乾いた自分を汚泥で解かす (生カステラ)
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1話
この世界で異質にあるのは今の自分。
であれば、異質なものはどうあるべきか?
普通の人間の様に振る舞うのか?異質なものは異質なままに振舞って良いのか?
さりとて答えは出ず、僕はまた同じく異質な男と話をする。
「兄さん、朝ごはんの準備が出来ました」
布団で微睡んでいた僕に、鈴のなるような声が覚醒を促す。
冬に入り布団の温かさが僕を抱きしめまだ寝ていたいと思っていたのだが、まだ慣れない声に否が応でも心臓がドクリと跳ね、上半身をもたげる。
「ああ、分かったから下がっていいよ」
ここしばらく、僕は何もしていない。できていない。
「…今日も食べられませんか?」
「悪いけどまだ腹が減ってなくてね」
「…分かりました」
彼女は間桐桜と言い、僕は間桐慎二というらしい。
僕が一週間前、目を覚ました時にこの見たこともないような陰鬱な豪邸で初めて顔を合わせたのが彼女だった。
彼女が扉の前から去る音を聞き、ベットの淵に腰をかける。
この間桐慎二という男はなかなかセンスが良く、少なくとも元の僕が持ったいた服よりか格好の良いものばかり揃えていたようで出かける際には適当に選んでも見た目だけはまともに見える。
寝巻きから間桐慎二の私服に着替え、財布を持ち外へ出るため居間へ向かう。
「一応学校へは休む旨を連絡しておいたので、体を休めておいて下さいね」
俺の知識では彼女と間桐慎二の関係は良いものではなかったはずだ。ただ、皮肉屋だった彼と違い僕はただの厭世家なので元の彼より返事はぶっきらぼうかもしれない。
「それより部活には間に合うのか?片付けくらいはしとくから衛宮の所にもう行っていいぞ」
「いえ、兄さんが体調悪いのに先輩の所に行ったら怒られちゃいます」
「なら尚更部活へ向かえよ、また衛宮とかタイガーから連絡くると気にして休めないから」
わかりました、と彼女は朝食を食べたあとの皿を流しへ片付け、学校へと向かった。
多分、私服に着替えて居間へ出てきた僕を見て素直に休むとは信じていないだろう。しかし、僕は何も語らず彼女も詮索をしてこないので平日に何も食べずふらついている僕は周りから見ればいきなり心の調子でも崩した変人だろう。
彼女が出たのを確認し、僕は少しの水を飲んでから外へ出た。
やはり冬の空気は澄んで遠くが見える。前の僕がやっていたゲーム、fate/staynightの舞台になっていた冬木市はこんな感じだったんだなと外に出る度に感動する。
目的地に向かってふらふらと足を進める。といっても、目的地はさほど遠くない。
「ようこそ、迷える子羊よ。この協会に何か用向きでも?」
「やあ神父さん。実は懺悔をさせて貰いたくてね」
「ふむ、それは君の近くにいるものでは不足なのかね?それとも、聖杯戦争が本格的に始まる前に保護でもしてもらいに来たか?」
言峰綺礼という少し違う感性を持った男と話がしたくて、この数日街を散策し、教会を探していた。これまで食事をとっていなかったのは時間が惜しくて食事を取らないでいた訳ではなく、単にこの異質な状況に置かれたことで食欲がなかったのだが。
「それもいいかもしれないけど、あんたみたいな人間にしか話せないことも僕にだってあるんだ」
「何分私は君の人となりを知らないのでね。さて、では懺悔室へと来るがいい。私も準備をしてすぐに向かおう」
重そうなカソックを軽く翻し言峰綺礼は教会の裏へと向かった。
小さな懺悔室の扉を開け、硬い椅子に腰をかける。この世界に来てから、旋ましい変化というのはせいぜい自分を取りは巻く環境くらいで微塵も自分自身が変わったとは思っていない。
しかし、この世界で異質な存在としてある自分の在り方を、また異質な存在である言峰綺礼にどう在るべきか問うてみたかったのだ。
間桐桜という少女は間桐慎二からしても、今の自分からしても異質なものだった。
だが、彼女はこの世界において異質なものだろうか?
もとより自分が狂っていたためにそうとしか捉えられていなかったのであれば、やはり自分が異質なことの証左にしかならないのだろう。
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2話
しかし、それは他者と比較しての罪なのか、自分自身で明らかに罪だと理解していなくてはならないのか?
