ガンダムビルドダイバーズ~最上の星~ (ケンヤ)
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全国大会編
大我と龍牙


 『ガンプラバトル・ネクサスオンライン』

 

 通称GBN

 アニメ『機動戦士ガンダム』から始まったガンダムシリーズに登場する人型兵器MSのプラモデル、ガンプラを電脳空間~ディメンジョン~にダイブする事でまるで自分で本当にMSを操縦しているかの如く動かす事が出来るゲームだ。

 サービス開始当初から爆発的な人気となり、多くの人々が日々GBNでガンプラバトルの腕を磨いている。

 ユーザー達を通称ダイバーと呼び、その中でもバトルを中心にプレイする者達をファイター、ガンプラの制作し中心にGBN内で披露する者達をビルダーと呼ばれるようになる。

 GBNのサービスが始まり暫して様々なルールのバトルが行われるようになり、ファイター達はルールに対応するかのようにそれぞれが徒党を組み多くのチームが生まれる事となる。

 その中で国籍も年齢もバラバラな10人で構成されたチーム「ビルドファイターズ」が頭角を現し始めた。

 彼らは個々の能力はビルダーとしてもファイターとしてもトップクラスの実力を持っていた。

 誰もがビルドファイターズに憧れ、彼らを倒す事を目標にしていた。

 しかし、彼らは強く長らく無敗を誇っていた。

 だが、ある日を境に彼らのチームは解散した。

 チームのメンバーは散り散りとなり、それぞれが新たな道を進む事となり、彼らはGBNにおいて伝説となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 チーム「ビルドファイターズ」の解散から10数年が経った今でもGBNの人気が衰える事ななく、彼らの伝説はもはや不動の物をなっていた。

 世界各地では日々ガンプラバトルが繰り広げられている。

 アメリカサーバーにおいてもその日、とあるチームがバトルをしていた。

 チーム「ビッグスター」

 メンバー全員が10代と言う比較的若いチームだが、アメリカサーバーでは一目を置かれるチームだ。

 メインの5人にサブのファイターが数名と言うのがビッグスターの構成となっている。

 今日はメインの5人のみでタイムアタックバトルを行っている。

 タイムアタックバトルは数あるルールの中の一つで一定時間内で敵ガンプラの撃墜数を競うルールだ。

 撃墜数が増えれば増える程敵ガンプラの性能が上がり、重装甲や特殊な防御システムを持つ撃墜し辛いガンプラが出て来る。

 

「先陣は僕が切らせて貰います」

 

 バトルが開始されてディラン・デイルの駆るZガンダム・シュテルンがウェブライダー形態に変形して加速する。

 ディランのZガンダム・シュテルンはZガンダムの改造機でバックパックにガンダムデルタカイのプロトフィンファンネルを装備し、手持ちの火器がロングメガライフルを装備した高機動型のガンプラだ。

 

「はっ! お前にばかり撃墜数を稼がせるかよ!」

 

 ディランのZガンダム・シュテルンをジェイク・サンダースのスターユニコーンガンダムが追い駆ける。

 スターユニコーンガンダムはバックパックのビームサーベルを外して Hi-νガンダムのバックパックをベースにしたフィンファンネルを装備し、ビームマグナムの変わりに威力と継続能力を両立したメガビームライフルを装備し、バックパックにはハイパーバズーカ、脚部と腰部にはグレネードランチャーとバランスの取れたガンプラだ。

 

「馬っ鹿じゃないの。張り切ってさ」

「仕方が無いさ。暫く彼とはバトルが出来なくなるんだからね」

 

 敵ガンプラをわれ先にと撃破しようとするディランとジェイクを後方からクロエ・ウォーカーが冷ややかにみている。

 それをチームリーダーのルーク・アーウィンが彼らの気持ちを代弁する。

 クロエのガンプラはガンダムAGE-FXを改造したガンダムAGE-FX エステレラだ。

 ガンダムAGE-FXの全身のCファンネルをプロヴデンスガンダムやレジェンドガンダムが装備しているドラグーンユニットをベースにしたDファンネルに変更し、大型が肩に2基つづとバックパックに2基の計6基と全身に小型が8基を装備している。

 両腕には内蔵式のビームサーベルの変わりにビームシールドの発生装置が搭載され、変わりにリアアーマーに手持ち式のビームサーベルが装備されている。

 手持ちの火器としてベース機のスタングルライフルの下部に大型ブレードを装備したスタングルライフルⅠBを持っている。

 そして、機体全体をDファンネルと同じグレーで塗装されている。

 一方のルークのガンプラはガンダムエクシアの改造機ガンダムソルエクシアだ。

 ガンダムエクシアをベースにバックパックにはラファエルガンダムのセラヴィーガンダムⅡを改造して取り付けている。

 右手にはベース機同様のGNソード、腰にはダブルオークアンタのGNソードⅤが装備されて、機体の青い部分が赤く塗装されている。

 

「で、今日の主役はどこにいるのよ」

「さぁ……まぁ彼の事だからどこかで好きに暴れているさ」

 

 すでにディランとジェイクは交戦状態に入っているが、ディランとジェイク、クロエとルーク以外の一人が周囲には見当たらない。

 

「それよりも僕達も行くよ。バトルが終わって僕達のスコアが低かったら良い笑いものだからね」

「分かっているわよ」

 

 クロエはそう言いガンプラを戦闘宙域に向ける。

 ルークもバックパックのGNビッグキャノンを前方に向けて掃射する。

 

「始まったな……」

 

 戦闘宙域から少し離れたところに藤城大我のガンプラ、ガンダムバルバトス・アステールが漂っていた。

 ガンダムバルバトス・アステールは一見するとガンダムバルバトスルプスレクスの改造機のように見えるが、ガンダムバルバトス(第6形態)の改造機だ。

 ルプスレクスと見間違える最大の要因が両腕がルプスレクスと同じように大型化されていることだ。

 同時にバックパック中央にテイルブレードが追加されている事もだ。

 肩には機動力強化の為にシュバルベグレイズのブースターをベースに機関砲を内蔵したシールドブースターが増設され、脛の部分には防御力強化のための増加装甲が追加されている。

 手持ちの武器はルプスレクスの超大型メイスをベースに独自の改造を加えたバーストメイスと背部に滑空砲と予備の武器として太刀が装備されている。

 胸部の追加装甲には大きな星に中央にBIGと書かれているチームのエンブレムが追加されている。

 ガンダムバルバトス・アステールのコックピットから大我はバトルの様子を眺めている。

 大我はビッグスターの中で唯一の日本人の少年だ。

 GBN内ではアバターはある程度はユーザーの自由に設定する事が出来るが、大我は現実世界と背格好や見た目は殆ど変らない。

 コックピットはデフォルトは使用ガンプラのコックピット設定に準じた物だが、無課金でもある程度の設定は出来る。

 尤も、大我はガンダムバルバトスのコックピット設定を気にっている為、デフォルトのままだ。

 アバターの顔や背格好は現実世界と同じにしているが、服装は運営が用意したガンダムシリーズの登場キャラのデフォルトの中から鉄華団の物を選択し、ジャケットの鉄華団のエンブレムをビッグスターのエンブレムに変更している。

 また、ジャケットの下に来ているインナーからはコードが伸びておりシートに繋がれている。

 これは阿頼耶識システムを再現した物だが、実際には見た目だけで本当に機体とパイロットが繋がれている訳ではなく、運営側が用意したロールプレイ用の機能の一つだ。

 

「今日の主役を差し置いてずいぶんと暴れているな」

 

 今日のバトルは今までのバトルとは少し違った。

 大我は日本の高校に進学する為にアメリカから日本に帰る事になったからだ。

 電脳空間では日本とアメリカの距離等関係なく会おうと思えば会えるが、現実世界での時差からGBNへのログイン時間はどうしても合わせる事は難しい。

 その為、暫くの間大我はチームを離れる事になっている。

 今日は大我の送別バトルでもあった。

 遠くからバトルを眺めていると、ガンダムバルバトス・アステールを挟み込むように敵ガンプラのゲルググとゲイツがそれぞれの近接戦闘用の装備を展開して襲い掛かろうとする。

 

「全く……弱い相手には興味はないんだがな」

 

 ゲルググとゲイツをガンダムバルバトス・アステールはテイルブレードで軽く薙ぎ払って撃墜する。

 

「さて……そろそろ俺もやるとするか」

 

 ガンダムバルバトス・アステールはバーストメイスを握り締めて戦闘宙域に突撃する。

 その後、5機のガンプラは時間の許す限り暴れまわり最終的にハイスクコアを更新した。

 

 

 

 

 

 

 『私立星鳳高校』

 東京都内にある私立高校だ。

 学業やスポーツにおいてすば抜けた部分は無いものの10年前に一度だけGBN内における国内大会高校生部門において優勝した実績を持つ。

 当時は無名高が全国制覇を達成した事で星鳳高校でガンプラバトルをやりたいファイターが集まるも、元々部活に力を入れていなかった事もあって星鳳高校ガンプラ部は廃れて言っている。

 今では毎年廃部ギリギリの部員数で大会でも成績を残す事もない弱小部に成り果てた。

 新年度が始まり、ガンプラ部を一人の少年が訪ねていた。

 

「頼もう!」

 

 少年、神龍我は勢いよく部室のドアを開ける。

 龍我の後ろには龍我に付き添っている少女、清水明日香がおろおろと龍我の行動を見ている。

 

「1年C組の神龍牙です! ガンプラ部に入部希望です!」

 

 龍牙は大声でそう言う。

 部室にはガンプラ部の部員と思われる眼鏡をかけた大人しそうな生徒が突然の来訪者に驚いていた。

 

「……えっと」

「俺、星鳳が全国制覇したバトルを見ていつか俺もここでバトルしたいと思って」

 

 龍牙は10年前の星鳳高校が全国制覇した時の中継を偶々見た事をきっかけでガンプラバトルを始めた。

 そして、高校は絶対に星鳳高校に入ると決めていた。

 その夢がようやく叶い、ガンプラ部にやって来たのだ。

 

「分かったから少し落ち着いて。僕はこの部の部長をやっている沖田史郎。うちは部員は僕を合わせても2人しかいないから新入生は大歓迎だよ」

 

 ガンプラ部部長の史郎はテンションの上がっている龍我をなだめる。

 現在ガンプラ部は去年3年生が卒業した事で部員は2人しかいない。

 元々、ガンプラバトルをGBNでやる為にガンプラ部に入る必要性も低い事もあって入部する生徒も少ない。

 

「マジっすか」

「うん。そっちの子も入部希望かな?」

「私は龍牙がやってるのを見ていただけですけど。大丈夫ですか?」

 

 明日香は少し遠慮気味にそう言う。

 高校の部活と言えばある程度は経験者でなければついて行く事は出来ないと言う印象が強い。

 明日香は龍我とは幼馴染で昔から龍牙がガンプラバトルをしているところをただ見ているだけで実際にバトルをした事もガンプラを作った事もない。

 

「もちろんだよ。初心者でも大歓迎」

 

 史郎の言葉に明日香はホッと胸を撫で下ろす。

 

「取りあえず、入部届を書いて持って来て貰えるかな? ただ正式に部活が始まるのは来週からだけど、せっかく来てくれたんだから少しGBNでバトルして行く?」

「もちろんです!」

 

 話しは纏まり、3人は学校を出ると近くの大型ゲームセンターへと向かう。

 GBNにログインする為には専用の端末が必要であり、強豪校は学校にある場合があるが、星鳳高校にはそれがない。

 その為、GBNにログインする為には端末の置いてあるゲームセンターや模型店等に行く必要がある。

 ゲームセンターに到着すると、3人分の端末が空いていた為、龍牙達は端末の席に座る。

 龍牙と史郎は自分のガンプラを端末にセットしてヘッドギアを付けて電脳世界にダイブしてGBNにログインする。

 GBNのエントランスで集合すると史郎はバトルの受付を始める。

 

「どれのしようか……」

 

 受付では様々なルールのバトルを行う事が出来る。

 

「神君。これなんかどうかな? ちょうど後2人まで受け付けているから」

 

 史郎が選んだルールはバトルロイヤル。

 複数のガンプラが一つのバトルフィールドで最後の1人になるまで戦う形式のバトルだ。

 受け付けているバトルロイヤルの中から10人で行うバトルが後2人募集している。

 

「俺は何でも良いですよ」

「分かった。それじゃ僕達もエントリーするからIDを提示して貰える?」

 

 龍牙と史郎がエントリーした事で募集が終了してすぐにバトルの準備が始まる。

 

「星鳳高校での初陣だ。部長に恥ずかしくないバトルをしようぜ」

 

 龍牙は自身の愛機であるバーニングデスティニーガンダムに語りかける。

 バーニングデスティニーガンダムはデスティニーガンダムの改造機だ。

 ベースとなった機体はどの距離でも高い戦闘能力を発揮する万能機であったが、龍我は全ての武器を外している。

 唯一の武装はバルカンだけでだ。

 全身が燃えるような赤で塗装されている。

 

「バーニングデスティーガンダム! 神龍牙。行くぜ!」

 

 バトルが開始される。

 今回のバトルフィールドは荒野だ。

 バトルが開始されるとすぐに龍牙は史郎を探す。

 バトルロイヤルは自分以外は皆敵ではあるが、序盤は誰かと組む等をして自分が圧倒的不利な状況にならないように立ち回るのが定石だ。

 だからこそ、事前に合流して徒党を組むように史郎に言われている。

 

「神君!」

「部長ですか?」

 

 近づいて来るガンプラに龍牙は一瞬警戒するが、ガンプラに表示されているIDとハンドルネームから史郎のガンプラだと判断した。

 

「部長はAGE-3ですか」

「そう言う神君はデスティニー。それも武装を全部外していると言う事は格闘戦特化なのかな?」

 

 史郎は龍牙のバーニングデスティーガンダムを見てそう判断した。

 一方の史郎のガンプラはガンダムAGE-3だった。

 見た目はノーマルのままだが、細かいところまで作り込まれており史郎のビルダーとしての技術が高い事が分かる。

 

「上手く合流できたことだし行こうか」

「オス!」

 

 2機は他のガンプラを探し始める。

 バトルフィールドはそこまで広くないのかすぐに他のガンプラを補足する事が出来た。

 

「機影は2……向こうも組んでるって事ですかね」

「だろうね」

 

 接近して来るガンプラは2機だが交戦している気配はない。

 そうなれば向こうも自分達と同じように徒党を組んでいると見て間違いない。

 

「向こうはティエレンとハイザック。攻撃力はこちらに分がありそうだね。先制は僕から行くよ」

 

 史郎のガンダムAGE-3はバックパックに付けていたシグマシスライフルを迫る2機のガンプラに向ける。

 向こうもこちらが攻撃体勢を取っている事に気づいている筈だが、ティエレンもハイザックもスピードを落とす気配もなく、寧ろ加速して向かって来ている。

 多少の違和感を覚えながらも史郎は引き金を引こうとする。

 だが、史郎が引き金を引く前にそれは起きた。

 上空から何かがティエレンの上に落ちて来てティエレンを跡形もなく破壊したのだ。

 

「部長。一体何が?」

「……分からない」

 

 土煙の中には人影が見える。

 明らかにシルエットはティエレンの物ではない。

 両腕と思われる部分が長く人型としては異形だ。

 

「アレはバルバトスルプスレクスか」

「いや……似ているけどベースはバルバトスだよ」

 

 土煙が収まりようやく影の主を見る事が出来た。

 龍牙はガンダムバルバトスルプスレクスだと思ったが、史郎はベースがガンダムバルバトスだと気付いていた。

 バルバトスルプスレクスと一見すると間違えそうなガンプラは藤城大我のガンダムバルバトス・アステールであった。

 

「ハンドルネーム……リトルタイガー。まさか!」

 

 史郎はバルバトス・アステールに表示されているハンドルネームを見て驚く。

 ハンドルネームは必ずしも本名である必要はない。

 そして、バルバトス・アステールに表示されているハンドルネーム『リトルタイガー』は史郎も知っている名前だった。

 

「知ってるんですか?」

「僕も噂程度だけど。アメリカの方で活躍しているチームのエースと同じなんだよ」

 

 ハンドルネームは自分で自由に入れる事が出来る為、有名なファイターのファンが自分も同じハンドルネームを使うと言う事は多々ある。

 同様に憧れのファイターのガンプラのレプリカを自分で作るビルダーも珍しくはない。

 だからこそ、ハンドルネームが同じでバルバトスの改造機だからと言って本人とは限らないが、バルバトス・アステールから発せられる威圧感は並みのファイターの物ではない。

 ティエレンを粉砕したガンダムバルバトス・アステールは次の狙いはハイザックに決めたようだ。

 ハイザックは後ろづ去りながらビームライフルを連射する。

 ビームはバルバトス・アステールに直撃するが、ビームは霧散してダメージを与えられる事は出来ない。

 

「ビームが!」

「表面に特殊な塗装をしてるんだよ。だからビームが弾かれる」

 

 ガンプラの塗装の中ではバトル中にビーム等を拡散させる効果を持たせる塗装法が存在している。

 主に塗装範囲が広いMA等で使われる技法だが、稀にパーツの細かいMSにするビルダーもいる。

 

「部長。ひょっとしてアイツ等。俺らと戦おうとしてたんじゃなくて、アイツから逃げようとしてたんじゃ?」

「かも知れないね。あれだけのガンプラだからね」

 

 ティエレンとハイザックは自分達と交戦する為ではなく、圧倒的な力を持つバルバトス・アステールから必死に逃げていたのかも知れない可能性が出て来たが、今となっては確かめる意味はない。

 ハイザックのファイターも覚悟を決めたのか、ビームライフルを捨ててヒートホークを構えて突撃した。

 左腕のシールドで身を守りながらだったが、バルバトス・アステールは微動だにしない。

 ハイザックが振り下ろしたヒートホークをいとも簡単にバルバトス・アステールは刃の部分を受け止める。

 そして、バルバトス・アステールはヒートホークの刃を握りつぶした。

 

「マジかよ」

 

 ホートホークが破壊されたハイザックは一度距離を取ろうとするが、後ろに下がれずに尻餅をつくように倒れ込む。

 ハイザックの足にはバルバトス・アステールのテイルブレイドのワイヤーが絡まっており、ワイヤーによりバルバトス・アステールとの距離が離れられないようにされていた。

 バルバトス・アステールはバーストメイスを振り上げる。

 ハイザックは懸命にシールドで、身を守ろうとするが無情にも振り下されたバーストメイスの威力はシールドでは到底防げるものではなく、シールドごとハイザックは粉々に粉砕された。

 ハイザックとティエレンを葬ったバルバトス・アステールは龍牙と史郎の方を向く。

 バルバトス・アステールと目が合ったような気がすると龍牙の背筋がゾクリとした。

 対峙しただけでも相手が相当な実力者だと言う事は分かる。

 そして、向こうは次のターゲットの自分達を選んだと言う事もだ。

 

「来る!」

 

 バルバトス・アステールは新たな獲物を求めて史郎のガンダムAGE-3の方に向かう。

 ガンダムAGE-3はシグマシスライフルで迎撃するが、バルバトス・アステールは最低限の動きでかわす。

 

「速い!」

 

 攻撃を完全に見切っているのか、バルバトス・アステールにガンダムAGE-3のビームが当たる事は無い。

 攻撃をかわしながらバルバトス・アステールは上空のガンダムAGE-3に腕部の200mm砲の狙いを定める。

 始めの数発はかわす事が出来たが、次第に回避できずになりガンダムAGE-3は直撃を受けて落ちていく。

 何とか体勢を整えて地面に着地すると同時にバルバトス・アステールは一気に加速する。

 

「部長!」

 

 龍我のバーニングデスティーがガンダムAGE-3の援護に向かおうとするが、バルバトス・アステールのテイルブレイドがバーニングデステニーを襲う。

 とっさにビームシールドで身を守るが、バーニングデスティニーは地面に叩き付けられてしまう。

 その間にバルバトス・アステールはガンダムAGE-3を自身の間合いまで距離を詰めていた。

 バルバトス・アステールはバーストメイスを突き出す。

 ガンダムAGE-3は回避と共にシグマシスライフルを使えるだけの距離を取ろうとする。

 バーストメイスがギリギリ届きそうだったが、その先端はガンダムAGE-3に届く事は無かった。

 攻撃を回避できたと言う史郎の一瞬の隙を相手は見逃す事は無い。

 バーストメイスの先端の杭が射出されてガンダムAGE-3のシグマシスライフルに突き刺さる。

 

「しまった!」

 

 だが、それだけの留まらなかった。

 シグマシスライフルに突き刺さった杭が爆発してシグマシスライフルの銃身が吹き飛ぶ。

 バルバトス・アステールのバーストメイスが超大型メイスからの改造点が先端のパイルバンカーの杭が射出後に爆発するようになっている事だ。

 杭を敵に突き刺したままで相手の動きを阻害する以外にも爆破する事で相手のガンプラを内部から更に破壊する事も可能になっている。

 銃身を破壊された事でガンダムAGE-3はシグマシスライフルを捨てざる負えない。

 パイルバンカーを打ち込んだバルバトス・アステールのバーストメイスの先端に内部から新たな杭がリロードされる。

 元々超大型メイスのパイルバンカーは単発式だが、バーストメイスは内部に数発分の杭が内蔵されている。

 それによりバトル中にパイルバンカーを使っても数回は杭をリロードする事で連続使用が可能となった。

 そのせいでバーストメイス自体の重量が大幅に増す事になったが、それが逆にバーストメイスの圧倒的な攻撃力にも繋がった。

 

「ライフルが……なら!」

 

 シグマシスライフルを失ったガンダムAGE-3は両手にビームサーベルを抜く。

 ガンダムAGE-3の遠距離攻撃が可能な武器はシグマシスライフルしかない。

 シグマシスライフルを失ってしまえばビームサーベルによる近接戦闘しか戦う術はない。

 バルバトス・アステールはバーストメイスを中心とした近接戦闘を重視したガンプラである事はここまでの戦いで分かっている。

 だがらこそ、距離を保ったままで戦いたかったが、シグマシスライフルを失った以上は接近戦で戦うしかない。

 バルバトス・アステールを相手に接近戦をしようと思って覚悟を決める史郎だったが、先ほどまで接近しようとしていたバルバトス・アステールは両手でバーストメイスをしっかりと握り締めてた状態で足を止めていた。

 先端は迫るガンダムAGE-3に向けられている。

 史郎は相手は接近戦しか出来なくなった事で距離を詰めて来たところをカウンターの突きで応戦するのだと判断した。

 相手の狙いが分かればバーストメイスの動きに注意していれば対応は出来る。

 史郎はそう身構えながら接近するが、その判断は誤りであった事に気づかされる。

 まだ、バーストメイスの間合いからは十分に慣れていたが、史郎のガンダムAGE-3のコックピットのモニターが閃光に包まれると、撃墜されたと言う表記が出て来て何が起きたのか分からずに唖然としていた。

 

「……嘘だろ」

 

 史郎はコックピットからの視点であった為、何が起きたのか分からなかったが、テイルブレイドに弾き飛ばされて地面に叩き付けられて何とか起き上がった時にそれが起きた龍牙は何が起きたのか見ていた。

 史郎のガンダムAGE-3に向けられていたバーストメイスの先端の杭がとんでもない速度で射出されたのだ。

 射出された杭は一瞬の内にガンダムAGE-3を粉々に吹き飛ばすとその威力を物語るように荒野に爪痕を残した。

 これがバーストメイスに追加された機能だ。

 先端の杭をパイルバンカーとして射出する機能に追加して、射出の際に電磁力により超高速で杭を撃ちだす機能で、バルバトス・アステールのベース機、ガンダムバルバトスの登場する作品における超兵器「ダインスレイヴ」と同じ物だ。

 バルバトス・アステールが近接戦闘型のガンプラだと言う思いこみが、すでにダインスレイヴの有効射程に入っている事も気がつかずに易々と撃墜された。

 バルバトス・アステールのダインスレイヴは圧倒的な威力があるが、反動も大きく足の裏に内蔵されているエッジで機体を固定しなければ安定して使う事が出来ず命中精度が大きく下がる。

 それと同時に威力が強すぎて一度使うごとにバーストメイス内のパイルバンカーの射出機構に不具合が出て修理しなければ使えない。

 

「部長がやられた……俺が一人でやるしかないのかよ」

 

 龍牙は呼吸を整える。

 ここまでの戦闘でバルバトス・アステールの力は分かっている。

 龍牙は下手な小細工をする事は苦手だ。

 ならば、出来る事は全力でぶつかる事だけだ。

 バーニングデスティニーは拳を握り、光の翼を展開してバルバトス・アステールに突撃する。

 対するバルバトス・アステールもバーニングデスティニーに向かって行く。

 2機のガンプラの距離は一気に縮まって行く。

 龍牙が殴りかかろうとした瞬間にバルバトス・アステールは持っていたバーストメイスを上に投げた。

 龍牙は無意識に内に視線を上に向けてしまった。

 それが隙となり、バルバトス・アステールは左手の先端に付いている爪を突き出す。

 龍牙はビームシールドで防ごうとするが、ビームシールドでは防ぎ切れずにバルバトス・アステールの爪がバーニングデスティーの左手を破壊する。

 

「くっ!」

 

 そして、落ちて来たバーストメイスをバルバトス・アステールはキャッチするのと同時に振り下した。

 バーストメイスはバーニングデスティニーの右腕を肩から破壊する。

 バーニングデスティニーの右腕を破壊したバーストメイスの先端は地面に叩き付けられると、その勢いを利用してバルバトス・アステールはバーニングデスティニーに向かって飛び蹴りを放つ。

 足の裏に内蔵されているエッジが展開され、バーニングデスティニーの胴体に突き刺さり、そのまま地面に倒して積みつける。

 バーニングデスティニーは何とか頭部を向けて唯一の火器であるバルカンを撃ち込むがバルバトス・アステールには効果がない。

 それを鬱陶しく思ったのか、バルバトス・アステールはバーストメイスの先端でバーニングデスティニーの頭部を先端で押しつぶす。

 ダインスレイヴを使ったせいで先端には杭がリロードされてはいないが、頭部を潰す程度の事は容易い。

 

「マジで強すぎだって」

 

 最後の一連の攻撃が流れるように鮮やかで龍牙はただ、見も知らぬ相手のファイターの力量に感動すら覚えていた。

 

「どこの誰かが分からないが……いつかは俺もアンタに追いついて俺が……」

 

 龍牙は中学時代はそこそこの実力者ではあった。

 高校に進学してから並み居る強敵達を次から次へと倒していくと大それた野望を抱いていた訳ではない。

 だが、圧倒的な実力者を前に何も出来ず敗北した。

 その実力差に悔しさが無かった訳ではない。

 それ以上に自分もまた力を付ければそれだけの域に到達できるかも知れないと言う可能性を感じた。

 だからこその宣言として『俺が勝つ!』と言おうするが、向こうにはその声は届いてはいない為、衝撃と共に機体が撃墜されたと言う表示が現れた。

 龍牙がやられた事でバトルロワイヤルの終了のアナウンスが入り、バトルのスコアが表示された。

 

「ハハハ……マジかよ」

 

 そのスコアを見て龍牙は驚きと同時に納得もした。

 スコアには参加したファイターの各撃墜数が表示されていたが、その中で龍牙や史郎と倒したファイターのハンドルネーム『リトルタイガー』の撃墜数が9機となっていた。

 バトルロワイヤルに参加していたガンプラは全部で10機だ。

 リトルタイガーの撃墜数は自分以外のガンプラを一人で全て破壊しなければ出せない。

 これがリトルタイガーこそ藤城大我と神龍牙の初めてのバトルとなった。

 

 

 

 




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レイヴン

 龍牙が星鳳高校に入学して一週間が経った。

 それにより正式に部活も始動し、休み時間ともなると校内や校門付近では様々な部活が新入生を獲得しようと躍起になっている。

 部活の差ほど盛んではない星鳳高校でもこの時期だけは部活が盛り上がる。

 だが、龍牙にはそんな事は関係なかった。

 部活の勧誘を軽く断りながら、ガンプラ部の部室に明日香と向かう。

 

「紹介するよ。2年の黒羽静流さん」

「よろしく」

 

 龍牙と明日香はガンプラ部の部員を紹介される。

 史郎の他には部員は一人だけで2年生らしい。

 紹介された静流は腰まで伸びた黒い髪にキリっとして気の強そうな目が印象的だ。

 龍牙と明日香は少し緊張気味にお辞儀をする。

 その後、龍牙と明日香の事も軽く紹介して新入部員の紹介も終わる。

 

「紹介も済んだところで、まず当面の目標だけど……」

「やっぱ全国制覇っすよね!」

「そう言いたいのは山々なんだけど。今のガンプラ部にはもっと根本的な問題があるのよ」

 

 龍牙は気合も十分に全国制覇を掲げるも、静流が水を差す。

 

「うちの学校は部として正式に認められるには最低5人は必要なのよ。現在うちの部は私と部長の2人に貴方達を入れても4人。部として正式に認めて貰って大会に出るには一人足りない」

 

 去年の段階で3年生が卒業した事でガンプラ部は部員が足りなくなった。

 今はまだ去年からの引き続きで部と言う事になっているが、次期に部員不足で廃部になる。

 そうなる前に最低1人は新入部員を入れなければならない。

 

「貴方達の友達でも良いから名前だけでも貸してくれそうな人はいないの?」

 

 最悪の場合、部活に参加しなくても名前だけ部員として貸して貰えれば何とか廃部は回避できる。

 

「済んません。俺には貸してくれそうな友達はいなさそうです」

「私もです」

 

 龍牙もこの一週間でクラスである程度は話しをする友人はいるが、ガンプラ部に名前を貸して欲しいと頼める程親しい友人はいない。

 明日香も同様だ。

 

「まぁ、そんな手を使うよりも地道に勧誘した方が部の為でもあるよ」

「そうは言いますけどね。部長。部員が揃わなければ大会に出る事は出来ないんですよ。私には来年がありますけど。部長は今年が最後なんですよ」

「それは分かってるんだけどね」

 

 苦笑いをする史郎に静流はため息をつく。

 現状のガンプラ部は部員不足で正式な部ですらない。

 このままでは公式大会に出場する事も危ぶまれる。

 静流は2年生である為、今年の公式大会に出られずとも来年があるが、史郎は今年が最後の大会だ。

 この中で最も焦らなければならないのは史郎なのだろうが、史郎は本人の気質もあってかそこまで焦ってはいない。

 静流も史郎とはこの一年の付き合いがある為、史郎が自分の都合に部員を巻き込もうとしないと言うのは分かっている。

 そうしていると部室のドアが勢いよく空く。

 龍牙達の視線は否応なく部室の出入り口の方に向く。

 そこにはどこか無愛想で不機嫌そうな大我が立っている。

 

「中学生?」

 

 龍牙はポツリと零す。

 大我は同年代よりも小柄で一見すると中学生に見えなくもないが、龍牙や史郎と同じ星鳳高校の制服を着ている。

 そんな龍牙を明日香が軽く肘で小突く。

 

「同じクラスの藤城君でしょ」

「……そうだっけか?」

 

 大我とは龍牙と明日香は同じクラスで明日香は大我の事は知っているが、龍牙は知らないようだった。

 実際、大我はクラスメイトとも必要以上に話す事も無い為、龍牙が知らなくても無理はない。

 

「藤城もガンプラ部に入るのか?」

 

 大我がクラスメイトだと知り出来る限り愛想良く龍牙が言うが、大我は龍牙を完全にスルーして静流の方に歩いて行く。

 明らかに意図的に龍牙を無視した大我に静流も少し怪訝そうな表情をする。

 

「アンタが7位?」

「は?」

 

 大我は完結に質問するが、質問の意図が静流には伝わらない。

 それを見て大我は少し面倒臭そうにする。

 

「アンタが国内ジュニア部門の7位のレイヴンかって聞いてんの?」

 

 そこまで言うと静流にも大我の言いたい事が伝わった。

 GBNにおいてフリーバトルや公式大会を初めとして利用するごとに成績に合わせて個人のアカウントにポイントが振り分けられる。

 そのポイントはラインキング付がされており、国内ジュニア部門は日本国内における中高生のランキングだ。

 ランキングはユーザー自身は自分の現在のランキングが分かるが、上位100人はGBN内において公表されている。

 そして、大我の言う『レイヴン』と言うのは静流のハンドルネームなのだろう。

 

「どこでそれを?」

「そんな事はどうでも良い。アンタは強いんだろ? だったら俺とバトルしろよ」

 

 静流も大我の意図が読めて来た。

 静流は国内ジュニア部門で現在は7位と上位100人の中でもトップ10に入っているファイターだ。

 どこで静流がレイヴンだと知ったかはともかく、大我は実力者でもある静流に挑みに来たのだ。

 ランキング上位のファイターともなれば他のファイターから尊敬を集め、腕に覚えのあるファイターから挑まれる事も珍しくはない。

 尤もそれはGBN内での事でリアルで勝負を挑まれると言う事は初めてだ。

 挑戦自体は静流も気にするような事は無い。

 だが、大我の態度が静流は少し気に入らない。

 静流も自分のラインキングにそこまで固執はしていない。

 しかし、ランキングでトップ10入りしていると言う事実は今まで大会やバトルで残して来た成績の成果でジュニア部門のトップファイターの一人としての誇りはある。

 大我のバトルを挑む態度はトップファイターに挑戦する挑戦者の物ではなく、明らかに自分の方が上だと思っている。

 大我の実力は分からないが、あからさまに自分を下に見られると言うのは静流は面白くはない。

 

「そうね……バトルをして上げても良いけど、もしも私が勝った場合、ガンプラ部に入って貰うわ」

「黒羽さん。流石にそれは……」

 

 静流が条件を出すが、史郎が止めようとする。

 だが、静流は史郎の腕を掴んで部室の隅まで連れていくと周りには聞こえないように話す。

 

「丁度良いじゃないですか? 彼の実力がどうであれ部員が揃えば大会に出られます」

「それはそうだけど……」

 

 史郎が何を危惧しているかは静流も分かっている。

 静流がバトルで勝てば強制的に大我をガンプラ部に入部させる事になる。

 ガンプラ部のモットーは『ガンプラを楽しむ』だ。

 バトルで無理やり部に入れると言うのは史郎は余り歓迎できる事ではない。

 

「俺はそれで構わない。どの道、意味のない事だからな」

「……そう。それじゃ君が勝った時の事も決めておかないと」

「必要ない。始めから負けるバトルに追い打ちをかける程俺も鬼畜じゃないからな」

 

 過去に挑んできたファイター達も少なからず静流に勝つ気でいたが、ここまではっきりと勝てる気でいる相手は初めてだ。

 流石にこれ以上、大我の発言に反応すれば冷静さを欠きかねない。

 

「分かったわ。それじゃ始めましょう」

 

 話しが纏まり静流と大我はGBNにログインする。

 龍牙達もバトルを観戦する為にログインする。

 GBNのエントランスでバトルの申請を行う。

 一般的な1対1のフリーバトルは3つの中から行われる。

 一つ目は自分の獲得ポイントと比較的近いレベルのファイターとランダムでマッチグングされる。

 それによりお互いの実力に極端な差が無くなりバトルで惨敗する事も少なくなるが、獲得ポイントもそれ程多くはない。

 二つ目は獲得ポイントに関係なくランダムでマッチングされる。

 それにより自分よりも大量に獲得ポイントを持つファイターと戦う事も出来、場合によっては獲得ポイントを一気に稼ぐ事が出来る。

 そして、最後は対戦相手を指定して行われるバトルだ。

 これは初めから現実世界GBN内でバトルする事を決めて行われる時に選択する。

 他の2つによりも対戦相手が選べる分、バトル時の獲得ポイントはかなり少なくなっている。

 今回は大我と静流が選択するのは3つ目となる。

 バトルの申請が受理されて二人は自身のガンプラのコックピットに転送される。

 また、フリーバトルはバトルを行うファイターのどちらかが非公開に設定しない限りユーザーは自由に観戦する事が出来る。

 今回はどちらも非公開にしていない為、誰でもバトルを観客席から見る事が出来る。

 

「やっぱトップランカーのバトルともなると観客が結構いますね」

 

 大我と静流のバトルが受理されてからものの数分の内に観客席には龍牙や史郎、明日香の他にも観客が入っている。

 フリーバトルの観客は基本的に多くはないが、バトルを行うのはランキング上位者ともなれば話しは別だ。

 誰もがトップランカーのバトルを生で見ようと集まって来る。

 

「始まるようだよ」

 

 観客席のモニターにはバトルを行うファイターのハンドルネームとガンプラが表示される。

 静流のガンプラはアリオスガンダム・レイヴンと表示されている。

 アリオスガンダムがベースにレイヴンと言うだけあって黒く塗装されている。

 背部にはガンダムハルートのGNキャノンとミサイルコンテナが増設されており火力を強化し、手持ちの火器は飛行形態でも使えるように改造したGNスナイパーライフルⅡだ。

 ベース機の可変機構による高速戦闘と底上げされた火力で中遠距離での戦闘を得意とするガンプラだ。

 そして、大我のハンドルネームとガンプラを見て龍牙と史郎は驚く。

 

「あのバルバトスは!」

 

 ガンダムバルバトス・アステール。

 以前にも二人はバトルロワイヤルで戦い成す術もなく大敗した相手、リトルタイガーのガンプラだ。

 あれだけの実力を持っているなら静流に対しても絶対的な自信を持つのも頷ける。

 

「藤城君って強いの?」

「ああ……」

 

 龍牙はその実力を身を持って知っている。

 静流がそれを知っているかは分からない。

 だが、観客席からそれを伝える事は出来ない。

 そんな観客席でのやり取りも知らずに大我と静流のバトルが始まる。

 バトルフィールドはデブリベルトだ。

 大小様々なデブリが漂うフィールドで障害物も多い。

 

「さて……7位の実力はどの程度なのか確かめさせて貰うとするか」

 

 大我がそう呟いているとデブリの隙間からビームが飛んで来る。

 バルバトス・アステールはヒラリとかわす。

 一射目をかわすと時間を置いて2射、3射とビームがバルバトス・アステールを襲う。

 それをかわすか、肩のシールドスラスターで受けて防ぐ。

 

「射撃はそこそこ正確……狙撃タイプか? いや違うな」

 

 大我はビームを避けながら情報を分析して行く。

 すると高出力のビームがデブリを吹き飛ばしながらバルバトス・アステールに向かって来る。

 

「成程」

 

 攻撃をかわしながら腕部の200ミリ砲で迎撃する。

 だが、飛行形態のアリオスガンダム・レイヴンに当たる事はない。

 

「アリオスの重装備タイプ。重装備にしては結構速いな」

 

 バルバトス・アステールはアリオスガンダム・アステールを追いかけながら200ミリ砲で攻撃する。

 

「けど……ディランのゼータ程でもないか」

 

 機動力ではアリオスガンダム・レイヴンの方に分があるが、バルバトス・アステールの放った砲弾がアリオスガンダム・レイヴンを掠める。

 

「大口を叩くだけの事はあるわね」

 

 アリオスガンダム・レイヴンは追いかけるバルバトス・アステールの足を止めさせる為にGNミサイルをばら撒く。

 それをバルバトス・アステールはシールドスラスターに内蔵されている機関砲で迎撃する。

 

「ミサイルはフェイク。本命はビットか」

 

 GNミサイルを迎撃するが、その間にアリオスガンダム・レイヴンのGNキャノン下部に内蔵されているGNシザービットが展開されており、バルバトス・アステールに一斉に襲い掛かる。

 

「生憎とビットの類の対処には慣れてるんでね」

 

 バルバトス・アステールは最小限の動きでGNシザービットをかわしながら機関砲と200ミリ砲で撃ち落として行き、残ったGNシザービットを一気にテイルブレードで破壊する。

 

「ビットをこうも易々と……」

 

 静流もGNミサイルを囮に使ってのGNシザービットがここまで軽く対応された事は想定外だった。

 次の手を考えるよりも先に大我が仕掛けた。

 バルバトス・アステールは持っていたバーストメイスを逆手に持ち帰ると勢いよく投擲した。

 バーストメイスは射線上のデブリを次々と粉砕して行き、アリオスガンダム・レイヴンの移動先を的確に向かう。

 

「移動先を読むん出来たって訳ね!」

 

 アリオスガンダム・レイヴンはMS形態に変形すると急制動をかけてバーストメイスをやり過ごす。

 やり過ごされたバーストメイスはそのまま戦艦の残骸に直撃すると残骸は吹き飛ぶ。

 それだけでもしもバーストメイスが直撃していたらアリオスガンダム・レイヴンは一溜りもなかったと言う事が分かり、静流も冷や汗をかく。

 だが、同時にそれ程までの威力を持つ武器を自ら手放した事は静流にとっては有利に事が運ぶと確信していた。

 しかし、大我の狙いはただバーストメイスを投げて攻撃するだけではなく、デブリベルトで回避する為には急制動をかけて止まらないといけないと場所を狙っていた。

 バルバトス・アステールはすでに別ルートから先回りをしていた。

 

「幾らメインウェポンを捨てたとしても接近させる気は無いわよ!」

 

 アリオスガンダム・レイヴンはGNスナイパーライフルⅡをバルバトス・アステールに向ける。

 静流が引き金を引くよりも早く、バルバトス・アステールの腕部に内蔵されているワイヤーアンカーがGNスナイパーライフルⅡに絡みつく。

 

「捕まえた」

「何なの!」

 

 バルバトス・アステールが勢いよくワイヤーアンカーを引き戻すと、アリオスガンダム・レイヴンのパワーではどうする事も出来ない。

 仕方が無くGNスナイパーライフルⅡを手放すと腕部に内蔵されているGNサブマシンガンで弾幕を張る。

 ワイヤーアンカーで引きよせたGNスナイパーライフルⅡの銃身を掴み、それを握りつぶして完全に破壊される。

 GNサブマシンガンによる弾幕はバルバトス・アステールの表面に施されている塗装により弾かれてダメージを受ける事は無い。

 

「ビームが弾かれている! なら!」

 

 アリオスガンダム・レイヴンは全弾使い切っ空となったミサイルコンテナをパージするとGNキャノンでコンテナを破壊して爆風を起こす。

 その際に周囲にGN粒子がばら撒かれ目暗ましをなる。

 

「これならどう!」

 

 飛行形態となったアリオスガンダム・レイヴンは一直線にバルバトス・アステールに向かって行く。

 200ミリ砲の迎撃を被弾覚悟で最小限の動きで避けながらアリオスガンダム・レイヴンは機首がクローのように展開すると、バルバトス・アステールに突っ込む。

 機首のクローの刃からビームシールドを展開しながらバルバトス・アステールの胴体を挟み込む。

 

「思った以上に固いけど……これで捕まえたわ!」

「そいつはどうかな」

 

 バルバトス・アステールを腕ごと挟み込んで拘束して後はこのまま挟み切るだけだったが、静流の想像以上にバルバトス・アステールは強固で中々挟み切る事が出来なかった。

 そして、大我も追い詰められているとは思っていなかった。

 むしろ、向こうからこちらの間合いに入って来て好都合だと思っているくらいだ。

 バルバトス・アステールの膝の追加装甲が稼動するとそこからはピンバイス状の杭が出て来る。

 これはガンダムキマリス・ヴィダールに装備されていたドリルニーを元にバルバトス・アステールにも追加した物だ。

 これなら、両腕ごと拘束されていても密着状態なら膝を上げるだけで、無防備な胴体部に風穴を開ける事が出来る。

 杭が高速で回転を始めて、バルバトス・アステールは膝を勢いよく上げる。

 

「隠し武器!」

 

 静流もとっさに飛行形態からMS形態へと機体を変形させてバルバトス・アステールの拘束を解くがドリルニーを完全にかわし切れずに胴体を掠める。

 幸いにも致命傷にはならずに済んだが、胸部が抉られてしまう。

 

「くっ! まだ!」

 

 バルバトス・アステールの不意打ちを何とかかわすが、大我の攻めは終わらない。

 今度は大我の方から距離を詰めようと一気に加速する。

 この状態で距離を取る事が難しいと判断した静流は接近戦で受けて立とうちビームサーベルを抜こうとする。

 だが、突如横から何かがぶつかるような衝撃を受けて抜きかけていたビームサーベルを抜くだけ抜いて手放してしまう。

 

「何なの!」

 

 周囲にはデブリが多数漂っていて操縦を誤るとデブリにぶつかる事はあるが、追い詰められていたとしても流石に周囲のデブリの位置を静流も把握している。

 静流は視線だけで確認するとそこには大我が自ら手放したバーストメイスが漂っていた。

 

「メイスが……」

 

 バーストメイスは確かに戦艦の残骸に突っ込んで行った。

 これ程までの大きさの武器を隠し持つ事は不可能だ。

 だとすると何故、バーストメイスがここにあるのかと言う疑問はすぐに解決した。

 バーストメイスの柄の先端にはパイルバンカーとしての機能を排してテイルブレードとの接続機構が追加されている。

 バーストメイスのみならず、バックパックに装備されている太刀や滑空砲にも同様に接続機構が追加されている。

 それにより一度手放した後にテイルブレードを使って引き寄せる事が可能だ。

 それを使い死角から攻撃して来たのだろう。

 テイルブレードを使っての攻撃である為、普段のように振るった時と比べても直撃したところで損傷は致命的ではない。

 

「終わりだ」

 

 テイルブレードを使っての攻撃は静流の死角から不意と突くだけの物ではなかった。

 引き寄せられたバーストメイスは再びバルバトス・アステールの手元に戻って来た。

 バーストメイスを手にしたバルバトス・アステールは力の限りバーストメイスを振るう。

 静流は回避をしたところでかわし切れる保証はない。

 そう判断した静流は奥の手を使う。

 

「トランザム!」

 

 アリオスガンダム・レイヴンはトランザムシステムが起動し赤く発光する。

 そして、肩からGNビームシールドを最大出力で展開する。

 GNビームシールドは盾としてだけではなくビームサーベルとしての機能を持つ。

 トランザムで威力を底上げしてバルバトス・アステールのバーストメイスを迎え撃つ。

 これならばうまく行けばバーストメイスを逆に破壊する事が出来る。

 そうなればそこから一気にトランザムが切れる前に畳み掛ければ勝機はある。

 しかし、そんな静流の最後の望みすらもバルバトス・アステールのバーストメイスは無残にも打ち砕く。

 バーストメイスはアリオスガンダム・レイヴンのGNビームシールド等無かったかの如く、一撃でGNビームシールドごとアリオスガンダム・レイヴンを粉砕した。

 その結果を観客席では誰もが唖然と見ていた。

 観客の殆どは静流のバトルを見る事が目的だった。

 相手はランキング外のファイターで海外で活躍しているファイターだとは誰も気づいてはいなかった。

 だからこそ、誰もが静流の勝利は確定しており、挑戦者がどこまで静流に喰らい付けるかが見ものだと思っていた。

 だが、結果として静流は負けた。

 それも誰が見ても、静流の敗北は偶然や僅差での敗北ではない。

 完全に相手に翻弄されての完敗だった。

 

「話しは部長から聞いたわ。私の完敗よ」

 

 バトルが終わり大我と静流はGBNのロビーで合流する。

 すでに静流も史郎から大我の素性に付いては聞いている。

 静流もチームビッグスターやビッグスターのエースであるリトルタイガーの事は噂では知っている為、大我の実力に納得が行っていた。

 

「アンタも前座にしては少しは楽しめた。また腕を上げたら相手をしてやっても良い」

「前座?」

 

 相変わらずの上から目線だが、それよりも気になる事を大我は言っている。

 

「なぁ藤城。お前もガンプラ部に入って全国を目指そうぜ!」

 

 静流の疑問を余所に龍牙が大我をガンプラ部に誘う。

 大我の言葉の意味は気になるところだが、龍牙の誘いの言葉の返事を待つ事にした。

 星鳳高校のガンプラ部は静流がトップランカーの一人だが、それだけで勝ち進める程甘くは無く、去年もまともな成績を残してはいない。

 そこに大我が加われば一気に戦力が増強されて全国大会を目指す事も夢ではない。

 

「なんで? 俺は全国程度に興味はない」

 

 中高生でGBNでガンプラバトルをしていれば毎年恒例の大規模なイベントである全国大会は少なからず興味があると思っていたが、大我の答えは完全なる拒絶だった。

 大我はそれだけを言うともはや彼らに興味がないのか、早々にログアウトする。

 大我の勧誘に失敗して龍牙達もこの日はお開きとなりログアウトする。

 このバトルによりランキング7のレイヴンがアメリカから来たリトルタイガーに敗北したと言う情報はGBN内で拡散されて話題となり、他のトップランカーや強豪校の耳に入り一気に注目を受ける事になるが、この時の彼らは知るよしもなかった。

 

 

 

 



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ガンプラ部始動

 大我と静流のバトルの翌日、史郎は生徒会室に呼び出されていた。

 生徒会室には星鳳高校生徒会長である如月諒真が重々しい雰囲気で席に座り、その後ろには副会長である縦脇愛依が立っている。

 史郎は自分が呼び出される理由はガンプラ部関連の事である事は分かっている。

 だが、人数不足による廃部までの期間はまだ残されている。

 

「さて……沖田史郎君。ガンプラ部の新入部員は集まりそうかな?」

 

 諒真が重い口を開く。

 史郎の知る普段の諒真とは雰囲気が違う事は気になるが、今はそんな事を考えている余裕はない。

 

「後一人なんだけどね」

「成程……ところで君たちが毎年出場しているGBNにおける中高生部門の公式大会の規定にある各高等学校から出場できるチームは1つのみだと言う事は知っているね?」

「はい」

 

 毎年GBNが開催している中高生を対象にした大会からは各学校から1つのチームしか出場する事が出来ない。

 学校を代表して出場する事から他の部活同様の大会と同列に扱う学校が殆どだ。

 

「うちからも毎年、ガンプラ部が出場しているようだが、結果は君も分かっている通りだ」

 

 元々部活に力を入れていない事もあり星鳳高校ガンプラ部は10年前の全国制覇から年々実力が落ちて来て今では1回戦を突破する事すら困難となっている。

 去年は静流の加入で3回戦まで勝ち進む事が出来たが、3回戦では静流以外のファイターがやられた事で判定負けで終わっている。

 

「この学園にも部活に入る程ではないが、公式戦に出たいと言うファイターは少なくはない」

 

 GBNの開催する大会は必ずしもガンプラ関連の部活に入る必要はない。

 だからこそ、星鳳高校でもわざわざガンプラ部に入る気は無いが、公式戦に出たいと思うファイターは少なからず存在する。

 

「我が校としてもいつまでも実績を残せないガンプラ部ではなく、学校全体から有志を募り大会に出場させてはどうかと言う意見が出ている」

「それは……」

 

 理不尽な事ではあったが、部として実績が残せてはいないと言う事は事実である以上は余り大きく反論は出来ない。

 

「だが。俺もガンプラ部の面々が大会を目指して日々努力をしている事は知っている。そこで提案なのだが、明日の放課後。君たちガンプラ部と我々生徒会がガンプラバトルを行うと言うのはどうだろうか。そのバトルに勝利すれば生徒会は全面的に君たちガンプラ部を全面的に支援しよう」

 

 史郎はそれも致し方が無いと考え始めていた。

 仮に部として出られずとも静流や龍牙なら有志として大会に出る事も出来る。

 だが、諒真の提案は史郎の想定の上を言っていた。

 生徒会とガンプラバトルで勝てば自分達をバックアップしてくれると言う。

 史郎にはその意図が分からない。

 

「ルールは3対3のチーム戦。出場するファイターはガンプラ部と生徒会に所属している生徒のみで行う。異議は?」

「……ないです」

 

 史郎は諒真に反論する事無く条件を飲んでしまう。

 どの道、諒真は反論させる気もないのだと何となくわかっていた。

 諒真の意図は分からないが、部として出られないと言うのであれば自分に部を任せて卒業して行った先輩に対して顔向けできないのも事実だ。

 

「よろしい」

 

 史郎は状況がイマイチ呑み込めないまま生徒会室を出て行く。

 

「会長。いつそんな話しが出たんですか?」

 

 史郎が居なくなった事を見計らい諒真の後ろに控えていた愛依が口を開く。

 愛依も史郎をここに呼び出した理由は聞かされてはいなかった。

 その上、GBNの大会にガンプラ部ではなく有志を募ると言うものだ。

 

「ああ。んな話しは始めから存在してないしな」

 

 諒真は先ほどまでの重々しい態度から豹変して答える。

 

「は?」

「だってあの位言わないと沖田も本気にならないだろ」

「それだけの事で?」

 

 ガンプラ部の実績が出せていないと言う事は愛依も知っている。

 だが、史郎と諒真は同級生と言うだけで特別接点がある訳ではない。

 それなのにガンプラ部にそこまでの思い入れが諒真にあるとも思えない。

 

「俺も今年で卒業だからな。丁度、今年はアイツがウチに入学して来た事だし、俺としてはここらで一発面白い事でもやっておきたかったしな」

 

 そう言う諒真の笑みを愛依は知っていた。

 その笑みをする時の諒真は大抵厄介事をする時にする悪巧みを考えている時の顔であった。

 どこの誰かは知らないが、諒真の悪巧みに巻き込まれる事を愛依はここの中で合掌するのだった。

 

 

 

 

 

 

 「それで彼の方はどうなったの?」

 

 史郎が生徒会室にいる頃、部室には史郎を除く他の部員が集まっていた。

 だが、史郎がいない以上活動をする訳にもいかず、明日香は部室に並べられているガンプラを適当に眺め、静流は自身のガンプラを調整しながら龍牙に今日の戦果を訪ねる。

 静流の言う彼とは龍牙と明日香のクラスメイトである大我の事だ。

 昨日は完全に拒絶されたものの、大我の実力は本物で大会を勝ち抜くには少しでも実力差を勧誘した方が良い。

 その為、静流は同じクラスの龍牙に部に勧誘するように言っていた。

 

「ああ……全然ダメだったっすよ」

「途中から完全に無視されてたからね」

 

 龍牙は今日一日を思い出して答える。

 龍牙も渋々ながら、大我をガンプラ部に誘うが、答えは昨日と変わらなかった。

 それでもめげずに休み時間になる度に勧誘するが、次第に大我の返答は雑になって行き、最終的には完全に無視された。

 

「まぁ……でしょうね」

 

 静流も上手く行くとは思っていなかったらしい。

 あの手のタイプの人間は自分の意志を捻じ曲げさせるには相当骨が折れる。

 最も確実なのはガンプラバトルで負かして言う事を聞かせる事だが、昨日の今日で大我に勝つ事は無理だろう。

 仮にガンプラ部が総動員でバトルしても勝てるかどうか分からない。

 そこまでの実力差を昨日のバトルで実感した。

 

「でも俺はアイツを誘うのはやっぱ反対ですよ。アイツ……全国を全国程度って言ったんですよ! 幾ら実力があっても皆が必死に目指す場所をあんな風に……」

 

 龍牙が大我の事を気にいらないのは態度よりも、昨日断る際に言った全国程度と言う言い方だ。

 龍牙を初めとして多くの中高生は全国大会に出場して優勝する事を目標に日々努力している。

 それを大我は全国程度と称した。

 まるでそこを目指している自分達の努力を馬鹿にされたような気がした。

 

「海外で活躍してあれだけの実力を持っているんだから、彼の目指す先はプロってところでしょうね。悔しいけど彼にはそう言うだけの実力があったわ」

 

 GBNが一大コンテンツと化した事で一部のファイターはプロのライセンスが発行されてガンプラバトルのプロファイターとして活躍している。

 恐らく大我の目指す先はそのプロなのだろう。

 そして、大我には大口を叩くだけの実力を持っている。

 だが、龍牙は納得は行かないようだ。

 そうしていると、史郎が生徒会室から戻って来る。

 浮かない顔をしていた史郎は生徒会室での話しを皆に話した。

 

「成程ね……ウチが成績を残していない事は事実だけど、ずいぶんと思い切った事をして来たわね」

「部長! やってやりましょうよ!」

 

 静流は冷静に受け止めるが、大我の件で頭に血が昇っている龍牙はやる気だ。

 

「そうね。生徒会の思惑は分からないけど、勝てば良いだけの話しね」

「黒羽さん。神君……分かったよ」

 

 静流も龍牙もその気である以上は史郎も何も言わない。

 各々は明日に備えて準備を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日に授業後、ガンプラ部の面々はGBN内のロビーで生徒会と対峙していた。

 生徒会からは生徒会長の諒真と副会長の愛依、3人目のファイターも生徒会の役員のようだが、余りにも影が薄いのか静流も史郎も見覚えはない。

 

「良く来たガンプラ部の諸君」

「ガンプラ部からは僕達3人が戦うよ」

「フム……成程」

 

 諒真はそう言うと少し考え込む。

 

「廃部をかけたこの一戦。覚悟を決めて来たと見える」

「廃部? 如月君。昨日と話が……」

 

 史郎は昨日は大会に出場権をかけたのバトルだと聞いているが、何故か今は部の存続をかけた物になっている。

 

「公式大会に出られぬ部など、学校側からすれば部費の無駄である以上は存在する価値はない。そもそも……」

 

 史郎の抗議を無視して諒真は様々な持論を展開して行く。

 同じ生徒会の役員も止める気配もなく諒真の演説は続く。

 それから10分程経過しても尚、諒真は延々と話し続ける。

 そろそろ、龍牙の我慢の限界に達しようかと言う時、諒真は演説の途中だが話すのを止めた。

 

「ようやく役者がそろったようだ」

 

 諒真がそう言い視線を向けるそこには大我がふてぶてしく立っていた。

 

「お前……」

 

 大我は龍牙に気にする事無く、史郎の方に歩いて行く。

 

「アンタが部長?」

「そうだけど……」

 

 大我は手を差し出すとそこには現実世界で書かれたであろう、入部届の画像データが表示される。

 そこにはガンプラ部と藤城大我の名が書かれている。

 

「これで俺もガンプラ部って訳だ。だから俺がこのバトルに出ても問題はないよな? 諒ちゃん」

「ああ。問題ない。待ちわびたぞ。大我」

 

 そのやり取りから、大我と諒真は知り合いのようだが、龍牙はそんな事はどうでも良い。

 

「ちょっと待てよ! 藤城。昨日と一昨日は断って置いていきなり!」

「お前に用はない。邪魔だからすっこんでろ」

「んだと!」

 

 龍牙は思わず大我に掴みかかろうとするが、それを静流と明日香が止める。

 

「止めさない。藤城君。つまり、君はガンプラ部の側で生徒会と戦うと言うの?」

「そう言う事になるな。諒ちゃんとバトルする為にわざわざ言われた通りに前座であるアンタを倒したんだ」

 

 大我の言っていた前座とは諒真と戦う為の物らしい。

 だが、これではっきりとした。

 細かい事情は分からないが、少なくとも大我はこの場面においては味方だと言う事だ。

 

「部長」

「構わないよ。彼には僕の変わりに出て貰う」

「部長!」

 

 龍牙が声を上げて静流も顔を少し顰める。

 静流も大我をバトルに出す事は賛成だが、その場合バトルが外れるのは龍牙だと考えていた。

 だが、史郎は大して考える事も無く自分が外れた。

 確かにこの場面で龍牙に外れるように言えば龍牙は断るだろう。

 無用な争いを回避する為には自分が外れるのが最も良いと言うのが史郎の判断なのだろう。

 

「部の事を頼むよ」

「部長……分かりました。部長の分もやってやります! 藤城! 足は引っ張るなよ」

 

 大我が答える事は無い。

 そのままロビーでバトルの申請が行われる。

 フリーバトルは1対1でのバトルの他にも複数人でのチーム戦を行う事が出来る。

 数は2人から最大で10人までのチームでバトル出来るほか、場合によっては双方の数の合わないハンデ戦を行う事も可能だ。

 今回はオーソドックスな3対3でのバトルの申請をする。

 

 

 

 

 

 

 

 バトルが開始されガンプラ部のガンプラがバトルフィールドに現れる。

 今回のバトルフィールドはオーソドックスな宇宙となっている。

 

「どうしますか? 先輩」

「そうね……向こうの戦力は未知数だからまずは単独では行動しないで様子を見るわ」

 

 チーム戦においては個人の実力だけではどうにもならない場合がある。

 幾ら実力があっても単独で複数の敵を相手にすれば不利になる事は珍しくはない。

 その上、バトルの制限時間が尽きた時の残りのガンプラ数で勝敗が付くため、一人撃墜されるだけでも不利となる。

 去年の大会においても、相手の実力は静流には遠く及ばないものの僚機が2機とも撃墜された状態で3対1でもバトルを強いられた結果、全機を撃墜しきれずに判定負けをしている。

 

「了解っす。藤城! 聞いてたな。勝手な行動は避けて……っていねーし!」

 

 龍牙が大我にも単独行動を避けるように言うおうとするが、すでに大我はどこかに行っていた。

 静流も大我が大人しく自分達と連携を取るとは思っていなかったが、バトル開始早々に勝手にどこかに行くとまでは思っていなかった為、頭を抱える。

 

「……とにかく、彼の事はこの際放っておきましょう」

 

 静流はそう判断する。

 一方の大我は始めから静流と龍牙の事は始めから共に戦うつもりは無かった。

 早々に単独行動をして敵を探していた。

 

「見つけた。2機……諒ちゃんじゃないか」

 

 大我は目当ての相手ではなく、少なからず落胆する。

 モニターに敵のガンプラが映される。

 

「ケンプファーとアレックスか……まぁ良い。先にぶっ潰しておくか」

 

 モニターに映されているのはケンプファーの改造機とガンダムNT-1の改造機だった。

 愛依のガンプラはケンプファーを改造したシュトゥルムケンプファーだ。

 パックパックのジャイアントバズの片方が大型ミサイルポッドとなり、太股にはザクマシンガン、手持ちの火器に長距離射撃用の対艦ライフルを装備している。

 もう片方のガンプラはガンダムNT-1を改造したフルアーマーアレックス。

 全身をチョバムアーマーに身を包み、背部にはアームにより2枚のシールド、肩にはビームキャノンが増設されて火力と防御力を強化されている。

 

「見つけた。バルバトスだから会長に言われた通り足止めをして時間を稼ぐわ」

「はいはい」

 

 シュトゥルムケンプファーは対艦ライフルでバルバトス・アステールに狙いを定める。

 フルアーマーアレックスはビームライフルを撃ちながらバルバトス・アステールに向かって行く。

 

「ケンプファーの方はともかく、アレックスの方は大したことないな」

 

 バルバトス・アステールは攻撃をかわしながら向かって来るフルアーマーアレックスを迎え撃つ。

 フルアーマーアレックスにバーストメイスを振るい、フルアーマーアレックスは2枚のシールドで防ごうとする。

 だが、バルバトス・アステールの一撃は2枚のシールドも全身を覆うチョバムアーマーも意味を成さず、一撃でフルアーマーアレックスを粉砕する。

 

「シールドごと重装甲のアレックスを一撃……会長に聞いていた通りの実力のようね」

 

 シュトゥルムケンプファーはバルバトス・アステールとの距離を取りながら対艦ライフルで応戦する。

 バルバトス・アステールは回避しながらシュトゥルムケンプファーを距離を詰める。

 

「対艦ライフルでは駄目ね」

 

 シュトゥルムケンプファーは対艦ライフルを捨てるとミサイルを一斉掃射するとジャイアントバズを連射する。

 バルバトス・アステールはシールドスラスターの機関砲でミサイルを迎撃し、テイルブレイドで砲弾を叩き落とす。

 そして、そのまま一気に加速するとシュトゥルムケンプファーに詰め寄る。

 バーストメイスの柄を短くして振るう。

 

「まだ!」

 

 シュトゥルムケンプファーは回避しようとするが、かわし切れずに左肩に直撃する。

 幸いにも致命傷にはならなかったが、シュトゥルムケンプファーの左腕が肩から潰れる。

 体勢を崩したシュトゥルムケンプファーを大我は逃がす事は無い。

 すぐさま空いている左手を伸ばし、シュトゥルムケンプファーの頭部を掴む。

 頭部を握り潰しながら、自身の方に引き寄せるとドリルニーを胴体に突き刺す。

 

「会長……申し合分けありません……時間稼ぎすらできませんでした……」

 

 コックピットのある胴体を潰した事でシュトゥムケンプファーは戦闘不能となる。

 

「さて……行くか」

 

 戦闘不能のシュトゥルムケンプファーを手放すと最後の1機である諒真のガンプラを探し始める。

 

 

 

 

 

 

 大我が生徒会の2機のガンプラを葬っていた頃、静流と龍牙は諒真のガンプラと対峙していた。

 諒真のガンプラはクロノスの改造機であるガンダムクロノスXだ。

 その名の通りクロノスをガンダムタイプへと改造したガンプラで頭部はヴェイガン機特有のライン状のセンサーの下にツインアイが隠されているガンダムレギルスと同様の仕様となっている。

 武装は手持ちの武器として先端からビームライフルとビームサーベルの機能を持ったビームアックス「クロノスアックス」を持ち、腰にはギラーガの多関節機構の尾をベースにクロノスガンの銃身を合わせたクロノステイル。

 肘と脚部、バックパックにはビームを胞子状にして操るクロノスビットの発生装置が増設されている。

 他にもベース機と同様の掌にはビームサーベル兼ビームバルカン、胸部にビームバスター、バックパックのクロノスキャノンとベース機の火力はそのままにビット兵器とクロノスアックスによる格闘戦が強化されている。

 

「相手は1機……神君。様子を見ながら仕掛けるわよ」

「了解!」

 

 龍牙のバーニングデスティニーは一気に加速し、光の翼を展開しながらガンダムクロノスXに突撃する。

 

「コイツで!」

 

 バーニングデスティニーはガンダムクロノスXに殴りかかり、それをクロノスアックスの柄で受け止める。

 

「おっ。生きの一年だが、悪いがおたくらはお呼びじゃないんだよな」

 

 ガンダムクロノスXはバーニングデスティニーを蹴り飛ばすとクロノスキャノンを撃ち込む。

 バーニングデスティニーは蹴り飛ばされながらもビームシールドを展開してビームを防ぐ。

 その間に静流のアリオスガンダム・レイヴンは回り込みGNスナイパーライフルⅡを撃つ。

 

「やるね。流石はランキング7位ってところか」

 

 ガンダムクロノスXはビームを回避するとクロノスビットを展開する。

 

「けど……すっこんで貰えるか!」

 

 展開されたクロノスビットは一斉にバーニングデスティニーとアリオスガンダム・レイヴンに襲い掛かる。

 

「数が多い!」

 

 バーニングデステニーは頭部のバルカンでビットを迎撃しながら逃げる。

 アリオスガンダム・レイヴンもGNスナイパーライフルⅡで迎撃するが、迎撃しきれずにGNスナイパーライフルⅡは破壊され、すぐに腕部に内蔵されているGNサブマシンガンで迎撃する。

 その間にガンダムクロノスXは回り込んでクロノスアックスを振るう。

 

「っ!」

「先輩!」

 

 アリオスガンダム・レイヴンは肩のビームシールドで受け止めるが、そのまま弾き飛ばされる。

 

「こんのぉぉぉ!」

 

 体勢を整えたバーニングデスティニーが突っ込んで来る。

 バーニングデスティニーの拳をガンダムクロノスXが受け止める。

 その状態から掌のビームサーベルを出してバーニングデスティーの拳を破壊する。

 

「しまっ!」

「まずは一人目だ」

 

 拳を破壊されたバーニングデステニーにガンダムクロノスXはクロノスアックスを振るう。

 その一撃をバーニングデスティニーはかわす事も防御する事も出来ずに胴体部を切り裂かれた。

 バーニングデスティニーは爆発し、残るは静流のアリオスガンダム・レイヴンだけとなる。

 

「生徒会長の実力がこれ程までとはね……」

「俺も全国とかランキングとかには興味はないが、アイツの兄貴分としてはこのくらいは強くないと立つ瀬がないんでね」

 

 ガンダムクロノスXは飛行形態となったアリオスガンダム・レイヴンにクロノスキャノンとビームバスターを放つ。

 アリオスガンダム・レイヴンが回避している間にクロノスビットを大量に展開して差し向ける。

 

「これ程の数のビットを!」

 

 アリオスガンダム・レイヴンは飛行形態でクロノスビットを振り切ろうとするが、数個に先回りされてMS形態に変形すると腕部のGNサブマシンガンでクロノスビットを撃ち落す。

 

「一気に薙ぎ払う!」

 

 バックパックのGNキャノンを前方に向けてビームを掃射しながら機体を動かしてクロノスビットを薙ぎ払って行くが、背後に回ったクロノスビットがアリオスガンダム・レイヴンに直撃する。

 

「くっ!」

 

 致命傷にはならないが、背部のGNキャノンが損傷した為、パージする。

 

「さぁ……どうする!」

 

 四方八方から攻めて来るクロノスビットに対してアリオスガンダム・レイヴンはGNサブマシンガンを撃ちながら、GNミサイルを全弾撃ち尽くしてミサイルコンテナをパージして身軽になる。

 そして、ビームサーベルを抜いてガンダムクロノスXに向かって行く。

 

「そう来るか」

 

 ガンダムクロノスXはクロノスキャノンで応戦する。

 アリオスガンダム・レイヴンは瞬時に飛行形態に変形すると一気に加速してガンダムクロノスXの背後に回り込むとMS形態に変形してビームサーベルを振り下ろす。

 

「やるな……だが!」

 

 アリオスガンダム・レイヴンのビームサーベルをガンダムクロノスXはクロノステイルの先端からビームサーベルを出して受け止めた。

 

「ビームサーベル!」

「残念」

 

 攻撃を受け止めたガンダムクロノスXは周囲にクロノスビットを大量に展開する。

 ガンダムクロノスXに近づき過ぎていた為、アリオスガンダム・レイヴンはクロノスビットを殆ど避けることが出来ずに直撃する。

 

「まだ……」

「案外としぶとい……けど、俺もあんまり時間を使う訳にもいかないんでね」

 

 クロノスビットの直撃を受けながらもアリオスガンダム・レイヴンは肩からビームシールドを出しながら後退する。

 しかし、被弾により機体の頭部、右腕、両足が吹き飛び、胴体も損傷しており、左腕もGNサブマシンガンは辛うじて使えるが、マニュピレーターが損傷して武器を持つ事は出来そうに無い。

 静流は機体の状態を確認しながら次の手を考えるが、諒真はその時間すら与えてはくれない。

 大量のクロノスビットがアリオスガンダム・レイヴンに襲い掛かる。

 必死にGNサブマシンガンで応戦するが、被弾の影響か思うように機動力が出せない。

 

「やられる!」

 

 左腕にクロノスビットが直撃し、肘から下が破壊され、静流もいよいよやられる事を覚悟したが、追撃が来る事は無かった。

 

「せっかちだな……」

 

 モニターにはガンダムクロノスXはクロノスアックスを振るっている様子が映されいる。

 どうやら、大我のガンダムバルバトス・アステールのテイルブレイドを弾いているようだった。

 

「やれると思ったんだけどな。流石は諒ちゃん」

 

 大我は諒真が静流に止めを刺す瞬間を見計らい攻撃したが、諒真はそれに気がついて攻撃を防いだ。

 

「もう余計な邪魔者はいなくなった。これで思う存分やり合える」

「ああ……だが、そう簡単にやれると思わないで欲しいな。兄弟!」

 

 バルバトス・アステールをガンダムクロノスXは互いの武器を構えて加速する。

 2機はぶつかり合うが、すぐにガンダムクロノスXが弾き飛ばされる。

 

「なんの!」

 

 ガンダムクロノスXは後ろに弾き飛ばされながらもビームバスターを撃つ。

 バルバトス・アステールはシールドスラスターでビームを防ぎながら、突っ込みバーストメイスを振るう。

 

「その一撃は受けてやれないな」

 

 その一撃をかわしながらガンダムクロノスXはクロノスビットを展開する。

 

「ちっ」

 

 バルバトス・アステールはシールドスラスターの機関砲で前方のビットを迎撃し、背後に回り込んだビットをテイルブレイドで薙ぎ払う。

 

「これだけの数のビットを相手にするのは初めてだ。よくもまぁこれだけのビットを扱うようになってんだよ。諒ちゃん」

「お前が未だにあの時の意地を張っているように、俺にも意地があるんだよ。大我」

 

 バルバトス・アステールは全方位から迫るクロノスビットを防いでいる。

 

「流石にこの数は面倒だな……ん? 成程……そう言う事か」

 

 大我はある事に気が付いた。

 腕部の200ミリ砲で正面のクロノスビットを迎撃すると一気にガンダムクロノスXの方に突撃する。

 ガンダムクロノスXはバルバトス・アステールの正面にクロノスビットを集中させて行く手を遮る。

 だが、大我は止まらない。

 バルバトス・アステールはクロノスビットを完全に無視してビットの中に突っ込む。

 表面に対ビームコーティングがされている為、ビームであれば多量被弾したところで損傷はない。

 

「全く……無茶をする!」

 

 ガンダムクロノスXはバイザーが開きツインアイが露出するとクロノスアックスで迎え撃つ。

 クロノスアックスをかわしたバルバトス・アステールはテイルブレイドを差し向けるが、ガンダムクロノスXはクロノステイルのビームサーベルで弾く。

 

「やはりそう言う事か」

 

 大我はこのやり取りである事を確認したかった。

 そして、確信した。

 バルバトス・アステールは背部の滑空砲を前方に向けて放つ。

 ガンダムクロノスXはクロノスビットを展開しながら攻撃をかわす。

 

「さぁて……どうする! 大我!」

 

 クロノスビットが一斉にバルバトス・アステールに向かって行く。

 あらゆる方向から来るクロノスビットを防いでいるが、バルバトス・アステールの火器の残弾数が次第に底を付いた。

 

「どうやら、弾切れのようだな。大我」

「諒ちゃん……右」

「おいおい。ずいぶんとセコイ真似をしてくんのな」

 

 諒真はそう言いながらも、視線を右に向ける。

 

「なっ!」

 

 モニターには大破したアリオスガンダム・レイヴンがこちらに突っ込んで来ている。

 

「マジか!」

 

 その勢いは明らかにアリオスガンダム・レイヴンが自分で加速した物ではない。

 

「なんなの! あの子!」

 

 バルバトス・アステールのテイルブレイドが弾かれた時、大我はテイルブレイドを戻さずにそのまま、2機に放置されて宇宙を漂うアリオスガンダム・レイヴンへと向けていた。

 そして、アリオスガンダム・レイヴンの装甲にテイルブレイドを引っ掛けてそのまま質量弾として使った。

 

「諒ちゃんさ……大量のビットを使えるのは凄いけどさ……本体がガラ空きじゃん」

 

 大我はクロノスビットで攻撃する際にガンダムクロノスXが棒立ちだった事に違和感を覚えた。

 バトルは静流が戦えない状態である為、実質的には1対1だが、余りのも周囲に対して無警戒過ぎた。

 そして、接近戦を行う時にはビットを使わず、出していたビットの動きも悪くなっていた。

 そこで大我は確信した。

 諒真は大量のビットを使いながら本体の操縦までは手が回っていないと言う事をだ。

 ならば、あえて距離を取りながら諒真にビットを使わせれば本体は隙だらけで、諒真が戦えないと完全に注意から外している静流のアリオスガンダム・レイヴンで奇襲攻撃を行った。

 

「やってくれたな!」

 

 諒真はとっさにクロノスアックスを振るいアリオスガンダム・レイヴンの胴体を真っ二つに切り裂く。

 大我の奇襲攻撃を何とか防いだ、諒真は一瞬気が緩んだ。

 諒真にとっては大量のビットを使えば本体の操縦が疎かになる欠点は自覚していた。

 そこを大我に気づかれて付かれたが、何とか防いだ。

 諒真は大我の逆転の一手を防いだと思っている。

 だが、とっさの事で大我が事前に奇襲攻撃の方向を教えた理由までは気が回っていなかった。

 

「諒ちゃんなら防げると思ってたよ」

 

 大我は始めから防がせるつもりで教えていた。

 敵の逆転の一手を防いだ事で少なからず隙が生まれる事を見越していた。

 バルバトス・アステールはバーストメイスを逆手に持ち替えてガンダムクロノスX目掛けて投擲する。

 

「終わりだね。諒ちゃん」

「そう簡単にやらせないってね!」

 

 ガンダムクロノスXは最大出力でビームバスターを撃ってバーストメイスを迎撃する。

 勢いよく投擲されたバーストメイスをビームバスターで止める事は出来なかったが、微妙に角度を変える事でバーストメイスはガンダムクロノスXに直撃する事無くどこかに飛んでいく。

 

「ああ……ごめん。さっきの嘘だから。こっちが本当の終わりだよ」

 

 バーストメイスを投擲したバルバトス・アステールは滑空砲を放っていた。

 ガンダムクロノスXのクロノスビットを迎撃する為に機関砲や200ミリ砲は全て撃ち尽くしたが、滑空砲だけは1発分だけ残弾を残していた。

 その最後の一発をバーストメイス投擲後に攻撃を防がれてすぐに放った。

 

「はは……流石は俺の弟だ。さぁ……兄の屍を超えて行け!」

 

 諒真はすでに敗北を確信していた。

 自身の戦い方の欠点に気が付いた所からの一連の流れは大我の計算通りだったのだろう。

 欠点を付いてに奇襲を防がせて気が緩んだところにバーストメイスを投擲を辛うじて防いだ事で諒真はすでに火器の残弾が尽きて遠距離攻撃ではどうにもならないと言う油断を誘った。

 もはや諒真には正真正銘最後の一撃をかわす事は出来なかった。

 その最後の一撃は正確にガンダムクロノスXのコックピットのある頭部に直撃する。

 

「諒ちゃん……いつから俺の兄になったんだよ。流石に嫌過ぎる」

 

 コックピットのある頭部が破壊された事でガンダムクロノスXは爆発を起こしてバトルは終了する。

 

 

 

 

 

 

 バトルが終了し、バトルに参加していた6人とバトルを観戦していた史郎たちとロビーで合流する。

 バトルはガンプラ部が勝利した物の、結局大我が一人で勝利したような物で龍牙は面白くはなさそうにしており、静流も一度は助けられたもののバトル中に大破した自分のガンプラを武器のように使われている為、顔を顰めている。

 

「相変わらず強いな。大我は」

「諒ちゃんも昔よりかは強くなってたよ」

「会長と藤城君は知り合いなの?」

 

 二人の言動から単純に学校の先輩と後輩と言う訳ではない事は分かる。

 その点に関しては生徒会側も同様のようで代表して史郎が切りだす。

 

「まぁな。大我の両親と俺の父親が昔からの友人でな。その関係もあってガキの頃から何度も遊んだ事があるんだよ。まぁ、俺の弟分みたいな物だな」

「それは諒ちゃんが勝手に言っている事だけどな」

「成程」

 

 その説明で大我と諒真の関係は分かった。

 

「それで勝負は僕達の勝ちで良いんだよね」

「ん……ああ、そう言う話しだったな。良いよ。良いよ。うん」

 

 このバトルはガンプラ部が大会に優先的に出して貰える権利を賭けての物だったが、始めから学校側は関知していない。

 諒真もその事は今まで忘れていた。

 

「良かった。それと藤城君。これからよろしく」

 

 史郎はそう言い新しく入部した大我に右手を出して握手を求める。

 だが、大我はそれに応じる事は無く、自分の手を差し出すと画像データを表示する。

 それはバトル開始時に見せた入部届ではなく、退部届が映されている。

 

「……退部届?」

「ああ。諒ちゃんとのバトルも終わったからな。これ以上、俺がガンプラ部にいる理由はない。だから、今日限りで退部させて貰う」

 

 その言葉にガンプラ部の面々は唖然として言葉が出ない。

 大我にとっては諒真とバトルする為だけにガンプラ部に入部した。

 だから、バトルが終われば始めから部を止める気だったのだろう。

 

「まぁ……そう来るよな」

 

 そんな中諒真だけは特に驚いた様子はない。

 大我の性格を良くしる諒真にとってはこれは想定の範囲内の事だからだ。

 

「あのな。大我。部活を退部すると言っても正当な理由は無ければそう簡単に退部は出来ないんだよ」

「……話しが違うぞ。諒ちゃんはガンプラ部に興味が無くてもバトルが終われば退部すれば良いって言っていただろ」

「言ったな。けど、退部すれば良いとは言ったけど、退部が受理されるとは一言も言ってないんだよな。これが」

 

 大我はそう言われてこれまでの事を思い出す。

 入学してから諒真にバトルを挑むが、諒真は自分と戦うに値する実力がある事を証明しろと言い、学内にGBNで中高生部門の国内ランキングで7位であるレイヴンこと静流に勝って来るように言った。

 静流に勝利した後はガンプラ部とバトルする予定があるから自分とバトルをしたければガンプラ部に入れば良いと言った。

 その際にガンプラ部に入る事を渋った大我に諒真はこう言った「バトルが終われば退部すれば良い」と。

 その言葉を鵜呑みにした大我はバトル後に退部出来ると思っていた。

 

「……まさか諒ちゃん。俺を嵌めたな」

 

 そこで大我は諒真の意図を察した。

 始めから諒真は大我をガンプラ部に入部させる事が目的だったのだと。

 

「人聞きの悪い。大我は勝手に勘違いしただけの事だろ?」

 

 大我は返す言葉がない。

 確かに諒真は退部すれば良いとは言ったが、退部出来るとは言っていない。

 諒真が意図的にしろ紛らわしい言い方としたとしても、大我が勝手に退部出来ると思っていたに過ぎない。

 諒真に嵌められた事に気が付いた大我に諒真から個別チャットの申し込みがあった。

 個別チャットとはアバター同士が現実世界のように会話するのではなく、当人同士がチャットで会話する機能で、これを使えば周囲の人間に話しを聞かれる事もない。

 

「騙すような形になったのは悪かったと思ってる。けど、俺が在学中にこの平凡な高校ででっかい事をやって見たかったんだよ。そんな時にお前がウチの高校に入って来るって知ってさ。これはお前にガンプラバトルで全国制覇して貰うしかないって思った訳だよ」

 

 星鳳高校は進学校と言う訳でも特別部活に力を入れている高校でもない。

 諒真は少なからず母校に愛着があり、自分が生徒会長として高校にいる間に何か大きな事を成し遂げたいと思っていた。

 とは言っても、星鳳高校に入学する生徒に飛び抜けた能力を持つ生徒はほとんどいない。 

 そんな中、ガンプラバトルで高い能力を持つ大我が偶然にも星鳳高校に入学する事を諒真は知った。

 大我の実力を持ってすれば全国大会を制覇する事も難しくはないだろう。

 ただ、問題があるとすれば大我は全国制覇に何の興味もない事だ。

 大我の性格を知る諒真は大我がガンプラ部に入らない事も全国制覇を目標とする事もないと分かっていた。

 だからこそ、自分と戦いたがっている大我をガンプラ部に入部させる今回の事を思いついた。

 

「だが、お前にだってメリットはある」

「……どんな?」

「お前は全国制覇に興味はないが、全国制覇をするまでの過程において、同年代の実力者とバトルする事が出来る。普通にバトルしようとしてもそう簡単にはバトル出来ないが、大会で勝ち進めば強い相手と戦える。どうだ? 少しは興味が出て来ただろう」

 

 大我の性格上、ガンプラ部に入部させてもバトル自体に出ない可能性は十分にある。

 だから諒真は大我にバトルで勝ち進むメリットを提示する。

 大我は全国制覇に興味はないが、ガンプラバトルで強い相手とバトルする事には興味はある。

 普通に戦おうとしても、向こうも見ず知らずの挑戦者等相手にはしてもらえるかは怪しい。

 フリーバトルでもランダムで当たる可能性は限りなくゼロに等しい。

 そんな中で確実にバトル出来る機会は大会に参加し勝ち続ける事だ。

 勝ち続けた結果に興味は無くても、その過程に大我の興味を引くエサを諒真は用意した。

 

「……分かった」

 

 大我はそう言い個別チャットを閉じる。

 

「今の話しは無しだ」

 

 大我と諒真が何か二人で話していた事は分かっていたが、個別チャットが終わるや否や大我が退部を撤回した事に驚きを隠せない。

 

「だが、始めに言っておく。俺はお前らと仲間になった訳でも馴れ合う気もない。俺は強い奴と戦いたい。アンタ達は俺と言う戦力を得て全国大会を制覇させて貰う。互いに利害が一致したに過ぎない。だからアンタ達の指図は受けない。俺は俺のやり方で好きにやらせて貰う」

「そう言う事だ。大我は口も態度も滅茶苦茶悪いが、実力は俺が保証する。まぁ……扱い辛いが使ってやってくれ」

 

 始めから仲良くする気の全くない大我を諒真はフォローするが、すでに龍牙や静流の印象は最悪だ。

 

「分かった。改めてよろしく。藤城君」

 

 史郎はそう言って握手を求めるが、大我はそれを一瞥しただけでログアウトしていなくなる。

 ガンプラ部は藤城大我と言う圧倒的な実力を持つ新入部員を獲得したが、同時にとんでもなく危険な爆弾を抱えた。

 それでも部員が5人そろった事で廃部の危機も回避され、ようやく部活として始動し始める事が出来たのだった。

 

 

 

 



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EXミッション

 大我の入部により部員が5人となった星鳳高校ガンプラ部は正式に部活として学校側から認められて活動が再開となった。

 ガンプラ部の活動は大きく分けると現実世界でのガンプラの制作とGBN内でのバトルの練習の二つだ。

 その為に必要な機材や道具類は部室に一通りは完備されている。

 

「今日から正式に部の活動が始まるから改めて自己紹介をさせて貰う。僕がガンプラ部の顧問をさせて貰っている。桜庭颯太。よろしく」

 

 正式に部活として活動できる事となり、今日からは部活の顧問も合流する事になっている。

 顧問の桜庭颯太は教師の中でも20代後半で比較的若い教師で、星鳳高校の卒業生でもある。

 そんな颯太に対して、龍牙は目を輝かせており、大我は余り興味がないのか、座ったまま頬杖をついている。

 

「まずは一年生は自己紹介を頼む」

「はい! 神龍牙です! 10年前に先生が全国制覇をしたバトルを見てガンプラバトルを始めました!」

 

 龍牙の勢いに颯太も少し圧倒されている。

 颯太はかつて星鳳高校のガンプラ部に所属しており、10年前に星鳳高校が全国制覇した際に部長をしていた。

 龍牙にとっては自分がガンプラバトルを始めるきっかけとなったヒーローが颯太なのだ。

 

「清水明日香です。私はガンプラを作った事もバトルをした事もないですけど、よろしくお願いします」

 

 明日香が自己紹介を終えて、皆の視線は大我に向く。

 

「藤城大我」

 

 大我はそれだけ言うと立ち上がり自分の荷物を持つ。

 

「もう帰るのかよ」

「今日は活動初日だから顔を出しただけだ。別に部に出る事は強制ではないんだろ? だったら必要以上にここに来る必要もない」

 

 大我はそう言って帰る。

 龍牙は大我の態度に不満そうだが、顧問の颯太がいる手前、自重する。

 

「話しには聞いていたけど、ずいぶんと我の強そうな新入部員だね」

 

 颯太も事前に大我の性格の事は聞いていたらしく、動じた様子はない。

 

「良いんですか? そこまで協調性のない態度で」

「教師としては余り良くはないけどね。ただ、無理やり部活に参加させても楽しめないだろ?」

 

 颯太も教師として見れば大我の協調性のない態度は改めさせなければならないとは思っている。

 だが、顧問としては大我の言うように部員とはいえ、毎日や活動日に必ず部室に来て部活に参加しなければならないと言う規則はない。

 ガンプラ部の方針としてはガンプラを楽しむと言う事がある為、その気のない相手を無理やり部室に連れて来たところで楽しめなければ部活に参加している意味はない。

 

「そうですけど……」

「とにかく、彼の事は今はそっとしておくとして、今日は今後の事に付いてミーティングをするよ」

 

 龍牙も渋々だが、引き下がる。

 

「ウチの部としての方針だけど、8月の夏休み中に行われるGBNの運営が主催する高校生部門の大会。所謂全国大会に出場する事を一応の目標になってる。その為にまずは来月から始まる地区予選に参加する事になるけど、神君も清水さんも良いかな?」

「俺は星鳳高校で全国制覇する為にこの学校に入ったんですから望むところです!」

「それは頼もしいね。東京地区からは2校の出場が可能だから最低でも決勝戦まで勝ち上がれば全国には出られる」

 

 大会は各県から1校と言う訳ではなく、県によっては複数の出場枠が用意されており、東京からは2校までが全国に出られる。

 つまり、地区予選最後の決勝戦の勝敗自体は全国大会への出場には関係ない。

 

「大会はトーナメント方式だから組み合わせ次第では全国までの道のりの険しさが変わって来ますね」

「そうね。出来れば皇女子とは別ブロックになれれば良いわね」

「そこってアレですよね。去年の準優勝校」

 

 大会は地区予選から全てのバトルがライブ配信される。

 地区予選は強豪校以外のバトルは観戦者は少ないが本選ともなれば多くの観客がバトルを観戦する。

 去年の全国大会の決勝戦は龍牙も配信を見ている。

 去年は東京代表の皇女子高校、チーム「アリアンメイデン」と静岡代表の泉水高校、チーム「闘魂」となっている。

 どちらもガンプラバトルの強豪校で勝敗は泉水高校が勝った物の勝負はギリギリで泉水高校が勝ったのは運が良かったと言うのもある。

 

「去年は2年を中心にしていたから、今年も去年のレギュラーの大半は残っているわ」

「それに今年はあのクレインが皇女子に入ってたって噂だしね」

 

 龍牙はクレインと言うハンドルネームに聞き覚えがあった。

 国内中高生部門のランキングにおいて3位のファイターのハンドルネームがそうだった。

 詳細な個人情報は当然の事ながら明かされてはいないが、去年までは中学生部門の大会に出場している事から高校生ではないとされ、性別も女である事から中高生女子の中では最強としてクイーンとも呼ばれる事もある。

 元々、皇女子は個人ではランキングの上位10人に入る程のファイターはいないが、レギュラーは皆100位以内の実力者で個人の実力以上にチームとしての総合力に長けたチームだ。

 そんな皇女子に個人で3位の実力者が入ったとなれば今年の皇女子は去年以上の力があると見て間違いない。

 

「皇女子の事は当たる事になってから考えよう。どの道、今から対策を考える事も出来ないからね」

 

 颯太が釘を刺す。

 幾ら皇女子が東京地区の強豪とは言っても現状で対策を考える事は星鳳高校では不可能だ。

 

「今は目の前の一戦一戦を楽しみ、悔いのない大会にする事を目指すよ」

 

 そう締めくくられて今日の部活は終了する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部活の終わった龍牙はそのままGBNにログインした。

 GBNではフリーバトルや様々なルールでのバトルの他に各サーバーごとに巨大なフリーエリアが存在する。

 地球圏や火星圏、木星圏と言った各ガンダム作品に登場する基地や都市を電子空間上に再現した超巨大なオープンワールドだ。

 そこではダイバーたちが各々で自由に活動する事が許可されている。

 龍牙はバーニングデスティニーと共にオープンワールドで自主練習を行う事にした。

 ここなら通常のバトルとは違い一人でも操作の練習が行える。

 龍牙は基本的に人の少ない火星の荒野でバーニングデスティニーの格闘動作を繰り替えす。

 バーニングデスティニーはGガンダム系のガンプラではない為、操縦は通常の物と同じだ。

 Gガンダム系は任意で操縦を通常のコックピットとモビルトレースシステムと同じようにファイターの動きをガンプラにリンクさせる事が出来る。

 他のシリーズのガンプラでも課金すれば同じ仕様に出来るが、龍牙には格闘技の経験は無い為、モビルトレース仕様にするメリットは余りない。

 ある程度、動作の確認が終わると、龍牙はハッチを開き少し身を乗り出す。

 

「やっぱ、仮想現実には見えないよな」

 

 龍牙は火星の風を感じながら呟く。

 GBN内での仮想現実は非常に良くできており、ここが仮想空間だと言う事は忘れそうになる。

 

「ん? 何だ」

 

 龍牙は少しづつだが地響きが近づいて来る事を感じてコックピットに戻るとハッチを閉めてレーダーを確認する。

 

「おいおい……マジかよ。一体何があるってんだ?」

 

 レーダーには100機近いガンプラの反応が出ている。

 それらは隊列を組むかのように進行している。

 

「この辺でイベントがあって話しは無かったと思うんだがな……」

 

 オープンワールド内では不定期に運営がイベントを開催する事がある。

 その時は多くダイバーたちが集まる為、ガンプラが100機以上も集結する光景は珍しくはない。

 しかし、公式HP等にはこの辺りでイベントがあると言う告知はされていない。

 

「この辺りにあるのはハーフメタルの採掘所くらいだけど……様子を見てみるか」

 

 龍牙は周囲の地図を見ながらそう決める。

 機体を飛び上がらせると、ガンプラの一団からある程度距離を保ち進行方向を確認する。

 進行方向を見る限りではその先にあるのは、鉄血のオルフェンズに登場する火星のハーフメタル採掘場だ。

 龍牙は空から回り込んで採掘場へと向かう。

 

「採掘場にも反応が……こっちもこっちで結構いるな」

 

 陸路で進む一団よりも先に採掘場の近くまで接近すると採掘場にもガンプラの反応があった。

 その数は接近している一団と勝るとも劣らない規模だ。

 そして、龍牙は少し離れた高台にも1機のガンプラの反応があり、機体をそちらに向ける。

 

「なぁ、ここで何かあるのか?」

 

 龍牙は高台に居たガンプラ、ガンダムグシオンリベイクフルシティに対して通信する。

 向こうも龍牙の存在に気が付いたのか通信を返す。

 

「君は自由同盟でも、熱砂の旅団でもないようだな」

 

 向こうのアバターは女のようでハンドルネームはクレインと表示されていた。

 龍牙は先ほど部活で出て来たランキング3位のクイーンの事が頭を過るが、流石にこんなところで出会う訳がないと思う。

 

「ああ。俺はジンって言うけど、どっちのフォースにも入っていない」

 

 フォースとはGBN内の機能の一人で複数のダイバーたちがチームを作った時にGBNの運営に登録する事が出来る機能の事だ。

 そうする事でオープンワールド内で自分達のフォースの拠点を作る事や様々な特典を得られる事が出来る。

 

「そう。知らないようだけど、あのハーフメタル採掘所を熱砂の旅団が縄張りにしていて、自由同盟が仕掛けるところよ」

「成程……そう言う訳か」

 

 龍牙もクレインの説明で納得する。

 クレインの言う自由同盟も熱砂の旅団もGBN内では大規模なフォースとして知られている。

 熱砂の旅団はその規模から地球上や火星上の拠点を転々としているフォースでオープンワールド内では荒くれ者として有名だ。

 GBNの運営としてはフリーバトルの申請を行うエントランスやオープンワールド内での戦闘禁止区域や独占禁止区域等の一部の区域を除く場所でに戦闘行為は禁止していない。

 多少暴れたところで余程悪質な行為でなければ、何も処罰をする事も無く放置する。

 一方の自由同盟なそんな運営の方針に対して、運営が動かないのであれば自分達のオープンワールドの治安を維持しようと有志によって結成されたフォースだ。

 運営が禁止していない行為だろうと、マナーの悪いダイバーを実力行使で排除する事も少なくはない。

 その為、自由同盟も一般のダイバーからは自治厨として余り良い目では見られていない。

 今回も、自由同盟が採掘場を最近の拠点としている熱砂の旅団を実力で排除して採掘場を解放しようと言う事なのだろう。

 

「それでクレインさんは何でここに?」

「私は偵察だ。非情にバカバカしい不毛な戦いではあるが、自由同盟には来月からの大会に参加するファイターも少なからずいてな。まぁ私も下っ端だから偵察に来させられたと言う訳だ」

 

 来月からの大会と言うのは恐らくは龍牙も出場する大会である事は間違いないだろう。

 そして、自由同盟は基本的に誰でも入る事は可能で、高校生も少なくはない。

 クレインが自分と同じ高校1年生であるとすれば実力者と言えども偵察に行かされると言う事もあるのだろう。

 そう考えると目の前のクレインはランキング3位のクイーンである可能性が高い。

 

「まだ始まってないようだな」

 

 目の前のダイバーがクイーンかも知れないと思い始めていたところに新たなダイバーが話しに割り込んで来る。

 そのガンプラを見た龍牙はクレインがクイーンかも知れないと言う事を忘れる程に驚く。

 ガンプラはガンダムAGE-2(特務隊仕様)の改造機であるガンダムAGE-2マッハ。

 去年の優勝校であるチーム「闘魂」のエースにして国内中高生部門のランキングトップのダイモンが駆るガンプラだった。

 AGE-2 マッハは両肩の可変翼が大型化され実体剣としての機能が追加されている。

 腕部には装甲が増加されシールドが無い変わりに装甲はガンダムAGE-3の物が使われている為、ビームサーベルが装備されている。

 脚部はダブルバレットの物をベースにスラスターが増設されている。

 バックパックも大型化されており、追加の火器でダブルバレットのツインドッズライフルが装備されている。

 手持ちの火器としてメインウェポンにハイパードッズライフルをベースに銃身の下部にダークハウンドのドッズランサーの槍が付けられており、銃身が露出している通常時のライフルモードと銃身を槍に収納した状態のランスモードを切り分けて近接戦闘と遠距離戦闘を一つでこなす事が出来るハイパードッズランサーを持つ。

 また、再度アーマーには予備の火器として小型のハンドガンが収納されており、リアアーマーにはベース機同様にビームサーベルが装備されている。

 ベース機の可変機構を活かして高速白兵戦を得意としてその高い機動力から音速のキングの異名を持つ。

 

「キングがどうしてまた?」

「熱砂の旅団を自由同盟は大規模なフォースだからな。そのフォースが激突するんだ中々面白うじゃん」

 

 クレインは偵察が目的でダイモンは面白そうだからここに来たらしい。

 まさか、こんなところで高校ガンプラバトルを代表するキングとクイーンと遭遇する事等思っても見なかった龍牙の緊張を余所に熱砂の旅団と自由同盟が交戦を開始する。

 

「これだけの数のガンプラが戦う事は無いから大迫力だな」

 

 100機近いガンプラ同士のバトルをダイモンは面白そうに観戦している。

 一方のクレインはバトルの様子を隅から隅まで撮り逃しが無いようにバトルを録画している。

 バトルは大規模な物だが陸戦を中心に行われている。

 理由は熱砂の旅団の本陣には2機のザメルが配置されている為、下手に上空に飛べば狙い撃ちされる危険性があるからだ。

 

「どうやら旅団の方が優勢だな」

「そうね。旅団は同盟軍が攻めて来る事が分かっていたから守りを固めてるみたいね」

 

 クレインとダイモンは観戦しながらも戦況を分析している。

 二人の言うように自由同盟軍は攻めあぐねているようだ。

 自由同盟軍は今回の攻撃策戦において、一般のダイバーからも協力者を呼びかけている。

 そのせいで熱砂の旅団にも、今日の攻撃作戦が駄々漏れで熱砂の旅団も攻撃に備えて来ている。

 熱砂の旅団はザメルの他にもザウードやティエレン長距離射撃型や対空型と言った長距離砲撃用のガンプラをそろえて来ている。

 

「それでもマサヨシさんは頑張っているみたいだけどな」

 

 自由同盟の先陣を切っているのは自由同盟の中でも幹部の一人であるマサヨシのジャスティスガンダムだ。

 ジャスティスガンダムは飛行能力があるが、相手の対空砲を警戒してか上空には飛ばすに地上すれすれを飛びながら熱砂の旅団のガンプラを薙ぎ払っている。

 マサヨシは自由同盟の活動にも人一倍熱心で実力も同盟ないではトップクラスだ。

 熱砂の旅団と言えどもそう易々とは止める事は出来ない。

 

「上空から降下して来る……」

「けど、単機って事は同盟軍の降下部隊って事もないな」

 

 戦闘が始まり少しすると、上空から何かが落ちて来る反応が現れた。

 数は1機である事や落ちて来ると思われる場所は戦場の真っただ中と言う事もあり、自由同盟軍が事前に用意していた降下部隊ではない。

 大気圏から落ちて来たガンプラは戦場の真っただ中に落ちて戦場は大きな砂煙が舞い上がる。

 

「ありゃ……マサヨシさんのジャスティスの辺りじゃね?」

 

 落ちて来たガンプラは丁度、マサヨシのジャスティスが交戦している辺りだった。

 砂煙が収まるとガンプラのシルエットが見えて来る。

 普通のガンプラよりも長い腕部に肩にはシールドのような物も見える。

 そして、背部には尾のような物も見える。

 

「……まさかな」

 

 龍牙は嫌な予感がしていた。

 そのシルエットは龍牙も良く知っているガンプラに酷似していた。

 だが、幾らなんでもそんな事は無いとその可能性を否定しようとするが、その可能性は無情にも当たっていた。

 

「あればバルバトスベースのガンプラか……どこのどいつだよ」

 

 その乱入者は龍牙も良く知る大我のガンダムバルバトス・アステールだった。

 バルバトス・アステールの持つバーストメイスの下には着陸時に下にいたのかマサヨシのジャスティスの残骸が転がっている。

 突然の事で熱砂の旅団も自由同盟のガンプラも動きが止まる。

 どちらもこんな事は予定にはない。

 そうなるとこのバルバトス・アステールは敵側のガンプラだと身構える。

 そして、バルバトス・アステールは狩りを開始する。

 バルバトアス・アステールのテイルブレイドが近くの熱砂の旅団のドムの胴体を貫く。

 熱砂の旅団のガンプラを撃破した事で自由同盟はマサヨシのジャスティスを破壊した物のバルバトス・アステールを味方と判断し、同時に熱砂の旅団は敵だと判断した。

 見方だと判断した自由同盟のザクⅡがバルバトス・アステールの横を通過しようとした瞬間にバルバトス・アステールはバーストメイスを振るいザクⅡの上半身を跡形もなく吹き飛ばす。

 一度は見方と判断したバルバトス・アステールが自分達のガンプラを破壊したとして自由同盟軍は混乱する。 

 それは熱砂の旅団も同様だ。

 

「おいおい……あのバルバトス。まさか」

「両軍を相手にしようと言うのか?」

 

 高みの見物を決め込んでいたクレインとダイモンが驚く中、龍牙だけはこの大我の行動に納得していた。

 バルバトス・アステールは熱砂の旅団も自由同盟も関係なく手当り次第にガンプラを破壊している。

 それを見てクレインもダイモンも同じ結論に至った。

 バトルに乱入して来たバルバトス・アステールは熱砂の旅団と自由同盟の両軍を相手にする気なのだと。

 両軍は戦闘で消耗しているとは言っても100機を軽く超えている。

 それを両方相手を単機で相手にするなど正気の沙汰とは思えない。

 しかし、バルバトス・アステールのファイターである大我を知る龍牙にはその方が自然に思える。

 大我の性格上、どちらかに加担するよりも両方を相手に大暴れをする方が似合っている。

 クレインとダイモンは圧倒的な数の差に無謀だと思っているようだが、龍牙はそれを無謀だとは思っていない。

 大我の実力なら一人でも十分に戦える。

 この中で自分だけはその事を知っている。

 

「どこのどいつかは知らないが、面白い!」

「あのバルバトスは化物か」

 

 ダイモンが声を上げて、クレインが戦慄する。

 一見無謀にも思えたバルバトス・アステールの戦いだが、バルバトス・アステールは単機ながらも圧倒的な力を発揮して両軍のガンプラを全く寄せ付けずに粉砕しては新たな獲物を見つけては粉砕する。

 その光景はまるで悪魔の如くの戦闘能力だ。

 やがて指揮官機であるマサヨシのジャスティスを失った自由同盟軍は総崩れとなり戦意ある者は皆バルバトス・アステールの餌食となり、戦意を失った者は皆ログアウトをして逃げていく。

 

「自治厨の方はこんな物か」

 

 バルバトス・アステールのコックピットで大我がつまらなそうにぼやく。

 大我は学校から戻るとすぐにGBNにログインしてこの戦いが始まるのを待って乱入した。

 一人一人は弱くてもここまで数が集まれば少しはマシに戦えると思っていたが、予想以上に大した事は無かった。

 

「まぁ、旅団の方は武闘派も多いらしいから少しは楽しませてくれよ」

 

 自由同盟軍のファイターは戦意を喪失して逃げ出すファイターも多かったが、熱砂の旅団のガンプラは圧倒的な力を持つバルバトス・アステールを前にしても怯む事無く挑んで来る。

 それをバルバトス・アステールはバーストメイスとテイルブレイドを駆使して薙ぎ払いながら、熱砂の旅団の本陣に目掛けて突撃して行く。

 

「何としてもここで止めろ! ボスのところには行かせるな!」

 

 採掘場の出入り口はサーペント部隊が固めている。

 サーペント部隊のリーダー機は左手にダブルガトリングを持ち右手にヒートソードを持ったタイプで、それ以外のサーペントは皆両手にダブルガトリングを装備している。

 

「邪魔」

 

 バルバトス・アステールはバーストメイスを投擲するとヒートソードを持ったリーダー機を破壊すると、飛び上がりバーストメイスを回収しながら素早くテイルブレイドで近くにサーペントのコックピットを貫き、回収したバーストメイスで近くのサーペントを叩き潰しながら別のサーペントをテイルブレイドで貫く。

 

「化け物が!」

 

 残った最後のサーペントがダブルガトリングで何とか応戦するが、バルバトス・アステールはホバー移動をしながら回避して接近するとバーストメイスを突き出して先端でサーペントの胴体を潰した。

 

「数が居てもこの程度か?」

 

 サーペント部隊を壊滅させた大我は次に採掘場の高い位置から砲撃支援の為に配置された砲撃部隊の始末に入る。

 元々、砲撃部隊のガンプラは長距離砲撃を主体に戦い近接戦闘は前衛の部隊に任せる事を前提に配置されている為、接近された時点でまともな抵抗の手段はない。

 バルバトス・アステールにより砲撃部隊は瞬く間に壊滅させられる事となる。

 

「馬鹿な……単機で我々の部隊を壊滅させるか」

 

 採掘場の熱砂の旅団の本陣では熱砂の旅団のフォースリーダーが自機であるイフリートの中で戦況の報告を随時受けている。

 隊長機のイフリートは通常の装備の他に左腕にグフのシールドを装備している。

 信じがたい事だが、敵は自由同盟軍もろとも単機で殲滅しているらしい。

 

「隊長! 来ます!」

 

 出入り口を固めていたサーペント部隊と砲撃部隊がすでに壊滅させられており、敵が本陣まで到達するのも時間の問題とされていた頃、遂にその時が来たようだ。

 砲撃部隊を壊滅させたバルバトス・アステールがバーストメイスを振り下ろしながらザメルの上に落ちて来る。

 ザメルを砲身ごと破壊したバルバトス・アステールはすぐに破壊したザメルの影に入るとザメルの残骸を盾にする。

 

「集中砲火だ!」

 

 隊長からの指示もあり、本陣の守りに配備されていたジンオーカーと陸戦型ジムがザメルごとバルバトス・アステールに集中砲火を浴びせる。

 ザメルを盾にしていたバルバトス・アステールはザメルの残骸に左腕を突っ込むとそのままザメルの残骸を持ち上げると敵ガンプラの方に投げつける。

 それにより敵ガンプラの大半を壊滅させると残ったガンプラは少なからずザメルの残骸を持ち上げた上で投げつけて来たと言うバルバトス・アステールの行動に驚き、その隙を大我は逃す事は無かった。

 腕部の200ミリ砲で残った敵を確実に仕留めながら、もう1機のザメルに接近する。

 ザメルも何とか応戦しようとするも、意味は無くバルバトス・アステールはバーストメイスを振るいザメルを採掘場の壁まで吹き飛ばす。

 

「後はアンタだけだ」

「この化け物め!」

 

 イフリートがショットガンをバルバトス・アステールに向ける。

 

「遅いな」

 

 イフリートがショットガンを撃つよりも早くバルバトス・アステールのテイルブレイドがイフリートのショットガンを破壊する。

 同時にシールドスラスターの機関砲を撃ち、イフリートはシールドで身を守る。

 それを見た大我は瞬時にバーストメイスを投擲する。

 機関砲から身を守る事で背一杯だったイフリートはバーストメイスの投擲に気が付くのが遅れて気が付いた時にはシールドごとイフリートを破壊した。

 

「雑魚でも数が集まれば少しは楽しめるとも思ったんだがな……雑魚は数が居ても雑魚には変わりは無かったか。所詮、戦いは質と言う訳か」

 

 最後の1機も難なく潰した大我はイフリートの残骸に突き刺さるバーストメイスを回収する。

 今回は大規模なバトルになる為、双方と戦えば個々の力は低くても少しはマシな戦いになると思っていたようだが、大我の当ては外れたようだ。

 

「アレがレイヴンを倒したって噂のリトルタイガーね……中々、面白そうな奴が出て来た物だな」

 

 大我が自由同盟と熱砂の旅団を一人で潰したのを見てダイモンは素直に賞賛する。

 ダイモンの耳にもランキング7位であるレイヴンがサシのバトルで負けたと言う噂は入っていた。

 このバトルを見る限りでは噂は本当だったと確信するに値する。

 

「面白そうと言うレベルではないな……戦い方を見る限りではアレはまるで野生の獣ではないか」

 

 クレインの感想にファイターの大我を知る龍牙はあながち間違いではないと苦笑いをする。

 

「さて……予想以上に面白い物が見られたし、俺はそろそろ帰るとするか」

 

 ダイモンがそう言うと採掘場の方から地響きと共に強力なビームが空に上がる。

 

「何だ? まだ何かあるのか?」

「EXミッション? まさかこのタイミングでか」

 

 各ガンプラのコックピットから運営からのメッセージが入る。

 そこにはEXミッションが開始されたと表示されている。

 EXミッションとはオープンワールドないの特定のエリアで特定の条件を満たす事で自動的に開始されるイベントだ。

 イベントの場所は開始条件は一般的には公開されてはおらず、一度始まった後には情報がネット上で拡散される為、暫くの間は開始されない。

 開始条件はEXミッションにより異なるが、共通している事は場所と関わり合いの深いガンプラが関わって来ると言う事くらいだ。

 今回のEXミッションの開始条件は火星のハーフメタル採掘場でエイハブリアクターを搭載した機体が一定時間以上の戦闘行為を行う事で、大我は知らず知らずにEXミッションの開始条件を満たしていた。

 

「ここで出て来るとなればアイツか」

 

 EXミッションは様々な形式があるが多くの場合、超強力なNPDガンプラが出て来ると言う事だ。

 そして、ダイモン達はここで出て来るとしたら何が出て来るかは予想が付いていた。

 

「……退屈していたところだ。丁度いい。俺がぶっ潰してやるよ」

 

 大我は強力なビームと共に採掘場から現れた敵、MAハシュマルと対峙していた。

 ダイモン達の予想通り、ハーフメタル採掘場から出て来たNPDガンプラはハシュマルだった。

 設定上のサイズよりも倍近くの大きさを持つハシュマルは狙いをバルバトス・アステールに付けていた。

 対する大我もやる気は十分でバルバトス・アステールはバーストメイスを構えるとハシュマル目掛けて突撃する。

 

「多分、採掘場にはハシュマルが出て来てると思うが、クイーンやジンはどうする?」

「EXミッションのNPDとなればフォース単位で戦わねば勝てない相手の筈だ」

 

 クレインの言うようにEXミッションは個人ダイバー向けのイベントではなくフォースを対象にしたイベントとなっている。

 その為、EXミッションに出て来るNPDのボスガンプラは単体ではまず勝てないように性能を調整している。

 

「俺は帰るのは止めて参戦するけど」

「ならば私も行こう。キングのバトルをまじかで見られる良い機会だ」

「……俺も行きます。アイツはこの状況でも逃げる事は無いでしょうし」

 

 ダイモンは単に面白うだからという理由。

 クレインはランキングトップであるダイモンのバトルを近くで見る事が出来れば今回の偵察の目的を元々の予定以上の成果を得られる。

 龍牙はこの状況でも大我は逃げずに一人でハシュマルに挑むと言う事は確実で、大我が一人でも挑むのに自分はビビッて逃げれば負けた気になるから。

 それぞれがそれぞれの理由でEXミッションに参加する事を決める。

 

「んじゃあのバルバトスのところまで行こうか」

 

 3機のガンプラは高台から飛び降りるとハシュマルのいる採掘場を目指す。

 

「敵の増援か……まぁハシュマルがいるなら当然コイツらも出て来るよな」

 

 採掘場を目指す3機の前に新たなガンプラの反応が出て来る。

 反応は地面からで、地面からはハシュマルの子機であるプルーマが湧いてくる。

 

「力づくで突破する。遅れた奴は置いて行く」

 

 先陣を切るガンダムAGE-2 マッハはハイパードッズランスの槍の両脇に内蔵されているドッズガンを連射してプルーマを掃討しながら突き進む。

 それをクレインのガンダムグシオンリベイクフルシティが右手のロングバレルの110ミリライフルを撃ちながら続く。

 

「流石にこの装備でプルーマを相手にするのか厳しいな」

 

 クレインは元々戦闘する気は無い為、装備も最低限の物しか持って来てはいない。

 プルーマの素早い動きには問題なく対応して、一発で確実に当てて撃破出来る物の数が多い為、クレインは苦戦を強いられる。

 グシオンの背後に回り込んで飛び掛かるプルーマを龍牙のバーニングデスティニーが殴り飛ばす。

 

「俺も援護しますよ」

「済まない。助かる」

 

 ダイモンは2機を手助けする気は無いが、龍牙は苦戦するクレインを見捨てきれずに援護する。

 バーニングデスティニーはバルカンでプルーマを撃破しながら近くのプルーマも空拳徒手で撃破するが、素手での戦闘では分が悪い。

 だが、その間にクレインは先ほどまでの戦闘で破壊されたガンプラの武器を回収して、空いていた左手をバックパックのサブアームにも火器を持たせていた。

 

「ジン! 援護する」

 

 4つの火器を同時に使いグシオンはプルーマを掃討して行く。

 一見すると武器を乱射しているようにも見えるが、狙いは正確で無駄弾を撃つ事無く正確にプルーマを破壊して行っていると言う事は龍牙でも分かり、それこそがランキング3位のクイーンの実力なのだろう。

 

「キングを追いかけるぞ」

「了解」

 

 龍牙はクレインの援護を受けながら先に進んでいるダイモンを追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、採掘場ではバルバトス・アステールとハシュマルとの交戦が始まっていた。

 ハシュマルは巨体でありながら、高い機動力を見せてバルバトス・アステールのバーストメイスをかわす。

 

「でかい癖に早いな」

 

 バルバトス・アステールはテイルブレイドで追撃するが、ハシュマルのワイヤーブレードに弾かれる。

 そのままワイヤーブレードはバルバトス・アステールに襲い掛かり、それをバーストメイスで弾く。

 

「元は同じなのにサイズが違うから威力も段違いって訳か」

 

 200ミリ砲で牽制を入れながら接近戦を試みるも、ハシュマルはワイヤーブレードを巧みに使ってバルバトス・アステールを阻む。

 

「ちっ……そう簡単には懐に入らせてはくれないか」

 

 バルバトス・アステールを寄せ付けないハシュマルの頭部ユニットが開閉されて、バルバトス・アステールの方に向ける。

 大我はすぐさま、機体を射線上から退避させるとハシュマルはビームを放つ。

 ビームは当たる事は無かったが、採掘場の壁を易々とぶち抜く。

 

「幾らビームコーティングをしていてもアレを何発も喰らえば不味いな……ならば」

 

 バルバトス・アステールはワイヤーブレードを掻い潜り接近するとバーストメイスを突き出す。

 だが、ハシュマルも負けじと腕部の運動エネルギー弾を撃ち込もうとする。

 運動エネルギー弾とバーストメイスがぶつかり合う。

 それによりハシュマルの腕の運動エネルギー弾の発射口は潰れるが、同時にバーストメイスの先端も潰れてパイルバンカーとダインスレイヴが使用不可となる。

 

「やってくれたな」

 

 至近距離から200ミリ砲を撃ち込むがハシュマルの装甲には傷一つ付かない。

 

「ナノラミネート装甲を再現しているのか……厄介な」

 

 バルバトス・アステールは一度距離を取ろうとするが、大我は機体の脚部に違和感があり、確認するとそこにはプルーマば取りついていた。

 すぐに脚部のダガーでプルーマを破壊するが、一瞬視線を逸らした時にハシュマルはビームを撃ち込んで来る。

 その一撃はかわす事が出来ず、バルバトス・アステールはとっさに両肩のシールドスラスターで身を守る。

 ビームを正面から受け止めるが、踏ん張り切れずにバルバトス・アステールはビームに飲み込まれて採掘場の端の壁まで吹き飛ばされる。

 この一撃でバルバトス・アステールを仕留めたと判断したハシュマルは接近する3機のガンプラに狙いを定めたのか、移動を始めようとする。

 しかし、バーストメイスが飛んで来てハシュマルはワイヤーブレードで弾く。

 

「待てよ……まだ終わってねぇぞ」

 

 ビームの直撃を受けたバルバトス・アステールは何とか立ち上がる。

 表面をビームコーティング塗装をしていたお陰で致命傷を避ける事は出来た。

 それでもビームコーティングの効果はもう残されていない。

 

「お前は俺がぶっ潰す! だから逃げんなよ」

 

 バルバトス・アステールは200ミリ砲を撃ちながら投げたバーストメイスを回収してハシュマルに突っ込む。

 ハシュマルはワイヤーブレードで迎撃するが、バルバトス・アステールはギリギリのところでかわし、バーストメイスで思い切りワイヤーブレードを弾いて戻るまでの時間を稼ぐ。

 その間に一気に距離を詰める。

 ハシュマルも今度は残っている腕の運動エネルギー弾を撃ち込むが、バルバトス・アステールは左腕で弾丸を受け止めて飛び上がる。

 ハシュマルの頭部ユニットが開閉するとビーム砲で落ちて来るバルバトス・アステールを狙う。

 

「コイツでも食ってろ」

 

 一気に加速しながらバルバトス・アステールはビーム砲にバーストメイスを突っ込むと、内部に残されているパイルバンカーの杭を全て爆発させる。

 爆発の反動でバルバトス・アステールは吹き飛ばされて地面に叩き付けられる。

 一方のハシュマルも致命傷にはならなかったが、ビーム砲は爆発で内部から破壊されたのか煙を上げている。

 

「俺のバルバトスがここまでやられるのも久しぶりだな」

 

 バルバトス・アステールは何とか立ち上がる。

 だが、右腕は爆発によりマニュピレーターが吹き飛び200ミリ砲も使い物にならなくなっている。

 左手も運動エネルギー弾を直接掴んだせいでボロボロでまともに物を掴む事は出来ない。

 

「前は……そうだな。ルークの奴をガチで遣り合った時くらいか」

 

 大我はバルバトス・アステールの状態を確認しながらチームメイトとのバトルを思い出す。

 

「まぁ……アイツに比べれば所詮はNPD。大した事はない」

 

 大我はそう言うとバルバトス・アステールの腕部ユニットをパージする。

 そこには通常のバルバトスの腕が出て来た。

 元々、フレームから延長したバルバトスルプスレクスとは違いバルバトス・アステールはバルバトスの腕に外付けでバーストメイスを振るう為のパワーユニットとして腕部ユニットを追加している。

 その為、パワーユニットをパージすればバーストメイスを本来の威力で扱う事は出来ないが、通常の腕が残される。

 

「けど……まぁ、褒めてやるよ。俺にコイツを抜かせられるのはそうはいないからな」

 

 バルバトス・アステールはバックパックの太刀を抜いて構える。

 

「ここからは俺も本気を出させて貰う」

 

 太刀を構えたバルバトス・アステールのツインアイが赤く禍々しく輝く。

 それと同時にバルバトス・アステールがハシュマルの運動エネルギー弾が使えない方の腕を関節から切断する。

 ハシュマルはワイヤーブレードで応戦するが、完全にバルバトス・アステールの動きについて行けない。

 これこそが、大我のガンダムバルバトス・アステールの切り札であるリミッター解除モードだ。

 普段はリミッターで力を抑えているが、リミッターを解除する事で一時的に本来の性能を最大限に発揮できる。

 だが、この状態は機体へと負担も大きく、リミッター解除モードは3分程度しか使えない。

 

「遅いんだよ」

 

 ハシュマルのワイヤーブレードのワイヤーをバルバトス・アステールは太刀で切断する。

 ハシュマルが運動エネルギー弾を撃つがすでにそこにバルバトス・アステールはいない。

 そして、太刀の一閃によりハシュマルの肩の装甲が切り裂かれる。

 

「逃がすかよ」

 

 ハシュマルは体勢を立て直そうとするが、バルバトス・アステールは左腕を頭部ユニットの装甲の隙間に突っ込むと中からケーブルを引っこ抜き太刀を突き刺す。

 それでも尚、ハシュマルは動きを止めず、運動エネルギー弾を強引に撃ち込もうとするが、その前にバックパックの滑空砲を前方に展開しながらバッパックからパージして運動エネルギー弾の発射口に滑空砲の砲身をねじ込んで塞ぐ。

 発射口を塞がれたせいでウ運動エネルギー弾は暴発して腕部が破損する。

 

「お前は俺がぶっ潰すと言ったろ?」

 

 もはや武器の残されていないハシュマルを大我はさらに畳み掛ける。

 膝のドリルニーを胴体部に突き刺すと、そこを支点にしてハシュマルの背後に回り込もうとする。

 その際に抜けなくなったドリルニーの刃はパージされた。

 背後に回り込んだバルバトス・アステールは頭部ユニットと胴体部の隙間に太刀を突き刺す。

 それでもも尚、ハシュマルは暴れ続ける。

 

「いい加減に潰されろよ」

 

 バルバトス・アステールは振り落されないように太刀をしっかりと握り、太刀をグリグリと動かしてハシュマルの内部を破壊して行く。

 やがて、遂にハシュマルは機能を停止する。

 

「終わったか」

 

 モニターにはEXミッションの終了の告知が表示される。

 

「2分50秒……何とか終わったか」

 

 後数秒もすればリミッター解除モードの負荷が限界となってそこから先は負荷で自壊しながら戦わなければいけなくなっただろう。

 

「驚いたな。プルーマの動きが止まったからもしかしてと思ったが……」

 

 大我がハシュマルを撃破した後、ダイモンのガンダムAGE-2 マッハが採掘場に到着した。

 道中プルーマを蹴散らしていたら急にプルーマの機能が停止した事からもしかしたらハシュマルが倒されているかも知れないと思ったが、ダイモンの思った通りハシュマルは倒されていた。

 本来は単機で戦う事を想定されていなかったEXミッションのNPDボスガンプラを一人で仕留めた事は行幸と言うしかない。

 

「大したもんだな」

「アレは……今日は運が良い」

 

 大我もダイモンのガンダムAGE-2 マッハの存在に気が付いた。

 同時にダイモンがランキングトップのダイモンである事もだ。

 

「やるな」

 

 ダイモンが大我とコンタクトを取ろうとするが、同時にバルバトス・アステールはガンダムAGE-2 マッハの方に向かう。

 ダイモンもそれが自分と話す為に近くに来たのではないと言う事は直感的に気づいた。

 バルバトス・アステールの太刀をガンダムAGE-2 マッハはハイパードッズランサーで受け止める。

 

「挨拶も無くいきなりだな」

「そんな物が必要か? ここで? 俺もお前もファイターだ。ならばファイター同士が出会えばやる事は一つしかないだろう」

「……確かにな!」

 

 ガンダムAGE-2 マッハはバルバトス・アステールを蹴り飛ばして、左手でハンドガンを抜くと至近距離で撃ち込む。

 本来ならば威力の低いビームはバルバトス・アステールには通用しないがハシュマルのビームですでに表面のビームコーティングは効果を失っている。

 幸いにも威力が低い為、ビームコーティングが無くとも致命傷になる程のダメージはないが、それでも受け続ければいずれはここまでの戦闘で蓄積して来たダメージで装甲も限界になる。

 バルバトス・アステールはシールドスラスターで身を守りながら突っ込む。

 ハシュマルのビームの直撃を受けているとはいえ、ハンドガン程度の威力ならシールドスラスターでも十分に身を守る事は出来た。

 

「ぶっ潰す!」

「させないな!」

 

 ガンダムAGE-2 マッハはハイパードッズランサーのランスモードを突出し、シールドスラスターを粉砕する。

 ランスがバルバトス・アステールのシールドスラスターを破壊し、頭部を突き刺そうとするが、ギリギリのところでかわすが、ランスはバルバトス・アステールの頭部を掠めて半壊する。

 それでもバルバトス・アステールはハイパードッズランサーを掴む。

 ボロボロとはいえまだ十分なパワーを発揮するバルバトス・アステールはハイパードッズランサーの槍の部分を握り潰し、ガンダムAGE-2 マッハはランスを手放す。

 

「本当に大した奴だ。あれだけの軍勢を一人で殲滅し、EXミッションを一人でクリアする! 久しぶりに熱くなってきた! これこそが俺の求めたガンプラバトル! お前もそうだろ! リトルタイガー!」

「知るかよ。俺はただお前をぶっ潰すだけだ」

 

 バルバトス・アステールは太刀を振り下ろし、ガンダムAGE-2 マッハは腕部の装甲からビームサーベルを出して受け止める。

 ダイモンもいきなり襲いかかって来た大我とは大我のガンプラのダメージから本気で相手をする気は無かったが、ここまでのダメージを追っても尚、戦い勝つ気でいる大我に感化されたのか、熱くなり本気で大我と戦おうとしている。

 

「言ってくれる!」

 

 ガンダムAGE-2 マッハはハンドガンを向けるが、横からテイルブレイドが飛んで来て腕部のビームサーベルで弾く。

 それと同時に距離を詰めてビームサーベルを振り上げる。

 バルバトス・アステールは後退してかわそうとするが、完全にはかわし切れずに胴体にビームサーベルの一撃を受けてしまう。

 ビームサーベルの先の方だけが当たった為、致命傷とはならないが、胴体にビームサーベルの切り傷が残る。

 何とか回避したがダイモンの攻撃は終わらない。

 脚部のスラスターを使った蹴りがバルバトス・アステールの胴体に入り蹴り飛ばされる。

 

「機体の反応が遅い。リミッターを解除したせいか」

 

 バルバトス・アステールは蹴り飛ばされて仰向けに倒れる。

 

「どういう状況なの? これは」

 

 2機が戦う中、ようやく龍牙とクレインが到着する。

 二人も道中でハシュマルが倒された可能性を考えていたが、到着して見ると大我とダイモンが戦っている事は流石に予想外だ。

 クレインは状況は呑み込めないが、龍牙は何となく大我が仕掛けたと言う事は分かった。

 

「男同士のサシでの真剣勝負だ。君たちは手を出すな。出せば敵と見なして先に叩く」

 

 ダイモンも戦闘モードに入っているのか先ほどまでとは雰囲気が違う。

 

「これがキングか……」

 

 龍牙は大我の実力を知っているが故に大我がここまでボロボロにされている事に驚いている。

 倒れているバルバトス・アステールだがゆっくりと起き上がる。

 

「まだ立つか。ここで沈んでも恥ではないぞ。お前はそれだけの戦いをした」

「黙ってろ……俺はこんなところで……お前程度の相手に負けてはいられないんだよ……俺はまだ世界で一番のファイターになってないんだからな」

 

 大我は機体を立ち上がらせる。

 すでに熱砂の旅団と自由同盟のガンプラを100機以上も撃破し、EXミッションのNPDボスガンプラのハシュマルを仕留めた時のダメージとリミッターを解除した負荷でガンプラは限界を超えている。

 それでも尚、大我は立ち上がり戦い続ける。

 ダイモンの言うようにここで負けたところで何も恥じる事は無い。

 だが、大我は立ち上がる。

 もはや大我を立ち上がらせているのは意地しかない。

 目の前の敵を潰すと言う。

 相手はキングとはいえ所詮は中高生部門のランキングのトップでしかない。

 大我の目指す先は更に上にある。

 かつて大我は約束した世界で一番のファイターになると。

 その約束を果たす為に大我は意地でも立ち上がる。

 

「世界で……一番の……まさか、あのバルバトスのファイターは」

 

 大我の言葉に3人の中でクレインだけが反応する。

 その様子は誰も気づいてはいない。

 

「そうか……ならば、この一撃で引導を渡してやろう!」

 

 ガンダムAGE-2 マッハはハンドガンをしまうと両腕のビームサーベルを抜く。

 バルバトス・アステールは太刀を構えると、力の限り大地を蹴る。

 それに合わせてガンダムAGE-2 マッハもスラスターを最大出力で使い迎え撃つ。

 勝負は一瞬だった。

 2機は交差し、見ていた龍牙は息を飲む。

 龍牙には二人の最後の一撃を目で追う事すら出来なかった。

 そして、勝負は付いた。

 バルバトス・アステールの太刀が半分程残り折れていて、バルバトス・アステールは膝を付いて倒れた。

 

「藤城が……負けた」

 

 龍牙は大我の事は気に入らないが、正直キングを相手でも負けないと心のどこかで思っていたらしく、大我の敗北に少なからずショックを受けた。

 

「良いデータが取れたわ。それに先生に確認する事も増えたから私は先にログアウトをさせて貰うわ」

 

 クレインはそう言いログアウトした。

 倒れていたバルバトス・アステールもすでにログアウトしたのか姿を消していた。

 

「俺もログアウトします」

 

 ダイモンにそう言うと龍牙もログアウトする。

 戦場にはダイモンのガンダムAGE-2 マッハだけが残され佇んでいる。

 戦場には他には誰もいなくなったところで、ガンダムAGE-2 マッハの胴体にヒビが入りコックピットハッチが崩れる。

 

「……あの状態で最後まで勝ちに来たと言う訳か……これが万全の状態なら負けていたのは……」

 

 ダイモンはそこから先は敢えて言わなかった。

 互いの最後の一撃を制したのは間違いなくダイモンだ。

 だが、大我の最後の一撃は正確にガンダムAGE-2 マッハのコックピットを狙っていた。

 これがもし大我のバルバトス・アステールが万全の状態でバトルを始めていたのであれば、最後の一撃はコックピットを貫いていただろう。

 

「はっははは……リトルタイガーか……その名は覚えたぞ。次こそは俺が勝つ!」

 

 ダイモンはリトルタイガーの名を胸に刻みログアウトする。

 この採掘場での戦いは注目されていた為、リトルタイガーの名は戦いに乱入して大暴れをしたと言う悪名として更にGBN内に知れ割れたる事となった。

 



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皇女子高校

 熱砂の旅団と自由同盟の戦いの翌日、龍牙は授業後に明日香と共に部室に向かうとそこにはすでに静流が来ている。

 静流は部室に備え付けのPCを見ているようだ。

 

「神君。貴方、昨日部活が終わった後にGBNにログインしていたわよね」

「そうですけど」

 

 龍牙がそう言うと静流はPCのモニターを龍牙達に向ける。

 そこには掲示板サイトを見ていたようで、いつくかの書き込みが表示されている。

 

「何なんですか……コレ」

「……酷い」

 

 掲示板はGBNの運営が関わっていない非公式の物で、そこには昨日の熱砂の旅団と自由同盟との戦いに乱入したリトルタイガーの誹謗中傷がいくつも描きこまれている。

 

「色々書いてあるけど、ようやくするとリトルタイガーは荒らしに手を貸した悪質なダイバーって事ね」

「その戦い俺も偶然見てましたけど、藤城は確かに戦いに乱入してましたけど、別の旅団の方に肩入れしていた訳じゃなくて、両方を相手にしてましたよ」

 

 書き込みの内容は自由同盟を味方を装い騙し討ちで攻撃して来たや無抵抗のガンプラをいたぶるように弄った等、事実無根な書き込みが大半だ。

 

「でしょうね」

 

 静流も始めから信じてはいないようだった。

 少しでも大我の性格を知っていれば抵抗しない相手には興味は無く、大我の戦闘スタイルは強力な一撃で相手をガードごと粉砕すると言うもので弄るなどあり得ない。

 

「でもなんで……」

「まぁ……自由同盟がやられた腹いせで拡散したってところでしょうね。今のところ公式掲示板にはそこまで極端な書き込みはないようだから事実無根ならその内消えるでしょうね。それで当の藤城君は?」

「それが今日はアイツ休んでるんですよ。先生は体調不良だって言ってましたけど」

 

 今日、大我は学校を休んでいる。

 龍牙も連絡先を知らない為、休んでいる理由は教師の言う体調不良と言う事しか分からない。

 もしかすると昨日のバトルでダイモンに負けた事が理由なのかも知れないが、確かめる術は無い。

 

「そう……面倒な事をしでかしてくれないと良いのだけれど」

 

 書き込みが事実無根としても、ここまで誹謗中傷されれば大我も黙っていないかも知れない。

 下手をすると自由同盟と本格的に揉めると今後のGBNでの活動に影響が出かねない。

 

「皆、揃っては……いないな」

 

 そこに顧問の颯太と部長の史郎が入って来る。

 史郎は少し深刻そうな表情をしており、また厄介事なのかと静流は少し身構える。

 

「さっき学校の方に連絡があってね。皇女子高校からウチのガンプラ部を練習試合の招待したいって話しが来たんだよ」

「皇女子って……」

 

 龍牙は皇女子が去年の全国準優勝校である事だけではなく、昨日、クイーンことクレインと会っていた事もあり、クレインの事を思い出す。

 

「この時期にですか? それってウチの事完全に舐めてませんか?」

 

 静流は不機嫌だと言う事を隠そうともしない。

 向こうは強豪校でこちらは弱小校。

 本来ならば練習試合を組んですら貰えない。

 それなのに向こうから練習試合を申し込んで来ると言う事は大会前の調整と言う所で、同じ東京地区で組み合わせによっては当たる可能性もある星鳳高校には自分達の情報を少しでも見せても構わないと思っているのだろう。

 

「まだ正式な回答は保留しているから皆の意見を聞きたいと思ってる」

「僕は余りおすすめは出来ないな。相手は去年の準優勝校。調整とは言っても実力差があり過ぎる。今の僕達が戦っても自信を成すくだけかも知れない」

 

 皇女子との練習試合には史郎は乗り気ではないようだ。

 

「でも、それは分かっている事ですし、全国のトップレベルの相手と戦える機会は限られてきますから良い機会じゃないんですか?」

 

 対象的に龍牙は練習試合には乗り気だった。

 史郎の言うように実力差は明白だ。

 だが、自分達が皇女子に勝てると始めから思い上がっていなければ負けたところで自信を無くす事もない。

 それどころか、全国上位のチームと戦える事は全国の実力を知る機会でもある。

 

「そうね。舐められっぱなしでは引き下がる訳には行かないわね。でも、この事は藤城君には黙って置いた方がよさそうね。彼の事だから全国トップレベルのチームと戦えると知ったら何をしでかすか分からないから」

 

 静流は龍牙の意見に賛成のようだ。

 だが、この事は大我に伏せた方が良いと言うのが静流の考えだ。

 大我は全国トップレベルのチームと戦えるのであれば、確実に食いついてくるだろう。

 だが、食いつき過ぎて問題を起こしかねない。

 同時に大我の存在は星鳳高校の切り札でもある。

 ここで皇女子に大我の存在を見せつける事は地区予選で必要以上にマークされる危険性がある。

 

「分かった。神君や黒羽さんがそう言うなら僕も止めはしない。清水さんも良いよね」

「私は戦わないから龍牙や先輩達がそれでいいのなら」

 

 明日香の同意も得た事で星鳳高校としては皇女子高校との練習試合を正式に受ける旨を相手側に返し、練習試合が3日後の休みの日に決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから3日後龍牙達は颯太の引率の元、皇女子高校に向かっている。

 練習試合そのものはGBN内で行うが、招待されている以上は相手側の学校に行かないのは失礼になる。

 練習試合の申し込みから3日間、いかにして大我に知られないようにするか龍牙達は考えていたが、幸か不幸か、大我は3日間も体調不良を理由に学校を休んだ。

 流石にこれは大丈夫かと心配したが、龍牙達は大我の連絡先を知らない為、どうする事もない。

 

「あそこが皇女子だね」

 

 近くまではバスを使って移動をしてようやく皇女子高校が見えて来た。

 

「遅いぞ」

 

 星鳳高校ガンプラ部を待ち構えていたのは皇女子の生徒でも監督でも無く大我だった。

 大我は相変わらずの不機嫌そうな顔で一行を待っていたようだ。

 

「藤城! お前体調は大丈夫なのかよ? それに何でここに?」

「体調? 今日はここでバトルするんだろ? 3日かけてようやくバルバトスの調整も終わったんだ。今日のバトルは十分に戦える」

 

 大我は体調の事を心配されると少し怪訝な表情をするも、余り気にした様子はない。

 大我はこの3日間でガンダムバルバトス・アステールの全面的にメンテナンスを行っていた。

 GBN内のバトルで損傷したガンプラを修復する方法は大きく分けて2つある。

 一つはディメンジョン内にある工場やファクトリー等で仮想通貨を支払いNPDに修理を依頼する事だ。

 支払う金額に応じてガンプラの修理の期間が変わって来る。

 もう一つはログアウトして自分のガンプラをケアする事だ。

 そうする事で次回ログインした時にスキャンしたデータはケアの度合いにより修復される。

 大我は後者の方法で3日もかけて徹底してバルバトス・アステールのメンテナンスしていたようだ。

 同時に今まで誰も伝えてはいなかった皇女子高校との練習試合の事も知っているようだ。

 

「何してんだ。さっさと敵陣に乗り込むぞ」

 

 大我はすでにやる気十分でここで大我を返す理由も見つからない。

 一行は大我が問題行動を起こさない事を祈りながら皇女子高校へと向かう。

 学校に入る際に颯太が守衛に用件を伝えると中から一人の女生徒が出て来る。

 それを見た大我は少し視線を逸らすが、誰もその事に気が付いてはいない。

 女生徒は皇女子の制服を着ている事からもここの生徒である事は間違いないだろう。

 分厚い眼鏡に髪を後ろで束ねている。

 

「星鳳高校の方ですね。監督の方からみなさんを案内よるように言われました。如月千鶴です」

 

 そう言い千鶴は軽く会釈をしてちらりと大我の方に視線を向ける。

 それに気づいたのか大我は少し後ろの方で気まずそうにする。

 

「久しぶり。タイちゃ……藤城君」

「……そうだな」

 

 大我は普段の不機嫌だったり挑発するような態度ではなく、投げ槍に返事をする。

 そのやり取りから大我と千鶴は知り合いだと言う事は分かる。

 龍牙達は少なからず、視線で事情を説明して欲しいと言う事は大我には伝わった。

 

「……諒ちゃんの妹だよ」

 

 大我は完結に千鶴の事を説明した。

 確かに千鶴の苗字と諒真の苗字は同じ如月だ。

 そこまで珍しい苗字と言う程でも無い為、余り気にはしていなかったが兄妹と言う事らしい。

 そして、諒真と大我は親同士が仲が良い事から幼馴染である事は皆も知っている。

 つまりは、大我と千鶴もそうなのだろう。

 尤も千鶴と大我は諒真と大我のように仲が良いようには見えずどこかギクシャクしているようにも見える。

 

「そんな事よりも早く行くぞ」

 

 大我はこれ以上、この話しをしたくはないのか早々に切り上げさせようとする。

 

「……案内します」

 

 千鶴の案内で大我たちは校内を進む。

 皇女子高校は歴史が古いと言う訳でもなく、お嬢様学校と言う訳でもない。

 唯一誇れるところはガンプラバトルの強豪校と言う事くらいだ。

 

「アレが私達の部室です」

 

 千鶴の指さす方向には校舎から少し離れたところにある離れが見える。

 千鶴の口ぶりからすると、その離れの中にガンプラ部の部室がある訳ではなく、建物そのものそうなのだろう。

 

「相変わらずだな。あの爺さんも」

「そうね。流石に私もここまでとは思ってなかったわ」

 

 ガンプラ部の部室を見た大我が呆れたようにそう言う。

 それには千鶴も同意する。

 

「どういう事だ?」

「この学校は俺の爺さんの学校なんだよ。昔から女子高生とガンプラが大好きでな。ガンプラバトルの強い女子高ってのはまさに爺さんの理想郷って訳だ」

 

 大我の家族関係は誰も把握はしていない。

 皇女子高校が大我の祖父の学校だった事は誰も想像はしていなかった。

 

「藤城ってボンボンだったんだな」

「そうでもない」

 

 大我たちはガンプラ部の部室に到着すると、千鶴が中に案内する。

 入ってすぐにエントランスがあり、そこから更にいくつかの部屋に分かれている。

 

「ふっははははっはよく来たな! 星鳳高校ガンプラ部の諸君!」

 

 入ると否や何者かがそう言う。

 突然の不意打ちに龍牙達は戸惑う。

 声の主はエントランスに長机を置いてその上で腕を組んで踏ん反り返っている。

 千鶴と同じ制服だが胸のリボンの色が違う事から千鶴よりも上級生なのだろう。

 一方で大我と千鶴はため息を付いている。

 

「とう!」

 

 女子生徒そう言うと机から飛び降りて着地する。

 

「ここから先に行きたくは私を倒してか……」

 

 そこまで良いかけると恐らくは教師を思われるスーツ姿の女が女生徒の頭に拳骨を落とす。

 その後ろには大我と同じくらいの小柄の女生徒がボーっと立っている。

 

「余り我が校の品格を落とすような行動は止めるように言ったわよね」

「痛いよ。ママ! それって振りじゃん!」

 

 女生徒がそう言うと再度、拳骨が落ちる。

 

「学校では先生と言うように言っているでしょう。藤城さん」

 

 教師がそう言う。

 龍牙達は大我の方に視線を向ける。

 大我はあからさまに視線を逸らしている。

 

「なぁ……藤城」

「……言うな」

 

 大我の返答で何となく理解した。

 

「ちょっと大我! 何それ! 久しぶりに帰って来たと思ったらアンタ生意気よ! 昔はお姉ちゃんお姉ちゃんって私に懐いていたのに」

 

 龍牙達の予想通り目の前で騒いでいるのは大我の姉のようだ。

 そして、大我が姉に懐いている様子を思い浮かべ笑いを堪える。

 

「そんな過去は存在しない」

 

 後ろに控えていた女生徒がそれを否定する。

 

「大我は昔から私にぞっこんだから」

「そんな事実もない。珠ちゃんも姉ちゃんもいい加減にしとかないと死ぬよ」

 

 大我はそう忠告する。

 言い争っていた二人は心なしか青ざめている。

 

「……珠樹、貴音。貴女達、少し下がっていなさい」

「イッイエス! マム!」

 

 大我の姉である貴音は勢いよく敬礼して、もう一人の姉でもある珠樹と共にそそくさと下がる。

 

「失礼。うちの部員がお見苦しいところを。私が皇女子高校ガンプラ部監督の藤城麗子です」

 

 もはや龍牙達は驚く事は無い。

 ここまでの流れから察すれば彼女は大我の母親なのだろう。

 皇女子高校ガンプラ部にに2人の姉と母親が入れば、龍牙達がどんなに黙っていようと今日の練習試合の事は筒抜けなのはどうしようもない。

 

「星鳳高校ガンプラ部の顧問の桜庭です。今日はお招きありがとうございます」

 

 麗子も先ほどまでの事が無かったかのように挨拶を始め、颯太も極力気にしないように挨拶を返す。

 

「ちっ……何か仕掛けて来ると思っていたが、ここまでやるのかよ」

「何か?」

「……何でもない、です」

 

 麗子はあくまでも息子に対しての態度ではなく、練習試合に来た他校の生徒として大我に接する。

 

「では早速GBNの方にダイブしましょう。端末はウチの物を使って貰えば結構です」

 

 麗子と千鶴に案内されて大我たちは部室の中にあるダイブルームに通された。

 そこにはその名の通り、GBNにダイブする為の端末が設置されている部屋だ。

 強豪校ともなれば学校にGBNにダイブする為の端末を持っているところもある。

 ダイブルームにはダイブ用の端末が20人分程設置されており、壁には大型のモニターがあり、そこでGBNのバトルの様子等を見る事も出来る。

 

「うちとは大違いだな」

「当然だろ。ここはウチの爺さんが私財を使って作ってるんだ」

 

 同じガンプラ部でも星鳳高校は普通の部屋にPCが一台と後は模型誌等が置かれている本棚や簡単な作業台と部活で作ったガンプラが飾られているくらいだが、皇女子高校は部活としての規模がまるで違う。

 

「端末は好きな物を使って構いません」

「分かりました。それで練習試合の形式ですけど」

「そうですね……そちらのファイターの数は?」

「4人です」

 

 颯太がそう言うと麗子は少し考え込む。

 

「練習試合とはいえ勝敗があった方が生徒達のやる気も出ると思いますから、3戦行い内2勝した方が勝ちと言うもので先鋒と大将が1人、次鋒は2人で双方4人のファイターで行うと言うのはどうでしょう?」

「そうですね。こちらは構いませんよ」

 

 麗子の提案に颯太は二つ返事をする。

 星鳳高校からすれば元より実力は相手の方が上で今日は勝つよりも、皇女子高校の胸を借りる気で来ている。

 麗子の提案に対して大我は麗子を睨んでいるが、麗子は気にした様子はない。

 話しが纏まり、各自はGBNへとダイブする。

 

「さて……今日のバトルは昨日の打ち合わせ通りに行うわ」

 

 GBNにダイブした双方の学校はそれぞれ、最後の打ち合わせの為に離れた場所にいる。

 皇女子高校はレギュラーメンバーの10人がダイブして麗子から指示を受けている。

 

「私が先鋒で良いんだよね」

「ええ。分かっていると思うけど、貴女の役目は……」

「分かってるって」

 

 麗子に大我の姉の一人の貴音、ハンドルネーム「貴姉ぇ」が面倒臭そうに返事をする。

 皇女子高校は調整目的と思われているがそれとは別に思惑があった。

 その思惑において最も重要なのは先鋒を務める貴音だ。

 

「次鋒は如月さんと内山さんのお姉さんの方」

「了解です」

 

 クレインこと千鶴が返事を返す。

 次鋒戦以降はおまけでしかないが、場合によっては貴音の役目を引き継ぐ事もあり得る。

 

「大将は珠樹」

「分かった」

 

 珠樹ことハンドルネーム「タマちゃん」は相変わらずの無表情でコクリと頷く。

 部内ではマスコット的な扱いを受けている珠樹だが、ガンプラ部の部長で皇女子高校ガンプラ部、チームアリアンメイデンのエースである藤城姉妹の片割れだ。

 

「次鋒も大将も状況に応じて先鋒の仕事を引き継ぐ可能性はあるわ。バトルに出ない人達も大会で彼と戦う可能性がある以上は相手が弱小校だからと言って気を抜かないように」

「「「はい!」」」

 

 麗子がそう締める。

 客観的に見れば星鳳高校は全国を狙う事の出来ない弱小校で皇女子高校は全国優勝も狙える強豪校。

 その勝敗はどう見ても皇女子高校だろう。

 それでも彼女たちには一切の油断も慢心も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 皇女子高校が打ち合わせている頃、大我たちも軽い打ち合わせをしている。

 監督の麗子が中心となって作戦や方針を決めている皇女子とは対称的に星鳳高校は颯太は必要以上に口を出さずに生徒達が各々で思った事を口にして自分達でやりたいようにするスタンスを取っている。

 

「一発勝負じゃなければまだ私達にも勝ち目はありそうね」

 

 颯太から勝負の内容を聞かされて静流がそう言う。

 元々、勝ち目の少ない戦いだったが、バトルのルールが3戦中2勝すれば良いと言うものであれば勝ち目は出て来る。

 確かに皇女子は強いが、その最大の強さはチーム力だ。

 当然、ここの能力もレギュラーメンバーは皆他校なら余裕でエースを任されるレベルだ。

 しかし、個人の実力で言えば星鳳高校にも大我と静流がいる。

 大我と静流が出たバトルで勝てば2勝する事が出来る為、勝算としてじゃ十分だ。

 後はその2人が出るタイミングが重要だ。

 

「先鋒が俺が出る」

 

 大我が真っ先にそう言う。

 

「そうだね……藤城君と黒羽さんは個人で出た方が良いと思う。黒羽さんはどう?」

「妥当なところね」

 

 2勝する事を視野に入れると大我と静流を次鋒で組ませる事は出来ない。

 二人が組めばほぼ確実に次鋒は勝てるだろうが、史郎と龍牙ではどちらかが一人で勝つ事は難しい。

 かと言って、どちらかを次鋒のした場合、最悪の場合、皇女子のファイターと2対1で戦わなければならなくなる。

 そうなれば二人で2勝する事も難しい。

 そうなると確実に1対1で戦える先鋒か大将戦しかない。

 

「神君は僕と一緒に次鋒だけどいいかな?」

「はい。よろしくお願いします!」

 

 龍牙も史郎とのタッグで出る事には異存はないようだ。

 

「それじゃ話しもまとまったようだから行こうか」

「皆! 頑張って!」

 

 星鳳高校も話しが纏まり、フリーバトルで受け付けに申請を出してバトルが開始される。

 先鋒戦の大我と貴音は自分のガンプラでバトルフィールドに出撃し、他の生徒達は皆観客席にアバターが転送される。

 今回のバトルは皇女子高校側の要望でバトルの閲覧は関係者のみで設定されている。

 

「さて……どうでる? 母さん」

 

 バトルフィールドは宇宙で周囲には小惑星帯もなければデブリもないオーソドックスな宇宙フィールドがランダムで決まった。

 大我は周囲を警戒しながら先に進み、敵を探す。

 

「本当に先鋒で来た。流石はママ」

「……姉ちゃんか。俺としてはタマちゃんが良かったんだけどな」

「うわぁ……生意気。生意気な馬鹿弟には私で十分だってママは思ったのよ」

 

 貴音のガンプラはガンダムキマリス・ヴィダールのようだが、見た限りでは特別な改造はしていない。

 

「やっぱそう言う事か」

 

 大我は貴音の発言とガンプラが改造機ではない事から自分の想像が正しいと言う事を確信していた。

 今日の練習試合は皇女子高校の大会前の調整などではない。

 始めから地区予選において最も厄介な敵である大我の実力を把握する為だ。

 大我は10年近くの間、父親に付いて世界各地を回っていた。

 その間に連絡を取ったり、会ったりしていたが、ガンプラバトルの実力は完全に把握している訳ではない。

 そんな中、大我が日本の高校に入り、ガンプラ部に入部した事を知り、今年は地区予選に出る事も麗子は知ったのだ。

 更には先の熱砂の旅団と自由同盟との戦いに乱入した際の映像を千鶴から見せられて、元々実力がある事は知っていたが、実際にバトルの映像を見て無視できない相手だと認識した。

 そこで学校から正式に星鳳高校に練習試合の申し込みと入れたのだった。

 龍牙達が教えなかった練習試合の情報を教えたのも大我が確実に参加する為で、向こうは大我が先鋒戦に出る事も読んでいた。

 先に2勝すれば勝ちと言うルールでは3戦目は行うかは分からない。

 ここまでのやり取りで麗子は大我の性格的に星鳳高校のガンプラ部では馴染んでいない事を見抜いた。

 馴染んでいなければ大我は他の部員の事は一切、信用しない為、自分が確実に戦える先鋒か次鋒のどちらかに出る。

 そして、次鋒をタッグ戦にする事で大我は足手まといと共に戦う事を嫌い先鋒戦に出ると予測した。

 その上で、チーム戦や大会で使用する改造したガンプラを使わないのは自分達の情報を大我に見せない為だろう。

 練習試合を非公開にしたのも、このバトルを他校の偵察の目に触れさせたくはないのだろう。

 

「まぁ良い。誰が相手だろうとどんな思惑があろうと、俺はただ目の前の敵をぶっ潰すだけだ」

 

 バルバトス・アステールはバーストメイスを構えて突撃する。

 キマリス・ヴィダールはドリルランスの200ミリ砲で迎撃する。

 シールドスラスターで防ぎながら距離を詰めてバーストメイスを振るう。

 それをキマリス・ヴィダールは持ち前の機動力でかわす事なく2枚のシールドで受け止めようとする。

 観客席の龍牙達はそれを見て、勝負は決まったと思った。

 これまで大我のバルバトス・アステールのバーストメイスの一撃は相手のガードごと相手を叩き潰して来た。

 まともに正面から受ける等、自殺行為でしかない。

 しかし、キマリス・ヴィダールはシールドのアームを使って衝撃を上手く殺してバルバトス・アステールの攻撃を防いだのだ。

 

「はい。残念でした!」

 

 キマリス・ヴィダールは200ミリ砲を撃つ。

 攻撃を防がれたバルバトス・アステールは再度接近するが、やはりバーストメイスの一撃はキマリス・ヴィダールに衝撃を殺されて防がれる。

 

「またまた残念! 無駄なのよね! 所詮、姉より優れた弟はいないってね!」

 

 キマリス・ヴィダールはドリルランスを突き出して突っ込む。

 改造こそされていないが、その分細部をしっかりと作り込んでいるキマリス・ヴィダールは元々の特徴である機動力はバルバトス・アステール以上だ。

 キマリス・ヴィダールの突撃をかわしたバルバトス・アステールはテイルブレイドを差し向ける。

 

「一々うるさいんだよ。姉ちゃんは」

 

 キマリス・ヴィダールは足を止めて、テイルブレイドをドリルランスで弾く。

 その間に距離を詰めていたバルバトス・アステールはバーストメイスを振るうが、これもキマリス・ヴィダールは正面から防ぐ。

 

「だから聞かないっての!」

「ちっ」

 

 キマリス・ヴィダールは一気に加速すると200ミリ砲で牽制しながら突撃する。

 

「不味いわね」

 

 観客席ではバルバトス・アステールの攻撃が通用しない事に誰もが驚きを隠せない。

 大我の姉である時点で、藤城姉妹はアリアンメイデンのエースとして有名である為、実力がある事は知っていたが、大我を相手にここまで優位に戦えるとは思っていなかった。

 

「藤城君は多分、意地になっているわ」

 

 静流はさっきから大我が執拗にバーストメイスの一撃を繰り返す事をそう判断する。

 

「意地ですか?」

「ええ。あの手の自分の実力に絶対の自信を持っているタイプのファイターが自分の戦い方が通用しない相手と戦った時に陥る事があるのよ。自分のやり方が通用しない事を認められずにね」

 

 大我の戦闘スタイルはバーストメイスによる一撃必殺。

 他にも色々な武器をガンプラの各部に装備されているが、メインはそれだろう。

 今まで一撃で敵を叩き潰して来た戦い方が貴音にはまるで通用しない。

 大我は今までそれで勝って来た事による意地で、戦い方を変えようとはしないのだろう。

 

「どうすればいいんですか?」

「そうね。認めるしかないわ。今の戦い方では勝てない。だからちっぽけなプライドを捨ててやり方を変えてないと……それでも彼の実力ならまだ勝ち目はある。早いところその事に気がつかないと負けるわ」

「……何やってんだよ。藤城……」

 

 観客席からは大我に言葉を伝える事は出来ない。

 龍牙は大我が気に入らなくても、このまま大我が何も出来ずに負ける姿等もう見たくはない。

 

「ほんと……頑固なところは変わってないんだから」

 

 キマリス・ヴィダールはシールドでバルバトス・アステールの一撃を無効化する。

 

「そろそろ諦めて欲しんだけどさ」

 

 防がれても尚、バルバトス・アステールはバーストメイスを振るい続ける。

 

「ママに言われたからやっているけど……メッチャ怖いんだからね!」

 

 貴音はすでに10回以上もバルバトス・アステールの攻撃をシールドで衝撃を殺して防いでいる。

 傍目からは簡単にやっているようだが、攻撃を受ける時のタイミングが少しでもづれると、防げずに一撃で負ける。

 本来ならば、機動力を活かして攻撃は全てかわしたいが、麗子からの指示でそれは出来ない。

 

「アンタもいい加減に意地にならないで諦めなさいっての!」

 

 キマリス・ヴィダールは200ミリ砲を撃つ。

 何度も何度も攻撃を防がれても尚、大我は戦い方を変えようとはしない。

 それは静流も言っているように意地だ。

 

「うるさいんだよ。俺達は誰であろうと道を遮る奴はぶっ潰して前に進むと決めた。だったら、ビッグスターのエースとして俺は! 何があろうとも意地張って意地を貫き通して目の前の敵は全てぶっ潰さないといけないんだよ!」

 

 バルバトス・アステールはバーストメイスを振いキマリス・ヴィダールはそれを防ぐ。

 

「だから……どけよ。俺の道から!」

 

 攻撃を防がれてもバルバトス・アステールはバーストメイスを振るおうとする。

 攻撃を受けようとした時、貴音はふとガンプラの状態が目に入る。

 損傷はないが、10回以上も攻撃を防ぎ続けて来た事は蓄積して来たダメージでシールドとシールドのアームが限界に近づいていた。

 

「……やってられるか!」

 

 バーストメイスの一撃をキマリス・ヴィダールは遂にシールドで防ぐのではなく回避した。

 これ以上は攻撃を正面から受け続ける事は出来ないと貴音は判断した。

 何度防がれても、意地で攻撃し続けて来た大我の意地が勝った瞬間だった。

 

「バーカ! バーカ! 意地になっちゃってさ! 勝負はここからだかんね」

 

 攻撃をかわして加速して距離を取ろうとするキマリス・ヴィダールだが、衝撃と共に機体の速度が落ちる。

 

「逃がすかよ」

 

 キマリス・ヴィダールが攻撃をかわした瞬間にバルバトス・アステールはテイルブレイドをキマリス・ヴィダールの足に巻き付けた。

 それによりテイルブレイドのワイヤー以上の距離を取れなくなっていた。

 

「ああもう! 無理やりどけさせておいて! 今度は!」

 

 キマリス・ヴィダールは反転すると、一気に加速してバルバトス・アステールに突撃する。

 十分に勢い乗った上でドリルランスを突き出して突っ込む。

 その一撃をバルバトス・アステールは肩のシールドスラスターで受け止めようとする。

 

「守ったってね!」

 

 バルバトス・アステールはシールドスタスターで真っ向から受けるのでなく、少し角度をつけて受け止める事で、キマリス・ヴィダールの突撃の逸らした。

 そのせいでシールドスラスターは破壊されたもののキマリス・ヴィダールの勢いを殺す事は出来た。

 それは完全に今まで自分がやって来た事に対する大我からの意趣返しなのだろう。

 

「捕まえた」

 

 バルバトス・アステールはドリルランスを掴む。

 すぐにドリスランスを回転させて掴んでいる手を弾こうとするが、バルバトス・アステールはガッツリと掴んでおりドリルランスの回転機構が機能しない。

 そして、バルバトス・アステールは膝のドリルニーでキマリス・ヴィダールの胴体を狙う。

 キマリス・ヴィダールはドリルランスを手放してドリルニーを回避する。

 

「本当にママの血を引いているだけだって性格悪いんだから!」

 

 自分がやられた事でやり返しただけでなく、ドリルニーは元々は自分の使っているキマリス・ヴィダールの装備を流用してている。

 キマリス・ヴィダールは一度距離を取り、腰の刀を抜いて動きを制限しているテイルブレイドのワイヤーを切断しようとする。

 しかし、バルバトス・アステールは持っていたドリルニーを投げてキマリス・ヴィダールの刀を弾き飛ばす。

 

「逃がさないって言ったろ?」

 

 刀とドリルランスを失ったキマリス・ヴィダールをテイルブレイドのワイヤーを巻き戻して一気に引き寄せる。

 

「久しぶりに姉弟でバトルをするんだもっと姉弟のスキンシップをしようぜ。姉ちゃん」

 

 バルバトス・アステールは両手でしっかりとバーストメイスを握る。

 

「馬鹿大我!」

「ぶっ潰す!」

 

 今まで鬱憤を晴らすかのようにバルバトス・アステールは全力でバーストメイスを振るう。

 キマリス・ヴィダールはせめてもの最期の抵抗で2枚のシールドで身を守るが、今までのようにタイミングを合わせて衝撃を殺す事など出来ず、バーストメイスは2枚のシールドごとキマリス・ヴィダールを粉砕した。

 

 

 

 



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約束

 星鳳高校と皇女子高校との練習試合は一戦目の先鋒戦は大我と貴音の姉弟対決となり、勝敗は弟の大我の勝利で終わった。

 バトルが終わった貴音は観客席へと戻って来る。

 

「うぅぅぅ……大我の癖に」

 

 貴音は大我に負けた事を根に持っているようだ。

 バトルを見ていた他のレギュラーたちもチームのエースの片割れである貴音が大会用のガンプラではなかったにしても負けた事で、麗子がわざわざこのバトルをセッティングした理由を改めて実感させられる。

 

「良くやったわ」

「ぐっじょぶ」

 

 負けて戻って来たものの麗子の反応は負けて戻って来たとは思えない。

 麗子にとってはバトルの勝敗はどうでも良い。

 これは公式戦ではなく練習試合でバトルの目的は勝ち負けではなく大我のバトルのデータを取る事だ。

 勝負にこそ負けたが貴音はその役目を想定以上の結果を出した。

 元々、貴音を大我にぶつけたのは大我の攻撃を真っ向から受け止めるだけの技術があるだけではなく、昔から貴音は大我の事を良く構っていた。

 余りにも構い過ぎて当の大我からは鬱陶しく思われる程にだ。

 その上、大我に対してやたらと対抗意識を燃やす事もあり、大我も大我で張り合う事が多かった。

 だからこそ、貴音を大我にぶつける事で大我がいつも以上に意地になり易い状況を作った。

 麗子の目論見通り、大我はこちらの思惑に気が付きながらも意地を張って貴音が根負けするまで攻撃を続けた。

 更には貴音にやられた事をやり返す等、大我の戦闘データは当初の目標以上の物を得られた。

 

「ちーちゃん! お姉ちゃん! カスミン先輩! 私の仇を取って残りのバトルでアイツ等をボッコボッコにして頂戴!」

「と言っていますが、先生。どうします?」

 

 目的は十分に果たしたものの負けた事で貴音はあからさまに機嫌が悪い。

 千鶴は貴音の言う通りにしても良いものか指示を仰ぐ。

 

「そうね。今回の目的はすでに達したわ。とはいえこのまま向こうに勝ちこされて調子づかせると言うのも面白くはないわね……良いわ。こちらの情報を多少渡したところで向こうには活用する事は出来ないでしょうから、潰して来なさい」

 

 大我の戦闘データを収集した事で皇女子の目的は達成している。

 次鋒戦で手を抜いてわざと負けたところで問題はない。

 しかし、勝ち目のなかった皇女子高校に練習試合とはいえ勝ったともなれば星鳳高校は自信を付けて勢いに乗るだろう。

 その勢いと維持したまま地区予選に入り、自分達と当たる事になれば厄介な事になり兼ねない。

 そうなるくらいならここで多少自分達の手の内を明かしたとしても、確実に勝利して星鳳高校の勢いを止めておいた方が良いと判断した。

 

「了解です」

「分かりました」

 

 皇女子高校とての次の方針が決まり、次鋒戦に出る二人はガンプラのある格納庫に移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴音と同様にバトルの終わった大我も観客席に戻る。

 勝って帰って来た大我は勝つのが当然かのように相変わらずだった。

 

「藤城!」

「うるさいな」

 

 バトルを見ていた龍牙は大我の戦い方が通用しない事で勝てないかも知れないと思っていたところからの逆転勝利でテンションが上がっているようだ。

 

「次はお前と沖田だろ。ウザいからさっさと行って来いよ」

「おう! 部長と勝って来てやるからな!」

「そうだね。僕達も行こうか」

 

 気合十分の龍牙を落ち着かせながら史郎と龍牙は格納庫に向かう。

 

「藤城君はどう思う?」

「無理だろ」

 

 二人が居なくなったところで、静流が切りだす。

 それを大我は考える間もなく返す。

 

「個々の能力で劣る上にアリアンメイデンは連携が得意なチームだ。アイツらにまともな連携なんて取れないのに勝てる訳が無い」

「そんな……大丈夫ですよね。黒羽先輩?」

 

 明日香は不安そうに静流を見るが、静流は何も答えない。

 静流も大我程はっきりとは言いたくはないが、次鋒戦は正直厳しいとは思っている。

 幾ら龍牙の気合が十分でも個人の実力はそう簡単に気合では覆す事は難しい。

 今回はタッグ戦である為、連携次第では個人の実力差を覆す事は出来るが、向こうは連携に長けたチームだ。

 龍牙も史郎もこれまでまともに連携の練習をしていない為、連携でどうにか出来る事も期待できない。

 

「まぁ、望みがあるとすれば今日のバトルを捨てている事くらいか」

 

 大我は向こうの狙いが自分だと言う事は知っている。

 先ほどのバトルで向こうの目的は果たしているのであれば次のバトルは適当に戦って負けて練習試合を終わらせる可能性もあり得る。

 それならば二人の個人の技術や連携の練度に関わらず勝てるだろう。

 そして、バトルが開始される。

 

「如月さん。前衛は私がやるから援護をお願い」

「了解。副部長」

 

 皇女子の次鋒は千鶴と副部長の内山香澄だ。

 千鶴のガンプラはガンダムグシオンリベイクフルシティで香澄のガンプラはレギンレイズ(ジュリエッタ機)だ。

 千鶴は入学して間もない為、香澄と本格的に組むの初めてだが、香澄は不安には思っていない。

 クレインとして中高生部門のランキングで3位と言う目に見えた実力者である事を示していると言うのもあるが、アリアンメイデンにとっては入学してすぐにレギュラー入りするのは今年で3度目の事だと言うのもある。

 香澄が入学してすぐに名門であるガンプラ部に入部した。

 入ってすぐに同級生である珠樹が即レギュラー入りと果たした。

 当時は珠樹は監督の娘である事から先輩からに反発も多かったが、元々のマイペースで余り気にする事も無く、一月もすれば実力でエースの座を勝ち取った。

 翌年には珠樹の妹である貴音が入って来た。

 去年とは違い即レギュラー入りした貴音に対して上級生は珠樹の前例もあり、珠樹の妹として不満よりも期待が大きかった。

 その期待を裏切る事無く、貴音は珠樹とは違うタイプのエースとして認められた。

 そんな事もあり、千鶴がレギュラーに入る事に不満を持つ生徒はいない。

 

「副部長。来ます」

「分かったわ」

 

 千鶴がレギュラーである事に不満はないが、まだリアルとGBNでの千鶴とクレインの差に慣れない。

 リアルでの千鶴は後輩としての可愛げがあるが、GBNでのクレインはリアルの時とは違い凜としており、自分の方が後輩であると言う立場は変わらないが、普段との言動との違いに違和感を捨てきれない。

 尤も、GBN内においてアバターを使うシステム上、現実世界とは違うキャラになり切ってプレイするダイバーは少なくはない。

 モニターには先陣を切るバーニングデスティニーと少し後ろにはガンダムAGE-3 フォートレスが映されている。

 バトルフィールドは荒野だが、近くには廃墟もある。

 香澄は廃墟へと入り、バーニングデスティニーとAGE-3フォートレスを迎え撃つ。

 

「見つけた!」

 

 龍牙達も廃墟に入るレギンレイズを補足すると加速して追いかける。

 レギンレイズの後ろを取り仕掛けようとする。

 

「捉えた」

 

 加速し、殴りかかろうとした瞬間に真横から銃弾を撃ち込まれる。

 

「何!」

 

 威力はさほどではないが体勢を崩している間にレギンレイズは反転してツインパイルで殴りかかって来る。

 それをバーニングデスティニーはビームシールドで受け止めると、もう片方の腕で殴りレギンレイズはツインパイルで防いで少し後ろに飛び退く。

 

「この程度でやられる程ではないわね」

 

 レギンレイズはツインパイルを構えて接近する。

 龍牙は狙撃された事で、注意が目の前のレギンレイズに集中出来てはいない。

 そのせいでレギンレイズのツインパイルの連続攻撃を防ぐので精一杯だ。

 

「神君!」

 

 史郎はガンプラをホバー移動させながら、援護しようと試みる。

 だが、レギンレイズまでの射線上にはバーニングデスティニーがいる為、シグマシスキャノンを撃ち込む事が出来ない。

 攻撃が出来ない為、建物を迂回しながら移動するが、移動して援護しようとするとそこにはレギンレイズとの間にはバーニングデスティニーがいる為援護射撃が行えない。

 

「副部長。次は3時方向から回り込んできます」

「了解」

 

 史郎が援護を行えないのは偶然ではなかった。

 離れたところから千鶴のフルシティが戦場の様子を把握して、逐一香澄に報告し、香澄が戦いながらバーニングデスティニーをAGE-3フォートレスの射線に入るように誘導しながら位置取りをしているからだ。

 それに関しては情報を伝えている千鶴も関心していた。

 アリアンメイデンは藤城姉妹が目立っているが、副部長である香澄も国内ランキングでは50位を切るだけの実力は持っている。

 

「くそ!」

「神君。何とか援護するから持ちこたえて!」

 

 レギンレイズと攻防を繰り広げられるバーニングデスティニーを何とか援護しようと移動するAGE-3フォートレスだが、突如ビルが崩れて道を塞ぐ。

 それをシグマシスキャノンで破壊して先に進むがやはり、援護しようにもバーニングデスティニーの背が見える。

 先ほどのビルの倒壊は香澄の位置取りが間に合わないと判断した千鶴がビルをロングライフルで狙撃して時間を稼ぐ為でそのお陰で位置取りは上手く言っている。

 

「このままじゃ……神君! 少し強引だけど避けて!」

 

 AGE-3フォートレスは4門のシグマシスキャノンを同時に放つ。

 バーニングデスティニーは飛び上がり砲撃を回避して、レギンレイズも飛び上がり回避する。

 

「流石にこれ以上は時間を稼がせてはくれない訳ね」

 

 味方を巻き込みかねない攻撃だが、香澄は動揺した様子はない。

 相手が余程間抜けでもない限りはいつまでもこちらの手の平で踊り続けてはくれず、いつかは強硬策に出て来る事は分かっていた。

 空中に逃れたレギンレイズは落ちる前にスラスターを全開にしてバーニングデスティニーに突っ込む。

 

「来い!」

 

 バーニングデスティニーは拳を構えて迎え撃とうとする。

 だが、レギンレイズの後方から放たれた銃弾はレギンレイズの頭部スレスレを通りぬけてバーニングデスティニーに直撃した。

 

「うぁ!」

「神君!」

 

 レギンレイズは狙撃されたバーニングデスティニーを踏み台にすると後ろのAGE-3フォートレスに向かう。

 

「部長!」

 

 シグマシスキャノンで応戦するが、レギンレイズは懐に入るとツインパイルの連続攻撃を繰り出す。

 何とかシグマシスキャノンの砲身で防ぐが、接近戦ではAGE-3フォートレスの火力は活かせない。

 その間にバーニングデスティニーが援護に入り、レギンレイズはAGE-3フォートレスを蹴り飛ばしてバーニングデスティニーの相手をする。

 

「この野郎!」

 

 バーニングデスティニーの拳をレギンレイズは確実にいなし、バーニングデスティニーの蹴りを体勢を低くしてかわすとツインパイルの一撃を入れる。

 ダメージは少ないが、追撃をいれようとするとAGE-3フォートレスが突進して来た為、攻撃を中止してAGE-3フォートレスにすれ違いざまに一撃入れる。

 

「たった一機でこれかよ」

「藤城君が勝ったから僕達も舐めていたみたいだね」

 

 先鋒戦で勝って勢いは付いたものの、それは同時に自分達でも勝てるかも知れないと言う慢心も生まれていた。

 千鶴の狙撃があるものの実際には2対1でもここまで圧倒される。

 これが全国大会準優勝校の実力なのだろう。

 

「けど、それが分かったって事はまだやれるって事ですよね」

 

 バーニングデスティニーは体勢を整えると拳を構える。

 レギンレイズも受けて立つを言わんばかりにツインパイルを構える。

 2機は地を蹴り互いにぶつかり合うと思いきや、突如横から千鶴のフルシティが変形させたリアアーマーでバーニングデスティニーに突っ込む。

 

「何!」

「神君!」

「悪いがこれはタッグ戦だ」

 

 バーニングデスティニーは身を守る事無く、フルシティの巨大なハサミに挟み込まれる。

 何とか逃れようとするも両腕は挟み込まれている為、身動きは出来ない。

 足をばたつかせようにも上から押し込まれるようにされて足は動かせずに頭部はバルカンを使えないようにフルシティのサブアームで抑え込まれている。

 

「副部長を相手に頑張ったようだが……ここまでだ」

「ちくしょう!」

 

 目の前のレギンレイズに手一杯で狙撃手にまで気が回らなくなり、その間にフルシティは近くまで接近させていた。

 自身の迂闊さに気が付いたところでもう遅い。

 史郎のAGE-3フォートレスはレギンレイズが抑えて援護は出来ない。

 自信も抵抗する術がない。

 後はただフルシティのハサミに胴体から真っ二つに切断されるだけだった。

 

「後は貴方だけね」

 

 AGE-3フォートレスは後退しながらもシグマシスキャノンを撃って接近させないようにする。

 

「副部長。援護します」

「お願い」

 

 バーニングデスティニーを仕留めたフルシティはサブアームに持たせていたロングライフルを持つと狙いをAGE-3フォートレスに定める。

 AGE-3フォートレスも蛇行しながら狙いを定めさせないようにしているが、この距離なら千鶴には止まっているも同義だ。

 フルシティの銃弾がAGE-3フォートレスの脚部に直撃するとホバー機能が止まり、AGE-3フォートレスは尻餅をつくように地に落ちる。

 

「終わりね」

 

 レギンレイズは飛び上がりAGE-3フォートレスに襲い掛かる。

 AGE-3フォートレスは腕のシグマシスキャノンを向けるがフルシティの射撃でシグマシスキャノンは破壊されて反撃が出来ない。

 ツインパイルがAGE-3フォートレスの胴体に突き刺さろうと言う瞬間にAGE-3フォートレスはGホッパーとコアファイターの分離してコアファイターは空中に逃れる。

 ツインパイルはそのままGホッパーに突き刺さる。

 

「しぶといわね」

「私がやります」

 

 何とかレギンレイズの一撃を回避したが、千鶴のフルシティの射程内であり、ロングライフルで狙いを付ける。

 コアファイターは通常のMSよりも小さくても、千鶴には何の問題もない。

 フルシティは何発かロングライフルを放ち、全てがコアファイターに正確に命中してコアファイターはあっけなく撃墜された。

 

「相変わらず怖いくらい正確な射撃ね」

「恐れ入ります」

 

 バーニングデスティニーとAGE-3フォートレスを撃墜して次鋒戦は皇女子高校の勝利となる。

 

「すんません! 負けました!」

 

 観客席に戻った龍牙は開口一番頭を下げる。

 

「相手は皇女子だからね。良くやったと思うよ」

「流石としか良いようはないね」

 

 颯太と史郎がそう言う。

 一方の大我はこの結果は当然の事で始めから負ける事は分かっていたが、それ以前に龍牙達が勝とうと負けようとも自分の出番が終わったから興味はない。

 

「私が仇を取って来るわ」

「最後に出て来るとすれば珠ちゃんだ。珠ちゃんは静流よりも強い。精々気を付けろよ」

「忠告感謝するわ」

 

 バトルの前にはっきりと自分よりも強いと言われた静流だが、自然と嫌な気分にはならなかった。

 大我は言動には大きな問題があるが、ガンプラバトルにおいては良くも悪くも遠慮も嘘もない。

 だからこそ、自分よりも強いとはっきりと言われて、逆にランキング7位と言う肩書を捨てて弱小校の一人として強豪校のエースに挑む事が出来る。

 静流は格納庫へと向かう。

 

「練習試合とはいえ緊張しますね」

「そうだね。藤城君。君の目から見てどうなると思う?」

「珠ちゃんの勝ちは固い。だけど、これまでの2戦と同じように大会用のガンプラやチーム外で使う珠ちゃんの個人戦用のガンプラを使わなければ静流の実力ならそれなりのバトルにはなるんじゃないか」

 

 大我も部の中で静流の事だけはそれなりの実力者として認識はしているようだ。

 練習試合とはいえ勝敗のかかった大将戦が始まる。

 大将戦のバトルフィールドはデブリベルト。

 可変機である静流のガンプラでは機動力が活かし辛いフィールドではある。

 

「まずは相手の出方を……」

 

 フィールドに入り静流は敵影を探そうとするが、以外とすぐに見つかった。

 

「ガンダムバエル。接近戦に特化したタイプ……なら!」

 

 モニターに映されたガンプラはガンダムバエル。

 ここまでの戦いのように独自の改造はされていない。

 手持ちの武器も持っていないところから、武器は2本のバエルソードとウイングの電磁砲のみで接近戦に特化しているだろう。

 静流は足を止めるとGNスナイパーライフルⅡで狙いを定める。

 アリオスガンダム・レイヴンの狙撃をバエルはバエルソードを抜き、バエルソードの刃でビームを弾く。

 

「見つけた」

 

 狙撃の方向から向こうも静流の方向を把握したのかバエルは両手にバエルソードを持ち向かって来る。

 アリオスガンダム・レイヴンはGNスナイパーライフルⅡで狙撃しながら迎撃するが、バエルはデブリを盾にするかバエルソードでビームを切り払いながら向かって来る。

 

「速い!」

 

 バエルはデブリ等まるでないかのように突き進む。

 全てのデブリを紙一重のところでかわしているのだ。

 アリオスガンダム・レイヴンの迎撃も空しく、バエルは自分の距離まで近づくとバエルソード振るう。

 アリオスガンダム・レイヴンはかわすとGNスナイパーライフルⅡを3連バルカンモードに切り替えて迎え撃つ。

 

「無駄」

 

 バエルはデブリの影で姿を隠しながらいつの間にか後ろに回っており、バエルソードを振るう。

 静流はガンプラを高速飛行形態に変形させて回避する。

 攻撃をかわされたバエルは電磁砲を撃って追撃する。

 バエルの追撃から逃れる為にGNミサイルで弾幕を張り、ミサイルを撃ち尽くすとコンテナをパージする。

 GNミサイルをある程度は電磁砲で撃ち落として、バエルソードですれ違い様にGNミサイルを切り裂いていく。

 ミサイルコンテナば爆発して目暗ましとなる。

 

「とにかく、距離を稼いで……」

 

 相手が近接戦闘に特化しているのであれば距離を取っての遠距離攻撃で攻めるのが定石。

 静流はバエルから距離を取ろうとするが、いつの間にか先回りをされていた。

 

「先回りされた!」

 

 バエルはバエルソードを振るいアリオスガンダム・レイヴンはMS形態に変形するとビームサーベルで受け止める。

 もう片方のバエルソードがアリオスガンダム・レイヴンの頭部に迫り、ギリギリのところで回避すると再び高速飛行形態になって離脱する。

 

「流石はアリアンメイデンのエース。弟と同じで厄介ね」

 

 以前に大我と戦った時も自分の打った手がことごとく潰されて負けた事を思い出す。

 今もあの時と同じようにジワジワと自分が追い詰められていく感覚がしている。

 そう思っているとデブリの影からバエルが飛び出して来る。

 

「っ! 何で!」

 

 考えるよりも先に静流はMS形態に変形すると急制動をかけると再び変形して進行方向を強引に変えて逃げる。

 

「どうしてさっきから……」

 

 機動力では自分の方が勝っている。

 それでも珠樹のバエルは自分の進行方向に先回りをしている。

 そのカラクリを考える間も無くバエルは先回りをする。

 

「……鬼ごっこは好き」

「冗談じゃないわよ」

 

 何度もバエルの奇襲をかわしている内にアリオスガンダム・レイヴンはデブリの多い方へと追い込まれて行く。

 やがて、バエルの奇襲をかわし切れなくなり、GNスナイパーライフルⅡがバエルソードの餌食になり破壊される。

 

「何で……さっきから先輩の行く先々に先回りしてるんだよ」

 

 観客席でもモニターからバエルが消えたと思うといつの間にか先回りしていて龍牙は困惑している。

 

「直線的な速度では静流のアリオスの方が上だろう。だが、あの手の可変機は機動力は高いが動きが直線的になりがちだ。特にデブリベルトのようなフィールドじゃ機動力を殺さずに移動するにはコースが限られて来る。珠ちゃんはデブリの位置を把握してアリオスが動いた瞬間にアリオスの移動できるルートを読んでそこまでを最短ルートで先回りしてるんだよ」

「そんな事が可能なの?」

「可能だよ。珠ちゃんならね」

 

 大我はそう言い切る。

 珠樹にはそれだけの能力がある事を大我は知っているからだ。

 

「珠ちゃんは俺達の中で最も早くガンプラバトルを始めている。その中でも俺達よりも母さんの影響が強い」

「藤城の母ちゃんで向こうの監督だよな」

「藤城麗子……もしかして、あの人って皇麗子?」

 

 颯太は大我の母親の事で思い当たる節があるようだ。

 

「そう。皇麗子。かつて伝説となったチームビルドファイターズの参謀。チームが勝つ為ならGBNの規約や法律、倫理やマナーに反しない限りはあらゆる手段を使って相手を追い詰めチームを勝たせようとしていた鉄血の女。余りにも冷酷無比な戦い方から見方からも恐れられて、チームのエースから畏怖を込められて付けられた異名が冷血眼鏡」

 

 大我の母親はかつてGBNで誰もが知っている伝説のチームの一人だった。

 そんな麗子の影響を受けている。

 

「ちなみにその異名を付けたのが俺の父親だ」

「成程……藤城大悟。道理で君たちが同年代の中ではずば抜けているはずだ。それに君の戦い方は確かに藤城大悟の面影があるよ」

 

 颯太が一人で色々と納得する。

 大我を含む藤城家は皆、伝説となっているビルドファイターズのエースと参謀の血を引いている。

 単純な血筋よりも物心ついたときからガンプラに触れ、ガンプラバトルに触れ、彼らのバトルを受け継いでいるとなればこれ程の力を持っているのも納得だ。

 特に大我はビルドファイターズのエース、藤城大悟の戦い方に良く似ている。

 颯太も過去のバトルを映像でしか見た事は無いが、藤城大悟はガンダムバルバトスを使いあらゆる相手をメイスにて粉砕して来た。

 大我もまた同じようにバーストメイスで敵を粉砕している。

 

「話しを戻すと、そんな血も涙もない冷酷な母さんの戦闘スタイルを受け継いだ珠ちゃんは見た目の愛らしさからは想像も出来ない相手の手を潰して追い詰めるえげつない戦い方をする。静流のような器用貧乏なタイプのファイターだと手をどんどんと潰されてやられるのは時間の問題だな」

 

 大我の言うように静流は先回りされる時間が短くなっている。

 珠樹が相手の動きを予測し、追い詰めるタイプのファイターである以上は取る手段として珠樹の予測を超える事か、珠樹が予測してもどうしようもない力技に出るかだ。

 大我が過去に珠樹と戦った時は後者の力技でギリギリのところまで追い詰めたが一歩及ばず負けている。

 しかし、静流のアリオスガンダム・レイヴンは相手に合わせて機動力を活かして近距離、中距離、遠距離のどの距離でも戦えるバランスタイプのガンプラで力技で突破するのは難しい。

 珠樹の予測を超えるとしても、珠樹は麗子から過去の静流の戦闘データをある程度は把握して戦っているだろう。

 そうなると予測を超える事も難しい。

 

「このまま手をやられっぱなしじゃいられないわよ! トランザム!」

 

 静流はこれ以上、追い込まれると不味いと判断して勝負に出る。

 トランザムならば一時的に機体性能を3倍相当まで引き上げる事が出来る。

 それなら強引に攻める事も可能だ。

 トランザムを起動してアリオスガンダム・レイヴンはビームサーベルを抜いて一気に加速する。

 

「来た」

 

 トランザムの起動を確認した珠樹は後退を始める。

 

「逃がさない! ここで仕留める!」

 

 アリオスガンダム・レイヴンは腕部のGNサブマシンガンを使いながら後退するバエルを追いかける。

 先ほどまでとは追う側と追われる側は逆転する。

 

「鬼さんこちら」

 

 追われている珠樹はデブリで姿を隠して静流をかく乱する。

 ある程度はGNサブマシンガンで破壊しながらバエルを追う。

 トランザムを使った状態では高速飛行形態に変形した機動力ではデブリベルトでデブリをかわしながら進む事は出来ない為、MS形態で追撃する事になる。

 

「ちょこまかと!」

 

 トランザムを使ってバエルを追い詰めるが、珠樹は攻めずに逃げに徹している。

 やがてバエルを大破して大穴の空いた戦艦の中まで追い詰める事に成功した。

 

「貰ったわ!」

 

 アリオスガンダム・レイヴンはビームサーベルを構えてバエルに接近する。

 すでに退路は無くバエルも逃げずに足を止めた。

 

「……3……2……1。終了」

 

 追い詰められた珠樹だが、冷静にカウントダウンをしていた。

 珠樹のカウントダウンがゼロになるとアリオスガンダム・レイヴンのトランザムは終了する。

 

「トランザムが!」

 

 珠樹は逃げに徹しながらもアリオスガンダム・レイヴンのトランザムが終わるのを待っていた。

 過去の戦闘データからアリオスガンダム・レイヴンのトランザムの最大のトランザムの使用可能時間は事前に予測していた。

 そこから今回の戦闘を考慮してトランザムが切れるまでの時間を計算して逃げ続けた。

 その上で、トランザムの終了時間が近づいた時にここまで誘い込んだ。

 

「もう逃げ場はない」

 

 バエルソードの一振りがアリオスガンダム・レイヴンのビームサーベルを持つ右腕を切り落とす。

 トランザムを使った事で機体性能は一時的にダウンしている為、退避しようとするが、バエルを追い詰めるようと逃げ場のない場所に追い込んだつもりが、逆に自分の逃げ場をなくす事になっている。

 ここまでの一連は全て珠樹の計算通りの事だった。

 アリオスガンダム・レイヴンの機動力を先回りで殺しながらジワジワと追い詰め、GNドライヴ搭載機の切り札であるトランザムを使わせる。

 トランザムを使わせて形勢を逆転させたかに思わせて自ら逃げ場のないところに逃げ込む。

 相手は追い詰めたと思うが、事前に計算されていたトランザムの限界時間によりトランザムが終了するどころか、トランザムのデメリットで機体性能を低下させて逃げ場が無い。

 切り札を使って追い込んだと思っていたところに、全ては敵の思惑通りだと知った相手に対して精神的なダメージを与えると共に機体の能力を低下させて逃げ場のないところで確実に狩る。

 これこそがかつての伝説のチームビルドファイターズの参謀である藤城麗子からバトルを受けついた藤城珠樹のバトルだ。

 

「終わり」

 

 バエルソードの一閃をアリオスガンダム・レイヴンは避ける事が出来ずにまともに受けて撃墜されてバトルの勝敗が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 3回のバトルも終わり、練習試合はそのままお開きの流れとなりそれぞれがログアウトして現実世界に戻る。

 

「今日はウチの生徒達に貴重な体験をさせる事が出来ました。ありがとうございます。機会があればまた誘ってください」

「こちらこそ。次の練習試合はいずれ機会があれば」

 

 双方の顧問が挨拶をかわす。

 負けた事を未だに根に持っているのか、貴音は大我を思い切り睨みつけている。

 大我も大我で対抗しているのか、練習試合が終わっても一触即発の状態は続いている。

 

「あの藤城君」

「何?」

 

 そんな中、千鶴が大我に話しかけて来る。

 大我は機嫌が悪いのかいつも以上にぶっきらぼうに返す。

 

「覚えている? あの約束の事だけど……」

「……何の事? 最後に会ったのは10年位前の事だろ。そんな昔の事なんて一々覚えてないね」

 

 大我はそう言う。

 大我は千鶴の返事を待つ事無く帰り支度をしている龍牙達の方に歩いて行く。

 完全に突き放された形になるが、千鶴は気落ちした様子はない。

 千鶴は約束と言っただけで、最後に会った時の事だと即答している。

 大我は忘れたと言っているが、その時の約束を覚えていなければ即座に最後に会った時にかわした約束だとは言わないだろう。

 

「……覚えていてくれたんだ」

「何が?」

 

 千鶴の呟きにいつの間にか近くにいた香澄には聞こえていたようだ。

 

「なっ何でもないです!」

「約束ってアレの事でしょ?」

 

 千鶴は誤魔化そうとするが、今度は貴音が話しに入って来る。

 

「藤城さんは知ってるの?」

「まーね」

「何で知ってるんですか! もしかして!」

 

 あの約束は今まで自分と大我だけの二人だけの秘密だと思っていたようだが、貴音が知っているとは思っても見なかった。

 

「大我は言わないってこんな事は死んでもね。アイツアレで結構シャイなところがあるしね。まぁネタばらしをすると、その時聞いてたんだよね私達」

 

 始めは大我から聞いたと思っていたが、大我の性格上、あの時の約束を自分からは口に出すとは思えないし、聞かれもさっきのように誤魔化すだろう。

 真実としては非常に単純な物だ。

 その約束をした時は二人だけだと思っていたがこっそりと貴音は聞いていただけの事だ。

 

「それで何なの?」

「いやぁ副部長。それがですね。いまどきそんな事をやるかってくらい幼い日の甘い甘い……」

「あああ! 貴音先輩!」

 

 千鶴は顔を真っ赤にして貴音を止めようとする。

 貴音はそんな千鶴を見てニヤニヤと楽しんでいる。

 その様子を見て香澄は余計に約束が気になる。

 

「世界で一番のファイターになったら嫁にするって」

 

 必死に貴音の口を塞ごうとしていたが、以外な場所から秘密が暴露された。

 

「それほんと珠ちゃん?」

「ほんと。マジもん。私も諒ちゃんもばっちり聞いてた。今でも一言一句覚えてる」

 

 貴音は私達と言った。

 その達と言うのは珠樹と兄の諒真だったようだ。

 そして、大我との約束が珠樹の口からあっさりと暴露された。

 今から10年程前、大我は父親に付いて海外に行く事になり、次に会えるのがいつになるのか分からないと言う事で、千鶴は大泣きした事があった。

 その時、大我は千鶴に自分はいずれ世界で一番のファイターになるからその時は千鶴を嫁にしてやると言った。

 同時にだから世界で一番強いファイターの嫁になるなら、すぐに泣かずに強くなれと言われた。

 GBNにダイブしている時のクレインとしての千鶴はそんな千鶴の理想とする自分を演じているのだろう。

 小さい幼馴染が遠く別れる時に良くありそうな約束ではあるが、千鶴は今までその約束を胸にガンプラバトルの腕を磨き続けて来た。

 その甲斐もあり、今では中高生部門ではランキング3位となりクイーンの異名も付いている。

 

「へぇ」

「そして再びめぐり合う二人……いやぁ青春だねぇ」

「ピンク色」

 

 過去の約束の話しが暴露されて香澄は千鶴に微笑ましい目を見せて、貴音は心底面白そうにしている。

 だが、今まで誰にも話した事のない過去の約束が部の先輩に知られ、二人だけの秘密だと思っていた事が貴音や珠樹、諒真がずっと知っていたと知り顔を真っ赤にして固まるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 



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特訓

 皇女子高校との練習試合は大我は勝利した物の、他は実力差を見せつけられて完敗だった。

 その結果を受けて、それぞれが地区予選に向けて準備を進めていた。

 

「たく……何だよ。藤城の奴」

 

 龍牙はGBNにログインしてふて腐れてバトルカウンターへと歩いていた。

 

「弱い奴と戦ってもつまらんだよ……」

 

 龍牙は先ほどの大我とのやり取りを思い出す。

 実力不足を痛感させられて、龍牙は大我に頭を下げて練習相手を頼んだ。

 しかし、大我は龍牙に対して弱い奴と戦ってもつまらないと一蹴した。

 龍牙自身、実力不足を痛感して大我に頭を下げている以上、自分が弱いと言われても仕方が無いが、それを何とかする為に大我に頼んでいる。

 大我は取りつく暇もなく放課後には姿を消していた。

 

「良いさ……地区予選までに強くなって見返してやるからよ!」

 

 馬鹿にされた事は腹が立ったが、腐っていたところで今の実力不足は解消されない。

 ならば、その怒りを強くなる事に向けようと龍牙は切り替える。

 

「ん? あれって」

 

 バトルカウンターまで来るとそこには千鶴ころクレインもバトルをしようとバトルカウンターでメニューを見ていた。

 向こうも龍牙に気が付いたのか、メニューを閉じる。

 

「ども……」

「ジン君だったね。この間の練習試合でお世話になったね」

「俺達は手も足も出せなかったですけどね」

 

 龍牙にとっては苦い思い出だ。

 だが、龍牙はある事を思いついた。

 

「えっと如月さん」

「ここではクレインで構わない。それに同い年なんだし敬語も不要だ」

「じゃそうさせて貰うけど、今から時間があるなら俺の特訓に付き合って欲しいんだけどいいか?」

 

 今は少しでも実力者と戦う事が実力を付ける為の近道だと龍牙は思っている。

 だから大我に頭も下げた。

 その後、静流に相手になって貰おうともしたが、静流は部室にもおらずすでに下校していた為、相手をしてもらう頼みすら出来なかった。

 この際、いずれは大会で戦うかも知れない相手であろうと形振り構ってはいられない。

 千鶴は少し考え込む。

 

「そうだな。私も大会までに苦手な近接戦闘をある程度は出来るようにと先生から課題を出されていてな。丁度いい。相手をして貰えないだろうか」

 

 千鶴もまた大会までに自分の苦手分野をある程度は克服しかければならなかったらしく、快く相手をして貰える事となった。

 話しが纏まり、二人はバトルカウンターでフリーバトルをするのではなくオープンワールドの方に向かった。

 フリーバトルでは制限時間等の制限があるが、オープンワールドでなら他のダイバーの横やりが入る危険性はあるが、自由に練習をする事が出来る。

 

「では……よろしく頼む」

「いつもで」

 

 オープンワールドの草原で龍牙と千鶴は自分のガンプラに乗って対峙する。

 今回は千鶴も接近戦の練習を言う事もあって、フルシティは火器を装備せずに両手にはグシオンチョッパーを装備している。

 対する龍牙のバーニングデスティニーは拳を構えている。

 

「行くぞ!」

 

 フルシティが勢いよく飛び出して来てグシオントッパーを振り下す。

 それをバーニングデスティニーがビームシールドで受け止めながら蹴り上げて反撃する。

 フルシティも腕で蹴りをガードすると、バーニングデスティニーの足を払うともう片方のグシオンチョッパーを振るい、バーニングデスティーは飛び退く。

 

「まだだ!」

 

 伸び退くバーニングデスティーをフルシティは追撃する。

 グシオンチョッパーの攻撃をバーニングデスティニーは防ぐか避けるかして攻撃を凌ぐ。

 

「どうした! 遠慮はいらないぞ!」

「……遠慮なんてしてる余裕はないって!」

 

 龍牙も侮っていた訳ではない。

 千鶴は自分でも言っているように接近戦は得意ではない。

 射撃と比べるとだ。

 千鶴の言う苦手とされる接近戦だが、それでも龍牙を相手になら十分に戦えるレベルで、龍牙も攻撃を凌ぐので精一杯だった。

 それから休憩をはさみながら二人は何度も練習を繰り返す。

 やがてゲーム内での時間で日が落ちてくる。

 

「今日のところはそろそろ終わりにしようか」

「だな……良かったらまた相手をしてくれないか?」

 

 千鶴にとっては身になっているかは分からないが、龍牙にとっては千鶴との接近戦の練習は丁度良い相手だった。

 

「そうだな……取りあえずはフレンド登録と現実でのメールアドレスを交換しておくとするか。後日互いに都合の良い日を見つけては練習をしよう」

 

 千鶴の方も練習相手としては龍牙は合格点だったらしい。

 その後、二人はゲーム内でのフレンド登録を済ませて、互いの連絡先を交換してその日はログアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 授業を終えた静流は部室に顔を出さずにGBNにログインしてロビーをうろついていた。

 少しあるているとダイバーの怒号が聞こえて、静流はその方へと歩いて行く。

 するとダイバー同士が揉めているらしく、静流は揉めているダイバーを見て自分の思っていた通りだとため息をつく。

 

「何で俺が謝る必要があるんだ? 馬鹿なのか?」

 

 揉め事は一人のダイバーと複数のダイバーとで、その一人のダイバーの方が静流の待ち合わせ相手である大我だった。

 静流も練習相手として大我を誘った。

 大我は龍牙の時とは違い、今日は時間があるからと静流の誘いに乗った。

 そして、放課後にGBNにログインして大我を探しているところにこの揉め事だ。

 静流は直感的に大我が関わっているのではないかと思って様子を見て見れば案の定だ。

 

「何やっているの」

 

 静流は行く先々で揉め事を作っている大我に呆れながらも間に割って入る。

 

「遅かったな。そのせいで変な奴らに絡まれた」

「絡まれたって貴方の方から喧嘩を吹っかけたんじゃないの?」

 

 静流の中では大我は相手が誰であろうと喧嘩腰で噛みつくイメージがある。

 今回も些細な事で大我が喧嘩を売るような言動を取って揉め事に発展したと思っていたが、どうやら違うようだ。

 

「関係ないダイバーはすっこんでろ!」

「そうだ! 俺達はリトルタイガーにこの前のフォースバトルで邪魔した事を謝らせようとしてるんだ!」

 

 向こうのダイバーの言葉で静流も状況は呑み込めた。

 彼らは自由同盟のダイバーなのだろう。

 この前の熱砂の旅団との戦いで大我が乱入して来た事を謝罪させようとしたが、大我は謝る気は無いらしく揉めていると言う事だ。

 状況が呑み込めたが、同時にバカバカしくも思った。

 確かに大我の言動には問題はあるが、オープンワールド内のフォース同士や個人でのバトルにおいて第三者の乱入は良くある事だ。

 それで一々文句を言うのであれば始めから乱入の出来ないフリーバトルをすれば良い。

 

「めんどくさいな。お前ら表に出ろ。お前らでも準備運動くらいにはなるだろう。静流。少し待ってろ。少し準備運動をして来る」

「……分かったわ」

 

 大我もこれ以上、話しをしたところで向こうは大我が謝るまで引く気はない。

 これ以上は面倒臭くなった大我は実力で排除しようとする。

 向こうも向こうで乗り気なようですぐにオープンワールドに移動する。

 

「この前は卑劣な策で後れを取ったが、今日はそうはいかないぞ!」

 

 大我のバルバトス・アステールを自由同盟のガンプラが囲む。

 彼らのガンプラはバクト、ゾノ、アルケーガンダム、ガンダムヴァサーゴ、ガンダム試作2号機MLRS仕様の5機だ。

 遠目で静流が見る限りではガンプラの完成度もそれ程高くは無く、5機では大我とはまともに戦いにはならないだろう。

 

「御託は良い。さっさと始めるぞ」

「待ちたまえ!」

 

 大我もやる気になっているところに上空からジャスティスガンダムが降り立つ。

 

「マサヨシさん!」

「マサヨシさんも加勢してくれるんですか?」

 

 ジャスティスガンダムは自由同盟の幹部であるマサヨシのガンプラのようだ。

 自由同盟のダイバーはマサヨシが加勢に来たと思っているようだが、ジャスティスガンダムは自由同盟のガンプラを制する。

 

「止さないか。寄ってたかって一人を大勢をリンチするなんて、幾ら卑劣な策を使った相手だろうと自分達が同じように卑劣な行動を取ってしまっては相手と同レベルになってしまう」

 

 どうやらマサヨシは彼らを止めに来たようだ。

 ダイバーたちもマサヨシの言う事なら素直に聞いて矛を収めるだろう。

 

「うちの者が失礼をした。だが、君もあのような行動を取る事は関心しないな、今日のところは自分の愚かな行動が招いた自業自得として……」

 

 マサヨシは大我にも説教しているが、その最中にバルバトス・アステールはバーストメイスをジャスティスガンダムに投擲する。

 戦う意志の無かったマサヨシは投げられたバーストメイスによりジャスティスガンダムの上半身が粉砕された。

 

「マサヨシさん!」

「まずは一人だ」

 

 マサヨシのジャスティスガンダムを破壊したバルバトス・アステールはバーストメイスを回収すると近くのバグトをバーストメイスの一撃で粉砕した。

 

「まぁ……そうなるわね」

 

 静流ももはや驚かない。

 マサヨシがダイバーたちを止めに来たとしても、大我にとっては敵が一人増えただけの事だ。

 それに気がつかず、大我を前に長々を高説を垂れていれば、大我にとっては格好の的でしかない。

 

「良くもマサヨシさんを!」

 

 ガンダム試作2号機がビームバズーカを放つが、バルバトス・アステールはかわして接近するとバーストメイスを突き出す。

 ラジエーターシールドで身を守るが、バーストメイスの先端が射出されてシールドを貫き、杭が本体まで達すると杭が爆発して試作2号機は撃破される。

 

「おのれ!」

 

 ガンダムヴァサーゴはストライククローを地面に突き刺すとメガソニック砲の発射体勢を取る。

 エネルギーをチャージしたガンダムヴァサーゴはバルバトス・アステール目掛けてメガソニック砲を放つ。

 バルバトス・アステールはテイルブレイドを使って退避しようとしていたゾノを捕まえると自分の方に引き寄せるとメガソニック砲の盾をする。

 見た目とは裏腹に威力はそれ程ないのかゾノは完全に戦闘不能にはならない為、ゾノを足のエッジを展開して蹴り飛ばして止めを刺す。

 

「……悪魔め」

「弱いんだよ。お前ら」

 

 バルバトス・アステールはバーストメイスを投擲して、メガソニック砲を発射した直後のガンダムヴァサーゴを破壊する。

 

「後はお前だけだ」

「ちくしょぉぉぉぉ!」

 

 残ったアルケーガンダムは闇雲に突撃するとGNバスターソードを振り下す。

 それをバルバトス・アステールは易々と受け止めると、もう片方の手でアルケーガンダムの頭部を掴んで、胴体にドリルニーをお見舞いしてアルケーガンダムを倒す。

 

「さて……準備運動には物足りないが……始めるか」

 

 バルバトス・アステールはガンダムヴァサーゴの残骸に突き刺さるバーストメイスを回収する。

 大我も何事も無かったかのように静流とのバトルを始めようとする。

 静流もこの結果は始まる前から分かっていた事で、自分のガンプラを出す。

 アリオスガンダム・レイヴンはGNスナイパーライフルⅡを構えて静流の大我を相手にした練習が始まる。

 

 

 

 

 

 

 龍牙や大我たちがGBNで練習している頃、明日香は一人で部室に来た。

 明日香は龍牙に付き合いガンプラ部に入部した為、ガンプラにはさほど興味はないが、部員となった以上は一人でも顔を出すくらいはと部室に来た。

 部室には部長の史郎だけで史郎はガンプラを弄る訳でも無く備え付けのPCを操作している。

 

「今日は部長だけですか?」

「ああ清水さん。そうだね。黒羽さんはGBNで練習だって。神君は一緒じゃないの?」

「龍牙もです。藤城君は今日も授業が終わるとさっさと帰りました」

 

 大我は学校に来るようにはなったが、相変わらず部室に顔を出す事はない。

 

「部長は何を?」

「僕は地区予選に向けて資料作りをね」

 

 史郎は明日香にPCの画面を見せる。

 そこには皇女子高校を初めとした東京地区の学校の情報が大まかに書かれている。

 

「僕は直接バトルには出ないからね。部長として少しでも皆の役に立たないと」

 

 地区予選は最大3人までのチーム戦となっている。

 現在のガンプラ部の部員は5人で明日香はバトルしない為、バトルするのは4人だが、毎回1人はバトルには出られない事になる。

 実力で言えば大我と静流は確定で残り一人は龍牙か史郎のどちらかだが、史郎は自分ではなく龍牙を出させるつもりらしい。

 

「全部のチームのデータを詳細に纏める事は出来ないけど、地区予選で上位に入るようなチームの事ならある程度は僕でも纏める事は出来るからね」

 

 史郎は表だってバトルには出ないが、変わりに他の学校の情報をまとめてチームが少しでも戦い易い状況を作ろうとしている。

 自分達みたいな弱小校は公式戦のデータも少ないが、地区内でも上位の学校ともなると公式戦やGBNでのバトルの情報がある程度は見つける事が出来る。

 

「部長。私も手伝います。ガンプラの事は良く分からないですけど、私も部員ですから何か力になりたいです」

「分かった。お願いするよ」

 

 明日香も周り程大会で勝ち進むと言う事に拘りがある訳でも熱意がある訳でも無い。

 しかし、せっかくガンプラ部に入った以上は自分も何かやりたいと言う気持ちが無い訳でも無い。

 龍牙も今は大会に向けて特訓をしている頃だろう。

 明日香も史郎を手伝い、星鳳高校ガンプラ部は地区予選に向けてそれぞれが動き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それぞれが大会に向けて動きだし、地区予選が始まる前に対戦の組み合わせ抽選会が行われる。

 授業後部の代表として部長の史郎が顧問の颯太と共に抽選会場へと向かい、他の部員は部室で待機していた。

 普段は部室に寄りつかない大我も今日はきちんと部室に来ている。

 尤も部室に来ても他の部員とは必要以上に口を聞く事は無い。

 

「ただいま」

 

