて話をしよう。 説教以外のな。

 

 

「ところで軍曹。 STORMー04(スプリガン)STORMー03(グリムリーパー)は?」

「連絡が取れない。 だが共に戦ったんだ、俺たちと合流しようとするだろう。 今は今の戦力で出来るコトをするんだ、良いな?」

「大将。 色々気になると思うがよ、軍曹の言う通りだぜ。 今は今で、俺たちに出来るコトだ」

 

 

質問ばかりだった所為で、話を打ち切られた。 仕方ない。

 

軍曹だって知らない情報は多いのだ、知らない答えを出せる訳ない。 今出来るコトをしよう。

 

軍曹が広げたマップを見て、作戦会議を開始。 どう反攻していくか作戦を立てねば。

 

まあ……取り敢えず。

 

 

「俺の娘が到着したら、隊員を全員グロッケンから退避させて下さい。 俺に考えがあります」

 

 

空爆から始まるGGDF(ガンゲイル・デフェンスフォース)だよ。




グロッケン、別の意味で終わりそう。


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兎死狗烹

不定期更新中。

グレ男の正体に迫っていきます。


 

*ウサギもワンコも美味しく戴きますですよ。

 

ああ、順番や役割は逆になるかも。

 

若しくは。

 

俺が死ぬか、です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子犬も毒鳥も熊も舎利もBBA達もログインしていなかった様ですが、代わりに凄い速度で走る兎を見つけました。

 

早速、俺は《アンダーアシスト》で追いかけて並走してやります。

 

 

「久し振りだな、小さき戦士!」

「うひゃあ!?」

 

 

挨拶すると、変な声を出して驚きます。 反射で発砲しなかったのはエライですねぇ。

 

人外の速度で走るレンちゃんですし、まさか並走出来るヤツがいるとは思わなかったのでしょうかね。

 

残念。 お馬さん()も速いんです。

 

 

「何やら急いでいるみたいだねぇ……愛しのワンちゃんに会いに行くのかな!?」

「ふざけてる場合?」

 

 

前を向いて走りながらも、レンは若干の苛立ちを孕ませながら付き合ってくれます。 良い子ですねぇ!

 

しかし反応が面白くない!

 

そこは「あんな駄犬なんか、ちっとも好きじゃないんだからね!」とツンデレな言葉を返して欲しかった。

 

もしくは正史のSJ2みたいに、すっ転んで目をぐるぐるさせるとか。

 

まあ、ついていけば地下にいるであろう、隊長の下へ辿り着けるでしょう。 そこで面白いコトをしてやります。

 

 

「こんな時こそユーモアは大切だぜ? 寧ろこんな時用の、ふざけ方ってのがあるもんだ」

「貴方の存在のコトかな?」

「正解!」

「否定しようよ」

 

 

走りながらも、呆れた声を出されました。 それでも流石ゲーム世界。 息切れなんてありません。 羨ましいねぇ。

 

ですが、そんなウサちゃんの考えや予想した答え通りにする気はありません。

 

だって、それ……ツマラナイでしょ。

 

だから、

 

 

「おんぶしてやんよ!」

「なぁっ!?」

 

 

首根っこを掴み、素早く背中に回して上手い事背中に装着。

 

隊長が見たら羨ましがるでしょうなぁ。 そんな反応も見てみたい。

 

 

「俺の方が速いんでね、道を教えてくれる?」

「うぐっ」

「ははっ、傷付いた? ゴメンねぇ、大人気なかったねぇ!?」

「黙って走れ! 次の角を右じゃぁ!」

 

 

それより、オコなウサちゃんの反応が面白いです。 悪感情って面白いですよね。

 

見飽きた戦場より面白い!

 

その人の名誉や財産を傷付けられて……精神攻撃を喰らって心が揺れるサマを想像するのは楽しくてさ……。

 

それも後で料理される獲物ほど、ね。

 

最期、どんな姿を見せてくれるのかって思うと愉快なり!

 

もちろん、今まで存在しなかったSTORMー01(隊長)の行動は読めませんから、それもそれで楽しいのですが。

 

そこに大切に飼っていた兎が料理されて出てきたら、もっと愉しくなるに決まってます。

 

 

 

まぁ……。

 

()()運営が諦めてGGOのサービスを終了させてしまえば、俺は《再出撃》する羽目になりますが。

 

そうなっちゃったら、死銃事件に首突っ込んで、あの女みたいな剣士様とリアルで銃を撃った女王様を殺すのも愉しいかも知れませんねぇ……。

 

そうして出て来るであろう、SAO生存者(サバイバー)を潰していくとか?

 

あっ。 《ブルージャケット》はこの時間軸で女王様と交戦したんでしたね。 同じ青いもの、狙撃手同士。

でも女王様は相手の数や武装に危機感を感じて逃げてしまったらしいですが……それでも羨ましい!

 

 

 

「ヒヒッ」

「笑うなぁ!」

 

 

鉄帽をバシバシと叩くウサちゃん。 その程度ではダメージを与えられませんよ?

 

いやぁ……GGOプレイヤーにゃ、俺の渇きを完全に癒すのは無理かなぁ?

 

とか思っていたのが災いしたのか。

角を曲がったら、

 

 

「きゃーニクスさーん!」

「隠れてっ!?」

 

 

《ニクスB型》一機、随伴歩兵3名とかち合いました。

 

ウサちゃんの言う通りにしてやり、戻って角に隠れます。

 

刹那、フルオートによる銃撃を浴びせられ、角や足下に無数の弾が着弾。 抉りながら砂埃が舞っていきました。 GGOの弾より痛いですから、喰らいたくないです。

 

 

「面倒な事になったなぁ」

「何とか出来る?」

「何とか出来たよ? あのまま突っ込んで《C20爆弾》をばら撒いて爆破処理しようとしたんだけどぉ? 誰かが隠れてなんて言ったからぁ!?」

「悪かったね!?」

 

 

邪魔してくるモノホンの相手より、ウサギを弄る方が愉しいですねぇ。 EDFがこの世界に拘る理由のひとつです。

 

《人の声が響く地球》を守る。 偽物でもそれで心が慰められる。

 

あの絶望の世界なんて捨てた方が気楽になれる……とね。

 

ですがねぇ、この世界はゲームなので。

 

いくら守ろうが殺そうが、偽物は偽物なのでね。 ストレス解消という意味なら、ゲーム世界なので良いでしょうけど。

 

でも迷惑ですから。 俺の存在含めて、チートなんですよ。 間違い、なんですよ。

 

だから、《再出撃》を繰り返すんですよ。

 

ですから、

 

 

「消えてくれ」

 

 

レンを下ろして素早く角から飛び出し、銃撃を喰らってもゴリ押しで突っ込み、

 

 

「ほらよ!」

 

 

《C20爆弾》を群れに放り投げてやり、

 

 

「ポチッと!」

 

 

起爆。

ズドォンッ! と銃弾よりもずっと派手な音を響かせて、コンバットフレームと随伴歩兵を吹き飛ばす。

 

ついでに俺も吹き飛んで、さっきの角まで戻されます。 丁度ウサちゃんの足下に転がった結果、見下ろされました。

 

 

「えと……大丈夫?」

「ご覧の通り、五体満足よ。 自爆テロでもね、俺のEDF製アーマーは強化しまくったからね、こんくらいなら耐えられる!」

「そ、そう」

 

 

痛む身体にムチを打ち、むくりと起き上がるとレンを再び背負う。 元はニクスさんだった鉄屑を後にします。

 

 

「そうそう。 俺が爆発物を使うのはね、好きなシーンへコマを早回ししたいからなんだ!」

「急に何の話?」

「独り言サ。 それより道案内頼むぜウサギさん?」

 

 

でもね、と走りながら思うのです。

 

今回で《再出撃》は終わると思うのです。 隊長がいるから。

 

でもね、と別の考えもあるのです。

 

俺は悪い奴なんですよ。 人の反応を見て楽しんできた癖が沁み過ぎたんですよ。

 

だから。

 

止めて下さい。 終わらせて下さい。

 

EDFと、この俺を。

 

そして救って下さい。 ふたつの世界を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰か来たぞ!」

 

 

警備兵が叫ぶから、皆が一斉に銃口を闇に向ける。 味方か敵か!?

 

センサー反応では味方表示だが、頼り過ぎても良くない。 特に地下は。

 

俺も電磁トーチカを手に持ち、戦闘に備える。 銃撃戦は苦手だが、周りの特戦歩兵のサポートならしてやれるからな。

 

 

「むっ、ありゃあ」

「グレ男とレンだ!」

「銃を下ろせ」

 

 

だが現れたのは知ってる人物。 グレ男と愛娘のレンだ!

 

グレ男は手を振りながら、そしてニヤニヤしながら。 相変わらずの態度に呆れと安堵を与えてくれる。

 

だが無事で何よりだ。

 

 

「隊長! あ、軍曹たちもいたんスか。 お久です!」

「無事でなりよりだ。 レンも……よく来てくれた」

「ワンちゃん!」

 

 

グレ男に下されて、こっちに走り出すレン。 すると、ぴょんと跳ねて俺に抱きついて来る。

 

おうおう……頭を擦り付けて。 抱き返して頭を撫でてやる。 辛い思いをさせたな。 すまない。

 

 

「聞きたいコトは、いっぱいあるけど。 無事で良かった」

「レンも無事でなによりだ。 グレ男も、な」

「俺も覚えていましたか! 嬉しいなぁ!」

 

 

喜ぶ問題児。 聞きたいコトはたくさんあるので、今は互いに情報交換といこう。

 

軍曹と共に、知り得るものを教えあう。 戦場において情報は重要だ。

 

味方にスカウトもいるが、意見や情報が複重しても無駄にならない。 それだけ確実な情報だと分かるのでな。

 

 

「地上の様子はどうだ?」

「EDF同士が殺しあってましたよ。 かく言う俺も襲われて殺り返しましたが、正当防衛ですよね?」

「……ああ。 やむを得ない」

「プレイヤーたちは見たか?」

「少しだけですが。 EDF(プライマー)に蹂躙されてましたね。 賢いヤツは建物かどっかに逃げたみたいです。 それとこの地下、かな?」

「そうか。 プレイヤーは死なないが、武器を失うコトはある。 手を拘束してしまえば、抵抗はおろか、ログアウトも出来なくなる」

「そりゃ心が折れるな。 絶望しちまうぜ」

「俺たちは本当に死ぬんだ。 比べれば、そんなの絶望とは言わない」

「だが絶望は役に立たない。 俺たちの世界の、戦時中みたいにな」

「遊びでやってる奴らに言って下さいよ」

 

 

地上の様子に、わいのわいのと会話が広がる地下。 だが重要なのはこれからどうするか、である。

 

やはりか、反撃しなければならない。 もたもたしてると、地下にもEDFが来てしまう。

 

そうなる前に地上に出て、敵の戦力を削り取らねば。

 

だが、と俺。 どうしても確認したいことがグレ男にある。 コレを聞いておかないと集中出来ないのだ。

 

 

「なあグレ男。 他にも聞きたいんだが」

「はい、なんでしょう?」

 

 

いつも通り、こんな状況でもヘラヘラしてるグレ男。 この状況で、彼は何を思っているのか。

 

今まで同じコトを繰り返して飽きていて、そこに新しいイベントが起きてワクワクしているような。

 

 

()()()()()()()()?」

 

 

聞いた刹那。

 

銃撃音が木霊した。

 

次には視界が揺らぎ、爆音が地下を乱反射して脳内をグシャグシャにし。

 

軍曹たちが吹き飛んで。 コンテナやビークルが爆発四散して。

 

レンが吹き飛ぶ俺を見て目を見開いていて、何かを叫んで。

 

次にはP90をグレ男に向けていた。

 

釣られて見やれば、口元を三日月みたいに曲げたグレ男の醜悪な顔。 手にはアンテナのついた起爆装置。

 

サングラスを投げ捨てると、その目は瞳孔が開いている。 狂気的だ。

 

考えなくても分かる。 コイツがやったんだ。

 

 

「隊長。 俺は死を繰り返し続けた……《再出撃》を()()()()()レンジャー隊員です」

 

 

爆音やメラメラと燃える、夕陽のように染まった地下。

 

地面を転がされて、周囲の音が聞き取れない。 それなのにグレ男の声だけはクリアに聞こえる。

 

けれど理解が出来ない。 その言葉が。

 

何を言ってるんだ? 《再出撃》を繰り返した?

 

 

「ウサギを料理したら、隊長の相手をしてやりますよ」

 

 

どうやらトンデモナイ事実が隠れているようだ。

 

グレ男は敵なのか。

 

それはEDFとは関係ないのか。

 

だが今はそれよりも。

 

 

「レン、逃げ……ろ…………ッ!」

 

 

愛娘を逃がしたい。

 

コイツに。 得体の知れないモノに。

 

グレ男に、ひとりで勝つのは無理だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本物も偽物も関係ないッ! お前はこの場でコロスッ!!」

「本気で来いよ子兎。 お前が死んだら、次はだぁい好きな男が死ぬんだからなぁ!」




レンジャー(グレ男)戦へ。


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飼われたウサギ

不定期更新中。 駄文続きながらも、完結したいこの頃。

グレ男戦。 でもあっさり子兎は……。


 

プログラムにないコトは実行不可。

 

そんなの、プレイヤーと運営の話でしかありません。 そして「ソレ」にこだわり続ける限り、EDF(プライマー)は倒せない。

 

プログラムの世界に無いエフェクト等が起きる当異常事態。

それでもプログラムである以上はプログラムの問題だとした固定観念に囚われたから、今日まで運営は解決するコトが出来なかったのでしょう。

 

プレイヤーも同様です。

 

今、目の前で殺意を向けて来る子兎も例外ではありません。

 

幾度となく繰り返された世界にて、真面目な彼女は終始、EDFをバグやチートだとしか考えませんでした。

 

そうして何度もEDFに殺されては、諦めてログアウト。 GGOから離れていき……世界は終了。 流れは多少異なれど、どの時間軸でも最後はそうでした。

 

ところが、今回は違う。

 

EDFを本物としています。 この世界で生きる者だと。 死んでしまう者だと。

その上で、殺そうとする彼女の目は決意に満ちてる。

 

今までにない目です。

 

これもSTORMー01。 貴方の影響が強い。

 

熊や毒鳥、子犬や舎利たちにも影響を与えていますし、これはいよいよ世界を救えるのでは?

 

もしそうなら、手を尽くすべきでしょう。 昔の俺みたいに。

 

でも今の俺は、悪いヤツなので。

 

何度も《再出撃》をしているうちに、新しい反応を見たくなってしまいましてね。

 

そのひとつに、STORMー01を殺してみる、というのがありまして。

 

そうしたら、今回の時間軸はどう反応するのか興味が尽きません。

 

半殺しにしただけで、子兎はこーんな反応をしてくれるんですからねぇ。

 

その逆に。 子兎を殺したらSTORMー01が、どう反応するのかも気になりますし。

 

まあ、ですから。

 

 

「愉しませてくれよ?」

 

 

今度の兎は、美味しく調理します。

 

所詮はゲーム。 プログラムに則った行動しか出来ないプレイヤーが、何処まで出来るか見ものですよ。

 

 

 

 

 

「殺す!」

 

 

おっと。

 

おっかない目でレンが叫ぶと、凄い速さで俺に突っ込んできました。

P90(ピーちゃん)をフルオートしてきやがったので、アンダーアシストで横に回避します。

 

 

「逃がすかぁっ!」

 

 

すると並走して横から発砲。 シツコイですねぇ、まるで親の仇かのような。 ああ、親みたいなものでしたか。

 

何発かは喰らいましたが、アーマーを貫通するには至らず。 それでも衝撃で痛いものは痛いので勘弁して欲しいです。

 

そんなわけで反撃しますかね。

 

ココはGGOらしく銃で相手してあげましょう。

 

そう思って、徹甲榴弾をフルオートで撃てる特殊小銃、ミニオンバスターを手に持ちます。

 

 

「これなーんだ?」

「っ!?」

 

 

それを見た子兎は目を見開いて驚きました。 そりゃコレが何なのか知ってますからねぇ。

 

そして全力で距離を離していきます。 射程が短いのをSJ2で学びましたか、良く観察していらっしゃる。 或いは偶然かな?

 

逆に死角に入ろうと突っ込んできたら、アンダーアシストで距離をとって撃つか、C20爆弾で自爆するか蹴り飛ばしましたが。

 

けれど。

 

 

「今度は俺が逃がさない番だなぁ!?」

 

 

容赦なくフルオートでお返し。 加えてアンダーアシストで追いかけます。 黙って逃すほど俺は優しくないのですよ。

 

でもね、徹甲榴弾はわざと外してあげました。 あくまで炸裂時の破片が掠る程度に留めます。

 

簡単に殺したらツマラナイですからね。 子兎にはもっと足掻いて貰わなきゃ。

 

レンは足下に着弾、炸裂して飛び散る破片や、爆風によろけつつ、ビークルだった鉄屑に身を隠します。

 

小さな身体ですから、被弾率が少なくて隠れるのは容易でしょう。

 

 

「さっきまでの威勢はどうしたぁ!?」

 

 

俺は煽りながらも、隠れていそうな鉄屑や遮蔽物にフルオート。 徹甲榴弾が喰い込み、炸裂して遮蔽物を細かく刻んでいきました。

 

おうおう……今頃子兎は恐怖で震えていることでしょう。 自身ではなく、ワンちゃんが死ぬ恐怖に。

 

ああ、可哀想に。

 

「私が死ねばワンちゃんが死んじゃう!」と。

 

ああ! そんな姿、見てみたい!

 

それでも健気に状況打開方法をアレコレ考えているのでしょうが、このまま隠れられたりチマチマした事をされては面倒です。

 

甚振って、こっちのペースに引きずってあげますか。

 

 

「隠れんぼは終わりにしようぜ?」

 

 

武器をグレラン《UーMAX》に切り替えてトリガーを引きます。

 

ポンッと小気味良い音がすれば、回転式弾倉が一つ分回転。 吐き出された弾頭は、放物線を描いて遮蔽物の裏へ着弾。

刹那、派手な音と共に遮蔽物ごと子兎を吹き飛ばしました。

 

ビンゴ! といっても、センサー反応で位置はバレてますが。 直撃させるのは容易ですが、ココはわざと外してあげたのです。

 

アレ、俺ちゃん実は優しくない?

 

 

「はぁはっ……くっ!」

 

 

そんな子兎は決戦仕様の強力な爆風で地面に転がされます。 ですが、まだ闘志は尽きませんか。

 

素早く起き上がりP90の銃口を向けてこようとします。 よほど隊長を傷付けたコトに怒りを覚えたのか。

 

そして守りたいのか。

 

だから、

 

 

「諦めろよ。 俺みたいに」

「っ!?」

 

 

へし折ります。 その思いを。

 

教えてやります。 無力だと。

 

アンダーアシストでレンを上回る速度で近寄り、銃弾を浴びるより先にP90を蹴り飛ばしました。

 

 

「がっ……! こ、この……!」

 

 

レンは俺の言葉を無視。 ナイフを抜いて応戦しようとして、

 

 

「コレを使いたかったのかなぁ?」

「なっ!?」

 

 

ナイフをレンより先に抜きとって見せびらかしてから、

 

 

「返してあげよう、ねっ!!」

「ギャァッ!!?」

 

 

右手の平に返してあげました。 使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「あっ、ごめんねぇ!? 勢い余って刺さったか! アハハハッ!」

 

 

赤いエフェクトに塗れる右手を抑えて悶えるウサちゃん。 中二病かなぁ? いや、中身大学生だけどさぁ!

 

ああ、さてさて。

 

今までの経験から、レンの武装はコレで消えたハズ。 丸腰状態です。

 

敵を目の前にして、丸腰……この状態からの反撃方法は。

 

 

「お前だけはっ!」

 

 

飛び掛かっての、首への噛み付き。

 

何という、いつもの負けず嫌い。

 

恐ろしいケモノですねぇ。

 

露出した首を噛まれたら、()()()()()()()()()()死んじゃうかも。

 

でも、

 

 

「諦めが悪いなぁ」

「ガッ!?」

 

 

脳天に銃床を叩きつけて床に沈めます。 轢かれたカエルみたいにベチャッと広がりましたが、加減したんで、まだ生きてるでしょう。

 

死んだら光の粒子になって消えるハズですし。

 

そんな兎の可愛い頭を帽子ごと踏んづけて見下しながら、俺は煽りながら質問しました。

ふーふー息を荒くして、すんごい睨みつけてきますが気にしなーい。

 

 

「EDFに関わって来たならさ、独りでどうにか出来るワケ無いって分かんねーの?

頭の良いレンちゃんなら理解出来ると思ったけど……数パーセントの勝率に掛けたのかい?

アハハハッ、愚かだね。 実に愚かだ。 そんなにSTORMー01(隊長)が大切かい?」

「た、大切だよ……! それの何が悪い!?」

 

 

ああ、そうかい。

 

やはり隊長の影響力は凄まじいですね。 それが分かって良かったよ。

 

 

「それが聞けて安心した」

 

 

俺は思わずニヤッとしました。

 

踏みつけつつも、グレランを片手で持ち上げて……砲口を向けます。

 

 

「ならさぁ、その男が死んだらどうする?」

 

 

気を失うSTORMー01に、ね。

 

 

「なっ……! や、止めて! 殺さないで! お願いだから!」

 

 

するとウサちゃん、懇願を始めましたよ?

 

目を見開いて闘志は消え失せ、絶望に染まっていきます。

僅かに残った希望は、敵である俺に託すという皮肉。

 

あとは俺次第なのだから。

トリガーを引けば、隊長は死ぬ。 引かねば死なない。

 

嗚呼。 愉快。 愉快だなぁ!

 

良い顔いただきました!

 

そんな顔をもっと見たい。

 

希望をチラつかせて反応を楽しむ事にしますかね。

 

 

「どうしようかなぁ? レンちゃん言う事聞いてくれるかなー?」

「き、聞くから! お願い……ワンちゃんだけは……殺さないで!」

 

 

あーあー。

 

隊長が絡むとアッサリです。 涙まで流し始めちゃってまぁ。

 

弱い者イジメはゾクゾクしちゃうね!

 

 

「ふーん。 ワンちゃんだけか。 じゃあさ、遠くで転がってる……ああ、軍曹っていうんだけど。 ソッチは良いんだー?」

 

 

そう言って、砲口を軍曹たちに向けます。 同じように気を失ってますが、まだ生きてますよ。

 

俺がトリガーを引けば、流石に死ぬと思いますがね。 いくら伝説級でも。

 

 

「自分の都合の良いコトをして、他を殺すのかー。 この人殺しぃ」

「お前に言われたくないッ!!」

「じゃあ、どうするの? この状態から俺を殺す? 奇跡でも信じるかい? それこそ愚かだと思うがね」

 

 

かくいう俺も信じてるんですがね。

 

だって隊長が現れたんですから。 皆、影響を受けたんですから。

 

この子兎も、飼われた身でありながら、こうも決意して闘って……絶望のワケも隊長絡みで。

 

でもね。 それでもEDFは強いんです。 あの壁に俺は絶望したんです。

 

STORMー01でも越えられるのか分からない絶望。

 

それでも。 ちょっと手心を加えるのは良いんじゃないかなと。 その段取りがコレなワケですが。

 

 

「あー、良いや。 こーんなにも弱いとは興醒めだわ。 隊長に飼われちゃったからかなぁ……そんなウサちゃんには、相応しい場所に連れて行ってあげます!」

 

 

そう言って、首を掴んでレンを運びます。 元来た道を戻り、地上へ戻るのです。

 

 

「ぐっ……ひぐっ」

「泣こうが喚こうがお前をEDF(プライマー)に引き渡すよ? そして駐屯地のウサギ小屋にでも閉じ込められるが良いサ、アハハハッ!」

 

 

まあ。 STORMー01だけ、反乱軍だけでは運命に抗うのがキツいってなら。

 

この子に、GGOプレイヤー達にも協力して貰いましょうって話。

 

そもそも、この世界は俺たちEDFのモノではなく。

 

彼ら、彼女らのモノ……ゲーム世界なのですからね。




拉致される子兎。 そして残されるワンちゃんたち。


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連続誘導

不定期更新中。 グロッケンに空爆開始。


 

「うおおお! 離してくれ軍曹ッ! アイツ殺せない!」

「落ち着けストーム・ワン!」

「そうだぜ大将!」

「落ち着きましょう!」

「落ち着いていられるかあああ!」

 

 

現在地、未だ地下。

目覚めれば、ふざけた張り紙をヘルメットにつけられて、書かれた内容から娘が拉致されたコトを知った俺は荒ぶった。

 

あの野郎! 俺の娘に手を出しておいて無事に済むと思うなよ!

 

EDFもそうだ! テンペストミサイル1発では済まさない!

 

そんな感じで激昂する俺を軍曹たちは抑え込んでくる。 流石レンジャーというべきか。 俺がジタバタしているのに、よろけもしない。

 

せめて溢れる感情を発散させようと、俺は一枚の紙を手に取り、軍曹の顔に押し付けて訴えた。

 

 

「だってアイツ、こんな手紙を俺のヘルメットに貼り付けていったんですよ!? 読んでくださいよ!」

「落ち着いたらな」

 

 

淡々と言って、落ち着くように促す軍曹。

 

くっ。 仕方ない。 大人しく言うことを聞いて荒ぶるのを止める。

 

怒りは収まらないが、手紙は是非読んで欲しいのだ。 内容は俺宛だけではなく、軍曹も含まれているのだから。

 

 

「読むぞ」

 

 

軍曹は抵抗しないのを確認すると、手紙を手に取り、部下にも分かるように音読を始めてくれる。 心使い感謝である。

 

 

「ふむ……‘’よぉ、STORMの方々。 俺様、皆のアイドルグレ男~。お前が大切にしている子兎ちゃんは、榴弾兵な俺様がいただいたぜぇ。その代わりに素敵なプレゼントを置いてってやったけど、気に入らねぇからって爆撃で仕返ししようとしても無駄だからなぁ? EDFはお前の戦法をぜぇ~んぶお見通しなんでねぇ、歩兵との連帯をオススメするぜぇ? さもないと、も~っと大事な物を失うことになっちまうぞぉ~? ウヒヒヒッ!”…………だ、そうだ」

「「「ナニその犯行声明!?」」」

 

 

部下がツッコミを入れるのも仕方ない。 こんな某大盗賊みたいな文面なんて、ふざけるにも程がある。

 

そんな文を軍曹が読み上げるのはシュールだったが、構う余裕はない。 早く何とかしなければ。

 

 

「……プレゼントは、出入り口に数ぶん並んでる《フリージャー》のコトか。 遠慮なく使わせて貰おう」

「恐らく。 何故、敵に塩を送る行為をするかは不明ですが」

「爆弾はセットされてないな……よく整備されてる」

「ヤツのコトだ。 気紛れだろうよ」

 

 

軍曹たちが口にしつつ指さす先には、手紙にあったプレゼント。 そこには装甲に覆われた軍用バイク《フリージャー》だった。

 

迅速な行動が求められる際に使用されるビークル。 見た目は戦場での運用を想定しているため装甲に覆われて、前方には内蔵されたマシンガンの銃口が二門、顔を覗かせている。

 

軍用でパワーはあるのだが……操縦は難しい。 暴馬と言って良い。 俺が要請出来るビークルではないのもあり、免許あれども運転は大の苦手。 だが贅沢は言えない。

丁度急いでいるのだ。 使わない手はない。

 

 

「ともあれ、地上に出ます。 俺が空爆、砲撃要請した後、歩兵による攻撃を敢行。 グロッケン奪還を目指します」

「ああ。 ドンパチは任せろ!」

「歩兵のチカラ、見せてやる!」

 

 

そして各員、フリージャーに跨り地上へ戻る。 ここからが本番といったところか。

 

重傷者はライフベンダーで回復を待ち、その後に合流。

 

酷だとおもうが、戦時中の比ではない。

いや……かつての仲間を殺すのだ。 下手すればあの頃より酷か。 それでもやらねばならない。 この世界はレン達の世界である。 EDFのではない。

 

 

「レン……待ってろ」

 

 

アクセルを回し、駆動音をドラムのように響かせて地下空間を後にする。

 

そうして地上に出る前に何度もコケる羽目になるのだが、きっとグレ男の細工に違いない。 俺は悪くない。 尚更許すワケにはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆が諦めて静寂が支配する首都、グロッケン。

 

先程までいたGGOプレイヤーはフィールドに脱出したか、建物内部に隠れたかログアウト。

 

銃撃音は時々聞こえるも、それはGGOの銃ではなくEDFの銃撃音。

建物や路地裏をクリアリングして、発見したプレイヤーやNPCを射殺しているのだ。 今やプレイヤーは一方的に駆逐されるだけの的と化している。

 

それでもログアウトせず、グロッケンに留まる者たちは少なくない。

EDFがやべぇチート武器と技術を行使するヤツらだと実感した彼らだが、全く歯が立たないワケじゃないのも知ったからだ。

 

GGOの武器が全く通用しないワケじゃないなら、裏を突けば倒せるんじゃないかという淡い希望を抱き、潜伏して隙を伺っている。

例え刺し違えても、ヤツらに1発喰らわせたいのだ。

チートで調子に乗る荒らしを純粋な力で黙らせる……ゲーマーの格の違いを見せたい、EDFへの怨みを晴らしたい、組織的なチーターに何処までやれるか試したい等という欲求が大半ではあるが。

 

結局はゲームとして、彼らは自分なりの楽しみ方を見出しているに過ぎない。 グロッケン奪還だとか平和の為だとか大それたコトは考えてない。

相手は命懸けで銃を握っている異界の戦士だが、こちとら遊びで銃を振り回すアバターだ。

それで腕や足が吹き飛ぼうが死のうが仮想世界の話でしかない。 ゲームの中でヒトが何人死のうが殺そうが所詮ゲーム。 殺人の意識は皆無である。

それでいちいち反応していたら、逆に頭オカシイと思われるだろう。 現実と仮想を区別出来ないあぶねーヤツだと。

 

 

「よぉし。 隙を伺って皆殺しよ」

「逃げる時、ブービートラップを仕掛けてやったぜ」

「良くやった!」

 

 

そんな訳で。

 

グロッケンの路地裏で楽しそうに会話するプレイヤー達。 最早、EDFのグロッケン侵攻はイベント感覚だ。

 

とても戦場の雰囲気ではない。 その辺はプレイヤーによるのだが、少なくともそういうヤツもいるのは確かだ。

知らない人がGGOにログインしたら、やはりイベントの類かと思うだろう。 『宇宙人が攻めて来た! 人類は応戦せよ!』みたいなお題かと。

 

 

「しっかし、EDF同士でドンパチしていたのに、突然終わったな」

「何だったのかねぇ。 お陰で俺らは逃げられたが」

「今いるヤツら、なんか同じ顔に見えないか? クローンみたいだよな」

「そうか? 同じ格好しているから、よく分からなかったよ」

「しかも歩き方などから、みんな女と見た!」

「みんなだ? 男が大半のGGOだからか? 花を添えて花畑にしよーってか。 というかよく分かったな変態め」

「ココは硝煙漂うGGOだぜ! そんなん必要ねぇ! 撃って撃って撃ちまくれ!」

 

 

そして次には弾をばら撒こうという時。

 

あの音が聞こえ始めた。 それは空から聞こえる、あの例の音だ。

 

ゴオオオオッという、ジェット機の音。 ヘリのバリバリとは明らかに違う、世界全体、遠くまで響き渡るような音。

 

 

「お、おい! 空から妙な音が」

「それならヘリか?」

「ち、違う! この音は……空からの音は……ヤツしかいない!!」

「う、うわあああああ!? 逃げろ! 逃げろぉ!」

「ヤツだ! 《かの者》が来たんだぁ!!」

「死神だぁ……俺たちを殺しに来たんだぁ!」

 

 

先程までのワクワクモードは一転。

 

ゲーム世界だと理解しながらも、その恐怖にすくみ上がり、涙さえ浮かべながら蜘蛛の子を散らし始めたプレイヤー。

新規には分からないその音は、航空機の音にしか聞こえない。 そして次にはヒューッという口笛のような音。

 

 

「なんだってん、だ……?」

 

 

そうして空を見上げた新規プレイヤーは、ピシリと石化。

 

そこにはEDFの重爆撃機、《フォボス》が編隊を組んで飛んでいたのだ。

 

その数10機以上。

 

何処かでストーム・ワンが《爆撃プラン10》を要請したのである。

 

プレイヤーの頭上を越えた先、EDFが集中していたエリア。 そのグロッケン中心部を目掛けるようにして定められた座標と突入角度で飛行、突入。 そしてその通りに下方に光の玉を大量に落とし始めた。

それらは帯を描き、やがて地面やビルに当たると激しい爆音を轟かせる。

 

もれなくビルはドミノ倒しの如く倒壊し、地上は爆煙に包まれ、衝撃はグロッケン全体に響き渡った。 早速、地獄絵図と化す。

 

 

「爆撃!? いやいや銃の世界だろココ!? なんで航空機が……いや、ヘリもだが、アレよりヤバいだろアレ!」

 

 

興奮と混乱で叫ぶプレイヤーだったが、ヤバいコトは止まらない。

 

 

「見ろよアレ!?」

「ほ、砲撃だぁ!?」

 

 

今度はプレイヤーが逃げる先の四方八方から放物線を描いてくる光の玉が。 やはり同じように帯を描いて落ちてくると、広範囲に着弾。 逃げるプレイヤーをも巻き込み、更に建物の崩壊は進んでいく。

 

SJ2でもあった《迫撃砲 集中運用術》である。 いつのまにか発煙弾が投げられており、ソレを確認した砲兵が、そのポイントを中心に目掛けて迫撃砲で榴弾を撃ちまくっているのだ。

どこに砲兵隊がいるんだよ、とかいうツッコミは無しである。

 

 

「何処に逃げれば良いんだぁ!?」

 

 

敵も見えず、見えても銃弾届かぬ高所や遠方。 そもそもヒトですらない兵器群。

一方的に攻撃される恐怖にアワアワしているプレイヤー。 しかしあんなの挨拶だとばかりに、更なるやべぇモノが飛んで来た!

 

 

「あ、ありゃあ……ミサイルか!?」

 

 

猛爆撃、猛砲撃の雨の中、それでも生き延びた幸運なプレイヤーがプルプルと指を空へ向ける。

もう空なんて見たくもないが、悲しいかな、人とは見てしまうのだ。 希望でも絶望でも。

 

どちらにせよ、確かにソレはあって飛んで来ていた。 数は20発以上だろうか。

 

それを見たプレイヤー達は愕然としてしまう。

 

 

「あ、ああ……ミサイル、だろう……あれは」

 

 

もう逃げる気力もなくなり、そのミサイルが飛んで来るのを呆然と見るのみ。

やがてそれらは地上に、それぞれ微妙に弾着地点を変えながらも激突。 グロッケンに爆炎を上げていく。

 

ただでさえ少なくなったプレイヤーが、更に木っ端微塵にされていった。 中にはリスポーンして即死んだ者もそれなりに。 酷いリスキルだった。

 

そんなミサイル群は潜水艦から放たれた《ライオニックミサイル》だ。 ビーコン誘導に従って軌道を描いて着弾していっているのだ。

 

だが「まだまだぁ!」とばかりに、空から悪魔は飛んで来る。 建物は殆ど残っていないというのに、容赦無い。

 

もうやめて! グロッケンのライフはもうゼロよ! そういったとしても止まらない。

娘を拉致られ、バイクで何度も横転してEDFが暴れてるという現状のストレスに理性が飛んでいるのだ、かの者は。

 

どうせこの世界は偽物なので、プレイヤーは死なないしグロッケンも運営が何とかするだろうな感覚だ。

プレイヤーはゲーム感覚で戦っているが、ワンちゃんも別のベクトルでゲーム感覚だった。

 

 

「あ、あぁ……まだ、くる」

「いやああ!」

「もうやめてぇ!」

 

 

狂った空からは、更に狂ったかのような……ビルくらいの大きさはあるデカいミサイルが飛んで来た。

極秘建造されたバレンランド基地から放たれた強力なミサイル《テンペストミサイル》だ。

その巨体にしてはユックリ飛んでいるように見えるので、「大丈夫?」なツッコミもあるかもしれないが……ソコはEDFの謎の技術ということで……。

 

それを見て女々しく悲鳴を上げるは生存者たち。 中にはこの世の終わりだという顔をし、絶望し、ハルマゲドンかと嘆いていく。

 

それはEDFなのかプレイヤーなのか知らないが、恐らく両方だろう。

 

ワンちゃんにとってはどっちでも良いが。 さっさと終わられたい。 EDF死すべし慈悲は無いのだ。

 

 

「ああ……GGOは終わりだ」

「俺、GGO辞めます」

「銃棄ててALO行くわ。 自然に癒されてくるわ」

「取り敢えず《死に戻り》は確定だな」

 

 

そうして、死に際に悟りでも開いたような穏やかな顔を浮かべて、残りのプレイヤーは巨大な爆炎に飲み込まれていったのである。

 

この日。 グロッケンは《かの者》と呼ばれる死神により住民もEDFも殲滅され、跡に残るは瓦礫の山……いや、巨大なクレーターだけとなった。

 

この話はGGOのみならず、ネットなどの情報網で急速に拡がり、それは他ゲームユーザーにも知れ渡り、挙句に日本国内のみならず海外、北米サーバー等にも伝わって野次馬が大量に日本サーバーに押し寄せて大祭りとなる。

 

そして有志により、ストーム・ワンなる人物がこの中心人物だと判明する。

ナニもソイツは娘の為に、圧倒的な絶望に抗っているという。

この合ってるのか微妙な情報からロマンや同情、好奇心で彼に加担するプレイヤーが増加。

祭りといえば神輿じゃねと、彼を担ぎ上げ始めるのであった………………。

 

後の世に《GGDF事件》として語り継がれるVR事件は動画投稿サイトに一部始終が投稿、それはうなぎ登りに再生数を伸ばしていきメディアも取り上げて、トンデモナイ大嵐に発展していくのだが。

 

EDFもワンちゃんも、そんなモン知っちゃこっちゃねぇと戦場へと身を投じて行く。

ただ、被害者は娘を拉致された彼や英雄とコトを構える侵略者、グロッケンやプレイヤーだけでなく。

 

運営も被害者である点は忘れないであげて欲しい。

 

 

「グレ男はどこだ! どこにいるぅ!? レンジャーは徹底的にグロッケンを掃討しろぉ!! ウィングダイバーとフェンサーが到着したら、駐屯地を襲撃するぞゴルワァ!」

「落ち着けストーム・ワン!」

「そうだぜ大将!」

 

 

どうなることやら。




次回、駐屯地攻略へ。


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駐屯地攻略作戦・第一段階

不定期更新中。 シールドベアラー、バルガ登場。


*光の城へ突入。

空爆も砲撃も効かぬアレ。 歩兵による接近を試みます。 そして鉄屑登場。

 

 

『仕事は終わった! 帰る!』

「空爆、効果ナシ」

 

 

うん。知ってる。 見れば分かる。 淡々と無線機越しに報告してくるスカウトにイラッとしつつも無線機をしまいこみ、俺は発煙筒をぶん投げた。

 

前進中のプレイヤーと歩兵の為だ。 援護しなければ。

ひょっとしたらアレも攻撃を続ければ壊れるかも知れない、という希望的観測を持ちながら。

 

しばらくして赤いスモークが狂った空へ立ち昇ると、間を置いて弾が四方八方から飛んでくる。 今回は爆発はしないが、威力の高いカノン砲だ。

前方の目標と周辺に着弾しては派手に煙を立てていく……が、晴れれば無傷のソレが露わに。

 

 

『砲撃止めー!!』

「砲撃効果認められず」

 

 

そして効かぬ。 固定目標なのに、砲撃が効かぬウザさ。 戦時中に幾度となく味わってきたが……また味わうとは。

 

だが構わず誘導を続けよう。 今度は衛星砲だ。 ビーコンガンで目標に向かってトリガーを引き続けてピンク色のレーザー照射を行う。

 

するとレーザー地点に、空に向かって光の柱が立つ。 眩いばかりの太くて白い柱は、宇宙から地上に降り注ぐ光学兵器の一種だ。

軌道上にある軍事衛星サテライト・W1によるバルジレーザー照射。 照射モードは最大出力で要請。 砲身が融解するまで照射を行って頂く。

 

GGO内の装備品に光学兵器の威力を減衰させるアイテムがあるが、装備しても意味を成さない程に強力な攻撃だ。

 

 

『システムに異常発生! 修理が必要だ!』

「効果ナシ」

 

 

それでもダメだった。 全く恐れ入る。

ならグロッケンにトドメを刺したテンペストミサイルを試そうじゃないか。

 

そうして、別のビーコンガンを使用。 もれなく巨大なミサイル、テンペストが飛翔してきた。

そして目標の《光の壁》に衝突。 巨大な火球を生成し、衝撃波がここまで来る程派手だったのにも関わらず、

 

 

『我々は人類の勝利を確信している』

「テンペスト、効果ナシ」

 

 

いやぁ。 本当どうなってんだ、あの技術。 俺の電磁トーチカもアレくらい強化してくれないかなぁ。

 

だが持ち得る兵器は他にもある。 正直使いたくなかったがEDFの機密兵器、スプライトフォールを要請してみるか。

 

 

『ファイヤ♪』

 

 

楽しそうなサテキチ姉さんの声が無線機越しに聞こえたと思えば、目標に空から複数の光の槍が刺していく。

謎の女科学者が大好きなスプライトフォールだ。 バルジレーザーと同じ衛星砲であるが、照射時間や方法が異なるもの。 照射時間は僅かだが、瞬間火力なら此方が上。

コストが悪く、使い勝手が悪いのと女科学者が苦手なのだが構っていられない。

 

だがしかし、

 

 

『作った人は天才に違いないわぁ♪』

「効果ナシ!」

「まるで駄目じゃないか!」

 

 

目標は健在ときた。

やれやれ。 空爆誘導兵の火力は役に立たないか。 戦時中に味わったコトを再び味わうとは。

 

目の前には駐屯地。 制圧目標だ。 その外側には大きなアンテナを付けた機械が複数。

そして上空を覆う光の半透明のドーム。

 

そのドームの中から、前進中の歩兵部隊に敵が一方的に銃撃を加えていた。 お陰でバタバタとプレイヤーが倒れては光の粒子になって消えていく。

逆にこちら側の攻撃は全て受け付けていない。 ズルい。

 

 

「やはり突入するしかない」

 

 

ありとあらゆる攻撃を受け付けず、逆に中から一方的に撃てる……俺の電磁トーチカと似ているソレ。

 

それは戦時中に見た《シールドベアラー》。

プライマーの技術であった。

まさに侵略者。 いや、どっちが侵略者なのだろうな。 議論する気はないが。

 

 

「こちらストーム・ワン。 要請による攻撃を中断し、ビークルを要請、突入する!」

『早く来てねパパ! コッチはマジでヤバい!』

『レンちゃん待っててねぇ! 今迎えに行くから!』

『敵の抵抗激しく進軍は困難な状況だ。 壁の外に出てきた敵対処で手一杯……ピト!? 装甲車より先に行くな!』

『歩兵はAFVの側を離れるな! 砲撃に頼れ……おい、そこの女! 離れ過ぎだ死ぬぞ!?』

『つーかあのアマ、容赦なく味方を盾にしてるんですけど! 挙句にグレネードで味方ごと吹き飛ばしてるんだけど!』

 

 

