ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ (吉良/飛鳥)
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プロローグ『隻腕の軍神の序章です』

PIXIVで公開していた物を此方でも公開しようと思います。


Side:みほ

 

 

 

戦車道――其れは、良妻賢母を育てる乙女の嗜みであり、現代の日本でも、全盛ではないにしろ、其れなりの盛り上がりを見せている競技の一つなのは、多分間違いないモノだと思う。

 

 

身内贔屓をする心算は無いけど、史上最年少でジュニアユースの代表に選ばれ、そして隊長として活躍してるお姉ちゃんの存在も大きいのかも。

 

なんて事を言ってる、私こと西住みほも、日本の二大戦車道流派『西住流』の次女として生まれ、日常的に戦車と触れ合ってたんだけれどね。

 

 

 

 

「みほちゃん、今日も練習を見に行くの?」

 

 

「ゴメンね、折角誘って貰ったのに。

 

 本音を言うなら、駅前にボコが来るって言うなら、何よりも優先したいんだけど、車長選任免許を取るには、もっと頑張らないとだから。」

 

 

「そう言う事ならOK。駅前の生ボコは、携帯で写真に撮って、後で携帯に写メしてあげるよ。」

 

 

「うん、ありがとう♪」

 

 

「それにしても、車長専任免許を取ってまで戦車を続けるって……本当に戦車が好きなんだね、みほちゃん?」

 

 

「うん、好きだよ?大好き!」

 

 

そして、現在私は『車長専任免許』を取得する為に、猛勉強中!!此れを取得する事が出来なかったら、二度と戦車に乗る事が出来ないかもだから、本気だよ。

 

 

左腕のない私は車長専任免許を持って居ないと戦車道をやる事は出来ないし、戦車道を続けて行かないと、友達との約束も果たせないからね。

 

片腕だからって、諦める事だけはしたくなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ プロローグ

 

『隻腕の軍神の序章です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が片腕を失ったのは今年の、6年生に進級してからの事だった。

 

始業式を終えて、友達と一緒に下校していた時に、居眠り運転(?)的な、暴走スポーツカーが私達に向かって突っ込んできて、下校グループの何人かは、ギリギリ避ける事が出来たんだけど、私は逃げ遅れた友達を助ける為に飛び出して、ね。

 

 

其処から先の事は覚えてなくて、次に目を覚ました時には病院で、其処で私は左腕を失った事を知った。

 

左腕を失ったって言う事に、お母さんと姉ちゃんは動揺してたけど、私はある意味で冷静だった――或は私が助けようとした友達が無事だったからかも知れないけど、私は『左腕一本で済んでよかった』って言う思いが有った。

 

 

まぁ、意識が戻ってからお母さんに見せて貰った新聞を見る限り、物凄い事故だったみたいで、死者が出なかったのが不思議なレベルだったから、其れを考えると、左腕1本で済んだのは本気で御の字だと思うんだ。

 

 

でも、同時に私の中には不安が渦巻いていた――『片腕でも戦車道を続ける事が出来るのか』って言う事が。

 

エミちゃんとの約束が有るからやめたくなかったけど、片腕じゃ出来る事が限られるから、普通に戦車道を続ける事は無理だと思ってた――でも道は途絶えていなかった!

 

 

『車長専任免許』を取得すれば、私みたいな身体障害者でも、戦車道を続ける事が出来るから!――だから、私は其れを取る事に躍起になった。

 

其れを伝えたら、お母さんも理解を示してくれて、西住流の門下から教官を選んでくれたし、

 

 

 

 

「みほ、今日も来てたのか?熱心だな。」

 

 

「お姉ちゃん!

 

 うん、車長専任免許の取得試験まで、あと1ヶ月だから、其れまでに出来るだけ多くの戦術的知識を付けておきたいもん。」

 

 

「ふふ、みほらしいな。だが、其れは正しい事だ。

 

 西住流は元より、他の戦い方も知っていれば柔軟な思考も出来る。お母様も其れを考えて、『みほが練習を見に来た時には、西住流以外の様々な戦術を見せるように』と仰ったのだろうな。

 

 今日は、所謂待ち伏せ作戦を幾つかやろうと思うから、良く見ておくと良い。」

 

 

「うん!其れと、待ち伏せされた時に如何動けばいいかも考えるんだよね?」

 

 

「その通りだ。」

 

 

 

 

私が練習を見に行った時には色んな戦術を見せるようにって、お姉ちゃんにも言ってくれたみたいだから。

 

で、お姉ちゃんもお姉ちゃんで、本当に色んな戦い方を見せてくれて、退院してから今までの間で、私の戦車の戦術的知識は数倍になったって言っても、多分過言じゃないよね。

 

 

 

 

「熱心ねみほさん?感心感心!戦術的知識は、本で学ぶよりも、実戦でバーッとやってガーっとやるのを見て学ぶのが一番よ!」

 

 

「蝶野さん……相変わらずアバウトですね?」

 

 

「気にしない気にしな~~い!最終的に分かれば問題ないんだし。

 

 それで、今回は待ち伏せ戦法みたいだけど、みほさんだったらこの待ち伏せに遭った場合、どう対処して切り抜ける?」

 

 

 

 

そうですね……今みたいに、Ⅲ突メインで待ち伏せていた場合は、即時部隊を展開してⅢ突の側面を抜いて撃破した後で、残るⅢ号を狙います。

 

Ⅲ突の75mmは強力ですけど、回転砲塔が無いので、側面を取ればこちらが有利な上、Ⅲ突を沈黙させてしまえば、主力のパンターでⅢ号を撃破するのは容易だと思いますから。

 

 

或いは待ち伏せ部隊に正面から突っ込んで中央突破して、其のままその場から離脱して態勢を立て直すって言うのもアリだと思いますけれど。

 

 

 

 

「前者は兎も角、後者は普通は思いつかないんだけど……本当に、みほさんは定石に囚われない柔軟な発想が出来るのね。

 

 其れで居て、車長専任免許の取得に必要な定石通りの考え方も出来るって言うんだから、免許を取得して本格的に戦車乗りとしての訓練を積んだらどれ程の物になるのか、正直予測すら出来ないわね……」

 

 

「そうなんですか?」

 

 

「そうよ♪

 

 師範がみほさんに、車長専任免許を取得する事を了承したのも分かる気がするわ~~~……此れだけの才能を、開花させずに終わらせるのは勿体ないモノ。」

 

 

「???」

 

 

最後の方がよく聞き取れなかったけど、まぁ良いか♪

 

兎に角、免許取得試験まであと1ヶ月だから、全力で頑張らないと!何よりも、お母さんもお姉ちゃんも、そして蝶野さんも此れだけ協力してくれたんだから、免許が取得できなかったら嘘だからね。

 

 

 

 

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と、言う訳で1ヶ月が経って、無事試験が終了。あとは結果を待つだけなんだけど……うぅ、流石に緊張するなぁ。

 

合格者は電光掲示板に受験番号が表示される――私の受験番号は1023番……1018、1021……1023!!やった、受かった~~~!!!

 

 

これで、私はまた戦車に乗れる!エミちゃんとの約束を果たす事が出来るんだ!

 

 

 

 

「おめでとう、みほ。これで、戦車道を続ける事が出来るな。」

 

 

「ありがとうお姉ちゃん!

 

 お姉ちゃんが、色んな戦術を見せてくれたおかげだよ!」

 

 

「そんな事は無いさ……私はあくまで協力しただけ。合格できたのはみほの力だよ。」

 

 

「そうかな?」

 

 

「そうだよ。

 

 でも、兎に角合格できてよかったよみほ。――あの事故の後、もう二度と戦車に乗る事は無いんじゃないかって、左腕を失った事で自棄になってしまうんじゃないのかって本気で心配だったんだが、如何やら杞憂だったみたいだ。」

 

 

 

 

あの事故の写真を見たら、左腕だけで済んだのが奇跡みたいなものだからね。(汗)

 

それに、私は戦車が好きだから、絶対に辞めたくなかったんだよ、お姉ちゃん。

 

 

 

 

「其れを聞いて安心した。

 

 諦めない意思……其れはつまり『鋼の心』その物だ。――西住流戦車道の根幹を成す『強い意志』を、本当の意味でみほは備えているんだな。」

 

 

 

 

そう、なのかな?よく、分からないや。

 

兎に角、此れで私はもう一度戦車に乗る事が出来るんだから、頑張って自分の進む戦車道を見つけないとだね!

 

 

 

 

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其れからあっと言う間に時が経って、気が付けば年末。

 

秋口には、小学生の戦車道の大会が有って、試しに其れに出場してみたんだけど、決勝で戦ったチームの隊長の銀髪の子強かったなぁ?機会があったらもう一度戦ってみたいよ。

 

 

まぁ、其れは其れとして、この時期は何処の中学に進むかを決めないとなんだけど……

 

 

「お母さん、なんでこの中学?」

 

 

「決まってるでしょう、お母様の暴挙から貴女を護る為&あの人を納得させるためです。」

 

 

「……一体何があったのですか、お母様?お婆様と……」

 

 

「あの人は、今のみほを黒森峰の中等部に進学させろって言って来たのよ!

 

 黒森峰は良くも悪くも実力至上主義だから、みほならば問題ないでしょうけれど、それ故に果たして隻腕の新入生に対しての風当たりは強い筈。

 

 何らかの実績があるなら兎も角、専任免許を持っているだけの新入生では、格好の攻撃の的になってしまう――そんなのは認められないわ!

 

 みほが黒森峰に進むのは高校から……其れこそ、中学戦車道で結果を残して、黒森峰からスカウトされるくらいになってからの事よ。」

 

 

「お婆様……私だけでは飽き足らず、みほにも己の考える西住流をさせようと言うのか?……其れは絶対無理だと言うのに。

 

 と言う事は、この中学戦車道全国大会万年1回戦敗退の弱小校にみほを進学させて、戦車道チームを立て直させた上で結果を出させると?

 

 ……お母さま、其れは無茶振りだと敢えて言ってみます!」

 

 

「仕方ないでしょう!こうでも言わないと、あの人は退かないでしょうが!

 

 其れに、此処であの人の言う通りにしたら、貴女があの人の言う西住流を敢えて体現してる意味がなくなってしまうでしょうまほ!!」

 

 

「其れは確かに。」

 

 

 

 

あ~~……お婆ちゃんか。其れは確かに面倒だよね。

 

お婆ちゃんは、兎に角『常勝不敗』を謳う人で、西住流は絶対に勝たねばならないって思ってて、『戦車道はあくまでも武術で有って、大切なのは勝つ事よりも武人としての礼を欠かない事だ』って考えてるお母さんとの折り合いが凄く悪いからね。

 

 

お姉ちゃんは自分が、お婆ちゃんの言う西住流を体現できるって理解してるみたいで、其れをやってるけど、同時にお母さんの言う西住流も行って居るから、本気で凄いよ。――ただの一度、エミちゃんが責めた試合を除いては、常に武人としての礼を払った上で完全勝利を手にしてるからね。

 

 

 

とりあえず話を纏めると、お婆ちゃんを納得させるために、私はその万年1回戦負けの学校に進学して、其処で結果を残せば良いんだよね?

 

其れこそ、絶対王者黒森峰の高等部からスカウトが来るくらいに。――いいよ、その話受けた!

 

 

お姉ちゃんみたいに黒森峰に進学して、ユース代表に選ばれるって言うスター街道は、憧れる物が有るけど、私は其れよりも弱小校の立て直しの方が燃えて来るし、万年一回戦敗退の学校が行き成りベスト4とかに残って、その後の大会で優勝とかになったら凄く痛快だもんね。

 

 

だから、私は其処に行くよ――『私立 明光大付属中学校』に!

 

私が居る3年間の間に、必ずこの学校を中学戦車道の全国大会で、優勝させて見せるから!!

 

 

 

 

「良く言ったわみほ!それでこそ、此れを選んだ意味もあったと言うモノだわ。

 

 先ずは、中学で貴女の力を見せなさい?貴女ならば、此の弱小校を作り変える事が出来ると、私は信じているから。」

 

 

「うん、頑張るよお母さん!」

 

 

きっと、其れが私の戦車道を見つける事にも繋がるだろうから。

 

 

 

 

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で、あっという間に三学期が終わって、私も卒業して、春休みを堪能する間もないままに、中学校の入学式。

 

本州にある中学だから、実家の熊本からは自家用ヘリでの通学になるんだけど……此処が、此れから3年間、私が通う学校――悪くないかもね。

 

 

ともあれ、此処から始まるんだ――私の、私だけの戦車道がね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued…

 

 




簡単なキャラ設定



西住みほ


本作の主人公で、西住家の次女。小学生の時に交通事故で左腕を損失している。

しかしそれに悲観する事なく、友との約束を果たす為に『車長専任免許』を取得して、戦車道を続けている。(此れの取得には、母であるしほが指導教官を付けてくれた。)

戦車道では厳しくも、本当は優しい母の事は好きだが、西住流=勝利の思考形態を持っている祖母の事は苦手。

戦車道に関しては『姉のまほをもしのぐ潜在能力を秘めている。(しほ談)』らしい。

ボコられぐまの『ボコ』が大好きで、自室には所狭しとボコのぬいぐるみが大量に存在し、ちょっと異様な雰囲気を醸し出している



西住まほ


みほの姉で、戦車道のジュニアユース代表に選ばれる程の実力者。

祖母に溺愛されているが、まほ自身は祖母の唱える『西住流』の在り方に疑問を抱いてい

るが、同時に自分が其れを実践出来てしまう事も理解している。

其れでも、しほから言われた『戦車道はあくまでも武道、礼節を忘れないように』という教えは守っている。

口数が少なく、表情もあまり変わらない為に、冷徹な印象を受けるが、本当は妹思いの優しいお姉ちゃんである。



西住しほ


みほとまほの母親で、西住流戦車道の師範。

西住流に対する見解の相違から、自身の母である現家本との仲はすこぶる悪い。超悪い。

娘であるまほとみほの事は大好きで、戦車道では厳しく、しかし私生活では優しく接している。





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Panzer1『集うは戦車の仲間達です』

私の中学時代の仲間が、まさかこの人達とは…Byみほ         本名捏造上等だな。By???


