ソフィーのアトリエ〜何も無い手品師の話〜 (へタレた御主人)
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始まりは驚きと共に

 

 

 ーー何で!?どうして!?連れてかないで!!

 

 ーーごめんね。けど、どうしても……

 

 ーー私にはあの人が大事だから。

 

 ーーお姉ちゃぁぁあああん!!

 

 

 

 ……

 

 ………

 

 …………

 

「はっ」

 朝起きると、寝汗をびっしょりとかいていた。

「はぁ、久しぶりに見たな……」

 まだ大した年数生きてはいないが、それでも随分と昔のことだ。

 ここ長いこと、そんなネガティヴなことなんてあまりなかったから全く見なくなっていたはずだった。

「あぁ、そうか……」

 そう、『あまり』なのだ。

 一つ、思い当たる節がある。

「ソフィーのおばあちゃんが亡くなって、もう一ヶ月か……」

 近所に住む幼馴染。

 その大切な人がこの世を去ったのだ。

 

 

 ……

 

 ………

 

 …………

 

 キルヘン・ベル。

 豊かな自然と豊富な水、教会の鐘の音が響き渡る、レンガ造りの街並みが綺麗な街。

 ここがこの俺、ルドルフ・コン・バートリーの生まれ育った自慢の街だ。

 何があるのか、と言われるとあんまり大したものは無いが、それでも住み心地は抜群だし、街の人たちも優しい。

「こんにちは。何か買っていくかい?」

「マルグリットさん、こんにちは」

 いつもの目的地に向かう途中で立ち寄った八百屋さんの女店主。

 新鮮で美味しい野菜や牛乳を売ってくれている。

 幼馴染の1人がいることもあって、すっかり常連である。

「そうですね……それじゃあ後ほどハチミツを買いに来ますね」

「ああ、待ってるよ」

 気前よく挨拶を交わして別れる、というところで、マルグリットさんが口を開いた。

「そうそう、オスカーを見かけたら店番ちゃんとやる様に言っておいてくれるかい?」

「あいつ、またサボったんですか……」

 幼馴染の1人、オスカー。

 簡単に説明すると、わがままボディ(♂)を持った植物博士。

 八百屋の店番をサボったり、遊ぶ約束をすっぽかすことが度々あるこの男だが、植物の知識が確かなものなのは間違いない。

 以前、体調が悪くなった時に野草を生で食べさせられたが(ちなみにすごく不味かった)すぐに体調が良くなったことがあり、その時に知識量というものは侮れないと知った。

 本人曰く、植物たちに聞いたら教えてくれたらしいのだが、その辺りは、実は半信半疑なのである。

 だって、植物と話せるって言われても……ねぇ?