先行している味方からの無線を聞きつつ、俺は遮蔽物の岩から飛び出して前に進む。

なにやら不安にさせる声が聞こえてくるのだが、きっと大丈夫だ。 たぶん。

 

硝煙弾雨の嵐の中。 常に銃弾の飛翔音が耳元で聞こえ、そのくせ遮蔽物は少ない。 生存率は著しく低いが、それでも進む他ない。

シールドベアラーの対処方法は、光の壁の中に突入して機械を破壊する……そんな戦法だからだ。

 

それを《死に戻り》可能なプレイヤーに任す。 そうでなくても弾除けとして使う。

 

だがGGOの武器だけでEDFに勝つのは至難の業。 支援は不可欠。

 

俺は発煙筒をひとつ取り出した。 とあるビークルを要請するためだ。

 

こんな時こそ、あの鉄屑が役に立つだろう。 何も巨大怪生物ばかりにしか役に立たない訳ではない。

突入する。 でも被弾率ヤバイ。 なら装甲車より頑丈なアレだよね。

 

 

「上陸作戦みたいだな。 揚陸艇はないが」

 

 

背を低く。 だけど可能な限り走って。 そしてボヤきながら前進だ。

 

前から、後ろから。 敵と味方の弾丸が無数に交差する最前線。

 

たんたんたん。

 

びゅんびゅんびゅんびゅん。

 

鳴り止まない銃撃音と飛翔音。 まるで耳元でずっと羽虫が飛んでいるかのよう。

 

それでも前進。 前進。 また前進。 肉弾届くところまで。

 

俺の隣のヤツが、眉間を撃たれてひっくり返って消えた。

前の何人かが、爆炎に飲まれて消えていった。

 

前に行けば行くほど数は減る。 被弾率が上がるからだ。

 

 

「進め……レンを救う為、全て終わらせる為だ」

 

 

だが臆せず進む。 敵に背を見せるな。

 

今の荒野は光の粒子がひたすら輝く、美しい戦場。 同時に多くの戦士が散っている場でもある。

 

そんな戦士たちの為に、俺はなるべく前の方に発煙筒を投げた。 皆の盾になりつつ、前進する為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は少し戻り、場はグロッケン……だった場所。

 

その巨大なクレーター内は、多くのプレイヤーで賑わっていた。

ログアウトした者も祭りだと舞い戻り、挙句に日本のみならず、アメリカ、ロシア、アジア系等の様々な国から日本サーバーにログインしてきた多くの野次馬たち。

 

その大半はログインしたての初心者。 銃の撃ち方を知らない、興味がない、という者もいる。

どういうことか。 GGOは銃と硝煙の世界だというのに。 まさか香蓮みたいな理由でもあるまい。

 

 

「どんどん人が集まってきています!」

「皆、ストーム・ワンの指揮下に入りたいと詰め掛けてますよ!」

「原因を聞こうか」

 

 

いくらなんでも急な展開だ。

 

ワンちゃんたちは駐屯地攻略の作戦会議を中断。 話を聞きに行く。

味方になりたいと言われるのは嬉しい限りだが、得体が知れないのも事実。 EDFに恨みを持つプレイヤーもいたのだから、警戒もしたくなる。

 

ところが、聞いてみれば様々な理由からで人によりバラバラだった。

 

 

「ストームさんが愛する者の為に強大な侵略者を倒そうとしてるって聞いてね。 協力したくなったのさ」

「EDFに恨みを晴らす時! 止めても参戦すっからな」

「強い奴につく。 それだけ」

「チート対チートを見たいから」

「大規模な戦闘イベントがあると聞いて」

「少しはサーバーが平穏になるなら手を貸す」

「ネットで凄い話題になってたから」

「SAOやALO内でもGGOの話題で持ちきり。 私みたいに、コンバートシステムで来てるヤツも多い」

「この戦争を動画投稿サイトにUPすれば、きっと凄い再生数になるだろうから」

「自分の実力を試したい」

「愛する者を助ける為に強大な敵に挑む……燃える展開だからさ!」

「我々の時代の戦い方が役に立つ時か」

「アバターの色や武装で、ブルージャケット扱いされて迷惑してるの。 元凶を消せるチャンスだから助けてあげる」

「閃光の名前が先にいっちゃって……そうしたら何故か「ウィングダイバーかい?」とか聞かれ始めて。 違うって証明も兼ねて参加する」

「システムを凌駕した存在……いや、何でもない。 前に似たようなコトがあってね」

「お前は嫌いだけど、面白い情報が得られそうだしナ」

 

 

何だか私利私欲だったり、雰囲気に流されていたり、英雄な雰囲気を持つ人やら誤解を受けて迷惑してる人まで。

何にせよ、ワンちゃんは味方として引き入れることにした。 猫の手も借りたいのだ。 プレイヤーだろうと理由がどうだろうと戦力になり得るなら銃を持って撃ちまくれ。

 

 

「皆、すまない。 力を貸してくれ」

 

 

この様な理由で大所帯となったワケだが、武器も足りなければ経験もない。 人が多いと統制も困難だ。

こんな時、本部や戦略情報部がいてくれれば助かったが、残念ながら連絡が取れない。 だからといってワンちゃんや軍曹のみで指示するのも難しい。 今頃訓練や打ち合わせなんて間に合わない。 そんなことしていたら、増援がグロッケンにやってくるかも知れない。 そうなる前に短期決戦だ。

 

ならばと、簡単な話を皆にしていく。 後からログインしてきた人にも分かりやすい話を。

 

 

「俺たちはこれから、荒野の駐屯地を攻撃する。 皆には突撃して欲しい。 ひとりでも多く駐屯地の敷地に入り込んで破壊活動をするんだ。 以上」

「おいおい。 隊長なんだから、具体的に指示を出したらどうだ?」

「構わない。 最悪は現地で言う」

「なんだよ。 英雄の噂は嘘かぁ?」

「所詮はチート任せ、人任せのクズ野郎か」

 

 

ざっくり説明して終了。

文句を言うヤツがいたが、細かいと柔軟性に欠ける。 大人数だと指示も届かない。 それに戦闘慣れした人もいるのだから、変に縛り付けるより各自の判断で闘って貰えば良いとの判断だ。

 

どちらにせよ、EDFのセンサーで隠密行動は無理。 互いに人柄も戦闘力も分からないからSJみたいに連帯は期待出来ないし、銃の性能や兵士のステータスは相手が上だ。

優っているのは歩兵の数くらいだろうか。 なんだか自分たちが開戦時に群れを成し、基地を襲撃した侵略生物みたいだとワンちゃんは自傷気味に笑った。

 

だが突撃するしかないのは変わりなく。 駐屯地でシールドベアラーと思われる防衛装置が確認された以上、ロングレンジ戦法は行えない。

想像の通りならば、全ての攻撃は内部に届かない。 アレはドーム状に壁が展開する電磁トーチカのようなものだと思えば良い。 ただの電磁トーチカなら上空の攻撃は防げないが、ドーム状では空軍や衛星砲は駄目。

よって、ワンちゃん……エアレイダーは封殺されたも同然。 歩兵による突入しか方法はない。

 

危険極まりなく、成功率も効率も悪い。 だがこれ以上体制を整えられたら勝ち目もなくなるだろう。

 

 

「時間が惜しい。 今すぐ荒野に行くぞ。 各自、準備が出来た者から突入開始だ。 戦闘や移動方法は各自の判断に任せる」

 

 

フカやピト、エムも来てくれる。 レンが拉致されたコトを知るや否や、助けてくれることになった。

迷惑をまたかけるが、ワンちゃんは、この世界でのイザコザを最後にするつもりでいる。

 

 

 

 

 

このようにして、冒頭のシーンへなるわけである。 エアレイダーの火力が役立てず、プレイヤーの小火器での突撃敢行。

作戦成功率は低い。 絶望的かも知れない。 だが昔と違い、死への恐怖が薄いプレイヤー達が肉薄してくれる。

敵は無限じゃない。 弾薬が切れれば抵抗出来なくなるだろう。 プレイヤーの心が折れるのが先か、相手が折れるのが先か。 持久戦だった。

 

そんな時。 戦場に変化が訪れた。 最初に気付いたのはスカウトだ。

 

 

「円盤確認!」

 

 

指さす方向。 低空を平らで丸く、プロペラなしで飛んでる物体が。 下部に機銃のようなものがあり、しかしそれは実弾兵器ではなく軽量の光学兵器であった。

その様はまるでプライマーが使用していたソレだ。 いよいよ侵略者である。

 

やがて射程に捉えたのか、光弾をバーストで撃ってきた。 もれなく何人かは被弾して蒸発してしまう。

 

 

「駐屯地から無数のドローンが!」

「うわっ!? 光学兵器を積んでるのか!」

 

 

波のように押してくる円盤の威圧感で、たじろぐプレイヤーたち。

初めてみるドローンの、圧倒的な数に逃げ出したくなる皆であったが、EDFのいる戦場では悲劇が続くものだ。

 

 

「おいおい、ありゃなんだ!?」

 

 

駐屯地より後方から、そして歩兵部隊の後方からも巨大なシルエット。 輸送機4機に紐で繋がれて輸送されている。 比較的安全な場所にいたエムがスコープ越しに確認してみれば、驚愕するモノが。

 

 

「なっ……ロボットだと!?」

 

 

それは丸みを帯びた巨大な人型ロボットだった。 全高40メートルは超えている。

駐屯地側は紫色で、重厚そうなボディに武装は確認出来ない。 だがそれでも、このタイミングだ。 EDFの兵器で投入されたのだろうし、大抵はロクでもない。 見た目は格好悪いが、見た目に騙されてはいけないコトは、エムは知っている。 ワンちゃんとかワンちゃんとかワンちゃんとか。

 

 

「隊長! 丸みを帯びたロボットが現れたんだが、分かるか?」

 

 

EDFのコトはEDFに聞けば良い。 そんなわけで後方で援護しつつ前進中のワンちゃんに聞いてみる。 何か対処法を知っているだろうから。

 

だが返答がこない。 激しい戦場では生きていても、無線機が大丈夫でも返答が出来ないコトもあるが、やはり不安になる。

 

 

「隊長?」

『ああ、すまん。 こちらでも確認した。 状況は最悪だ』

 

 

どうやら生きていたらしい。 無事なのは何よりだが、最悪とは何事か。 やはりロクでもないものだったか、アレは。

 

 

『俺も要請したんだが、ソイツは《ギガンティックアンローダー・バルガ》だ。 元は作業用クレーン』

「作業用……アレがか?」

『言うな。 俺たちの世界でも問題が多発してロクに使われなかった。 だが耐久力とパワーは凄まじい……それと、ソイツは《ストライクバルガ》だ。 ULTIMATEの名を冠している程に強力で、破壊はほぼ不可能と謳われている』

「EDFの兵器でもか?」

『俺たちの兵器でも無理に近い。 テンペストを喰らわせても壊れないだろうな。 いや、何度もやれば壊れるだろうが……連続で要請は出来ない。 その間にやられてしまう。

くそっ、俺がバルガを要請するのはお見通しだったか。 こうなれば昔と同じで殴り合いだ』

 

 

そうこう話している間にも、ストライクバルガとワンちゃんの要請したシルバーのバルガ……ウォーバルガは輸送機から切り離され、駐屯地とワンちゃんと歩兵部隊の間に着地。

凄まじい土埃を舞わせて、衝撃で最前線の歩兵が一瞬、宙に浮かぶ。 かなりの質量なのだろう。

 

そして、紫のヤツは足を大きく上げたと思ったら、最前線にいたプレイヤーを踏み潰した。 蟻のようにぐちゃり、と。

 

 

「うわぁ!? なんだこのロボット!?」

「化け物だぁ!」

「う、撃て! 的はデカいんだ!」

 

 

慌てて、撃ちまくるプレイヤーたち。 だが小銃弾でどうにかなる相手ではない。 EDFの兵器でも駄目なのだ、表面に火花を散らすばかりでビクともしない。

 

 

「どうする? 破壊が無理なら迂回するか?」

『いや、動きは遅い。 俺がヤツを抑えるから、その間に進んでくれ!』

「足下を潜れと?」

『そうだ』

「隊長も人使いが荒い!」

『お前なら出来る! 自分を信じろ!』

 

 

全く。 結局はそうするしかないらしい。

バルガで楽に駐屯地まで駒を進めると思ったが、余計に危険なコトになってしまうとは。

 

 

『ドローンはGGOの武器でも何とかやれる筈だ。 エム、シャーリー、トーマ、それとブルージャケットの……あー、ライサンダー持ちの女子! お前たちの狙撃銃で叩き落としてやれ!』

『了解』『分かった』『ダー!』

『……ねぇ? 何度も言うけど私はブルージャケットじゃないし、使っているのはライサンダーって武器じゃないから』

『よし! 各自の判断に任せて前進されたし!』

『ちょっと聞いてる!?』

 

 

オープン回線で、知らない人の名前が飛び交うが、指示は通ったらしい。

若干1名、不服そうだったが、戦場とは理不尽極まりない場所だ。 我慢して銃を持って頂きたい。

 

 

『俺はバルガに乗り込み、ヤツを抑える! 歩兵部隊は構わず駐屯地に突入しろ!』

 

 

無線でそれだけ聞こえると、やがてシルバーのバルガが動き始めた。

巨大ロボット同士、巨人同士は互いに向き合うと、挑発するかのように背中のスラスターを吹かし、手首をグルグルと回して見せる。

 

そして互いに近寄りあい、

 

 

『バルガ、交戦する!』

 

 

クレーンが、いや。 拳が交差した。

互いの胴体に拳がぶつかり、銃撃音に負けないくらいの金属音と火花が散っていく。

それは男と男の語り合いにも見えて、興奮させるものでもあったのだが、

 

 

「そういうゲームじゃねえから、これ!」

 

 

誰かが叫んだ言葉には、皆が頷いて同意したのだった……。



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駐屯地攻略作戦・第二段階

不定期更新中。 駄文と無理矢理感。

それぞれの視点。


*クローン。

子兎。

榴弾兵。

プレイヤー。

 

それぞれの戦場。 そして、思考。

 

 

 

 

 

何故だろう。

死んでも代わりはいる。 なのに理不尽で。

過去への後悔も未来への不安もない。

なのに愛されたくて。

 

ただ今の任務を遂行すれば良いのに。

そこに生への実感は無い。

 

答えは。 慰めの存在は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガワの装備品を没収されて、後はピンクの戦闘服のまま兎が放り込まれた駐屯地の営倉。

狭く暗い空間は格子で区切られ、隅に簡易ベッド。 その他の一切は無い。 それでも私という見張りは立てられていて、小屋の、ベッドのシーツに包まる兎をジッと見つめている。

 

私はレンジャーの格好をしているが、ヘルメットとサングラスはしていない。 そもそも私たち紛い物には支給されてない。

お陰で色のない、白いショートヘアと光彩の無い眼が露わになっていて、見る者に多少なりの不快感を与えてしまう。

仕方ない。 そのようにして生まれたのだ。 どうせいつか死ぬ。 悩む暇もなく死んで代わりの者が出てくる。 私の価値は今現在の任務を遂行する事だけにある。

 

 

「ねぇ……あまり見ないでよ」

 

 

声を掛けられた。 やはり不快らしい。

本当は対応せず「無視」するのだけれど、兎を連れて来た龍馬さんには自由にして良いと言われている。

 

自由。 よく分からない。 どうして良いのか分からない。 乱戦時の各自の判断、ということか。

本物ほど、私達はマニュアルにないコトに対応出来ない。 だからこんな時は困る。 無防備な兎を撃ち殺して黙らすのは簡単だけど、相手が抵抗してもないのに発砲するのは違反行為だと記憶している。

 

どうしよう。 こんな時、お父さん……私達を製造する際に参考にされたストーム・チームなら、どうするんだろう。

 

ふと分からなければ聞け、という龍馬さんの言葉を思い出した。 そうだ。 なら聞けば良い。

兎しかいないが、聞くのもまた、自由のはずだ。 命令違反ではないはず。

そう考えた私は、小屋の中の兎に尋ねてみる事にした。 何もしないより良い。

 

 

「不快ですか?」

「うん」

 

 

分かり切った言葉を返された。 期待していなかったのに、何故かチクリと胸が痛んだ。 不思議だ。

そしてそれに応える私。 何故だろう。 不思議だ。

 

 

「私は貴女を見ているように言われてます。 貴女が不快であっても、止めるわけにはいかないのです。 どうしてもというのなら、貴女が見なければ済む事ですよ。

それにプレイヤーなら《死に戻り》が出来るでしょう。 頭から壁に突っ込んで首を折るなりして、ココから逃げる方法もあると思いますが」

 

 

胸のモヤモヤを晴らす様に言葉を繋げていく。 感情は希薄な私達だけど、会話とは不思議なものだ。

単に見る見ないの話から、こうも言葉が色々出て来るのだから。 無駄な事は控えるべきなのに。

いや、自由だと言われたら、違反行為ではないと考える。 けれどもやはり、何故だろうと考える。

 

 

「死ぬ気が起きない。 ログアウトも」

「話す気はあるのですね」

「…………」

「贅沢な悩みです」

 

 

羨ましい、と思う。 本当の意味で死ぬ事がないプレイヤーが。

私達は偽物の世界の偽物の銃弾であっても死ぬというのに。 彼ら、彼女らの身体は偽物である以上、私達EDFの銃弾を喰らおうと、GGOの銃弾を喰らおうと死ぬ事はない。

本当に、ゲーム世界なのだろう。 そう信じられるし、信じないとやってられない。

 

そんなプレイヤーを拘束する意味も、本当は無い。 殺す意味も、きっとない。

やるだけEDF側の資源と人命を無駄に散らせるばかりだ。

それでも龍馬さんが兎を拘束したのは、意味があってのこと。

多分、ストーム・ワンを誘き寄せるため。 目の前の兎をとても可愛がっていたらしいから。

 

それこそ、娘のように。

 

何故、こうも理不尽なのか。 何故、私達は死ななきゃならないのか。 何故、偽物の彼女が愛されるのか。 紛い物はやはり、ただ磨り潰される消耗品でしかないのか。

 

私達は、愛されないのか。

 

この短いやり取りだけで、様々な「何故」が繰り返される。 不思議だ。

 

この答えを知りたい、と思う。

 

たぶん、その答えを持っているお父さんには、いつか会える。

その時、質問をしよう。 私達は、この世界は、本物でも偽物でもない、紛い物の私達人形には。

 

愛ってあるのかな、と。

 

その愛を受け取るには、どうすれば良いかなと。

 

考えるのも、どうするのかも自由だ。

 

 

「……ベッドの下。 緩んだ床パネルを開けて」

「えっ?」

「良いから」

 

 

私は兎に指示を出す。 戸惑いながらも、彼女は小さな身体をベッドの下に潜り込ませて、歪んだ床パネルを手で抉ります。

 

すると、その空いた空間には……。

 

 

「コレは、ピーちゃん……? でも銃身が長い。 消音器……じゃないよね」

「民間モデルの《FN PS90》というらしいです。 GGO側の武器らしいので、使用にも問題ないし、ストレージにも仕舞えますよ。 龍馬さんが用意しました」

「龍馬さん?」

「グレ男と呼ばれてる、EDF榴弾兵です」

 

 

出て来たのは、兎が使用していたP90。

その民間モデル。 色は、彼女に合わせて龍馬さんがピンク色に染めています。

民間モデルは全体的に銃身が長いのが、大きな特徴でしょうか。

 

彼女を《民間人》とする為の、ちょっとしたこじつけ。 龍馬さんはワザと用意したのでしょう。 私の都合が良くなるように。

 

 

「銃身が長く、命中率は高いですが、民間向けの為にフルオート連射機能が除去されてます。 弾丸も貫通力は前のと比べると高くないでしょう。 閉所での取り回しにも難がでるかと。 装弾数は50発のマガジンひとつのみ」

「……なんで、用意したの? そして、教えるの?」

「貴女は偽物ですが、愛を受けているからです。 今もそれは、変わらない」

 

 

困惑する兎ですが、構わず続けます。

私は牢屋の扉を開けて、自由にしてやります。

 

 

「ごめん。 何を言っているのか分からないよ」

「民間人に危害を加えてはならない。 正当な理由なく拘束は出来ない。 だから解放します。 それとも、貴女は民間人ではないのですか?」

 

 

ここまで言えば、流石に逃がしてくれる意図は読めるでしょうね。 後は兎が決意してくれれば良い。

 

 

「……()()()()》、だよ」

「なら行きなさい。 それと、これを」

 

 

出る意思を見せてくれた兎に、私は少し大きめのポーチを外して兎に押し付けます。

中身は発煙筒と無線機、ビーコンガン等です。 それら全部、押し付けました。

EDFに対抗するには、GGOの兵器のみでは難しいから。

 

 

「身の危険を感じたら。 貴女の仲間を助けたいと思うなら。 愛する人を助けたいと思うなら。 勝ちたいと思うなら……迷わず使いなさい」

「なんで、そこまで……」

「それとコレも」

 

 

時間が惜しいので、相手に反応せずに……兎から没収した別のP90、お父さんが手を加えた《P90 PDM》とピンク色に塗りたくられた《ピーちゃん》も渡しておきます。

 

 

「これ、私のと……ワンちゃんのだ」

「片やEDFの技術が混ざったハイブリッド銃。 これならEDFの兵士や兵装に大きな損傷を与えられる筈です。 では、健闘を祈ります」

 

 

ひとつ、敬礼だけして、私は営倉の部屋から出ます。 この先は兎の自由。 私は関知しない。

 

 

「でも、私も自由です」

 

 

別命あるまでは。

独断でここまで出来た自身に驚きつつ、そしてやはり失敗作なんだろうな、とも思える当出来事。

廃棄処分されるかも知れない。 ここに来て、初めて怖いなぁと感じた。

 

 

「なら、廃棄処分される前に。 動けるうちに動くとしましょうか」

 

 

同じ失敗作と呼ばれたEDFの鴉を携えて、私は地上へと上がる。

仲間が闘っているのだ、自身だけ地下に篭るワケにはいかない。

 

でも死にたくない。 せめて、お父さんに会うまでは。

 

 

「いくよ、《M4レイヴン》」

 

 

アサルトライフルなのか疑わしい、ガトリングの様な多銃身の武器を構える。

安定性を欠き、精度に難があるこの銃。 同じ失敗作ではと揶揄されて渡されたけど、今や立派な私の相棒。

 

私はそんな銃をひと撫でして、走り出す。

失敗作同士、上手くやろうね、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらら。 隊長の影響はダッチな人形共にも及びますか。 これは面白い」

 

 

いやいや。 まさか「ちょっと」自由を与えただけで、兎を解放した挙句に装備品を与えて前線に向かうとは。

EDFの開発部に失敗作と言われた理由がよく分かります。 感情を持ち、疑問に思い、敵を手助けするのだから。

 

俺は逃げて行く子兎の後ろ姿を見ながら、今後の展開を考えます。

この戦争を本当に終わらせるなら、内部から攻めてかないといけません。

 

シールドベアラーもそうですが、戦場そのものではなく。

裏で指揮を執る者共を潰さなければ、という意味ですよ。

逆に戦場は子兎や隊長に任せれば良い。

 

 

()()()に拘束されてる《本部》の人達を助けないとねぇ?」

 

 

兵士にも、伝説の英雄にも無理な事はある。 それの手助けをしようじゃないか。

正直、周回プレイで何度も試して失敗しているけれど、まあ、隊長もいる世界線ですし。

何とかなるでしょう。

 

何とかならないと、困ります。

 

 

「プライマー相手に孤高奮闘的な? いやー、俺もストーム隊に入れてくれないかなぁ」

 

 

いつもの調子で、自身の恐怖や絶望を押さえ込んで、俺は《UーMAX》と《ミニオンバスター》の弾薬を確認。 問題なし。

 

 

「手始めに、拘束されてるSTORMー03と04を解放しようか」

 

 

隊長を助けようとして、拘束されてしまったらしい両チームを檻から出してやりましょう。 幸いにもこの駐屯地にいてくれて良かったですよ。

本部の前に兵士を増員しなければ。

 

俺は駐屯地側の、プライマーのフリをしつつ、別の営倉へと足を向けます。

バレたら、まあ、いつも通り味方を撃つだけです。

 

まあ、でも?

 

希望は必要だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンはPDMを構えつつ、駐屯地の廊下を前進する。 敵の拠点の中で、しかも道も分からず前進するのは恐怖でしかない。

SJでも経験した緊張感。 いっそ敵が出て来てくれた方が楽になる。 敵がいるなら、兎に角ぶっ放せばそれで済むから。

けれど、相手はEDF。 殺人になるのでは、と思うと逡巡してしまう。 足や腕を狙い撃つ方法もあるけど、誤って命を奪ってしまうことも考えられる。

だから今回はなるべく会いたくないのが本音だった。

 

 

(でも進む。 ワンちゃんを助けるんだ)

 

 

けれど、歩みは止めない。

全てを終わらせる為に。 こんな、VR空間でドンパチを始めやがった馬鹿共に制裁を喰らわせる為に。

非力だ。 無力だ。 今までワンちゃんに守られてばかりで、今回は私の弱さで迷惑かけて。 それでもチャンスが来たのなら、それを手放す理由はあるだろうか。

数度の失敗や後悔で、アッサリ諦める程、私は弱くない。 負けっぱなしは嫌だ。

 

 

(今度こそ、EDFを倒す!)

 

 

今度。 リセットではなく、プレイヤーにあってEDFにはない幾度の再出撃。

負けてもリセットなく立ち上がり続けられるのは、単に、ひとりの男の、希望のお陰である。

 

やがて銃撃音が激しく聞こえてくる頃。

運良く敵と遭わずに地上に出られた《ラッキーガール》は、先ず駐屯地を覆うよく分からない光の壁を見た。

外側では巨大なロボット同士が殴り合っているという、カオスな光景が繰り広げられているが構っている場合ではない。

ロボットの足元には多くのプレイヤーがいて、駐屯地の兵士に発砲している。 ところが、弾丸は壁に波紋を作るばかり。 レンは阻まれて届いていないようだと理解した。

そして、無敵の壁を作っているのは、恐らく駐屯地の敷地にある、アンテナ付きの機械だということも。

それを破壊出来るのは、壁の内側にいる私だけ。

 

 

(壊してやる!)

 

 

即時に決断した。

 

さあ銃を取れ。

 

もう一度立ち上がれ!

そして奴らに1発喰らわせる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、荒野で殴り合ってる巨大なロボットこと、バルガに武装は無い。 元が作業用クレーンだから仕方ないが、衝突プログラムを解除して兵器として転用した結果、殴ったり踏み付ける事が出来るようになった。

悪く言えば接近しての格闘のみが唯一の戦闘方法である。 改修した後も武装は取り付けられなかったが、そのボディは圧倒的な質量兵器。 防弾性の高いプライマーの宇宙服越しでも、ひと殴りすればノックダウン。

戦車砲を撃ちまくってもビクともしなかった、通常兵器が効かない巨大な怪生物をもブン殴り、黙らせる程である。

そして防御力も凄まじく、無改修型であってもE1合金と呼ばれる素材で造られたボディは、プライマーの歩兵部隊に囲まれて撃ちまくられてもヘッチャラだった。

いや、本当に作業用クレーンなのだろうか。 見た目からしても、何故こんなもん造ろうとしたのだろうか……。 まさか巨大生物との戦闘を想定していたのだろうか。

 

そんなバルガはGGOにおいて、酷く場違いで、ほぼ無敵。 対抗するには同じ質量兵器であるバルガをぶつけるしかない。

そんなワケで、バルガ同士が殴り合ったり、360度回転しての、勢いにのった拳やちゃぶ台返し合戦をしていても、プレイヤーはどうする事も出来なかった。

 

激しい金属音と火花が上から降り注ぐ中、プレイヤーに出来る事と言えば前進するのみ。 1人でも多く前に出て、駐屯地を破壊するのが歩兵隊の任務なのだ。 のんびりロボット大戦を見物しているワケにはいかない。

 

 

「とはいえ、相手も接近を許してくれない」

 

 

ちょっとチキンな熊さんは、バックパックに入っていた宇宙船の甲板を使用した、扇状に展開する簡易トーチカを拡げて、匍匐にて前を伺う。

スコープ越しの光景は、多くのニュービーが安物の拳銃で特攻しては無残に撃ち殺されていくシーンが延々と映る。 偶にバルガに踏み潰される者もいた。

一方でベテランは様子を伺いつつ、外側に出て来た円盤を撃ち落とすのが精一杯だ。

なんというか、とにかくEDFは強いとだけ思う。

 

 

「銃の性能と兵士単体のステータスは圧倒的に高いようだが、むざむざ撃たれには来ないか」

 

 

ボヤきつつも、スコープに入ってきた円盤にレティクルの線を合わせて発砲を繰り返す熊さん。

 

目標が重複しないように、予め与えられたエリアの円盤のみ撃ち続ける。 EDFの狙撃部隊《ブルージャケット》や《ハンマーズ》が援護しており、円盤による被害は殆ど無い。だが、弾薬に限りはあるし、円盤の数は無制限かと思うほど湧いてくる。 味方は未だに駐屯地に辿り着けていないし、そろそろ進展が無いと本格的にヤバい。

 

そんな時。 駐屯地の兵士の様子を見ていたトーマが「あっ」と声を漏らす。

 

 

『レンだ! レンがいる! 駐屯地の、光の壁の中でレンが暴れてる!』

「なに?」

 

 

そんな報告に、思わず見たくなるが、ベテラン方は円盤を撃ち漏らす訳にはいかないと視界を変えない。 毒鳥は見たが。

 

 

『おー! 私のレンちゃん! いやぁ、1人だけで暴れるとかズルいわねぇ。 私も早く中に入りたぁい!』

「……ピト。 現在地は?」

『はぁ? 知らないわよ。 戦車より前に出てるのは確かね』

「……迷惑はかけるなよ」

 

 

あろう事か、毒鳥は壁代わりのEDFの戦車隊《ドーベル隊》より先行していた。 レンに会いたいのは分かるが、先走って味方と敵の銃弾に晒されるのが怖くないのだろうか。 ピトだし、寧ろ楽しんでるのだろうが。

 

だが前進するチャンスである。 レンが暴れてるなら内部は混乱状態。 此方への攻撃の手は緩むハズ。

そんな思考は熊さんでなくても、皆が考えた事であり、そして士気が自然と上がっていくのだった。

 

 

「味方が駐屯地への侵入に成功! 敵は混乱状態だ! 行くなら今しかない!」

「すげぇ! この硝煙弾雨の嵐の中、良く辿り着いたな!」

「ハハッ! 誰なんだ、その勇者様よぉ!」

「ピンクの戦闘服を纏ったチビだってよ!」

「みんな! 突っ込め!」

「突撃ッ! 突撃ィ〜!」

 

 

世界大戦時の、歩兵隊による銃剣突撃を彷彿とさせる吶喊が行われた。

次から次へと撃たれては、バタバタと倒れて行くも、屍や光の粒子を乗り越えて歩兵隊は止まらない。

 

 

「EDFを倒すぞおおおお!」

「我らの世界! これ以上入れさせやしない!」

 

 

勝ち確ムードと希望が出てきた時。

お約束とはあるもので。

 

 

『イオタ1。 起動した!』

『コンバットフレーム隊。 バトルオペレーション!!』

 

 

そんな声が聞こえた気がした。

刹那、群れを成して襲ったプレイヤーの大軍勢は。

 

一瞬で蒸発した。

 

 

『怪物の群れを食い止める!』

 

 

駐屯地から出てきたのは、二足歩行の、角張ったロボット。

それはEDFの搭乗式強化外骨格、コンバットフレームの群れ。

 

白っぽいカラーリング、両手にマシンガン。 右肩に榴弾を散弾のように射出するエクスプロージョン。

 

高速起動型コンバットフレーム《ニクス アサルト》が群れを成して反撃を開始してきたのだ。

 

 

「冗談キツいな」

 

 

思わず、生存者が声を漏らす。

それは熊さんなのかEDFの誰かなのか、分からなかったが。

プレイヤーの総意であった事には違いない。

 

だが同時に、皆の無線機に通信が。

それはEDF隊員にとっては頼もしい、あのフェンサー部隊からだ。

 

 

『グレ男からの指定座標を受信、確認した』

 

 

絶望しかけていた者は、再び顔を上げ。

死神の名前に警戒した者も。

 

次のワイルドボイスに、皆は激励されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら死神部隊(グリムリーパー)。 救援に向かう。 持ち堪えて見せろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




死神部隊登場。
部隊名にミスがあったら、ごめんなさい……。


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駐屯地攻略作戦・第三段階

不定期更新中。 駄文。

ストームチーム出揃い。 そして本部登場。
明かされて行く今回の事件の真相。 そして全て終わらせるべく、皆は動き始めます。


 

『こちら死神部隊。 救援に向かう。 持ち堪えて見せろ』

 

 

絶望に染まりかけた戦線で、確かに聴こえたワイルドボイス。

 

それは幾度となく窮地から救ってくれた男の声。

そして死地となりうる無数の修羅場を潜り抜けてきた英雄の声。

 

挑発的な言葉に孕んだ優しさと覚悟を感じ取れば、プレイヤーも隊員も俺も、気合が入るというものだ。

 

 

「うおおお!」

「まだだ! まだ終わってなーい!」

「救援が来るまで持ち堪えるんだァ!」

「EDFッ! EDFッ!!」

 

 

士気は上々。

 

よし。 早くストライク バルガを無力化し、歩兵の援護に戻らねば。

 

俺は背中のスラスターを吹かしまくり、手のグラップルをグルグルと回転して見せる。

 

殺ッちゃうよ!? ヤッちゃうよ!? という意思表示をしているのだ。

 

向こうはビビったのか、少し後退。 間合いを取り始めた。

 

だが逃がさん! 全ては愛娘とEDFとグレ男に説教垂れる為だ!

ああ、あとは地球とか人類とかGGOとかグリムリーパー隊とか軍曹達とか……色々だ。

 

とにかく!

 

 

『馬力も装甲も向こうが上! 破壊は困難! だが、負けん!』

 

 

すると、それを見ていたプレイヤー達から応援メッセージが!

 

 

「おお! ダサいロボも奮い立ってるぜ!」

「チートの分際で負けたらダサいぞ!」

「そうだぞ、チート野郎!」

「パパ、負けたら縁切るかもよー?」

「負けたらレンちゃんは、私が貰うからねー!」

『みんな、応援ありがとう!』

「隊長……いや、何でもない。 頑張って下さい」

 

 

皆の気持ちをひとつにし、今、バルガの技を披露する時!

 

 

『皆が期待する技で行くぞ!』

「おお! ロケットパンチか!」

「おっπミサイルかな!?」

「ネタが古くね?」

「すいません、皆様おいくつでしょうか?」

「急に敬語やめろや!」

 

 

ふっ。 無線越しに賑わってるな。

だが残念ながら違う。 バルガは元は作業用クレーン。 飛び道具は無い、 挌闘技が主だ。

 

だが無力化するにはコイツを倒さねばならない。 物理的にな。

 

その為の、ひっくり返す技を見せようではないか。

 

俺はストライクに近寄り、両手のグラップルを脇に差し込んでから下から上へと、相手の胴体ごと持ち上げるように動かした!

 

 

『喰らえっ! ちゃぶ台返し!』

「「「まさかのご家庭技!?」」」

 

 

皆の歓声を聞きつつ、ストライクを下から上への動作でひっくり返す!

 

質量あるストライクは後ろ向きにバランスを崩し、そのまま地面に影を落としながら、駐屯地の敷地に倒れ込む。

 

爆音かと思う程の轟音と砂埃を舞い立てて、ストライクは仰向けに。

丁度、シールドベアラーや敵コンバットフレームや建物が下敷になったが、安心するのは早い!

 

 

『この程度で壊れないのは知っている!』

 

 

俺は相手が起き上がるより前に、側まで近寄ると右足でストンピングをかます。

ドゴォンッ! とデカイ音と共に、バルガ越しに寝る地面が陥没。

バルガの大質量を喰らい、ノーダメージとは流石にいくまい。

 

だがそれでも壊れないのを知っている。

バルガはタフだ。 特にストライクは破壊困難な程に。

 

 

『うおおおお!』

 

 

だからこそ、覆い被さるように倒れ込んでやった。

 

それだけではない。 それでも馬力のあるヤツだ、除けるだろう。

そうはさせまいと、ヤツの背中にあるロケットのようなスラスター目掛けて、抱くような形で思いっきりグラップルを刺して破壊してやる。

 

これは、起き上がる時の補助となるからだ。 コレが壊れてしまえば、起き上がるには腕や足の力のみになる。

 

だが同等の質量であるバルガに覆い被されて、腕も固定されれば思うようにいくまい。

 

馬力では負けているだろうが、少なくとも時間稼ぎくらいにはなる。

 

 

『これで起き上がれまい』

「本当か?」

『ああ、たぶん』

「まあ……信じるよ」

「流石パパ!」

「《かの者》がデカブツを倒したぞ!」

「今の内に駐屯地に行くんだぁ!」

「突撃ッ! 突撃ィ!」

「着剣せよ!」

「あ? ねぇよ、そんなもん」

 

 

よし。 バルガはここまでだ。

 

シールドベアラーは運良く破壊した。

他にも何台かあるから、要請による攻撃は未だ困難だが、バルガという大きな障害は取り除いた。

 

プレイヤーも次第に流れ込む筈だ。

 

あとはコンバットフレームを倒さねば。

 

そしてレンを救出して、EDFをボコボコにしてグレ男に会って説教だ。

 

そう思ってバルガから降りた矢先、ピトから無線が。

 

なんか、少し笑ってる気がするんだが……。

 

 

「ワンちゃん? ウチのレンちゃんがロボの下敷になったんじゃない?」

「え、ナニそれヤバいじゃん。 俺、ストンプまでヤッちゃったんだけど」

「あー、ワンちゃん。 半殺しじゃ済まないかもね。 『ワンちゃん、一回死んでみる?』って言われるかも」

 

 

なんて事だ。

 

更なる苦難の訪れを感じ、思わず頭を抱える俺。

 

戦闘中、レンの姿は確認出来なかったが、本当に下敷にしていたら大変だ。

ピトの言う通り、ヤバい目に合いかねん。

 

バルガは何度も言うが、47メートルの巨大人型クレーンで質量が大きい。

空爆も砲撃も効かなかった巨大怪生物を倒せる程の力を持っている。

歩兵と比べると像と蟻の差があるだろうか。

 

そんな質量が倒れてきたら……うん。

小さなレンは即死だろう。 レンに限らないが、うん。 死ぬ。

 

そして《死に戻り》した時、俺は濁った目を向けられながら殴る蹴るの暴行のち、ピーちゃんの錆にされかねないのだ。

 

レンはキレたらヤバい。 俺は知っているんだ。

 

 

「な、なあ……ピト。 一緒に謝ってくれない? いや、くれませんか?」

「えー。 じゃあさ、私がワンちゃんを殺せば問題ないよね!」

「問題大アリだ!? 何故俺が死ねば解決するんだ! そうなりたくないから、言ってんの!」

「レンちゃんに殺されたくないんでしょ? だから善意の第三者の私が殺してあげるの。 そうすればワンちゃんはレンちゃんに殺されずに済むし、私はワンちゃんを殺せて大満足! win-winじゃん」

「どこが!? 死にたくないんだよ俺は!」

 

 

ピトよ。 確かに殺しに来ても良い様なコトを約束したけどね、コレとソレは違くない?

 

レンのみならず、ピトからも殺されそうになる中、もう1人の愛娘、フカから通信が。

 

おお。 助けてくれるのか!

 

持つべきは心の友、そして娘!

 

 

「まあまあ。 私が一緒に謝ってあげるからさぁ、きっと許してくれるって!」

「助かるぞ、フカ!」

「お礼はねぇ、裏路地にあったグレランとぉ、榴弾全部とぉ、酒場のツマミ全種類を二つずつとぉ」

「はっはっはっ! 良いぞ! クレジットが許す限り!」

「やった! パパだーい好き!」

「……隊長。 いや、何でもない」

 

 

エムがまた、ナニか言いたげだったが、まあ良いか。

 

潰れた(かも知れない)レンの問題は解決した事にして、さっさと戦闘に復帰しなければ。

 

周りを見やれば、駐屯地の敷地であるコンクリートの大地。 後ろで抱き合って倒れているバルガの所為でヒビが大きく広がっている。

その人工の大地の上を、まだ敵コンバットフレームが3機、無数の円盤や沢山の随伴歩兵と共に動いているのが見えた。

新兵狩りに忙しいらしい、拳銃だけで突撃してくる者達に容赦なく弾丸をばら撒いている。

 

敵歩兵の武装は……多砲身のアサルトライフルだからM3かM4。

たぶん、M3改修型の《M3レイヴンSLS》だ。 M4は問題があったからな。

だとすれば総合的なステータスはM4を上回っていると見るべきか。

精度は高くないが、弾幕を張れるから危険である。 早く片付けないと突撃兵に被害が広がってしまう。

 

しかし……敵歩兵連中、何故ヘルメットもサングラスもしてないのか。

皆、白い肌に白い髪の毛、ショートヘア。 女性で濁ったような目をしているし、顔も同じだ。

前に上層部から聞いたクローンなのだろうが……彼女らに感情はないのか?

なんだか、ただただ命令で動く機械人形に感じて不気味だな。

 

いや、今は後回しだ。 敵なら倒さねばならない。 でなければ死ぬのはこちら側だ。

 

 

「私語は終わりだ。 グリムリーパー隊が到着するまで、皆は戦線を支え続けて欲しい」

「ワンちゃんは?」

「一旦、後退する。 皆の足並みに揃えたいからな」

「ワンちゃんなら余裕っしょ」

「馬鹿言うな。 空爆も砲撃も効かないシールドの中で、しかも敵陣地の中じゃ活躍出来ない」

 

 

悩むように言いながら、俺は後退するべく踵を返す。 リムペットガンで無双出来るほど、俺は強くないからな。

 

そんな時。 バリバリと複数のヘリの音が。

敵さんは更なる増援を投入したらしい。

空を見れば大きなヘリのシルエット。

 

《エウロス》や《ネレイド》もいるが、

 

 

「(HU04ブルートSA9》か!」

 

 

3人乗りの大型武装ヘリコプター、空の要塞も確認できた。

 

《エメロード》や《FORK》、《ネウリング自走ミサイル》といった対空兵器がないからな。 ヤバいぞ。

 

だから空が安全というわけではないが、見渡しが効くし、左右に外付けされている武装の《ドーントレスSA重機関砲》の威力は危険だ!

 

ネレイドも無誘導弾を投下しての地上爆撃や自動捕捉による機銃掃射能力等、対地戦闘に優れている。 歩兵隊が一掃されてしまう。

 

一方でブルートは大型なので機動性は悪く被弾率は高いが装甲は厚い。 プレイヤーの小銃ではどうにもならん!

 

ソイツらはシールド内にいる俺を無視すると、そのままプレイヤーの群れの方へ。

 

 

「くっ! 歩兵が危ない!」

 

 

慌てて、ガンシップにバルカン砲を要請するべく、上空を過ぎ去るヘリにビーコンガンを発砲。

しかし、射撃下手な俺は外してしまった。 くそっ! このままでは被害が出る!

 

 

「ヘリがそっちに向かった! 皆、遮蔽物に身を隠せ!」

「うん?」「へ?」

 

 

プレイヤーにヘリの相手はキツイ!