 部室で待っていると史郎と颯太が戻って来る。

 史郎は部室のホワイトボードに大きな紙を張り付ける。

 

「これが組み合わせ表。僕達はAブロックだね」

「皇女子は?」

 

 大我は自分達の初戦の相手の事よりも皇女子高校といつ当たるかの方を気にしていた。

 大我にとっては東京地区で戦い甲斐があるのはそこくらいだ。

 

「えっと……皇女子高校はBブロックだね。僕達と当たるとすれば決勝戦かな」

「ちっ……沖田はくじ運ないな」

 

 大我はあからさまに不機嫌になる。

 抽選会場ではAブロックになった学校は喜び、Bブロックになった学校は落ち込んだ。

 その理由が去年の準優勝校である皇女子高校の存在だ。

 今年も皇女子高校は優勝候補の一校であり、Bブロックではその皇女子高校に勝って決勝まで残る必要がある。

 一方のAブロックは皇女子高校と決勝で当たっても決勝に残った時点で全国大会へは出場できる為、そこで負けても問題はない。

 その為、全国大会への切符はAブロックの方が難易度は低い。

 

「で、俺達は何回勝てば皇女子とやれるんだ?」

「今年の東京地区の参加校は128校だから……6回勝てば決勝だね」

「6回か……まぁ良い。それまでの奴らを全員ぶっ潰せばいいんだろ?」

 

 今までの星鳳高校の実績を見ればそこまで勝ち上がる事は不可能だっただろう。

 だが、今年はそうではない。

 超大型ルーキーの大我とランキング7位の静流がいる。

 龍牙も大我や静流の影に隠れているが、同年代ではある程度は戦える。

 今年は良いところはおろか全国も狙える布陣だ。

 

「余り先の事は考えても仕方が無い。まずは目の前の一勝から行こう」

 

 皇女子以外は眼中にない大我を颯太が悟す。

 幾ら大我が強くても予期せぬ事態で足元を掬われなけない。

 目の前の一勝を積み重ねていけばいずれはそこには辿りつける。

 

「初戦の相手は多田野高校。実績のない無名校けど、それはウチも同じ事。皆気を引き締めて行こう」

 

 最後に部長の史郎が締める。

 大会の組み合わせも決まり、星鳳高校の全国大会を目指して地区予選が始まる。

 



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地区予選開幕

GBN主催のガンプラバトル選手権大会高校生の部はバトルそのものはGBNが用意した特別空間で行われるが、参加する高校生たちはそれぞれ運営が用意した会場まで行く必要がある。

 GBNはダイバー個人にIDを振り分けているが、IDは発行したダイバー以外が使う事は推奨はされていないものの不可能ではない。

 普段のプレイなら双方が納得の上での事ならさほど問題ではないが、大会においては本来は参加資格を持たないファイターが成りすましてダイブする不正を防ぐ為に、参加者は運営が用意した会場からGBNにダイブしなければならない。

 地区予選の初日を迎え、大我たち星鳳高校ガンプラ部は指定された会場に到着した。

 

「凄い人だな。これ全部参加者なんですかね?」

「どうだろう。参加者以外にも応援の人とかもいそうだけど」

 

 龍牙は地区予選でありながら会場の人の多さに圧倒されている。

 この会場は今日だけでも10試合はバトルを行う為、人も多い。

 

「どうだって良いさ。どの道、こいつらは皆俺にぶっ潰されるだけだからな。いっそ、俺対こいつら全員でやった方が早いな」

 

 大我は人の多さ等気にもしておらず、いつも通りだ。

 高校初の公式戦で龍牙は少なからず緊張していたが、普段通りの大我を見ていると妙に頼もしさを感じる。

 一方で史郎や静流は公の場で問題を起こさないかの方が心配だった。

 

「とにかく受付を済ませよう」

 

 大我たちは受付を済ませるとバトルまでの間、観客席で待つ事になった。

 

「皇女子も今日はここでやるのか」

 

 会場には6個で一セットの端末がいくつも設置されており、すでにバトルが始まっている。

 中央のモニターにはバトルの様子が映されている。

 会場の中を見渡すと、女子高生だけで30人近い一団が嫌でも目に入る。

 東京地区で女子高であれほどの団体になるのは強豪校の皇女子くらいだ。

 

「まぁ姉ちゃんたちは一回戦は余裕だろ」

 

 大我はそう言いながら皇女子のバトルが映されているモニターを見る。

 皇女子高校は珠樹に貴音、千鶴の3人がバトルに出るようだ。

 対する相手校のガンプラはガンダムヘビーアームズ、ガンダムレオパルド、ガンダムサバーニャの3機だ。

 それも中遠距離からの手数の多いガンプラだ。

 宇宙空間でバトルが開始される。

 

「貴音」

「まっかせなさい」

 

 バトルが始まり、貴音のキマリス・ヴィダールは一気に加速する。

 キマリス・ヴィダールから一番近かったヘビーアームズの方に突撃する。

 ヘビーアームズは腕部のガトリング砲を向ける。

 だが、ヘビーアームズが弾幕を張る前にキマリス・ヴィダールはドリルランスでヘビーアームズを貫く。

 

「速い!」

 

 レオパルドがインナーアームガトリングで弾幕を張ろうとするがキマリス・ヴィダールの機動力に追いついてはいない。

 キマリス・ヴィダールは反転すると、レオパルドの方に向かい一気に加速する。

 レオパルドは接近戦に備えてビームナイフを抜こうとするが、その時間も与えずにドリルランスがレオパルドを貫く。

 

「くそ……トランザ」

 

 最後のサバーニャが苦し紛れにトランザムを使おうとするが、それよりも先にキマリス・ヴィダールがドリルランスで突撃してサバーニャを仕留める。

 サバーニャが撃墜された事で皇女子高校は1回戦を難なく突破した。

 

「やっぱ強いな。皇女子は」

「相手が弱すぎるんだよ。姉ちゃんは単純な突撃しかやってない」

 

 改めて皇女子の実力を感じた龍牙だが、大我からすれば相手が弱すぎる。

 バトルは貴音が一人で終わらせた。

 その間、バエルとフルシティは全く動いていない事から、バトル自体は始めから貴音一人にやらせるつもりで、他の二人は不測の事態に備えての保険なのだろう。

 更に貴音のキマリス・ヴィダールの動きは早いだけで動きは単調であれでは全国レベルのファイターなら簡単に対応できるレベルだ。

 実際の貴音の実力からは考えられない為、自分達の情報を必要以上に他校に見せないように指示があった事は容易に想像がつく。

 

「前も言ったけど、余り皇女子の事ばかりじゃなくて目の前の一勝だよ」

「分かってます。部長」

「そうね。行って来るわ」

 

 もう少しで星鳳高校のバトルの順番が来る為、バトルに出る3人は観客席から会場へと向かう。

 その道中の通路でバトルを終えて来た皇女子の3人とすれ違う。

 

「この前の練習試合の借りは100万倍して返すから負けんなよ」

「別に返さなくても良いよ。そっちこそ完膚なきまでに叩き潰すから精々負けんなよ」

 

 すれ違いざま、大我と貴音がそう言い合う。

 二人は立ち止まってガンを飛ばし合う。

 

「貴音」

「藤城君」

 

 珠樹と静流に呼ばれて、二人は渋々引き下がる。

 

「タ……藤城君。頑張って」

「ああ」

 

 別れ際、千鶴がそう言い大我は振り向く事無く答える。

 会場で指定されば場所の端末に向かい、そこで自分のガンプラをセットして3人はダイブして星鳳高校の地区予選第一試合が始まる。

 バトルフィールドは宇宙で対戦相手の多田野高校のガンプラはダブルオークアンタ、ストライクフリーダム、νガンダムの3機だ。

 それも上手く作れば非常に強力なガンプラだ。

 

「先陣は俺に任せろ!」

 

 そう言って龍牙が先陣を切る。

 対戦相手の実力が対した事がない事から、大我は余り積極的に戦う気は無いようでいつものように飛び出す事もない。

 先陣を切るバーニングデスティニーの拳をストライクフリーダムがビームシールドで受け止める。

 

「相手がストフリとなれば負ける訳には行かないな!」

 

 バーニングデスティニーはストライクフリーダムを蹴り飛ばすとバルカンを撃ちながら突撃する。

 ストライクフリーダムはビームシールドで身を守りながらビームライフルを捨てるとビームサーベルを抜いて迎え撃つ。

 ストライクフリーダムはビームサーベルを振るうが、地区予選まで何ども千鶴を相手に特訓して来た龍牙には相手の動きが遅く感じた。

 ビームサーベルをかわすとバーニングデスティニーがストライクフリーダムのボディブローを入れると成す術もなく体勢を崩す。

 それを見たνガンダムのダイバーが援護にビームライフルを向けるが、その隙を静流は見逃さない。

 

「余所見しない」

 

 アリオスガンダム・レイヴンはGNスナイパーライフルでνガンダムを撃ち抜く。

 νガンダムの援護が得られなかったストライクフリーダムは光の翼を展開して加速するバーニングデスティニーの拳をまともに受けて撃墜される。

 

「ずいぶんと腕を上げたようね」

「これでも滅茶苦茶特訓しましたから。それで後一機は……」

 

 ストライクフリーダムとνガンダムは撃墜した。

 後はダブルオークアンタだけだ。

 周囲を見渡すとダブルオークアンタは大我のバルバトス・アステールへと向かっていた。

 

「あ……」

「ご愁傷様ね」

 

 龍牙も静流も無理に追い駆けようとはしなかった。

 それどころかダブルオークアンタのダイバーに同情すらしている。

 

「せめてコイツだけでも!」

 

 ダブルオークアンタはGNバスターソードを振り上げる。

 

「ちっ」

 

 バルバドス・アステールは軽くバーストメイスを振るった。

 それだけでダブルオークアンタは跡形もなく粉々に吹き飛んだ。

 ダブルオークアンタがやられて星鳳高校は1回戦を突破した。

 

 

 

 

 

 

 

 地区予選1回戦の翌週にはすぐに2回戦が行われる。 

 すでに皇女子高校は1回戦同様に貴音のキマリス・ヴィダールの単調な突撃だけで問題なく勝利を収めている。

 星鳳高校の2回戦の相手は去年の地区予選ではベスト16にまで勝ち進んだ茂武工業高校だ。

 バトルフィールドは市街地で相手のガンプラはジムⅡセミストライカー、ジムキャノンⅡ、ジムスナイパーⅡの3種のジムだ。

 バトルが始まりすでに星鳳高校の優勢で進んでいる。

 ジムⅡセミストライカーのツインビームスピアをかわしたバーニングデスティニーはジムⅡセミストライカーを蹴り上げるとそこをアリオスガンダム・レイヴンがGNスナイパーライフルⅡで撃ち抜く。

 空中にいるアリオスガンダム・レイヴンをジムキャノンⅡがビームキャノンで狙うが、それをかわしてGNキャノンで逆にジムキャノンⅡを周囲のビルごと消し飛ばした。

 

「くそ……相手はレイヴン以外はたいした事は無かったんじゃなかったのか!」

 

 マシンガンを装備したジムスナイパーⅡは市街地を移動している。

 茂武工業は1回戦の星鳳高校のバトルを見ていない為、去年の静流以外は大して強くない弱小校と舐めてかかっていた。

 だが、茂武工業のレベルでは大我や静流はおろか、龍牙の相手も厳しい実力しかない。

 完全に舐めてかかり成す術もなく追い詰められている。

 市街地を移動してたジムスナイパーⅡだが、十字路で出会いがしらにバルバトス・アステールのバーストメイスがビルの影から出て来て反応すら出来ずに上半身がバーストメイスによりビルで押しつぶされた。

 星鳳高校は2回戦を突破し、3回戦も危なげなく突破した。

 それにより星鳳高校は地区予選のベスト16にまで勝ち残り去年の成績を上回る事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 3回戦を突破した星鳳高校は地区予選の最初の壁に当たる事になる。

 3回戦を終えた足で学校に戻るとそのまま次のバトルに備えてのミーティングを始めている。

 日を改めると大我は部室に来ない為、確実に掴まるのはバトルが終えた後くらいしかない。

 

「次の相手は巨陣高校。去年の地区予選で準優勝して全国大会に出たチーム」

 

 星鳳高校の次の対戦相手の巨陣高校は去年の全国大会に東京代表の一つとして出ている学校でAブロックでは今年も巨陣高校が準決勝まで行くのではないかと言われている。

 

「全国での成績は?」

「1回戦は勝ってるけど、2回戦で泉水と当たって負けてるね」

 

 史郎は事前に明日香と共にまとめた資料を見て答える。

 巨陣高校は1回戦は運が味方をして辛くも勝利したが、2回戦では優勝校の泉水高校と当たって惨敗している。

 

「なら大した事はないな」

「まぁ、地区予選の決勝でも皇女子に散々な負け方をしていたわよね」

 

 大我はそう言い切る。

 静流も去年の地区予選の決勝は見ていた。

 皇女子と共に全国に出たと言えば聞こえが良いが、地区予選でも皇女子にボロ負けしている。

 

「だけど全国経験者には間違いはないよ。油断は出来ない相手である事は確実だと思っておいた方が良いよ」

 

 全国大会で勝ち抜く力はないが、それでも地区予選を勝ち抜いて決勝まで行った実力はある事は確かだ。

 星鳳高校も大我の加入や龍牙の特訓の成果もあり、ここまでは苦戦する事なく勝ち進んで来た。

 ここから先の相手は自分達と同じように勝ち抜いて来た学校で油断していれば、今まで自分達が倒して来た学校のように相手は大したことはないと油断してやられる危険性も出て来る。

 

「まだバトルまでの猶予は十分にある。各自はしっかりと調子を整えてバトルに臨むように」

 

 ミーティングを颯太が締める。

 ここまで勝ち進んで来たが、ここから先は強豪校との戦いが待っている。

 トーナメント方式である以上は一度の敗北で大会が終わる。

 ぞれぞれが各々のやり方で次の巨陣高校戦へと準備を始める。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ファイターとビルダー

 地区予選3回戦が終わり、4回戦の巨陣高校とのバトルまでは少しの間だが、猶予が残されている。

 そんな中、大我は事業後に諒真に呼び出されて生徒会室にまで足を運んでいた。

 

「それで何? 俺、諒ちゃんを構っている暇はないんだけど」

 

 大我は心底面倒そうにそう言う。

 大我にとって諒真に付き合うと大抵は面倒な事になると思っている。

 現に今もガンプラ部に入らされている。

 

「そう邪険にすんなよ。寂しいじゃん」

 

 諒真がそう言うと大我は無言で生徒会室を出て行こうとするが、それを諒真は慌てて止める。

 

「まぁ待てよ。兄弟。大会の方は順調に勝っているようだな」

「相手が弱すぎるんだよ。日本のガンプラバトルの質も大した事ないよ」

「お前からすれはな。今日は勝ち進んでいる大我に良いものをやろう」

 

 諒真はそう言ってチケットを取りだす。

 大我はそれを受け取り何のチケットかを確認する。

 

「ガンプラコンテストね……」

「そう。大我は日本に居なったけど、大規模なガンプラのコンテストがあってな。コイツは賞を取ったガンプラの展示会のペアチケットだ。結構人気で取るのは苦労したんだぞ」

「ああそう。けど、俺はバトルにしか興味ないからな。別の奴を誘ってよ」

 

 ガンプラはGBNでのバトルだけが全てではない。

 GBNが出来る前はガンプラは制作技術を高めて競い合う事の方が主流だった。

 その為、今でもガンプラ制作のコンテストはいくつも開かれている。

 諒真の出したチケットはそのコンテストの一つの入賞作品等を展示している展示会のチケットのようだ。

 だが、大我はガンプラバトルの方にしか興味は無く、ガンプラ制作やガンプラの完成度はあくまでもGBNでのガンプラの性能を向上させる要素でしかないと思っている。

 

「別に一緒に行こうって誘っている訳じゃなくて、俺はいけなくなったからお前にやるって話し」

「いらない」

 

 大我は迷う事無く断る。

 だが、諒真も引かない。

 

「そんな事言うなって……この展示会は今度の土曜まででさ、その日は丁度生徒会でどうしても外せない用事が出来て行けなくなったんだよ。でもせっかく手に入れたチケットを無駄にするのも勿体ないしさ。お前には俺の勝手で色々な迷惑とか無茶を聞いてもらってるからと思って譲ろうと思うんだよ」

「別に良いからいらない」

 

 諒真は少し俯きながらそう言う。

 それでも大我は断る。

 

「せっかくのペアチケットだ。大我も年頃の男子だからな親しい女子でも誘って入って来ればいい。ガンプラバトル漬けの青春なんてつまらないだろ」

「だから……」

「く・れ・ぐ・れ・も! 女子を誘うんだ。何が寂しくて男同士で行こうとは思うなよ。必ず! 女子を誘うんだ。分かったな?」

「俺は……」

 

 大我の言葉を遮りながら諒真は半ば強引にチケットを大我に押し付ける。

 チケットを押し付けると、大我に付き返させないように大我を生徒会から追い出す。

 用事を済ませて満足げな諒真を一連の茶番を冷ややかに愛依が見ている。

 

「会長。その日に外せない用事は無かったと思いますが……」

「まぁな」

 

 諒真はあっさりと先程の茶番の嘘を認める。

 

「お膳立てはしてやったぞ。大我。後は我が愛しの妹の千鶴を誘うだけだ。健闘を祈る」

 

 諒真の思惑は大我にガンプラコンテストの展示会のペアチケットを上げて、妹の千鶴を誘わせる為だった。

 諒真は大我を追い出した生徒会室のドアを見ながら、大我の健闘を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室から追い出された大我は押し付けられたチケットを持ち渋々帰ろうと歩いていた。

 完全に強引に押し付けられたが、このまま捨てると言うのも諒真に悪い気がして捨てる事も出来ない。

 

「女子を誘えって……」

 

 大我の頭の中に諒真の言葉が浮かぶ。

 諒真は女子を誘えと言っていた。

 チケット自体はペアチケットだが、一人で行く事も出来る。

 だが、諒真の事だから後で根掘り葉掘りこの事を聞いて来るだろう。

 そうなった場合、一人や男同士で行った事が知れると面倒になる。

 

「珠ちゃんは……駄目だ。珠ちゃんを誘うと姉ちゃんもついて来る」

 

 真っ先に誘う相手として思い浮かんだのは姉の珠樹だが、珠樹を誘った場合高確率でもう一人の姉である貴音もついて来ると言い出すだろう。

 かと言って貴音を誘うとそれはそれで面倒になる。

 

「母さんは……あり得ない。もう女子って年でもないしな。となると……クロエを日本に呼ぶか?」

 

 誘う相手が見つからず、最後の手段であるチームメイトのクロエをアメリカから呼ぼうとすら考える。

 旅費に関してはチームメイトのルークに頼めば何とかなる。

 後はわざわざこの事の為に日本にクロエを来させる為に説得が必要となる。

 

「藤城君。珍しいわね。貴方が部室まで来るのは?」

 

 どうすべきか考えていると大我はいつの間にかガンプラ部の部室の前まで来ていたようでばったり静流と出くわした。

 その時、大我はある名案を思い付いた。

 

「……静流。今度の土曜だが空いているか?」

「空いているけど……」

 

 突然の事で静流は少し動揺している。

 

「俺はお前に借りがある」

「まぁそうね」

 

 大我は予選が始まるまで静流の特訓に付き合っている。

 大我自身、静流を相手にバトルする事は退屈はしないから引き受けたが、この際、それは借りだとしておく。

 

「なら今度の土曜日、少し俺に付き合ってくれ」

 

 この瞬間、諒真の思惑は儚くも崩れ去った事はこの時の諒真は知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じころ、皇女子高校でも事が起きていた。

 大会期間中はレギュラーは調子を崩さないように練習は必要最低限で切り上げている。

 その日のノルマをこなそうとしていたところを貴音に捕まった。

 

「ちーちゃん。今度の土曜日空いてるよね」

「空いてますけど」

 

 千鶴は少し警戒して答える。

 貴音とは長い付き合いだから分かる。

 やけににやにやとして近づいて来る貴音は兄の諒真同様に面倒ごとを持って来る時だ。

 

「実はさ……お爺ちゃんからこんな物を貰ったんだよね」

 

 貴音は千鶴にガンプラコンテストの展示会のペアチケットを見せる。

 

「これって少し前にやっていた奴ですよね。良く手に入りましたね」

 

 千鶴もコンテストの事は知っている。

 千鶴も作品を応募しようとも思ったが、皇女子の練習やらなんやらで作品制作の時間は余り取れない事もあって今回は止めておいた。

 ネット上ではすでに賞をとった作品の画像は見る事が出来るが、展示会では作品を生で見る事が出来る為、千鶴も多少は興味があった。

 

「まぁね。このコンテストにはお爺ちゃんも審査員として参加してるからね」

 

 皇女子高校の理事長はガンプラ好きで有名であり、このコンテストの審査員もしている。

 このチケットはその伝手で手に入れた物だろう。

 

「でさ……私この日補習があって行けなくなったんだよね」

 

 貴音の成績はお世辞にも良いとは言えない。

 公式戦に出るレギュラーとはいえ、成績が酷ければ強制的にレギュラーから外される。

 それを防ぐ為に定期的に貴音は補習を受けているが、その日が展示会の日に被っていたらしい。

 流石に補習をサボるわけにもいかない。

 仮病を使おうにも身内が学校側にいる為、使えず理事長の孫として教師たちも貴音の行動には文句を言えないが、教師には理事長の娘がいる。

 結局、貴音は真面目に補習を受けて公式戦に出させて貰うしかない。

 

「だからちーちゃんに上げる」

「良いんですか? 私が貰っても」

「良いよ。良いよ。ちーちゃんも大会頑張ってるしね。先輩としてこのくらいはしないとね」

 

 貴音はそう言うが千鶴はバトル中には何もしていない。

 それで貰う事は気が引けたが、コンテストで賞を取る程のガンプラを生で見れる機会はそう多くはない。

 

「分かりました。折角なので」

「ありがとう。助かるよ……でもね。ちーちゃん。このチケットはペアチケットなのよ。この理由は分かる?」

「そうですね。副部長でも誘ってきます」

 

 千鶴は貴音の意図を微妙に間違えて受け取っているらしく、貴音はため息をつく。

 

「ちーちゃんは花の女子高生なんだよ。ちーちゃんの青春がガンプラバトルに明け暮れるだけなんて良いの? いや良くない!」

 

 貴音は声高に力説を始めて、千鶴は理由までは分からないが、貴音の面倒な地雷を踏んだと軽く後悔する。

 

「ウチは女子高だからただでさえ出会いが少ないんだよ! だからこれはチャンスなの! ちーちゃんにだって身近な男の子はいるでしょう? いる筈よ! ならその子を誘って言って来なさいな! これは先輩命令だからね! 破ったら理事長の孫権限で退部だからね! 退部!」

「はぁ……」

 

 貴音は言うだけ言ってGBNの端末の方に向かって行く。

 大声を出した事もあり、周囲からは同情的な視線が千鶴に向けられている。

 貴音は1年生からは面倒見は良いが面倒な先輩として見られており、千鶴が幼馴染でお気に入りだと言う事も1年の間には知れ渡っている。

 1年生や上級生からはお気に入りが故に貴音の面倒な部分は一手に引き受けていると言うのが千鶴の部内で確立しつつあるポジションだった。

 

「……取り合えず今日のノルマをこなそう」

 

 何か面倒な事になったと思いながらも余計な事を考えなくても良いようにGBNにダイブする。

 

(そもそも男子を誘うと言っても誰を誘えと……)

 

 GBNにダイブしても千鶴の頭の中は余計な事で一杯だった。

 

(タイちゃんは……駄目よ。そもそも私はタイちゃんの連絡先を知らない)

 

 最初に出て来たのは大我だったが、千鶴は大我の連絡先を知らない。

 大我の身内である貴音や珠樹に聞くのは今更恥ずかしく、母親の麗子に聞く度胸は無い。

 兄の諒真なら連絡先を知ってそうで、知らなくても同じ学校である為、大我に連絡先を聞いて貰う事も出来るだろう。

 だが、諒真に頼めば、知りたい理由も話さなければいけなくなり、話すと面倒な事になるから諒真には聞きたくはない。

 

(兄さんは……嫌よ)

 

 大我を諦めるとしても他の候補は諒真くらいだが、諒真と一緒に出掛けると言う事自体、千鶴は拒否感が強い。

 

(後は……いない事もないけど、誘う程親しくもないし)

 

 去年までは共学の中学に通っていた為、異性の知り合いはいない事もない。

 だが、中学を卒業してから高校に入り新しい生活が始まって1月が経過している。

 別の高校に進学した知り合いをわざわざ誘う程仲の良い同級生もいない。

 最終手段として一人で行くか、部の先輩を誘うと言う手もあったが、あれだけ異性と行く事を強調している以上はそれも出来そうには無い。

 

「アレ? クレインじゃん」

 

 どうするか考えていると千鶴はGBNにログインしていた龍牙と鉢合わせする。

 地区予選が始まってからは流石に今までのように練習相手として誘う訳にもいかず必要最低限しか連絡を取り合ってはいない。

 

「ジン君。丁度いいところに……今度の土曜は空いているか?」

 

 千鶴はそう切り出す。

 身近な異性と言う意味では共に練習をした龍牙も親しいと言えば親しい。

 少なくとも龍牙ならば貴音に文句を言われる筋合いはない。

 

「土曜……その日は俺達もバトルが無し、部活も休みだから良いけど」

「ガンプラコンテストの展示会に興味はないか? 貴音先輩に渡されたんだが、一人で行くと言うのもな……もし良かったら行かないか?」

「マジで! 行く行く!」

 

 自分でも異性を誘うとなると緊張するかと思っていたが、以外とすんなり誘う事が出来た。

 龍牙もあっさりと誘いに乗り細かい時間は後でメールで連絡するとその日は自分のノルマをこなしてGBNをログアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日が経ち、千鶴は龍牙は待ち合わせていた。

 千鶴は休みの日と言えども遊びではなく勉強する為と私服ではなく制服で待ち合わせ場所に来ている。

 一方の龍牙は私服だ。

 合流した二人は話しながら目的の展示会の会場に向かう所を少し離れたところで貴音は見ていた。

 もうすぐ夏だと言うのにわざわざこの日の為にトレンチコートとサングラスを用意して身にまとっている。

 物陰に隠れるようにしているが、通行人からは少し避けられているが、当の本人は気づいてはいない。

 

「誰なのよ! あの男は!」

 

 貴音は人目を気にせずに大声を上げる。

 貴音は大我がこっそりと今日の展示会の事を調べている事を知っていた。

 それを見て確信した。

 千鶴は自分の思惑通りに大我を誘ったのだと。

 そうして、面白半分だと言う事を弟と未来の妹を見守ると言う義務感で隠して変装して後を付けようとしていたが、千鶴の待ち合わせの場所に来たのは見ず知らずの男だった。

 尤も、貴音も龍牙とは練習試合や地区予選の会場で見ているのだが、常に大我以外は眼中になく、龍牙の事は全く覚えてはいない。

 

「まさか……あのちーちゃんがもしもの為に見るからにチェリーボーイをキープしていたなんて……」

 

 貴音は愕然として膝をつく。

 

「だよな……俺もまさかあんな年増に大我が籠絡されているなんて気づきもしなかったぜ」

 

 愕然とする貴音の隣に同じようにトレンチコートをサングラスを身に纏う諒真が座り込む。

 諒真もまた大我の待ち合わせ相手が千鶴ではなく静流である事に愕然としてここまでトボトボと歩いていたようだ。

 

「上手く行くと思ったんだよな。アイツの異性の知り合いは千鶴くらいだって……」

「私もだよ。今までちーちゃんが男といるところなんて見た事もないはずなのに……」

「なのに展示会に誘ったのが黒羽だったなんて……」

「けしかけたのは私なのに何であんなチェリー君を……」

 

 互いに思惑が外れて落ち込む二人だが、ある事に気が付いた。

 貴音も諒真も手を組んでいた訳ではない。

 もしも、手を組んでいたなら、双方がチケットを用意して相手を誘わせるように仕向けずにやりようは幾らでもあった。

 

「ねえ……諒ちゃん」

「なぁ貴音……」

 

 二人や冷や汗をかきながら嫌な予感がした。

 そこで二人は情報を交換すると嫌な予感は的中した。

 大我と千鶴はそれぞれ別の相手と共に展示会に行っている。

 更に間の悪い事に、下手をすれば会場で鉢合わせする可能性もあり得ると言う事。

 大我と千鶴は付き合っている訳ではないが、幼い頃交わした約束がある。

 展示会に異性と来ていれば否応なくデートだと思われても仕方が無い。

 場合によっては幼い日の約束そのものが破談しかねない状況に陥ってしまった事を今更ながら二人は思い知る事となる。

 

「大丈夫」

 

 絶望しかけたその時、珠樹が顔を出す。

 

「珠ちゃぁぁぁぁぁん!」

 

 珠樹に貴音が半泣きですがりつく。

 そんな貴音を珠樹が頭を撫でて落ち着かせる。

 

「それで何が大丈夫なんだ。珠ちゃん」

「信じる。愛は偉大。大我と千鶴はどんな誘惑にも負けない」

 

 珠樹はそう言い切る。

 根拠も何もないが、ここまで堂々と言い切られるとなぜか安心する。

 

「……だから私達は見守れば良い」

 

 珠樹はそう言う。

 今まで動揺して気づかなかったが、珠樹も二人と同じようにトレンチコートとサングラスをしている。

 奇妙な一団を周囲は誰も見ないようにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事になっている事はいざ知らず大我は静流と共に展示会の会場に向かっている。

 静流も誘われた当初は展示されているガンプラに興味があった為、二つ返事で行くと答えたが、良く考えれば異性と二人で出かけると言うのは初めての事だった。

 かといって一度了承している為、理由もなく断る事も出来ず、展示されいるガンプラ見たさに断る事はしなかった。

 それでも前日は当日来ていく服等で悶々としたが、最終手段として公的な場と言う事で制服を着て来たと言う事にして乗り切ろうと画策した。

 デートまではいかずとも異性の後輩と二人で出かけると言う事で少なからず緊張していた静流だが、普段通りの大我を見て自分が変に意識し過ぎていた事を知りそれが恥ずかしくなったが、今は落ち着いた。

 

「そう言えば、GBNでのアレって大丈夫なの?」

「まぁアイツ等も懲りないからな。毎回のように湧いてくるから毎回ぶっ潰してる」

 

 大我とGBNで特訓するようになってからGBNにログインする度、毎回のように自由同盟のダイバーに大我は挑まれる。

 大我も逃げるなりすればいいが、毎回相手をして完膚なきまでに叩きのめしている。

 

「いい加減逃げるなり手を考えた方が良いわね。あの手の輩は何度負けても挑んで来るでしょうから」

「嫌だね。逃げるのは。毎回来るなら毎回ぶっ潰せば良い」

 

 だが、大我は逃げる気も隠れる気もないらしい。

 そんな大我を見て静流は前々からの疑問をぶつける事にした。

 

「藤城君はどうしてそこまで敵を作るような言動をする訳?」

 

 自分と初めてあった時も大我は挑発的だった。

 あの時は自分とバトルする為にわざと挑発的な態度を取っていたと思っていたが、大我は基本的に誰にでも噛みつく。

 

「別に敵を作る気は無いんだがな。だが、俺はチームのエースとして舐められる訳にはいかないらな。俺が舐められると言う事は即ち、チームが舐められると言う事だ。だから誰も舐めた態度はさせない。する奴は皆ぶっ潰す。それがチームのエースである俺の役目だ」

 

 大我はチームビッグスターのエースだ。

 エースはチームの顔としての役目があり、大我はエースとしてチームを背負っている。

 だからこそ、大我は誰が相手でも自分の弱みを見せず、常に挑発的で強者でなければならない。

 

「強いのね」

 

 静流は素直にそう思った。

 静流も去年は1年ながらチームのエースとされていた。

 だが、静流はそこまでチームの為に強くあろうとはしなかった。

 だからこそ去年は3回戦どまりだったのだろう。

 同じチームのエースとしての差が実力の差となって今の大我と静流の差なのだろう。

 エースとしての重圧を小さい背で背負う大我の事を静流は素直に強いと思えた。

 

「……そうでもないさ」

 

 大我は静流には聞こえないくらいの声でポツリとつぶやく。

 話している内に展示会の会場に到着する。

 そして、貴音たちが恐れていた事態が起きてしまった。

 何者かの見えざる力が働いたかのように大我と静流、龍牙と千鶴が会場の入り口でばったりと出会ってしまったのだ。

 

(なんか気まずいわね。この子皇女子の会長の妹さんよね)

(この人ってタイちゃんの学校の人だよね。何で二人でここに……)

 

 会場入り口であった大我たちは龍牙の提案で一緒に回る事になった。

 静流も千鶴も別に二人きりで回りたい訳があった訳でも無い為、提案を断る事が出来ず、大我もどうでも良かった。

 

「すっげぇな!」

「コレ絶対可動域殺してるだろ」

 

 千鶴と静流は少なからず気まずかった。

 だが、男連中はそんな空気を全く気付かずに展示されているガンプラを見ている。

 龍牙は素直に賞を取るだけあって作り込まれて完成度の高いガンプラを見てはしゃぎ、大我はバトルで使う事や戦う事を前提に見ている。

 

「へぇ……これが大賞を取ったガンプラか……製作者は川澄岳。凄いな俺達を一つしか違わないのにな」

「そうか? この手の賞を取る為のガンプラは大抵見た目のみを気にしてバトルじゃ碌に使えもしない見てくれだけで中身のないガンプラだからな。それに一般レベルじゃ大賞と言ってもこんな物だろう」

 

 大我は相変わらず辛口のコメントだ。

 

「それは聞き捨てならないな」

 

 大我のコメントに誰から意を唱えた。

 

「アンタ誰?」

「このガンプラの作者の川澄岳。私のクラスメイトでもあるわ」

 

 大我は自分に明らかな敵意を向ける相手を睨み返し、静流が相手が誰なのかを教える。

 細身の長身に神経質そうな男こそが、今回のコンテストで大賞を取った川澄岳本人だった。

 そして、岳は星鳳高校の2年生で静流のクラスメイトでもある。

 

「やぁ黒羽さん。ガンプラ部の活躍は聞いているよ」

「そう」

「それはさておき、君は噂のガンプラ部の大型ルーキーだね」

「だったら?」

 

 大我と岳はすでに一発触発の状態で静流は内心ため息をついていた。

 

「君のような戦う事しか頭にない野蛮な人間には細部まで拘って作り上げたこの芸術は理解出来ないだろうね」

「知ってるか? 見てくれに気を使う奴ってのは大抵は見た目で誤魔化さないといけないように中身が汚いんだよ」

 

 大我の挑発的な態度に岳は完全に頭に血が上っている。

 

「なら証明しようじゃないか。僕の芸術作品が君のガンプラを蹂躙する様をね」

「上等だ。俺がお前の見た目だけのガンプラをぶっ潰してやるよ」

 

 話しは口論からバトルする流れとなった。

 展示会は賞を取ったガンプラの展示のみならず、隣のブースではガンプラの販売と制作コーナーもあり、更にはGBNへのダイブする為の機材も一式用意されている。

 そこで大我と岳はGBNにログインして龍牙達はモニターの方でバトルを見る事になった。

 

「藤城! そんな奴に負けんなよ!」

 

 龍牙は大我の挑発があったにせよファイターを馬鹿にするような発言をした岳よりも大我を応援するようだ。

 

「あの……良いんですか? 大会中に喧嘩騒ぎなんて起こして?」

「……もう慣れたわ」

 

 千鶴も止める事は出来なかったが、これは明らかに喧嘩だ。

 騒ぎが大きくなれば問題を起こしたとして大会に影響が出かねない。

 だが。静流はすでに大我が起こす問題に慣れてしまっている。

 その為、後はなるようにしかならなう為、事の顛末を見届けるしかない。

 

「アイツのガンプラは……」

 

 バトルフィールドはソロモン宙域。

 大我は進みながら敵を探す。

 

「見つけた。ジムか。見た目は普通だが性能の方はどうだ」

 

 モニターに映るジムは独自の改造がされていない普通のジムのようだ。

 大我は試しに腕部の200ミリ砲で様子を見る。

 バルバトス・アステールの射撃をジムは見た目からは想像できない機動力でかわす。

 

「僕のジムを甘く見て貰っては困るな」

「成程な」

 

 岳のジムは派手な改造はされていないが、細かいところから徹底的に作り込んでいる為、見た目は普通でも性能は普通のジムとは比べものにならないハイスペックカスタム、ジムHSCだ。

 

「少しはマシなバトルにはなりそうだな」

 

 バルバトス・アステールは加速する。

 確かに機動力は見た目以上だが、それでもバルバトス・アステールなら十分に対応できる速さでしかない。

 距離を詰めてバルバトス・アステールはバーストメイスを振るいジムHSCはシールドで受け止める。

 バルバトス・アステールの一撃を受けてジムHSCはシールドを破損しながらも吹き飛ばされて体勢を整える。

 

「なんてパワーだ」

「固いな……嫌。まさかな」

 

 ジムHSCはシールドの強度やパワーも並のガンプラよりも高いと自負している。

 それが一撃でシールドを破損させて弾き飛ばされたバルバトス・アステールの攻撃力に岳も驚いている。

 だが、大我は自信の攻撃でシールドを完全に破壊出来ていない事で相手のガンプラの性能よりも別の違和感を感じていた。

 体勢を整えたジムHSCはビースプレーガンを連射する。

 その威力も一般的なビームスプレーガンとは段違いだが、射撃の精度はそれ程高くは無く、大我にはかわすのは余裕ではあった。

 

「反応もいつもよりも鈍いな」

 

 攻撃をかわす際の操作が普段よりも鈍く感じていた。

 バルバトス・アステールは攻撃をかわしてシールドスラスターの機関砲を撃ち込む。

 それをジムHSCはシールドで身を守る。

 

「無茶をさせ過ぎたか」

 

 大我にはバルバトス・アステールの不調に思い当たる節が多すぎる。

 熱砂の旅団と自由同盟との戦いに乱入してからEXミッションのボスをリミッターを解除して倒し、ダイモンのガンダムAGE-2 マッハとの戦い。

 貴音との戦いでも強引に攻めている。

 それからも静流との練習で毎回のように自由同盟のダイバーとの連戦。

 大我も現実世界でバルバトス・アステールの調整を行って来たが、無理をさせ過ぎたせいでそれも追いつかず、バルバトス・アステールのパラメーターが万全の状態の時よりも下方修正されて、普段通りの感覚で操作する大我には普段よりも鈍く感じるのだろう。

 

「だが、それが分かっていればどうでもなるか」

 

 バルバトス・アステールはテイルブレイドを射出する。

 ガンプラが普段の性能を出せないのは痛いが、分かっていれば対応する事は出来る。

 幸いにも対戦相手の岳はガンプラの完成度は高いが、操縦技術に関してはそれ程高いとは言えない。

 完成度から来るジムHSCの性能も大我にとっては丁度良いレベルで脅威となる程ではない。

 

「想定外のやる事も出来た。ゆっくりと遊ぶ気はない」

 

 テイルブレイドをビームスプレーガンで対応しながら、バルバトス・アステールのバーストメイスをジムHSCはかわす。

 

「どうした? その程度か」

 

 ジムHSCは攻撃をかわしているが、次第にソロモン要塞の近くまで追い詰められていく。

 遂にはテイルブレイドがビームスプレーガンを破壊し、ジムHCSはビームサーベルを抜く。

 ジムHSCはバルバトス・アステールにビームサーベルで切りかかるが、バルバトス・アステールは簡単にかわすと背後に回りエッジを展開してジムHSCのバックパックを蹴り飛ばす。

 バックパックがエッジで損傷してまともに姿勢制御が出来ずにジムHSCはソロモンの外壁に叩き付けられる。

 

「終わりだ」

 

 バルバトス・アステールはテイルブレイドでジムHSCの左腕からシールドを叩き落とす。

 シールドが無ければ不調のバルバトス・アステールでも一撃で相手を破壊する事は出来るだろう。

 バーストメイスを両手でしっかりと握るとジムHSCに接近してバーストメイスを振り上げる。

 

「これは……美しい」

 

 岳は止めを刺される瞬間に出た事がそれだった。

 バトル中はバルバトス・アステールはただ敵を破壊する事しか考えていない野蛮な改造をしたガンプラ程度にしか見ていなかった。

 しかし、止めを刺す瞬間のバルバトス・アステールは岳には美しく思えた。

 バトルが終了して二人はログアウトをする。

 

「先ほどまでの非礼を詫びよう。君のガンプラは実に素晴らしい」

 

 バトルが終わってログアウトをした岳の態度は先ほどまでとは一変していた。

 最後の瞬間のバルバトス・アステールに岳はすっかり魅了されたらしい。

 

「そのガンプラにはビルダーとして非常に興味がある。少し見せて貰えないだろうか?」

「嫌だね。アンタのガンプラもまぁ少しは楽しめたんだけど、アンタも少しは制作技術だけじゃなくて操縦技術も磨いた方が良いぞ。折角のガンプラが無駄になる」

 

 岳は大我のバルバトス・アステールに興味を持っているようだが、大我は自分のガンプラを見せる気はない。

 

「用事が出来た。俺は帰らせて貰う」

 

 大我はそう言うと帰ろうとする。

 龍牙達も見たい物は十分に見れた為、今日のところは帰る事になった。

 会場を出ると会場の外では怪しいトレンチコートの3人組みが会場の警備員に止められていた。

 

「……何やってんの」

「先輩達に……兄さん」

 

 トレンチコートの3人組み……諒真たちはあれから大我たちの居場所は分かっている為、展示会の会場まで来たが、重要な事を忘れていた。

 会場に入る為のチケットを持ってはおらず、トレンチコートとサングラスで中を窺うような見るからに怪しい3人組を警備員が見逃す筈もなかった。

 

「げ……」

「やばっ」

 

 警備員に止められている間に大我たちに見つかり諒真と貴音は視線を泳がせ、珠樹はいつの間にかトレンチコートをサングラスを脱いでおり、顔を伏せている。

 

「私は止めた。でも貴音と諒ちゃんが……」

「珠ちゃん!」

 

 珠樹は速攻で裏切り、自分がまきこまれた被害者だと主張する。

 

「まぁ……大方俺達の後でもつけてようとしてたんだろ? 姉ちゃんもここ数日何か企んでいるようだったしな」

 

 あっさりと大我に見抜かれて諒真も貴音は反論は出来ない。

 警備員も一応は怪しい連中ではないと思ったのかすでに持ち場に戻っている。

 

「兄さん。貴音ちゃん。どういう事か説明して」

「いや……ほらな。兄ちゃんとしては千鶴の事が心配でな……」

「そうなんだよ。面白そうだとか、後で部の皆に報告しようとか全然思ってないんだから!」

 

 明らかに怒っている千鶴に諒真と貴音は必死に弁解する。

 

「後は任せた。そっちでやってくれ」

 

 その様子を見ていた大我は後の事を千鶴に任せる。

 事情を分かっていない龍牙と静流はただ事が終わるのを待つしかない。

 皆と別れた大我はスマホを出すと登録してある番号を出すと電話を掛ける。

 何回かコールしても電話には出ないが、大我のかけた相手はすぐに電話に出るタイプではない為、辛抱強く出るまで待つ。

 

「ああ。俺だ。悪いが早急に頼みたい事がある」

 

 大我は電話の相手に頼みの内容を伝えると電話を切る。

 

「手配はルークに任せるとして来週のバトルに間に合うかが問題だが、なるようにしかならないか」

 

 大我はそう言い千鶴に怒られている二人の事など忘れて一人帰って行く。

 

 

 

 

 

 



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神の手

 前回の全国出場校である巨陣高校とのバトルを明日に控え、星鳳高校では最後のミーティングが行われている。

 ミーティングの事は大我にも伝えてはあるが、展示会での一件以降、大我は学校が終わるといつも以上に早く帰っている。

 GBNにログインしているのかとも思われたが、ここ数日大我がGBNで暴れたと言う話しは聞かない。

 

「失礼するよ」

 

 ミーティングが始まろうとした時、展示会で大我と戦った川澄岳が部室に入って来る。

 

「川澄君? 何か用なの」

「藤城君のガンプラに興味があってね。ガンプラ部に入れば彼のガンプラをまじかで見る事も出来ると思うんだよ」

 

 岳はそう言って入部届を見せる。

 展示会で大我と戦った時に岳は大我のバルバトス・アステールに興味を持ったが、あの時は見せて貰う事を拒否された。

 だから、ガンプラ部に入れば部員同士自分のガンプラを見せ合う事も普通で大我のバルバトス・アステールを直接見れると考えたらしい。

 

「入部は大歓迎だけど、今日は藤城君は来ていないよ」

「それどころか部室に顔を出す事も余りないわよ」

「まぁ……それでもあのガンプラを見れる機会があるのなら構わないさ」

 

 大我は基本的に部室に顔を出す事は余りない。

 岳もそれを分かった上で入部をする事には変わりはない。

 

「改めて2年の川澄岳。僕はバトルは余りしないビルダーだけどよろしく」

 

 思いがけず新しい部員が入り、元々の予定でもあったミーティングが始まる。

 

「次に当たる巨陣高校は大型のガンプラによるパワーを主体としたチームだね」

 

 史郎は皆に資料を渡す。

 巨陣高校の戦闘は相手をパワーで押すタイプだ。

 ルール上は大型MAになるギリギリのサイズのガンプラを使って、大きいが故に高いパワーを発揮する事が巨陣高校のガンプラの共通点だ。

 

「川澄君はビルダーとしての観点からどう思う」

 

 史郎は過去の巨陣高校のバトルの様子を岳に見せる。

 岳はビルダーであり、ファイターとは違う視点からバトルを見れる。

 それだけでも岳が入部した意義はある。

 

「そうですね。僕から言わせてみればまるで品が無い。力づくで野蛮でよくもまあこんなガンプラで人前に出れるのか不思議な位ですよ」

 

 岳は巨陣高校のガンプラをそう分析する。

 実際、巨陣高校はパワーで圧倒出来る格下相手では圧倒的なパワーで勝っているが、皇女子高校や泉水高校のように力任せでは通用しない相手には惨敗している。

 

「となると私と藤城君とは相性は良いわね」

 

 相手が力任せに来るのであれば機動力が高い静流のアリオスガンダム・レイヴンと相手以上のパワーを持つ大我のバルバトス・アステールなら優位に戦う事が出来るだろう。

 

「でも油断は禁物だよ。このデータはあくまでも去年の物だから」

 

 幾ら相性が良いと言っても史郎の集めたデータは去年の物だ。

 参考にはなるが、それを全てだと思い込んでしまえば痛い目を見る。

 

「分かっているわ。ここを乗り切れば一気に全国が見えて来るわ。こんなところで負ける訳には行かないわ」

 

 一通り過去の巨陣高校のバトルを見て今日のミーティングを終わりとなる。

 

 

 

 

 

 

 翌日の巨陣高校とにバトルが星鳳高校の一つの山場になると思われていたが、それよりも先に緊急事態が起きていた。

 会場に大我がいつまでたっても来ないのだ。

 大我には会場の開場時間と自分達のバトルの開始時間は伝えてある。

 それでも他の学校のバトルが始まっても姿を見せない。

 まだ、時間はあるが場合によっては大我抜きで巨陣高校と戦わねばならないと誰もが頭の中で考え始めていた。

 

「悪い。遅くなった」

 

 最悪の状況は回避できたようだったが、これからがバトルの始まりだ。

 

「遅せぇよ! 何やってたんだよ」

「バルバトスを完全な状態にしてたんだよ。その作業が思った以上に時間がかかった」

 

 大我は岳とバトルした時にバルバトス・アステールが本来の性能を出せていない事に気が付いた。

 その性能を出す為にバルバトス・アステールを全面的に補修していた。

 それが大我の想像以上に時間をとられてバトル当日のギリギリにまでかかってしまったようだ。

 

「神君。言いたい事は後にして頂戴。藤城君。ギリギリになってまで直して来たんですからきっちりと仕事をしなさいよね」

「分かっている」

「よろしい。それじゃ部長。私達は言って来ます」

「皆、頑張って」

 

 史郎たちに送り出されて大我たちは急いで端末に向かう。

 見送った史郎達は観客席へと移動した。

 

「勝ちますよね……」

「僕達が出来る事は信じる事だけだよ」

「彼のガンプラが完全な状態となれば下品なガンプラなんて一撃ですよ」

 

 観客席に付き各々が星鳳高校のバトルが始まるを待つ。

 

「やーまだ始まってないみたいだねぇ」

 

 観客席の史郎たちの一団の横の席に一人の観客が座る。

 見たところ自分達と同じくらいの年代だが、腰まで伸びたブロンドの髪が日本人ではないとすぐに分かる。

 ジャージに所々塗料が跳ねた後が残っている白衣に頭にはなぜかガスマスクを付けている女だ。

 ブロンドの髪はボサボサで気怠そうに目の下には不健康そうな隈と、身なりをきちんとしていれば美人なのだろうが、非常に残念な見た目をしている。

 

(この人……どこかで)

 

 観客席でも一際目立つ残念な美人を岳はどこかで見た覚えがあるが、それを思い出す前に星鳳高校のバトルが始まった為、意識をモニターに戻す。

 バトルは荒野で空中にアリオスガンダム・レイヴンとバーニングデスティニー、地上には飛行能力を持たないバルバトス・アステールが出ている。

 

「藤城君のガンプラの動き少しおかしくないですか?」

「そうだね。まだどこかに不具合があるのかな?」

 

 明日香でも分かる程にバルバトス・アステールの挙動がおかしい。

 ギリギリまで調整していたとなるとまだ不具合が完全に直っていないのか、修理の際に別の不具合が起きたのかは分からい。

 心配そうにモニターを見る史郎たちの横で残念な美人はニヤついていた。

 

「そうだよねぇ……いつも通りの操縦じゃその子はもう言う事を聞かないよ。アンタはさは私らのエースなんだから乗りこなして見せてよね。大我」

 

 その言葉は史郎たちに届く事は無かった。

 

「大丈夫なの? 藤城君」

「ああ。問題ない」

 

 バトルが始まってすぐに大我は直した筈のバルバトス・アステールの操縦に苦戦させられていた。

 

(リヴィの奴……機体の出力を上げたな。聞いてないぞ)

 

 大我は何とかバルバトス・アステールを操りながら毒づく。

 今回のバルバトス・アステールの修理に時、大我はアメリカからチーム専属のビルダーであるリヴィエール・ムントをアメリカから呼び寄せた。

 大我の計算ではある程度の余裕があった筈の修理作業がここまでギリギリだったのはリヴィエールがただの修理ではなく見た目こそ変化はないが、性能を以前よりも底上げする為に細かいところまで手を加えてていたせいのようだ。

 そして、その事は大我は聞かされていなかった為、出撃後に普段通りの操縦でバルバトス・アステールを扱い切れなかった。

 

「先輩! 藤城!」

 

 センサーに敵のガンプラの反応が出た。

 だが、反応は1機だけしかない。

 ルール上1機での出撃は認められているが、3対1で数が不利になる為、基本的に単機での出撃するケースはほとんどない。

 しかし、例外的に1機しかガンプラを出せない場合がある。

 それはある規定値以上の大きさのガンプラは大型MA扱いとなり、地区予選においては1機しか出せないルールとなっている。

 敵影は1機で向こうが舐めて来て1機しか出してこない訳ではないとすれば答えは一つしかない。

 

「アレは……ガンダムグシオン!」

「サイズは段違いだがな」

 

 巨陣高校のガンプラはガンダムグシオンの改造機ガンダムグシオン・タイタンだ。

 見た目はガンダムグシオンそのままだが、サイズは従来のグシオンを10倍近くにした物で完全に大型MA扱いになるガンプラだ。

 グシオン・タイタンは歩くたびに地響きを起こしている。

 

「やってくれるわね」

「冗談だろ……」

「でかい的だな」

 

 想定外の大物にそれぞれがそれぞれの反応をする。

 

「私が仕掛けるわ」

 

 アリオスガンダム・レイヴンがGNスナイパーライフルⅡを放つ。

 グシオン・タイタンは巨体が故にまともに回避行動を取る事無くビームは頭部に直撃するがビームは弾かれて傷一つつかない。

 

「硬い!」

「あれは装甲の厚さだけじゃないな。対ビームコーティングもしてる」

 

 大我の予測通りグシオン・タイタスの表面装甲にはバルバトス・アステール同様に対ビームコーティング塗装がされている為、ビームに対する防御力は元々の装甲の厚さと合わせて鉄壁だ。

 

「ならよ!」

 

 龍牙のバーニングデスティニーが飛び出す。

 グシオン・タイタンはグシオンハンマーを持っている右手は使わず左手でバーニングデスティニーを自分に群がる小さい虫を払うかのように振り払おうとする。

 

「くそ! デカいだけだってパワーはダンチかよ!」

 

 グシオン・タイタンの左手が当たる事は無かったが、腕を振るう風圧だけでバーニングデスティニーは体勢を崩す。

 アリオスガンダム・レイヴンがGNキャノンと共にGNスナイパーライフルⅡを一斉掃射するが、グシオン・タイタンの装甲は貫けない。

 グシオン・タイタンの頭部がアリオスガンダム・レイヴンの方に向けられる。

 そして、頭部のバルカンを放つ。

 

「バルカンでも当たれば洒落にならないわ!」

 

 アリオスガンダム・レイヴンは高速飛行形態に変形して必死にかわす。

 幾らバルカンとは言っても、グシオン・タイタンの大きさでは一発の銃弾の大きさな並みのガンプラのバズーカの砲弾よりも大きい為、一撃が致命傷になり兼ねない威力で連射して来る。

 攻撃をかわしながらGNミサイルを一斉掃射するが、直撃を受けて内部にGN粒子を入れられても大きすぎる為、意味を成さない。

 地上からは大我が操縦に慣れて来て200ミリ砲をグシオン・タイタンに撃ち込むが、対ビームコーティングに実弾は意味がないが、装甲の頑丈さだけでダメージを受けた様子はない。

 

「ちっ……」

「その程度の豆鉄砲等、このグシオンには聞かぬわ」

 

 グシオン・タイタンは胴体をバルバトス・アステールの方に向けると胸部のバスターアンカーを撃ち込む。

 

「藤城君!」

「藤城!」

 

 その巨体が故に元々強力な武器だったバスターアンカーの威力は凄まじく、荒野に巨大なクレーターが出来上がる。

 威力は凄まじかったが、バルバトス・アステールは直撃は回避できたが、余波を踏ん張る為、バーストメイスの柄を地面に突き立てて踏ん張っていた。

 

「はっははは! そのような非力なガンプラ等叩き潰してくれる!」

 

 グシオン・タイタンはグシオンハンマーを振り上げると、バルバトス・アステール目掛けて振り下した。

 アリオスガンダム・レイヴンはGNスナイパーライフルⅡでグシオン・タイタンの腕を狙い、バーニングデスティニーが近くまで取りついて殴り蹴るが、グシオン・タイタンにはびくともしない。

 静流と龍牙の奮闘も空しくグシオンハンマーはバルバトス・アステールの頭上から振り下された。

 

「そんな……」

「幾らあのバルバトスとはいえ……」

 

 観客席では史郎たちは振り下されたグシオンハンマーがバルバトス・アステールを潰すところを見て絶句していた。

 事前にパワーを主体としたバトルだと言う事は分かっていたが、まさか超巨大なガンプラで来るとは思っても見なかった。

 史郎も自分の調査不足と読みの甘さを悔やんでも悔やみきれない。

 

「私のバルバトスがあんなデカいだけのでくの坊に力負けする訳が無いじゃない」

 

 星鳳高校ガンプラ部において不動のエースの地位を得ていた大我がやられた光景に絶望する中、隣の席からの言葉が自然と耳に入る。

 

「……私の?」

「そうか! 貴女は!」

 

 声の方向に視線が向き、岳は残念な美人の正体を思い出す。

 

「リヴィエール・ムントさん!」

「まさかそれって……」

 

 明日香は首を傾げているが、史郎もその名には聞き覚えがあった。

 

「どういう人ですか?」

「知らないのかい? リヴィエール・ムントと言えば神の手を持つとすら言われている伝説のビルダーだよ。彼女の作りだす作品は芸術的で制作技術は神の域にすら到達していると言われている!」

 

 岳は興奮した様子で説明する。

 岳の言う通りリヴィエールはビルダーとして世界でもトップクラスの技術を持っている事で有名だ。

 10年程前からその才覚を発揮し、今では彼女の作ったガンプラが数百万円で取引される事も珍しくはない。

 

「私は神の域に到達なんてしてないわよ。私自身が神だから」

 

 リヴィエールはそう言い切るが、それよりもリヴィエールは先ほど気になる事を言っていた。

 

「リヴィエールさん。さっき私のバルバトスと言っていましたが、アレは……まさか」

「そっアレは私が何年も前に作った奴」

 

 リヴィエールはバルバトス・アステールを私のバルバトスと言った。

 バルバトス・アステールは大我が一人で制作した物ではない。

 数年前にリヴィエールがバルバトスをベースに大我専用のガンプラとして制作した物だ。

 それ故に大我もバルバトス・アステールの補修作業はある程度しか出来ず、無理をさせ過ぎたせいで大我の補修だけでは完全とは言えず、機体性能が低下させてしまった。

 

「だから、あんな木偶の坊に負ける訳はない」

 

 バルバトス・アステールの力は誰よりもリヴィエールは知っている。

 藤城大我の実力をリヴィエールは知っている。

 その二つが合わさった時の力をリヴィエールは知っている。

 だからこそリヴィエールは断言できる。

 この程度で大我とバルバトス・アステールが負ける訳が無いと言う事を。

 その言葉を証明するかのようにグシオンハンマーが動き出す。

 

「馬鹿な!」

「馬鹿はお前だよ……この程度で俺とバルバトスがやられると思っていたのか?」

 

 グシオンハンマーと地面の間にバルバトス・アステールはバーストメイスを使ってグシオンハンマーを受け止めていた。

 グシオンハンマーを押し戻しながら、バルバトス・アステールは空いている左手を握るとグシオンハンマーを殴りつける。

 殴りつけられたグシオンハンマーは空高くまで戻される。

 

「ならばもう一度!」

「もう一度なんてないんだよ」

 

 グシオン・タイタンは再び勢いをつけてグシオンハンマーを振り落す。

 バルバトス・アステールはバーストメイスを地面に突き立てる。

 そして、先端の杭をダインスレイヴとして打ち出してグシオンハンマーのハンマー部分を粉々に吹き飛んだ。

 

「何だと!」

 

 バルバトス・アステールはバーストメイスを引き抜くと地面を思い切り踏み込んでスラスターを全開で使ってグシオン・タイタンを飛び越える勢いで飛び上がる。

 空中で回転しながら勢いを付けたバーストメイスをグシオン・タイタンの頭部に振り下す。

 頭部は潰れて、そのままグシオン・タイタンはうつ伏せに倒れていく。

 だが、大我の攻撃は終わらない。

 テイルブレイドをグシオン・タイタンに引っ掛けると倒れる勢いとスラスターでグシオン・タイタンを追い抜いて先に地上に降りるとグシオン・タイタンの下に潜り込んで再び飛び上がる。

 そのままグシオン・タイタンの腹部にバーストメイスを振るう。

 その一撃はグシオン・タイタンに腹部に大きな損傷を与えて、グシオン・タイタンは弧を描きながらその巨体を宙に浮かせる。

 

「マジかよ」

「あの巨体も滅茶苦茶だけど、ウチのエースも小さいながら無茶苦茶だった事を忘れていたわ」

 

 その光景を静流と龍牙は見ているだけだった。

 吹っ飛ばされたグシオン・タイタンは背中から地面に落ちる。

 その衝撃で背中のスラスターが潰れて腰の関節を始めとして自身の重量でいたるところが不具合が出てすでにまともに動けない。

 グシオン・タイタンを吹っ飛ばしたバルバトス・アステールは着地するとグシオン・タイタンの方に歩いて行く。

 

「何か……相手に同情して来たんですけど。俺」

「ご愁傷様ね」

 

 巨体が故の頑丈さが仇となってここまでバルバトス・アステールにボコボコにされても尚、グシオン・タイタンは戦闘不能にはなっていない。

 まだ戦闘不能になっていない以上、大我は攻撃の手を止めない。

 ゆっくりと近づくバルバトス・アステールを前にグシオン・タイタンは反撃の手は無く、後はただバルバトス・アステールに一方的に蹂躙されるしかない。

 バルバトス・アステールがバーストメイスを担ぎ、一気に飛び掛かろうとしたその時、バトルの終了のアナウンスが入った。

 バトルの決着は大きく分けて3つある。

 一つはチームの全滅。

 二つ目は制限時間が無くなった時。

 三つ目はチームが降参した時だ。

 もはや蹂躙されるしかなかった相手が降参した為、バトルが終了したのだ。

 

「まぁそうよね」

「ちっ……せっかく性能を底上げしたバルバトスの性能を試すのにちょうどいい潰し甲斐のある奴だったんだけどな」

 

 相手が降参した事で星鳳高校は4回戦を突破した。

 

「本当に勝った!」

「流石は貴女のガンプラですね」

 

 岳がそう言うとすでにそこにはリヴィエールの姿は無かった。

 せっかく神の手を持つビルダーに会えてもう少し話しがしたかったが、去年の全国大会出場校に勝った喜びを部員と共に分かち合う事を岳は優先してリヴィエールの事を探す事はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 バトルの勝利を確信して会場を去ったリヴィエールは慣れない土地で迷いながらも何とか空港まで辿り付いた。

 

「黙って帰るのかよ」

 

 そこにはバトルを終えて姿を消して連絡の取れないリヴィエールを追って来た大我がすでに先回りしていた。

 

「私の用事も済んだからね」

「それよりも聞いてなかったぞ」

「言ってないもん」

 

 リヴィエールはバルバトス・アステールの性能を底上げしていた事を黙っていた事を悪びれもしないでそう言う。

 

「大我なら初見でも扱えると信じていたしね」

「心にもない事を……」

 

 大我もリヴィエールとは付き合いは長い為、そんな事を思っていない事は分かっている。

 リヴィエールの作るガンプラはチームで使っている物を除いては実際にGBNで操縦するにはファイターの事を一切考えていないで作る為、GBNでは使い物にならない事が多い。

 そんあリヴィエールが大我が扱えると信じている訳がない。

 

「でも大我は使いこなせた。それで良いじゃん」

「全く……お前は。少しは行き成りやらされるこっちの身にもなって見ろ」

「それは大我にだけは言われたくないな」

 

 大我の文句にリヴィエールはすぐに反論する。

 大我もそんな事を言う為にここまで来た訳ではない。

 

「……けどまぁ……修理だけで良かったのに性能まで底上げしてくれて助かった。それにわざわざ日本まで来てくれてありがとうな」

 

 普段の大我を知る龍牙達が聞けばあの大我が礼を言う事など信じられなかっただろう。

 

「アンタが敵を潰すように私はチームのガンプラを万全にすぐのが仕事なの。だから気にする事は無いわよ」

 

 リヴィエールも大我から面と向かってお礼を言われて少し照れている。

 

「そんな私はアメリカに帰るわ」

「ああ。ルークたちにはよろしく言っといてくれ」

「了解」

 

 リヴィエールは後ろ向きに手を振りながらゲートを潜って行く。

 大我にリヴィエールが見えなくなるまで待ってから空港を後にする。

 この日、4回戦を突破した事で星鳳高校はベスト8となり後2回勝てば決勝戦に進出するのと同時に全国大会への出場権を得る事が出来る。

 去年の全国大会出場校を破った事で、今まで殆どの学校からノーマークだった星鳳高校は皇女子に並び全国大会出場校の候補として注目されて、これから当たる学校もまたここまで勝ち上がって来た学校で、山を一つ乗り越えたが、星鳳高校の進み道は決して平坦ではない。

 

 

 



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旧友

 去年の全国大会出場校である巨陣高校を破りベスト8となった星鳳高校。

 もはや誰も星鳳高校をただの弱小校とは呼べなくなった。

 次の準決勝へ進出を賭けたバトルが始まるも相手は微塵の油断も無く、相手は全力で星鳳高校を倒しにかかっている。

 準々決勝の相手のガンプラはダブルオーガンダムセブンソード、ティエルヴァ、トールギスⅢ。

 どれも独自の改造はされいていないが、ここまで勝ち上がって来ただけあってきちんと作り込んでおり、ファイターもバトルに慣れた実力者だ。

 

「うぉぉぉぉ!」

 

 ティエルヴァのドッズライフルをかわしながら、バーニングデスティニーは突っ込み殴りかかる。

 それをシールドで受け止められるが、すぐに蹴りでティエルヴァをシールドごと蹴り飛ばす。

 体勢を整えたティエルヴァは背部のTビットを射出する。

 Tビットの攻撃をビームシールドで防ぎながらバルカンでTビットを撃墜する。

 その間にティエルヴァはビームサーベルを抜いて、接近して来ていた。

 ティエルヴァはビームサーベルを振り下し、それをビームシールドで受け止める。

 

「神君。避けなさい」

 

 高速飛行形態のアリオスガンダム・レイヴンがGNキャノンとGNスナイパーライフルⅡを撃って援護する。

 ティエルヴァはビームを回避するが、バーニングデスティニーが追撃をかける。

 

「吹っ飛べ!」

 

 バーニングデスティニーの拳がティエルヴァのシールドを破壊し、アリオスガンダム・レイヴンが機首のGNビームクローでティエルヴァを胴体から真っ二つにして撃墜する。

 

「次行くわよ」

「はい!」

 

 バーニングデスティニーはアリオスガンダム・レイヴンの背中を掴み移動する。

 別のところではバルバトス・アステールがダブルオーガンダムとトールギスⅢを相手にしている。

 トールギスⅢが後方からメガキャノンで援護してダブルオーガンダムがGNバスターソードで切りかかる。

 

「ちっ……リヴィエールの奴。どんなじゃじゃ馬を残して行きやがったな」

 

 バルバトス・アステールは攻撃をかわしてテイルブレイドを射出する。

 ダブルオーガンダムはテイルブレイドをGNバスターソードで払う。

 

「だが使いこなして見せるさ」

 

 バルバトス・アステールはバーストメイスを振るうが、ダブルオーガンダムは一瞬だけトランザムを使った加速で回避する。

 今まではバーストメイスの一撃を防ごうとするファイターが多かったが、前回の巨陣高校でのバトルをせいか、バーストメイスの攻撃を相手は必死にかわす。

 だが、バーストメイスの攻撃に気を取られていたダブルオーガンダムはテイルブレイドには気づかずに背後から奇襲を受けてバランスを崩す。

 その隙にバルバトス・アステールはバーストメイスを振るう。

 トールギスⅢもメガキャノンで援護しようにも大我は射線上にダブルオーガンダムを挟む事でそれをさせなかった。

 体勢を崩したダブルオーガンダムは最後の抵抗でGNバスターソードでガードしようとするが、バーストメイスの前に意味はない。

 抵抗虚しくダブルオーガンダムは粉砕されると、そのままバルバトス・アステールはトールギスⅢへと突っ込んで行く。

 トールギスⅢはメガキャノンを最大出力で撃とうとするが、横からティエルヴァを片付けて来たアリオスガンダム・レイヴンがGNスナイパーライフルでメガキャノンを撃ち抜いて破壊する。

 メガキャノンが破壊されたトールギスⅢは迫るバルバトス・アステールをシールドのヒートロッドで迎え撃つがヒートロッドはテイルブレイドで弾かれる。

 速度を落とす事無く突っ込んで来たバルバトス・アステールはバーストメイスを振るうが、トールギスⅢはスラスターを最大で使って避ける。

 

「逃がすかよ!」

 

 だが、その先にはアリオスガンダム・レイヴンに乗せられて勢いを付けたバーニングデスティニーが加速したまま飛び蹴りが待っていた。

 辛うじてシールドで防ぐが、バルバトス・アステールがバーニングデスティニーに当たる事も気にしないでテイルブレイドを差し向けていた。

 

「うぉ! あぶね!」

 

 バーニングデスティニーはギリギリのところでテイルブレイドをかわして、トールギスⅢの胴体にテイルブレイドが突き刺さる。

 駄目押しでバーニングデスティニーは至近距離からバルカンを撃ち込んでトールギスⅢに止めを刺す。

 トールギスⅢを撃墜した事で星鳳高校は危なげなく準々決勝を突破して準決勝へと駒を進めた。

 

「さっきの危なかったぞ! 俺に当たったらどうすんだよ!」

「知るか。俺の攻撃コースにいたお前が悪い」

 

 バトルに勝利して観客席の史郎たちと合流する中、龍牙は大我に最後の攻撃に文句をつけていた。

 最期のテイルブレイドの攻撃はかわせたから良かったものの、龍牙の反応が少しでも遅れた龍牙ごとトールギスⅢを攻撃していた。

 文句を言う龍牙に大我は悪びれた様子を見せない。

 大我からすれば自分の攻撃コースに入り込んでいた龍牙悪い。

 龍牙は文句を言うが静流は敢えて言わないが、入部した時の龍牙ならあの攻撃に反応出来ずにトールギスⅢごとやられていただろう。

 本人は気づいてはいないが、龍牙もここまでのバトルで確実に実力を付けている。

 その証拠にテイルブレイドをかわせた事以外でも今日のバトルでは一歩も引かず寧ろ押していたくらいだ。

 

「向こうでも勝負が付いたようだな」

 

 龍牙の文句をスルーしながら大我は足を止める。

 会場では準々決勝の4試合が同時に行われている。

 皇女子高校は速攻で勝負を決めている。

 皇女子高校の対戦相手を決めるバトルはまだ続いているが、大我たちの相手を決めるバトルが終了したようだ。

 

「秀麗高校。ここまで残る事もそうだったけど、まさか準決勝まで勝ち進むなんてね。ウチが言えた事ではないけど以外ね」

「どんな学校?」

「進学校よ。余りこっち方面の事には星鳳と同じで力を入れていなかった筈よ」

 

 準決勝の相手は秀麗高校。

 静流の言うように都内屈指に進学校だ。

 ガンプラバトルは一般に浸透して来たもののスポーツや競技とは違いただの遊びとして見られている部分も多い。

 秀麗高校のような進学校は当然のようにガンプラバトルに力等入れてはいなかった。

 大会に参加するだけでなくベスト8にまで勝ち進んでいる事も意外だが、準決勝にまで勝ち進む事が出来たと言う事は元々ランキング7位の静流のいる星鳳高校よりも番狂わせと言っても過言ではない。

 

「秀麗……」

 

 先ほどまでは怒涛の勢いで大我に文句を言っていた龍牙は次の対戦相手を聞いた途端、黙り込む。

 バトルに勝利した秀麗高校がGBNからログアウトする。

 

「……冬弥」

 

 バトルを終えた秀麗高校のダイバーを見た龍牙がポツリとこぼす。

 どうやら、秀麗高校の中に見知った顔が居たようだ。

 

「冬弥!」

 

 龍牙が秀麗の生徒に声をかけるが、相手は軽く一瞥しただけで立ち止まる事も返事を返す事も無かった。

 

「知り合い?」

「はい。中学時代の仲間なんですけど……」

 

 日永冬弥……龍牙とは同じ中学でガンプラバトルをしていた友人だった。

 高校は離れて龍牙自身星鳳でのガンプラバトルに夢中で連絡を取る事は無かったが、まさか秀麗でガンプラバトルをしているとは思っても見なかった。

 久しぶりの再会だったが、向こうは完全に無視して来た。

 流石に龍牙もこの場で追いかけて問い詰めようとは思わない。

 準決勝進出を決めてこの日は解散となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 準決勝に進出したものの冬弥との事もあり、龍牙は一人で悶々としながら家に帰って来た。

 すると、家の前には先ほど自分を完全に無視した冬弥が待っていた。

 会場とは違い冬弥は軽く手を上げている。

 

「少し話さないか」

 

 冬弥はそう言い龍牙も色々と聞きたい事もあって応じる事にした。

 二人はそのまま良く中学時代に通った河原に移動して座る。

 

「今日は悪かったな。流石に次の対戦相手と知り合いだってバレるのはちょっとな……」

「だよな。俺も悪かった」

 

 冬弥が龍牙を無視したのは対戦相手である星鳳高校に知り合いがいると言う事を知られたくは無かったと言う事だ。

 龍牙に情報を流す気はないが、知り合いがいると知られたらあらぬ疑いをかけられるかも知れないと言うのは龍牙にも何となくわかった。

 

「ガンプラバトル続けてたんだな」

 

 龍牙は気になっていた事を切りだす。

 龍牙はてっきり冬弥はガンプラバトルを続けてはいないと思っていた。

 冬弥は大きな病院の跡取りで、いずれは病院を継ぐ事は決まっていた。

 その為、ガンプラバトルに使う時間も将来の為の勉強に使う為にガンプラ関連の部活の一切ない進学校の秀麗高校に進学した。

 龍牙が連絡を取らなかった理由はただガンプラバトルに夢中になっていただけではない。

 龍牙は憧れの星鳳高校でガンプラバトルをしているのに、将来の為にガンプラバトルを止めた冬弥に連絡をする事に後ろめたさがあった。

 

「ああ。俺も高校ではやらない気だったんだけどな。先輩達に誘われて今年からガンプラ部を作ったんだよ」

 

 事前に史郎が集めた資料にも秀麗高校は去年まではガンプラバトルの公式戦には一度も出ていないとされていた。

 今年に部が作られたと言うなら当然の事だ。

 

「そっか。またガンプラバトルがやれるんだな」

「まぁな。つっても学校側は将来の役に立たない遊びの部活を認める気はないようでさ……部長が何度か交渉して部を存続させる条件として全国大会に出場する事だってさ。笑えるだろ。ウチは何とか部員を集めてギリギリな上にガンプラをまともに作った事もない初心者だっているってのに!」

「そっちも大変だな」

 

 龍牙はガンプラ部に入った時の事を思い出す。

 星鳳高校も龍牙の入学当初は部員も部長の史郎と副部長の静流の2人だけで後3人入らなければ廃部となる状況だった。

 そこに龍牙と明日香が入るも、生徒会からバトルに勝たねば大会はガンプラ部ではなく校内の他の生徒から集める事になり、大我が入りバトルに勝ってガンプラ部が正式に部として認められて大会に出る事も出来るようになった。

 それからも皇女子高校との練習試合での惨敗や特訓を経てここまでたどり着いた。

 入学から2か月程度の出来事だが、龍牙には長い道のりのように思えた。

 だが、そこまで思っていると龍牙は冬弥の言葉に引っかかった。

 秀麗高校がガンプラやガンプラバトルを行う部活に否定的なのは都内屈指の進学校と言う事からも分かる。

 問題はそこではない。

 冬弥たち秀麗高校ガンプラ部は全国大会に出場しなければ存続出来ない。

 全国大会への出場枠は東京地区は2つだ。

 秀麗高校は準決勝にまで残っている為、後1回勝てば全国大会に出る事は出来る。

 学校側も全国大会に出る程の部であれば部活として認めても良いと言うのは何となく分かる。

 しかし、最大の問題は秀麗高校の次の対戦相手が龍牙達星鳳高校だと言う事だ。

 

「……それって」

 

 自分達が勝てば冬弥たちはガンプラバトルを続ける事は出来ない。

 他の部員の事は分からないが、少なくとも冬弥はそうだろう。

 

「じゃあな。次のバトルも俺が勝つ!」

 

 冬弥はそう宣言すると立ち上がって去って行く。

 

「俺達が勝つとアイツは……」

 

 龍牙は冬弥が去った後もぼんやりと川を眺めていた。

 

 

 

 

 

 冬弥との再会の翌日、龍牙は昼休みになると大我を屋上に連れ出した。

 事が事だけに史郎や静流には相談し辛い為、大我に相談する事にした。

 大我も初めは渋っていたが、龍牙の普段とは違うただならぬ感じを察したのか最後は軽く文句を言いながらも付いて来た。

 

「で……つまらない用件ならぶっ潰すぞ」

「そんな用件だったら良かったんだけどな」

 

 龍牙は屋上からグラウンドを眺めながら昨日の冬弥との出来事を大我に話す。

 

「……と言う事があったんだよ」

「で?」

 

 話しを聞いた大我は心底どうでも良さそうに返す。

 

「だから。俺はどうすれば良いんだよって話しだよ。俺達が勝てば冬弥達のガンプラ部が廃部になって……」

「だからそれが俺達に何の関係がある。負ければ廃部。だったら勝てばいいだけの話しだ。だが俺は負けないからそいつらの部は廃部になる。それだけの事だろ」

 

 大我にとっては秀麗高校ガンプラ部がどうなると全く関係はない。

 そこに龍牙の中学時代の友人がいて廃部になればもうガンプラバトルがやれなくなってもだ。

 

「それは分かってんだよ。でも……冬弥は中学の時は俺よりもずっと強くてさ。そんなアイツがガンプラバトルを続けられないのは勿体ないし。折角、またガンプラバトルがやれるようになったのに力になってやりたいじゃん」

「知るか。だったらどうする? 秀麗高校を買い取るか? それとも秀麗高校の校長とかの弱みでも握って脅すか?」

「んなの出来る訳が無いだろ……俺だって分かってんだよ。俺には冬弥の力になんてなれ無いって事くらい」

 

 龍牙も大我が言っている事が正しいと言う事は分かっている。

 出来る事は次のバトルでわざと負ける事くらいだ。

 少なくとも大我にその気が無い以上はわざと負ける事は出来ないだろうし、ファイターとしてその選択はしたくはない。

 それが分かっているが、かつて一緒にガンプラバトルをした友人を見捨てる事も出来ないからこそ、大我に相談した。

 

「それにガンプラバトルなんてガンプラがあればいつだって出来るんだ。部がなくなれば出来ないなんてのは甘えだ。結局、やれないと言う現実に抗う事もしないで諦めたただの負け犬って事だろ」

 

 大我は一切の同情をする事なくバッサリと切り捨てる。

 だからこそ、龍牙は大我に相談したのかも知れない。

 大我なら自分の迷いをバッサリ切り捨ててくれるかも知れないと。

 実際に切り捨ててはくれたが、それでもモヤモヤして割り切る事は出来ないでいる。

 

「……馬鹿にでも分かるように言ってやる。お前は今の仲間を捨てて昔の仲間を取るか、昔の仲間を捨てて今の仲間を取るか……答えは二つに一つだ。両方を取るなんて選択が出来るような力はお前にはない」

 

 冬弥の為に次のバトルでわざと負けるのであれば、ここまで戦って来た史郎や静流を裏切る事になり、ガンプラ部にはいられないだろう。

 星鳳高校が全国に出る為に次のバトルに勝てば冬弥はガンプラバトルが続けられなくなり、最悪恨まれる事になるだろう。

 龍牙はそのどちらかを選ばなくてはいけない。

 その両方を取ると言う選択肢を選ぶ事は出来ない。

 

「俺は……」

 

 大我が校舎に戻り龍牙は一人屋上に残された。

 

「盗み聞きか?」

 

 校舎に入るとそこには静流が立っていた。

 今来た感じではない為、恐らくは屋上に出る事無くここに居たのだろう。

 

「清水さんに呼ばれたのよ」

 

 静流はたまたまここに来た訳ではなく、龍牙が大我を連れていくところを見た明日香がただならぬ雰囲気を感じてもしかして昨日のバトルの事で喧嘩にでもなるかも知れないと静流に助けを求めた。

 それで静流は様子を見にここまで来たのだろう。

 

「そうか」

「それは良いとしてどう思う?」

「どうというのは負けてやるか否かと言う事ならあり得ない。それとも……」

「後者の方。神君の友達の意図よ。藤城君は揺さぶりに来たと思う?」

 

 静流が龍牙の話しを聞いて思った事がある。

 龍牙の友人である冬弥が何故、龍牙にそんな事を話したのかと言う事だ。

 仲の良い友人なら単なる近況報告として話したのかも知れない。

 だが、もう一つの可能性がある。

 友人であれば龍牙が情に流される事を見越してわざと自分達の置かれている状況を話す事で龍牙を動揺させてあわよくばわざと負けてくれる事を願っていたと言う可能性だ。

 

「さぁな。だが、このタイミングで話したと言う事は少なからずその意志があるって事だろ」

 

 冬弥の意図を確かめる術はないが、龍牙に話したと言う事は本人の意図に関わらず、同情を誘うと言う意図は少なからずあるのだろう。

 そこまで明確な意志が無くともこの状況を何とかする為に助けて欲しいくらいの思いはあったはずだ。

 

「まさかとは思うけど……」

「俺がそんな事をするタマに見えるか? 相手の事情なんて知った事か。俺は俺の前に立ちはだかる敵をぶっ潰すだけだ」

 

 大我がいつも通りで静流も安心する。

 静流も秀麗高校のガンプラ部が廃部となればもうガンプラバトルが続けられない環境にある事は同情する。

 静流や龍牙には今年が駄目でも来年がある。

 だが、星鳳高校も来年には史郎が卒業していなくなる為、今のメンバーで全国を目指せるのか今年しかない。

 向こうにも譲れない事情があるのと同じで、静流にも譲れない理由がある。

 もしも、龍牙がかつての友人との情に流されても大我が勝つ気でいれば勝算は十分にある。

 龍牙がどう決断するのかは分からない。

 それでも静流も大我も全力で敵を倒すだけだった。

 

 

 

 

 

 ベスト4が出そろい準決勝の日がやって来る。

 龍牙はどうするのが正しいのかは分かっているが、自分がどうすべきなのかと言う答えは出せてはいない。

 それでもバトルは待ってくれない。

 

「神君」

「……はい」

 

 龍牙は迷いながらもガンプラをセットしてGBNにダイブして地区予選の準決勝が開始される。

 バトルフィールドは見晴らしのいい高原フィールドでのバトルだ。

 秀麗高校のガンプラは隊長機がウィンダムの改造機であるウィンダム改。

 本体は大幅に弄っては意外がバックパックをオオトリストライカーを装備している。

 龍牙とは中学時代の同級生である冬弥のガンプラはグレイズリッターを改造したグレイズリッター改だ。

 グレイズリッターをベースに腰とバックパックに陸戦用と宇宙専用のバックパックを同時に装備し、太股の部分に補助スタスターと足の裏にホバーユニットを機動力を上げて、手持ちの火器としてロングバレルのライフルと耐熱シールドを装備している。

 腰には接近専用のナイトソードの刃を厚くして威力を上げたナイトソード改を装備している。

 秀麗高校の最後の1機はジンクスⅢを改造したジンクスⅢ改だ。

 左肩にGNフィールドの発生装置を兼ねたGNシールド、右肩には長距離砲撃用のGNキャノンを装備し、手持ちの火器はGNバスターソードを改造してライフルの機能を追加したGNバスターソード改。

 バックパックにはアヘッドのスラスターを追加して機動力も上げて、ガンプラの各部には大型の粒子タンクを増設する事で戦闘継続能力も向上、頭部にはセンサーマスクを付けられている。。

 秀麗高校のガンプラは皆、どの距離でも安定して戦える万能機でそろえている。

 

「来るわよ」

 

 バトルが開始され、ウィンダム改はビームランチャーで、ジンクスⅢ改はGNキャノンで先制の砲撃を行う。

 星鳳高校の3機も速やかに散開する。

 それを見た秀麗高校は大我にはウィンダム改が、静流にはジンクスⅢ改が、そして龍牙にはグレイズリッター改が向かう。

 

「ちっ……」

 

 バルバトス・アステールは200ミリ砲で空中のウィンダム改を狙う。

 ウィンダム改は攻撃をかわしながらレールガンで応戦する。

 バルバトス・アステールは飛行能力はない為、ウィンダム改は常に空中で距離を保ちながら実弾であるレールガンでバルバトス・アステールを狙う。

 

「近づく気はないって事か」

 

 別の場所ではアリオスガンダム・レイヴンがジンクスⅢと交戦している。

 ジンクスⅢ改はGNフィールドを展開しながらGNキャノンを放つ。

 アリオスガンダム・レイヴンはかわしながらGNスナイパーライフルⅡで反撃するが、GNフィールドに阻まれる。

 

「GNフィールドの防御力は厄介ね」

 

 アリオスガンダム・レイヴンはGNキャノンを放つが、ジンクスⅢ改は回避してGNバスターソードをライフルモードに切り替えてビームを放つ。

 機動力ではアリオスガンダム・レイヴンが勝っているが攻撃はGNフィールドに阻まれて決定打を与える事は出来ず、向こうのGNキャノンは粒子タンクを増設した事で長時間の掃射が可能となっている。

 ビームを掃射した状態で砲身を動かし事でアリオスガンダム・レイヴンはビームをかわし続けなければならない。

 静流は横目で大我の方を確認する。

 大我も距離をとられて苦戦しているようだ。

 向こうはこちらのガンプラの特性を把握したうえで弱点を的確について来ている。

 

「冬弥……」

 

 大我と静流が苦戦させられている頃、先制攻撃をかわした龍牙も冬弥のグレイズリッター改と交戦していた。

 グレイズリッター改はロングライフルでバーニングデスティニーを近づけさせないようにしている。

 

「龍牙……お前には悪いが俺も負ける訳には行かないんだよ……」

 

 冬弥は一人そう言う。

 静流と大我の推測通り、冬弥は龍牙を揺さぶる目的でガンプラ部の事情を離した。

 冬弥にとってはガンプラ部はそこまでしてでも守りたい居場所だった。

 

「俺は……」

 

 バーニングデスティニーは銃弾をビームシールドで防ぐ。

 龍牙は迷いを絶ち切れずに接近戦に持ち込もうとはしない。

 

「どうすりゃいいんだよ」

 

 迷いは動きを鈍らせ被弾してバーニングデスティニーは倒れる。

 その間にグレイズリッター改はロングライフルを捨てるとナイトブレード改を抜いて接近戦を仕掛ける。

 グレイズリッター改の斬撃をバーニングデスティニーはビームシールドを使いながら身を守るも、完全には守り切れずに損傷して行く。

 

「どうすれば……」

「お前は……」

 

 冬弥を思い迷う龍牙。

 冬弥も動きが明らかに鈍っているのは自分のせいだと言う事は分かっている。

 自分で龍牙を迷わせた冬弥だが、自分の行いが自分すらも苦しめている。

 

「これが俺が続けたかったガンプラバトルなのか……」

「こんな形で冬弥とバトルをしたかったのか……」

 

 龍牙と冬弥の二人は中学でガンプラバトルをやっている事から意気投合した。

 二人は何度もバトルをやって来た。

 勝敗は8割近く冬弥が勝っていた。

 龍牙は負ける事も多かったが、龍牙も冬弥も楽しかった。

 中3になりそれぞれが進路を決める頃、星鳳高校に進学する気だった龍牙と家の病院を継ぐ為に秀麗高校に進学し、ガンプラバトルは続けられない冬弥。

 それでもいずれはまたガンプラバトルをしたいと二人はそれぞれの進路を進んだ。

 そうして再びガンプラバトルを全国大会出場を賭けた大一番でやれることになった。

 本来ならば心の底から熱くなれた筈のバトルだが、二人の心は重い。

 

「……違う。俺が龍牙とやりたかったバトルは…こんな戦いじゃ……」

「俺は……」

 

 自身の苦しさを振り払うかのようにグレイズリッター改はナイトブレード改を振り下す。

 

「負けたくない!」

 

 その一撃をバーニングデスティニーは受け止める。

 

「俺はお前にもアイツにも……負けない! 俺は!」

 

 ナイトブレード改を受け止めたバーニングデスティニーは立ち上がると拳を握り締めてグレイズリッター改の頭部を殴り飛ばす。

 グレイズリッター改はよろめきながら後ろに下がる。

 

「悪い……冬弥。俺は星鳳高校の皆で全国に行きたい。お前に勝ちたい!」

 

 もはや龍牙に迷いはない。

 冬弥の事情を知りながらも、それでも龍牙は今の仲間と共に全国を目指す事を選んだ。

 その結果で秀麗高校ガンプラ部が廃部となろうとも今は目の前の冬弥に勝ちたいと言う欲求が勝った。

 

「龍牙……俺も済まなかった。お前を揺さぶるような事を言って。俺も負けない! 先輩達と作ったガンプラ部を守る為に! お前に勝つ為に!」

 

 龍牙の一撃は冬弥の気の迷いをぶっ飛ばして目を覚まさせた。

 全国大会を目前に相手は一筋縄ではいかない星鳳高校。

 どんな手段を使っても勝ちたいと言う思いが冬弥の道を間違えさせた。

 

「来い! 冬弥!」

「ああ!」

 

 グレイズリッター改はナイトソードを構えて、バーニングデスティニーが拳を握る。

 二人の間にわだかまりはもうない。

 今はただ目の前の相手に勝つ事だけしか二人には見えていないのだった。

 

 

 

 

 

 その頃、苦戦する大我と静流もただ相手に良いようにさせている訳ではなかった。

 静流がジンクスⅢ改を相手にしながらGNスナイパーライフルⅡでウィンダム改の方にも援護射撃を行っている。

 向こうも静流と大我の戦闘スタイルを研究して来てはいるが、元々の地力や経験においては二人には及ばない。

 時間が経てば流れが変わって来る事は当然のことだった。

 

「トランザム!」

 

 アリオスガンダム・レイヴンがトランザムを起動して一気に加速するとジンクスⅢ改を振り払う。

 ジンクスⅢ改もトランザムで追いかけるが、元々の機動力に差があり過ぎて追いつけない。

 それでも追い付こうと必死になっていたが、アリオスガンダム・レイヴンは急制動をかけてる。

 それに対応しきれなかったジンクスⅢ改は止まり切れず、アリオスガンダム・レイヴンは反転すると高速飛行形態に変形すると、先端のビームクローでGNフィールドを張るも、GNフィールドごとジンクスⅢは両断されて破壊される。

 ジンクスⅢ改が撃墜され、アリオスガンダム・レイヴンの援護射撃で意識がアリオスガンダム・レイヴンに向いていたところをウィンダム改はバルバトス・アステールのテイルブレイドで地面に叩き付けられる。

 ギリギリのところでシールドで身を守れたが、すでにバルバトス・アステールの領域にウィンダム改は入り込んでいる。

 突撃して来るウィンダム改はミサイルを使って牽制しようとするが、バルバトス・アステールはミサイルには一切気にした様子はなく減速もしない。

 ウィンダム改のミサイルはジンクスⅢ改を撃墜して来たアリオスガンダム・レイヴンがGNスナイパーライフルⅡで撃ち落す。

 

「アリオスか!」

 

 ウィンダム改はバルバトス・アステールのバーストメイスを空中に逃れて迫るアリオスガンダム・レイヴンを迎え撃つ為にオオトリストライカーの対艦刀を抜く。

 対艦刀の一撃をアリオスガンダム・レイヴンはギリギリのところでかわして、ウィンダム改の横を通り抜ける際にビームサーベルでウィンダム改のオオトリストライカーに一撃入れる。

 オオトリストライカーを損傷させられ誘爆する前にウィンダム改はオオトリストライカーをパージする。

 それによって飛行出来なくなったウィンダム改は再び地面へと落下して行く。

 

「くっそぉぉぉぉ!」

 

 地上に落ちたウィンダム改は待ち構えるバルバトス・アステールに対艦刀を振るうが、バルバトス・アステールは片手で受け止めてウィンダム改を足の裏のエッジを展開して蹴り飛ばす。

 対艦刀を手放してバルバトス・アステールの蹴りをシールドを掲げて身を守るが、シールドは破壊される。

 後ろに下がりながたも腰の装甲に内蔵されているスティレットを投擲するが、バルバトス・アステールのテイルブレイドに弾かれる。

 ウィンダム改はビームサーベルを抜くが、テイルブレイドに右膝の関節を貫かれて尻餅をついて倒れる。

 

「……悪魔め!」

 

 ウィンダム改のダイバーには巨大なバーストメイスを肩にかついて止めを刺すべく接近して来るバルバトス・アステールは自分達がガンプラバトルをやる為に守りたかったガンプラ部を破壊する悪魔に見えるだろう。

 

「せめてお前だけでも!」

 

 ウィンダム改はスラスターを使いバルバトス・アステールに突っ込む。

 バルバトス・アステールはバーストメイスを突き出す。

 バーストメイスの先端がウィンダム改に到達する前にウィンダム改は左腕を胴体との間に入れてバーストメイスの先端部で左腕が潰されたが、ビームサーベルを突き出す。

 ウィンダム改のビームサーベルは腕を伸ばしてもバーストメイスよりも短くバルバトス・アステールに届く事はない。

 それでもウィンダム改は足を止めない。

 必死にせめてもバルバトス・アステールに一矢報いようとしている。

 しかし、そんな最後の抵抗すら大我はさせる気はない。

 バーストメイスの先端の杭が打ち出されて、ウィンダム改の胴体を貫く。

 更に追い打ちをかけてウィンダム改を貫く杭を爆破してウィンダム改は跡形もなく吹き飛んだ。

 その爆炎の中からは無傷のバルバトス・アステールが佇んでいる。

 

「後はグレイズリッターだけか」

 

 ウィンダム改とジンクスⅢ改を撃墜した事で残りは冬弥のグレイズリッター改のみだ。

 グレイズリッター改は現在、龍牙のバーニングデスティニーと交戦中だ。

 大我はガンプラをそちらの向けて向かわせようとするが、バルバトス・アステールの前にアリオスガンダム・レイヴンが降りて来る。

 

「どの道、私達の勝利は固いわ。ここは無理に交戦せずとも神君に任せてもいいんじゃないの?」

 

 すでに秀麗高校のガンプラは残り1機だ。

 対する星鳳高校は全機健在だ。

 どんなに冬弥の実力が凄いとしてもこの差を覆す事は不可能だろう。

 だからこそ、静流は龍牙に一騎打ちをさせてあげたいと思っている。

 

「……好きにしろ」

 

 大我も持っていたバーストメイスを下す。

 大我は龍牙の事を信用して任せた訳ではない。

 静流の言うようにすでにバトルの勝敗は決している。

 次の対戦相手は皇女子になる事は確実だ。 

 次に備えてここは無駄な力を使わないと言うのも一つの手だ。

 大我はそうして、このバトルの矛を収めるのだった。

 

 

 

 

 

 互いに迷いの吹っ切れた龍牙と冬弥。

 もはやお互いの間に何の壁も無く互いにがむしゃらに戦っている。

 グレイズリッター改がナイトブレード改を振るい、バーニングデスティニーは斬撃をいなしながら拳を振るう。

 

「冬弥! 俺はお前の知るお前じゃない! お前に勝ってそれを証明してやる!」

「来い! 龍牙! お前を倒して全国に俺達が!」

 

 バーニングデスティニーの拳をシールドで受け止めて、グレイズリッター改はショルダータックルでバーニングデスティニーを吹っ飛ばす。 

 スラスターで体勢を整えながらバーニングデスティニーがバルカンで牽制すし、シールドでそれを防ぐ。

 その間に光の翼を展開したバーニングデスティニーは膝蹴りでシールドに突っ込む。

 グレイズリッター改はシールドで受けるが、受け切れないと判断してシールドを手放す。

 着地したバーニングデスティニーは更に踏み込み拳を突き出す。

 ナイトソード改で拳を流したグレイズリッター改も前に出て2機の頭部は激しくぶつかり合うと、よろめきながら2機のガンプラは下がる。

 

「相変わらず強いな。冬弥」

「龍牙こそ、以前とは比べものにならない程強くなってるじゃないか」

 

 バーニングデスティニーはここまでの戦闘のダメージで膝をつくも何とか立ち上がる。

 冬弥のグレイズリッター改も何度も攻撃を受けて満身創痍となっている。

 

「お互いそろそろ限界だ。次の一撃に全てを込める!」

 

 バーニングデスティニーは力強く拳を握る。

 対するグレイズリッター改も両手でしっかりとナイトソード改を握り構える。

 龍牙も冬弥も余力は残されてはいない。

 これが正真正銘最後の一撃となる。

 ほぼ同時に互いに地を蹴って突撃する。

 バーニングデスティニーはそこから光の翼を展開して更に加速する。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 バーニングデスティニーの渾身の拳が突き出す。

 グレイズリッター改も全ての力を込めてナイトソード改を振り下す。

 互いに全てを乗せた一撃。

 だが、グレイズリッター改のナイトソード改はバーニングデスティニーの左腕の守りで受け止められていた。

 そして、バーニングデスティニーの拳はグレイズリッター改の胴体に深く突き刺さっている。

 

「……お前の勝ちだよ。龍牙」

 

 胴体をぶち抜かれたグレイズリッター改が崩れ落ちるように倒れる。

 秀麗高校の最後の1機が戦闘不能となった事でバトルの終了のアナウンスが入るが、龍牙の耳には入っていない。

 龍牙にとってはこのバトルの勝敗よりも冬弥との個人とのバトルの勝利の方が先に頭に入って来た。

 

「俺は勝ったのか……よっしゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

 龍牙の咆哮と共にバーニングデスティニーは空高々に拳を突き上げる。

 それにより星鳳高校は地区予選決勝戦に進出すると共に全国大会への出場権も獲得した。

 

 

 

 



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地区大会決勝戦

 

 

 

 全国大会地区予選東京地区の準決勝は星鳳高校と秀麗高校とどちらも無名校の対戦は星鳳高校に軍配は上がった。

 それにより星鳳高校は10年ぶりに全国大会への出場が決まる。

 バトルに勝利した星鳳高校はぞれぞれがGBNからログアウトして龍牙は冬弥の方に向かう。

 

「冬弥……」

「本当に強くなったな……龍牙」

 

 バトルに負けて全国へ行く事の出来なくなった秀麗高校ガンプラ部は廃部になるのだろう。

 それでも冬弥はどこか晴れ晴れとしていた。

 

「なぁ……冬弥。あの話しって……」

「本当だよ。これで俺達のガンプラバトルも終わったよ」

 

 冬弥は遠い目をしてそう言うが、言葉には龍牙に対しては責める印象はない。

 一度は道を間違えたが、それでも全力を出して冬弥は龍牙に負けた。

 龍牙に勝って全国へ行くと言う願いも、冬弥が負けた時点でバトルが終わった事から始めからそんな道は残されてはいなかった。

 

「終わってない。終わらせちゃ駄目だ!」

 

 全てを出し切っての敗北を受け入れた冬弥に龍牙は声を上げる。

 

「だって冬弥はあんなに強いんだぜ。ガンプラバトルが好きじゃなきゃあそこまで強くはなれ無いだろ! だからそう簡単に諦めれんなよ!」

「龍牙……」

「それに今の俺の仲間が言ってたんだよ。ガンプラバトルなんてガンプラがあればいつでもやれるって、そりゃ部活が無くなるのは寂しいかも知れないけど、冬弥にも一緒にガンプラ部を作った仲間がいるんだろ? 俺達とのバトルに負けて部が無くなっても冬弥の仲間までは無くなったりはしない!」

 

 秀麗高校ガンプラ部が廃部になる事はもはや止める術はないのかも知れない。

 だが、ガンプラ部が無くなっても、ここまで一緒にやって来た仲間がいなくなるわけではない。

 仲間が居ればガンプラバトルを続けようと思えばいつでもやる事は出来る。

 今の仲間を取ってバトルに勝利した龍牙が出来る事は冬弥に諦めないように言う事しかない。

 

「龍牙……そうかも知れないな」

「だから……またバトルしようぜ」

「ああ。お前も俺達に勝ったんだ次も勝って全国で暴れて来いよな」

 

 そう言い龍牙と冬弥は握手をして別れる。

 

「色々と済みませんでした!」

 

 冬弥と別れた龍牙は静流のところに戻ると頭を下げる。

 最終的には覚悟を決めたものの、戦いに迷いバトルに身が入らなかった。

 

「構わないわ」

「ありがとうございます。それよりも藤城は?」

 

 すでに大我の姿はない。

 大我はバトルが終わってログアウトすると、準決勝のもう一つのバトルを見に行った。

 結果は当初の予想通り皇女子高校が難なく勝利して決勝戦に駒を進めた。

 それにより今年の東京地区からの全国大会には星鳳高校と皇女子高校の2校が出る事が決まった。

 準決勝に勝利した龍牙達はそのまま解散せずに一度学校に戻る事となった。

 その際に大我が渋っていたが、半ば強制的に連れて行かれた。

 

「皆、良くやったよ。これで星鳳高校は10年ぶりに全国大会に出場する事になったよ」

 

 部室では一足先に戻った颯太が飲み物やお菓子等を用意して軽い打ち上げの用意をしていた。

 地区予選は最後の決勝が残っているものの、決勝の勝敗に関わらず星鳳高校は全国大会に出る事が出来る。

 

「次が本番だろ」

 

 全国大会出場が決まり、部が浮かれる中大我がそう言う。

 大我にとってはここまでのバトルは皇女子と戦う為の前座に過ぎない。

 

「向こうも全国行きが決まっても、大人しく手を抜いてくれるような可愛げはないからな。次の決勝も全力で潰しに来るぞ」

 

 相手の事を良く知る大我はそう考えている。

 すでに全国大会出場が決まっている為、決勝戦は本気を出す必要はないが、決勝戦で勝って全国に行くか、負けて全国に行くかではチームとしての勢いが違ってくる。

 確実に皇女子高校は決勝も勝ちに来るだろう。

 

「確かにそうかも知れないけど、今日ぐらいは浮かれても良いと思うよ」

「だな……お前も少しは部に馴染もうとしようぜ」

 

 龍牙が大我を座らせると全国大会出場決定の軽い打ち上げが始まる。

 

「浮かれれるのは良いけど、全国大会でウチの部には大きな問題があるけどどうするつもり?」

 

 打ち上げが始まり少しすると静流がそう切り出す。

 全国大会出場が決まったが、今の星鳳高校には全国で戦う為に大きな問題がある。

 

「問題ってなんですか?」

 

 問題そのものは史郎たちも分かっているが、明日香だけは分かっていないようだった。

 

「全国はね。今までの地区予選とはバトルの方式が違うんだよ」

「確かフラッグ戦でしたよね」

「それも最大10機までのね」

 

 史郎や静流の言葉で明日香も何となく問題が見えて来た。

 地区予選は3機までのチーム戦だが、全国大会のバトルは最大10機で行われるフラッグ戦となっている。

 フラッグ戦はGBNでもフォース同士のバトルで良く行われるバトル方式の一つだ。

 自分のチームの中でフラッグ機を事前に決めて置きバトルを行い先に相手のフラッグ機を撃墜されば勝ちと言うルールだ。

 そして、現在のガンプラ部の部員は部長の史郎に副部長の静流、1年は大我と龍牙、2年には新しき入った岳の5人だ。

 地区予選を勝ち抜いている為10機を出す必要はないが、全国に出るチームは皆出場可能な10人で来るだろう。

 5機でも戦えない事はないが、数の差は圧倒的な不利となる。

 

「それに関しては俺に任せて貰おうか!」

 

 タイミングを見計らったかのように生徒会長の諒真が部室のドアを開けて扉にもたれ掛っている。

 

「会長が?」

「そうだ。生徒会が全面的にバックアップしてメンバーを集める。無論、俺も参加させて貰う」

 

 ルール上はガンプラ部の部員でなくとも星鳳高校の生徒であれば全国大会のメンバーとして出る事は可能だ。

 そこに諒真も加えてれば残りは4人となる。

 ガンプラ部が独自にメンバーを集めるよりも生徒会が集めた方が大会に向けての準備も並行して行える。

 

「諒ちゃんは別に良いにしても数合わせの雑魚はいらないよ」

 

 諒真の実力は以前のバトルで証明されている。

 だが、残りのメンバーの実力も全国で戦う上では重要な要素だ。

 募集すれば星鳳の生徒の中でGBNをプレイしているダイバーが集まるが、全国大会では各地区予選を勝ち抜いて来た実力者ばかりだ。

 半端な実力では足手まといにしかならない。

 

「分かってるって。その辺は俺に任せてお前らは次の決勝戦に備えてろよな」

 

 諒真はそれだけ言ってどこかに去って行く。

 いずれは全国の事を考えて動き始める必要はあるが、今優先しなければいけないのは次の決勝戦だろう。

 相手は去年の全国準優勝校の皇女子高校。

 今まで戦って来た学校とは実力は段違いだろう。

 かつては練習試合では惨敗したが、今は全体的にレベルアップしてあの時のような胸を借りて戦うのではなく、対等な対戦相手として決勝戦を戦う。

 その事を意識する事で、もはや全国出場に浮かれて打ち上げ等している雰囲気ではない。

 その日は解散となり、各々が次の決勝戦の準備に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決勝戦の当日、会場は観客席は満員だった。

 片や去年の準優勝校。

 片や無名校。

 星鳳高校はここまで番狂わせを起こして勝ち上がって来た。

 このバトルは全国大会出場が決まっている学校同士とはいえ注目を集めている。

 

「このバトルは全国行きには無関係とはいえ、彼を調子づかせないように勝ちに行きなさい」

 

 バトル前の最後のミーティングで麗子は決勝に出る3人に指示を出す。

 大我の読み通り、皇女子は決勝戦も完全に勝ちに行くようだ。

 

「分かってるってその為に今日は私らも全国用のガンプラを使うんだし」

 

 皇女子は星鳳高校に対して、一切の油断はない。

 今日は今まで温存しておいた全国用のガンプラを投入してまで勝ちに行く。

 

「分かっているなら良いわ。勝って来なさい」

 

 麗子はそう言って貴音たちを送り出す。

 

「今日は泣いたって許して上げないんだからね! 馬鹿大我!」

「言ってろ。泣くのは姉ちゃんの方だ」

 

 バトル開始前から大我と貴音の間に火花が散っている。

 互いにガンを飛ばしながらもGBNにログインして地区予選の決勝戦が始まる。

 星鳳高校の3機がバトルフィールドの宇宙に入る。

 

「来るぞ」

 

 フィールドに入った瞬間、大我がそう言いバルバトス・アステールはバーストメイスを振り上げる。

 バーストメイスを振り上げた瞬間にバーストメイスに何かが当たった鈍い音がする。

 同時にアリオスガンダム・レイヴンの左腕と左側のGNキャノンが、バーニングデスティニーの上半身も吹き飛ぶ。

 

「狙撃!」

 

 開始早々の狙撃で大我は完全に見切りバーストメイスを振り上げて銃弾を弾き、静流は反応出来たものの、かわし切れずに腕をGNキャノンを失い、龍牙に至っては反応出来ずに撃墜された。

 

「撃墜出来たのはジン君のデスティニーだけか……それにタイちゃんは狙撃を完全に見切っていた。流石だな」

 

 バトルフィールド後方で千鶴のガンプラ、ガンダムグシオンリベイクフルシティシューティングスターが大型のリニアライフルを構えていた。

 千鶴のガンプラは今まで使っていたフルシティをベースにガンダムフラウロスの砲撃能力を加えた長距離砲撃に特化したガンプラだ。

 バックパックはフルシティの物をベースに2門のフラウロスのレールガンと火器の収納されたコンテナユニットで形成されている。

 手持ちのライフルもレールガンと同様にエネルギーをチャージするとダインスレイヴとして使える大型のリニアライフルとなっている。

 膝にはバックパックに搭載れている物と同タイプのコンテナユニットが増設され、リアアーマーは可変機構を廃止して内部に武器を収納できるように改造され、近接戦闘用にグシオンチョッパーが収納されている。

 機体は全体的にガンダムフラウロスと同じピンク色で塗装されており、フラウロスの砲撃能力とグシオンリベイクの精密射撃モードにより長距離での狙撃に重きを置いたガンプラだ。

 

「今のでこっちの位置は把握されたと思うのでお願いします」

「任せんしゃい!」

 

 初手の狙撃で1機撃墜して、1機は手負い。

 大我だけはダメージはないが、そこまでは想定の範囲内だ。

 貴音のキマリスがバルバトス・アステール目掛けて突撃する。

 貴音のガンプラはガンダムキマリス・ヴィダールの改造機、ガンダムキマリス・トライデントだ。

 背部にはキマリスブースターを装備して機動力を大幅に向上させ、下半身はキマリス・トルーパーの物をベースに宇宙での高機動モードと陸戦時のトルーパー形態の2種類に変形可能に改造し、膝にはキマリス・ヴィダールのドリルニー、リアアーマーには各種機雷が内蔵されている。

 腰にはガンダムヴィダールの物をベースに内部にはバーストサーベルの替刃でなく、キマリスサーベルが1本づつ収納されている。

 肩には小型のミサイルポッドに変更されている。

 腕部には緊急時に手に持つ事無く使用できるコンバットナイフが折り畳んで装備されている。

 最大の特徴が手持ちのデストロイヤーランスに背部からアームで保持されているシールドの裏側にそれぞれグングニルとドリルランスとガンダムキマリス、ガンダムキマリストルーパー、ガンダムキマリス・ヴィダールの3種類のキマリスの槍を装備し、ガンダムヴィダールを含めた全てのキマリスの要素を詰め込んだのが高機動型のガンプラが貴音のガンダムキマリス・トライデントだ。

 

「キマリス。姉ちゃんか」

 

 キマリス・トライデントは加速したままでデストロイヤーランスを振う。

 それをバルバトス・アステールは正面から受け止める。

 

「今日は本気で潰して上げるかんね!」

「やれる物ならな」

 

 バルバトス・アステールはキマリス・トライデントを弾き返す。

 そして、腕部の200ミリ砲を向けるが、キマリス・トライデントは一気に加速して射線上から退避する。

 

「ちっ……速いな」

「おっそい! 遅すぎてあくびが出ちゃうね!」

 

 背後を取ったキマリス・トライデントに振り向きざまにバーストメイスを振るうが、すでにキマリス・トライデントはそこにはいない。

 攻撃を回避したキマリス・トライデントは3つの槍に内蔵されている火器でバルバトス・アステールに集中砲火を浴びせる。

 シールドスラスターで身を守りながら200ミリ砲で応戦していると別方向からの射撃がバルバトス・アステールに直撃する。

 

「……面倒なのが来たか」

 

 攻撃して来たのは皇女子高校の最後の1機、珠樹のガンダムバエルの改造機ガンダムエルバエルだ。

 ガンダムバエルをベースに背部にはウイングスラスターを増設する事でフリーダムガンダムのような翼と化して機動力を向上させている。

 右手にはグレイズ用のライフルをベースに銃身の下部にグレネードランチャーを追加したバエルライフル。

 左手には先端がクロー状になりワイヤーで射出する事の出来る小型のシールド、バエルシールドを装備している。

 腰には姿勢制御用のサブスラスターも兼ねてストライクフリーダムのレールガンが装備され、ビームサーベルの変わりにバエルソードの腰に装備されている。

 貴音のキマリスが直線的な機動力に特化している分、珠樹のバエルは小回りの利く高機動型のガンプラとなっている。

 先行した貴音に後から珠樹が追いかけて来てようやく追いついた。

 

「大我には悪いけど」

 

 エルバエルがバエルライフルをバルバトス・アステールに向ける。

 バルバトス・アステールはキマリス・トライデントとエルバエルを同時に相手しなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 大我が姉二人を相手にしている頃、残った千鶴の方には静流が向かっていた。

 初手の狙撃で痛手を負ったものの、アリオスガンダム・レイヴンはまだ戦える。

 

「見つけた!」

 

 アリオスガンダム・レイヴンは捕捉したグシオンシューティングスターにGNスナイパーライフルⅡを放つ。

 それをグシオンシューティングスターはかわしてレールガンで応戦する。

 グシオンシューティングスターのレールガンとリニアライフルはエネルギーをチャージする事でダインスレイヴとして使う事が出来るが、チャージしなければ通常の砲撃としてにも使える。

 ここまで相手に接近された状態で友軍の援護なしにダインスレイヴは使えない。

 

「手負いとはいえ手加減はしない!」

 

 グシオンシューティングスターは背部のコンテナユニットからマシンガンとライフルをサブアームに持たせる。

 手持ちのリニアライフルは通常射撃でも並のガンプラなら一撃で仕留める程の威力を持つが、連射が出来ず残弾数もそこまで多くはない。

 機動力のあるアリオスガンダム・レイヴンに無駄撃ちは避ける為にグシオンリベイクフルシティの特徴でもあるサブアームを使って手数で押す。

 マシンガンとライフルでは連射速度も弾速も違う為、避ける方は非常にかわし辛い。

 

「そう簡単にはやらせては貰えないようね」

「そこ!」

 

 攻撃をかわしているアリオスガンダム・レイヴンにグシオンシューティングスターはリニアライフルを放つ。

 その銃弾は正確にGNスナイパーライフルⅡを撃ち抜く。

 爆発する前にGNスナイパーライフルⅡを捨てるとビームサーベルを抜いて一気に接近戦に持ち込む。

 

「接近戦か……生憎だが!」

 

 グシオンシューティングスターは左手でリアアーマーのグシオンチョッパーを抜くとビームサーベルを受け止める。

 

「すでに苦手は克服している!」

 

 グシオンシューティングスターはアリオスガンダム・レイヴンを蹴り飛ばすとリニアライフルを撃つ。

 リニアライフルの銃弾はアリオスガンダム・レイヴンの頭部を吹き飛ばすが、アリオスガンダム・レイヴンはGNキャノンで反撃してリニアライフルを破壊する。

 

「こっちもそう簡単にやられてあげる訳にはいかないのよ!」

「流石にトップランカー。一筋縄ではいかないか」

 

 手持ちの火器を失ったグシオンシューティングスターは膝のコンテナユニットからガトリング砲を取りだす。

 取り出したガトリング砲をアリオスガンダム・レイヴンに向けて連射する。

 アリオスガンダム・レイヴンは右肩のビームシールドを使いながら、ひたすら攻撃の回避に専念するのだった。

 

 

 

 

 

 

 2人の姉からの猛攻を大我はひたすら捌きながら反撃を行うも、反撃は珠樹のエルバエルに妨害されて完全に抑え込まれている。

 キマリス・トライデントが機動力を生かした一撃離脱とエルバエルが上手く立ち回りバエルライフルを撃ち込む。

 2人の姉は完璧な連携で大我を追い詰め、バルバトス・アステールはすでに10回以上も被弾させられている。

 

「ちっ……」

 

 姉たちの連携も去る事ながら、大我はリヴィエールにより機体性能を底上げされたバルバトス・アステールの扱いにも苦労させられている。

 巨陣高校戦や秀麗高校戦等は相手が格下である為、扱いに慣れれば問題はないが、今日の相手はレベルが違う。

 

「いい加減に俺に従えよ。バルバトス」

 

 キマリス・トライデントの攻撃をかわしたところにエルバエルがバエルライフルを撃ち込み頭部に被弾する。

 頭部は半壊して、フレームのツインアイの片方が露出する。

 

「硬い」

 

 珠樹も過去の大我の戦闘データを事前に頭に入れているが、そこから計算されたバルバトス・アステールの装甲強度は明らかに誤差の範囲を超えている。

 

「珠樹。大我のガンプラは前より強くなってる。油断は駄目」

「みたいだね。なら、少し冒険もしてみたいとね!」

 

 キマリス・トライデントは一直線に加速するとバルバトス・アステールに突っ込んで行く。

 珠樹は援護しようと思えば、援護射撃を行えたが、貴音が一直線にバルバトス・アステールに突っ込んで行った意図は分かっている為、あえて援護射撃は行わない。

 突っ込みデストロイヤーランスを振るうが、それをバルバトス・アステールは正面から掴む。

 

「お前の全てを出してやる。だから……お前は全部俺に任せれば良いんだよ!」

「何!」

 

 貴音はバルバトス・アステールの雰囲気が変わったような気がした。

 同時にデストロイヤーランスが握りつぶされた。

 すぐにデストロイヤーランスを手放すと、サイドスラスターに内蔵されているキマリスブレードの柄を持つとサイドスラスターがスライドしてキマリスブレードを抜く。

 バルバトス・アステールはバーストメイスを付きだすがギリギリのところでキマリス・トライデントには届かなかったが、先端の杭を打ち出す。

 

「調子に乗んな! バーカ!」

 

 キマリス・トライデントはキマリスブレードで射出された杭を弾く。

 杭や射出されバーストメイスの先端に新しい杭がリロードされる。

 

「そうだ……それで良い。後は俺がアイツ等をぶっ潰す!」

 

 バルバトス・アステールはバーストメイスを握りキマリス・トライデントに襲い掛かる。

 キマリス・トライデントは加速してバルバトス・アステールを振り払うが、バルバトス・アステールは最短距離を移動して回り込む。

 

「鬱陶しい!」

 

 キマリス・トライデントは肩のミサイルを全て撃ち尽くす。

 それをシールドスラスターの機関砲で迎撃する。

 

「やらせない」

 

 エルバエルがバエルライフルをバルバトス・アステールに向けるが、珠樹の死角からテイルブレイドがエルバエルを襲う。

 とっさに回避するが、エルバエルのバエルライフルが破壊されてしまう。

 バエルライフルを破壊しても尚、テイルブレイドはエルバエルを狙う。

 エルバエルはバエルソードを抜きながら、バエルシールドの先端のアンカークローを射出して迎撃する。

 アンカークローをテイルブレイドにぶつける気だったが、激突する直前にテイルブレイドは軌道を少し逸らしてアンカークローを回避すると、アンカークローのワイヤーの自身のワイヤーを絡める。

 

「お姉ちゃん!」

「大丈夫」

 

 力勝負ではバルバトス・アステールには敵わない為、珠樹はすぐにアンカークローのワイヤーをバエルソードで切断する。

 

「私とやりながらお姉ちゃんも相手にするとか生意気!」

「うるさいよ。黙って俺にぶっ潰されてろよ」

「やなこった!」

 

 キマリス・トライデントは距離を取りながらグングニルとドリルランスの火器でバルバトス・アステールを寄せ付けないようにする。

 バルバトス・アステールはバーストメイスを逆手に持ち替えて勢いよく投擲する。

 迫るバーストメイスをキマリス・トライデントの火力では押し戻す事は出来ない。

 しかし、勢いが付いているとはいえ、キマリス・トライデントの機動力の前には止まっているも等しい。

 キマリス・トライデントは余裕でバーストメイスを回避する。

 

「遅いのよ!」

「十分だ」

 

 バルバトス・アステールの投げたバーストメイスの射線上にはキマリス・トライデントだけではなく、珠樹のエルバエルもいた。

 そして、珠樹はキマリス・トライデントがブラインドとなり、大我の攻撃に反応が遅れていた。

 

「狙いは始めから私」

 

 大我は戦いながらキマリス・トライデントを誘導してこの状況を作り上げた。

 

「でも……そう簡単にはやられない」

「知ってるよ。珠ちゃん」

 

 反応が遅れても珠樹は慌てる事無く、最小限の動きでバーストメイスを避ける。

 だが、それは大我も読んでいた。

 エルバエルの回避先にはすでにテイルブレイドが先回りをして、エルバエルを雁字搦めにする。

 

「……動きが」

「お姉ちゃん!」

「先に珠ちゃんをやらせて貰う」

 

 バルバトス・アステールはキマリス・トライデントから狙いをエルバエルに変えて一気に加速する。

 

(ヤバい! ヤバい! ヤバい! お姉ちゃんが……)

 

 動きを完全に封じられたエルバエルは珠樹の実力を持ってしてもどうしようもない。

 貴音が助けなければ確実に落とされる。

 機動力ではキマリス・トライデントの方が高く今からでも追えば十分に追いつく事は可能だ。

 だが、大我も貴音が助けようとする事は想定の範囲内だろう。

 貴音が取れる行動はいくつかあるが、その中からいくつかのパターンを思い浮かべてそうするべきなのかをすぐさま考える。

 すると、ふとモニターの端に映されている数字が無意識の内に目に入り、貴音はある策を思いつく。

 それを思いついた貴音はそれ以上考える事無く行動した。

 完全に動きが封じられて引き寄せられるエルバエルにバルバトス・アステールは膝のドリルニーをブチ込もうとする。

 回避も防御も出来ない珠樹は自分がやられる事を覚悟した。

 

「ちょーっと待った!」

 

 バルバトス・アステールのドリルニーがエルバエルを貫く前に2機の間にキマリス・トライデントが割り込んだ。

 キマリス・トライデントは道中でグングニルとドリルランスを捨てて身軽になり、2枚のシールドと両腕で胴体部を守った状態で間に入りエルバエルの変わりにドリルニーを受けたのだ。

 バルバトス・アステールのドリルニーはキマリス・トライデントの2枚のシールドと両腕を貫通するも、胴体までは達する事は無かった。

 それでもキマリス・トライデントは両腕を潰されて戦闘能力を殆ど奪われた事になる。

 しかし、ドリルニーが胴体を潰せなかった時点で貴音の勝利だった。

 ドリルニーがキマリス・トライデントを貫いた状態でバトル終了のアナウンスが入る。

 

「終了? 時間切れか」

「貴音。ぐっじょぶ」

 

 貴音の目に無意識の内に入ったのはバトルの残り時間だった。

 その残り時間が残りわずかだった事に気が付いた貴音は確実に勝利する為の手段として珠樹を庇ったのだ。

 大会のルールでは制限時間が切れた時点で互いのチームの残りガンプラの数で勝負が決まる。

 星鳳高校は千鶴の初手の狙撃で龍牙がやられて静流も何とか喰らい付いて残っている為、残りのガンプラの数は2機。

 対する皇女子高校のガンプラは損傷が大きいキマリス・トライデントがいるものの3機とも残っている。

 もしもその時点で残りのガンプラ数が同じであればインターバルを置いて残ったガンプラから代表の1機により一騎打ちで勝負を付ける。

 1対1でのバトルとなれば星鳳高校は大我が出る事は確実で単体で大我を相手にする事は厳しい。

 だから貴音はバルバトス・アステールを止めるのではなく、時間切れまで3機を維持する事で判定勝ちに持ち込んだのだ。

 決勝戦は判定により残りのガンプラ数の多かった皇女子高校が勝利となり地区予選決勝戦は皇女子高校の優勝で幕を下ろした。

 

「俺が最初にやられたせいだ……すんません!」

 

 GBNからログアウトすると、すかさず龍牙が勢いよく頭を下げる。

 バトルは負けたが、すでに全国大会には進む事が出来る。

 観客達も皆、1機も落とせなかったものの皇女子高校を追い詰めた星鳳高校の健闘を称えて歓声を上げている。

 誰も龍牙を責める事はないが、龍牙自身はそうは思ってはいない。

 最初の攻撃で龍牙がやられていなければ、判定負けをする事もなく、バトルに参加出来て結果も変わっていたかも知れない。

 

「……別に。お前の責任じゃねぇよ」

 

 大我はポツリとそう言うと通路の方に歩いて行く。

 龍牙は大我からは何を言われても仕方がないと思っていたため、意外な言葉に拍子抜けする。

 

「ちくしょう」

 

 通路で一人になった大我は備え付けのベンチを力の限り蹴り飛ばす。

 

「意外ね。貴方が神君にあんな事を言うなんてね」

 

 大我の様子が気になった静流は後を追いかけて来たらしく、大我はそっぽを向く。

 

「アイツは俺の邪魔をしないって最低限の仕事はしたんだ。文句はないよ」

 

 静流はそこで龍牙に対しての言葉が龍牙を励ます為の物ではないと気が付いた。

 大我にとって龍牙は始めから戦力として考えてはいなかった。

 だからこそ、始めに何も出来ずに撃墜されても始めから戦力として見ていなければ痛手でもなんでもない。

 むしろ、下手に生き残り大我の邪魔になるくらいなら早々に撃墜されていてくれた方が大我にとっては都合がいいとすら思っているのだろう。

 

「アイツがやられも俺が姉ちゃんたちを全員ぶっ潰せば勝てていた」

「それはそうだけど、相手は去年の準優勝校で藤城君のお姉さんたちでしょ? そう簡単に勝てる相手ではないわ」

「関係ない。相手が誰であろうと敵はぶっ潰す。それが俺のエースの仕事だ。勝てないエースに存在する価値はない」

 

 相手は今までとはガンプラの性能もファイターの実力も連携の練度もレベルが違う。

 大我が幾ら高い能力を持っていようとも、そう簡単に勝てる訳が無い。

 だが、大我にとっては相手が誰であっても負けたと言う事実が重要なのだ。

 チームのエースとしてチームを勝たせる責任がエースにはある。

 静流は大我に何も言い返せない。

 去年は静流が星鳳高校のエースとして期待されていた。

 結果としては3回戦までは勝ち進めたが、そこで負けた。

 その時、静流は友軍はあっさりとやられて一人で戦った。

 そんな状況では勝てなくても仕方がないと悔しさはあっても静流は割り切って納得した。

 敗北を受け入れた時点で静流はチームのエースとしての資格は無かったのだろう。

 

「全国では今日のような無様な戦いはしない。誰であろうと俺の前に立つ敵は全員ぶっ潰す」

 

 大我はそう言って帰って行く。

 その後、観客席でバトルを見ていた史郎たちと合流してその日は解散となった。

 GBN主催のガンプラバトル全国大会は東京からは星鳳高校と皇女子高校が出場する事が決まっている。

 続々と各都道府県の代表が決まり、それぞれが全国成果を目標に夏の全国大会までその爪を研ぎ澄ますのだった。

 

 

 

 

 



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ガンプラアイドル

 毎年開催されているGBN主催のガンプラバトル全国大会は学生達の長期休暇である夏休みに行われる。

 各都道府県の地区予選から勝ち抜いた全64校が静岡に集まり激闘を繰り広げられる。

 東京地区予選で準優勝して全国大会に出場する星鳳高校はある問題に直面していた。

 全国大会は10機までのガンプラで行われるフラッグ戦だ。

 星鳳高校ガンプラ部は今年は部員はギリギリで何とか部として認められている状態だ。

 10年ぶりの全国大会出場を決めて学校もある程度はサポートを決めているが、元々余り部活には力を入れていない為、余り当てには出来ない。

 現在は部員は6名で1人はバトルを行わない為、5人に生徒会長の如月諒真を入れても後4人は必要となる。

 全国大会に出場できる為、学内でガンプラバトルをしている生徒達はこぞって大会への参加を希望しているものの実力的な問題で補欠扱いに留めている。

 

「なぁ静流。ガンプラアイドルのアイちゃんって知ってるか?」

「は?」

 

 気温も上がりすっかりと夏に入り生徒達も制服を夏服にして、夏休みがまじかに迫ったある日の事、大我が放課後学内で偶然会った静流にそう尋ねる。

 静流は一瞬、最近の熱さで大我の頭がおかしくなったのかと思ってしまう。

 皇女子高校に判定負けした翌日、大我の事を心配したが本人は全く気にした素振りは無かった。

 本人曰く、あのバトルは時間切れにならなければ勝てたから実質的には自分の勝ちだったと負け惜しみもはだはだしい理論を振りかざして負けた事自体をなかった事にしていた。

 静流としても一度の敗北をいつまでも引きずるよりかはマシだと特に何も言わなかった。

 

「だからアイちゃんだよ」

 

 大我が言い直し静流は自分の聞き間違えではないと思い知らされる。

 

「最近ランキングを上げて来ている?」

「そうそのアイちゃんだよ」

 

 静流もそのハンドルネームには聞き覚えがある。

 ここ一か月くらいで急激にランキングを上げているダイバーの名がアイちゃんだ。

 アイちゃんのGBNでの活動は特徴的で単にバトルを行うのでなく、GBN内でアイドル活動をしているのだ。

 オープンワールド内の都市でライブを行うなど、非公式ではあるが、ガンプラアイドルとしては名が売れて来ている。

 

「そのアイちゃんがどうかしたの?」

「この前GBNで倒した奴が言ってたんだよ。お前程度の奴なんてアイちゃんの敵じゃないってな。だから興味が出て来た」

「成程」

 

 大我がGBNにログインする度に自由同盟のダイバーが大我に絡みバトルで叩きのめすと言う事はもはや恒例となっている。

 そのダイバーの中にアイちゃんのファンがいたのだろう。

 大我がアイちゃんの事に興味を持ったのはアイドルに興味がある訳ではなく、バトルの実力者だから興味を持ったらしい。

 大我がアイドルに目覚めていないと知り静流は内心安堵した。

 

 

 

 

 

 

「そうね。それに詳しい人を知っているから案内するわ。付いて来て」

 

 静流は大我を部室まで連れて行く。

 部室では史郎が全国大会用の資料をまとめている。

 

「部長はアイちゃんのファンクラブの会員でしたよね」

「へ? そうだけど……いきなりどうしたんだい?」

 

 静流の言うガンプラアイドルのアイちゃんについて詳しい人物とはガンプラ部部長の史郎のようだった。

 史郎はアイちゃんのファンでファンクラブにも入る程だ。

 余り学校では公表していない為、ガンプラアイドルが好きだと知られて史郎は少し目が泳いでいる。

 静流は簡単にこれまでの流れを史郎に説明する。

 

「これがアイちゃんだよ。可愛いだろ」

 

 史郎はPCでアイちゃんのライブ動画を流す。

 PCにはピンク色の髪でいかにもアイドルと言った衣装を身に纏いライブザクウォーリアの手の平で踊るダイバーが映される。

 

「こんなのはどうでも良い。肝心なのはバトルの腕前だ」

 

 大我はライブ自体には一切の興味も示さず早送りをする。

 するとライブの後に毎回行われるバトルの様子が映される。

 アイちゃんのガンプラはピンク色に塗装されブレードアンテナの付いたガーベラテトラだ。

 バトルシーンに入りバトルが開始される。

 

「へぇ。以外とやるわね」

 

 静流もアイちゃんのバトルを見て素直に関心している。

 アイちゃんのガーベラテトラの動きは素人のものではない。

 バトル相手もそれなりの実力者だが、アイちゃんは優位にバトルを進めている。

 有名なガンプラアイドルがランキングで上がって来ていると言うだけでは、対戦相手がわざと手を抜いた接待バトルも考えられたが、それを抜きにしても実力者だと言う事は確かだだろう。

 大我もその様子を見ている。

 

「この動き……どこかで。アイちゃん……成程な」

 

 大我はボソボソと何かを呟いていると何か思いついたようだ。

 

「藤城君?」

「ああ……助かった」

 

 大我はそう言うと部室を出ると学校内のある場所に向かった。

 そこは生徒会室。

 中では諒真たちが生徒会の仕事をしている。

 

「大我? 悪いが全国のメンバーは思うように集まってないんだよ」

「それはどうも良い。諒ちゃん。少し副会長を借りても良い?」

 

 諒真は大我の頼みに少し怪訝そうな顔をする。

 指名された副会長の縦脇愛依も自分に大我が何の用があるのか分からずに首をかしげている。

 

「余り時間は取らせないからさ」

「分かった。縦脇」

「はい」

 

 愛依は諒真も了承した事で、余り気のりはしないが席を立ち廊下に出る。

 

「それで藤城君。私に何の用ですか?」

「アイちゃん」

 

 大我がそう言うと愛依はびくりとする。

 その反応を大我は見逃さない。

 

「やっぱりアンタだったのか」

「……何の事です? 私がアイドルな訳……」

 

 あからさまに目を反らしながら愛依は自分の失言に気が付いた。

 大我はアイちゃんとしか言っていない。

 そこから必ずしもガンプラアイドルを連想する訳ではない。

 

「この前のバトルで動き……上手く誤魔化していたようだけどアイちゃんの動きの癖といくつか共通点があった」

 

 大我は部室で見た動画から以前に大我がガンプラ部に入るハメになったバトルで愛依のシュトゥルムケンプファーの動きとアイちゃんのガーベラテトラの動きの癖が同じだと気が付いた。

 それは意図的に真似出来るものでも愛依がアイちゃんのファンだとしてもまず意識して真似は出来ないレベルの癖だ。

 

「そんでアンタの下の名前は「めい」……これは「あい」とも読めるよな」

 

 動きの癖を見抜いた後、大我はそこに気が付いた。

 GBNを始める際にゲーム内でのハンドルネーム、通称ダイバーネームを決める際には色々な法則がある。

 語呂や好きな言葉や物、人物から取るパターン。

 史郎や龍牙のように自分の名前や苗字をそのままやカタカナやひらがな、一部を英語化するパターン。

 現実世界でのあだ名を使うパターン。

 そして、自分の名前の別の読み方を使うパターン等だ。

 愛依は読みはめいだが、一目見ただけではあいとも読める。

 動きの癖とダイバーネームの付け方の法則からその可能性に辿りついた大我はカマをかけて見たら面白いくらいに引っかかった。

 以前にバトルした時とはアバターやダイバーネームが違ったが、同じアカウントでも複数のアバターを使い分けるダイバーもいる為、不正行為ではない。

 

「……何が目的なの?」

 

 愛依も自分の失言で完全に気づかれたと確信して敵意を見せる。

 大我の目的は分からないが、素性を隠しているアイドルの素性を知った人間の取る行動は大体ゲスだと愛依は思っている。

 

「俺と戦え。前のような手抜きじゃない。本気のお前と」

「断ると言えばどうなるのかしら? 私の正体を拡散でもするのかしら? それでも私は構わないわ」

 

 愛依は強がってそう言う。

 

「そんな事はしない。ただ、それだとこの後が暇になって諒ちゃんと話しでもしに行こうかと思っている。最近にGBNでの事とか話したい事は山ほどあるしな」

 

 大我は遠回しに言うが、要するに大我は諒真にその事を話す気だと言う事だ。

 ネット上で拡散される程度なら愛依は幾らでもやりようはあった。

 しかし、諒真に知られると言う事は愛依にとっては最も厄介な事だからだ。

 諒真の性格上、不用意に言いふらしたりはしないが、顔を合わせる度にその事をネタにしてからかって来る事は分かり切っている。

 大我もそれを知っているからこそ、諒真に言うと脅しに来ているのだろう。

 

「……分かったわ。貴方と戦えばこの事は黙っていてくれるのね」

「ああ。約束する」

「私はまだ生徒会の仕事があるから今夜7時にGBNのディオキアで待ち合わせをしましょう」

「分かった」

 

 大我もアイちゃんとバトルさえできれば場所はどこでも良かった。

 バトルの約束を取り付けた大我は愛依と別れて下校する。

 

 

 

 

 

 

 

 大我は早めに夕食を済ませると家のガンプラルームに向かう。

 そこには家族の共有のガンプラ制作用の道具が一式揃えられているだけではなくGBNへのログイン用の機材が家族5人分が完備されている。

 皇女子高校のようなガンプラバトルの強豪校では学校でログインできるように設備が整えられているが、個人宅で完備されている事は珍しい。

 藤城家は母方の祖父が大のガンプラ好きであり、大我の家にも家族分のGBNへのログイン用の端末を買い与えた。

 大我は普段GBNにログインする時は大抵家からログインしている。

 大我は指定された時間の少し前にログインして指定されたディオキアに向かう。

 

「来たぞ」

 

 ディオキアに到着するとそこにはすでにアイちゃんこと愛依のピンク色のガーベラテトラが待っている。

 

「みんな~!」

 

 普段の愛依を知る者からは想像の出来ない甲高い声で愛依はそう言うと周囲から多数のライブザクウォーリアが出て来る。

 ライブザクウォーリアはそれぞれがブレイズ、スラッシュ、ガナーのウィザードを装備し、肩のシールドにはアイちゃんの姿が描かれている。

 

「誰も一人で来るとは言ってないよね~」

 

 ここに集まったライブザクウォーリアのダイバーたちは皆アイちゃんのファンクラブのメンバーたちだ。

 愛依は大我に勝負を挑まれたてから時間までの間に自分のファンをここに集めた。

 

「別に構わないさ」

 

 完全に嵌められた形になるが、大我は別に気にしてはいない。

 大我にとっては倒せる相手が一人から大勢になったに過ぎないだけで寧ろ好都合とも言えた。

 

「いつまでそんな強がりが言えるのか楽しみだな~」

 

 愛依はそう言うとライブザクウォーリアの大軍の後ろに隠れる。

 

「まぁ良いが……」

 

 軽く見ただけでもライブザクウォーリアの数は100機近い。

 場合によっては更に増える可能性もある。

 周囲がピンク一色で少々目に悪いが、大我は戦いを始める。

 手始めに近くのライブザクウォーリアをバーストメイスで潰す。

 背後からビームアックスを振るうライブザクウォーリアをテイルブレイドで貫く。

 

「よくもアイちゃんに付きまとって!」

「アイちゃんは僕達は守る!」

 

 圧倒的な力を見せるバルバトス・アステールにライブザクウォーリアは果敢に挑む。

 恐らくは愛依はファン達に性質の悪いダイバーに粘着されているとでも吹き込んだのだろう。

 元々、自由同盟との一件で少なからず悪評の広まっている事や彼らにとってはアイちゃんの言う事は絶対正しいと盲信している事もあり、大我を何としてでも倒そうと言う気概を感じる。

 

「まさか……君がそんな事をしていたなんて……僕は部長として君を……」

 

 バルバトス・アステールは近くのライブザクウォーリアをバーストメイスで潰す。

 潰す前に聞き思えのある声で通信が入って来たような気もしたが、大我は気にする事もなく次から次へと湧いてくるライブザクウォーリアを潰してはまた潰していく。

 

「成程……ドルオタもここまで来ると大した物だな」

 

 バルバトス・アステールがバーストメイスを振るいライブザクウォーリアがシールドで身を守ろうとするが、攻撃が当たる前にシールドをどけて胴体が潰される。

 すでに同じようにシールドで守ろうとする動作とした後に攻撃をシールドで守らずにやられるダイバーが何人もいる。

 彼らは皆、シールドに描かれているアイちゃんで自らの身を守るくらいならやられた方がマシだとして誰一人としてシールドで身を守ろうとはしない。

 すでに何十機と撃破した中で、一人としてシールドで身を守ろうとしないのは大我も関心するしかなかった。

 それから一時間以上もの間、大我は休む事無くライブザクウォーリアを倒し続けた。

 一見無限に湧いて出るかのように思われたライブザクウォーリアだがついには増える事もなくなり、バルバトス・アステールは最後のライブザクウォーリアをバーストメイスで叩き潰した。

 

「これで最後か……副会長はどこだ?」

 

 ライブザクウォーリアを殲滅したが、すでに周囲にはガーベラテトラの姿はない。

 だが、モニターの端にディオキアの基地の方に逃げていくガーベラテトラが見える。

 

「基地に誘っているのか」

 

 逃げる気であればライブザクウォーリアを殲滅している時に逃げる事も場合によってはログアウトする事も出来た。

 それでも大我に見つかるタイミングで基地の方に逃げたと言う事は逃げたのではなく、基地に誘い込む事が目的なのだろう。

 向こうが基地に誘い込むと言う事は基地での戦いで有利に事を運ばせる算段があると言う事だ。

 大我は誘われていると知りつつもその誘いに乗る事にした。

 

「まさかあれだけの数を一人で殲滅しちゃうなんてね~」

 

 ガーベラテトラは追いかけて来るバルバトス・アステールにビームマシンガンを撃ち込んで身を隠す。

 

「まぁ分かってたけどね」

 

 建物の影から腕部の機関砲を撃つとすぐに身を隠す。

 

「そう来るか」

 

 バルバトス・アステールはガーベラテトラを追う。

 次にガーベラテトラを見つけた時には左手にビームランチャーが握られていた。

 ガーベラテトラのビームをバルバトス・アステールはシールドスラスターで守り200ミリ砲で反撃する。

 ガーベラテトラは持っていたビームランチャーを投げつけて200ミリ砲を防ぐ。

 ビームランチャーは空中で破壊されて爆発して、ガーベラテトラは爆風に紛れて建物の影に姿を隠す。

 

「また姿を隠したか……それにさっきの火器は」

 

 姿を隠したガーベラテトラを探していると、ガーベラテトラはスキウレをバルバトス・アステールに向けていた。

 スキウレのビームをバーストメイスで弾く。

 ガーベラテトラはすぐにスキウレから離脱してバルバトス・アステールはシールドスラスターの機関砲でスキウレを破壊しておく。

 

「成程な」

 

 大我は愛依が基地に誘い込んだ理由が読めて来た。

 この基地内には予め大量の武器がいたるところに隠してあるのだろう。

 1機のガンプラに装備出来る武器の数には限界がある。

 一般的にガンプラの装備を変えるには格納庫で設定を変えるしかない。

 大量の武器を装備させればその分、機動力が落ちる。

 千鶴のグシオンシューティングスターのように始めから余り動かないで砲撃に徹する事を前提としたガンプラならともかく、高い機動力が売りのガーベラテトラでは重装備は足かせとなる。

 それを克服する為に事前に基地に武器を隠して身を隠しながら武器を回収して使っては捨てているのだろう。

 通常のフリーバトルなら事前に武器をフィールドに隠す事は不正な手段を使わねば出来ないが、オープンワールド内でなら可能だ。

 

「そろそろこっちの狙いも気が付いた頃だしどう出る? エース君」

 

 ガーベラテトラは隠していたバズーカを取りだす。

 するとバルバトス・アステールが基地の格納庫の壁をブチやぶって出て来る。

 とっさにバズーカを向けるが、バーストメイスに弾き飛ばされて止む無くビームマシンガンを撃ちながら大きく後退して逃げる。

 

「次の武器は……」

 

 愛依は逃げながらも基地内のマップを表示する。

 そこには事前に隠しておいた武器の在り処と種類も表示されている。

 そこからバルバトス・アステールと遭遇しないようにルートを選んで武器を取りに行く。

 

「お次はこれにしよっかな~」

 

 隠していたコンテナから対艦ライフルを取りだそうとするが、コンテナを開けた瞬間にバルバトス・アステールのテイルブレイドが対艦ライフルを破壊する。

 

「もう追いついてきちゃったようね」

「ここでなら時間切れは無いんだ。俺にいつまでも付き合って貰うぞ」

 

 隠した武器を探して戦うガーベラテトラだが、バルバトス・アステールにまともにダメージを与える事が出来ない。

 一方のバルバトス・アステールは基地の損害等まるで気にしないで暴れている。

 その暴れっぷりから近くに来ていた他のダイバーが何事かと様子を見に来て暴れているバルバトス・アステールを見つけて止めようとしたところを有無を言わさず叩き潰したガンプラは1機や2機ではない。

 

「次の武器は……」

 

 すでにバトルと言うよりも基地を無差別破壊しているバルバトス・アステールから逃げながら愛依は次の武器を探そうとする。

 何回か前から探す事も一苦労になっていたが、ついには隠している武器が全て使用済みかバルバトス・アステールの無差別破壊で使えない状態となっていた。

 

「まさか!」

「さぁ……そろそろ終わりなんじゃないか?」

 

 愛依はそこで大我の思惑に気が付いた。

 愛依の策は通常のガンプラが装備出来る装備数を大きく超える事が出来るが、それでも有限だ。

 有限であろうとも一度の戦闘で使う火器の量を遥かに超えている為、考えてはいなかった。

 戦闘時に武器を全て使い切ると言う可能性を。

 

「やってくれるじゃない……」

「そっちが先に長期戦を仕掛けて来たんだろ」

 

 元々、愛依が自身のファンを使って物量で攻めて、その後も勝って知ったる基地で大量の武器を用意して挑んでいる。

 大我は愛依の策に乗り、愛依の方が先に手が尽きた。

 ただそれだけの事だった。

 

「どうするアイちゃん?」

「……あんまり舐めるんじゃないわよ!」

 

 愛依は逃げる事を止めた。

 ガーベラテトラはビームサーベルを抜いてバルバトス・アステールに突っ込む。

 だが、それはテイルブレイドにより腕を破壊されてしまい武器を失ったまま、突っ込む事になりバルバトス・アステールはバーストメイスを振り上げてガーベラテトラを吹き飛ばす。

 バーストメイスを胴体に受けたガーベラテトラは胴体がひしゃげながらも基地の格納庫のシャッターに叩き付けられる。

 それほど勢いをつけてなかった事もあり、完全に撃墜はされていなかったが、もはやガーベラテトラに戦闘能力は残されてはいない。

 バルバトス・アステールは周囲に気を配りながらガーベラテトラに近づく。

 

「煮るなり焼くなり好きにしなさいよ」

「そうだな。その前に提案がある」

 

 愛依もすでに勝ち目はないとふんで大人しく敗北を認めて止めを待っている。

 この状況でもログアウトをしないのは愛依のせめてでも抵抗なのだろう。

 

「何よ」

「アンタは中々面白い戦い方をする。実力もまぁまぁだ」

「それはどうも」

 

 その戦い方も大我には通用しなかった今の状況で言われも馬鹿にしているようにしか聞こえない。

 

「それでだ。アンタもガンプラ部に協力してやって全国に出て見ないか?」

「は?」

 

 愛依は大我の言葉に目を丸くする。

 ガンプラ部が全国大会出場を決めて、諒真も大会に出て足りないメンバーを諒真が探している事は愛依も知っている。

 諒真も愛依がアイちゃんとしてGBN内でアイドル活動をしている事は知らないが、ガンプラバトルでそれなりの実力者だと言う事は知っている。

 それでも諒真が頼めば会長として強制させてしまいかねない為、諒真も敢えて生徒会のメンバーを自分からは誘ってはいない。

 

「この状況で断る事は出来ると思っているの?」

 

 状況的に大我がその気になれば止めを刺せる。

 その上、大我は愛依の弱みを握っている。

 そんな状況では強制しているも同義だ。

 

「別に強制はしない。その気がないのなら別に構わない。無理やり入れたところで邪魔でしかないからな」

 

 半ば脅迫しているも同然の状態だが、大我はその気はないと言う。

 

「アンタとまともに話せる時は余りないからな。だから話せる時に言っておきたかっただけだ。大会まではまだ時間はある。ゆっくりと考えて置いてくれ」

 

 大我がそう言うとバルバトス・アステールはバーストメイスを振り上げる。

 大我は愛依にその事を伝える為に止めを刺さずにいたが、バトルと大会参加の勧誘は別だ。

 言いたい事を言った大我にこれ以上待つ理由はない。

 動けないガーベラテトラの胴体にバーストメイスを振り下して止めを刺した。

 その翌日、愛依は諒真に自分もガンプラ部に協力する事を伝え、正式に全国大会出場メンバーとなった。

 残りの必要人数は3人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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初めてのガンプラ

 愛依が全国大会出場メンバーとなり必要な人数は残り3人となった。

 そんなある日の放課後の事だ。

 

「藤城君」

 

 授業が終わりGBNにログインする為に帰ろうとした大我を明日香が呼び止める。

 龍牙はすでに授業が終わると否や飛び出して行った為に珍しく明日香一人で大我に声をかけて来た。

 基本的にガンプラ部関連では龍牙と明日香はセットでいる事が多く、明日香が一人で大我に話しかける事は珍しい。

 

「清水? 何か用?」

 

 大我は少し面倒臭そうに答える。

 

「この後時間ある?」

「……少しなら」

「話があるの」

 

 大我は早いところ帰ってGBNにログインしたいので早いところ切り上げたかったが、明日香に渋々付いて行く。

 そして、明日香に連れられて大我は人気のない校舎裏まで連れて行かれる。

 

「それで?」

「藤城君……私にガンプラの作り方を教えて欲しいの!」

「ハァ……他を当たってくれ」

 

 大我はため息をつくとそう答える。

 大我からすれば明日香にガンプラ作りを教える義理は無い。

 

「ちょっと! 待ってよ!」

「何で俺なのいつも一緒のアイツとか川澄とかに頼めば良いだろ」

 

 ガンプラ作りを教えて欲しいと言うなら行動を共にする事の多い龍牙やビルダーとしては高い能力を持つ岳がいる。

 

「先輩達には何か話し辛いし、龍牙には後で驚かせたいから駄目なの。頼めるのは藤城君しかいないのよ」

「そんな事は知らん」

 

 明日香の事情は大我には関係もなければ興味もない。

 大我は早いところGBNにログインしてバトルがやりたい。

 

「そこを何とか!」

「知らん」

 

 大我は早いところ切り上げて帰りたかったが、明日香は食い下がる。

 

「……分かった。今回だけだからな」

「本当? やった! ありがとう藤城君!」

 

 これ以上、問答をする事の方が時間の無駄に思えて来た大我の方が先に折れた。

 大我も渋々、明日香と共に模型店に向かう。

 二人が向かった模型店はこの辺りでは大型の店舗であり、模型店ではあるが、ガンプラ専門店で多数のガンプラや買ったガンプラを組み立てるビルドスペースやGBNへのログインも可能なゲームコーナーも併設されている。

 

「……聞いてはいたけど数が多いよね」

「まぁな。それでガンプラを作りたいって事だが、どれにするんだ?」

 

 ガンプラを作る前にまだ明日香はガンプラを持っていない。

 まずは作るガンプラ選びから始めなければならない。

 

「どれがおすすめ?」

「さぁな。選ぶ基準と言っても色々あるからな。素組でもガンプラによっては武装や特性は異なるからな。それに改造次第で特性も好きなように弄る事が出来る」

 

 ガンプラを選ぶ基準は人によって様々だ。

 元々、好きなMSを選ぶ事やガンプラの特性から選ぶ事もある。

 ガンプラにもそれぞれ素組でもそれぞれ異なる特性がある。

 例えば大我の使っているガンダムバルバトスは作中設定において動力炉であるエイハブリアクターを2基搭載されている為、圧倒的なパワーを発揮できると言うものがある為、素組の状態でもパワーの値が通常値よりも高めに設定されている。

 また、武装の面でも特性が出て来る。

 バルバトスは標準装備で付いて来るメイスによる接近戦での協力な一撃を得意としたパワー重視の近接戦闘型のガンプラで龍牙のデスティニーガンダムは対艦刀による近接戦闘にビームライフルによる射撃戦、長距離ビーム砲による砲撃戦とどの距離でも戦えるバランスの取れたガンプラと言ったように素組の状態でも特徴がある。

 だが、それらは素組の状態での特性であり、岳のように徹底的に作り込むだけのビルダーもいるが、多くのファイターはガンプラを作る上で様々な改造をす事が多い。

 改造によりガンプラの特性が大きく変わる事もある。

 大我のバルバトス・アステールはバルバトスの持つパワーと一撃の攻撃力を付きつめた改造だが、龍牙のバーニングデスティニーは本来の汎用性を全て捨てて素手による近接格闘戦に特化させている。

 静流のアリオスガンダム・レイヴンはアリオスガンダムの持つ可変機構と機動力を生かしつつも火力を上げてどの距離でも戦える汎用性を持たせている。

 このように改造する事でガンプラの可能性は無限に広がって行くと言っても過言ではない。

 

「んー良くわかんないよ」

「……なら、清水はどうして急にガンプラ作りを教えて欲しいと言い出したんだ?」

 

 機能の面からでは選ぶ基準は選ぶ事は難しいそうだった為、大我は別の方向から選ぶ事にする。

 元々明日香は龍牙に付き合ってガンプラ部に入部した。

 ガンプラにもガンダムにも興味が薄く、入部してもガンプラを作る事は無かった。

 だが、全国大会を前にして明日香は大我にガンプラ作りと教えて欲しいと頼みに来た。

 そこには何か理由がある筈だ。

 その理由がガンプラ選びに繋がるかも知れない。

 

「そうだね。前々から龍牙と一緒にGBNにログインする事はあったんだけど、地区予選での龍牙を見ていたら私も龍牙や部の皆のガンプラバトルをやりたくなったんだと思う」

 

 明日香自身、そこまで深い考えがある訳ではない。

 だが、全国を目指して戦う龍牙を見ていたら自分もやりたくなったと単純な理由らしい。

 

「そうか……ならコイツなんてどうだ?」

 

 大我はガンプラの山から一つの箱を持って来て明日香に見せる。

 

「レ……ジェンド。伝説って意味だよね。なんか私が使っても名前負けしそうだけど……」

「別に機体名は関係ない。それを言えば俺のバルバトスは悪魔の名前だぞ」

 

 明日香は内心、悪魔の名を持つガンプラは大我にぴったりだと思ったが口には出さない。

 大我が持って来たガンプラは龍牙のデスティニーガンダムと同じシリーズに登場するレジェンドガンダムだった。

 

「アイツと並んで戦うのであればコイツがぴったりだ」

「ふーん。分かった。ならこれにする」

 

 明日香は大我の言っている事は理解していなかったが、そこまで選ぶガンプラに拘りがある訳でもない為、取りあえずは大我の進めるままレジェンドガンダムを購入する。

 

「ビルドスペースで作るの?」

「いや……俺が教えるんだ。半端なガンプラを作る事は許さん」

 

 ビルドスペースには最低限の工具が揃っているが、そこで組み立てても時間の制限がある。

 明日香は大我に連れられて模型店を出る。

 大我に連れられて来たのは大我の家だった。

 そこならビルドスペースで作るよりも工具も揃っており、改造用のガンプラの部品も事欠かない。

 

「ここって藤城君の家だよね」

「ああ。今日はうるさい奴もいないから静かにガンプラ作りが出来る」

 

 大我の家には大我と明日香以外はいない。

 皇女子高校は全国大会出場を決めて夜は遅くまで学校で練習やミーティングを行っている為、大我の家族が帰って来るまでは誰もいない。

 今更だが、明日香は異性の家に来た事は龍牙の家くらいだ。

 幼い頃から一緒にいた龍牙の家に二人きりでも気にする事は無かったが、クラスメイトで同じ部活の異性である大我の家で大我と二人きりになれば嫌でも意識してしまう。

 

「ここでガンプラを作るぞ」

 

 案内された部屋を見て明日香は少なからず安堵した。

 龍牙の部屋もガンプラだらけだが、案内された部屋はガンプラしかない。

 ここまでガンプラ一色だと何か起きるかも知れないと思った事が馬鹿らしくなる。

 

「今日は取りあえずレジェンドを組み立てる」

「……今日は?」

「馬鹿か。ガンプラを舐めるなよ」

 

 明日香はそこまで力を入れてGBNをプレイしたいとまでは思っていなかったが、大我はやるからにはとことんやるつもりだ。

 明日香も観念してレジェンドの箱を空ける。

 道具を借りて明日香は説明書を見ながら、時に大我に罵倒されながらもガンプラをくみ上げた。

 

「中々器用だな」

「……どうも」

 

 明日香は龍牙から最近のガンプラは簡単に作れて素組でも出来が良いと聞いていたため、組み立てるだけなら簡単だと思っていたが、甘かった。

 説明書通りに組み立てる中でも大我が細かい部分までも指摘して作っていたため、完成したのは完全に日が落ちてからだ。

 

「これが私のガンプラ……」

 

 思った以上に苦労して作ったが、実際に完成したレジェンドにはどこか愛着が湧いている。

 

「今日はここまでだな。明日からは改造の方向性について煮詰めるぞ」

「……うん」

 

 それから次の日の授業が終わるとすぐに大我の家でガンプラ作りの続きを行う。

 

「まずレジェンドの機体特性だが、機体の一部を分離させて遠距離操作してオールレンジ攻撃を行う事が可能なドラグーンシステムにある」

「生徒会長とか黒羽先輩のガンプラが使っている奴みたいな奴でしょ?」

「そうだ。だが、コイツを扱うのは初心者には難しい」

 

 レジェンドを初めとしたファンネルやビットと言ったオールレンジ攻撃の操作方法はオートとマニュアルの2種類ある。

 オートは予め組んでおいたプログラム通りの動きをさせて、ファイター側の負担は少ないが、動きが規則的である程度の実力者なら十分に対応できる。

 マニュアルは全てをファイターが直接操作するもので、オートに比べれば動きはその場で変える事も可能だが、ファイターへの操作の負担は大きくなる。

 諒真もマニュアル操作だが、多数のビットを不規則に動かしていたため、本体を殆ど操作していないと言う弱点を持つ事になった。

 

「だからコイツは取っ払う」

 

 大我はそう言うとレジェンドのバックパックを取り外す。

 明日香にはドラグーンを扱うのは難しいと判断して、難しいならドラグーンを装備する必要はないと割り切ってバックパックを取り外したのだ。

 

「その変わりにレジェンドには無改造でもインパルスのシルエットが付けられる。それを利用してバックパックはシルエットを使う」

「しるえっと?」

 

 明日香には専門的な用語は分からないが、レジェンドにはインパルスのシルエットがそのまま使える為、外したバックパックの代用が出来る。

 

「アイツと一緒にガンプラバトルをする事を想定すると同じような近接戦闘型は避けて中遠距離の射撃型か砲撃型の方が相性がいいな」

「うんうん」

 

 大我に明日香は適当に相槌を打つ。

 すでに明日香のガンプラの知識では頭が追いついてはいかない。

 相槌を打つ明日香を余所に大我はゴソゴソとガンプラのパーツボックスを漁る。

 そこには藤城家でガンプラ制作の練習等で出たガンプラを部品単位にばらした物で、その中の物は家族で自由に使っても良い事になっている。

 今回はそこのパーツを使いレジェンドを改造する予定だ。

 

「まぁこんな物だろう」

「おぉ……何か強そう」

 

 明日香と共に色々とパーツを組み替えて行きながら、完成系を模索して行き遂に完成系を見つけた。

 レジェンドの特徴とも言えるドラグーンの搭載されたバックパックは外されて変わりにブラストシルエットに変更され、肩のアーマーはストライクの物になり肩にはランチャーストライカーのコンボウェポンポッドが装備されている。

 本来は右肩用の装備だが、パーツボックスの中には家族の誰かが左肩用に改造した物を見つけた為、両肩に同じ物が装備されている。

 脚部にはジンの物を使いパルデュス3連装短距離誘導弾発射筒が装備されている。

 手持ちの火器はベース機のビームライフルをそのまま持たせている。

 腰にもドラグーンのユニットが装備されているが、それはそのまま分離させずに固定火器として使えるように大我が可動域を改造している。

 

「さて……後は塗装だな」

「……まだあるんだ」

 

 これで完成かと思っていたが、最後に塗装作業が残されている。

 組み立てたガンプラを一度パーツにばらして、大我の指示の元明日香はレジェンドの塗装を行う。

 その日はそれで明日香は帰り、翌日の放課後にはパーツも完全に乾いている為、再び大我の部屋で組み立てを行った。

 

「なんかここまで改造すると愛着が湧いてくるよね」

 

 組み立てられたレジェンドを見て明日香はそう感じていた。

 大我に手伝って貰ったところも多いが、実際に自分で組み立てたガンプラは他のガンプラとは違って見える。

 明日香はレジェンドを青や水色を基調に塗装した。

 

「これで最後だ。コイツに名前を付けてやれ」

 

 組み立てられたレジェンドはこれで完成ではない。

 最後に新たな名を与えてレジェンドは初めて明日香のガンプラとして誕生する。

 

「名前……龍牙がバーニングだから……炎……氷? アイス、ブリザード……」

「グラキエース、グラーフ」

 

 明日香が龍牙のガンプラが炎の名を冠している事から対称的に氷から取ろうと色々と氷を意味する単語を口にしてピンと来る単語を考える。

 大我もいくつか挙げる。

 

「それ! グラーフレジェンド! 何かしっくり来た!」

 

 明日香の中で自身のイメージとしっくり来る名が見つかったようだ。

 グラーフレジェンドガンダム、それが明日香のガンプラの名だ。

 

「そうか。それとコイツをやろう」

 

 大我は何かを取りだす。

 それは大我が取り外したバックパックを使って一晩で制作した物だ。

 ドラグーンを腰の物同様に固定の火器として使用するドラグーンシールドだ。

 その名の通りクラーフレジェンドの左腕に装備する。

 大小8基のドラグーンは切り離さずに使えるように可動域を改造し、そのまま相手に向けるだけでなく、シールドで身を守りながらも攻撃出来るようになっており、先端の2基の大型ドラグーンの先端からビームスパイクを出せば格闘戦にも対応し、大型ドラグーンはビームスパイクを出した状態で敵に射出して使う事も可能だ。

 

「本当? ありがとう! 大我君!」

「どの道、お前のガンプラの部品だからな。さて、ガンプラも完成したんだ。ここからが本番だ」

 

 大我はそう言うとダイバーギアを出した。

 レジェンドガンダムを買った時に明日香用のダイバーギアも購入していた。

 今まではガンプラを使わずにダイブ出来るゲスト用の物を使っていたが、実際に自分のガンプラを使う際はゲスト用の物ではなく、自身のアカウントを取れるように自分用のダイバーギアが必要となる。

 ダイバーギアを受け取って明日香は大我と共に大我の家からGBNにログインする。

 

「ガンプラの操縦のやり方も教えてくれるんだ」

「本来ならチュートリアルミッションを受けるのが定石だが、そんな温いバトルなんかやってられるか」

 

 大我はコンソールパネルを出していくつかの設定を行う。

 GBNにはフリーバトルの他にもオープンワールドを使ったミッションが用意されており、その中にはGBN初心者用のチュートリアルミッションも用意されている。

 だが、大我はそれで戦い方を覚えさせる気はないようだ。

 

「終わった。俺もゲストモードでレジェンドに乗る。お前もコックピットに移動しろ」

 

 大我から操作指示を受けて明日香はクラーフレジェンドのコックピットに移動する。

 そのすぐ後ろには大我も乗っている。

 

「これがクラーフレジェンドの中かぁ……」

「さっさとしろ」

 

 初めて作ったガンプラに乗り込んで感慨にふける明日香を大我が焦らす。

 明日香は取りあえず操縦桿を握る。

 最低限の操縦方法は分かる。

 クラーフレジェンドはカタパルトに移動する。

 

「清水明日香。クラーフレジェンドガンダム。行きます!」

 

 カタパルトからクラーフレジェンドが射出されると宇宙空間に出る。

 

「敵はアイツ等だ。設定は実戦レベルにしてある油断するとやられるぞ」

 

 モニターには3機のリーオーNPDが映されている。

 リーオーNPDはダイバーが乗っていない所謂NPCであり、練習相手として使われる。

 リーオーNPDはクラーフレジェンドに接近しながらマシンガンを撃って来る。

 

「きゃ! 撃って来たよ!」

「当たり前だ。一々ビビッて目を瞑るな」

 

 いきなり攻撃を受けた事でびっくりしている明日香を大我は後ろからシートを蹴りながら叱る。

 

「だって……」

「どうせアバターなんだ死にはしない。それに向こうのレベルも低いから当たり所が悪くなければ早々やられる事もない」

 

 大我たちは見た目こそ、普通の人間だがGBNにおいてはデータの塊であるアバターに過ぎない。

 その為、胴体を叩き潰されても、ビームサーベルで貫かれても決して死ぬことはない。

 やられた時の対価は命ではなく、ダイバーポイントで支払われるだけの事だ。

 クラーフレジェンドはリーオーNPDにビームライフルを撃つがビームは当たらない。

 

「当たらないよ!」

「下手くそなんだ。無理に一発で当てようとするな」

 

 明日香の射撃は一発一発が相手を撃墜する気で撃っている。

 だが、明日香自身はまだ射撃能力も高くはない為、リーオーNPDには当たらない。

 大我の指摘を受けて、明日香はドラグーンシールドを前に向ける。

 先端の2基の大型ドラグーンにはそれぞれ9門のビーム砲が付いており、両方で18門のビーム砲が一斉に放たれる。

 それだけの数を撃てば幾ら下手くそでも一発くらいは当たるだろう。

 ビームがリーオーNPDに当たると爆発する。

 

「やった! 倒したよ! 大我君!」

「馬鹿か。一々敵を落としただけで浮かれるな」

 

 初めて敵を撃墜して明日香はレバーから手を放して喜ぶが大我はシートを蹴る。

 そうしている間にも残ったリーオーNPDがマシンガンを撃って来る。

 

「敵を仕留めるなんてのはただの作業だ。一々一喜一憂する必要はない」

 

 大我にとっては多くの敵を相手にする事が多く、敵を仕留める事は作業に過ぎない。

 

「来るぞ」

 

 残り2機のリーオーNPDがマシンガンで反撃して来る。

 クラーフレジェンドはドラグーンシールドを向けるが2機のリーオーNPDは散開する。

 

「わわっ!」

「落ち着け。常に自分と相手の位置を把握して立ち回れば2機程度ならどうとでもなる」

「そんな事言ったって!」

 

 大我は簡単に言うが今日初めてGBNでガンプラを操縦する明日香には言いたい事は理解出来ても、すぐに実践は出来る訳もない。

 クラーフレジェンドはビームライフルを連射するが、当たりはしない。

 

「攻撃が当たらないなら当てられる状況を作れば良い」

「当てられる状況……」

 

 明日香もある程度は戦いに慣れて来て考えるだけの余裕が出て来た。

 バトルの前にクラーフレジェンドの装備は一通り大我からレクチャーされている。

 クラーフレジェンドは多数の火器を装備している為、きちんと武器の特性を把握していれば様々な戦い方が出来る。

 クラーフレジェンドはブラストシルエットと脚部のミサイルを一斉掃射する。

 リーオーNPDの1機はマシンガンでミサイルを迎撃する。

 その間に明日香はビームライフルで狙いを定めていた。

 クラーフレジェンドがビームライフルを連射して、ビームはリーオーNPDに数発直撃して撃墜された。

 

「2機目……」

「残り1機から目を逸らすな」

 

 明日香は2機の内片方にのみ意識を集中させていたせいで残り1機のリーオーNPDがビームサーベルで接近していた。

 ビームサーベルの一撃をとっさにドラグーンシールドで受け止める事が出来た。

 クラーフレジェンドはリーオーNPDを押し戻すと至近距離から両肩の対艦バルカンを撃ち込む。

 シールドで身を守りながら後退するが距離が近かった為、リーオーNPDはダメージを受ける。

 そこで明日香は思い切って前に出る。

 

「えぇぇい!」

 

 ドラグーンシールドの先端の大型ドラグーンからビームスパークを出してリーオーNPDに突き刺す。

 すでに受けていたダメージもあり、リーオーPNDは撃破された。

 

「やったよ! 大我君!」

「だから一々喜ぶな。それとリーオーは全機仕留めたが、オープンワールド内では基本的に戦闘行為は自由だ。油断していると不意を付かれて終わるぞ」

 

 リーオーNPDを全機倒した事で喜ぶ明日香を大我が窘める。

 初めての勝利に浮かれていた明日香は大我に対して不満そうにしている。

 

「だが、見どころはある。後は実戦経験を積めばそれなりに戦えるようにはなるだろう」

 

 落とした上で大我は明日香の戦いを評価する。

 クラーフレジェンドは重装備の高火力のガンプラだ。

 接近戦は余り得意ではなく距離と取って火力で押す事が基本的な戦いとなる。

 だが、最後は距離と取ろうとしたリーオーPNDを逃がさずに素早く近接戦闘に切り替えて仕留めた。

 その切り替えは大我も初心者にしてはと関心した。

 初めてのバトルに勝利したのもつかの間、レーダーに接近するガンプラがあると警報がなる。

 

「え? まだ終わってないの?」

「いや……違うな」

 

 大我はコックピット内のボタンを操作してモニターを切り替える。

 モニターには黒く塗装されたマン・ロディがこちらに向かって来ている。

 大我も予定ではリーオーNPDを3機倒すだけだった為、この黒いマン・ロディは大我の用意したガンプラではない。

 

「マン・ロディか……こっちに来るぞ」

 

 マン・ロディはクラーフレジェンドにサブマシンガンを向けて突っ込んで来ている。

 明らかに敵意を持っての行動だろう。

 マン・ロディはサブマシンガンを連射して来る。

 

「撃って来たよ!」

「なら撃ち返せ」

 

 クラーフレジェンドはケルベロスをマン・ロディに向けて放つがマン・ロディは回避する。

 すると更に新たなガンプラの反応が現れる。

 

「シャルドールローグにフリント、グリモア。それにフルクロス。この辺りを根城にしている海賊ってところか」

 

 モニターに映されたのは全部で4機、マン・ロディを入れると5機編成の敵だ。

 シャルドールローグは右腕を通常の物に換装し、シールドとアデル用のドッズライフルを装備している。

 フリントは黒く塗装されピーコックスマッシャーを装備している。

 グリモアも黒一色で塗装されシールドとビームライフルを装備している。

 そして、それらの後方からクロスボーンガンダムX1フルクロスが迫って来ている。

 

「どうしよう! 大我君!」

 

 流石に明日香もこれだけを一人で相手にする事は難しいと言う事は考えるまでもない。

 そうしようかと大我に指示を仰ごうとするが、いつの間にかコックピット内には大我の姿は無かった。

 その間にマン・ロディがハンマーチョッパーを手に殴りかかって来る。

 マン・ロディがハンマーチョッパーを振り下そうとした時、横から何かがマン・ロディの頭上に落ちて来た。

 

「邪魔だ」

 

 それが何なのかを明日香が認識するよりも早く、コックピット内に衝撃が走る。

 明日香の窮地を救ったのは大我のバルバトス・アステールだった。

 大我はゲストとしてクラーフレジェンドのコックピットに乗っていたため、一度ガンプラから降りてGBNのエントランスに戻った後に自分のガンプラで戻って来たのだ。

 そして、クラーフレジェンドを攻撃しようとしていたマン・ロディにバーストメイスを振り下して破壊した。

 その後、バルバトス・アステールは邪魔だった明日香のクラーフレジェンドを蹴り飛ばして海賊のガンプラの方に突っ込んで行く。

 近くのシャルドールローグに向かい、ドッズライフルで迎撃されるが、かわして接近するとバーストメイスでシールドごとシャルドールローグを叩き潰した。

 バルバトス・アステールを後ろからフリントがピーコックスマッシャーで狙っていたが、テイルブレイドで胴体を貫かれて破壊する。

 2機を瞬く間に撃墜したバルバトス・アステールはすぐにグリモアの方に向かう。

 グリモアのビームを肩のシールドスラスターで防ぎ、バーストメイスで破壊する。

 

「凄い……」

 

 今までは大我の事は漠然と強いと思っていたが、実際にガンプラバトルをやって見て大我の実力が良く分かる。

 敵を撃墜しても、一切の油断もなく次の獲物を狩りに向かい、それでいて常に他のガンプラとの位置を気にして死角はテイルブレイドを使って補っている。

 

「これがファイターの世界。龍牙達が見ている光景なんだ……」

 

 観客席からモニターしているだけでは見えて来ない世界。

 ここにはそれが広がっていた。

 それは明日香がガンプラバトルの世界に足を踏み入れた証拠でもあった。

 

「それでどうだった?」

 

 襲撃して来たガンプラを退けて大我と明日香はGBNからログアウトした。

 ログアウトして、明日香にはバトル後のガンプラのケアを仕方を一通り教えている。

 

「何か凄かったとしか良いようは無いよ」

「……そうか」

 

 明日香は自分のクラーフレジェンドを手入れしながら今日のバトルを振り返る。

 

「そう言えば大我君はどうしてガンプラバトルを始めたの?」

「さぁな。特に理由はないな。ウチは爺さんも好きで両親も姉たちもやってたんだ。物心ついた時からガンプラもGBNも身近にあったんだ」

「そっか……そうだよね」

 

 大我の両親はかつてGBNで伝説となったチームのメンバーだ。

 その上、姉たちも親の影響でガンプラバトルをやっていれば大我がこの道に進む事は必然だったのだろう。

 

「それよりもメンテはそのくらいで大丈夫だろう」

「分かった」

 

 明日香はばらしていたクラーフレジェンドを組み立ててしまう。

 すでに日も暮れている為、大我は明日香を玄関まで送る。

 

「今日までありがとう。大我君。また明日学校でね」

「ああ」

 

 明日香を見送った大我は部屋に戻る。

 

「さて、面倒事も片付いた。今日も一狩り行こうか」

 

 大我は明日香にガンプラ制作を教えて、帰った後にGBNにログインしてオープンワールド内で、名のあるダイバーにバトルを挑んでいる。

 今日で明日香にガンプラ制作を教える必要がなくなった事で大我の気分は軽い。

 その日は夜遅くまで大我はGBNでバトルを続けた。

 

 



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孤高のファイター

 大我にガンプラ作りを教わり、自身のガンプラ、クラーフレジェンドガンダムを完成させた明日香は次の日に龍牙を驚かせようと思っていたが、次の日のHRの時間にそれは起きた。

 

「秀麗高校から転校して来た日永冬弥です。よろしくお願いします」

 

 HRの時間に担任の教師から龍牙達のクラスに転校生が来ると知らされて、その転校生が星鳳高校と地区予選準決勝で当たり、龍牙の中学時代からの友人である冬弥であった。

 龍牙もそんな事は全く知らず、驚いて声も出ない。

 そして、1限目の授業が終わると龍牙はすぐに冬弥を屋上まで連れ出す。

 

「冬弥! 転校ってどういう事だよ!」

「驚いた?」

 

 冬弥はまるで悪戯が成功したかのようだ。

 

「あの後、部は廃部になってね。龍牙に言われたようにガンプラバトルを続けるにはどうするかって考えたらこうなった」

「いやいや! 理由になってないって、つか親は良く許可したな」

「父さんとは大喧嘩したよ。それでも先輩達も秀麗でガンプラバトルが続けられないのであればって背中を押してくれてね。転校するなら龍牙のいる星鳳が良いかなって。編入試験もそこまで難しくはないしね」

 

 余りにも思い切った事をした冬弥に龍牙は返す言葉もない。

 確かに龍牙はガンプラバトルはいつでもできると言った。

 だが、ガンプラバトルを続けるためだけに学校を転校する程思い切った行動をとったのは想像外の事だ。

 しかし、冬弥には後悔の色は無い。

 むしろ思い切った行動でガンプラバトルを続けられる事の方が良かったのだろう。

 

「まぁ、父さんも良い大学に入れば文句はないよ。出来ないと勘当かも知れないけど」

 

 冬弥は簡単に言うが、星鳳高校は進学校ではない為、医学部や一流の大学に入る事は難しい。

 

「過ぎた事を言っても仕方がないだろ? それよりも今はまた龍牙とガンプラバトルが出来る事の方が嬉しいんだよ」

「冬弥……」

 

 今更、冬弥が秀麗高校を転校した事はどうにもならない。

 だが、またこうして一緒にガンプラバトルが出来る事を冬弥は喜びたい。

 それは龍牙も同じだった。

 

「……馬鹿なの」

 

 授業後、龍牙は明日香と共に冬弥をガンプラ部まで案内した。

 その道中で明日香が自分のガンプラを作ってガンプラバトルを始めた事を伝えたが、冬弥が転校して来た事に比べるとインパクトは薄い。

 部室に居た静流にこれまでの経緯を教えると静流はそう一蹴した。

 

「まぁルール上は問題はないでしょうけど」

 

 冬弥がガンプラ部に入部して全国大会に出る事はルール上は問題はないが、静流からすればガンプラバトルを続ける為に進学校から何の取り柄もない星鳳高校に転校して来るのは馬鹿としか良いようは無い。

 

「それに清水さんもバトルするなら後1人ね」

 

 冬弥と明日香の加入でガンプラ部は9人となる。

 全国大会でのバトルに必要な人数はあと一人だ。

 

「先輩は誰か心当たりはないですかね?」

「そうね……」

 

 静流は少し考え込む。

 すると何やら思い当たる人物がいるようだ。

 

「一人いるわ。実力もランキングは6位と私よりも一つ上だし」

「そんな人がウチの学校に居たんですね」

「6位……リンドウさんですか?」

 

 星鳳高校で有名なファイターと言えば静流ことレイヴンだが、もう一人ランキング上位のダイバーが居た。

 それが冬弥の言うランキング6位のリンドウだ。

 

「ええ。私と同じ2年の八笠竜胆。ダイバー名はリンドウね。まぁ多少気難しいけど、実力もあるし戦闘スタイルも神君に近いから色々と勉強になると思うわ」

「大丈夫ですよ。藤城に比べたら」

 

 大我と面識のない冬弥以外は誰にでも喧嘩腰で噛みつく大我と比べれば多少気難しいくらいは何でもないと納得してしまう。

 

「この時間なら彼はGBNにログインしているでしょうからいつも彼が練習場にしている辺りをメールで送って置くわ」

「ありがとうございます。今から俺達で行って見ます」

 

 龍牙達はすぐに近くのゲームセンターに向かってGBNにログインする。

 それぞれがログインすると、格納庫で待ち合わせをする。

 

「これが明日香のガンプラか」

「クラーフレジェンド。凄いでしょう」

「これ初めて作ったガンプラかい? 龍牙のデスティニーよりも完成度が高いんじゃない?」

 

 格納庫で明日香は大我と共に作ったクラーフレジェンドをお披露目している。

 龍牙も冬弥も初めて作ったガンプラにしては出来が良いと素直に関心している。

 

「うっせ! それよりもこの百式が冬弥の新しいガンプラか?」

 

 格納庫には龍牙のバーニングデスティニーと明日香のクラーフレジェンドの他に冬弥の新しいガンプラの百式の改造機が並べられている。

 

「そう。その名も百騎士」

 

 百式の改造機、百騎士は全身に装甲を増加し、肩にはビームマントの発生装置が組み込まれている。

 頭部には改修されてよりガンダムタイプに近くなり、腕部にはグレネードランチャーが追加されている。

 手持ちの火器はベース機と同じビームライフルで背中のウイングバインダーには以前に冬弥が使っていたグレイズリッター改のナイトブレイド改とクレイバズーカが装備されている。

 腰にはベース機と同じようにビームサーベルが装備され、ベース機と比べると機動力は落ちるものの全体的にバランスの良いガンプラとなっている。

 明日香と冬弥のガンプラのお披露目も終わり、3人は自分のガンプラで静流からメールで受け取った竜胆が普段の練習場にしているフィールドに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛行能力を持たない百騎士とクラーフレジェンドに合わせて移動を始め、目的地の森林エリアに到着する。

 周囲にはガンプラの残骸と木々がなぎ押された後があり、この辺りで激しい戦闘があった事が伺える。

 

「ねぇあのガンプラじゃない? そのリンドウさんの」

「ドラゴンガンダム。間違いない。あれがリンドウさんのガンプラだ」

 

 モニターにはドラゴンガンダムの改造機が映されており、冬弥も見覚えのあるガンプラだ。

 それこそがリンドウのガンプラ、ドラゴンガンダムオロチだ。

 ドラゴンガンダムをベースに背部に4基に両肩に1基つづ、サイドアーマーに1基の計8基のビーム砲の内蔵されたドラゴンヘッドを持ち、手持ちの武器として青竜偃月刀を持つ近接戦闘型のガンプラだ。

 

「あの! リンドウさんですよね?」

「何だお前達? お前達がこの辺りで戦闘をしていたダイバーか?」

 

 龍牙はドラゴンガンダムオロチに通信を繋ぐ。

 向こうは少し警戒している。

 龍牙はここに来た用件をリンドウに話す。

 

「成程。ウチの学校が全国大会まで進んでいるとは聞いたが、お前達がそうだったか」

「はい。それでリンドウさんに一緒に全国に出て欲しいんです!」

「断る」

 

 リンドウは龍牙の願いをあっさりと拒否する。

 だが、龍牙もそう簡単に引き下がりはしない。

 

「何故ですか? 先輩はランキングも上位なのに」

「群れて戦うのが嫌いなだけだ。俺は俺の強さのみを極める。それだけだ」

 

 ファイターにも色々ある。

 龍牙のように特定の大会やミッションをクリアする為にバトルするファイター。

 冬弥のように特に目標がある訳ではないが、バトルがしたいからバトルするファイター。

 大我のようにただ強さを求めるタイプのファイター。

 リンドウは大我と同じタイプで、チーム戦である全国大会には出場する気はなく、ただおのれの実力を高めるタイプのファイターのようだ。

 

「なら……俺とバトルして下さい。俺が勝ったら一緒に全国に出て下さい」

 

 予め静流から気難しいと聞いていたため、断られる事は分かっていた。

 だからこそ、龍牙はバトルを挑む。

 勝てるかどうかは分からない。

 それでも言葉で説得するよりかはこの手のファイターには可能性はある。

 

「……良いだろう。お前達全員を相手にしてやる」

 

 龍牙はあくまでも対等なバトルを挑もうとするが、リンドウは龍牙だけでなく冬弥や明日香も相手にする気のようだ。

 

「分かりました。冬弥も明日香も良いか?」

「構わないよ」

「私も」

 

 3対1は気が引けるが、向こうから言い出した事で一人で戦うよりかは勝つ可能性は高い。

 冬弥と明日香も戦う事になり、ドラゴンガンダムオロチは偃月刀を構える。

 

「まずは僕から!」

 

 百騎士がビームライフルで先制攻撃をするが、ドラゴンガンダムオロチは偃月刀で弾く。

 その間にバーニングデスティニーが突っ込む。

 

「龍牙!」

 

 ドラゴンガンダムオロチの8基のドラゴンヘッドが展開されて、バーニングデスティニーを襲う。

 明日香の声で龍牙は飛び退いたため、ダメージは無い。

 

「これがランキング6位の実力……」

「一筋縄ではいかないようだね。挟み込むよ」

 

 百騎士とクラーフレジェンドがドラゴンガンダムオロチを左右から挟み込みビームライフルを放つ。

 ドラゴンガンダムオロチは後方に下がると左右の2機にドラゴンヘッドのビームを撃ち込む。

 クラーフレジェンドはドラグーンシールドで、百騎士はビームマントでビームを防ぐが、そのまま弾き飛ばされる。

 

「ビームでもこれだけ威力!」

「うぉぉぉぉ!」

 

 左右の2機と相手にしている間にバーニングデスティニーが突っ込み殴りかかるが、ドラゴンガンダムオロチは偃月刀を柄で受け止める。

 

「思い切りがいいが、その程度のガンプラと腕ではな」

 

 ドラゴンガンダムオロチがバーニングデスティニーを蹴り飛ばし、体勢を立て直した百騎士がナイトブレード改で切りかかる。

 

「冬弥!」

「遅いな」

 

 その一閃を易々とかわしてドラゴンヘッドが百騎士を襲う。

 ビームマントで身を守ろうとするが、防ぎ切れずに百騎士の両肩にドラゴンヘッドが喰らい付く。

 百騎士に止めを刺そうとするが、クラーフレジェンドがミサイルを一斉掃射し、ドラゴンガンダムオロチは百騎士を蹴り飛ばして回避する。

 

「冬弥! 大丈夫か?」

「何とかね……でもビームマントは使えそうにもない」

 

 百騎士の両肩のビームマント発生装置は破損して使えそうには無い。

 ドラゴンガンダムオロチは飛び上がりクラーフレジェンドの方に向かう。

 クラーフレジェンドは肩の対艦バルカンで応戦するが、ドラゴンガンダムオロチは持っている偃月刀を回転させて攻撃を防ぐとクラーフレジェンドの懐に入り込むと偃月刀を振るう。

 それによりクラーフレジェンドの両足が切断されて仰向けに倒れる。

 

「きゃぁ!」

「明日香!」

 

 百騎士がクレイバズーカで援護してバーニングデスティニーが光の翼を展開して突っ込む。

 バーニングデスティニーの攻撃をドラゴンガンダムオロチは偃月刀を使って防いでいく。

 

「その程度か。お前の実力とやらは」

「まだ!」

 

 バーニングデスティニーの蹴りを腕で弾きドラゴンガンダムオロチは偃月刀を突き出す。

 突きを体勢を低くして頭部ギリギリでかわすと更に踏み込み拳を振り上げる。

 バーニングデスティニーの拳はドラゴンガンダムオロチの胴体に入るが、浅くダメージを与えれる程ではなく、逆にドラゴンガンダムオロチに蹴り飛ばされる。

 

「……強い」

「口ほどにも無いな。それで良く俺に勝つ気でいた物だな」

「……勝てる気なんてないですよ。それでも! 俺は先輩に勝つ気でいます! 相手が誰であれば負ける気でバトルはしません!」

 

 蹴り飛ばされて倒れるバーニングデスティニーは立ち上がる。

 すでに3人がかりでも実力差は明白だ。

 それでも龍牙は諦めずに立ち上がる。

 

「成程……その覚悟に免じて次の一撃で勝負を付けてやろう」

 

 ドラゴンガンダムオロチは偃月刀を構える。

 龍牙も次がリンドウが勝負を付けに来ると覚悟を決めて迎え撃つ。

 だが、2機のガンプラの間に何かが飛んでくる。

 

「何だ?」

 

 それはダナジンで、飛ばされて来たダナジンは地面に叩き付けながらも腕部のビームバルカンを前方に向けるが、ワイヤーの付いたブレードが頭部に突き刺さった。

 オープンワールドでは多々ある事だが、バトル中に別のバトルを行っていたガンプラと遭遇する事がある。

 今回もそうなのだろう。

 

「あのガンプラは……」

「バルバトス。藤城!」

 

 ダナジンとバトルしていたのは大我のバルバトス・アステールのようで大我と戦っているガンプラは他にもいた。

 ダナジンを破壊したテイルブレイドを回収しながら、バルバトス・アステールはバーストメイスでボルトガンダムを叩き潰す。

 ボルトガンダムを倒すとすぐに近くのグスタフカールをパイルバンカーで貫く。

 グスタフカールが最後の1機だったのか、バルバトス・アステールの周囲には倒したガンプラの残骸が転がっている。

 その光景はここに来るまでにもあり、それらは全て大我の仕業なのだろう。

 

「知り合いか? あのバルバトスのダイバーは?」

「はい。俺達のチームメイトです」

「お前ら……何でそいつといる? まぁ良い」

 

 バルバトス・アステールはバーストメイスを肩に担ぐ。

 

「諒ちゃんも人が悪い。6位の奴がいるなら先にそっちを教えてくれれば良いのに」

 

 バルバトス・アステールは一気に距離を詰めるとドラゴンガンダムオロチにバーストメイスを振り下す。

 それを後方に大きく飛び退いてかわす。

 

「藤城!」

「邪魔するならぶっ潰す」

 

 大我はすでに戦う気満々のようでここで無理に止めようとすると本気で自分達を倒しそうな勢いだ。

 

「アンタがランキング6位のリンドウだろ?」

「そう言うお前は最近、この辺りで出没するガンプラ狩りのバルバトスだな」

 

 リンドウも逃げる気はないようで偃月刀を構える。

 大我がここ最近GBNで名のあるファイター達を倒している事はガンプラ狩りのバルバトスとして噂されている。

 

「藤城の奴……そんな事してたのか」

「アレが星鳳のエースか……先輩達が言っていたように普通じゃないようだ」

 

 バルバトス・アステールとドラゴンガンダムオロチはにらみ合う。

 先に動いたのはバルバトス・アステールだった。

 一気に突っ込み、ドラゴンガンダムオロチはドラゴンヘッドのビームで迎撃する。

 ビームを最低限の動きとシールドスラスターで防ぎながら突っ込みバーストメイスを振るう。

 だが、ドラゴンガンダムオロチは飛び上がって回避すると降下しながら偃月刀で反撃する。

 バルバトス・アステールはバーストメイスの柄で偃月刀の攻撃を受け流しながら、膝のドリルニーで反撃するがかわされる。

 ドラゴンガンダムオロチはバルバトス・アステールの背後に回ると偃月刀を振るおうとするが、テイルブレイドが襲い掛かり、ドラゴンヘッドを一つ盾に使って破壊されるが、攻撃を防ぐ。

 その隙にバルバトス・アステールは足の裏のエッジを展開してドラゴンガンダムオロチに蹴り飛ばそうとする。

 それを偃月刀の柄で身を守り、勢いに逆らわずに大きく後退する。

 

「やるな」

「お前もな。少しはマシなバトルになりそうだ」

 

 2機のガンプラは距離を置きバトルは一度仕切り直しとなる。

 2機の攻防を龍牙達はただ見ているしかない。

 

「俺の全力でお前を仕留める!」

 

 ドラゴンガンダムオロチは偃月刀を構えると金色に光り輝く。

 

「ハイパーモードか」

 

 トランザムシステム同様に一時的にガンプラの性能を向上させるハイパーモードとなったドラゴンガンダムオロチにバルバトス・アステールはバーストメイスを振り上げて迎え撃つ構えを見せる。

 

「行くぞ!」

 

 ドラゴンガンダムオロチが勢いよく大地を蹴る。

 ハイパーモードとなったドラゴンガンダムオロチに速さは今までの非ではない。

 勢いをつけて偃月刀を突き出して、渾身の一撃を繰り出そうとするドラゴンガンダムオロチだが、突き出そうとした瞬間に横からバルバトス・アステールのテイルブレイドがドラゴンガンダムオロチの膝に直撃する。

 

「なっ!」

 

 膝にテイルブレイドの直撃を受けて膝の関節が破壊されたドラゴンガンダムオロチは体勢を崩すが突撃の勢いはそのままで倒れ込むところをバルバトス・アステールは完璧なタイミングでバーストメイスを振り下す。

 まともに防御も取れないドラゴンガンダムオロチはバーストメイスの一撃に叩き潰された。

 

「静流の一個上ならこんな物か」

 

 大我はバトルを終えて満足したのか、早々にログアウトする。

 残された龍牙達は何とも言えない空気の中ログアウトする事になった。

 翌日の放課後、部室で昨日の出来事を静流に報告する。

 リンドウとバトルになった事はある程度は予想していた事で、近接戦闘に長けたリンドウから龍牙が得られる物はあるとバトルになる事を期待していたが、まさか大我が乱入して来る事までは予想外だったようでため息をつく。

 

「藤城君は本当にどこにでも現れるわね」

「先輩の勧誘に失敗しましたし次はどうするか考えないといけないですしね」

 

 入部を賭けたバトルは大我の乱入で有耶無耶になっている。

 場合によってはリンドウの入部は諦めて他を探す必要もある。

 それでも龍牙はリンドウと戦って見て全国で勝ち抜くにはリンドウの力も必要だと感じていた。

 あのまま戦っていても勝てた保障は無く、勝負に勝って入部して貰うと言うのは難しいだろう。

 考えていると部室のドアが開かれる。

 誰かと思ったら史郎や他の部員ではなく、知らない男子生徒だった。

 見た限りでは上級生だろう。

 

「八笠君。ウチの部に何か用?」

 

 静流がそう言うと男子生徒の視線が静流に向く。

 龍牙にもこの男子生徒がリンドウこと八笠竜胆だと言う事に気が付き思わず立ち上がる。

 

「昨日はいきなり済みませんでした!」

 

 龍牙は入部をかけて挑んだ事を謝罪する。

 だが、竜胆は余り気にした様子はない。

 

「お前は……デスティニーのダイバーか?」

「はい。神龍牙です」

「そうか」

 

 竜胆はそう言うと鞄かた一枚の紙を出す。

 それは入部届で、そこには竜胆の名が書かれている。

 

「どういう事?」

「リトルタイガーもここの部員なのだろう? 約束は約束だ」

「でも……」

「俺はお前ら全員を相手にすると言ったんだ。途中参加でもここの部員であるリトルタイガーに負けた以上約束は守らないとな」

 

 竜胆はバトルが始まる前に確かに龍牙や冬弥、明日香の3人ではなく全員と言っている。

 だが、その場にいなかった大我も含まれる訳はない。

 

「それに全国大会ともなれば地区予選を勝ち上がった猛者とも戦える。それだけでも入部する価値はある。活きの良い一年もいるようだしな」

 

 竜胆はそう言って龍牙を見る。

 何だかんだと理由を付けてはいるが、結局のところは実力差を見せつけられても尚、勝とうとする龍牙の事を気にったと言う事だろう。

 それを直接言う気はないのか、それっぽい理由を付けたのだろう。

 

「本当に良いんですか?」

「言ったろ。約束は約束だ。だが、俺が入る以上は半端な戦いは許さない。全国まで俺がしごいてやる」

「はい!」

 

 竜胆が入った事でガンプラ部は全国大会で戦う為に必要な10人が揃った事になる。

 後はそれぞれの実力の向上とチーム戦の練度を上げるだけだ。

 メンバーが揃い星鳳高校ガンプラ部は全国大会に向けて本格的に動き始めるのだった。

 

 



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進む道

 

 

 八笠竜胆の入部で全国大会で戦う為の頭数が揃った星鳳高校ガンプラ部だったが、ある日の放課後、諒真の呼び出しで学校の会議室に集められていた。

 部員と生徒会の諒真と愛依、顧問の颯太と全国大会のメンバーが皆集められている。

 今日は大我も諒真に無理やり連れて来られたのか、あからさまに不機嫌だが、大人しく座っている。

 呼び出した諒真は両手の肘を机に立てて顔の前で組んでいる。

 会議室は証明を全て付けずていない為、少し薄暗く諒真はただならぬ雰囲気を醸し出している。

 

「諸君。我々は遂に全国大会への切符を勝ち取った訳だが……」

「諒ちゃんは何もしてないけどな」

 

 大我の突っ込みを諒真はまるで聞いていないかのように話しを進める。

 

「我々には最後の試練が残されている……それは……」

 

 勿体ぶる諒真に一同は固唾をのんで待つ。

 

「期末テストだ!」

 

 諒真がそう言うと会議室の空気が一気に軽くなる。

 何の話しかと思えば来週から始まる夏休み前の期末テストの事のようだ。

 諒真がそう言うと愛依が照明を付けて会議室が明るくなる。

 

「俺達を集めて何かと思ったらそんな話し? だったら俺は帰らせて貰う」

「……大我よ。期末テストだからと言って甘く見るなよ。その結果次第では学生にとって最大級の罰とも言える夏休み中の補習があるのだよ!」

「だから? 俺には関係ないね」

 

 大我はそう言い立ち上がろうとする。

 星鳳高校でも成績が悪ければ補習授業を受けなくてはならない。

 しかし、大我にとっては何の関係のない事だ。

 他の部員たちも何事かと思っていたが、大した事ではなかったと安堵している。

 ただ一人を除いては。

 

「会長。その場合。全国大会の方はどうなるんですか?」

「……気づいてしまったようだな。神龍牙君」

 

 軽く挙手をしながら龍牙が神妙な顔つきで質問する。

 諒真はそれを待っていたかのようだ。

 

「残念な事に補習期間と全国大会の期間は重なっている。無論。学校側は全国大会よりも補習を優先させる。つまり……補習を受けねばならない者は全国大会には出られないと言う事だ!」

「なん……だと」

 

 星鳳高校は進学校と言う訳でも部活の強豪校と言う訳ではないが、テストで赤点を取って補習を受けなくていけない場合は補習を優先しなければならない。

 それが全国大会であろうともだ。

 

「会長。ウチは進学校でもないんですから、よほどの事がないと赤点なんて取る訳ないですよ。そんな話しをここで……まさか」

 

 静流がそこまで言うとある事に気が付いた。

 この話しが出た時から龍牙の様子がおかしい。

 そこから静流もある可能性を察した。

 

「そう……そのまさかだ!」

「……すんません」

 

 龍牙も観念したようだ。

 諒真が颯太から紙を受け取り、皆に一枚づつ行き渡らせる。

 そこには龍牙の1学期の中間テストの点が一覧になっている。

 それを見た各々は顔を顰める。

 

「龍牙……」

「9人でも問題はないだろう」

 

 中学時代の龍牙の成績を知る明日香と冬弥は余り驚いてはいないが、他はこの点数が信じられないようだ。

 大我に至ってはすでに龍牙が期末でも赤点と取って全国に出られないと確信を持っている。

 龍牙の1学期の点数は半分近くが赤点で赤点を取っていない教科もギリギリで期末で赤点を取る可能性は十分にあり得る。

 

「藤城……そう言うお前はどうなんだ?」

 

 龍牙は縋るように声を出す。

 だが、現実は厳しい。

 

「藤城君は学年でも10位に入っているよ」

 

 部員の成績を把握している颯太が答える。

 それは龍牙を地獄に落とすには十分な答えだ。

 

「……お前だけはこっち側だと思っていたのに……」

 

 龍牙は明日香から大我の自宅にGBNへのログイン環境が整っている事を聞いている。

 その為、大我は基本的にGBNに入り浸って勉強等ろくにしていないと思っていた。

 だが、実際大我の成績は英語がアメリカで生活していた分、英語教師の微妙な発音の英語が聞き取りにくい等苦手としている以外はほぼ90点を取っている。

 

「馬鹿か。ウチの母親は教師なんだぞ。下手な点数を取って見ろ。GBNへのログインはおろかガンプラにすら触らせて貰えなくなる」

 

 大我の母、麗子は皇女子高校で教師をしている。

 当然、息子の成績にも厳しい。

 GBNやガンプラで遊び呆けて成績が落ちたともなればその原因であるGBNやガンプラに制限がかけられる。

 実際、去年貴音がテストで赤点をとって補習を受けねばならなくなった時はレギュラーにも関わらず、全国大会は補習が終わるまでバトルに出させては貰えず、貴音は全国大会の後半からの出場になっている。

 それを回避する最も効率の良い手段はテストで高得点を取る事だ。

 テストで高得点を取って成績を維持していれば麗子も文句は言わない。

 尤も、龍牙の思っているように大我はGBNに入り浸っていて自宅では全く勉強していないが、その分、授業中に教科書の内容と授業内容を全て覚えている。

 ちなみに他のメンバーの成績は、3年の生徒会長の諒真はいい加減に見えて入学時から学年主席をキープしている。

 部長の史郎も上位とまでは言わないが、学年の平均点の辺りをキープしている。

 2年生は静流は平均点以上を取っているものの上位とまではいかず、副会長の愛依は諒真のように常に主席ではないが、常に学年5位に入っている。

 岳は教科によって偏りはあるものの赤点の心配はなく、竜胆も余り成績は良くないが赤点を取る程ではない。

 1年生で大我意外も明日香は得意科目と苦手科目で差はあるものの平均点は取れている。

 冬弥は少し前に転校して来たばかりで中間テストを受けてはいないが、元々都内有数の進学校である秀麗高校に入れただけあって編入テストは満点で、期末テストは学年主席も狙える。

 つまり、全国大会のメンバーの中で補習を受ける可能性が高いのは龍牙だけだろう。

 

「まぁ、お前が居なくても全国大会は俺が全部ぶっ倒しておくからお前は勉強でもしてるんだな」

 

 大我はそう言って会議室を出ていく。

 大我にとっては龍牙が赤点で補習を受けて全国大会に出れなくても何の問題もないと思っている。

 

「龍牙。俺は勉強方面では余り力にはなれないが、期末テストをクリアして補習を回避出来れば後で面白いところに連れて言ってやる」

 

 竜胆が龍牙の肩に手を置いてそう言う。

 竜胆自身、油断して自分の勉強を疎かにしてしまえば自分も赤点を取りかねない。

 

「先輩! 俺やります! テストで赤点を回避して全国大会に出て見せます!」

「その心意気だ! では諸君、ガンプラ部が一丸となってこの窮地を乗り切ろうではないか!」

 

 諒真は高らかに宣言する。

 そこで静流たちはある事に気が付いた。

 これではまるで自分達も龍牙の赤点回避に協力する流れだ。

 だが、流石に龍牙を見捨てる訳にもいかず、部員が持ち回りで龍牙に勉強を教える事となった。

 

 

 

 

 それから期末テストまでの一週間、龍牙はGBNもガンプラも一切触れずにテスト勉強に励んだ。

 初めは余りにも酷い有様で星鳳高校のレベルがそこまで高くないとはいえ受かったと思える程だった。

 それでも大我を除くガンプラ部の面々は辛抱強く、龍牙に勉強を教えた。

 龍牙もそんな仲間達に報いるように勉強し、やがて結果に結び付く。

 

「……これが俺の本気だ」

 

 全てのテストが終わり、龍牙も手ごたえを感じていた。

 採点の終わったテストが順に戻ってきて、龍牙の勉強の成果が表れている事を実感する事になる。

 

「その点でか?」

「まぁ……うん。そうなんだよ。大我君」

「本当に良くやったよ……僕達は……」

 

 明日香と冬弥はどこか遠い目をする。

 大我はガンプラ部が龍牙に勉強を教えている間もテスト期間中も関係なく一人でGBNを満喫していたが、ガンプラ部の面々はEXミッションのEXボス級の手強さを龍牙に感じさせられていた。

 それ程までに龍牙の成績が酷かったのだ。

 それを1週間で赤点をギリギリ回避できるところまで持って言った事はガンプラ部の努力の賜物だろう。

 

「まぁ……それはそうとして今日先輩とGBNで面白いところに連れて行って貰えるんだけど、藤城も一緒に行かないか?」

 

 龍牙が無事テストを乗り越えた事で竜胆に面白いところに連れて行って貰える事になっている。

 そこには明日香と冬弥も同行する事になっており、龍牙は大我も誘う。

 

「興味ないな」

 

 だが、大我は一切の興味も示さない。

 大我は授業が終わるといつものようにさっさと帰って行く。

 

「聞いてはいたけど、ずいぶんとマイペースだね」

 

 冬弥も大我の付き合いの悪さは龍牙達から聞いていたが、転校して来てそれが良く分かる。

 同じ部活やクラスメイトであるにも関わらず、大我は自分達との関わりを極端なまでに避けている。

 

「アイツの事はここで話していても仕方がないし、先輩と合流してGBNにログインしようぜ」

 

 龍牙達は竜胆と合流するとゲームセンターに向かいGBNにログインする。

 龍牙達が竜胆に連れて来られた場所はオープンワールド内の都市の一つだ。

 そこは近代的からかけ離れた中世のヨーロッパのような街並みで、都市の中央には巨大なコロシアムのような建物があり、その周囲にもいくつかのコロシアムが建てられているエリアだ。

 

「なんか凄いですね」

「先輩。ここって」

「ここのコロシアムではエントリーすればバトルが行えるようになっている。試しに少し見てみるか」

 

 竜胆に案内されてコロシアムの観客席に向かうとコロシアムの中央では2機のガンプラが戦っている。

 普段も他のガンプラのバトルを見る事はあるが、ここで行われているバトルには独特の雰囲気がある。

 

「ここでのバトルは空間が通常のバトルよりも大きく制限されている。限られた空間をどう活かして戦うか。それが試される」

 

 一般的にフリーバトルでもバトルフィールドは十分な広さが用意されている。

 だが、ここではコロシアムの内部でのみしかガンプラを使用してバトルが許可されていない。

 外壁部は特別な設定によりガンプラのいかなる攻撃も通さない為、見ている観客達には危険はない。

 更には観客達も自身のダイバーポイントを賭けて賭けも行われている。

 

「こんなところもあるんですね……」

「お前達もやって見るか? いい練習になるぞ」

 

 竜胆にそう言われて龍牙と冬弥はバトルにエントリーする。

 明日香はガンプラが砲戦用である為、ここでのバトルでは不利になる事もあって不参加だ。

 初めての参加と言う事もあり、龍牙の相手も冬弥の相手も同じように初めてのダイバーとなり、二人は何度か勝利を重ねていく。

 

「中々やるな」

「まだまだですよ」

「油断はするなよ。龍牙。お前の次の対戦相手は少々厄介な相手だ」

 

 すでに龍牙の次の対戦相手が決まっていた。

 ダイバー名「シゲ」所属フォース「闘魂」と表示されている。

 

「闘魂……それって去年の優勝校ですよね。でも去年の全国にはシゲなんてダイバーはいましたっけ?」

 

 所属フォースが闘魂と言う事は去年の優勝校である仙水高校のダイバーなのだろう。

 冬弥の記憶の中には去年の全国大会でそんあダイバーがいた覚えはない。

 

「恐らくは一年だろう。エースのダイモンやリーダーのゴウキと比べればマシかも知れないが、油断は禁物だ」

「分かってます」

 

 龍牙はそう言い次の対戦に向かう。

 

「アレが闘魂のガンプラか……」

 

 龍牙はチーム闘魂のシゲのガンプラと対峙する。

 オリジン版の高機動型ザクⅡのガイア機がベースだが、リアアーマーにはオルテガ機のジャイアントヒートホークが、バックパックにはマシュー機の対艦ライフルが装備されている。

 手持ちの火器はザクバズーカで両肩のシールドに予備の弾倉が付けられている。

 

「アンタ、星鳳のガンプラ部に居た奴だよな」

 

 対峙していると向こうから通信が入る。

 向こうは龍牙の事を知っている口ぶりだ。

 

「そうだけど」

「ダイモンさんがアンタ等のエースの事をかなり気にしているからな。全国を前に格の違いって奴を見せてやるよ!」

 

 バトルの開始の合図と共に高機動型ザクⅡはバズーカを連射する。

 バーニングデスティニーはかわしながら、壁の方に向かい飛び上がって壁を蹴って距離を詰める。

 

「俺だってそうそうやられる訳には行かないんだよ!」

 

 懐に入り込んだバーニングデスティニーの蹴りを高機動型ザクⅡは左腕でガードする。

 高機動型ザクⅡは後ろに飛び上がるとバズーカを連射してそれをビームシールドで防ぎながらバルカンと応戦する。

 バーニングデスティニーのバルカンがバズーカに被弾して高機動型ザクⅡはバズーカを捨てる。

 バズーカは空中で爆発し、高機動型ザクⅡは両肩のバズーカの弾倉もパージして少しでも身軽になると、リアアーマーのジャイアントヒートホークを構えて突撃する。

 ジャイアントヒートホークの攻撃をいなしながら反撃するが、決定打を与える事は出来ない。

 

「ちっ……意外とやる!」

「これだけデカイ武器をここまで扱えるとか同じ一年かよ!」

 

 シゲも自分の攻撃をここまで防げている事に驚いている。

 龍牙も巨大なジャイアントヒートホークを巧みに扱う事に驚いているが、大型の武器を手足のように扱っている大我のバトルを何度も見ている為、動揺する事なく冷静に対処できている。

 ジャイアントヒートホークの攻撃をかわして、バーニングデスティニーは右足を蹴り上げる。

 その一撃が高機動型ザクⅡの胴体に入るが、攻撃は浅くダメージは余りない。

 

