[未完]名探偵コナンX相棒 首都クライシス 探偵たちの最期の決断 (npd writer)
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00 登場人物紹介

ものすごい多くなりましたが、まだ登場していない人物もいるため、これから追記していう予定です。


2018/09/27 追記しました。今回は、橘境子、岩井紗世子、日下部誠、彌彦兄弟、小田切敏郎の5名です。また登場人物が増えた際には追加します。


杉下右京

CV-水谷豊

警視庁特命係係長。警部。東京大学法学部を主席で卒業後、国家公務員I種試験の合格を経てキャリアとして警察庁に入庁。三年間のスコットランドヤード研修を経て、警視庁に刑事部捜査二課に出向し活躍していたものの、「北条邸人質籠城事件」の全責任を押し付けられる形で特命係に異動。

持ち前の明晰な頭脳と鋭敏な観察眼を用いて鋭い推理力を発揮し、幾つもの事件を解決に導いた。本人の持ち前の絶対的な正義が、時として警察関係者と衝突する要因にもなっているが、確かな実績を積んでおり「和製シャーロック・ホームズ」として取り上げられたこともある。

『レイブン』が起こした殺害事件をきっかけに捜査を開始し、コナンや冠城と共に事件に巻き込まれていく。

 

江戸川コナン

CV-高山みなみ

本来の姿は「東の高校生探偵」として名を馳せている工藤新一。黒の組織にAPTX4869という薬を飲まされ、小学生の姿になっている。

公安警察によって不当に逮捕された小五郎の無実を証明するため、右京や冠城と協力し、調査を進める。

尚、右京はコナンの正体に疑問を感じ始めている節がある。

 

冠城亘

CV-反町隆史

警視庁特命係 巡査。元法務省刑事局総務課企画調査室室長。当初は法務省キャリア官僚として警視庁に出向していた。しかし、ある事件をきっかけに法務省を退官。その後、警視庁に正式に警察官として配属された。当初は広報課に配属されていたが、紆余曲折を経て特命係へ異動となった。

退官したとはいえ、元法務省の官僚であったことから検察の動きには敏感で様々な面で右京やコナンをサポートする。

 

毛利蘭

CV-山崎和佳奈

新一の幼馴染かつガールフレンドで、コナンの保護者的存在。関東大会で優勝するほど、空手の名人。父である小五郎の無実を証明するため、母である弁護士の英理の手助けをしたり、新一に助けを求めたりしている。

 

毛利小五郎

CV-小山力也

蘭の父親である私立探偵で、伊丹とは警察学校の同期にあたる。コナンのおかげで世間では「眠りの小五郎」として名を馳せている。エッジオブオーシャン爆破のテロの容疑者として公安警察に逮捕されてしまい、無実を訴え続ける。

 

伊丹憲一

CV-川原和久

警視庁刑事部捜査一課7係 巡査部長。捜査に幾度となく首を突っ込んでくる特命係を疎ましく思っている。目つきと柄は悪いが正義感は強く警察内部の権力闘争には批判的で、内村や中園に反抗したり右京らをさりげなくサポートしたりする。

小五郎が逮捕された時には動揺したりと、警察学校時代で親しい仲だった。

 

芹沢慶ニ

CV-山中崇史

警視庁刑事部捜査一課7係 巡査部長。伊丹とコンビを組む捜査一課の刑事。伊丹と共に特命係を邪魔者扱いしながら、内心では右京の推理力を認めており、時には特命係にさりげなく情報をもたらしている。

 

阿笠博士

CV-緒方賢一

コナンの正体を知る数少ない人物の1人で、発明家。少年探偵団の保護者的存在で彼の開発したドローンは、事件解決の鍵として大活躍する。

 

灰原哀

CV-林原めぐみ

本来の姿は宮野志保。元は黒の組織の一員かつAPTX4869の開発者であるが、姉を殺されたために自ら薬を飲み、小学生の姿になって脱走した。コナンの正体を知る数少ない人物の1人。今回、少年探偵団のまとめ役として他のメンバーに指令を出したり、他のメンバーを安心させたりしている。

 

角田六郎

CV-山西惇

警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策第5課長 警視。「暇か?」と言って現れ、特命係の部屋でコーヒーを飲みながら油を売ったり、特命係に雑用を頼んだりしている。しかし、右京の手助けをするなど、数少ない特命係の理解者でもある。また、暴力団の取締や麻薬捜査に関しては一流の腕を持っている。

 

米沢守

CV-六角精児

警視庁警察学校教官 巡査部長。以前は特命係の強い味方としてサポートしていたが、現在は現場に戻ることを希望しているため、上層部から睨まれないように特命係との協力を避けようとしているが、大抵は右京らに迫られ協力している。

 

吉田歩美

CV-岩居由希子

 

円谷光彦

CV-大谷育江

 

小島元太

CV-高木渉

 

米花町帝丹小学校に通う一年生たち。「少年探偵団」を結成し、コナンらと共に頻繁に事件現場に赴き、独自に調査している。阿笠博士と共に訪れたショッピングモールにあった新装開店の洋菓子店を訪れた際に、右京と面識を持ち、事件に巻き込まれていく。

 

鈴木園子

CV-松井菜桜子

日本最大の財閥、鈴木財閥の令嬢。蘭の親友であり、新一の同級生でサバサバした性格。小五郎が逮捕され、落ち込む蘭の側に居てあげるなど、友人思いの人物。彼女の家族が主催するパーティーに警察関係者が招待されることも多々あり、甲斐、金子、衣笠は園子と面識があり以前は小野田も訪れていた。

 

 

目暮十三

CV-茶風林

警視庁刑事部捜査一課3係 警部。小五郎の警察時代の上司で、茶色のコートとソフト帽を着用している。右京とも過去に面識があり、伊丹たちが特命係を毛嫌いする一方、目暮らは捜査協力のため、情報を提供することもしばしば。

捜査員を指揮する立場である一方、小五郎の犯行という説には否定的で、毛利小五郎を擁護する言動をとったことにより衣笠に目をつけられてしまう。

 

白鳥任三郎

CV-井上和彦

警視庁刑事部捜査一課3係 警部。国家公務員l種試験を合格し、右京と同じく警察庁に入庁したキャリア組。右京のことをキャリアでありながら、出世に見向きもしない姿勢に興味を持っている。

英理に捜査情報を流すなどして密かにサポートしている。

 

高木渉

CV-高木渉

警視庁刑事部捜査一課3係 巡査部長。お人好しな性格で、コナンや小五郎に情報を漏らしては、目暮に怒られている。それ故、大河内も警戒しており高木が北海道へ拉致された際は後日、高木を監察官聴取している。

今回もコナンに、エッジオブオーシャン爆破の捜査情報を伝えている。

 

佐藤美和子

CV-湯屋敦子

警視庁刑事部捜査一課3係 警部補。高木の先輩であり、恋仲でもある。コナンや小五郎などの意見を捜査に活用しており、あくまで警察のみで解決しようとする伊丹とは、対立することもある。

 

千葉和伸

CV-千葉一伸

警視庁刑事部捜査一課3係 巡査部長。高木の後輩で、高木と佐藤の恋仲を応援している。

小五郎とは共に捜査をしていることから、彼が逮捕された際には高木や目暮同様、衝撃を受ける。

 

大河内春樹

CV-神保悟志

警視庁警務部人事第一課首席監察官 警視正。警視庁内部の警察官の不正を捜査している。ストレスを感じると錠剤を噛み砕くことから「ピルイーター」の別名を持っている。

特命係は規律を無視する存在であるため度々目を光らせているが、難事件を解決に導く実力は評価しており、特に右京の能力を認めている。逆に勝手に現場に乗り込んでくる小五郎には、あまり良い印象を持っていない。

 

内村完爾

CV-片桐竜次

警視庁刑事部長 警視長。捜査一課をはじめとする刑事部をまとめる責任者。組織の秩序を乱している特命係を目の敵にする頑固者で面子を重視するため、人望がなく出世できないでいる。伊丹や目暮らも形だけ従っているだけで本心では早く辞めてほしいと思っている。

 

中園照夫

CV-小野了

警視庁刑事部参事官 警視正。内村の腰巾着として不祥事の際の会見などの面倒ごとを押し付けられている。特命係には刑事部への事件にいつも首を突っ込まれているため排除しようとしているが、内心では右京の能力を認めており、最近は内村に反抗する素振りを見せている。

 

岩槻彬

CV-田中圭

警視庁生活安全部サイバー犯罪対策課専門捜査官 巡査部長。かつて銀行の不正アクセスの捜査を行っていた際に伊丹と行動した。また、ある事件で右京とも知り合い、彼の性格に振り回されるもその能力を認めている。

小五郎のパソコンを解析し、過去に捜査した事件を基に『バーズ』のプログラムを発見したり、アジトの特定につながる手がかりを発見したりと自身の能力をフル活用し、事件解決に奮闘する。

 

社美彌子

CV-仲間由紀恵

警視庁総務部広報課長 警視正。警察庁のキャリア官僚から内閣府内閣情報調査室(通称、内調)総務部門主幹として出向した後、現在に至る。広報課に所属していた際に冠城に自らの秘密との取引として、彼を特命係へ異動させるよう甲斐に働きかけた。エドワード・チンとは、内調勤務時代の旧知である。

 

衣笠藤治

CV-大杉漣

警視庁副総監 警視監。権力に固執する典型的官僚であるが、サイバーセキュリティ対策本部の発足に関わるなど警察組織の改革にも意欲的に取り組む野心家。元警察庁次長の甲斐とは政敵同士で、特命係を使い、彼を抹消しようとする。エッジオブオーシャン爆破の犯人を自身が発足させたサイバーセキュリティ対策本部が挙げた証拠を基に小五郎と決めつけ、彼の逮捕に異議を唱える目暮らに圧力をかけるなど、その牙は刑事部全体に向けられる。

衣笠派のトップであり、この事件の手柄で警視総監になろうと派閥を最大限に活用し、暗躍する。

 

甲斐峯秋

CV-石坂浩二

警察庁長官官房付 警視監。元警察庁次長。右京のかつての相棒、甲斐享の実父。享の起こした事件を機に中園曰く、「緊急避難的措置」で警察庁長官官房付に降格となったが、組織への影響力は絶大で特命係を妨害することもあれば手助けしたりする。右京個人の能力は厄介としながらも高く評価しており、時にはそれをも利用する。

長官である金子と共に、この事件を機に衣笠派を一掃しようと目論む。

 

妃英理

CV-高島雅羅

蘭の母親で小五郎の妻であるが、現在は別居中。現在は「妃法律事務所」を経営している弁護士。法廷での無敗記録を更新中の敏腕弁護士で「法曹界の女王(クイーン)」の異名を持つ。

公安警察によって不当に逮捕された夫の無実を証明するために奔走する。

 

榎本梓

CV-榎本充希子

「毛利探偵事務所」が入るテナントビルの一階にある喫茶店「ポアロ」のウェイトレス。安室の同僚で、コナンとも顔見知り。

右京がポアロを訪れた際に彼と面識を持ち、冠城も彼女を知っている。

 

安室透/降谷零/バーボン

CV-古谷徹

警察庁警備局警備企画課「ゼロ」に所属する公安警察の捜査官としての「降谷零」、黒の組織に潜入捜査しており、組織内でのコードネームは「バーボン」、私立探偵としての「安室透」と、トリプルフェイスを持つ男。普段は小五郎の弟子をしながら「ポアロ」で、アルバイトをしている。

過去に小野田と会ったことがあり彼の激励の基、黒の組織へと潜入した経緯を持つ。また、右京とどこかで会っており互いに初対面の際、腹の探り合いをしていた。

 

風間裕也

CV-飛田展男

警視庁公安部所属 警部補。安室の部下で彼を「降谷さん」と本名で呼ぶ、数少ない人物の1人。捜査方針を巡り、幾度となく刑事部と対立する。

 

黒田兵衛

CV-岸野幸正

警視庁刑事部捜査一課管理官 警視。目暮や伊丹の上司であり、内村や中園の部下。大柄で義眼という特徴が、黒の組織のNo.2「ラム」の特徴と一致するため、コナンから警戒されている。

刑事部と公安部の派閥争いや警察内部の権力闘争には目もくれず、黙々と捜査本部を取り仕切る。

 

小野田公顕

CV-岸部一徳

元警察庁長官官房室長 警視監。特命係を作った張本人であり、以降彼が殉職するまで特命係の最大の敵として、また最大の味方として特命係の陰で暗躍していた人物。政財界に太いパイプを持ち、組織的に大きな利をもたらす時は犯罪を見逃したりするため、右京とはよく対立した。

過去に超法規的措置を幾度か行なっており、そのため警察内部での影響力は大きく、警視総監以下幹部12名が人質となった「警視庁籠城事件」の直後殉職するが、その死後でさえ彼の存在は大きな尾を引いて未だに警察組織に影響を残している。

警視庁の公安部長を務めていた過去や、警察庁長官官房室長時代には「ゼロ」の動きを支援していた事から、安室とは顔見知り。過去には、安室の敎育係を務めていた。

 

金子文郎

CV-宇津井健

警察庁長官。「警視庁篭城事件」の際には、内村を始めとした警察幹部を一掃し、警察庁を警察省へと格上げしようと小野田と共に暗躍したが、小野田が計画の途上で、懲戒免職が決まった当時の生活安全部長 三宅貞夫に殺害されてしまい、計画は失敗。当時の田丸警視総監との痛み分けで終わった。しかし、それでも虎視眈々とチャンスを狙っており、甲斐と共に再び警察内部の改革に乗り出す。その前身として、自らと敵対する衣笠派を一掃しようと目論む。

 

橘境子

CV-上戸彩

小五郎の弁護を担当したいと申し出てきた弁護士。「ケー弁」と呼ばれるフリーランスの弁護士で、事務所は持たず、携帯電話一つで仕事を請け負っている。「起訴されると、99.9%の確率で被疑者側が負ける」と言われている公安事件の担当が多く、実際に過去の裁判では全敗しているが、経験は豊富。

 

岩井紗世子

CV-冨永みーな

東京地検公安部の総括検事。日下部とは同期で、1年前までは主任検事だったが、とある事件をきっかけに統括検事に昇格した。警視庁公安部の言いなりで、担当検事である日下部の主張を無視して小五郎を裁判にかけようとしており、その裏では警察上層部の力が働いているのではないか、と囁かれている。

 

日下部誠

CV-川島得愛

東京地検公安部の検事で、現在は岩井の部下。現在、法務省事務次官の日下部彌彦の実弟でもある。

法曹界では名の知れた敏腕検事で、公安事件の担当が少ない英理でも名前を知っているほど。その仕事の腕は確かで、過去の裁判では負けたことがない。

国際会議場爆破事件の担当検事となり、送検されてきた小五郎の取り調べを行う。検察の公安部が警察の公安部の言いなりになっている現状に不満を抱いている。警視庁公安部に小五郎の容疑の追加調査を依頼するよう岩井に主張したが、一蹴されてしまう。

 

日下部彌彦

CV-榎本孝明

実弟である日下部誠が所属する検察庁を管轄する法務省の事務次官。

キャリア官僚であるが、検事の資格を持っておらず前の事務次官の急死により急遽、次への繋ぎとして例外的に事務次官に起用された。故に、これ以上の出世は望めないため本人は自らの信念に従い、思い通りの行動を取っている。

ある事件をきっかけに特命係との関係が悪化し、現在は元部下の冠城でさえ、冷え切った関係にある。

あからさまに弟を支援するつもりはないものの、そっと助言するなど隠れた部分で日下部誠を支えている。

 

小田切敏郎

CV-中田浩二

警察庁刑事局長 警視監。刑事警察における施策を担当。以前は、警視庁刑事部長だったが、息子の不祥事と後任に内村が配属されることになり、警察庁へ戻った。その後、警視監に昇進し金子の計らいで刑事局長の職に着く。

折口とパイプを持っており、山崎とは違う意見を彼とすり合わせ、毛利小五郎は、犯人ではないと考えている。

 

“黒衣の男”

CV-北村一輝

国際犯罪組織「バーズ」のメンバー。警察に「レイブン」としマークされて、FBI捜査官、ジェイ・ノリス氏殺害と国際会議場爆破の容疑で警察からマークされる。首筋に黒いタトゥーがある。

 

鷺沢瑛里華

CV-山口まゆ

在英日本大使館参事官令嬢。10歳の時に「バーズ」に誘拐され、以後消息不明となっていたが、7年の時を経て再び「レイブン」により、白日の下へ晒された。

 

山崎哲雄

CV-菅原大吉

警察庁警備局長 警視監。国内外の要人警護やテロの捜査を担当。安室が所属する「ゼロ」も彼の指揮系統の中にある。金子の指示で、警備責任者として捜査本部を動かす。副総理や外務大臣同様、「バーズ」による犯行声明を日本国家に対するテロ予告であると断定し、東京を中心に大規模な警備をしく。

 

折口洋介

CV-篠井英介

内閣官房副長官(政務担当)。副総理や山崎警備局長とは異なり、「バーズ」の犯行声明をテロと断定するのに懐疑的な姿勢をとり、要求を呑んで人質を解放するよう、意見する。

 

国平修一

CV-大林丈史

外務大臣。要求を呑んでも、人質が解放されるかどうか分からないため、わざわざ高い金を払ってまで要求を呑むことはないと折口の意見を一蹴する。

 

佐藤健作

CV-益岡徹

副総理大臣兼内閣府特命担当大臣。強硬な姿勢で現政権を牽引。バーズの犯行声明を日本国家に対するテロ予告とすり替えて、テロに屈しない日本を国際社会にアピールするため、身代金の要求を拒否する。

 

柳沢克彦

CV-江守徹

鷺沢瑛里華誘拐事件発生時の駐英大使。犯人グループからの身代金の要求を拒否するよう進言した張本人。現在は環太平洋評議会専務理事として活躍。

 

ジェイ・ノリス

CV-ダンテ・カーヴァー

アメリカ連邦捜査局 国家保安部の捜査官。チンの元部下で、「レイブン」を追う。「アマダシュウスケという人物を調べてほしい」という言葉を残した、直後殺害される。

 

エドワード・チン

CV-鹿賀丈史

国際刑事警察機構で専務理事を務めており、自身も連邦捜査局『FBI』の捜査局で勤務していた経験を持つ中国系アメリカ人。元部下のジェイ・ノリスの伝言をもとに「レイブン」の正体を追う。美彌子とは知人同士で、特命係の二人とともに行動する。




登場人物の紹介が書き終わったので本編を頑張ろうと思います。


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01 男の死

今日、劇場版名探偵コナン『ゼロの執行人』を見てきて影響されて作りました。

色々、試行錯誤を繰り返して作っていく予定です。


それは、6月のある雨の降る夜だった。

 

東京港区の東京湾近辺にある倉庫群の中を1人の男が追われていた。その男は背後から迫る大型バイクに乗る人物からある重要なファイルを守るため、逃げていた。

その男は、逃げる際に助けを求めるために元上司である人物と通話していた。

 

「第三埠頭、第七倉庫だ」

 

彼の指示を受けていたのは国際刑事警察機構、通称『ICPO』で専務理事をしており、自身も連邦捜査局『FBI』の捜査局で勤務していた経験を持つ中国系アメリカ人のエドワード・チンであった。

 

そのチンと共に行動していたのは…

 

「第三埠頭、第七倉庫。そこを右です」

 

「了解」

 

上等なスーツに身を包み、髪をオールバックにし銀縁眼鏡をかけた英国人風の男、もう1人はチンが乗った車を運転する二つボタンスーツに無地のシャツを着て、ノーネクタイの人物。

 

警視庁特命係 杉下右京 警部、冠城亘 巡査であった。

 

彼らは、警視庁総務部広報課課長である 社 美彌子 警視正の指示で日本に来ていたチンのお世話兼捜査協力を要請していたのだった。

 

チンと社は以前、2人が古巣である内閣情報調査室とFBIにいた頃からの縁で、社は海外のテロ事件で犠牲になった邦人の遺体を日本へ運ぶ任務を命じられ、対応できないため面識がある特命係の2人にチンの手伝いを依頼していたのだった。

 

 

 

第七倉庫に隠れていたチンの部下、ジェイ・ノリスは自らがある倉庫に追手が迫った事に肝を冷やしたが、やがてバイクの音が去っていくのを確認したノリスは自らのタブレットを開き、スマホを肩に挟んだ。

 

タブレットに保存してあったファイルから、該当するファイルを確認するとノリスは電話を通してチンに訴えた。

 

「ノリスです。例の人物を発見シマシタ。アマダシュウスケという人物デス」

 

片言の日本語で報告したノリスの口から出てきた名前を、チンは復唱しながら答えた。

 

「あまだ、しゅうすけ」

 

「ソウデス。アマダシュウスケデス…。ハヤク、ヤツを…」

 

そこまで言いかけたノリスはふと前を見た。そこには、先程まで自らを追いかけてバイクで去ったはずの“奴”がいた。その顔はヘルメットをしていて、確認することはできない。男はサプレッサー付きの拳銃をノリスに向けた。

 

ノリスが、自らの運命を悟ったのと犯人が引き金を引いたのは、ほぼ同じタイミングだった。ノリスは眉間を撃ち抜かれ、近くにあった金網に音を立てて倒れた。

 

その音はマイクを通じてチンの携帯にまで伝わり、チンは携帯の向こう側で起きている事について理解できていなかった。

 

『ノリス、応答しろ!Noris,answer me!]

 

チンの声が響いているスマホを犯人は片手に取り、通話相手を見た犯人は電話を切るとタブレットを見た。ヘルメットに隠されて、顔を見ることはできなかったがその汗ばんだ首元には黒のタトゥーでカラスの羽が描かれていた。

 

 

 

「ノリスからの応答がなくなった」

 

車の後部座席に座るチンは焦る気持ちを内にとどめ、前にいる2人に言った。

 

「ノリスさん、犯人に見つかったんでしょうか?」

 

「それは、まだ分かりませんがどうやら最悪の事態も考えておかなければならなくなったようですね」

 

冠城と右京、それにチンの3人はノリスがいると思われる第七倉庫に向かって急いだ。既に、ノリスが生き絶え、重要な彼のタブレットとスマホが盗まれたとは気付かずに。

 




初めは、わかる人にはピンと来たと思いますが、相棒劇場版IVの序盤を模したものです

これから、不定期ですが、完成を目指して頑張りたいと思います


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02 初捜査

今回も、相棒サイドで書いていこうと思います


第七倉庫に向かった右京、冠城、チンの3名は倉庫についた際、入れ替わるようにして倉庫から出てきたナンバープレートが隠されたバイクに乗る男とすれ違った。冠城は後を追うとしたが、あっという間にバイクとの距離を離され走り去ってしまったため、先にノリスの保護を急いだ。

 

一方、先に倉庫に入って来ていた右京は雨でスーツが濡れているにも関わらず懐から懐中電灯を取り出して倉庫を探した。

 

いくつかの部屋を巡っていた時、右京は何かに引っかかった。金網の奥に何か物体が存在していたのだった。

不審に思い、改めて懐中電灯を照らすとそこには白人の外国人が頭から血を流して倒れていた。

 

「右京さん!これは…」

 

冠城が入って来たのは、そのすぐ後であった。後ろからはチンも付いて来ており、同じく雨で上着が濡れていた。

金網に倒れてた人物を見て、チンはその人物の名を呟いた。

 

「ノリス…」

 

遺体となったまた部下の側に跪き、脈を取るチンに対して右京と冠城は初動捜査を始めた。恐らく、通報で駆けつけて来た捜査一課に、捜査を拒否される恐れがあったからであった。

 

 

 

「被害者は、ジェイ・ノリスさん。連邦捜査局 国家保安部の職員らしいです」

 

「連邦捜査局ってあの?」

 

現場に駆けつけて殺害現場の操作を行っていたのは警視庁刑事部捜査一課7係主任の伊丹 憲一 巡査部長とその部下の芹沢 慶二 巡査部長であった。2人の他にも現場には、捜査一課や鑑識課の職員が居合わせ、現場は閑静な倉庫街から一転、雨にも関わらず大勢の捜査員で溢れかえり、辺りは騒然としていた。

 

「えぇ。あのFBIって呼ばれている組織で本来はアメリカのテロ・スパイと言った安全保障に関わる公安事件や、汚職事件などを捜査するのが仕事らしいっすけど…」

 

「問題は、どうして彼が日本に来たのか、ですよね?」

 

伊丹や芹沢の隣で現場検証を行っていたのは、高木 渉 巡査部長だった。実は、この捜査には7係の他にも3係の捜査員が来ており、ここには他に佐藤 美和子 警部補、千葉 和伸 巡査部長、目暮 十三 警部らが集まって、現場検証を行っていた。伊丹らは7係だけで事件を解決しようとしていたが、そこに3係が横槍を入れていた事に不満を抱いていた。

 

キッと、高木を睨む伊丹に高木冷や汗をかきながら怯えた。

 

「彼の死因は、眉間を撃ち抜かれた事かね?」

 

目暮は、遺体を見ながらそう聞いた。すぐに近くにいる鑑識職員が肯定的に答えたために目暮は顎に手を添えて考えた。

 

「何故、ノリスさんは射殺されなければなからなかったのか?それが、疑問だな」

 

「えぇ。それと、なんで特命係の2人が第一発見者なんだよ!それに、あの白髪のジェントルマン、誰だ?高木」

 

「えぇ!?僕に聞かれても…」

 

伊丹が睨む先には、高齢の男性と一緒にいる右京と冠城がいた。伊丹は事件を裏で解決してくれる特命係を有り難みも反面、恨めしく思っている事もあり今回はその後者だった。高木ら、3係にとって特命係は伊丹たちよりも縁が無かった。その理由は、『眠りの小五郎』と呼ばれる名探偵と彼を支える小さな探偵がいたからだった。

 

伊丹が特命係の2人を睨んでいた一方で、高木らは好奇の目線で2人を見ていた。

 

「あの2人が、噂の?」

 

「えぇ。彼らこそ7係の裏で活躍し、数々の難事件を解決してきた警視庁の窓際部署と呼ばれる特命係ですよ。噂によれば、あのオールバックの男性、杉下警部は『和製シャーロック・ホームズ』と呼ばれるほどの天才で、彼が特命係を作ったとされているそうですよ」

 

隣にいた千葉が高木に説明してくれたが、高木もその一部は知っていた。ある時、突如として生活安全部の係りとして誕生しつつも捜査権を与えられず、雑用ばかりさせられている窓際部署。しかし、その裏では数々の事件を解決しながら7係に常に手柄を持っていかれる為、表舞台に現れず、警察上層部からも毛嫌いされ、誕生のエピソードもごく一部しか知らない事実で謎の多い部署でもあった。

 

「えぇーと、色々と話を聞かせてもらえますかね?特命係のお二人さん?」

 

「そうでしょうね。まず、こちはエドワード・チンさん。元FBI捜査局の捜査員で、国際刑事警察機構 ICPOで専務理事もされていた方です」

 

「おぉ。ナイス トゥ ミー チュー」

 

片言の英語で話す伊丹に対して、チンは日本語で大丈夫と言った。中国系アメリカ人とは思えないほど流暢な日本語と、元ICPOの理事もしていた貫禄からか、ゆったりと構えの彼に伊丹は改めて、背筋を伸ばして日本語でしっかりと挨拶といった。続けて、高木らも挨拶をした。

 

「警視庁捜査一課の伊丹です」

 

「芹沢です」

 

「同じく、警視庁捜査一課3係の目暮です」

 

「佐藤です」

 

「高木です」

 

千葉だけは現場検証のため、チンの挨拶には同行していなかった。

一通りの挨拶が終わったのを確認した右京は再び、チンの紹介を始めた。

 

「チンさんは、引退後も国際的犯罪組織をいくつか追っています。一つは『バーズ』及びそのリーダーである『レイブン』、二つ目は名さえも不明な組織で未だに幹部クラスの逮捕さえも捗っていない組織です。今回チンさんは、元部下のノリスさんから先ほど申した『レイブン』に関する情報を得られそうたという情報を得て、急遽香港から来日したと言う事です」

 

伊丹らは、チンがやってきた事に関しては納得が言ったように頷いていたが、疑問を抱いた高木が手を挙げて右京に質問した。

 

「しかし、杉下警部。何故、特命係がこちらにいらっしゃるんでしょうか?」

 

その質問には自らのタブレットを操作していた冠城が答えた。冠城は何処かへ電話をかけていたらしく、その電話の相手は社課長だった。疑問を浮かべる伊丹らを前に冠城は通話ボタンを押した。

 

「社です。チンさんは、私の内調時代の知人で特命係のお世話をお願いしてあります。話は官房付きの甲斐さんに通してありますので」

 

続いて、社は右京を呼び出した。右京は、タブレットの前に近づくと、社と会話を始めた。

 

「杉下警部、ノリスさんの件は残念でしたが、引き続きよろしく」

 

『分かりました。社さん、今機内の様ですが?』

 

「先日、タイで起こったテロで邦人一名が犠牲になったのはご存知ですよね?そのご遺族に付き添って帰国中です。では」

 

社はそう言うと、通話を終了し機内に持ち込んだ手提げバックにタブレットをしまい込んだ。




次回は、そろそろコナン側から見た今回の事件について書いてみようと思います。

今日、『ゼロの執行人』を見てきましたが、とても面白かったですね。子供は見てつまらなそうな感じではありましたが


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03 調査

初めてコナンsideから、物語を書いてみました。


翌日、ジェイ・ノリス氏死亡のニュースは朝一番に報じられた。そのニュースは昼になっても続き、子供たちの笑い声が絶えない阿笠邸にも入ってきた。

 

『昨夜午後9時過ぎ、東京都港区においてアメリカ連邦捜査局『FBI』の捜査官を務めていたジェイ・ノリス氏が何者かに拳銃で射殺されているのが発見されました。警視庁は殺人事件として捜査すると共に、ノリス氏が所属していたFBI本部にも連絡を取り、情報収集を行っているとの事です。尚、この事件につきましては新しい情報が入り次第、お伝えします。続いては…』

 

「何か、気になることでもあった?」

 

テレビを見ていた小さな探偵、江戸川コナンは灰原哀に声をかけられ現実に引き戻された。

 

「いや、このジェイ・ノリス捜査官は『黒の組織』に殺されたんじゃないかって考えてたんだ…」

 

「…ッ。で、FBI捜査官の人たちには連絡したの?」

 

コナンの『黒の組織』という言葉に灰原は顔色を僅かに変えた。普段、クールビューティーの彼女が顔色を変えるのはコナンも灰原も『黒の組織』に身体を小さくされていたのだった。

 

「いや、ジョディ先生に聞いてみたけどノリス捜査官が『黒の組織』に接触していた形跡は見つかっていないみたいだ。最も、奴らならば経歴を書き換える事なんて簡単だと思うけど」

 

窓際に移動したコナンは空を眺めた。庭には、子供たちが走り回っている姿と空を飛んでいるドローンがあった。灰原は先ほど聞いた事実を胸にしまい込み、再びテレビに見入った。

 

 

「うわー!スッゲー!」

 

庭に来ていた膨よかな体型をした坊主頭の小嶋元太は空を飛んでいるドローンに興奮していた。

 

「このドローンは何処まで飛べるんですか?」

 

「フフフ…。このドローンは高さ10000mまで飛べ、30km飛べるよう設計されておるんじゃ!」

 

同じく、空を眺めていた円谷光彦の質問に隣でドローンを操作していた阿笠博士が胸を張って答えた。阿笠博士は、いつもくだらない発明品を開発しているが、今回もそのうちの一つではないかと、灰原は考えていた。

 

「このドローンで埼玉のおばさんの家まで運べるかな?」

 

カチューシャをつけたおかっぱ頭の少女、吉田歩美の発言は遠くから見ていたコナンらも思わず苦笑いしてしまうほどの考えだったが強ち不可能な話でもない、とコナンは考えていた。何故なら、もう少し航続距離を伸ばせれば埼玉県まで確実に行けるほど、ここから近距離でかつドローンの性能が良かったからであった。

 

当然、航空法などに引っかかるのは覚悟の上だが。

 

元太らがドローンのリモコンを奪い合っている頃、コナンはあるニュースに見入っていた。

 

『続いては特集です!来週行われる[国際平和会議 東京サミット]について、開催会場となる《エッジオブオーシャン》が本日完成しました!この施設はショッピングモール、国際会議場、そしてカジノタワーとこの3つが主なポイントで、この《エッジオブオーシャン》はその名の通り、海つまり水をモチーフにした新たなリゾート施設です!ショッピングモールには20を超える飲食店があり、その殆どは外国からお越しになる政府要人に日本の文化を詳しく紹介できるよう“和”をコンセプトにしているようです。カジノタワーは東京湾を一望できる高さ30mのタワーで海の灯台としての役割も果たすようです!この施設は3日後、最終点検が行われた後いよいよ開業となります!』

 

「なぁ、この施設ってあの新しく開業するっていう、あの今人気話題のテーマパークか?」

 

「えぇ。なんでも、この[東京サミット]が開かれる同日に国際競技大会の選手団が帰国するらしくてその凱旋パレードもこの施設の周辺でやるみたいだし。そこまで大きな土地を作るのはさぞ、大変だったのにね」

 

パソコンで作業していた灰原はパソコンから目を離すと、疲れた目をこすりながら答えた。

 

実は、この[東京サミット]が開かれる日は、国際競技大会を終えた選手団が閉会式を終え日本に帰国するのと同じ日だった。そこで、日本をアピールするためには、なんでも使うという佐藤副総理の指示の下、急遽コースが変更されここを中心とした沿岸地区を周るコースになっていた。

 

「…何か起きなければいいな」

 

「え?何か言った?」

 

「いや、なんでもない」

 

コナンはいつもより厳しい顔をしていた。何か不吉な予感がコナンの心の中にあったが、それを胸にしまいこんだ。この後、コナンの予想がまさか当たるとは思いもせずに。

 




次回は警視庁の会議でも書こうかなだと思ってます。

何かアドバイスがあれば感想欄に書いていただけると幸いです。


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04 捜査開始

今回は、事件概要の説明みたいな感じです。


東京都 千代田区 警視庁本庁舎 大会議室

 

FBI捜査官、ジェイ・ノリス氏が殺害されたことにより警視庁は緊急の対策本部を立ち上げ、本格捜査に乗り出した。警視庁本庁本庁舎に置かれた対策本部には内村 莞爾 刑事部長 警視長や、中園 照夫 刑事部参事官 警視正らを筆頭に、黒田 兵衛 刑事部捜査一課管理官 警視などが集まり会議室は大勢の人々により満々とした空気を充満させていた。

 

「殺害に使用された銃はサプレッサー付きのプロ仕様の物と思われます」

 

伊丹は今までに集めた情報を元に手元のノートパソコンを使いながら説明を始めた。現在も犯人は逃走中で刑事部では犯人追跡のために現場に残された僅かな手掛かりから犯人を追っていた。

 

「被害者、ジェイ・ノリスのタブレットとスマートフォンは犯行時に何者かに持ち去られたようです」

 

伊丹に続いて隣に座っていた高木がパソコンを操作し、前方にある巨大モニターに犯人らしき人物を映した。

 

「防犯カメラに逃げ去る犯人が映っていました。体型、身のこなし等から30代から50代、また首元に黒いカラスのタトゥーがあり、この男が『レイブン』と思われます」

 

「『レイブン』の犯歴は?」

 

モニターを見ていた中園が振り返り、『レイブン』についての確認を取ると高木のそばに座っていた白鳥 任三郎 警部が説明を行った。

 

「活動の中心はヨーロッパでマネー・ロンダリングから誘拐、贋作売買など多岐にわたっており現在、国際指名手配犯として各国の警察機関が行方を追っています」

 

「そいつが、日本人なのか…。被害者が調べるよう依頼していた『あまだしゅうすけ』については?」

 

「同姓同名が全国に28名おり、現在各都道府県の警察本部に照会中です」

 

佐藤の言う通り、警視庁では各都道府県の警察本部に連絡し、被害者が調べるよう依頼していた『あまだ しゅうすけ』の確認を行っていた。だが、黒田管理官は懐疑的な意見を述べた。

 

「何故、被害者が『あまだ しゅうすけ』について調べるよう依頼したか、未だに分からん。その謎を解き明かさないと進展は望めんぞ。『レイブン』が過去に日本と接点がある事件を起こしたのは?」

 

 

 

「それが、7年前の『NAZU不正アクセス事件』及び在英日本大使館の参事官令嬢の鷺沢 瑛里華さんの誘拐ですか?」

 

右京と冠城は捜査本部への立ち入りを禁止されていたためチンを連れて、隣にある警察庁を訪れた。

そこにいる甲斐 峯秋 元警察庁次長 現警察庁長官官房付 警視監の元を訪れて、ある事件の詳細を確かめるためだった。

 

甲斐は今こそ警察庁次長の職を解かれたが未だに警察庁での影響力が絶大で、当時、事件の捜査本部に出入りをしていた事に右京が目を付け詳細を聞くために訪れていたのだった。

 

「事件は、アメリカの宇宙局である『NAZU』のメインコンピューターの侵入と同時期に、鷺沢参事官が冬の間借りていた別荘で起きて、瑛里華さんの10歳の誕生パーティー時に起こったようです。別荘に来ていた来賓や召使いは、来客用と召使い用のティーポットに入っていた青酸カリで殺害されていました。ただ、メイドの1人が絶命寸前に警察に通報しており、ただ1人難を逃れた瑛里華さんは一旦は警察に保護されました」

 

そこで、一旦話を区切り出されたお茶を啜ったチンは再び話し始めた。

 

「が、大使館職員が到着するのを待っていた瑛里華さんは警官がほんの一瞬、目を離した瞬間に連れ去られてしまったのです」

 

「瑛里華さんは父親、友人といった親しい人々を毒殺された上で誘拐された訳ですね」

 

応接セットの肘掛け椅子に座り、話を聞いていた甲斐が確認をするかのように静かに言った。甲斐は瑛里華の運命を密かに残酷なものだと考えていた。

 

「彼女の母親は?」

 

「瑛里華さんを産んですぐに、亡くなっています。そして、彼女の行方は誘拐されて以来、分からなくなっています。実行犯と思われる英国人、デニス・コナーが『バーズ』のビジネスルールを破ったとされ射殺されている以外は特に手がかりはなく今日に至っています。

 

次に『NAZU不正アクセス事件』ですが当時、ある弁護士事務所に務めていた事務員の羽場 二三一が以前交流があったゲーム会社のコンピューターを使い『NAZU』のコンピューターに侵入し、重要なファイルを盗み出そうと企てていました。しかし日本の警察の優秀さでありますか、当時の警視庁公安部の活躍により犯人は逮捕されました」

 

冠城の問いに素早く答えたチンは次に『NAZU』についての時間を語り始めた。だが、この事件には謎や不可解な点もあり解決と呼ぶにはまだ程遠い案件だった。

右京も疑問に感じているものが多く、いくつかの質問をぶつけて謎に迫ろうとした。

 

「しかし、何故その羽場さんは『NAZU』のコンピューターに侵入したのでしょうか。そして、羽場さんと『バーズ』の接点は?」

 

「前者については分かりませんでした。何せ、容疑者が自殺してしまっているのですからね。後者の方ですが、彼のパソコンを分析した結果、『バーズ』が以前使っていたコードと同じものが使われていたようで、そこが逮捕の突破口になったと聞いています」

 

その時、冠城が懐にしまっていた彼の携帯がバイブを鳴らし始めた。通話の許しを得た冠城が電話に出ると相手はテロ犠牲者の遺体と共に葬儀場に向かっているはずの社からだった。

 

『社です。空港から葬儀場に向かっていたテロ犠牲者のご遺体が、搬送車ごと行方不明になっています。何らかの手違いでしょうが、予定時間までに見つからなければマスコミが騒ぎ出します。現在、所轄で捜索中ですが特命係にも加わってください。では」

 

「そうですか、では冠城君。搬送車の方はよろしく。僕は、ノリスさんを偲んでチンさんとお食事を。今日、2人で行く予定だったお店があるそうなので」

 

社からの電話の内容を聞いた右京は椅子から立つと、冠城と別行動をとることにした。社が、特命係の人数までは正確に言っていなかったため、警察官としてまだまだ経験が浅い冠城だけを行かせることにしたのだった。

 

冠城の不満はさておき、こうして警察庁を出た2人は右京はチンと共に昼食へ、冠城は搬送車探しに向かった。




書いていて、コナンと相棒のストーリーを織り込ませるのがとても大変と感じました。


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05 運命の交錯

今回は、長めなので2つに分けて行きたいと思います。


右京と別れた冠城は警察庁を出た後、搬送車の捜索をしていた江東警察署管内に向かっていた。

 

歩道橋を渡っていた冠城は橋の反対側から江東署の刑事と思われる人物たちと遭遇し、少々の会話を行なった。

 

「搬送車、この辺りで目撃情報が出たんだって?」

 

「一足遅かったな。もう、この先で見つかったよ。運転手は行方不明だったが、ご遺体と遺品はそのままだったんで急いで斎場まで運ぶってさ」

 

大抵の情報を喋った江東署の刑事たちは歩道橋の反対側に向かって行き、去って行った。無駄足に終わった自分の行動の無意味さを噛み締めながらもこれが特命係だ、と割り切っている冠城はそのまま刑事たちと反対方向、搬送車が見つかったとされる場所に急いだ。

 

 

搬送車が見つかった場所には、江東署の警察車両と刑事たちが大勢集まっていた。警察手帳を翳し、中に入った冠城はそのまま一直線に搬送車に向かった。

搬送車に着いた冠城は、突如後部トランクを開けて遺体が入った桶を出そうとした。だが、江東署の刑事はそれを拒否しさっさとトランクを閉めると護衛のための警察車両と共にその場を去って行ってしまった。その去って行く姿を冠城は無言のまま、見つめていた。

 

 

『アメリカのサンフランシスコで開催されていた4年に一度のスポーツの祭典、国際競技大会が今日、閉会式を迎えました。閉会式は、現地時間の20時に盛大に行われ、アメリカ選手団を先頭に190を超える国と地域が…』

 

右京とチンは、警察官が巡回している湾岸地区にあるショッピングモールを訪れていた。ノリスと昼食を摂る予定だったこの建物の19階にある日本料理店を訪れるためであった。

 

「相変わらず、日本選手団の活躍は素晴らしかったようで」

 

「えぇ。同じ、日本人として選手団の皆さんに敬愛と感謝の念を送りたいものですねぇ」

 

1階にある巨大なスクリーンにはニュース映像が映し出され、国際競技大会の閉会式の模様をダイジェストで放送していた。それを眺めていたチンと右京であったが、ふと前から歩いていた膨よかな体型をした男の子とぶつかってしまった。

 

「坊や、大丈夫かい?」

 

「だから、言っただろう?元太。あまり迷惑をかけるなって。すみません、おじさん」

 

ぶつかってしまった男の子は買い物をしていたらしく、袋に入れてあったものが散乱してしまった。それを集めたチンは声をかけながら丁寧に渡した。その後ろから保護者と思われる太った体型で頭部が禿げかかった白髪頭の男性が駆け寄って来た。

 

「いやぁ、すみません。お怪我はありませんでしたか?」

 

「いえいえ、そちらこそ怪我がなくてホッとしました」

 

「ほら、小嶋くんも謝りなさい…!」

 

その男性の後ろからやって来た赤味がかったウェーブ状の茶髪をした可愛いと言うよりは美人の女の子が睨みつけるように言ったため、小嶋と呼ばれたその男の子も謝った。

 

「いえいえ、気遣いは無用だよ。杉下さんもそう思いませんか?」

 

「えぇ。次からは、ちゃんと気をつけるんですよ」

 

前にいたおかっぱ頭にカチューシャを付けた女の子も含め、子供たちは元気よく返事をした。残りの眼鏡をかけた少年と茶髪の女の子は苦笑いをしていたが、右京は眼鏡の男の子が自分の名前をチンが言った時、密かに表情が動いたのを見逃さなかった。

 

眼鏡を鋭く光らせた、右京をよそに彼らと自らは別の方向に歩き始めた。その子供たちの中にも1人、目鏡を光らせていた者がいたが。

 

和製シャーロックホームズの杉下右京、平成のシャーロックホームズと呼ばれた工藤新一、現在の江戸川コナン、この2人の運命が遂に交わった瞬間であった。

 

 

「今日は、博士に何を注文してもらいましょうか?」

 

知人の阿笠博士から、新たにオープンした洋菓子店への来店の権利を得た元太、光彦、歩美の3人はノリノリでショッピングモールの中へ入っていった。それに対し、阿笠博士は何なら暖かない表情だった。

 

「トホホ…。わしの財布が…」

 

「ははは…,どっかの誰かさんのせいで行く羽目になったり、ドローンのリモコンの改造をお願いされたり、博士色々と不幸だな…」

 

「さて、誰のせいでしょうね?」

 

後ろを歩いていたコナン、灰原は財布の残高が減っていく阿笠博士を可哀想に見つめていた。が、灰原はそんな事を気にしていない素ぶりを見せていた。何故、彼らがこのショッピングモールにいるのか、それは数十分前に遡る。

 

『いよいよ、火星の探査を終えた『はくちょう』が6日後、地球に帰って来ます!この『はくちょう』は遠隔操作の元、カプセルと本体を切り離し、本体は大気圏に突入し燃え尽きますがカプセルはチタン合金などの合金金属を使い、耐熱性は抜群だそうです!カプセルは誤差200m以内に収まるように設計されより安全な着水が可能になっています!目標落下地点は東京湾沖約20キロの沖合で…』

 

コナンが『はくちょう』帰還のニュースに見入っていた頃、庭では子供達が博士にあるお願いをしていた。

 

「しかし、この1つのリモコンだとみんなが操縦できませんよ!」

 

「えぇー!歩美、操縦したいよー!」

 

「俺も!俺も!」

 

3人は、1つしかないリモコンでは1人しか操縦できず、不平等だと感じていた。そのため、開発者である阿笠博士に3人がドローンを操縦できるよう、機能を3分割するよう頼んでいた。

 

「じゃがのぅ…。このドローンは元々1人で操縦するもので、3人で操縦する用には設計できておらんのじゃ…」

 

そこで、博士はふと思いついたかのように相槌を打つと3人に言った。

 

「よーし!そこまで言うならばクイズで勝負じゃ!君たちが解ければドローンのリモコンを3分割するのを約束しようではないか!」

 

この博士の高らかとした宣言に子供たちはテンションが下がっていってしまったが、それでも博士は続けた。

 

「問題!次の行で最もスケールが大きいのは次のうちどれ?1、あ行。2、か行。3、さ行。4、な行」

 

子供たちは頭を抱えていたが、そこに灰原がフォローに入った。不満を言う、阿笠博士を他所に灰原は、『みんなが知っているもの』、『近日、帰ってくるもの』の2つをヒントに出しその結果、光彦が『はくちょう』と言う答えを出し、見事正解にこぎ着けた。

 

更に、博士が洋菓子店の新改装オープン記念の券を隠し持っていた事から、灰原がみんなを誘い、これもまた博士の考えは何処かは行ってしまい、結果博士の愛車でこのショッピングモールに直行したのだった。




今回は、この辺で切って次回はコナン側から見た右京との出会いを中心に書いていこうと思います


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06 昼食

なかなかタイトルが思いつかなかったので一番長く書いた昼食のシーンに倣ってこの題名にしました。


ショッピングモールは休日ということもあり、多くの人でごった返していた。その中を迷子にならないように慎重に行動していたコナンと灰原であったが、3人の子供たちはスタスタと歩いていってしまっていた。

その中でも特に行動が早かったのは、食い意地が張っていた元太だった。

 

「おーい、コナン!灰原!早く行こーぜー!」

 

「おい!待て、元太!」

 

コナンは元太が走っていく方向に男性2人がいることに気付いた。彼らは上にあると思われる液晶の大型モニターに釘付けで、元太には気づいていなかった。途中で阿笠博士も気付いたが、人が多く大声で叫ぶのは迷惑になるため、走って追いかけた。

 

コナンは元太を止めようとしたが、コナンの足でも食物の事で夢中の元太は止められず前にいる男性2人に向かっていった。

 

「うわぁ!いってー!」

 

元太はモニターを見ていた男性らのうち、白髪の老人とぶつかってしまい、手に持っていた手荷物を盛大にぶちまけた。

 

「坊や、大丈夫かい?」

 

「だから、言っただろう?あまり迷惑をかけるなって。すみません、おじさん」

 

白髪の老人は、元太が落とした商品を集めてくれて声をかけながら丁寧に渡してくれた。その老人の気遣いをコナンは有難く感じていると後ろから灰原と阿笠博士が急いで来ている事を感じた。

 

「いやぁ、すみません。お怪我はありませんでしたか?」

 

「いえいえ、そちらこそ怪我なくてホッとしました」

 

「ほら、小嶋くんも謝りなさい…!」

 

走って来たのか息が少々荒れている灰原であったが、鋭い目つきで元太を睨んだ。その睨みにタジタジになった元太はそのまま言われるように、男性らに謝った。

 

「いえいえ、気遣いは無用だよ。杉下さんもそう思いませんか?」

 

「えぇ。次からは、ちゃんと気をつけるんですよ」

 

元太、光彦、歩美は元気に返事をしていたがコナンはふとある事を思い出していた。

 

(まさか、この人。前に東京都の雑誌に掲載されていた杉下 右京っていう警部じゃないか?顔つきや上等なスーツを着ている事からまさかとは思うが…。でも、さっき連れの人は“杉下”って言ってた。確か、そこに掲載されていた名にはこうも載っていた。『和製シャーロックホームズ』とも。まさかな…)

 

コナンは顎に手を乗せて考えていた。大抵の人は考え事か探偵ごっこをしていると側からは考えるが、白髪の老人の隣にいる杉下右京と思わしき男性はコナンの動きに眼鏡を光らせ密かに着目していた。

 

やがて彼らは別々の方向に歩き始めた。互いに目を光らせながら交錯した時、和製シャーロックホームズと呼ばれた杉下右京、平成のシャーロックホームズと呼ばれた工藤新一 現在は江戸川コナン、この2人の運命がついに混じり合った瞬間であった。

別れた彼らは右京とチンはエレベーターホールへ、コナンらは洋菓子店のある別フロアのエレベーターホールに向かった。

 

 

 

右京とチンはエレベーターホールへ向かうとそこにやってきたエレベーターに乗り、日本料理店がある19階のボタンを押した。

エレベーターの扉が閉まり、上に上がっていくと1人の男がエレベーターホールに姿を現した。男は右京とチンが乗ったエレベーターを一瞥すると、出入り口の方向に歩き出した。

 

黒い帽子とズボン、白いシャツとスニーカーという至って普通の格好をした男は出入り口を出ると、そのまま路肩に停まっている一台のバンを目指した。中には運転手の他にも数人の男があり彼らは今、車に向かっている人物を待っていたのだった。

 

「予定通りです」

 

帽子を脱いで車内に入った男はボスと思われる人物に報告した。その男の首元には黒いカラスのタトゥーが入っており、つまりその事からジェイ・ノリスを殺害した犯人『レイブン』らしいという事が分かる。その事を知っているのはバンにいる者のみであるが。

 

ボスらしき男は直ぐに車を出すように命令し、路肩に停めてあったバンはゆっくりとその場を去って行った。

 

 

「チンさんは香港にお住まいだそうですが、やはり国籍は英国ですか?」

 

「えぇ。返還前に英国籍を取りました。元は貿易の方を…」

 

予約時間より少し早めに来た右京とチンだったが、客が疎らな事もあり直ぐに店内に通された。港湾施設や海が見渡せる窓際の4人テーブルに案内され、運ばれて来たお刺身や漬物を食べながら右京とチンはゆっくりと最近の事件や日本の情勢などについて語っていた。

 

チンが巻物を口にした途端、顔を顰めたため右京は不安になったが、チンはどうもわさびが苦手らしくそのために顔を顰めていたのだった。

また、右京はチンが日本人も顔負けに箸の使い方や食事のマナーをマスターしている事に密かに驚いていた。

 

「ICPO勤務時代は、よくヨーロッパに?」

 

「ノリスと知り合ったのもICPO本部でした。『レイブン』の事で時々連絡を取り合っていたんですが…。こんな事になってしまって…」

 

「随分長い間、『レイブン』を追ってらっしゃるようですが?」

 

右京が聞くと、ノリスは昔を懐かしむように遠くの方を見つめながらしみじみと語った。

 

「どうも、諦めがつかないもので…」

 

「『レイブン』にとってチンさんは天敵ですね」

 

「ノリスが残した『あまだ しゅうすけ』という名から何か分かると良いのですが」

 

ご飯を食べながら『レイブン』の事について語り合っていると突然、チンが喉元を抑えて顔を顰め始めた。その表情もわさびの時とは違う、切羽詰まったものだった。

 

「チンさん?」

 

右京が心配そうに話しかけるとチンは答える代わり、右京の手に握られていた箸を弾き飛ばした。箸は湯呑みに当たり乾いた音と共にテーブルに落ち、それと同時にチンも椅子から床に転げ落ち苦しみ始めた。

 

「うぅ…う…」

 

「チンさん!大丈夫ですか?」

 

店員が駆け寄ると、なんとそのすぐ斜め後ろに座っていた客も同じように椅子から転げ落ち、苦しみ始めた。更に、他の席でも客が倒れ始めたのだった。

 

ただ事ではない事態に右京は他にも店内に客が倒れていないか、確認しに入口へと向かった。入口には倒れている男性と声をかけている女性のカップルがいたが、事態はもっと深刻だった。店外からも叫び声や騒めきが聞こえたのだった。不安に駆られる右京は外へ確認に出向いた。

 

吹き抜け空間から下を見ることが出来るため、下を覗いた右京であったが何とそこには同じ様に倒れている人が各フロアにいたのだった。

右京は持っていた携帯電話で直ちに消防庁と警視庁に電話をかけ、この非常事態を連絡した。




毎回、右京さんは無茶な事をたくさんすると映画を見てて思いました。

銃で撃たれたり、爆発寸前の倉庫の中でどうにか地下の貯水に逃げ込んだり。勇気ある行動なのか、無謀すぎる行動なのか、自分はちょっと無謀すぎると思ったりもしています。


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07 喧騒のショッピングモール

今回はコナン視点のショッピングモール騒動についてです。



一方、右京と別れたコナンはその後も暫く先ほど出会った右京のことを考えていた。

 

「どうかしたの?」

 

「いや、さっき出会った男性のうちスーツ姿で“杉下”って呼ばれていた人、何処かで見たことがある気がするんだよなぁ」

 

右京らとは別のエレベーターホールに向かい、そこで目的の洋菓子店がある17階のフロアに向かうためエレベーターに乗った。保護者である阿笠博士が先頭になってエレベーターに向かい、博士がフロアのボタンを押してくれたため、コナンらはただついて行くだけで良かったのだった。

 

目的の17階に着き、洋菓子店がある場所へ向かう途中、コナンと灰原は元太らや阿笠博士とは少し距離をとってこっそりと会話していたのだった。

 

「さぁ。工藤くんは事件にしょっちゅう首を突っ込むからその中の関係者にいたんじゃないの?」

 

「うーん。確か雑誌にも同姓同名の人物が記載されていたから、もしかしたらと思ったんだけど…。灰原は知らないか?」

 

「知らないわよ。黒の組織でもそんな人物はいなかったし」

 

灰原が知らないという事は“黒の組織”関連の人物ではないという、確証を得たコナンではあったが未だに雑誌の全容を思い出せない自分と戦っていた。確かに、コナンの脳裏にはある雑誌に記載された『和製シャーロックホームズ』と称された杉下 右京という刑事がいたという事は記憶していたが、本当に先ほど会った彼は警察官なのか、何歳なのか、何処の部署の所属なのか、など雑誌に載っていた杉下 右京と先ほどの人物を結びつける証拠が今ひとつ欠けていたのだった。

 

「コナンくん?おーい、コナンくん!」

 

考えに浸っていたコナンを現実に引き戻したのは阿笠博士の声だった。コナンがハッとして辺りを見てみるとそこはフロアの一番端にあり店内の窓からは高層ビルが一望できるように改装された店、コナンらが目指していた洋菓子店の入り口にいつのまにか着いていたのだった。

 

「コナンくん、大丈夫ですか?暫く、周りの事なんて放ったらかしで何か考え込んでいたようですが?」

 

「おぉ!?もしかしてうな重のことか?」

 

「元太…。お前じゃないしそれはない」

 

約1名を除きコナンと一緒に来ていた光彦らも心配そうにコナンの顔色を伺っていた。コナンは大した事じゃないときっぱり言って、元太らに早く店に入って美味しいケーキを食べないかと、誘った。

 

「今回は、博士のへそくりのお陰ね?」

 

「ふふふ…。そうじゃ!皆、わしに感謝するのじゃ…痛い痛い!哀くん!何を…」

 

阿笠博士は自分のお陰でこの洋菓子店に行けると胸を張って語っていたが、脹脛を思いっきり抓り博士を睨んでいた灰原によって、その自論は押し込められた。コナン曰く、その時彼女の顔は般若のように不気味に笑っていたそうだった。

 

実際、阿笠博士は券が一枚しか無いのをいいことにコナンらが学校に行っている最中に一人で洋菓子店に行こうとしていたらしく、しかもその洋菓子店は灰原のお気に入りのお店であったことが災いして、彼女の逆鱗に触れてしまい怒りを宥めるためもあって渋々博士が自費で連れて来ていたのだった。

 

 

「わぁー!すっげぇ!ケーキがあんなに!」

 

「それにこのお店、とっても綺麗!博士、ありがとう!」

 

店内に案内されたコナンらは一番窓際の席へと案内された。その席からは東京湾が一望できるため光彦はそれに見入っていた。

このお店は新装開店ということでケーキやマフィンと言った洋菓子が食べ放題という特別プランを実施していた。席についておしぼりで手を拭くよう言われた後、元太は一目散にケーキが置かれているテーブルへと向かっていった。

 

「そんじゃ、わしも…」

 

「博士は、2個まで。自分の体を考えて」

 

阿笠博士は、灰原から数量限定だが食べるのを許可されていたのでケーキを取りに行っていた。コナンも未だに疑問を抱きつつもその疑問を押し込め、ロールケーキを取りに行った。

 

「美味しいわね。流石、ベルギー発の洋菓子店ね。巷の洋菓子店とは違う味で、結構いけるわね」

 

チョコのショートケーキを味見するようにゆっくりと食べていた灰原は、早くも満足げに笑みを浮かべていた。一番最初にケーキやらを取り席に戻って来た元太は早くも次のケーキを取りに行っていた一方で、博士は数量制限のためにゆっくりと胃を満たすように食べていた。

この時、灰原が博士によく噛むようにメトロノームを持って来ており彼はメトロノームのテンポでゆっくりと噛むように強制されていた。

 

「まぁ、確かに普通の店よりは美味しいと思うぜ」

 

コナンも撮ってきていたフルーツ入りのロールケーキを頬張りながら感想を言った。博士には、申し訳ないがこの店に来て本当に正解だったとコナンは考えていた。

 

 

「う…うぅ…」

 

突如、博士が苦しみだしたのは先の会話から5分ほど経った後だった。博士は何の前触れもなく突然、喉元を抑えて苦しみだしたのだった。

 

「博士!?」

 

「しっかりしてください!?博士!」

 

コナンや光彦が心配そうに声をかけると阿笠博士はそのまま椅子から転げ落ちた。まだ博士は苦しいのか喉元を抑えて、唸っていた。コナンはハッとしてテーブルを見ると、周りで見ていた元太らに警告した。

 

「お前ら、絶対にケーキに触れるんじゃねぇぞ!?灰原、警察と消防に連絡だ!」

 

「え、えぇ」

 

灰原が自身のスマホから通報しようとすると他のテーブルでも同じように床に倒れる人が続出した。皆、喉元を抑えたり気を失っているのか動き1つしないなど症状は様々であったがコナンはこれが偶然の一貫性に片付けられないと考えていた。

 

状況確認のため、店を出たコナンが見たものは各フロアで次々に倒れている人々だった。最初は小さかった騒めきも次第に大きくなっていきモール内の人の動きも活発化した。

 

このショッピングモールで何かとんでも無いことが起きていると察知したコナンは知り合いの高木刑事に緊急連絡を入れた。

 

 




今回は、阿笠博士がチンさんと同じように犠牲になってちゃいました。

阿笠博士のファンの皆さん、すいません!


話は変わりますが、今日アベンジャーズ インフィニティーウォーを見てきて、とても衝撃を受けました


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08 警察庁の思惑

今回は、いよいよコナンがついに右京さんの正体を知ります。


警視庁本庁舎 大会議室

 

『FBI 捜査官 ジェイ・ノリス氏殺害事件捜査本部』が置かれていた警視庁にある大会議室には内村 刑事部長や中園 参事官、黒田 捜査一課管理官、目暮 警部らが集まり、捜査本部に集められた各証拠を検証していた。

 

そこへコナンからの緊急連絡を受けた高木が慌てて入室してきたのは証拠の確認や防犯カメラの映像の分析結果を行なっていた時であった。

 

「た、大変です!東京都港区にあるショッピングモールで、多数の民間人が倒れているとの報告が入りました!」

 

「何!?本当か?それは!」

 

内村は驚いたように立ち上がり、驚愕の表情を浮かべていた。内村はジェイ・ノリス氏の殺害を『バーズ』に起こされたことで、警察庁からこれ以上の犯罪を許すな、と御達しが来ていたのにまた面倒ごとに巻き込まれたことに、自分の立ち位置が危うくなるのではないかと危惧していた。

 

「大規模食中毒の可能性もある。生活安全部にも協力要請をし、直ちに原因分析を判明させよ」

 

「「「はい!」」」

 

黒田の冷静な指示に集まっていた、高木や佐藤といった刑事らは一斉に動きだし、刑事部の鑑識課を中心に多くの捜査員が現場であるショッピングモールに向かった。

黒田は側にいた捜査員にある指示を出した。

 

「警察庁に連絡を。どうやら、この事件何か裏がある気がしてならないのだ…」

 

 

中央合同庁舎第二館 警察庁 長官室

 

「大規模食中毒事件?東京でそんな事が起きるなんてねぇ…」

 

ルームランナーに乗りながら、部下の報告を受けていたのは金子 文郎 警察庁長官であった。以前、田丸 警視総監と対立していた彼は『警視庁篭城事件及び小野田 警察庁長官官房室長殺害事件』で田丸 警視総監や内村 刑事部長らの更迭を目論んでいたが、小野田が死亡したことによりそれが暗礁に乗り上げ失敗していた。しかし、それで諦めるわけではなく密かに再び巡ってくるであろうチャンスを虎視眈眈と狙っていた。

 

「まだ詳細は不明ですが、多数の民間人が巻き込まれたとの情報が入っています」

 

長官室にはもう1人、男性がいた。その男性は甲斐 長官官房付きであった。甲斐は今でこそ長官官房付きであったが、かつての警察庁次長の際の権力は未だに絶大で、金子 長官とも親しい仲だった。

 

「まぁ、警視庁は都民の安全を守る事が第一だから、庁内の管轄で起きたことなんだから向こうでケリを付けさせなければならないと。何せ、警視庁こそ首都を守る組織らしいからねぇ」

 

金子 長官は、ルームランナーから降りて上着を着て髪を整えると肘掛け椅子に深々と座った。責任はあくまで警視庁内で取らせろ、その事を回りくどく彼は言ったのだった。かつての『警視庁篭城事件』でも同じ対応をとったように。

 

 

ショッピングモールの周辺には通報で駆けつけてきた警視庁の職員や、消防庁の救急車が集まり被害者の搬送を行なっていた。

 

被害者らは皆、識別のための名札を手首に付けて救急車を待つ列に並んでいた。その中には右京に抱えられたチンや救急隊員に抱えられた阿笠博士もいた。

救急車にチンを運んだ右京は、阿笠博士を運ぶ様子を見ていた子供たちを偶々目撃した。

 

「君たち、大丈夫ですか?」

 

「う、うん。あなたは?どうして僕たちを?」

 

「あー、これは失礼。先ほど君たちを見かけた時、保護者と思われたのは白髪の男性のみと思いましてね。そしてその男性は先ほど救急車で病院に運ばれており今、君たちは保護者がいないためどうやって帰るのか、気になりましてね」

 

元太らは突然話しかけてきたスーツ姿の男性に驚いていたが、先ほど元太がぶつかってしまった男性の連れである事をコナンは気付いていた。

 

「おじさん、誰?」

 

「これは失礼。私は警視庁特命係の杉下と申します」

 

英国風のスーツを着た男性は警察手帳を子供たちを見せた。その警察手帳を見たコナンは、ここに来てようやくあの雑誌に載っていた刑事と目の前にいるスーツ姿の男性が一致した。

 

(そうか…。この人が、和製シャーロックホームズと呼ばれた杉下右京 警部か…。こんな所で会うなんて…)

 

右京は子供たちを一瞥すると、自らの車に乗るのに勧めた。

 

「君たちの保護者は、今病院ですか?」

 

「うん。そうだよ」

 

「ならば被害者が搬送された病院に行きましょう。君たちもあの男性の様子が気になるでしょうからねぇ」

 




警察庁長官は金子 長官のままです。

一様、オリジナル登場人物にしようとも思いましたが、一番印象深かった宇津井健さんが演じる金子 文郎警察庁長官にそのまま続投しました。


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09 爆破

今回、ちょっと文章力がないかもしれません。ご了承ください。


 

「ならば被害者が搬送された病院に行きましょう。君たちもあの男性の様子が気になるでしょうからねぇ」

 

右京は自らの車に子供たちに病院に直行しようと考えていた。既に冠城は自身の車でチンが搬送された大学病院に向かっている。

コナンも、他の人に連れて行ってもらうのは申し訳なく思っていたが博士の他に車を運転できる人物はいない上、ここから大学病院にはバスと電車を乗り継がなければいけない為、お金が足りていなかった事もあり右京の案に賛同した。

 

「えぇ。お願いするわ」

 

灰原を始めとした光彦らも賛同した事もあり、右京の愛車FK10型 日産フィガロに子供たちがを乗せた右京はチンが運ばれた大学病院に直行した。

 

 

同じ頃、『国際平和会議 東京サミット』が開かれる国際会議場では警視庁の警備艇が海上を、デッキや会場周辺には警視庁公安部の刑事たちが周囲を警戒していた。

国際会議場にも公安部の刑事たちの姿があった。豪華なシャンデリアが吊り下げられた吹き抜けのロビーや、その奥にあるレストラン街、他の階にも背広姿の男たちがいて、それぞれのビルを巡回している。

 

その中には警視庁公安部の刑事、風見裕也の姿も姿もあった。風間は部下と料亭を出ると、他の刑事らとビルを出た。

 

 

ドオオオオォォォン!!