遮蔽物に身を隠してやり過ごして貰わねば。

 

無線越しに警告を出すのが精々か。

 

 

「援護に向かう! 耐え……」

 

 

刹那。 俺の背後にて爆発。 何が起きたか理解する暇なく、その衝撃に転がされてしまう。

 

 

「ぐっ……今度は何だ!」

 

 

痛む身体に鞭を打ち、起き上がってみれば……

 

 

「《プロテウス》に《タイタン》か、今度は陸を動く要塞とくるか」

 

 

目の前には歩く要塞こと、プロテウス。 そして巨大戦車タイタン。

そして《ニクス アサルト》及び随伴歩兵が銃口を向けていた。

 

プロテウスは特殊装甲板に覆われた、白銀のボディで、4人乗り。

相変わらず頭部と腕部が無い胴体に足が生えてるかの様な見た目。

その左右に《バスターカノン》と片側にミサイルポッドがぶら下がっているという重火器祭り。

タイタンは全長25メートルの大型戦闘車両で、EDFの重戦車。 カラーリングはデザートタン。

主砲はレクイエム砲。 ビルを吹き飛ばす威力がある。 副砲が砲塔上部に二門、そして車体側面には、横の敵に対応する為のグレネード射出機。

 

砲塔は全てこちら側に向いている。

 

 

「俺も随分過大評価されたものだ」

 

 

なら、期待に応えられるように、せめて生き延びて時間を稼がねばな。

 

《パーソナルシェルター》を地面に設置したのと、連中の砲口が火を噴いたのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某レンジャーは拾ってきた《ライサンダーF》などで、ウィングダイバーは《クローズ・レーザーF》などで、フェンサーは《YH7散弾迫撃砲》や《FGX高高度強襲ミサイル》や《35ミリ ガリア重キャノン砲》などで狙撃部隊より少し前でプレイヤーの援護をしている。

 

本当は軍人が前に出るべきかも知れない。 だが本物を前に出すリスクが高かった結果、こうなった。

 

《オペレーション・オメガ》ではないが、《死に戻り》が出来る以上、彼らには時間稼ぎの駒として役立って貰わねば。

 

隊員としては複雑に思う部分はあれど、任務に集中してプレイヤーの援護を続ける。

駐屯地へとストーム・ワンは駒を進めたようであるし、後の障害は歩兵や円盤、コンバットフレームか。

 

コンバットフレームは厄介だ。

歩兵が立ち向かうには無謀である。 プレイヤーは特に。

 

だから、敵がプレイヤーに夢中になっている間に、隊員らが狙撃して、コンバットフレームを倒す算段の筈なのだが……。

 

 

「射線に出るなぁ!」

「くっ! 高機動でミサイルが当たらん!」

「シールドベアラーが邪魔!」

「ああ! 新兵も巻き込んでしまった!」

 

 

この始末。

統制が執れていないのと、野次馬で集まった人達が邪魔だったり、そもそも弾が相手に当たらなかったり。

 

だったら前に出ろよ、という話だが。

主に徴兵組の彼らは、折角戦争を生き延びたのに、また危険に晒されるなんて……というか、異世界で死ぬのはイヤスギィ! という思考もあって、後ろでチマチマやっていた。

 

 

「た、隊長の命令だしな! ココにいるしかないしな!」

「ああ。 前に出れば、多少は良くなるだろうが、命令だし!」

 

 

とまあ、ストーム・ワン隊長の命令を都合の良い言い訳として芋っている。

皆が皆ではなく、軍曹達のように前進している者もいるのだが。

ただ、ワンちゃんは彼らの考えを知っていて、ソレを汲み取って安全な後方に配置していたりする。

そうでなくても、最も有効なEDFの兵器を扱える隊員らを危険に晒すこともあるまい。

おバカなワンちゃんだが、隊長経験故か、その辺を読み取る事は出来るのだ。

 

 

「むっ、アレは」

「敵の増援か」

「《HU04ブルートSA9》か。 3人乗りの大型武装ヘリで最終作戦仕様」

「ドーントレスSA重機関砲を装備しているな。 貫通力のある徹甲弾を使う」

「ふむ。 空から歩兵の援護か?」

「乗ってるのは誰だろうな」

「まあ良い。 敵なら撃ち落とすまで」

 

 

安全な後方にいる彼らは、呑気に観戦しつつ、狙撃を再開する。

 

ただ、彼らも新兵であり、腕はワンちゃん並みかそれ以下。

残念ながら、ヘリの上や下、左右に弾が抜けていくばかり。

 

 

「もっと射撃練習をしておくべきだった」

 

 

嘆いても仕方ない。

下手な鉄砲、数撃ちゃ当たると撃ちまくる。

そんなやり方に言いたい者もいるだろうが、それもまた、戦略だ。

 

…………そして、前ばかり夢中になる彼らの後方を敵軍が取ったのも、ひとつの戦略だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上を見ろ!」

「ヘリだ!?」

 

 

士気が上がったのもつかの間、ヘリ部隊に襲われたプレイヤー達。

遠方からミサイルを撃たれては、爆炎に飲み込まれ、赤いレーザーサイトが伸びてきたと思えば自動捕捉による機銃掃射で一掃され、デカいヘリの左右側面から出ている重機関砲にはドカドカと撃たれて砂埃の中へ消えていく。

装甲に覆われているブラッカーは、なんとか105ミリ榴弾砲で抵抗を試みるも、空中を高速で動くヘリに当てられずに攻撃を受け続けて耐え切れず大破、《ドーベル隊》含め、壊滅状態と化す。

 

 

「ドーベル隊、もう駄目です!」

「うわあああああ!!」

「ヘリを何とかしろよ!」

「出来ないから困ってる!」

「撃ったって、墜とせねぇよ!」

 

 

小銃ではヘリを墜とすのは困難だ。

何人かは僅かな希望的観測に縋り、空に撃ちまくってみたものの、高度の差で弾が届かないか、届いても表面を火花が散るばかりでビクともしない。

 

だが悪夢は更に過激を増して、彼らを襲う。

 

なんと、背後からも撃たれ始めたのだ。 前のめりに倒れ始める味方を見て、皆は更にパニックに。

 

 

「背後からも撃たれてるぞ!?」

「フレンドリーファイヤか?」

「違う! 敵だ!」

 

 

見やれば、いつのまにか敵歩兵やアサルトに囲まれているではないか。

いつの間に回り込まれたのか。 今、プレイヤーは挟み撃ちを受けており、混乱状態と化している。

 

 

「狙撃部隊は何をやってるんだ!?」

「背後から来たんだ。 やられちまったに決まってるだろ」

「ブルージャケット応答せよ。 くそっ、駄目か!」

「フェンサーやウィングダイバーは!?」

「……駄目だ、そっちも連絡取れん」

「あいつら新兵だったな」

「ああ、こりゃ《アイアンウォール作戦》を思い出すよ」

 

 

上がって落とされる絶望を味わうプレイヤーの皆。

 

隊員からしたら、またこのパターンかと呆れ半分。

それでも絶望は何の役に立たないのを知っているから、戦闘を放棄したりしない。

 

 

「誘導兵はいなのか!? 援護してくれ!」

「ストーム・ワンとは連絡が取れません。 駐屯地の敷地に侵入したらしいですが」

「歩兵だけで何とかしろってか。 手厳しいな」

 

 

混乱していく戦場。

パニックになった新規プレイヤー等は敵味方問わず発砲し、それが更なる混乱と被害を招いてしまっている。

 

味方の、数少ない重火器の類を持つ……グレランを持った金髪チビなんて彼方此方から悲鳴に似た指示を飛ばす味方の無線に混乱しているらしく、取り敢えずニクスに榴弾を撃ち込んでは、周囲の味方をも吹き飛ばしてしまっている。

 

これではグリムリーパー隊が来る前に戦線の維持もあったもんじゃない。

 

 

「どちらにせよ、逃げる場所もない。 戦うだけさ」

 

 

だが前線の隊員らは違う。

覚悟なんて、とうの昔から出来ている。

 

徹甲榴弾を撃ち出せる、緑のゴツい小銃《ミニオンバスター》を握りしめて、隊員はニクスに銃口を向けた。

 

武器は対コンバットフレーム用として開発された銃とはいえ……歩兵で挑むのは無謀でしかない。

 

だが、やるしかない。 唯一、有効そうな武器は俺たちしか所持していないし、使えない。

 

戦時もそうだ。 戦える者は銃を取って足掻いて、足掻いて、足掻き続けて。

 

そして今日まで生き延びた。

 

今もまた、そうするだけだ。

 

 

『よくやった民間人!』

 

 

そんな時だ。

 

無線から聞こえるDE202パイロットのワイルドボイスが聞こえたのは。

 

民間人。

 

ああ、開戦時を思い出す懐かしき響き。

 

あの時も助けて貰ったな、と。

 

 

「ストーム・ワンじゃねえな」

「新たな英雄の誕生かぁ?」

「入隊するなら熱烈歓迎だぜ」

 

 

隊員は、この後起こるであろう展開を予想して思わずニヤリと笑う。

刹那、目の前の《ニクス アサルト》が突如として爆発四散、吹き飛んだ。

 

間髪入れず更に3回、連続で爆音と共に砂埃が舞いに舞った。

 

それはドゴォンッ、と爆発が起きたかのような爆音と煙、そして地面を大きく揺るがす衝撃である。

 

グレネーダーの仕業じゃない。

EDFの兵器によるものだ。

 

 

「ガンシップの《150ミリ砲》か!」

 

 

歩兵が持てない、圧倒的で暴力的な力は周囲の地面と強化外骨格を世界から爆煙と共に消し去るには十分過ぎる威力を誇る。

やがて煙が晴れれば、そこには鉄屑と大きなクレーター。 全ては一瞬の出来事。

 

 

『わ、ワンちゃんの代理で援護する!』

 

 

そして今回の民間人と思われる声が聞こえた。

幼くも、中性的な声だ。

 

生で聞いたことのある隊員は、ああと納得したものだ。

あの子だ。 ピンクの戦闘服を着た、小さくて可愛い女の子だ!

 

 

「コンバットフレーム撃破記録更新だな」

「今度会ったらサイン貰うわ」

「さすが、大将の娘だな」

 

 

一部、若干の間違いを孕ませつつも戦場の絶望は薄まっていく。

混乱は続くが、希望が見えてきた。 隊員らは気合を入れる為にお決まりの言葉を叫ぶと、ビークル狩りを開始。 プレイヤーの援護を再開する。

 

 

「幼女が頑張ってんだ! 俺たち男が弱音吐いてどーすんだぁ!」

「テメーら気合い入れろぉ!」

「何としても、戦線を維持すんだ!」

「EDFッ! EDFッ!!」

 

 

互いに励まし合い、負けるもんか、引くもんかと気合いを入れ直す皆。

 

銃撃音と爆音は未だ続く。

だがいずれ終わる。

 

さっきの、本部の無線を聞いた者なら、尚更に事の末を見ようと思うだろう。

無線持ちじゃないと、分からなかっただろうが。

 

ピンクのチビは、その無線持ちのひとりだった。

そして全て片付けるべく、看守に貰った慣れない発煙筒と無線機を握って、戦場を駆け回るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し戻り。

 

レンは危うくバルガの下敷きになりかけつつも、なんとか生き延びた時間にて。

彼女の足の速さと運の良さが幸いし、死ぬ事は回避したものの、下手な銃撃戦より怖かったかも知れない。

 

仮想空間でも怖いものは怖いんです。

この時の子兎は半泣きだった。 だって巨大なロボットが倒れてくるんだもん。 仕方ないじゃん。

 

 

「……後でワンちゃんに文句言おう」

 

 

安心半分、怒り半分にP90 PDMを構え直して、以後の行動を考えるレン。

 

もし下敷きになって死んでしまったら、グロッケンの方にリスポーンしてしまうだろう。

そうなっては、折角駐屯地内で暴れるチャンスを失ってしまう。 そうならず良かった。

 

遠い先、ワンちゃんがバルガから降りているのが見えたから、レンは取り敢えず合流しようかと思って一歩踏み出す。

駄犬だけど、戦場において最も頼りになる人だろうから。

そしてなにより、側にいたい。 地下でお互い半殺しにあったけど、生きていて良かった。

 

 

「取り敢えず、ワンちゃんと合流して……それから……ん?」

 

 

考えていると、バリバリという音が。

銃口と共に空を見上げれば、何機ものヘリがプレイヤーの群れへと飛んで行くではないか。

 

 

「ヘリ!? 味方なワケないよね」

 

 

明らかにマズイ。 グロッケンでもヘリは見た事があるが、プレイヤーにヘリの相手はキツ過ぎる。

 

急いでワンちゃんに合流、指示を仰がないと!

 

そう思ってワンちゃんの方に向き直ったら、またしても衝撃的な光景が。

 

巨大なバトルマシンと戦車がワンちゃんに押し寄せるのが見えたと思ったら、次の瞬間には容赦のない砲撃を始めたのだ。

 

 

「ワンちゃん!?」

 

 

爆炎に包まれるワンちゃんを見て、悲鳴にも似た叫びを上げてしまう。

いくらワンちゃんでも、あんな猛砲撃を喰らっては生きてるとは思えないからだ。

 

策もなしに、思わず駆け寄ろうとするレンだったが、

 

 

「待ちなさい」

 

 

若いお姉さんの、静止の声が聞こえたと思ったら、低空を高速で飛んで行く複数の人影が視界に入り込む。

 

 

「え?」

 

 

反射で空を再び見上げると。

飛行ユニットをつけた、SFチックな装備を身につけた女性たちが、横一列に、綺麗に過ぎ去っていくのが見えた。

 

まるで、戦隊ものが飛行ショーを見ているかのよう。

 

 

「ここは《スプリガン》に任せて貰おう」

 

 

彼女たちはレンの頭上を通過し、そのままワンちゃんを襲っているマシンへと飛翔。

次の瞬間には、手に持つ光学兵器で攻撃を開始。

 

突然の出来事に、一瞬棒立ちしてしまうレンだったが、

 

 

「手の掛かるお嬢さん方を援護する」

「何かとウサギとは縁があるな!」

 

 

考える暇なく、今度はオッサンの声が複数聞こえたと思えば、レンの横を黒い影が幾つも過ぎ去って行く。

 

一瞬見えた片手に装備するシールドに書かれた、大きな『G』の白文字を辛うじて読み取れたレンだったが、次から次へと起きるイベントについていけず、頭の中はパニックだ。

 

 

「え? え!?」

 

 

その黒い影も、ワンちゃんを襲うマシンの下へと行ったかと思えば、次にはドッカンドッカンと激しい戦闘音。

マシンの装甲が弾け飛び、戦車側面から射出されたグレネードが周辺に爆炎を起こし、それでも怯む事なく彼らは戦闘を続ける。

 

やがて、強そうだったマシンが派手に爆発して鉄屑に。

光学兵器はまだ分かるが、黒い鎧をつけた人達が使う……槍みたいので、マシンをどうやって壊したのだろうか。

ナニが何だかさっぱりだ。

 

 

「相変わらず、ぴょんぴょん跳ね回って狙い辛い。 背後のチビを見習え」

「《グリムリーパー》の腕が落ちたんじゃないか?」

「ぬかせ」

「あー、喧嘩で忙しそうなところ悪いが、助かった。 礼を言う」

「ひとつ貸しな」

 

 

ワンちゃんを助けて、普通に会話している辺りは味方らしい。 たぶん、EDFだ。

 

物凄い強さを誇る部隊のようで心強いが、合流するタイミングを見失った。

これ、普通に声掛けて良いのかな。

 

 

「あ、あのぉ」

『反目は止めろ! 今は全員でひとつの部隊だ!』

「うおっ! 本部か!?」

 

 

勇気を持って声を出したら、今度は別の声……無線に遮られた。

なんか、不幸が続いてない? ステータスの幸運値、もっと上げないとダメなのかな……ハハ。

 

かくして、伝説のストームチーム(軍曹は前線でドンパチ中)は、子兎そっちのけで会話を続けていく。

 

一応、戦場なのだが、本部と連絡が取れていなかったぶん、色々話をしたいのだ。

 

特にGGOに長く居たワンちゃんと、

 

話したくても、話せなかった本部は。

 

 

『ああ、ストーム・ワン。 そして全EDF隊員。 すまない、『反乱軍』に拘束されていたのだ。 今は戦略情報部と共にグロッケン地下に活動拠点を移し、通信している』

「反乱軍? 俺達のことか」

『いや、現状ではクローン側の事だ。 一部の上層部がGGO世界を知ってな、我々の……EDFの意向を無視し始めた。

そしてクローンやドローンを生産、実戦データ収集と《人の声が響かない地球》の一時放棄を決定、この世界の戦略的価値を見出しての攻撃、制圧を試みた形だ』

「EDFが地球を守る事をやめて異世界侵攻。 何の冗談だ?」

『ああ。 そして、この世界がゲーム世界なのは知っている。 そしてプログラムの、システムの世界だともな。

だが、だからこそなのだ。 我々がGGOのシステムにない事を出来る、干渉されない事を知った者達は、逆にこの世界のプログラムを此方側が書き換える事で、大地や大気、生命を創り、そして我々の地球に転送する事で無尽蔵に物資や生命を再生し、やり直せるのでは、とな』

「……………………………………………………『神』にでもなったつもりか?」

「笑えるな」

 

 

このやり取りの無線はレン含め、全プレイヤーが聞いていた。

何を言ってるのか、レンや……いや、多くの人は理解出来なかったであろう。

EDF隊員もまた、デカいスケールの話についていけずに、それでも何とか銃を握る力だけは落とさずにいた。

 

 

『だがそれは、やっている事は……侵略なのだ。 EDFは侵略する為に銃を握ってきた訳ではない!

我々は確かに先の大戦で多くの愛する人や物を失った。 戦後も絶望は続いている。

だが! 異世界を侵略して、プログラムによる創造で、世界を再構築しようなどとは望んでいない!

我々は、我々の世界の地球は、未来は自分達の力で切り開く!

そして悲劇を生んだプライマーと同じ様な道を歩むつもりは毛頭無い!』

 

 

本部の訴えは、いつのまにか、皆が頷き、耳を傾けている。

本当の話なのかは分からない。 でも、その熱のある言葉は『本物』の言葉なんだと皆は感じている。

 

 

『もし同じ意見の者は、我々に、EDFの旗の下について来て欲しい。

遊撃部隊ストーム。 その為には君達の力が必要だ。 ついて来てくれるか?』

「鼻からそのつもりだ」

「デカい貸しにしておく」

「EDFは地に落ちたと思ったが、また最高の舞台を用意してくれたな」

 

 

この流れで、戦場を後にする者はいないだろう。

ログアウトしようと考え始めていた無線機持ちのプレイヤーは聞いて踏み止まり、再び銃を握った。

 

この戦争の行く末を見届けよう。 その義務が、皆にある気がした。

 

 

『これより、GGDF作戦の指揮を執る。 支援要請はストーム・ワン及び装備を託されたというGGOプレイヤー、レンに任せる。

…………このふざけた戦争を終わらせて、地球に帰るぞ! 良いな!』



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裏方で周回者は終戦を目指す。

不定期更新中。
ストームチームが奮闘する中、グレ男は首謀者探し。


 

「アンタが来る事は予想出来なかったわ」

 

 

薄暗闇の空間に辛うじて光を放っているのは両サイドに並んだ、全体がガラスで出来た養成ポッド。

エメラルドグリーンの液体に満たされた中身は、眼を閉じた女性の裸体が入っている様に見える。

 

そんな異質な空間で対峙するは、開けた白衣の実験着を纏う《謎の女科学者》。

20代後半のお姉さんの印象で、大人の雰囲気を醸し出している。

そんな彼女の見た目はショートヘアに両耳にピアス。 豊満な胸と脳髄まで響く甘い声は女としての魅力を、異性に伝えるには抜群だった。

 

 

「本部と情報部を逃したのも、アンタの……グレ男さんの仕業でしょ?」

 

 

そんな魅惑で妖しい女科学者は、目の前にいる……《PAー11》アサルトライフルの銃口を向けて来るレンジャー隊員……グレ男に子供の様に、楽しそうに問いた。

その相手となる、薄暗くとも分かるグレ男の赤い眼は不気味に輝いていて、空間と相まって狂気に感じて仕方ない。

 

 

「その方が楽しいだろ?」

 

 

いつもの、ふざけた調子で返答する彼。 けれど銃口はブレる事なく向け続けられており、目は少しも笑ってない。

彼は今、真面目なのだ。 SJと異なり遊んでる場合ではない。

そもそもココはGGOではないのである。

 

 

「楽しい、かぁ。 私のところに来たのも?」

「愚問だな。 そうに決まってる」

「ポッドの全てに《CX特殊爆弾》が設置されてるのも?」

「もちろんさぁ!」

「施設の中心部に《C70爆弾》を幾つも仕掛けたのも?」

「見てたん? エッチだねぇ!?」

 

 

言葉こそふざけてるも、怒声を上げる彼。

その余裕の無さそうな表情を見た女の方は嬉しそうに口角を上げた。 さも、悪戯が成功した子供のように。

状況がこんなんでなければ、その笑みに多くの男は堕ちるだろう。 グレ男やワンちゃん等の変人は例外として。

 

 

「いいえ? 貴方の事だから、きっとこうかなと予想しただけなのだけど」

「カマかけたのかよ」

「悪い?」

「……遊んでる場合じゃないんでね、本題に入ろうか」

「がっつく男は嫌われるわよ」

「元より嫌われ者だ」

 

 

やれやれ、とウザく両手でアピールする女に、今すぐでも発砲してやりたい。

ただ、聞く事が多々あるし、逆に敵と決まった訳ではない彼女を殺しては『終戦』が遠ざかるのは確実だ。

だからグッと堪え、それでも引金の『遊び』を殺すのに留まった。

 

 

「今頃自己紹介する事も無いだろうがな、確認をとるぞ。 お前は《神をも滅する光の槍》の開発に関わった《謎の女科学者》だな?」

「謎、ね。 その方が魅惑があって良いか」

「質問に答えろ。 じゃなきゃ撃つ」

「おー怖い。 そう、そうよ。 私は《スプライトフォール》の女科学者。 ストーム・ワンの無線に出てる人。 満足?」

「ああ。 俺は、そんなお前さんに質問があってココに来ている。 何としても答えて貰うぞ」

 

 

尚も銃口を下げずに言葉を繋ぐ。

一拍する暇もなく、矢継ぎ早に質問していく辺りから、やはり余裕の文字は無いようだ。

 

 

「まず、今回のGGO世界への侵攻についてだ。 お前はどこまで知ってる?」

「あら、《周回プレイ》したのに知らないの?」

「その言葉が出る時点で、俺の事を知ってるんだろ。 逆に俺が知らないモノすらな。 だから今は、お前が教える側だ。 質問する側じゃない」

「はいはい、分かったわよ」

 

 

はぁ、とワザとらしく、つまんなそうに溜息を吐く女。

これが平時だったら、軽口を言い合った挙句に、一緒にワンちゃんを虐める遊戯のひとつやふたつはやっていたであろう。

2人は「楽しむ」という意味なら、協力し合える性格なのだから。

ただ今は、無限ループから抜け出すべくガチで銃を握っているのだ。 楽しむ余裕は無い。

 

 

「ストーム・ワンを転送装置の実験台にしたらね、偶然GGOへ繋がったの。 それは知ってるでしょ?」

「ああ。 お前さんの腹いせでな」

「彼は有名人だからね、直ぐに上層部は転送装置の件とGGO世界の事を知ったわ。 そしてストーム・ワン救出を表向きの理由にし、GGOの調査を開始。 そしてプログラムの世界である事を知った。 そんで今の戦争を始めたって感じ。 理由は分かるでしょ?」

「知ってる。 神様ゴッコでもしたいんだろうよ、上の奴らは」

「やっぱ貴方、上層部と連絡を取り合っていたのだから多少は知ってるでしょ」

「詳細は知らん。 連中の居場所も正体も」

「じゃあ、知りたいのはソコかしら」

 

 

教えましょ、と両手を上に上げて降参のポーズを取りながら、今度は冷めた目で口を開く女。 グレ男は微動だにせず、答えを聞くべくただ耳を傾ける。

その答えとは、グレ男にとっては少し驚くものであった。

 

 

「日本の関東の外れ。 STORMー02の勤め先だったところ。 バルガを保管していた基地のひとつ、STORMー01が民間人のとき、訪れた事があるところ」

 

 

まさか。

 

 

「《228基地》。 ココよ」

「マジかよ」

 

 

それは様々な意味での始まりの地。

嫌な記憶の方が多い場所。

 

そして今いる場所。

 

転送装置が地上の敷地に設けられた所でもあるが、どうやら、移動の手間が省けたようだ。

 

 

「ならお前は、今回の開戦の首謀者か」

「なんで、そう思う?」

「この基地にいるのはお前かクローンの大群だけだ。 GGOに派兵された看守の……幼稚な思考を出来る失敗作《M4レイヴン》持ちクローン以外に、動ける奴はいないからな」

「あの子は成功作よ、感情を持ってるけど」

「どっちでも良い。 どうせクローンがいようがいなかろうが、GGOは隊長と子兎達が何とでも解決する。 問題は『地球側』なんだよ。 それで?」

「それで……残念ね。 私は首謀者じゃないわ」

「じゃあ、他に誰がいるんだよ」

「とっくに会ってるじゃない。 今はいないけど」

 

 

今は、いない。

 

その言葉に嫌な予感がする。 今は、というのはさっきまでいた、ということ。

さっきまで確かに人はいたのをグレ男は知っている。 だがそれは『味方』の筈だ。

そう……思っている。

だが現実とは無慈悲で、真実とは残酷だと再び彼は思い知らされる羽目に。

何度も同じ絶望を繰り返されて、慣れたつもりだったが、アレは底を知らないらしい。

 

 

「戦略情報部の、少佐の部下よ」

 

 

周回プレイしてきたが、まだ知らない絶望があるとは。 だが味わってる暇はない。

グレ男は舌打ちをすると、銃口を下げる。 正直言って時間が惜しいのだ。

その悔しがる様子を面白そうにクスクスと笑う彼女は、さぞ愉快な事だろう。

 

 

「ふふっ、知らずに自ら逃がしたなんてね」

「神探しの次は神気取りか? 捨てたもんじゃないな、この世界も。 チクショウが」

「グロッケン地下に行ったみたいね」

「また地下か。 なら俺の戦争は地下で始まり地下で終わらせるとしよう」

「1人で行く気?」

「ならお前も来い」

「私の仕事じゃないわ。 ココで《スプライトフォール》の要請無線が来るのを待ってる」

「勝手にしてくれ。 俺は1人でも行くぞ」

 

 

グレ男は早口で会話を終わらすと、早歩きで転送装置のある地上へ戻っていく。

何としても、隊長が現れたこの世界で無限ループを終わらせたいのだ。

その事情をどこかで知った女科学者は、去っていくグレ男の背中を見るも同情はしない。 ただ、

 

 

「設置した爆弾の片付けは、全てが終わったらヤるつもりかしらね」

 

 

ボヤきながらも、背後の端末に手を触れる。

彼女なりにも、この状況を愉しむべく、少し手を加えようというのだ。

 

 

「元凶は私の転送装置だし。 ちょっと手伝っても良いかしら」

 

 

そして操作を終えたのか。

くるり、と向き直ればグレ男は既にいなく。

代わりにポッドからの排水音が闇の空間に響き渡ると同時、数少ない光源が失われていった。

 

 

「さて……ちょっとグロッケンにお使いにいってきてね。 本部は事情を知っているから大丈夫よ」

 

 

ベチャ、ベチャ、と。

 

ポッドのガラスがスッと魔法の様に消えて、前のめりに倒れてく中身の人形達。

それらの肌はシミひとつない色白。 光の無い世界では良く目立つ。

髪は飾らないショートヘア。 濡れてシットリとしていたが、その一本一本は細く艶がある。

スレンダーな身体は決して貧相ではなく、だけど細く触れたら崩れてしまいそうな……だけど女性を感じさせるくびれのラインや上品で柔らかそうな胸の膨らみはハッキリしていた。

皆、同じ動作でぬるりと立ち上がると、同じ様に目蓋を開ける。

 

相変わらず、生気を感じぬ表情と濁り目だけは欠点だ。

 

 

「グロッケンに行ってきて、戦争を終わらせて来なさい。 EDF本部からは承認済みよ」

 

 

女はそれだけ言うと、グレ男と同じ様に地上へと去っていく。

無線を待つ気はないらしい。

 

 

「美味しいトコだけ貰いたいしぃ? 面白いモノは生で見たいし?」

 

 

後に続いて、人形達がついていく。

予め頭に突っ込まれた情報を元に、戦闘服や銃火器を取りに行くのだ。

そこには何の感情も無い。 ただ与えられた任務を遂行するのみ。 必要なら自爆もするだろう。 そんな、人の形をしたナニか。

 

 

「……その生産も、打ち止めたいし」

 

 

女科学者の疲れた声は、ただ闇へと吸い込まれるだけ。 聞こえている筈の人形達は、何も答えない。

ただ、与えられた任務の為に歩くだけ。

 

心を不要物のゴミとし、効率と仕事のみが存在意義で正義だった戦前の社会の代理人としては正解の製品かも知れない。

けれど、社会システムが崩壊した今の世界でその需要は望めない。

治安維持に従事する兵士としての要素や子を成せる意味では有用な存在ではあるが。

 

やはりというか、紛い物とは生理的に悪感を感じる部分がある。

女は偽善者ではない。 科学者ではあるが、効率を無視して素直に、その思考を受け入れて拒否せず……そして、ソレをさせる戦争をさっさと終わらせたいと素直に思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか戦略情報部の少佐の部下……あの女が敵だったとは。

 

戦時は隊長専属の作戦のサポートをやっていましたね。

頼りない発言が目立ち、末期戦では絶望に押し潰されて、歪んだ希望に縋って。

そして「神を探しています」という、何の宗教かっていう発言をするに至っていましたが。

 

戦後は正常運転に戻ったと勝手に思っていましたよ。

でも人類同士が殺し合う暗黒時代に絶望したんですかね。

 

今は神探しから神気取りを始めましたか。 冗談キツいです。 メンタル弱過ぎです。

いや、まあ、仕方ないと言えば仕方ないのですが。

 

戦時に流された放送の中には、プライマーに媚びるかの様なモノもありました。

 

人間は強者が現れると、その存在を畏怖し赦しを乞い、闘うのを止めて自分だけでも助かろうとする者もいます。

 

それは醜い姿ですが、否定する気はありません。 種の存続や家族の命を助けたい人もいた事でしょうし。

 

そも、死にたくないと思うのは生きているからこそです。 正しい思考と言えます。

 

ただ、プライマーに関して言えば、根絶やしにするつもりだったでしょうから、意味はありませんでしたね。

人口だって終戦した時には1割しか残らなかった訳ですから。

 

今回は同じ人類だって、ハッキリしてます。 言葉は通じます。 命乞いはしませんが、行って説得するつもりです。 「戦争止めて地球帰るぞゴルワァ!」とね。

 

戦場そのものは、隊長達が終わらせてくれるでしょう。

 

俺は裏方の、糸引く神気取りの馬鹿を潰します。

 

ですから。

 

EDFのみんな。

 

 

「今度こそ戦争を終わらせる! そして地球に帰って! 知らない未来を見に行こうぜ!」

 

 

GGOグロッケン地下。

隊長を半殺しにし、子兎を虐めて遊んだ場所へ舞い戻った。

転送装置とアンダーアシストの力をフルに使えば造作もない事。

 

 

「全員動くな! 俺はEDFだ!! 抵抗するなら射殺する!」

 

 

未だ鉄屑が転がる地下。

でも空爆に耐えたらしい、この薄暗い空間。

 

俺は室内戦闘用の、爆発しない、EDF主力アサルトライフル《PAー11》を構えて突入。

今回、知らない展開につき『コマ送り』はナシです。

 

そんな空間には数十分前に救助した本部の面々と……情報部の人たち、女性が複数。

何やらPCやケーブル、簡易椅子や机を並べて即席の事務所風にしている。

 

皆、制服組ですな。 驚いて此方を向いていますね。

驚いてないのは……中年に近い男と明らかに年若い娘、か。

男は本部のお偉いさん? たぶん、日本支部の指揮官です。 予想ですが。

 

そしてインカムを付けて座っていた小娘はというと、

 

 

「バレちゃいましたか。 クスッ♪」

 

 

聞いた事ある声で、けれど何処か狂気を孕ませつつ。

瞳孔を見開いて立ち上がり容赦無く《アシッドガン》を向けて来やがりました。 え、何処で手に入れて隠し持ってたのアンタ。

 

そして、何の悪びれもありません。 人も絶望に染まって、それでいて尚、希望に縋ってこうなるならば……俺も経験者なので同情はしておきますが……。

 

でもね。

 

 

「上等だぞこのアマァッ!!」

 

 

俺は死にたくないですよぉ!

 

俺は容赦なくトリガーを引きました。

片や酸を、片や鉛玉をぶっ放し。

 

そこに護衛なのか、奥の闇からゾロゾロとクローンどもが。

《M3レイヴン》改修型ですね、多砲身から瞬時に大量の弾丸を吐き出してきて、弾幕を形成してきやがりました。

俺も他の制服組と同様に素早く伏せます。 刹那、頭上を無数の光線が過ぎ去り、PCや机や椅子が穴を開けつつ吹き飛んでいき、火花があちこちから散り始めます。

ですが。 そこは戦時に襲撃されても尚、生き延びた経験か。 皆、意外と冷静です。

まあ、被弾率は低くなりました。 緑の酸はマズイですが。

 

 

「アハハハハハハハハハッ!」

 

 

人形もろとも殺しても良いですかね。

あの小娘の狂った笑い声、不愉快です。 特に戦争の首謀者だと知ったからか。

 

全く。 あの弱気な子が随分と出世しましたね!?

 

そんな時。

 

入ってきた、地上への出入り口から別のクローン部隊がゾロゾロと綺麗な横隊でやってきましたよ。

 

ヤベエ、挟み撃ちかと思ったのも束の間。

 

俺ではなく、相手のクローン部隊を撃ち始めました。 わお。 まさかの味方。

そして疑問に答えるかのように、女から無線が。

 

 

『やほーグレ男。 貴方1人じゃ小娘の人形遊びは苦痛かと思ってね、私のトコの人形を送っといたから。 後は上手くやってね。 あとM4の看守と私もソコに乗り込むから。 着くまでには掃討しといてねぇ!』

 

 

ホント。 あの女は何処まで知っていて味方なんですかね。

《スプライトフォール》にしか興味が無いかと思えば、手伝ってくれるし。

まあ、良いです。 どっちにしろ全部終わらせるべく銃を持ってるのですし。

 

 

「グレ男。 君達がココに来るのは知っていた。 そして首謀者もな。 ボロが出ると思い、様子を見ようとしたが……これでハッキリした。 頼む、ヤツを拘束し戦争を止めてくれ」

 

 

やれやれ。 指揮官からも声をかけられました。 もうね、やるしかない。

 

 

「仕方ない! 少し人形遊びに付き合ってやんよ!」

 

 

助けたヤツに殺されたくないし。

本当は撃ち殺したいのですが、拘束しろとの命令ならば、何とかせねば。

隊長も知ったら哀しむでしょうからね。

 

俺は《PAー11》を握りしめて、再び引金を引く。

フルオートによる無数の弾丸は、空中で何発か相手の弾丸とぶつかり、交差し……。

 

取り敢えず人形を何人か無力化したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本部からの連絡が途絶えたぞ!?」

「だからどうした? 俺達は仕事を全うするだけだ」

「けっ! お嬢さん方を世話する手間が増えた。 ひとつ貸しな」

「レン! 慣れないだろうが、引き続き無線機と発煙筒を使ってガンシップや衛星、潜水艦や空軍、砲兵隊と連帯を取るんだ! やり方は教えた通りで良い!」

「えっ、ワンちゃんは!?」

「俺はグロッケンに戻る! 心配するな。 直ぐ戻るつもりだ!」

「了解。 前線は任せろ!」

「安心して行って来い、大将!」

「兎の世話が1匹分増えた。 貸しにしとく」

「その間、頼りにしてるぜ! 《子兎》ちゃん!」

「……ねぇ、小さなお嬢さん。 スプリガンに入らない?」

「ごめんなさい。 それはちょっと」

「……そうか」

「ザマァねぇな兎ども!」

「ああ、1発だけなら誤射かもしれない。 スピアが当たっても怒るなよ」

「反目は止めろ! 今は全員でひとつの部隊だ!」

「…………大丈夫かな、この人たち」



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それぞれのEDF

不定期更新中。


 

EDFは名の通り、地球を守る組織だ。

 

その方針は地球を絶望が覆った時も、GGOの偽の大地を踏む今も変わらない。

力ある限り武器を持ち、敵を撃ち、守る為に闘い続ける。 今後も、きっとそうだ。

 

仲間の多くは物言わぬ屍となっても。

 

守るべき人類と殺し合う暗黒時代になっても。

 

愛する者も帰る場所も全てが灰に帰した今も。

 

人の声が響かない地球であっても。

 

この世界に、価値が無くても。

 

価値は人それぞれに感じるから、一概に無いとは言えないが、《オペレーション・オメガ》が戦略情報部により敢行され、作戦内容を知った本部の怒りの……あの叫びを聞いた隊員は何人いたのだろうか。

 

「誰もいない地球を守って何になる!?」と。

 

EDFは地球を守る組織だ。

だが地球を守る範疇はどこからどこまでか。 本部の言い回しだと人類いてこその地球といったところか。

台頭していた地球の生命体は人間だったし、そもそもEDFを組織したのは人間だ。 人間を、同種の人類の、在来種存続の為に地球を外来種から守るということか。

種を存続させるのは生物として正しい事なのかも知れない。 ならば、それは正義のひとつとも言える。 間違いではない。

 

では、敵の、人類を根絶やしにしようとしたプライマーは地球に害なす絶対の悪か?

 

戦略情報部の憶測に過ぎない話になるが、プライマーは地球を汚染する気はなかった。

 

人類を上回る文明を持ちながら、核のような大量破壊兵器で地球を滅ぼさない。

そして地球に投下された様々な侵略生物の体液は、土壌を浄化する作用がある。

 

戦争後期は、人類の痕跡を消すかの如く、コンクリや鉄筋を喰らう変異種が現れた。

あのままいけば、地球は緑に覆われ自然のあるべき姿を取り戻したのかも知れない。

 

よく人間による大気、土壌汚染等の地球へ与えるダメージは人類の問題のひとつであった。

他にも多種の生物を絶滅においやっている。

 

その問題を起こす人類は地球の敵だとする意見もある。 そうならば、本当のEDFとはプライマーであり、我々人類こそ地球にとって侵略者ではないか?

絶滅種や地球汚染、かつて人類が闊歩したのは淘汰された結果であるというならば、プライマーにより人類が絶滅に瀕したのも、その結果なのではないだろうか。 この件は戦略情報部も言っていたが。

 

他にも人類自体、プライマーにより生み出されたのでは、という考えもあるが……では何故、プライマーは人類を生み出したのだろう。

奴らが攻撃を始めた理由の考察で、人類が墜落した円盤を見つけて、その後の危機感からEDFを組織したら、刃向かってきたとしてプライマーが怒ったのではと言っていた気がする。

ならば、皮肉というか。 人類を守る為に組織したら、その結果、逆に追い詰められたのだから。 ストーム・ワン達の活躍により、人類は薄皮一枚で生き延びたものの、その爪痕は深過ぎる。

 

閑話休題。

 

つまり何が言いたいかというと、地球の守り方や考え方はひとつではない、正解と言い切れるものは無い、という事だ。

EDFは一枚岩ではない。 共通の敵がいなくなってからは尚更だ。

プライマーがやっていたとされる、クローン兵士をつくり、武装したドローンを飛ばし、GGOを基点に地球を、人類を再興しようという思考と、人類は滅ぶべきだったんだという思考、それらに反対した者に別れてしまった。

 

そして現在。 異界の地にて、意見の相違から互いに銃口を向けあい殺し合っているときた。

その異界の地となるGGOは仮想現実の、それもゲーム世界で、この世界の住民たるプレイヤーの皆は本当に死ぬ事なく遊戯で殺し合っているから皮肉である。

それが平和的かと問われれば、これまた人により意見の相違が出てくる事だろう。

やれ、教育に悪いとか仮想現実ではなく現実で野山を駆け回ってろとか。

だが言えることは、勝手に戦場にされたGGOからしたら異界のEDFは大多数一致で迷惑極まりない存在という事だ。 何人死のうが関係ない。 さっさと消えろ、である。

人類は結局、同種であっても意見の不一致や利益不利益から闘い続けてきた。 その関係は切っても切れないのかも知れない。

保守的な連中は新参を頭ごなしに否定し続け、逆に堅い旧式連中には敬意ではなく妬みと文句をぶつける人がいるように。

 

 

「人類再興のチャンスなんです。 邪魔しないで下さい」

「邪魔してんのはテメーだ。 人形遊びは地球でやりな」

 

 

グロッケン地下。

本部が設置されたと思えば、次の瞬間には鉛玉と強酸が飛び交う戦場と化したこの場所。

ここでも意見の相違により、現在進行形で殺し合っている人がいる。 加えて無情の人形がたくさん。

 

相手の希望は自身の絶望なのか。

 

互いに意見を押し付け合いつつ、EDFレンジャー隊員のひとり、グレ男こと龍馬榴弾兵は、倒した長テーブルから身を乗り出して再び榴弾ではなく……鉛玉をぶっ放す。

本当は名前の通り爆発物を使いたいのだが、周りに退避中の本部の人や情報部がいる以上、危険は犯せない。

そも、閉所や室内における爆発物の使用は危険である。 天井が崩れてきたり、誤爆の危険があったり、爆風に巻き込まれたり。

そんな理由で放たれた通常弾は強酸に衝突すると、飛翔中に跡形もなく溶けてしまった。 そのまま強酸がテーブル側面にぶつかると、何かを焼く音を立てながらテーブルを溶かしていく。

ついでに後方の味方に当たったのか。 右手……片腕が銃ごとなくなった子がいたが、構っている場合ではない。 本人は痛がる様子も慌てる事もなく、床に伏せて、それ以上の被弾を避けた。 合理的だが、無感情の人形もここまでくると不気味である。 薄ら寒さを感じて、鳥肌まで立ちそうだ。

 

 

「ホント、《アシッドガン》なんて何処で手に入れたんだよ!」

 

 

グレ男は思わず舌打ち。 弾幕に巻き込まれないように床を転がって別のテーブルに身を隠す。 テーブルなんて簡単に弾丸が抜けてくるが、見えない敵には狙いを定められない。 強酸も刹那的に防ぐ事は出来る。 隠れる意味はあるのだ。

人形同士の撃ち合いが続き、無数の弾丸が頭上を通過、交差していく。

止まらない重複する銃撃音と眩いばかりのマズルフラッシュに挟まれるばかりか、強酸がばら撒かれている戦場。 何かが焼ける音や『ナニカ』だったモノもある混沌の空間。 気分は最悪だ。

 

 

「せっかくEDFをとっちめるチャンスなんだ。 GGO連中の為にも、俺の為にもミスんなよ俺……!」

 

 

常人だったら生理的悪感で吐くところだが、グレ男は過去幾度となく絶望を味わってきた者だ。 そして潜り抜けた。

この戦場より酷い目に遭った事もある彼は、この程度でパニックにならない。 今は死ぬ事よりも自身の任務達成に緊張している。

達成とは誰かの殺害ではない。 目の前の小娘の生け捕りでもない。 EDFがGGOに侵攻する元凶を潰す事にある。

でなければ、再びGGOにEDFが現れるだろう。 そして世界が耐えられなくなった時、どういうわけかグレ男は戦前の地球へタイムスリップする。

誰の仕業なのか知らないが、EDFの悪行を止める事が《再出撃》停止だと考えている。

いい加減、悲鳴と鉛玉と爆発には辟易しているのだ。

悪戯でSAO生還者にチョッカイをかけたり、子兎を殺し続けて浮かべる顔を見て愉しむのも……もう、これで最後にしたい。

 

 

「おい! ドジなテメェ独りで、こんな人形遊びが出来るとは思えねぇ。 他にも仲間がいんだろ、少佐か? 言え!」

 

 

その為にグレ男は問う。 殺しに来ている相手は最早仲間ではなく不倶戴天の敵であるが、同じ人間として言葉が通じるなら聞ける内に聞いておきたい。 物言わぬ屍になってからでは遅い故に。

無視される可能性もあったが、幸いな事に返答がきた。 銃撃音で聴き取り難いが、なんとか聞こえる。

 

ところが、その内容は瞳孔が開きっぱなしの小娘の顔も合わさり、中々の狂い様。

 

 

「フフッ、少佐は私に、人類復興に反対したのです。 即ち人類に仇なす敵。 ええ、ですから……地球で監禁中です♪」

 

 

グレ男は耳を疑った。 コイツは何を言いやがったんだ、と。

事実ならば戦時はポンコツだったというのに、随分と狂気的に偉くなったものである。

メンタルが弱いんだか強いんだか。 いや、ネジがぶっ飛んだか。

 

 

「少佐以外に仲間がいそうだな。 知ってる事は全部吐いて貰うぞ」

「貴方が言う人形達が私の仲間ですよ」

「なら潰す。 そうすれば人形遊びは出来ないよな?」

 

 

鉛玉に混じり、緑の強酸が再び撒かれる。

飛翔するM3レイヴンの濃い弾幕を溶かしながら飛んでくる液体は、戦時のα型や女王を相手にしていた頃を思い出す。

そしてあの頃と同様に、後方の味方……人形達の部隊のアーマーに被弾して、溶かしていった。

ただやはりというか、彼女達は「酸だ」と叫ぶ事も慌てる事なくアーマーを脱ぎ棄てて、それ以上溶ける事を回避した。

アーマーの下は何も着けてないのか、シミひとつない綺麗な白い肌と形の良い双山が露呈。 ツン、と上向きのソレは情欲を誘うかに見えるのだが、ドンパチの緊張を上回る事はないし、無情の人形だと思うと興奮しない。

そのままラ◯ボーや某コマンドの映画の主人公みたいに、上半身裸でフルオートを再開。 細いラインで闘う姿はミスマッチで、加えて表情は相変わらずだった。

GGOじゃ《ハラスメントコード》に引っかかりそうな気がしてならないが、どちらにせよEDFにGGOのプログラムは通用しない。 逆はあれども。

 

 

「チッ! 酸があるだけでトーシロに押されるなんてな!」

 

 

そんな光景に悪態をつきながらも、減らされる戦力を尻目に、机から銃身のみを出して撃つブラインドファイヤを行うグレ男。

相手は散開して攻撃してきているので、撃ち方も合わさり命中率は劣悪だが、EDF製3桁越えのマガジンから送り込まれ吐き出される弾幕と絶望を乗り越えたレンジャー隊員はダテではない。

何人かを無力化するに至ると、グレ男は周囲を確認、本部に連絡をとる。 命懸けの戦場に身を置いているので、口調はべらんめえになってしまった。 いつもの事だが。

 

 

「おい! 皆退避したんかよ!?」

『ああ。 よくやった。 思う存分暴れてくれ!』

「了解!」

 

 

聞き終わるが早いか、グレ男はキタコレとばかりにPAー11を脇に置いて、腰の背後辺りからEDF製手榴弾《MG14J》を取り出した。

丸型で、少し大きめの形をしたソレ。 Jタイプは時限起爆式の事で、この型は起爆まで5秒かかる。 GGOのプラズマグレネードより強力かは不明だが、十分に危険な物に違いない。

 

 

「吹き飛べッ!」

 

 

グレ男は安全ピンを抜き、3秒待ってから、机の脇から床を滑らす様に転がした。 放り投げると弾幕に巻き込まれたり、強酸に当たる危険性からだ。

 

そして2秒。

 

ドゴォンッ!!