「当てて来た!」

「確かに強い。それにその武器をそこまで扱えるのは凄い……だけど、アイツには届かない!」

 

 バーニングデスティニーの拳が高機動型ザクⅡの胴体に入り、続けざまに右足を蹴り上げてジャイアントヒートホークを蹴り飛ばす。

 接近戦用の武器を失った高機動型ザクⅡは肩のシールドでバーニングデスティニーの攻撃を防ぎながら、素手で応戦するが、素手での格闘戦には龍牙の方に分があるようで追い詰められていく。

 

「コイツで!」

 

 バーニングデスティニーの渾身の蹴りが高機動型ザクⅡのシールドを粉砕して後ろに飛び退く。

 そこを龍牙は逃がさずに追撃する。

 

「舐めるな!」

 

 追撃をかけるバーニングデスティニーをギリギリまで引きつけた高機動型ザクⅡはバックパックの対艦ライフルを構えて反撃する。

 

「しまっ!」

 

 完全に攻めて転じていた龍牙は反応しきれずに対艦ライフルの銃弾を右肩に直撃させられて右腕が肩から吹き飛ぶ。

 そして、シゲは一気に反撃する。

 狙いを付ける余裕のないシゲは対艦ライフルを弾が切れるまで連射する。

 狙いを付けていない銃撃だが、銃弾の殆どはバーニングデスティニーに直撃しており、弾切れになる頃には戦闘不能となりシゲの勝利となる。

 

「悪かったな。馬鹿にするような事を言って」

 

 バトルが終わり、龍牙の対戦相手だったシゲが龍牙の元を訪れる。

 そして、バトルの前に格の違いを見せつけると下に見ていた事を誤った。

 バトルはシゲの勝利だったが、途中はかなり追い込まれていた。

 

「いや、そっちも強かったよ。俺の負けだ」

 

 龍牙も日頃から大我に馬鹿にされ続けている為、シゲに馬鹿にされたくらいでは気にしてはいない。

 龍牙自身もシゲの実力を素直に認める。

 

「油断したな」

「ダイモンさん! 見てたんですか!」

 

 互いに実力を認めているとシゲに手厳しい指摘をダイモンがする。

 シゲはダイモンがバトルを見ていた事は知らないようだ。

 ダイモンと共に2メートル近い巨体の男がいるが、彼こそがダイモンやシゲの所属している仙水高校のチーム闘魂のリーダーであるゴウキだ。

 

「レギュラーになって調子に乗ったお前には良い薬だったな」

「うっす」

 

 ゴウキの指摘にシゲは返す言葉もない。

 去年の全国制覇チームに1年で全国大会のレギュラーになった事でシゲは調子に乗っていたが、それが原因で龍牙に追い込まれた。

 シゲもその自覚は十分に持っている。

 

「次のバトルは驕るなよ」

「はい! ジンとか言ったな。全国ではこの借りは返す! それまで負けるなよ!」

「ああ。お前もな」

 

 シゲは次のバトルに向かう。

 龍牙達は流れからダイモンとゴウキと共に次のシゲのバトルを観戦する事になり、観客席に移動する。

 

「シゲの次の対戦相手は……アレは辟邪か」

 

 シゲの高機動型ザクⅡの相手は辟邪の改造機のようだ。

 全体的に黄色く塗装され、肩のブースターが大型化され、サイドスカートや脚部にもブースターが増設され機動力が大幅に強化されている。

 両腕には百里のナックルシールドが装備され、リアアーマーにはヘビークラブ、サイドスカートのブースターにはハンドガンが内蔵されている。

 手持ちの火器はベース機のバヨネットライフルを持っている。

 コロシアムのモニターには辟邪の改造機の名である雷邪と表示されている。

 

「あのガンプラ。相当な出来だな」

「こりゃ少し手こずるかもな」

 

 ダイモンもゴウキもシゲは早々負けるとは思ってはいない。

 それでも対戦相手のガンプラは並のガンプラではない。

 油断すれば龍牙の時のように厳しい戦いになる事は間違いない。

 そんなダイモン達の心配を余所にバトルが開始される。

 高機動型ザクⅡが先制バズーカを放つ。

 だが、雷邪はブースターを全開にして突っ込んで来る。

 両腕のナックルガードで身を守り一瞬にして距離を詰める。

 

「速い!」

 

 高機動型ザクⅡは距離を取ろうと後ろに下がるが、機動力では雷邪の方が上で振り切れず左腕のナックルガードの一撃をまともに受ける。

 何とかシールドで身を守る事が出来たが、シールドは一撃で粉砕される。

 

「コイツ!」

 

 高機動型ザクⅡはバズーカを向けるが、雷邪はバヨネットライフルを先に撃ってバズーカを破壊する。

 バズーカが破壊された事で残っているシールドの弾倉をパージするが、パージする僅かな隙を付いて再び距離を詰められる。

 

「なんだよ! コイツ!」

 

 ジャイアントヒートホークで迎え撃つが、振り下されたジャイアントヒートホークを雷邪はナックルガードで受け止めると至近距離からバヨネットライフルを撃ち込まれる。

 

「くそ!」

 

 高機動型ザクⅡはとにかく距離を取ろうと後ろに下がる。

 雷邪はバヨネットライフルを捨てるとヘビークラブを手に追撃する。

 距離を取って対艦ライフルで反撃を考えていたシゲだが、高機動型ザクⅡの後ろにすでに退路は無い。

 コロシアムの外壁により高機動型ザクⅡはこれ以上下がる事は出来ずに雷邪はヘビークラブを振るう。

 とっさにシールドで身を守るが、シールドはヘビークラブに粉砕されて、そのまま頭部がヘビークラブで潰される。

 

「俺は……」

 

 体勢を崩す高機動型ザクⅡの胴体を雷邪は左のナックルガードで殴り上げる。

 胴体に直撃し、そのまま高機動型ザクⅡは軽く足が地面から離れる。

 そして、落ちて来るところ雷邪は両手でしっかりとヘビークラブを持ち振り下す。

 その一撃は高機動型ザクⅡを容赦なく地面にうつ伏せで叩きつけてバトルの勝敗が付いた。

 

「済みませんでした!」

「いや気にするな」

「アレは相手が悪かったな。俺でも苦戦するさ」

 

 バトルが終わり、手も足も出せずに負けてた事をゴウキやダイモンにシゲは頭を下げる。

 だが、今回はシゲに落ち度はなく単に相手が強かっただけの事だ。

 

「それにジンも情けないところを見せたな」

 

 少し前に互いに負けるなと言ってすぐに完敗してシゲも少しバツが悪そうで、龍牙もなんと声をかけたらいいか分からない。

 

「この程度で全国制覇のチームの一人ってんだから日本のガンプラバトルも終わってるな!」

 

 そこに金髪リーゼントで黒い短ランにボンタンといかにも昔の不良のようなアバターのダイバーが声を上げる。

 何となくだが龍牙達にはこの男がシゲを倒した雷邪のダイバーだと言う気がした。

 

「なんなんだよアンタ一体?」

「はっ雑魚に名乗る名なんてねぇよ!」

 

 相手は明らかにこちらを見下した態度で、龍牙のみならずダイモンも不快感を露わにしている。

 

「いつからお前はそんな口を叩けるようになった? ジョー」

 

 一触即発の空気の中、大我が割って入る。

 星鳳高校の面々は大我の登場に頭を抱えたくなる。

 ただでさえ空気が一触即発で問題になりかねない状況で、基本誰に対しても喧嘩腰で相手をする大我は事態をこれ以上ややこしくし兼ねない。

 だが、それは杞憂に終わった。

 

「タタタタタイガーさん!」

 

 先ほどまで龍牙達を馬鹿にしていたダイバーが背筋をピンと伸ばして大我の登場に驚いている。

 大我は無言のまま近づくと一発蹴りを入れる。

 

「たく……敵に喧嘩を売るのもチームの面子を守るのも敵をぶっ潰すのも誰の仕事だ?」

「タイガーさんです!」

 

 ジョーと呼ばれたダイバーは背筋を伸ばしたまま答える。

 

「それになんだ? そのダサいアバターは?」

「そんな事ないっすよ! ちゃんとタイガーさんの一の舎弟として相応しい恰好を研究してデザインしたんですから!」

「馬鹿か」

 

 大我は心底呆れている。

 その様子からもジョーが大我と知り合いのようだ。

 

「ああ……藤城? そいつは知り合いなのか?」

「あ? オイてめぇ……誰に向かって口聞いてんだ。こちらにおわす方をどなたと心得る。畏れ多くも我らがビッグスターのエース。リトルタイガーさんだぞ!」

「お前は少し黙ってろ」

「了解っす!」

 

 明らかに大我と龍牙達との態度に差がある。

 大我の命令でジョーはしっかりと口を閉ざす。

 

「悪かったな。俺の馬鹿は俺のチームメイトだ。チームメイトが迷惑をかけた」

 

 龍牙達は驚いて声も出なかった。

 あの大我が自分達に謝罪する事等あり得ないと思っていた。

 余りのもあり得ない事が起きた為、気づいてはいない。

 大我はジョーを龍牙達にチームメイトとして紹介している。

 その言い方はまるで龍牙達がチームメイトではない言い方をしている。

 

「それとキングも全国大会ではお前を今度こそちゃんとぶっ潰す」

「望むところだと言わせて貰う」

 

 大我はダイモンにそう言うとジョーを連れて行く。

 

「シゲを倒した奴も相当な実力者だが、そんな奴をあそこまで従えるダイバーか……」

「な? 凄いだろ」

 

 ゴウキもダイモンからEXボスガンプラを一人で倒したリトルタイガーの話しは聞いていた。

 GBNでもかなりの噂になっていたが、シゲを圧倒したジョーがあそこまで下手に出ている辺り、それ以上の実力者だと言う事は確実なのだろう。

 今年も皇女子を初めとした強豪校は順当に全国まで勝ち上がっている。

 その中の星鳳高校は全国大会のダークホースとなり得る要注意校だと言わざる負えない。

 しかし、それ以上にそんなダイバーの出現に珍しく闘志をむき出しにしている自分達のエースの存在を頼もしくも思っていた。

 

 

 

 

 

 

 ジョーを連れた大我は人気のない路地裏まで来るとジョーを解放する。

 

「何でお前は日本のサーバーに居るんだ?」

 

 GBNは基本的に国ごとにサーバーで管理されている。

 サーバー同士の移動は可能だが、大抵のダイバーは自分の国のサーバー内で活動している。

 ジョーも今まではアメリカのサーバーでチームで活動している為、一人で日本のサーバーに来る事等無かった。

 

「タイガーさんに会いに来たんすよ」

「俺に?」

「何でチームを離れて日本になんて行くんですか?」

「その話しか」

 

 大我は高校入学を期にアメリカから日本に戻ってきている。

 それによりGBNの活動拠点も日本サーバーになっている。

 日本に来てから数か月が経つが、一度もアメリカサーバーには来ていない。

 チームを離れた大我の真意を聞く為にジョーは日本のサーバーまで来て大我に自分を見つけさせる為にコロシアムでバトルをしていた。

 

「これもチームの為だ」

「チームの?」

「そうだ。今のチームはエースである俺を中心に動いている」

 

 チームビッグスターのエースは大我であると自他ともに揺るがない事実で、チームは大我を中心に戦い方を決めている。

 常に大我が戦い易いように戦場を整えて、大我に敵のエースや大将を仕留めさせる。

 その為なら他のチームメンバーがどうなろうと優先すべきは大我。

 それがチームビッグスターなのだ。

 

「俺の敵を倒せるか否かでチームの勝敗が変わって来る。だからこそ、俺自身の実力を上げる必要がある」

「それはアメリカじゃ出来ないんですか? こっちのガンプラバトルのレベルは昔と比べて低いのに……」

 

 かつて日本はガンダムやガンプラを生んだ国としてガンプラバトルを引っ張っていた。

 今でもガンプラバトルでトップクラスのダイバーには日本人も多い。

 だが、それは大我たちの父親世代の話しで、若い世代の実力は世界でも低くなっている。

 尤もそれはファイターの話しでビルダーの実力はリヴィエールのような一部を除いては日本の技術は他の国々の追従を許さない。

 

「敵が弱いと言う事は友軍も同じ事が言える。今までは仲間によって支えられて来た部分はここでは一切受けられない。それどころか足手まといすらいる。そんな中で戦い続ける事で俺は更に強くなる」

 

 大我にとっては静流や竜胆と言った国内でもトップレベルのダイバーはチームを組んでいても邪魔ではなく静流たちも大我の動きに合わせる事も出来るが、アメリカに居た時に比べると劣る。

 今まではチームが大我のやりやすい状況を作ってくれたがここではそれが無い。

 そんな状況で自分を追い込む事で大我は更に強くなろうとしている。

 それは決してアメリカでチームの中に居ては出来ない事だ。

 

「だから俺は日本に来た。ルークたちもそれが分かっているから何も言わない。俺のいない間に俺が居なくても世界を相手に戦えるだけの実力を付けていれば俺が戻ってきた時どうなる?」

 

 ジョーはここ数か月のルークたちを思い出す。

 チームの要である大我が抜けた穴を埋めようと実力を付けている。

 そうして個々の実力が上がって来ている。

 そうやって実力を付けたチームに大我が戻ってきた時の事をジョーは思い浮かべる。

 大我も大我で日本で強くなって戻り、チームメイトも大我のいない分の穴埋めで実力を付けている。

 

「……最強です」

「そうだろう。俺達チームビッグスターが目指すところはただ一つ世界の頂点。俺達が世界を取る為にこれは必要な事だ。お前もこんなところで馬鹿な事やってないでアメリカサーバーに帰って鍛えてろ。さっきのバトルを見ていたがなんだあれは? あの程度のガンプラならシールドごと一撃で仕留めろ。俺なら余裕で出来る」

 

 いつの間にかシゲとのバトルの駄目だしになっているが、大我がアメリカに居たところから容赦なく駄目だし言われ続けてきたことで、ジョーにとっては大我が自分のバトルをきちんと見て強くなる為に考えてくれていると久しぶりの駄目だしに嬉しさがこみあげてくる。

 

「ビッグスターはこれからも世界の頂点を取る為に強くなる。それでもどうしようもない壁にぶちあがった時は俺が宇宙の果てからでも駆けつけてチームを阻むものをぶっ潰してやる。俺達の道は俺は切り開く。だからお前達は何も迷わずただ前に進み続けろ。俺が進み続けた先に居なかったら置いて行くぞ」

「……分かりました! タイガーさんの一の舎弟としてとことんタイガーさんに付いて行きます!」

 

 ジョーも大我やルークたちのチームとしての真意を知り納得したようだ。

 大我にケツを蹴り飛ばされながらジョーはアメリカサーバーへと帰って行く。

 

「そうだ。俺は進み続ける。世界で一番のファイターになる為に……もう誰にも負けない為に」

 

 大我は一人そう言うとログアウトする。



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ア・バオア・クー攻防戦

 期末テストが無事終了し、7月も後半となり、学生達は1か月以上もある夏休みに入る。

 期末テストを乗り越えた龍牙は出された宿題から全力で目を反らして部室かGBNに入り浸っている。

 その日は全国大会前の部活の活動日で大我や正式な部員ではない諒真や愛依以外は部室に集まっている。

 

「そう言えばそろそろあの時期ですよね」

 

 ふと冬弥が切りだす。

 GBNでは定期イベントとして星鳳高校も出る全国大会以外にも色々とイベントが開催されている。

 この時期にも学生の夏休みに合わせて大規模なイベントが毎年開催される。

 

「そうね。今年のイベントは……」

 

 静流が部室のPCからGBNの公式ホームページを開きイベントの詳細を確認する。

 この時期のイベントは毎年内容が違う。

 

「今年は5人で1チームになってア・バオア・クー宙域での大規模バトルのようね」

 

 静流は皆にもイベントのページを見せる。

 今年は大規模バトルのようで戦場はア・バオア・クー宙域との事だ。

 詳しいルールを見ると各自は5人で1チームとなり、連邦側とジオン側に分かれて戦闘を行う。

 勝利条件は共通の条件が全ガンプラの殲滅で連邦側はア・バオア・クー要塞の陥落、ジオン側は連邦側の母艦の殲滅だ。

 それぞれのチームがエントリー時に連邦とジオンのどちらかを選択して連邦側の敗北条件の母艦は連邦側を選択したチームの数となる。

 また、ジオン側を選択できるチームは先着順で限りがあり、定員をオーバーした場合自動的に連邦側になり数の上ではジオン側の方が不利になる仕組みだ。

 

「チームは5人ですか。俺達は7人だから3人と4人のチームに別れれば良いですけど、チーム訳はどうします?」

 

 1チームは5人だが、必ずしも5人そろえる必要もないらしい。

 ガンプラ部は不在の3人を除けば7人で5人と2人で別れるよりかは3人と4人で別れた方がバランスは良いだろう。

 

「バトルだけなら僕は興味はないからパスさせて貰うよ」

 

 一人でガンプラを弄っていた岳がそう言う。

 岳にとっては今回のような大規模な戦闘イベントには興味はないのだろう。

 元々、大我のガンプラに興味があって入部している為、大我が居なくても部活に参加しているだけマシだ。

 

「僕も今回は遠慮させて貰うよ。全国に向けて資料の整理もしておきたいしね」

 

 岳に続き史郎も不参加を表明する。

 史郎も全国大会出場校の情報をまとめる事で忙しいらしい。

 史郎と岳が不参加と言う事で星鳳高校からは龍牙、冬弥、明日香、静流、竜胆の5人で丁度1チームに纏める事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 イベント当日のGBNは普段以上の賑わいを見せていた。

 それぞれが連邦側とジオン側の陣営を選択して、大規模バトルが開始される。

 龍牙達星鳳高校チームは王道の連邦側での参加となる。

 

「やっぱ数じゃ連邦の方が圧倒的ですね」

「ああ。恐らくは敗北条件の母艦を水増しもしているだろうからな」

 

 それぞれのダイバー達がガンプラに乗り込み、連邦側はア・バオア・クー宙域に接近している。

 連邦側の母艦の数は100を遥かに超えている。

 それだけのチームが参加しているが、竜胆の言うように母艦の数を増やす為の工作も行われているのだろう。

 母艦の数はチーム数と同じである為、5人のダイバーが1チームで参加すれば母艦は1つだけだが、5人のダイバーは1人1チームとして参加すれば母艦は5つになる。

 チームである事自体にそれ程意味がある訳ではない為、このような工作をするダイバー達もいるのだろう。

 

「なんか卑怯な気もします」

「そうだな。だが気にするな。公式イベントとはいえ大会とは違うんだ。もっと気楽に行け」

「分かりました」

 

 連邦側の艦隊の先鋒隊が戦闘宙域に到達して大規模戦闘の幕が切って開かれる。

 

「俺達も行くぞ。龍牙と日永は俺に付いて来い」

「はい!」

「了解」

 

 竜胆のドラゴンガンダムオロチは龍牙のバーニングデスティニーと冬弥の百騎士を引き連れて戦場に向かう。

 それを後ろから静流のアリオスガンダムレイヴンと明日香のクラーフレジェンドが追いかける。

 戦闘が開始されて龍牙達もジオン側のガンプラと交戦状態に入る。

 ガラがマシンガンを連射して、バーニングデスティニーがかわしながら殴って破壊する。

 1機を撃墜するとすぐに別のガンプラの方に向かって行く。

 ガナーザクファントムがオルトロスを放ち、バーニングデスティニーはビームをかわす。

 

「龍牙。怯むな。思い切って突っ込め。日永は龍牙を援護だ」

 

 ドラゴンガンダムオロチは近くのグフイグナイテッドを青竜偃月刀を両断しながら指示を出す。

 百騎士がビームライフルでガナーザクファントムのオルトロスを破壊し、バーニングデスティニーは突っ込んで蹴りを入れる。

 

「それで良い。思い切りの良さはお前の武器だ。この前は裏目に出たが、友軍の援護を受ければ最大限に活かせる」

「はい!」

 

 バーニングデスティニーはギャプランに向かって行く、ギャプランは変形しようとするが、後方からアリオスガンダムレイヴンに狙撃されて体勢を崩したところをバーニングデスティニーに破壊される。

 

「清水さん。貴方は戦艦の方をお願い」

「分かりました」

 

 クラーフレジェンドはケルベロスを展開するとムサイ目掛けて放つ。

 本人はブリッジを狙ったつもりだが、ブリッジを逸れるが、ムサイには直撃した。

 ムサイは一撃で沈める事は出来なかったが、ビームの直撃を受けたところに他のチームのガンプラの追撃を受けて沈む。

 数の上では連邦側の方が圧倒だが、戦場を強力なビームがいくつも横切る。

 それにより連邦側の戦艦やガンプラが多数吹き飛ばされる。

 

「なんだ?」

「アレはDXか」

 

 ジオン側からの攻撃だったが、攻撃を行ったのはガンダムDXのツインサテライトキャノンのようだった。

 ガンダムDXは全部で5機いる。

 5機のガンダムDXがツインサテライトキャノンで連邦の部隊を攻撃して来た。

 

「あの火力じゃ連射は出来ないが、一撃の威力は相当な物だな」

 

 ガンダムDXは改造こそされていないが、きちんと作り込んでいるのかツインサテライトキャノンの威力は相当な物だ。

 数で圧倒されていてもガンダムDXの大火力で一気に数を減らされてしまえば、連邦の数の有利もなくなる。

 だが、ガンダムDXの1機が不意に爆発を起こした。

 それに始まりガンダムDXは次々と爆発して行く。

 

「何が起きてるんですか?」

「アイツだ」

 

 ガンダムDXを破壊し、周囲のジオン側のガンプラが次々と破壊されて行く。

 ジオンのガンプラを破壊しているのは白いAGE-2、ダイモンの駆るガンダムAGE-2 マッハだった。

 ガンダムAGE-2 マッハはストライダーフォームですれ違いざまに可変翼の実体剣でガンプラを切断しては機首のハイパードッズランサーのドッズガンを撃ちながら、戦艦にライフルモードでビームを撃ち込んで沈める。

 

「やっぱ凄いな」

「当然だ。ダイモンさんは俺達のエースなんだからな」

 

 ダイモンの戦いを見ているとこの前、コロシアムで戦ったシゲの高機動型ザクⅡがバズーカを撃ってムサイを沈める。

 

「よっ。元気だったか?」

「シゲ! 闘魂も参加してたのか?」

「せっかくのイベントに参加しない手はないからな。俺としてはジオンで参加したかったのにダイモンさんが連邦で参加するって言うから結構複雑だけどな」

 

 シゲの高機動型ザクⅡはジオンのMSだ。

 どちらの陣営で参加しても使用するガンプラは自由だが、ジオン軍のガンプラで参加するなら、ジオン側で参加したかったのだろう。

 龍牙とシゲが話し込んでいるとジンが重斬刀を抜いて切りかかって来るが、横からのビームで撃墜される。

 

「シゲ。バトル中に気を抜くな」

「済みません。部長」

 

 ジンを撃墜したのは仙水高校チーム闘魂のリーダーでもあるゴウキの闘魂デュエルガンダムだ。

 闘魂デュエルガンダムはデュエルガンダムASの改造機。

 バックパックをエールストライカーに換装して機動力を上げて、両肩にはレールガンをミサイルポッドに変更し、リアアーマーには百練のブレードを流用した大型の高周波ブレードが2期装備されている。

 右手にはグレネードランチャーの付いたビームライフル、左手にはアンチビームシールドを持ち、増加装甲は赤く塗装されている。

 

「ダイモンも余り飛ばし過ぎるなよ」

「分かってるって」

 

 ダイモンはそう言いながらもMS形態に変形させるとハイパードッズランサーをハンムラビに突き刺して至近距離からドッズガンを撃ち込んで破壊する。

 

「本当に分かっているのか?」

「けどダイモンさんらしいじゃないですか」

 

 高機動型ザクⅡはザクバズーカをゲイツRに撃ち込み、バーニングデスティニーが止めを刺す。

 闘魂デュエルがミサイルを撃ち、マラサイがビームライフルで迎撃していると背後に回っていたドラゴンガンダムオロチがドラゴンヘッドのビームでマラサイを落とす。

 百騎士がナイトブレード改でフラッグの腕を切り裂き、クラーフレジェンドがビームライフルを連射してかわしたところをアリオスガンダムレイヴンがGNスナイパーライフルで撃ち落す。

 

「うぁぁぁぁ!」

「なんだ!」

「化け物かぁぁ!」

 

 順調にジオン側のガンプラを倒していると近くの友軍からの通信がいくつも入る。

 同時に友軍の反応が次々と消えていく。

 撃墜前の通信からも尋常ではない相手がジオン側にいるのだろう。

 

「アイツか! チーム……FUJISIRO? まさか……」

 

 連邦側のガンプラを撃破しているガンプラのチームを見て龍牙は嫌な予感がして来た。

 モニターをアップにするとその予感は確信に変わる。

 

「バルバトス! やっぱり藤城か」

 

 連邦のガンプラを蹂躙しているのは大我のガンダムバルバトス・アステールだった。

 夏休みに入り顔を見ていなかったが、これだけの規模のバトルは大我にとっては絶好の狩場だ。

 大我がジオン側で参加しているのも、ジオンの方が連邦よりも数が少なく獲物が多いからなのだろう。

 

「リトルタイガーか! 面白い!」

「ダイモン! 止せ!」

 

 ガンダムAGE-2 マッハはストライダー形態に変形するとゴウキの制止を聞かずにバルバトス・アステールの方に飛んでいく。

 一方のバルバトス・アステールはバーストメイスでドートレスを破壊する。

 

「リトルタイガー!」

 

 ガンダムAGE-2 マッハはMS形態に変形するとハイパードッズランサーを突き出す。

 それをバルバトス・アステールはバーストメイスの柄で受け止める。

 

「ダイモンか……雑魚ばかりで退屈してたんだ。全国大会と言わずにここでぶっ潰す」

「俺も同じ事を考えていたところだ。ここで敵として合いまみえる事になったんだ。全国まで待ってられないな!」

 

 バルバトス・アステールはガンダムAGE-2 マッハを弾き飛ばす。

 2機のガンプラはにらみ合う。

 

「ちょーっと待ったぁ!」

 

 そこにガンダムキマリス・トライデントが割って入る。

 キマリス・トライデントはデストロイヤーランスを振るいガンダムAGE-2 マッハはドッズガンを撃ちながらかわす。

 

「藤城妹か? 悪いが今日は相手をしている暇はないんだよ」

「悪いけど今は藤城姉なのよね!」

 

 キマリス・トライデントは3つの槍の火器を全て使ってガンダムAGE-2 マッハを追いかける。

 

「そいつの相手は私達で引き受けた。大我はストライクもどきをお願い。

 

 珠樹のガンダムエルバエルから位置情報が送られて来る。

 今回のイベントに大我は姉たちと共に参加している。

 

「分かった」

 

 大我は素直に珠樹の指示通りに動く。

 送られて来た情報の場所には3機のストライクダガーが交戦している。

 

「ストライクもどきか。確かにな」

 

 3機のストライクダガーはそれぞれエールストライカー、ソードストライカー、ランチャーストライカーを装備している。

 エールストライカーを装備したガンプラがバルバトス・アステールに気が付いてビームライフルを向けるが、ビームを撃つ前にテイルブレイドが胴体を貫く。

 ランチャーストライカーを装備した機体がアグニを向けるが、ア・バオア・クー方面からの狙撃で上半身が吹き飛ぶ。

 残ったソードストライカーを装備した機体をバーストメイスで仕留めて次の獲物に向かう。

 

「敵ならばこれ程脅威となる相手はいないが、味方となればここまで頼もしいな」

 

 ア・バオア・クー宙域の要塞近くで千鶴のガンダムグシオンリベイクフルシティシューティングスターは大型リニアライフルを構えている。

 先ほど、ランチャーストライカーを装備したストライクダガーを狙撃したのは千鶴だ。

 千鶴の珠樹や貴音に誘われてチームFUJISIROとして参加している。

 チームFUJISIROに自分が入ってもいいのかと疑問に思ったものの珠樹と貴音はいずれはそうなるから問題ないと言われて渋々納得させられた。

 千鶴は狙いをサラミスに定める。

 肩のレールガンとリニアライフルの3つの砲門から繰り出される狙撃で3隻のサラミスのブリッジを正確に射抜く。

 

「これ以上は!」

 

 戦闘が開始されて時間が経過した事で防衛戦を1機のクランシェカスタムが抜けて、グシオンシューティングスターにビームサーベルで切りかかるが、別方向からの砲撃で撃墜される。

 

「おっと。ウチの妹に手を出して良いのは俺と大我だけなんでね」

 

 チームFUJISIROのして千鶴だけでなくその兄諒真も参加している。

 諒真は今回は大我と戦った時に使ったガンダムクロノスXではなくショートバレルのガンダムフラウロスでの参加だ。

 

「何を馬鹿な……それに何で兄さんが私のガンプラで……自分のガンプラを使えば良いのに」

「だって折角のチームでの参加なのに俺だけAGEのガンプラで仲間外れみたいで寂しいじゃん」

 

 諒真がガンダムクロノスXではなくガンダムフラウロスでの参加したのはガンダムクロノスXに問題がある訳ではない。

 チームを作る際のガンプラ選びには色々と選び方がある星鳳高校のように自分の好きなガンプラを持ち寄る事で統一性のないチームである事もあれば連携を考慮して選ぶ場合もある。

 それ以外でも同じガンプラをベースにしたガンプラや同じような特性や共通点を持つガンプラ、同じ作品のガンプラで統一するなと様々だ。

 今回のチームFUJISIROは大我がガンダムバルバトス、珠樹がガンダムバエル、貴音がガンダムキマリス・ヴィダール、千鶴がガンダムグシオンリベイクフルシティと皆が鉄血のオルフェンズに出て来る機体のガンプラを改造した物で諒真のクロノスだけが違う作品の機体だ。

 一人だけ違う作品のガンプラを使う事が寂しい為、諒真は千鶴が改造の際に装備の一部を使用する為に組み立てたガンダムフラウロスを借りて参加した。

 

「千鶴。なんか武器くれ」

「はぁ……好きにして」

 

 グシオンシューティングスターはコンテナユニットを開いてフラウロスはハルバートを持つ。

 グシオンシューティングスターのコンテナユニットは自分の予備の武器だけでなく、友軍の武器の予備も兼ねている。

 フラウロスはショートキャノンでアデルマークⅡのシールドを破壊するとハルバートで両断する。

 アデルマークⅡを破壊し、接近するジェノアスカスタムをマシンガンで蜂の巣にする。

 フラウロスがグシオンシューティングスターに接近する敵を仕留めている間にエネルギーをチャージして3つの砲門からダインスレイヴを放つ。

 

「去年の決着を付けさせて貰うかんね!」

 

 キマリス・トライデントは肩のミサイルを全て撃ち尽くす。

 それをガンダムAGE-2 マッハがドッズガンで迎撃する。

 

「リトルタイガーとやりたいんだけどな!」

「駄目」

 

 回り込んだエルバエルがバエルライフルで攻撃する。

 ガンダムAGE-2 マッハは回避しながら背部のツインドッズキャノンを脇の下から前方に向けてキマリス・トライデントとエルバエルに同時に狙いを付けて攻撃する。

 2機は易々と回避するが、その間にダイモンは大我を追いかけようとするが、後方からグシオンシューティングスターのダインスレイヴによる狙撃がガンダムAGE-2 マッハを襲う。

 

「ちっ! 藤城姉妹だけでも厄介なのにクレインも加わって余計に面倒になってる!」

 

 ガンダムAGE-2 マッハは回避するが、千鶴の弾丸はサラミスのブリッジをぶち抜く。

 

「回避された時の事も織り込み済みって訳か」

「アンタの相手はこっち!」

 

 キマリス・トライデントは加速してデストロイヤーランスを振るう。

 ガンダムAGE-2 マッハはストライダーフォームに変形してかわして振り切ろうとする。

 だが、キマリス・トライデントの機動力はストライダーフォームでも完全には振り切れない。

 直線距離では振り切れない事もなかったが、巧にエルバエルの射撃がそうはさせてくれない。

 

「ダイモン!」

 

 交戦している間にゴウキの闘魂デュエルが到着してビームライフルで援護する。

 

「助かる」

「藤城姉妹にクレインか……」

「スメ女は相変わらず連携が鬼みたいだよ」

 

 闘魂デュエルと合流し、ガンダムAGE-2 マッハは戦闘を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルバトス・アステールがテイルブレイドでジンクスの胴体を貫きバーストメイスでサラミスのブリットを叩き潰す。

 すでにバルバトス・アステール1機にサラミスが10隻以上撃沈され、ガンプラも100機近くが落とされている。

 それだけの猛威を振るっても尚、バルバトス・アステールは暴れ足りないかの如く近くのガンプラを破壊し続ける。

 

「次」

 

 ドリルニーでノブッシをぶち抜く。

 

「藤城!」

 

 龍牙のバーニングデスティニーが光の翼を展開して突っ込んで来る。

 その後方から百騎士と高機動型ザクⅡがバズーカで援護する。

 バズーカの砲弾をバルバトス・アステールはかわす。

 

「今日は敵同士だが!」

 

 突っ込んで来るバーニングデスティニーを真横からテイルブレイドが襲い掛かる。

 それを龍牙は見切り避けるが、腕部の200ミリ砲がバーニングデスティニーに直撃する。

 

「うぁぁ!」

 

 そして、バルバトス・アステールはバーストメイスを投擲してバーニングデスティニーの胴体を押しつぶす。

 

「龍牙!」

「アレがダイモンさんの言っていたリトルタイガー……まるで化け物だ!」

 

 バルバトス・アステールはバーストメイスを回収するとバーニングデスティニーの残骸を踏み台にして百騎士の方に向かう。

 百騎士もクレイバズーカで迎撃するが、シールドスラスターで身を守りながら突っ込んで来る。

 ビームライフルを手放してナイトブレード改で切りかかるが、ナイトブレード改は素手で掴まれると握り潰されると同時にドリルニーで胴体をぶち抜く。

 高機動型ザクⅡがバズーカを撃つが、百騎士を盾にされて防がれて百騎士を投げつけられる。

 

「幾らイベントで敵同士になったとはいえチームメイトのガンプラを良くもそこまで!」

 

 高機動型ザクⅡは投げつけられた百騎士をかわすが、すでにバルバトス・アステールは自身の間合いまで距離を詰めていた。

 とっさに肩のシールドで身を守ろうとするが、バルバトス・アステールの一撃の前にガードなど意味はない。

 高機動型ザクⅡはバーストメイスによりシールドごと上半身が粉砕される。

 3機を瞬く間に撃墜して、バルバトス・アステールは次の獲物へと向かって行く。

 

「清水さん。貴女はとにかく逃げなさい。流石にアレは相手が悪すぎるわ」

「え? でも……」

 

 アリオスガンダムレイヴンはGNスナイパーライフルでバルバトス・アステールに狙いを定める。

 ドラゴンガンダムオロチも8基すべてのドラゴンヘッドを展開すると、バルバトス・アステールに差し向ける。

 

「恐らくチャンスは一度だ。後は任せる」

「ええ。分かったわ」

 

 8基のドラゴンヘッドが四方八方からバルバトス・アステールを襲う。

 喰らい付こうとするドラゴンヘッドの一つをバーストメイスで潰し、別方向からのドラゴンヘッドを足の裏にエッジを展開して蹴り破壊する。

 更に迫るドラゴンヘッドを左手で掴んで握り潰し、別のドラゴンヘッドをテイルブレイドで切り捨てると足に喰らい付こうとしたドラゴンヘッドをドリルニーで貫く。

 腕部の200ミリ砲でドラゴンヘッドを一つ潰すとバーストメイスを振るってドラゴンヘッドを2つ同時に粉砕する。

 8基のドラゴンヘッドの連続攻撃を大我は一つ一つ確実に潰す。

 だが、それは竜胆も分かっていた事だ。

 幾ら8基のドラゴンヘッドの連続攻撃でも大我なら問題なく対処して来ると言う事を。

 その間にハイパーモードとなったドラゴンガンダムオロチが接近し、青竜偃月刀による渾身の一撃を食らわせようとしていた。

 

「甘いな」

 

 バルバトス・アステールのテイルブレイドがドラゴンガンダムオロチの青竜偃月刀の刃を砕き、バーストメイスの先端がドラゴンガンダムオロチの胴体に突き刺さる。

 バーストメイスの先端が胴体に突き刺さっているが、ドラゴンガンダムオロチはまだ何とか動けるようでバーストメイスを喰らい付こうとする。

 だが、バーストメイスの先端の杭が射出されてドラゴンガンダムオロチは貫かれる。

 同時に貫いている杭が爆発してドラゴンガンダムオロチを跡形もなく吹き飛ばす。

 

「相変わらずの容赦ないわね……でも。八笠君の犠牲は無駄にはしないわよ」

 

 竜胆は何の策もなしに挑んだ訳ではない。

 アリオスガンダムレイヴンがトランザムを起動した状態でGNスナイパーライフルをバルバトス・アステールに狙いを定めていた。

 ドラゴンガンダムオロチを貫いている杭が爆発すると同時にGNスナイパーライフルを放つ。

 放たれた粒子ビームは真っ直ぐとバルバトス・アステールに向かって行く。

 バルバトス・アステールは回避する動作を見せない。

 幾ら表面を対ビームコーティングをしていたとしてもトランザムを使っている状態のGNスナイパーライフルなら十分に貫ける。

 静流も撃った瞬間にビームが当たる確信を持った。

 しかし、粒子ビームがバルバトス・アステールに直撃する前に何かに当たってビームは弾かれた。

 

「何!」

 

 バルバトス・アステールは微動だにしていない。

 静流が何が起きたのか理解する前にアリオスガンダムレイヴンは上半身が吹き飛ぶ。

 それはア・バオア・クーの防衛戦の後ろからの千鶴の狙撃だった。

 肩の2門のレールガンの狙撃を時間差で行い一発目はバルバトス・アステールを狙う粒子ビームを二発目はアリオスガンダムレイヴンを狙った。

 2発の弾丸はまさに流星のように戦場を横切り、千鶴の狙い通り粒子ビームに当たりバルバトス・アステールを守り、同時にアリオスガンダムレイヴンを仕留めた。

 大我もそれが分かっていたからこそ後方で自分を狙ってチャンスを待っていた静流を無視して目の前の竜胆を仕留めた。

 

「全く……ここまでの事を読んでいた珠ちゃんもだが、こんな事を一度で成功させる千鶴も友軍にするのは惜しいな。まぁ全国でもう一度やれるから良いか」

 

 竜胆と静流の策はすでに珠樹によって読まれていた。

 その上で千鶴に狙撃の指示を出していた。

 これ程の大規模な戦闘の中、遠く離れた場所を2か所同時に、それも片方は飛んでいるビームを狙撃すると言う無理難題を珠樹は平然と千鶴に指示して千鶴は一度でそれを成功して見せた。

 珠樹の読みや策もだが、千鶴の狙撃能力の尋常ではない精度があったからこそできた事だ。

 バルバトス・アステールはクラーフレジェンドの方に向かって行く。

 

「え? 大我君? 来ないで!」

 

 クラーフレジェンドは全ての火器を総動員して迎え撃つが、狙いはデタラメで大我は殆ど動かずに突っ込む。

 

「動揺し過ぎだな。これじゃ下手に動いた方が当たる」

 

 距離を詰めたバルバトス・アステールはバーストメイスを振り上げて突っ込む。

 だが、速度を緩めずにバーストメイスを振り下ろす前に左手の爪でクラーフレジェンドの胴体を貫いた上でバーストメイスを振り下ろして止めを刺す。

 大我はバーストメイスを振り上げる事で相手の意志をバーストメイスに向けさせた上で死角から攻撃しているつもりだったが、初めて大我と敵対した事で完全にビビッていた明日香はバーストメイスを振り上げる前に完全に目を瞑っていたため、大我のフェイントは何の意味もなかった事に大我は知るよしもない。

 クラーフレジェンドを撃墜し、バルバトス・アステールはサラミスを沈めに向かう。

 ダイモンとゴウキは珠樹と貴音の二人に完全に抑えられ、ア・バオア・クーに取りつこうとする連邦のガンプラはいつの間にか他のジオンのガンプラをまとめて指揮していた諒真達によってことごとく阻まれた。

 周囲をジオンのガンプラに守られたグシオンシューティングスターの狙撃と前線で大暴れをするバルバトス・アステールにより連邦のサラミスは次々に撃沈され最終的に連邦の母艦は全て撃沈される事となった。

 それにより今回のイベントのア・バオア・クー攻防戦は歴史を覆しジオンの勝利で幕を下ろした。

 

 



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全国大会開幕

 夏休みに入り8月になるといよいよ全国大会が開始される。

 星鳳高校は当日の早朝に東京を出て全国大会の開場のある静岡に向かう。

 全国大会も予選同様に開場からGBNにダイブしなければならない。

 静岡に到着するとそのまま会場に向かい受付を済ます。

 受付を済ませ組み合わせの発表まで待つ。

 全国大会も地区予選同様にトーナメント方式で行われる。

 バトルは最大10機まで使用可能なフラッグ戦だ。

 全国から地区予選を勝ち抜いた64チームがそれぞれ16チームづつ6つのブロックに分かれて戦う。

 星鳳高校はDブロックとなり同じく東京代表の皇女子高校はAブロック、去年の優勝校の仙水高校はCブロックとなっている。

 その為、星鳳高校が優勝する為には準決勝で優勝校の仙水高校を、決勝で準優勝校にして地区予選で敗れた皇女子高校に勝たねばいけなくなる。

 Dブロックの試合はAブロックとBブロックの一回戦が終わってからで、大我たちは観客席で順番が来るまで他の試合を見る事になった。

 

「Aブロックの第一試合から皇女子高校が出るね」

「相手は……沖縄代表のチームライトニングアタッカーズ。機動力に長けたチームだね」

 

 Aブロック一回戦は東京代表チームアリアンメイデンと沖縄代表のチームライトニングアタッカーズとなっている。

 組み合わせ表を見ながら史郎が皇女子高校の対戦相手の情報が記された紙を部員に行き渡される。

 それによれば沖縄代表のライトニングアタカッターズは機動力を活かして戦うチームのようだ。

 沖縄地区を勝ち抜くだけあって沖縄では名の知れたチームのようだ。

 双方の準備が済み、全国大会が開始される。

 ライトニングアタッカーズのガンプラ構成は隊長機に指揮官機仕様のブレイヴにムラサメ、クランシェ、リゼル、トーラス、イナクト、アビゴル、カズブレイ、百里、ガ・ゾウムとどれも変形機構を持つガンプラ達だ。

 ライトニングアタッカーズのガンプラがバトルフィールドの宇宙に出ると各々が変形して一気に敵陣に切り込もうとした瞬間にそれは起こった。

 いくつかの杭がとんでもない速度でライトニングアタッカーズのガンプラ達に襲い掛かる。

 何とか回避行動を取ろうとするが、アビゴルがまともに直撃して撃墜され、クランシェ、ガズブレイ、ガ・ゾウムが掠り損傷しながら体勢を崩した。

 

「開幕早々えげつない事するな」

 

 皇女子高校の先制攻撃を大我はそう評価する。

 ライトニングアタッカーズを攻撃したのは当然、皇女子高校のガンプラだ。

 地区予選では見せなかったガンプラで同型機がチームの半数である5機も投入されている。

 レギンレイズをベースに改造したレギンスレイヴだ。

 レギンスレイヴの最大の特徴は右手に持っている大型の弓のような形状をしているダインスレイブの発射機だ。

 グレイズ用の物をベースに手持ちの大型火器として改造され、各機5発分のダインスレイヴ用の弾丸が付いており、撃つたびに自動的に次弾が装填される仕組みになっている。

 頭部のセンサーを強化し、長距離によるダインスレイヴによる狙撃用のガンプラだ。

 各機はダインスレイヴを5発しか撃てない為、予備の装備としてリアアーマーに折り畳み式に長距離レールガンが装備されている。

 5機のレギンスレイヴがバトル開始早々にダインスレイヴによる先制攻撃を行ったのだ。

 

「ガンプラバトルだとエイハブウェーブがないから射撃精度が落ちる事もない。その上、あの連中狙撃の腕は相当仕込まれているな。如月程にないにしても全員が静流クラスの腕前は持ってる」

 

 レギンスレイヴのダイバーの狙撃の腕は相当な物だ。

 流石に千鶴とは比べられないが、狙撃がメインではないとはいえ、狙撃の腕はそれなりに自身のある静流と大差ないレベルの実力はあるだろう。

 恐らく彼女たちは後方から狙撃をする練習だけを徹底的にやらされて高い狙撃能力を身に着けたのだろう。

 それでも、開幕早々で敵の位置が不明瞭な状況では5発中敵に当たったのは4発だ。

 尤も、それは皇女子高校も織り込み済みだ。

 初手の攻撃はあくまでも先制攻撃で敵のペースを崩して流れを自分達の方に引き寄せれば良く、当たれば儲けものと言う程度の事だ。

 そして、当たれば並みのガンプラなら一撃で仕留められるが、全国大会に出る程のダイバーのガンプラなら当たりどころが良くなければ一撃では落とせない。

 しかし、それも彼女たちの中では想定の範囲内だ。

 初手のダインスレイブで損傷した3機のガンプラがレギンスレイヴと隊列を組んでいる千鶴のガンダムグシオンリベイクフルシティシューテングスターの狙撃で破壊された。

 初手の攻撃で撃墜されずとも当てる事が出来れば、おおよその敵の位置を把握できる。

 おおよその位置さえ分かれば千鶴の狙撃能力なら問題なく止めを刺せる。

 開始早々ダインスレイヴの長距離狙撃でライトニングアタッカーズのガンプラは4機撃墜されて残り6機だ。

 幸いにも落とされた4機の中にフラッグ機はいなかったので戦いはまだ続く。

 

「くそ! 何がどうなってるんだ!」

「とにかく散開だ! ダインスレイヴにやられるぞ!」

 

 ライトニングアタッカーズは散開しようとするが、リゼルの隣にいたはずの百里が突然姿を消した。

 

「高機動型が足を止めるとかやってくださいって言っているような物じゃん」

「馬鹿な! いつの間に!」

 

 ダインスレイヴに気を取られていた為、ライトニングアタッカーズは貴音のガンダムキマリス・トライデントの存在に気が付かなかった。

 貴音と珠樹は先制のダインスレイヴと共に前線まで到達していた。

 百里が消えたのはキマリス・トライデンドの突撃をまともに受けたからでキマリス・トライデントのデストロイヤーランスの先端に百里だった物が残っている。

 それを振り払ったキマリス・トライデントはすぐさま加速する。

 

「とにかく足を止めさせろ!」

 

 リゼルとトーラスが銃口をキマリス・トライデントに向けてビームを撃とうとするが、ビームは放たれた瞬間に拡散してしまう。

 キマリス・トライデントの役目は機動力を活かして敵陣をかき乱しながら敵を討つのと同時にリアアーマーに内蔵されている機雷をばら撒く事だ。

 機雷にはいくつか種類があり、今ばら撒いているのはビームを拡散する特殊な粒子だ。

 それによりこの周辺ではビーム兵器の使用が大きく制限されている。

 これは敵味方関係ないが、アリアンメイデンのガンプラは全機ビーム兵器を持っていない為、自分達にはデメリットはない。

 

「ビームが駄目なら!」

 

 ビーム兵器が使えないと知りビーム兵器を持たないイナクトがリニアライフルを構えるが、珠樹のエルバエルがバエルシールドのワイヤークローでイナクトを捕まえるとキマリス・トライデントの方に投げとめる。

 

「お姉ちゃん。ナイスパス!」

 

 キマリス・トライデントはドリルニーでイナクトの胴体をぶち抜いて破壊する。

 

「くそ!」

 

 リゼルはビーム兵器が使えず腕部のグレネードランチャーで応戦するが、グレネードランチャーではキマリス・トライデントの機動力には追いつけず、キマリス・トライデントはデストロイヤーランスでトーラスを仕留める。

 トーラスも変形して逃げようとするが意味は無かった。

 残ったリゼルも背後からエルバエルがバエルソードで切りかかり両足が切断されて体勢を崩したところとキマリス・トライデントがデストロイヤーランスで止めを刺す。

 

「これで9機目だけどやっぱ隊長機がフラッグ機みたいじゃん」

「フラッグじゃないけどフラッグ機」

 

 すでにライトニングアタッカーズは10機中9機が撃墜されている。

 それでも勝負が決まらないのは残りの1機がフラッグ機だと言う事だ。

 フラッグ戦においてフラッグ機が落とされない限りは負けではない。

 逆に言えば1機撃墜されても、そのガンプラがフラッグ機ならその時点で何機残っていても負けとなる。

 去年はアリアンメイデンは偶然撃墜されたガンプラがフラッグ機だった為、仙水高校に負けている。

 

「残りはカスミン先輩に任せれば良いでしょ。こっちのフラッグ機は今日は私だし」

 

 残り1機のブレイヴはレギンレイヴの方に向かったのだろう。

 アリアンメイデンのフラッグ機は毎回変更され、今回は貴音のキマリス・トライデントだ。

 幾らレギンスレイヴを倒しても負ける事はない。

 尤も、貴音も珠樹もレギンスレイヴが落とされる心配等してはいなかった。

 

「せめてこいつらだけでも!」

 

 ブレイヴは強引に突っ込み、レギンスレイヴを目前まで捉えていた。

 すで勝ち目はなく、せめてレギンスレイヴの1機でも落とそうとしている。

 ブレイヴはレギンスレイヴ目掛けて最後の悪足掻きのトライデントスマッシャーを撃ち込む。

 だが、それはレギンスレイヴを目前に弾かれる。

 

「悪いけどやらせる訳には行かないわ」

 

 アリアンメイデンのガンプラ構成はレギンスレイヴが5機に千鶴のグシオンシューティングスターに藤城姉妹の2機の他にまだ2機いる。

 それが副部長の香澄とその妹の真澄の2機のレギンレイズシュバルベだ。

 どちらもレギンレイズジュリアをベースに改造した高機動型のガンプラだ。

 両手のマニュピレーターを通常の物に変更し、左腕に最終決戦用の大型シールドを装備しているのは共通で姉の香澄のタイプGは薄紫色で塗装され右手にはレギンレイズ用のライフルの下部にランスユニットを装備し、妹の真澄のタイプMは青く塗装され下部に多目的ランチャーを追加したレギンレイズ用のライフルと、腰にはジュリアンソードを手持ちの武器に改造したシュバルベソードが2本装備している。

 この2機のレギンレイズシュバルベは万が一にも敵が前線の2機を突破して後方のレギンスレイヴを狙って来た時の守りと、場合によっては前線の藤城姉妹と合流して戦う事を目的とした遊撃機だ。

 後方から5機のレギンスレイヴとグシオンシューティングスターによるダインスレイヴの狙撃と藤城姉妹が前線で撹乱し、内山姉妹が状況に応じて狙撃部隊の守りと前線の増援に向かう。

 それこそが皇女子高校チームアリアンメイデンの基本戦術なのだ。

 

 「真澄。通させないでよ」

 「分かってる。姉さん」

 

 2機のレギンレイズシュバルベはブレイヴを挟み込むように展開する。

 ブレイヴは2機のレギンレイズシュバルベに挟まれないように注意するが、高い機動力とコンビネーションで完全に翻弄されている。

 そうしている間にグシオンシューティングスターの狙撃でビームライフルごと右腕が吹き飛ばされ、ビームサーベルを向くが、レギンレイズシュバルベタイプMのライフルの直撃を受けてレギンレイズシュバルベタイプMのランスユニットで胴体を貫く。

 それが致命傷となりブレイヴが撃墜され、ライトニングアタッカーズは全滅するのと同時にフラッグ機が撃墜されてアリアンメイデンは1回戦を突破する。

 

「あれがアリアンメイデンの戦い方……」

「監督の性格が滲み出てるな」

 

 アリアンメイデンの試合が終わり次のバトルが開始される。

 AブロックとBブロックは並行してバトルが進んで行く。

 

「次のバトルには4位のシドーさんが出るみたい」

 

 ジュニアクラスの国内ランキングで千鶴に次ぐ4位で彼の率いる岐阜代表のチームアサルトドックは今回の全国大会においても皇女子高校や泉水高校に並び優勝候補の1つと目されている。

 準決勝で皇女子高校と当たる為、星鳳高校とは皇女子高校が負けない限りは当たる事はない。

 対戦相手は愛知代表のチームブラッドハウンドだが、対戦相手は特に上位ランカーもいない無名校だ。

 誰もがアサルトドックの勝利が高いと思っていた。

 バトル開始時に誰もが驚いた。

 愛知代表のブラッドハウンドは1機のみでバトルを始めた。

 アルケーガンダムの改造機、ブラッドロードガンダム1機だけだ。

 腰のファングコンテナとGNバスターソードは外され、左腕のGNシールドはそのままだが武器は手持ちのGNブラッドソードが2本だけだ。

 背部からは真っ赤なGN粒子を翼のように展開して高い機動力を得るGNブラッドウイング。

 高い機動力から次々とアサルトドックのガンプラを殲滅して行き、最後はシドーのフラッグ機を仕留めてその実力を示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 AブロックとBブロックの一回戦が終わると今後はCブロックとDブロックの1回戦が順じ始まる。

 Cブロックでは静岡代表のチーム闘魂が難なく勝利を収めた。

 相手チームもかなりの実力者だったが、ランキングトップのダイモンに5位であるゴウキを初めとしてランキングが8、9、10位とチームの半数がジュニアクラス国内ランキングの上位ランカーで占められている闘魂を打ち崩す事は出来なかった。

 CブロックとDブロックの試合も進み、Dブロックを突破する最有力候補である福岡代表のチーム岩龍が1回戦を突破した。

 岩龍はランキング2位のコジロウ率いるチームでコジロウのガンダムX斬月が敵陣に切り込み実質1機で勝負を決めた。

 ガンダムX斬月は近接戦闘に特化したガンプラで全身に鎧を模した装甲を追加し、火器は胸部のブレストバルカンと腕部のガントレット状の装甲に内蔵された2連装ビームガンのみでバックパックのサテライトキャノンの砲身は全面的に改修してビーム砲ではなく身丈程もある大太刀の鞘となっている。

 そのガンダムX斬月を相手チームも止める事が出来なかった。

 星鳳高校にとってはアリアンメイデンや闘魂よりも先に岩龍と戦う可能性が高く、Dブロックを勝ち抜けるには彼らに勝つ事は必須だろう。

 そして、星鳳高校の出番が来る。

 観客席ではすでに1回戦を勝ち抜いたアリアンメイデンや闘魂も偵察目的で観戦している。

 観客席から会場に移動するとそれぞれがガンプラをセットしてGBNにダイブする。

 星鳳高校の1回戦の相手は鳥取代表のチームサンドスイーパーズだ。

 星鳳高校は隊長機はガンプラ部の部長の史郎だが、フラッグ機は事前の相談でチーム内で最も撃墜される可能性の低いとして大我が自分でやると言って大我で決まっている。

 GBNにログインすると各々のガンプラがバトルフィールドに入る。

 

「うぁ! 何だ!」

 

 バトルフィールドに入った途端、龍牙の視界が一気に悪くなる。

 今回のバトルフィールドは砂漠地帯。

 不定期に砂嵐や足場の悪いフィールドだ。

 砂嵐により星鳳高校のガンプラは散り散りになってしまう。

 

「龍牙!」

「冬弥に明日香! 無事だったか?」

 

 龍牙は一度地上に降りる。

 敵のガンプラや位置が分からない以上は不用意に飛んでいては良い的だ。

 そこに冬弥の百騎士と明日香のクラーフレジェンドが合流する。

 

「それにしても砂漠フィールドとは厄介だな。僕の百騎士は一応は防砂処理もしてあるけど二人は?」

 

 砂漠フィールドではガンプラに防砂処理をしていないと関節部に砂が入り込み思わぬ不具合が出る危険性がある。

 

「……やってない」

「私もそんなの聞いてないよ」

 

 冬弥は最低限の防砂処理はしてあるが、龍牙と明日香はしていない。

 合流した3機の頭上にミサイルが降り注ぐ。

 

「散開だ!」

 

 3機は散開してミサイルをかわす。

 

「ガンプラがなんか変!」

「防砂処理をしてないとこうも動き憎いのか!」

 

 龍牙と明日香は身を持って砂漠の脅威を感じていた。

 更には重装備のクラーフレジェンドは着地時に砂に足を取られて膝をつく。

 そして、サンドスイーパーズのガンプラが飛び出してくる。

 

「アレは!」

「よりにもよってバクゥか!」

 

 サンドスイーパーズのガンプラは3機のバクゥ。

 それぞれがレールガン、ブレイズウィザード、スラッシュウィザードを装備している。

 バクゥは砂地である事をもろともせずに駆け抜ける。

 クラーフレジェンドはケルベロスを前方に向けてバクゥにビームを放つが、バクゥに当たる事はない。

 

「ビームが思ったように撃てないよ!」

 

 百騎士はクレイバズーカを構えるがスラッシュウィザードを装備したバクゥがビームガトリング砲を連射してビームマントで身を守る。

 レールガン装備のバクゥがレールガンでバーニングデスティニーを牽制しているとブレイズウィザード装備のバクゥがビームサーベルでクラーフレジェンドの両足を切断してクラーフレジェンドは仰向けに倒れる。

 

「きゃぁぁ!」

「明日香! この野郎!」

 

 バーニングデスティニーはブレイズウィザード装備のバクゥに突っ込むが迎撃のミサイルが放たれてビームシールドで身を守っていると背後に回ったバクゥがレールガンを撃ち込む。

 

「うぁぁ!」

「龍牙!」

 

 冬弥は龍牙の方に気をとられていた為、スラッシュウィザード装備のバクゥのビームサーベルでクレイバズーカごと左腕を肘から切られてビームライフルと頭部のバルカンで牽制する。

 3機のバクゥは縦横無尽に動き、龍たちを翻弄する。

 

 

 

 

 

 

 その頃、別の場所でも戦闘が開始されていた。

 岳のジムHSCと諒真のガンダムクロノスXは砂の中の見えざる敵に苦戦させられていた。

 

「戦場は向こうに味方してるか。いきなり難儀なもんだな」

 

 ガンダムクロノスXは砂に向けてクロノスキャノンを撃ち込むが反応はない。

 だが、後ろから敵が飛び出してくる。

 諒真と岳が相手しているガンプラはハイゴメル、ゴメルの改造機だ。

 MA形態では先端のビーム砲からスクレイバー状のビームを出せるように改造し、背部にはレールガンが2門装備され、砂の中に身を潜ませながらレールガンだけを出しても攻撃出来る。

 ハイゴメルが背部からシグルクローで襲い掛かりガンダムクロノスXはクロノスアックスで弾くが、ハイゴメルはすぐに砂の中に潜り込む。

 

「向こうは砂漠での戦闘に慣れている。成程……戦場に特化した改造をする事もまた戦うガンプラの改造法と言う訳か……」

「関心するのは後にしてくれ。流石に厄介だな」

 

 相手の場所が分からない以上はクロノスビットをばら撒く訳にもいかない。

 敵の出方を見ているとハイゴメルがジムHSCに正面からビームスクレイバーを展開して突っ込む。

 シールドを掲げるが、ハイゴメルの一撃でシールドを弾かれて2機目のハイゴメルがシグルクローで一撃を食らわせる。

 撃墜されなかったが、まともに攻撃を受けて尻餅をつくジムHSCに3機目のハイゴメルが馬乗りになる。

 

「向こうは3機編成か」

 

 諒真はジムHSCからハイゴメルを引きはがしたいが、ガンダムクロノスXの火器ではジムHSCも巻き込みかねない。

 何とかジムHSCはシールドで身を守っているがやられるのは時間の問題だ。

 打つ手を考えているとどこからかの砲弾がジムHSCとハイゴメルを襲う。

 ハイゴメルに一撃直撃するとハイゴメルは砂の中に逃げ込む。

 

「ちっ……砂の中に逃げたか。素早い奴だ」

「大我か? 助かったが、味方ごと撃つなよな」

 

 ジムHSCごとハイゴメルを狙ったのは大我のバルバトス・アステールだった。

 

「川澄。まだ行けるな?」

「一応は当たらないように手加減はしてくれたみたいなので」

 

 ジムHSCは何とか立ち上がるが余り戦力としては使えそうに無い。

 

「アレが噂のリトルタイガーのバルバトスか」

「ここで仕留めるぞ!」

 

 砂に潜む3機のハイゴメルはバルバトス・アステール達を中心に砂の中で円を描くように回り始める。

 するとそれにより砂嵐が発生する。

 

「おいおいヤバいなコレ」

「デルタストリームアタックだ!」

 

 3機のハイゴメルは砂嵐を起こし、それに紛れて襲い掛かってくる。

 

「とにかく大我を守れ!」

 

 諒真はフラッグ機である大我を守る事を優先する。

 だが、周囲にバルバトス・アステールはいなかった。

 

「会長?」

「バトルが終わってないって事は大我はやられていないってことだが……」

 

 バルバトス・アステールを見失い2機は3機のハイゴメルの猛攻をまともに受ける事になる。

 砂嵐が収まるとそこには猛攻を受けたジムHSCとガンダムクロノスXの姿がある。

 

「会長。後は任せます」

「ああ。任された」

 

 ジムHSCは戦闘不能となり倒れる。

 ハイゴメルの猛攻の中、途中から元々ダメージを受けている岳のジムHSCがガンダムクロノスXのダメージを少しでも減らす為に盾となっていた。

 それでもガンダムクロノスXのダメージは少なくない。

 

「リトルタイガーは逃がしたが、もう一機も仕留める!」

 

 砂の中から3機のハイゴメルがガンダムクロノスXに目掛けてビームスクレイバーを展開して突っ込む。

 

「……こりゃ流石に不味いな」

 

 諒真も今回ばかりはやられたと確認するが、突如、砂の中から何かが飛び出してくる。

 それはいつの間にか姿が見えなかった大我のガンダムバルバトス・アステールだった。

 大我は砂嵐の中で自ら砂に埋もれて姿を隠していた。

 

「大我! やっちまえ!」

「言われなくても」

 

 相手のお株を奪う砂の中から飛び出して来たバルバトス・アステールは戦闘のハイゴメルをバーストメイスで粉砕した。

 

「クソ! 一度砂の中に!」

「逃がすかよ」

 

 バルバトス・アステールはバーストメイスを投擲する。

 バーストメイスが砂漠に落ちるとその重量から衝撃で砂が吹き飛びハイゴメルが砂の中に隠れる事を妨害する。

 砂の中に入りそびれた2機のハイゴメルだが、別方向からのビームで1機は撃墜され、もう1機は片腕を失う。

 

「会長に藤城君。大丈夫?」

「ナイスタイミング」

 

 ハイゴメルを攻撃したのは砂嵐を見つけて向かっていた静流のアリオスガンダムレイヴンと史郎のガンダムAGE-3 オービタルだった。

 静流の攻撃はハイゴメルを撃墜したが、史郎の攻撃は撃墜には至らないが、損傷したハイゴメルは何とか逃げようとするが、損傷から砂の中には潜れずに砂の上を滑走して逃げている。

 だが、ガンダムクロノスXが大量のクロノスビットを使ってハイゴメルは逃げる事も出来ずにやられた。

 

「状況は?」

「こっちは川澄がやられただけだ。二人は大丈夫そうだな」

「うん。僕と黒羽さんはまだ戦闘はしてないから」

「会長はこれ以上は無理しないで、部長に任せます。それに藤城君は私と……」

 

 静流は大我と共に他の仲間のところに向かおうとするが、すでに大我のバルバトス・アステールはバーストメイスを回収してどこかに行って近くにはいない。

 

「大我の事は放っておけ、どの道アイツは何を指示しても基本好き勝手に動くだけだ。バトルが終わらない限り大我は無事だ。八笠と縦脇は自分の身くらい守れるが1年連中が心配だ。黒羽はそっちを探して来てくれ」

「了解」

 

 大我に指示を出したところで言う事を聞いてくれないと言うのは確かにそうだ。

 放置しても勝手に動いて手当り次第敵を潰して回っているだろう。

 まだ安否の分からない中で竜胆は無論、諒真が言うには愛依も自分の身を守れるだけの実力はあり早々やられはしない。

 問題は実力が発展途上の1年の3人だ。

 静流はダメージを受けている諒真のガンダムクロノスXを史郎に任せて龍牙達の方に向かって行く。

 

 

 

 

 

 その頃、龍牙達は3機のバクゥに翻弄されている。

 冬弥の百騎士はビームマントで身を守りながらナイトブレイド改を抜く。

 ブレイズウィザード装備のバクゥが一気に加速してビームサーベルで百騎士の右腕を切り落とす。

 

「くっ!」

 

 それでも頭部のバルカンで牽制射撃を入れるも背後からバクゥにレールガンを撃ち込まれる。

 

「くそ!」

 

 龍牙が援護に向かおうとするがスラッシュウィザード装備のバクゥのビームガトリングに阻まれる。

 足が止まったところにブレイズウィザード装備のバクゥが飛び掛かって来る。

 何とかビームシールドで防ぐが、勢いに押されて尻餅をついて倒れる。

 そこにスラッシュウィザード装備のバクゥが止めを刺しにビームサーベルを出して取り掛かって来る。

 

「龍牙!」

「そう簡単に……やらせるかよ!」

 

 バーニングデスティニーはとっさに近くに落ちていた百騎士のナイトブレイド改を拾って振るう。

 その一撃をバクゥはギリギリのところで回避しようとするが、片足が切断されて砂漠に頭から突っ込む。

 致命傷にはならなかったが、何とか3つの足で立ち上がると敵を近寄せない為にビームガトリングでビームをばら撒く。

 それをバーニングデスティニーはビームシールドで身を守っていると援護に駆けつけた静流のアリオスガンダムレイヴンがGNスナイパーライフルⅡで撃ち抜いて破壊する。

 

「大丈夫?」

「先輩!」

「黒いアリオス……レイヴンか!」

 

 レールガン装備のバクゥが駆け付けたアリオスガンダムレイヴンにレールガンを撃ち込むが、ビームシールドで防がれてGNスナイパーライフルⅡで足を撃ち抜かれて体勢を崩したところにもう一発粒子ビームを撃ち込まれて撃破される。

 

「相手が悪い! ここは……」

 

 残っていたブレイズウィザード装備のバクゥは増援で分が悪くなったと判断して後退を始める。

 だが、静流も相手がフラッグ機である可能性がある為、ここで逃がす気はない。

 背部のGNキャノンとGNスナイパーライフルⅡの3門による同時射撃でバクゥを追撃する。

 バクゥは大きく飛び上がって回避する。

 

「逃がすか!」

 

 バーニングデスティニーは光の翼を展開しながら上空のバクゥ目掛けて一直線に飛んでいく。

 バクゥはすでにブレイズウィザードのミサイルを撃ち尽くしている為、迎撃する事は出来ない。

 バーニングデスティニーの勢いを付けた膝蹴りがバクゥの頭部に直撃して頭部のメインカメラが潰されて空中でひっくり変える。

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

 そのままバーニングデスティニーはバクゥを上から蹴り砂漠まで突っ込む。

 下は砂漠である程度の勢いは殺されたが、それでもバクゥの胴体に大きな穴が開いていた。

 

「これで6機目。まだフラッグ機は落とせていないみたいね」

「先輩。助かりました」

「とにかく離脱するわよ」

 

 動けないクラーフレジェンドを両腕を失っている百騎士の背に乗せると、龍牙と静流が退避する。

 戦闘能力が低下しているクラーフレジェンドも百騎士も相手にとってはフラッグ機候補である為、確保しておいた方が敵のかく乱になるだろう。

 それを抜きにしてもまともに戦えない仲間を置いて行く事は出来はしない。

 現状で星鳳高校はジムHSCがやられ、クラーフレジェンドと百騎士がまともに戦えず、ガンダムクロノスXとバーニングデスティニーは戦えるがダメージは深刻。

 ガンダムAGE-3 オービタルとアリオスガンダムレイヴン、バルバトス・アステールは無傷。

 残る竜胆と愛依は安否不明となっている。

 対するサンドスィーパーズはハイゴメル3機とバクゥ3機の6機が撃墜されて残りは4機よなっている。

 戦場はサンドスィーパーズが得意としている。

 状況は撃墜数がある分、流れは星鳳高校に来ている。

 サンドスィーパーズのガンプラが半分を切り戦いは終盤に入ろうとしている。

 

 

 

 

 バトル開始早々に分断された竜胆と愛依は運悪く敵の隊長機と遭遇し交戦していた。

 敵の隊長機はガンダムサンドロック。

 増加装甲のアーマディロを装備し、脚部にはホバーユニットが装備されている。

 サンドロックの背後にはリーオーのシールドとマシンガンを装備したトラゴスが2機とシグーのシールドを両腕に装備したザウートが陣取っている。

 

「この砂漠でサンドロック1機でも厄介だが、更に砲撃用の支援機が3機か……面倒だな」

「ここは会長達の増援を待った方がいいのでは?」

 

 ドラゴンガンダムオロチとシュトゥルムケンプファーは岩陰に隠れている。

 今回、愛依のシュトルゥムケンプファーは対艦ライフルの変わりに左腕にはヒートソードの付いたグフのシールドとガーベラテトラのビームマシンガンを装備している。

 竜胆一人でもサンドロックを相手にしても十分に勝算はあったが、砂漠地帯と言う敵に地の利があり、更には3機の支援機がいる為、愛依と2機かかりでも厳しい。

 ここで無理に交戦する事無く、味方と合流してから戦うと言う手もある。

 だが、それを向こうは待ってはくれない。

 ザウートの砲撃が2機が隠れている岩を吹き飛ばす。

 2機が出て来たところをトラゴスの砲撃が飛んでくる。

 

「そんな暇はなさそうだ。ここで奴らを叩く」

 

 ドラゴンガンダムオロチは青竜偃月刀を構える。

 ホバーで迫るサンドロックを迎え撃つが、サンドロックのヒートショーテルの一撃で易々とドラゴンガンダムオロチは弾き飛ばされる。

 

「ちっ……ホバーでの機動力に増加装甲の防御力と来てパワーも相当か……それに」

 

 空中で体勢を整えて着地するが、砂に足を取られて思うようには動けない。

 空中に飛べば何とかなるが、空中では3機の砲撃機の良い的で、得意の近接戦闘を活かす事も出来ない。

 サンドロックの攻撃をいなしている間にシュトゥルムケンプファーは砲撃機の方に向かって行く。

 先に後ろの3機を仕留めた方が、その中にフラッグ機が居れば御の字でいなくても、厄介な砲撃が止むだけでもサンドロックの相手がし易くなる。

 しかし、3機の砲撃機の弾幕を単機で破る事は難しい。

 攻めあぐねている間にサンドロックがドラゴンガンダムオロチを蹴り飛ばしてシュトルゥムケンプファーに追いつきヒートショーテルを振るう。

 ギリギリでシールドで身を守るも一撃でシールドが破壊されてしまう。

 

「シールド1枚で済めばマシよ」

 

 至近距離からビームマシンガンとザクマシンガンを撃ち込むが、サンドロックの防御力の前に意味をなさない。

 

「硬い!」

「下がれ!」

 

 ドラゴンガンダムオロチがドラゴンヘッドを差し向けてサンドロックを引き離す。

 だが、サンドロックが離れたとこで3機の砲撃機の砲撃が再開し、ドラゴンガンダムオロチとシュトゥルムケンプファーを襲う。

 

「流石は全国大会と言う訳か」

 

 ドラゴンガンダムオロチは砂漠で動きにくいものの砲撃を確実に回避しているが、シュトゥルムケンプファーは頭部に砲弾が直撃する。

 その後も立て続けに砲撃が直撃してダメージを負ったところにサンドロックがヒートショーテルで止めを刺しに来る。

 ヒートショーテルをビームサーベルで受け止めるが、パワーの差は明らかで次第に押され始める。

 

「縦脇!」

 

 竜胆が救援に向かおうにも砲撃の回避で思うようにはいかない。

 だが、ザウートの真上からバルバトス・アステールが落ちて来てバーストメイスでザウートを叩き潰す。

 

「バルバトス。藤城か」

 

 ザウートを潰すとすぐに近くのトラゴスの方に向かうとシールドごろトラゴスを潰し、残りのトラゴスがマシンガンを向けるが、攻撃する前にテイルブレイドがトラゴスの胴体を貫き破壊する。

 一瞬の内に3機の砲撃機を仕留めたバルバトス・アステールは次の獲物を隊長機のサンドロックに定める。

 すでにサンドスイーパーズは9機撃墜されている為、必然的に残りのサンドロックがフラッグ機で確定している。

 バルバトス・アステールはバーストメイスを逆手に持ち直すとサンドロック目掛けて力強く投擲する。

 シュトゥルムケンプファーを仕留めようとしていたサンドロックは高く飛び上がりバーストメイスを避ける。

 サンドロックに避けられたバーストメイスはシュトゥルムケンプファーに直撃して胴体が潰れる。

 

「ちっ……避けたか」

「藤城。お前」

 

 バルバトス・アステールはすぐさまバーストメイスをテイルブレイドを使って回収する。

 そして、サンドロックの着地を狙い再びバーストメイスを投擲する。

 今後は変わり切れずに両肩のシールドで防ぐが、シールドが破壊される。

 シールドが破壊されたところを竜胆は逃さずに青竜偃月刀で連続で突きを繰り出す。

 サンドロックはドラゴンガンダムオロチの突きをヒートショーテルで受け流す。

 そうしているうちにバルバトス・アステールは距離を詰めておりドラゴンガンダムオロチを踏みつけて前に出る。

 

「俺を踏み台に!」

 

 バルバトス・アステールはバーストメイスを振るうが、流石のサンドロックも真っ向から受けようとはしない。

 踏み台にされたドラゴンガンダムオロチも立ち上がり、サンドロックの横から攻める。

 2機の攻撃を完全には触れぎ切れずにドラゴンガンダムオロチの青竜偃月刀がサンドロックのヒートショーテルを弾き飛ばす。

 

「ちっ……」

「邪魔だ」

 

 バルバトス・アステールが2機の間にバーストメイスを振り下ろす。

 2機は飛び退き回避する。

 バルバトス・アステールはすぐさまサンドロックを追撃する。

 サンドロックは迎え撃つ為にヒートショーテルを振るい、バルバトス・アステールはドリルニーでヒートショーテルを叩き割るとバーストメイスを突き出す。

 2本のヒートショーテルを失ったサンドロックはそれでも尚抵抗を止めない。

 バーストメイスの突きをサンドロックは受け止めるが、先端の杭が射出されサンドロックを貫く。

 胴体を貫かれるも重装甲で致命傷にはならず、バーストメイスを掴み、胸部のホーミングミサイルをバルバトス・アステールの顔面に撃ち込む。

 サンドロックの最後の抵抗の一撃が直撃するものの威力は大してなかったのか、爆炎が晴れてバルバトス・アステールの無傷の頭部が出て来る。

 そして、サンドロックを貫く杭が爆発し、サンドロックを内部から吹き飛ばした。

 フラッグ機のサンドロックが破壊された事でバトルの終了のアナウンスが入る。

 星鳳高校は全国大会1回戦を辛くも突破するが、まだ全国大会は始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 



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不協和音

 全国大会1回戦を勝ち抜いた星鳳高校だが、バトルフィールドが相手側に有利だったとはいえ苦戦を強いられた。

 1回戦を勝ち抜いた事でその日のバトルが終わり、後は運営が用意したホテルで明日の2回戦に備えてガンプラの調整と英気を養う事となる。

 

「藤城。何だあの戦い方は?」

 

 GBNからログアウトすると竜胆が大我に詰め寄る。

 

「なんの事だ?」

「敵を仕留める為とはいえ縦脇を巻き込むような攻撃をした事だ」

 

 1回戦で大我は愛依のガンプラを巻き込む攻撃を行った。

 その前にも岳のガンプラごと敵を攻撃している。

 岳の時は岳のガンプラの装甲が頑丈だった事もあり大事にはならなかったが、愛依のガンプラは撃墜されている。

 GBNの一世代前のガンプラバトルとは違い今のガンプラバトルはガンプラをデータ化して戦っている為、ガンプラ自体を傷つける事はないが、それでも仲間を巻き込みかねない攻撃はチーム戦において信頼関係を壊しかねない。

 

「先輩! 今更藤城に協調性を求めても仕方がないですって!」

「それにチームが勝利したから私は別に気にしてないわ」

 

 竜胆を龍牙と愛依がなだめる。

 大我に協調性を求めたところでガンプラ部が正式に活動を始めてから大我は自発的に部室に来る事はほとんどない。

 そんな大我に協調性を求める事は無駄なのだろう。

 竜胆は納得していないが、被害者の愛依がそう言う以上は何も言えない。

 

「藤城。これだけは言っておく。お前のやり方は前のチームでは容認されていたかも知れない。だが、今のお前はチームビッグスターのリトルタイガーじゃない。星鳳高校ガンプラ部の藤城大我だ。それだけは覚えておけ」

 

 竜胆の言葉に大我は何も答えない。 

 大我は何も言わずに歩き出す。

 

「今までソロプレイをしていたのに良くそこまで言えるようになったわね」

「……まぁな。何だかんだでガンプラ部に入り龍牙達とバトルをして仲間と共に戦うのはただ馴れ合う訳じゃない。共に競い補い合う……それも悪くないとは思えるようにはなった」

 

 静流は今まで部活やフォースに属さずに一人で己を鍛えて来た事を持ち出した少し茶化すが、竜胆からは真面目な答えが返ってくる。

 今まではフォースを組んで戦うダイバーの大多数はチームメイトと慣れあい楽をする為の物だと言う印象を持っていた。

 だが、実際にガンプラ部に入り仲間と共に戦って見て分かった事がある。

 龍牙に色々と指導をして強くなる度に自分も負けてはいられないと鍛練に熱が入る。

 バトルの時には自分の弱点を補い合う事で自分の能力を最大限に発揮できる。

 だからこそ、一人でも圧倒的な戦闘能力を持つ大我が仲間と共に戦えば更なる力を発揮できると確信している。

 

「アイツの事を気にかけてくれるのは嬉しいんだが、現実問題として俺達じゃ大我に合わせられないんだよな」

 

 諒真の言葉が竜胆や龍牙に重くのしかかる。

 大我の実力はガンプラ部の中では圧倒的にずば抜けている。

 個人のランキングで上位である静流や竜胆もサシでのバトルで負けている。

 そんな大我にバトル中に連携をしようとすれば、大我に合わせて貰うしかない。

 だがそれでは大我の実力を最大限に発揮する事は出来ない。

 大我と他の部員との実力差は否応なくそれぞれにのしかかって来る。

 

 

 

 

 

 

 1回戦を勝利したものの星鳳高校ガンプラ部の空気は重い中、ホテルにチェックインする事になった。

 ホテルでは複数の部屋に分かれる事になり、星鳳高校に割り当てられた部屋は3人部屋が2つと4人部屋が1つ、2人部屋が1つ。

 その中の割り振りとしては2つの3人部屋に静流たち女子生徒が3人纏まり、大我や龍牙、冬弥の1年男子となり4人部屋に2、3年の男子、2人部屋に顧問の颯太となった。

 部屋には都合よく作業スペースが用意されている訳ではないが、机がある為、自分達で持ち込んだ工具や部品等を使って自身のガンプラの手入れをしているといつの間にか日が落ちていく。

 夜も遅い時間に大我は一人ホテルのロビーに備え付けられているソファーでタブレットを見ている。

 タブレットにはGBNでの過去のバトルデータを再生してるようだ。

 過去のバトルでも改めて見直すと幾らでも改善点は出て来る。

 

「こんな遅くまでずいぶんと勉強熱心だな。大我」

「諒ちゃんこそ、こんな時間まで何で起きてんの?」

 

 大我は視線をタブレットから動かす事はない。

 諒真も気にした様子もなく大我の隣に座る。

 

「大我。別に仲良子よしをしろとは言わないが、もう少し何とかならないのか?」

「ならないし、その必要もないでしょ? 始めから俺は部外者であくまでも利害関係の一致で一緒にいるだけの関係なんだから」

 

 諒真もさすがに多少なりとも大我がガンプラ部に馴染めればと思っていたが、大我にはその気はなかった。

 大我にとってガンプラ部は強い相手と戦う為に在籍しているだけで、仲間になったつもりは毛頭ない。

 自分が強い相手と戦い、ガンプラ部には勝利を提供している。

 それが大我とガンプラ部の関係で、それ以上踏み込む気はない。

 竜胆は大我に今はビッグスターのリトルタイガーではなく星鳳高校ガンプラ部の藤城大我だと言ったが、大我にとっては今でもビッグスターのエースとしてここにいる。

 

「まぁそうなんだけどな」

「だから俺はあいつ等と仲良くする気もその必要もない。俺はただ戦って勝つ。それだけだよ。今も昔もこれからも俺は俺でしかない。だから勝ち続ける」

「それも分かってんだけどな……」

 

 諒真も大我の考えは十分に理解はしている。

 理解した上で半ば無理やりガンプラ部に入れて大会に出場させている。

 そこには諒真自身の打算もあっての事だ。

 

「別に諒ちゃんに迷惑をかける気はないから安心しなよ」

 

 諒真からすれば大我が騒ぎや問題を起こしたところで面白く眺めている為、迷惑だとは思っていない。

 半ば強制的にガンプラ部に入れた手前、はっきりと言う事は出来ないが、せっかく日本でガンプラバトルをやっている以上は多少なりとも馴染んで欲しいとも思っている。

 

「今日はそろそろ寝る事にする。明日もバトルがあるから」

 

 大我はそう言い部屋に戻って行く。

 星鳳高校ガンプラ部はチームとしてのまとまりがないまま、2日目の2回戦が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全国大会2日目は大きな波乱は起きずにアリアンメイデンや闘魂、岩龍が勝利し、初日で番狂わせを起こしたブラッドハウンドも圧倒的な力を見せつけて勝利している。

 星鳳高校の2回戦目の対戦相手は宮城代表の宮代高校ガンプラ部だ。

 事前の情報では地区予選から毎回のように使用ガンプラやメンバーを入れ替えて相手を翻弄するタイプのチームだ。

 星鳳高校は昨日の出来事が尾を引いて空気は重い。

 それでも時間が来ればGBNにダイブしてバトルしなければならない。

 重苦しい空気の中バトルが開始される。

 2回戦のバトルフィールドはヴィーナス・グロゥブだ。

 宇宙とコロニー内の2種類の戦闘宙域があり、どちらで戦うかも重要な要素となっている。

 

「相手は策を使って来るチームのようだけど、部長。どうする?」

「そうだね……まずは敵の位置とガンプラを確認してから……」

 

 相手が決まったガンプラを使って来てない以上は、事前に敵の戦力を想定する事は難しい。

 まずは敵のガンプラを知る事が重要だ。

 だが、バトル開始早々大我のバルバトス・アステールが加速してコロニーの方に向かって行く。

 

「藤城君! 待つんだ!」

「放っておいても構わないだろう。部長。それよりも敵の大半はコロニーの外にいるようだ」

 

 竜胆の言うようにセンサーにはコロニーの外にガンプラの反応が出ている。

 

「8機。7と1に分かれているようだけど……」

「1機の方は俺が1年を連れて行くけど構わない?」

「分かった。そっちは如月君に任せるよ」

 

 現在捕捉している敵は8機。

 その内1機が単独行動をしている。

 残りの2機の位置は分からないが、1機が単独行動ではない可能性も考えられる。

 その為、諒真が大我を除く1年を連れて1機の方を諒真が当たり、残りの5機で敵の主力と思われる7機の方を当たる事で話しが纏まる。

 

「そっちは黒羽と八笠がいるとはいえ、数の上では劣ってるんだ。こっちが来るまであんまり無茶するなよ」

 

 諒真はそう言い龍牙達と共に1機の方に向かって行く。

 

「さて……単独で行動してるんだ。何が出て来るかな……」

 

 諒真たちが補足している1機の方のガンプラに向かっていると一瞬光、強力なビームが飛んでくる。

 

「各機散開! 神は突っ込め! 俺と日永が続く。清水は援護を任せる」

 

 諒真たちは散開する。

 そして、素早く指示を飛ばして戦闘が開始される。

 

「GNアームズ付きのデュナメスか……」

「デカいけど扱いはどっちなんですかね?」

 

 モニターに映るのはガンダムデュナメスだが、GNアームズを装備している。

 GNアームズは右腕がGNツインライフルからエクシア用のGNアームズの大型GNソードに変更され機体のいたるところにGNホルスタービットが増設されている。

 敵のガンプラを確認した冬弥が疑問を投げかける。

 デュナメスはGNアームズを装備する事で大型化されている。

 地区予選では大型機はある一定以上になると大型MA扱いとされて3人で1機を操る。

 全国大会でも大型MAは1機で3機扱いとなっている。

 見た限りではデュナメスのサイズは大型MA扱いになるかどうか微妙なところだ。

 仮に大型MAとしてこのデュナメスを投入しているのであれば、史郎たちが向かった7機の方と合わせると8機で全部と言う事になる。

 

「考えている暇はなさそうだ。ビットが来るぞ」

 

 デュナメスのGNアームズに増設されたGNホルスタービットが展開される。

 GNホルスタービットの数は約20基、そこにそれぞれにGNライフルビットⅡが内蔵されているとすれば、敵のビットの数は40基となる。

 それを全て手動で操作する事は難しいが、オート制御だとしてもデュナメス本体はGNアームズを装備して高出力のGNフィールドと大火力を持ち、40基のビットを相手にしながら戦うには4機でも骨が折れるだろう。

 それでも今はやるしかなかった。

 

 

 

 

 一方その頃、8機の方に向かった史郎たちも敵のガンプラと遭遇していた。

 

「アレはセラヴィー? それに……」

「セム……まさか無人機か!」

 

 モニターに映し出されたのはセラヴィーガンダム。

 その周囲には7機のセムがいた。

 セムはGNサブマシンガンとGNドライヴ、GNフィールド発生装置が増設されている。

 セムは設定上は無人機だ。

 そこで史郎たちはある可能性に気が付く。

 敵はセラヴィーにセムを強引に7機装備させて来た。

 そのセムを分離させてレーダー状では1機しかいなかったところを8機に見せていたと言う可能性だ。

 

「部長。アレが1機だけなら……」

「やられたな。こいつらは囮か!」

 

 レーダーで8機も入ればある程度の戦力を投入する事は十分に考えられる事だ。

 それを見越して1機を8機に誤認させた。

 そうなると諒真たちが向かった方の1機とセラヴィー以外の8機の居場所が分からない事になる。

 同時にある可能性も考えられた。

 残りの8機は全て大我と遭遇する可能性だ。

 幾ら大我の実力が飛び抜けていたとしても、独りで8機を相手にする事は難しいだろう。

 向こうはここまで手の込んだ策を用意して大我に狙いを絞って来ている。

 

「やってくれたな……部長。俺がコロニーに行って藤城と合流する。援護してくれ」

「分かった」

「良いの? 昨日はあんなことがあったのに?」

 

 静流の疑問も尤もだ。

 竜胆は昨日大我と揉めている。

 そんな竜胆が真っ先に大我の援護に向かうと言っている。

 向こうはここまでのバトルから大我が実力がずば抜けているものの連携を殆ど取らず単独で戦う傾向にあると予測しての策である事は間違いない。

 今回も大我が勝手に先行した結果で、友軍と連携を取っていれば孤立させられる事もなかった。

 

「今はそんな事を言っている場合ではないだろう。孤立したのはアイツの自業自得だが、だからと言って仲間を見捨てて良い理由にはならないだろ」

「確かにね。川澄君も縦脇さんも構わないわね。聞いての通りよ」

「了解」

「確かにフラッグ機をやられる訳にはいかないからね」

 

 話しが纏まり戦闘が開始される。

 

 

 

 

 

 

 先行した大我はコロニーの内部に入り込んでいた。

 

「隠れるとしたらこの辺りだと思うんだがな」

 

 大我はレーダーに1機と7機の反応があった時点で、それは囮だと気付いていた。

 戦力を分散させるにしても1機と7機では戦力に差があり過ぎる。

 そこまで偏らせた事で1機の方には何かあると警戒させ戦力を余計に裂かせる目的でそうすれば7機の方は数で優位に立ちやすい。

 そうして、7機の方は数の有利で敵を殲滅して1機の方に合流して残りも叩く算段だと考えれば、すでに捕捉している8機の中にフラッグ機はいないと推測できる。

 数で有利に立ったところで損害は無しで行けると考える程、向こうは馬鹿ではない。

 そうなると万が一にもフラッグ機がやられた場合、その時点で敗北となる為、フラッグ機は前線には出て来ないで隠れていると考えた。

 捕捉していない2機の内1機がフラッグ機でもう1機はフラッグ機の護衛機と大我は見ている。

 コロニーの外にいる8機の中にフラッグ機がいないのであれば、戦う意味はないから大我は外の8機は無視して残り2機の捜索を優先した。

 隠れている場所として可能性が高いはコロニーの中だろう。

 コロニーの中ならば外からはそう簡単には捕捉は出来ず、隠れる場所もトラップを仕掛ける場所も多い。

 コロニーの中に入ると一面に海が広がっていた。

 

「ヴィーナス・グロゥブのコロニーならやっぱり内部には海があるか……隠れるなら海の中に居そうだが、それはそれで面倒だな」

 

 大我は一度、機体を小島に着陸させようとする。

 だが、小島に着陸した瞬間に小島が崩れてバルバトス・アステールは海の中に落ちる。

 

「ちっ……やってくれたな……それに中々面白い趣向を用意してくれたようだ」

 

 小島には事前に細工がされて崩れやすくなっていたのだろう。

 飛行能力の持たないバルバトス・アステールが直接海の中に入らずに一度小島に降りて様子をうかがうと予測しての事だろう。

 それにまんまとはまりバルバトス・アステールは海の中に落ちた。

 大我は外のガンプラが8機ではなく2機だった事を知らなかったが、海の中には8機のガンプラが大我を待ち構えていた。

 隊長機はアビスガンダムの改造機、アビスガンダムポセイドン。

 元々水中戦を想定していたアビスガンダムを更に水中戦に特化させたガンプラだ。

 背部のビーム砲をレールガンに変更し、シールドの裏のビーム砲も水中で使えるフォノンメーザー砲に変更され、手持ちの武器もビームランスから三俣のトライデントになっている。

 胸部のビーム砲も上から砲門を塞ぐように増加装甲が取り付けられている。

 他のガンプラも赤く塗装されてブレードアンテナの付いたズゴッキーに小型化されたトリロバイト、キャンサーにゼー・ズール、ハイゴック、ドーシートⅢ、アッシュと水中用のガンプラで揃えられている。

 

「力で敵わないから自分の得意のフィールドの持ち込み数で責めるか……だが、8機だけとは俺も舐められた物だな」

 

 バルバトス・アステールはバーストメイスを構える。

 

 

 

 

 

 大我が海中での戦闘を始めた頃、コロニーの外でも戦闘が続いている。

 デュナメスのGNホルスタービットとGNライフルビットⅡの猛攻をかわすので精一杯だ。

 

「ある程度は規則性があるとはいえ……」

「数が多い!」

 

 百騎士がビームライフルを放ち、バーニングデスティニーがバルカンを撃つ。

 だが、GNホルスタービットが盾となり攻撃が阻まれる。

 

「だが、一つ一つ落として行くしかない」

 

 ガンダムクロノスXがクロノスアックスを振るうがGNホルスタービットは避けてGNライフルビットⅡの集中砲火を浴びる。

 

「会長!」

 

 クラーフレジェンドがケルベロスを前方に向けて放つが、GNホルスタービットは避ける。

 だが、ガンダムクロノスXがクロノスビットを数個出してGNライフルビットⅡを一つ落とす。

 2種類のビットの相手をしているとデュナメスが大型GNキャノンを放つ。

 それを百騎士がビームマントで受け止めるが防ぎ切れずに百騎士の左腕が肩から吹き飛ぶ。

 

「冬弥!」

「俺がフォローする。神は突っ込め!」

 

 被弾した百騎士の前にガンダムクロノスXが入ると左手のビームバルカンを連射してGNホルスタービットが盾となり攻撃を防ぐ。

 その間にバーニングデスティニーが突っ込んでデュナメスに殴りかかる。

 デュナメスはGNフィールドを張り攻撃を防ぐと大型GNソードでバーニングデスティニーを振り払う。

 

「くそ! GNフィールドが硬い!」

 

 デュナメスはGNアームズの左腕のGNミサイルを一斉掃射する。

 

「下がってろ! 神!」

 

 ガンダムクロノスXはクロノスビットを大量に展開するとバーニングデスティニーと百騎士、クラーフレジェンドを守る。

 だが、デュナメスはGNスナイパーライフルでガンダムクロノスXを狙撃する。

 粒子ビームはガンダムクロノスXの肩を掠めただけで損傷は大した事はない。

 

「会長!」

「大丈夫だ。心配すんな。来るぞ」

 

 諒真たちと同様に史郎たちも7機のセムとセラヴィーに苦戦を強いられていた。

 セム達はGNフィールドを展開しながらGNサブマシンガンで攻めて来る。

 

「ちぃ!」

 

 ドラゴンガンダムオロチが青竜偃月刀で切りかかるも、セムは後退しながらGNサブマシンガンを撃って来る。

 アリオスガンダムレイヴンがGNスナイパーライフルⅡで狙いもGNフィールドを抜く事は出来ない。

 

「どうやら向こうのガンプラは防御能力に特化しているみたいだ」

 

 ジムHSCがシールドを掲げながらビームスプレーガンを連射する。

 ガンダムAGE-3 オービタルもシグマシスロングキャノンを撃ち、シュトゥルムケンプファーがビームマシンガンを連射する。

 だが、それもセムのGNフィールドを突破する事が出来ない。

 

「とにかく、こいつらは私達が抑えるから八笠君は……」

「分かってる!」

 

 ドラゴンガンダムオロチがコロニーに向かおうとするが、セラヴィーが4門のGNキャノンⅡを一斉照射して行く手を遮る。

 これの繰り返しだ。

 セム達は無理に攻めては来ないで、GNフィールドで身を守り、後退しながら接近させずにGNサブマシンガンで牽制攻撃を繰り返す。

 強引に突破しようにもセラヴィーの大火力で妨害される。

 セラヴィーを倒せばセム達の動きが止まるかも知れないが、セラヴィーは7機のセム達の後ろにいる為、そう易々とは攻撃させて貰えない。

 

「まるでこっちの足止めが目的のよう」

 

 シュトルムケンプファーがバスーカとミサイルを放つ。

 セラヴィーがGNバズーカⅡをGNキャノンⅡと接続したGNバズターキャノンが放たれる。

 そのビームがシュトゥルムケンプファーの両足を吹き飛ばす。

 

「縦脇さん! 大丈夫?」

 

 ガンダムAGE-3 オービタルがビームサーベルでセムに切りかかる。

 セムはGNサブマシンガンを撃ちながら後退してかわす。

 それをシグマシスロングキャノンを撃って反撃する。

 しかし、構えていたシグマシスロングキャノンにセムのビームが直撃して破壊される。

 

「邪魔よ!」

 

 アリオスガンダムレイヴンがトランザムを使いGNキャノンとGNスナイパーライフルⅡの一斉射撃を行う。

 セムはGNフィールドで防ぐが、火力で押し切り撃破する。

 

「これで一機!」

 

 ようやく一機目のセムを仕留めたが、セラヴィーはGNバズーカⅡを合体させたバーストモードの一撃が迫る。

 とっさにGNビームシールドで守るが、アリオスガンダムレイヴンの左腕が肩から吹き飛ぶ。

 やられながらもGNスナイパーライフルⅡで近くのセムを牽制する。

 竜胆も何とか離脱しようと試みるがセラヴィーとセムに妨害されてドラゴンヘッドを一つ破壊される。

 

 

 

 外では長期戦に持ち込まれている間にコロニー内では8機の水中用ガンプラで大我を仕留めにかかっている。

 水中ではガンプラの水中適正が大きく戦いに左右する。

 バルバトス・アステールの水中適正は一般的なガンプラよりかは高いが、それでも水中専用のガンプラと比べると劣ってしまう。

 その上水中では武器も大きな制限がかけられてくる。

 水中ではビーム兵器は余程高出力の物でなければ殆ど使えず、実弾系の火器も威力や弾の速度が水中適正により変化する。

 バルバトス・アステールの200ミリ砲や機関砲も水中では使えるが余り役には立たない。

 テイルブレイドも直線的になら多少速度は落ちるものの使えるが、普段のように軌道を変える事は水の抵抗で殆ど出来ない。

 バルバトス・アステールは近くのハイゴックとアッシュの方に向かってバーストメイスを振るう。

 だが、水中ではバーストメイスを振るう速度も普段と比べると目に見えて遅くなっている。

 

「ちっ……やっぱ水中だとコイツは重い」

 

 ハイゴックとアッシュは易々とかわすが、バーストメイスを振るう圧力でハイゴックとアッシュは体勢を崩される。

 

「水中でここまでのパワーとは!」

「怯むな! 水中ではこちらが圧倒的! まずは動きを封じろ!」

 

 トリロバイトがバルバトス・アステール目掛けてケミカルジェリーボムを放つ。

 着弾したケミカルジェリーボムが硬化してバルバトス・アステールの動きを止める。

 そこにすかさずミサイルを撃ち込む。

 

「その程度で落とされるか」

 

 ミサイルの集中砲火を浴びるが、バルバトス・アステールは殆どダメージを受けている様子はない。

 

「なんと言う装甲! 奴のガンプラは化物か!」

「ならば直接叩くまで!」

「待て! うかつに近づくな!」

 

 キャンサーが近接戦闘を仕掛ける為にバルバトス・アステールに接近する。

 バルバトス・アステールは背部の太刀と滑空砲をパージすると、バーストメイスまでも手放す。

 バーストメイスは内部に予備の杭が入っている為、見た目以上に重量がある。

 普段ならその重量が打撃時の威力の増加に一役買っているが、水中ではただの重りでしかない。

 キャンサーの腕部のハサミによる攻撃をバルバトス・アステールは簡単に受け止めて、もう片方の腕もしっかりと握る。

 

「水中だろうとバルバトスのパワーを舐めるなよ」

「なんだ! やめっ!」

 

 キャンサーを掴んだバルバトス・アステールは力いっぱいキャンサーを左右に引っ張り、キャンサーは胴体から真っ二つに引きちぎられる。

 水中と言えどもバルバトス・アステールのパワーまでは低下させる事は出来ない為、ガンプラを引きちぎる事など造作もない。

 キャンサーを撃破して次はゼー・ズールの方に向かっている。

 ゼー・ズールはビームマシンガンで迎撃するが、ビームマシンガンではバルバトス・アステールにダメージを与える事は出来ない。

 

「ちっ……だが、遅いんだよ!」

 

 掴みかかろうとするバルバトス・アステールをゼー・ズールはギリギリのところでかわす。

 しかし、すれ違う瞬間にバルバトス・アステールは自身の背をゼー・ズールの方に向けてテイルブレイドを射出する。

 攻撃をかわして油断していたゼー・ズールのダイバーが気づく前にテイルブレイドを絡ませると自身の方に引き寄せて左手でゼー・ズールの肩をしっかりと掴むと右手の爪でゼー・ズールを貫こうとする。

 

「やらせるか!」

 

 それを見たドーシートⅢとズゴッキーがバルバトス・アステールの右腕と腰にしがみついて攻撃を阻止する。

 

「甘いな」

 

 バルバトス・アステールは膝のドリルニーをゼー・ズールにお見舞いする。

 ドリルニーはピンバイス状の杭を回転させる為、水中では唯一まともに使える武器だ。

 普段は膝蹴りと合わせて威力を底上げしているが、水中では膝蹴りもまともに威力が出せない。

 それでも胴体に杭を押し付けて回転させれば、敵の装甲を貫くには十分だ。

 ゼー・ズールを落として空いた左腕でドーシートⅢの頭部を掴んで頭部を潰しながら、強引に右腕から引き離すと右腕の爪で腰にしがみついているズゴッキーを背中から胴体を貫く。

 ズゴッキーを始末して左腕で掴んでいるトーシートⅢの胴体に至近距離から200ミリ砲を撃ち込んで胴体を潰す。

 

「馬鹿な……4機もやられたと言うのか!」

 

 すでに8機中4機が撃墜されて残るはアビスガンダムポセイドンとトリロバイト、ハイゴック、アッシュだけだ。

 

「怯むな! 撃て! 撃て!」

 

 圧倒的有利な状態で半数が撃墜されて相手のチームは完全に大我に飲まれているが、4機が火器を総動員してバルバトス・アステールに集中砲火を浴びせる。

 ここまで数を減らされた大きな原因は地の利がある事で油断して不用意に接近を許したせいだ。

 バルバトス・アステールも水中では遠距離攻撃は出来ない為、距離を取って戦えばまだ勝ち目はある。

 集中砲火が止むとバルバトス・アステールも流石に装甲にダメージを受けており、海底へと沈んで行く。

 

「は……ははは! やったか! 流石のリトルタイガーも海の藻屑に!」

「隊長!」

 

 バルバトス・アステールを仕留めたと確信していたが、バトル終了のアナウンスがまだ入らず、海底に沈んだバルバトス・アステールを確認する。

 そこにはまだバルバトス・アステールが動いている。

 バルバトス・アステールの手には捨てた筈のバーストメイスが握られている。

 バーストメイスは手放された事で海底へと沈み、ここではテイルブレイドを使って回収する事も出来ない為、大我は自ら取りに行った。

 

「今更そんな物を持ったところで!」

 

 バーストメイスは普通のバトルフィールドなら最も警戒すべき凶器だが、水中では何の役にも立たない重りでしかない。

 現状で考えられるのはダインスレイヴでの一発逆転だ。

 しかし、それも水中では普段の速度は出せず、注意していればかわせない攻撃ではない。

 ダインスレイヴを警戒していたが、バルバトス・アステールは先端を海底に突き刺した。

 

「中々趣向を凝らしていたからな。今度はこっちのフィールドに招待するぞ」

 

 コロニー内に大きな衝撃が走る。

 バルバトス・アステールは敵にではなく、海底にダインスレイヴを撃ち込んだのだ。

 それによりコロニーの外壁までダインスレイヴがぶち抜き大穴が空く事になる。

 

「先に行って待ってるぞ」

 

 バルバトス・アステールは空いた大穴からコロニーの外に出る。

 

「馬鹿な!」

 

 大穴から海水も外に吹き出し、4機のガンプラもまたコロニーの外まで海水と共に流されてしまう。

 何とか踏ん張ろうとするも、流れる勢いに逆らう事が出来なかった。

 

「何が起きたの?」

「コロニーの外壁が吹き飛んだのか?」

 

 コロニーの外でセラヴィーと交戦していた史郎たちは突然の事に驚く。

 完全に足止めと時間稼ぎに徹していたセラヴィーだったが、コロニーの外壁が何かにぶち抜かれて、ぶち抜いた何かがセラヴィーのGNフィールドをも貫きセラヴィーに突き刺さる。

 それがバルバトス・アステールのバーストメイスの杭だと言う事に気が付く前にコロニーの大穴から大量の海水が飛び出してくる。

 大我は狙っていた訳ではないが、海底やコロニーの外壁をぶち抜いたダインスレイヴは運悪くセラヴィーに直撃してセラヴィーも撃破する結果となった。

 セラヴィーが落とされた事で残っているセム達も機能を停止している。

 

「なんだか分からんが」

 

 何が起きたのか分からないが、厄介な敵がいなくなった事は事実だ。

 竜胆はすぐにコロニーの方に向かう。

 飛び出して来た海水からバルバトス・アステールを含めた5機のガンプラの反応を補足している。

 史郎たちの推測通り、敵は大我に狙いを絞っていたようだ。

 セラヴィーが撃墜された事で竜胆だけでなく史郎や静流、愛依、岳も大我の援護に向かう。

 

「奴はどこだ!」

 

 宇宙に出たアビスガンダムポセイドンはバルバトス・アステールを探していた。

 アビスガンダムポセイドンはより水中戦に特化した改造をしているが、元々は宇宙でも使える機体だ。

 その為、宇宙でも問題なく戦えるが、他のトリロバイト、ハイゴック、アッシュは水中での戦いに特化している。

 宇宙でも戦えない事もないが、水中での戦いに比べたら多少動ける移動砲台程度の戦力でしかない。

 

「隊長! うぁぁぁあ!」

 

 宇宙に放りだされたトリロバイトがバルバトス・アステールのバーストメイスの餌食となり叩き潰されていた。

 アッシュがビーム砲でバルバトス・アステールを狙うが、肩のシールドスラスターで防がれてテイルブレイドで両断される。

 ハイゴックもミサイルを撃とうとするがアッシュを破壊したテイルブレイドがそのままハイゴックも破壊する。

 

「あり得ない……こんなのは嘘だ」

 

 囮により星鳳高校のガンプラを分散させて、大我が囮に気づいて単独行動をしたところを水中戦に持ち込んで8対1と圧倒的な数の暴力で仕留める。

 作戦は完璧だった。

 自分達の策は面白いくらいに上手く行き、後はフラッグ機である可能性の最も高い大我を仕留めるだけだった。

 ただそれだけ……それだけの事が全く上手く行かず用意した水中用のガンプラは7機がやられた。

 外の囮の2機はセラヴィーがやられている。

 外の2機は時間稼ぎが目的である為、無理に攻める事もなかった事もあり星鳳高校のガンプラは損傷しているガンプラを含めて全機が健在だ。

 この状況ではどれだけ考えても勝ち目がない事は明白だ。

 

「ふざけるな! 作戦は完璧だった! それなのに!」

「知るかよ。幾ら完璧な作戦だろうと関係ない。どんな相手も真っ向からぶっ潰す。それが俺の……俺達ビッグスターのやり方だ」

 

 3機を仕留めたバルバトス・アステールがアビスガンダムポセイドンに向かって来る。

 胸部の増加装甲をパージして胸部のビーム砲、シールドの裏のフォノンメーザー砲、背部のレールガンを使ってバルバトス・アステールを迎える。

 だが、そんな抵抗も空しくバルバトス・アステールは自身の間合いまで距離を詰めるとバーストメイスを振り上げる。

 最後の抵抗に肩のシールドで身を守ろうとするが、今までもバーストメイスの一撃をシールドで身を守ろうとしたガンプラは数知れない。

 しかし、それで身を守れたガンプラ等殆どいない。

 アビスガンダムポセイドンの最後の抵抗は何の意味も成さなかった。

 アビスガンダムポセイドンがフラッグ機だった為、バトルは星鳳高校の勝利となった。

 バトルが終わり、それぞれがGBNからログアウトする。

 

「竜胆」

 

 ログアウトすると竜胆に大我が声をかける。

 昨日の事もあり、龍牙や史郎は身構えるが、同時に敵の策に嵌り大我は独りで水中戦をやる事になり、多少なりとも仲間のありがたみを感じて歩み寄るのではないかと言う期待もあり、ただ事の次第を見守る。

 

「なんだ?」

「お前は昨日、言ったよな? 今の俺はビッグスターのリトルタイガーではなく星鳳高校の藤城大我だと」

「ああ」

「お前は俺が入部した時にその場にいなかったから勘違いしているようだから、この際はっきりと言っておく。俺がガンプラ部に入部したのはあくまでも公式大会に出て強い相手と戦う為だ。沖田達とは仲間ではなく利害関係が一致しているだけでそれ以上でも以下でもない。俺にとってのチームはビッグスターだけだ。今のこれからも俺はビッグスターのエースの大我だ。それはこれからも変わる事はない」

 

 苦戦から歩み寄れるのではないかと言う希望は跡形もなく打ち砕かれる。

 それは明確なガンプラ部の仲間である事に対しての拒絶の言葉だった。

 

 

 

 

 

 



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再開の友

 龍牙達も元々は大我が利害の一致でガンプラ部に入っていると言う事は分かっていた。

 それでも普段は別行動であっても、地区予選では共に戦った事で少なからず仲間意識は持っていた。

 だが、それは龍牙達の一方的な思いでしかなかった。

 それを全国大会の最中に思い知られる事になった。

 それでも大会の進行は待ってはくれない。

 大会2日目は午前中に2回戦があり、午後からは3回戦が行われる。

 それによりベスト8が出そろう。

 3日目には4回戦と5回戦の準決勝戦が行われて4日目に最後の決勝戦が行われる予定となっている。

 星鳳高校も大我の発言で2回戦が始まる前以上に重い空気の中での3回戦となる。

 対戦相手は宮崎代表のチームZ魂だ。

 相手チームは全機をジオン系のガンプラで統一したチームだ。

 バトルフィールドはジャブローで星鳳高校は苦戦を強いられている。

 

「うぉぉぉ!」

 

 バーニングデスティニーがグフに殴りかかりグフはシールドで防ぐ。

 グフが後ろに飛び退くとザクがマシンガンを連射する。

 

「くそ!」

 

 ビームシールドで身を守っていると百騎士がビームライフルで援護する。

 ザクⅡはビームをかわしていると岩陰からアリオスガンダムレイヴンがGNスナイパーライフルⅡで狙撃してギリギリのところでかわされるがマシンガンを掠めて破壊する。

 ザクⅡはマシンガンを捨てるとバズーカに持ち変える。

 

「神君。出過ぎよ。下がって」

「っ了解」

 

 百騎士の援護の元、バーニングデスティニーは下がるが、隠れていたアッガイがロケットランチャーを撃ち込む。

 

「ちぃ!」

 

 バーニングデスティニーはバルカンを撃ちながらアッガイに向かって行く。

 アリオスガンダムレイヴンが狙撃でアッガイの片腕を撃ち抜き、バーニングデスティニーの拳がアッガイをぶち抜く。

 

「ようやく1機……」

「向こうはゲリラ戦慣れしているようね」

 

 相手側は密林だと言う事を活かしてゲリラ戦を仕掛けて来ている。

 星鳳高校も分断されている。

 別の場所でも竜胆のドラゴンガンダムオロチがギャンと近接戦闘で切り合っている。

 接近戦ではドラゴンガンダムオロチが優位だが、ギャンの後方からゲルググとゾックが援護をしている。

 

「ここまで勝ち抜いて来ただけあって3機相手は厳しいか」

 

 ギャンのビームサーベルの突きを青竜偃月刀で受け流してギャンを蹴り飛ばす。

 8基のドラゴンヘッドを展開して3機同時にビームを撃つ。

 ギャンは軽快なステップでビームをかわし、機動力の低いゾックをシールドで守りゾックはビーム砲で応戦する。

 ゾックのビームがドラゴンヘッドの1つを破壊し、ギャンがミサイルを撃ちながら接近して来る。

 それを駆けつけたガンダムクロノスXがクロノスキャノンで迎撃する。

 

「間に合ったな」

「会長。助かる」

 

 ガンダムクロノスXはビームバルカンでギャンの足を止めると、ドラゴンガンダムオロチが青竜偃月刀を振るい、ギャンのシールドを切り裂く。

 ギャンはシールドを破壊されながらもビームサーベルを突き出すが、ドラゴンガンダムオロチは後ろに飛び退きながらドラゴンヘッドを差し向ける。

 ギャンもビームサーベルでドラゴンヘッドを2基までは破壊するが、残りの5基を防ぎ切れずに喰らい付かれる。

 後方のゲルググがビームライフルを向けるが、ガンダムクロノスXがクロノスキャノンを撃って妨害する。

 

 

 

 別の場所では史郎のガンダムAGE-3 オービタルと岳のジムHSCがドムの機動力に翻弄されていた。

 AGE-3 オービタルはシグマシスロングキャノンを撃つが、ドムには当たらない。

 ドムは2機からの攻撃をかわしながらバズーカで反撃する。

 バズーカの砲弾をジムHSCはシールドで受けるが、衝撃で体勢を崩してしまう。

 

「川澄君!」

「この程度大丈夫です」

 

 そこに近くの川からズゴックが飛び出してくる。

 ズゴックはジムHSCに接近すると胴体目掛けてアイアンネイルを突き出す。

 ズゴックの一撃がまともに入りジムHSCは尻餅をついて倒れる。

 

「ちっ! 意外と頑丈に出来てやがる!」

 

 ズゴックがジムHSCに追い打ちをかけようとするが、シュトルゥムケンプファーがビームマシンガンを連射して援護する。

 そこにジムHSCがビームスプレーガンを撃ち込む。

 シュトルゥムケンプファーの攻撃は大して事は無かったが、ジムHSCのビームスプレーガンの攻撃でズゴックの装甲にダメージを受けている。

 そこにAGE-3 オービタルがビームサーベルで切りかかり、ズゴックは川に飛び込んで逃げる。

 

「大丈夫?」

「なんとか」

 

 ズゴックは水中に逃げるが、ドムの脅威は去らない。

 機動力のあるシュトルゥムケンプファーがビームマシンガンを撃ちながらミサイルでドムを追いかけるが、ドムはミサイルを易々とかわしてヒートサーベルを抜いて切りかかる。

 ビームマシンガンを向けるシュトルゥムケンプファーだったが、直前で拡散ビーム砲で目暗ましを食らうが、何とかドムの攻撃をかわす事に成功した物のビームマシンガンが破壊されてしまう。

 

「流石全国いつものようには……」

 

 すぐさまバズーカで応戦するが、ドムのバズーカがシュトルゥムケンプファーの頭部を吹き飛ばした。

 AGE-3 オービタルがシグマシスロングキャノンで援護射撃を入れるが、ドムの機動力を前には意味をなさなかった。

「お待たせしました!」

 

 そこに明日香のクラーフレジェンドも到着する。

 

「清水さん。助かるよ」

「まずは足を止めます!」

 

 クラーフレジェンドは全身のミサイルを一斉掃射する。

 ドムもバズーカでミサイルを迎撃するも、バズーカの連射速度ではミサイルの全てを迎撃しきれない。

 機動力を活かしてミサイルを避けているが、AGE-3 オービタルとジムHCSが集中砲火を浴びせる。

 2機の集中砲火をかわしていたが、脚部に被弾してホバー移動に支障が出たのか、ドムは地に足を付ける。

 そこを逃さずにシュトルゥムケンプファーはヒートソードでドムに切りかかる。

 ドムもヒートサーベルで応戦するが、片足に不調を抱えているドムではまともに応戦しきれずに腕が切り落とされて、AGE-3 オービタル、ジムHSC、クラーフレジェンドの集中砲火で撃破される。

 

 

 

 

 

 

 川に入り離脱したズゴックは川から顔を出す。

 周囲を見渡して安全を確認しようとしていると頭上に影が出来たと思うと頭部が何かが突き刺さる。

 それはバルバトス・アステールの腕部だった。

 ズゴックは頭部を貫かれたまま川から引きづり出されるとバルバトス・アステールは腕を振るってズゴックを投げ飛ばす。

 頭部を貫かれたもののズゴックはまだ戦闘不能にななっていなかった為、バルバトス・アステールは200ミリ砲で止めを刺す。

 

「コイツも外れか。まあいい。手当り次第潰して行けばその内フラッグ機に当たるだろ」

 

 前回とは違い今回の敵の動きからはどのガンプラがフラッグ機であるかを判別する事は難しい。

 その為、大我は敵を見つけ次第に仕留めて行く事にした。

 敵の数は10機である為、10機を全てを仕留めればその内1機はフラッグ機になると言う計算だ。

 ズゴックを撃破した大我は次の獲物を見つけた。

 龍牙達と交戦して一時後退中のザクⅡとグフだ。

 新しい獲物を見つけた大我はガンプラをその方向に向けて進ませる。

 

「レイヴンがいたとはいえ意外になるな」

「ああ……向こうのフラッグ機はリトルタイガーだろうけど、とにかく今はゲリラ戦で消耗させるしか……」

 

 ザクとグフが移動をしていると突如、後方からバーストメイスが飛んで来てグフを後ろから吹き飛ばす。

 

「なんだ! まさか!」

 

 ザクⅡのダイバーもバーストメイスが飛んできたと言う事はバルバトス・アステールが来たと確信する。

 確信すると同時にバルバトス・アステールはグフを破壊したバーストメイスを回収する。

 

「クソ! こんなところでやられて堪るか!」

 

 ザクⅡはバルバトス・アステールにバズーカを撃つ。

 だが、バズーカの砲弾はテイルブレイドによって弾かれて接近するとバーストメイスを振るおうとする。

 ザクⅡのダイバーもやられる事を確信したが、突然後ろに何かに引かれてバーストメイスは空振りに終わる。

 同時にバルバトス・アステールを強力なビームが呑み込む。

 

「……やったか?」

 

 ザクⅡを助けたのは友軍である足の付いたジオングだった。

 ジオングは有線アームでザクⅡを後ろに引き寄せて、もう一機のMSサイズに小さくしたビグザムがビームを撃った。

 ビームの掃射が終わるとそこには無傷のバルバトス・アステールが佇んでいた。

 表面を対ビームコーティングで覆われているバルバトス・アステールにその程度のビームではダメージを与える事は出来ない。

 

「足つきのジオングと小さいビグザムか……先に仕留めておくか」

 

 バルバトス・アステールはビグザムの方に突っ込んで行く。

 ビグザムは胴体部のビーム砲でバルバトス・アステールを寄せ付けないようにするが、最低限の動きで接近するとバーストメイスでビグザムの足を潰す。

 足をやられて体勢を崩したところを膝蹴りと共にドリルニーでビグザムの胴体をぶち抜く。

 

「……成程。そう言う事か」

 

 ビグザムを破壊したバルバトス・アステールはジオングの方に向かって行く。

 ジオングは両腕を飛ばす事無く両手の指のビームと腰と頭部のビームを使ってバルバトス・アステールを迎える。

 肩のシールドスラスターで身を守りながら距離を詰める。

 ジオングは10本の指のビーム砲からビームサーベルを出すとバルバトス・アステールに覆いかぶさるように襲い掛かる。

 

「邪魔だ」

 

 バルバトス・アステールは退く事無く前に出て、ドリルニーでジオングの頭部を潰しながらバーストメイスを逆手に持ち直す。

 

「お前がフラッグ機だな」

 

 大我はそう確信していた。

 大我がビグザムを狙うと同時にザクⅡは一目散に後退し始めた。

 ジオングも腕部を飛ばせばビグザムの援護は出来たはずだ。

 だが、ジオングはそれをしないで後退するザクⅡを守るように位置取りとしていた。

 幾らバルバトス・アステールに対してビーム兵器よりも実弾系の武器の方が効果的とはいえ、この状況でビグザムよりも後退するザクⅡを優先して守る理由は一つしかない。

 そのザクⅡこそが相手チームのフラッグ機だからだ。

 フラッグ機さえ生き残っていればまだ負けではない。

 わずかな勝機を残す為にも相手チームはザクⅡを優先して守ったのだろう。

 しかし、その行動で大我も相手のフラッグ機を見抜く事が出来た。

 尤も、その前に邪魔なビグザムとジオングを始末し、ザクⅡも逃がす気はない為、今更見抜いたところで意味は無かった。

 バルバトス・アステールはバーストメイスを投擲すると、ザクⅡに吸い込まれて行くかのように直撃して破壊する。

 その後、大我の推測が当たっていた事を証明するかのようにバトル終了のアナウンスが入る。

 

 

 

 3回戦を突破した星鳳高校だが、その空気は勝利者の物とは思えなかった。

 その大本は大我の言動だが、竜胆も文句を言おうにも本人が自分達と仲間である事を否定している。

 その上、大我が結果を出している事も文句を言いにくい空気となっている。

 全国大会もすでに3戦目だが、その戦果を見ると3戦ともフラッグ機は大我が仕留め、撃墜数も大我が圧倒的だ。

 GBN内でも星鳳高校はランキング上位の静流と竜胆を除けば大我のワンマンチームだと言う認識が広がっている。

 実力で言えば諒真も静流や竜胆と肩を並べるだけの実力があるものの、全国大会では周囲の指揮を執ったりフォローに回る事も多く結果を出していない為、実力者として認識はされていない。

 3回戦も終わると他のチームの結果もいくつか出ているようだ。

 AブロックとBブロック、Cブロックは順当にアリアンメイデン、ブラッドハウンド、闘魂が勝ち抜いているようだ。

 星鳳高校のDブロックのもう1戦はまだ決着が付いていないようで、星鳳高校の面々は明日の準々決勝に向けてバトルを観戦する事となった。

 バトルをしているのはランキング2位のコジロウ率いるチーム岩龍だ。

 バトルフィールドは市街地のようでモニターには岩龍のリーダーでエースのコジロウのガンダムX斬月が相手チームのGバウンサーと交戦する様子が映されている。

 Gバウンサーは腰がビームサーベルではなく、Gサイフォスの高出力ヒートソードを2本装備している。

 GバウンサーのドッズライフルをガンダムX斬月は籠手で弾くと大太刀で切りかかる。

 それをGバウンサーは一閃目はかわして後退する。

 後退するGバウンサーを追うガンダムX斬月だが、左右から2機のGエグゼスがビームサーベルで挟み込む。

 1機のビームサーベルをかわして蹴り飛ばすと、もう1機のGエグゼスの斬撃をかわして大太刀を振るい、Gエグゼスをシールドごと一刀両断にする。

 

「アレが2位のコジロウか……近接戦闘だけならダイモンを凌ぐとも言う実力は伊達ではないな」

 

 一連の動きから近接戦闘に自信を持つ竜胆もその実力を認めざる負えない。

 龍牙達も分かっていた事だが、改めてランキング2の実力者の力を目の当たりにしている。

 蹴り飛ばされたGエグゼスがビームライフルを構えるが、上空から弾丸の雨が降り注ぎGエグゼスは一瞬の内に蜂の巣となった。

 そして、上空から1機のガンプラが市街地に降り立つ。

 

「アスタロト……だが、似ている」

 

 降り立ったガンダムアスタロトの改造機を見て岳はそう呟きながら大我の方を見る。

 岩龍のアスタロトは同じ鉄血のオルフェンズのガンダムフレーム機だと言う事を除いても改造の癖等が大我のバルバトス・アステールに良く似ていた。

 大我も岳が何を聞きたいのか分かったようで口を開く。

 

「当然だろ。あのアスタロト・アステールはリヴィエールが俺のバルバトス・アステールと組ませる為に制作した、いわば兄弟機だ。似ているのも当然だろう」

 

 大我は淡々と言うが、その事実は衝撃的だ。

 アスタロトの改造機、ガンダムアスタロト・アステールは大我のガンダムバルバトス・アステールの兄弟機だと言うのだ。

 アスタロト・アステールはベース機のアスタロトとは違い左右対称で腕部はサブナックルのある左腕で統一されている。

 肩と腰にはバルバトス・アステールが装備している物と同じ機関砲の内蔵されたシールドスラスターが内蔵されており、裏側には肩にはスラスターが付けられ刃が超振動している斧、ブレイクアックスが、腰にはアスタロトオリジンのショットガンがそれぞれつけられている。

 両腕のサブナックルには蛇腹剣としても使える腕部ブレードが付けられており、未使用時には邪魔にならないようにスライド機構によりサブナックルに収容されている。

 バックパックにはアスタロトオリジンの物をベースに重力下でのフライトユニットとなるウイングとアームにより脇の下から逆手で保持して使うガトリング砲が装備されている。

 頭部にもバルカンが追加され、兄弟機のバルバトス・アステールが一撃での攻撃力に特化したガンプラならアスタロト・アステールは手数に特化したガンプラと言えるだろう。

 

「まさかこんなところにいたとはな」

「知り合いなのか?」

 

 龍牙は大我の言い方からダイバーもまた知り合いなのだろうと言う疑問を持ち大我にぶつける。

 

「ああ。南雲レオ。昔、ウチのチームに居た奴だ。何年か前にチームを抜けてガンプラもその時に持ち逃げしてる」

 

 大我のチームビッグスターの元メンバーと言うだけで、相当な実力者だと言う事は事実だろう。

 自称大我の舎弟であるジョーですら相当の実力者だった事からもそれは間違いない。

 そして、世界的なビルダーであるリヴィエールが制作したアスタロト・アステールの完成度もバルバトス・アステールと同等と見て良い。 

 アスタロト・アステールは両肩のシールドスラスターに装備されているブレイクアックスを両手に持つとGバウンサーに向かって行く。

 Gバウンサーもドッズライフルで反撃するが、ビームはアスタロト・アステールに直撃するが弾かれる。

 アスタロト・アステールもまたバルバトス・アステールのように表面に対ビームコーティングがされている為、並のビームでは傷一つつかない。

 接近して来たアスタロト・アステールにバウンサーはシールドのシグルブレイドを振るう。

 それを左腕のサブナックルで止めてブレイクアックスを振るう。

 Gバウンサーはドッズライフルを捨てて後退すると腰の高出力ヒートソードを抜いて反撃する。

 アスタロト・アステールがブレイクアックスを振るい、高出力ヒートソードとぶつかると高出力ヒートソードの刃が砕け散る。

 更にもう片方のブレイクアックスを振るい、シールドで防がれるがシールドが一撃で粉砕される。

 シールドが破壊されたGバウンサーはもう一本の高出力ヒートソードを抜こうとするが、それよりも早くアスタロト・アステールは加速して距離を詰めるとブレイクアックスでGバウンサーの腕を切り落として蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされて仰向けに倒れたGバウンサーは何とか起き上がるとアスタロト・アステールはブレイクアックスをシールドスラスターにしまい、ガトリング砲を前方に向けていた。

 両手のガトリング砲と両肩と腰の4つのシールドスラスターの機関砲、頭部のバルカンの全門からの一斉掃射がGバウンサーを襲う。

 シールドを失いまともに回避行動の取れないGバウンサーはアスタロト・アステールの集中砲火を前に成す術もなく銃弾の嵐を受ける。

 やがて、Gバウンサーは原型をとどめない程に蜂の巣となり撃破される。

 Gバウンサーがフラッグ機だった為、バトルは岩龍の勝利で終わった。

 

「次の対戦相手はレオか。ようやく少しは骨のある相手と戦える」

 

 大我はそう言うが、他の部員は何も言わない。

 元々、次の対戦相手は岩龍になる可能性が高く、岩龍にはランキング2位のコジロウがいる。

 始めから次のバトルは今まで以上に厳しい物になる事は分かっていたが、ここにきて岩龍にはエースのコジロウの他に大我と同等の実力者と思われる南雲レオの存在が出て来た。

 コジロウ一人ならまだやりようはあったが、そこにもう一人圧倒的な実力者がいるとなると話しは別だ。

 ただでさえ、大我の問題もある中、星鳳高校の次の戦いは一層厳しい物になる事を誰もが思い知る事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 3回戦を勝ち抜いた岩龍のダイバー達はGBNからログアウトする。

 3回戦も苦戦する事なく勝ち抜いたが、岩龍のダイバー達は互いの健闘を称えあう。

 勝っても空気の重い星鳳高校とは正反対の雰囲気だ。

 

「隊長」

「ん? どうした」

 

 ログアウトすると岩龍のリーダーのコジロウこと、湖侍路右京はチームメイトの一人に軽く肩を突かれて指を差す方向を見る。

 そこには次の対戦相手の大我が岩龍のダイバー達がログアウトするのを待っていたようだ。

 星鳳高校も岩龍のバトルが終わりホテルに帰り明日のバトルに備える事になったが、大我は一人別行動を取っていた。

 右京もDブロックで警戒すべき相手として大我の事は認識している。 

 そんな大我が自分達を待っていた為、少なからず警戒している。

 

「大将。俺が相手しときますよ。どうせ俺に用があって来たんだから」

 

 大我を見てダイバーの一人がそう言う。

 そのダイバーこそが大我の元チームメイトである南雲レオだった。

 レオも大我が自分に用事があるのだと思い相手を買って出た。

 

「南雲。分かっているとは思うが、試合前にトラブルを起こすなよ」

「分かってるって。大我もそこまで馬鹿なないって」

 

 圭も大我ことリトルタイガーが日本サーバーで色々と話題に事欠かない事は知っている。

 下手にトラブルになれば大我だけではなくレオも試合に出れなくなるかも知れない。

 今年はレオを入れて本気で全国制覇を狙っている。

 それを目前にレオが試合に出れなくなる訳には行かない。

 だが、レオは余り気にした様子もない。

 本人が大丈夫だと言う以上はレオを信用するしかない。

 レオはチームに加入した当時は自信家で生意気な1年として、チーム内でもレオの事を快く思っていないダイバーもいたが、今では実力で信頼を勝ち取り岩龍のエースの片割れであると認められている。

 そんなレオが大丈夫だと言えばチームのリーダーとして信じるしかない。

 

「大我。ここじゃ何だからちょっと面貸せよ」

「ああ」

 

 大我も愛想こそないが、レオ以外に興味はないのか素直にレオに従う。

 二人は会場の人気のないところに移動する。

 

「久しぶりだな。大我」

「そうだな。お前がチームを抜けて以来だからな」

 

 レオとはレオがビッグスターを抜けてから一度も顔を合わせてはいない。

 大我も日本にいる事くらいしか知らなかった。

 

「まぁ大我は相変わらず敵を作るのが上手いから合わなくても色々と耳に入って来たけどな」

 

 大我と会うのは久しぶりだが、レオの方は大我が日本で活動している事を知っていた。

 自由同盟を初めとして大我の行く先々で色々なトラブルが起きては掲示板や噂で話しが入って来るからだ。

 

「まぁ、お前が日本で活動しているって聞いた時は驚いたけどな。まさか、お前もチームを見限っていたなんてな」

「俺がここにいるのはチームの為だ。こんな大会に出るハメになったのは想定外の事だけどな」

「変わらないな。お前は。まだあのチームに拘ってんのかよ」

「お前も相変わらずだな」

 

 大我の自分を見透かしたような態度はレオにとっては非常に癪だった。

 

「俺は変わったさ。チームを捨てて俺は強くなった。もう昔の俺じゃない!」

 

 レオの言葉が少し強くなる。

 だが、大我は顔色一つ変えない。

 

「変わってないさ。お前はあの時のままだ。ただひたすら強くなろうとしたあの時のな」

 

 レオはビッグスターに居た頃から人一倍向上心が強かった。

 大我と何度もエースの座を争いぶつかりあった。

 お互いに勝ったり負けたりしたが、どちらも負けるとまずは負けた理由の良い訳や、相手の戦いの貶し合いから始まり自分を正当化して激しい口論に発展する。

 チームにとっては日常的な事で他のチームメイトからは口論になる度にまたかと生暖かく見守られ次第には今回はどちらが勝つかを賭けていたくらいだ。

 しかし、ある時レオは更なる強さを求めてチームを抜けた。

 あのままチームに居ても自分はこれ以上強くはなれ無いと悟ったからだ。

 大我にとってはレオはあの時から何も変わっていない。

 チームを抜けてでも強さを求めたあの時のままだ。

 

「だが、今のレオは俺の敵だ。分かっているよな。俺は敵が誰であれぶっ潰す」

「だろうな。そう言う所も相変わらずで懐かしいな……けど、勝つのは俺だ」

 

 レオはそう言い切る。

 チームを抜けてからレオは一人で上を目指した。

 あの時よりも強くなったと言う自信がある。

 

「いや、勝つのは俺だ」

 

 だが、大我も負けてはいない。

 レオがチームを抜けてから大我も強くなった。

 更なる高みに上る為に今はチームを離れている。

 そんな大我も負けるつもりは毛頭ない。

 それは互いに分かっていた事だ。

 昔から相手は誰であれ大我もレオも勝ちを譲る気はない。

 

「お互い譲る気はなしか」

「当然だ。勝つのは俺だからな」

 

 大我もレオもこれ以上は何も語る事はなさそうだ。

 互いに自分の勝利を確信している。

 後はどちらが正しいかと明日のバトルで証明するだけだ。

 大我も用事が済んだのかホテルに帰って行く。

 全国大会準々決勝にてかつてのチームメイトとのバトルが始まる。

 

 

 



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バルバトスVSアスタロト

 準々決勝を控えた夜、星鳳高校の面々はホテルの1室に集まってミーティングを行っている。

 岩龍のバトル自体はGBNの過去のバトルログから拾い地区予選の物と合わせて見ている。

 大我も今回は諒真に強引に連れて来られている。

 

「次の対戦相手の岩龍の特徴は近接戦闘に強いってところだね。特にリーダーのコジロウ君は近接戦闘だけならダイモン君以上とも言われている」

 

 颯太が過去のバトルの中でもコジロウこと右京の実力が良く分かるシーンをいくつかピックアップして見せる。

 右京はランキング2位と言うだけあって実力は相当な物だ。

 特に近接戦闘においてはダイモン以上とすら言われている。

 実際に右京とダイモンが直接対決したバトルのデータがない為、その話しが事実かどうかは分からないが、接近戦において圧倒的な実力者である事は間違い。

 

「全体の実力で言えば個々の技量の高い闘魂やチーム力の高いアリアンメイデンと比べるとやや劣る印象があるけど、それでも実力はこれまで戦って来たチームのエースに匹敵すると見て良い。そこにレオン君の加入でエースが2人体勢になっている」

 

 レオンとはレオのダイバー名で、岩龍が去年の優勝校と準優勝校である闘魂やアリアンメイデンと比べるとチームとしての実力はやや劣るが、それでも去年は3位と言う成績を残している。

 

「去年は準決勝でアリアンメイデンと当たってコジロウ君は徹底的に近接戦闘をさせて貰えずに友軍機と各個撃破した上でやられている。あそこまで徹底的にやれば勝機はあるのかも知れないけけど、ウチにそれをやる事は出来ない」

 

 右京の接近戦能力はアリアンメイデンですらも脅威と感じて、接近戦をさせなかった。

 そこまでやって、岩龍に勝利している。

 同じ事をやろうにもアリアンメイデンと星鳳高校ではダイバーの実力的に不可能だ。

 

「レオン君に関しては余り情報が無かった。藤城君が一番詳しいと思う」

 

 颯太がそう言うと視線が大我に集まる。

 大我も軽くため息をつきながら面倒そうに口を開く。

 

「アイツは強いよ。俺を除けば知る限り今回の大会の参加者の中の誰よりもな」

 

 レオが強い事は分かっていたが、大我がそこまでの評価をする事に誰もが驚きを隠せず、同時に大我がそこまで言うだけの実力をレオが持っていると言う事になる。

 星鳳高校は皆、大我と戦って敗れている。

 その大我と同等の実力を持っていると考えればレオは右京と同等かそれ以上に脅威だと言う事になる。

 

「2位をぶっ潰せないのは面白くはないが、レオは俺がやる。アンタ達じゃレオを足止めする事も出来ないからな。2位の方はアンタ達で何とかしろ。どの道、アンタ達が全滅したところで俺が負けなければ星鳳高校は負けない」

 

 大我の言い方に誰も反論はしない。

 戦力的に大我がレオの相手をする事が対策として有効だと思っているからだ。

 そして、大我がフラッグ機である以上、大我の敗北は星鳳高校の敗北となるが、逆に大我がやられなければ星鳳高校は敗北にはならない。

 極端な話、大我以外の9機が落とされたとしても、大我がフラッグ機だけ撃墜すればその時点で星鳳高校の勝利となる。

 

「彼の事は藤城君に任せるとして……問題は」

 

 レオは大我が抑えるしかない。

 そうなるともう一つの問題が出て来る。

 敵のリーダー機である右京のガンダムX斬月だ。

 レオと双璧をなすエースである右京とまともに戦って勝算があるのはチームでは大我だけだ。

 その大我がレオの相手をする以上は他のメンバーだけで右京を相手にしなければならない。

 そうしないと最悪の場合、大我がレオと右京の二人を相手にしなければならない。

 それを避ける為に色々と案を出しているが、大我は右京の対策に興味はないのか、一人部屋を出て行く。

 

「ん? 珍しいな」

 

 部屋を出ると大我の携帯に電話が入っていたようだ。

 かけて来たのはリヴィエールだった。

 リヴィエールから直接電話がかかって来る事は珍しく大我はリヴィエールに電話をかける。

 

「大会見てたよ」

 

 電話をかけるとリヴィエールはいきなり用件を話し出す。

 日本での全国大会の様子はGBNで一般公開されている。

 他のサーバーからでも見ようと思えば見る事は出来る。

 

「わざわざそんな事の為に連絡を入れて来たのか?」

「まさか。大我がバルバトスを使いこなしている事は当然だからね。それよりも明日はレオとアスタロトとやるんでしょ」

 

 リヴィエールも明日の大我の対戦相手のチームにかつてのチームメイトであるレオがいるとは知っているようだ。

 大我とレオが戦うと言う事はリヴィエールにとって自分が作ったバルバトスとアスタロトが戦う事になる。

 リヴィエールにとっても明日のバトルは興味深い物なのだろう。

 

「私も面白い事を思い付いちゃってさ。明日のバトルで勝った方にそれのデータを送る事にした訳よ」

 

 大我はリヴィエールの面白い事にただ嫌な予感しかしない。

 大抵こういう時はリヴィエールにとって面白い事であって、周りにとっては面倒な事である事が大半だ。

 

「と言う訳だから面白い事の内容を知りたかったら明日のバトル勝ってみなさいな」

 

 リヴィエールは用件だけ言うと大我の返事も聞かずに電話を切る。

 大我は軽くため息をつくとホテルの自分の部屋に戻る。

 その日は夜遅くまで作戦会議は続いた。

 

 

 

 

 

 翌日の大会3日目となり、ベスト4を決める準々決勝が開始される。

 AブロックとBブロックは順当にアリアンメイデンとブラッドハウンドが勝ち上がり、午後からの準決勝戦で戦う事が決まった。

 そしてCブロックとDブロックの準々決勝が始まろうとしている。

 Cブロックは去年の優勝チームである闘魂が勝つと予想されているが、Dブロックはランキング2のコジロウ率いる岩龍と圧倒的な力で敵を捻じ伏せて来た大我が属する星鳳高校の対戦は過去の実績から岩龍が優勢とされているが、星鳳高校もこれまでの戦いから勝ってもおかしくはないと予想の付かない状況となり、この1戦は多くのギャラリーが結果がどうなるかと固唾をのんでバトルの開始を待っている。

 

「ようやく、お前とガチでやり合えるな」

「そうだな。いつかはこうなる事は分かっていたが、まさかこんな大会で戦う事になるとは思っては無かったがな」

 

 大我もレオも緊張した様子はない。

 

「大我。今回は大将に頼んで俺がフラッグ機だ。どうせお前もそうだろ?」

「ああ」

 

 レオがフラッグ機である事が嘘ではないと大我が確信している。

 だからこそ、大我も正直に答える。

 レオもこれまでのバトルから大我がフラッグ機である事は予測していたようで驚く事も疑う事もない。

 

「つまりは俺とお前の勝った方がこのバトルの勝利チームって事だ」

「別にそれはどうだっていい。だが、お前をぶっ潰せば終わりだと言うのはシンプルで良いな」

 

 大我にとってチームの勝利は大会の駒を進めるだけでしかない。

 だが、レオを倒せばそれだけで勝ちだと言うのは分かりやすい。

 大我もレオもそれ以上は何も語らない。

 後は戦いの中で語るだけだ。

 それぞれがGBNにダイブしてベスト4を賭けた準々決勝が始まる。

 準々決勝のバトルフィールドは地球軌道上だ。

 始めは宇宙ステージから始まるが、地球の引力もあり、大気圏に突入する事で地上ステージで戦う事も出来る。

 バトル開始早々、岩龍の先制攻撃の高出力ビームが戦場を横切る。

 その一撃で星鳳高校のガンプラに被害はない。

 アリアンメイデンの先制攻撃とは違い、取りあえず撃ったに過ぎない。

 撃ったのはガラッゾだった。

 本来は格闘戦用の機体だが、機体カラーをグリーンを基調としたガデッサと同じにしてガデッサのGNメガランチャーと右肩にはガッデスのGNビームサーベルファングが2基装備されている。

 

「いきなり撃って来たか。そんじゃ手筈通りに動いてくれよ」

 

 諒真のガンダムクロノスXが足を止める。

 そして、大量のクロノスビットを放出して岩龍のガンプラ達の方に向かわせる。

 クロノスビットが迎撃されて爆発が起こり、爆風からゼダスが飛び出してくる。

 ゼダスは両手の指が全てシグルクローとなっており、尾のゼダスソードがダナジンのような打撃用の物になっている。

 ゼダスは高速飛行形態のまま突撃して来て、ガンダムクロノスX目掛けてビームキャノンを撃つが、間にジムHSCが割り込んでシールドで防ぐとビームスプレーガンで反撃する。

 

「速い!」

 

 反撃するもののゼダスの機動力に追いつく事が出来ない。

 そうしている間に岩龍のガンプラがゼダスに追いついて来る。

 カラミティのバズーカを装備したソードカラミティがバズーカを撃ち、ジムHSCはシールドで防ぐが体勢を崩す。

 そこにプラズマサイズを持つトリニティが切りかかる。

 だが、クラーフレジェンドがミサイルで攻撃し、トリニティはジムHSCから距離を取り、プラズマサイズのガトリング砲とゼダスのビームバルカンでミサイルを迎撃する。

 

「会長!」

「悪いが、俺のお守りは任せた!」

 

 ガンダムクロノスXは再び大量にクロノスビットを展開してゼダスやソードカラミティ、トリニティに差し向けるが、無数のビームに撃ち落される。

 

「ファンネルか!」

 

 クロノスビットを迎撃したビットはハイパービームジャベリンを装備したクシャトリヤへと戻って行く。

 クシャトリヤは拡散ビーム砲を撃ってガンダムクロノスXはクロノスキャノンを撃ちながら後退する。

 

「会長はやらせない!」

 

 シュトルゥムケンプファーがビームマシンガンでクシャトリヤを牽制する。

 クシャトリヤは再びファンネルを展開する。

 シュトルゥムケンプファーはビームマシンガンで弾幕を張っていたが、ソードカラミティが胸部のビーム砲を放ち、シールドで守るがシールドが吹き飛ぶ。

 

「やってくれるな。こうも張りつかれたらビットで弾幕も張れやしない」

 

 ガンダムクロノスXはクロノスアックスでトリニティのプラズマサイスとつば競り合いをしている。

 そこに後方からガラッゾと百錬が合流する。

 百錬はバックパックや脚部を漏影の物に換装し、ヘビークラブとアサルトライフルを装備している。

 

「俺達の分も残しておいてくれよ」

 

 ガラッゾがGNメガランチャーを撃つ。

 ガンダムクロノスXはトリニティから離れるとビームバスターをガラッゾに撃つがガラッゾはGNフィールドを張って防ぐ。

 百錬がアサルトライフルを連射しているとガンダムAGE-3 オービタルがシグマシスロングキャノンを撃って牽制する。

 

「6……思ったよりも少ないな」

「それでもこの強さか……」

 

 

 一方、星鳳高校の別働隊も岩龍と遭遇していた。

 岩龍のガンプラは右京のガンダムX斬月とレオのガンダムアスタロト・アステールにドーバーガンとガンダムエピオンのシールドとビームソードを装備したガンダムアクエリアスとドム・グロウスバイルの大型ヒートサーベルを装備したドライセンの4機だ。

 バルバトス・アステールはガンダムアクエリアスにバーストメイスを振るう。

 アクエリアスはかわしてドーバーガンを向けるが、バルバトス・アステールのテイルブレイドが襲い掛かる。

 とっさにシールドで防ぐが、体勢を崩したところをバルバトス・アステールが接近してバーストメイスを振り上げるが、レオのガンダムアスタロト・アステールがガトリング砲で牽制を入れる。

 

「先輩達じゃそいつには無理だから手筈通りに俺がやりますよ」

「……ちっ」

 

 アスタロト・アステールはアクエリアスの前に出るとガトリング砲で牽制する。

 バルバトス・アステールはテイルブレイドを使うが、レオは腕部ブレードを蛇腹剣として巧に操りテイルブレイドを弾く。

 アクエリアスのダイバーも不服そうだが、自分の手に負える相手ではない事は十分に承知している為、バルバトス・アステールの相手をレオに任せる。

 

「アスタロトとGX以外にドライセンにアクエリアス……ドライセンとアクエリアスは私が抑える。八笠君たちはGXをお願い」

「了解した」

 

 アリオスガンダムレイヴンはMA形態に変形するとGNミサイルを撃ちながら突っ込む。

 ドライセンが3連ビームキャノンでGNミサイルを迎撃し、MS形態に変形したアリオスガンダムレイヴンがGNスナイパーライフルⅡでドライセンをガンダムX斬月から引き離すように撃つ。

 同時にGNシザービットを展開してアクエリアスの方に差し向ける。

 アクエリアスはシールドのヒートロットでGNシザービットを寄せ付けないようにする。

 静流がドライセンとアクエリアスを抑えている間に残っている龍牙、竜胆、冬弥がガンダムX斬月の方に向かう。

 

「来るか」

 

 ガンダムX斬月は大太刀を抜くと3機を迎え撃つ。

 

 

 バルバトス・アステールとアスタロト・アステールのリヴィエールの作った2機のガンプラは戦いながら完全に戦場からは離れていた。

 アスタロト・アステールがショットガンを撃ち、かわしたバルバトス・アステールが間合いを詰めて左腕で掴みにかかる。

 それを腕部ブレードを展開して、アスタロト・アステールが止めるが、バルバトス・アステールはすぐさまドリルニーで攻撃する。

 ドリルニーで貫かれないようにアスタロト・アステールはバルバトス・アステールの膝にしがみ付く。

 

「腕は錆びついていないようだな」

「お前もな!」

 

 アスタロト・アステールは膝にしがみ付きながら至近距離から頭部のバルカンを撃ち込もうとするが、バルバトス・アステールの頭付きで受けて膝を離す。

 すぐにショットガンを向けるが、バルバトス・アステールがショットガンを蹴り飛ばす。

 

「ちっ……」

 

 バルバトス・アステールのテイルブレイドが迫り、アスタロト・アステールは腕部ブレードで弾くとブレイクアックスを両手に一気に距離を詰める。

 アスタロト・アステールのブレイクアックスをバーストメイスの柄で受け止める。

 圧倒的なパワーを持つバルバトス・アステールだが、そのパワーをもってしてもアスタロト・アステールを圧倒する事は出来ない。

 

「流石にパワーはバルバトスの方が上か……」

 

 アスタロト・アステールは一度後退するとシールドスラスターにブレイクアックスを戻してガトリング砲を構える。

 ガトリング砲をかわしながら、バルバトス・アステールは200ミリ砲で反撃しながら接近する。

 バルバトス・アステールはバーストメイスを振るい、アスタロト・アステールは左腕のサブナックルを使ってバーストメイスを受け止めると、右腕のサブナックルでバルバトス・アステールを殴り飛ばす。

 だが、バルバトス・アステールはテイルブレイドでアスタロト・アステールを捕まえいた。

 テイルブレイドのワイヤーを回収しながら、足の裏のエッジを展開して蹴りかかるが、サブナックルで弾く。

 

「たく……油断の隙もないな」

「好きなだけしてろ」

「嫌だね!」

 

 アスタロト・アステールはガトリング砲を撃つ。

 バルバトス・アステールはかわしながらバーストメイスを振るい、アスタロト・アステールはブレイクアックスで迎え撃つ。

 2機は激しくぶつかり合う。

 何度もぶつかり合うが互角だったが、次第に2機の高度が落ちていく。

 

「やっべ……高度が落ち過ぎた。このままじゃ地球に落ちるぞ」

 

 レオは地球の重力に捕まった事に気が付いたが、大我はお構いなしに攻めて来る。

 2機は戦いながら地球へと降下して行く。

 

 

 

 

 

 

 ガンダムX斬月に3機で挑むものの、その力に圧倒されている。

 百騎士がビームライフルを放つが、ガンダムX斬月は大太刀で切り払う。

 その間にバーニングデスティニーが殴りかかるも、腕部の装甲で受け止めて蹴り飛ばされる。

 ドラゴンガンダムオロチがドラゴンヘッドを展開して8本のドラゴンヘッドからビームを撃つが、どれも切り払われるかかわされるかして当たる事はない。

 

「これがランキング2位の実力……」

「それでも俺達でやるしかない!」

 

 バーニングデスティニーが突っ込み、百騎士とドラゴンガンダムオロチが援護する。

 バーニングデスティニーの拳をガンダムX斬月は大太刀で受け止める。

 

「気迫は十分だが、気迫に実力が追いついていないようだな」

 

 ガンダムX斬月は大太刀でバーニングデスティニーを弾き飛ばすと腕部の2連装ビームガンを撃ち込む。

 それをビームシールドで防ぐ。

 バーニングデスティニーを抑えながらガンダムX斬月は百騎士の方に向かう。

 

「行かせるか!」

 

 ドラゴンガンダムオロチが割り込み青竜偃月刀を振るう。

 ガンダムX斬月はかわして上から蹴り飛ばす。

 

「ちぃ!」

「まずは援護を絶つ!」

 

 百騎士のクレイバズーカをかわすと、ガンダムX斬月は大太刀を振るう。

 ビームマントを展開したものの意味をなさずに百騎士は左肩から斬撃を受けて左腕を肩からバッサリと切り捨てられる。

 

「冬弥!」

 

 辛うじて撃墜こそされなかったが、百騎士は左腕を失い下半身も切り捨てられてしまった。

 

「挟み込むぞ」

 

 バーニングデスティニーとドラゴンガンダムオロチは左右からガンダムX斬月を挟み込む。

 2機の同時攻撃を大太刀でドラゴンガンダムオロチの青竜偃月刀を、左手の拳でバーニングデスティニーの蹴りを止める。

 

「なんの!」

 

 蹴りを止められたバーニングデスティニーだが、そこを軸にしてもう一度蹴りを入れようとする。

 だが、大太刀でドラゴンガンダムオロチを押し戻してバーニングデスティニーの蹴りを大太刀で受けるとバーニングデスティニーを殴り飛ばす。

 

「ちくしょう!」

「ならば!」

 

 ドラゴンガンダムオロチが金色に輝く。

 ハイパーモードとなったドラゴンガンダムオロチはガンダムX斬月に突っ込んで行く。

 

「ハイパーモードか……」

 

 ガンダムX斬月は大太刀を振るい迎え撃つ。

 その斬撃はドラゴンガンダムオロチを胴体から真っ二つに両断するが、ドラゴンガンダムオロチは止まらない。

 青竜偃月刀を手放すと両手と腰以外の6基のドラゴンヘッドがガンダムX斬月の装甲に喰らい付く。

 

「捨て身か!」

「竜胆先輩!」

「やれ! 龍牙!」

 

 ガンダムX斬月は胸部のブレストバルカンでドラゴンガンダムオロチを破壊して行く。

 やがてドラゴンガンダムオロチは爆散し、最後の力でガンダムX斬月の装甲にダメージを入れる。

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

 バーニングデスティニーは光の翼を展開して最大速度で真っ直ぐガンダムX斬月に突っ込む。

 2連装ビームガンで応戦するが、バーニングデスティニーは止まらない。

 ビームが頭部を吹き飛ばし、右肩の装甲を破壊し、胴体の脇を掠める。

 それでも龍牙は止まらない。

 竜胆が捨て身の攻撃でガンダムX斬月にダメージを与えた。

 そこを逃さずに一気に攻めたてる。

 バーニングデスティニーは渾身の力を込めて拳を突き出す。

 ガンダムX斬月も大太刀を振るう。

 拳と大太刀がぶつかり合う。

 

「負けて……堪るか!」

「これは!」

 

 大太刀に皹が入り、刀身が砕け散る。

 同時にバーニングデスティニーの拳もまた砕け散る。

 拳が砕けても尚、バーニングデスティニーは止まらない。

 

「ぶち抜けぇぇぇぇ!」

 

 残るもう片方の拳がガンダムX斬月の胴体に入る。

 すでにバーニングデスティニーの受けているダメージも少なくは無く、残る拳もまた殴った時の衝撃に耐えきれずに粉砕する。

 

「……見事だ」

 

 両手の拳が砕け、ダメージも蓄積した事でバーニングデスティニーは戦闘不能となる。

 しかし、龍牙の最後の一撃はガンダムX斬月の装甲を貫き、右京へと届いていた。

 ガンダムX斬月の胴体が大きくへこみ、やがて爆発する。

 

「隊長!」

 

 絶対的な信頼を置いていた隊長機が撃墜された事で、ドライセンのダイバーが動揺し、そこを静流は逃さずにGNスナイパーライフルⅡで攻撃する。

 ドライセンは足を撃ち抜かれるが、まだ戦闘は続けられる。

 隊長機が落とされたが、戦闘はまだ続いている為、すぐに切り替える。

 アクエリアスがドーバーガンを放ち、アリオスガンダムレイヴンが肩のビームシールドで防ぐ。

 状況は未だに劣勢だが、隊長機を落とした事で流れは変わりつつある。

 

「トランザム!」

 

 静流は一気に勝負を決める為にトランザムを起動する。

 百騎士がビームライフルで援護をして、アリオスガンダムレイヴンはビームサーベルでアクエリアスのドーバーガンの銃身を切断する。

 その勢いのままドライセンに向かう。

 ドライセンは大型ヒートサーベルを振るうが、大振りな攻撃ではトランザムを使っているアリオスガンダムレイヴンを捉える事は出来ない。

 攻撃をかわして一気にドライセンを仕留めようとしたその時、こちらに向かっていたガラッゾのGNメガランチャーの最大出力のビームがアリオスガンダムレイヴンの両足を吹き飛ばし、百騎士を巻き込んで消滅させる。

 

「増援!」

「よくも隊長を! ファング!」

 

 ガラッゾの肩のGNビームサーベルファングが射出される。

 トランザムが強制解除されて性能が落ちているアリオスガンダムレイヴンを襲う。

 GNスナイパーライフルⅡを向けるが、横からアクエリアスがビームソードで右腕を切り落とす。

 左腕のGNサブマシンガンで応戦するが、かわし切れずにGNビームサーベルファングが頭部と左肩に突き刺さる。

 

「……ここまでのようね」

 

 頭部と左腕が吹きとんだところにドライセンが大型ヒートサーベルでアリオスガンダムレイヴンに止めを刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 龍牙達がガンダムX斬月を倒したものの全滅した頃、諒真たちも劣性を強いられている。

 ガラッゾが抜けて数の上では互角になったとはいえ、個々の実力や連携の練度には向こうに分がある。

 何とか諒真が周りを動かして、持ちこたえている状況だ。

 

「流石に厳しいな……」

 

 ガンダムクロノスXがクロノスアックスを振るい、クシャトリヤのバインダーを一枚切り裂き、ビームバスターでもう一枚のバインダーを破壊する。

 すぐにクシャトリヤが拡散ビーム砲を撃ってガンダムクロノスXは後退する。

 後退したところをトリニティがガトリング砲を撃ち、ビームバルカンで応戦する。

 

「ええい!」

 

 クラーフレジェンドがビームライフルを百錬に撃つが、百錬はかわしてアサルトライフルで反撃する。

 アサルトライフルの銃弾がビームライフルに直撃して、爆発を起こしてクラーフレジェンドの右腕のマニュピレーターが潰れる。

 

「清水さん!」

 

 すぐにAGE-3 オービタルがシグマシスロングキャノンで援護するが、横からソードカラミティが対艦刀で切りかかる。

 シグマシスロングキャノンが破壊されてAGE-3 オービタルはビームサーベルを抜く。

 ソードカラミティが肩のビームブーメランを投擲し、AGE-3 オービタルはかわして接近戦を仕掛けようとする。

 しかし、投擲されたビームブーメランが戻ってきてAGE-3 オービタルの片足を後ろから切断する。

 

「しまった!」

 

 体勢を崩したAGE-3 オービタルをソードカラミティは2本の対艦刀で両断して撃墜する。

 

「部長!」

「隙だらけだな!」

 

 明日香が史郎がやられた事に気をとられてしまう。

 そこに百錬が接近してヘビークラブで殴りかかる。

 ドラグーンシールドを掲げたが、ドラグーンシールドが弾き飛ばされる。

 

「きゃ!」

 

 そこにソードカラミティが胸部のビーム砲を撃ち込んでクラーフレジェンドを撃墜した。

 

「やばいな……」

 

 ガンダムクロノスXはクロノスビットを展開してトリニティを攻撃する。

 トリニティはガトリング砲で応戦するが、その間にガンダムクロノスXが回り込んでクロノスアックスを振るう。

 何とかプラズマサイズで守る事は出来たが、プラズマサイズが破壊されて後退しながら掌のビーム砲を撃ちながら後退する。

 それをクシャトリヤのファンネルが援護する。

 

「そう簡単にはやらせては貰えないか」

 

 ガンダムクロノスXはビームバルカンでファンネルを落としていく。

 ジムHSCがビームスプレーガンをゼダスに撃つが、ゼダスには当たらない。

 ゼダスもビームバルカンを撃つが、ジムHSCはシールドを掲げていて決定打に欠ける。

 そこに百錬が合流して2機で挟み込む。

 百錬が背後からアサルトライフルを放ち、バックパックに被弾する。

 致命傷にはならないが、機動力の低下はまのがれない。

 

「後ろ!」

 

 ジムHSCは脇の下からビームスプレーガンを百錬の方に向けて放つが、ビームは掠めただけで当たらない。

 百錬はヘビークラブを持ちジムHSCに殴りかかりシールドで防がれるが、ここまで蓄積して来たダメージもありシールドは砕け散る。

 

「シールドが!」

 

 頭部のバルカンで牽制を入れるが、ヘビークラブが振り下ろされてジムHSCの頭部が潰される。

 

「ちっ! このジム硬い!」

「俺がやる!」

 

 百錬がジムHSCから離れるとゼダスが高速飛行形態で勢いをつけて接近する。

 ジムHSCもビームスプレーガンを撃つが、頭部が潰された影響で射撃の精度が落ちて当たる事はない。

 ゼダスは十分に勢いが付いたところで変形するとシグルクローをジムHSCの胴体をぶち抜く。

 

「川澄もやられたか……こりゃいよいよ年貢の納め時ってか」

 

 ガンダムクロノスXはソードカラミティの対艦刀をかわしてクロノステイルで抑える。

 トリニティが足を射出して攻撃して来るが、クロノスアックスで一つ一つ破壊して対処する。

 ソードカラミティが両腕のロケットアンカーを射出してガンダムクロノスXを背後から右腕を左足を掴んで動きを止める。

 ガンダムクロノスXはビームバスターでゼダスを牽制するが、クシャトリヤがハイパービームジャベリンで止めを刺しに来る。

 

「やっべ」

「会長!」

 

 クシャトリヤの攻撃を愛依のシュトルゥムケンプファーがガンダムクロノスXに体当たりをして庇い代わりにハイパービームジャベリンの餌食となる。

 

「縦脇! 副会長がここまでしたんだ……もうひと踏ん張りするかな」

 

 ガンダムクロノスXはクロノステイルの先端からビームサーベルを出すとロケットアンカーのワイヤーを切断して、クロノスビットを出して後ろのソードカラミティに向かわせる。

 ソードカラミティは両腕で胴体を守りクロノスビットの直撃を受けて両腕が吹き飛ぶが、吹き飛ばされながらも胸部のビーム砲を撃ち、ガンダムクロノスXの右腕を吹き飛ばした。

 

「悪あがきで良くもまぁ!」

 

 クロノスキャノンでクシャトリヤを狙うが、百錬がヘビークラブでコックピットのある頭部を狙って来る。

 左腕でヘビークラブを受け止めて装甲に亀裂が入るが、完全に破壊される前に百錬を蹴り飛ばしてクロノスビットを差し向ける。

 百錬はヘビークラブを盾替わりに使って防ぐがヘビークラブにヒビが入り捨ててアサルトライフルを撃つ。

 

「死にぞこないが!」

 

 百錬のアサルトライフルとゼダスのビームバルカンがガンダムクロノスXを襲う。

 威力は高くはないもののガンダムクロノスXの装甲にダメージを与えていく。

 そこにトリニティが掌のビーム砲を撃ち込み、ソードカラミティの胸部のビーム砲とクシャトリヤの拡散ビーム砲も撃ち込まれて行く。

 5機からの集中砲火に晒されたガンダムクロノスXはどんどん破壊されて行く。

 

「ここまでやれれば上出来だよな……大我。後はお前がぶちかませよ」

 

 ガンダムクロノスXが撃墜された事で星鳳高校は残りは大我だけとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 大気圏に突入したバルバトス・アステールとアスタロト・アステールは降下しながらも戦闘が続いている。

 バルバトス・アステールは200ミリ砲を撃ちながら、シールドスラスターを最大出力で使い接近してバーストメイスを振るう。

 だが、アスタロト・アステールは易々と回避する。

 アスタロト・アステールはバックパックのフライトユニットがある為、重力下での飛行能力を持つ。

 対するバルバトス・アステールは重力下では飛行能力を持たず、スラスターで強引に機体を浮かすしかない。

 

「ちっ……ちょこまかと」

 

 アスタロト・アステールがガトリング砲を撃つ。

 スラスターを使って落ちる速度を変えてかわしてテイルブレイドをアスタロト・アステールの足に絡みつかせると地上に叩きつけようとする。

 フライトユニットで空中で体勢を整えるが、背後からバルバトス・アステールが突っ込んで来る。

 背部のバルバトス・アステールを何とか振り合払うが、至近距離から200ミリ砲を撃ち込んでフライトユニットを損傷させる。

 それにより飛行能力に影響が出てアスタロト・アステールも地上に落ちていく。

 

「嘘だろ!」

「一緒に落ちようぜ。レオ」

 

 2機の下には広大な海が広がっている。

 どちらも水中での戦いは得意ではない為、何とか陸地に降りようと周囲のマップを表示する。

 周囲は海ばかりだが、近くにはオーブ首長国と表示されいくつかの孤島がある事が分かる。

 2機は減速しながらもオーブ近海の孤島に着陸する。

 

「第2ラウンドと行こうじゃないか」

 

 孤島に降りたアスタロト・アステールはガトリング砲を構えて撃とうとするが、すぐに残弾が尽きてしまう。

 

「ちっ……」

 

 レオはすぐに背部のフライトユニットごとガトリング砲をパージして身軽となる。

 同時に腕部ブレードを展開する。

 バルバトス・アステールがアスタロト・アステールの真上に落ちて来た為、飛び退く。

 

「あっぶね」

「狙ってんだよ」

 

 落ちて来たバルバトス・アステールは200ミリ砲を撃ちながら接近してバーストメイスを振り下ろす。

 飛び退きながら腕部ブレードを蛇腹剣として振るう。

 一撃目をシールドスラスターで防ぎ、二撃目を掴むと思い切り振ってアスタロト・アステールを地面に叩きつけようとする。

 叩き付けられる前に腕部ブレードをパージする。

 腕部ブレードをパージして体勢を整えて着地したところにバーストメイスが飛んでくる。

 それをサブナックルで弾いて防ぐ。

 

「相変わらずの攻めだな……大我!」

 

 投擲したバーストメイスを弾いた隙にバルバトス・アステールは接近すると、爪を立てて突き出す。

 それをサブナックルで軌道を反らして受け止める。

 

「そうでないとな!」

 

 バルバトス・アステールは至近距離からドリルニーを付きだし、アスタロト・アステールは引いて避けるが、テイルブレイドでバーストメイスを引き寄せて掴むと片手でそのまま振るう。

 アスタロト・アステールは肩のシールドスラスターで受け止めながら、サブナックルでバルバトス・アステールを殴り飛ばす。

 殴り飛ばされながらバーストメイスを地面に突き刺してバルバトス・アステールは止まって着地する。

 

「チームを抜けた意味がない!」

 

 アスタロト・アステールは肩と腰のシールドスラスターの機関砲で攻撃する。

 バルバトス・アステールもかわしながら200ミリ砲で反撃していたが、200ミリ砲も残弾が尽きる。

 

「そんな事はどうでも良い。俺とお前は今こうして対峙している。俺がお前をぶっ潰す!」

「ああ……そうだな。チームなんて関係ない。俺とお前はこうなる運命だった!」

 

 アスタロト・アステールはブレイクアックスを両手に持って突っ込んで振るう。

 バルバトス・アステールは体勢を低くしてかわすとバーストメイスを突き出す。

 ギリギリのところでかわすが、シールドスラスターを掠めて肩との接続部が不可に耐え切れずにシールドスラスターが吹き飛ぶが、構わずにブレイクアックスを振り落す。

 それをシールドスラスターで受け止めるが、シールドスラスターは破壊される。

 シールドスラスターを破壊されながらも、バルバトス・アステールはアスタロト・アステールの横っ腹を蹴り飛ばす。

 

「それでこそだ! 大我なら俺の全力をぶつけられる!」

「そうだな。やはりレオとのバトルはこれだけら止められない」

 

 対峙するバルバトス・アステールとアスタロト・アステール。

 ここまでの戦いは互角だ。

 そして、対峙する2機のメインカメラが赤く輝く。

 どちらもリミッターを解除モードとなった。

 バルバトス・アステールはテイルブレイドをアスタロト・アステールに差し向ける。

 それをブレイクアックスで破壊するが、バルバトス・アステールは一瞬の内に間合いを詰めてバーストメイスを振り下ろす。

 サブナックルでバーストメイスを受け止めると、逆にブレイクアックスを振り下ろす。

 バルバトス・アステールも左手でブレイクアックスを受け止めようとするが、ブレイクアックスにより左腕が破壊されて行き、すぐに左腕の増加ユニットをパージして通常の腕まで破壊されないようにする。

 増加ユニットをパージしてバックパックの太刀を手に取り、アスタロト・アステールの左手のブレイクアックスを太刀で叩き落とす。

 バーストメイスも片手で振えるように柄の長さを短くすると、太刀とバーストメイスの二刀流を構える。

 アスタロト・アステールも左腕の腕部ブレードを展開する。

 腕部ブレードを突き出して、バルバトス・アステールの頭部を掠り、頭部が半壊して内部のフレームが一部剥き出しとなるが、構わすにアスタロト・アステールに体当たりをする。

 尻餅をつくアスタロト・アステールにバーストメイスを振り下ろすが、横に転がりながら起き上って回避して腕部ブレードを蛇腹剣として振るう。

 蛇腹剣を太刀に絡ませると力の限り引っ張って引き抜く。

 

「大我ぁぁぁぁ!」

「レオ!」

 

 アスタロト・アステールがブレイクアックスを振り下ろし、バルバトス・アステールはドリルニーを突き出す。

 ブレイクアックスとドリルニーがぶつかり合い、ドリルニーのピンバイス状の杭が砕け、ブレイクアックスの刃にも皹が入る。

 それでもブレイクアックスを振るい、バルバトス・アステールの左肩の突き刺さって抜けなくなるが、バルバトス・アステールの肩の装甲ごと強引に引っこ抜く。

 バルバトス・アステールは左腕に不具合が出たのか、左腕が力無くうな垂れる。

 刃にバルバトス・アステールの装甲が付いたままだが、そんな事はお構いなしにブレイクアックスをバルバトス・アステールの横っ腹を殴る。

 バルバトス・アステールはそれを避ける事も守る事もなく、バーストメイスを振り落した。

 ブレイクアックスがバルバトスアステールの横っ腹に直撃するが、装甲が邪魔で単なる打撃でしかない。

 バーストメイスも片手で振り下している分、通常の威力よりも遥かに威力が劣り、アスタロト・アステールに致命傷を与える事が出来ず、肩の装甲を破壊してフレームに到達する程度の威力でしかなかった。

 

「いい加減に倒れろよ……大我」

「断る」

 

 バルバトス・アステールもアスタロト・アステールもリミッター解除モードで戦いすでに満身創痍だ。

 まともに使える武器も、それを使う事も出来る状態ではない。

 だがそんな状態でも尚、大我の攻めは終わらない。

 

「コイツで終わりだ。レオ……勝つのは俺だ」

 

 大我はパネルを操作して最後の手段に出る。

 バーストメイスのパイルバンカーの杭には射出して相手に突き刺さった時に爆破する事が出来る。

 その杭はバーストメイスの内部に何本か予備の物が入っている。

 今回の戦闘では一度もパイルバンカーを使っていない為、バーストメイスの中には予備の杭が残っている。

 大我はそれを全て自爆させた。

 爆発は周囲を吹き飛ばしながら孤島全体に爆風を撒き散らかした。

 爆風が収まると爆心地には巨大なクレーターが出来上がり、そこから少し離れたところにバルバトス・アステールが倒れている。

 右腕を失い、上半身も半壊して頭部も吹き飛び、機体のいたるところの装甲が破損して内部のフレームが剥き出しとなり、フレームにもいくつもの亀裂が走っている。

 胸部の増加装甲も辛うじて一部が残っているだけで後は吹き飛び、コックピットが剥き出しとなり、仮想現実でなければパイロットも無事では済まなかっただろう。

 もはやバルバトスであった事すらも確認困難な状態で、バルバトス・アステールは爆風で歪んだ装甲やフレームを軋ませながら上半身を起こす。

 脚部も右足は完全に使い物にならず、左足は動くが機体の重量を支える事は出来ない程のダメージを受けている。

 それだけのダメージでも何とか動ける為、バルバトス・アステールは撃墜判定を受けていない。

 そして、爆心地の中央にいたもう一機のアスタロト・アステールはクレーターの中央で辛うじて人型を保っているものの、ピクリとも動かない。

 

「レオ……俺の勝ちだ」

 

 大我は一人そう宣言すると、バトル終了のアナウンスと共に星鳳高校の勝利が告げられる。

 エース同士の壮絶な戦いに会場は湧き上がり、星鳳高校はベスト4となり、準決勝へと駒を進める。

 コジロウこと右京率いる岩龍に勝利した物の次の対戦相手は去年の優勝校である仙水高校チーム闘魂。

 星鳳高校にとって今回以上の強敵である事は間違いない無かった。

 

 

 

 

 



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仲間

 

 星鳳高校対岩龍のバトルは星鳳高校がほぼ全滅ながらもフラッグ機を撃墜した事で勝利した。

 完全に岩龍のペースで進みながらもフラッグ機同士の一騎打ちを制して星鳳高校が準決勝へと駒を進めた。

 会場がその戦いの熱気が冷め止まないが、レオは一人会場を去ろうとしていた。

 

「もう帰るのか?」

 

 会場を出たところでレオを大我が止める。

 大我を見たレオは心底嫌そうな顔をする。

 

「嫌味かよ」

「別に……ただ日本に来て久しぶりに面白いバトルが出来たからな。俺が勝ったしな」

「マジで嫌味を言いに来たのかよ?」

 

 勝負は大我が勝っている以上は、敗者のレオに何を言ったところで嫌味にしか聞こえない。

 

「俺もそこまで暇じゃない。やっぱ仲間とするバトルが一番だって事を言いたくてな」

「……仲間? 俺はお前達を裏切って捨てたんだぞ?」

 

 レオはかつては大我たちと同じチームに居ながらもチームを捨てた。

 その際にガンダムアスタロト・アステールを持ち逃げもしている。

 チームからすればレオの行動は裏切り意外の何物でもないだろう。

 

「そうだな……けどな、レオ。それがどうした? お前は自分で考えてチームを出て行った。そんな事は取るに足りない些細な事だ。例え裏切ったとしても思いっきりぶん殴って許してやれるのが仲間って奴だろ。俺はお前の事を今日のバトルで思い切りぶっ飛ばした。だから、お前がチームを裏切った事は終わった事だ」

 

 レオはチームを裏切った。

 だが、大我もチームの仲間もその事でレオを恨んではいない。

 レオは自分の意志でチームを抜けた。

 その意志は理解している。

 それでも少なからず遺恨は残っているが、それも大我がバトルでぶっ飛ばした事で全て終わりだ。

 レオはそんな単純な話しではないと反論しようとするも、大我の目を見て言葉に詰まる。

 大我はかつてと同じように真っ直ぐ、疑う事もなくレオを見ている。

 基本的に誰が相手でも喧嘩腰で威嚇から入る大我だが、唯一チームの仲間にだけは心を開いている。

 今でも大我の中ではレオは仲間だと思っている事がレオにも分かり何も言えないでいた。

 

「お前が思っている以上に仲間の絆ってのは強いんだぜ。お前がチームを抜けた後、レオの事を悪く言う奴はいないしな」

「たく……馬鹿だな」

「知ってる。だから俺達はチームになったんだろ。レオ……今後、俺達とお前がバトルするのはこんなちっぽけな大会なんかじゃない。もっと上の世界でだ。待ってるなんて言わない。俺達は頂点を目指して止まらずに駆け抜ける。お前もそこまで来い。その時、もう一度レオをぶっ潰してやる。今度は俺だけじゃない。俺達チームビッグスター全員でだ」

 

 大我はそれだけ言うと会場に戻って行く。

 レオはしばらくその場から動かない。

 レオはアメリカにチームへの未練は置いて来たつもりだが、チームの方がレオを放っておいてはくれないようだ。

 

「南雲。こんなところにいたのか?」

 

 大我が戻り少しするとレオを探しに来た右京がレオを呼び止める。

 

「あれだけ大口を叩いておいて俺が負けたせいでチームが負けたんで居辛いんですよ」

 

 レオが一人で会場から出て来た理由はそこだった。

 レオは自分の実力に絶対の自信を持っている。

 チーム内でもレオとまともに戦えるのはリーダーの右京くらいだ。

 その為、日ごろから大我程ではないにしても、チームメイトを上から見ている。

 今まではそうするだけの実力を見せて来たからこそ、反感を買いながらもエースとして認められてきた。

 だが、今回は圧倒的有利な状況に持ち込んだが、レオが負けたせいでチーム自体が敗北する結果となった。

 レオが一人で大我と戦わなければ結果は変わっていたかも知れない。

 

「そうだな……今回のバトルで俺とお前だけがやられているからな」

 

 チーム全体で見れば撃墜されたのはレオと右京の二人だけだ。

 尤も、右京はリーダー機ではあるが、フラッグ機ではなく、右京がやられた後は他の仲間が星鳳高校のガンプラを殲滅している為、右京の敗北はチームとしては大した問題ではない。

 それを分かっていながら、持ち出すのは右京なりの気遣いなのだろう。

 

「お前がリトルタイガーと一人で戦う事を認めたのは俺だ。お前に責任があるなら俺にも責任はある。責任を取ると言うのであれば俺達が丸刈りにでもするか?」

「……それはマジで勘弁してくださいって」

 

 恐らくは冗談なのだろうが、右京が言うと本当にやりかねない。

 

「いつまでも負けた事を引きずるな。俺達3年は引退だが、1年と2年には来年もある。余り落ち込んでいる暇なないぞ」

「了解っす。大将。俺、少しやる事があるんでチームには後で合流します!」

 

 レオは吹っ切れたのか、会場に走って戻って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 岩龍に勝利した星鳳高校だが、準決勝のチーム闘魂と戦う前に更なる難関が待ち構えていた。

 全国大会でもGBNの通常プレイ同様にガンプラを現実世界でバトル後にケアしないと次のバトルで性能に影響が出る仕様は同じだ。

 前回までは時間にある程度の余裕はあったが、今回は午後からの準決勝に間に合わせないといけない。

 準決勝は先にAブロックを勝ち抜いたアリアンメイデンとBブロックを勝ち抜いたブラッドハウンドのバトルが終わった後であるが、星鳳高校は大我を含めて全員のガンプラが手ひどいダメージを受けている。

 それらを準決勝までには万全な状態にしなければならない。

 岳を中心に控室でガンプラのケアを行っている。

 そんな中、大我だけは控室に戻らずに一人で作業をしている。

 始めは岳もバルバトス・アステールを触りたさに手伝いを申し出たが、大我は頑なに拒否した為、一人での作業となっている。

 

「一人で作業とか友達もいないのかよ?」

「必要ないからな」

 

 会場に戻ってきたレオが皮肉を込めてそう言うが、大我は気にした様子もなく作業を進める。

 

「貸して見ろ。俺も手伝う」

「そうか。そっちを頼む」

 

 大我はばらしてあるバルバトス・アステールのパーツを掴むと無造作にレオの方に放り投げる。

 

「……なぁ、言いだしといてなんだが、少しは疑えよ」

 

 大我は何の躊躇いもなく、自分のガンプラのパーツをレオに渡したが、レオは先ほどまで大我と戦い大我に負けた相手だ。

 その負けた腹いせに次のバトルで性能を発揮できないように細工をする可能性もあったが、大我は疑う事もなくレオに渡している。

 流石にレオも警戒心が無さ過ぎるのではないかと心配になって来る。

 

「お前に細工をして俺の邪魔をしようと言う頭があるのか?」

「……本当にしてやろうか?」

 

 大我はレオの事を信じているようだが、信じられ方は少々気に入らない。

 それでもレオもそんな事をする気は毛頭なかった。

 

「レオ。さっきリヴィエールから面白い物が送られて来た」

 

 大我はそう言って、リヴィエールから送られて来た物をレオに見せる。

 リヴィエールもバトル前に大我に言っていたようにバトルに勝った大我に何かを送って来たようだ。

 

「……コイツは」

「面白いだろ?」

「確かに面白いけど……今からやって間に合うのか?」

「間に合わせる。俺一人なら不可能だったが、お前が居れば出来る。違うか?」

 

 大我はまるで挑戦して来ているようだった。

 自分は出来ると思っているが、お前はどう何かと。

 そう言われるとレオも引く訳には行かなかった。

 

「上等だ。間に合わせてやるよ!」

 

 レオもアスタロト・アステールを出すと二人の作業が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星鳳高校が準決勝に備えてガンプラのケアをしている頃、会場ではAブロックとBブロックを勝ち抜いた2校による準決勝第一試合が行われようとしている。

 多くのダイバーは去年の準優勝チームであり、ここまで全ての試合でダインスレイヴによる長距離攻撃から高機動型の2機でのかく乱で勝ち進んで来たアリアンメイデンが優勢だと見ていたが、対戦相手のブラッド率いるブラッドハウンドはランキング4位を倒してここまで勝ち進んで来ている。

 すでにランキング3位のコジロウが無名校に敗れると言う大番狂わせが起きている為、アリアンメイデンを破る可能性もあると言われている。

 

「対戦相手のブラッドハウンドは過去のバトルログでもまともな情報がないチームよ」

 

 アリアンメイデンの控室で最後のミーティングが行われている。

 監督の麗子の方でも過去のバトルログからブラッドハウンドの情報を探ろうとしていたが、見つかるログは参考になりそうな物は殆どなかった。

 ここまでのバトルでも殆どがリーダーであるブラッドのアルケーガンダムの改造機であるブラッドロードガンダムが単機で敵を殲滅している。

 

「とはいえ、貴女達は私が鍛えた自慢の生徒達よ。今まで教えた事をいつも通りに発揮できれば絶対に勝てるわ」

 

 アリアンメイデンは連携の他に相手の情報を分析して戦う事にも長けたチームだ。

 その情報が殆どなければ生徒達も少なからず不安になるが、麗子は問題ないと言い切る。

 そうする事で生徒達の不安を取り除き、いつも通りの戦いをさせる為だ。

 監督の麗子に絶対的な信頼を置く生徒達はそう言い切られる事で自信を持って準決勝に望む事が出来る。

 

「だから……全力で叩き潰して来なさい」

 

 麗子のバトル前、最後の指示にアリアンメイデンの生徒達は力強く頷く。

 不安要素はあるが、アリアンメイデンは決勝を賭けた準決勝へと赴く。

 準決勝のバトルフィールドは宇宙空間。

 アリアンメイデンにとっては地上ステージよりも遮蔽物の少ない宇宙空間での戦いが最も得意としている。

 今回も上手い具合に宇宙でのバトルとなり、アリアンメイデンにとっては戦い易いフィールドとなった。

 

「そんないつも踊りによろしく!」

 

 バトル開始早々、貴音のガンダムキマリス・トライデントと珠樹のガンダムエルバエルが飛び出す。

 そして、後方から5機のレギンスレイヴがダインスレイヴによる長距離射撃を行う。

 

「手応えなし」

「まぁそう簡単にはやられてはくれないっしょ」

「来る」

 

 ダインスレイヴによる攻撃で敵に損害は与えられてはいないようだった。

 そして、2機にビームが放たれる。

 貴音と珠樹はビームを回避し、敵を補足する。

 

「アシュタロン?」

「でも、本体がない」

 

 ブラッドハウンドの先陣を切って来たのはガンダムアシュタロンハーミットクラブの改造機のハーミットクラブだ。

 ハーミットクラブはバックパックのみで本体を外されて純粋はMAとして改造されている。

 バックパックのサテライトランチャーは通常のビームランチャーに変更されており、高い機動力と火力を備えている。

 

「行かせないよ!」

 

 キマリス・トライデントがハーミットクラブのビームランチャーをかわしてデストロイヤーランスの銃口を向ける。

 だが、別方向からのビームが飛んで来てかわす。

 その間にハーミットクラブ、レイダーガンダム、バンシィノルンが2機を突破して後方の狙撃部隊へと向かって行く。

 

「やば!」

「あっちは平気。私達はこっちに集中」

 

 珠樹は自分達が逃した3機の事は向こうに任せると判断する。

 貴音も珠樹の指示に従い突破したガンプラを追撃する事はしない。

 

「さてさて……馬鹿大我がそこまでのバトルをやったんだから、私達おねーちゃんズも負けてられないってね」

 

 キマリス・トライデントはデストロイヤーランスを構えて突撃する。

 

「相変わらず藤城姉妹による馬鹿の一つ覚えのように突撃して来るか……まぁ良い。群れなきゃ何も出来ない奴らの狩りの時間だ!」

 

 ブラッドロードガンダムはGNブラッドソードを構えてキマリス・トライデントを迎え撃つ。

 

「アンタが大将機の厨二ガンダム? ソッコーで潰す!」

「やって見ろよ」

 

 ブラッドロードガンダムはキマリス・トライデントの突撃を軽くかわす。

 キマリス・トライデントはビーム拡散弾をばら撒きながら近くのベルガ・ギロスに向かって行く。

 ベルガ・ギロスはショートランスのヘビーマシンガンで応戦するが、構わずに突っ込み接近してデストロイヤーランスを振り下ろす。

 ベルガ・ギロスはビームシールドを展開して防ぐが、左腕が潰されて後退する。

 

「ちっ……」

 

 ブラッドロードガンダムはキマリス・トライデントを追いかける。

 

「逃げる気か!」

「悔しかったら追いついてきなよ」

 

 キマリス・トライデントは更に加速する。

 機動力においてはブラッドロードガンダムではキマリス・トライデントには追いつく事は出来ない。

 2機の距離はどんどん離れていくが、キマリス・トライデントは進路を変えてブラッドロードガンダムに向かって行く。

 

「希望通りに相手して上げるわよ!」

 

 突っ込んで来るキマリス・トライデントにブラッドロードガンダムはGNブラッドソードで迎え撃つ。

 

「なんてね!」

 

 突っ込んで来るキマリス・トライデントはブラッドロードガンダムの目前で軌道を変えると左腕を潰されたベルガ・ギロスに向かい、3本の槍の火器で集中砲火を浴びせて撃墜する。

 

「舐めた真似しやがって!」

「舐められる方が悪いんだよ。ボーヤ」

 

 ブラッドロードガンダムがキマリス・トライデントを追いかけようとするが、エルバエルがバエルライフルで足を止めさせる。

 

「行かせない」

「次はお前か!」

「でも、相手はしない」

 

 ブラッドロードガンダムの足を止めさせるとエルバエルはトトゥガに向かって行く。

 トトゥガにバエルライフルを撃ち込むが、トトゥガの重装甲を破る事は出来なかったが、珠樹の狙いは装甲を貫く事ではなく、攻撃する事でトトゥガのダイバーの注意を自分に向けさせることにあった。

 トトゥガのダイバーは珠樹の思惑通りにエルバエルに気を取られている間に背後からキマリス・トライデントが勢いをつけて突撃して来る。

 トトゥガの重装甲も勢いをつけて突撃して来たキマリス・トライデントには耐え切れず一撃で粉砕された。

 

「これで2機目。あっちの方は大丈夫かな?」

「大丈夫。どっちも問題ない」

 

 貴音は後方に向かった3機のガンプラの事を気にかけるが、珠樹は全く問題にはしていなかった。

 珠樹と貴音を突破して来たハーミットクラブ、レイダー、バンシィノルンはレギンスレイヴを補足していた。

 

「誰が一番撃墜出来るか勝負しようぜ」

「良いね。まっ俺が一番だけどな」

 

 バンシィノルンが加速しようとしたその時、バンシィノルンの頭部が吹き飛ばされて体勢を崩したところに右腕が吹き飛び胴体に風穴が空いて撃墜された。

 

「お見事」

「一発目でメインカメラを潰して二発目で武器を持つ右手を潰した上で止めね……正確な射撃にえげつなっ」

 

 バンシィノルンは後方に控えていた千鶴のガンダムグシオンリベイクフルシティシューティングスターによって撃墜された。

 それも一撃目でメインカメラを潰されて視界を一時的に奪った上で体勢を崩して、ビームマグナムを持っていた右腕を吹き飛ばす事により戦闘能力を著しく奪った上で止めの一撃を入れた。

 最初の2発の狙撃で相手はまともに攻撃を見切る事も反撃する事も封じられている為、3発目に対処のしようがなく、奇跡的に3発目をかわせたとしても戦闘能力は殆ど残されてはいない。

 

「先輩方。来ます」

 

 バンシィノルンを撃墜されたもののハーミットクラブとレイダーのダイバーは動揺した様子を見せてはいない。

 ハーミットクラブがビームランチャーで反撃して来る。

 レギンスレイヴを狙っているようだが、狙いはいい加減でレギンスレイヴは微動だにしないでビームが当たる事はない。

 

「真澄」

「分かってる。姉さん」

 

 真澄のレギンレイズシュバルベタイプMはライフル下部の多目的ランチャーからキマリス・トライデントが使っているビーム拡散弾を撃って敵のビーム兵器を封じる。

 

「ちっ……ビームが!」

「お先に!」

 

 レイダーがMS形態に変形するとミニョルを射出する。

 ビーム兵器を封じてもレイダーには十分に戦う術は持っている。

 射出されたミニョルだが、グシオンシューティングスターのリニアライフルで瞬時に破壊された。

 

「何!」

「ウチのルーキーの変態射撃を甘く見ないで!」

 

 ミニョルを破壊されたレイダーに香澄のレギンレイズシュバルベタイプGが接近する。

 レイダーは口部のビーム砲を撃とうとするも、ビーム拡散弾の影響でまともな威力はない。

 レギンレイズシュバルベタイプGはランスユニットでレイダーを貫き破壊する。

 

「はっ! 馬鹿な奴だ!」

 

 レイダーがやられている隙にハーミットクラブがレギンスレイヴに向かって行く。

 

「さて……どいつから仕留めるかな」

 

 レギンレイズシュバルベタイプMがライフルを撃ってビームランチャーを破壊するが、ハーミットクラブは止まらない。

 ハーミットクラブのダイバーが獲物を物色してレギンスレイヴの1機に向かって行く。

 

「棒立ちかよ! 狙撃以外は出来ませんってか! お嬢様が!」

 

 ハーミットクラブがギガンティックシザースでレギンスレイヴを挟み込もうと振り上げるとギガンティックシザースのアーム部分がグシオンシューティングスターによって狙撃される。

 

「私のどこが変態射撃なんですか? 先輩」

「そう言う所よ」

 

 ギガンティックシザースを破壊されたハーミットクラブだが、レギンスレイヴは狙撃しか出来ないから棒立ちしていた訳ではなかった。

 レギンスレイヴの役目はダインスレイヴによる攻撃。

 それを守るのが2機のレギンレイズシュバルベと多彩な火器を持つグシオンシューティングスターだ。

 レギンスレイヴを任されている彼女たちは仲間が自分達を守ってくれると言う信頼から無意味に動く事は無く、自分の役目に徹する事が出来ている。

 ハーミットクラブに狙われたレギンスレイヴのダイバーもギリギリまでハーミットクラブを引きつけた上でダインスレイヴをハーミットクラブに撃ち込む。

 ダインスレイヴの弾丸がハーミットクラブを貫きハーミットクラブが破壊された事で、後方の狙撃部隊は難なく3機を処理する事が出来た。

 

「ちょこまかと!」

 

 実体の刃を持つツインサイズをガンダムデスサイズヘルがエルバエル目掛けて振るう。

 だが、エルバエルはヒラリとかわす。

 その背後からゼイドラがゼイドラソードを振るいエルバエルはバエルシールドで受け止めると蹴り飛ばしてバエルライフルを撃つ。

 銃弾はゼイドラのゼイドラガンを破壊する。

 

「こっちこっち」

 

 バエルライフルでゼイドラとデスサイズヘルを抑え込む。

 2機は挟み込むように同時攻撃するが、エルバエルはかわしてバエルシールドの先端を射出する。

 その先にはウェブライダー形態に変形してキマリス・トライデントの方に向かおうとするZⅡがいる。

 ZⅡにワイヤークローを付けると思い切り引っ張ってシャイターンにぶつける。

 

「私が全部相手する」

 

 シャイダーンが全身のビーム砲を撃ち、エルバエルはかわしながら腰部のレールガンを撃ち込む。

 直撃したシャイダーンは体勢を崩し、ゼイドラがゼイドラソードを振るい、バエルソードで受け止める。

 ゼイドラを蹴り飛ばしてバエルライフルを撃ち込む。

 

「このアマが!」

 

 デスサイズヘルはツインサイズを振るいエルバエルは回避してレールガンを撃ち込む。

 アクティブクロークで防ぐが、アクティブクロークがダメージでヒビが入る。

 エルバエルが4機のガンプラを抑えている間にブラッドロードガンダムをキマリス・トライデントが相手をしている。

 キマリス・トライデントは機動力を活かしてブラッドロードガンダムにヒット&ウェイで戦っている。

 

「小賢しい真似を……」

「だったら追いついてきなよ」

 

 キマリス・トライデントは速度を緩める。

 ブラッドロードガンダムがキマリス・トライデントに追いつきかけると一気に加速して引き離す。

 

「ふざけやがって……」

(効いてる。効いてる。ほんとママは男を見る目は無いけど人の嫌がる戦い方を見抜くのは上手いんだら)

 

 貴音はブラッドの食いつきからバトル前に麗子からの指示が上手く決まっていると確信していた。

 ブラッドハウンドは参考になりそうなデータは無かったが、現状のデータから麗子はブラッドハウンドの事を分析していた。

 ブラッドハウンドはここまでブラッドのブラッドロードガンダム単機で勝って来た。

 そこからブラッドハウンドはアリアンメイデンのようにチームで戦う事よりも個人で戦うチームであると予測した。

 更にチーム名や使用ガンプラの名前にダイバー名が入っており、ここまで一人で戦って来た事からリーダーのブラッドは自信家で自己顕示欲が強いダイバーだと考えた。

 そこまで分析すればブラッドハウンドのフラッグ機はリーダー機であるブラッドのブラッドロードガンダムである事はまず間違いない。

 この手のダイバーが落とされたら負けるフラッグ機を自分以外に設定する事は考え難い。

 自分なら絶対に落とされないと言う自信があるからだ。

 だからこそ、アリアンメイデンはまずブラッドロードガンダムを孤立させる事にした。

 序盤でハーミットクラブ等3機のガンプラが珠樹と貴音を突破出来たのもそのせいだ。

 後方の部隊を狙っているのであれば、無理に足止めをしないで通させて後方の部隊で仕留めさせる。

 そうする事で前線で二人が戦うガンプラの数も減らす事が出来る。

 後は珠樹がブラッドロードガンダム以外のガンプラを全て抑えて貴音がブラッドロードガンダムを仕留める手筈だ。

 珠樹が4機のガンプラを抑えられると言うのも、麗子の目論見通りの展開だった。

 チーム戦よりも個人戦を重視するチームならフラッグ機とはいえ孤立した仲間を無理にでも援護に向かわずに目の前の敵を仕留めようとする可能性が高いと読んでの事だ。

 実際に読み通りに珠樹が抑えている4機のガンプラはブラッドロードガンダムの援護に行こうとはしないで、珠樹のエルバエルを仕留めようとしている。

 尤も、それは麗子の読み以上に4機のガンプラはわれ先にエルバエルを仕留めようと躍起になっており、全く連携を取る事無く攻めて来る。

 これが少しでも連携を取られると面倒だったが、個人の実力は香澄や真澄と比べても大したことは無く、珠樹の実力なら何時間でも足止めは可能だろう。

 

「逃げてばかりかよ! 一人じゃ何もできねぇのか!」

 

 ブラッドロードガンダムはGNブラッドソードを振るうが、キマリス・トライデントはかわす。

 

「はい。残念。もうちょっと頑張ろうか」

 

 ブラッドの性格を分析したところで相手をするのに最も適任だったのが貴音だった。

 実体験からこの手のダイバーは自分の自信を突いて煽ればムキになって来る。

 大我がそうだったようにだ。

 だが、大我とブラッドには大きな違いがある。

 大我はムキになって意地を強引に押し通せるだけの実力があるが、ブラッドにはそれがない。

 全国大会でランキング4位を倒しているものの、その程度の実力ではランキングでは上位に入っていないものの貴音の実力なら容易に相手をする事も出来る。

 

「糞が!」

 

 ブラッドロードガンダムの動きが目に見えておおざっぱとなっている。

 

「一人じゃ何も出来ないって? 一人じゃ勝てない奴が言っても説得力がないよ?」

「舐めんなよ! トランザム!」

 

 ブラッドロードガンダムはトランザムシステムを起動させる。

 ブラッドロードガンダムがGNドライヴ搭載機であるアルケーガンダムの改造機の時点でトランザムシステムが使える可能性は事前に考えられる事だ。

 そして、この状況で使うと言う事はそれだけ追い詰められている為、流れを変えようとして使って来るのだろう。

 

「ぶっ殺す!」

「無理……だって勝負は付いたから」

 

 トランザムを使い突っ込んで来るブラッドロードガンダムに対してキマリス・トライデントは足を止めた。

 その上で事もあろうか持っているデストロイヤーランスを構える事もない。

 この状況で勝負を諦めたとは考え難い為、ブラッドは舐められていると頭に血が上り視野がいつも以上に狭くなっていた。

 それこそが貴音の狙いだった事にブラッドは気がつかずにブラッドロードガンダムはGNブラッドソードを振り上げる。

 そのまま隙だらけで無防備なキマリス・トライデントにGNブラッドソードを振り下そうとした。

 だが、キマリス・トライデントは微動だにしていなかったが、ブラッドロードガンダムの攻撃は空振りに終わった。

 キマリス・トライデントは何もしていないそれなのに攻撃が当たらなかった。

 ブラッドも始めは何が起きたのか分からなかったが、モニターの視界の端にGNブラッドソードが漂っているのを見つけて悟った。

 ブラッドロードガンダムの両腕が手の付け根からなくなっていたのだ。

 

「あんなに目立ってちゃ私の妹(未来の)ならよゆーで狙い撃てるんだよね」

 

 ブラッドロードガンダムがトランザムを使った事で赤く発光した。

 後方の狙撃部隊には前線の相手のガンプラの位置は殆ど把握していない。

 だが、トランザムで赤く発光したブラッドロードガンダムは後方からでも良く見えた。

 後は貴音が逃げながら後方の部隊が狙撃しやすい場所に誘い込んで狙撃させた。

 攻撃させる時に何も動かない事で舐められていると思わせた事で視野が狭くなっていたブラッドには狙撃されてもすぐにはそれに気が付く事は無かった。

 

「一人で勝とうとするのは結構だけどウチの大我くらいの実力がないとね。私らの事あんまり舐めないで貰える? その程度の実力で一人で私らに勝とうなんて100億光年早い」

「……ふざけるな!」

 

 ブラッドロードガンダムはつま先からビームサーベルを出して蹴りかかろうとする。

 ブラッドロードガンダムの最後の悪足掻きではあったが、その攻撃もキマリス・トライデントに届く事は無かった。

 千鶴のグシオンシューティングスターの狙撃から時間を少し開けて5機のレギンレイヴもダインスレイヴを撃っていた。

 その弾頭が5発ブラッドロードガンダムに直撃した。

 1発でも致命傷になり得るダインスレイヴを5発も直撃すればブラッドロードガンダムは簡単に撃墜された。

 麗子の読みは最後まで完璧に的中し、ブラッドがフラッグ機だった為、フラッグ機が撃墜されバトルはアリアンメイデンの勝利で終わった。

 バトル前はブラッドハウンドがもしかしたら星鳳高校のように番狂わせを起こすのではないかと言われていたが、バトルが始まって見ればアリアンメイデンの圧勝で終わった。

 アリアンメイデンは決勝戦に駒を進めて、次は仙水高校と星鳳高校とのバトルだ。

 準々決勝で岩龍を破った事もあり、準決勝は闘魂がやや有利とされているが、単機で圧倒的な戦闘能力を見せて来た大我のいる星鳳高校が勝つ可能性も十分に考えられた。

 アリアンメイデンとブラッドハウンドとのバトルが始まってもガンプラのケアを行い、準決勝第二試合までに全機が万全な状態で戦えるまでになっている。

 大我は別行動をしていた為、レオとの作業が思った以上に時間がかかり開始ギリギリになっていた。

 

「あ」

 

 大我は通路で準決勝を勝って来たアリアンメイデンと遭遇する。

 準決勝の結果はまだ確認していないが、大我が見る限りではアリアンメイデンに負ける要素はない。

 彼女たちの様子からも決勝戦に進出した事は確かだろう。

 向こうの方が先に大我の事に気が付いていたが、大我は話しをする気はない。

 全国大会が始まってからは身内とはいえ別のチームにいる以上は一切の連絡もしていない。

 お互いに必要以上に馴れ合う気はなく、一言も口を利かずにすれ違う。

 

「たいちゃ……藤城君」

 

 すれ違った後に千鶴が意を決して大我を呼び止める。

 大我は準決勝に出ないといけない為、少し面倒そうにしていたが、足を止めて振り返る。

 

「……頑張って」

「ああ」

 

 それが今の千鶴にとっての精一杯だった。

 大我も短く返事をする。

 

「次の闘魂とのバトル。面白い物が見れるから見た方が良いぞ」

 

 大我はそれだけ言うと速足で歩き出す。

 呼び止められて時間を食った事もあり、大我はバトルに出れなくなるギリギリのところでガンプラ部と合流する。

 ギリギリまで姿を見せなかった為、心配された物の大我は気にした様子もない。

 全員揃い、時間となり星鳳高校と去年の優勝校である仙水高校チーム闘魂とのバトルが開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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キング

 全国大会準決勝第二試合は前回の優勝チームである仙水高校チーム闘魂と星鳳高校とのバトルとなる。

 すでに第一試合で皇女子高校チームアリアンメイデンが勝利して決勝戦へと駒を進めている。

 このバトルに闘魂が勝利すれば去年と同じ組み合わせとなるが、対戦相手の星鳳高校は岩龍を倒して準決勝まで勝ち進んでいる。

 準決勝はどちらが勝ってもおかしくは無く、注目を集めている。

 準決勝第二試合は月面での戦いとなる。

 月面が地上ステージと同じように重力があるものの、地上ステージよりも重力は軽く重力ステージと無重力ステージの中間に位置するステージだ。

 

「アレ? 藤城のガンプラが少し変わってないか?」

 

 バトルフィールドに入り、龍牙がふと大我のガンプラを見てそう言う。

 大我のバルバトス・アステールは今までとは所々が違っていた。

 

「待ち時間の間に改良を加えた」

 

 大我は準決勝までの間にレオと共にバルバトス・アステールに改良を加えていた。

 その設計データはバトル後にリヴィエールから送られて来た物で、それをレオと二人で完成させたのだ。

 元々、大我のバルバトス・アステールとレオのアスタロト・アステールの内部フレームは独自のガンダムフレームを使いフレーム自体は同じ物を使っていた。

 装甲や装備は戦闘中にどちらかに付け替える事も想定して互換性を持たせている。

 その上で、リヴィエールは2機のガンプラを一つにしたガンプラを設計して大我に送った。

 それが大我の新しいガンプラ、ガンダムバルバトス・アステール・アルファだ。

 ベースはバルバトス・アステールだが、機体のいたるところにアスタロト・アステールのパーツが使われている。

 サイドスラスターはアスタロト・アステールと同じようにシールドスラスターに変更されてショットガンと腕部に装備されていたブレードが装備されている。

 バックパックの太刀と滑空砲は外されて、アスタロト・アステールのフライトユニットを2つに分割してテイルブレイドが使えるようにつけられている。

 膝の増加装甲に更にサブナックルをかぶせて装甲が熱くなりサブナックルの裏側にはマニュピレーターが付けられており、アームで稼働する事でサブアームとしても使う事が出来る。

 頭部はバルバトス・アステールとアスタロト・アステールの2機の物を組み合わせており、アスタロト・アステールのバルカンが追加されている。

 肩のシールドスラスターにはそれぞれ太刀とブレイクアックスが装備されている。

 バルバトス・アステールの攻撃力を維持しながらアスタロト・アステールのパーツを使う事で重力下での飛行能力や機動力、攻撃の手数が増え元々持つ高い攻撃力を更に高める事になっている。

 

「リヴィエールの奴……バルバトスとアスタロトの装備を集約したせいでバランスが滅茶苦茶だ」

 

 アスタロトのパーツを使い強化したバルバトスだが、数値上では性能は格段に向上しているが、その反面機体のバランスは最悪で今まで以上に扱い辛い仕様となっている。

 設計の段階でリヴィエールも気づいていた筈だが、バランスを改善する事無く完成させたと言う事は大我に使いこなして見せろと言う事なのだろう。

 

「面白い。完璧に使いこなしてやるよ」

 

 大我はそう言い機体を一気に加速させる。

 機動力も大幅に向上している為、月の重力を簡単に振り切り単機で突撃して行く。

 

「ダイモン。分かっていると思うが……」

「分かってるってゴウキ。リトルタイガーとは単独で戦うなだろ?」

 

 闘魂もまたバトルフィールドに展開しつつある。

 ゴウキはバトル開始前から散々言っていた事を再度ダイモンに言っていた。

 星鳳高校の準々決勝で大我とレオのバトルを見てダイモンは大我とのバトルを非常に楽しみにしていた。

 だが、ゴウキはそのバトルで恐怖すら感じていた。

 今までは高い実力を持ったファイターと言う認識でしかなかったが、レオとのバトルを見て認識を改めた。

 大我は世界でも通用するレベルのファイターでダイモンが単独で戦えば負ける危険性が高いと。

 闘魂は個人の実力の高いチームだが、アリアンメイデンに敗れたブラッドハウンドのように個人での戦いに特化したチームと言う訳ではない。

 ゴウキはチームのリーダーとしてエースのダイモンを一人で大我と戦わせる訳には行かないと判断してダイモンにも絶対に単独で戦うなと言い聞かせた。

 ダイモンも不服そうだが、レオとのバトルを見ればゴウキがそう考えるのも無理はないと渋々了承した。

 

「ハチべ、キュータ、ジューゾー。俺に付いて来い」

 

 ダイモンのガンダムAGE-2 マッハにランキング8のダイバーであるハチベのジンクスⅣとランキング9位のキュータのビルゴⅡ、ランキング10位のジューゾーのガンダム試作1号機フルバーニアンが続く。

 ハチベのジンクスⅣはGNビームライフルに粒子増量タンク、右肩にGNバスターソード、左肩にGNシールドを装備して、アロウズカラーで塗装されれいる。

 キュータのビルゴⅡは両手にビームライフルを装備している。

 ジューゾーのフルバーニアンは手持ちの火器にマシンガンを持っている。

 二人を連れてダイモンは単機で突撃して来る敵機を迎え撃つ。

 

「AGE-2……ダイモンか」

「やっぱ単機で突撃して来たのはリトルタイガーか」

 

 大我の方でも3機の敵機を補足していた。

 バルバトス・アステール・アルファは減速する事無く、AGE-2 マッハに向かって行くとバーストメイスを振るう。

 だが、AGE-2 マッハは簡単にかわすと背部のツインドッズキャノンを前方に展開してライフルモードのハイパードッズランスと同時にビームを撃つ。

 

「嬉しいな。ガンプラを改造して来てくれて!」

「オマケに8、9、10位もいるのか。少々物足りないがまぁ良いだろう」

 

 バルバトス・アステール・アルファは腕部の200ミリ砲を撃つ。

 フルバーニアンはかわして、加速するとマシンガンを撃ち込む。

 

「キュータ。奴にビームは聞き辛い。防御に回ってくれ、ジューゾーは俺と機動力を活かしてかく乱、ハチベは隙を見て接近戦を……と言いたいんだが、リトルタイガーに接近戦は自殺行為だ。距離を取って援護してくれ」

 

 ダイモンが周りに指示を出す。

 本来なら指示を出すのはゴウキの仕事だが、大我を相手に個々で戦えばわざわざ上位ランカーを投入した意味はない。

 フルバーニアンはマシンガンを撃ちながらバルバトス・アステール・アルファとの距離を保つ。

 ジンクスⅣはGNビームライフルを撃つが、バルバトス・アステール・アルファの表面のビームコーティングに弾かれる。

 バルバトス・アステール・アルファはフライトユニットのガトリング砲を脇の下から前方に向けて連射する。

 アスタロト・アステールは逆手に持って使っていたが、バルバトス・アステール・アルファは腕部がパワーユニットで長くなっている為、ガトリング砲を保持する事が出来ない。

 そのせいでガトリング砲は発射時の反動で銃身がぶれて命中精度は大幅に落ちているが、大我は気にしない。

 ガトリング砲はビルゴⅡがプラネイトディフェンサーを展開して防がれる。

 