 

風見が会議場を出たその時、耳を裂くようなとてつもない轟音が辺りを包み、それと共に凄まじい爆風が巻き起こった。国際会議場のガラスや壁は爆発により吹き飛び、周囲に停車していた警察車両も吹き飛ばされて小石のように道路を転がり、吹き飛んだコンクリート片が次々と路上に突き刺さる。

一瞬にして新しい姿を見せていた国際会議場は業火に包まれ、黒煙がもうもうと立ち昇った。

 

その中から傷だらけになりながら出てきたのは警察庁警備局警備企画課、通称公安警察所属の安室 透だった。ふらついた足取りで道路まで進むと振り返り、無残な姿となった国際会議場を呆然と見上げた。

 

すると、炎に包まれた鉄柱がメキメキと音を立てながら安室をめがけて倒れてきた。重い振動と共に土煙が巻き上がる。

 

間一髪のところで避けた安室は、右腕を押さえながら国際会議場を去っていった。

 

 

警視庁 総務部広報課室

 

警視庁にはまだ、国際会議場が爆破されたとの報告は入ってきておらず先におきた食中毒に似た事件についての情報が錯綜していた。社がトップを務めていた広報課は公開する情報と非公開の情報との選別を上層部と幾度となく協議していたため、会見が遅れていた。

また、各報道機関からの問い合わせの電話の多さも加わり、普段静かな広報課の部屋は行き来する職員や、鳴り止まない電話で騒然としていた。

 

「被害者の総数は?」

 

「43名、内5名が重傷。あとは比較的軽傷です」

 

「原因物質と感染経路の特定は?」

 

「まだ特定されていません」

 

広報課長の社は早歩きで部屋にある小テーブルに向かった。その後ろを秘書で広報課所属の石川 大輔 警部が後を追いかけていた。眼鏡をかけた神経質そうな石川は社の質問に短く、しかし正確に答えていた。

小テーブルには広報課の幹部たちが既に集まっており、幹部たちに挨拶を返し椅子に座った社は報告書にまとめられた事件の概要を一瞥した。

 

「生活環境課から連絡は?」

 

「原因が判明するまでレストラン街、封鎖決定です」

 

「発表どうしますか?」

 

石川の質問に暫く考え込んだ社は幹部たちと報告書をそれぞれ見ると課長としての命令を発した。

 

「食中毒と異物混入の両方から捜査中とします」

 

広報課の職員がゾロゾロと会見に向けて移動し始めようとした時、広報課の職員が慌てふためいた様子で駆け込んで来た。その様子に社も思わず、怪訝そうな表情で見つめた。

 

「か、課長、大変です!国際会議場が…爆破されました!」

 

社はその報告に衝撃に受け、その職員の方を顔を向けたまま動けなくなった。

 

 

同じ頃、警察庁がはいる中央合同庁舎第二館も国際会議場爆破の報告に騒然となり警察庁フロアは多くの職員が書類を抱えて右往左往していた。そして、長官室にも警察庁警備局の職員がやって来て緊急事態を告げた。

 

「長官、非常事態です。国際会議場が爆破されました。原因は不明ですが警視庁公安部の刑事が数名巻き込まれたとの情報もあり、只今警視庁の刑事部、公安部の捜査員が現場に急行しています」

 

肘掛け椅子に座っていた甲斐と金子はその報告を聞いて落ち着いた様子をしていたが、内心では前例のない爆破事件に衝撃を受けていた。

取り敢えず、職員が退出したのを確認した金子は肘掛け椅子から勢い良く立ち上がった。

 

「…どうやら、警視庁だけに任せておくわけには行かなくなったようだな。甲斐くん、警察庁に至急、対策本部を設置してくれ。また、警備局にも連絡をいれてくれ。これ以上『レイブン』の好き勝手に任せておくわけにはいかないだろう」

 

「分かりました。長官」

 

長官室から退出した甲斐を確認した金子は、1人長官室の窓際に立つと、窓の向こうに映る東京のビルを背後に老いた自分の顔ともう1人ある男の顔を脳裏に浮かばせていた。

 

「この事件、どうやら君の功績を存分に発揮できる最高の舞台になりそうだよ、小野田くん」

 

その男の名は、かつて金子と共に警察庁の権限拡大を狙いそして『警視庁篭城事件』で殺害された、元警察庁長官官房室長 小野田 公顕 警視監だった。

小野田はかつて、警視庁公安部長を務め警察庁警備局にも太いパイプを持つ人物で特に公安警察に対しては力を拡大するために尽力していた。その小野田が生涯尽力した公安警察が今度の事件では日の光を浴びることになったのだった。

 

 

そして、警視庁の大会議室に設けられた捜査本部にもその報告は衝撃をもって伝えられた。

 

「何!?何故、次から次へと…」

 

内村は驚いて席を立つと、力がなくなったかのように座った。等の隣にいた中園も只々オロオロしている様子で内村と捜査員を交互に見つめていた。冷静さを保っている黒田も眼鏡を光らせたまま、空中を睨んだ。

やがて、捜査本部にリーダー格らしい背広姿の男を先頭に多数の捜査員が書類やダンボールを持って来た。

その姿を見た伊丹は吐き捨てるように言った。

 

「チッ。公安部の連中か…。あまり、せっかく刑事部だけで統制されていたのに。公安部の連中が来られちゃ、またシステムの構築が必要だっちゅうのに…」

 

「仕方ないでしょう。この爆破事件は刑事部よりも公安部の方が専門でしょう」

 

佐藤や千葉も公安部の捜査員を複雑な表情で見ていた。

 

先ほどやって来た公安部の捜査員の先頭を歩いていた公安部長が内村が座るテーブルに向かった。

 

「ここからは、刑事部と公安部の共同調査になりますね」

 

眼鏡をかけた神経質そうな人物だった。内村は不満そうな顔を見せていたが、中園と取り計らいで公安部の捜査員も本部に次々に合流した。

やがて、刑事部と公安部の合同捜査本部が警視庁に誕生した。

 

その報告は病院にいた右京やコナンの元にも届いた。




小野田官房長、出そうと思っていました。

これから、官房長がどのような関わりを持つか楽しんで書いていこうと思います。

誤字の指摘を受けました。指摘して頂いた方、ありがとうございます


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10 病院

今回は長めです。コナンと右京さんが初めて会話します。


大学病院に着いたコナン、灰原、元太、光彦、歩美、それに右京の6人は大学病院に向かうため右京の自家用車で公道を走っていた。

 

「おじさんって、警視庁の刑事さんなの?」

 

定員をオーバーして満々とした車内でコナンは運転席にいる右京に声をかけた。偶然とはいえ、いきなり声をかけてきた人物の事を怪しむのは当然だが、それと同時にコナン自身の興味もあり右京に聞いていた。

 

「なんか、特命係ってカッコいい部署名ですよね?」

 

「どんなお仕事するの?」

 

「そうですねぇ、特別な命令が出たら行動する。頼まれごとはなんでも引き受ける。それが特命係の仕事と、いったところでしょうねぇ」

 

子供たちはそれはパシリに使われていると、言ったが右京はそんな部署も警視庁には必要という言葉に納得したのか、子供たち同士で話し始めたので今度はコナンらが自らの事を右京に紹介した。

 

「僕、江戸川 コナン」

 

「私は、灰原 哀って言うの。よろしく、刑事さん」

 

「俺は、小嶋 元太っていうんだ」

 

「僕は、円谷 光彦といいます!よろしくお願いします」

 

「私、吉田 歩美っていうの」

 

右京は自分の脳内に子供たちの名前を刷り込ませていたが、ふと思い出したかのように右京は前方を見たまま言った。

 

「僕が、刑事部の友人から聞いた話ですが君たちは米花町で活躍している『少年探偵団』というグループではありませんか?」

 

コナンは一発で少年探偵団の事を突き止めた右京に驚きつつも、まだ憶測で言っている可能性もあることから右京に聞いた。

 

「どうして、そう言い切れるの?」

 

「君たちを見て不思議に思った点がいくつかあります。まず、君たちは保護者がいなくなっても慌てる事は無かった。普通、小学校低学年の子供なら頼れる大人がいなくなれば不安になり、泣いてしまうかもしれません。しかし、君たちは泣くどころか冷静に保護者を救急車まで誘導していた。そこに気になりましてね。次に、先ほどの刑事部の友人から聞いた話によると米花町には『眠りの小五郎』と呼ばれている毛利小五郎、『推理クイーン』と呼ばれている鈴木財閥令嬢 鈴木園子さん、そして子供達で結成された少年探偵団、この3つが主に事件解決をしていると聞きました。そして、少年探偵団の保護者としてよくついて周っている君たちの保護者と思われる男性、名推理を披露してくれる阿笠と呼ばれている博士、友人から聞いたその人物の特徴が君たちの保護者と一致するんですよ」

 

「最後は、鈴木財閥相談役 鈴木 次郎吉氏が怪盗キッドと呼ばれる泥棒からいつも宝を守ってくれると豪語している『キッドキラー』です。

よく、警視庁捜査二課が宝を守ったと報道されていますが、その一方で次郎吉氏は『キッドキラー』がいるからこそ、怪盗キッドに挑めるとも話していました。そして、ある日の新聞報道で少年探偵団が宝を守っていたと報道されているのを見かけました。私は、昔捜査二課にいた事もありましてね、その時に交流のあった人物から聞いたことがあるんですよ。

 

江戸川 コナンくんがキッドから宝を守ってくれると。是非ともお会いしたいと思っていましたがこんな所でお会いできるとは思いもしませんでした。コナンくん、君が『キッドキラー』ですね?そして、コナンくんを入れた君たちこそ少年探偵団ですね?」

 

車内にはしばらくの間、沈黙が流れていたがやがて光彦らが驚いた様子で自分らは少年探偵団であることを明かし、そして右京の名推理に驚嘆していた。

 

「凄いです!良く、僕たちが少年探偵団って気づきましたね!」

 

「まるで、コナンくんがそのまま大人になったみたい!」

 

「江戸川くんよりも、推理力は上手じゃないかしら?」

 

普段、驚くこともない灰原も右京の推理を聞いて驚嘆していた。コナンも、右京の推理には驚いており自らがキッドキラーである事を明かした。

 

「杉下さん、名推理ですね。そうです、僕はキッドキラーとしてキッドが宝を狙う度、キッドと対峙しています。まぁ、大抵は逃げられてしまいますけどね」

 

「なるほど、やはりそうでしたか。いや、細かい事は気になってしまう、僕の悪い癖」

 

すると後部座席に座っていた灰原は何気ない一言にメッセージを添えて言った。

 

「でも、杉下さん。探偵というのは危険と隣り合わせ。時には命も狙われる、その癖早く治した方が身の安全になるかもよ」

 

「確かに。しかし、僕は僕自身の信念を曲がるわけにはいかないと考えています。逆に、君たちはまだ子供です。そんな子供たちが警察が出動するような危険な所へ出向くなど僕は警察官として、1人の大人として心配になります。そのような危険な事は僕はやめてほしいと考えています」

 

右京は真剣な眼差しで一瞬、コナンらを振り返るとそのまま視線を前方に戻した。コナンも右京に対して様々な思いを抱きながら彼を見つめた。

こうして、2人の天才を乗せた車は大学病院に向けての公道を走り続けた。

 

まだ、冠城は到着していなかったため右京は先に子供達を病室に案内しようと考えた。現在、病院内は一般の客に加え、入院患者、それに今回の事件の負傷者が運び込まれていることもあり大混乱していた。

 

その大学病院の4階の隔離された病室に阿笠博士とチンはいた。医師やナースが行き来している外の通路の喧騒から区切られているこの部屋には軽傷だった他の患者も含めて4人がいた。

 

「博士!大丈夫か?」

 

「大丈夫なの?」

 

「あぁ。先生によるとワシらの他にこの部屋にいる患者さんらは軽傷で済んだったらしい。そのお陰でワシもこの通り、みんなと顔を合わせられるほど、体調は大丈夫じゃぞ」

 

コナンや灰原が駆け寄るとベットで寝ていた阿笠博士は身を起こした。笑顔で話せているため、容体はさほど危険なものではないとコナンも考えた。

続けて、阿笠博士はコナンらをここまで運んでくれた右京に礼を述べた。

 

「どうも、初めまして。ワシは阿笠 博士です。ここまで子供たちを運んでくれた事、感謝します」

 

「こちらこそ。私は警視庁特命係の杉下と申します。よく少年探偵団と共に行動しているそうで」

 

右京が自らのスーツの懐の名刺入れから名刺を取り出し、阿笠博士に渡した。阿笠博士は名刺を読むとびっくりしたように右京を見つめ、どうして少年探偵団の事を知っているのか聞いた。

 

「どうして、少年探偵団の事を?」

 

「コナンくんたちが、話してくれましてね。よく、事件を名推理で解決して下さるそうで。私も拝聴してみたいものですねぇ」

 

阿笠はそのうちに、と言うと名刺を改めて読みそして不思議そうに右京を見つめた。

 

「失礼ですが、杉下さんは現場に戻らなくてよろしいのでしょうか?ワシらの事よりも、事件解決に力を注ぐべきとワシは思いますが…」

 

「既に、現場には鑑識や生活環境課の捜査員が駆けつけて食物やレストラン街の捜査を行っているでしょう。それに、もうすぐ同僚が到着しますので」

 

阿笠博士と右京が話している一方で光彦らは阿笠博士の隣にいた白髪の老人、チンと話していた。光彦らは先ほど元太がぶつかってしまった老人と目の前にいる人が同じ人物であることを知って改めて詫びようと声をかけたのだった。

 

「お前、さっき俺とぶつかった…」

 

「ははは。そうだったな、私はエドワード・チンだ。よろしく」

 

「俺、小嶋 元太っていうんだ」

 

「僕は、円谷 光彦といいます。よろしくお願いします」

 

「私、吉田 歩美っていうの」

 

子供たちの挨拶にチンは笑みを浮かべながら見ていた。子供たちを見ていたチンの目は、どこか羨ましさと昔を思い返しているようにも見え、右京とコナンはそれを察していた。

チンが元FBIの所属の捜査官でICPOの理事も務めていた事を知ると、光彦らは仰天し尊敬の眼差しでチンを見つめた。

 

「ICPOって、あの銭形警部も所属しているあの組織ですよね!凄いです!」

 

「エドワードってなんかカッコいいな!じいちゃん!」

 

「歩美、とっても感激してる!」

 

「いやぁ、子供に言われるとなんだか照れるな」

 

その時、搬送車を探すため警察庁から分かれていた冠城が仕事を終え病室にやってきた。冠城は思っていたより病室に大勢の人がいた事とその部屋の中にいる患者の1人と右京が話している事に少々驚いていた。

 

「僕たち、ちょっといいかな」

 

側にいる光彦らを退けた冠城はベットで寝ていたチンに声をかけた。チンは寝ていた体を冠城の方へ向けて答えた。

 

「チンさん、大丈夫ですか?」

 

「ん?あぁ、私なら大丈夫だ。寧ろ、以前より調子良いくらいだ」

 

そう言うチンもまだ痛みが残るらしく、腕を上げた際には痛みを堪えているような表情をした。無理をしないように言った冠城は続けて阿笠博士の元にいた右京の元へ向かった。

 

「右京さん、この方は?」

 

「こちらは阿笠博士さん。この子たちの保護者で君がいない間、少々話をしていましてね。発明家だそうです」

 

「なるほど。あ、初めまして。私は右京さんと同じ、警視庁特命係の冠城 亘といいます」

 

右京と同じように名刺を取り出してそれを受け取った阿笠博士は、納得がいったように右京と冠城を見た。

 

「あー、あなたが杉下さんが言ってた同僚ですかな?」

 

「まぁ、そんな所ですね」

 

阿笠博士と話し込んでいたその時、懐に入れていた右京の携帯が鳴った。右京がスマホを出し通話相手を見ると相手は社からだった。右京が通話を開始すると、電話の向こう側では何か騒動が起きているようだった。

 

『社です。至急、警視庁に戻ってください。捜査員が不足しているため、特命係にも協力を仰ぎたいのです』

 

「どうかしましたか?」

 

『今、公安部からの緊急連絡が捜査本部にありました。どうやら、国際会議場が爆発、炎上しているようです』

 

右京は電話の向こう側で起きていた騒ぎの正体をここで分かった。右京も事態の重要さに気付き、直ぐに警視庁に戻る趣旨を社に伝えると電話を切り冠城に言った。

 

「冠城くん、社さんからの緊急連絡でどうやら国際会議場が爆発炎上しているそうです」

 

「え?本当ですか?」

 

「僕たちも直ぐに警視庁に戻らなくてはなりません」

 

右京と冠城はチンに要件を言うと、慌ただしく病室を後にし警視庁に戻っていった。一方、コナンも右京らが急に病室を出ていったのを不審に思い携帯で調べ、国際会議場が爆破された事を知った。

 

それを知るとコナンは病室に置かれていたテレビを急いでつけ、国際会議場爆破のニュースを食い入るように見つめた。

 

 

 




如何でしたか?前半は殆どが右京さんの会話で終わりましたね笑

こんな感じだったかな、と振り返りながら書いていました。一様、個人的には右京さん風に書けたと思います


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11 捜査本部

今回は、警察関係者が多く出て来ます。

相棒によくある派閥争いについても書いてみました。


中央合同庁舎第二館 警察庁 長官室

 

金子と甲斐が警察庁の長官室にて再び対談しているところに、山崎 哲雄 警察庁警備局長 警視監がやって来た。金子が警察庁対策本部の警備責任者兼警視庁捜査本部の最高責任者として山崎を任命するために呼んでいたのだった。

 

「お呼びでしょうか?金子長官」

 

「あぁ。唐突で申し訳ないが君には警視庁捜査本部の最高責任者をやって頂きたいのだが、いいかね?」

 

肘掛け椅子に座っていた金子は対面に座った山崎を見据えて静かに言った。山崎は何処か自分を試す金子の目線に静かに憤慨しつつもその考えを強引に押し込め、力強く頷いた。

 

「勿論です。日本警察の威信にかけて必ず犯人を逮捕し、事件の真相を解き明かします」

 

山崎が任命書を受け取り、長官室を退出したのを確認したのを確認した、甲斐は隣に座っていた金子に声をかけた。

 

「長官、本当によろしいのですか?山崎くんは警備局長とはいえ…」

 

「まぁ、落ち着きたまえ」

 

甲斐の話を途中で遮った金子は窓際まで移動すると、自身の眼鏡を光らせながら静かに言った。

 

「甲斐くんの言いたい事は分かる。君のいう通り、山崎くんは衣笠副総監一派の人物だ。それに長谷川元副総監とも親しいとも聞いている。彼は、衣笠副総監と自分に良い手柄を与え警視庁・警察庁共に勢力を拡大する気だ」

 

甲斐を次に振り返った時、金子の目は鋭くなっていた。甲斐と衣笠は共に警視庁・警察庁で互いに政敵として有名だった。衣笠一派には山崎警備局長の他に、元法務省矯正局の新堂誠、甲斐一派には金子長官、死亡した小野田元官房室長、社広報課長がいた。

金子の考えは、恐らく山崎は今度の事件によって衣笠派の勢力拡大を図り金子長官を追い落とし、甲斐を更迭する気だと考えていたのだった。

 

「だが、もしもこの事件。山崎くんを追い落とせれば奴らの勢力に対して大きな痛手を負わせることができる。こちらとしても“ジョーカー”を切る時が来たのかもしれん」

 

「まさか、長官!?あいつらを…」

 

驚いて立ち上がった甲斐を他所に金子は自身の執務用デスクに戻り、眼鏡を光らせた。金子の眼鏡を光らせたその光は長官室に掛けられた『警察庁 National Police Agency』と書かれた板に鈍く反射した。

 

「いよいよ、小野田くんが生涯をかけて尽力した組織、『ゼロ』を動かす…!」

 

 

警視庁本庁 大会議室

 

警視庁本庁の大会議室では、刑事部と公安部の合同捜査会議が行われていた。爆発現場が映し出された大型モニターの前には、縦長に並べられた長机に目暮警部、黒田兵衛管理官、内村刑事部長、中園参事官、公安部長がそれぞれ並んで座り5人の前には中央通路を挟んで階段状になった座席に刑事部と公安部の警察官たちが分かれて座っていた。その中には伊丹、芹沢、白鳥、高木、佐藤、千葉の姿もあった。

 

「鑑識作業の結果、現場から爆破物は見つかりませんでした」

 

「国際会議場の一階には日本料亭があり、地下には爆発現場となった厨房が設置されています。そこから大量のガスが検出されました」

 

「以上の事からガス爆発と断定して間違いと思います」

 

刑事部の最前列にいた佐藤と高木が報告すると、2人の意見を纏めた伊丹が2人の後ろから発言した。すると、周りの刑事たちは「ガスか」「事故だな」とざわめいた。そんな刑事たちを公安部の警察官は険しい顔で睨んでいた。すると、前方に座っていた公安部長は手を挙げて意見を述べた。

 

「しかし、国際会議場は完成したばかりです。その建物で爆発事故が起こるとは、とても考えられないと思いますがね」

 

その意見に近くに座っていた黒田管理官も公安部長の意見に同意した。

 

「あぁ、私も公安部長の意見に賛成だ。そのビルは完成したばかり。ガス漏れは考えにくい」

 

この2人の発言に芹沢は「はい」と静かに言った。

 

「実はこのガス管は最新型で、ネット上からガス栓を開け閉めすることも可能です」

 

「で?なぜ、ガス漏れが起こったんだ?それが、未だに分かってない」

 

「ネット上からの不正アクセスは無かったのか?」

 

芹沢の発言に、大型モニターに映し出された厨房のガス栓を見ていた内村は、振り返って尋ねた。中園は外部からの不正アクセスを指摘したが、その意見は千葉によって否定された。

 

「いえ、そのシステムに最初から不具合になった可能性があります」

 

「点検はしてなかったのか?」

 

強面の面は、伊丹もインパクトが強い方ではあったが、それ以上に黒田管理官の顔は恐ろしく伊丹ですらタジタジになる事があった。伊丹は黒田管理官を苦手としており、黒田に見られた際も内心ビクビクしながらも発言した。

 

「今日、その点検が予定されていたそうです」

 

「どういうことかね?」

 

座っていた目暮が聞くと、前に座っていた高木と佐藤が続けて報告した。彼らがパソコンを操作すると大型モニターが変わり点検表を出した。

 

「〈エッジオブオーシャン〉にネット環境が整うのが今日だったんです」

 

「それで今朝、警視庁公安部による警備点検の後、点検予定でした」

 

「だとすると、今回は事故の可能性が高いですね…」

 

佐藤の隣に座っていた白鳥 任三郎 警部の言葉に内村や目暮は、うむ…と頷き考え込んだ。

 

「サミットを狙ったテロなら、各国の要人が会場に集まる来週6月30日に決行しないと意味がないしな…」

 

「そのサミット会場ですが、今回の件で変更になるとのことです」

 

伊丹が付け加えると周りの刑事たちが再び、事故と思ったのか再び会議室には騒めきがおこった。会場内の雰囲気が事故に傾きつつなる頃、1人の公安部の捜査員が飛び込んで来た。

 

 




今回は右京やコナンは出てきませんでした。

次回は今回の続きとコナンのやりとりがあるかもしれません。まだ未定なので


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12 犯人の正体

今回も前回に引き続き、捜査本部の続きです。


「報告します!」

 

「ん?なんだ、貴様は!」

 

「所属と名前を言え!」

 

警視庁本庁 大会議室に置かれた捜査本部にて、合同捜査会議が行われているところに1人の公安部の捜査員が飛び込んできた。その人物は国際会議場爆破に巻き込まれ、顔に傷を負った風見であった。

 

公安部が捜査に介入してくるのをよく思っていない内村は、いきなり入ってきたことも含め風見を怒鳴りつけたが当の風間はどこ吹く風、と言わんばかりに内村を無視した。

 

黒田に言われた風見は、緩やかな階段になった中央の通路を歩きながら答えた。

 

「警視庁公安部、風見裕也です」

 

胸を張って歩く風見を高木や伊丹ら刑事部が不審そうな顔で追う。

 

「ガスを爆発させた発火物の件は?」

 

風見の質問に黒田は「まだだ」と答えると、佐藤が素早く立ち上がり風見に言った。

 

「刑事部で電気設備を調べています」

 

「その発火物ですが、『高圧ケーブル』かもしれません」

 

黒田や内村に向かって立ち止まった風見が言うと、公安部長は「続けてください」と一言、風見を見上げて言った。

風見は大型モニターに映し出されたレストラン街を指差した。

 

「このレストランの壁の向こう側、左隅に揚水ポンプがあります」

 

「水道をビル全体に回すポンプですね」

 

立ち上がった高木が補足説明をすると、モニターに揚水ポンプが拡大されて表示された。ポンプの横には高圧ケーブルの格納扉がある。

 

「そのポンプに『高圧ケーブル』が繋がれています。『高圧ケーブル』は送電で熱を出すため、『油通路』に冷却の油が通してあり、そこに何かの拍子で火花が出ると、油に引火して燃え上がるという例が過去にあります」

 

モニターには『高圧ケーブル』が拡大され、さらにその断面図が表示された。ケーブルの中心には電気を通る導体があり、さらにその内側に油が流れるパイプがある。

 

「まさか、工事ミスが見つかったっていうことか?」

 

中園の問いに、風見は「いえ」と首を振ったが続けてこう言った。

 

「しかし、『高圧ケーブル』の格納扉に焼きついた指紋がありました」

 

「つまり、爆破前についた指紋か」

 

黒田に聞かれて、風見は「はい」と静かに答えた。内村や中園、公安部長は犯人が見つかるのではないかと安堵した表情をしていたが次に言った風見の言葉に騒然となった。

 

「現場に入ったのは工事関係者と、今朝、警備点検した我々公安部だけ。よって、工事関係者の指紋及び警務部に保存されていた警察官の指紋をデータベースで照合した結果、

 

かつて、警視庁捜査一課に在籍していた、毛利小五郎の指紋と一致しました!」

 

大型モニターに『毛利小五郎』の写真と経歴が載っているデータが表示され、会議室内は一斉にどよめきが起こった。白鳥、高木、伊丹は思わず立ち上がり、遅れて千葉も腰を浮かして叫んだ。

 

「嘘でしょ…」

 

佐藤も信じられないという顔をして立ち上がり、伊丹はまるで親友をいきなり失ったかのように呆然と立っていた。

 

「毛利が…。嘘だろ…」

 

「先輩?大丈夫っすか?」

 

隣に座っていた芹沢に促され、席に座った伊丹は気持ちを抑えつつ芹沢に言った。

 

「あいつは…、毛利はそんな事はしない奴だ…。確かに、あいつの捜査は粗雑なところもあった。だが、警察官として正義を全うしていた奴が犯罪なんか、犯せるわけねぇんだ。しかも、あいつは今『眠りの小五郎』って呼ばれてる名探偵なんだろ?なら、名探偵が犯罪を犯すなんて、あるはずがないだろ…」

 

小五郎と伊丹は、警察学校の同期であった。それはまだ亀山と伊丹が敬遠の仲になる前の話だったが、当時2人のいざこざは庁内では有名で上司であった目暮も頭を抱えていた。しかし2人ともお互いを心配していたのか毛利が警察官を辞める時、伊丹は憎まれ口を叩きながらもしっかりと見送っていた。

 

切っても切れない縁で密かに結ばれていたかつての友が犯人かもしれない、という知らせは伊丹から平常心を奪い去るのに十分だった。それは目暮や黒田も同じで、モニターに映し出されてた小五郎の写真を見つめていた。特に上司で今も交流が絶えない目暮にとっては衝撃的な事実であった。

 

「まさか、警察関係者、しかも刑事部出身の奴が犯人かもしれないとは…」

 

「おやおや、まさか刑事部から今回の爆破の犯人が出てくるとは…。世の中、狭いものですねぇ」

 

唖然とする中園を他所に公安部長は冷ややかな目線を内村らに向けていた。内村はまさか刑事部の出身者から犯人が出るとは思ってもいなかったのか、唖然としていたが自らの責任が問われかねない面倒ごとになると分かった時、内村は苛立ちながら公安部長に言った。

 

「ふん!まだ、決まったわけではない!それに今回の件は毛利小五郎の犯行だ!刑事部は一切関係なかろう!」

 

内村はそれを言ったきり、椅子を背後に向けて押し黙ってしまった。中園は慌てて内村の機嫌をとっていた。

そんな2人のやりとりを他所に、捜査会議は毛利小五郎の情報に騒然となっていた。




すみません、今回も右京さんとコナンの会話はありませんでした。

次回こそ右京やコナンの会話を入れます。


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13 事件の背後

久しぶりに右京さんとコナンが出てきます。

また、相棒ファンならおそらく知ってるであろうあの方が現れます。


右京と冠城が警視庁に戻るため、病室を後にしたあとコナンらは阿笠博士と会話していた。

阿笠博士は未だにベッドで寝ており、病室に置かれていたテレビを眺めながら先ほど会った右京について話していた。

 

「じゃが、先ほど会った杉下とかいう刑事は中々面白い人じゃったのぉ」

 

「あぁ。杉下警部は僅かなヒントを頼りに、俺や光彦たちが少年探偵団と一発で見抜いたんだ。それに、話によると捜査二課や刑事部にもパイプを持っていてるらしい」

 

コナンの脳裏には右京と後からやってきたもう1人、冠城 亘と呼ばれていた刑事が映っていた。詳しくは分からないが右京が冠城くんと呼んでいたことからコナンは冠城が、彼の部下と考えていた。

また、コナンは密かに右京が眼鏡を光らせていたことに密かに気付いており、それを疑問に思っていた。しかしその事をコナンは気のせいと心にしまった。

 

『番組の途中ですが、たった今入ってきたニュースです』

 

光彦らが見ていたテレビから司会者の緊迫した声がスピーカーを通して病室に響いた。映像がスタジオから報道局へと切り替わり、インカムを耳につけた男性記者が、書き上げたばかりの原稿を手にしながら読み上げた。

 

『お伝えします。来週、国際平和会議 東京サミットが行われる国際会議場で、先ほど大規模な爆発がありました。その時の防犯カメラの映像です』

 

テレビ画面がスタジオから国際会議場の防犯カメラの映像に切り替わると、ズドオォォン…と凄まじい音とともに国際会議場で爆発が起こり、瞬く間に粉塵で覆われて画面が真っ白になった。

 

「これは…」

 

衝撃の映像に、コナン思わず身を乗り出した。その映像にコナンだけでなく隣にいた灰原、阿笠博士と話し込んでいた光彦、元太、歩美もテレビ画面を食い入るように見つめた。

 

『現場となった統合型リゾート〈エッジオブオーシャン〉はまだ開業前だったため利用客はいませんでしたが、サミット警備の下見をしていた警察官数人が死傷したとの情報が入っています。繰り返します。先ほど、統合型リゾート〈エッジオブオーシャン〉で大規模な爆発がありました…」

 

『エッジオブオーシャン』の全体図か映し出されたかと思うと、再び防犯カメラの映像に切り替わった。真っ白になっていた画面は粉塵が徐々に収まって、もうもうと吹き出す炎と煙が映る。

 

一瞬、そこに人影が見えて

 

「ッ!?」

 

テレビ画面を見つめていた灰原は思わず目を見張った。

 

 

「もしかしたらテロかもしれない」

 

「じゃが、サミットは来週じゃろ?事故かもしれんぞ」

 

考え込むコナンに対して阿笠博士は多くの人が思っていたようにテロの可能性を指摘した。もしも、テロなら各国要人が訪れる来週に決行しなければかえって警備が厳重になりしかも意味がなかったからだった。

 

『警視庁広報課の発表では、現時点で死傷した警察官の数、及び、事故か事件については、調査中ということで明らかになっていません』

 

「警察官が死傷…心配じゃな」

 

阿笠博士は悲痛な面持ちでテレビ画面を見つめていた。

 

「テロって…。東京サミットは来週ですよね?」

 

「だよな。なんで、テロなら今日起きたんだ?」

 

元太と光彦は、爆破をテロと位置づけ何故、今日起きたのかそれを疑問に思っていた。現在、多くの人はこの事件をテロと見ており事故と見るのは、少数であった。

 

「確かに、サミット前にテロを起こしたら本番の本番の警備が厳しくなるだけだよな」

 

と、横でテレビを見ていた灰原を見ると、灰原は何故か凍りついた表情で俯いていた。

 

「…爆発直後の…防犯カメラ…」

 

「何か映っていたのか?」

 

「一瞬だったし、見間違いかもしれないけど…」

 

歯切れの悪い灰原に、コナンは顔を顰める。

 

「あの人が…『ポアロ』で働いている…確か仲間は、安室透だったかしら…」

 

「安室さんが…!?」

 

煙の炎が吹き荒れる映像の中に、ほんの一瞬、傷だらけの安室が映ったというのだ。

 

 

一方、警視庁に戻った右京と冠城は『特命係』の部屋で事故現場の写真を見ていた。右京と冠城は捜査本部への立ち入りをいつもの通り、禁止されていた。しかし、3係の目暮警部が昔右京と会っており、その時の推理力を買い事件現場の爆破事件の写真を提供してくれた。

 

「杉下警部、お久しぶりです。相変わらず、捜査本部への立ち入りを禁止されているそうで」

 

「えぇ。困ったものです」

 

「まぁ、俺らは別捜査で色々集めちゃいますけどね」

 

すると、目暮警部は高木や佐藤を呼び出し、できたばかりの捜査資料をいくつか提供した。その枚数は何十枚にものぼる。

 

「私たちが協力できることはなんでも申してください。これくらいが精一杯ですが」

 

「助かります。目暮警部」

 

目暮警部らが、捜査本部に向かった後も右京と冠城は捜査資料を見ながらテロか、事故か検証していた。

 

「冠城くん、ここ。見てください」

 

右京が指した写真には高圧ケーブルの格納扉が映っていた。そこにあった写真には指紋があったのだった。

 

「これって、犯人の指紋…。ですよね?」

 

「えぇ、犯人の指紋。或いは工作された誰かの指紋でしょうねぇ」

 

「誰かって、まさか犯人が小細工をしたって事ですか?」

 

冠城はそんな事はないと考えていたが、右京は国際会議場爆破を行うような犯人がいとも簡単に証拠を残すとは考えにくいと考えていた。寧ろ、いとも簡単に見つかるようにしていることが何か別の意味が込められているのではないかとも、考えられた。

釈然としない右京が考えていると特命係の部屋に入ってくる人物がいた。

 

髪をオールバックにし銀縁眼鏡をかけた神経質そうな人物。彼は常に錠剤型のラムネ菓子を携帯していることから『ピルイーター』の異名を持つ人物で、数少ない特命係の理解者である。

 

大河内 春樹 警視庁警務部首席監察官 警視正は特命係の部屋に入ってくると、その厳しい鷹の様な眼差しを右京と冠城に向けた。既に、右京と冠城が捜査に乗り出している事も承知しているらしく、その上で黙認しているということは今回の事件に特命係を必要としていることが陰から伺えた。

 

「大河内監察官、どうされました?」

 

丁寧に用件を訪ね、紅茶を出した右京に大河内は結構、と断った上で右京と冠城を見据えて言った。

 

「今回の事件は不可解な所も多々あり、杉下警部が興味を持たれる事件でしょう。予め申しておきますが、くれぐれも警察組織の規律を乱さぬ様に」

 

「これは、首席監察官。随分とキツイお言葉を」

 

冠城は笑いながら言ったが、当の大河内はその筋肉同然の頬を微動だにさせずに新たな捜査本部にもたらされた情報を右京と冠城に伝えた。

 

「爆破事件の指紋と警務部に保管されていた警察官のデータベースを照合した結果、元捜査一課の刑事、毛利小五郎の指紋と一致したことが分かりました。ですが、所轄からの叩き上げで本庁勤務となった刑事がその様な行いをするとは思えません。一応、警務部に保管されていた毛利小五郎のデータをこちらに置いておきます」

 

大河内は手に持っていたファイルから毛利小五郎のデータを特命係の机に置くと、背を向けて去ろうとした。しかし、その歩みを止めもう一度、2人を振り返ってこうも言った。

 

「…これは、まだ捜査本部の中の話ですが。公安部の刑事が『毛利探偵事務所』に近いうちに捜査に向かうとのことです。時期に彼は事情聴取を受けさせられるでしょう。彼に会うならその時が良いかもしれません」

 

そう言うと、今度こそ大河内は特命係の部屋を去って行った。

 

その捜査資料を見ていた右京は興味深そうに指紋の写真と、毛利小五郎のデータを見ると眼鏡を光らせて紅茶を飲むと考え込んだ。




大河内監察官、出てきました。

彼がラムネを噛むシーンは結構好きです


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14 手がかり

久しぶりの投稿です。お待たせしました。


会議が終わると風見は公安部の刑事を2人引き連れて毛利探偵事務所に向かった。

 

「埋立地の国際会議場!?そんなとこ行ったことねーよ!!」

 

風見ら公安部が棚から資料類を出してダンボールに詰めていく中、小五郎は佐藤と高木に向かって不満げに叫んだ。

 

「でも、現場から毛利さんの指紋が出てるんです」

 

「んなわけねーだろ」

 

「お父さん、また酔っ払って勝手に入り込んだとかじゃないの?」

 

出入り口のそばでコナンと一緒に立っていた蘭が言うと、

 

「だーかーらー!んなとこ行ってねーっつの!!なんかの間違いだ。調べたってなんも出やしねーって!!」

 

小五郎は憎らしそうに公安刑事たちをにらみつけた。佐藤が宥めるている側でコナンは近くの棚の前でしゃがんで押収作業を続ける風見をチラリと見た。風見は顔に小さな傷を幾つも作り、鼻に絆創膏を貼っている。

コナンが俯いて考え事をしていると、風見が不意に立ち上がり、「失礼」と蘭たちに断って部屋の奥へと引っ込んでいった。

 

「コナン君。どうかしたの?」

 

歩み寄ってきた高木が屈みながらたずねると、コナンは部屋の隅で棚に手を突っ込んでいる風見を振り返った。

 

「あの刑事さん、顔ケガしてるけど大丈夫?」

 

「ああ、風見さん?爆発があったとき、現場にいたみたいなんだ」

 

高木に言われて、コナンは灰原の言葉を思い出した。

灰原は、防犯カメラの映像に一瞬、傷だらけの安室が映ったと言っていた…。

 

そのとき、胸の内ポケットに入れた新一のスマホが短く振動した。胸に手を当てながら後ろを振り返ると、蘭が携帯電話を、持った手を耳に当てている。

 

「あ!僕、ちょっとトイレ!」

 

コナンはそう言って走り出し、電話をしている蘭の前を通って事務所の外に出た。階段を少し下りたところで立ち止まり、蝶ネクタイ型変声機を口に当てて電話に出る。

 

「おお、どうした?うん…え?オメーのお父さんが警察に疑われてる?」

 

コナンの思ったとおり、蘭の用件は小五郎のことだった。

 

『うん…まぁ何かの間違いだとは思うんだけど』

 

「わかった。俺も調べてみる」

 

コナンは電話を切ると新一のスマホを胸の内ポケットに入れ、ズボンの後ろポケットに手を回した。

 

「あれ?俺のスマホ…」

 

ズボンの後ろポケットに入れたはずのコナンのスマホがない。仕方なく新一のスマホを胸の内ポケットから出して、電話をかけた。

 

「あ、博士?ちょっと頼みたいことがある」

 

 

新一と電話で話した蘭は、容疑をかけられて苛立つ小五郎を心配そうに見つめると、ため息をついた。

 

「いつまでやってんだよ、こいつらは」

 

「いやぁ〜〜」

 

憎らしげにぼやく小五郎を高木が宥める。

コナンが戻ると、押収作業と小五郎を見守る蘭の足元に、コナンのスマホが落ちていた。さっきまでコナンが立っていた場所だ。

 

(俺のスマホ…?)

 

コナンは拾い上げたスマホをじっと見つめた。いつのまにか後ろポケットから落としていたのか…?

どことなく違和感を覚えながらもコナンは後ろポケットにスマホをしまった。

 

 

翌日、爆発現場となった国際会議場の周囲はガレキや爆破片が散乱し、大勢の鑑識員たちが撮影や記録をしていた。その遥か上空には一機ののドローンが飛んでいた。

 

「ああっ!元太君、もっとスピードを落としてくださいよ」

 

阿笠邸の庭では、光彦、、歩美、元太がそれぞれコントローラーを持ってドローンを操縦していた。元々一つになっていたコントローラーを、阿笠博士が『方向』『速度』『カメラ』の三つに分けたのだった。

 

「撮影してるんだから!もっとゆっくりに!」

 

『カメラ』のコントローラーを持っている歩美は、光彦が持つモニターつき『方向』のコントローラーを覗いた。反対側の隣に座っていた元太も液晶モニターを覗く。

この映像はリンクしているパソコンやスマホからでも映像は見ることができ、コナンと灰原は画面に映った無残な国際会議場を見ていた。

 

「どう?何か、手がかりは見つかった?」

 

「いや、ここからの映像じゃ正直分からない。もうちょい近くて正確な写真があればいいんだけど」

 

コナンは爆破事件の跡地から何か証拠が残っていないか、探していたのだが遠くからの映像であると共に、歩美がカメラを色んな方向に動かすためなかなか捗っていなかった。

 

 

同じ頃、警視庁の特命係の部屋では右京と冠城が机に目暮警部らが渡してくれた資料と毛利小五郎のデータを置き、事件に迫っていた。

右京は先程から小五郎の指紋がついたとされる格納扉の写真をずっと見つめていた。

 

「そういえば昨日、毛利探偵事務所に警視庁公安部の刑事が押収作業のため捜査に向かったそうですねぇ」

 

「公安部は、指紋だけで毛利さんを犯人にしようとしているのでしょうかね?」

 

今回の一件で、公安部はマスコミから叩かれており早く結果を出すためにも毛利小五郎を犯人に仕立て上げようとしているのか、そうだとすれば明らかにずさんな捜査だ、と冠城は疑問に思っていた。

 

「それにしても、やはり気になりますねぇ」

 

右京が椅子から立ち上がり、格納扉の写真を持ちながら部屋を歩いた。右京は何か引っかかるような感情を覚えていてその疑問の解決の糸口を見つけるためにも、右京は試行錯誤していた。

 

「指紋ですか?」

 

「えぇ。やはりいささか不自然な点が多いんですよ」

 

右京と冠城が現場の写真を見ていると、入り口から誰かが入ってきた。隣に部署を設けている警視庁組織犯罪部組織犯罪対策五課の大木 長十郎 巡査部長と、小松 真琴 巡査部長が特命係が見ることができる窓から覗く中、角田 六郎 警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策五課長 警視はいつもの通り、丸刈り頭に黒ぶち眼鏡をかけ、いつもの温厚な性格を見せ、部屋に入ってきた。

 

「よっ!暇か?」

 

角田はいつもの定番の言葉を言いながら、お気に入りのパンダのマグカップを片手に2人に挨拶をした。角田はコーヒー派であり昔は特命係が用意してくれたが、今は自分で用意している。

因みに、角田はノンキャリアであるため警視として本庁の課長ポストに就くことそのものが大出世だった。

 

「って、お2人さんは何を調べてるの?」

 

「昨日の、国際会議場爆破についてです。刑事部が提供してくれたんです」

 

角田は、興味深そうに上から覗き込んだ。角田は刑事部が資料を提供してくれた事にも驚いていた。

 

「へー。それにしても、よく伊丹が貸してくれたね〜」

 

「いや、伊丹さんじゃありません。3係の目暮警部が貸してくれました」

 

冠城が訂正を入れると、角田はコーヒーを入れた。パンダのマグカップからコーヒーを美味しそうに飲む中、角田は呟いた。

 

「しかし、犯人はこれで毛利小五郎っていう、探偵で決まりだな。だって奴の指紋が出てるんだろ?」

 

「えぇ。公安部はそう思っているようですが、どうも気になりましたね。細かい事が気になってしまう、僕の悪い癖」

 

右京も自身のティーカップを取り出し、紅茶を入れるとそれを飲みながら静かに言った。

 

「気になること?何それ?」

 

「それはですね…」

 

その時、右京のスマホが鳴った。右京が電話の相手を確認すると、それは社からだった。ロックを解除し通話に出ると国際会議場爆破の様な喧騒が社の後ろから聞こえた。

 

『社です。すぐに外務省のホームページを見てください。ハッキングされて、『レイブン』からのメッセージ動画が上がっています』

 

右京は電話を切ると、すぐに自身のパソコンを操作し外務省のホームページを映した。

 

 

一方、阿笠邸では灰原がその事に気付き、コナンに伝えていた。

 

「江戸川くん、これ…!」

 

「ッ…!?『レイブン』だと…!」

 

灰原がスマホで見つけたネット速報に驚愕したコナンは、直ぐに操作していたパソコンで外務省のホームページを閲覧した。




角田課長、初登場回です!

コーヒーと「暇か?」は入れたかったのでここに入れました。

次回は『レイブン』について書こうと考えています


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15 バーズ

久しぶりの投稿です。これからテストなのでしばらく投稿ペースが遅くなります。


右京とコナンが見た、外務省のホームページは内容こそ変わっていないものの強制的に動画が再生されるようにプログラムされており、無論削除ボタンもないため最後まで強制的に見せられるシステムになっていた。

 

動画はカラスが鳴きながら羽ばたく場面から始まっており、黒い羽と対照的な白い目が不気味さを醸し出していた。

カラスが羽ばたきながら消えた後、次に場面に現れたのは無機質な鉄筋コンクリートの壁に覆われた室内にいる白いシャツを着た10代後半の少女であった。

 

その少女は「国際競技大会 閉幕』と報じられた帝都新聞の朝刊を持ち上げながら静かに言った。

 

『私は、7年前にイギリスで誘拐された 鷺沢 瑛里華です』

 

その時、2人の名探偵を始め多くの人々がこの映像を見ていた。人が多く見るこの時間を狙ったのも『バーズ』の計画なのではないかと右京とコナンは考えていた。続けて、英文で『バーズ』からの要求が表示された。

 

[We demand that the Japanese government pay a ransom of 7 million Euro.]

 

「我々は日本政府に対して身代金700万ユーロを要求する、ですか」

 

「約9億円…ですね」

 

右京と冠城は特命係の部屋にある右京のパソコンから『バーズ』の映像を見ており、その後ろには角田もおり興味深そうに見ていた。無論、いつもの通り、大木と小松は特命係の部屋の窓から食い入るように見つめていたが。

 

 

 

[You have until 12 midnight.]

 

「期限は今夜0時。つまりあと半日ちょいか…」

 

同じ時、阿笠邸で同じく映像を見ていたコナンも突然、姿を現した彼女に驚きつつ『バーズ』がついに行動したことに神経を尖らせていた。

続けて、メッセージは流れた。

 

[7 years ago, the Japanese government ignored demand.This time, if our demand is not met, be assured that as a multitude of people watch,

Japan's pride will be completely shattered.]

 

「7年前、日本政府は我々の要求を拒否した。今回拒否すれば、大勢の人々が見守る中で日本人の誇りが砕け散るだろう…だと!」

 

「江戸川くん…!まさか、これって…」

 

「あぁ…。国際会議場爆破に続いて、これからも日本人がテロの標的になるっていうメッセージだろう。だが、『バーズ』は金を払えさえすれば人質は返すって聞いた。そうだろ?博士」

 

コナンの横から覗き込むように見つめていた阿笠博士は、コナンの質問に一瞬驚いたがすぐに頭の記憶を探って『バーズ』の記憶を思い出した。

阿笠博士は、ショッピングモールでの異物混入事件でチンと同じ、比較的軽症で済んだため今日朝一で自宅に戻っていたのだった。

 

「あ、あぁ。彼らは人質を獲ってから24時間以内に金を受け取り、人質を解放するっていうのがビジネスルールらしいしのぉ。だが、その『バーズ』が関連した事件の中で一度だけ、身代金が払われなくなった時があって、その時の被害者が今この画面に映ってる鷺沢 瑛里華さんじゃよ。それにしても、これがあの瑛里華さんなのかのぉ?」

 

 

 

 

続けて、瑛里華さんと思われる人物は画面に手を近づけると指紋の跡を残した。

 

「彼女が指紋を残すということ、それは彼女が瑛里華さんだということの証明でしょう」

 

「瑛里華さんが持っていたのは、今日の朝刊ですよね?」

 

「えぇ、つまり。『レイブン』と瑛里華さんは日本にいるということです」

 

冠城の脳裏には、先ほど瑛里華さんと思われる人物が持っていた新聞の朝刊が映っていた。あれは帝都新聞の記事で日本語で書かれていることから日本で撮られたことは間違いなかった。

そう考えた右京の目はキリッと、光った。

 

 

 

「出ました!」

 

警視庁の捜査本部では、先ほど上げられた動画の指紋を警視庁のデータベース、科警研、ICPOなどの各警察機関に問い合わせを行い、そこに保存されているであろう、7年前の鷺沢 瑛里華の指紋と照合していた。

その結果が捜査本部のパソコンに届いたため、白鳥が大声で叫んだ。

 

「動画の指紋!スコットランドヤードに保存されていた、鷺沢 瑛里華さんの指紋と一致しました!」

 

捜査本部の大型モニターには7年前と現在の瑛里華の写真と指紋が表示され、各指紋の要点をまとめた項目のところに[MATCH]と大きく表示されると捜査本部にはどよめきが起こった。

 

「マジかよ…」

 

伊丹も目を厳しくし、大型モニターを睨んだ。目暮や黒田といった幹部陣は背後にあるモニターに背を向けると周りを見る捜査員たちに向かって次の指令を目暮が言った。

 

「瑛里華さんは『レイブン』によって強制的に日本に連れてこられた可能性がある。空港・港を洗い、彼女と共に入国した人物を割り出せ!」

 

捜査本部はけたましく動き、多くの捜査員が空港や港に向けて車を走らせたり、各都道府県の警察に問い合わせを行い始めた。

 

 

 

 

今回の『バーズ』の犯行声明を受けて、流石に政府も黙っておけず首相官邸には関係閣僚が集められ、緊急の国家安全保障会議〔NSC〕が開かれようとしていた。

その中の1人、7年前外務大臣を務め現在は副総理兼内閣府特命担当大臣を務める佐藤 健作は後ろから自らの後を追う、記者たちに追われていた。

 

「副総理、7年前身代金の要求を無視したのは誰の判断ですか?」

 

「当時の総理ですか?官房長官ですか?それとも副総理、あなたの判断ですか?佐藤さん!」

 

しつこく追ってくる記者たちを警備員たちが警備しているエントランスで追い払い、エレベーターに向かう途中佐藤は顔見知りであった警察庁の金子長官と、甲斐官房付きと出会った。

 

「副総理!警察としても7年前の経緯を知っておきたいと思いましてね?」

 

和やかな口調で話す甲斐に対して、佐藤は空中を仰いで考えると笑顔で甲斐に返した。

 

「あぁ〜。高度な政治的判断がなされたと了解しています。あぁ、それよりも。我々は早急に今回の脅迫に対する協議を始めなければ。後ほど」

 

笑顔で金子と甲斐の2人を見回した佐藤はそう言うと、2人の秘書と共に会議室の中に姿を消した。扉が閉まるまで金子と甲斐はじっと佐藤が入っていた部屋を見つめていた。

 

 

 




コナンと右京さんが違うところから見てるとはいえ、同じように考えていると思って書いてみました。

そろそろ右京さんとコナンくんとを相棒らしく2人で捜査する内容を書こうかなぁと考えています


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16 サイバー犯罪対策課

久し振りの投稿です。

テストが辛いんです〜泣


「しかし、まぁ。驚いたね、メッセージ動画」

 

角田はコーヒーカップを持ちながら、椅子に座って動画を見ていた右京に声をかけた。この動画は過去に忘れられていた『鷺沢瑛里華 誘拐事件』についての人々の記憶を蘇らせるのにもってこいの動画だった。

右京も暫く動画を見ていたがふと立ち上がると、何かを探しているのか引き出しの中を漁り始めた。

 

「おかしいですねぇ。この辺に置いたはずなんですがねぇ」

 

「何探してんの?」

 

「ヘッドフォンです。課長、その部屋どう思います?」

 

右京は探し回りながら入口の壁に寄りかかっている角田に言うと、角田は興味深そうに画面を覗き込んだ。その画面は鷺坂瑛里華さんが新聞を持っている一場面であり、下には英語の字幕が表示されている。

 

「あぁ、これ?なんか、地下室みたいな部屋だろ?」

 

「えぇ。しかし、左上の所から光が差し込んでいるんですよ。つまり、その地下室には明かりとりの窓がある」

 

角田は眼鏡をおでこに上げ、改めて見つめていると確かに左上から光が差し込んでいるのが見えた。それでも何があるのか分からない角田に右京は自身が疑問に思っているところをそのまま言った。

 

「23秒の所、スローにして右肩の上の髪の毛の先を見てもらえますか?」

 

大木や小松が見つめる窓のブラインドを下ろした右京は引き続き、ヘッドフォン探しに奮闘していた。一方で、右京に言われた通り23秒のところをスローにして見ていた角田はようやく右京が言わんとしていることを察した。

 

「あ!なんか、動いた。風か?」

 

「えぇ。つまり、窓が開いている。外の音を拾えればアジトの場所を絞り込める、手がかりになるのですがねぇ」

 

「窓が開いてんなら大声で助けを呼べるんじゃないの?」

 

角田は眼鏡を下ろすと右京に問うた。確かに、よく見てみると瑛里華の右肩の先が風らしきもので揺れ動いているのが確認できる。つまり、窓が開いているなら彼女の判断で大声で叫べば誰かしら気づいてくれるのではないか、と角田は考えていた。しかし右京は角田の問いに静かに反論した。

 

「彼女には助けを呼べない、なんらかの理由があるのではないでしょうか?僕は、そこに引っ掛かりましてねぇ」

 

「理由って、何それ?」

 

やがて右京はヘッドフォンを見つけたらしく、冠城のデスクまで行き置かれていたヘッドフォンを手に取ると巻きつけていたコードを解きながら角田に右京に対しての愚痴をこぼした。

 

「冠城くんは時々人の物を勝手に使う癖がある、いけませんねぇ」

 

ヘッドフォンを耳につけ、作業を始めた右京を見ていた角田は特命係の部屋を出ようと背後を振り返ると、そこにはいつのまにか仕事から戻っていた冠城がいた。一瞬、驚いた角田だったがすぐに落ち着きを取り戻すと、壁に寄りかかる冠城に対して言った。

 

「見た?動画。しかし、7年も行きてたなんて驚いたね。顔色も良いし、なんか普通の子みたいじゃない」

 

「いえ全然普通じゃないですよ、彼女。普通を遥かに超えたかなりの美少女だと思いますよ?」

 

そんな会話を他所に作業を続けた右京であったがふと何かに気づいたかのように顔を上げると、ヘッドフォンを外し勢い良く立ち上がった。

そこに冠城の姿を認めると、右京は何処に行っていたのかと疑問をぶつけた。

 

「例のレストラン街と、国際会議場です。ノリスさんが殺された翌日にチンさんが事件に巻き込まれて更に同じ日に国際会議場の爆破が行われた。偶然にしては出来すぎている、俺が思うに日本で『レイブン』が事を起こす前に天敵であるチンさんを始末しようとした、そしてその過程の陽動で国際会議場を爆破した。と」

 

「えぇ。『レイブン』はノリスさんのスマートフォンとタブレットを持ち去っていますからねぇ、日程表を見れば2人で行く筈だったお店も分かるはずでしょうし、国際会議場を爆破すれば警戒がそっちに行きますからチンさんを標的にするに使ったとも考えられますねぇ」

 

右京と冠城は互いに集めた情報から推理を始めた。右京が持論を展開するて冠城も肯定したが、上着かけにかけてあった上着を取りながら右京は推理に対する疑問を言った。

 

「しかし、『レイブン』が毒物を混入したかどうかは分かりません」

 

「仰る通りです。防犯カメラをチェックしたんですけど、それらしき人物は発見できなかったと。あれ、どちらに?」

 

冠城は右京がせっせと何処かへ行く支度をしている事に気付き、聞くと右京はパソコンにさしてあったUSBメモリーを抜くと身だしなみを整えながら言った。

 

「えぇ。僕はちょっといくつか寄りたいところがありましてねぇ。あぁ、冠城くん。君、人の物を借りる時はひと声かけてからにしてくださいね、悪い癖」

 

戸惑う冠城を他所に右京はスタスタと何処かへ歩いてしまった。1人残された冠城は角田と談笑しながら自分が興味を持った国際会議場爆破についても調べを進めた。

 

 

特命係の部屋を出た右京が向かった先は、顔見知りでありかつて何度か捜査協力を依頼したこともある人物がいる場所であった。

 

沢山のコンピューターが置かれ、壁際には大型モニターが設置された肉体派の刑事部とは違うインテリ風の頭脳派が集まる部署、警視庁生活安全部サイバー犯罪対策課の部屋は落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

 

その中の一つに座っている眼鏡をかけ神経質そうな男、かつて捜査一課の伊丹とタッグを組んだとこがある、岩槻 彬 巡査部長に右京は声をかけた。

 

「お久しぶりです。杉下警部」

 

「お時間を取らせてすみませんねぇ。実は『レイブン』の動画に気になる点がいくつかありまして」

 

右京は懐からUSBメモリーを取り出すと岩槻の許可を得て、彼のパソコンに挿した。USBメモリーには『バーズ』から発信された動画が映っていた。

 

「杉下警部の事ですから、また何か細かい事を気になさったのだと思いますが?」

 

「えぇ。僕はこの音声の中に、ある音を見つけました。その音をあなた方に解析していただきたいのですが」

 

「分かりました」

 

岩槻はUSBメモリーの中に保存された音声の音をいくつかの音に分けて分析を始めた。現在では何重にも混じり合った音を区切る事ができ、その音だけを残して後は消すこともできるほど技術は進化していた。岩槻は音をいくつかに分けるとともにネット上にもアクセスして似た音を探して行くとあるところで岩槻の手が止まった。

 

「この音…。電車の走行音ですか?」

 

「やはりそうでしたか。僅かに聞こえた音なのでいまいち確信が持てなかったのですからねぇ」

 

岩槻が発見したのは僅かに聞こえた電車の走行音だった。つまり、『バーズ』のアジトは線路沿いにあるという確証を右京は得たのだった。

更に、岩槻は自らが気づいた点である壁掛け時計にも着目した。時計を高精度の画像処理にかけてみたところ、6時ごろに撮られたものであることが分かった。

 

「岩槻さん、どうもありがとう」

 

「また、何かあれば声をかけてください」

 

岩槻に礼を言い、サイバー犯罪対策課の部屋を出た右京にスマートフォンが振動し着信を告げた。右京が懐からスマートフォンを取り出すと、画面には社の文字が表示されていた。

 

『社です。捜査本部が探偵の毛利 小五郎を再重要容疑者として確定しました。彼のパソコンに国際会議場の見取り図や爆弾の入手経路を調べたと思われる履歴が残っていたようです。今日の夕方にも毛利 小五郎は身柄を確保される可能性が高くなりました』

 

「そうですか…。いささか犯人確保までの時間が短いと感じますが、誰の判断でしょうか?』

 

『衣笠副総監が、いくつかの証拠を上げたため毛利 小五郎を犯人として確定したそうですが、詳しいことはまだ』

 

社に礼を言い、電話を切った右京の脳裏に浮かんだのは自身の娘が関わった事件などで特命係、引いては甲斐峯秋と対立してきた政敵の衣笠 藤治 警視庁副総監 警視監だった。




今回は岩槻 彬が出てきました。

本来は青木を出そうかなと考えていましたが、なんか青木は嫌い(笑)なので岩槻を出しました


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17 捜査本部の対立

今回は右京さんとコナン君は出てきません。その代わりかなりの相棒、コナンキャラの警察関係者が出てきます。


時は右京が『バーズ』が公開した動画の音声の一部に電車の走行音が入っていることに気付く少し前まで遡る。

警視庁の大会議室に設けられた捜査本部では刑事部と公安部の情報共有と捜査方針の決定を行っていた。先に公安部が毛利探偵事務所に家宅捜査を行なったことで意見は違えど内村や中園、目暮を始めとした3係、毛利の同期である伊丹やその部下の芹沢は良い感情を持っていなかった。

 

「…以上の事から毛利 小五郎氏の指紋が採れた以上、彼を重要参考人として任意同行するべきです。万が一、彼が拒否した場合に備え、東京地裁にも令状を発行するよう請求すべきです」

 

公安部の捜査員が着席すると、刑事部の刑事たちは複雑な表情をしていた。内村を苦虫を噛み潰したような表情で捜査員を見回しており彼の様子を見た公安部長を始め、公安部の上層部は散々虐げられてきた刑事部に一泡吹かせられると、笑みを浮かべていた。

 

「なるほどな。毛利 小五郎の指紋が採れている点()()で彼を犯人と特定したのか。些か不十分だと私は思うが…」

 

「その心配はいりませんよ、黒田管理官」

 

片方が黒いレンズの眼鏡を光らせた黒田に、入り口から声が飛んできた。伊丹や高木が振り返るとそこには空色の夏服の制服に身を包み、黒縁眼鏡をかけた一見は飄々としているが、その目の奥底には野心と何を考えているのか分からない不気味さを漂わせた人物。衣笠副総監その人がいた。

突然の登場に、高木や千葉は衣笠が誰か分からないらしく隣に座っていた佐藤に聞いた。

 

「佐藤さん、あの人って?」

 

「あぁ、あの方は衣笠 藤治 副総監。警視庁サイバーセキュリティ対策本部の創設者で、警察庁の甲斐元次長との対立が絶えないらしいと聞いたことがあるわ」

 

会議中なのでひそひそと話していた高木と佐藤に伊丹が興味を持ったのか、伊丹が横から幽霊よろしく顔を出した。

 

「要するに、くだらねぇ内輪揉めをしょっちゅう起こしてる内村部長以上に面倒くさいキャリアピープルだ」

 

 

「心配がないって…。副総監、それはどういう事ですか?」

 

伊丹たちが内緒話をしている頃、前方に座っていた目暮は衣笠に一礼した後、疑問を口にした。確かに、指紋が出てるとはいえそれは偽証も可能な為、いまいち確証に至っていないのが現状だった。だが、目の前にいる衣笠はどういう訳か自信ありげな表情をしていた。

 

「実は、私の方で独自にサイバーセキリュティ対策本部で毛利 小五郎氏のパソコンを解析した結果、サミットの予定表、爆破された国際会議場の見取り図が出てきました」

 

そう誇らしげに宣言した衣笠の発言に、会議室内は騒然となった。同伴しているサイバーセキリュティ対策本部の捜査員がモニターを操作すると、国際会議場の見取り図が表示された。

 

「現場から彼の指紋が出ているんですよね?それに今回、彼のパソコンから予定表や見取り図という証拠が現れた。以上のことから彼が今回の爆破の犯人であるという事でほぼ間違い無いでしょう」

 

衣笠は胸誇らしげに宣言すると捜査本部を見回した。しかし、その言動に芹沢は密かに疑問を抱いていた。

 

「先輩、衣笠副総監の言動ってまるで毛利さんのみを犯人と断定しているかの様な感じなんすけど…」

 

「あぁ。まるで毛利以外は全て除外、あくまで奴のみに絞るって感じだ。何か裏があるな…」

 

伊丹は前方にいる幹部たちを睨むと背もたれにもたれかかった。伊丹のいつもとは違う雰囲気に高木や千葉も気付き、興味が湧いたのか小声だ伊丹に話しかけた。

「伊丹さん、裏があるっていうのは?」

 

「お前たちが知ってるかどうかは分からねぇが、以前警視庁本庁で篭城事件があったのは知ってるか?」

 

「そりゃ、僕達だってもちろん。犯人が射殺されたっていうあの事件ですよね?あの時は当時の田丸 寿三郎 警視総監以下幹部12名が人質に取られた大騒ぎでしたから」

 

伊丹は高木たちが警視庁篭城事件について知っていることを確認し、昔いた同僚を思い出しながら静かに語った。

 

「あの時はまだ三浦さんがいた頃だったか…。あぁ、すまんすまん。んで、その篭城事件の真相を当時、俺らと特命係で暴いていくと裏で公安が暗躍していたのが分かったのさ」

 

「正確には警視庁公安部の一部の連中が関与してて、さっき先輩が言ってた篭城事件を起こした犯人、実は公安部の“影の管理官”て呼ばれてた人物が中国人マフィアをけしかけて起こしたテロ未遂事件の被害者だったのよ。それでその犯人は警視庁に篭城し、幹部12名を人質に取って“影の管理官”を暴こうとしたわけ」

 

伊丹に続いて芹沢が奥から小言で公安部がひた隠してきた“影の管理官”についての存在を高木らに伝えた。この後、“影の管理官”については小野田の取り計らいもありさほど有名にはなっていなかった。その結果、知らない人も多く高木や千葉もその一部だった。

 

「犯人は篭城事件の際に特殊班及び第一機動隊が突入する前に殺されたが、特命係が“影の管理官”の可能性がある人物を5名にまで絞り込んで、()()見つけた音声記録からモールス信号を見つけ、そして東京大学のセーリング部に所属していてモールス信号に精通しており尚且つ公安部に所属していた人物が“影の管理官”ってわけ。お前らなら、もう分かるな?」

 

高木は考えていたが、千葉はピンと来たように相槌を打って目を見開いた。

 

「まさかその人物は当時の警視庁副総監兼警務部長を務めていた長谷川 宗男 警視監ですか?」

 

「あぁ、その通りだ。恥ずかしい限りだが、特命係が血眼になって探し回ったお陰で俺らは早く彼を逮捕する事が()()()()()()()()()()

 

「「()()()?」」

 

流石にコソコソ話をするには大きかったらしく何人かの捜査員がこちらを向いた為、皆それぞれパソコンを操作したりモニターを眺めるフリをしたりした。捜査員が前を向き直したのを確認した上で会話を再開した。

 

「本来なら警視庁幹部であろうが何だろうが、逮捕するのが俺らの仕事だ。なのに…当時の小野田官房長はそいつらをこき使おうと逮捕を取りやめるよう働きかけたんだ」

 

「殺人者を黙認するって…そんな治外法権が許されるんですか!?」

 

高木が驚くのも無理はなかった。彼は犯罪者ならばたとえ警察幹部であっても逮捕するべきと考えていた。彼は警察の権力に屈した事はほんの片手に数えるほどしかなくいつも真っ直ぐな警察官だったので驚きが隠せなかった。

 

「当時、警察庁は警察省へ格上げするために工作しており、その一環として警視庁幹部を全員何処かへ飛ばす事が必要だった。一方でもし警視庁No.2が庁内で殺人とならばこれは警察の威信に関わる問題、そこで当時の小野田官房長は殺人事件を公にしないかわりに長谷川一派に多大な貸しを作り、首根っこを押さえつけたまま飼い殺しにする。そんな魂胆っていったところでしょう」

 

高木と佐藤の隣に座っていた白鳥も話に加わって来て伊丹たちが座るレーンはまるで一つ別の事件を捜査しているように見える。

 

「えぇ。杉下警部もそんな感じで推理していましたよ。今回の事件も公安がらみの事件で今、世間からは公安へのバッシングが酷い。もしかしたら早く幕引きがしたいためにこんな事をしているか、あるいは…」

 

「あるいは?」

 

「何か公安には毛利小五郎を捕まえるほかの理由があるのかもしれない」

 

伊丹はそう言うと話は終わりとばかりに前を向いて衣笠の方を向いた。3係のメンバーは知られざる篭城事件の真実に驚愕していたが今はそれよりも今回の事件と気持ちを吹っ切り、伊丹同様前を向いた。

 

捜査本部の前方にいる幹部陣は真っ向から意見が割れており小五郎の逮捕を急ぐべきと主張する衣笠、公安部長、内村とまだ不明や不可解な点が多く、十分な情報精査の上で逮捕すべきと主張する目暮、黒田、中園の3名で意見が対立していた。

 

「…何れにせよ、犯人は毛利小五郎氏で確定でしょう。一刻も早く次のテロを防ぐためにも彼の逮捕に力を注ぐべきと私は考えますが?如何ですか、公安部長?」

 

「私も、副総監の仰る通りだと思います」

 

「ならば早く東京地裁に令状の請求をしたら良いでしょう」

 

小五郎の逮捕という方針に傾く捜査本部に目暮は待ったをかけるべく勇気を持って副総監に意見した。

 

「お言葉ですが、副総監。爆破事件の現場の指紋には不可解な点も多く、彼のパソコンも何処からかハッキングされ如何にも毛利くんが検索したかのように工作された可能性もあります。こういった点を解決してから毛利くんが犯人ならば逮捕すべきです」

 

「ほぉ。つまり、君は犯人が小五郎氏であるという証拠がありながらも彼を見放しにするわけですか。なら次のテロが起きた場合、その責任は彼の逮捕を遅らせた貴方の責任になりますね。それでも良いのならば、どうぞご自由に」

 

「いや、そういう訳では…」

 

衣笠の眼鏡がキラリと光り、目暮を睨んだ。目暮は副総監であるという立場の人間の睨みにたじたじとなり反論ができなくなっていた。彼も警察官とはいえ、上の意向に逆らう事は身の破滅にも繋がる可能性がある。そういう事を平然とスルー出来るのは、やはり杉下警部とその下に着く“相棒”ぐらいだろう。

 

目暮の反論をねじ伏せた衣笠は改めて捜査本部にいる捜査員たちを見回し、高らかと言った。

 

「とにかく、現状では毛利小五郎氏が国際会議場爆破の容疑者である事は変わりありません。それに彼には港区でおきたショッピングモールで起きた食中毒事件にも関与の可能性もある。至急、東京地裁に赴き毛利小五郎氏の令状を手に入れ彼の自宅に急行し、彼を任意同行逃げるならばその令状を使って彼を連行し、事件解決に全力を注ぎなさい!」

 

衣笠の号令に捜査員たちはぞろぞろと動き出し公安部の捜査員達は令状を発行してもらう様、要請するため東京地裁に向かった。

 




なんか、大半ば劇場版llの回想になっちゃいました。

因みに、この物語の衣笠副総監は故大杉漣さんに敬意を表し、彼をモデルにしました。


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18 テロとの戦い

やっと、テストが終わったー!