Side:まほ

 

 

 

季節は春……つまりは新入生が入学してくる季節。

 

みほも、明光大付属中学校に入学して、新たな生活が始まると言う訳か……まぁ、お母様の設定した難易度Sランクのミッションが有る訳だがな。

 

 

加えて、片腕と言うハンデもあるだろうが、みほならばきっと大丈夫だろう。――皮肉にも、あの事故が、みほの心を相当に強くしたようだからね。

 

だからきっと、県外の中学校でも巧くやるだろう。

 

 

まぁ、私もみほの事を心配している場合じゃないのだけれどな。

 

2年生で隊長に抜擢された以上、その任は果たさねばならないし……

 

 

「1年生全員、二列横隊!各自、クラスと名前を言え!」

 

 

「1年B組、逸見エリカ!」

 

 

「1年A組、赤星小梅!」

 

 

 

 

今年の新入生は、中々に粒揃いであるようだから、其れを徹底的に鍛えてやらねばならないからな。…と言うか、黒森峰に入学したんだな逸見。

 

私に二度負け、その末に、私の指揮下に入る事を選んだか……面白いじゃないか。

 

 

この子は、何方かと言うと私に近いタイプだから、黒森峰の戦車道にも直ぐに慣れるだろうな。

 

 

 

間違いなく、みほとは大会でぶつかる事になるだろうから、其れまでに徹底的にチームを鍛えておかねばならないだろう。

 

最強の敵として立ちはだかってやる事が、王者黒森峰として、そしてみほの姉としての礼儀だろうからな――さて、お前は進学した先で、どんな戦車道を見つけるんだ、みほ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer1

 

『集うは戦車の仲間達です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

明光大付属中学校に入学して3日目。本日は、各部活動の新入部員勧誘の為のオリエンテーリングが開かれて、この学校では、科目じゃなくて部活動として戦車道が有るって事を知った。

 

 

で、戦車道はどの部活よりも『やる気のある新入部員』を必要としてた……お母さん曰く万年1回戦負けの弱小校って事だったけど、戦車道への情熱だけは他の学校に負けてないのかもしれないね。――これなら、若しかしたら行けるかも知れない。

 

 

とは言え、私だけが戦車道を選択しても意味は無いから、他の1年生でも戦車道を選んでくれる人がいないか、後で探してみないとね。

 

 

 

と、戦車道の事は此れ位だけど……やっぱりと言うか何て言うか、隻腕て言うのは、皆から奇異な目で見られちゃうみたい。覚悟はしてたけど。

 

まぁ、クラスメイトの1人が片腕無しだったら、確かに奇異な感じはするのかもしれないけどね。

 

 

それでも……

 

 

 

 

「よぉ、片腕!相変わらず不便そうだなぁ?」

 

 

「なんだって普通の学校に来た訳?

 

 アンタみたいな障碍者は、特別養護学校に行ってた方がいいんじゃない?って言うか、片腕で普通学校に来るとか、馬鹿じゃないのアンタ?」

 

 

 

 

僅か3日で、こう言う人達が出て来るとはね……ある意味で予想はしてたけど、ヤッパリ気持ちの良いモノじゃないなぁ。

 

私だって、好き好んで片腕になった訳じゃないのに、何でこんな事を言われないとならないんだろう?……こう言う人達は、無視するに限るよね。

 

 

 

 

「何とか言えよ片腕。左腕だけじゃなくて、声も無くなっちまったのか?聞こえてんのかオイ!!」

 

 

 

 

 

「おぉっと、足が滑ったーーーーーーーー!!!」

 

 

 

――ドガバァァァァァァァァァン!!!!

 

 

 

 

で、無視してたら、リーダー格っぽい人が掴みかかって来たんだけど、その人がイキナリ吹き飛んだ!?ううん、誰かに蹴り飛ばされたみたい!

 

足が滑ったって言ってけど、此れは明らかに普通にドロップキックを炸裂させたよね!?

 

 

 

 

「てめ、何しやがる!!」

 

 

「あぁん?何しやがるだと?……あんまりにも、お前等がムカつく事してるから、つい足が滑ってドロップキックをブチかましちまっただけだタコ!!

 

 てか、心底下らねぇ事してんじゃねぇぞオラ!コイツは好きで片腕になった訳じゃねぇだろ!!

 

 もっと言うなら、片腕ってハンデ背負ってでもアタシ等と同じ生活をする事を選んだんだぞ?……其れを、馬鹿にして突っかかるとかアホか!!」

 

 

 

 

割って入ってくれたのは、黒髪が特徴的な女の子……確か『辛唐青子(しんとうしょうこ)』さんだったっけ?

 

助けてくれたのは嬉しいけど、喧嘩はダメだよ?喧嘩になっちゃったら、きっと先生だって黙ってないと思うし、変に処分されても面倒だからね?

 

 

 

 

「む……言われてみりゃ、其れもそうだ。

 

 しょうがねぇ、今回だけはコイツの顔に免じて許してやらぁ。――だけど、2度目はねぇからな?次またコイツに下らねぇ事したらそん時は……男としての選手生命断つからな?」

 

 

「はいぃぃぃぃぃぃ!分かりましたぁ!!行くぞお前等!!」

 

 

「二度と来るな……てか、一言コイツに侘び入れろって。」

 

 

「あはは……まぁ、其れは良いよ。助けてくれてありがとう、辛唐さん。」

 

 

「まぁ、あぁ言う輩は好きじゃないからなアタシも。って、名前名乗ったけかアタシ?」

 

 

 

 

自己紹介の時に覚えたから。このクラスの生徒全員の名前と出席番号、其れと生年月日は全部。

 

――辛唐青子さん、出席番号15番、9月12日生まれで間違ってないよね?

 

 

 

 

「スゲェ、マジで覚えてんのか!?アタシなんて、クラスで名前覚えてんのはお前だけなんだけどな、西住?

 

 いや、こう言っちゃなんだけど、やっぱ片腕ってのは良くも悪くも目立つから、『隻腕は西住』ってな感じで、完璧に覚えちゃってさぁ~~~~?」

 

 

「そうなんだ?……まぁ、確かにどうしても目立つからね、片腕だと。別に不便はしてないんだけど。」

 

 

「其れがスゲェんだよ西住は!

 

 普通だったら、日常生活だって難しい筈なのに、全然そんな事感じさせないからさぁ?相当根性無いと、そんだけの事は出来ないだろマジで。」

 

 

 

 

まぁ、リハビリとか頑張ったし、この身体のせいで迷惑だけはかけたくなかったから。

 

あ、其れと私の事は『みほ』で良いよ辛唐さん?そっちの方が、呼ばれ慣れててシックリくるから。

 

 

 

 

「そうか?ならアタシも青子で良いぞ。そっちの方が呼ばれ慣れてるからさ。

 

 んで、話しは変わるけど、みほは部活は如何すんだ?こう言っちゃ悪いけど、片腕じゃ運動部も文化部も、出来るのあんまりないだろ?」

 

 

「うん、確かにその通りだけど。私は戦車道部に入るって決めてるの。

 

 確かに片腕だと出来る部活は少ないけど、戦車道の『車長専任免許』を持ってるから、此れなら戦車道をやる事は出来るからね。」

 

 

「戦車道か~~~?部活説明会では、スッゲー気合入ってたけど、この学校って中学の全国大会毎年一回戦負けの弱小校じゃなかったけか?」

 

 

 

 

うん、そうだよ?

 

だけど、青子さん、その毎年一回戦負けの弱小校が、行き成り快進撃を続けて、優勝とかしちゃったら凄く痛快な事だと思わない?

 

私は、私が在籍中にこの学校を、全国中学校戦車道の大会で優勝させる為に来たんだよ。だから、私は戦車道部に入部以外の選択はないよ。

 

 

 

 

「良いねぇ?カッコいいジャンそう言うの!なら、アタシも戦車道部にするぜ!」

 

 

「え?」

 

 

「そうと決まれば、他にも戦車道部に入部する奴を増やさないとダメだよなぁ?

 

 なぁみほ、戦車って大体何人で動かすもんなんだ?」

 

 

 

 

えっと、基本的に4人いれば大丈夫だよ?CV33みたいな豆戦車は例外だけど、大概の戦車は4~5人乗りで、5人乗りの場合でも、通信士は車長が兼任できるから、車長以外に、砲撃手、装填士、操縦士が居れば動かす事は出来るよ。

 

 

 

 

「って事は先ずは後二人か……よっしゃ、昼休みまでに二人は確保してやる!1年全クラス探せば、経験者の一人や二人居るかも知れねぇし!

 

 やっぱり、弩デカい夢を見る仲間は多い方がいいからな!!」

 

 

 

 

それは、確かにそうだけど、果たしてそう巧く行くかなぁ?

 

こう言ったら何だけど、経験者が態々弱小校に入学して来る事なんて、余程の事が無いと有り得ないと思うから、経験者は期待できないと思う。

 

それでも、戦車道部に入る人が増えてくれれば、其れは嬉しい事だけどね。

 

 

 

 

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で、あっという間に昼休み。

 

経験者なんて、居ると思ってなかったんだけど……

 

 

 

 

「如何だみほ、2人も経験者見つけて来たぜ!!!」

 

 

「まさか、2人も経験者を見つけて来るなんて、青子さんの行動力を甘く見てたよ……って言うか、私以外の経験者が居た事に驚いてるけどね。」

 

 

青子さんが連れて来たのは、背が高くてそばかすが特徴的なショートカットの子と、赤い髪が特徴的な活発そうな子……うん、確かに戦車乗り特有のオーラを纏ってるから、経験者なのは間違いなさそう。

 

 

 

 

「それで、アタシ等に何の用なの?」

 

 

「戦車道の経験者はいないかって聞かれて、咄嗟に経験者だって言ったら、昼休みに屋上に来てくれと言われて、こうして来てるんだけど……」

 

 

 

「青子さん、詳細な事は話した?」

 

 

「いや、全然。取り敢えず、昼休みに屋上に来てくれって言っただけだ。時間も無かったしな♪」

 

 

 

 

其れは問題あり過ぎだよ青子さん!!

 

えっと、説明が足りなかったみたいだけど、私達と一緒に戦車道部に入部してくれませんか?経験者だって言うなら、可也心強いモノが有るから。

 

 

 

 

「なんだ、そんな事?言われるまでも無く、戦車道部に入部するわ。元よりその心算だったしね。」

 

 

「私も同じだから問題ないわ。」

 

 

 

 

あ、そうだったんですか?

 

でも、だとしたら御二人は如何してこの学校に?失礼だとは思いますけど、この学校は毎年一回戦負けの、所謂『弱小校』なんですよ?……経験者なら、選ぶ事は無いと思うんですけど……

 

 

 

 

「……アタシは親との意地の張り合いの末かな?

 

 アタシの親は、アタシが戦車道をやる事を快く思ってなくて、何かと辞めさせようとしてくるから、つい『中学で、毎年一回戦負けの弱小校を、アタシが在学中に優勝させる事が出来たら、文句言うな!』って啖呵切っちゃってね。

 

 其れだけの事を言った手前、退く事は出来ないし……可也きついかも知れないけど、自分の言った事をやり遂げないとだからな。」

 

 

「私は、戦車道の強豪中学から、全然声が掛からなかったからね。

 

 操縦技術には自信があったのに、其れなのにスカウトされないなんて、流石にプライドが傷付いたから、其れなら弱小校で結果を残して、高校からはスカウトされるようになりたかったのよ。」

 

 

 

 

成程………理由はちゃんとあるみたいだけど、私も似たような物だからね。

 

 

 

 

「アンタも?」

 

 

「貴女も?」

 

 

「うん。私は、お母さんから『弱小校を立て直して来い』って言われて、この学校に来たから。

 

 そう言う意味では、貴女達と同じかもしれないね……えっと~~~~~。」

 

 

「ナオミ。吉良ナオミだ。ナオミで良い。」

 

 

「野薔薇つぼみ。つぼみで良いわ。」

 

 

 

 

ナオミさんとつぼみさんだね?うん、覚えたよ。

 

あ、私は西住みほっって言うの。私も、みほで良いから宜しくね?

 

 

 

 

「西住だって!?」

 

 

「まさか、貴女はあの西住流の!?」

 

 

「うん、次女だよ?」

 

 

「西住流って何?其れって凄いの?」

 

 

「アンタねぇ……西住流って言うのは、戦車道の一大流派で、現在日本戦車道の全権力を掌握してると言っても過言じゃない位の流派なのよ?

 

 撃てば必中、護りは固く、進む姿は乱れ無し。その精神は、日本戦車道の根幹をなしていると言っても過言じゃないわ。」

 

 

「まさか、その西住流の方と出会えるとは……この学校を選んだ甲斐が有ったと言うモノね!」

 

 

 

 

……厳密にいうと、私は純粋な西住流じゃないけどね――車長専任免許を取る為に、西住流以外の戦車道の戦術も頭に叩き込んだから、逆に純粋な西住流とはかけ離れているかもしれないよ。

 

 

 

 

「だけど、車長専任免許を取るのは簡単な事じゃないでしょ?

 

 例え純粋な西住流じゃないとしても、其れを取得したと言うだけで、貴女がドレだけ優秀な戦車乗りなのかは分かるわよ?……例え片腕でも。」

 

 

「寧ろ、身体に障害を抱えながらも、車長専任免許を取得して、戦車道を続けると言う考えに感動するわ!」

 

 

 

 

そうかな?私は、只こんな事で自分の道を諦めたくなかったし、友達との約束を違える事はしたくなかったから。

 

何よりも、私は戦車が好きだから、左腕を失っただけで止めたくなかったんだよ、絶対にね。

 

 

 

 

「言うじゃない?気に入ったよみほ!

 

 貴女の夢と、アタシの目的は一致してるし、どうせやるなら徹底的にやった方がいいから、貴女と一緒に優勝を目指してみようじゃないか。」

 

 

「みほさんとなら、若しかしたらエキサイティングな戦車道が出来るかも知れないわね……一緒に、この学校を中学戦車道の一番にしましょう!」

 

 

 

 

勿論です!

 

黒森峰に、お姉ちゃんて言う強敵が居るから簡単じゃないかもしれないけど、力を合わせれば、きっと出来る筈だって、私は信じているから。

 

 

 

 

「よっしゃ、其れじゃあこれでチーム結成だな!