「さて、では懺悔を聞こう。畏まることはない、思うままに話すといい」
顔は見えないが、低い威圧感のある声が聞こえる。僕はその声に従って自分の話したいこと、分からないことについて口を開いた。
「僕は自分がおかしいと思っている。それでも普通のように振舞っていたいと思っています。しかしながら、まだ僕は異質に振舞っている」
ふむ、と声が聞こえる。言峰綺礼もまた異質な存在であると僕は既に知っていたので、カンニングのようなものだ。彼とて同じ悩みを持つもの。ましてや自分の倍生きている彼に問えば、同じでなくとも一種の答えが得られるのではないかと期待している。
「君は、その自分の振る舞いが罪であると?」
「人は普通でなければならない、しかし真摯に生きるには自分を騙しながら生きることが正しいのかわからない」
「振る舞いについては置いておくが、異質なことは罪ではない。なにより生き方というのはそう在れと定められたものは無いのだ」
話す言葉には真剣さがあるのに、話し方には真剣さが感じられない。
「しかし、異質なものは排斥される」
「そう。しかし異質であることそれ自体の何が悪いのだね?」
そう。それが聞きたかったことなのだ。異質であること、それ自体の罪はないと断じたこの男の思想、それを知れば自分がこの世界で異質であることを受け入れられる気がして。
「悪いかどうかと罪があるかどうかは別ではないですか?」
「悪徳と罪は違うと?」
言葉尻に、嘲笑が含まれているような気がしてならない。そんなはずないのに、なぜか自分も熱くなって行くのがわかる。言葉に熱が籠る。話したかったことがズレていく。歪みが更に酷くなる気がする。
「悪いことをしたら罰せられるのはわかる。だけど、罰せられた者が悪いとは限らないだろ」
「であれば、君が思う自身の悪徳とは自身を偽って生きていることにのみあると?罰せられねばならないと?」
「…人は皆自分を偽ることだってあるはずだ。それこそ神父様でさえ」
「君自身でそのように考えているのならばそれもひとつの答えだ。が、異質であること自体が罪でない以上、異質であることを認識し、普通でありたいと思うならば君は自罰的になっていないのは何故だ?」
ヒヤリと心が冷えた。異質であることに真摯に向き合ってきた男のこの言葉は、彼自身の過去の生き方そのままであり人生。
この言葉に対して僕は、そぐう言葉を放つことが出来る気がしなかった。たかだか一週間にも満たない浅い悩みが、この男の本質に触れようなどと思ったことはただの思い上がりだと今更思い知った。
「異質なものが普通でありたいと願うのならば、自分を偽らざるを得ない。しかし、その普通でありたいという願いが叶うことの無いものと知っていながら偽り続けることは周りを騙し続けることでしょう。答えを知るまで僕は蝙蝠でいるしかないと思っている」
「懺悔と言うよりも問答だな、これは」
「歪みは正さなければいけないと思ったんです」
「それには甚だ私も同感だよ」
明らかに呆れた声色で、赦しの無いまま言峰綺礼は懺悔室を出ていった。しかし、その声色には落胆の色はなく、むしろ悦びすら感じる昂りがあったような気がしてならなかった。
赦しとは罪を神が懺悔を見ていたことによりその懺悔をもって神父が代理として与えるものである。
では神父から許しを得られなかったということは神の赦しを得られなかったということか?
今後の方針全く決めてないので活動報告の方に意見とかなんでも募集中
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3話
「協会」表記を「教会」表記へ置換
感想欄にてご指摘有難うございます。
少し昔、間桐慎二は自分が魔術師の家系に生まれたにも関わらず魔術を使うことが出来ない不能者と知り大変なショックを受けた。無論これは前の世界の僕が知っていた知識であり、間桐桜にその後酷いことをしたという実感はない。
「よお衛宮、こんな時間に女連れて何してるんだよ」
「…間桐君こそ、こんな時間に出歩いていると危ないんじゃない?」
「…慎二か」
横にいる黄色のレインコートを着た英国人はセイバー、アルトリア。隣の赤が映える美人は遠坂凛だろう。間桐慎二は遠坂凛に告白し、こっぴどく振られたとかなんとか。間桐慎二だったらここで会ったら目も当てられないほど怒り、皮肉たっぷりに何か言うのだろう。だが、俺は怒りや恥、俺としては初対面としての人見知りを発揮するよりも好奇心の方が働いた。
「衛宮の後ろに控えてるの、サーヴァントだろう」
空気が冷えたのを感じる。恐らくこの面子、セイバーの装いからして、教会へ参加表明及び聖杯戦争について説明を受ける日か。
「そういう間桐君も教会の方から来たということは参加するってことなのね?」
「まさか。人殺しに加担するなんて御免だよ。ましてや君も知った通り僕は不能者だからね」
遠坂が僕に向けた射抜くような目をぎょっとした形に変えた。ついで、セイバーがこそこそと衛宮に話しかける。
「…驚いた。あのプライドの高い間桐君がそんなことを言うなんてね」
「そりゃ僕だって馬鹿じゃないし、一般常識は持ってるつもりだよ」
手をヒラヒラとわざとらしく顔の横で降る。おまけに手の甲を見せて令呪を持っていないことも示した。
「それが間桐の総意ってわけ?」
「まさか。親父同様俺は魔術師の家系としての顔はあいにく持ち合わせてなくてね」
コソコソ話が終わったのか、衛宮が僕へと近づき困ったような顔で話しかけてくる。
「慎二、お前は関係者じゃないんだろうが、良かったらついてきてくれないか?」
「おいおい、衛宮お前お人好しとはいえ度が過ぎるんじゃない?俺が遠坂から嫌われてるの知ってるだろ?」
多分衛宮もあまり話したことの無い人間といるのは不安で、俺を巻き込んで少しでも平静を保とうとしているのかもしれない。だが、ここは顔を立てて俺を心配していることにしてやる。
「お前が心配なのもそうだけど、わかるだろ?」
「わかるさ。別に一緒に行ってやってもいいが教会の中までは行かないぞ。一日に二度も顔を見せるほど俺も神父と仲良くないからな」
こそこそと俺も衛宮と話をし、結局俺もさっきまでの道のりをもう一度繰り返すことになった。
衛宮と遠坂が教会内へ入り、俺はセイバーと共に教会の外で待つ。おそらく霊体化したアーチャーもいるだろう。
「おい、少し逸れたところに来い」
大人の男性の声、おそらくアーチャーの声が聞こえた。セイバーには聞こえないように俺の耳元で囁くような声は続く。
「お前に聞きたいことがあってな」
仕方ないかと教会のの壁に寄りかかっていたのをやめ、裏の方へ回る。
「どちらへ行かれるのですか?」
「小便、教会のは借りたくないからな」
初めてのセイバーとの会話がこれかよ、と思いつつセイバーからは見えない位置へと移動しOKと言わんばかりに俺は手を振った
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