久しぶりの投稿です


衣笠が捜査本部にて、毛利小五郎を犯人と断定した事を社を通じて連絡を受けた右京は携帯をしまうとある場所へと自家用車を進めた。

 

新人の警察官達が夏の炎天下の中を隊列を組みながら行進し、他の部屋では現職の刑事から捜査の基本や警察本部における行動などを学ぶ場所。かつて、右京も在籍していた警視庁警察学校である。この隣には警察庁警察大学校もあり幹部クラスの育成をしているがここではその手前、刑事の卵たちが基礎基本を学ぶためのところである。

 

右京が今日、どうしてここを訪れたのか。それは、ここで教官をしている元警視庁刑事部鑑識課で特命係の協力者であった米沢 守 巡査部長がここにいたからだった。現在、米沢は警察学校の教官をしているが本当は現場に戻りたいらしく上層部からの睨みを警戒してる米沢にとって今の特命係はあまり会いたくない人たちだった。

それでも『レイブン』の情報を得たい右京は無理も承知で頼みに行ったのだった。

 

「お断りします。貴方たちと関わらない様、御触れが出ているものですから」

 

案の定、呼び出しに応じたものの米沢はいかにも不機嫌そうな表情で右京を見つめていた。誰もいない講堂の中に米沢を呼び出した右京は単刀直入に音声解析のお願いをしていた。

 

「まぁ、騙されたと思って。一度、背景の音を聞いてもらえませんかねぇ?」

 

「この上、騙されたくはありませんな」

 

「残念ですねぇ、米沢さんが大好きな音が入っているのですが」

 

米沢は一刻も早くこの場から立ち去りたいらしく、会話を打ち切るように話していた。右京はそんな米沢を引き留めるため自身がUSBメモリーに入れてきた音声を講堂の中にあるパソコンに接続し、流した。

立ち去ろうとしていた米沢も、その中の音には興味を持ったのか歩みを止め、右京の方へと振り返った。

 

「電車の走行音ですな。だから?」

 

「電車といえば、日本広しといえども米沢守!」

 

米沢は突然、フルネームで呼ばれた事にタジタジになりながら先ほどの態度から一転、完全に右京のペースに乗せられていた。困惑する米沢を他所に右京は続けた。

 

「ここに壁掛け時計が映っていますから、路線が判明すればアジトの場所が絞り込めるかも」

 

「…私は絞り込みません。断固、キッパリお断りします!」

 

フラグの様なものを思いっきり建てた米沢は右京の頼みを拒否して講堂の緩やかな階段を駆け上がり、出口へ走っていった。1人、取り残された右京はずっと米沢が走り去った方を見つめていた。

 

 

「しかし、人質は子供の頃に誘拐された少女なんですよ?要求を撥ね付けて殺されてしまったら…」

 

首相官邸の4階にある大会議室には佐藤副総理、折口洋介 内閣官房副長官(政務担当)、国平修一 外務大臣、金子警察庁長官、甲斐警察庁長官官房付き、山崎警備局長ら、関係各省庁から関係者を招いて今後の対応を協議すべく緊急対策会議が開かれていた。

尚、総理は日米首脳会談の為、渡米しており佐藤副総理が総理臨時代理として政府を指揮していた。

 

折口が慎重に行動すべきと進言したが向かいの中央に座る国平はそうは思っておらず、今回の犯行にそもそも疑問を思っていた。

 

「人質というがねぇ、7年前に要求を無視して現に彼女は生きている訳だろ?そもそも返す気があるんだか、ないんだか。それも分からんではないか」

 

「相手は犯罪組織です。金さえ払えば、人質は解放されます」

 

国平と折口の意見が互いに平行線を辿る中、佐藤は椅子に深々と座り直すと全体を見回して言った。

 

「どうも皆さん、認識が異なる様ですね。『要求を拒否すれば、大勢の人々が見守る中で日本人の誇りが、砕け散るだろう』このメッセージは、テロ予告に等しい。私はそう考えますが、如何ですか?山崎警備局長」

 

話を振られた山崎は、胸を張って警察組織の威信にかけて副総理に自信ありげに言った。

 

「私も仰る通りだと思います」

 

「で、あるならば。ここは断固、テロと戦う事を打ち出すべきでしょう。テロとの戦いは、国際社会の合意です」

 

穏やかな口調で周りを見回す佐藤に反論できるものはおらず、皆が引っ込んでしまった。そんな中、甲斐はその空気を打ち破るかのように敢えて反対の意見を進言した。

 

「今回の場合、犯人グループが日本にいる事は分かっているのですからここは、水面下で交渉する姿勢を見せて捜査をする時間を稼ぐのも一案かと」

 

「確かにな。私も甲斐くんの意見に賛成です」

 

甲斐や金子は人質救出の為、交渉する意思を示して少しでも時間を稼ぎその間に警察総動員でアジトを発見し、瑛里華を保護しようと考えていた。

他の閣僚も先日、日本人も巻き込まれたタイのテロについて言及し国際会議場爆破に続く大規模テロを誘発するような事態は避けるべきと進言したが山崎は懐疑派だった。

 

「タイのテログループは既に全員逮捕されています。また、国際会議場爆破の犯人も現在目星がついており逮捕状を請求しているところです」

 

「いや、ですが…」

 

尚、反論しかけた折口に佐藤は手を挙げて彼を制した。

 

「無論、市民に犠牲者が出るのは望ましくはない。しかし、どんな戦いにも必ず犠牲という“代償”は付き物なのです」

 

「実際、人が多い場所を全て警戒することなど不可能ですからね」

 

山崎は佐藤の意見に賛同し、他の閣僚も佐藤寄りの意見になり会議室内はテログループに対する強硬的な意見が強まっていった。そんな様子を折口と金子、甲斐は複雑な心境でいた。

 

「まぁ、相手が『レイブン』であろうとなんであろうと起こる時には起こるっちゅうものです。彼らの関与は不明だが、既に国際会議場が爆破されて、また次のテロも必ず起きるでしょう。ここは、一致団結して戦う意志を見せましょう。如何ですか、皆さん?」

 

「いいんじゃないかな?それで」

 

関係閣僚の了承を得た佐藤は記者会見の準備を指示し、一足早く会議室を後にし続けて国平も足早に去って行った。重い腰を上げた甲斐も金子と共に会議室を後にし、黒塗りの公用車に乗り込み警察庁へ引き返して行った。

 

 

一方、米沢に協力を仰いだが拒否されてしまった右京は警察学校を出た後、自身の車で毛利探偵事務所に向かっていた。その車に向かう途中、右京は本庁にいるはずの冠城に連絡をいれた。

 

「冠城くん、今から僕は毛利探偵事務所に向かうのですが、君も来れますか?」

 

『えぇ、来れるといえば来れますが、かなりまずい状況です。公安部の捜査員が今日の夕方にも彼を任意で引っ張るつもりと、社さんから連絡がありました』

 

「分かりました。僕は先に行っていますから、君も早く来てください」

 

同じ頃、国際会議場爆破の事を調べていたコナンは捜査本部の情報を調べるためにも高木刑事に連絡を入れて、2人で米花町にて会う約束をしていた。




これからはテストが終わったのでなるべく早く早いペースで投稿しようと思います。

米沢さん、初登場回です。なんだか、登場人物がアベンジャーズ並みに多くなりました笑


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19 安室の過去

今回は、オリジナルストーリーがメインでまだ安室が警察庁に入庁したての頃の話で、あの大物も登場します


警視庁警察学校を出た後、右京は自家用車で米花町にある毛利探偵事務所に向かった。

米花町に着いた右京は冠城が来るまでの間、毛利探偵事務所が入るテナントビルの一階の喫茶店ポアロに寄っていた。

時刻はちょうど昼時を過ぎており、ポアロ内は客が疎らであった。ポアロはいくつかの雑誌で取り上げられており、毛利探偵事務所の下に位置する喫茶店でコナンや蘭、小五郎もよく立ち寄る事から有名で右京もその存在を知っていた。

 

 

ポアロの扉についている鈴が鳴り、店員の榎本梓が振り返るとそこには英国風のスーツに身を包み、髪をオールバックにし銀縁眼鏡をかけた初老の男性がいた。

その男性は興味深そうに店内を見渡すと、一番窓際の席に座りメニュー表を眺めた。

 

「安室さん、お願いできる?」

 

客が席についた事を確認した梓はカウンターにいた1人の男性にオーダーを聞いて来るよう頼んだ。その人物は褐色肌に明るい色の髪が特徴の優男。ポアロでアルバイトをしながら、毛利小五郎に弟子入りしている私立探偵、安室透であった。安室は国際会議場の爆破に巻き込まれた傷がまだ痛々しく残っており、顔には絆創膏を貼っていた。

梓に頼まれた安室は注文を聞きに先ほど来店した英国紳士風の男性の元に向かった。

 

「ご注文はいかがしますか?」

 

「そうですねぇ、ハムサンドとダージリンのブレンドの紅茶をお願いできますか?」

 

「ッ!?…かしこまりました。サンドウィッチとダージリンのブレンドですね?少々お待ち下さい」

 

英国紳士風の男はメニューから顔を上げると、注文を聞きに来ていた安室を見た。その顔を見た安室は少しばかり衝撃を受けた後、いつもの笑顔に戻りカウンターにいる梓に注文を伝えた。

 

カウンターに戻った安室の脳裏には彼がまだ、入庁し警察庁警備局警備企画課に配属された頃の記憶が蘇っていた。その当時から警視庁警察学校の成績をトップクラスで卒業していた彼は優秀な人材として密かに注目されていた。

そんな中、安室にとって現在につながる“黒の組織”を潜入を決意して間もない日、彼は課長に呼び出され長官官房室に行くよう伝えられた。

警察庁には長官を筆頭にその下に次長、更に長官官房室、生活安全局、刑事局、交通局、情報通信局、そして安室が所属する警備局が存在しており、かつ附属機関には警察大学校、科学警察研究所 通称、科警研、そして皇宮警察本部もあった。

その中の一つ、警察庁の所掌事務を管轄する長官官房室、その中でもトップに位置し警察庁のNo.3でもある長官官房室長からの呼び出しに当時の安室は身が引き締められる思いをしていた。

 

長官官房室までの長い廊下を歩き、長官官房室長の執務室前まで来た安室は官房室長の秘書に用件を告げた。秘書は一旦、部屋に消えた。来客が来た事を告げているのだろうと安室は考えているとやがて扉の向こうから、どうぞと秘書がドアを開けた。

部屋に入る際に一礼し、再び顔を上げた安室は初めて訪れる警察庁No.3の執務室を興味深そうに見つめた。ブラインド越しに日光が部屋の中を照らし、壁にはいくつかの戸棚が置かれておりその中には資料や専門書がぎっしりと詰まっていた。また、窓際には日本国国旗が掲げられ、執務用デスクの背後には大きく、警察庁と書かれた板が設置されていた。上等な革で、作られている応接セット、執務用のデスクと椅子を見た時、力の差を安室は思い知らされた。

 

「ご苦労様、君は少々席を外してくれないかな?」

 

執務用デスクのセットになっている椅子に座る人物は逆光の為、よく見えないが組織の中で生きる安室にとってはその人物が一筋縄ではいかない人物である事を察した。

 

秘書を部屋の外に出した人物を改めて安室はよく見つめた。一見すると飄々としとぼけた雰囲気をまとっている人物、しかし実際は様々な策を巡らす老獪で食えない男で、警視庁特命係の誕生の謎を知る数少ない人物。壁に掛けられている肖像画の胸元には安室の階級よりずっと上の“警視監”の階級章が光っていた。

今、椅子に座りじっとこちらを見ている人物こそ、小野田公顕 警察庁長官官房室長 だった。

 

「突然、呼び出されて困ったかしら?降谷零くん」

 

やがてゆっくりと口を開いた小野田は降谷を見据えながら彼の本名を含め、静かに言った。無論、降谷もデスクの前まで来ると答えた。

 

「いえ、僕の方も少々時間が余っていた頃合いでしたので…。それに長官官房室長の頼みでしたら、喜んで承る所存です」

 

「そう、なら良かった。けどね、今日は警備企画課に依頼してるわけじゃないの。もしも、本当に警備企画課への依頼なら君に頼むような面倒せずに直接課長のところに依頼に行く。それをしなかったという事は僕の個人的な話ってわけ」

 

降谷は小野田に案内され、応接セットのソファに腰掛けるよう言われた。降谷が座るとその対面に座った小野田はゆっくりと語り出した。

警視庁に窓側部署がある事、その窓側部署には正義が暴走する元部下の警部と君の先輩がいる事、自分の正義について、そして降谷が潜入する“黒の組織”についての事を語った。

話が終わると小野田はゆっくりと立ち上がって窓際に移動し静かに吐いた。

 

「特命係誕生について僕から話したのは君を含め、ごく僅かだよ。何故、君に話したか。降谷くんは疑問に思うと思うけど、それはね。何か近いものを感じたからだよ」

 

「近いもの…ですか?」

 

「そう。君は僕と同じ、国を想うところがある。国を守るためには無茶をし、時には法をも無視する。僕はそれもやむ負えないとしているんだけど、さっき言った特命係の杉下はそれを許しはしない。まぁ、彼の性格から見てもそれは当たり前なんだけどね。でも、そんな絶対的正義ばかりを語っていたらいつかは身の破滅を招く。警備局警備企画課は公安警察の中でも最も国家に関する仕事をしているし、君がこれから潜入するところは現に危険な場所だ。それくらいの事をしなければ体が持ちませんよ。本来ならば君のような若く、優秀な人材はそんな危険な場所には送り込みたくはないのだが、君が望んだところだ。私は全力を持って応援するまでだよ」

 

小野田公顕の正義は大局的正義で、元部下である右京の絶対的正義とは時に水と油の関係にある。彼らは時に激しくぶつかり合い、互いの正義は火花を散らして戦う。警視庁の窓際部署の係長と警察庁の長官官房室長の間には切っても切れない秘密があった。

降谷は警視庁の窓際部署には隠された秘密がある事をこの時、初めて知った。

 

 

(この人物…、以前官房長から伺っていた杉下警部か?確かに顔はよく似ている。だとしたら公安警察の動きを察知して、我々を妨害しに来たのか?いずれにせよ、この人物には注意せねば。官房長曰く、彼の正義は…)

 

「…さん、安室さん?安室さん!」

 

記憶の遠くから、安室の呼ぶ声が聞こえてきてハッとして振り返るふと、心配そうに自分を見つめる梓がいた。梓はカウンターに入ったきり手が動かない安室を心配そうに見つめていた。

どうやら、安室は昔を回想するあまり手が回っていなかったようだった。

 

「大丈夫?安室さん。先日も怪我をしたばっかりなのに。どこか具合でも悪いなら休んだ方がいいわよ?」

 

「いえ。お気遣いだけでも十分です」

 

そんな事はないと、梓に言った安室だったがそれは自分にも言い聞かせた言葉でもあった。これから行われる任務は大変な事になると課長からも言われており、安室も覚悟はしていた。そんな重大な任務の前に体調不良など、笑止千万であった。

安室は体のスイッチを切り替えて、先程来店した男性の注文品を作り始めた。

 




小野田官房長が今まで言及のみでしたが、今回は安室くんの過去が大半を占めたので官房長が正式に初登場した回でした。

警察庁のシーンで安室の名前から途中で降谷に変わっているのは官房長が彼の本名を知っているからです。なので、降谷零という本名を、知っている人の場面では安室ではなく降谷になっていきます。


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20 右京と安室

ふぅ。やっと投稿できました。なんか、文章力が落ちている感じがします…。


「お待たせしました。ご注文のハムサンドとダージリンのブレンドです」

 

ポアロの黒いエプロンを着た安室は英国風のスーツに身を包んだ男性が注文した品を彼が座るテーブルへと届けた。

男性は本を読んでいたらしく、ページにしおりを挟みテーブルに置くと注文の品を確認し安室に礼を述べた。

 

「どうも、ありがとう」

 

安室は笑顔を返すと、そのまま立ち去ろうとしたがふと後ろの男性が気になったのか安室を呼び止めた。

 

「ところで、お怪我は大丈夫ですか?」

 

「は?」

 

「突然すいませんねぇ。あなたの顔には、いくつかの傷があり絆創膏も貼られている。状況から考えるにあなたは何処かで怪我をした、それも何かに吹き飛ばされたかたちで。しかも、先日には国際会議場が爆破されました。あなたの傷も比較的新しい、よってあなたがその爆発に巻き込まれたのではないか、と考えましてね」

 

英国紳士風の男性は失礼を詫びながら安室の傷について聞いた。

 

「いえ、たいした傷では無いので…。それに、この傷は自転車をこいでいた際にバランスを崩して転倒してしまって、その時についた傷です」

 

「あぁ、そうですか。失礼しました。細かい事が気になってしまう、僕の悪い癖」

 

安室がカウンターに戻ろうとすると再び男性は声をかけてきた。しかし、その目は先ほどの世間話風の雰囲気から一転、何かを探るような眼差しで訪ねてきた。

 

「最後にもう一つだけ。君に前に会った事があるような気がするのですが。なにせ君は特徴ある雰囲気ですから、会っていたら忘れはしないのですがねぇ」

 

「さぁ。お会いした事はないと思いますけど」

 

お互い、腹の内を探ろうとする目付きでしばらく見つめあった。

数分の後、互いに目を離し安室は仕事でカウンターに戻り男性は紅茶を飲みながら外を見つめた。

 

 

右京は紅茶を飲みながら、冠城を待っていた。

しばらくすると冠城が乗ったV37型スカイラインがポアロの前を過ぎ去った。パーキングエリアに車を停めていたのか、冠城はそれから更に時間が経った後、ポアロにやって来た。

喫茶店に入った冠城は右京の席を見つけると、そこに一直線に歩いて行き右京の対面に座った。

 

「右京さん、今までどちらに?」

 

「警視庁サイバー犯罪対策課と、警察学校に鷺沢瑛里華さんの動画を分析してもらい、ある音声の解析をお願いしていたところです。君はどちらに?」

 

右京が問うと、冠城は声をひそめて答えた。

 

「公安調査庁に藪用で訪れていました。本当に毛利小五郎が犯人なのか、僕はちょっと気になって…。細かい事が気になってしまう、“僕の悪い癖”」

 

冠城が右京の真似をして言うと、右京は冠城と同じように声を小さくして言った。

 

「あと、冠城くん。君、あまり外で捜査状況を言わない方がいいですよ。誰が聞いているか分かりませんからねぇ」

 

右京の目には、カウンターで働く褐色肌の若い男性が映っていた。一方の冠城は頭を軽く下げると、皿にのっているハムサンドを見て右京に食べて良いか尋ねた。

 

右京はテーブルに置かれていた紅茶を飲み干すと、お会計を済ませてポアロから退出した。冠城は途中でコーヒーを飲んできたらしく飲み物はいらないと言ったため右京が残っていた紅茶を飲み干す間、残っていたハムサンドを平らげていた。

 

「では、冠城くん。行きましょうか」

 

「えぇ」

 

右京と冠城の2人はポアロを出るとビルの横にある階段を上がり、2階にある毛利探偵事務所に向かった。

 

 

「ごめんください」

 

探偵事務所で作業をしていた蘭は探偵事務所の入り口からドア越しに男性の声を聞いた。男性は穏やかで丁寧な口調で話しかけていたが今日、依頼人の予定は無いため蘭と小五郎は警察なのではないかと危惧しながらドアを開けた。

ドアを開けるとそこには英国風のスーツに身を包んだ初老の男性と、ノーネクタイで上着を羽織った30代の男性がいた。

 

競馬を見ていた小五郎は慌ててネクタイを上げ第1ボタンをはめて、来客が来た時の格好になると2人の男性をソファに案内し2人の要件を聞いた。

 

「それであなた方は?」

 

「失礼、紹介が遅れました。警視庁特命係の杉下と申します」

 

「同じく、冠城です」

 

右京と冠城は名刺入れから自分らの名刺を取り出すと、それを小五郎に提示した。小五郎は名刺を興味深そうに見つめると、“警視庁”に反応して急に不安そうな面持ちに変わった。

 

「警視庁って…。まさか、私を捕まえに来たとか?」

 

「父は爆弾が作れるような技能はありませんし、極度のパソコン音痴でもあるんです!だから、警察の方がいらした時にその事を話したんですけど…」

 

「無視されたと?」

 

必死に父親を弁護する蘭の言葉を冠城が継ぐと蘭は頷いた。右京は考え込むと小五郎に向かって言った。

 

「僕たちも、あなたが犯人だとは思っていません。あなたが国際会議場を爆破する動機は見当たりませんし、失礼ながらあなたが国際会議場を爆破する爆弾を作れるような技量をお持ちだとは思えなかったものでしてね」

 

右京の理解に小五郎と蘭はホッとし、胸をなでおろした。だが、右京は続けてこうも言った。それはとても彼らにとって残酷な事になる事になる話だった。

 

「ですが、捜査本部はあなた方を犯人だと確定しているようです。時期にあなたは逮捕されてしまうかもしれません」

 

「そ、そんな…」

 

蘭は父親が逮捕されてしまうかもしれない事に変わりがないと分かると、絶望しきった表情をしていた。小五郎と額に冷や汗をかいて右京らを見ていた。

 

その時、再びドアがノックされ部屋に入って来たのは風見率いる公安部の捜査員だった。




右京さんと安室くんが一度会ったことがあるのか、ないのかは今後明らかにするつもりです。

次回、毛利小五郎の運命は如何に…!?


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21 毛利小五郎 最大の危機

久しぶりに『ゼロの執行人』のストーリーに戻ってきました。

毛利小五郎の運命は如何に…!


一方、阿笠邸を出たコナンは高木刑事と高速道路の高架下にある公園に来ていた。夕方という事もあり西日が差し込む人気ない公園で、高木ははベンチに腰かけ、コナンはその前でスケボーに右足をかけてゴロゴロと動かした。

 

「我々刑事部、あと公安部と警備部がサミット前に現場を点検することになっていて、爆発のときは公安部が担当だったんだ」

 

「だから風見刑事がケガを…」

 

「彼はビルの外にいたから軽傷で済んだけど、ビルの中にいた人たちは…」

 

高木の沈んだ声に、コナンは振り返った。

 

「うん…。亡くなった人もいていたって、ニュースで見た」

 

「ああ、こういうことは言うべきじゃないけど…被害が民間じゃなくて警察官だけだったのは、不幸中の幸いだったかもしれない」

 

そう言って俯いた高木は、複雑な表情を浮かべていた。

 

「サミット中に爆発が起きてたら、世界中が大騒ぎになっていたよね」

 

「いや、もう警視庁、特に公安部は叩かれてるよ。刑事部長の内村さんは寧ろ敵である彼らが叩かれて清々している感じだったけど、広報課の社課長を始め総務部には本当に迷惑をかけてると思うよ」

 

「更に、タチの悪いことにこのことを警察批判で有名な『週間フォトス』が日々大々的に報じてるんだ。その急先鋒はフォトスの記者、風見楓子さ。あの人は社課長がロシアのスパイとつながりがあるのではないか、と騒がれた時も記事を書いていて今回もどの社よりもいち早く報じたのさ。まぁ、サミット前とはいえ爆発事故だから警察にも落ち度はあるんだけど…」

 

高木の話はコナンもワイドショーを見ていたので知っていた。

『週間フォトス』が警視庁広報課長とロシアのスパイが繋がっているのではないかと連日報道し、しかもその女性が内調勤務であったこと、そしてそのスパイとの間に子供がいることも盛大に報じたのだった。その時は監察官聴取が行われたとコナンも記憶していたが、日が経つにつれ、その事実はうやむやにされていたのだった。

 

「高木刑事、事故ってどいうことなの?」

 

コナンがもう一つ気になっていたのは高木が事故と言ったことだった。高木は「あ、いや」と顔を上げた。

 

「現場の状況から、最初は事故で処理されるはずだったんでね、つい」

 

「小五郎のおじさんの指紋が現場にあったんだよね?」

 

高木は「うん」と頷き、眉をひそめた。

 

「それを風見さんが見つけて、一気に事件性が出たんだ」

 

「風見刑事が…」

 

その時、胸の内ポケットに入れた新一のスマホが震えた。蘭からの着信だった。

 

「高木刑事、ありがと。じゃあね!」

 

コナンは電話に出るため、スケボーを脇に抱えて走り出した。

 

「気をつけて帰るんだよ!」

 

高木は駆けていくコナンの後ろ姿に声をかけた。

 

 

「蘭、どうした?」

 

公園を出たコナンは、歩道をスケボーで走りながら電話に出た。

 

『新一、助けて!お父さんが逮捕されちゃう!』

 

蘭の切羽詰まった声を聞いたコナンは、クソッと歯噛みして、スケボーを一気に加速させた。

 

 

 

右京と冠城が探偵事務所を訪れて小五郎から話を聞いていると一台の車が停車した。

やがて、階段を上がりドアが開かれる音が聞こえると外から爆発の時の傷がまだ残っている風見以下数人の背広姿の男がやってきた。

 

「警視庁公安部、風見裕也です。毛利小五郎、不法侵入、器物破損、及び撃発物破裂罪の容疑でご同行願います」

 

警察手帳を小五郎の前でかざした風見は罪状を読み上げ、小五郎を警察へ連行しようとした。

 

「ちょっと待ってくれ!俺は何もやっちゃいねぇ!」

 

「父は、そんな事できるほど機械に精通していないんです!」

 

小五郎や蘭は反論するが既に風見は小五郎を連行すべく彼のデスクを取り囲み、詳しい話は警察にて聞くと全く聞く耳を持たなかった。

しかし、そこへ冠城が待ったをかけた。

 

「ちょっと待ってください。僕は小五郎さんが犯人とは到底思えないんですが」

 

後ろからの声に風見が振り返るとそこにはソファに座る警視庁窓際部署の刑事たちがいた。風見は内村や衣笠が使う決まり文句で特命係を遠ざけようとした。

 

「特命係…。『警視庁の人材の墓場』と呼ばれ、数々の違法捜査を行なっているあなた方が我々に何の用ですか?」

 

「我々は真犯人は別にいると考えています。そして、毛利さんはその罪をなすりつけられたのではないか。と」

 

右京の言葉にそばで聞いていた小五郎は何度も頷いた。風見に対抗できるのは現時点で右京と冠城しかいない。蘭や小五郎は藁にもすがる思いで彼らのやり取りを見ていた。

 

「あなた方は指紋で犯人を毛利さんを犯人と断定したようですが、指紋はやり方さえ分かっていれば誰でも写せることは可能です」

 

「指紋だけではありません。彼のパソコンからサミットの予定表、それから爆破された国際会議場の見取り図も出てきたんです」

 

風見は小五郎に突き出す予定だった証拠資料を右京に見せ、小五郎も慌ててその証拠を見た。

全体を一覧した右京は、再び目線を風見に戻した。

 

「パソコンから、この様な物的証拠が出たために彼を犯人と断定したわけですか?」

 

「そうです。分かったらさっさとお引き取り願いますか?我々はこれから彼を事情聴取しなくてはなりませんので」

 

そう言い、小五郎を連行しようとする風見に蘭が必死に説得した。

 

「パソコンに記録があるって…。そんなの嘘です!父はそんな資料をパソコンに保存なんてできません!」

 

リビングの隅で鈴木園子に寄り添うように立っていた蘭が訴えた。園子も「そうよそうよ!」と同調する。

 

「すごくパソコン音痴なんです!」

 

蘭の訴えに、小五郎は「そのとおり!できません!!」と得意げに賛同した。

そこへ事務所に入ってきたコナンは周囲を素早く見回し、さりげなく風見をスマホで撮った。

 

風見が小五郎に近づいて腕をとると

 

「ふざけるな!」

 

小五郎がその手を振り解いた。

 

「公安の任意同行なんか知るか!」

 

「では今の公務執行妨害で逮捕します」

 

「手を払っただけだろーか!って、おい!」

 

風見は構わず小五郎の腕をつかみ、ポケットから取り出した手錠をかけた。

 

「六月三日、午後四時五十六分」

 

腕時計を見て逮捕時刻を読み上げると、他の公安刑事が小五郎の両脇をつかんで連行しようとした。

 

「おい!放せよ!おい!!」

 

「暴れれば容疑が増えるだけですよ」

 

そう言い小五郎の手に手錠をかける公安部の刑事たちに右京と冠城は尚も食い下がった。冠城はドアを塞ぐように立つと彼らに聞いた。

 

「そうやって、あなた方の逮捕を急かす理由はなんですか?」

 

「爆発事件の犯人を捕まえて、未然に次の犯行を防ぐとともに事件の真相を解き明かす。警察官の任務でしょう」

 

「本当にそうでしょうかねぇ?」

 

ソファから立ち上がった右京は風見を見据えると、静かに言い放った。

 

「公安部はもともと、国家を標的にするテロや犯罪者を逮捕するため捜査に慎重を有します。今回の件は更に各国の要人が標的にされかねない重大な事件です。その事件で偽証可能な証拠のみで逮捕するなどいささか雑ではありませんかねぇ。僕にはまるで誰かに逮捕を急かされているように思えるのですが?」

 

「…あなた方には関係のないことです。それよりも、もし今後も我々の仕事を妨害し続けるのであればこの事を上層部に報告させてもらいますよ。あなた方は既に幾度となく謹慎処分を受けている、この上更に監察官聴取によって免職になればそれこそあなた方はこうやって警察を語ることすらできなくなる。手遅れになる前に早めに手を引いてこの案件は我々にお任せください。では」

 

右京や冠城の説得も虚しく、小五郎は連れていかれてしまう。コナンは公安刑事たちの前に飛び出して両手を広げた。

 

「小五郎のおじさんが犯人なら、サミット会場を爆破する動機って何!?」

 

「そうだ!なんのためにーーー」

 

「それも事情聴取で伺います」

 

風見が冷酷に言い放ち、公安刑事は強引に小五郎を連れて行った。帰り際、探偵事務所を退出する際に風見は再び右京やコナンを振り返ると静かに言った。

 

「我々は毛利小五郎と先日動画を流した『レイブン』との関与も調べています。彼はテロリストの一味かもしれません。なので彼を庇うのはやめたほうが賢明だと思いますよ」

 

そう言うと、今度こそ風見は探偵事務所から去っていった。

 

「お父さん!」

 

追いかけようとする蘭を園子が慌てて止めた。

 

「落ち着いて、蘭。すぐに工藤くんに連絡!」

 

「したわよ!したのに…」

 

「そんな…こんなときに、なんであの男は来ないのよ…!」

 

園子が涙ぐむ蘭を優しく抱きながら、悔しそうにつぶやく。その様子に近くにいた右京や冠城も事件の真相が不明なまま進んでいく現状に焦りを覚えつつ、目の前で逮捕を止められなかった悔しさに心を蝕られていた。

 

「冠城くん…。第1ラウンドは我々の完敗のようですね…」

 

こんなときにも蘭のそばに駆けつけてやれないなんてーーー二人の近くにいたコナンは自分の無力さに唇を噛むと、すぐに探偵事務所を飛び出した。




小五郎のおっちゃんは、映画通り逮捕されました!

果たして右京さんとコナンくんはおっちゃんの無実を証明し、真犯人を見つけることはできるのか?

引き続き頑張ります!


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22 法曹界の女王

とうとう日本各地で梅雨入りが発表になっていますね。

自分は雨ほど嫌いな天気はありません


コナンが階段を駆け下りて外に出たときには、小五郎を乗せた公安の車はすでに走り出していた。歩道に立ち止まり、荒い息をしながら車を見送る。

すると背後でカランコロンとドアのベルの音がした。振り返ると、事務所下のポアロからエプロン姿の安室が出てきて、持っていたほうきとちりとりで店の前の掃除を始めた。その右頬には右京も見つけた大きな絆創膏が貼られている。

 

コナンは安室に近づきながらズボンの後ろポケットからスマホを取り出すと、さっき撮った風見の写真を見せた。

 

「公安の刑事さんだよね?」

 

「さぁ、知らないけど」

 

安室は横目で写真をチラリと見ると、背を向けるようにして掃除を続けた。

 

「ケガしてるね、風見刑事も安室さんも。つまり安室さんもいたんだよね、爆発現場に」

 

「なんの話かわからないな」

 

「サミット会場の下見をしてたんでしょ?」

 

コナンの言葉に、安室の持つほうきの動きが一瞬止まった。が、すぐにちりとりでゴミを掃き入れて、ドアに向かう。

 

「きっとそのとき、テロの可能性を察知した。だけど今のままじゃ爆発を事故で処理されてしまう。そこで容疑者をでっち上げた。違う!?」

 

コナンはドアの前で立ち上がった安室の背中に自分の推理をぶつけた。

 

「安室さんや彼みたいな警察官なら、パソコンに細工したり現場に指紋を残すことだって可能だよね?」

 

「警察はね、証拠のない話には付き合わないんだよ」

 

「なんでこんなことをするんだ!」

 

「…僕には命を代えても守らなくてはならないものがあるからさ」

 

安室は背を向けたままそう言うと、ドアを開けて店の中に入っていった。カランコロンと音を立ててドアが閉まる。

その背後から再び階段を下りる音が聞こえた。コナンが蘭と思い振り返るとそこには右京と冠城がおり、コナンのいる方へと足を進めた。

 

「どうやら、我々は先手を打たれたようですねぇ」

 

「…刑事さんたちも腹の内では小五郎のおじさんを犯人だと思ってるの?」

 

柔らかな物腰で話しかける右京に対して素っ気なく苛立った態度を向けてしまったことにコナンは後悔したが、それでも素っ気ない態度をしなければこの苛立ちを誰にぶつければいいのかコナン自身も見当がつかないほどこの時は動揺していた。

 

「僕たちもコナンくんと同じように小五郎さんが犯人だとは思っていない。それは本当だ」

 

冠城の言葉に少し平静を取り戻したコナンは改めて右京と冠城に聞いた。

 

「さっき、公安の刑事さんが言っていたけど特命係って何なの?『人材の墓場』なんて言われてるし、捜査権限もないってこともあの刑事さんは言ってた。杉下さんは以前、僕と会った時、特命係は何でもする係って言っていたけど本当はどんな係なの?」

 

コナンは純粋な疑問を右京に投げかけた。コナンは警察によく出入りしている人間であるが特命係なる係について今日まで知らなかったのだ。一方、コナンと会話する右京に疑問を抱いたのか冠城はこっそりと耳打ちをしてコナンのことを右京に聞いた。

 

(右京さん。前にこの子と会ったことあるんですか?それに右京さんの名前も…)

 

(えぇ。以前、ショッピングモールで騒動が起きた時に知り合いましてね。君もチンさんが搬送された病院で会っているはずですが?)

 

右京に言われ、記憶を辿る冠城は1人の少年にたどり着いた。自身の保護者があの騒動に巻き込まれたので右京と共に病院に来ていた子供の1人と今、目の前にいる少年が同一人物であることに気がついた。

 

「そうですねぇ。君の言うとおり頼まれれば何でもするのが特命係です。それ以外は説明のしようがありませんねぇ」

 

納得している冠城の横では右京がコナンに特命係について教えていた。右京は今までの会話、行動からコナンが只者ではないと感じていたのだった。一方のコナンも右京が高木や目暮といった刑事とは違う異色な人物であるといことを感じており、ある一定の興味がわいていた。

 

「それよりも君は大丈夫ですか?毛利さんの事もありますし、君はこれから何かと不便になりますが」

 

「うん。僕は心配ないよ、蘭姉ちゃんと一緒にこれから妃先生の法律事務所に行ってくるんだ」

 

「妃先生っていうとあの『法曹界の女王』って呼ばれてる妃英理弁護士かな?確か、旦那さんは毛利小五郎さんで今は別居中じゃなかったっけ?」

 

冠城が確認を取るとコナンは静かに頷いた。何故、冠城が英理のことを知っているのか、それは冠城が法務省時代に辣腕を振るっており何度も訴訟に打ち勝ってきた凄腕弁護士がいると本省でも有名だったからだった。そしてその人物こそ妃英理だったのだった。

 

「とにかく、今は情報が状況を左右します。コナン君も何か気になることがあればいつでも連絡を」

 

右京と冠城は名刺をコナンに渡すと、車をとりに駐車場へと向かっていった。1人残されたコナンは2人の名刺を眺めるとそれをポケットにしまい、蘭と園子が残る探偵事務所に戻っていった。

 

 

その夜。蘭は小五郎の弁護を頼むために、母親の英理が構える妃法律事務所を訪れた。

 

「どうして!?なんでお父さんの弁護をしてくれないの!?」

 

「まさかおじさまが本当に爆破したと思ってるんですか!?」

 

弁護を断られた蘭と園子は納得できず、英理のデスクに詰め寄った。

 

「あの人にそんなことできない」

 

「だったらどうしてーー」

 

「弁護士はね、身内の弁護はしないの」

 

英理は椅子から立ち上がると、ビル群が一望できる大きな窓に近づいた。

 

「客観性がないと裁判官に判断される可能性が高いからよ。つまり、私があの人の弁護を引き受けると、却って不利に働くかもしれないのよ」

 

「そんな…」

 

肩を落とす英理は「大丈夫」と微笑んだ。

 

「いい弁護士をすぐに見つけるから。それにしても今回の事件はあまりにも展開が早すぎるわね」

 

「展開が早いって…。どういうこと?お母さん」

 

蘭が疑問に思うと、英理はテレビのリモコンを操作すると政府の記者会見が行われる様子を映し出した。

首相官邸の1階にある記者会見室には多数の記者やカメラが詰めかけ、政府の責任者の到着を待っていた。やがて赤いカーテンが下された会見室に折口を先頭に内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官、内閣官房長官が入室し、そして最後に佐藤副総理大臣が到着すると、佐藤はステージに立ち一礼し会見を始めた。

 

「公安っていうのはね、テロリストや国家転覆を目論む組織を捜査しているの。オウム真理教や警視庁篭城事件のような場合が多いけど。だけど今回の事件は事件の発生から犯人の逮捕までが早すぎると私は思っているわ。しかも、今回の犯人は国際的犯罪組織『バーズ』と繋がっているかもしれないのよ。あの人がそんな大それた事は出来ないし、何よりもしもあの人が本当に『バーズ』と繋がっていたとしてももっと慎重に捜査しボロを出したところを一気に攻め込む。これが彼らの手順だからこんな事、滅多に無いのに…」

 

そう言いながらテレビを見つめる英理の瞳には、小五郎に対する不安と焦りが映っていた。そんな英理を気遣う様子もなしに会見は続いている。

 

『…日本政府は今回の犯行グループをテロリストと断定しました。人質をとって国民全体を脅迫する。このような行為は断じて許されるべきものではありません。我々は、国際社会と足並みを揃え卑劣なテロに対しては決然とした姿勢で、断固戦って参ります』

 

(もしかして、公安が逮捕を急いだのって警察上層部や政府からの圧力だったのかしら…?)

 

英理は自分の想像の中で、大胆な自論を展開するがすぐにそんな事はないとその考えを頭の外へ出してしまった。この自論が良い的を得ているとは思わずに。




右京さんとコナン君がチェスの勝負をしたらどっちが勝つのでしょうかね?

純粋な疑問を思いついたのでここに書いてみました。
皆さんはどう思いますか?自分は右京さんの方が上手だと思います


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23 終わりがない 戦い

今日、行われる米朝首脳会談。一体、どうなるかとても気になります


『この事は我が国の、延いては国際社会の安定と平和に貢献するもので…』

 

佐藤副総理の会見を切ったチンはパソコンの前に移動すると、外務省のホームページに掲載されていた瑛里華の写真を見た。

 

コナンと別れた右京と冠城は、退院したチンが泊まっている港区のホテルの一室に来ていた。窓から見ることができる東京タワーやレインボーブリッジは煌びやかに灯を点していたが、そらとは裏腹に室内には重々しい空気が漂っていた。

 

「瑛里華さんや毛利さんのこと、一言も触れてませんでしたね」

 

「…これで、二度目だ」

 

冠城の言っていた通り、日本政府の記者会見ではテロと戦うということを強調して伝えており肝心の交渉に関する事は一切、伝えていなかった。そもそも記者会見で交渉について触れていないことから、政府が『レイブン』との交渉に無関心であることが伺えた。

チンの、二度目という言葉に右京や頷きながら彼の後ろへ回った。

 

「確かに、『レイブン』の言う通りならば瑛里華さんは7年前と今回、二度国に見捨てられたことになりますねぇ」

 

「この国は、国民の命よりもテロとの戦い勝つことを、優先したわけですね」

 

そう言う、チンの身体は小刻みに震えていた。パコソンをじっと見つめているため、彼がどんな表情をしているか分からないが、彼が怒りに震えている事は仕草や行動からすぐに分かる事だった。

 

「…私は、日本ほど平和で美しい国は無いと思っていた。敗戦から奇跡の復興を成し遂げた国、だがこの国が再び戦争を始めるとは」

 

「戦争、ですか?」

 

ソファに座ったまま、顔をチンの方向に向け聞いた冠城に対してチンは、窓を眺めたまま静かに言った。

 

「えぇ。日本人が日本人であるという理由だけでテロの標的になる。女も子供も関係ない、例えばその子たちが先日病院で会った小学生であろうとも。しかもこの戦争には終わりがない。相手は降伏を宣言する国家を持たない」

 

チンの言葉に頷いた右京は、部屋を何気なく眺めるとテーブルには先日殺害された、ジェイ・ノリスの個人写真と経歴、殺害現場の写真、そして布の上に置かれ綺麗な色をした、貝を見つけた。

 

「美しい貝ですね、これは?」

 

「ナンヨウダカラガイ、チューク諸島の貝です」

 

「チューク諸島というと、グアムの少し南にあるサンゴ礁に囲まれた島ですね」

 

冠城が言うと、チンは肯定しながらどうしてこれが手元にあるのか語った。

 

「えぇ。以前、ノリスが島を訪れた時に土産に貰った物です。身近に置いておくと、幸運が訪れると」

 

右京は貝をテーブルに戻すと、チンの言葉を聞いた。

 

「杉下さん、冠城さん。ノリスのためにも瑛里華さんのためにも、必ず『レイブン』を逮捕しましょう。そのためにはどんな協力でもします」

 

 

 

多くの人々が寝静まった深夜、もうすぐ日付が回るという時刻になっても右京と冠城はまだ特命係の部屋に残って事件の捜査をしていた。

 

「もうすぐ身代金の支払い期限がすぎますね…」

 

右京は自身のティーカップに紅茶を、冠城は自身のマグカップにコーヒーをいれて飲んでいた。隣の組織犯罪対策部5課の職員は既に大半が帰っていた。

 

「要求は今回も拒否される、『レイブン』はそう予測しているのだと思います。寧ろ、気になるのは…」

 

「要求を拒否した場合のメッセージ『大勢の人々が見守る中で日本人の誇りが砕け散るだろう』」

 

「『レイブン』は何らかの具体的な計画を持っているのでしょう。問題なのは、それが何かということです」

 

立ち上がり、紅茶を口にする右京に冠城は不吉なことを口にした。

 

「その計画、もう動き出しているのかも。それにしても、どうして『レイブン』は7年も経って瑛里華さんの事件を持ち出してきたんでしょうかね?」

 

「その答えを見つけられれば『レイブン』の手がかりになるのは間違いないのですがねぇ」

 

 

その夜、東京都のとある空きビルには数人の男と1人の女性がいた。薄暗い室内には蝋燭の灯りと何台ものパソコンによる光、白熱灯の明かりが室内をわずかに照らしていた。

この場所こそ右京やコナン、警視庁が血眼になって探している『バーズ』のアジトだったのだった。

 

拳銃に弾を込め、撃つ構えをしているは髪をロングにした中高生風の女子。7年の時を経て先日、姿を現した鷺沢瑛里華その人だった。

 

やがて、近くの扉からジェイ・ノリスを殺害した首元にカラスのタトゥーがある男が現れた。

男はビルに残っていた男たちのうち、ハッカーのみを残しあとの2人はリーダー格と思われる男に従ってビルを後にした。

部屋についていたテレビからは都内でおきた食中毒騒動について放送していた。

 

「僕より上のハッカーはなかなかいないと思うよ?」

 

キッチンで入れてきたコーヒーを瑛里華に渡しながらハッカーは呟いた。

 

「日本でもFBIみたいにハッカーを雇ってくれたらいいのに。『レイブン』は今度の仕事を最後にするって言ってたし」

 

このハッカーこそ、外務省のホームページをハッキングするほどの腕前を持つ凄腕ハッカーで『バーズ』の一味でもあった。

まだ若く、才能溢れる彼はハッカーという職で自分の持ち味をフルに活用していた。

 

「最後の仕事?」

 

「うん、でも心配なんだよね。『レイブン』の情報の一部が警察に流れたみたいだし」

 

ハッカーがコーヒーを入れなおしにキッチンへと消えていく同じタイミングにテレビでは中毒症状を訴えた患者が救急車で運ばれていく様子が映し出されていた。その映像にはチンや阿笠博士、チンを介抱する右京も映っていた。

その映像を見た瞬間、瑛里華は驚き音を立てて立ち上がった。

 

 

既に大半の職員が帰宅した警察庁の長官室には金子長官、甲斐官房付き、社警視庁広報課長が集まって『レイブン』に関する情報交換を行っていた。

窓から見える永田町の町並みは警察内部に張り詰める空気とは裏腹にとても美しく、こんなことがなければずっと見続けていたい、と社は心の中で考えていた。

 

「7年前の事件の際、『バーズ』が身代金の要求をしたのは駐英大使館に対してでした」

 

「無論、大使館は本国へ事態を伝えんたんだろうね?」

 

長官室のソファに座っている甲斐が尋ねると、彼の対面に座っている社は頷き、タブレットを見ながら続けた。

 

「えぇ。その上で要求を無視するよう外務省に提案したのは当時の駐英大使、柳沢克彦。金子長官、甲斐さん。その柳沢克彦ですが…」

 

そう言い、金子の前にタブレットを置いた社はある項目を彼らに見せた。それを見た金子と甲斐はお互い顔を見合わせると、社にタブレットを返した。

 

「社くん、この件は君の方から直接、山崎警備局長に話してくれないか?」

 

何か複雑な理由があると察した社はそれ以上のことを言うのをやめ、了承した。

 

「ところで、昨日警視庁公安部が毛利小五郎を公務執行妨害で警視庁に連行してきました。彼は容疑を否認しているようですが、日下部事務次官が彼の送検を迫っていることから、警察としては早めに送検するということです」

 

「そうか…日下部事務次官が…」

 

金子の言う日下部は法務省の事務次官でキャリア官僚であるが検事出身ではない事務次官だった。その事務次官が急いでいると言うことは何か理由がある、金子はそう考えていた。



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24 無実か本当か

ふぅー。やっと一週間が終わったー!

ということで、久しぶりの投稿です


空が白み始めた頃、安室は人気のない沿岸にある公衆電話ボックスから、風間に電話をかけた。

 

『残念です。降谷さんの言ったとおりになりましたが、もっと早くわかっていれば我々公安の仲間が死ぬことは…』

 

「ああ。まさかサミット前に爆破されるとは…」

 

降谷は公衆電話に手をかけながら、海の方を振り返った。白み始めた空に飛行機が飛び上がっていくのが見える。

 

『現在、我々は外務省のホームページをハッキングし、鷺沢瑛里華さんを人質にとっている『バーズ』及び『レイブン』を調べていますが、降谷さんの方は』

 

「現場のガス栓にアクセスした通信を調べている。少し変わったシステムが使われているようだ」

 

『なんですか?』

 

「捜査が進み次第、ウチから警視庁公安部に伝える」

 

『わかりました』

 

降谷は再び前を向き、「例の件はどうなっている?」と訊いた。

 

『はい。〈2291〉を導入する手筈になっています』

 

突然、まばゆい光が差し込んできて、降谷は公衆電話ボックスの外を見た。海の上に朝日が昇ったのだ。

 

『…降谷さん?』

 

「わかった」

 

降谷は電話を切ると、海の先に建つ朝日に輝くビル群を見つめた。

 

 

 

小五郎が逮捕された翌日。

 

警視庁の大会議室には再び公安部と刑事部の警察官が集められ、白鳥が小五郎の事務所から押収されたパソコンの調査報告をしていた。調査結果を聞いた刑事たちがざわつく。

 

「それはつまり、毛利小五郎のパソコンから現場のガス栓にアクセスした形跡が出たってことか」

 

刑事たちの前に目暮と並んで座った黒田がたずねると、白鳥は「…はい。サイバーセキリュティ対策本部とサイバー犯罪対策課から、そう報告が入っています」と持っていた手帳に目を落とした。

 

続いて岩槻が立ち上がり、黒田や目暮の背後にあるスクリーンをパソコンで捜査し、報告した。

 

「サイバー犯罪対策課の岩槻です。捜査本部からの要請により我々とサイバーセキリュティ対策本部で毛利小五郎氏のパソコンを解析した結果、ネットの検索履歴に国際会議場の見取り図を検索していた痕跡、及びガス栓爆破に使用したと思われるプログラムが発見されました」

 

続いて岩槻は衝撃的な事実を口にした。その報告は刑事部の刑事のみならず、公安部の刑事や前に同じように座っていた内村や中園をも震撼させた。

 

「…毛利小五郎氏のパソコンから発見されたそのプログラムを解析した結果、以前『バーズ』が企てた欧州中央銀行のサイバー攻撃時に使われたプログラムと同種であることが分かりました」

 

その報告に目暮は勿論、白鳥、高木、佐藤、千葉は驚き、小五郎をよく知る刑事部の伊丹や芹沢、そしてその他の刑事場の刑事たちは騒然となった。

 

すると、公安部側の責任ついた風見が立ち上がり、大型モニターに映った料亭の厨房を指差した。

 

「決まりましたね。毛利小五郎はここに忍び込み、この扉を開け、『高圧ケーブル』に油が漏れる細工をしたんです。それと同時に毛利小五郎が『レイブン』と継ながっているということも証明されましたね」

 

大型モニターにはさらにガス配置図、高圧ケーブルの格納扉に焼きついた指紋、格納扉の中に詰まったケーブルなどが次々と映し出された。

 

「待ってくれ!だったら防犯カメラに毛利くんが映ってたはずだ!それに『レイブン』と繋がっているなんてそんな事、彼がするはずない!」

 

目暮が身を乗り出すと、白鳥の右隣に座った佐藤が「あ、いえ…」と沈痛な面持ちで口を開いた。

 

「現場にネットが開通したのが昨日からなので、それ以前のカメラは作動していません」

 

「この細工をしたうえで、毛利小五郎は『ガス栓』をネット操作し、ガス漏れ状態にしそれで今回の爆発がーーー」

 

「そんな…なんで毛利さんがそんなことを…」

 

白鳥の左隣に座った千葉が呟いた。

 

「取り調べではなんと言ってる?」

 

黒田が問いを挟んだ。

 

「毛利小五郎は否認を続けています。否認のままでも送検できますが」

 

風見が言うと、目暮が立ち上がろうとしたがその前に伊丹がバン!と音を立てて立った。

 

「おい!お前ら、まさか奴の容疑が曖昧な状態で送検するのか!もしもこれが冤罪だったら、あんたらはどう責任を取るつもりだ!?警察官の恥だとは思わないのか!」

 

「伊丹くんの言う通りだ。動機もわからないのにあなた方は送検する気か!」

 

興奮して風見に喝を飛ばして怒鳴る伊丹を芹沢は宥めたが、それでも怒りが収まらないのか席に座った後も風見を睨んだ。伊丹が座ったことを確認した風見は目暮をみて、静かに言った。

 

「証拠がそろえば送検。警察官として当然のことですが?」

 

「待ってくれ!何か引っかかる。何かおかしい!」

 

「なるほど。“刑事の勘”というものですか」

 

目暮が小五郎の送検をなんとか止めようと風見を説得する中、前方のテーブルの中央に座る衣笠が静かに口を開いた。

 

「あなた方、刑事部はそのような山勘を頼りに事件を解決してきたんですか?違いますよね?確かな証拠が集まっているからあなた方は逮捕し送検してきたのでしょう。こうした確たる証拠が見つかっている中、そのあなた方が今更、何を言いだすんです?」

 

衣笠は黒縁眼鏡の奥の不気味な眼光を光らせ、目暮ら刑事部を睨んだ。

 

「聞けば、捜査一課はこの事件の容疑者、毛利小五郎が過去に在籍した部署ではないですか?目暮警部など毛利小五郎と共に時を過ごしたあなた方には辛い話かもしれませんが、これが現実です。彼をさっさと送検するべきです」

 

「し、しかし。衣笠副総監…!毛利くんは…」

 

「…これ以上、あなた方が毛利小五郎の送検を見合わせと仰るのでしたら、確たる証拠を示しなさい。それが無いにも関わらず、捜査を妨害するならば私は刑事部捜査一課3係をこの捜査本部からの解任、及び監察官聴取にかけます。大体、あなた方も冷静に考えれば分かるはずです。何か引っかかる、何かおかしいで、これだけの捜査員が動くと思いますか?」

 

衣笠は前方に座る公安部の刑事たちを指し示した。大勢の公安刑事が一斉に目暮に目を向ける。

反論できない目暮は悔しそうに「うう…」と小さなうなり声を上げた。

 

「よろしいですか?衣笠副総監」

 

衣笠の隣に座っていた山崎は衣笠の話が終わったタイミングを見計らい、手を挙げた。長話を詫び着席した衣笠に変わり今度は山崎が話し始めた。

 

「近日、開催される『国際平和会議 東京サミット』に現在、環太平洋評議会の専務理事である、柳沢克彦氏が出席することが分かった」

 

甲斐や金子に報告した社が彼らに命じられ、山崎にこの事を伝えたのがあの後、すぐ後だったので山崎は今この場で話すことができたのだった。

パソコンの画面が切り替わり、『国際平和会議 東京サミット』のネット記事と柳沢克彦の写真と経歴が表示された。

 

「柳沢氏は7年前、駐英大使として鷺沢瑛里華さんの身代金要求を黙殺した人物だ」

 

『今回の要求は真偽不明として無視し、要求なしてはいかがでしょう』

 

駐英大使として、外務省に電話をした際に残っていた記録にはこう書かれていた。日本国の代表としてあるまじき行為だった。しかしこの事は無論、外務省から報告される事はなかった。

 

この情報には刑事部、公安部、関係なく捜査本部には捜査員たちの驚く声が轟いた。

 

「この事は、警察内部で厳重保秘!」

 

「会議には海外から大勢の要人やメディアが集まる。『レイブン』の『大勢の人々が見守る中で、日本人の誇りが砕け散るだろう』というメッセージは、柳沢氏が出席するこの会議を狙ったものである可能性が高い!」

 

中園の補足の説明の後、山崎がその理由を述べた。山崎は今度こそは会議を成功させるために躍起になっており、自信もあった。

 

「会場は駅に隣接しおり、周辺にはファッションビルやオフィスビルが多い。テロが起きた場合、一般市民が巻き添えになる可能性が高い。よって、最大級の警備をしく!」

 

内村の指示により、捜査員たちは返事の後、大きく動き出した。その中で小五郎と親しくしていた捜査一課3係と伊丹や芹沢は動くことができずにしばらくその場に座っていた。




米朝首脳会談は、初めてとしては成果があったのかなと思いますが、正直言って6カ国協議の時よりも合意が甘く?なってると思いました


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25 埋められた真実

タイトルが思いつきません…。

雨、嫌じゃー!