 

爆風と破片は周囲をズタズタに裂き、人形の一体がグレ男の隠れる机の上を飛んでいく。 少なくともひとりはやった。 遅れて天井からパラパラと塵が落ちて、白煙が足下に漂ってきた。

 

弾幕が止まった事を確認し、

 

 

「今ッ!」

 

 

脇のPAー11を鷲掴み、アンダーアシストをフルに使って机から飛び出して、

 

 

「オラァッ!」

 

 

走りながら前面にフルオート。 邪魔な人形共の露出する頭部に風穴を開けて倒していく。

EDF隊員の腕であれば、ほぼブレなく狙った場所へ全弾叩き込むのも不可能ではない。 榴弾系ばかり使うグレ男も、ルーキー時代に使い慣れた銃であるから、癖を理解している。

 

 

「あらら。 流石に前線で活躍した兵士は格が違う」

 

 

そんなサマに、相手は驚く事なく水鉄砲みたいなアシッドガンで強酸をばら撒いた。 普通なら近寄れない。 近寄ったら溶けてしまう。

 

 

「うおおおおっ!!」

 

 

だがグレ男は構わず全力疾走。 強酸に突っ込んで、小娘の元へ直行。 全身に酸を浴びて煙を上げつつ、鬼気迫る顔で来る彼に、小娘も思わず声を出してしまう。

 

 

「ヒッ!?」

「タッチダウウゥゥウンッ!」

 

 

PAー11を逆持ちにして、銃床を腹に勢い良く叩き込む。 痛恨の一撃だ。

ドゴォッ、と音が響き、一瞬身体がフワッと浮かぶ程であったが……一応加減はしている。 彼が本気出したら鍛えてない人は死んでしまう。

そのまま前のめりに倒れた彼女を支えてやり動かなくなるのを確認。 アシッドガンを取り上げて床に叩きつけ、本体側を踏みつけ破壊しておく。 ホント、どこで手に入れたのやら。

コレを皮切りに、指揮官を失ったからか、人形共は銃口を下げて戦闘を停止。 グレ男側の人形も銃口を下げて棒立ち。 スイッチを切られた機械のようにアッサリした動きだった。

 

 

「痛ッ……。 アーマーが溶けてらぁ」

 

 

そんな連中に構わず、溶けるアーマーを手慣れた手つきで外していくグレ男。 強化されたアーマーとはいえ、溶け続け煙を上げる服をいつまでも着ていたくない。 いつ肌に到達するかも分からないから。

煙を上げるアーマーを捨てれば、鍛えて割れた腹筋が露わになる。 そういう趣向が好きなら堪らない身体つき。

 

 

「よし……本部、目標を確保した」

『よくやった。 やはりか、首謀者だったらしい。 駐屯地での戦闘も、突然止まったそうだからな。 後はこちらで尋問する。 戦争の経緯やクローンの件、少佐の件含めて』

 

 

本部に無線で報告すると、返答をしてくれた。 そして尋問するという。 この展開は当たり前なのだろうが、グレ男としては今までにない展開だ。 ここは立ち会って、雑にでも良いから真相を知りたい。

今まで人知れず、隊長が現れるまで銃を握り続けたのだ。 それくらいの権利はあって欲しい。

 

 

「その尋問、立ち会わせてくれ。 俺は色々知りたいんだ」

「俺もだ。 だがその前にグレ男、お前はココで死んで貰う」

「え?」『むっ?』

 

 

後方の闇より第三者の声が聞こえ、反射的に銃口を闇へと向ける。

静かになった地下に、カツン、カツンと足音が不気味に響き渡り、それは段々と大きくなる。

やがて、姿形が見えてきた。 ソイツはヘルメットに通信ユニットを背負い、手にはリムペットガンを持っていた。 砲口はこちらに向いている。

 

 

「隊長……!」

 

 

そう。 現れたのはストーム・ワン。 我らが人類の英雄にして隊長の、あー、少しお馬鹿な男。

だが、何故彼がココに現れたのか。 前線で指揮を執っていた筈なのだが。

まさか、隊長が黒幕だとでも言うのか!?

 

とまあ、今までにない展開から先が読めないグレ男は、この手にありそうなモノとして『真の黒幕登場』を予想していた。

信用する、期待していた人物が実は敵でしたパターンはあるある展開だし、たぶんコレ、そうだろうと勝手に自己解釈していく。

 

実際は本部との連絡が途絶えた心配と、グレ男が絡んでいるという確信にも似たナニかでグロッケン地下にやってきたのだ。 前線はレン達プレイヤーと駆け付けたストームチームに任せている。

そして物騒な発言内容はというと、グレ男に半殺しにされたのと、娘を拉致されたのと、今までの迷惑行動から全ての元凶はグレ男なんじゃね、という容疑や目の前に広がる惨劇と裸のクローン1体、気絶するオペ子に、元凶であろう男は上半身ムキムキの裸。 情事手前の危険な空間に見える。

 

 

「キサマァ……女性の身を剥ぎ、その上で自身はその姿! そして本部を攻撃、腕には気を失ったオペレーター! 娘を拉致し、俺や軍曹達を半殺しにし、戦争まで起こしやがって! もはや罪を償う事は出来んレベルだぞ!!」

 

 

つまり、互いに勘違いしていた。

 

それに気付いた本部は慌てて仲裁に入る。 それでドンパチが始まっては困るのだ。

 

 

『両者待て! グレ男は敵では「上等だぞ駄犬が! 俺がどんな苦労したかも知らねぇで性犯罪者扱いしやがって!」おい!?』

 

 

だが性犯罪者扱いを受けたグレ男は我慢出来ずキレてしまった。

そのままオペ子を脇に放り投げ、雄叫びと共に怒りのフルオートを開始。 強烈なマズルフラッシュが再び巻き起こる。

撃たれたワンちゃんは、素早く電磁トーチカで壁を展開。 弾丸を防ぐ。

 

 

「キサマとは学生時代からの腐れ縁だったが、ココで決着をつけてやる!」

「来いよヒーロー! ブッ殺してやる!」

 

 

もう互いにボルテージは最高潮。 歯止めがかからない展開となってしまった。

こうなっては、どうする事も出来ない。 生き延びた人形達は脇に退いて、ストリートファイトでも見る観客みたいにジッと2人の戦闘を眺めるのみ。 人形は命令を与えないと、自発的には動いてくれないのだ。 期待してはならない。

だが本部は別の手を使うのみだ。 駐屯地の戦闘が止まったなら、そっちの戦力を持ってきて事態の収拾を図ろう。 幸い、効果的な鎮圧剤の情報を知っている。

 

 

『……レンとフカとかいうプレイヤー。 それとストームチーム、聞こえるか? 至急、グロッケン地下に行って欲しい。 ストーム・ワンが勘違いから暴れ始めたので、止めて欲しいのだが』

『えっ!? すみません、ウチのワンちゃんがまた迷惑を……!』

『また? GGOでも勘違いから迷惑をかけていたのか』

『みたいだねー。 でもパパの暴走を止めるのは自信ないなぁ』

『地下空間だ。 要請は出来ない。 それなのに、昔は無線機を持ち込んでポカしたらしいが』

 

 

英雄の知りたくない情報が出てきて、どっと疲れが増した。 だが今はそれどころではない。

 

兎に角、本部は愛娘とストームチームを地下へ送り込む。

その間、2人の戦闘は続く事になるのだが。

 

 

『……それと、誰か服か毛布を持って行ってやれ』

『………………?』

 

 

それ以外の問題ごとも起きそうな予感がした本部は取り敢えず、無線越しに付け加えておく。

鎮圧剤も時には害となるのを、本部は知っていたからだ。

 



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EDFとの火力差

不定期更新中。 駄文。 間違いがあればすいません……。
プレイヤー視線など。 EDFは圧倒的。 でも全く抵抗出来ない訳ではなさそう。


EDFとの火力差

 

戦闘停止前。 つまり、ワンちゃんが戦線をほっぽり出して仲間任せにした後、グロッケン地下に移動中兼、グレ男が地下でドンパチしていた時。

 

ワンちゃんの代理となった子兎は、慣れない無線機を腰につけて、ビーコンガンを両手で握り、なんとかコンバットフレームを一機撃破した。

その結果、プレイヤーの士気は上がり、少なくとも前線を支える時間は出来たかに見えたが……。

 

 

「うああ!? 最前線のモヒカン連中が全滅しちまった!」

 

「駄目だ! あのロボットが倒せない!」

 

「小銃じゃ無理!」

 

「装甲車とヘリ、誰か何とかしてくれよ!」

 

「出来ないから困ってる!」

 

 

プレイヤー達は尚も困っていた。 士気が上がっても形成逆転するとは限らない。

 

というのも、荒野では2メートル以上はありそうな人型ロボット……搭乗式外骨格のコンバットフレーム《アサルト》が両手それぞれに持つマシンガンで暴れ続けているのだ。

左右に滝のように金色の粒を排莢すれば、次にはプレイヤーを片っ端から光の粒子に変換。 戦場はキラキラと輝き、冬のイルミネーションを見てるかのよう。

 

そんな中でも制圧されてたまるかと、抵抗を試みて銃撃を喰らわせるプレイヤー。 けれども表面装甲に火花を散らすばかりでビクともしない。

遠方から対物ライフルやグレネードを試した者もいたが駄目だった。 装甲車……《グレイプ》も同じく。

ヘリに至っては高度があるし、機動性があって当てるのは難しい。 弾が届いても表面に火花を散らすばかりなのは一緒である。

 

とにかく、皆の持つアサルトライフルやサブマシンガン、拳銃でどうにかなる相手ではない。

 

 

「女によってたかって虐めるなー!」

 

 

そんな中、荒野の最前線。 金髪チビのフカ次郎はそれらの集中砲火を喰らっていた。

いくつもの閃光弾らしきものが、フカの隠れる窪み周辺に無数に着弾。

止まらぬ飛翔音と着弾音は常に耳元で羽虫が飛んでいるかのような不快感を与え、大量の砂埃を舞わせて視界はゼロに等しい。

近くの味方もゼロ。 フカしかいないとなると、当然敵は一点に集中。

彼女を煽るようにして、土のシャワーを浴びせ続ける敵の軍勢。 ヘルメットに小石が当たるたびに軽い衝撃が頭に響く。 服の内側にも土が入り込み気持ち悪い。 戦闘服は表も裏も薄汚れてボロボロだ。 心も折れそう。

 

 

「誰か助けてヘルプミー!」

 

 

悲鳴にも似た、救援を求める声は、銃撃音と飛翔音、爆音に掻き消されて響くことはない。

仮に聞こえても、皆は手一杯で身動きが取れない。 取れてもフカの下へ辿り着く前に弾幕を潜り抜けられずに銃殺されるか爆死するだろう。

 

 

「もっと後ろに陣取るべきだったなぁ」

 

 

砂埃越しに見える、GGOの狂った空を見上げて、今度はニヒルな笑いを浮かべる。

 

だが言った通り、もっと後ろからグレランで援護すれば良かったのかも知れない。

だが考え無しに最前線にいたワケじゃない。

 

最初は自身の小ささを生かし、即席の蛸壺……グレネードランチャーで空けた、地面のクレーターを個人用塹壕代わりにして身を匍匐で隠しながら、後方でグレランによる砲撃支援を行っていたのだ。

 

ところが、いつのまにか包囲されていた。 気が付いた頃は既に遅し。 退路もなく周囲の味方は全滅。 残すはフカ次郎ただ1人。

一応、後方に沢山味方がいるのだが……わざわざフカの為に死に行く者はそういまい。

大の為に小は切り捨てる。 そんな考えが一瞬脳裏をよぎってしまう。

 

 

「この銃でも、ロボットは倒せないしなぁ。 EDFはズルいぜぃ」

 

 

両脇にある、榴弾尽きたデザートタンのグレラン《MGLー140》二丁を見ながらボヤいていると激しい銃撃音に混ざり、バリバリとヘリのローター音。

 

次には完全に影に飲み込まれた。

頭上を覆い、影落とすモノ。

 

フカが小悪魔ならば、それは空飛ぶ大悪魔。

 

 

対地制圧ヘリコプター《ネレイド》。

 

 

地上を這うプレイヤーを、安全な空から一方的に殺戮する、無慈悲なビークル。

 

スマートな機体の下方にある自動補足式オートキャノンの赤色レーザーは小さな胴体を突き刺して、小さな赤い点を生み出した。

被弾エフェクトではない。 GGOでいうバレットラインやサークルのようなものである。

 

 

「《ALO》だったら、空飛んでボコボコにしてやるのに!」

 

 

頭上の悪魔を見て悟る。 逃げても無駄だと。

何十人もいた小隊規模の味方がヘリの攻撃で蒸発したのを見たのだ。

撃たれたら死ぬ一歩手前。 万事休すか。

 

 

「ハ、ハハハッ!」

 

 

文句を言いつつも、笑う。 笑いながらサイドアームの《M&P拳銃》を抜いて、上に向かって滅茶苦茶に撃ちまくる。

乾いた音がパンパンパンと連続で聞こえた。 残弾なんて数えない。 とにかくトリガーを引きまくる。

 

周囲の銃撃音や爆音と比べると、小さく頼りない乾いた音。 それでも、撃つ。 笑いながら撃ちまくる。

 

悲惨過ぎると笑うしかないとも言うが、彼女の場合はゲームとして楽しんでの笑顔だ。

ココで死んでも《死に戻り》するだけ。 この非常事態も、多くのプレイヤーにとってはイベント。 祭りの一種。 ならば楽しんだ者勝ちではないか。

確かに怖い時もある。 フルダイブのVRMMOであるが、現実と比べると五感はどこか希薄。

それなのに対峙するEDFに対しては、何故か凄い恐怖を感じる。 なによりプレイヤーにはない……本物の雰囲気があるから。

 

だからこそ。 この瞬間を楽しもう。

もう二度と無いかも知れないのだから。

 

 

「うりゃあああああぁぁ!」

 

 

射撃下手なフカは1発も当てられず、弾切れを起こす。 悔しさからか、せめての抵抗か、スライドが下がった拳銃をヘリにぶん投げると、それだけはヘリの底に当てられた。

 

カーンという、虚しい金属音を鳴らして跳ね返ってきたが。

 

 

「ふっ……やるなら、やれよ」

 

 

万策尽きたか。

格好付けたセリフを吐いて、バッと両手を広げて見せた。 どうせ死ぬなら、格好良く死にたい。

 

そして武勇伝にしよう。 わたしゃぁ……ヘリ相手にたった1人で立ち向かったのよと。

 

だが、その願望は叶う事はなかった。

 

 

『要請受託!』

 

 

突如として聞こえた、ワイルドボイス。

 

刹那、風に吹かれた雨のように、斜め上方から降ってくる無数の光弾。

EDFのガンシップ、地上制圧機DE202による《バルカン砲》の、3秒あるかないかの弾幕である。

 

その弾丸は容赦なくヘリのローターやコックピットを突き抜けて、フカの脇へと降り注ぐ。

 

プレイヤーの持つ銃弾とは比べ物にならない高威力。 砂柱を形成する程の凄まじさ。

 

貫通力があり高威力の雨は、空飛ぶ棺桶を空中で蜂の巣に変身させると、墜落を許さず空中で爆発四散させた。 もれなく破片が辺りに飛び散った。

 

 

「うおッ!?」

 

 

故にか。 驚いた声を上げるフカ。 何が起きたのか。 いや、誰かが助けてくれた。

EDFの兵器なのは分かる。 だからワンちゃんかと思ったが……違う。

 

 

『ごめん! 遅れた!』

 

 

今度聞こえたのは、親友の声。

無線越しに伝わる、昂ぶる感情。

 

どうやら、来てくれたらしい。

 

 

「そこは『待たせたな』と言うとこだぜぃ?」

 

 

聞き慣れた事のある声に、思わずニヤッとしちゃう。

 

 

『そうだね。 ちょっと忙しくて』

 

 

今、戦場での花形はフカの親友。

鉛玉でなく、ビーコンや無線で闘う誘導兵。

 

親友がワンちゃんみたいに活躍している様が、ちょっぴり誇らしく……ちょっと嫉妬するフカ次郎であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「連中のも、マシンガンか?」

 

 

マシンガン大好きチーム《ZEMAL》の男達は、クローン達の持つ武器について話し合う。 マシンガン好きとしては、EDFの銃にも興味があるのか。

話合いながらも、視線は前線に向けられ、機関銃のトリガーを引き続ける。 無線越しなので、激しい銃撃音でも問題ないらしい。

 

機関銃の種類や服装はバラバラ。 《M240B》や《FN・MAG》、《ミニミ》、《M60E3》。

 

銃撃音も異なるも、トリガーハッピーなのは同じのようだ。

 

そんな彼らは、突撃する軽装の味方を後方から援護している形だ。 味方の誰かが榴弾系で開けたであろう、地面のクレーターを塹壕代わりにして陣取りながら。

マシンガンの位置付けとしては有効的だろう。

 

…………形なだけで、彼らは深く考えてないのだが。 偶々そんな風の位置にいただけ。

 

撃てりゃー良い。 撃ちまくれヒャッハー集団だ。 といっても戦果は出しているから文句は言えない。 かなり役に立っている。

ビークル相手は無理だが、クローン部隊の何人かを葬っているし、倒せなくても弾幕により勢いを止める防衛線となっている。

包囲されているのに、未だ戦線が維持されているのは彼らの活躍が大きい。

 

…………が、そんな事になってるとは、つい知らず。 話を始める男たち。 愛すべきマシンガン馬鹿たちだ。

 

 

「多砲身だしな! そのせいか、撃ち続けているのに焼ける様子がねぇ!」

 

「トリガーを引いて、直ぐに弾が出ているな! 回転が安定するまで待たなくて良いようだ!」

 

「リロード頻度が少なく感じるぜ! あの銃身のどこに、そんだけの弾が?」

 

「身体も細く見える。 予備弾薬はストレージかどこかか?」

 

 

疑問を投げ合いつつ、撃ちまくる。 時々バーストして、休み休み撃つ。 リロード時は仲間に声掛けて、隙をカバーしてもらう。

その辺の連帯は忘れない。 マシンガン馬鹿といっても、その辺は下手なソロプレイヤーや野次馬よりハイレベル。

SJ2に参加出来た力は、運だけではないのだ。 たぶん。

 

 

「EDFの銃と兵士だぜ? 取り敢えずハイスペックなんだろーよ!」

 

「だが、奴らには愛が無いように感じる! マシンガン愛なら俺らが上じゃあ!!」

 

「おうよ!」

 

「ヒャッハー!」

 

「ヘリだろうが、装甲車だろうが撃ちまくれえええ!!」

 

「マトなら幾らでもあるからなぁ!」

 

 

会話中断。 ズガガガガガッと撃ちまくる。 もれなく前方のクローン数名が倒された。 ついでに射線にでた味方ルーキーも撃ち抜いた。

 

構うことはねぇ。 撃てりゃー良い!

 

因みに。

彼らが疑問に思った多砲身の銃であるが。

EDFでは《M3レイヴンSLS》と呼ばれている銃である。

少し大きく、ガトリングみたいに多砲身だがアサルトライフルの分類。 機関銃ではないのだ……たぶん。

 

 

「おい! 装甲車だ!」

 

 

すると増援か。

前方に武装装甲車両《グレイプ》が走ってきた。 兵員輸送車のソレは、そのままプレイヤーに対して車体を横向けに。 兵士を守るようにだ。

 

いけない。 EDFの装甲は徹甲弾でも抜くのは難しいだろう。 ピンチである。

 

そして後方のハッチが開くと、中からゾロゾロと増援のクローン部隊が、

 

 

「撃てええええええッ!!」

 

「ヒャッハアァァァッ!!」

 

 

そんなん関係ねぇ。

 

出て来て、素直に此方へ向かってくるクローンに撃ちまくった。 彼女らクローンは、銃弾を1発も撃つ事なく、バタバタと倒されてしまった。

 

 

「車もぶっ壊せぇ!」

 

 

今度はグレイプに撃ちまくる。 距離あれど、横に広いのもあり、それなりに当たる。

当たるだけで、やはり火花を散らすばかりだ。 ビークルの破壊は無理なのか。

 

 

「気持ちイィ!」

 

 

そんなん関係ねぇ。

 

寧ろ火花が散って、当たっているのが分かるのが良い。 楽しい。 倒す事をすっかり忘れているトリガーハッピー達。

 

そんな彼らに仕返しとばかりに、グレイプの砲塔が回転。 砲口が彼らに向けられる。

弾種は歩兵戦闘を考慮して、榴弾を使用していた。

 

逃げられない。

 

というか、撃つのに夢中で危機感がない。

 

だがヒーローとは、いるもので。

 

突如として空から光の玉が降り注ぎ、ソイツは白い帯を空中に残しながら、グレイプの天辺、砲塔目掛けて落下した。

 

それはミサイルによるトップアタックだ。

 

そして衝突した刹那、グレイプが爆炎に包まれた。

 

ドゴォンッ、と派手な音が戦場に響き渡り、射撃に夢中だったマシンガン馬鹿達も思わず驚きの声を上げる。

 

 

「うおっ!?」

 

「なんだ!?」

 

 

爆煙が晴れると、装甲車はスクラップに変貌していた。 一瞬だった。

 

 

「装甲車なんか怖かねぇ!」

 

「やっぱ、マシンガンは良いな!」

 

「ヒャッハー!」

 

 

自分達がやったと思っている男たち。

観察力があったのは、相手の武器に対してだけだったか……。

 

 

「間に合ったか!」

 

 

すると答え合わせするかのように、後方からオッサン声が。 のっしのっしとやって来たのは全身を鎧のような……強化外骨格に身を包んだEDFの兵士6人組。

背負う特徴的な大きなバックパックに見えるモノは、よく見ると動力パイプのようなモノが見えたり、スラスター、ブースターの噴射口が見える機械的なもの。

 

マシンガン持ちの者は、更にココから弾帯……ベルトリングが伸びている。

ヤベェ……なんか強そう。 というか、実際強い人達。

 

そんな勇ましく強そうな兵装の彼らは《フェンサー》の分隊だ。

 

 

「良く耐えたな! 後は我々に任せろ!」

 

 

そう勇ましく言う1人の武装は左肩後方に大きな、縦長の筒を背負っている。

右手には、重そうな多砲身の機関砲《FG7ハンドガトリング》を片手持ち。

ハンド、といってもかなりデカい。 歩兵が持ち運ぶのは無理な得物。

それを可能にしちゃうのが、彼らフェンサーの、パワードスケルトン。

 

マシンガン馬鹿達を救ったのは、この人である。 使われた武装は、肩に背負う筒から発射される《FGX高高度強襲ミサイル》だ。

ロックオンした目標に対して、上空高くミサイルが飛んでいき、やがて目標に対して降り注ぐのだ。

 

遮蔽物が多い(主に野次馬なプレイヤーの事なのだが)戦場で、誤射を避ける為に使われた。 威力も高く、装甲目標でも役に立った。

 

後の5人は、ミサイルの代わりに左手に大きな特殊合金製の楯《ディフレクション・シールド》を装備。

右手は同じく重そうなマシンガンを片手持ちしている。 マシンガンは《ZEMAL》と同じくバラバラ。

見た目に差異はないモノもあるが、性能が異なるのだ。

 

装弾数に優れ、約1分間もの間、射撃を続行できる《UT3ハンドガトリング》。

もうひとつは機関砲のイメージと少し離れた……銃口が二つ伸びており、連射性能に優れ、直接パワードスケルトンにマウントする《ガリオン連射機関砲》。

《ブローニングM2重機関銃》に少し似た、《ガリオン軽量機関砲》。

モーターから多砲身が生えたような高性能火炎放射器《フレイムリボルバー》は……機関砲ではない気がするが、取り敢えず、様々な武装であった。

 

どれもデカい。 そして重い。 だが見た目からして力強さが伝わってくるのが素晴らしい。

その光景にマシンガン馬鹿達は大いに盛り上がった。

 

 

「すげぇ! 片手持ちしてるぜ!」

 

「俺には分かる! マウントしてあるのも、マシンガンだな!」

 

「ああ! 俺たちも筋力値を上げまくって、真似しよう!」

 

「目指せ! 両手持ち!」

 

 

だが、彼らはマシンガンにのみ注視する。 救ってくれたミサイルの事など考えもしない。

 

褒めるところが、なんか違う野郎供。 気を使ってか、部下の1人が声を出す。

 

 

「隊長」

 

「……気にしてないぞ。 ただ、次は両手に機関銃装備でいくか」

 

 

トーン低く、そう返す隊長さん。 だが若干、士気が下がったのは気の所為ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ! EDFは化け物か!」

 

 

別方面の戦場にて。

《MMTM》のリーダー、デヴィッドは思わず叫んでしまう。 ヘビーゲーマーな彼らは、有利になるべくGGOの戦術……側面や後方に回り込む、隠れる、等の方法を試していた……のだが。

 

どうしても位置がバレて正面同士の撃ち合いに発展してしまうのだ。

 

センサー反応の所為だ。

 

プレイヤーになくて、EDFにはあるモノのひとつ。 隠れてもおおよその位置がバレるのだ。

必ずじゃないし万能ではないが、残念ながら彼らのチームはバッチリとセンサーに映ってしまっている。 故に良いポジションが取れる前に攻撃を受けてしまう。

 

 

「SJでも見たが……あの兵器群は無力化出来ないのか?」

 

 

そして1番厄介なのは。

目の前で暴れるロボットやヘリ等のビークル群。

 

今はまだ、最前線に突撃した野次馬なニュービー連中に群がっているから良いが、湯水の如く消されている。 いなくなったら前線は後退、次に消されるのは我々だ。

 

 

「光の粒子が絶え間なく輝いて……綺麗ですねぇ」

 

「ああ。 このままだと、俺たちも光にされるだろうな」

 

 

冷静に会話する余裕があるようだが、打開策が思い付かず、ギリッと奥歯を噛みしめるリーダー。 小銃弾や榴弾も効かない相手に、どう立ち回れば良いのか。

 

歩兵は何とか殺れるが、装甲持ちは駄目だ。

チート集団に、通常兵器は効かないか。

絶望しそうになり、それでもリーダーとして何かないかと考えるも、

 

 

「がぁっ!? 足がっ! 足がああああああああああ!!」

 

「リーダー! チキンがっ!」

 

「なっ!?」

 

 

仲間の悲鳴に、思考の海からサルページ。

銃口と共に視線をやれば、前方にいたチキンことケンタが、コンバットフレーム《アサルト》に足を踏まれていたのだ。

ケンタは仰向けに倒れており、足からくる痛みに悲鳴を上げた。

VRだ、本当の痛みではない。 だが、EDFから与えられる本物からの痛みは被弾時の痛みより僅かに、本当に僅かだが……現実味がある気がした。

 

 

「コイツ、いつの間に来たんだ!?」

 

「遠方から跳躍してきたんだ! カンガルーやウサギみたいにな!」

 

「撃て! 撃つんだッ!」

 

 

味方全員が驚き、けれど考えるより先に銃口を《アサルト》に向けて撃ちまくる。 やはりか、火花が散るばかりだ。

それでも撃つ。 味方が、まだ生きている味方がいる。 助けたい。 その想いからか、それとも……目の前に敵が来てしまったからか。

 

別に、《アサルト》側は狙って踏んだワケではない。 たまたま着地地点にケンタがいてしまい、踏んだのだ。

だからか。 踏んでいる事に気が付いていない。 銃撃を加えられているのもあり、注意はリーダー達に向けられている。

 

 

「……ッ!」

 

 

その点に、踏まれながらも気が付いたケンタ。

 

すると冷や汗をかきながら、痛みに耐えながら、動く手でウィンドウを開いて操作する。 ストレージにしまってあるモノを取り出そうとしているのだ。

 

 

「チキンは何をしてる!?」

 

「まさか」

 

 

気付いた仲間が、声を上げる。

その意図に直ぐ気付いたリーダーは、その覚悟に思わず銃身を強く握ってしまう。

そして、感情をブチ撒けるように声を張り上げて指示を出す。

 

 

「ッ! 総員撃ち続けろ! ヤツの注意を引くんだ!! チキンを援護するッ!」

 

「了解!」

 

「撃てぇ! 撃てえ!」

 

「バケモノめ! こっちだ!」

 

 

とにかく撃ちまくる《MMTM》の皆。

マズルフラッシュを焚きまくり、弾丸は装甲に阻まれ火花を散らし、それでも撃つのをやめない。

 

その甲斐あって、《アサルト》は肩に備えた榴弾をばら撒く《エクスプロージョン》の照準を合わせて……リーダー達に向けて発射した。

 

起こる複数の爆炎。 周囲一帯を消し飛ばす。 どんなに足掻いても、無駄だと言わんばかりに。

 

 

「グハッ!?」

 

 

拡散する榴弾は陣地全体に着弾し、皆を吹き飛ばした。

4人は光の粒子になって消えてしまう。 それでも、運良くデヴィッドは生き伸びた。

 

地面に転がされながらも、メインアームを何処かに吹き飛ばされても、痛む身体に鞭を打ち、手を動かした。

彼は注意を引くために、まだ生きている仲間の為に足掻く。

 

 

「うおおおおおおッ!」

 

 

倒れた姿勢のまま、サイドアームの《ステアーM9A》を抜いて撃ちまくる。

ボロボロで、情けない格好でも。 EDFには散々ボコボコにされてきけど。 今度も無駄に、無様に死ぬかも知れずとも。 今まで積み上げてきたモノが、全て否定されているかような……屈辱を受けたとしても。

それでも仲間の為に、リーダーとして最後まで闘う。 それが、今自身に出来る事なのだ。

 

そして、それは無駄ではなかった。

 

 

「……リーダー、ありが、とう……ございますッ!」

 

 

ケンタから、突如として礼の言葉を送られて。

 

刹那。

 

 

ドゴオオオオォンッ!!

 

 

踏まれていたケンタが、大爆発を起こし。

《アサルト》は大きな爆炎に飲み込まれ、世界の照度が一瞬上がる。

 

この時点で、リーダー以外の者は死んだ。

 

爆風は、離れた位置にいたリーダーにも届き……彼が成功した事を告げてきた。

同時に1人になってしまった事も。

 

 

「……ケンタ」

 

 

犠牲になった仲間の名を呟いた。

彼は、簡単に言えば自爆したのだ。 ストレージにあった、高威力のデカネードを起爆して。

機動性の高いヤツに、当てるのは難しい。 だが足下で、ゼロ距離で爆発させられるチャンスをケンタは掴んだ。 そして実行した。

 

 

「勇敢だった」

 

 

だから、リーダーは褒めた。

 

爆煙から出てきた、《アサルト》を見上げつつ。

 

無駄ではない。

 

犠牲の上で、取り敢えずの成功は得た。

 

そして、デカネードでも駄目な事を理解した。

 

二丁のマシンガンを向けてくる相手。 もう、助かりそうもない。

 

 

「…………ハ、ハハハ!」

 

 

心が折れて狂ったか。 それとも得られた戦果が嬉しいのか。

 

 

「アハハハハハッ!」

 

 

そんな、抵抗もせず笑うだけの相手に。

弾が勿体ないと思ったのか。

代わりに《アサルト》は足を上げると、そのまま彼を踏み潰そうとして……、

 

 

「フンッ!」

 

 

黒い影が接近したと思ったら、次に《アサルト》は。

 

目の前でバラバラになった。

 

 

「………ハ、ハハ……何が、起きた」

 

 

流石に驚いて、笑いが引っ込んだ。

そして、目の前に漆黒の鎧に身を包んだフェンサー部隊が現れる。

片手に、大きな機械式の槍である《ブラストホール・スピア》。

もう片方はシールド。 真ん中に白く『G』の文字が書いてある。 銃の類はない。

 

 

「地獄に行きそびれたな」

 

「ひとつ貸しにしとく」

 

 

彼らはそう言うと、スラスターを吹かして高速移動。 前の方にいた別の《アサルト》へ突っ込む。

相手が慌ててマシンガンを振り回して、弾幕を形成するも、スラスターで高速蛇行しながら回避しつつ接近。

フェンサーが槍を突き出したと思えば、再び《アサルト》が爆発。 スクラップに変貌する。

 

 

「銃……じゃないな。 近接武器……《フォトンソード》ではない、か」

 

 

呟くデヴィッド。

だが彼の疑問に答える者はいない。 代わりに、再び黒いフェンサーが話し掛けてくる。

 

 

「お前の仲間は、意義のある死を遂げたようだが。 お前はどうだ?」

 

「ココが死に場所か? 随分と楽しそうだったしな」

 

 

どこか挑発的な言葉を投げてくる相手。 だが、力の差が歴然としているのだ。 どうしろというんだ。

 

そう思うデヴィッドに、フェンサーは言葉を投げかける。

 

 

「お前が闘うのを止めた時、背後にいるヤツらはどうなる? 最後まで足掻いて見せろ」

 

 

そういうと、リーダー格らしいヤツがポイとライフルを投げ渡してきた。

爆発でどこかにいった、自身のメインアーム《STMー556》だった。

 

 

「じゃあな。 地獄を楽しめ」

 

「お前にも、出来る事はあるだろうよ」

 

 

それだけ言って、スラスターを吹かして前線に突入するフェンサー達。

挑発的な言葉の裏に感じた励ましに、デヴィッドは再びライフルを握りしめ、無線で《死に戻り》した仲間に連絡をとる。

 

 

「死んで包囲網の外に出たな? 外側から攻撃を仕掛けて、EDFの態勢を崩す! 包囲されたお返しに、今度は内と外で挟み撃ちにしてやる!」

 

 

やれる事。

まだ戦闘は続いている。 GGOプレイヤーは未だ抵抗戦を続けており、屈していない。

 

生き延びろ。 そして、今度こそ勝つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤバいです! だけど映像は撮り続けます!」

 

 

これもまた、別方面の戦場にて。

 

そこそこ人気の実況プレイヤーのセインは、日本の小銃《89式》を握りつつ、後に《GGDF事件》と呼ばれるこの戦場の撮影を行っていた。

 

既に序盤から撮影を開始しており、バルガ同士の殴り合いも撮影。

イベントでもなし、こうして別ゲームや日本国外からもプレイヤーが集まって参戦しているのは、ある意味奇跡かも知れない。

 

そんな状況を撮らない手はないと、彼はSJ2に続き、勇気を持って前へ前へと突き進む。

 

だが、激しい銃撃戦や砲撃が行われる硝煙弾雨の戦場だ。 前に行くほど被弾率は高まり、死にやすい。

 

そして1つの線が、セインの横を閃光が走る。

羽虫が通ったような不快感と共に、彼の前にいた味方の頭に被弾。 もれなく光の粒子になって消えてしまった。

 

 

「山田ー!」

 

 

とうとう彼以外の味方は全滅してしまったらしい。 ボッチ撮影。

 

 

「また僕以外全滅です! でも撮影は続けますよ! 生きている限り!」

 

 

でも声は溌剌としている。 臨場感溢れる戦場風景を頑張って実況しているのだろう。

 

 

「敵は圧倒的です! よく分からないロボットや、戦車を繰り出してきます! ああ! 名も知らぬ味方さんが死んだー!?」

 

 

前方では、コンバットフレーム《アサルト》に蹂躙されるプレイヤーたち。 マシンガンで撃たれまくって、光の粒子になって消えている。

他にも小型の戦車《ブラッカーE1》が何台か動き回っており、ズドンッと砲撃が始まれば、榴弾によりプレイヤーが吹き飛ばされては消えていく。

 

何とか撃ち返す者もいたが、火花を散らすばかりで歯が立たない。

 

 

「ああ! 空にヘリが!」

 

 

今度は空を映し出す。

そこには追い討ちをかけるように、ヘリが2機やってきて、地上にミサイルや無誘導弾を落としては爆炎を上げに上げまくっている映像。

その度にプレイヤーの群れが噴き出し花火の如く舞い上がって消えていき、残りは機銃掃射で掃討されるシーンが映った。

 

 

「コレは……ココも危ないですね! でも後退しませんよ! しても、包囲されてますし!」

 

 

大袈裟に騒ぎながら、今度は後方を映し出す。

味方の後ろ姿が無数に映る中、奥の方では爆発が起きているのが見えた。 包囲されていて前も後ろも戦場なのだ。

 

 

「誰か助けてー!」

 

 

わざとらしく、元気そうに助けを求める彼。 本当に助けを求めているワケじゃないので、返答は期待していなかった……のだが。

 

 

「スプリガンが援護しよう」

 

「へ?」

 

 

空から、返事が来た。

大人びた、女性の声だ。

 

思わず実況も忘れて、声のする方へ見やるセイン。 そこにはSFチックな、だけど服のような……戦闘服には見えない軽装な格好に、ヘルメットに身を包んだ女性兵士達が4人飛んでいた。

 

背中には飛行ユニットがあり、手にはSFチックな武器。 銃には見えない……中世の武器のような、とんがった見た目の《パワーランス》を持っており。

他の3人は少し大きな光学銃なんだろうなと思わせる《マグブラスター》を装備。

 

腕や足は細くて白い綺麗な素肌を晒し、胸の膨らみやリップの潤いは情欲を誘う。 引き締まったボディはアイドル体型。 実にお姉さん。 スカート部分も女性らしさを感じられて素晴らしい。

 

シュタッとセインの前に、華麗に着地。

フワリとスカート部分がめくれれば「それ、パンツじゃね?」というくらいの短パン(?)が丸見えに。 普通に立っていても見え見えだが。

 

そう。 彼女らはEDFの、女性のみの兵科《ウィングダイバー》であり。

精鋭である《スプリガン》隊である。

 

空からアメージング。 ビューティフル。 ディスティニー。 そしてヒップ!

実況中に美味しいネタが舞い降りた!

 

 

「親方ァ! 空から女の子が!」

 

「うん? 君以外いないようだが……ふざけてないで、闘うぞ」

 

 

そう言うと、セインの言葉を待たずに彼女らは再び空へ上がり、駆け抜けた。 もれなく背後からのパンティー……じゃなくて、短パンが撮影されてしまう。

 

そんな事はつい知らず、彼女らは、ヘリが暴れる前線へと飛んでいく。

ヘリより上の高度で飛んでいくと、隊長格の人が急接近。 手に持つランス先端からビームを出すと、ヘリは貫かれて空中爆発。 大破した。

他の3人は、地上からの弾幕を踊る様に回避しながら、手に持つ銃からビームを出して反撃していく。

コンバットフレームは確実に装甲を削られていき、とうとう爆発。 動かぬ鉄屑と化した。

 

 

「おお……凄いです。 我々プレイヤーに撃たれまくってもビクともしなかった、手強い兵器をどんどん倒してくれてます!」

 

 

そんな光景を映像に収めつつ、セインは89式を握って前進を決意。 更なる美味しい映像を求めて!

