異種聖杯戦争 (ねんね太郎)
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登場人物紹介

物語の中核となる7人のマスターと7騎のサーヴァントの紹介。
真名は書かないので読みながら推理してみてください。


セイバー陣営

【マスター】

ステューテルン・フェイルフェルド

フリーの魔術師。今回の聖杯戦争の噂を聞きつけてやってきた。

目当ての英霊がおり、それを召喚するために聖遺物を手に入れたものの、呼び出されたのは違う英霊だったようだ。

【サーヴァント】

セイバー

憂いを帯びた表情の剣士のサーヴァント。

霊基に刻まれた別世界の記憶から、無辜の民を傷つけようとする輩を嫌悪する。

若干空気が読めない。

 

アーチャー陣営

【マスター】

アルバ・メンロパーク

彷徨海に在籍していたという魔術師。しかし自称であり真相は不明。

早々にアーチャーを召喚し深い信頼関係を築いた。

また、燃費があまりよくないアーチャーが無遠慮で戦えるほどに魔力量が多い。

【サーヴァント】

アーチャー

尊大な態度で周囲と接する弓兵のサーヴァント。

マスターの魔力量もあり、今回の聖杯戦争において最強と目される。

唯一気に食わないことはマスターの名前。

 

ランサー陣営

【マスター】

李 王虎(リ・ワンフー)

大陸からやって来た呪術師。一応西洋魔術も扱える。

ランサーに全面的な信頼を置いているが、豊満な肉体を求めて飛びついては殴られている。

王虎自身も高名な武術家として中国内に名を馳せている。

【サーヴァント】

ランサー

長身の日本刀を携えた槍兵のサーヴァント。

本来はセイバークラスにあたるらしいが、宝具の力を以ってランサーとして現界した。

実は寂しがりや。

 

ライダー陣営

【マスター】

トゥーム・D・キーン

多少魔術が使える程度の裏社会の商人。

たまたま手に入れたとある船の錨を触媒にライダーを召喚した。

その性格からライダーとは非常に気が合う。

【サーヴァント】

ライダー

人一倍強い信念を持った騎兵のサーヴァント。

前向きな性格だが、その性根は真性の畜生。

現代では香辛料が安いことに落胆している。

 

キャスター陣営

【マスター】

???

セーラー服を着たアジア系の正体不明の少女。

この聖杯戦争自体が異質なものであることに気付いており、事態の解明と収束のためにキャスターを召喚する。

【サーヴァント】

キャスター

常に真実を見定める魔術師のサーヴァント。

最後に召喚され、マスターと共に聖杯そっちのけで事態の解決に挑む。

セイバーと渡り合えるほどの剣術の持ち主でもある。

 

アサシン陣営

【マスター】

武田幸信(タケダ・ユキノブ)

聖杯戦争に巻き込まれただけのただの一般人。

魔術は何も使えないが、偶発的に召喚されたアサシンには慕われている。

命の危機は持ち前の筋肉で乗り越えてきた。

【サーヴァント】

アサシン

戦を好まない暗殺者のサーヴァント。

生前仕えた者に似たものを感じるとして、一方的にマスターに信頼を寄せる。

平時は武田の娘のように振る舞い生活している。

 

バーサーカー陣営

【マスター】

クリスティーヌ・ダーエ

地下の歌劇場で働くオペラ歌手。自身を触媒としてバーサーカーを召喚する。

バーサーカーのマスターではあるが魔力を持たないので、自身に言い寄る男の心臓をバーサーカーの魔力として捧げている。

【サーヴァント】

バーサーカー

仮面でその顔を隠す狂戦士のサーヴァント。

魔力供給のパスは繋がっていないものの、マスターであるダーエの声には従う。

眼鏡をかけるとかなりの美男子。




ストーリーの大筋は決まっていますが、投稿は不定期です。
サーヴァントの真名は(この時点でわかる人もいるかもしれないが)コメントなどで明かさないようにお願いします。


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開幕

1行の空白は過去の回想、2行の空白は視点変換です。
読みにくいところなどありましたらコメントしてください。


 ……起きろ。起きろ。

「起きろと言っているだろう、セイバー!」

「あと……5分は寝かせてくださいマスター……」

「お前はそう言って既に30分は寝ている!いいから起きろ!」

 狭いマンションの一室の床に転がるセイバーを蹴りながらフェイルフェルドは2人前の紅茶を淹れている。彼がセイバーを召喚してからまだ1日と経過していない。

 セイバーの長髪はセイバーの顔にまでかかっており、辛うじて鼻で呼吸できるかどうかといったところだ。最優と謳われるクラスでも寝起きが悪いという欠点を抱えているのだ。

「そういえばこの国にはパラチンタとかいうジャムをクレープで包んだ美味しい料理があるらしいな」

「行きましょう、マスター」

 餌で釣るとセイバーが起きると確認したフェイルフェルドは、セイバーの頭から冷や水をかけて髪を梳かし始めた。

 元々フェイルフェルドは聖杯に対して望むことはこれといって無かった。しかしどこからのバックアップも受けられないフリーの魔術師であることは今後の生活に何らかの支障を来たす可能性があったため、魔力回路の増築を目的に聖杯戦争へ参加した。だが、彼はこの聖杯戦争が誰によって引き起こされた(・・・・・・・・・・・・)ものかを知らなかった。ただ聖杯戦争が開催されるという噂だけを頼りに聖遺物を手にクロアチアの地へ飛んできたのだ。