「そうですか…。いえ、ありがとうございました」

 

妃法律事務所のデスクで電話をしていた英理は、落胆した顔で受話器を置くと、コナンと蘭、それに右京と冠城に向かって首を横にふった。

 

 

どうして、右京と冠城がここにいるのか。それは、数十分前に遡る。

 

定例と言わんばかりに右京と冠城は捜査本部に入れてもらえないため目暮や高木ら3係、そして芹沢がポロッと漏らしてくれる捜査資料や情報を基に独自に推理をしていた。

 

ホワイトボードに当該人物らの写真を貼り矢印を書き入れ、相関図を作り考え込んでいる右京と冠城に後ろから声をかけるものがいた。

 

「こんにちは。杉下警部、冠城刑事」

 

2人が振り返ると、そこには胸元に入館証を付けたコナンがいた。

部屋にコナンを入れ、来客用のティーカップに紅茶を入れながら右京は聞いた。

 

「こんにちは、コナンくん。君は紅茶は大丈夫ですか?」

 

「うん。小五郎のおじさんの家や、レストランで飲んだことあるから」

 

「コナンくんはどうしてここに?」

 

冠城が用件を聞くと、コナンは不安そうな表情を浮かべながら話した。

 

「実は、小五郎のおじさんの様子を見に来たんだ。もうすぐ送検されちゃうかもしれないんでしょ?」

 

「えぇ。捜査本部はそう見ているようですが、僕にはいくつか引っかかる点がありましてね」

 

右京はティーカップを手に持ちながらホワイトボードを眺めた。コナンもそれにつられてボードを見て、素早く相関図を記憶した。

 

「君の言う『小五郎のおじさん』、つまり毛利小五郎は元警視庁刑事部捜査一課の刑事です。その様な人物が犯罪に手を染めるとは考えにくいものでしてね」

 

「でも、刑事が犯罪を起こすなんて事、残念ですが多々起こっているのも事実かと」

 

冠城がツッコミを入れると右京もそれに頷いた。

 

「えぇ。同じ警察官として恥ずべき事です。話が逸れますが、毛利さんは短気な性格ゆえ、数多くの事件を解決どころか迷宮入りにしてしまったと目暮警部や大河内監察官から聞いています。そしてとある事件を機に警察官を辞職したと。そして、その後は探偵業を静かにこなしていたがある時期を境に『眠りの小五郎』として活躍。目暮警部ら捜査一課の事件協力を行うなど、まるで人が変わったかのように活躍しています」

 

「そ、それはおじさんの能力が目覚めたとか、じゃないかな?」

 

『眠りの小五郎』はコナンが麻酔銃と蝶ネクタイ型変声機で声を変えて、まるで腹話術のように一人二役で行なっている。右京の勘の良さに一瞬、冷やっとしたコナンは慌てて言葉を入れた。

 

「なるほど。事件の話に戻りますが、毛利さんは事件解決に尽力し、娘の蘭さんや、コナンくん、それに危険な立場に置かれている立場の人を幾度か救った人物です。そのことから、彼はとても正義感が強い人物であることが伺えます。それに…」

 

「毛利探偵は、かなりの機械音痴だと。高木さんや佐藤さんが言っていました」

 

「うん。小五郎のおじさんはパソコンですら、扱うのが難しいんだよ」

 

「冠城くんやコナンくんの言うとおり、毛利さんはかなりの機械音痴

のようですねぇ。その人物が爆弾を作り、システムをハッキングし、起爆させた。そして『レイブン』とも通じており、爆破のタイミングを見計らった、冠城くんやコナンくん、そして彼と関わりのある関係者の証言を合わせると、どうも食い違うんですよ」

 

右京の推理は証拠がなく、単なる状況証拠を組み立てた推理に過ぎないが、的をしっかり射ておりコナンも感服していた。

 

「誰かが、証拠の捏造した可能性もありますしね」

 

「えぇ。捜査本部の提示した証拠によれば格納扉に残っていた毛利さんの指紋、それに彼のパソコンから見つかったアクセス履歴や『バーズ』特有のプログラムなどが発見され、逮捕、送検と早く進んでいるそうですが、これらの証拠は冠城くんの言うとおり、捏造が可能です、僕はこの証拠にもいくつか引っかかる点がありましてね」

 

右京や冠城は独自に捜査した結果、捜査本部とは全く第三者の犯行を疑っていた。コナンもそれに頷いて、3人の意見は一致した。

 

「コナンくん、君は毛利さんを近くで見て来た貴重な人物です。それに、君はよく毛利さんにくっついて色々な事件を見てきたそうですねぇ」

 

「ま、まぁね。ははは…」

 

「そういえば『眠りの小五郎』が現れた時期、ある人物が彼の周囲から消えました。その人物とは…」

 

右京が答えようとすると冠城は手を挙げて、先に答えた。

 

「工藤新一。『平成のシャーロック・ホームズ』も呼ばれ、数々の名探偵を解決してきた、高校生名探偵。関西方面で活躍している服部平次と並び、『西の服部』、『東の工藤』と称されることも多々あります。彼はトロピカルランドで起きた殺人事件を最後に突如、世間から姿を消しています」

 

「冠城くん、どうもありがとう。彼が消えた頃、毛利さんが活躍し始めた。まるで人が変わったかのように。コナンくん、君は工藤くんについて何か知っていますか?」

 

一方、コナンは突如始まった自分の身元を探す特命係の2人に危機感を覚えつつ、ここをどう切り抜けるか疑問に考えた。

 

(何故だ…。何故、この2人が俺の正体を探っている?だけど、まだ灰原や阿笠博士については、知らないようだな。上手く、誤魔化さないと…)

 

「う、うん。新一兄ちゃんは僕の遠い親戚なんだ。今は、高校を休学してどこかで事件解決とかしてるんじゃないかな…」

 

右京はコナンが見せた工藤新一について語ると、何故か狼狽したコナンを見ると、眼鏡を光らせた。

 

「なるほど。残念ですねぇ、彼に参考に意見を聞こうと思ったのですがねぇ…。コナンくん、今回の事件の真実を見つけるため我々にご協力願いますか?」

 

「うん。小五郎のおじさんと蘭姉ちゃんのためにも、喜んで協力するよ!」

 

 

こうして、右京と冠城はコナンと共に行動しており、妃法律事務所を訪れていた。

 

「そんな…なんで誰も弁護してくれないの?」

 

「大事件だから?」

 

コナンがたずねると、英理はハァ…とため息をつき、額に手をやった。

 

「そうね。あと、弁護する被疑者が『眠りの小五郎』っていう有名人なんで、どの弁護士も尻込みしちゃってね…」

 

「有名人である『眠りの小五郎」の弁護に失敗すれば、それこそ弁護士の威信に関わりますからねぇ」

 

右京が言うと、英理はますます憂鬱そうな表情を浮かべた。

その時、コンコンとドアをノックする音がした。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

と入ってきたのは白鳥だった。

 

「ニュースになる前にお伝えすべきかと思いまして」

 

「何か?」

 

英理のデスクの前で立ち止まった白鳥は言いにくそうに目を伏せた。

 

「…毛利さんが送検されます」

 

白鳥の言葉にコナンや右京らは驚きを見せた。

 

「送検に足る証拠はあるんですか!?」

 

「現場にあった毛利さんの指紋、パソコンにあった現場見取り図やサミットの予定表、そして引火物へのアクセスログ…」

 

白鳥の答えを厳しい表情で聞いていた英理はうつむき、ため息をついた。

 

「送検するには、十分な証拠ですねぇ…」

 

「なんで…お父さんが…」

 

涙があふれてきて、蘭は両手で顔を覆った。英理や冠城が蘭に近づき、慰めるようにやさしく蘭に接していた。

 

英理の中で泣き崩れる蘭を見て、コナンはクッ…と唇を噛んだ。

 

(待ってろ、蘭。俺がゼッテーおっちゃんを助けてやっから!)

 

そのコナンの様子を右京は隣で静かに見つめていた。




ふぅ…。久しぶりの投稿です。

これから、忙しくなり投稿ペースがさらに落ちるかもしれませんが、なるべく頑張りますので引き続きよろしくお願いします


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26 IoTポット

テスト勉強で忙しい!

何とか、時間を作って書いていこうと思います。
そろそろ、登場人物が多くなってきたので各人物のプロフィールでも書こうかなと思ってます。


妃法律事務所を出た右京と冠城は、冠城の車でコナンを毛利探偵事務所まで送り届けた後、本庁へ向けて走っていた。

 

「気になりますねぇ…」

 

「事件の真相がですか?」

 

前方を見ながら聞く冠城に右京は静かに答えた。

 

「無論、それもありますが僕が注目しているのはあの江戸川コナン、という少年です」

 

「確かに、ほんの少ししか俺は見てませんが、小学校1年生とは思えない言動が多々あって正直びっくりしています。彼が毛利探偵にくっついているせいかもしれませんが」

 

「えぇ。彼は小学生とは思えない行動をする時があります。それは君の言うとおり、毛利さんの真似をしているだけかもしれませんねぇ。ですが、僕はもう一つ別の説があるのではないかと考えています」

 

右京の大胆な推理に冠城は思わず、助手席に座る右京を見つめた。

 

「その説とは?」

 

「君は、何か引っかかりませんか?毛利さんはある人物の消息が途絶えた直後に有名になっているんですよ。その人物とは、『平成のシャーロックホームズ』と呼ばれている工藤新一くんです」

 

 

右京に噂されていた工藤新一、江戸川コナンは自身の携帯に阿笠博士からの留守電がかかってきたことに気づき、すぐに阿笠邸を訪れた。

 

「博士!見つかったって?」

 

阿笠博士は地下にある灰原の部屋にいた。パソコンに向かっている灰原の隣で、モニターを見ている。

 

「おう、来たか。ほれ」

 

コナンは阿笠博士たちに近づいてスマホをパソコンデスクに置くと、モニターを見た。破片を繋ぎ合わせた鉄製の物体が映っている。

 

「…確かに、爆弾に見えるかも」

 

「君に頼まれて、飛び散った破片をドローンで撮影してその画像をパズルみたいに繋ぎ合わせて復元したんじゃ。今、爆弾の種類を特定するため、哀君がネット上のあらゆる画像と照合してくれとる」

 

モニターではものすごい速さでネット上の画像が次々に照合され、灰原がエンターキーを押すと『COMPLETE』の文字が一番上に表示された。

 

「よし、あったわよ。合致するものが」

 

コナンと阿笠博士は身を乗り出してモニターを見た。

 

「ん?なんだ…?」

 

「詳細出すわね」

 

灰原がキーボードを叩くと、拡大表示されていた画像がどんどんズームアウトされて、その全貌が映し出された。それは両側に取っ手のついた深い鍋みたいな形をしていて、側面には黒いタッチパネルがついていた。『IoT圧力ポット』と書かれている。

 

「IoT圧力ポット?」

 

「『圧力なべをポットの形にした優れもの。スマホから圧力、温度、時間を設定するだけでスープなどの調理ができる』だって」

 

 

圧力ポットのホームページには、ポットの料理を楽しんでいる家族や調理例のイメージ画像があった。IoTとは、「Internet of Things」の略で、“物”がインターネットにつながることで、離れたところにあるその“物”の状態を知り、操作できるようになるしくみのことだ。

 

 

「調理ですか?」

 

同じ頃、車内で事件の推理をしていた右京と冠城の2人も特命係の手元にある資料を基にコナンと同様の推理をしていた。

 

「えぇ。圧力ポットの他にフライパンやお鍋、食器類も散乱していましたから、爆発した場所は施設内にある飲食店の厨房だったようです」

 

「ん?と言うことは、爆発物は爆弾ではなくそのIoT圧力ポットっていうことですか?」

 

「どうやら、そのようですねぇ」

 

 

「なんだよー爆弾じゃなかったのかよ!!」

 

破片を繋ぎ合わせた物が圧力ポットだと知ったコナンは声を荒らげた。灰原がコナンをキッとにらむ。コナンの態度を見かねた阿笠博士が「こら!」と叱りつけた。

 

「爆発物を探せっていう君の頼みで、哀君もこうやって頑張ってくれてるんじゃぞ。それをなんじゃ。君らしくもない」

 

「…悪かった」

 

コナンはうつむいたまま目も合わさずに謝った。その態度を見て灰原が眉をひそめる。

 

「どうしたの?何かあった?」

 

「小五郎のおっちゃんが…送検された」

 

「え!?」

 

 

その頃。人気のない路地裏で、イヤホンを差し込んだスマホの画面を見ている者がいた。画面には、ローアングルで撮られたコナン、灰原、阿笠博士が映っている。それはパソコンデスクに置いたコナンのスマホから撮られた映像だった。

 

 

 




ドクターストレンジは、皆さんご存知でしょうか?(唐突)

マーベル作品に出てくる魔術師で、今大ヒット公開中、アベンジャーズ インフィニティ・ウォーにも出てきます。

僕はマーベル作品で一番、彼がお気に入りのキャラクターです!


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27 攻める者と守る者

ようやく、一段落したので久しぶりの投稿です。

お待たせしました


スケボーを抱えたコナンが妃法律事務所に戻ってくると、事務所の前に若い女性が佇んでいた。

 

(誰だ?)

 

コナンは女性のジャケットの襟に弁護士記章がついているのに気づいた。

事務所の前に立っていたその女性弁護士は、橘境子と名乗った。

少しはねたショートカットの髪に丸メガネをかけた境子は、地味なパンツスーツといいどことなく野暮ったい印象を受ける。

 

「え?今なんと」

 

自分のデスクで話を聞いていた英理は、驚いたように顔を上げた。

 

「ですから、私、橘境子に『眠りの小五郎』を弁護させてください!」

 

境子はそう言って元気よくお辞儀した。そしてコナンと蘭がぽかんと見つめる中、鞄から資料を取り出して英理の前に置いた。

 

「私がこれまで扱った事件です」

 

それは数ページのコピーをクリップで留めた三、四部ほどの物で、英理はササっとデスクに広げて見た。

 

「『二条院大学過激派事件』『経産省スパイ事件』…公安事件が多いのねぇ」

 

「あ、じゃあ今回の事件にピッタリーー」

 

蘭が言い終わらないうちに、コナンがたずねた。

 

「それで、お姉さんの裁判の勝敗は?」

 

「え?ボク、難しい言葉知ってるのね」

 

驚いて振り返った境子は、コナンの目線に合わせるように腰を落とした。

 

「全部負けてるの」

 

「え…」

 

ドン引きするコナンのそばで、蘭が「は?」と固まる。

 

「あ…でも、公安事件は難しいのよね」

 

資料を読んでいた英理がフォローすると、境子は「はい」と立ち上がった。

 

「検察が起訴した事件の勝率は、ご存知のとおり九割以上」

 

「それが公安事件だともっと上がる」

 

「つまり勝てるわけないんです」

 

境子はケロっとした顔で言うと、スマホを取り出して見せた。

 

「でも、私は『ケー弁』なので…」

 

「ケーベン?」

 

蘭が訊き返すと、英理が代わりに説明した。

 

「事務所を持たず携帯電話で仕事を取る、フリーの弁護士のことよ」

 

「だから不利な裁判でもやらないと!」

と言う、境子を、蘭は怪訝そうに見つめた。

 

「…それでお父さんの裁判を?」

 

「弁護士を探しているんですよね?弁護士会で聞きました。やらせてください!」

 

英理に向き直った境子は真剣な顔つきだった。

 

「そうねぇ…」

 

「ちょ、ちょっとお待ちください!」

 

蘭はそう言って英理を部屋の奥に引っ張った。

 

 

「ダメよ、お母さん!あの弁護士、全然勝つ気ない」

 

蘭に小声で言われた英理は、コナンに話しかけている境子をチラリと振り返った。

 

「でも見るからにダメ弁護士だから、検察側がなめてくれるかも…」

 

「そんなんじゃ勝てないよ!やっぱ国選弁護人に頼んだ方がーー」

 

「それだと私が出しゃばれない」

 

「え?」

 

「でもあの人なら私が口を出せる」

 

英理に真面目な顔で言われた蘭は、改めて境子を見た。

 

「…だとしても、不安しかないよ」

 

何やらコナンと話が弾んでる境子を見て、蘭は不満そうにつぶやいた。

 

 

東京地方検察庁・検事室。

日下部誠検事の部屋には西側に窓があり、ブラインドから柔らかな西日が差し込んでいた。

髪をオールバックにしてネクタイをきっちり締めた日下部は、窓際に置いたサボテンに霧吹きで水を与えると、ゆっくりと自分のデスクを振り返った。右側のデスクには記録係、さらに自分のデスクの前には警察から連れてこられた毛利小五郎が座っている。

 

「警察では否認を続けたそうですね」

 

「当然だろ。俺は何もやっちゃいねぇ」

 

小五郎がぶっきらぼうに言うと、記録係はキーボードで文字を打ち込んでいった。デスクについた日下部が証拠資料のファイルを持ち上げて見せる。

 

「しかし、あなたを犯人とする証拠がこんなにありますが?」

 

「それがわからねぇんだ、検事さん!誰かが俺をはめたとしか思えねぇ!」

 

手元の資料を見ていた日下部は、ゆっくりと視線を小五郎に移した。

 

 

小五郎の調書を終えた日下部は取調室を出て、検察庁内を歩いていた。自動販売機でコーヒー買っていると後ろから日下部の肩を叩いて、声をかける者がいた。

 

「やぁ、お前が今回の事件を担当することになるとはな」

 

「今回の事件は公安が担当する案件です。検事ではないあなたは知らないのかもしれませんね、兄さん。いや、日下部彌彦法務省事務次官」

 

日下部彌彦は法務省キャリア官僚だが、検事ではない。法務省の事務次官は、通常は検事の資格を要するポストだが、兄である日下部彌彦は、前任者の急死により例外的にこの職についていた、よって波風気にせず、自らの信念で行動しておりその性格は部下だった冠城も影響を受けていた。

 

「しかしこの日本で衆人環視の下、白昼堂々とテロを決行するとは…。犯人は、想像以上の策略家なのか、それとも愚か者なのか…」

 

「それは、毛利小五郎のことですか?」

 

「彼の下には有能な探偵が多くいる。『東の高校生探偵 工藤新一』、『西の高校生探偵 服部平次』、『推理クイーン 鈴木園子』、彼らと張り合うだけの推理力を持つ彼、しかも元警察官と聞く。そんな彼が爆破テロの実行犯になると思うか?」

 

彌彦は遠い目をしながら冷たい缶コーヒーを喉に流し込んだ。

 

「ひょっとして、彼の送検後を急いでいるのは別のところからの圧力か?私は君のように検事ではないから警視庁、警察庁、検察庁の関係については君ほど詳しくはない。だが、これだけの早いペースだ。何か裏があるのではないかと思ったんだ」

 

「毛利小五郎が犯人だという証拠がいくつも挙がっています。必要でしたら資料を事務次官室に送りますが?」

 

「いや、いい。この案件は君の領分だ。外野が騒いでどうこうなる問題ではないからな」

 

やがて缶コーヒーをリサイクルボックスに入れて、彌彦は去って行った。その姿を誠はずっと見ていた。

 




これからは前よりは早く投稿できるように頑張りたいと思います。

今回はこの物語の主要人物がいくつか出てきました。今後に注目してもらいたいと思います


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28 地検公安部の敏腕検事

暑い…。なんだ、この暑さは!

この暑さはどんどん体力を奪っていくような暑さですね。冷房が手放せません。


その頃、白鳥が再び妃法律事務所を訪れていた。

 

「今回の爆破事件、地検公安部の日下部検事が担当することになりました」

 

白鳥がデスクについていた英理に報告すると、側にいた境子はまた他人事のように「あら大変」と言った。英理がハァ…と頬杖をつく。

 

「公安事件の弁護をすることが少ない私でも、名前は知ってる」

 

「そんなにすごい検事さんなの?」

 

蘭がたずねると、

 

「妃先生と同じで、負け知らずの敏腕検事。しかも、兄は法務省事務次官である日下部彌彦。法廷でも検察庁でも知らない人がいないくらい、名実ともどもの最強検事。私とは真逆ね」

 

境子は肩をすくめて自嘲気味に笑った。不安げに俯く蘭を見て、コナンは空気を変えようとデスクに置かれた境子の取扱事件記録を指差した。

 

「あ。ボク、この事件知ってるよ。『NAZU不正アクセス事件』」

 

「え?NAZUってアメリカで宇宙開発してる、あの有名な?」

 

蘭が感心して見ると、境子は記録を覗き込んだ。

 

「あぁ。7年前、ゲーム会社の社員が遊びでアクセスしたって事件。同時期に当時、在英大使館の参事官令嬢の鷺沢瑛里華さんの誘拐が有名で、こっちはあまり有名じゃないんだけどね」

 

「鷺沢瑛里華さんって、『レイブン』に誘拐されて先日再び、身代金要求をされた彼女ですか?」

 

「えぇ。当時の在英日本大使館の柳沢克彦大使の指示で身代金の要求を拒否されて、以後消息が途絶えていたんだけど再び外務省のホームページをハッキングするという大胆な手口を彼らが使ったおかげで再び、世間に姿を現したんだけど、警察の方では彼女の動きは掴めているんですか?」

 

境子に話を振られた白鳥は、懐から手帳を取り出し語った。

 

「詳しいことは話せませんが、我々警察は彼女が拘束されている場所の発見を全力で進めています。各関係諸機関にも協力要請をして一刻も早い彼女の保護を目指します」

 

(ま。あの杉下警部や冠城刑事もいるから、以外と早く見つかるかもな)

 

コナンの言うとおり、既に右京は岩槻や米沢に協力を依頼していた。組織内では疎まれている右京だが、何だかんだで彼に協力する人も多く、その人脈をフルに活用して彼は活躍していた。

 

「それでNAZUの事件も…」

 

蘭がおずおずとたずねると、

 

「もちろん負けてます」

 

境子は手をひらひらと振りながらあっさり言った。

 

「もちろんって…」

 

(オイオイ…)

 

空気を変えるどころかよけいに蘭を不安にさせてしまったコナンは、がっくりと肩を落として境子を見た。

 

 

「よ。暇か?って、お二方は暇じゃないみたいだね〜」

 

警視庁本庁に戻った右京と冠城は特命係の部屋に戻ると、事件の捜査を再開した。右京の整理されたデスクの上には『レイブン』及び鷺沢瑛里華の資料が、冠城のデスクにはエッジオブオーシャン関連の資料が置かれていた。

 

「角田課長。何故、国際会議場が爆破されたのが公安部が点検する時だったのか凄い引っかかるんですが、課長はどうも思いますか?」

 

冠城の問いに角田はマグカップを持ったまま、疑問を持ちつつ暫く考え込んだが、分からないとお手上げの様子だった。

 

「何故って…。単に爆破日時を設定したのが偶々その日だった、って事じゃないの?」

 

「だとしたら、何もオープン前に爆破する必要は無いわけです。もしも日本政府や国家に対するテロならば多くの人々が集まる開業式のセレモニーや環太平洋評議会を狙って爆破すれば、効果は絶大です。何故、爆破がその前なのか気になりまして」

 

「それは、当の本人に聞いた方が早いかもな」

 

角田はそう言うと、周囲を見渡しながら小声で話し始めた。

 

「実は、毛利小五郎が送検されたのは知ってると思うが、その彼を取り締まる検事と弁護士が一癖ある奴なんだよ」

 

「それはひょっとして、日下部検事と橘弁護士のことですかねぇ」

 

不意に後ろから声をかけてきた右京に角田と冠城はびっくりし、角田は持っていたマグカップを落としそうになったが、それを何とか堪えた。

 

「あぁ。一方は負け知らずの敏腕検事、もう一方は負けてばかりのダメ弁護士だもんな」

 

「えぇ。俺が法務省にいた頃、幾度か耳にしたことがあります。日下部検事は、地検公安部に所属する検事であの日下部事務次官の弟でもあります。何度か話したこともありましたが、正義感が強い人でした。橘弁護士は、いわゆる『ケー弁』ケータイ弁護士で公安事件の弁護が多いが、殆ど負けている弁護士でしたね」

 

「その橘弁護士ですが、面白い弁護をしていますねぇ」

 

いつのまにか自身の椅子に座っていた右京は、冠城のデスクから持ってきた資料を読みながら言った。

 

「『NAZU不正アクセス事件』ですか…。この事件は鷺沢瑛里華さんの事件に続いて有名だったことを覚えています。しかし、専らこの時は誘拐事件の方にマスコミも目を向けていましたねぇ。確か、犯人が自殺したとか」

 

「おっしゃる通りです。犯人が自殺したことで、この事件は一定の区切りがついたことで、世間から忘れられました。右京さん、何でこの事件を?」

 

冠城が聞くと、右京はメガネを光らせながら言った。

 

「地検公安部の敏腕検事、公安が主の弁護士。彼らはこの『NAZU不正アクセス事件』に関わっているようなんですよ」

 




すみません。早めに投稿すると言いましたが、色々と忙しいのでどうしてた遅くなってしまいました。

何とか、早く投稿できるように頑張りますので引き続きよろしくお願いします。


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29 検察庁の統括官

今回は岩井統括官と久しぶりに日本政府の高官たちが登場します。

右京さんやコナンくんは登場しません。


その夜。日下部は岩井紗世子統括捜査官の部屋である統括検事室を訪れた。

紗世子の部屋はウォーターサーバーやオシャレな小物が並び、タイトスカートのスーツに身を包んだ紗世子は日下部の報告を聞きながら棚の上の小物をあれこれいじっていた。

 

「本日取り調べをした結果ですが、毛利小五郎に爆破テロの動機が全く無いのが気になります。それに、彼と『バーズ』の関係性の不明な点が多いです」

 

「ふーん、動機ねぇ…」

 

小物を並び替えた紗世子は満足げに微笑むと、切れ長のきつい目を日下部に向けた。そして、自分のデスクに向かい、置かれた証拠ファイルをチラリと見る。

 

「でも証拠がこれだけあるわけだし、明日にも起訴でいいんじゃない?」

 

「し、しかしですね、統括官。この事件にはいくつかの不可解な点が多いわけでして…」

 

ドアのそばにいた日下部は紗世子のデスクに歩み寄り、証拠ファイルを開いて指差した。

 

「例えば、爆発現場のガス栓にアクセスしたとされるこの記録ですが、被疑者のパソコンが第三者に中継点にされた可能性も考えられます。そのうえで、見取り図や予定表といった証拠を被疑者のパソコンに残し、罪をかぶせた可能性も十分に考えられ…」

 

デスクに頬杖をつきながら聞いていた紗世子は「日下部主任」とさえぎり、証拠ファイルの別のページを開いた。

 

「それはこの証拠を無視した、あなたの勝手な推理よ」

 

と高圧ケーブルの格納庫に焼きついた指紋写真を指差す。

 

「岩井統括。私は警察に追加の捜査をさせ、その結果を見てから起訴するかどうか決定したいと思います。警視庁にはサイバー犯罪対策課を始め、専門機関がいくつか存在し、それに現在はICPOの専務理事を務めているエドワード・チン氏が来日しています。彼のコネを使い、直接彼にーー」

 

「いいえ!その必要はない!!」

 

紗世子が力強く言った。

 

「毛利小五郎は起訴しなさい。これは公安部の判断よ。いいわね?」

 

「その公安部とは、我々検察庁ですか?それとも、警察庁の方ですか?」

 

デスクの小物に手を伸ばした紗世子は、横目でチラリと日下部を見ると、

 

「以上です。出ていきなさい」

 

再び手にした小物に目を移した。日下部は暫くデスクの前に立っていたが、あきらめてドアに向かうと、紗世子はクルリと椅子を回して背を向けた。

 

 

同じ頃、首相官邸の副総理執務室には佐藤副総理の他、金子警察庁長官、山崎警備局長、折口官房副長官、内閣危機管理監、そして7年前の事件の際、身代金要求を突っぱねた柳沢環太平洋評議会専務理事がいた。

 

「ニューヨークから帰国したばかりでお疲れのところ、よくお越しくださいました」

 

「先程、山崎くんらから例の件について聞かされた時は驚きましたよ」

 

出されたコーヒーを飲みながら、ソファに座った柳沢は自分の斜め左前に座る佐藤の方を見て、太々しく笑いながら言った。

 

「SPの精鋭部隊が警護につきますので、警備の方はご安心を」

 

山崎が言うと、柳沢はコーヒーを飲み干したカップを応接セットのテーブルに置くと、静かに言った。

 

「その件ですがSPについてもらうのは良いとして、サミットの方は出席を見合わせようと考えましてね。何も知らない犯人グループが現れたら、逮捕及びテロリストたちの殲滅の絶好のチャンスですからね」

 

「日本警察の威信にかけ、必ず犯人グループを逮捕します」

 

山崎の宣言に満足した柳沢は一呼吸置くと、佐藤の方を向いた。

 

「いや、それにしてもこの前の記者会見は良かったですよ。『我々は毅然とした態度でテロと闘う』。今回の一件はニューヨークでも話題になっていましてね。各国から事件の対応に関して、弱腰と受け取られるのは私としても憤慨ですから、強気の姿勢を見せたあなた方日本政府の方針には納得ですよ」

 

「『だが、我々はテロの犠牲になる側の人間ではない』そういうわけですね?」

 

それまでじっと沈黙していた折口が、発言した。突然、横槍を入れてきた折口を当然、柳沢は歓迎する気もなく明らかに不満げな表情を浮べていたが黙ったまま、彼の発言を促した。

 

「我々には国民を守る責務があります。それなのに、自分たちは安全なところにいて、犯人逮捕のためならば例え一般市民を巻き込もうが関係ない、そう仰りたいのですか?」

 

折口は席を立つと、佐藤の目の前まで移動した。折口は顔には出さないものの、彼らの『関係ない』という姿勢に怒っていたのだった。

 

「事が起これば、何も知らない一般市民が巻き込まれることになるんですよ…!」

 

「だからこそ、警察がいるんです。当然、警察の方でも警備の方は十分にしてもらえる、でしたよね?」

 

柳沢に話の矛先を向けられた金子は動じる事なく、眼鏡をかけ直して答えた。

 

「無論、サミットが開かれる会場及び東京、名古屋、大阪の三大都市圏を中心に警察官を最大限配置しますが、先述した場所を含めた日本各地を警戒するのは事実上、不可能です」

 

金子の発言に納得するように頭を縦に振った佐藤は、彼の話が終わると折口を諭すように言った。

 

「折口くん、無理を言っちゃ金子長官もお困りになるよ。人にはそれぞれ役割っていうものがあってね、国家を1人の人間に例えるならば我々は“頭脳”だ。手足が多少擦り傷を負っても“頭脳”は、守られてしかるべきでしょう」

 

確かに、佐藤の言う通り自分らは“頭脳”と呼ばれる存在だった。しかし、あまりにも国民の命を軽んじている佐藤の発言にも憤慨する折口にとって、今の立場は両板から挟まれるように苦しい立場だった。

 

何も言い返せない自分に密かに、折口は自分自身に腹を立てていた。




次回は右京さんやコナンくんを出す予定です。

それにしても最近は、あまりにも暑過ぎてエアコンが手放せません汗


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30 公安的配慮

この暑さは、本当に辛いです…。

今回は、ちょっと劇場版とは違う展開にしてみました。


小五郎が逮捕されて三日目。コナンは警視庁を訪れていた。

本来ならば、警視庁本庁に子供が一人でで来るのはありえないことだったが、警視庁本庁の正門に立つ警官はまた事件関連で呼ばれたものと勘違いしてあっさり通したのだった。

 

朝の通勤ラッシュ時という事もあり、エントランスは職場に向かう人と夜間の仕事が終わりこれから帰宅する人でごった返していた。

コナンは入り口近くにあるベンチに座り、目的の人物を待った。

 

「杉下警部、おはようございます」

 

コナンは持っていたスケボーを抱えて、右京の前に立ち挨拶した。

 

「おはようございます。コナンくん、君から赴くとは何かありましたか?」

 

「小五郎のおじさんのことで、ちょっと」

 

 

廊下を歩く職員や特命係に隣接する組対5課の捜査員からの目線を物ともせず、右京とコナンは特命係の部屋に向かった。

右京はコナンを、部屋の左側にある応接セットに案内した。右京の棚にはレコードや書籍が置かれ、机にはビックベンを模したガラスの置物が陳列されていた。壁にもロンドンの地図が掲示されており、コナンは右京がイギリス好きである事を察した。

 

「僕は、エッジオブオーシャン爆破と平行して鷺沢瑛里華さんに関する事件も追っているのですが、どうもタイミングが良すぎると思いましてね?」

 

「FBI捜査官が殺され、ショッピングモールで起きた毒物混入騒動、エッジオブオーシャンの国際会議場の爆破、そして鷺沢瑛里華さんを使った身代金要求、まるで一連の出来事が繋がっている。そう杉下警部は考えているってこと?」

 

コナンが聞くと、右京は紅茶を一服すると答えた。

 

「チンさんから聞いた話ですが、『バーズ』は身代金要求や詐欺行為、各国の政府機関や金融機関等へのサイバー攻撃など様々な犯罪に手を染めていますが、大勢の人々が集まる場所で爆発を起こし大勢の無辜の人々を殺害するといった残虐的な犯罪は行なっていません。それなのに、国際会議場爆破について『バーズ』及び『レイブン』は一切、否定する声明を出していません」

 

「つまり杉下警部は、鷺沢瑛里華さんの身代金要求と国際会議場爆破は関連していると考えてるの?」

 

「その可能性は十分に高いと思いますよ」

 

コナンは出された紅茶に角砂糖をいくつか入れて、紅茶を甘くして飲んだ。一方、右京は考え込むコナンの姿がまるで工藤新一にそっくりな事に気付き、ますます彼に興味を抱いていた。

 

 

「おはようございます…って、コナンくん。どうしてここにいるのかな?」

 

右京に遅れること約十分後、特命係の部屋に冠城が到着した。冠城はコナンが部屋にいることに驚きながら自らのデスクにカバンを置き、朝一のコーヒーを作り始める。

 

「小五郎のおじさんのことが心配で…」

 

「小五郎のおじさん…。ああ、毛利探偵のことか。その事で検察庁内でまた動きがあってーー」

 

 

同じ頃、妃法律事務所には白鳥が訪れていた。

 

「追加の捜査を求められた?」

 

デスクの側に立っていた英理が訊き返すと、白鳥は「はい。日下部検事に」と答えた。

応接セットに座っていた蘭が身を乗り出す。

 

「じゃあその捜査次第で、お父さんが不起訴になるってことも…」

 

「いえ…追加捜査は日下部検事の一存で、公安警察は起訴を決めたようです」

 

白鳥の言葉に英理は「ちょっと」と眉をひそめた。

 

「なんで警察が起訴に口出すの?警察は検察に監督される立場のはず。何より起訴は検察官の独占的権限で…」

 

と何かを思い出した英理に、資料棚の前に立っていた境子は「ええ。おっしゃるとおりです」と言った。

 

 

場所は再び、警視庁特命係の部屋に戻る。

英理が話していた内容とほぼ同じ内容を冠城は語っていた。冠城は法務省のキャリア官僚であったことから、法務省及び検察庁の動きには敏感で法務省内に友人も多く、事件の最新進捗状況を入手できた。

 

「検察の刑事部や特捜部は、警察からの要望を退けますが公安部については少し事情が違うんです。右京さんはあまり知らないかもしれませんが」

 

冠城の言葉に右京は頷きながら言った。

 

「えぇ。確か、一口に公安部と言っても、我々警視庁、警察庁、そして日下部検事がいる検察庁、それぞれに公安部があると聞いています。警察は捜査した結果を検察に送りますが、検察はそれを受けて改めて事件を調べるとか」

 

「右京さんの言うとおりです。容疑者を起訴するかどうかはこの検察の調べを踏まえて、検察官が判断するのが普通です。でも検察の公安部だけは違います」

 

ボードに分かりやすく図を書いていた冠城は、ある一点を指した。

 

「はっきり言って、検察の公安は警察の公安に歯が立たないんです。捜査員の人数やノウハウに雲泥の差がありますから。よって、毛利さんの起訴にも『公安的配慮』が働くことがあります」

 

(公安的配慮、か…)

 

コナンは冠城の言葉にあった『公安的配慮』の言葉を心の中で復唱しつつ、右京のデスクに置かれた資料を眺めた。

 

 

その頃、とある場所で特命係の会話を盗聴している者がいた。

褐色の耳に差し込んだワイヤレスイヤホンから右京の声が聞こえてくる。

 

『瑛里華さん誘拐や、サミット会場爆破は、公安警察の顔に泥を塗ったのと同じですからねぇ。しかも、警視庁の衣笠副総監は公安警察とも関係があるそうですから、必ず起訴しろという圧力がかかるのも納得がいきますねぇ』

 

 

「それじゃあ、お父さんは…」

 

妃法律事務所で境子から同じことを言われた蘭が不安そうにたずねると、窓の外を見ていた境子はゆっくりと振り返った。

 

「えぇ。きっと起訴されます」

 

「そんな…」

 

落胆する蘭に近くにいた白鳥はかける言葉もなく、窓際に立つ境子を振り返った。

 

どこか悲しげな顔で蘭を見ているが、その口ぶりに英理は違和感を覚えた。

 

(境子さん…。まるで起訴を望んでいるみたいだわ…)




相棒劇場版llで、それぞれのキャストが「守るべきもの〜」というポスターが発表されていたので、その守るべきものを今回から不定期ですが、載せていきたいと思います。

杉下右京 守るべきものそれは正義


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31 コナンの一芝居

いよいよ、夏本番ですね。

時間には少し余裕ができたと思うので、ゆっくり書いていきたいです。


右京とコナン、それに冠城の三人は昼食を食べに行くため警視庁ホールにいた。受付でもらったビジターカードを胸につけてエントランスホールに向かって歩くコナンが冠城に言った。

 

「小五郎のおじさんのパソコンが、誰かに操られた可能性を警察では調べているんだよね?」

 

「あぁ。いくら起訴を推し進める警視庁公安部や衣笠副総監でも、事件を担当する検察庁の日下部検事の要請だから、応じないわけにもいかないんだ」

 

「そのようですねぇ。仮に拒否しても法務省が動く可能性もありますし、仕方のない事かもしれませんねぇ」

 

コナンは今までの会話や行動から、特命係を一応は信頼できる人たちと仮定し小五郎を助けるための助力を得ていた。対する右京や冠城もコナンを小学生にしては頭が切れる少年として、興味があることから協力していた。

 

「法務省って、どういうこと?」

 

「コナンくんは知らないはずだよね。実は日下部検事にはお兄さんがいるんだ。そのお兄さんがさっき右京さんが言っていた、法務省が動く可能性を生み出す人物、日下部彌彦法務省事務次官。法務省の歴史の中で、唯一検事ではない事務次官で俺が昔、お世話になっていた上司でもあるんだ。まぁ、今はとある一件でかなりぎくしゃくした関係なんだけどね」

 

コナンが知らない法務省の内実を語る冠城。法務省にパイプを持つ彼だからこそ知れる情報であった。

 

「杉下警部、言える範囲で教えて。新一兄ちゃんが小五郎のおじさんを助けるために、どんな情報でもいいから欲しいってーー」

 

「毛利先生がどうしたって?」

 

コナンが驚いて前を向くと、目の前にビジターカードを胸につけた安室が立っていた。

 

「…聞いてたの?」

 

「おや、君は『喫茶店ポアロ』で働いていたあのウェイターさんですね?」

 

コナンが警戒する中、右京が興味深そうに安室に目線を送ると、安室はわざとらしい驚いたような表情で返した。

 

「あぁ。毛利先生が逮捕された日に、ポアロに来ていた方ですね。あなた、警察官だったんですね!見た目がとてもお洒落だったのでてっきりファッション会社に勤めていると思っていましたよ」

 

その横で安室と面識のない冠城は、安室との会話が一段落した右京にそっと声をかけていた。

 

(右京さん?あの人は誰なんですか?)

 

(君も会っていると思いますよ。毛利さんが逮捕された際に、我々はポアロを訪れていましたね。その時のウェイターが今我々の目の前にいる人ですよ)

 

右京に言われ、冠城は数日前の記憶を遡り褐色の肌をした若い男性ウェイターがいたことを思い出した。

 

「僕は毛利先生が心配で、ポアロから差し入れを持ってきただけだよ」

 

と安室は手にした紙袋を見せる。

 

「あぁ、毛利さんならここにはいませんよ」

 

「送検されたら原則、身柄は拘置所に行く。安室さんが知らないはずないよね」

 

右京の後にコナンが皮肉めいた言葉を投げかけると、

 

「へぇ、そうなんだ。君は相変わらず物知りだね」

 

安室は感心したような芝居を打ち、踵を返して歩き出した。その後ろ姿に向かって冠城は言った。

 

「それから、拘置所にこういったものは差し入れできませんので。仮に持って行っても、返されるのが現実ですよ」

 

「分かりました」

 

安室は振り返らずに右手を軽く上げ、正面玄関に向かった。コナンと右京、冠城の三人はその姿を目で追い続ける。

 

(何が狙いなんでしょうねぇ…)

 

その時、正面玄関から入ってくる人の中に、見覚えのある人物がいた。それは風見だった。

正面玄関から出ようとした安室は、入ってきた風見とすれ違った。

 

「『2291』、投入成功」

 

すれ違ざま、風見は前を向いたまま小声で言った。互いに足を止めることなく、反対方向に進んでいく。

 

 

安室の姿を目で追っていた右京とコナンは、二人がすれ違う瞬間、風見の唇が動いたのを見逃さなかった。

 

(なんだ?安室さんに何を話した!?)

 

コナンは、エントランスホールに入ってきた風見に駆け寄った。その後を右京と冠城も追う。

 

「ねぇ、刑事さん!おじさんちから持ってったパソコン返してよ!ボクの好きなゲームも入ってるんだから!」

 

ジャンプして風見の手をつかみ、ぶらんぶらんとぶら下がりながら、風見のスーツの袖裏にシール式発信機を仕込む。

 

「だから、ねー?おねがーい!」

 

「あれは証拠物件だ。まだ返せない」

 

「コナンくん。警察はまだ捜査中なのですから、返せませんよ」

 

駆け寄った右京がコナンの両脇に手を入れ持ち上げると、風見はコナンに引っ張られたスーツを直しながら歩き出した。

 

「博士が作ってくれたソフトなのに〜!」

 

コナンは残念がるふりをしながら、去っていく風見を見つめた。

 

 

 

 



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32 コナンの決意

サブタイトルが思いつかない…。

今回は、橘境子と杉下右京が出会います。


警視庁を後にした右京、冠城、コナンの3人は以前、右京と小野田がよく訪れていた喫茶店『日比谷茶廊』にて昼食を済ませた後、冠城の車で妃法律事務所へ向かった。

 

「あ、コナン君。何度も電話したのよ」

 

着信あったっけーー蘭に言われて、コナンはズボンの後ろポケットからスマホを取り出して電源ボタンを押した。すると、画面にバッテリー切れの表示が出た。

 

「あれ?バッテリーが切れてる」

 

「あれで充電できる?」

 

自分のデスクにいた英理が応接セットのテーブルに置かれた充電器を指差した。

 

「うん、ありがと」

 

コナンが充電器にスマホを置くと、充電中を示すインジケーターランプが点灯した。

 

(いつもはもっとバッテリーもつのに…)

 

「杉下警部、冠城刑事。コナン君が勝手にあなた方の職場に押しかけたそうで、ご迷惑ではありませんでしたか?」

 

コナンがスマホのバッテリー切れについて疑問を抱いている一方で、蘭はコナンをここまで面倒を見てくれた、右京と冠城の2人に感謝をしていた。

 

「いえ、頼まれればなんでもするのが特命係ですから。それに、コナン君は実に面白いところに気付くもので、将来がとても楽しみなお子さんですねぇ」

 

「将来は右京さんのような、警察キャリアになるのも一つの将来の道と自分も思いますよ」

 

そんな2人を英理は興味深そうに、見つめていた。

 

(特命係…。『警視庁の人材の墓場』と揶揄されている部署だけど、数々の難事件を解決に導く、その能力は警視庁一と言っても過言ではない。コナン君がそんな部署の人たちとのコネクションを持っていたとは、意表を突かれたわね…)

 

「で、なんで電話くれたの?」

 

「もうすぐ事件の資料が届くの」

 

「蘭がコナン君にも見てほしいって」

 

英理の言葉に、蘭は静かに微笑んだ。

 

「だってコナン君は杉下警部の言うとおり、よく面白いとこに気付くし…それに、何かあったら新一に伝えてくれるかもしれないし…」

 

新一のことを思い出している蘭はどこか寂しげに見えて、コナンは胸が痛んだ。

 

「うん!新一兄ちゃんに必ず伝える!」

 

「…ありがと、コナン君」

 

「蘭。良かったら、杉下警部と冠城刑事にも事件の資料を見てもらったら?」

 

応接セットから蘭とコナンの会話を聞いていた英理はコナンの後ろに立つ、2人にも声をかけた。

 

「僕からもお願いします。警察の資料は入手できますが、検察の資料は簡単には閲覧できないものですからねぇ。僕たちもコナン君や蘭さんの力になってあげたいと考えています」

 

「なんたって自分たちは好き勝手動く、『特命係』ですからね。必ず、真相を暴いてみせますよ」

 

冠城の笑顔に僅かに、蘭は明るさを取り戻した。

 

「お2人にはご迷惑になりますが、どうかお願いです。父を、助けてください…!」

 

蘭は目に溜まる涙を堪えて、右京と冠城に頭を下げた。

 

 

するとドアが開き、封筒を持った境子が入ってきた。境子はコナンや蘭の他に、部外者の右京と冠城がいることに警戒した。

 

「失礼ですが、あなた方は?」

 

「これは失礼しました。警視庁特命係の杉下右京と申します」

 

「同じく、冠城亘です」

 

右京と冠城は、名刺入れから名刺を取り出すと境子に渡した。2人は特命係という単語を聞いた直後、僅かに境子の頰が強張ったのを見逃さなかった。

 

「妃先生、よろしいのでしょうか?この様な第三者に重要書類を閲覧可能にすることは、守秘義務に違反する可能性があります。そうなればこの2人はもちろん、私や妃先生にも影響が出る恐れがありますが…」

 

「彼らが所属する特命係は、警視庁の中で『人材の墓場』と揶揄されていて、今更警告しても自由に行動するのよ。彼らの行動力と実績、どんなものが障害になろうとも動じない芯の強さは私が保証するわ」

 

「…分かりました。妃先生がそこまで仰るのならばこれ以上、私から言うことはありません。こちらが検察側が申請した証拠です」

 

コナンが「え!」と振り返ると、境子は裁判所名の入った資料封筒を掲げた。

 

 

その頃、安室は雑居ビルの一室にいた。

窓に目張りがされた薄暗い部屋にはほとんど物もなく、中央にノートパソコンが置かれたテーブルと椅子があるだけだった。

 

椅子に座った安室は手にしたスマホを見ていた。画面にはローアングルで撮られたコナンが映っている。

 

『ということは、おじさんの起訴が決まったの?』

 

『検察側から間もなく起訴するって連絡があったわ』

 

耳に装着したワイヤレスイヤホンからは、コナンと英理の声が聞こえていた。

 




右京さんに続いて今度はコナンの信念?です。

江戸川コナン/工藤新一 守るべきものそれは真実


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33 検証

今回は、少し短めです。

色々あって、書く時間がないためです。


「お父さん…」

 

小五郎の起訴が決まったことを知った蘭は、力なくうなだれた。

 

「大丈夫。必ず助けるから」

 

と励ました英理は「あちらへ」と境子に目配せをして、応接セットに向かう。境子は英理の正面に、右京と冠城は2人がけのソファに座った。

 

境子は全員が着席したことを確認すると、封筒から資料を出してテーブルに広げた。

 

「供述調書、現場鑑定書、それと現場鑑識写真ですね」

 

「すごい量…」

 

テーブルいっぱいに広げられた資料に蘭が驚いていると、英理が現場鑑定書に手を伸ばした。右京の隣に座っていたコナンも身を乗り出し、テーブルに並べられた現場鑑識写真を、右京は供述調書を見つめた。

 

(何か手がかりを見つけねぇと…クソ、何かないか!?杉下警部は何か見つけたのかな?)

 

ナンバリングされた写真には証拠名と説明が記されていた。

『爆発現場』『国際会議場ガラス片』『毛利小五郎の炭化指紋』『高圧ケーブル爆破片』ーーその中に『不詳』と書かれたガラス片の写真があり、コナンはかぶりつくように見た。

 

「どうかしましたか?コナン君」

 

隣に座っている右京に訊かれて、コナンは「え?」と顔を上げた。

 

「いや…どこかで見た気がして…」

 

それは特に目立つことのない黒っぽいガラスだった。けれど、コナンはどこかで見たような気がしたのだ。

 

現場鑑定書を手にとって見ていた英理は、フゥ…とため息をついた。

 

「これ見ると、爆破の手口がよくわかるわね…」

 

「我々警察は捜査資料を製作する際、詳しく書きますので、こういった内容になるのは必然なものですから」

 

右京が説明すると境子が続けて言った。

 

「警察の捜査資料って犯罪の詳しい手引書みたいなもんですよね」

 

(手引書…)

 

コナンがなんとなく引っかかっていると、どこからかスマホの着信メロディが聞こえてきた。

境子がジャケットのポケットからスマホを取り出し、耳に当てた。

 

「はい、橘です。…裁判所?」

 

一同はハッとして境子に目を向けた。

 

「…はい。公判前整理手続きですか…」

 

 

東京地検・統括検事室。

 

夕方になり、紗世子がコーヒーメーカーでコーヒーを淹れていると、

 

「岩井統括!」

 

険しい顔つきをした日下部が入ってきた。

 

「なぜ私に黙って、起訴するなんて連絡を弁護側にしたんですか!」

 

「何度も言わせないで。これは公安警察の判断よ」

 

紗世子はコーヒーを片手に日下部の前を横切り、応接セットのソファに腰を下ろした。

 

「起訴の判断だけでなく、タイミングまで公安警察の言いなりですか」

 

「それでさっそく明日、検察側、弁護側と公判前整理手続きをしたいと、裁判所から連絡がありました」

 

「その連絡がなぜ岩井統括に入るんですか!担当検事は私ですよ!」

 

憤る日下部を前に、紗世子は淡々とした表情でコーヒーを口にした。そして、

 

「手続きが終わったら、連絡よろしく」

 

念を押すように言って、日下部を睨みつけた。




先週は涼しかったのに、今週はまた暑くなってきましたね…。

暑い…!


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34 秘密の会合

今回はオリジナルストーリーが半分近くを占めています。

台風絶対、来るんじゃねぇ!


その夜。赤坂にある料亭の前には黒塗りの高級車が何台もやってきては要人を下ろしていた。

ここは明治時代から営業している老舗日本料理店で、過去には岩崎弥太郎、伊藤博文、東郷平八郎を始め、明治という激動の時代を生きた偉人たちを始め、多くの政財界の関係者や著名人が多く訪れていた。

 

 

「ようこそいらっしゃいました。お連れ様は奥でお待ちになっておいでです」

 

料亭の女将に案内され、縁側を歩くのは日本政府の高官の一人で佐藤副総理や山崎警備局長とは違う見方を会議で述べていた、折口内閣官房副長官(政務担当)であった。

 

折口は政府の方針とは別に独自に調査を進めており、今日この料亭にはその協力者に会うために来ていたのだった。

 

 

「どうも、時間を取らせてしまって申し訳ない」

 

折口が案内されたのは料亭の中でも奥まった場所にある6人ほどが入れる座敷部屋だった。この部屋は主に政治家や財界人が秘密会議をするのに利用されており、過去には大規模汚職事件の際、金の受け渡しの場所にもなっていたと噂されているような部屋だった。

 

襟を正した折口は、先にいた先客たちに詫びの挨拶を入れた。

 

「いえ。我々も今しがた着いたところですので、お気になさらず」

 

柔らかな物腰で折口を座敷の上座に案内したのは、警察庁の金子長官だった。

 

「この度、皆さんに集まってもらったのは他でもない今起こっているあの事件についてです」

 

すぐ裏にある日本庭園をよく眺められる位置にこの部屋はあり、窓からはライトアップされた庭園が美しく見える。窓側の上座に座った折口はおしぼりで手を拭いた後、集まっている面々に挨拶した。

 

この秘密会合に集まっていたのは、先述した金子長官、甲斐官房付、社警視庁広報課長、黒田捜査一課管理官、そして小田切敏郎警察庁刑事局長 警視監であった。

 

「この事件では容疑者として名探偵、毛利小五郎が逮捕・起訴されていますが、これは公安警察の思惑が絡んでいるのではないかと私どもでは考えていましてね」

 

上座に座っていた甲斐が報告すると、下座にいる小田切が口を開いた。

 

「私は以前、毛利くんととある事件で知り合っているが彼は職を辞しているとはいえ、元警察官だ。正義感に溢れる彼がそんな愚かな真似をするとは思えない、と考えている」

 

「しかし現場からは彼の指紋、彼のパソコンからは国際会議場の見取り図及びサミットの予定表が出てきています。彼が犯人という見方は警察を始め、検察内からも出ていると聞きます。毛利氏の勝算はかなり薄いかと」

 

小田切と社の話を聞いた折口は彼らと同じ下座に座り、折口から一番遠くにいる黒田にも聞いた。

 

「黒田管理官、あなたの見解も聞かせてもらえませんか?」

 

「官房副長官、私はごく普通の管理官です。特に何の才能を持たない老人であり、私ごとの意見は参考程度に聞いてもらえると嬉しいのですが…」

 

「想定で構いません。思うところがあったら言ってください」

 

黒田は事前に出されていたビールを飲み干すと、折口の問いに答えた。

 

「私は捜査本部の陣頭指揮をとるものです。その立場上、ある一点の立場を言うのは職務上、問題があるかもしれませんが言わせてもらいます。私は、毛利探偵の推理を見た過去があり彼の人柄からも考えた結果、小田切警視監の仰る通りそのような真似をするはずがないと考えています」

 

黒田の意見に頷いた折口は個室電話で前菜を持って来させ、食べながら会合を続けた。折口は重要な話をするため、料理は全てこちらから指示があった時に運ぶよう、オーダーしていた。

 

 

同じ頃、安室は喫茶ポアロの従業員の梓と大型スーパーに買い出しに来ていた。

 

ショッピングカートを押す梓と二人で、通路の両側にある大きな冷凍ショーケースをチェックする。

 

「ないね〜、あの大きなアイスクリーム」

 

「ですねぇ」

 

すると、梓が前方に店員がいるのを見つけた。

 

「あ、私、店員さんに訊いてくるから、安室さんは小麦と卵をお願い」

 

「梓さんはいいお嫁さんになりそうですね」

 

安室が何気なく言うと、梓はビクッと肩を跳ね上げ、「シッ!」と人差し指を口に当てた。

 

「軽はずみな言動は避けて」

 

「え?」

 

「安室さんはウチの常連のJKに大人気で、この前も私が言い寄っているってネットで大炎上だったんだから!」

 

梓はすばやくスマホを操作して、炎上したというSNSの画面を見せた。

 

「今の時代、どこで誰が聞き耳を立てているかわかんないですからね!」

 

そう言って周囲をキョロキョロと見回すと、店員の方へ走っていく。

 

「ですね…」

 

苦笑いした安室はショッピングカートを押して、小麦粉の棚に向かった。

 

まるで倉庫のような広い店内には天井近くまで商品が積み上げられていて、小麦粉もたくさんの種類があった。




今月の9日からしばらく関西に滞在しますので、コナンの名所を見て行こうかな、と考えたりしています。


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35 安室の意志

皆さんはこの夏休みを満喫していますか?

自分は暑さと課題に追われながら楽しい?夏休みを送っています。


「降谷さん」

 

大型スーパーに梓とともに買い出しに来ていた安室は棚の向こう側にいた風見と出会った。

 

「なぜ事件にすることにこだわるんです?我々の行動は警視庁内にも疑問の声が出ています。あまりに大胆な行動をとると公安自体に批判が集中しますし、何より殉職した小野田元官房長の名に泥を塗ることになりますが…」

 

風見の言葉に安室は顔色一つ変えず、棚から小麦粉を取ってカートに入れた。

 

「事故で処理されれば、令状一つ取れなくなる」

 

棚の向こうの風見も買い物客を装うように、お菓子の袋を持ち上げた。

 

「公安なら、令状なしの違法捜査もできるはずです。現に官房長はそういった事を黙認していましたし、彼自身もすれすれの違法捜査を行っていたはずですが?」

 

「だが、官房長は合法的な手段も残していた。官房長は違法捜査ばかり行えば、自分の首を締めることになることはお分かりになっていたし、何よりその事を暴こうとする連中がそれを許さないだろう」

 

「週間フォトスの風間楓子ですね?」

 

風見が棚から週間フォトスの記者で、後に社の秘密を暴くことになる風間楓子の名前を出したが、安室は否定した。

 

「いや、彼女は警察に対して日々批判的な記事を書いているが彼女ではない」

 

「では衣笠副総監ですか?」

 

「なるほど、確かに彼や彼の派閥が官房長に対して恨みを持っていてもおかしくはないが、彼でもない」

 

「では…他に誰が?」

 

風見は頭を悩ませるが、安室は目元を厳しくして言った。

 

「警視庁特命係の杉下右京とその部下だよ」

 

「え!?彼らのような窓側部署の連中がですか?あり得ないように感じますが…」

 

風見は特命係を知っていたが、それはあくまで外面の窓側部署だということだけで、特命係の真相は知らなかった。

 

「君も知っての通り、警視庁組織犯罪対策部の管轄に所属する特命係は『人材の墓場』と揶揄される部署だ。しかし、係長の杉下右京は小野田官房長と時には協力、時には対立した仲で、かなり親交はあったようだ。余談だが、特命係は官房長が作られた部署でもある。そして、杉下右京は何より絶対的正義を絶対とする。彼は国家の利益に最終的に繋がる違法捜査や司法取引も許さず、執念深く捜査し追い詰める。そんな彼について来る部下たちもおそらく、同じ信念を持っていると考えられる」

 

「『サルウィン』へと移住した元巡査部長の亀山薫、警察庁長官官房付の神戸尊警視、ダークナイトとして逮捕された甲斐享元巡査部長、そして法務省からの転属という異色のキャリアを持つ冠城亘巡査、ですよね?」

 

「そうだ。彼らは杉下右京の下につきながら彼の信頼を買い、彼と様々な事件を解決した、いわば『相棒』と呼べるにもふさわしい部下たちだ。彼らならば公安の違法捜査を許さず追求して、全てを白昼の下に晒すだろう。彼らがいたからこそ、官房長は合法的な手段を残らせていたんだ」

 

小麦粉をもう一つのカートに入れた安室は、商品を見るふりをして棚の向こうの風見に改めて目を向けた。

 

「自ら行った違法な作業は、自らカタをつける。それが公安だからな」

 

 

その頃。買い物客で賑わう大型スーパーの出入り口のそばで、右京たちと分かれたコナンが一人立っていた。

 

『しかし、合法的に事件を公表するか、違法に隠蔽するかを決めるのも、我々公安のはずです』

 

盗聴器になっている犯人追跡メガネのツルの先から、風見の声が聞こえてきた。

 

 

「もちろんだ。ただし、どちらが最も日本を守ることになるかを考えたうえでな」

 

巨大な棚を挟んで風見と向かい合っていた安室は、カートを押して歩き出した。すると、

 

「あ、安室さーん!」

 

梓が駆けてきた。

 

「店員さんに教えてもらったとこには、普通のアイスしかなかった!」

 

安室は「ああ」と笑顔を向けた。

 

「店員さんに訊くときに『業務用アイスクリーム』って言わないと、あれはきっと売り場別ですから」

 

「あ、そっか」

 

笑いながら店員のところへ向かう二人を棚越しに見た風見は、逆方向に歩き出した。

 

 

 

小五郎が逮捕されて三日目。

 

東京地方裁判所の一室で公判前整理手続きが始まり、境子と日下部は裁判官の前に並んで立った。

 

「ではまず検察官から、証明予定事実を明らかにし、証拠を開示してください」

 

「はい。ではまず証拠の一覧から提出いたします」

 

日下部は鞄から証拠の一覧表を取り出した。

 




実は10日に3年ぶりにユニバーサルスタジオジャパンを訪れていました。

僕を見つけられていたらとてもラッキーですね!(多分無理)
ハリウッドドリームザライドに乗ったとき、テイラースウィフトの『shake it off』があった時は歓喜して、それを流しながら乗った時は最高でしたね!


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36 境子と風見

最近は涼しくて、過ごしやすくていいですね。

久しぶりの投稿です。


東京地方裁判所の廊下で、蘭は英理やコナンと一緒に公判前整理手続きが終わるのを待っていた。

 

「蘭、落ち着いて」

 

英理はベンチの前をうろうろと歩き回る蘭に声をかけた。

 

「でも…」

 

「今日はまだ裁判じゃないんだよね?」

 

ベンチに腰かけたコナンは隣の英理にたずねた。

 

「そう。『公判前整理手続き』。争点や証拠を絞り込んで、日取りを決めるだけ」

 

英理は「言ったでしょ?」と立っている蘭を見た。

 

「そうだけど…」

 

そのとき、部屋から日下部誠と境子が出てきた。蘭が「境子先生!」と駆け寄っていき、英理とコナンも後に続く。

 

境子の先を歩いてきた日下部誠は、鞄からスマホを取り出した。

コナンが日下部誠とすれ違ったとき、ピッポッパッ…と音がして、コナンは振り返った。

スマホのロックを解除するために暗証番号を入力したのだ。

 

「岩井統括、日下部です。たった今、公判前整理手続きが終わりました」

 

日下部誠は電話しながら去っていき、コナンは境子たちの元に向かった。

 

「日下部検事が開示した証拠は?」

 

「先にもらっていた証拠のとおりでした。これが一覧です」

 

英理に訊かれた境子は、手にしていた多くの検察側証拠の中から一覧表を差し出した。

 

「公判期日は?」

 

「決定しました。それも予定どおりです」

 

境子はジャケットのポケットに入れたスマホをチラリと見ると、持っていた検察側証拠を英理と蘭に預けた。

 

「すみません。ちょっと読んでてください。お手洗い行ってきます」

と走っていく。しかしトイレは境子が走る方向と逆側にあった。

 

「あ、境子先生!トイレ、反対側!」

 

コナンが声をかけたが、聞こえないのか境子はそのまま走っていってしまった。

 

「境子先生もきっと緊張してるのよ」

 

英理は軽くため息をつくと、蘭と検察側証拠の確認を始めた。

 

そのとき、コナンの耳元でザザッ…というノイズがした。犯人追跡メガネが盗聴音声を受信したのだ。

 

『…だ…そう…』

 

風見の声だった。

 

(これは昨日、風見刑事に仕掛けた…近くにいるのか?)

 

コナンはメガネの左レンズで発信機の位置を確認した。すると、発信機の位置を示す光点が、レーダーの中心近くで点滅している。

 

(近い!まさかこの裁判所の中に!?)

 

廊下を走り出したコナンは、角を曲がって二階の踊り場に出た。吹き抜けになった一階ホールには大勢の人がいる。

 

(クッ…どこだ!?)

 

コナンがホールを見回しているとーー盗聴器から着信メロディが聞こえてきた。

 

(これは境子先生の着メロ!?)

 

『あ、すぐ戻ります』

 

スマホで話す境子の声が聞こえてきて、コナンは驚いてメガネを外した。

 

(なんで風見刑事の盗聴器から境子先生の声が…たまたま風見刑事の近くにいたのか?)

 

いや、違うーーコナンはすぐに自分の考えを否定した。

 

(音声を聞いた限り、二人はしばらく近い距離にいたはず。たまたまじゃない…)

 

コナンはメガネをかけ直すと、険しい目でホールを見つめた。

 

 

警視庁の大会議室では刑事部と公安部の合同捜査会議が行われ、公安部側の席についた風見が捜査結果を報告していた。

 

「我々公安部の捜査の結果、爆破現場への不正アクセスに『Nor』が使われていたことがわかりました」

 

「ノーア?『ノアの箱舟』をモチーフにしたなにかか?」

 

黒田と並んでひな壇に座っていた内村が問い返す。

 

「いえ、IPアドレスを暗号化し、複数のパソコンを経由することで辿れなくするブラウザソフトです」

 

「ノーアの匿名性は解除できないのか」

 

黒田の問いに、風見は「原則的にできません」と即答した。

 

しかし、ここで捜査本部に出席していた岩槻が立ち上がり風見の代わりに説明を行った。

 

「失礼します。サイバー犯罪対策課の岩槻です。公安部から捜査協力を要請され調査した結果、ノーアのブラウザに構成ミスやバグがあれば、ユーザーを特定できる可能性があるそうです。逆に言えば、犯人のノーアブラウザにこちらから脆弱性を作れば、追える可能性があります。現在、サイバー犯罪対策課と公安部でサーバーを辿り、ユーザーが特定できる可能性を探っています」

 

「ノーアだかなんだか知らんが、毛利君にそんなことできるかね」

 

目暮は反論した。パソコンに詳しくない小五郎がそんなソフトを使えるとは到底思えないのだ。

しかし、

 

「ノーアは素人でも簡単に使えます」

 

風見に冷たい目つきで言い放った。

 

「そんな…」「一体、どうなってるの?」

 

高木や佐藤ら刑事部からざわめきが起きた。何が何でも小五郎を犯人にしようとする公安部の強引なやり方に、誰もが疑問を抱き始めていた。

 

「目暮警部、あなたは小五郎氏を余程犯人にしたくないようですね。これだけの証拠があがっているのにも関わらずに」

 

ひな壇の中央に座っていた衣笠は黒田の隣に座っている目暮を睨んだ。

 

「ということは、あなた方刑事部は小五郎氏とは別に犯人の目星が付いているということですか?」

 

「いえ、そういうわけでは…。しかし、副総監。前にも申し上げた通り、毛利君はこのようなパソコン関連の扱いには不慣れでして…」

 

「そういったことは簡単に言い訳できる、違いますか?」

 

言葉は丁寧だが、明らかに刑事部延いては目暮に対して強い不満を衣笠は醸し出していた。尚も、反論しようとする目暮に内村は咳払いしてこれ以上、意見するのを止めろと遠回しに伝えた。

 

そのときーー風見はズボンのポケットから着信振動したスマホを取り出した。

 

「…すみません。招集がかかりました。一時、退席します」

 

黒田が「うむ」とうなずくと、風見は後方の扉から出ていった。

 



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37 暗い事実

夏休みがもう間も無く、終わってしまいますがいかがでしょう。

宿題が終わってない人もまだまだ間に合います。頑張りましょう!