 

 ……だけど、新入部員が、アタシ達だけじゃあダメだよな?――よし、放課後までに、最低でも後20人は戦車道入部者を連れて来てやるぜ!」

 

 

「本気?」

 

 

「流石に無理じゃない……?」

 

 

「かもだけど、青子さんなら何とかしちゃうかもしれない感がバリバリするよ……ナオミさんとつぼみさんを連れてきた実績があるだけに余計に。」

 

 

「「確かに。」」

 

 

 

 

だけど、青子さんなら、きっと何とかしちゃうんだろうなぁ。

 

あのノリと勢いで引っ張られたら、最大でまだ入部する部活を決めてない1年生を全員戦車道部に引き連れてくる可能性が、全くゼロじゃない上に、やろうと思えばやっちゃいそうだからね。

 

 

兎に角、先ずはチームメイトを確保出来たのは、嬉しい事だよね♪

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

で、これまたあっと言う間に放課後。

 

現在、戦車道部の部室(?)である、車庫前に新入生の入部希望者が可成りの数集まってる――ざっと見て、20人は居ると思う。此れなら、最低でも、私達のチームを合わせて、1年生だけで6輌を動かす事が出来るから、戦力としては申し分ないかもね?殆どが未経験者だとしても。

 

 

此れからは、此のメンバーが仲間だから、ちゃんと覚えておかないとだよね。

 

 

いよいよだね……此処から始まるんだ、私の戦車道が!!私だけの道が!!

 

そして同時に、私はこの日、かけがえのない存在となる戦車と出会う事になった――そう、『車体をアイスブルーに塗られたパンターG』と………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 




簡単キャラ設定


辛唐青子(後のペパロニ)

みほと同じクラスの女の子で、裏表のないサッパリとした、少々男勝りな性格をしてる。
戦車道は未経験だが、みほの目的を聞き、ノリと勢いで戦車道部への入部を即決!
更に、経験者を探し出し、其れのみならず、入部希望者を20人集めると言うトンでもない事をやってのけてくれた。



吉良ナオミ(後のナオミ)

そばかすと、薄い茶髪のショートカットが印象的な、ボーイッシュな女の子。
戦車道の経験者で、両親に『弱小校を優勝に導く』と啖呵を切って、この学校に入学。
一見するとクールな性格だが、実は他者の冗談に付き合うお茶目さもあったりする。
戦車道におけるポジションは、砲撃手。



野薔薇つぼみ(後のローズヒップ)

赤い髪が特徴的な、兎に角元気な女の子で、戦車道の経験者。
何処の学校からもスカウトが来なかった事を不満に思い、弱小校を立て直して名を上げようと、この学校に入学し、みほ達と共に頂点を目指す。
戦車におけるポジションは、操縦士。



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Panzer2『此れは運命の出会いです』

アイスブルーのパンター……Byみほ         取り敢えず、強そうなのは確かねByナオミ


Side:みほ

 

 

「よし、新入部員は此れで全員ね?

 諸君、ようこそ我が校の戦車道部に。よく来てくれたわ。今年は定員割れも覚悟していただけに、貴女達の入部は心から歓迎するわ。マジ感謝よ。

 私は部長にして隊長の、『近坂凛』よ。以降宜しくね。」

 

 

 

初日に現れたのは、隊長と現在の隊員の先輩達。

隊長さんと併せた数は12人……既存部員で3チームって所で、私達1年生を合わせて、最大で10チームを構成可能になるって言う事だよね。

中学での戦車道の大会は最大使用車両が10輌で固定されていて、戦車の台数で劣る事は無いって言う事になるから、後は練習次第で、他校との錬度の差は埋めて行く事が出来る――此れなら何とかなるかも。

 

 

 

「さて、諸君も知っての通り、我が校の戦車道部は、中学全国大会に出場してからと言うモノ、毎年1回戦負けで、弱小校と認識されているわ。

 まぁ、戦績が戦績だけに、其れを否定する事は出来ないのかもしれないけど、私は自分の母校が弱小呼ばわりされるのは我慢できないのよ。

 だから、何としても、今年こそは1回戦を突破し、叶うのならばそれ以上の戦績を収めたい!!

 貴女達には、その為に力を貸してほしいのよ!!」

 

「言われるまでもありません!!私は、この学校を頂点に導くために入学したんですから!!」

 

「右に同じ~ってね!!アタシも、みほに同調した口だからな……目指すは、天辺だけっすよ!!」

 

「アタシも、みほに賛同するよ。

 この学校をアタシが在学中に優勝に導く……それが、アタシと親との間で交わされた、アタシが戦車道を続ける為の条件だし、何よりもこう言うのも、面白そうだからね。」

 

「私も同意よ!

 第一にして、其れ位の事が出来ないのであれば、私の腕は其れまでだったと言う事ですもの!!」

 

 

 

皆……うん、此れだけの仲間がいれば、きっと如何にか出来る筈!

近坂隊長の夢を実現する為のお手伝い、全力でさせて貰います!――其れが、きっと私達の目的を達成する事に繋がると思いますからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer2

『此れは運命の出会いです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「威勢がいいじゃない、今年の1年は。――えぇっと、片腕の貴女、名前は?」

 

「西住みほです。」

 

「へ?西住って、あの西住!?西住流の!?」

 

 

 

はい、その西住です。――尤も、見た通りの片腕なので、私は純粋な西住流という訳ではありませんけれど、戦車道には其れなりに精通している心算です。

尤もやる以上は、誰が相手であっても全力を賭して戦う心算で居ますけれど。

 

 

 

「成程ね……だけど、其れだけに大歓迎よ、西住みほ!!貴女ならば、即戦力になるのは間違いないわ!!」

 

「私だけじゃなくて、ナオミさんとつぼみさんも経験者ですから即戦力になると思いますよ?

 もっと言うなら、青子さんは未経験者だけど、きっと直ぐに戦車に慣れてくれると思いますし、青子さんが集めて来た新入部員だって、きっと直ぐに、戦車に慣れてくれると思いますから。」

 

「え?……えっと、新入部員で、戦車道の経験ある人手を上げて?」

 

「「「はーい。」」」

 

「3人!?……いえ、新入部員が居た事だけでもありがたく思わないと罰が当たるから、此れは喜ぶべき事よね。」

 

 

 

まぁ、青子さん曰く『まだどの部活に入るか決めてない女子を20人引っ張って来た』との事ですから。――其れは其れとして、この学校が所有してる戦車は、何がドレくらいあるんでしょうか?

 

 

 

「良い質問ね西住。

 我が校が所有してる戦車は、ティーガーⅠが2輌、パンターG型が2輌、Ⅲ号戦車J型が4輌、Ⅲ突F型が2輌の計10輌となっているわ。」

 

「此れは……可也高性能な戦車が揃ってますね?

 ドイツの最強重戦車として名高いティーガーⅠに、大戦期最強の呼び名も高いパンター、小回りの利くⅢ号、そして強力な主砲を搭載したⅢ突……ドイツ系の優秀な戦車が揃っているんですね。」

 

其れを踏まえると、如何して毎年1回戦負けなのかが逆に不思議になってくるんですけれど……

 

 

 

「幾ら戦車の性能が良くても、勝ちたい気持ちが無いんじゃ、試合に勝つ事は出来ないわ。

 この学校の戦車道は、元々『戦車道愛好会』っていう同好会から始まった事もあって、大会とかで勝つ事をそれほど重視していなかったのよ。

 勿論、勝つ事が全てだとは言わないけれど、戦う以上はヤッパリ勝ちたいじゃない?

 だけど、昨年の3年生達は、その気が薄くて勝てなかったの。――けど、私は私の在学中に、この学校を大会で勝たせたいって思ってるの。」

 

「そう言う事でしたか。」

 

確かに、幾ら戦車が高性能でも、乗り手の気持ちが宙ぶらりんだったら、その力を発揮する事は出来ませんからね。

西住流の『鋼の心』じゃないですけど、ヤッパリ確りと目標を持って居ないと、どんな事でも結果を出す事って言う事は出来ないと思いますから。

 

 

 

「だよな~~?高スペックでも乗り手がヘッポコじゃあ意味がねぇ。

 逆に言うなら、ヘッポコスペックでも、乗り手に気合が入ってりゃ、本来のスペック以上の性能を叩きだす事だって出来るって事だからな!!」

 

「ある意味で至言ね青子。

 時に隊長、その制服のリボンの色は2年生よね?他の先輩達も全員2年生……3年生は居ないのかしら?」

 

「……非常に嘆かわしい事だけれど、一昨年は新入部員が0で、去年私達が入部しなかったら廃部になってたのよ戦車道は。

 で、3年生は全員卒業しちゃったから、今年2年生になった私が隊長って訳。2年生で隊長ってのは違和感があるかも知れないけど、納得してくれると助かるわ。」

 

 

 

別に違和感なんて無いですよ?

私のお姉ちゃんなんて、1年生で黒森峰とジュニアユースの隊長務めてますし、お母さんも現役時代は中学、高校、大学で1年生から隊長やっていたそうなので。

 

 

 

「何てハイスペック……此れが西住流!

 コホン、其れじゃあずっと外でって言うのもあれだから、貴女達が乗る戦車を見て貰う為にも、格納庫の中に入ってみましょうか?どうぞ~。」

 

 

 

おじゃましま~す……って、うわぁ~~!

此れは、思ってた以上にしっかりとした格納庫ですね?外観から、レンガ造りなのは分かってましたけど、内部もしっかりしてて頑丈そうですし、何よりも、其処に並んでる戦車達も、よく手入れされてて凄く綺麗です!

 

 

 

「ま~~、隊長と気合い入れて頑張ったからね?

 新入生を迎えるのに、格納庫が汚くちゃダメだし、戦車だってちゃんと綺麗にしておかないとダメだって言って、春休み中から休み返上で洗車と掃除をしたからね~~~?」

 

「その甲斐は有ったでしょう?」

 

「そうだったんですか……お疲れ様です。」

 

綺麗に掃除された格納庫に並ぶのは、オキサイドレッドで塗装された戦車達。此れから私達と一緒に戦って行く事になる大切な仲間達――なんだけど、その中に、1輌だけアイスブルーの塗装のパンターが?

 

あの、近坂隊長。あのアイスブルーのパンターは何か特別な戦車なんですか?

 

 

 

「あ~~~…アレねぇ?アレは何て言うか『じゃじゃ馬』なのよ言うなれば。

 もう1台のパンターは普通に動かせるんだけど、アレだけは私達じゃどうしても言う事を聞いてくれない暴れ馬で、間違えないようにアイスブルーのカラーリングにしてるって訳。

 この子をちゃんと動かす事が出来れば、ウチの戦力も底上げが出来るんだけどね……」

 

「じゃじゃ馬ですか……」

 

設計が同じならどうしてそんな事が起きるのか分からないけど、だけどこのパンターは多分『動きたがってる』と思う。

乗り手が居ないからって、格納庫の肥やしになってるのは幾ら何でも勿体ないし――隊長、このパンター、私が乗っても良いですか?

 

 

 

「え?い、良いけど、さっきも言った通りこの子はじゃじゃ馬よ!?

 幾ら西住でも、其れを乗りこなすのは難しいと思うわよ!?」

 

「戦車は1人で動かすモノじゃありません。青子さん、ナオミさん、つぼみさん……お願いします!」

 

「よっしゃ、任せとけって!!じゃじゃ馬だろうが何だろうが、手懐けて見せようじゃねぇか!ノリと勢いで、何とかできるかもだしな!!」

 

「暴れ馬ほど、手懐けた後は頼りになるって言うからね……OK、任せなさい。」

 

「寧ろ、じゃじゃ馬位の方が、操縦士としては楽しい位だわ!

 其れに、じゃじゃ馬の暴れ馬を使い熟す事が出来ないんじゃ、とても戦車道の天辺なんて目指す事は出来ないもの!!」

 

「と、言う訳で、この『アイスブルーのパンター』には、西住みほ以下3名が搭乗すると言う事で宜しいでしょうか、近坂隊長?」

 

「乗るって言うなら構わないけど、動かせるかどうかは保証できないわよ?」

 

 

 

大丈夫です。きっとこの子は、私達の思い通りに動いてくれます。――動かしてみても良いですか、近坂隊長?

 

 

 

「良いけど……キツイと思うわよ?」

 

「大丈夫です。つぼみさん、行けますか?」

 

「大丈夫よみほさん。

 流石は大戦期最強の呼び声も高いパンター、操縦系統もしっかりしているわ。」

 

 

 

其れじゃあ行きましょう!Panzer Vor!!(戦車前進!!)

 

 

 

――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……グゥゥゥゥン!!

 

 

 

「んな!?このじゃじゃ馬が、大人しく起動したですってぇ!?

 私達が幾らやっても、直ぐにエンストするのは日常茶飯事で、動いたら動いたで全く言う事を聞いてくれなかったこの子が、こうも簡単に…!

 或は、自分の乗り手を待っていたとでも言うのかしら?……非現実的な、見解ではあるけれど。」

 

 

 

その可能性はあったのかもしれません――だとしたら、此の子の乗り手として認められたって言う事を誇りに思わないと罰が当たっちゃうかも。

だけど、私達が乗り手として認められたって言うなら、其れには全力で応えないと嘘だよね!

 

「つぼみさん、格納庫を出たら、其のまま演習場を50m直進して、其処で急旋回して車体を砲撃訓練用の的に向けて下さい。

 青子さんは、急旋回が始まったと同時に弾丸を装填して即時砲撃が出来るように準備を。ナオミさんは、停止と同時に撃てるように狙いを定めておいてください。」

 

「かしこまりよ、みほさん!」

 

「OK、やれって言うならやってやるぜ!!」

 

「一発必中……狙った獲物は逃がさないわ。」

 

 

 

其れじゃあそのまま進んで下さい。

 

――よし、此処がジャスト50m!戦車停止!……Schuss!(撃て)

 

 

 

「吉良ナオミ……目標を狙い撃つ!!」

 

 

 

――ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!

 

 

 

お見事!

高速で走る戦車が停止したのと同時の砲撃で、1000メートル離れた的に、其れもど真ん中に命中させるなんて、凄いですよナオミさん!!