「ちっ……面倒だな」

「余所見するなよ!」

 

 ダイモンのガンダムAGE-2 マッハがハイパードッズランサーをランスモードにして突撃して来る。

 それをバーストメイスの柄で受け止めるとドリルニーで膝蹴りで反撃する。

 AGE-2 マッハは離れてドリルニーの間合いから離れるが、そこから膝のサブナックルが展開してマニュピレーターでAGE-2 マッハを捕まえようとする。

 

「マジか!」

 

 AGE-2 マッハはギリギリのところで捕まらずに済んだがが、バルバトス・アステール・アルファは腰のシールドスラスターに付いているブレードを射出する。

 アスタロトの時は腕に付いていたため、腕を振るう事で鞭のようにも使えたが、バルバトス・アステール・アルファでは腰のシールドスラスターに付いている事もありほぼ正面にしか使えないが、相手の不意を付く事が出来る。

 

「初見殺しかよ!」

 

 AGE-2 マッハはハイパードッズランサーでブレードを弾く。

 そこにバルバトス・アステール・アルファは200ミリ砲を撃ち込もうとするが、ビルゴⅡのプラネイトディフェンサーが間に入りAGE-2 マッハを守る。

 

「キュータ、ナイス!」

「邪魔だな」

 

 両肩のシールドスラスターの機関砲をAGE-2 マッハに撃ち込み、プラネイトディフェンサーで守らせている間にテイルブレイドをビルゴⅡの方に差し向ける。

 ビルゴⅡは両手のビームライフルを連射してその内の一発がテイルブレイドに当たって軌道を逸らせたが、左腕を肘から落とされる。

 

「こっちががら空きだぜ!」

 

 フルバーニアンがマシンガンを構えるが、バルバトス・アステール・アルファは膝のサブナックルに付いているマニュピレーターで腰のシールドスラスターに付いているショットガンを抜くとフルバーニアンに向けて放つ。

 フルバーニアンはシールドで防ぐが、シールドは耐え切れずに粉砕されてしまう。

 

「一端下がれ!」

 

 AGE-2 マッハがハイパードッズランサーとツインドッズキャノンを同時に放ち、バルバトス・アステール・アルファを抑える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大我とダイモン達が交戦している頃、星鳳高校と闘魂が本格的に交戦が始まっている。

 月面の岩場で双方は岩陰に隠れながら撃ちあっている。

 

「数はこっちが有利だけど、埒が明かないな……神、八笠。ちょっと仕掛けて来てくれ」

「会長は簡単に言ってくれる」

「けど、状況を打開するには俺達で突貫するしかないですよ!」

 

 岩陰に隠れていたバーニングデスティニーが飛び出す。

 それにドラゴンガンダムオロチが続く。

 バーニングデスティニーは両腕のビームシールドを展開しながら突撃して行く。

 

「隊長! 星鳳の連中が突っ込んできました!」

「俺が行きます!」

 

 突撃して来るバーニングデスティニーをスサノオが向け撃つ。

 バーニングデスティニーの拳を2本の実体剣でスサノオが受けとめる。

 後方からドラゴンガンダムオロチが飛び上がり、スサノオを目掛けてドラゴンヘッドを差し向ける。

 

「やらせん!」

 

 ドラゴンヘッドはゴウキの闘魂デュエルがビームライフルで撃ち抜くとリアアーマーの大型高周波ソードを抜いて切りかかるが、アリオスガンダムレイヴンがGNスナイパーライフルⅡで援護射撃を行い闘魂デュエルはシールドで防ぐ。

 その間にドラゴンガンダムオロチは残っているドラゴンヘッドを差し向けて自身も闘魂デュエルの方に向かう。

 闘魂デュエルは大型高周波ソードでドラゴンヘッドの一つを破壊し、もう一つを頭部のバルカンで牽制し、ドラゴンガンダムオロチの青竜偃月刀を大型高周波ソードで受け止める。

 

「流石にリンドウとレイヴンを二人相手にするのは厳しいか」

「龍牙!」

「はい!」

 

 ドラゴンガンダムオロチが闘魂デュエルを蹴り飛ばすと、そこに合わせてバーニングデスティニーが突っ込んで行く。

 

「やらせるかよ!」

 

 だが、岩陰に隠れていたシゲの高機動型ザクⅡが対艦ライフルでバーニングデスティニーを妨害する。

 

「助かった。シゲ」

「このくらいお安い御用ですよ」

 

 闘魂デュエルは着地して体勢を整える。

 

「黒羽、沖田、清水。援護は任せる。日永、川澄は俺に付いて来い!」

 

 諒真のガンダムクロノスXが岩陰から前に出て、ジムHSCと百騎士もそれに続く。

 岩陰からクラーフレジェンドがビームライフルで、ガンダムAGE-3 オービタルはシグマシスロングキャノンを撃って援護する。

 

「神と八笠は一度下がって体勢を整えろ。前衛は俺達に任せろ」

「会長。頼む」

「済みません」

 

 ドラゴンガンダムオロチとバーニングデスティニーの後退をアリオスガンダムレイヴンが援護する。

 

「来るか!」

 

 スサノオは向かって来るガンダムクロノスXにトライデントスマッシャーを放つ。

 

「やらせないよ」

 

 間にジムHSCが入りシールドで防ぐ。

 ジムHSCの後ろからガンダムクロノスXが飛び上がりビームバスターとクロノスキャノンをスサノオに放つ。

 スサノオは後ろに下がりながら回避すると、シグーディープアームズがスサノオと合流しビームを撃ちながら、ジムHSCをマシンガンで足止めをする。

 

「やるな」

 

 ガンダムクロノスXはビームをかわしながらクロノスビットを展開して殆ど狙いを付けずにスサノオとシグーディープアームズの方に向かわせる。

 クロノスビットがデタラメに狙いを付けている為、当たる事はないが月面に落ちて目暗ましとなる。

 百騎士もビームライフルを連射する。

 爆風の中からヘルムヴィーゲ・リンカーが飛び出してきてヴァルキュリアバスターソードでガンダムクロノスXに切りかかる。

 

「マジかよ」

 

 ガンダムクロノスXはクロノスキャノンで応戦するがヘルムヴィーゲ・リンカーの重装甲は貫けない。

 ヴァルキュリアバスターソードをクロノスアックスで受け止めるが、完全に受け止めきれずにクロノスアックスの柄が簡単に粉砕されて月面に叩き付けられる。

 

「なんつーパワーしてやがる」

 

 ヘルムヴィーゲ・リンカーはそのままガンダムクロノスX目掛けてヴァルキュリアバスターソードを振り下ろしながら落ちて来る。

 その一撃をガンダムクロノスXは何とか回避し、ジムHSCと百騎士はヘルムヴィーゲ・リンカーに集中砲火を浴びせるが、ヘルムヴィーゲ・リンカーの装甲にはびくともしない。

 

「あの装甲は大我じゃないと突破できそうに無いな……」

「会長!」

 

 後方に下がったバーニングデスティニーが戻ってきて回転して勢いを付けた回し蹴りを繰り出すが、ヘルムヴィーゲ・リンカーはヴァルキュリアバスターソードで受けめる。

 更にドラゴンガンダムオロチがヘルムヴィーゲ・リンカーの懐に飛び込んで青竜偃月刀を振るうが、ヘルムヴィーゲ・リンカーの装甲には傷一つつかない。

 

「コイツは俺と龍牙で抑える」

「任せた」

 

 一先ずヘルムヴィーゲ・リンカーは接近戦に強い龍牙と竜胆に任せる事にした。

 ヘルムヴィーゲ・リンカーを何とか抑えた矢先、スサノオがトランザムを使ってガンダムクロノスXに突っ込んで来た。

 

「ちぃ!」

 

 ビームバルカンを向けようとするが、すでに遅くスサノオの実体剣がガンダムクロノスXに迫ろうとしたが、それよりも先にアリオスガンダムレイヴンがトランザムを使って間に割り込んでGNビームサーベルで受け止める。

 

「相手がトランザムならこっちもトランザムで!」

 

 アリオスガンダムレイヴンとスサノオはトランザムを使いながら高速でぶつかり合う。

 後方からクラーフレジェンドのミサイルが降り注ぎ、シグーディープアームズは両肩のビーム砲とマシンガンでミサイルを迎撃し、その間に百騎士がナイトブレード改で切りかかり、シグーディープアームズはレーザー対艦刀で受け止める。

 シグーディープアームズは後ろに飛び退くとマックナイフが2機の間に入るとプラズマクロウで百騎士に切りかかる。

 

「マックナイフ! いつの間に!」

 

 百騎士はビームマントを展開する。

 プラズマクロウで攻勢に出るマックナイフとガンダムクロノスXとジムHSCがビームで牽制するが、マックナイフは軽やかビームをかわすと股間のフォトンボム百騎士に撃ち込む。

 百騎士はビームマントで身を守ったが、右腕が破壊されて苦し紛れにクレイバズーカを撃つが、運良くマックナイフの頭部に直撃する。

 頭部に被弾したマックナイフはビームバルカンを使って敵を寄せ付けないようにする。

 

「数では劣るが互角と言ったところか」

 

 ゴウキは時折ビームライフルで援護射撃を入れながら状況を把握していた。

 向こうは9機でこちらは6機と数では劣るものの静流や竜胆、諒真を除けば個人の実力では闘魂に分がある。

 

「ん? 8機だと?」

 

 ゴウキは相手のガンプラの数は8機しかいない事に気が付いた。

 それと同時にコックピット内に警戒のアラートが鳴り響く。

 

「隊長!」

 

 岩陰から単独で回り込んでいたシュトルゥムケンプファーがビームサーベルを手に闘魂デュエルに迫って来ていた。

 状況の把握に集中していた事もあり、ゴウキの反応は少し遅れて愛依もやれると確信したが、シゲが対艦ライフルを間に割り込ませてシュトルゥムケンプファーのビームサーベルは対艦ライフルを貫いて止まる。

 

「シゲ!」

「まだ!」

 

 シュトルゥムケンプファーは左肩の大型ミサイルポッドを闘魂デュエルに向けるが闘魂デュエルはビームライフルでミサイルポッドを撃ち抜き、シゲの高機動型ザクⅡがジャイアントヒートアックスをシュトルゥムケンプファー目掛けて振り下された。

 ジャイアントヒートアックスはシュトルゥムケンプファーの頭部をかち割り胴体まで達していた。

 

「助かったぞ。シゲ」

「隊長……下手打ったみたいです」

 

 シュトルゥムケンプファーは沈黙しているが、右手にはビームサーベルではなく膝に装備していたザクマシンガンが握られており、シゲの高機動型ザクⅡの胴体に弾痕が残されていた。

 愛依はやられる直前に最後の悪足掻きでビームサーベルを手放してザクマシンガンで高機動型ザクⅡの胴体を攻撃して相討ちに持ち込んだ。

 

「シゲ……良くやった。ここからはこちらも攻めさせて貰う!」

 

 闘魂デュエルは勢いよく飛び出す。

 

「隊長機! まずはアレを!」

 

 史郎のガンダムAGE-3 オービタルは闘魂デュエルにシグマシスロングキャノンを撃つが、シールドで易々と防がれてビームライフルで反撃する。

 ビームはAGE-3 オービタルの右肩と頭部に直撃して破壊する。

 

「部長! 大丈夫ですか?」

「……何とか大丈夫だけど……これじゃもう……」

 

 AGE-3 オービタルは岩陰に隠れる。

 右肩を撃ち抜かれて右腕を失っている為、AGE-3 オービタルでは援護射撃を行う事も出来ない。

 

「こんな時に……僕は何も……」

 

 闘魂デュエルからの追撃はない。

 右腕を失えばAGE-3 オービタルは何も出来ないと考えているのだろう。

 事実、史郎は岩陰に隠れて何も出来ずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 星鳳高校と闘魂の本隊同士の戦闘はやや闘魂有利で進む中、大我とダイモンの戦闘もダイモンが押しつつある。

 バルバトス・アステール・アルファの火器はビルゴⅡのプラネイトディフェンサーで完全に防がれており、4機ともが無暗に接近せずに戦っている。

 

「流石にランカーが連携して来ると面倒だな……」

「笑うが良いさ……だが、俺達もここで負ける訳には行かないからな」

 

 ダイモンとしてはこの戦い型は不服だが、チームが勝つ為にはこのやり方が確実である事は分かっている。

 全国大会優勝チームとしてのプライドを捨ててまで大我を倒さねばならないからだ。

 

「そろそろ仕掛けさせて貰う」

 

 バルバトス・アステール・アルファは一気に加速する。

 だが、バルバトス・アステール・アルファの進行方向には自分達のガンプラは存在しない。

 

「逃げる気か! リトルタイガー!」

「深追いは止せ! ジューゾー!」

 

 ダイモンも一瞬、大我は状況を打開できない為に離脱すると考えた。

 しかし、その考えはすぐに捨てた。

 初めて戦ったあの時、大我は熱砂の旅団と自由同盟の二つのフォースを同時に相手として、その後のEXミッションのEXボスガンプラを単機で仕留めた。

 その戦いでボロボロになっても尚、自分と言う新たな獲物を前に襲い掛かって来た。

 それほどの闘争心を持つ大我がこれしきの事で撤退するとはダイモンには考えられなかった。

 ダイモンの予測が正しかった事はすぐに証明される事となった。

 大我が逃げると考えて、それを追ったフルバーニアンだったが、バルバトス・アステール・アルファは反転すると急制動をかけた。

 突然の事態にジューゾーは対応しきれず、バルバトス・アステール・アルファは腰のシールドスラスターからブレードを射出してフルバーニアンの両肩に突き刺さる。

 そのまま、ブレードごとフルバーニアンがバルバトス・アステール・アルファに一気に引き寄せられていく。

 バルバトス・アステール・アルファはバーストメイスを振り上げてフルバーニアンを粉砕した。

 

「ジューゾーがやられた!」

「くそ! セコイ真似しやがって!」

 

 フルバーニアンがやられた事でジンクスⅣとビルゴⅡもバルバトス・アステール・アルファに向かって行く。

 

「ハチべ! キュータ! 馬鹿野郎が!」

 

 仲間がやられた事で二人は頭に血が上っているようでダイモンの指示を聞いていない。

 元々ハチベ、キュータ、ジューゾーはランキングでも8、9、10位と並んでおり、チーム内ではライバルでもあった。

 だが、一度バトルとなると、互いに戦い方を熟知しているが故にチーム内でも高い精度の連携を見せて来た。

 だからこそ、星鳳高校の中で最も警戒すべき大我を相手するのに3機を連れて来たが、逆効果のようだった。

 フルバーニアンを仕留めたバルバトス・アステール・アルファは向かって来る2機の方に向かって加速する。

 

「なっ!」

「さっきまでとは!」

 

 加速したバルバトス・アステール・アルファは先ほどまでとは比べものにならない速度で突っ込んで来てビルゴⅡにプラネイトディフェンサーで守る隙を与えずにドリルニーを胴体にぶち込む。

 それと同時にジンクスⅣが横からテイルブレイドに襲われて右腕のひじ関節を破壊される。

 

「馬鹿な! 俺達は王者!」

 

 バルバトス・アステール・アルファが腰のブレードを射出してジンクスⅣの頭部を左太ももに突き刺さって引き寄せると胴体に左腕を突き刺して止めを刺す。

 一瞬の内に2機を撃破されて流石のダイモンも助ける事は出来なかった。

 

「邪魔者は始末した。まだコイツの扱いにはなれていなくてな。丁度いい準備運動になった。来いよ。キング」

「全く……本来ならば良いようにやられて憤るところなんだろうな……けど、滾って来た!」

 

 ガンダムAGE-2 マッハは最大加速でバルバトス・アステール・アルファに向かって行く。

 それをバルバトス・アステール・アルファは迎え撃つ。

 

「こうでなくちゃな! 余計な小細工なんてしないで本気で力と力がぶつかり合う! それが俺の望むガンプラバトル! お前もそうだろ! リトルタイガー!」

「さぁな」

 

 2機の機動力はほぼ互角だった。

 機動力が強化されているバルバトス・アステール・アルファならば、MS形態のAGE-2 マッハとも機動力では引き離される事はない。

 

「なら本気にさせてやる!」

 

 AGE-2 マッハは左腕の装甲からビームサーベルを出して切りかかる。

 バルバトス・アステール・アルファは回避するとガトリング砲を前方に向けて連射するが、AGE-2 マッハはストライダー形態に変形して加速してかわす。

 MS形態なら機動力は互角だがストライダー形態でなばら機動力はまだAGE-2 マッハの方が上だ。

 バルバトス・アステール・アルファの攻撃をかわしながら、更に加速するとAGE-2 マッハは背中のツインドッズキャノンを前方に向けて撃ちながら突っ込む。

 200ミリ砲で迎撃するがAGE-2 マッハの速度は緩まず、バルバトス・アステール・アルファに突っ込んで横を通り過ぎる。

 その際にバルバトス・アステール・アルファの頭部にAGE-2 マッハの可変翼が掠り、頭部のV字アンテナの片方が切れる。

 しかし、大我も大人しくはやられてはいなかった。

 すれ違う直前にバルバトス・アステール・アルファはAGE-2 マッハの可変翼の一つをもぎとっていた。

 

「転んでもただでは起きない……それでこそ倒し甲斐があると言うもの!」

「知るか。生憎とこっちは転んでいる暇はないんだがな」

 

 AGE-2 マッハはMS形態に戻ると反転してストライダー形態に再度変形すると真っ直ぐバルバトス・アステール・アルファに向かって行く。

 最大ませ加速するAGE-2 マッハにバルバトス・アステール・アルファは4枚のシールドスラスターの機関砲を使って迎撃する。

 それでも進路は変えないAGE-2 マッハは被弾するが、それでも止まらない。

 

「多少の被弾は覚悟の上だ!」

「ちっ」

 

 バルバトス・アステール・アルファは迫るAGE-2 マッハにカウンターでバーストメイスを振るう。

 タイミングは完璧だったが、AGE-2 マッハはギリギリのところでMS形態に変形してかわす。

 

「何?」

「コイツでぇぇぇ!」

 

 MS形態に変形したAGE-2 マッハはハイパードッズランサーをランスモードで突き出す。

 渾身の一撃はシールドスラスターで受け止める事が出来たが、そこからハイパードッズランサーのドッズガンを連射して月面まで突っ込む。

 勢いを維持したまま、バルバトス・アステール・アルファとAGE-2 マッハは月面に激突する。

 2機が激突した衝撃で土煙が舞い上がり、煙の中からAGE-2 マッハが飛び出て来る。

 その手にはハイパードッズランサーがない。

 

「このくらいでやられてくれるなよ」

「当たり前だ」

 

 煙の中には立ち上がるバルバトス・アステール・アルファのシルエットが見える。

 バルバトス・アステール・アルファは片手でバーストメイスを振るうと、周囲の土煙を風圧で吹き飛ばす。

 煙が晴れて姿を見せたバルバトス・アステール・アルファの左肩にはシールドスラスターを貫通してハイパードッズランサーが肩に突き刺さっている。

 

「左腕は駄目か……それにバックパックもか……やっぱ俺とレオが組み立てたんじゃこの程度か」

 

 大我がガンプラの状態を確認する。

 ハイパードッズランサーが突き刺さる左腕は完全に使い物にならない。

 バックパックもテイルブレイドは問題ないが、フライトユニットはガトリング砲ごと月面に叩きつけられた衝撃で異常が出ているようだ。

 リヴィエールが送って来た設計図に書かれている想定スペックではこの程度の衝撃で異常が出る事は無かったが、取りつけた大我とレオのビルダーとしての実力はリヴィエールと比べれば劣る。

 その為、今のバルバトス・アステール・アルファは本来の性能を出し切れてはいない。

 

「まぁ良い」

 

 大我は使い物にならなくなった左腕をフレームごとパージしてバックパックのフライトユニットもパージして身軽となる。

 同時にバーストメイスの柄も短くして片手でも十分に触れるように調節する。

 AGE-2 マッハも両手にビームサーベルを持って臨戦態勢を取る。

 

「だが……少し認識を改めないといけないな。キング……いやダイモン。お前は俺が全力でぶっ潰すに値するファイターであると」

「……それは光栄だな」

 

 大我もここから本気で来るとダイモンは直感的に感じており、無意識の内に操縦桿を強く握る。

 すると、岩龍戦で見せたようにバルバトス・アステール・アルファの両目が赤く光る。

 ダイモンが身構えた瞬間にバルバトス・アステール・アルファは一瞬の内に視界から消えると強い衝撃が走る。

 バルバトス・アステール・アルファは一瞬の内に距離を詰めるとAGE-2 マッハを蹴り飛ばしたのだ。

 

「これがリトルタイガーの本気……面白い! これとやりたかった!」

 

 AGE-2 マッハは体勢を整えるが、大我の猛攻は止まらない。

 バルバトス・アステール・アルファは追撃してバーストメイスを振るう。

 AGE-2 マッハは左腕の装甲で受け止めるが、片手で振っている為、威力は落ちているものの左腕の装甲は完全に潰されてしまった。

 それでもダイモンは臆する事無く前に出る。

 バルバトス・アステール・アルファは膝のドリルニーを突き出すが、ギリギリのところでかわされて脇腹を抉られるもバルバトス・アステール・アルファに頭付きを食らわせる。

 怯んだところに辛うじて動く左腕でハンドガンを抜くと至近距離で撃ち込む。

 以前に戦った時はハシュマルとの戦闘でビームコーティングの効果が殆ど失われていた為、効果はあったが、今のバルバトス・アステール・アルファには意味はない。

 それでもAGE-2 マッハは撃ち続ける。

 

「もっとだ! もっと早く!」

 

 ハンドガンを撃ち続けていたが、真横からテイルブレイドが飛んでくるがAGE-2 マッハは肩の可変翼を当てて防ぐ。

 だが、その隙を付いてバルバトス・アステール・アルファはバーストメイスを真横から古い、AGE-2 マッハの左腕を潰して吹っ飛ばす。

 

「左は駄目か……だが! まだだ!」

 

 左腕が使い物にならない状態のAGE-2 マッハを畳み掛けるようにバルバトス・アステール・アルファはバーストメイスを振るう。

 しかし、ダイモンは全神経を集中して大我の攻撃をギリギリのところでかわす。

 

「反応速度が上がっているのか」

「これだからやめられないな! ガンプラバトルは!」

 

 ダイモンは大我との戦いの中で更に強くなっている。

 攻撃をかわしながら大我の僅かな隙を付いてビームサーベルをバルバトス・アステール・アルファの右腕に突き刺す。

 すぐに大我は右腕のパワーユニットをパージする。

 

「ちっ……やってくれるな」

 

 バルバトス・アステール・アルファは頭部のバルカンを撃ちながら一度飛び退く。

 バルカンを無視しながらAGE-2 マッハは追い打ちをかける。

 ここまでのダメージでバルカンで装甲にヒビが入り、破壊されるが、ダイモンは引かない。

 今引いてしまえば、勝つチャンスが失われる。

 それを本能的に気づいているからだ。

 

「俺は……勝つ! キングとしてチームを勝利に導くためにも!」

 

 AGE-2 マッハはバルバトス・アステール・アルファに追いつきビームサーベルを突き出そうとする。

 ダイモンもこの一撃で勝負を付けに行こうとしていた。

 しかし、テイルブレイドがAGE-2 マッハの手に当たりマニュピレーターを潰してビームライフルを手放してしまう。

 

「いや……勝つのは俺だ。ダイモン」

 

 バルバトス・アステール・アルファは右肩のシールドスラスターに付いているブレイクアックスを手に持ち、腰にブレードを射出して、AGE-2 マッハの右肩と左膝に突き刺し、ブレイクアックスを振り下ろす。

 まともに防御の取れないAGE-2 マッハだが、とっさに背部のツインドッズキャノンの砲身をパージしてビームサーベルを展開しながら脇の下から前に伸ばす。

 十分にバルバトス・アステール・アルファの胴体まで到達するだけの長さのビームサーベルを出せたが、バルバトス・アステール・アルファの膝のサブナックルで守られてサブナックルを切り裂くが、バルバトス・アステール・アルファを切り裂く前にブレイクアックスがAGE-2 マッハの胴体に深々と突き刺さる。

 

「大した奴だよ。アンタは」

 

 AGE-2 マッハは完全に沈黙して動かない。

 双方のエース同士の戦いは大我に軍配が上がった。

 そして、バトル終了のアナウンスが入る。

 

「……そうか。アンタがフラッグ機だったのか」

 

 闘魂のフラッグ機はダイモンのガンダムAGE-2 マッハだった。

 それが撃墜された事でバトルは星鳳高校の勝利となった。

 大我が勝ったものの少し驚いていた。

 闘魂のフラッグ機はダイモン以外だと予測していた。

 大我を相手にフラッグ機を当てるのは万が一の事を考えればリスクが大きすぎる。

 バトル前はゴウキも同じ理由で自分をフラッグ機にする予定だったが、ダイモンの強い要望があった。

 自分が大我と戦い負ければそこで終わる。

 だからこそ、自分をフラッグ機にする事で絶対に負けられない状態に追い込んで大我に挑んだ。

 自分の敗北はチームの敗北。

 だからこそ、ダイモンは土壇場で更に強くなったのだろう。

 

「やったな! 藤城! 俺達去年の優勝チームに勝ったんだぜ!」

 

 GBNからログアウトすると否や、龍牙が大我に駆け寄る。

 誰だけ拒絶しても龍牙は気にした様子も見せていない。

 

「当然だ」

 

 岩龍に続き去年の全国優勝のチームである闘魂にまで勝利した。

 もはや会場の誰も星鳳高校を弱小チームだとは思っていない。

 星鳳高校が勝利した事で決勝戦は星鳳高校と皇女子高校との対戦となる。

 どちらも東京代表のチームであり地区予選では一度ぶつかっているチームでもある。

 

「やっぱ強いな。リトルタイガー」

「ダイモンか。アンタも少しはやるようだ」

 

 ログアウトして声をかけて来たダイモンに対して相変わらずの態度で龍牙も苦笑いをしている。

 ダイモンも余り気にした様子はない。

 

「今日は俺の負けだが、次にバトルする時はもっと強くなって俺が勝つ!」

「何度やっても俺は負けない。だが……次に戦う時はこんな小さな大会ではなく、もっと大きな舞台でなら相手をしてやる」

「……言ったな? ならすぐに駆け上がってやるさ。次は世界で挑戦してやるよ」

 

 ダイモンはそう言いチームメイトの方に向かって行く。

 それを見て龍牙は余計なトラブルにならずに一安心する。

 

「ほら、行こうぜ。皆お前を待ってるからな」

「……ああ」

 

 龍牙に言われて大我も歩きはじめようとするが、自分の携帯にメールが入っている事に気がづくと歩き出しながらメールの差出人と内容を見ると大我は思わず立ち止まる。

 

「藤城?」

「……何でもない」

 

 大我が形態をしまうと星鳳高校の面々の方に向かう。

 龍牙は気づいてはいないが、この時の大我はいつも以上に険しい表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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エース無き戦い

星鳳高校と前回の優勝チームである闘魂との戦いは星鳳高校が勝利した事で決勝戦は東京地区予選と同じ組合わせとなった。

 地区予選とは違うのは3対3のチーム戦から10体10でのフラッグ戦と言う事だろう。

 ここまでの双方のチームは非常に対称的な戦いで勝ち進んで来た。

 星鳳高校はここまでのバトルは全て大我が相手チームのフラッグ機と仕留めて圧倒的な個の力で勝利して来た。

 それに対して皇女子高校は貴音がフラッグ機を仕留める事が多いが、常にチームの力で勝ち進んで来た。

 決勝戦はそんな個とチームの力のぶつかり合いと言える。

 準決勝が終わり、大会最終日に決勝戦が行われる。

 準々決勝と準決勝の間は時間が余りなかったが、決勝戦までは十分な時間が残されている。

 ホテルに戻り大我が自分の部屋でガンプラの調整を行っている。

 ぶっつけ本番で使って見たが、新しいバルバトスは確かに戦闘能力は格段に上がっていたが、未だに完全な状態とは言えず改善の余地があった。

 

「明日は決勝戦か……」

「なんかあっと言う間だったけどね」

 

 大我と同じように自分のガンプラを龍牙と冬弥も調整している。

 大会自体は数日で予選の方が土日で行われていた分、長く感じる。

 だが、泣いても笑っても明日の決勝戦で大会が終わる。

 

「明日は地区予選の時に負けた皇女子。あの時は俺のせいで負けたから明日のバトルは絶対に勝つ!」

 

 地区予選の時は冬弥は星鳳高校に転校する前だった為、その場にはいなかったがバトル自体は観戦していた。

 地区予選では時間切れとなって残りのガンプラ数で星鳳高校は負けている。

 その時、唯一撃墜されていたのが龍牙で龍牙からすればあの時の敗北は自分のせいで、明日の決勝戦は否応なく気合が入っている。

 そんな龍牙に大我は一切の関心を示す事なく、ガンプラの調整を行っている。

 

「だから明日のバトルも一緒の頑張ろうな。藤城」

 

 龍牙の言葉に大我は一切の反応は無く、ただガンプラを弄っているだけだ。

 龍牙は余り気にしていないが、どこか大我は心ここに有らずと言った感じだが気づく事はない。

 決勝戦を前に各自は自由時間となり、日も暮れて高校生が出歩くには少し遅い時間帯になった頃、大我は一人でホテルの部屋を出る。

 単にホテル内やホテルの近所を散策すると言う訳ではなく、ホテルに持って来た荷物を全て持っていた。

 龍牙や冬弥は史郎達の部屋に遊びに行っていたため、大我がそんな荷物で部屋を出ても怪しまれる事は無かった。

 

「優勝して帰るには少し早すぎないか」

「ちっ」

 

 そんな大我を諒真が呼び止めて、大我は諒真にも聞こえるように舌打ちをする。

 諒真もあからさまな態度に苦笑いを隠せない。

 

「何してんの?」

「いやな……決勝を前に愛しの妹の顔でも見ておこうと思ったのに貴音の奴に殺されかけた」

「馬鹿でしょ」

 

 大我はため息をつく。

 どこまで本気から分からないが、妹の千鶴に会いに行こうとしたらしい。

 尤も、決勝戦を明日に控えているのは星鳳高校だけではなく、皇女子高校もそうである為、実の兄妹だとしても対戦相手のチームである以上はそう易々とは会えない。

 

「そんな事よりも……そんな荷物でどこに行く気だ? ちょっと町に遊びに行くような荷物じゃないよな?」

 

 諒真は急に真面目なトーンで大我を問い詰める。

 大我もこの状況で聞かれないとは思っていない。

 

「……アメリカ」

「……は?」

 

 諒真も大我の答えは予想外だったようだ。

 

「だからアメリカだよ」

「それは聞いた。でもアメリカ? 流石に今か言ってたら明日の決勝には……大我、お前」

 

 諒真も大我の言葉の意味に気が付く。

 決勝前夜にアメリカに行ったとして、決勝戦の時間までに戻って来る事は難しい。

 アメリカに行くと言う事が冗談でなければ、大我は時間までに戻って来る気なのか、または戻る気がないのかのどちらかだろう。

 

「俺は明日の決勝には出ない」

 

 大我そう言い切って諒真の嫌な予感は的中する。

 大我は本気で決勝に出る気はないらしい。

 

「ダイモンに勝ったからか? けど地区予選で珠ちゃんたちに負けてるだろ?」

 

 大我が決勝に出ない理由として考えられるのはランキングトップのダイモンに勝ったからなのだろう。

 元々、大我が全国制覇に興味はなく、全国の猛者と確実に戦える場として、大会に出ている。

 その中でも最強とも言われているランキングトップのダイモンに勝った時点で大我が大会に出続ける理由もない。

 しかし、大我は大会の中で一度だけ敗北している。

 それが地区予選だ。

 判定で負けただけで、バトル自体は実質的に勝利しているが、負けは負けだ。

 

「そんな事は些細な事だよ。今日のバトルが終わった時にルークからメールが来てたんだよ。世界大会のアメリカ予選の日程が決まったってね」

「世界大会……そう言えば全国大会の後だったよな」

 

 GBNのジュニアクラスにおいて最大級のイベントがある。

 それが世界大会だ。

 各国のサーバーから代表フォースが集結して世界一のフォースを決める大会だ。

 毎年、10月に行われそれまでに各国のジュニアクラスのダイバー達の中から代表が選抜される。

 そして、アメリカサーバーの代表フォースを決める予選の日程が決まり、アメリカにいるルークからその知らせが闘魂とのバトル後に大我に送られて来た。

 

「だからルークに頼んでアメリカに戻れるように手配して貰った。少しでも早くチームに合流する必要があるからな。それに比べたら俺の個人的な感情は些細な事なんだよ。どの道、俺が出ないと明日の決勝戦はアリアンメイデンの勝ちは決まったも同然。そうなればどの道世界大会で戦えるかも知れないからな」

 

 代表フォースを決めるやり方は各国のサーバーでは異なる。

 日本サーバーでは全国大会の優勝チームがそのまま日本代表となり、去年も闘魂が出場している。

 一方のアメリカサーバーでは代表フォースを決める大会があり、そこで優勝したフォースがアメリカ代表となる。

 大我もアメリカ予選にビッグスターのメンバーとして参加する予定だ。

 アメリカサーバー自体には日本からGBNにログインしても行くことは可能だが、日本とアメリカには時差があり、チームメイトとはどうしても実際にログインする時間を合わせる事が難しい。

 だからこそ、大我はアメリカに戻りチームと合流する必要があった。

 大会まで残された時間で少しでも個人の技量だけでなく、チームの練度やガンプラの完成度を上げなくてはならない。

 予選大会までは十分な時間はあり、明日の決勝戦を終えてからアメリカに向かう事も出来たが、大我は1秒でも早くチームと合流して世界大会に向けた準備をしたいと思っている。

 

「……どうしても行くんだな?」

「止めても無駄だから。もしも止めると言うのであれば俺は学校を止める。それなら幾ら諒ちゃんでもどうにも出来ないし、星鳳高校の生徒でなければ大会に出る事は出来ない」

 

 大我も冗談で言っているのではない。

 生徒会長とはいえ、生徒の退学には何かを出来る事もなく、大我が学校を止めてしまえば全国大会に出る事も出来なくなる。

 例え大我が星鳳高校を止めたところで、全国大会の予選に出る事は出来る。

 ここで無理やりにでも大我を引き留めるような事をすれば大我は間違いなく、学校を退学するだろう。

 

「そっか……まぁここまで来れたのも大我のお陰だからな。悪かったな。ここまで俺の我がままに付き合って貰って」

 

 大我が全国大会に出る事になったのは、諒真に嵌められたからだ。

 諒真もここまで自分の我がままに大我を突き合わせた事には多少なりとも罪悪感を持っている。

 だから、自分も全国大会に出ている。

 

「別にいつもの事だろ? 諒ちゃんだけで姉ちゃんとかがいないだけマシだよ」

 

 大我が日本にいた頃は良く諒真と千鶴と遊んでいた。

 その時は珠樹や貴音も一緒で、いつも諒真や貴音に振り回されて来た。

 それに比べれば諒真一人に振り回されるくらいはまだマシだ。

 

「それに星鳳でバトルして来て分かった事がある。ここでのバトルはつまらない。レオと戦って分かったんだよ。相手が弱いどうこうの問題じゃない。ダイモンと戦った時にも何も感じなかった。向こうでは相手がどんなに弱くてもつまらないとは思わなかった。多分、ここにはアイツ等がいない。だからつまらなかったんだよ。それが分かっただけでもここでバトルして来た意味はあったと思う」

 

 大我が日本でバトルして来たが、つまらなかった。

 アメリカでは1度でもそんな事は無かった。

 だが、レオとのバトルではそれが無かった。

 単にレオが自分と拮抗するだけの実力者であった事以外でもレオを今でも大我たちは仲間だと思っている。

 だからこそ大我は気が付いた。

 日本でのバトルがつまらなかったのは仲間がいなかったからだと。

 それを知る事が出来ただけでもチームを離れて諒真に嵌められて大会に出た意味はあったのかも知れない。

 

「なら良いんだけどさ……けど何も黙って行くことはないだろ?」

 

 大我の事情は諒真も理解した。

 それならば、黙って行くこともない。

 ここまで大我の活躍で勝ち進んで来た事は誰も否定は出来ない。

 アメリカに戻るのも大我にとっては仲間の為で重要な事である為、全員の理解を得られずとも黙っていなくなるよりかはマシだ。

 黙っていなくなれば、後で全員の恨みを買いかねない事くらい大我にだって分かっているはずだ。

 

「良いんだよ。どんなに取り繕ったって俺は仲間の為にアイツ等を見捨てるんだ。変に理解されるよりも恨まれてくれた方が楽で良い」

 

 大我も黙っていなくなればどうなるかは分かっている。

 同時に大我の行動は星鳳高校を見捨てる事だとも思っている。

 出場メンバーが10人から9人になる事は大きなハンデとはならないが、その1人が大我だと言う事は大きな影響を与える。

 星鳳高校にも諒真や静流、竜胆と言った実力者はいるが、アリアンメイデンを相手にするのには3人だけでは厳しいだろう。

 

「そっか……そこまでの覚悟があるなら何も言わない。こっちを見捨てて行くんだ。絶対に代表になって来いよ」

「分かってる。俺達にとってはようやくめぐって来た最初で最後のチャンスだから負けるつもりはないよ。予選でも世界大会でもね。全てに勝って俺達は世界の頂点を掴みとる」

 

 諒真も大我を引き留める事は出来ず、大我は大我の仲間の為に恨みを買ってまでアメリカに向かうだけの覚悟をしている。

 諒真が出来る事は大我を応援する事くらいだ。

 ここから先は大我が自分で決めて自分の力で進む事を決めた道なのだから。

 諒真は大我を見送る。

 

「さて……どうすっかな」

 

 大我が都合よく、ギリギリになって戻って来るような事は期待できない。

 当日になって大我がいなくなれば士気にも影響するだろう。

 ただでさえ厳しい戦いとなる決勝に大我を欠いた状態での戦いは絶望的だろう。

 

「まぁやるしかないっしょ」

 

 どの道、始めから楽に勝てたバトルは無かった。

 大我がいないからと言って今更ジタバタしたところでどうにもならない。

 諒真は腹を括り決勝前夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 大我がいない事に龍牙も冬弥も余り気には留めていなかった。

 元々、大我は単独行動が多く、一人でどこかに出かけた程度で大我の荷物が全てなくなっていると言う事にも気が付かなかった。

 大我がいなくなっている事に気が付いたのは決勝戦の当日になってからだ。

 それでも決勝の時間は待ってはくれない。

 

「どういう事だ? 藤城の奴は本気で決勝に出ないつもりなのか?」

 

 会場で竜胆が苛立ちを隠さずにそう言う。

 

「アイツは口も悪いし態度もデカいけど、大事なバトルを放りだしてどこかに行くような奴じゃ……」

 

 大我をフォローする龍牙も不安を隠せない。

 未だに大我とは連絡も付かず、行方も分かっていない。

 

(だから大我はここには戻る事はないんだよな)

 

 その中で唯一、諒真だけは事情を知っている。

 とはいえ、本当の事を言うも出来ない。

 

「はいはい。落ち着けっていない奴を当てにしても仕方がない。決勝は9人でやる」

 

 諒真は手を叩いて自分に注目させてそう言う。

 諒真は大我が戻ってこない事を知っている。

 だからこそ、戻らない大我を待たせるよりも、戻らないとして行動した方が良い。

 

「相手は前回の準優勝校って言っても俺達と同じ高校生だ。大我の一人や二人いなくても勝てない相手じゃない。観客の殆どが星鳳高校は大我のワンマンチームだと思っているだろう。大我がいなくても俺達はやれるってところを観客に見せてやろうぜ」

 

 諒真がそう鼓舞する。

 アリアンメイデンを諒真は格上ではなく同じ高校生として同格だと言う。

 実際、個人の実力も高くチームとしての練度は圧倒的に向こうの方が上だが、大我がいない上に格上相手で萎縮するくらいなら、実力差がある事に目を瞑った方がマシだろう。

 

「そうだね。ここまで勝ち進んで来たんだ。最後も頑張ろう」

 

 史郎が締めて決勝戦が開始される。

 決勝戦のバトルフィールドはオーソドックスな宇宙空間でのバトルだ。

 地上ステージならある程度は楽になったが、最後までツキは向こうにあるようだ。

 これまでのバトルは全て大我がフラッグ機だったが、今回は諒真のガンダムクロノスXがフラッグ機となっている。

 

「……撃って来ない?」

「まぁ毎回のようにやっているからね。流石に今回はやらないんだろうね」

 

 バトル開始早々に全員がレギンスレイヴによるダインスレイヴの長距離砲撃を警戒した。

 ここまでの全試合で開幕早々ダインスレイヴを撃って来ているからだ。

 しかし、今回はそれを行わなかった。

 ここまで毎回していれば相手も分かっている為、ダインスレイヴの弾を無駄使いしない為なのだろうと史郎たちは思ったが、それは間違いであった。

 初手のダインスレイヴが来ないと気が緩んだ瞬間、史郎のガンダムAGE-3 オービタルにダインスレイヴの杭が突き刺さる。

 

「撃ってきやがった! 各機散開! とにかく避けろ! 死んでも当たるなよ!」

 

 AGE-3 オービタルがやられて次々とダインスレイヴが撃ち込まれて来る。

 向こうも毎回のように開幕早々のダインスレイヴを行う事で決勝でも使うと思わせていた。

 そこで警戒しながらも撃って来ないと思わせて安心した隙を付いて開会早々のダインスレイヴを撃って来た。

 星鳳高校のガンプラはそれぞれがダインスレイヴの狙撃をかわそうとする。

 

「初手は収まったか……状況は?」

「私は無事です。会長」

「こっちもだ」

「時間差とはやってくれるわね」

 

 諒真はすぐに被害状況を確認する。

 愛依と竜胆、静流は無事なようだ。

 

「他は……くそ! 無事なのは神だけか! 千鶴がやったか」

 

 レギンスレイヴのダインスレイヴで陣形を乱されたドサクサに紛れて千鶴が明日香のクラーフレジェンドと岳のジムHSC、冬弥の百騎士を同時に狙撃して撃墜していた。

 応答はないものの龍牙のバーニングデスティニーの反応はある為、やられてはいない。

 最初のAGE-3 オービタルを含めると開始数秒で9機中4機が落とされて残りは5機と半数にまで減らされてしまった。

 バーニングデスティニーは一直線に突っ込んでおり、その先には敵影の表示がある。

 

「おっと! 中々活きの良い子がいるみたいだね!」

「行かせない!」

 

 バーニングデスティニーは敵陣に切り込んで来た貴音のキマリストライデントに突っ込み殴りかかる。

 キマリストライデントはデストロイヤーランスでバーニングデスティニーの拳を受け止める。

 

「良い判断だ。神! 黒羽と八笠は神と貴音を叩け。俺と縦脇で珠ちゃんを叩く。この2機を優先して仕留める。乱戦になっても向こうは撃って来るからな後方の狙撃部隊は常に意識しとけよ」

 

 諒真がすぐさま指示を出す。

 アリアンメイデンの射撃精度はずば抜けている。

 乱戦に持ち込めば同士討ちを避ける為に撃って来ないと言う事はあり得ない。

 龍牙の元に向かおうとした静流と竜胆の行く手を2機のレギンレイズシュバルベが遮る。

 

「ジュリアも前に!」

「ちっ……突破するぞ」

 

 ドラゴンガンダムオロチは青竜偃月刀を構える。

 アリオスガンダムレイヴンもGNスナイパーライフルⅡを構えて撃つ。

 

「私がリンドウの方を抑えるわ。真澄はレイヴンを抑えて」

「分かったわ。姉さん」

 

 それぞれ香澄のタイプGが牽制射撃を入れながらドラゴンガンダムオロチの方に向かい、真澄のタイプMがアリオスガンダムレイヴンの方に向かって行く。

 

「お前の相手をしている暇はない!」

「悪いけど、抑えさせて貰うわよ!」

 

 ドラゴンガンダムオロチはドラゴンヘッドを全て展開してビームを撃つ。

 レギンレイズシュバルベタイプGは距離を保ったままライフルで応戦する。

 竜胆も香澄の相手はほどほどに龍牙の方に向かって行こうとするが、香澄はそれをさせない。

 レギンレイズシュバルベタイプGは一気に加速するとライフルに付いているランスユニットを突き出す。

 ドラゴンガンダムオロチは青竜偃月刀でランスユニットを受け止める。

 

「押しと通る!」

「貴女の相手は私よ」

 

 レギンレイズシュバルベタイプMはライフルをアリオスガンダムレイヴンに連射する。

 アリオスガンダムレイヴンは機動力を活かしてかわしながら突破を試みる。

 

「流石に7位と言うだけはある……それでも!」

 

 MA形態だったアリオスガンダムレイヴンはMS形態に変形すると肩のビームシールドで攻撃を防ぐ。

 

「面倒な位置に撃って来る……そう言う事。厄介な事を……」

 

 静流はアリアンメイデンの思惑に気が付いた。

 今までは後衛にいる事の多かった2機のレギンレイズシュバルベが前に出て来たのは静流と竜胆の足止めをする為だ。

 星鳳高校で大我の影に隠れているが、静流と竜胆も上位ランカーだ。

 大我一人でも厄介なところに上位ランカーが2人と合わせて3人を同時に戦うのはアリアンメイデンでも厳しい。

 だからこそ、静流と竜胆を香澄と真澄が足止めをして、その間に大我を仕留める手筈だったのだろう。

 香澄と真澄も個人での実力は高いが、それでも上位ランカーの2人をサシで戦えば勝ち目は薄い。

 それはあくまでも倒すつもりで戦えばの話しだ。

 勝つのではなく足止めをして時間を稼ぐのであれば十分に可能だ。

 2機のレギンレイズシュバルベは静流と竜胆の上位ランカーを完全に抑えていた。

 

「黒羽と八笠が抑えられたか……なら俺達が行くしかないか……」

「会長! 来ます!」

 

 静流と竜胆の代わりに龍牙の援護に向かおうとした諒真と愛依の前に珠樹のガンダムエルバエルが向かって来る。

 エルバエルはバエルライフルを撃って来る。

 

「珠ちゃん!」

 

 ガンダムクロノスXはクロノスキャノンで迎え撃つ。

 エルバエルはビームをかわしながらバエルソードを抜くとガンダムクロノスXを素通りしてシュトルゥムケンプファーに切りかかる。

 

「縦脇!」

「会長は先に!」

 

 エルバエルの斬撃をかわしたシュトルゥムケンプファーはビームマシンガンをエルバエルに撃つ。 

 エルバエルはかわしながらバエルライフルを撃ち、ビームマシンガンを破壊する。

 シュトルゥムケンプファーはビームサーベルを抜くとエルバエルに向かって行く。

 

「……任せた」

 

 優先順位ではチームのエースであり野放しにすれば好き勝手に暴れるであろう貴音のキマリストライデントだ。

 この場は愛依に任せて諒真は龍牙の方に向かって行く。

 珠樹の妨害があるかと思ったが、すんなりと珠樹は諒真を行かせた。

 

「神!」

「会長!」

「諒ちゃんも来た事だし、坊やはどいてな」

 

 キマリストライデントはバーニングデスティニーをデストロイヤーランスで弾き飛ばすとガンダムクロノスXに向かって行く。

 デストロイヤーランスとクロノスアックスをそれぞれが振い激しくぶつかる。

 

「一つ聞きたいんだけどさ! 何で大我がいないのよ! 地区予選の借りが返せないじゃない!」

「そいつは残念だったな。まぁ切り札を温存ってところだよ」

「決勝で何言ってのさ!」

 

 キマリストライデントはガンダムクロノスXを弾き飛ばす。

 ガンダムクロノスXはクロノスビットを展開して差し向ける。

 だが、キマリストライデントは一気に加速してクロノスビットを振り払う。

 

「会長!」

 

 バーニングデスティニーがキマリストライデントに向かおうとすると別方向から新たな敵影を補足した。

 

「ジン……君の相手は私だ!」

 

 それは後衛から前に出て来た千鶴のガンダムグシオンリベイクフルシティシューティングスターだった。

 グシオンシューティングスターは両手にグシオンチョッパーを持ちバーニングデスティニーに切りかかり、ビームシールドで受け止める。

 

「千鶴まで前に出て来たのか。各個撃破する気か」

 

 諒真もチームプレイを得意とするアリアンメイデンがチームプレイではなく、ぞれぞれを分断しての各個撃破をして来るとは思ってもなかった。

 だからこそ、麗子は事前に星鳳高校を分断して各個撃破するように指示を出していた。

 

「フラッグ機は後方のレギンレイズのどれかか? この距離じゃ遠距離攻撃で仕留める事は出来そうにないか……」

 

 ガンダムクロノスXはクロノスキャノンを連射する。

 キマリストライデントはかわしながら加速してガンダムクロノスXに突っ込んで行く。

 すでに半数がやられて連携を取ろうにも各機は完全に分断されて孤立させられている。

 状況を打開するにはアリアンメイデンのフラッグ機を仕留めるしかない。

 諒真はフラッグ機は後方からダインスレイヴでこちらを狙っている5機のレギンスレイヴのどれかだと見ている。

 各個撃破はこちらの連携を封じるが、同時に向こうも単機で抑えているせいで連携が取れない。

 その為、返り討ちに合うリスクも生じている。

 フラッグ機が返り討ちに合えばその時点で敗北となる為、こちらと直接戦闘になる5機はフラッグ機にするとは考え難い。

 だからフラッグ機はこちらと直接戦闘にならず、前衛を突破されても5機で戦えるレギンスレイヴのどれかだと諒真は予測していた。

 だが、そう予測する事はアリアンメイデンの監督である麗子も予測していた。

 決勝戦のアリアンメイデンのフラッグ機は千鶴のグシオンシューティングスターにしていた。

 今回は千鶴も前線まで出て交戦する為、返り討ちに合うリスクはあるが、千鶴なら普段は後衛で狙撃をしている為、前線に出て引き気味に戦っても不自然にはならない。

 多少のリスクを背負う事でフラッグ機を狙い一発逆転のリスクを最小限に抑えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 初手の攻撃で4機が落とされて残る5機も分断され、静流と竜胆は2機のレギンレイズシュバルベに抑えられている。

 個々の実力では静流と竜胆の方が上だが、香澄と真澄は2人を倒すのではなく、仲間と合流させないように抑え込む事を優先している為、戦いその物は殆ど拮抗している。

 アリオスガンダムレイヴンは飛行形態を駆使してレギンレイズシュバルベタイプMを振り切ろうとするが、そうやすやすとは振り切らせてはくれない。

 

「行かせない」

 

 レギンレイズシュバルベタイプMはライフルを連射する。

 その内の1発がGNスナイパーライフルⅡに掠りアリオスガンダムレイヴンは手放すと爆発する。

 

「っ! なら!」

 

 アリオスガンダムレイヴンはGNシザービットを展開する。

 レギンレイズシュバルベタイプMはライフルに付いている多目的ランチャーの弾頭を選択して撃つ。

 撃たれた弾頭が破裂すると周囲に粒子をまき散らす。

 GNシザービットが粒子の中に入るとGNシザービットが静流の方からはコントロール不能となる。

 これは多目的ランチャーに装填されている弾頭の一つでまかれた粒子の中ではファンネルやビットと言った武器の制御を不能にする効果がある。

 それによりGNシザービットのコントロールを出来なくした。

 

「ビットを封じた? 余り時間をかける訳には行かないわね……トランザム!」

 

 アリオスガンダムレイヴンのトランザムが起動して赤く発光すると一気に加速する。

 

「トランザム! 流石に早い!」

 

 トランザムで加速したアリオスガンダムレイヴンの機動力を真澄には完全に追い切れてはいない。

 アリオスガンダムレイヴンはGNミサイルを全弾撃ち尽くす。

 レギンレイズシュバルベタイプMはライフルと大型シールドの裏側のバルカンで迎撃するが、完全には迎撃しきれずに大型シールドで防ごうとする。

 GNミサイルが大型シールドに直撃してシールドの内部にGN粒子を流し込み内部から破壊し脆くなったところに飛行形態のアリオスガンダムレイヴンがミサイルポッドをパージしてGNキャノンを撃ち込む。

 レギンレイズシュバルベタイプMは大型シールドごと左腕が吹き飛び、アリオスガンダムレイヴンは先端のGNビーククローで挟むとそのまま切断してレギンレイズシュバルベタイプMを撃墜する。

 

「これで……」

 

 真澄を倒して龍牙の援護に向かおうとするが、アラートが鳴り響く。

 とっさにMS形態に変形して、後方からのダインスレイヴをかわす。

 一発目をかわしてすぐさま二発目をかわしたが、続く三発目をかわし切れずに右肩に直撃してダインスレイヴの弾頭が突き刺さる。

 

「くっ!」

 

 その衝撃でトランザムは解除され、体勢を崩したところに四発目のダインスレイヴの弾頭が直撃する。

 

「ここまで来て……」

 

 四発目は胸部に直撃してアリオスガンダムレイヴンは撃墜された。

 

「黒羽がやられた! ちっ……お前の相手をしている暇はない!」

 

 香澄のレギンレイズシュバルベタイプGと交戦中の竜胆も静流がやられた事は把握していた。

 静流と交戦していたレギンレイズシュバルベタイプMも仕留めている為、状況に大きな変化はない。

 

「竜胆先輩! 俺の方よりも会長の方に!」

「済まないがそうさせて貰う。お前もやられるなよ」

 

 アリアンメイデンのエースである貴音は現在は龍牙のバーニングデスティニーではなく、諒真のガンダムクロノスXと交戦している。

 ガンダムクロノスXは星鳳高校のフラッグ機である為、諒真がやられればその時点で敗北となる。

 その為、龍牙の援護よりも諒真の援護に向かう方が優先される。

 ドラゴンガンダムオロチが進路をガンダムクロノスXの方に変えるが、レギンレイズシュバルベタイプGがライフルを撃ちながら突撃して来る。

 

「邪魔をするな!」

 

 ドラゴンガンダムオロチはランスユニットを青竜偃月刀で受け止めると蹴り飛ばしてドラゴンヘッドを全て差し向ける。

 レギンレイズシュバルベタイプGはランスユニットを振るって一つは弾くが、残り7基のドラゴンヘッドは捌き切れなかった。

 大型シールドで胴体を守るが、レギンレイズシュバルベタイプGはいたるところをドラゴンヘッドに噛みつかれて損傷する。

 その損傷でまともに戦闘は出来ないと判断した竜胆は止めを刺すよりも、諒真の援護を優先して加速する。

 

「珠ちゃん! 突破されたわ」

「こっちは片付いたから問題ない」

 

 レギンレイズシュバルベタイプGを突破したドラゴンガンダムオロチの前に愛依のシュトルゥムケンプファーを仕留めて来た珠樹のエルバエルが立ちふさがる。

 エルバエルはバエルライフルを連射してドラゴンガンダムオロチの足を止めさせる。

 

「バエル! 敵の隊長機か」

「貴音の邪魔はさせない」

 

 ドラゴンガンダムオロチはドラゴンヘッドを差し向けるが、エルバエルは腰のレールガンで2基落としてバエルライフルを連射いてドラゴンヘッドを確実に破壊して行き、残る2基はバーニングデスティニーと交戦しているグシオンシューティングスターが背部レールガンで撃ち落す。

 

「ちっ! 厄介だな。先に仕留める!」

 

 ドラゴンガンダムオロチはスーパーモードを起動させてグシオンシューティングスターの方に向かう。

 グシオンシューティングスターは背部のサブアームに武装コンテナからマシンガンを取り出して迎え撃とうとする。

 

「竜胆先輩はやらせない!」

 

 横からバーニングデスティニーが光の翼を展開してグシオンシューティングスターに突撃する。

 

「ジン!」

 

 バーニングデスティニーはグシオンシューティングスターの懐に飛び込むと右手で背部レールガンの砲身を掴んで、左手で頭部を殴り取っ組み合いに持ち込む。

 その距離ではサブアームのマシンガンでは狙えない。

 グシオンシューティングスターは持っていたグシオンチョッパーで殴るも余り勢いを付けられずバーニングデスティニーの装甲を傷つけているものの離す事は出来ない。

 龍牙はグシオンシューティングスターに千鶴得意の射撃を封じている最大のチャンスに死にもの狂いで離れないように喰らい付いている。

 バーニングデスティニーはグシオンシューティングスターの胴体を殴りながら、バルカンも至近距離で撃ち込む。

 

「コイツだけでも!」

 

 バーニングデスティニーはマニュピレーターが潰れる事もお構いなしに力の限り殴り突ける。

 次第にグシオンシューティングスターの胴体がへこみ始める。

 それでも千鶴は冷静を保とうとする。

 ここで下手に取り乱せば自分がフラッグ機である事を見破られ兼ねない。

 

「千鶴」

 

 すると、珠樹から通信が入りモニターに画像が表示される。

 

「……了解」

 

 千鶴は殴られ揺れながらアラームの鳴るコックピットの中で精神を集中させる。

 これまでも難易度の高い狙撃をいくつも成功させてきた。

 それもその中の一つに過ぎない。

 千鶴は背部レールガンのエネルギーゲージを確認し、残弾とダインスレイヴが使用可能だと言う事を確かめる。

 殴られ続けるグシオンシューティングスターはもがきながら体勢を変える。

 背部レールガンの片方はバーニングデスティニーが掴み、砲身が歪みまともに狙撃が出来ないが、もう片方は使用できる。

 グシオンシューティングスターは何とか砲身をドラゴンガンダムオロチの方に向ける。

 

「やらせるかぁぁぁ!」

 

 千鶴がドラゴンガンダムオロチを狙っている事に気が付いた龍牙はとっさに左手でグシオンシューティングスターの胴体を押して頭部で背部レールガンを下から押し上げて方向を変える。

 バーニングデスティニーガンダムが砲身をずらした直後、グシオンシューティングスターからダインスレイヴの一撃が放たれた。

 その一撃はドラゴンガンダムオロチを完全に逸れていた。

 

「っし!」

「……やられた!」

 

 龍牙は何とか砲身を逸らせて竜胆を助けたが、竜胆は離れたダインスレイヴの方向に何があるのか気が付いた。

 その先にはガンダムクロノスXとキマリストライデントが交戦している。

 

「会長! 危険だ! 逃げろ!」

 

 デストロイヤーランスとクロノスアックスで激しくぶつかり合う2機。

 しかし、不意にキマリストライデントが横に移動するとキマリストライデントの横っ腹をダインスレイヴが横切り、竜胆の声も空しくガンダムクロノスXにダインスレイヴが直撃して上半身が吹き飛ぶ。

 

「なっ!」

「これが狙いだったのか……」

「あっぶな……」

「グッジョブ」

 

 珠樹の指示はドラゴンガンダムオロチを狙うように見せかけてバーニングデスティニーに砲身をずらさせてガンダムクロノスXを狙えと言うものだった。

 星鳳高校のガンプラは静流と愛依がやられて残りは3機だった。

 その中でも近接戦闘を重視して敵と激しくぶつかり合うバーニングデスティニーとドラゴンガンダムオロチはフラッグ機である可能性は低いと珠樹は見ていた。

 仮にガンダムクロノスXがフラッグ機でなかったとしても、残り2機な上に逸らしたと思った攻撃が味方を仕留めたとなれば少なからず動揺して、バーニングデスティニーを仕留めるのは難しくなく、ドラゴンガンダムオロチも千鶴に退かせてキマリストライデントと2機がかりでレギンスレイヴの援護もあれば十分に勝機は見込めた。

 尤も、珠樹の読み通り、ガンダムクロノスXがフラッグ機であった為、バトルはアリアンメイデンの勝利となった。

 その後、表彰式も問題なく終わり、龍牙達の全国大会は準優勝と言う形で終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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キャラ設定

・星鳳高校

 

 

藤城 大我

 

 

主人公。

 

アメリカで頭角を現しているフォース「ビッグスター」のエース。

 

日本の高校に入学する為に一時的にチームを離れている。

 

フォースの仲間以外に対しては基本的に喧嘩腰で高圧的に接する事が多く、それ故に敵も多い。

 

過去に千鶴と約束した「世界で一番のファイター」になると言う約束を果たす為に強い相手とのバトルをする為なら多少の無茶も辞さない。

 

両親はかつてGBNで伝説となったビルドファイターズのリーダーである藤城大悟と参謀の皇麗子で幼少期からガンプラやGBNに触れている為同年代ではずば抜けた実力を持つ。

 

使用ガンプラはガンダムバルバトス・アステール

 

 

 

 

神 龍牙

 

1年。

 

過去に星鳳高校が全国大会に優勝したバトルを見て星鳳高校に入学する。

 

性格は猪突猛進で当初は大我を気に入らなかったが、地区予選や全国大会で共に戦い仲間として認めている。

 

使用ガンプラはバーニングデスティニーガンダム。

 

 

 

黒羽 静流

 

2年生

 

ジュニア部門国内ランキング7位の実力を持つ星鳳高校のエース。

 

使用ガンプラはアリオスガンダムレイヴン。

 

 

 

清水 明日香

 

1年生

 

龍牙の幼馴染。

 

元々はガンプラに興味はなく、龍牙の付き添いの形で入部する。

 

全国大会出場後は大我と共にガンプラを制作する。

 

使用ガンプラはクラーフレジェンドガンダム。

 

 

 

沖田 史郎

 

3年生

 

星鳳高校ガンプラ部の部長。

 

自己主張が余りない為、部内では目立たない。

 

使用ガンプラはガンダムAGE-3

 

 

 

如月 諒真

 

3年生

 

星鳳高校生徒会会長。

 

大我とは幼馴染で扱い方を熟知している。

 

大我を全国大会に出場する羽目になった張本人。

 

ランキングは高くはないが、静流に勝てる程の実力者。

 

使用ガンプラはガンダムクロノスX

 

 

 

桜庭 颯太

 

ガンプラ部顧問。

 

星鳳高校の卒業生で10年前にガンプラ部で全国大会優勝時の部長だった。

 

 

 

縦脇 愛依

 

2年生

 

星鳳高校生徒会副会長。

 

ガンプラバトルの実力は表向きはそこそこだが、GBNでガンプラアイドル「アイちゃん」で活躍しておりかなりの物。

 

使用ガンプラはシュトルゥムケンプファー、ガーベラテトラ

 

 

川澄 岳

 

2年生

 

高い技量を持つビルダーで元々はガンプラ部に入ってはいなかったが、大我とのバトルに破れ、バルバトス・アステールに惚れ込んで入部する。

 

使用ガンプラはジムHSC

 

 

八笠 竜胆

 

2年生

 

ジュニアクラス国内ランキング6の実力者。

 

元々は部やフォースに属さずにソロでGBNをプレイしていたが、龍牙と戦い大我に負けた事で入部をする。

 

入部後は仲間と戦う事も悪くはないと思うようになり、それ故に大我とは反りが合わない。

 

使用ガンプラはドラゴンガンダムオロチ

 

 

日永 冬弥

 

1年生

 

龍牙とは中学時代の友人。

 

元は都内の進学校である秀麗高校に通っていた。

 

親が大病院の院長でいずれは親の跡を継ぐ為、ガンプラバトルを続けることが難しく秀麗高校でガンプラ部を先輩と共に作るが、地区予選で星鳳高校に敗れた事で廃部となる。

 

その後、星鳳高校に転校してガンプラ部に入部する。

 

使用ガンプラはグレイズリッター改、百騎士

 

 

 

 

・皇女子高校(アリアンメイデン)

 

 

 

如月 千鶴

 

1年生

 

諒真の妹。

 

ジュニアクラス国内3位の実力者。

 

射撃が得意で狙撃能力は変態クラス。

 

使用ガンプラはガンダムグシオンリベイクフルシティシューティングスター

 

 

 

 

藤城 貴音

 

2年生

 

大我の姉。

 

皇女子高校のエース。

 

使用ガンプラはガンダムキマリストライデント

 

 

 

藤城 珠樹

 

3年生

 

大我と貴音の姉。

 

アリアンメイデンの隊長。

 

口数は少ないが的確な指示でチームを指揮する。

 

使用ガンプラはガンダムエルバエル。

 

 

 

内山 香澄

 

3年生

 

アリアンメイデンの副隊長。

 

口数の少ない珠樹の補佐役で実力は珠樹や貴音には劣るが、他校ではエースを張れるだけの実力を持つ。

 

使用ガンプラはレギンレイズシュバルベタイプG

 

 

 

内山 真澄

 

2年生

 

香澄の妹

 

使用ガンプラはレギンレイズシュバルベタイプM

 

 

 

 

藤城 麗子

 

アリアンメイデンの監督

 

大我たちの母親。

 

元はビルドファイターズの参謀で旧姓は皇で皇女子高校理事長の娘でもある。

 

敵の情報を徹底的に解析して弱点を付いて追い詰めていくところから現役時代の異名は「鬼畜眼鏡」

 

 

・仙水高校(闘魂)

 

 

ダイモン

 

3年生

 

闘魂のエースでジュニアクラス国内ランキング1位の実力者。

 

高機動戦闘を得意として音速のキングの異名を持つ。

 

使用ガンプラはガンダムAGE-2 マッハ。

 

 

ゴウキ

 

3年生

 

闘魂のリーダーでジュニアクラス国内ランキング5位の実力者。

 

戦闘スタイルはダイモンのように目立った部分はないもののバランスが良い。

 

使用ガンプラは闘魂デュエルガンダム。

 

 

 

 

・その他

 

南雲 レオ

 

福岡代表チーム「岩龍」のエース

 

元は大我と同じビッグスターに所属していたが、フォースを抜けている。

 

大我とはその時からのライバル関係であり、大我と互角の実力者

 

使用ガンプラはガンダムアスタロト・アステール

 

 

 

虎児路 右京

 

福岡代表チーム「岩龍」のリーダー。

 

ジュニアクラス国内ランキング2位で接近戦においては1位のダイモン以上と言われている。

 

使用ガンプラはガンダムX斬月

 

 

リヴィエール・ムント

 

ビッグスターの専属ビルダー。

 

神の手を持つと言われる程のビルダーで大我のバルバトス・アステールやレオのアスタロト・アステールは彼女が制作した物。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

独自設定

 

 

・フリーバトル

 

 受付でルール等の細かい条件を提示して独自の空間で行う。

 バトルのマッチングはランダムと指定が可能でランダムの場合はダイバーポイントが近いダイバーと行うか完全にランダムかを選択できる。

 バトルは他のダイバーも自由に閲覧できるが、バトルするダイバーが非公開に設定すればダイバーが許可したダイバー以外はバトルを観戦する事は出来ず、ログを見る事も出来ない。

 

・ランキング

 

 18歳以下のジュニアクラスと年齢制限なしのオープンレベルがあり、アカウント取得時に選択できる。

 ジュニアクラスは各国のランキングと世界ランキングの2種類でランク付けされている。

 

・EXミッション

 

 ディメンションのオープンワールド内で特定の条件を満たした時に起こるミッション。

 ミッション自体は定期的に入れ替わり、新しいミッションが発生する場合もある。

 その中でもフォース単位で挑む事を想定したEXボスガンプラが出て来る事もある。

 

・全国大会

 

 毎年ジュニアクラスで行われている公式大会。

 各高校から1チームの参加が可能で、高校に属していればガンプラ関係の部活等に属していなくても参加は可能。

 成りすましを防止する為に参加するダイバーは毎回、大会運営が用意した会場でログインしなければならない。

 

・各国サーバー

 

 各国にそれぞれのサーバーがあり、それぞれに独立したオープンワールドがある。

 サーバー間同士の移動は自由だが、基本的にログインした国のサーバーのロビーから開始する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ガンプラ設定

 

・星鳳高校

 

 

ガンダムバルバトス・アステール

 

 リヴィエールが制作したガンダムバルバトス(第六形態)の改造機

 元々のバルバトスの攻撃力を更に上げる改造がされており、腕部にはパワーユニットが付けられ圧倒的なパワーを誇る。

 背部にはバルバトスルプスレクスのテイルブレイドが増設されている事で見た目はバルバトスルプスレクスに近くなっている。

 手持ちの武器は超大型メイスをベースに改造されたバーストメイスで内部にパイルパンカーの予備の杭が入っている為、パイルバンカーを数回使う事は出来るが、重量が増して攻撃力の強化に一役買っている。

 先端の杭はダインスレイヴとしても使えるが一度使えば衝撃で内部機構に不具合が発生してそのバトルではパイルバンカー共々使えなくなる。

 肩には機関砲の内蔵されたシールドスラスター、足の裏に展開式のエッジ、膝の増加装甲にピンバイス状のドリルニー、腕部に200ミリ砲、背部に太刀と滑空砲等が装備されている。

 後に兄弟機のアスタロト・アステールのパーツを使いガンダムバルバトス・アステール・アルファへと改修される。

 

 

 

 

 

バーニングデスティニーガンダム

 

 龍牙が制作したデスティニーガンダムの改造機。

 頭部のバルカン以外の全ての装備を外して格闘戦に特化したガンプラ。

 格闘戦に特化しているが、Gガンダムに登場するモビルトレースシステムは龍牙が格闘技に通じていない事もあり使われてはいない。

 

 

 

 

アリオスガンダムレイヴン

 

 静流が制作したアリオスガンダムの改造機。

 全身を黒く塗装し、バックパックはガンダムハルートの物を使って火力を底上げしている。

 手持ちの火器にケルディムガンダムのGNスナイパーライフルⅡをMA形態でも使えるように改造して持たせている。

 高い機動力と火力を持ち、遠距離から中距離、接近戦にも対応できる万能機でトランザムの使用も可能。

 

 

 

 

クラーフレジェンドガンダム

 

 明日香が大我の協力の元制作したレジェンドガンダムの改造機。

 バックパックのドラグーンユニットは明日香の実力では扱えないと判断されてインパルスガンダムのブラストシルエットに変更され、腰のドラグーンも稼働可能なビーム砲として使われている。

 外されたバックパックは大我によりドラグーンシールドとして再利用されている。

 脚部にはジンのミサイルポッド等高い火力を持つ。

 

 

 

 

 

 

ガンダムクロノスX

 

 諒真が制作したクロノスの改造機。

 クロノスをガンダムレギルス同様にライン状のセンサーの下にツインアイを持たせてガンダムタイプに改造されている。

 元の火力をXトランスミッターの増設で使用可能となったクロノスビットとギラーガの多関節機構の尾とクロノスガンを組み合わせたクロノステイルで向上している。

 クロノスビットを大量に使用すると本体の操縦が疎かになる。

 手持ちには先端にビームライフルが内蔵されたクロノスアックスを持ち格闘戦にもある程度は対応できるようになっている。

 

 

 

 

 

シュトルゥムケンプファー

 

 愛依が制作したケンプファーの改造機。

 ジャイアントバズや大型ミサイル、対艦ライフル、ザクマシンガン等多彩な火器を持ち全国大会ではビームマシンガンとグフのシールドを装備している。

 

 

 

 

 

ジムHSC

 

 岳が制作したジムの改造機。

 見た目は普通のジムだが細かいところまで作り込んでいる為、高い完成度を誇る。

 HSCはハイスペックカスタムの略。

 

 

 

 

ドラゴンガンダムオロチ

 

 竜胆が制作したドラゴンガンダムの改造機。

 全身に8基のドラゴンヘッドが装備され、展開する事で内蔵されているビーム砲や直接噛みつかせて攻撃する事が可能。

 手持ちの武器は青竜偃月刀のみで近接戦闘を得意とする。

 ベース機同様にハイパーモードになる事も可能。

 Gガンダムの機体はデフォルトで操縦系統をモビルトレースシステムに設定できるが、竜胆は通常タイプのコックピットにしている。

 

 

 

百騎士

 

 冬弥が制作した百式の改造機。

 両肩にビームマントの発生装置を増設し、全身の装甲を強化し、頭部はガンダムタイプに近い物になっている。

 ビームライフルやクレイバズーカ、ビームサーベルやグレイズリッター改が装備していたナイトブレード改を装備し、バランスの良いガンプラとなっている。

 

 

 

 

・アリアンメイデン

 

 

 

 

ガンダムグシオンリベイクフルシティシューティングスター

 

 千鶴が制作したガンダムグシオンリベイクフルシティの改造機。

 フルシティのガンダムフラウロスの砲撃能力を合わせたガンプラで機体のカラーもフラウロスと同じピンク色となっている。

 フラウロスのように可変機構はないが、頭部の精密射撃モードと千鶴自身の腕のお陰で高い狙撃能力を持つ。

 両肩のレールガンと手持ちの大型リニアライフルは通常射撃の他にもエネルギーをチャージする事でダインスレイヴとしても使える。

 リアアーマーは取り外してシールドとしても使えるが、シザースへの変形機構は廃止されて、内部に武器を仕込むホルスターとして使える。

 バックパックと膝には武装コンテナが増設され、サブアーム等に持たせて使うだけでなく友軍に譲渡する事も出来る。

 

 

 

 

 

ガンダムキマリストライデント

 

 貴音が制作したガンダムキマリスヴィダールの改造機。

 3種のキマリスとヴィダールの特性を併せ持ち、宇宙や重力下で高い機動力を誇る。

 両肩にはミサイルボットが内蔵され、手持ちのデストロイヤーランスとシールドにつけられているグングニルとドリルランスに内蔵されている火器がある為、ある程度の火力を持つ。

 

 

 

 

ガンダムエルバエル

 

 珠樹が制作したガンダムバエルの改造機。

 バックパックにはウイングスラスターを増設して翼のような形となり機動力の向上と手持ちのバエルライフルと小型のバエルシールド、腰にはフリーダムガンダムから流用したレールガンが装備され火力を向上させて汎用機となっている。

 腰にはビームサーベルの代わりにバエルソードが装備されている。

 大我曰く、このガンプラは珠樹のチーム戦用のガンプラで個人戦用のガンプラは他にある。

 

 

 

 

レギンレイズシュバルベ

 

 香澄、真澄姉妹の使うレギンレイズジュリアの改造機。

 どちらも同タイプのガンプラでマニュピレーターを通常の物に換装されており、左腕には最終決戦仕様で装備されていた大型シールドを装備している。

 姉の香澄は紫で塗装されており、手持ちの武器はレギンレイズ用のライフルの下部にランスユニットを装備したタイプGで妹の真澄は下部に多目的ランチャーの装備されたライフルに腰にはベース機のジュリアンソードを手持ちの武器に改造したシュバルベソードを持つタイプM。

 タイプGのGはガエリオ、タイプMのMはマクギリスを刺し、レギンレイズジュリアがレギンレイズのエース向けの機体として正式採用され、ガエリオとマクギリスの専用カスタムをされていると言う設定の元制作されている。

 

 

 

レギンスレイヴ

 

 アリアンメイデンで使用されるレギンレイズの改造機。

 長距離砲撃を主体にした改造をされており、グレイズのダインスレイヴユニットを手持ちの火器として改造されている。

 グレイズの物とは違い手持ちの火器で、友軍機に装填して貰わずとも5発分の弾頭が装備されている。

 ダインレイヴを全て撃ち尽くした後はダインスレイヴユニットをパージしてリアアーマーにイオク機が装備していたレールガンが折り畳んで装備されており、レールガンで後方支援を行う。

 

 

・闘魂

 

 

 

 

ガンダムAGE-2 マッハ

 

 ダイモンが制作するガンダムAGE-2(特務隊仕様)の改造機。

 ベース機の機動力を更に向上しており、肩の可変翼は大型化され、ストライダー形態時にはすれ違いざまに相手を切り裂くブレードとなっている。

 ハイパードッズライフルは下部にドッズランサーの槍が取り付けられており、ライフルモードと銃身を槍にしまった近接戦闘用のランスモードに切り替えられるハイパードッズランサーに改造されている。

 バックパックにはツインドッズキャノンが装備され、両足はダブルバレットの物をベースにしている為、火力も向上し、腕部のビームサーベルとサイドアーマーにはハンドガンと装備も充実している。

 

 

 

闘魂デュエルガンダム

 

 ゴウキが制作したデュエルガンダムASの改造機。

 バックパックをエールストライカーに変更して機動力を向上し、両肩はミサイルポッドとなっている。

 腰には百錬の片刃式ブレードを流用した大型高周波ブレードを2基装備されている。

 増加装甲は赤く塗装されている。

 

 

 

・岩龍

 

 

 

 

ガンダムアスタロト・アステール

 

 リヴィエールが制作したガンダムアスタロトの改造機。

 大我のバルバトス・アステールの兄弟機で対となるガンプラ。

 バルバトス・アステールが一撃の攻撃力を重視したのに対して手数を重視した改造がされている。

 バックパックにはガトリング砲の付いたフライトユニットが装備され、肩と腰のシールドスラスターと合わせて高い機動力と重力下での飛行能力を持つ。

 内部のガンダムフレームはバルバトス・アステールと同じ物が使われており、装甲や装備は互換性があり、後に2機の装甲と装備を合わせたガンプラがリヴィエールによって設計されている。

 

 

 

ガンダムX斬月

 

 右京が制作したガンダムXの改造機。

 ベース機の大火力機から一転して近接戦闘に特化している。

 バックパックのサテライトキャノンは大太刀の鞘として改造されている。

 全身に増加装甲が装備され、腕部の2連装ビームガンと胸部のブレストバルカンしか火器は装備されていない。



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世界大会編
新たな目標


全国大会が終わり9月となり星鳳高校も2学期となり授業が始まる。

 新学期に入ると夏休み中にガンプラ部が全国大会で準優勝した事を大々的に祝われたが、彼らからすれば最後に負けて帰って来た事もあって内心は複雑だった。

 新学期に入り少しするといつもの日常が戻る事となるが、龍牙達の日常は以前とは少し違っていた。

 まず、新学期早々、大我が学校を休学している。

 理由は龍牙達には分からないが、龍牙達も全国大会の決勝前夜から大我とは一度も顔を合わせてはいない。

 同時に大我はガンプラ部を退部している。

 そして、ガンプラ部も目標としていた全国大会が終わり、3年生の史郎は引退して2年の静流を新部長として新体制で始動した物の当面の目標もなくただ毎日を過ごす日々が続いている。

 これまでは地区予選を勝ち抜き全国大会を目指す事を目標にして、全国大会出場が決まってからは全国大会を勝ち抜く事を目標にして来た。

 その全国大会も終わり、目標もなく龍牙達は部室に集まっている。

 竜胆は部室に寄りつかず一人でGBNにログインしていて、岳も一人で黙々と新しい作品の制作に取り掛かっている。

 史郎は部長の引き継ぎでちょくちょく顔を出している。

 決勝戦で負けたあの日の事は誰も離さない。

 アリアンメイデンとの戦いは聖鳳高校は結果だけを見れば手も足も出せずに惨敗した。

 その大きな敗因は大我が抜けた事だが、それは誰も口にしない。

 それを口にして認めてしまえば、自分達は大我がいなければ全国大会を戦えなかったと認めてしまうからだ。

 だからこそ、大我への恨み言一つ零さずに自分達の無力さを噛みしめるしかなかった。

 

「……何か最近部室の空気が重いですね」

 

 明日香が場を和ませようと誰に問いかける訳でも無くポツリと零す。

 それに誰かが答えると言う訳でもないが、重い空気に見かねた静流が先ほどから見ていたPCの画面を龍牙達の方に向ける。

 

「いい加減終わった事を気にする事は止めなさい。中々面白い記事を見つけたわ」

 

 静流にそう言われて龍牙達は何気なく静流に向けられたPCの画面を見る。

 画面にはGBNの海外のサーバーで行われているバトルの記事のようで日本語に翻訳されている。

 

「えっと……アメリカ代表決定戦に流星の如く現れた超新星……このガンプラ!」

 

 内容としてはアメリカサーバーで行われている世界大会の代表決定戦で破竹の勢いで勝ち進んでいるフォースの特集記事のようだ。

 そして、一番大きな写真に写されているガンプラに龍牙達は知っていた。

 全国大会準決勝で共に戦ったガンダムバルバトス・アステール・アルファだ。

 記事は大我の所属フォースであるビックスターの特集記事で大我がビッグスターのエースとして紹介されている。

 その記事を見る限り、大我は立ちはだかる敵を一撃で粉砕して来ているようだ。

 

「アメリカ代表決定戦が全国大会決勝戦をすっぽかした理由みたいね」

「世界……藤城の奴……そんな舞台を見ていて……」

 

 以前大我は全国大会を馬鹿にするような事を言っていた。

 あの時はただ自分達の目標を馬鹿にされたようでただ腹が立った。

 今でもそれを認めた訳ではないが、大我がそれ以上を見据えていた。

 龍牙は無意識のうちに拳を握り締める。

 自分達の目標としていた全国大会は終わり、目標を見失った日々を過ごしていた。

 その間にも大我は世界大会と言う大舞台を目標に日々精進を重ねていた。

 それが龍牙には悔しくもどかしく感じた。

 

「あの! 黒羽先輩! その世界大会にはどうしたら出られるんですか?」

 

 そんな龍牙の心のうちを察した明日香が静流に追いかける。

 その質問の答えは龍牙でも知っている。

 

「そうね。日本の代表は毎年全国大会の優勝チームが出ているわね」

「そんな……」

 

 明日香にもその意味が分かり、視線を逸らす。

 星鳳高校が負けた全国大会の決勝戦で勝っていれば星鳳高校は世界大会に出る事が出来ていたのだ。

 

「負けた私達に世界大会に出る資格はないわ。それも藤城君がすっぽかしたせいでね」

「それは……」

 

 静流の言葉に部室の空気が更に重くなる。

 部員の誰もが少なからず思っていた事だ。

 決勝戦に大我が入れば勝てたかも知れないと。

 それでも口に出さず、思っていた事も無かった事にしていた言葉を静流は口にした。

 

「いい加減認めないと前には進めないでしょ。私達は藤城君がいたから全国に行けたし、決勝まで勝ち進めた。でも、藤城君がいなくなったから負けた」

 

 静流の言葉に誰も反論出来ない。

 今まで星鳳高校が勝ち進めたのは大我が敵のエースを倒して来たからだ。

 もはや、それは認めざる負えない事実だ。

 

「もう彼はここには戻ってこないでしょうね。これで来年結果を残せなかったら。私達は……」

「そんな事はさせません!」

 

 龍牙は勢いよく立ち上がると静流の言葉を遮る。

 

「藤城の奴がいなくても俺達は戦えます! 来年はもっと強くなって優勝します! そして、世界大会で藤城にも勝ちます!」

 

 そう言い切る龍牙に目には闘志が宿っている。

 静流も敢えて大我の事を教えた甲斐があったと言うものだ。

 目標を失いただ日々を無意味に過ごしていたが、新しい目標が出来て龍牙はそこに向かって突き進むだろう。

 

「盛り上がっているところ悪いんだけど、来年なんて言ってられないんだよな」

 

 そこに諒真が割り込んで来る。

 諒真とも全国大会が終わってからは顔を合わせる機会は無かった。

 

「会長? どういう事ですか?」

「それがさ、さっき学校に連絡があったみたいでさ。今年の日本代表の選出方法が変わったんだよ」

 

 学校の方にGBNの運営から連絡があり、それを生徒会長である諒真の元に伝えられてこうしてガンプラ部に伝えに来た。

 

「今年の優勝校のアリアンメイデンが世界大会出場を辞退したんだよ」

「まさか……それで準優勝のウチが?」

 

 本来世界大会に日本代表として出場する筈のアリアンメイデンだったが、監督の麗子から辞退したいとGBNの運営の方に申し出があった。

 理由としてはアリアンメイデンの実力では世界を相手に勝ち抜ける程の実力ではないからだと言う事だ。

 事実として世界から見て日本のジュニアクラスの実力は低いと言わざる負えない。

 特にアリアンメイデンは戦い方も固定されている為、世界と戦うのは厳しい。

 それでGBNから学校側に連絡が来たと言う事は静流は準優勝校の星鳳高校が繰り上げで世界大会に日本代表として出ると思い至ったが、諒真は首を横に振る。

 

「そこまで上手い話じゃないんだよな。アリアンメイデンの監督さんがそのまま日本代表の監督として就任する事は変わりないけど、メンバーの選出が変わったんだよ」

 

 麗子は辞退したが、代わりに新しい代表メンバーの選出を提案した。

 その選出方法がきっかけで学校に連絡が来たようだ。

 

「まずはランキングの上位3人、つまりはダイモン、コジロウに千鶴の3人だ。そこに全国大会の優勝チームと準優勝チームから各2人づつ」

 

 諒真は指を立てながら説明する。

 ランキング上位と全国大会で優勝と準優勝チームからメンバーを選出するようで、星鳳高校は準優勝している。

 つまりは星鳳高校から2人を世界大会の日本代表として選出するように言われたと言う事だ。

 

「ここまでで7人。世界大会の代表は10人必要だから残りは3人。この3人は監督がスカウトして来るらしい」

 

 ランキングや大会の順位は目安に過ぎない。

 中にはランキングで上位に入れなかったチームの中にも麗子が必要とする人材がいる可能性を踏まえて、残りの3人は麗子がスカウトして来る。

 そして集められた10人が今年の世界大会の日本代表と言う事になる。

 

「ウチから出す2人は最低限全国大会で1戦以上は出ている奴に限るけど、俺も縦脇も出る気がないからそっちで出たい奴が出て良いから」

 

 諒真は用件だけ言うと帰って行く。

 諒真が帰った部室は静まり返る。

 

「……先輩」

「分かっているわよ。出たいんでしょ?」

 

 龍牙は頷く。

 何か裏があるんじゃないかと勘繰りたくなるような振って沸いた話しだが、これに乗らない手はない。

 

「話しは聞かせて貰った」

 

 そこに今度は竜胆が部室に入って来る。

 竜胆も日本代表の話しは聞いているようだ。

 

「龍牙。少し付き合え」

「……分かりました」

 

 これまで部室に余り顔を出さなかった竜胆が久しぶりに部室に来たらどこか雰囲気が違う。

 龍牙は戸惑いながら竜胆に付いて行く。

 

「さて、一人目は神君としてもう一人はどうする?」

「私はいいかな」

「僕も世界を相手に戦えるだなんて自惚れは出来ないですよ」

 

 明日香と冬弥は早々に辞退する。

 

「僕も興味はないな」

 

 黙々と作業をしながら話しを聞いていた岳も辞退する。

 静流は横目でちらりと史郎を見る。

 

「実力で言えば黒羽さんか八笠君なんだけど……」

「……部長はそれでいいの?」

 

 静流は候補の中に始めから自分が入っていない事を遠回しに非難する。

 

「どうしたの? 急に。実力で言えば当然だと思うけど」

「本当に後悔しないの?」

 

 静流の言葉に史郎は視線を逸らす。

 史郎は答えず、部室の空気は重いままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍牙が竜胆に連れて来られたのは部活でもGBNにログインする為に使われるゲームセンターだった。

 道中、竜胆からは何の説明も受けてはいない。

 

「竜胆先輩?」

「龍牙。今から俺と戦え」

 

 竜胆はそう言うが雰囲気はただらなぬものを感じる。

 

「それは構いませんけど……」

「ただ戦うんじゃつまらない。そうだな……負けた方は世界大会に出る事を辞退するってのはどうだ?」

「辞退って」

「俺もお前も近接戦闘を得意としている。星鳳高校から似たようなタイプのファイターを送り出す訳にもいかないだろう。ウチから世界大会に出るのは俺かお前かのどちらかで良い」

 

 龍牙にも竜胆の言う事は理屈としては分かる。

 どちらも近接戦闘を得意としている。

 世界大会を勝ち抜く為に集められたファイターの中に確定しているだけでも近接戦闘に長けている右京もいる。

 何人も似たような戦闘スタイルのファイターは必要ないと言う事も理解出来る。

 

「……分かりました」

 

 竜胆の意図は分からないが、竜胆とのバトルは回避できそうに無い。

 それと同時に龍牙は竜胆を相手に今の自分がどこまで戦えるのかを試して見たくも思っていた。

 そして、ここで尻込みをして逃げるようなら、世界を相手に戦える筈もない。

 だから龍牙は竜胆とのバトルを受けた。

 龍牙と竜胆はログインすると受付でフリーバトルの申請を行う。

 以前に戦った時は大我が乱入して来て決着は付かず終いだったが、これなら決着が付くまで戦える。

 バトルフィールドは以前に戦った時と似ている森林地帯でのバトルだ。

 

「今日は今までの練習とは違い一切の手加減は無しだ」

「望むところです」

 

 バーニングデスティニーとドラゴンガンダムオロチは互いに向かい合い戦闘態勢を取る。

 先に動いたのはドラゴンガンダムオロチ。

 踏込み間合いを詰めると連続で青竜偃月刀を突き出す。

 それをバーニングデスティニーは腕で受け流す。

 連続突きを受け流されながらもドラゴンガンダムオロチは蹴りを繰り出し、バーニングデスティニーは腕でガードしながらも後方に下がる。

 

「腕を上げたな」

「竜胆先輩のお陰で。次は俺から行きます!」

 

 バーニングデスティニーは勢いをつけて突っ込み殴りかかる。

 その一撃を青竜偃月刀の柄で受け止めるとドラゴンヘッドを展開する。

 

「これをどう防ぐ?」

 

 バーニングデスティニーはバルカンを撃ちながら後方に下がりながらドラゴンヘッドをかわす。

 だが、ドラゴンガンダムオロチは距離を詰めて青竜偃月刀を振るう。

 ビームシールドを展開して防ぐが、勢いで吹き飛ばされてしまう。

 

「どうした? その程度か! 龍牙!」

 

 何とか体勢を整えるが、ドラゴンガンダムオロチは追撃の手を緩める事はない。

 ドラゴンガンダムオロチの攻撃を防戦一方だったが、バーニングデスティニーのガードを青竜偃月刀で打ち崩すと胴体に蹴りを入れる。

 バーニングデスティニーはそのまま蹴り飛ばされて倒れる。

 

「……やっぱ竜胆先輩は強い」

 

 バーニングデスティニーは何とか立ち上がる。

 

「見せて見ろ。お前の力を!」

 

 ドラゴンガンダムオロチはドラゴンヘッドをバーニングデスティニーに差し向ける。

 8つのドラゴンヘッドは真っ直ぐバーニングデスティニーに向かって行く。

 バルカンで迎撃し、2つは破壊出来たが残る6基がバーニングデスティニーに喰らい付く。

 

「けど……」

「ん? これは……」

「俺は!」

 

 出応えは確かにあった。

 6基のドラゴンヘッドに喰らい付かれたバーニングデスティニーはまだ動いていた。

 

「俺は……アイツと大我ともう一度戦うんです!」

 

 バーニングデスティニーは6基のドラゴンヘッドの内、両手で1つづつ受け止めて、1つを足で踏みつけて防いでいた。

 残り3つは左肩と右足、腹部に噛みついていたが、致命傷にはなっていなかったようだ。

 バーニングデスティニーは踏みつけているドラゴンヘッドを踏み潰して、両手で受け止めているドラゴンヘッドを強引に引き抜いて破壊する。

 

「だから、俺は世界大会に出ないといけない……だから竜胆先輩でもそれだけは譲れません!」

 

 自身に喰らい付いているドラゴンヘッドもバーニングデスティニーは無理やり引き剥がす。

 ドラゴンヘッドの攻撃は致命傷にはならなかったが、バーニングデスティニーは満身創痍だが、拳を構えて龍牙の闘志は衰えてはいない。

 むしろ、追い詰められて更に闘志が増している事を竜胆は肌で感じていた。

 

「ああ。それで良い! 来い! 龍牙!」

 

 ドラゴンガンダムオロチはハイパーモードとなり金色に輝く。

 そして、青竜偃月刀を構える。

 バーニングデスティニーも光の翼を最大出力で展開する。

 2機はにらみ合い同時に地を蹴る。

 

「ハァァァ!」

「うぉぉぉぉぉ!」

 

 ドラゴンガンダムオロチに青竜偃月刀の突きとバーニングデスティニーの拳が同時に出る。

 2機は交差してドラゴンガンダムオロチの突きはバーニングデスティニーの肩を切り裂き光の翼の片方が吹き飛ぶ。

 光の翼の片方を失い、肩の装甲もフレームにまでダメージが及びバーニングデスティニーは膝をつく。

 

「……大した物だ。龍牙。お前は本当に強くなった」

 

 ドラゴンガンダムオロチの胴体にはバーニングデスティニーの拳がめり込んでいた。

 その一撃に膝関節が耐え切れずにもげていたが、龍牙の渾身の一撃は確かに竜胆に届いていた。

 ドラゴンガンダムオロチは倒れ龍牙の勝利のアナウンスが入る。

 

「ありがとうございました!」

 

 バトルが終了し、エントランスに戻って来ると龍牙は竜胆に頭を下げる。

 龍牙も竜胆がこのバトルを仕掛けた意味に薄々は感づいていた。

 表向きは似たタイプのファイターは必要ないと言うものだが、龍牙は自分が世界を相手に戦う覚悟があるのかを見極める為だったのだと思っている。

 世界を相手に戦う為には先輩であろうとも力で押し退けるだけの覚悟が必要なのだと言う事をバトルを通じて教えたかったのだと。

 

「礼には及ばんさ。俺が勝てば本気で辞退させる気だったからな」

 

 それは本当の事だろう。

 竜胆に一対一で勝てないようでは世界を相手に戦えはしない。

 

「俺に勝ったからには藤城の奴と戦うだけじゃ駄目だ。戦って思い切りぶん殴って倒して来い」

「……分かりました。約束します」

 

 龍牙は大我ともう一度戦いたいが為に世界大会に出ようとしていたが、竜胆はそれだけでは終わらせてはくれない。

 竜胆は部の中で大我との折り合いが悪かった。

 決勝戦を直前で行方を暗ませた事に最も腹を立てているのは竜胆だろう。

 それに対して掲示板等で誹謗中傷をするのではなく、ファイターとしてバトルで決着を付ける手段として部を捨ててまで参加する世界大会で大我を倒して優勝を阻止する事が意趣返しとなる。

 それを竜胆は龍牙に託した。

 龍牙はその重さをかみしめた。

 

 

 

 

 龍牙と竜胆の決闘の翌日。

 諒真は再びガンプラ部の部室を訪れた。

 この日は竜胆も含めてガンプラ部の部員は全員揃っている。

 

「それでウチから出す二人は決まったのか?」

 

 諒真が来る前に昨日の事は皆に話し、竜胆は出ないと言う事も伝えてある。

 そうなれば静流が出るのだろうと口には出さないものの誰もが思っている事だろう。

 

「皆、実力で言えば黒羽さんが出るのが一番なんだろうけど」

 

 史郎は普段とは少し違い何か決意を持っている雰囲気で話し出す。

 

「僕が出てもいいかな」

 

 それは誰もが予想していなかった事で反応に困った。

 史郎にも参加資格はあるが、史郎の実力では世界を相手に戦えないと言う事は口に出さずとも明白だ。

 

「意外だな。俺は八笠か黒羽辺りになると思っていたが」

「僕もそれが一番だと思っていたよ。でも一晩考えたんだ。僕は全国大会の決勝戦で負けても悔しくは無かったんだよ」

 

 史郎の言葉を皆は静かに聞いている。

 全国大会で決勝戦で星鳳高校は負けた。

 龍牙や竜胆、静流は敗北して悔しがり、岳は大会の結果自体には興味はなく、明日香や冬弥はそこまで行けるとは思っていなかった為、概ね満足はして敗北を受け入れていた。 

 だが、史郎は大我がいなくなった時点で内心では勝負を諦めていたのか、負けたのに悔しく無かった。

 

「それに僕は部長なのに大会では何も出来なかった。戦う事も皆をまとめる事も」

 

 元々史郎が部長になったのは唯一の3年生で実力は静流には及ばなかった。

 部長と言う事で隊長機に設定されていたものの、バトルでは諒真が仕切る事が多かった。

 

「僕は他の皆のように実力はないから、これから先もGBNを細々とプレイする事になると思う。だけど、そうなる前に世界を舞台に戦えるなら足手まといかも知れないけど挑戦してみたいんだ」

 

 龍牙達は内心驚いていた。

 入部して数か月になるが、史郎がここまで自己主張をしたのは初めてだ。

 それだけの決意を持っているのだろう。

 

「良いんじゃない? まだ部長なんだし、少しくらい自分勝手をしても」

 

 真っ先に賛成したのは静流だった。

 静流は部内では最も史郎との付き合いは長い。

 史郎は部長と言う立場にありながら、自己主張もしないで周りに合わせてばかりでヤキモキしていた。

 史郎が世界に通用するかはともかく、ここで強く自己主張するのは静流にとっても喜ばしい事でもあった。

 

「まぁお前らがそれで良いなら俺は全然かまわないけどな」

 

 諒真も反対する気はないようだ。

 元々、全国大会に出たダイバーから2人を選ぶように言って来ている以上は実力が伴わなくても資格があれば問題はない。

 

「んじゃ決まりだな。俺は監督の方に連絡を入れて来るから」

 

 諒真が部室を出て行くと史郎は大きく息をつく。

 半ば勢いで言ってしまったが、不思議と後悔はなく、清々しい。

 

「部長! 一緒に頑張りましょう!」

「そうだね。自分で言い出した以上は後悔しないように頑張ろう」

「はい! その為には特訓と……川澄先輩。俺にガンプラ作りを教えて下さい」

 

 余り話題に興味の無かった、岳が手を止める。

 

「世界を相手に戦うには今のバーニングデスティニーじゃ駄目なんです。俺だけじゃない。バーニングデスティニーも強くならないと」

 

 ここまでの戦いで感じて来た事だ。

 龍牙は戦いの中で成長して来た。

 これから先更なる強敵と戦うには龍牙の成長だけでなく、バーニングデスティニーの更なる強化も必要となって来る。

 龍牙は制作スキルに関してはそこまで高くはない。

 短期間で強化するには高い制作技術を持つ岳に指導して貰う必要があった。

 

「僕からもお願い出来るかな?」

「……部長命令ならまぁ」

 

 岳も引き受けてくれるようだ。

 

「だが、龍牙。幾らガンプラを強化してもお前が扱えなかったら意味はないんだ。代表チームの合流までの短い期間だが、みっちり鍛えてやるからな」

「お願いします! 竜胆先輩」

 

 星鳳高校は世界大会と言う新たな目標を見つけて、それに向かいそれぞれが進み始めるのだった。

 

 

 

 

 

 



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集結日本代表チーム

 星鳳高校に世界大会の日本代表メンバーを2人出すように連絡が入り、龍牙と史郎が名乗りを上げた頃、日本代表チームの監督である藤城麗子は福岡のとある高校を訪れていた。

 その高校は今年の全国大会においてベスト8になったチーム岩龍の通う高校だった。

 麗子は応接室に通されて、岩龍のリーダーであるコジロウこと右京とレオと対面している。

 右京は突然の事だったが、麗子の用件は世界大会の事だとは想像できる。

 

「こうして直接話すのは初めてよね」

「そうですね。それで今日はどのようなご用件で? 南雲まで同席させるようにとの事ですが?」

 

 右京はともかく、レオまでこの場に来るように言われた事までは右京も事情は聴いていない。

 レオも麗子とは直接的な面識はなく、アリアンメイデンの監督と言うよりは大我の母親と言う印象が強い。

 

「単刀直入に言うわ。南雲君にも今年の世界大会のメンバーに加わって欲しいの」

 

 麗子の用件はレオのスカウトのようだ。

 日本代表チームにはまだ空きが3つ残されている。

 

「貴方の実力は全国大会に出たダイバーの中でも飛び抜けていたわ。その力を世界大会に貸して欲しいの」

「俺をですか? 俺は全国で大我に負けてんですよ?」

「そうね。でも、大我を相手にあそこまで戦えたのは貴方とダイモン君だけよ」

 

 レオは全国大会で大我に負けている。

 だが、大会で大我を相手にまともに戦えていたダイバーはレオの他にはダイモンくらいだ。

 すでにダイモンは日本代表のメンバーに入る事を了承している。

 ダイモンと共に日本代表の中核となるダイバーとして麗子はレオをスカウトしたいと思っている。

 

「大会まで余り時間はないからなるべく早いうちに答えを聞かせて貰えると助かるわ」

 

 麗子も回答をこの場で出させるような事はしない。

 幾ら実力があったとしても、その場のノリで曖昧な気持ちのままメンバーになられても大会までに使い物になるかは分からない。

 最低限世界と戦うだけの心構えは必要だ。

 その後は、右京に今後の予定と軽い質疑応答で右京の性格や人柄を把握して麗子は帰って行く。

 だが、レオの頭の中には入っては来なかった。

 

「レオ。どうするつもりだ?」

「そうっすね……」

 

 レオは心ここに有らずと言った様子だった。

 

「俺、チームを抜けた時は何となく、このままあそこにいたら駄目になる気がしたからなんだったんですけど、今、ようやく分かった気がします。俺はアイツ等と一緒に世界を目指したかったんじゃない。俺はアイツ等を世界を舞台に戦いたいんだって」

 

 レオがかつて所属していたビッグスターは世界大会優勝を狙っていた。

 だが、レオにとってはチームで世界大会を優勝する事に興味は持てなかった。 

 その理由が今はっきりとわかった。

 レオは世界大会で優勝したかった訳ではなく、大我やチームのメンバーたちと世界大会と言う大舞台で戦いたかったのだと。

 

「丁度、俺の新しいガンプラも完成の目途も経ったし、ウチから元隊長だけじゃ不安だから俺も出ますよ。出て全国の借りを大我に返します」

 

 レオのアスタロト・アステールは外装や武装の大半を大我のバルバトス・アステールに付けている。

 決勝後は大我はレオと会う事無くアメリカに渡っている為、今のアスタロト・アステールはバトルに使える状況ではない。

 レオ自身もパーツを返せと言う気もなく、これを機会にかつてのチームで用意されたガンプラではなく、自分のガンプラの制作に取り掛かっていた。

 そのガンプラを引っ提げて世界大会に乗り込み、全国大会で負けた借りを返すのも悪くはないだろう。

 大我たちはまだ予選を戦っている段階だが、レオは必ず勝ち進んで来ると思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオをスカウトした麗子は東京に戻る事無く、そのまま静岡に向かい仙水高校を訪れた。

 右京と同様にダイモンとの顔合わせやもう一人スカウトした人材がいるからだ。

 応接室でダイモンこそ、大門光一郎とゴウキこと剛毅源之助と会っていた。

 麗子は源之助にも世界大会のメンバーに加わって欲しいと頼み、源之助も全国大会で優勝を逃した時点で敗北を受け入れて世界大会に出る事も諦めていた為、驚きを隠せない。

 麗子が源之助をスカウトした理由は源之助の戦闘スタイルは上位ランカーの3人のように特出した物はないが、欠点もないバランス型で尚且つ、全体的に高いレベルでまとまっている。

 そんな源之助を加える事で戦い方にも幅が出て来る。

 同時に光一郎共々去年、世界大会に出場しているが結果は散々な事になっている。

 その経験は他のメンバーにはない物だ。

 それらの説明をしてレオの時同様に時間を与えて考えるように言ったが、源之助は迷う事無く頭を下げて自分を日本代表に加えて欲しいと頼んで来た。

 彼にとっては一度は諦めた世界大会に出られチャンスが巡って来たのだ、考える必要も無かった。

 その後は軽く打ちあわせをして麗子は東京に帰って行く。

 東京に戻ると皇女子高校に戻る事無く、そのまま星鳳高校へと向かう。

 

「……お久しぶりです」

「そうね。全国大会では会う事も無かったわね」

 

 生徒会室で諒真は普段からは考えられない程緊張して萎縮している。

 諒真は昔から貴音と共に大我と珠樹、千鶴を引き連れて色々と悪さもしている。

 その時、何度も麗子には怒られた事もあり、今となっても軽くトラウマになっている。

 

「それで今日はどのような……大我が決勝戦に出なかった事は……」

「それについてはどうせあの子が勝手にやった事でしょうね」

「なら、星鳳高校から出したメンバーに不服でも?」

 

 大我が全国大会の決勝に出なかった事でもないとすればすでに連絡済みの星鳳高校から出す世界大会のメンバーに問題があったかくらいしか諒真には麗子が直接自分を訪ねて来る理由はない。

 

「神龍牙君と沖田史郎君に関しては何の問題はないわ。怖いものなしで突っ込む切り込み役もチームを一歩引いたところから見れる人物もチームに必要な人材だから」

 

 龍牙と史郎は大我や静流、竜胆と比べれば実績もなく実力も劣る。

 だが、麗子にとってはそんな事は重要ではない。

 龍牙はガンプラの特性から相手に突っ込んで行く事が多い、それは無謀とも言えるが切り込み役としてみれば使いどころはある。

 史郎も自己主張が少ないが、見方を変えればチームを一歩引いたところから客観的に見ているとも取れる。

 単純に実力があるだけのダイバーを集めるだけでは世界を勝ち抜く事は出来ないと麗子は考えている為、10人の中に龍牙や史郎のようなダイバーも必要だと考えている。

 実力が足りないのであれば、世界大会までに鍛えれば良いだけの事だからだ。

 

「今日は如月君。貴方を日本代表チームにスカウトしに来たの」

「俺を? いやいや。俺の実力なんてたかが知れてるし、必要ないでしょう」

 

 諒真は緊張もほぐれていつも通りの調子が戻って来る。

 諒真は自身の必要性を否定するが、麗子は動じない。

 

「全国大会で勝ち抜いて来たのは大我が敵のフラッグ機を仕留めて来たと言う事もあるけれど、同時に貴方が大我を上手く使って来たからだと言えるわ」

「俺は好きにやらせただけなんですけどね」

 

 星鳳高校が全国大会で準優勝出来たのは大我がいたからだと言う事は麗子も異論はない。

 だが、幾ら高い実力者がいても、指揮官が扱い切れなければ意味はない。

 その点、諒真は大我を上手く扱って来たと言える。

 本人は好きにさせていただけだと言っているが、それは言う程簡単な事ではない。

 大我がフラッグ機なら大我が負けた時点でチームの敗北となる。

 幾ら実力があっても、負けた時点でチームの敗北となるフラッグ機と単体で好きにさせるなどリスクが大きすぎる。

 しかし、そうする事で大我は好き勝手に暴れられて本来の力を十分に発揮させる事が出来ると言う事は諒真が星鳳高校のチームで大我を上手く扱って来たとも言える。

 

「日本代表チームは各学校から集められた急造のチーム。今までやって来た事もやり方もまるで違う。チームのリーダーは珠樹に任せる気ではいるけど、あの子は私が徹底的に戦い方を仕込んでいるから指揮官としての能力は十分だけど、コミュニケーション能力が欠けているわ」

「あー成程」

 

 諒真も珠樹とは小さい頃からの友人であるが故に麗子の言いたい事は分かる。

 珠樹は指揮官としての実力は高いが、人付き合いは苦手としている。

 今まで部長をやって来れたのも、副部長の香澄と妹の貴音のサポートがあったからだろう。

 だが、今回は貴音も日本代表のメンバーとして出るが、香澄は出ない。

 その上、チームとしての纏まりのない日本代表とチームとして纏める為に麗子は諒真を日本代表のメンバーとして加えたい。

 

「そう言う訳だからお願い出来る?」

「買被り過ぎだとは思いますけど、幼馴染の中で俺だけ出ないって言うのもなんかハブられているみたいで寂しいし、その話し受けさせて貰います」

 

 諒真自身はそこまで世界大会に興味がある訳ではないが、世界大会には日本代表として妹の千鶴や幼馴染である貴音や珠樹も出る。

 そして、大我もアメリカ代表として出てくれば幼馴染が全員世界大会に出る事となる。

 それをただの観客として見ているだけと言うのもそれはそれでさみしく思う。

 諒真にとってはそれだけで世界大会に出る理由としては十分だった。

 諒真が日本代表メンバーに入る事を了承した事で日本代表メンバーが10人そろった事になる。

 今後の事を話し、麗子は帰って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 それから1週間後、星鳳高校の3人は日本代表メンバーの顔合わせも兼ねて皇女子高校まで行く事となった。

 闘魂と岩龍の4人はGBNでの合流となっている。

 星鳳高校にはGBNへのログイン環境が揃っていない為、日本代表としての練習や打ち合わせでGBNにログインする際は皇女子高校からログインする事になっている。

 龍牙もこの1週間で岳の指導の下、バーニングデスティニーを強化し竜胆と共にGBNで訓練に明け暮れた。

 

「なんか女子高って言い響きだよな」

 

 皇女子高校の校門前に到着すると諒真がそう言いだす。

 以前にも龍牙や史郎は練習試合で皇女子高校を訪れているが、諒真はあの時はいなかった。

 

「何変な妄想しているの。兄さん」

 

 そんな諒真を出迎えた千鶴がゴミを見るような冷たい眼差しで見る。

 

「全国大会以来ね」

「そうだな。まさか同じチームで戦う事になるなんて思っても無かった」

 

 諒真を完全にスルーした千鶴は龍牙と史郎を部室まで案内する。

 以前にも来ている為、場所は分かっているが、流石に女子高に他校の男子生徒を自由に移動できるようにするのは問題がある為、基本的に校内では千鶴の付き添いが必要となっている。

 

「ふっははははっはよく来たな! 星鳳高校ガンプラ部の諸君!」

 

 千鶴がガンプラ部の部室のドアを開けると机の上に仁王立ちしている貴音が出迎える。

 以前に来た時も似たような事があったと龍牙と史郎は思うが、千鶴は何事も無かったかのように案内を続ける。

 

「取りあえず荷物はこの部屋にでも置いておいて。すぐにGBNにログインするから」

「アレ? ちーちゃん。なんか冷たくない? 少しくらい驚いてよ! せっかく待ってたのに無反応とか悲しいじゃん!」

「貴音。千鶴も年頃なんだよ。過度な干渉は鬱陶しがられるだけだと言う事に気が付いた方が良い。まぁ俺にはそんな事はないがな」

 

 千鶴にスルーされた貴音の肩に手を置き、諒真はかわいそうなものを見るように貴音を励ます。

 

「そうだよね。年頃の女の子だから変な事ばかりしているとゴミを見るような眼差しを向けられかねないからね。まだ私はそんな事はないけどね」

 

 そう言う二人の事など全く気にする様子もなく、千鶴は龍牙と史郎を案内して、それを流石に少しかわいそうになって来たと龍牙と史郎は思いながらも千鶴に付いて行く。

 荷物を置いた龍牙と史郎は千鶴と共にGBNにログインする。

 ログインすると二人はアリアンメイデンのフォースネストに向かう。

 本来はアリアンメイデンのメンバーでなければ入る事は出来ないが、今回は日本代表もここを使う為、許可を出して貰っている。

 フォースネストはフォースによって異なるが、アリアンメイデンのフォースネストは鉄血のオルフェンズに出て来るスキップジャック級戦艦をフォースネストとして使っている。

 フォースネスト内のブリーフィングルームにはすでに珠樹や麗子の他にも龍牙達同様に許可を得て入っているダイモンこと光一郎たちも揃っている。

 それから少しして諒真と貴音も来てようやく顔合わせが始まる。

 

「これで代表メンバーが揃った訳だけど、まずは突然の招集に応じて貰った事には改めて感謝します。すでに聞いている通り、この10人で今年の世界大会を戦って貰うわ」

 

 麗子は簡単に今後の事とチームのリーダーを珠樹に任せ、そのサポートとして副隊長と諒真と源之助に任せた。

 

「貴方達は顔見知りもそれなりにいるし、自己紹介はこんなところでするよりもバトルの中でやって貰った方が早いと思うからまずは準備運動も兼ねて1戦やって来て頂戴」

 

 お互いの事を知るのであれば、フォースネストで一人一人が自己紹介をするよりもバトルの中で自分を見せた方が彼らにとっては手っ取り早く、麗子にとっても今後のチームの方針を決める上でも都合が良い。

 それは龍牙達も望むところだった。

 

「へぇ。これが神君の新しいガンプラなんだ」

「はい。名付けてガンダムバーニングドラゴンデスティニーです!」

 

 フォースネストの格納庫にはそれぞれのガンプラがハンガーにセットされている。

 史郎は龍牙の新しいガンプラを見て関心している。

 史郎もこの1週間はまともに部活に出ていない。

 その為、龍牙の新しいガンプラをここで初めて見た。

 龍牙の新しいガンプラ、ガンダムバーニングドラゴンデスティニーは今まで使っていたバーニングデスティニーを強化改修した物だ。

 全体的に装甲を増設し関節部分も強化して格闘能力を更に高めている。

 今までは赤く塗装していたが、赤に近い紫色で塗装され背部のウイングが2枚から4枚に増設して機動力を高める事で装甲を増設した事による重量の増加を補っている。

 

「先輩のガンプラは……AGE-3? それともZZですか?」

 

 隣のハンガーに置かれている史郎のガンプラを見て龍牙は首をかしげる。

 一見すると史郎のガンプラは額のビーム砲や手持ちの左右に2門の砲門を持つライフルやバックパックの形状等からZZガンダムにも見えるが、肩のくの字の装甲版や胸部のA模したマークはガンダムAGE-3にも見える。

 

「ベースはAGE-3だけどそれをZZ風に改造したんだよ」

 

 龍牙の見立てはどちらも間違ってはいないようだ。

 史郎の新しいガンプラはガンダムAGE-3 オリジン。

 ガンダムAGE-3 ノーマルをベースにガンダムAGE-3のデザインのモチーフとなったZZガンダムに似せた改造がされている。

 手持ちのダブルビームライフルはAGE-3 フォートレスのシグマシスキャノンの砲身を2つ使って手持ちの火器に改造したダブルシグマシスライフル。

 頭部のZZの代名詞とされるハイメガシグマシスキャノン。

 バックパックはZZの物をベースにしており、ハイパービームサーベルはマウント時はドッズキャノンとしても使える。

 両肩の装甲版はシールドとしても使えるように加工し、腕部の装甲に内蔵されているビームサーベルもそのまま使え使わない時でもドッズガンとして使えるように改造されている。

 

「二人とも新ガンプラを用意して来たか。なら俺も世界大会に合わせて用意したガンプラを見てくれ」

 

 諒真もまた世界大会に合わせて1週間で新しいガンプラを作り上げていた。

 ガンダムデュナメスをベースにしたガンダムデュナメスXペスト。

 狙撃能力に長けたデュナメスだが、諒真はそれを射撃主体の万能機として改造した。

 手持ちの武器を両手にGNソードⅡを持たせる事で射撃能力だけでなく近接戦闘にも対応できるようにして、背部の左側にはGNスナイパーライフルの銃身を改造したGNロングキャノンが装備され、反対側にはGNシールドビットが6基装備されている。

 両肩にはエクシアのアバランチユニットの物を付けられ機動力を向上させて、腰にはGNソードⅡをマウント出来るようになっている。

 ベース機のGNピストルとGNビームサーベルはそのまま使えるようになっており、全身にはGNミサイルの内蔵された増加装甲により重装甲となっている。

 それらの火器を全て使ったフルバーストはまさに嵐の如くと言う所からテンペストと名付けテンをXに置き換えたのは諒真がその方がなんかカッコいいからと思ったからだ。

 

「これが珠樹さんの個人戦用のガンプラですか」

「そう」

「お姉ちゃんのウイングゼロ久しぶりに見るね」

 

 千鶴が珠樹のガンプラを見上げていた。

 今まではチーム専用に用意したガンダムエルバエルを使っていたが、世界大会では個人専用に作ったガンプラを使う事にしている。

 ウイングガンダムゼロ(EW)をベースにしたウイングガンダムゼロエトワール。

 ツインバスターライフルの銃身にはブレードを付けて、腰にはバエルソードをベースにした実体剣ゼロソードが装備されている。

 両腕にはアンカクローが装備され、元々の性能に近接戦闘能力を強化している。

 

「コイツが大我と戦う為に用意した俺の新しいガンプラ。ガンダムネビュラアストレイです」

 

 レオはハンガーにセットされているガンプラを右京に見せる。

 アスタロト・アステールに変わるレオの新しいガンプラはXアストレイをベースにしたガンダムネビュラアストレイ。

 Xアストレイの由来ともなるバックパックのXを模ったドラグーンユニットはドラグーンを1つ追加しXから星形を模るようになっている。

 シールドも見た目こそ変わらないが、ビームキャノンとしての機能を追加している。

 腰のプリスティスは外されて左側には予備の火器としてビームライフルが、右側にはアスタロト・アステールに残されたブレイクアックスと新造した鞘に納められており、鞘を付けた状態でもスレッジハンマーとして使う事が出来る。

 手持ちの火器はデュエルガンダム用のレールバズーカ「ゲイボルグ」を持たせている。

 両肩の装甲にはビームサーベルが収納されている。

 

 

 

 

 

 

 用意して来た新しいガンプラの披露も一通り終わると、麗子もバトルの設定を終えてそれぞれがバトルフィールドに出撃する。

 

「バトルのルールは簡単よ。出て来る敵を全て倒す殲滅戦。時間制限は無しで敵はリーオーのみだけど、NPDのレベルは最大

に設定してあるわ。取りあえず1000機を相手にして頂戴」

「一人頭、100機か。初陣ならそんなもんか」

 

 麗子がバトルのルールを説明して、光一郎がつぶやく。

 敵のレベルは最大で数は1000。

 それだけ聞くといきなりハードルが高く感じるが、光一郎はそうでもないらしい。

 ストライダー形態となったガンダムAGE-2 マッハはリーオーNPDの射撃を掻い潜り突撃して行く。

 

「私も負けてられないね!」

 

 それに貴音のガンダムキマリストライデントも続く。

 突撃した2機は最大レベルだと言う事にも関わらず難なくリーオーNPDを撃破して行く。

 NPDのレベルは最大に設定してあるものの、レベル自体最大にしてもある程度の実力者なら十分に相手が出来る程度でしかない。

 余りに強くし過ぎるとゲームバランスが崩壊するからだ。

 ジュニアクラスのランキング上位のダイバーなら油断さえしなければ最大レベルだろうと遅れを取る事はない。

 

「僕達も負けてられないね」

「そうですね。特訓の成果を見せてやりますよ!」

 

 ガンダムAGE-3 オリジンはダブルシグマシスライフルを撃つ。

 バーニングドラゴンデスティニーも一気に加速する。

 

「これが俺の新しいガンプラ! バーニングドラゴンデスティニーだ!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーの4枚の翼から光の翼ではなく炎の翼が展開する。

 両腕のビームシールドの発生装置が変形して拳の前に移動するとビームの刃が発生する。

 バーニングドラゴンデスティニーのビームシールドはクロスボーンガンダムのブラインドマーカーと同じようにビームナックルとしても使えるように改造されて格闘戦の攻撃力を増している。

 ビームナックルでリーオーNPDを破壊する。

 

「やっぱ最大レベルだとキツイな……ならコイツを試して見るか」

 

 バーニングドラゴンデスティニーは最大出力で炎の翼を展開する。

 同時に全身から炎が溢れて全身を覆う。

 そして、炎を纏い加速する。

 バーニングドラゴンデスティニーを覆う炎は龍の頭部を模り射線上のリーオーNPDを焼き払って行く。

 

「……名付けてドラゴンファング」

 

 全身を炎で多い突撃する攻撃を龍牙はドラゴンファングと名付けていた。

 新しい攻撃方法に自身の名を付けた時、練習相手をしていた竜胆だけでなく、明日香や冬弥からも生暖かい目で見られていた事は新しい攻撃法を編み出してテンションの上がっていた龍牙は気づいてはいない。

 

「お前のところの1年はずいぶんと活きが良いな」

「まぁね。活きの良さが取り柄だからな」

 

 闘魂デュエルガンダムはビームライフルでリーオーNPDを撃ち抜く。

 近くでは闘魂デュエルの死角を補うようにデュナメスXペストがGNソードⅡのライフルモードを撃ち、ガンダムX斬月が大太刀を振るう。

 

「活きの良さならウチの1年も負けてはいないがな」

 

 ガンダムX斬月は腕部のビームガンで牽制射撃を入れるとデュナメスXペストがGNソードⅡでリーオーNPDを両断する。

 少し離れたところでは無数の爆発が起きている。

 その中心にはレオのネビュラアストレイがいた。

 ネビュラアストレイは5基のドラグーンを使ってリーオーNPDを殲滅して行く。

 その内の1機がシールドを使いながら下から回り込みビームサーベルで接近戦を仕掛けて来た。

 

「流石は最大レベル。少しはやるようだけど」

 

 ネビュラアストレイの脛の装甲が開閉するとそこには腰から外されたプリスティスが収納されていた。

 プリスティスの先端からビーム刃を出してリーオーNPDのビームサーベルを受け止めると、左手でスレッジハンマーを取るとリーオーNPDの頭部を叩き潰す。

 リーオーNPDは頭部を潰されながらも距離を取ってビームライフルを向けるが、ビームを撃つ前にネビュラアストレイのレールバズーカが撃ち込まれて破壊される。

 

「この程度じゃやられないけどね」

 

 ネビュラアストレイはレールバズーカを撃ちリーオーNPDをシールドごとぶち抜いて破壊する。

 戦闘が始まり戦場を高出力のビームが横切る。

 珠樹のウイングゼロエトワールのツインバスターライフルによる砲撃だ。

 その一撃で大量のリーオーNPDが消滅する。

 何とか砲撃を回避したリーオーNPDを千鶴のガンダムグシオンリベイクフルシティシューティングスターがレールガンとリニアライフルで撃ち落す。

 

「その調子。次もお願い」

「了解」

 

 ウイングゼロエトワールが後方から友軍機を巻き込まないようにツインバスターライフルをリーオーNPDが集まっている場所に撃ち込み、退かれた機体を千鶴が狙撃して行く。

 最大レベルが1000機とはいえ、日本代表チームに選出される程のダイバーが集まれば1時間もかけずに1000機は殲滅されてミッションクリアとなる。

 

「流石は日本代表に選ばれる事はあるわね。その調子ならもう1セットも行けるわね」

「ドンと来いだよ。ママ」

 

 1セット目が終わりすぐさま2セット目が開始される。

 再びAGE-2 マッハとキマリストライデントが突っ込んで行く。

 AGE-2 マッハはMS形態になるとライフルモードのハイパードッズランサーを撃つ。

 光一郎は確実に当てに行ったが、リーオーNPDは易々とかわしてマシンガンで反撃して来る。

 ストライダー形態に変形してかわすが、リーオーNPDはAGE-2 マッハの動きを読んでいるかのように攻撃を当てて来る。

 

「何こいつら? さっきとは全然違う!」

 

 キマリストライデントもデストロイヤーランスの一撃をかわされて集中砲火を浴びている。

 後方ではグシオンシューティングスターがリニアライフルで狙撃するが、リーオーNPDは回避する。

 

「避けられた!」

 

 ネビュラアストレイのドラグーンのオールレンジ攻撃もかわされてビームライフルでドラグーンが落とされる。

 

「攻撃が見切られているのか?」

 

 バーニングドラゴンデスティニーがビームナックルで殴りかかるもリーオーNPDは後退しながらドーバーガンを撃ち込む。

 

「なんなんだよこいつら!」

 

 デュナメスXペストはGNシールドビットを展開し、肩のGNロングキャノンを撃つ。

 リーオーNPDは回避しているところにガンダムX斬月が大太刀で切り裂き撃破する。

 

「動きがまるで違うな」

「あの人がチートするとは思えないけど……これはキツイな」

 

 闘魂デュエルがシールドで身を守りながらビームライフルを連射してリーオーNPDを攻撃してAGE-3 オリジンがダブルシグマシスライフルで何機か仕留める。

 

「珠樹さん。どういう事なんでしょう? 敵の動きが最大レベルよりも良くなっているなんて」

「多分。プログラムが違う」

 

 ウイングゼロエトワールは出力を最低にして通常のビームライフルクラスの威力に絞ったツインバスターライフルを撃つ。

 2セット目のリーオーNPDは1セット目とは動きがまるで違い上位ランカーですらも苦戦する程だ。

 珠樹はそれをNPDの思考プログラムが通常の物とは違う物が使われていると考えていた。

 ファンネルを初めとした武器もダイバーがある程度は事前に用意したプログラムで操作する事も出来るが、リーオーNPDの思考プログラムも同様に従来の物とは違うプログラムが使われている可能性が高い。

 本来はNPDの思考プログラムのパターンは運営が用意したゲームバランスが崩壊しないように設定した物の中からダイバーが設定しているが、今のNPDは明らかにゲームバランスを無視した設定となっている。

 これは事前に運営側に許可を取った上で麗子が用意したプログラムが使われており、1セット目の戦闘データも組み込まれている為、1セット目で始めて使ったガンプラにも対応され戦っている10人のファイターの過去の戦闘ログを全て解析した上で的確に判断して行動できるようにプログラムされている。

 だからこそ、それぞれが動きを完全に読まれて単体ではまず勝てない仕様となっている。

 1セット目はその為の情報収集と楽に勝てると言う油断を誘う為のバトルに過ぎなかった。

 NPDの思考プログラムのカラクリを珠樹は見抜き、全体に指示を飛ばしながら連携を取りながら戦い、次第に形勢は傾き1時間以上もかけて何とか1000機を撃墜する事が出来た。

 

「それじゃ3セット目を行くわね」

「ちょっとタンマ! 少し休憩とか入れようよ!」

「却下よ」

 

 貴音の抗議を麗子は無視して3セット目が開始される。

 2セット目は思わぬ苦戦を強いられたが、慣れてしまえば戦えない相手ではなかった。

 3セット目も乗り越えられると思っていた代表メンバーの希望を麗子はあっさりと打ち砕く。

 

「……嘘でしょ」

 

 3セット目の敵はリーオーNPDではなかった。

 3セット目の相手は1000機のグレイズ。

 その全てがダインレイヴを装備している。

 ずらりと並ぶ1000機のグレイズの内200機がダインスレイヴを一斉に撃ち込んで来る。

 

「皆、かわして」

「簡単に言ってくれる!」

 

 200発のダインスレイヴを全員は死ぬ気で回避する。

 その200発が終わるとすぐさま次の200機がダインスレイヴを撃つ。

 200機づつグレイズはダインレイヴを撃つと時間差をつけて次の200機が撃つ。

 それを5回繰り返して1000機のグレイズがダインスレイヴを撃つ頃には最初の200機には新しい弾頭が装填されて再びダインスレイヴが撃たれる。

 それが延々と繰り返され、ダインスレイヴが途切れる事はない。

 これが普通の戦闘ならばダインスレイヴの弾頭にも限りがあるが、今回は無制限に弾頭がリロードされると考えた方が良いだろう。

 

「ちくしょう! 俺達はMAか何かかよ!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーはダインスレイヴをかわし続ける。

 ドラゴンファングで突破口を開こうとしてもここまで大量にダインスレイヴを撃ち込んで来たのではグレイズに辿りつく前に仕留められるだろう。

 

「ダインスレイヴの無限ループとかラスタル・エリオンだってここまでエグイやり方はしないだろ……」

 

 デュナメスXペストはGNミサイルを全部撃ち尽くすと増加装甲をパージして身軽となる。

 撃たれたGNミサイルはダインスレイヴの弾頭に直撃して弾頭を破壊するが、グレイズまでは届かない。

 

「流石に私のグシオンでは厳しいか」

 

 千鶴のグシオンシューティングスターのダインスレイヴの弾頭が直撃する。

 致命傷とはならないがダメージも軽くはない。

 流石の千鶴でもここまでのダインスレイヴの攻撃をかわしながら正確な狙撃は出来ず、グシオンシューティングスターも機動力は大して高くはない為、かわすので精一杯だ。

 

「突破口は私が開く」

 

 完全に防戦一方だった代表チームだったが、珠樹が動く。

 ウイングゼロエトワールはツインバスターライフルを最大出力で撃ち込む。

 射線上のダインスレイヴの弾頭ごとグレイズを消し飛ばす。

 グレイズはダインスレイヴの弾頭のように無限にリロードされる事もなく、ウイングゼロエトワールの砲撃で数が減り、ダインスレイヴによる攻撃の手も少し緩んだ。

 ツインバスターライフルの2射目が放たれてグレイズの数を更に減らすとAGE-2 マッハとキマリストライデントも突っ込むだけの余裕が生まれる。

 そこにバーニングドラゴンデスティニーも続きダインレイヴを装備したグレイズは近接戦闘には対応できない為、次々と数は減らされて行き数が減ればダインスレイヴも脅威ではなくなる。

 後は代表チームが一方的にグレイズを仕留めて3セット目を終える。

 

「終わった……」

「ご苦労様。それじゃ4セット目行きましょう」

 

 何とか3セット目を終えるが、麗子は無慈悲に告げる。

 

「流石に精神的にきついって! 休憩とは言わずこれまでのバトルの反省会とかやらない?」

「気のせいよ。アバターである限り疲れるなんて事はあり得ないわ。バトルの反省もGBNからログアウトしてからでも出来るわ」

 

 貴音の反論を無視して麗子は新しい設定で4セット目を開始しする。

 

「鬼! 悪魔! 鬼畜眼鏡! アンタの血は何色だ!」

「その血が貴音や珠ちゃん、大我にも流れてるんだけどな。 ログアウトして奴叱られるか目の前の敵を倒すかどうする?」

「うっさい! 諒ちゃん! やってやるわよ。こうなればとことんやってやるわよ! 悪魔でもなんでも来いってのよ!」

 

 貴音はやけになって突っ込んで行く。

 4セット目の相手はリーオーNPDでもダインスレイヴでもない。

 ガンダムバルバトスルプスレクスが1000機だ。

 

「ふん! ルプスレクスが1000機だろうと!」

 

 突っ込むキマリストライデントの死角からルプスレクスのテイルブレイドが飛んでくる。

 それをとっさにデストロイヤーランスで弾くとルプスレクスは超大型メイスで殴りかかって来る。

 

「この動き……」

 

 キマリストライデントはルプスレクスの攻撃を回避する。

 貴音はルプスレクスの動きに見覚えがあった。

 

「テイルブレイドでこっちの動きを制限して来て強力なメイスの一撃で仕留める……まるでリトルタイガーみたいだな」

 

 別のルプスレクスと交戦している光一郎も貴音と同じ事を思っていた。

 ルプスレクスの動きは大我の戦い方に良く似ていた。

 それもその筈、ルプスレクスのNPDの思考プログラムは過去の大我のバトルから大我の思考を模倣した物が使われている。

 つまりは4セット目は1000人の大我を相手にしているような物だ。

 

「それが分かるとコイツは……とんだ地獄絵図だな」

「……良いじゃん。まがい物とはいえ大我をボッコボコに出来るんだから!」

 

 キマリストライデントは近くのルプスレクスに向かって行く。

 

「確かにな本物とは違うとはいえ世界大会を前に負けてられないな」

 

 AGE-2 マッハもハイパードッズランサーのドッズガンを撃ちながらルプスレクスに向かって行く。

 敵のルプスレクスの思考プログラムに大我の戦闘スタイルが使われている事は珠樹もすぐに気づいて全機に伝えられている。

 

「相手が大我って分かってもな」

 

 バーニングドラゴンデスティニーのビームナックルをルプスレクスは超大型メイスの柄で受け止める。

 何とか押し切ろうとするが、向こうのパワーも相当なもので簡単には押し切れそうにはない。

 そうしていると別のルプスレクスが接近して来て超大型メイスを振るう。

 

「やべ!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーは後ろに退くが、目の前にいたルプスレクスは追撃して来て、接近して来たルプスレクスが振う超大型メイスが直撃して破壊された。

 

「味方ごと!」

「成程な。珠ちゃん」

「大我らしい」

 

 その様子を見ていた諒真と珠樹は何か納得した様子だ。

 

「どういう事だ?」

 

 闘魂デュエルはビームライフルを撃つが、ルプスレクスは被弾も気にする事無く突っ込んで来る。

 超大型メイスをかわすが、テイルブレイドが飛んで来て相手にガンダムX斬月が入り大太刀で弾きAGE-3 オリジンがバックパックのミサイルを撃つ。

 

「コイツらは皆大我なんだよ」

「だからどういう事なんだ?」

 

 デュナメスXペストはGNロングキャノンを撃ちながら闘魂デュエルと背中合わせで互いの背中を守り合う。

 

「つまりだ。大我はチームのエースだから戦闘中でも常に自分が優先されてるんだよ。だから自分の攻撃の攻撃コースに味方機が入れば味方機が譲るし、味方機の攻撃コースに自分が入れば味方機が自分には当たらないように譲る。だけどコイツらは皆大我だから自分優先で戦えばさっきのように同士討ちになるって訳だ」

 

 大我はビッグスターのエースとしての戦い方を常にしている。

 チームではエースとして常に優先されていたのだろう。

 だから自分の攻撃コースに味方機がいる時は味方機が大我の攻撃の邪魔にならないように道を開けて、逆に自分の攻撃コースに大我がいれば大我の邪魔にならないようにする。

 そうする事で大我の能力を最大限に発揮できるようにお膳立てが常にされている。

 しかし、大我が1000人いた場合、皆が自分優先で戦う為、味方機が攻撃コースにいれば向こうが譲ると考えて攻撃を続け、味方機の攻撃コースにいても向こうが外すと考えて味方機の攻撃をかわそうとしない。

 そうなれば待っているのは先ほどのような同士討ちだ。

 大我を1000人相手にするのは地獄だが、同時に大我が1000人いたところでチームとしては全く成り立たない。

 その欠点さえ分かってしまえば戦い方はある。

 

「そんな反撃と行きますか」

 

 相手の戦い方は分かった。

 その後も代表チームは奮闘した物の1000機のうち半分も仕留めきれずに全滅した。

 その中の大半は同士討ちによる物で代表チームが直接仕留めた数は殆ど無かった。

 

「まぁこんな物ね。想定よりかは奮闘していたわ」

 

 4セット目は敗北してブリーフィングルームに戻ってきた。

 麗子も4セット目のバトルは始めから勝てるとは思っていなかった。

 始めから負ける事を前提にやらせた。

 代表メンバーの大半は過去に大我と戦い負けている。

 その大我を敵として持ち出して再び負けさせる事で大我への対抗意識を燃やさせる事で世界大会への闘志を燃やさせる為だ。

 麗子の目論見通り、代表メンバーは少なからず闘志を燃やしている。

 更には撃墜された事でそれぞれのダイバーポイントが大幅に減らされている。

 ダイバーポイントはランキングに影響し、バトルでの敗北やミッションの失敗や途中で棄権するなどすれば減って行くが、その時よりも減るポイントは多く設定している。

 その上、ダイバーポイントの最低値はゼロだが、麗子が運営側に申告して代表メンバーのダイバーポイントの最低値がマイナスにまでなるように設定してある。

 世界大会でGBNを引退するならともかく、世界大会後も続けるのであれば世界大会開催までに撃墜され続けると世界大会後に減らされた分を取り戻すのに苦労するだろう。

 それが嫌なら撃墜されないように死にもの狂いで勝ち続けるしかない。

 すでに麗子の中には世界大会までのチームを鍛え上げるだけのプランがいくつも用意されている。

 日本代表チームの顔合わせも終わり、本格的に世界大会を見据えた練習が始まるのだった。

 

 



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アメリカ代表

 日本代表チームが結成されてから、龍牙達は毎日のように学校が終わるとGBNで練習を行われた。

 麗子の組み立てた練習プランは難易度はデタラメに見えてクリアできるかギリギリのラインで考えられているが、早々にクリアできるような物でも無く、何度も失敗し容赦なくダイバーポイントを失いながらもクリアしている。

 その度に確実に強くなっている実感もある為、初日のように貴音の文句も日に日に減っている。

 

「死ぬ……いつか絶対に死ぬ」

 

 その日の練習を何とかクリアしてフォースネストに戻ると貴音がいつも通りの文句を言う。

 毎回のように同じ文句を言っている為、誰も気にも留めない。

 

「ご苦労様」

 

 日本代表を麗子が出迎えると一同は身構える。

 今日は時間的に練習するだけの時間は残っている。

 次も相当困難なバトルをさせされると誰もが思っていた。

 

「今日の練習はここまでよ」

「……嘘だ! そうやって私達を油断させて絶望に叩き込む気だ!」

 

 貴音は声を上げる。

 そんな貴音を麗子はスルーして話しを続ける。

 

「これからアメリカサーバーで代表決定戦が行われるわ。今日はそのバトルをリアルタイムで観戦するわ」

「アメリカ……」

 

 龍牙達も今日アメリカ代表を決める決勝戦が行われると言う事は知っている。

 そのバトルをするフォースの片方が大我のビッグスターが残っている事もだ。

 だが、決勝戦を見るつもりは無かった。

 どの道、いずれは結果を知る事になり、バトルの内容も後でバトルログを見る事も出来る為、決勝戦を見るよりも練習を優先するつもりだったが、麗子はリアルタイムでバトルを見るようだ。

 

「そう言えば大我のチームってどんなチームなんだ?」

 

 龍牙がふとそんな疑問が出て来た。

 ビッグスターの名前自体は日本サーバーにも届いているが、具体的には大我ことリトルタイガーの事くらいでチームとしては余り知られてはいない。

 

「そうだな……一言でいえば攻撃特化のチームだな。大我を中心として守るくらいなら攻めろ。敵は見つけ次第に叩き潰せってチームだな」

 

 レオが龍牙の疑問に答える。

 レオは元はビッグスターに所属していた為、チームの特色も当然知っている。

 そのレオが言うにはとにかく攻撃を重視したチームだと言う。

 

「リーダーのルークがある程度の策を考えるけど、結局は大我がごり押しで敵を倒す。他の連中も基本的に脳筋ばかりだしな」

「成程」

「で、相手チームがこれまた厄介なんだよな。去年のアメリカ代表チームアメイジングUSA。実力はアメリカサーバーのジュニアクラスじゃずば抜けている」

 

 日本代表は大我のビッグスターにばかり気を取られているが、ビッグスターの対戦相手のアメイジングUSAは去年も世界大会に出場し、ベスト8の成績を残している世界でも強豪チームだ。

 チームリーダーのチャンプを初めとして実力者も今年もジュニアクラスである為、去年と同じベストメンバーが残っている。

 

「いずれは戦うかも知れないからしっかりと見ておきなさい」

 

 フォースネストのモニターにアメリカサーバーで行われている代表決定戦のバトルフィールドが映し出される。

 アメリカ代表戦は3対3のチーム戦で行われている。

 バトルが始まる時間となり、アメリカ代表チームを決める一戦が開始される。

 決勝戦のバトルフィールドはニューヤークの廃墟でのバトルとなる。

 ビッグスターからは大我のガンダムバルバトス・アステール・アルファ、ルークのガンダムソルエクシア、クロエのガンダムAGE-FX エステレラの3機だ。

 

「チャンプは大我に任せる。僚機は僕とクロエで抑える」

「要するにいつも通りって訳でしょ?」

「ならさっさとしてくれ」

 

 ルークのソルエクシアが物陰から上空に上がる。

 

「炙り出す」

 

 ソルエクシアのバックパックのGNビッグキャノンが開閉すると高出力のビームをニューヤークの町に撃ち込む。

 ビームにより町に火が上がりやがて、レーダーに敵のガンプラを補足する。

 敵も廃墟に隠れて様子を見ていたが、ルークの攻撃で隠れるどころではなかったのだろう。

 

「2機……チャンプのガンプラは無いな」

 

 モニターに映るガンプラはブレイヴの改造機とソードストライクの改造機でどちらもチャンプのガンプラではない。

 ブレイヴの改造機オーバーブレイヴはブレイヴをベースにバックパックをオーバーフラッグの物をベースにしたものが付けられ全身を黒く塗装されている。

 両腕にはGNディフェンスロッドも増設されよりオーバーフラッグに似せられている。

 もう片方のソードストライクの改造機のソードストライクJは背部の対艦刀を2つに増やし、肩のビームブーメランと腕の小型シールドも両腕に装備され、手持ちの火器にビームライフルを装備し、オレンジ色で塗装されている。

 どちらのダイバーもミスターフラッグファイターと切り裂きJの異名を持つ実力者だ。

 

「それなら私らの出番でしょ」

 

 チャンプのガンプラではないと確認すると、クロエのガンダムAGE-FX エステレラが飛び出して2機を迎え撃つ。

 

「チャンプはいないのか……まぁ良い。俺はチャンプを探すとするか」

 

 大我は迫る2機を2人に任せると敵チームのエースであるチャンプを探す為に空中に飛ばずに移動を始める。

 アメイジングUSAの先陣を切ったのは飛行形態のオーバーブレイヴだ。

 オーバーブレイヴはGNビームライフルとGNキャノンを連射して突っ込んで来る。

 

「流石はミスターフラッグファイター。ディランのゼータよりも早いな」

「関心してる場合じゃないでしょ」

 

 ソルエクシアとFX エステレラはそれぞれの火器で応戦するが、オーバーブレイヴには当たらない。

 

「ノロマが!」

 

 オーバーブレイヴは2機の間を通り過ぎるとMS形態に変形してGNビームライフルを撃つ。

 ソルエクシアがGNフィールドを展開して防ぐが、背後からはソードストライクJが両手に対艦刀を持ち迫っていた。

 ソードストライクJの攻撃をFX エステレラがスタングルライフルⅠBの実体験で弾く。

 

「流石に決勝まで来ると一筋縄ではいかないな」

「泣き言言わないの」

 

 FX エステレラはスタングルライフルⅠBを撃ってソードストライクJを牽制する。

 

「言う気はないさ。彼らの能力を素直に評価したに過ぎない」

「それでリーダー様の見解は?」

 

 ソルエクシアはGNビッグキャノンを撃ってオーバーブレイヴを取りつかせないようにする。

 

「大我がチャンプを仕留めれば僕達の勝ちさ」

「なら、このバトルは貰ったも同然じゃない」

「そう言う事。僕達はいつも通りに勝つだけさ」

 

 ルークとクロエが交戦している地点から離れたところにアメイジングUSAのリーダーであるチャンプは愛機のガンダムマックチャンプと共に戦局を見極めていた。

 ガンダムマックチャンプはガンダムマックスターのボクサーモードをベースにしたガンプラで元々防御力を犠牲にしてフットワークを向上させていたボクサーモードを更に装甲を削り全身にスラスターを内蔵して機動力を上げている。

 また、性能には関係ない部分として腰にはチャンピオンベルトが巻かれている。

 

「来たな。ジャパニーズボーイ」

 

 マックチャンプの頭上に影が出来ると後方に飛び退く。

 上空から大我のバルバトス・アステール・アルファがバーストメイスと共に落ちて来る。

 

「見つけた」

 

 バルバトス・アステール・アルファは着地と同時にマックチャンプに突っ込んでバーストメイスを振るう。

 だが、マックチャンプは全身のスラスターを使った軽快なステップでその一撃をかわすと、バルバトス・アステール・アルファの懐に飛び込み連続パンチを浴びせる。

 

「ちっ」

「動きが大振り過ぎるんだよ」

 

 バルバトス・アステール・アルファの攻撃を完全にかわしマックチャンプは攻撃後の隙を的確について懐に飛び込む。

 今後は大我も対応し、ドリルニーを突き出すが、ギリギリのところでかわされて胴体にストレートが入り、マックチャンプは思い切りパンチを撃ち抜き、バルバトス・アステール・アルファはビルに叩き付けられる。

 

「やるな。これがリアルボクサーの戦い方って奴か」

 

 ダメージは戦闘には問題ようでバルバトス・アステール・アルファは立ち上がる。

 チャンプはリアルでボクシングをやっているようで、モビルトレーズシステムを使う事でリアルで鍛えたボクシングの技術をガンプラバトルに応用している。

 大我もモビルトレースシステムを使った格闘技もどきを使う相手と戦った事はあるが、実際の格闘技を使った相手と戦うのは初めてだ。

 

「まぁそれでも俺のやる事は変わらない。アンタをここでぶっ潰して先に進むだけだ」

 

 バルバトス・アステール・アルファはバーストメイスを構えてマックチャンプへと突撃して行く。

 

 

 

 

 大我とチャンプが交戦し、ルークとクロエはアメイジングUSAの2機を抑えている。

 機動力に長けたオーバーブレイヴと格闘戦に長けているソードストライクJに苦戦を強いられている。

 

「ルーク。あんまり遊んでないとそろそろ決めるわよ」

 

 FX エステレラはスタングルライフルⅠBを連射する。

 ソードストライクJはビームを避けながら両肩のビームブーメランを投擲する。

 FX エステレラがかわすと両腕のロケットアンカーを撃ち込む。

 

「ファンネル!」

 

 FX エステレラは全身のDファンネルを射出すると、後ろから戻ってきたビームブーメランとロケットアンカーを破壊する。

 

「ちぃ!」

 

 ソードストライクJは両手に対艦刀を持つと頭部のバルカンを撃ちながらFX エステレラに突っ込む。

 FX エステレラは避けると後ろからソルエクシアがGNソードをソードモードで迎え撃つ。

 

「後ろががら空きだ!」

 

 オーバーフラッグがソルエクシアの背後からGNビームサーベルを抜いて迫る。

 

「セラヴィー!」

「遅ぇよ!」

 

 ソルエクシアのバックパックがパージされるとセラヴィーⅡに変形するとオーバーブレイヴに差し向けるが、オーバーブレイヴはGNビームサーベルでセラヴィーⅡを切り裂くとソルエクシアの背後にビームサーベルを付き付けようとする。

 しかし、GNビームサーベルはソルエクシアの背後を貫く事は無かった。

 

「なんだと!」

 

 ソルエクシアの背後には6基のGNソードビットがGNフィールドを展開してオーバーブレイヴの攻撃を受け止めていた。

 そして、ソルエクシアの背中にはコーン型のスラスターではなく、ダブルオークアンタのシールドが付けられており、6基のGNソードビットもそこに装備されていた物だ。

 

「色々とがら空きなのよね!」

 

 攻撃を受け止められたオーバーブレイヴの周囲にFX エステレラのDファンネルが展開していた。

 オーバーブレイヴはすぐさまその場を離れながらGNビームライフルを撃つが、Dファンネルの全方位攻撃には対応しきれずに被弾する。

 

「トランザム!」

 

 オーバーブレイヴはトランザムを起動して強引に突破するが、すでにFX エステレラが両手にビームサーベルを持って先回りしていた。

 FX エステレラのビームサーベルがオーバーブレイヴを切り裂き破壊する。

 オーバーブレイヴが撃墜され、ソルエクシアはソードストライクJから離れると背中のGNシールドが外れてアームにより左肩の横まで移動する。

 ソルエクシアは普段はバックパックのセラヴィーⅡにより中遠距離の砲撃機として戦うが、セラヴィーⅡをパージする事で中近距離での格闘戦用のガンプラとして戦う事も出来る。

 ソードストライクJはバルカンを撃ちながらDファンネルの全方位攻撃をかわしていたが、ソルエクシアが突っ込む。

 

「こんな奴らに!」

 

 ソードストライクJはソルエクシアに対艦刀を振るうが、ソルエクシアは後ろに下がりかわしてGNソードファンネルがソードストライクJの右腕の関節を切り裂き、Dファンネルの集中砲火を浴びる。

 

「これで終わりね!」

 

 FX エステレラはスタングルライフルⅠBをチャージモードにする。

 同時にソルエクシアは右腕のGNソードをパージすると腰のGNソードⅤを抜くとGNソードビットにドッキングしてGNバズターライフルとなる。

 2機の砲撃をソードストライクJは避ける事も防ぐ事も出来ずに直撃して跡形もなく吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 ルークとクロエが敵を撃墜した事でアメイジングUSAは残りリーダー機にマックチャンプのみとなった。

 互いのエース同士の戦いはチャンプが優勢に進んでいる。

 バルバトス・アステール・アルファの攻撃を確実にかわして一撃を入れている。

 バルバトス・アステール・アルファは日本で全国大会で使った時は大我とレオが設計図通りに組み立ててバランスが悪かったが、アメリカに戻りリヴィエールの手によりバランスが調整されて性能は上がっているが、それでも尚苦戦を強いられている。

 

「どうしたジャパニーズボーイ。攻撃が掠りもしないぜ!」

「ちょこまかと」

 

 バルバトス・アステール・アルファのバーストメイスをかわしてマックチャンプは懐に飛び込み一撃入れる。

 

「良い感とガンプラだが……」

 

 一撃を入れ、更にバルバトス・アステール・アルファの胴体に強力なアッパーを撃ち込む。

 

「俺達や世界と戦うには早すぎる」

 

 アッパーを撃ち込まれてバルバトス・アステール・アルファの足が地を離れ、マックチャンプはそのチャンスを逃す事なく連続パンチのラッシュをバルバトス・アステール・アルファに撃ち込む。

 高速の連続パンチが数秒の内に100発以上撃ち込まれてバルバトス・アステール・アルファは大きく吹き飛ばされる。

 

「来年出直して来るんだな」

 

 バルバトス・アステール・アルファは吹き飛ばされてビルの上に落ちて瓦礫に埋もれてしまう。

 チャンプはビッグスターの残りを仕留めようと先ほどまで交戦していた地点に向かおうとする。

 だが、バルバトス・アステール・アルファの落ちたビルの残骸をぶち破ってバーストメイスが飛んで来てマックチャンプはそれをかわす。

 

「来年……何言ってんだ?」

 

 ビルの残骸にバルバトス・アステール・アルファが立ち上がる影が見える。

 

「俺達は1度しかないチャンスに全てを賭けてんだ。来年なんて……次は無いんだよ」

 

 バルバトス・アステール・アルファはダメージを追いながらも立ち上がりビルの残骸から出て来る。

 ビッグスターのメンバーでルークを初めとした数人は来年からはジュニアクラスからオープンクラスとなり、世界大会に出る事が出来なくなる。

 今のメンバーで世界大会に出られるのは今年しかない。

 だからこそ、大我は負ける訳には行かない。

 

「だからさ……邪魔すんなよ。そこは俺達が進む道だ。どかないならぶっ潰す!」

「オーケーだ。ジャパニーズボーイ。なら立ち上がれないように完膚なきまで叩き潰すだけだ」

 

 マックチャンプは加速してバルバトス・アステール・アルファに向かって行く、バルバトス・アステール・アルファはテイルブレイドを差し向けるが、マックチャンプは拳で弾く。

 バックパックのフライトユニットをパージしてバルバトス・アステール・アルファはマックチャンプを迎え撃つ。

 バルバトス・アステール・アルファは腕部の爪を付き出し、マックチャンプはギリギリのところでかわしてパンチを撃ち込む。

 

「どうした! その程度か!」

 

 バルバトス・アステール・アルファの攻撃はマックチャンプには当たらず、マックチャンプの攻撃は的確にバルバトス・アステール・アルファを捕えている。

 一撃さえ当てれればマックチャンプの装甲では致命的だが、その一撃が当たらない。

 マックチャンプの攻撃は一撃の威力はさほどないが、何発も入れられてダメージが蓄積して行き装甲もヒビが入り崩れ始めて来ている。

 

「うるさいんだよ」

 

 マックチャンプの拳がバルバトス・アステール・アルファの胴体に入る。

 そこでチャンプはある事に気が付いた。

 バルバトス・アステール・アルファのテイルブレイドが射出された状態でまだワイヤーが伸びた状態で戻って来てはいない。

 そのワイヤーが巻き戻るとその先端には投擲したバーストメイスが付いていた。

 戻ってきたバーストメイスをマックチャンプを横っ飛びでかわし、バルバトス・アステール・アルファはバーストメイスの柄を持つとそのまま振り上げるとマックチャンプへと勢いよく振り下す。

 

「やらせるか!」

 

 マックチャンプは振り下されたバーストメイスを両腕で受け止める。

 膝で衝撃を逃がしながらバルバトス・アステール・アルファの一撃を受け止める。

 

「アンタを倒して俺達は先に進む!」

 

 バルバトス・アステール・アルファは更に力を入れる。

 マックチャンプも下手に動けばバランスが崩れて押しつぶされるだけだ。

 バルバトス・アステール・アルファとマックチャンプの力比べだが、マックチャンプの四肢の関節が衝撃に耐えきれずに悲鳴を上げている。

 

「だからぶっ潰れてろよ! チャンプ!」

「……大したものだ……この俺を倒して世界に挑むんだ。頂点を取って来い。リトルタイガー」

 

 チャンプもガンプラが限界だと悟る。

 そして、バルバトス・アステール・アルファはバーストメイスを振り抜き、マックチャンプを叩き潰した。

 

「アンタに言われるまでもない。俺達は負けない。全部倒して世界を掴む」

 

 アメイジングUSAの最後の1機を撃墜した事でバトル終了のアナウンスが入る。

 それにより今年の世界大会アメリカ代表は大我たちチームビッグスターに決まる。

 

 

 

 

 

 アメリカ代表チームの決まる瞬間を日本代表もリアルタイムで見ていた。

 そのバトルの最中、皆がバトルに集中して口を開く事は無かった。

 

「アイツ等……チャンプを倒しやがった」

 

 日本代表の中でもチャンプの実力を知るレオがそう呟く。

 誰もがアメリカ代表がビッグスターに決まった事に驚きはない。

 だが、バトルの内容に置いては大我はかなり苦戦させられていた。

 日本でも大我はアリアンメイデンとの練習試合や地区予選決勝戦では苦戦させられたが、それは身内が故に大我の戦い方を知り尽くしているせいで、今回は単純に実力で苦戦させられていた。

 日本のガンプラバトルのレベルは低い事は知っていたが、日本で猛威を振るった大我の実力ですら世界を相手に戦って来たチャンプを前に苦戦するレベルだと言う事は日本代表には驚くべき事実だ。

 

「負けてられないな」

 

 そう龍牙が呟く。

 日本代表メンバーは口にこそ出さないが、皆思っている事は同じだろう。

 それこそが、麗子の目論見でもある。

 自分の練習メニューに慣れて余裕が生まれて来たところに大我が苦戦するところを見せる事で世界の実力を見せつける事で、更なる奮起を期待した。

 場合によっては、世界の実力を目の当たりにして心が折れる可能性もあったが、それで心が折れるようならばここまでの麗子の練習メニューでとっくの昔に心が完璧に砕かれて逃げ出している。

 麗子の狙い通り、日本代表メンバーは世界大会を目前に更なる気合を入れて練習に取り組むのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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宣戦布告

 アメリカ代表決定戦が終わり、今年のアメリカ代表は大我の所属しているビッグスターで決まった。

 アメリカ代表を決めたビッグスターはGBN内のフォースネストに集まっていた。

 ビッグスターのフォースネストは格納庫を模した物で10機分のMSハンガーに至るところにコンテナが無造作に積まれている。

 それぞれがコンテナの上に座るかコンテナにもたれ掛るかしている。

 フォースネストの壁にはでかでかと「ONE FOR ACE ACE FOR VICTORY」と書かれている。

 現在のビッグスターのメンバーは9人。

 フォースリーダーのルークにエースの大我。

 主力メンバーのクロエ、ジェイク、ディランに専属ビルダーのリヴィエール。

 メンバーのほとんどは現実世界の自分に似せたアバターを使っているが、リヴィエールは自身のアバターには余り興味はなく、正式アカウントを持っているのにも関わらず、ゲスト用のアバターのハロシリーズの中からガンダムOOに出て来る紫色のHAROを使っている。

 それでもリアルでも愛用しているデザインのガスマスクは外せないようだ。

 他には大我の親衛隊を自称するジョー、ライアン、ウィリアムの3人。

 元々はそこにレオを含めた10人がビッグスターのフルメンバーだ。

 

「さて、諸君我らビッグスターがアメリカ代表戦を勝ち抜き代表の座を勝ち取った訳だが……」

 

 一番高く積み上げられたコンテナの上でリーダーのルークがそう話し始める。

 

「これ長くなるパターンよね」

「でしょうね」

「好きにやらせておけばいいだろ」

 

 ルークの前置きが長い事はいつもの事でクロエ達もウンザリしながらも聞くしかない。

 

「……そんな下らない話しをする為にフォースネストに集まった訳じゃないだろ。さっさと本題に入れよ」

 

 大我はバッサリと切り捨てる。

 ルークはため息をつく。

 

「大我はせっかちだね。僕は皆を代表して代表の座を勝ち取った喜びをだね」

「まだ早いだろ。俺達はまだスタート地点に立ったに過ぎない。俺達の目的はこの程度じゃないだろ」

「分かってるさ……けどね」

「本題に入れ」

 

 大我にそう言われてルークも黙る。

 これ以上、茶化して長引かせたとしても大我は機嫌を損ねるだろう。

 世界大会を前にエースの精神状態を乱したくはない。

 ルークと大我はビッグスターを結成した時からの付き合いでルークも大我が一度機嫌を損ねると機嫌を直すのが面倒だと言う事は熟知している。

 

「今年の世界大会の出場チームが全て決まった」

 

 ようやく真面目な話しになりチーム全員がルークの言葉に耳を傾ける。

 

「今年の世界大会は荒れると僕は見ている。今年は去年の覇者であるギリシャの『皇帝』アルゴス・アレキサンダーに加え、イギリスの『神槍』クリフォード・マーウッド、ロシアの『鉄人』オルゲルト・グシンスキー、ドイツの『機動要塞』ヘルマ・ディートリッヒ、日本の『鬼畜の子』藤城珠樹、そして我らがアメリカの『ブレイクデビル』藤城大我とジュニアクラスのトップクラスのダイバーが一同に揃っている」

 

 その名は誰もが知っている。

 GBNにおいてはガンダムにおける赤い彗星を初めとした二つ名や異名と言った称号を持つダイバーも少なくはない。

 それぞれが高い実力を持つが故にそう呼ばれている。

 ルークが挙げた今年の世界大会に出場するダイバーの中もまたそれ相応の実力者たちだ。

 大我もアメリカ予選を勝ち抜く中で誰かが、悪魔の名を持つガンプラを使い敵を一撃で破壊する様子からまるで破壊の悪魔、ブレイクデビルだと言った事からそう呼ばれる事が多々ある。

 大我たちも大我がそう呼ばれている事は知っていたが、その異名の出所は、大我にもそろそろ異名が必要だと思ったルークが匿名で書き込み、自ら拡散した物だと言う事までは知らない。

 

「彼らは高い実力と共にかつてGBNで伝説となったフォース。『ビルドファイターズ』の血縁者でもある」

 

 ビルドファイターズのメンバーは年代も近い事もあって、それぞれの子もまた同年代となり親の影響を受けてガンプラを始めてGBNで頭角を現して来ている。

 

「彼らは伝説を継ぐ者として新たな伝説となる可能性を秘めている」

「関係ないだろ。俺らの親が何者だって関係ない。そいつ等が俺の前に立ちはだかるならぶっ潰すだけだ。どの道、全員ぶっ潰すつもりだったんだ」

 

 ルークにとっては警戒すべき相手なのかも知れないが、大我にとってはいずれは倒さねばならない相手。

 それが今年の世界大会になったに過ぎないだけの事だ。

 

「全く……頼もしい限りだよ。彼らの事は大我に任せる。だけど、残された時間は多くはない。各々はしっかりと準備を進めて置くように!」

 

 ルークがそう締めるとそれぞれが世界大会の為の準備に取り掛かる。

 大我たちは世界大会までの残された時間を最大限の使い、そして日本へと発つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本代表チーム結成から地獄のような特訓を生き延びて龍牙達は遂にその日を迎える。

 今まではGBN内で集まっていたメンバーも現実世界で合流し、監督の麗子の引率の元世界大会の会場に向かう。

 

「……これが世界大会の会場」

 

 龍牙達は東京湾の港で会場の大型客船『木馬号』を見上げていた。

 龍牙も世界大会はGBNの運営会社が所有している客船に乗り海の上で行われると言う話しは知っていたが、実際に会場となる木馬号を見てその大きさに圧倒される。

 木馬号には世界大会出場の36チームの選手と監督や大会運営のスタッフやその他諸々の部屋に世界大会用の特設サーバーとGBNへのログイン環境を完備されており、期間中の生活も大会運営から快適な物を用意されている。

 

「ここで2週間、世界を相手にバトルするのか……」

 

 世界大会は2週間かけて行われる。

 ガンプラバトル強豪校である千鶴たちは公欠扱いになっているが、龍牙達星鳳高校は今年は全国大会準優勝と実績を残しているが、学校や部活としてではなく個人で出場する世界大会の参加を公欠扱いにする事は渋ったものの諒真の交渉により毎日空いている時間で課題を行い大会終了後に提出する形で公欠扱いになった。

 

「おーい! 神。早く来ないと置いて行くぞ!」

 

 世界大会の部隊である木馬号を見上げている間に皆は乗船手続きに入っており、諒真に呼ばれて龍牙も急いで合流する。

 手続きは問題なく終わり、日本代表チームは木馬号に乗船すると用意されている個室に荷物を置く。

 船内では食堂を初めとした共有部以外はそれぞれの代表チーム以外は平時には入れないようになっている。

 大会が本格的に始まるのは明日からで今日は開会式も兼ねた懇親会があるだけで、麗子からくれぐれも他国の選手と揉めないように厳命を受けてそれぞれが夜まで自由行動となっている。

 自由時間に入る前に麗子は何度も念入りにその事をチーム全体に言い聞かせていた。

 バトル外で他国のダイバーと揉めた場合、間に運営が入り、下手をすればチームに何らかのペナルティが与えられかねないからだ。

 特に問題を起こしそうな貴音には特に念を押して、貴音も無用なトラブルを起こすのはただの馬鹿だと言って自由時間となった。

 龍牙は出入り自由な共有部を一人で探索する事にした。

 木馬号はこの時期はジュニアクラスの世界大会で使われているが、それ以外の期間はGBNの運営がガンプラクルーズと称して船旅をしながらGBNを楽しめる企画を行っている為、船内のいたるところにGBNの様子を写したモニターやガンダムやガンプラ関連のポスター等が貼られている。

 

「なんか凄いな……」

 

 星鳳高校に入学した時はこの高校で全国大会を目指す事しか考えていなかったが、入学から数か月の内に目的である全国大会に出場し、今ではそれ以上のレベルのダイバー達の集まる世界大会に出場している。

 ジュニアクラスとはいえ、ここまでのレベルの大会となると規模がまるで違う事をようやく実感した。

 適当に見回っていると、やがて甲板に出る。

 誰もいないと思っていたが、甲板には先客がいた。

 

「……あの子も大会の参加者なのか」

 

 甲板には龍牙達と同年代と思われる少女が海を眺めていた。

 腰まで伸びた白銀の髪に透き通るような白い肌、龍牙は思わず息を飲んで見とれてしまう。

 すると向こうも龍牙の事に気が付いたのか目が合う。

 

「えっと……邪魔する気は無かったけど……」

 

 そこまで言いかけると龍牙はある事に気が付いた。

 GBNでは自分では母国語を離していても自動翻訳機能で相手には相手の設定している母国語に変換される為、外国人を相手でも問題なく会話が成立するがリアルではそうもいかない。

 いつものように日本語を使ったが、相手が日本語を分からない可能性がある。

 少女は龍牙に対して鋭い視線を向けながら龍牙の方に歩いて来る。

 

「別に構わないわ」

 

 少女はすれ違いざまにそう呟く。

 向こうはそれ以上話す気はないのか船内に入って行く。

 

「ふぅ……」

 

 少女がいなくなり、龍牙は柄にもなく緊張していた事に気が付く。

 龍牙も異性の知り合いや友人がいない訳ではないが、どことなく少女はこれまで知り合って来た異性とは違う気がしていた。

 

「これが世界か……」

 

 龍牙は日が沈みかけた夕焼けを見ながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 完全に日が沈んだ頃、船内の宴会等が行われる大広間で大会運営が主催する開会式も兼ねた懇親会が始まっていた。

 名目は大会を前に各国のダイバー達が互いに親睦を深めるとなっているが、会場ではいくつものグループで固まっている。

 どの国も積極的に他国のダイバーとは関わり合いになろうとはしない。

 下手に関われば会話の中からも自分達のチーム内の事情を他国に知られる事を恐れての事だ。

 

「大我の奴……来てないのか?」

 

 龍牙はビュッフェ形式で料理の乗った皿を手に会場を見渡す。

 大我を探しているが、会場には36チームのダイバーと関係者がいる為、その中から特定の一人を見つける事は至難の技だろう。

 

「なんだ? 誰か探しているのか?」

 

 きょろきょろを辺りを見渡していた龍牙に光一郎が声をかける。

 

「大抵初めてこの場に来る奴は緊張してビビりまくってるのに今年の一年は皆図太いな」

 

 そう言う光一郎の手には山盛りの料理が乗った皿を持っている。

 光一郎の言う一年には自分以外にもレオや千鶴も含まれているのだろう。

 レオも千鶴も普段とは何も変わらず、緊張した様子もない。

 

「まぁ……あれだけ鍛え上げられれば嫌でも自信を持ちますよ」

 

 代表となってからはまさに地獄のように麗子にしごかれて来た。

 それが龍牙の中で自信に繋がり、気持ちで負ける事はない。

 

「まぁな」

「それで大我の奴を探してたんですけどね」

「リトルタイガーか……アバターだけじゃなくてリアルでもちっこかったから流石に見つからないだろ。この人の中じゃ」

「ですかね」

 

 龍牙はそう言うが、大我が来ていれば見つけやすいとは思っていた。

 大我のいるところでは大抵、何かしらのトラブルが起こる。

 これ程緊張感でピリピリしていれば、その可能性も高くなる。

 

「どの道、大会が始まれば嫌でも目立つだろ。それよりも今のうちに大会を楽しんどけ、大会が進行するとそんな事も出来なくなるかも知れないからな」

 

 そう言う光一郎はどこか遠い目をする。

 大会は2週間かけて行われるが、始めに毎回違うルールで6回のバトルが行われる。

 その結果で国にポイントが入り、最終的に上位8チームが決勝トーナメントに進む事が出来る。

 大会が進行する中で、半分が過ぎた頃にはそれぞれのチームが決勝トーナメントに進める可能性が見えてくる。

 順調にポイントを稼いでほぼ確実に決勝トーナメントに進めるチームとそうでないチームでは士気は違ってくる。

 場合によっては確実に進めなくなるチームも出て来るだろうが、だからと言って途中で抜ける事は原則として認められてはいない。

 勝ったところで決勝トーナメントに進めない事が分かっている状態で後半のバトルに出るのはもはや苦痛でしかない。

 去年の日本も似たような状況になり、当時のチーム内の雰囲気を光一郎は今でも覚えている。

 バトルが始まればそれぞれのチームの実力が見えているが、今は誰もが負ける気のダイバーはいない。

 

「なりませんよ。俺達は負ける為に来たんじゃないですから」

「だな」

 

 去年は悔しい結果に終わったが、今年は国内のトップクラスのダイバーを集めてチームとして鍛えられている。

 今年は去年のような結果になる事はないだろう。

 

「それにしても、運営以外でも結構大人の人がいますね」

 

 龍牙はふと思った事を口にした。

 会場の大半は龍牙達と同年代の少年少女だが、中には明らかに大人が何人もいる。

 麗子のようにチームの監督だろうが、その数は全チーム数から考えても多い。

 

「まぁな。ジュニアクラスとはいえこの規模の大会となると色々と大人の事情とかが絡んで来るんだよ。あんまり日本じゃ馴染みはないけど、海外では俺達くらいの年でも企業と契約したGBNをプレイする所謂プロゲーマーってのもいるって聞くしな」

 

 世界大会はジュニアクラスと言えども、GBN内では比較的大きな大会だ。

 注目度もある為、GBNの運営と提携する企業等が関わって来る。

 ガンプラ自体には関われずとも制作時に使用する工具のメーカーや塗料メーカー、ガンプラに関係なくともGBN内でGBNとコラボする企業等多くの企業が運営会社以外にもGBNには関わりを持っている。

 それらに企業からすれば世界大会は自分達の会社の商品を世界にアピールする良い機会でもある。

 

「たとえばロシア代表なんかは日本の槙島グループが全面的にバックアップしてるって話しだ」

 

 その企業は龍牙でも知っていた。

 槙島グループは多くのオンラインゲームに関わっている会社だ。

 現社長は大我の両親の所属していた伝説のフォース「ビルドファイターズ」のメンバーで若い頃はGBNをプレイしていた事もあって近年ではGBN関連のイベントに力を入れている。

 そんな槙島グループは今年のロシア代表チームのスポンサーとなっている。

 

「今年はリーダーのオルゲルトの妹のカティアも代表入りしてるって話しだ。兄貴の方の実力は俺ら世代じゃ上位だが、妹の方も相当な実力者だと聞くな」

 

 そう言う光一郎の視線の先には先ほど甲板であった少女の姿があった。

 その傍らには自分たととは同年代とは思えないロシア代表チームのリーダーであるオルゲルトがいる事から、彼女がオルゲルトの妹であるカティア・グシンスキーなのだろう。

 

「尤もそれ以上の実力者がアイツだよ」

 

 宴会場の檀上には司会進行のスタッフの他に一人の少年が立っていた。

 遠目で説明がなくとも一目で分かる王者の風格。

 彼こそが去年の世界大会で圧倒的な実力で他国よ全く寄せ付けずに優勝したギリシャ代表のリーダーにしてエースの『皇帝』アルゴス・アレキサンダーなのだろう。

 開会式は去年の優勝者であるアルゴスに今年に意気込み等の質問をして、アルゴスは流暢な日本語で答えている。

 

「アレが皇帝か……直接見るとやっぱ別格ですね」

「だな……何でも王族の血族だって噂もあるくらいだし、去年以上に王者の風格になってるな」

 

 光一郎も去年の世界大会に出ている為、アルゴスを実際に見た事はある。

 去年以上に王者としての風格をアルゴスは身に着けてた。

 アルゴスのインタビューが問題なく進んでいるように思われたが、檀上の辺りがざわめき始める。

 

「何かあったのか?」

「……馬鹿は来るってか。貴音さんの話は振りだったか」

 

 龍牙は何となくざわめきの原因が何なのか感じ取っていた。

 

「ありゃリトルタイガーか? 何でまた檀上なんかに」

「……アイツのいるところに揉め事ありって事ですよ」

 

 龍牙は大我との短い付き合いの中で確信していた。

 大我のいるところにトラブル有りと。

 大我の手にはマイクが握られているようで大我が口を開く。

 

「皇帝、アンタに聞きたい事がある」

「良かろう許可する」

 

 大我を檀上からつまみ出そうとするスタッフをアルゴスは止める。

 檀上の上で大我とアルゴスは対峙する。

 

「アンタが王様を気取ってふんぞり返っていられるのも後数日な訳だが、そんな気持ちでデカい面してんの?」

 

 大我の言葉で会場の空気が凍りつく。

 会場の隅では麗子が頭を抱えてため息を付き、貴音と諒真は笑いを堪えている。

 大我は遠回しに今年の世界大会ではギリシャ代表が優勝しないと言っている。

 アルゴスにも意味には気づいているだろうが、表情一つ変えない。

 

「言っている意味が分からないな」

「皇帝ってのは踏ん反り帰っているだけでずいぶんと頭の回転は悪いんだな。ならガキでも分かるように言ってやる。アンタは俺がぶっ潰す」

 

 大我の明らかなアルゴスに対する宣戦布告に流石にこれ以上は勝手にはさせてはおけないと判断した司会者の指示で大我はスタッフに両脇を抱えられて宴会場からつまみ出される。

 

(アレが藤城大我か……父上が唯一生涯の友でありライバルと認めた藤城大悟の息子か……今年の世界大会は退屈しないで済みそうだな)

 

 大我がつまみ出されて会場からはどこからか大我の行動を笑い馬鹿にするような声がちらほら聞こえて来る。

 だが、アルゴスは内心喜んでいた。

 去年の世界大会で優勝してからと言うもの、アルゴスはその実力が故に対等に戦える相手はチーム内にすらもいない為、退屈していた。

 アルゴスに宣戦布告した大我の行動は会場の大多数のダイバーは身の程も知らずに思い上がった行動として見られているだろう。

 しかし、対峙したアルゴスは大我は本気で自分を叩き潰す気でいる目をしていた事に気づいている。

 アルゴスの父親が以前に行っていた。

 誰よりも誇り高い父や唯一認めていた相手がいた事を。

 だからこそ、アルゴスはこうして大我と対峙して理屈ではなくダイバーとしての直感として感じ取った。

 父のように共になる事はあり得ないが、今後ガンプラバトルを続けていく上で何度でもぶつかり合うと言う事をだ。

 開会式は大我の乱入で多少は予定が狂ったものの最終的には何の問題もなく、終わりそれぞれが明日から行われるバトルに備えるのだった。

 

 

 

 

 

 



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バトルロイヤル

 

 

 

 懇親会でアルゴスに対する宣戦布告でつまみ出された大我はビッグスターのリーダーであるルークを呼び出しての厳重注意となった。

 運営から厳重注意を受けて大我とルークはアメリカ代表チームのブリーフィングルームに入って来る。

 すでにビッグスターのメンバーは全員揃っている。

 

「いや、参ったよ」

 

 ルークは余り反省はしていないようで笑ってそう言う。

 だが、フリーフィングルームの空気は重い。

 今回の一件は他のメンバーは何も聞かされてはいない。

 大我の事だから勝手にやったとも考えられたが、ルークの様子からルークは知っていたのだと誰もが思っている。

 

「まさか、あそこでやるなんて僕も想定外だったよ」

「半端にやっても意味はないだろ」

「まぁね」

 

 その会話から今回の事はルークの指示による物だった事は明らかだ。

 

「で、どういう事なんだ?」

 

 ジェイクが痺れを切らして問い詰める。

 

「簡単な事さ。今回の一件で僕達の立場は非常に危うい事になっている。それもそうだろう。大勢の代表たちの前で大我がああまで言ったんだ。これで優勝以外はあり得ない」

 

 大我は大勢のダイバーの前でアルゴスを倒すと宣言した。

 これでアルゴスに勝利する事はおろか、まともに結果を出せ無かったら、大我たちは良い笑い物になるだろう。

 

「これで僕達は前に進むしかなくなったと言う訳だ」

「成程な。それで大我にアレをやらせたって訳か」

「まぁね。まぁ、僕としては大勢の前でアルゴスに宣戦布告をすれば良いと思ってたんだけどな。まさか、ここまでするとは思って無かったよ」

 

 元々はアルゴスに戦線布告をして退路を断つ事を目的にしていた。

 その場は懇親会である必要は無かった。

 公式の場でやってしまえば、運営から目を付けられてペナルティを課せられるリスクもあるからだ。

 退路を断つにしてもそこまでのリスクを負う必要は無かったが、大我は気にする事無く実行してしまった。

 昔から大我はルークの想定の斜め上を行き、それまで自分の思い通りに無かった事の殆ど無かったルークにとっては貴重な体験となっている。

 

「結果としては十分と言えるからこの事は終わりにしよう。それよりも明日のバトルのルールが公表されたのは知っているね?」

 

 大我とルークが運営に絞られている間に明日のバトルのルールが各国の代表たちに告知された。

 試合形式はバトルロイヤル方式。

 各国の代表チームから各3人までを選びGBN内の特設フィールド内で戦う形式のバトルだ。

 各国のチームはそれぞれバトルフィールドの中にランダムで出撃する事となり、36チーム中16チームになるまで戦い16チームには各10ポイントづつ与えられる。

 一定時間を過ぎるごとに運営が用意したNPDが投入される等が主なルールとなっている。

 

「重要なのは誰を選ぶと言う事ですね。エースの大我は確定として初期配置がランダムである以上は単独で戦闘を行う事も考慮して単独でどんな相手でもある程度は戦えるダイバーとな

 

れば……」

 

 チームの中で司令塔のルークに次ぐブレインでもあるディランが自身の考えを述べるがそれをルークが止める。

 

「それに関してなんだけど、さっき運営の方から懇親会で騒ぎを起こしたペナルティとしてウチのチームからは次のバトルロイヤルは1人しか出せなくなったんだよな」

 

 ルークの言葉に事前に知っていた大我を除くチーム一同は唖然として言葉もない。

 大会運営は懇親会で大我が起こした騒ぎのペナルティとしてアメリカ代表チームは第一試合であるバトルロイヤルを他のチームは3機までのところを1機のみにすると決定した。

 ルールでは16チームに入るには3機のうち1機でも残っていれば良い為、1機しか使えないと言う事はその1機が落とされたら即第一試合を落とす事となる。

 

「俺一人でも出られるなら問題はないだろう」

「そうは言うけどね……」

 

 アメリカ代表からは1人しか出せないとなると大我が出る事には誰も異論はない。

 大我自身、自分が負けない限りはチームの敗北にはならず、負ける気は毛頭ないから問題はないと気にした様子はまるでない。

 大我が負けないと言う事はチームの誰もが思っているが、単体での実力に優れていても他のチームは友軍と連携を取って来られると流石の大我でも手こずるかも知れない。

 最悪の場合、初期から1機しかいないアメリカ代表は他のチームからすれば1チームを早々に脱落させられる恰好のカモになり、複数のチームから同時に狙われる危険性すらある。

 

「俺は誰にも負けない。フィールドに味方がいないのであれば目に付いた奴は全て敵だろ? なら目に付いた奴を全てぶっ潰して自分以外の107機を仕留めれば良いだけのシンプルな話だ

 

 

 例え一人で戦おうとも大我の絶対的な自信は揺るがない。

 その自信はチームに立ち込める暗雲を吹き飛ばすには十分だ。

 明日の第一試合でいきなり不利な状況で戦う事になり、バトルが始まってしまえば大我一人に頼らざる負えない不安ももはやない。

 それだけチームのエースである大我を信頼しているからだ。

 だからこそ、誰も大我には言わなかった自分以外のガンプラは105機で107機だと味方も入っていると言う事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一試合のルールが発表されて一晩が過ぎて、世界大会予選第一試合が始まろうとしている。

 各国は他のチームが誰を出して来るかは事前には知らされてはいない。

 それぞれは基本的に決勝トーナメントまではGBNにログインする時も別々で行われる。

 その為、誰が出るかはチームメイト以外は不正防止の為に各国に数人付き添っている運営の人間のみだ。

 アメリカ代表からは当然大我で決まっていた。

 

「まさかいきなり単機で戦う事になるとは思っていなかったけど、仕上げてはあるから」

 

 大我はリヴィエールからガンプラを受け取る。

 アメリカ代表を決める予選の段階からリヴィエールは大我のガンダムバルバトス・アステール・アルファの戦闘データを基に新たな大我専用のガンプラの制作に入っていた。

 そうして完成したのがガンダムオメガバルバトスだ。

 今までバルバトス・アステールとは異なり、オメガバルバトスは内部のガンダムフレームからリヴィエールが大我の操縦に合わせて1から設計して制作したFPガンダムフレームが使われ

 

ている。

 フレームには膝にドリルニーと背部にテイルブレイドに射出機構、足の裏にハンターエッジが標準的に内蔵されている。

 外装にはバルバトスルプスの元を使用し、外観からは殆どバルバトスルプスに見える。

 武器は手持ちのソードメイスと左腕に先端に射出は出来ないが、打撃用の杭の付いたパイルシールドが付けられている以外は、フレームに標準装備されているドリルニーとテイルブレ

 

イド、ハンターエッジのみとなっている。

 テイルブレイドと本体を繋いでいるワイヤーも極限まで細くした物を変えてワイヤーは肉眼では殆ど見えないようになっている。

 これまで通りに表面には対ビームコーティングと外装を薄いプラ版で2重装甲にする事による防御力と腕部のパワーユニットなしでも同等以上のパワーを持ちながらスラスターの推力だ

 

けで重力下での長時間の自由飛行を可能とする高出力スラスターによる機動性能を持っている。

 

「大我」

「分かってる」

 

 ルークに大我は短く答える。

 今更、細かい打ち合わせをする必要もない。

 後は新しいバルバトスで敵を全て粉砕して来るだけだ。

 大我はチームメイトに見守られながらガンプラをセットしてGBNにログインする。

 ログインするとすぐにアバターがガンプラのコックピットに転送されると出撃準備に入る。

 

「藤城大我。ガンダムオメガバルバトス。出る」

 

 オメガバルバトスがバトルフィールドに射出される。

 射出されたフィールドは宇宙空間だった。

 遠目には地球が見える。

 今回のバトルフィールドは宇宙や地上と幅広く作られており、その中でダイバー達はランダムに射出されている頃だろう。

 周囲に敵影は無く大我はオメガバルバトスを一気に加速させる。

 

「加速性能が今までとは段違いだな」

 

 大我はオメガバルバトスの加速性能を確かめながら敵を探す。

 やがて、センサーに他のガンプラの反応が現れた。

 アメリカ代表は大我しかいない為、味方ではない事は確実だ。

 モニターには戦闘をしているようには見えない。

 センサーに映るガンプラの数は3。

 恐らくは運良く味方が近くに居たのか、もしくは遭遇してすぐに戦うよりも生き残る事を優先して他国同士で一時的に徒党を込んだのかどちらかだろう。

 モニターに敵のガンプラが映される。

 映されたガンプラはドラド、クラウダ、リック・ドムの3機だ。

 

「見つけた」

 

 大我は一気に加速して見つけた敵機へと向かって行く。

 向こうも大我に気づき一斉放火を浴びせる。

 

「くそ! 早い!」

 

 オメガバルバトスは機体を左右に移動させて集中砲火をかわしながらソードメイスを逆手に持ち替えてドラド目掛けて投擲する。

 投げられたソードメイスは正確にドラドの頭部に突き刺さる。

 

「何!」

「遅いな」

 

 オメガバルバトスは素早くドラドに接近してソードメイスを回収すると近くに居たクラウダの方に向かう。

 クラウダはビームライフルで迎え撃つが、対ビームコーティングされているオメガバルバトスを止める事は出来ない。

 オメガバルバトスはソードメイスを振るい、クラウダはギリギリのところで腕で守り、腕にソードメイスがめり込み、オメガバルバトスはソードメイスを抜きながた同時に左腕のパイ

 

ルシールドの先端でクラウダの頭部を潰して体勢を崩したところをすぐさまドリルニーを胴体にぶち込む。

 

「2機をこうも……化物か!」

 

 残ったリック・ドムはバズーカを撃ちながら後退しようとするが、オメガバルバトスのテイルブレイドがバズーカを破壊して、リック・ドムの足に突き刺さる。

 テイルブレイドのワイヤーを撒き戻してリック・ドムを自分の方に引き寄せながらオメガバルバトスはソードメイスの一閃でリック・ドムを両断した。

 

「……こんな物か」

 

 リック・ドムの足に突き刺さったテイルブレイドをオメガバルバトスは回収する。

 3機を撃破するとすぐに新たな敵影の反応が現れる。

 今度の反応は2機。

 いずれもオメガバルバトスの方に向かって来ている。

 モニターに映されたガンプラはシナンジュとヘルムヴィーケ・リンカーだ。

 シナンジュは見た目は特に改造されている点はないようだが、ヘルムヴィーケ・リンカーはヴァルキュリアバスターソードを大剣の部分を2つ繋ぎ合わせたヴァルキュリアツインソード

 

を持ち、ブースターを大型化して機動力を高めている。

 先行するシナンジュがビームライフルを連射する。

 オメガバルバトスは一射目をかわして、二射目をソードメイスで弾くが、三射目が胴体に直撃する。

 

「さっきの雑魚とは違うか」

 

 ビームが直撃したが、表面に施されている対ビームコーティングでダメージはないが、少なくとも大我は当てられるつもりは無かった。

 それだけでも先ほど瞬殺した3機とはダイバーの実力が違うと言う事が分かる。

 

「面白い。少しはコイツのデータ収集の役に立って貰うとするか」

 

 オメガバルバトスはソードメイスを構えてシナンジュに突っ込む。

 シナンジュにソードメイスを振るうが、シナンジュはかわして追いついて来たヘルムヴィーケ・リンカーがヴァルキュリアツインソードを振り下ろす。

 それをオメガバルバトスは左手で軽々と受け止める。

 

「何!」

「大したパワーだ。前のバルバトスなら受け止める事で精一杯だったが、今のバルバトスなら問題はない」

 

 オメガバルバトスはソードメイスをヘルムヴィーケ・リンカーの頭部目掛けて突き出すが、ヘルムヴィーケ・リンカーはギリギリのところで間合いを取ってかわす。

 それを追撃しようとしたオメガバルバトスをシナンジュがビームライフルで牽制する。

 

「ちっ」

 

 オメガバルバトスはパイルシールドで身を守りながらテイルブレイドをシナンジュに差し向ける。

 シナンジュはシールドで弾くが、その間に間合いを詰めたオメガバルバトスがソードメイスを振り上げていたが、不意に攻撃を中断して、距離を取ると2機の間にビームが横切る。

 

「3機目か」

「不意打ちは好みではないが、仲間がやられるのを黙って見ている訳にはいかないのでね」

「クリフォードか……助かった」

「ダブルオーライザー。クリフォード・マーウッドか」

 

 横やりを入れて来たのはダブルオーライザーをベースとしたガンプラ、ダブルオーランサー。

 『神槍』の異名を持つイギリス代表チームのリーダーでもあるクリフォード・マーウッドの愛機だった。

 ダブルオーランザーはダブルオーライザーをベースとして手持ちの武器をGNソードⅡブラスターを柄の部分を延長して槍に改造したGNブラスターランス。

 背部にはオーライザーを取り払い、GNバスターソードをGNソードⅡブラスターのように槍へと改造し、未使用時には補助スラスターと背部の守りに使うGNバスターランス。

 腰にはGNカタールの刃を流用し、柄を繋げる事でGNツインランスとしても使える短い槍、GNジャベリンが、リアアーマーには予備の武器として柄を2つに折り畳んだGNグレイヴが装備さ

 

れている。

 四肢には青い増加装甲が取り付けられており、腕部にはガンダムエクシア同様にGNバルカンが増設され、脚部の増加装甲にはGNスラスターが内蔵されている。

 クリフォードが助けたと言う事はシナンジュとヘルムヴィーケ・リンカーはイギリス代表のガンプラだと言う事だろう。

 

「ここは私がやろう。手出しは無用だ」

 

 ダブルオーランザーはGNブラスターランスを構えるとオメガバルバトスに突撃する。

 オメガバルバトスもソードメイスで迎え撃つ。

 2機のガンプラはぶつかり合い鍔迫り合いとなる。

 鍔競り合いはオメガバルバトスに軍配が上がり、ダブルオーランサーは弾き飛ばされる。

 

「成程。パワーは噂通りと言う訳だ。なら……スピードはどうかな?」

 

 ダブルオーランサーは一気に加速するとオメガバルバトスの背後に回り込む。

 だが、それは大我も反応しており、背後のダブルオーランサーに回り蹴りと共に足の裏のハンターエッジを繰り出す。

 

「足癖も悪い」

 

 ダブルオーランサーはGNフィールドでハンターエッジを防ぐ。

 その間にオメガバルバトスはテイルブレイドを射出する。

 

「それも厄介だと聞いているよ」

 

 ダブルオーランサーは腰のGNジャベリンを取るとテイルブレイドに投げつけて弾くとGNブラスターランスの先端のビームを撃つ。

 それをかわしながらオメガバルバトスはソードメイスを振るい、ダブルオーランサーはGNブラスターランスで受け止める。

 オメガバルバトスとダブルオーランサーは何度も激しくぶつかり合う。

 それとシナンジュとヘルムヴィーケ・リンカーのダイバーは下手に出だしが出せないでいる。

 戦う前にクリフォードが手を出すなと言っていたが、一対一での戦いにクリフォードが拘っていた訳ではなく、単に足手まといになるからだったのだろう。

 少なくともイギリス代表メンバーのクリフォードと一体一でまともに戦えるダイバーはいない。

 

「大したものだよ。君の姉上の話しは父から聞いていたが、末の君もこれ程とはね」

「知るかよ」

「確かにね……ならば私も本気を出そう」

 

 真向からぶつかり合うが、このままでは決着をつけるには時間がかかり、決着が付く頃には自分も余力は残らない。

 そう判断したクリフォードは切り札を使ってでも早期に決着を付けようと考える。

 2機が離れ、オメガバルバトスがソードメイスを構えて突っ込もうとするが、横からヘルムヴィーケ・リンカーが突っ込んで来てオメガバルバトスを羽交い絞めにする。

 

「アーロン!」

「ちっ!」

 

 ヘルムヴィーケ・リンカーはオメガバルバトスを羽交い絞めにしながら地球に向かう。

 距離が近かった事もあり、ヘルムヴィーケ・リンカーは地球の重力に捕まりオメガバルバトスごと地球に降下して行く。

 

「お前にこれ以上クリフォードと戦わせる訳には行かない!」

「……アーロン。済まない。私とした事が、熱くなり過ぎていたようだ」

 

 クリフォードもヘルムヴィーケ・リンカーのダイバーであるアーロンの意図を理解した。

 このバトルで重要なのはいかに敵を倒す事ではなく、いかにして生き残るかだ。

 ここで大我を倒したとしてもチームのエースであるクリフォードが満身創痍になってしまえば、他のチームと遭遇した時にやられる危険性がある。

 それを避ける為にも自身が捨て駒になってもこれ以上、クリフォードと大我と戦わせるだけには行かないと判断してこの行動に出たのだ。

 

「邪魔だ」

 

 オメガバルバトスは強引にヘルムヴィーケ・リンカーの腕をこじ開けるとソードメイスで頭部に一撃喰らわせる。

 それだけでは致命傷にはならず、オメガバルバトスはヘルムヴィーケ・リンカーの潰れた頭部を掴むと胴体にドリルニーをブチ込み止めを刺す。

 

「流石にここまで降下すると戻れそうに無いな」

 

 大我も地球の重力を振り切って戻る事を諦めると仕留めたヘルムヴィーケ・リンカーを盾として使い大気圏を降下して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 バトルロイヤルが開始され、地上でも戦闘が始まっていた。

 地上ステージの荒野では乱戦が繰り広げられている。

 偶然にもある程度の数のダイバー達が近くから始まったことによる物だ。

 その中に龍牙のバーニングドラゴンデスティニーの姿もある。

 日本代表からは1戦目と言う事もあり、主力を温存して1年である龍牙、千鶴、レオの3人を出して世界レベルの相手との経験を積ませようとしている。

 

「これが世界か……中々減らないな」

 

 バーニングドラゴンデスティニーはマグアナックのヒートホークをかわして殴り飛ばす。

 戦闘状態に入ってから時間が経って入るが、撃墜されたガンプラの数は余り多くはない。

 そんな中、確実に撃墜数を増やすガンプラがいた。

 ロシア代表チームのカティアが狩るガンダムマークⅡミェーチだ。

 ガンダムマークⅡ(ティターンズカラー)をベースとして近接格闘戦に特化している。

 全身の装甲を最低限の物にして重量を軽量し、バックパックはエネルギータンクを内蔵した高出力の物に換装されている。

 武器は両手にバックパックからエネルギーケーブルが繋がっている高出力ビームソードと頭部のバルカンのみだ。

 マークⅡミェーチはビームソードでギラーガのギラーガスピアを切り裂くともう一本のビームソードでギラーガを両断して破壊する。

 

「調子に乗って! コイツで消し炭にしてやる!」

 

 近くに居たガンダムヴァーチェはGNバズーカをマークⅡミェーチに打ち込む。

 

「……その程度で」

 

 だが、マークⅡミェーチはビームソードでGNバズーカの粒子ビームを切り裂くとヴァーチェの腕をGNバズーカごと切り裂くとビームソードを胴体に突き刺して破壊する。

 

「次」

 

 ヴァーチェを仕留めたカティアは次の目標を龍牙のバーニングドラゴンデスティニーにするとガンプラを向ける。

 

「来るか!」

 

 龍牙もカティアを迎え撃とうと構える。

 バーニングドラゴンデスティニーはビームナックルでマークⅡミェーチを迎え撃る。

 バーニングドラゴンデスティニーの攻撃をかわして懐に潜り込み、ビームソードを突き出す。

 

「ちぃ!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーはギリギリのところでかわすが、もう片方のビームソードをマークⅡミェーチは振るう。

 龍牙はビームナックルをビームシールドに戻して受け止めようとするが、先ほどのヴァーチェがビームを切り裂かれたことを思い出す。

 マークⅡミェーチのビームソードの威力では早々真っ向から受け止める事は出来ないのだろう。

 龍牙はとっさに防ぐことを止めて後退する。

 その際にバルカンで牽制射撃を入れるとマークⅡミェーチは追撃せずにバルカンをかわす。

 

「少しはやるようね」

「アイツと同じで防御は出来ないってか」

 

 バーニングドラゴンデスティニーとマークⅡミェーチは互いに間合いを計りながらにらみ合う。

 すると近くで何かが落ちた音がする。

 

「何?」

「何か落ちて来たのか?」

 

 土煙が上がり、周囲の他のダイバー達も戦闘が止まり、何が起きたのか把握しようとする。

 土煙が収まり始めると中に人型のシルエットが映り、ツインアイが光ると近くに居たガンイージが土煙の中に引きこまれるとシルエットが何かを振るう動作と共にガンイージが真っ二

 

つに破壊されて爆発が起こる。

 爆発で土煙が吹き飛び、シルエットの正体が見えるが、その瞬間、それがビギナ・ギナの方に飛び出す。

 

「バルバトス! まさか……」

 

 ビギナ・ギナはビームバズーカを撃つが、落ちて来たオメガバルバトスはかわす事なく、ビームが装甲で弾かれる。

 大気圏をヘルムヴィーケ・リンカーをボード替わりに使って降下すると、降下しながら近くで戦闘が行われている事を見つけるとそこを目掛けて降りて来た。

 ビギナ・ギナはビームシールドでソードメイスを守ろうとするが、ビームシールドごとビギナ・ギナを粉砕する。

 

「あの戦い方……間違いない! 大我の奴だ」

 

 龍牙はオメガバルバトスの戦い方からそう判断する。

 ガンプラが以前とは違うが、相手をガードごと粉砕するその戦い方は大我そのものだ。

 

「先に仕留める」

 

 マークⅡミェーチはビギナ・ギナからソードメイスを抜くオメガバルバトスに背後から飛び掛かるとビームソードを振り下す。

 それをオメガバルバトスは振り向きながらソードメイスで受け止める。

 

「受け止めた!」

「ティターンズのマークⅡ。妹の方か……お前に用はない」

 

 ビームソードを受け止めたオメガバルバトスは易々とマークⅡミェーチを吹き飛ばす。

 

「っ! なんてパワーなの」

「馬鹿力も相変わらずって事か!」

 

 今度はバーニングドラゴンデスティニーが飛び出す。

 バーニングドラゴンデスティニーはビームナックルで殴りかかり、オメガバルバトスはパイルシールドで受け止めてソードメイスを振り下す。

 それをバーニングドラゴンデスティニーはバックステップでかわす。

 

「邪魔よ」

 

 マークⅡミェーチが体勢を整えてオメガバルバトスに向かう。

 ビームソードを振るおうとするが、オメガバルバトスのテイルブレイドでマークⅡミェーチの右腕を肘から切り落とす。

 

「しまっ!」

 

 そして、ソードメイスで止めを刺そうとするが、高出力のビームが2機の間を走り、オメガバルバトスは攻撃を中止して後退してかわす。

 

「大丈夫か。カティア」

「……兄さん」

「もう1機のマークⅡ。今度はエゥーゴの方か」

 

 攻撃の主はロシア代表のリーダーでもあるオルゲルトのガンダムマークⅡチシートだった。

 カティアのマークⅡミェーチと同じガンダムマークⅡの色違いであるエゥーゴカラーをベースにマークⅡミェーチとは正反対の重装甲化がされている。

 全身に装甲が追加され、頭部のバルカンポッド、両肩にアームで稼働するシールド、両腕にビームサーベル兼ビームガンが内蔵され、バックパックはマークⅡミェーチの物と同タイプ

 

の物に換装されている。

 高出力のバックパックと増加装甲に内蔵されているスラスターで機動力をある程度は補強されている。

 手持ちの火器としてバックパックからケーブルで繋がれているメガビームライフルを持ち、重装甲を高い火力を持つガンプラだ。

 

「さっきは取り逃がしたが、今度はぶっ潰させて貰う」

 

 オメガバルバトスはマークⅡチシートに向かって飛び掛かる。

 

「カティア。下がっていろ。お前の敵う相手ではない」

「……了解」

 

 カティアは渋々ながらもオルゲルトの指示に従い下がる。

 オメガバルバトスはソードメイスを振るい、マークⅡチシートは肩のシールドで受け止める。

 

「受け止めやがった!」

 

 龍牙はその様子を見て驚く。

 大我の一撃の威力は凄まじく、そう簡単に真っ向から受け止められることはない。

 だが、オルゲルトは真っ向から受け止めた。

 それだけではなく、マークⅡミェーチを軽々吹き飛ばすだけのパワーを持ってしてもマークⅡチシートはびくともしない。

 大我が圧倒的なパワーで敵を捻じ伏せるのに対して、オルゲルトは圧倒的なパワーで敵の攻撃を真っ向から受け止めて微動だにしない。

 それこそが、オルゲルトが鉄人との異名を持つ由来だった。

 

「噂に違わぬその力……だが!」

 

 マークⅡチシートはオメガバルバトスを蹴り飛ばす。

 オメガバルバトスは蹴りをまともに喰らってぶっ飛ばされる。

 

「……成程な。今のコイツのパワーじゃ押し切れないか……まぁ良い」

 

 オメガバルバトスは体勢を整えて、ソードメイスを構える。

 マークⅡチシートはメガビームライフルを撃って迎え撃つ。

 ビームをかわしながらマークⅡチシートに向かって行くが、突如軌道を変えると何もない場所でソードメイスを振るおうとする。

 大我にはある物が見えていた。

 オルゲルトと戦う中で大我を狙っていたスナイパーの存在に。

 そのスナイパーがタイミングを取ってオメガバルバトスを狙撃して来た為、大我はそれに対応した。

 銃弾にタイミングを合わせてソードメイスを振るったが、銃弾は軌道を変えると再び軌道を変えてオメガバルバトスのソードメイスの柄に当たって、ソードメイスを弾き飛ばした。

 

「……何が起きたの?」

「ずいぶんと腕の良いスナイパーがいるようだ。カティア。味方ではないだろうから油断するなよ」

 

 カティアにも何が起きたのか分からなかったが、オルゲルトには分かっているようだった。

 

「……こんなことが出来るのはアイツくらいか」

 

 大我も何が起きていたのか見えていた。

 大我が迎え撃とうとした銃弾に後ろから来た銃弾が当たって軌道を変えた。

 その後、別の銃弾により更に軌道を変えた銃弾がソードメイスを弾き飛ばした。

 2度の軌道変更で威力は大幅に落ちていた為、本体を直接狙わずにソードメイスの柄を狙ったのだろう。

 大我が気づき対応して来ることを見越して軌道を計算して狙撃出来るダイバーは世界にも早々いない。

 

「龍牙。大丈夫? あのバルバトスは……」

「ああ。大我だ」

 

 龍牙も何が起きたのかイマイチ理解出来てはいなかったが、千鶴からの通信で千鶴が狙撃したと言う事は分かり、何が起きたのか分からないがとんでもない狙撃をやったのだと千鶴が

 

味方で良かったと冷や汗をかきながら思う。

 武器を手放したオメガバルバトスにチャンスとばかりにジェガンとイナクト、百式が向かって行く。

 

「雑魚に用はない」

 

 ハンターエッジを展開しながら百式の胴体に蹴りを入れながら、百式を地面に叩きつけて胴体を踏みつけて破壊すると、イナクトのソニックブレイドをかわして百式の頭部を掴むと、

 

イナクトにフルスイングする。

 イナクトはかわし切れずに百式共々バラバラになって破壊される。

 

「ちっ……脆すぎるだろ」

 

 オメガバルバトスは掴んでいた百式の頭部をジェガンに投げつける。

 ジェガンのダイバーは完全にビビッており、何とかシールドで身を守り、投げつけられた百式の頭部を弾くが、すでにテイルブレイドでソードメイスを回収したオメガバルバトスが迫

 

っており、逃げる事も立ち向かう事も出来ずにソードメイスの一撃で破壊される。

 

「相変わらずのようね」

「だな。千鶴、そっちの場所を送ってくれ。大我と戦いたいのは山々だが、一度合流する」

「了解」

 

 千鶴はレーダーの有効距離の外にいるのか、龍牙にもどこにいるのか分からない。

 少しすると千鶴から自分の位置情報が送られて来る。

 一般的な狙撃可能距離から千鶴は狙撃していたようだ。

 龍牙も大我と戦えるチャンスだが、最も優先すべきことは生き残る事だ。

 千鶴も近接戦闘は余り得意ではない為、敵に囲まれると厳しい。

 自分と合流する事で自分共々、このバトルロイヤルに生き残る可能性は高い。

 龍牙にとっては悔しい事だが幸いにも大我は龍牙の事等眼中にはないようだ。

 今なら千鶴の支援で離脱する事は出来る。

 

「……地響き? 今度は何なんだよ」

 

 離脱しようとした矢先、何かが近づいて来るような地響きが起こる。

 

「兄さん」

「ああ。面倒なのが来た」

「デカいな」

「……嘘だろ」

 

 戦場に残る4人はそれぞれの反応する。

 戦場に現れた新たなガンプラは通常装備のザクⅡ。

 だが、そのサイズは桁外れだった。

 

「メガサイズかよ!」

 

 巨大なザクⅡはダイバーが操縦している物ではなく、運営側が用意した物でバトル開始から一定時間後にバトルフィールドの各地に投入されて、ダイバーの数を減らして行く。

 ザクⅡは巨大なザクマシンガンを戦場に向けて撃ち込む。

 

「龍牙!」

「デカいのは地区予選でも戦っているけど! こんちくしょう!」

 

 ザクマシンガンとはいえ、あの巨大なザクⅡが持っている為、通常サイズのガンプラでは直撃すれば一溜りもない。

 

「デカい的だ」

 

 マークⅡチシートはメガビームライフルをザクⅡに撃ち込む。

 スパイクアーマーに直撃したビームはザクⅡを撃ち抜かずに霧散した。

 

「ビームコーティングか。そう簡単には仕留めさせて貰えないか」

 

 直撃した場所は多少焼け焦げているが、ザクⅡの動きに影響はない。

 そこにすかさず千鶴が狙撃して銃弾は装甲を貫通するが、ザクⅡの装甲はすぐに修復されて焦げ跡一つ残されていない。

 

「自己修復機能まで……兄さん。どうするの?」

「メガビームライフルでダメージを与えられないのであれば、お前のビームソードでも厳しいだろう。ここは離脱して……」

 

 マークⅡチシートのメガビームライフルでもザクⅡの装甲は貫けなかった。

 そうなればマークⅡミェーチのビームソードでも致命傷を与えるのは難しい。

 

「逃がすかよ」

 

 離脱を考えていたがオルゲルトだが、オメガバルバトスがソードメイスを振るい、バックステップでかわしながら、左腕のビームガンを撃ち込む。

 

「糞!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーはフルパワーでザクⅡの足を殴るが体勢を崩すことすら出来ない。

 

「やっぱ無理か……コイツを何とかするには……」

 

 単機の能力でこのザクⅡを倒すことは難しい。

 このザクⅡから逃げる事も簡単ではない。

 生き残る為にはザクⅡを倒すことだが、単機で倒すことが出来なければ徒党を組んで戦えば勝てるかも知れない。

 

「つってもな……」

 

 ザクⅡの攻撃をかわしながらモニターの端ではオメガバルバトスの攻撃をマークⅡチシートが捌いでいる。

 大我はザクⅡを倒しても意味がないと判断し、ザクⅡからの攻撃をかわすが、倒す気はなく反撃もしていない。

 オメガバルバトスの攻撃からマークⅡチシートはカティアのマークⅡミェーチを庇いながら戦っている為、協力を頼めそうもない。

 

「まぁ彼が協力する事はないわ。龍牙、援護はするからそこから離脱した方が良いわ」

「……だな」

 

 大我を押し付ける形になったオルゲルトには悪いと思いながらも、今は自分が生き延びなければならない。

 龍牙が撤退しようとしようとすると、ザクⅡの上半身が吹き飛んだ。

 突然の事態に大我も手を止める。

 

「……今度は何だよ」

「あのガンプラ……」

 

 上半身が吹き飛んだザクⅡは流石に再生はしないで倒れる。

 そして、上空にはザクⅡを一撃で破壊したガンプラがいた。

 Gセルフをベースに改造された皇帝、アルゴスのガンプラGバシレウス。

 右手には大型ビームライフルを持ち、両肩と腰にはパーフェクトパックのトラック・フィンを改造したトラック・ビットが装備されている。

 両腕にはフォトンシールドの発生装置が組み込まれ、バックパックはパーフェクトパックにトラック・フィンの代わりに宇宙用バックパックのスラスターが取り付けられている。

 

「アレが皇帝のガンプラ……」

 

 ザクⅡを一撃で破壊した事だけではなく、アルゴスのGバシレウスは圧倒的な存在感を放ち、龍牙達はその場から一歩も動けないでいた。

 少しで動けば真っ先にGバジレウスのターゲットとなりやられるとファイターとしての本能が警告する。

 そんな中、大我だけは前に出た。

 

「なっ!」

「気が狂ったか」

「アンタはここでぶっ潰す」

 

 一気に加速したオメガバルバトスは一直線にGバシレウスに向かって行く。

 

「タイガ・フジシロか……やはり貴様は臆する事無く来るか」

 

 Gバシレウスは大型ビームライフルを迫るオメガバルバトスに向けて撃つ。

 オメガバルバトスはパイルシールドで防ごうとするが、ビームは易々とパイルシールドを貫通してオメガバルバトスの脇腹を掠める。

 それにより勢いが落ちたオメガバルバトスは速度が緩みやがて地上に落ちていく。

 