その頃。コナンは警視庁そばの公園にいた。橋の近くにある休憩所の柱に寄りかかり、犯人追跡メガネに搭載された盗聴器で捜査会議を聞いていた。

 

(招集?)

 

盗聴器から聞こえてきた風見の言葉に首をかしげると、

 

「コナンくん。こんなところで何をしているのでしょう?」

 

突然、背後から声がした。驚いて振り向くと、柱の向こうから歩いてくる右京と冠城が見えた。

 

「な、何って…。小五郎のおじさんの事で裁判所に来てたから…そのついでで…」

 

コナンはその場しのぎの理由を作って二人に言ったが、彼らは納得する素振りこそ見せたものの、本心では更に疑念が深まったような眼差しをコナンに向けた。

 

「なるほど。ところでそのメガネ、一度見せてもらってもよろしいでしょうかねぇ?ある事について気になっている事があるものですから」

 

「あるものって?」

 

コナンが首をかしげると、右京の隣に立つ冠城が説明した。

 

「コナンくんは知らないかもしれないけど、実は警視庁の大会議室が盗聴された事があってね。その教訓として、捜査本部の情報管理を徹底していたはずなんだけど、どうやら今回の事件で捜査情報が漏れている可能性があるんだ。調べてみると君の身につけているものに盗聴器の類がある可能性があるから、今から調べさせてもらいたいんだよ」

 

「ぼ、ぼくのメガネは普通のものだよ。それに盗聴器は普通大きいから分かりやすいって、テレビでやっていたからそれならぼくのメガネを調べる必要はないと思うけど…」

 

コナンが冷や汗をかきながらも必死に誤魔化しているのは、それまで幾度か他人に自分の正体がバレそうになった時もこうして誤魔化すことでどうにか切り抜けた自信があったからだった。

しかし、演じる子供の演技にも右京の眼差しは変わらなかった。

 

「今の技術ではコンセントの中にさえ、盗聴器を隠すことは可能です。それに君の言動に注目すると、どうも一般の小学一年生にしては言動が大人びている気がするんですよ。細かい事が気になってしまう、僕の悪い癖」

 

コナンと右京、冠城が対峙しているところへまた新たな人物がやってきた。

 

「毛利小五郎のことになると、君は一生懸命だね。それとも、蘭姉ちゃんのためかな?」

 

ズボンのポケットに両手を突っ込んだ安室は挑発的な笑みを浮かべ、コナンはクッと噛み締めながらにらみつけた。

 

そのときーー植え込みの方からガサッと音がした。

 

「構わない、出てこい」

 

安室が声をかけると、風見が出てきた。

 

「なぜ、私を呼んだんです?降谷さん。それにそちらは…まさか…」

 

風見に無言で近づいた安室は、いきなり風見の腕をつかんでねじり上げた。風見が思わずその場にひざをつく。すると、安室は風見の袖裏から盗聴発信機を外してみせた。コナンが仕掛けた盗聴発信機がバレていたのだ。

 

「おや、これで会うのは三度目ですねぇ。やはり、君も我々と同じ警察官でしたか。確か、お名前を聞いてませんでしたねぇ」

 

「風見、第三者がいる前で名前を晒すとは…。これでよく公安が務まるな」

 

「す…すみません…」

 

安室は風見の目の前で盗聴発信機を指で押しつぶした。そして風見の手を離して歩き出す。去る際、安室は右京と冠城に自ら名前を明かした。

 

「僕の名前は、降谷。この風見と同じ公安に所属する者です。また合間見えるといいですね、和製シャローック・ホームズこと杉下右京警部、法務省から異例の異動をした冠城亘巡査」

 

そう言った安室、いや降谷は公園から出て行こうとした。

彼らのやりとりを見ていたコナンがハッと我に返る。

 

「待って!」

 

柱に立てかけていたスケボーを取り、降谷を追いかけた。右京と冠城、それに風見も後を追う。

 

橋の真ん中で立ち止まり、周囲を見回したが、降谷の姿はどこにもなかった。

 

「盗聴器は君が仕掛けたのか?」

 

橋を渡りかけた風見はコナンにたずねたものの、すぐに「いや、まさか」と打ち消した。

 

「こんな子供が…」

 

ありえない、と自嘲気味にかぶりを振る風見を、コナンがまっすぐ見つめる。

 

「降谷さんが恐らく所属するのは、全国の公安警察を操る警察庁警備局警備企画課、通称『ゼロ』でしょうねぇ」

 

「そんな立場の人間に接触できるのは、公安警察の中でも限られた刑事だけ」

 

「その刑事さんが風見さんだったんだね」

 

風が吹き、四人の間を幾つもの葉が舞う。目を見開いた風見は、緊張気味に一歩退いた。

 

「『警視庁の人材の墓場』と称される特命係。そして…君は一体、何者だ」

 

子供に言う言葉ではないーー頭では分かってわかっていたが、風見は訊かずにはいられなかった。

 

「江戸川コナン。探偵さ」

 

コナンは大人びた瞳を風見に向けた。

 

スケボーを抱えて立つその姿は、どう見てもただの小学生なのに、その言葉は妙に説得力があった。

 

どんよりとした曇り空からぽつぽつと雨が降ってきた。川の水面に無数の波紋が広がっていく。コナンが進もうとすると、手すりに寄りかかった風見が口を開いた。

 

「君の言う、安室という男は…人殺しだ」

 

「…!?」

 

「降谷さんは、過去に殺人を犯した事があるのですか?」

 

コナンや右京は立ち止まって振り返った。

 

「数年前、拘置所で取り調べ相手を自殺に追い込んだ」

 

「自殺って…」

 

風見はしばらく無言で、雨粒が跳ねる水面を見つめていた。

 

「…悪い。子供に言うことじゃなかった。だが杉下警部ならともかく、なぜか君にはこんな話ができてしまう。変わった子だ」

 

そう言って風見は強くなった雨の中を歩いていった。その後ろ姿をしばらく見つめていたコナンも歩こうとした時、右京は声をかけた。

 

「コナンくん、君の能力を買って一つ提案があるのですが、これから警察学校に行ってみませんか?」

 

「警察学校?」

 

コナンが訊きかえすと、傘をさした冠城が答えた。

 

「実は右京さんの知り合いに、昔刑事部で鑑識課にいて今は警察学校の教官を務めている人がいるんだ。その人に『レイブン』の鍵となる音声データの解析をお願いしていたんだけど、その解析が終わったからこれから右京さんと俺、そしてチンさんとで向かうんだ。これから来るかい?」

 

コナンは間髪いれずに「うん」と答えた。



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38 迫り来る恐怖

タイトルは物騒ですが、中身はそれほど物騒ではありません。


右京と冠城、そしてコナンの3人は公園を出た後、チンが待つホテルのエントランスへ冠城の自家用車で向かっていた。

その車中で右京が語る。

 

「『意外な着眼点で事件解決の糸口を見つけ推理のバックアップをする、眠りの小五郎の知恵袋』。警察庁ではそう噂されていますが、やはり君を一小学生と捉えるのはいささか不釣合いではないですかねぇ」

 

「えぇ。まるであの高校生探偵、工藤新一にそっくりですよ」

 

「だからそれは、新一兄ちゃんの真似をしてるから…その癖で…」

 

コナンの正体に疑問を抱く右京と冠城、必死に隠そうとするコナン。本来であるならばコナンの誤魔化しが効くのだが、今回は相手が相手なのでコナンに対する追求は厳しいものがあった。

 

「それよりもこれから迎えに行くチンさんって確か、ショッピングモールの騒動の時、阿笠博士と同じ病室に運ばれたあの白髪のおじいさんの事?」

 

「えぇ、エドワード・チンさんは国際刑事警察機構、通称『ICPO』の専務理事を務める一方、過去にはジェイ・ノリス氏と同じ連邦捜査局『FBI』の情報部の捜査官の経歴を持つ中国系アメリカ人です」

 

「警視庁の広報課長である社警視正とは、彼女が内閣情報調査室勤務時代の知人でこれから迎えに行くのは、彼と警察学校に行くためなんだよ」

 

助手席に座った右京と運転している冠城は、交互にコナンに説明する。

コナンの脳裏には警視庁の会見の際に現れる、長髪の黒髪を持つ美人女性キャリアが映っていた。

 

 

そして、チンをホテル前のロータリーで拾った3人はそのまま警察学校に向かった。

コナンと同じ後部座席に座っていたチンはコナンを見て「そうか、この子が」と口にした。

 

「前から気になっていたんだが、やはり君があの『キッドキラー』と呼ばれる江戸川コナン君か。かつて、ルパン一味と対峙した事もある君の噂は『ICPO』内でも有名だよ」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

チンの探るような目つきにコナンはまたかよ、と心の中で呟きながらまた誤魔化す羽目になった。

 

「杉下さん、どうやら『レイブン』の捜査は難航している様で」

 

「申し訳ありません。捜査本部はエッジオブオーシャン爆破を優先事項としており、『レイブン』は二の次になっています。どうも、身代金を払っても人質が返ってくるのかが分からず、そもそも身代金の支払い期限を過ぎた後も、『バーズ』は行動を起こしていないので捜査本部での優先順位が低いようです」

 

チンは右京の言葉を聞いてため息をつくと、後部座席の背もたれに背中を押し付けた。

 

 

「『断ろう、断ろう』と思っているうちに、目に見えぬ何者かに操られるようにして引き受けてしまう、この私という不条理な存在」

 

「よろしければ、結果の方を」

 

右京に促され、米沢は大講堂の教卓に置かれた2台のノートパソコンのうちの一台を使い、モニターの地図を拡大し赤い点をいくつか入れた。

 

「動画の背景に聞こえていた走行音は城西線のものでした。動画に映っていたアジトの時計は五時四十分、窓からの光は色調からみて早朝です。その時刻に城西線の走行音が聞こえるのは、全部で六箇所でした」

 

「彼女の持っている朝刊は早刷りの十二版、都市部は一番遅い版が配られますから、こことここは除外されます」

 

右京がパソコンを操作するとモニターに表示された点のうち、都心に近い二つが除かれた。

 

「この4つの何処かに奴のアジトがあるわけだが…」

 

「これは、人海戦術しかないね」

コナンが言ったようにアジトの候補は四つまでしか絞られていないため、ここからは人員を割いてしらみつぶしに捜索するほかなかった。

 

「米沢さん、この事を本部に。あ、僕の名前は出さないように、余分な軋轢が生まれますから」

 

「今は懐かしき、“あの方”や“あの方”ですな」

 

右京と米沢が話しているところに、チンが何かを思いついたかのように口を開いた。

 

「杉下さん、アジトに潜伏しているのならば食料品の確保が必要になります、それも大量に。この四つの周辺に大型スーパーがある場所を発見できればその周辺にアジトがある可能性があるのではないでしょうか」

 

「なるほど。では、これは僕の知り合いに連絡してあなたを捜査本部に入れるよう手配しておきます」

 

「感謝します」

 

 

 

「米沢さん、今日はどうもありがとう」

 

「できればもう二度と、ここには来て欲しくはありませんな」

 

警察学校の廊下を歩く、右京、冠城、コナン、チン、そして米沢の五人は米沢は大講堂を出て駐車場に向かっていた。

 

「それにしても、ここ最近『レイブン』の動きがあまり見られませんね」

 

「まるで何かを待っているように、ですね」

 

冠城の言葉に、チンも反応する。この数週間『レイブン』は全く動きを見せていなかった。それと同時に鷺沢瑛里華が拘束されていると思われるアジトの場所の特定も難航していた。それ故、この米沢の発見は捜査の大きな手助けとなる。

 

ちょうどお昼時という事もあり、五人がいる廊下にはこれから食堂に向かう多くの人でごった返していた。食堂は廊下に面するように位置しており、普段は閑散としているここはこの時間だけ拾ったが多く集まってくる。

 

「ねぇねぇ、杉下警部。そろそろ、お昼にしない?」

 

食堂から漂ってくる唐揚げの匂いを嗅いだコナンは、隣を歩いていた右京に声をかけた、

 

「そうですねぇ。時間もちょうどいいですし、これから食べに行きますか?」

 

右京が答えると後ろにいたチンがジャケットのポケットから、スマホを取り出して地図を開いた。

 

「では、私が見つけたいい店があるのでそこに案内しますよ。ここから、比較的近いですし」

 

「米沢さんも、どうです?」

 

「私はまだあなた方のお陰で、業務が残っていますので。それに、何故食堂があるのに外食しなくてはいけないのです?」

 

冠城の誘いも、米沢は不満そうな顔つきで拒否した。米沢は警察学校へ事実上、更迭されたあとは特命係に対して非協力的だった。しかし、それでも昔の名残からかこうしてなんだかんだで協力していたのだった。

 

 

五人が食堂の横を通過した直後、突然チンが持っていたスマホがバチっとスパークした。

 

「!?」

 

チンは驚いて思わず、スマホを手から落とした。チンの手から落ちたスマホはまっすぐ床に落ちると、バッテリー部分から煙を発し始めた。

 

「チンさん、大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ。どうやら、スマホが古いが為に発火したようです。お騒がせしてすみません」

 

一方、コナンは煙を上げているスマホとチンの今の発言を聞いて頭に疑問が浮かんだ。

 

(おかしい。チンさんのスマホは二年前、発売されたばかりで今でも製造が続いている商品だ。まだ古いとは言い難いはずなのに、どうして発火したんだ?)

 

コナンは疑問に思うも発火の原因を突き止めることは出来なかった。

 

この一連の出来事がやがて首都崩壊の序章となっていくのを、コナンを始めこの時は知るよしもなかった。




投稿が遅くなっていますが、これからこれくらいのペースで投稿していくと思います。何せ、忙しくなりますので。

これからもご愛読していただけたら幸いです。


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39 首都崩壊の序章

久しぶりの投稿です。9月に入り、急に忙しくなって投稿ペースが落ちそうです。


右京やコナン、冠城が警察学校を訪れていたその頃、警視庁内では風見が退席した後も捜査会議は進み、終盤を迎えようとしていた。

黒田が「では」とまとめに入る。

 

「公安部とサイバー犯罪対策課がノーアによるアクセス先を特定次第、毛利小五郎を起訴する補強証拠として東京地検に提出ーー」

 

「失礼します!」

 

突然、前方の扉が勢いよく開いて、千葉が入ってきた。

 

「都内で今!大変なことが起きています!」

 

 

都内を走る電車の車両は、サラリーマンや学生などで比較的混雑していた。座席についている人も立っている人も大半の人がスマホをいじっている。

 

すると突然、二人組の女子高生が悲鳴を上げてスマホを落とした。

 

なんだー近くで座っていたサラリーマンが目を向けたとき、持っていたスマホがバチバチっとスパークした。

 

「うわっ!」

 

驚いて思わず手を離すと、床に落ちたスマホから白煙がもくもくと発生した。

 

 

都内の大通りに面したマンションでは、ベランダに置かれたエアコンの室外機から突然、火が噴き出した。

 

「わっ!な、なんだ!?」

 

部屋から出てきた男子中学生が慌てて学ランを脱ぎ、室外機を覆って火を消す。

その下の大通りでは、暴走した車が横断歩道を渡る人たちにあわや突っ込みそうになっていた。

 

 

「おかあさーん!大変ー!!」

 

子供の声に両親が何事かと洗面所を覗くと、ドラム式洗濯機から大量の泡が吹き出していた。

 

「ええっ!?」

 

「うそっ!」

 

驚く両親の前で、洗濯機の扉が勢いよく開き、洗濯物が飛び出す。

同時にダイニングテーブルに置いてあった電気ポットから熱湯が噴き出し、近くで寝ていた猫が逃げ出した。

 

 

東京地検・日下部の部屋では、小五郎の取り調べが引き続き行われていた。

延々と同じような取り調べを繰り返されて、ついにキレた小五郎が立ち上がる。

 

「いつまで同じことをーー」

 

検察事務官に羽交い締めされた瞬間ーーデスクのパソコンが火花を散らし、ぼんっと煙をはいた。

 

 

妃法律事務所にいた蘭は、英理の部屋の壁面に取り付けられたテレビをつけた。

 

窓から見えるビル群のあちこちから煙や炎が上がり、外からは消防車のサイレンや車のクラクションの音がひっきりなしに聞こえてくる。

 

テレビではどの局も番組が中断され、臨時ニュースに切り替えられていた。

 

『6日後、6月30日より行われる国際平和会議 東京サミットのため厳戒態勢が敷かれている東京都内で、次々に起きている不可解な現象について、警視庁からはまだ正式な発表はなく、国内だけでなくアメリカをはじめとするサミット参加国を中心に不安と批判の声が日本政府に届いています。また、日本政府は国民に正確な情報に従い、不要不急の外出を控えるよう呼びかけています。パソコンや電気ポットが突然発火したという情報もあり…』

 

突然、テレビからバリバリと音がしたかと思うと、火花が飛び散り、画面が真っ暗になった。

 

「なんなのよ…一体…」

 

英理は白煙を上げるテレビを呆然と見つめた。

 

 

首相官邸では、5日前帰国した総理を含む内閣の全閣僚が集まり、緊急の対策会議が行われていた。

 

「今日、起こっているこの事案は『バーズ』による犯行ですか?法務大臣の見解を」

 

4階の大会議室に置かれたテーブルの中央に座る大河内清次内閣総理大臣は、向かい側のテーブルに座る法務大臣に問う。

この会議には佐藤副総理を始め、国平、そして折口も出席していた。

 

「現在、容疑者として毛利小五郎氏を逮捕・送検していますが、今都内で起こっているこの現象は彼が拘置所に拘留されている間に起こっており、彼が犯人という仮説が覆る可能性があります。よって、この犯行は『バーズ』によるものが高いです」

 

佃駒人法務大臣が答えると、佃の二つ左隣に座る国平が大河内に言う。

 

「既に、入国している各国の政府高官たちもこの現状に危機感を抱いている。即刻、事態を解決しなければ日本政府の信頼失墜につながりかねない。総理、海外から弱腰と思われる事態は避けたいと考えます。その為にも、即刻事態の収拾を…」

 

「外務省の勝手な都合を言わんでくれ!既に都内の消防署の対応も限界を迎えている。関東各県の消防署に応援の連絡を入れても道路システムが麻痺しており、直ぐには駆けつけられん!そこの所も考えて言ってもらいたい!」

 

国平の発言に反対側に座る河野純総務大臣は苛立ち混じりに反論する。この一連の現象は都内の信号機システムやETCにも影響を及ぼしており、各料金所でその対応に追われ、その結果応援の消防車の到着遅れにつながっていた。

 

「警察庁は何か、情報を掴んでいないのですか?」

 

「想定外の事態で、我々も情報収集を行っているが詳しい情報は入って来ていない。内閣情報調査室も同じと聞いているが?」

 

国平と同じ列に座る柳原邦彦国土交通大臣が警察庁を管轄する国家公安委員会委員長の金井光二に聞くが、彼も分からないと言わんばかりに首を振った。

 

そんな中、会議に出席していた折口は腕組みをしながら進展しない会議を見つめた。

 

(こうしている間にも、被害は深刻度を増している…。急ぎ、対応することこそが、我々の使命ではないのか…)

 

 

この異常な現象は警察学校内でも見られた。

チンが持つスマホが発火したその直ぐ後、食堂に置かれたポットが突然、湯を出したまま止まらなくなり、生徒が持つノートパソコンは火を噴き、白煙を上げ始め、そして食堂に吊るされたテレビがバリバリと音を立てて、画面が真っ暗になった。

 

冠城は、思わず後退りして右京の背後に移った。

 

「右京さん、これって…」

 

「この異常な現象は、全て電化製品による物が多いようですねぇ。電化製品…」

 

右京は、電化製品という言葉を繰り返しつつ、偶然生徒が持っていたラジオから流れてくる緊急ニュースを聞いた。

 

『繰り返しお伝えします。4日後より行われる東京サミットのため厳戒態勢が敷かれている東京都内で、次々に起きている不可解な現象について…』

 

「電化製品…」

 

コナンは呟きながら自分のスマホを見た。ふいに、灰原の言葉が頭をよぎる。

 

『スマホから圧力、温度、時間を設定するだけでスープなどの調理ができる…』

 

灰原のパソコンで見た圧力ポットを思い出した瞬間、コナンの脳裏に閃光が走った。

 

それは、右京も同じで眼鏡を光らせた。

 

「なるほど。コナンくん、このテロの最初こそ…」

 

「そう、杉下警部。サミット会場の爆破だったんだ!」

 

 

 




いよいよ、物語も終盤へと差し掛かってきました。飽きっぽい性格の自分が良くここまで書き上げたなと、感心しています。

因みに内閣の閣僚の名前ですが、ピンときた方には分かると思いますが『シン・ゴジラ』に出て来た閣僚の名前です。


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40 混乱する警視庁

最近、ウイニングイレブン2018にハマっています。早くアプリのアップデートが来て欲しいものです


都内で突如起こった不可解な現象の対応に追われた警視庁は大混乱になっていた。

 

「どうやら電化製品が次々と発火しているらしく、電気ポットや電子レンジ、テレビやパソコンなど多岐に渡っており、今後も被害が拡大する可能性があると、サイバーセキリュティ対策本部が見解を示しています」

 

部屋に入って来た千葉が報告すると、会議室内は騒然となった。狼狽する公安部長を見て内村は愉快そうに僅かに笑みを見せた。

 

「おやおや、テロ対策に自信があるとお見受けした公安部は何をしていたのでしょう。またしても『バーズ』の犯行を予見できていなかったのですか?」

 

内村の発言に公安部長は恨みを込めた目線を送りつつも、何も言わなかった。

一方、ひな壇の中央に座る山崎はケータイにかかって来た電話を受け、しばらく話し電話を切るとマイクのスイッチを入れた。

 

「とにかく、まずはこの不可解な現象の対応が先決だ。会議を中止し各員は大至急、各自の任務につけ。衣笠副総監、私は緊急会議を行う為、一旦警察庁に戻りますので以後、会議が終了するまで捜査本部の指揮を頼みます」

 

そう言うと、山崎は足早に会議室を後にした。彼が去ったのを確認した衣笠は各部に指示を送り出した。

 

が、衣笠の指示が届く前に既に110番を受理する通信指令本部には通報が殺到してパニック状態に陥っていた。廊下では制服・私服の警察官たちが忙しそうに走り回り、マスコミが押しかけている正門からは機動隊員を乗せた車が次々と出発していく。

 

警察官たちが大騒ぎしているエントランスで、目暮は女性警察官が持って来た書類にサインをしていた。そこに右京から電話が入る。チンを病院に送った後、冠城の車は妃法律事務所に向かっていた。

 

「杉下警部、申し訳ありませんが今、あなたと話している時間はーー」

 

『目暮警部、これは恐らく全て〈loTテロ〉です』

 

目暮は初めて聞く言葉に「ん?」と眉をひそめた。

 

「アイオーティーテロ?」

 

右京に続いて隣に座っていたコナンが電話越しに首を傾げている目暮に説明する。

 

『目暮警部!犯人はネットにアクセスできる電化製品を無差別に暴走させているんだ。だからネット接続を切れば暴走を止められるよ!』

 

 

警視庁そばの公園から姿を消した安室は、日本橋のたもとにある船着場にいた。

 

雨でしっとりと濡れた髪をかきあげると、耳に差し込んだワイヤレスイヤホンがあらわになる。

 

「Iotテロか…なんて奴らなんだ…」

 

つぶやいた安室は、首都高速道路が覆いかぶさる日本橋に向かって歩き出した。

 

 

目暮と電話しながら冠城の車で送られていたコナンは、妃法律事務所があるビルに入った。

 

「現場から見つかったその圧力ポットもIoT家電のはず!」

 

表の駐車場に車を止め、三人は雨で濡れた髪を腕やハンカチで拭った。

 

コナンは話していた通話中の携帯を右京に返した。

 

「杉下です。目暮警部、犯人はネットでガス栓を操作し、現場をガスで充満させてから、IoT圧力ポットを『発火物』にしてサミット会場を爆破したのでしょう」

 

『そ、それでは毛利くんは…』

 

「えぇ。毛利さんには犯行は不可能という事です。これは大きな情報です。では私たちはこれから警視庁に戻りますので」

 

右京がそう言って電話を切ると

 

「それって本当なんですか?」

 

背後で蘭の声がした。コナンが驚いて振り返ると傘をさした蘭が立っていた。

 

「うん。新一兄ちゃんもそう言っていたよ」

 

コナンは、自分が出来る最大限の励ましを蘭に送る。傘を閉じた蘭が三人の前で立ち止まった。

 

「コナン君」

 

話しかけられたコナンはビクッと肩を震わせた。

 

「新一、頑張ってくれてるんだね。お父さんのために…」

 

蘭は嬉しそうに頬を赤らめて歩き出した。その表情を見たコナンもフッと笑い、右京と冠城も顔に笑みを浮かべた。

 

ニコニコしながら歩いていく蘭の後ろをコナンはついていった。

 

(バーロ。オメーの父さんのためだけじゃねえっつーの)

 

 




今回は、あまり登場人物のセリフが含まれていなかったので次回は多く出そうと思います。


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41 風見と安室

今回は、右京さんとコナンくんのセリフが多いよりは安室と風見のセリフが多いです。


事務所に戻ってきたコナンと右京、冠城は都内で起きている不可解な現象はIoTテロだと英理たちに説明した。

 

「なるほど。それが本当なら裁判に勝てるかもしれないわね」

 

「うん。検察につかまってるおじさんは今、ネットにアクセスできないもんね」

 

「ええ、そうね」

 

愛猫のゴロを抱いた英理が蘭を見ると、蘭はホッとしたような顔で小さくうなずいた。

 

すると、傾いた壁掛けテレビの前で冠城と修理を行っていた境子が「いいえ」と言った。

 

「日時をあらかじめ設定しておけば、拘束された後でもIoTテロは可能です」

 

「え?」

 

「サーバーを辿ってアクセス先がわかれば、毛利さんの容疑は決定的になる」

 

「そんな…!」

 

と蘭が青ざめる。

 

「一つよろしいでしょうか?」

 

そこへ、コナンの隣に立っていた右京が人差し指を立てて境子に聞いた。

 

「我々、警察でさえサーバーの捜査は残念ながら時間を要します。裁判が終わるまでにそれが終わるとは考えにくいのですがねぇ」

 

右京が訊くと、境子はテーブルに置いた工具箱からドライバを取り、テレビを持ち上げた。

 

「公安が捜査しているはずですから難しくないはずです。杉下さんが知らないはずはないと思いますけど」

 

「…待って!」「おやおや」

 

境子の言葉に引っかかったコナンと右京がほぼ同時に言葉を発する。

コナンの脳裏には、風見の言葉がよぎった。

 

『現在、我々公安部とサイバー犯罪対策課でサーバーを辿り、ユーザーが特定できる可能性を探っています』

 

捜査会議を盗聴したとき、確かに風見はそう言っていた。でも、どうしてそれを境子がーー?

 

「なんで公安がその捜査をしてるって知ってるの?」

 

「え?」

 

テレビを持っていた境子の手の力が一瞬緩み、留め金から外れたテレビが大きな音を立ててテーブルに落下した。

 

英理が抱いていたゴロが「ミャ!!」と驚いて逃げ出す。

 

(もしかして、右京さんが訊きたかったのって?)

 

(えぇ、僕も同じ事を考えていたのですがまさかそれがコナンくんだとは思いませんでしたねぇ。やはり、コナンくんについて少し疑問に思うことがあります)

 

コナンの後ろに立っていた冠城は右京に耳打ちし、冠城自身もコナンが改めて単なる小学生ではない、という考えが確信に近いように感じた。同時に法務省時代のコネを使い、コナンを調べようと冠城は考えた。

 

 

「あー、ごめんなさい」

 

テレビを落としてしまった境子はコード一本でかろうじて壁につながっているテレビを覗き込んだ。そして体を起こしてコナンを見る。

 

「それはね、ボウヤ。その手の捜査をするのは公安が多いからよ。公安警察はね、たくさんの『協力者』を持ってるの」

 

「『協力者』というのは、公安刑事の捜査に協力する民間人のことですよね?」

 

冠城がたずねると、境子は「そうです」とうなずいた。

 

「特に通信傍受法で捜査対象になるサーバーの関係者には、公安警察の協力者が多いんです。その手の協力者に当たれば、毛利さんが不正アクセスした証拠も取れるはず」

 

境子は雨の水滴が流れる窓に目をやりつつ言うと、

 

「あ、もちろんそんな証拠があればの話ですよ」

 

慌ててフォローして、再びテレビを直そうと手をかけた。

 

「橘先生、それもういいわ」

 

「そうですか?」

 

「ええ。おとなしく業者に頼みましょう」

 

コナンは英理と会話する境子を訝しげに見つめた。

 

小五郎の起訴が決まりそうなときといい、さっきの言葉といい、弁護する側の発言とは到底思えない。

 

(なんなんだ、この違和感…彼女にはまだ何か…)

 

 

IoTテロの翌日、まだ雨が降り続く早朝に日本橋船着場から日本橋へ続く階段のたもとに、傘を差した風見が立っていた。片手に持ったスマホでニュース番組を見ている。

 

『いまだ混乱が続いている一連の事件に関して、警視庁はIoTテロの可能性が高いと発表しました。なお、この事件が国際犯罪組織『バーズ』、及びそのリーダー『レイブン』によって引き起こされたという、可能性については現在調査中としーー』

 

「まさかIoTテロとはな」

 

声がした方向をチラリと見やると、いつのまにか安室が近くにいた。雨の中、傘も差さず、柵に肘をかけて日本橋川を眺めている。

 

風見はスマホをポケットにしまうと、安室に背を向けて少し離れた。

 

「さすがですね。そんな手口を特定するなんて」

 

「特定したのは僕じゃないが、おかげで事件化には成功した」

 

安室はそう言うと、ポケットに手を入れて歩き出した。

 

「よって我々がした違法作業にカタをつけたい。『協力者』の解放だ」

 

風見は思わず安室を振り返った。階段を上っていく安室の後を追う。

 

日本橋の中央まで来た安室は、麒麟像の横で立ち止まると、柵に肘をかけた。やや遅れて来た風見は麒麟像の前で安室に背を向ける。

 

「その前に、現段階でゼロがつかんでいる情報を教えてください」

 

「ああ」

 

安室はスマホを取り出し、電話しているふりをして何かをつぶやいた。

 

「NAZU!?」

 

風見は思わず後ろを振り返った。

 

「この情報をサイバー犯罪対策課を経由して、捜査会議で刑事部に報告させる」

 

「…刑事部に花を持たせるんですか?我々公安部から報告すべきです」

 

風見の言葉に、安室は軽く笑った。

 

「褒美さ。爆破テロが事件化できたのは刑事部のおかげだ。それに、この情報がゼロからだってことは『裏の理事官』には伝わっている」

 

 

『裏の理事官』は、警察庁警備局警備企画課を統括する指導担当の理事官のこと。警察庁に入庁十五年程度の警視正が務めることが多く、その中には後に警察庁長官や警視総監の職についた者が多い。

 

 

風見は小さく息をつき、安室をチラリと見た。

 

「…降谷さんが怖いです」

 

全て安室の思惑通りに事が進み、風見は恐怖すら覚えた。

 

「風見。僕には、僕以上に怖い男が五人いるんだ。そのうちの一人は、まだほんの子供だがな」

 

言っていて自分でもおかしくなったのか、安室はフッと笑った。

 

「今、降谷さんと同じ子供を思い浮かべましたよ」

 

そう言って風見が振り返るとーー麒麟像の横にいた安室の姿が消えていた。

 

「ッ!?」

 

驚いてすぐに周囲を見回したが、行き交う人々の中に安室の姿を見つけることはできなかった。

 

 

 




今月27日、大木長十郎の志水正義さんが亡くなりました。
ご冥福をお祈りします。

今年は衣笠副総監役の大杉漣さん、瀬戸内法務大臣役の津川雅彦さん、そして大木長十郎役の志水正義さんと相棒を代表するスターたちが次々とこの世を去っていっており、相棒ファンとして非常に残念な年になりました。


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42 テロは終わらない

今回は、紗世子、日下部兄弟が登場し検察メインの話になります。


警視庁の大会議室で刑事部・公安部合同の捜査会議が始まった。

 

「我々、サイバー犯罪対策課が改めて毛利氏のパソコンを再解析した結果、毛利氏のパソコンに不正アクセスの痕跡が見つかりました。どうやら、彼のパソコンは中継点に使われていたようです」

 

岩槻が報告すると、黒田と並んでひな壇に座った目暮は安堵した。

 

「それで、痕跡は?」

 

黒田の問いに、白鳥が立ち上がった。

 

「公共のWifiから足のつかないスマホでアクセスしており、辿れませんでした。しかしそのとき、毛利さんは検察に拘束されていて、アクセスポイントにいることは不可能でした。さらに今回のIoTテロの不正アクセスにも、先の事件と同様の手口『Nor』が使われていました」

 

捜査陣がざわめく中、目暮は「やはり同一犯か…」とつぶやいた。

 

コナンが電話で言ったとおりだったのだ。

 

「サーバーを特定する捜査の進捗は?」

 

黒田が鋭い目を向けると、岩槻は緊張した面持ちで手にしたタブレットに目を落とした。

 

「…どうやらそのシステムがNAZUにあることがわかりました」

 

「!!」

 

大型モニターに表示された経路図の真ん中に『NAZU』のロゴが大きく映し出され、捜査陣から大きなどよめきが起こった。

 

 

蘭とコナン、それに右京と冠城が応接セットに座り、英理がデスクのパソコンで調べ物をしていると、秘書の栗山緑が入ってきた。

 

「どうも遅くなりました」

 

「栗山さん、ごめんね。せっかくのバカンスだったのに」

 

緑は「いーえ」と手を横に振った。

 

「先生の一大事に事務員の私が遊んでいるわけにはいきませんから」

 

「助かるわ」

 

「えっと、それでですね…」

 

緑はそう言いながらショルダーバッグに手を入れて、封筒を取り出した。

 

「橘境子弁護士についての調査結果です」

 

封筒を受け取った英理は「え?」と目を丸くした。

 

「あれ?工藤新一君から頼まれたんですが…」

 

応接セットで聞いていた蘭は、コナンを見た。

 

「新一が?」

 

「へぇ、新一兄ちゃん、そんなこと頼んだんだぁ」

 

コナンはとぼけた顔で頭をかくと、封筒を前に顔をしかめている英理のそばに行った。

 

「どうして橘先生の調査なんか…」

 

「老婆心ながらよろしいですか?」

 

応接セットのソファに座っていた右京が、立って英理のデスクの前に立った。

 

「これは僕の想像に過ぎませんが、工藤くんは優れた高校生探偵です。そんな彼が調べるよう依頼していたのですから、きっと何か理由があるのではないか、と僕は思うのですかがねぇ」

 

(杉下警部、ナイスフォロー!)

「そうだね、きっと新一兄ちゃんのことだから、きっと何かワケがあるんだよ。とにかく見てみない?」

 

コナンに促されて、英理と緑は応接セットのソファに座り、緑が封筒から調査報告書を取り出した。正面に座った英理に向けて調査報告書を広げる。

 

「七年前、橘先生の事務員が事件を起こしているのが分かりました」

 

調査報告書を覗き込んでいた英理は「え?」と体を起こした。

 

「橘先生は事務所を持たないケー弁のはずよ?」

 

「七年前に、事務所を閉じたんです」

 

緑は調査報告書の該当箇所を指差した。

 

「当時、事務員だった羽場二三一がゲーム会社に侵入し、携帯ゲーム機を盗んで逮捕されたせいで…。しかも羽場は送検された後、拘置所内で自殺しています」

 

「え!?自殺?」

 

「そんな…」

 

英理と蘭が驚く中、コナンと右京、冠城の三人は調査報告書に目を落とした。

 

(自殺…)

 

調査報告書には羽場二三一の顔写真と年齢(26)、窃盗事件の詳細、そして『6月26日拘置所にて自殺』と書かれていた。

 

 

 

日下部は紗世子に呼ばれて、統括検事室に出向いた。

 

「毛利小五郎のパソコンは何者かに操作されていることがわかったの。よって彼が犯人である可能性は低い…」

 

室内を歩きながら独り言のように話し出した紗世子は、立ち止まって「はい!」と手を打った。

 

「そういうことで」

 

「…発火物にあった彼の指紋は?」

 

誠がたずねると、紗世子は「ああ」と面倒くさそうに言った。

 

「焼きついた指紋ってのはね、転写しやすいものなの」

 

それはまるで最初から分かっていたような言い方だった。小五郎を犯人に仕立てるため、何者かが事前に採取した小五郎の指紋を格納扉に転写したのだ。

 

「…それが、公安警察の結論ですか」

 

「毛利小五郎は不起訴にして」

 

「不起訴の判断まで、公安警察の言いなりですか」

 

誠が険しい表情で追及すると、紗世子は「しつこいわね」と日下部をにらみつけた。

 

「地検の公安部は、公安警察の言い分を聞いていると省内では噂になっていたが、まさかこれほどとはな」

 

誠と紗世子が驚いて振り返ると、いつのまにか統括検事室の扉の前に日下部彌彦が立っていた。

 

「こ、これは事務次官…。何か私ごとに御用でしょうか?」

 

先程まで誠に見せていたあの傲慢な態度とは打って変わり、借りてきた猫のように紗世子は縮こまってしまった。

検事なら誰もが目指す、検事総長。そして検事総長になった者は最終的に上部組織である法務省の事務次官へエスカレーター方式に進んでいける。

 

紗世子にとっては、今目の前に立つ人物こそ、正に自分が目指す目標であり同時にここにいる誠と日下部彌彦は兄弟のため、会話には気をつけなければならないと瞬時に考えた。

 

「たまたま検察庁に用事があって、廊下を歩いていると君たちの声が聞こえたものでね。気になって聞かせてもらったんだよ」

 

「なるほど…」

 

「公安警察の言い分を聞くのは分かるが、今回は聞くというより、言いなりになっているようではないか。君たち、公安部はーー」

 

彌彦が紗世子に言っている時、紗世子のジャケットの胸ポケットから煙が出ているのに気付いた。

 

「きゃああ!!」

 

胸元のスマホから火が噴き出して、紗世子は床に倒れた。必死にジャケットを脱ごうとすると、パァン!と小さな爆発が起きて、火花がセミロングの髪に燃え移った。

 

「ひいいい!!」

 

ドア付近にいた誠はソファを飛び越え、転げ回る紗世子からジャケットをむしり取った。彌彦がスマホで一一九番をかける中、誠は激しくわめく紗世子の髪をジャケットではたいた。

 




これから、色々なことがあってまた投稿ペースが遅くなります。

それども何とか書き上げるつもりです。


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43 かつての相棒

投稿が遅くなり、本当に申し訳ありません。

約3週間ぶりの投稿です。今回も新キャラが登場します。


その後、妃法律事務所を出たコナン、右京、冠城の三人は病院で治療を受けたチンを伴い、警視庁に戻った。

 

IoTテロで混乱が終息していない警視庁内を歩いて特命係の部屋に向かうと、すぐに角田が駆け寄ってきた。

 

「おい、お前ら。どこへ行っていたんだ?今、ここじゃIoTテロっていうものに振り回されて俺らの部署からも人が駆り出されているところなんだぞ!」

 

角田の言うとおり、普段は人がいる組織犯罪対策第五課も多くの人員が対応に回されているらしく今は角田、角田の部下である大木、小松以下数名の部下しかいなかった。

 

「我々もそのIoTテロの混乱に巻き込まれてしまいましてねぇ。そちらのエドワード・チンさんを病院に送っていたりしていたものですから」

 

「そう…。それにしても今回はものすごい大事だ。今、都内各地で火災が発生してて既に消防庁の回線はパンクしているらしい。関東各県から応援を頼んでも、道路交通システムもダメージを食らってろくに動けないらしい」

 

角田は自身が愛用しているパンダが取手に付いたマグカップを手にしたまま、深刻そうな表情で言った。

 

「んで、この子は誰よ?」

 

「僕、江戸川コナン。今は、杉下警部と冠城刑事について行っておじさんの無実となる証拠と『レイブン』のアジトを探しているんだ」

 

角田が興味深そうにコナンに聞くと、コナンは和かな表情で角田に自己紹介をした。続けて、右京が説明する。

 

「この子、江戸川コナンくんはあの名探偵、毛利小五郎氏の家に居候しているそうで、『キッドキラー』、『眠りの小五郎の知恵袋』等で活躍、そして高校生探偵、工藤新一くんの親戚のようです」

 

「へぇ…なるほどな〜。あの、高校生探偵とね〜。ところで、あんたらどこ行ってたの?」

 

「我々は『レイブン』が潜伏していると思われるアジトを警察学校の友人と発見しました。ですが、残念な事に我々は今、捜査本部への立ち入りを禁止されているものですから、せっかく情報を手に入れても情報提供が出来ないものですからねぇ」

 

右京は上着をかけると、棚からカップを取り出し紅茶を入れた。

 

「そこで右京さんは助っ人をお呼びしたんですよね?」

 

「えぇ。間も無く現れると思いますよ?」

 

 

右京の言葉の通りに、その数分後、ある男性が特命係のあるフロアに現れた。

ここに通い慣れているのか、迷わずに真っ直ぐ特命係の部屋まで来たその人物に角田の部下である小松と大木も会釈する。

 

黒いスーツに身を包み、ワックスで黒髪を固めた顔立ちの整った男性は笑顔で右京たちに挨拶した。

 

「お久しぶりです」

 

「お久しぶり。君、仕事の方は抜けても大丈夫なんですか?」

 

右京の問いに、皮肉を感じたのか男性は苦笑いしながら答える。

 

「お言葉ですが、そういうことは呼び出してから聞いてもあまり意味がないかと」

 

「相変わらずですねぇ」

 

男性は右京との会話を終えると、冠城がその男性の隣まで行った。

 

「神戸さんに、右京さんと付き合うコツ、教えてもらったので僕はとても感謝してますけど」

 

「杉下さんがこういう時は要注意、とか色々話しちゃいました」

 

神戸と呼ばれたその男は、かつての右京の相棒の神戸尊警視だった。

元々、警備企画課に所属していた神戸は、警察庁からのスパイとして特命係に送り込まれたが、すっかり馴染んだ彼は帰還命令を無視して、特命係に留まった。

彼は右京とともに多くの事件を解決し、『警視庁篭城事件』の解決にも尽力したがその後、警察庁長官官房付に追いやられた事件当時の警視庁副総監兼警務部長である長谷川宗男の手引きにより、結果としてある事件で右京を裏切る形で警察庁に戻った。

しかし、右京がその際も事情を分かって双方の信頼を損なわなかったこと、神戸が亀山や甲斐とは違い警察を辞めていなかったことなど、様々な要因が重なり、今も右京の捜査に協力することがあった。

 

「コナンくん、チンさん。こちらは元特命係の神戸尊くんです。神戸くん、こちらにいらっしゃるのがエドワード・チンさん、そしてこの少年が江戸川コナンくんです」

 

チンに会釈を終えた神戸が右京が示す方向に顔を向けると、神戸とコナンは目を合わせて挨拶をする。

 

「初めまして。僕、江戸川コナン。よろしくね」

 

「君が江戸川コナンくんか…。『眠りの小五郎の知恵袋』って警察庁内でも噂されているから、どんな感じの子かなって思っていたけど確かになんだか違うオーラを感じるね。僕は、神戸尊。よろしく」

 

目線をチンに戻すと、神戸は右京の連絡を受けチンを捜査本部に招く手はずが出来ている、と告げた。

 

神戸とチンが捜査本部に向かおうとすると、不意にチンは後ろの三人を振り返り、自身が感じている事を言った。

 

「ああ、杉下さん。それに冠城さんとコナンくん。レストラン街の事件と国際会議場の爆破事件、この二つに『レイブン』が関係しているような気がしてならないんですが」

 

「僕もそう思っています。それは、これから。よろしくお願いします」

 

右京が軽く頭を下げると、チンは神戸に従い特命係の部屋を去っていった。

 




皆さま、本当に投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。

様々な行事や、やる事が重なってしまい、書く暇がなかなか無かったのでかなり遅くなってしまいました。これからは少しは忙しくなくなるので投稿ペースを早めたいと思います。


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44 この世に生きる亡者

「レストラン街にいた人たちの聞き取り調査資料、何か分かったら社さんに、って条件ですが」

 

冠城がテーブルに置いたのは一冊の青いファイルだった。中には数十枚に及ぶ聞き取り調査の書類が綴じられており、その中にはコナン自身の資料や阿笠博士のものもあった。

 

「君、たまには役に立ちますねぇ」

 

「…"たまに"って…。これでも右京さんのために働いてるんですけど…」

 

冠城は右京に聞こえない範囲でボソリと呟いた。

 

(ハハハ…。冠城刑事も苦労してるんだな)

 

コナンは冠城の言葉に苦笑いしつつ、右京が見ている資料を覗き込んだ。そこへ、角田が新聞を持ってひょっこり現れた。その新聞はスポーツ新聞らしく、『日本人選手団 帰国 明日はパレード』と大々的に報じられていた。

 

「聞いたか?柳沢の話。欠席するんなら、するって。堂々と公式発表すればいいじゃない!」

 

「それじゃ、またいつ自分が狙われるか分からない。これを機に殲滅してもらって先々の安全を確保したいと」

 

「自分の安全の為なら、誰がどうなろうとも関係ないってか!ふざけんなよ、老いぼれが!」

 

柳沢の考えに角田は理解できないとばかりに声を荒げた。冠城の言うとおり、柳沢は欠席と公表していないものの、サミットには出席しない意向を政府に伝えており、警備局を通じて警視庁にもその情報が入っていた。

 

「ねーねー。その柳沢って人、もしかしたら事件に関係あるのかなぁ?それだけ警察が着目してるんだから何か訳があるの?」

 

コナンが高木や目暮の時と同様に首をかしげるという、子供っぽい演技で冠城に聞くと冠城は、一瞬考え込むと語り出した。

 

「柳沢克彦。七年前に鷺沢瑛里華さんが『バーズ』に誘拐された際、当時の駐英大使を務めていた男で、現在は環太平洋評議会専務理事を務めているんだ。今回、東京サミットにも出席することから警察がサミット会場の爆破を『バーズ』による可能性が高いと判断したのもこの男の存在がある、ということなんだ」

 

「それって…。でも『バーズ』は何も柳沢大使について言ってないよね?」

 

コナンの言うとおり、『バーズ』は日本政府に身代金の要求をしていたが、柳沢については何も語っていなかった。

 

「それにしても気になりますねぇ」

 

ここで、ここまで資料を見ていた右京が顔を上げで発言した。部屋にいる全員の目線が彼に注目する。

 

「コナンくんの言うとおり、この犯罪の目的が七年前に身代金を無視されたことへの報復なら、なぜ『レイブン』はメッセージの中で柳沢元大使を名指しで糾弾しなかったのか?」

 

「それは警備が厳重になって狙いにくくなるからだろ?」

 

角田が答えると、右京は得意の人差し指を立たすポーズで角田に聞いた。

 

「では、何故敢えて七年前に身代金が無視された事に言及したのでしょう?それに、もしも柳沢元大使のみを標的にしたいのであれば、国際会議場を爆破する必要もありませんし、逆に警備が厳重になってしまうと思いませんか?」

 

仕切り板に寄りかかっていた冠城は納得の表情を浮かべて、目線を右京の方に向けて言った。

 

「確かに。あの件が公にならなければ、誰も柳沢の存在に目を向けなかったはずです」

 

「あのメッセージが出た時に誰もが最も驚いたのは瑛里華さんが生きていた、という事でした」

 

「七年も経っていたからね。それに普通に健康そうで、監禁されていたようには、見えなかったし」

ここで、資料を見ていたコナンが顔を上げて発言した。彼の大人びた数々の発言に初めて話した角田が驚くのは言うまでもないが。

 

「つまり、『レイブン』は10歳の瑛里華さんを七年間育てたっていう事だよね?それって、つまり何か瑛里華さんに共感を抱いていたんじゃないかな?」

 

「国に見捨てられた少女、そうですね?コナンくん」

 

コナンは振り向くと、静かにうなづいた。角田が驚いた表情でコナンの事を見ていたので、慌てて小五郎が言ったという、いつもの言い訳をして、コナンはその場を乗り切った。

 

「冠城くん、『レイブン』と関係がある『あまだしゅうすけ』という名の人物は存在しなかったのですね?」

 

「当該都道府県警が全て確認したそうです」

 

「では、1959年に死亡した『あまだしゅうすけ』が居るかどうか調べてください」

 

右京の言わんとしていることが分かったのか、冠城はハッとした表情で右京に聞いた。

 

「1959年…。…まさか『特別措置法』?」

 

「えぇ。戸籍は法務省の管轄、君の古巣ですよ」

 

冠城は頷くと、急いで特命係の部屋を出て行き事件の鍵を握るであろう、その人物を探し始めた。

 

 




すみません。投稿を早めると言いながらなかなか出さずにいました。

最近、別の本を読むのに没頭していまして。それを読んでいたらこの物語の頭になるのが難しくなっていました。
なるべく早く投稿できるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。


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45 入店時刻の秘密

右京が発見した情報は、彼が発見したと悟られないよう米沢が発見したという事になり、捜査本部に持ち込まれた。

 

今まで国際会議場爆破の件で、てんてこ舞いだった捜査本部はこの新しい情報が今まで滞っていたもう一方の事件の解決を加速させる有益な情報であると考える一方、休む暇なく次の事件の捜査を担当することとなり、疲労が発散されることなく溜まっていくという不利益を被ってしまう事になったため、伊丹や高木、佐藤といった捜査陣は内心大きなため息をついていた。

 

 

「このエリアの防犯カメラを全て当たれ!首にタトゥーのある男を見逃すな!それと、大量に食品を買い込む人物もチェックしろ!」

 

捜査本部のモニターには東京都のシルエットに城西線の線路が入った地図が表示されその内、右京が指摘した4箇所がピックアップされモニターに表示されていた。

 

中央のひな壇には黒田や内村、中園、そして山崎が座っており、中園の言葉に捜査員は大きな声で返した。

 

捜査本部に何百台と置かれたパソコンにはショッピングモール、コンビニエンスストア、駅、商店街といった各地に設置された防犯カメラの映像が表示されており、捜査員が一つずつ確認していた。

 

幾多ものパソコンが置かれた一角、中央の机の端に神戸とチンはいた。他の捜査員と同様、パソコンに表示された映像を注意深く見ている。

 

その後ろ、神戸とチンの1列後ろの列には伊丹がいた。伊丹は行き交う捜査員の波を掻き分けながら、芹沢が座っている隣の席へと移動した。

 

「おい、これ誰のだ?」

 

席に向かう伊丹が拾ったのは、自身の足元に落ちていた一つのUSBメモリーだった。伊丹が拾い上げ、周りに問いかけるも周りの捜査員は自身の業務に追われて誰も返事をしなかった。

 

「心当たりがないのね、ハイハイ」

 

伊丹はそれを自身のパソコンに読み込ませた。画面に表示されたファイルを開くと、出てきたのは刑事部の弓長警部が関わっていると思われている放火事件の書きかけの書類が一つだけだった。

興味深そうに隣に座っている芹沢も覗く。

 

「書きかけの報告書みたいっすね?」

 

「ふん、後で探したって知らねぇぞー」

 

USBメモリーの内容の確認も済んだし、他にも業務が溜まっているからこんな物に時間はとれない、この伊丹の気持ちによって乱雑に処理されたUSBメモリーが後に伊丹自身にしっぺ返しとなって返ってくるのをこの時、当の本人でさえ知る由もなかった。

 

 

「同じものを食べているのに被害に遭った人と、そうでない人がいるね」

 

「うん、まるで狙いすましたようにある人たちだけ、被害に遭っているんだ」

 

冠城が去った後も、引き続き右京、コナン、そして途中参加の角田はレストラン街で起きた食中毒事件について調べていた。

 

「もし仮に食材に毒物が混入していたのだとすれば、既に原因物質は特定されているはずですねぇ」

 

「となると……。食器!箸の類!!」

 

角田は自信ありげに語るが、右京の隣で資料を見ていたコナンが首を傾げて疑問を提示する。

 

「でもさ〜。そうすると、毒物を混入させるために全ての店に侵入しないといけないよ〜。それってかなり非効率だし、何より目立っちゃうんじゃないのかな〜」

 

コナンの疑問を受け、再び角田は考え出す。そして、数十秒もしないうちに新たな仮説が角田の脳裏を横切る。

 

「分かった、水だ!どの店も同じ水道水を調理や飲み物に使っている。犯人は水道管に細工した!!」

 

自分の推理を得意げに話す角田を、コナンはまるで小五郎を見ている様に感じていた。隣の右京も難しい顔をして角田を見ている。

二人の表情が微妙なことに気づいた角田も、すぐ得意げな表情を消し自分の推理の盲点を探した。

 

「……違うな。なら、飲食した人間ほぼ全員に、被害が出たはずだよな?」

 

「えぇ、そういう事になりますねぇ」

 

「けどまぁ、昼飯時より早い時刻で良かったよな。あと30分遅かったらもっと被害がでかくなってたぞ」

 

その言葉に席を立ち、考えていた右京と資料を隅々まで見ていたコナンは、ふと何か勘付いたかのように顔を上げた。

 

「「入店時刻?」」

 

突然、資料を漁り始めた2人に角田は怪訝そうな表情で彼らを見つめた。

 

「何よ?何か分かったのか?」

 

右京とコナンは数ある資料の中から目的の資料である、事件の被害者がオレンジ色にマークされた資料を見つけ、それを辿り始める。

 

「17階、18階、19階、20階、21階。11時…。なるほど…!」

 

「入店時刻が近い人のうち、症状が出ている人は各フロアに1人ずつだけ!つまり、それぞれのフロアに同時に到着した人の中で被害に遭ったのは、それぞれのフロア1人ずつだけということ!そういう事だよね?杉下警部!!」

 

「えぇ、君はなかなか頭の切れる子ですねぇ。とても興味深いです」

 

右京とコナンの眼鏡が同時に光り、お互い分かった表情をする。一方、眼鏡を外して同じく資料を見ていた角田は未だ分からず、どんどん先へ進んでいく2人に戸惑っていた。

 

「だから!?どういう事だよ?」

 

「つまり…、という事は…!」

 

右京は自らの仮説を立証するために、刑事部のある部署へ協力を仰ごうと、行動を取った。

 

 

 




本当に投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。

どうも予定がキツキツの為、なかなか書けないでいます。
これからもこの頻度で投稿する事になるかもしれません。

皆様には、本当にご迷惑をおかけします。


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46 右京の思案

久しぶりの投稿です。

何とか一ヶ月に2回投稿できました。

後、2日遅れですがメリークリスマスです!


法務省で、『あまだしゅうすけ』について調べ終わった冠城は別の事を調べる為、遺体安置所へ出向いていた。

 

「納棺師の仕事で大切なのは、ご遺族が故人を気持ちよくお見送りできるよう、ご遺体を安らかな姿にお戻しすることです」

 

薄暗い室内で、納棺師は棺に納められた遺体の手入れをしながら冠城に言った。

 

「な、なるほど……ッ」

 

冠城は吐き気を我慢しながら、なるべく遺体を見ないようにしていた。

冠城は神戸と同様に、死体に触れるどころか見ることさえ苦手としており、右京と一緒に事件現場に行くときも、死体は右京に任せ自分は現場を見て回るなど死体の側には近づかないようにしていた。

 

「こちらのご遺体のように少々、日数を経ている場合は…」

 

「あ、あの…!」

 

冠城は喋り続ける納棺師の話を遮り、自身が気になっている疑問を口にした。

 

「私がお聞きしたいのは、1週間前にタイから戻ったご遺体のことなんですが…」

 

「…あぁ。あのご遺体のことですね」

 

納棺師は遺体の手入れを止め、暫く考え込むと思い出したのか冠城に向かって静かに言った。

 

「あのご遺体に何か気になる事はありませんでしたか?」

 

「そうですね…。現地での検視が少し乱暴だと思いましたね。Y字切開の縫合の跡が二重になっていましたから」

 

「それって一度閉じてまた開けたって事ですかね?」

 

納棺師は冠城の方に顔を向けると、「えぇ」と一言頷いた。

 

冠城は新たなる謎と吐き気を抱えつつ、遺体安置所を後にし警視庁へ戻った。

 

 

 

警視庁に戻った冠城は特命係の部屋に一人で椅子に座り、考え込んでいる右京に声をかけた。

 

「冠城君。君、今までどこに行っていたんですか?」

 

「遺体安置所です。1週間前にタイから戻ったあの遺体について、何か遺体に気になるところがあったか、納棺師に問い合わせていました」

 

冠城はデスクに置いてある残りのコーヒーをマグカップに入れると部屋を見回し、“彼”を探した。

 

「あれ?右京さん、コナン君は家に帰ったんですか?」

 

「えぇ。彼なら夕暮れまでには帰らせた方が良いと考えましてねぇ。何せ彼は小学生、ですから。最も、彼の言動は小学生離れしており、いくつかの言動はとても不可解なんですよねぇ」

 

「不可解?」

 

右京は紅茶をカップに入れると、ミルクを混ぜながら自論を展開した。

 

「えぇ。捜査一課の目暮警部や、高木さん達は現場に常にコナン君が現れているため、慣れているようですが詳しく調べてみると妙なんですよ」

 

「妙とは?」

 

「“子供の着眼点”というものは時に大人の発想を凌駕する事があります。しかし、それは時々が普通。事件の度に我々、警察が見落としそうな所をいくつも発見するなんて普通の小学生ではあり得ません」

 

「確かに。子供にしてはとても頭が切れるとは思いますけど」

 

冠城は今までのコナンとの会話や事件の資料等で確かに彼の言動には不可解な部分が多いことを認識していた。

 

「それに、彼を養っている毛利探偵が有名になったのは奇しくも高校生探偵、工藤新一君が世間から姿を消したのと同じ時期です。ところで彼がトロピカルランドの『ジェットコースター殺人事件』を最後に姿を消した日、トロピカルランドでは黒いコートと黒い帽子に身を包んだ銀髪の長い髪を持った男性、そして黒いスーツに身を包んだ体格の良いサングラスをかけた男性が目撃されています」

 

「彼らは工藤君と同じジェットコースターに乗っていたようですし、彼らは事件の聴取を拒否し姿を消しています。これは僕の推測ですが、工藤君は黒服の男達のトラブルに巻き込まれ、なんらかの要因で江戸川コナン君となり、子供が推理するのは不自然なため毛利探偵を使い、事件を解決しているのではないでしょうか?」

 

「まさか…そんなことが。でも、もし右京さんの言った通りだったらどうして工藤君は体が小さくなったんでしょう?そして、どうやってコナン君は毛利探偵を使って事件を解決しているのでしょうね?」

 

冠城は次々に出てくる疑問にマグカップを持ったまま壁に寄りかかる。

右京は席に座ると一人呟いた。

 

「何れにせよ、今は『レイブン』の犯行を突き止める事です。そして、何が真実なのかを示す事で、この事件に幕を下ろす事です」

 

 




もう、クリスマスと終わり年の瀬ですね。

とても寒くなり、朝布団から出る事がつらいです…。
来年のコナンの映画の前に書き終わるか心配です。


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47 お互いの道へ

皆さま、大変お待たせいたしました。

最新話の投稿がようやくできるようになりましたので投稿します。

(因みに、タイトルは分裂っぽいですが全くそんな内容ではありません笑)


翌日、右京が登庁するとコナンが入り口に置かれた応接セットのソファに座り、壁に掛けられたロンドンの地図を眺めていた。

右京は通路を挟んだ反対側にある壁にかけられた名札を表にすると、ソファに座ったコナンを見て一瞬、動きが止まる。

 

「おはようございます。杉下警部」

 

「おはようございます、コナン君。君からここに来るとは珍しいですねぇ」

 

「昨日の、杉下警部の反応を見てもしかしたら今日、あの事を確かめるために動く可能性があるから、僕も一緒に行きたくて来たんだ」

 

「なるほど。君の行動力にはさぞかし驚かされますねぇ」

 

右京は棚からティーセットを出すとポットから、彼の癖で紅茶を高いところから注ぎ、自身の机とコナンが座っている応接セットの机に置いた。

 

「杉下警部、おじさんはもうすぐ釈放されると思う?」

 

「僕は検察の人間ではないので分かりませんが、これだけ証拠が揃っている以上毛利さんは、じきに開放されると考えるのが妥当でしょう。検察が毛利さんと『レイブン』が裏で繋がり、証拠隠滅の恐れがあると判断した場合は別ですがね」

 

右京はスプーンでミルクを混ぜながらコナンの質問に答える。

警視庁には然程、検察の情報は入ってこないが今までの状況証拠並びに小五郎の性格や特徴から判断して小五郎が当時、犯行を行なったとは考えられなかった。

 

 

 

「おはようございます、って…。コナンくん、君もいたのか?」

 

遅れて10分ほどして、冠城が特命係の部屋にやってきた。いつもの白いワイシャツの上に黒い上着を羽織った冠城は、先に来ていた右京よりもその近くに座る、コナンに驚いた。

 

「うん。ちょっと、気になることがあるから来てみたんだ」

 

コナンは冠城にも同じ説明をする。冠城はコナンの行動力と洞察力に感服しつつも、昨日右京が言っていた仮説を思い出す。それは昨夜、コナンを自宅に帰した後、右京と冠城がコナンの正体について議論していた場面から少し、時が進んだところからであった。

 

 

 

「冠城くん。君はやはりコナンくんの事が、気になっているようですねぇ」

 

既に3杯目の紅茶を注ぐ右京を尻目に、冠城は自身のタブレットで新一の解決した事件の概要や、コナン(又は小五郎)が解決した事件について調べていた。

 

「先程、あんな事を言ってましたけど右京さんも気になりません?だって、工藤くんが消えた時期とコナンくんが公の場に姿を現した時期がほぼ同時期なんて偶然、って事で片付けるのは幾ら何でも無理な気がするんです」

 

「それに、工藤くんは休学中だそうです。しかも半年もですよ?普通、そんな期間休学してるなんて事件解決にしては長過ぎません?そんな大掛かりな事件なら捜査一課や警視庁全体で共有ぐらいはされませんか?」

 

冠城は持っていたタブレットを右京に見せながら、口をまくし立てて喋る。右京はタブレットを一瞥するとミルクをかき混ぜる。

 

「確かに、僕もその点については疑問を抱いている節があります。更にごく稀ですが、コナンくんとFBI捜査官らが一緒に行動をしているのを見た人がいるようなんです」

 

「FBIって…。あの、ノリス捜査官が務めていた『アメリカ合衆国連邦捜査局』ですよね?CIAなら分かりますが、なぜFBIがコナンくんと一緒に行動しているんでしょうか?」

 

「ひょっとすると、コナンくんの正体とFBIは何か関係があるんじゃないでしょうかねぇ」

 

冠城が驚いた表情で右京を見ると、一瞬笑った右京は冗談と冠城に言う。

 

「しかし、コナンくんの正体については気になる所が多いですねぇ。冠城くん、僕は毒物による騒動が起きたショッピングモールに向かいますが、君には行って欲しいのです。あるところに…」

 

「ある所…?それって…」

 

冠城が何かを思いついたかのようにタブレットから顔を上げると右京は静かに答える。

 

 

 

「工藤くんが最後に公の場に姿を現した、トロピカルランドにです」

 

 

 

「では、僕たちは毒物混入騒動が起きたショッピングモールに行ってきますので」

 

再び現在に戻り冠城を交えた3人で大方、右京と冠城からの説明を受けたコナンは右京とともに事件現場に向かうべく手袋などの必要な品を揃える為、鑑識課のフロアに赴く。一方、冠城は別行動のために右京やコナンとは先に部屋を出て行こうとする。

 

「あれ?冠城さんは行かないの?」

 

案の定、コナンは冠城が先に部屋から出ていくのを不思議そうに思い、彼に聞いた。冠城は前以て用意した言い訳を言う。

 

「ごめんな。俺はこれから外せない用事があって行けないんだ」

 

コナンが納得するのを前に冠城はさっさと部屋を出て行く。残されたコナンは冠城の行動に心の痞えが取れぬまま、右京に促され彼とともに部屋を後にした。

 

 




皆さま、投稿が遅れてしまい本当に申し訳ありません。

新年の忙しさに、色々な予定が入ってきてなかなか小説を書く時間が無かったので投稿する事が出来ませんでした。

今後は不定期更新になりそうですので、ご了承ください。


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48 調査

お待たせしました。遅れながらの投稿でございます。


冠城と、別行動を取る右京とコナンは多数の鑑識課の警察官を引き連れ、騒動が起こったショッピングモールへ向かっていた。

 

目的地へ向かう途中、右京の車の助手席に座るコナンは右京と話し込んでいた。

 

「……杉下警部。時間の証拠が残っていればいいんだけど…」

 

「僕の推理が正しければ恐らく証拠は残っているでしょう。しかし、『レイブン』がいつ犯行を決行するか未だに分からない今、いつどこで彼らが行動を起こすか分かりませんからねぇ。証拠が見つかり次第、速やかにその場を後にするようにしましょう」

 

 

ショッピングモールにたどり着いた一行は、そのままエントランスを直進し、事件の被害者がほとんど利用したエレベーターホールに向かった。

 

 

事件があったにも関わらず、ショッピングモールにはサラリーマンの集団や若者のカップルなど多くの人で混雑していた。

 

そんな中を右京とコナンを先頭に鑑識課の奇妙な一行が押しのけるかのように進んでいく。周りの人は怪訝そうに見つめるものの一切、話しかけずに無視をする。あまり事件に関わりたくない一心からだった。

 

既にエレベーターホールの規制線は解除され、一般人も出入りしていたが問題のエレベーターの所だけは特別に封鎖されており、警官が立ち入りを規制していた。

 

「ちょっと調べたいことが」

 

警察手帳を見せた右京の事を予め知っていた警官は仕切りを開けてエレベーターへ右京らを案内した。

 

 

 

一方、冠城は右京からの指示を受け首都高速を走り、トロピカルランドへ向かった。

 

駐車場に車を停め、車外に出た冠城を6月の蒸し暑い空気と、太陽の熱に温められたアスファルトが発する熱の2つが、彼を覆う。

ポケットに入れたハンカチで額を流れる汗を拭った冠城は、パークのエントランスに行き、そこでアルバイトの大学生らしき男性に声を掛け、警察手帳を見せる。

 

男は警察手帳を見せると怯えた表情ですぐに携帯で上司を呼ぶと、しばらく休憩室で待機するよう冠城に言った後、すぐに別の場所へと消えていった。

 

やがて、責任者らしい30代後半の男性が冠城がいると休憩室にやってきた。男性は走ってきたのか汗ばんでいた。

 

「警視庁の冠城さん、でしたね。本日は、一体どの様なご用件でしょうか?」

 

丁寧な口調だが、警察の前で緊張しているのか身体が硬くなっている責任者に、冠城は事前に用意した新一の写真を見せる。

 

「今日、ここを伺ったのはですね。この少年について少し聞きたいことがあったんです」

 

上着の内ポケットから帝丹高校の生徒手帳に記載されている新一の写真のコピーを取り出し、男性に見せる。男性は写真を見ると納得した表情で頷いた。

 

「あぁ!高校生探偵の工藤新一くんじゃないですか!懐かしいなぁ。彼、最近世間に姿を見せていないものですから、どうなっているのか心配だったんですよ!また工藤くんの事件でここが鍵になるんですか?」

 

興奮した様子で写真を見つめる男性に、冠城は疑問に思ったことを口にする。

 

「あの…今、“また”と仰いましたが以前、起こった事件が『トロピカルランドジェットコースター殺人事件』ですよね?」

 

「えぇ。その事件です。あの事件も工藤くんが解決したんですけどねぇ。あれを最後に工藤くんは突如として姿をくらまして…」

 

『トロピカルランドジェットコースター殺人事件』は工藤新一が行方不明になる直前に、彼が解き明かした事件でありこの事件を最後に新一は行方不明となっていた。右京はこの同時期にコナンが現れ、更に毛利小五郎が『眠りの小五郎』として世間を賑わすようになったのも同時期である事が偶然では解決できないと、考えていた。

 

「その事件の時に、何か気になった事とかありましたか?」

 

男性はしばらく考え込んだ後、何かを思い出したように言った。

 

「そうだなぁ。気になる事といえばあの日の夜、頭から血を流して倒れていた男の子がいたっけなぁ。何やら建物の裏影に倒れていて服がダボダボだったとか。僕もこの職場の同僚から聞いた話なので、詳しくは聞けませんでしたけどね」

 

「なるほど。そしてその男の子は、迷子センターとかに保護されて無事、親御さんに引き取ってもらえたと?」

 

今まで、冠城の発言に対して何も反論してこなかった男性がここは首を横に振って答えた。

 

「いや、何でもその男の子。急に姿を消しちゃって。トロピカルランドの警備員が血眼になって探しても遂には発見できなかったとか。だからその子はきっと園内で親御さんを見つけて無事、退園できたとして園側は処理したって聞きましたけど」

 

「血だらけの子供が勝手に居なくなって、それを放置すんなよ…あ、いえいえ」

 

冠城は園側の雑な対応に嫌気がさし、毒吐いたが慌てて否定する。

 

「あと、その日の入園者の中に黒いコートを着た銀髪で長髪の男性と、サングラスをかけたがっしりとした体つきで同じく黒い、スーツを着た男性はいませんでしたか?」

 

「えぇ、いましたとも。確か、事件の際に同じコースターに乗っていた二人組で工藤くんのすぐ後ろに乗っていたとか。その二人、妙なオーラを放っていたと、後輩が怯えたように話していたんで覚えてますよ」

 

冠城はもう一つ、聞きたかったことを聞いた。それは前夜、右京が言っていたもう一つの内容で新一の失踪に関わっていると右京が睨んでいた二人組だった。

 

「怯えていた?」

 

「特に、銀髪の方の男性にひどく怯えていまして。まるでハイエナのように鋭い眼光、凍てつく氷河のように冷たい目線、そして海の底のように暗く表情を感じさせない瞳、そんな冷徹な目はまるで裏社会の人間のようだった、と」

 

「それは流石に誇張しすぎな気がしますね。それだったら刑事にも似たような人はたくさんいますし」

 

冠城は手を横に振って、冗談めかしいと否定する。しかし、男性は真剣な表情を崩さず、静かに言った。

 

「しかし、その二人組。まるで雲のように消えたんですよ。正面から出るところが防犯カメラに記録されてなかったんです。不思議だとは思いませんか?」

 

「なるほど…。今日はお手数をおかけしてありがとうございました」

 

冠城は一言、男性に御礼を言ってそのままエントランスを抜け駐車場に停めてある自分の車に向かった。必要最低限の報告を右京に済ませた冠城は再び高速を走り右京との待ち合わせ場所に向かった。



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49 再来

タイトルが思いつかない!