 一方のセイバーは自分がなぜ召喚されたのか、自分でも疑問に思っていた。

 

「セイバー、召喚に応じ参上しました。あなたが私のマスターですか?」

「そうだ。早速聞くが、お前の真名はオジェ・ル・ダノワか?」

「いいえ、違います」

 

 召喚された直後に目当ての英霊ではないと落胆されれば、どんな英霊であれ快くは思わないだろう。セイバーも当然困惑し、とりあえずフェイルフェルドの住むマンションへ来て一夜を明かしたのだ。

「マスターが用意した触媒は何だったのですか?」

「ああ、俺が用意したのはこいつだよ。見覚えがあるだろう?」

 そう言ってフェイルフェルドが机の上に置いたのは、切っ先が折れた刀である。

 セイバーはそれを手に取り観察した結果、これなら私が召喚されてもおかしくない、とフェイルフェルドに言い放った。セイバー曰く、恐らくその英霊は私の刀が流れ着いた先でこの刀を振るったのでしょう、ということだ。

 フェイルフェルドは熱い紅茶を喉に流し込みながら、心の中ですすり泣いた。

 

 

「あれがセイバーか?随分と悠長に紅茶を飲んでるじゃねえか」

「まだサーヴァントが出揃っていないだけだ。少なくともあと2騎は足りていないからな」

「だがこんな市街地で銃なんて撃っちまっていいのかよ」

「殺れ」

 

 

 カン!と音が鳴り、セイバーの剣がフェイルフェルドへの狙撃を防いだ。

「紅茶が美味しくて気付きませんでしたが、どうやら尾行されていたようですね。近くに魔力反応があります」

「俺を守ってくれよセイバー」

 腰が抜けたフェイルフェルドを部屋の奥へ追いやりながら、セイバーは部屋を出る。寝すぎていて昼ごろになっていたことに気付く間もなく、マンションの屋上で狙撃ポイントの方へ目を向ける。

「貴方はアーチャーのサーヴァントですか?神秘の隠匿を何だと思ってるんですか」

 銃をセイバーへと向けていたのは、一騎のサーヴァント。十字架を携えた白髭の壮年の男だ。

「いいや、俺はアーチャーじゃねえ。俺はライダー。あと2騎ほど召喚されてねえが、開戦の狼煙でも上げようかと思ってな」

 カッカッカッと笑いながらセイバーの元へと歩み寄ってくる。が、一閃、セイバーがライダーの眉間を捉える。

「その折れた剣じゃ俺は斬れねえぜ?お前さん本当にセイバーかよ?」

 ライダーはサーベルで反撃するが、セイバーはそれを難なくかわし、ライダーと斬り結ぶ。お互いに一進一退の攻防をしているように見えるが、当然どちらも本気など出していない。

『セイバー、俺のところへ戻ってきてくれ。そいつのマスターらしき人物に追われている』

 ライダーと斬り結ぶ中でフェイルフェルドから念話で声をかけられた。

「貴方がたの目的は私ではなくマスターでしたか」

「セイバーに単独行動はねえからな。マスターさえ殺っちまえばこっちのものさ」

「生憎私はまだ脱落するわけにはいかないので。失礼させてもらい……ますッ!」

 ライダーのサーベルを押し返し、セイバーはマンションの屋上から地上へ飛んだ。しかし途中でフェイルフェルドの部屋のある階の通用口に捕まり、そのままマンションの中へと入っていく。

『逃げられちまったぜ』

『こちらもだ。まあいい。今回は挨拶みたいなものだ。また戦えるのを楽しみに待って今は退こうじゃないか』

『おうよ』

 屋上のライダーは霊体化し、マンションの入り口からライダーのマスターも去っていく。

 

 

「お怪我はありませんか、マスター」

「怪我は無いけど酷い目に遭ったぜ。なんなんだよあれ」

「ライダーとそのマスターのようです。こちらの拠点が特定されてしまった以上、場所を移すべきでしょうね」

 部屋の風呂場で頭を抱えていたフェイルフェルドを慰め、セイバーは残っていた紅茶を飲み干した。

「さあ、出発しますよマスター」

「新しい拠点を決める前にパラチンタを食べに行かないか。腹が減った」

「ええ、行きましょう!」

 その時魔術師は初めて使い魔の瞳の色を見た。



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召喚

「む?」

「どうした、アーチャー」

 アーチャーと呼ばれたスーツを纏う大柄の男は、目つきの鋭い長身の男の歩みを手で制止し、公園の草むらの奥へと視線をやる。

 長身の男――アルバ・メンロパークは少し意識を集中させ、アーチャーの言葉の意味を理解した。

 誰かが草むらの奥で(・・・・・・・・・)サーヴァントに襲われている(・・・・・・・・・・・・・)