「きっと植物観察だと思いますんで、後で近くを見に行きますよ」

「あらそう?悪いね」

 オスカーは色々とだらしない部分はあれど素直な性格だ。

 商店街であるストリートにいなければ大体の確率で近くの森か旧市街にいる。

 時間を持て余したら探しに行こう。

 マルグリットさんの店を抜けて、喫茶店に入る。

「ルドルフ、いらっしゃい」

「どもです。ホルストさん」

 奥のカウンターには、人の良さそうな渋めのナイスガイが待ち構えていた。

「今日も掲示板のチェックですか?」

「いや、今日は一杯もらいにね」

 ここは料理も美味しく、紅茶やコーヒーも一級品。

 夜はいいお酒も出るらしい。

 良し悪しに詳しくない自分でさえ美味しいと思えるのだから、その腕と年季が窺える。

「おや、珍しいですね」

「ま、たまには」

 この喫茶店、飯が美味いだけでなく、困りごとの解決を依頼という形で引き受け、仕事として斡旋もしている。

 俺はもっぱらそちらのためにここへ来るので、こうやって純粋に食事に来ることは稀なのだ。

「いつものでよろしいですか?」

「もちろん」

 いつもの、などと言ってはいるが銘柄は知らない。

 ただ、初めて淹れてもらってからそれがお気に入りになってしまったので、同じものを頼んでいるだけだ。

「お待たせしました」

「ありがとう」

 うん。いい匂いだ。

 砂糖が少量入っているのも抜かりない。

「流石だね、ホルストさん」

「これくらいは喫茶店のマスターの嗜みですよ」

 澄ましたように言うけど、若干照れてるのが分かる。

 こういうとこが、この人は憎めない。

 まぁ、憎むどころか感謝してばっかだけどさ。

「あ、そうそうホルストさん、後でミートパイ包んでよ」

「はい?構いませんが?」

 少し驚いたように言うホルストさん。

 言外に何故?と問われている。

「あー、ほら、ソフィーんとこ、持ってこうと思って」

「そうですか。それはそれは……」

 得心がいった、と満面の笑みで頷く。

「えぇい!そういうニヨニヨした顔やめてください!なんか腹立つ!」

「まぁまぁそう言わずに」

 噛み付くも態度を改めない。

 くそぅ、と1人ごちているとお店の扉が開いた。

「ホルストさーん!」

 快活な声と共に2人の少女が入って来る。

「モニカにソフィー、いらっしゃい」

「よっ、お二人さん」

「あらルディ、ここにいたのね」

「ルディ、こんにちは」

 1人は教会の手伝いをしているモニカ。

 すらっとしていてスタイルもいいし、長い金髪も綺麗という出来る女オーラのある幼馴染である。

 真面目だが、隙がないわけでもなく、甘いものとか食べて1人ほっこりしてるところなど、結構人気があったりする。

 もう1人が、今し方話に出てきたソフィーだ。

 明るい髪と笑顔が特徴的。モニカには一歩劣るが、スタイルは充分に良かったりする。

 彼女は一応、錬金術士だ。

 素材を組み合わせて、全く別の新たな道具を作る。

 嘘みたいな話だが、実際にその場面を見ているので眉唾ではない。

 でも、火薬とか紙とか入れてぐるぐる鍋を煮込んだら導火線付きの爆弾が出来ましたって、どうなの?とは思ったけどね。

 ちなみに、一応と言ったのは成功した試しがないためだ。

 お菓子や料理なんかは結構作れる、というか美味しいのだけど、薬とかましてや爆弾なんてまともに出来たのを見たことがない。

 爆薬を入れなくても爆発するとか、お前の錬金術ってどんな原理なの?って素で聞いたこともある。

 ……その後機嫌を直してもらうのに大分掛かったのは秘密だ。

「はい、ホルストさん。こちらが頼まれていた山師の薬です」

「おぉ、ありがとうございます。流石モニカ。仕事が早い」

「いえ、それはソフィーが作ったものなんですよ」

「はぁ!?」

「む、なぁにルディ。あたしが作れたら可笑しいって言うの?」

「いやいやいや、何?マジで成功したってこと?今まで全然上手くいかなかったのに!?」

「酷いよ!」

「いやだってよぉ」

 なにせ、失敗に巻き込まれたのは一度や二度ではない。

 成功したとはとても思えない物体Xの実験台になった回数だって二桁には間違いなく昇っているくらいだ。

 なんだよ、塗ってみたら痛いだけの薬って。

 良薬肌に痛し、とか変な造語作って遠慮なく塗り込んでくるし。

 風呂で完璧に落とすまで、ずっと痛かったんだからな。

 そんな言葉を滲ませつつソフィーを見れば、顔を逸らして口笛を吹き始めやがった。

「でも今回はちゃんと作れてるわよ」

 ほら、と言って差し出した山師の薬は、確かに俺も知っているものだった。

「へぇ、マジで作れてんな」

「信じてなかったの!?」

 いやだって、もー!とやり取りする脇で、ホルストさんが薬を受け取る。

「いや、大したものですね。ソフィーの錬金術も成長しているのですね」

「ホルストさんまでー!」

 ぷぅ、と頬を膨らませて怒るソフィー。

「まぁまぁソフィー。後でミートパイを包みますから」

 これ以上つつくと後が面倒になるなぁ、と思いつつ謝ろうとしたら、ホルストさんが先に口を開いた。

「へ?何でミートパイ?」

「ふっふっふ」

 ホルストさん、笑いながらこっち見んな。

「あ〜……」

 そしてモニカ、何かを察したようにニヤニヤすんのやめろ。

 そういうんじゃないから!