 

其れだけじゃなく、つぼみさんの操縦技術も見事だったし、何よりも青子さんの装填速度は、未経験者とは思えない程のスピードだったよ!?

パンターの重い砲弾を、アレだけのスピードで装填する事が出来る装填士は、下手したら西住流の門下生にも存在してないかもしれないから。

 

 

 

「へっへ~~!アタシも結構やるだろ?こう見えて、腕力には自信あるんだ~~♪」

 

「此れ位ならば、造作もないわよ、みほさん。」

 

「確かに、じゃじゃ馬の聞かん坊だけど、其れだけにこの子は乗り手の思いに応えてくれるわ。

 それに、この子のトリガーは凄く手に馴染むから、慣れれば多分、今と同じ状態から2000m先の的だって撃ち抜けるかもしれないわね。」

 

 

 

其れは幾ら何でも凄すぎだけど……如何ですか、近坂隊長?

 

 

 

「どうもこうも無いわ……貴女達4人は、このアイスブルーのクルー以外には有り得ないわ本気で!

 折角の戦力なのに、誰も動かせないからお蔵入りさせようと思ってた戦車を、こうも見事に使い熟して見せるとは……正直、信じられないわ。」

 

「でも、現実にこうして動いちゃいましたから♪

 このパンター、私達の専用機にしてしまっても構いませんか、近坂隊長?」

 

「是非もないわ。

 元より、性能の高いパンターが増えるなら、戦力は増強されるからね……まさか、こうなるとは思って居なかったけど、此れは嬉しい誤算ね。

 この戦力増強は有り難い事だから、そのパンターは、貴女達に預けるわ西住。」

 

 

 

はい、預かりました!

この子だったら、きっと私達の仲間として活躍してくれるのは間違いないと思うから!!――宜しくね、アイスブルーのパンター♪

 

 

 

『……………』

 

 

 

私の呼びかけに、戦車が応えた……少しだけ、そんな感じがしたね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

ふむ……今年の1年では、エリカ以外では赤星が特出しているな?――此れならば、即一軍に昇格させても問題は一切ないだろうね…多分。

此れだけの力を有する新入生が、此れから3年間、黒森峰の厳しいトレーニングで鍛えられたらどうなるのか、私にも想像はつかないな。

 

加えて、みほが中学で結果を残して、黒森峰の高等部に進学して来るのは略間違いないだろうからね。……他校とのスカウト合戦になる可能性もまた、有り得ないとは言えないだろうが……

 

そうなったらそうなったで、みほとエリカを次代の隊長、副隊長として育てる事も考えておかねばならないだろうな。まだ先の話ではあるけれど。

 

 

ともあれ、先ずは今年の中学全国大会で結果を残さねばならないだろう。

去年は黒森峰の一強状態(2回戦で戦った、眼鏡の三つ編み――安斎が居る学校は手強かったが)だったが、今年は他校にみほが居る以上、簡単に優勝する事は出来ないだろうな。

 

自覚は無いだろうが、みほには天性のカリスマ性があるから、自然と人が集まってくるからね……私にはない、みほの才能だ。

 

だが、そうであるからこそ、私は最強の王者としてみほの前に立たねばな。――其れこそ、みほと戦うまではパーフェクト勝利位は成さねばな。

 

 

如何やら今年の大会は、例年になく荒れるかも知れないな。

 

 

そして、台風の目となるのはみほと安斎か……面白い!

何方が私に前に立ち塞がったとしても、相手にとって不足は無い――西住流に撤退の文字は無いから、真正面から受けて立ってやろう!!!

 

 

 

「隊長?」

 

「エリカ……今年の大会、言うまでもないだろうが、勝ちに行くぞ。」

 

「――はい!!勿論です!!」

 

 

 

競うべきライバルが居ると言うのが、これ程心が奮い立つものだとは思わなかったよ――もしもみほと安斎が私の敵として立ちはだかると言う事がなかったら、私は永劫この感覚を知らなかったかも知れんな。

 

 

 

 

大会で戦うのを楽しみにしているよみほ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 






--------------------------------------------------------------------------------




登場人物補完




近坂凛

・明光大付属中学校の戦車道チームの隊長を務める2年生。長い茶髪を一本に纏め、眼鏡をかけている。
『Fate』の『遠坂凛』のコスプレをすると、本物かと思う位によく似ている――らしい。(あるレイヤーさんからの情報。)
自身の母校が戦車道に於ける『弱小校』のレッテルを張られている事を不満に思っており、其れを払拭すべく大会での躍進を誓っている。
搭乗戦車は『ティーガーⅠ』



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Panzer3『始動する戦車道なのです』

話しがあまり進んでないかな?Byみほ         今回は繋ぎ回。次回から飛ばすわよ。Byナオミ


Side:みほ

 

 

じゃじゃ馬と言われてたアイスブルーのパンターを、私達がモノの見事に動かしたのが原因だとは思うんだけど、何て言うか私達以外の1年生達から、『戦車乗りたい』『戦車動かしてみたい』コールが上がってるね?

未経験者が、そう簡単に動かせるものじゃないんだけど……如何しますか、近坂隊長?

 

 

 

「普通の隊長だったら、此処でストップを掛ける所なんでしょうけど……良いじゃない、実際に戦車がどんな物かを体験して貰うって言うのも!

 そもそもどんな人だって初心者から始める訳だから、一番最初に実物に触れておくって言うのは、決して悪い事じゃないと思うのよ?

 幸いにして、ティーガー2輌と、もう1輌のパンターに乗るのは私達2年になるから、貴女達以外の1年には、必然的にⅢ号かⅢ突に乗って貰う事になるでしょ?

 で、Ⅲ号は比較的扱いやすい戦車だし、Ⅲ突も自走砲の中では格段に動かしやすい車輌だから、初心者でも動かし方を教えてあげれば動かせない事は無いと思うしね。……流石に、砲撃とかはさせないけれど。」

 

「だってよ!!聞いたかテメー等!!隊長さんが、戦車に乗せてくれるってよーーーー!!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「やったーーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

あらら、近坂隊長の言葉を聞いてた青子さんが、盛大に皆にぶっちゃけちゃった……しかも、滅茶苦茶盛り上がってるし。ある意味当然だけど。

 

 

 

「まぁ、良いんじゃないか?やる気が有るのは良い事だし、実際に動かしてみて、戦車の楽しさとかそう言うのを感じて貰えれば僥倖じゃない?」

 

「物事は、聞くよりも先ずは体験するのが一番よ♪

 青子さんが巧く乗せてくれたおかげで、皆やる気は充分ですもの!この機会に、戦車道の面白さを知って貰うのは、絶対にプラスになるわ。」

 

 

 

やっぱりそうですよね。どんな事でも、先ずは其れの楽しさを知らない限りは、絶対に巧くなりませんから。

ならこの戦車への初搭乗は、きっとこの学校の戦車道にとってプラスになる筈!!――なら、未来に向かって、ぱんつぁーふぉー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer3

『始動する戦車道なのです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、言う訳で簡単な説明と、教導用のビデオで動かし方を一通り習ってから、試しに練習場を自由に走ってみるって事になったんだけど………

 

「此れは流石に予想外だったかも……」

 

「教導ビデオと説明だけじゃしょうがないけど、流石に悪戦苦闘してるわね?……其れでも、辛うじて動かせてはいるけれど。

 或は戦車を動かす事が出来るって言うテンションに後押しされて、更に搭乗戦車が比較的扱いやすい戦車だったから動かせてるのかしら?」

 

「あ?細け~事は気にすんなナオミ!取り敢えず動かす事が出来たんなら、何も問題ねーだろ?

 今は辛うじてでも、慣れればもっと楽に動かせるだろうし、砲撃とか装填とかは後から如何にでも出来るだろうから、最初は此れでOKだろ?」

 

「装填に関しては、青子さんの様な力自慢が居れば、解決できるけれどね。」

 

 

 

確かに、ナオミさんの言うように、悪戦苦闘して辛うじて動かせているレベルだけど、青子さんの言うように、操縦レベルは後から幾らでも上げる事は出来る訳だからね。

 

 

 

「正直な事を言うなら、幾ら扱いやすい戦車でも本当に動かせるとは思わなかったわ。辛うじてとは言えね。

 だけど、大会まではまだ時間が有るから、練習の仕方如何では、大会までに実戦で使える位のレベルに引き上げる事は充分に可能だわ!」

 

「ですよね♪――あ、終わったみたいですよ?」

 

お疲れ様。初めて乗ってみた戦車は如何だった?

 

 

 

「む……難しかった~~~!!

 西住さん達がアッサリ動かしたから、私達も出来るだろうと思ってたんだけど、全然認識が甘かったよ~~!思うように動いてくれなかった。」

 

「動かすのも大変かもしれないけど、如何動くのか指示を出すのも難しかったわ。

 『如何すれば良い』って聞かれても、自分が如何すれば良いのか全く分からないから、指示の出しようがないし。車長って大変なんだね~?」

 

 

 

うん、初めて乗ったんだから、其れは寧ろ普通だよ。

私とお姉ちゃんみたいに、小さい頃から、2人で戦車に乗って近所に遊びに行ってたなら兎も角、そうじゃなかったら慣れてなくて当然だから♪

 

って、如何したの?皆で……近坂隊長達まで驚いたような顔して。

 

 

 

「みほさん、小さい頃からと言っていたけど、具体的にドレ位の時にお姉様と2人で戦車に乗っていたの?」

 

「え~~~と、私が小学校1年生で、お姉ちゃんが2年生の時には、2人で乗って遊びに行ってたよ、つぼみさん?」

 

「幾ら何でも、有り得ないわ其れ。小学生から戦車道を始めると言っても、普通は4年生のクラブ活動からでしょ?少なくとも、私はそうだった。」

 

「私もよ?」

 

「普通はそうなんだろうけど、家は『西住』だから、極端な事言うと生まれた時から戦車が身近にあって、普通に生活の一部になってるの。

 赤ん坊の頃の写真で、お母さんが私を抱いて戦車に腰掛けてるのとか有ったし、菊代さんの運転するⅡ号戦車で、お母さんの試合見に行ったりしてたもん。」

 

「つまり、文字通り『戦車と共に歩んできた人生』って訳か~~~!そりゃ、スゲェ!正に戦車道の申し子って事だな、みほは!!」

 

 

 

申し子かどうかは分からないけど、確かにずっと戦車と一緒の13年間だったから、此処に居る誰よりも戦車の事は知ってるって自負してるよ。

じゃなくて、戦車の扱いは簡単じゃないって言うのは分かったと思うけど、だけど実際に動かしてみて如何思った?只難しいだけだった?

 

 

 

「そんな事ないわ!

 確かに難しかったけど、だからこそ此れを自在に動かす事が出来るようになったら、きっと物凄く爽快なんじゃないかって思えたもの!!」

 

「で、操縦士に的確に指示を与える事が出来たら、車長ってカッコイイよね!!」

 

「正直言って、あのスコープで狙いを付けてって、無理かと思うけど、それでもそれが出来るようになって、相手の戦車撃破出来たらと思うと!」

 

「あの重い砲弾を、コンマ0.1秒単位で装填出来たら、絶対注目の的だよ!!」

 

 

 

うん!難しいだけじゃなくて、戦車の魅力も感じ取る事が出来たみたいですよ近坂隊長?

不思議な物で、戦車の魅力を知ると、もっと先を見てみたいって言う感覚が働いて、気が付けば戦車道の虜になってるから、今年の新入部員は、これにて全員確保ですね♪

 

 

 

「確かに、戦車をちゃんと動かして、そして砲撃を的に当てる事が出来た時の喜びは半端な物じゃないからね。

 加えて、其処に至るまでには、車長の指揮能力、装填士の装填速度、砲撃手の命中精度も高くないとだから、其れが出来た時に、初めて戦車乗りとして認める事が出来るのよね。」

 

「だから、この子達は伸びるわよ、隊長。」

 

 

 

うん、大会までには、間違いなく其れなりの戦車乗りになってくれると思うよ。

経験が無いって言う事は、裏を返せば変な癖が付いていないって言う事でもあるから、逆に鍛えやすい部分もあるって、お母さんから聞いたし。

 

 

 

「其れは真理ね。

 さてと、其れじゃあ予定外の事になったけど、今日は此処までにしておきましょうか?――って言うか、本来だったら今日は新入部員の歓迎会で終わらせる心算だったんだけどね……」

 

 

 

そうだったんですか?……其れがこんな事態に……何故でしょうね?

 

 

 

「なんでかな、つぼみ?」

 

「何ででしょうね、青子さん?」

 

「分からねーーーーー♪」

 

「アンタ達のせいでしょうがーーー!!!

 辛唐以外は経験者が集まったとは言え、倉庫の肥やしと化してたアイスブルーのパンターを、アレだけ見事に動かして見せたら、誰だって戦車動かしてみたくもなるでしょうに!!

 更には、辛唐が盛大に煽ってくれたから余計に火が点いたし!!いや、結果としては全然OKだったけどね!?」

 

「「「「なら、無問題。」」」」

 

「4人揃って、見事なタイミングでサムズアップするな!!」

 

「「「「これぞ、チームワーク!!」」」」

 

「違う!いや、間違ってはいないけど、やっぱり違う!!

 って言うか、貴女達だってこの学校に来て知り合った仲でしょ!?何でそんなに、仲が良いのよ!?有り得ないでしょう、普通に考えて!!」

 

 

 

戦車道経験者は、互いに引き寄せ合うモノなんです。宛ら磁石のS極とN極の様に。だから、人間的に合わないとかでない限りは、大体こんな感じで即座に仲間に成れるんです!

此れこそ『戦車が結んだ強い絆』って言うモノなんです!!

 

 

 

「其処まで言われたら何も言えないわね。ま、其れだけのチームが居るって言うのは、ウチにとっては嬉しいのは事実だからね。

 さてと、其れじゃあ歓迎会を始めましょうか?