 

 

「ひょっとしたら、ポロリもあるかも知れません! コレは前進して彼女達の活躍を見つつ、その瞬間を待ちま「おにーさん?」あ、やば」

 

 

だがしかし。 そんな事を聞かれているとは知らず。

いつの間に戻ってきたスプリガンの隊員に、優しーく声を掛けられてしまった。

 

事情を知らない人がここだけ聞いたら、大抵の男は堕ちてしまうだろう。

セインの目の前にて、スタイル抜群のお姉さんが、カメラ目線に微笑んでいる。 怖い。

 

 

「あ、いや、お姉さんの勇姿を見ようとしたんですよ?」

 

「へぇ? じゃ、地上から援護してくれないかな? 具体的には囮で」

 

 

親指を立てて、レクチャーで背後を指すお姉さん。 その先には戦車やらクローンの大群やらがドンパチしているのが見えた。

ひとりで倒せるような数じゃない。 突っ込んだら、まず死ぬのは確定である。

 

 

「いやー、僕ひとりじゃ」

 

「あら。 ポロリを見たいんじゃないの? ワンチャンあるかもよ? それとも、ココで死んでみる?」

 

 

ガチャ、と銃口を向けられるセイン。 撃たれて死ぬよりも、別のナニかの恐怖を感じて、思わず身を震わせた。

あ、ヤバい。 前線に突撃して死んだ方がマシだわ、と。

 

 

「喜んで囮になってきますです、ハイ」

 

「よろしい」

 

「みんな、僕の死に場所が決まりました。 後の世に生き残る事があれば伝えて下さい。 不器用に生きた、男の生き様を!」

 

 

引き攣った表情を浮かべながら、セインは格好付けた言葉を吐いて、89式と共に突撃を敢行。

 

雄叫びを上げながら、それっぽく走り始めるも、

 

 

「ウオオッ、オオッ!?」

 

 

即バスン、と頭に被弾。 光の粒子になって消えてしまった。 あっという間だった。

銃撃戦でイキナリ死ぬのは珍しくないのだが、なんというか……彼は残念な終わり方の部類な気がする。

 

 

「まあ、プレイヤーだし。 《死に戻り》してくるでしょ」

 

 

後に残されたお姉さんは、それだけ言うと、前線へと舞い戻る。

ただ次に会うとき、また変な事してたら、撃ち殺そうかな、と物騒な事を思いつつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軍曹チームは駐屯地内部まで侵入し、シールドベアラーや転送装置……テレポーションアンカーの制圧に成功。 増援を防いだ。

ところが指揮官と思われる者はいないし、資料もない。 挙句に戦闘は停止する気配を見せない。

 

外に出た途端、今度は感情なき人形達が軍曹チームにひたすら群がり、ただただ銃弾をばら撒いている様はホラー映像。

駐屯地を守るワケでもなく、ただ目の前の敵に撃ちまくる。 弾が切れても突撃してくる。 武器を壊してもやってくる。 片腕や片足を欠損しようが、お構いなしに、無感情に。

這ってでも近寄って殺そうとしてくるから、もうゾンビやロボットに近い。 或いは人形のソレか。

 

 

「なんだよコイツら!? プライマーの歩兵部隊よりタチ悪いぜ!」

 

「死ぬのが怖くないのか!?」

 

「人形だ。 感情なんてないんだろうよ」

 

「どこから湧いて来たんだ!?」

 

 

軍曹達は建物の角から応戦。 《PAー11》ライフルをフルオートでばら撒けば、密度が高い為にバタバタと倒れゆく。

だがそれ以上に、敵はやってくるし、息のあるモノは這いながら寄ってきた。

 

自身の片足を、倒れた場所に置き去りにして。 断面はGGO特有の赤い被弾エフェクトを煌めかせ、無感情に這ってくる。

 

 

「う、うわあああ!?」

 

「戦時中もそうだったがな、女の形をしてる所為で気持ち悪さ倍増だよ!」

 

 

悪感を感じ、感情持たぬ人形達に身を震わせる。 それでも生きる為に彼らは撃ち続けた。

いつのまにか、足下に這ってきたヤツに足を掴まれたが、蹴り飛ばしたり銃床で頭部を殴って息の根を止める。

 

無感情のクローンは、死しても無感情のまま。 それが、また動き出しそうな気がして……気持ち悪さに思わず蹴り飛ばしてしまった。 それでも尚、表情を崩すことはない。

 

 

「数が多過ぎる」

 

「《タイタン》に《レールガン》まで来やがったぞ! 年貢の納め時か?」

 

「人形にもビークルが扱えるのか」

 

「退避ッ!」

 

 

敵のビークル……重戦車の《タイタン》や強力な威力と貫通力を誇る新兵器《レールガン》まで視界に飛び込んできた。 歩兵相手でも容赦がない。

 

砲撃を喰らって生きている望みは薄い。 直ちに軍曹が指示を出してこの場から全力で走り出す。

 

それと同時に主砲は仲良く軍曹の隠れる建物に照準を合わせる。 刹那、激しい爆音。

 

ドゴォオオオンッ!!

 

 

「うおおおっ!?」

 

「あぶねっ!?」

 

 

凄まじい轟音と共に、建物は巨大な爆炎に包まれ、跡形もなく吹き飛んだ。 防ぎようがないレベルに感じられる威力だ。

 

だが間一髪。 皆は衝撃の余波で吹き飛ばされつつも、爆煙に紛れて別の建物裏に隠れる。

センサーでバレているだろうが、次弾発射までラグがあるし、見えない敵に正確な狙いを定める事は出来ない。

だがどちらにせよ、ピンチである事は変わりないだろう。

 

そも、歩兵の武器……《PAー11》ライフル等の小銃弾で、どうにかなる相手ではない。 装甲は分厚く、武装に至っては歩兵の火力の比じゃない。

タイタンの主砲《レクイエム砲》はビルを吹き飛ばす威力があるし、《レールガン》は貫通力が高く、建物の裏にいてもダメだ。

主砲から逃れる為に接近しても、今度は副武装の榴弾射出器やマシンガンにやられてしまう。

 

 

「さあ、どうする?」

 

「逃げる場所なんてないぜ」

 

 

絶体絶命。 これまで幾度となく修羅場をくぐり抜けてきたが、最早これまでか。

 

だが忘れてはならない。 EDFは彼らだけではないことを。

 

 

「おい! ありゃ味方か!?」

 

 

ヘリのローター音と同時、空を見やれば大きな武装ヘリが。 左右に大きな機関砲が飛び出ており、重厚そうな装甲に覆われているように見える。

 

敵か味方か。 それは次の無線で答えが出た。

 

 

『こちら《HU04ブルートSA9》の《ホーク・ワン》! 《STORMー02》の回収及び援護に来た!』

 

 

やってきた大型武装ヘリ《HU04ブルートSA9》……味方が来てくれた!

 

それは大型武装ヘリコプターブルートの最終作戦仕様。

大きな兵員輸送ヘリを思わす機体の左右には大きく突き出た黒い筒棒……重機関砲《ドーントレスSA重機関砲》を装備。 高い貫通力を持つ徹甲弾を発射する。

その為、装甲を持つビークル相手でも効果的な攻撃を望める、耐久力も合わさり空の要塞ともいえる頼もしい存在だ。

 

敵であったならば、絶望のひとつになり得たが、味方ならば大きな戦力。

 

パイロットと銃座に着く者で、計3名の搭乗が可能であるが、大きいので押し込めば後ろに4人は入れる(たぶん)。

 

 

「ついてる! 早速、ビークルを優先的に攻撃してくれ!」

 

『…………すまない、銃座に誰も着いてないんだ。 乗り込める高さでホバリングするから、後は乗り込んで好きなだけ撃ってくれ』

 

「おいおい!?」

 

 

期待外れの言葉を返されてしまった。

 

軍曹達は支援を期待したのだが……悲しい事にパイロットしかいないらしい。 ブルートのパイロットは攻撃手段を持たず、操縦のみしか出来ないのだ。

機関砲は機関砲で銃手が必要。 つまり、今のブルートは空飛ぶだけ。 下手すりゃ棺桶。

 

 

「分かったから降下してくれ! ココにいたら殺される!」

 

『広場に降りるから、周囲の敵を減らしてくれ。 危険だ』

 

「既にやってる!」

 

「とにかく撃て! ヘリに取り憑かれるワケにはいかない!」

 

 

前方の広場に降下していたヘリを援護するべく、フルオートで撃ちまくる面々。

EDF謎の技術による……ワンマグ3桁の装弾数を誇る箱型弾倉から押し込められて放たれる無数の弾丸は、情け容赦なく広場のクローンを倒していく。

 

それでも数は一向に減らないが、それでもなんとか、ヘリの降下ポイントは確保した。

 

それを空から確認したブルートは、ゆっくりと降下。 軍曹達も合わせてヘリの降下ポイントに前進していく。

 

 

「前進! 素早く乗り込め!」

 

「イエッサー!」

 

「《タイタン》と《レールガン》にバレました! マズいですよ!?」

 

「俺が《ドーントレス》で破壊する! 他はクローンの相手を頼む!」

 

「了解!」

 

 

ゆっくりと降下してきたヘリだが、地上すれすれでホバリング。 離陸時間、退避時間を短縮する為だ。

激しいローター音と共に砂埃が逃げるように舞うが、その風圧に逆らいながらブルート側面のスライドドアを解放。 乗り込んでいく軍曹チーム。

 

そして彼らを追い掛けるように、周囲の構造物を破壊しながら巨大なデザートタンカラーの重戦車《タイタン》や、青いボディの戦車……《レールガン》がやってくる。

だが照準が定まっていないようで、まだ少しながら時間があった。

副砲の滑空砲やマシンガンで攻撃してくるが、ブルートは大きさから被弾する事を想定しているからか、それなりに堅牢だ。 機体を揺らされながらも、何とか耐えてくれている。

 

このチャンスを逃す軍曹ではない。

戦場では、一瞬の時間が生死に直結する。

 

素早く電子機器越しの操作板……銃座につくと、彼方より先に照準をつけてトリガーを引いて、

 

 

「撃たれる前に撃て、だ!」

 

 

刹那。

 

 

ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!

 

 

激しい砲撃音が鳴り響き、大きな機関砲の銃口から相応のマズルフラッシュ。

歩兵の持つ機関銃と比べると、連射性に欠けるが、それを補って余りある威力の弾丸が放たれる。

 

大きな徹甲弾はレールガンに3発直撃。 レールガン程の貫通力はなくとも、装甲を貫くには十分で、車体に大穴を開けていった。

大きく車体を揺らしたと思ったら、反対側に弾が抜けて、地面に着弾。 大きな砂埃を立てる次には車体が爆発。

レールガンは獲物を仕留める事なく、物言わぬ鉄屑と化す。

 

だが、その間に《タイタン》が主砲を動かして照準を合わせてきた。 このままでは、向こうが先に撃ってしまうが、

 

 

『離陸する!』

 

 

パイロットがフルスロットル、操縦桿を横に動かした。

機体の方向が変わり、砲口の先も変わる。 その先には次なる標的、《タイタン》が。

 

気を利かせ、砲口を動かさなくても《タイタン》に合うように回転させたのだ。

すかさず軍曹はトリガーを引き続け、相手の大きな車体に撃ち込むが、

 

 

「流石に堅い!」

 

 

大きな火花を散らしまくるも、破壊しきれない。 装甲にダメージを与える事は出来ても、タイタンの耐久力は高い。

 

ブルートが空の要塞なら、タイタンは陸の動く要塞というべきか。 ドーントレスは強力だが、2、3発喰らわせたところでタイタンは倒せない。

パイロットも相手の主砲が放たれる前に倒せるとは思っていない。

だから退避する目的で滑空するように離陸。 パイロットは操縦桿を全力で倒す。

 

 

『間に合え!』

 

 

だがブルートの機体は大きく、機動性は他と比べると低い。 間に合うかどうか怪しかった。

それでも射線から逃れようとヘリを傾け続ける。 少しでも生き延びる可能性に賭けて。

 

そして、

 

 

ドゴォオオオンッ!!

 

 

「うおおおおっ!?」

 

 

タイタンの《レクイエム砲》が炸裂。 眩い光と砲撃音が雷鳴の如く戦場に響き渡る。

あまりの反動に、タイタンの巨体は履帯を地面に擦りながら後退する程。

だが肝心の砲弾は、ブルートが先程までいた空間を擦り、後方へと飛翔。 そのまま遠くで着弾すると大爆発。

その周囲にいた、運の悪いプレイヤーとクローン部隊が吹き飛んでしまった。

 

 

「ま、まだ生きてる」

 

「運が良い」

 

「まだだ! 離陸急げ!」

 

 

軍曹は叫びながら、タイタンから群がってくるクローン部隊に照準を直し発砲。 何人ものクローンが纏めて被弾、バラバラになるも勢いは止まらない。

部下も空席の、反対側の銃座についてクローンに撃ちまくる。 余った者はスライドドアを開けて、左右それぞれに付いて小銃で援護射撃。

 

一方、外したタイタンはもう一度照準を合わせ直しているが、恐らく次弾も外す可能性が高いだろう。 特に空を飛んだ相手に対しては。

 

《レクイエム砲》は元は軍艦用。 それを戦車で運用出来るよう、砲身を短縮している。 だが、その影響か弾速が遅い。

そして砲手が地面ではなく、宙に浮く標的を「撃ち墜とす」ように撃ったのが、軍曹達が助かった要因に繋がった。

偏差射撃もしなかったから、余計である。 相手が未熟で助かった。

 

ヘリの高度が上がり始める。 こうなればコッチのものだ。 あとは安全な空から撃ちまくれば良い。

 

 

「よし、このまま地上の……ッ!?」

 

 

だが一難去ってまた一難。

離陸したと思ったら、低空にて機体が大きくバランスを崩し始めてしまった。

 

視界に映るは、縁に掴まる複数の手。

 

警報が煩く鳴り響く。 数が多過ぎて捌き切れなかったクローンが、ヘリに纏わり付いてきやがったのだ。

 

 

『振りほどけ! 墜落するぞ!?』

 

「くそっ! もう、ジャンプして届く高度じゃないだろ!?」

 

 

部下の1人が下を見やれば、恐ろしい光景が。

 

 

「ッ!?」

 

 

クローンがゾンビ映画のワンシーンみたいに群がり、自分達の身体で山を作り……互いに登り合いながら無数の手を伸ばしては、ヘリに掴んでいたのだ。

銃撃を喰らわせても無駄だと思ったのか。 ヘリの機動を奪って墜落ないし、自滅覚悟のビークルの援護か。

 

次から次へと、どんどん這い上がってくる。 素早く手を動かして仲間の身体を登る様は、虫が這ってくる様にも見えて気持ち悪い事この上ない。

 

 

「うわああ!? 落ちろ! 落ちろォッ!?」

 

 

そのホラーシーンに思わず悲鳴を上げるも、反射的にライフルを下方に構えて撃ちまくる。 生理的悪感もあり、必死に振りほどくべく容赦なく撃ちまくる。

 

銃口を左右に振り回して、滅茶苦茶に撃ちまくるが、数の暴力には勝てやしない。

縁に掴まるヤツを撃っても、補強を入れるように別の手が伸びてきてキリがない。

 

 

「ドーントレスは!?」

 

「砲身が長過ぎて、横に取り憑いたヤツに対処できん! 砲身の旋回速度も速くないし、射角も取れない!」

 

『もう良い! 何とかドアを閉めろ! 墜落に備えるんだ!』

 

 

諦めて、射撃を止めてドアを閉める。 墜落も視野に入れ、生存性を高めようとした時。

 

 

『うおっ!?』

 

 

ヘリが再びバランスを崩し、大きく揺れた。 パイロットが最後まで足掻こうとした意地からか、操縦桿でバランスを取ろうとして……容易に動かせる事に気がつく。

 

 

『なんだ? 振りほどけたのか』

 

「人形の山が崩れた!」

 

「ラッキーだな」

 

 

下をドーントレスのガンカメラ越しに見ていた者は、山が崩れるのを見やり、勝手に自滅したと思った。 まだ何人かはこびりついているが、飛行に問題はない。

だが軍曹は渋い顔を保ったまま、言葉を述べる。

 

 

「400メートル以上離れた丘で閃光が見えた。 それに横殴りにしたかのように、クローンが吹き飛んだ……恐らくアンチマテリアル・ライフルによる援護射撃だ」

 

 

軍曹が冷静に分析、予想。

下方のみならず、周囲の戦場をも見ていた彼は、名も知らぬ味方に助けられた事を悟る。

 

 

「《ブルージャケット》か?」

 

「……プレイヤーかも分からん。 なんにせよ、助かった」

 

 

名も知らぬ味方に感謝しながら、ブルートは高度を上げつつ、プレイヤーの援護に向かう。

そんな光景をスコープ越しに青髪の子や《SHINC》のトーマ、《KKHC》のシャーリー、羆みたいなエムは確認。 口角を上げると、再び円盤を相手にする。

他の狙撃兵も全く同様の光景を眺め……そして、皆一様にトリガーを引いて人形の山吹き飛ばしたのは、本当に偶然であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《NSS》という、「各戦場で死んだと思われた者たちが神秘的な力で未来に飛ばされて、そこで出会い、いつか戻れる日を夢見つつ、一緒に戦っている」というロールプレイ及びコスプレを楽しんでいる連中もまた、この《GGDF事件》に参戦。

野次馬で、精々拳銃を振り回して囮になっている群勢よりかは役に立っていたが、

 

 

「突撃だ! 突撃あるのみ!」

 

「冷静になれ。 塹壕に身を隠すんだ」

 

「我らの同志、味方のEDFも来てくれる。 耐えるのだ」

 

「生きてこそ得られる栄光をその手に掴むまで、その命……俺が預かる!」

 

「くっ……!」

 

 

ノリノリで状況を楽しんでいた。

この作戦に参戦しているプレイヤーの数は凄まじい。 サーバーが大丈夫かどうかは考えないが、祭りとは興奮するものだ。

特に世界大戦時のやり方というか、EDFの砲兵隊が歩兵の為に砲撃して弾幕戦法をやってくれたり、皆で突撃したりするのは大変興奮する。

勝つとか負けるとか、そこには求めていない。 楽しめれば良い。 そういう意味では、彼らは最も状況を楽しみながら闘っているといえる。

それと、勝手に味方のEDFを同志扱いしているが、それはEDFが異世界からやって来て、この荒廃した世界の為にドンパチしてくれているという話を聞いたからだ。

彼らの設定的にも、その話は琴線に触れたらしい。 まあ……別にEDFとしてもGGOとしても、それ程害は無い。 彼らが楽しそうで何よりです。

 

 

「今はこの場を死守するのだ!」

 

 

そう言って、突撃してきたクローン部隊に発砲。 新旧の銃がマズルフラッシュを出しながら、人形を倒していく。

この様も、どこか世界大戦時の防衛陣地に突撃する兵士と対峙しているみたいだ。 野郎どもは興奮し、咆哮を上げた。

 

 

「相手は死ぬ気で突っ込んでくる!」

 

「撃て! この陣地を守るのだぁ!」

 

 

何だかんだ、善戦するコスプレ野郎ども。 SJでは特筆する戦果がなかったので、それと比べたら、彼らは役に立っている。

 

だが、

 

ドゴォオオオンッ!!

 

 

「ウギャアアアッ!?」

 

 

次には大きな爆炎に飲み込まれてしまった。

 

駐屯地からやってきた《レクイエム砲》の砲弾が近くに着弾して……陣地が吹き飛んでしまったのは運が悪いと言わざるを得ない。

ただ、SJと異なり《死に戻り》して来れるので、まだまだ活躍の機会はあるだろう。 たぶん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ? コレの使い方教えて欲しいんだけどぉ?」

 

 

薄暗い、駐屯地格納庫にある《コンバットフレーム A型》の前にて。

そこには両頬にタトゥーを入れた、長身の女……ピトフーイと。

倒れ込んだアイドル体系の女……オペレーターだったクローンが。

傷だらけで、半裸の状態だ。 にも関わらず、遠慮なくピトフーイは蹴り飛ばした。

苦痛を与えやすいようにか、服を脱がされて素肌を晒されたらしい。 既に何度も蹴られたのか、綺麗な身体には赤いエフェクトが煌めいていた。

それでも苦痛の表情も浮かべず、感じ取れるのは虚無の世界だけ。

 

 

「あんた、ワンちゃん達とは違って本物でも偽物でもなさそうだけど……痛みも感じないのかな?」

 

 

今度は《XD拳銃》の銃口を女性の大切な場所……子宮あたりにある、赤いエフェクト内に突っ込んだ。

グリグリとねじ込む様にした銃身は、クローンの内側へズプズプと入っていくが、それでも悲鳴も上げなければ表情を崩すこともない。

 

 

「はあ……ダメかー。 クローンらしいけど、喋る機能もないのかな」

 

 

はぁ、と残念そうに溜息を吐く。 そして、ねじ込んだままトリガーを引くピトフーイ。

バンッと発砲音が狭い室内に響き渡れば、反動で銃身がズボッと抜ける。

撃たれたクローンは、身体を一瞬撼わされた。 尚も表情崩さぬソレは、生きているのか死んでいるのか判断が出来ない。

 

 

「人形遊びをしている間に終わったらツマラナイから、もう良いわ。 そこで死んでなさい」

 

 

ピトはオモチャに飽きた子供のように、クローンを放置。

コックピットハッチが開いた機体に乗り込むと、中の椅子に座って、手探りで操作盤のボタンやレバーを動かし始めた。

 

 

「武装は……右手に機関銃。 左手にロケット砲。 口径は分からないけど、威力は歩兵の比じゃないでしょうね。 弾薬は……ある! 助かるわぁ……起動シーケンスとやらは……もう終わらせてあるのね。 うーん。 ハッチ閉鎖はコレかな……おおっ、正解! 私ってついてるぅ!」

 

 

訓練も受けてないにも関わらず、コンバットフレームのハッチを閉めたり、銃をしっかりと構えるピト。

狭い空間内を埋め尽くす無数の電子機器が放つ淡い光と、外部を写すカメラ映像の光源がピトの視界に情報を次々に与えていく。

どうやら、動かせそうだ。 操作は複雑な筈なのに、それを直ぐに理解していくピトは、運が良いのか天才か。

 

 

「そんじゃ、いっきまーす!」

 

 

ぶざけた声を出しながら、格納庫の扉にロケット弾を発射。 派手に吹き飛ばして外への出口を確保する。

そのまま、ガシャンガシャンと脚を動かして外へと出て行く《ニクス A型》。

問題を起こしそうなヤバいヤツが、EDFの兵器を操り戦場に出て行ってしまった。

 

そんな時。 無線から見知らぬ声が。 味方のEDF隊員らしい。

 

 

『全兵士へ! 直ちに戦闘を停止せよ! 繰り返す! 戦闘を停止せよ! 無抵抗の敵兵士への攻撃を禁ず! 聞こえんのか!! 攻撃を止めろ!!』

 

「へ? なに!? 戦争終わり!?」

 

 

悲しい事に、ドンパチが何らかの原因で終わってしまったらしい。

そのかわり、無線から察するに停戦命令を無視している者がいるようだ。 恐らくプレイヤーである。

 

 

「じゃ、正義の名の下に、プレイヤーキルして良いわよねぇ!?」

 

 

新しいオモチャを試したいピトは、そのまま銃口を構えて歩みを止めない。

彼女もまた、言う事を聞かない人物であったが……無抵抗の敵を殺し続けるプレイヤーも悪いので、ココは制裁を加えて貰おう。

 

かくして。

戦争は一先ず収束していく方向に向かったのだが、ワンちゃんの件が片付いていない。

この後、一部プレイヤーはグロッケンに戻り、再び戦闘に巻き込まれる。

そして本当の敵と対峙し、別れを経験していくのだが、それはほんの少し先の話だ。



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終戦の間際は敵ばかり。

不定期更新中。 駄文と違和感を感じつつ、それでも終わらせるべく……。


 

 

「申し開き、あるかな?」

 

 

グロッケン地下にて。

レン達が駆け付けた後、俺は何故か針のむしろな状況下。

グレ男によってボロボロになった暗闇に浮かぶは、虹彩のない大きな瞳。

その恐ろしい眼には、フルフェイスヘルメットに、防弾着、背中に通信ユニット姿の俺が囚われている。

抵抗することなく、正座姿で。

…………本来可愛い瞳は、今や俺を閉じ籠める冷酷な牢獄だ。

嗚呼、何故こうなってしまったのか。 愛する娘に責められるのも初めてではないが……今回は完全に冤罪だ。 俺は悪くない。

俺は正座の姿勢から、愛娘……レンの顔を見上げて訴える。

幼女相手に叱られている格好は情けない姿であるが、真実を伝えねば。

争いを避ける為の妥協は必ずしも平和的解決になるとは限らないからだ。

その中に含まれる嘘や優しさが相手に伝わる保証はなく、向こうの妄想を肯定する結果になる場合がある。

その行き着く先は想像の域から出ないが、最悪は自身の存在すら脅かされると考えた方が良い。

 

場合によっては物理的に。

 

だから反逆しよう。

心苦しいが、身を守る為だ。 それを悪とし否定するのは個人の自由だが、誰も傷つかない世界はない。

何故なら人の感性には個人差がある。

良かれと言った言葉が相手を傷付ける事もあるし、その逆もある。

大切なのは自分がどう思っているかより、相手がどう思うかを考える事だ。

そして発言し、行動しなければならない。

ひとつの言葉と行動に絶対の正解と間違いはなく、互いの答えは別々に用意されている。

そのくせ、常に責任が付いて回ると思うと厄介極まりない。

面倒だが、それがまた、人の良いところでもある。 個性は大事。

だがな、自分自身の存在を否定され、自虐し、苦しんだところで相手や世界が変わる事はないんだ。

ましてや今回は誤解である。

さあ、真相を伝えよう。 彼女に理解を求める為に。

 

 

「グレ男に制裁を加えるべくだな」

 

「そうやって人のせいにするんだ?」

 

「すいません」

 

 

冷たい言葉で熱が冷めた。 レンちゃん本当怖い。

 

だって、仕方ないじゃないか。

 

可愛い姿とのギャップが恐怖を増幅させてるんだもん。 俺は悪くないのに!

嗚呼、ゴミを見るような目で見ないで。 パパ哀しい。

あと怖いので、出来ればその態度ヤメテ。

 

 

「どうして本人がいないの? 確認取れないんだけど。 その間はワンちゃんに容疑がかかるんだよ…………正直に白状して? 痛くしないから」

 

「ソレ、殺さないって意味じゃないよな? 即死的な意味だよな!?」

 

「ウフフ♪」

 

「勘弁して下さいお願いします」

 

 

ピンク色のP90……ピーちゃんを向けられ、直ぐに土下座。 頭を垂れる。

いや、仕方ない。 いろいろ。

真実を伝える前に殺されるかも知れないからな。

でもね、違う。 違うんだ。 誤解なんだ。

俺は悪くない。 悪くないが、頭を下げる。 相手を逆撫でしない為には、形が大切だと思うの。

レンの機嫌次第では、俺は死ぬ。

プライドとか下らないモノにすがっている場合ではない。

先ずはご機嫌取りだよ。 嗚呼、幼女相手にナニしているんだ。 我ながら哀しくなってくるよ……。

 

 

「顔上げてよ。 土下座して欲しいワケじゃないし。 それと話してる時は、わたしの目を見て」

 

「分かったから、銃口の先で小突くの止めてください本当に」

 

 

ヘルメットをピーちゃんの銃口部分でコンコンと小突いてくるレンちゃん。 その都度、頭が軽く下げられ、ヘコヘコ謝っているみたい。

もうね、怖い。 怖い以外無い。

下手すると地底より怖い。

相手の目を見て話すのは大切だと思うし、それは礼儀だろう。 状況によっては喧嘩売っていると思われるが……。

だけどね、今回は正直怖いです。 見たくないです。 喧嘩する前に負けてます。 虹彩のないドロドロした瞳とか、いろいろと。

でも言う事聞いちゃう。 死にたくないから。

いくらEDF製アーマーやフルフェイスヘルメット越しでも、至近距離からP90を、それも『首』とか、防護が弱いウイークポイントにフルオートされたら……うん。 死ぬ。 中身入りヘルメットが床を転がりかねん。

トリガー下部にあるセレクターがどうなっているか見えないが(見たくないが)、たぶん、怒りのフルオート。

あーもう顔上げ笑え。 英雄が闘う最前線(笑)だ。

 

 

「じゃあ納得いく話をして。 どうしてこうなったのかを」

 

 

そういうと、銃口を向けたまま、小さな左手を振ってみせるレン。

ナニかが溶けたモノや、壊れた机や椅子、麺類を床にぶちまけたように散乱するケーブルが見える。

……それと、俺の弾切れを起こしたセントリーガン。 ウィンウィンと左右に首を振っている。 虚しい。

 

 

「だからだな、グレ男が暴れて」

 

「ワンちゃんも関わったよね」

 

「事情があった」

 

「へー。 女の人を裸にしなきゃいけない事情が?」

 

「逆にそれだけで済ん……イテッ」

 

「事と返答次第じゃ、撃つよ?」

 

 

俺を蹴って、恐ろしい発言をされた。

もう、ナンデそんなに怒っているの。 why?

そんな疑問を他所に、別の方向を指差すレン。

釣られて見やれば、気絶したオペ子、それと何人ものクローン達。

女性だと分かるアイドル体系の身体に、同じ綺麗な……だけど無表情な顔に虚ろな目。

その内の1人は大きなバスタオルを巻かれて大切なところを隠している。

その隣にいるもう1人の娘、フカが巻いてあげたらしい。

やる事やって、今はコチラを見守っているが……苦笑いするばかりで助けてくれない。

他の者たち……クローンもそうだが、駆け付けたストームチーム(軍曹チームがいないのは幸か不幸か)の面々もだ。

ああ、止めろ。 そんな目で見るな。 ヘルメット越しでも分かる。 俺を蔑むな。 無罪なんだぞ俺は。

今や俺は、制裁を下す側ではなく下される側に成り下がった。 さながら、公開裁判といったところか。

で、あれば弁護人がいなければならない。 つまり……だれかたすけて。

 

 

「……アレは、レン達が駆け付ける前だ」

 

 

だが振り返れば、味方のいない状況なんて戦時中に幾度となく経験したじゃないか。

その度に乗り越えて来れた。 きっと、今回も乗り越えられる。

どんな時でも希望は必要だ。

俺は正座のまま、弁解を始めた。

駄目だ、弱気になっては。 ちゃんと説明すれば分かってくれる筈。

反逆しろ……! 例え娘相手でも、理不尽な状況下でも、胃が痛くても!

そも、戦後処理も残っている。

そう再度決意し、事の経緯の話をしていく。

勿論、嘘偽りの無い、ありのままの話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう。 アレは皆が駆け付ける前。

連絡途絶した本部に、グレ男が関わっていると察した俺は、戦場をプレイヤー達に任せてグロッケン地下に戻ったのだ。

だが俺が辿り着いた頃には戦闘が終了しており、見るも無残な光景が広がっていた。

クローンの遺体に囲まれる上半身裸のグレ男、そして半裸のクローン、気絶するオペ子……。

この暴力と肉欲を満たさんとする強欲のヒャッハー空間。

元の世界でも見た光景に、俺は全てを悟る。

 

犯人はグレ男。

 

刹那、堪忍袋の緒が切れた。

今までの鬱憤を晴らす時だとして、俺はグレ男に叫んだ。

向こうも吠え返し、《PAー11》アサルトライフルによる銃撃を浴びせてきて……そこからドンパチに発展した、というワケだ。

 

 

「先に手を出したのは向こうだ。 その子も既に裸だったんだ」

 

「普通、銃撃戦で裸になる?」

 

「グレ男の足下に強酸を発射する銃《アシッドガン》の残骸が転がっていた。 恐らくソレの所為だな」

 

「グレ男さんが酸で防弾着だけ、溶かした? そんな器用な事ある?」

 

「パパ……どっかの薄い本じゃないんだから」

 

「やっぱ、ワンちゃんかグレ男さんか。 どちらにせよ、見た時点で重罪だよ」

 

「女の敵!」

 

 

早速オカシイ方向に向かう。

見たら犯罪なのか……事故でも駄目なのか?

いや、まあ、女性は色々と気にすると言うからな。

クローンがどう思っているか、あの表情からは読み取れないが……いや、なんか冷たい目が責めているように感じるが……。

いや……諦めるな。 諦めたら終わる。 いろんな意味で。

本部も戦争末期、言っていたではないか。 希望は必要だと。

 

 

「見たくて見たワケじゃない」

 

 

正直に言う。 決してやましい気持ちがあってココに来た訳じゃないと。

すると、スラッとしたおねえさんな、飛行ユニットを背負うスプリガン隊の隊長と黒い強化外骨格に身を包むグリムリーパー隊長に冷めた口調で返された。

合わせて女性陣の金髪幼女なフカも。

 

 

「潔く罪を認めろ」

 

「これで世界を救った男。 笑えるな」

 

「サイテーな部類だからね、ソレ」

 

 

嗚呼、酷い。

空飛ぶ揚陸艇やテレポーションシップに囲まれてるより酷い。

てか、グリムリーパー隊長。 アンタ男でしょ。 ナニ女性陣の味方してんの。

俺の味方は俺自身しかいないのか。 地下空間なのにエアレイダー単騎で闘うしかないのか。 状況は最悪じゃないか。

 

 

「俺は正直に言って、イテッ」

 

「ワンちゃん……ゴメンね。 もっと躾けておけば良かった」

 

 

レンに再度蹴られた。 心まで痛い!

ココはもう、見てしまって御免なさいと言うべきか?

正直に言えば、ドンパチに集中していてそれどころじゃなかったし、やましい気持ちなんて本当になかったのだが、周りが納得しなきゃ延々に解放されそうにない。

それと気になるコトがあるが……レンが特に殺気立っているのは何故だ。 乙女心は分からない。

だが論点をズらすつもりはない。 したら、余計に反感を買いそうだ。

俺は様子見をするべく、受け答えを行う。

ナニはともあれ、俺の命を繋ぐコトに集中しようそうしよう。

 

 

「…………アーマーが溶け始めて、直ぐに脱いだのだろう。 使用者はグレ男だと思うが……本人はドサクサに紛れて逃げたようだしな」

 

「なら、別の人に確認だね」

 

 

そういうと、レンがアイコンタクトでフカに指示。 フカはジト目のまま、隣のバスタオルなクローンに質問していく。

いや……話し掛けても答えられないんじゃないか?

ナニかプロトクルがあるかも知れないが、この子達が話しているところを見た事がないぞ。

 

 

「答えられないと思うが」

 

「ちょっと黙ってよーか?」

 

「アッ、ハイ」

 

 

レンに銃口を、首元に押し付けられた。 痛い。 心なしか、怒りが増した気がする。

ああ! グリグリしないで! ホント痛い!

失言だった!

アレだ。 「辛い事を話せるワケないだろグヘヘ」みたいな発言に聞こえたのかも知れない。 やっちまったか。

そう考えると、今の俺って最低な男に見えているのでは?

嗚呼。 俺は今、様々な苦境に立たされているよ。

そんな光景に目もくれず、フカはバスタオルに質問開始。

無駄に終わると思うが、希望は必要だ。

 

 

「死んだ魚の目みたいな、おねーさんに質問。 目の前のヘルメット男にナニかされた? 大丈夫だから、おねーさんに話してみな」

 

「…………」

 

 

おい。 フカの方が余程酷い事言ってないか?

そして誰もつっこまない。 哀しいかな、個人差による反応が違い過ぎる。

それとも女の子だから? コレが男と女の違いか!?

戦前は男女平等と良く叫ばれていたが、コッチの世界ではないのか!?

取り敢えず分かった事は、俺の評価ってカナリ低かったらしい。

色々良くしてあげたのに……パパ、ショック。

そして無反応のバスタオル。 やはり無駄に終わると思っていたが、証言してくれれば無罪を証明出来たのに……無理か。

 

 

「レン裁判長殿ォ! 証人は精神的ショックにより話せません!」

 

「そう……仕方ない。 私の裁量で処刑するしか」

 

 

ファッ!?

サラッとトンデモナイ言葉が聞こえたぞ!?

へ、ナニ!? 処刑!?

 

 

「処刑は決定事項か!? 証拠不十分だと思うんだが!? "推定無罪"とかないのか!?」

 

「潔く散って」

 

「問答無用!?」

 

 

情状酌量の余地なし。

ドロドロした目のまま、ピーちゃんのトリガーが絞られ、『遊び』が死んだのを確認。 同時に俺の目も死んでいく……。

次にちょっとでもチカラが加われば、俺は死ぬ。 死ぬ一歩手前。

もう裁判関係ないよね。 打ち首みたいになってるよ。 刀じゃなくて銃だが。

だがココで、言いたい事があると察したのか。 レンが提案をしてきた。

ココを乗り切れるなら、受け入れようじゃないか。

 

 

「じゃ、選択肢をあげる。 このままピーちゃんのサビになるか、それとも」

 

「そ、それとも?」

 

「表に出て、ガンシップの攻撃を受けるか」

 

「死なない選択はないのか」

 

 

どこかで手に入れたらしい、コーティングガンを大きくしたような……腰に付いているビーコンガンをチラ見せしてくるレン。

どうあがいても死んで欲しいんですかそうですか。 そこまでの罪を俺は犯したのか。

だがな、一方的にシネシネ言われた挙句にあの世行きは御免だ。 やらなきゃいけない事も残っている。

ココはせめて、レンが殺気立っている理由だけでも知っておきたい。

俺は冷静に、静かに言葉を発しつつ語りかける。 これでレンがご乱心を止めて、平常心になってくれれば、突破口は見えてくる。

 

 

「…………なあ、レン。 何故そんなに怒っているんだ。 女性の裸体を見たのは罪深い事だとして、俺はそれに対して謝ろうと思う。 だが、俺を殺すほどの事なのか?」

 

「ワンちゃんは本物で、《ハラスメントコード》が効かないでしょ? すると、プレイヤーと間違いが起きるかも知れない。 そうでなくても、既に大会はメチャクチャだし大規模な戦闘まで起きてるし、この光景から、今後起きるであろう問題を危惧した結果。 手遅れになる前に処刑する事に決めたの……他にも色々、終わらせられそうだし。 うん、だから死のうか?」

 

 

虚ろな目で、それっぽい事を言うレン。

だがしかし。

そんなに俺を……殺す程なのか?

今までは兎も角、今回の件は俺というよりEDFの所為なのは、レンも分かっているだろうに。

クローンもGGO側ではなく、EDF側だ。 混種混合はしてないじゃないか。

やはり一応、聞いておこう。 答えを聞くのは怖いが、死ぬ前に知っておきたい。 絶望の淵に沈む前に。

 

 

「俺の事が嫌いか?」

 

「…………」

 

「ハッキリ聞きたい」

 

「…………わたしには、ピーちゃんがいれば良い、から」

 

 

ぷるぷる震え始める我が娘。

何故ココでピーちゃん? why?

そしてワケ分からず葛藤して、辛い想いをするレン。

どうしたものか。

チラリと、ヘルメット越しに周囲を見る。 クローン達は相変わらず棒立ちで、スプリガンとグリムリーパー隊は静観。

全てはレンの行動待ち。

そして、レンは自分がアクションしなきゃ、でもどうしようと悩んでいる。

だから、どうしたら上手く後腐れなく進められるか悩んで、止まってしまったか。

フカは……親友故か。 分かりきっているように、半分呆れつつも此方にウィンクしている。 「助けてあげて」のサインか。

まあ、こんな時、助けてやれるのはパパたる俺だろう。

仕方ない。 パパ、一肌脱ぐ……いや、諸肌を脱ぎ悪役となろう。

銃や装備品は使わない。 こうも接近していては、使う余裕もない。 《サプレスガン》を出す間に撃ち殺される。

ならば、やるのは素手による格闘戦だ。 苦手だが、娘と踊ってやろうじゃないか。

 

 

「レンのコトは好きだ。 だが殺されるのは理不尽。 このままアホな理由で死ぬ気は無い!」

 

「ッ!」

 

 

一瞬怯んだ。 今がチャンス。

ゼロ距離のピーちゃんを左腕で素早く払いのければ、レンの虹彩を取り戻した綺麗な、だけど驚きて丸くなっている目がハッキリ見えて。

刹那、左頭部側面で強烈な連続した閃光と複数の爆音。

だが銃撃を回避した今、構わずレンの右腕……ピーちゃんを持つ腕を掴んで捻る。

 

 

「うぐっ!?」

 

「どうだ!」

 

 

例えピーちゃんを落とさずとも、利き手の、腕の自由を奪われれば銃口は向けられまい。

そして必然と次に来る手は、

 

 

「駄犬がぁ!」

 

 

左手、もしくは足による抵抗。 或いは噛みつき。 外野からの野次は……考えたくない。

 

レンは少し遅れて何とかナイフを抜き取り、首元目掛けて斬りかかってきた。

レンが持つとナタみたいに大きく見えるな……いやしかし、容赦を知らない子兎だ。

だがな。 来るのが分かっていれば怖くない。

ましてや、利き腕を掴んでいれば。

 

俺は持ったままの右腕を軸にして、手間に引き寄せる。 その時の刹那の勢いで、

 

 

「ふっ!」

 

「がっ!?」

 

 

背負い投げの様に、その小さな身体を投げ飛ばす。

身長150cmに満たぬ小さな身体は180度、分度器の弧を描いてドシンッと床に叩きつけられた。 音がかなり痛そうだ。 HPもソレナリに削れたかも知れない。

我ながらエゲツないと思う。 側から見たら色々サイテーだ。 だがコレもレンの為なのだ。

 

…………いや、正直に白状しよう。

俺、死にたくなかったし。 取り敢えず目の前の銃口を消したかった。

正直に言う。 内心メッチャ怖かった。 失敗したら死んでたよ。

野次も飛んできたら、いよいよダメだった。 結構危ない橋を渡ったと改めて思う。 生きていて良かったと思うわけ。

とりま、次弾が来る前に説教モドキを垂れておこう。 口を開いている内は銃弾は飛んでこないだろう。 たぶん。

 

 

「何でも銃やらナイフやら武力に頼るな。 GGOでは当たり前なのだろうが、俺と会話しているつもりなら、そういうのは止めろ。

この世界がゲームなのと、そもそも命のやり取りですらないから奪い奪われても、《死に戻り》して笑い合い、友になる事もあるのだろう。

だがレン。 俺とお前、そしてピトとは殺し合わずとも、会話の中から友になれたじゃないか。 つまり、何が言いたいかというと、選択肢は1つじゃない。

1人じゃ決められないなら、俺が助けてやる。 俺がダメならピトでも、それこそ親友のフカやエム達に頼れ。 1人で悩むな。

お前の本当の望みは何だ。 言いたい事も言えてないじゃないか。

望みとは、SJ2の時みたいに誰かを、或いは俺を殺す事か? 教えてくれ。 俺はお前の助けになりたい」

 

 

我ながらナニを言っているんだ。

床で仰向けに倒れるレンに、矢継ぎ早に語りかける俺。

怖くて外野を見れない。 見たら光線が飛んできそう。

 

 

「わ、わたしは……うぅ」

 

 

ぐすっ、と涙を浮かべ始める。

え、なんか俺が泣かしたみたいになっちゃったよ。

実際そうなんだろうけど、ヤメテ。 心が痛い。 もう反射的に謝りたい。 抱き締めてナデナデしたい。

そんな様子を見かねたのか。 フカが助け舟を出してくれた。 持つべきは心の友だ。

 

 

「この機会に言っちゃいなよー。 『わたし以外の裸、見ちゃダメ!』って」

 

「ちょっと美優!?」

 

 

いや。 レンの素肌を見たら見たで、怒られそうな気がする。 そして何時ぞやみたいにペド野郎扱いは勘弁だ。

そして突っ掛かる他の外野。 出来ればずっと黙っていて欲しい。

 

 

「ふむ、やはり好いていたか。 気持ちは分からんでもない」

 

「ストーム・ワンの人望が為せるワザか」

 

 

嗚呼。 レンを刺激するな。 茹蛸みたいに赤くなっていくのが見えないのか。 彼女の戦闘服のデザートピンクより目立ってるじゃないか。

全く。 自身の命を削る様な事をしてはならない。

このまま暴走してピーちゃんを振り回されたら、死ぬかも知れないのに。

俺は倒れてるレンの上に覆い被さって、腕を拘束しておく。 身体が小さいのと、力は強くないので難しくはない。

 

 

「暴れるな。 そのままジッとしていれば大丈夫だ……俺に任せておけ」

 

「ふぇっ」

 

「うわっ! パパ大胆!」

 

「子ども好きだとは思っていたが……そういう趣味が」

 

「笑えないぞ」

 

 

誰のせいだと思っているんだ。

ピーちゃんの火力でスプリガンの高機動についていったり、強化外骨格に身を包み、シールド装備のグリムリーパーを倒せるとは到底思えないが、傷の1つでも負う危険性があるなら拘束するべきだろう。

それに、この場にはフカ、クローンや気絶中のオペ子がいるのだ。 其方はピーちゃんの火力は危険故に。

 

 

「えっと……みんな見てるから!」

 

「お前の行為を見届けてくれる人がいる、と考えれば良い。 ほら、ピーちゃんのコトは考えるな。 今は俺のコトだけ思ってくれ。 頼む」

 

 

本当、俺の為に冷静になって下さい。 周りの野次にいちいち反応してたら、進展ないです。

俺は危険物であるピーちゃんをそっと取り上げて、刺激しない様にゆっくりと、上部の縦長な半透明のマガジンを外し、弾を抜き、ゆっくりと、ゆっくりと本体を床に置く。

そのサマを見て、ひとつひとつの動作に息を荒くして見るレンは、やはり危険だ。

それとフカもスプリガン隊。 なんでお前らまで赤くなってるの。 今の武装解除の何処にそんな要素があるの。 全体が再び静かになって良かったけど。

 

 

「話を戻すが、レンの望みはなんだ」

 

「…………ワンちゃんと、ずっと一緒にいるコト」

 

「そうか」

 

 

勇気を持って答えた願い。 俺と一緒にいたい、か。

だが……それは叶わない。

 

 

「すまないが、無理だ」

 

「えっ」

 

 

レンは大人だ。

優しい嘘じゃなく本当の、俺の話をしていこう。

この戦争がなければ、或いは終われば黙って出て行くつもりだったが。

 

 

「本来、俺はGGOに存在しない。 元の世界に帰るべきだ。 それはEDFの一部隊員や本部、大勢のプレイヤーが思っている」

 

「なによ、それ」

 

 

まあ、こう反応するか。

 

 

「そんなの周りが思っているコトでしょ! ワンちゃんは? ワンちゃんはどう考えてるの!?」

 

「帰る。 《人の声が響かない地球》にも俺を待っている人達が、助けが必要な人達がいるんだ」

 

「そんなの……そんなの!」

 

 

プルプル震えて、今度は怒りで支配されていく我が娘。 俺は拘束を解き、少し離れた。

そして手にはリムペッドガンを構える。

納得はしないと思っていた。 そして、結局は銃やナイフ……武力に訴えることも。

 

 

「わたしが止める! EDFも、ワンちゃんも!」

 

 

人の話を聞かぬとは悪い子だ。 そしてワガママなのも。 そこがまた、可愛いとも思う。

まあ、ここはGGOだ。 言葉より銃や爆弾でカタをつけるのが礼儀か。

さて。 もう一度レンを大人しくさせようじゃないか。

 

 

「他は手出し無用。 レン、表に出ろ。 お前の本気を見せてくれ」

 

 

グレ男に続き、連戦はキツイ。

それにこんなことしている場合ではない。

だが、娘と戯れるのは最後かも知れないのだ。 少しくらい、大目に見て貰おう。

 

 

「じゃ、ワシも参戦しようかのぉ」

 

「共に踊ろうじゃないか」

 

「死神同士、一度手合わせ願おうか」

 

「隊長! 面白そうなんで俺ちゃんも参戦しますよ! あ、もちろん隊長の味方ッス!」

 

 

あれ。 大目に、みんな敵になったよ。

それと最後にグレ男。 お前、何処に隠れていたんだ?