 本当に、違うからな!?

「…………後で、モニカとオスカー誘って、ソフィーの家行こうと思ってたんだよ」

 その手土産だ、と言ったら、ソフィーが心底意外そうな顔をしていた。

「…………そこまで意外か?」

「えー?だってルディ、そういうことあんまりしてくれないじゃん」

「まぁ、そんなに多くはないのは認める」

 けど、多少はしてるつもりなんだけどなぁ。

「あらぁ?ルディ、そこに私とオスカーがいてもいいの?」

 こっちはこっちでウザいし。

「当たり前だろ?適当な茶会のつもりなんだから」

「?何を言ってるの、モニカ?」

 俺が正直に言うと、途端に面白くなさそうな顔をするモニカ。

 ソフィーも、特に疑問に思ってないようで、純粋にモニカの真意が分かっていないらしい。

 どことなくつまらなそうな雰囲気が漂う。

 俺は酒の肴じゃねぇんだよ。

「ったく……」

「えっと、じゃあ包んでもらってもいいですか?ホルストさん」

「はい、少々お待ちください」

 そう言って、手元を動かすホルストさん。

「でも本当に珍しいじゃない?」

「だから、たまたまだっての。そこまで言及すんな」

 モニカまで、どこか感心したように言う。

 ちょっとした気まぐれで、どうしてここまで言われなきゃいけないのか。

 …………日頃の行いか。

「お待たせしました。こちら、ミートパイです」

 話していたらホルストさんが戻ってきた。

「ほい、代金」

「確かに、いただきました。それからソフィー、モニカ。こちらを」

 俺から代金を受け取ると、別のところから取り出したお金を2人に渡した。

「今回の依頼を解決してくれたお駄賃です」

「あの、私はほとんど何もしていないのですが……」

 そう言って、渡されたお金を返そうとするモニカ。

「手間賃も含んでんだろ?だったら受け取りゃいいんだよ」

「ルディ……」

 それを止めさせるのに、つい言葉が出た。

「えぇ、ルドルフの言う通りですよモニカ。受け取ってください」

「はい、ありがとうございます」

 それでも少し申し訳なさそうにモニカが受け取る。

「それじゃあ、失礼します」

「私も失礼します」

「ごっそさん」

 3人で店を出る。

「あー、俺オスカー探してくるわ」

 ほい、とミートパイを渡して2人と別れようとする。

「それは私が行くから、『2人で』先に行ってて」

 だが、回り込まれてしまった。

 きっちり2人を強調するモニカに内心舌打ちする。

 変な気を遣う必要なんか無いって言うのに。

「それじゃあ帰ろっか?ルディ」

「お邪魔させてもらうよ」

 ミートパイを持ち直し、並んで歩き出す。

 

 

 ……

 

 ………

 

 …………

 

「ってことみたいでな」

「オスカーは相変わらずだね」

「だなぁ」

 適当に話しながらアトリエに到着する。

「ただいまー!」

「お邪魔します」

 勝手知ったる、という気楽さでアトリエにお邪魔する。

 前までは聞こえてきた、おかえりなさいの声がないことに寂しさを覚えながら、ミートパイを置こうと机に向かおうとする。

 バサッ、バサッ。

 何の音だ?