 流石に、中学だとそんなに出資できないから、ハンバーガーとかフライドチキンとか、後はポテトと飲み物しかないけど、存分に楽しんで頂戴。」

 

 

 

うわ、戦車を動かしてる間に、何時の間にか格納庫がパーティ仕様に!!!……此れは、相当に気合い入れましたね近坂隊長。

寧ろ、此処まで用意できたのは凄いと思いますから、有り難く歓迎会を楽しませて貰います!!――何よりも、楽しまないのは損だからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:青子

 

 

ぷは~~~!喰った喰った~~~!ファストフードとは言え、やっぱし日本の店は優秀だな?思った以上に美味かったしな~~~!!

こんな歓迎なら、毎日でもして貰いたいもんだぜ!――いや、毎日やったら破産しちゃうかもしれないけど、そう思う程のモンだったからな!!

 

ま、今日は此れで終わりだから、後は寮に帰るだけだな。

この中学は、県外入学者の為に寮が用意されてるから、アタシ等みたいな県外入学者は、寮に入ってマッタリとってモンだ――贅沢だよな。

 

そんでみほ、お前はどの部屋なんだ?

アタシは1111号室なんだ、一緒になれると良いよな!!!!

 

 

 

「あ、其れは無いよ。私は、自宅から通学だから。」

 

「え、そうなの?」

 

「うん。私は熊本出身だけど、毎日自家用ヘリで登下校をする事になってるから。

 寮に入る事は出来るけど、其れだと逆に同室の人の負担が増えるから、其れを回避する為に、ヘリでの登校なの……分かってくれたかな?」

 

 

 

あぁ、良く分かった……てか、自家用ヘリで登下校とか、半端ねぇなみほは、マジで!?

西住流ってのが、戦車道の一大流派だって事は分かったが、其処までの財力まで持ってるとは、幾ら何でも思わなかったっての!!マジか!

『本気』と書いて『マジ』かオイ!!

 

 

 

「マジです。」

 

「「「西住流、恐るべし!!」」」

 

 

まぁ、其れだけに頼りになるとも言えるけどよ。

 

 

 

――バラバラバラバラ……

 

 

 

で、迎えが来たみたいだぜみほ?

 

 

 

「だね。縄梯子も降りて来たし。

 じゃあ、また明日ね、青子さん、ナオミさん、つぼみさん!――明日も、戦車頑張ろうね♪」

 

「言われるまでもないわよみほ。

 寧ろ今日の事で、貴女に惚れたわ――貴女の指示なら、どんな相手でも撃ち抜いてあげるから、此れからも宜しく頼むわ、私達の車長様。」

 

「みほさんの指揮ならば、自分の実力以上の力が発揮できるかも知れないもの!!

 中学校での戦車ロード、貴女と共に歩ませて貰うわみほさん!貴女は、私の操縦士としての全てを預けるに値する人ですもの!!」

 

 

 

って、勝手に経験者だけで盛り上がんなよな?

アタシは未経験者だけど、腕力には自信があるから、装填士として充分に働く心算だから、その心算で居てくれよなみほ?場合によっちゃ、コンマ5秒での装填だってしてやらぁ!!

 

 

 

「その時は頼りにしてますね青子さん。……でも、私達の戦車ロードは、始まったばかりですから、焦らずに行きましょう。

 それじゃあ、また明日!!」

 

「「「お疲れ~~~!!」」」

 

 

 

――バババババババババババババババババ!!!

 

 

 

行っちまったか……まぁ、明日になればまた会えるけどな。

だけど、其れは其れとして、ヤッパリみほはスゲェ!!未経験者のアタシでも、分かる程の戦車道人のオーラを感じたからな…ハンパ無いぜ!

これなら、今年の大会はって思うけど、みほに頼りきりじゃいけねぇから、アタシ等も出来る事をちゃんとやっておかないとだよな!!

 

 

 

「だな。取り敢えず、静止射撃で1000m先の的を撃ち抜けるようにならなくちゃ、みほと同じ土俵に立つ事は出来ないからな。」

 

「みほさんの指示を、可能な限り100%で叶える為には、更なる操縦技術の向上が求められるから……私ももっと頑張らなくちゃだわ!!」

 

 

 

だよな!

みほと一緒に、歩むためにも、もっと頑張らないとだぜ!――そうと決まれば、今日から装填力強化の為に、筋トレをやってやろうじゃねぇか!

其れ位しないと、みほと一緒の戦車に乗る資格は無いだろうからよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

「随分と、機嫌が良いように向けられますが……学校で、なにかいい事でもありましたかみほお嬢様?」

 

「良い事だらけだったよ菊代さん。」

 

私のクラスメイトの青子さんが、未経験者ながらも天性のノリと勢いでパンターの装填をしてくれたし、砲撃手のナオミさんは一発必中で、百発百中だし、

操縦士のつぼみさんは、私の要求を完全に熟してくれる操縦士だし……まさか、こんないいチームと巡り合う事が出来るとは思ってもいませんでした。

 

 

 

「そうですか……ですが、みほお嬢様が、其処までの評価を下した仲間が居ると言うのは、間違いなく今年のダークホースになるでしょう。

 まほお嬢様も、そして奥様も、みほお嬢様が所属している学校が、今大会のダークホースになるだろうと、仰っていましたので……」

 

 

 

なるだろうじゃなくて、なる一択だよ。

私の学校が、弱小って称されるのは、今年でお終いだからね……其れを現実にするために、絶対に負けないよ!!

 

 

 

「その言葉、奥様や、まほお嬢様が聞いたら、きっと喜びますよ?――いっその事、御二人の目の前で披露されてみては?」

 

「其れはダメ。」

 

何となく、其れをやったら、お母さんもお姉ちゃんもポンコツになり下がる感が半端じゃありませんので……なので、内緒の方向で、如何か一つお願いします。

 

 

 

「ふふふ……承知しておりますよ、みほお嬢様。」

 

「お願いしますね、菊代さん!!」

 

幾ら何でも、ポンコツ状態のお母さんとお姉ちゃんは誰にも見せたくないからね?

……まぁ、何処かでお母さんとお姉ちゃんの耳に入る可能性っていうのは、否定できない物もあるけれど、その時はその時でしょうがないかな。

 

でも、其れは其れとして、私の戦車道を見つける切っ掛けを手にする事が出来るんじゃないかって言う事を、物凄く実感できた一日だったよ!

 

私だけの戦車道を見つける――その為の未来を、この手で切り開いていくよ……弱い心を捨ててね!!

 

 

 

「みほお嬢様……逞しくなられましたね。」

 

「うん!」

 

だけどマダマダだから、もっと頑張らないとダメだよね!!――そして、必ず辿り着いてみせるよ、中学戦車道の頂点の座に、絶対にね!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer4『校内紅白戦-軍神の片鱗です!』

や~ってやる、や~ってやる、や~ってやるぞ~~♪Byみほ         ノリノリだなみほ?だからこそのって来たぜ!By青子


Side:しほ

 

 

 

入学から半月と言うところですが、如何ですかみほ、学校には慣れましたか?

 

 

 

 

「うん!すっかり慣れたよお母さん♪

 

 戦車道の方でも、頼れる仲間が出来たし、私達と一緒に入部した1年生達が思った以上に上達が早くて、此れなら大会に間に合うかもなの。」

 

 

「其れは良い事ですね。

 

 戦車は一人で動かす事は出来ないから、仲間の存在は絶対に必要になってきます――其れが、頼れる仲間だと言うのならば最高ですね。」

 

 

何よりも、みほは仲間と共に在ってこそ己の力を発揮できるタイプですからね。

 

まほは、良くも悪くも西住流そのものだから、自己の能力だけでも勝つ事が出来るけれど、みほはそうじゃない――仲間の存在があってこそ、その力を最大限に発揮する事が出来るタイプですもの。

 

 

言うならば、力のまほと、技のみほと言う所かしら?――何れにせよ、今年と来年の中学戦車道の大会は面白い事になるのは間違いないわ。

 

 

「みほ、まほと戦う事になったら、貴女は如何しますか?」

 

 

「お姉ちゃんと?

 

 ん~~~~……そうだなぁ、お姉ちゃんが相手でも負けたくないから、ありとあらゆる手段を駆使して、お姉ちゃんに勝とうとするかもだよ。」

 

 

 

 

西住まほと言えば、若干13歳でジュニアユースの選手に選ばれ、更には隊長まで任された、ある意味で戦車道を志す者にとってのカリスマ的存在であるのだけど、其れに対して、こうも真正面から勝とうとすると言ってのけるとは……凄いわねみほは。

 

 

ですが、その気持ちを失わないようにね?

 

まほだってみほには負けたくないと思ってるでしょうから、互いのその思いがぶつかり合えば、きっと新たな世界が見えて来るでしょうから。

 

 

 

ふふ、みほを件の学校に進学させたのは、間違いではなかったみたいね。

 

 

因みに、縄梯子でヘリに搭乗するのは、命綱を付けていても危険だから即刻辞めさせたわ!此の子も菊代も、一体何を考えているのかしら?

 

今は、近くの複合商業ビルの屋上へリポートを使わせて貰っているけれど……あぁ言う交渉の際にも、西住の名って言うのは便利なモノよね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer4

『校内紅白戦-軍神の片鱗です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

入学して半月、そして戦車道部に入部してからも半月……うん、皆大分戦車の動かし方に慣れて来たみたいだね?

 

普通だったらもっと時間がかかるんだけど、僅か半月で此処まで動かす事が出来るようになった言うのは、隊長の指示が良いからだよね!!

 

 

 

 

「そう言って貰えると嬉しいけど、それ以上に貴女達の指導もあるわよ西住?

 

 貴女達のチームは、装填士を除いて、全員が夫々のポジションのエキスパートと言っても過言じゃないでしょ?だから、夫々のチームの的確な指導をする事が出来る。

 

 本当に、貴女達が味方で良かったわ。」

 

 

「あはは……そんな、私達は自分に出来る事をやってるだけですから。」

 

 

何よりも戦車が、戦車道が好きだから、どうしても初心者への指導には熱が入っちゃうかもだけど、ヤッパリ戦車の楽しさを知って欲しいから!

 

其れに、車長として教えられるのって、精々車長としての心得位ですから、実戦的な事を言うなら、ナオミさんとつぼみさんの指導の方が意味があると思いますよ。

 

 

 

 

「まぁ、其れは確かにだけど、其れでも貴女達は凄いのよ。

 

 でも、此れで漸く目的の一つが達成できるかもしれないけれどね。」

 

 

「目的の一つ?」

 

 

「隠す事も無いから言っちゃうけど、其れはズバリ、私達2年生と、貴女達1年による紅白戦ね。

 

 変則的なバトルロイヤル形式になるけど、貴女達のチーム以外は未経験者だから、戦力バランス的には問題ないし、たった4輌の差くらいは大した問題じゃないからね。」

 

 

 

 

そう来ましたか。

 

確かに私達のチーム以外は、中学校から戦車道を始めた、所謂『素人』かも知れませんけど、だからって甘く見てると、痛い目を見ますよ隊長?

 

 

 

 

「其れを期待してるのよ。

 

 素人集団を、果たしてあなたがドレだけ纏め上げて、そして動かす事が出来るのかに興味があったからね――全力で、やろうじゃない西住!」

 

 

「上等です、近坂隊長!!」

 

 

やる以上は全力で!!お母さんにもそう教わったからね。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

と言う訳で、只今、作戦会議中。

 

近坂隊長率いる2年生チームには、ティーガーⅠが2輌と、パンターGが1輌だから、数の上では勝っていても、攻防の値では相手の方が上。

 

 

余談だけど、1年生チームの隊長は、ナオミさんの推薦で私になった――まぁ、ある意味で、やり易いけどね。

 

 

 

 

「さてと、車輌数ではこっちが有利だが、戦車の質なら2年生の方が上よ?此処から如何する心算?」

 

 

「攻撃力と防御力では2年生に分がありますが、機動力に関してはⅢ号J型4輌と、パンターGを有する私達の方が勝っています。

 

 なので、試合が始まった直後に、敵のパンターを索敵し、見つけ次第此れを撃滅して、相手の機動力を潰し、ティーガーを引き摺り出します。」

 

 

ティーガーⅠの最高速度は38㎞なので、パンターとⅢ号ならば追いつかれる事は有りませんから、其れを利用して相手の戦況をかき乱します。

 

なので、Ⅲ号の皆さんは、敵車輌を撃破する事よりも、兎に角生き残る事を考えて下さい。

 

 

 

 

「私達、Ⅲ突2輌は如何すればいいの?」

 

 

「Ⅲ突の主砲なら、ティーガーⅠの後部装甲を撃ち抜く事が出来ますが、相手も其れは分かっているので、開始直後の戦列には1号車のみ参加で、残る2号車は戦列に加わらずに待機していてください。

 

 向こうのパンターを撃破したら、改めて指示を出しますので其れに従って下さい。」

 

 

「よっし、了解っす!」

 

 

「了解よ、西住さん。」

 

 

「此れでこっちのやる事は決まった~~~!ってちょっと待った。

 

 2年生達だって、アタシ等の乗るパンターを意の一番に撃破しようとしてくるんじゃねぇの?1年チームの最高戦力にして、経験者が居る車輌なんだから、如何考えたって真っ先に狙われんだろ?」

 

 

「青子さんの言う通りよ?其処は如何するの、みほさん。」

 

 

「当然私達が狙われるでしょうけれど、其処は数の利を生かします。Ⅲ号でティーガーⅠの装甲を抜くのは無理に近いですが、それでも数で攻撃されたら、蓄積ダメージが何処で出るか分からないので無視は出来なくなります。

 

 更に、其処にⅢ突を混ぜる事で火力を底上げし、パンターだけに狙いを定められないようにし、その乱戦に乗じて敵パンターを撃破します。」

 

 

基本的には、私達がパンターを狙いますが、Ⅲ突1号車も狙えれば狙って下さい。

 

例え撃破に至らなくとも、其方に注意が向く事で、私達が撃破しやすくもなりますから。

 

 

 

 

「錬度と戦車の性能で劣る分は、工夫で補うと言う訳ね?

 

 良いんじゃない?正面からやり合っても勝機が薄い相手には、奇手・奇策・奇襲を駆使して勝機を手繰り寄せるしかないからね。

 

 其れじゃあ隊長、出撃の号令をお願いするわ。」

 

 

「うん!其れでは、行きましょう皆さん。

 

 勝てれば最高ですが、其れ以前に戦車を楽しんで下さい。――其れでは、Panzer Vor!」

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

行きますよ、近坂隊長!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:凛

 

 

 

さてと、お手並み拝見と行こうかしら西住?