そんな絶望に、希望の光が射し込んだ。 別の、静かな女性の声に振り返れば、そこにはひとりのクローンが。

見た目に差異はないが、彼女は舌が回る方らしい。

 

 

「……お父さん。 戦力ならココにも。 事情は聞きません」

 

「あー、えっと、おとお……いや、それより君は?」

 

「『M4』とでも。 他の子と異なり、唯一の銃が《M4レイヴン》なので。 他のクローンは、本部のオペレーターからの指揮下を離れました。 貴方か私の指揮で動くように再設定されています。 どうぞ、ご指示を」

 

 

混乱する頭を整理しつつ、戦力を確認していく。

えーと、此方の味方はグレ男に、M4。 それとクローン。

向こうはレンとフカとグリムリーパーとスプリガン。 うん。 絶望的。

嗚呼。 なんで敵になったのだ。 そんなに俺が気に入らなかったのか。

まあ、なるべく不殺でいくが……保証出来ない。 グレ男いるし。

 

 

「それとバスタオル。 お前はココで待機、オペ子を本部に渡しなさい」

 

 

非戦闘員もいるし。 面倒だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、表にみんなして出るコトになったのだが……。

空を覆い、闇落とす巨大な金色の円盤を見たとき、プレイヤーは目を丸くし、俺らEDF隊員は握り拳を作って闘志を燃やすコトになる。

 

 

『ええ、ええ……こうも上手くいくとは思っていませんでした。 プログラムから、NO.11を……いえ! NO.12を創れるなんてねえ! アハハハハハッ!』

 

 

オペ子の狂った声を無線越しに、俺たちはまた、円盤を墜とす羽目になりそうだと察したよ。

 

 

『こちら本部! 緊急事態発生! 大至急、指定座標に集結せよ! マザーシップがグロッケン跡地上空に突如として現れた! 動けるEDF隊員及びプレイヤーは迎撃に向かえ!』

 

 

オペ子の件は後で本部に聞くとして。

今は何とか、円盤を墜とすとしよう。 なに、今度も上手くやれるさ。

ただ……まさか、ペプ◯マンが乗っているんじゃないだろうな。




マザーシップ戦へ。 仲間割れしている場合でなし。


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mother ship No.12迎撃戦

不定期更新中。


61.mother ship No.12迎撃戦

 

やれやれ。 まさかGGOで、再び見るコトになろうとは。

上空を覆う巨大な金色の円盤を見て思う。 こりゃ、骨が折れるぞと。

 

 

「な、なにあれ……ラ◯ュタ!? フライングソーサー!?」

 

「アレもEDFの兵器?」

 

「フザケンナ。 ありゃ、プライマーの兵器で、マザーシップと俺達は呼んでいる」

 

「プライマー?」

 

「俺たちの地球を、世界を侵略してきた宇宙人」

 

 

隣でフカやレンが騒ぎ、いつの間にかヘルメットとアーマーを着込んだグレ男が説明する。 おおよそ合っている。

 

マザーシップ……EDF隊員ならば知らない者はいないだろう。

巨大な質量の皿状円盤で、街をひとつ飲み込む程の大きさがある。 侵略者供の親玉というべき存在だ。 最初は世界で10機確認。

末期には11番目を確認し、ペプ◯マンが乗るコマンドシップであった。

巨大砲台で武装している他、コマンドシップは加えて周囲に展開する無数の浮遊砲台で武装。

そして攻撃を受け付けないシールドを何重にも展開する強敵だ。

目の前のは最悪のケースを想定して、強力なコマンドシップ型と思った方が良いな。

 

ともあれ、本部より迎撃命令が下っているなら墜とすだけ。 味方部隊も、じきに来るだろう。

 

そんな中、聞き覚えのある女性の声が。 戦時中、本部や前線のサポートを行い、お世話になった《戦略情報部》の少佐だ。

ただ少し疲れている感じがある。 部下が狂ったからか。 それでも仕事だと隠しているのが伺える。

クールビューティを演じているワケじゃないだろうが、心中お察ししよう。

俺も専属で担当してくれた子だったのもあり、ショックであったからな。

 

 

『……こちら《戦略情報部》。 諸事情で遅れました、これより本部及び前線のサポートを行います』

 

「久し振りに声を聞けたのは嬉しいが、無理するな」

 

『いえ、大丈夫です。 今回は私の部下が原因ですから。 本来、私が処理するべきですが……前線の兵士のチカラを借りねばならないようです。 すいませんが……ストーム・ワン。 またも迷惑をお掛けします。 そして、お願いします。 悲劇を終わらせて下さい』

 

 

涙を堪えているのか。 今まで表に出られなかったのには、色々あったのだろう。

疲労や心労が声から伝わってくる。 だが、ここで下手に労わるより、仕事の話を振ろう。

何かの役に立ち、問題解決に自身が携わっているのが、今1番の慰めになるだろうから。

 

 

「分かった。 サポート頼む、駐屯地側の戦力はどうなった?」

 

『……はい。 戦闘は一時止まりましたが、プレイヤー間で思考の違いから銃撃戦が発生しました。 負傷者が多く出ましたが、現地のEDF隊員らにより、プレイヤーを鎮圧。 各隊再編成し、大至急グロッケン跡地へ急行中』

 

「よし。 それまで前線を支えるぞ」

 

 

駐屯地側でナニやら問題が起きたらしいが、何とかなったそうだ。

ならば、到着するまで派手にやろうじゃないか。 味方が多いと互いに気を使うからな。

他のメンバーも同じ想いか、闘志を燃やしている。 心強い。

 

 

「アンコールをした覚えは無いんだがな。 現れた以上、もうひと踊りといこう」

 

「お父さん、指示願います」

 

「ふん。 黄泉の国から戻ってきたか」

 

「ストーム・ワン。 アレをもう一度墜として見せろ。 それで貸し借りはナシだ」

 

「ああ、行儀の悪い客には帰って貰うだけよ」

 

「行儀の悪い客はEDFだと思うけど」

 

「あー聞こえなーい聞こえなーい!」

 

 

娘とグレ男の会話を無視しつつ、バキボキと殺る気満々に腕を鳴らす。 士気は上々。

それを知ったか知らずか、マザーは上等だと言わんばかりに真下に針のような、巨大砲台を展開。

バチバチと電撃が先端に集まり、光の玉が大きくなっていく。 戦法はあの時のままか。

分かりやすくて結構。

俺はポイ、とビークル要請用の発煙筒をひとつ地面に転がして焚いておいた。 もうひとつ、遠くに投げておく。 将来用だ。

 

 

「あれ、絶対にヤバいヤツでしょ! 逃げた方が良いって!」

 

「ウチの子は、こう言っているが。 情報収集を優先するか?」

 

『いえ。 退避願います』

 

 

フカが子供っぽく指をさして騒ぐから、俺は少佐に皮肉を言っておく。

あの時も皆んなが直ぐ退避していれば、犠牲は少なかっただろうな。 もう、過ぎたコトだが。

この雰囲気も、開戦した時を思い出す。 悪い思い出なのは言うまでもない。

 

 

「各自、後退しつつ巨大砲台に撃ちまくれ。 破壊する。レンとフカは地下に退避」

 

「わ、わたしだって」

 

「見れば分かるだろ、対空ミサイルかロケット弾、有効射程距離の長い狙撃銃でも無ければ無理だ。 案ずるな、素敵なオモチャを用意しておく。 今回は役に立って貰うからな」

 

「ッ! うん!」

 

「我々も射程圏外なのだが」

 

「俺達は槍だ」

 

「レイヴンも射程圏外です」

 

「後で活躍してもらう。 たぶん」

 

 

嬉しそうに頷くと、自慢の脚力で走り出す我が娘。

フカが置いてけぼりを喰らって、「待ってよレーン!」と、わせわせと後を追う光景が微笑ましい。

他のストームチームのボヤきは無視しておく。

 

 

「俺も地下に行ってますねぇ」

 

「お前は頑張るんだよ!」

 

「あん、酷いわ隊長ッ!」

 

 

そして、ドサクサに紛れて逃げ出すグレ男の首根っこを掴む。

地下の件含めてお仕置きしたいところだが、猫の手……いや、兎や子犬、馬や烏の手も借りたい。 ココは戦って貰おう。

あれ、烏に手はあったか? まあ良いや。

 

 

「そうやって、チビばかり可愛いがってりゃ良いっすよ! さっきまで喧嘩ムードだったのに……仕方ない。 俺は《グラントMTX》で闘いますから許してねぇ」

 

 

かなりゴツく、SFチックなロケットランチャーを何処からともなく出して、肩に担ぐグレ男。

長身の砲は、明らかに人の身長を超えており重そうだ。 表面に電子機器の類やスコープが付いているから余計に。

逆にコレらが無ければ、武器そのものがミサイルかロケット弾にすら見えてくる見た目だ。

後方の、ロケットブースターにも見えなくもない、反動を消す為と考えられるガス噴射口下部には巨大なボックスマガジンが挿入されているように見える。

実際、発射可能な弾頭は単発ではなく複数であり、もっといえば4発連続して発射可能の強力な兵器であるということ。 連射速度は確か1.3発/秒程と早い。

どこかの宇宙世紀なロボットの武装にも、こんなのあったなぁ。

EDF謎の技術。 今更突っ込まないぞ。

 

 

「ソレ、戦時の混乱で行方不明になっていたグラント・ロケットランチャーの最終完成形じゃないか。 ホント、どこから見つけてきたんだ」

 

「戦時中に拾いました」

 

「……まあ、射程はある武器だ。 頼んだぞ」

 

 

管理体制にも突っ込まないぞ。

グレ男は早速、砲口を上げ、ドッカンドッカン巨大砲台に撃ちまくる。 その都度、後方にガスを噴射、白煙で辺りの視界が悪くなる。

弾が切れると、後部の巨大なマガジンを引き抜いて、新品を叩き込んでは、構わずまた撃ちまくるの繰り返し。

砲台側面……斜面から小さな爆炎が複数見えた。 遠いのと砲台が巨大過ぎて、弾着時の大きな爆炎が小さく見えるのだ。

だが確実にダメージは与えている。 戦時の記憶と感覚を頼りにするなら、初弾発射には間に合わないだろうから、退避準備は進めておこう。

 

 

「お父さん」

 

「分かっている。 状況に備えろ」

 

 

それに。

予想が当たって欲しくないが、敵はマザーだけではない。

あの終戦した日、多くの敵歩兵部隊もいたのだ。 杞憂に終われば良いが、備えておいて損はない。

その時こそ、対空戦で微妙な……げふん、精鋭のグリムリーパー隊とスプリガン隊の出番だ。 それと、いつのまにか味方になったクローン部隊。

そして後に来るであろう、プレイヤー含む歩兵部隊のみんな。

 

 

「おい、今失礼なコト考えただろ?」

 

「戦闘中だ。 私語は慎め」

 

『コンテナ投下!』

 

「おっ?」「きたか」

 

 

そうこうしているうちに、輸送機ノーブルが飛来。 片方の一機は遠方でホバリング。 EDF印のコンテナが2つ投下された。

ガシャーンと派手な音と共にデコボコの地面に落ち、直ぐにコンテナが消滅。

中から現れたのは兵員退避用に《武装装甲車両グレイプM9》と遠くで重武装のコンバットフレーム《ニクス バスターカノン》。

逃走用と戦闘用だ。 今は前者を使おう。 遠くに投げたのは、砲撃の被弾を避ける為だ。

 

 

「隊長ッ! 巨大砲台の1発目が来そうですよ!」

 

 

グレ男が撃方を止め、叫ぶ。

上を見やれば、バチバチと針の先端の光が大きくなっていた。 今にも落ちてきそうだ。

こりゃ来るな。 退避しなければ。

 

 

「全員グレイプに乗り込め! 運転は俺がやる!」

 

「スラスターがあるから構わない」

 

「飛行ユニットで十分退避可能だ」

 

「あっ、俺も《アンダーアシスト》あるんで」

 

『既に私含むクローンは退避させました』

 

 

あれ。 みんな冷たい。

いいもん。 俺だけ乗って退避するから。

寂しい想いをしつつ、グレイプの運転席に乗り込むと、直ぐにアクセルを蒸す。

軍用車のパワーは凄く、みるみる加速、砂埃を立てながらマザーシップから離れていく。

デコボコした悪路なので、ガタガタ揺れて乗り心地は悪いが慣れたものだ。

そしてそれ以上に早く動くグリムリーパーの面々や空駆けるスプリガン隊。 あとグレ男。 戦場でピースサインしながら走るな。 どいつもこいつも変態しかいない。

 

 

「来るぞー!」

 

 

砲塔を動かして、ガンカメラ越しに砲台を見やれば、世界は眩い緑と白を混ぜた光で覆われて……次には全てを巨大な爆炎で包み込んでしまう。

爆風が吹き荒れ、地響きと轟音が空間を揺らし、クレーターだらけの、グロッケンがあった大地を、大きな穴で統一。

その凄まじい威力は、離れたグレイプをも揺らす程。 ハンドルを少し取られる風圧も合わさる。

他の面々は少し姿勢を崩すも、そこは精鋭。 コケたり墜落せず体勢を立て直す。

 

戦時中に幾度と見て経験してきたが……全てを焼く破滅の炎は、嫌な思い出を沸々と湧き起こしてきやがる。 また見る羽目になろうとは、忌々しい。

 

 

「いやー! 久し振りに見たけどスゲーですねぇ!」

 

「ああ。 グロッケンがあったら、1キロ四方は吹き飛んだかもな」

 

「その前に全部吹き飛ばしたそうで」

 

「お前の所為だ。 それと娘の為だ」

 

「それで消される街が可愛そうっす」

 

「次はお前を消してやろうか」

 

「遠慮しときます。 戦闘中ッスよ」

 

 

グレ男と軽口を叩き合いつつ、改めて思うな。 相変わらず凄まじい火力だと。

今回は誰も犠牲者がいなかったコトに安堵するばかりである。

 

 

「落ち着いたら、再度攻撃開始」

 

『パパ! 凄い揺れたんだけど、大丈夫?』

 

『ワンちゃん!』

 

「問題ない。 君達は指示あるまで地下から出るな」

 

 

フカとレンから心配する無線が聞こえたので、返答しておく。

これで無謀にも地上に飛び出されたら、生存率は大幅に下がるので、意外と頑丈な地下に籠っているように言う。

ピンク色の《P90》ピーちゃんと、グレラン《MGLー140》は決して弱くないが、マザーシップと闘うには無謀な銃種だ。 空飛ぶ相手だ、射程が足りない。

プライマーの大群が現れたら、まだ活躍出来るだろうが火力不足。

レンが誰かから持たされた、ガンシップへの要請用ビーコンガンは役に立つだろうが、何にせよ戦力が整ってからだ。

浮遊砲台からの攻撃が加われば、蒸発してしまう。 駐屯地での戦闘で弾薬を消耗しているだろうし、兵士達の補給の段取りもしなければ。

嗚呼、隊長は忙しい。

 

 

「マザーシップ下部にプライマーの歩兵部隊が突如として現れました。 かなりの数です」

 

 

クローンの子、M4が報告してくる。

ふむ。 やはり来たか。

 

 

「悪い予想は当たるものだな。 詳細は?」

 

「EDFデータベースによれば、《コスモノーツ》。 巨大なグレイ型宇宙人。 第二次・地球降下部隊の主力だったものです」

 

「各隊迎撃。 増援到着まで戦線を維持する」

 

「この世界に奴らは必要ない」

 

「我々スプリガンの出番だ」

 

「迎撃します」

 

「あっ、俺は砲台で忙しいんで」

 

 

予想していた客……歩兵部隊が現れてしまった。 休まる暇はない。

砲塔のガンカメラ越しに見やれば、防弾性の高そうな、甲冑に見える宇宙服に身を包んだ巨人……ロボットにも見えるヤツらが確認出来た。 懐かしくも会いたくなかった。

連中は憎き侵略者の、文明を築いた主ではという話もある。 まさか、再び見るコトになろうとは。

 

なんであれ、SFな見た目と悪趣味な黄金色をした銃……《エーテルライフル》や散弾銃のような《ラプチャーガン》、狙撃にも用いられる《高出力レーザー砲》、重武装兵が持つ連射能力の高い《エーテル・ヘビーガン》、重武装炸裂兵の開閉式の発射口を持つ大型火器《レッキングランチャー》を構えて攻撃してくる以上は敵なので倒す。

交渉なんて頭から考えない。 同じ悲劇は御免だ。

 

 

「もう二度と会いたくなかったんだがな。 奴らは地球を諦めてGGOに侵略を始めたか?」

 

 

ボヤきつつ、戦闘準備を進めていると、本部から無線が。

うむ。 こうして直接話される機会はなかったから、新鮮味がある。

 

 

『こちら本部。 いや、そうではないのだ。 マザーシップ含めて、目の前のプライマーはプログラムから生まれた偽物だ』

 

「また偽物の話か」

 

 

だが理解に苦しむ内容は困る。

偽物と本物の話が未だ続くか。 もう俺にとっては目の前でドンパチしているモノ全部が本物で良い気がする。

そうすれば対応に困らない。 撃たれたら撃ち返すだけ。 倍返しだ。 過剰防衛上等。

対話? 現場はそれどころではない。 そも、相手にその気はないだろう。

 

 

『グレ男は知っていると思うが……まず、GGOはゲーム世界。 プログラム、システム上の世界だ。 それは良いな?』

 

「理解している」

 

 

戦闘中に話すコトではないだろうが、聞いておこう。 本部も早期に知って欲しいのだろう。 この異常事態の話を。

ガンカメラではグリムリーパー隊やスプリガン隊が《コスモノーツ》の群れに突撃して、ドンパチしている。 銃を持った集団相手に、被弾せず一方的に駆逐しているときた。

相変わらずの手腕だ。

 

グレ男は落ち着いたのか、巨大砲台に攻撃を再開してアヘ顔を晒している。 放置しておこう。 害はない。

 

俺は無線に耳を傾けつつも、グリムリーパー隊とスプリガン隊の援護をするべく照準を合わせてトリガーを引いた。

もれなく、一体の頭が爆炎に包まれる。 片手を頭に抑え、怯む動作をするものの、傷は負わせられなかった。 相変わらずの防御力だ。

だが怯んだ隙を突き、グリムリーパー隊の1人がスラスターで急接近、胴体を文字通り伸縮する槍で突いて息の根を止める。 無駄ではなかったか。 役立てて何より。

 

 

『この世界の主な住民、プレイヤー。 GGOというゲーム……《VRMMO》を楽しむ、或いは職場にしている者達は本物の人間ではない。 これも良いな?』

 

「ああ。 《アバター》と呼ばれる身体で仮想現実にて遊んでいるのだったな。 《アミュスフィア》と呼ばれる、頭部に装着する機械を使って。 本当の身体は彼らの現実世界にある」

 

『そうだ。 NPCやAIのような、例外もいるがな』

 

 

だから、レンやフカは、GGOでは幼女の姿をしているものの、現実では幼女ではない、みたいな感じだ。

レンは大学生だという話だから、実際はお姉さんの姿なのかも知れない。 だからといって、俺の愛が変わることはないが!

 

 

『だが、この仮想現実に我々は本物として活動している。 そして、銃弾を喰らえば死んでしまう。 それは現実だ。 一方でプレイヤーは撃たれて死んでも、現実ではないから本当に死ぬ事はない。 《死に戻り》する事が出来るのだ。 《SAO事件》では《ナーヴギア》の電磁パルスで脳が破壊されて、本当に死んでしまったそうだが……なんであれ、これが世界のシステムだ』

 

「理不尽だな。 なら、マザーシップが現れたこの理不尽な状況も、この世界のシステムにあったとでも」

 

 

言うのか?

 

苦笑しながら出そうとした言葉。

だが出る前に、思考が待てを掛けた。

 

プログラムの世界。

書き換えや上書きが可能なのを暗示していないか?

それは今吸っている空気から景色、扱っているビークルや武器の一切、存在そのものや記憶等、何もかもだ。

無から万物の消去や生成も自由自在。

そして、何者かがプログラムを弄った結果が、目の前のプライマーなのでは?

 

 

「…………まさか、目の前のプライマーは、少佐の部下が創り出したのか?」

 

『そうだ。 障害となりうる戦力を潰す為に行ったものだ。 信じられないだろうが、現実だ』

 

「我々は軍人だ。 現実と戦う……とは司令と部下との会話であったな」

 

『何であれ、此方も《戦略情報部》と協力して、この異常事態を止める。 今、元部下の者に尋問しつつ、プログラムへの干渉を試しているところだ』

 

「頼む」

 

 

その手は背広組に任せよう。

今出来る事は、目の前の敵と対峙する事だけだ。

兵士には兵士の、本部には本部側の役割がある。 それぞれの仕事を全うしよう。

 

 

『大変です! 間も無くプライマーの大戦力が召喚されようとしています! 部下の端末履歴から判明しました!』

 

 

少佐の悲痛の叫びが聞こえた。 休まる暇がない。

ああ、最悪な状況はこれからのようだ。 恐れていた事が現実味を帯びてきたな。

召喚自体は見たことあるから驚かない。 《かの者》がそうだったからな。 仕組みは知らんが。

 

 

「キャンセルしろ。 満員御礼だ」

 

『試していますが、最悪の事態に備えて下さい』

 

「仕方ない。 持て成すとしよう」

 

 

この手のものは、大抵最悪の方へ転がると相場が決まっている。 EDFの伝統芸にすら感じる程に。

なら最低な連中が来た時の為に、最高の振る舞いを出来るよう、段取りをしておこう。

 

 

「隊長! 巨大砲台の破壊に成功しましたぜ!」

 

 

矢継ぎ早にグレ男からの、嬉しそうな報告。

上を見やれば、針状の巨大砲台が爆炎を上げてマザーシップ本体から落ちていっているではないか。 単騎でコレは仕事が早い。 コイツがマトモなら勲章ものだ。

やがて地面に衝突。 これまた大きな黒い爆煙が巻き起こる。 下にいたら死んでいたな。

だが安心するのは早い。 次の仕事はタンマリとあるのでな。 取り掛かって貰おうか。

 

 

「宜しい。 あの時と同じならば、この後浮遊砲台が現れる。 備えろ」

 

「俺はソイツを堕とせば良いッスかね」

 

「ああ。 他の者は引き続き、雑魚の相手を頼む。 忙しくなるぞ」

 

「踊り疲れる事はしない」

 

「地獄の耐久レースといこう」

 

「M4了解」

 

 

銃撃と爆音が止まらぬ戦場。

それでも士気は高い味方たち。

コスモノーツの眩い光線が飛び交い、仲間は避けつつも必殺の一撃を喰らわしていく。

ある者は槍を突き刺し。 ある者は光線を撃ち返す。

同じ顔のクローン部隊は、多砲身の、ガトリングの様なレイヴンで弾幕を張って応戦する。

生まれた時、戦法を叩き込まれたのか知らないが、胴体なら胴体を皆で集中砲火。 鎧を素早く破壊して、生身の身体に銃撃を喰らわせているのだ。

うむ。 戦術の講義は必要なさそうで良い。

だが次から次へと無の空間から敵がポンポン現れている。 侵略性外来生物の大群まで現れたぞ。 キリがない。

コッチの増援はまだか、と聞こうとした刹那。 やっと部隊が到着した知らせを受け取った。

 

 

『プレイヤーの先発隊、指定座標に到達』

 

 

隊員ではなく、プレイヤーが来たらしい。

後方を見やれば、《グレイプ》が10台くらい停車。 後部兵員室からゾロゾロと様々な格好をしたプレイヤーが現れた。 30人はいる。

だがプライマー相手では、彼らの武器の多くは火力は低い。 無力ではないが心許ない。

 

 

『本部よりストーム・ワン。 プレイヤーも戦力になる筈だ。 上手く指揮を執ってくれ』

 

「任せろ。 それと、GGOの弾薬や武器をプログラムから大量に生成できないか? プレイヤーに提供する」

 

『やってみよう。 改竄せずとも、元から存在するデータならば出し易いかも知れん』

 

『EDFのビークルも、GGO内に存在する以上はプログラムから生成出来る筈です。 現在GGOにて存在するEDFのデータを調べて、造れるかやってみます』

 

「助かる。 だが、あくまで部下のプログラムを止めるのが優先だ」

 

『はい』

 

 

だが、弾薬と武器、その他物資さえあれば、それなりに役に立つ。

プログラムで自由自在に世界を操れるなら、逆に利用してやろう。

敵も此方も大所帯になりつつある。

上手く誘導して、勝利を掴まねば。 単純に歩兵の力と数で比べればEDFは負ける。 それは戦時もそうであった。

ならどうやって、勝利を掴むか。 数の優勢を覆すのは困難である。

 

簡単だ。

EDFの強力な兵器を無限湧きするプレイヤーに貸せば良い。 銃を貸しても、重いだの反動がキツイだので、プレイヤーには扱えないようだが、ボタン押したり、ペダル踏んだりすれば済むビークルは扱えるっぽい。

ソチラを提供して、戦力になって貰おう。

とはいえ、訓練を受けていない素人。 命中率も操作も期待は出来ない。 だが火力と生存率は大幅に上がる。

だが決定打に欠ける。 そこで、俺の空爆誘導の出番だ。

 

 

『えっ、ナニあの巨大な円盤』

 

『どう戦えってんだ!』

 

『地上はバケモノ塗れじゃねえか!』

 

 

嘆くプレイヤーの声を聞きつつ、俺は《グレイプ》から降車。 上空からの光線をグレイプの装甲でやり過ごしつつ、ポイポイと次から次へと発煙筒を焚いていく。 周りが煙たくなるが、構やしない。

輸送機ノーブルにはガンガン働いて貰おう。 出し惜しみは無しだ。 本格的な戦闘になってから要請するのでは遅い。

 

 

「ストーム・ワンから全プレイヤーへ。 緊急時特例として、民間人の搭乗を許可する。 欲しい得物があれば言え。 遠慮するな」

 

『おお! 使い方知らんけど、何でもええんやな!?』

 

『じゃ、俺はグロッケンで見たロボット! ロマン優先!』

 

『俺は戦車!』

 

 

コンバットフレーム《ニクス A型》に、量産型の《ブラッカーE1》を要請しよう。

ポイポイと発煙筒を投げて、どんどん焚いていく。 お陰で先程から円盤と地上の間を輸送機がひっきりなしに飛び交っている。

ぶつからないか心配。 呼んでおいて何だが。

 

 

「フカ! 無線は聞いていたな? 先発隊と合流するんだ。 ビークルに随伴して、味方が撃ち漏らした敵を榴弾で吹き飛ばせ」

 

『ごめーん。 弾切れだからさ、乗り物に乗りたい』

 

「良いぞ。 使い方は分からないだろうが、落ち着いてレバーやペダル、ハンドルや操縦桿、スイッチを押すんだ。 自然と分かる」

 

『わたしは?』

 

「レンも、ビークルに随伴しろ。 ビーコンガンを持っているだろ。 ソレでガンシップに攻撃目標を指示してくれ」

 

『分かった』

 

 

指示を立て続けに出すと疲れるが、仕方ない。 EDFの兵器でないと、プライマーに対抗するのは困難故に。

 

 

「隊長ッ! マザーシップの周囲に、無数の浮遊砲台を確認!」

 

 

再びグレ男からの報告。

上を見やれば、マザーシップの周囲に箱状の、大きなモノが沢山飛んでいるのを確認。

それらは表面の真ん中の丸い模様から、地上に雨霰とビームを撃ちまくってきた。 線状の緑や赤、球状の弾幕が綺麗なイルミネーションとなり地上に降り注ぐ。

見る分には綺麗だが、当たれば痛いでは済まない。

昔と同じく、苛烈な砲撃だな。 今回も被害は甚大になりそうだ。 プレイヤーが《死に戻り》出来るのが救いである。

そして例によって、マザーシップを覆う半透明の、球状をしたシールドを確認。

 

 

「片っ端から破壊しろ。 シールドを発生させている砲台は優先だ」

 

「イエッサー!」

 

「プレイヤーはビークルに搭乗。 空は狙わなくて良い、地上の敵を相手してくれ」

 

『おうよ……って! うわあ! なんだこの巨大な蟻の大群は!?』

 

『蜘蛛もいるぞ!』

 

『気持ち悪っ!』

 

『《エネミー》じゃねえよな!?』

 

『ヒィッ!? 来るな! 来るなー!』

 

『何か吐き出しているぞ!』

 

『酸だああああ!!』

 

『輸送車に隠れるんだ!?』

 

『装甲が数秒で融解したぁ!』

 

『いくらゲームでも、溶けて死ぬとか勘弁!』

 

『蟻や蜘蛛の顔ドアップとか悪夢だわ!』

 

『逃げろー! 退避だ退避ッ!』

 

『後続はまだかよー!』

 

 

うん。 まあ、期待はしてない。

プレイヤーの部隊を襲ったのは、侵略性外来生物αやβ。 全長10メートルは超える巨体にも関わらず、俊敏な動きで、群れで在来生物を襲う、エイリアンが持ち込んだ危険な怪物だ。

終戦から3年は経っているのに、未だに《人の声が響かない地球》で発見報告が寄せられる奴等でもある。 それだけ数がいた、見慣れた怪物供ということだ。 EDF隊員なら嫌という程相手にしてきただろう。

さて。 肝心の相手の主な武器は、αなら強靭な牙での噛み付き攻撃、金属を数秒で溶かす程の強酸を100メートルほどの距離まで放出する。

βなら跳ねながら接近してきて、回避し難い酸性の糸を飛ばして攻撃してくる。

これらは酸に強いとされるEDF製アーマーでも防げない。 連中の体面も強硬で、距離によって減衰した小銃弾では弾かれる。

一体一体は大した事はない。 だが数の暴力は恐ろしい。 開戦から5ヶ月で、コイツらの所為で総人口の2割を失ったほどだ。

 

そんな相手だ。 アーマーが無く、火力が低いプレイヤーには強敵だろう。

だが例によって、1番の役割は囮になって貰う事だ。 倒す事ではない。

ビークルは生存性を高めて、敵の注目を少しでも長く集めさせる事にある。

 

プレイヤーに餌をあげ、更にソレが敵を引きつける餌になる……固まったトコロ、そこを叩く。

しかし……まだ中途半端に散らばっているな……集まりきる前にプレイヤーが全滅してしまうか。

なら、広範囲に機銃掃射を要請するだけの話。 機転を利かせろ。 駄目なら有効な方法に変えるのみ。

 

 

「その場を動くなよ」

 

 

プレイヤーに群がる蟲供を、プレイヤーごと消し飛ばす。 手っ取り早く。

 

 

『えぇ!?』

 

 

無線機で《プランX18》を要請した。

円盤より低高度の空を、その四方八方から18機もの戦闘爆撃機が飛来。

スクランブル交差点を早送りしたように、プレイヤーの位置を軸に別々の角度から高速で機体が突入。

 

 

『機銃掃射、開始ィッ!!』

 

『空から戦闘機がっ!』

 

『大編隊だ!』

 

『俺たちゴト吹き飛ばす気かい!?』

 

『ストーム・ワン! お前、覚えてろよ!?』

 

 

恨みを買いつつ、空からの機銃掃射を喰らう彼らプレイヤー。 無数の光弾が地上へと降り注ぎ、轟音が鳴り響く。 砂嵐でも起きたかと錯覚するほどに埃が舞に舞う。

 

 

「「「ギャアアアアアッ!!」」」

 

 

αとβと共に砂塵の中へと消えていくが、まあ、気にしない。 悲鳴も掻き消されて聞こえない。

敵は大勢待っているのだ。 プレイヤーもログアウトしなければ無限湧きするのだから、これからもこの調子で頑張って貰おう。

弾薬やビークルと同じ、消耗品として。

 

 

『突入には危険が伴う。 気安く呼ぶんじゃないぞ』

 

「巨船直下でも来てくれる空軍は、勇敢で助かる」

 

「隊長。 チビ供に同じ役を?」

 

「娘を同じ目には遭わせない」

 

「同じプレイヤーッスよ」

 

「そこらの有象無象と一緒にするな」

 

「何たる溺愛っぷり」

 

 

グレ男に失礼な事を言われた。 ウチの娘を囮……消耗品にするワケないじゃない。

するのは他の無法者と同類の連中だ。 慈悲はない。

 

 

『……ワンちゃん。 今、味方ごと消し飛ばした様に見えたけど』

 

『虫はキモいけどさぁ。 パパ、酷くね?』

 

「再出撃すれば済む事だ。 心配するな、君たちは、ちゃんと守る!」

 

『選ばれるのも、複雑』

 

『そういう問題?』

 

 

ブーブー言われたが、仕方ない。 プライマー相手に何振り構ってられない。

プレイヤーは本当の意味で死なないから、これくらい許してくれ。 EDF隊員は死んだら一巻の終わり故に。

 

 

『第二陣、到着』

 

 

おっ。 新しい餌……げふん。 味方が来た。

先発隊が乗り込めなかったビークルがたくさんあるので、是非有効利用して欲しい。

 

 

『やほー! ワンちゃん! 来てやったよ感謝しな! さりとて、味方ごと吹き飛ばしたんだって? やるじゃん!』

 

「その声は……ピトか。 何、コラテラル・ダメージだ。 必要な犠牲さ」

 

『ワンちゃんが言うと重みが違うね! さて、空覆う超巨大円盤に、無数に浮かぶ砲台から光学兵器の弾幕……地上には巨人に巨大な虫の大群。 凄い光景ね』

 

「招かねざる客どもだ。 寛大に持て成せ」

 

『殺し甲斐があって良い! ところで、降ろされた地点にロボットが沢山あんだけど。 使って良いの?』

 

「構わんよ? 操縦の仕方は分からんだろうが」

 

『大丈夫! 駐屯地でパクったのがあってさー、操作が同じならイケる!』

 

「何だって?」

 

『戦闘停止を無視して暴れるプレイヤーを仕置きするのに使わせて貰ったのよ』

 

「それで。 みんなに迷惑掛けたと」

 

『やーね? 有効活用したから褒められるべきなのよ。 なのに軍曹って名乗るヤツがリーダーやってる《スコードロン》に破壊されたっていうね。 あの人ら、他の人と違って強いのね』

 

「軍曹に迷惑かけたのか」

 

 

軍曹……俺の知り合いがすいません。

駐屯地のトラブルって、まさかピト絡みだったんじゃ。 というか、よくコンバットフレームを動かせたな。

起動シーケンスが終わっていたとしても、操作は難しい筈なのに。 バトルシステム再起動にしても。

まあ良い。 今は戦場に集中しよう。 状況は悪い。 各隊の援護に回らねば。

 

俺は工具箱を大きくしたような見た目の、赤い運搬ケースを周囲に3つ設置。 これは高速ロケット弾を発射する自動追尾砲座で《ZEXランチャー》と呼ばれる。

火力は高く、砲座の旋回性能も高い。 自動追尾兵器技術の最高峰ともいえる武器だ。

 

 

「ランチャーを起動する! 各隊、当たらないように」

 

「簡単に言ってくれるな」

 

「俺なら当てても良いッスよ。 爆発で死ぬのは本望です!」

 

「当たりに行く暇あったら、砲台を破壊していろ」

 

 

手元の起動ボタンを押せば、運搬ケースが変形、脚が生え、砲口が突き出てセントリーガンの形になる。

そして、カメラにより砲口が敵を自動追尾。 発射されれば、白い帯を残しながら敵の群れへ飛んでいくロケット弾。

先頭のα型頭部に当たると、爆炎を巻き起こす。 もれなく、周囲の敵も木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

 

『おお! パパ凄い!』

 

『でも敵の勢いが止まらないよ』

 

「行儀の悪い客どもだ!」

 

 

ならばと、俺はもう一度無線機を取り出した。 刹那の爆発や銃撃で波を止められぬなら、防波堤をつくるまで。

 

 

「重爆撃機《ウェスタ》にナパーム弾を投下してもらう。 火の壁を作って、敵を塞きとめる。 少佐、敵の出現位置は固定か?」

 

『固定です。 マザーシップ直下、同じポイントからのみです』

 

「ならば、その手前に投下する」

 

 

無線機に座標を伝達、《プランX2》でいく。《プランW2》の強化ナパーム弾は破壊力はあるものの、燃焼時間が犠牲になっているからな。

ココは壁を持たせる方を選ぶ。 戦線を維持させるのが重要だ……さっきプレイヤーを巻き込んだのは、まあ、仕方ない犠牲なのだ。

その前に各隊に連絡せねば。 火の壁の内側に閉じ込められると後退し難くなる。

 

 

「M4。 クローン共々後退しろ! プレイヤーの部隊に随伴。 共に地上の敵を撃て!」

 

『M4了解』

 

 

クローンは駄目だ。 後退させてプレイヤーと共にさせる。 ルーキーより射撃は上手いが、アーマーが簡易的だし、ヘルメットは無着用なのは論外。 遮蔽物も無く、生存率は低い。

それに、レイヴンは弾薬消費が激しい。 残弾も残り少ない筈だ。 既に脱落者が何人も出ている。

プレイヤーの増援が来るなら、最前線に置くのはココまでだ。

 

 

「グリムリーパー! へばってないだろうな!?」

 

『舐めるな』

 

 

いつも通りのワイルドボイス。 槍と楯のみで、銃を持った相手によく大立ち回りが出来るものだ。 流石精鋭である。 信頼して、前線に残す。

 

 

「スプリガン! ヤバくなったら後退しろ。 救護車両と《ライフベンダー》を用意しておく」

 

『必要ない』

 

 

お姉様冷たい。 ハッキリとした口調で答えられたよ。

だか裏を返せば頼もしい。 心配無いな。

 

 

『あのー、俺スゲー頑張ってるんスけど。 砲台、雨霰と堕としてるの見えない? 勲章モノじゃない? 地上への弾幕薄れてるでしょ感謝して。 そんな英雄な俺に群がる《タイプ2ドローン》を迎撃して、助けてくれません?』

 

「問題なさそうだな。 燃やすか」

 

『無視!? 良いッスよ《MEX5エメロード》で迎撃しますから』

 

 

遠慮なくナパームを落とすか。 M4達が素早く後退したのを見計らい、俺は無線機に投下座標を指示する。

なんか、横長の、全長17メートルはある空飛ぶ無人戦闘兵器の群れと、それに飛んでいく4発のミサイルが見えたが、個人用誘導ミサイルランチャーだろう。

たぶん、グレ男だ。 アイツなら、ほっといて良いだろう。 死にやしない。

 

 

『これより、目標上空に侵入する』

 

 

もれなく平らな機体、フォボスに似たウェスタが二機、マザーシップより低高度で飛来。 空中をクロスするように進入してきた。

 

 

『ファイヤ!』

 

 

そして大量のナパーム弾をクロス状に投下。 細くしたラグビーボールに尾が付いたようなそれは自由落下で地上に衝突。 すると、ばつ印を描くように轟々と燃え上がる火柱が出来上がった。

世界の照度を一気に上げ、火のある周辺が眩く見難い程の火力である。

これでしばらくは、火の壁でαやβ等はコッチに近寄れない。 《コスモノーツ》もな。

正確には自ら火に入り、射程に入る前に燃え尽きる。 正に飛んで火に入る夏の虫。 夏じゃないけど。

早速、燃えに行く敵を見て思う。 αやβに知性があるとは思えないから、火に入るのかもだが……《コスモノーツ》はどうなのか。 ビル壁に隠れる知性はあるのだが。 火を避けずに突っ込むのは分かっていてのコトなのか。

まあ、良い。 都合が良ければ。

 

 

『目標地点への空爆に成功。 成果はあったか?』

 

「成果は後から出るさ。 フカ、レン。 君たちはどこだ?」

 

『車の運転をして、外周部をグルグル! レンは身を乗り出して、ビーコン撃ってるよ!』

 

「グレイプか。 レンは激しく動く車体から撃っているのか? ちゃんと当てられるのか?」

 

『的は大きいから、大丈夫。 それに必ず当てる必要無いでしょ。 ビーコンなんだから、敵の足下にでも撃ち込めれば良い』

 

 

レンから頼もしい返事をされた。 うむ、流石我が娘だ。 短時間でビーコンの有効利用方法を確立しつつある。

 

 

「地面に撃ち込む際は、ロケット弾か大口径弾だな。 取り扱いに注意しろ。 味方への誤射や自爆は笑いの種にもならない」

 

『ワンちゃんじゃないんだから』

 

 

いや……昔は自爆したけどさ。 乱戦中に射線に入ってきた味方に当てちゃったり、街の並木に当てちゃったりして。

それと、さっきのは仕方ないんだ。 必要な犠牲だったんだ。

イケナイのはグレ男みたいなやり方だ。 SJ2のラストは酷かった。 あのオチは許せん。

 

 

「とにかく、ソッチは任せた」

 

『あいよー』『任せてよ』

 

『分隊長。 俺は中距離から狙撃しているが……どうも効果が薄い。 何か弱点は?』

 

「その声は、エムか。 《コスモノーツ》、巨人相手なら一点集中で防具を破壊して生身の部分を攻撃する方法が良い。 だが《M14・EBR》のみで大群は相手に出来ない。 弾薬は無いだろ?」

 

『ああ。 駐屯地でだいぶ、な』

 

「ビークルに乗って闘ってくれ。 遠距離から攻撃出来るモノを要請する」

 

『……なんだって?』

 

 

そういうと、エムがいるであろう、《グレイプ》が固まって停車している位置に発煙筒をぶん投げる。

《ブラッカーSPS》を要請した。 遠距離攻撃用にカスタマイズされた戦闘車両ブラッカーだ。

主砲は125ミリ長距離榴弾砲。 弾速が速く、遠距離への正確な砲撃が可能である。

しかし弾速が増したぶん、反動も大きい。 だが賢いエムなら使いこなせるだろう。

 

 

『……小さな戦車が目の前に現れたんだが』

 

「ソイツを使え。 装甲に守られつつ、遠距離から攻撃可能だぞ。 砲安定装置はなく、自身で照準を付けねばならないが、自動装填装置はある。 エム向けだ」

 

『使い方が分からんぞ』

 

「そんなの弄りまわせば分かる。 お前が愛するピトフーイも、そうやってコンバットフレームを動かせるようになったそうだ。 見習うんだ!」

 

『……誤射しないよう、努力する』

 

 

緊急時だ。 エムにも頑張って貰わねば。

トーンが低い返事をされたが、直ぐにドゴォンと砲撃音が。 そして初弾が《コスモノーツ》の胴体に当たった。 ウホッ良い腕!