因みにこのタイトルの意味は、最後で分かると思います。


場所は移って警視庁本庁。

 

ガラスで仕切られた総務部広報課長の部屋で、資料を秘書とまとめていた社は、スマホに掛かってきた電話を確認し通話ボタンを押す。

 

「毒物の混入経路が分かった?それは本当ですか?」

 

相手は鑑識を率いてショッピングモールへ乗り込んだ右京からだった。鑑識課の職員が専用の機械でエレベーターの階数ボタンを調べている横で右京は電話をかけていた。

 

「えぇ。レストラン街直通、及び大規模改装が行われた新フロアに通じるエレベーターの階数ボタンから化学合成物質と思われる毒物が検出されました」

 

「階数ボタン、からですか?」

 

「毒物は口腔ではなく、ボタンを押した指先の皮膚から体内に入ったようです。ですから、同じフロアで降りた人の中で一人だけ、つまりボタンを押した人にだけ被害が出たのです」

 

それと右京は、思い出したかのように一言付け加える。

 

「あぁ、社さん。鑑識では毒物の詳しい素性は分からないそうなのですが…」

 

「直ちに科警研で分析するように、手配します」

 

社は電話を切ると、秘書とともに部屋を後にしフロアを去って行った。

 

 

一方、トロピカルランドでの調査を終えた冠城は車を飛ばしてショッピングモールへ向かった。

エレベーターホールの正面に立っている警官に、警察手帳を提示して冠城は立ち入りを規制しているホールへ入った。

 

冠城は問題のあるエレベーターの方へ向かうと、手を挙げていた右京らの元へ駆け寄る。

朝から居なかった冠城にコナンは疑問を口にする。

 

「朝も聞いたけど冠城さんの『外せない用事』って何だったの?」

 

「無論、『レイブン』についてだよ。それ以外、あり得ないだろ?」

 

とっさに考えた言い訳で冠城は乗り切ろうと考えていた。コナンという存在が不思議であり、今回の調査でより興味深いことに気づいている冠城は、コナンに調査のことを悟られないように事前に調べていた別の事を話し、誤魔化す。

 

「冠城くん、それで成果の方は?」

 

「いました。1959年に死亡した『天田修介』。親族の方にはこれから伺うと連絡してあります」

 

「そうですか。コナンくん、聞いていましたね?」

 

「うん。事件の鍵を握るキーパーソンに会いに行くんだよね?」

 

コナンが聞くと、右京は無言で頷く。出発前にトイレに行くといって姿を消したコナンの様子を伺いながら、冠城はもう一つ報告した。

 

「あと、右京さんに頼まれていたもう一つの案件も先程、調査してきました」

 

「それで、結果の方は?」

 

「右京さんの読み通り、あの夜工藤くんはトロピカルランドで目撃されていますし、同時に『ダボダボの服を着て血を流していた男の子』もいたそうです」

 

「服がダボダボ、血を流した男の子、ですか…。冠城くん、どうもありがとう。この事件もそうですが工藤くん最期の事件、これも闇が深い事件になりそうですよ」

 

右京の言葉に冠城は疑問に思ったのか右京に聞いた。それに答える右京の表情はとても硬かった。

 

「闇が深い?どういう事ですか?」

 

「あの、工藤くんが最後に解決した事件、その後姿を消した彼の動静、そして血だらけの男の子…。事件解決の鍵となるパーツは全て揃いましたから、あとはこれらを繋ぎ合わせて事件の…」

 

そこまで言って右京は話すのをやめた。冠城は疑問の念を右京に向けるが、黙って後ろを向けと目線で合図され後ろを向くといつのまにかコナンが来ていた。

 

 

 

 

「あれ?あそこで話してるのは杉下警部と冠城刑事?」

 

コナンはトイレから出てくると、右京と冠城がまるで内緒話をするように近寄って話しているのに気付いた。

自分も関わらせてくれればいいのに、と近くまで行くとショッピングモールの喧騒に混じって二人の声が漏れ聞こえてきた。

 

「……が最………した…件、その後…を消し………血だ…」

 

右京が話している内容をもう少し聞こうとするも、人が行き交う為なかなか近づいていけない。その間に話が終わったのか、右京がコナンに気付く。

 

「おや?コナンくん、もう大丈夫ですか?」

 

「う、うん。大丈夫だよ。それでさっき話していたのって…」

 

「さぁさぁ、右京さん。行きましょうか?」

 

コナンの話を遮るように冠城が割って入り、2人を誘導した。コナンは頭に残る疑念を払拭できないまま、冠城に誘導される形で車に案内された。

 

 

 

一方、場所は変わって千葉・成田空港。

 

飛行機が引っ切り無しに離着陸を繰り返す中、ある一組の夫婦が到着ゲートから日本の地に足を踏み入れた。

 

「やっぱ、生まれ故郷の空気は違うなぁ。」

 

そう呟いたジャケットを羽織った男性は、空港を一望できるカフェまで行くと、階下に広がる景色を眺めた。

 

「お爺くさいセリフね。まぁ、私もそうだから人のこと言えないけど」

 

妻と思われる女性はカフェで注文したブラックコーヒーを一口飲むと、夫と同じく賑わっているフロアを覗く。

 

「あの人、右京さんは元気かなぁ…。会いたいけど、久しぶり会いに行くのは気が引けるなぁ。忙しいだろうし」

 

夫は昔を思い出すような懐かしい表情をして手荷物バックにあった、手帳から一通の名刺を取り出した。

 

その名刺にはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

『警視庁特命係

 

 

 

 

 

警視庁巡査部長 亀山 薫 』

 



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50 『レイブン』のルーツ

今回で話数が50を超えました。

これも皆様のご厚意のおかげでございます。これからも愛読していただければ幸いです。


同じ頃、都内のとある場所では『レイブン』によって拘束されていると報じられているものの、実際は自由を与えられている鷺沢瑛里華が皺によってボロボロとなった1枚の白黒写真を眺めていた。

 

「随分古い写真だね。家族が誰かのなの?」

 

大勢の人々に見送られて出航していく南洋開拓団の人々の写真を瑛里華に見せるように彼女に向けていた、リーダー格の男はその写真を大事そうにしまうと答えた。

 

「親父の形見さ。これくらいしか、記録が残っていないのさ」

 

男は立ち上がると瑛里華の方をじっと見つめていたが、慈愛のこもった声音でしみじみと言った。

 

「大きくなったな…。7年前とはまるで別人みたいだ」

 

「去年から1cmしか伸びてないの」

 

そこまで言うと、瑛里華はスタスタと自分の寝床であるスペースへ戻っていった。その様子を男は何も言わずにじっと見つめていた。

 

 

 

一方、右京、冠城、コナンの3人は事件の鍵であろう、『天田修介』に直接会ったことのある最期の親族への面会の為、介護老人ホームに向かった。

 

夕方ということもあり、面会人は少なく3人は親族が現れるまでの間、ロビーに設置された大型テレビを眺めていた。

 

『…続いてのニュースです。今日午後、国際競技大会にて華々しい活躍を見せた日本人選手団が、成田空港に到着しました。選手団が空港ロビーに現れると、選手を一目見ようと…』

 

「そういえば選手団の凱旋って、確か〈エッジオブオーシャン〉で行われるんだっけ?」

 

「えぇ。佐藤副総理が力を入れている都心再開発、その大目玉こそ〈エッジオブオーシャン〉ですからねぇ。文部科学大臣に無理を言われたとか。次期総裁選向けてのPR活動とも囁かれていました」

 

テレビを見ていたコナンの疑問に同じくテレビを見ていた右京が答える。国際会議場爆破という事件が起こったにもかかわらず、佐藤中心の強硬派はテロには屈せず日本の底力を見せつけるという名目で、強引に凱旋イベントの延期、中止は検討せずに予定通り行うことを大河内総理に承認させていた。

 

「全く、政府は一体何を考えているのやら。事が起こってからでは遅い、というのに…」

 

冠城もテレビを眺めながら、ボソッと呟く。冠城は法務省や検察庁に友人がいるため、情報を請求すれば答えられる範囲ではあるが正確に聞く事ができる。故に、冠城は官僚が今回の一連の騒動でどれだけ頭を悩ませているのか少なからず知っていた。

 

 

やがて介護棟へ繋がる扉が開き、車イスに乗せられている高齢の女性が現れた。女性のヘルパーが気付くように3人は立ち上がって、2人がいる場所に寄って行った。

 

「この午後の貴重な時間をいただいて申し訳ありません。警視庁特命係の杉下です」

 

「冠城です」

 

「僕は江戸川コナン。おじさん、毛利小五郎さんの無罪の証拠を集めるために特命係の人たちと行動してるんだ」

 

「そうですか。コナンくん、君はとってもいい子ですね」

 

女性は優しい声音でコナンに話しかけると自分の自己紹介を始めた。

 

「私は天田光代と申します。天田修介は、私の従兄弟にあたります。私で良ければ、答えられる範囲ではありますがどんな事にも答えますので」

 

 

場所へ移動してラウンジに落ち着いた一行はそこで話を聞く事にした。ヘルパーに4人分のお茶を用意してもらった光代は、彼女がいなくなったのを見ると、ゆっくりと語り出した。

 

「修介さんの両親は戦前に…『南洋開拓団』の一員としてトラック諸島に渡ったんです」

 

「トラック諸島というのは、現在のチューク諸島ですね?」

 

「えぇ。当時はトラック諸島と呼ばれた日本の委任統治領で、開拓団として海を渡った日本人が、立派な街を作っていたんです。学校や病院、神社などもあって。その島で修介さんは、昭和16年に生まれたんです」

 

光代は持っていた小さなアルバムからいくつかの写真を見せた。それはトラック諸島での生活を写した新聞の写真で、日本人が作った建物や日々の暮らしの一幕が写されていた。

 

「確か、当時島には連合艦隊の大きな港があったはずですが?」

 

「はい。でも、戦争末期。ある朝、島の人々の目が覚める頃、トラックの海を埋めるようにして海原に浮かんでいた軍艦は忽然と港から居なくなっていたそうです」

 

「主力艦隊は全て撤退したわけですか…」

 

冠城の言う通り、当時の大日本帝国海軍軍令部はこの時、軽巡洋艦大淀を移動司令部として使用することを提言しており、撤退は時間の問題だった。無論、軍人でもなくただただ安住の地を求めてトラックにやって来た人は知る由もなく、主力艦隊が撤退したことでトラック諸島にいた人々は敵のど真ん中で孤立する状況に陥った。

 

「島に残された人たちはどうなったの?」

 

コナンの質問に一瞬、光代は詰まる。なぜなら彼女は自身の辛い過去を話すことをあまりしてこなかったからだった。しかし真剣に話を聞いてくれる姿勢、自分に対しての敬意を忘れずに払う3人を見たことで、覚悟を決めて光代は辛い過去を語った。

 

「島に残った人たちの運命は残酷なものだったそうです。ご存知の通り、今まで島を守る要だった連合艦隊の撤退後、トラック諸島は度重なる米軍の空襲や艦隊からの艦砲射撃等など、連合軍の集中攻撃を受けました。その惨状は正に地獄絵図だったようで…」

 

 

そこから語られる彼女の、戦争の生々しい体験談は3人の心を揺さぶり、戦争の悲劇を改めて痛感させた。




皆様の暖かい感想、お気に入り登録に支えられてここまで来ることができました。この場を借りて御礼申しあげます。

この物語も50話を超えてきており、物語も終盤にさしかかろうとしています。

引き続き駄文ではありますがこの作品を最後まで楽しんでいただけたら執筆者としてこれほど嬉しい気持ちはありません。


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51 A dark path

相棒 season17にて大木さんに次いで今度は幸子さんまでもが卒業とは…。何とも残念です。


「島に残った人たちの運命は残酷なものだったそうです。ご存知の通り、今まで島を守る要だった連合艦隊の撤退後、トラック諸島は度重なる米軍の空襲や艦隊からの艦砲射撃等など、連合軍の集中攻撃を受けました。その惨状は正に地獄絵図だったようで…」

 

右京、冠城、コナンの3人は『レイブン』に殺害されたFBI捜査官、ジェイ・ノリスが、殺害される直前に残した『天田修介』という名の人物を知る、彼の従兄弟の天田光代から詳しい話を聞く事になった。

 

一旦、話を区切った彼女はお茶を一口飲むと、3人の目を見据えて一言一言を噛みしめるように言った。

 

「そして島の人たちは国から何にも知らされないまま、無防備な島で戦火の中を逃げ惑ったそうです。連合軍の攻撃は、老若男女問わずに行われ日々増していく一方でした。幼い修介さんは、母親の清子さんも攻撃の被害にあって…」

 

連合艦隊という大きな要を失い、日本から孤立したトラック諸島は連合軍に包囲され、連日空母から飛び立った艦載機の空襲に遭った。米軍は民間人が隠れているであろう、防空壕を始め島を徹底的に空爆していった。

 

一方、要を失い防空壕も敵の攻撃によって避難できなくなるほど破壊され行き場を失った人たちはどうなったのか。ただただ、敵から自分の身を守ることだけしか出来ず、浜辺や森林の中を逃げ惑うことしか抗う術はなかった。

 

連合軍の空爆から命からがら逃げて浜辺へ行き着いた人々。そこには幼い修介と、その修介を庇うようにしてただひたすら走る清子の姿があった。

 

浜辺には空爆によって吹き飛ばされた死体の数々、そして容赦なく襲いかかる敵の爆撃機。

 

そんな様子は戦争を経験した者でしか、味わうことのない酷い記憶だろう。

 

そして運良く空襲から逃れられ、飛行機から地上にいる人が見えにくくなる夜に、トラック諸島を脱出しようとした修介、清子を含めた一行にも敵は牙を剥く。

 

島を包囲した連合軍は戦艦、重巡洋艦からの艦砲射撃も行った。止むことのない、砲撃は島から脱出しようとボートに乗り込んだ修介、清子ら民間人と、同じく脱出を図る帝国陸軍の兵士を襲った。

 

そのうちの一発が、修介や清子を乗せたボートの近くに着弾しボートはその衝撃で転覆し中に乗っていた民間人は全員海に投げ出された。

助けを求める彼らを他所に、他のボートは進んでいく。

 

「…内地へ逃げる時も軍人が優先で、民間人の中には戻れなかった人もいたそうです」

 

当時は救命胴衣というものはないため浮くことは愚か、その場でもがくことも時間が経てば難しくなる。

自分たちを置いていくボートを見る暇もなく、ボートから投げ出された人たちは何とか陸地を目指し泳ぐしかなかった。

 

 

翌朝、敵からの攻撃が収まった早朝。浜辺には海から流れ着いたであろう、沢山の死体が漂着していた。

 

「お母さん……お母さん……」

 

浜辺にあった幼い体が、立ち上がり辺りを見回す。そこには死体があるだけで母親は愚か、生存者の気配はない。幼い修介は母の名前だけを呼び続けながら島内を歩き回った。

 

幼い彼を残酷な真実が襲う。いくら島内を歩き、母を探し回っても母の清子は姿を現さない。受け入れがたい真実が彼を絶望へと叩き落とし、彼は泣き叫んだ。母を返してくれ、そんな思いで彼は地下に保管されていた乾パンを齧りながら泣き叫び続けた。

 

「お母さん…!あああぁぁぁぁ!!」

 

 

 

「光代さんは、そのお話をどなたからお聞きになったのですか?」

 

右京は内地にいたであろう、光代が戦争を経験した世代とはいえ、ここまで生々しい話をできるはずはない。そう思い、率直な疑問を彼女にぶつけた。

その答えはすぐに彼女が教えた。

 

「修介さん本人から、聞いたんです」

 

右京、冠城、コナンの3人は思わず身を乗り出した。この答えは彼らの予測では考えていなかったのだった。

 

「天田修介に会ったんですか?」

 

「えぇ。もう、50年以上前になりますか。…遠い島で親を亡くして、まだ見ぬ故郷を想わない日はなかったんでしょうねぇ…」

 

光代は記憶を踏みしめるように、何回も頷きながら語る。

 

「修介さんはその後必死にお金を貯めて、19の時初めて日本に来たんです」

 

 

それはとある夏の日の事だった。光代が成人して間もない時、1人の青年が彼女の自宅を訪れた。

蝉が夏の音を奏でる中、襟付きのシャツを着て日焼けをしたのか褐色の肌をした坊主の青年。額には汗を浮かべ、慣れない日本語を喋りながら自らの身元を明かす。

 

「僕、天田修介デス…。…母ハ…天田清子ハ、戻ッテイマスカ?父ハ…武則ハ?」

 

死亡したと考えていた家族が帰ってきた。目の前で突然起こった事実に若い光代やその家族はただ驚くことしか出来なかった。

 

また彼が聞きたがっていた父親と母親の行方についても、幸い生き残っていた光代の両親は伝えるのに心苦しかった。

修介の父である天田武則は戦死し、母である清子も日本には帰ってこれていなかった。

 

「…その上、修介さん自身も特別措置法によって未帰還者として既に日本政府から戦死死亡宣告が成されていたんです」

 

父と母が生きている、そんな淡い希望を打ち砕かれた修介に追い討ちをかけたのが特別措置法だった。

 

修介が帰ってきた次の日の夜、光代はそっと障子を開けて客間の様子をのぞいた。

 

机に置かれた電気スタンドが部屋を照らす中、修介は正座して畳に押しつけるように広げていた紙を読んでいた。

それは昼間のうちに光代の両親が彼に渡した、修介が特別措置法によって戦死死亡宣告されたという日本政府からの通知だった。

 

その紙を何度も読み返した修介は紙を握りしめると、泣き叫びながら何度も拳と紙を畳に叩きつけた。何度も何度も紙をくしゃくしゃにし、拳を畳に叩きつけ泣き叫ぶ姿を障子越しに見ていた光代はひどく心苦しみ、光代の眼からは涙が溢れ出た。

 

「その時の修介さんの嘆きをば………見ていても、胸が裂かれるようでした」

 

 

「翌朝起きたらもう、修介さんはいなくなっていました」

 

「それ以降はもう、一度も修介さんには会っていないの?」

 

コナンが聞くと光代は頷いた。重々しい沈黙の後、光代は浮かべ体を震わせながら3人に言った。

 

「修介さんの両親は、日本という国を信じ、国を背負って海を渡ったんです…!そういう人たちにとって、国が行ったあの政策は…酷い仕打ちだったと思います…!!」

 

光代は言い終わると、力尽きたかのように俯いた。天田修介に降りかかった数々の悲劇は戦争を経験してこなかった右京や冠城、戦争を教科書でしか知ることのないコナンにとって、重々しい事実として深く心に刻み込まれた。

 

 

 

「今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました」

 

右京は光代の心身の疲労が近づいていると考えて、話はここまでとし退散することに決めた。

 

「私のお話は、役に立ちましたか?」

 

「えぇ。光代さんから聞けたお話は必ず、有効に活かさせていただきます」

 

光代の問いに答えた冠城は、感謝の気持ちを込めて深々とお辞儀をした。

すると、光代はコナンの方へ体を向けて聞いた。

 

「コナンくん、梅野さんっていうお婆さんを知っていますか?」

 

コナンは多くの人たちと事件を通じて知り合っているので交友関係は広いが、梅野という女性は知らないので首を横に振る。

 

「毎日、新宿の美術館に足を運んでゴッホが描いたとされる『ひまわり』を見ている人でね。つい最近も、鈴木財閥が世界中にある7つの『ひまわり』を集めた展覧会…確か名前は…」

 

「鈴木財閥がこの展覧会の為に作ったレイクロック美術館で開かれた展覧会『日本に憧れたひまわり展』ですねぇ。あっ、失礼」

 

右京は自らの横やり的な行動を陳謝したが、彼女の言いたかったことは前述した事なので右京の言葉を借りて光代は続ける。

 

「そうです。その展覧会で、2枚目の『ひまわり』を食い入るように見つめていた女性はいなかった?」

 

コナンはキッドとの対決の中で、鈴木財閥が世界中からゴッホの「ひまわり」を集め、それをキッドが狙ったという事件を思い出した。

 

その事件の過程で、5枚目の「ひまわり」も標的になったのだが、そのひまわりの持ち主である損保ジャパン日本興亜美術館及び、展覧会の会場となったレイクロック美術館で出会った1人の老婆の存在に気付いた。

 

理解しかかっているコナンを見て、光代は話を続ける。

 

「梅野さんはね、コナンくんに感謝していたよ。大事な『ひまわり』

を守ってくれた勇気ある少年だって。あの『ひまわり』は私にとって愛する人の形見だからとも言っていたわ。私からも感謝の意を伝えさせてもらうわね。ありがとう」

 

「光代さん。僕はやるべき事をやっただけだし、キッドもあの事件に関わっていた真犯人を見つけて欲しかっただけらしいしね。今、2枚目の『ひまわり』は鈴木財閥の金庫に保管されているから大丈夫だよ」

 

 

 

 

この話を最後に、右京、冠城、コナンの3人は話を切り上げ、コナンを保護者である妃弁護士の所へ送り届けるため、老人ホームを後にした。

 




こうして書いていて、戦争の描写を描くのはとても難しいと改めて感じました。

因みに、光代さんと業火の向日葵に出てきたウメノという女性の関係性は同世代という事で持たせてみました。


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52 2人の共通点

相棒17の最終回、タイムトラベルとかあんまり従来の相棒では見られない表現あったので、びっくりしたのと同時に、細菌やウイルスが話題になっていて、相棒7の亀山くん最後の事件の『レベル4』を思い出しました。


「国に見捨てられた子供…」

 

コナンを保護者である妃弁護士の下へと送り返した、右京と冠城はその足で警視庁に戻った。

 

紅茶を入れたティーカップを持ち椅子に座る右京と、仕切りで仕切られたデスクから椅子をテーブルまで移動させてそこに肘をつきながらマグカップを手にしている冠城は、先程光代から聞いた話が脳裏を離れないでいた。

 

「そういう意味では、天田修介も瑛里華さんと同じ、ということですねぇ…」

 

「天田にもし息子がいたら、『レイブン』と同世代かもしれませんね。仮に天田の息子が、ずっと父親から当時の話を聞かされて育ったとしたら…」

 

 

そこへ右京の携帯の着信音が鳴り、冠城は話を中断した。電話の相手はチンと共に、捜査本部にいる神戸からでテレビ電話での通話だった。

 

『神戸です。チンさんが、コンビニの防犯カメラに買い物をする瑛里華さんを発見しました』

 

神戸は最初に自分の方を映し、続いてパソコンを食い入るように見つめるチンを映す。

その映像は直ちに捜査本部の巨大スクリーンにも映し出され、伊丹や芹沢、高木らを始めとした刑事部、公安部の捜査員一同が食い入るように見つめる。

 

「あれが、瑛里華さん?動画と雰囲気が全く違う…」

 

「あぁ。脅されて行動している風にも見えねぇしな」

 

「もう彼女、奴らの仲間になってるんじゃ…」

 

千葉の言葉に伊丹、芹沢が反応する。コンビニの防犯カメラに映る鷺沢瑛里華は白いキャップ帽子を被り、青いシャツに薄い羽織物を羽織っていた。購入品は生物から加工品まで様々で、組織から大金を持たされているのか大量に購入していた。これだけでも比較的自由が与えられていると読み取れ、芹沢の言う通りもう組織の仲間になっているのではないか、という疑念が高まった。

 

「瑛里華さんはコンビニの近くで車に乗って移動しています!ナンバープレートは映っていません」

 

捜査本部にいた岩槻が瑛里華を乗せた車の拡大映像をスクリーンに新たに表示した。

黒いワンボックスカーを運転する男性の顔は拡大画の為、不鮮明で捜査本部にある機材だけでは拡大画の正確な処理は難しかった。

 

「運転席の男の顔を画像処理班に回せ。至急、解析するよう念を押してな」

 

中園の指示で岩槻は捜査本部を後にし画像の正確、高画質の処理を行うためサイバー犯罪対策課へ戻った。

 

「車に同乗している男の顔は、画面のクリーンアップに時間がかかりそうです。車はブルーのセダン、瑛里華さんの現れたコンビニは…」

 

「神戸尊!何をやっている!」

 

神戸の外部との通話がバレたのか、突然、内村の怒号が捜査本部に響き渡り、捜査員一同が神戸の方を見る。彼がしまった、と思った時には既に内村が神戸の方へ歩いてきてきた。

 

「もしもそれが電話ならすぐに切れ!ここの捜査権は我々が持っている。捜査本部の情報を外部に情報漏らすことなど、一切私が許さん!」

 

神戸は笑顔で、内村からの指示を受け入れスマホをスーツの胸ポケットに入れた。

 

 

 

 

「神戸くん。君の電話、もしかして杉下警部に通じているのではないかな?」

 

すると、ひな壇に座っていた幹部の1人、衣笠副総監が立ち上がり声をかける。神戸自身も、副総監として敏腕に振る舞う衣笠には底知れぬ恐ろしさを感じており適当な誤魔化しは通用しないと考えていたのだが…。

 

 

 

 

「いえいえ。うちの知り合いの奴が、どうしても事件について知りたいと…」

 

あっさりと嘘をつく神戸だった。衣笠は明らかに不機嫌そうに眉をひそめると、低い声で言った。

 

「君は警察庁の人間とはいえ、今は長官官房付つまり、謹慎の身だ。厄介な事に巻き込まれたくなかったら、二度とふざけた真似はしないでもらいたいね」

 

口調は穏やかだが、明らかに神戸に対しての不満を衣笠は覆い隠さずにぶつける。しかし、杉下右京という人間と仕事をして、既に様々な厄介事に巻き込まれて耐性ができている神戸は衣笠の警告など、馬の耳に念仏だった。

 

 

 

 

 

 

「繋がってますねぇ…」

 

「えぇ」

 

一方、画面で捜査本部の風景が見えていた右京と冠城は、神戸が胸ポケットにスマホをしまったため、映像は真っ暗になってしまったが未だに通話状態である事に気付いていた。その証拠に携帯のスピーカーを通じて捜査員の話し声や中園ら幹部の声が聞こえていた。

 

 

「鷺沢瑛里華が現れたコンビニは町田市三原町!町田市三原町だ!『レイブン』のアジトにはいくつかの候補が上がっているが、ここはその候補地の中で最も都心から離れた最有力地だ!」

 

右京らに捜査本部の情報が漏れているとも知らずに中園は捜査員らに大声で呼びかける。

 

「隅から隅まで、虱潰しに探せ!」

 

内村が呼びかけると、ひな壇に座ったままいた黒田が立ち上がり宣告する。

 

「この有力な情報を元に明日の午前9時を機に、町田市に点在する空き家の、一斉捜索に入る。…ぬかるなよ、相手は国際犯罪組織。鷺沢瑛里華の救出が失敗すれば彼らは彼女を人質に取り、テロを強行する恐れがある。アジトを発見次第、機動隊が到着するまで気付かれぬよう、監視しろ」

 

捜査員一同は「はい!!」と言うと、各自の分担をチェックし明日に備えるため、捜査本部を後にする。そんな捜査員たちを横目に、神戸はまるで悪戯っ子が悪戯に成功したように笑顔になると、捜査本部を行き交う捜査員に気付かれぬようにスマホに向かって呟く。

 

「じゃ、頑張ってください。神戸尊でした」

 

そんな神戸に近づく、二つの影。神戸が気付くと伊丹、芹沢がまるで妖怪のように神戸の顔を覗き込んでいた。

 

「あ、どうも。ご苦労様です」

 

「おい、黒田管理官がお呼びだ。何をしでかしたか、俺の知ったこっちゃないが、早めに行っておいたほうが身の為ですよ。神戸警視」

 

平然と挨拶する神戸に黒田管理官から呼び出し、という案件だけを伝え伊丹らは足早に去って行く。驚いた神戸がひな壇の方を向くと、そこには厳しい目つきをした黒田が神戸の方をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

「なぁ、灰原。今の話を聞いてどう思った?」

 

一方、妃法律事務所からタクシーで毛利探偵事務所に戻ったコナンは玄関から毛利探偵事務所に繋がる階段に寄りかかりながら、阿笠邸にいる灰原に電話をかけていた。

 

『…そうね。私なら裏切った祖国への復讐を企てるけど、実際問題そんな事は不可能。仮にそんな事をやろうとしても、命と引き換え。そんな取引、私なら乗らないわ』

 

天田修介の話を従兄弟である天田光代に話された内容を忘れられないコナンは灰原にその一端を話した。電話の向こうで灰原はしばらく沈黙したがやがて口を開いた。

 

「でも、もしも『レイブン』が天田修介からこの話を聞いていたとしたらどうする?十分な組織力に、武器、資金、それに『レイブン』は推定だが30代〜50代、テロを実行できる年齢だ。仮に国際会議場の爆破が『レイブン』による犯行だとしたら…」

 

その時、コナンの推理にいい加減うんざりしたのか、電話口の灰原はため息をついて言った。

 

『そんな事より、あなたがいますべき事はガールフレンドを助けて彼女の父親である毛利探偵の無実を証明する事なんじゃない?『レイブン』の方は最近あなたが一緒に行動している杉下警部や冠城刑事が解決しくれるでしょ?』

 

「あれ、杉下警部や冠城刑事について何か言ったっけ?」

 

『あなたがメールで何度も言ってくる刑事の名前だから、覚えちゃったわよ。それに、蘭さんが阿笠博士のもとを訪れた時にもこの名前を言っていたしね。詳しく調べてみたら『和製シャーロック・ホームズ』だってよ。そんな力強い味方がいるんだからここはそんな危ない事件から手を引いたら?じゃあね』

 

そう言うと、灰原はコナンの返事を待たずに電話を切った。無理矢理、切られたコナンは真っ暗になった電話のディスプレイを眺めるとそのままスマホをポケットにしまった。

 

 

 

 

 

「何すんのよ!どういうこと!?」

 

その頃、都内にある『バーズ』の潜伏場所である空き家では『バーズ』のメンバーによる荷物の搬出が行われていた。

その中でリーダー格、首にカラスの羽のタトゥーが描かれている男は嫌がる瑛里華の手足と口にガムテープを貼り付け、完全に拘束していた。

 

「悪いが、お前はもう用済みなんだ」

 

口をガムテープで塞がれ、喋れずに寝かされているソファの上で、身悶えするしかない瑛里華に男は、ジャケットを被せると他のメンバーと共に階段を駆け上がり、上に向かった。

 

そして、全ての荷物を搬出した一行はシルバーのワンボックスカーに乗ると、夜中のうちにアジトから走り去って行った。

 




書いてみて思いましたが、衣笠副総監の悪役っぷりが内村部長以上に色濃くなってるなぁ、と書いていて思いました。


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53 発見

何が発見されたのか、それは本編で分かると思います。


翌朝、冠城が登頂すると既に右京が紅茶を飲んで過ごしていた。今日は〈エッジオブオーシャン〉にて、日本選手団のパレードが行われる日であり、なおかつ無人探査機で火星での任務を終えた〈はくちょう〉の帰還する日であり、朝からテレビ各社はその話題で持ちきりだった。

 

「今日ですねぇ…」

 

「確かに、今日無人探査機〈はくちょう〉が地球に帰還します。右京さん、気になってるんですか?」

 

冠城が聞くと、右京は椅子から立ち上がりティーカップを持ったまま答えた。

 

「それもありますが、僕には気になっていることがもう一つ。今日、6月26日こそ、7年前に自殺した羽場二三一氏の命日です。この人物は捜査本部でマークこそされていないものの、僕には一連の事件と関係している気がしてならないんですよ。無論、彼は自殺して死亡届も出されておりその事を追求する事はできませんが、仮に橘弁護士が今回の事件に何かしら関与していたと仮定した場合はどうでしょう?」

 

「何故、そこで橘弁護士が出てくるんです?彼女は弁護士ですよ?自殺した事務員の1人にそんなに関与しますかね?」

 

「彼が務めていたのは橘弁護士の事務所です。この橘弁護士は偶然かそうでないか分かりませんが、現在毛利さんの弁護を務めています。そして日下部検事、彼は羽場さんが拘留中に何度も彼、つまり羽場さんの元を訪ねています。先日も言いましたがこれだけ一つの事件に関わっている人物たちがこの一連の事件に関わっているとは、偶然で片付けるにはいささか無理があるような気がしましてね」

 

冠城はしばらく考え込んでいたが、ふと何かを思いついたかのように口を開いた。

 

「今回のテロには羽場さんの遺族も絡んでる?」

 

「遺族かどうか分かりませんが、羽場さんの関係者がこの事件に関わっていることは間違いないでしょうねぇ」

 

右京はティーカップを持ったまま、ホワイトボードに新たに貼られた、日下部検事と橘弁護士の写真を見つめた。

 

 

 

 

午前9時を機に、捜査本部から派遣された捜査員が町田市に現れる。何台もの車に分乗した捜査員が各ポイントに向かい、そこから徒歩で地図で確認した線路沿いの空き家の捜索に入る。

 

そんな中、一通りが少ない路地に一台のシルバーのスカイラインが静かに停止する。車内にいるのは右京と、サングラスをかけている冠城の2人。

 

「右京さん、あれブルーのセダンですよね?」

 

冠城が指差す方向には周りを塀と木で囲まれた空き家があり、錆れた門の奥にはブルーのセダンが一台、忘れられたかのように停車していた。

 

右京が車の周辺をくまなく捜索する中、フェンスが開いているのを確認した2人は玄関の扉を開くと、中へ突入する。

 

中は2階建てで吹き抜けとなっており、入り口から下に続く階段に通じる廊下から一階を一望できる。

 

2人は警戒しながら一階に降りると、それぞれ個別に分かれて捜索する。右京が入った分室は鷺沢瑛里華の動画が撮られたと思われる部屋の風景と一致する部屋で、椅子と時計が置かれている以外、家具類は撤去されていた。

 

冠城はそのまま吹き抜けの広間の捜索を続けていた。すると、そこにソファから落ちた状態で手足と唇をガムテープで拘束されている少女を発見した。

 

冠城は奥にある右京を大声で呼ぶと、少女のガムテープを剥がしていく。右京も手伝ってガムテープを剥がしていると少女の目がゆっくりと開かれた。

 

「もう大丈夫ですよ、外しますから」

 

唇のガムテープを剥がした瞬間、突如少女は立ち上がり自分のベットから拳銃を取り出すと、容赦なく2人に銃口を向けた。

 

冠城は驚いて身を引くが、右京は冷静に左手を挙げて制止させる。

 

「安心してください、僕たちは…」

 

「警察でしょ!『レイブン』を逮捕させたりなんかしない!」

 

少女はゆっくりと移動して右京、冠城と対比するように向かい合う。冠城は相手を刺激しないようゆっくり両手を挙げて移動すると、少女を宥めようとする。

 

「落ち着いて…。君は、育ててくれた人を大事に思ってる。でも、仮にその拳銃を撃てば、ここら一体を捜索している警察官たちが銃声を聞いて、ここに突入してくる!第一、君にそんな物は撃てない」

 

少女は銃口に近くにあったペットボトルをつけ、サプレッサーの代わりにすると、冠城の近くにあるサンドバッグに向かって発砲する。銃弾はペットボトルを吹き飛ばしてサンドバッグに命中し、開いた穴からは砂が流れ出る。

 

「前言撤回。君なら撃てる」

 

「私は本気よ。何人も殺してる」

 

少女は改めて両手を挙げる冠城から右京に銃口を向ける。

 

「えぇ。7年前、鷺沢参事官以下、あなた以外の屋敷にいた人達全員が毒殺された事件。その時に毒物が混入されていたお茶、そのお茶に毒を仕込んだのは鷺沢瑛里華さん、あなたですね?」

 

少女、いや鷺沢瑛里華は右京に銃を向けたまま僅かに身体を震わせた。

 

「僕は事件のあった屋敷の図面を見ましたが、ラウンジとキッチンにあった来客用と使用人用の2つのティーポットに、部外者が怪しまれずに近づくのは困難です。それが出来るのはあの屋敷の者だけ、そして屋敷の中で生き残ったのは瑛里華さん、あなただけです」

 

「しかしあなたはあれが毒だとは知らなかった。あなたを騙して毒を入れさせたのは事件後に射殺死体となって発見されたこの男、デニス・コナーですね?」

 

瑛里華は右京が懐から取り出したコナーの写真を見て、静かに告白した。

 

「私の最初の友達…、会ったのはロンドンの美術館だった」

 

「コナーは、あなたを何と言って騙したんですか?」

 

「『願いが叶うシロップ』、コナーは生まれた日に願いを込めて飲ませれば、必ず願いが叶うと言ったのよ!」

 

「君は…何と願ったの?」

 

冠城は両手を挙げたまま、瑛里華に聞いた。銃口を向けたまま、瑛里華は苦い過去を語り出した。

 

 




いよいよ、〈はくちょう〉が地球に帰還する日となりました。しかし、ここはコナンと相棒のクロスオーバーの世界。何が起こるのかは今後のお楽しみということで。

今後もよろしくお願いします。


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54 右京の説得

今回、登場人物の英語のセリフがいくつかありますが、一部は日本語に変えてあります。英語の楽しみにしていた方は、申し訳ありません。私の語彙力がない為です(泣)。


「8歳で向こうに行ってから…、自分が向こうでどうも思われたのか分かってた」

 

瑛里華が握っている拳銃は震えていた。今、瑛里華は自分にとって苦痛で、恐怖だったあの日の出来事を鮮烈に2人に語る。

 

 

 

 

 

「ハッピーバースデー!」

 

 

7年前、まだ瑛里華が10歳だった頃のイギリス・鷺沢参事官別荘。その屋敷ではその日、参事官の令嬢であった瑛里華の誕生パーティーが開かれていた。招かれたのは参事官の友人やイギリス外務・英連邦省のアジア局に務めていた外交官やその家族だった。

 

当時、彼女の友人だった3人の少女は明るい声音で言うと、黄色い猿の人形を瑛里華に差し出した。

 

瑛里華は戸惑いながらも、「ありがとう」と言って、受け取ろうとするも途端に猿の人形を持っていた少女は、ホールの床に人形を落とした。

 

そして隣にいた長身の少女が言う。

 

「あら、せっかくあなたみたいなのを選んだのに」

 

そう言うと、3人の少女はスキップしながら階段の方へ向かう時、歌を口ずさむ。

 

「Big yellow moon♪Your turn is done♪」

 

ホールから2階に繋がる階段まで来ると、3人の少女は揃って瑛里華を指差して、馬鹿にしたような笑みを浮かべて言った。

 

「She is a big yellow monkey !」

 

3人は反省する素振りを見せずに階段を駆け上がり、2階に向かう。次にホールで談笑していた外交官や妻たちが、屋敷で働いている執事に案内されて同じく2階に向かった。

彼らは瑛里華を弁護したり少女らを止めることはおろか、瑛里華の存在すら気付いていないと言わんばかりに、彼女に一言も声を掛ける者はいなかった。まるで、瑛里華の存在を否定するかのように。

 

そしてホールで来客を迎えていたメイドたちも、小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、キッチンと入っていった。

 

「2年間、一生懸命努力してきたけれども、受け入れてはもらえなかった。それで、受け入れて欲しいって…、願いを込めて…」

 

 

 

7年前の記憶が鮮やかに蘇る。7年前の瑛里華の心には、殺意や自信を馬鹿にした人々への恨みはなく、ただ自分もみんなと一緒に遊びたい、偏見されたくない、受け入れて欲しい。そんな思いがあった。

 

そんな瑛里華はまさかコナーが渡したものが、後の自らの人生を変えるものだとは知らずにティーポットにシロップと聞かされていた液体状のものを注いだ。

 

 

「クローゼットから出た時は、ドキドキしてた…。世界が変わってるんじゃないかって…。でも……」

 

 

その後、瑛里華と3人の少女はかくれんぼをして、逃げる役の瑛里華は客間のクローゼットに隠れていた。しかし、見つける役の少女は中々現れない。瑛里華は、心労の疲れからか眠ってしまった。

 

 

時が経ち、いつまでたっても少女は現れなかった。もしかしたら、また仲間外れにされたのではないか。そんな思いで客間から出てみると廊下に一人、口から血を吐いたメイドが倒れているのが、目に映る。

 

驚いた瑛里華は、父にこの事を伝えるべくホールに繋がる階段を駆け下りると、そこには先ほどのメイドと同じく血を吐いた執事が階段に倒れ込んでいた。

 

まさか、と思いパーティーが開かれているであろう大広間に向かうとそこには、かくれんぼをしていた少女を始め、外交官やその妻、更に父の亡骸が残されており、皆一様に血を吐いてソファや床に倒れ込んでいた。

 

瑛里華はテーブルの上に、あのシロップを入れたティーセットだけが残されていたことに気付いた。ここで、自分が入れた液体状のものが魔法のシロップなどではなく、人を死に至らしめる毒物であることに瑛里華は勘付いた。恐怖でその大広間から逃げるように走って去ると玄関に、あのシロップを渡した、友人であるデニス・コナーが立っていた。

 

「これが君の望みか…。仕返しがしたかったんだね」

 

黒いコートを羽織り、黒い帽子を深くかぶったコナーは、ゆっくりと玄関から歩いてきた。その姿は、瑛里華には悪魔のように見えたのかもしれない。

 

「君を黄色いと嘲笑っていた友達、それを見て楽しんでしたメイド達。そして君のお父さんは、忙しくて君を助けなかった。皆に仕返しがしたかった」

 

コナーは瑛里華に顎に手をそっと添える。瑛里華は一瞬、自分が殺したであろう、この屋敷にいた人々の亡霊が背後に現れる気配を、感じた。

 

コナーは瑛里華の目線まで自身の体を屈ませると、瑛里華にそっと語った。

 

「この事は、誰にも言わないであげる。後でおいで、僕のところに」

 

そう言うと、コナーはコートを翻して去って行った。玄関に取り残された瑛里華はその後、警察が到着するまで呆然とホールに立っていた。

 

 

 

 

「私は…本当は仕返しがしたかったのかもしれない…。だから、こんな事になってしまったんだと思ってた」

 

瑛里華は弱々しく震えた声で右京と冠城に語った。それでも右京らに向けた、銃は下ろさない。

 

「いいえ。瑛里華さん、殺したのではコナーであって、あなたではない」

 

右京は瑛里華に穏やかな声で語った。瑛里華を刺激しないように、細心の注意を払いながら。

 

「いいですか。自分たちと違うからという身勝手な理由で、平気で人を傷つけ、排除しようとする人間はどんな国にもいます。勿論、この日本にも」

 

「コナーはあなたの傷ついた心に漬け込んで、あなたに呪いをかけたのではありませんか?あなたは、人殺しだと」

 

瑛里華は泣きそうになりながらも銃口を冠城から、右京に向ける。冠城は右京が狙われている状況により一層、警戒を高めた。

 

そんな冠城の不安を他所に、右京はゆっくりと瑛里華の方へ歩み寄る。

 

「あなたは、誰も殺してなどいない」

 

後ずさりする瑛里華に右京は追いつくと、左手で拳銃を握ってる瑛里華の手を抑え、右手で銃口を覆うようにしてそっと瑛里華の手から拳銃を抜き取った。

 

瑛里華は今までの緊張から解放されたからか、右京に手を握られたまま床に座りこんでしまった。その隙に、右京から拳銃を素早く受け取った冠城は、ジャケットの内ポケットにしまい込んだ。

 

 

「コナーは、なぜそんな事を?」

 

右京の横に立っていた冠城は、スマホを取り出しながら率直な疑問を右京にぶつける。

 

「身代金と引き換えに瑛里華さんを返した時に、何も喋らせない為でしょう。コナーは、彼女に完全に顔を覚えられていたでしょうからねぇ」

 

 

 




この後の話も、ここからの続きとなります。


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55 ターゲット

今回は少し短めです。


「『レイブン』は、この男だよね?」

 

冠城はスマホを取り出すと、ある写真を瑛里華に見せた。その写真はジェイ・ノリス氏殺害時に防犯カメラに映った、首にカラスの羽のタトゥー入れた男の後ろ姿のものだった。

 

瑛里華は俯きながらも、頷いた。

 

「ずっと…私を本当の娘のように育ててくれた」

 

右京は屈むと、有力な情報を持つ瑛里華に対して何か知っていないか、と問う。

 

「僕たちは、彼が何か恐ろしいことを実行するのを、止めたいのです。協力してもらえますか?」

 

「でも、私は何も聞いてない。その時が来たら、教えるって」

 

「どんな些細なことでも構いません。彼は何か言ってませんでしたか?」

 

瑛里華は今までの『レイブン』との会話を振り返り、その中である言葉を思い出した。

 

「…これが最後の仕事だって」

 

 

 

 

 

冠城はその時、男が着ていたであろう、ソファに置かれた黒いジャケットに気付いた。右京に断りを入れて冠城はジャケットを手に取り、調べ始める。

 

「右京さん、これ…」

 

冠城がジャケットを調べていた時に、内ポケットに何か物が入っている事に気づいた。気になって取り出してみると、それは少量のカビに覆われた写真だった。写真には大勢の人々に見送られながら出航する船団と、それに乗る沢山の人々、それに彼らを見送る人々が写っている。

 

「この船の横断幕に『南洋開拓団船団』と書かれていますねぇ。瑛里華さん、これは彼のものですか?」

 

瑛里華は頷くと、それが父親の形見であると男が言っていた事を右京と冠城に伝えた。

 

「じゃあ、『レイブン』はやはり、天田修介の息子…」

 

冠城が言うと、右京は人差し指を立てながら自身の考えを冠城に伝える。

 

「えぇ。『レイブン』は、父親である天田修介から形見としてこの写真を譲り受けた。この船の何処かに天田修介の両親がいるはずです。つまり、これは『レイブン』のルーツです!」

 

「これを持っていたって事は、彼は父親から…国に捨てられた話を聞かされて育った…」

 

冠城は瑛里華に聞こえない程の声量で右京に語ると、右京はこの写真の中に隠されているであろう、ヒントを探し始める。

 

その写真には船団に乗る人々やそれを見送る人々の模様が写っており、船に乗る人々は日の丸の周りに多くのメッセージが書かれた日本国国旗を柵に下げている。一方、見送る人々は小さな日本国国旗を振って見送っている。

 

 

 

 

その光景を見て、右京はある事を思い出す。それは昨日、コナンと共に見た、角田が持っていたスポーツ新聞に書かれていた『日本人選手団 帰国 明日はパレード』という見出しであり、同時にニュースで報じられていた映像の中で、成田空港で華々しく迎えられる選手団と共に、出迎えに来た多くの人々が日の丸を持っていた事を思い出す。

 

「なるほど…!」

 

右京は閃き、目を見開くと冠城に語る。

 

「冠城くん。今日、日本人選手団のパレードがあります。開拓団の人々もまた、彼らと同じように国を背負い激励されて送り出された。だが見捨てられ、忘れ去られた。彼らのように国の誇りとして、迎えられはしなかった。『大勢の人々の見守る中で、日本人の誇りが砕け散るだろう』。冠城くん!」

 

呼ばれた冠城は、右京に歩み寄ると写真のある箇所は指で示された。

 

「ここを見てください。ここに『東京都管轄 江東港』という地名が書かれた看板があります。ここが今どこだか、冠城くんなら分かるでしょう」

 

右京に言われた冠城は、この事件でたくさんある記憶を探った。そして、冠城自身仰天するような事実に気付いた。

 

「江東港…。まさか〈エッジオブオーシャン〉ですか?」

 

「えぇ。旧江東港は、戦後物流の拠点として使われてきましたが都心の開発により、使われなくなっていたのを現在の大河内内閣が〈エッジオブオーシャン〉として再開発しました。今日、パレードが行われるのも〈エッジオブオーシャン〉です。テロリストは日本人選手団を狙うつもりです!」

 

右京は腕時計を見て現在の時間が午前11時である事を知った。パレード開始まであと4時間もの猶予がある。右京と、冠城は捜査本部に『レイブン』のアジトの場所を報告し、大勢の捜査員がアジトに突入したタイミングに入れ替わりでアジトを後にし、その足で警視庁に向かった。

 

 




遂に、『レイブン』の狙いを突き止めた右京、冠城。

果たして、彼らはテロを防ぐことができるのか?乞うご期待!