 聞きなれない音にソフィーと一緒に横を向くと……

 

 本が浮いていた。

 

 それはもう、バッサバッサと鳥のように羽ばたきながら。

 

「「え、えぇぇええええええええ!!!??」」

 

 驚きの声が、仲良く二人分、響き渡った。





プロフィール

名前:ルドルフ・コン・バートリー
年齢16歳 身長169cm 職業:手品師

「本日はこの世紀の手品師、ルドルフ・コン・バートリーのマジックショーをご覧に入れましょう!」

ソフィーの幼馴染その3。
休日に、教会前の広場でマジックショーを披露している手品師。

性格は無愛想で粗野な部分が散見され、手品師としての顔からは、想像つかないとよく言われる。
だが反面、付き合いは悪くなく、失敗続きのソフィーの錬金術の練習にもよく巻き込まれており、困っている人には声を掛けることも多い。

戦闘では小刀や飛び道具を使い、素早く行動する。
遠い国の【忍び】と呼ばれるような動きを見せる。
手品師をやっている関係か、多くの道具を使うことが出来るが、複雑な道具は苦手。


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新たな出会いは友の道を開く

 

「帰って来るなり騒々しいですね」

 飛ぶ本はそれだけでは飽き足らず、喋り始めた。

「えぇぇええええええええ!?本が、本が喋ってる!?」

「なぁ、ソフィー」

「なっ、なに!?というかルディ、何でそんなに落ち着いてるの!?」

「頬、抓ってくれ」

「全然落ち着いてなかったぁぁあああ!!?」

 だって、本が浮いて喋ってるんだぜ?

 夢だと思うじゃん?

「落ち着いてください」

「だって、本が喋ってるし……」

 ソフィーの言葉にうんうんと頷く。

「考えてみてください。人間が話しているのです。本が喋っていてもおかしくないでしょう?」

「う、うーん……そういうもの、なのかなぁ?」

「いやいや、騙されるなよ」

 間違いなく本が浮いて喋るのは常識の範囲外だ。

 とは言っても、このまま驚いてるだけじゃ何も話が進まない。

「まぁ、このままだと埒があかないから聞くけど、おたくは?」

「はい、プラフタと申します」

 あ、名前あるんだな。

「あ、名前あるんだ……。あたしはソフィーって言います」

「俺はルドルフだ」

「ソフィーにルドルフですね。記憶しました」

「えっと、プラフタ、さん?」

 腰低いなぁ……

「プラフタで結構です」

 こっちは意外とフレンドリーだな。

「あ、うん。えと、プラフタは一体何なの?」

「本です」

 それは分かるわ。

「いや、それは分かるけど……。あなた、さっきの図鑑だよね?」

「私は……。私は……?」

 何だ?様子がおかしい?

「妙ですね。思い出せません。私は一体何なのでしょうか?」

 いや、こっちに聞かれても……

「いや、あたしに聞かれても……」

 これは……一体どういうことなんだ?

「ねぇ……ひょっとしてプラフタ、記憶がないの?」

 え?そういうことなの?

「どうやらそのようです。錬金術に関わりがあることだけは覚えているのですが」

 そういうことなんだ。

「錬金術!?それならあたし、力になれるかも!あたし、実は錬金術士なんだ!」

「いや、ならんだろ」

 つい口に出してしまうと、茶々を入れるな、という目を向けられる。

 ……ふざけてるつもりはないんだけどなぁ。

「ああ、存じています。山師の薬の製法も知らない駆け出しの錬金術士ですね」

 こっちもこっちで辛辣だなぁ……

「うっ、見てたんだ……。で、でも、今はちゃんと作れるし……」

「あんなもの、少し勉強すれば子供だって作れます」

 ってことは、俺でも作れるのか?

「はい、貴方でも作れますよ」

「え、考えを読む力もあんの?」

 それはよろしくない。

 それが本当ならすぐに帰らねば。

「そんな力はありません。だから帰り支度をする必要もありませんよ」

「本当に読めてないんだよな!?」

 びっくりの洞察力なんだけど!?