狙撃兵のみならず戦車兵の才能もあるんじゃないか?

 

褒めようとした刹那、隠れているグレイプの上にドーンと《ニクス A型》が降ってきやがった。

グレイプは頑丈なので壊れやしなかったが、グシャッと車高が一瞬縮んだ。 俺の寿命も縮んだわチクショウ。

 

 

「うおおおっ!?」

 

『ワンちゃーん、弾切れ! 何とかして』

 

「ピトかよ、脅かすんじゃない! しかしお前、スラスター噴射まで使いこなしてるのか。 装甲のヘコみ具合を見ても、この弾幕の中で大して被弾しなかったか。 訓練を受けていないのに、天才だな」

 

『ありがとー! んで、さっさと新品出して!』

 

「それが人にモノを頼む態度か」

 

 

まあ良い。 活躍してくれるなら。

俺はポイと発煙筒を投げて新しいビークルを要請。 《ニクス C3》だ。

遊撃戦用コンバットフレーム。 C2型を改修。 多彩な局面に対応できるよう、さらに武装を追加されている。

右腕に多砲身な見た目のリボルバーカノン。

左腕にタンク付きの、サブマシンガンにも見えなくもない、コンバットバーナー(火炎放射器)。

左肩に見慣れた箱状の武装、ミサイルポッドをマウント。

右肩には大砲と言うべきか、ショルダーハウィツァー(肩部榴弾砲)を搭載。

他の点としては、スラスターが強化されているのと、上半身の回転速度が速くなっている。 《ニクス A型》より装甲面も含めて遥かに強い。

パイロットによるが、普及量産型の《ニクス B型》より強力な兵器であろう。

やがて、期待のコンテナが目の前で落下。 直ぐに消えて現れた《ニクス C3》に、ピトは興奮する。

 

 

『ヒューッ! たくさん武装を積んでるじゃない! ワンちゃん分かってるぅ!』

 

「多くの武器を手に取ったというピトなら、使いこなせそうだったからな。 武装は局面に合わせて上手く使いこなせ」

 

『オッケー!』

 

 

そう言うと、ウィーンとコックピットが開いて現れる長身でスラッとした女性、ピト。

狭いコックピットだからか、サイドアームの拳銃《XD拳銃》を太腿辺りに装備するのみ。

見た目のピチピチな服装的にも、なんかパイロットらしく見えてサマになっている。

惜しい。 俺ら側の人間だったなら(そしてマトモなら)、EDFのコンバットフレーム隊でエースになれる器だぞ……!

 

 

「んじゃ、暴れてくるわ!」

 

「あ、ああ。 行って来い」

 

 

そして、余計な動作1つせず、真っ直ぐコックピットを乗り換える。 やたらイイ笑顔で。

そして直ぐにハッチ閉鎖、装甲表面に複数ある各種センサー及びカメラ部分が機械音を出しながら輝きを放つ。

バトルシステム起動、しゃがみ姿勢から立ち上がり、銃口を前に構えた。

あ、マニピュレーターの人差し指は立ててある。 直ぐにトリガーに触れて撃つ事になるんだろうけれど。

操作可能になると直ぐに跳躍。 スラスターを噴射しながら空を飛びつつ、敵の群れに突撃。

 

 

『たーのしー!』

 

 

多砲身が高速回転し、金色の空薬莢が空中でキラキラと舞い散って綺麗だ。

α型の群れ手前で着地すると、ガシャンという音共に土埃が舞い、それらが落ちきる前にはコンバットバーナーで群れを容赦なく焼く。

遠くにいた《コスモノーツ》には肩部榴弾砲を命中させ、ミサイルポッドから放たれたミサイル群は、別の場所で飛び跳ねていたb型の群れを吹き飛ばした。

早速使いこなしてるように見える。 あのハイセンスが羨ましい。

 

 

「……集中しなければ」

 

 

いかん、見惚れてしまった。 戦場でナニしてるんだ俺。 緊急時だぞ。 こんな事してると、命を落としてしま……、

 

 

『150ミリ砲、ファイヤ!』

 

「ん?」

 

 

ドゴォン! ドゴォン!

ドゴォン! ドゴォン!

 

 

「うおおおおおおおおお!?」

 

 

なんだなんだ!?

突然、横殴りの光弾がきて《グレイプ》の上に不法投棄された《ニクス A型》を攫ったと思えば爆発、大破したぞ!?

《グレイプ》も吹き飛んで大破。 スクラップに。

その衝撃の余波で俺は吹き飛ばされて、地面を転がされてしまった。

 

 

「ぐっ……油断大敵だぞ俺」

 

 

すぐ起き上がらず、匍匐姿勢で周囲を警戒。

プライマーの攻撃じゃない。 ガンシップの《150ミリ4連装砲》だなコレ。

現状、ガンシップに要請出来るのは俺とレンだが……誤射か?

 

 

『ワンちゃーん??』

 

「レ、レン。 誤射か? 気を付けろよ」

 

 

レンから無線が。

多分、誤射だろう。 なに、そういうコトもある。 俺もあった。 気にするな。

だが何だろう。 この寒気。 戦場とは違った緊張感が出てきたぞ……。

 

 

『誤射。 ゴメンね』

 

「お、おう。 慣れない銃だろうからな……ハハハ……ハハ」

 

 

いつもより優しげな口調の裏に感じる狂気と怒り。 俺、ナニかしたか?

戦場でふざけた事をする子ではないのは知っているので、ナニか意味があるのだろう。

だがレンの現在位置は遠方。 狙撃が苦手なので、ここまでビーコンが飛んで来たのは本当に誤射かも。 だが聞けない。 聞いたら『誤射』されそう。

 

 

『パパ。 あまり長く話さない方が良いよ。 特に他の女性とはね』

 

 

すると、フカがアドバイス。

成る程。 確かに指揮官が現状、俺だけな気もする。 あまり個人に時間を割くのは得策ではない。

レンはそれに怒ったのだろう。

 

 

「……確かに、指揮を執らねばな。 すまない」

 

『何か勘違いしてるみたいだね』

 

「へ?」

 

『えーと』『もう良い。 この駄犬』

 

「お、おいレン! おーい!?」

 

 

レンに罵倒され、以降応答無し。

たぶん……フカと話し過ぎたのがマズかったのだろう。

折角レンが「戦場で長話はメッ!」と教えてくれたのに、またやらかしたから。

嗚呼。 駄目なパパですまない。 もう戦場に戻ろ……。

俺は起き上がって、砲撃要請の準備に入る。 発煙筒を投げるだけなんだけど。

 

 

『ストーム・ワン。 あとで謝った方が良いぞ。 2人きりで、何処か落ち着いた場所でな』

 

「スプリガン隊長……アドバイス感謝する」

 

 

ドンパチで忙しいのに、わざわざ無線越しにアドバイスをくれるお姉様。

全て終わったらカフェでも連れていこう。 2人きりが良いらしい。 謝る目的だしな、そうするべきだろう。

しょぼんとした気持ちで、仕事に戻ろうとする俺。 だが、話は延長戦になってしまった。

 

 

『ヤイコラ子兎! 営倉から脱兎した次は、隊長に『誤射』か、オオン!?』

 

 

グレ男が無線越しに突っ掛かる。 戦闘中に仲間内で揉め事とか、やめてくれよ……。

 

 

『ワンちゃんを半殺しにした人の発言とは、思えないね』

 

『お前はマジで殺しかけたよなぁ?』

 

『天罰が下ったんだよ。 戦場で『よそ見』してるから』

 

『お前も『よそ見』したから『誤射』したんだろーに。 真面目に、俺様の為に地上の敵を掃討しろ』

 

『『誤射』したらゴメンね』

 

『1発やったら、1発返す』

 

 

何だか学生時代の、それも小学校の頃を思い出す。 当時はこんな口喧嘩はしょっちゅうだったか。

ああ、つまりガキの喧嘩と言いたい。 懐かしくも、聞きたいものではない。

 

 

『ねえ? か弱い運転手がいるのを忘れないでね』

 

 

運転手のフカが止めるべく、間に入る。 その勇気ある行動は好きだぞ。 流石我が娘と褒めてやりたいところだ。

あ、パパは疲れちゃってね。 成り行きに任せてるの。 逃げてるわけじゃないよ。

 

 

『悪いな同志。 だが生意気な親友に言ってくれ。 そんなに隊長を独占したいなら、側にいろと。 なんなら《アミュスフィア》のローカルメモリーにアイテムとして保管出来るか試みれば良い。 或いはPC。 《STORMー01》とかいう表示で保存されるんじゃない? 知らんけど』

 

「……メットは間に合ってる」

 

 

勘弁して欲しい。 ナニやら恐ろしい発言が聞こえたのでな、口を挟ませてもらった。

プログラムの世界故、俺も0と1で表示させられていると思うと複雑だ。 そして、データの扱いを受けて保管されるのは嫌過ぎる。

俺は生きている。 モンスターなポケットみたいに閉じ込められるのは心理的に拒否したい。

 

 

『……そっか。 そうすれば、ワンちゃんは帰れない。 ずっと…………ずっと、わたしの側に置いておけるもんね』

 

『こ、コヒー!?』「レン!?」『まさかのヤンデレンってか』

 

 

トリップするレン。 無線越しに伝わる狂気の発言。 どんな顔をしているのか、見えないのがせめての救い。

かつてこれ程、レンが怖いと思った日はあっただろうか。 いや、ない。

 

 

「ペット感覚で、檻の中に閉じ込められる趣味は無い!」

 

『兎に飼われる犬の図も見たいですがね』

 

「冗談キツいぞ!」

 

 

いよいよ謝らないと。

だが今は戦場だ。 こんな事を話している場合ではない。 『誤射』で済まなくなる。

 

 

「戦闘に集中だ、集中! グレ男はマザーシップを攻撃!」

 

『了解ッス』

 

「フカ、敵との距離に気を付けて運転するんだぞ!」

 

『パパも、その……気を付けて』

 

「レン、要請する弾種を上手く使い分けるんだ。 被弾しそうになったら、車内に隠れろ。 寧ろずっと隠れていて良い!」

 

『声、震えてるけど。 大丈夫?』

 

「大丈夫だ問題ない」

 

『そう。 ウフフッ』

 

 

問題大有りだ。

レンちゃんマジ怖い。 《パーソナル シェルター》に閉じこもりたいくらい怖い。

でも敵に背を向けないのだ。 立ち向かえ。 レンに……じゃなくて、プライマーに!

 

 

「きょ、《強化榴弾砲》を要請する! マザーシップ中央に発煙筒を投擲! スモーク地点から半径130メートルは離れていろ!」

 

 

そんなワケで、早く戦闘を終わらせるべく発煙筒をぶん投げる。

マザーシップ直下中央、敵のスポーン地点から見事にレッドスモークが立ち昇った。

恐怖で狙いが狂わず良かった。 逆に早く解放されたくて、狙いが良くなったか。 ハハハ……笑えよ。

 

 

『エアレイダーより要請です!』

 

 

よし! これで敵を一掃出来る。 若き声を聞いて確信した。

強化榴弾砲は攻撃範囲がとても広い。 敵はもれなく、木っ端微塵だな!

そして、しかとその光景を見届けようとして、前方の敵の群れを見ていたのだが、

 

 

『あの……なんか、ズレてませんか?』

 

「あれ?」

 

 

砲撃が終わった時の通信が入る。

おかしい。 砲撃が確認出来なかったぞ。

 

 

『隊長ナニしてんスか! 榴弾は全部、マザーシップの天辺に当たって、地上に落ちなかったんスよ!』

 

「ああ! しまった!」

 

 

グレ男からの通信で気付く。 やっちまったと。

砲兵隊の攻撃は遠方から山なりに砲弾が落ちるのだが、それは高高度から降り注ぐ。

マザーシップより高度が高く榴弾が撃たれた所為で、砲弾が全部マザーシップの上に当たってしまったのだ。

これでマザーシップがダメージを受けていれば、無駄ではないと言えるのだが……マザーシップの金色の装甲は、そんなので傷付かない。 つまり、無駄に終わった。

 

 

『少し落ち着いて下さいよ。 レンに動揺しちゃうのは仕方ないですがね、隊長なんだからしっかりして下さい! それとも、人間アピール?』

 

「すまない。 俺が悪かった」

 

 

グレ男に説教されようとは。 俺も終わりだな……ハハハ。 笑えよ。

 

 

『俺なんて、火の壁の内側という退路がない中、砲台全部撃ち堕としたッス。 ドローンに襲われつつ、無支援のサイテーな状態で!』

 

「ああ。 よくやった……次は、本体を堕とせ」

 

『《ニクス バスターカノン》、使わせて貰いますよ!』

 

 

ニクス バスターキャノン。 さっき要請したヤツだな。 俺が使おうと遠方に置いておいたが、グレ男の方が活躍するだろう。

武装は両腕にリボルバーロケットカノン。 6バースト。 両肩に巨大な拡散榴弾砲を搭載。

圧倒的な火力を持つ反面、搭載火器が重く、運動性能は低い。 その欠点を補うため、上半身の回転速度を向上。 移動する目標を狙いやすくなっている。

さらにスラスターの性能も向上し、長時間の噴射が可能となった。

ピトが使っている《ニクス C3》より機動性はないが、火力は圧倒的に上。 射程も長く、高度の高いマザーシップを墜とすにも使えるだろう。

 

 

『こちら戦略情報部。 落ち込んでいるところ悪いですが、報告します。 プレイヤー用の弾薬と銃器を生成するのに成功。 グレイプの辺りに転送します』

 

「助かる。 他はどうなった?」

 

『ビークルの生成にも成功。 プレイヤーでも簡単に扱えて、尚且つ命中率を上げる為のビークルとして《ネグリング自走ミサイルXM》を大量に用意しました』

 

「ああ、アレなら命中率は高そうだ」

 

 

ネグリング自走ミサイルXM。

新型の収束誘導ミサイル砲を搭載した車両。 サイト内の敵を自動的に捕捉し、複数の敵をロックオン。 そうしたら、ボタンを押せばミサイルが飛んでいく。

それだけならば、他のネグリングと同じだが、普通の誘導ミサイルとは異なる点に注目。

 

 

「ストーム・ワンよりプレイヤーへ。 ネグリング自走ミサイルに搭乗せよ。 勝手に敵をロックオンし、ボタンひとつでミサイルを撃てる。 楽だぞ」

 

『ねぐりんぐ? ロケット砲みたいのが、ついている履帯の車か』

 

『おお! ニュービーでも活躍出来そう!』

 

『やったぜ』

 

『ヤダね。 遠方から撃つのは性に合わねえ』

 

『巨船直下で戦うスリルを味わいたい』

 

『……隊長。 戦車ではなく、此方を寄越してはくれなかったのか?』

 

 

約1名、聞いたことある声が。 他にも不服そうな声も聞こえる。 効率ではなく、楽しい方を選ぶ辺り、プレイヤーなのだと再認識させられる。

俺達EDFは命懸けなので、真面目に闘って欲しいんだがな。 言っても馬鹿にされるだけだろうが。

だから無視だ。 今は戦闘中。 集中せねば。

 

そしてプレイヤーの降車地点、後方から沢山の白帯を描いて、俺の頭上を飛んでいく。 素直に乗り込んで、撃った者がいたようだ。

それらは、目標に飛翔しながら分裂。 多数の小型ミサイルとなると、ドカドカと《コスモノーツ》や、空飛ぶ《タイプ2ドローン》、地上で群れなすαやβを、ドッカンドッカンと吹き飛ばしていく。

 

 

『うひょー!』

 

『面白いように当たるな!』

 

『乗り物、楽しい!』

 

『操作は思ってたより楽だ』

 

『SJでもあったけど、アレらより強力だし、使ってて楽しいわ!』

 

『銃も良いが、乗り物も良いわ』

 

 

好評でなにより。

命中率の高さは、ロックオンによる誘導ミサイルもあるが、ミサイルそのものによる影響が強い。

小型ミサイルに分裂する収束誘導ミサイルは、高速で移動する場合でも最低1発は命中する場合が多く、確実にダメージを与えていく。

俺の様にエイムが苦手なプレイヤーや、野次馬でも使える。 少佐は良いビークルをチョイスしてくれたものだ。

 

 

『増援到着』

 

 

おや。 このタイミングで、更なる味方が。 有り難い。

戦局は有利であるが、味方は多い方が良いに決まっているからな。

 

 

『こちら、ストーム・ツー。 だいぶ派手にやっているようだな!』

 

『あの女の、コンバットフレームを黙らせるのに苦労しなきゃ、もう少し早く来れたんだが』

 

『まっ、味方としてなら役に立っているようだしな! 大目に見ようぜ』

 

『次やったら、大目玉に遭わせますが』

 

「軍曹……来てくれて感謝します。 そして、身内がすいません」

 

 

来て早々、ピトの事としか考えられない経緯を話す軍曹チーム。 思わず謝ってしまう。

ピトもグレ男も、サテキチ姉さんも性格がアレなのが身の回りにいると苦労する。

凄い人だとは思うよ? でも迷惑をかけるのはいけない。 役に立てば許されるかと言えば大間違いだ。

え? ブーメラン発言だって? 知らんね。

 

 

『《ブルージャケット》現地に到着。 またしても、コイツらを見ようとはな』

 

 

むっ。 EDFの狙撃部隊も来たか。

あの時とは異なり、狙撃部隊以外にも味方はたくさんいる。 「本能寺だー!」とはならないだろう。

 

 

「マザーシップを撃墜するのに手を貸してくれ。 遠方からの狙撃で、地上部隊の相手を頼む」

 

『喜んで。 再び共に戦える事を誇りに思う』

 

 

そういうと、通信が切れた。 敵味方の弾幕の中で、狙撃の活躍を見分けるのは難しいだろうが、上手く立ち回るだろう。

あの部隊の主兵装は《KFF50》という、大口径の狙撃銃だったか。 ボルトアクション式で、連射が利かないが威力は高い。

 

戦時中、押し寄せるβの大群相手に《ブルージャケット》と俺の空爆誘導で何とかしようという作戦があったのを思い出す。

戦場で狙撃兵程、恐ろしい相手はいないとか言っていたが……数の暴力相手に、狙撃のみでは対処しきれず、最後は波に飲まれて悲鳴が木霊した。

俺が空爆誘導や砲撃要請、サポート機器、ビークルで何とかしたが。

今回は狙撃部隊のみならず、優秀なデコイが沢山いるのでそんな事は無い筈だ。 良かったな、《ブルージャケット》。

 

 

「ところで、《ライサンダー》みたいな対物ライフルを持った、青髪の女の子の話をチラッと聞いたんだが……ソッチの部隊か?」

 

『ああ、あの子も同じタイミングで乗車したが……《ブルージャケット》じゃないぞ』

 

「そうなのか」

 

『この世界の女王だ』

 

「ナニ!? 卵をポコポコ産むのか! オマケに強酸を吐くのか!?」

 

『ナニ言ってんだ!?』

 

 

トンデモナイ話を聞いてしまった。 まさか女王がこの世界にもいようとは。

あの、巨大な羽根の生えたαが脳裏に浮かぶ。 或いは飛行能力のあるデカいヤツ。

話では、見た目は女の子の姿で青髪。 《ライサンダー》みたいなアンチマテリアル・ライフルを持っているという事だったが……まさか女王とは。

 

 

『落ち着け。 《スカウト》によると、そんな事はない。 そもそもプレイヤーだ。 一戦交えたが……怪物の様なエグい《スキル》は確認出来なかった。 狙撃の腕は1800メートルは離れていた《スカウト》のフルスロットルで動く《フリージャー》バイクに当てて、大破させたとかだが』

 

「…………本当なら、ある意味で怪物だな」

 

『どちらにせよ、今回は味方だから安心して良いと思う』

 

 

良かった。 人間の姿で酸を吐いてたり、卵を産んでいたら色々ヤバいからな。

そう思って胸を撫で下ろしたら、ズドォンと目の前の地面がめくり上がる。

舞い上がった土がドシャアとヘルメットに被さり、一時的に視界が遮られる。

くっ、砲弾でも撃ち込まれたか!?

 

 

『いい加減に、集中したらどうかしら。 隊長さん?』

 

 

すると、若い女子の声が。

どっかで聞いたコトのある声だが……静かな物言いだけど怒気を含みつつ悪びれのない、ワザとやったとしか思えない言い方から、俺の発言の結果だと悟った。

うん。 この世界の女王は恐ろしい。 オープン回線なので、不用意な発言はしないようにしよう。

今更ながら、そう反省し、戦慄と共に身を震わせた。

 

 

「すまない俺が悪かった!」

 

『次は当てるから』

 

『ストーム・ワン……コッチの世界でも苦労してるな』

 

 

また『誤射』されるのは勘弁。

このままでは命が持たない。 プライマーに殺されるのではなく、味方に殺られる。

戦場に集中だ集中。 仕事に戻るんだ。

 

前方を見やれば、プレイヤーのミサイル群により吹き飛ぶαやβ、腕や脚をもがれた《コスモノーツ》が見える。

向こうも撃ち返してくるが、幸いプレイヤーや《ブルージャケット》による遠距離からの一方的な攻撃で、押さえつけられている様子。

だが敵は無尽蔵に湧いてくるのでキリがない。 グレ男も中央に近寄れず、マザーシップを攻撃出来ないようだ。

《ニクス バスターカノン》で、進路上にいる邪魔なαやβ、《コスモノーツ》の歩兵部隊にロケットカノンを情け容赦なく撃っているのが見える。

両腕合わせて計12発のロケット弾が、白帯を作りながら群れを襲い、生まれた大きな爆炎は敵を全て飲み込んだ。

グレ男らしい。 そして命中させる腕も良い。

近距離の敵の群れには拡散榴弾砲で吹き飛ばしているし、空中にいる《タイプ2 ドローン》にも上手く当てられている。

対空戦闘には不向きな武装なのに、相当な腕前だと改めて思う。

だが敵は倒せど倒せど湧いてくる。 プレイヤーも頑張っているのだが、処理能力を上回っているな……マズいか。

 

 

『撃てども撃てどもキリがない!』

 

『弾が切れた!』

 

『無理ゲー』

 

『飽きてきたな』

 

『勝てるのかよ?』

 

 

あかん。 プレイヤーの士気が下がってきたか。 いくら死なないとはいえ、ログアウトされる危険性が出てきた。

戦力を失えば、今度はEDF隊員が危険に晒される。 早期決着をしなければ。 何か打つ手はないか?

 

 

「少佐! プログラムを止められないのか!?」

 

『やっています。 ですが、部下が残したプロテクトに苦戦しているのです』

 

『尋問を続けているのだがな、不気味な笑い声を上げるばかりで会話にもならん』

 

「敵は本当に無尽蔵なのか?」

 

『そのようです。 EDFのデータベースにある敵勢力の記録をコピー・アンド・ペーストで繰り返しているようです』

 

「消去すれば良いだろ」

 

『コトは単純ではありません。 ですが、マザーシップを基点にしています。 撃墜出来れば、或いは止まる可能性があります』

 

「出来ないから困っているんだがな。 結局はそうするしかないか」

 

 

どうする?

プレイヤーがいる内に何とか撃墜したい。 プレイヤーは死なないからな。

ビークルに乗せて突っ込ませて時間を稼ぎ、その間にグレ男に攻撃させるか。

うん? 死なない……グレ……。

 

 

「いや、そうするか」

 

プレイヤーには所詮ゲーム世界。

我々EDFには生死を賭けたガチ世界。

 

プレイヤーには理解を得られないだろう。 だがやってもらう。 住む世界が違えば戦術も違うというものだ。

ましてや、死なない兵がいるというなら尚更に。

 

 

「グレ男。 《C70爆弾》はあるな?」

 

『へ? ありますが。 特攻しろと?』

 

「プレイヤーにさせる。 《グレイプ》に大量に貼り付けろ。 それと、搭乗するプレイヤーの背中にも一個」

 

『成る程。 俺は同乗して、途中で飛び降り降車。 プレイヤーはそのままプライマーのスポーン地点に特攻し、俺の任意で爆破。 空いた刹那の隙間に俺が《アンダーアシスト》で突入して、急いでマザーシップの下部ハッチを攻撃。 これで良いです?』

 

「察しが良くて助かる。 さて、無線の通りだ。 立候補するプレイヤーはいるか?」

 

『ふざけるな《荒らしのワンちゃん》!』

 

『テメェがやれや!!』

 

『そんな気分じゃないね』

 

『爆弾より銃寄越せ』

 

「あー。 ピトは?」

 

『ワンちゃんを殺させてくれたらね。 それとも、特攻して死んだら『死んでも良い』かな?』

 

「駄目だ。 というか、まだ言うか」

 

 

駄目か。 プレイヤーなら、喜んで死んでくれると思ったが。

最悪攫ってでも……と思った矢先。 無線から最も聞き慣れた声がしてくる。 レンだ。

 

 

『ワンちゃん。 わたし……ワンちゃんの為なら死ねるよ。 足も、グレ男さん程じゃないけど自信あるし。 行けるところまで行って、死んでくる』

 

『パパー。 わたしも良いぜ?』

 

「いや、レンとフカには…………」

 

 

大切な娘に死んで来いとは言えない。 例え死なぬプレイヤーだとしても。

俺は……俺は、甘ちゃんだ。 自覚はしているが……いや、時間がない。 やってもらおう。

 

 

「わかった。 《グレイプ》には可能な限りの支援を行う。 グレ男、爆弾を頼む」

 

『了解。 お嬢さんたち。 ゲームとしてお楽しみ中の連中が芋ってる、降車地点に戻ってきてくれ。 爆弾つけるから』

 

『分かった』『はいよ』

 

『幼女に特攻させるとか、外道だな』

 

『おいおい、今更気付いたのかよ。 《荒らし》なチート野郎だぜ。 外道に決まってるだろ、アイツ』

 

『違いねぇ!』

 

 

ゲラゲラとプレイヤーの笑い声が聞こえてくる。 無線越しに、俺を非難しているようだが、気にしない。

今は戦争を終わらせる事が先決だ。 それと、レンとフカはプレイヤーだ。 『死なない』。 その事実があれば良い。 だから、何言われようと、俺は……。

 

 

『隊長。 まあ、後は俺が何とかするんで。 だから先に休んで下さいよ。 俺も、戦い疲れたし、ふざけるのも飽きてきたので……コレが終わったら休みますわ』

 

 

グレ男が、何を思ったのか。 サボるような話をしてきた。 いかんな。 そうは、いかないんだよ。

 

 

「生きている限り、戦いは続くぞ。 生きるというのは、そういう事だ」

 

『本当の意味で死ねずに、目的を見失って繰り返してるとですね、生きる気力が失せるんです。 やる気が出ないんです。

自棄になって、人を傷付けても何も感じなくなる。 或いは……幸せそうな顔や無知な雰囲気が許せず、不幸にさせようとしたり。

他人の気持ちを考えるのが面倒にもなるし、そのくせ新しい刺激を求めて、外道を進む。 他人の気遣いより、自分の為に行動する方が楽でありますし』

 

「今は戦闘中だ。 時間も惜しい。 また今度、お前の話は聞いてやる」

 

『了解ッス。 まあ、今は隊長のお陰で知らない未来を歩んでいると思えるし、昔の目的を思い出したから、良いッスけど』

 

 

何の話か知らないが、兎に角、王手をかけに行かねばならない。

その為には陸軍……レンジャー隊員の、爆発物のエキスパート(笑)なグレ男と死なぬプレイヤーの協力が必要不可欠なのだ。

 

 

『《C70爆弾》、チビどもの《グレイプ》に、シコタマ貼り付け完了ッス』

 

「よし。 そこを動くなよ」

 

『へ?』

 

 

俺はそういうと、降車地点に向き直る。 だいぶ距離を置き、グレ男と思われるレンジャー隊員が見えた。

棒立ちしている相手になら、当てられるだろう。 プレイヤーが発射している、収束誘導ミサイルが描く、クレヨンのような白線が無数に引かれて、降車地点周囲の空が見えないが、地にいるマトを撃つのに支障はない。

そう思い、俺は《パワーアシストガンMG》を構えて……グレ男に撃った。

パット状の弾が飛んでいき、見事にグレ男胴体に命中する。 俺も少しは、射撃が上手くなった気がするな。

 

 

『あん、隊長に撃たれたー! フレファ反対!』

 

「喧しい。 お前の攻撃力を上げたんだ。 知ってるだろ、ソレ」

 

 

そしてコレは、非殺傷弾による嫌がらせではない。

数あるEDFサポート装置のひとつ、パワーアシストガンは、攻撃力を上げるパットを発射する銃だ。 パットは壁や地面、ビークルや人に張り付く。

そして周囲と、張り付いた人の攻撃力を上げる。 本人の身体能力というより、使用する武器の威力が上がるのだ。

時間との勝負なので、攻撃力を上げて成功率を上げておきたかった。 因みに仕組みは不明である。 EDF謎の技術。

 

 

『じゃ、さよなら隊長。 無茶はいつも通りですがね、一応ね』

 

「お前は死なんさ。 そして、頼んだぞ」

 

『パパ……格好良く散る様を見てくれよ!』

 

『ワンちゃん、行ってくる』

 

「ああ。 戦闘爆撃機《カムイ》に空爆要請をして、露払いをするが、爆炎に構わず突っ込め」

 

『信じてアクセル全開!』

 

 

そう言って、俺はレンとフカ、グレ男を見送る。 砂埃を立たせて、フルパワーで真っ直ぐマザーシップ直下に向かう《グレイプ》。

俺はすぐさま無線機を取り出して《カムイC1》を要請。 マザーシップ直下を空爆してもらう。

 

 

『空爆を開始する!』

 

 

無線が聞こえると、グレイプの頭上を一機の戦闘爆撃機が高速で追い越した。 すぐさま指定座標に正確に爆弾を、帯を描きながら複数落としていく。

そして、爆弾が敵の頭上や地面に衝突すると、激しく爆発。 αやβが吹き飛び、《コスモノーツ》の防具の破片や手足が空中を舞っていくサマが見えた。

そこに、《グレイプ》が突入。 爆炎に消えると……爆炎が更に盛り上がる。 天高く、そのままマザーシップに届きそうな程の巨大な爆炎だ。

考えるまでもない。 《C70爆弾》が起爆したのだと直ぐに察した。

センサー反応から見て、なんとか生きているようだが、上手くやってくれよ。

 

 

『ヤベー《グラントMTX》の弾が切れた』

 

「ファッ!?」

 

 

グレ男から不安にさせる言葉が。

 

 

「なら、他の武器で撃墜しろ」

 

『グレラン《UMAX》は届かない。 ハンドグレネードで対空戦は曲芸だしぃ……《エメロード》はロックオンしないし……《C70爆弾》を投げて届くとは思えないし』

 

『こんな事なら、潔く散れば良かったなぁ』

 

『わたし達の武器じゃ、弾が届かない』

 

 

嘆くグレ男と娘たち。

せっかく中央に行けたのに、コレは酷い。 何か方法があるはずだ。

むっ。 《C70爆弾》……投げる……それだ!

 

 

「グリムリーパー! まだ生きてるか!?」

 

『ああ。 お前が雑談で盛り上がっている間も、仕事に勤しんでいたぞ』

 

「す、すまん。 頼みがある! マザーシップ直下へ向かい、ウチの娘を開いたハッチに投げてくれ!」

 

『笑えるな』

 

「投げるだけだ。 高い高いしてくれれば良い」

 

『成る程』『酷い作戦』『仕方ないね』

 

「スプリガン! グレ男達を援護!」

 

『既に向かっている!』

 

 

グレ男や、レン、フカは納得してくれた模様。 うむ。 プレイヤーじゃないと出来ない芸当だ。

グリムリーパー側も分かったらしく、「ひとつ貸しな」と聞き慣れた言葉を返された。 やってくれるらしい。

 

 

『今向かう』

 

『お、おい……黒い鎧連中、スポーン地点に突っ込んでるけど』

 

『いくらEDFがチート装備でも、あの数相手じゃ死ぬぞ!?』

 

 

さっきまで笑ってたプレイヤーが、今度は死神の心配をする。

ナニ、この対応の差。 俺は良いんですか。 そうですか。

 

 

『だからどうした? それが俺達の仕事だ』

 

 

そしてクールに、ワイルドボイスで答える隊長さん。 格好良い。

戦時中、撤退する味方の為に、軍曹達と敵を攻撃して時間稼ぎをしていた時を思い出す。

あの時、駆け付けたグリムリーパーが同じような事を言っていたな。

雨降る中、津波の如く押し寄せる敵を前に「帰るつもりは無い」と言い放ち、敵の軍勢に突入して押し返したのは感動的だった。

きっと、今回も上手くいく。 そう信じている。

 

 

『同士! 派手に散って来い! 汚ねぇ花火になって、あのUFOを撃墜するのだ! そして……人類の英雄になれ!』

 

『おうよ! 散る時は派手に散ってやらぁ!』

 

『盛り上がってるトコ悪いけどさ、やってる事は幼女に爆弾を付けまくって、砲弾にしようとしてるんだよね?』

 

『プレイヤーだから、マジで死なねーだけ良いんだよ! それに、オマイらチビで軽そうだから、投げ易いだろうし! 逆に俺がやったら隊長が悲しむだろ!』

 

「いや、悲しまないが。 寧ろ本望だろ、お前の場合」

 

 

ナニか言ってるので、ツッコミを入れておく。 別に問題児が利益を出して散る分には構わないんだが。 今後の面倒も見なくて済みそうだし。

 

 

『ねぇフカ。 やっぽりわたしたち、チビなんだよねぇ……』

 

『そうだね、役立って良かったじゃん。 派手に散るまで生き延びなきゃだけど』

 

 

そして、1番ヤベェ地点でトリップするレンちゃん。 なんか喜んでる。 怖い。 パパ、将来が心配!

だが確かに。 生き延びて貰わねば困る。

 

 

「グレ男! 周囲の敵の注意を引くんだ! レンとフカを守れ!」

 

『やってますよ! 《UMAX》を撃ちまくってますよ!』

 

「フカ、レン! 匍匐でジッとしていろ! 被弾率を下げるんだ! 応戦はしなくて良い、隠れてろ!」

 

『やってるよ!』『分かってる!』

 

「弾を失えば、こちらの負けだ。 グレ男、グリムリーパー、頼むぞ!」

 

『タマ? コイツらタマナシでしょ……っておい! 撃つんじゃねえ子兎!』

 

『ごめん。 『誤射』した』『サイテーだねグレ男さん』

 

『弾はあるってか? てか、ふざけてねぇで《ストレージ》にしまっておけ! 死んだ時に木っ端微塵だぞ!』

 

 

凄い盛り上がっているけど、大丈夫だろうか。 《リムペットスナイプガン》で見える範囲で援護しつつ、俺は作戦の成功を祈るしかない。

 

 

『ウギャッ!?』『フカ!』『同士!』

 

「どうした!? 報告せよ!」

 

 

フカの悲鳴と仲間の声が聞こえて、慌てて応答を求む。 被弾したか!?

爆煙が晴れておらず、状況不明……いや、仲間のセンサー反応がひとつ消えてしまったぞ!

 

 

『すみません、同志が《コスモノーツ》に踏まれて《死に戻り》しました。 レンは無事です』

 

 

なんて事だ……偶然か、レンは迷彩効果が発揮されて生き延びたラッキーガールか。

兎に角、弾丸はレンだけか。 レンだけで行けるか!?

 

 

『グリムリーパー現地に到着』

 

「急げ! レンを掴んで、フルパワーでマザーシップ直下のハッチに投げろ!」

 

『了解。 気張れ、チビ』

 

『うん!』

 

「グレ男! タイミングは任す! しくじるなよ!」

 

『任せて下さい!』

 

 

そして、煙の山の天辺から、小さなナニかが、シャトルでも上がったのかという感じで、真っ直ぐ抜けるのが見えて……そのままマザーシップ直下、ハッチに入った様に見えた刹那。 凄まじい爆発音。

 

 

ドガアァンッ!!

 

 

『やったぜ隊長』

 

 

ハッチから激しい爆炎が起こり、マザーシップの金色の表面から多くの火花と爆炎が噴き出していく。

次から次へと、範囲がどんどん拡がれば、とうとうバランスを崩して高度が下がり始めた。

 

 

『凄いですね、ラッキーガール! ステータスというより、リアルラックもあったと思いますよ!』

 

「全隊員及びプレイヤーへ! マザーシップが堕ちる! 出来るだけ遠くに逃げろ!!」

 

 

勝利を味わう余裕は無い。 俺は直ぐさま退避命令を下す。

巨大な質量を誇るマザーシップが堕ちてみろ、辺りのエリアは全滅だ。 グロッケンは既に吹き飛んでるが、隊員とプレイヤーが死んでしまう。

 

 

『退避だ退避ッ!』

 

『全員、ビークルに乗れるだけ乗れ!』

 

『離れろ急げ!』

 

 

退避する皆。 この調子なら大丈夫だろう。

プレイヤーはまだ良いが、隊員は駄目だ。 死んでしまう。 ここまで来て死人が増えるのは見たくない。

俺も近くのグレイプに乗り込み、アクセルを思いっきり踏んで離れる。

ガンカメラ越しにマザーを見やれば、地面に端が衝突する瞬間であり…………刹那、巨大な土埃を舞わせて崩れゆく。 大きな地響きと衝撃がグレイプを激しく揺らした。

やがて爆発の代わりに光の粒子となって、マザーは消えてしまう。 予想と少し異なる終わり方だったな。

 

 

『終わったのか?』

 

「情報部! プログラムはどうなった!?」

 

『もうすぐ止められます! マザーの消えた部分から…………今、止めるのに成功!』

 

『本部より全隊員及びプレイヤーへ。 戦闘終了だ。 よくやった。 後処理は任せろ』

 

 

ようやく……終わったか。 長かったような、短かったような。 グレ男や皆のお陰か。

 

 

『ワンちゃん! 成功したみたいだね!』

 

「レンか!? 良かった、死に戻りしたのか」

 

『パパー、わたしもいるぜ?』

 

『フカもか! 良かった……ありがとう。 そして、すまなかった』

 

 

死ぬ事は無いと分かっていても、いざ死ぬとなると不安が拭えないものだ。

でも……良かった。 生きてくれて。 ああ、本当に。 そして、俺も生きている。 味方に殺されずに良かった。 マジで。

 

 

『本部よりストーム・ワン。 そして、グレ男。 悪いが地下に来てくれ。 少佐の部下の件だ』

 

 

だがまあ、仕事は残っている。

俺は返事をすると、駆け足で指定場所へ向かう。 全ての謎が解決するとは思えないが、やる事はやらねばならない。

地球に帰るのは、それからの方が良い。



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終戦。 それぞれの世界へ。
事情聴取


不定期更新中。 穴だらけの話になりそう。


事情聴取

 

プレイヤー達は、ドンパチが終わって自由行動に出たようだ。

 

駐屯地へ戻る者もいれば、隊員と話して銃や装備品の話をして盛り上がる者もいる。

 

一方で、多くの野次馬は祭りが終わったとして、ログアウト。 GGOから現実へと帰還した。

 

隊員も、駐屯地へ帰還して後始末をする者とグロッケン(のあった土地)に残り、仮設本部の警備と、周囲の始末に入る者で別れた。

 

とまあ、多くの者は大凡役割や行動が決まっており、祭りや勝利の余韻に浸かるとは限らなかったが……自身の無力さに嘆いたり、EDFの謎に突っ込む者がいたりと様々である。

 

それらの群勢から離れて、ストーム・ワンとグレ男が本部の呼び出しで地下に戻った後。

 

一部のプレイヤーは、EDFを理解しようと歩み寄り、または単なるナンパで近寄った。

 

EDFは《ザスカー》と、どういう関係かとか、NPCなのかAIなのか、プレイヤーなのかとか。

 

正体はどうでも良いので、お姉さんの連絡先教えて下さいとか。

 

異質な存在であるEDFだが、必ずしも疎まれたり、恐怖の対象だとは限らない。

 

理解出来ないからこそ、歩み寄る。

魅せられたからこそ、あやかりたい。

不思議な雰囲気だからこそ、感じてたい。

 

隣人と相対するとき、GGOでは銃や爆弾で語るのが一種の礼儀である。 特にフィールドでは。

 

そして、EDFとしても。

 

だけど、今は平和だった。

かつて殺し合い、憎み合う仲でもあったのに、こうも互いに笑い合って会話をしているとは。 不思議なものだ。

 

それは、ゲーム世界故か。

言葉が通じる相手だからか。

互いの違う雰囲気に惹かれたからか。

 

きっと色々あるだろう。

 

だから。

その色々の中に、戦争を起こした者とも、和解出来ると考え接する者がいたとしても、可笑しいコトではない……のかも知れない。

 

その思考をする者は、果たして身を滅ぼす愚者か。 それとも、全てを丸く収める英雄たる人物か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とグレ男、少佐の部下がいる場所。

本部のある地下に設けられた、即席の取調室は、簡単な仕切りに囲まれた粗末で小さな空間だった。

 

そこに机を挟んで、パイプ椅子が対になる様に置いてある。 俺は扉側に座り、部下の子は俺の正面に座っている。

グレ男は扉を塞ぐ様に仁王立ち。 部下の子をグラサン越しに冷ややかな目で見ており、威圧的だ。 いつものお調子者の雰囲気ではない。

 

だがまあ、構わず仕事に取り掛かろう。

 

本部や情報部に口を開かなかったというが、俺となら或いは。 そういった理由で俺はこの場にいる。

 

当の本部や情報部の人間は、仕切りの外にいて、俺らの話を記録している。

ナニも期待しないで欲しいが、やらねば何も始まらない。

 

なら、やらねばならない。

結果なぞ知らない。 恐れず前に進むのみだ。

 

それが今の存在意義。 そして口を開けば良い。 言葉をかけろ。

そして、戦争の首謀者だというこの子から、証言を、事実を聞くのだ。

 

それが任務。

仲間だとしても、恐ろしい事実や話が出て来ても。

俺は受け入れ、聞き出していこう。

EDFとして、かつて直属のサポートをしてくれた者として、無関係ではいられない。

 

 

「直接会うのは初めてか。 戦時中は、無線越しに世話になったな。 ありがとう」

 

「…………」

 

 

先ずは礼を言って、相手の緊張を和らげようと試みた。 だが逆に硬直して視線を下に向けてしまうオペ子。

まるで叱られた子どもみたいだ。 いけない。 イキナリ失敗したか?