「それで終わりか?」

「……一発は一発だ」

 

 アルゴスはオメガバルバトスの動きに注意を払っていたが、すでに大我は攻撃を行っていた。

 死角からオメガバルバトスのテイルブレイドが回り込み、Gバシレウスの頭部に直撃する。

 

「ほう……この俺に一撃を入れるか……面白い。貴様はここで仕留める」

 

 Gバシレウスの全身が光ると全方位レーザーがオメガバルバトスを中心に戦場一帯に降り注ぐ。

 それを龍牙のバーニングドラゴンデスティニーや2機のマークも必死にかわす。

 

「龍牙!」

「大丈夫だ。このくらい、練習のダインスレイヴに比べれば!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーは何とか全方位レーザーをかわす。

 レーザーの雨の中、オメガバルバトスはソートメイスを投擲する。

 Gバシレウスは大型ビームライフルで弾くとオメガバルバトスは飛び上がって弾かれたソードメイスをキャッチするとGバシレウスの方に突撃する。

 

「口だけではないようだな」

「アンタも肩書だけじゃないようだな」

 

 ソードメイスを肩のトラックビットで弾くと至近距離から大型ビームライフルをGバシレウスはオメガバルバトスに向ける。

 ビームが撃たれるよりも早く、オメガバルバトスは大型ビームライフルを蹴り上げて射線を逸らす。

 射撃を逸らされるとすぐにGバシレウスはビームサーベルを抜くとオメガバルバトスに突き出す。

 オメガバルバトスはパイルシールドで身を守るが、ビームサーベルは易々とパイルシールドを貫き、Gバジレウスはビームサーベルを横に振いパイルシールドを切断する。

 

「ちっ」

 

 パイルシールドが使い物にならなくなり、大我はパイルシールドをパージするが、その間にGバシレウスは両肩と腰のトラックビットを前方に向けて大型ビームライフルもオメガバルバトスに向けていた。

 4基のトラックビットと大型ビームライフルの全5門から放たれるフルバーストは一撃でメガサイズのザクⅡを破壊する程だ。

 

「終わりだ。タイガ・フジシロ」

 

 大我はかわせないと判断してはソードメイスを盾する。

 そして、至近距離からGバシレウスのフルバーストが放たれてオメガバルバトスを飲み込んだ。



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皇帝

Gバシレウスの強力なビームがガンダムオメガバルバトスを飲み込む。

 幾ら表面を対ビームコーティングがされていたとしても防ぐことは出来ない威力だ。

 

「新手か」

 

 Gバシレウスの攻撃は確実にオメガバルバトスを捕えようとしていた。

 あの状況では自力でかわすことは不可能だ。

 第三者の介入が無ければ。

 

「……何の真似だ。レオ」

「昔の癖だよ。いつものようにやられそうになった大我を助けてやろうと体が勝手に動いたんだよ。癖って怖いよな」

 

 高出力のビームがオメガバルバトスを捕えるよりも先にレオのネビュラアストレイがオメガバルバトスをビームの射線上から退避させていた。

 そのお陰でオメガバルバトスは無事だった。

 

「そんな事実はねぇよ。バグじゃないのか?」

「都合よく記憶を消してんだろ」

 

 オメガバルバトスはネビュラアストレイの腕を振りほどく。

 

「……礼は言わないからな。俺一人で何とか出来たし」

「そうかよ。まぁ俺もアイツを一人で仕留めるのは厳しいからな」

「……勝手にしろ。足で纏いになっても助けないからな」

「上等!」

 

 オメガバルバトスとネビュラアストレイは二手に分かれてGバシレウスを挟み撃ちにしようとする。

 オメガバルバトスがソードメイスで殴りかかり、ネビュラアストレイはレールバズーカを可能な限り連射する。

 

「二人同時か……良いだろう相手をしてやる」

 

 Gバシレウスはネビュラアストレイの攻撃をかわしながらオメガバルバトスの一撃もかわす。

 

「ちっ……狙いが定まらない。コイツで当てるのは無理か!」

 

 ネビュラアストレイはレールバズーカの残弾を全て撃ち尽くすと捨ててビームライフルに持ち変える。

 

「行って来い!」

 

 ネビュラアストレイは5基のドラグーンをパージする。

 Gバシレウスを囲むように全方位からビームを撃ち、ビームの合間を縫うようにオメガバルバトスがソードメイスを振るう。

 それを大型ビームライフルで受けて流すと、肩と腰のトラックビットをパージする。

 トラックビッドはGバシレウスの周囲を飛び、フォトンシールドを張りながらネビュラアストレイのドラグーンの攻撃から身を守る。

 

「速いだけじゃなくてビッドで防御までして来るのか……大我! あのビット何とかしろ! 破壊はお前の領分だろ!」

「うるさい」

 

 オメガバルバトスがGバシレウスに突撃してソードメイスを振るうが、フォトンシールドを張ったトラックビッドで受け止められる。

 攻撃を防ぎ、Gバシレウスはオメガバルバトスに大型ビームライフルを向ける。

 

「大我!」

 

 トラックビッドが死角となり、大我はGバシレウスが大型ビームライフルを向けていることに気づくことが一瞬遅れた。

 Gバシレウスは大型ビームライフルを放つ。

 オメガバルバトスはギリギリのところで体勢を強引に変えて胴体への直撃だけは防ぐものの、左腕が肩から跡形もなく吹き飛んだ。

 

「ちぃ!」

「終わりだ」

 

 Gバシレウスは大型ビームライフルを向けるが、ネビュラアストレイがビームライフルを撃ちながら、ドラグーンも使いながらGバシレウスに接近する。

 トラックビットを使ってビームを防ぎ、ネビュラアストレイがシールドから出したビームソードを振るうが、Gバシレウスは易々と回避される。

 4基あったトラックビッドの中の2基がネビュラアストレイを挟み込みビームが放たれる。

 それをかわしながらビームライフルで応戦していたが、トラックビットのビームがビームライフルを掠り、ネビュラアストレイはビームライフルを手放すとシールドで爆風から身を守る。

 しかし、その間にGバシレウスはネビュラアストレイとの距離を詰めており、ビームサーベルを振るう。

 ネビュラアストレイのシールドはビームサーベルに切り裂かれ、ネビュラアストレイは地上に叩き付けられる。

 Gバシレウスは大型ビームライフルで追撃しようとするが、ドラグーンの攻撃で妨害されるが、ビームをかわしながら大型ビームライフルで正確にドラグーンを撃ち抜いて全滅させる。

 

「ここまで持った事は褒めてやろう。だが……ここまでだ」

 

 Gバシレウスは大型ビームライフルをネビュラアストレイに向ける。

 だが、引き金を引く前に片足が下に引かれるような小さな衝撃を受ける。

 

「……さっきから皇帝の分際で何見下してんだよ」

 

 Gバシレウスの片足にオメガバルバトスのテイルブレイドが絡まっていた。

 

「レオはともかく。いつまでも俺を見下ろしてんじゃねぇよ」

 

 オメガバルバトスはいつの間にか地上に降りており、ソードメイスを地面に突き刺してテイルブレイドのワイヤーを掴んでいた。

 そして、ワイヤーを思い切り引っ張る。

 Gバシレウスは抵抗する間もなく地上まで引きづり下される。

 

「俺はともかくって……まぁ良いか」

 

 ネビュラアストレイは立ち上がり腰のスレッジハンマーを手に取る。

 

「小癪な真似を」

「ぶっ潰す!」

 

 オメガバルバトスのツインアイが赤く発光し、リミッター解除状態となる。

 地面に突き刺していたソードメイスを引き抜くと大地を蹴りGバシレウスに突っ込む。

 オメガバルバトスのソードメイスをGバシレウスはトラックビットで受け止めると大型ビームライフルを撃つ。

 だが、リミッター解除により運動性能が極限まで高められたオメガバルバトスは飛び退き、テイルブレイドのワイヤーが足に絡みついている為、Gバシレウスは足を取られる。

 

「こっちだよ!」

 

 横からネビュラアストレイがスレッジハンマーで殴りかかる。

 Gバシレウスはビームサーベルで受け止めるが、ネビュラアストレイは膝の装甲に収納されているプリスティスを出そうとするが、Gバシレウスはネビュラアストレイの膝を踏みつけて大型ビームライフルで殴り飛ばす。

 

「くそ! 流石にそう簡単にはいかないか!」

 

 ネビュラアストレイは体勢を立て直す。

 幸いにも膝の装甲が踏みつぶされただけでフレームまでは損傷は達してはいない為、立つことは出来る。

 一度体勢を整えている間にオメガバルバトスはソードメイスを投擲する。

 ソードメイスはトラックビットに阻まれ弾かれるが、オメガバルバトスは弾かれたソードメイスを空中でキャッチしながら殴りかかる。

 オメガバルバトスのソードメイスをトラックビットで流し、ネビュラアストレイもオメガバルバトスに合わせてスレッジハンマーで殴りかかるが、その攻撃もトラックビットで受け止められる。

 

「ビットの耐久はどうなってんだよ!」

「関係ない。ビットが邪魔ならビットごとぶっ潰すだけだ」

 

 リミッター解除状態のオメガバルバトスは運動性能を最大限に活かしてあらゆる方向からソードメイスで殴りかかるが、トラックビットで防がれている。

 大我の動きに合わせるようにネビュラアストレイもスレッジハンマーで攻撃するが、全て防がれている。

 

「嘘だろ……あの2人を圧倒してる……」

 

 大我とレオの戦いを龍牙は遠巻きで見ている。

 オルゲルトとカティアはザクⅡの残骸に身を潜ませてアルゴスの戦闘データを集めている為、手を出す気はない。

 龍牙は大我の実力もレオの実力も知っている為、2人がかりでもアルゴスを倒すどころか圧倒されている事実は直接見ていても信じられない。

 オメガバルバトスがソードメイスを投擲して、Gバシレウスは大型ビームライフルでソードメイスを撃ち落して破壊するが、オメガバルバトスは飛び掛かり大型ビームライフルとトラックビットのビームを掻い潜り、懐に飛び込むとGバシレウスの胴体目掛けて爪を突き立てようとする。

 それをGバシレウスは蹴り飛ばす。

 

「ここまで完全に見切られているとへこむな……で、大我。そろそろ何か仕掛けるんだろ?」

「……うるさいな」

 

 大我がリミッター解除状態で何度もGバシレウスに向かって言っては攻撃が防がれることを繰り返していたが、レオには大我が意味もなく闇雲に攻撃していただけだとは思っていなかった。

 オメガバルバトスはテイルブレイドのワイヤーを一気に巻き戻す。

 先端のブレードは未だにGバシレウスの足に絡まっており、それによりオメガバルバトスとGバシレウスとの距離はワイヤーの長さ以上には離れる事が出来ないようになっていた。

 オメガバルバトスが戦いながらワイヤーをGバシレウスの周囲に張り巡らせていた。

 それを一気に巻き戻すことでワイヤーがGバシレウスの動きを拘束する。

 その時にトラックビットも巻き込まれてGバシレウスは完全に身動きを取れなくなる。

 テイルブレイドのワイヤーは細く肉眼では殆ど見えないが、強度はそう簡単には引きちぎれない程でGバシレウスのパワーをもってしても引きちぎる事は出来ない。

 

「成程な。ワイヤーで動きを止めたか。これなら無防備なところを思い切りぶん殴れるって訳か!」

 

 動きの封じられたGバシレウスにオメガバルバトスとネビュラアストレイは接近してGバシレウスを攻撃しようとする。

 しかし、Gバシレウスは全身から光を放つと全方位レーザーを発射する。

 

「まだやれたか」

「嘘だろ! おい!」

 

 ネビュラアストレイはスレッジハンマーを盾にして致命傷は避けたが、至近距離で全方位レーザーの直撃を受けて吹き飛ばされる。

 オメガバルバトスは防御する事すら出来ずに全方位レーザーの直撃を受けてネビュラアストレイ同様に吹き飛ばされた。

 

「今の攻撃は面白かったが、その程度では俺には届かない」

 

 全方位レーザーでテイルブレイドのワイヤーも損傷した事でGバシレウスはワイヤーを引きちぎり解放される。

 ネビュラアストレイはスレッジハンマーが使い物にならない損傷を受けて鞘の部分をパージしてブレイクアックスを構える。

 

「龍牙。お前は死ぬ気でここから離脱しろ。千鶴は援護を頼む」

「レオ!」

「皇帝の実力をここで実感できたのは大きい。後はお前らのどちらかが生き残ればチームとしてはポイントが貰える。俺は最後までアイツを戦って時間を稼ぐ」

 

 ワイヤーで拘束しての攻撃が完全に防がれた上でネビュラアストレイのダメージも限界に近づいている。

 全方位レーザーをまともに受けたオメガバルバトスも戦うだけの余力はないだろう。

 すでにレオは勝機がないと判断していた。

 それでも龍牙や千鶴が生き残れば日本代表チームとしてはポイントが入る為、ここでレオがやられたところで問題はない。

 だからこそ、レオは自身を犠牲にして龍牙と千鶴と逃がして、自分は少しでもアルゴスと戦い経験を積むこと方向に頭を切り替えた。

 

「……分かった」

 

 龍牙も大人しく従う。

 チームにポイントが入れば次に繋がる。

 次に繋がればリベンジの機会も出て来る。

 今、龍牙がすべきことは勝ち目のない敵に挑むのではなくチームとして次に繋げる事だ。

 

「……アイツ! まだやるのか!」

 

 龍牙が退避しようとしていると、オメガバルバトスが立ち上がる。

 全方位レーザーの直撃を受けて装甲に大ダメージを負い、ところどころが破壊され、立ち上がったことでフレームから装甲がいくつか落ちる。

 対ビームコーティングと頑丈な装甲のお陰でオメガバルバトスも致命傷を受ける事は無かったが、完全に満身創痍でまともに戦えるようには見えない。

 

「リヴィエールには絶対に使うなって言われていたけど、こんな状況だ。出し惜しみは出来ないな」

 

 大我がオメガバルバトスを受け取った時にオメガバルバトスの機能について説明を受けた。

 その時に特殊機能についても説明を受けていたが、その際にリミッター解除状態とは別の特殊機能があるがその機能は絶対に使うなと念を押された。

 リミッター解除状態の運動性能でもアルゴスを切り崩すことは出来なかったが、まだ大我の隠し玉を使えば勝機はあった。

 

「絶対に使うなはいざという時には使えって振りだろ。リヴィエール」

 

 オメガバルバトスのフレームが一瞬だけ赤く発光する。

 だが、発光するとオメガバルバトスは膝から崩れ落ちた。

 

「は? 何が起きた?」

 

 大我は操縦桿をガチャガチャと動かすがオメガバルバトスは全く動かない。

 ダメージがかなり負っていたが、戦闘は辛うじて可能だった。

 攻撃を受けてた訳でもない。

 

「……まさか。リヴィエールの奴!」

 

 大我はある可能性に思い至った。

 リヴィエールは絶対に使うなと念を押したものの状況によっては大我が使うと読んで、自分の言いつけを守らずに使った場合には強制的にガンプラの機能を停止するように仕込んでいたと言う可能性だ。

 それにより大我が絶体絶命のピンチになったところでリヴィエールは自分の言いつけを守らずに使った大我が悪いと悪びれもしないだろう。

 

「あの女!」

 

 ガンプラの機能が停止しただけで、撃墜判定にはなってはいない。

 だが、アルゴスも目の前で動けない敵を見逃す程甘くはない。

 Gバシレウスの大型ビームライフルの銃口がオメガバルバトスに向けられる。

 

「終わりだ」

 

 昨日の停止したオメガバルバトスにはその攻撃を避ける事も防ぐことも出来ない。

 レオも龍牙も自分の位置からでは大我を助ける事は出来ず、千鶴の狙撃でもGバシレウスが引き金を引くよりも早く撃ち抜くことは出来ない。

 オルゲルトとカティアは大我を助ける義理はない。

 大我はコックピット内のコンソールを弄り何とか再起動できないか試みているがオメガバルバトスは一切反応しない。

 もはや完全に打つ手もなく、後はGバシレウスに止めを刺されることを待つだけだ。

 アルゴスが止めを刺そうとしたその瞬間、バトルフィールド内にバトル終了のアナウンスが入った。

 

「命拾いをしたな」

 

 バトルフィールド内の他の場所でガンプラがやられた事で第一試合の規定である残り16チームとなった。

 バトルが終わったことでアルゴスは大型ビームライフルを下し、第一試合のバトルロワイヤルが終了した。

 

 

 

 

 

 

 バトルが終わりログアウトした大我は端末でバトルロワイヤルでの戦闘データの解析を始めていたリヴィエールに詰め寄った。

 

「どういう事だよ」

「どうも何も私は使うなって言ったよね? どの道、あそこで使って勝てたとしても意味ないでしょ」

 

 リヴィエールは端末から目を話さずに答える。

 大我の読み通りリヴィエールもあの場で隠し玉を使えばアルゴスのGバシレウスに勝てる見込みはあった。

 だが、あの場でGバシレウスを倒したところでギリシャ代表チームの他のガンプラが残っている以上は隠し玉を使ってまで勝つ意味はない。

 リヴィエールからすればあの場での勝利に拘るのは大我のエゴに過ぎない。

 

「そこまでにしときなよ。大我も。今回は皇帝を直に戦えただけでも十分な収穫だよ」

「レオと2人がかりでボッコボコにされたけどね」

「レオはともかく、俺は負けてないし」

 

 クロエの茶々に大我は反論する。

 客観的な事実としては大我とレオはアルゴスに一方的に追い詰められていた。

 しかし、大我の主観では勝負には負けてはいない。

 

「俺もバルバトスも本当の実力はあんな物じゃない」

「大我はともかく私のオメガバルバトスの真の力はまだ発揮されてないしね。オメガバルバトスの進化は後6回も残ってる。この意味は分かるわよね?」

 

 今回大我が使ったオメガバルバトスは本体が完成したに過ぎない。

 リヴィエールの中で今のオメガバルバトスはまだ完成系ではない。

 第一試合ではアルゴスとGバジレウスに圧倒されたが、リヴィエールの計算上では完成系となったオメガバルバトスの性能はGバシレウスはおろかGBNのガンプラの中でも最強だと自負している。

 

「それは頼もしい。それでリヴィエール。明日のバトルまでに大我のバルバトスの改修作業は出来そうかい?」

「もちろん。この私の手にかかれば一晩でやっちゃうよ」

 

 第一試合での戦闘データを解析してリヴィエールはオメガバルバトスの改修プランはすでにできている。

 後は事前に用意してたパーツを使い、改修するだけだ。

 

「私はちゃんと仕事はするよ? でも大我に扱えるかは分かんないけどね」

「上等だ。やってやるよ」

 

 リヴィエールの挑発に大我は容易く乗る。

 こうして大我を煽っておけば、明日の第二試合で改修されたオメガバルバトスを意地でも使いこなすだろう。

 リヴィエールも大我との付き合いは長い為、大我との付き合い方を心得ている。

 

「第一試合は無難に勝ち抜いたけど、油断は禁物だ。大我には明日も戦って貰うけど、他の皆にもいつ出番が回って来るか分からない。それぞれがコンディションを最高な状態を維持して全てのバトルに勝ちに行く」

 

 リーダーのルークが皆にそう言う。

 第二試合のバトル形式は当日の朝に各チームに公表される。

 どんなルールのバトルになろうともエースの大我は確実に戦う事になる。

 他のメンバーもいつ戦うかは分からない以上は常にガンプラの調整を万全な物にしなければならない。

 それは改めて言う事でも無く、全員が承知していることだ。

 ルークが締めてそれぞれが明日の第二試合に備える。

 世界大会の第一試合が終わり、大我たちアメリカ代表チームのみならず、代表選手それぞれがそれぞれの想いを胸に世界大会第一試合が終わった。

 

 



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変則チームバトル

 第一試合のバトルロワイヤルが終わり、翌日には第二試合の形式が公表されることとなる。

 日本代表チームにとってはレオが撃墜寸前まで追い詰められることはあったが、概ね問題なく第一試合でポイントを取る事が出来た。

 朝食を済ませて日本代表はブリーフィングルームに集まり発表された試合形式に各々が目を通している。

 

「3対3のチーム戦。バトルロワイヤルの次にしては普通ですね」

「形式はな」

 

 ルールに軽く目を通した龍牙はそう言う。

 第二試合の形式は3対3のチーム戦。

 各国の代表チームは代表1名を出してランダムで3人のチームを作ってのバトルとなる。

 対戦相手とチームメイトはバトルの直前なって発表される為、どこの国の代表とチームを組んでも対応できる柔軟性が必要となる。

 龍牙はルールは非常にオーソドックスな物だと思っていたが、諒真が釘を差す。

 

「第二試合のポイントの振り分けを見てみ? 第二試合なのにずいぶんをえげつない事をして来たぞ」

 

 龍牙は大まかなところしか見ていなかった為、改めて諒真の言う第二試合のポイントの割り振りを見る。

 そこには第二試合では勝利チームはそれぞれ、そのバトルでの撃墜数×10ポイントをと書かれている。

 それを見た龍牙も諒真の言いたいことは何となくわかった。

 

「チーム戦ならチームで力を合わせれば格上の相手にも勝てるかも知れない。けど、このポイントの割り振り方は始めから連携をまともに取らせる気はないな。このルールを考えた運営は相当性格が悪い」

 

 このポイントの振り方ではバトルに勝利しても1機も撃墜出来なければ0×10で0ポイントがもらえる事となり、勝利の意味はない。

 それぞれ仲良く1機づつ撃破すれば平等にポイントがもらえるが、元々チームは第二試合限定の物でどのチームも自分達のチームが敵を3機とも撃墜すれば自分達は30ポイントが貰えて同じチームの国にはポイントを取らせずに済むと考える事は確実だ。

 そうなればどこの代表もいかに自分の撃墜数を稼ぎ、いかに他のチームメイトに撃墜数を増やさないかを考える為、このバトルはチーム戦でありながらチームで協力し合うものではなくチームで足を引っ張り合い自分が得するかと言う事を考える事が重要なルールと言える。

 

「それで済めば良いのだけれど」

 

 その話しを聞いていた麗子はポツリとつぶやく。

 公表されているルールを見る限りでは諒真の考え以上に厄介な事になる可能性がある。

 それが麗子の考え過ぎなのかは現状では確かめる術はない。

 基本的に公表されたルールに対して運営に問い合わせる事は出来ない。

 公表されたルールをどう捉えるかはそれぞれのチーム次第となっている。

 試合形式をルールが公表されると組み合わせの抽選が始まる。

 第二試合の一戦目の組み合わせが発表される。

 そこにはアメリカ代表チームも入っていた。

 

「おっいきなり大我の出番か」

 

 ルールに不安要素がある上に1戦目からアメリカ代表が出て来る。

 アメリカ代表からは確実にエースである大我が出て来るだろう。

 大我が何をしでかすかは完全に予測は出来ない。

 大我のバトルが無難に終わってくれることを麗子は願うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1戦目に決まったチームから出場するダイバーがログインしてバトルの準備が終わるとモニターにバトルの様子が映される。

 モニターには大我のオメガバルバトスの姿が映されているが、第一試合の時とは少し違っていた。

 両肩が一回り大きくなり、肩にはテイルブレードの刃を流用した新装備のブレードプルーマがそれぞれ2基つづ計4基増設された。

 リヴィエールが一晩かけて制作したパーツを装備したガンダムオメガバルバトス(第二形態)で第二試合に大我は望む。

 大我と同じチームになったガンプラはハイぺリオンとゼータプラスの2機でバトルフィールドは宇宙空間となっている。

 バトルが始まりハイぺリオンとゼータプラスは周囲を警戒するが、突如ソードメイスをゼータプラスに振るう。

 ゼータプラスのダイバーは事前に撃墜数の奪い合いになる事は覚悟していたが、まさか開始早々友軍機からの攻撃を受けるとは思っておらず抵抗する事無く撃墜された。

 

「大我の奴、やりがやった!」

「まぁライバルを先に蹴落とした方が確実だけどね」

 

 その様子を見ていた日本代表の面々も少なからず驚いている。

 撃墜数を奪い合う第二試合において確実に撃墜数を奪われなくなる手段として敵の前に味方機を始末すると言うのがあるが、それを行えば自分一人で3機を相手にしなければならない。

 向こうも撃墜数の奪い合いである以上は残った1機をわれ先にと撃墜しようと躍起になるリスクがあるが、大我は躊躇いなく友軍機を始末した。

 

「……撃墜数」

「最悪ね」

 

 大我が開始早々友軍機を始末した事に目が行っていたが、珠樹と麗子はある事に気が付いた。

 モニターにはそれぞれの撃墜数が表示されているが、大我の撃墜数が1になっていたのだ。

 それは麗子の想定していた最悪の事態を裏付ける事にもなった。

 

「友軍機をやっても撃墜数がカウントされるのか?」

 

 大我の撃墜数が増える要素は一つしかない。

 ゼータプラスを撃墜した事と言うのはすぐに想像がつく。

 麗子が考えていた最悪の事態とはルールにある撃墜数が敵機にのみ適応されるか否かだ。

 通常、ポイントとなる撃墜数とは撃墜した敵機と捉えるが、そこまで書いていないのは普通はそうだから敢えて書かないのか、書いてある通り敵も味方も関係なく撃墜した数が撃墜数となるのかのどちらかだろう。

 大我が友軍機を撃墜した事で撃墜数には味方機も含まれると証明された。

 そうなると撃墜数を奪い合い足の引っ張り合いが前提の第二試合は大きく変わって来る。

 自分で敵を3機撃墜した場合のポイントは30ポイントだが、友軍機も2機撃墜した上で敵を全て倒せば5機撃墜した事となりポイントは50ポイントとなる。

 まだ、世界大会は序盤ではあるがここで50ポイントを稼いでいれば後々有利になる事は明白で、どのチームも最大ポイントを狙い味方同士でも争う事となる事は明らかだ。

 

「あ? 撃墜数が増えてる。まぁ良い。お前も先にぶっ潰す」

 

 現在バトルをしているダイバーには現在の自分の撃墜数しか分からないようになっている為、大我は自分の撃墜数が増えたとことを知る事になる。

 事前にルークからの指示では確実に撃墜数を増やす為に邪魔な友軍機を始末するように言われたが、友軍機も撃墜数にカウントされると言う事はアメリカ代表にとっては嬉しい誤算だ。

 

 オメガバルバトスは肩のブレードプルーマを射出する。

 ブレードプルーマはテイルブレイドとは違いワイヤーで本体とは繋がれてはおらず、ファンネルやビットのように無線遠隔操作に武器となっている。

 ハイぺリオンはアルミューレ・リュミエールを展開して身を守ろうとするが、ブレードプルーマには対ビームコーティングがされている為、アルミューレ・リュミエールを易々と貫通してハイぺリオンを切り刻む。

 

「これで邪魔者はぶっ潰した。後は残りをぶっ潰すだけか」

 

 ゼータプラスとハイぺリオンの2機を始末した大我はようやく敵チームの捜索に入る。

 捜索を始めてすぐに敵影を補足した。

 向こうは仲間割れをする事無く3機とも健在のようだった。

 

「見つけた」

 

 相手チームのガンプラはジェスタキャノン、ヴァイエイト、ヤークトアルケーガンダムの3機だ。

 向こうは友軍機の撃墜数もポイントに含まれることを知らない為、足並みを揃えていたが、オメガバルバトスを補足するとわれ先にとビームを撃って来た。

 

「コイツを使って見るか」

 

 オメガバルバトスの両肩からGN粒子が放出されオメガバルバトスの周囲を覆いGNフィールドが形成される。

 第二形態となったオメガバルバトスの大型化された両肩にはGNドライヴが内蔵されており、ツインドライヴシステムによるGN粒子を扱う事が出来るようになっていた。

 そのGN粒子を火器や自身や武器に纏わせたり、推力として使う事もなくGNフィールドを張る事にのみ使っている。

 そうする事で高い防御力を持つGNフィールドとなり、元々の防御力と合わせてオメガバルバトスは鉄壁の防御を会得した。

 

「GNフィールドだと!」

「ならば俺が貰った!」

 

 ヤークトアルケーはGNバスターソードを持って接近戦を仕掛ける。

 GNバスターソードをGNフィールドで受け止める。

 

「ちっ! 硬いな! ならトランザム!」

 

 ヤークトアルケーはトランザムを使い赤く発光する。

 しかし、オメガバルバトスのGNフィールドはびくともしない。

 

「GN粒子を纏った実体剣にトランザム。その程度で俺のバルバトスには届かないいんだよ」

 

 オメガバルバトスはGNフィールドで攻撃を受け止めながらソードメイスをヤークトアルケーの胴体にぶち込む。

 一撃でヤークトアルケーは粉砕されると、オメガバルバトスはヤークトアルケーのGNバズターソードを掴むとヴァイエイト目掛けて投擲する。

 GNバズターソードはヴァイエイトのビームキャノンに突き刺さり、体勢を崩したところをブレードプルーマによる切り刻まれて撃墜された。

 

「なんなんだよ! あの化け物は!」

 

 ジェスタキャノンは持てる火力を全て使ってオメガバルバトスを攻撃するが、オメガバルバトスのGNフィールドを破る事は出来ない。

 GNフィールドを展開しながらオメガバルバトスはジェスタキャノンに突っ込んで行く。

 ジェスタキャノンは逃げ切れずに観念してビームサーベルで応戦する。

 しかし、ジェスタキャノンのビームサーベルはGNフィールドに阻まれて、オメガバルバトスに届くことはない。

 

「お前で終わりだ」

 

 オメガバルバトスがソードメイスを一振りすると、ジェスタキャノンは粉砕されてバトルは終了する。

 

「GNフィールドとかなんでもありだな」

 

 大我のバトルを見ていた龍牙はそう呟く。

 今までは表面の対ビームコーティングによるビームに対する高い防御力に加えてガンプラ自体の高い完成度による強固な装甲を持っていた。

 そこにGNフィールドが加わる事で更なる防御力を得た。

 ただ単に防御力の高いガンプラなら攻略の糸口も掴めるが、大我のバルバトスの最大の長所は圧倒的なパワーから繰り出される大抵のガンプラを一撃で葬り去る攻撃力だ。

 その攻撃力を様々な防御能力とリミッター解除による高い運動性能にオメガバルバトスには高出力のスラスターによる機動性能も加わっている。

 更には超強力な攻撃を確実にぶち込む為に使われるテイルブレイドも背部のワイヤー付きに4つの無線式のブレードプルーマが増えたことで厄介になっている。

 しかし、今はそれを考えていても仕方がない。

 1戦目が終わり、次の組み合わせが決まり2戦目が始まる。

 1戦目で友軍機も撃墜数に含まれることが分かり、他の代表チームは敵だけでなく味方をも狙いそれ以降のバトルも大荒れだった。

 上手い具合に味方機を落として撃墜数を2機しても、敵チームを倒せずにやられて勝利したチームも最後の1機を仕留めたチームが10ポイントを何とか手に入れて他はポイントを貰えないケースや味方同士の戦いで相討ちとなり全滅し勝利チームも全機撃墜数ゼロで誰もポイントを貰えないケース等、纏まったポイントを取れずに終わるチームがいくつもあった。

 そんな中、イギリス代表は自分に攻撃して来た友軍機を1機仕留めて、敵を3機とも仕留めて撃墜数は4で40ポイントを獲得し、ドイツ代表は圧倒的な火力で友軍機ごと敵を殲滅して50ポイント、ギリシャ代表チームは友軍機が敵と協力してまずは優勝候補のギリシャ代表を仕留めようとしたものの圧倒的な力で返り討ちにされてギリシャ代表は5機撃墜の50ポイントを獲得した。

 大荒れとなりながらも第二試合が進み、遂には日本代表の出番をなる。

 

「第二試合は神君に行って貰うわ」

「俺ですか?」

「そうよ。まだ主力は温存しておきたいし、中学時代の貴方のバトルから全国大会を経て今の実力の伸び具合はチームでもトップクラス。少しでも経験を積んで後の戦いに備えるわ」

 

 麗子がチーム全体の過去のバトルデータを分析したところ、龍牙は中学生時代のバトルの成績は同年代では良くて並だった。

 星鳳高校に入学してからの地区予選や全国大会では大我の圧倒的な実力が目立っていたが、確実に龍牙は成長し、世界大会までの練習では接近戦ではチーム上位の光一郎や右京、レオと比べるとまだ頭一つ劣るものの単純な殴り合いなら貴音や源之助とは十分に戦えるレベルまで成長している。

 総合的に見ると龍牙の成長率はチームでもトップクラスだと言うのが麗子の龍牙に対する評価だ。

 だからこそ、積極的に使って世界の実力に揉まれて更なる成長を望んでいる。

 

「今回のバトルでは友軍機を撃墜する必要はないわ。幾ら友軍機を撃墜して撃墜数を稼いでも自分がやられてしまえば意味はないわ。最低でもポイントがもらえるように1機は撃墜しなさい。可能ならば2機。無理に3機目を狙う必要はないわ」

「了解です!」

 

 これまでの代表チームは何とかして撃墜数を稼ごうと欲を出して失敗している。

 ここで高ポイントを取っておけば後々楽になる事は確かだが、後半になればなるほど貰えるポイントも上がる為、序盤は無理にポイントを稼ぐこともなく確実にポイントを稼ぎ決勝トーナメント出場県内に入っていれば十分だと麗子は考えている。

 龍牙も仲間を倒してまでポイントが欲しいとは考えてはいない事も麗子が龍牙を第二試合に使う理由の一つだ。

 龍牙はガンプラをセットしてGBNにログインする。

 

「神龍牙。バーニングドラゴンデスティニー! 行くぜ!」

 

 バトルが始まり、龍牙は友軍機のガンプラを確認する。

 1機は第一試合で龍牙が交戦したロシア代表のカティアのガンダムマークⅡメェーチで、もう1機はクロスボーンガンダムX2だ。

 

「さてと……敵はどこかなっと」

 

 周囲を警戒してると、警報が鳴り、横を見ると友軍機のX2がビームザンバーを抜いて接近していた。

 明らかなに敵意を持っており、バーニングドラゴンデスティニーはビームシールドを展開すると、X2のビームザンバーを受け止める。

 

「何すんだ! 俺は敵じゃない!」

「どうせ日本は雑魚なんだ。俺のポイントになりやがれ!」

 

 龍牙にその気は無かったが、向こうは龍牙を倒して撃墜数を稼ぐつもりのようだ。

 バーニングドラゴンデスティニーはX2を蹴り飛ばすとバルカンで牽制する。

 

「監督には友軍機を倒す必要はないって言われているけど……」

 

 X2はバルカンを避けながら加速して接近する。

 麗子には友軍機を倒す必要はないと言われているが、向こうが向かって来るなら仕方がない。

 バーニングドラゴンデスティニーはビームナックルを展開して迎え撃つ構えを取る。

 

「死ね!」

「貴方がね」

 

 X2はバーニングドラゴンデスティニーに突っ込もうとするが、いつの間にかX2の背後にはカティアのマークⅡメェーチが回り込んでいた。

 マークⅡメェーチのビームソードがX2を両断する。

 

「……助けて貰ったと思って良いのか?」

「貴方を助けたつもりはないわ。彼が余りにも隙だらけだっただけのことよ」

 

 龍牙をカティアの間に緊張が走る。

 カティアとは第一試合で戦っている。

 ここでカティアと戦えば龍牙も無傷では済まない。

 友軍である以上はここで互いに潰し合っていても得をするのは敵チームになる。

 龍牙としては協力とまでは行かなくてもここで潰し合う事だけは避けたい。

 

「敵が来たようね」

 

 龍牙にとっては幸いな事に敵チームが接近して来たようだ。

 カティアも敵よりも優先して戦うつもりはないらしく、マークⅡメェーチは敵の方を向く。

 それに合わせてバーニングドラゴンデスティニーも敵の方を向いて敵を確認する。

 敵は同士討ちをする事もなくこちらに向かって来ている。

 モニターに敵のガンプラが映される。

 敵チームはウイングガンダム、ペイルライダー、ジャスティマの3機だ。

 向こうもこちらを確認したらしくウイングガンダムが変形してバスターライフルを撃って加速する。

 

「来るぞ!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーとマークⅡメェーチは散開すると敵チームもウイングガンダムがバーニングドラゴンデスティニーに向かい、残り2機がマークⅡメェーチへと向かって行く。

 

「2機は撃墜しておきたかったんだけどな」

 

 ウイングガンダムはMS形態に変形するとバスターライフルを撃つ。

 龍牙はビームをかわしながら懐に飛び込むタイミングを見計らう。

 ウイングガンダムのダイバーもバーニングドラゴンデスティニーに接近戦を挑むつもりはないらしくバスターライフルでの射撃で攻めて来る。

 

「そりゃご丁寧に3発しか撃てないって事もないか……」

 

 タイミングを見計らっていたが、そう簡単には隙を見せてはくれない。

 このまま長期戦にもつれ込んだ場合、カティアの方は2機を相手に戦っている。

 カティアがそう簡単にやられるとは思えないが、相手の実力次第では楽観は出来ない。

 仮にカティアが2機を仕留めてこっちに来てウイングガンダムを倒してしまえば、バトルそのものには勝利しても龍牙の撃墜数は無く勝ってもポイントは貰えない。

 最低での目の前のウイングガンダムだけは自分で倒さなければいけない。

 

「こうなったら多少危険だがやるしかないか」

 

 龍牙もこれ以上戦いを長引かせる事を危険だと判断して覚悟を決める。

 ウイングガンダムは狙いを定めてバスターライフルを撃つ。

 今度はバーニングドラゴンデスティニーはかわさずに両手にビームナックルを展開して真っ向から迎え撃つ。

 

「やったか!」

 

 ウイングガンダムのダイバーはバスターライフルのビームが直撃した感触があった。

 しかし、バーニングドラゴンデスティニーはビームを真っ向からビームナックルで殴り受け止めながら突っ込んで来ていた。

 

「うぉぉぉぉぉ!」

「馬鹿な!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーは4枚の炎の翼を広げてビームを弾きながら加速する。

 

「ドラゴンファング!」

 

 龍の形をした炎を纏いバーニングドラゴンデスティニーの拳がウイングガンダムを打ち砕く。

 

「ふぅ……何とかなったか。けどゆっくりもしてられないな」

 

 これで撃墜数を1にしたが、バトルに負けてしまえば意味はない。

 龍牙はすぐにカティアの方に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 3機の内、2機の相手をしていたカティアは予想以上に手こずっていた。

 実力はカティアの方が上だが、相手もそれを理解している為、どちらか一方がやられるとそのまま自分もやられるので足の引っ張り合いをする事なく互いを援護している。

 カティアのマークⅡメェーチは近接戦闘に特化している為、常に距離を取りながら攻めて来ている。

 ジャスティマはファンネルミサイルを撃つと、マークⅡメェーチはギリギリまで引きつけるとビームソードで切り払う。

 その間に回り込んだペイルライダーがハイパービームライフルを撃ち、マークⅡメェーチはビームソードで弾く。

 

「常に距離を取って接近戦はしないつもりなの? 面倒ね」

 

 距離を詰めようとしてもビームを撃ちながら後退し、もう一機が牽制のビームを撃つ為、距離を詰める事も難しい。

 

「向こうはやられたらしい!」

「ならこっちはさっさと仕留める!」

 

 ペイルライダーの目は赤く発光し、HADESが起動する。

 それにより機体性能が一時的に向上し加速する。

 

「HADES? そんな物まで持っていたのね」

 

 ペイルライダーのはビームサーベルを抜きマークⅡメェーチに襲い掛かる。

 マークⅡメェーチはビームソードで攻撃を受け流す。

 

「いつまでも続く訳でもないでしょう」

 

 機体性能を向上させるシステムは持続時間が尽きればシステムは停止する。

 それまで耐える事が出来れば形勢を逆転する事が出来る。

 ペイルライダーのビームサーベルをビームソードで受け止めるが、パワーで押し切られて弾き飛ばされる。

 

「貰った!」

 

 それを逃さずにジャスティマがビームをマークⅡメェーチに向かって撃ち込む。

 致命傷は避けられそうだが、直撃を覚悟したカティアだったが、間に龍牙のバーニングドラゴンデスティニーが入りビームシールドでビームを弾く。

 

「大丈夫か?」

「……何の真似?」

「何のって今は仲間だからな。それに助けられた借りも返さないとな」

 

 第二試合自体、味方同士の潰し合いを誘発させるルールがあり始めからそうさせる事を前提になっている。

 それでも龍牙は一時的とはいえ、同じチームである以上は仲間で仲間のピンチを助けるのは当然の行為だ。

 

「変な人……まぁ良いわ。貴方はジャスティマを仕留めて。ペイルライダーは私がやるから」

「おう! 任された」

 

 龍牙はそう言うとジャスティマの方に向かって行く。

 龍牙は素直に自分の指示に従ったことにカティアは少なからず驚いている。

 このバトルにおいては同じチームとはいえ、本来は敵同士である為、カティアからの指示に対して龍牙が素直に聞くとは思っていなかった。

 向こうにも向こうの思惑があり、カティアの指示はカティアにとっての都合の良い思惑が優先されている為、多少は自分達の思惑を優先するかも知れない事や、場合によっては面倒を押し付けて利用するだけ利用して最後に敵もろとも倒そうとするなど、そう簡単には信用等出来る筈もない。

 だが、龍牙はカティアが土壇場で裏切る事等全く考えてはおらず、恐らくは同じ日本代表と同等に信頼して背中を任せている。

 

「龍牙とか言ったわよね」

「後ろががら空きだ!」

 

 いつの間にかペイルライダーはマークⅡメェーチの背後に回り込んでおりビームサーベルを振るう。

 だが、ビームサーベルはマークⅡメェーチを捕える事は無かった。

 

「何!」

「遅いわね」

 

 攻撃を回避したマークⅡメェーチはビームソードを振るいペイルライダーのシールドを両断する。

 ペイルライダーはすぐさま距離を取ろうとするが、マークⅡメェーチとの距離は殆ど離すことは出来ない。

 

「引き離せない!」

「2人がかりならともかく、貴方1人なら何の問題はないわ」

 

 今までカティアが手こずっていたのは2機が互いを援護しながらも、自分が絶対にやられないように動いていたからだ。

 それを片方の相手を龍牙がすることでカティアはペイルライダーのみに集中する事が出来る。

 2対1なら厄介な相手でも1対1で戦えるのであればカティアにとっては苦戦する程の相手ではない。

 何とか逃げていたペイルライダーだが、遂にはHADESの持続時間が無くなると機体性能は元に戻り機動力も戻る。

 今まではHADESで強化された機動力で何とか逃げていたペイルライダーだが、HADESの効果が切れてしまえば逃げる事も出来ない。

 

「終わりね」

 

 マークⅡメェーチはビームソードでペイルライダーを胴体から真っ二つに両断し撃破する。

 

「これで撃墜数は2機。後2つは行けそうだけど」

 

 龍牙はカティアから攻撃を受ける事等考えてはいない。

 ジャスティマのダイバーも龍牙の相手で手一杯でどちらもその気になれば仕留める事は出来そうだった。

 

「無理に狙う必要はないわね」

 

 龍牙が勝てば自分達のチームの勝利でロシア代表チームは20ポイントは獲得できる。

 仮に龍牙が負けたとしてもその後にジャスティマを始末すればいいだけの事だ。

 下手に相応を倒そうとして欲を出せば最悪の場合、返り討ちにある可能性もある。

 そのせいで龍牙もやられてチームが敗北すればロシア代表にポイントははいらない。

 そう考えるとここは手を出さずに静観して決着がつくのを待つべきだとカティアは判断した。

 自分では合理的に判断したと納得させるが、最初に倒したX2のダイバーとは違い龍牙が自分を信じて背中を任せた。

 龍牙からの信頼を裏切りポイントを集めたところでバトルに勝っても、仲間割れを誘発させるルールの中、友軍を信じた龍牙に負けたような気になるからだと言う事にはカティアは目を逸らして気づかないようにする。

 

「そっちは任せたんだから、しっかりと仕留めて来なさい」

 

 ジャスティマはビームライフルを連射するが、バーニングドラゴンデスティニーはビームをかわしながら接近する。

 

「ちぃ!」

 

 ジャスティマはビームライフルを捨てて大型ビームサーベルを抜いて振るうが、バーニングドラゴンデスティニーはビームシールドで防ぐとビームナックルで殴る。

 何とか肩のビームバリアで防ぐが、完全に受け止めきれずに体勢を崩す。

 ジャスティマは残っていたファンネルミサイルを全て撃ってバーニングドラゴンデスティニーを牽制する。

 

「このまま突っ込む!」

 

 だが、龍牙はそれで臆する事もなく前に出る。

 バーニングドラゴンデスティニーは炎の翼を展開し、バルカンを撃ちながらファンネルミサイルを減らし両腕のビームシールドで身を守りながら突っ込む。

 自身の間合いに入りバーニングドラゴンデスティニーはビームシールドをビームナックルに切り替える。

 バーニングドラゴンデスティニーの左の拳をビームバリアで防ぐが、すかさず右の拳がジャスティマの胴体に撃ち込まれる。

 ビームナックルを展開している為、バーニングドラゴンデスティニーの拳はジャスティマの胴体に穴を空けるとジャスティマは爆散する。

 それにより敵チームは全滅した。

 最終的な撃墜数は龍牙とカティアは共に2機づつ撃墜しそれぞれ20ポイントづつ手に入れる事となる。

 その後も仲間割れが続き、第二試合は大きく荒れて幕を下ろした。

 

 

 



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殲滅バトル

第一試合、第二試合が終わった時点で第二試合で高得点を取ったアメリカ、ギリシャ、ドイツ、イギリスが一歩リードしている。

 決勝トーナメントに進めるチームは8チームでこの時点でその半数がほぼ決まりかけていると言ってもいい。

 残り4試合の結果にもよるが現時点でその4チームがポイントを殆ど取れないと言う事は考え難い。

 そして、前半戦の最後となる第三試合は第一、第二が他の代表チームと直接戦う形式のバトルに対して第三試合はNPDを相手に戦い、その撃墜数を競うバトルだ。

 バトルフィールドは宇宙空間で敵のNPDは装備違いはあるが全てザクⅡで統一されている。

 ザクⅡのAIレベルは最大で数も最大で999機まで出て来て各チーム3機までガンプラを出撃させて10分間で何機撃墜出来るかを競う。

 上位3チームに50ポイントが入り、4位から7位までが30ポイント、8位から10位までに20ポイントが入る。

 尚、10分以内に3機とも撃墜されて全滅した場合はその時点でバトル終了となり撃墜数は0機とされてしまう。

 今回のバトルはバトル形式の告知からすぐにバトルが始まると言う訳ではなく、昼過ぎからの開始となっている。

 それまでダイバー達はバトルに向けての作戦会議や調整を行っている。

 

「うわ……凄いすいてるな」

 

 龍牙は昼食を食べる為に木馬号の食堂を訪れるが昼なのに人は余りいない。

 元々、食堂は乗客全員が同時に使えるように設計されている為、広々としている。

 大会期間中の食事は食堂で必ずしも取る必要はなく、ルームサービスを頼むことも可能で多くのチームが食堂で食事をする事無い。

 龍牙は次の第三試合には出場しない事は決まっている。

 まだ完全に出場するメンバーは決まってはいないが、龍牙のバトルスタイルは多数の敵を短時間で殲滅する事を苦手としている。

 だからこそ、次のバトルは龍牙は外すと麗子は判断した。

 

「ん? あそこにいるのは……」

 

 食堂を見渡すと隅の方にカティアを見つけた。

 周りには他のロシア代表のメンバーはいないようだ。

 

「ここ良いか?」

「勝手にしたら?」

 

 龍牙はカティアの前に座る。

 素っ気ない態度だったが、明確に拒絶もされなかった。

 だが、カティアは龍牙の事など興味がないのか気にした様子を一切見せない。

 

「昨日はありがとな」

「は?」

 

 明らかに自分に話しかけて来た上にいきなり礼を言われてカティアは食事の手を止めて初めて龍牙の方を見る。

 

「……何の事?」

「昨日のバトルで俺を助けてくれただろ?」

 

 昨日のバトルでカティアは龍牙を狙うクロスボーンガンダムX2を倒して龍牙は助けられた。

 その事のお礼らしい。

 だが、カティアにとっては龍牙を助けたと言う意識は無く、ただ単にX2が自分に対して無防備だったため仕留めたに過ぎなかった。

 あの時は同じチームだったとはいえ、バトルが終わった今となっては敵同士である以上は一々礼をする必要など無かった。

 龍牙の意図が読めずカティアは怪訝な表情をしながら龍牙を見る。

 そんな事など龍牙は構う事無く話しを続ける。

 

「そう言えばロシアは企業がスポンサーに付いてんだってな」

 

 それを聞いたカティアは警戒を強める。

 龍牙の言うようにロシア代表チームにはスポンサーとして槙島グループが付いている。

 それ自体は秘匿されている訳でもないが、カティアは龍牙が接触して来たのは、ロシア代表の内情を調べる為ではないかと疑っている。

 

「ああ、別に情報収集とかじゃないんだ。ただ、俺達とそんなに年も変わらないのにGBNでスポンサーが付いて金とか稼いでるんだろ? それが凄いなって思っただけだから」

 

 龍牙もカティアが警戒している事に気が付いて弁解する。

 龍牙としては本当に情報収集が目的ではなく、単純に同年代ながらもGBNで報酬を得ているカティア達が凄いと思って話題を振ったに過ぎない。

 カティアもそれを素直に信じた訳ではないが、龍牙の性格的にはそこまで頭を使って探りを入れに来るような人間だとは思えない為、警戒のレベルを下げる。

 

「別に……ただ、うちはそこまで裕福な家庭じゃないから、お金を稼ぐ手段としてGBNがあっただけのことよ」

 

 カティアも大我と同じようにかつてGBNで伝説を残したフォース「ビルドファイターズ」のメンバーを父に持つが、家が裕福だったとは言い難い。

 ガンプラバトルの腕は一流でも父親は温厚で人が良過ぎたこともあり、損をさせられることも多く、そんな父親に愛想を尽かした母は何年も前に自分達を置いて出て行った。

 しかし、カティアや兄のオルゲルトはGBNで伝説を残したフォースの一員だった父のことを尊敬し、裕福とは言えない中でも父から教えられたガンプラを使って少しでも家庭を支えたいと思った。

 だからこそ、ロシア代表として世界大会で結果を残せばスポンサーの槙島グループから多大な報奨金を得られる。

 

「だから、私は負ける訳にはいかないのよ」

 

 そんなカティアに龍牙は何も言えない。

 カティアの事情は分かるが、だからと言って勝ちを譲る事も出来ない。

 いつの間にか食事を終えていたカティアは席を立つと食堂を出て行く。

 龍牙も呼び止める事は無く、急いで食事を済ませて戻る。

 

 

 

 

 

 

 食事を済ませて戻ると麗子が珠樹と貴音、千鶴に何やら指示を出している。

 どうやら第三試合には皇女子の3人を投入するようだ。

 

「千鶴たちが出るのか?」

「うん。私は少し装備を変えるから後でね」

 

 千鶴のグシオンリベイクフルシティシューティングスターは狙撃以外にも多数の火器を使う。

 今回のバトルで使用する火器は通常使用する物とは違う為、開始時間までに装備を換装するようだ。

 龍牙も千鶴がいくつもの火器を持ち込んでいることは知っている。

 単純に機体特性を活かす為に様々な火器を用意していたが、いつの間にかGBN内のミッションで獲得できるオリジナルの武装データの収集や自作の火器の制作に嵌ったらしく、武装データだけでも軽く100種類は超えていると訓練の合間に聞いていた。

 

「お姉ちゃん! ちーちゃん! ここいらで調子に乗ってる馬鹿大我とかその他諸々にスメ女の力を見せちゃうよ!」

 

 ようやくの出番に貴音がそう息巻いている。

 それに対して、珠樹は普段通りの無表情で提示されている情報を確認し、千鶴も使う武器の選定に集中している。

 そして、第三回戦の開始のアナウンスが入り、指示のあった代表チームからGBNにログインしてバトルが開始される。

 第三回戦が始まり次々と代表チームの撃墜数がランキングとして表示されて行く。

 

「次が私達の出番のようね。貴女達、手筈通りにやればポイント圏内には入れるわ」

「りょーかい。分かってるってサクっと上位を取って来るからさ」

 

 楽観的な貴音を見て麗子は軽くため息をつくが、珠樹が入れば貴音を上手くコントロールできる為、心配まではしていない。

 日本代表の出番となり、珠樹、貴音、千鶴はログインして日本代表のバトルが開始される。

 

「うわー。ちーちゃん戦争でもする気?」

「先生はこのくらいは必要だと言っていたので」

 

 今回のバトルに合わせて装備を変えた千鶴のグシオンシューティングスターは両手に大きなガトリング砲を持ち、サブアームにもマシンガンを持たせている。

 背部レールガンは連射速度の高いショートバレルに換装し、膝とバックパックの武装コンテナは今回はガトリング砲とマシンガンの弾倉となりベルトリンクで常に弾丸を補給できるようになっている。

 背部レールガンにも弾倉を増設して弾数を増やし、全身のいたるところにミサイルポッドを装備し、普段の狙撃を完全に捨てて全身火器となっている。

 

「まぁか弱い乙女たちを守るにはそのくらい必要か」

「来る」

 

 そうこうしている間に敵機であるザクⅡがワラワラと出て来て10分のカウントが始まる。

 

「ちーちゃん!」

「了解。一番槍は行かせて貰います」

 

 グシオンシューティングスターが全身のミサイルを一斉掃射する。

 ミサイルを全弾撃ち尽くすとミサイルポッドをパージして行く。

 グシオンシューティングスターのミサイルで撃墜されたザクⅡの数がそれぞれのモニターに残り時間と共に表示されている。

 

「貴音」

「りょーかい! そんじゃ行っちゃうよ!」

 

 ミサイルによる先制攻撃が終わると貴音のキマリストライデントが一気に加速する。

 3本の槍に内蔵されている火器を撃ちながら速度を緩める事もなくザクⅡの群れに突撃して行く。

 ザクⅡの集中砲火を機動力に物を言わせて突破するキマリストライデントの横を高出力のビームが横切る。

 後方から珠樹のウイングガンダムゼロエトワールがツインバスターライフルを撃ったのだ。

 ウイングガンダムゼロエトワールがツインバスターライフルの火力でザクⅡを薙ぎ払っているが、それでも相当な数がいる為、キマリストライデント以外の2機の方にも向かって来る、

 

「ご武運を」

「そっちも気を付けて」

 

 グシオンシューティングスターとウイングガンダムゼロエトワールは二手に分かれる。

 どちらも火力を重視している為、近くで戦闘していると友軍を巻き込みかねない為、あえて二手に分かれるように指示を受けている。

 二手に分かれた場合、物量で圧倒されて各個撃破される危険性もあるが、今回は制限時間が10分なので、10分間物量に押し切られないように持ちこたえれば良く、撃墜されたところで全滅しなければ良い。

 分かれたグシオンシューティングスターはガトリング砲とマシンガン、背部レールガンによる砲撃を始める。

 サブアームを使い前方だけでなく後方を初めとした全方位に弾幕を張ってザクⅡを殲滅して行く。

 だが、千鶴もただ闇雲に弾幕を張っている訳ではない。

 周囲の敵の位置を把握しながら最低限の弾数で撃墜し、無駄弾を撃たないように考えながら撃っている。

 同じようにウイングガンダムエトワールもザクⅡの攻撃を華麗に回避しながらツインバスターライフルとマシンキャノンでザクⅡを殲滅して行く。

 

「貴音」

「りょーかい」

 

 ザクⅡを落としながら珠樹は貴音にバトルフィールドの位置情報を送る。

 それを確認した貴音はガンプラをその場所の方に加速させる。

 今回のバトルで重要なのは単純な火力だけではない。

 いかにして敵の集まっている場所に向かう機動力も重要な要素だ。

 火力を重視する余り、近くの敵を殲滅して移動する時に機動力を犠牲にし過ぎるとそれだけで時間をロスするからだ。

 そうならないようにある程度の弾幕を張れて機動力のあるキマリストライデントを投入している。

 珠樹が交戦しながらもフィールドの敵の位置を把握して、貴音に指示を出して貴音に素早く敵の集まっているポイントに向かわせる。

 そうやって撃墜数を稼ぐ作戦だ。

 機動力と弾幕だけなら光一郎のガンダムAGE-2 マッハでも可能だったが、キマリストライデントのリアアーマーには機雷が内蔵されており、移動しながら機雷をばら撒き、機雷に接触して爆発させる事でザクⅡをより多く仕留める事が出来る為、今回は貴音を使う事となった。

 3機がそれぞれの場所で交戦し次々とザクⅡを仕留めていくとやがて制限時間の10分が来てバトルが終了となる。

 

「589機。想定通りの結果ね」

 

 日本代表の最終撃墜数は589機だった。

 世界大会が始まる前に同じような訓練を行い10機で1時間以上かかっていたことを考えるとそこ結果は十分だと言える。

 

「まぁね。私達が本気を出せばこんなもんだよ」

「調子に乗らないの想定通しとはいえ上位3位に入る事は出来なかったのだから」

 

 日本はこの撃墜数で現状4位の成績だ。

 すでにギリシャとドイツが終了しており、その両方が最大数の999機と言う撃墜数をたたき出している。

 現状で4位と言うことはこれ以上順位が上がる事もない為、上位3チームに入る事は出来ない。

 まだアメリカ、イギリス、ロシアは出番が来ていない為、上位7位までに残れるかも怪しい。

 その後、イギリス、ロシアとバトルを行いイギリスは756機と暫定3位に付き、ロシアは605機と暫定4位に入り日本は2つ順位が落ちて6位となった。

 

「次はアメリカか……」

 

 アメリカ代表も確実に大我が出て来て好成績を残す可能性は高い。

 アメリカ代表のバトルが始まりモニターには新しく改修されたオメガバルバトスが映される。

 前回は両肩にGNドライヴを内蔵し、遠隔操作できるプレードプルーマが追加された。

 今回の第三形態は両腕が以前のバルバトス・アステールのようにパワーユニットにより延長され、両腕にチェーンソーブレードが追加されている。

 チェーンソーブレードはその名の通りチェーンソーであり、刃は全て金色の希少金属となっている。

 また、チェーンソーブレードはブレードモードとガンモードに切り替えが可能でガンモードではブレード中央が開閉し中央に200ミリレールガンが内蔵されている。

 ガンモードでは手持ちの武器を使う時に邪魔にならないように後方にスライドする事も可能となっている。

 腕部の改修と共にサイドアーマーのスラスターも大型化されており、スラスターとしてだけではなくテイルブレードを流用し、ワイヤーブレードも収納されている。

 

「ライアン。今日は10分だけは好きに暴れて来い。許す」

「了解です! 大我さん!」

 

 アメリカ代表チームからはエースの大我の他にはクロエのガンダムAGE-FX エステレラとライアンのスタークアデルの3機だ。

 ライアンのスタークアデルはアデルスタークスをベースにして下半身のスタークスウェアはそのままに両腕をキャノンウェアに換装し、両腕にはガンダムAGE-1 グランサのシールドライフルが装備され背部にもグラストロランチャーと全体的に高い火力を持つ。

 スタークアデルは加速してザクⅡの大軍に突撃して行く。

 ライアンのスタークアデルは元々、高い機動力で先陣を切り、自らが撃墜されようとも大火力で1機でも多くの敵の数を減らし大我が雑魚を一々相手にしなくても良いように場を整える事を前提に使われている。

 その為、今回のようなひたすら敵を撃破するタイプのバトルで役に立つ。

 

「張り切っているわね。ライアンも。大我はその辺で適当に暴れててよ。私とライアンで撃墜数は稼いでおくから」

「うるさいな」

 

 今回のバトルで装備が強化されたとはいえオメガバルバトスは撃墜数を決められた時間内で稼ぐバトルは余り得意ではない。

 クロエのガンダムAGE-FX エステレラは全身のDファンネルを射出してスタングルライフルⅠBをチャージモードで撃ちDファンネルでザクⅡを蹴散らしていく。

 

「大我が役に立たない分、暴れれさせて貰うわよ」

 

 Dファンネルを使いガンダムAGE-FX エステレラはザクⅡを次々と撃破して行く。

 同様にスタークアデルも全身の火器を使いザクⅡを撃破して行く。

 

「ちょっとペースが悪いわね。仕方がないわね」

 

 クロエはコックピット内のコンソールを操作する。

 ガンダムAGE-FX エステレラは青白く光り輝き、全身のファンネルポートから超高出力のビームサーベルが形成される。

 ベース機にも付いているバーストモードを起動したのだ。

 それにより機動力が大幅に向上する。

 その反面、Dファンネルの操作精度が落ちるが、敵の数が多く、FXのパイロットであるキオ・アスノのようにコックピットを外す必要もない為、この状況でDファンネルの操作制度が落ちたとことで何の問題もない。

 ガンダムAGE-FX エステレラはスタングルライフルⅠBをリアアーマーに付けて両手にビームサーベルを持つと一瞬のうちに加速すると速度を緩める事もなくザクⅡを殲滅して行く。

 

「俺の分も残しておけよな」

 

 オメガバルバトスは肩のブレードプルーマを射出し、チェーンソーブレードをガンモードにしてレールガンでザクⅡを撃ち抜く。

 射出されたブレードプルーマは正確にザクⅡの胴体を貫いて行く。

 

「まぁこっちはこっちで好きにやらせて貰うけどな」

 

 ザクⅡの集中砲火をGNフィールドで防ぎながらオメガバルバトスは左腕をザクⅡの方に向けると手の甲に内蔵されている小型スラスターで展開されて左手が射出される。

 腕部の新しい機能としてワイヤーフィストとしての機能が追加されている。

 ザクⅡは距離をとってかわそうとするが、そこから更に希少金属でできた爪がワイヤーネイルとして射出されてザクⅡを捕まえる。

 ザクⅡを拘束したワイヤーネイルのワイヤーを引き戻し、ワイヤーフィストでしっかりと掴むとそのままザクⅡを振り回して周囲のザクⅡを破壊して行く。

 やがて拘束されたザクⅡが壊れるとザクⅡを解放してワイヤフィストのワイヤーを回収して元に戻す。

 

「今回の追加装備は無駄にワイヤーギミックが多いな」

 

 オメガバルバトスは腰のワイヤーブレードを射出する。

 腰のワイヤーブレードはテイルブレイドとは違い縦横無尽には使えないが、直線的なスピードに優れている。

 ザクⅡは肩のシールドで防ぐが、ワイヤーブレードはザクⅡの肩のシールドに刺さって固定される。

 ワイヤーを回収すればザクⅡも自分の方に引き寄せられ、オメガバルバトスのドリルニーで胴体がぶち抜かれる。

 

「成程な。コイツはこう使う訳だ」

 

 ザクⅡのマシンガンをGNフィールドで防ぎながら両腕のチェーンソーブレードのガンモードで撃ち抜く。

 

「大体今回の装備の使い方は分かったな。そろそろ本気を出して行くか」

 

 チェーンソーブレードをブレードモードに切り替えるとGNフィールドを展開しながら近くのザクⅡに接近する。

 ザクⅡはヒートホークで応戦しようとするが、GNフィールドに阻まれる。

 そして、オメガバルバトスはチェーンソーブレードを振るう。

 腕部がパワーユニットで延長されている為、普通に振るうだけでチェーンソーブレードの先端は敵を破壊するのに十分なだけGNフィールドから出てザクⅡを切り裂く。

 同時にブレードプルーマとテイルブレイドが周囲のザクⅡを切り裂き破壊する。

 そこから更に加速し、手当り次第にザクⅡをチェーンソーブレードで切り裂いていく。

 やがて制限時間の10分が経ちバトルが終了する。

 

「807機……3位か」

 

 アメリカ代表のバトルが終わり撃墜数が集計されて最終撃墜が807機と表示された。

 暫定3位のイギリス代表は756機である為、アメリカ代表は3位となる。

 それに伴い日本代表の順位が1つ落ちてギリギリ30ポイントが貰える7位となった。

 ここから更に順位が落ちると貰えるポイントが更に落ちるが、有力チームは全て終わった為、後は運次第だ。

 残りの試合で他のチームが日本代表の撃墜数を超える事がない事を願いながらもバトルが進んで行く。

 何度かヒヤリとする場面もあったが最終的に日本代表の記録を追い抜かれることもなく、日本代表チームは第三試合を7位と言う結果を残し30ポイントを獲得した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ターゲットバトル

 世界大会も第三試合が終わり、決勝トーナメント進出を賭けたバトルも折り返し地点に来ている。

 すでにここまでのバトルでポイントを稼いで来たチームとそうでないチームとの差が明確に出始めて来ている。

 日本代表はここまでポイントを逃すことなく取り、上位チームに入ってはいないが、十分に決勝トーナメントを狙える位置を維持している。

 そして、第四戦目の試合形式と組み合わせが発表された。

 第四試合は全36チームを6つのグループに分けて一つのバトルフィールド内で制限時間1時間以内に指定されたNPDのガンプラを撃破したチームに50ポイントが与えれる。

 各チームは最大5機までのガンプラが使用可能で、指定さえれたNPDを撃墜する手段は指定されていない。

 制限時間内であれば指定されたガンプラを最優先に撃破するも良し、邪魔な敵チームのガンプラを殲滅してから指定されたガンプラを撃破しても良い。

 今までのバトルと違う点は今までは上位数チームにポイントが与えられていたが、今回は指定されたガンプラを撃破したチームにのみポイントが与えられる。

 つまり、36チーム中、6チームにしかポイントが与えられず、今回のバトルでのポイントは決勝トーナメントに進めるかどうかの重要な1戦と言える。

 

「これが今回のバトルのルールよ。強豪チーム同士が潰し合って貰えるのであればベストだったけど、強豪チームは上手い具合にばらけているわ」

 

 日本代表のブリーフィングルームで麗子はメンバーたちに今回のバトルのルールを説明する。

 すでにグループ分けも決まっている。

 上位のギリシャ、ドイツ、アメリカ、ロシア、イギリスが一つのグループに纏まっていれば強豪チーム同士で潰し合って日本にとっては好都合だったが、そこまで上手くは行かず、強豪チームはそれぞれ別のグループとなっている。

 

「そして、私達日本代表と同じグループにはアメリカ代表もいるわ」

 

 日本としては同じグループに強豪チームがいない方が確実にポイントを狙えたが、日本代表と同じグループには大我のいるアメリカ代表チームがいる。

 これまでの3試合全てに大我は出ている。

 確実に次のバトルにも大我は出て来る。

 日本代表の大半が大我とは少なからず因縁があり、その実力を知っている。

 その上、毎回大我のガンプラは武装が強化されている。

 次のバトルで大我の使用するガンプラが分からないと言うのは不安要素が強い。

 

「幸いな事に今回は他のチームを必ずしも倒す必要はないわ。出場するのは珠樹、如月さん、如月君、大門君、湖侍路君の5人よ」

 

 今までチームのエースであるダイモンこと光一郎や接近戦においては光一郎以上のコジロウこと右京は温存して来た。

 だが、麗子はここで温存して来た二人と諒真を投入して勝負に出る事にした。

 今回のバトルで大我を倒す必要はない。

 大我より先に指定されたガンプラを倒せば勝利になる。

 

「ようやく俺の出番か」

 

 光一郎はここまで一度も出番はなく、遂に来た出番でいきなり大我と戦えるかも知れないと気合は十分だ。

 麗子は出場する5人に今回のバトルでの策を伝える。

 作戦を伝え、ガンプラの準備を終えると5人はGBNにログインする。

 各チームの準備が終えたところで第三回戦のバトルが開始された。

 

 

 

 

 日本代表のガンプラがバトルフィールドに射出される。

 日本代表を初めとした6チームのガンプラはバトルフィールドのどこかから出撃しているだろう。

 

「いきなりリトルタイガーと遭遇はないか」

「出会い頭にそれはアバターでも心臓が止まるって。で……ここはヤキンか?」

 

 大我と戦いたがっている光一郎を宥めながら諒真が周囲を確認すると、近くにはヤキン・ドゥーエを思われる宇宙要塞にザフトと連合の戦艦やMSが交戦している様子が見える。

 今回のバトルは各国の代表チームとターゲット以外にも多数のNPDが配置され、どのグループもガンダム作品の中での大規模戦闘の中でバトルが行われている。

 

「各機は手筈通りに」

「心得た」

「了解」

 

 珠樹の指示で日本代表のガンプラは千鶴のグシオンシューティングスターは狙撃ポイントの確保に向かい、珠樹のウイングガンダムゼロエトワールと諒真のガンダムデュナメスXペストの2機と光一郎のガンダムAGE-2 マッハと右京のガンダムX斬月の2機に分かれる。

 珠樹たちと別れた光一郎と右京は戦闘をしている宙域の中でも一際激しい戦闘の方に向かう。

 

「流石母親ってところか」

 

 光一郎はモニターを見てにやりと笑う。

 バトル開始前に麗子からバトル開始と同時に右京と共に激しい戦闘を見つけるように言われていた。

 そこには高い確率で大我がいるからとも。

 麗子の言う通り激しい戦闘宙域には大我のオメガバルバトスが暴れていた。

 今回も改修された第四形態となっている。

 第四形態では頭部と胴体に改修が加えられていた。

 頭部には額の部分に通信機能を高めると同時に武器としても使えるブレードアンテナであるヒートホーンが追加され、顔を覆うようにセンサーマスクが追加され、センサーマスクにはガンダムタイプ特有のツインアイではなくザクを初めとしたMSと同じモノアイになっている。

 胸部には4門の大口径バルカンが内蔵した増加装甲と背部のテイルブレイドや刃をガンダムバルバトスのメイスの先端部に変更されたテイルメイスとなっている。

 これまでの改修で増加した重量を補うようにスラスターも更に高出力化されている。

 第四形態となったオメガバルバトスの傍らにはジョーの雷邪の姿も確認できる。

 

「タイガーさんには指一本触れさねぇよ!」

 

 雷邪がヘビークラブでゲイツの頭部を潰し、至近距離で胴体にバヨネットライフルをブチ込んで破壊する。

 

「ちっ……バランスが滅茶苦茶だな」

 

 オメガバルバトスはチェーンソーブレードでストライクダガーを両断すると、テイルメイスを射出する。

 テイルメイスには加速用と姿勢制御用のスラスターが付けられており、並のガンプラなら一撃で仕留められるだけの勢いを付けられる。

 加速したテイルメイスがナスカ級のブリッジを潰す。

 第四形態ではテイルメイス等で重量が増しており、今までの改修された腕部や肩で重心が上半身に偏り過ぎて全体的にバランスが悪い。

 

「タイガーさん! 他のチームの奴が来ましたよ!」

 

 モニターの端にストライダー形態のAGE-2 マッハとその後方にはガンダムX斬月が映されている。

 雷邪がバヨネットライフルを撃ちながらAGE-2 マッハを迎撃する。

 AGE-2 マッハはかわして加速すると雷蛇との距離を詰めてMS形態に変形するとランスモードのハイパードッズランサーを突き出す。

 それを雷邪はナックルシールドで受け流してバヨネットライフルを振り下すも、AGE-2 マッハは距離を取ってギリギリのところで回避すると雷邪を蹴り飛ばす。

 

「なんだコイツ!」

「そう言えばお前にはウチの一年が世話になったよな」

 

 AGE-2 マッハはハイパードッズランサーをライフルモードにすると体勢を崩している雷邪に照準を合わせる。

 だが、引き金を引く前にオメガバルバトスがチェーンソーブレードのガンモードでAGE-2 マッハを撃つ。

 AGE-2 マッハは攻撃を中止して攻撃を回避する。

 

「タイガーさん!」

「ジョー。お前じゃそいつ等の相手をするのは無理だ。お前は先にターゲットの足を止めて来い」

「……分かりました」

 

 ジョーは明確に自分よりも相手の方が上だと大我に断言されて不服そうだったが、大我からの指示である以上は素直に聞くしかない。

 体勢を整えた雷邪は離脱する。

 

「ずいぶんと様変わりしたが、こうして戦えて嬉しいぜ。リトルタイガー」

「お前は前にぶっ潰しているから興味は無かったんだがな……まぁ3人がかりなら暇つぶしくらいにはなるか」

 

 オメガバルバトスは両腕のチェーンソーブレードをブレードモードに切り替える。

 先行して来たAGE-2 マッハにガンダムX斬月が追いつくとバックパックの大太刀を抜いて構える。

 

「2対1で少しセコイが今日は勝たせて貰うぞ! リトルタイガー!」

「来いよ。全員まとめてぶっ潰してやるからさ」

 

 AGE-2 マッハはストライダー形態に変形するとオメガバルバトス目掛けて突っ込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大我が光一郎たちと交戦を始めたころ、別の宙域ではディランのZガンダム・シュテルンとジェイクのスターユニコーンガンダムはヤキン・ドゥーエに接近していた。

 Zガンダム・シュテルンはバックパックのプロトフィンファンネルを射出する。

 

「あれも他のチームの奴か……紛らわしいんだよ!」

「ですね」

 

 プトロフィンファンネルはNPDのザフト軍のガンプラに紛れ込んでいたドムトルーパーの足を撃ち抜きバランスを崩したところをZガンダム・シュテルンがロングメガライフルで撃ち抜く。

 ドムトルーパーが撃破されるとローラシア級の残骸の影からドライセンがバズーカを構えて出て来るが、スターユニコーンガンダムがメガビームライフルで撃ち抜く。

 

「流石と言うしかありませんね。リヴィエールの新型機は」

「だな……丸見えだからな」

 

 スターユニコーンガンダムはメガビームライフルだけを後ろに向けて撃つとその射線にはステルスシステムで姿を隠していたガンダムデスサイズヘルが胴体を撃ち抜かれて爆発する。

 アメリカ代表は大我とジョー、ディラン、ジェイクの他にリヴィエールが今回の大会用に制作した新型のガンプラのテストも兼ねて出ている。

 そのリヴィエールの新型のガンプラから送られて来る情報はバトルフィールドのガンプラの位置を正確に表示している。

 それを使えば物陰に隠れての不意打ちやステルスシステムを使っての奇襲にも対応が容易だ。

 

「ジェイク。次が来ましたよ」

「デカいな……MAか」

 

 2機が散開すると高出力のビームが横切りヤキン・ドゥーエに直撃する。

 

「アメリカさんは口がでかいだけでガンプラは小さいようだな!」

 

 ビームを撃って来たのはガデラーザのようだ。

 

「ガデラーザか……カモじゃねぇか」

「そのようで……」

「ファング!」

 

 ガデラーサから大型ファングが射出されるとそこから更に小型ファングが射出される。

 100を超えるファングを出してガデラーザのダイバーは勝利を確信しているが、ジェイクもディランも焦る様子を見せない。

 

「馬鹿か。ユニコーン相手にんなもんを使うとか!」

 

 ジェイクがコンソールを操作すると、スターユニコーンガンダムの装甲が変形してデストロイモードとなる。

 モニターにNT-Dが表示されると、100基を超えるGNファングの制御がスターユニコーンガンダムにジャックされる。

 ユニコーンガンダムのサイコミュジャックはGBNでは必ず使える物ではない。

 ある程度の完成度でデストロイモードになって一定時間性能が底上げされ、そこから更に完成度を高める事でファンネルやビットと言った遠隔操作の武器の制御をジャックする事が出来る。

 また、その数もガンプラの完成度に比例し、100基以上を同時にジャック出来るガンプラはGBNにもほとんどいない。

 

「くたばれよ」

 

 ジャックしたファングが一斉にガデラーザに襲い掛かる。

 GNミサイルで迎撃しようとするが、GNミサイルは撃つ前にコンテナごとZガンダム・シュテルンの狙撃で撃ち抜かれて、成す術なくガデラーザは自らのファングの餌食となった。

 

「100を超えるファングを同時にジャック出来るとは……図体の割に器用なんですから。後、僕のファンネルまでジャックするのは止めて貰えないですか。今のでどこかに行ってしまったんですが」

「良いじゃねぇか。細かい事は気にすんなよ」

 

 ディランはため息をつく。

 ジェイクの制作技術はリヴィエールを除けばチームでも上位ではあるが、性格は適当でおおざっぱ過ぎる。

 それだけの制作技術と的確な判断があれば強い武器になるのだが、ジェイクの性格では高い制作技術で制作されたガンプラをイマイチ活かし切れていない。

 尤も、ディランは今更それを指摘したところで直すことは不可能だと諦めている。

 

「全く……次が来ますよ」

「お? 何だよ。日本の奴らか」

「片方は大我の姉ですから、油断しないように」

「分かってるって」

 

 スターユニコーンガンダムとZガンダム・シュテルンが接近するウイングガンダムゼロエトワールとガンダムデュナメスXペストにビームを撃つ。

 

「アイツ等は大我のところの奴か」

「ここで叩いておく」

「だな」

 

 ガンダムデュナメスXペストはGNロングキャノンを撃って牽制する。

 2機は散開し、そこをウイングガンダムゼロエトワールがツインバスターライフルを撃ち込む。

 

「デュナメスにゼロカスタムか……」

「どちらも長距離戦用のガンプラ。ならば接近戦で挑むのがセオリーでしょう」

 

 Zガンダム・シュテルンはウェブライダー形態となり加速する。

 同時にスターユニコーンガンダムもメガビームライフルを撃ちながら、ガンダムデュナメスXペストの方に向かって行く。

 

「ユニコーンは俺がやるから珠ちゃんはゼータの方をお願い」

「分かった」

 

 ガンダムデュナメスXペストは向かって来るスターユニコーンに粒子ビームを撃ちながら迎え撃つ。

 

「デュナメスで接近戦かよ!」

「まぁね」

 

 GNソードⅡをソードモードに切り替えて振り下し、それをビームトンファーで受け止める。

 通常、ユニコーンガンダムはユニコーンモードでは腕部のビームサーベルはビームトンファーとして使えないが、スターユニコーンガンダムはユニコーンモードのままでもビームトンファーとして使えるように改造している。

 

「お兄さんらさ、大我より弱いんだろ?」

 

 ガンダムデュナメスXペストはスターユニコーンガンダムを弾き飛ばす。

 

「一番厄介なのを妹たちに押し付けてるんだ。苦戦なんてしてたら、大我の兄貴分としては立つ瀬ないでしょ」

 

 ガンダムデュナメスXペストはスターユニコーンガンダムに接近するとGNソードⅡを振るい、シールドを損傷させるともう片方のGNソードⅡをライフルモードに切り替えて至近距離から粒子ビームを撃ち込んでシールドを破壊する。

 本来ならばスターユニコーンガンダムのシールドにはIフィールドの発生装置が組み込まれている為、ビームを防ぐことが出来るが一撃目の損傷で機能する事は無かった。

 

「なんだと!」

「んじゃさよなら」

 

 ガンダムデュナメスXペストは至近距離からGNミサイルをスターユニコーンガンダムに撃ち込む。

 

「糞ったれ!」

 

 GNミサイルの直撃を受けたスターユニコーンガンダムは内部から破壊されてボロボロだ。

 

「アレを耐えきるとかやるじゃん」

 

 まだ完全に破壊されていないが、これ以上戦ったところで分が悪いと判断したジェイクは後退する。

 諒真もスターユニコーンガンダムを仕留める事自体は目的ではない為、まともに戦闘能力が残されていないスターユニコーンガンダムを追撃する事はしない。

 

「ジェイクが撃退された! くっ!」

 

 Zガンダム・シュテルンはウイングガンダムゼロエトワールのビームを回避する。

 ウェブライダー形態で機動力を上げているが、珠樹の砲撃を前に中々距離を縮められずにいた。

 

「貴方の判断能力は高い。だから読みやすい」

 

 ディランはジェイクとは正反対にバトルでは合理性を重視した戦闘スタイルだ。

 常に様々な事態を想定し、最も合理的に相手を攻める。

 その能力はチーム内でも随一だ。

 しかし、それ故に自分と同じ戦闘スタイルで自分以上の能力を持つ珠樹からすれば次の動きが手に取るように見切る事が出来てやりやすい相手だ。

 

「これがあの皇麗子の子供の実力と言う訳だけですか……」

 

 大我の実力を知っている以上、その姉である珠樹の実力を軽視していた訳ではないが、大我から聞いて想定していた以上の実力を珠樹は持っていた。

 

「ジェイクがやられた以上はこちらも危うい……」

 

 時期にジェイクと戦っていた諒真もこちらに来るだろう。

 ただでさえ、距離を詰め切れずにいるところにもう1機来られて勝てるとは思っていない。

 そう考えているとビームがZガンダム・シュテルンを掠める。

 ウイングガンダムゼロエトワールの攻撃を完全にかわし切れなくなってきている。

 

「止む負えませんね」

 

 Zガンダム・シュテルンは反転すると退避し始める。

 

「良い判断。ここから先は追い詰められるだけ」

「取りあえず何とかなったな。珠ちゃん」

 

 珠樹もディランを追撃する気はない。

 諒真と合流し、2人はターゲットの捜索に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アメリカの2機が日本の2機とのバトルに決着はついたが、大我と光一郎と右京とのバトルはまだ続いていた。

 オメガバルバトスのブレードプルーマをかわしてAGE-2 マッハは接近するとハイパードッズランサーをランスモードにして突き出す。

 それに合わせて背後から回り込んだガンダムX斬月が大太刀を振るう。

 2機の同時攻撃をGNフィールドで受け止める。

 

「そう簡単にはやらせては貰えないか! そうでないとな!」

「うるさいんだよ」

 

 オメガバルバトスはチェーンソーブレードをガンモードにして2機を同時に狙う。

 2機はすぐに距離を取るとナスカ級の装甲をぶち抜いた弾丸がオメガバルバトスを襲う。

 オメガバルバトスはギリギリのところで回避する。

 

「レーダーの有効範囲外からの狙撃でこの威力でこの正確さ、アイツか……」

 

 3機の交戦する遥か後方から千鶴のグシオンシューティングスターがオメガバルバトスを狙っていた。

 今回のバトルで日本は大我を止める為に国内ランキング上位3人を使い、足止めをしている間に珠樹と諒真でターゲットを仕留めると言う算段だ。

 

「面倒だな。リヴィエール、やっぱり後方にいる奴はスナイパーだ。それでもとびっきりの腕利きのな。そっちで何とかしろ」

「は? 無茶言わないでよ。私はアンタ達脳筋連中と違うのよ」

「良いからやれ。面倒でやり辛い」

「……分かったわよ。その代わり少しの間戦況は送れないから」

 

 リヴィエールはそう言うと通信を一方的に切る。

 リヴィエールは戦場から少し離れた場所にいた。

 この大会用に新しく制作した新型のガンプラ、ガンダムスローネジーニアス。

 ガンダムスローネドライをベースに制作されたガンプラで、ベース機のスローネドライと同じく支援能力に特化している。

 スローネドライのGNステルスフィールドを応用したGNサーチフィールドを展開することが可能となっている。

 これは無色透明のGN粒子を戦闘エリア内に散布することで散布領域内を索敵することが可能でこれにより一般的なガンプラのレーダーの有効範囲をはるかに超える範囲を索敵することができる。

 GN粒子を散布して索敵しているため、いかなるステルスシステムを使って隠れていても存在そのものまで隠すことができず、スローネジーニアスの前には意味をなさない。

 この粒子は他のガンプラに一切の影響が出ないため、散布エリア内のガンプラはGN粒子が散布されていることにも気づかなくことはない。

 索敵の段階で圧倒的なアドバンテージを得ることでチームビッグスターの攻撃力を更に向上させることになる。

 装備とては腕部のGNハンドガンにかぶせる形でGNランチャーがつけられていること以外はベース機と変わらないが、頭部のアンテナやバックパックが大型化されており、より通信機能の強化や広範囲にGN粒子を散布できるようにカスタムされている。

 また、コックピット内のレイアウトも大きく弄っており、パイロットの座るシートをなくし、リヴィエールは自身のアバターをHAROに設定しているため、ベース機のコックピットにあるHAROをセットする台座にアバターをセットしている。

 それにより空いたスペースにはモニターが設置され戦場のあらゆるデータが表示されている。

 

「さて……行くとしましょうか」

 

 リヴィエールはGN粒子の散布を中断するとガンプラをグシオンシューティングスターのほうに向ける。

 

「ようやく直接狙える場所に出るようになったけど……」

 

 千鶴はオメガバルバトスに照準を合わせて引き金を引く。

 放たれた弾丸はオメガバルバトスに向かうが、ギリギリのところで回避される。

 先ほどまでは戦艦などでオメガバルバトスを直接狙えず、戦艦を撃ちぬいて狙撃していた。

 千鶴は気づいてはいなかったが、リヴィエールのスローネジーニアスのGNサーチフィールドで千鶴の位置は大我には筒抜けで、狙撃ポイントを変えても大我がそれに合わせて狙撃し辛いように位置取りをしていたせいだ。

 だが、今はGNサーチフィールドによる索敵がされていないため、大我も千鶴の位置を完全には把握できていない。

 

「接近する機影……気づかれたの?」

 

 モニターを切り替えるとそこにはこちらに一直線に向かってくるスローネジーニアスの姿が映されている。

 グシオンシューティングスターは残骸を利用して姿を隠しているため、偶然近くを通っただけだとは考えにくい。

 千鶴はすぐさま狙いをスローネジーニアスに切り替える。

 

「先手は打たせてもらう」

 

 千鶴はトリガーを引くと放たれた弾丸は正確にスローネジーニアスを撃ちぬいた。

 それで勝負は決まるはずだった。

 

「どういうこと? 弾丸は正確に当たったはず!」

 

 狙撃したスローネジーニアスには確実に弾丸が当たっている。

 にも関わらず弾丸はスローネジーニアスを通り抜けて無傷だ。

 レーダーを確認しても確かにスローネジーニアスはそこにいる。

 もう一度狙撃したが、結果は変わらない。

 

「残念でした。当たんないんだよね」

 

 なぜ、攻撃が当たらないかを考える間もなく、スローネジーニアスは腕部のGNランチャーをグシオンシューティングスターに向ける。

 グシオンシューティングスターは戦艦の残骸から飛び出してレールライフルを撃つが、スローネジーニアスをすり抜けて当たらない。

 スローネジーニアスはGNランチャーを撃つが、グシオンシューティングスターは軽々と回避する。

 攻撃は完全に回避したが、次の瞬間、持っていたレールライフルの銃身が内部から爆発した。

 

「何? どこから!」

 

 スローネジーニアスはGNランチャーを撃ったこと以外攻撃らしい動作はしていない。

 周囲には他のチームのガンプラはおろかNPDすらいない。

 何が起きたかわからないが、何らかの攻撃を受けていることは確かではあるが、その攻撃の正体がつかめずにいると今度は背部レールガンの砲身が内部から爆発して砲身が吹き飛ぶ。

 

「一体何が……」

 

 グシオンシューティングスターは膝とバックパックの武装コンテナからマシンガンを取り出すと周囲に弾幕を張る。

 攻撃の謎はわからないが、弾幕を張ることで少しでもヒントを得ようとしている。

 

「とりあえずノルマは果たしたし、これ以上は必要ないわね」

 

 グシオンシューティングスターの狙撃能力を削いだ時点でリヴィエールの目的は果たしている。

 これ以上戦闘を続ければ、場合によってはスローネジーニアスの秘密が露見する危険性もある。

 

「そんじゃ、さよなら」

 

 スローネジーニアスはトランザムを起動させると赤く発光する。

 それを見た千鶴は警戒を強めるが、トランザムを起動したスローネジーニアスは量子跳躍を行い姿を消した。

 どこから来るのか周囲を警戒していたが、攻撃は一向に行われることはなかった。

 この量子跳躍は相手の死角に回り込むものではなく、単純に逃亡用として使われるもので、すでにスローネジーニアスは遥か彼方に逃げていた。

 

「量子跳躍を使ったから粒子量は心元ないけど……まぁ大丈夫か」

 

 粒子残量を確認するが、まだある程度の時間GNサーチフィールドを維持するだけの粒子は残されている。

 もともと、量子跳躍用の粒子とGNサーチフィールド用の粒子は完全に分けているため、敵に見つかって量子跳躍で逃亡してもすぐにGNサーチフィールドで索敵を再開できるように考えている。

 

「大我、こっちはスナイパーを無力化したから適当に遊んどいて。私はターゲットを探すから」

「わかった。任せる」

 

 オメガバルバトスはチェーンソーブレードのブレードモードをガンダムX斬月に突き出す。

 ガンダムX斬月は回避し、チェーンソーブレードはそのままアガメムノン級に突き刺さり、そのままチェーンソーブレードを振るいアガメムノン級を轟沈させる。

 

「あの武器は凶悪過ぎるだろ」

「まともに受ければこちらの武器が破壊されるか」

 

 オメガバルバトスはAGE-2 マッハに胸部の大口径バルカンを撃つが、AGE-2 マッハはストライダー形態に変形してかわす。

 そこにすかさずガンダムX斬月が腕部のビームガンを打ち込みGNフィールドを展開して防ぐ。

 

「アイツの狙撃がなくても面倒だな。ダイモンも前に戦った時よりも強くなってるな。まぁあの鬼婆が監督をしてるんだ、そうもなるか」

 

 オメガバルバトスのテイルメイスをMS形態に変形してかわしてライフルモードのハイパードッズランサーをオメガバルバトスに撃つ。

 

「ターゲットをしとめるだけのつまらんバトルかと思ったが、少しは楽しめそうだ」

「お楽しみのところ悪いけど、ターゲットが出たわ。位置情報をそっちに送る」

 

 リヴィエールのほうで今回のバトルの勝敗を決めるターゲットが出たとの通信が入る。

 大我は交戦しながらも位置を確かめる。

 

「この位置じゃすぐに向かうのは無理だ。ジョーのやつに足止めをさせとけ」

「分かってる。もうジョーには死んでも足止めをするように指示を出してるわよ」

 

 ターゲットはヤキン・ドゥーエから出てきた。

 大我の交戦している宙域からは少し距離がある。

 そのため、比較的近くにいるジョーに足止めをさせるようにすでにリヴィエールから指示を出している。

 

「それりもそっちはどうなの?」

「これからだったんだがな。まぁここは確実に勝ちを拾っておく」

 

 思った以上に光一郎と右京とのバトルは楽しめそうだが、ターゲットをしとめることのほうが優先でそれを後回しにするほどの相手ではない。

 もっとも向こうも大我を自由にする気はなく、交戦は続くのだった。

 

 

 

 

 

 第四試合の勝敗を決めるターゲットが出現して最も近くにいたのは日本の珠樹と涼真の二人だった。

 ヤキン・ドゥーエから出てきたターゲットはプロヴィデンスガンダム。

 二人はターゲットを補足するとすぐにGNロングキャノンとツインバスターライフルを放つ。

 プロヴィデンスガンダムは素早く回避するとドラグーンを展開する。

 

「このドラグーンの動き!」

「速い」

 

 プロヴィデンスガンダムのドラグーンの動きは一般的なドラグーンの起動性能をはるかに上回っている。

 2機は全方位からの攻撃をかわすが、ウイングガンダムゼロエトワールのツインバスターライフルに被弾して手放す。

 同時にもう片方のツインバスターライフルも珠樹は手放した。

 ツインバスターライフルはライフルとしては大型で取り回しも悪いため、プロヴィデンスガンダムのドラグーンを相手には分が悪いと判断した。

 ウイングガンダムゼロエトワールは2本のゼロソードを抜くと接近戦を仕掛ける。

 

「援護は任せろ!」

 

 かわし切れないドラグーンをウイングバインダーで身を守り、涼真のガンダムデュナメスXペストがライフルモードのGNソードⅡで援護射撃を入れながら、ウイングガンダムゼロエトワールはプロビデンスガンダムに接近していく。

 プロヴィデンスガンダムは左腕のシールドからビームサーベルを出して迎えうつが、ウイングガンダムゼロエトワールはかわして下に潜り込む。

 

「取った」

 

 下からゼロソードを胴体めがけて突き出し、珠樹も攻撃が当たることを確信した。

 珠樹の確信通り、ゼロソードはプロヴィデンスガンダムの胴体に命中するが、ゼロソードは胴体を貫くことはなかった。

 

「フェイズシフト」

 

 プロヴィデンスガンダムはウイングガンダムゼロエトワールにビームライフルを撃ち、距離を取らせるとドラグーンで全方位からビームを浴びせる。

 

「珠ちゃん!」

 

 涼真が援護射撃を入れようとしたが、自分の近くにまで気が回らず、ドラグーンの攻撃でGNロングキャノンと左腕を失う。

 

「やべ!」

「大丈夫」

 

 ウイングガンダムゼロエトワールはウイングバインダーで全身を覆うようにして攻撃から致命傷を防いでいた。

 

「こっちはちと厳しいな。それにしてもフェイズシフト持ちかよ」

 

 プロヴィデンスガンダムは作中と同じくフェイズシフト装甲となっており、実弾や実体剣に対して圧倒的な防御力を持っているようだ。

 ウイングバインダーで身を守るウイングガンダムゼロエトワールにプロヴィデンスガンダムはビームライフルとシールドのビーム砲で集中砲火を浴びせる。

 すると、戦闘宙域にリヴィエールから位置情報を貰ったジョーの雷邪が到着する。

 

「あれがターゲットか」

 

 雷邪はバヨネットライフルをプロヴィデンスガンダムに連射する。

 撃った弾丸のうち数発がプロヴィデンスガンダムに当たるもフェイズシフト装甲のプロヴィデンスガンダムには効果がない。

 

「ライフルじゃ駄目か!」

 

 新たな敵にプロヴィデンスガンダムはドラグーンを差し向ける。

 雷邪はスラスターを全開で使ってドラグーンから逃れる。

 

「振り切れない!」

 

 ドラグーンのビームが雷邪をかすめる。

 そのうちの一発がバヨネットライフルに直撃する。

 バヨネットライフルを手放すとヘビークラブを持ち、プロヴィデンスガンダムに向かっていく。

 

「フェイズシフトだろと足止めさえすればタイガーさんが!」

 

 ナックルシールドで身を守りながら接近してヘビークラブを振るうが、プロヴィデンスガンダムはシールドで受け止めて弾くとビームライフルを撃つ。

 ビームは雷邪の頭部を撃ちぬくが、雷邪もヘビークラブを投擲する。

 それをシールドで弾くとナックルシールドを構えて再度突撃する。

 プロヴィデンスガンダムのビームライフルでナックルシールドの片方が耐え切れずに破壊されるも雷邪は止まらない。

 プロヴィデンスガンダムはビームサーベルを振るうが、雷邪はプロヴィデンスガンダムの左腕にしがみつくと後ろに回りみ後ろから羽交い絞めにしようとする。

 

「捕まえた」

 

 何とか雷邪はプロヴィデンスガンダムの背中に食らいつくが、背後に回り込んだドラグーンの攻撃を受ける。

 

「アイツやるな」

「タイガーさんの命令なんだ! 死んでも離すかよ!」

 

 雷邪はドラグーンの攻撃を受けて損傷するも、離れることはない。

 プロヴィデンスガンダムもさすがに背中にへばりついては邪魔なのか何とか雷邪を振り払おうとする。

 

「終わり」

 

 雷邪がプロヴィデンスガンダムと交戦している間に珠樹は邪魔になると手放したツインバスターライフルを回収していた。

 ツインバスターライフルならフェイズシフト装甲であっても一撃で雷邪ごとしとめることができる。

 

「容赦ないな……だけど、悪く思うなよ。これでもバトルなんだからな」

 

 ウイングガンダムゼロエトワールがツインバスターライフルを撃とうとした瞬間、何か黒い塊がウイングガンダムゼロエトワールの横を通過する。

 珠樹も涼真もレーダーの反応は常に把握していた。

 周囲には自分たち以外のガンプラはNPDくらいだ。

 

「……やられた」

「おいおい。あの距離からか」

 

 珠樹はツインバスターライフルを下す。

 涼真ももはや笑うしかない。

 黒い塊、メイスの先端部分が後ろの雷邪ごとプロヴィデンスガンダムの上半身を押し潰していた。

 遥か遠くから大我のオメガバルバトスがテイルメイスの先端部分をワイヤーから外して投擲したのだ。

 距離を光一郎と右京の二人を巻いてそこまで行くまでの時間を惜しんだ大我がその場からテイルメイスを投擲した。

 腕部のパワーユニットで強化されたパワーを最大出力で投擲し、ジョーが必死にプロヴィデンスガンダムを足止めしたことで直撃させた。

 その威力はフェイズシフト装甲の耐久力ですら耐え切れずに破壊されている。

 大我の足止めは完璧でその場からの投擲がこれほどの威力で正確にやれるのは麗子や珠樹も想定してはいなかった。

 プロヴィデンスガンダムを大我がしとめたことで、このグループの勝者はアメリカ代表となった。

 

 

 

 

 

 

 



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機動要塞

 世界大会第四戦で日本はついにポイントを取り逃してしまう。

 日本にとって幸いだったことは四戦目のバトルでポイントを獲得した6チームはどれも元々上位に位置していたため、順位の変動はない。

 そして、第五戦目のバトル形式とルールが各チームに公表された。

 四戦目のバトル形式は拠点攻防戦だった。

 GBNのバトル形式の中でもメジャーな形式の一つで、一つのバトルフィールドに攻撃側と防衛側に分かれて基本的に全滅すれば敗北で攻撃側は攻撃目標を破壊、もしくは特定の条件を満たせば勝利、防衛側は制限時間まで防衛目標を守り切れば勝利というのが一般的だ。

 今回も同様のルールだが、攻撃側と防衛側の決め方に大きな特徴がある。

 防衛側は現在の獲得ポイントの上位6チームとなり、他のチームは5チームが1つのチームとして攻撃側となる。

 それぞれのチームは最大5機までガンプラを投入可能で、攻撃側は5チーム25機のガンプラで攻めて防衛側は5機のガンプラで拠点を守らなければならない。

 そして、ポイントは攻撃側が勝利した場合は各チームに50ポイントづつ入り、防衛側のポイントが50ポイント減らされる。

 尚、攻撃側が勝利した場合、自分たちのチームが全滅していてもポイントは入り、以前の第二試合のように仲間割れを誘発するようなことはない。

 逆に防衛側が勝利した場合のポイントの変動はなく、この第四試合において防衛側はここまで稼いできたポイントの死守をするバトルで、攻撃側は上位チームとの差を大きく減らし、場合によってはポイント差を覆すことが可能となっている。

 

「これが次のバトルの主なルールよ」

 

 麗子がブリーフィングルームで日本代表のメンバーに公表されたルールを説明する。

 すでに組み合わせも決まっており、日本代表が出るバトルの防衛チームはドイツ代表になっている。

 

「防衛側はドイツか……ロシア辺りなら勝算も結構ありそうだったんだがな」

 

 諒真は防衛側と攻撃側の代表チームを見てそう言う。

 これまでのバトルで有力なチームの特色が見えて来ている。

 アメリカやギリシャは圧倒的なエースを中心に攻めるチームでロシアは全体的にバランスが取れたチーム、イギリスは近接戦闘重視のチームで、ドイツはリーダーのヘルマを中心とした火力と機動力が高く殲滅力に長けたチームだ。

 第三試合においてはその殲滅能力を最大限に活かしてギリシャ代表と並ぶ999機の撃墜数を叩き出している。

 この第五試合では攻撃側には5倍の数の差があるが、ドイツ代表の前には5倍程度の数の差では心もとない。

 それでも同じチームに上位6チームに入らなくても実力のあるチームがあれば多少なりとも勝算が出てくるが、一覧を見る限りでは日本代表が5チームの中で最上位のポイントを持っている。

 

「組み合わせが決まった以上は泣き言を言っても仕方がないわ。次のバトルに出るのは貴音、剛毅君、沖田君、南雲君、如月君の5人よ」

 

 それが今回のオーダーだった。

 25対5でのバトルとは言え、数の優位などドイツ相手にはないにも等しい。

 そうなれば自分たちだけで勝つつもりで挑むしかない。

 そのため、突破力のある貴音とレオを中心に指揮と単体での戦闘が可能な源之助と諒真、個人の技量は代表メンバーの中では劣るものの上手く立ち回り援護能力に長けている史郎でチームを組んだ。

 

「今回は数は多いけど、油断は禁物よ。自分たちだけで勝ちに行くだけの心構えで行きなさい」

「分かってるってどこのドイツか知らないけど、ここいらで上位チームだからって安心できないってところを見せて来るわよ」

 

 貴音がそう意気込む。

 貴音の常に自身に溢れているところは長所だ。

 今回の相手はバトル形式のせいもあり前回のアメリカ以上に厄介な相手といえる。

 貴音の臆することのない自身がこの状況を有利に運ぶことができると信じたい。

 それぞれの準備が完了し、GBNにログインしてすべてのチームの準備が完了したところで第五試合が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 第五試合はすべてが同時進行で行われる。

 それぞれのバトルフィールドはランダムで決められる。

 アメリカ代表のバトルフィールドは市街地となっている。

 フィールド上は巨大な都市となっており、ガンプラよりも巨大なビルなどがいくつも建てられており、視界をふさぐ。

 アメリカの防衛拠点はフィールド中央に建てられている巨大なタワーでここに敵チームのガンプラが到達すると拠点が制圧されたとみなされて敗北となる。

 タワーの頂上にはルークのガンダムソルエクシアとリヴィエールのガンダムスローネジーニアスが陣取り、スローネジーニアスはすでにGNサーチフィールドを展開している。

 

「見~つけた」

 

 GNサーチフィールドでリヴィエールは敵チームの動きをすべて把握した。

 この第五試合は攻撃側に有利になるようになっているため、防衛側のレーダー機能はかなり制限されているため、ギリギリまで接近しないとレーダーは意味はない。

 本来は防衛側はその状況を何とかすることを考えなければならないが、アメリカ代表のリヴィエールのスローネジーニアスのGNサーチフィールドならばバトルフィールドの大半をカバーすることができるため、意味をなさない。

 敵は5機編成の隊で5方向から進軍している。

 おそらくはそれぞれのチームが分散することでアメリカ代表の戦力を分散させるつもりなのだろう。

 5機で行動していれば仮にアメリカ代表の最大数の5機と遭遇しても数の上では互角で戦え、その間はほかのチームががら空きとなった拠点に向かうこともできる。

 

「この位置だと大我が近いな。大我。すぐに向かってくれ。敵を見つけ次第殲滅して構わない」

「わかった」

 

 大我は短く答えると通信を切る。

 すると、大我のいる位置から補足した敵の位置の直線状にあるビルが次々と倒壊していく。

 大我が敵のいる場所に最短距離で進行上のビルをガン無視しながら突き進んでいるということはスローネジーニアスから送られてくる情報と照らし合わせる必要すらない。

 

「分散して接近すればあの化け物じみたバルバトスと遭遇する危険性は少ないな」

「ほかの連中なら5機で囲んでしまえばいいだけだからな」

「けど……さっきから大きな音がするけど……」

「気にすんな。どうせ、こっちの位置が分からなくて適当に攻撃して炙り出してんだよ」

「だといいんだがな……気のせいか音が近づいている気がする」

 

 ヴェルデバスター、ビルゴⅡ、アルトロンガンダム、ドラドL、ランドマン・ロディの5機編成の隊はビルを使いタワーからは死角に入りながら進軍していた。

 しかし、アルトロンガンダムの後ろのビルが吹き飛び、そこからオメガバルバトスが出てくる。

 オメガバルバトスはブレードモードのチェーンソーブレードを振るい、アルトロンガンダムを背後から両断する。

 

「なんだと!」

「見つけた」

 

 オメガバルバトスはこれまでのバトルの時と同様に装備が強化された第五形態となっている。

 第五形態は第四形態への改修時に重心の偏りでバランスが悪くなっていたところを改善してている。

 両足には重量増加による下半身の関節への負荷を和らげながらも、脚部のパワーを強化する強化ユニットが増設された。

 強化ユニットは足を覆うように取り付けられており、それに伴い、大型化されこれまでの改修により大型のガンプラとなった。

 強化ユニットの足の裏と脹脛にはアデルマークⅡのように陸戦時の機動力を向上させる装輪ユニットが内臓されている。

 脛の部分には高周波シザーブレードが取り付けられている。

 これは2枚の高周波ブレードでできており、普段は普通の高周波ブレードとして蹴りの時に使われるが、同時にハサミのように稼働することで敵を挟んで切断することにも使える。

 そして、内臓式スラスターにより宇宙空間での機動力の低下をある程度は補えるようになっている。

 脚部の強化ユニットを装備したことで重心も安定した。

 

「散開だ! いくらアイツでも囲んでしまえば!」

 

 撃破されたアルトロンガンダム以外の4機はすぐに散開して、集中砲火を浴びせながらオメガバルバトスを囲もうとした。

 だが、オメガバルバトスは装輪ユニットを展開して陸上を蛇行しながら包囲させない。

 

「なんだアイツ! あんな図体して! うぁぁぁ!」

 

 ビームバルカンを撃っていたドラドLの攻撃をかいくぐり、オメガバルバトスは接近すると高周波シザーブレードでドラドLを胴体から真っ二つに切断する。

 

「この化け物が!」

 

 ヴェルデバスターは全火力をオメガバルバトスに集中させる。

 オメガバルバトスはサイドスラスターのワイヤーブレードを正面のビルに打ち込むと、ワイヤーを回収することで自分をビルの方向に引き寄せると、そのまま装輪ユニットで重力を無視するかの如くビルを駆け上がり、ビルを飛び越してオメガバルバトスは宙を舞う。

 その動きにヴェルデバスターのダイバーはついていけず、オメガバルバトスはヴェルデバスターの背後に落ちて来ると両腕のチェーンソーブレードでヴェルデバスターを切り裂く。

 

「バカめ! 後ろががら空きなんだよ!」

「バカはお前だよ」

 

 ビルゴⅡがビームライフルをオメガバルバトスの背後から向けていた。

 ビルゴⅡのダイバーは千載一遇のチャンスと思っていたが、オメガバルバトスの背部についているテイルメイスがないことにまでは気が付いていなかった。

 そのことに気が付いた時にはすでに遅かった。

 ヴェルデバスターの背後を取るためにビルを駆け上がり、宙を舞ったときにテイルメイスを射出していた。

 重力下では重たいテイルメイスは使い辛いが、重いがゆえに落ちて来る速度も速く、それは真下にいたビルゴⅡを潰すには十分だった。

 

「こうなったら! 少しでも時間を稼いで!」

 

 最近に残ったランドマン・ロディはサブマシンガンを撃ちながら後退を始める。

 この状況では勝てるとは思えない。

 このまま無駄に挑んでやられるくらいなら少しでも時間を稼いで大我を引き付けようと考えた。

 だが、大我も長々と戦う気はなかった。

 テイルメイスとは違い、重力下でも制限を受けないブレードプルーマがランドマン・ロディの四肢の関節を切り裂き、達磨状態となったランドマン・ロディは成す術もなく仰向けに倒れる。

 

「新しい装備は中々に良いな」

 

 オメガバルバトスは右足の装輪ユニットを高速で回転させながら、ランドマン・ロディの胴体を踏みつける。

 強化ユニットで脚力も強化され、装輪ユニットで装甲を削られていくランドマン・ロディはあっけなく胴体が踏みつぶされて破壊された。

 

「ルーク。こっちは片付いた」

「流石。ディラン達には別の部隊に向かわせた。次の情報を送るからすぐに始末してきて欲しい」

「了解」

 

 アメリカ代表は今回は大我の他にルーク、リヴィエール、ディラン、ウィリアムの5人となっている。

 すでに他の4隊の位置も補足しているため、ディランとウィリアムを向かわせているようだ。

 大我もすぐに指定された隊の方に向かう。

 バトルフィールドの市街地にはガンプラが移動するのに十分な深さのある運河が流れている。

 攻撃側の隊の一つは水中用のガンプラを使い運河を移動して可能な限りタワーに接近する策を取った。

 

「良し、向こうも川を移動してくるとは思ってなかったようだな」

 

 運河からグーンが顔を出して周囲を警戒する。

 周囲に敵影はなく、安全を確認すると、グーンを先頭にズゴックE、ウロッゾ、カプール、アビスガンダムが出て来る。

 

「このまま、一気に本丸に……」

 

 水中を移動してきた部隊がタワーを目指そうとしたとき、上空に影ができるとアビスガンダムがビームに撃ちぬかれて破壊される。

 

「なんだ!」

「水中を移動すれば見つからないというのは浅はかですよ」

 

 上空からディランのZガンダム・シュテルンが下りて来る。

 上空にはもう一機のガンプラ、ハンブラビボードが旋回している。

 ウィリアムのハンブラビボードはハンムラビをベースに改造されている。

 ハンムラビのMA形態をメインに使うことを前提にされ、その名が示す通り、ボード、サブフライトシステムとしての側面が強い。

 脚部が大型化され、膝に高出力スラスターを内蔵し、MA形態での機動力を向上させ、脛の部分にガンプラが乗りやすいように改修されている。

 ウイング部分も大型化され、下部には重力下でのホバーユニットが増設され、上部には取っ手がつけられており、SFSとして味方を素早く運搬することを役目としている。

 装備は手持ちの火器は持たずベース機の腕部のビームガン兼ビームサーベルにテールランスの代わりにヴェイガン系のMSが装備しているビームライフルを流用したテールキャノンに変更され、背部のビームキャノンは外されている。

 Zガンダム・シュテルンはハンムラビボードに乗りスローネジーニアスが補足した水中部隊の動きから上陸する場所を推測して先回りしていた。

 

「先手は取られたが、相手は1人。あのバルバトスじゃないんだ。囲んでしまえばこっちが有利!」

 

 奇襲に動揺したもののすぐにZガンダム・シュテルンを取り囲む。

 

「ディランさん。こっちの援護は?」

「必要ないですよ。この程度、こちらで対処可能です」

 

 背後に回り込んだウロッゾがシグルクローでとびかかる。

 

「確かに僕は大我やルーク、クロエと比べると操縦技術では劣る。しかし、それを自覚することで対応は可能です」

 

 Zガンダム・シュテルンはウロッゾの攻撃をかわすとロングメガライフルを撃ちこんで破壊する。

 ウロッゾの攻撃に合わせていたズゴックEの攻撃もかわすとロングメガライフルとシールドを捨てて両手にビームサーベルを抜くとミサイルで援護しようとしていたグーンを破壊する。

 

「動きが急に!」

 

 Zガンダム・シュテルンの関節から青い炎が出て、動きが急によくなっていた。

 Zガンダム・シュテルンに搭載されているナイトロシステムをディランが起動したからだ。

 GBNではナイトロシステムを使うことで発動中はダイバーの反応速度を向上させる。

 それによりディランは敵の動きに素早く反応し、対応することが可能となっている。

 

「ナイトロだと!」

「ふざけやがって!」

 

 残っているズゴックEとカプールはZガンダム・シュテルンに集中砲火を浴びせるが、ナイトロで反応速度の上がっているディランはすべて見切り、ビームサーベルでズゴックEを撃破すると、すぐにカプールに接近してビームサーベルを突き刺す。

 

「ルーク。こちらの対処は完了しました」

「ご苦労さん。次を指定するからすぐに向かって欲しい」

「了解しました」

 

 Zガンダム・シュテルンが高く飛び上がるとそれに合わせてハンムラビボードがZガンダム・シュテルンを載せて飛び立つ。

 

「これで2部隊、10機をしとめたことになる」

「ルーク、次は上空から来る部隊を叩いたほうがいいんじゃない?」

「確かに……とは言ったものの、大我もディランも別の部隊を叩きに行かせているからな……仕方がない」

 

 残り3部隊ですでに大我とディランはそれぞれ指示を出して動いてもらっている。

 上空からこちらに向かっている部隊はガンダムエアマスターを先頭にゾロ、ギャプラン、アヘッド、カオスガンダムの5機だ。

 飛行しながらまっすぐにこちらに向かってきている。

 

「僕がやろう」

 

 大我とディランを行かせると別の部隊を野放しにすることになる。

 そのため、ルークは自分で何とかすることにした。

 

「トランザム、始動」

 

 ソルエクシアはトランザムを起動してGNビッグキャノンとGNバズーカⅡを迫る上空部隊に向けて放つ。

 トランザムで威力の上がった粒子ビームは上空の敵部隊が反応して散開するよりも早く部隊を飲み込み、跡形もなく消滅させた。

 

「これで良しと……」

 

 上空からの部隊を消滅させている間にディランも敵部隊を交戦し、問題なく殲滅していた。

 これで残る攻撃部隊は5機となった。

 その5機の元には大我が向かっており、殲滅するのも時間の問題だろう。

 

「見つけた。あいつらで最後か」

 

 大我の見つけた最後の部隊はガイアガンダム、グフ、グレイズシルト、スレイヴレイス、ディジェの5機だ。

 オメガバルバトスのテイルメイスから内部に収納してある柄が出ると手持ちの武器となる。

 テイルメイスは重力下では重くて扱いにくいため、内部に柄を収納しておくことで状況によっては手持ちのメイスとして使用することができる。

 オメガバルバトスはビルを飛び越すとメイスを振り下ろしながらガイアガンダムを叩き潰した。

 

「敵襲か!」

 

 大我の襲撃に残る4機は火器を構え、火器を持たないグレイズシルトはハルバートを構えてオメガバルバトスに接近する。

 

「くらえ!」

 

 グレイズシルトのハルバートを左腕のチェーンソーブレードで受け止めると、チェーンソーブレードの刃が高速で動き、ハルバートを粉砕し、オメガバルバトスはメイスを振り落とす。

 何とかシールドで受け止めようとするが、受け止めることもできるはずもなく、一撃でシールドごとグレイズシルトは粉砕される。

 

「後3機か」

 

 オメガバルバトスはグフの肩にアンカーブレードを打ち込むと引き寄せながら胸部の大口径バルカンを打ち込む。

 まともに防御態勢を取ることもなく、グフはハチの巣となる。

 

「後2機」

「ちくしょう! 撤退だ! 一度引いて体制を……」

 

 ディジェはクレイバズーカをスレイヴレイスはビームライフルを撃ってオメガバルバトスから逃げようと試みる。

 しかし、オメガバルバトスは装輪ユニットの機動力でかわしながら飛び上がり、ディジェの背後を取るとディジェが振り返るよりも早くメイスを振るい、ディジェはビルに叩きつけられて粉々になる。

 残るスレイヴレイスはオメガバルバトスが狙いをディジェに向けた時点で一目散に逃亡を始めていた。

 

「逃がすかよ。お前でラストだ」

 

 オメガバルバトスはメイスを逆手に持つと本体と繋がっているワイヤーを切り離すとスレイヴレイスの背中目掛けて力の限り投擲する。

 メイスについているスラスターで更に加速するとメイスはスレイヴレイスの背中に直撃して破壊する。

 それによりアメリカ代表は攻撃側の25機をすべて撃墜したことで勝利となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本代表のバトルフィールドは巨大な島だった。

 中央には巨大な山がそびえたち、周囲にはガンプラが隠れるには十分な大きさの森が配置されている。

 中央の山の山頂に到達することが攻撃側の勝利条件だ。

 日本代表はそれぞれ、貴音と諒真の2人と史郎、源之助、レオの3人が別行動を行い、他の代表チームと合流しながら山頂を目指すことにした。

 幸いにも他の代表チームも日本代表チームと足並みをそろえることには異論はなく、全チームとまではいかないが、友軍として合流することができた。

 

「敵が来たら俺が前衛をやるからアンタ達は援護をしてくれればいい」

 

 レオは合流した他のチームに敵と遭遇した時の対応を指示する。

 合流したガンプラは∀ガンダム、V2アサルトバスター、ガンダムDX、キュベレイ、ジェスタキャノンの5機でレオ達を含めれば8機の隊になっている。

 

「相手は火力と機動力に長けている。油断するなよ」

 

 隊の全体指揮は源之助が執り、史郎がサポートをしている。

 目的の山に近づき警戒を強める。

 すると各機のコックピットで警戒のアラートが鳴り響く。

 

「なんだ?」

「来るぞ!」

 

 レオのネビュラアストレイは上空に向けてレールバズーカを撃つ。

 

「上からか!」

 

 上空から多数のミサイルが山を中心に周囲の森に降り注ぐ。

 それを地上から持てる火器をすべて使って迎撃する。

 

「ツインサテライトで一掃できないのかよ!」

「無理だ! チャージが間に合わない!」

 

 ミサイルをすべて迎撃することができず、ミサイルが森を焼いていく。

 

「ミサイルの着弾を確認」

 

 山頂ではドイツ代表チームが陣を構えていた。

 チームの紅一点でありドイツ代表を率いているヘルマ・ディートリッヒのガンプラ、ガンダムZZフォートレスを中心にバックパックには大型ミサイルポッドをGNスナイパーライフルを装備した最終決戦仕様のガンダムサバーニャ、Gファルコンとドッキングしたガンダムレオパルトデストロイ、イーゲル装備のミサイルポッドとクローラーユニットを増設し両腕に2連装ビームガトリングを装備したガンダムヘビーアームズ改、アサルトライフル2丁に四連式ロケットランチャーを装備した漏影の5機だ。

 隊長機のヘルマのガンダムZZフォートレスはフルアーマーZZガンダムをベースにしたガンプラだ。

 下半身はガンダムAGE-3 フォートレスのものをベースにしたホバーユニットで全身に火器が増設されている。

 ZZガンダムの代名詞ともいえるハイメガキャノンは額以外にも両肩の装甲と腹部、両足の6門に増設され、両腕部にはAGE-3 フォートレスのシグマシスキャノンを流用したダブルメガキャノンが装備されている。

 バックパックのハイパービームサーベルはビームサーベルとしての機能をなくして4本を1つにまとめたハイパービームガトリングキャノンを2基装備し、バックパック下部には脇の下から前方に向けて使うレールガンが2基が装備されている。

 両腕は手持ちの火器は装備されていないが、両手は大型化され指にビームガンが内臓され、ドーベンウルフのように腕部を有線で射出して使えるようにもなっている。

 サイドアーマーにはビームキャノン、リアアーマーにはインコムが4基装備され、両足のサイドにはショートバレルのガトリング砲、バックパックと追加装甲にはミサイル、全身にはビームを打ち出す機銃が装備されるなど、全身に火器を装備したまさに要塞ともいえるガンプラだ。

 

「ブルーノは上空より爆撃を続け、敵を炙り出せ。ドミニクと私でミサイルの迎撃のあった地点を探り生存者を始末する。フリッツとルッツは拠点防衛でフリッツは狙撃支援、ルッツはフリッツの護衛をしろ」

 

 ヘルマは素早く指示を出す。

 今のミサイル攻撃は無差別に攻撃したが、自身の身を守るために森の中からミサイルを迎撃させて相手の位置を特定するためのものだ。

 向こうも身を守るためにミサイルを迎撃したことでヘルマ達には敵の潜伏している場所が大まかにだが把握できた。

 次の手をしてブルーノのレオパルトデストロイが上空から爆撃をして、敵を炙り出しながらドミニクのヘビーアームズ改とヘルマのZZフォートレスがミサイルの迎撃のあった場所を中心に生き残った敵を殲滅、拠点の防衛はフリッツのサバーニャとルッツの漏影が行う。

 ドイツ代表はヘルマの指示に一切の意を唱えることもなく、それぞれの役目を理解している。

 ヘルマを中心に統率の取れた戦いもドイツ代表の強みだ。

 ヘルマの指示に従いレオパルトデストロイは飛行しながら森にミサイルを撃ち込みながら旋回を始める。

 

「行くぞ」

 

 ZZフォートレスとヘビーアームズ改もそれぞれ、迎撃のあった地点を目指す。

 3機が出撃し、サバーニャが敵の位置を探るために使ったミサイルポッドをパージするとGNホルスタービットを展開して狙撃体制をとる。

 残る漏影もアサルトライフルを構え敵の襲撃に備えた。

 

「いきなりやってくれたな……生き残りはどれだけいる?」

「俺は無事だ」

「僕も何とかね」

 

 ドイツ代表のミサイル攻撃から源之助の闘魂デュエルと史郎のガンダムAGE-3 オリジン、レオのガンダムネビュラアストレイは無事のようだがAGE-3 オリジンはダブルシグマシスライフルを失っている。

 合流したほかのチームのガンプラはキュベレイのみが無事で他はミサイル攻撃でやられているようだ。

 

「4機か……すぐに離脱するぞ。奴らの狙いは恐らく……」

「そうもいかないようだ」

 

 源之助も敵がただの無差別攻撃を行っただけではなく、迎撃させることで位置を特定することが目的だと気づいている。

 ミサイルを迎撃したことでこちらの位置を特定されたとなると、次はそこを集中砲火するか敵が来るかのどちらかだ。

 源之助の危惧したようにヘビーアームズ改がミサイルを撃って山の斜面を下りて来る。

 ヘビーアームズ改のミサイルはキュベレイに直撃する。

 

「味方は俺たちだけか……どうする? 向こうは隊長機じゃないようだけど?」

「迎え撃つしかあるまい」

 

 闘魂デュエルはヘビーアームズ改にビームライフルを撃つ。

 ヘビーアームズは飛び上がり回避すると地面に着地して全方位にミサイルを撃つ。

 

「そうそう着地は狙わせてはくれないか!」

 

 ネビュラアストレイはヘビーアームズ改にレールバズーカを撃つが、ミサイルの迎撃で弾数をほとんど使い切りすぐに弾切れとなり、レールバズーカを捨ててビームライフルに持ち帰る。

 

「敵は3機か……問題ない。ここで殲滅する」

 

 ヘビーアームズ改は両腕の2連装ビームガトリングを闘魂デュエルとAGE-3 オリジンに向けて撃ちながら胸部のガトリング砲でネビュラアストレイを狙う。

 

「これだけ弾幕を張られると近づけないな」

「だが、奴には接近戦用の装備はない。接近戦を仕掛ける。沖田は俺に合わせろ」

「わかった。やってみる」

 

 闘魂デュエルは両肩のミサイルを撃ち、AGE-3 オリジンもバックパックのミサイルを撃つ。

 

「こざかしい」

 

 ヘビーアームズ改は両腕の2連装ビームガトリングでミサイルをすべて撃ち落とす。

 

「今だ!」

 

 ヘビーアームズ改の両サイドから闘魂デュエルとAGE-3 オリジンがビームサーベルで接近戦を仕掛ける。

 すぐに2連装ビームガトリングで対応しようとするが、ネビュラアストレイがビームライフルを撃って注意を引くと挟み込んだ2機がビームサーベルを振るう。

 それをヘビーアームズ改は2連装ビームガトリングのシールド部分で受け止める。

 

「接近戦を仕掛ければ勝てると思ったか? 甘いんだよ」

 

 ヘビーアームズ改は両腕の2連装ビームガトリングをパージする。

 ヘビーアームズ改の両腕にはアーミーナイフが装備されている。

 アーミーナイフを闘魂デュエルに振るい、闘魂デュエルが後方に回避すると、AGE-3 オリジンを蹴り飛ばす。

 

「だが、これ以上の戦闘の継続はリスクが高い。敵の戦力は十分に削り、残りの戦力も把握した。ここは一度後退し、隊長の指示を仰ぐか……」

 

 両腕の2連装ビームガトリングはパージし、ミサイルやガトリング砲の残弾もあまり多いとは言えない。

 数も向こうの方が多く、単機でこれ以上の戦闘行為は返り討ちに合うリスクがある。

 ここで無理に戦う必要もなく、敵の戦力もはかれた。

 ドミニクはこれ以上の戦闘は必要ないと判断して一時後退をはかろうとする。

 しかし、ヘビーアームズ改の後方にはネビュラアストレイが回り込んでいた。

 

「ドンピシャだ!」

「何!」

 

 源之助と史郎はただ挟み撃ちをしたわけではない。

 もしも、挟撃に失敗した後に敵が大勢を整えるか後退するかするときに退避コースを限定させていた。

 そこにレオがビームライフルを撃って注意を引いた後に自身への注意が薄れたところを見計らい先回りをしていたのだ。

 ネビュラアストレイはヘビーアームズ改の背後からシールドの先端から出したビームソードを振るう。

 ヘビーアームズ改は胴体カラオケ真っ二つに両断されてた。

 

「あちらさんはずいぶんと派手に爆撃してくれるな」

 

 別動隊の貴音と涼真は木々に身を潜めて上空から森を爆撃しているレオパルトデストロイを見上げている。

 諒真も敵の狙いが位置を特定することだということには気づいている。

 その後に集中砲火や大火力で薙ぎ払ってこない辺り、向こうは直接叩きに来る可能性が高い。

 ならば、無駄に動くよりも敵を待ち伏せして叩くことを選んだ。

 近くには貴音たちと合流したガンプラであるガンイージ、ガンタンク、バクゥ、ノブッシが潜んでいる。

 元々はもう少し数がいたが、先ほどのミサイル攻撃で数が減らされている。

 

「まだこっちまでは爆撃はなさそうだけど……どうするかな」

「連中の居残りにはスナイパーもいるぽいよ。ここからでも丸見えだし」

「恐らくはああやってスナイパーがいることを見せて動きを制限して時間を稼ぐつもりなんだよ。時間制限は向こうの味方だからな」

 

 隠れている位置から山頂のサバーニャがGNスナイパーライフルを構えて狙撃体制をとっていることが分かる。

 周囲にはGNホルスタービットで固められており、涼真のところから狙撃しても致命傷を与えることは難しく、逆に自分たちの位置を知らせてしまう。

 それが向こうの狙いなのだろう。

 不用意に攻撃してくれば位置を把握でき、攻撃しなくてもサバーニャに狙撃されないように慎重にならざる負えない。

 そして、時間を使えば残り時間も減り、制限時間が尽きると防衛側の勝利となる。

 

「さて……どうするかな」

 

 別れた源之助たちの方の状況は涼真達には分からない。

 上手く足並みをそろえて仕掛けたいところだが、この状況ではそれも難しい。

 諒真がどうすべきか考えていると高出力のビームが横切る。

 

「攻撃してきた!」

「落ち着け。適当に撃っただけだ」

 

 このビームによりガンタンクとノブッシが巻き込まれて消滅した。

 攻撃は出鱈目に撃って炙り出すものだろうと涼真は考えて無駄に動かないようにする。

 すると山からZZフォートレスが下りて来る。

 

「ZZ……大将自らお出ましか……コイツは最悪と取るかチャンスと取るか……」

「チャンスっしょ。ここであれをしとめれば状況を変えることができるし」

 

 ヘルマがドイツ代表の要であることは確実でそう簡単に仕留めれる相手ではない。

 だが、ここで仕留めてしまえば勝利に大きく近づく。

 この状況は最悪の事態なのか、流れを変える千載一遇のチャンスなのか涼真は決めあぐねている。

 ZZフォートレスは右腕のダブルメガキャノンで森を薙ぎ払う。

 

「やっぱり、向こうはこっちの位置を完全には把握してないな」

「じゃぁチャンスじゃない」

「だな……いくら大火力でも奇襲で仕掛けて一気に決めれば何とかなるか?」

 

 今の攻撃は明らかにこちらを狙ったものではなく、この辺りに敵が潜伏していることは分かっていても、位置までは完全には把握していないからこその攻撃だ。

 そうなれば、うまく奇襲をかけて一気に攻めれば倒すチャンスも出て来る。

 

「貴音。仕掛けるぞ」

「がってん!」

 

 諒真と貴音は息を殺してチャンスを待つ。

 しかし、いつZZフォートレスの砲門が自分に向けられて葬られるのかという恐怖心に負けて、バクゥが飛び出す。

 ビームサーベルを出してバクゥはZZフォートレスに飛び掛かる。

 

「おい! まだ!」

 

 諒真の静止も空しくバクゥはZZフォートレスのダブルメガキャノンによって吹き飛ばされた。

 

「やばいな。仕掛けるしかないぞ!」

 

 バクゥが飛び出したことで向こうもこの辺りにまだ敵がいる可能性を考慮して周囲を大火力で吹き飛ばしかねない。

 そうなってしまえば防ぐ手段もない。

 諒真のデュナメスXペストを先頭に残るキマリス・トライデントとガンイージも仕掛ける。

 

「3機か……まぁいいだろう」

 

 ZZフォートレスはミサイルを多数撃ち込む。

 3機は迎撃しながらZZフォートレスに接近しようとする。

 だが、山頂からサバーニャが狙撃してデュナメスXペストの足を止めさせる。

 そこをヘルマは逃すことはない。

 ZZフォートレスのハイパービームガトリングキャノンをデュナメスXペストに向ける。

 

「諒ちゃん!」

「貴音!」

 

 ZZフォートレスのハイパービームガトリングキャノンをまともに受けたデュナメスXペストは成す術もなく破壊された。

 諒真までやられ、ガンイージのダイバーは足を止めたところをサバーニャの狙撃で撃墜される。

 しかし、諒真がやられかけて一度は諒真のフォローに入ろうとしたが、貴音は諒真の声ですぐさま切り替えた。

 諒真もあの状況では自分を助ける必要はないと貴音の名を叫び、貴音もすぐにその意図に気づいた。

 キマリス・トライデントは脚部をトルーパー形態に変形させて突撃する。

 キマリス・トライデントのデストロイヤーランスの突きをZZフォートレスはホバーで交代しながらかわす。

 

「逃がさない! アンタはここで仕留める!」

 

 キマリス・トライデントは加速して距離を詰めると再び、デストロイヤーランスを突き出すが、ZZフォートレスはダブルメガキャノンの砲身で反らす。

 攻撃を反らしたZZフォートレスは腹部のハイメガキャノンを至近距離から撃つが、キマリス・トライデントは後方に飛びのいてかわす。

 距離をとるとZZフォートレスは両肩のハイメガキャノンで追撃する。

 それをデストロイヤーランスで受けるが、ランスは耐え切れずに破壊される。

 

「まだ!」

 

 キマリス・トライデントはシールドのグングニルを持つと投擲する。

 グングニルは額のハイメガキャノンで撃ち落とされるが、その間にキマリス・ドライデントはキマリスサーベルを抜いて接近する。

 

「とことん食らいついてやるわよ!」

「なるほど、妹の方もやるな」

「カッチーン! そういう言い方むかつくんだけど!」

 

 キマリスサーベルをダブルメガキャノンの砲身で受け止めるとZZフォートレスは膝のハイメガキャノンをキマリス・トライデントに向けて放つ。

 

「ちょ!」

 

 キマリス・トライデントは至近距離から肩のミサイルを撃ち込み後退する。

 ミサイルは機銃で撃ち落とされて直撃には至らない。

 キマリストライデントはドリルランスを持って突撃する。

 距離を取ろうとするZZフォートレスをキマリス・トライデントが追撃して距離を取らせない。

 

「姉の方もしつこい」

「だ・か・ら! 妹とか姉と喧嘩売ってんでしょ!」

 

 貴音は基本的に珠樹の妹か大我の姉という認識が昔から強い。

 それは珠樹は母麗子のスタイルを大我は父大護のスタイルを受け継いでいるが、貴音にはそのどちらも完全に受け継いでいるとは言えない。

 だからこそ、珠樹の妹や大我の姉と見られそんな扱いは気に入らない。

 キマリス・トライデントのドリルランスの突きをZZフォートレスはかわす。

 勢い余ったキマリス・ドライデントはZZフォートレスから離れてしまう。

 すぐに反転するが、そこにわずかな隙が生まれる。

 そこにZZフォートレスはミサイルを撃ち込む。

 ミサイルはキマリス・トライデントに直撃する。

 

「手こずったが片付いたか」

「まだって言ってんでしょうが!」

 

 爆風の中からミサイルの直撃を受けたキマリス・トライデントが飛び出してくる。

 ミサイルの直撃でボロボロになり、左腕を肘から下を失っている。

 

「まだ来るか」

 

 ZZフォートレスはハイパービームガトリングキャノンを撃ちながら後退する。

 

「逃げんな!」

 

 ビームの直撃を受けながらもキマリス・トライデントはバックパックのブースターを全開にして加速する。

 

「ちぃ!」

 

 ZZフォートレスは腹部のハイメガキャノンを撃とうとする。

 だが、キマリス・トライデントはリアアーマーの機雷を射出すると機雷を爆破させてリアアーマーを吹き飛ばされながらもさらに加速してドリルランスを突き出す。

 完全に間合いに入られて振り切れないZZフォートレスの左肩のハイメガキャノンにドリルランスが突き刺さる。

 

「……真ん中、舐めんな!」

 

 左肩に突き刺さったドリルランスの刃が回転してZZフォートレスの左肩を腕ごと吹き飛ばす。

 それと同時に腹部のハイメガキャノンによってキマリス・トライデントの下半身が吹き飛ぶ。

 

「左腕を持っていかれてか」

「隊長! ドミニクが……」

 

 上空から爆撃していたレオパルトデストロイがヘビーアームズ改がやられたことをヘルマに伝えに来たが、ヘルマのZZフォートレスの左腕が破壊されていることに驚き言葉に詰まる。

 

「そうか。ならばそちらは私が対処する。ブルーノは拠点に戻り守りを固めろ」

「ですが、隊長のガンプラも」

「問題ない。優先すべきは拠点の防衛だ」

 

 このバトルにおいて攻撃側のガンプラを全滅させる必要性はない。

 現状で最優先すべきことは敵の始末ではなく、拠点の防衛だ。

 拠点さえ守り抜けば相手の残りの数は関係ない。

 損傷しているZZフォートレスを下げるよりも弾薬しか消費していないレオパルトデストロイを戻した方が守りは盤石になるとヘルマは判断した。

 

「分かりました。隊長もご無事で」

 

 ブルーノもヘルマの判断に従い拠点の防衛に戻っていく。

 

「藤代貴音か……」

 

 ヘルマそうつぶやくとヘビーアームズ改がやられた地点に向かう。

 

 

 

 

 ヘビーアームズ改を破り、レオ達は3機で山に接近している。

 あのままあの場に留まれば敵の攻撃が来る危険性もあり、時間制限もあるため、少しでも目的地に近づく必要があった。

 その道中で他のチームのガンプラと合流できれば良かったのだが、そこまでうまい話はなかった。

 

「僕たち以外に後、どれだけ残っているんだろうね」

「さぁな。あれだけ派手に爆撃を受けてはな」

「この際、俺たちだけで何とかしないとダメかもな」

 

 事前に他のチームのことは当てにしないようにも言われている。

 攻撃側の残存数が分からない以上は最悪の事態として、自分たち以外はすでに全滅していることも視野に入れて動かなくてはいけない。

 

「見つけたぞ」

 

 3機の足を止めるようにビームが横切る。

 そこには左腕を失ったZZフォートレスが砲門を3機に向けていた。

 額のハイメガキャノンを撃ち、3機は散開する。

 

「ZZ!」

「片腕がないってことはすでに一戦交えて来たってとこだが、他にアイツに手傷を負わせられるのは」

 

 攻撃側25機の中でヘルマを相手にまともに戦える相手はそうはいない。

 レオ以外にいるとしたら別動隊の貴音や諒真くらいだ。

 そして、手傷を負いながらも自分たちの目の前にいるということはヘルマが撃退されたか、敵を殲滅しかたかのどちらだろう。

 片腕を失っているもののZZフォートレスにはそれ以外に目立った損傷はない。

 この状況で撃退されてきたとは考えにくい。

 となればヘルマは貴音と諒真と戦い2人を撃破してきたと考えなければならない。

 

「手負いとはいえ貴様らを始末することはできる」

 

 ダブルメガキャノンを撃ち、闘魂デュエルはビームライフルで、AGE-3 オリジンは腕部のドッズガンで応戦する。

 ZZフォートレスは下がりながら攻撃を回避すると、5門のハイメガキャノンを別々の方向に向けて放ち、接近させないようにする。

 

「なんて火力なんだ!」

「これまでのバトルで見てきたが、実際に戦ってみると相当だな」

「けど、片腕がないんだ。やりようはある」

 

 ネビュラアストレイは腕のない左側から接近するとスレッジハンマーを振るう。

 

「甘いな」

 

 ZZフォートレスは飛び上がって避けると下に向けて脚部のガトリング砲を撃つ。

 ネビュラアストレイはシールドで身を守りながら後退する。

 飛び上がったZZフォートレスにAGE-3 オリジンは額のハイメガシグマシスキャノンを撃ち込む。

 

「似せただけの紛い物の攻撃など」

 

 ZZフォートレスは額のハイメガキャノンで応戦する。

 2機のビームがぶつかり合うが、ZZフォートレスのビームが打ち勝ち、AGE-3 オリジンの頭部を破壊する。

 そこに闘魂デュエルがビームライフルを撃ちながら間に入る。

 

「大丈夫か?」

「たかがメインカメラをやられただけだとは言いたいんだけどね……まだ何とかやれそう」

 

 ZZフォートレスは全身の機銃を撃ちながら着地を狙わせないようにする。

 そのビームが闘魂デュエルのビームライフルをかすめて爆発する。

 

「くっ!」

 

 闘魂デュエルは爆発前にビームライフルを捨てて爆風からシールドで身を守るとリアアーマーの大型高周波ブレードを抜いて構える。

 その間にネビュラアストレイはZZフォートレスの背後に回り込んでいるが、バックパックのレールガンを後ろに向けて放ちけん制される。

 

「ちっ! 片腕がないけど、死角もないのかよ」

 

 ネビュラアストレイはドラグーンを射出するが、ハイパービームガトリングキャノンで弾幕を張られてほとんどが撃墜される。

 

「まだ諦めないか。残り時間も少ない。一気に決めさせてもらう」

 

 ZZフォートレスは額、右肩、膝のハイメガキャノンのビームを収束して放つ。

 超高出力のビームは射線上の物を容赦なく消滅させていく。

 

「まずい!」

 

 闘魂デュエルをネビュラアストレイはすぐに射線上から退避しようする。

 損傷していたAGE-3 オリジンだけは動きが遅れてビームに飲み込まれる。

 ZZフォートレスはビームを掃射しながら砲身をずらして射線上のものを消滅させていく。

 

「くっ! 逃げ切れんか!」

 

 闘魂デュエルは最大速度でビームから逃れようとしたが、逃げ切れずに片足がビームに触れて体制を崩す。

 完全に飲み込まれる前にビームの掃射が終わり、闘魂デュエルは片足を失い、余波でバックパックも破壊されて倒れる。

 すぐに状態を確認する。

 幸いにも撃墜とまではいかなかったが、余波のダメージはバックパック以外にも至る所にダメージを受けている。

 

「おいおい……冗談だろ」

 

 ZZフォートレスの砲撃は射線上の森だけでなく島そのもの抉り消滅させていた。

 レオも第一試合で皇帝アルゴスのGバシレウスの砲撃を見ている。

 その砲撃も相当な威力だったが、ZZフォートレスの砲撃はそれ以上だ。

 レオは源之助とは反対方向に逃げたため、砲撃のダメージはない。

 ZZフォートレスの砲撃に唖然するレオにヘルマは容赦ない追撃を加える。

 ダブルメガキャノンをネビュラアストレイは回避する。

 

「あれだけの砲撃をしておいて威力が落ちないのかよ」

 

 ダブルメガキャノンの威力はレオの言うように落ちてはいなかった。

 大火力を持つガンプラの場合、最大火力を使えば一定時間火力が低下することが多い。

 だが、ヘルマのZZフォートレスの場合、最大火力は全6門のハイメガキャノンに両腕のダブルメガキャノン、両肩のハイパービームガトリングキャノン、腰のビームキャノン、両手の指のビーム砲10門、インコム4基の計28門ので行われ、最大火力ならばこの島の一つや二つは容易に消し飛ばすことができる。

 そのため、ハイメガキャノン5門で撃つ分にはパワーダウンを起こすこともない。

 

「皇帝といいコイツといい。俺らの世代にはバケモンが多すぎるだろ」

「この火力を見てもなお闘志を失わぬというのか、藤代貴音といい日本がここまで勝ち抜いてきたのはマグレというわけではないということか。だが」

 

 そこで時間切れのアナウンスが入る。

 制限時間が無くなったことで防御側の勝利となる。

 防衛側の6つのチームのうち、アメリカ、ドイツの他のギリシャ、ロシア、イギリスの5チームは順当に勝利したが、1つだけ攻撃側の勝利となり、全体順位に変動が起きた。

 上位5チームはこの時点で第六試合の勝敗にかかわらず決勝トーナメントに出場が確定し、日本はこの変動により、出場県内から外れてしまうことになる。

 次の第六試合の結果によっては日本代表チームは決勝トーナメントに進むことができなくなるのだった。

 

 

 

 



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一騎打ち

 第四、第五試合と立て続けにポイントを取り逃した日本代表は窮地に立たされている。

 第五試合の結果により順位が変動し、決勝トーナメントに進める上位8チームから外れた。

 現時点でアメリカ、ギリシャ、ロシア、ドイツ、イギリスの5チームは決勝進出が確定している。

 残る枠は3つで最後の第六試合に勝たねばそこで日本の世界大会は終わる。

 

「最後のバトル形式が公表されたわ」

「最後はオーソドックスなタイマンか……それもよりにもよって相手はロシアか」

 

 諒真が第六試合の組み合わせ表を見ながらそう言う。

 最後の第六試合は各チームから代表1人を出してのバトルだ。

 今までのように細かいルールもなく、一対一でバトルして勝った方に50ポイントが入る分かりやすいルールとなっている。

 日本はこのバトルに勝利して、他のチームの結果により上位8チームに入れるかどうかが決まる。

 日本としては自分たちと上位を争うチームと当たれば、そのチームに勝利することで上位8チームに入れる可能性が高くなるが、そう都合よくはいかない。

 

「ロシアかぁ……もう決勝トーナメントが確定してるから適当に流してくれたりはしないかなぁ」

「無理。私たちが相手ならたぶん、潰しに来る」

 

 貴音の楽観的な意見を珠樹がバッサリと切り捨てる。

 ロシアはすでに決勝トーナメントに出れるため、第六試合の結果はこだわる必要はない。

 場合によっては無駄な戦いを避けて勝ちを譲ることもあり得たが、日本はここまでポイントを稼ぎ実力を見せてきた。

 向こうからすれば決勝トーナメントに厄介なチームを残すことを避けるためにここで潰しておいた方が良いと考える可能性もある。

 ロシアからすれば次のバトルに負けたところで関係はないため、負けた時のリスクもない。

 仮に負けたとしても、その時の反省点を決勝トーナメントで当たった時に反映させることもできる。

 

「ロシアはグシンスキー兄妹のどちらかが出て来る筈。それに対して私たちは神君に出てもらうわ」

「俺ですか?」

 

 龍牙は思いもよらない指名に面食らう。

 今回は一対一ということで出るのは個人での実力に長けている光一郎やレオ、右京や貴音辺りが出ると思っていた。

 これは麗子の決勝トーナメント進出を賭けた賭けでもあった。

 ロシアも後のない日本代表は光一郎といった実力と実績を持ったダイバーを出すと考える。

 そこであえて実績のない龍牙を出すことで相手の裏を突く作戦だ。

 

「ええ。今の私たちにはもう後はない。安全策を取るよりも貴方のこれまでの成長と勝負強さに賭けるわ。いけるわね」

「……分かりました」

 

 龍牙も覚悟を決める。

 自分が負ければチームは終わる。

 これまでに龍牙のガンプラバトルにここまでのプレッシャーのかかる場面は一度もない。 

 全国大会の決勝戦でも大我不在に皇女子高校と戦わなければならなかったときも部の仲間たちがいた。

 今回は自分一人でロシアと戦わなければならない。

 自分一人の肩にチームの命運が乗せられている。

 だが、大我はその責任を常に背負い続けている。

 ここでプレッシャーに負けて第六試合に出ることを辞退したりしたら、一生大我には追い付けない。

 龍牙にとって大我の前に立つ資格を得るためには逃げ出すわけにはいかない。

 麗子の判断に誰も意を唱えることもない。

 日本は他の国に比べてバトルの実力は劣るとされていながらも、ここまでこれたのは麗子に鍛えられたからだ。

 麗子の訓練は地獄だったが、今となっては実力に結びついていることを実感している。

 そんな麗子の判断と同時に皆も龍牙を仲間として、ここまでの成長を認めている。

 だからこそ、日本の命運を賭けた最後の1戦に龍牙を麗子が出すと決めたことに異論もなく、龍牙を信じている。

 

「俺らのことは決まったところで、中々面白い組み合わせを見つけた」

 

 組み合わせ表を見ていた諒真が18組の組み合わせの中から一つを選んで見せる。

 組み合わせはランダムに決められたが、その内の一つがアメリカとイギリスの組み合わせだ。

 どちらもすでに決勝トーナメント進出が決まっているチーム同士の組み合わせだ。

 

「どっちも勝つ必要はないけど、アメリカは大我が出るだろうからな。あの大我が消化試合だろうと流すと思うか?」

 

 諒真の質問に対して皆はすぐさま答えが一致した。

 そんなことはあり得ないと。

 大我の性格的に勝つ必要がなかろうと関係ない。

 仮に負けておいた方が得がある場面でも、大我は気にせず勝ちに行く。

 イギリス側の出方までは分からないが、イギリス代表のバトルスタイルは真っ向から堂々と戦うことを好んでいることもあり意図的に負けるとも考えにくい。

 第一試合で大我とイギリス代表は戦っているため、場合によってはその時の決着と決勝トーナメントを前に大我の実力を把握するためにまともに戦う可能性はある。

 決勝トーナメントを前に優勝候補の一角同士の本気のバトルは一見の価値はある。

 

「バトルは向こうの方が先なんだ。俺たちの命運をかけた一戦前に刮目させて貰おうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 第六試合が始まり、バトルが消化されていく。

 そして、優勝候補に名を連ねるアメリカとイギリスのバトルが始まる。

 アメリカからは全てのバトルに出ているエースの大我が、イギリスからもリーダーにしてエースのクリフォードが出ている。

 バトルフィールドはデブリ帯でバトルが開始される。

 今回も今まで同様に大我のオメガバルバトスは武装強化されている。

 だが、今までとは違い、今回の第六形態は新装備のバーストメイスカスタムが追加されているだけだ。

 以前のバルバトス・アステールのメインウェポンであるバーストメイスと見た目は変わらないがさらにカスタムしたものだ。

 

「クリフォード・マーウッド。初戦では決着がつかなかったが、今度こそはぶっ潰してやるよ」

「同感だ。だが、勝つのはこの私だ」

「上等だ。ぶっ潰す!」

 

 オメガバルバトスとダブルオーランサーは共に加速する。

 オメガバルバトスがバーストメイスカスタムを振るう。

 その際、バーストメイスカスタムの先端部が高速で回転する。

 新機能の一つで先端部がドリルのように回転することで打撃時の攻撃力を上げている。

 

「遅い!」

 

 オメガバルバトスの一撃をダブルオーランサーは回避する。

 バーストメイスカスタムはダブルオーランサーには当たらず、戦艦の残骸を跡形もなく吹き飛ばした。

 攻撃を回避したダブルオーランサーはGNブラスターランスのビームを撃つが、GNフィールドで防がれる。

 

「これまで武装強化であの時の機動力は失われている。GNフィールドはそれを補うものか」

 

 クリフォードは前回戦った時とは装備が違うため、まずは相手の能力を把握することを優先している。

 

「そして、これも!」

 

 四方から襲ってくるブレードプルーマを腕部のGNバルカンでけん制しながら回避する。

 ブレードプルーマを回避したところを、今度はテイルメイスが飛んで来るが、それも回避する。

 

「機動力は落ちているが、攻撃力は恐ろしく強化されているというわけか」

 

 体制を整えたオメガバルバトスはチェーンソーブレードをガンモードにしてレールガンを撃ちながら突撃してくる。

 まだ距離はあるが、オメガバルバトスはバーストメイスカスタムを振るう。

 明らかに届かない距離ではあるが、バーストメイスカスタムの先端が外れると柄の中からチェーンが出てきて先端部と繋がっている。

 これも新機能の一つだ。

 先端部と柄をチェーンで繋ぎ、フレイルのようにも使うこともできるようになっている。

 普通の使うときよりも威力は落ちるが、間合いを大幅に伸ばすことができている。

 

「おっかないね」

「どうした? その程度か?」

「言ってくれる」

 

 ダブルオーランサーは攻撃をかわしてGNブラスターランスを構えて突撃する。

 オメガバルバトスの攻撃を掻い潜り、接近してGNブラスターランスを振るい、先端部を戻したバーストメイスカスタムの柄で受け止める。

 

「このバトルはチームの勝敗には関係ない」

「だから適当に流すのか?」

 

 大我にそう言われるとクリフォードはコックピット内でにやりと笑みを零す。

 

「逆だ。チームの勝敗とは関係ないからこそ、私はチームのことを気にすることなく一人のファイターとして君と相まみえることができる!」

 

 クリフォードはチームを率いるリーダーとしての責任がある。

 だからこそ、チームのために個を殺して動かねばならないことも多々ある。

 しかし、このバトルにおいて勝敗はチームには無関係だ。

 チームのリーダーとしての責任を負う必要がないこのバトルはクリフォードにとってはただのファイターとして戦える。

 

「そうかよ。そっちの事情は俺には関係ないね」

 

 オメガバルバトスはダブルオーランサーを弾き飛ばすと胸部の大口径バルカンを撃ち込む。

 ダブルオーランサーは素早く体制を整え、加速すると一瞬のうちにオメガバルバトスの背後に回り込みGNブラスターランスを振るう。

 攻撃はGNフィールドで防がれるが、そのまま振りぬきオメガバルバトスを弾き飛ばす。

 

「そうだろう。君はそう奴なんだろう。君の父君がそうだったように。そして、私は父から君の父君のことを聞かされている。チームのエースの名に恥じない実力に破天荒な人柄。父は一度も君の父君には勝てなかったと聞いている。だからこそ、父からガンプラ作りとバトルを教えられた私が君を討ち取ることで父が果たせなかったことを果たす!」

「親の世代のことなんて知るかよ」

 

 ダブルオーランサーは機動力を最大限に駆使してオメガバルバトスを責め立てる。

 それをオメガバルバトスはバーストメイスカスタムでいなすか、GNフィールドで防ぐ。

 

「ふっ……そうだな。今、私と君はこうして対峙したった一つの勝利を奪い合っている。今まで数多のダイバーと戦ってきたがこれほど、心が滾るバトルは初めてだ!」

「それには同感だ。勝つのは俺だがな」

「否! 私だ!」

 

 オメガバルバトスはダブルオーランサーの動きに合わせてバーストメイスカスタムを振るう。

 

「こちらの動きに対応してきたか」

「アンタの動きは確かに早い。だが、うちの姉ちゃんのようなねちっこさはないから見切りやすい」

 

 大我は確実にクリフォードの動きに反応してきている。

 オメガバルバトスの蹴りをGNブラスターランスで受け止めるが、完全に受け止めることはできないため、無理に受け止めようとはしないで勢いに身を任せる。

 

「そう簡単に勝たせてはくれないか……ならば仕方がない。私も切り札を使わせてもらおう!」

 

 ダブルオーランサーは両肩のオーライザーのGNビームマシンガンでけん制しながら距離を取る。

 

「トランザム!」

 

 ダブルオーランサーのトランザムが起動し、赤く発光する。

 そして、GNブラスターランスを高らかに上げると先端から巨大なビームの刃が形成される。

 

「これがダブルオーランサーの第七の槍、ライザーランスだ!」

 

 ベース機のダブルオーライザーのライザーソードと同じように巨大なビームの刃を形成したダブルオーランサーの切り札であるライザーランスを振り下ろす。

 射線上のデブリを破壊しながら巨大なビームの槍がオメガバルバトスを飲み込む。

 クリフォードは手ごたえを感じたか、すぐに攻撃をやめたりはしない。

 大我のオメガバルバトスがそう簡単にはやられる相手ではないと知っているからだ。

 

「……なんだ?」

 

 攻撃の手を緩めることもないクリフォードだったが、違和感を感じ取った。

 そして、ビームの中から赤い球体が飛び出してくる。

 

「あれは……」

「トランザムがアンタだけの専売特許だと思うなよ」

 

 赤い球体がはじけるとそこには無傷のオメガバルバトスがいた。

 オメガバルバトスの特殊機能の一つであるトランザムを使い、GNフィールドの防御力を極限まで高めたトランザムGNフィールドで防ぎ切ったのだ。

 

「……まったく。これで仕留めきれなかったのは君が初めてだよ。本当に大した男だ」

 

 ダブルオーランサーもトランザムを解除する。

 トランザムシステムはガンプラの完成度によりガンプラへの負担や持続時間が変わってくるが、限界まで使わなければ機体性能の低下は最低限に抑えられる。

 ダブルオーランサーはGNブラスターランスのビームを撃ち迫るオメガバルバトスを迎撃する。

 

「しばらくの間はGNフィールドは使えないようだね」

「だからどうした」

 

 オメガバルバトスはトランザムGNフィールドを使ったため、一定時間はGNフィールドの展開ができなくなっている。

 両肩の装甲に内臓されているGNドライヴはGNフィールドにしか使っていないため、トランザムを使ってもGNフィールドが一定時間使えなくなるだけで済む。

 ビームをかわしながら接近してバーストメイスカスタムを振るうが、ダブルオーランサーは回避するとGNマイクロミサイルを撃つ。

 GNマイクロミサイルはオメガバルバトスの右肩に直撃するとGN粒子を内部に注ぎ込み内部から破壊しようとするが、それよも先にGNドライヴごと肩の装甲をパージして防ぐ。

 ダブルオーランサーはGNブラスターランスをオメガバルバトスに向けるが、死角からブレードプルーマが飛んできてGNブラスターランスを破壊する。

 すぐに腰のGNジャベリンを投擲してブレードプルーマを破壊するとバックパックのGNバスターランスを抜く。

 

「君とのバトルは本当に心が滾る! だからこそ私は全力で君を倒す!」

 

 ダブルオーランサーは再びトランザムを起動させる。

 今度はライザーランスを使うのではなく、純粋に機体性能を向上させるためだ。

 強化された機動力で加速して、GNバスターランスを振るう。

 攻撃はオメガバルバトスを捉えるかと思われたが、オメガバルバトスは青白く発光して攻撃をかわす。

 

「機動力を強化するシステムはこっちにもあるんだよ」

「FXバーストか」

 

 オメガバルバトスはバックパックのリミッターを解除したバースト状態となり、機動力を極限まで向上させたバーストモードとなる。

 赤と青に輝く2機はデブリの間を高速で動きながら何度もぶつかり合う。

 

「褒めてやるよ。俺にここまで使わせたことをな」

「光栄だよ。だが、誇るのは君に勝ったことをだ!」

 

 ダブルオーランサーはGNバスターランスを振るい、オメガバルバトスはチェーンソーブレードで受け止めるが、チェーンソーブレードは粉々になる。

 

「ちっ!」

 

 オメガバルバトスはバーストメイスカスタムを振るうが、ダブルオーランサーはチェーンで飛ばしても届かないくらいに距離を取るとGNビームマシンガンを撃ちこむ。

 GNフィールドは張れないが、表面の対ビームコーティングでダメージを与えることはできない。

 オメガバルバトスは腰のワイヤーブレードを射出するが、ダブルオーランサーはGNジャベリンで弾き、死角からのブレードプルーマをかわしてGNジャベリンを投げてブレードプルーマを落とすと残る2基もGNバルカンで撃ち落とす。

 その間に射出されたテイルメイスをGNバスターランスで粉砕する。

 

(そろそろ粒子残量がまずいな)

 

 ダブルオーランサーのトランザムが限界時間に近づいてきているため、クリフォードは攻勢に出る。

 加速してGNバスターランスを振るう。

 ダブルオーランサーの渾身の一撃はオメガバルバトスに到達する少し前に何かに当たり一瞬だけ止まる。

 

「まさか! ピンポイントでGNフィールドを張ったというのか!」

 

 オメガバルバトスはすでにGNフィールドを張ることが可能になっていた。

 片方のGNドライヴを撃ちなっているため、高出力のGNフィールドは張れないが、残るもう片方のGNドライヴの粒子を一点に集めることで通常時以上の強度のGNフィールドを出して攻撃を止めたのだ。

 

「捕まえた」

 

 攻撃を防いだオメガバルバトスはダブルオーランサーの右腕を掴む。

 ダブルオーランサーのパワーでは引きはがすことはできず、掴まれた右腕にはオメガバルバトスの爪が食い込んでいる。

 ダブルオーランサーを掴んだオメガバルバトスは至近距離からダブルオーランサーにバーストメイスカスタムのダインスレイヴを撃ち込む。

 ダインスレイヴが撃ちだされる少し前にダブルオーランサーは右腕に左腕のGNバルカンを撃ち込んで破壊して回避して直撃だけは回避できた。

 その余波で左肩のオーライザーが損傷しオーライザーの部分をパージする。

 

「ハァハァ。今のはさすがにやられると思ったよ」

「しぶといな」

 

 右腕を失ったダブルオーランサーは左手に最後の槍であるGNグレイヴを持たせる。

 すでにトランザムもバーストモードも限界時間まで使い解除されている。

 トランザムを限界時間まで使ったことでダブルオーライザーの性能は一時的に低下している。

 完全に回復される前に大我が動く。

 ダブルオーランサーも無理には仕掛けずに右肩のオーライザーのGNビームマシンガンで応戦しながら後退するも機動力の落ちているダブルオーライザーでは完全に振り切ることはできない。

 

「生憎とこう見えて諦めが悪いんだよ。私はね。最後まで足掻かせて貰う!」

 

 オメガバルバトスを振り切れないダブルオーライザーは前に出る。

 オメガバルバトスの攻撃をよけながらもGNグレイヴを突き刺そうとするも、オメガバルバトスの装甲は貫けない。

 

「これでは厳しいか……だがしかし!」

「ちょこまかと」

 

 オメガバルバトスは両手でしっかりとバーストメイスカスタムを握り締めるとフルスイングする。

 それに合わせるようにダブルオーランサーはトランザムを起動させる。

 限界時間まで使ったトランザムだったが、若干回復して約1秒間程度の使用が可能になっていた。

 その1秒間のトランザムを使い、左肩のGNドライヴからGN粒子を放出させて強引に体をねじらせると攻撃を回避して、オメガバルバトスの下に潜り込む。

 

「狙いはそこだ!」

 

 普通に攻撃しただけではGNグレイヴではオメガバルバトスの装甲は貫けない。

 クリフォードの狙いは胴体の装甲の隙間だ。

 そこを正確に貫くことでオメガバルバトスに致命傷を与えようとしていた。

 しかし、クリフォードの最後の一撃が装甲の隙間を捉える前にオメガバルバトスが少しだけ体をずらしてGNグレイヴはオメガバルバトスの胸部装甲に当たると胸部装甲がパージされて勢いが完全に殺されてしまった。

 

「リアクティブ……アーマーだったのか」

 

 1秒のトランザムを使った最後の一撃は完全に防がれた。

 クリフォードの攻撃は完全に大我に見切られていた。

 本来ならば反応すらできない速さでの攻撃だったが、大我もクリフォードが何か仕掛けて来ると考えた。

 そこでリミッター解除、トランザム、バーストモードに続く第4の特殊システムであるナイトロシステムを起動させていた。

 頭部のヒートホーンに青い炎が灯りダイバーの反応速度を極限まで高めたことでクリフォードの最後の一撃にも反応して見せた。

 そして、胸部の増加装甲は胴体への打撃攻撃を防ぐために一定以上の衝撃が加わるとパージして攻撃を防げるようになっている。

 ナイトロを使った反応速度で攻撃を見切り、胸部装甲で攻撃を受けて防いだ。

 攻撃を防いだオメガバルバドスはドリルニーでダブルオーランサーの胴体を狙う。

 すでにトランザムも使えず、全ての槍を使い切ったダブルオーランサーにはどうすることもできない。

 胴体にドリルニーが迫るコックピットでクリフォードは笑っていた。

 バトルには負けたが、自身の持てる力を全て出し切っての敗北に悔いはない。

 負けこそはしたが、この戦いの中でクリフォードはこれまでになく充実していた。

 

「アンタは世界大会で戦った相手の中で皇帝の次くらいには強かったよ」

「……次は我々が勝つ!」

 

 クリフォードはそう宣言し、オメガバルバトスのドリルニーがダブルオーランサーの胴体をぶち抜き、勝負は決まった。

 

「ふぅ」

「ふぅじゃない。隠し玉を3つも使うなんてどういうつもりなんだ?」

 

 バトルが終了してログアウトすると大我をルークが問い詰める。

 元々、決勝トーナメントには進出が決まっているため、バトルの勝敗にこだわる理由はないが、大我の好きにさせていた。 

 相手が相手だけに負けはしないと思っていても苦戦はさせられると思っていた。

 それでも大我なら何とかしてくれると思っていたが、まさかオメガバルバトスの隠し玉である防御力を強化するトランザム、機動力を強化するバーストモード、反応速度を強化するナイトロの3つも使った。

 本来ならば決勝トーナメントまで取っておきたかったが、勝敗が重要ではない第六試合で見せてはいいものではない。

 

「そうしないと勝てる相手じゃなかったんだから仕方がないだろ。それにバトルロイヤルの時のように使ったときにバルバトスを強制的に止める細工をしてないってことは使っても問題ないってことだろ。リヴィエール?」

「まーね」

 

 以前に大我が隠し玉の一つを使おうとしたときにリヴィエールが事前に使ったときに強制的に機能を停止するように細工がされていた。

 今回は問題なく使えたということはリヴィエールとしては使っても構わないと大我は解釈している。

 

「まったく……それりもリヴィエールはさっきから何をしてるんだい?」

 

 バトルが開始されれる前からリヴィエールはモニターも見ないでひとりで何かをしているようだった。

 

「ちょっとね。まったく自分の才能が怖いわよ。いつになっても超えるべきは自分自身の才能よね。決勝トーナメントまでには仕上げとくから」

 

 リヴィエールはリヴィエールで何やら思いついたようで完成したオメガバルバトスから興味が移っているようだ。

 こうなったリヴィエールには何を言っても無駄であることはチーム全員が知っている。

 

(日本の相手はロシアか……上位が順当過ぎてもつまらんから何が何でも勝ち進んで来いよ)

 

 

 

 

 

 

 日本とロシアのバトルが開始される少し前、カティアは槙島グループのワークスチームでメンテされたガンダムマークⅡメーチェを受け取る。

 ロシアからはカティアが出ることになっている。

 

「このバトルの勝敗は決勝トーナメントから負けたところで君の評価に影響はない。しかし、君が負けたという事実は変わらない」

「……分かっているわ」

 

 カティアは槙島グループの社長である槙島優次郎のことは初めてスポンサーとして会ったときから気に入らなかった。

 スポンサーとは言え、自分たちのことを明確に態度には出さないがどこか見下されているような気がしてならないからだ。

 父親から昔同じフォースに属していたことを父から聞かされており、その時には少し変わっていると言っていた。

 もっとも父親は自分たちを捨てて出て行った母のことも、自分に問題があったのだと一切責めることも恨み言も言わず他人を悪くは言わないため、あてにはならない。

 相手がスポンサーである以上は大人しく言うことを聞いているが、そうでなければ絶対に関わり合いにはなりたくない相手だ。

 カティアはガンプラを受け取るとチームのブリーフィングルームに向かう。

 

「ガンプラの調整は終わったのか?」

「ええ。万全よ」

「そうか。俺たちは決勝トーナメントに進出が決まっているが、日本は厄介な相手だ。ここで確実に仕留めろ」

「分かっているわ」

 

 オルゲルトも日本代表は脅威となりえると認識している。

 先ほどのバトルでアメリカとイギリスも一筋縄ではいかない相手だと再認識した。

 ほかにもドイツやギリシャといった実力のあるチームがいる中でこれ以上面倒な相手を決勝トーナメントには残したくはなかった。

 カティアはすぐにGBNにログインする。

 開始時間となり日本対ロシアのバトルが開始される。

 バトルフィールドは市街地で、カティアはすぐに相手のガンプラを補足した。

 

「あのガンプラ……」

 

 ロシアも日本の命運をかけた一戦で龍牙を出して来ることは想定外だったため、その点は麗子の思惑通りになった。

 補足したバーニングドラゴンデスティニーは一度は敵として戦い、2度目は味方として戦った。

 そのダイバーともカティアは大会中に何度も言葉を交わしている。

 敵チームでありながら気にすることなく接してきた龍牙のことが頭をよぎるがすぐにかき消す。

 今はバトル中で敵として対峙したらやることは一つしかない。

 

「近接戦闘タイプのマークⅡ。カティアか」

 

 龍牙の方でもマークⅡメーチェを補足した。

 

「はぁ!」

 

 先に仕掛けたのはカティアの方だった。

 一気に加速してビームソードを振るう。

 バーニングドラゴンデスティニーは回避するとバルカンで弾幕を張り、接近してビームナックルで殴り掛かる。

 

「予選最後のバトルでカティアと戦うことになるとはな」

「だから何だというの!」

 

 マークⅡメーチェはバーニングドラゴンデスティニーの攻撃をかわすとビームソードで反撃する。 

 その攻撃をバーニングドラゴンデスティニーはギリギリのところで回避して蹴りを繰り出す。

 バーニングドラゴンデスティニーの蹴りを腕で防ぎビームソードを振り下ろし、バーニングドラゴンデスティニーは後方に飛び退いて避ける。

 

「最初のバトルでもカティアと戦い、同じチームでも戦い、こうしてチームの命運をかけたバトルでも戦う。つくづく縁があると思っただけだ」

 

 マークⅡメーチェが追撃してビームソードを振るい、バーニングドラゴンデスティニーは大勢を低くしてかわして、ビームナックルを突き上げる。

 マークⅡメーチェは飛び上がって回避して一度距離を取る。

 

「だから何? 縁があるから勝ちを譲ってくれとでも?」

「まさか。こうして全力でぶつかり合えて楽しいなってことだ!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーのビームナックルの連続攻撃をマークⅡメーチェは最低限の動きで回避しながらチャンスをうかがいビームソードを振るう。

 バーニングドラゴンデスティニーもギリギリのところで回避して、マークⅡメーチェの胴体に蹴りを一撃入れる。

 

「くっ! 前よりも強くなってる!」

「俺だって他の仲間が戦っている間に何もしてこなかったわけじゃないんでね」

 

 龍牙は第一、第二試合と出た後から第六試合まで一度もバトルには出ていなかった。

 その間に龍牙は仲間たちの戦いをただ見ていたわけではない。

 空いた時間にログインしては練習を続けた。

 

「それにどんな理由があっても勝ちを譲ってくれなんてファイターとしては絶対に言ってはいけないことだ」

「甘いのね。どんなやり方でもルールにさえ違反しなければ勝利は勝利よ」

 

 マークⅡメーチェはビームソードを振るい、バーニングドラゴンデスティニーは確実にかわしてビームナックルを突き出す。

 一歩踏み込みかけたところを踏み込まずにビームナックルをかわす。

 

「違う! お互いに全力を出して戦い勝つからその勝利には価値がある!」

「全力を出したところで負けは負け。負けたら意味はないのよ。私たちがいるのはそういう世界なの」

 

 ビームソードをかわしたところに蹴りを入れるが、バーニングドラゴンデスティニーは腕でガードする。

 

「勝たなければ意味がないのよ!」

 

 カティアにとっては勝ち続けなければならない。

 そうしなければ自分の評価が下がり、評価が下がればスポンサーからもらえる金額も減る。

 多少ならともかく、場合によっては死活問題にもなりかねないことだ。

 

「そうだな。カティアはそういう世界でバトルしてきたんだよな。俺には正直、ガンプラバトルで生計を立てるってどういうことなのか分からないし、俺と同い年でそれをやってるカティアのことはスゲーと思う。でも、それでも俺はカティアに勝ちたい! 勝って未来を切り開く、チームのためにも俺自身のためにも!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーの渾身のストレートがマークⅡメェーチに入り吹き飛ばされる。

 ギリギリのところで腕でガードしたが、ダメージはまのがれない。

 

「っ……」

 

 まだ十分に戦えるダメージだがこれまでの戦いでカティアも実感している。

 最初に戦った時は自分の方が強かった。

 2度目の共闘の時にもその差は縮まっていた。

 そして、今回のバトルで戦って肌で感じた。

 すでにその差が埋まり、下手をすればすでに龍牙は自分より強くなっているのではないかということに。

 それをカティアは振り払う。

 そんなことはあり得ない。

 自分の方が強いのだと思い込もうとする。

 勝たなければならない。

 勝ち続けなければ生活が危なくなる。

 そうなれば父と兄とも一緒にはいられないかもしれない。

 ここで龍牙に負けるということを考えないようにする。

 すると、モニターに異変が起こる。

 

「……何? ブレイクシステム? どういうこと? こんなの私は知らない」

 

 モニターにはブレイクシステムと表示されている。

 マークⅡメェーチはカティアが自分で作ったガンプラだ。

 当然、どんな能力を持つのかも熟知している。

 ブレイクシステムなる物は当然搭載などしてはいない。

 

「まさか!」

 

 カティアはある結論に思い至る。

 自分の知らないシステムが搭載されたとすればバトルの前にワークスチームにガンプラを預けたとき以外には考えられない。

 その時に優次郎がカティアには一言も言わずにブレイクシステムを搭載したのだろう。

 そして、一定以上のダメージを受けることで自動的に発動するように仕組まれているのだろう。

 ブレイクシステムが発動した事で、マークⅡメェーチはカティアの操縦を一切受け付けなくなった。

 

「私のガンプラに! こんなこと!」

「なんだ? 様子が……」

 

 マークⅡメェーチの様子がおかしいことに龍牙も気が付いていた。

 だが、何が起こったことを理解する前にマークⅡメェーチがバーニングドラゴンデスティニーに襲い掛かる。

 

「この動き……自動操縦なのか?」

 

 マークⅡメェーチの動きは先ほどまでとはまるで変り、正確無比でそこには人の意思は感じられない。

 GBNでもファンネルなどをダイバーが自分で操作することなく自動制御にすることは珍しくはない。

 ミッションによってはダイバーがNPDを使うことも多い。

 しかし、どんなにガンプラの操縦が苦手なダイバーでもある程度は操縦補佐に自動操縦を使ってもバトルでは自分でガンプラを操縦しないということはない。

 龍牙は操縦桿を強く握り締める。

 

「なんだよ……そこまでして勝ちないのかよ!」

「ちがっ! こんなの私は!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーはマークⅡメェーチの連続攻撃を回避する。

 自動操縦で動きは正確無比だが、動きには一定のパターンがあり龍牙は完全に把握はしていないが、何となく直感で回避している。

 

「こんなのは私のやり方じゃない! スポンサーが勝手にやったことよ! こんな勝利じゃ!」

「なんだかよくわかんないけど、分かった。俺が止める!」

 

 龍牙は攻撃を回避しながらタイミングを見計らう。

 マークⅡメェーチがビームソードを振り下ろす。

 それをバーニングドラゴンデスティニーはビームシールドで受け止めた。

 

「受け止めた!」

「自動操縦ならそう来ると思ってた!」

 

 マークⅡメェーチに動きには人の意思すら感じられないほどに無駄がなかった。

 だからこそ、龍牙は一つの賭けに出た。

 マークⅡメェーチのビームソードは相手のガードごと切り裂けるように高出力となっている。

 だが、自動操縦に切り替わった時点で、ビームソードの出力は過剰だと判断されて見た目こそは変わらないが、出力を落とされていると龍牙は考えた。

 いつもの出力ならバーニングドラゴンデスティニーのビームシールドでは防ぎきれなかったビームソードだが、今のマークⅡメェーチのビームソードは最大出力なら何とか受け止めることができた。

 

「一撃で仕留める!」

 

 攻撃を受け止めたバーニングドラゴンデスティニーは4枚の炎の翼を展開する。

 

「ドラゴンファング!」

 

 炎の龍はマークⅡメェーチを飲み込みバーニングドラゴンデスティニーの拳がマークⅡメェーチをぶち抜く。

 マークⅡメェーチは吹き飛ばされて戦闘不能となり日本代表チームの勝利が告げられる。

 

「あのガンプラとアイツの娘ではこの程度か……」

 

 ロシア代表のブリーフィングルームとではなく、船内の自分の部屋のモニターで優次郎は龍牙とカティアのバトルを見ていた。。

 元々、カティアには期待をしていなかったため、この結果でも気にした様子はない。

 

「まぁいい。モルモットはまだいる。今回のデータも役には立つ。いずれ世界を変える究極のガンプラ、ビルドナラティブは完成する。そして、世界はあるべき本当の姿となるだろう。そのためには忌々しい藤代の血を引くあのガキはここで叩き潰す」

 

 優次郎はモニターの電源を消すと持ち込んだ自分のPCの電源を入れると今回のバトルの情報を確認する。

 

「よくやったわ」

 

 カティアとのバトルに勝利した龍牙はログアウトする。

 ログアウトするとチームの仲間に迎え入れられるが、龍牙はあまりうれしそうではない。

 バトルに勝利して首の皮一枚つながったが、カティアとのバトルの決着は納得しかねない形で終わった。

 あとはカティア達ロシア代表の問題で、龍牙もこれ以上深くは突っ込めない。

 

「後はほかのバトルの結果次第ね」

 

 龍牙が勝利したことでポイントは獲得できた。

 あとは上位8チームのうち、確定していない3枠に日本代表が入れるかどうかだ。

 そればかりは全てのバトルが終わらなければなんとも言えない。

 第六試合全てのバトルが終わり、予選の全てのバトルが終わり、各チームの最終獲得ポイントにより順位が確定する。

 代表メンバーは緊張した面持ちで結果が出るのを待つ。

 そして、ついに予選の順位が公表されていく、上位5チームの順位が出て緊張が高まる。

 6位、7位と発表されるもどちらも日本ではない。

 皆が祈るように最後の1チームが公表された。

 それを見た瞬間に皆の力が抜けて一息つく。

 そこには確かに8位日本と表示されている。

 日本はギリギリだが、予選を第8位で何とか決勝トーナメントに進むことができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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抽選

 世界大会も折り返しの7日目はバトルは予定されていない。

 この時点で36チーム中、上位の8チーム以外の世界大会が終わりを迎えている。

 すでに敗退したチームは残った8チームのどのチームが優勝するかに関心が向き、自分たちはバトルには参加しないこともあり、船内の空気は当初に比べるとだいぶ軽くはなっている。

 7日目の夜には次の日から始まる決勝トーナメントの組み合わせの抽選会が行われる以外に大会の予定はないため、各々は束の間の休息となっていた。

 明日には決勝トーナメント1回戦の第一試合と第二試合が行われ、9日目には第三試合と第四試合、10日目には2回戦の第一試合、11日目に第二試合が行われ、12日目に決勝戦が行われる予定となっている。

 13日目はバトルが想定外の事態で、予定通りに行われなかったときの予備日でもあり、予定通りに進んで決勝が終わっていればまる一日初日にもあった各代表同士の交流も兼ねた閉会式と懇親会が行われ、14日目には日本の港に戻り、それぞれがそれぞれの国に帰っていく。

 日本代表も辛くも上位8チームになったことで明日からの決勝トーナメントに駒を進めることができた。

 だが、龍牙にとっては目下のところ、それどころではなかった。

 

「流石に勝手に入るのも不味いよな……それに他所のチームの事情に深入りするってのも……」

 

 龍牙はロシア代表の専用区画の近くを行ったり来たりを繰り返していた。

 各国に与えられた専用区画には有事の際を除き、原則として他のチームの立ち入りは禁止されている。

 最後のバトルの時の出来事が気になり、カティアに話をしようと来てみたものの、龍牙には接触の手段がなかった。

 カティアのリアルでの連絡先も知らず、GBNにログインして待とうにもカティアがいつログインするかも分からない。

 直接、ここまで来たものの龍牙がロシア代表チームの専用区画に勝ってに入ることはできず、何とかして入れたとしても、場合によっては日本代表チームに迷惑をかけることになる。

 そもそも、カティアのガンプラに何かを仕掛けたのはロシアのスポンサーで、問題はロシア代表チーム内部の問題で部外者の龍牙が関わっていいものかどうかも怪しい。

 

「何やっているの? こんなところで?」

「うぉ!」

 

 後ろから声をかけられてビクリとする。

 龍牙は恐る恐る声の主を確認するとそこにはカティアがいた。

 見知った相手で龍牙は安堵する。

 

「いや……あんなことがあったんだ。気になるじゃん」

「そう……とにかくここじゃ目立つから」

 

 カティアは龍牙の腕をつかむと近くの物陰に連れ込む。

 流石にロシア代表専用区画の前で敵同士と面と向かって話すことはできない。

 

「……バカなの?」

「いきなりだな」

「当然でしょ。日本も何とか残ってるんだし、敵の本拠地の前でうろつくとか、通りかかったのが私じゃなければ運営に抗議されても文句は言えないわよ」

 

 大会の規定では他のチームの情報収集は度を過ぎず常識的な範囲でなら許可はされている。

 当然、専用区画に無断で立ち入ることは禁止されており、未遂だろうと立ち入ろうとしていたとみなされれば少なからず運営からペナルティを与えれる可能性もある。

 

「悪い。心配かけた」

「……心配なんてしてないわよ」

 

 カティアの言葉を龍牙は自分を心配してのことだと捉えた。

 そういわれてカティアも初めて見つけたのが自分でよかったと少なからず思っていたことに気づかされる。

 本来ならば、声をかけて追い払うか運営に言えばいいだけのことだが、わざわざ人目につかないところに連れてきている。

 

「だよな。それで」

「別に問題はないわよ。どのみち、あのバトルで勝とうと負けようとロシア代表には影響はないんだから。まぁチームの空気はあまりよくないけれど、結束は強まったわ」

 

 元々、ロシア代表は第五試合に勝利した段階で決勝トーナメント出場を決めていた。

 事前に優次郎から言われてたようにあのバトルの敗北はカティアの評価には影響はない。

 だが、スポンサーとは言え、ダイバーに説明もなくガンプラに手を加えたということはロシア代表チームのスポンサーへの不信感を強めてしまっていた。

 同時にスポンサーへの不信感は同じチームの仲間同士の結束を強めることにつながっている。

 龍牙はカティアにお咎めなしだったことで安心していたが、気づいてはいない。

 カティアが話したことはチームの内情にかかわることで、この情報をうまく使えば戦うときに有利に事を運ぶカードになりえるということに。

 カティア自身、口を滑らしたわけではなく、これまでのことで龍牙に内情を漏らしたとしても、それを悪用してロシア代表チームを陥れるような真似はしないと思っている。

 

「……あんな形で勝ったところで私はその勝利を誇ることはできなかったと思うわ……だから、ありがとう」

 

 カティアはそっぽを向きながらそう言う。

 面と向かってお礼を言うことが恥ずかしいのか最後の方は声が小さく少し顔を赤らめている。

 

「ん? おう」

 

 龍牙は最後の辺りは聞き取れなかったが、少なくとも文句や恨み言ではないので追及はしない。

 

「けど! トーナメントで戦うときには勝つのは私たちだから! 私たちの実力はあんなものじゃないんだからね!」

 

 カティアは恥ずかしさを誤魔化すように強くそういう。

 第六試合で望まぬやり方を強要されてそれを止めた龍牙に対する恩返しは、自分たちの全力を持って日本代表を倒すことしかない。

 それを龍牙は真っ向から受け止める。

 

「おう。カティア達の全力を俺たちも全力でぶつかるぜ。俺たちのチームには俺よりも凄い人ばかりだからな!」

 

 龍牙もはっきりと返す。

 お互いに譲ることはできない。

 あとは実際にバトルすることになり、そこで決着をつけるだけだ。

 それ以上は何も語らず、二人は別れた。

 

 

 

「後、3つか……」

「最悪1つで終わるかもしれないけどね」

 

 アメリカ代表専用区画の大我の部屋で備え付けの椅子に座るルークが大我にそう答える。

 ルークは決勝トーナメントを前に大我が変なことをしないように見張りにきている。

 流石に大我もむやみに動く気はないらしく、PCでこれまでの自身のバトルを見返しては問題点を洗い出している。

 

「終わらせない。俺がいるんだ。ビッグスターの最後の戦いまで後3つだ」

 

 大我はバトルを見ながら言い切る。

 世界大会でバトルする数は最大で3回。

 3回勝利することで優勝となるが、一度でも負ければそこで終わりとなる。

 だが、大我は後3回とも勝つ気でいる。

 チームビッグスターは最年長のルークたちが18歳で来年からはジュニアクラスからオープンクラスに変わる。

 GBNではジュニアクラスとオープンクラスでフォースを組むことは可能だが、公式バトルではジュニアクラス用のバトルにオープンクラスのダイバーは参加できない。

 逆にオープンクラスのバトルにジュニアクラスは参加できるが、大我たちにとってはこの世界大会は最初で最後の大会と考えている。

 

「ねぇ大我。僕たちが初めて会ったときのことを覚えているかい?」

「ああ。ルークは対して強くもない癖に俺に挑んできたな」

「覚えていてくれたことは嬉しいが、黒歴史だよ。本当に」

 

 ルークと大我は初めて会ったのは、アメリカのゲームセンターでのことだった。

 ルークの実家は大手の玩具メーカーで、アメリカでのガンプラの流通に一役かっている。

 当時のルークには父の会社の社員の息子などが取り巻きでいて、ガンプラバトルにハマっていた。

 主にゲームセンターでのオフライン対戦ではルークは負け知らずだった。

 そんなある日、行き付けのゲームセンターに自分よりも少し年下の日本人の少年、大我がこのゲームセンターで一番強いやつを出すように店長に命令していた。

 偶然、その場に居合わせたルークは自分がここでは一番強いとして名乗りを上げた。

 その時、店長は止めようとしたが、ルークは聞く耳を持たず、大我と対戦した。

 結果は、大我に手も足も出せずに惨敗した。

 大我はルークを雑魚呼ばわりして去っていった。

 後から知ったことだが、今までルークが対戦してきた相手は皆、ルークの父親の息がかかっており、常にわざとルークに負けていたのだった。

 父の息のかかっていない大我はルークを相手に一切の手加減も容赦もしないで叩き潰した。

 ルークにとっては初めて、自分に父の会社とは関係なく接してくれた相手として大我ともう一度会って戦いたいと望むようになり大我を探した。

 幸いにも日本人で態度が悪く交戦的な大我はすぐに見つかり、友達になろうとするが、大我はガンプラバトルの弱いルークのことなどまったく相手にしなかった。

 それでもルークはあきらめずに友達になればガンプラをあげるなど、物で釣ろうとしたりしたものの相手にはされず、ならば大我とまともに戦えるだけの実力を身に着けるために、ルークはこれまでの人生の中で最も努力を行い、実力を身に着けては何度も大我に挑んだ。

 始めは相手にならなかったルークだが次第に大我を相手に善戦できるようになり、結局大我には1度も勝つことはできなかったが、毎日、父親のコネを最大限に活用して大我の行く先々で待ち伏せしては挑み続けた結果、いつの間にか友達と呼べるだけの間柄になっていた。

 

「君と出会い。僕の世界は広まった。そして、僕たちはチームを作った」

 

 友人となった大我とルークはGBNで名を上げるためにチームを作ろうと動きだした。

 しかし、その際に二人に大きな壁にぶちあがることとなる。

 それは大我はだれが相手でも挑発的な態度をとるが、ゆえに周りから嫌厭されがちで、ルークには取り巻きはしても友達は大我しかいなかった。

 GBN内で仲間を見つけることは可能だったが、大我もルークも素性の分からない相手とは組みかがらず、現実世界で仲間探しを始めた。

 仲間を探し始めて何人かは仲間を見つけることができたが、大抵、大我と揉めてチームを去っていくことになりチーム作りは難航していった。

 だが、次第に仲間が増えていった。

 親の仕事の都合でアメリカに引っ越してきたが、日本人ということで回りと馴染めなかったレオ、手先が器用だが、その巨体と短気から回りに恐れられてガンプラバトルを一緒にする相手のいなかったジェイク、理屈っぽく回りから面倒がられていたディラン、女ということで仲間に入れてもらえなかったクロエと、それぞれの理由でリアルでのガンプラ仲間のいなかった者たちを仲間にして、ルークの取り巻きだったジョー、ライアン、ウィリアムがなぜかルークよりも大我を信奉するようになり仲間となり、最後は大我の操縦技術に見合ったガンプラを用意できるリヴィエールが入り、チームビッグスターは誕生した。

 

「僕たちはそれぞれの理由でリアルでともにガンプラバトルをする仲間に恵まれなかった」

「俺以外の大半は自業自得だけどな」

 

 大我も自業自得側に入るということをルークはあえて突っ込まない。

 

「だからこそ僕たちは世界の頂点を取ることに決めた」

「俺にとっては通過点に過ぎないけどな」

 

 自業自得な部分があるとか言え、リアルでつま弾きにされてきた彼らはジュニアクラスの世界大会で優勝することで自分たちを仲間に入れようとはしなかった相手を見返すためにここまで来た。

 大我にとっては所詮はジュニアクラスの世界大会でしかないため、GBNで一番強いファイターの通過点に過ぎないが、それでも仲間たちと目指す当面の目標となった。

 

「泣いても笑っても後3回か……ようやくここまで来た」

「そうだな。レオが抜けたり、俺が日本に戻ることになったりな」

 

 チームを結成してからここまで決して楽な道のりではなかった。

 大我に並ぶ、実力者のレオがチームを抜け、大我も日本の高校に入学するためにアメリカを離れなければならなくなった。

 それでもビッグスターはここまで勝ち続けてきた。

 

「後3回勝って頂点を取る。俺がチームをそこまで連れていく。必ず」

「分かってる。バトルになれば君は確実に勝利する。そこに疑いはないよ。ただ、大我とリヴィエールは何をやりだすか分からないからね」

 

 ルークはエースとして大我に絶対的な信頼を置き、バトルで負けるなど万が一にもあり得ないと思っている。

 だが、一方で大我がルークが思っている以上のことをやりかねない。

 実際、アルゴスにインタビューに乱入して宣戦布告を行っている。

 リヴィエールもガンプラを作ること以外には一切の興味はなく、世界大会の結果にも興味はない。

 今はオメガバルバトスを完成させた後に何やら思いついたらしく、部屋に籠っている。

 大我の勝利に疑いはないが、第一試合のように余計なリスクは背負いたくはないというのがルークの本音だ。

 

「あっそ」

 

 大我もルークが自分を見張ろうともどうでもよく、バトルを見返しながらぶつぶつと独り言をつぶやいている。

 

 

 

 

 

 

 

 ルークの懸念は杞憂に終わり、大我は問題行動をとることもなく、日は落ちて決勝トーナメントの抽選会の時間となる。

 会場には決勝トーナメントに残った8チームは最低でも代表1人が出なくてはならない。

 敗退したチームが来るかは自由で、勝ち残ったチームのメンバーの大半はこの場に来ている。

 

「ルーク。俺たちの相手はギリシャかドイツだ。確実に両方とやれる組み合わせにしろよ」

「できればその2つは潰しあって欲しいんだけどね」

 

 大我の無茶ぶりにルークは苦笑いで返す。

 優勝候補の大本命のギリシャの他に優勝候補としてはドイツの名が挙がっている。

 大我にとってはどちらも自分で潰しておきたい相手だが、ルークからしてみればできればその2チームで潰しあって欲しいところだ。

 それから上位チームから抽選が始まる。

 それぞれのチームの代表がルーレットを回して1から8までの数字で組み合わせが決まる。

 上位のギリシャ、ドイツ、アメリカは同一であるため、過去の実績順でルーレットを回していく。

 その結果、ギリシャは8、ドイツは4を引いた。

 

「7だ。7を出せよ。ルーク」

 

 大我はあくまでもいきなり優勝候補の本命であるギリシャと戦える組み合わせを望むが、ルークが出した数字は1。

 

「ちっ……ギリシャとやれるのは最後か……まぁ2戦目でドイツともやれるから大丈夫か……」

 

 ギリシャとアメリカが戦うのは決勝戦までお預けとなり大我は不満そうにしている。

 アメリカの次にイギリスがルーレットを回して出た数字は5。

 ここまではどのチームも対戦チームが決まらずにいる。

 次からは出た数字で組み合わせが決まっていく。

 イギリスの次はロシア代表チームで出た数字は2。

 それにより一回戦第一試合の組み合わせはアメリカVSロシアで決まった。

 

「いきなりアメリカとロシアか……」

 

 日本代表は8位であるため、ルーレットを回すことなく組み合わせが決まるが、龍牙も会場で組み合わせが決まるのを見ていた。

 ようやく決まった組み合わせに龍牙は複雑だった。

 龍牙にとってはアメリカ代表の大我と戦うために世界大会に出たといっても過言ではない。

 アメリカの最初の対戦相手のロシアのカティアとは数時間前に全力で戦うことを約束している。

 アメリカとロシアの対戦が決まったことで、龍牙はその両方と戦うことは叶わなくなった。

 そんな龍牙の内心を他所に抽選は進む。

 次のフィンランド代表チームは7を引いた。

 その瞬間、フィンランド代表チームは明らかに落胆する。

 フィンランド代表チームの相手はギリシャである以上は初戦敗退は決まったも同然だからだ。

 残りは3と6となっている。

 3を引けばドイツと6を引けばイギリスとの対戦となる。

 フィンランドの次はインド代表チームで引いたのは6。

 そして、残った3は自動的に日本代表となる。

 それによって決勝トーナメントの組み合わせが確定した。

 一回戦の第一試合はアメリカVSロシア、第二試合は日本VSドイツ、第三試合はイギリスVSインド、第四試合はフィンランドVSギリシャとなる。

 

「最初はドイツか……こりゃ借りを返さないとな」

「当然! あの時の借りは100億万倍にして返してやるわよ!」

 

 アメリカとロシアの戦いを気にしていた龍牙だが、諒真や貴音の言葉で我に返る。

 一回戦を勝てばアメリカとロシアの勝利チームと戦うことになるが、問題はその一回戦だ。

 日本の初戦の相手は一度は第五試合で25対5の戦いで負けたドイツ代表だ。

 今度は日本もフルメンバーで戦うが向こうもフルメンバーとなる。

 ギリシャとアメリカと並びここまで上位をキープしてきた実力は確かだ。

 ドイツに勝たなければ日本がアメリカかロシアと戦うことすらできずに世界大会はそこで終わる。

 龍牙はまずは目先の1勝のために気持ちを切り替えて明日の決勝トーナメント一回戦に臨むのだった。

 

 

 



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雪原の死闘

 

 

 

 決勝トーナメントの組み合わせの抽選から一晩が明けた翌日。

 今日はトーナメント一回戦第一試合のアメリカVSロシア、第二試合の日本VSドイツが行われる。

 まずは第一試合のアメリカとロシアのバトルだ。

 決勝トーナメントは全て最大10機のフラッグ戦で行われる。

 どちらも全総力を投入することとなる。

 

「皆、準備は良いな?」

 

 ロシア代表のリーダーであるオルゲルトがチームに最後の確認を行う。

 ロシアは第六試合でスポンサーから勝手にガンプラに手を加えられていることが明らかとなり、各々でガンプラを徹底的に確認して自分で最後の調整を行った。

 対戦相手のアメリカは開会当初は大我の宣戦布告もあり、批判的な意見が多かったが、これまでのバトルで力を見せつけたことで、今年の世界大会においてギリシャのアルゴスの対抗馬として最も注目を集めている。

 以前の勝敗予想では多くがアメリカの勝利を予測している。

 だからこそ、ロシア代表としては確実に勝ちたいところだ。

 

「行くぞ。我らの実力をアメリカ代表に見せつけ勝利し、そして目指すは優勝だ」

 

 チームに喝を入れてロシア代表はGBNにログインする。

 第一試合のバトルフィールドは雪原地帯。

 ロシアにとっては馴染み深い自然が広がっている。

 ロシア代表チームのガンプラはリーダーのオルゲルトのガンダムマークⅡチシート、カティアのガンダムマークⅡメェーチの他に、メガバズーカランチャーを装備したデルタプラス、バックパックにドッペルホルン連装無反動砲を装備し、ジェガン用のシールドとマシンガンを装備したグスタフカール。

 シールドを2枚装備し、メガビームランチャーを装備したジェスタ、左肩と左腕にソードストライカーを装備し、手持ちの武器に対艦刀「シュベルトゲベール」を装備したジムⅡセミストライカー、ジムⅢディフェンサー、Z系のビームライフルを装備したスタークジェガン、バズーカを2つ装備したパワードジム、サイズを一回り大きくしたロトの10機で構成されている。

 

「相手はすぐに攻めて来る。散開して敵を迎え撃つ」

 

 オルゲルトの指示でロシア代表チームはすぐにアメリカ代表を迎え撃つために動き始める。

 バトルフィールドは全体が雪に覆われており、ランダムに吹雪などが発生する。

 現在も若干吹雪気味で視界が悪く、散開して待ち伏せるには丁度いい。

 

「動きが静か過ぎる」

 

 バトルが開始して数分が経過してもアメリカ代表に動きは見られない。

 アメリカ代表は超攻撃的なチームで開始早々にも仕掛けてきてもおかしくはなかった。

 

「オルゲルト。見つけたぞ。バルバトスだ」

 

 パワードジムのダイバーから大我のオメガバルバトスを発見したとの連絡が入り、オルゲルトは気を引き締める。

 

「だが……妙だ。動きは雪に足を取られて遅いのは分かるが、バルバトス以外にアメリカのガンプラの気配がまるでない」

「どういうことだ?」

 

 オメガバルバトスの装輪ユニットは雪上では機動力を大きく制限されているらしく、動きは早くはない。

 それ自体は問題ではない。

 問題なのは敵の気配がオメガバルバトスのみだということだ。

 

「なぁ、オルゲルト。まさか奴ら……」

「そうだとしても油断するな。相手はあの藤代大我だ」

 

 オルゲルトもその可能性を考えた。

 アメリカ代表チームは初戦を予選第一試合と同様に大我のみで出てきたという可能性だ。

 そう思わせておいて伏兵による奇襲も考えられるが、アメリカのバトルスタイルを考えるとその可能性は低く、大我のみで来た可能性の方が高い。

 

「兄さん。仕掛ける?」

「そうだな。仕掛けてみればわかることか」

 

 相手の意図は分からないが、敵のフラッグ機はオメガバルバトスであることは確実だ。

 オルゲルトはカティアに攻撃の指示を出す。

 マークⅡメェーチはオメガバルバトスに向かっていき、ジムⅡセミストライカーもそれに続く。

 

「来たか」

 

 大我の方でもそれを補足していた。

 オメガバルバトスは向かってくる2機に向けて左腕のチェーンソーブレードをガンモードにしてレールガンで迎撃する。

 2機は左右に分かれると後方のグスタフカールのドッペルホルンによる砲撃が始まる。

 砲撃をかわしたオメガバルバトスにマークⅡメェーチがビームソードで切りかかる。

 それをGNフィールドで防ぐと、カティアの攻撃に合わせてジムⅡセミストライカーも対艦刀を振るう。

 

「一人で来るとはずいぶんと舐められてるわね」

「一人で十分だからな」

 

 オメガバルバトスはバーストメイスカスタムを振るい、2機は後方に大きく飛び退いて回避する。

 着地を狙わせないために合流したパワードジムがバズーカで援護する。

 GNフィールドで防いだところにジムⅢディフェンサーのミサイルが大量に降り注ぐ。

 更にはグスタフカールとロトの砲撃が続く。

 

「ちっ……面倒だ」

 

 オメガバルバトスはジムⅡセミストライカーの方に突っ込んでいく。

 長距離からの砲撃も近くに味方がいればやり辛い。

 だが、スタークジェガンがビームライフルを連射して足止めをすると、回り込んできたマークⅡメェーチがビームソードを振るう。

 ビームソードを空中に回避したオメガバルバトスにデルタプラスのメガバズーカランチャーのビームが直撃して撃ち落とす。

 

「ビームの直撃を確認」

「奴の装甲には強力な対ビームコーティングがされている。一撃では仕留められないだろう」

 

 戦闘宙域から少し離れた高台でデルタプラスがメガバズーカランチャーをセットして狙撃体制を取り、ジェスタが護衛についている。

 オルゲルトは逐一情報を把握しながら指揮を執っている。

 これまでの情報からアメリカは本当に単騎で挑んできていると見て間違いはない。

 その理由までは分からないが、少なくとも自分たちを舐めて手を抜いてきているとは思えない。

 少なくともアメリカには大我一人で勝つだけの勝算を見込んでいるのだろう。

 

「プランに変更はない。各機は予定通りに事を運べ」

 

 不確定要素はあるものの単騎で来るのであれば全戦力を大我一人に当てることができる。

 

「こいつらの動き……誘ってるのか?」

 

 パワードジムがバズーカを撃ち、ジムⅡセミストライカーがビームブーメランを投げて来る。

 大我はそれらを全て対処しながら敵の動きは明らかに自分をどこかに誘導するかのような動きだと感じていた。

 

「気に入らないな。そんな見え見えな誘導に乗ると思われてるのは」

 

 オメガバルバトスは高く飛び上がるとバーストメイスカスタムを逆手に持ち帰ると空中で投擲する。

 その先にはメガバズーカランチャーで狙いをつけていたデルタプラスがいる。

 

「お前を先に仕留める」

 

 空中でスラスターを最大出力で使ってデルタプラスの方に突撃する。

 デルタプラスはメガバズーカランチャーを捨てるとビームライフルに持ち替えて飛び上がる。

 バーストメイスカスタムがメガバズーカランチャーを粉砕すると、デルタプラスはビームライフルでオメガバルバトスを迎え撃つ。

 デルタプラスのビームを対ビームコーティングの防御力で防ぎ、チェーンソーブレードをブレードモードにして切りかかる。

 オメガバルバトスの攻撃をかわしたデルタプラスはグレネードランチャーをオメガバルバトスに撃ちこむが、オメガバルバトスの装甲にはダメージはない。

 再度、チェーンソーブレードで切りかかろうとしたところを、地上からジェスタがメガビームランチャーで妨害する。

 

「ちっ」

 

 攻撃を邪魔されたオメガバルバトスの高度が次第に落ちていく。

 第一試合で使った第一形態の時は装備が最低限で空中に長時間飛んでいることができたが、ここまでの装備の増強で重量も増しているオメガバルバトスは長時間の飛行ができなくなっている。

 

「コイツも食らっとけ!」

 

 デルタプラスはシールドでオメガバルバトスに体当たりを食らわせる。

 空中で体当たりを受けて若干態勢を崩すが、オメガバルバトスは雪上に着地する。

 しかし、オメガバルバトスが着地した瞬間に足元の雪が崩れ、オメガバルバトスは穴の中に落ちた。

 

「何だ?」

 

 オメガバルバトスが穴の中から抜けだろうとするが、穴の中にはフィールドの雪だけでなく、雪に混ざって大量のトリモチが入っていた。

 そのトリモチがオメガバルバトスの動きを封じた。

 

「ちっ……」

 

 何とかトリモチから脱出しようとするも、そう簡単には脱出はできそうになかった。

 このトリモチは元々フィールド内に用意されたトラップではない。

 ロシア代表は大我を暴れさせると手が付けられないと考えて、事前にトリモチを各ガンプラに装備させてフィールドに持ち込んできた。

 それを序盤にカティア達が交戦する間にオメガバルバトスを落とせるだけの穴をオルゲルトが掘ってトリモチを入れて穴を塞ぎ雪で穴を隠した。

 後は大我をここまでおびき寄せるだけだが、普通に誘いだしても大我が乗ってくるとも思えないため、あえてカティア達は別方向に誘いだし、誘いに気づいた大我が誘いに乗らず、先に後方から狙撃支援をしているデルタプラスを狙わせて、誘導した。

 

「作戦通りね。兄さん」

「ああ。だが油断はするなよ。ここで一気に決める」

 

 上手く大我を罠にはめたところにロシアのガンプラたちが集まり、穴に落ちたオメガバルバトスにそれぞれの火器を向けて集中砲火を浴びせる。

 トリモチで動きを制限されているオメガバルバトスはGNフィールドを展開して身を守るしかない。

 GNフィールドで集中砲火を防いでいるものの、GN粒子の残量はドンドン減っていき、このままではGN粒子の残量が尽きて一時的にGN粒子の展開が出来なくなる。

 

「まぁ……こんなところか。来い! シド丸!」

 

 大我もこれ以上、膠着状態を維持する気はなかった。

 大我の掛け声とともにオメガバルバトスの落とされた穴の頭上に影ができる。

 

「兄さん! 何か来た!」

「やはり伏兵がいたのか?」

「何だよ? アイツは」

「モビルアーマーなのか?」

 

 ロシア代表も突如現れたガンプラに驚く。

 空中に現れたのはリヴィエールが第六試合の後から一日で新たに作った隠し玉であるオメガバルバトスの支援機であるアステールブースターだった。

 アステールブースターはハシュマルをモデルにサイズをオメガバルバトスに合わせて作られており、翼はガンダムAGEのシドのものをモデルとしたものとなっており、左右に4門つづのビーム砲に光波推進システムが搭載されている。

 腕部はガンダムフラウロスのロングバレルのレールガンに変更されて、ハシュマルの超硬ワイヤーブレードは5基に増やされている。

 ハシュマルとシドを掛け合わせた機体であることから大我はシド丸と呼んでいる。

 空中に現れたシド丸は8門のビーム砲を地上に打ち込む。

 ロシア代表のガンプラはすぐに散開する。

 

「くっ! あんなものまで用意していたのか!」

 

 オルゲルト自身は決して大我が一人で来たことに油断はしていなかった。

 常に大我以外の敵の存在を注意していたが、どこにもアメリカ代表のガンプラは存在しなかった。

 だが、アメリカ代表の切り札はその予測の先を行っていた。

 シド丸はミラージュコロイドを展開することで今の今まで敵に発見されることはなかった。

 ロシア代表を散らしたシド丸は穴の中にもビーム砲を撃ち込む。

 穴の中のオメガバルバトスはGNフィールドと装甲の対ビームコーティングでダメージを受けないが、GNフィールドの外のトリモチはビームに焼かれていく。

 ある程度、自由になったところでオメガバルバトスはワイヤーフィストを射出してシド丸を掴むとワイヤーを回収して自身をシド丸の方に引き寄せて穴から脱出した。

 

「うまく俺を嵌めたがその程度でやられるようなら俺も一人ではやらないんだよ」

 

 穴から脱出したオメガバルバトスは地上に降りる。

 大我の動きを封じる策は破られたが、ロシア代表の損失は誘導するために囮として使ったメガバズーカランチャーのみで実質的な損失はない。

 

「ここからは俺が蹂躙する番だ。シド丸!」

 

 オメガバルバトスは高く飛び上がる。

 空中でシド丸はオメガバルバトスの方に向かい、近くまで来ると機体をくの字に折り曲げるとオメガバルバトスの背中にドッキングする。

 そして、レールガンがオメガバルバトスの肩から前方に向くように移動する。

 

「これが俺の最強のガンプラ。ガンダムオメガバルバトス・アステールだ」

 

 シド丸とドッキングすることでオメガバルバトスはオメガバルバトス・アステールとなる。

 これまでの武装強化により失われた空戦能力と機動力をシド丸の光波推進システムで補うだけでなく、多数のビーム兵器により更なる攻撃力の強化にも繋がっている。

 

「お前ら全員まとめてぶっ潰す」

 

 シド丸の翼の上部装甲がスライドすると、そこから大量の胞子ビットが展開される。

 同時にコックピット内のモニターにロシア代表のガンプラ10機が同時にロックオンされる。

 シド丸とドッキングした事で強化されたのは能力面だけではなく、多数のビーム兵器の搭載に伴い、フリーダム等に搭載されているマルチロックオンも使用可能となった。

 それによりロシア代表のガンプラを全て同時に狙える。

 

「あれはヴェイガンの胞子ビットか! 各機は散開して何としてでも生き延びろ!」

 

 オメガバルバトス・アステールの胞子ビットと8門のビーム砲が一斉にロシア代表のガンプラに襲い掛かる。

 ビーム砲のビームはシドと同様にロックされたガンプラを自動追尾する機能を持っている。

 ロシア代表のダイバーたちはこの攻撃を死に物狂いで凌ぐ。

 

「やはりビームが追ってきやがる!」

「どこに逃げるってんだよ!」

「よけきれるわけが!」

「ちくしょうぉぉぉ!」

 

 ロシア代表のガンプラは次々と被弾していく。

 それでも世界大会に出るだけの実力はあり、致命傷は何とか避けている。

 カティアのマークⅡメェーチはビームソードで切り払い、オルゲルトのマークⅡチシートはバルカンと腕部のビームガンで弾幕を張りながらメガビームライフルで胞子ビットを薙ぐ払う。

 攻撃が止み雪原は焼け野原に変えられた。

 

「この砲撃で撃墜数がゼロだというのは流石だな。まぁ戦えそうな奴はアンタ達兄妹くらいみたいだけどな」

 

 砲撃を終えたオメガバルバトス・アステールは地上に降りる。

 オメガバルバトス・アステールの砲撃によりロシア代表のガンプラのほとんどは大破し、撃墜こそされていないがまともに戦える機体は無傷のオルゲルトとカティアの2機だけだ。

 

「もっともこの程度でやられる奴とは戦ってみ意味はなさそうだけどな」

 

 シド丸の翼の前部装甲が開閉する。

 そこには収束モードと拡散モードの切り替え可能なビーム砲が1門づつ内臓されている。

 拡散モードでオメガバルバトス・アステールはビームを撃つ。

 