 

戦車の性能と錬度では、圧倒的に貴女達の方が劣る状態で、果たしてどんな戦い方を見せてくれるのか――普通なら、此方を待ち伏せしてのカウンターの電撃戦って言う所だけど……

 

 

 

 

「ちょ、凛!」

 

 

「なに?如何したの原田?」

 

 

「前方に敵影!……Ⅲ突1輌を除いた、全車両がこっちに向かって来てるわ!!」

 

 

「はぁ!?」

 

 

何ですってぇ!?

 

Ⅲ突が1輌いないって言う事は、どこかに隠れてるんでしょうけど、其れにしたって残りの車輌全部で攻めて来るって正気なの西住!?こっちの戦車は、貴女達の戦車を一撃で撃破出来るだけの攻撃力を備えているのよ!?

 

 

って、兎に角考えても仕方ないわ。

 

相手の方から打って出て来てくれたんなら、ある意味で逆に好都合!此方の予想とは違った動きだけど、先ずはパンターから撃破するわ!

 

恐らく向こうの隊長は西住だから、その西住が撃破されれば後はどうしようもなくなる筈よ!!

 

 

「他は無視して良いわ、兎に角パンターを狙いなさい!」

 

 

「そうは言うけど、Ⅲ号がちょろちょろと邪魔してくれて、パンターに狙いが定められないわよ凛!

 

 って言うか、パンターばっかり狙ってたらこっちだってヤバくない?Ⅲ号の砲撃じゃティーガーⅠの装甲は抜かれないけど、Ⅲ突の砲撃だとそうも言ってられないし、パンターの主砲だったら正面装甲だって抜かれるよ!?」

 

 

 

 

分かってるけど、でも此れじゃ……ってのわぁ!?な、なに今の衝撃は!?

 

砲弾が直撃した訳じゃないみたいだけど……まさか、近くの地面に着弾した!?ドイツ系重戦車の弱点である、足を狙って来たか……!!

 

真正面から撃って来るなら兎も角、こんな攻撃までしてくるとなると、流石にⅢ号も無視できなくなるじゃない――やるわね西住、流石だわ!!

 

だったら先ずは、Ⅲ号から撃破して、数を減らしたところで本命のパンターを……

 

 

 

 

――ズドン!

 

 

――パシュン

 

 

 

 

『2年生チーム、パンターG走行不能。』

 

 

『ゴメン凛、やられちゃった~~~!』

 

 

 

 

叩く前に、こっちのパンターがやられた!?

 

で、パンターを叩いたら蜘蛛の子散らすように退散て……若しかして、最初からこちらのパンターを撃破する事を狙ってたとでも言うの西住は!

 

まったく、やってくれるわ!追うわよ!

 

 

 

 

「つってもさ~、ティーガーⅠの速度じゃ、パンターとⅢ号とⅢ突に追いつくのって無理じゃね?

 

 Ⅲ号とⅢ突の最高速度は40kmで、パンターの最高速度に至っては大戦期の戦車最速の55km。

 

 対するティーガーⅠは最高速度で38kmだから、如何考えても追いつく事は出来ないでしょ此れ?虎の足じゃ、豹の足には勝てないって♪」

 

 

「分かってるわよそんな事は!」

 

 

それでも、追わない事にはどうにもならないでしょうに!

 

其れに、出来るだけ距離を開けられないようにしないと拙いと思うのよ……機動力では向こうが勝る以上、此れからどんな攻撃をしてくるか分かったモンじゃないしね。

 

 

何よりも、西住は西住だけど西住流じゃないみたいだから、私達の知ってる西住流だと思って挑んだら、火傷じゃ済まない痛手を被るわ。

 

全速前進!追うわよ!!

 

 

此れが西住流……否、西住みほの力!!

 

漸く、戦車を動かせるように成って来たレベルの素人集団をこうも見事に動かして見せるなんて……ワクワクさせてくれるじゃないの西住!!

 

余計に、貴女の事を倒したくなったわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

さて、みほの奇襲が作戦通りに決まって2年生チームのパンターを撃破した後は、これまた機動力の差を生かして即座に退散して2年生チームにだけ打撃を与える事に成功した。

 

 

其れに対して2年生チームも、即座に追撃を掛け、思った以上に離されずに、2~2.5mの高さの植物が織りなす茂みが点在する平原へと到達していた。

 

 

普通に考えれば、車高の低いⅢ突が茂みに隠れて待ち伏せしていそうなモノだが、此処で隊長の近坂には、先程の電撃戦が頭にちらついていたのだ。

 

 

心理的なモノだと言ってしまえば其れだけかも知れないが、人と言う生き物は、総じて最初に己の予想が外れると、次もまた外れるのではないかという無意識の恐怖に囚われてしまうモノなのだ。

 

故に、近坂はこの時どうしても、セオリー道理のⅢ突の待ち伏せがされていると言う可能性を疑いながらも、其れを是と出来ないでいたのだ。

 

 

そして、その迷いが、致命的な隙を生んでしまった。

 

 

 

 

――ズドン!!!

 

 

 

 

「のわぁぁ!!!

 

 今のはⅢ突の砲撃!!……セオリー通りに待ち伏せてたんだ!!」

 

 

「んな、最初は型破りな電撃戦を仕掛けておいて、今度はセオリー道理の待ち伏せって……マッタク考えが読めないわ、西住――!!」

 

 

 

 

此れこそがみほの狙いだった。

 

最初に型破りな電撃戦を仕掛ける事で、相手に『セオリー通りの戦術は使ってこない』という意識を刷り込んで、次も奇策で来るんじゃないかと言う思いを抱かせた上で、今度はセオリー通りの戦術を使って相手を混乱させる事が目的だったのだ。

 

 

更に、こう言う事をされると、された側は次の予想を立てる事が出来なくなって混乱する――戦車道の経験者であるならば尚更だ。

 

 

 

「く……怯むな、反撃しなさい!!

 

 先ずはⅢ突を撃破するのよ!そうすれば、私達を倒せる車輌はパンターだけになるから、そうなれば私達が勝つ事は容易い筈よ!!」

 

 

 

近坂は直ぐに指示を出す。

 

この対処の速さは、流石隊長と言った所だが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうさせると思いますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ?」

 

 

 

突如として、みほの乗るパンターを先頭に、Ⅲ号の軍団が現れ、瞬く間に2輌のティーガーⅠに対して一斉攻撃を開始!!

 

如何にⅢ号の60口径50mmは、ティーガーⅠの装甲を抜く事が出来ないとは言え、ひっきりなしに攻撃されたのでは堪ったモノではない。

 

 

加えて、Ⅲ突の48口径75mmならば後部装甲を、パンターGの70口径75mmならば正面装甲すら貫通するだけの威力があるのだから、下手したら撃破される可能性は非常に高いのだ。

 

 

 

 

――ズドン!!

 

 

――パシュン!

 

 

 

 

『2年生チーム、ティーガーⅠ2号車、走行不能。』

 

 

 

そして、其れが現実のものとなり、混戦の隙を突かれた2年生チームのティーガーⅠの2号車が、Ⅲ突に後部装甲を撃ち抜かれて白旗判定に。

 

無論この間に、2年生チームも、Ⅲ号を2輌撃破したが、其の位では、みほ率いる1年生チームに痛手を与える事は出来なかった。

 

 

 

 

「く……西住!!」

 

 

「此れで終わりです!!」

 

 

 

 

残ったティーガーⅠの1号車に対して、みほのパンターは突撃すると、其のまま急旋回して背後を取り、その瞬間に砲撃!更に、其れに続くように2輌のⅢ突も砲撃!

 

 

その結果……

 

 

 

――パシュン

 

 

 

『2年生チーム、ティーガーⅠ1号車、走行不能。よって、此の試合、1年生チームの勝利!!』

 

 

 

凛の乗るティーガーⅠの1号車(隊長車)を見事に撃破するに至ったのだ。

 

2年生チームが全滅したのに対し、1年生チームの損害はⅢ号が2輌だけ……数の差があったとは言え、錬度で圧倒的に劣る戦力でこの結果は見事というより他にはないだろう。

 

 

この校内紅白戦は、ある意味でみほの完全勝利で、幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

ふぅ……如何にか勝つ事が出来ましたね。

 

最後の攻撃は半ば賭けだったんですけど、青子さんが予想以上の装填の速さを見せてくれたおかげで巧く行きました。――勿論、つぼみさんの操縦技術と、ナオミさんの砲撃の力があってこそ成功した作戦ですけれどね。

 

 

 

 

「ハッハッハ~~!実を言うと、戦車道に入部した後から、徹底的に腕力と握力と、筋肉の瞬発力を強化する事にして、日に腕立て100回と、シャドーボクシングを30分やる事にしてんだ♪

 

 腕立てで腕力鍛えて、シャドーボクシングで瞬発力強化しようと思ってな!」

 

 

「私も、操縦技術を向上させようと思って、体感型の戦車ゲームで操縦技術を磨いているのよ。」

 

 

「私も、射撃の正確さを上げる為に、日々動体視力と狙いの正確さを鍛えてるわ。」

 

 

 

 

つまり、皆頑張ってるんだね♪

 

うん、良い事だと思うよ。

 

 

 

 

「は~~~……完全にやられたわ西住。言い訳のしようが無い位の完敗だった――だけど、凄く心が熱くなった!楽しませて貰ったわ。」

 

 

「近坂隊長!」

 

 

楽しんでくれたなら僥倖です。

 

戦車道はスポーツですから、勝つ以前に楽しむ事が出来ないと絶対にダメだと思いますし、楽しめない戦車道に本当の勝利はありませんから。

 

 

 

 

「至言ね。

 

 でも、そんな貴女だからこそ、任せる事が出来るわ――本日現時点を持って、私は隊長職を辞して、新たな隊長に西住みほを任命するわ!」

 

 

「はい!?」

 

 

ちょ、ちょっと待ってください、如何してそうなるんですか!?

 

確かに今回は私達が勝ちましたけど、だからって――

 

 

 

 

「だからこそよ西住。

 

 実際に戦ってみて分かった……貴女は私なんて足元にも及ばない位に強い――現実に、私は何も出来なかった訳だからね。

 

 何よりも、漸く戦車をそれなりに動かす事が出来るようになった未経験者の集団を此処まで纏め上げる腕前には正直に脱帽したわ。

 

 ありとあらゆる面で、貴女は私を大きく上回ってる……なら、貴女が隊長を務めるのは至極当然の事でしょ?違うかしら、西住?」

 

 

「違わないです…」

 

 

戦車道にまぐれ無し、あるのは実力のみって言うのはお母さんの口癖だからね。

 

つまり、私達1年生チームが2年生チームを倒す事が出来たのは、運でもなんでもなくて、総合的な力で此方が少しだけ上回っていたって言う事になるからね。

 

 

でも、そう言う事なら、謹んで隊長の地位を拝任いたします。

 

 

 

 

「ありがとう。

 

 と言う訳で、今日この時から、我が校の戦車道チームの隊長は西住になったわ!なので、以降は私じゃなくて、西住の指示に従うように!!

 

 この新体制の下で、大会に臨むわよ!!今年こそ、絶対に1回戦を突破する!!行くわよ!!」

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おーーーーーー!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

まさか、1年生から隊長になるとは思わなかったけど、お姉ちゃんだって1年生で隊長を務めてた訳だから、ちゃんと隊長職を務めないとだね!

 

1年生で隊長って言うのは、可成りの重圧なんだろうけど、だけど私はなんだか楽しくなって来たよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued…

 

 



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Panzer5『親友達と、放課後の楽しみです』

ダブルニープレス→弱パン×2キャンセルニープレスって嵌めですか!?Byみほ         誰だよ、サイコ嵌めしてんのは…By青子


Side:みほ

 

 

 

「其れじゃあ、今日の練習は此処まで!!お疲れ様!」

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「お疲れ様でしたー!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

今日も今日とて、何時も通りに授業を受けて、そして放課後は戦車道の訓練に全力を注ぐって言う、ある意味でルーティン化した日常だけど、ある意味で、そんな日々だからこそ、皆の成長が目に見えて分かるのかも知れないね?

 

 

この間の紅白戦以降、1年生のチームは、物凄い勢いで成長してるのは間違いないと思うよ。

 

日に日に装填速度と、操縦技術は向上してるし、各車両の車長だって指示の出しかたが巧くなってる上に、砲撃手の命中精度だって可也上がって来てるから、此れなら大会までには、堂に入ったチームになると思うな。

 

 

でも、だからこそ私のチームの向上率が目立つんだけどね?

 

ナオミさんの砲撃手としての腕は、毎日のように向上してるし、つぼみさんの操縦技術だって黒森峰でも通用しそうなレベルだよ此れは!?

 

何よりも、青子さんの装填速度が、始めてたばかりの頃と比べると3秒も縮まってるんだけど、一体どんなトレーニングしたって言うの!?

 

 

 

 

「あ?日に逆立ち腕立て100回と、5kgのダンベルを左右100回ずつ熟して、そんでもって其の後で倍の時間の柔軟をやってるだけだって♪

 

 筋肉ってのは、太くするだけじゃダメだから、しなやかさを残して鍛えないとだしな♪」

 

 

「だからって、其れを実践できる貴女が凄いわ、青子…」

 

 

「みほと天辺目指すんだったら、素人のアタシは此れ位やらねぇと追いつかねぇからな!」

 

 

 

 

だとしても、其れだけのトレーニングを実践できるのは、凄い事だよ青子さん?

 

でも、其れだけのトレーニングをしてるなら、大会の時には、このアイスブルーのパンターは更にその力を発揮できるように成っているのかもね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer5

『親友達と、放課後の楽しみです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其れは其れとして、練習が終わったら、後は帰るだけなんだけど――

 

 

 

 

「そう言えば、最近みほの迎えのヘリ見ねぇよな?如何したんだ?」

 

 

「言われてみればそうね?」

 

 

「みほさんは、どうやってご実家に帰ってるの?」

 

 

 

 

此処で、最近私の迎えのヘリを見ない事が話題に上がって来たね?