「ルディは分かりやすいからね〜」

「はい、初対面の私でも理解出来るほどには」

 ……ちょっと凹む。

「まぁ、山師の薬はそれくらいに初歩なんですよ」

「……どうせあたし、錬金術下手だもん。すぐ失敗しちゃうし、いろんな物作れないし……」

 あぁ、大分凹んでんなぁ。

「ま、まぁほら!今度はちゃんと成功したんだし、ホルストさんも成長してるって褒めてたんだしよ、大丈夫だって!」

 さすがに、とフォローを入れる。

 ソフィーはあんまりネガティヴを引きづらないタイプだけど、それでも凹む時は結構深く凹むしなぁ。

 ………………それに、あんま悲しい顔させておきたくないしな。

「いいもんいいもん、ルディも失敗に巻き込むこと多いし、おばあちゃんみたいに街のみんなを助けてあげられないもん……」

「上手くなりたいですか?」

 さらにフォローを入れようとする前にプラフタが口(?)を開いた。

「…え?」

「錬金術が上手くなりたいですか、と聞いたのです」

「それは、もちろん。なれるならなりたいけど……」

「『知識の大釜』という道具があります」

 知識の大釜?

 何でも、誰でも偉大な錬金術を行使しうる、錬金術の知の結晶とのことだが……

「そんなので、いいのか?」

「え?」

「あ、いや……」

 やば、つい言っちゃった。

「あー、ルディは自分の努力だけで色々やりたい人だからねぇ」

「ふむ……そういう人もいるのですね」

 意外そうに言われる。

 ……まぁ、多少変わってるのは認めるけど。

「それで!その知識の大釜ってどこにあるの!?」

「知識の大釜は…………妙ですね」

 あ、このパターンは。

「ねぇ、プラフタ?まさかとは思うけど……釜について、忘れちゃった?」

「そのようです」

 クールで辛辣な印象が崩れ去った瞬間である。

「えーーーっ、本当に!?期待持たせておいて、あんまりだよー!」

「意外とポンコツなのな」

「……申し訳ありません。しかしまったく思い出せないのです」

 ほっ、スルーされた。

「あと、私はポンコツではありません」

 しっかり反応された!?

「お詫びと言ってはなんですが、私がソフィーに錬金術を教えましょう」

 お?

「記憶を失っているとはいえ、あなたよりも錬金術の知識を持っている自信があります」

 やっぱりコメントは辛辣なのな。

「うーん、確かにプラフタってあたしより錬金術詳しいよね…」

 お前もそれでいいのか!?

 まぁ、プラフタが賢そうなのは俺も同意だけどな。

「教えてくれるって言うならお願いしたいかも」

「はい、それではこれからよろしくお願いします、ソフィー」

「うん!よろしくね、プラフタ」

「そちらのルドルフも、一応よろしくお願いしますね」

 うっ、若干根に持たれてる……

「おう、これからよろしくな」

 でもまぁ、今はこの面白そうな出会いに、感謝しますか。








ルドルフの評価(幼馴染編)

ソフィー「結構、失言多いよね?」
オスカー「そうだな、1日に一回は失言してるイメージだなぁ」
モニカ「でも、意外と頼りになるわよね」
オスカー「付き合いはいいんだよなぁ……失言は多いけど」
ソフィー「そうだね、錬金術の練習の時も大体いてくれるしね」
オスカー「それはルディがソフィ……うぐっ!?」
モニカ「(それは言っちゃダメよ)」
オスカー「(分かった!分かったから離しておくれよ!)」
ソフィー「?」


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初戦闘は親友の盾に

 

 

 翌日。

 結局あの後、リアクション等々で疲れたためお茶会は流れてしまい、そのまま帰った。

 なんというか、少し疲れた……

 いや、プラフタが悪いっていう訳ではなくね。

「まぁいいや。今日は何もないだろうし、週末の仕込みでもしておくか」

 きっと大丈夫だろう。

 ピコン、とフラグが立った音なんて聞こえなーい。

 気を取り直して、仕込みと練習を〜。

 ガチャ

「ルディー、素材取りに行くから手伝ってー」

 早いよ、フラグの回収が。

 グッバイ、俺の仕込み&練習タイム…。

 