「あんなものまで仕込んで……」

 

 2機は素早く分かれると攻撃を回避しながらマークⅡメェーチはオメガバルバトス・アステールの後ろに回り込む。

 後ろに回り込み接近戦を仕掛けようとするが、今度は翼の後部装甲が開くとそこにはミサイルが多数内臓されていた。

 後方に向けてオメガバルバトス・アステールはミサイルを放ち、マークⅡメェーチはミサイルの対処をしている間にオメガバルバトス・アステールは装輪ユニットを展開してマークⅡチシートを追撃する。

 マークⅡチシートは後退しながらメガビームライフルでオメガバルバトス・アステールを迎え撃つ。

 

「あの図体であそこまでの機動力を確保しているというのか」

「リヴィエールが最強のガンプラというだけのことはあるな。じゃじゃ馬だがコイツがあれば誰にも負けはしない!」

 

 マークⅡチシートに追いついたオメガバルバトス・アステールはチェーンソーブレードをブレードモードにして切りかかる。

 その攻撃を肩のシールドで受け流すと、至近距離から腕部のビームガンを撃ち込む。

 

「効かないな!」

 

 オメガバルバトス・アステールは腰のワイヤーブレードを射出して、マークⅡチシートはとっさにメガビームライフルを縦に使って防ぐが、ワイヤーブレードはメガビームライフルに突き刺さり手放すとワイヤーを回収したオメガバルバトス・アステールのチェーンソーブレードで真っ二つにされる。

 

「くっ!」

 

 マークⅡチシートは腕部からビームサーベルを出して応戦する。

 オメガバルバトス・アステールのチェーンソーブレードとマークⅡチシートのビームサーベルがぶつかり合う。

 

「なんてパワーだ。チシートがパワーで押されている!」

「流石は鉄人といったところか。そう簡単には押し切らせてはもらえないか……だが!」

 

 パワーでは若干オメガバルバトス・アステールの方が優勢だったが、オメガバルバトス・アステールの翼が大きく開くと下部装甲の光波推進システムの光が大きくなり、光の翼となる。

 

「何!」

 

 光の翼を展開したオメガバルバトス・アステールはマークⅡチシートを弾き飛ばす。

 弾き飛ばされたマークⅡチシートは体制を立て直し、オメガバルバトス・アステールは空中に飛び上がると加速する。

 

「あの翼はデスティニーと同じか!」

 

 加速したオメガバルバトス・アステールは残像を残しながらオルゲルトを翻弄する。

 姿を隠すときに使っていたミラージュコロイドをデスティニーと同じように残像を作り出すことが可能となっている。

 マークⅡチシートはビームガンを連射するも、オメガバルバトス・アステールには当たらず、空中から腰のワイヤーブレードを射出し、マークⅡチシートはシールドでワイヤーブレードが刺さらないように弾く。

 その間にオメガバルバトス・アステールは急降下し、チェーンソーブレードで襲い掛かる。

 

「大した性能だが……」

 

 オメガバルバトス・アステールの攻撃を回避しながら、マークⅡチシートは懐に入り込みビームサーベルを振るうが、オメガバルバトス・アステールの対ビームコーティングの前には有効打にはならない。

 

「兄さん!」

 

 2機に追いついてきたマークⅡメェーチがビームソードでオメガバルバトス・アステールに切りかかる。

 それをチェーンソーブレードで受け止めると、膝のドリルニーを突き出す。

 マークⅡメェーチはもう片方のビームソードでドリルニーを弾く。

 胸部の大口径バルカンでマークⅡメェーチを狙うが、撃つ前にマークⅡチシートがシールドで体当たりをして体勢を崩させて大口径バルカンはマークⅡメェーチには当たることはなかった。

 

「大丈夫か? カティア」

「ええ。兄さんもまだやれるわね?」

「当然だ」

 

 3機は一度体勢を立て直して仕切りなおす。

 3機の間に緊張が走るがオメガバルバトス・アステールにミサイルが降り注ぐ。

 

「ミサイルだと? どこから」

 

 突然のミサイルにオルゲルトは周囲を確認する。

 オメガバルバトス・アステールに攻撃したということはロシア代表の攻撃だが、すでに他のガンプラには戦うだけの余裕は残されていない。

 

「……兄さん。どういうこと?」

「分からん」

「まだ動けたんだ」

 

 オメガバルバトス・アステールの周囲を大破したはずのロシア代表チームのガンプラが取り囲んでいた。

 それもオメガバルバトス・アステールの攻撃で損傷した部分は始めから損傷していなかったの如く直っている。

 バトル中に破壊されたガンプラを自力で修理したり自動修復機能を持ったガンプラやルールによっては撃破されても復帰できることがあるが、どれもロシア代表には当てはまらない。

 

「どういうことだ。お前たち?」

「それが俺たちにも分からないんだ」

「突然、ガンプラが勝手に直ったと思ったら俺たちの操縦を受け付けなくなったんだよ」

 

 オメガバルバトス・アステールの攻撃で戦闘不能になったロシア代表メンバーは後をオルゲルトとカティアに任せていると突然、ガンプラが自動的に修理されると制御不能となり動き始めた。

 

「お前たちから先に始末するか」

 

 オメガバルバトス・アステールは近くのジムⅢディフェンサーの飛び掛かると、チェーンソーブレードで切りかかる。

 ジムⅢディフェンダーを両断すると、翼のビーム砲を収束モードで撃ってグスタフカールとスタークジェガンの上半身を吹き飛ばす。

 次の獲物に狙いをつけようとしていると両断したジムⅢディフェンダーが修復されており、ロングライフルを背後から向けるが、撃つ前に背部のレールガンを後ろに向けて撃つ。

 

「どうなってる? 何故……」

「兄さん。もしかして私にメェーチにされたように」

 

 オメガバルバトス・アステールは一方的にロシア代表チームのガンプラを蹂躙するが、破壊されても破壊されてもガンプラは修復されオメガバルバトス・アステールに挑んでいく。

 通信からは自分では操縦できず、ただオメガバルバトス・アステールに破壊されるだけの仲間の悲痛な叫びが聞こえる。

 何が起きているのか分からない中でカティアはあることに気が付く。

 

「だが……チェックはしたはずだ」

 

 以前の第六試合の時にもカティアのガンプラに勝手に仕込まれていたブレイクシステム。

 それがほかのガンプラにも仕込まれていると考えたが、バトルの前には自分たちでおかしなところはないかチェックしている。

 だが、それでは気づかないレベルで仕組まれているのかも知れない。

 オルゲルトとカティアのガンプラに異常がないのはオルゲルトは大会中に一度としてガンプラの調整や整備をスポンサーのワークスチームには触らせずに自分で行っていたから仕込む隙が無かった。

 カティアの場合はすでに取り外されたのか、バトルで負けた時の衝撃で壊れたかのどちらかだろう。

 

「……ふざけるな」

 

 この事態を自分たちのスポンサーとは言え、はじめから自分たちが戦わなくても戦えるように仕組んでいたとするのであれば、それはファイターとしての矜持の侮辱に他ならない。

 オルゲルトはスポンサーに対して怒りを覚えずにはいられない。

 同時に単騎で挑むという一見、相手を舐めているとしか思えない行為の中にも自分の力に絶対的な自信を持ち自分たちのやり方を貫こうとしていた大我に対しても申し訳ない気持ちを持った。

 

「こんなバトルなど俺は認めない。こんなバトルを続けるくらいならば……」

 

 もはやこのバトルはオルゲルト達、ロシア代表のバトルではない。

 そう考えたオルゲルトはバトルを降参しようとするが、オメガバルバトス・アステールはロトを掴んでマークⅡチシートに投げつけた。

 

「……おい。つまんねぇ真似しようとしてんなよ」

 

 オメガバルバトス・アステールはジムⅡセミストライカーの胴体にドリルニーをぶち込む。

 

「まだバトルは終わってない。なのに負け逃げしようとしてんじゃねぇよ」

「……だが、このバトルは俺たちの本意では……」

「知るか。そんなこと」

 

 オルゲルトの言葉を大我はバッサリと切り捨てる。

 

「ようやくコイツの扱いにも慣れてきたんだ。お前をぶっ潰すまでバトルは終わりじゃないんだよ」

 

 大我にとってはロシア代表の事情などどうでもいいことだ。

 仮にオルゲルトが降参してアメリカがバトルに勝利したところで大我にとっては意味はない。

 大我にとってこのバトルは勝利することは当たり前で、勝利という結果よりもその過程でオルゲルトを倒すことに意味がある。

 

「だが……」

「そいつの言う通りだ! オルゲルト!」

「ああ! お前達だけでも真っ当に戦ってくれ!」

「そうだ! ここで棄権なんてしたらバトルに負けただけじゃない! スポンサーの連中にも負けたことになる!」

「オルゲルト!」

 

 ロシア代表メンバーが次々と声を上げる。

 皆は自分たちのガンプラは制御不能で、運営が止めないが明らかに何らかの不正行為を行っているように見える。

 このバトルは全世界に中継されているため、ロシア代表のバトルは今後のGBNの中で汚点ともなりかねない。

 だからこそ、自分たちの戦いを守るためにもオルゲルトとカティアには正々堂々と戦って欲しいというのがチームの想いだった。

 

「だ、そうだ」

 

 オメガバルバトス・アステールはデルタプラスの胴体を踏みつぶして、頭部を掴んでいたパワードジムを地面に叩きつけて、背中にガンモードのチェーンソーブレードを何発は打ち込む。

 

「……済まない。お前たち」

 

 マークⅡチシートは両肩のシールドを腕に取り付ける。

 そして、シールドの裏側に内臓されていた3枚のブレードが展開されるとシールドクローとなる。

 

「来い。大我。ロシアの戦いというものをお前に見せてやる」

「上等だ。こいつらの相手は飽きた。黙らせるか」

 

 大我がそういうとオメガバルバトス・アステールのフレームが赤く発光する。

 するとロシア代表のガンプラたちの動きが止まると力なく倒れていく。

 

「これは……」

「コイツのNT-Dはファンネルだけじゃなくて自動操作にも有効だ」

 

 オメガバルバトスのFPガンダムフレームのFPとはフルサイコの略称だ。

 NT-Dのファンネルジャックは本来はファンネルやビットといった遠隔操作の武器を対象にしているが、オメガバルバトスはそれだけに留まらず、モビルドールやビットMS、NPDなどの無人機等にも有効で、ブレイクシステムによる自動操作にもコントロールを強制的に奪うことが出来る。

 このNT-D自体は第一形態の時から搭載されていたもので第一試合でアルゴスと対峙したときに大我は使ってトラックビットの制御を奪おうとしたが、あの時はリヴィエールの細工により使えなかったが、今は解禁されている。

 

「これで邪魔者はいなくなった。ここからはサシでやりあおうぜ」

「望むところだ」

 

 オメガバルバトス・アステールとマークⅡチシートは真っ向からぶつかり合う。

 単純な力ではオメガバルバトス・アステールに分がある物の、オルゲルトはうまく位置取りをして自身の力を逃がさないようにして何とかパワー負けをしないように持ち込んでいる。

 

「そう簡単には引かん!」

「ああそう」

 

 オメガバルバトス・アステールはドリルニーを突き出して、マークⅡチシートの体勢を崩すと弾き飛ばす。

 だが、すぐに踏ん張ってマークⅡチシートはシールドクローを振るう。

 その一撃をチェーンソーブレードで受け止めると、至近距離から胸部の大口径バルカンをマークⅡチシートに向けて打ち込む。

 マークⅡチシートも負けじと頭部のバルカンを撃ち至近距離でのバルカンの打ち合いとなるが、オメガバルバトス・アステールの方がバルカンの威力は上であるため、長期戦では勝ち目はない。

 マークⅡチシートはチェーンソーブレードを受け流すとオメガバルバトス・アステールの胴体に蹴りを入れる。

 すぐにマークⅡチシートはオメガバルバトス・アステールの背後に回り込むが、大我は振り向いていてはマークⅡチシートの攻撃には対応できないと判断して装輪ユニットでバックしてマークⅡチシートに背中で体当たりをする。

 

「いい判断だ。流石だな」

「アンタもな」

 

 マークⅡチシートはシールドクローで身を守り、勢いには逆らわずに後方に飛び退いた。

 

「持ち上がっているところ悪いけど、私のことも忘れないでよね」

 

 オメガバルバトス・アステールの背後にマークⅡメェーチが接近していた。

 

「忘れてないさ。眼中にないだけでな」

 

 オメガバルバトス・アステールは振り向くことなく、シド丸の超硬ワイヤーブレードを全て射出する。

 マークⅡメェーチはビームソードで弾いていたが、ワイヤーで動きを封じられたところを超硬ワイヤーブレードに混じっていたブレードプルーマの直撃を受けて、ブレードプルーマが頭部や、右腕、左肘、腹部、バックパックに突き刺さって倒れる。

 

「……そんな」

「これでアンタ一人だ。アンタがフラッグ機ってことでいいんだよな」

 

 すでにロシア代表はオルゲルト以外は全滅している。

 それでもバトルが終わらないということは残っているマークⅡチシートがフラッグ機であるということだ。

 

「だったら?」

「別に。どのみち、お前はここでぶっ潰すからな!」

 

 オメガバルバトス・アステールは装輪ユニットで加速してマークⅡチシートに突撃する。

 マークⅡチシートもホバー走行で上手く、オメガバルバトス・アステールの攻撃を凌いではシールドクローの一撃を入れる。

 シールドクローの攻撃そのものは目に見えてダメージを当ててはいないが、ダメージは確実に蓄積している。

 同じパワーを活かした戦い方をする大我とオルゲルトだが、圧倒的なパワーで相手を叩き潰す大我と自身のパワーをうまく使って相手をねじ伏せるオルゲルトと対照的な力の使い方をしている。

 

「どうした? そんなもんか?」

「まさか、ここからだ」

 

 マークⅡチシートがシールドクローを振り上げ、刃がオメガバルバトス・アステールの胸部の増加装甲を抉り、しりもちをついて倒れそうになるが、シド丸の光波推進システムで持ちこたえるが、マークⅡチシートが懐に飛び込もうとする。

 それを阻止するために、腰のワイヤーブレードを射出するが、マークⅡチシートはシールドクローでワイヤーブレードを弾き飛ばして、馬乗りになろうとするが、光の翼を展開したオメガバルバトス・アステールが逆に前に出てマークⅡチシートのシールドクローにつかみかかり、2機はもみ合いになる。

 

「往生際が悪い。いい加減にぶっ潰されろよ」

「断る」

 

 オメガバルバトス・アステールはシールドクローを振るえないように抑え込むが、上手くパワーを流されて抑え込めずにいる。

 一方のマークⅡチシートも抑え込まれないようにするだけで精一杯となっている。

 

「なら!」

 

 上空から一筋の光がシド丸の頭部に落ちた。

 オメガバルバトス・アステールのコックピットのモニターにはエネルギーが充電されたとの表示が映される。

 

「GXのサテライトシステムだと!」

 

 ガンダムXのサテライトシステムはサテライトキャノンを撃つために必要なエネルギーを外部から補充することが出来る。

 それを同じシステムがオメガバルバトス・アステールにも搭載されている。

 今まではビーム兵器を搭載していなかったため、そこまでエネルギーを気にすることも少なかったが、シド丸の頭部のアステールキャノンは最大出力ではサテライトキャノンにも匹敵する威力を誇るオメガバルバトス・アステールの最強火力だ。

 シド丸の頭部はオメガバルバトス・アステールの頭部を覆い隠すように前方に向けられる。

 

「やらせるか!」

 

 マークⅡチシートは何とかアステールキャノンの射角をずらそうと両腕で抑えて方向を変えようとする。

 

「吹き飛べ!」

 

 大我がトリガーを引くとアステールキャノンは上空に向けて発射される。

 ギリギリのところで、マークⅡチシートはアステールキャノンの方向を上に向けることに成功した。

 しかし、その余波でマークⅡチシートのシールドクローとオメガバルバトス・アステールの両腕のパワーユニットが吹き飛び、シド丸の頭部も強引に閉じられようとされていたこともあり不具合を起こしている。

 

「ちっ!」

「なんてものを作り出したんだ。アメリカ代表は……」

 

 マークⅡチシートは距離を取るも両腕のシールドクローを失い余波で全身にダメージを受けて、ホバー装甲も出来なくなっていた。

 一方のオメガバルバトス・アステールも両腕のパワーユニットをパージする。

 

「逃がすかよ!」

 

 オメガバルバトス・アステールはシド丸もパージすると装輪ユニットを使い距離を詰めて来る。

 マークⅡチシートも両腕からビームサーベルを出して応戦する。

 ビームサーベルの出力リミッターを解除することで短時間だが、マークⅡメェーチのビームソードと同出力まで上げることが出来る。

 

「うぉぉぉ!」

 

 マークⅡチシートはこれ以上下がることなく前に出る。

 オメガバルバトスは胸部の増加装甲を直前でパージし、マークⅡチシートはビームサーベルで増加装甲を振り払うが、オメガバルバトスはシド丸とのドッキング時には使えないテイルメイスを手持ちのメイスとして持ち突き出していた。

 ギリギリのところでマークⅡチシートはメイスを受け止めた。

 

「ぐっ!」

「コイツで終わりだ」

 

 メイスの先端の杭が射出されてマークⅡチシートの胴体を貫く。

 

「ふっ……見事だ」

 

 それが致命傷となり、マークⅡチシートの機能は完全に停止する。

 マークⅡチシートがやられたことでロシアのフラッグ機がやられ、アメリカとロシアの対戦はアメリカ代表チーム「ビッグスター」の勝利で決着がついた。



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リベンジ

決勝トーナメント一回戦第一試合のアメリカVSロシアの試合はアメリカの勝利で終わった。

 そのバトルを見ていた日本代表はバトルが終わってすぐには言葉が出なかった。

 

「あんなの反則だろ」

 

 一同が黙り込む中、諒真がぽつりとこぼす。

 大我のオメガバルバトスは近接戦闘でのパワーと防御力に秀でたガンプラだったが、大会が進む中で強化されていき、パワーと防御力に加えて圧倒的な火力を得た。

 パワーと防御力だけならやりようもあったが、火力に複数の特殊機能まで持っているオメガバルバトス・アステールはもはや手に負える相手とは思えない。

 

「大我の奴、何と戦う気なんだよ。あれだけの武装でさ」

「例え仲間が全滅しても自分一人で全ての敵を相手にして勝利する。自分さえ負けなければチームが負けることはない。あのガンプラはアメリカ代表を象徴するガンプラというわけね」

 

 麗子がオメガバルバトス・アステールを分析する。

 アメリカ代表にとって大我は絶対的なエースだ。

 ロシアとの戦いに単騎で出たのは大我にならチームの命運を任せられ、仮に大我がオメガバルバトス・アステールを使いこなせずに負けたとしても構わない。

 大我とともにチームが心中する覚悟があるからこそ、初戦を大我一人で戦わせたのであろう。

 そして、大我は仲間の期待に応えてオメガバルバトス・アステールを使いこなして勝利した。

 次のバトルはアメリカもフルメンバーで来ることは確実で、このバトルを乗り越えたアメリカは今まで以上の強敵となるだろう。

 

「みんな、アメリカ代表のことは忘れなさい。どのみち、私たちは初戦を勝たなければアメリカと戦うこともないのだから」

 

 第一試合のバトルのせいでメンバーの意識は大我にばかり向かっていたが、アメリカと戦うには日本も第一試合を勝ちぬかなければならない。

 そして、日本の最初の相手は強敵のドイツ代表チームだ。

 ドイツ代表には予選第五試合で負けている相手でもある。

 今回はお互いにフルメンバーでのバトルとなり、そうやすやすとは勝たせてはもらえない。

 大我にばかり意識を向けていてはドイツには到底勝てない。

 

「気を引き締めなさい。今日のバトルに勝たなければ次はないのよ」

 

 麗子の言葉で日本代表は気を引き締める。

 麗子はこれまでのドイツ代表のバトルのデータを踏まえて初戦の作戦を伝えて、各々はドイツとの戦いに向けての最後の準備を始める。

 

 

 

 

 

 初戦を勝利したアメリカ代表にとっても次の第二試合は注目すべき一戦だ。

 このバトルの勝者が明後日の二回戦の相手となるからだ。

 アメリカ代表がブリーフィングルームでバトルが始まるのを待つ中、チームの中でリヴィエールだけがこの場にいない。

 一回戦のバトルでの大我のバトルには満足した様子だが、元々シド丸を制作する際にオメガバルバトスの方にも手を加えたかったが、時間の都合上シド丸を制作するだけしかできなかった。

 一回戦を勝ち抜いたことで次のバトルは明後日になるため、明日丸一日を改修作業に使えると今からオメガバルバトスを弄っている。

 

「どっちが勝つと思う?」

「そりゃドイツだろ」

「日本もやるようですけど相手が悪い」

 

 バトル開始時間が近づく中でクロエが話題として切り出す。

 ジェイクとディランは迷わず答える。

 

「お前ら諒ちゃんと珠ちゃんに良いようにやられたからだろ」

 

 大我の突っ込みにジェイクとディランは返す言葉もない。

 これまでの実績的にドイツの方が勝つと予想することは当たり前だが、二人の場合は予選第四試合で諒真と珠樹にやられているのでドイツに勝って欲しいという願望もあるのだろう。

 

「なら大我はどっちが勝つと思うのよ?」

「決まってんだろ。強い方が勝つ」

 

 大我はそう言い切る。

 大我にとってはドイツが勝とうが日本が勝とうがそれは些細なことに過ぎない。

 ドイツはギリシャに並ぶ優勝候補の一角だが、日本が勝てば日本にはそれだけの力があるということだ。

 どちらが勝ち進んでいたとしても相手にとっては不足はない。

 このバトルの勝者を大我がぶっ潰して決勝戦でギリシャのアルゴスを倒して優勝する。

 

「あ、そう」

「どっちが勝っても俺がぶっ潰すだけだ」

 

 大我の言うように日本とドイツのどちらが勝ったところで、アメリカ代表は負ける気はない。

 そして、日本代表とドイツ代表のバトルが始まる。

 第二試合のバトルフィールドは宇宙空間でフィールド内にはいくつかのコロニーが配置されたステージだ。

 

「各機、一度は勝利したチームだが油断はするなよ」

 

 バトルが開始されヘルマは改めて仲間の気を引き締めさせる。

 日本代表チームとは一度は勝利しているため、少なからず油断が生まれやすい。

 ギリギリとは言え日本も予選を勝ち抜いてきたチームである以上は禁物だ。

 ドイツのガンプラは以前のバトルで出たガンダムZZフォートレス、ガンダムヘビーアームズ、ガンダムレオパルトデストロイ、ガンダムサバーニャ、漏影の他にローエングリンランチャーを装備したアストレイブルーフレームセカンドL、下半身をオービタルの物に替えたガンダムAGE-3 フォートレス、両肩にアビスのシールドを装備したカオスガンダム、ビームと実弾の2種類のカートリッチをつけているNGNバズーカと両肩にGNシールドと増加粒子タンクを装備したジンクスⅢ、ガンダム試作2号機で編成されている。

 

「……来るぞ!」

 

 バトルが開始されると同時にコロニーとコロニーの間で一瞬光ものを見つけたヘルマが仲間に警告を出すが、遅くレオパルドデストロイの上半身が吹き飛ぶ。

 ドイツ代表は浮足立つことなくすぐさま散開するが、ブルーフレームセカンドLの右半分とガンダム試作2号機のシールドが吹き飛ぶ。

 

「狙撃か。向こうにはこの距離で正確に狙えるスナイパーがいるのか」

 

 日本代表は流れを引き込むためにバトル開始早々に千鶴のガンダムグシオンリベイクフルシティシューティングスターによる狙撃で先手を取った。

 千鶴の狙撃のすぐあとに珠樹のウイングガンダムゼロエトワールのツインバスターライフルの最大出力のビームがドイツ代表チームを襲う。

 手負いにセカンドLと試作2号機はよけきれずにビームに飲み込まれた。

 

「開始早々3機もやられたか。やるじゃないか日本代表も」

「どうする?」

 

 日本の先手でドイツは3機撃墜されている。

 幸いにも撃墜された3機の中にフラッグ機はいない。

 

「あの火力と狙撃だ。下手に集まっていれば砲撃で散らされて確固に狙い打たれるか……火力の主は藤代珠樹のゼロカスタムだろう。ゼロカスタムは私がやる。フリッツは後方で待機し狙撃支援だ。間違っても連中の狙撃兵と張り合おうとするなよ。狙撃の腕では間違いなくお前よりも上だ」

 

 先手を取られたものの、ヘルマに動揺はない。

 元々いくつかの策を考えており、その中に相手に先手を取られて自軍の戦力を削られることも考えている。

 

「各自散開して敵の戦力を分散させろ」

 

 纏まっていては珠樹のウイングガンダムゼロエトワールの砲撃と千鶴のグシオンシューティングスターの良い的になる。

 それを避けるためにヘルマはあえて散開して敵の戦力を分散させることにした。

 

「だが、相手の数次第では無理に単騎では戦うな。常に狙撃と砲撃に注意しつつ友軍とすぐにでも合流できるように位置を把握しろ」

 

 ヘルマの指示が終わると、ドイツ代表はすぐさま行動に入る。

 それを確認したヘルマは足を止めると全てのハイメガキャノンを同時に発射する。

 

「敵3機撃破」

「終わんないってことは全部外れかぁ……ちーちゃん。ZZは仕留めてないよね?」

「ZZは狙い辛い場所にいましたから」

 

 日本代表の初手の狙撃は上手く行った。

 それでバトルが終わってくれればよかったがそこまで上手くはいかない。

 狙撃前に貴音はヘルマのZZフォートレスは自分でリベンジするから狙うなと言い。千鶴もヘルマは位置的に狙いづらいこともあり初手の狙撃では狙わなかった。

 最初は予定通りに行き、一息つく間もなくZZフォートレスのビームが飛んでくる。

 ビームは狙撃してきた方向を狙っており、すでに千鶴も移動しているため、射線上のコロニーを破壊するだけに留まった。

 

「うぁ相変わらずの出鱈目な火力してるな」

「でも当たらなければどうということはない。皆、作戦通りによろしく」

 

 ZZフォートレスの火力は以前にも見ているが、何度見ても恐ろしいが以前のように何の策もない訳ではない。

 

「了解、千鶴にはビーム一つ掠らせないからな」

 

 諒真のガンダムデュナメスXペストが足を止めてGNシールドビットを展開して千鶴を守るようにする。

 

「行くぞ。ダイモン」

「あいよ」

 

 光一郎のガンダムAGE-2 マッハはストライダー形態に変形すると源之助の闘魂デュエルを載せて加速する。

 

「部長! 俺たちも負けてられませんよ!」

「神君、競争じゃないんだからね」

 

 龍牙のバーニングドラゴンデスティニーと史郎のガンダムAGE-3 オリジンも2機で離れていく。

 

「俺たちもいくぞ」

「了解っす」

 

 右京のガンダムX斬月とレオのネビュラアストレイも加速する。

 日本代表は以前のバトルでヘルマ以外は単騎で挑んでも決して勝てない相手ではないことは分かっている。

 初手の狙撃に成功すれば向こうは砲撃と狙撃を警戒して戦力を分散させる可能性が高いよ読み、各個撃破を狙っている。

 それぞれが日本代表メンバーになる前からのチームメイトであるため、連携も容易で集まって戦闘をすればZZフォートレスの火力で一掃されないようにするためでもある。

 

「みんな気合十分だね。まぁ私もなんだけどね!」

「さっきのビームは炙り出しと同時に誘ってる」

「なら、お誘いに乗らない手はないよね」

 

 コロニーを破壊するほどの火力を出せるのはドイツ代表の中でもヘルマくらいだ。

 あの砲撃は狙撃手への攻撃の他に大火力による脅し、そして自分の位置を教えることで挑発しているのだろう。

 珠樹は以前のバトルで負けたことを根に持っているため、今回のバトルでヘルマは絶対に自分が倒すと息巻いている。

 

「はじめからそのつもり」

「よっしゃ! なら藤代姉妹の真の実力を見せに行くわよ!」

 

 貴音のガンダムキマリストライデントは一気に加速し、珠樹のウイングガンダムゼロエトワールもそれに続く。

 すぐに千鶴も次の狙撃ポイントに移動し、諒真がその護衛につく。

 今回のバトルのフラッグ機は千鶴のグシオンシューティングスターとしているため、万が一にも敵と遭遇したときに単騎では厳しいと麗子は判断した。

 諒真のデュナメスXペストもGNロングキャノンがあるため、後方での支援を行っても不自然にはならない。

 日本の先制攻撃から始まり、日本とドイツは本格的に交戦が開始される。

 

 

 

 

 双方の一手から少し時間が経つと日本とドイツのガンプラが本格的に交戦を始める。

 最初に敵と遭遇したのはストライダー形態で先陣を切ったガンダムAGE-2 マッハと闘魂デュエルの2機で向こうも先行してきたAGE-3 フォートレスだ。

 

「AGE-2! 日本のチャンプか!」

 

 AGE-3 フォートレスはシグマシスキャノンを連射してAGE-2 マッハを攻撃する。

 AGE-2 マッハは闘魂デュエルを下ろして加速してかわす。

 

「ちっ!」

 

 AGE-3 フォートレスは砲撃を中止してAGE-2 マッハを追うもストライダー形態のAGE-2 マッハには追い付けない。

 

「俺を忘れてもらっては困るな」

 

 闘魂デュエルがビームライフルを撃ちながらミサイルを撃つ。

 AGE-3 フォートレスはシグマシスキャノンでミサイルを迎撃する。

 

「こっちがお留守だぞ」

 

 ミサイルを迎撃している間にAGE-2 マッハはMS形態に変形するとハイパードッズランサーをランスモードに切り替えて接近していた。

 AGE-2 マッハの一撃はAGE-3 フォートレスの左肩に突き刺さる。

 そのまま、AGE-3 フォートレスの左腕ごと引きちぎると、左腕の装甲からビームサーベルを出す。

 

「コイツで終わりだ」

「ダイモン!」

 

 AGE-3 フォートレスにとどめを刺そうとするが、源之助の言葉で光一郎はすぐさま回避行動をとる。

 すると、高出力のビームがAGE-2 マッハを襲う。

 

「増援か?」

「ああ。そのようだ」

 

 AGE-2 マッハは周囲から飛んでくるビームをかわしながら闘魂デュエルを合流する。

 

「ずいぶんとやられたな」

「ああ……日本のチャンプも伊達じゃなかったぜ」

 

 カオスはAGE-2 マッハを攻撃していた機動兵装ポッドを改修すると両肩のアビスのシールドを広げると3連装ビーム砲を撃つ。

 AGE-2 マッハはストライダー形態に変形してビームをかわしながらドッズガンを撃ちながら突撃する。

 カオスとAGE-3 フォートレスは火力をAGE-2 マッハに集中する。

 

「狙いは俺か……けどその程度の砲撃など!」

 

 AGE-2 マッハはビームをかわしながら反転する。

 

「ダインスレイヴの雨に比べたらな! 全部避けてやるよ!」

 

 砲撃をかわしながらAGE-2 マッハはカオスの横を抜けるとAGE-3 フォートレスに向かう。

 

「狙いは手負いの俺か!」

 

 AGE-3 フォートレスは残る右腕と右肩のシグマシスキャノンで迎撃するが、頭部に闘魂デュエルのグレネードランチャーが直撃して体制を崩す。

 

「ナイスだ。ゴウキ!」

 

 AGE-2 マッハはハイパードッズランサーのランスモードでAGE-3 フォートレスの胴体を貫く。

 

「ちぃ! ならお前だけでも!」

 

 AGE-3 フォートレスを貫いたAGE-2 マッハにカオスが3連装ビーム砲を向ける。

 

「後ろを取ったところで!」

 

 AGE-2 マッハはAGE-3 フォートレスを突き刺したまま、背部のツインドッズキャノンを後方に向けて撃つ。

 ビームはカオスの両肩を撃ちぬく。

 

「何ぃぃぃ!」

「ゴウキ!」

「ああ! 分かってる」

 

 両肩を撃ちぬかれたカオスの背後にはすでに闘魂デュエルが回り込んでおり、闘魂デュエルはビームサーベルをカオスの後ろから突き刺す。

 AGE-2 マッハと闘魂デュエルはそれぞれの武器を相手から抜くとAGE-3 フォートレスとカオスは爆散する。

 

「どっちも外れか」

「落ち込んでいる暇はないぞ。俺たちはこのまま後方のスナイパーを叩く」

「了解」

 

 AGE-2 マッハはストライダー形態に変形すると闘魂デュエルを乗せて加速する。

 

 

 

 

 

 

 

 光一郎たちが接敵した事で増援に向かおうとしていたジンクスⅢを龍牙達が補足し、史郎のAGE-3 オリジンがダブルシグマシスライフルで足を止めさせるとバーニングドラゴンデスティニーが炎の翼を展開して突撃する。

 

「仲間のところにはいかせない!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーのビームナックルをジンクスⅢはGNフィールドを使って受け流すとNGNバズーカの粒子ビームを撃ち込む。

 それをバーニングドラゴンデスティニーはビームシールドで防ぐ。

 

「GNフィールドか……」

「邪魔だ!」

 

 ジンクスⅢはNGNバズーカを今度は実弾にして連射する。

 その間に友軍と合流しようと試みるがAGE-3 オリジンがバックパックのミサイルを一斉掃射してGNバルカンで応戦する。

 

「お前の相手は俺たちだ!」

 

 再度、バーニングドラゴンデスティニーは加速してビームナックルで突撃する。

 ビームナックルをGNフィールドで防ぐとジンクスⅢは左手でGNビームサーベルを抜きながら切りかかる。

 GNビームサーベルを少し後ろに引いてかわしたバーニングドラゴンデスティニーはジンクスⅢの左手を蹴り飛ばしてGNビームサーベルを手放ささせる。

 

「ちぃ!」

 

 だが、ジンクスⅢも怯むこともなく、NGNバズーカのビームを至近距離からバーニングドラゴンデスティニーに打ち込み、それをギリギリのところで腕でガードする。

 

「流石に一筋縄にはいかないか……」

「神君!」

 

 AGE-3 オリジンがダブルシグマシスライフルでけん制を入れる。

 ジンクスⅢはかわしながらNGNバズーカを実弾モードで撃つ。

 その内の1発がAGE-3 オリジンの頭部を吹き飛ばし、体勢を崩したところを狙うが、バーニングドラゴンデスティニーが突っ込む。

 

「部長をやらせるか!」

「殴ることしかできない奴が!」

 

 ジンクスⅢがNGNバズーカを向けるが、撃つ前に後方に控えていた千鶴のグシオンシューティングスターの狙撃でNGNバズーカが吹き飛ぶ。

 

「何!」

「うぉぉぉぉ!」

 

 その隙にバーニングドラゴンデスティニーは最大出力で炎の翼を展開して突っ込む。

 ジンクスⅢはGNフィールドを張って守る。

 バーニングドラゴンデスティニーのビームナックルがGNフィールドに直撃する。

 

「俺はバトルに勝って先に進む! だからこんなところで立ち止まる訳にもいかないんだ! その先にはもっと固い壁がある! だから!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーの炎の翼が更に広がる。

 次第にジンクスⅢのGNフィールドが押されていく。

 

「アンタのGNフィールドすら破れないんじゃ俺の拳はアイツには届かない!」

「馬鹿な!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーのビームナックルはジンクスⅢのGNフィールドを両肩のGNシールドごと粉砕する。

 そして、左手のビームナックルがジンクスⅢの胴体を撃ちぬく。

 

「近くに敵影はなしか……神君。後方にも敵ガンプラが向かったみたい。僕たちはそっちの援護に向かうよ」

「分かりました!」

 

 ジンクスⅢをしとめたバーニングドラゴンデスティニーはAGE-3 オリジンとともに後方に向かっていく。

 同時刻、日本のガンプラと遭遇することのなかった漏影が後方から狙撃支援を行っている千鶴と諒真と交戦していた。

 漏洩は2丁のアサルトライフルでグシオンシューティングスターを狙うも、デュナメスXペストのGNシールドビットに阻まれる。

 

「そう簡単に内の妹に手を出せると思ったら大間違いだよ」

 

 デュナメスXペストはGNソードⅡのライフルモードで漏影にけん制射撃を入れる。

 

「コイツの狙撃は厄介だというのに!」

 

 デュナメスXペストのGNミサイルを撃ち落とすがその隙にデュナメスXペストは回り込んでおり、GNソードⅡのソードモードでアサルトライフルごと左腕を切り落とされる。

 

「これ以上、単機で戦うのは厳しいか……」

 

 漏影はアサルトライフルを撃ちながら後退を始める。

 

「逃げるようだけど先に落としておく?」

「その必要はないだろ」

 

 デュナメスXペストは追撃することはなく、肩のGNロングキャノンを後退する漏影に撃つ。

 

「その先には逃げ場はないからな」

 

 諒真の攻撃により漏影は後方の援護に来た龍牙と史郎の方に誘導されていた。

 

「手負いの相手を狙うのは気が引けるけど、アンタがフラッグ機かもしれないんだ。仕留めさせて貰う」

 

 バーニングドラゴンデスティニーは炎の翼を展開する。

 漏影はアサルトライフルを向けるが、下に回り込んでいたAGE-3 オリジンがダブルシグマシスライフルとバックパックのドッズキャノンを連射する。

 それを回避していた漏影にバーニングドラゴンデスティニーは突っ込む。

 

「かわしき……」

 

 バーニングドラゴンデスティニーのビームナックルが漏影の胴体にぶち込まれて漏影は撃墜される。

 戦場の至る所で日本とドイツのガンプラが交戦する中、ドイツのガンプラの中でも宇宙での機動力の低いヘビーアムズ改がレオと右京と交戦を始めてた。

 ヘビーアームズ改は動き回らずに全身の火器を使って弾幕を張って対処している。

 

「大した弾幕だ。これでは近づけん」

「近づかなきゃ元隊長は何もできないでしょ」

「言ってくれる」

 

 ガンダムX斬月は大太刀を構えるとヘビーアームズ改に突撃していく。

 ネビュラアストレイはドラグーンを展開するとガンダムX斬月に向かってくるミサイルを迎撃する。

 迎撃されたミサイルの爆風からガンダムX斬月は飛び出すと大太刀を振るい、ヘビーアームズ改の右腕を切り落とす。

 体勢を崩したヘビーアームズ改を四方からドラグーンの攻撃が襲う。

 

「させるか!」

 

 ヘビーアームズ改はビームの直撃を受けながらも弾幕を張ってドラグーンを落としていく。

 

「その重装備じゃ地上の時のようには動けないようだな。でもってまともに弾幕の張れないお前はただの的だ」

 

 ネビュラアストレイはレールバズーカをヘビーアームズ改に打ち込む。

 数発撃ち込んだところでヘビーアームズ改は完全に撃破された。

 

「とは言えその装甲は厄介だったよ。ドラグーンもバズーカの弾も結構使ったしな」

「まだやれるなら他のところに援護に向かうぞ」

「了解」

 

 ネビュラアストレイは残ったドラグーンを回収するとガンダムX斬月とともにその場を離れる。

 

 

 

 

 

 日本の作戦がうまく決まる中、ガンダムZZフォートレスはその火力を発揮している。

 しかし、貴音のキマリス・トライデントもその機動力を活かしてガンダムZZフォートレスの攻撃を掻い潜っている。

 

「宇宙なら地上のようにはいかないのよね!」

「相変わらず素早い」

 

 ガンダムZZフォートレスは指のビーム砲を撃ちながらインコムを射出してキマリス・トライデントを囲もうとするが、一気に加速して囲ませない。

 そこに後方から珠樹のウイングゼロエトワールがツインバスターライフルでインコムを一掃しながらガンダムZZフォートレスを攻撃する。

 

「今日は姉の方も一緒か」

「この前の借りは百億万倍にして返してあげる!」

 

 キマリス・トライデントは3つの槍の火器を撃ちながら突撃する。

 ガンダムZZフォートレスも肩のハイパービームガトリングキャノンで応戦する。

 

「おっと!」

「ちょこまかと逃げ回っていては勝てんぞ」

「それはどうかな!」

 

 キマリス・トライデントを狙っている間にウイングゼロエトワールが接近しており、ツインバスターライフルを振るい下部についている実体剣で攻撃するが、腕部のダブルメガキャノンの砲身で受け止める。

 

「私を忘れてる」

「あの時の借りは藤代姉妹で返すわ!」

「気持ちだけで遠慮させて貰おう」

 

 ガンダムZZフォートレスは全身の機銃を使ってウイングゼロエトワールを引き離す。

 ウイングゼロエトワールはウイングバインダーで全身を守りながら後退する。

 

「全身の火器は厄介」

 

 ある程度距離を取ったところでウイングゼロエトワールはツインバスターライフルを撃ち、ガンダムZZフォートレスはかわしながらサイドアーマーのビームキャノンと脚部のガトリング砲でけん制する。

 

「何とかならないの? お姉ちゃん」

「火力自体はどうにもならない。だけどあのZZには防御系の機能はない」

「つまりはガンガン押せ押せで行くってわけね」

 

 珠樹はこくりとうなずくとキマリス・トライデントは加速して突撃する。

 

「臆せずに来るか」

「当然! ウチのママのシゴキより怖い物なんてこの世にはないからね!」

「ならば地獄を見せてやろう」

 

 突撃してくるキマリス・トライデントに全6門のハイメガキャノンを撃つ。

 キマリス・トライデントはその攻撃を回避するとビームは後方のコロニーに直撃し、コロニーの外壁に穴をあける。

 

「残念!」

「でもないさ」

 

 ガンダムZZフォートレスはキマリス・トライデントの突撃をかわすと外壁に穴の開いたコロニーの方に向かっていく。

 

「逃げんな!」

 

 キマリス・トライデントはすぐさま追撃し、ガンダムZZフォートレスは後ろにレールガンを撃ってキマリス・トライデントの追撃を少しでも遅らせる。

 

「迂闊に追っちゃダメ」

 

 珠樹は貴音を止めようとするが、貴音は聞かずにガンダムZZフォートレスを追いかける。

 貴音一人を行かすのは危険と判断して珠樹も追いかけようとするが、後方に控えていたサバーニャの狙撃で邪魔をされる。

 

「邪魔」

 

 ウイングゼロエトワールは飛んでくる粒子ビームの方にツインバスターライフルを撃ち込む。

 当たった手ごたえはないが、向こうもこれ以上の攻撃は自分の位置を晒しかねないと判断したのか狙撃は止む。

 そして、その間にキマリス・トライデントの追撃に何とか追いつかれずにガンダムZZフォートレスは空いた穴からコロニーの内部に入り、キマリス・トライデントも追いかける。

 

「ありゃ?」

 

 中に入り少し進むとそこは行き止まりだった。

 

「これ不味くない?」

 

 貴音は自分の置かれた状況を把握すると軽口も叩かずにすぐにどうすべきか考える。

 目の前は行き止まりでそこにガンダムZZフォートレスの姿はない。

 ここまで来るのは一本道で道を間違えたということはない。

 おそらくどこかに身を隠してキマリス・トライデントをやり過ごしたのだろう。

 貴音は自分が追いかけているという優位感からそれを見過ごして来たのだろう。

 そのままガンダムZZフォートレスはキマリス・トライデントをやり過ごして逃げてくれれば良かったが、そこまでヘルマは甘い相手ではない。

 

「そうでもない。私にとってはな」

「そりゃね」

 

 キマリス・トライデントの背後にはガンダムZZフォートレスが立っていた。

 貴音にとっては最悪の状況だ。

 ガンダムZZフォートレスの大火力は開けた空間ならば避けることは可能だが、閉鎖空間でかわすのは不可能に近い。

 

「このままぶっぱしてもそっちにもダメージがあるかもしれないし、ここは痛み分けってことにしない?」

「お前が自爆でもして自分がフラッグ機ではないと証明したのであれば見逃してやろう」

「ですよねー」

 

 貴音は覚悟を決めてガンダムZZフォートレスと対峙する。

 ガンダムZZフォートレスは全身の火器をフルパワーで発射する。

 その火力は内部からコロニーを完全に破壊する程だ。

 

「……たかが1機を仕留めるのにやり過ぎたな」

 

 破壊されたコロニーの残骸が漂う中、ヘルマは自分のガンプラの状態を確認する。

 コロニーを破壊する程の砲撃を行ったことでエネルギーゲージが半分を切っている。

 

「私にしては熱くなり過ぎたか……らしくないな」

 

 消費したエネルギーは時間を使えば回復するが、問題はそこではない。

 相手がフラッグ機かもしれないとは言え1機をしとめるのにここまでのエネルギーを使う必要もなかった。

 貴音の勢いに乗せられたのか、ヘルマ自身自分で思っている以上に熱くなっていたようだ。

 

「これも経験か……ならばその経験を次に繋げればいい」

「次なんてあるわけないっての!」

 

 突然の声にヘルマはそっさにその場を離れるとキマリス・トライデントのデストロイヤーランスがコロニーの残骸に突き刺さる。

 

「生きていたのか!」

「当然!」

 

 ガンダムZZフォートレスの砲撃をキマリス・トライデントは何とか致命傷を避けていた。

 それでも無傷とはいかなかず、ところどころにビームで装甲が焼かれ内部フレームがむき出しとなっている。

 

「藤代姉妹はしつこいのよ!」

「ならば今度こそ跡形もなく吹き飛ばしてくれる!」

 

 ガンダムZZフォートレスはキマリス・トライデントに全砲門を向ける。

 キマリス・トライデントもコロニーの残骸を避けながら右手にはグングニルと左手にはドリルランスを持って突撃する。

 

「捉えた!」

「こっちがね!」

 

 ガンダムZZフォートレスが砲撃をしようとしたが、その前にキマリス・トライデントの背後の残骸が吹き飛ぶとキマリス・トライデントの横っ腹を2発の弾丸が掠めてガンダムZZフォートレスの両腕が肩から吹き飛んだ。

 

「何だと!」

「藤代姉妹にはもう一人の妹(仮)がいるのよ!」

 

 ガンダムZZフォートレスの両腕を吹き飛ばしたのは後方に控えていた千鶴のグシオンシューティングスターだった。

 一発目で邪魔な残骸を吹き飛ばして、残りの2発でガンダムZZフォートレスの両腕を吹き飛ばしたのだった。

 キマリス・トライデントも上手く射線を合わせるように残骸を避けていた。

 

「しかし!」

 

 不意打ちの狙撃で両腕を失ったもののガンダムZZフォートレスの火力はガンプラ1機を葬るのに十分だ。

 額と腹部、脚部の4門のハイメガキャノンをキマリス・トライデントに撃ち込む。

 キマリス・トライデントは構わず突っ込む。

 ビームがキマリス・トライデントの頭部、右腕、左足を吹き飛ばすが止まらない。

 

「コイツで!」

 

 バックパックに固定されているシールドで身を守りながら突撃するが、ガンダムZZフォートレスのレールガンの直撃で右側のシールドが吹き飛ぶ。

 それでもなお、キマリス・トライデントは止まらず、ガンダムZZフォートレスの脚部のガトリング砲の集中砲火で装甲にダメージを負いながらも距離を詰めてドリスランスを突き出す。

 

「まだだ!」

 

 ドリスランスの突きをギリギリのところで回避するがキマリス・トライデントとガンダムZZフォートレスは正面から激突する。

 

「っ!」

「消し飛べ!」

 

 至近距離から腹部のハイメガキャノンを撃とうとするも、腹部にキマリス・トライデントのドリルニーが突き刺さる。

 

「そっちがね!」

 

 ドリルニーが突き刺さったまま折れるが、キマリス・トライデントはドリスランスを逆手に持ち替える。

 ドリスランスが高速で回転を始めてガンダムZZフォートレスの胴体目掛けて振り落とされる。

 それに対してガンダムZZフォートレスは退くことなく前に出る。

 ドリルランスはガンダムZZフォートレスのバックパックを抉り突き刺さり、ガンダムZZフォートレスはキマリス・トライデントにぶつかる。

 

「しぶとい!」

「負ける気はないんでな!」

 

 キマリス・トライデントは左のサイドスラスターのキマリスサーベルを持つとサイドスラスターがスライドしてキマリスサーベルを抜く。

 逆手で抜いたため、そのままでは使い辛いが持ち替える間も惜しく、逆手で握ったままでキマリスサーベルの柄でガンダムZZフォートレスの横っ腹を殴りつけた。

 その一撃で2機の間に距離が生まれ、ガンダムZZフォートレスは額のハイメガキャノンをキマリス・トライデントに向ける。

 ハイメガキャノンを撃つ前にキマリスサーベルを持ち替えて頭部目掛けて振るう。

 キマリスサーベルはガンダムZZフォートレスの首に直撃し、首が損傷してメインカメラから光が失われた。

 

「ちぃ!」

 

 ガンダムZZフォートレスはキマリス・トライデントを蹴り飛ばそうとするが、左腕のコンバットナイフを展開して脚部のハイメガキャノンに突き刺す。

 同時に左肩のミサイルを至近距離からガンダムZZフォートレスに撃ち込む。

 その爆発でキマリス・トライデントのコンバットナイフは折れてガンダムZZフォートレスから離れていく。

 距離が生まれたことでガンダムZZフォートレスは脚部のガトリング砲でキマリス・トライデントに集中砲火を浴びせる。

 もはやまともに回避することも出来ず、ガトリング砲の直撃を受けてキマリス・トライデントの装甲は破壊され内部フレームにもダメージを受けるが完全に破壊される前にガトリング砲の残弾が尽きた。

 

「球切れか! ならば!」

 

 ガンダムZZフォートレスは残っている左足のハイメガキャノンをキマリス・トライデントに向ける。

 

「……流石にここまでか……でも勝ったのは私たちでしょ? お姉ちゃん!」

「うん」

 

 ハイメガキャノンを撃つ前にガンダムZZフォートレスの上からビームが飛んで来て飲み込まれた。

 

「何!」

「言ったでしょ。藤代姉妹で借りを返すって熱くなりすぎて私にしか注意が向いてなかったでしょ?」

 

 ビームはウイングゼロエトワールのツインバスターライフルから放たれた物だった。

 貴音がヘルマと交戦し可能な限り消耗させて、珠樹はこのチャンスまで手を出さずに待っていた。

 貴音の指摘通り、ヘルマは貴音との戦いに集中し過ぎたせいで珠樹の存在を今の今まで忘れていた。

 完全な不意打ちで回避しきれずビームの直撃を受けてガンダムZZフォートレスは跡形もなく吹き飛ばされた。

 

「ふぅ……何とかなったけど、まだ終わんないよ?」

「当然。エースは敵と激しく交戦する可能性がある。フラッグ機はしない」

「それもそっかエース機とフラッグ機を同じにするとかよほどの馬鹿が自分の実力に自身がないとやらないわよね」

 

 ヘルマのガンダムZZフォートレスは仕留めたがバトルは終わらない。

 ドイツのフラッグ機はガンダムZZフォートレスではなかったということだ。

 ドイツもエースであるヘルマが敵と交戦し最悪撃墜されたことを考えてフラッグ機にはしていなかった。

 残るドイツのガンプラは後方で狙撃支援をしていたガンダムサバーニャのみで自動的にサバーニャがドイツのフラッグ機ということになる。

 

「ヘルマもやられたのか! 残るは俺一人……どうする? どいつを狙う……」

 

 コックピット内でフリッツはモニターに映る日本代表のガンプラの中から自分が狙う相手を考えている。

 すでに味方は全滅している。

 ドイツに残された逆転の手段はフラッグ機を狙撃で仕留めることだ。

 フラッグ機さえ仕留めてしまえば残りのガンプラの数は関係なく勝てる。

 だが、問題はどれがフラッグ機かだ。

 狙撃で仕留めるにしても何機も落とせるとは思えない。

 撃てば撃つほど自分の位置を向こうに教えて敵が集まってくる。

 そうなれば勝ち目はない。

 そのため、最初の一撃でフラッグ機を仕留める必要がある。

 

「ちくしょう! 敵が近づいてきてる!」

 

 モニターの端に闘魂デュエルを載せたガンダムAGE-2 マッハが見える。

 このままでは捕捉されるのも時間の問題でそうなればドイツに勝ち目はない。

 

「AGE-2は日本のチャンプだったよな。なら一か八か……」

 

 フリッツは賭けに出る。

 光一郎は日本のランキングのトップだ。

 フラッグ機である可能性は十分にあり得るかもしれない。

 サバーニャはGNスナイパーライフルをAGE-2 マッハに向ける。

 しかし、引き金を引くよりも早く、周囲に展開していたGNホルスタービットが撃ちぬかれる。

 

「何だ!」

 

 GNホルスタービットが破壊された衝撃で飛び出たところをGNスナイパーライフルが右腕ごと撃ちぬかれて体勢を崩したところに胴体に弾丸がぶち込まれた。

 フリッツが狙いをAGE-2 マッハに向けた瞬間にグシオンシューティングスターが狙撃したのだ。

 サバーニャが撃墜されたことでドイツは全滅しフラッグ機も撃墜されてバトルは日本代表チームの勝利となった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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ベスト4

 

 

 

 日本VSロシアのバトルは開始前はロシアの方が優勢に思われたが蓋を開けて見れば日本の圧勝に終わった。

 それにより準決勝第一試合はアメリカVS日本となる。

 

「まさかロシアがこうもあっさりと負けるとはね」

「日本の策がうまくハマったからな。初手の狙撃で数を減らし、長距離砲撃で散らして各個撃破。ロシアの連中も多数との戦いには長けているから乗ってくると読んだうえで立ててんだろ」

 

 大我はこのバトルをそう分析する。

 日本は最初に千鶴の狙撃と珠樹の砲撃で固まっていては狙撃と砲撃で一網打尽にされると警戒させた。

 散開すると各個撃破の危険性もあるが、ロシアのガンプラは火力と機動力が高いため、そうなっても切り抜けられる自信があることも想定に入れても策だ。

 

「初手の狙撃の精度があってこそだな」

 

 ただ遠距離から撃つだけでは脅威として印象付けることはできない。

 千鶴の正確な狙撃能力があってこそだろう。

 

「まぁどんなに正確な狙撃でも完全に見切って避けてしまえば関係ないけどな」

「いや無理でしょ」

「俺はできた」

 

 クロエの突っ込みに大我は当たり前のように返すが、バトル開始早々に相手の位置も分からない状態からの正確な狙撃に対処できるファイターはGBNにもそうはいない。

 

「他の代表メンバーの情報もある程度は集めたけど、大我。君の意見も聞きたい」

 

 すでにルークはドイツが敗れることも想定して日本代表チームの個々のバトルデータをある程度集めている。

 その情報の他にも日本代表チームの多くは大我との関わりもあるため、実際に関わりのある大我の意見は重要な情報だった。

 レオの関してはかつては同じチームにいたため、ある程度は手の内は分かっている。

 

「まずチームリーダーの珠ちゃんは見た目は愛くるしいけど、鬼畜の血が流れているだけあって面倒だ」

 

 大我の実の姉であるということは同じ血が流れているということは誰も突っ込むことはない。

 大我の言う面倒というところを具体的にして欲しいが、過去の戦闘データでは相手の行動を読んで先手を打つことを得意としているというのは分かる。

 

「姉ちゃんはウザい」

 

 あまりに端的だが、バトル中には口数は多く過去の戦闘ログでも大我とのバトルでは口論に近いやり取りも多い。

 その時に会話からも勢いに乗せては危険な相手だ。

 

「如月は射撃一辺倒だ」

 

 千鶴は前に出ることはほとんどなく射撃能力に特化している。

 近接戦闘においては世界大会出場レベルで考えれば脅威とは言えないが、それを差し引いても射撃能力は今大会ではトップレベルだ。

 

「ダイモンは日本で戦った時は中々楽しめた」

 

 ダイモンこと光一郎は日本のランキングトップでキングの名に相応しい実力もあり、アメリカ代表でも大我以外では苦戦するとルークは見ている。

 

「ゴウキは直接戦うことはなかったが、ダイモンの金魚の糞みたいなもんだろ」

 

 光一郎のようなエースの影に隠れて目立たないが、光一郎に合わせるだけの実力は持っているのだろう。

 

「コジロウともまともに戦った事はないが、接近戦ならダイモン以上らしい」

 

 右京とは全国大会では直接戦わず、予選で軽く戦っただけだが、大太刀による接近戦は厄介だ。

 

「諒ちゃんはいつも涼しい顔して本気を出さない自分がかっこいいと思ってる節がある」

 

 諒真は常に余裕を持ち、冷静に戦える分熱くなって思わぬミスはしないが、ここぞというときに実力以上を発揮することもないのだろう。

 

「沖田は自己主張はしないくせにいいところにいる」

 

 全国大会では目立たなかったが、バトル中の位置取りは上手く、余り主張しなかったが、ある程度の数がそろったバトルでは高い実力のエースだけでではなく、史郎のようなサポートに長けた相手がいると厄介で監督の麗子もそんな史郎の特徴を見逃さずに伸ばしてきているだろう。

 

「デスティニーの奴は知らん」

 

 相手チームの中で大我が唯一よく知らない相手が龍牙だが、ルークの手元にある資料では龍牙は大我と同じチームで全国大会に出ている。

 それでも大我が知らないというのであれば、その時点では大我が一々覚えるほどの相手ではなかったということだ。

 それがここまでの実力にまで成長したということは相手チームの中で成長性が飛びぬけているということだ。

 

「まぁ俺が知るのはこんなものだ」

「分かった。参考になったよ」

 

 大我の主観が入りすぎて参考になるかは定かではないが、大我との付き合いの長いルークにはそれで十分のようだった。

 

「明後日のバトルまでに作戦は考えておく。リヴィエール、大我のバルバトスの改修作業は間に合うか?」

「よゆーよゆー。明日一日あれば十分間に合うわ」

 

 リヴィエールはルークの方を見向きもせずに返す。

 改修作業の方はリヴィエールに任せておけばバトルまでには間に合わせて来るだろう。

 

「大我は明日一日は出歩かないように」

 

 大我が無意味に出歩けば余計なトラブルを起こしかねない。

 明後日の日本戦は気を抜けない以上は大我には出歩かずに大人しくしていてもらった方が良い。

 

「分かってる。明日はギリシャがバトルするからな」

 

 大我も決勝で当たる可能性の高いギリシャのバトルを見たいため、出歩く気はないようだ。

 理由はどうであれ無用なトラブルさえ起こさなければ構わない。

 

「他も日本はもはや弱小チームじゃない。決勝戦を前に油断はできないよ」

 

 アメリカ代表メンバーはそれぞれ頷く。

 今更、日本を弱小国として見下す者はいない。

 それぞれがバトルのない明日一日に何をして過ごすかを考えながらその日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アメリカと日本が準決勝進出を決めた次の日はベスト4の残りの2枠をかけてのバトルが行われる。

 午前中にはイギリスとインドのバトルは順当にイギリスが圧勝した。

 午後からは優勝候補の本命ギリシャとフィンランドのバトルが行われる予定だ。

 

「ふぅ……」

 

 龍牙は空いている筐体でGBNにログインして明日のアメリカ戦に向けて練習を行っている。

 強敵であるドイツに圧勝して勢いはあるが、一息つく龍牙の表情は険しい。

 

「明日の準決勝を前にずいぶんと調子が良さそうね」

「……カティア。良いのか? こんなところにいて」

 

 一息ついたタイミングでカティアが声をかけて来る。

 決勝トーナメントで戦うという約束はロシアがアメリカに敗退した事で果たされることなくなり、龍牙も少しバツを悪そうにしているが、カティアは気にした様子はない。

 

「良いのよ。ウチのスポンサーも私たちが負けると早々に帰っていったしね」

「……そっか」

 

 龍牙はどう反応すべきか分からない。

 ロシア代表チームのスポンサーをしていた槙島グループはロシアの敗退と同時に引き上げて行っている。

 恐らくはロシア代表との契約も打ち切られているのだろう。

 

「だから、私がどこで何をしようと誰も文句は言われないわ。例え貴方とバトルをしたとしてもね」

「え?」

 

 以外な言葉に龍牙は驚き、カティアは少し照れているのか視線をそらしていたが、すぐにいつも通りに戻る。

 

「今大会においてギリシャのGセルフとアメリカのバルバトス。その2機の性能は大会参加者のガンプラの中では段違いよ」

 

 大我のガンダムオメガバルバトス・アステールとアルゴスのGバジレウス。

 この2機は誰の目から見ても圧倒的な性能を持っている事は改めて言われるまでもない。

 

「今のままでは日本が明日のアメリカ戦に勝つことは不可能よ」

 

 カティアはそう言い切る。

 今も麗子や珠樹たちは明日のアメリカ戦で大我を攻略するための作戦を考えている。

 それでも早々に名案は出ることもなく、作戦会議に参加していない代表メンバーはそれぞれで最後まで練習を続けて少しでも勝算を高めようとしている。

 龍牙の表情が険しかったのもいくら練習を重ねたところで大我を相手にまともに戦える様子を想像できなかったからだ。

 世界大会に参加した事で龍牙は以前と比べてとんでもない速度で成長を続けてきた。

 始めはこのままいけばいずれは大我を相手に真向から戦えると思っていたが、強くなればなるほど、大我の強さをより感じ取れるようになった。

 

「私たちも内部でゴタゴタがあったけど、チームの全てを出して戦った。それでも届かなかった」

 

 ロシアも全力を出して大我と戦ったが、大我のオメガバルバトス・アステールの性能の前に敗れ去った。

 実際に戦ったからこそ、カティアは今の日本ではアメリカに勝つことは不可能だと。

 現時点で大我と戦えるのはギリシャのアルゴスくらいで、優勝の大本命であるギリシャを相手に勝機があるのはアメリカだけだというのが大会を見ている一般ダイバーの意見だ。

 そのため、決勝までの残りのバトルはアメリカとギリシャが勝ち進むだけの消化試合だと思われている。

 

「だからと言って諦めるようなら世界大会には出てこないわよね」

 

 カティアの言葉に龍牙は黙って頷く。

 どんなに相手が強大だろうとそれを受け入れ勝てないと認めてしまうのであれば世界大会には出るわけもない。

 龍牙も大我と戦い勝つだけでなく、優勝する気でここまで来た。

 それは日本代表の誰もが同じ思いだ。

 だからこそ今日一日で少しでも強くなろうとしている。

 

「けど良いのか? 敵に塩を送るような真似をして?」

「問題はないわ。だって私たちの世界大会はもう終わっているもの。それにアメリカには私たちに勝ったんだから優勝しなさいなんていうつもりもないわ」

 

 今までは龍牙のことも敵視していたが、カティア達の世界大会はアメリカに負けた時点で終わっている。

 龍牙の練習相手になったところで誰に咎められる理由もない。

 

「私の仇を取ってよね。龍牙」

「……ああ!」

 

 カティアの世界大会は終わった。

 だが、まだ龍牙の世界大会は終わってはいない。

 明日のアメリカ戦で終わらせないためにも龍牙はカティアの話を受けることにした。

 その日は夜遅くまで龍牙はカティアとの練習を続けた。

 

 

 

 

 

 午後のギリシャVSフィンランドのバトルは大半が想像していた通りの流れとなった。

 

「いくら優勝候補とはいえ……1機くらいは!」

 

 フィンランド代表チームのジ・Oがビームライフルを撃つ。

 だがビームが当たることはなかった。

 ギリシャのガンプラは宇宙用ジャハナムをベースに改造されたジャハナム・ロコス。

 ベース機から大幅な改造はされていないが、装備がビームライフルから銃身の下部にビームワイヤーの射出口のついたビームマシンガンを持ち、シールドの裏にはビームナギナタを装備し、バックパックにはGセルフの宇宙用バックパックが装備されている。

 ギリシャはジャハナム・ロコスの同型機を4機使い、それぞれにシールドには02から05と書かれている。

 そのジャハナム隊を指揮しているのがセルジオスのジャハナム・ロハゴスだ。

 ジャハナム・ロハゴスはジャハナム・ロコスとは違い宇宙用ジャハナム(クリム・ニック機)がベースになっている。

 本体にはスラスターが頭部にはバルカンが増設され、左腕には01を書かれたジャハナム・ロコスと同じビームナギナタが裏に装備されているシールド。

 手持ちの火器のビームライフルにはグレネードランチャーが増設されている。

 バックパックはGセルフの大気圏内用バックパックをベースにビームジャベリンとミサイルポッドを追加した物が装備されている。

 ビームを回避したジャハナム・ロコスの1機がビームマシンガンを連射してけん制すると、別の1機がビームワイヤーでジ・Oのビームライフルを破壊すると、残る2機がビームナギナタでジ・Oを切り裂き破壊する。

 

「コイツならどうだ!」

 

 ∀ガンダムが月光蝶を展開する。

 

「各機、退避しろ」

 

 セルジオスはすぐに指示を出して、ビームジャベリンを投擲する。

 ビームジャベリンは∀ガンダムの胴体に突き刺さり致命傷にはならなかったが、月光蝶を止めることはできた。

 4機のジャハナム・ロコスがビームマシンガンを向けるが、フィンランドのエルフ・ブルとギャプランがビームを撃ちながら突撃してくる。

 ビームをかわしながらジャハナム・ロコスは散開し、その隙に∀ガンダムは退避する。

 

「逃がさん。2番機と3番機はエルフ・ブルと4番、5番機はギャプランの足を止めろ。俺が∀を叩く」

 

 指示が出るとシールドに02と03と書かれたジャハナム・ロコスはエルフ・ブルにビームマシンガンを連射し、04と05と書かれたジャハナム・ロコスはギャプランを挟み込むように回り込む。

 その間にジャハナム・ロハゴスは加速して∀ガンダムの退路に回り込むとビームライフルを撃つ。

 ∀ガンダムは何とかシールドで防ぐが、シールドにグレネードランチャーを撃ち込み破壊される。

 

「我々は手負いだろうと逃がしはしない。それが我らが陛下の戦いだ」

 

 ジャハナム・ロハゴスは∀ガンダムに接近する。

 ∀ガンダムはビームサーベルを振るい、ジャハナム・ロハゴスはシールドで受け止めると、∀ガンダムに突き刺さっているビームジャベリンを引き抜き、ビームサーベルを持っている右腕を蹴り飛ばして再びビームジャベリンを深々と∀ガンダムに突き刺す。

 交代しながらジャハナム・ロハゴスはバルカンを∀ガンダムに撃ち込みながらバックパックのミサイルも打ち込んで∀ガンダムを撃墜する。

 ∀ガンダムがフラッグ機だったようで∀ガンダムが撃墜されたことでバトルはギリシャ代表チームの勝利となる。

 

「何だよ。結局主力は戦わないのか」

 

 ギリシャとフィンランドのバトルを見ていた大我は内容に不満そうだった。

 バトルの結果は想像通りの結果だが、ギリシャ代表チームのエースであるアルゴスやその姉であるアルドラといったギリシャの主力は後方に控えているだけで戦闘には参加していない。

 フィンランド代表チームは主力のところまではたどり付けなかったのだ。

 

「まぁいい。流石に次はそうもいかないだろうからな」

 

 初戦に勝利したギリシャの次の相手は神槍の異名を持つクリフォードが率いるイギリス代表だ。

 流石のギリシャも主力が戦わずして勝つことはできないだろう。

 ギリシャが勝利した事で準決勝は日本VSアメリカ、イギリスVSギリシャとなりベスト4が出そろった。



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アメリカVS日本

 

 

 

 決勝トーナメント1回戦が終わり、ベスト4が出そろい決勝戦進出を賭けた準決勝第一試合のアメリカVS日本のバトルが始まる。

 大方の予想では圧倒的な戦闘能力を持つ大我のアメリカ代表チームが優勢とされるが、1回戦においても優勢と思われたドイツを下した日本は今大会のダークホースとして注目されている。

 今回のバトルフィールドは小惑星帯でもバトルとなる。

 

「前に出ます!」

 

 バトルが開始されると雷邪、スタークアデル、ハンムラビボードが加速して前に出る。

 すると小惑星の間を縫うように飛んできた弾丸が3機を貫き撃墜する。

 

「リヴィエール!」

「はいはい。位置の大まか特定はできたわよ。大我」

「任された」

 

 狙撃された3機の位置を弾丸の飛んできた方向からリヴィエールはすぐに狙撃者の位置の割り出しを行い、データを大我に送信する。

 リヴィエールのスローネジーニアスのGNサーチフィールドは広範囲の索敵を可能とするが、欠点として無色透明のGN粒子をバトルフィールド全体に散布するまでに時間がかかるということだ。

 日本の開始早々の狙撃に対していち早く狙撃者の位置を特定して対応することは不可能と考え、防げないなら戦力的にやられても問題のない3機を囮として使い相手の位置を割り出す策を取った。

 今回のバトルでオメガバルバトス・アステールは大規模な改修が行われている。

 見た目では背部のレールガンに予備の装備を装備できる武装ラッチが追加されただけだ。

 オメガバルバトス・アステールはレールガンにバーストメイスカスタムをつけるとシド丸の翼を広げると変形を始める。

 脚部を折り曲げ、シド丸の頭部がオメガバルバトス・アステールの頭部を覆うようにかぶさり腕も折り曲げてると鳥のような飛行形態となる。

 新しく追加された変形機能はオメガバルバトス・アステールを長距離を高速で移動する長距離飛行形態バルバード形態だ。

 バルバード形態となったオメガバルバトス・アステールは一気に加速すると狙撃してきた方向に向かう。

 

「こちらの位置は特定されているとして……撃って来た」

 

 狙撃を行ったグシオンシューティングスターの横を高出力のビームが横切る。

 事前の情報でこのクラスの砲撃が行えるのはルークのソルエクシアと大我のオメガバルバトス・アステールの2機でビームの色からオメガバルバトス・アステールだとわかる。

 

「釣れた。でも早い!」

「見つけた。お前の狙撃は厄介だ。早々にぶっ潰させて貰う」

 

 接近したオメガバルバトス・アステールはMS形態に戻るとバーストメイスカスタムを手にして突撃する。

 バーストメイスカスタムを振るおうとするが、オメガバルバトス・アステールの真横からビームが飛んでくるとオメガバルバトス・アステールはGNフィールドを使って防ぐ。

 

「伏兵か。このビームは環ちゃんか」

「それだけじゃないんだな! これが!」

 

 小惑星の影からガンダムAGE-2 マッハが飛び出してきてハイパードッズランサーを突き出す。

 それをバーストメイスカスタムで受け止める。

 

「ちっ」

「後ろががら空きだ!」

 

 更に背後にはガンダムX斬撃が大太刀を振るい、シド丸のビームライフルからビームサーベルを出して防ぐ。

 2機の攻撃を防ぐが更に別方向からの弾丸がオメガバルバトス・アステールを襲う。

 オメガバルバトス・アステールはAGE-2 マッハを弾き飛ばすと攻撃を回避する。

 

「レオか」

「悪く思うなよ。大我をしとめるにはこのくらいしないとダメだってのてのが俺らの監督の考えなんでな」

 

 ネビュラアストレイがレールバズーカを撃ち、グシオンシューティングスターもレールガンを撃つ。

 オメガバルバトス・アステールは攻撃を回避しながらシド丸のビームライフルで応戦する。

 

「5機か。それにこのメンツ……あの鬼ババアは本気で俺を潰しに来たか」

 

 日本は圧倒的な戦闘能力を持つ大我のオメガバルバトス・アステールへの対処法として珠樹、千鶴、光一郎、右京、レオの5人をぶつけた。

 初手の狙撃は向こうも分かっていたところで千鶴の実力なら打撃を与えれると予測し、その後向こうはそこから狙撃者の位置を割り出して来ることも想定した。

 そして、狙撃者を潰すとすれば大我が単機で向かってくることを想定し、伏兵を置いた。

 これまでの戦いからアメリカ代表チームは高い索敵能力を持つガンプラの存在も推測できたが、大我の性格上、狙撃者の周囲に敵がいたところで一人で全て倒せばいいと臆することはない事まで読んでいた。

 

「上等だ。全部まとめてぶっ潰してやるよ」

 

 オメガバルバトス・アステールはバーストメイスカスタムを構えて突撃する。

 ウイングゼロエトワールがツインバスターライフルでけん制を入れる。

 その間にAGE-2 マッハとガンダムX斬月が左右から回り込んで近接戦闘を仕掛ける。

 ガンダムX斬月の大太刀をバーストメイスカスタムで弾き、AGE-2 マッハのハイパードッズランサーの一撃を左腕のチェーンソーブレードで受け止める。

 同時に両肩のブレードプルーマを射出してAGE-2 マッハを狙う。

 

「おっと!」

 

 AGE-2 マッハは距離を取りながらハイパードッズランサーのライフルモードでオメガバルバトス・アステールを狙う。

 それに合わせてネビュラアストレイもレールバズーカを撃つ。

 2機の攻撃を回避しながらシド丸のビームライフルで応戦する。

 追尾するビームをかわしながらガンダムX斬月が大太刀で切り込んでくる。

 オメガバルバトス・アステールは腰のワイヤーブレードを射出する。

 ワイヤーブレードをガンダムX斬月は大太刀で弾き、グシオンシューティングスターが小惑星の間から背部レールガンを撃ち込んでくる。

 

「ちっ」

 

 グシオンシューティングスターの攻撃をかわすが、ウイングゼロエトワールのビームをGNフィールドで防ぐ。

 

「悪いな! 今日は攻めさせなくてさ!」

 

 ネビュラアストレイはレールバズーカを捨てるとスレッジハンマーで殴りかかる。

 バーストメイスカスタムで受け止めるが、ネビュラアストレイの膝装甲に収納されているプリスティスのビームサーベルが展開される。

 オメガバルバトス・アステールは胸部の大口径バルカンを撃ちながら後退する。

 

「逃がすかよ!」

 

 ネビュラアストレイは5基のドラグーンを展開して追撃する。

 

「有線に替えてきたか」

「当然!」

 

 ネビュラアストレイのドラグーンはベース機とは違い無線式だったが、前回のバトルでオメガバルバトス・アステールには誘導兵器のコントロールを得るNT-Dが搭載されていることを知っているため、ドラグーンの制御を奪われないために有線式に替えてきている。

 ドラグーンのビームの合間を縫ってAGE-2 マッハとガンダムX斬月が接近してくる。

 それをいなしたところにグシオンシューティングスターのレールライフルがオメガバルバトス・アステールに直撃し、更にウイングゼロエトワールのビームが飛んでくる。

 ウイングゼロエトワールのビームはGNフィールドを展開して何とか防ぐことが出来た。

 

「ウザいな」

 

 大我の対策に5機を当てるだけでなく、もう一つ指示が出されていた。

 それはとにかく攻め続けることだ。

 オメガバルバトス・アステールの圧倒的な攻撃力に対して少しでも守りの姿勢を見せてしまえば大我の勢いに押されて逆転はできなくなる。

 それを防ぐためにも常に攻め続けて大我に好き勝手にはさせなければならない。

 オメガバルバトス・アステールは攻撃力だけではなく防御能力に関しても圧倒的だが、無敵ではない。

 攻撃を続ければいずれは限界は来る。

 5対1で押しているのは日本のように見えるが、少しでも攻撃の手を緩めてしまえばそこで流れを強引に持っていかれてしまう。

 

「まあいいさ。どんな手で来ようと関係ない。お前たちを全部ぶっ潰せばどれかがフラッグ機なんだ。確率は10分の1。10回やれば確実に当たる計算だからな」

 

  オメガバルバトス・アステールはバーストメイスカスタムを構える突撃する。

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃ……大我めっちゃ囲まれてるんだけど。この形状的に向こうは主力を半分も当ててきたみたいよ」

 

 バトルが始まり、リヴィエールのスローネ・ジーニアスがGNサーチフィールドを展開し、大我の状況を把握する。

 

「そう来たか……リヴィエール。位置情報をディランに。ディランはクロエを連れて援護に向かってくれ」

 

 ルークは大我の実力を信じている。

 だが、向こうも勝算があってこの作戦で来ている以上は楽観はできない。

 ディランのZガンダム・シュテルンならウェブライダー形態でクロエのFXエステレラを速やかに運ぶこともできる。

 

「残念だけど……来た」

「貰ったよ!」

 

 リヴィエールが大我の位置を送る前にスローネ・ジーニアスの前に貴音のキマリス・トライデントが飛び出してくる。

 キマリス・トライデントはデストロイヤーランスをスローネ・ジーニアス目掛けて振るう。

 その一撃はスローネ・ジーニアスを確実に捉えていたはずだったが、デストロイヤーランスはスローネ・ジーニアスをすり抜けた。

 

「うっそ! 手応えなし!」

「下がれ。貴音」

 

 高い機動力を活かして突撃してきたキマリス・トライデントの後方からデュナメスXペストがGNロングキャノンで援護射撃を入れてキマリス・トライデントは後退する。

 

「接近されていた? いくら高機動とは言えサーチフィールドを誤魔化すのは不可能だ。リヴィエール。気づいていたんだろう?」

「まぁね。でもこっちがそれに気づいた素振りを見せればさ。向こうだって別の手を打ってくるじゃない? なら向こうの思惑に乗っていた方がこっちも相手の出方が分かる分やりやすいじゃん。それに余計な手を出さなくても私のバルバトスは負けない」

「……全く」

 

 リヴィエールは敵が接近していることに気づいていたが、ここまで接近してくるまでわざと黙っていたらしい。

 ここでリヴィエールを責めたところで本人は気にすることもなく、大事なのは過ぎたことをグチグチと責めるのではなく頭を切り替えることだ。

 

「リヴィエール。来ているのは2機だけじゃないはずだ。他のガンプラの位置情報をこっちに。クロエ、あのキマリスは任せた」

「了解」

 

 指示を受けてFXエステレラはスタングルライフルⅠBを撃ちながらキマリス・トライデントを追撃する。

 リヴィエールから貴音と諒真以外の日本代表チームの位置情報がルークの元に送られてくる。

 

「来たか……先手は取らせてもらう」

 

 ソルエクシアは機体の方向を変えてGNビッグキャノンを最大出力で放つ。

 

「来るぞ。散開!」

 

 貴音たちとは別ルートから龍牙、史郎、源之助のガンプラがアメリカ代表チームに接近していたが、位置は向こうにも筒抜けでソルエクシアの粒子ビームが飛んでくる。

 3機はすぐに散開して攻撃をかわす。

 

「監督の言うように向こうには相当な目を持った奴がいるということか。敵が来るぞ」

「俺が前に出ます!」

 

 砲撃が終わるとすぐにジェイクのスターユニコーンがメガビームライフルを撃ちながら接近してくる。

 

「こそこそとご苦労なこったな!」

 

 スターユニコーンにバーニングドラゴンデスティニーはビームナックルで殴り掛かる。

 

「当たるかよ!」

 

 ビームナックルをかわすとメガビームライフルを撃つ。

 バーニングドラゴンデスティニーはビームシールドで身を守り、スターユニコーンはバックパックのフィンファンネルを射出する。

 

「ファンネルか!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーは頭部のバルカンでフィンファンネルをけん制する。

 フィンファンネルはバーニングドラゴンデスティニーを囲むように展開されるが、後方からAGE-3 オリジンがダブルシグマシスライフルを撃ち、射線上のフィンファンネルを破壊する。

 

「神君!」

「助かります!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーは4枚の炎の翼を展開して急加速するとフィンファンネルの包囲を破り、スターユニコーンに突撃する。

 ビームナックルをシールドで受け流すと、AGE-3 オリジンのミサイルが飛んでくる。

 それをフィンファンネルとバルカン、メガビームライフルで迎撃する。

 ミサイルは全て迎撃できたが、ミサイルを撃墜した爆風からバーニングドラゴンデスティニーが飛び出してくる。

 

「コイツで!」

 

 炎の翼で加速した一撃をスターユニコーンはシールドで受け止める。

 シールドのIフィールドである程度は無効化しているが、完全にはビームナックルを無効化しきれはいない。

 

「打ち抜く!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーは拳を振りぬき、スターユニコーンは弾き飛ばされる。

 シールドは完全に破壊されることはなかったが、Iフィールド発生装置は完全に潰されている。

 

「ちぃ!」

 

 体勢を崩しながらもメガビームライフルを向けるが、回り込んでいた闘魂デュエルがビームライフルを撃ってメガビームライフルは破壊される。

 

「くそが!」

「良いガンプラだが、ファイターが頭に血を上らせていては活かしきれていないな」

 

 闘魂デュエルはビームサーベルで切りかかり、スターユニコーンもビームトンファーで受け止める。

 そこにAGE-3 オリジンがシグマシスダブルライフルを撃つ。

 闘魂デュエルを蹴り飛ばすと脚部のグレネードランチャーを撃ち、闘魂デュエルはシールドで身を守る。

 AGE-3 オリジンのビームをシールドで防ぐが、すでにシールドのIフィールドは使えずシールドは破壊された。

 

「神! 今だ!」

「はい!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーは両腕にビームナックルを出して加速する。

 スターユニコーンも両腕にビームトンファーを出して迎え撃つ。

 

「ようやくここまで来たんだ……」

 

 スターユニコーンのビームトンファーをバーニングドラゴンデスティニーは腕を蹴り飛ばして防ぐ。

 

「例え大我と直接戦える機会がないかも知れなくても!」

 

 もう片方のビームトンファーの突きをギリギリのところでかわす。

 

「それでも!」

 

 突き出していた腕をバーニングドラゴンデスティニーは掴むと拳を引っ込める。

 

「俺たちは勝つんだ!」

「ちくしょう!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーのビームナックルがスターユニコーンの胴体に打ち込まれる。

 その一撃はスターユニコーンを打ち抜き破壊した。

 

 

 

 

 

 

「いい加減に鬱陶しくなってきたな」

 

 オメガバルバトス・アステールは拡散ビームを撃つ。

 

「5対1でも互角に戦うのがやっとか……リヴィエールの奴とんでもない化け物を作りやがって」

 

 ネビュラアストレイはビームライフルとシールドのビームキャノンを撃つ。

 

「泣き言はなし。ドンドン攻撃する」

 

 ウイングゼロエトワールがツインバスターライフルを左右で時間差をつけて連射する。

 オメガバルバトス・アステールは小惑星の間を縫うようにビームをかわすが、AGE-2 マッハとガンダムX斬月が挟み込む。

 

「そっちに動きは大体わかった。次は俺がぶっ潰す番だ」

 

 2機が同時攻撃をしようとすると、オメガバルバトス・アステールは青く発光すると2機の攻撃は空を切る。

 オメガバルバトス・アステールはバーストモードを起動して攻撃をかわしたようだ。

 

「ようやく本気を出して来たってわけか! 面白くなってきた!」

 

 AGE-2 マッハはハイパードッズランサーをランスモードで突撃しようとする。

 しかし、AGE-2 マッハとガンダムX斬月の周囲にはすでに胞子ビットが展開されていた。

 大我はバーストモード発動時の発光で目くらましをしたのと同時に胞子ビットも展開していたのだ。

 

「……マジかよ」

 

 2機を囲む胞子ビットは一斉に2機に襲い掛かる。

 その間にオメガバルバトス・アステールは後方にいたグシオンシューティングスターの方に向かっていく。

 

「狙いは私? でも」

 

 オメガバルバトス・アステールがバーストモードで強化された機動力で迫るが、千鶴は落ち着いて狙いを定める。

 バーストモードを起動していたとしてもこの距離なら冷静に狙いをつければ当てる自信はある。

 すでにダインスレイヴを撃つためのエネルギーもチャージしている。

 千鶴はオメガバルバトス・アステールに狙いを定めて引き金を引いた。

 その瞬間に千鶴は直撃させる手応えを感じていた。

 弾丸はオメガバルバトス・アステールに吸い寄せられるように飛んでいき、直撃を確信した次の瞬間、オメガバルバトス・アステールは機体を少しだけずらして弾丸を回避したのだ。

 

「避けられた!」

 

 オメガバルバトス・アステールはバーストモードと同時にナイトロを使って大我の反応速度を上げて狙撃をギリギリのところで回避した。

 避けられたことに驚く千鶴だが、すぐに頭を切り替えてリニアライフルを撃とうとする。

 千鶴が引き金を引くよりも早くリニアライフルにブレードプルーマが突き刺さる。

 すぐにリニアライフルを捨てて、膝のウェポンコンテナからライフルを取り出すが、その間にオメガバルバトス・アステールは腰のワイヤーブレードの射程にグシオンシューティングスターを入れていた。

 射出されたワイヤーブレードはグシオンシューティングスターの両腕に突き刺さると引き寄せる。

 

「しまっ!」

 

 グシオンシューティングスターは勢いよくオメガバルバトス・アステールに引き寄せられると2機が激しく激突する。

 バーストモードで勢いをつけている上に度重なる武装強化とシド丸との合体で大質量のオメガバルバトス・アステールはその機体そのものが凶器と化していた。

 ぶつかる直前にオメガバルバトス・アステールは前方にGNフィールドを展開していたため、無傷だがグシオンシューティングスターは大打撃を受けてしまった。

 激突時の衝撃で千鶴は自分のガンプラの状況を確認する余裕もないが、撃墜されてもおかしくはないレベルのダメージだが辛うじて戦闘は可能なようだった。

 

「っ……まだ」

 

 千鶴はすぐに状態を確認しようとするが、モニターに映る右腕にはまだワイヤーブレードが突き刺さっていた。

 左腕は激突の時に肩からもげている。

 肩のレールガンは左肩の物は腕ごと失っており、右肩の物は吹き飛ばされたときに小惑星にでもぶつけたのか砲身が曲がって使えそうにない。

 バックパックのサブアームは片方は動くがもう片方は衝撃で機能不全を起こして使えない。

 もっともサブアームが使えたとところでバックパックのウェポンコンテナはどこかに吹き飛んでいるため余り意味はない。

 そして、状況を把握したところでワイヤーブレードを巻き戻して再びオメガバルバトス・アステールの方に引き寄せられていく。

 モニターにはバーストメイスカスタムの先端を高速で回転させて振りかぶるオメガバルバトス・アステールの姿が映される。

 

「……ごめん」

 

 千鶴は打つ手もなくただ撃墜を待つしかなかった。

 オメガバルバトス・アステールはバーストメイスカスタムを力の限り振るう。

 引き寄せられるグシオンシューティングスターにタイミングを完璧に合わせて振られたバーストメイスカスタムによりグシオンシューティングスターは一撃で粉砕された。

 

「まずはウザったいグシオンは始末した。次はどいつにするかな」

 

 オメガバルバトス・アステールは次なる獲物を求める。

 小惑星の影からネビュラアストレイがビームキャノンを撃ちながらスレッジハンマーを手に突撃してくる。

 

「次はお前かレオ」

「全国大会の時のようにはいかないぜ! 大我!」

 

 ネビュラアストレイのスレッジハンマーを左腕のチェーンソーブレードで受け止めるとバーストメイスカスタムを突き出す。

 だが、ネビュラアストレイは退いてかわすとドラグーンを射出する。

 全方位からの攻撃をオメガバルバトス・アステールはかわす。

 

「その巨体でちょこまかと!」

 

 ネビュラアストレイはドラグーンの攻撃をかわすオメガバルバトス・アステールにシールドのビームキャノンを向ける。

 ビームキャノンを撃とうとするが、レオは機体が引っ張られるような感覚を感じた。

 

「何だ……大我の奴まさか!」

 

 レオも大我が何をしたかを悟るがすでに遅かった。

 大我は攻撃をかわすだけでなく、レオがNT-D対策として加えたドラグーンのワイヤーに自信を絡ませたのだ。

 それによりネビュラアストレイはオメガバルバトス・アステールの動きにワイヤーで引き寄せられてしまう。

 

「逃げられねぇ!」

 

 ネビュラアストレイはワイヤーに引っ張られ小惑星に激突しないようにするので精一杯だ。

 オメガバルバトス・アステールの動きを止めようにもシド丸とのドッキングで推力が強化されているオメガバルバトス・アステールを止めることはできない。

 

「こうなったら仕方がない!」

 

 脱出の策がないわけではなかったが、リスクも伴うがこのまま好き勝手にさせる訳にもいかなかった。

 ネビュラアストレイはドラグーンを本体をつなぐワイヤーを切断した。

 それによりネビュラアストレイは解放される。

 同時にドラグーンの砲門が一斉にネビュラアストレイに向けられた。

 

「……そう来るよな」

 

 ネビュラアストレイはビームキャノンでドラグーンを1つ落とすと近くのドラグーンをスレッジハンマーで破壊する。

 残る3つのドラグーンから一斉にビームがネビュラアストレイ目掛けて発射される。

 ドラグーンのワイヤーを切断して逃れたときにオメガバルバトス・アステールはNT-Dを起動してドラグーンのコントロールを奪取していたのだ。

 

「行ってこい」

 

 コントロールを奪取されたドラグーンは一斉にネビュラアストレイへと向かっていく。

 

「データとは言え自分のガンプラの一部を破壊するのは良い気はしないけどな!」

 

 ドラグーンのビームを回避しながらネビュラアストレイはスレッジハンマーでドラグーンを破壊する。

 残る2基のドラグーンの内、1基のドラグーンの攻撃をシールドで防いでいるともう片方のドラグーンが背後に回り接近していた。

 

「なっ!」

 

 ドラグーンはネビュラアストレイの右腕に突き刺さると同時にビームを撃ち、ネビュラアストレイの右腕を吹き飛ばす。

 ゼロ距離でビームを撃ったため、ドラグーンも爆発の巻き沿いになり破壊されている。

 

「大我の奴……人のガンプラだからって扱いが雑過ぎるぞ」

「使いなれていない武器をいつまでも使う馬鹿はいないだろ。だからコイツも返すぞ」

 

 オメガバルバトス・アステールの左手には奪われた最後のドラグーンが掴まれていた。

 そして、オメガバルバトス・アステールは勢いよくドラグーンを投擲する。

 ドラグーンが自分で加速するよりも早くドラグーンは飛ばされ、ネビュラアストレイのバックパックに突き刺さる。

 

「ふざけんな! んな返し方があるかよ!」

「俺とお前の仲だ。気にするな」

「お前は少しは気にしろ!」

 

 ネビュラアストレイはシールドのビームキャノンで迫るオメガバルバトス・アステールを迎え撃つがオメガバルバトス・アステールはGNフィールドで身を守りながら突撃してくる。

 

「ちぃ! この損傷じゃ逃げるのは不可能! 逃げたところで大我をしとめないと勝ちはない! なら!」

 

 大我がフラッグ機であることは間違いはない。

 ここで逃げたところで大我を倒さねばチームの勝利はない。

 そして、逃げようとしても今のネビュラアストレイの状況では逃げ切ることもできない。

 ネビュラアストレイはシールドからビームソードを展開して迎えうる構えを取る。

 

「逃がさないけど逃げてもいいんだぞ」

「冗談(狙うは関節、チャンスは1度……)」

 

 いくら装甲にビームコーティングがされていようとも関節まではされていない。

 相手の攻撃に合わせて関節を狙えば手傷くらいは負わせられる。

 それで自分がやられようともオメガバルバトス・アステールに手傷を負わせられれば残る仲間が少しでも有利に戦える。

 レオは自分がやられることを覚悟して落ち着いてタイミングを見計らう。

 

「……今、だぁ!」

 

 迫るオメガバルバトス・アステールにカウンターでタイミングを見計らい、捨て身の一閃を繰り出そうとした瞬間、ネビュラアストレイのバックパックに刺さっていたドラグーンのスラスターから推進剤が噴射された。

 突き刺さっていたドラグーンはいまだにオメガバルバトス・アステールの制御化に置かれていて、レオがカウンターを仕掛けるタイミングに合わせてスラスターを使った。

 それ自体はネビュラアストレイに大きな影響を与えるほどではなかったが、意識を完全にオメガバルバトス・アステールに向けてていたレオの集中を乱すには十分だった。

 一瞬だが、その隙が致命的となり、ネビュラアストレイはカウンターを仕掛けることが出来ずにオメガバルバトス・アステールのバーストメイスカスタムにより粉砕された。

 

「これで2機目……っと!」

 

 オメガバルバトス・アステールがネビュラアストレイを仕留め、息をつく間も与えずに高出力のビームがオメガバルバトス・アステールを飲み込む。

 ビームの掃射が止まるとオメガバルバトス・アステールはトランザムGNフィールドを展開して身を守っていた。

 

「トランザム……使った」

 

 ビームを撃ったのは珠樹のウイングゼロエトワールのようで、ビームの掃射が終わったところに胞子ビットを片付けてきたガンダムAGE-2マッハがハイパードッズランサーを構えて突っ込んでくる。

 

「これでしばらくはGNフィールドは使えないんだろ!」

 

 AGE-2マッハの攻撃をバーストメイスカスタムの柄で受け止める。

 

「お前たちをぶっ潰すのには他ので十分なんだよ」

 

 AGE-2マッハを弾くと後ろからガンダムX斬月が切りかかってきて、ガンダムX斬月を蹴り飛ばすとウイングゼロエトワールがツインバスターライフルを左右でタイミングをずらして売ってくる。

 

「とはいえ、あのビームをそう何度も直撃はしたくないな」

 

 対ビームコーティングがされているとは言え、ツインバスターライフルの攻撃を何度も受け続ければコーティングの効果も薄れて来る。

 トランザムを使ったことで今はGNフィールドが使えない。

 向こうはそれを見越してトランザムを使わせたのだろう。

 オメガバルバトス・アステールを挟み込むようにAGE-2 マッハとガンダムX斬月がビームを撃つ。

 

「お前らもいい加減鬱陶しんだよ」

 

 オメガバルバトス・アステールは胞子ビットを展開する。

 展開された胞子ビットはAGE-2 マッハとガンダムX斬月に向かっていく。

 2機は退きながら胞子ビットを迎撃していく。

 

「またこれか!」

 

 胞子ビットを迎撃していたAGE-2 マッハだったが、完全には対応しきれずにハイパードッズランサーに被弾しすぐにハイパードッズランサーを捨てる。

 すぐに片手にハンドガンをもう片方にビームサーベルを持つとハンドガンで胞子ビットを撃ち落とし、落としきれないものはビームサーベルで切り払う。

 

「やられてたまるかよ!」

 

 全方位から来る胞子ビットを迎撃するAGE-2 マッハを援護するためにツインバスターライフルを向けるウイングゼロエトワールだったが、シド丸の追尾するビームが襲い掛かり回避する。

 その間にも胞子ビットはAGE-2 マッハを襲う。

 並のダイバーならとうに捌ききれずに被弾するか撃墜されるかというほどの攻撃だが、AGE-2 マッハは防いでいた。

 

「ビットをいくら使ったところで防ぎきってやる!」

 

 AGE-2 マッハは後ろから来る攻撃に対して振り向きざまにビームサーベルを振るう。

 

「ビットじゃっ!」

 

 後ろから来た攻撃は胞子ビットではなく、ウイングゼロエトワールを狙っていた追尾するビームだった。

 光一郎は瞬時に気づくもビームは軌道を少しだけづれてAGE-2 マッハの腕を撃ちぬいた。

 

「まずい!」

 

 被弾したところに更に追尾するビームがAGE-2 マッハを襲う。

 

「まだやれる! 俺はっ!」

 

 体勢を崩しながらもハンドガンを迫るビームに向けるも撃ち漏らしていた胞子ビットがもう片方の腕を吹き飛ばすと、ビームがAGE-2 マッハの頭部を撃ちぬき、背後から迫るビームがバックパックを撃ちぬき、体勢を整えることすら許さずにビームがAGE-2 マッハの肩や胴体に直撃して撃墜した。

 

「キングもやられたのか?」

「人の心配をしている余裕はあるのか?」

 

 ガンダムX斬月は胞子ビットを全て破壊していた。

 AGE-2 マッハに向けられた胞子ビットよりもはるかに数が少なかったため、ガンダムX斬月の火力でも対応が可能だった。

 しかし、胞子ビットや追尾するビームで相手していたウイングゼロエトワールやAGE-2 マッハとは違いガンダムX斬月の方にはオメガバルバトス・アステールが向かっていた。

 

「アンタとは戦う機会はなかったが、ガンダムXなら砲撃勝負とでもいこうじゃないか」

 

 オメガバルバトス・アステールはシド丸の頭部を前方に展開するとアステールキャノンの発射体勢を取る。

 サテライトシステムを使ってエネルギーをチャージしなくてもアステールキャノンはある程度の威力で撃つことは可能だ。

 威力は最大出力には劣るものの、シド丸本体のエネルギーを使うだけで素早く撃つことが出来る。

 

「ぐっ!」

 

 アステールキャノンが発射される直前にオメガバルバトス・アステールの腰のワイヤーブレードが射出され、ガンダムX斬月は大太刀で弾かさせられたため、発射されたときには回避行動は間に合わず大太刀で正面から受け止めざる負えなかった。

 

「この威力ならば!」

 

 最大出力なら大太刀で防いだところで意味はないが、シド丸の本体に蓄積している分で撃っている今の威力ならば大太刀で正面から受け止めることは可能だった。

 だが、いつまでも防ぎきれる物ではない。

 下手に動けばビームに飲み込まれるため、根競べだ。

 

「防ぎきれさえすれば!」

 

 アステールキャノンを正面から受け止めるガンダムX斬月だが、大太刀が限界を迎える前にビームの掃射が弱まりやがて終わりを迎えた。

 ギリギリのところだが、何とかビームを凌ぎ攻勢に出ようとする。

 

「なん……だと」

 

 しかし、その希望は脆くも打ち砕かれる。

 ガンダムX斬月の前にはすでにオメガバルバトス・アステールが距離を詰めていた。

 オメガバルバトス・アステールの後ろにはシド丸の姿がある。

 それで右京は悟った。

 アステールキャノンの砲撃の最中にオメガバルバトス・アステールはシド丸をビームを撃ちながら分離させていて本体は距離を詰めていたのだ。

 最大出力で撃たなかったのもチャージの時間を省くためではなく、途中で分離させていても威力を落とさないためだった。

 

「接近戦が得意なんだろ? アンタ」

 

 オメガバルバトスは膝のドリルニーを突き出す。

 ガンダムX斬月はとっさに左腕でガードするが、ドリルニーは左腕を貫き、膝を引く際に左腕が肘からもげる。

 

「ぐっ! まだだ!」

 

 ガンダムX斬月は左腕を失いながらも右腕だけで大太刀を振り落とすが、かわされオメガバルバトスの左腕のチェーンソーブレードで刃を砕かれるとバーストメイスカスタムが振るわれ胴体に直撃し、そのまま後ろにあった小惑星に叩きつけられガンダムX斬月は沈黙した。

 

「これで後は珠ちゃんだけだな」

「……ここまでやるとは正直予想外。だけど、負けない」

 

 オメガバルバトスの背部にシド丸がドッキングする。

 すでに待ち伏せの内4機は仕留めて、残りは珠樹一人だ。

 この時点で日本代表の作戦は瓦解している。

 それでも珠樹は自分たちの勝利を信じてツインバスターライフルを構える。

 

「いくら珠ちゃんでもそれだけは譲れないな。俺の邪魔をするなら珠ちゃんでもぶっ潰す」

「……それはできない。勝って決勝に行くのは私たちだから」

 

 バルバトス・アステールとウイングゼロエトワールは互いの武器を構えると激突する。



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意地

日本代表の策はすでに破られた。

 5機でも待ち伏せも残るは珠樹のウイングゼロエトワールだけだ。

 ウイングゼロエトワールはツインバスターライフルを時間差で撃ち、わずかな隙をマシンキャノンで補う。

 対する大我は近接戦闘に持ち込もうと試みている。

 

「ちっ……相変わらず嫌らしい攻めを……けどな」

 

 オメガバルバトス・アステールはGNフィールドを展開して突っ込む。

 

「……強引に」

 

 常に相手の動きの先を読みながら先手を打つ珠樹だったが、大我はそんなことは関係ないとばかりにGNフィールドの防御力に物を言わせての強引な攻めをする。

 だが、その強引な攻めは珠樹にとっては有効なやり方でもあった。

 接近するオメガバルバトス・アステールはバーストメイスカスタムを振るう。

 その一撃をウイングゼロエトワールはかわすと背後を取る。

 

「確かに強引な攻めは有効……でもそれだけ」

 

 ウイングゼロエトワールは背後から至近距離でツインバスターライフルを連結させてオメガバルバトス・アステールに撃ち込む。

 その距離であればGNフィールドは張れず、ピンポイントでGNフィールドを張って防ごうにもそれでは強度が足りない。

 表面に対ビームコーティングがされているが、至近距離でもツインバスターライフルを対ビームコーティングだけでは長時間防ぐことはできない。

 ビームはオメガバルバトス・アステールの背部のシド丸に直撃する。

 シド丸の対ビームコーティングで少しは耐えるが、すぐに限界を迎えビームはシド丸を貫く。

 シド丸が爆散する前にオメガバルバトス・アステールはシド丸をパージしていたようで爆発の中からオメガバルバトスがバーストメイスカスタムを突き出してくる。

 

「貰った」

「……それだけでも貰う」

 

 ウイングゼロエトワールは再びツインバスターライフルを発射する。

 ビームとバーストメイスカスタムはぶつかり合い爆発を起こす。

 爆発の中からオメガバルバトスとウイングゼロエトワールが飛び出してくる。

 互いに手持ちの武器を失っている。

 オメガバルバトスは両腕のチェーンソーブレードをブレードモードに切り替え、ウイングゼロエトワールも両手にゼロソードを持つと2機は近接戦闘を仕掛ける。

 

「……機体が重い。こんなだったか?」

 

 オメガバルバトスの攻撃をひらりとかわすとウイングゼロエトワールはゼロソードを突き出す。

 ゼロソードはオメガバルバトスの装甲に直撃するが、強固な装甲を持つオメガバルバトスにはまともなダメージを与えるほどではなかった。

 

「……固い」

 

 ウイングゼロエトワールはマシンキャノンを撃ちながら距離を保つ。

 シド丸とバーストメイスカスタムを失っているとは言え、オメガバルバトスの攻撃力は一撃で勝負をつけてしまうほどだ。

 一方の大我はシド丸を失ったことでガンプラが今まで以上に重く感じていた。

 シド丸は火力強化だけでなく重武装かで低下した機動力を補う役割を持っていたため、シド丸とドッキング状態の機動力に慣れていたせいでそう感じるのだ。

 オメガバルバトスは肩のブレードプルーマを射出する。

 

「来る」

 

 ブレードプルーマをゼロソードで弾きながらマシンキャノンで撃ち落としていると、オメガバルバトスは腰のワイヤーブレードを射出し、ウイングゼロエトワールはかわす。

 

「これは囮。本命はこっち」

 

 攻撃をかわした先の死角からテイルメイスが飛んでくる。

 ブレードプルーマとワイヤーブレードは攻撃中に射出していたテイルメイスで死角から一撃入れるための布石だった。

 それを読んでいた珠樹はテイルメイスをかわす。

 

「……と見せかけて」

 

 攻撃をかわした先にはオメガバルバトスが迫っていた。

 ブレードプルーマとワイヤーブレードを布石に使ったテイルメイスでも一撃も更なる攻撃のための布石だった。

 布石として使ったワイヤーブレードは小惑星に刺さり、ワイヤーを回収しようとした勢いでオメガバルバトスは加速していた。

 ウイングゼロエトワールは加速するオメガバルバトスに合わせるようにゼロソードを振るう。

 

「流石珠ちゃん。読みあいでは勝てないな」

「当然……読みあいで負けたら私の立つ瀬はない」

「だよな。まぁ俺もはなっから読みあいで勝とうだなんて思ってないけどな」

 

 ゼロソードがオメガバルバトスに当たる直前にオメガバルバトスはその機動を少し変えてギリギリところで攻撃をかわした。

 大我と珠樹の読みあいでは珠樹が勝利した。

 しかし、始めから大我はこの読みあいでは負けることを想定していた。

 オメガバルバトスの頭部のヒートホーンはナイトロシステムの起動により青い炎を纏っていた。

 ナイトロを起動させて反応速度を高めてカウンター攻撃をギリギリのところで回避したのだ。

 そして、オメガバルバトスはウイングゼロエトワールの頭部を掴む。

 

「捕まえたよ。珠ちゃん。俺の勝ちだ」

 

 何とか逃れようとするウイングゼロエトワールのゼロソードをもう片腕のチェーンソーブレードで受け止めると、ドリルニーをウイングゼロエトワールの胴体にぶち込む。

 その衝撃で頭部がもがれる。

 

「球ちゃんもフラッグ機じゃなかったか。まぁ俺にぶつけて来る奴をフラッグ機にするなんてリスクをあのババァが負う訳もないか」

「そっちは片付いた?」

 

 5機目を撃墜したタイミングでリヴィエールから通信が入る。

 リヴィエールの方でも大我の状況はリアルタイムで把握していたのだろう。

 

「ああ。思った以上に消耗したけどな」

 

 日本代表の半数を単機で仕留めたが、メインウェポンのバーストメイスと支援機のシド丸を失い、それ以外にも少なからずダメージを負っている。

 

「あっそ。なら、早くこっちに戻ってきて、こっちは結構面倒なことになってるから」

 

 それだけ言うとリヴィエールは大我の返事を待つこともなく通信を切る。

 

「おい。人の話を聞けよな」

 

 大我は文句を言うが通信は繋がっていないため、リヴィエールに届くことはない。

 

「たく……まぁ向こうには諒ちゃんに姉ちゃんもいるから簡単にはいかないか」

 

 オメガバルバトスは掴んでいたウイングゼロエトワールの頭部を手放すと友軍の戦闘宙域を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 残る日本代表のガンプラとアメリカ代表のガンプラの戦闘は日本代表が優位に進めていた。

 すでに4機が撃墜されているアメリカ代表は数の上でも不利だ。

 

「クロエ。こっちの援護はできるか?」

「無理!」

 

 クロエは貴音と交戦中で互いに相手をするのに精一杯でクロエはルークの援護に向かえそうにはない。

 ディランのZガンダムシュテルンも闘魂デュエルとAGE-3 オリジンを相手に苦戦を強いられている。

 ルークのソルエクシアはスローネジーニアスを守るようにGNフィールドを張りながらバーニングドラゴンデスティニーとデュナメスXペストにGNビッグキャノンを撃つ。

 2機は素早く散開する。

 

「ルーク。近づけさせないでよ」

「分かってるけどさ」

 

 ソルエクシアはGNソードのライフルモードで粒子ビームを連射する。

 

「おら!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーのビームナックルをGNフィールドで受け止めるとGNソードを振るう。

 軽く引いてかわすと今度は蹴りをGNフィールドに入れられる。

 バーニングドラゴンデスティニーがソルエクシアを攻撃している間にデュナメスXペストが肩のGNロングキャノンでスローネジーニアスを攻撃するが、粒子ビームはスローネジーニアスをすり抜けるだけでダメージを与えているようには見えない。

 

「聞いてはいたがどうなってんだ?」

「格闘戦ならいけるかも知れません」

「だな。試しだ。そっちは俺が引き受けた」

 

 デュナメスXペストはGNソードⅡをソードモードに切り替えてGNロングキャノンを撃ちながらソルエクシアの方に向かい、バーニングドラゴンデスティニーはスローネジーニアスの方に向かっていく。

 

「くっ! アイツを接近させるのは不味い!」

 

 ソルエクシアはバックパックをパージしてセラヴィーⅡに変形するとバーニングドラゴンデスティニーを追いかけようとするが、デュナメスXペストのGNミサイルによりセラヴィーⅡは撃墜された。

 ソルエクシアの背部のGNシールドがアームで左肩に移動し、デュナメスXペストのGNソードⅡをGNソードで受け止める。

 

「お前の相手は俺だよ。お互い大我に振り回されている同士仲良くしようぜ」

「生憎だけど、そんな暇はないな。どうしても仲良くしたいなら僕たちが優勝した後にして貰いたいね」

 

 ソルエクシアを抑え言えいる間にバーニングドラゴンデスティニーはスローネジーニアスに迫る。

 

「まずはコイツで!」

「やっば」

 

 バーニングドラゴンデスティニーは全身に炎を纏い突撃する。

 炎はスローネジーニアスを飲み込む。

 

「やったか?」

「……そんなのアリか」

 

 炎の中からスローネジーニアスが出て来る。

 その姿に龍牙も諒真も驚いていた。

 ダメージを受けていないことに驚いた訳ではない。

 スローネジーニアスの姿が一回り以上小さくなりSDガンダムとたいして変わらないサイズとなっていた。

 

「まさかこんなところでこの姿を晒すことになるなんてね。ちょっと油断してたわ」

 

 スローネジーニアスの本来の姿はSDサイズだった。

 それをGNフィールドを一般的な球体上ではなく本体と同じ形状で通常サイズのガンプラと同じサイズになるように展開し、光学迷彩によりGNフィールドにスローネジーニアスの姿を投影することで自身のサイズを誤魔化していたのだ。

 だからこそ千鶴や諒真の攻撃が直撃していても何のダメージもなかった。

 しかし、龍牙の攻撃でその姿を晒さざる負えなかった。

 

「ルーク。ネタばバレた以上はこの場に留まるのは危険だから逃げさせてもらうわ」

「ああ。構わない」

「でもその前に憂さ晴らしさせてもらうわ」

 

 姿を晒したスローネジーニアスは腕のGNランチャーをデュナメスXペストに向ける。

 するとデュナメスXペストの肩のGNロングキャノンが内部から爆発を起こした。

 

「今のは……」

 

 以前の戦闘でも同じことが起きていたが諒真は今ので何が起きたのか理解した。

 スローネジーニアスのGNランチャーがわずかだか、GNロングキャノンが爆発する直前に動いていた。

 恐らくはその時に粒子ビームを撃っていたのだと諒真は推測した。

 そして、それは正解だった。

 スローネジーニアスは無色透明のGN粒子を散布できる。

 その透明な粒子をビームに転用した見えない無色のビームを撃つことも可能だった。

 そのサイズにGNサーチフィールドや量子跳躍、GNフィールドを球体状ではなく人型に展開して自身の姿を投影するなど様々な並みのガンプラでは使えないような特殊機能を詰め込んでいるがゆえに攻撃力は低く、GNランチャーの火力でも装甲を貫くことはできないため、砲門の中を狙ってでもなければまともにダメージを与えられない。

 普段はGNフィールドで投影した偽物のビームを目くらましに使っている。

 スローネジーニアスが完成した時の試しのバトルで大我は無色のビームを事前情報もなしの初見で砲身のわずかな動きから見切ってかわして見せたため、無色のビームは世界レベルの相手には見切られてしまうからだ。

 諒真も大我のように事前情報なしでは厳しいが次からは何とかかわせそうだ。

 

「そんじゃ私は逃げさせて貰うけど、そろそろ戻ってくるから」

 

 リヴィエールがそういうとスローネジーニアスはトランザムを使い量子跳躍でどこかに逃げ去った。

 

「逃げたのか?」

「スローネの真の姿を見せたのは想定外だけどまぁいい。十分に時間は稼げたんだからね」

「会長!」

「ああ。状況は最悪のようだ」

「ずいぶんと盛り上がってるみたいじゃん。俺も混ぜろよ。諒ちゃん。ルーク」

 

 珠樹たちを突破した大我がルークたちと合流する。

 それは龍牙達にとっては珠樹たちが全滅した事を知らせる物でもあった。

 だが、それに絶望している暇はない。

 選ぶことのできる選択は諦めるか、この場で大我を倒すかしかない。

 幸いにも大我は無傷という訳でもなく、例え無傷だろうとここで諦める訳にもいかない。

 バーニングデスティニーがビームナックルで殴りかかる。

 それをチェーンソーブレードで受け止める。

 

「すぐに突っ込んでくるお前はフラッグ機ってことはないんだろ?」

 

 オメガバルバトスはもう片方のチェーンソーブレードを突き出すが、バーニングドラゴンデスティニーは機体をひねりかわすとそのまま蹴りをオメガバルバトスの顔面に入れる。

 

「邪魔だ」

 

 オメガバルバトスは少しよろけるも、ダメージを受けた様子もなく、腰のワイヤーブレードを射出する。

 ワイヤーブレードを拳で弾きながら、バーニングドラゴンデスティニーは前に出る。

 

「ビビんな! 俺! ようやく大我と面と向かってぶつかれてんだ! ここで引けるかよ!」

 

 オメガバルバトスの懐にバーニングドラゴンデスティニーは飛び込む。

 オメガバルバトスはドリルニーを突き出すも、バーニングドラゴンデスティニーはオメガバルバトスの膝のしがみ付く。

 片腕で膝にしがみつき、もう片方の腕で何度もオメガバルバトスの胴体を殴る。

 

「ちっ」

 

 バーニングドラゴンデスティニーは炎の翼を展開しながらオメガバルバトスの足にしがみ付きながらも加速しようとする。

 

「くっ! 重てぇ!」

 

 だが、オメガバルバトスの重量は重く、思うように加速はできなかった。

 

「いい加減に」

 

 オメガバルバトスはバーニングドラゴンデスティニーの翼を掴むと引きちぎる。

 そして、胸部装甲をパージして装甲をぶつけるとバーニングドラゴンデスティニーを蹴り飛ばす。

 

「しつこいんだよ」

「まだ……終わってたまるかよ! 俺たちの世界大会はまだ終わらない! 終わらせない!」

 

 バーニングドラゴンデスティニーは体勢を整える。

 4枚の内2枚の翼はもがれているが、残る2枚の翼を展開する。

 

「このダメージならまだ……俺のありったけをこの一撃に!」

 

 ビームナックルの出力を最大限まで上げる。

 ダメージは戦闘可能なレベルではあるが、長期戦はできそうにない。

 オメガバルバトスも消耗しているとは言え、生半端な攻撃では通用しないだろう。

 オメガバルバトスは両腕のチェーンソーブレードをブレードモードに切り替えて迎え撃つ構えを取る。

 

「大我……」

 

 迎え撃つ構えを見せたことで龍牙はにやりとする。

 始めて戦ったあの時から龍牙は大我と同じチームで戦っていても常に大我は龍牙の先を行き同じステージには立っていなかった。

 日本代表となり予選を勝ち抜き強敵ドイツを破りここまで来た。

 そして、今、大我は龍牙を真向から迎え撃つ構えを見せている。

 龍牙はようやく同じステージに立てた気がした。

 

「行くぞ!」

「龍牙! 避けろ!」

 

 バーニングデスティニーが加速しようとした瞬間、諒真が叫ぶ。

 だが、全ては遅かった。

 真横からいつの間にか射出されていたテイルメイスがバーニングデスティニーに直撃したのだ。

 テイルメイスが直撃したバーニングドラゴンデスティニーは撃墜こそされなかったが、機体の右半分がつぶれて体勢を崩しながら吹き飛んでいく。

 オメガバルバトスの迎え撃つ構えは、龍牙の注意を自分に向けて周囲への警戒を緩めるためであった。

 

「そういやそういう事もやって来るんだったよな」

 

 龍牙は初めて大我と戦った時も視線を逸らしたところをやられたことを思い出す。

 以前からテイルブレイドを死角から攻撃するというのは大我が良くやる戦い方でもあった。

 そんなことにも気づかないのはそれだけ熱くなっていたということなのだろう。

 しかし、龍牙に後悔はなかった。

 周りが見えなくなるほど、熱くなることが出来た。

 それだけ本気で戦うことが出来た。

 それでもなお届かなかったが、届かないのであれば更に強くなれば良いだけのことだ。

 

「いつか絶対、そこまで行ってやる」

 

 飛び去るオメガバルバトスを見ながら龍牙はそう誓った。

 

「あのデスティニーのダイバーは思った以上になってくれる」

「だろ? うちの隠し玉だったんだけどな」

「けど、うちのエースには届かない」

 

 ソルエクシアとデュナメスXペストは何度も切り結ぶ。

 

「ルーク。そいつは俺がやる」

「分かった。僕はディランの援護に向かわせて貰うよ」

 

 龍牙を倒した大我がルークと合流する。

 諒真の相手は大我に任せると2体1で苦戦しているディランの元にルークは向かっていく。

 

「ちょい待ちってうわっと!」

 

 クロエと交戦していた貴音のキマリス・トライデントがオメガバルバトスの方に向かおうとするが、クロエのFXエステレラのDファンネルが邪魔をする。

 

「せっかく、姉弟の再開なんだから邪魔すんな!」

「知らないわよ。そんなの」

 

 キマリス・トライデントの進行方向を遮るようにFXエクテレラが立ちはだかる。

 

「うるさいのが来る前に始めようか。諒ちゃん」

「だな。ここは男同士、拳で語り合おうや。お前に言いたいこともあったしな」

「何だよ。それ?」

「内緒。俺に勝ったら教えてやる」

「あっそ」

 

 オメガバルバトスはチェーンソーブレードを構えて突撃する。

 対するデュナメスXペストは赤く発光を始める。

 

「初手からトランザムか」

 

 トランザムを起動したデュナメスXペストは一瞬の内に加速するとオメガバルバトスの背後を取り、GNソードⅡを振るう。

 ギリギリのところでチェーンソーブレードでガードするが、ここまでの戦闘で消耗していたのか、チェーンソーブレードは砕けて破壊される。

 

「ちっ」

「悪いな。大我。今日の俺は本気だ。本気と書いてマジって奴だ」

 

 デュナメスXペストはオメガバルバトスのレールガンを回避しながら接近する。

 それに合わせてドリルニーを突き出すが、デュナメスXペストは回避するとGNソードⅡをライフルモードに切り替えてドリルニーに粒子ビームを撃ち込む。

 ドリルニーは膝の装甲ごと破壊される。

 

「くそ。半端に装備を失ったせいでバランスが最悪だ」

 

 オメガバルバトスは重装甲、重武装ではあるがリヴィエールが重量のバランスを緻密に計算して作られているが、ここまでの戦闘で装備を失ってきたせいで計算されたバランスが来るって来ている。

 それでも大我は機体を完全に制御している。

 

「たく……なんで今日はそんなにマジになってんの?」

「俺にだって兄貴としての意地があるってことだ!」

 

 デュナメスXペストの粒子ビームをGNフィールドで防いでいたが、接近してGNソードⅡでGNフィールドを切り裂くともう一本のGNソードⅡをオメガバルバトスの肩に突き刺す。

 それによりオメガバルバトスはGNフィールドが使えなくなる。

 

「何それ?」

「末っこには分かんないだろうさ。兄貴ってのは常に弟よりも前にいなくちゃいけないってことだ」

 

 諒真はチラリとトランザムの残り時間を確認する。

 限界時間まではまだ余裕は残されている。

 とは言えトランザムが切れてしまえば機体性能は一時的にダウンして手負いとは言えオメガバルバトスには勝てない。

 

「だから今日はダサくても本気でやらせて貰うぞ! 大我!」

 

 デュナメスXペストは残っているGNミサイルを一斉掃射する。

 GNミサイルはオメガバルバトスに直撃して内部から破壊していく。

 すぐに外装をパージして内部のフレームまでダメージはなかったが、左腕のパワーユニットがチェーンソーブレードが破壊されユニットそのもも損傷している。

 デュナメスXペストは更に加速する。

 

「俺は世界で一番のファイターになるんだ。その前に立ちはだかるなら、例え神様だろうと皇帝だろうと……諒ちゃんだろうと全てをぶっ潰す!」

 

 デュナメスXペストのGNソードⅡの一撃をオメガバルバトスは破損していた左腕のパワーユニットでガードしていた。

 GNソードⅡの刃はフレームで止められ、オメガバルバトスは肩に突き刺さっていたGNソードⅡを強引に抜くとデュナメスXペストに突き刺す。

 

「……だっせぇな……久しぶりの本気を出してこれか……」

「諒ちゃんがダサいのはいつものことでしょ。本気を出せば強いってのにいつも斜に構えて余裕ぶってさ」

「分かってないな。普段から本気を出してちゃただの暑苦しいやつだろ。今時そんなの流行んないんだよ」

「そこだけは永遠に分かり合えそうにないな」

 

 オメガバルバトスは両腕のパワーユニットをパージするとテイルメイスの柄を伸ばすと手に持たせる。

 

「それで俺の勝ちだけど言いたいことって何? 冥途の土産にくだらない事じゃなければ聞くけど?」

 

 オメガバルバトスはメイスを振り上げる。

 デュナメスXペストはトランザムも解除されてもはや戦う力は残されてはいない。

 

「大我……妹が欲しかったら、俺をたお……」

 

 諒真が言い終わる前にオメガバルバトスはメイスを振り下ろしデュナメスXペストを破壊した。

 

「……諒ちゃんらしくて下らない。さて、後は……その必要はないか」

 

 大我は次の獲物を探そうとするが、バトル終了のアナウンスが入る。

 どうやら日本代表のフラッグ機は諒真のデュナメスXペストのようで、諒真がやられたことでバトルはアメリカ代表チームの勝利となった。

 

「……次で最後か」

 

 大我は勝利を喜ぶこともなくぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 



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女帝

 

 

 日本VSアメリカのバトルはアメリカが勝利した。

 龍牙は一人通路の備え付けのベンチに座るとぼんやりしていた。

 バトルに敗北したものの日本はベスト4まで勝ち進み去年の結果と比べても大健闘だったが、優勝が視野にないっていて悔しさは残るが誰も後悔はしていなかった。

 

「終わっちまったな」

「そうね」

 

 龍牙の一人ごとににいつの間にかそこにいたカティアがそう返す。

 カティアは龍牙の隣に座る。

 

「せっかく相手してくれたのに負けちまったよ」

「そうね。目の前に意識を向けすぎよ。あれじゃ横から攻撃してくださいって言っているような物よ」

 

 龍牙は返す言葉もない。

 大我とバトルで熱くなり過ぎて回りが見えなくなっていたのは明らかな敗因だ。

 

「手厳しい」

 

 カティアのはっきりとした物言いを嫌とは感じなかった。

 ここでよくやったなどの励ましの言葉よりもずっとマシだからだ。

 

「事実よ」

「まぁな。けど、5機がかりで仕留めきれないとか改めてとんでもない奴だったよ」

「そうね。実際に戦った私でも想定以上だったわ」

 

 カティアも日本の作戦は悪くないと思っている。

 大我を単機で孤立させたうえで数に物を言わせて攻め続ければいずれは限界が来る事を見越しての作戦は。

 実際、それで大我のオメガバルバトス・アステールはシド丸やバーストメイスカスタムなどの装備の多くを失っている。

 しかし、それでもなお、大我を止めることは出来なかった。

 

「決勝はどうなると思う?」

「イギリス代表には悪いけど、ギリシャになるでしょうね。でも……それ以上は……」

 

 明日には決勝戦でアメリカの対戦相手が決定する準決勝第二試合が行われる。

 対戦カードはギリシャとイギリスとなっている。

 神槍の異名を持つクリフォードも実力者だが、ギリシャの皇帝アルゴスと比べてしまえば勝つのは厳しいだろう。

 おおよその予測では決勝戦の組み合わせはアメリカとギリシャと考えられている。

 大会開幕前からの優勝候補の大本命であるギリシャと名を挙げて来たとは言え無名に等しいアメリカ代表の組み合わせは始めならギリシャの勝利を疑う者はいなかったが、今となっては結果はやってみなければならない。

 それだけの力を大我は見せつけてきた。

 懇親会でのアルゴスへの宣戦布告も今やだれも身の丈に合わない相手に無謀に喧嘩を売ったとは誰も笑うこともできない。

 

「ここまで来たんだ。大我には皇帝もぶっ倒して欲しいな。アイツは俺たちの想いなんて背負いたくはないだろうけどな」

「でしょうね」

 

 絶対的な王者として君臨していたアルゴスに届くかも知れない力を持った大我。

 少なからず大我がアルゴスを打ち破る瞬間を見たいと思っているダイバーはいるだろう。

 もっとも、大我はチームの仲間以外のダイバーがどう思おうが知ったことではなく、期待を背負うつもりが毛頭ないだろう。

 龍牙にはいつのも不機嫌で、全方位に喧嘩を売っていく、いつもの大我の姿が思い浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 アメリカ代表が決勝進出を決めた次の日、アメリカの対戦相手を決める第二試合が開幕した。

 大方の予想では順当にギリシャが勝利すると思われていたが、対戦相手のイギリスも諦めてはいない。

 クリフォードは予選の最後のバトルで大我と一騎打ちを行い敗北している。

 その時の雪辱を果たすには世界大会の決勝戦はそれに相応しい舞台と言えるだろう。

 

「今回の相手は今まで通りにはいかない。各機、油断するなよ」

 

 バトルフィールドの宇宙で4機のジャナハム・ロコスを率いるセルジオスのジャハナム・ロハゴスが先行する。

 

「隊長!」

「散開!」

 

 セルジオスの指示でジャハナム・ロコスは一斉に散開すると高出力のビームが横切る。

 

「この火力は……これまでのデータにないな」

 

 イギリス代表チームの特色は機動力と格闘能力だ。

 ある程度の火力は持っていても、これだけの火力はなく長距離からの高出力のビームはエース機のダブルオーランサーのライザーランスくらいだが、今のビームとは色が違う。

 そのビームを撃ったガンプラの正体はすぐに判明した。

 

「……ネオジオングか」

 

 ギリシャ代表チームの使用するガンプラの1機であるシナンジュをハルユニットとドッキングさせてネオジオングとしてギリシャ代表は投入してきた。

 すぐさまジャハナム・ロコスはネオジオングに一斉に攻撃を始めるが、Iフィールドに阻まれてしまう。

 

「やはりビームは効かないか……」

 

 ジャハナム・ロコスには実弾系の装備はない。

 セルジオスのジャハナム・ロハゴスならばミサイルを持っているが、ネオジオングの火力ではミサイルは届かず、運よく届いたとしても決定打にはならないだろう。

 そうなれば接近戦を仕掛けるしかないが、それは向こうの思うつぼだろう。

 

「とは言えやるしかないか」

 

 どの道、距離を取っての打ち合いでは数で圧倒していても分が悪い。

 ギリシャとしては接近戦を仕掛けるしかない。

 そう考えている間にイギリスのガンプラは仕掛けて来る。

 ネオジオングのビームに当たらないようにギリシャのインフィニットジャスティスにトールギス、ハルバートと大型シールドを装備したグレイズリッターの3機が突撃してくる。

 

「敵との距離を保ちつつ迎撃せよ。ネオジオングのビームには当たるなよ」

 

 後方から砲撃で支援しているネオジオングは現時点ではどうにもできそうにない。

 まずは接近してくる敵ガンプラの対処の方が先決とセルジオスは判断した。

 ジャハナム・ロコスはインフィニットジャスティスにビームライフルを撃ち、インフィニットジャスティスはビームシールドで防ぎながらビームライフルで応戦する。

 イギリスとギリシャとの戦闘は膠着状態に入りつつあった。

 イギリスはネオジオングの砲撃支援で優位に立とうとするが、ギリシャの統率の取れた動きの前に攻めきれずにいる。

 

「流石にここまで残っただけのことはある。だが、それもここまでだ」

 

 戦闘開始から時間が経過し、ネオジオングに後方から高出力のビームが飛んでくる。

 ビームはIフィールドで防がれるが、同時に大量のミサイルが降り注ぐ。

 ネオジオングはビームで弾幕を張るが、完全に迎撃しきれずに被弾するが、ダメージはそこまで深刻ではないようだ。

 

「全く、私たちの手を煩わせないでもらえる?」

「すまん。思った以上に手ごわかった」

 

 後方からはギリシャの増援が到着した。

 増援の先着を切ったのはディーナのGカタストロフィー。

 カバカーリーをベースに高トルクパックを装備したパワーに特化したガンプラだ。

 バックパックの大型スラスターを4基に増設して、各部のスラスターを増やして機動力を高め、高トルクパックと膝のシールドで防御力も高められている。

 手持ちの武器はガンダムキマリスのグングニルと、腰にバルバトスルプスのツインメイスが装備され接近戦に特化している。

 グングニルは実弾ではなくビームが撃ちだせるようになっており、必要最低限の火力も備えている。

 到着したGカタストロフィーは更に加速してネオジオングの方に向かっていく。

 

「増援だと!」

「いつの間に! うぁあ!」

 

 イギリスのガンプラのレーダーには接近する機影は確認できなかった。

 突然の自体を把握する前に、別方向からのビームがグレイズリッターに頭部を吹き飛ばす。

 

「くそ!」

 

 体勢を整えるグレイズリッターを2機のジャハナム・ロコスがビームナギナタで切り裂いて破壊する。

 

「ちっ……俺の撃墜数を奪いやがって」

「不意を突いておいて外すからいけないんだよ。下手くそ」

 

 更に増援は続く。

 後方からビームとミサイルを撃ったのはボアのGケラノヴィス。

 Gルフィファーをベースに特徴的なスカートファンネルを全て外してアサルトパックを装備した火力特化型のガンプラだ。

 もう一機はニキアスのGファンタズマ。

 こっちはジャイオーンをベースにバックパックをトリッキーパックに変更し、両手にはビームライフルを持たせている。

 イギリス代表に増援を気取られなかったのはニキアスのGファンタズマによるジャミングによるものだった。

 

「ふん」

「さぁて……俺たちが出てきたんだ。お前ら全員ぶっ殺してやるよ!」

 

 Gケラノヴィスが全砲門からビームを放つ。

 前に出ていたインフィニットジャスティスとトールギスは何とかかわす。

 その間にGカタストロフィーはネオジオングに向かっていく。

 

「遅い! 遅い!」

 

 ビームをかわしながらGカタストロフィーはグングニルをシナンジュに向けて突き出しながら突っ込む。

 ここまで接近されてしまうとどうしようもないと判断し、シナンジュはビームライフルとシールドを持ってハルユニットから離脱した。

 グングニルはハルユニットを貫き、ハルユニットは爆発を起こして沈黙する。

 

「逃がす訳ないでしょ!」

 

 離脱したシナンジュを追撃してグングニルを突き出すが、その間にダブルオーランサーが割込みGNブラスターランスでGカタストロフィーを弾き飛ばす。

 

「クリフォード!」

「済まない。遅れた」

 

 弾き飛ばされたGカタストロフィーをヘルムヴィーケ・リンカーがヴァルキリアツインソードで追撃する。

 

「出てきたわね! 神槍!」

「引き釣り出したのは三銃士か……できれば皇帝陛下と手を交えたかったんだけどね。それとも君たちをしとめれば出て来るのかな?」

「舐めんな!」

 

 クリフォードの挑発的な態度にGカタストロフィーは加速して突撃する。

 だが、グングニルの一撃を軽くかわすとダブルオーランサーはGカタストロフィーの背後を取る。

 

「悪いが、槍の扱いでは誰にも負けるつもりはない」

 

 GNブラスターランスでGカタストロフィーのスタスターを1つ破壊する。

 

「さて……我々にとって厄介なのは大火力を持つ君だ」

 

 Gカタストロフィーを蹴り飛ばすとダブルオーランサーはGケラヴィノスの方に向かっていく。

 Gケラヴィノスは迎撃するが、ダブルオーランサーには当たらない。

 

「ちょこまかと!」

「下がれ! お前たちは姿を見せたままでは戦えんだろう!」

 

 迫るダブルオーランサーにジャハナム・ロハゴスはビームライフルでけん制しながら間に入る。

 Gケラノヴィスは火力は高いが接近戦には向いていない。

 Gファンタズマもジャミングによる支援がメインで戦闘能力自体はお世辞にも高いとは言えずわざわざ前線まで出て来る必要はない。

 それでも前に出てきたのは王者所以の慢心なのかも知れない。

 

「こちらを見下し支援型で前線まで来た仲間のお守りとは君も苦労させられているようで」

 

 ダブルオーランサーはGNブラスターランスの粒子ビームを撃つ。

 ダブルオーランサーが合流し、他にもイギリスのゼイドラ、ガンダムローズ、シグー、ジンクスⅢ、ガンダムAGE-1 スパローも合流しイギリスのガンプラが全機そろうこととなる。

 

「すでにギリシャのガンプラは8機……ここを突破すれば皇帝までたどりつくことが出来る」

 

 ジャハナム・ロハゴスのビームジャベリンをGNブラスターランスで受け止めて弾き、GNサブマシンガンで追撃する。

 ジャハナム・ロハゴスはビームジャベリンを投擲してビームライフルを連射する。

 ビームジャベリンを弾き、ビームをGNフィールドで防ぐ。

 イギリスの総力戦に対して、ディーナのGカタストロフィーは4基の大型スラスターの内、1基を破壊されたことで上手く加速時のバランスが取れずにシナンジュとヘルムヴィーケ・リンカーに苦戦し、4機のジャハナム・ロコスも連携を取って持ちこたえているものの、ジリジリと押されている。

 火力の高いGケラノヴィスはスパローとゼイドラが機動力を駆使して翻弄している。

 バトルの流れはギャラリーの予想を裏切りイギリス優勢で進んでいる。

 このままこの戦場で勝利してフラッグ機と思われるアルゴスを討ち取りに行こうと思った次の瞬間、ガンダムローズがビームで撃ちぬかれ、続けてスパローも撃ちぬかれる。

 

「新手か? 今のビームは皇帝のGセルフの物ではない……となると」

 

 ギリシャのガンプラの大半は交戦中で、アルゴスのGバジレウスの物ではないとすれば、ギリシャのガンプラは残り1機しかいない。

 

「無様だな。相手を格下と侮ったか」

 

 ギリシャの最後の1機はアルゴスの姉であるアルドラのガンプラ、Gバジレイアだ。

 GバジレイアはGアルケインの改造機だ。

 Gアルケインの可変機構を廃止し、バックパックにはリフレクターパックが装備されている。

 腰にはGルシファーの物を小型化したスカートファンネルがフロントアーマーとリアアーマーに2基つづ、サイドアーマーに1基つづの計6基が装備され、両手には対艦ビームライフルとシールドが装備されている。

 

「姫様……」

「奴の相手は私がしよう。セルジオスはジャハナム隊の指揮を取れ」

「了解しました」

 

 ジャハナム・ロハゴスはジャハナム・ロコスの援護に向かう。

 それをクリフォードは手を出さずに見送った。

 アルゴスにたどりつくための最後の障害となるのがアルドラだろう。

 その実力は弟のアルゴスには及ばないものの同年代では最強格の一人とされている。

 

「女帝自らお出ましとは光栄だな」

「来い」

 

 Gバジレイアは対艦ビームライフルを撃つ。

 ビームを回避してダブルオーランサーはGNブラスターランスの粒子ビームで応戦する。

 だが、Gバジレイアのリフレクターパックが展開してビームを吸収する。

 

「リフレクターか……やはりビームは効かないか、となれば!」

 

 ダブルオーランサーは一気に加速する。

 Gバジレイアも対艦ビームライフルを対艦ソードに切り替えるとダブルオーランサーを迎え撃つ。

 2機は真向からぶつかり合う。

 2機のパワーはほぼ互角で一度距離を取り、Gバジレイアはバルカンを撃ちながらスカートファンネルを展開する。

 

「流石にファンネルにはビームは効くだろう!」

 

 スカートファンネルに粒子ビームを撃つが、スカートファンネルは軽々とビームをかわす。

 その間に他のスカートファンネルがダブルオーランサーを囲み全方位からビームを撃つ。

 GNフィールドで身を守るが、接近してきたGバジレイアが対艦ソードを振るい、GNフィールドを切り裂きオーライザーの翼を切り裂いた。

 

「良い腕だが……アルゴスに挑む程ではない」

「……これが女帝の実力……皇帝に挑む前に使いたくはなかったが! トランザム!」

 

 ダブルオーランサーはトランザムを起動する。

 

「いくらビームを吸収出来ようとも!」

 

 GNブラスターランスを高らかに突き上げる。

 そして、高出力のビームの刃が形成される。

 

「これならば!」

 

 ダブルオーランサーはライザーランスを振り落とす。

 いくらビームを吸収できたとしても、これだけの威力であれば完全に吸収することは出来ないだろうとクリフォードは考えていた。

 Gバジレイアはリフレクターパックを展開してライザーランスを受け止めた。

 

「最大出力でなら!」

 

 この後にアルゴスとの戦いを控えているが、今は余力を残してはいてはアルドラには勝てない。

 クリフォードはライザーランスを最大出力にまで引き上げる。

 その負担からGNブラスターランスは悲鳴を上げているが、構ってはいられない。

 やがて、トランザムの限界時間とともにビームの刃は消え去る。

 

「見事だ」

「……これほどとは」

 

 ビームの刃が消えたそこには無傷のGバジレイアがそこにいた。

 リフレクターパックは全て失われているが、本体にまではダメージはいっていない。

 Gバジレイアは対艦ビームライフルをダブルオーランサーに向けて構えていた。

 

「全力を持って挑んできたことに敬意を表してこの一撃で仕留めさせて貰おう」

 

 ライザーランスを防いだ時に吸収したビームをそのままGバジレイアは使うことが出来る。

 十分に蓄積されたエネルギーを使い、対艦ライフルは最大出力で放たれた。

 

「クリフォード!」

「やらせるか!」

 

 トランザムを限界まで使ったことでダブルオーランサーの性能は大きく低下している。

 この攻撃を防ぐ術は残されていない。

 だが、それでもエースを守ろうと、シナンジュがシールドを構えて間に割り込むがビームに飲み込まれて消滅する。

 すぐにヘルムヴィーケ・リンカーも割込みヴァルキリアツインソードで受け止めるが、防ぎきれなかった。

 ビームはダブルオーランサーに迫り、無慈悲にダブルオーランサーを飲み込み跡形もなく消滅させた。

 イギリス代表のフラッグ機はエースでるクリフォードのダブルオーランサーであり、ダブルオーランサーが撃墜されたことでギリシャ代表は決勝進出を決めた。

 ギリシャが勝利し決勝戦の組み合わせはアメリカ代表チームとギリシャ代表チームで確定した。

 



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ビッグスター

 

 

 

 ギリシャとイギリスとのバトルが決着から翌日、決勝戦の当日を迎えていた。

 ここまでいきなり大我の宣戦布告から始まったものの、大きな問題もなく大会は順調に進んだ。

 そして、決勝戦はここまで敗れてきたダイバーのみならず、ライブ中継され、ジュニアクラスのダイバーやオープンクラスのダイバーも注目している1戦だ。

 組み合わせは順当に勝ち進んできたギリシャと今大会のダークホースであるアメリカとなった。

 決戦の朝を迎え、アメリカ代表メンバーは皆緊張した面持ちだ。

 皆、世界大会で優勝するつもりでここまで戦って来たが、いざ優勝に王手をかけた実感が沸いてきたのだ。

 そんな中でいつも通りなのは大我とリヴィエールくらいだ。

 もっとも、リヴィエールは準決勝第二試合が行われた昨日は丸一日一人で部屋に籠り大我のオメガバルバトス・アステールを弄っていた。

 まともに寝ていたのかリヴィエールは今にでも眠そうにしている。

 

「泣いても笑っても今日のバトルで終わりだ」

 

 ルークは皆に声が震えそうなところを見せないようにいつも通りを装う。

 

「あんまり気負う名よ。ルーク。今日もいつも通りに敵をぶっ潰して終わりなんだ」

「……今日ばかりは大我の図太さがうらやましいよ」

 

 相手がアルゴスだろうと大我はいつも通りに戦えるのだろう。

 そこは誰もが心配はしていない。

 

「ルーク。最強ってのは最も強いやつを指すんだ。つまり最強は皇帝よりも強い。そして、最強の俺がいるチームは最強。つまりは俺がいるイコール勝利。ガキでも分かる理屈だ。ルークは頭が良いんだ。そのくらいわかるだろ?」

 

 大我の無茶苦茶な理屈も決戦を前に頼もしく感じる。

 これまで大我は大口を叩いてきたが、常に相手をねじ伏せてきた。

 大我にとっては相手が誰であれいつも通りに戦い勝つだけだ。

 そうすることで大我の目的である世界で一番強いファイターに近づくからだ。

 

「それに私が更に改良したバルバトスはすんごい事になっちゃったから。もうマジ凄い。マジ最強! ってなるわよ」

 

 徹夜のテンションなのか、リヴィエールは普段よりもテンションが高い。

 そんな二人を見てルークや皆の緊張も解れたようだ。

 

「まったく……みんな、ここまで来るのは長いようで短かった。思えば、僕と大我が初めて会ったあの時から、こうなる定めで運命は動き出したの……」

「長い」

 

 ルークの言葉を遮り、大我はリヴィエールからガンプラを受け取り、GBNにログインする。

 他のメンバーたちもルークの話をスルーしてログインを始める。

 最後にルークも話しを切り上げてGBNにログインする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決戦の舞台はアムロ・レイとシャア・アズナブルが最後に戦った地球に降下するアクシズの周辺。

 アメリカとギリシャのガンプラが出撃した事でバトルが開始される。

 

「先陣は!」

「俺たちに!」

「任せて! えぇえ!」

 

 アメリカ代表チームの先陣を雷邪、スタークアデル、ハンブラビボードが切るが、ギリシャのGケラノヴィスの長距離ビームによる先制攻撃でハンブラビボードに直撃して撃墜される。

 そして、5機のジャハナムの連隊が迫る。

 

「やってくれたな。リヴィエールは索敵。敵の位置を把握する」

「分かってるって」

 

 リヴィエールのスローネジーニアスはバトルフィールドの端っこに陣取るとGNサーチフィールドを展開して敵の位置を把握しようとする。

 

「クロエとジェイクはGルシファーとジャイオーンを叩いてくれ。ここは僕とディランを中心に抑える。大我は皇帝を!」

 

 ルークはすぐに指示を出す。

 FXエステレラとスターユニコーンが離れ、オメガバルバトス・アステールはバルバード形態に変形するとアクシズの方へと向かっていく。

 

「来るぞ!」

 

 ソルエクシアはGNビッグキャノンを撃って、5機のジャハナムを散開させる。

 すぐにZガンダム・シュテルンとスタークアデルがビームを撃つ。

 それをかわしながら雷邪が突撃する。

 

「皇帝だか何だか知らないが! 大我さんの敵じゃないんだよ!」

 

 雷邪がヘビークラブを片手に持ちべヨネットライフルを連射しながらジャハナム・ロハゴスに突っ込んでいく。

 

「勢いだけではな!」

 

 ジャハナム・ロハゴスはヘビークラブの一撃をかわすと雷邪にビームライフルを連射する。

 雷邪はビームに掠りながらも攻撃をかわす。

 すぐにジャハナム・ロコスの1機が雷邪にビームマシンガンを向けるが、ソルエクシアのGNビッグキャノンの餌食となり消滅する。

 

「3番機がやられたか」

「あなたは隊長機のようで」

 

 Zガンダム・シュテルンがロングメガライフルを撃ちプロトフィンファンネルを射出する。

 

「隊長機は僕が押さえます」

「ウス」

 

 ジョーはジャハナム・ロハゴスから離れると他のジャハナムの元に向かう。

 射出されたプロトフィンファンネルの攻撃をかわしていたが、Zガンダム・シュテルンのグレネードランチャーがビームライフルに直撃する。

 

「アメリカ代表は大我だけでないところを見せてあげますよ」

 

 Zガンダム・シュテルンのビームサーベルをジャハナム・ロハゴスはビームナギナタで受け止める。

 

 

 

 

 

 別動隊をして離れたFXエステレラとスターユニコーンはリヴィエールから送られてきた情報をもとにGケラヴィノスとGファンタズマを補足していた。

 スターユニコーンのメガビームライフルがGファンタズマのトリッキーパックを撃ちぬく。

 

「んだと! なんでこっちの位置がばれてんだよ!」

「俺に聞くなよ」

 

 向こうはジャミングを使っていたため、自分たちの位置がこんなにも早くバレて攻撃されることなど思ってもいなかったようだ。

 並のガンプラならGファンタズマのジャミングで位置を特定されることはないが、相手が悪かった。

 リヴィエールのスローネジーニアスのGNサーチフィールドの索敵能力の前ではGNファンタズマのジャミング能力など意味を成さない。

 Gファンタズマは破壊されたトリッキーパックをパージするとビームライフルで応戦する。

 同時にGケラヴィノスもビームとミサイルで応戦する。

 

「そっちは任せたわ。私はあっちを黙らせる」

「ちっ……今日のところは獲物を譲ってやるよ」

 

 スターユニコーンはビームを回避しながらGファンタズマに向かう。

 

「皇帝直属の三銃士とか言われてるけど、隠れてないとその程度かよ!」

「ふざけやがって! 雑魚の癖に!」

 

 ビームライフルを連射するが、スターユニコーンには当たらず、逆にスターユニコーンのメガビームライフルにGファンタズマは撃ちぬかれた。

 

「ニキアス!」

「仲間の心配してる余裕はないでしょ」

 

 FXエステレラはDファンネルを射出する。

 Gケラヴィノスは加速してDファンネルの包囲から逃れようとするが、FXエステレラは先回りしてスタングルライフルⅠBをアサルトパックに売り込む。

 すぐにアサルトパックをパージし、ビームサーベルを抜いて接近戦を仕掛けようとするが、Dファンネルの全方位攻撃を受けて撃墜された。

 

「これで砲撃支援はなくなったな」

「すぐにルークたちのところに戻りましょう」

 

 2機を撃墜し5機のジャハナムと交戦しているルークの元に戻ろうとするが、スターユニコーンの左腕がビームに撃ちぬかれる。

 

「くっ! まだいたのか!」

「あのガンプラは……最悪な状況は回避出来たけど、最悪ね」

 

 モニターには対艦ライフルを構えながら接近してくるアルドラのGバシレイアが映されている。

 現状で最も最悪な状況はアルゴスとアルドラがともにいることだ。

 大我がアルゴスを仕留めに向かっているが、アルドラがアルゴスとともに待ち受けていれば勝算は一気に絶望的になる。

 

「行けるわね。ジェイク。アイツはここで抑える」

「だな」

 

 ジェイクのスターユニコーンは左腕を失っているが、クロエのFXエステレラは無傷だ。

 それでもアルドラを相手に勝てる見込みはない。

 だが、勝てずともここで足止めをして大我がアルゴスに勝つまでの時間稼ぎが出来ればそれで十分でもある。

 

「アイツにビームは効かない。なら!」

 

 スターユニコーンはメガビームライフルを捨てると背部のハイパーバズーカに持ち替える。

 そして、腰と脚部のグレネードランチャーを発射する。

 

「温い」

 

 Gバシレイアは対艦ライフルでグレネードランチャーを撃ち落とすとスカートファンネルを射出する。

 それに合わせてスターユニコーンはデストロイモードとなる。

 

「あのバルバトスがファンネルジャックを使えるというのだ。対策をしていない訳がなかろう」

 

 前回のイギリス戦にななかった機能として、スカートファンネルは本体とファンネルをビームワイヤーでつないだ有線仕様となっていた。

 ビームワイヤー同士は干渉しないようになっているため、オメガバルバトス・アステールとスターユニコーンのNT-Dによるファンネルジャックの対策だけでなく、ビームワイヤーによる攻撃まで可能となっていた。

 

「ちぃ!」

 

 スターユニコーンはハイパーバズーカを連射するがビームワイヤーを使って防がれる。

 スターユニコーンもフィンファンネルで対応するが、本体にはリフレクターパックでビームは吸収されてしまうため、迂闊には狙えない。

 スカートファンネルを狙うが、ビームワイヤーで次々と破壊され、ついには自身の逃げ場すらビームワイヤーに阻まれてしまう。

 それをFXエステレラがスタングルライフルⅠBで逃げ場を作ろうとするが、間にGバシレイアが入り、リフレクターパックでビームを吸収する。

 

「邪魔!」

 

 FXエステレラはビームサーベルを抜き接近戦を仕掛け、Gバシレイアは対艦ソードで受け止める。

 

「先に手負いの方を仕留めさせて貰う」

 

 GバシレイアはFXエステレラを弾き飛ばすとバルカンでけん制を入れる。

 その間にもスターユニコーンはハイパーバズーカを失い、最後の抵抗として右腕のビームトンファーを最大出力で展開して被弾覚悟でGバシレイアに突っ込んでいく。

 

「腕の一本でも!」

「気迫だけではどうにもならんな」

 

 Gバシレイアは対艦ライフルでスターユニコーンの右腕を撃ちぬくとスカートファンネルからのビームがスターユニコーンを撃ちぬいてやがて爆発を起こす。

 

「……ジェイク」

「さて……」

 

 GバシレイアはFXエステレラの方を向く。

 2体1でも勝ち目がなかった相手に1対1ではどうにもならない。

 だが、ここで撤退されてアルゴスと合流されたり、ルークの方に行かれる訳にはいかない。

 

「やるしかないわね」

 

 クロエはバーストモードを起動させる。

 普通にやっても勝てないが、バーストモードを使えば少しはマシな戦いにもなるだろう。

 バーストモードを起動させ、2機は対峙する。

 するとGバシレイアの背部で爆発が起こる。

 

「何!」

「……へっ。無防備なところに一撃入れればダメージも入るだろ」

「……まだやれたのか」

 

 そこには大破しながらもフレームを緑色に輝かせるスターユニコーンが漂っていた。

 スターユニコーンはGバシレイアの攻撃をサイコフィールドを使って撃墜だけは回避して何とか大破で持ちこたえていたようだ。

 そして、背を向けたところを残っていたグレネードランチャーをGバシレイアに撃ち込んだ。

 

「……私にも油断はあったようだな」

 

 Gバシレイアは大破したスターユニコーンに対艦ライフルを撃ち込んで今度こそ確実に仕留めた。

 ジェイクの最後の一撃によりリフレクターパックに異常が発生していたため、Gバシレイアはリフレクターパックをパージする。

 

「ジェイク……アンタやるじゃない。でかい図体の癖に手先が器用なだけの奴じゃなかったのね。少し見直したわ」

 

 リフレクターパックを失ったことでビーム兵器が普通に使えるようになったのはクロエにとっては優位に働く。

 その代償としてアルドラには一切の油断がなくなったが、流れはクロエに向いて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アメリカとギリシャが交戦している宙域から少し離れた位置にあるアクシズの表面にアルゴスのGバシレウスは立っていた。

 戦闘の光は見えるが、アルゴスは戦闘に参加することなくアクシズに立っていた。

 まるで何かを待っているかのようにも見えた。

 

「来たか。余程優秀な目を持っていると見える」

「よう……」

 

 Gバシレウスの前に大我のオメガバルバトス・アステールが降り立つ。

 特段隠れていた訳ではないが、何のヒントもなくここまでたどりつくにはもう少し時間がかかるとアルゴスは考えていたが、スローネジーニアスの索敵能力はアルゴスの予測を超えていた。

 

「まさかここまで来るとはな。あの時の言葉は妄言ではなかったという訳か」

「御託はいいよ。こうして俺とお前、遭遇したんだ。やることは一つだろ」

「……確かにな。ならばファイター同士語り合おうではないか」

 

 オメガバルバトス・アステールがバーストメイスカスタムを構える。

 そして、Gバシレウスが発光すると全方位レーザーを発射する。

 Gバシレウスの周囲には巧妙に隠していたが、すでにオメガバルバトス・アステールの胞子ビットが大量に配置されていた。

 大我はリヴィエールからアルゴスの位置情報を聞いてすぐに胞子ビットを展開すると、ばれないように展開していた。

 その後に何食わぬ顔をしてアルゴスの前に姿を現していたのだ。

 だが、アルゴスも周囲にすでに胞子ビットが展開されていたことに気づいていたようで胞子ビットを全方位レーザーで一掃する。

 それが合図となり、大我とアルゴスの頂点を決める戦いの火蓋が切って落とされる。

 

「その程度のことに気づかないほど間抜けじゃなくて安心したよ」

 

 オメガバルバトス・アステールが一気に加速してバーストメイスを振るう。

 大我もアルゴスが気づくことを想定し、アルゴスに初手で胞子ビットを処理させることで、自分の得意な間合いに持ち込むことが狙いであった。

 バーストメイスカスタムをGバシレウスはビームサーベルで受け止める。

 2機のぶつかりあった衝撃は凄まじく周囲に衝撃波を発生させるほどだ。

 

「そうでないとぶっ潰し甲斐がない!」

「残念だがそれは不可能だ」

 

 バーストメイスカスタムを弾くとGバシレウスは至近距離から高出力ビームライフルをオメガバルバトス・アステールに撃ち込む。

 それをGNフィールドで防ぎながら、更に前に出てドリルニーを繰り出すが、Gバシレウスは距離を取る。

 

「逃がすかよ」

 

 オメガバルバトス・アステールはシド丸のビームライフルを一斉に撃つ。

 追尾するビームはGバシレウスを襲うが、アルゴスはかわしながら高出力ビームライフルでビームを迎撃する。

 

「行け」

 

 Gバシレウスは肩と腰のトラックビットを射出する。

 GバシレウスのトラックビットもまたGバシレイアのスカートファンネル同様にビームワイヤーによる有線仕様となっていた。

 

「有線? ビームか……面倒な」

 

 オメガバルバトス・アステールは両肩のブレードプルーマを射出する。

 ブレードプルーマでビームワイヤーを切断しようとするが、切断した瞬間にビームワイヤーは結合し意味がない。

 

「無駄か」

 

 トラックビットの攻撃をかわしながら、背部レールガンを撃つ。

 

「やっぱ撃ち合いは性に合わない。ぶっ潰しに行く方が俺らしいか」

 

 オメガバルバトス・アステールはGNフィールドを展開しながら加速してGバシレウスに突っ込む。

 高出力ビームライフルを撃つもGNフィールドで強引に接近してバーストメイスを振るう。

 その一撃をかわして背後を取り高出力ビームライフルを構えるが、背後に向けてミサイルを撃つ。

 ミサイルはバルカンで迎撃するがその間にオメガバルバトス・アステールは距離を詰めてバーストメイスを突き出してくる。

 

「どうした皇帝? そんなもんかよ!」

「まさか……小手調べに過ぎん」

 

 バーストメイスカスタムをギリギリまで引き付けて回避してビームサーベルを振るう。

 それをGNフィールドで受け止めるが、すぐにGNフィールドは切り裂かれるがその間に回避し、胸部の大口径バルカンを連射する。

 Gバシレウスはトラックビットを戻して高出力ビームライフルで反撃する。

 

「ちっ……」

 

 大我とアルゴスの攻防は一進一退でほぼ互角だ。

 Gバシレウスのトラックビットをバーストメイスカスタムで弾くが、高出力ビームライフルの一撃をGNフィールドで受け止める。

 そのままビームを掃射し続け、オメガバルバトス・アステールはアクシズの表面に叩きつけられる。

 

「その程度では落ちんか」

「当然だ。俺はお前をぶっ潰すためにここにいる」

 

 オメガバルバトス・アステールはアクシズの表面に立ち上がる。

 叩きつけられたダメージは特にないようだ。

 オメガバルバトス・アステールはシド丸の頭部を前方に展開し、アステールキャノンの発射体勢を取る。

 同時にGバシレウスもトラックビットを機体に戻すと前方に向けて高出力ビームライフルを構える。

 

「戯言を……誰であろうと立ちはだかるのであれば排除する。我が名に賭けても!」

「これが最後なんだ……だからさ、皇帝の分際で邪魔すんなよ!」

 

 2機から放たれた高出力のビームが真向からぶつかり合う。

 ビームの威力は互角でどちらも譲らない。

 そして、ぶつかり合うビームは閃光となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 大我とアルゴスの戦闘が一進一退で繰り広げられているころ、ルークたちの戦闘も動き始めていた。

 ソルエクシアのGNビッククローがジャハナム・ロコスを捕らえると至近距離から粒子ビームを撃ち込み撃破する。

 その間にもソルエクシアはGNフィールドで身を守りながらGNソードでジャハナム・ロコスのシールドを切り裂く。

 

「流石に簡単には落とさせてはくれないか……」

 

 GNビッグクローを戻し、GNビッグキャノンを放つ。

 散開したジャハナム・ロコスの内、シールドを失っている機体に雷邪がべヨネットライフルを撃ちながら突っ込む。

 べヨネットライフルで頭部が破壊されるも、ライフルの残弾が尽きて、そのままジャハナム・ロコスの肩に突き刺すとヘビークラブで止めを刺す。

 

「これで2機目……ディランの援護に行きたいが……」

 

 戦場にはディーナのGカタストロフィーが合流し、現在はディランのZガンダム・シュテルンと交戦中だ。

 すでにグングニルを失っているが、Zガンダム・シュテルンもプロトフィンファンネルを失っている。

 ツインメイスを持ち、接近しようとしているGカタストロフィーに何とか距離を取りたいZガンダム・シュテルン。

 だが、思うように距離を取れずに攻撃をかわすので精一杯だ。

 

「余所見をしている余裕があるのか?」

 

 ジャハナム・ロハゴスがビームナギナタで接近戦を仕掛けて来る。

 それをGNソードで受け止める。

 

「コイツも厄介だ」

「ルークさん! コイツは俺が!」

 

 ライアンのスタークアデルがシールドライフルを撃ち、ジャハナム・ロハゴスをソルエクシアから引き離す。

 シールドライフルからビームサーベルを出すとジャハナム・ロハゴスに切りかかる。

 

「その程度の実力で!」

 

 ジャハナム・ロハゴスはビームナギナタでスタークアデルの左腕を切り落とす。

 

「腕の一本や二本はくれてやる!」

 

 腕を切り落とされながらもスタークアデルはジャハナム・ロハゴスに体当たりをして、スラスターを最大出力で使い、ジャハナム・ロハゴスをその場から引き離そうとする。

 

「くっ! 小癪な真似を!」

 

 ジャハナム・ロハゴスは自身のスラスターで速度を落としながら膝蹴りでスタークアデルの体勢を崩すと至近距離からバルカンを撃ち込みながらビームナギナタで右腕も切り落とす。

 

「大我さん! 後は頼みます!」

 

 スタークアデルの胴体をビームナギナタのビーム刃が貫き爆散する。

 

「やってくれたな」

 

 スタークアデルが時間を稼いでいる間にソルエクシアはZガンダム・シュテルンの方に向かっていた。

 位置的に追いかけたところで時間がかかりそうだった。

 

「仕方がないか」

 

 セルジオスはソルエクシアの追撃よりも残る2機のジャハナム・ロコスと交戦している雷邪を先に仕留めるために機体をそちらに向けた。

 

「いい加減にしてほしいですね」

「ちょこまかと!」

 

 Gカタストロフィーの攻撃をかわしてZガンダム・シュテルンはロングメガライフルを撃つ。

 だが、Gカタストロフィーは推力に物を言わせて的を絞らせないようにしている。

 

「ディラン。待たせた」

 

 そこにルークのソルエクシアが到着する。

 

「ルーク。助かります」

「援護する」

 

 ソルエクシアはGNビッグキャノンを撃つ。

 

「っ! 何なの!」

 

 動きの先を読んだ砲撃にGカタストロフィーは足を止めざる負えなかった。

 足を止めたところをZガンダム・シュテルンがロングメガライフルで狙い撃つ。

 ビームは直撃したもののGカタストロフィーの装甲に弾かれてダメージは与えらない。

 

「固いですね」

「確かにな。だが、ウチの大我に比べるとマシだと思えばどうということはない」

 

 ルークの言葉にディランは思わず苦笑いする。

 比較対象としてはおかしいが、大我のオメガバルバトス・アステールの防御力と比べれば大抵のガンプラの装甲は紙装甲と言ってもいい。

 実際のところはそう単純ではないが、そう考えるとGカタストロフィーの防御力も大したことはないように思えて来る。

 

「さて、大我が皇帝を倒すまでの間、持ちこたえるぞ」

 

 ソルエクシアとZガンダム・シュテルンはそれぞれの武器を構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オメガバルバトス・アステールとGバシレウスの攻防に決着がつくことはなかった。

 オメガバルバトス・アステールが仕掛ければGバシレウスが完全に凌いで見せる。

 逆にGバシレウスが隙をついてもオメガバルバトス・アステールは確実に防ぎ反撃する。

 それの繰り返しだ。

 

「よもやここまでやるとはな! 姉上とてここまでやれはしない!」

「知るかよ」

 

 バーストメイスの突きを高出力ビームライフルの銃身で受け流す。

 

「このままではお互い決定打に欠ける。ならば、こちらから切り札を切らせて貰う。これを見せるのは父上と2人目だ」

 

 アルゴスはこれ以上の攻防で大我が勝敗を決めるミスを犯すことはないと判断した。

 ならば力を持ってねじ伏せるしかない。

 Gバシレウスの4つのトラックビットが羽のように展開されるとGバシレウスは白く輝き始める。

 大我は全方位レーザーを警戒するが、次の瞬間Gバシレウスはオメガバルバトス・アステールの背後に回り込んでいた。

 

「後ろか!」

 

 反射的に背後に振り向きざまにバーストメイスを振るうが、すでにGバシレウスはそこにはいない。

 

「ナイトロを使わずともその反応速度は賞賛に値する……が、しかし!」

 

 再び背後に回り込んでいたGバシレウスがビームサーベルを振り下ろす。

 オメガバルバトス・アステールは左腕のチェーンソーブレードで受け止めようとするが、チェーンソーブレードは一撃で破壊される。

 すぐに腰のワイヤーブレードを射出するが、Gバシレウスに当たることはない。

 

「ちっ」

 

 この状態のGバシレウスはアルゴスの切り札であるフォトンモードだ。

 フォトンモードになったGバシレウスの機動性能はオメガバルバトス・アステールを遥かに凌駕する。

 アルゴスとGバシレウスの元々の圧倒的な戦闘能力からフォトンモードを使ったのは以前に父親と本気のバトルをしたとき以来だ。

 アルドラとの本気のバトルですら、フォトンモードを使う必要はない。

 今こうしてフォトンモードを使ったのも、大我にはフォトンモードを使うに値し、使わねば勝てない相手だと認めたからに他ならない。

 オメガバルバトス・アステールは超硬ワイヤーブレードを全て射出するが、フォトンモードのGバシレウスの機動力の前ではあっさりと破壊されてしまう。

 

「厄介な物を……バーストモードを使うか? 駄目だ。あれでも追いつけない。ならナイトロでカウンターを狙うか? んなことが通用するかよ」

「考えている余裕があるのか?」

 

 Gバシレウスは至近距離から高出力ビームライフルを撃ち込む。

 GNフィールドを張って守るが、そのままアクシズに叩きつけられる。

 バーストメイスカスタムをアクシズに突き立ててようやく止まる。

 

「どうした? その程度か? 父上が唯一のライバルとして認めた男の息子の実力は」

「……うるさいんだよ。さっきから……俺はお前と舌戦をしに来た訳じゃないんだよ。お前をぶっ潰しに来たんだよ。俺たちビッグスターのバトルは最後だ。なら最後までチームを勝たせるのがエースである俺の役割」

 

 オメガバルバトス・アステールは立ち上がる。

 ところどころにダメージはあるが、まだ戦闘に影響はない。

 

「……とか考えていたけど、もう……どうでもいい。考えるのは止めた。そういうのはルークとか諒ちゃんとか考えるのが好きな奴らが考えればいい」

 

 大我も大我なりにチームのエースとしての役割を持ってここまで来た。

 チームのエースとしてチームを勝利させる。

 それが大我のチームでの役割。

 だが、大我はそんなことは全てどうでも良くなった。

 

「俺はお前をぶっ潰す。世界で一番のファイターになるため、俺自身が最強であることを証明し続けるために」

 

 チームのためではなく己のため。

 大我は今大会で初めてチームのためではなく自分のためだけに戦おうとしている。

 余計な事は一切考えず、ただ目の前の敵をぶっ潰すために。

 

「お前がそうさせたんだ。最後まで死ぬ気で付いて来いよ」

 

 大我がそういうとオメガバルバトス・アステールは金色に光り輝き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「何だあの光は?」

「金色の光……スーパーモードの光とでも?」

 

 アクシズから離れた宙域でもオメガバルバトス・アステールの輝きは見えた。

 ルークとディランとディーナの戦いはジョーやセルジオス達をも巻き込み激化していた。

 すでに全機が満身創痍でいつ誰が撃墜されてもおかしくはない状況だ。

 

「そんなちゃちな物と一緒にして貰ったら困る」

 

 後方から戦場の情報を逐一把握していたリヴィエールが通信に割って入る。

 金色の光からGガンダムのスーパーモードを連想したが違うようだ。

 

「あれはリミッター解除トランザムNT-Dナイトロバーストモード」

「それは一体?」

「だ~か~ら! トランザムバーストモードリミッター解除ナイトロNT-Dだってば!」

「先ほどとは変わってませんか?」

 

 リヴィエールはディランの突っ込みをスルーして話を進める。

 

「私がオメガバルバトス・アステールに搭載したリミッター解除にトランザム、NT-D、ナイトロ、バーストモードの5つの特殊システムを同時に使用した状態よ。あれは」

「全てを……それでどうなる?」

「相手は死ぬ」

 

 リヴィエールのこれ以上ない簡潔な説明だが、簡潔過ぎていまいち容量を得ない。

 分かっているのはオメガバルバトス・アステールに搭載された5つの特殊システムを全て同時に起動させた状態ということくらいだ。

 今までのバトルでは複数を同時に使用することはあっても全てを同時に使うことは出来なかった。

 決勝戦を決めてからの間にリヴィエールが奥の手として用意したものなのだろう。

 その輝きはクロエとアルドラのところでも確認できた。

 

「あれは……アルゴス!」

 

 アルドラもその輝きがまともな物ではなく、それが弟の危機につながると直感的に感じていた。

 だからこそ、すぐにでもアルゴスの元に向かわねばならないと焦りを募らせる。

 

「行かせないっての!」

 

 だが、クロエがその行く手を遮る。

 すでにバーストモードが終わり、機体はボロボロ、残るDファンネルも僅かと何とかここまでアルドラに食らいついて来た。

 対するGバシレイアはリフレクターパックを失った以外の損傷はない。

 流れを掴みバーストモードを使ってもクロエとアルドラの実力差は大きかった。

 

「そこをどけ!」

 

 アルドラは焦りから感情的になり、Dファンネルの攻撃を回避しながら対艦ライフルでDファンネルを撃墜していく。

 感情的になっても尚、正確な攻撃は衰えてはいない。

 

「嫌よ!」

 

 スカートファンネルをビームサーベルで切り裂き、Gバシレイアに接近する。

 対艦ライフルで迎え撃つが、ビームシールドで身を守る。

 数発でビームシールドが破られて、片腕を失うがGバシレイアに取りつくことに成功する。

 対艦ライフルを残っている腕と脇でしっかりと挟み込んで対艦ライフルを封じる。

 Gバシレイアは左腕のシールドでFXエステレラの頭部を殴る。

 FXエステレラの頭部はもげるが対艦ライフルを決して離しはしない。

 

「離れろ!」

「ここで離したら女が廃るでしょうが!」

 

 背後からスカートファンネルの攻撃を受けながらもクロエは必死にアルドラを足止めするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金色に輝くオメガバルバトス・アステールにアルゴスはバトルで初めて恐怖を感じていた。

 オメガバルバトス・アステールから感じられるのはただ相手を破壊することのみを考える純然たる暴力。

 今まで戦って来た相手とは全く違う。

 自身の理解の及ばない未知の存在にすら見えて来る。

 

「来る!」

 

 そう直感すると同時に回避行動をとる。

 その判断が少しでも遅れていたら今頃はバーストメイスの餌食となっていた。

 

「早い!」

 

 一瞬の内に距離を詰めて攻撃していた。

 その速度はフォトンモードとなったGバシレウスと同等かそれ以上に感じる。

 そして、Gバシレウスにはない一撃必殺の攻撃力をオメガバルバトス・アステールは持っている。

 Gバシレウスは高出力ビームライフルを向けるが、すでにそこにはオメガバルバトス・アステールはいない。

 

「何? そこか!」

 

 Gバシレウスは高出力ビームライフルを向けようとするが、すでに接近していたオメガバルバトス・アステールはGバシレウスを蹴り飛ばす。

 何とか高出力ビームライフルでガードできたが、アクシズの表面に叩きつけられる。

 

「パワーがこれまで以上だとでもいうのか……」

 

 銃身の強度の高い高出力ビームライフルだが、今の一撃で銃身が曲がって使い物にならなくなっていた。

 

「だが、そのパワーにも代償はある」

 

 オメガバルバトス・アステールの右足は蹴った時の反動で足のパワーユニットごと膝の関節が本来は曲がらない方向に曲がっていた。

 すぐに右足がパージされる。

 それを見ていたアルゴスは冷静さを取り戻していく。

 今のオメガバルバトス・アステールはアルゴスですら気圧されるほど圧倒的な戦闘能力を持っている。

 しかし、それ故に自身への負荷も尋常ではないのだろう。

 

「ならばやりようは……」

 

 Gバシレウスがビームサーベルを抜こうした瞬間にオメガバルバトス・アステールが目の前に現れる。

 そして、バーストメイスカスタムが振り下ろされた。

 ギリギリのところで回避し、バーストメイスカスタムはアクシズを一撃で粉砕した。

 

「出鱈目だな。だが……」

 

 アクシズを一撃で破壊する程の攻撃力を見せつけられてアルゴスは笑っていた。

 圧倒的な戦闘能力を前にアルゴスの王者としての肩書など意味はない。

 今のアルゴスは王者ではなく挑戦者。

 父親とのバトル以外に挑戦者として挑むのは久しぶりだ。

 ガンプラバトルを姉とともに父から教わり、強くなる実感に心が沸いたことがアルゴスにもあった。

 実力をつけていくといつの間にか忘れていた。

 自分の全てを出して全力で戦うバトルを。

 大我とのバトルはアルゴスが忘れていたあの頃を思い出させるには十分だった。

 だが、そんな感傷に大我は浸らせはくれない。

 今の一撃で左腕のパワーユニットに不具合が出たのか、左腕のパワーユニットをパージすると、バーストメイスカスタムを逆手に持ち帰る。

 振り被ったと思った次の瞬間にはバーストメイスはGバシレウスの横を凄まじい衝撃波とともに遥か遠くへと飛んで行った。

 アルゴスは完全に反応できなかったが、とんでもない速度でバーストメイスカスタムを投擲したのだろう。

 大我がバトル中にメイスを投擲することはよくあることだ。

 その精度は非常に高いが、今回ばかりはその勢いがゆえに精度が落ちて外れてくれた。

 

「……面白い」

 

 下手をすれば今ので負けていたかも知れないとアルゴスは感じるが、精神的にはまだ余裕がある。

 オメガバルバトス・アステールは右腕のパワーユニットをパージする。

 

「藤代大我。お前は強い。それは認めよう。だが勝つのはこの俺、アルゴス・アレキサンダーだ!」

 

 大我は何も答えずに突っ込んでくる。

 落ち着きさえすればフォトンモードのGバシレウスが機動力で遅れを取ることは早々あり得ない。

 オメガバルバトス・アステールのドリルニーをかわすと背後と取りビームサーベルを振るう。

 シド丸の翼の片方を切り裂くことに成功する。

 オメガバルバトス・アステールは残る片翼のビームライフルを撃つが、追尾したところでGバシレウスに届くことはない。

 攻撃を回避していると、オメガバルバトス・アステールはシド丸をパージする。

 パージされたシド丸は爆発を起こす。

 オメガバルバトス・アステールはオメガバルバトスとなり、Gバシレウスを追いかける。

 戦場に金色と白い光が幾度も交差する。

 

「何言ってんだよ」

 

 Gバシレウスの背後に回り込んだオメガバルバトスはGバシレウスのバックパックを強引にもぎ取ろうとするが、その前にバックパックをパージして振り向きざまにバルカンで自身のバックパックを爆発させる。

 爆発から飛び出てきたオメガバルバトスは左足のパワーユニットと胸部の追加装甲をパージする。

 

「勝つのは俺だ」

 

 不要となったパーツをパージした事でオメガバルバトスは更に加速する。

 Gバシレウスは頭部のバルカンを撃つが、バルカンがオメガバルバトスを捉えることはない。

 今度は両肩から煙が上がり、オメガバルバトスは両肩の装甲をGNドライヴごとパージした。

 

「そこまでになりながらも尚戦うか!」

 

 すでにオメガバルバトスの追加装備の大半を失っている。

 射出されたテイルメイスをGバシレウスはビームサーベルで切り裂く。

 オメガバルバトスは更に加速して真向から向かってくる。

 Gバシレウスはバルカンを撃ちながら迎え撃つ。

 バルカンでのダメージはないが、オメガバルバトスの装甲はとうに限界迎えて内部フレームから砕けて剥がれていく。

 ついにはオメガバルバトスの右腕が肩からフレームごと外れて飛んでいく。

 それでも大我が止まることはない。

 

「俺が……」

 

 Gバシレウスはビームサーベルをオメガバルバトスに向けて突き出す。

 オメガバルバトスも左手の爪を突き出す。

 2機がぶつかり合い、ルークたちのところまで見えるほどの光を放つ。

 

「あの光は……一体どっちが……」

 

 ソルエクシアはバックパックのセラヴィーⅡを失い、その周囲にはボロボロになり、ビームサーベルをジャハナム・ロハゴスの胴体に突き刺し、ジャハナム・ロハゴスのビームジャベリンが太ももに突き刺さっているZガンダムシュテルンに全身にGNソードビットが突き刺さり、GNソードが突き立てられたGカタストロフィー。

 少し離れたところには2機のジャハナム・ロコスにビームナギナタを突き刺されながら、ヘビークラブで1機の頭部を潰し、もう1機の胴体にナックルシールドをぶち込んだ雷邪が漂っている。

 戦場の端には戦闘には一切参加せずに戦場で唯一無傷のスローネジーニアスがいた

 

「そんなの決まってるじゃん」

「ああ。あれだけの巨大な星を見せつけることが出来るのはアイツに決まっている」

 

 その光景はアルドラも見ていた。

 GバシレイアはビームサーベルをFXエステレラに背中から突き出して止めを刺したが、クロエは決着がつくまでの間時間を稼ぐことには成功していた。

 

「……アルゴス」

 

 止めを刺していたものの、Gバシレイアはその場から移動することはなかった。

 すでにその決着を悟っていたからだ。

 その光の中心では決着がついていた。

 Gバシレウスのビームサーベルがオメガバルバトスの頭部を貫き、バックパックまで到達していた。

 そして、オメガバルバトスの左腕はGバシレウスの胴体を貫いていた。

 

「俺が……最強だ」

 

 Gバシレウスのツインアイから光が消える。

 損傷で言えばバックパックとライフルを失っただけのGバシレウスとボロボロのオメガバルバトスと大きな差はあるが、最後の一撃は大我に軍配が上がった。

 バトルに決着がつき、観戦していた観客たちは新たな王者の誕生に沸いた。

 

「負けたか」

「……アルゴス」

 

 ログアウトしたアルドラはアルゴスの様子を伺う。

 ここまで王者として君臨してきたアルゴスは敗北したが、その表情には悔いや後悔は見られない。

 むしろ、どこか清々しさすら見て取れた。

 

「姉上、アイツは強かったよ」

「……そうね。アルゴスが負けるくらいだもの」

 

 アルドラはそう優しく語りかけた。

 

「やりやがったな! コイツ!」

 

 静粛に敗北を受け入れていたギリシャ代表チームとは異なり、アメリカ代表チームは勝利に歓喜していた。

 ログアウトするとすぐにジェイクが大我に駆け寄りヘッドロックをかけて喜びを表す。

 

「……苦しい」

「マジで皇帝をぶっ倒しやがって!」

「大したものですよ」

「大我さん! マジパネェっす!」

 

 仲間たちが勝利した大我を称える。

 誰彼構わず喧嘩を売っていくスタイルの大我も珍しく照れながらそっぽを向いているが、見えないように拳を握りガッツポーズを取っている。

 

「言ったろ。俺は最強だって」

「まぁ私がアルドラを抑えたお陰でしょ。どっかのデカブツは早々にやられて一人で足止めをする羽目になったけどね」

「私のガンプラのお陰だから今日の勝利は私がMVPよね」

 

 皆が自分の想いを口にする。

 自身の活躍を主張する者、仲間の活躍を賞賛する者。

 誰かが常に口を開き言葉が途絶えることはない。

 まるでこの時間を永遠に終わらせたくはないかの如く。

 

「みんな、聞いてくれ」

 

 ルークの言葉に一同は口を噤む。

 始めこそはバトルの内容にかかわることだったが、話す内容がなくなってきたのか、最後はどうでもいいようなことばかりが出てきていた。

 

「僕たちビッグスターは元々は回りに馴染めなかった者たちが集まってできたチームだ」

 

 彼らのフォースであるビッグスターの始まりはそこからだった。

 皆が皆、それぞれの理由からリアルでガンプラを共に作り語り合い、GBNで遊ぶ相手がいなかった。

 

「でも僕たちはついにやり遂げた。僕たちの代では不動の皇帝を打倒した。僕たちの存在を誰も否定はできない。だからこそ、僕たちは今日この日を持ってチームビッグスターは解散する」

 

 ルークはそう宣言した。

 どのみち、ルークをはじめとした一部は来年からはジュニアクラスからオープンクラスへ自動的に変更されることとなる。

 このメンバーでこうして公式大会に出られる機会も少なくなる。

 世界大会で優勝した実績があればリアルでもGBNでも彼らを放ってはおかれない。

 この大会が終わると同時にチームを解散することは前から決まっていたことだが、いざその時を迎えてしまうとどうすればいいのか誰も分からない。

 ただ言えることは、ジュニアクラスの世界大会で優勝したと同時に解散した事でチームビッグスターはリベンジしようとするダイバーから永遠に勝ち逃げをすることとなり、GBNの歴史に大我たちの父親世代で伝説となったビルドファイターズと同様に新たな伝説として刻まれることとなるということくらいだ。

 この日、GBNに新たな伝説が生まれたのだった。

 

 

 

 

 



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新時代へ

 

 

 

 アメリカVSギリシャの決勝戦でアメリカがギリシャを破りジュニアクラスの絶対的王者をひきづり下してから一夜が明けた。

 ジュニアクラスとは言えオープンクラスの上位者とも互角以上に戦えるアルゴスを1対1で破った大我のことはGBN中を駆け巡った。

 同時に世界大会で優勝したその日にフォースを解散したビッグスターのことも話題となっている。

 そして、会場となった木馬号では世界大会最終日の閉会式も兼ねた懇親会が行われている。

 開会式の時はこれからバトルが行われることもあり、張り詰めた空気だったが、大会も終わり参加者たちは国の垣根を越えて互いに情報を交換し、親睦を深めている。

 

「なぁカティアはこれからどうするんだ?」

 

 龍牙は隣にいたカティアにそう尋ねる。

 始めこそは冷たい態度だったが、今では打ち解けていると龍牙も自負している。

 

「私も兄さんにもいろんなところから声をかけて貰っているわ」

 

 決勝トーナメントの1回戦で敗れてロシア代表は槙島グループからの援助が打ち切られている。

 カティアもオルゲルトもガンプラバトルで稼ぎ生活をしていたため、死活問題だったが幸いにもあのバトルの後からスポンサーになりたいと声をいくつかかけられていた。

 今はオルゲルトと相談しているところだ。

 

「そっか」

「龍牙は?」

「俺は来年の全国と世界大会に向けてもっと強くなる」

 

 今年の世界大会は終わったが、まだ来年も行われる。

 世界大会に出場するためには全国大会で結果を残す必要もある。

 全国大会ともなればともに日本代表として戦って来た仲間とも戦わなければならない。

 

「そう」

「今年は優勝できなかったけど来年こそは絶対に大我に勝って優勝する!」

「あれだけの戦いを見て良く言えるわね」

 

 大我とアルゴスの一騎打ちはすでにGBN中に拡散し、GBNのバトル史に残るバトルの一つとされている。

 そんなバトルを目の当たりにしても尚、大我の背を追い、いつかは追い越そうと思える龍牙には素直に関心させられる。

 同時にそんな龍牙には負けたくないという対抗心も生まれている。

 

「でも……そうね。私たちはまだ終わりじゃない」

「当たり前だろ。GBNのサービスが終了するか俺たちが死ぬまで俺たちのガンプラバトルは終わらない。終わらせないさ」

「そうね。ところでなんだかスタッフが慌ただしくしているようだけど? 何かあったのかしら」

 

 龍牙も言われてみると運営のスタッフたちが何やら慌ただしく動いているようだ。

 この後の予定だと会場のステージで優勝チームへのインタビューが行われる予定だ。

 例年通りだとチームのリーダーとエースがインタビューを受けている。

 

「……まさかな」

 

 今年の優勝チームはアメリカだ。

 そのエースは大我だ。

 龍牙は大我がまた何かをやらかしたのではないかと思うが、まさか世界大会で優勝しても尚、問題を起こす訳がないとするが、そのまさかが的中しているなど、この時は思ってもみなかった。

 

 

 

 

 

 会場でそんな事態になっていることなど大我はどうでも良かった。

 すでにここに来た目的である優勝はしている以上は後のことは興味はない。

 そして、今大我にとって世界大会で優勝するよりも重大なことが迫っている。

 木馬号の船内の通路で大我は冷静を装いながらも行ったり来たりを繰り返している。

 時折、時間を確認するが、それは懇親会でのインタビューの時間が迫っているからではない。

 

「タイちゃ……藤代君」

「おう」

 

 大我は優勝を決めた後に諒真を通じて千鶴を呼び出していた。

 その時に諒真が優勝を祝うよりもどこかニヤニヤとしていた事など気に留める余裕はなかった。

 

「優勝おめでとう」

「ああ。まぁ……」

 

 大我は千鶴の言葉にどこか上の空だった。

 千鶴も千鶴で少し緊張した面持ちだ。

 

「ジュニアクラスだし、リヴィエールのガンプラもあったからな」

「でも、あの皇帝を倒すなんて凄いよ」

「まぁ……な」

 

 そこで会話は途切れて沈黙が続く。

 大我はポケットから一枚の紙を取り出すと千鶴と視線を合わせることなく差し出す。

 

「ん」

「えっと……」

 

 千鶴も事情は分からないが、とりあえず紙を受け取る。

 紙の大きさはさほど大きくはなく、それぞれの個室に備え付けのメモ用紙のようだ。

 千鶴は折りたたまれていた紙を広げるとそこにはいくつかの数字やローマ字の羅列が書かれていた。

 

「これって」

「……とりあえず世界大会は優勝したし、俺のメールアドレスと電話番号。後、GBNのID。後でフレンド登録しといて」

 

 紙に書かれていたのは大我の携帯のメールアドレスと電話番号にGBNのフレンド登録用のIDだった。

 千鶴も大我の連絡先はいまだに知らない。

 その気になれば珠樹や貴音に聞けば教えては貰えるし、諒真に頼めば間に入って大我に聞くこともできた。

 だが、いざ頼もうとすれば何となく気恥ずかしく結局聞くことはなかった。

 

「……ありがと。後で連絡する」

 

 大我の連絡先の書かれた紙を千鶴も大事にしまう。

 

「用はそれだけ。如月。とりあえずジュニアクラスで頂点に立ったから次はオープンクラスで頂点を取る。そんで俺が最強であることを証明する」

「うん」

「だから……そん時は」

 

 大我はそこまで言うもそれ以上は何も言わないでその場から立ち去る。

 始めはゆっくりと歩いていたが、千鶴から見えなくなると少しつづ速足となり甲板に出ると甲板に備え付けのベンチに座ると大きく息を吐く。

 

「やっべ……滅茶苦茶緊張した」

「あれで?」

 

 独り言に返事が返ってきて、大我は思わずベンチからずり落ちそうになるが何とかこらえる。

 

「……ルーク」

 

 返事の相手はルークで落ちかけた恥ずかしさを隠しながら平静を装う。

 

「何でここにいるんだよ」

「諒真から連絡があってね。君が一世一代の行動に出るかも知れないって」

「何で通じてんだよ」

 

 ルークと諒真は準決勝で戦ってから馬が合ったらしく互いの連絡先を交換していたようだ。

 そして、大我が諒真経由で千鶴を呼び出したことはルークに筒抜けだった。

 

「それで様子を一部始終録画して欲しいと頼まれてね」

「趣味悪」

「まぁそれはさておき、大我にそんな事情があったのは初耳だよ」

 

 ルークにも大我と千鶴との間にあったことは話してはいない。

 そのことを諒真から聞いたのだろう。

 

「うるさい」

「けど、あれはないね」

 

 事情を聴いたルークも諒真も大我は世界大会で優勝した事をきっかけに告白でもするのだろうと考えていたのだが、まさか大我から連絡先を渡すだけだったことは予想の斜め下を行っていた。

 

「どこまで諒ちゃんから聞いたかは知らないけど、所詮はジュニアクラスの世界大会で優勝したに過ぎないだろ。世界で一番のファイターってのはその名の通り最強のファイターだ。俺は最強だが、それを客観的に証明はしてない。だからまだ駄目だ」

「……なるほど。大我はたまに考えなしの馬鹿だとは思っていたけど、考えても馬鹿だったか」

 

 ルークは呆れる。

 幼少期の約束を果たすには今回の世界大会の優勝だけでも十分だが、大我はそれでは満足できないようだ。

 

「で、これから大我はどうするつもりなんだい?」

「ジュニアクラスでやることもないからオープンクラスに切り替える」

 

 ジュニアクラスはあくまでも中高生が始めたばかりだとGBNを何年もプレイしている大人たちとの差が大きくなるための救済処置として作られている。

 そのため、ダイバーによってはジュニアクラスではなくいきなりオープンクラスに登録することもできる。

 もはや大我にとってはジュニアクラスでいるメリットはない。

 

「そんでもって、手当たり次第に強いダイバーをぶっ潰す。そうしていけばいずれは俺が最強という事が証明される」

「……呆れたね」

 

 あまりにも計画性のなさに更に呆れる。

 

「大我。僕はこの大会でGBNでのダイバーとしての活動は抑えなければならない。父の会社をいずれ継ぐためにもね」

 

 その話は以前にも聞いたことはある。

 ルークの父親はアメリカの玩具メーカーの社長らしい。

 いずれはルークも父親の後を継いで社長となることは決まっていていずれは一緒にGBNをできない。

 

「それで父はGBNに出資することが決まってね。それで社内にガンプラのワークスチームを設立することが決まったんだよ。僕は社会勉強の一環としてその辺の管理を任されることになったんだよ」

 

 ルークの父親の会社がガンプラの流通にかかわっていることは何となく知っていた。

 だが、ルークの父の会社のことなど大我には何の興味もなく、そんな動きがあったことなど知らなかったし、興味もない。

 

「僕もこの大会で知り合ったダイバーには何人か声をかけたんだが、チームの要となるダイバーがどうも見つからないんだろ。大我。どこかに心当たりはないかい?」

 

 そこで大我もルークの意図を察した。

 

「いるよ。それもとびっきりのダイバーがね。そいつを加入すればそのワークスチームとやらは最強のチームになることは確実のとびっきりの最強のダイバーがね」

 

 大我もそう返し二人は拳を合わせる。

 それ以上は二人の間に言葉は必要ない。

 懇親会の会場ではアメリカ代表チームのリーダーとエースが未だに不在でてんやわんやとなっているが、そんなことなど二人には知る由もない。

 最初から最後までアメリカ代表に振り回された世界大会はアメリカ代表チーム『ビッグスター』の優勝で幕を下ろした。

 だが、それは彼らにとっては終わりではなく、新たな始まりでもあった。

 そして、GBNはいくつかの大型アップデートが公表され、新時代を迎えることとなる。



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ブレイクデカール編
ビルドナラティブ


 世界大会で絶対王者として君臨していた皇帝アルゴス・アレキサンダーがアメリカ代表チームのエース、藤代大我に敗れて新たな伝説が生まれてから3年の月日が流れた。

 その間にもGBNは様々なアップデートを繰り返し進化を続けてきた。

 そして、今一人の若者がGBNへと足を踏み入れようとしていた。

 

「優人様。旦那様よりお荷物が届いています」

 

 その日、槙島優人はいつも通りの時間に起きて朝食を済ませたころに使用人がそう切り出した。

 優人の父親、槙島優次郎は槙島グループの社長で仕事が忙しいのか普段はほとんど家に帰らない。

 一般的な家庭の一軒家と比べると大きな家に優人は使用人を除けば一人で住んでいる。

 母親は中学に上がる前に妹を連れて出て行った。

 今年から高校を卒業して大学に進学する頃にもなれば慣れもする。

 標準よりも整った顔立ちに穏やかだが意思の強い目に動作の一つ一つに幼少期からの生活の賜物なのかどことなく洗練されている。

 

「ありがとう」

 

 優人は一言礼を言って使用人から父から届いだ荷物を受け取る。

 

「何だろう。大学の入学祝いってこともないだろうし」

 

 父親の性格的に大学への入学祝いだとは到底思えない。

 

「これって……ガンプラ?」

 

 荷物の中には一体のガンプラとダイバーギアが入っていた。

 優人自身、ガンダムもガンプラも詳しくはないが、高校からの友人である八戸神ソラは詳しく良く話を聞かされていた。

 ソラ曰く、角が2本あって目が二つあれば大体はガンダムらしい。

 

「でもなんか骨ばかりでやせっぽっちだな」

 

 優人は以前にソラから見せてもらったガンプラのことを思い出すが、その時のガンプラと比べると送られてきたガンプラは内部フレームに必要最低限の装甲のみと非常に痩せて見える。

 

「取り合えず大学でソラに見せて見るか」

 

 ガンプラに詳しくない優人ではこれが何なのかは判断ができない。

 ここで考えたところで答えは出ないと判断した優人は届けられたガンプラを持って大学へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 優人の通う大学は都内でも大きく様々な学部が存在する。

 大学に到着すると事前に連絡して待ち合わせていたソラと合流する。

 

「珍しいじゃん。優人が俺に相談なんて」

 

 優人もソラも通っていた秀麗高校は進学校で、ソラはその中でもチャラチャラして浮いていた。

 だが、1年の時に同じクラスになり席替えで近くの席になって話すようになってからは何となく気があい気づけば3年間同じクラスで示し合わせた訳ではないが、進学する大学まで同じだった。

 ソラは日頃からガンプラの制作やGBNをプレイしていたが、優人自身が興味がなかったため、たまにしか話題に出すことはなかった。

 

「父さんからこれが届いたんだ。ガンプラみたい何だけど何なのかわかるか? ソラ」

「どれどれ……」

 

 ソラは優人からガンプラを受け取る。

 

「コイツはたぶん、ナラティブだな。まぁベース機よりも装甲を減らしてフレームにもだいぶ手が加えられてちょっと見ただけでも相当な完成度ってのは分かるな。けど、これだけの完成度のガンプラで装備はおろか外装すら碌にないのはなんでだ……」

 

 ソラは次第にブツブツを考察を始めた。

 ガンプラを見ただけでは全ては分からないが、ソラはこのガンプラがナラティブガンダムをベースにされていると予想した。

 ナラティブをベースに元々の装甲を大半外してほとんどフレームだけになっているが、そのフレームにもいろいろと手が加えられているようだ。

 

「……良く分からんが、ダイバーギアもあるんだろ? ならGBNにログインしてみれば何かわかるかも知れないな」

「確かに……」

「善は急げだ! 優人のGBNデビューに俺も付き合うぜ!」

「これから? 授業は?」

「今日の講義は出なくても大丈夫だ。それよりもGBNの方が優先だ」

 

 ソラは完全に今日はサボってGBNをプレイする気満々だ。

 優人も授業をサボることには後ろめたさはあったが、送られてきたガンプラが気になり、ソラと共に大学を後にする。

 

 

 

 

 

 

 大学を出て電車を乗り継ぎ、ソラの行き付けのガンプラショップに来ると優人はソラと共にGBNにログインする。

 ガンプラと共に送られてきたダイバーギアにはダイバーの登録はされていなかったようで、軽いチュートリアル画面になり、一通り見るとアバターの作成画面に移行する。

 

「ダイバーネーム? ハンドルネームみたいなもんか……まぁユートでいいか」

 

 ダイバーネームを決めると自身のアバターの外見の設定に入る。

 初期に設定できるのはオーソドックスなヒューマンタイプか獣の姿、その中間の獣人タイプの3つに分けられる。

 

「普通でいいか」

 

 優人はヒューマンタイプを選択し、顔のパーツもリアルとほぼ同じに設定する。

 

「衣装もいろいろあるんだな」

 

 アバターの初期衣装もいろいろとあり、説明も書かれていたが、ガンダムに詳しくないため意味は良く分からない。

 

「あんまり悩んでソラを待たせる訳にもいかないからこれで良いか」

 

 優人は一覧から適当に衣装を選ぶ。

 選んだのは連邦軍(宇宙世紀)の軍服だ。

 一通りの設定を選ぶと視界が光に包まれるとGBNのロビーに出る。

 

「これが仮想現実なのか……体験するのは初めてだが現実の世界とそんなに変わらないんだな」

 

 ログインした優人は周囲を見渡す。

 周囲にはさまざまなダイバーが行き来している。

 

「優人か?」

「……ソラか?」

 

 声をかけられて優人は振り向く。

 そこには革製のフライトジャケットを着たダイバーがいた。

 どことなくソラに見ている。

 

「おうよ。ちなみにダイバーネームはヤガミだからここではそう呼んでくれ。ユート」

 

 ソラのGBNでのダイバーネームは苗字から取ってヤガミらしい。

 

「ああ。それでどうするんだ?」

「格納庫に移動しようぜ」

 

 ソラがコンソール画面を開くと優人に操作を教える。

 二人は格納庫に移動する。

 そこには優人のナラティブとソラのガンプラが格納庫に並んでいる。

 

「おお」

「初めてここに来るとやっぱそうなるよな」

 

 ログインする前は小さかったガンプラもGBN内では巨大になり始めて自分のガンプラを見たダイバーは大抵その様子に感動する。

 

「そっちがソ……ヤガミのガンプラか?」

「ああ。俺の相棒、ガンダムエアブラスターだ!」

 

 ソラのガンプラはガンダムエアマスターをベースに手持ちのバスターライフルをストライクフリーダムのビームライフルをベースにしたものに変更し、肩にはミサイルの代わりにビームガン兼ビームサーベルが装備されている。

 脚部にはミサイルポッドを増設し火力と格闘戦能力を強化している。

 

「で、ナラティブのスペックはどうなってる?」

 

 優人はコンソールに自分のガンプラのデータを出す。

 機体名の欄にはガンダムビルドナラティブと書かれている。

 

「ガンダムビルドナラティブ。それがコイツの名前か」

「へぇやっぱステータスは高いが武器が頭部バルカンだけか」

「ABシステムとACシステムってのがあるけど?」

 

 ビルドナラティブの装備はバルカンのみで他には一切登録されていなかった。

 特殊機能の欄にはABシステムとACシステムと書かれているがソラもそれだけでは検討もつかない。

 

「取り替えず初心者用のミッションを受けてバトルしてみるか。バトルすれば少しは分かることもあるかも知れないしな」

「分かった。その辺はヤガミに任せる」

 

 ソラは初心者用のミッションを受託する。

 ミッションは3機のリーオーNPDと交戦するという物で、GBNを始めてプレイするダイバーが操縦に慣れたり、新しいガンプラの運用テストでも使われるミッションだ。

 ミッションを受領して二人は自分のガンプラに乗り込む。

 

「ヤガミ、ガンダムエアブラスター! 行くぜ!」

「それ俺も言うのか……ユート。ガンダムビルドナラティブ。行きます!」

 

 優人は少し照れながらも初めての出撃をする。

 

「凄いな。本当にコックピットみたいだ」

 

 ビルドナラティブのコックピットの設定はユニコーンと同タイプに設定されているようだ。

 宇宙に出て少しするとリーオーNPDの接近を警告するアラートがなる。

 

「あれを倒せばいいのか。武器は……これしかないよな」

 

 ビルドナラティブは頭部のバルカンを撃ち、リーオーNPDは散開してビームライフルを撃ってくる。

 

「まぁ武器は誰だけだもんな。けど、見せて貰おうか。そのガンプラの性能とやらをってな」

 

 ソラは少し離れたところに陣取る。

 ある程度の経験のあるソラなら初心者用のミッションをクリアするのは容易だが、それでは意味はない。

 

「武器はこれだけだが……どうする?」

 

 ビルドナラティブはリーオーNPDのビームをかわす。

 

「へぇ。ユートの奴、初心者にしてはやるな。まぁアイツは大抵のことは卒なくこなすから今更驚かないけど」

 

 ソラも高校三年間の付き合いで優人が多才だということは知っている。

 初めてのGBNでここまで動けるのも驚くほどではない。

 

「ユート。ABシステムかACシステムが使えないかやってみてくれ」

「やるってたってな」

 

 優人はいろいろとコックピット内のボタンを押してみる。

 

「何だ……ストライク? 何か攻撃するのか? なんだか知らないけどやってみるか!」

 

 コンソールには一覧のような物が表示されその大半が???となっていたが、一つだけ「ストライク」と表示されている。

 その表記からして何かしらの攻撃と考えた優人はとりあえず、それを押してみた。

 

「何だ? アレ」

 

 ビルドナラティブの前後にプラモデルのランナーのような物が形成されて遠くから見ていたソラも驚く。

 形成されたランナーからビルドナラティブに何やらパーツが飛んで来て全身に装着されていく。

 トリコロールカラーの装甲に最後は右手にライフル、左手にシールドが装着され背中には大型ブースターのついたバックパックが装着された。

 

「……ストライク」

 

 その姿をソラは知っていた。

 装甲や武器が付いたビルドナラティブはエールストライクに酷似していたのだ。

 ABシステムとはアーマービルドシステムのことで戦闘時にビルドナラティブの外装や武器を作り出すシステムだ。

 もう一つのACシステムはアーマーチェンジシステム。

 ABシステムで形成されたアーマーを戦闘時に換装するシステムだ。

 優人が押したストライクとは攻撃を意味するものではなくエールストライクを模したストライクアーマーに換装するということだったようだ。

 

「ユート! それならまともに戦える! 思いっきりやれ!」

「ああ!」

 

 優人がペダルを踏み込むとストライクアーマーを装備したビルドナラティブは一気に加速する。

 

「ライフルなら!」

 

 ビルドナラティブはビームライフルを構えて引き金を引く。

 ビームは正確にリーオーNPDを貫いた。

 

「次!」

 

 1機を撃墜してすぐにもう1機のリーオーNPDの方に向かう。

 ビームをシールドで防ぐとビームライフルでリーオーNPDを撃墜する。

 

「ユート! 今度はビームサーベルを使え!」

「ビームサーベル? これか!」

 

 ビルドナラティブはビームライフルからビームサーベルに持ち帰る。

 残るリーオーNPDのビームを掻い潜り、ビルドナラティブはビームサーベルを振り下ろしリーオーNPDを真っ二つに両断した。

 3機を撃墜した事でミッションはクリアとなる。

 

「初めてのバトルはどうだった?」

「言葉にできないほど凄かったよ。ヤガミがハマるのも分かるよ」

 

 格納庫に戻ると優人は先ほどまでのバトルの興奮を隠さないでそういう。

 ソラも3年間の付き合いでここまで優人が感情を露わにするのを初めて見た。

 それほど、GBNでの初めてのバトルは興奮したのだろう。

 

「なら続けるか?」

「ああ。父さんがビルドナラティブを俺に送ってきた理由は分からないが、それを抜きにしても滅茶苦茶楽しかったからやめる理由はないさ」

 

 優人も父親がビルドナラティブを送ってきた理由はどうでもよくなっていた。

 今はただGBNを楽しむことだけしか考えられない。

 だが、この時の優人は知らなかった。

 これがGBNでの楽しい一時の始まりと同時に世界を変えかねない大事件の始まりとなることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ブレイクデカール

 

 

 

 初めてGBNでバトルをした翌日、優人はソラと共にGBNにログインしていた。

 ソラは今日も大学をサボるつもりだったが、優人は流石に二日連続で大学をサボるというのもどうかと思い授業が終わってからGBNにログインすることとなった。

 前回は宇宙でのバトルだったが、今回は地上ステージでバトルを行っている。

 フィールドは見渡しが良く、他のダイバーが近くにいればすぐにわかる草原エリアだ。

 ビルドナラティブは始めからストライクアーマーを装備した状態になっている。

 現在使えるアーマーはストライクアーマーのみでアーマーを装備していない状態と比べるとアーマー分の重量の増加はある物のそれ以外のスペックは全てストライクアーマーを装備していた時の方が高く、アーマーを装備しない理由はない。

 

「ユート! そっちに行ったぞ!」

「ああ! 任せろ! ヤガミ」

 

 ビルドナラティブはスラスターを全開にして飛び上がると降下しながらリーオーNPDにビームライフルの照準を合わせて引き金を引く。

 ビームは正確にリーオーNPDを撃ちぬき、ビルドナラティブは着地する。

 

「だいぶ地上戦も慣れてきたな」

「まぁな」

 

 ソラのエアブラスターもビルドストライクの横に着地する。

 

「けど、ストライクアーマーの背中にはでかいブースターがあるのに飛べないんだな。普通に飛べるヤガミのガンプラはずるくないか?」

「そうは言われてもな……エールストライカーはデスティニーのルージュのように改良型は重力下でも飛べるけどシードの時は滑空するのが精一杯だったからな」

 

 エアブラスターは重力下でも高い空戦能力を持っているが、ストライクアーマーでは長時間の飛行能力は持っていなかった。

 GBNのシステム上はベース機のガンプラが作中で飛行能力を持っていれば自動的に飛行スキルは所得される。

 作中で飛行できない機体も改造やダイバーポイントを使って飛行スキルを取得することで飛行は可能になるのだが、ビルドナラティブは飛行スキルなどのスキルを後付けできない仕様になっている。

 そのため、ビルドナラティブは飛行可能なアーマーが使えるようになるまでは空は飛べないということだ。

 

「それは置いておいて、新しいアーマーは使えるようにはなったのか?」

「いや……ストライク以外はまだだ」

 

 かれこれ2,3時間はバトルをしているが未だにアーマーはストライクアーマーのみだ。

 ソラの見立てではAGEシステムのように戦闘を繰り返せば新しいアーマーが解禁されていく仕様なのではないかと思っている。

 前回のバトルよりもはるかに長い時間のバトルを行っても新しいアーマーは使えるようにはなっていない。

 

「そっか。なら戦闘以外でも何か解放条件があるのかも知れないな」

「だな。まぁ楽しみは後にとっておくのも悪くないさ」

「ユートがそういうなら俺も焦って行動はしないけど、そろそろ休憩でもするか」

 

 GBNでのアバターは疲れることはないが、それでもダイバーの感覚的には一度休憩を入れておきたかった。

 優人とソラはコックピットのハッチを開けるとガンプラから降りる。

 

「にしてもこれも全部作り物とは思えないな」

「それは誰もが通る道だな」

 

 ソラはGBNの大地を見る優人を見て何度もうなづく。

 GBNの広大な大地は初めてGBNをプレイしたダイバーには作り物には見えない。

 

「で、感動しているところ悪いんだが、今後のことを話しとこうぜ」

「ああ。初心者でもできるような簡単なミッションから始めていくんだろ?」

「それもあるんだが、事前に落しえておいた方が良い事がある」

 

 ソラは珍しくまじめな表情をする。

 

「最近はこっちのディメンジョンでも使うダイバーがいるって聞くんだが、ブレイクデカール使いと戦うことは極力避けた方が良い。今の俺たちでは勝ち目は薄いからな」

「ブレイクデカール?」

 

 始めたばかりで初めて聞く単語の多い優人だが、ソラの言うブレイクデカールも初耳のようだった。

 

「まぁ平たく言うと自分のガンプラを一時的に強化したり特殊機能をつけることのできる特殊なツールの総称だよ」

 

 ブレイクデカールとはここ数年の内に出回るようになった非公式のツールのことだ。

 誰が作り広めたのは今となっては誰も知らず、それをガンプラに取り付けることでガンプラの性能を各段に上げたり、強力な能力を得たりすることが可能なツールでその是非に関してはGBNでも大きく荒れている。

 ガンプラを手軽に強化できることから一部のダイバーから努力もしないで簡単に力を得ようというのは虫が良くて卑怯なのではと批判を受けている。

 同時にダイバーポイントを使い他のダイバーや運営の公式ストアから強力なパーツデータを買うのと同じで、課金と同じで利用したいダイバーは使えば良いという肯定意見も出ている。

 それらの主張は掲示板やGBN内でも大きくぶつかりあって大炎上した時期もある。

 やがて否定派が論争に決着をつけるために中立を保っていた運営にブレイクデカールは不正にゲームデータを改ざんする類の不正ツールなのではと通報した。

 その結果、運営はブレイクデカールを調べた結果、ゲームシステム的には不正なパラメーター操作は行われてはおらず、ゲームシステムに乗っ取った物であると結論を出し、ブレイクデカールの使用はダイバー個人の采配に任せるとなった。

 それにより肯定派の意見が勝利した事になるが、否定派はそれでも付ければ用意に力を得ることが出来るという点は受け入れ切れずにブレイクデカールを使用するダイバーのことを侮蔑を込めてチートから取ってマスダイバーと呼ぶこともある。

 

「そんな物まであるんだな」

「ブレイクデカールを毛嫌いするダイバーも多いから今のところはユートも使わない方が賢明だな」

「分かった。それにまだビルドナラティブの力を全部引き出せてはいないんだ。だからそんなツールに頼るのは早いしな」

「だな。下手すりゃアーマーは全てのガンダムかモビルスールの数だけあるかも知れないしな」

 

 現在解放されているアーマーはストライクのみだが、解放可能と思われるアーマーの数は一覧の???の数だけある可能性が高い。

 数が多すぎて正確な数は分からないが軽く100以上はある。

 その数からソラは最低でもアニメ化されている本編のガンダムタイプかモビルスールの能力を持ったアーマーが使えて、外伝作品は有名どころは使えるかも知れないを見ている。

 そう考えるとビルドナラティブの可能性は無限大で、ブレイクデカールのような外付けのツールは必要ないのかも知れない。

 

「……ヤガミ。なんか向こうで爆発が起きてるみたいだけど?」

「本当だな。他のダイバーが戦闘してるみたいだな。行ってみるか? 他のダイバーのバトルを見るだけでもいろいろと勉強になるからな」

 

 ソラの意見に優人はうなづく。

 二人はガンプラに乗り込むと戦闘が行われている方向に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 優人達が向かった先には1機のガンプラを複数のガンプラを囲むようにして戦闘が繰り広げられていた。

 攻撃を受けているガンプラはストライクの改造機であるアーマードストライク。

 ストライクのストライカーパックはバックパックを中心に肩と腕に装備を追加するものだが、アーマードストライクは全身に専用のアーマードストライカーを追加できるようになっている。

 そのため、本体の装備はサイドアーマーに収納されているビームソードと頭部のバルカンだけだ。

 現在は高機動用装備であるアサルトアーマードストライカーを装備している。

 アサルトアーマードストライカーはシナンジュをモデルにしており、背中にはフレキシブルスラスターとプロペラントタンク、全身にはスラスターを内蔵した深紅の装甲が取り付けられている。

 追加の装備はストライクと同じシールドとビームライフル、シールドの裏にはビームアックスが装備されており、シナンジュと同じようにシールドに着けたままでも使用できるようになっている。

 

「これだけ数がいても実力は大したことはないようね」

 

 アーマードストライクのダイバーであるユウリは敵の実力をそう評価する。

 ユウリは長い髪を後ろで一纏めにしており、ゴーグルをつけていることが特徴だ。

 このゴーグルは高難度ミッションのクリアアイテムで外見を変えるアクセサリーアイテムというだけではなく、レンズには拡大機能を初めとして様々な情報を表示できるものだ。

 アーマードストライクはビームライフルでガルムロディを撃ちぬき、接近してきたスラッシュザクウォーリアをビームアックスで破壊する。

 

「相手は1機なんだぞ!」

「囲んでしまえば!」

 

 相手のダイバーたちは予想以上の相手に同様しながらも果敢に攻め込むが、数で囲んで叩くしか能がないのか各機の連携はお粗末でアーマードストライクは容易に数を減らしていく。

 元々、彼らは初心者が集まり易いエリアで、フォースに入る前の少数のダイバーを多数で囲んで倒しては少ないダイバーポイントをコツコツを集めるような連中だ。

 ユウリはたまたまミッションの関係で近くを通りかかったところを単機というところで狙われたが、数だけでどうにかできる相手ではなかった。

 

「あのストライクベースのガンプラ。強いな」

「ああ。俺でも分かる」

 

 戦闘から少し離れたところから優人とソラがその戦闘を見ていた。

 始めは数の差から優人が助太刀に向かおうとしたが、すぐにその必要はないと思うほどに実力差は大きかった。

 

「これで終わりか」

 

 戦闘は一方的に終わり、残っていたのはアーマードストライクだけだ。

 戦闘が終わったため、ソラは優人と共にその場を離れようとしたが、突然、ビルドナラティブは飛び出してビームライフルを撃つ。

 

「ユート!」

 

 ソラは戦闘が終わって気の緩む瞬間を狙って攻撃を仕掛けたと思ったが、ビームはアーマードストライクからそれで、倒れていたガンプラに向かっていた。

 敵の中には完全には破壊されておらず、やられた振りをして戦闘が終わったタイミングで不意打ちをしようと待っていたガンプラがいたようで、優人はそれに気づいて飛び出した。

 ビームは2発同時にやられた振りをしていたガンプラに直撃して今度こそ完全に破壊された。

 1発のビームはビルドナラティブだが、もう1発はアーマードストライクの撃ったものだった。

 ユウリもやられた振りをしていたガンプラに気づいていたようだ。

 

「誰?」

 

 飛び出してきたビルドナラティブにユウリは一定の距離を保ち明らかに警戒した様子を見せる。

 それを見た優人は敵対する意思がない事を示すためにビームライフルをリアアーマーにつけて両手を上げるしぐさをする。

 

「俺たちに敵対する意思はない。ちょっとバトルを見学させてもらっただけだ」

 

 後ろから同様にライフルを腰につけたソラのエアブラスターが到着する。

 ユウリも攻撃する気はないようだ。

 

「俺の助けは必要なかったようだな」

「そうね」

 

 ユウリはそれだけ言うとその場から離れようとする。

 

「あ! 待った! バトルが終わったばかりで悪いんだけどさ。俺ともバトルをしてもらえないだろうか?」

 

 優人の突然の申し出にユウリも足を止める。

 

「何で?」

「俺、この前、GBNを始めたばかりでまだNPDくらいとしかバトルをしたことはないんだ。さっきのバトルで君が強いのは良く分かった。だから一度、俺ともバトルをして欲しい」

 

 ユウリが強いということは十分承知だ。

 今の優人では勝つことが難しいところもだ。

 しかし、例え勝つことが出来なくても実力のあるダイバーとは直接バトルをしてみたくなった。

 

「私には何のメリットもないわ」

 

 ユウリはバッサリと切り捨てる。

 優人にとっては強い相手と戦うことは経験になるが、ユウリにとっては格下の相手と戦ったところで得る物は何もない。

 向こうからすれば意味もなく戦う理由はない。

 

「それでも戦いたいというのであれば、問答無用で攻撃してくればいいわ。それなら私も自分の身を守るために戦わざる負えないから」

「ゲーム的にはありかも知れないけど、そういうことはしたくないんだよな」

 

 ディメンジョン内ではバトルが禁止されているところ以外では相手の了承を得ずとも戦闘を仕掛けることは禁止されていない。

 それが初心者狩りなどに繋がるため、問題視されているがダイバー同士の戦闘で一々互いの了承が必要になれば拠点への奇襲攻撃等も出来なくなる。

 ルール上は禁止されていなくても、ユウリと戦うのは自分の都合である以上は相手の了承を得てから堂々とバトルを挑みたかった。

 

「じゃぁ諦めなさい」

 

 ユウリも優人からの挑戦を受ける気はないらしい。

 優人もこれ以上、粘っても受けてはもらえないと判断しようとしたとき、3機のコックピットに警告音が鳴り響く。

 そして、多数のミサイルが降り注ぐ。

 

「何だ!」

「まだいたのね」

「ユート! 囲まれてるぞ!」

 

 ミサイルによる被害はなかったが、周囲に多数のガンプラの反応があった。

 

「何だよ。もう終わってやがる」

「いきなり何をするんだ!」

 

 攻撃してきたガンプラの中でリーダー機と思われるペーネロペーを中心に10機近いガンプラに囲まれている。

 

「あなた達、さっきの連中の仲間なの?」

「はっ! 奴らは雑魚を囲んで叩くことしかできねぇ雑魚どもだ! だが俺たちは違う。俺たちには力がある!」

 

 ペーネロペーのダイバーがそういうと囲んでいたガンプラたちから次々と禍々しいオーラが発生する。

 

「力ね……要するに貴方たちはブレイクデカール使いって訳ね」

「ブレイクデカールってさっきヤガミが行っていた奴か」

「嘘だろ。ブレイクデカールにこの数は……」

 

 今度の敵は全機がブレイクデカールを搭載しているようだ。

 ユウリの表情はまだ余裕があるが、ソラは引きつっている。

 ブレイクデカールの能力を良く知らない優人は状況が追い詰められていることだけは分かった。

 

「やっちまえ!」

 

 リーダーの掛け声で一斉に攻撃が始まる。

 ビルドナラティブはビームライフルで迫るストライクダガーにビームライフルを撃つ。

 ビームはストライクダガーの肩に当たるが、一瞬よろける程度でダメージはまともに与えられてはいない。

 

「防御が強化されているのか!」

 

 ストライクダガーのビームをビルドナラティブはシールドで防ぐ。

 

「ユート! 無理に倒そうとはするな! ここは何とか離脱するんだ」

 

 バトル中にログアウトすることは基本的に認められてはいない。

 この場で撃墜されるか戦闘宙域から離脱するしか逃れる術はない。

 だが、撃墜されるとダイバーポイントがペナルティとして減るため、可能ならば離脱した方が良い。

 

「けど、いきなり攻撃してくるような奴らに……」

 

 ブレイクデカールによって強化されている相手のガンプラは優人が戦ったことのあるリーオーNPDとは性能がまるで違う。

 動きもNPDとは違う。

 状況的に離脱するのが最善ではあったが、いきなり攻撃を仕掛けて数で囲むようなやり方をするダイバーに背を向けて逃げたくはないというのが本音だ。

 

「何だ!コイツ!」

 

 苦戦する優人とソラだが、ユウリはまだ余裕を保っていた。

 ブレイクデカールを使っているイフリートとピクシーの攻撃を飛び上がって回避する。

 空中でバク転を一回決めて着地するとビームライフルをリアアーマーに着けると、サイドアーマーに収納されているビームソードを抜く。

 そして、バックパックのフレキシブルスラスターが最大出力で一気に加速すると一瞬の内に2機との距離を詰める。

 

「何ぃ!」

「遅い」

 

 距離を詰めるとピクシーを蹴り飛ばし、イフリートのヒートソードをシールドで受け止めるとビームソードでイフリートを両断する。

 蹴り飛ばされたピクシーが立ち上がり体勢を整える前にビームソードで仕留める。

 

「何だコイツ……こっちはブレイクデカールを使ってんだぞ!」

「ブレイクデカールを使ったとしてもガンプラの精度、ダイバーの実力が伴わなければその程度だということよ」

 

 ブレイクデカールで機体性能を向上させて格下ばかりを狙っていたダイバーたちからすればブレイクデカールを使っても勝てない相手に対する策など用意してはいない。

 完全に逃げ腰となっている。

 

「向こうは苦戦しているみたいね。初心者にしてはやるようだけど」

 

 ユウリは優人の戦闘を遠巻きに見る。

 ブレイクデカールを使っているガンプラを相手に善戦はしているが、次第に押されている。

 戦っているガンプラはストライクダガーとイナクトの2機のようだ。

 ユウリの実力なら助けに入れば余裕でどうにかできる相手だが、そこまでする義理もない。

 

「そら! どうした! ストライクもどきが!」

 

 ストライクダガーはビームライフルを連射する。

 それをビルドナラティブはシールドで身を守っているが、後方からイナクトがソニックブレーイドで切りつけて来る。

 

「後ろか!」

 

 すぐに後ろに振り向きビームライフルを撃つもイナクトのディフェンスロッドで防がれる。

 

「ライフルの残弾が……」

 

 ビームライフルの残弾が尽きた警告音がなると同時にストライクアーマーの色がトリコロールから灰色に変わる。

 本来のストライクならばフェイズシフト装甲の恩恵がなくなるが、ストライクアーマーはフェイズシフト装甲ではないため、単にビームライフルとビームサーベルが使えなくなるだけだ。

 

「スラスターもさっきに攻撃で……」

 

 エールストライカーもイナクトの攻撃で不具合が発生しているようでまともには使えない。

 

「ほかに武器は……」

 

 すぐに使える武器を探す。

 残されている武器は頭部のバルカンとサイドアーマーに収納されているアーマーシュナイダーだけだ。

 

「この装備じゃどうにも……」

 

 どちらもこの状況を打開できるだけの威力は期待できない。

 

「フェイズシフトが起きたストライクなど!」

 

 ストライクダガーとイナクトが前後から接近戦を仕掛けて来る。

 

「来る! こんな奴らに……負けるのか」

 

 反撃の手段もなく諦めかけていたその時、コンソールに光る物があることに気が付く。

 それはビルドナラティブのABシステムの一覧だ。

 そこにはストライクの他に「エクシア」と表示されているものが増えている。

 

「エクシア? 何だか分からないがこんなところで負けるくらいなら!」

 

 エクシアというのがモビルスーツの名であることは分かるが、具体的にどんな能力なのかは分からない。

 それでもこのままやられるよりかはマシだ。

 優人が新しいアーマーを選択する。

 

「貰った!」

 

 ストライクダガーとイナクトはビルドナラティブに止めを刺すために飛び掛かってくる。

 だが、止めの一撃を入れる前にビルドナラティブのストライクアーマーが勢いよくパージされると、ストライクダガーとイナクトにぶつかる。

 そして、ビルドナラティブの前後にランナーが形成される。

 

「戦闘中に装備を作っているとでもいうの?」

 

 アーマードストライクはビームソードでギラ・ズールを切り裂く。

 ユウリも戦闘中に新しい装備を作るビルドナラティブに驚いているようだ。

 形成されたパーツは次々とビルドナラティブに装着されていく。

 最後に背中にコーン状のGNドライブが装着され、左腕にGNシールド、右腕にはGNソードが付いたことでビルドナラティブ・エクシアアーマーは完成する。

 

「剣? 接近戦用のアーマーか。これなら!」

 

 優人は右腕のGNソードをはじめとしてGNロングブレイド、GNショートブレイド、4つのGNビームサーベルからエクシアアーマーは接近戦用のアーマーだと判断する。

 ビルドナラティブはGNソードを展開してストライクダガーに突っ込む。

 ストライクダガーはシールドを掲げるが、シールドごとストライクダガーをGNソードで切り裂く。

 

「凄い切れ足だな。この剣は……」

「よくも!」

 

 イナクトがリニアライフルを撃ちながら突っ込んでくる。

 ビルドナラティブはリニアライフルをかわし、ソニックブレイドを持つ腕をGNソードを振り上げて両断する。

 そして、GNソードでイナクトを胴体から真っ二つに切り裂いて破壊する。

 

「後は……」

「うぁぁぁぁ!」

 

 何とか2機を撃墜すると上空からエアブラスターが落ちて来る。

 ソラのエアブラスターは上空でペーネロペーを交戦していたが、やられたようだ。

 まだ撃墜判定とはいかないが、まともに戦闘ができる状態ではない。

 

「ヤガミ!」

「ユート? エクシア……新しいアーマーか。それなら上空の敵とも戦える」

 

 エクシアアーマーは近接戦闘用のアーマーだが、GNドライヴを搭載しているため重力下での飛行能力を持っている。

 

「悔しいが俺じゃアイツには勝てない。飛べ! ユート! 飛んでアイツをぶ飛ばしてこい!」

「ああ!」

 

 ビルドナラティブは上空のネーペロペーの方に向かっていく。

 

「ストライクもどきが、今度はエクシアもどきか。装備を変えたくらいでこの俺と戦えるとでも思ってんのか!」

「そんなことは関係ない。俺はこんな卑怯な戦い方をするお前たちには負けたくはない! 絶対に勝って見せる!」

 

 ビルドナラティブはGNソードをライフルモードにして粒子ビームを撃つ。

 ペーネロペーもビームライフルで応戦する。

 

「距離を取ったままじゃ駄目だ。接近しないと!」

 

 エクシアアーマーの火力はストライクアーマーよりも低い。

 だが、空中での機動性能はペーネロペーの方が上だ。

 距離を取ったままの撃ち合いでは勝ち目はないが、距離を詰めることが出来ない。

 相手もエクシアならば近接戦闘を仕掛け来ると読んでいるため、接近させないように立ち回ってる。

 

「さっきの連中とは違う!」

「当たり前だ! ブレイクデカールの力をまともに使いこなせない奴らを一緒にするな!」

 

 ペーネロペーのダイバーの実力は地上で戦ったダイバーとは明らかに違う。

 地上のダイバーたちはただブレイクデカールによって向上した性能でごり押ししてきたが、ペーネロペーのダイバーはペーネロペーやビルドナラティブの機体特性を理解した上でブレイクデカールで強化されたガンプラを完全に使いこなしている。

 

「ここまでの実力がありながらなんでこんな卑怯な真似をする!」

「はっ! 何も知らない餓鬼が! どんなに実力があっても理不尽な暴力の前じゃ無意味なんだよ!」

 

 ペーネロペーのダイバーも元々はコツコツと努力を重ねてきた真っ当なダイバーだった。

 だが、ある日、理解した圧倒的な暴力はただ理不尽だということをだ。

 彼らが何をした訳でもない。

 ただそこにいたからという理由で、たった1機のガンプラに全てをぶっ潰された。

 今まで必死に重ねてきた努力も仲間たちと気づきあげてきた物が全て巨大なメイスの一振りで破壊された。

 だからこそ、理解した真っ当なやり方ではどうにもならないことがあるのだと。

 それからは切り捨て前提の仲間を集めてブレイクデカールを使わせて格下のダイバーや戦闘で疲弊したダイバーを狙うようになっていったのだ。

 

「だからって人に理不尽を押し付けて言い訳がないだろ!」

 

 ビルドナラティブはファンネルミサイルを頭部のバルカンで迎撃するが、迎撃しきれずにシールドで身を守るがシールドは破壊された。

 

「力もない癖に!」

 

 ペーネロペーはビームサーベルを出して突撃してくる。

 

「ユート! トランザムだ! トランザムを使え!」

「トランザム? これか!」

 

 ソラの指示を受けて優人はトランザムシステムを起動させる。

 ペーネロペーの攻撃をビルドナラティブはかわす。

 攻撃をかわしたビルドナラティブは赤く発光している。

 

「トランザムだと! ふざけやがって!」

 

 ペーネロペーはビームライフルを撃ちながらファンネルミサイルを射出する。

 

「これがトランザム……これなら行ける!」

 

 トランザムで機体性能が向上したビルドナラティブはファンネルミサイルをかわしながら接近する。

 そして、GNショートブレイドとGNロングブレイドをペーネロペーに突き刺す。

 後方からファンネルミサイルが迫っていたため、一度離れるが、ファンネルミサイルは止めきれずにペーネロペーに直撃してしまう。

 

「例えゲームであっても人と人が関わる以上は理不尽なことはいくらでもある。でも、ここはそんな理不尽なことだけじゃない。楽しい事だってたくさんある! そんなことは始めたばかりの俺でも知っていることだ」

 

 ビルドナラティブは再び接近する。

 ペーネロペーが構えたビームライフルをGNビームサーベルで切ると、GNビームサーベルをペーネロペーに突き刺す。

 

「どんな始まり方とは言えこれがガンプラバトルだ」

 

 腰のGNビームダガーを抜いてペーネロペーに突き刺す。

 

「だから、俺は貴方を倒す。その後はこんなやり方から足を洗って真っ当なやり方をして欲しい。貴方はそれだけの実力があるんだから」

 

 ビルドナラティブはGNソードを展開すると振り上げる。

 そして、GNソードでペーネロペーに止めの一撃を入れてペーネロペーは上空で爆散した。

 

「これで……ほかの奴は」

 

 ビルドナラティブのトランザムが終了した事で機体性能は大きく低下する。

 周囲を見渡すが敵は残っていないようだ。

 

「地上の敵は私が仕留めたわ」

「そうか」

 

 ビルドナラティブは地上に降りる。

 

「それでどうする? 私と戦う? 貴方のガンプラには興味があるわ」

 

 このバトルでユウリもビルドナラティブに興味を持ったようで、バトルを受ける気になったようだ。

 

「いや……やめとくよ」

「その方がよさそうね」

 

 一緒にいたソラのエアブラスターもダメージが大きい。

 ビルドナラティブも戦闘でのダメージとトランザムの使用で万全とは言えない。

 

「今更だけど俺はユートでガンプラはビルドナラティブ。よろしく」

(ユートにビルドナラティブ……まさか)

 

 ユウリはダイバーネームとガンプラの名を聞いて内心驚くが顔には出さない。

 

「私はユウリ。縁があったらまた会いましょう」

 

 ユウリもつけてたゴーグルを外して名乗り、ログアウトする。

 

「ユウリか……こんな偶然もあるんだな」

 

 優人はぽつりと零す。

 GBNを初めてソラ以外のダイバーと知り合いとなったが、その名がユウリというのは優人にとっては奇妙な偶然であり、これからも顔を合わせることもあるという確信めいた物を感じていた。

 

「ユート。俺たちも帰ろうぜ。流石にいろいろなことがあったしな」

「ああ。そうだな」

 

 戦闘が終了した事で優人とソラもログアウトする。

 これが優人とブレイクデカールとの初めての接触となった。



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アナザーワールド

 

 

 

 非公式ツール「ブレイクデカール」を使用するダイバーとの戦闘は優人にとってはGBNは楽しいだけではないことを教えた。

 同時にブレイクデカールを使用して強化されたガンプラを難なく倒す女性ダイバーユウリとの出会いは強力なツールに頼るだけでは勝てないガンプラバトルの奥深さを教えてくれた。

 それから数日、優人は毎日ソラとGBNに入り浸り、大学が休みである今日は朝からGBNにログインしている。

 

「ユートもだいぶバトルに慣れてきたよな」

「まぁね。それでもアーマーは増えないけど」

 

 あれから数日が経つがビルドナラティブのアーマーの数はストライクアーマーとエクシアアーマーの2種類のみだ。

 ストライクアーマーは機動力重視の中距離タイプでエクシアアーマーは近接戦闘タイプと2種類のアーマーの特性と使い方は分かってきた。

 アーマーの数は増えることはなかったが、そればかりに気を取られていてもつまらないと今は考えないようにしている。

 

「だったら少し向こうも覗いてみるか?」

「向こう?」

「今まで俺たちがバトルをしていたディメンジョンとは違うもう一つのディメンジョン。アナザーワールドだ」

 

 アナザーワールドとは去年の大型アップデートで追加された新しいディメンジョンの通称だ。

 

「アナザーワールドが作られたお陰でディメンジョンの治安もだいぶ良くなったんだよ。で、アナザーワールドは何でもありのまさにガンプラ戦国時代ともいえる危険な場所なんだよ」

 

 ソラは仰々しく言うが、あながち間違いでもない。

 アナザーワールドと呼ばれているディメンジョンは従来のディメンジョンとは違い制限が極端に少ない。

 従来では戦闘禁止区域や独占禁止区域、ガンプラの使用制限など、エリアによって一般的なマナー以外にも禁止事項がいくつか設定されている。

 だが、アナザーワールドではGBNの利用規約や現実世界での法律に違反しない限りはそのほとんどが禁止されていない。

 そのため、アナザーワールド内では日々腕に覚えのあるダイバーやフォースがエリアや施設の奪い合いを行う戦場と化している。

 アナザーワールドが作られたことにより、従来のディメンジョンで荒っぽいプレイをしていたダイバーたちの多くはアナザーワールドに向かい、結果として治安の回復にもつながっている。

 

「向こうで血で血を洗う戦いに明け暮れているダイバーたちの実力は今までの相手の比じゃないけど。どうする?」

「決まってる。俺の力がどこまで通用するのか分からないけど挑戦してみたい」

「よし! そんじゃ行ってみるか」

 

 優人はソラの指示のもと、アナザーワールドのポータブルエリアを選択する。

 一瞬でGBNのエントランスからアナザーワールドのポータブルエリアに到着する。

 

「ここがアナザーワールド。今は火星のポータブルエリアだな」

 

 アナザーワールドのポータブルエリアは全部で4つだ。

 それぞれ地球圏と火星圏に2つつづ配置されており、地上と宇宙に一つづつ配置されている。

 このポータブルエリアと周囲がアナザーワールド唯一の戦闘と独占が禁止されている。

 

「へぇ。ここが火星なんだ」

「アナザーワールドじゃ向こうのディメンジョンのようにエリア移動にも制限が掛かってるから初めて来る時は4か所のポータブルエリアのどこかになるんだよ」

 

 アナザーワールドのもう一つの特徴としてディメンジョン内の移動制限だ。

 従来ではエリアの移動はコンソール画面から選択してある程度は可能となっているが、ここではそれはできない。

 エントランスからアナザーワールドに来る時には4つのポータブルエリアかダイバーの所属しているフォースや個人がアナザーワールド内に所有しているフォースネストや拠点を選択して送られる。

 その後の移動は自力で移動しなければならず、一度アナザーワールドに入った後にログアウトもしくはエントランスに戻るなどしても数時間はその時に選択した場所以外から入ることもできない。

 

「で、火星を選んだのは比較的自由が利くからな」

 

 現在のアナザーワールド内での情勢は地球圏はアルゴスが率いるフォース「アルゴスヴァスィリオ」が一大勢力として君臨し大小さまざまなフォースが勢力を拡大しようと日々戦いを繰り広げられている。

 優人とソラは未だにフォースを組んですらいない弱小勢力であるため、地球圏で動くのは危険すぎる。

 一方の火星圏はリュウオウ率いる「レギオン」が傘下のフォースを含めて7割近くを勢力下においている。

 レギオンは基本的に自らの勢力下での行動を傘下のフォース以外にも寛大に認めており、明確な敵対行動を取らなければ早々攻撃を受けることも少なく、地球圏に比べると安全と言える。

 

「火星だとレギオンに喧嘩を売るような真似をしなければまず面倒ごとになることもないだろうしな。後は火星の厄災と遭遇しないことを祈るだけだな」

「火星の厄災?」

「さっき言ったレギオンの傘下のフォースの一つでレギオン四天王の一人にして最恐ともいわれている超武闘派フォース「タイガ団」のリーダーであるリトルタイガーの異名だよ。火星に拠点があって遭遇したら最後、大人しく倒されるかペナルティを覚悟して戦闘時ログアウトするしかないうえに命乞いを一切受け付けず徹底的に敵を叩き潰すことから火星で最も恐れられているダイバーの一人だ」

 

 

 レギオンには大小合わせて100近いフォースが傘下に入っている。

 リュウオウを除き、レギオン全体のダイバーの中でも特に実力の高い4人のダイバーをまとめてレギオン四天王と呼ばれている。

 その中でも大我がビッグスター解散後に新しく作ったフォース「タイガ団」は数は10人にも満たない少数のフォースだが、個々の実力はGBNの中でもトップクラスのダイバーで構成されている。

 特にリーダーである大我はレギオンの中でも特に危険人物として認知されている。

 3年前の世界大会で皇帝アルゴスに勝利してからも更に実力をつけて、今となっては現在のGBNの最強のダイバーは誰かという話題の中でアルゴスと共に候補に挙げられている。

 常に周囲に喧嘩を売っていくスタイルの大我がレギオンの傘下に入った時は当時のGBNを激震させ、歳を重ねて少しは丸くなったともいわれたが、丸くなるどころか遭遇したフォースやダイバーをことごとく叩き潰し、いつしか火星の厄災とも言われ災害扱いすらされている。

 

「まぁ火星も広いから早々出くわすこともないから、気にすることはないさ」

「だな。けどそんなに凄いダイバーなら一度会って戦ってみたい気もするけどな」

「怖い事言うなよ。ユート。ユートはリトルタイガーの怖さを知らないからそう言えるんだよ」

 

 ソラは身震いしながらそう言う。

 優人もソラがそこまで言うなら出会わないに越したことはないのだと納得する。

 ある程度の火星の状況を聞いて2人はポータブルエリアのカタパルトに移動する。

 

「ユート。ガンダムビルドナラティブエクシアアーマー。行きます!」

「ヤガミ。ガンダムエアブラスター。行くぜ!」

 

 カタパルトからビルドナラティブとエアブラスターが射出される。

 今回は長距離移動を行うため、飛行能力を持っているエクシアアーマーで出撃している。

 

「この辺りも最近戦闘があったみたいだな。ユート。油断するなよ」

「了解」

 

 ポータブルエリアから出撃して少しすると、戦闘禁止エリアから出る。

 火星の荒野にはいくつものガンプラの残骸があり、この辺りで戦闘があったと推測できる。

 

「それでどうするんだ? ヤガミ」

「そうだな。野良ガンプラでもいればそいつ等とバトルしてみるのもいいかもな」

 

 アナザーワールドにはNPDが操作している野良のガンプラが徘徊している。

 その野良ガンプラを倒すことでダイバーポイントやパーツデータを手に入れることもできる。

 

「野良ガンプラね……ヤガミ!」

 

 移動していると突如、アラートがなる。

 アラートがなり砲弾がエアブラスターに直撃して地上に降下していく。

 

「……大丈夫だ。ダメージは大したことはない」

「どこから!」

 

 優人が周囲を警戒すると今度はミサイルがビルドナラティブに飛んでくる。

 ビルドナラティブは頭部のバルカンでミサイルを迎撃しながら降下してエアブラスターと合流する。

 

「お前たち、どこの所属だ?」

「攻撃してきたのはアイツらか?」

 

 高台からバズーカを装備したグレイズが優人達にバズーカを向けている。

 

「……ユート。どうやら囲まれたようだ」

 

 優人達の周囲には数機のグレイズが展開されていた。

 グレイズはどれも微妙にカスタムがされている。

 装備もライフルやシールドといったスタンダードな物から火器は持たず近接戦闘用のバトルアックスやバトルブレード、ハルバートを持ったグレイズや、グレイズリッターの肩装甲やシュバルベグレイズのワイヤークローやランスユニットを装備したものまで多種多彩で同じカスタムをされたものはいないように見える。

 

「全機、グレイズでマグアナック隊みたく微妙な装備違い……ユート。こいつらグレイズアーミィだ」

「知ってるのか?」

 

 ソラはグレイズの装備の特徴からそう判断した。

 グレイズアーミィは40機のグレイズで構成されたフォースだ。

 40機が全てグレイズをベースに独自のカスタムがされ同一のカスタムがいないとされている。

 見たところ、グレイズの数は10機程度で全機揃ってはいないようだ。

 

「ああ。でもって最悪の一歩手前かも知れん。グレイズアーミィはタイガ団の下部フォースだ」

 

 グレイズアーミィが40機のカスタムグレイズで構成されていること以外にも有名な話としてレギオン傘下ではあるが、厳密にはレギオンの傘下であるタイガ団の傘下だということだ。

 タイガ団自体のメンバーは少ないが、その下に40機のグレイズを抱えており、大規模な戦闘には彼らを投入していることはGBNでも有名な話だ。

 グレイズアーミィが何故、自分たちを攻撃してきたのかは分からないが、下手をすればグレイズアーミィの上位フォースであるタイガ団とも敵対する危険性がある。

 もし、そうなれば優人とソラの2人では戦いにすらならない。

 

「まさか、奴らの手先か? だとしたら見逃す訳には行かない!」

「待ってくれ! 俺たちはただ散策で通りかかっただけだ!」

 

 ソラはとりあえず敵意のない事を説明しようとする。

 向こうの言葉から自分たちはグレイズアーミィかタイガ団と敵対するフォースの仲間だと疑われているらしい。

 

「この辺りを散策だと? この情勢下でだと? ますます怪しいやつらだ」

(やっべ……状況が変わるのはここでは良くあることだってのに!)