 

まぁ、隠す事じゃないから言っちゃうけど、流石に片腕で縄梯子を上るのは危険だって言う事で、お母さんが近くの複合商業ビルの屋上のヘリポートを抑えて、今は其処に迎えに来てもらってるんだよ。

 

 

 

 

「近くの複合商業ビルって言うとあそこか!

 

 其れならそうと言ってくれよみほ!あのビル内には、ゲームセンターとかアイスショップとか色々入ってるから、下校時の寄り道には最適だぜ?

 

 其れなら、迎えのヘリが到着するまでは、一緒に遊べるじゃんよ!!」

 

 

「ふえ?そ、そうなの?」

 

 

「此れは青子の言う通りよみほ。

 

 今時の中学生が、寄り道をしないで帰るなんて言うのは、そっちの方が珍しい位だし、ゲームセンターやアイスショップに立ち寄る程度なら、補導される事もないし、ヘリが着くまでの時間潰しの意味でも、良いんじゃない?」

 

 

「放課後の彼是は、楽しまないと損と言いますもの♪」

 

 

 

 

そうなんだ?なら、とことん楽しんじゃおうかな?

 

熊本から此処まで来るには、ドレだけ急いでも最低で40分はかかるから、その時間を皆と一緒に楽しく過ごすって言うのは、良い事だしね♪

 

 

 

 

「なら、先ずはゲーセン行こうぜゲーセン!

 

 あそこのゲーセンは、最近新台入荷したらしいから、此れは行くしかねえだろ?UFOキャッチャーの商品もリニューアルしたみたいだからな!」

 

 

「新台入荷ですって?其れは見逃せないわね。」

 

 

「レースゲームの新台が有れば、やらせて貰うわ。

 

 明光大付属一の俊足には、誰であろうとも追いつく事は出来ないって言う事を教えてあげるわ!」

 

 

 

 

で、ナオミさんとつぼみさんもやる気は満々!

 

ゲームセンターって言うのは初めてだけど、なんだか楽しい事になりそうだね♪

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

と、言う訳で、やってきましたゲームセンター!本当に、色んな種類のゲームが有るんだね。――取り敢えず、UFOキャッチャーの景品に有った、『ゴールデン・眼帯ボコ』は何としても、ゲットしておかないとね。

 

 

まぁ、其れは其れとして……ゲームセンターでも、皆の力が発揮されてるね?

 

レースゲームでは、つぼみさんが2位以下に10秒以上の差をつけてのぶっちぎりの1位になって、全国ランキングでもM・Nさんに僅差で迫る2位で、青子さんはパンチングマシーンと腕相撲マシーンで、本日の最高得点をマークして、全国ランキングでも問題なしの1位!

 

 

そしてナオミさんもシューティングゲームで、ラストステージを待たずに最高得点を更新して、現時点での全国ランキング1位のE・Iさんをぶっちぎってるから、此処からどれだけ得点を伸ばせるかが重要だね!

 

 

 

 

「流石に、此れだけ一気に敵が出て来ると辛いわね……」

 

 

 

 

とは言え、ラストステージ前のセミファイナルステージだけに、敵の出現数がシビアで、流石のナオミさんも辛そう。

 

だけど――

 

 

「ナオミさん、ボムを使って下さい!

 

 そして、ボムを使ったら、画面の右側から現れるエネミーから優先的に撃破して下さい。そうすれば、画面左から現れるエネミーは、簡単に倒す事が出来る筈です。」

 

 

「OK、分かったわみほ!」

 

 

 

 

こんな所でも私は、戦車道の車長としてのスキルが発動しちゃった。

 

ナオミさんの前にプレイしてたプレイヤーのプレイを見ていたから、ある程度の相手の動きが見れるようになっていたから、其処から予想される事を伝えただけなんだけど、其れはドンピシャリだったみたいだね!

 

 

私の指示が飛ぶたびに、ナオミさんは其れに従って、エネミーを撃破!

 

気が付けば、ランキングの最上位――パーフェクトクリアを達成していたからね。……うん、本気でナオミさんは砲手になる為に生まれて来たと言っても過言じゃないかもしれないよ。

 

 

さてと、其れじゃあ私はボコを取ろうかな~~?

 

極レアのゴールデン・眼帯ボコはまだ誰にも取られてないし、他にも『天使ボコ』や『全身包帯ボコ』、『腕吊り松葉杖ボコ』って言う、持ってないボコもあるから、是非とも取っておきたいね♪

 

 

 

 

「ナオミさん、アレの魅力って理解できる?」

 

 

「いや、理解出来ん。」

 

 

「まぁ、良いんじゃねぇか?人の好みは千差万別って言うし。

 

 みほがアレを好きな事に対して、アタシ等がとやかく言うもんでもねぇだろ?……まぁ、アレが大量に鎮座してるだろうみほの部屋を想像しちまうと、流石に不気味感は拭えねぇけどな。」

 

 

 

 

ヤッパリそう思うのかなぁ?お姉ちゃんもお母さんも、私の部屋に入ると顔を引きつらせるし。

 

でも、私達が居ない間に部屋の掃除とかしてくれてる菊代さんは『可愛らしいクマのぬいぐるみが沢山ありますね』って言ってたし…まぁ良いか♪

 

 

 

 

「で、お目当ての物をどうやって取る心算?

 

 あれは場所的にも可也難しいわよ?アームが届くか届かないかって言うギリギリの場所みたいじゃない。」

 

 

「1回で取ろうとは思ってないよナオミさん。

 

 まず1回目でアームの開きを利用してボコの位置をずらし、2回目で引っ掛けて姿勢を変え、3回目で取れば良いんだよ。戦車で砲撃する際の縦軸の距離の修正の仕方と同じだね。」

 

 

「1回目は相手の奥に落して、2回目は手前に落して、3回目で当てるって言うあれね?」

 

 

 

 

そう言う事です。

 

1回で成功すれば言う事ないけれど、3回目で成功させるくらいの気持ちで居た方が、最終的な成功率は上がるモノだから。

 

実際にお母さんも、初心者の砲撃手を指導する時には『1回で命中させようと思わず、距離を修正しながら3回目で当てるようにしなさい』って言ってるから。そうすれば、自然と1回で当てられるように成るとも言っていたしね。

 

 

と言う訳で500円投入して、此れで6回出来る!

 

最初の3回でゴールデン・眼帯ボコをゲットして、残る3回で他のボコをゲットするよ!!

 

 

先ずは1回目……よし、良い感じにアームが開いて、ゴールデンが転がり落ちて来てくれた!

 

続く2回目で、足をアームに潜らせて……よし、頭が上を向いて座った状態になった!こうなればボコは重心が安定するからね!

 

そして3回目、頭はを確り掴んで……

 

 

 

 

――ゴトン!

 

 

 

 

やったー!極レアボコゲットーーーー!!

 

 

 

 

「お~~、やったなみほ!」

 

 

「宣言通りの3回目での成功……見事ね♪」

 

 

「本当に、凄い奴だわアンタって。」

 

 

「えへへ、ありがとう♪

 

 この調子で残り3回で、新たに3体のボコをゲットして見せるよ!」

 

 

と言う訳で4回目!天使ボコゲット!

 

5回目!全身包帯ボコゲット!

 

そして最後の6回目!何とタグを二つ引っ掛けて、腕吊り松葉杖ボコと、点滴ボコの2つをゲットーーー!!なんて言うか、今日は吉日だね♪

 

 

 

 

「かもな?

 

 其れじゃあ次は、エアホッケーでもやらねぇか?アレなら全員で楽しめるし、パッド打つのは片手で用足りるから、みほも出来るしな。」

 

 

「良いわね?チーム分けは如何するの?」

 

 

「アタシとみほが同じクラスだから同じチームで如何よ?」

 

 

「良いわね?異論はないわ青子さん!私とナオミさんのチームが返り討ちにてあげるわ。」

 

 

「私と青子さんだって負けません!」

 

 

今度はエアホッケーで対決!

 

片腕の私でも楽しめるゲームを選んでくれた青子さんには感謝だよ。――さて、始めま……

 

 

 

 

「あっれー?君達中学生?放課後に寄り道なんて、悪い子だね~~~?

 

 でも、寄り道くらいはしないと楽しくないってのは分かるよ~~?だからさ、俺達と一緒に遊ばない?」

 

 

「俺達楽しいとこ一杯知ってんだよね~~?

 

 退屈だけはさせないから、騙されたと思って俺等と遊んでみなって。絶対に損だけはさせないって、お兄さん保証しちゃうからさ~~~~~?」

 

 

「ギャハハハ、テメーの保証なんて当てにならねーだろ。」

 

 

 

 

……しょうかって言う所で、声を掛けて来た数人の男性グループ。

 

多分高校生かそれ以上なんだろうけど……此れって、所謂ナンパって言うモノなのかなぁ?正直って、あんまり良い感じはしないんだけど。

 

 

 

 

「行くわよみほ、青子、つぼみ、こう言うのは無視するに限るわ。」

 

 

「そんな連れない事言わないでよ~~?可愛い顔が台無しだぜ~~?

 

 ちょっと遊ぶだけだから悪い様にはしないってば。其れに、片腕の彼女は色々と不便そうだから、俺達が助けてあげようって親切心よ~~?」

 

 

「悪いけれど間に合ってるわよ。みほさんは、貴方達のような方に助けて貰う程柔ではないので。

 

 何よりも、馬鹿は馬鹿でも、軽薄で面白みのない馬鹿に付き合うのは疲れるだけで得る物は無いので、貴方達と遊ぶ心算は全然ないわよ。」

 

 

「言ってくれるねぇ?だけど、あんまし調子に乗ってるとお兄さん怒っちゃうよ~~~?其処の片腕の子は抵抗できなさそうだしね~~?」

 

 

 

 

で、ナオミさんとつぼみさんが思い切り拒否したけど、其れでも引く気はないみたいで、それどころか私に手を伸ばして来て――!!!

 

 

 

 

「静まれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

触れる直前に青子さんの大声!?

 

え、一体如何しちゃったの青子さん!?

 

 

 

 

「静まれ静まれぇ!!

 

 此処におあすお方をどなたと心得る!恐れ多くも、かの戦車道の一大流派『西住流』の西住みほ殿に有らせられるぞ!!

 

 一同、御前の手前である!頭が高い、控えおろーーーーーーーー!!!」

 

 

「水戸黄門?」

 

 

「これまた、渋いチョイスね。」

 

 

 

 

だね。

 

でも、その行き成りの事に驚いて、ナンパさんの手は止まったから効果は抜群だったのかも知れないけど。……水戸黄門は、とっても偉大だね。

 

 

 

 

「西住流だと!?」

 

 

「そうだ、西住流だ。

 

 アタシ等は兎も角、みほに下手に手を出してみろ?コイツの姉ちゃんと母ちゃんが、黒塗りのティーガーⅠとマウスでお前等を滅殺しに来るぜ?

 

 まぁ、そうなる前にアタシが自慢の腕力で、お前等全員にウェスタンラリアートブチかましてKOする可能性も無くはないけどな?」

 

 

「因みに、青子さんはパンチングゲームと腕相撲ゲームで、本日の最高得点を更新して、全国ランキングもぶっちぎりの1位ですよ?」

 

 

「それでも、まだアタシ等と遊びてぇのか?あぁん?」

 

 

 

――ボキボキ…

 

 

 

「「「「ほ、他を当たりますーーーー!!」」」」

 

 

 

 

で、青子さんが眼光鋭く指を鳴らしたら、ナンパさん達は蜘蛛の子散らすように逃げて行ったね?

 

まぁ、パワー系のゲーム2つで全国ランキング1位になった子が居るなら、下手したらボコられるって思うだろうから――そして、今の眼光はGJだったよ青子さん。

 

 

 

 

「まぁ此れ位はな。だけど、あの馬鹿共のせいで余計な時間を食っちまったから、エアホッケーはまた今度だな。

 

 だから最後にアイスショップ行こうぜ!最上階の74アイスクリームに新しいフレーバーが追加されたみたいだから、此れは行くしかねぇだろ!」

 

 

「良いわね?新しいフレーバーって言うのも興味あるわ。」

 

 

「放課後エンジョイの最後にアイスは王道だものね♪」

 

 

 

 

そして、ナンパさん達を撃退した後は、皆でアイスクリームショップに直行♪

 

青子さんの言ってた新フレーバーって言うのは、キャラメルティーと大納言抹茶と中華杏仁と超濃厚カスタードの4種類だったから、皆で夫々を注文して、分け合って楽しんだよ。

 

 

感想を言うなら『全て美味しかった』の一言に尽きるかな。

 

 

で、そんなこんなで時間を潰して、屋上のヘリポート。

 

菊代さんが迎えに来てくれたから、今日は此処までだね?――それじゃあ、また月曜日に!!

 

 

 

 

「そうね、また月曜日に会いましょう。」

 

 

「今度は、お前の家に遊びに行かせてくれよみほ!

 

 土日なら外泊も出来るから、お前の家に遊びに行ったって問題は無いし、ダチの家には一度行っておきたいって思うからなアタシは♪」

 

 

「私も同じ気持ちよ、みほさん♪」

 

 

 

 

うん、大歓迎だよ!

 

私の友達で、戦車道の仲間なら、お姉ちゃんとお母さんも大歓迎だろうから、何時でも来てくれていいよ♪きっと、楽しい事になるだろうからね♪

 

 

本当にこの学校に進学してよかったよ――此れだけの仲間に出会う事が出来たんだから♪

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

そして週明けの月曜日、近坂部長に呼び出されて、戦車道部の部室に来た訳なんだけど……えっと、何かあったんですか近坂部長?

 

 

 

 

「あったわ。其れも途轍もなく重大な事がね。

 

 西住隊長、今週の土曜日に、神奈川県立綾南高校附属中学校との練習試合が決まったわ――この練習試合は、両校の伝統的なモノである意味合いが強いけど、ここ数年は連敗続きだから、ここらで一発ガツンとブチかますわよ西住!」

 

 

「異論は有りません…!」

 

 

此処で練習試合とはね……少し驚いたけど、やる以上は勝って見せるよ!!

 

其れに今の私達なら、勝てなくても負けない――最低でも引き分けには持ち込めるだけの力をつけて来ているから、このタイミングでの練習試合は、寧ろ好都合かも知れない!