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56 証拠必須

風邪をこじらせてしまい、投稿が遅れました。申し訳ありません。


右京、冠城は瑛里華の身柄を警視庁に護送し彼女を警視庁に預け、瑛里華が持っていた銃を鑑識に送った2人は案の定、様々な書類の作成や聴取を行ったため時間がかかってしまった。時は12時30分を過ぎていたので2人は食堂に行き、軽食を口にした。

 

その後、証拠となる写真を持って右京と冠城は13時15分から定例の捜査会議が行われているであろう、大会議室に乗り込んだ。

大会議室には内村や中園の刑事部のトップの他に、管理官の黒田、公安部長ら公安部のトップ、衣笠副総監といった警視庁上層部のメンバー、警察庁からは金子、甲斐、小田切、山崎らが出席していた。

 

突然、会議室に入ってきた右京、冠城の両名に一同は驚きつつすぐに内村が反応した。

 

「杉下!どの権限でお前がここに入ってきて良いと思っている!?」

 

「申し訳ありません。しかし緊急事態なものですから、わざわざ会議室にアポを取る時間がありませんでしたので」

 

右京は詫びるそぶりを一瞬は見せたものの、すぐに事件についての自身の推理を披露しようとする。当然、幹部たちの不満は収まるどころか増大する。

 

「杉下!場所をわきまえろ!ここは、お前が好き勝手して良いところではないし、そんな事は出来ない場所だ!しかも、金子長官や甲斐官房付、更には小田切刑事局長や山崎警備局長といった警察庁の幹部の方々がいらっしゃってるんだぞ!」

 

「お前は、警視庁に泥を塗るつもりか!?」

 

中園が右京らを指差して、喚くように言うと内村は不機嫌度を更に高めて怒鳴った。

 

「今日、我々がここに来たのは『レイブン』に関する情報を新たに入手したのでその報告をしたいと右京さんが言ってまして」

 

冷静に物を言う冠城だが、彼はさらりと右京に責任をなすりつけた。責任をなすりつけられた右京は一瞬、冠城の方を向くがすぐに前を向く。

 

「まぁ、聞く分にはいいでしょう」

 

ここで警視庁の幹部たちが座っている左側で最も中央に近いところに座っていた衣笠が内村や中園を制し、発言を許した。無論、内村や中園を始め、山崎らもこの発言には驚き一斉に衣笠の方へ向いた。

 

「副総監、よろしいのですか?」

 

山崎が驚いて聞くと、衣笠は含み笑いを顔に浮かべて言った。

 

「きっと、彼らには確たる証拠があるのでしょう。それで、こんな無礼な真似をしているわけですからね。もし、証拠がなくてこんな発言をしているなら当然大問題でして責任は、特命係をバックアップしている甲斐さんにでも取ってもらいますかね」

 

突然話を振られた甲斐は、衣笠と右京、冠城の両名の方を向くとため息をついた後、「お好きに」と言った。

 

「では。山崎警備局長、これをご覧ください」

 

甲斐の許可を得た右京は、会議室を進み山崎ら警視庁と警察庁の最高幹部らがいるU字型テーブルの中央まで行くと、袋に入れられたあの写真、『レイブン』のアジトにあった彼のルーツとなる写真を山崎らの目の前に置いた。

 

山崎、衣笠、金子らは写真を暫く見つめていた。が、それから間も無くして衣笠が口を開いた。

 

「これが何だと言うんだね?」

 

「この写真は『南洋開拓団』の船団が旧江東港、現在の〈エッジオブオーシャン〉から出航する様子です。彼らは、今の日本人選手団同様、国を背負い彼らと同じように激励されて送り出されました。しかし、彼らとは違い国の誇りとして迎えられはしませんでした。故に、『レイブン』が天田修介の息子と考えますと、彼が〈エッジオブオーシャン〉をターゲットにする可能性が高いのです」

 

「何故、『レイブン』は日本人選手団を標的にする?奴らのターゲットは、東京サミットではなかったのか?」

 

内村が疑問を投げかけると、多くの幹部たちが首を振って同意する。彼らは、日本人選手団のパレードよりも東京サミットの警備、及び柳沢元大使の身辺警護に重点を置いており、結果としてパレードの警備は通常より少し少なめになっていた。

 

「恐らく国際会議場爆破は、『レイブン』が我々の目を東京サミットの方へ向けさせ警備を弱体化させるため、もしくは何か別の目的があるのでしょう」

 

「別の目的とは何だね?」

 

冠城が口を開くとそれに対応するように初めて、警察庁幹部がいる右側の中央に座っていた小田切が口を開く。彼自身は特命係、特に右京に好意的な人物であり正義を貫く刑事として着目していた。

 

「恐らく、それは東京で起こったIoTテロが関係していると思われます。詳細は不明ですが、公安警察なら何かご存知ではないのですかねぇ」

 

「…捜査の関係上、貴様ら窓際部署に教える義務もないしそのつもりもない」

 

公安部長が脅しのような口調と鋭い睨みを効かせても、右京はそのポーカーフェイスを保ってきた、顔の筋肉を微動だにしない。

 

「いずれにせよ『レイブン』に関する確たる証拠が必要だと、言ったはずだぞ?こんな写真1枚だけで、日本人選手団が標的になるだとと結論づけるのは無理だ」

 

「アジトに突入し、瑛里華さんの身柄を確保したのはいいがまさかもぬけの殻だったとは…。せめて、誰か1人でもメンバーを捕らえて君の推理同様の証言をすれば我々は動くが、写真だけでは動かせないよ」

 

山崎は写真を鬱陶しそうに写真をテーブルの上でスライドさせ、衣笠は眼鏡の奥の瞳を光らせて、牽制する。密かに決定的な証拠の提示を期待していた小田切ら良識ある幹部らはこれまでか、とため息がまじりに肩を下ろす。

 

「どうやら、これ以上は時間の無駄なようだな。この無礼な振る舞いに対しての処分だが査問委員会を経て正式に処分を通達する。ご苦労だったな、杉下」

 

「では、確かな証拠があれば皆様は動くというわけですね?」

 

内村がそう言い幹部らが席を立とうとすると、右京は待ったをかける。まだ何か、言いたいことがあるのかと衣笠や山崎らは不満まじりに右京の方を向く。

 

「まぁ、お前が見つけられたら再度会議を開いても構わない」

 

「必ず、我々が決定的となる証拠をお見せしますよ」

 

山崎が半分呆れた雰囲気を滲ませながら言うと、右京は平常な時の表情を消して、凄みのある表情を硬くした。

 

 

 




劇場版ivにて、山崎ら上層部があっさりと動いたため今回は簡単には動かないストーリーにしてみました、


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57 新旧相棒の対面

新生活のため、色々準備が忙しく投稿が遅れました。申し訳ありません。


「右京さん、あんな事言ってしまって大丈夫ですか?」

 

会議室を後にした右京に冠城は、不安が混じった表情で右京に聞いた。それに答える右京の表情もいつにも増して厳しい。

 

「仕方ありません。山崎警備局長らが確たる証拠が必要と言っている以上、何か決定的な物が必要です。しかもその証拠は早めに見つけなければなりません。パレード開始まであと2時間と少し、もはや猶予はありませんよ、冠城くん」

 

「了解です」

 

右京と冠城は会議室を後にし、特命係があるフロアへ向かった。

 

 

 

右京らが特命係の部屋に向かう途中、パンダのマグカップを手にした角田が何やらニヤニヤしながら右京の方を向いていた。当然、右京と冠城は不審げに感じる。

 

「課長、どうしたんですか?」

 

「まぁまぁ、部屋を見てみれば分かるって」

 

冠城が聞くと、角田はマグカップを握った手で特命係の部屋の方を指したまま、詳しい事を言わない。

 

その言葉通りに右京と冠城が特命係の部屋に入ると、丸椅子に乗った男性がいた。

その男性は40代前半で日焼けをしているのか褐色の肌をしていて、上半身にはアメリカ空軍のマークが印刷されたジャケットを羽織っている。

 

その男性は丸椅子を回転させると右京と冠城にその素顔を明かす。その顔を見た冠城は、誰か分からず怪訝そうにその男性を見つめるが、右京はその顔に見覚えがあるのかいつものポーカーフェイスを思わず崩した。

 

「おやおや、君は…」

 

「どーも。お久しぶりです、右京さん」

 

「君も元気そうでなによりです。亀山くん」

 

 

その人物は元警視庁特命係・巡査部長でかつて右京の相棒だった亀山薫だった。

 

 

 

 

 

「亀山くん…?もしかしてかつて右京さんの相棒だった、亀山薫さん?」

 

冠城が不思議そうに首を傾げて聞くと、右京は振り返りながら答えた。

 

「えぇ。君からすると3代前の相棒、僕の下で初めて長く相棒として僕を支えてくれたのが亀山薫くんです」

 

「へぇ〜なるほど…。あ、初めまして。今の相棒である冠城亘です」

 

「初めまして、亀山薫です。右京さんを支えてくれたこと、礼を言わせてもらうよ。ありがとう」

 

新旧相棒が互いに自己紹介をして、その後固く握手をした。時代を超えて結ばれた新旧相棒の関係に、見ていた右京や角田、古くから特命係を知っている組対5課のメンバーはその様子を微笑ましく見ていた。

 

 

 

「それで右京さん。何やら警視庁では、今とんでもないことが起きているとか。美和子が喋ってたんすけど、どうやら帝都新聞時代の友人で警視庁担当の記者がぼやいていたのを聞いちゃったそうで…」

 

亀山は警視庁ロビーにある自動販売機で買っておいた缶コーヒーを飲みながら右京に聞いた。

 

「相変わらず、美和子さんの情報網には関心しますねぇ。君は今、警察官ではないため詳しいことは言えませんが、今日開催される国際競技大会の日本人選手団パレードが『レイブン』に狙われる可能性があります」

 

「その事をさっき、会議室で開かれていた警視庁・警察庁の合同会議で提言したんですけどそれが受け入れられなくて」

 

かつての亀山の定位置であったデスクにいる冠城がアフリカ原産のコーヒー豆を使用した自家製のコーヒーを飲みながら右京の発言に付け足す。

 

「なるほど…。因みに今の刑事部長って、やっぱあの人っすか?」

 

「えぇ。君も知っているとおり、内村刑事部長と中園参事官は君がいなくなったこの数年間、ずっとその役職に就いたままですよ」

 

「あぁ〜。やっぱ、あの人たちですか。右京さんは何か良からぬ事が起きると予見して警告したんだけど、頭のお固いお偉い方は信じなかったと」

 

亀山は昔の右京と自分が内村らに助言や意見した時も全く聞き入れられなかった事を懐かしむと同時に警告に対して無頓着な警察上層部を憂いだ。サルウィンに飛んでからは現地のボランティアとして活躍していた亀山は頭の凝り固まった政治家や官僚は下層にいる庶民らを見ていないと、内心反発していた。

 

「そこで我々は上層部を動かすために『レイブン』に関する決定的な証拠を見つけようとしているわけです」

 

 

 

 

 

「杉下警部、冠城さん。相変わらず、あなた方は予想の斜め上の事をやってくれる」

 

更に、上着の内ポケットに入れたラムネを噛みながら険しい表情をした客が特命係の部屋に入ってくる。

 

右京、冠城、角田は頭を下げ、亀山も成り行きで頭を下げる。大河内は亀山の姿を認めると、険しい表情が一瞬だが驚きの表情に変わる。しかし、それもつかの間ですぐにいつもの険しい顔に戻る。

 

「亀山さん…」

 

「お久しぶりです、大河内首席監察官。あいも変わらずのご活躍、流石です」

 

「…それが仕事ですから」

 

亀山の方を向いていた大河内だが、彼との会話がひと段落すると上着を脱いでくつろいでいる右京の方を向いて話し始める。

 

「杉下警部。あなたが先ほどの捜査会議で行なった不適切な言動に対して山崎警備局長や衣笠副総監は酷く怒っており、先ほど山崎警備局長が私の元まで来て、抗議しました。一先ず、留保としましたがこれ以上の行為は危険が伴います」

 

「やはり来ましたねぇ。何処が不適切なのでしょう?」

 

「私は正直言ってあなたの考えに賛同ですが、あなたの事をよく思わない警察組織の上層部の人間からしてみれば勝手に捜査会議に乱入した挙句、証拠もないでっち上げの推理を披露した事が気に入らなかったのでしょう」

 

右京が『不適切な言動』という聞き慣れたキーワードに反応すると、大河内は右京を弁護しながら自身の考えを披露する。

 

「それに、恐らく警察上層部には何かしらの危機感があるのかと。実はですね、法務省にいる友人に問い合わせたところ、毛利小五郎が今日のうちに釈放される可能性があると。それで犯人に関する目星が少なくなるので焦っているのではないでしょうか。あ、因みにこの情報って内密に仕入れた物なので、情報管理にはご協力ください」

 

冠城が声を小さくして言った内容はまだ警察も一部しか知らない事であろう、毛利小五郎の釈放だった。冠城の法務省時代の友人で公安調査庁や公安検察に顔のきくある人物が、こっそり調べてそれを冠城に報告していたのだった。

 

「国際競技大会は政府主催のイベントです。仮に杉下警部の推理が合っていたとしても、強固な警察・政府首脳陣を説得するにはやはり彼らの言う、決定的な証拠が必要です。そして、お見受けしたところあなた方はその証拠をお持ちでない」

 

「ある事にはあるんですがねぇ」

 

右京がデスクに置いてあった写真を目で示すと、大河内はその写真を手に取ったまましばらく見つめていたが、やがて目を離すと厳しい目付きを変わらせぬまま右京に言った。

 

「この写真()()()()確かに証拠にはなりません」

 

「と言いますと?」

 

「鷺沢瑛里華さんが保護されたのは『レイブン』のアジト、そのアジトから何か決定的な証拠が出てくれば流石の警察上層部も動かざるおえないでしょう。例えば、ショッピングモールで使われた毒物の痕跡などです」

 

「では、大河内監察官。アジトの捜査資料を特命係まで手配していただけないでしょうかねぇ。我々は捜査本部への出入りが規制されているものですからねぇ」

 

「分かりました。神戸に捜査本部に資料が届き次第、そちらに送るよう手配しておきます」

 

 

大河内はそう言うと、特命係の部屋を後にした。因みに特命係の雑用的仕事を押し付けられた神戸は不満そうな顔をするも大河内と右京からの頼みでは断る訳にも行かず、渋々資料のコピーを印刷した。




今回は亀山くんと大河内監察官がメインで登場しました。亀山くんと大河内さんの口調、気をつけながら描写しましたが原作とずれていないか心配です泣


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58 亀山の衝撃

何に亀山が衝撃を受けたのか。それはこの話を読むと分かると思います。


『レイブン』のアジトを捜索した一課が、作成した大量の資料を段ボールに箱詰めした神戸がやってきたのは大河内が神戸に連絡して30分後の事だった。

 

段ボール2箱に及ぶその資料を息を切らしながら神戸は嫌々、特命係の部屋まで運ぶ。

 

 

 

 

「全く!僕は特命係の雑用係ではないんですよ!」

 

「その割には、きちんと運んでくれているようですがねぇ」

 

神戸は段ボールを特命係の部屋の床にドサッ、と置くと苛立ち混じりに右京に抗議するが、その抗議を右京はさらりとかわし分野別に整理された資料の一部を手に取る。

 

「じゃ、俺も…」

 

部屋に残って雑談をしていた亀山も右京と冠城が、資料を読んでいるのを見て、同じく手を伸ばしたが箱の近くで待機していた神戸は段ボールの蓋を素早く閉めた。

 

「生憎、部外者には見せられませんので。亀山さんに見せちゃうと僕が情報漏洩の罪で捕まっちゃうので。そういう理由から残念ながらお見せできません」

 

「そうすっか……ってあれ?何処かで会いましたっけ?」

 

亀山は見ず知らずの他人が自分の正体を知っていることに、僅かだか恐怖心を覚えた。

 

「お会いしたことはありませんが、大体は知ってますよ。杉下警部の下で長く『相棒』を努めた()()の人物、亀山薫・元巡査部長。元外務省事務次官の北条晴臣を二度も追い詰め、内閣官房長官だった朱雀武比古の逮捕に成功し、富永洋介氏主催のカウントダウンパーティーでは、富永元議員のこれまた元婚約者を助け、事件解決に奮闘した正義感溢れる熱血漢。殺害された友人の意思を受け継ぎ、妻とともにサルウィンへ移住、そして現在に至る。こんなところですかね?」

 

「へぇ〜。よく調べてんなぁ。えーと…」

 

神戸は自己紹介をしていなかったので、改めてスーツの襟を正して直立不動の姿勢て亀山に挨拶する。

 

「あ、自己紹介が遅れました。僕はあなたの後を継いだ杉下さんの2代目相棒、神戸尊です。今は警察庁長官官房付として好き勝手にやらせてもらってます」

 

「亀山薫です。改めてですが、よろしく」

 

右京の下で相棒を務めた2人が、手を交えて握手する。もうこうした機会は恐らく二度とないと思えるぐらい素晴らしい光景だと、冠城は考えた。

 

と、握手を終えた亀山がある人物の消息を尋ねてきた。

 

「あぁ、右京さん。官房長って…」

 

亀山は特命係には切っても切れない関係で会った小野田の消息を右京に尋ねる。小野田の最後を知る右京や神戸にとっては、あの衝撃は忘れられないものであり、無論忘れてもいなかったが。

 

「君が知らないのも無理はありません。官房長は警視総監以下12名の幹部を人質に立て篭もった『警視庁篭城事件』の直後、殉職されました」

 

「えぇっ!?殉職って…」

 

「しかも目の前で殺されたんだからね」

 

右京の説明の後に神戸が補足する。この2人は警視庁の地下駐車場で小野田が殺される当にその瞬間を目撃していたのだった。

 

 

 

 

7年前の『警視庁篭城事件』直後の警視庁地下駐車場。右京と神戸との会話を最後に、突き放すように小野田は公用車に向かう。運転手が後部ドアを開け小野田が乗り込もうとした瞬間、小野田に向かって罵声を発しながら走ってくる者がいた。

前の警視庁の会議にて小野田が提示した人事案の中でただ1人、懲戒解雇(交通違反のもみ消し、裏金作り、金品の授受等の重大な罪を犯していたことによる)になった三宅生活安全部長だった。正気とは思えな様で小野田に突っ込んだ三宅は、勢いで持っていたナイフを彼の腹部にナイフを突き刺した。

慌てて右京、神戸、更に地下駐車場から本庁に繋がる入り口の警備に当たっていた警官が三宅を取り押さえる。

引き離された三宅は一緒に腹部からナイフを抜く。小野田は空いた傷口から大量に出血しながら車に寄りかかるようにして倒れる。

 

『俺の人生返せぇ!!何の為に…何十年も警察に尽くしてきたと思ってるんだ……!!』

 

三宅は喚いたまま警官に引きずられていく。神戸が救急車を呼ぶ中、右京は出血を抑えようとハンカチで傷口を覆う。しかしハンカチが血を吸収する速さよりも出血する速度の方が断然早く、あっという間に地面は真っ赤に染まる。

 

『おかしい…ねぇ…』

 

地面に横たわった小野田は虫の息の中、最後の力を振り絞るようにして自分を介抱する右京に言う。

 

『何がでしょう?』

 

『殺されるなら……お前にだと思っていたのに……』

 

その言葉を最後に小野田は、意識不明となった。瞼が閉じられた小野田に向かって右京は渾身の力で叫んだ。

 

『官房長ぉぉぉ!!官房長ぉぉぉぉ!!!!』

 

右京の必死の叫びにも小野田は答えずに、只々地面に横たわるだけだった。

 

やがて東京消防庁の救急車が地下駐車場に滑り込んできて小野田を搬送して行くも、その途中の車内で小野田の死亡が確認され右京にその報告が行ったのは一連の騒動から1時間ほど後の事だった。

 

 

 

 

「俺がいない間にそんな事が…」

 

亀山とこの事件の詳細を知らない冠城は、右京が語った一連の出来事に唖然としてしばらく固まった。

 

「亀山くん。君は海外に行ってしまったものですからねぇ、中々詳細を伝えられずに長い時が経過してしまいました。あとで、官房長の墓にお参りに行ってはどうでしょうか?」

 

右京は手帳の紙を一枚、素早く綺麗に取るとそこに住所を書いて亀山に渡す。後日、亀山夫妻はその墓を訪ねるのだがそれはまた後日。




最近、投稿が遅くなっているのは忙しくなっている為です。

コナンの最新の映画『紺青の拳』早く見たいです!(自分はまだ見ていない)


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59 証拠を携えて

今日初めて名探偵コナン『紺青の拳』を見てきました。ネタバレになるので詳しいことは言えませんが一言言わせてください。


京極さん、半端ないって!


右京、冠城は何百枚にも及ぶ資料の中で目的の項目を探すとその資料に目を通し始める。やがて、資料を読み終えた右京は資料を読んでいた顔を上げると、神戸に言った。

 

「神戸くん、この資料にある『ネズミの死体』ですが、これは?」

 

「それは杉下さんが発見した『レイブン』と思われるアジトで発見された数匹のネズミの死体の事です。今のところは鑑識にて保管されていますが必要性が無いと判断され次第、処分される筈ですけど…何か?」

 

神戸は右京が何かを聞く時にはそれは彼がその対象に興味を持った、或いは手がかりに繋がる何かかもしれないという事を身に染みて感じており、今回もその"右京アンテナ"に引っかかったのだと神戸は考えていた。

 

「この死体についてですが、処分する前に科警研に分析するよう依頼してくれませんかねえ。なぜこれを分析するのか、君はこう考えているでしょうから説明します。僕が調べて欲しいのはネズミの身体及び推定される死亡原因についてです。この推理が正しければ恐らくマウスにはショッピングモールで使われたのと同成分の毒物が検出されるはずです」

 

「分かりました。大至急、科警研に連絡して1時間以内に結果を報告させるよう手配します」

 

そう言うと神戸は該当する書類を携えて特命係の部屋を飛び出して行った。

 

 

「右京さんの仮説通りだとして態々、現場に毒物の痕跡などを残しておく、いわばリスクを負う事をしますかね?」

 

冠城はもしかしたら我々は『レイブン』の手の平で自由に踊らされているだけではないのか、これは警察を撹乱する為の罠ではないかと危惧していた。

 

「僕もその可能性がある為、未だに確証を持って罠ではないと言えませんがもはや手がかりはあれのみです。この道にかけるしかありませんよ」

 

右京はそう言うと残る資料に手をつけつつ、神戸からの連絡を待った。

 

 

 

 

右京が神戸から興奮した声の連絡を受けたのがそれから50分後だった。

 

「神戸です。杉下さん、科警研にお願いして緊急案件を除いて最優先でやってもらって今、結果がようやく出ました!」

 

「どうもありがとう。それで結果の方は?」

 

『あぁ、はい。ネズミの死体を解剖に回した結果、一体からは致死量を超える毒物が検出されたようです。そしてもう一体のネズミからは致死量を超えない範囲ではありますが、毒物を摂取した痕跡が残されておりこちらの死因は毒物摂取後の不十分な処理によるものだそうです』

 

「なるほど。毒物の成分について何か分かりましたか?」

 

右京の冷たい対応に苛ついたのか、神戸は電話口の向うにいるであろう、右京に向かって大きく地団駄を踏むが右京はそれを受け流す。

神戸も一回地団駄を踏んだだけですぐに所持している封筒から別の書類を出した。

 

「毒物の成分ですが、ショッピングモールにて使われた毒物と成分型が一致したようです。つまり杉下さんの推理は的を得ています」

 

「そうですか。神戸くん、ご苦労様でした」

 

そう言うと右京は電話を切った。右京が電話を切った姿を見て冠城と亀山は側に近寄る。

 

「神戸さんからの連絡の内容は?」

 

冠城が結果を右京に尋ねると、彼は銀縁眼鏡を光らせながら静かに答えた。

 

「僕の推理通り、あのネズミの死体からはショッピングモールで使われたのと同成分の毒物が検出されたそうです。どうやら『レイブン』があの事件に関わっているのは間違いないようですねぇ」

 

「これで決まりっすね。右京さん!すぐに会議を開いて頭の固いお偉い爺さんたちを動かしましょうよ!」

 

亀山は昔の癖なのか、すぐに行動する自らの正確に則りそそくさと会議室に行こうとする。

 

「亀山くん。会議を開くといっても幹部の皆さんに出席してもらわないと行けません。それに君は元警察官とはいえ今は部外者、仮に君が会議室に乗り込んだとしても部外者ということでそれこそ全く意見は聞き入れられませんよ」

 

「それは…そうですけどね…」

 

「僕たちはこれから警察庁に出向いて臨時会議を開くよう要請しなくてはいけません。よって…」

 

「なら俺も行きます!」

 

ここで亀山が大きく手を挙げて叫んだ。これには隣の大木や小松といった組対5課のメンバーや冠城、右京も驚いた。

 

「亀山さん。行くって…?まさか警察庁へ?」

 

「当たり前だろ!右京さんが危機的な時にのんびり観光なんかしてられっかよ!聞けば最近の警察は毛利や多くの探偵を捜査に加えているそうじゃないか!右京さん、頼みますよ!!」

 

右京は紅茶を飲み干すと半分ため息混じりに亀山の方向へ向いた。

 

「君のそのまっすぐすぎる性格は昔のままですねぇ。分かりました、君も来てください」

 

そうと決まれば早速行動に起こすのが亀山薫。椅子に掛けてあったジャージを羽織ると支度を始めた右京と冠城を急ぐように促す。

 

 

 

 

準備を終えた3人が警察庁へ向かう時、冠城はふとした疑問を亀山にぶつけた。

 

「亀山さん。さっき仰ってた毛利とは、名探偵毛利小五郎の事ですか?」

 

「ん?あぁ、奴と伊丹、それに俺は警察学校が同期な仲でね。奴が突然、探偵としての才能を開花させ『眠りの小五郎』だっけ?あんな名推理を披露することになるとは思いもしなかったからビックリしたさ」

 

「では毛利宅に居候している江戸川コナンくんについて亀山くんは何も知りませんよね?」

 

「江戸川コナンってあのキッドキラーの?俺、毛利が子供を預かるなんてそんな事しないと思ってたんで、意外でした。でも、あいつが活躍したのって、その江戸川コナンっていう子が居候した時期とほぼ同じですよね?なんか、裏あると思いません?」

 

亀山の感は時に右京をも凌駕する事があるがこの発言が的を得ているとは無論、本人も知らない。しかし亀山薫の言葉通り『眠りの小五郎』のカラクリにコナンが一枚噛んでいたのだった。

 

 




とうとうこの小説を書き始めて一年が経ちました。

ここまで続けてこれたのも応援してくださる皆様のお陰です。完結目指して頑張りますので応援よろしくお願いします!


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60 それぞれの未来

いよいよ今日、アベンジャーズ エンドゲーム が公開されますが僕は予定が合わずしばらく見に行けません泣


右京、亀山、冠城の3人はアポ無しで警察庁の甲斐の下を訪ねた。以前ならば秘書に門前払いを受けていたのだが今は長官官房付という事で比較的余裕のある甲斐はすぐに3人を自身の執務室に通した。

 

「杉下くんが来たという事は、確たる証拠が見つかったってことかね?」

 

3人に応接セットのソファに座るように促し、自身も対となっている肘掛け椅子に座ると早速話を切り出す。

 

「と、その前にそちらの男性は?」

 

「あ、申し遅れました。私、以前右京さんの下で相棒を務めていました、亀山薫という者です。今は、NGOとしてサルウィンで活動しています」

 

「あぁ、君か。杉下くんの()()の相棒というのは。いやいや、逞しい体つきをしていらっしゃる。私はら警察庁長官官房付の甲斐峯秋だ。以前はこれでも警察庁次長だったんだが、倅の不祥事の後処理としてこうして閑職に回されている身でね」

 

亀山は甲斐が放つオーラにどこか小野田に近いものを感じた。敵か味方か分からず、飄々としたオーラを漂わせた甲斐のオーラに亀山はどこか懐かしく感じていた。

実際、甲斐は幾度となく特命係に協力、あるいは妨害してきた過去があり最近は衣笠の策略によって特命係を甲斐の直属の組織とすることで事実上、上司として活動していた。

 

「それで証拠は?」

 

甲斐に促され、冠城は持っていた封筒から5枚ほどプリントされた書類を甲斐に提出した。甲斐はしばらくその書類を1枚1枚手に取って熟読していたが、やがて首を一回縦に振ると書類から目を離した。

 

「うむ。これに写真を追加すれば流石の警視庁幹部も動かざる負えなくなるだろう。無論、間違っていた場合は誰かの首が飛ぶことになることも覚悟しなくてはいけないだろうがね。まぁ、衣笠くんのことだろうから恐らく私を標的にするだろうが。君たちに私の未来を託してしまって構わないかね?」

 

甲斐が一番恐れているのは元の役職に戻れなくなる事だった。今はあくまで緊急避難的な措置で警察庁長官官房付へ降格しているだけで熱りが冷め次第、警察庁次長へ復権する手筈でいた。

甲斐が復権の過程で最も警戒しているのは警視庁副総監の衣笠であり、仮に右京の推理が間違っていた場合は提案者の右京諸共、甲斐は衣笠によって十中八九更迭され次長のポストには戻れなくなる。無論、このような事態に陥った対処も甲斐は考えていたが。

 

「甲斐さんの未来ですか…。僕には未来を背負うなんて到底できませんが、警察の正義を守るためなら喜んで託されましょう」

 

右京は笑いながら甲斐の提案はやんわりと拒絶した。甲斐も予め予測していたのか対して驚きもせずに受け流す。

 

「相変わらず、面白い男だね。まぁ、いいだろう。仮に君の推理が間違っていた場合は発案者である君に責任を取ってもらうのが一番理想な形だと私は思うね。しかし改めて君らの捜査力・推理力には日々驚かされるよ」

 

「何せ日本の未来がかかっていますからね。あ、勿論甲斐さんの未来、いやここは警察庁の未来。と、言っておいた方がよろしいですかね?」

 

冠城の何気ない一言に含まれた意味に、甲斐の表情は一瞬驚きに似た表情をするもののすぐにいつもの好々爺らしい顔つきに戻る。

 

「甲斐さん、この国の危機的状況に繋がる前に何とかして『レイブン』の犯行を止めなければなりません。どうか、会議をもう一度開くよう、警視庁幹部に取り計らってもらえませんか?自分は外部の人間であり、こんな事は言ってはいけないかもしれません。しかし、これらの証拠が示すように『レイブン』がテロを行うのはほぼ確実です。自分の祖国で大勢の人々が悲しみに包まれるのをオレは見たくないんです!改めてお願いします!」

 

亀山は甲斐に頭を下げて頼み込んだ。それに対して甲斐はしばらく考え込んだ後、答えた。

 

「…分かった。会議の件は金子長官に私から要請しておこう。ただし、会議が開けるのに30分弱かかるかもしれんよ。何せ、他の皆さんもそれぞれの業務があるわけだから、それを中断してきてもらわなければならん。全員が私のように暇を持て余しているわけじゃないんでね」

 

「では、お願いします」

 

右京と冠城、亀山の3人は甲斐に向かって一礼すると部屋を後にした。

3人が出て行った後、甲斐はデスクに置かれた受話器を手に取る。

 

「長官官房室。済まないが、金子長官を頼む。…甲斐峯秋です。金子長官、特命係の杉下と冠城が新たな証拠を提示してきましてね」

 

『ほぉ。それでどうだったのかね?』

 

「私は杉下が提示した証拠を私も見ましてね。確かにこの証拠なら警視庁の幹部をも黙らせる証拠になり得るでしょう。もう一度会議を開くためにも長官のお力添えが必要です」

 

『1度限りのチャンス。失敗は許されないぞ、甲斐くん。もしこれで違っていたら今度こそ、衣笠副総監や内村刑事部長は会議に応じなくなる。内村部長は先がないが、衣笠副総監は政財界問わず様々なパイプを持っている。ここは万が一にも備えてあらゆる対応策を考えておくくべきだね』

 

「それは勿論、私も同意見です」

 

甲斐はそう言うと受話器を親機に戻した。既に日は傾き始めており甲斐部屋を夏特有の強烈な日差しが射した。甲斐は肘掛け椅子から立ち上がると夏下の皇居を眺めた。




今日の金曜ロードショーは『ゼロの執行人』だそうなのでそれをインセンティブに頑張ります。


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61 再説得

この数日間、私が胃腸炎で苦しんでいたため投稿が乱れております。

楽しみに待っていた方、すみませんでした。


「では、右京さん。俺はこれで」

 

警察庁を出た後、中央合同庁舎ニ号館の正面玄関で亀山は右京と冠城に別れを告げた。

 

「亀山くんはこの後、何か予定があるのですか?」

 

「そろそろ帰らないと、美和子のやつが心配するんで。と、いっても俺らは東京駅のビジネスホテルに泊まっているんで何かあれば直ぐにそっちに駆けつけられますよ?」

 

「そうならないように俺らも頑張りますので、亀山さんはゆっくり日本を楽しんでください」

 

「この事件が終わったら思い出話をゆっくり語るからな、冠城さん」

 

そう言うと東京駅方面に向かって歩き出した。その姿をしばらくずっと見つめていた右京と冠城は亀山の姿が見えなくなるとそのまま警視庁の方へ歩き出した。

 

「亀山さんって、面白い人でしたね」

 

「人によって感じ方はそれぞれですよ、冠城くん。僕は亀山くんと今日出会えた事がとても幸せに感じますねぇ。僕たちも事件解決に向けて全力を注ぎましょう」

 

「勿論です」

 

右京と冠城はその足で警視庁に向かった。その途中で金子長官や甲斐が乗っていると思われる黒塗りの公用車が彼らの横を通り過ぎ、警視庁地下駐車場に入っていくのを2人は横目で確認した。

 

 

右京と冠城が特命係の部屋に着き、作業をしていると右京の携帯が鳴った。電話の相手は甲斐でこれから約20分で会議の準備が整い終わるとの事だった。特命係の部屋にいた右京と冠城は各自で軽く水分を取ると、すぐに必要書類の整理を始めた。

 

 

 

 

右京と冠城が大会議室に入室するとそこには黒田、内村、中園といった刑事部関係者、公安部長や参事官ら公安部関係者、衣笠副総監、そして小田切、山崎、甲斐、金子ら警察庁上層部の人間が会議室に集まっていた。

 

明らかに内村、中園の不機嫌度は増しており眉間に皺が寄っていた。衣笠は無表情だがその無表情が返って彼の不気味さを示しており同じ無表情でも甲斐や金子の無表情とはまた別のものだった。

 

「今回、この臨時会議の提案者は甲斐官房付だと聞きます。一体、何故終了したはずの会議をもう一度開くのかご説明願いたい」

 

「それはあちらにいる杉下くんが新たなる証拠を見つけ、その証拠が確たる証拠だというものですから、こうして早めに皆さんにお知らせするべきと私は考えました」

 

中央の席に座る警備責任者の山崎が甲斐の方を向いて尋ねると甲斐は右京の言い分をそのまま自らを囲む一同に言った。甲斐はあくまで右京と冠城の言葉を借りているだけで責任は彼らにあることをさらりと暗に伝えた。

 

「では仮に違っていた場合は甲斐さんに責任を取ってもらいますかね?ここまで人に迷惑がかかることをやっているんですからね、何かけじめをつけなければ」

 

「副総監、私の任命権者は金子長官ですよ。長官が私を罷免する最後まで自らに課せられた職務を全うするつもりです。決して何かの都合で辞める気はありませんよ」

 

「それは自己満足で勝手な君自身の望みではないのかね?」

 

「私の為ではない。警察庁の為、引いては日本の未来の為ですよ」

 

いつもの丁寧な口調が消え、甲斐と衣笠は真っ向から向かい合い互いに言葉を投げ合う。この2人の嫌悪な空気は会議室全体を覆い、近くにいる小田切はまた始まったと背もたれに深く身を落とし、甲斐と衣笠に挟まれて座る山崎はいづらい雰囲気から逃げるように椅子を後ろに押し、内村や中園は只々オロオロするだけであった。

 

「とにかく今は事件解決に神経を向けるべきだ。さぁ、杉下警部。あなた方が発見したという証拠を提示してください」

 

ここで小田切が甲斐と衣笠の発言を中断させ、本来の会議の目的である証拠を見せるよう2人に言う。右京と冠城は、証拠書類を各幹部に配布した。

 

 

 

「この書類に記載されている毒物とショッピングモールで使われた毒物が同成分である…、つまりあれも『レイブン』の仕業だということか?」

 

書類を見ていた幹部たちはしばらく沈黙していたが、やがて警察庁の幹部の1人が口を開いた。

 

「えぇ。そして、今日は日本人選手団のパレードがあります。僕は、彼らがこのパレードを狙ってテロを起こす可能性が高いと思うのですが?」

 

「パレードには既に通常警備を敷いている。こんなカビの生えた写真と毒物だけでは、何の証拠にもならん」

 

山崎の言い分は変わらず、右京と冠城を邪険そうに見つめた。

 

「瑛里華さんの話では、『レイブン』は銃器を所持しています。考えられるのは大勢の観衆の前で、パレードの車に乗った日本人選手団が狙撃される恐れがあります」

 

「既に都内でIoTテロなるものが起きていて、只でさえ要所の警備を強化している。故にテロが起きるとは考えにくい。それにパレード開始まであと30分足らず。文部科学大臣と首相官邸に状況を説明し、現場に中止を伝えるのは現実的に不可能だ。分かったら諦めて……出てけ!」

 

「では、最大限の警備を…」

 

ここで引き下がれば日本人の命が犠牲になる可能性がある。そう考えていた右京はここで食い下がり説得を続けた。案の定、幹部たちの不満は溜まっていく。

 

「いい加減にしろ!杉下!!」

 

「内村部長に同意見です。既に、パレード開催地には警備を敷いています。それも公安部の優秀な捜査員が、です。これ以上、警備を増やせば返って現場の混乱を招きかねます」

 

内村は右京に向かって怒声を飛ばし、公安部長は静かながらも右京に対しての不満をぶつけた。しかし、ここで引かないのが杉下右京。幹部たちの恫喝もどこ吹く風と言わんばかりに甲斐の側まで移動して訴えを続ける。

 

「今回、大勢の人々が『レイブン』のメッセージ動画を見ています!可能性を無視した挙句、パレードでその通りのテロが起きれば無辜の日本人が殺されるんですよ!そうなったら一体、何方が責任をお取りになるのか、お聞かせ願いたい!!」

 

右京も大声を出して反論する。山崎は右京の物言いに対しての怒りが限界を超えたのか、怒りで体が震えながら立ち上がる。

しかしここで右京に対しての、援護射撃が行われた。

 

「私はやるべきだと思うがね。何か起きてからでは遅い」

 

「甲斐、貴様…!官房付の身でしゃしゃり出てくる気か…!」

 

椅子に座ったまま冷静に山崎を見据えたまま答える甲斐に対して、山崎は右京に向けていた怒りの矛先を甲斐にも向ける。これに呼応するかのように小田切も右京の意見を支持する。

 

「私も杉下くんの意見に賛成です。もしテロが起きればそれこそ山崎警備局長、そして警視庁はテロを防げなかった事で国民からの非難に晒されます。それは最もあなた方が恐れている事ではないですかな?」

 

小田切の言葉に警視庁・警察庁双方の僅かではあるが幹部たちの表情に変化が生まれる。今まで右京の言い分に不信感を抱いていた幹部は、現実味を帯びてきた状況に困惑しているようだった。

 

「私も甲斐くんの意見に賛成だ。警備を増やせばその分、警察官の数も増える。『レイブン』たちにとっていい抑止力になるんじゃないのかな」

 

ここで静かに会議の様子を見ていた金子が意見を言う。警察庁の長官までもが賛成の意見に回った結果、他の幹部たちは自分たちの判断が間違っていないか本気で吟味し始めた。

 

「おい、冠城。何してる?」

 

中園が残っている冠城はどうしているものかと、目を向けるといつのまにかスマホを取り出してカメラを向けている冠城の姿があった。中園の言葉に反応して、他の幹部も冠城の方を向く。

 

「いや、心の中でやるべきだと思っていたのに言いそびれてしまった方がですね。もし何かあったら後で責任取らされるのは理不尽だな、と思いまして。あ、勿論内々のための録画ですからお気になさらずに。内村刑事部長、中園参事官、公安部長に衣笠副総監は山崎警備局長と同じく警備に反対のお立場、ですね?」

 

「別にそうは言ってない。中園はどうか知らんが。考えてみると現状、奴らは野放しのままだからな」

 

「へ!?部、部長?」

 

突然の掌返しを平然としていく内村に、中園は内村の行動に驚き目を見開いてオロオロするしかなかった。周囲に助けを求めようとも他の幹部たちはなかなか目を合わさない。

 

「私も甲斐さんに責任を取ってもらうなら、反対する理由はありませんよ」

 

「私も別に、何が何でも反対というわけではない」

 

「私は寧ろ、甲斐さんらの意見に賛成だがね」

 

内村に続いて、衣笠も態度を一変させた。無論、甲斐に責任の一端を負わせるのを忘れる事はなかったが。衣笠の後はまるで金魚の糞よろしく警察庁の局長や、警視庁警備部長らが賛成の意見に回る。

 

「ならば急いでください!事は一刻を争います!」

 

右京の言葉に幹部たちは書類を持って重たい腰を上げた。会議の主導権を奪われ、幹部が次々と席を立っていく姿を見届けることしか出来ない山崎は怒りで顔を小刻みに震わせながら右京に接近すると、小声で負け惜しみの言葉を言う。

 

「もし違っていたら…只で済むと思うな…!」

 

「ご随意に」

 

そんな事は慣れきっていると言わんばかりに右京はそう一言、山崎に言い放った。完全に右京ペースに持っていかれた山崎は冠城、甲斐、そして小田切に目を向けると何も言葉をかけずにそのまま走り去っていった。

 

 




『ゼロの執行人』、やっぱいい作品だよなー、って見てて思いました。早く、完結させなければ…


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62 準備

平成最後の投稿になります。この平成の時代に様々な出来事があって私自身この平成、そして平成を象徴され間もなく退位される天皇陛下に感謝申し上げます。


「おい!おい!計画の変更を行う!各班のリーダー及び班員は至急、集まってきてくれ!」

 

捜査本部に戻ってきた中園は刑事部の刑事達を呼び、新たに作成した計画書を読み上げる。この計画は右京の提案をほぼ飲む形で再構成されており、更に甲斐が承認しているためこの計画書の効力が絶大だった。

公安部からも多少であるが人員が回されており、彼らも同じように新たに計画された作戦を聞く。

 

「Bブロック。佐々木班、モノレール駅。伊丹班、沿道。出雲班、建物!」

 

中園に呼ばれた班員は応じると書類を持ち捜査本部を出て、エッジオブオーシャンへ向かった。

 

「Cブロック。横田班、沿道。菊池班、建物。Dブロック。戸田班、沿道。……」

 

伊丹らと同じように名簿分けされた刑事達は中園から発表された担当通りの場所に向かうべく、次々に警察車両に乗り込んでいくため警視庁地下駐車場へ向かった。その為地下駐車場の出入り口は地上に出る車の為、大混雑していたが交通規制されているため霞ヶ関周辺は空いていたため、すぐに向かうことができた。

 

一方、捜査本部に残った右京と冠城は出て行く捜査員を見送ったあと、残った目暮や高木、佐藤らと目が合い密かに会釈を互いに交わす。

 

「パレード沿道の防犯カメラの映像、来ます!」

 

岩槻の言葉通りに、エッジオブオーシャンで開かれているパレードのライブ映像が入る。壁に設置されたモニターには数多くの防寒カメラの映像が映し出され、それを衣笠、山崎ら幹部は怪訝そうに見つめた。

 

 

 

 

捜査員が到着する前にパレードは開始時刻を迎え、日本人選手団約200名が車やバスに乗せられゆっくりと運ばれる。その両脇の沿道には日の丸を持ち詰め掛けた人々が歓声をあげたり、スマホで写真や動画を撮ったらしながら日本人選手団を熱狂的に迎えていた。

 

熱狂に包まれているエッジオブオーシャン。そのいくつかの建物に、細長い銀のケースを担いだ、黒い服に同じく黒い帽子を被った男性2名〜3名が登って行く。彼らは警視庁警備部特殊急襲部隊(S A T)の狙撃班であり、山崎の指令によって先発していた数少ない人員だった。

 

『Aブロック、配置完了しました』

 

屋上に到着した彼らは1人か双眼鏡で周りを偵察し、もう1人が銀のケースからレミントンのモデル700Pを取り出していつでも撃てる体制を維持して待機する。

 

『Bブロック、配置完了』

 

『Cブロック、到着しました!』

 

同じように配置についた班員からも同じように無線連絡が入る。その情報は無線で本部にも伝わり、まだ少ないが沿道に着々と狙撃班の配置が整っていることを証明する赤い丸が次々に表示され、山崎の表情に安堵が生まれ始めた。

 

 

そんな事も沿道にいる観衆は知る由もなく、只々歓声をあげて日本人選手団を迎えていた。

 

 

 

 

一方、特命係に保護された瑛里華はそのまま警視庁に保護されていた。冷房の効いた室内で男性警官と一対一で向き合って、犯人の特徴を証言していた。この機会に刑事部や公安部は証言を利用して似顔絵を作成して逮捕に近づこうとしていた。

 

「こんな感じですか?」

 

眉毛を書いた時点で一旦止め、似顔絵を瑛里華に見せる男性警官。しかし、瑛里華に対して確認を求めた際の彼女の返事はおぼつかない。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あぁ…。あの、お水もらえますか?」

 

心配そうに見つめる男性警官に対して瑛里華は水が欲しいと言った。笑顔で了承して水を取りに男性は室外へ出た。

その瞬間に瑛里華は立ち上がると、誰にもバレないように室外へ出るとそのままどこかに逃走してしまった。




皆様にとって平成とはどんな時代だったでしょうか?

なんとかこの平成の時代に投稿できるように執筆したため、今回は短めになっております。

そしてまもなく令和が始まります。新たな日本の幕開けとなるこの時に巡り会えたことを噛み締めて残りの平成を満喫しようと思います。


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63 小五郎の不起訴

皆さん、GWはどんな過ごし方をしましたか?

私はこのGW、平成から令和に変わるという素晴らしいGWでしたが、胃腸炎で苦しんだ10連休でした。


同時刻 妃弁護士事務所

 

西に傾いた太陽から強烈な西日が室内を赤く染める。

英理たちは白鳥から岩井検事のスマホが発火したと聞かされていた。

 

「え?岩井検事が?」

 

「はい。軽いヤケドでしたが、大事をとって病院に搬送されました」

 

「まさかそれも、IoTテロ?」

 

コナンがたずねると、白鳥は小さくうなずいた。

 

「と、杉下警部は考えているみたいだよ」

 

「え?杉下警部が?」

 

驚くコナンに対して白鳥は続ける。

 

「それにそのスマホを鑑識で分析した結果、これまでと同じくノーアからのアクセスがあって…失礼」

 

と着信振動するスマホをポケットから取り出し、コナンたちに背を向けて「はい、白鳥」と電話に出た。

 

「…え!ちょっと待って」

 

白鳥はスマホを手で押さえながら、笑顔で振り返った。

 

「毛利さんの不起訴が決定しました!」

 

蘭と英理は驚いて顔を見合わせた。「お母さん!」と蘭が英理に抱きつき、その頭を英理が優しくなでる。

 

「拘置所に迎えに行きますか?それとも警視庁へ?」

 

「早く会える方で」

 

英理が即答すると、白鳥は2人から離れながら電話に出た。

 

「…はい。手続きが済み次第、身柄を警視庁に移送してください」

 

コナンは抱き合って喜ぶ蘭たちを微笑ましく見つめた。

 

「よかったね、蘭姉ちゃん」

 

「うん、ありがと」

 

顔を上げた蘭は涙ぐんでいた。「新一や園子にも教えなくちゃ」

 

嬉しそうに小走りで部屋を出ていくのを見て、新一のスマホに電話がかかってくると思ったコナンもドアに向かおうとした。すると、

 

「ところでこれ、どうしましょう?羽場二三一を検察官が取り調べた調書なんですけど…」

 

緑が封筒から別の書類を取り出した。

 

調書を受け取って英理が目を通していると、電話を切った白鳥が近づいて覗き込んだ。

 

「あれ、この人…」

 

調書にある『岩井紗世子』の名前を指差し、

 

「スマホの発火でヤケドした岩井検事」

 

紗世子の肩書きは『主任検察官』になっていた。

 

「7年前は主任検事ね」

 

「えぇ。でも今は統括検事で、同期だった日下部検事の上司ですよ」

 

「そうです」

 

ドアの方から声がしてコナンたちが振り返るとーーいつの間にか傘とバッグを持った境子が立っていた。

 

「岩井検事は、妙なことに羽場二三一の窃盗事件がきっかけで出世したんです。ーーところで、これは?」

 

境子はテーブルに置かれていた調査報告書をと手に取って掲げた。

 

「なぜ私や私の元事務員をお調べになっているんですか?」

 

「えっと…」

 

緑が答えに困っていると、英理が「ごめんなさい」と助け舟を出した。

 

「先生のこと、よく知っておきたくて、私が栗山さんにお願いしたの」

 

英理たちに険しい眼差しを向けていた境子は、調査報告書を読み始めて何枚かめくった。

 

「…よく調べてある。あなたも優秀な事務員のようね」

 

境子に近づいたコナンが「あなたも?」と言った。おそらくここに右京がいれば同様の反応を示したに違いない。

 

「まるで羽場さんもそうだったって言っているみたいだけど。その人は携帯ゲームを盗もうとして、境子先生の事務所を潰した悪い事務員さんだよね?」

 

「あれは二三一のせいじゃない!」

 

声を荒げた境子はハッと我に返ると、首を垂れた。

 

「私が……無力だったから……」

 

「下の名前で呼ぶんだね。自分の事務所で働いてた事務員さんを、二三一って」

 

コナンが言うと、境子は持っていた調査報告書をバサッとテーブルに置いた。

 

「……彼が拘置所で自殺したことは?」

 

唐突に聞かれて、英理は「え?ええ…」ととまどいながらうなずいた。

 

「その自殺は、拘置所の中で公安警察に取り調べされた後、すぐだったんです」

 

(ーッ!?)

 

境子から意外な事実を知らされた瞬間ーーコナンの頭の中を風見の言葉が駆け巡った。

 

『数年前、拘置所で取り調べ相手を自殺に追い込んだ』

 

(まさか、安室さんが……!?)

 

コナンが考えているそばで、白鳥と英理は境子が告げた事実を訝しんだ。

 

「何で公安警察が?」

 

「そんなの聞いたことありません」

 

境子はテーブルに置いた調査報告書の羽場の写真を見て、握り締めた拳を震わせた。

 

「二三一の自殺にはそんな奇妙なことが重なっていた……」

 

英理たちが無言で境子を見つめていると、緑が「あの……」と遠慮がちに口を開いた。

 

「羽場二三一さんは、司法修習生を罷免されてますよね……?」

 

「裁判官を目指してたってこと?」

 

英理の問いに、緑は「はい」とうなずいた。

 

「ですが、彼は裁判官に採用されず、終了式の時に無理やり壇上に上がって不採用となった理由を所長に求めたそうです。その行動は自己満足的な正義感による暴挙と見なされ、裁判官はおろか……」

 

「弁護士になる道もなくなり、司法人生を絶たれた……」

 

言いよどむ緑に、境子が続けて言った。心ここに在らずといった面持ちで、ぼんやりと宙を見つめている。

 

「……なぜ、羽場さんを事務員にしたの?」

 

コナンがたずねた。

 

「……人にはね、表と裏があるの。君が見ているのは、その一面に過ぎない」

 

そう答えると、境子は英理の方を向いた。

 

「外で娘さんから聞きました。毛利さんが不起訴になったなら、私はもう用済みですね」

 

ペコリと頭を下げ、英理の返事を待たずに部屋から出ていった。

 

コナンが境子の言葉を思い巡らせていると、

 

「じゃあ私も捜査が残ってますので……」

 

白鳥が帰ろうとしていた。

 

「犯人のノーアを調べるんだね」

 

コナンが声をかけると、白鳥は「うん」と立ち止まった。

 

「NAZUに捜査協力を依頼してあるんだ」

 

「NAZUって、アメリカの?」

 

「そうだよ。NAZUでは7年前、ノーアを使った不正アクセス事件があってね」

 

「ああ、境子先生が弁護した……」

 

コナンは境子の取扱事件記録を思い出した。

 

『NAZU不正アクセス事件』ーー7年前、在英大使館の参事官令嬢、鷺沢瑛里華誘拐事件と同時期に起きた事件で、日本人がNAZUのコンピューターに不正アクセスした事件だ。

 

「それがきっかけで、ノーアユーザーを追跡するシステムがNAZUで完成したんだ。さっそく明日から解析してもらいます。NAZUは今日、太平洋に〈はくちょう〉を着水させるミッションに追われてますからね」

 

「あ、それ無人探査機のことだよね?」

 

「ああ。そんな日と日本人選手団のパレードが重なって、警視庁や警察庁も大わらわだよ」

 

白鳥はそう言って苦笑いした。

 

「そっか。日本人選手団のパレードも今日かーー」

 

〈NAZU不正アクセス事件〉〈鷺沢瑛里華誘拐事件〉〈はくちょう〉〈日本人選手団パレード〉〈レイブン〉ーーそれらの言葉が交差したとき、鋭い衝撃が頭を貫いてコナンはハッとした。それまで漠然と記憶されたものが、反射的に浮かんで頭の中を駆け巡った。




皆さん。10連休の休みが明けましたが、またこの一週間を頑張っていきましょう。


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64 公安の監視

今回はコナンメインで話が進んでいきます。


コナンの頭にはそれまで漠然と記憶されていたものが、反射的に浮かんで頭の中を駆け巡る。

 

 

『7年前、日本政府は我々の要求を拒否した。今回拒否すれば、大勢の人々が見守る中で日本人の誇りが砕け散るだろう』

 

 

『 サミット前に現場を点検することになっていて、爆発のときは公安部が担当だったんだ』

 

 

『その事件で偽証可能な証拠のみで逮捕するなどいささか雑ではありませんかねぇ』

 

 

『はっきり言って、検察の公安は警察の公安に歯が立たないんです』

「だから……起訴にも〈公安的配慮〉が働くときがある』

 

『公安警察はね、たくさんの〈協力者〉を持ってるの』

 

 

『特別措置法によって未帰還者として既に日本政府から戦死死亡宣告が成されていたんです』

 

 

『レストラン街の事件と国際会議場の爆破事件、この二つに〈レイブン〉が関係しているような気がしてならないんですが』

 

 

風見に仕掛けた盗聴器から聞こえてきた、境子のスマホの着信メロディ。

 

 

『君の言う、安室という男は……人殺しだ』

 

 

『しかも羽場は送検された後、拘置所内で自殺しています』

〈羽場二三一〉〈6月27日〉〈拘置所にて自殺〉と書かれた調査報告書。

 

 

日下部検事がスマホの暗証番号を入力したときの音。

 

 

『ネットにアクセスできる電化製品を無差別に暴走させているんだ』

 

 

『警察の捜査資料って犯罪の詳しい手引書みたいなもんですよね』

 

 

『あ。ボク、この事件知ってるよ。〈NAZU不正アクセス事件〉』

 

 

『あったわよ、合致するものが』

 

 

現場鑑識写真の中にあった〈不詳〉と書かれたガラス片の写真。

『いや……どこかで見た気がして……』

 

 

 

 

そんな、まさかーーここに至るまでの出来事が脳裏に去来して、コナンはとんでもない結論をつかんだ。

 

「緑さんっ!!」

 

テーブルに広がった資料をまとめていた緑は、いきなり大声で呼ばれて「ひゃあ!」と飛び上がった。

 

「〈NAZU不正アクセス事件〉の詳しい資料をすぐにスマホに送って!」

 

「え?」

 

「って、新一兄ちゃんが言ってた!」

 

慌てて付け足したコナンは、ドアへと走った。戻ってきた蘭の横をすり抜けて、部屋を出る。

 

「あ、コナン君!これからお父さんを迎えに警視庁まで行くんだけど!」

 

蘭が声をかけたが、コナンはそのまま走り去ってしまった。

 

「もう……」ため息をもらした蘭は、持っていた携帯電話をにらみつけた。

 

「新一もなんで電話に出ないのよ!」

 

 

 

 

妃法律事務所を出たコナンは、スケボーに乗って道路を走った。

 

すると、路地から1台のRX-7が曲がり、コナンの背後についた。

 

コナンはガガガ……とスケボーのテールを道路に押しつけてスピードを緩めると、クルリとターンして止まった。車もブレーキがかかり、徐行して路肩へ寄せる。

 

その車を運転していたのは安室だった。

 

「僕が来ることが分かっていたようだね」

 

「初めに違和感に気づいたのは、あの時だよ」

 

安室の愛車、RX-7の運転席の横についたコナンは、ズボンのポケットからスマホを取り出した。

 

「博士に調べてもらったら、遠隔操作アプリが入ってた。アイコンが残らないタイプのね」

 

コナンが警視庁そばの公園で捜査会議を盗聴していたとき、安室がどこからともかく現れた。

 

あれは風見が小五郎の事務所を家宅捜査したときにコナンのスマホを盗み、遠隔操作アプリをインストールして、コナンを監視していたからだった。

 

スマホのバッテリーが切れるのがいつもより早かったのは、アプリが常に起動していたからだ。

 

「公安が仕込んだ証拠は?」

 

「なかったよ。さすがにね」

 

「せっかく分かったのに、なぜアプリを抜かなかった?」

 

「今から犯人に会うからさ」

 

「!?」

 

安室は驚いてコナンの方を見た。

 

「まさかテロの犯人が……!?」

 

「うん。動機もね」

 

前を向いたまま話していたコナンは、安室をキッとにらみつけた。

 

「動機は安室さん、アンタたちだ!」

 

「!?」

 

安室は大きく目を見開いた。

なぜテロの動機が公安になるのかーー安室には皆目見当がつかなかった。

 

「事の発端は、〈NAZU不正アクセス事件〉だよ」

 

「それは7年前、〈鷺沢瑛里華誘拐事件〉と同時期に起きた……」

 

言いかけて、安室はハッと何かに気づいた。

 

「羽場二三一か……!!」

 

コナンは「うん」とうなずいた。

 

「羽場さんは7年前、拘置所で自殺してるよね?」

 

「ああ……」

 

安室は顔を前に向けた。

 

「ちょうど、7年前の今日だったな……」

 

「7年前の今日……!?」

 

6月26日ーーコナンは調査報告書に書かれていた日付を思い出した。それと同時に、宇宙探査機のニュースを伝えるナレーターの声が脳裏によみがえる。

 

『無人探査機〈はくちょう〉が火星からのサンプル採取を終え、日本時間の6月26日、いよいよ地球に帰ってきます』

 

これから起ころうとすることに、コナンと安室は同時に気づいた。

 

「そうか……なんて事だ」

 

「きっとまだ犯人の復讐は終わってない!!」

 

コナンはスケボーを急ターンさせ、道路を駆け抜けた。安室の車も追うように発進した。




いよいよ、真相に気づいた2人は目的の場所へと向かい始めます。
続きも楽しみに待っていただけると幸いです。


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65 首都を覆う不穏な予感

今回も前回に続いてコナンがメインのストーリーになりますが、相棒の登場人物も少し出てきます。


コナンと安室はこれから起ころうとすることに気づき、道路を駆け抜けた。

 

コナンが交差点に差し掛かろうとしたときーー右から走ってきた車のカーナビが突然爆発して、急ブレーキをかけた。

 

後続車が追突し、さらに右から交差点に入ってきた車に弾き飛ばされ、宙を舞う車がスケボーで走っていたコナンに襲いかかる。

 

「!!」

 

コナンは間一髪のところでかわした。

 

「ちっ!」

 

コナンの後ろを走っていた安室がハンドルを切る。

 

 

ドガァァァァァン!

 

飛んできた車はRX-7のすぐ横に落下して、すれすれでよけた安室は逆にハンドルを切って体勢を立て直した。

 

「IoTテロか!」

 

すると、今度は振り返っていたコナンの前で、交差点に入ってきた大型トラックが停まっていた事故車に激突した。

 

衝撃で横滑りした大型トラックが迫り、コナンはとっさに身をかがめて車体の下に入った。大型トラックがコナンの頭すれすれのところを通過する。

 

車体の下を通り抜けたコナンはボードを蹴って跳ね上がると、ガードレールの上を滑った。

 

交差点は玉突き事故を起こして停車している車だらけだった。コナンはそれらの車に次々と飛び乗って加速し、交差点を通り抜けた。走行中の車をよけながら進んでいく。

 

すると、頭上に架かる高速道路から激しい衝突音がした。

 

大型トラックと衝突した乗用車が側壁を突き破り、スケボーで突進するコナンを目がけて落ちてくるーー!!

 

よけられないーーそう思った瞬間、落下する乗用車がスローモーションのようにゆっくりと迫って見えた。

 

ズガアァァァァン!!

 

轟音と共に、コナンの前に割り込んできたRX-7が乗用車と激突した。

 

「安室さんっ!!」

 

高架下でひっくり返って煙を上げる乗用車のそばで、車体の右前部がつぶれたRX-7が停まっていた。バックしてコナンの方に向く。

 

「行けっ!!」

 

安室はひび割れたフロントガラスを拳で砕きながら叫んだ。

 

力強くうなずいたコナンが通りに出てスケボーで疾走すると、フロントガラスを叩き落とした安室も車を走らせた。

 

 

 

 

その頃。子供たちは阿笠博士の家でテレビを見ていた。

無人探査機〈はくちょう〉が今夜帰還するとあって、テレビ局は〈日本人選手団のパレード〉と並んで特番を組み、子供たちは緊急生中継番組に釘付けになっていた。

 

『長野県の国立天文台です。たった今、地球から約5万キロ先の〈はくちょう〉を観測したとの……』

 

テレビのアナウンサーが告げる中、阿笠博士は白衣の袖をたくし上げて腕時計を見た。夜の7時を少し過ぎたところだ。

 

「もうこんな時間じゃ。送っていくぞい」

 

子供たちは「え〜」と不満げな声をもらした。

 

「もうすぐ火星から〈はくちょう〉が帰ってくるのに〜」

 

「テレビ中継見せてくださいよぉ」

 

「ダメよ。家で見なさい」

 

キッチンの椅子に座った灰原が言うと、光彦は「そんなぁ〜」と肩を落とした。すると、阿笠博士のスマホが鳴った。

 

「ん?おお、どうした」

 

電話はコナンからだった。

 

「ああ、それなら今、子供たちが中継を見たがっててのぉ。ーーん?大気圏突入までの時間?えーっと、確か……」

 

(……工藤君?)

 

阿笠博士のやりとりを聞いていた灰原は、何かあったと直感した。

 

 

 

 

「あと1時間弱!?」

 

阿笠博士から〈はくちょう〉が大気圏に突入するまでの時間を聞いたコナンは、思わず叫んだ。「時間がねぇっ!!」

 

トンネルの中をスケボーで走るコナンの左側には、安室の車が並走していた。

 

「コナン君、やはり犯人は……」

 

「あぁ!NAZUに不正アクセスして落とすつもりだ!!」

 

けれど一体何処に落とすつもりなのかーーコナンには分からなかった。

ハンドルを握る安室は、クソッ、と歯噛みした。

 

「まさか、宇宙(そら)からとは!」

 

トンネルを抜けると、ビル群の合間に雲に覆われた夜空が広がっていた。

 

 

 

 

同時刻。警視庁の捜査本部では伊丹らが、日本人選手団のパレードが『レイブン』によるテロの標的になるという右京の推理の下、〈エッジオブオーシャン〉へ急行していた。

 

それと同時に、捜査本部に設置された巨大モニターには沿道に設置された防犯カメラの映像が映し出され、それを捜査員らは一瞬の隙も見逃さない剣幕でかじりついて見ていた。

 

沿道には何も知らない一般市民が日の丸を振って選手団を出迎え、2階建バスからは大会で好成績を残した選手を始め、多くの選手たちがそれに応えている。

 

選手団の車列を取り囲むように警備部のSPが取り囲み、更に東京都から派遣された日雇い警備員、セキリュティ会社の警備員らが車列や沿道に点在し、目を光らせている。

 

 

「運転席にいた男の身元が割れました!」

 

捜査本部に慌ただしく入ってきた千葉は、大声で叫んだ。それと同時に防犯カメラの映像を映し出していたモニターに、新たなファイルが表示されある男の名前と写真、経歴が表示された。

 

「滝口淳。不正アクセス禁止法違反で逮捕歴があります」

 

「彼が『バーズ』のハッカーでしょう」

 

「滝口の写真を捜査員全員に送信しろ!直ちにだ!」

 

右京が後ろに座っている中園ら幹部に言うと、中園は捜査本部のメインコンピュータから滝口の写真を一斉に送るよう指示する。

指示を受けた捜査員はパソコンからの一斉メールを通じて滝口の詳細と写真を送った。

 

 

 

 

「こいつが滝口か…」

 

〈エッジオブオーシャン〉についた伊丹は、メールで受信した滝口の顔を見ながら忌々しく言う。

 

「早くこいつらを逮捕して、被害が出ねぇようにしねぇとな……」

 

「でも、こんな偶然もあるもんっすね〜」

 

隣で同じく滝口の写真をスマホに受信して保存した芹沢は、そう呟く。伊丹は訳が分からず、聞いてみる。

 

「は?どう言う意味だ、それ」

 

「あれ、先輩知らないんですか?今日、火星無人探査機〈はくちょう〉が地球に帰ってくるんですよ。それが偶々、日本人選手団のパレードの日と重なるなんて、すごい偶然じゃないっすか?」

 

「まぁ、それは俺らには関係のない話だ。今はとにかく犯人逮捕に尽力しろ」

 

周りには覆面パトカーで到着した刑事部の面々もいて、彼らも滝口の写真を本部から受信したらしく各定位置につくと同時に滝口の捜索を開始する。伊丹と芹沢ら伊丹班も指示された場所に向かうべく〈エッジオブオーシャン〉の中を駆け出した。

 

 

 

 




皆さんに支えられて、UA数10万の大台を突破いたしました。
これは僕にとって本当に嬉しいことです!本当にありがとうございます!


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66 忍び寄る不穏な足音

あれ?なんか自分が想定していた構想より遅い…。俺氏、地団駄踏んでる?