 

 ソラはこの周辺のリサーチ不足を痛感させられた。

 アナザーワールドでは日々状況は変化している。

 ここ数日は優人と共にGBNをプレイしてアナザーワールドやGBN全体の流れを把握することを疎かになっていたようだ。

 

「まぁいい。お前たちが奴らの手先かどうかはここで仕留めてしまえば関係ない!」

「ヤガミ! 来るぞ!」

「ああ! こうなりゃやるところまでやってやる!」

 

 向こうはこちらの疑いを晴らすよりも倒しておけば関係ないと結論付けたようだ。

 グレイズはバズーカを撃つ。

 

「前に出る!」

 

 ビルドナラティブはGNソードをソードモードに切り替えるとバズーカを装備したグレイズ目掛けて突撃する。

 ビルドナラティブのGNソードを間にハルバートを装備したグレイズが割込みハルバートの柄で受け止める。

 

「くっ!」

 

 攻撃を止められたビルドナラティブに横から両手にバトルアックスを装備したグレイズが切りかかる。

 グレイズの攻撃を回避すると、ハルバートを装備したグレイズが横に逸れると後ろにいたバズーカ装備のグレイズがバズーカを撃ちGNシールドで防ぐ。

 

「こいつ等……強い!」

「ユート!」

 

 エアブラスターは両手のビームライフルで応戦するが、グレイズはシールドで身を守りながらライフルで反撃してくる。

 攻撃を回避するのぜ精一杯でソラは優人の援護に向かえそうにない。

 

「こうも似たガンプラに入り乱れられると見分けが……」

 

 グレイズは装備や外装は違うが優人には瞬時に判別が付け難い。

 グレイズの連携攻撃を何とかかわしていたが、背後に回り込んだグレイズがハルバートを振り下ろしGNシールドで受け止める。

 

「貰った!」

 

 ビルドナラティブはグレイズのハルバートをGNシールドで受け止めていたが、バズーカ装備のグレイズがバズーカをビルドナラティブに向けて撃とうとしていた。

 

「そうはさせるか!」

 

 ビルドナラティブはハルバート装備のグレイズを足払いで倒すと飛び退いてバズーカをかわすが、すでにランスユニットを装備したグレイズが回り込んでいた。

 グレイズはランスユニットを突き出すが、ビルドナラティブは上半身を後ろに逸らして回避すると、そのまま一回転してGNソードでランスユニットを装備したグレイズを両断する。

 

「ようやく1機……」

「アイツ……意外にやるぞ」

 

 友軍機を撃墜されたことでグレイズアーミィのダイバーたちも優人を警戒して距離を取る。

 

「はぁはぁ……どうする?」

 

 優人も無理に突っ込むのではなく状況を打開するために考える。

 

「これは何の騒ぎだ」

 

 すると新たなグレイズが現れる。

 新たに現れたグレイズは今までのグレイズとは大きく違っている。

 そのグレイズはグレイズアーミィのリーダー機であるグレイズラグナだ。

 グレイズラグナはグレイズをベースにグレイズ系の外装をミキシングしたガンプラだ。

 頭部はシュバルベグレイズの物をベースにブレードアンテナをグレイズリッターのトサカに変更している。

 両肩には機関砲の内臓されたグレイズアインの装甲を、右腕にはワイヤークローが取り付けられている。

 下半身はシュバルベグレイズをベースにリアアーマーはグレイズ改弐の物を中心にフリックグレイズの腰部のブースターが取り付けられており、太もものブースターの裏にはバトルブレードが取り付けられて、足の裏には陸戦用のホバーユニットがついている。

 バックパックにはグレイズ改の物をベースに地上用のブースターユニットが取り付けられており、高い機動力を誇る。

 左腕にはグレイズシルトの大型シールドをベースに先端にはランスユニットが取り付けられ、シールドの表面には「BG」というペイントがされているランスシールドが、右手にはリーガルリリーのべロウズアックスを持っている。

 

「ザジ……」

 

 グレイズアーミィのリーダーであるザジは友軍機を一睨みする。

 

「大方、このダイバーたちを奴らの仲間であると考えたというところか」

 

 ザジもある程度の状況は把握しているようだ。

 

「奴らの使うガンプラにはガンダムタイプは確認できてはいない。だからこいつらが奴らの手先である可能性は低い」

 

 ことの次第を静観していた優人とソラだったが、ザジが潔白を証明してくれて疑いが晴れたと一息つく。

 

「……だが、どこの馬の骨とも分からないダイバーに友軍機がやられておきながらオメオメと引き下がるのはグレイズアーミィの名折れ。そして、タイガ団の座右の銘は一発撃たれたら殲滅しろだ。お前たちに恨みはないが、俺たちも引き下がる訳にもいかない」

 

 これ以上の戦闘は何とかなりそうな雰囲気だったが、グレイズアーミィも超武闘派フォースとして知られているタイガ団の下部フォースである以上はどんな理由で戦闘になったとは言え、バトルを途中で投げ出して引き下がることは出来なかった。

 

「ここからは俺とお前のタイマンで決着をつけるというのでどうだ?」

「……分かった」

 

 ソラと2人で戦うことを考えたら、ザジと1対1で戦った方が敵の数は少ない。

 向こうが本気でザジだけで戦うか、仮に自分が勝ったとして他のグレイズのダイバーたちが大人しく引き下がるかは分からないが、ここは乗るしかない。

 

「ヤガミも構わないな?」

「ああ。俺の方もそろそろ限界だから願ったりだ」

 

 ソラのエアブラスターも目立ったダメージはないもののこれ以上戦闘を継続するのは厳しかった。

 話がまとまるとグレイズラグナはべロウズアックスを構えると一気に加速する。

 

「っ! 早い!」

 

 グレイズラグナは距離を詰めるとべロウズアックスを振るう。

 ビルドナラティブは何とか回避するが、GNシールドを弾き飛ばされる。

 すぐにGNソードのライフルモードで反撃するが、粒子ビームはグレイズラグナの装甲に弾かれる。

 

「ビームが!」

「気を付けろ! そいつの装甲にはビームコーティングがされている!」

 

 グレイズラグナの表面装甲には対ビームコーティング処理がされており、GNソードのライフルモードではダメージを与えられない。

 

「なら接近戦で!」

 

 GNソードによる近接戦闘ならばビームコーティングの影響は受けない。

 だが、グレイズラグナの機動性能にはエクシアアーマーの機動力では全く追いつくことが出来ない。

 

「トランザムを使うか? 駄目だ。リスクが高すぎる」

 

 トランザムを使えば追いつけるかも知れないが一度使えば終了時に機体性能が大きく低下する。

 ここ数日の間にいろいろと試した中にトランザムを限界時間まで使って機体性能が低下しているときにストライクアーマーに換装してみたが、トランザムで低下した性能はストライクアーマーに換装しても引き継ぐことは分かっている。

 逆にエネルギーの切れたストライクアーマーからエクシアアーマーに換装したときはエネルギーは回復していた。

 そのため、トランザムを使った後にアーマーを換装してトランザムのデメリットを回避することは出来ない。

 トランザムを使い確実に倒しきれる状況でなければ、使うのはリスクが高い。

 

「なら……」

 

 優人はコンソールを操作する。

 エクシアアーマーはパージされ、ストライクアーマーに換装させる。

 ストライクアーマーはビーム兵器主体だが、機動性能はエクシアアーマーよりは高いため、グレイズラグナの機動力に少しでも対抗するためだ。

 

「外装を戦闘中に? だが!」

 

 グレイズラグナは肩の機関砲を撃ちながら突撃してくる。

 ビルドナラティブは後ろに引きながらビームライフルで応戦する。

 ビームをランスシールドで防ぎながらべロウズアックスを振るう。

 まだ距離があったため、優人は間合いに入っていないと油断するが、べロウズアックスはただの大型武器ではなく、刃が連結しており、展開することで間合いを大きく広げることは出来る。

 

「武器が伸びて!」

 

 ビルドナラティブはギリギリのところでシールドで防ぐが体勢を崩される。

 

「反応は良いが! その程度ではな」

 

 体勢を崩したところにグレイズラグナは加速してランスシールドを突き出す。

 ランスシールドの先端のランスがドリルのように回転する。

 ビルドナラティブはシールドで守ろうとするが、シールドは一撃で砕ける。

 

「この!」

 

 シールドを破壊されながらもビームライフルを至近距離で撃つが、グレイズラグナの頭部を掠めた。

 だが、掠めた頭部は少し焼け焦げていた。

 グレイズラグナの対ビームコーティングはライフルモードのGNソードの威力なら完全に無効化できるが、ストライクアーマーのビームライフルの威力であれば完全には無効化できないのだろう。

 

「外した!」

 

 ビームをかわしたグレイズラグナはべロウズアックスでビルドナラティブを突き飛ばす。

 ビルドナラティブはダメージはほとんどなかったが、突き飛ばされた衝撃でビームライフルを手放してしまった。

 

「ライフルが……シールドももうない。どうする?」

 

 ビームライフルを失った以上はビームサーベルで接近戦を仕掛けるしかない。

 しかし、グレイズラグナの機動力にはストライクアーマーでもついてはいけない。

 

「これはいつの間に……」

 

 優人はコンソールに新しいアーマーが出ていることに気が付いた。

 

「バルバトスって確か悪魔の名前だよな。大丈夫か……だが、コイツに賭けるしかない!」

 

 優人は新しく出ていたアーマーを選択する。

 ストライクアーマーがパージされて前後にランナーが形成されてビルドナラティブにアーマーが装着されていく。

 ガンダムバルバトス(第四形態)の外装を装着したビルドナラティブバルバトスアーマーとなる。

 バルバトスアーマーはビーム兵器を一切装備していない実弾、質量兵器に特化したアーマーだ。

 背部には滑腔砲と太刀が装備され、右手にはバルバトスの代名詞ともいえるメイスが握られている。

 

「何か凄い武器が出てきたな。こんなのもあるのか」

「エクシアにストライクに続いてよりにもよってバルバトスか……気に入らんな」

 

 グレイズラグナはべロウズアックスを振るう、それをビルドナラティブはメイスで弾くと前に出る。

 

「このメイスなら当てれば一撃だ!」

 

 ビルドナラティブはメイスを振るうが、グレイズラグナは易々とかわすとべロウズアックスで一撃入れる。

 

「遅い! それにその程度のメイスの使い方で俺をやれると思うなよ! 素人が!」

「武器が大きい分、重心が偏って思った以上に扱い難いぞ。この武器!」

 

 ビルドナラティブは体勢を持ち直して滑腔砲を構えて撃つ。

 グレイズラグナは攻撃を回避しながら肩の機関砲でけん制射撃を入れる。

 

「ユート! バルバトスは高機動の相手とは相性が悪い!」

「何だって! けど、今はコイツで何とかするしか……」

 

 バルバトスアーマーはメイスや滑腔砲で威力が高いが攻撃の隙も大きい。

 今の優人にはメイスによる強力な一撃をグレイズラグナに入れるだけの技術はない。

 

「メイスの他には……刀もあるのか。これなら」

 

 ビルドナラティブはメイスを手放すと太刀を構える。

 メイスよりも軽い分、優人には扱い易く思えた。

 

「バルバトス最大の武器を自ら捨てるか!」

 

 グレイズラグナはべロウズアックスを振るう。

 

「……そこだ!」

 

 優人は迫るベロウスアックスの刃を冷静に見極めて太刀を振るう。

 太刀はべロウズアックスの刃の連結部を正確に捉えべロウズアックスの連結を破壊した。

 

「ユートの奴! やりやがった!」

「なるほど……少しはできるようだな」

 

 グレイズラグナはべロウズアックスを捨てるとバトルブレードを抜いて構える。

 ビルドナラティブも太刀を構える。

 2機は同時に突っ込む。

 ビルドナラティブの太刀とグレイズラグナのバトルブレードがぶつかり合うその瞬間、2機の間に黒い影が割り込む。

 

「はい。そこまで」

 

 黒いガンプラはビルドナラティブの太刀を踏みつけて、グレイズラグナのバトルブレードを持っていた武器の柄で受け止めた。

 

「何だ……このガンプラは」

「……リョウマさん。どうしてここに」

 

 黒いガンプラの正体は如月諒真ことリョウマのガンプラ、ガンダムクロノスXX(ダブルエックス)だった。



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採掘エリア攻防戦

 

 

 グレイズアーミィのリーダーであるザジと優人のバトルに割って入った諒真のガンダムクロノスXXは以前に諒真が使っていたガンダムクロノスXの強化ガンプラだ。

 細かい部分の作りこみによる基本性能の向上の他にはバックパックのクロノスキャノンがガンダムDXのツインサテライトキャノンを流用して作られたハイパークロノスキャノンになっている点だ。

 このハイパークロノスキャノンは砲身の伸縮機能によりある程度の連射速度と威力を持つ通常モードと砲身を伸ばして連射はできないが圧倒的な火力で砲撃ができるバーストモードを使い分けることが可能で砲身にはグレイズラグナのランスシールドにペイントされている「GB」の刻印が刻まれている。

 他にはミサイルの内臓しているドラドのシールドが両腕に追加され、肩にはビームキャノンが追加されより砲撃能力が強化されている。

 

「全く……ログインしてみたら何揉めてんの」

「……すみません」

 

 ザジのグレイズラグナはバトルブレードを仕舞う。

 突然の乱入だが相手からの敵意は感じないため、優人も一度引く。

 

「そっちも悪かったな。ウチの下の奴が」

「いえ……」

 

 意外な対応に優人も呆気に取られている。

 

「そっちの彼のガンプラの修理もこっちで持つからさ。一度、俺らのフォースネストに来る?」

「えっと……」

「応じておいた方が良いぞ。ユート。あのクロノスはタイガ団のナンバー2のリョウマだ。ああ見えて敵には容赦ないって話だ」

 

 ソラもガンダムクロノスXXと諒真のことは知っているようだ。

 タイガ団のリーダーのリトルタイガーは好戦的な人物として広まっているが、リョウマは逆に他のフォースとの交渉事を任されており、その言動には悪印象を持つダイバーは少ない。

 だが、一方でタイガ団の参謀として敵対する相手に対しては徹底的に叩き潰すことでも有名だ。

 そのやり方も大我のように圧倒的な武力で叩き潰すのではなく、武力だけでなく搦め手を使い搾り取る物は限界まで搾り取り追い詰めていくやり方を好む。

 今は敵対する意思はないが、対応によってはグレイズアーミィと戦うよりも不味い事態になる。

 

「分かった」

「決まりだな。ザジ、グレイズアーミィもフォースネストまで撤収させろ。それとすぐに動かせれる奴を可能な限り集めてくれ」

「分かりました」

 

 戦闘は完全に中断させられて、優人とソラは諒真の後についていく。

 2人が連れてこられたのはタイガ団のフォースネストだ。

 アナザーワールドではそれぞれのフォースがディメンジョン内にフォースネストを配置している。

 主に拠点型と母艦型の2つのフォースネストが使われている。

 拠点型はガンダム作品に出て来る基地や要塞を元にしたものや独自にデザインした物を配置するタイプで、一度設置するとその場所から移動させることは容易にはできないが、基地として母艦型にはない多才な機能の拡張が可能で周囲に防衛システムを配置することで防衛機能を高めることが出来る。

 移動ができないが、その分守りやすいフォースネストと言える。

 母艦型はガンダム作品に出て来る戦艦などをフォースネストにするタイプで拠点型とは違い戦艦であるため、フォースネスト自体がディメンジョン内の移動ができる。

 移動ができる反面、防衛機能は拠点型に比べると防衛機能の強化はやり辛く、一か所にとどまっての防衛は苦手となっている。

 主に小さい勢力では拠点型のフォースネストを配置しても、守り切ることは難しいため、移動できる母艦型を使うことが多く、規模が大きくなってくると拠点型のフォースネストを本拠地に据えて機能の拡張と防衛機能を強化しつつも、母艦型のフォースネストを使い部隊を遠出させて自分たちの領土の拡大や敵拠点への攻撃を行うというのがアナザーワールドによる基本的な戦い方だ。

 タイガ団も本拠地は火星に据えており、ベースは鉄華団の基地を使っている。

 基地の格納庫にはNPD用のガンプラであるプルーマが並べられている。

 アナザーワールドでは一般的なフォース同士のバトルよりも大規模になることが多く、大規模なフォースになればなるほどNPD用のガンプラを用意することが多い。

 NPD用のガンプラはダイバーポイントで揃えるかパーツデータを使ってくみ上げるか実際にガンプラを制作してスキャンして使うなどいろいろな手段がある。

 タイガ団ではダイバーポイントを使ってプルーマを多数そろえている。

 プルーマは戦車やモビルワーカーといった車両型に分類されMS型に比べると性能は低いが安く揃えられることが特徴でプルーマはその中でも最上位の性能を持つ。

 当然、性能が高い分、ダイバーポイントも他の車両型の中でも高く、プルーマを使うくらいなら安いMS型を使った方が良いともいわれているが、小さい分小回りも聞く。

 

「ガンプラは空いているハンガーにでも置いておいてくれ。こっちのメカニックが直しておくから」

「頼みます」

 

 言われた通りに優人とソラは格納庫の中のハンガーにガンプラを置くと諒真について基地の中に入っていく。

 2人は基地内の応接室らしく部屋に通される。

 備え付けのソファーに座り諒真と対面する。

 ソラはタイガ団の悪名はいろいろと聞いているため、緊張した面持ちだ。

 

「アイちゃん。お客さんに何か飲み物でも出して」

「いえ……お構いなく……飲み物?」

 

 優人は首をかしげる。

 GBN内では当然皆、アバターであるため、空腹にもならなければ水分の補給も必要ない。

 諒真の対応は現実世界と同じようだった。

 

「あれ、君初心者? まぁアバターだからあんまり意味はないけど味とかは分かるから気分だよ。気分」

 

 諒真も優人の反応から優人が初心者だと見抜いた。

 GBNを始めたばかりの初心者はGBNが仮想現実だからこそ、GBNでの飲食に違和感を持つことは珍しくはない。

 優人は何げない会話の中からもこちらのことを丸裸に見抜こうとされているのではないかと寒気を感じ。

 

「どうぞ」

 

 すると諒真にアイちゃんと呼ばれた女性ダイバーがティーカップを持ってきて優人とソラの前に置く。

 彼女はダイバー名「アイちゃん」数年前まではGBN内でガンプラアイドルとして活動していた諒真の高校時代の後輩で生徒会長時の副会長である縦脇愛依。

 諒真が卒業してから1年間は諒真に振り回されることもなく、平和な高校生活を送れると思った矢先、諒真の卒業式の日に普段とは別のアカウントでGBNでアイドル活動をしていたことを知っていたと暴露された。

 流石にリアルでその事実を知られていたと知ってからはアイドル活動は休止した。

 その後、諒真から副会長時の補佐能力の手腕を買われて高校卒業後に自分の右腕にならないかと誘われた。

 アイドル活動のことを出した直後の誘いは間接的に拒否すれば言いふらされる可能性を示唆しているため、芽衣は断ることは難しかった。

 最も、普通に高校を卒業して大学に進学するよりかは諒真の誘いに乗った方が将来的には有益になるとも考えて今に至る。

 

「アイちゃん。例の件のマップ出して」

「は?」

 

 芽衣はチラリと優人とソラの方を見る。

 諒真の言う例の件については芽衣も分かっているが、部外者のいるところで話す内容ではない。

 

「彼らに助っ人を頼もうと思ってね」

「はぁ」

 

 愛衣は納得しかねるが、モニターにマップデータを出す。

 

「これが現在、我らと交戦状態にあるフォース「紅蓮の牙」が占拠している採掘エリアのマップデータです」

「ここは資源採掘が可能なエリアでウチの上が目をつけてたんだけど、紅蓮の牙に先に抑えられたんだよ」

 

 採掘エリアでは継続的にダイバーポイントに変換可能な資源やパーツデータが採取できる。

 それを有効に活用できればフォースの懐がかなり温まる。

 どこの勢力も手に入れたい場所だが、タイガ団の本拠地からも比較的近い場所にあった採掘エリアが紅蓮の牙が押さえた。

 

「レギオンからも奪取のために部隊が派遣されたけど、ことごとく返り討ちにあってるのが現状だ」

「この採掘エリアは地上ルートは峡谷により大部隊による侵攻ルートはほとんどなく、守りやすい地形となっており、後から増設した対空システムにより上空からの降下作戦を行うのも難しいエリアとなっています」

 

 レギオンも採掘エリア奪取のために部隊を派遣したが初戦で撃退されて以降、何度も侵攻を試みるも撃退され、その都度貯められていったダイバーポイントと採掘エリアで取れる資源やパーツデータで防衛を強化していき、今では降下作戦や衛星兵器に備えて対空砲や対空ミサイルだけでなく、採掘エリア上空を覆える規模のビームシールドの発生装置まで完備されている。

 これ以上長引けばレギオン全体の戦力にも影響が出かねないと判断され、タイガ団にも採掘エリア奪取の要請が来て、現在は紅蓮の牙との小競り合いが続いている。

 グレイズアーミィが優人達に攻撃したのも、優人達が紅蓮の牙の手の者である可能性を考えていたからということだ。

 

「状況は分かったんですけど、なんで俺たちなんですか? タイガ団と言えばGBN屈指の武闘派フォースで有名なのに」

 

 ソラは素朴な疑問を口にする。

 いくら資源エリアが難攻不落と言ってもたまたま近くを通りかかった自分たちを助っ人を頼むというのは考えられない。

 タイガ団の構成員の数は少ないが、その実力はGBNの上位フォースの一つに数えられる。

 優人はGBNを始めたばかりで名も知れ渡っていないし、ソラもそこそこやりこんでいるものの上位のダイバーと比べると明らかに実力不足だ。

 

「確かにウチのフォースは実力者が揃ってる。それこそ団長一人を突っ込ませればそれで終わりだ」

 

 タイガ団の事前調査でも資源エリアの防衛能力であれば大我を一人突っ込ませるだけであとは陥落を待つだけで済む話だ。

 

「けど、ウチの団長は敵を潰すのもだけど、作るのも上手いからな。普段は俺が話をつけることも多いけど、俺が話をつけている間に話をつけた相手の倍の敵を作ってるようなこともよくある。今もいろいろと敵も多くてな。それの対応に追われてこっちに割ける人員がほとんどいないのが現状だ。そこでたまたまとは言え中々面白いダイバーが痛んで試しに助っ人として使ってみようと思った訳だ」

 

 諒真としても優人達を助っ人に使って採掘エリアを奪取が出来なかったら出来なかったらで、また別の手段を考えればいいという程度の考えて、偶然にもグレイズアーミィと交戦していた様子を見て使えそうだと思ったに過ぎないようだ。

 

「無論、報酬はきっちり出させて貰う。手を貸してはくれないか?」

「どうする? ヤガミ」

「少し考える時間は貰えませんか?」

「悪いけどこっちも悠長に構えているだけの時間はないんだ。返答は今ここでしてくれ。仮に断ったところで危害を加える気はないし、修理中のガンプラも直してこの辺りから離れてもらうだけだから無理なら断ってもらっても構わない」

 

 ほかの手段を考えるにしても時間の経過は向こうの防衛戦力を整えさせるだけだ。

 諒真はこの場での判断を強いる。

 

「ヤガミ。俺は困ってるんなら手伝ってもいいと思う。俺たちにどこまで役に立てるかは分かんないけどさ。困ってるなら放ってはおけないだろ?」

「……まぁユートはそういう奴だよな」

「助かるよ(なるほどな。そういう奴かウチの大我とは違って扱い易いタイプか)」

 

 諒真は感謝しつつも、このやり取りの中で優人を見極めていた。

 時間をかけて考えさせると自分たちの損得勘定も計算に入れて結論を出す事もあるが、時間を与えず自分たちが困っていることを見せることで損得関係なしに手を貸すのであれば、優人は基本的に困っている相手を見過ごせないタイプの人間で、逆に情に付け込めば扱い易く、我が道を突き進む大我とは対照的だ。

 

「そうと決まればさっそく作戦の準備に取り掛かる。アイちゃん。グレイズアーミィで出せる分だけの指揮は任せる」

「了解です」

 

 諒真の指示で愛衣はすぐに準備に取り掛かる。

 それから1時間程度で準備を済ませて行動に移る。

 攻略対象である採掘エリアの正面出入り口の周辺に10機程度のグレイズを従える愛衣が敵に気づかれないように陣取っていた。

 愛衣のガンプラはズゴックEをベースにしたズゴックEXだ。

 両腕のローゼン・ズールの物に変更し中央のビーム砲をビームガトリングに替えてローゼン・ズールのシールドが両腕に取り付けられている。。

 バックバックは水中のみならず、地上や宇宙でも使えるように改修され両肩にはフォノンメーサー砲が内臓され、バックパックには水中でも使用可能なレールガンが2門装備され火力を強化されている。

 

「各機配置に付きました」

「そろそろ向こうも到着している頃……攻撃を開始します」

 

 ズゴックEXは出入口を固めている敵ガンプラに対して先制攻撃のミサイルを撃ち込む。

 ミサイルは敵ガンプラに直撃することはなかったが、敵に襲撃を知らせることは出来た。

 

「突撃」

 

 愛衣の指示でグレイズが数機飛び出す。

 防衛のガンプラはグフやゲルググといったジオン系のガンプラだ。

 敵襲に気が付いたゲルググがマシンガンを向けるが、引き金を引くよりも早くグレイズがハルバートを振るい、ゲルググの体勢を崩すと胴体に一撃を入れる。

 

「敵襲だ!」

「正面からだと! ふざけやがって!」

 

 襲撃を知った敵が採掘エリアの中から次々と出て来る。

 

「思った以上に多いわね。NPDで数を水増しでもしているようね」

 

 増援はNPDを思われるザクやマゼラトップ、他にもドムも何機が出てきている。

 

「NPDは後回しで構わないわ」

「了解です」

 

 ズゴックEXの横に控えていたレギンレイズのレールガンを装備し、頭部をダインスレイブ装備型の物に換装した狙撃仕様のグレイズが出てきたドムを狙撃する。

 奇襲で混乱する戦場でNPDとダイバーを見分けるのは容易だ。

 NPDは操縦能力自体は高くはないが、ダイバーのように動揺で動きに影響することもない。

 

「私も出るわ」

 

 紅蓮の牙のガンプラの数が増えてきたことで愛衣も前に出ることにする。

 ズゴックEXは飛び上がるとシールドのビーム砲を撃ちながら戦場に飛び込む。

 戦場に着地すると両腕のビームガトリングを撃ちながらレールガンを前方に向けて展開して撃つ。

 

「こいつら!」

 

 ドムがバズーカを撃ち。グレイズがシールドで守りながらライフルで応戦していると左右からランスユニットを装備したグレイズが突撃し、ランスユニットを突き刺して損傷させると身を守っていたグレイズがライフルを何発は打ち込んだところに別のグレイズがバズーカを撃ちこんで破壊する。

 

「数ばかりいたってな」

 

 グレイズがワイヤークローでグフの動きを止めたところに両手にバトルアックスを装備したグレイズがバトルアックスで仕留める。

 数こそは紅蓮の牙の方が多いが、奇襲で混乱しているところに連携で確実に仕留めている。

 

「何だコイツ!」

「ザク? いやコイツ!」

 

 戦闘はグレイズアーミィの優勢で進んでいたが、バトルブレードを装備したグレイズが胴体から真っ二つにされて破壊された。

 

「そう。私のザクは違うのよね」

 

 グレーで塗装されたザクは宇宙世紀のザクではなくコズミックイラのザクがベースになっていた。

 レイ専用ブレイズザクファントムをベースにしたザクファントムソード。

 ダイバーは紅蓮の牙が雇った傭兵、ファントムレディ。

 クルーゼの仮面をつけた女性ダイバーだ。

 ザクファントムソードはレイ専用ブレイズザクファントムをベースに近接戦闘に特化した改造がされている。

 バックパックのブレイズウィザードには重力下での飛行用のウイングが増設しており、左腕にはザクのビーム突撃銃を直接取り付けた固定式の物を装備している。

 メインウェポンはジンクスⅡやジンクスⅣが装備しているGNバスターソードをベースにしたバスターソードを装備している。

 

「あのザクはデータにないわね」

 

 事前にある程度集めた情報の中に紅蓮の牙が傭兵を雇っているというのはあったが、使用するガンプラや実力までは把握してはいない。

 ザク・ファントムソードはバトルアックスを肩のシールドで受け止めるとバスターソードの一撃でグレイズを粉砕する。

 

「あのザクファントムは厄介ね。各機、あのザクファントムは私が対応するわ」

 

 ズゴックEXはザクファントムソードにレールガンを撃ち込む。

 

「おっと……一機だけグレイズじゃないってことは貴女が指揮官機よね」

 

 ザクファントムソードは左腕のビーム突撃銃を撃ちながらズゴックEXに向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレイズアーミィが交戦を開始したころ、諒真たちも作戦行動に入ろうとしていた。

 作戦としては単純に愛衣が率いるグレイズアーミィが正面で派手に暴れて別動隊として諒真や優人、ソラ、ザジの4人で仕掛けて一気に採掘エリアを制圧するという物だ。

 

「良し、ここからはガンプラで一気に行くぞ」

 

 4人はトレーラーでガンプラを移送して配置に付く。

 アナザーワールドではガンプラを呼び出すのに制限が掛かっており、ポータブルエリアでしか自由に呼び出したりはできない。

 そのため、今回のような奇襲作戦ではダイバーだけを移送して敵の拠点内に侵入してガンプラを呼び出して襲撃するということは出来ない。

 タイガ団では独自に作ったガンプラ移送用のトレーラーを複数所持している。

 GBN内で購入できるトレーラーではレーダーに捕捉されてしまうが、タイガ団で使用しているトレーラーは極力レーダー類に捕捉されない物を作って運用している。

 

「奇襲作戦か……」

「気が進まないか?」

 

 優人は今回の作戦に思うところがあるようだ。

 

「まぁ……」

「これも作戦だよ。この前のようにバトルで疲弊したところに奇襲するのとは訳が違う」

 

 優人としては真向から挑むのではなく、囮を使って戦力を削ったところに奇襲を仕掛けるというのは卑怯ではないかと思うが、以前に戦ったペーネロペーのダイバーの一団のようにバトルで疲弊させたところを奇襲するといったやり方ではなく、拠点攻略において奇襲攻撃は正攻法の一つとソラは納得させる。

 

「分かってる。やるからにはしっかりとやってやるさ」

「おしゃべりはそこまでだ仕掛けるぞ」

 

 優人も頭を切り替える。

 優人達が現在いるところは愛衣が仕掛けている場所からは採掘エリアを挟んだ反対方向に位置する。

 正面から仕掛けたことで戦力と注意がグレイズアーミィに向いている隙をつく算段だ。

 

「向こうじゃ戦闘が始まってんだろ?」

「みたいだな。まぁ俺たちには関係ないだろ」

「まぁな。それでダイバーポイントの山分けにありつけるんだ。楽なもんだ」

 

 2機のザクⅡが背後の警戒に当たっている。

 戦場とは正反対ということで目に見えて油断している。

 採掘エリアに新たに配置された高性能レーダーには戦場以外にガンプラは補足されていない。

 レーダーに映らない以上は背後からの襲撃はないと高をくぐっている。

 だが、それが命取りとなった。

 隠密性の高いトレーラーでギリギリまでガンプラを運び、一気に攻撃を開始する。

 

「何だ……うあぁぁぁ!」

 

 グレイズラグナが最大出力で突撃してランスシールドでザクⅡの1機をしとめる。

 それに続き、エクシアアーマーのビルドナラティブがGNソードでもう片方のザクⅡを切り裂く。

 2機のザクⅡのダイバーは仲間に襲撃を知らせる間もなく落とされた。

 

「良し第一関門はクリアだ」

 

 過去の侵攻においても前面から仕掛けて背後を付くというやり方は行われている。

 今回もそれを警戒して全ての戦力を前面に回すことはなく、ある程度は周囲の警戒に当たらせることは考えられた。

 だからこそ、隠密性の高いトレーラーを使い背後からの接近をギリギリまで気づかせずに近づき、背後の奇襲の発覚を少しでも遅らせる必要があった。

 レーダーに反応がないと油断したところと友軍に奇襲を知らせる間もなく警備のガンプラをしとめることが出来たのは大きい。

 

「俺が前に出る。お前らはついてこい」

 

 諒真とソラが後から追いつき、諒真が前に出る。

 諒真を戦闘に4機のガンプラは採掘エリアの中枢を目指す。

 事前の調査で中枢までの最短ルートは把握している。

 敵とも遭遇することなく先に進んでいたが、先頭のガンダムクロノスXXにビームが飛んでくる。

 ビームをガンダムクロノスXXは小型シールドで防ぐ。

 

「そう簡単にはいかせてはもらえないか」

「たく……適当にサボってりゃ大量のダイバーポイントが貰えるおいしい仕事だと思ってなのによ」

「まぁ、雑魚を4機仕留めればいいんだからおいしいっしょ」

 

 別動隊の前にはオクト・エイプとガラの2機が待ち構えていた。

 

 



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邂逅

 

 

 

 

 

 タイガ団から依頼される形で採掘エリアの奪取作戦を開始し、奇襲の第一段階は成功するもののそううまくはいかないようだ。

 優人達の行く手を遮る2機のガンプラは紅蓮の牙が雇った傭兵のオクト・エイプとガラだ。

 オクト・エイプはビームライフルとバズーカを装備し、ガラはモーニングスターを2つ装備している。

 

「時間をかけるつもりはない。突破する」

 

 グレイズラグナが加速してべロウズアックスを振るう。

 

「遅せぇ!」

「何!」

 

 一気に加速しての攻撃だが、オクト・エイプはそれ以上の速度で回避するとビームライフルを連射する。

 グレイズラグナの対ビームコーティングで大ダメージは受けないが、このままビームを受け続ければ、いずれは大ダメージを受けてしまうだろう。

 ビルドナラティブがGNソードを展開して援護に向かうが、ガラが立ちはだかる。

 

「ユート!」

 

 ソラの声で優人は横に飛び跳ねると後方のエアブラスターがビームライフルとビームガンでガラに集中砲火を浴びせる。

 そして、ビルドナラティブがGNソードを振るう。

 

「はっ! その程度の攻撃が効くかよ!」

「なっ! 剣が通らない!」

 

 GNソードはガラの横っ腹に直撃するが、切り裂くどころか傷一つついていない。

 エアブラスターのビームもガラは一切のダメージを受けてはいなかった。

 ガラはモーニングスターを振るい、ビルドナラティブはGNシールドで受け止めるが、GNシールドに皹が入る。

 

「何なんだ。こいつ等」

「特化型のブレイクデカールか」

 

 戦闘には参加していなかった諒真が優人の疑問に答える。

 オクト・エイプもガラも禍々しいオーラを纏っている。

 

「特化型?」

「ブレイクデカールの強化には一部の能力のみを強化する特化型があるんだよ」

 

 以前に優人が戦ったペーネロペーのダイバーが使ったブレイクデカールは全性能を強化するタイプだったが、目の前の2機の使用したブレイクデカールは特化型と呼ばれているものだ。

 特化型はガンプラの性能の1つしか上がらない代わりに、全性能を上げるタイプよりも上がる性能が大きい。

 オクト・エイプは機動力、ガラは防御力を向上させるものを使ったのだろう。

 

「そういう事だ。俺たちの依頼主は太っ腹でな。報酬とは別にブレイクデカールもくれたんだよ」

「成程な。ザジ。下がれ」

 

 諒真はそういうと前に出る。

 

「リョーマさん?」

「あまり時間をかけたくないし、この後のことを考えればここで戦力を消耗させるのは避けたい」

 

 時間が経過すれば、向こうもこちらに戦力を差し向けて来るだろう。

 そうなれば採掘エリアを制圧することが難しくなる。

 また、紅蓮の牙のリーダーとの戦闘も考えるとここでの消耗は最低限に抑えたいところだ。

 

「だから、俺がやる」

 

 ガンダムクロノスXXは肩のビームキャノンを撃つ。

 オクト・エイプは高速でビームをかわすと、一瞬の内にガンダムクロノスXXの背後に回り込むとバズーカを手放しビームサーベルを抜く。

 

「動きの襲せぇ砲撃型は俺のカモなんだよ!」

 

 オクト・エイプはビームサーベルを振るおうとするが、クロノステイルからビームサーベルを出して受け止められてしまう。

 

「確かに動きは早い。けど、それだけだ。俺はフォースじゃ参謀として武闘派じゃないんだが、アンタら程度のダイバーがブレイクデカールを使ったくらいで遅れを取るほど弱くもないつもりだ」

 

 ガンダムクロノスXXはクロノスアックスでオクト・エイプを破壊する。

 

「ちっ!」

 

 オクト・エイプがやられたことでガラのダイバーは分が悪いと判断したのか後退を始める。

 

「俺たちを発見した時に本隊に連絡を入れて戦力を整えればよかったのにな。2機で仕留めようなんて色気を出すからだ」

 

 ガンダムクロノスXXはハイパークロノスキャノンを展開する。

 バーストモードはチャージに時間はかかるが、通常モードで相手を撃破するのに必要最低限の火力に抑えて撃てばチャージの時間はほとんどない。

 後退し、背を向けるガラにハイパークロノスキャノンを撃ち込む。

 ブレイクデカールで防御力を強化していたガラだが、ハイパークロノスキャノンの一撃で上半身が吹き飛ぶ。

 

「……強い」

「流石です」

 

 ブレイクデカールで強化されたガンプラを苦もなく倒した諒真に優人も少なからず驚く。

 だが、ある程度の実力がなければ癖の強いダイバーが揃っているタイガ団をまとめることなどできはしない。

 

「さて、無駄な時間を使った急ぐぞ」

 

 傭兵たちを片付けた優人達は先を急ぐ。

 防衛用に配置していたトーチカを破壊しながら優人達は先を急ぐ。

 やがて採掘エリアの中枢に到着した。

 

「ここが中枢か……ここに紅蓮の牙の拠点があるはずだ。そこを破壊する。くれぐれも余計な物までは破壊しないように。これは振りじゃないからな」

 

 優人達は周囲を警戒しながら捜索を始める。

 採掘エリアは現在は紅蓮の牙が所有していることになっている。

 その所有権が発生しているのはここに紅蓮の牙の拠点があるからだ。

 それを破壊してタイガ団の拠点を置けばここはタイガ団の物となる。

 周囲を捜索しているとビームがソラのエアブラスターを貫く。

 

「ヤガミ!」

 

 ビームはエアブラスターの右半身を吹き飛ばしてエアブラスターは倒れる。

 まだ撃墜判定にはならず、ガンダムクロノスXXがかばうように移動し、ザジと優人は臨戦態勢を取る。

 

「タイガ団ともあろう奴らがずいぶんとせこい方法で来るじゃないか」

 

 そこには真っ赤に塗装されたゴッグが待ち構えていた。

 

「アイツがリーダーか。気を付けろ」

「了解」

 

 グレイズラグナがランスシールドを掲げて突撃する。

 ランスシールドをゴッグが真向から受け止めた。

 

「あれを受け止めた!」

「なんてパワーだ!」

 

 グレイズラグナの渾身の一撃をゴッグは易々と受け止めた。

 

「無駄だ。俺のゴッグのパワーはブレイクデカールで強化されているからな!」

 

 ゴッグからはブレイクデカール特有のオーラを纏っている。

 それによりパワーが大幅に強化されているようだ。

 

「くたばれ! 雑魚が!」

 

 至近距離からグレイズラグナに腹部のメガ粒子砲を撃ち込む。

 

「ザジ!」

 

 グレイズラグナは吹き飛ばされるが、対ビームコーティングのお陰で撃墜はされずに済んだ。

 それでもランスシールドとべロウズアックスは吹き飛ばされた時に手放してしまい、無傷ともいえない。

 

「……大丈夫だ」

 

 グレイズラグナはバトルブレードを抜いて構える。

 ビルドナラティブはGNソードを構える。

 2機は同時にゴッグに向かい、挟み込む。

 だが、ゴッグはその体形からは想像もできない速度で攻撃を回避する。

 

「馬鹿な! その体でその機動性能は!」

「どうなって!」

 

 攻撃を回避したゴッグはビルドナラティブの背後に回り込むと両腕のアイアンネイルでビルドナラティブを挟み込むように攻撃する。

 その一撃はビルドナラティブの右腕をフレームごと引きちぎる。

 

「しまった!」

「この!」

 

 グレイズラグナは肩の機関砲を撃つが、ゴッグの装甲には傷一つつかない。

 

「無駄だ!」

 

 グレイズラグナのバトルブレードの攻撃をかわすとガンダムクロノスXXの背後に回り込む。

 

「リョーマさん!」

「足手まといをかばうなんてご苦労なこって!」

「そうでもないさ」

 

 ゴッグの攻撃をクロノスアックスで弾くと胴体を蹴り上げて出力を絞ったビームバスターを撃ち込むが、ビームは発射されない。

 

「何? ちぃ」

 

 ガンダムクロノスXXはクロノスアックスでゴッグを弾き飛ばす。

 だが、起き上がるゴッグは何ともないようだ。

 

「嘘だろ……」

「今のは……やはりそういう事か」

 

 ゴッグの力を目の当たりにするも、諒真は落ち着いている。

 

「どういう事です?」

「アンタ、ブレイクデカールを重ね掛けしてるな」

 

 諒真は確信をもって断言する。

 ビームが発射されなかったことも、ゴッグの戦闘能力もブレイクデカールによるものだということだ。

 ゴッグは3つのブレイクデカールを同時に使用することでパワーだけでなく機動力と装甲をも強化していたのだ。

 そして、4つ目のブレイクデカールの効果は使用中は周囲のガンプラの火器の使用を封じるという物だ。

 それによりガンダムクロノスXXのビームバスターが不発に終わった。

 

「そんなことが……」

「前例はないけどな」

「ネタが分かったところでお前たちにはどうすることもできないのさ! このブレイクデカールで極限まで強化された俺のパーフェクトゴッグの前ではな!」

 

 4つのブレイクデカールを同時に使用するゴッグの性能は桁違いだ。

 だが優人はあきらめてはいなかった。

 

「確かに貴方のガンプラは強いかも知れない。それでも俺は負けない!」

 

 優人はコンソールに表示された新たなアーマーを選択する。

 

「タイタス!」

 

 新しいアーマーを選択するとエクシアアーマーがパージされて前後にランナーが形成される。

 選択したアーマーのランナーの他に破壊された右腕のフレームのランナーも同時に形成される。

 新しい右腕が付けられ全身にアーマーが装着されていく。

 赤いアーマーが装着されると今までとは違うマッシブな体系となる。

 手持ちの武器はない新たなアーマーはガンダムAGE-1タイタスの力を持ったタイタスアーマー。

 装甲とパワーに特化したアーマーだ。

 

「凄い……力があふれて来る!」

 

 タイタスアーマーを装備したビルドナラティブはゴッグに向かって走り出す。

 

「くらえ!」

 

 ビルドナラティブは渾身の拳を繰り出すが、ゴッグには当たらない。

 

「はっ! ビビらせやがって。そんなスピードで何ができる!」

「後ろだ!」

 

 ゴッグが背後を取るよりも先に諒真が叫ぶ。

 

「もう遅いわ!」

 

 ゴッグはビルドナラティブ目掛けてアイアンクローで攻撃する。

 だが、タイタスアーマーの装甲はブレイクデカールで強化された攻撃でもダメージを与えることが出来ないほど強固だった。

 

「何ぃ!」

「ぶっ飛べ!」

 

 ビルドナラティブの拳がゴッグの胴体に直撃して吹き飛ばされる。

 地面に叩きつけられたゴッグの胴体はへこんでダメージを受けていた。

 

「ユートの奴! やりやがった!」

「戦闘中に装備や破損部分のパーツを形成したのか」

 

 ビルドナラティブの一撃を受けたゴッグはダメージが大きいのかすぐには動けそうにはない。

 

「これで終わりだ」

 

 ビルドナラティブの右腕にビームの輪が形成される。

 そして、ゴッグの方に走り出す。

 

「ビームラリアット!」

 

 ビルドナラティブの必殺のビームラリアットがゴッグに決まる。

 ゴッグは弧を描くように吹き飛ばされる。

 

「ふぅ」

「流石に今の一撃を受けてまともには動けないだろ」

「まぁブレイクデカールの性能に頼り切った典型的なダイバーだからこのくらいが限界か」

 

 ビルドナラティブの強力な一撃をまともに受けた以上は誰もがそう確信した。

 

「……まだだ。まだ終わりじゃない!」

 

 ビームラリアットを受けたゴッグだが、ゆらりと立ち上がる。

 すると見る見る内にビルドナラティブから受けた傷がふさがっていく。

 

「そんな!」

「……まさか5つ目のブレイクデカールか」

「そうとも! 切り札は最後まで取っておかないとな!」

 

 ゴッグには5つ目のブレイクデカールが残されていた。

 5つ目のブレイクデカールの能力はダメージを自動修復することが可能で、完全にゴッグのダメージを回復させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファントムレディが戦列に参加した事で囮の部隊は劣勢になってきていた。

 紅蓮の牙のガンプラの中で何機かはブレイクデカールを使用した事でグレイズアーミィのダメージも増えてきている。

 連携攻撃に長けたグレイズアーミィならばブレイクデカールを使われたくらいでは崩れたりはしないが、ダメージが無視できないレベルになりつつある。

 すでに愛衣は予備戦力として持ってきていたNPDのプルーマを全機投入している。

 

「ちょいさ!」

 

 ザクファントムソードがバスターソードを振るい、ズゴックEXは後退しながらビームガトリングを撃つ。

 

「ブレイクデカールも使わないで以外とやるわね」

「ウチのボスからは使うように渡されたんだけどね。そんな物を使わなくても私は強いしね!」

 

 ザクファントムソードは左腕のビーム突撃銃を連射する。

 ビームがズゴックEXの肩を掠めて装甲が焼け焦げる。

 

「すでに奇襲部隊の行動は始まっているはず……想定外の事態でも起きているの?」

 

 事前の打ち合わせではすでに諒真たちも作戦行動に入っている。

 首尾よく事が運んでいればすでに採掘エリアは制圧できているころ合いだ。

 いまだにそんな動きがないとなれば想定外の事態が起きているということだ。

 もしもそうならば、この場で敵をくぎ付けにしなければならない。

 ビームを回避しているとコンソールにメッセージが入った音がなる。

 

「何? こんな時に……」

 

 愛衣は攻撃を回避しながらメッセージを確認する。

 

「これは……」

 

 メッセージの内容から愛衣は現在の状況から次の策を考える。

 

「仕方がないわね。この際、多少の損失は覚悟するしかないわね」

 

 愛衣が片手でコンソールを操作してメッセージの返事を書く。

 

「よそ見でもしてんの!」

 

 返事に気を取られて操縦が疎かになり、バスターソードでズゴックEXの片腕が肩から切り落とされた。

 

「アイちゃんさん!」

 

 バズーカ装備のグレイズが援護射撃を入れるが、ザクファントムソードは後退してかわすとビーム突撃銃を撃つ。

 その間に愛衣はメッセージを送信する。

 

「貴女、傭兵よね」

「だったら?」

「悪い事は言わないから、ここから逃げた方が良いわよ。下手をすればここは地獄になるのだから」

 

 愛衣の確信めいた言葉にファントムレディは背筋が凍るような感覚を受けた。

 そして、一つの流星が採掘エリアに落ちて来るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5つ目のブレイクデカールによりゴッグのダメージは完全に回復した。

 ただでさえ火器が封じられている上にパワー、機動力、防御力が強化されている。

 一度追い詰められているため、向こうには一切の油断はない。

 

「……引くぞ」

 

 諒真の判断は早かった。

 タイタスアーマーのビームラリアットで仕留めきれなかったのであればこれ以上、戦闘を続けたところで勝算はあまりない。

 すでに5つのブレイクデカールの能力は把握しているため、この戦闘の収穫はあった。

 これ以上、こちらの被害が出る前に撤退することを諒真は選択した。

 

「逃がすと思うか?」

「逃げるのは得意でね。俺が殿をする。ユートはヤガミを頼む」

「……はい」

 

 優人としては不本意ながらも指揮官である諒真の指示には従うしかない。

 あとは撤退を始める隙を作るだけだったが、突如、上空を覆うビームシールドが粉砕されて何かが採掘エリアの中枢に落ちてきた。

 

「何だ!」

「何かが落ちてきたのか?」

「馬鹿な! あのシールドはメメントモリだろうと耐えれるはずだ!」

「……なんでここに来るんだよ。それも最高のタイミングで」

 

 突然の事態に諒真だけは状況を理解しているようだ。

 落ちてきた衝撃で舞った砂煙の中に何かの影が見える。

 巨大な翼に伸びた腕部、一般的なガンプラよりも一回り大きなシルエット。

 砂煙の中で頭部の巨大な一つ目が禍々しく輝く。

 次第に砂煙が晴れていく。

 

「あのガンプラは……まさか!」

 

 優人以外はそのガンプラを知っていた。

 かつて絶対的王者だった皇帝、アルゴス・アレキサンダーのGバジレイスを唯一倒したガンプラ、ガンダムオメガバルバトス・アステール。

 そのダイバーの名はリトルタイガー。

 タイガ団のリーダーにして絶対的エースだ。

 アバターそのものは以前から変わらないが、新たにアクセサリーアイテムであるオルガのシュマグを身に着け、鉄華団のジャケットの背にはデカデカと団長の二文字が入れられている。

 

「何か面白そうなことになってんじゃん」

「まぁな」

 

 先ほど愛衣に来たメッセージは大我が宇宙の拠点に戻ってきた時に火星の本部に連絡を入れると諒真たちが出撃した事を知って、状況を確認するための物だった。

 愛衣は想定外の事態が起きているのであれば最後の手段として大我を投入するために採掘エリアの位置情報を送り大我が直接ここまで乗り込んできた。

 上空に展開している対空用のビームシールドも大我の前では何の意味を成さなかったようだ。

 

「俺も混ぜてよ」

 

 乱入してきたオメガバルバトス・アステールはゴッグとビルドナラティブ、エアブラスターの3機をロックオンする。

 大我も愛衣からある程度の情報は得ているが、それが敵でどれが味方なのかの判別は分からないため、同じフォースである諒真と傘下のザジ以外は敵として他は全て倒すつもりだ。

 狙いをつけられた優人は大我に対してこれまで出会ってきたダイバーとは別次元の得体の知れない恐怖を感じる。

 大我は引き金を引くがシド丸のビームライフルからビームが発射されることはない。

 ゴッグのブレイクデカールの効果はまだ健在だからだ。

 

「あれ? どうなってんの」

「はっ! リトルタイガーだろうとブレイクデカールから逃れることは出来ないんだよ!」

 

 突然の乱入があったが、オメガバルバトス・アステールも自身のブレイクデカールの影響で火器が使えないことを知りゴッグのダイバーは大我に襲い掛かる。

 だが、彼は忘れていた例え、火器が使えなくても大我にとっては大した問題ではなく大我の代名詞を。

 

「お前を倒せれば火星の覇権は……」

 

 ゴッグは飛び掛かりアイアンネイルの一撃を食らわせようとする。

 ただ自身にまとわりつくハエを払うかのように振るわれたバーストメイスカスタムは一撃でゴッグを跡形もなく粉砕した。

 

「……一撃で」

 

 ブレイクデカールで防御力が強化されタイタスアーマーのビームラリアットでも完全には破壊できなかったゴッグをオメガバルバトス・アステールはいとも簡単に粉砕して見せた。

 別のブレイクデカールの再生能力も意味を成さないほどの圧倒的な一撃だ。

 

「次は……」

 

 その圧倒的な暴力が次は自分に向けられると本能的に身構えようとするが、優人は大我からの威圧感で身動きが取れなかった。

 

「そいつは敵じゃないぞ」

「……あっそ」

 

 諒真が大我を止めると先ほどまでの威圧感が消える。

 その一言で大我の中では優人とソラは敵ではないという認識に変わったのだろう。

 

「それで他の敵は?」

「そいつが大将だよ」

「マジで? つまんねぇ」

 

 大我にとっては軽く一振りするだけで終わったのだから仕方がない。

 

「とにかく、後はこっちでやるから先に戻ってな」

「じゃ任せた」

 

 大我はこれ以上、用はないのかガンプラを飛び上がらせるとバルバード形態に変形させると飛び去って行った。

 

「後は制圧すれば終わりだ。君らには後で報酬のダイバーポイントを振り込んでおくよ」

「……いえ、俺たちは何も……」

「だよなぁ」

 

 優人もソラも報酬をもらう事に気後れする。

 ここまで来たものの最後は大我が決めているため、自分たちが貰っても良いのかと思う。

 

「気にすることはないさ。貰えるものは貰っとけ」

「分かりました」

 

 諒真がそういう以上は貰わない訳にもいかない。

 その後、正面で交戦していた敵は撤退し、愛衣が率いるグレイズアーミィが採掘エリアの中枢に到着する。

 採掘エリアを制圧し、事後処理を愛衣に任せると諒真は一度ログアウトする。

 

「お疲れ」

「ああ」

 

 諒真がログインしていたのは諒真の職場からだ。

 諒真は高校卒業後は大学に進学することなくルークの父の会社であるアーウィントイカンパニーに就職し、ガンプラバトルのワークスチームの主任を任されている。

 ログアウトした諒真をリヴィエールが迎える。

 彼女もワークスチームのチームビルダーとして籍を置いている。

 

「で、どうだった?」

「思った以上だよ。確かにあそこまで行くと危惧していたこともあり得るかもな。報告書は後で作っとくよ」

 

 ログアウトした諒真は先ほどのバトルを報告書として纏める。

 後でGBNの運営に提出するものだ。

 アーウィントイカンパニーはGBNのスポンサー企業の一つで、現在運営からあることを頼まれていた。

 それはブレイクデカールの調査だ。

 以前、ブレイクデカールが不正ツールではないかという通報を受けて運営が調査した事がある。

 その時に運営としての公式見解はゲームシステムに乗っ取った物で不正ツールとは認められないという物だった。

 しかし、運営の中ではある疑念が出ていたブレイクデカールのソースコードは確かにゲームシステムに沿ったもので不正ツールとは言い難い。

 それはあまりにも精巧に作られており、まるで運営から正式に出されている公式ツールと何ら変わらない物だった。

 いくらブレイクデカールの制作者が凄腕のプログラマーでもそこまでの物を作れるかは疑問だ。

 それこそGBNのメインシステムの制作にかかわったプログラマーでもない限りはだ。

 そのため、運営はブレイクデカールの制作者は運営関係者の中にいるか、もしくはGBNのメインシステムにアクセスできるだけの技術力を持った人物と考えられた。

 不正ツールではない物のそれだけの物をばらまいている人物が分からないままにしておく訳もいかず運営は極秘裏にアーウィントイカンパニーのワークスチームに制作者の調査を依頼していた。

 同時に運営はあることも危惧していた。

 当初はただガンプラの性能を一時的に向上させるだけで向上させる性能もトランザム等の機体性能を向上させるシステムと比較してもリスクが少ない分、向上する性能も大したことはなかった。

 運営がブレイクデカールを問題なしと判断したのもそのためだ。

 だが、最近出回っているブレイクデカールは一切のリスク無しに強力な能力を引き出す物が多く出回っている。

 一部のブレイクデカールを愛用するダイバーの中にはいかに強力なブレイクデカールを手に入れて使うかに重きを置き、本来のガンプラバトルにおける重要な要素であるガンプラの制作技術や操縦技術を二の次にするダイバーも珍しくはない。

 このままブレイクデカールがGBNに広く浸透してしまえば、ダイバー達はガンプラをブレイクデカールを発動させるための器としか見ないで、ガンプラバトルは強力なブレイクデカールを手に入れて使うかになってしまいかねない。

 そうなればもはやそれはガンプラバトルではない。

 一度、正式に不正ツールではないと認めてしまった手前、余程の理由もなく規制することもできないため、制作者の調査と共にブレイクデカールに関するデータ収集が諒真たちに依頼していることだ。

 

「……あのナラティブ……マークしとく必要があるな」

 

 報告書を作成しながら諒真は優人のことを思い出す。

 諒真もいろんなガンプラを見てきたか、戦闘中に外装や破損したパーツを生成して装備するガンプラにお目にかかったことはない。

 ダイバーである優人の実力は現時点ではタイガ団にとっては脅威にはなりえないが、用心に越したことはない。

 今日は味方だったが、いつ敵になるのか分からない。

 少し話しただけでも、優人は大我との相性は悪く場合によっては敵対しかねない可能性が高い。

 

「まったく、休む暇もないな」

 

 諒真は愚痴りながらも報告書を作成する。



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トライダイバーズ

 タイガ団からの依頼で採掘エリアでの戦闘から一夜明けた。

 紅蓮の牙のリーダーであるダイバーのゴッグは複数のブレイクデカールを使用する強敵だった。

 だが、タイガ団のリーダーであるリトルタイガーはそんなゴッグをいとも簡単に一撃で粉砕して見せた。

 GBNを初めてからいろんなダイバーと出会ってきたが、その実力は次元が違いGBNにおける最強のダイバーの一人として名が出るのも納得させられた。

 そのあまりの衝撃から優人は珍しく興奮して昨日は中々寝付けなかったほどだ。

 

「にしても凄かったよな」

「ああ」

 

 授業がひと段落して次の授業までの空き時間にソラと合流して昨日の話をしていた。

 

「それに報酬も桁違いだったしな。あれだけの報酬をポンと出せる辺り、トップクラスのフォースは凄いよな」

「ああ」

 

 優人は心ここに在らずと言った様子だ。

 昨日のバトルの後、優人とソラはタイガ団から成功報酬を受け取った。

 始めは優人も敵の大将を討ち取ったのは自分ではない事から断ろうとしたが、諒真が半ば強引に受け取らせた。

 その額は高難度ミッションを高ランクでクリアしなければ早々手に入る額のダイバーポイントではなく、余程のことがなければ当面はダイバーポイントには困らないほどだ。

 

「けど、さっき掲示板に速報が出たたけど、そのことでレギオンとタイガ団がなんか揉めたらしいぞ」

「揉めた? なんで?」

「さぁな。どうも採掘エリアの所有権でらしいけど、まだ詳しい情報は出てないようだ」

 

 ソラも掲示板で書かれている以上のことは知らないが、優人達が成功報酬を受け取ってログアウトした後にタイガ団とレギオンの間で何かもめごとがあったらしい。

 その発端となったのはタイガ団が手に入れた採掘エリアの所有権でのことだ。

 元々、採掘エリアの奪取戦はタイガ団がレギオンから依頼されて行ったものだ。

 その成功の報告を行いその後にそれは起きた。

 過去にもレギオンは厄介な敵フォースの拠点の奪取の依頼をタイガ団にしている。

 その時は成功報酬とは別にタイガ団が奪取した拠点をレギオンかレギオン傘下のフォースが相応の額にて買い取っている。

 レギオンは今回もそのつもりでそれ成功報酬を支払った後に採掘エリアの所有権の譲渡について持ち出した。

 レギオンとしてはこれまで通りにタイガ団が採掘エリアの所有権を譲渡してくるものだと思っていたが、今回はタイガ団が譲渡を拒否してきたのだ。

 タイガ団がこれまでの拠点を譲渡したのはタイガ団にとっては必要ない拠点でそんなところに人員を割きと防衛用の装備を用意することを嫌ったためで、今回の採掘エリアはタイガ団の本拠地からもそこまでの距離はなく、防衛用の装備も充実しており最低限の人員でも使えることや、採掘エリアを所有することで得られる利益も多い事もあってタイガ団は奪取した採掘エリアを自分たちで運用することにした。

 採掘エリアから得られる利益は多大でだからこそ、レギオンもタイガ団に奪取の依頼をして、その後の譲渡のことも考えて成功報酬は従来の倍近く支払い、それに加えてレギオンの所有する宇宙要塞ダウネスも譲渡している。

 それを理由にレギオンは採掘エリアの譲渡を要求するもタイガ団の参謀である諒真は依頼の内容には採掘エリアの譲渡までは含まれていないよこれを拒否した。

 タイガ団からは譲渡はしないと交渉する意思はないと断言されている。

 レギオンは傘下のフォースであるタイガ団にここまで勝手をされては黙っていられないと武力をチラつかせたもののタイガ団は屈することはないどころか欲しかったら力づくで来いと強気な姿勢は崩さなかった。

 そのせいで火星圏全体に緊張が高まるも最終的にはレギオンが折れる形で問題は終結した。

 一時はレギオンとタイガ団の間で全面戦争が起こるのではないかとも言われたが、レギオンは矛を収めるしかなかった。

 レギオンは火星圏では最大規模のフォースだが、傘下のフォースは一枚岩ではない。

 タイガ団は傘下に入っているもののレギオンやリーダーのリュウオウに忠誠を誓っている訳でもない。

 傘下のフォースの大半は忠誠ではなく利害で入っているからだ。

 多くのフォースはタイガ団ろはじめとしたレギオン傘下の武闘派フォースに狙われる危険がないという理由から入ることが多い。

 数の上ではレギオンが圧倒だが、個々の能力ではタイガ団に分がある。

 レギオン傘下のフォースではタイガ団とまともにやり合えるのはフォース「宇宙海賊クロスボーン・ハウンド」を率いるキャプテン・ネロかフォース「エルダイバーズ」のリーダーであるウィルくらいな物だ。

 レギオンだけで大我団とやり合った場合、レギオンも負ける気はないが勝ったとしても被害も大きく、立て直す前に傘下のフォースの反乱や敵対フォースの侵攻の危険がありそうなった時に防ぎきれない可能性が高い。

 そんな事情もありレギオンはタイガ団の強気な姿勢に対して折れるしかなかったのだ。

 

「まぁ……上位フォース同士のイザコザには俺たちは関係ないし、そろそろ次のステップに進もうぜ?」

「次?」

 

 ソラの言うように上位フォースの争いに優人は直接関係はない。

 それよりもソラの言う次のステップの方が気になった。

 

「今までは俺と2人でやってきたけど、そろそろ本格的に他のダイバーとも絡んでフォースでも組んで見るのも良い時期だと思うんだ」

「フォースか……」

 

 優人もフォースに関してはGBNをプレイしている間に聞いている。

 これまでのミッションですでに優人もフォースを組むことが可能なランクには到達している。

 今はソラと2人でプレイし多少なりとも他のダイバーと接することはあったが、一時的なもので本格的に関わっている訳ではない。

 フォースを組むとなれば、今まで以上に深く他のダイバーと関わることになる。

 

「それは良いとして具体的にはどうするんだ?」

「まぁいろいろとあるけど、追加メンバーを探しているフォースに入れてくれるように頼むか、自分たちで作るかだけど、入れて貰うにしても俺たち2人が同時に入れるフォースを探すのも大変だから自分たちで作った方が良いだろうな」

 

 ソラの案としてはすでに作られているフォースに入れてもらうか、自分たちで作るかの2択だったが、前者はメンバーを募集しているフォースも誰も良いという事はほとんどない。

 新しく入れるメンバーが自分たちが必要としている能力を持っているかや、入れたとしてフォース内でもめ事を起こさないかなど、いろいろと条件があるからだ。

 場合によってはどちらか片方だけは入れても良いが、もう片方は駄目だという事もあり優人としてもソラと別のフォースに所属することは避けたい。

 そうなればソラと2人で新しいフォースを作って自分たちでメンバーを集めた方が良い。

 フォース自体、ダイバーの個人ランクがD以上ならば作ることが可能で最低人数も1人からでもフォースを作ることは出来る。

 

「成程。そうなるとメンバー集めか……」

「GBNにはメンバー募集の専用の掲示板とかもあるけど、優人はGBN初心者だし、募集してきたダイバーの見極めも難しいからリアルでGBNをやってる人を誘った方が良いかもな」

 

 GBN内でもメンバーを集めることはできるが、相手のダイバーを見極める術を優人は持っていない。

 リアルでなら多少なりとも相手の人となりを見極めることは優人でもできる。

 

「だな。初めてのソラ以外の仲間だからリアルを知っておいた方が俺も安心できる。だけど、早々GBNをやっている人を見つけることが出来るのか?」

 

 GBNがネットゲームとしては世界規模で流行っていると言っても現実でGBNをやっているかの見極めはできない。

 ガンプラを扱っている模型店やGBNの筐体を置いている場所でなら確率は高いが、上手くやらなければ余計な揉め事になりかねない。

 

「俺に任せろってGBNのプレイ人数は数百万人なんだぜ。大学構内でも適当に声をかければ見つかるって」

「いや……それはどうなんだ?」

 

 優人が呆れているとソラは臆することもなく、少し先を通りかかった女生徒に話しかけていく。

 

「そこの彼女! GBNやってる?」

「……そんなんで本当に集まるのか?」

 

 優人は流石にその誘い文句はどうなんだろうと遠目で二人のやり取りを見ていた。

 少し二人は話しているが優人はソラが話しかけた相手をどこかで見たような気がしていたが、思い出すよりも先にソラは相手を連れてこっちに戻ってきた。

 

「優人! やっぱ俺の勘はニュータイプ並に冴えてる! 彼女は如月千鶴ちゃん。GBNやってるってさ」

「……如月? だよな」

「……槙島、君?」

 

 一発でGBNのダイバーを見つけたことで自慢げにしているソラを他所に優人は驚きを隠せない。

 

「あれ? 二人知り合い?」

「ええ、まぁ槙島君とは中学までは一緒だったから」

 

 ソラが連れてきた相手、千鶴と優人は面識があった。

 二人は小中学校と同じでクラスも同じで、クラスの中でも仲のいい方だった。

 中学を卒業するときに千鶴は皇女子高校に、優人は秀麗高校に進学してからは連絡を取り合う事もなかったが、偶然にも同じ大学に進学していたようだ。

 あれから3年が経つが、あの時の面影を残しながら大人びた千鶴に優人は動揺を何とか隠す。

 

「へぇ……だとしたらコイツは一緒にGBNをやる運命だったのかもな。如月ちゃんも今はフリーなんだよな」

「ええ。今までは高校の部活で作ったフォースに入っていたから」

 

 今まではアリアンメイデンに籍を置いていた千鶴だったが、卒業した事で今はどこのフォースにも所属していない。

 

「ソラの言う運命かどうかはおいておいてせっかく再会したんだし、一緒にGBNをやらないか?」

「……そうね。新しいガンプラが完成したからどこかのフォースに入るつもりだったけど、これも何かの縁かもね」

 

 意外な再会から話は纏まり、3人は近くのGBNの筐体の置いてある模型店に向かった。

 その道中で優人は久しぶりに何を話せば良いのか分からなかったが、ソラがいろいろと質問攻めにしたたため、優人は相槌くらいで済んでこの時ばかりはソラの異性に対する馴れ馴れしさに感謝したほどだ。

 目的の模型店に付くと3人はGBNにログインした。

 

「なぁ……ユート。俺の勘はとんでもない逸材を引き当ててしまったようだ」

 

 エントランスで合流するなり、ソラは顔を青くしてそういう。

 

「どうかした?」

「いや、俺にもさっぱりだ」

「いや! だってあれだよ! クレインと言ったら射撃能力じゃGBNの中でも5本の指に入るほどだぞ!」

「私としては誰にも負けないつもりだけど」

 

 道中でいろいろと聞いて千鶴が皇女子高校の出身だと知り実力は高いと思っていたが、エントランスで合流してそれぞれのダイバーネームを教え合いフレンド登録をした時に千鶴がアリアンメイデンの元エースのクレインだと知り場所をわきまえずに大声をあげている。

 

「へぇ……クレインは凄いんだな。だったらあのリトルタイガーとはどうなんだ?」

「彼とは精密射撃というよりも圧倒的な手数で回避させないか、かわされることを前提に距離を詰めたり必殺の一撃を入れるために射撃を使うから私とはタイプが違うわ」

「なあなんでそんなに落ち着いてんの……」

「いや、凄いと言ってもまだ実感ないし」

 

 いくらソラが凄いと騒いだところで優人にはその実力を想像できない。

 

「ここでの自己紹介はこのくらいにして格納庫で自分たちの愛機の披露でもしましょう」

「だな。使うガンプラの紹介もしないとな」

「……俺の方が変なのか?」

 

 ソラは釈然としないが、3人はエントランスから格納庫に移動する。

 格納庫には3人のガンプラがハンガーに収納されており、優人とソラが自分のガンプラを千鶴に紹介する。

 

「いろんなガンダムを模した外装を作って交換するガンプラ……装備を換装するタイプのガンプラの中には他のMSをモチーフにした装備に換装するガンプラは多々あるけど、戦闘中に自動的に作って換装するというのは初耳ね」

「作ったのは俺じゃないから、まだ分からないことも多いんだけどな」

「それでクレインはイージスベースか。前に使っていたのはフルシティだったからずいぶんと路線変更したんだな」

「まぁね。でも射撃特化なのは変わらないわ」

 

 千鶴の新たなガンプラはイージスガンダムをベースにしたメテオイージスガンダムだ。

 イージスの特徴でもある可変機構をそのまま使うために本体には大きく手は入れてはいないが、バックパックのは以前にも使っていたガンダムグシオンリベイクフルシティのバックパックを移植している。

 また頭部のツインアイには射撃性能を高めるためのセンサーゴーグルが追加されている。

 装備はビームマシンガンに追加のロングバレルを装備したロングビームライフルが装備され、バックパックのサブアームにもロングバレルを外したビームマシンガンを装備されサブアームを収納した状態でもビームマシンガンの銃口が前方を向くようになっており、サブアームを収納状態でもビームマシンガンが使えるようになっている。

 サイドスラスターの裏側には予備のロングバレルが1本づつ取り付けられている。

 肩の装甲にはバスターのミサイルポッドが埋め込まれている。

 そして、両腕と脚部のビームサーベルと左腕のシールド、全身をガンダムフラウロスと同じピンク色で塗装され以前のガンダムグシオンリベイクフルティシューティングスターと比べると装備が必要最低限でシンプルなガンプラになっている。

 

「さてガンプラの紹介も終わったことだし、一度バトルしてみようぜ」

「だな。取り合えずはすぐにでもバトルできそうな相手でも探すか」

 

 優人達はエントランスでバトルの相手を探す。

 3体3でのフリーバトルの相手はすぐに見つかったことでバトルが開始される。

 

「相手は……クシャトリヤにヤクト・ドーガ、キュベレイ……全機がファンネル持ちか」

「俺が前に出る」

「後方支援は任せて」

 

 千鶴のメテオイージスが狙撃のために方向を転換するとバルバトスアーマーのビルドナラティブが前に出る。

 それに合わせてクシャトリヤがビルドナラティブの方に向かう。

 

「的は大きい。これなら!」

 

 ビルドナラティブは滑空砲を撃つが、クシャトリヤは回避するとファンネルを射出する。

 

「何だ? 全方位から来るのか!」

 

 ファンネルによる全方位攻撃をかわしながらファンネルに滑空砲を撃つが、ファンネルには当たらず、逆にファンネルの攻撃で滑空砲が破壊される。

 

「バルバトスじゃ隙が多すぎる。なら、ストライク!」

 

 ビルドナラティブはすぐに宇宙での行動力に長けるストライクアーマーに換装する。

 ビームライフルでファンネルに対応しながら左手でビームサーベルを抜いてクシャトリヤに接近する。

 クシャトリヤもビームサーベルで応戦してくる。

 2機のビームサーベルがぶつかり合うがパワーではクシャトリヤの方がやや優勢のようだ。

 

「くっ! パワー負けしている!」

 

 ビルドナラティブの背後に回り込んだファンネルがエールストライカーにビームを撃ち込む。

 エールストライカーの爆発で体勢を崩したところに至近距離から拡散ビーム砲を撃ち込まれ、とっさにシールドで防ぐがシールドは耐え切れずに破壊されてしまう。

 そこにすかさずファンネルで集中砲火を浴びせる。

 

「タイタス!」

 

 すぐにタイタスアーマーに換装して身を守る。

 タイタスアーマーの装甲ならばそう簡単には突破されない。

 

「ユート!」

 

 苦戦する優人の援護にソラが向かおうとするが、ヤクト・ドーガのファンネルがエアブラスターの行く手を遮る。

 

「こいつ等……強い! なんでこんな相手とマッチングすんだよ!」

 

 ソラはビームライフルでファンネルに対応しながら叫ぶ。

 今回のバトルは3対3の対人戦でマッチングはランダムにしている。

 それにより実力差が大きくならないようになっている筈が、相手のダイバーの実力は自分たちよりもかなり上だ。

 ソラはその理由にまで気が回らないが、その理由は千鶴にあった。

 3人の個人ランクの平均で対戦相手をマッチングしたため、3人の中で千鶴だけ飛びぬけて個人ランクが高いが故に優人やソラが相手にするには厳しい相手との対戦となってしまったのだ。

 

「っても泣き言なんて言ってられないか!」

 

 ヤクト・ドーガにビームライフルを向けるがビームライフルはファンネルのビームで破壊される。

 

「ちくしょう!」

 

 エアブラスターはビームサーベルを抜きヤクト・ドーガに突っ込んでいく。

 どのみち、実力差は大きいため、普通に戦ったところで勝ち目は薄い。

 ならば特攻でもして多少なりとも相手にダメージを与えておこうとした。

 

「駄目で元々なんだよ!」

 

 ヤクト・ドーガはファンネルでエアブラスターを撃ちぬこうとする。

 だが、ファンネルがビームを撃つ前に別方向からのビームでファンネルが撃ちぬかれる。

 ソラはそんなことをお構いなしに突っ込んでいく。

 ヤクト・ドーガのダイバーも動揺することなくビームサーベルを抜くとエアブラスターにカウンターで反撃しようとする。

 

「くらいやがれ!」

 

 ソラの相打ち覚悟の一撃だったが、それよりも早くヤクト・ドーガのビームサーベルの方がエアブラスターを切り裂こうとしていた。

 しかし、ヤクト・ドーガのビームサーベルがエアブラスターを切り裂くことはなかった。

 ヤクト・ドーガの右腕が宙を舞い、エアブラスターのビームサーベルがヤクト・ドーガに突き刺さりヤクト・ドーガは機能停止していた。

 

「……ウソだろ」

 

 ソラは相打ちどころか実力差のある相手に勝利した事で茫然となっていた。

 同時に何が起きたのかも理解した。

 後方に控えていた千鶴がファンネルを狙撃し、ヤクト・ドーガの腕も狙撃してソラの進路を確保してのだ。

 メテオイージスの遥か前方には頭部と胴体を撃ちぬかれて漂うキュベレイがいる。

 恐らくは千鶴を抑えに行ったキュベレイはあっさりと千鶴に狙撃されてやられたのだろう。

 

「あの距離から撃ったのかよ」

 

 ファンネルを撃ち落とすこと自体、通常の戦闘距離ですらある程度の実力が必要だ。

 千鶴のいる距離からではファンネルは豆粒以下の大きさでしか見えない。

 それを千鶴は難なく狙撃して見せた。

 

「やっぱ俺の勘は冴えすぎだろ」

 

 たまたま声をかけた相手がここまでの実力者だったことをソラはただ驚くしかなかった。

 

「……このままじゃやられる」

 

 タイタスアーマーの装甲のお陰で何とか凌いでいたが、いつまでも持たない。

 強固な装甲で強引にファンネルの集中砲火を突破したとしても、タイタスアーマーでは近接戦闘での殴り合いしかできない。

 向こうもそれが分かっているのか、ファンネル共々常に一定の距離を保って攻撃してきている。

 

「何か打開策は……エクシアアーマーのトランザムで……駄目だ。全方位からの攻撃で止められる。あの子機を何とかしないと勝ち目は……」

 

 手持ちのアーマーでは状況を打開することは出来そうにない。

 それでも諦めずに打開策を模索していると新しいアーマーが解放されていることに気づく。

 

「ユニコーン? 一角獣か。なんだか分からないがコイツに賭けるしかない!」

 

 優人は躊躇う事もなく新たなアーマーを選択する。

 タイタスアーマーがパージされてビルドナラティブの前後にランナーが形成された。

 ビルドナラティブに次々と白いアーマーが装着されていきライフルとシールドが装備されると関節部が赤く発光する。

 その姿を見た相手のダイバーはすぐにファンネルを戻そうとするがすでに遅かった。

 ファンネルは動きを止めるとビルドナラティブの周囲に集まる。

 

「子機が俺の周りに?」

 

 それがユニコーンアーマーの能力だ。

 ユニコーンガンダムのデストロイモードの力を持ったユニコーンアーマーは周囲のファンネルや遠隔操作の武器の制御を奪う事が出来る。

 

「これなら行ける!」

 

 ビルドナラティブはビームマグナムを連射する。

 クシャトリヤは十分に余裕をもって回避する。

 5発撃ったところでビームマグナムの残弾が尽きる。

 

「このライフル。威力は凄そうなのに5発しか撃てないのか! なら!」

 

 リアアーマーに呼びのエネルギーパックがあるが、ビルドナラティブはビームマグナムを捨てると背中のビームサーベルを抜いて加速する。

 ファンネルを使いクシャトリヤの動きを封じながら接近してビームサーベルを振るう。

 クシャトリヤのバインダーをビームサーベルで切り裂くとファンネルで攻撃しながら猛攻を加える。

 

「一気に仕留める!」

 

 左腕のシールドをパージして残るビームサーベルを抜くとクシャトリヤのバインダーに突き刺し、右手に持っていたビームサーベルを頭部に突き刺す。

 それでもなお、クシャトリヤは抵抗と続ける。

 胸部の拡散ビーム砲を撃とうとしていたため、両腕からビームトンファーを展開するとクシャトリヤの胴体に突き刺す。

 それによりクシャトリヤは完全に停止した。

 

「はぁはぁ……勝ったのか」

 

 最後の1機を撃墜したところで優人達の勝利のアナウンスが入った。

 

「いやぁ何とかなるもんだな」

「ああ。一時はどうなるかと思ったけど、ヤガミの方もクレインがいてくれたからみたいだけどな」

「ほんとだよ。クレイン様様だ」

「大したことはしてないわよ」

 

 バトルに勝利して各々は勝利の余韻に浸る。

 

「なぁクレイン。正式に俺たちとフォースを組まないか? 俺とヤガミではいろいろと足りないことが多いと思うが、クレインのような実力者が付いていると心強い」

「俺からも頼む」

 

 そう言って二人は千鶴に頭を下げる。

 このバトルだけ見ても千鶴の実力は2人よりも遥かに高い。

 それだけの実力があれば千鶴を欲しがるフォースはいくつもあるだろう。

 千鶴からしてみても2人の実力は物足りなく感じることだろう。

 それでも千鶴と共に戦えば優人もソラも得るものは多い。

 

「構わないわ。せっかくの縁だしね」

 

 千鶴は意外と悩む様子もなく了承した。

 それからすぐにフォースの設立申請を行う事となった。

 

「なぁ……本当に俺がフォースリーダーで良いのか? 実力で言えばクレインがリーダーの方が……」

「私は後方から狙撃する方が好きだからあまり前に出たくはないもの」

「クレインもそう言っているし、まぁいいんじゃないか? ついでにフォース名もつけちゃってくれよ」

 

 申請時にはリーダーを決めなければならなかったが、千鶴とソラは優人をリーダーに推した。

 実力は千鶴の方がはるか上だが、千鶴はリーダーになる気はないらしい。

 

「……分かったよ」

 

 優人も渋々だがリーダーになることを承諾した。

 そして、少し考えるとフォース名を記入して提出した。

 

「トライダイバーズか」

「ああ。俺たちにはいろいろと足りない物が多いけど、それでも臆することなくいろんなことに挑戦するダイバー達って意味を込めてみた」

「良い名前じゃない」

 

 優人が考えたフォース名は『トライダイバーズ』。

 挑戦するダイバー達という意味を込めて命名した。

 

「……トライダイバーズ。これが俺たちのフォースだ」

 

 トライダイバーズ……まだ未熟なダイバー達ではあるが、この日新たなフォースが誕生した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ビルダーズギルド

ソラと千鶴と共にフォース「トライダイバーズ」を結成した優人は早速フォースネストで今後の活動について話し合っていた。

 トライダイバーズのフォースネストはフォース結成時に与えられるフォースネストで中央にテーブルと数人分の椅子にモニターと最低限の物しかない。

 3人の所持しているダイバーポイントを使えば内装のグレードアップや通常のディメンジョンやアナザーワールドに配置できるフォースネストを購入することもできたが、千鶴が現状では必要ないと判断した。

 

「まず何から始めようか? 手始めにアナザーワールドに拠点でも構えるか?」

「無謀ね」

 

 優人の意見を千鶴がバッサリと切り捨てる。

 優人も思いつきで言ったため、却下されても気にした様子はない。

 

「現状でトライダイバーズのメンバーはこの3人。これから先、何をするにも人手が無さすぎる」

「だよな。上位のフォースだとメンバーが100人を超えるところもあるって聞くしな」

「そうね。100人を超える大規模なフォースをでなくとも上位にもなると少なくとも15人から20人程度はいるわね」

 

 GBNに多々あるフォースで多いところでは100人を超えるダイバーが所属しているフォースをもあるが、15人から20人程度が多いと言われている。

 それだけのダイバーがいれば数機で小隊を組んでもミッションや役割に応じて編成を変えることが出来る。

 そうすることで対戦相手のフォースやミッションに合わせてメンバーを変えることで勝率を上げることに繋がっている。

 

「まぁ上位のフォースはネームバリューがあるから人も集まり、メンバーをある程度は選別して入れることが出来るからそれだけの人数を集めることが出来るけど、私たちにはそれは難しい」

 

 千鶴の言うように上位フォースともなればフォースや所属ダイバーの名前だけで人を集めることが出来る。

 その中から今のフォースに必要な技能を持ったダイバーや実力の高いダイバーを入れることでフォースの総合力の強化にもつなげられる。

 現状のトライダイバーズは完全に無名のフォースで精々GBNきっての狙撃手である千鶴ことクレインくらいしか名前で人を集めることは出来ない。

 

「それに人を集めたところでチームとして機能させることもできないから、人数を集める必要はないわ」

 

 数が集まればそれだけフォースとしてやれることは多くなる。

 一方で人数が増えれば取りまとめることも難しくなる。

 上位のフォースではリーダーやエースの実力でまとめるか、結成してから何度もバトルを経て出来上がった信頼関係でフォースをまとめていることが多い。

 リーダーである優人はGBNを初めて間もなく大人数をまとめることは難しい。

 

「フォースとして活動する上で後……2人くらいいれば活動も楽になるわ」

「2人……5人で大丈夫なのか?」

「別にアナザーワールドで拠点を構える訳じゃないんだから大丈夫よ。幸いにも私たち3人の戦闘スタイルは被ってもないしね」

 

 優人のビルドナラティブは装甲を換装することで様々なタイプのガンプラになる換装タイプ。

 ソラのエアブラスターは可変機構を持つ高機動中距離タイプ。

 千鶴のメテオイージスは後方からの狙撃タイプと3人のガンプラの特徴は被ってはいない。

 

「今、必要なのは中距離からの火力支援機と前衛の近接戦闘が得意なダイバーよ」

 

 3機で編成となると優人が前衛で戦いソラは中距離で支援をしながら機動力でのかく乱、千鶴が後方からの狙撃支援となる。

 そこに近接戦闘型のガンプラが加われば優人が複数のアーマーを使い分けて相手や状況に合わせて動きやすくなる。

 中距離の火力支援機はソラのエアブラスターでは火力不足が否めず、千鶴のメテオイージスは基本的に戦場の遥か後方からの狙撃支援がメインとなるため、余り手数のある砲撃は行えない。

 

「成程な。やっぱクレインに仲間になって欲しいと頼んで正解だったな。俺たち2人だけじゃそこまでのことを考える余裕はないかったからな」

「流石、Sランクのダイバーってところだな」

 

 フォースのリーダーは優人だが、GBNでも経験においては千鶴は優人のみならずソラよりも豊富だ。

 フォースを作った後のことまでは中々気が回らず千鶴がいなければ無策で人員を補強するか適当なミッションを繰り返すくらいしかできることはなかっただろう。

 

「Sクラスなんて大したことはないわよ。ある程度効率のいいポイントの稼ぎ方を覚えれば1年もあればSクラスまでならなれるわ」

 

 ダイバーはそれぞれ個人のランクがある。

 一流のダイバーと呼ばれるには最低でもSクラスには到達する必要があり、その上にはSS、SSSとある。

 千鶴は現在Sクラスであり、優人やソラよりもはるかに高見にいる。

 だが、千鶴の言うようにSクラスまではある程度の実力と効率良くポイントを稼げるやり方さえ覚えてしまえばそんなに時間はかからず、ダイバー全体で見てもSクラス以上のダイバーは1000人以上はいる。

 もっともそれは千鶴の感覚であり10年以上GBNをプレイしてもSクラスはおろかAクラスにも届かないダイバーが大勢いる。

 

「私は戦闘スタイルからそこまで効率良くポイントを稼げてないからSクラスだけど、私の幼馴染の3姉弟は3人ともSSSクラスだし、私の兄もSSクラスだからSクラスと言っても大したことはないわ」

「凄いな」

「……なんかもう別次元だな」

 

 千鶴からすればSクラスであることはさほど凄い事ではないが、その域まで行けないソラからすればもはや別次元の話だ。

 

「それはおいておいて補強のことよ」

「クレインがいれば無理にリアルで探す必要もないよな」

 

 千鶴をスカウトする時はGBNの中よりも現実世界でGBNをプレイしている人を探そうとしていたが、千鶴が仲間になったことでそこに拘る必要もない。

 

「取り合えずだけど、一人心当たりがいるから聞いてみるわ」

「分かった。頼む」

 

 千鶴はコンソール画面を開くとフレンドリストを開くと目当てのダイバーがログインしているかを確認する。

 すると現在ログイン中であることが分かりすぐにメッセージを送る。

 

「向こうも暇してるみたいね。すぐに会えそうだけどどうする?」

「そうだな。すぐに会えるように頼んで欲しい」

「了解。そう送っておくわ」

 

 千鶴はメッセージを送り会う約束を取り付ける。

 それからすぐに3人は待ち合わせの場所に向かう事にする。

 待ち合わせの場所はエントランスのあるエリア内にあるカフェスペースだ。

 

「悪い。待たせた」

「そうでのないわよ。ジン」

 

 千鶴の心当たりはダイバーネーム『ジン』こと神龍牙だった。

 龍牙も今年高校を出てそれまでのフォースから抜けている事や接近戦においてはこれ以上ないダイバーでもある事もあって誘おうとした。

 

「クレインの心当たりってマジか。あの星鳳のジンか」

「凄いの?」

「凄い。星鳳高校と言えばジュニアクラスの全国大会でここ3年間で2年連続で準優勝で去年は優勝して、東京じゃクレインの母校の皇女子高校と並ぶ名門だよ。それでジンは1年の時からのレギュラーになるほどの実力者だ」

 

 優人には高校ガンプラバトルの力関係には良く分からないが、龍牙が実力者だという事だけは理解できた。

 星鳳高校はこの3年間で高校ガンプラバトルの名門校の一つに数えられるだけに成長した。

 アメリカが優勝した世界大会で実力をつけた龍牙率いる星鳳高校は翌年の全国大会でも活躍し決勝戦で皇女子と当たり惜しくも敗れて準優勝だったが、去年の龍牙や千鶴の最後の全国大会では因縁の皇女子高校に勝利して優勝した。

 

「久しぶり……ジン。その恰好は?」

「おっ気づいたか。なんの因果か俺は今、タイガ団で殴り込み隊長をやってんだよ。だから悪いけどそっちには入れない」

 

 龍牙のダイバールックには以前には使っていなかった鉄華団のジャケットを着ていた。

 その背中にはデカデカと大我の二文字が掛かれているのを龍牙は見せる。

 

「何でまた?」

 

 取り合えず座ると千鶴は率直な疑問を口にする。

 トライダイバーズにスカウトできないのは残念だが、それ以上にそっちの方が気になった。

 龍牙は大我に勝つことを目標にしていた。

 そんな龍牙が大我の下にいるという事に疑問を持つのは当然だ。

 

「アイツに勝つためにはアイツの近くにいてアイツの事を研究するのが一番だと思ってな」

 

 龍牙自身、まだ大我に勝つつもりはあるようだ。

 そのために大我と同じフォースで大我の事を研究するために大我の下に入る事にしたらしい。

 

「それで何か分かったの?」

「まぁな。高校で同じ部活にいたときは向こうはこっちの事なんて眼中になかったけど、今は仲間として認めてはくれているみたいで前よりかは近くで見れてるよ」

 

 龍牙と大我は高校の3年間同じクラスだったが、1年の時は龍牙が一方的にライバル視していたが大我は龍牙に対しては一切の興味がなく、後で知った事だが大我は龍牙の事は同じ部活のクラスメイトという認識すらほとんどなく、名前すらまともに覚えてはいなかったらしい。

 だが、今では同じフォースの仲間としては見られているらしく、根本的な言動には変わりはないが仲間意識だけは持っているらしい。

 

「より近くで見れるからこそアイツの実力が化け物染みてるのが分かるよ。一度、アイツのバルバトスを使わせてもらった事があってさ。あのバルバトスは重武装が故に重量のバランスがシビアで反応速度もピーキー過ぎて少し動かしただけでも反応してバランスを崩すんだよ。たぶん、ガンプラの駆動プログラムにまで手を付けてダイバーの操縦の癖とかに最適化してる」

「そこまで?」

 

 龍牙は一度、大我にオメガバルバトス・アステールを使わせて欲しいと頼んだ事があった。

 断られる事を覚悟のダメ元での頼みだったが、意外とすんなり使わせて貰う事が出来た。

 そこで龍牙は身をもってその力を思い知る事となった。

 オメガバルバトス・アステールは度重なる武装強化による重装備を作ったリヴィエールの神かかった制作技術でバランスを保っているため、少しでも操縦をミスるとバランスを崩して自滅する。

 そのうえ、ガンプラの反応速度が以上に速い。

 龍牙の見立てではガンプラの駆動プログラムにも手を加えられているのではないかと見た。

 駆動プログラムはダイバーが自分で設定することで自分のガンプラの動きを自由にすることが出来る。

 だが、細かく設定するにはプログラムの専門的な知識が必要となるため、ほとんどのダイバーはそこまで手を付ける事はなく、手を加えるとしてもファンネルなどの遠隔操作武器の挙動パターンを作る時くらいだ。

 そんなところにまでオメガバルバトス・アステールは手が加えられている事が強さの一端であり、そんなじゃじゃ馬を大我は完璧に乗りこなしているのであった。

 

「ああ。我ながらとんでもない目標だよ」

 

 龍牙はそういうが、そこには後悔している様子はなくどこか楽し気でもあった。

 

「そう。ならブレイクデカールとかは使わないの?」

 

 千鶴から出たブレイクデカールという単語にそれまでは話しに入れなかった優人もピクリと反応した。

 これまでにも何度もブレイクデカールを使うダイバーと戦った事はあるが、初めて戦った相手が相手の疲弊したところを狙うといった余り褒められたやり方ではない事をしたこともあって優人の中には若干、ブレイクデカールに関してはあまりいい印象はない。

 

「最近流行ってるってアレか。ウチは今レギオンの傘下に入ってて、そのレギオンはブレイクデカールに関しては否定的な立場だからな。まぁ俺らの大将は自分じゃ使わないけど弱い奴はどんどん使った方が少しはマシな相手になるからって推奨してるけどな」

 

 ブレイクデカールの是非にGBN全体でも割れているが、レギオンは否定的な立場を取っている。

 一方の大我はどちらかと言えば肯定的だ。

 自分は必要ないが、相手が使う事に関しては弱い相手はブレイクデカールを使ってくれた方がマシな戦いができるという理由からだ。

 

「アイツと同じフォースになって分かった事なんだけどさ。アイツは自分の目標とするところに最短距離で真っ直ぐ突っ走るんだよ。でも最短距離で突っ走っても楽な方にか行かないんだよ。障害があって少し遠回りをした方が楽になることがあってもアイツは障害を力でブチぶって最短距離を選ぶ。そんな奴だ」

 

 それが大我と同じフォースで戦って分かった事だ。

 少し回り道すれば楽になることでも大我は障害を蹴散らしてでも自分の進む道を譲らない。

 

「確かにブレイクデカールを使えば簡単にアイツとの差は縮まるのかも知れない。けど、アイツが楽な道を選ばないのに俺が楽な道を選んだらたぶん、差は縮まっても一生アイツには届かない気がする。だから、俺は俺の拳があるから、これまでやってきた事を信じてな。クレインだってそうだろ?」

 

 その言葉に千鶴も頷く。

 ブレイクデカールが広まっているのは初心者や低ランクのダイバーが中心だ。

 上位のフォースやダイバーにはブレイクデカールを使うダイバーはまずいない。

 上位にまで上り詰める過程で自分の戦闘スタイルを確立し、そこに自信を持つため、上位のダイバー達の間ではブレイクデカールを使う必要性がなく、ブレイクデカールの是非についても個人の自由として否定も肯定もしないケースが多い。

 

「でだ。クレイン達はメンバーの補充を考えてんだろ?」

「ええ。だからジンを誘おうとしたんだんだけど」

「なら、俺の方からちょうどいい奴がいるんだけど」

 

 千鶴はチラリと優人の方を見る。

 

「良いんですか?」

「ああ。今すぐにってわけじゃないけど、3日後なら」

「お願いします」

 

 優人は龍牙に頭を下げる。

 龍牙をスカウトできなかったが、龍牙の紹介ならば信用もできる。

 この日は次の約束を取り付けて解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから3日後、優人達は龍牙に指定された場所に到着した。

 そこには仮想空間とは思えないほどの熱気に包まれていた。

 

「凄い活気だけど何やってんだろ?」

「これはガンプラ市ね」

 

 ガンプラ市とは有志のダイバー達がディメンジョン内でパーツデータのやり取りをする場の総称だ。

 規模な主催するフォースによってさまざまで毎回持ち寄られるパーツデータも様々だ。

 

「ここの主催はビルダーズギルドか。ビルダー系フォースの大手じゃないか」

「ビルダー系フォース?」

 

 優人は聞きなれない単語に首をかしげる。

 

「フォースと一言にいってもいろいろと活動目的があってビルダー系ギルドはビルダーたちで構成されたフォースよ」

 

 一般的で大半のフォースの活動は個人やフォースのランクを上げる事だがそれ以外の活動をメインに行うフォースも少なくはない。

 ビルダー系フォースとは一般的にビルダーで構成されたフォースであり、活動内容としてはバトルよりもガンプラの制作をメインに行い、GBNの運営が定期的に開くガンプラコンテストへの出店や自分の作ったガンプラを持ち寄る意見交換会やガンプラ市で作ったパーツデータの販売などだ。

 他にも探索や採取のミッションをメインするするフォースや動画配信をメインにするフォース、様々な情報を収集しては情報を売買するフォースなど、フォースの活動は多岐に渡り、バトル以外でも様々な事がGBNではできる。

 その中でもビルダーズギルドはビルダー系のフォースでは大手の一つでありビルダーズギルド製のパーツデータの性能はビルダーズギルドブランドとして名高い。

 

「ビルダーズギルド製の中でも一部の高品質の武装はギルドマスターが認める一部にしか販売しないことでも有名ね」

「ちなみにグレイズアーミィのザジやタイガ団のリョウマさんのガンプラの武器にBGってロゴが入っていただろ? あのロゴが入った武器はビルダーズギルドブランドの中でもハイスペックの物に入れられるものだ」

「あれか」

 

 優人が過去に戦ったザジのグレイズラグナのランスシールドや諒真のガンダムクロノスXXのハイパークロノスキャノンには確かにBGのロゴが入っていた。

 それはビルダーズギルドの中でも通常販売されていない高スペックの装備にのみつけられるものだ。

 

「それは分かったけど、なんでジンさんは俺たちをここに呼んだんだろうな」

「たぶん、ビルダーズギルドはタイガ団の傘下なのは有名な話しでこれだけの規模のガンプラ市だから用心棒として警備を任されるからでしょうね」

 

 ビルダーズギルドはビルダー系フォースの大手という事以外にもタイガ団の傘下としても有名だ。

 GBNはバトル以外にも様々な楽しみ方ができるが、メインはバトルだ。

 ダイバーの中にはバトルの実力至上主義ともとれる程、バトルの実力で相手を見るダイバーも決して少なくはない。

 そういったダイバーからすればビルダー系フォースを始めとしたバトルを不得意にするフォースはまともにバトルの出来ないフォースだと露骨に見下し、同時にポイント稼ぎのための良いカモとして見られる事もある。

 そんなフォースから身を守る手段の一つとして武闘派フォースとの繋がりを持つ事があげられる。

 ビルダーズギルドもタイガ団の傘下のフォースであることを前面的に押し出す事で、他のフォースからの攻撃を減らしている。

 その見返りとしてタイガ団はビルダーズギルドから装備やガンプラ市での売り上げの一部を提供している。

 特に装備はタイガ団のみならずタイガ団傘下のフォースやNPDの装備の強化につなげている。

 また、ビルダーズギルドとしてもタイガ団たちが実践で自分たちの作った武器を使う事でデータ収集と共に武器の宣伝にも一役かっている。

 ちなみにビルダーズギルドのリーダーであるガクは龍牙や大我の高校時代の先輩に当たる川澄岳でその繋がりもあってタイガ団の傘下に入った経緯がある。

 

「おーい! こっちだ!」

 

 ガンプラ市をうろついていると龍牙が声をかけて来る。

 その後ろには一人のダイバーがいた。

 

「こんなところまで悪いな」

「構わないわ。どの道、見て回るつもりでもいたから」

 

 ビルダーズギルド主催のガンプラ市は売り出されている装備の質が高く、千鶴も毎回顔を出しては気に入った火器をポイントに糸目をつけずに買いあさるビルダーズギルドの上客でもある。

 龍牙に呼ばれずとも千鶴は来る気でいた。

 

「それでコイツはライト。グレイズアーミィ所属のダイバーなんだが、しばらくクレインのところで面倒を見て欲しいんだよ」

「初めまして。ライトです」

 

 ライトと紹介されたダイバーは少しオドオドしている。

 

「フォース、トライダイバーズのリーダーのユート。こっちがヤガミとクレイン。よろしくな」

「はい……よろしくお願いします」

 

 ライトはどこか浮かない表情をして答える。

 

(この感じだと彼は恐らく……)

 

 千鶴は口にこそ出さないがある程度の事情を察する。

 ダイバーがフォースを移籍することは珍しくはない。

 だが、移籍する際にはいろいろな事情がある。

 ライトの様子から移籍はあまり望んではいないことのようにも感じられた。

 本人が望まない移籍の理由としては大きく分けて2つある。

 1つ目はフォース内でのトラブルだ。

 ダイバー同士が人間である以上は合う合わないは当然あり、ちょっとした事で喧嘩となりフォースが瓦解することも多い。

 だからトラブルの原因をフォースから追放することで瓦解を最小限に抑えるためだ。

 しかし、見る限りではライトは問題を起こすようなタイプには見えず、そもそもタイガ団のリーダーである大我がフォース内でのトラブルメーカーという事もあり、常にどこかのフォースとは揉め事を起こしている。

 そんなタイガ団の傘下にいて追放されるほどのトラブルを起こすダイバーはいないだろう。

 何よりそれほどのダイバーを知り合いのフォースに面倒を見て欲しいとは言ってはこない。

 そうなるともう一つの可能性は戦力外通告によるものだ。

 フォースの中でもタイガ団は超武闘派のフォース。

 その傘下にもビルダーズギルドのようなビルダー系のフォースでなければ、戦闘能力は必須能力とされている。

 その中で戦力として数える事が出来ないからフォースから除名されるという事は上位を目指すフォースでは少なくはない。

 大我ならともかく、諒真や龍牙なら戦力にはならないからと言って一方的に除名にはしないで、別のフォースに移籍させるというのは考えられることだ。

 トライダイバーズなら新しいフォースで全体的な能力としても高くはなく、グレイズアーミィでは実力不足でも足手まといになることは少なく、自分たちと少なからず繋がりを持つダイバーがいるため、フォローもし易いと考えて龍牙が面倒を見て欲しいというのは十分に考えられる。

 

「そんじゃ俺は警備に戻るから後はよろしくな」

 

 龍牙はそう言って離れていく。

 龍牙もいなくなり4人でガンプラ市を回る事になった。

 道中、優人やソラがライトに話題を振るもライトは一言二言返すだけで会話が続かない。

 

「……済みません。僕なんかを押し付けられて」

 

 ふとライトが立ち止まりそう零す。

 

「押し付けるって……」

「僕も分かってるんです。僕なんかが団長たちと一緒に戦える訳はないんです」

 

 ライトも自分の実力は良く知っている。

 龍牙はしばらく面倒を見て欲しいと言っていたが、実質的にはグレイズアーミィを追い出されてたのだと。

 

「グレイズアーミィに入れたのだって運が良かっただけでみんなの足を引っ張ってばかりで……だから団長にも言われたんです。お前は向いてないって」

 

 ライトは少しづつ話し出す。

 ライトは3年前のジュニアクラスの世界大会決勝戦のアメリカVSギリシャ戦の互いのエース同士の一騎打ちを制した大我に憧れてGBNを始めた。

 それからグレイズアーミィに拾われて晴れてタイガ団の傘下フォースの一員となった。

 大我に関する評価としては両極端で、普段の誰に対しても喧嘩腰で、誰彼構わずに喧嘩を売っているスタイルに敵意を持つか、その圧倒的な実力に心酔するかだ。

 グレイズアーミィは後者でライトはその中でも群を抜いていた。

 そんなこともあり、ライトは大我から良くパシられていた。

 本人としては大我に使われる事に不満はなく、タイガ団でもライトは大我の弟分として見られていた。

 しかし、ある日突然大我はライトに対して『お前は向いていない』と言い、それから大我にパシられることもなくなり、今回の移籍と来ている。

 明確な移籍期間も決められていないため、ライトも自分が追放されたのではないかと確信している。

 

「そっか……ライトはそれでいいのか?」

「……言い訳ないですよ。団長は僕の憧れで目標だったんです。でも僕は団長やジンさんのようには戦えないし、みんなの足を引っぱるばかりで……」

「なら……強くなって見返してやろう」

 

 言葉の端々に諦めの見えるライトに優人はそういう。

 ライトの気持ちを全て理解できる訳ではないが、ライトの取れる行動としては諦めるか強くなるしかない。

 

「トライダイバーズは挑戦するダイバー達って意味なんだ。だからライトも俺たちの仲間になった以上は何かに挑戦して欲しい」

「……挑戦」

「ああ。ライトの場合は強くなって向こうの方から戻ってきて欲しいって頼まれるようになることかな」

 

 優人は冗談を交えてそういう。

 それはライトには思いもつかない事でもあった。

 誰よりも憧れ尊敬してきた大我から向いていないと言われた事で、絶望し強くなって見返すなんて事は思いもしなかった。

 

「でも……出来るんでしょうか? 僕なんかに」

「それは俺にも分からないけどさ。挑戦しなかったら出来ないって事は確かだよ」

 

 優人にも挑戦すれば必ず報われるかどうかなんてわかりはしない。

 それでも挑まなければ報われる事もないという事だけは言える。

 

「だからさ……俺たちと一緒に挑戦してみないか?」

 

 優人はそう言って手を差し出す。

 ライトは少し迷いながらもその手を掴む。

 

「……こんな僕でも良いなら」

「俺だってこの前始めたばかりなんだ。人の実力にあれこれ言えないよ。だからこれからよろしくな」

 

 しっかりと握手を交わし、ライトは正式にトライダイバーズの仲間となる。

 話しはまとまったと思った矢先、近くで爆発が起こる。

 

「何だ?」

「どうやら空気を読めない客のようね」

 

 ガンプラ市が行われているのはディメンジョンのフリーエリアの一画だ。

 商業エリアでの戦闘行為は禁止されているが、ガンプラ市はダイバーの有志による物で戦闘行為の禁止は暗黙の了解であり、運営から禁止されている行為ではない。

 そのため、ガンプラ市で売られているパーツデータを狙って襲撃してくるダイバーも存在する。

 

「マジかよ。タイガ団傘下のビルダーズギルドの武器を狙うとか正気かよ」

「まともなダイバーならガンプラ市を襲撃するなんてことはしないわ」

 

 普通ならタイガ団の傘下であるビルダーズギルドを相手に暴挙に出ればタイガ団と事を構えるため、そんな無謀な事はしないが、ガンプラ市を襲撃して商品を奪おうと考えるようなダイバーがまともな考えを持つ訳もない。

 

「とにかく避難しましょう」

「良いのか?」

「そういう時のために彼がいるのよ」

 

 千鶴がそういうとマシンガンを構えていたジンが吹き飛ばされる。

 そして、炎を纏う深紅のガンプラが姿を現す。

 

「たく……ずいぶんと俺らの看板も舐められたものだ」

 

 それは龍牙が新たなに制作したブレイジングデスティニーガンダムだった。

 これまでのバーニングドラゴンデスティニーを発展させるために新しく制作したデスティニーの改造機だ。

 腕部は以前と同じようにビームナックルとして使えるように改造し、バックパックの翼や武器を取り払い、運動性能を重視したシンプルな機体となっている。

 だが、右腕にはビルダーズギルドブランドを示すBGのロゴが入った大型のガントレットユニットであるブレジングナックルが装備されている。

 

「来いよ。タイガ団殴り込み隊長の実力を見せてやるよ」

「相手は1機だ! 構う事はねぇ!」

 

 先頭のシグーがマシンガンを構えるが、接近してきたブレイジングデスティニーのブレイジングナックルで粉砕される。

 

「次!」

 

 ビームシールドを張りながらジンアサルトを殴り飛ばす。

 

「火器もないのに凄い」

 

 頭部のバルカン以外の一切の火器を持たずに敵を薙ぎ払っていく様子を優人はただ驚くばかりだ。

 

「でも向こうもそこまで馬鹿じゃないようね」

 

 龍牙が戦っているところとは別の場所からも襲撃を受けているようだ。

 

「やっぱ放ってはおけない。俺たちも戦おう」

「だな。せっかく新しいメンバーも加わったのに水を差されたんだ。落とし前はつけないとな」

「まぁ少しお灸を据える必要はあるわね」

「……僕もやります」

 

 トライダイバーズは別動隊の方に向かう。

 

「ビルダーズギルドの武器は高く売れるんだ。根こそぎ貰っていくぞ!」

 

 別動隊の先陣を切っていたバクゥがビームによって撃ちぬかれた。

 

「貴方たちにはここにある武器の価値なんて分からないでしょうね」

 

 バクゥをしとめたのは千鶴のメテオイージスだった。

 メテオイージスはロングビームライフルで別のバクゥを撃ちぬく。

 

「くそったれ!」

 

 射程外からの攻撃で浮足たったところにエアブラスターに乗ったビルドナラティブがエクシアアーマーのGNソードでジンオーカーを切り裂く。

 

「アンタ達、いくら何でもこれはやり過ぎだ」

「はっ! どうせ作る事しか能のない雑魚どもなんだ。俺たちが有効利用してやるんだ感謝して欲しいくらいだ」

「……そうかよ」

 

 ビルドナラティブはゲイツをGNソードで切り裂く。

 

「制空権は俺に任せろ」

「分かった。地上の敵は俺がやる」

 

 上空ではエアブラスターがMS形態に変形するとディンの相手をする。

 ディンの攻撃をかわしながらエアブラスターはビームライフルで応戦しているとディンの翼に弾丸が撃ち込まれてバランスを崩したところをビームライフルで撃墜する。

 

「ナイスアシストだ」

「……偶然です」

 

 ディンの体勢を崩したのはライトだった。

 ライトのガンプラはグレイズアステル。

 グレイズ改弐をベースのしたガンプラだ。

 グレイズ改弐こと二代目流星号の特徴的なカラーリングや頭部のノーズアートをなくしてカラーリングは通常のグレイズの物に戻している。

 バックパックはバルバトス・ルプスレクスの物をベースにしてテイルブレイドの他にも左側にはルプス用の大型レールガン、右側にはレンチメイスが装備されている。

 手持ちの火器としてテイワズ系のアサルトライフルに右腕にはルプス用のロケット砲が装備されている。

 脚部は地上用のグレイズと同様に太もものスラスターに足の裏にはホバーユニットが装備されている。

 大型レールガンを構えるグレイズアステルは大型レールガンをバックパックに戻すとアサルトライフルを構える。

 

「……僕にだって」

 

 グレイズアステルはアサルトライフルを撃つが、ジンは機体を左右に振ってかわすと加速して接近する。

 

「この!」

 

 グレイズアステルはレンチメイスを振り下ろすが、ジンは回避して重斬刀を振るう。

 

「うぁぁぁ!」

 

 何とかレンチメイスの柄で受け止めたが、体勢が悪く力が入らない。

 

「ライト!」

 

 ビルドナラティブが援護に向かおうとするが、ミサイルが降り注ぎGNシールドで身を守る。

 

「私がやるわ」

「頼む!」

 

 ビルドナラティブはGNソードでシグーをシールドごと切り捨てる。

 そして、メテオイージスがジンの頭部を狙撃する。

 

「助かりました……」

「良いからしゃがむ」

 

 千鶴の指示通りにグレイズアステルはしゃがむとメテオイージスのビームが頭部を撃ちぬかれてよろけていたジンを撃ちぬく。

 ジンを撃破するとすぐに後方に控えていたザウードを狙撃する。

 

「数はそこまで多くはないようね」

「ああ……コイツで最後か」

 

 GNビームサーベルをバクゥに突き刺して破壊すると別動隊はこれで最後の一機らしい。

 

「いや……まだだ。何か来る!」

 

 ヤガミがそういうとエアブラスターの頭部と右肩をビームが貫く。

 

「ヤガミ!」

「……何とか大丈夫だ」

 

 エアブラスターは被弾箇所を失いながらも地上に降りる。

 

「こんな奴らに全滅かよ。所詮はアイツらも雑魚か」

 

 トライダイバーズの前に降り立ったのは火器運用試験型ゲイツ改。

 見た限りでは大幅な改造はされておらず、左腕にはゲイツ用のシールドが装備されている。

 後方からメテオイージスが狙撃するが、ビームはゲイツ改に当たる前に弾かれた。

 

「ビームが弾かれた?」

「無駄だ。俺のゲイツにそんな軟な攻撃など通用しないんだよ!」

 

 ゲイツ改からは黒いオーラのようなものが放たれている。

 

「……ブレイクデカールか」

「そういう事だ! テメェらもコイツの餌食になりな!」

 

 ゲイツ改はビームライフルを放つ。

 ビルドナラティブはGNソードで切りかかるがシールドで簡単に止められてしまう。

 

「ユートさん!」

 

 グレイズアステルがテイルブレードを射出するが、ゲイツ改に直撃してもダメージは与えられない。

 

「そんな!」

「よえぇ!」

 

 ビルドナラティブを弾き飛ばし、腰のレールガンを撃つが、レールガンの砲弾はメテオイージスが撃つ落とした。

 

「ちっ」

 

 ゲイツ改はシールドからビームクローを展開するとビルドナラティブを追撃する。

 ビルドナラティブはバルカンでけん制するも、ゲイツ改は気にする事なく突っ込んでビームクローを振るう。

 かわしきれないと優人は覚悟するが、メテオイージスの狙撃で攻撃の軌道を反らしてギリギリのところで回避する。

 

「助かったクレイン」

「けど、こうも攻撃が通らないのは厄介ね」

「雑魚の分際で!」

 

 ビルドナラティブはゲイツ改から距離を取る。

 

「テメェら生きて帰れると思うなよ!」

「それはこっちのセリフだ。馬鹿野郎」

 

 横からゾノが吹っ飛んでくる。

 

「ずいぶんと好き勝手に暴れてくれたな」

 

 正面から仕掛けてきた敵を全滅させてきたブレイジングデスティニーがトライダイバーズと合流した。

 

「それとトライダイバーズだったな。助かった。思った以上に数が多かったからな。後は俺に任せろ」

「けど、コイツはブレイクデカールで防御力をかなり強化してます! 俺たちも!」

 

 そういう優人を龍牙が制止させる。

 

「こっちも客にそこまでさせるつもりはないし、防御力を相当強化してんのか、上等だ」

 

 ブレイジングデスティニーは拳を構える。

 そして、一気に距離を詰めるとブレイジングナックルで殴り掛かる。 

 シールドで防ぐが、完全に勢いを殺し切れずにシールドが弾かれて飛んでいく。

 

「ちぃ!」

「どうした? そんなもんんか?」

 

 ゲイツ改は後退しながらシールドを回収する。

 

「防御には自信があるみたいだけどな。アイツはこんなもんじゃねぇぞ!」

 

 ブレイジングデスティニーが炎に包まれる。

 

「ブレイジングシステム……フルパワー!」

 

 背中から巨大な炎の翼が形成される。

 ブレイジングデスティニーは拳を構え、その場で拳を思いきり突き出す。

 右腕のブレイジングナックルに内臓されたスラスターが展開するとブレイジングナックルは一直線にゲイツ改へと飛んでいく。

 ゲイツ改はブレイジングナックルをシールドで受け止めるが、受け止めるので精一杯でまともに動く事は出来ない。

 

「ぶち抜け! 必殺の!」

 

 炎の翼を展開したブレイジングデスティニーは加速するとゲイツ改に突っ込んでいく。

 

「ブレイジング・ドラゴン・ファング!」

 

 龍の形を取る炎と共にブレイジングデスティニーはブレイジングナックルに拳を突っ込み一気に撃ちぬく。

 ゲイツ改のシールドは粉々に砕け散りブレイジングナックルがゲイツ改をも粉砕する。

 

「ふぅ」

 

 ブレイジングデスティニーはブレイジングナックルを振るい炎を払う。

 

「一撃で……」

 

 ブレイクデカールで防御力を強化したゲイツ改を一撃で撃破した事を千鶴以外は驚いて声も出ない。

 

「ライト。これからいろいろと大変かも知れないが、がんばれよ」

「……分かりました。今までありがとうございました」

 

 ライトはコックピットの中で頭を下げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トライダイバーズと龍牙が戦っている地帯から離れた場所にあるとあるフォースのフォースネストの至るところで爆発が起きていた。

 フォースネストには必要最低限の人員しか残されていなかったが、1機のガンプラに壊滅状態に追い込まれていた。

 

「何だってこんな時に!」

 

 このフォースの主力はビルダーズギルド主催のガンプラ市の襲撃に出払っていた。

 そんな手薄の時を狙われたのだ。

 

「何としても持ちこたえるんだ! そうすれば……うぁぁぁ!」

 

 ザウードが巨大な鉄の塊に潰された。

 

「……この程度しか反撃がないのかよ」

「そういうなよ。こっちも相手の留守を狙ってんだ」

 

 襲撃したのは大我のオメガバルバトス・アステール。

 それにお供する形で諒真のガンダムクロノスXXと愛衣のズゴックEXもいるが、戦闘は大我一人で終わらせた。

 

「アイちゃん。どっかにこいつ等が貯めこんだ武器があるから探して来て」

「もう発見済みです」

「流石仕事が早い」

 

 このフォースが今度のガンプラ市を襲撃するという計画を事前に察知していたタイガ団は襲撃のために出払って防衛が手薄になったところを逆にフォースネストを襲撃したのだった。

 このフォースネストには同様に他のビルダー系フォースから奪った武器はどこかに隠してあったが、襲撃を受けてすぐに持ち出そうとしたところを愛衣が押さえていた。

 

「さて……結構ため込んでるみたいだけどどうするかな……グレイズアーミィにでも安く売るかな?」

「あまり推奨は出来ませんね。ここにある武器を使わせるくらいならビルダーズギルドに作らせた方がマシです」

「だよな。まぁ適当なところにでも売りさばくか」

 

 ため込んだ武器は元々はどこかのフォースから奪った物だが、タイガ団は別に被害にあったフォースのために動いている訳ではないため、回収した武器を元の持ち主に返す義理はない。

 

「ねぇ諒ちゃん。目的の武器が見つかったならコイツを生かしていく理由はないよね」

 

 オメガバルバトス・アステールの足元にはボロボロになったジンハイマニューバが倒れていた。

 始めからこのフォースが奪った武器も潰すついでに回収するつもりで全滅はさせずに1機だけ残して後で武器の保管先を聞き出すつもりだったが、その必要はなくなった。

 

「なぁ! アンタ達、俺と組まないか? それだけの力があればビルダーから武器を奪い放題だ! 俺ならノウハウもある! だから!」

 

 ジンハイマニューバのダイバーは必死に命乞いをする。

 ここでやられたとしても死ぬ訳ではないが、誰しもやられたいわけもない。

 しかし、必死の命乞いのかいもなくバーストメイスカスタムが振り下ろされてジンハイマニューバは跡形もなく粉砕された。

 

「そんじゃここに在る物はネジの1本も残さずに貰っていくとするか」

「後は任せた」

 

 すでに戦える相手がいなくなった事で大我はさっさとどこかに飛び去って行く。

 

「……全く」

「ですが、こうなる事は想定済みなので人手の方は手配済みです」

「……ほんと仕事が早くて助かるよ」

 

 その後、ガンプラ市を襲撃しトライダイバーズと龍牙によって撃退されたダイバー達がコンティニューしてフォースネストに戻るが、その時にはすでにフォースネストにはネジの1本、武器はおろかフォースネストの備品に至るまで何一つも残ってはいなかった。

 

 

 

 



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宇宙海賊クロスボーン・ハウンド

新たにライトが加入した事でトライダイバーズの戦い方の幅は広がった。

 新メンバーが増えた事で、連携の練度を高めるためにフォースネストでは現在受注可能なミッションを皆で探していた。

 ミッションはガンダム作品に関連するものから運営が用意した物、GBNをプレイするダイバーが出した物まで様々だ。

 ミッションごとに内容や報酬、難易度が異なるため、適当に選んで受けるよりも今の自分たちに必要で合う物を選んで受けた方が良いだろう。

 

「これなんてどうかしら?」

 

 千鶴が一つのミッションを提示する。

 

「へぇ護衛ミッションね」

 

 優人達も千鶴が選んだミッションの内容を確認する。

 ミッションはアナザーワールドでの護衛ミッションで、とあるフォースからの依頼だ。

 

「目的地は火星圏の衛星軌道のステーションまでか」

「これには複数のフォースが参加するから他のフォースとの繋がりを作ったり、名を売る事も出来るわ」

 

 ミッションによってはフォース単独で行う物以外にも複数のフォースが参加する場合もある。

 その場合、複数のフォースでミッションのクリアを競う場合と協力する場合に分けられる。

 今回は後者の共闘タイプであり、設立したばかりで他のフォースとの繋がりのほとんどないトライダイバーズにとっては他のフォースと関わり合いを持つ事も出来る。

 また、現在のトライダイバーズは千鶴以外はほぼ無名であり、ミッションで活躍すればトライダイバーズの名前を売る事も出来る。

 そうなればメンバー集めも少しは楽になる。

 

「バトル以外にもこんなミッションもあるのか……俺は良いと思うけど、ヤガミとライトはどう思う?」

「俺も異論はない」

「僕もです」

 

 優人以外も2人も護衛ミッションを受ける事には異論はなかった。

 フォースとしても意見もまとまった事で千鶴は護衛ミッションにエントリーする。

 ダイバーやフォースからもミッションはエントリーしてすぐに開始するわけではなく、エントリーの締め切りをもって指定された日時に指定された場所に集まる事になる。

 ミッションによってはエントリーから待たされる事も多いが、千鶴は締め切りの近い物を選んでいたらしく開始は数日後だった。

 その日は解散し、ミッションの開始日に再びGBNで落ち合う事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミッション当日、GBNにログインするとアナザーワールドの地球圏の宇宙にあるポータブルエリアでミッションを依頼したフォースの代表者と待ち合わせとなっていた。

 

「あのクレインさんに護衛して頂けるとは心強いです」

「精一杯やらせてもらいます」

 

 軽く自己紹介をするが、向こうは悪気はないのだろうが、千鶴の事をトライダイバーズの中で最も信頼しているようだ。

 

「では、事前に説明したようにトライダイバーズの方は4名なので、他のダイバーと一時的にですが組んでもらいます」

 

 エントリーした時に参加するダイバーの数は事前に申告している。

 その際に他に少数で参加しているダイバーとミッション中にチームを組む可能性があることは聞かされている。

 優人達はポータブルエリアから宇宙港に案内されると数隻の輸送艦が停泊していた。

 

「トライダイバーズの方々は4番艦ですね。ガンプラもそちらに積んで下さい」

 

 アナザーワールドではガンプラの出し入れできる場所は限られてくる。

 ミッション中には輸送艦にガンプラを積んでおかなければいざという時には何もできない。

 

「分かりました」

 

 優人達は指定された輸送艦に自分たちのガンプラで乗り込む。

 格納庫のハンガーにそれぞれガンプラを入れて降りる。

 

「ヤガミ。あのガンプラって」

「ああ。装備は違うけどユウリのストライクだ」

 

 格納庫のハンガーにはすでに2機のガンプラが収納されていた。

 1機は優人達は知らないが、採掘エリアでタイガ団の陽動部隊と交戦したファントムレディのザクファントムソードともう1機は優人が初めてブレイクデカールを使ったガンプラと好戦した時に出会ったユウリのアーマードストライクだった。

 アーマードストライクは以前の深紅のアーマードストライカーではなく今回は黒いアーマードストライカーであるガンナーアーマードストライカーを装備した砲戦仕様になっている。

 ガンナーアーマードストライカーはクロノスをモチーフとしてバックパックには2門のビームキャノン、胸部装甲のビームバスターを高い火器を装備している。

 また、両腕の肘から下も丸々換装され、電磁装甲を再現した装甲に掌にはビームサーベル兼ビームバルカンが内臓したものになっており、手持ちにはビームサーベルも出せる小型のビームガトリングガンが装備されている。

 全身には光波推進システムの内臓した黒い装甲が取り付けられている。

 

「という事はユウリもこのミッションを受けているのか。心強いな」

 

 優人もユウリの実力は良く知っている。

 ブレイクデカールを使ったガンプラを何機も難なく倒していた。

 

「向こうのザクファントムは近接戦闘用ね。ストライクは砲戦用の装備だし、ウチとしてはありがたいわ」

 

 アーマードストライクと並ぶ、ザクファントムソードは今のトライダイバーズにとっては必要な能力が揃えられている。

 護衛を依頼してきたフォースもトライダイバーズと組ませるにあたり、ある程度はガンプラの特性を考えての事だろう。

 ガンプラをハンガーに置くと優人達は輸送艦のブリッジで先に乗り込んでいたユウリやファントムレディと顔合わせをして護衛ミッションが開始される。

 

「何か拍子抜けだよな」

 

 ミッションが開始してから1時間程度が経過した。

 すでに輸送艦は地球圏から出ている。

 その間に一度も戦闘は起きていないため、優人は気が抜けていた。

 ミッション中は基本的に輸送艦内であれば自由に行動ができる。

 始めはブリーフィングルームで待機してユウリやファントムレディと話しをするも1時間も経てば話題もなかなかでない。

 もっともユウリは話す気があまり無いのか、優人が話題を振っても最低限の返答だけで今も周りの事など興味がないかの如く、輸送艦の航路の情報を見ている。

 この輸送艦には護衛のダイバーは6人で千鶴とソラ、ライトの3人と優人とユウリ、ファントムレディの3人で分かれて交代でいつでも出撃できるようにしている。

 

「まぁそういってられるのも今の内だけだと思うわよ」

 

 優人の一人ごとにファントムレディが返す。

 ユウリもチラリを視線をファントムレディの方に向けるが、すぐに戻す。

 

「どういう事?」

「このミッションの報酬は結構良いし、ダイバーの数も相当数雇っているでしょ?」

「……確かにな」

 

 優人もミッションの数をそこまでこなしてはいないが、千鶴やソラ、ライトは今回のミッションの報酬のダイバーポイントはかなり割が良いと言っていた事を思い出す。

 そして、トライダイバーズ以外にも複数のフォースを雇っている。

 

「何か裏でもあるのか?」

 

 ただの輸送ミッションではなく、ミッションを隠れ蓑にした何かがあるのではなないかと優人は勘繰る。

 それを聞いたファントムレディはきょとんとしてユウリは大きなため息をつく。

 

「……バカなの?」

 

 ユウリは心底呆れているようだった。

 

「まぁまぁ。今回の輸送ルートは地球圏ではある程度は安心できるけど、目的地に到着する前に確実に戦闘は起こるわ」

 

 ファントムレディはそう言い切る。

 ミッション自体、戦闘になれば雇われている優人達は防衛のために戦わなければならない。

 だが、何事もなければ輸送艦に乗って目的地まで到着すれば報酬が貰える。

 ファントムレディもユウリも確実に戦闘になるとみているようだ。

 

「根拠は?」

「宇宙海賊クロスボーン・ハウンド。火星圏の宇宙の大半は連中の縄張りなのよね。だからこの輸送艦がどのルートを通っても確実に連中の監視網に引っかかるわ。そうなれば向こうは確実に攻撃を仕掛けて来るわ。この輸送艦が運ぶ先が『王武』となればなおさらね」

 

 宇宙海賊クロスボーン・ハウンド。

 レギオン傘下のフォースの1つでその名の通り海賊プレイを専門に行うフォースだ。

 主に火星圏の宇宙を活動範囲としており、火星圏の海賊プレイを行っているフォースの大半を手中に収める大海賊団でもある。

 火星圏の宇宙ではレギオンの傘下に入っていないフォースは移動の時は彼らと遭遇しないことを祈りながら慎重に動かなければならない。

 そして、今回の移送ミッションの届先はフォース『王武』であることは攻撃が確実にあると予測できる根拠でもある。

 王武は火星に拠点を持つフォースで、勢力としては大きくはないが実力者が多いフォースだ。

 レギオンの勢力が拡大する中でレギオンとは敵対こそしていないが、手を組む事も傘下に入る事もしないで中立を決め込んでいる。

 最近ではその力を取り込みたいレギオンが傘下に入るように交渉しているが、王武は一切の交渉を拒否して勢力の拡大がしたければ勝手にやれと込めこんでいる。

 噂では近々レギオンも武力行使を行うのではないかと言われている。

 今回の移送ミッションで移送しているのは、王武宛ての物資で、王武もレギオンとの戦いに備えているのではないかとユウリもファントムレディも見ている。

 そうなれば、それを阻止するためにレギオンが宇宙海賊クロスボーン・ハウンドを差し向ける可能性はほぼ確実だった。

 

「成程な。となると問題はいつ仕掛けて来るってことか」

「後はクロスボーン・ハウンドと言ってもいろんな部隊がいるからボスのキャプテンネロの本隊が仕掛けてこない事を願うだけね」

 

 クロスボーン・ハウンドは全体で宇宙戦艦を数十隻は保有する大規模なフォースで襲撃もその全てで来る事はない。

 襲撃があることはほぼ確定事項であるなら、後はタイミングを仕掛けて来る相手だろう。

 クロスボーン・ハウンドのリーダーであるキャプテンネロはレギオン四天王の1人とされるだけの実力者だ。

 そんなダイバーを相手に輸送艦を守りながら戦うのは厳しい。

 襲撃してくる部隊が選べない以上は、キャプテンネロが出てこない事を祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 輸送ミッションが開始され、輸送艦は無事火星圏に入り、後は王武に積み荷を引き話出すだけだ。

 襲撃を警戒したものの、ここまで何事もなく平和な航海だった。

 

「もう少しでミッションクリアだけど襲撃はなかったな」

 

 優人がガンプラのコックピット内でつぶやく。

 当初は確実に襲撃があると予測してきたが、一度も襲撃はなく拍子抜けだ。

 

「まぁ楽にクリアできて良かったんじゃない?」

「それはそうだけど……ファントムレディが確実に襲撃されるとかいうからずっと緊張してたのにさ」

「いやぁ……そうだと思ったんだけどね。でもまぁ、せっかくのミッションなんだから記念に一度くらい襲撃したっていいじゃん。クロスボーン・ハウンドも気が利かないんだから」

 

 後1時間もしないうちにミッションはクリアとなり、優人もファントムレディも完全に気が抜けており、ユウリは一人ため息をつく。

 このまま、ミッションは楽に終わると思われたが、輸送艦内に警報が鳴り響く。

 

「え? 何! 何なのさ?」

「……お待ちかねの襲撃よ」

 

 いち早く状況を把握したユウリが皮肉を込めてそういう。

 ブリッジからの情報によれば所属不明のガンプラが編隊を組んで高速で接近してきているとの事だ。

 相手の所属は分からないが、積み荷を引き渡す王武のダイバーでない事だけは確かだ。

 

「先に出るわよ」

「俺たちも出るぞ」

「げぇ……」

 

 輸送艦の格納庫からすぐさま3人が出撃する。

 

「相手がどこの誰かは分からないんだろ?」

「まぁね」

「この状況で接近してくるなら敵よ」

 

 まだ相手が敵だとは判断できないが、楽観視もできない。

 モニターに接近中のガンプラが表示される。

 

「あのガンプラ……間違いないわ。敵よ」

 

 ユウリが接近するガンプラを確認する。

 全機が同型のガンプラで、クロスボーン・ハウンドで広く使われているローグ・ロディであることは一目で分かった。

 ローグ・ロディはシャルドールローグをベースにしたガンプラだ。

 シャルドールローグの全身にマン・ロディの装甲を取り付ける事で装甲を強化している。

 脚部も通常の物からランドマン・ロディの物に換装し、右腕はドッズガンから通常の腕に替えてサブマシンガンが装備されている。

 左腕にはシャルドール用のシールドが装備され、リアアーマーにはハンマーチョッパーが取り付けられている。

 バックパックはクロスボーンガンダム等と同様にX字のスラスターが増設されている。

 

「先制攻撃を仕掛けるわ」

 

 相手を敵と判断し、アーマードストライクは背部のビームキャノンを撃つ。

 ローグ・ロディは散開し、戦闘が開始される。

 

「早い!」

 

 ストライクアーマーを装備したビルドナラティブがビームライフルを撃つ。

 だが、ローグ・ロディは回避しながらサブマシンガンで反撃してくる。

 

「この動き……手練れの多い部隊と当たったようね」

 

 アーマードストライクはビームキャノンでローグ・ロディを撃墜する。

 ローグ・ロディの動きは並のダイバーよりも高く、クロスボーン・ハウンドの中でも手練れの多い部隊が仕掛けてきていると推測できる。

 

「こりゃ下手をすると……」

 

 ザクファントムソードがバスターソードでローグ・ロディをシールドごと切り裂き、腕部のビーム突撃銃でけん制射撃を行う。

 戦闘が始まった事で他の輸送艦からも雇われたダイバー達が出撃している。

 ビルドナラティブはシールドで身を守りながらビームライフルで応戦する。

 

「思った以上に対応が早いな」

「向こうもそれなりのダイバーを雇っているみたい」

 

 戦闘宙域から離れた場所に黒いメガファウナを中心に数隻のバロノークがガンプラを出撃させていた。

 黒いメガファウナは宇宙海賊クロスボーン・ハウンドの旗艦だった。

 そのブリッジで眼帯に海賊ルックのダイバーが戦況の報告を受けていた。

 彼こそが宇宙海賊クロスボーン・ハウンドを率いるキャプテンネロだ。

 キャプテンネロに状況をまとめて報告している女性ダイバーは副官のノワール。

 

「中にはこの間グレイズアーミィとやり合ったナラティブもいるみたいね」

「ああ。ザジと互角にやり合ってリョウマの奴も使ったってダイバーか」

 

 キャプテンネロの耳にも先日、グレイズアーミィをトライダイバーズ結成前の優人が交戦したという話と、その後の採掘エリアでの戦闘で雇ったという事も入っている。

 

「成程な。だとすればアイツらだけじゃ荷が重いな。おい。ノワール。ちょっとお前が出てってみろ」

「はぁ……了解」

 

 キャプテンネロは新しい玩具を見つけたかのような笑みを見せると、ノワールはため息をつきながらも格納庫に向かう。

 格納庫にはノワールのガンプラ、ローグ・ユーゴーが黒いユーゴーと共に置かれている。

 ローグ・ユーゴーはユーゴーをベースにチームカラーの黒で塗装されている。

 肩の装甲はスラスターが内臓されたものに換装され、背部にはローグ・ロディと同様にX字のスラスターが増設され機動力が強化されている。

 脚部のクローにはマシンガンが内臓され、両手にはカットラス状のヒートソードを持っている。

 

「姉御! 俺たちの出番ですかい?」

「ええ。カシラが許可が出たわ」

「よっしゃ! 暴れて来るぜ!」

 

 待機していたダイバー達が自分のユーゴーに乗り込むとノワールもローグ・ユーゴーに乗り込む。

 

「ノワール。ユーゴー隊。出るわよ」

 

 ローグ・ユーゴーを先頭に黒いユーゴー達は出撃する。

 

 

 

 

 

 襲撃が始まり、輸送艦からも護衛のガンプラが出撃し、応戦を始めるも様々な方向からローグ・ロディが攻撃を仕掛けている。

 メテオイージスのビームがローグ・ロディを貫く。

 

「こうも出鱈目な方向から仕掛けてこられると母艦の位置も特定できない」

 

 ロングビームライフルでローグ・ロディを撃墜しながら千鶴は敵の母艦の位置を探ろうとするが、仕掛ける前に輸送艦隊を包囲するかのように展開しているのか、母艦が複数の方向にいるのかローグ・ロディが来る方向からは母艦は見えない。

 いくら狙撃能力に自信のある千鶴も狙撃対象の位置を全く把握できなくては狙撃もできない。

 

「つーか! ユート達はどこ行ってんだ!」

「どうやら分断されているみたいです」

 

 エアブラスターがビームライフルを連射し、グレイズアステルがアサルトライフルを撃つ。

 待機していた優人達は先に出撃して接近してきたローグ・ロディを迎え撃ったが、向こうは向こうで交戦を初めて輸送艦からはだいぶ離れている。

 

「とにかく耐えるしかないのかよ」

 

 ローグ・ロディのサブマシンガンを回避しながらエアブラスターはビームライフルとビームガンを連射すると、ローグ・ロディのスラスターに直撃して速度が落ちたところにビームを撃ち込んで破壊する。

 

「ハァ!」

 

 グレイズアステルはアサルトライフルをシールドで防いでいたローグ・ロディにレンチメイスで殴りかかるが、ローグ・ロディはかわすとハンマーチョッパーに持ち替えて殴り掛かるが、メテオイージスが頭部を撃ちぬき体勢を崩したところに続けてビームを撃ち込んで破壊する。

 

「前に出すぎよ。無理に前には出ないで」

「はっはい!」

 

 グレイズアステルはレンチメイスを背部に戻すと大型レールガンを展開してローグ・ロディに撃ち込む。

 ローグ・ロディはシールドで受けるが、防ぎきれずに体勢を崩したところをエアブラスターがビームサーベルで止めを刺す。

 ロングビームライフルを構えるメテオイージスの背後からローグ・ロディがビームサーベルで切りかかるも、メテオイージスは振り返りざまに足のビームサーベルでローグ・ロディの腕を切り落とすとサブアームのビームマシンガンでローグ・ロディを蜂の巣にする。

 

「数が多い! 後、どんだけいるんだよ」

「全滅させる必要はないわ。護衛対象が安全圏まで離脱できれば良いのだから」

 

 輸送艦に取りつこうとするローグ・ロディをメテオイージスが撃ちぬく。

 エアブラスターとグレイズアステルも何とか取りつかせないように応戦するのだった。

 

「ようやく慣れてきた」

 

 ビルドナラティブはビームライフルでローグ・ロディの頭部を撃ちぬき、続けざまに胴体を撃ちぬいて撃墜する。

 始めはローグ・ロディの動きに翻弄されていたが、優人も動きに慣れてくれば対応もできる。

 ビルドナラティブはビームサーベルを抜き、ローグ・ロディに切りかかる。

 ローグ・ロディもビームサーベルで迎え撃ち、互いのシールドで受け止める。

 

「この!」

 

 ローグ・ロディを蹴り飛ばすと至近距離から頭部のバルカンを撃ち込む。

 装甲を強化しているため致命傷にはならないが、横からアーマードストライクがビームバスターでローグ・ロディを撃墜する。

 

「ちょいさ!」

 

 ザクファントムソードがバスターソードでローグ・ロディをシールドごと破壊し、腕部のビーム突撃銃でけん制する。

 3機を相手に中々攻めきれなかったローグ・ロディだったが、急に散開する。

 

「何だ? 撤退するのか?」

「そんな訳ないでしょ。新手よ」

「……黒いユーゴーの部隊って最悪じゃん」

 

 ローグ・ロディでは手に負えず、新たなに出撃してきたノワールたちが担当し、ローグ・ロディ達は輸送艦への攻撃に向かったのだ。

 そして、ノワール率いる黒いユーゴーの部隊はキャプテンネロのクロスボーン・ハウンドの本隊だという事になる。

 

「あれね。ストライクとザクは任せるわ。私はナラティブをやるわ」

「了解っす! 姉御!」

 

 ローグ・ユーゴーは加速するとビルドナラティブに向かい、残るユーゴーはアーマードストライクとザクファントムソードに向かっていく。

 ビルドナラティブはビームライフルを連射する。

 

「アイツ! 早い!」

「遅いわ」

 

 ローグ・ユーゴーはビームを回避して距離を詰めると脚部クローでつかみかかる。

 ビルドナラティブはとっさにシールドで身を守り、クローはシールドを掴むと至近距離からマシンガンを撃ち込みシールドを破壊する。

 

「っ!」

 

 すぐにビームライフルを向けるが、すぐに距離を取って回避する。

 

「ストライクでも追いつけない!」

 

 加速して追撃するが追いつく事は出来ない。

 ローグ・ユーゴーは旋回するとヒートソードで切りかかる。

 それに合わせるようにビームサーベルを振るうが、ビームサーベルは回避されてヒートソードの一撃を食らってしまう。

 

「装甲は厚いようね」

「姉御! 援護しますぜ!」

 

 3機のユーゴーがマシンガンを撃ちながら接近してくる。

 ビームライフルを応戦するが、散開し、2機がアンカーを射出してビルドナラティブの両腕を拘束する。

 

「しまった!」

 

 残る1機が脚部クローでビルドナラティブの両肩を掴み動きを封じる。

 

「良くやったわ。そのまま抑えておいて。カシラには悪いけどここまでね」

 

 ローグ・ユーゴーはヒートソードを構えて突っ込んでくる。

 

「やられて溜まるか!」

 

 ビルドナラティブは装甲をパージする。

 それにより3機のユーゴーからの拘束から逃れる事が出来た。

 

「バルバトス!」

 

 ビルドナラティブはローグ・ユーゴーの攻撃を回避すると同時にバルバトスアーマーに換装する。

 

「装備を!」

「この!」

 

 バルバトスアーマーに換装したビルドナラティブはメイスで近くのユーゴーを叩き潰す。

 1機を撃墜し、すぐに別のユーゴーにメイスで殴り掛かるも、ユーゴーは回避される。

 空を切るメイスの勢いにビルドナラティブは体勢を崩し、ユーゴーはその隙を付いてバスターソードを振るうが、メイスを手放して太刀を抜くとバスターソードの軌道を反らして滑空砲の砲身をユーゴーに突きつけると至近距離から打ち込む。

 

「これで2機……」

「思った以上にやるようね。でも、その程度で」

 

 ローグ・ユーゴーと残るユーゴーは距離を保ちながらマシンガンを撃ち込む。

 

「くっ!」

 

 太刀で切りかかるも、距離を取られて接近できない。

 

「何か向こうやばそうだけど?」

「そこまで面倒を見る義理はないわ」

 

 アーマードストライクはビームガトリングガンでユーゴーを撃墜し、ザクファントムソードはバスターソードで円月刀を受け止める。

 優人が劣勢だという事は分かっているが、自分たちも優人の援護に向かうだけの余裕もなければ無理をしてまで助けに行く義理もなかった。

 むしろ、少しでも優人が時間を稼いでいる間に自分たちが相手にしているユーゴーの数を減らしておきたかった。

 

「ちょこまかと……」

 

 接近できないため、バルバトスアーマーからユニコーンアーマーに換装するとビームマグナムを放つ。

 だが、十分な余裕をもって回避されるとマシンガンで装甲を削っていく。

 

「装甲を換装されると削り切れない……厄介ね」

「姉御。どうします?」

「時間をかけすぎる訳にもいかないわね」

 

 時間をかければビルドナラティブをしとめる事は可能かも知れない。

 だが、時間をかけて輸送艦に逃げられては意味がない。

 

「仕方がないわね。先に輸送艦を叩くわよ」

「うす!」

 

 ビルドナラティブを倒すよりも輸送艦を抑える方を優先して輸送艦の方に向かおうとする。

 

「輸送艦には向かわせない!」

 

 ビルドナラティブはビームマグナムで妨害するが、2機のユーゴーは回避する。

 

「このアーマーでも追いつけないか……どうする? 何か新しいアーマーは」

 

 現状の装備では打開策は見つからず、アーマーの一覧を確認しながら打開策を探す。

 

「何だ? 新しいアーマー……いつの間に? ウイング。翼か……これなら行ける!」

 

 戦闘中に解放されたのか新しいアーマーが増えていた。

 優人は迷う事なく新しいアーマーを選択する。

 ユニコーンアーマーがパージされると、前後にランナーが形成されると装甲が装着されていく。

 そして、ウイングガンダムの能力を持つウイングアーマーに換装された。

 

「変形? そうか、コイツはヤガミのガンプラと同じように変形ができるのか」

 

 ウイングアーマーに換装したビルドナラティブはバード形態へと変形する。

 変形が完了するとビルドナラティブは加速してノワールたちを追いかける。

 

「姉御! 何か来ます!」

 

 バード形態のビルドナラティブは2機を追い越すとMS形態に変形するとバスターライフルを向ける。

 

「コイツで!」

 

 ビルドナラティブはバスターライフルを撃つ。

 ローグ・ユーゴーは回避出来たが、もう1機のユーゴーはビームに飲み込まれて消滅した。

 

「凄い威力だ。コイツなら距離があってもいける!」

 

 ローグ・ユーゴーにバスターライフルを撃つが回避される。

 再度撃つためにバスラーライフルを向けるが、撃つ前に警告音と共にバスターライフルの残弾が1発であると表示されている。

 

「残り1発? 3発しか撃てないのか……」

 

 バスターライフルの残弾数が1発しかないため、無駄撃ちは出来そうにない。

 ビルドナラティブはバスターライフルを左手に持たせるとビームサーベルを抜いて接近戦を仕掛ける。

 

「ウイングもどきね。面倒な」

 

 ローグ・ユーゴーは頭部のミサイルを撃つが、バルカンで迎撃されてビームサーベルを振るう。

 

「振り切れないか」

 

 ローグ・ユーゴーのヒートソードとビルドナラティブのビームサーベルで何度も切り合う。

 ウイングアーマーならば簡単には振り切れそうにはない。

 

「行かせない!」

「邪魔を!」

 

 ローグ・ユーゴーがビームサーベルを払い脚部クローで掴みかかろうとするが、後方からのビームがローグ・ユーゴーの足を撃ちぬいた。

 

「何が!」

「クレインか? 今だ!」

 

 体勢を崩したローグ・ユーゴーにバスターライフルを向ける。

 そして、ビルドナラティブはバスターライフルを発射する。

 

「やられて堪るものか!」

 

 ギリギリのところでローグ・ユーゴーは機体を捻り射線から少しでも出ようとする。

 ビームはローグ・ユーゴーの下半身を吹き飛ばし、上半身もビームの余波でボロボロになる。

 ローグ・ユーゴーのコックピットは頭部にあるため、まだ撃墜にはならないが、もはやまともに戦闘は出来そうにはない。

 

「くっ……これほどとは」

「姉御!」

 

 ユウリ達と交戦していたユーゴーの1機が大破したローグ・ユーゴーを回収すると別のユーゴーがロングライフルを撃ちながら後退していく。

 

「……何とかなったのか」

「深追いは無用よ。すぐに戻ってきて」

「ああ……分かった」

 

 ローグ・ユーゴーを退けたことで優人達も輸送艦の方に向かっていく。

 

「ノワールがやられたのか……面白れぇ」

 

 メガファウナのブリッジにはノワールのローグ・ユーゴーが大破して後退したとの報告が入っていた。

 小手調べでノワールを差し向けてみたもののキャプテンネロもまさかやられるとはまでは思ってもいなかった。

 ノワールを撃退したという事はキャプテンネロも退屈な戦いにはならない。

 

「リトルタイガーとやり合ってから雑魚ばかりでつまねぇと思ってたんだ。久しぶりに暴れさせて貰うぜ!」

 

 キャプテンネロはブリッジを離れて格納庫に向かっていく。

 強敵を退けたトライダイバーズだが、輸送ミッション最大の難関はこれからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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キャプテンネロ

 ノワールを退けて優人は輸送艦まで戻り仲間と合流することが出来た。

 合流しビームサーベルでローグ・ロディを切り裂く。

 

「悪い。前に出すぎた」

「新しいアーマーか?」

「ああ。けど、このライフルは威力は凄いけど3発しか使えないみたいだ」

 

 エアブラスターのビームをかわしたローグ・ロディにビームサーベルを突き刺す。

 優人と共にユウリとファントムレディも戻り防衛に余裕ができた。

 

「各機に通達! 新たな機影が高速で接近してきている! 注意してくれ!」

 

 輸送艦からの通信が入る。

 

「この位置からじゃ狙撃は出来そうにないわ」

「……こいつ等が本隊なら次に出て来るのは……最悪じゃん」

 

 そして、それは現れる。

 宇宙海賊クロスボーン・ハウンドの頭であるキャプテンネロの愛機、クロスボーンガンダムX91。

 ガンダムF91をベースにクロスボーンガンダム、ガンダムAGE-2 ダークハウンド、ガンダムグシオンの要素を取り入れて改造したガンプラだ。

 ローグ・ロディのように全身にガンダムグシオンの装甲を、背部にはクロスボーンガンダムのX字のスラスターを装備し、スラスターは重装甲化に伴う重量の増加を補うために大型化されている。

 両肩にはダークハウンドのバインダーを複数使いマントのようになっている。

 バックパックのヴェスパーは腰に移動し、腹部にはグシオンのバスターアンカーと火力も充実し、頭部はF91の物をダークハウンドのように海賊っぽく改造されている。

 左腕にはダークハウンドのドッズランサーをベースにドッズガンを実弾のマシンガンに変更して腕部の増加装甲と一体化したDSランス、右手にはグシオンハンマーとムラマサブラスターを合体させたムラマサハンマーを持っている。

 

「さぁて……ノワールを倒したんだ。少しは楽しませてくれよなぁ!」

 

 クロスボーンガンダムX91は一気に加速するとビルドナラティブの方に突っ込む。

 ビルドナラティブは回避しながらバルカンで応戦する。

 

「早い!」

「どうした! そんなもんなのか! えぇ!」

 

 クロスボーンガンダムX91は再び突っ込んでくる。

 ムラマサハンマーの一撃をかわして、ビームサーベルを振るうが、肩のバインダーで弾かれてDSランスを突き出す。

 

「くっ!」

 

 ビルドナラティブは少し下がりギリギリのところでDSランスの間合いから外れようとするが、DSランスの先端部が射出された。

 射出された先端部はビルドナラティブの頭部ギリギリを掠めた。

 

「はっ! いい反応してんじゃねぇか! けどな! 脇ががら空きなんだよ!」

 

 不意打ちを回避したものの、クロスボーンガンダムX91のムラマサハンマーの一撃がビルドナラティブに襲い掛かる。

 何度かシールドで身を守る事は出来たが、シールドは左腕ごと粉砕され、ビルドナラティブは弾き飛ばされて輸送艦に叩きつけられた。

 

「なんてパワーなんだ」

「浅かったか。運の良い野郎だ」

 

 クロスボーンガンダムX91は左腕を失っているビルドナラティブに追撃しようとするが、間にビームが割り込む。

 

「ちっ……腕のいいスナイパーがいやがる」

 

 ビームは肩のバインダーで防げるレベルだったが、千鶴の狙撃はあくまでも相手をしとめるためではなく、接近させないための物だ。

 

「ユート!」

 

 すぐにエアブラスターとグレイズアステル、アーマードストライクがクロスボーンガンダムX91に集中砲火を浴びせる。

 

「雑魚はお呼びじゃねぇんだよ!」

 

 クロスボーンガンダムX91は肩のバインダーの先端についているワイヤーアンカーを3機に向けて射出した。

 

「マジかよ」

「そんな!」

 

 エアブラスターとグレイズアステルはかわすのがやっとで、その隙をヴェスパーで狙われ、エアブラスターは右半身が吹き飛ばされ、グレイズアステルも左腕吹き飛ばされた。

 アーマードストライクだけはワイヤーアンカーを上手くさばいてビームキャノンで反撃する。

 

「はっ! 少しはやるようだけど、今日の獲物はお前じゃないんだよ!」

「流石に強い」

 

 ユウリは攻撃しながらも状況を把握しようとする。

 エアブラスターはまだ完全に撃墜されてはいなかったが、まともに戦えそうにもない。

 グレイズアステルもエアブラスターほどではないが、戦力には数えられない。

 ファントムレディのザクファントムソードはいつの間にか離れて輸送艦を守りながらローグ・ロディと交戦している。

 

「俺が前に出る!」

 

 タイタスアーマーに換装したビルドナラティブがクロスボーンガンダムX91に向かっていく。

 アーマードストライクもビームキャノンで援護する。

 

「今度は肉弾戦か! 良いぜ! 相手になってやるよ!」

 

 クロスボーンガンダムX91はムラマサハンマーを振り下ろす。

 ムラマサハンマーとビルドナラティブの拳がぶつかり合う。

 

「軽いんだよ!」

 

 2機のぶつかり合いは簡単に決着がついた。

 ビルドナラティブは弾き飛ばされて、クロスボーンガンダムX91は先端部が射出されたDSランスからビームサーベルを展開して距離を詰めようとする。

 だが、後方からメテオイージスの狙撃で足止めをされる。

 

「ちっ! 本当に厄介な!」

「今だ!」

 

 体勢を整えたビルドナラティブは腕部からビームリングを展開して突っ込む。

 

「コイツで!」

「甘めぇよ!」

 

 ビームラリアットをしようとするが、クロスボーンガンダムX91のマスクが開閉すると強烈な光が放たれた。

 

「うぁ!」

 

 フラッシュアイによる閃光で優人の視界は奪われる。

 同時に腹部のバスターアンカーが至近距離からビルドナラティブに撃ち込まれる。

 

「うぁぁぁ!」

「ユート!」

 

 バスターアンカーの直撃を受けたビルドナラティブだったが、タイタスアーマーの重装甲のお陰で撃墜こそされなかったが、アーマーはボロボロで本体にまでダメージを受けてしまっている。

 

「コイツを至近距離で受けて原型を止めているのは褒めてやるが、ここいらで幕引きだな」

「ここまでなのか……」

 

 クロスボーンガンダムX91がムラマサハンマーを構え止めを刺そうとする。

 圧倒的な実力差を前に優人ももはや成す術もない。

 千鶴の狙撃を強引に突破してきたクロスボーンガンダムX91が迫ってくる。

 優人は敗北を覚悟したが、横からの多数のビームがクロスボーンガンダムX91に直撃する。

 

「……なんだ?」

「増援?」

 

 ビームの直撃を受けてクロスボーンガンダムX91のバインダーは何枚か破壊されるが、本体へのダメージはないようだ。

 

「……コイツは何の真似だ? えぇ? エルダイバーズのウィルよぉ!」

 

 クロスボーンガンダムX91を攻撃した新たなガンプラ(セカンド)インパルスガンダムにキャプテンネロは叫ぶ。

 Ⅱインパルスはレギオン傘下にして四天王の一画とされているフォースエルダイバーズのリーダーであるウィルのガンプラだ。

 インパルスをベースにブラストシルエットをベースにインパルスと同じセカンドシリーズのMSの特徴を組み込んだセカンドシルエットが装備されていることが特徴のガンプラだ。

 セカンドシルエットはブラストシルエットのケルベロスをセイバーのアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲とカオスの機動兵装ポッドを一体化させたものに換装され、レールガンはガイアのビーム突撃銃に替えている。

 ビーム砲の横にはアームでアビスのシールドが取り付けられている。

 本体には大きな改造はないが、手持ちの武器はガイアのビームブレイドを改造して持たせている。

 

「キャプテンネロ。君には悪いがそのガンプラをここでやらせる訳にはいかない」

 

 本来ならばウィルのエルダイバーズとキャプテンネロの宇宙海賊クロスボーン・ハウンドは同じレギオン傘下のフォースとして仲間のはずだ。

 しかし、ウィルはキャプテンネロを攻撃した。

 

「ここは僕の顔に免じて退いてはくれないか?」

「くれないね。テメェが先に攻撃して来たんだ。どんだけぶちのめしても、そいつは正当防衛だよな?」

 

 キャプテンネロはウィルが相手でも低く気はないようだ。

 レギオンの傘下に入っている手前、宇宙海賊クロスボーン・ハウンドは同じレギオン傘下のフォースに対しては海賊行為を行ってこなかったが、向こうから仕掛けてきた場合は話は別だ。

 

「……愚かな選択だと言わざる負えないな」

「何とでもいえ」

 

 キャプテンネロとウィルの間に一発触発の緊張感が流れる。

 

「カシラ」

「あ? なんだノワール。今いいところなんだよ」

 

 メガファウナの帰投したノワールからの通信が入る。

 

「時間切れよ」

「もうそんな時間か?」

 

 キャプテンネロは現在の時間を確認する。

 確かにノワールの言うようにこれ以上戦闘を継続すれば、輸送艦隊の届け先であり王武からのガンプラと合流する事になる。

 それでもキャプテンネロは負ける気はないが、王武のガンプラとも戦闘することになれば輸送艦に搭載されている物資だけでは割に合わない。

 ここで引けば宇宙海賊クロスボーン・ハウンドは被害が出ただけ損をすることになるが、王武と直接戦うのはレギオンからも今は控えるようにも言われている。

 

「ちっ……命拾いしたな。ウィル!」

 

 これ以上の戦闘継続をすることが出来ない以上は撤退するしかできない。

 

「野郎ども! 撤収だ!」

 

 キャプテンネロの撤退命令が出ると交戦中だったローグ・ロディ達はすぐに戦闘を止めると速やかに撤退を始めた。

 ローグ・ロディ達の殿をクロスボーンガンダムX91が務め、宇宙海賊クロスボーン・ハウンドは完全に戦闘宙域から撤退した。

 

「大丈夫かな?」

「はい……助かりました。ありがとうございます」

 

 戦闘が終わり、Ⅱインパルスがビルドナラティブのところまで来る。

 優人は相手の事は分からないが、とりあえず礼をする。

 

「礼には及ばないよ。君の父君にはいろいろと世話になっているからね」

「え? それって」

 

 ウィルの口ぶりでは優人のリアルの素性を知っているかのようだった。

 ダイバーネームは本名をほとんどそのまま使っているものの、GBN内ではリアルが分かるような言動はしていないはずだ。

 だが、ウィルは優人の父親の事も知っているらしく、父親に世話になったからその息子の窮地を助けたという事らしい。

 

「余り話している時間はないから要件だけは伝えておくよ」

 

 ウィルは優人の質問には答える事もなく要件だけを伝えようとしている。

 

「君のガンプラ。ガンダムビルドナラティブはただのガンプラではない。そのガンプラはやがて新世界を創造(ビルド)するガンプラだ。例えデータであっても完全に破壊されてはいけない」

 

 ウィルの言っている意味はほとんど理解できないが、優人のビルドナラティブは普通のガンプラではないらしい。

 

「だから君はもっと強くならなければいけない」

 

 その言葉に優人は無意識のうちに操縦桿を強く握り締めていた。

 ビルドナラティブがどういうガンプラなのかは知らないが、今日のバトルは完全に敗北した。

 GBNの上位ダイバーにはキャプテンネロと互角以上に戦う事の出来るダイバーはごろごろいるのだろう。

 そんなダイバー達と肩を並べて戦いたいという気持ちは優人の中で少なからず生まれている。

 

「強くなりたいのであれば王武に行くと言い。あそこには君が強くなるために必要な物がある」

「……王武」

「では、健闘を祈る」

 

 ウィルはそれだけ言うと優人の返事を待つ事なく飛び去って行く。

 

「ユート! 何だったんだ?」

「いや……俺にも良く分からない」

 

 優人もいろいろと情報が絡まり事態を把握しきれてはいない。

 それでも宇宙海賊クロスボーン・ハウンドを退けた事でトライダイバーズの護衛ミッションはクリアとなった。

 

 

 

 

 



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王武

 宇宙海賊クロスボーン・ハウンドの襲撃を辛くも退けて移送ミッションはクリアとなった。

 移送ミッションに参加したダイバー達は護衛してきた輸送艦である程度は任意の場所までは送り届けてくれる事になっている。

 そのため、輸送艦が運んできた物資を王武のダイバーに引き渡すまでは待機することになった。

 輸送艦からコンテナを王武のNPD用のガンプラNPDアストレイが自分たちのシャトルに積み込んでいる。

 NPDアストレイはM1アストレイをベースに王武でカスタムされたガンプラだ。

 M1アストレイの装甲を強化し、バックパックをエールストライカーに変更されている。

 腰には9.1メートル対艦刀が装備され、ビームライフルも高出力の物に変更されている。

 その様子を眺めつつ優人はキャプテンネロと戦った時の事を皆に話す。

 同じ部屋で待機していたユウリは興味はなさそうだが、耳だけは傾けている。

 

「あのインパルスのダイバーがウィルだったとはな」

「ヤガミ、知ってるのか?」

「いや、俺もあんまり詳しくはないんだけど、キャプテンネロと同じレギオンの四天王の一人ってくらいしか知らないかな。ライトはどうなんだ?」

 

 ソラの知る情報ではその程度だが、タイガ団の傘下であるグレイズアーミィにいたライトなら自分よりも知っているのではないかと振るも、ライトは首を横に振る。

 

「僕も会った事はないから良くは……」

「まぁレギオン四天王と言えば他のメンツが目立ってるからねぇ」

 

 有益な情報を持っていなかったライトをフォローするかのようにファントムレディが答える。

 実際、レギオン四天王と言われても、その中でウィルの存在感は薄い。

 圧倒的な戦闘能力でGBN最強候補の一人で常にどこかと揉めているタイガ団のリーダーであるリトルタイガーこと大我。

 火星圏の宇宙で一大勢力を築いている宇宙海賊クロスボーン・ハウンドの頭であるキャプテンネロ。

 四天王の紅一点で唯一レギオンに所属し、リーダーのリュウオウの信奉者として有名なシンディ。

 そんな中、ウィルは四天王に名を連ねながらも表立って動く事はなく、四天王の一人である以上は実力者なのだろうとは言われているが、実際の実力は未知数だ。

 

「ウィルの事は今はおいておくとしてどうするつもり?」

「王武へ行けって奴か」

 

 現段階ではウィルの真意については情報が少なすぎる。

 ウィルの言うようなビルドナラティブに関する事も今は何も分からないが、強くなるために必要な物が王武にあるとも言っていた。

 

「あそこは他のフォースのダイバーもフォースネストへの出入りを積極的に受け入れて鍛錬をしているから頼めば連れて行ってもらえると思うわよ」

 

 王武はアナザーワールド内での勢力争いには関与することもない珍しいフォースだ。

 フォースネストがあるのは火星だが、フォースネストへの出入りは望めば受け入れている。

 

「俺たちはまだここで戦っていけるほどの実力はない。だから、少しでも強くなるために次は王武に行こうと思うんだが、良いか?」

「俺は別に構わないぞ」

「僕もです」

「私も異論はないわ」

 

 優人の意見にトライダイバーズの皆も快く頷く。

 

「はいはーい! 私も面白そうだから行く! ユウリは?」

「興味ないわ」

 

 ユウリはあっさりとファントムレディの誘いを断る。

 

「分かった。それじゃ頼んでみるか」

 

 優人はフォースを代表して輸送艦の格納庫に向かう。

 格納庫ではNPDアストレイがコンテナを運ぶのを王武のダイバーである金髪でヤンキー風のアバターのレンジが指示を出していた。

 

「すみません!」

「あ? 何だ?」

 

 レンジはやや機嫌が悪そうにするが、優人を邪険にする様子はない。

 

「王武のダイバーの方ですよね」

「ああ。一応はナンバー2って事になってるレンジだ。お前は?」

「トライダイバーズのリーダーを務めているユートと言います」

 

 優人が名乗ると先ほどまでの不機嫌さがなくなる。

 

「お前か! あのキャプテンネロとやり合ったのは!」

 

 どうやら先の戦闘で王武の方にもキャプテンネロが出てきた事は伝わっており、同時に優人が戦い結果として積み荷を奪われる事も無かったという事も伝わっていたようだ。

 

「完敗でしたけどね」

「何ってんだ。積み荷を守り切った時点でお前の勝ちだ」

 

 ウィルが割って入らなければ完全にやられていたが、それでもミッションは積み荷の護衛で積み荷は守り切っている以上はレンジは優人の勝ちだというが、優人としては余り喜べない。

 

「まぁ良いか。それで俺に何のようだ?」

「海賊のフォースとの戦いで俺の力不足を痛感しました。王武では他のフォースを受け入れて鍛錬をしていると聞きました」

「まぁな。なるほど、お前の言いたい事は分かった。良いぜ」

 

 レンジは優人の意図をくみ取りニカリと笑う。

 

「もうすぐ積み込み作業も終わるからお前らのガンプラも積み込むから早いとこ用意しな」

「はい。ありがとうございます!」

 

 優人はレンジに頭を下げると、仲間たちの元に戻りすぐにシャトルに自分たちのガンプラを積み込む。

 シャトルにガンプラを載せるとシャトルは火星へと向かう。

 

「もうすぐ見えて来るぞ。俺たちのフォースネストが」

 

 火星に降下を始めて少しするとシャトルの窓から王武のフォースネストが見えて来る。

 

「噂には聞いてたけど、実物は圧巻だな」

「ああ。凄い」

 

 優人は王武のフォースネストにただ驚くしかなかった。

 王武のフォースネストは火星上のフォースネストでは最大級を誇り周囲十数キロを湖に囲まれた要塞だ。

 要塞そのものも以前に見たタイガ団のフォースネストの100倍以上はある。

 周囲には巨大な城壁で囲まれ中央部に至るまでいくつもの壁で守られている。

 シャトルは要塞内に着陸する。

 

「到着だ。ウチのリーダーにも紹介したいし、ガンプラに……ってまだ動ける状態でもないか」

 

 宇宙海賊クロスボーン・ハウンドとの戦闘で千鶴とファントムレディのガンプラ以外はダメージが大きくシャトルに積み込んで持ってきたものの移動できる状態ではない。

 

「しゃーないか。動ける奴は自分のガンプラを使って動けない奴は俺のガンプラに乗せてやるよ」

 

 優人達がレンジの言葉の意味をすぐ知る事となる。

 要塞はガンプラで移動することを前提に作られており、ダイバーがそのまま徒歩で移動するのは余りにも時間がかかりすぎる。

 これは王武の方針として常にガンプラを動かす事でガンプラの操縦訓練も兼ねているという事だ。

 

「それじゃ乗りな」

 

 レンジは自身のガンプラの手を差し出すと優人達を載せる。

 レンジのガンプラは百錬をベースにしたガンプラ、武錬だ。

 下半身とバックパックを漏洩の物をベースに内臓型のスラスターを増やして瞬発力を強化している。

 両手にはナックルガードが常時装備した状態で、素手での格闘戦を主体に戦う事を想定したガンプラとなっている。

 

「そんじゃ振り落とされるなよ」

 

 レンジを先頭に千鶴とファントムレディもそれに続く。

 要塞内を移動して中枢部に入るとレンジは足を止める。

 

「ここだ。ここからはガンプラから降りてくれ」

 

 そこにはダイバーサイズの扉があり、そこから先はガンプラではなく直接行くのだろう。

 

「おう、レンジ戻ったか」

「うす。ジードさん」

 

 扉の先は要塞の指令室になっていた。

 そこにはライオンの頭部のアバターが待っていた。

 

「うぉ。本物だ」

「凄い人?」

 

 優人はソラに耳打ちする。

 

「凄いも何も現在の個人ランキング5位のジードさんだよ」

「5位……じゃぁあのリトルタイガーよりも?」

「ああ」

 

 優人にとってGBNの最強クラスのダイバーとして真っ先に思い浮かべるのは実際に戦いを見たこともある大我だが、大我の個人ランキングは37564位であり、そこまで高くなかったという事を最近知った。

 千鶴曰く、個人ランキングは効率のいいポイントの稼ぎ方さえ覚えてしまえば1万位を切る事は容易でランキング自体が実力に比例するわけではないとどこか大我を擁護するような事を言っていたが、100以内であればポイントを効率良く稼ぐだけでは到底できない。

 その中で1桁となれば本人の実力はこれまで優人が出会って来たダイバーの中でも最高クラスと言っても過言ではない。

 

「そいつらは?」

「物資を護衛してきたフォースであのキャプテンネロから物資を守ってくれたんすよ」

「ほう」

 

 ジードはそう言いながら優人達を見る。

 実力を見定められているかのように思えて無意識のうちに背筋が伸びる。

 

「……なるほど。また未熟だがなかなか面白そうな奴らじゃねぇか」

「でしょ。しばらくウチで鍛錬をしたいみたいなんですよ」

「構わん。俺たちのフォースは己を高めたいダイバーは歓迎してるからな」

 

 どうやら優人はジードの眼鏡にはかなったようでホッと一息つく。

 

「よろしくお願いします!」

「今日のところはまだガンプラが使えないから内部を軽く案内するから俺について来い」

 

 ジードに挨拶を済ませると再びレンジのガンプラで要塞内の案内となった。

 要塞内にはガンプラの戦闘が行えるだけの空間がいくつも用意されており、ある程度は戦場を作る事も出来るようになっていた。

 その日は案内だけで優人達はログアウトして、本格的な鍛錬は後日となった。

 

 

 

 

 王武に身を寄せてから数日が経った。

 優人達はそれぞれの都合のいい時間に王武で鍛錬に励む。

 鍛錬の内容も様々で他のダイバーと戦う事もあればNPDアストレイと戦う事もある。

 優人の場合は主にレンジを相手に戦う事が多いが、レンジからもいろんなダイバーと戦うようにともいわれている。

 ここには様々な戦闘スタイルのダイバーがいるため、いろんなダイバーと戦う事は優人にとってもいい経験になるからだ。

 要塞には王武のダイバー以外にも他のフォースのダイバーも鍛錬し、ここではフォースに関係なく自らの実力を高め合い熱気に包まれている。

 

「ライトの奴。もう来てたのか」

 

 優人はライトのグレイズアステルが戦闘している様子を眺める。

 ライトの相手はムラサメをベースにしたガンプラのようだ。

 

「ありゃショウゲンの奴だな」

 

 観戦用のベンチに座る優人の横にレンジが座る。

 相手のガンプラのダイバーはジードやレンジに次ぐ王武のナンバー3であるダイバー、ショウゲンの村雨だ。

 ムラサメをベースに変形機構を残しながらもMS形態での格闘戦に主眼を置いた改造がされている。

 グレイズアステルのレンチメイスの攻撃をかわすと腰のビームサーベルを抜く。

 村雨のビームサーベルは通常の物とは違い刀の刃のような形状のビーム刃を形成し、高い切れ味を持つ。

 一気にグレイズアステルの懐に飛び込むと体勢を崩してビームサーベルを突きつける。

 

「凄い」

 

 体勢を崩すところからビームサーベルを突きつけるまでの一連の動作には一切の無駄がなく、それだけの操縦技術を会得するのにどれだけの訓練を積んだのか優人には分からない。

 

「ユートさん!」

 

 戦いが終わり、ライトが優人に気が付いてガンプラから降りて駆け寄ってくる。

 村雨からも侍風のダイバーが降りて来る。

 

「相変わらずキレッキレだな」

「当然だ」

 

 ショウゲンは短く答えるとライトの方を向く。

 

「ライトと言ったな。今の戦いで思った事だが、あのレンチメイスは動きは大振り過ぎるし、扱うにはガンプラのパワーも足りない」

 

 ショウゲンはバトルで思った事をライトに告げる。

 ライトはビクリとする。

 

「格闘戦の武器にメイス系を使う事に拘るなら、ソードメイスかツインメイスを使う事をお勧めする。そっちなら威力は劣る物の軽いから扱い易い」

「だよな。メイス系の武器って威力はあるが、重てぇから扱いにくいんだよな」

 

 ショウゲンの意見にレンジも同調する。

 優人もそれは身をもって体感している。

 ビルドナラティブのバルバトスアーマーのメイスは威力は大きいものの重たいため、上手く使わなければメイスの重量に振り回されてしまう。

 実際、グレイズアステルはレンジメイスを振り回すだけのパワーもなく、良く接近戦を仕掛けようとして返り討ちにあっている。

 メイスを使う事に拘るならソードメイスやツインメイスの方が威力は劣る物の扱いやすいメイスでもあるため、装備を変えるのも一つの手だ。

 

「……でも、それじゃ駄目なんです」

 

 ライトは目を伏せながらもどこか縋るように声を震わせている。

 

「そうか」

「すみません」

「構う事はねぇよ」

 

 あくまでも参考程度の意見であるため、本人にその気がなければ無理強いするつもりもない。

 

「それよりもなんか今日、空気がピリピリしてませんか?」

 

 ショウゲンやレンジの意見を拒否した事でライトも気まずそうになり、優人は話題を変える。

 今日は普段から活気はあるが、どこか空気がピリピリしているのを優人は感じていた。

 それを問われてレンジとショウゲンは目配せをして、レンジは少しバツが悪そうにする。

 

「……あんまり部外者に話すのもアレ何だが、最近ウチがレギオンと揉めてるってのは知ってるだろ?」

「はい。ここで鍛錬をするようになってからも何度も耳にしてます」

 

 元々、優人達が受けたミッションもそれに備えての事だったが、レギオンは王武に対して自分たちの傘下に入るように誘いをかけている。

 

「俺らからすれば他の連中のようにここでの戦争ごっこには興味ねぇんだよ。だが、レギオンの連中は俺らに参加に入れってしつこくてな」

 

 王武はアナザーワールドでの勢力争いには興味はない。

 アナザーワールドにフォースネストを構えているのもここならば要塞内だけでなくいろんなところで戦う相手には困らないからだ。

 王武はリーダーのジードを含め100名以上の大型フォースで、個々の実力も高い。

 レギオンとしては王武の戦力を自軍に取り込みたいのだろう。

 だが、王武としてはレギオンの傘下に入り良いように使われる気はない。

 その事で近々武力衝突があるのではないかというのはGBN内では噂になっている。

 

「まぁ武力行使をするってんなら俺たちは逃げも隠れもしねぇよ。ここにはジードさんや俺たちがいる。レギオンが総力で攻めてきても負ける気はしないからな。安心してお前らは自分の実力を磨けばいいさ」

 

 レンジはそう言い切り、ショウゲンも無言で頷く。

 この数日でレンジや他の王武のダイバーの実力の高さは知っている。

 リーダーのジードの実力は見てはいないが、レンジ達の上に立ち個人ランキング5位の実力者もいる。

 レギオンが大軍で攻めてきたとしても王武の戦力ならばそう易々とは負けはしないだろう。

 それでも優人は一抹の不安をぬぐい切れなかった。

 

 

 

 

 



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武力衝突

 

 

 

 王武での鍛錬を初めて1週間。

 それぞれが都合のいい時間帯に訪れては他のダイバーと戦いその実力を磨く。

 その間に何か面白そうという理由で付いてきたファントムレディが正式のトライダイバーズのメンバーとなった。

 その日は珍しくトライダイバーズ全員が揃った。

 

「この1週間でお前らのバトルを見せて貰った」

 

 要塞内のブリーフィングルームの一つでレンジがそういう。

 レンジは優人の事を気に入って何かと世話を焼いている。

 

「まずヤガミだが、まぁ全体的なレベルアップが必要だな」

 

 1週間で集めたデータを元にレンジはそれぞれの戦闘スタイルの傾向や今後の課題をまとめているようだ。

 ソラは目立って高い能力はないものの、これと言って欠点も無いため、単純に操縦技術の向上が課題だ。

 

「次にライトだが、無駄に前に出過ぎで攻撃を装甲で受けようとし過ぎ、テイルブレイドで死角を突くのは良いが、それに意識を持ってき過ぎだ」

 

 ライトは戦闘時に必要のないところで前に出がちで、それにより返り討ちに合う傾向が強い。

 またその際に攻撃を装甲で受けようとして体勢を崩す事も多々ある。

 そして、テイルブレイドを使い相手の死角から攻撃を狙うも、それに意識を持っていき過ぎて、本体の操作が雑になり、意識しすぎるが故に相手にも死角から狙っていると悟られて死角なら狙う意味もなくなっている。

 

「ユートは、換装アーマーの特性をしっかりと把握して相手に合わせて的確に使い分けろ。当然、各アーマーを完全に使いこなせるようにすること」

 

 ビルドナラティブの最大の武器はアーマーを戦闘時に換装することで機体特性を大きく変える事だ。

 そのアーマーの特性を完全に把握し、相手に合わせて的確に使い分ける事が重要だ。

 

「ファントムレディは実力があるんだが、思いきりが良すぎる。悪い意味でな」

 

 新しくフォースに入ったファントムレディは接近戦を得意として、実力も十分にある。

 だが、王武で何度かあった事だが、劣勢となった時の思いきりが悪い意味で良すぎた。

 バトルにおいて劣勢になり勝ち目が薄いと判断するとファントムレディは迷わず降参した。

 明らかに勝機がないときならともかく、まだ諦めずに足掻けば活路が見えるかも知れない状況ですらファントムレディは早々に降参することは一度や二度ではない。

 

「クレインは……俺らとしてもGBNトップクラスと言われる射撃の腕を見せて欲しいんだが」

 

 千鶴は王武に来てから一度もバトルをしていない。

 王武でのバトルはバトルフィールドがかなり制限されているため、千鶴のような長距離射撃を得意とするダイバーにとっては非常に戦い辛い。

 それを差し引いても千鶴の射撃能力は高く、レンジをはじめとした王武のダイバー達もGBNトップクラスの射撃能力を実際に見れると期待したが、千鶴はここで自分の手の内を見せるつもりはない。

 

「俺からはこんくらいだな。悪いけど今日も相手をしてやれそうにない」

 

 レンジは申し訳なさそうにそういう。

 ここ数日は王武の主要ダイバー達は慌ただしくしている。

 噂だがレギオンが王武に本格的に武力を行使するのではないかと言われている。

 それでもレンジは何かと優人達を気にかけている。

 

「王武もだけどこっちもヤバイ感じになってんな」

 

 レンジが離れるとソラがそう切り出す。

 コンソールにはGBNの公式掲示板が表示されている。

 そこにはダイバー連合への参加要請が表示されている。

 