「魔術師の心臓は一時的なものではあるが魔力の供給源になるからな。まあ、俺は気にしないしどうでもいいが」

 基本的に魔術師というものは根源を目指す者であり、その過程における多少の犠牲については特に悲観しないものである。メンロパークも当然、この聖杯戦争において誰が犠牲になろうと構わないというスタンスであり、またどのようなサーヴァントと相対しようともアーチャーが勝つという確信を得ている。正面から撃ち合うことは本来苦手とする分野だが、それでもなお勝利を得られるという尊大な自信はアーチャーに対して全幅の信頼を寄せていることの証拠でもある。

 しかし、生前魔術師ではなかったアーチャーの意識は違う。

「マスター、どうやら魔術師はまだ応戦しているようだ。助力しに向かいたいのだが」

「駄目だ。仮にその魔術師がマスターだったとしたらどうする?俺らを呼び寄せるための罠だったら?確かに俺はアーチャーの勝利を確信している。だが、こんな公園内で戦闘をしたらどうなる?別に俺は周りに被害が出ようとも気にはしないが、それはお前が良くないだろう?」

 メンロパークはアーチャーとの契約時に一般人への被害を出さないことを条件として提示され、これを飲んだ。だが、このまま襲われている正体不明の魔術師を見殺しにすることはアーチャーとの契約に相反することではないだろうか。アーチャーがこれについて改めて力説すると、様子を見るだけだぞ、と念押しした上で魔術師の下へ向かうことになった。

 

 

 草むらの向こう側では、筋骨隆々とした男――武田幸信が、仮面を被った男の鋭い爪による猛攻をなんとかかわし続けていた。

「魔術師……しんぞ……ゥ……!」

「俺は魔術師でもなんでもねえぞ!他をあたりやがれ!」

 反撃の構えを取ってはいるが、仮面の男は武田の拳の届く範囲へは近づかない。爪によるリーチの長さを利用して、格闘では対応されないようにしているように見える。

「あれは……アサシンか、もしくはバーサーカーか」

「手を出させないつもりなのだろう、マスター」

「当然だ。だが、あの男……」

「ああ……」

 草むらから男たちの戦闘を観察している二人は同じことを思っていた。武田は魔術師ではないと自称しているが優秀な魔術回路を身に宿している。生まれ持った魔術師としての素養をここで絶やしていいのかと考えたメンロパークは草むらから飛び出し、ポケットに入っていたチョークを使って地面に陣を描き始めた。

「何をするつもりだ?」

「あの男にサーヴァントを召喚させる。俺はあの男が将来的に俺くらいの力量を持った魔術師として大成すればいいと思った。今を生き抜くために、将来の箔のために、あの男には戦ってもらわなければならない。誰でもいい。今はこの場を打開できるサーヴァントを召喚すればいい。最終的にはアーチャーが殺す。お前!何でもいいから何か寄越せ!」

 声をかけられた武田は、ポケットから祖父の形見であるお守りをメンロパークに投げつけた。

「誰か知らねえが返せよ!」

 触媒を使用し、青白い光があたりを包む。それを見た仮面の男は武田へ渾身の一撃を叩きつけた。

 ……かに見えたが、その直前、小柄な少女の短刀が凶刃を食い止めた。さらに右手の指先から闇の塊のようなものを地面につけると、暗黒の大蛇が地を這いながら仮面の男を襲う。仮面の男は後ろへ跳びながら避け、そのまま闇夜に消えていった。

「大丈夫でござるか、お館様」

「お館……様……?」

 お館様と呼びかけられた武田は周囲を見渡す。しかし、先ほど祖父の形見のお守りを投げ渡したはずの長身の男はいない。早々にメンロパークとアーチャーは撤退したようだ。

「君は何者だ?」

「拙者でござるか?拙者はアサシン。新たなお館様に忠誠を」

 

 

「なぜあの男を聖杯戦争に巻き込んだ?」

「最終的にあいつは生き延びなければならないが、あの場を乗り切り、かつアーチャーの戦闘を見せないためにはあれしかなかった。俺単体ではバーサーカーを退けられるかわからないしな」

「それなのに聖杯戦争で勝利するのは自分だと豪語しているのか」

 アーチャーの素朴な疑問に対し、魔力量だけはピカイチだからなと笑い飛ばす。

 二人は後ろからの視線に気づかぬまま公園を後にする。

 残るはキャスターのみ。戦いの幕は既に上がっている。



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