右京と冠城が警視庁の捜査本部にて事件の進捗を見守っていると、右京のスマホが振動し、右京が画面を見ると、そこには『江戸川 コナン』と表示されていた。

 

「杉下です。コナン君、どうしました?」

 

『杉下警部!まだ警視庁の中にいる?』

 

いつもの余裕はなく、切羽詰まったコナンの声に右京もただ事ではないことを察して、緊張感を高めた。

 

「えぇ。今、〈エッジオブオーシャン〉で起きようとしているテロを防ごうと刑事部が現場に急行しており、我々も捜査本部で進捗状況を随時確認しているところです」

 

『杉下警部!僕の推理が間違っていなければ犯人の復讐はまだ終わってない!多分、犯人はNAZUに不正アクセスして落とすつもりだよ!』

 

「落とす、ですか…」

 

一方、右京の側で電話をさりげなく聞いていた冠城は右京の話し方に変化が生まれ、口調が固くなっているのに気づいた。

 

「右京さん。その電話って……」

 

「コナン君からです。どうやら、国際会議場を爆破しIoTテロを起こした犯人はNAZUに不正アクセスを試みているそうです。おそらく、犯人は……」

 

「NAZUってことは……。まさか、〈はくちょう〉ですか?」

 

「えぇ。彼の狙いは今日、地球に帰還する〈はくちょう〉、正確にはそのカプセルでしょうねぇ」

 

そこまで言うと、右京はコナンとの通話に戻った。

 

「コナン君。君がその推理を組み立てるに至った、考察を聞かせてくれませんかねぇ」

 

『今日は、7年前に死んだ〈羽場二三一〉の命日!そして日本人選手団のパレードの日と、〈はくちょう〉が帰還する日だよ!今、警視庁に向かってるんだけど再び、IoTテロが起きてるんだ!しかも車やトラックといった自動車を中心に!』

 

『IoTテロ』と言う言葉を聞いた瞬間、右京は目を見開いて普段のポーカーフェイスを思わず、崩した。そしてコナンに礼を言い電話を切って、山崎や衣笠らがいる方向に振り返った。

 

「参事官、大至急交通部と指令センターに連絡してこの2時間弱に都内にて発生した交通事故の数を調べるようお願いできますか」

 

「杉下、どう言うことだ」

 

中園の反対側に座っていた内村は怪訝そうに聞いた。せっかく、右京の推理通りに動いているのにここでまた計画の変更をされては、たまったものではないからだった。

 

「現在、都内でIoTテロが再び発生しているとの連絡がありました。しかもそれは自動車が中心になっているとのことです。僕の推理が正しければそれは23区内、それも千代田区を中心に発生していると考えられます」

 

「杉下警部の仰る通りだと、我々としても現状を把握する必要があります。大至急、情報を集めるよう働きかけをお願いします」

 

右京の推理を聞いていた黒田も同様に中園らに促した。中園は判断に困り、内村や山崎に助け舟を出してもらおうと顔を向けるが内村の答えは判断を濁したものだった。

 

「それは中園参事官、お前が判断しろ。もしも、失敗したら全てはお前の責任だ。いいな?」

 

あくまで自分は干渉しないという、自身のスタンスを取り続ける内村に中園は戸惑うが、他の幹部も同様の反応を示したため仕方がなく中園は全責任を負う覚悟を持ち、頷いた。

 

「至急、指令センターに連絡して都内各地で今から2時間前まで起こった全ての交通事故を捜査本部に送信するよう伝えろ!」

 

それを聞いた捜査員は指令センターに連絡して、至急情報をこちらにも回すよう伝える。案外情報の送信は早く、中園が指令を出してから僅か3分でその詳細はモニターに表示された。

 

 

 

 

「指令センターより情報が来ます!」

 

その言葉のすぐ後にモニターに都内で起こった交通事故の件数、起きた場所、死傷者数が調べられた範囲ではあるが表示された。

 

すると表示されたモニターには世田谷区、それも霞ヶ関・永田町に繋がる道を中心にまるで首都を囲い込むかのように事故が多く発生しており、それもこの1時間の間に多く起こっていた。

 

「これは……」

 

「『レイブン』の狙いは東京サミットじゃなくて、このIoTテロだったのか?」

 

再び都内で起こっているIoTテロに対して、幹部たちも戸惑い困惑の声を上げていた。

 

「大至急、交通部に連絡して交通整理を行うよう伝えろ。また、霞ヶ関・永田町に繋がる道路を規制して新たに侵入する車を止めろ」

 

山崎の指令に捜査員は交通部に連絡して、道路規制を行うように働きかけた。一方この情報は警察庁、東京都公安委員会、そして首相官邸にも届き、霞ヶ関周辺の交通規制を認可するよう根回しをした。

 

 

 

 

一方、警察庁では山崎が不在の中、金子や官房室長、小田切ら上層部が集まり緊急会議を開いていた。

 

「現在、再び都内でIoTテロが起こっているとの情報が警視庁に入った。しかも霞ヶ関や永田町を周辺に、起こっているそうだ。日本人選手団のパレードに加え、このIoTテロだ。この2つがたまたま同じ日に起こるなんて、偶然で済ませられるかね?」

 

金子は怪訝そうに顔を顰めながら、周りに座る幹部たちを見回した。他の幹部たちもどうしたら良いか分からないようで顔を右往左往するだけで対して良い返答が来るわけではなかった。

 

「長官、直ちに霞ヶ関に繋がる道を封鎖し交通規制を行うべきです。仮にIoTテロが警視庁周辺で起こった場合、それ以上の事件に我々が迅速に対応できなくなる可能性があります」

 

「私も小田切君に賛成です。我々の対応が遅れれば、非難を浴びるのは警視庁と我々です。そうならない為に、迅速に行動ができるようにするためにも交通規制を行うべきかと」

 

小田切と甲斐は意図は違えど、早急に規制を行うべきと主張した。他の幹部も頷くばかりで特に反対の意見もなかった。頷いた金子は会議が終了した後、公安委員会に連絡を取り交通規制を行うように通達した。

 

 

 




なかなか、進まない…。次回こそは大きな動きに持っていきたい。


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67 首都クライシスへのカウントダウン

今回はタイトル通り大きく事態が進みます。


『こちら伊丹班。各自、配置に着きました』

 

『佐々木班。準備完了』

 

捜査本部には〈エッジオブオーシャン〉に到着し、各自配置についた班からの連絡がひっきりなしに入ってきていた。

 

「各自、周辺の警戒を怠らないように。そして、もう一つは滝口の確保だ。ぬかるなよ……!」

 

黒田は無線機を通して捜査員らに呼びかける。黒田の重々しい言葉を聞いた捜査員らは身が引き締まり、その空気はマイク越しにでも確認できる。

 

警察庁の指示で既に、霞ヶ関及び永田町周辺は交通規制により一般車の運行ができなくなっていた。普段、様々な車のエンジン音やクラクションの音が飛び交う桜田門はまるでゴーストタウンのように静まり返っており、不気味さが増していた。

 

 

 

警視庁の捜査本部にいた右京は先程、コナンから聞いた断片的な言葉を頭の中でパズルのように組み合わせていた。

その中で羽場二三一が7年前の今日、拘置所で自殺しておりその裏には公安警察が絡んでいること、それにまた都内でIoTテロが起きていることを組み合わせた右京はある事に気づいた。

 

「冠城君!橘弁護士の資料の中で羽場二三一が自殺したのは7年前の今日でしたね?」

 

「えぇ。確か、公安警察の取り調べのすぐ後だったと思いますけど…。何か引っかかったんですか?」

 

「僕としたことが!犯人はおそらく〈はくちょう〉を使い、7年前の復讐をするつもりです!」

 

右京の言葉を聞いた冠城は本来見ることのできない上司の驚いた表情がとてもレアであると思いつつ、右京に続きを促した。

 

「では、犯人は…」

 

「この推理を軸とすればあの資料の中で、怪しいのはあの人しかいません。行きましょう!」

 

右京が冠城と共に捜査本部を出ようとしたまさにその瞬間、突然捜査本部のモニターやパソコンといった電子端末の画面が真っ暗になる。それだけではなく捜査本部の照明や、廊下の蛍光灯の明かりも消え警視庁は瞬く間に闇に包まれた。

 

 

 

 

時は少し遡り、警視庁。

 

蘭は英理、園子と一緒に、釈放された小五郎を迎えに警視庁に来ていた。

 

「あ、来た!おじさま!」

 

廊下で待っていると、高木に連れられた小五郎が現れた。

 

「お父さん!」

 

駆けてくる蘭に、小五郎は「お、おう」と複雑な顔で手を上げた。

 

「お帰りなさい!」

 

「……心配かけたな、蘭」

 

小五郎は胸に飛び込んできた蘭を抱きしめた。「本当によかった……」と蘭が涙ぐむ。

 

「それと……英理もいろいろすまんかった」

 

小五郎が言うと、英理は「何言ってるの」と微笑んだ。

 

小五郎の胸で泣いている蘭を見た園子は、思わずもらい泣きをしてしまった。

 

「よかったねぇ〜、蘭」

 

「園子……ありがと」

 

蘭は振り返って涙を手でぬぐった。笑顔で寄り添う3人の姿を見ていたら、園子は涙が出そうになった。

 

「そうだ!この感動シーンを推理オタクにも送ってやろ」

 

思いついた園子がさっそくスマホを構えると、

 

「ちょっと園子!」

 

蘭は恥ずかしそうに顔を赤らめた。その横で、写り込もうとした高木がピースサインをする。園子はスマホを構えながら、邪魔だと言わんばかりにシッシと手を振った。

 

「これで連絡取れるはずよ!はい、チーズ」

 

シャッターボタンを押そうとした瞬間ーー突然、周囲の電灯が消えて真っ暗になった。

 

 

 

 

 

「どうした?」「なんだ?」「停電か?」

 

突然の停電に、捜査本部にいた捜査員たちは動揺を隠せずに周囲を見回す。中央のデスクから進捗状況を見ていた山崎や衣笠、内村らも困惑して椅子から立ち上がる者もいた。

 

「早く予備電源を作動させ、モニターと無線を復旧させろ!」

 

「こんな時に停電なんて…。シャレにならんぞ!」

 

真っ暗な中、山崎が声を張り上げた。続けて内村も吠える。すると目暮のそばにいた千葉は「内村部長!」と声をかけた。

 

「非常用電源が破壊されているようです!」

 

「何!?」

 

「一体、本庁で何が起きているというんだ…!!」

 

千葉の報告に中園は驚愕の表情を浮かべ、内村の顔は苦虫を潰したように醜い面持ちとなった。

 

内村が真っ暗な天井を見上げていると、後方のドアから白鳥が入ってきた。前方にいる黒田たちに向かって叫ぶ。

 

「NAZUから報告です!無人探査機への不正アクセスが確認されました!!」

 

「なんだと!?」

 

「このままではカプセルの切り離しが出来ないようです!!」

 

 

停電に見舞われたのは警視庁本庁、総務省や警察庁、国家公安委員会が入る中央合同庁舎2号館、そして国土交通省や海上保安庁が入る中央合同庁舎3号館のみだった。

道路を挟んだ反対側にある旧法務省本館及び外務省は煌々と明かりが点いていた。無論、突然停電になった中央合同庁舎2号館及び警視庁本庁を見ていた法務省や外務省内の職員は騒然となっていた。

 

IoTテロによる事故で交通規制が敷かれているため、警視庁付近は車もほとんど走っておらず、風見は人気のない歩道を走りながら安室に電話をした。

 

「〈はくちょう〉本体は大気圏で燃え尽きますが、カプセルの落下地点が狂っていることが判明し、NAZUでは騒ぎになっているようです。最新の落下予測データを送ります!」

 

一方、警察庁にいた神戸も右京に連絡していた。

 

『神戸です。杉下さん、警視庁が突如停電したと聞きましたがそちらの状況は?』

 

神戸からの連絡を捜査本部から出て、混乱する警視庁の廊下で受けていた右京は歩きながら答えた。

 

「捜査本部は機能喪失と見て間違いないでしょうねぇ。何分、非常用電源が破壊されているため復旧は難しく、こちらから前線に直接指令を出すのは不可能になっています」

 

『やはりですか……。こっちの中央合同庁舎2号館も停電になっていて、これから大会議室で会議中の金子長官以下、幹部の保護を行なった後、マニュアルに則って対処するつもりです。杉下さんはどうするつもりですか?』

 

神戸が電話の向こう側にいる元上司に聞くと、間髪入れずに答えが返ってくる。まるで、その考えを想定していたかのように。

 

「無論、犯人を止めます。恐らく犯人は7年前の〈羽場二三一〉氏に関係している人物だと思われ、僕の予想が正しければその人物は公安に関係している人物のはずです」

 

『そうですか。呉々も気をつけて下さい。あぁ、あとそれと、まもなくNAZUからの最新の落下予測データが届きますのでそちらに送ります』

 

 

 

 

暗闇に包まれた大会議室では、中央の椅子に座った幹部たちの周りを囲むように捜査員が集まっていた。

懐中電灯やランタンで明るくなった長机で、正面に立った高木はタブレット端末で地図アプリを起動した。

 

「…東経139度45分8.405秒。NAZUによる予想落下地点は…」

 

検索ボックスに座標を入力してエンターキーをタッチすると、座標の場所にピンが表示された。

 

「え?ここってーー」

 

高木の隣に立っていた佐藤は、ピンが表示された場所を見て息を呑んだ。

 

 

 

「なんてことだ…」

 

車を走らせていた安室は、車載ホルダーのスマホに送られてきた落下予測データを見て呟いた。

 

「コナン君!」

 

スマホを取って、車の横を走っているコナンに見せる。

同じ頃、右京のスマホにも神戸から落下予測データが届き、それを見た右京の目が見開く。

 

「冠城君!NAZUの最新落下予測の結果ですが、どうやら我々は一刻の猶予もありません。早く、犯人を止めなければ東京の中心地は破壊されます!」

 

「という事は…つまり…」

 

隣で走っていた冠城も察しがついたのか、前方を見たまま冷や汗を垂らす。

 

「えぇ、犯人の狙いは…

 

 

 

「「警視庁(です)!」」




いよいよ、カプセルが警視庁に落下するという最悪な事態になりました。果たしてコナン、安室、右京、冠城は犯人を止めることができるのか。


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68 避難

カプセルが警視庁に落下するなんてこんなことが本当に起きたら、大混乱になると、自分でも書いていて思いました。


「カプセルが警視庁に落下するだと!?」

 

「……どうなっている?」

 

公安部長のいつもの丁寧な口調がすっかり消え失せ、只々予想外のことに呆然とすることしか出来ず、衣笠も静かにではあるが困惑を隠せずに呟く。

 

「4メートルを超えるカプセルがここに落下したすれば、被害は想像がつかないぞ!」

 

「落下カプセルはGPSを積んだ精密誘導システムにより、半径200メートル以内の誤差で落ちてきます」

 

目暮と白鳥の言葉に幹部陣は衝撃を受ける。

 

「……聞くが、警視庁から半径200メートルの範囲にある建物にはどんな物がある?」

 

山崎が聞くと、スマホで調べていた白鳥は答えた。

 

「警視庁を中心にした場合、警察庁や総務省が入る中央合同庁舎2号館、国土交通省ならびに海上保安庁が入る中央合同庁舎3号館、それに法務省や検察庁が入る中央合同庁舎6号館と東京地裁が入ります」

 

「それだけでもかなりの避難が必要になりますね……」

 

白鳥の言葉を聞いていた公安部長は頭を抱えたが、手を顔の前で交差させていた黒田は鋭い眼光を維持したまま、冷静に判断した。

 

「大至急、大型人員輸送車を手配しろ!警視庁を中心に半径1キロ圏内は即時退避!!よろしいですね?山崎警備局長」

 

捜査員一同が「ハイッ!」と声を揃え、各々動き出した。その後に中央に座る山崎に呼びかけた。

 

「あ、あぁ…。それでいい」

 

度重なる報告に虚ろになっていた山崎は黒田の言葉に曖昧な返事で返した。しかしその次の瞬間に、駆け寄ってきた秘書の言葉に現実に引き戻された。

 

「大至急、首相官邸に連絡を。半径1キロ圏内には首相官邸も含まれているため、直ちに官邸機能を市ヶ谷の防衛省に移管するように金井国家公安委員長に進言してくれ。総理と各閣僚の避難用ヘリも用意しろ。また関係各省庁に連絡、急ぎ対策案をまとめ都庁に送るよう伝えろ。我々の捜査本部も緊急対策本部に名称を変更し、本部を都庁に移管する」

 

山崎の言葉に頷いた幹部たちも次々に席を立ち、捜査本部が置かれていた部屋を出て行く。

 

高木に連れられて大会議室の隅で立っていた小五郎は、ドアから出て行く刑事たちを目で追った。

側にいた蘭が不安そうに小五郎を見る。

 

「お父さん……」

 

「大丈夫だ、俺がついてるーー英理、お前も」

 

小五郎は英理の腕をつかんだ。

 

「俺のそばを離れるな!」

 

いつになく真剣な表情で見つめられて、

 

「え、ええ……」

 

英理は思わず顔を赤らめた。

 

「……やるじゃん」

 

2人のそばでやりとりを聞いていた園子は、蘭とともに感心した顔でつぶやいた。

 

 

 

警視庁の正面玄関にある広場は、ビルから出てきた大勢の警察官や職員たちでごった返していた。スマホを片手に走ってきた風見は、人の流れに逆らうように進んだ。

 

「探査機から切り離されたカプセルは隕石のように落下するだけ!つまり大気圏突入前のわずかな時間しか軌道のコントロールができません!!」

 

 

 

 

一方、停電し暗闇に包まれた警察庁内では金子以下、幹部らが小会議室にて停電状況に困惑していたが、やがて金子らの秘書を連れた神戸が会議室に突入し幹部らを保護した。

 

「神戸くん。これはどういう事かね?」

 

廊下を急ぎ足で歩いて、非常階段を下っていた金子は前を先導して歩く神戸に聞いた。

 

「詳しい話は降りてからですが、どうやら〈はくちょう〉のカプセルが警視庁本庁に落下する可能性があるとNAZUから報告がありました」

 

神戸の言葉に金子を始め、後ろから歩いてきていた幹部たちは息を呑んだ。

 

「それでカプセルは確実に警視庁に落下するのかね?」

 

「カプセルは誤差200メートルの範囲で落下してくるそうです。警察庁もその範囲に入っているため、我々も直ちに避難する必要があります」

 

金子の後ろを歩いてきた小田切が、神戸に聞くと息を少し荒げた状態ではあるが答えた。

 

「警視庁は半径1キロを避難区域として設定しているため、総理以下閣僚全員、我々のヘリで予備施設である防衛省に避難しました。また、皇居にお住いの天皇皇后両陛下も赤坂御用地に退避されました。あとは、我々だけです。金子長官と甲斐さんは総理が指揮をとっている防衛省に、残りの幹部の皆さんは警視庁が臨時の本部を設けている都庁の方に避難していただきます。都庁には山崎警備局長や衣笠副総監もまもなく到着されます」

 

「そうか。分かった」

 

何百段にもわたる階段を下り終えた神戸らは正面玄関に停めてある黒塗りの公用車に乗り込んだ。金子と甲斐は神戸が運転する車で防衛省へ、残りの幹部らも都庁へ向けて一般車両の通行が禁止された新宿街道を全速で走り抜けた。

 

 

 

その頃。政府は半径1キロの範囲に首相官邸が含まれているため、官邸機能を市ヶ谷にある防衛省・中央指揮所に移管していた。警察庁のヘリで避難した大河内総理以下、佐藤副総理や官房長官、折口らは中央指揮所に臨時の官邸対策室を設置し、関係省庁の幹部職員を緊急参集させていた。

 

中央指揮所では防災マップが映し出された大型スクリーンを前に、防災服に身を包んだ大河内総理や関係閣僚が向かい合って座り、その後方には事務方が並んでいる。

 

「警視庁の1キロ圏内には各省庁、公園やホテルも多く、避難人員はざっと計算しておよそ20万人と推定されます」

 

環境省の防災服を着た環境大臣の菊川の報告に中央指揮所にどよめきが起こった。

 

「それだけの人員の避難先として1キロ圏外にある候補地と順路をまとめてあります」

 

黒田、金子、甲斐は説明している柳原国土交通大臣の後ろを通り、警備局担当審議官に近づいた。金子と甲斐が着席したのを確認したのを確認した黒田は審議官に耳打ちした。目を見開いた警備局担当審議官が「総理!」と向き直る。

 

「NAZUからメモリーの修正ができないとの報告が!」

 

「何っ!?」

 

「地上局から探査機を送る信号は、特定のコードで暗号化されているのですが、そのコードが一致しないとメモリーの書き換えができないそうです!」

 

 

 

 

コード不一致のため探査機のメモリー情報を書き換えられないーーNAZUからの報告を風見から電話で知らされた安室は、車と並行して走るコナンに伝えた。

 

「つまり、そのコードを犯人が変えたってこと!?」

 

「ああ。NAZUに不正アクセスして探査機の軌道を変えたときに!」

 

「変更したコードを聞き出さないと!」

 

「そのために『協力者』になってほしい」

 

安室は左手でハンドルを握ったまま、右手でジャケットのポケットを探り、つぶれた盗聴発信器を見せた。

 

「こんなスゴイ物を開発する博士に」

 

「何をするの!?」

 

コナンがたずねると、安室は意味深にニヤリと微笑んだ。

 

「死んだ人間をよみがえらせるのさ!」

 

 

 




ゼロの執行人では首相官邸に官邸対策室が設置されましたが、ここでは防衛省に臨時官邸対策室を設置しました。

実際にこのような事態が起きた場合って官邸に対策室を置くんですかね?それとも予備施設に官邸機能を移管するんでしょうか?


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69 獅子身中の虫、獅子を食らう

最近、風邪をこじらせた投稿を遅らせてしまってかなり投稿が遅れてしまいました。

久しぶりの投稿です。


コナンから電話をもらった阿笠博士は、自宅の屋上で改造したドローンの試運転をした。8つのプロペラが回り出し、ドローンが垂直に上昇していく。

 

「さすがじゃのう。こんな作戦を思いつくなんて……」

 

一気に舞い上がったドローンは、あっという間に夜空に消えた。屋上に続くらせん階段に腰を下ろした灰原が、ノートパソコンを開く。

 

「これでコードが聞き出せればいいけど……。

 

「さらなるスピードアップに成功したんじゃぞ?」

 

夜空を見上げた博士は、得意げな顔でコントローラを操作した。すると、灰原のパソコンにドローンの空撮映像が映った。上空から撮った阿笠邸が映っているものの、ぶれて画像が不安定になっている。

 

「博士、映像がフラフラしてる。これじゃあうまくいかないわよ」

 

「ん〜、夜の飛行は初めてじゃからのぉ……」

 

阿笠博士がぼやきながら操作していると、テレビを見ていた子供たちがらせん階段を上ってきた。

 

「あ!夜のドローン、オレもやりてー!!」

 

「博士たちだけでずるいですよ!」

 

「テレビ、〈はくちょう〉うつらないんだもん!」

 

パソコン画面を見ていた灰原は、ニコッと笑った。

 

「そうね。じゃあお願いできる?博士の操作じゃ不安で」

 

「やったー!」

 

「楽しみですね〜!」

 

子供たちは歓声を上げながら屋上に出てきた。

 

「そーじゅーこと言うの……」

 

阿笠博士が不満げに見ると、灰原は涼しい顔で微笑んだ。

 

「ここはあの子たちに任せて、私たちは準備を進めましょう」

 

子供たちは嬉しそうに3つに分かれたコントローラをそれぞれ持ち、ポーズを決めた。

 

「ボクたち!」「ドローン!」「飛ばし隊!」

 

 

 

 

防衛省の中央指揮所では、新たに緊急災害対策本部が設置された。大型スクリーンには緊急連絡システム、気象情報システム、中央防災無線システム、それに都庁の緊急対策本部から配信された映像が映し出され、各大臣と担当政務官がずらりと並ぶ。

 

「……規制空域内の航空機、及び東京湾と太平洋近海の船舶に、以上の緊急命令を発しました。羽田空港及び東京湾周辺の港湾施設は無期限封鎖とし国際線は関空に、国内線は伊丹、船舶等は下田、名古屋、並びに港湾施設が整備されている東北地方に進路を変更させました」

 

柳原国土交通大臣の発言に、口火を切ったのは金井国家公安委員長だった。

 

「防衛省に聞きたい。外国からの武力攻撃でなくとも、イージス艦やパトリオットの使用は可能なのか?」

 

「警戒管制レーダーの使用は可能です。しかし正確な情報なしに大気圏突入後の迎撃は不可能です」

 

花森は直前まで隣に座る財前統合幕僚長と話し込んでいたが突然話題の矛先が、自身に向けられても戸惑うことなく冷静に述べた。

 

「総理、現在都内各地にある避難所では残念ながら20万人を避難させることは不可能です。ここは防災施設としても機能し、避難設備が十分な〈エッジオブオーシャン〉に避難させるべきかと」

 

大臣たちが対応を協議している中、佐藤は隣に座っている総理大臣の大河内に非公式に提案するが大河内は渋い顔をするばかりで否定的な答えを返した。

 

「仮に避難させるとして『レイブン』についてはどうする気だ?あそこは警視庁が厳戒体制を敷いている危険な地域だ。聞くがね、一体何人を避難させる気だ?」

 

「およそ5万人と私どもは考えています」

 

「5万人もの国民を君は危険な目にあわせる気か!?」

 

「総理。恐らくこの事態は『レイブン』にとっても想定外のはずです。各地の避難場所のキャパシティが限界を迎えている中で、〈エッジオブオーシャン〉は外せない避難施設です。それに彼らの標的は日本人選手団です。既に文科大臣からパレード中止の要請を現場に通達していますから、その指示が現場に行き次第選手団を避難させるよう警察庁には連絡済みです。ですから、総理の仰る心配はない、と考えてください」

 

佐藤はこの場には似合わない自身に満ち溢れた顔で断然と言い、これには大河内も首を振らざるおえなかった。

 

 

 

 

東京湾に架かる東京ゲートブリッジでは、避難者を乗せた大型人員輸送車が何十台と連なって走っていた。

 

蘭と園子、小五郎と英理は目暮が添乗する輸送車の座席に並んで座っていた。

 

「これからおよそ5万人が東京湾の埋立地にある〈エッジオブオーシャン〉に避難します」

 

運転席のそばに立つ目暮が言うと、乗客は不安そうに顔を見合わせた。

 

「どこだっけ?」「わかんない」並んで座った小学生の女の子が首を横に振る。

 

園子が「あの!」と手を上げた。

 

「そこって今、パレードをやってるんですか?」

 

「いかにも。我々はカジノタワーに避難します」

 

「カジノタワー……?」

 

蘭が首をかしげると、園子は「ああ、アレよ」と窓の外を指差した。

 

海の向こうに見える埋立地には、ひときわ高いらせんのモチーフがデザインされた建造物が建っていて、その最上部からまばゆい光を放っている。

 

「そうだ。新一に連絡しなきゃ」

 

ふと思いついた蘭は、携帯電話を取り出した。

 

 

 

 

コナンと安室は警視庁の近くまで来ていた。

 

路肩のあちこちに停まっている大型人員輸送車には続々と人が乗り込み、その周りには何台もの車が乗り捨てられている。

 

「コナンくん!!」

 

コナンがスケボーで走っていると、警視庁の方角からコナンを呼ぶ男性の声が響いてきた。コナンがスケボーをスライドして止まると、警視庁の方角から、走っているはずなのにスーツが一向に乱れない右京と、若干汗が額に滲んでいるものの大して疲れていない冠城の姿が見えた。安室も路肩に車を止めコナンの横で待った。

 

「安室さんも、無事で良かった」

 

「ええ。途中でIoTテロに遭遇しましたがコナンくんのお陰で無事に」

 

冠城が安室の無事を確認する一方で、右京はコナンに犯人の心当たりについて尋ねていた。

 

「コナンくん、君の考えでは犯人はもう決まっているのですね?」

 

「それを言うんだったら杉下警部も、もう分かっているような顔してるね。多分僕と同じだろうけど」

 

「まだ僕も確証は持っては言えませんがねぇ」

 

 

 

 

右京、冠城、コナン、安室の4人は検察庁を目指した。

建物からはスーツ姿の人々が大量に流れ出てきて、4人は人波に逆らうようにロビーへ入った。スマホを切った安室が前を走るコナンと右京に告げる。

 

「NAZUはコードを送り続けているが、やはり探査機にアクセスできないようです!」

 

(どうやら早くコードを聞いたほうがいいようですねぇ……)

 

4人は走りながらすれ違う人々を確認した。

 

すると、冠城が何かに気付いたのかふと、ある人物に向けて歩き出していくのをコナンは見た。

 

冠城の歩いて行くその先には押し寄せる人波の中、1人スマホを見ながら歩いている人物がいた。誰もが一目散に出入り口へ走る中、その行動は冷静に見れば誰が見ても不審なものだった。

 

コナンと冠城はそのまま歩き続け、その人物とすれ違う瞬間ーー冠城は腕を伸ばして、スーツの袖をつかむ。

 

持っていたスマホがカシャーンと音を立てて床に落ちた。

 

安室は落ちたスマホを拾うと、その画面をコナンたちに向けた。

 

真っ黒な画面に数字とアルファベットが羅列し、その中央には大きく『ERROR』の文字がある。

 

「それは、NAZUの地上局で見られるデータだよね。テロの犯人さん」

 

「『獅子身中の虫、獅子を食らう』とはよく言ったものですよね。

 

 

 

 

ねぇ、ーー日下部検事」

 

 

 




ようやく犯人の正体が分かりましたがどんな展開になるのか皆様、どうぞご期待ください


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70 恨み

かなりの長編となりました。

今回は右京さん、冠城くん、コナンくん、安室さんの4人が大活躍します。


「『獅子身中の虫、獅子を食らう』とはよく言ったものですよね。

 

ねぇ、ーー日下部検事」

 

 

冠城に名前を呼ばれたスマホの持ち主ーー日下部誠は驚いて袖を掴んでいる冠城を見た。

 

「まさか、あなただったとはね」

 

安室はスマホを持った手を下ろした。

 

「……なんだね、君たちは。それに、冠城。お前の噂はかねがね聞いている。何でも兄のお気に入りの検事を潰してくれたそうじゃないか」

 

「流石は、エリート兄弟。情報はしっかりいっているようで」

 

「あの一件で兄はお前を裏切り者扱いしている。私も検察の改革に取り組んでいた彼女を葬ったことに驚いたものだよ。だが、私がそれ以上に驚いているのはお前の行動だ。なんのつもりだ、これは?」

 

日下部はそう言いながら冠城の手を振りほどいた。

 

職員たちは彼らの行動には目もくれず次々と外へ出て行き、東京地検のロビーは人気がなくなり、いつのまにか5人だけになっていた。

 

「もっと早く気付くべきだったよ。アンタが申請した証拠一覧を見たときにな……」

 

コナンは証拠一覧にあった現場鑑識写真を思い浮かべていた。

 

ナンバリングされた写真の中に『不詳』と書かれた黒っぽいガラス片の写真があった。写真を見たとき、コナンはどこかで見たような気がしたがーーあれは圧力ポットのタッチパネルの部分だったのだ。

 

「あのガラス片は、犯人しか知ることのできない本当の発火物でした。しかしあなたはそれを証拠申請してしまった、発火物がまだ『高圧ケーブル』だと思われていたときにです。検事として優秀な経歴をお持ちのあなたにしては、迂闊でしたねぇ」

 

「!!」

 

日下部は右京の言葉にビクリと肩を跳ね上げた。

 

そのとき、新一のスマホが振動した。

 

「ナイスタイミング」

 

コナンはスマホを渡り出し、メールに添付された書類を開いた。

 

「7年前に起きた『NAZU不正アクセス事件』の公判資料だ。アンタが担当した」

 

コナンは画面をスワイプして、『検察官 日下部誠』と書かれた箇所を見せた。

 

安室が、そうか、とうなずく。

 

「その事件の手口は、ノーアを使った不正アクセス……」

 

「自分が担当した事件の手口を使って、サイバーテロを働いたんだよね?」

 

日下部は答えなかった。ただ、その表情は明らかに狼狽していた。

 

「でも、その計画に誤算が生じた」

 

「えぇ。NAZUではすでに犯人を追跡するシステムが完成していました」

 

冠城の言葉に、右京はうなずくと、日下部に目を向けた。

 

「しかしあなたはこのシステムすらも利用した。システムの存在を知ったあなたは、バグを作ったノーアでアクセスし、IoTテロに見せかけて上司である岩井統括官のスマホを発火させました。そのダミーを我々警察に特定させるためにです。だからIoTテロのタイミングが妙だったんですね、違いますか?」

 

右京が言い終わると同時に、日下部が安室に突進した。タックルするように腕に絡みつき、スマホを奪う。

 

「私の物に勝手に触れるな!」

 

安室の胸をドンッと突いて、日下部は逃げ出した。コナンと右京がすばやく追いかけ、安室と彼を起こしていた冠城も遅れて続く。

 

日下部は裏口から駐車場に出た。

 

「あのスマホにノーアを使った痕跡があるんだ!」

 

「まったく!」

 

手を焼かせるーーと言わんばかりに顔をしめた安室は、3人を追い抜いていった。

 

コナンは駐車場の植え込みに置かれた空き缶に気づいた。走りながら空き缶をつかみ、キック力増強シューズのダイヤルをすばやく回す。

 

日下部は駐車した車の間を縫うように走っていた。

 

「逃がすかよ!」

 

コナンは空き缶を思い切り蹴った。車の間を一直線に突き進んだ空き缶が、日下部の腕に直撃する。

 

「ぐあっ!」

 

激突された衝撃で植え込みに吹っ飛んだ日下部は、そのまま転がって歩道へ落ちた。が、すぐに起き上がって走り出す。

 

「クソッ!ダメか!!」

 

「問題ない!」

 

日下部を追いかけていた安室は車のボンネットに飛び乗り、駐車場に停められていた車の上を次々とジャンプして進んでいった。そして植え込み横の車を踏み台にして、大きくジャンプする。

 

植え込みを高く飛び越えた安室は、走ってきた日下部の前に着地した。その様子を見ていた冠城は走りながら、唖然としたのは言うまでもない。

 

「クソォ!」

 

足を止められた日下部は安室に殴りかかった。が、安室はすばやくかわし、日下部の肘と肩を押さえて歩道に倒した。そして両腕を後ろ手にして締め上げる。

 

「往生際が悪いですね、日下部検事」

 

「はぁ、はぁ。いきなり走り出すからびっくりしましたよ、まったく」

 

すぐに右京と冠城も駆けつけて日下部を囲んだ。

 

「日下部検事。あなたがテロを起こした動機は、本当に公安警察なのか!?」

 

痛そうに顔をゆがめた日下部は、ゆっくりと口を開いた。

 

「……サミット会場が爆破され、日本人選手団がテロの被害に遭い、そしてアメリカの探査機が東京に落ちれば、公安警察の威信は完全に失墜する」

 

「なぜそこまで公安警察を憎む?」

 

日下部は背後の安室に顔を向けてキッとにらんだ。

 

「お前ら公安警察の力が強い限り、我々公安検察は正義をまっとうできない!」

 

「思い上がりも甚だしい!!」

 

「正義のためなら人が死んでもいいっていうのか!?」

 

右京と、追いかけてきたコナンが問うと、

 

「民間人を殺す気はなかった!」

 

日下部は即答した。

 

「いや、本当はこんな大事にするつもりもなかった!」

 

「何?どういう事だ」

 

日下部を締め上げていた安室は、前から聞かされる日下部の言葉に驚き、縛りを緩めずに彼に聞いた。

 

「本来ならば、警察のある男を始末すれば私の計画は完遂されるはずだった。しかし、その男は自らの行いのしっぺ返しを食らった。しかし、その男を殺すはずだった私の計画はそれで台無しにされてしまったからこそ、この計画を仕組んだ!」

 

「そして民間人の死傷者が出ないように公安警察しかいない時に爆破し、死亡者が出にくいIoTテロを選び、カプセルを落とす地点もその男と縁があるあそこを選んだ!」

 

と赤レンガ造りの法務省旧本館の向こうにそびえる黒い建物ーー警視庁を見上げる。

 

「警視庁を停電させたのは、中にいる民間人を避難させるため?」

 

コナンの問いに、日下部が「ああ」とうなずくと、安室は日下部の腕を離した。

 

「そうか。ここへ来るまでの道でIoTテロを起こしたのも、入ってくる人を止めるため……」

 

「それでも、だれかが犠牲になる可能性はあったはずだ!」

 

力なくうなだれる日下部にコナンが言うと、日下部はコナンをにらんだ。

 

「正義のためには多少の犠牲はやむを得ない!」

 

「そんなの正義じゃない!」

 

自分が信じて疑わなかったものを真っ向から否定された日下部は、ガクリと膝を折り、両手を地面についた。

 

「なら……なら、あの男のしたことはどうなる!?あの男も自らの信念を貫くためとはいえ、人を見殺しにしたり犯罪をもみ消す男だぞ!私の正義を否定するならその男の正義も否定してみろ!」

 

先程から日下部が繰り返す()()()についてコナンは見当がつかず頭を悩ませていたが右京にはその見当がついていた。

 

「なるほど。あなたが憎むのは警察関係者であり、尚且つ公安警察に関わり、もうこの世には既に存在していない人物……、そう言うことですね?」

 

「……杉下右京。『人材の墓場』『警視庁の陸の孤島』と揶揄される特命係の係長で、上層部からの圧力にも屈せず真実を暴く警視庁一の刑事、流石といったところだ……。そうです。あの男はあなたにも関わりがあるはずです。絶対にね」

 

 

 




日下部検事が映画より頑固になっていていましたね汗。物語の展開上、そうなってしまうのですが……。

()()()の正体については次回に持ち越しとなります。

あと、タイムリーな話題として

梶くん、竹達さん。ご結婚おめでとうございます!
末永くお幸せに!


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71 日下部の怨念

日下部がどうして()()()を憎んでいるのか、そしてそれが誰かが今回分かります。


「そうです。あの男はあなたにも関わりがあるはずです。絶対にね」

 

日下部は右京を見上げると、過去を探るような口調で言った。

 

「恐らく彼が最も憎む、公安警察関係者は……」

 

「公安警察関係者は!?」

 

コナンが口調を強めて聞くと、右京は全員を見据えると静かに口を開いた。

 

「官房長……。小野田 公顕 元警察庁長官官房室長、ですね?」

 

「……あぁ、正解だ。私が言ってきた男の正体は杉下警部の言う通り小野田官房長だ。今でも彼を思い浮かべるたびに憎々しい感情が蘇る……」

 

日下部があの男として憎んでいたのは、元警察庁長官官房室長で右京の元上司でもあり、警視庁篭城事件の直後に殺害された小野田だった。

 

「私の……私の、大切な『協力者』を犠牲にしたのはお前ら、公安警察。いや、公安警察を作り、力を強め、その上に立つ小野田が許せなかった……!だから、私はあの男を殺そうと!しかし、結果的にはこのようなことに……」

 

「やはり、そうでしたか」

 

「羽場さんはアンタの『協力者』だったんだね」

 

右京とコナンの言葉に、日下部は驚いて顔を上げた。

 

「な……なぜ、それを……」

 

「スマホの暗証番号だよ」

 

コナンは東京地方裁判所の廊下で日下部とすれ違ったときのことを思い浮かべた。

 

あのとき、ピッポッパ……とトーン信号が聞こえて振り返ると、日下部がスマホのロックを解除するために5桁の暗証番号を入力していた。

 

「あれは『88231』と打ち込まれた音だった。珍しくて気になったけど、入力する音を消してなかったのは忘れないため?『羽場二三一』をーー」

 

日下部は『違う……』と首を横に振り、安室を指差した。

 

「小野田へ、そしてコイツらへの復讐心を肝に銘じるためだ!」

 

敵意を向けられた安室は動じることなく、淡々と答えた。

 

「公安警察の『協力者』は全てゼロに報告され、番号で管理される。だが、公安刑事同士は互いの『協力者』を知らない。まして『協力者』を抱えている公安検事がいたなんて、7年前まで知らなかった」

 

「だからあのとき、私の『協力者』を簡単に切り捨てたのか!」

 

激しい怒りに肩を震わす日下部に、コナンは「なるほど」と言った。

 

「裏があったんだね。7年前、羽場さんが起こしたあの窃盗事件には……」

 

「あれは……」コナンを振り返った日下部は、地面に視線を落とした。

 

「私が羽場に頼んだんだ。『NAZU不正アクセス事件』の捜査のために……。そのアクセスデータが被疑者の出入りしていたゲーム会社にあると知った羽場は、それを盗み出そうとして……公安刑事に捕まったんだ」

 

「そしてこの捜査を極秘に指揮していたのが、小野田官房長だった」

 

右京の言葉に日下部は首を横に振るがその後に続けた。

 

「いや、正確には公安警察を動かしていたのは、小野田の命を受けた当時の公安部参事官。参事官は小野田の部下で彼からの指示で極秘に捜査を進めていた」

 

「何故、彼が極秘に捜査を進めたのか。私は気になって調べたのだが、小野田は日本の被疑者がアメリカの宇宙局のデータを盗んだ際、アメリカ空軍の極秘ファイルも一緒に盗んだ事に外務省からの連絡で気付いたそうだ。もしこの事が明るみになれば日本とアメリカの国益に大きな損害が出る、そう考えた小野田は自らは手を下さずに参事官に極秘に指示して間接的に公安警察を動かしていた」

 

「なるほど。そして公安警察は被疑者が出入りしていたゲーム会社に目をつけたという事ですね」

 

右京が言うと、日下部は頷き話を続けた。

 

「公安の『協力者』は、違法で危険な調査を余儀なくされる。だからこそ、公安と『協力者』の関係は、肉親よりも強くなる。決して金だけで繋がった関係じゃない。使命感で繋がった、まさに一心同体だ……」

 

そう言いながら、日下部は7年前のことを思い返した。

 

 

 

 

逮捕された羽場が拘置所へ移送されると、日下部はすぐに拘置所へおもむき、羽場と接見した。

 

接見室に現れた羽場は日下部と目を合わせることなく透明の防護板の前に座り、日下部は刑務官に目で合図をして本来はしない退室をしてもらった。

 

「……なぜ、私の『協力者』だと取り調べで言わなかった?」

 

羽場は顔を上げて日下部をチラリと見ると、首を小さく横に振った。

 

「私のミスで、あなたから公安検事の身分を奪うわけにはいかない」

 

日下部は思わず身を乗り出し、防護板に顔を寄せた。

 

「私のことより今は自分のことをーー」

 

「正義の身分を奪われるつらさを、私は誰よりも知っている」

 

羽場はそう言って悔しげに俯いた。

 

バンッ。日下部は2人を隔てる防護板を叩いた。

 

「頼む!自分の人生を考えてくれ!」

 

羽場は顔を上げると、防護板越しに日下部の手と自分の手を重ねた。

 

「自分の人生より、多くの日本人の人生の方がずっと大切だ」

 

「……!!」

 

それは、日下部が口癖のように言っていた言葉だった。

 

「いつも言ってた、あなたのその志は、私も同じだ」

 

それまでやつれた顔をしていた羽場が凛とした眼差しを向ける。日下部は何も言えず、奥歯を噛み締めた。

 

何が起ころうと己の信念が決して変わらないように、羽場の意志もまた、どう説得したところで変わらないーー日下部は悟った。

 

 

 

 

「それで?検察庁の公安検事が僕に何の用?」

 

羽場を解放するため、次に日下部が説得に向かったのが警察庁だった。その庁内でも各省庁や公安に顔が効き、ありえないことをやってのける人物と日下部が考えた時に、唯一思いついた人物がおり、協力を仰ごうとした。その人物こそ当時の官房室長である小野田だった。

 

長官官房室長室の革張りの執務椅子に座る小野田はデスクを挟んで立つ日下部を見据えた。日下部は小野田の真意を読もうとするが、彼の仏頂面な面構えからそれを読み取ることを難しく感じていた。

 

「官房長の力をお借りして現在拘置所にいるこの人物の解放にご尽力いただけないかと思いまして」

 

日下部は持参した鞄からファイルを取り出すと中身を取り出して小野田の机に並べた。そこに書かれていたのは勿論羽場に関することだった。

 

「公安検事である君の頼みだからてっきり公安の事件の再捜査だと思っちゃった。要は、この人を自由にしてほしいってこと?」

 

「はい。政界にも太いパイプを持つ官房長なら事務次官や法務大臣に顔が効くでしょう。どうか彼を解放してください」

 

日下部は恥も顧みることなく頭を下げた。羽場を解放するためならどんな手を使ってでもやり遂げなければ、そんな固い信念に日下部は動かされていた、いや犯されていたのかもしれない。

 

「多分、無理だね。できたとしても今度は我々が非難を受けちゃうかも」

 

その言葉は唐突に発せられた。それと同時に日下部が抱いていた希望に小野田は意識か無意識か大きな風穴を開けたのだった。

 

「む、無理とは?」

 

「だってこの羽場っていう人、もう起訴されるよ?」

 

その唐突すぎる言葉に唖然とした日下部は激しく狼狽し小野田のデスクにバンッと音を立てて両手を置いた。

 

「あれは羽場のせいじゃない!私が……私が、指示したことだ!事件にしたいのなら羽場を起訴せずに私を逮捕すればいい!」

 

「そんなに自分の主張を通したいのなら今すぐ検察庁に行けばいいじゃない。ここで僕を怒鳴っても何も変わらないよ。それは君でも分かるよね?」

 

感情的になる日下部に対してあくまでも小野田は冷静にいつも通りに返す。仏頂面の裏に隠されたしたたかな言動や先を見透かしたような振る舞い、小野田が得意としてきた話し方に日下部は振り回され、すっかり冷静さを失い、荒々しく部屋を出て行くとそのまま東京地検を目指した。

 

 




日下部検事がどうして小野田をあんなに恨んでいたのか少しでも分かっていただけたら幸いです。

因みにまだ日下部と小野田のエピソードはまだ少し続いていきます。


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72 小野田官房長

小野田官房長と日下部検事の関係が決定的になるエピソードです。

どうして日下部検事が小野田官房長をあんなに憎んでいるのかここで判明します。


荒々しく小野田の部屋を後にした日下部は警察庁を出ると一度深呼吸をした。気分が荒れている時や落ち着かない時はこうして深呼吸をして体の空気を入れ替えることで冷静さが戻ってくるのを日下部は理解していた。

 

 

 

 

羽場の窃盗事件を担当する紗世子に全てを話すことを決意した日下部は、東京地検のエントランスホールが見渡せる通路に紗世子を呼び出した。

 

「羽場は私の協力者だ。彼が窃盗事件を犯したのも私がーー」

 

「それでも彼を起訴します」

 

「何!?」

 

エントランスホールを見下ろしながら話していた日下部は、驚いて紗世子を振り返った。

 

「まさか公安警察、いやその上の小野田官房長からのーー」

 

「安心して。彼の口からあなたの名が出ないよう、裁判はうまくやってみせるわ」

 

そう言って笑みを浮かべた紗世子は、ポンと日下部の肩に手を置いた。

 

「そんな話をしてるんじゃない!」

 

日下部に手を振り払われた紗世子は、平然とした顔で歩いていった。

 

 

 

 

後日、日下部は公安警察に直談判しようと警視庁へ向かった。既に小野田からの圧力がかかっていると思うが、彼ではないぶん、話がしやすくなると日下部は考えていた。

 

正門を通ろうとしたところで、ポケットのケータイが震えた。紗世子からだ。

 

「はい」

 

『羽場が自殺したわ』

 

「……は?」

 

日下部は思わず持っていた鞄を落とした。

 

『理由はわからないけど、拘置所で公安警察が異例の取り調べをしたすぐ後にね』

 

プツッと電話が切れて、日下部の手からケータイが滑り落ちた。

 

がくりと膝をついた日下部の眼前に、そびえ建つ警視庁があるーー。

 

その場にうずくまって、日下部は絶叫した。

 

 

 

「ちょっと、お待ちください…!日下部検事!」

 

怒りに震える日下部はすぐに警察庁へ向かうと秘書の制止を無視し、官房室長室の扉を音を立てて開けた。

書類にサインをしていたのか万年筆を持っていた小野田は突然の来客にも戸惑うことなく応対する。

 

「ちょっと、入る時にはノックぐらいしてくださいよ。それがマナーってやつじゃない?」

 

そう言い、小野田は手で合図して秘書へ退室するよう命じた。秘書は一瞬、小野田と錯乱状態の日下部を2人だけにするにはリスクだと考え引けずにいたが、小野田が凄みを効かせた目つきで秘書を見つめたため彼は気後れしつつも一礼して扉を閉めた。

 

無論、直後に彼がSPの応援を要請したのは言うまでもない。

 

 

 

「それで?アポなしで今日は何の用ですか?」

 

「とぼけないでもらいたい!あなたなら今日、拘置所で誰が死んだか情報が入ってきているだろう!」

 

喧嘩腰でくる日下部に対して小野田はとぼけた感じで応対した。

 

「拘置所って言っても東京だけじゃない。君はニュースに出てくる人の名前全て覚えられますかね?無理でしょ?人の脳ってそんなに物事を覚えられないようになってるんです。しかも僕って人並みより記憶力はないよ。だからちゃんと名前を言ってもらわないと誰のことか僕は分からないね」

 

「羽場二三一のことだ!知らないとは言わせないぞ。なにせ、あんたには数日前に聞かせてやったんだからな!」

 

羽場は鞄から再びファイルを取り出すと見せびらかすように小野田の机の上に投げつけた。

 

「彼は今日、拘置所で自殺した!お前が作り上げた公安警察のせいで!どうしてくれるというんだ!?」

 

怒り狂う日下部に対して小野田は執務椅子に座ったまま、何も言わなかった。肩で息をしている日下部をずっと見つめたまま、反論もすることもなくただ見つめているだけ。

 

 

 

 

やがて長く重々しい沈黙を破るように小野田が口を開いた。

 

「まず最初に公安警察は僕が作ったんじゃない。僕は助言したにすぎません。そもそも長官官房室は事務方、彼ら公安警察に文句を言いたいならうちの警備局か警視庁の公安部に行って説明した方が筋ってもんでしょ?」

 

「もう羽場氏の身柄はそちらに送ったはずです。ですから後の対処は全てそちらにやっていただきたかったんだけど、やっぱり不満?それに彼はもう犯罪者、犯罪者を捕まえるのが我々の仕事です。いくら君の『()()()』であっても犯罪を犯した人間を釈放するよう要求するなんて馬鹿馬鹿しくない?」

 

「貴様、羽場が『協力者』と知っていて……!」

 

「この一件で公安警察の事が明るみに出たらこの国の安全が損なわれ、人1人を失う以上に日本という国家が危ぶまれるもっと危険な事が起きるはずです。僕の責務はこの国が繁栄を続けられるよう、警察という組織がこの国のために成すべき任務を全うできるようにすることです。君に言うには酷かもしれないけど、人1人の命と約1億人の国民の命と国家、天秤にかけた時にどちらを取るのが有益なのか、君だったら分かるはずです」

 

「無論、僕の主張が全面的に正しいなんて思っちゃいない。そもそも、全面的に正しい人間なんてこの世にいない。つまり、日下部検事。あなたも()()()()()。なのに、それを自覚していない分、タチが悪い。まさか、絶対的正義がこの世にあるなんて思ってるわけじゃないよね?正義なんて人の立場で変わるんだから」

 

反論しようとする日下部の思惑を壊すように小野田は畳み掛ける。いつもの軽い口調は消え、彼から放たれる真剣な言葉は日下部の壊れかかった心に沈んでいく。

 

 

小野田 公顕と言う人物は、どんな時でも日本のために尽くすことを誇りに思っており、その為なら殺人事件であろうか、横領事件だろうが国の利益になり得ることは目を瞑るのが彼のやり方だった。そしてそれを切り札として各省庁に蔓延る古い官僚たちを一掃し、警察庁に大きな貸しを作るやり方で警察庁の力は増大していった。

 

やり方はどうであれ、それが小野田が長年権力の中枢に居座るまでそしてその後小野田が取ってきた常習手段だった。その一端が日下部に触れたに過ぎなかったが日下部の中の憎悪を増大させるには格好の材料となっていた。

 

 

 

「官房長、そろそろお時間です」

 

再び、2人がいる長官官房室が重々しい空気に包まれた頃、先程退出していった秘書がドアを遠慮がちに開けて中の様子を伺いながら尋ねた。小野田は秘書に一言礼を言うと席を立ち、去り際に言った。

 

「これから私は隣に行きます。長官同席の中、実行役の神輿を担ぐ私がいないと色々不便になるでしょうから。この話はここまでに。あ、あとこの件で一々私どもに来られると応対できかねますから、次からアポを入れてくださいね」

 

そう言うと、小野田は今度こそ部屋を出て行った。1人取り残された日下部は去っていった小野田の方を見ることはなかったが、小野田のデスクに両手を叩きつけるとドアを荒々しく開けて彼も去っていった。

 

 

 

その日は奇しくも警視庁と警察庁の溝が決定的に深くなる事となる『警視庁 人事刷新案』が警視庁に提出された日であり、小野田が殺害される直前の出来事だった。




こうして見ると小野田官房長は、様々な敵を作りながらも自分の信念のために行動している、右京さんに近い人物ですね。

相棒の中でも裏で暗躍したり、特命係の味方になってくれたりと面白い展開を見せてくれた官房長はもういないと考えるとやっぱり寂しいです……。


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73 トレード・オフ

そろそろ右京さんをブチ切れさせたい欲求が高まっております(笑)。


いい加減、コナンの映画でも右京さんを怒らせないと……。

理不尽た理由で犯罪を起こす犯人がコナンには多いからなぁ。
毎回のように右京さん、キレてそう(笑)。


7年前のことを思い返していた日下部は、法務省旧館の向こうにそびえる警視庁を再び見上げた。あの建物を見るたびに、羽場が自殺した日のことが日下部の脳裏にじわじわと蘇ってくる。

 

「羽場を自殺に追いやったのは……いや、殺したのは小野田!そしてお前ら公安警察だ!!」

 

「それで警視庁に探査機を落とす計画を……?」

 

安室の質問に、日下部は膝をついたまま「ああ」とうなずいた。

 

「小野田が殺され、〈はくちょう〉の帰る日が、羽場の命日だと知ったときから……」

 

「IoTテロは?」

 

目の前に立つコナンに訊かれて、日下部は顔を上げた。

 

「計画にはなかったが、検事として無実の人間を起訴させるわけにはいかなかったんだ!」

 

「つまりあなたは毛利さんが犯人ではないために、IoTテロを企てたんですね?」

 

右京が訊くと日下部は「ええ」と力なく答えた。

 

「だが、とっさのことで、被害の規模は予想を超えていた」

 

「もうこれ以上罪を重ねちゃダメだ。不正アクセスして変更したコードを教えて!」

 

「公安検察は正義を守るプロだ。羽場のような正義が失われちゃいけない!」

 

日下部が立ち上がるって訴えると、安室は背後から日下部の肩に手を置いた。

 

「コードを言うんだ」

 

「私を逮捕すればいい!取り調べでは一切を黙秘する。だが今は、あの場所が破壊されていく様を目に焼き付けておくがいい!」

 

「日下部検事」

 

安室の手をはねのけて警視庁を指差す日下部に、コナンは取り出した新一のスマホ画面を見せた。

 

画面には、上空から撮られた屋上ヘリポートが映っていた。Hマークの辺りに誰かが立っていて、その人影がどんどんクローズアップされていく。

 

『日下部さん』

 

大きくハッキリと映ったその人影が、こちらに向かって呼びかけた。

 

「バ……バカなっ!?」

 

日下部は目を疑った。屋上ヘリポートに立っているのがーー自殺したはずの羽場だったからだ。

 

「なんで羽場が……!!」

 

「警視庁のライブ映像だよ」

 

スマホを見せたコナンはニヤリと微笑んだ。

 

「ど……どういうことだ」

 

ワケがわからない日下部は思わず後ずさりして、安室を見た。

 

「拘置所で彼を取り調べた公安警察は、官房長が()()()()に発案されたあるシステムを使い、彼が自殺したことにして、これまでの人生を放棄させたんだ。公安警察が『協力者』を使っていたという事実を隠蔽するために。そして、公安検事が二度と『協力者』を作らぬよう、その事は官房長以下、警察庁の金子長官やシステムの開発のアドバイザーだった瀬戸内米蔵元法務大臣、それに開発担当の法務省職員以外に知られることのないよう厳重に管理された。無論あなたにも伏せられていた」

 

愕然とする日下部に、安室は続けて言った。

 

「自らした違法作業は、自らカタをつける。あなたにはその力がない。公安警察が、いや官房長がそう判断したんだ」

 

日下部はうつむき、悔しそうに顔を震わせた。スマホを向けたコナンがゆっくりと近づく。

 

「羽場さんは、自分こそ裁判官になるべきだと思い込むほど、強い正義感を持ってたんだよね?だからこそ司法修習生を罷免され、行くあてのない彼を『協力者』にした」

 

『そうです』

 

スマホの画面に映っている羽場が顔を上げた。

 

『日下部さんが私を人生のどん底から救い上げてくれた。たった2年間の関係でしたが、日下部さんはお前のおかげで公安検事として戦えると言ってくれた。だから私は今も、こうして戦えるんです』

 

気づいたら日下部は涙を流していた。とめどなく涙があふれてくる。

 

 

 

 

思えば、司法研修所の修了式でわめきながら排除されていく羽場を見たのが始まりだった。強すぎるほどの正義感を持つ彼が、どことなく自分に重なって見えて、放っておけなかったのだ。

 

『日下部さん。変更したコードを教えてください』

 

コナンが持つスマホから羽場の声がして、日下部はハッと顔を上げた。

 

「これ以上、あなたが罪を犯す理由があるのでしょうか?それをして果たして一体、誰が喜ぶというのでしょう。あなたが今、しようとしていることは今まで法に挑戦した愚かなテロリストと何も変わりありません。犯罪者を起訴し法の下で裁くべきであるあなたが、法を犯した。あなたは今、公安検事でも検察庁に仕える人間でもない、正義の皮を被ったテロリストそのものですよ!」

 

日下部を指差し怒りに震えながら言い切る右京に日下部は、クッと唇を噛んだ。

 

「しかし、杉下警部なら知ってるはずだ。公安警察の力が強いままでは……」

 

『日下部さん!』

 

羽場が呼びかけると、安室は警視庁を親指で指した。

 

「あそこに落ちれば、羽場も無傷じゃいられない!」

 

その言葉に、日下部はハッとした。

生きていた羽場を警視庁の屋上ヘリポートへ連れ出したのは、コードを聞き出すためだったのかーー。

 

「…汚いぞ。これが公安警察のやり方か!!」

 

 

 

その頃。官邸機能が移管され、緊急災害対策本部が置かれた防衛省中央指揮所は緊迫した局面を迎えていた。

 

大型スクリーンには防災マップやNAZUのデータ画面、そして〈はくちょう〉の映像が映し出され、各大臣や担当政務官が焦燥した表情で見つめている。

 

「まもなく〈はくちょう〉大気圏突入!」

 

担当参事官が告げると、金井国家公安委員長は「コードはまだなのか!?」と声を荒げた。

 

「そ、総理!駐日米大使からです。大気圏突入までに〈はくちょう〉の軌道が修正できない場合、第7艦隊のイージスシステム及び横田に配備された対空ミサイルで〈はくちょう〉を迎撃する用意があるそうです。尚、爆破の際の被害の算出は間に合わず予測が不可能とのこと!」

 

「いけません!国民に被害が出ることだけは絶対に阻止しなければ!総理!至急、ホワイトハウスに攻撃中止の打診をお願いします!!」

 

後ろに控えていた外務省北米局員の報告を聞いた国平は驚愕した表情のまま、マイクで会議室の全員に伝えた。

すぐに国平の対面に座っていた花森は語気を荒げ、大河内に強く迫った。大河内もすぐに、ホワイトハウスと大使が避難している横田に対して攻撃中止の要請を伝え、今にも動き出しそうなアメリカの押さえ込みにかかった。

 

「総理!このままですと探査機へのアクセスができなくなります!」

 

担当参事官の言葉に、一同が一斉にざわめく。

 

 

 

 

『降谷さん、もう時間が……!』

 

耳に差し込んだワイヤレスイヤホンから風見の緊迫した声が聞こえてきて、安室はチッと舌打ちをした。

 

「日下部検事、早くコードを言わないと手遅れになりますよ!」

 

「早くコードを言って!」

 

冠城とコナンに急き立てられた日下部は、グッと言葉を詰まらせた。

 

「しかし……」

 

日下部の心の中では激しい葛藤が沸き起こっていた。

コードを教えれば、公安警察を失墜させる計画が全て無駄になる。しかし、探査機が警視庁に落ちたら、羽場の命がーー。

 

 

 

 




今回出てきたシステムというのは相棒12の最終回に出てきた、あの証人保護プログラムです。

開発に加わった法務省職員というのは……









皆さんは誰だと思いますか?


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74 違法作業

久しぶりの投稿です。更新が遅くなりすみません。

今年は色々と忙しくなりそうなので更にペースが落ちるかもしれません。それでも投稿はなるべく続けていこうと思います。


NAZU・HAKUCHO管制センターのコントロールルームでは、アラート音が鳴り響いていた。

 

〈はくちょう〉の軌道と現在位置が示されているメインモニターには、さまざまなシステムが表示されて、どれも赤く明滅している。

 

ずらりと並んだコンソールに向き合ったフライトディレクターや担当管制官たちはせわしなく動き、中には絶望するあまり頭を抱えている者もいた。

 

 

 

 

『日下部さん』

 

コナンが持っているスマホから羽場の声がして、涙を浮かべた日下部は顔を上げた。

 

『それが私の信じた、あなたの正義なんですか?』

 

「……!!」

 

その言葉は、日下部の胸に深く突き刺さった。

日下部も心のどこかで気づいていた。しかし気づかぬふりをしていた。犠牲者を出してでも己の信念を貫くのが、本当の正義ではないということをーー。

 

日下部は泣きながら重い口を開いた。

 

「……NAZUに不正アクセスして、変更したコードはーー」

 

 

 

 

 

 

〈HABA_231〉

 

 

警視庁の廊下にいた風見は、安室から電話を受けて、コードを叫んだ。

 

 

 

変更されたコードは即座に日本からNAZU・HAKUCHO管制センターに伝えられ、コントロールルームの担当管制官がキーボードで打ち込んだ。そしてすばやくエンターキーを押すを

すると、コンソール画面の中央に出ていた『ERROR』の文字が「SUCCESS』に変わった。

メインモニターに表示されていたシステムが赤から緑に変わっていき、職員たちから歓声が湧き上がった。

 

大気圏に突入する直前。

〈はくちょう〉は逆噴射して速度を落とすと、カプセルを切り離した。

 

「コードの認証に成功、探査機の軌道を修正したそうだ」

 

安室は風見からの電話を受けながら、コナンたちに伝える。

 

4人がホッと安堵するも束の間、

 

「何!?ブラックアウト!?」

 

耳に差し込んだイヤホンを押さえた安室が叫んだ。

 

 

 

 

『ブラックアウト』は大気圏突入直後の5分ほどの短い時間のことだった。

 

「その間はプラズマが発生するため通信状態が保てず、確実に軌道が修正できているかどうか分からないそうだ。しかも、パラシュートが開かない可能性がある……」

 

電話を切った安室は、風見からの報告をそのまま4人に伝えた。

 

「そんな……」愕然とするコナンのそばで、日下部が突然立ち上がった。

 

「羽場を……羽場を早くあそこから避難させてくれ!」

 

「ち、ちょっと!?日下部検事!?」

 

ダッシュした日下部は押さえようとする冠城を交わすと安室を突き飛ばし、警視庁へと向かう。

コナンと安室、右京、冠城もすぐに追いかけた。

 

 

 

 

避難者を乗せた大型人員輸送車は〈エッジ・オブ・オーシャン〉に到着し、カジノタワー前に続々と停まった。

 

「新一君から連絡来た?」

 

輸送車から降りた園子がたずねると、蘭は手に持った携帯電話を見て顔をしかめた。

 

「ううん、まだ。留守電は入れたんだけど……」

 

「もぉ〜。何やってんのよ、アイツは!」

 

「コナン君も電源切れてるみたいで……」

 

蘭が心配そうに言うと、園子は手を上下に振った。

 

「あのガキんちょのことだから大丈夫よ、きっと」

 

2人に続いて英理と小五郎が輸送車から降りてきて、目の前にそびえ建つカジノタワーを見上げだ。

 

「それにしてもすごい高さね」

 

「さ、早く行くぞ!こっちだ!」

 

小五郎は他の避難者に続いてカジノタワーへ向かった。

 

 

 

大勢の人が警察に守られ、続々と避難してくる〈エッジ・オブ・オーシャン〉。小五郎たちがいるカジノタワー前の通りから奥に入った裏道にシルバーのワンボックスカーとテレビの中継車が停まっていた。

 

「計画通り、続々と市民がこっちに避難してきています」

 

テレビ中継車の中ではハッカーである滝口が〈エッジ・オブ・オーシャン〉のカメラをハッキングし、その様子をリーダーに見せていた。本来ならば岩槻らサイバー犯罪対策課やサイバーセキュリティ対策本部が察知しているはずだが、一連の混乱や本部の移転に伴い肝心の警戒対象であるここの警備が疎かになっていた。『レイブン』はそうなることを見越したうえで指示をしており、滝口もいとも簡単に侵入できていた。

 

「予定通りだな。"例の物"の準備はどうなってる?」

 

「準備は万端。あとは、計画に従うのみ」

 

「よし。〈はくちょう〉の方はどうなってる?」

 

リーダーの男に言われ、滝口は別モニターに表示されているNAZUの地上局のデータがライブで流れていた。滝口はキーボードを何回か操作したのち、リーダーの方を振り返った。

 

「NAZUはパスワードの入力に成功、軌道修正に入ったようですが、『ブラックアウト』と呼ばれる電波障害によりカプセルのコントロールまでは至っていないようです」

 

「……Kは、喋ったか。まぁいい。カプセルの切り離しは予定通りだ。計画は続行する。各自、次の作戦行動を展開しろ」

 

リーダーは頭を数回掻くと、次の作戦行動に移るよう促した。

 

(作戦は順調に推移……。あとは、あなたの到着を待つだけです)

 

 

 

 

「羽場!どこだ!?」

 

警視庁の屋上ヘリポートに駆け上がった日下部は、周囲を見回した。しかし、羽場の姿はどこにも見当たらない。

 

「……どういうことだ!?」

 

肩で息をしながら立ち止まると、背後から足音が聞こえた。4人が追いかけてきたのだ。

 

「彼はここにはいない」

 

安室の言葉に、日下部は耳を疑った。

 

「だ…だが、携帯では確かにーー」

 

「あなたが見ていたのは、合成映像です」

 

右京の言葉に日下部は目を丸くした。

 

「ドローンで撮影した映像を使って、あたかも警視庁のヘリポートにいるように合成した映像をあなたは見ていたんです。彼は今、安全な場所にて保護されています」

 

羽場は阿笠博士の家にいた。子供たちがドローンを警視庁の上空に飛ばし、阿笠博士はリビングに設置したブルーバックの上に羽場を立たせて撮影した。その2つの映像を灰原がパソコンで合成したのだ。

 

「……そうか」

 

日下部はホッと息をついた。羽場がここにいないと知って安心したようだが、問題はまだ解決していない。

 

コナンは「安室さん」と声をかけた。

 

「軌道修正できていないとしたら、落下位置はやっぱり……」

 

「ああ。4メートルを超えるカプセルが、秒速10キロ以上のスピードで、ここに落ちてくる」

 

安室は巨大なカプセルが警視庁に直撃するのを想像して、眉根を寄せた。周辺の人員の避難が完了しているとはいえ、その被害は計り知れない。

 

「安室さんなら、今すぐ爆薬を手に入れられる?」

 

「耐熱カプセルを破壊するつもりか……」

 

コナンは「いや」と首を横に振った。

 

「太平洋まで軌道を変えられる爆薬だよ」

 

「!!」

 

安室は驚いてコナンを見た。「なんて事を考えるんだ」

 

「他に方法ある?。杉下警部も協力してくれる?」

 

「ええ。僕には無理でも僕の知り合いにはIT関連に詳しい友人が奇しくもいますからねぇ」

 

コナンに返された安室は、すぐにズボンのポケットからスマホを取り出して電話をかけ、右京もスマホを取り出した。

 

「風見。至急動いてくれ。……ああ、公安お得意の違法作業だ」

 

「神戸君。大至急、〈はくちょう〉から切り離されたカプセルの軌道を太平洋上に変更できる最適高度を計算してもらえますか?」

 

『分かりました。それで軌道変更には大きなエネルギーが必要になりますが、その点は大丈夫なんですか?』

 

「公安部が処理直前の爆発物を使用するとのことです。違法作業と宣言されてしまいましたが……一刻の猶予もありませんので今は仕方がありません」

 

 

超高速で大気圏に突入した〈はくちょう〉本体と分離したカプセルは、猛烈な高温にさらされて光り輝いていた。

 

 

 




『天気の子』友人と2回見に行きました。2回ともラスト20分、2人で号泣してました。映画終わった後も色々感想が絶えなかったです(笑)。須賀さんのイケメンっぷりが最高!母も私がオススメしたので興味を持ったらしく見に行って須賀さんに心動かされたと言っていました。



帆高の陽菜さんへの純粋な愛に泣かされましたが、右京さんがもし『天気の子』にいたらだとどうなるんでしょうかねぇ


(ネタバレ注意です!)




東京が晴れた日の会話

帆高「陽菜さんは……陽菜さんと引き換えに、この空は晴れたんだ!それなのに皆なにも知らないで、馬鹿みたいに喜んで……!」

右京「えぇ、僕には分かりませんねぇ。例え天野陽菜さんが消えたのだとしてもそれは彼女が逃げ出したという事実に違いありません。君の言う、人柱になって消えたと言う説は僕個人の意見ですが、面白いとは思います。が、そんな証拠は何処にもない。それに彼女は未成年です。しかも義務教育を受けなければならない年齢であり国の保護が受けられる権利を持っています。そんな彼女を保護するどころか連れ回し都内中を逃げ回った事、単刀直入に言いますが君の方がよほど馬鹿だと思いますよ」



ラストのシーン

帆高「なんで邪魔するんだよ!皆なにも知らないで、知らないふりして!俺はただ、もう一度あの人にーー会いたいんだっ!」

右京「思い上がりも甚だしい!君は何をしているのか分かっているのですかっ!森嶋帆高くん、君は今自分自身の望みによって多くの人を危険に晒しています。こんな馬鹿な真似は今すぐやめるべきです!こんな事で君は君自身の人生を狂わしてはいけません。彼女は我々が責任を持って見つけます。ですから落ち着いて、銃を降ろしてーー」

ここで帆高くんが銃を投げてリーゼントと須賀さんが乱闘、更に右京さんがそこに割って入って大乱闘(?)的な感じになるんでしょうか。すばしっこい凪に翻弄される冠城くんも面白そう笑

2人とも自身が持つ心の信念は強いですから、お互いに譲らない面白い展開になると思います(あくまで個人的感想です)。


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