「ダイバー連合……ここ数日の間に結成された奴ね」

「BD同盟に対抗するためでしたよね」

 

 アナザーワールドで王武とレギオンが衝突する日が近い事の他に大きく話題になっている。

 BD同盟とはブレイクデカールを使うフォースの集まりで、ブレイクデカールを否定し使うダイバーをマスダイバーとしてバトルで排除しようとするダイバー達に対抗しようと結成された。

 そして、それに対抗するためにダイバー連合としてブレイクデカールに対抗しようと動き始めている。

 

「最近じゃブレイクデカールを使う悪質なダイバーが増えて来てるって話だ。噂じゃRってダイバーがブレイクデカールを大々的に売ってるって話だ。ダイバー連合の主張も分からなくはないよ。実際のところ」

 

 最近はアナザーワールドで活動しているため、余りブレイクデカールを使うダイバーと対峙する機会は減っていたが、GBN全体では使用するダイバーが急激に増えている。

 

「ダイバー連合としてはその辺を理由にブレイクデカールの排斥を考えているみたいだけどねぇ」

「ブレイクデカールを使うダイバーが悪質なプレイを行うという事例は多数あるけど、ブレイクデカールを使うダイバーが悪質なプレイをしている訳じゃなくて、悪質なプレイを行うダイバーがブレイクデカールを好むってだけよ」

「だよねぇ。まぁ否定派も肯定派も自分の都合のいい部分を強く主張してるだけだからねぇ。人間は自分が正しいと思い込んでいる内は自分の考えは絶対的に正しくてあらゆる事はそれを証明するように持っていくからね」

 

 ダイバー連合の主張はブレイクデカールを使用するダイバーが悪質なプレイを行うため、それに対抗するためとしている。

 実際、ブレイクデカールを使うダイバーのほとんどは運営がアカウントの停止や注意を行うギリギリのラインでの悪質プレイを行っている。

 だが、悪質なプレイをするダイバーは基本的に地道の活動する事をめんどくさがって楽にポイントや力を得ようと考えている場合が多い。

 だからこそ簡単に力を得られるブレイクデカールを好んで使う。

 

「確かにブレイクデカールを完全に否定は出来ないけど、ブレイクデカールを使って悪質なプレイしているダイバーがいる以上は見過ごせないよな」

 

 ブレイクデカールの是非はともかくとして、ブレイクデカールを使用する悪質なダイバーがいることは事実だ。

 それはGBNをプレイするダイバーの一人としては見逃せない事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 王武のフォースネストある湖から少し離れた岩陰にティターンズカラーのガンダムエピオンの改造機が降り立つ。

 ガンダムヨーシエピオン、元ロシア代表のカティアの新たなガンプラだ。

 カティアの得意とするビームソードの二刀流に特化し、変形機構を廃止し、MS形態による機動力と運動性能を強化している。

 シールドを装備せず、頭部にバルカンの追加とビームソードを2本装備している。

 ヨーシエピオンの降りた場所の近くには龍牙のブレイジングデスティニーや諒真のガンダムクロノスXX、芽衣のズゴックEXがシートに覆われている。

 3年前の世界大会の後、ルークにスカウトされてカティアはタイガ団の切り込み隊長となり、大我の特攻団長と龍牙の殴りこみ隊長ともども名を馳せている。

 

「少し遅れたわ」

 

 カティアはガンプラから降りると簡易的な指令室として使われている指揮車にいた諒真たちと合流する。

 カティアに諒真、龍牙、芽衣にここにはいない大我が現在の大我団のフルメンバーだ。

 

「けどいくら相手があのジードとはいえ、私や龍牙まで投入する必要があるの?」

 

 合流したカティアは今回の事で始めに抱いた疑問を口にする。

 タイガ団は基本的に個人で活動することが多い。

 全体の司令塔である諒真から必要があれば龍牙やカティアに指示が行くが、それ以外は好きに行動している。

 レギオン絡みでの作戦行動の大半は大我を一人突っ込ませるか、グレイズアーミィを使う事が多く、今回のように大我以外に龍牙とカティアの3人を同時に投入することは初めてだ。

 相手が個人ランキング5位であるジードと戦う事を想定しても龍牙とカティアを投入してグレイズアーミィにも可能な限り招集を出しているのは異例の事態だと言える。

 

「まぁな。いつも通り団長一人で勝てる相手だけど、いろいろと立て込んでるから速攻で蹴りをつけたかったんだよ」

「例のダイバー連合とDB同盟の件? リヴィエール達が何か動いているみたいだったけど、それ絡み?」

「そんなとこ」

 

 カティアはリアルでは大我や諒真、芽衣と同じアーウィントイカンパニーに雇われている。

 同僚であるリヴィエールがブレイクデカールの調査で何か動いている事は知っていた。

 カティア自身はブレイクデカールを使ったガンプラとの戦闘データを集めるくらいしか関わってはいないが、それ関連で速いところ蹴りをつけたかったからタイガ団総出で王武と戦うという事だ。

 

「主任。全員揃ったのであれば作戦会議を始めましょう。余り時間の猶予はないですよ」

「全員? まさか団長はもう突っ込ませてるの?」

 

 周囲には大我のガンプラは見当たらない。

 流石にないとは思いつつも大我はすでに王武に攻め込んでいるのかと口にする。

 

「まさか。アイツの役目は好きに突っ込んで敵を倒す事で、どうせこっちの思惑通りには動かないんだし、王武を見張らせてる。向こうから攻撃がない限りはこっちの最後通告の返答時間までは絶対に手を出さないようには何度も言ってるから流石に待ちくたびれて一人で攻め込むって事はないよ」

 

 大我は基本的に好きに戦わせている。

 その方が大我の戦闘能力を最大限に発揮できると諒真が判断したからだ。

 だから今は王武に動きがないか見張らせている。

 大我がこの場にいない理由に納得し、カティアも指揮車の中に入る。

 

「そんじゃ今回の作戦について説明する」

 

 諒真がそういうと指揮車ないのモニターに芽衣がバトルフィールドの情報を表示する。

 そこにグレイズアーミィをはじめとした友軍の配置や大まかな作戦を説明していく。

 

「まぁ大体こんな感じなんだが質問は?」

 

 諒真があらかた説明を終える。

 諒真の問いに対して芽衣が手を挙げる。

 

「王武はその行動理念から現在もフォースネストないには大勢の王武以外のダイバーがいることは予測できます。今回の作戦においてそれらの第3者の扱いはどうします?」

 

 王武には多くのダイバーが実力を磨くために出入りしている。

 攻撃時に抵抗してくるならともかく、全てのダイバーを敵として見るのかでは否かでは手間が変わってくる。

 

「アイちゃん。君は王武のダイバーかそうでないかを見分けが付くのかな?」

 

 諒真は芝居がかった物言いで質問に質問で返す。

 ジードやレンジ、ショウゲンと言った王武でも有名なダイバーはともかく、王武のダイバーの全てを把握することは難しい。

 ならば確実に自分の味方だと分かっているガンプラ以外は全て敵として対応させるという事を遠回しに言っているのだろう。

 

「はい。事前に王武に入っているダイバーのリストは用意してあります。情報自体は数日前の物ですから完璧とはいえませんが9割程度はカバーできるはずです」

 

 そんな諒真の思惑を他所に芽衣は諒真に王武のダイバーのリストを表示させる。

 そのリストがあれば王武以外のダイバーを無駄に攻撃することもない。

 諒真は無言でリストを眺める。

 するとリストを削除すると何事もなかったかのようにする。

 

「アイちゃん。君は王武のダイバーかそうでないかを見分けが付くのかな?」

(なかった事にしたよ)

(なかった事にしたわね)

 

 そのやり取りとみていた龍牙とカティアは同時に同じ事を思う。

 そして、芽衣は軽くため息をつく。

 

「……いえ」

「ならばそういう事だ」

 

 芽衣が空気を読み、諒真はどこか満足そうに答える。

 諒真は始めからあそこにいるダイバー全てを敵とした殲滅戦をするつもりだったのだ。

 

「けど良いんすか? 団長のせいでタイガ団の悪名がまた広がりますよ」

 

 王武以外にも無関係のダイバーまで巻き込んでの殲滅戦を行えば巻き込まれたダイバーからタイガ団の悪評が広まり兼ねない。

 

「今回の戦闘はレギオン参加のフォースとしての作戦行動だから悪評は上がかぶってくれるだろうし、あえて言おう。今更であると!」

 

 諒真の言葉に龍牙は思わず納得してしまう。

 どの道、大我のGBNでの評価はその圧倒的な戦闘能力を評価されるか、運営が動かないレベルでの好き勝手動き喧嘩を売りまくった結果の悪評のどちらかだ。

 ならば今更、無差別に殲滅戦を行ったところで大我の武勇伝に悪評が一つ追加されるだけだ。

 

「元々今回の戦いが上が処理しきれない事態を押し付けられたようなものだし、泥くらいかぶって貰わないとな」

 

 今回の王武との一件はレギオンが王武を戦力として取り込みたいという思惑から始まったものだ。

 始めはいろいろと好条件を提示して勧誘したが、ジードはレギオンの傘下に入る気はなく、やがてレギオンとしては引くに引けなくなった。

 そこから小競り合いが始まり、本格的に武力衝突にまで発展した。

 レギオンの戦力と王武の戦力がぶつかった場合、総合力ではレギオンに分があるが、王武のジードを討ち取るにはレギオンもそれなりの被害を覚悟しなければならない。

 そこでレギオンはタイガ団を先鋒として送り込む事にした。

 以前の採掘エリアの一件での制裁を含んでいる事は諒真も気づいている。

 レギオンの思惑としてはタイガ団に先鋒として挑ませて、王武の戦力に大打撃を与えて、その後に自分たちが攻めて王武を攻め落とし参加に入れる算段なのだろう。

 仮にタイガ団が勝ったとしてもレギオンは無傷で王武を傘下に入れる事が出来て、タイガ団は無傷では済まず、レギオンが支援して借りを作らせる事も出来ると考えている。

 

「こんな事を押し付けられるほど厄介がられている訳ね。主に大我やリトルタイガーとか団長のせいで」

「主任。そろそろ最後通告の回答時間になります」

「さて……どう出るか」

 

 王武にレギオンからの最後通告は数日前に出している。

 今日がその回答日だ。

 王武の回答次第では戦闘になる。

 

「まぁここまで来て怖気付くって事もないでしょ」

「まぁな。あんな最後通告で白旗を上げるような連中じゃないだろうな」

 

 レギオンからの最後通告は諒真が作って送っている。

 その最後通告は無条件での全面降伏を命令し、それを受け入れない場合は武力をもって殲滅すると書かれている。

 ここまで頑なに傘下に入る事を拒否してきた王武がそんな内容の最後通告を受けて素直に降伏することなどありえない。

 刻一刻と時間が迫り、やがて最後通告の回答が来る時間となった。

 その瞬間、遠くから衝突音が轟く。

 

「何?」

「向こうから攻めて来たのか?」

「……いえ。違うようです」

 

 突然の事態にも動揺することなく芽衣が情報を集めてモニターに出す。

 王武のフォースネストである要塞の外壁から煙が上がっている。

 

「何があった?」

「諒ちゃん。時間になったから出るよ」

 

 監視していた大我からの通信が入り、諒真も何が起きたか理解した。

 回答の時間が来た瞬間に大我はバーストメイスカスタムを要塞目掛けて投擲したのだ。

 要塞の外壁の煙が落ち着くとそこにはバーストメイスカスタムが貫通した穴が出来ていた。

 始めから降伏することはないとは諒真も思っていたが、大我も同意見だったようで、諒真の言いつけ通り回答時間までは手を出さなかったが、回答時間になった瞬間に手を出した。

 

「ああもう! いきなり台無しだよ! 俺にもたまには黒幕ちっくな事をさせろよな! ネコを撫でて無かったのか悪かったのか!」

 

 諒真は文句を言いながらもすぐに落ち着く。

 

「……こうなった以上はこっちも動く、龍牙とカティアはすぐに出撃、アイちゃんはザジたちに連絡を入れてくれ」

「了解っす」

「分かったわ」

 

 龍牙とカティアは指揮車を出ると自分のガンプラに乗り込む。

 芽衣も待機させていたグレイズアーミィに出撃の指示を出す。

 そうして王武とタイガ団の間での武力衝突が始まったのだった。

 



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王武攻防戦

 

 

 

 レギオンの王武に対する参加に入るか否かの最後通告が行われ、その解答時間と同時に戦端が開かれる事となった。

 

「レギオンの奴ら! もう話し合う気もないって事か」

 

 王武側の回答を待たずの攻撃にレンジは憤りの声を上げ、周囲のダイバー達も動揺を隠せない。

 

「狼狽えるな。こんな通告をして来るんだ。俺たちが降る気がない事は向こうも分かってる」

 

 ジードの言葉で周囲も落ち着きを取り戻す。

 最後通告の内容は明らかに王武に断らせて攻撃の口実を作らせる事を目的にされている。

 ならば、王武側の回答を待たずとも攻撃してきてもおかしくはない。

 

「ジードさん!」

「どうした?」

 

 再び城壁に何ががぶつかる音と振動と共に指令室のモニターが切り替わる。

 

「あのガンプラは……」

 

 モニターには最初の攻撃で開けられた穴を更に大きく広げガンダム・オメガバルバトスアステールが要塞内に突っ込んでくる様子が映されている。

 

「……向こうも本気という事か。各員は速やかに戦闘体勢に入り迎撃を始めろ。同時に他のフォースのダイバー達をフォースネストの外に退避させろ」

「よろしいので?」

「ああ。これは俺たちの行動で起きた戦いだ。無関係のダイバーを巻き込む事は出来ん」

 

 ショウゲンは要塞内のダイバー達に協力要請を出せば大半は手を貸してくれるが、それでも逃がしても構わないのかと聞くが、ジードは他のフォースのダイバーの手を借りるつもりはない。

 元々、レギオンの勧誘を断り続けてきたことで起きた戦いだから、無関係のダイバーの力を借りる訳にはいかない。

 

「承知」

「ジードさん。俺らも出ます」

「ああ。任せる」

 

 レンジとショウゲンをはじめとしたダイバーの何人かは敵を迎え撃つために指令室を出ていく。

 

 

 

 

 

 大我が攻撃を始め、それに続き龍牙とカティアもそれぞれ要塞に向かった。

 芽衣も必要な指示を出すとズゴックEXに乗り込むと湖に入る。

 

「さて……ガク。準備は良いな?」

「もちろん。この日の為にウチのビルダーたちにも何日も徹夜させてますからね」

「ご苦労さん。んじゃ初めてくれ」

 

 諒真はガンダムクロノスXXに乗り込むと通信で離れたところで待機していたビルダーズギルドのギルドマスターである岳に指示を出す。

 すると湖の周囲を囲うように砲台やミサイルポッドが現れる。

 戦闘になることを前提にすでに湖を囲うように配置し、シートで遠目では見つからないようにしていた。

 その中には数基のバリスタのような物が配置されている。

 王武のフォースネストへの進行はかなり限られてくる。

 周囲を湖と城壁に囲まれているため、基本的には上空から攻める事になるが、向こうも対空防御はきっちりと固めている事は容易に考えられる。

 城壁は大我が正面からぶち抜いて内部に入ったが、本来は並の攻撃では突破は難しい。

 そこで諒真は城壁を突破し、要塞内部への侵攻ルートを確保するためにビルダーズギルドに用意させたのがダインスレイヴを撃ち込むバリスタだ。

 ビルダーズギルドに所属するダイバーの高い制作技術で作られたバリスタは要塞の城壁をぶち破るのには十分な威力を持つ。

 もっとも、バリスタは単発で数も10基にも満たないが、今回はそれで充分だ。

 

「ダインスレイヴ……撃て!」

 

 要塞の周囲から一斉にダインスレイヴが放たれた。

 同時に要塞の遥か上空の宇宙にもダインスレイヴを装備したグレイズアーミィのグレイズが待機しており、宇宙からも数発のダインスレイヴが撃ち込まれた。

 宇宙で待機していたグレイズのダインスレイヴの威力はそこまで高くはなく、要塞に大打撃を与えるほどではなかったが、城壁を破壊するために撃ち込まれるダインスレイヴをより確実に打ち込めるように宇宙からも撃たせたに過ぎない。

 バリスタから撃たれたダインスレイヴは城壁に直撃すると貫通し、大きな穴をあける。

 

「良し……グレイズアーミィは全機出撃。ビルダーズギルドも援護を頼む」

 

 続いてグレイズアーミィのグレイズも身を隠していたシートを振り払うと事前に用意していたボードに乗ると湖の上を疾走する。

 これもビルダーズギルドが用意したもので、水上の方が空中から進むよりも迎撃が弱いと判断し、グレイズ自体に追加装備として追加するよりも戦闘能力を落とさずに機動力を上げる事が出来た。

 

「ダインスレイヴが撃たれたか……俺たちも遅れてられないな」

「そうね。このままじゃアイツ一人に好きにさせることになるわ」

 

 上空から接近していた龍牙とカティアもダインスレイヴによる攻撃が行われた事で加速して要塞に向かう。

 対空攻撃が始まったが大我の襲撃とダインスレイヴの攻撃で向こうも浮足立っているのか事前情報ほどの抵抗はない。

 要塞の周囲からグレイズが水上を進み、同時にこの日の為に数を揃えていたNPDのプルーマも大量に水上を進んでいる。

 その後方からはビルダーズギルド所属のダイバーが用意してきたミサイルポッドや砲台から要塞目掛けて攻撃を始めてた。

 

「ここから先は競争だな」

「ええ。どちらが先に大将を討ち取れるかね」

 

 龍牙とカティアは二手に分かれた。

 対空攻撃を掻い潜りカティアのヨーシエピオンは要塞内に入り込むと迎撃のNPDアストレイをビームソードで切り裂く。

 1機目を撃墜すると、シールドを掲げてビームサーベルで接近してきたNPDアストレイをシールドごと切断する。

 

「まずは内部に入るルートを確保しないと……」

 

 味方の砲撃に当たらないように注意しながら周囲を確認すると宇宙からのダインスレイヴで運よく要塞の外壁に穴が開きそこから内部に侵入する。

 

「手当たり次第に破壊するのは気が引けるが……」

 

 城壁の中に入り込んだブレイジングデスティニーはビームライフルを向けてきたガンキャノンに接近する。

 ビームをかわし、ブレイジングナックルでガンキャノンを破壊した。

 

「攻撃してくるってなら、気も咎めないな」

 

 背後からビームナギナタを振り下ろすディジェの一撃をかわし、蹴り飛ばすと頭部のバルカンを撃ち込み、ブレイジングナックルを射出してしとめる。

 

「近くに入れそうなところはないけど、探してたら大我の奴に先を越されそうだしな」

 

 ブレイジングナックルを回収するとブレイジングデスティニーは要塞の壁を殴る。

 その一撃で中に入るのには十分な穴を開けて中に入る。

 

 

 

 

 

 戦闘が始まり、海上を疾走するグレイズアーミィもダインスレイヴにより破壊された城壁を超えて城壁内に次々と入り込む。

 

「各機、敵を見つけ次第に排除。一人残らずだ」

「了解」

 

 ザジのグレイズラグナを先頭に多数のプルーマを引き連れたグレイズが要塞内部を目指す。

 

「これ以上進ませるか!」

 

 王武所属のダイバーも迎撃を始める。

 ガンダムキュリオスがGNサブマシンガンを連射してプルーマの進行を防ぐが、2機のグレイズが左右から飛び掛かり、バトルアックスとバトルブレードで撃破される。

 

「こいつ等!」

「雑魚をいくら集めても!」

 

 グフカスタムとヘビーアームズがガトリングでプルーマを一掃するが、グレイズラグナが懐に飛び込みべロウズアックスでヘビーアームズを仕留め、ガトリングシールドの砲身をパージし、ヒートソードを抜こうとしたグフカスタムに別のグレイズがライフルを撃ち込む。

 

「この辺りは無効化したか……これより要塞内部に侵入する。迎撃システムを破壊しながら、敵を殲滅する」

 

 ザジは要塞内部に侵入する。

 内部ではすでに迎撃システムが起動し、隔壁が下ろされて侵攻を防ぎ、バリケードや機銃で侵入者を迎え撃つ構えが取られていた。

 

「迎撃システムは想定の範囲内か」

 

 侵入したザジ達を上から機銃を狙うが、大型シールドをはじめとしたシールド持ちのグレイズが身を守りながら囮となり機銃の注意を引き付けて、火器を装備したグレイズが機銃を潰していく。

 

「お前たち! 俺たちのフォースネストに土足で踏み込んだんだ。タダで帰れると思うなよ!」

 

 陸戦型ガンダムがマシンガンを撃ちながらザジ達を迎え撃つ。

 その横からピクシーがビームダガーを持ち突撃してくる。

 ピクシーのビームダガーを大型シールドを装備したグレイズが受け止めると、横に飛び退き後ろに控えていたグレイズがマイニングハンマーを装備したグレイズがピクシーを叩き潰す。

 

「ここを通させるな!」

「押し通る」

 

 グレイズラグナが銃撃をかわしながらシールドランスで陸戦型ガンダムを取ら抜き破壊する。

 残るガンプラもグレイズの連携に対応しきれずに破壊されていく。

 迎撃のガンプラと機銃を一通り破壊し、グレイズが隔壁に集中砲火を浴びせる。

 やがて隔壁は耐え切れずに破壊された。

 侵攻ルートを確保し、ザジ達は先を目指す。

 

 

 

 攻撃を受けている王武のフォースネストからの脱出ルートとしては輸送機による空輸があげられる。

 だが、周囲を敵に囲まれフォースネストの遥か上空の宇宙にも敵が配置されているこの状況で空輸は敵に狙ってくれと言っているようなものだ。

 もう一つの脱出ルートとしては潜水艇による水中ルートだ。

 フォースネストの周囲は湖に囲まれているため、いざという時は水中からも脱出ルートが確保されている。

 王武から退避するために潜水艇にダイバー達は自分のガンプラと共に脱出の準備が進められていた。

 1つ目の潜水艇の定員が一杯となり、潜水艇は潜航を始める。

 脱出するダイバー達はようやく脱出できると安堵するが、次の瞬間水中から爆発音と共に水柱が上がる。

 

「何だ!」

「まさか!」

 

 突然の事態にダイバー達は驚き立ちすくむ。

 そして、水中から芽衣のズゴックEXが飛び出すと、レールガンで潜水艇を破壊する。

 

「悪いけど誰も逃がすなという言われているの」

 

 ズゴックEXの後からプルーマが水中から出てきて脱出しようとしていたダイバー達を襲う。

 そのほとんどがここから逃げるつもりで戦う意思はなかったが、そんなことはお構いなしにプルーマは敵を蹂躙していく。

 ズゴックEXも全火器を使い敵を殲滅していく。

 

 

 

 

「ユート! やっぱレギオンが攻めてきたみたいだ!」

 

 先ほどから幾度も起こる爆発や衝撃は明らかに訓練とは思えず優人達も何が起きたのか状況を確かめていた。

 ソラが王武のダイバーからレギオンが攻めてきた事と無関係のダイバーには退避するように言われてきた事を説明する。

 

「聞いた話ですよ、タイガ団みたいです」

 

 ライトの方でも敵がタイガ団であることを掴んできたようだ。

 

「うわ……最悪の最悪じゃん」

「だとしたら落ちるのも時間の問題ね」

「土下座でもしたら見逃してもらえるかなぁ」

「無理ね」

 

 相手がタイガ団だと分かり、女性陣の方ではすでに王武が負ける事を前提に話を進めていた。

 王武がいくら高い戦力を保有していたとしても今回ばかりは相手が悪い。

 ソラもライトも口にこそ出さないが、二人と同じ考えだ。

 そんな中、優人は一人考え込んでいる。

 

「俺たちにも何かできないかな?」

「まさか、ユート……戦う気か?」

「レンジさんとかショウゲンさんにはいろいろと世話になったんだ。危険だからって逃げる訳にはいかないよ」

 

 その言葉にソラは言い返す事は出来ない。

 ここにきていろいろとアドバイスを貰っている。

 それなのに戦場となり無関係だからと自分たちだけ逃げるというのは恩を仇で返すような物なのかも知れない。

 

「そんなこと言ったって相手はマジもんの化け物だよ。私らが加わったところで意味なんかないわよ!」

「それでも何もしないで逃げるよりかは良い」

 

 ファントムレディの反論に対しても優人は意見を変えるつもりはなかった。

 実際、相手の実力を考えると今の優人の実力ではできる事は限られている。

 優人が加われば勝てる見込みもない。

 それでもここで逃げるくらいなら戦って玉砕した方がマシだった。

 

「まぁ……それもそうだよな」

「僕もです!」

 

 優人の言葉にソラとライトも同調する。

 最後の頼みとファントムレディはチラリと千鶴の方を見るも千鶴はファントムレディに対して軽く肩をすくめる。

 

「……危なくなったら私は逃げるからね。こんなところでやられたくないわ」

「入って早々面倒に巻き込んでごめん。その判断は任せる」

 

 ファントムレディは完全には納得はしていないが、話は纏まる。

 

「で、具体的にどう動く?」

「俺は先行して敵を叩くから、ヤガミ達は王武の防衛線に合流してくれ」

「一人で大丈夫なのか?」

「機動力のあるウイングアーマーを使って前に出るからそれについてこれるのはヤガミくらいだけど、ヤガミの機動力は守りにも必要だからな」

 

 優人が前に出て敵の数を削りに行くとなればついてこれるのは変形機構を持つエアブラスターくらいしかいない。

 だが、王武の各防衛線に合流するのであれば、エアブラスターの機動力は防衛線の間を移動するのに役に立つ。

 

「分かった。あんまり無茶はすんなよ」

「善処する」

 

 優人はそう言いウイングアーマーに換装するとバード形態に変形する。

 バード形態で通路を進んでいると開けた空間に出る。

 

「ウイング? 違う……あれは」

「あのグレイズ……」

 

 グレイズを引き連れたザジと優人は遭遇した。

 ここまでの道中で分散し、ザジが引き連れているグレイズは2機だけだ。

 ビルドナラティブはすぐさまMS形態と変形するとバスターライフルを撃ち、グレイズを1機しとめる。

 

「相手は1機か……油断するなよ」

「分かってる」

 

 残るグレイズはマイニングハンマーを装備したグレイズだ。

 着地したビルドナラティブはバスターライフルを向けるも、2機は速やかに射線上から退避したため、優人は引き金を引かなかった。

 

「後2発しかないんだ。無駄弾は撃てない」

 

 ビルドナラティブはバルカンで応戦しながらバスターライフルを撃つチャンスをうかがっていたが、後ろからプルーマが飛び掛かり、とっさにバスターライフルを盾にした。

 数機のプルーマがバスターライフルに群がり、ビルドナラティブはバスターライフルを手放すとバルカンを撃ち込み誘爆させた。

 

「くっ! ライフルが!」

「隙あり!」

 

 その間に回り込んでいたグレイズがマイニングハンマーを振るう。

 シールドで身を守るがシールドは粉々に破壊された。

 

「まだ!」

 

 シールドが破壊されながらも破壊されたことでシールドに内臓していたビームサーベルが外に飛び出しており、空中で掴むとビーム刃を形成し、グレイズを一刀両断にする。

 

「ちぃ」

「ストライク!」

 

 バスターライフルとシールドを失ったビルドナラティブはすぐにストライクアーマーに換装する。

 アーマーを換装しビームライフルでグレイズラグナをけん制し、突っ込んできたプルーマをシールドで弾きバルカンで破壊する。

 

「ザジだけじゃない。小型の奴も面倒だな」

「余り時間をかけるつもりはない」

 

 グレイズラグナは離れたところからべロウズアックスを振るう。

 べロウズアックスの刃をシールドで弾くと刃と刃の間をビームライフルで狙いべロウズアックスを破壊する。

 

「前よりも腕を上げているのか!」

「いつまでも昔のままじゃないんでね」

 

 以前、採掘エリアをめぐっての戦いでは仲間として戦ったが、あの後から何度もバトルを行った。

 特に宇宙海賊クロスボーンハウンドとの戦いではキャプテンネロの実力を身を持って体験した。

 そのキャプテンネロと比べるとザジは怖くはない。

 

「見せてやるよ。ここで得た新たな力を!」

 

 王武に来てからの戦いで優人は新たな力を会得した。

 ビルドナラティブのストライクアーマーがパージされると前後にランナーが形成される。

 全身に新たなアーマーが装着されていく。

 

「新たなアーマーだと!」

「これが王武で得た力……ガンダムビルドナラティブ・シャイニングアーマーだ」

 

 ビルドナラティブの新しいアーマーはシャイニングガンダムの力を持ったシャイニングアーマー。

 タイタスアーマーと同じ素手での格闘戦に特化したアーマーだが、格闘能力の中でもパワーと装甲に特化したタイタスアーマーとは違いシャイニングアーマーはバランスの取れた格闘能力にを持つ。

 

「ふん。だからどうしたというのだ。新たなアーマーを使ったところで、それごと粉砕するだけだ!」

 

 グレイズラグナは加速するとシールドランスを突き出す。

 シャイニングアーマーを装備したビルドナラティブは腕でランスシールドを受け流すと拳をグレイズラグナに入れる。

 

「うっ!」

「はぁ!」

 

 体勢を崩したところに連続攻撃を繰り出し、グレイズラグナはランスシールドで何とか防ぐが、ビルドナラティブの強力な蹴りでシールドが飛ばされる。

 一度、グレイズラグナは距離を取るとバトルブレードを抜いて構える。

 

「ちっ……」

「俺の方も時間をかけるつもりはない」

 

 ビルドナラティブはスーパーモードとなり金色に輝く。

 

「スーパーモードか……だが、我らグレイズアーミィは決して退く事はない!」

 

 ザジは怯む事も無く突撃する。

 

「レンジさんはこういう時は言わないといけないって言ってたよな……」

 

 優人は軽く深呼吸をする。

 

「お……俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと轟き叫ぶ!」

 

 シャイニングアーマーが使用可能となり、レンジと共に使い勝手を確認した時にレンジからあることを言われていた。

 シャイニングガンダムの機能を持つシャイニングアーマーで必殺技を使う時には必ずこの口上を入れなければならないと。

 流石に恥ずかしかったが、口に出してみると心なしかテンションが上がったような気がした。

 

「シャイニングゥ! フィンガァァァァ!」

 

 ビルドナラティブのシャイニングフィンガーがグレイズラグナのバトルブレードを砕き頭部を鷲掴みにする。

 そのまま、前進してグレイズラグナを壁に叩きつけた。

 壁はその衝撃で崩れ、グレイズラグナの頭部は完全に潰され、壁に叩きつけられた衝撃で力なく項垂れる。

 

「ふぅ……」

 

 グレイズラグナはこれ以上は戦えない事を確認するとスーパーモードを解除する。

 

「良し……このアーマーもバトルでちゃんと使える。確実に強くなれてる」

 

 前に戦った時は苦戦したザジを相手に勝利した事は優人の自信に繋がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……俺もそろそろ前に出るか」

 

 戦闘が開始され諒真の想定した流れになっている。

 用意してきたプルーマも全て投入し、周囲を囲んでいるビルダーズギルドのダイバーは絶え間なく長距離砲撃を行っている。

 後は諒真も要塞に向かい戦闘を始める頃合いだ。

 

「リョーマさん!」

「どうした? 何かあったのか?」

「宇宙から何か来ます!」

 

 そういわれてモニターを要塞の上に向ける。

 

「何だ? 降下攻撃は予定にないが……」

 

 宇宙から多数の何かが要塞目掛けて落ちて来ていた。

 要塞の上は抑えており、宇宙で王武に味方しそうなフォースはすでにけん制してある。

 敵の増援である可能性は低い。

 

「よう。腹黒参謀さんよぉ」

「……キャプテンネロ」

 

 突如、キャプテンネロから通信が入る。

 諒真もその時点で大体の事情は呑み込めた。

 

「ずいぶんと面白そうな事してんな。仲間外れはないだろ」

「アンタらのフィールドは宇宙だろ?」

「んなこと関係ねぇよ。最近お前らばかり面白そうな事ばかりしてんな」

 

 諒真は面倒ごとを押し付けられているだけだと反論したいが、キャプテンネロにとってはレギオンの思惑には興味はなく、ただ自分が暴れられればそれでいいため、言っても無駄だと我慢する。

 

「で、降下してきてるのはおたくら?」

「そういうこった! 俺らも混ぜて貰うからな!」

 

 キャプテンネロはそう言って一方的に通信を切る。

 

「……たく、大我の奴と言い最近の若い奴は好き勝手にやって……」

 

 ここで宇宙海賊クロスボーンハウンドの介入は想定外だったが、少なくとも敵ではない。

 

「大我……頼むから先にジードを仕留めてくれよ」

 

 ここで大我より先にキャプテンネロがジードを仕留めるなんてことになれば、ここまでの段取りの苦労が水の泡となる。

 いくら王武を落とせたとしても、その功績は宇宙海賊クロスボーンハウンドに根こそぎ持っていかれるだろう。

 余り楽観視が出来る状態でもなくなり、諒真は急いで要塞に向かう。

 

「野郎ども! 宇宙じゃねぇか、思いきり暴れてこい! 王武の奴らを根絶やしにする気でなぁ!」

「カシラ、根絶やしにしてどうするの……」

「姉御! カシラが!」

 

 先陣を切って降下していくキャプテンネロのクロスボーンガンダムX91の速度が上がっていく。

 

「好きにさせなさい。私たちは1機でも多く降下を成功させることを考えるの」

 

 宇宙から降下する敵の存在に気づいたのか、要塞内から陽電子砲が何基かむけられていた。

 陽電子砲と対空攻撃を掻い潜りながら宇宙海賊クロスボーンハウンドは要塞に取りつこうとする。

 一足先にクロスボーンガンダムX91が要塞に突っ込む。

 

「何だ……何かが落ちて来たのか」

 

 ザジに勝利したのもつかの間、優人の前に天井を突き破り何かが落ちてきた。

 落ちてきた時の衝撃で砂煙が舞う。

 

「よぉ……また会ったな」

「……アンタは」

 

 砂煙も落ち着き優人は落ちてきた相手が誰だかわかると操縦桿を強く握り締める。

 ここに来るきっかけともなり、宇宙で大敗したキャプテンネロのクロスボーンガンダムX91が瓦礫を押しのけて姿を現した。

 

「今日はウィルの奴も邪魔はしてこないから、とことんやろうや……どっちかがくたばるまでなぁ!」

 

 キャプテンネロが吠えるとクロスボーンガンダムX91はビルドナラティブに襲い掛かった。



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王武攻防戦Ⅱ

 

 

 

 タイガ団と王武の戦闘に介入した宇宙海賊クロスボーンハウンドのガンプラは対空砲火を掻い潜り王武のフォースネストの要塞に着地する。

 だが、着地した瞬間を狙いローグ・ロディの何機かは撃墜され、残った機体はシールドで身を守りマシンガンで応戦する。

 

「宇宙と同じにとはいかないわね」

 

 着地したローグ・ユーゴーは近くのNPDアストレイをヒートソードで切り裂くとビームサーベルで切りかかってきたジェノアスの胴体を脚部のクローで掴むとクローに内臓されているマシンガンを撃ち込み、接近しようとしていたギャンに向かって投げ飛ばす。

 ギャンはシールドでジェノアスを弾くが、ローグ・ユーゴーの頭部のミサイルを撃ち込まれて撃墜された。

 

「姉御! 囲まれてやすぜ!」

「流石王武の手練れ……対応が早いわね」

 

 タイガ団の奇襲により混乱していたが、すでに王武も持ち直しており、クロスボーンハウンドのガンプラを包囲して確実に数を減らしている。

 

「カシラは……」

「カシラなら勝手に暴れているわ。心配する必要はないわ」

 

 先に突撃したキャプテンネロは一人で暴れているから心配は無用だが、囲まれている自分たちの方が分が悪い。

 ローグ・ユーゴーはヒートソードでジェガンを切り裂いていると空中からのビームで周囲の敵機が撃墜されていく。

 

「宇宙海賊なんだから宇宙で大人しくジッとしていて欲しいんだけどな」

 

 空中には諒真のガンダムクロノスXXがクロノスアックスを構えていた。

 ローグ・ユーゴーの近くに着陸すると、ビームバルカンで弾幕を張る。

 

「生憎と私たちのカシラは宇宙で大人しくできる程、人間出来てないのよ」

「成程……お互い無茶やるリーダーに苦労させられている訳な」

 

 どちらも自分のやりたいように動くリーダーを補佐する立場にあるという奇妙な共感を覚えながらも王武のガンプラに対応する。

 

「くそ! 突破される!」

 

 通路で防衛線を張っていた王武のガンプラはグレイズの連携により撃破されていく。

 ランスユニットを装備したグレイズがクロスボーンガンダムX2からランスユニットを引き抜くと、近くにいたガンダム6号機に迫る。

 ガンダム6号機の攻撃をかわしてランスユニットを突き刺そうとするが、グレイズの胴体をビームが撃ちぬく。

 

「何だ……」

「援護するから下がりなさい」

 

 後方にはロングビームライフルを構えたメテオイージスが別のグレイズの頭部を撃ちぬく。

 

「……分かった」

 

 辛うじて生き残っていたガンプラも防衛線を捨てて千鶴の方まで後退すると隔壁が降りる。

 

「俺たちも微力ながら手を貸す!」

「恩に着る!」

「グレイズアーミィと戦う事になるなんて思ってもみなかったけど、今は僕もトライダイバーズの一員なんだ」

 

 別の防衛線でもソラとライトが加わり、バリケードに身を潜ませながらグレイズアーミィの進行を防いでいる。

 

「これで水中からの脱出経路は潰した。次は……」

 

 水中から奇襲しら愛衣は基地内に侵攻しようとするが、ミサイルが降り注ぎ、ビームガトリングで迎撃した。

 

「まだ抵抗する気力のある敵がいたようね」

「本当は滅茶苦茶逃げ出したいんだけどね」

 

 そこにはバスターソードを構えてたザクファントムソードがズゴックEXの行く道を遮っていた。

 要塞各地で王武のガンプラが防衛を始め、次第に膠着状態になりつつあった。

 

「オラァ!」

 

 ブレイジングデスティニーがザムザザーを殴り飛ばす。

 ザムザザーは壁をぶち抜き飛ばされていく。

 空いた穴から中に入るとそこには闘技場になっていた。

 闘技場では複数のガンプラがブレイジングデスティニーを待ち構えていた。

 敵の集中砲火を交わして接近すると、クーロンガンダムをブレイジングナックルで殴り飛ばすと、すぐさまガンダムスローネツヴァイの蹴り飛ばすと、左のビームナックルでゲーマルクを仕留める。

 

「ふぅ……こんなところかって!」

 

 3機を瞬く間に仕留めたが、すぐさま飛び退くと先ほどまでいた場所が銃撃される。

 

「大したもんだ。流石はタイガ団の殴り込み隊長って事かよ」

「あの百錬のカスタム機は……ナンバー2のレンジっ奴か」

 

 レンジの武錬は持っていたライフルカノンを捨てると拳を構える。

 

「確か近接での殴り合いを得意としてるって聞いたな」

「まぁ俺も不意打ちで仕留めるのは本意じゃねぇからな」

 

 龍牙は事前に王武の主要ダイバーの情報の中からレンジの事を思い出す。

 自分と同じで殴り合いをメインに戦うダイバーだ。

 

「面白れぇ……大将の前の腕慣らしには丁度いい!」

「ぬかせ! てめぇはここで終わるんだよ!」

 

 2機は同時に地を蹴り突撃する。

 ドーベンウルフとシルヴァ・バレットの攻撃をかわしたヨーシエピオンは懐に入るとビームソードでドーベンウルフの両足を切り裂き尻餅をつかせると、もう片方のビームソードをシルヴァ・バレットに突き刺して破壊する。

 

「この距離なら、うぁ!」

 

 両足を失いながらも抵抗しようとするドーベンウルフにビームソードで止めを刺す。

 

「侵入者を容易に進ませないようになっている訳ね」

 

 カティアはマップを見ながら先に進む。

 

「これ以上先にはいかせるか!」

 

 通路の先にはガンキャノンとガンタンクが待ち構えておりキャノン砲を撃ってくる。

 加速しながらも2機の砲撃を掻い潜り、ビームソードでガンタンクのキャノン砲を切り裂き、膝蹴りで頭部を潰すと、殴り掛かろうとするガンキャノンの腕をビームサーベルで切り落とし、胴体を切り裂く。

 ガンキャノンを仕留めるとビームソードを逆手に持ち替えるとガンタンクに突き刺して止めを刺しておく。

 

「先は遠そうね」

 

 ガンタンクとガンキャノンを仕留めて先に進むが、十字路に差し掛かった瞬間に死角からショウゲンの村雨がビームサーベルで切りかかる。

 

「この不意打ちを防ぐか……」

 

 ヨーシエピオンはビームソードでビームサーベルを受け止めると村雨を蹴り飛ばす。

 村雨はシールドで防ぎながらも距離を取る。

 

「ムラサメのカスタム機……悪いけど貴方に用はないの。大人しくどいてはくれない?」

「笑止。ここから先へは行けると思うなよ」

 

 村雨はビームサーベルを構えると間合いを詰める。

 

 

 

 

 

 ザジを退けた優人だったが、宇宙で完全敗北したキャプテンネロが降ってきた。

 何故、キャプテンネロがこんなところに来たのかは分からないが、それを考えるよりも先にクロスボーンガンダムX91が襲い掛かってくる。

 DSランサーの一撃を飛び退てかわす。

 

「やるしかない!」

 

 ビルドナラティブは迎え撃つ構えを取る。

 再び突撃してくるクロスボーンガンダムX91の攻撃をいなしながら一撃を入れるが、かわしながらではまともなダメージを与えられない。

 

「はっ! どうした! そんな攻撃じゃ効かねぇぞ!」

「固い……だけど、動きは見える!」

 

 攻撃は効いていなかったが、宇宙で戦った時とは違い相手の動きは見切る事は出来た。

 クロスボーンガンダムX91は本来は宇宙での戦闘をメインに作られているため、重力下では重装甲が重荷となり、スラスターの推力で強引に突撃しているに過ぎない。

 それでもまともに一撃でも受けてしまえば一気に勝負は決まってしまうだろう。

 

「格闘主体のシャイニングじゃ戦い辛いか…・・・なら、ストライク!」

 

 ビルドナラティブはシャイニングアーマーをパージするとストライクアーマーに換装する。

 アーマーを換装するとビームライフルを連射する。

 

「んな豆鉄砲が効くかってんだよ!」

 

 ビームは装甲に弾かれる。

 

「ビームライフルの威力じゃあの装甲は破れない。でも・・・・・・」

 

 手持ちのアーマーでは高い威力を持つ火器はウイングアーマーのバスターライフルとユニコーンアーマーのビームマグナムだ。

 しかし、ウイングアーマーは先ほど使ったばかりでバスターライフルの残弾は残ってはいない。

 ビームマグナムは射撃時にわずかだがタメがあり、キャプテンネロならばそのわずかなタメで攻撃を見切ってくる可能性は高く撃てる数にも限りがあるため、確実性のない状況で使うにはリスクが高すぎた。

 後はバルバトスアーマーの滑空砲くらいだが、実弾であるためビームに比べると弾速が遅く、いくら直線的な動きしかしてこない相手でもそう簡単には当てられない。

 他に残るは接近戦用のエクシアアーマーとタイタスアーマーくらいだが、クロスボーンガンダムX91に接近戦を仕掛けるのは危険過ぎる。

 

「どうした! オラァァァァ!」

 

 ムラマサハンマーを振り下ろされて、ビルドナラティブは飛び退きながらビームライフルを撃つ。

 クロスボーンガンダムX91もDSランサーのマシンガンを連射してくる。

 シールドで身を守りながら着地し、ビームライフルを構えるが、銃弾がライフルに直撃して爆発する。

 とっさに爆風からシールドで身を守る。

 

「くっ! 賭けになるが、ユニコーンで…・・・」

 

 ビームライフルを失った優人はユニコーンアーマーに換装しようとするが、アーマーの一覧の中に新しいアーマーがあることに気が付いた。

 

「インパルス? なんだか分からないが、どうせ賭けるなら未知のアーマーに賭けてやるさ!」

 

 優人は新たなアーマー、インパルスアーマーを選択する。

 ビルドナラティブはストライクアーマーをパージすると前後にランナーが形成される。

 背部にはブラストシルエットが装備され、ビームライフルとシールドが装備されると、ブラストインパルスの機能を持ったインパルスアーマーとなった。

 

「装備はビーム砲にミサイル、レールガンまであるのか、この装備なら行けるかも知れない!」

「今度はインパルスもどきか! 面白れぇ!」

 

 クロスボーンガンダムX91の突撃をビルドナラティブはスライド移動でかわした。

 インパルスアーマーはブラストインパルスの火力だけではなく、水上以外でもホバーによる移動が可能で平面的な機動性能にも長けている。

 ビルドナラティブはミサイルを撃ち込む。

 マシンガンでミサイルを迎撃している間にビルドナラティブはケルベロスを構えて撃つ。

 2本のビームはクロスボーンガンダムX91の装甲に阻まれるが、ビームライフルとは違い確実にダメージを与えていた。

 

「ちったぁやるじゃねぇか。そう来ないとなぁ!」

「このビーム砲なら行ける!」

 

 クロスボーンガンダムX91の重装甲を突破する糸口は見えたが、直撃させても尚一撃では致命傷にはならない。

 ビルドナラティブはビームライフルを撃ちながら距離を保ち続ける。

 

「このまま逃げ続けてもジリ貧だ……」

 

 現状でキャプテンネロの攻撃をかわす事は出来る。

 だが、このまま戦闘を長引かせていけば実戦経験で分のあるキャプテンネロの方が先に打開策を取ってくるだろう。

 優人はそうなる前に勝負を決めなければ負ける。

 

「なら……始めから勝算なんてなかったんだ。危険を恐れて保守的になっても勝てはしない!」

 

 元々の実力差は一週間やそこらで埋まる物でもない。

 ならば大きなリスクを背負ってでも攻めなければ優人に勝ち目など始めから存在していない。

 

「お? 逃げんのは止めんのか?」

「ええ。俺も覚悟を決めました」

 

 ビルドナラティブはビームジャベリンを構える。

 

「良いね! 自棄になった訳でもねぇ! 俺に勝つ気でいやがる!」

 

 クロスボーンガンダムX91は最大速度で突っ込む。

 ビルドナラティブはビームジャベリンで迎え撃つ構えを取る。

 クロスボーンガンダムX91はDSランスを突き出すのと同時に口の装甲が開きフラッシュアイで目眩ませをする。

 

「何ぃ!」

 

 視界を奪われても、あれだけの重量と勢いでは方向転換は出来ない。

 以前の戦闘でフラッシュアイの存在を知っているため、目眩ませにも動じる事も無く優人はケルベロスを展開する。

 

「いくら装甲が厚くてもこの距離から撃ち込めば!」

 

 ビームジャベリンを構えて接近戦をしようとしたのはフェイクで本命は至近距離からケルベロスを撃ち込む事にあった。

 視界は強力な光で見えないが、クロスボーンガンダムX91の位置はおおよそ分かっている。

 優人が引き金を引くと、ケルベロスが撃たれクロスボーンガンダムX91に至近距離から直撃する。

 

「いっけぇ!」

 

 そのままビームを掃射し続け、クロスボーンガンダムX91を押し返し、やがて壁に叩きつける。

 そして、大きな爆発が起こる。

 

「……やったのか?」

 

 優人はまだキャプテンネロに打ち勝った実感が持てず唖然とする。

 少ししてようやく実感が沸き始めたころ、コックピット内に衝撃が走る。

 

「うぁ! 何だ?」

「・・・…今のは少しやばかったぞ」

 

 ビルドナラティブの左肩にはDSランサーの先端部が突き刺さっていた。

 爆風によって巻き上げられていた砂煙の中に人影が見える。

 クロスボーンガンダムX91よりかは一回り以上も小さいが背部のX字のスラスターの影が見える。

 

「嘘だろ」

「コイツを見せるのは久しぶりだ。誇っていいぜ」

 

 優人の渾身の一撃は確かにキャプテンネロには届いていた。

 しかし、届いていたのは外装までで本体であるガンダムX91までは届いてはいなかった。

 ケルベロスで外装が破壊されたが、キャプテンネロのガンダムX91は無傷だ。

 普段は重装甲に守られてバトルでも見せる事はほとんどないが、ガンダムX91こそがキャプテンネロの愛機の真の姿だった。

 全身に外装を纏う都合上、装備は両腕のブラインドマーカーに腰に装甲に収納されているビームサーベルのみと非常にシンプルになっている。

 

「さぁて、第二ラウンドを始めようか!」

 

 

 

 

 

 

「なぁ……敵さん後退してないか?」

 

 防衛線に加わったソラとライトだったが、グレイズアーミィのグレイズと距離と取っての撃ち合いが膠着状態になったと思ったが、いつの間にかグレイズは後退していた。

 

「逃げたんでしょうか?」

「援護に感謝する」

 

 何とか防衛線を守り抜いて安堵した瞬間にそれが大きな過ちだったことを思い知らされる。

 壁を大我のガンダムオメガバルバトス・アステールがぶち破ったのだ。

 

「あのバルバトスは……」

「間違いありません。団長のガンプラです!」

 

 見間違えるはずもない。

 グレイズが引いたのは攻めきれずにいたからではなく、大我が近くにいたから巻き添えにならないようにするためだ。

 大我は目の前に壁があろうと隔壁で道を塞がられていようと構わずぶち抜いて突き進んでいる。

 

「っ! 迎撃だ! アイツを討ち取れば我々の勝利だ!」

 

 防衛線を指揮していたダイバーが上擦った声で叫ぶ。

 突然の出来事に手の止まっていた他のダイバー達は一斉にオメガバルバトス・アステールに攻撃を始める。

 

「……駄目だ。こんな攻撃じゃ団長は止められない! みんな逃げて!」

 

 ライトは叫ぶが誰も攻撃の手を止める事はない。

 圧倒的な力の前にダイバー達はただ攻撃するしかない。

 手を止めたが最後、オメガバルバトス・アステールの力でいとも簡単に吹き飛ばされてしまう事が分かっているからだ。

 だが、大我にとっては必死の攻撃も何の意味を成さない。

 GNフィールドを展開しながら一直線に防衛線に迫り、勢いを緩める事も無く、防衛線に突っ込み崩壊させた。

 

「…ライト。大丈夫か?」

「……何とか」

 

 嵐が過ぎ去ったかのように辺りは静かだ。

 それまで共に戦っていたダイバー達のガンプラの残骸が周囲に転がっている。

 

「助かったのか? 俺たち」

「はい。団長にとって僕たちの存在は取るに足らない物だったのが幸いしたようです」

 

 ソラのエアブラスターとライトのグレイズアステルは撃墜こそされていないが、エアブラスターは背中を叩きつけられた衝撃でバックパックの機能が完全に停止し、機体各部にも異常が出ている。

 グレイズアステルに至っては下半身が大破し、頭部の装甲も潰れて周囲の状況が辛うじて分かる。

 2人が無事だったのは、ライトがグレイズアーミィから出向中の身でソラとは諒真と共闘した事があった事があり見逃して貰えたという訳ではない。

 ただ単に敵としてすらも思われていなかっただけに過ぎない。

 大我にとってはこのバトルにおいて最大の獲物はジード一人で他は眼中にない。

 防衛線が大我の進行ルートにあっが、故に吹き飛ばされただけ。

 それ故にソラとライトは運良く、ガンプラが大破しただけで済んだ。

 その後もオメガバルバトス・アステールは進行ルートにある障害物をぶち破り突き進に大我は邪魔な壁を突き破る。

 

「見つけた。アンタがジードだろ?」

 

 壁を突き破った先は要塞の総司令部で、そこにはライオンの頭部を持つアバターのジードがシートに座っていた。

 オメガバルバトス・アステールの襲撃に驚く様子も同様する様子も見られない。

 

「ここまで辿り着くか」

「アンタをぶっ潰しにここまで来たんだ。足掻いて見せろよ」

 

 オメガバルバトス・アステールはバーストメイスカスタムを振り上げる。

 それでも尚、ジードは動じる様子を見せない。

 一向に動く気配を見せないジードに痺れを切らせた大我がジード目掛けてバーストメイスカスタムを振り下ろした。

 



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王武攻防戦Ⅲ

 

 

 

 ガンダムオメガバルバトス・アステールが振り下ろしたバーストメイスカスタムはジードのギリギリのところで止められる。

 ジードは微動だにしない。

 

「ちっ……早くガンプラに乗れよ。ガンプラに乗ってないお前じゃぶっ潰す意味はない」

 

 大我も本気でジードを潰そうとしていた訳ではない。

 ガンプラに乗っていない状態のダイバーを倒したところで何の意味もないからだ。

 少しでもビビッて動揺してくれれば儲けもの程度でダイバーを直接攻撃してみたものの、ジードも本気ではないと分かっていたため、一切動じる事も無かった。

 オメガバルバトス・アステールがバーストメイスカスタムを引くと指令室の壁をぶち破り深紅のガンプラがオメガバルバトス・アステールに殴り掛かる。

 

「……んな小細工してないでさっさと乗れ」

 

 深紅のガンプラの拳をオメガバルバトス・アステールは避ける事も防ぐ事もしなかった。

 拳はオメガバルバトス・アステールの胸部装甲に当たるがダメージはない。

 この深紅のガンプラが、ジードの愛機であるハオウガンダム。

 アカツキをベースに近接戦闘に重きを置いたカスタムがされている。

 バックパックはオオワシをベースにビーム砲がソードインパルスのエクスカリバーを改造したエクスカリバー弐に変更され、腰には刀とビームサーベルの柄が1本づつ左右に装備されている。

 両腕部はストライクの物に変更され、ソードストライクのビームブーメランと小型シールドが付けられている。

 全身を赤く塗装され、肩の装甲にはそれぞれ「覇」と「王」の文字が入れられいる。

 脚部の装甲には増加装甲が取り付けられており、増加装甲にはスラスターとインフィニットジャスティスと同じようにビームブレイドが付いている。

 ジードは大我の侵攻を食い止める事が出来ないと判断し、指令室の隣の部屋にハオウガンダムを待機させ遠隔操作で不意を突いて攻撃できるように準備していた。

 だが、ダイバー不在のハオウガンダムは単純な動きしかできず、攻撃もオメガバルバトス・アステールの装甲にダメージを与える事も出来ない。

 この攻撃事態、不意打ちで仕留めるためではなく、相手の反応を伺う物で大我は自分の意図を分かった上で微動だにしなかったジードへの意趣返しも込めて攻撃に対して何もしなかった。

 

「成程、ずいぶんと肝が据わっている」

 

 ハオウガンダムのコックピットが開くとジードは乗り込む。

 ジードが乗り込みハッチが閉じた瞬間にオメガバルバトス・アステールはハオウガンダムに蹴りを入れようとするが、ハオウガンダムも脚部のビームブレイドで蹴り返す。

 オメガバルバトス・アステールの脚部ブレードとハオウガンダムのビームブレイドがぶつかり合い、タイガ団と王武のリーダー同士の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーダー同士の戦闘が始まり、要塞各部では双方のエース同士の戦闘も繰り広げられている。

 通路でカティアのヨーシエピオンとショウゲンの村雨が切り合っている。

 

「ちょこまかと!」

 

 ヨーシエピオンのビームソードを村雨はビームサーベルでいなす。

 真向からではビーム刃の出力の差でヨーシエピオンに分があるが、村雨は確実に攻撃を防いでいる。

 

「いくらサーベルの出力が高くても見切れぬ事はない」

「邪魔なのよ!」

 

 ヨーシエピオンはビームソードを振るう。

 村雨はシールドを掲げる。

 ビームソードでシールドは両断されるも、すでにそこには村雨の姿はない。

 

「シールドは囮!」

 

 そして、シールドで姿を隠し、両断されるまでの短い時間に村雨はヨーシエピオンの背後に回り込んでいた。

 

「取った!」

 

 背後に回り込み村雨はビームサーベルを振り下ろす動作に入り、ヨーシエピオンはまだ振り向かない。

 ショウゲンは2本のビームソードの動きには細心の注意を払っている。

 背後を取ったとは言え、反撃の可能性は捨てきれない。

 一切の油断も慢心もなく、反撃に備えていたが、ヨーシエピオンのバックパックの一部が稼働している事までは気づかなかった。

 それに気づいたときには村雨の右腕がビーム刃によって切り裂かれて宙を舞ってからだ。

 

「なっ!」

 

 ヨーシエピオンのバックパックから出たビームサーベルが村雨の右腕を切り裂いたのだった。

 カティアの戦闘スタイルは高出力のビームソードによる二刀流だが、ヨーシエピオンはそれだけに留まらない。

 機体の全身のいたるところに外見からは分からないようにビームサーベルが仕込まれている。

 ショウゲンは2本のビームソードにのみ注意を払い他に武器はないと思っていたが故にバックパックのビームサーベルへの反応が出来なかった。

 村雨の腕を切り落としたヨーシエピオンはそのまま回し蹴りを繰り出す。

 右腕を失いながらも回避しようとする。

 かかと部分からも短いビームサーベルが展開され、村雨は何とかかわす事が出来たが、つま先部分からは長いビームサーベルが展開されていた。

 全身に隠しているビームサーベルの刃の長さは部分によって変わり、定期的に長さを変えているため、その時点でどこのビームサーベルの刃の長さはカティアしか知らない。

 かかとのビームサーベルは避けられたが、つま先のビームサーベルはよけ切れず、両断されて村雨は爆散する。

 

「まったく……背後を取ったからと私の死角はないのよ」

 

 村雨を仕留めてヨーシエピオンは先に進む。

 

 

「コイツ!」

「勢いだけじゃ俺には届かねぇんだよ!」

 

 ブレイジングデスティニーのブレイジングナックルを武錬は腕と全身を使って衝撃を背後に逃がして後方に飛び退く。

 闘技場で交戦しているブレイジングデスティニーと武錬の戦いはブレイジングデスティニーの方が押している。

 しかし、攻撃のほとんどは上手く防がれている。

 

「気合の入ったいい攻撃だけどな!」

「コイツ……言動とは裏腹に守りが主体のスタイルか」

 

 龍牙とレンジのガンプラはどちらも接近での肉弾戦を得意とするが、戦闘スタイルは大きく違う。

 龍牙の場合はブレイジングナックルやビームナックルで相手を一撃で仕留めるのに対して、レンジは相手の攻撃を防ぎながら僅かな隙に小さい一撃を入れていくスタイルだ。

 そのため、戦闘自体は龍牙が押しているが、レンジにとっては劣勢という訳ではない。

 

「そうやって無駄に大振りしてっと脇ががら空きだぜ! オラ!」

 

 ブレイジングデスティニーの一撃をかわして、脇からスタンナックルの一撃を入れる。

 

「一撃一撃は大した事はないけど、このまま入れられ続けると不味いな」

 

 ブレイジングデスティニーは一度距離を取って仕切り直ししようとするが、今度は武錬が前に出て連続攻撃を繰り出す。

 一撃の威力はないが、確実にブレイジングデスティニーの装甲を削っていく。

 ある程度攻撃すると武錬も下がり間合いを取り合う。

 

「深追いはしてこないか……」

「まぁな。アンタ程の実力者相手に深追いは自殺行為だからな」

 

 レンジは普段の言動からおおざっぱに見えるが、バトルでは堅実にダメージを積み重ねて戦う。

 フォースのナンバー2として、負ける事は許されないため、不用意に攻めて反撃されることを危惧してのことだ。

 

「成程な……」

 

 ブレイジングデスティニーは背後から炎の翼を展開してブレイジングナックルを構える。

 

「けど、悪いな。生憎と俺の目指す先はそんなお利巧さんな戦い方をしていたら到底たどり付けないんだわ」

 

 更に強まる炎を見てレンジも龍牙の必殺の一撃が来ると確信して警戒を強める。

 どんなに強力な一撃だろうとも来ると分かっていれば最小限のダメージで抑えられる自信はある。

 それさえ凌いでしまえば、相手の精神的なダメージも大きく、勝負をつけにも行ける。

 

「リスクとか負ける事とか恐れていたらアイツには届かないし勝てない。アイツはどんなに無謀な事でもリスクとか考えないで常に勝つ気でいやがる」

 

 大我はどんな時でも負ける事を全く考えてはいない。

 どんなに状況が最悪だろうと自分が戦えば確実に勝利すると豪語し、実際に大我がバトルで負けた事は一度もない。

 そんな大我に追いつき勝つには、リスクを恐れて尻込みしていては一生追いつく事は出来ないだろう。

 だからこそ、龍牙も前に進み続けるしかない。

 

「だから俺はアンタをぶっ飛ばす!」

「来るか! 来やがれ!」

 

 レンジは龍牙の気迫に押される事も無く構えを取る。

 ブレイジングデスティニーは一気に加速して突撃するとブレイジングナックルで殴り掛かる。

 武錬は腕でガードしながら直前で勢いを殺すために後ろに飛ぶ。

 必殺の一撃が来る事を覚悟し、受ける事でダメージを負っても撃墜されることはない。

 

「ぶち抜けぇぇぇ!」

 

 ブレイジングナックルに内臓されていたスラスターを使いブレイジングナックルが射出される。

 

「何!」

 

 武錬は勢いを殺すために後方に飛んでいたがゆえに踏ん張りが気かず、ブレイジングナックルを受けながら闘技場を横切り壁に叩きつけられる。

 

「まだだ! まだ終わんねぇよ! 俺は王武のナンバー2として負けらんねぇんだよ!」

 

 ブレイジングナックルの軌道を少しでも逸らせば、スラスターの勢いでブレイジングナックルはどこかに飛んでいき何とかできる。

 そうなれば想定以上のダメージを受けることになったが、メインウェポンを失ったブレイジングデスティニーとは五分だ。

 

 

「ああ! これで終わりじゃねぇ! 俺は勝つ! アンタにもアイツにも!」

 

 ブレイジングデスティニーは加速して突っ込んでくる。

 

「ブレイジング・ドラゴン・ファング!」

 

 龍の姿を模った炎を纏いブレイジングデスティニーはブレイジングナックルに拳を突っ込み振りぬいた。

 

「馬鹿な!」

 

 武錬はブレイジングナックルと共に要塞の壁をぶち抜いていきやがて城壁すらもぶち抜き飛んでいく。

 

「地球圏まで飛んできな」

 

 火星の彼方までぶっ飛んでいった武錬は無事では済まないだろう。

 レンジに勝利した龍牙はあることに気がづいた。

 

「……やっべ。勢いでブレイジングナックルを飛ばしちゃったけど……戻ってこないよな」

 

 ある程度なら内臓しているスラスターで自分のところまで戻っては来るが、その場の勢いで火星の彼方まで飛ばしてしまえば戻っては来ない。

 

「まぁやっちまったもんは仕方がないか。それだけの相手だったんだしな。うん」

 

 勢いでメインウェポンを失いながらも仕方がないと切り替えて龍牙は先に進む。

 

「ちょいさ!」

 

 ザクファントムソードはバスターソードを振り下ろす。

 ズゴックEXは後方に下がりながらビームガトリングを連射する。

 

「あの時は敵を通すなって言われてたから通さないようにしたけど、今日はそうはいなないかんね!」

 

 以前にファントムレディはフォース・紅蓮の牙に雇われていた。

 あの時は敵の拠点への侵入を阻止することだけに留めていたが、今日はそんな制約はない。

 

「厄介だけど、私が相手をしている間は足止めになる」

 

 ザクファントムソードは両肩のシールドで守り、攻撃が止むとブレイズウィザードのミサイルを一斉掃射する。

 ズゴックEXはシールドのメガ粒子砲でミサイルを迎撃するが、ザクファントムソードはバスターソードを投擲し、ズゴックEXのシールドを貫通して肩まで刃が到達する。

 

「このガンプラではこれ以上は難しいようね」

「君に恨みはないけど、私もまだ死にたくはないからさ!」

 

 ザクファントムソードはシールドに収納されているビームアックスを抜くと腕部のビーム突撃銃を撃ちながら接近する。

 ビームがズゴックEXの膝を掠めて、損傷して膝をつくとビームアックスが振り落とされる。

 ビームガトリングを向けるが、ビームアックスはズゴックEXの腕のビームガトリングに刺さる。

 

「しぶとい!」

 

 ザクファントムソードはビームアックスを引き抜こうとするが、引っかかっているのか中々抜けない。

 強引に引き抜くが、天井がぶち抜かれて何かが落ちて来る。

 

「何なのよ!」

 

 落ちてきたのは大我のオメガバルバトス・アステールとジードのハオウガンダムの2機だ。

 ハオウガンダムは両手にエクスカリバー弐を抜いている。

 

「団長」

「うげぇ!」

 

 2機はザクファントムソードとズゴックEXには目もくれずに距離を詰めて互いの持っている武器でぶつかり合う。

 

「成程、噂に違わぬパワーという訳か」

「アンタもな。俺のパルバトスのパワーに少しでも拮抗できる奴はそうはいない」

 

 オメガバルバトス・アステールはハオウガンダムを弾き飛ばすとシド丸のビームライフルを撃つ。

 それをハオウガンダムはエクスカリバー弐で弾く。

 

「ちょっ! 巻き沿いは勘弁してよね!」

「今のうちに」

 

 弾かれたビームは周囲に着弾する。

 ザクファントムソードはビームに当たらないように退避する。

 その間にズゴックEXも損傷した右腕をパージすると後退し、潜水艦の残骸が漂う水の中に飛び込む。

 大我が周囲の友軍の安全を気にして戦う事も無く、仮に人質として盾に使われても何のためらいもないだろうが、それでもまともに戦えない自分がこの場に残っても何の意味も無いため、愛衣はこれ以上の要塞内での戦闘行為を断念して後退を始めた。

 

「あ! 私のバスターソード!」

 

 ズゴックEXはザクファントムソードのバスターソードが刺さったまま後退するが、ファントムレディは追撃はしない。

 相手は損傷しているとは言え、水中で戦えば勝ち目は薄い。

 そこまでしてメインウェポンを回収しなければいけない状況でもない。

 

「……まぁこれなら逃げても言い訳は出来るっしょ」

 

 元より撃墜されるまで戦うつもりはなかった。

 メインウェポンを失い、後は適当に機体を損傷させておけば先に撤退した理由として後で面倒な事にもなりにくい。

 ファントムレディは大我の視界に入らないようにコソコソと退避を始めた。

 

「真向からのパワー勝負では分が悪いか」

 

 ハオウガンダムはエクスカリバー弐をバックパックに戻すと腰の刀を抜く。

 

「最近は大した相手とも戦ってなくて鬱憤が溜まってんだ。その鬱憤をアンタをぶっ潰して晴らさせて貰う!」

 

 オメガバルバトス・アステールはバーストメイスカスタムをハオウガンダムに向ける。

 そして、ダインスレイヴをハオウガンダムに撃ち込む。

 

「ハッ!」

 

 ハオウガンダムはジードの気合を込めた掛け声と共に刀が振り下ろされる。

 振り下ろされた刀はダインスレイヴを正面から真っ二つに切断し、切断されたダインスレイヴはハオウガンダムの後方に飛んでいく。

 

「そいつをそんな風に防いだのはアンタが初めてだよ」

「それは光栄だ」

 

 今までにもダインスレイヴを回避されたり、迎撃されたことは何度もある。

 しかし、真っ二つにされたのは初めてだった。

 少しでもズレるだけでも綺麗に中央から切る事は出来ない。

 それだけでもジードの操作技術の高さが伺え、大我もこの戦いに価値があると確信するには十分だ。

 

「まぁ俺にぶっ潰されるから関係ないけどさ」

 

 オメガバルバトス・アステールは加速して距離を詰める。

 バーストメイスカスタムの一撃をかわすとハオウガンダムは懐に飛び込み刀を振るう。

 それを左腕のチェーンソーブレードで弾くと、ハオウガンダムは一度距離を取り再び加速して接近すると刀を突き出す。

 ハオウガンダムの突きをオメガバルバトス・アステールは頭部のヒートホーンで受け止め、肩のブレードプルーマを射出する。

 

「むっ! まさに全身凶器か」

 

 ハオウガンダムはプレードプルーマを刀で弾きながら後退する。

 距離を取った事でオメガバルバトス・アステールはハオウガンダムの上を取りアステールキャノンの発射体勢を取る。

 

「コイツはどう防ぐ」

 

 エネルギーがチャージされ、アステールキャノンが発射された。

 

「避ければフォースネストが持たんか」

 

 高出力のビームであるアステールキャノンをハオウガンダムは刀で切り裂く。

 ここで避けてしまえば自身のフォースネストである要塞に大打撃を与えられて完全に破壊されてしまう可能性がある。

 だが、刀で受け止められたビームは拡散し、フォースネストの広範囲に着弾し、被害を更に増やしていく。

 

 

 

 

「第二ラウンドは超高速バトルだ。ついて来られるか?」

 

 外装をパージしたガンダムX91は加速する。

 ビルドナラティブはビームを撃つが掠りもしない。

 

「何だ? 今、一瞬照準がずれた」

 

 優人が攻撃する直前にビームライフルの照準が少しづれた。

 今までにも射撃が回避された事はあるが、直前に照準がずれた事は一度もない。

 戸惑う時間すらも与えずにガンダムX91はビームサーベルで切りかかってくる。

 何とかシールドで弾きビームを撃つもやはり照準は微妙にずれる。

 

「どうした! どうした!」

「くっ! 考えるのは後だ!」

 

 シールドでビームサーベルを防ぎながらバルカンで応戦する。

 しかし、バルカンの照準も少しずれて当たらない。

 

「バルカンも駄目か!」

「そんなもんか! あぁ?」

 

 ガンダムX91の猛攻を何とか防ぎながらも目が慣れてガンダムX91の動きを追えるようになってきた。

 

「あれは……残像? そうか! 照準の狂いは残像をロックしているからなのか」

 

 優人はバルカンやビームライフルの照準の狂いの原因にたどり着いた。

 ガンダムX91は移動時はガンダムF91の最大稼働状態と同じ状態になっている。

 それによって発生した質量を持った残像を自分のガンプラがロックすることで射撃武器の精度を著しく低下させる機能を持っている。

 

「なら射撃武器は駄目か……」

 

 何とか本体を狙おうとするが、照準は質量を持った残像の方を捉えてしまう。

 

「どういうこった! やっぱバトルは白兵でないとな!」

 

 ガンダムX91の攻撃をビルドナラティブはバックパックのブラストシルエットをパージしてガンダムX91の方にぶつける。

 射撃武器とは違い照準補正を使わずに向かわせているため、狙いがずれる事も無かった。

 

「はっ! その程度!」

 

 ガンダムX91はブラストシルエットをビームサーベルで切り裂こうとするが、その前にビルドナラティブはバルカンを撃ち込み、ブラストシルエットを爆散させる。

 

「ちっ! 小癪な事してくれるじゃねぇかよ! オイ!」

 

 ビームシールドで爆風から身を守っているとエクシアアーマーに換装したビルドナラティブがGNソードで切りかかる。

 

「今度はエクシアかぁ!」

 

 GNソードをビームサーベルで受け止める。

 

「なら当然持ってんだろ! 使って見せろよ!」

「この機動力に対抗するには……トランザム!」

 

 エクシアアーマーのビルドナラティブはトランザムを起動する。

 ガンダムX91を弾き飛ばすとGNソードをパージしてGNビームサーベルを抜く。

 ガンダムX91との高速戦闘においてはGNソードでは対応しきれない。

 

「来いよ!」

 

 トランザムを起動させたビルドナラティブと最大稼働状態のガンダムX91は高速で移動しながら何度もぶつかり合う。

 

「そうだ! もっとだ! もっと俺を楽しませて見せろよぉ!」

「っ! トランザムでも攻めきれない!」

 

 ビルドナラティブの攻撃は全てガンダムX91に防がれている。

 高い機動力で動き続ける2機だったが、次第にビルドナラティブの方が押され始めている。

 王武で経験を積んで実力をつけたからこそ、キャプテンネロを相手にここまで戦えるようになったが、それでもなおキャプテンネロとの実力差はあり、バトルが長引くとその差が表れて来た。

 

「それで終わりかぁ!」

 

 ビームサーベルがビルドナラティブの右腕を切り落とすと、ガンダムX91はビルドナラティブを蹴り飛ばし、地面に叩きつけられる。

 体勢を立て直そうとするが、トランザムの限界時間を迎えてトランザムが解除される。

 

「……終わりか」

「ここまでなのか……いや、まだ何か……何か手があるはずだ」

 

 キャプテンネロは不完全燃焼で目に見えて落胆した様子を見せる。

 トランザムを限界時間まで使った事でビルドナラティブの機体性能は一時的に低下している。

 それでも優人は諦めずに勝利への可能性を模索する。

 

「まぁ少しは楽しめたぜ」

 

 ガンダムX91はビルドナラティブに留めを刺すためにビームサーベルを構えて突っ込む。

 絶対絶命でもはや打つ手もなく、諦めかけていたその時、壁をぶち破り何かがガンダムX91の方に飛んできた。

 とっさにガンダムX91はビームシールドで身を守るが、ビームシールドごと腕が粉砕され地面に叩きつけられる。

 

「……一体何が?」

「くそったれがぁ! ウィルの次はお前が俺の邪魔をするのかぁ!」

 

 優人を救った物に見覚えがあった。

 それはオメガバルバトス・アステールのバーストメイスカスタムだった。

 どういう訳かバーストメイスカスタムが壁を突き破り飛んで来て優人を救ったようだ。

 優人も事態が飲み込めず、動けなくなったガンプラの中で大我への恨み言や文句を喚き散らずキャプテンネロの声も聞こえない。

 そして、バーストメイスカスタムが飛んできた壁をぶち破り、オメガバルバトス・アステールとはハオウガンダムが現れる。

 

「あのバルバトス……それにあのガンプラは確か……」

 

 優人もレンジから過去のバトルのログデータをいくつか見せられた事があった。

 その時に王武のリーダーであるジードのハオウガンダムを見ている。

 2機はビルドナラティブにもガンダムX91にも目もくれずに激しく切り合う。

 ハオウガンダムの一閃でオメガバルバトス・アステールの左腕のチェーンソーブレードが両断されるが、ワイヤーブレードを刀で受けたせいでハオウガンダムの刀が砕かれる。

 

「凄い。あのリトルタイガーを相手に一歩も引いていない」

 

 優人にとってGBNで出会ったダイバーの中で大我はぶっちぎりで最強のダイバーだろう。

 だが、そんな大我を相手にジードは互角の戦いを繰り広げている。

 刀を砕かれたハオウガンダムは両手にビームサーベルを持ち切りかかる。

 オメガバルバトス・アステールは胸部の大口径バルカンで迎撃する。

 

「ぶっ潰し甲斐がある」

「少しの気の緩みも命とりか」

 

 攻撃をかわしながらハオウガンダムは間合いを詰めようとする。

 オメガバルバトス・アステールのビームをハオウガンダムはビームサーベルで切り裂く。

 互いのリーダー機同士の戦いの余波による被害は周囲をも巻き込んでいく。

 元々、タイガ団の攻撃を受け続けていた要塞は耐え切れずについには至る所で崩壊していく。

 

「まずい!」

 

 天井が崩壊し、瓦礫の雨がビルドナラティブを襲う。

 

「これがトップクラスのダイバー同士の戦いなのか」

 

 ビルドナラティブは装甲の厚いタイタスアーマーに換装して瓦礫から身を守る。

 すでに大我たちは戦闘しながらどこかに行ったのか、戦闘音が遠くから聞こえる。

 

「ユート。無事だったのね」

「クレイン? 何とかな」

 

 要塞の崩壊で防衛線を放棄した千鶴のメテオイージスが優人と合流する。

 

「それにしても滅茶苦茶ね」

「だな。ヤガミ達は?」

「分からないわ」

 

 これだけ要塞が滅茶苦茶に破壊されてしまえば分散している仲間の安否を確かめるのも難しい。

 仲間の安否を考える間もなく警告のアラートがなり2人は身構える。

 

「敵!」

 

 カティアのヨーシエピオンがメテオイージスの懐に入り込みビームソードでロングビームライフルを破壊する。

 

「懐に入られた!」

「いくら射撃能力が高くてもここは私の間合い! アンタの男と兄にはいつも面倒をかけられているの。その鬱憤を払ってもらうわ」

 

 メテオイージスは腕部のビームサーベルを展開して振るうが、ヨーシエピオンのビームソードで右腕を切られる。

 

「クレイン!」

 

 ビルドナラティブが肩からビームを出してタックルするが、ヨーシエピオンはビームソードで受け止める。

 

「邪魔を!」

 

 ヨーシエピオンは膝からビームサーベルを出して膝蹴りでビルドナラティブの頭部を狙うが、ギリギリのところで避けられる。

 メテオイージスはその間に距離を取ると2機にミサイルが降り注ぐ。

 

「さっさと逃げるのよ!」

 

 ファントムレディのザクファントムソードがビーム突撃銃でヨーシエピオンをけん制する。

 撤退をしようとするも、要塞の崩落で中々逃げる事も出来ずにうろうろとしていたが、優人達を見つけて一人で逃げるよりかは生存率が上がると助けに入った。

 

「カティアさん! これ以上は!」

「ええ……そうね」

 

 近くで戦闘していたグレイズの何機かが集まってくる。

 すでに大我が相手の大将であるジードと交戦が開始されたという情報はタイガ団やグレイズアーミィにも届いている。

 後は大我がジードを討ち取るだけだ。

 

「命拾いしたわね」

 

 カティアもこれ以上の深追いをする気はなく、合流したグレイズと共に後退を始める。

 

「リョーマさん!」

「ジンか。無事だったか」

 

 レンジを倒した龍牙がビームナックルでNPDアストレイを殴り飛ばす。

 

「ええ。まぁ……それよりどうなってるんですか? この状況」

「ずいぶんと派手に暴れるんだよ。ウチの団長がな」

「……なるほど」

 

 龍牙もここまで要塞が破壊される理由に納得する。

 

「けど、あのガンプラってクロスボーンハウンドのですよね」

 

 諒真の近くにはガンダムX91を回収したローグ・ユーゴーや生き残ったローグ・ロディがいる。

 龍牙もクロスボーンハウンドがバトルに飛び入りで参加している事は知っていたが、キャプテンネロがあそこまで機体を損傷させたのは意外ではあった。

 

「ああ……大我の流れ弾に当たったらしい」

「……なるほど」

 

 諒真もノワールたちと共にキャプテンネロを回収した時に散々罵倒された。

 龍牙も大我がバトルの時に友軍機への流れ弾による被害を一切気にしない事は知っている。

 大我にとっては自分の攻撃の流れ弾が当たるところにいる方が悪い。

 

「とにかく、後は俺らの団長が勝つのを待つだけだな」

「ですね」

 

 フォースの絶対的エースである大我が負ける事は龍牙や諒真にとってはあり得ない事で、後はただ自分がやられないようにしながらエースの勝利を待つだけだ。

 

「どうした? そんなもんか覇王の力は」

 

 オメガバルバトス・アステールは右腕のチェーンソーブレードをガンモードにして撃つ。

 ハオウガンダムはビームサーベルで弾丸をはじく。

 

「これほどまでとはな……いや、覇王だ何だと言われ、大きくなったフォースの運営に明け暮れ、いつの間にか爪も牙もさび付いていたようだ」

 

 ジードも始めたはただひたすら己の強さを求めづ付けてきた。

 そして、そんなジードを多くのダイバーが慕い王武が生まれた。

 自分を慕うダイバー達を無碍にも出来ず、皆が実力を磨くためのフォースとして王武を維持している間にジード自身は自らの鍛錬に使う時間が少なくなってきた。

 

「礼を言おう。リトルタイガー。君のお陰で俺はまだ強くなれそうだ」

 

 ハオウガンダムはビームサーベルを腰に戻すとエクスカリバー弐を取る。

 

「今日だけは王武のリーダーとしてではなく、一人の獣に帰り、ただひたすら貪欲に勝利を求めよう!」

 

 エクスカリバー弐の峰を合わせる事で柄同士を連結させたアンビデクストラスフォームとは違う形態である覇王剣になることが出来るようになっている。

 

「あっそ」

 

 オメガバルバトス・アステールはチェーンソーブレードをソードモードにして切りかかる。

 その一撃をハオウガンダムは覇王剣で受け止める。

 

「そっちの事情なんて知るかよ。俺はアンタをぶっ潰すだけだ」

「確かにな」

 

 オメガバルバトス・アステールはドリルニーを繰り出すが、ハオウガンダムは後ろに引いてかわすと引いた勢いで機体を一回転させて勢いをつけて覇王剣を振るう。

 チェーンソーブレードを振るうが、勢いをつけた覇王剣を受け止めきれずに付け根の部分からもげてしまう。

 

「ちっ」

 

 チェーンソーブレードを失いながらも左足を蹴り上げるが、ハオウガンダムは覇王剣を振るった勢いを利用して回避する。

 一度距離を取られるが、すぐさまシド丸のビームライフルで追撃する。

 

「はっ!」

 

 距離の間状態から覇王剣を振るうと覇王剣から巨大なビーム刃が形成され、オメガバルバトス・アステールを襲う。

 ビーム刃は要塞への損傷を無視しながらオメガバルバトス・アステールを飲み込むが、オメガバルバトス・アステールはトランザムGNフィールドを使い攻撃を防ぐ。

 

「ほう、この一撃を防ぐか。大した防御能力だな」

「次は攻撃能力を味わってみるか?」

 

 オメガバルバトス・アステールは距離を詰めると、ハオウガンダムに爪を突き立てる。

 それを腕の小型シールドで防ぎ、覇王剣で突き返す。

 ギリギリのところでかわすが、覇王剣はバックパックのシド丸の翼に突き刺さる。

 

「これならまともに振れないだろ?」

 

 覇王剣の間合いよりも近くに入り込んだ上で、シド丸を使って大我は覇王剣を封じ込めた。

 距離を詰めてハオウガンダムにドリルニーを突き出すが、ハオウガンダムは覇王剣を手放して避ける。

 

「覇王剣だけが俺のハオウガンダムの武器ではない!」

 

 ハオウガンダムは両腕の小型シールドの先端部のビームクローを展開する。

 オメガバルバトス・アステールもシド丸をパージしてテイルメイスから柄を伸ばして通常のメイスとする。

 ハオウガンダムのビームクローとオメガバルバトスのメイスがぶつかり合う。

 

「まったく……大したものだ。だが、それだけの実力を持ちながらリュウオウにレギオンに降る?」

「は? 俺は別に降ってねーし」

 

 オメガバルバトスはハオウガンダムを弾き飛ばす。

 

「ただ、ウチの参謀が今はそうしとけっていうから仕方がなくそうしてるだけだ」

 

 オメガバルバトスは腰のワイヤーブレードを射出し、ハオウガンダムは1つはシールドで弾き、もう1つは蹴り飛ばす。

 その間にオメガバルバトスは距離を詰めてメイスを振り下ろす。

 

「来るべき時の為に今は耐える時だってさ」

「来るべき時だと?」

 

 メイスを回避したハオウガンダムはロケットアンカーを射出する。

 

「ああ。俺がこのGBNで頂点を取る時だってさ」

 

 オメガバルバトスはメイスでロケットアンカーを弾き、ハオウガンダムは両肩のビームブーメランを投げる。

 

「頂点だと? 本気で……」

 

 オメガバルバトスはGNフィールドでビームブーメランを弾くとメイスを投擲する。

 メイスをシールドで防ぐが、体勢を崩す。

 

「まぁ俺は最強だし、リュウオウの奴が火星圏を掌握した時にでもぶっ潰せば一々雑魚を相手にコツコツと勢力を広げる手間もなく一度で火星圏は俺たちのもんだ」

 

 大我の話は実現性に乏しいないようだった。

 仮にリュウオウ率いるレギオンが火星圏全域を勢力下においたとして、そこまで勢力を広げたレギオンの戦力はどんでもない物となり、いくらタイガ団の精鋭を持ってしても勝ち目はないように思える。

 だが、大我の言葉からは自分が負けるはずがないという絶対的な自信があり力強い。

 それこそ、本当にそれが可能なのかと思ってしまうほどにだ。

 

「馬鹿げている」

「俺は最強だ。だから神だろうと皇帝だろうとぶっ潰す。覇王だってな」

 

 オメガバルバトスはパージしたシド丸から覇王剣を強引に抜き取って突っ込む。

 

「馬鹿げている……そのはずなのに」

 

 覇王剣をシールドで反らそうとするもシールドは破壊され、ビームサーベルを突き出す。

 ビームサーベルをギリギリのところまで引き付けてかわすと、ハオウガンダムを殴りつける。

 

「何故だ……何故、それを俺に話す?」

 

 ハオウガンダムは殴り飛ばされながらも踏みとどまる。

 そして、ジードは大我に問う。

 大我の話している事はいずれはレギオンを裏切るという事だ。

 いくら王武とレギオンの仲がこうしてバトルになるような仲とは言え部外者に話せばどこで情報が洩れるか分からない。

 

「諒ちゃんからこのバトルで一つだけ頼まれている事があってさ」

 

 オメガバルバトスは覇王剣を突き出す。

 

「ジード。アンタを俺たちタイガ団の下につくように勧誘して来いって」

 

 覇王剣はハオウガンダムの胸部に突き刺ささり倒れる。

 

「何……だと」

「アンタは俺ほどじゃないけど結構強かったよ。だから、俺の下に入れてやるよ」

「……お前の下に付くメリットはないな」

 

 ジードにとってはアナザーワールドでの勢力争いに興味はない。

 

「知るか」

 

 大我の一蹴にジードはただ唖然とする。

 

「俺ほどではないにしてもそれだけの実力をお前は何のために使う? どうせ鍛えるだけなら俺の為に使え」

 

 どこまでも自分本位な理屈だが、不思議とジードは不快にはならなかった。

 ジード自身、ただバトルの実力を磨いてきたが、その先に関しては明確な目的はない。

 個人ランキング5位という順位もただ高難度のミッションや実力者を相手に戦い続けてきた結果に過ぎず、順位を上げる事には興味はなかった。

 ただ自分がどこまで強くなれるのかをひたすら鍛錬を続けてきた。

 そこに大我の自分本位な理屈がピタリとはまったような気がした。

 

「くっ……はっははは!」

 

 ジードは思わず声を上げて笑う。

 

「面白い。良いだろう。お前がどこまでやれるか見届けよう」

「決まりだな」

 

 大我とジードの戦いに決着がつき、要塞内では小競り合いの音しか聞こえてはこない。

 

「戦場の全機に告げる。現時点を持って俺たち王武はタイガ団の傘下に入る事が決まった」

 

 要塞内にジードからの通信が入る。

 通信が入り少しすると戦闘の音が聞こえなくなる。

 

「文句のあるやつはかかって来い。全部、俺がぶっ潰す」

 

 大我がジードに続きそう告げる。

 ジードの敗北と判断に納得がいかないのであれば大我は実力行使で認めさせるつもりだ。

 バトルを生き延びた王武のダイバー達は自分たちのリーダーが敗北した事実に驚き呆然とするダイバーも多い。

 だが、誰も大我に挑もうとするダイバーはいなかった。

 ジードですら勝てなかった大我に挑むだけの気概のあるダイバーはもう残ってはいない。

 誰一人として大我に挑むダイバーはおらず、こうしてタイガ団と王武とのバトルはタイガ団の勝利となり、この結果はGBN中に広まる事となる。

 



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ダイバー連合VSBD同盟

 

 

 

 タイガ団と王武とのバトルにより王武のフォースネストは陥落した。

 その後、王武が正式にタイガ団の参加に入る事が公表されアナザーワールドの火星圏の勢力図が塗り替わる事となった。

 バトルの影響でフォースネストに大打撃を受けた王武だが、今までは基本的に誰でも自由に出入り出来ていたが、現在は王武所属のダイバーかタイガ団やその傘下のフォースのみが出入り可能で、それ以外のダイバーの出入りは禁止となっている。

 

「そういう訳だ。受け入れられない者はフォースを去るなり、今後の作戦行動を拒否することは了承させている」

 

 ジードは指令室だった部屋でフォースのメンバーに今後の身の振り方を問う。

 王武はタイガ団の傘下に入り、関節的にレギオンの傘下にもなった。

 今後は今までのように自らの実力を高めるだけでなく、レギオンからの指示で動かなければならない事もある。

 フォースのメンバーの中にはそれが嫌なダイバーもいるだろう。

 そんなダイバー達が王武を抜ける事も作戦内容によっては拒否できる事をジードはタイガ団の傘下に入る条件として出してタイガ団側からも了承を得ている。

 

「何言ってんすか。ジードさん。そりゃ奇襲みたいなやり方だったですけど、俺たちは真向から戦い、真向から叩きのめされたんですよ。まぁレギオンのやり方は気に入りませんけど、俺たちは皆、ジードさんについていきますよ」

 

 ナンバー2であるレンジがメンバーを代表して答える。

 レギオンは無駄な戦闘は避けるために圧倒的な武力をチラつかせて相手の戦意を折って傘下に入れる事が基本的なやり方だ。

 ダイバーによってはそのやり方は弱肉強食のアナザーワールドでは力ではなく対話により勢力を拡大させる平和主義として一定の評価をされている。

 だが、王武のダイバーからすればそんなやり方よりもタイガ団のように自分たちの力で相手をねじ伏せるやり方の方が好感を持てる。

 だからこそ、ジードを真向から実力でねじ伏せた大我に対しても遺恨はなく、むしろジードに勝った事で言動はともかくとして実力に関しては敬意すら持っている。

 

「お前ら……」

「レギオンの奴らに王武の実力を見せつけてやりましょうよ!」

「話しは纏まったか?」

 

 タイミングを見計らうかのように大我が入ってくる。

 

「ああ」

「んじゃジードは俺と共に宇宙に上がってもらう。なんかリュウオウの奴から呼び出しがあったから」

 

 すでに王武を傘下に入れたという事はレギオンのリーダーであるリュウオウに報告している。

 そのことで大我とジードはレギオンのフォースネストへ呼び出しを受けていた。

 

「分かった。レンジ、ショウゲン。留守を任せる」

「うす」

「心得ました」

 

 ジードもフォースネストの復興作業の指揮をレンジとショウゲンに任せた。

 その後、二人はガンプラでレギオンが確保しているシャトルの打ち上げ施設へと向かい宇宙に上がる。

 宇宙に上がるとシャトルから離脱し、レギオンのフォースネストへと向かう。

 

「あれがセカンドムーンか。実際に見ると相当な大きさだな」

「まぁ俺なら余裕で落とせるけどな」

 

 2機はレギオンのフォースネストであるセカンドムーンに接近する。

 ヴェイガンの本拠地のコロニーをレギオンはフォースネストとして使っている、

 

「タイガ団のリトルタイガーさんと王武のジードさんですね。リュウオウ様から話は受けています」

 

 セカンドムーンに接近すると、数機のダナジンが近づいてくるが、すでに大我とジードが来る事は聞いていたため、フォースネストへと案内される。

 二人は格納庫にガンプラを置いて降りて来る。

 そのまま、レギオンのダイバーにフォースネスト内の総司令部まで案内されて、その中のブリーフィングルームに通された。

 

「あ?」

「君が来るなんて珍しい」

 

 ブリーフィングルームの中央には円形の机が設置され、そこにはクロスボーンハウンドのキャプテンネロとエルダイバーズのウィルがいた。

 キャプテンネロは退屈そうに机に脚を載せた状態で座り大我を一瞥する。

 

「リュウオウから直々に来るように言われてるんだよ。俺だって面倒だから来たくはねぇよ」

 

 大我は空いていた席に座ると、ジードもそれに続く。

 

「やぁ待たせたね」

 

 少ししたことになるとレギオンのリーダーであるリュウオウがブリーフィングルームに入ってくる。

 リュウオウは少年型のアバターに白いローブと龍の手に赤い球体状の宝石のついた杖を持ったダイバーで、その容姿と言動から一部では神の如く崇められている。

 その後ろには女性ダイバーのシンディと大柄でスキンヘッドに顔や腕に無数の傷を持つ歴戦の勇士を思わせる雰囲気を纏ったダイバー、ダントンが控えている。

 シンディは大我、キャプテンネロ、ウィルと並ぶ、レギオンの四天王の一画で、ダントンはリュウオウの右腕であり、四天王には数えられてはいないが、かつては個人ランキングでトップになったこともある実力者だ。

 現在、ブリーフィングルームにはレギオンの最高戦力が揃った事になる。

 

「まずはリトルタイガー。今回の働きはご苦労だったね。まさかあの王武を仲間に引き入れるなんてね」

「そりゃどーも」

「それでジード。王武はいつから作戦行動に参加できるんだい? リョーマの報告だとすぐには無理だという話だけど?」

「さぁな。アンタらのせいでウチのフォースネストは滅茶苦茶になってるんだ。俺たちとしてはフォースネストの立て直しが最優先だ。メンバーもリアルやいろいろとやりたい事もあるだろうから何時になるかは分からん」

 

 ジードはここに来るまでに諒真から受けていた指示通りに答える。

 王武を傘下に入れたタイガ団だったが、レギオンの好き勝手に王武の力を使わせる気はなかった。

 タイガ団とのバトルで崩壊したフォースネストの修復を理由に本格的な参加を先延ばしにする算段だ。

 

「そうか。確かにそれは最優先事項だね」

 

 リュウオウもあっさりとジードの言い分を受け入れた。

 レギオンとしても強引に作戦行動に参加させてはいろいろと面倒な事になるから無理強いは出来ない。

 

「で、俺らまで呼んだ用はなんだよ? 俺らはアンタらと違って暇じゃないんだよ」

 

 キャプテンネロは皮肉交じりでそういう。

 リュウオウに心酔しているシンディはキャプテンネロに対する敵意を隠そうともしないが、リュウオウは気にした様子も見せない。

 

「ダイバー連合の事は君たちも知っているよね」

「ええ。ブレイクデカールを使うダイバーに対抗するためにいくつかのフォースが結託した奴ですね」

「ああ。あのくだらねぇ奴か」

 

 ウィルもキャプテンネロもダイバー連合の事は知っているようだ。

 大我はその話に全く興味を示そうともしない。

 

「くだらないかはさておき、最近のマスダイバーの悪質な行動は少々目に余る物がある。レギオン傘下のフォースにも被害が出ているようだしね」

「ブレイクデカールを使う連中もそいつ等にやられる連中も雑魚なだけだろ」

「彼らは我々のように力があるわけじゃないからね。けど、これ以上は僕たちも見過ごす訳にもいかない。そこでレギオンはダイバー連合への参加を決めた」

 

 リュウオウは最近増えているブレイクデカールを使い悪質なプレイをするダイバーをこれ以上は野放しにはできないと考え、レギオンはダイバー連合に参加してBD同盟と戦う事をm決めたようだ。

 

「そこで近々マスダイバーの大規模な掃討作戦が実行されることになった君たちにもその作戦行動への参加を頼みたい」

 

 リュウオウが大我たちを集めたのはジードとの顔合わせというよりもそれが本題だった。

 レギオンがダイバー連合に参加し、大規模なバトルを仕掛ける事が決まったが、戦力の確保としてレギオン傘下の中でも力のあるタイガ団やクロスボーンハウンド、エルダイバーズの参加を望んでいる。

 

「やだね。ンな事に興味はねぇし、俺らも王武との戦いで消耗してんだ。そんなくだらない事に参加する気はないね」

「王武もそんな余裕はない」

 

 クロスボーンハウンドと王武はすぐに拒否する。

 どちらも先のバトルでの損失が大きく立て直す時間が必要だという理由だ。

 

「エルダイバーズは問題ないですね。ただ、作戦の日時によってはフルメンバーでの参加は難しいかも知れない」

「俺らもリアルの事情で参加できるかは分からん。参加するとしても俺らは俺らのやりたいようにやるからそれだけは覚えておけよ」

 

 結局、参加する気のあるのはウィルのエルダイバーズだけのようだ。

 リュウオウも不参加を表明しているクロスボーンハウンドや王武に強制することはない。

 

「分かった。気が変わったらいつでも力を貸して欲しい」

 

 リュウオウはそう締めるとその日は解散となった。

 

「レギオンの加わったダイバー連合とRが集めたブレイクデカールを使うBD同盟……」

「ずいぶんとご機嫌ね。珍しい」

 

 話が終わり、セカンドムーンの裏路地を歩いていたウィルをファントムレディが呼び止める。

 

「ああ。君か、あの方の予測よりもかなり早いが計画は順調に進んでいるからね。それよりも彼の方はどうだ? この大規模バトルには彼も参加させて欲しいけど。あのガンプラの進化には更なる戦いが必要だ」

 

 余り表情を崩す事のないウィルだったが、想定よりも早く状況が動いている事で珍しく感情を表に出していたようだ。

 

「王武が落ちて少しは気落ちしてるけど、まぁ問題はないわ。それよりも大丈夫なの? あの方の計画ではこれだけの規模のバトルはもう少し先になるはずでしょ?」

 

 ウィルとは対照的にファントムレディは順調にいき過ぎている事の方が気がかりのようだ。

 

「心配性だな」

「当然でしょ。私たちは彼らとは違う。彼らは何度でもやり直せる。でも……私たちはそうはいかない。分かってるでしょ?」

「だからこそだよ。あの方も言っていただろ? 僕たちはここでは劣る存在だ。それ故に計画は一日でも早く実行に移さなければならない。取返しのつかない事になる前にね」

 

 ウィルとファントムレディは目的こそは一緒のようだが、考え方は違うようだ。

 失敗は許されないからこそ、慎重に事を運ぶべきだと考えるファントムレディに対して、ウィルは失敗が許されないからこそ、余計な邪魔が入る前に一気に最後まで突き進むべきだと考えている。

 

「まぁそれを考えるのは僕でも君でもないあの方だよ」

「分かってるわ」

「君はそのまま彼の監視と護衛を頼むよ」

 

 ウィルはそれだけ言うと人通りの多い表道に向かい人込みに紛れる。

 

「分かってるわ。私たちにはそれしかない事くらい。だからなんとしても実現して見せるわ」

 

 ファントムレディは自分に言い聞かせながら、その場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うぃーす」

 

 龍牙は都内にあるアーウィントイカンパニー日本支社を訪れた。

 龍牙は諒真たちとは違い、普段は大学に通いここではバイト扱いで出入りしている。

 

「何かいつもより慌ただしくね?」

「例の奴がそろそろ始まりそうなのよ」

 

 オフィス内ではワークスチーム以外の社員も普段よりも忙しそうに働いでいた。

 カティアに尋ねてみて龍牙も納得した。

 ここ数日の間でGBNではダイバー連合とBD同盟との間で緊張状態が強まりついに双方の間で大規模なフォースバトルが行われる事となった。

 それによりダイバー連合が勝った場合は今後ブレイクデカールの使用を全面的に禁止し、DB同盟が勝った場合はブレイクデカールの使用に口を出さないと取り決められた。

 龍牙はカティアと共にワークスチームのスタッフルームに向かう。

 

「また泊まり?」

 

 スタッフルームにはいくつかの寝袋が無造作におかれている。

 恐らくは諒真らがGBNで何か動きがあった時の為に会社に泊まり込んでいるのだろう。

 

「主任はね。他2人はもう住み着いているでしょ」

「確かに」

 

 諒真は普段は泊まり込みはしないが、大我とリヴィエールの2人は会社に住み着いていると言っても過言ではない。

 大我も今は実家を出て都内のアパートの諒真の隣の部屋を借りて一人暮らしをしていた。

 だが、いつの間にか社内の普段は使っていない会議室にいつの間にか大我の私物が増えていき、現在では半ば占拠して会社で寝泊まりしている。

 同様にリヴィエールも用意された自分の研究室で寝泊まりをしている。

 

「諒さん。ダイバー連合とGB同盟のバトルが始まりそうなんですよね? 俺らはどうします?」

「ああ……まぁ待機しといてくれ。今回ばかりは大我一人にやらせる」

 

 龍牙もタイガ団として今回の一件でどう動くかは余り聞いていない。

 分かっている事は表立っては不参加という事だ。

 

「流石にタイガ団全体で動く訳にもいかないし、この作戦は大我が出る事がベストだ。というかアイツにしか務まらん」

「……それだけで何となくわかりました」

 

 龍牙も大我にしかできない作戦という事でまともな作戦ではないという事は分かった。

 

「それよりもさ、龍牙にカティアはブレイクデカールを作ってばらまいた奴って何を考えていると思う?」

 

 諒真が話題を変える。

 今でこそは広まっているブレイクデカールだが、そもそも誰が作って何の目的で広めたかはいまだに分かってはいない。

 この場で結論が出る事はないが、空いた時間を潰す議論くらいにはなるだろう。

 

「そうっすね。やっぱ手軽さ的に初心者とか低ランクダイバーの支援目的とかですかね?」

 

 ブレイクデカールの開発者の目的として考えられている理由の一つはそれだ。

 使うだけで簡単にガンプラを強化できるブレイクデカールは始めたばかりの初心者ダイバーやいくら練習しても実力の付かない低ランクのダイバーにとっては簡単にある程度の力を得る事が出来る。

 

「けど、短絡過ぎない?」

「確かに簡単だが、簡単過ぎて長期的に見れば余り良いやり方とは言えないからな」

 

 ブレイクデカールは手軽に力を得られるが、手軽故にそれで力を得たダイバーは自らの操縦技術やガンプラの制作技術、高難度ミッションをクリアするための思考などの努力を軽視する傾向にある。

 それを使えばそんなことをする必要もなく力を手にれる事が出来るのであれば、わざわざ時間や労力を使ってまでそんなことをする必要はないと楽な方に行きがちだ。

 実際にそれで自分は強くなったと勘違いしたダイバーが高ランクのダイバーに挑み、手も足も出せずに負けて心が折れてGBNを止めるケースも少なくはない。

 支援目的と考えるなら手軽に力を得れるブレイクデカールは短期的に見ればある程度は有効的な手段かも知れないが、長期的に見ればそれだけではダイバーの成長にはつながらない。

 

「ですよね」

「ならさ、今のこの状況とか?」

 

 作業をしていたリヴィエールが手を止める。

 

「この状況?」

「そっ。今のGBNはブレイクデカールの事で割れてるでしょ。製作者はその状況を作りたかったんじゃないの?」

 

 リヴィエールの推測では今のGBNで起きている事が目的である可能性という事だ。

 ブレイクデカールは運営が違法ツールである可能性は極めて低いという見解を出した事で、肯定派と否定派の意見は大きく割れている。

 運営が禁止していなければ使っても問題はないと主張する肯定派と簡単に力を得る事の出来るブレイクデカールは使うべきではないと主張する否定派。

 どちらも譲る事も相手の考えを認める事も無く、大規模なバトルにまで発展している。

 

「けど、そんなことをするメリットはなんだ?」

「これ見て」

 

 リヴィエールはいくつかのデータを諒真たちに見せる。

 

「運営がまとめたデータだけど、ブレイクデカールが出回ってから新規で登録したダイバーが1週間以内にアカウントを削除した数と1か月以上ログインしなかったダイバーの数をまとめてるんだけど、ブレイクデカールが出回る以前と比べると倍以上も増えてる。同じように既存のダイバーが長期に渡るログインしないダイバーやアカウントを削除するダイバーの数もかなり増えてるわ」

 

 データを軽く見るだけでも素人の龍牙ですら、新しく始めたダイバーや既存のダイバーがGBNから離れていく数はそれ以前と比べて目に見て増えている事が分かる。

 アカウントの削除時には任意で削除の理由のアンケートが取られているが、その多くがGBNの治安の悪さが原因とされている。

 

「確かにデータとして見せられると納得できるけど、確実性に乏しくない?」

「こうなる確率としては1000%と言っても良いわね」

 

 ブレイクデカールを使ったGBNの治安の悪化説には確実性がないようにも見える。

 実際にGBNの治安が悪くなっているのは否定派と肯定派が互いの言い分を認めないからで、場合によってはどちらかの意見で纏まる事だってあり得た。

 しかし、それをリヴィエールは一蹴する。

 

「その根拠は?」

「そりゃGBNをプレイしているダイバーの大半がガノタだからよ」

 

 そう言い切るリヴィエールに諒真たちは呆気にとられるが、リヴィエールは止まらない。

 

「ガノタって生き物はね。自分の考えが絶対でそれに反するものは決して認めないのよ。自分の好きな作品は絶対で一切の批判は認めないし、嫌いな作品は決して駄作であること以外は認めない。普通のファンからすれば時には信者や作品やキャラを神格化し過ぎてあり得ないレベルで美化しキャラの設定や思考すらも捻じ曲げる。アンチも同様ね。徹底的に悪意的に解釈して批判する。そうして、自分の考えに賛同しない相手を徹底的にこき下ろして排除する」

 

 リヴィエールの言葉は極端すぎるが、納得できる部分もある。

 掲示板などでガンダムを語り合う時に必ず出て来るのが度を越した信者とアンチだ。

 数多くの作品の中で全ての作品を万遍なく受け入れ愛す事の出来るファンは稀で特にハマった作品や逆に自分とは合わない作品は必ず出て来る。

 そんな中でものめり込み過ぎて実際の作品とはかけ離れているレベルで美化する信者や異様なほど悪意を持って作品を見るアンチが存在する。

 普通のファンから見ればどちらの語る作品やキャラ、機体は一般的に認知されている実際の物とは大きくかけ離れてたものであることが大半だ。

 始めはそれは違うと反論するも、相手も自分の考えこそが正しいと異なる意見を認める事はない。

 そして、最終的に普通のファンは嫌気を刺して関わり合いにならないようになっていく。

 今のGBNもそれと同じような事が起きている。

 

「GBNだとアバターとは言え相手が見えるけど、相手の見えない掲示板だと面白いほどに醜い罵り合いになるからちょっと煽って燃料を投下してやればとんでもない勢いで燃え上がるわ。その炎がGBNにまで燃え移って今のGBNの状況に繋がっていると私は見るわね。実際に調べた限りでは議論の中で開発者かはともかく必ず煽り目的とみられる書き込みがあるもの」

「リヴィエールの考え通りならずいぶんと回りくどく陰湿だな」

 

 今のGBNの状況を作り出すためだとするなら、ブレイクデカールの開発者はとてつもなく陰湿な人物という事になる。

 この現状が続けばその先にあるのはGBNのダイバーの数が大幅に減少し、最後にはGBNのサービス終了だ。

 この状況が確実に起こると考えていても、回りくどく、GBNをダイバーたちの手でGBNを終了させようというのは真っ当な人間の考える事ではない。

 

「けど、なんでそんなことを?」

「ここまでするとなれば相当の恨みがありそうだな。その矛先がGBNやガンプラに対するものなのか、運営会社への物なのか、はたまた特に意味もない愉快犯なのか……どちらにせよ。いよいよ厄介な事になってきたな」

「まぁどっちにしろ、今はダイバー連合とBD同盟の一戦よ。最近は休暇も返上していろいろと仕込んだんだかね」

 

 現段階ではリヴィエールの意見が正しいかも分からない。

 これ以上は考えても答えにたどりつく事は出来ない。

 答えが出ない以上はここでの議論にこれ以上の意味もない。

 答えの出ない事で悩むよりも目先の戦いの事の方がよっぽど重要だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ダイバー連合とDB同盟のバトルの当日、優人達トライダイバーズはダイバー連合の艦隊の中のミネルバの格納庫で待機していた。

 王武での戦いでは自分の無力さを痛感した。

 あの後、レンジから連絡があり王武が悪いようにはならないという事を知り一安心したところにファントムレディがダイバー連合への参加を進めてきた。

 優人としてもブレイクデカールに関してはまだ良くは知らないため、賛成も反対もできないが、ブレイクデカールを使った悪質なプレイをするダイバーに関しては野放しにする訳にもいかないという思いはある。

 ダイバー連合の思想に共感した訳ではないが、大規模なバトルに参加する事は実践経験を得る場という意味では参加することに意義はある。

 

「それにしてもレギオンの本隊も参加して総数は300機になるなんてな」

「ああ。向こうは多く見積もっても100機程度なんだろ? 俺たちの出番はあるのか?」

 

 ガンプラで待機しながら優人とソラはこのバトルの事前の戦力情報を話す。

 ダイバー連合はリュウオウ率いるレギオンの本隊が加わり、当初の戦力を大幅に強化しガンプラの総数は300機となった。

 対するDB同盟のガンプラは100機程度と見られている。

 DB同盟のガンプラは全機がブレイクデカールを使ってくる事を考えても戦力はダイバー連合の方が優位になっている。

 

「そろそろ第一陣が交戦を始めるころだ」

 

 ダイバー連合は300機のガンプラを100機づつの編成にしている。

 トライダイバーズは最後の第三陣であるため、出番があるかは分からない。

 時間的には第一陣がDB同盟と接敵するころだろう。

 

「不正ツールを使うマスダイバー達に正義の鉄槌を下すのだ!」

 

 第一陣ではダイバー連合の中心ダイバー達が出撃しDB同盟を打ち倒すために気持ちを高めている。

 第一陣は旗艦のアークエンジェルを中心にアーガマやラー・カイラム、ディーヴァなどで艦隊が組まれている。

 ダイバー連合も数の差に油断をしていた訳ではない。

 突如、ビームがアークエンジェルのブリッジを撃ちぬき沈められる。

 

「アークエンジェルが! くっ! 先手を打たれたか!」

 

 旗艦であるアークエンジェルが沈められたもののダイバー連合の動きに乱れはなかった。

 事前の作戦会議の段階でブレイクデカールを使い奇襲を受ける可能性は十分に考えられた。

 

「各機! 来るぞ!」

 

 アークエンジェルが沈められると次々とDB同盟のガンプラの反応が出て来る。

 ブレイクデカールを使って補足されないようにしてたのか、敵の反応はすぐ近くから出て来る。

 

「何だ……この数は! ブレイクデカールで誤魔化しているのか!」

 

 第一陣の小隊長の一人がそう判断する。

 レーダーには次々と敵ガンプラに反応が増えてすでに100機を超えている。

 事前の調査でDB同盟のガンプラは多くても100機程度だという結論が出ているが、その数を遥かに勝っている。

 

「馬鹿な……」

 

 ブレイクデカールを使って自軍の数を誤魔化しているとも考えられたが、モニターに映る敵の大軍はブレイクデカールによる誤魔化しには見えない。

 

「ありえな……」

 

 小隊長の乗るガンプラがビームによって撃ちぬかれる。

 

「こんな事が……」

「嘘だろ……」

 

 DB同盟のガンプラからの攻撃で次々とダイバー連合のガンプラが撃墜され、戦艦が沈められていく。

 

「指令! 第一陣が全滅です!」

「馬鹿な……」

 

 第二陣を指揮する指令の元に第一陣が壊滅させられたという報告が入ってきた。

 第一陣だけで100機のガンプラがいた。

 それが開始数分で全滅するなどありえない。

 

「第一陣からの最後の報告では敵の数はおよそ……1000機です!」

 

 その報告に指令は唖然として言葉が出なかった。

 当初の予想の100機とはまさに桁違いの戦力である1000機もの数をBD同盟は用意していたのだ。

 それに対してダイバー連合は第一陣が全滅して残りは200機、レギオンの本隊が第三陣にいるとしても絶望させるには十分な戦力差だ。

 だが、今更逃げる事も出来ない。

 ダイバー連合とBD同盟との戦いは圧倒的な戦力差から始まった。

 



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ダイバー連合VSBD同盟Ⅱ

 

 

 ダイバー連合とBD同盟の間で起きた大規模なバトルは波乱の幕開けだった。

 当初はBD同盟が100機程度の数に対してダイバー同盟の総数は300機とダイバー同盟の方が数では有利だった。

 しかし、バトル開始早々BD同盟のガンプラは1000機近くあり、ダイバー同盟の第一陣を壊滅させた。

 

「事前予想の10倍の戦力を良く確保できたな」

 

 諒真がモニターを見ながらつぶやく。

 複数のモニターにはこの1戦の様子が映されている。

 

「ここまで集めるのは結構骨が折れたからね」

 

 リヴィエールがモニターに映る情報を解析しながらそう答える。

 

「何かいろいろとやったけど、これの事だったのか?」

「まぁね。今までの情報では数機がブレイクデカールを使った時のデータはあったけど、これだけの規模でブレイクデカールを使ったデータが欲しかったからサブ垢使って頑張ったわよ」

 

 現在のブレイクデカールに関するデータではこれだけの規模のバトルで多数のブレイクデカールが同時に使用された時のデータはない。

 そのデータを集めるためにリヴィエールはサブアカウントである「R」を使ってブレイクデカールを広めた。

 それでも足りない数は今日の日のためだけに人を雇って頭数を揃えた。

 

「でもこのままじゃダイバー同盟の全滅も時間の問題よね」

「まぁね。ダイバー同盟も案外ふがいないわ」

 

 圧倒的な数の差でダイバー同盟は総崩れになりつつある。

 今は第二陣が何とか持ちこたえているが、壊滅も時間の問題だ。

 そうなればまともにデータを集める前に勝負がついてしまう。

 

「仕方がないわ。大我を出させるけど良い?」

 

 リヴィエールは諒真の判断を仰ぐ。

 今回のバトルにタイガ団が不参加なのは大我たちが出るとBD同盟がまともにブレイクデカールを使いデータを得る前に終わってしまう事を危惧してのことだ。

 それでも想定外の事態に備え、大我にはGBNにログインしていつでも出られるように待機させている。

 

「そうだな……」

 

 諒真も現在の状況を踏まえてどうすべきが考えるが、やがて人の悪そうな笑みを浮かべる。

 

「いや、大我を出すのはまだ早い。ダイバー同盟にはまだレギオンのリュウオウがいるからな。ここでアイツらのデータも取っておきたい」

 

 戦況はBD同盟に傾いているが、ダイバー連合の第三陣にはリュウオウ率いるレギオンの本隊がいる。

 リュウオウ達であれば、この戦況を変えるだけの力は持っている。

 諒真としてはリュウオウに関するデータも集めておきたいところだった。

 

 

 

 

 

 第一陣が壊滅し、第二陣のガンプラも次々と母艦から出撃し戦闘が開始されている。

 

「マスダイバーが!」

 

 ガンダムF90がビームライフルを撃つ、G3ガンダムが回避するとハイパーバズーカを撃つ。

 バズーカの弾丸はブレイクデカールの効果でガンダムF90を追尾し、かわし切れずに直撃し破壊される。

 

「こんな奴らに!」

 

 フォビドゥンがビームを湾曲させてマスターガンダムを狙うが、マスターガンダムが手の平をかざすと、ビームは更に湾曲してフォビドゥンを貫く。

 

「ザコが!」

 

 サザビーがファンネルを射出するとファンネルの数が増えてダイバー連合のナスカ級を全方位から撃ちぬき鎮める。

 第一陣程ではないが、数の差に加えブレイクデカールを使い様々な力を使うガンプラに圧倒されている。

 

「ぶっ潰れろ!」

 

 AGE-1タイタスがブレイクデカールで腕部を巨大化させて殴り掛かるが、巨大化した腕部が切り裂かれた。

 そして、刃がAGE-1タイタスの胴体を切り裂き破壊する。

 

「ここまで浮足立つなんてね」

 

 AGE-1タイタスを仕留めたのはユウリのアーマードストライクだった。

 ユウリ自身はダイバー連合の思想はどうでも良かったが、以前から何度もブレイクデカールを使うダイバーに喧嘩を売られる事もあり、今回のバトルにも参加した。

 今回は乱戦も予測されることもあり、接近戦用の外装であるセイバーアーマードストライカーを装備してきた。

 セイバーアーマードストライカーはスサノオをモデルとして、2本の刀状のGNソードを持ち、胸部と両肩にはトライパニッシャー用の装甲と腕部にはガントレットが追加されている。

 腰にはGNドライヴを内蔵したサイドバインダーが追加されている。

 

「この戦いはダイバー連合の負けね」

 

 ユウリは戦いながらも状況を判断する。

 数の差もあり、ブレイクデカールで強化したガンプラをこの状況では覆す事は出来ない。

 

「まぁ私には関係のない事だけど」

 

 アーマードストライクはGNソードでマスターガンダムを切り裂く。

 サザビーのファンネルをバルカンで落としながらGNソードで切り裂くと、ビームがサザビーとG3ガンダムを撃ちぬく。

 

「三軍からの増援?」

 

 更に高出力のビームがDB同盟のガンプラを薙ぎ払う。

 そして、バード形態のビルドナラティブが到着するとMS形態に変形しバスターライフルを撃つ。

 

「このストライク……ユウリ?」

「ウイングもどき……ユートね」

 

 アーマードストライクはGNソードでウイングガンダムゼロを切り裂き、ビルドナラティブはバスターライフルを撃つ。

 

「何でこんなところに?」

「別に良いでしょ」

 

 ビルドナラティブはバスターライフルの残弾を使い切ったところでウイングアーマーをパージするとインパルスアーマーに換装する。

 

「今は押し返す方が先よ」

「分かってる」

 

 ビルドナラティブはオルトロスを前方に向けると、グフイグナイテットとメッサーを2機同時に撃ちぬく。

 ユートが到着してから少しすると他のトライダイバーズのガンプラも到着する。

 

「聞いてはいたけど、凄い数だな。こりゃ全滅も時間の問題じゃないか?」

「誘っておいてなんだけど、そうなる前に退散しない?」

 

 ユート達も敵の数が予想以上で予定よりも早く出撃することになったという事は出撃の時に聞いているが、流石にここまでの数だとは聞いていない。

 

「逃げたい気持ちは分かるけど、どうする? ユート」

「やろう。逃げても得る物はなくても、負けても失う物もないからな。どうせないなら戦えば少なからず経験は得られるし」

「ですよねー」

 

 ファントムレディもこういう時のユートの考えが分かってきた。

 勝ち目がないからと逃げたところでユート達は何も得る物はない。

 負けても失う物は撃墜ペナルティくらいでいくらでも補填は出来る。

 ここで戦う事は大規模戦闘での経験を得る事が出来るため、逃げるよりも戦って散った方がメリットとしてはある。

 

「そうですね。やれるだけはやりましょう」

「まぁそうね。逃げるよりかはマシよ」

 

 他のメンバーもこの状況で戦う事に異論はないようだ。

 流石にこのバトルに誘った手前、これ以上逃げる事も進める事も出来ず、ファントムレディも納得するしかなった。

 

 

 

 

 第三陣の中核を担っているのはレギオンの旗艦でもあるファ・レギオンだ。

 ヴェイガンのファ・ボーゼをベースにギガンテスの盾とディグマゼノン砲を小型化して装備した母艦だ。

 

「戦況は余りよくないようだね」

「第一陣が敵の奇襲により壊滅させられています」

「まったく……敵の奇襲すら見破れないとは情けない」

 

 ブリッジではリュウオウが前線での戦いを見ている。

 それをダントンが冷静に状況を把握し、シンディはただ第一陣の醜態を侮蔑している。

 

「仕方がないね。僕も出よう。ダントンとシンディもついてきて」

「了解しました」

「はっ!」

 

 リュウオウは指揮を部下に任せると格納庫に向かう。

 格納庫では搭載しているガンプラが順次出撃している。

 そこにリュウオウ達のガンプラも収容されている。

 リュウオウのガンプラはガンダムレギルスをベースにしたガンダムレギルス・マーズレクスだ。

 レギルスの両腕をバルバトス・ルプスレクスの物に変更し、肩と腰にはレギルスシールドを流用したビットの射出機構を持った装甲が取り付けられている。

 手持ちの武器にはギラーガスピアをベースにしたレギルスピアに腰のビームキャノンは取り外されており、代わりにルプスレクスのテイルブレードをベースにしたレギルステイルが装備されている。

 そして、火星を象徴する赤で塗装されている。

 その横にはシンディのガンプラ、ヴィオレファルシアが置かれている。

 フォーンファルシアをベースに背中のビットを収容するコンテナを取り外し、ギラーガのバックパックが取り付けられている。

 バックパックと膝にはビットの射出口が取り付けられている。

 掌にはヴェイガン系特有のビームバルカンは廃止されており、変わりにドラドの3連ビームバルカンの内臓された小型シールドをビームバルカンにビームサーベルの機能を追加させたものがついている。

 腰には接近戦用の武器であるファルシアブレードが装備され、尾のように長距離砲撃用のビームランチャーを持ち、どの距離でも安定した戦闘能力を持つ。

 ヴィオレファルシアの反対にはダントンのガンプラであるリーベン・レオーネ。

 リーベン・ヴォルフをベースにしたガンプラで、腕にはそれぞれバンシィのアームドアーマーアーマーSBとVNが装備され、バックパックはドーベン・ウルフの物に変更されている。

 頭部にはブレードアンテナが追加され、右手にはビームショットライフルを持っている。

 肩の装甲は大型化され、裏には大型のビームアックスが取り付けられている。

 

「さて行こうか」

 

 ファ・ボーゼから3機は出撃する。

 

「ダントン」

「了解」

 

 ダントンのリーベン・レオーナが前に出るとバックパックのバインダーを前方に向ける。

 バインダーのビームキャノンとミサイルを一斉掃射する。

 そこにヴィオレファルシアが足を止めてビームランチャーを構えてビームを撃つ。

 2機の砲撃で前方でいくつもの撃墜の光が発生するとガンダムレギルス・マーズレクスが加速する。

 

「何だあのレギルス?」

「見たことがあるぞ、レギオンのリュウオウのガンプラだ」

「怯むな! こっちにはブレイクデカールと数の差があるんだ!」

 

 BD同盟のフルアーマーガンダム(TB版)はレギルス・マーズレクスにビームとミサイルを撃つが、それを易々とかわして距離を詰める。

 

「馬鹿な!」

 

 レギルスピアから鎌状のビームを展開するサイスモードにしてフルアーマーガンダム(TB版)のシールドを2枚同時に切り裂き、胸部のビームバスターを至近距離から撃ち込み破壊する。

 

「まだだ!」

 

 ブレイクデカールで残像を出しながらクランシェとバリエントが高速で移動しながらレギルス・マーズレクスを挟み撃ちにしようとする。

 

「愚かだね。そんな不正ツールを使うなんてね」

 

 レギルス・マーズレクスの肩と腰の装甲から胞子ビットが展開される。

 胞子ビットはクランシェとバリエントを全方位から囲み破壊する。

 

「相手は一機なんだ囲め! 囲んでしまえば……うあぁ!」

 

 ガンダムサンドロック改は後方からのヴィオレファルシアのビームランチャーで上半身が吹き飛ぶ。

 

「いくら数で来ようとも」

 

 レギルス・マーズレクスは集中砲火をもろともしないで掻い潜り腕部の200ミリ砲でレックスノーを仕留め、レギルスピアの先端から楔状のビームをガンダムAGE-3 オービタルに撃つ。

 楔状のビームはAGE-3 オービタルを追尾して仕留める。

 

「不正ツールに頼る君たちには負けないよ」

 

 射出されたレギルステイルがシナンジュを貫く。

 

「こうなったら……俺が取り押さえる!」

 

 大型バックパックを身に纏うガンダムダンタリオンがレギルス・マーズレクスを押さえつけようとするが、レギルス・マーズレクスはレギルスピアの先端から巨大なビームを展開する超大型ビームメイスモードでダンタリオンを返り討ちにする。

 

「貰った!」

「甘いよ」

 

 シャイニングガンダムとゲルググJがレギルス・マーズレクスに接近していた。

 2機の攻撃をレギルス・マーズレクスは腕部のサブアームの先端に内臓されているビームサーベルで受け止めると、そのまま2機を弾き飛ばし、シャイニングガンダムの胴体にレクスネイルをぶち込み仕留め、ゲルググJにシャイニングガンダムを投げつけてビームバスターで撃破する。

 

 

 

 

 

 

 第三軍からの増援で第二軍の壊滅は回避できたが、それでも数の差までは覆すには至らない。

 ビルドナラティブはリゼルのビームライフルをシールドで防ぎ、ビームライフルで返り討ちにする。

 

「数が多すぎる!」

「それに1機1機の性能もブレイクデカールで強化されてるから……」

 

 ソラのエアブラスターは両手のビームライフルを連射するが、マックナイフは回避しながら両手をエアブラスターに向けるが、メテオイージスが撃ちぬく。

 グレイズアステルがレンチメイスでガンダムグシオンリベイクのハルバートを受け止めているところに後ろからザクファントムソードがバスターソードで切りかかり、体勢を崩したところをグレイズアステルがレンチメイスで何とか殴り、ザクファントムソードがバスターソードで止めを刺す。

 ガンダムヴァーチェがGNバズーカをバーストモードで撃つ。

 射線上のダイバー同盟のガンプラがビームに巻き込まれていくが、やがてビームは直角に曲がりビルドナラティブを襲う。

 

「ビームが曲がった!」

「ユート! 掴まれ!」

 

 ファイター形態となったエアブラスターにビルドナラティブは捕まり逃げようとするが、ビームは2機を狙い再び直角に曲がる。

 

「逃げきれない!」

「ヤガミ! 悪い!」

 

 ビルドナラティブはエアブラスターを蹴り飛ばしてその反動でビームの射線から何とか逃れる。

 ビームの掃射が終わるとGNフィールドを張るが、アーマードストライクがGNソードでGNフィールドを切り裂くと、懐に飛び込みもう片方のGNソードでヴァーチェを切り裂く。

 

「これがブレイクデカールの力なのか……」

 

 今までにも何度かブレイクデカールを使ったガンプラと戦った事はある。

 その戦いも決して楽ではなかったが、これだけの数の差でブレイクデカールによる強化されたガンプラがこれほどまでの脅威となるとは思わなかった。

 

「ユート! 後ろ!」

 

 一瞬気が緩んだ隙を付かれ、背後にブレイクデカールでミラージュコロイドの力を得ていたダークダガーLがビームサーベルでビルドナラティブに襲い掛かる。

 完全に反応が遅れて、やられる事を覚悟したが、ダークダガーLはビームに撃ちぬかれた。

 

「油断大敵だよ」

 

 優人の窮地を救ったのはウィルのⅡインパルスだった。

 

「ウィルさん!」

「王武でずいぶんと実力をつけたみたいだけど、これだけの規模の戦いとなれば一瞬の気の緩みは命とりになる」

「ありがとうございます。助かりました」

 

 優人は気を引き締めて、ビームライフルを撃ち、ドラッツェを撃墜する。

 

「このエリアは僕たちエルダイバーズに任せて君たちは向こうのエリアを頼む。向こうはかなり追い込まれている」

「分かりました。皆、行こう」

「私も行くわ」

 

 トライダイバーズにユウリはウィルのいうエリアへ向かう。

 そこは全方位を陽電子リフレクターで身を守り圧倒的な火力で圧倒するデストロイがいた。

 

「でけぇ……2次元のウソとかいうレベルじゃないな」

 

 デストロイは全方位を陽電子リフレクターで守られているだけではなく、大きさも一般的なガンプラの数倍はある。

 図体が大きくなればそれだけ火器のサイズも大きくなり、圧倒的な火力が優人達を襲う。

 

「どうすれば!」

「普通のデストロイなら接近すればいいけど、全方位を守られてるんじゃ……ファントムレディ」

「無理無理! このバスターソードには対ビームコーティングしてないから! それ以前にあの火力の中で突っ込むとか絶対に無理!」

 

 陽電子リフレクターの対処法の一つとして対ビームコーティングのされている武器を使う事だが、ファントムレディのザクファントムソードの持つバスターソードでは無理のようだ。

 

「とにかく火力を集中させるんだ!」

 

 各機の最大火力をデストロイに集中させるが、陽電子リフレクターを破る事は出来ない。

 そして、デストロイの火力の反撃が来る。

 

「この火力じゃ下手に近づけない。でも火力が足りない……」

 

 デストロイの火力を掻い潜り接近戦を仕掛けようにも火力と陽電子リフレクターに阻まれる。

 遠距離からの攻撃で陽電子リクレクターを破るには火力が足りない。

 

「どうするこのままじゃ……これは? 新しいアーマーか。これなら行けるかも知れない」

 

 今までの戦いの中で新しく出てきたアーマーは状況の打開に繋がってきた。

 今回も打開に繋がると信じて優人は新しいアーマーを選択する。

 ビルドナラティブのインパルスアーマーがパージされて前後にランナーが形成される。

 白いアーマーが次々と装着し、最後には背中に身丈ほどの砲身を持つサテライトキャノンがついてビルドナラティブGXアーマーとなる。

 

「このアーマーは……」

「ユート! そいつはたぶんGXことガンダムXのアーマーだ。だとすると背中のでかい奴なら陽電子リフレクターだって!」

「背中の……コイツか」

 

 ビルドナラティブはシールドバスターライフルを投げ捨てるとサテライトキャノンの発射体勢を取る。

 するとどこからかマイクロウェーブが掃射されてビルドナラティブにサテライトキャノン用のエネルギーがチャージされる。

 

「エネルギーチャージ完了! サテライトキャノン発射!」

 

 ビルドナラティブから放たれたサテライトキャノンはデストロイの陽電子リフレクターを易々と撃ち破りデストロイを飲み込む。

 そのまま射線上のガンプラをも一撃で消滅させた。

 

「……凄い。今までの武器とは段違いだ」

「まぁそいつの威力はMSの火器じゃ破格の威力だからな。それにしてもサテライトキャノンでかなり減らしたが……」

 

 サテライトキャノンは多くのDB同盟のガンプラを消滅させたが、それでもまだDB同盟のガンプラは半分以上が残っている。

 

「皆さん! 何か来ます!」

「……何これ、敵の数がどんどん」

 

 圧倒的な物量差に押し切られそうになっていたが、次々とレーダーからDB同盟のガンプラの数が減っていく。

 

「あのガンプラは……」

「何でここに……」

「まさか団長?」

 

 敵の数を減らしていたガンプラは諒真のゴーサインが出て参戦した大我のオメガバルバトス・アステールだった。

 この戦いにタイガ団は参戦する予定はなく、一同は驚いているが、そんなことはお構いなしにオメガバルバトス・アステールは敵を破壊し続ける。

 

「何でいるのかはさておき、これ以上ない援軍だな」

「だといいんだけど」

 

 ソラは大我の参戦は強力な友軍としてとらえているが、千鶴はどこか嫌な予感がしていた。

 大我が出てきたことでややこしい事になったことが一度や二度ではない。

 

「協力に感謝する!」

 

 ダイバー連合のマグアナックがオメガバルバトス・アステールに接近する。

 するとオメガバルバトス・アステールはバーストメイスカスタムでマグアナックを粉砕する。

 

「え?」

「おいおい。まさか」

 

 友軍であるはずのマグアナックを何の躊躇いもなく粉砕したオメガバルバトスだったが、シド丸のビームライフルや拡散ビーム砲を撃ち、ダイバー連合もBD同盟も関係なしに攻撃を始めた。

 

「やっぱり、彼は私たちの味方でもBD同盟の味方でもなく第三勢力としてここに来たのよ」

「マジ? 最悪じゃん!」

 

 千鶴の悪い予感は的中した。

 大我はダイバー連合の味方としてここに来たわけではなかった。

 余りの戦力差にBD同盟のガンプラがブレイクデカールをほとんど使わないので、暴れてブレイクデカールを使わせるために投入されたのであって、ダイバー同盟を助ける気は全くなく、全てのガンプラを倒す気ですらいる。

 

「何だよ……手当たり次第か!」

 

 ビルドナラティブはビームソードを抜き、オメガバルバトス・アステールに向かっていく。

 

「やめろ! 何やってるんだ!」

 

 ビームソードをバーストメイスカスタムで受け止める。

 

「何ってガンプラバトルだよ」

 

 オメガバルバトス・アステールはビルドナラティブを弾き飛ばす。

 

「このバトルはダイバー連合とBD同盟が互いの主張をぶつけ合うためのバトルなんだ。部外者が勝手に暴れていいような物じゃないんだ!」

「知るか」

 

 オメガバルバトス・アステールは拡散ビーム砲を撃つ。

 ビルドナラティブはビームソードでビームを弾きながら接近しようとする。

 だが、間に数発のビームが割込み、ビルドナラティブは距離を取らざる負えない。

 

「下がってユート!」

「クレイン!」

「貴方じゃ彼には勝てないわ!」

 

 メテオイージスがロングビームライフルでオメガバルバトス・アステールにビルドナラティブに追撃をさせないように狙撃を行う。

 オメガバルバトス・アステールはGNフィールドを展開し、強引に突撃しようとするが、オメガバルバトス・アステールを強力なビームが飲み込む。

 

「今度は!」

「……冗談だろ」

「ほんとどうなってんのよ」

 

 強力なビームは優人達が出撃してきたミネルバを沈める。

 そのビームを撃ったガンプラは先ほど倒したデストロイ以上の大きさのダナジンの改造機だ。

 ダナジンをベースに背中の羽を大型化し、両腕はビームガトリングガンに換装し、頭部にはオメガバルバトス・アステールを飲み込んだ巨大なビーム砲であるフォトンブラスターキャノンが頭部を覆うように装備されている。

 股間部に装備されているダナジンキャノンには追加の装甲が付いている。

 巨大なダナジンはすでにブレイクデカールを使っているのか禍々しい威圧感を発している。

 

「あのガンプラ。どういう事だ」

 

 フォトンブラスターキャノンの直撃を受けたオメガバルバトス・アステールだったがGNフィールドを張っていたため、無傷で済んだ。

 横やりを入れられたことよりも大我は改造されたダナジンの細部のところどころが、自分のガンプラに似ている部分がある事の方が気になった。

 

「ご名答。あのダナジンブレイカーを使ってのは私よ」

 

 モニターにリアルでバトルをモニターしているリヴィエールから通信が入る。

 大我の思った通り、改造されたダナジン、ダナジンブレイカーはリヴィエールが制作したガンプラで間違いないようだ。

 

「あのガンプラはブレイクデカールを100個同時に使い性能を極限まで向上させ、私の作ったAIで動き全てを破壊する。大我にアレを止められるかな?」

「上等だ。ぶっ潰してやるよ」

 

 リヴィエールは明らかに大我を挑発している。

 すでに大我の興味はダナジンブレイカーに向いている。

 オメガバルバトス・アステールはダナジンブレイカーの方に向かう。

 ダナジンブレイカーの全身の装甲が開閉すると全身から1000発を超えるミサイルが一斉掃射される。

 

「ちっ」

 

 大量のミサイルのほとんどがオメガバルバトス・アステールに向かっていく。

 全身の火器を使って迎撃するが、ミサイルの数は多く完全に迎撃しきれずにGNフィールドで身を守る。

 

「何なんだあのガンプラは……」

「ああ。あのガンプラもだが、あれだけのミサイルでも無傷とかリトルタイガーもやべえよ」

 

 ダナジンブレイカーの大量のミサイルだったが、オメガバルバトス・アステールにはダメージを与える事は出来ないようだ。

 

「あっ! おい! ユート!」

「アイツを助ける訳じゃないけど、あのガンプラをこれ以上野放しにすることもできない」

 

 ビルドナラティブはサテライトキャノンをダナジンブレイカーに向ける。

 再びマイクロウェーブでエネルギーをチャージしてサテライトキャノンを放つ。

 ダナジンブレイカーは翼と股間部の追加装甲からギガンテスの盾を展開してサテライトキャノンを受け止めた。

 ビームは拡散し周囲のガンプラを破壊するが、ギガンテスの盾を破ることは出来なかった。

 

「そんなこれでも……」

「ユート。ここいらが引き時だ。これ以上、あんな化け物ガンプラ同士の戦いに付き合う事も無いぞ」

 

 オメガバルバトス・アステールだけでなく、ダナジンブレイカーも常識を逸脱したガンプラだ。

 そんな2機の戦いにこれ以上参加したところでやられるだけでしかない。

 

「……ああ」

 

 優人も何もできず悔しそうに2機を見ながら離脱の決断をする。

 だが、その時、フィールドの一部に亀裂が走る。

 

「何だ……」

「何なんだよ。これ以上何が起きるってんだ」

 

 ディメンジョンの亀裂が広がり、空間が割れる。

 

「機体の制御が……」

「動けない!」

「ユート! ヤガミ!」

 

 ビルドナラティブとエアブラスターは制御が出来なくなり、割れた空間に吸い寄せられていく。

 メテオイージスとグレイズラグナが2機を助けようとするが、2機の制御も不能となる。

 

「そんな!」

「何が起きたの?」

「ああもう! さっさと逃げないって!」

 

 ザクファントムソードも制御が効かなくなり、トライダイバーズのガンプラは割れた空間に飲み込まれる。

 

「あ? 何が。おい、リヴィエール」

「た……すぐ、ロ……アウ」

 

 リヴィエールからの通信が途切れ途切れとなり、オメガバルバトス・アステールも機体の制御が出来なくなる。

 機体の制御ができない状況ではあるが、ダナジンブレイカーからの攻撃はなく向こうも空間に吸い寄せられているようだ。

 やがてオメガバルバトス・アステールとダナジンブレイカーも空間に吸い込まれた。

 

「一体……何が」

 

 唯一、ユウリのアーマードストライクは大丈夫だったようで、穴の開いた空間はやがて修復されて何事も無かったかのようになるが、トライダイバーズの5機とオメガバルバトス・足テールとダナジンブレイカーは始めからそこに何も無かったかのようにどこにもその姿はなかった。



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エルの民

 

「……っここは?」

 

 ダイバー連合とBD同盟とのバトルの最中に謎の穴に吸い込まれた優人だったがいつの間にか意識を失っていたのか荒野で目を覚ます。

 

「ヤガミ! クレイン! みんな!」

 

 周りには優人と同じように意識を失い倒れていたソラや千鶴たちや自分たちのガンプラも倒れている。

 優人はすぐにソラ達を起こす。

 

「一体何があったんだ?」

「それにここはどこでしょう?」

 

 ソラ達も意識を取り戻し周囲の状況を把握する。

 周囲は荒野が広がり近くには自分たち以外の存在は確認できない。

 

「……駄目ね。運営への連絡も出来ないわ」

 

 千鶴がコンソールから運営にメッセージを送ろうと試みるがエラーによりメッセージを送ることもできない。

 

「フレンドへのメッセージも駄目ね。でも……これって」

 

 運営への連絡が出来ないのであればフレンド登録しているダイバーに状況を知らせようとするも、やはりエラーによりメッセージを送ることが出来ない。

 だが、優人と始めとしたこの場にいるダイバーに対しては送ることが出来そうではあったが、優人達にメッセージが遅れたところで意味はない。

 そして、トライダイバーズのメンバー以外に唯一メッセージが送れたのがリトルタイガーこと、大我くらいだ。

 千鶴は念のためにこっちの情報を大我に送ってみるが、メッセージに既読が付いたものの返信はこない。

 

「マジかよ。現在位置も出ないぞ」

「……ログアウトも出来ませんよ」

 

 ソラが現在の自分たちの位置を表示させるもエラーと表示されて自分たちがGBNのどのエリアにいるかすらも分からない。

 ライトもログアウトを試すも同じようにエラーになりログアウトすることもできない。

 

「嘘だろ……ネトゲでログアウト不可は定番ネタだが、あり得ないだろ」

 

 現在の状況をまとめると自分たちの現在地位は不明、運営や他のダイバーに助けを求める事も出来ない、ログアウトして現実世界に戻ることも出来ない。

 状況は分からないことだらけだ。

 

「……ここって」

 

 そんな中、ファントムレディは自身のガンプラで周囲の状況を確認している。

 

「まさか……戻ってきたの?」

 

 ファントムレディは現在の場所に心当たりがあるようだが、仮面の下の素顔は驚きを隠せない。

 その心当たりが正しければ面倒な事になり、そのことをどうやって伝えるべきなのかを考えているとアラートがなる。

 

「考えている余裕はないか……みんな! 何か来るからガンプラに乗って!」

 

 すぐに外にいる優人達に伝え、優人達は自分のガンプラに乗り込んだ。

 幸いにも全機支障なく動かせるようだ。

 

「ファントムレディ? 何が来るんだ?」

「さてね。鬼が出るか魔王が出るか……」

 

 ガンプラに乗り込み少しすると周囲に近づいてくる物を補足した。

 

「あれは……獅電だけど……敵か? 味方か?」

 

 モニターには獅電が数機映されている。

 状況が分からない以上は敵なのか味方なのか判断がつかず迂闊には動けない。

 

「俺が出て様子を見るからもしも敵なら援護は任せる」

 

 優人がそう言い獅電の方に向かっていく。

 

「すみません! 俺たち……」

 

 ビルドナラティブは持っていたシールドバスターライフルをシールドにして腕に着けると敵意がない事を示すために両手を挙げて通信を試みる。

 しかし、向こうからの返答もなく、獅電はアサルトライフルをビルドナラティブに向けて一斉に撃ち始めた。

 

「撃ってきた!」

「……やっぱりか」

 

 ファントムレディは小さくそういうと飛び出していく。

 すぐにメテオイージスがロングビームライフルで先頭の獅電を狙撃するが、ビームは獅電の装甲に弾かれる。

 

「ビームが弾かれた」

「ナノラミネート装甲か! ユート! そいつにビームは駄目だ! ビーム以外の……出来れば物理攻撃が良い!」

 

 ビームが弾かれたという事は獅電にはナノラミネート装甲の機能がある可能性が高い。

 そうなればビーム兵器の効果は薄く実弾系の装備でも射撃武器では有効打にはなりえない。

 

「物理攻撃? ならこれだ!」

 

 ビルドナラティブはGXアーマーをパージするとタイタスアーマーに換装する。

 タイタスアーマーは四肢や肩からビームを出せるが、装甲とパワーを活かした物理攻撃を得意とする。

 ビルドナラティブは獅電に突撃して殴り掛かる。

 獅電はライオットシールドを掲げるが、ビルドナラティブの拳はライオットシールドごと獅電を殴り飛ばす。

 

「何なんだこいつ等は!」

「考えるよりも撃退することが先!」

 

 ザクファントムソードはバスターソードで獅電を叩き切る。

 ビルドナラティブの後ろに回り込んだ獅電がパルチザンで殴り掛かるが、腕で受け止めると膝蹴りを獅電の胴体に入れる。

 撃破とはいかなかったが、獅電の胴体の装甲はへこみ体勢を崩しているところにメテオイージスのビームが獅電の膝の関節を撃ちぬく。

 

「ナノラミネート装甲は関節にまではないようね。関節を狙えば火器も通用するわ」

「いや……無茶だって!」

 

 エアマスターは両手のビームライフルを連射する。

 ビームは効かなくても相手の注意を引き付けるくらいにはなる。

 グレイズアステルもアサルトライフルを連射する。

 

「数が増えてます!」

 

 最初は数機だった獅電の数もいつの間にか増えており、すでに10機を超えている。

 

「そうすればいいんだ!」

 

 ビルドナラティブは獅電のパルチザンを持つ手を握ると握力で手を握り潰し、左腕で獅電の頭部を殴り飛ばす。

 そして、パルチザンを手にするとパルチザンで殴り掛かる獅電に力の限りパルチザンで殴りつける。

 その一撃で獅電を仕留めるが、同時に持っていたパルチザンも曲がってしまい投げ捨てながら頭部のバルカンでけん制する。

 獅電のアサルトライフルを両腕で身を守るが、囲まれないようにするとジリジリと後ろに下がるしかない。

 

「流石にまずいっしょ」

 

 ザクファントムソードがビーム突撃銃を連射してけん制する。

 

「また増援?」

 

 メテオイージスがロングビームライフルで獅電の頭部を撃ちぬく。

 レーダーには複数の接近する機影が表示されている。

 新たな敵かと思われたが、ミサイルが紫電に直撃する。

 

「何だ?」

「そこのモビルスーツ。援護する」

 

 優人の元に女の声で通信が入るとソードストライカーを装備した赤いウィンダムがビームライフルを撃ちながら降りて来る。

 ビルドナラティブの近くに着地すると腰のスティレット投擲噴進対装甲貫入弾を抜くと近くの獅電に投擲する。

 スティレットは獅電の肩に突き刺さると爆発し、赤いウィンダムはビームライフルを投げ捨てると対艦刀で獅電を仕留める。

 赤いウィンダムに続き、ダガーLが獅電にビームを撃ちながら到着する。

 ビームは獅電のナノラミネート装甲を貫くことはないが、獅電たちは戦闘を中止すると後退を始める。

 

「隊長。アイツら逃げていきます」

「目的が分からん以上は深追いは無用だ」

 

 完全に獅電が撤退してようやく一息つけるが、状況が好転したかは分からない。

 

「奴らの不明瞭な行動の様子見に来てみたのだが、よもやガンダムに選ばれた勇者と遭遇するとはな。それも2人もだ」

「なぁ優人。なんかやばくないか?」

「取り合えず助けては貰えたんだし……」

 

 優人達には相手の言っている事がいまいちわからないが、少なくとも先ほどの獅電のように問答無用で仕掛けて来るような相手ではないと思いたい。

 

「失礼した。私は王国軍、第3MS隊隊長のアルマだ」

「ユートです。助かりました」

「何気にするな。ガンダムに選ばれた勇者であるのなら助けるのは当然のことだ」

 

 赤いウィンダムのパイロットは名乗り、優人も感謝の言葉と共に名乗り返す。

 

「こんなところで立ち話も何だから我らの王国に来てもらいたい」

「……分かりました。みんなも構わないな?」

「それしかないな」

 

 現状では何の情報も無いため、アルマの誘いに乗るしかできない。

 優人達はアルマの先導の元、移動を始めた。

 移動を始めて少しすると装甲版で作られたバリケートのような場所を通り、壁が見えて来る。

 

「ここが我らの王国だ」

 

 ガンプラが通れるほどの門が開くと中には中世のヨーロッパを思わせる街並みが広がっていた。

 

「モビルスーツで街中を歩くのは不味いからな格納庫で降りて貰う」

 

 ガンプラから降りてしまえばもしもアルマ達が敵だった時に対応ができないが、今は従うしかない。

 格納庫にはダガーL以外にも3機のウィンダムが置かれ、それぞれ黒く塗装されノワールストライカーを装備した物、緑でランチャーストライカーを装備した物、白でエールストライカーを装備した物だ。

 優人達はおとなしくガンプラから降りると赤いウィンダムのハッチが開きアルマも降りて来る。

 通信越しで話した限りでは自分たちと同じくらいの歳だという事は察しは付いていたが、その通りで機体と同じ真っ赤な髪の女だった。

 

「城に案内する。ついて来てくれ」

 

 アルマに付いていくと馬車が用意されていて、優人達はMSのようなSFチックな人型兵器を使いながらも街並みをはじめとした中世を思わせる生活様式とのアンバランスさに違和感を覚えながらも大人しく従う。

 城に到着し、案内された場所は城の会議室のようなところで、そこには一目で王様だという事が分かるような風体の人物にアルマと同じ軍服を身に着けた人物が何人も並んでいる。

 優人は周囲を観察する。

 王様だと思われる人物の他はどことなく似たような顔が並んでいるが、その先頭には黒髪で精悍な顔つきの青年、緑髪の大男、白髪の小柄な少女が並んでいる。

 

「ご苦労だったな。アルマ隊長」

「はっ! 彼らが奴らと戦闘を行っていた者たちです。内、2名はガンダムに乗っていました」

 

 アルマの報告に兵士たちがざわつき始める。

 

「つまり今代の勇者は2人という事か? しかし、我らエルの民以外にガンダムに選ばれる者がいるとは……」

 

 王様は顎髭を弄りながら優人達を見る。

 

「すみません。俺たちはこの辺りに来たばかりで事情が良く分かりません。貴方方は一体? それにあの獅電は?」

「ふむ……奴らは魔王の手先だ」

 

 優人達は想定外の答えに一瞬だけ理解できなかったが、とりあえず話を聞くことにする。

 

「魔王はエルの民の姫にして我が娘を連れ去っていき、その時ガンダムに選ばれた勇者が魔王を討ち、姫を助け出しそして、ガンダムと共に外の世界へと旅立っていくというのが長きに渡るエルの民のしきたりなのだ」

「……なんかどっかで聞いたような話だな」

 

 ソラが思わずこぼす。

 王様の話はまるでゲームなどでよく使われるような設定のように思える。

 優人が軽くソラを肘で小突くが、王様は気にも留めずに話しを続ける。

 

「今回もガンダムに選ばれた勇者が魔王を討ちに出立したのだが、たった1機のモビルスーツの前に敗れ、同行したモビルスーツ隊もほぼ全滅したのだ。辛うじて生き残った兵の話ではそのモビルスーツは並のモビルスーツよりも大きく一つ目で巨大な翼と槌を持ち悪魔のような強さで勇者を一撃で葬ったらしい」

「……まさか」

 

 王様の伝える特徴を聞くと千鶴が考え込む。

 

「ガンダムに選ばれた勇者と見込んで頼みたい。我が娘である姫を助けて欲しい」

 

 王様はそう言い頭を下げる。

 

「……少し考える時間を下さい」

 

 事情が事情であるため、優人としては協力したいという思いはある。

 だが、そう簡単に決めれる話しでもない。

 

「そうだな。アルマ隊長。彼らに部屋を用意してくれ」

「承知しました」

 

 向こうもこの場で決めさせるつもりも、協力を強要するつもりもないようだ。

 取り合えず考える時間を貰う事は出来た。

 

「アルマさん。あの獅電にはパイロットは……それに貴女たちの機体はどこで?」

 

 アルマに先導され城をあとにし、来た道を戻る最中優人は気になったことを尋ねる。

 攻撃されたとは言え考える間もなく獅電を撃破した。

 ここの事はまだ分からないことが多いが、場合によっては命を奪ったかも知れない。

 いくらGBNでバトルをしているとは言え、優人をはじめとして本当に命の奪い合いをしてきた者はいない。

 そして、アルマ達のウィンダムやダガーL、魔王軍の獅電の出どころも気になる事だ。

 

「魔王軍のモビルスーツは全て機械により制御されている」

 

 その言葉に優人は自分が命を奪った訳ではないと一息つく。

 

「我らのモビルスーツは城の地下にあるマウンテンサイクルから定期的に発掘されている物を使っている」

「今度はマウンテンサイクルかよ」

 

 ソラがぽつりと零す。

 ただでさえ、よくわからない世界で鉄血のオルフェンズの獅電にガンダムSEED DESTINYのウィンダムやダガーLと世界観の異なる作品のMSが出て来るだけでなく、今度は∀ガンダムのマウンテンサイクルと来た。

 

「ああ。マウンテンサイクルは髭のご神体に守られている神聖な場所で、そこで毎回異なるガンダムも発掘され起動させられた者が新たな勇者となる」

「定期的に発掘ということはすでに埋まっている物を使うという訳ではないんですか?」

「そうだが?」

 

 アルマの言い方ではマウンテンサイクルの中に埋まっているMSを発掘するわけではなく、ある日突然、マウンテンサイクル内に出現したMSを使っている事になる。

 いくら何でも都合の良すぎる事だが、アルマをはじめとしてそのことをおかしいとは誰も思っていないようにも見える。

 

「君たちは我が軍の使っている宿舎を使ってもらう。その方がいざという時にモビルスーツを使えて便利だろう」

「ありがとうございます」

「礼には及ばんよ。後で食事も届けさせる。今日のところはゆっくりと休んでくれ」

 

 優人達は用意された部屋に案内される。

 部屋は4人部屋で男女用に2部屋用意されていた。

 中は最低限の生活ができる程度だが、流石に見ず知らずの自分たちに用意された部屋としては文句はない。

 少しして食事が届けられた。

 その食事も不思議な事に優人達が知る物で、味も優人達の世界の物と変わらなかった。

 いろいろあったが、日は落ちて優人達は普段の習慣でベットに横になるが一向に睡魔はこない。

 

「そういや、俺たちってアバターのままだよな」

「ですよね。普通に食事とかもしてましたけど」

 

 ソラやライトも何の疑問も持たなかったが、今の自分たちはGBNで使っているアバターのままであるため、食事も睡眠も必要なかった。

 それでも普段からの習慣で食事と取り日が落ちると寝ようとしていた。

 

「やっほー! 夜這いに来たよー!」

 

 部屋のドアが勢いよく開けられ千鶴を連れたファントムレディが入ってくる。

 

「夜這いって修学旅行じゃないんだぜ」

「変に暗くなるよりはマシだと思ってね」

「何かあったのか?」

「何かあったんじゃなくて、何があったのかを話しにね」

 

 ファントムレディが珍しく真剣な表情をする。

 無意識のうちに考えないようにしていたことだが、情報が集まったことで今何が起きているのかを考える必要はある。

 

「分かっている事は今どきラノベとかじゃ逆張りで使われるような設定の世界に迷い込んだって事しかないぜ」

「まぁね。この世界について考えられることは大きく分けて2つ。1つ目はこの世界は異世界、もしくは別の惑星で私たちはそこに飛ばされたという可能性」

「ラノベじゃ昔から流行っている展開だな」

「けど、この可能性は低い」

 

 ファントムレディは自分で上げた一つ目の可能性である異世界や他所の星である可能性を否定した。

 

「根拠は?」

「まず、私たちは現実の肉体ごと飛ばされた訳じゃなくてGBN上のアバターの状態で飛ばされている。その場合、異世界であっても別の星であってもこの世界での受け皿となる物が必要になるけど、私たちはバトル中に起きた穴に飲み込まれて荒野に放り出されている。こっちの世界から何らかの形で召喚されたというのであればそれは考えにくい」

 

 優人達は生身の肉体ではなくアバターの状態を維持している。

 異世界や別の星であるのであれば、アバターのままであるならその状態を維持する何かがなければならない。

 目を覚ました時の状況からそれは考えにくい事だ。

 

「もう一つの理由として、この世界にモビルスーツやガンダム、マウンテンサイクルといったガンダム用語や獅電やウィンダムとかのMSが普通に存在している事。仮に異世界や他の星に人型機動兵器が存在したとして、それが私たちの世界のアニメに出て来るメカと全く同じデザインと名称を持っている偶然はあり得ない」

 

 ファントムレディが異世界や他の星の可能性を否定するもう一つの理由がそれだ。

 人型機動兵器が存在したとしてもそれがガンダムに出て来るMSと名称や見た目が偶然同じになったとは考えられない。

 

「成程。それでもう一つの可能性は?」

「ここがネットワーク上のどこかという可能性」

「デジタルな世界的な奴か」

「そう。ネットワーク上であるのなら私たちがアバターのままであってもおかしくはないし、この世界が何らかの形で私たちの世界からの影響を受けたのであればガンダム関連の用語やMSが存在していても不思議ではないわ」

 

 異世界や他の星の可能性よりかはその可能性の方が高いように思えた。

 GBNの運営でも把握していないネットワーク上にある世界にGBNで発生した穴が繋がり自分たちはそこに迷い込んだという可能性だ。

 

「けど問題はそこからどう脱出するかだな」

「それよねー。あのダナジンの使ったブレイクデカールのせいっぽいけど、同じことをするにもできないし、運営がこの事態に気が付いて強制ログアウトでもしてくれれば戻れるかも知れないけど、最悪この世界に取り残される可能性もあるから、どーにもできないのよね」

 

 ある程度はこの世界の情報を集め、推測することは出来るが、どうすれば帰る事が出来るかという最大の問題に関しては何も前進していない。

 

「なら、アルマさんたちに協力しながら方法を探すというのは?」

「まぁそれしかないかもしれないな。事情を知った以上は放っておく訳にもいかないし」

「それはそれで構わないけど、それがどういう意味か分かってる?」

 

 ライトの意見に優人は賛成するが、ファントムレディが口をはさむ。

 

「この国に協力するって事は人助けにもなる事だけど、それはつまり、この国と魔王との戦争に参加するという事よ」

 

 『戦争』という言葉が優人達に重く圧し掛かる。

 GBNのアナザーワールドでも似たようなことをしてきたが、あれは仮想現実世界における戦争ゴッコに過ぎない。

 優人達にとっては戦争は学校の授業で習った過去の話で、実際に参加した訳ではない。

 エルの民たちと共に魔王と戦うという事はガンプラは兵器となり、ゲームではなく命のやり取りをするという事だ。

 

「エルの民を助けるかは保留にして一つ気になる事があるわ」

 

 話し合いを一歩引いたところから聞いていた千鶴が口を出す。

 

「あの王様の言っていた悪魔だけどたぶん……リトルタイガーのバルバトスだと思う」

 

 王様の話の中で出てきた勇者を一撃で葬った悪魔。

 その特徴を聞いた時から千鶴は1つの可能性を考えていた。

 それは大我のオメガバルバトス・アステールではないかという事だ。

 オメガバルバトスは全身に強化ユニットが取り付けられて、並のガンプラよりも一回り大きく、頭部にはモノアイ状追加センサーが付いた一つ目で、巨大な翼と槌はシド丸とバーストメイスカスタム。

 そして、勇者を一撃で葬った事、どれも大我のオメガバルバトス・アステールに当てはまる。

 

「彼もたぶん、こっちに飛ばされてきてると思うわ」

 

 千鶴はコンソール画面を開いて見せる。

 ここにいるメンバー以外で大我だけはメッセージが送れることから大我もこっちの世界に来ている可能性はあるという事も合わせて説明する。

 千鶴が大我とフレンド登録をしている事に今は誰も触れない。

 

「となるとリトルタイガーは魔王に唆されたって事か」

 

 姫を救出に向かった勇者たちを葬ったという事は魔王側についているという事だ。

 大我にエルの民と敵対する理由はないため、大我がこの世界に来て魔王と出会い魔王に騙されてエルの民と戦ってしまったと考えられる。

 

「それはどうかしら? そもそも彼は基本的に話し合いという事をしないから魔王と遭遇した場合、とりあえず叩き潰すわ」

「……その光景が簡単に思い浮かびます」

 

 大我と面識のある千鶴とライトは仮に大我が魔王と遭遇したとして魔王に言い包められてエルの民を戦ったとは思えない。

 もしもそうならば出会った時に問答無用で叩きのめすだろう。

 

「けど実際にエルの民と戦ってるからな」

「彼の場合。味方でなければ全て敵だから、魔王もエルの民も関係なく等しく敵として叩き潰すわ」

 

 大我にとってはこの世界の事情は一切関係なく、自分の味方でなければ敵として叩き潰すだろう。

 それがたまたまエルの民が遭遇してしまったのは不運としか言いようがない。

 

「クレインはリトルタイガーとフレンド登録してるって事は少なくとも敵とは見なされてないのよね? 彼の力を味方に付ければこの世界じゃ一国の戦力すらかわいく見えるからぜひとも味方に引き入れたいわ」

「どうかしら?」

 

 大我が千鶴を敵として見ていないのであれば話しあいの場を作り、今の自分たちの状況を伝える事も出来る。

 大我も元の世界に帰りたいという目的では協力体勢を取ることも、場合によっては大我の下に入る事で自分たちの安全を確保することも可能だろう。

 それだけの力を大我は持っている。

 

「結局、現状じゃどうすることもできないって事か」

 

 状況を整理したところで出た結論としてはどうすることもできないという事だけだ。

 エルの民に協力することはどのみち、何の協力もなくこの国においてもらえるとも限らず覚悟を決めるしかない。

 しかし、その覚悟を決める前に爆音が鳴り響く。

 

「何だ?」

「爆発!」

「考えている時間はないようね」

 

 爆発が何らかの事故でない限りはそれが意味するのは敵の襲撃だ。

 決断の時は唐突に訪れた。

 

 

 



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魔王軍襲来

 

 

 

 

 どうするべきなのかを考える間もなく爆音が轟く。

 それは敵の襲撃だという事は間違いない。

 

「……やるしかないのか?」

 

 前回の遭遇戦とは違い、今回は突破されれば町にも被害が出るだろう。

 それが分かっていて、止める力を持っていて何もしないことは優人にはできなかった。

 

「だな」

「ですね」

 

 ソラもライトも同意見のようだ。

 部屋から出ると女子部屋の千鶴たちも出て来る。

 優人達は顔を合わせると無言で頷く。

 そして、すぐさま自分たちのガンプラが収納されている格納庫へと走る。

 

「装備が完了し次第出撃させろ!」

 

 格納庫ではアルマが指示を出してダガーLの出撃が始まっていた。

 

「アルマさん! 相手は獅電なんですよね? ならビームライフルよりもバズーカとかマシンガンとかの実弾系の装備の方がマシです! 後、ウィンダムに装備してるストライカーが余ってるなら装備させた方が良いです! ダガーLなら肩とかにもつけられますから!」

 

 ダガーLがビームカービンとシールドを装備して出撃する様子を見てソラが指摘する。

 相手が獅電であるならビーム兵器はナノラミネート装甲で効果は薄い。

 それならば実弾系の装備の方がまだマシだ。

 そして、ダガーLもウィンダム同様にストライカーが装備可能でウィンダムとは違い肩などにもストライカーが付けられる。

 

「成程……了解だ」

 

 アルマは出撃していないダガーLに余っているストライカーの装備の指示を出す。

 都市の外ではすでに戦闘が始まっていた。

 ダガーLがバリケートに身を潜ませながらビームカービンを連射する。

 敵は獅電だけでなくランドマン・ロディが数機混じっている。

 ランドマン・ロディは手榴弾をバリケートに投げ込む。

 

「何だ? うあぁ!」

 

 手榴弾が爆発し、バリケートは後ろから破壊されるとダガーLは隠れる物がなくなり、ランドマン・ロディはすれ違いざまにハンマーチョッパーで胴体に一撃入れる。

 ランドマン・ロディが機動力で翻弄したところに獅電が突撃しダガーLを蹂躙する。

 しかし、エルの民も完全に翻弄はされてはいない。

 ランチャーストライカーを装備した大男、ゴートの緑のウインダムがランドマン・ロディにアグニを撃つ。

 高出力のビームはランドマン・ロディに直撃するもナノラミネート装甲に弾かれる。

 だが、弾かれたビームの余波で持っていたサブマシンガンは破壊された。

 火器を失ったランドマン・ロディは手榴弾を投げながら後退する。

 

「逃がさない」

 

 エールストライカーを装備した小柄な少女、ベルの白いウィンダムがビームサーベルでランドマン・ロディに切りかかる。

 ランドマン・ロディはハンマーチョッパーで応戦するが、シールドで受けられるとビームサーベルを装甲の隙間から突き刺す。

 ランドマン・ロディの動きが止まるとビームサーベルを抜き、近くの獅電に切りかかる。

 獅電はライオットシールドを掲げるが、ベルのウィンダムはスラスターを最大出力で使って獅電を飛び越えると後ろを取りビームサーベルで獅電のスタスターのノズル部分にビームサーベルを突き刺す。

 

「数が多い上に見慣れぬ機体もいる。時期に増援が到着する。それまでなんとしても持ち堪えるぞ」

「了解」

 

 ゴートのウィンダムがアグニで獅電のライオットシールドを吹き飛ばす。

 2機のウインダムの奮戦で壊滅的な打撃を受ける事はなかったが、それでも獅電やランドマン・ロディの攻撃を抑えきれずに徐々に都市まで追い込まれている。

 だが、ビームが獅電の膝の関節を売りぬき、バルバトスアーマーのビルドナラティブがメイスで膝を損傷した獅電を叩き潰す。

 

「あれは……」

「ガンダム」

「もう……やるしかないのか」

 

 ビルドナラティブはメイスを手放すと太刀を構える。

 

「獅電だけじゃなくてランドマン・ロディもいるのか」

「ちょこまかと……」

 

 メテオイージスがロングビームライフルでランドマン・ロディの肩を撃ちぬく。

 都市からは優人意外も出撃して防衛に入る。

 増援で出てきたダガーLばバズーカを撃って獅電の足を止めるとアルマの赤いウインダムが対艦刀で仕留める。

 

「各機は火力を集中させて足を止めさせろ!」

 

 ランチャーストライカーを装備したダガーLが対艦バルカン砲で獅電に集中砲火を浴びせ、ノワールストライカーを装備した黒いウィンダムがフラガラッハ3ビームブレイドを突き出す。

 

「まさか使い道のないと思われていた装備がこんな風に使えるとはな」

 

 黒いウィンダムの中で第一MS隊隊長のジークは今まで思いつくこともなかったストライカーの運用方法に関心する。

 ビームブレイドは獅電の肩の関節部に突き刺さると、肩の関節部を切り裂く。

 ノワールストライカーのレールガンを撃つ。

 

「ビームが効かないってだけでここまでやり難いとはな!」

 

 ソラのエアブラスターはビームサーベルを獅電のライオットシールドに突き刺す。

 そのままビームサーベルを振るいライオットシールドを切り裂くと獅電の頭部にビームライフルを向ける。

 

「ここなら関係ないだろ!」

 

 ビームライフルをメインカメラに撃ち込み獅電の頭部を吹き飛ばすと2機のソードストライカーを装備したダガーLが対艦刀を獅電に突き刺してしとめる。

 

「打撃武器ならこちらにも!」

 

 グレイズアステルがレンチメイスを振るうが、獅電は後退してかわすとすぐに突っ込みパルチザンを振るう。

 何とかレンチメイスで受け止めるが、獅電に蹴りを入れられてよろけたところをパルチザンでレンチメイスを弾き飛ばされる。

 

「しまった!」

 

 体勢を崩されたところに獅電はパルチザンで追撃するが、間にザクファントムソードが入りバスターソードで受け止めた。

 

「ファントムレディさん!」

「ギリセーフ!」

 

 獅電を押し戻すとザクファントムソードがバスターソードで獅電に一撃を入れるとグレイズアステルがアサルトライフルを撃ち込んで沈黙させる。

 

「このままじゃ押し切られますよ!」

「だよねぇ。向こうもマジで勝ちに来てんじゃん」

「増援が来るわ」

 

 メテオイージスがロングビームライフルで獅電の膝を撃ちぬく。

 

「何だ……また見ない奴だ? うあぁ!」

 

 ダガーLの部隊が銃弾の雨で殲滅されていく。

 増援部隊の大半は獅電だが、先陣を切ってきたのはガンダムグシオンリベイク・フルシティだった。

 フルシティは両手をサブアームに4つのロングライフルを持ちその火力を持ってダガーLを仕留めていく。

 両手に持っていたロングライフルを手放すとハルバートでダガーLを一撃で葬り去る。

 

「何だアイツは……俺が押さえる」

 

 ジークがフルシティの銃撃を避けながら向かっていく。

 レールガンで足止めをしてビームブレイドで接近戦を仕掛ける。

 ビームブレイドをハルバートで受け止めた。

 そして、フルシティは頭部を照準モードから通常モードに切り替える。

 

「このモビルスーツは……ガンダムだとでもいうのか!」

 

 頭部が通常モードになった事で相手もガンダムタイプだと気づいたことでジークは一瞬動揺し、それが隙となりフルシティはビームブレイドをハルバートごと弾き飛ばす。

 

「ぐっ!」

 

 ウインダムの頭部を殴りつけたフルシティはリアアーマーを取り外し変形させる。

 変形したリアアーマーでウィンダムを挟み込むとそのままバリケートに叩きつけられる。

 

「くそ!」

 

 ジークも何とか逃れようとするが、両腕ごと挟み込まれて入るためまともに抵抗が出来ない。

 フルシティはそのままウインダムの胴体を切断するために力を加える。

 

「やらせるか!」

「そうはさせないよ」

 

 ウインダムの両腕が破壊され、胴体まで切断されそうになるが、アルマの赤いウインダムとファントムレディのザクファントムソードが対艦刀とバスターソードでフルシティの両サイドから肘の関節目掛けて振り下ろされる。

 一撃では関節を完全に破壊は出来なかったが、動きと止めるには十分の損傷は与える事が出来た。

 

「せーの!」

 

 ファントムレディの掛け声でウインダムとザクファントムソードはフルシティを蹴り飛ばして距離を取らせる。

 フルシティはリアアーマーを手放しながら後ろに下がる。

 

「これはおまけだよ! もってけ!」

 

 ザクファントムソードがバックパックのミサイルを一斉掃射する。

 ミサイルはフルシティに降り注ぎダメージを与える。

 

「はぁぁ!」

 

 その間にもアルマのウインダムが距離を詰めて対艦刀を胴体に突き刺す。

 対艦刀を抜くとフルシティは機能を停止して倒れた。

 

「まさか……魔王がガンダムタイプのモビルスーツを所有していたとは……」

「ああ。済まないが俺がこれ以上は戦えそうにない」

「了解です。だが……いつまで続くというのだ」

 

 過去の襲撃のタイミングからは外れているだけでなく敵の規模が違い過ぎる。

 理由は分からないが、魔王軍にも何か変化があったのかも知れない。

 だが、今はそれを考えている余裕はない。

 

「せいや!」

 

 ビルドナラティブは太刀で獅電を腰を切断する。

 

「前に出過ぎたか? 一度下がって……」

 

 少しでも都市への被害を減らすために前に出ていたが、いつの間にか都市からかなり離れてしまっていた。

 獅電の攻撃をかわして太刀の一閃で仕留める。

 

「ほう……よもや新たな勇者が誕生しているとはな」

「通信? どこから」

 

 優人が一度後退しようと思っていると、どこからともなく通信が入り警戒する。

 すると数機の獅電を引き連れた獅電改を補足する。

 獅電改はパルチザンでビルドナラティブに切りかかる。

 それを太刀で受け止めた。

 

「……コイツ、有人機なのか?」

 

 獅電改の動きは他の敵とはまるで違った。

 優人の予測通り、獅電改にはパイロットが乗っていた。

 コックピット内にも関わらず黒いマントを付け頭には2本の角を生やし、肌も少し青い、エルの民たちのいう魔王がそこにいた。

 

「見せて貰おうか。新たな勇者の力とやらを!」

 

 獅電改は左腕のガントレットで殴るが、ビルドナラティブは腕でガードして大きく飛び退く。

 空中で滑空砲で応戦するが、獅電改には当たらない。

 

「早い! それにあの機体には人が乗って……」

 

 着地したビルドナラティブを獅電はアサルトライフルで集中砲火を浴びせる。

 頭部のバルカンで獅電改をけん制しながら先に獅電の数を減らそうとするが、獅電はすぐに距離を取る。

 追撃しようとするが、間に獅電改が割込みパルチザンを振るう。

 獅電改の連続攻撃を太刀を使って受け流すが、やがて太刀が弾き飛ばされてガントレットで殴り飛ばされた。

 

「うっ……」

 

 ダメージ自体は装甲のみにとどまっていたが、それ以上に相手が無人機ではない事が優人の動きを鈍らせていた。

 

「どうした勇者よ? 今代の勇者の実力はこの程度なのか? ならばここで引導を付けさせてもらおう!」

 

 獅電改はビルドナラティブに接近するとパルチザンを振り下ろす。

 それをとっさに腕で受け止める。

 パルチザンは装甲で内部フレームまでは届いてはいない。

 

「往生際が悪い!」

「ちくしょう! 何だって! こんなことに!」

 

 ビルドナラティブはスラスターを最大出力で使い獅電改に体当たりを食らわせる。

 

「俺たちはただ……GBNをやっていただけなのに! 訳の分からない戦いに巻き込まれて!」

 

 優人は感情を爆発させるかのように獅電改に殴り掛かる。

 今まではフォースのリーダーとして感情的にならずに状況を把握して何とかしようとしていたが、優人も限界のようだ。

 

「ふん! そんな勢い任せの攻撃など!」

 

 獅電改は軽くいなすとパルチザンの一撃を入れる。

 ビルドナラティブは胸部の装甲が破壊されながら吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる。

 

「こんなところで俺は……やられて溜まるか!」

 

 倒れながらもバルカンで獅電改の動きをけん制する。

 魔王も満身創痍のビルドナラティブを相手に無理に攻めずに周囲の獅電の集中砲火で確実に仕留めるように攻める。

 装甲にダメージを受けながらも優人は頭をフルに回転させて状況を打開する方法を考えるが、考えれば考えるほど打開策は浮かんではこない。

 前に出過ぎたため、仲間の援護も期待できなければ手持ちのアーマーを使って反撃を試みても何とかなる可能性は低い。

 それでもこのままではバルバトスアーマーが破壊されビルドナラティブ本体へのダメージもいずれは限界となるだろう。

 その先に待っているのはGBNでの撃墜判定ではないかも知れない。

 今までの生活の中で優人は一度も自らの死を感じた事はない。

 いずれは自分も死ぬという事は分かっているが、それは何十年も先の事だと漠然を考え実感することはない。

 それが今目の前まで迫っている。

 必死に考えるが、自身の死が脳裏かは離れない。

 

「どうすりゃいいんだ……」

 

 思いつく方法は可能性が低く、それしかないと分かっていても実行に移す決断ができない。

 それでもなお、必死に考えていると優人に新たな選択肢を与えるかのようにそれは起きた。

 遥か後方の城から何本かの光が飛んでくると優人の前に形を変える。

 

「これは……」

 

 それは小さなパーツがビルドナラティブの前後に集まり人の形を模しているが肝心の骨に当たる部分がない。

 優人の頭の中に一つの可能性がよぎる。

 これは今までバトルの中で起きたようにビルドナラティブの新しいアーマーなのではないかと。

 それを示すようにモニターには「∀」を表示されている。

 今までのようにランナーが形成される訳ではなく城の方からアーマーだけが飛んできたのかは分からない。

 しかし、この状況ではこのアーマーを使う事が最も勝算のある選択のようにも感じた。

 優人は余計な事を考える間もなく「∀」と表示されているアーマーを選択した。

 ビルドナラティブのバルバトスアーマーがパージされ当たらなアーマーが装着されていく。

 楕円系のシールドとライフルが装備され、最後に頭部に髭のようなパーツが付いたことでビルドナラティブの新たな姿であるターンエーアーマーとなった。

 

「馬鹿な! あの姿はまるでご神体のようではないか!」

 

 その姿を見て魔王は驚きを隠せない。

 ターンエーアーマーを纏うビルドナラティブの姿はエルの民たちの城の地下にあるマウンテンサイクルにあるご神体に似ているからだ。

 

「はったりだ! その様な姿であっても! やれ!」

 

 獅電は一斉にビルドナラティブに銃撃を始める。

 ビルドナラティブはシールドで身を守りながらビームライフルで反撃する。

 ビームは獅電のナノラミネート装甲では拡散しきれずに貫いた。

 

「凄い威力だ。コイツなら」

「あり得ない! ビームが通用するなど!」

 

 ビルドナラティブは背中から月光蝶を展開しながら飛び上がるとビームライフルで獅電を攻撃する。

 獅電はライオットシールドを掲げるが、ビームはライオットシールドを貫通して獅電を撃ちぬいた。

 

「……これなら行ける!」

 

 空中で銃撃をかわしながらビームライフルで獅電を撃墜していき瞬く間に魔王の周囲の獅電は全滅した。

 

「後はアンタだけだ!」

「調子に乗るなよ!」

 

 獅電改はアサルトライフルを連射する。

 それをかわしながらビームライフルで応戦するが、獅電改はビームをかわす。

 

「なら!」

 

 ビルドナラティブは加速し、ビームライフルからビームサーベルに持ち替えて接近戦を仕掛けた。

 射撃をかわしながら懐に飛び込みビームサーベルで獅電改の右腕を切り落とした。

 

「勇者風情が!」

 

 ガントレットで殴り掛かるも、ビームサーベルで左腕も切られた獅電改は更に両足も切られて倒れる。

 

「俺の勝ちだ! 降伏すれば命までは取らない!」

 

 ビルドナラティブはビームサーベルを獅電改の胴体に向けて警告する。

 無我夢中で戦ったが、まだ相手の命を取ることには抵抗があり、相手が降伏するのであればそれが一番だ。

 完全に勝敗は決したが、魔王は落ち着きを取り戻していた。

 

「……甘いな。この魔王たる私を倒した程度で良い気なるなよ」

「……何を言って」

 

 負け惜しみにしか聞こえない魔王の言葉だが、優人には妙に魔王からは自身を感じられた。

 

「センセイ! お願いします!」

 

 魔王の言葉に優人はとっさにビルドナラティブを大きく下がらせた。

 すると上空から何かが落ちてきた。

 

「今度は……」

 

 落ちてきた衝撃で土煙が上がり、シルエットが浮かび上がる。

 巨大な翼に禍々しく光る一つ目。

 優人は魔王と対峙した以上の圧を感じ取るが、それを優人も知っていた。

 

「センセイじゃねぇーよ。団長と呼べって言ってんだろ」

 

 土煙が晴れるとそこにはガンダムオメガバルバトス・アステール。

 魔王以上の厄災が優人の前に立ちはだかるのだった。



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魔王軍襲来Ⅱ

 

 

 

 魔王の獅電改を戦闘不能に持ち込んだが、新たにガンダムオメガバルバトス・アステールが現れた。

 ガンダムオメガバルバトス・アステールはバーストメイスカスタムを構える。

 

「ちょっと待った!」

 

 優人はすぐにオープンチャンネルで話しかける。

 向こうの状況は分からないが、少なくともよくわからない場所に迷い込んだという事は同じであるため、少なくともここで戦う必要はない。

 

「あ?」

 

 大我はあからさまに不機嫌そうな声を出す。

 

「そっちもここがどこなのか分からないんだろ? なら!」

「知るか」

 

 優人の話を聞く耳も持たずにオメガバルバトス・アステールは飛び掛かりバーストメイスカスタムを振り落としてくる。

 ビルドナラティブは飛び退く。

 

「そっちの事情もここがどこだか関係ないね。あの時のバトルはまだ終わってない」

「聞く耳はないってか!」

 

 ビルドナラティブはビームライフルで応戦する。

 ビームをオメガバルバトス・アステールは最低限の動きで回避しながら接近してバーストメイスカスタムを振るう。

 いくら新しいアーマーであるターンエーアーマーであってもオメガバルバトス・アステールの一撃の前では耐え切れない。

 攻撃を確実に回避しながら反撃の機会を伺う。

 

「このアーマーなら戦える!」

「少しは戦えるようになったところで」

 

 オメガバルバトス・アステールは肩のブレードプルーマを射出する。

 バーストメイスカスタムを避けたビルドナラティブに四方からブレードプルーマが襲い掛かる。

 それを上手くシールドでいなしているとオメガバルバトス・アステールが蹴りかかる。

 蹴りをシールドで防ぐも体勢を崩されたところにバーストメイスカスタムが振り降ろされた。

 ビルドナラティブは月光蝶を展開して空中に逃れる。

 

「クレイン! 向こうの援護は?」

「無理ね。ユートを相手にしながらもこっちの狙撃も警戒しているわ」

 

 千鶴が迫る敵部隊を対応しながらも優人の援護をしようにも大我は常にこちらの位置を把握したうえで立ち回っている。

 いくら千鶴の狙撃でも大我相手に完全に警戒されたうえで位置がばれていては効果的には行えない。

 

「どうした? その程度か?」

「このままでは……」

 

 ターンエーアーマーのお陰で何とか戦えてはいるが、優人は防戦一方で反撃の手立ては見つからない。

 ビルドナラティブのビームライフルをオメガバルバトス・アステールは避けて接近するとバーストメイスカスタムを振るう。

 

「ちょこまかと……コイツはどうする?」

 

 オメガバルバトス・アステールはバックパックを前方に展開してアステールキャノンの発射体勢を取る。

 優人はすぐに射線上から退避しようとするがある事に気が付いた。

 

「まずい!」

 

 オメガバルバトス・アステールの射線の先にはエルの民たちが暮らす街がある。

 このまま撃たせてしまえば、その強力なビームで街は破壊されてしまう。

 

「止せ! あそこには!」

 

 発射の阻止が難しいと判断した優人は大我を制止するも、呼びかけも空しくアステールキャノンは放たれた。

 

「やめろぉぉぉぉ!」

 

 ビルドナラティブは最大出力で月光蝶を展開するとシールドを掲げてアステールキャノンを真向から受け止めた。

 ビームは受け止められるも、拡散して地上に降り注ぐ。

 やがてビームの掃射が終わるとビルドナラティブのシールドはビームで焼けてボロボロになり、全身のアーマーも損傷していた。

 

「街は!」

 

 優人は背後の街の状況を確認すると、拡散して地上に降り注いだビームは幸いにも街に落ちる事はなかった。

 街を守り切った事を喜ぶ間もなくオメガバルバトス・アステールは接近してビルドナラティブを蹴り飛ばす。

 

「うっ! あぁぁぁ!」

 

 とっさにシールドで身を守るも、ビームでボロボロのシールドは砕け、ビルドナラティブは地上に叩きつけられた。

 

「くっ!」

 

 何とか立ち上がろうとするが、モニターにはターンエーアーマーのダメージが限界まで来ていると表示される。

 

「こんなもんか」

 

 オメガバルバトス・アステールもゆっくりと地上に降りて来る。

 

「団長……流石に最後のやり過ぎでは? いくら何でも街まで焼く必要は……」

「ちゃんと加減したさ。向こうが避けない限りはな」

 

 機体が大破して動けない魔王が大我は気にした様子はない。

 

「さてと……あーあー。聞こえるか?」

 

 大我は外部スピーカーをオンにする。

 

「今日のところは挨拶だったんだが、思った以上に手応えがないから気が変わった。こっちで預かっている姫とやらは1週間後に処刑することにした」

「何を!」

「それを阻止したければ1週間後死に物狂いで俺を止めて見ろ」

 

 大我はそれだけ言うとスピーカーを切る。

 

「団長!」

「帰るぞ。魔王」

 

 オメガバルバトス・アステールは獅電改を掴むと飛び去って行く。

 オメガバルバトス・アステールが返っていくとランドマン・ロディも戦闘を中止して撤退を始める。

 

 

 

 

 

 街を守りぬき防衛に出た機体が城に戻り緊急会議が行われるが空気は重い。 

 街に被害はなく魔王に勝つことが出来たが、それ以上の強敵と1週間後に攫われた姫が処刑されるという。

 

「一週間で何とかする策を……」

 

 会議は王を中心に行われていたが、魔王以上の相手に1週間でどうにか出る策は早々でない。

 

「あの……いいですか?」

 

 話を聞いていた優人が遠慮がちに手を挙げる。

 

「まずは魔王の拠点の位置は分かってるんですか? 場所が分かっていなければ策を立てられないですし、移動の時間もありますから、それによっては準備に使える時間も変わってきます」

 

 会議の中で王たちは1週間で策を考えて対応することが前提となっているが、1週間後の処刑に対して対策を1週間でするには敵拠点までにかかる時間を考慮していない。

 移動時間によっては対策に使える時間も減ってくる。

 

「うむ……魔王の拠点である魔王城まではMSを使えば1時間というところだろう」

「……え?」

 

 優人は思わず間の抜けた声を出してしまう。

 声にこそ出さないが、会議に参加した千鶴たちも同様だろう。

 MSに乗って1時間となれば人の足で向かうのならともかく、MSを使えばそこまで距離は離れていない。

 その程度の距離であれば姫が攫われた時も勇者の登場を待たずとも、王国のMS隊を派遣させても十分に奪還することも魔王城を破壊し魔王を仕留める事も今までにできたようにも思える。

 実際に魔王と戦ってみた感触として弱くはないが、数で攻めれば勝てない相手でもない。

 尤も、魔王城に強力な兵器があり数で攻めたところでどうにもならない可能性もあるため、その辺りの情報も確認する必要がある。

 

「そうですか。それで魔王城の守りはどうなってるんですか?」

「うむ。勇者殿が倒したMSに護衛のMSが10機程度と言ったところですかな」

「では、何か強力な兵器……例えば大量のMSを一気に破壊できる物があるとか? それともそこまでの道中に何か狡猾なトラップでもあるんですか?」

 

 優人の質問に王やアルマ達は首をかしげる。

 まるでそんな兵器の事など想像すらも出来ないかのようだ。

 魔王城に強力な兵器もなく、そこにたどり着く道中で何かあるわけでもなさそうだ。

 そうなると強力な兵器もなくMSが10数機程度の戦力を前に勇者が現れるのを待っていたことになる。

 

「あの……思ったんですけど、皆さんは1週間かけて準備をするつもりですけど、わざわざ向こうの指定した日時を守る必要なんてないと思うんですよ」

 

 会議は前提として1週間で何とかする方法を話し合っていたが、その1週間という期間も向こうが処刑するまでの日時として指定しているに過ぎない。

 ならば、わざわざ向こうに合わせる必要もない。

 

「こっちの目的として姫の奪還であって、あのガンプラを倒す必要もないんです。なら、少数の部隊で襲撃して姫を奪還して逃げればこっちの勝ちなんです。今なら向こうだって迎撃の準備が出来て無いかも知れない」

 

 王国が1週間で準備をするのであれば同様に向こうにも1週間の準備期間を与える事になる。

 大我が1週間の猶予を与えたのは万全の準備をさせた上で戦うだけでなく、自分たちも万全の準備で迎え撃てるようにするためなのかも知れない。

 

「俺たちのガンプラならすぐに出せます。後は王国の方たちでもすぐに出れる部隊で奪還作戦に入るというのはどうでしょう?」

「うむ。素晴らしい。流石は勇者殿」

 

 優人の出した案もまだいろいろと問題点はあるものの出した本人ですらも驚くほどあっさりと了承されてしまう。

 

「では、我が軍からはアルマ隊長の部隊が行ってくれ」

「承知しました」

 

 先の防衛戦でもアルマの隊は損耗は少ない。

 相手がビーム兵器の効果が薄いのであればソードストライカーを装備しているアルマのウインダムも戦力としては十分だ。

 想像以上に話が早くまとまり、準備が出来次第出撃することになった。

 

「で……実際、どうなんだよ」

 

 優人達は一足先にガンプラに乗り、出撃の準備を済ませていた。

 後はアルマの隊が準備を済ませて魔王城に向かう手はずだ。

 

「どうって?」

「いや、この作戦……てか、この国の連中の事だよ。いくら何でもおかしいだろ。魔王城まで片道1時間とか最近のゲームはライトユーザー向けに簡単に攻略できるようになってるけど、ラスダンまで1時間とかないだろ」

「そうね。自分たちの常識だと思っている事は仮に部外者から見ておかしいと思う事でも本人たちは当たり前のように受け入れて疑問に思う事はないと聞くけど、それにしても何かおかしいわ」

 

 ソラや千鶴もこの王国のおかしさには薄々感じていた。

 地下からMSは発掘され、それを当たり前のように使い、姫が攫われても勇者が現れるまで助けにもいこうとは考えない。

 それがエルの民にとっては当たり前のことだとしても、それだけ済ませられることではない。

 

「それよりもさ、あの化け物と本当にやり合うの? 勝つのは無理ゲーよ。いっそのこと白旗を上げて寝返るってのも手じゃない?」

 

 王には大我とは戦う必要はないと言ったが、戦闘になれば戦う事になる。

 大我相手に優人達とアルマの隊だけでは戦力不足は否めない。

 戦って勝てないのであれば降伏することも一つの手だろう。

 

「無理だと思います。だってあの団長ですよ」

「そうね。もう彼は戦う気満々よ。ああなってはこっちの話は聞くつもりはないでしょうね」

 

 大我の事をよく知る千鶴とライトの意見でファントムレディの降伏案は一刀両断される。

 大我にとっては魔王やエルの民の事情などどうでもいい。

 

「それについてはさっきの戦いで俺に考えがある」

 

 新しいアーマーでも優人は大我に負けたが、それでも戦いの中から勝ち筋を見出していた。

 

「姫を助けても、それで終わりじゃないんだ。リトルタイガーを止める必要もあるから」

 

 大我に勝たずとも、姫さえ助け出せばいいのはエルの民の事情であり、優人達は元の世界に帰るために大我とも合流しておきたい。

 そのためには大我に勝つとはいかなくても、話しができる状況にまでは持ち込まなければならない。

 

「済まない。待たせた」

 

 話しているとアルマが部下を引き連れて現れる。

 今回アルマ隊のダガーLにはソードストライカーとランチャーストライカーのコンボウェポンポッドを装備させ、アルマの赤いウインダムともども低反動砲を装備し、対ナノラミネート装甲対策をしている。

 

「では行こうか」

 

 アルマ隊と合流し、優人達は姫を救出するために魔王城を目指す。

 



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魔王城の決戦

 

 

 

 魔王城への道のりは優人達も警戒していたが、拍子抜けするほど妨害は一切なく1時間程度で近くまでたどり着くことが出来た。

 近くまで来ると魔王城の周囲の岩陰に隠れて様子を伺っている。

 

「魔王城ってか、まんまズムシティの公王庁じゃんアレ」

 

 ソラは思わず呟いた。

 魔王城はどう見てもジオン公国の首都であるズムシティにある公王庁そのものであった。

 

「そんなことよりもどうするの?」

「まずは敵の戦力を引き付ける為に陽動だな」

「心得た。私の隊で引き受けた」

 

 アルマの隊が陽動の為に岩陰から出ようとすると、ダガーLの1機の上半身が吹き飛ぶ。

 

「何だ!」

「狙撃? まさか……」

 

 攻撃を受けてすぐさまメテオイージスがロングビームライフルを魔王城に向けて構えてビームを撃つ。

 

「こっちがすぐに仕掛ける事が読まれていたのか?」

 

 そして、地面から獅電が現れて包囲されていた。

 

「囲まれている! 突破するぞ」

 

 ターンエーアーマーを装備しているビルドナラティブは岩陰から飛び出すと魔王城へと向かう。

 

「こいつ等は我々で抑える。勇者殿達は魔王城へ! 姫を頼む!」

「分かった!」

 

 アルマ達が獅電の相手に残り優人達は魔王城を目指す。

 

 

 

 

 

 

「団長! あれは一体!」

 

 魔王城の魔王の座にて大我は魔王からの通信を受けていた。

 魔王は泣きそうな声をしている。

 

「向こうの方が腕の良いスナイパーはいるんだ。それで済んだだけマシだ」

「しかしですね! 家宝を持ち出したというのに……」

「うるさいな。訪問1つ潰されただけだろ」

 

 待ち伏せの狙撃は大我の指示で魔王によって行われた。

 魔王城には代々受け継がれてきたとされる家宝であるガンダムフラウロスがあり、今まで大事に保管されていたが、今回はそれを使わせた。

 だが、最初の一撃から千鶴が即座にこちらの狙撃位置を特定し狙撃してきた。

 それによりナノラミネート装甲で覆っていないレールガンの銃口を狙撃されてレールガンを1つ破壊されている。

 

「もう狙撃は出来ないから後は俺がぶっ潰すから、お前は城の中で待機してろ」

 

 大我はそういうと通信を切る。

 

「さて……行くか」

 

 大我は魔王の座から立ち上がると魔王城の1室に向かった。

 

「あら? 団長様」

 

 ピンク色の髪を腰まで伸ばし純白のドレスを身に纏う姫がいた。

 姫は攫われた後もこの部屋に幽閉されている。

 部屋自体には特に鍵や見張りを立ててはいなかったが、姫は騒ぐこともなく大人しく幽閉されていた。

 

「状況は動いた。アンタには俺を来てもらう」

 

 大我はそういうと姫の腕を掴む。

 姫は抵抗をすることなく大我に腕を引かれて立ち上がる。

 

「分かりましたわ」

 

 大我は姫を連れて地下の格納庫に向かう。

 地下にはオメガバルバトス・アステールが置かれている。

 連れられて姫は大人しくオメガバルバトス・アステールに乗り込む。

 

「これがMSなのですね?」

 

 姫はガンプラに乗せられて怯えるどころか興味深そうにコックピットを見渡す。

 

「邪魔だから後ろにどいてろ。後、ここにいる限りは絶対に死ぬこともないから騒ぐなよ」

「私、MSに乗るのは初めてですので楽しみですわ」

 

 まるで緊張感はないが、下手に騒がれても邪魔で黙らせるのも面倒であるため、大我は気にしない。

 

「そんじゃ行くぞ。バルバトス」

 

 大我はオメガバルバトス・アステールを起動して出撃する。

 

 

 

 伏兵をアルマ達に任せると優人達は魔王城へと向かう。

 狙撃を警戒していたが、最初の一撃以降は狙撃が行われることもなかった。

 

「何だ……何か来る!」

 

 地鳴りと共に地面から何かが飛び出してくる。

 すぐにメテオイージスがロングビームライフルを撃つ。

 しかし、ビームは弾かれてしまう。

 

「来た!」

 

 相手が大我のオメガバルバトス・アステールだと知ると全員が警戒し戦闘体勢を取る。

 

「よう。ずいぶんと早いな」

 

 今後は大我の方から通信が繋がれた。

 

「アンタ達のお探しの姫様とやらは、俺のガンプラに乗ってる。助けたければ俺を倒すんだな」

「何!」

 

 大我が姫を自身のガンプラに乗せた理由はそこにあった。

 向こうの目的が姫の奪還であれば自分と戦わずに済ませようとするかも知れない。

 それを防ぐために姫をガンプラに乗せたのだ。

 

「安心しろ。人質に使うなんてセコイまではしねぇから。もっとも……」

 

 地中から飛び出てきたオメガバルバトス・アステールはバーストメイスカスタムを振り下ろす。

 その一撃は地面に大きなクレーターを作り出す。

 

「お前らにそんな真似をさせるようなことはないけどな」

「くっ!」

 

 メテオイージスがロングビームライフルを撃つも、オメガバルバトス・アステールは装甲で受ける。

 ビルドナラティブもビームライフルを撃つが、オメガバルバトス・アステールは最低限の動きでかわす。

 

「……やっぱりそうだ」

 

 優人はBD同盟との戦いや先の防衛戦である推測を立てていたが、ここである程度の確信を持つことが出来た。

 ビルドナラティブとメテオイージスの攻撃に始まりトライダイバーズ全機の集中砲火が始まるが、オメガバルバトス・アステールはGNフィールドを張って防ぐ。

 

「雑魚の相手までするのは面倒だな。おい、魔王。お前もこっちに来て雑魚の相手をしてろ」

「了解です! せんせ……団長」

 

 魔王城で待機していた魔王も出て来て残っているレールガンを撃ってくる。

 

「もう1機! 俺がリトルタイガーの相手をする!」

「私も援護するわ」

 

 ビルドナラティブはビームサーベルを抜くと月光蝶を展開して突撃する。

 それをメテオイージスが援護する。

 

「分かった!」

「あのフラウロスは僕たちで何とか抑えます!」

「まぁアレとやり合うよりかはマシよね」

 

 残る3機でフラウロスを迎え撃つ。

 

「そのガンプラの性能は確かに高い!」

 

 ビルドナラティブはビームサーベルを振るい、オメガバルバトス・アステールはバーストメイスカスタムで受け止める。

 

「パワーなら勝ち目はない! だけど!」

 

 ビルドナラティブは弾き飛ばされるが、すぐに体勢を整えて加速する。

 

「大型化したガンプラを高い推力で強引に動かしているが、機動性能はこちらが上だ!」

 

 正面からの激突を避けてビルドナラティブは回り込む。

 その動きをメテオイージスが援護する。

 

「そして!」

 

 上手くオメガバルバトス・アステールに接近したビルドナラティブはビームライフルを構えた。

 

「この装備ならばその装甲を貫くこともできる!」

 

 大我の戦闘スタイルは被弾率はかなり高い。

 それは突撃時に被弾を無視して突撃するからだ。

 しかし、大我もガンプラに大打撃を与えるような攻撃にまで被弾を無視するわけではない。

 先の戦闘でも大我はターンエーアーマーの攻撃を装甲で受けずに全て回避していた。

 そこから優人はターンエーアーマーの装備であればオメガバルバトス・アステールの装甲にも有効的な打撃を与えれるのではないかと考えた。

 オメガバルバトス・アステールはバーストメイスカスタムを振るうが、ビルドナラティブは間合いの外に後退してビームを撃つ。

 ビームはオメガバルバトス・アステールの右腕に直撃する。

 直撃したビームは右腕のチェーンソーブレードの外装を焼くだけでダメージを与える事は出来なかった。

 

「そんな!」

「残念だな。その程度の火力じゃ効かねぇんだわ」

 

 優人の予測自体は大きく外れていた訳ではない。

 ターンエーアーマーの装備であればオメガバルバトス・アステールの装甲に施されている対ビームコーティングでも完全には防ぎきれない。

 だが、防ぎきれないだけで大打撃を受けるほどでもない。

 それでも大我が回避したのは攻撃が有効であると思わせるためのフェイクであった。

 

「それとそこは俺の間合いだ」

 

 振るわれているバーストメイスカスタムの先端部が射出され、ビルドナラティブを襲う。

 先端部はメテオイージスの狙撃で狙いがずらされて空振りし、戻っていく。

 

「大丈夫?」

「ああ……この装備でもダメなのか……いや、ダメージ自体はあるんだ」

 

 攻撃が通用するというのは大我に思い込まされていたフェイクだったが、直撃したビームで全くダメージがなかった訳ではない。

 攻撃を当てるための機動力を使うというのも間違いではない。

 想定外の事態はあったが、戦い方自体の方向性までは間違っていた訳じゃない。

 優人は頭を切り替えて次の手を打とうとする。

 

「次は俺から……」

 

 オメガバルバトス・アステールがバーストメイスカスタムを構えると上空から何かが降ってきた。

 

「今度は何なんだ?」

「あれは……あん時の奴か」

 

 空中から降ってきたのはこの世界に来るきっかけとなったかも知れないガンプラであるダナジンブレイカーだった。

 

「大きいですわね?」

「団長! あれも団長が?」

「違う。アイツも来てたのか」

 

 地上に着地したダナジンブレイカーは頭部のフォトンブラスターキャノンをチャージすると発射する。

 強力なビームが戦場を横切る。

 

「あぁあぁぁ! 我が魔王城が!」

 

 ダナジンブレイカーのビームが魔王城を飲み込み跡形もなく消滅させた。

 魔王城を消滅させたダナジンブレイカーは次の獲物を見つけ、両腕のビームガトリングを乱射する。

 空中にいたオメガバルバトス・アステールとビルドナラティブはすぐに回避する。

 

「見境なしか!」

「まぁ良い。アイツから先にぶっ潰す」

 

 オメガバルバトス・アステールはダナジンブレイカーに向かっていく。

 ダナジンブレイカーは全身からミサイルを撃って迎撃する。

 ミサイルはオメガバルバトス・アステールだけでなく、ビルドナラティブや地上のガンプラにも降り注ぐ。

 

「不味いわね」

 

 メテオイージスは火器を総動員してミサイルを迎撃する。

 フラウロスと交戦していた3機もミサイルの迎撃を始める。

 

「クレイン! 大丈夫か?」

「ええ。そっちも無事のようね」

「まぁね」

 

 地上から迎撃している間に優人もダナジンブレイカーに向かっていく。

 頭部のバルカンでミサイルを迎撃し、迎撃しきれなかった物をシールドで受けながらビームライフルを撃つ。

 ビームはダナジンブレイカーに直撃するも、装甲に阻まれる。

 

「この距離じゃ威力が足りないのか……」

 

 接近しようにもミサイルの弾幕により前には進めない。

 

「近づこうにも……」

 

 ビルドナラティブはビームライフルでミサイルを撃ち落とす。

 優人がミサイルで足止めを受けている間に大我はミサイルをもろともせずに接近しバーストメイスカスタムでダナジンブレイカーの頭部を殴りつける。

 

「ちっ……でかいだけあって一撃で沈めれないか」

 

 オメガバルバトス・アステールの一撃で頭部のフォトンブラスターキャノンは潰せたが、本体の稼働には問題はないようだ。

 頭部を潰されたダナジンキャノンは両腕のビームガトリングでオメガバルバトス・アステールを狙う。

 オメガバルバトス・アステールはGNフィールドで身を守る。

 

「どうすんだよ! あんな奴まで出て来て!」

「とにかく今はアイツを倒すことが優先だ」

 

 トライダイバーズのガンプラは一斉にダナジンブレイカーに向かって火力を集中させる。

 ダナジンブレイカーはギガンテスの盾を展開して防ぐ。

 その間にオメガバルバトス・アステールが背後に回り込む。

 

「こっちからならどうだ?」

 

 背後に回り込み接近するが、ダナジンブレイカーの尾の先端が開くとビームが放たれた。

 ビームはオメガバルバトス・アステールを飲み込むが直撃する直前にGNフィールドを展開して身を守っていた。

 

「どーすんの? あれじゃ接近は無理でしょ?」

「団長ですら無理だなんて」

 

 大我ですら易々とは接近できない状況に戦場の空気は重い。

 

「勇者殿! あれは一体?」

 

 伏兵を抑えていたアルマも優人達に合流した。

 

「アルマさん! 他の人たちは?」

「先ほどの攻撃で私以外はやられた」

 

 ダナジンブレイカーのミサイルと尾のビーム砲の余波で獅電を含めアルマ以外は全滅していたようだ。

 アルマのウィンダムもシールドと低反動砲を失っている。

 

「姫様は無事なのか?」

「はい。姫はあのガンプラの中にいますから安全です」

 

 魔王城にいればダナジンブレイカーの攻撃で城ごと吹き飛んでいたが、大我が自身のガンプラに連れ込んでいたため無事だ。

 そして、この戦場においては大我のオメガバルバトス・アステールの中が最も安全な場所とも言える。

 

「とにかくアレを何とかしないと……」

 

 今は無差別に破壊を繰り返すダナジンブレイカーをどうにかしなければならない。

 このまま街まで向かうようなことにでもなれば甚大な被害が出るかも知れない。

 それだけは阻止しなくてはならない。

 

「現状であのダナジンを仕留める事が出来るのか彼だけよ」

「確かにねぇ。敵に回すとおっそろしいけど、今だけは心強いわよね。今だけは」

 

 幸いにも大我の戦意は自分たちよりもダナジンブレイカーに向けられている。

 この状況では大我がダナジンブレイカーを倒してくれることを願うしかない。

 

「それしか方法はないのか……」

 

 自分たちの無力感に優人は操縦桿を握る手に力が入る。

 

「凄いですわ。団長様」

「この程度で俺を落とせると思うなよ」

 

 ダナジンブレイカーのミサイルをかわすオメガバルバトス・アステールの中で姫は緊張感もなくただ大我の操縦技術を楽しんでいる。

 

「とは言え、単純な弾幕だけじゃ飽きてきたな。そろそろぶっ潰すか」

 

 オメガバルバトス・アステールはダナジンブレイカーの正面から突撃する。

 ダナジンブレイカーはギガンテスの盾を展開する。

 

「そんな紙シールドで俺を止められると思うなよ」

 

 オメガバルバトス・アステールはバーストメイスカスタムでギガンテスの盾をぶん殴る。

 その一撃でギガンテスの盾を粉砕すると、オメガバルバトス・アステールはダナジンブレイカーに左腕のチェーンソーブレードを突き刺す。

 そのままダナジンブレイカーを上空まで持ち上げると地面に向けて叩きつける。

 ダナジンブレイカーを叩きつける際に左腕が負荷でもげるが、大我は気にしない。

 

「終わりだ」

 

 オメガバルバトス・アステールは急降下する。

 ダナジンブレイカーはミサイルで迎え撃つが、ミサイルによる被弾を無視して突っ込んでくる。

 そして、バーストメイスカスタムの一撃を左腕を突き刺した部分に目掛けて振り下ろす。

 

「やっぱ片腕だと威力も落ちるか」

 

 片腕で振るわれた一撃ではダナジンブレイカーに致命傷は与える事は出来なかったが、オメガバルバトス・アステールはバーストメイスカスタムをダナジンブレイカーに向ける。

 先端から杭が射出されるとダナジンブレイカーに突き刺さる。

 杭を全弾撃ち尽くすまで攻撃が続いた。

 

「今度こそ終わりだ」

 

 ダナジンブレイカーに撃ち込まれた杭が同時に爆発を始める。

 爆発がダナジンブレイカーをオメガバルバトス・アステールごと包み込む。

 爆風からオメガバルバトス・アステールが飛び出してくる。

 爆風を至近距離から受けてオメガバルバトス・アステールはダメージを受けていたが、まだ動けるようだ。

 

「やったのか?」

「そのようね」

「流石は団長だ! 我が魔王城の仇を!」

 

 ダナジンブレイカーは完全に機能を停止していた。

 

「さてと……邪魔もんはいなくなったんだ。続きをしよう」

 

 オメガバルバトス・アステールはバーストメイスカスタムを構える。

 ダナジンブレイカーを倒したが、まだ大我は戦闘を続けるようだ。

 

「こうなるのか……」

 

 優人達も応戦する構えを取る。

 だが、破壊されたはずのダナジンブレイカーから高エネルギーが発せられると、上空に皹が入る。

 

「あ? またなんかあるのか?」

「あれは……あの時と同じ!」

 

 その現象はこの世界に来る前にも起きていた。

 皹が広がるとやがて空が割れる。

 

「だだだだ団長!」

「知るか」

 

 空が割れた空間に周囲の物が吸い込まれ始める。

 

「吸い込まれる! アレに吸い込まれれば元の世界に帰れるのか?」

「わっかんないけど、逃げれそうにないじゃん!」

 

 割れた空に優人達のガンプラが吸い込まれていく。

 優人達だけではなくアルマのウィンダムも踏ん張り切れずに飛ばされる。

 

「ちっ……」

「団長!」

 

 オメガバルバトス・アステールは地面にバーストメイスカスタムを突き刺して耐えていたが、魔王のフラウロスが助けを求めて抱き着いてきた。

 その衝撃でバーストメイスカスタムが地面から抜けてオメガバルバトス・アステールとフラウロスも割れた空に吸い込まれていく。

 割れた空は次第に閉じていきやがて完全になくなった。

 空が修復された後には周囲には何も残されてはいなかった。



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