 

あれか。 戦闘終了だと言っては敵増援が来たり、今度こそ戦闘終了だと言っては、また敵増援が来たり。

夜間作戦では、眠いなぁとボヤいてたり、何かの作戦では遅れてきて、その時には既に敵を殲滅し終えた後だったり。

ポンコツな部分が、隠れる事なく発揮されていたからか。

 

 

「ま、まあ……なんだ。 戦時中は絶望に飲まれていく中、良く耐え忍んだな。 偉いぞ」

 

「隊長。 コイツは戦争を起こした悪者ですよ。 本題に入って、牢にぶち込んで終わらせましょうよ」

 

「お前には言われたくない。 戦時中は味方ごと吹き飛ばしたり、ビークル壊したり、命令無視ばかりで」

 

「この時の為に、試行錯誤していただけです」

 

 

グレ男の言っているコトは、時々分からない。 本部とも通じていた様だし、意味がなさそうで、実はあるかの行動も。

 

まあ良い。 今はオペ子だ。 コイツのコトは後回しだ。

 

 

「話がズレた。 だが、コイツの言った通り、君は戦争を起こした張本人なのか?」

 

「……ええ、そうです」

 

 

重々しく口を開いた。 そこは認めるのだな。

正直、否定するのを期待していた部分もある。 仲間が敵になる瞬間を味わいたくないからだ。

 

だが、証拠不十分。 真犯人は別にいて、庇っている可能性を否定出来ない。

 

ストレートに聞きたいところだが、グッと抑えて話を続ける。

 

 

「では、どの様にして戦争を起こした? 君1人で、あれだけの規模を起こせるとは考え難い」

 

 

少し前のめりになりながら、オペ子に尋ねた。

 

情報部の彼女の立場が、高位であったのかは不明だが、1人だけでやるには規模がデカ過ぎる。

 

俺がGGOに入って、3ヶ月以上の猶予はあったが、そんな短期間で、アソコまで出来るのか?

 

仮に準備出来たとして、誰も気が付かなかったなんてあるのか?

 

 

「駐屯地は占拠され、グロッケンも、ほぼ制圧する程の戦力。 そして、グロッケンを吹き飛ばす程の力も持ち合わせていたが」

 

「いや、吹き飛んだのは隊長の所業だと思います」

 

「お前の所為でもある」

 

「罪を着せるのは良くないッス」

 

 

グレ男め、お前は黙ってろ。 本題がズレちゃったよ。

 

真面目に考えよう。 戦力の大半はクローンであったが、本物も少なからずいた。

駐屯地を守っていた、ニクス隊パイロットがそうだ。

 

他にも、知らないところで空軍や海軍も絡んでいる。

隊員はクローンと違い、言葉を発せられる人間だ。 何が善で悪か、考えもする。

 

はっきり断った者はクローンに殺されたらしいが、参戦するフリをして告発する者はいなかったのか。 気になる点は多い。

いや、告発はしたのか。 本部が少し知っていたそうだから。

 

今は死んでしまったか、拘束されたか。

生き残った者に同じように尋問しても、ただ命令に従って行動したとしか言わないらしく、真相解明には役立たない。

 

だから、やはり首謀者と思われる彼女に聞くしかないかと思い質問してみたが……答えてくれるのか否か。

 

 

「ストーム・ワン。 既に知っていると思います。 この世界がプログラムであると」

 

「ああ」

 

「そして、プログラムを弄れば、物資や食料、兵器群をヌルの状態から生成出来ることも」

 

「そのようだな」

 

 

どうやら、答えてくれそうな雰囲気だ。

相手の言葉に頷きつつ、次の言葉を促していく。 グレ男も茶化さず、黙ってくれた。

 

開戦の経緯も知らねばならない。

此方が知りたい情報のみならずだ。

 

 

「最初は、誰も知らなかったのですよ。 プログラムの世界に行けるだなんて。 ストーム・ワンが行方不明になったとき、転送装置によるものだと情報部が掴んで……そして調査が行われました。 結果、プログラムで構成されたゲーム世界にストーム・ワンが転送されたと判明。 そして……可能性が生まれた」

 

「プログラム、システムからの、資源や人の無尽蔵の生産、そして地球に転送しての再生計画か?」

 

「馬鹿げてると思います? ですが、我々がVRマシンを介さず、生身でこの場にいる。

この事実は変わらない。 そして、食べ物や物資に直接触れて、使用出来ます。 しかも地球に輸送可能。 夢のような話です。

プレイヤーには偽物でも、EDFには本物なのです」

 

「俺がSJ2前に、本部からの命令であったアレは……文面だったが、君が書いたのか?」

 

「そうです。 地球の為に、人類の為に奇跡を起こし続けた貴方なら此方側に着くと思ったのですがね。 よく裏切ってくれましたね?」

 

「……他の、少なからず生の兵士が加担していたが。 同じ感じで引き入れたのか?」

 

「はい」

 

「そして、断った者は殺したか」

 

「はい」

 

「俺のコトは……グロッケン制圧作戦のとき、殺そうとしたのか」

 

「はい。 情報部の端末から、クローンや此方に着いた隊員に指示を出して」

 

「ハッキリ断っては、いなかったが?」

 

「ソチラのグレ男さん……龍馬榴弾兵と通じていました。 ストーム・ワンは、こちら側に着くつもりはないと。

それで、殺害と制圧を実行しましたが……結果はコレです。 貴方が易々と死ぬとは考えませんでしたが、グレ男さんが裏切るとは思いませんでしたよ」

 

「は? 元から仲間だったつもりはねぇよ」

 

「よせ、グレ男」

 

 

淡々と答えていく彼女。 その考え方は、きっと、ひとつの正義だ。

 

だがな。 考え方は様々だ。

俺やグレ男が裏切ったと言ったが、彼女の考え方は侵略のソレだ。

 

EDFとして、忌避するべき悪行だ。

 

俺は侵略者になる気は無い。 軍曹達、ストームチームの面々も同じ想いだった。

他にも《ブルージャケット》、《ドーベル隊》、《スカウト》もそうだ。

最終的には、クローンの子も加勢してくれた。 グレ男も……今回はふざけた雰囲気ではなかったな。 闘い自体は楽しんでいたが、いつもよりマジだった。

 

俺はジッと彼女の目を見る。 間違ったコトをしたつもりはない、そんな眼差しだ。

 

 

「だがな、お前の正義はEDFの意に反する行為だ。 仲間にすら手を掛け、終いには《プライマー》の群勢。 多くの者が傷付いた。 分かっているな?」

 

「それ以上の価値が、GGOには……VRMMOの世界にはあったんです。 ゲームとしてだけではない、新たな居住地としても、無制限の物資生成場としても」

 

「再興の為なら、侵略者の真似事が許されるとでも?」

 

「ゲーム世界です。 誰も死なない。 平和的じゃないですか。 プレイヤー達には勿体無い世界です、我々本物の為に利用されるべきなのですよ。

なのに、なのに! 貴方達は馬鹿ですか? 最初から賛同すれば良いのに! プレイヤーは死なないから、遠慮なく殺せば良いのに!

アイツら偽物の為に命張って、傷付いて、その結果が感謝もされずに罵倒される!

この世界の連中と馴れ合う必要性は無いというのに! あの絶望が続く地球がどうなっても良いんですか!? 救える貴重な命が失われていくのが、どうでも良いと!?」

 

「黙れ」

 

 

思わずピシャリと言い放つ。 こんなに喚くヤツとは思わなかった。 いや、どこか分かっていたか。

 

彼女の言い分は分からんでもない。

戦後の地球は、かつての人口の1割にまで減少。 少ない物資を奪い合い、人同士が殺し合う暗黒時代だ。

 

EDFは残された微々たる力で、なんとか統制を図っているが……《オペレーション・オメガ》の件もある。

EDFを恨む生存者も少なくない。 そうでなくても、多くのモノを失い、生気が無い人間も多い。

 

隊員も、助けたいのに殺しに来る、拒否する者と接している内に病んでしまう話も後を絶たない。

 

メンタルの弱い彼女なりに、今回の件で打開策を考えた結果。 それが侵略であったのだろう。

 

確かに。 この世界を制圧すれば解決の方向に向かうだろう。

物資があれば争いは減る。 EDFも戦力を増強出来、安全を確保出来る。 皆を守れる。

 

だが、俺らEDFはそうじゃない筈だ。

 

それに。 彼女には言っておきたいコトがある。

 

 

「この世界はゲームだと言ったな」

 

「ええ。 我々は生きていますがね!」

 

「プレイヤーもだ」

 

「はい?」

 

「この世界で生きている、と言いたい」

 

 

これだ。

プレイヤーにとって、確かに現実ではない。 ココは仮想世界。

偽物だ。 肉体を持たず、アバターで行動している。 死んでも、本当に死ぬコトはない。

どこか感覚は希薄で、夢の中にいるような、そんな気もするという。

 

だが、様々な経緯の上でログインし、心を持ち、他のプレイヤーと話し合う彼等。

そこには喜怒哀楽が存在しているのだ。 例え眼に映る表情がエフェクトの1つだとしても、筋肉が動く疲れが無くとも。

 

心の内側までもがプログラムではない。 本物なのだ。

 

 

「死なないから。 疲れないから。 感覚が希薄だから。 所詮ゲームだから。 だが心まではゲームの、プログラムやシステムの話ではない。 そして、操れない。 本来交えないEDFが絡んだコトで、少なからず心に傷を負ったモノもいたのではないか?

結果、現実でも影響が出る可能性は否定出来ない。

お前は、救える命を気に掛けていたな。 では、その為に此方の命を奪うのは良いのか?」

 

「重みが違います。 そんなの、個々の問題で」

 

 

特大ブーメランだな。

そして重み、ね。 コイツもまた、希少性や数で天秤にかける1人か。

 

 

「なら、お前もその1人だ。 もっと言えば、EDFとGGOもだ」

 

「はい?」

 

「個人の考えや問題で、他を巻き込むなと言いたい。 助けを求めるのは悪いことではないが、寄りかかれば共倒れになる。

今回は、元に戻せないレベルにまで達した。 此方の現実では、EDFの件で大騒ぎになっているそうだ。 これ以上問題になれば、GGOはサービス終了、プレイヤーは死ぬ。

その後も調査が入るだろう。 その時、我々EDFだけでなく、地球も危険に晒される事になり兼ねない。

そうなれば、お前が言う地球と、その貴重な命全てを失う結果になるかも知れない。

本部はこの点も踏まえて、GGOから撤退するのを決定した。 転送装置の破壊、履歴の削除も含めて。

お前のやり方は強引すぎたんだ。 もっと穏便にやるべきだった。 武力に頼り、人を考えなかった。

それと…………命の重みを数や希少性、別世界で天秤にかけるモノではない。 そう考えられなかった時点で、お前は失敗していたんだよ」

 

 

これもまた、個人の意見だ。 そして、彼女の正義ではない。 悪だ。 受け入れられるとは思ってない。

 

黙ってしまったが、別に意見を曲げた訳ではなさそうだ。

結構。 期待なんてしていないさ。 俺は君のように意見を押し付けるつもりはない。

それに、反対の意見を認めてしまえば、自身の行いの結果を背負わねばならない。 負けを認めねばならない。

 

それは苦痛であり、屈辱だ。 周りから責められ、完全犯罪者の扱いになり、自身の考えや存在を全否定されかねない。

それを受け入れられる人は、極少数だろう。

 

まあ、良い。 何が正しいかの議論をしているつもりはない。 それに、話は終わってないのでな。

 

 

「話を戻そう。 告発の恐れは考えなかったのか? クローンは兎も角、隊員は良く喋るぞ」

 

「常にクローンに監視させてました。 裏切る動作をすれば、銃殺させました」

 

「クローンは、お前が造ったのか?」

 

「いえ。 《サテライトフォール》の女科学者です。 地球サイドで、人口の水増しで量産されました」

 

 

あの女、《スプライトフォール》以外興味が無いと思いきや、他にもやっていたのか。

無線越しだけでは、人となりは分からんな。

 

 

「クローンというからには、モデルがいるな。 誰だ?」

 

「貴方達ストーム隊と、一部の隊員ら。 外見はどこかのウィングダイバーらしいですが、遺伝子情報はごちゃ混ぜだとか」

 

「何故、女なんだ? なんとなく察しはつくが」

 

 

おかげさまで酷い目にあった、とは言わない。 というか言えない。

レンちゃんの怖い『ウフフ』を思い出すからだ。 願わくば、二度と見たくない。

 

そんな、内心ブルってる俺を気に掛けず、彼女は淡々と答えていく。 素直でよろしい。

 

 

「ウィングダイバーの装備も扱える様にする為や、集団行動や成績において、女性の方が優れているデータもあった為です。

それと、先程言いましたが、人口の水増し。 子を産めるからです」

 

「そんな気はした。 人との違いは無いのだな。 思考や無感情、無口の部分はあるが」

 

 

無表情で無口のみならず、行動もどこか簡素的だったクローンを思う。

簡単な回避行動は取るが、戦術的な動きはしない。 横隊でレイヴンを構えて、弾幕を張りながら前進する行動が主だった。

駐屯地では、遮蔽物に身を隠さず、ひたすらに撃ちながら前進を繰り返していたようだ。

そんなコトをしたものだから、プレイヤーに撃たれまくり(特にスナイパーには格好のマト)、多くの子が死んでしまった。

 

死の恐怖がないのか。 だからといって、俺は人形とは思えない。

 

 

「養成ポッドで、強制的に大人サイズまで成長させる所為でしょうかね。 それは造った本人にでも聞いてください」

 

 

いや、勘弁して下さい。 会いたくも話したくもないです。

 

いや、本当に必要なら会うよ? それが任務を遂行する上で必要ならば。

そうでなければ会いません。 終戦直後の無線は、嫌な思い出だ。

 

無線越しでは、人となりは分からない。 でも狂人だよ。 間違いない。

グレ男やピトみたいなのを見てきたからな。 俺は知っているんだ。

 

 

「あー、今度にする。 だが例外もあったな、M4だ」

 

「M4……GGOの銃の方、ではないですよね。 EDFのレイヴン……ああ」

 

「無感情なのは一緒だが、良く喋る子だ。 他の子の武装がM3の改修に対して、あの子だけM4だから、M4。 あの子は特別なのか?」

 

「開発者は成功例と言っていました。 他の人形とステータスは同じですが、思考が出来るのと言葉による意思の疎通が可能な事から、他を纏めるマスターの役割を期待されていましたが……思考が出来るという事は、反乱の危険性があった。

危険分子として実験台にするか、戦場に放り出すか悩んだそうです。 その間は駐屯地の看守の任務についていました。

ですが、捕らえていたプレイヤーを勝手に逃がして、挙句に持っていたEDFの装備まで渡したとか。 自身も何処かへ行ってしまったそうです」

 

 

捕らえていたプレイヤー、ね。

それはレンの事だろう。 成る程、あの子がレンを逃がしてくれたのか。 礼を言わねばな。

 

 

「GGOの駐屯地で同じ製法でアレだけ造ったら、思考を持ったそうです。

VRMMOの世界故か、偶然か。 科学者は興味津々でした。 そして、この世界を実験台にする為に、クローンの実験も兼ねて侵攻に手を貸してくれましたよ」

 

「クローンが戦力になっていた経緯は分かった。 M4のコトもな。

ビークルの運用は、プログラムからだな? 既存のモノを動かしたら、バレるからな」

 

「はい。 プログラムの書き換えや付け加えで、生産、運用したのです。 まさかプライマーまで創れるとは、思いませんでしたが」

 

 

少し口角を上げて話す彼女。 余程、嬉しかったのだろうか。

 

全く。 とんでもない世界に来たものだ。

量産設備や資材を使わず、ポンポンとビークルや兵器を出せるのだから。

 

馬鹿馬鹿しく、そして恐ろしい。

世界を弄れて、無限に物資を生産出来る。 神にでもなったつもりか。

 

 

「でも……ストーム・ワン。 貴方の存在がいる限り、きっと、全ての計画は崩壊する運命だったのでしょうね。

どんな絶望も窮地も切り抜け、跳ね除ける貴方なら、マザーシップを12隻造ったとしても、きっと勝つ。 そして、戻ってくる」

 

「戦時も思った事だがな、過大評価だ。 俺は空爆誘導兵。 地底じゃ足手纏いにならないようにするのが精一杯だったし、地上でも1人で大群を相手に出来るほど俺は強くない。

グレ男なら兎も角、俺は皆の支援を受けて、ようやくだ。 それも、俺自身の力ではない。 空軍や海軍、基地や衛星の力だよ」

 

「その誘導技術と人望は、他には無いものです」

 

「激しく同意」

 

 

グレ男も口を開き、褒めてくる。

だがな。 多くの仲間の犠牲の上で、俺は前線に立ち続けたのだ。 素直に喜べない。

 

だがやる事はやらねばならない。 死んでいった仲間達の為にも。

 

 

「さて。 長くなったが……他に仲間はいるのか?」

 

「いるとしたら、あの謎の女科学者ですね。 彼女からも話を聞いてみたらどうでしょう」

 

 

やっぱやらなきゃダメ?

あ、いや……死んでいった仲間の為にもか。

 

俺は席を立ち、外にいる本部の人や情報部の少佐に声をかける。 やる事は続きそうだ。

 

 

「本部。 彼女とはココまでだ。 次は……女科学者を呼んでくれ」

 

 

やりたかねぇ。

だがやる。 会えば意外と良いヤツかも知れない。 発狂されなきゃだが。



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EDFの可能性

不定期更新中。


 

 

「会うのは初めてね、ストーム・ワン」

 

 

聞いたことのある女の声に誘われるがまま、首を動かして振り返る。

そこには白衣を着た、20代後半のお姉さんが。 長身なのも相まって、大人の雰囲気を醸し出している。

そんな彼女の見た目はショートヘアに両耳にピアス。 豊満な胸と脳髄まで響く甘い声は女としての魅力を、異性に伝えるには抜群だった。

 

うん。 見た目は良い。

だが中身はイケナイ。 無線越しの狂気の笑い声を思い出し、俺は身を震わせた。

 

 

「ああ。 戦時はその……世話になった。 聞きたい事があるんだ、向かいの椅子に座ってくれ」

 

「はいはーい」

 

 

軽い感じで、足取り軽く椅子に座る彼女。 どこかグレ男やピトを思わせる雰囲気だ。

 

皆集まれば、仲良くパーティでもするのかも知れない。 銃弾飛び交い、血みどろになりながら笑い合う、狂った世界の完成だ。

俺は絶対参加しないが!

 

そんな危険分子な彼女は、椅子に座るとコチラを舐めるように視線を這わせてくる。

止めてくれよ……チビったらどうするの。

 

 

「こんな時でも、ヘルメット姿なのね」

 

「地下空間に良い思い出はないんでね。 まあ、俺の事は良いんだ。 本題に入ろう」

 

 

残念、と呟かれた。 ナニが残念なんだよ。 額に銃弾でも撃ちたかったのか。 コイツならナニやってもおかしくない。

 

 

「そりゃ、隊長のイケメンな顔を見たかったからですよ。 面食いの女にキャーキャー言われる程の顔をね!」

 

「グレ男が居たのを忘れていた」

 

「隊長ヒデェ」

 

 

グレ男が皮肉を言ってきたので、テキトーに言い返しておく。

俺の顔はなぁ……普通だと思うんだけど、素顔を見たヤツらは騒ぐか、目を逸らされる程に酷い故。

 

きっと人相が悪い顔なのかも知れない。 だから、成る可くヘルメットを被ったり、サングラスや帽子を被っていたりする。

愛するレンにも、顔を逸らされたコトがある。 悲しかったなぁ。

 

 

「また本題がズレた。 グレ男、お前は黙ってろ」

 

「りょー」

 

 

全く。 先程もそうだったが、コイツには成る可く黙って頂く。 話の腰が折れる。

 

俺は彼女に向き直り、改めて口を開いた。

 

 

「さて、質問をしよう。 お前は情報部の、少佐の部下に加担したか?」

 

「いいえ」

 

「なら、戦場にいたクローンは何だ。 開発者のお前が絡んでいるんじゃないのか」

 

「あのね、開発者は私1人じゃないのよ。 科学者は他にもいる。 GGOに興味津々な連中が手を貸したんでしょうよ」

 

 

まあ、そんな事だろうとは思った。

だがオペ子と話は合うな。 名も知らぬEDF科学者連中が共犯だ。 恐らくコイツじゃない。

 

俺は扉側に首を向けつつ、外の人間に話しかける。 その辺の仕事は背広組に任せよう。

現時点でも怪しいが、それはそれだ。

 

 

「本部。 関わった科学者連中に話をした方が良いぞ」

 

「既にした。 今、地球サイドで拘束、連行しているところだ」

 

 

うん。 そういう情報はさ、教えてくれよ。 恥をかくじゃないか。

 

俺は気まずくなって、声を濁しつつ、前に向き直る。

 

 

「あー、じゃあ、後は任せる。 他の話をしようか」

 

「可愛いわね、貴方」

 

 

おいやめろ。 俺を煽るんじゃない。 コイツ、やっぱ危険人物だよ。 S気あるよ。 ピトサイドの人間だよ。

 

そういうのはエムにでもやってくれ。 ピト以外の人間にやられて、喜ぶのか知らないが、少なくとも俺はムリィ……なので。

 

 

「じゃあ、別の話を。 《スプライトフォール》にしか、興味無いと思っていたんだがな……クローン開発にも関わっていたとは」

 

「転送装置もね」

 

「ハッ!? 思い出したぞ! あの時はよくも実験台にしやがったな!? 今この場で文句を言っておくわぁ!」

 

 

GGOの荒野フィールドに理不尽に転送された時を思い出し、バウッと怒っておく。

すると、クスクスと笑う彼女。 知らんヤツが見たら堕ちる程に素敵な表情。

 

だが、やったコトはイラッとくるレベルである。 俺がGGOにいる理由はコイツの造った転送装置の所為なのだから。

 

そして、EDFがGGOに関わるキッカケを作った。 ある意味、全ての元凶。

 

 

「やっぱり、私は天才ね」

 

「天災の間違いだろフザケンナ」

 

「でもぉ? お陰で、超可愛いレンちゃんとフカちゃんに出会えたじゃない♪」

 

「そうだな許す」

 

「隊長チョロ過ぎ!」

 

 

グレ男がナニか言ってきたが、気にしない。 いやホラ。 ウチの娘可愛いじゃん。

 

それを理解している彼女の目は狂ってない。 そして良い人なんだ。 そうに違いない。

 

 

「ここに、《スカウト》が収めた彼女達の写真があるのよ。 見るでしょ?」

 

「勿論だ」

 

「この……スーツケースの中に収まっているヤツなんてレアよ」

 

 

蛇ゴッコしている娘だと!?

俺の知らない間に、そんなキュートなコトを!?

 

スッと机の上に出された写真を見させて貰うと、レンが銀色のスーツケースにうずくまるように入って、丁度収まっているモノだった。 何故か両手を頰に添えて、トリップしている。 可愛い。 箱入り娘。

 

即買いじゃん、そんなん!

 

 

「良い値で買おう」

 

「隊長。 本題ズレてますよ、良いんスか?」

 

「うるさい! ウチの娘が1番可愛い!」

 

「フフッ。 やっぱり貴方、楽しいわぁ♪」

 

「遊ばれてますよ!? コレで良いんですかぁ!?」

 

 

ガクガクと揺らしてくるグレ男。 だがそんなコトで愛が消えるコトはない。

 

この写真を持って、ピトに自慢しよ。 悔しがるかもな。 ふっ。

 

そんなトリップする俺を見兼ねたのか、彼女……サテキチ姉さんが軌道修正に入る。

 

 

「まあ、写真はあげるわ。 もうGGOから撤退するのだし、プレイヤーの情報は要らないし。

さて。 可愛そうだから、お仕事の話でもしてあげるわ」

 

 

しまった! 任務中だった。

くっ……俺としたことが。 良いように遊ばれてしまった。 コイツは、やはり危険だ。

 

 

「そうねぇ。 クローンの開発や生産には乗る気じゃなかった。 でも、どうしてもというから仕方なく手伝ったわ。 興味がなかったけど、人手が足りなかったしね。

けれど、完成したその後も良い気はしなかった。 造られた命とはいえ、心が欠落した存在とはいえ……消耗品として、工場で生まれて使い潰される光景は見ていて悲しかった」

 

「その中で、M4が生まれた時は嬉しかったか?」

 

「ええ、とても。 あの子も無表情だけど、心を持っているわ。 それを失敗作だとして、皮肉で《M4レイヴン》を渡されたようだけど」

 

「この世界で生まれたそうだな?」

 

「少佐の部下に聞いたのね。 ええ、そうよ。 実験だとして、駐屯地で生まれさせられたの。 そうしたら思考を持って生まれた。

不思議よね。 同じやり方、同じスペックなのに」

 

 

今度は目を細めて柔らかで、穏やかな顔を浮かべる。 狂人だと思っていたが、やはり根は良いヤツなんじゃなかろうか。

 

 

「余計に消耗品として造られるべきではないと思った。 水増しにもね。 GGOにいるべきではない、とも。 論理的に問題があるから、とも考えたけど」

 

 

本部に聞くか。 生産は打ち切りなのか否か。

悪用されれば、牙を剥きかねない子らを造り続けるとは考え難いが。

 

 

「本部。 その辺、どうなんだ?」

 

「心配せずとも打ち切りだ。 既にラインは止まっている」

 

「だ、そうだ。 良かったな」

 

 

これで解決の方向へ向かうだろ。

色々とあったが、GGOでの活動も終わりが見えてきた。

 

コトは単純ではないと思う。 だが、この世界から撤退すれば、地球とは切り離される。

問題もこれ以上増えないし、すれ違わない。

 

元の形に戻る。 別れは悲しいが、交わってはならない存在だ。

さあ、良い子らはそろそろ帰る時間だ。 俺らの現実へ帰ろう。 戦争の終わった今、EDFがGGOでやるコトは無い。

 

だが、彼女はトンデモナイ爆弾を落とす事になる。

 

 

「クローンの件はね。 でも、ストーム・ワン。 GGOの、VRMMOの世界の可能性を全て棄てるには惜しいんじゃない?」

 

 

可能性だって?

これ以上、互いに干渉する気はない。

 

 

「お前な……これ以上は取り返しがつかなくなるぞ。 本部も撤退を決めた。 引き際だよ」

 

「取り返しがつけば良いのでしょ?」

 

「何が言いたい」

 

 

嫌な予感がする。 大抵、この手のものはロクなもんじゃない。

だが聞いてしまう。 不安要素は消し去るべきだ。 その為にも、要因は知らなくてはならない。

 

いや、知らないのは怖い。 知っても怖いが、幽霊を相手にするより余程マシだ。

 

だが、幽霊の方がマシだと思う程に、ソレは恐ろしいものだった。

放たれたモノ。 それは……。

 

 

「転送装置はね、VRの中で使えば過去に行く事も出来るのよ。 タイムマシンね」

 

「冗談……じゃないよな?」

 

「いいえ? だから取り返しはつくのよ。 過去に戻ればね。 具体的には、転送装置を設置した場所のフィールドデータを、過去に生成されたデータ……バックアップを使えば、そのセーブされた時代に行けるの。

例えばSAOに行って、事件のあった過去へ行く事が出来れば……救える命もあるんじゃないかしら。 そして、地球をもね」

 

 

よく分からないが……本当なら、いよいよふざけた世界だ。

 

SAO事件。 2022年に起きた事件だったか。

そして同年。 俺らの地球でも事件……いや、戦争が起きた。

 

両世界とも、数は違えど多くの人命が失われたのだ。 その現実を……取り返しがつくだって?

 

神様ゴッコにも程がある。 今の世界を無かったコトには出来ない。 我々に次は無い。

 

 

「却下だ。 素直に地球に帰れ」

 

「貴方が救いたくても、救えなかった命も救えるのよ?」

 

「罪を帳消しには出来ない。 既にあったことだ。 今の地球を棄てて、ゲームの様にリセットしても、履歴は残る。

罪は……無かった事に出来ない。 背負っていくしかないのだよ」

 

「そう。 残念」

 

 

本当は……やり直したい過去だ。

だが、過去に戻る技術を使えば……周知されてしまえば、悪用する者が出るのは分かる。

 

未来を都合良くしたい者は、数多くいる。 そんな連中が何度も改竄しようものなら、世界は滅茶苦茶だ。 下手すると修正不可能になる。

 

夢のような話だが、手は出さない。 そして、このまま破壊して全てを終わらせる。

それで……良い筈だ。 それが最善の策だ。

 

止めよう。 気分が悪くなってくる。

この話を終わらせようと、本部に声を掛けようとした時、不意にグレ男が声を発した。

いつになく、真剣に。

 

 

「なあ。 ひょっとして、俺が戦前に何度も戻されたのは……お前の所為か?」

 

 

何の話だ。 戦前、過去に戻る?

まさか、既に過去に戻っている人間がいるのか。

 

そして口振りからして、それはグレ男。

 

疑問を口にする暇なく、彼女は受け答える。

今度は冷たく、淡々とした口調で。

 

 

「そうよ」

 

「何でそんなコトをした。 お陰で何度も絶望を味わったんだが」

 

「GGOが終了すると、EDFもプレイヤーもデリートされるから。 そうなれば、僅かな戦力はパー。 地球を統治するのはいよいよ困難になる。

それを避けるために、グレ男、デリートされそうになったら過去に転送するようにプログラムしておいたの」

 

「隊長が現れたのは? 今までのループで、いなかったぞ」

 

「過去は同じになるとは限らない。 何故かは知らないけど、パラレルワールドかしら。

本来はいなかった人物がいるコトもあり得るんじゃない?」

 

「科学者の癖にテキトーだな。 まあ良いさ、やっと未来に漕ぎ出したんだから」

 

 

意味が分からない。 だが、話は終わる方向で良いだろう。 これ以上、アレコレと議論する気はない。

 

 

「さあ、帰ろう。 俺たちの地球に」

 

「レン達に別れは言わないのか?」

 

「ナニされるか分からないからな。 黙って消えた方が良いさ。 元より、俺は存在しないんだ」

 

 

そうですか。 少し悲しげに言うグレ男。

この世界の思い出は、心の内にしまっておこう。

 

別れの時間だ。 俺は席を立ち、地下を後にした。



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格好悪く笑顔で、さようなら。

GGDF終了へ。
主人公のストーム・ワンの本名が出てきますが、当作中上の設定です。 なお、この名前は原作の作者様の、別小説に出てくる登場人物名に似ていますが、似ているというだけ。


 

荒野にある駐屯地で待っていたのは、デザートピンクの戦闘服に身を包んだ、小さな女の子。

 

夕焼けのように染まる世界で、迷彩効果を発揮しているから、なんだか見難い。

よく見ないと、存在そのものを認知出来ない気さえする。 それが、消え行くEDFを表しているようにも見えて……なんだか悲しいな。

 

待ち伏せされているとは考えたが、まあ、そうなるか。

 

興味本位で訪れたプレイヤーや、帰路に着く為に、すれ違う多くの隊員らを背景に彼女は言う。

 

 

「ねぇ。 本当に帰っちゃうの?」

 

 

寂しそうな声が聞こえた。

すまない。 そう思いつつも、俺は真っ直ぐ答える。

 

 

「ああ」

 

「……お別れも言わずに?」

 

「元より存在していない。 交わってはいけないんだ、レン」

 

「…………うん。 そうだよね。 GGOは、ワンちゃんには狭過ぎる犬小屋だよ」

 

 

声を震わしながら、目尻に浮かぶ涙に耐えながら。

目の前の子兎は、自身の感情に堪えながら冗談を言った。

 

こんな時。 グレ男だったら何て言うだろうか。 明るく返答するのか、何も言わずにすれ違うのか。

そんな本人は、今いない。 本部や情報部と共に先に帰ってしまった。 GGOに疲れたんだそうだ。

 

俺が対応に困っていると、レンは、ストレージから銃を取り出す。

黒いP90に、サプレッサー等のオプションパーツを付けまくった見た目の銃だ。

弾倉は後付感満載で、後部サイドにEDF製の箱型弾倉がくっ付いている。

 

俺が作った《P90 PDM》だ。

EDFの武器はストレージに仕舞えない筈だが、どうやら、素体がGGO製だと仕舞えるようだな。

 

 

「コレ、返すね。 わたしは要らない」

 

「持ってろ。 記念だ」

 

「GGOじゃ、レギュレーション違反だから」

 

「なら使わなけれ「良いから持って帰ってよ!!」……っ」

 

 

急にキレて、PDMを押し付けてくるレン。

その瞳にある涙を溜めるダムは、決壊しかけだ。 雫がひとつ、頰をなぞっていく。

 

 

「ご、め……ワンちゃんを思い出し……いけな、から」

 

「そうだな。 EDFの部品も、極力残すべきではない。 レンも……成る可く早く、俺の事を忘れろ」

 

 

俺は胸に押し付けられた銃を受け取る。

出来れば、コレを持って暴れるレンの姿を見たかったが、もう叶うまい。

 

だけど。 それで良い。 レンも何が正しいか葛藤して、自身の心に背きながら話している。

 

その想いを無駄にしてはならない。

 

 

「それと……はい。 この装備も」

 

「ビーコンガンに、無線機。 そして発煙筒か。 受け取ろう」

 

 

M4が渡したであろう、エアレイダー装備を受け取る。 無線機は口頭による座標伝達なので使えなかったようだが、他は使いこなしているように見えた。

 

狙撃が苦手な部分は、俺と共通していたが、誘導は上手かったな。 流石だ。

帰る前に褒めておかねばな。

 

俺は手袋を取ってスッ、と手を伸ばす。 そして兎の耳が付いたような帽子をとって……優しく頭を撫でた。 身長が低いので撫で易い。

 

サラサラの髪の毛が心地良く、いつまでもこうしていたいものだ。

こんな時に、いや。 こんな時だからこそ、そう思ってしまう。

 

 

「頑張ったな」

 

「……うっ」

 

「偉いぞ。 良くやった」

 

 

今だけは……これくらい、互いに我慢しなくて良い筈だ。

 

 

「良い人を見つけるんだぞ。 勝手にいなくならない、良き理解者を」

 

「ズルい」

 

 

レンは、ポショリと呟いた。 次にコツンと額を防弾着に当てたと思えば、そのまま両手を回してくる。

ギュッと締め付けて、でも顔は上げずに埋めたままで。 俺はただ、撫で続ける。

 

 

「……このまま、こうしてたいよ」

 

「俺もだよ」

 

 

段々と、周りの喧騒が消えてきた。

皆、地球に行ったか。 プレイヤーなら飽きて離れたか。

 

なんにせよ、皆には帰る場所がある。 俺やレンにもある。 そして、今は帰る時間なんだ。

 

だからもう、終わろう。

 

俺はレンを優しく引き剥がした。 レンは別れの時だと察したのか、それでも抵抗しないで素直に離れてくれた。 良い子だ。

 

 

「元気でな」

 

 

最後だ。 すれ違い側に、ひとなで。

 

そして、レンの横を通り過ぎてーー。

 

 

「ワンちゃん!」

 

 

前に、回られた。

その顔は、ニッと笑顔だ。 とびきりの、太陽みたいな素敵な笑顔。

目尻に涙は見えるけど、それより遥かに勝る。

 

 

「香蓮。 小比類巻 香蓮(こひるいまき かれん)!」

 

「ん?」

 

「わたしの、本当の名前!」

 

 

嗚呼。 レンは、プレイヤーネームだものな。

こひるいまき かれん。 それが真名か。

 

俺は思わず、ニッと口角を上げた。 きっと、俺は嬉しかったのだろう。

 

 

「良い名前だな!」

 

「ねえ! ワンちゃんの名前教えてよ!」

 

「おいおい……ゲームでは、マナー違反で危険な行為をしている自覚はあるのか?」

 

 

くつくつと笑いながらも、俺は言う。 真面目なレン……いや、香蓮らしくないじゃないかと。

 

 

「それ、今言っちゃう? 空気読んでよー、それにワンちゃんは本物なんだし! 騙る必要は無いよね?」

 

「ハッハッハッ! それもそうか! いや、すまんすまん! じゃ、改めて名乗ろう!」

 

 

不平等だしな。 フェアにいこう。

俺は正しく向き直り、はっきりとした口調で答えてやる。

 

英雄だの救世主だの死神だの《荒らしのワンちゃん》だの《かの者》だのと言われたが。

 

実際の、本名だなんて平凡なものなんだよ。

 

 

「犬山 陸(いぬやま りく)だ!」

 

「いぬっ!? やっぱワンちゃんなんだ! アハハハッ!」

 

「おいおい、笑うなよ」

 

「ごめんごめん! で、でも……あははっ!」

 

 

これはひどい。

まあ最後だしな。 湿っぽい終わり方より笑って別れた方が気持ち良いだろう。

目元は湿っぽいがな。 お互いに。

 

 

「うんうん! 満足!」

 

「そうか。 じゃ、元気でな……香蓮」

 

「うん……元気でね、陸」

 

 

今度こそ、レンの横を通り抜ける。

その先には地球に繋がるゲートだ。

 

手前で、軍曹チームやグリムリーパー隊、スプリガン隊が待っていた。 優しい連中だ。

 

俺は振り返らない。 真っ直ぐ、ただただ歩く。

 

生きている限り、闘いは続く。

俺たちの地球での仕事が待っている。

 

EDF。 ひとつの内戦が終わり、元の戦場へ進み行く。

 

 

 

 

 

ストームチーム。 これより、地球に帰還する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

EDFの基地は光の粒子となって、跡形もなく消えてしまった。 痕跡を消す為だと思う。

 

荒野に残ったのは、戦意のないプレイヤーと、棒立ちする「わたし」。

 

そして、壊れたEDFの武器や乗り物の破片群。 原型が判るほどに残された大物もある。

 

ーー極力残すべきではない、だなんて。 たくさん残ったじゃん。

 

 

「コヒー!」

 

 

そんな時。 とても聞き覚えのある声が。

振り返れば同じ背丈の、金髪のフカ次郎が駆け寄って来たトコだった。

 

今まで何処にいたんだろう。 ワンちゃんなら、もう行っちゃったよ。

 

 

「パパ達、行っちゃったねぇ」

 

「うん。 フカは、グロッケンにいたの?」

 

「いんや。 遠くで、パパとレンが抱き合うシーンを堪能してた」

 

「見られてたか! はははっ」

 

「……コヒー」

 

 

空元気に、乾いた笑みを浮かべる。 フカは、わたしの心境を知っているだろうから……誤魔化せないだろうけど。

 

せめて、自身の気持ちだけは、溢れないように。 正反対の言葉を繋げて誤魔化し続ける。

 

 

「あー! 清々した!」

 

「そうなのかい?」

 

「うん! GGOのチート集団が消えて、これで、いつも通り! 飛行機は飛ばないし、戦車やロボットが暴れる事もない!

いつもの……いつもの銃と硝煙の世界! 何もない!」

 

 

ああ。 わたしは、何を言っているんだろう。

いや、EDFは確かに迷惑な存在。

多くのプレイヤーや運営も、コレで喜んでいることだろう。

 

 

「派手な爆発も見なくなるだろうし!」

 

 

見守ってくれる人が、いなくなって。

 

 

「あ、でも金ヅルが消えたのは痛いなぁ」

 

 

楽しく買い物に付き合ってくれる人が、いなくなって。

 

 

「これからは、地味に……クレジットを稼がなきゃね!」

 

 

頼れる背中が見えなくなって。

 

 

「こんな事なら、クレジットを全部預けろーって、言うべきだったかな?」

 

 

優しく撫でてくれた記憶は、色褪せ始めて。

 

 

「エネミーを倒……のに、苦労するかな……フカ、手伝っ……くれる?」

 

 

あの温もりは、もうない。

 

 

「無理すんな」

 

「へ? 何が?」

 

 

偽り続けられるほど。

あの温かさを忘れられるほど。

 

わたしは、強くなくて。

 

 

「ちょ、ちょっとフカ……どうしたの、急に抱き締めて」

 

「涙ボロボロ流しながら、無理して話さなくて良いんだよ」

 

 

だから、フカに、美優に抱き締められたとき、耐えられなかったんだと思う。

 

 

「ひっく……うぐっ、グスッ」

 

「泣いて良いんだよ。 泣き止むまで、抱き締めておいてやる」

 

「う、うっ……うわああああああ!!」

 

「よしよし」

 

 

背中を優しく、ぽんぽんされる。

その感触は本物じゃないけれど。 心をじんわりと温めてくれるのには、十分だった。

 

 

 

 

 

この日。 EDFはGGOから姿を消した。

 

大きなログと痕跡を残して、あの不思議な人たちは消えたのだ。

運営やVRに関わる開発者、研究員、役人や警察、軍人は首をひねるばかりで答えを見つけることは終ぞないだろう。

きっと、それで良い。 これが最も平和的なのかも知れないから。

 

《GGDF事件》は、こうして幕を閉じた。 多くのプレイヤーの記憶に残ったEDFも、やがて色褪せ、風化し、忘れられていく。

 

ただ、これだけは言っておきたい。

 

EDFは、ストーム・ワンは本物であったのだと。




さらばEDF。 さらばGGO。
駄文だなぁとか、途中で方針や設定が滅茶苦茶じゃ? と思ったり、ガバガバやんと色々後悔したり、やっておいて落ち込むコトもありました。

でも、何だかんだ終わりに。 自身としては、完走(?)出来たのは良かったかなぁと。 酷い作品かもですが……。
続編や別小説を書くかは未定です。 感想を頂ければ幸いです。 ここまで読んでくれた方々、付き合って下さり、ありがとうございました!


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