 

 ……

 

 ………

 

 …………

 

 〜ソフィーside〜

 数時間前。

 

「ん〜、おはよう」

 今日もいい天気。

「おはようございます、ソフィー」

「うん、おはよう。プラフタ」

 新しい、この家の住人(?)であるプラフタに挨拶する。

「改めて、これからよろしくね」

「えぇ、よろしくお願いします」

 朝食を食べたら早速、練習しなくちゃ!

 

 …………

 

「さて、それでは始めていきましょう」

「うん!」

「では早速、山師の薬の調合から始めましょう」

「山師の薬を?」

「はい」

 山師の薬はもう作れるよ?

 そう思ったけど、プラフタが言うには、錬金術士として成長するには、何度も調合をしないと上達しないんだって。

 今までは失敗続きだったけど、これからはプラフタもいるし、ちゃんと頑張ればいつかはおばあちゃんみたいな錬金術士になれるかもね!

「それじゃあ素材を……って、あれ?」

「どうしました?」

「昨日使っちゃった分で材料無くなっちゃった」

「では取りに行かないといけませんね」

「だよね……。うー、プニとかいるし、怖いんだけどなぁ〜……」

 出来れば1人では行きたくないよ〜。

「昨日の彼は戦えないのですか?」

「彼って、ルディのこと?」

「はい」

 ルディかぁ……

 戦えるのは知ってるけど、そろそろまたマジックショーやるだろうし、忙しいだろうなぁ。

「う〜ん……」

「何か悩むことがあるのですか?」

「いや、今忙しいだろうし……」

「多少言動が失礼なきらいはありますが、ステディを放っておくような男には見えませんでしたが?」

「まぁ、失言が多いのは間違いないんだけどね……」

 ……って、プラフタ、なんか変なこと言わなかった?

恋人(ステディ)?」

「違うのですか?」

 むしろ何言ってるんだ?と言わんばかりの言い方をしてくるプラフタ。

 あたしとルディが…………

 ボッ!

「違うよ!?違うからね!?」

「そうなのですか?」

 まだ会って2日目なのに、心底意外そうに言ってくる。

「ただの幼馴染だよ!何言ってるの!?」

「そうですか」

 何故か納得いってないような言い方をするプラフタ。

 けど、納得いってないのはこっちなんだけどなぁ。

「ともかく、ルドルフは誘わないのですか?」

「まぁ、ルディって付き合いはいいからきっと助けてくれるけど……」

 う〜ん…………まぁ、いいや。

 断られたら断られただし、来てくれなくてもモニカも誘えば大丈夫だろうし。

「それじゃあ、誘ってみようかな」

「それでは、いってらっしゃい」

「うん、いってきまーす!」

 最近はあまり聞かない挨拶に、何となく心が軽くなった気がした。

 さぁって、ルディは来てくれるかなぁ?

 

 

 ……

 

 ………

 

 …………

 

 というわけで、ソフィーの採取に付き合うことになった。

「いや、忙しいんなら断ってくれてもよかったんだよ?」

「いーよ、付き合うよ。そんかし、モニカも連れてくぞ」

「うん!」

 断ることは、確かに出来たし、モニカに任せりゃ安心なのも分かってる。

 けどなぁ……

 ーーあー、忙しいなら大丈夫だよ?

 …………あんな寂しそうな顔されりゃなぁ。

 まぁ、これも仕方ない。

 俺の方はまだ余裕あるわけだし。

 というわけでモニカのいる教会前広場へ。

「あら?2人揃って、デートかしら?」

 顔を見た瞬間の開口一番がそれってどうなんだよモニカ……

「ちげーy「全然違うよ!そんなんじゃないって!!」

「そ、そう……」

「そうだよ!あり得ないよ!!」

 ……………………そこまで全力で否定しなくても良くないですかね?

「………う〜、プラフタめぇ……」

 最後の呟きはぶつぶつ言っててよく聞こえないな。

 はぁ……

「まぁ、ソフィーの採取の手伝いだよ」

 お前も手伝え、と伝えるとよっぽど不憫に見えたのか珍しく茶化すことなく頷いてくれた。

「気を取り直して出発だね」

「ええ」

「おう」

 街の外へ出るためにまずはストリートへと向かう。

「おや、ソフィーにモニカにルドルフじゃないか」

 その途中で、マルグリットさんに声を掛けられた。

「3人で仲良くお出掛けかい?」

「はい、ソフィーの採取の手伝いに行くんですよ。ね、ソフィー、ルディ」

 うーむ、これは中々。

「あぁ、美味しそうだなぁ…」

「今日はこれを使ってご飯作るかな…」

 マルグリットさんの八百屋はやっぱりいい野菜を取り扱ってるな。

「ソフィー?ルディ?」

 おっといかん。

「え、えぇそうなんですよ!これから採取に行くんです」

「ま、手伝いを頼まれましてね」

「あっはっはっは!2人とも、後でうちの野菜を買っていってね」

「「はい!」」

「もう、2人して……」

 やば、モニカが本気で呆れてる。

「あぁ、そうだ。うちのバカ息子を見掛けたら、あたしが探してたって伝えてくれるかい?」

「分かりました!」

 オスカーお前、昨日に引き続きか……

 これは説教は確定かな?

 オスカーもめげないタイプではあるけど、ストレス解消に付き合わされること、結構あるんだよなぁ。

 肥料探しか、やけ食いか。

 ………菓子でも用意しといてやるかな。

「ルドルフ、ちゃんと女の子を守ってやるんだよ?」

「せいぜいプニくらいですから、大丈夫ですよ」

 最初から守るつもりではあるけど、何となく照れ臭い。

「こら、あんたも男なんだから……」

「あはは、大丈夫ですよ。マルグリットさん」

 適当に聞き流そうかと思ったが、途中でソフィーが割り込んだ。

「こう言ってますけど、何だかんだルディはいっつも守ってくれますから」

 ……笑顔で言い切るなよ。

「へぇ、そうかい。ソフィーが言うんなら、間違いないね」

「はい!ね、ルディ?」

「…………うっせ」

「あらぁ?ルディ、顔、赤くない?」

 モニカが激しくウザい。

「なってない」

 早く行くぞ、と先に歩き出して急かす。

 小走りでついてくる2人の足音を聞きながら、揃って街の外へ向かった。

 

 ……

 

 ………

 

 …………

 

 なんやかんやで、特にトラブルもなく雛鳥の林へやって来た。

「うーん!空気がおいしー!」

「そうか?」

 そんなに違うもんか?

「うん!それに、街の外に出たのも久しぶりだし」

「……慣れちまうと案外感じないもんなんだな」

「2人とも、いつ魔物が出てもおかしくないんだから気を付けなさい」

 おっといけね。

「分かってるー。って誰か、いる?」

 あん?

「ってオスカーじゃねぇか」

「あれ、3人揃ってどうしたんだ?」

「ちょっと錬金術の素材を集めにね。オスカーは?」

「ソフィー、多分それ聞くまでもない」

 植物観察以外だとはとても考えられん。

「ああ、そっか」

「勝手に決め付けるなよ。まぁ、予想通り植物の観察だけどね」

 やっぱ当たってんじゃん。

「ここの植物は中々面白い話を聞かせてくれるよ」

「オスカー。あなた、また植物と話をしていたとか言い出すんじゃないでしょうね?」

「その通りだけど、何かおかしいかい?」

「いや、普通はおかしいって」

「ルディもそう言うけど、おいらにとっては話が出来ない方が不思議だよ」

「まぁ、実際は半信半疑だけど、それはオスカーの才能だろうし別にいいよ」

「本当、ルディは一言多いなぁ……」

 だって、植物と話が出来るんだぜ?

 …………頭に昨日のプラフタの姿が浮かんだけど無視だ、無視。

 オスカーの知識量は認めてるし、助けられたこともあるけど、100%信じるのはオスカーには悪いが少し難しい。

「あ、そうだ。マルグリットさんがオスカーのこと、探してたよ」

「げっ、やばい!配達の仕事忘れてた!」

 ちょっと顔の青ざめた親友の肩を優しく叩いてやる。

「ほら、あれだオスカー。適当に菓子でも作ってやるから」

「叱られるのは確定なの!?」

 さすが親友、これだけで言いたいことがちゃんと伝わる。

「自業自得ね。諦めなさい、オスカー」

 モニカも俺の援護射撃をしてトドメを刺しに行く。

 ガサッ

 ん?今のは?

「何だ?今の音」

 音の方を見ると……

「きゃー!プニー!?」

 青色のゼリーみたいな生物、プニが現れた!

「ソフィー下がって!オスカー、戦えるわね!?」

「ち、ちょっと待ってくれよ!まだ、心の準備が……」

 んな甘いこと言ってる暇ぁねぇぞ、オスカー!

「来んぞ!」

 プニが明らかに攻撃体勢に入った!

 やらせるかよ!!

 自分の武器である小刀を逆手に持ち、先んじて斬りつける。

「続くわ!」

 モニカがレイピアで攻撃を重ねる。

「どう!!」

 オスカーがシャベルで追撃を……

 シャベル?

「オスカー、お前それが武器ってどうなんだよ?」

「仕方ないだろ。武器2つは持てないんだから」

 えぇ〜、そういう問題?

 なんて油断していたら、プニが反撃してきた。

「きゃっ」

 ちぃっ!

「ルディ!?」

 ソフィーに向かっていったプニの攻撃を庇って受ける。

「やれ!」

 俺の言葉に反応して、ソフィーが杖で一撃入れた。

 すると倒したのか、プニの身体が溶けるように消えていった。

「勝った?」

 頷いて、ソフィーの言葉に同意してやる。

「はぁ…はぁ…。死ぬかと思った。ルディ、大丈夫?」

「このくらい何ともねぇよ。プニだぞ?」

 さすがに、もうちょい手強い相手ならまだしもプニの中でも最弱の個体、青プニだったんだ。

 何も問題はない。

「ルディも大丈夫そうだし、2人も怪我はないわね?」

「ああ、なんとかね……。けど、いきなり襲ってくるなんて聞いてないよ」

 そらお前、魔物だもの。

 ……見た目あんなんでも。

「ねぇ、オスカー。あたしたちと一緒に行かない?1人だと危ないよ?」

「そうみたいだ。じゃあ、おいらも一緒に行くよ」

 軽く引き受けたなぁ。

 …………そこ、お前が言うなとか言わない。

「よし、そうと決まったらパパッと採取済ませちゃおう」

 これでようやく本題に入れるな。

「あ、オスカーも手伝ってね」

「え、いや、そこまでするとは言ってない……」

「ここで会ったこと、マルグリットさんに黙っといてあげるから。ね」

 うわぁ、黒いなぁ……

「ルディ、顔に出てるわよ」

 なんかモニカに若干責められてる気がするけど、俺は黒くはないぞ!?

 失言は多いけど!

「自覚あるなら直しなさいよ……」

 へーい……




◾️図鑑

普遍の小刀

カテゴリ 武器:10

材料 インゴット 鉱石 糸素材

コメント

ソフィー「こんな小さい剣でよく魔物に斬りかかれるよね」
ルドルフ「まぁ、敵の攻撃を間近で躱すことを前提としてるから人を選ぶかもな」
ソフィー「そもそも魔物に近付きたくないよ……」


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