 

 

どんな結果になろうとも、この練習試合は、間違いなく私達にとってレベルアップの糧になるのは間違いない事だから全力で行くだけです部長!

 

 

 

 

「なら、一発かましちゃって西住隊長!

 

 私達はもう弱小じゃない……強豪を喰う可能性すらあるダークホースだって言う事を、相手の隊長に分からせてやって!!」

 

 

「分かりました!」

 

 

練習試合とは言え、この戦いは絶対に勝って見せるよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer6『練習試合の幕開け~軍神の序章です!~』

殲滅戦……上等です!Byみほ         目に物見せてやろうじゃない?Byナオミ


Side:みほ

 

 

 

練習試合が決まった訳だけど、試合場所は何処なんですか近坂部長?其れと試合形式は?

 

 

 

 

「この練習試合は、1年交代で、こっちと相手校の地元でやる事になってるの。

 

 去年はこっちでやったから、今年は向こうの地元での市街地戦――つまりはアウェーでの戦いになるって言う訳……きつい戦いになると思う。

 

 で、試合形式は殲滅戦よ。」

 

 

「ですね……地の利は相手に有る状況での殲滅戦な訳ですから。」

 

 

だけど、其れ位の不利は引っくり返して見せないと、この先何も出来ないだろうから、先ずはこの練習試合て勝って、最低でも引き分けて皆に自信を付けないとだね。

 

 

その為にも、今は徹底的に相手の情報を引き出して、そして対策を組むのが上策!

 

近坂部長、相手校の使っている戦車は分かりますか?

 

 

 

 

「綾南高校附属も、私達と同じドイツ系戦車で統一されてるわ。

 

 尤も、ウチと違ってティーガーを主力にした重戦車主体の、重量級の編成だけどね。」

 

 

「重戦車主体の重量級編成ですか……駆逐戦車は使ってないんですか?」

 

 

「去年の練習試合と、大会を見る限りでは、ティーガーⅠが3輌、ティーガーⅡが3輌、残る4輌はラング(Ⅳ号駆逐戦車)って言う編成だったわ。」

 

 

完全に火力に重点を於いた編成で、機動力は捨ててますね其れ……駆逐戦車が『ヤークトパンター』じゃない辺りも、其れを感じますよ。

 

だけど其れなら、攻撃力と防御力では劣るモノの、機動力と奇襲力では此方が勝っています。

 

 

其れに、Ⅲ突の主砲なら、ティーガーの側面と後面を抜く事は容易いですし、パンターの主砲なら、ティーガーⅠを正面から、ティーガーⅡの側面と後面を抜く事だって出来ます。

 

Ⅲ号だって、ラングの正面装甲を抜く事は出来ますから。

 

 

そして、Ⅲ号の軽快さを使えば、相手の部隊のペースを乱す事も可能な筈です――勝てますよ、此の試合!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer6

『練習試合の幕開け~軍神の序章です!~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とは言っても、敵地での戦いになる以上、地形なんかは把握しておきたい所ですね?

 

 

 

 

「其れなら大丈夫よ。

 

 一応練習試合の時は、ホームならこっちが、アウェーなら向こうが、今回の試合で使う場所の地図と地形データを送る事になってるから、もうそれもこっちに来てコピー出来てるから、全員に渡しておくわね。」

 

 

 

流石に、地形データはホーム側がアウェー側に渡す事になってましたか――まぁ、そうじゃないと明らかに地の利が大きくなり過ぎますからね。

 

って言うか、何時の間に其れを全員分コピーしたんですか近坂部長は……

 

 

でも、これで地形を把握する事が出来ましたから、ある程度の作戦が立てられました。

 

市街地には、Ⅲ突が隠れられる場所が結構あるので、其れを利用しようと思います。

 

無論、相手もⅢ突の待ち伏せは警戒するでしょうが、其処でⅢ号が相手にちょっかいを出して自身を追撃させて、相手の側面か後面をⅢ突の目の前に曝すように連れて来て、其処でⅢ突が撃破するんです。

 

相手がラングの場合は、Ⅲ号でも正面装甲を抜く事が出来るので、ラングに関しては誘導せずに撃破を優先して下さい。

 

 

更に、赤パンターは、Ⅲ号と一緒に行動して、敵を見つけたら即撃破の方向でお願いします。

 

 

2輌のティーガーⅠは、私が搭乗するアイスブルーのパンターと一緒に行動して貰って、敵車輌を発見し次第撃破する『サーチ&デストロイ』を行って貰います。

 

 

 

 

「何つーか、分かり易くて、だけど大胆な作戦じゃねぇかみほ。だけどよ、何だってⅢ突を市街地限定で待機させんだ?

 

 向こうから送られてきた地形データを見る限りだと、Ⅲ突が隠れられる場所はもっと他にもあるだろ?山岳地帯とか、平原の茂みとか色々と。」

 

 

「うん、青子さんの言うように、向こうから送られてきた地形データには、Ⅲ突の隠れ場所となりそうな所が沢山あるのは分かってるよ。

 

 だけど、その地図データが実は正しくないとしたらどうかな?」

 

 

「如何言う事だ?」

 

 

 

 

此の地図データをよく見て欲しいんだけど、良く見ると、何か気付かないかなぁ?

 

 

 

 

「此れは……Ⅲ突が待ち伏せに使える場所が凄く多いわね?それも、不自然なくらいに。」

 

 

「正解だよナオミさん。」

 

 

そう、此の地図データに示されてる、Ⅲ突の隠れ場所になりそうな場所は、データ上のフェイクで有る可能性がとっても高いと言えるんだよ。

 

此の地図データを鵜呑みにして試合に臨んだら、多分何も出来ずに負けてしまうかもしれない――だけど、此れがフェイクだって分かってれば、みすみす相手の罠に嵌る事も無いからね。

 

 

 

 

「相手にフェイクのデータを送るって、其れってアリなの?」

 

 

「ルールブックには明記されてないグレーゾーンだけど、有りか無しかで言えば有りなんだよつぼみさん。

 

 お母さんが言うには、高校戦車道で認められてるスパイ行為をして来た相手校のスパイに対して、態と偽の情報を握らせるたりするのは普通に行われてたみたいだし、試合前から戦いは始まってるって言う事。」

 

 

流石に、試合中に相手の通信を傍受したり、試合前のスパイ行為の際に相手の戦車に細工するのは、ルールで禁止されてないグレーゾーンとは言っても、有りか無しかで言えば絶対に無しだけどね。

 

 

でも、此れは相手の隊長さんは余程この練習試合に自信が無いのかな?

 

 

 

 

「自信がないって、何でだよ?」

 

 

「だって、考えても見てよ青子さん。

 

 こんな事言ったらアレだけど、私達の学校は万年大会1回戦負けの弱小校なんだよ?其れに対して、こんな搦め手を使って来るなんて、余程自信がないんじゃないかって思わない?」

 

 

「あ~~~……言われてみりゃ確かに。」

 

 

 

 

でしょ?

 

試合当日になるまでは何とも言えないけど、格下の相手に試合前から仕掛けて来るとなると、余程用心深いのか、自信が無いのかの二者択一だからね。

 

 

兎に角、この練習試合は、このチームでの初の試合となりますから、頑張って行きましょう!

 

錬度では向こうの方が上かも知れませんけど、チームとしての結束力は私達の方が上だって私は信じてます――だから、きっと勝てる筈です!

 

 

 

 

「我が校の新隊長である西住隊長の初陣を、絶対に勝利で飾るわよアンタ達!!」

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おーーーーーーーーーー!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

私の戦車道の第一歩となるこの練習試合、しっかり押さえておかないとね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:凛

 

 

 

と言う訳で練習試合当日。

 

この日までみっちりと練習してきたから、今年は負けないわ!何よりも、この練習だって、西住が夫々のチームに合わせてカリキュラムを組んでくれたお蔭で、物凄く効果が上がっているからね。

 

 

それに、今年の綾南は、去年の2年生副隊長が、3年生になって隊長になってる筈だから、絶対に負けたくないのよね……あの性悪女には!!

 

確かにウチは弱小校だけど、其れを嘲笑って見下す態度は、滅茶苦茶ムカついたから、一発吠え面かかしてやらないと気が済まないわマジで!

 

 

 

 

「来たわね明光台。

 

 まぁ、この練習試合は、大会前の肩慣らしみたいなものだから、精々経験値の足しになって頂戴ね万年1回戦敗退の弱小校さん?」

 

 

「ゴメン、分かってたけど、アンタヤッパリ超ムカつくから、試合前に一発殴っても良い?」

 

 

「あははは、駄目に決まってるじゃない。

 

 其れよりも、3年生が全員引退した今年は、2年生の貴女が隊長を務めてるの凛?去年の隊長よりはマシかもしれないけど、それだけね。」

 

 

 

 

本気でムカつくわねアンタ。

 

だけど残念な事に、今年の隊長は私じゃないわ――今年のウチの隊長は、最強の1年生よ。

 

 

 

 

「なに、貴女1年生に隊長職を譲った訳!?これは、お笑いだわ!」

 

 

「自分より優れた者に隊長職を任せるのは当然じゃない?

 

 それに、1年生の隊長だ思って舐めてると痛い目を見るわよ言峰?――西住隊長!」

 

 

「はい、何でしょうか近坂部長?」

 

 

 

 

試合前の挨拶よ。

 

隊長同士の挨拶は大切でしょ?

 

 

 

 

「そうですね……西住みほです、本日は宜しくお願いします。」

 

 

「言峰乱華よ。貴女が今年の隊長さんか……まさか隻腕とはね。

 

 どれだけ能力が有るかは知らないけど、隻腕の障害者を隊長に据えるとは、明光台は完全に地に落ちたわ!この練習試合は完全試合だわ。」

 

 

 

 

西住のチームメンバーがこの場に居なくて良かったわねアンタ。今のを、吉良と辛唐と野薔薇が聞いてたら、アンタ試合前に半殺しにされてたと思うわよ?略間違いなくね。

 

 

だけど、そんな余裕をぶっこいていていいのかしら?

 

確かに西住は隻腕の障害者かも知れないけど、名前で気付かなかったの?――西住は、かの西住流戦車道の家元の次女なのよ?

 

 

 

 

「に、西住流ですって!?」

 

 

 

 

純粋な西住流とは言い難いかもしれないけど、この子の能力が凄まじい事は、校内紅白戦で私が身をもって体験してるから、舐めてると痛い目を見るわよ言峰?

 

 

それ以前に、隻腕て言う事で西住を見下してる時点で、アンタの敗北は決まったようなもんだわ。そうでしょ西住?

 

 

 

 

「良い試合が出来ると思っていましたけど、ガッカリしました。

 

 試合前に偽の地形データを送ってくるだけじゃなく、相手を見下すような発言を繰り返す人が隊長だったなんて……言葉を返すようですけど、貴女みたいな人が隊長を務めてる綾南の方が、地に落ちたと言えますよ。

 

 本当に部隊を纏めるべき立場にいる人なら、相手が格下であっても、決して見下したような発言はしません。試合前の挑発をしたとしてもです。

 

 貴女なんかには、絶対に負けません!!」

 

 

 

 

――轟!!

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

な、なに今のは!?私だけじゃなくて、言峰も驚いてるって事は、私の見間違いじゃなかったって事よね?

 

西住の背後に、上杉謙信、武田信玄、北条早雲、織田信長、源義経って言う歴史に名を残す『軍神』の姿が一瞬だけど見えたのよマジな話で!

 

まさか、西住はそれらの歴史的軍神に匹敵するほどの力を秘めているとでも言うの!?……まぁ、あながちないとは言い切れないけれどね。

 

 

でもって言峰、アンタは如何やらその軍神の逆鱗に触れたみたいよ?――今の内に、ハイクを読む準備でもしておいた方が良いじゃないの?

 

 

 

 

「ふざけた事言ってんじゃないわよ!

 

 確かに一瞬驚いたけど、其れが何?西住流だろうと、所詮は隻腕の半端者じゃない!我が重戦車部隊で殲滅してあげるから覚悟しなさい!」

 

 

 

 

覚悟するのはアンタの方よ言峰。

 

私が校内紅白戦で味わった絶対的な力の差を、今度はアンタが味わうと良いわ――西住の持つ能力がドレだけの物かと言うのと同時にね!!

 

 

宣言するわ、言峰。

 

此の試合が終わった時、貴女は私達の力を脅威に感じる事になるだろうってね。――此の試合、絶対に勝つわよ西住?

 

 

 

 

「はい、勿論です!」

 

 

 

 

そして後悔しなさい言峰――私達の新隊長を見下してしまったと言う事に!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

いよいよ練習試合開始だね。

 

まぁ、私は片腕が無いから、彼是言われるのはしょうがないかも知れないけど、だからってバカにされるのは良い気分じゃなんだよね流石に。

 

大体にして、向こうの隊長さんの物言いは、私を新隊長に任命してくれた近坂部長をも馬鹿にした物だったから、此れは絶対に許せないよ!!

 

 

近坂部長は、自分のプライドを捨ててまで、私を新隊長に任命してくれたのに、其れを馬鹿にするのは見過ごしちゃいけない事だからね。

 

だから、此の試合は絶対に勝つ!勝って、私達の力を相手に見せつける!!

 

 

 

 

「言うじゃねぇかみほ?だけど、そう来なくっちゃな!

 

 相手が勝てると高括ってんなら、其れを覆してやろうじゃねぇか!!弱小校と思って侮った事を、精々骨の髄まで後悔させてやるってんだ!!」

 

 

「馬鹿にされて黙ってられる程、神経が図太いわけじゃないからねアタシは。――全車撃ち抜いてやろうじゃない?」

 

 

「明光台一の俊足からは逃れられないって言う事を、教えてあげるわ!」

 

 

 

 

うん、頼りにしてるよ皆!

 

其れじゃあ行きましょう、Panzer Vor!!(戦車前進!!)

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「Jawohl!(了解!)」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

傲慢な相手の隊長に目に物を見せてあげるよ……私が持てる力の全てを持ってね。

 

悪いけど、貴女はお姉ちゃんと比べたら全然大した事は無いから、負ける気が全くしないよ――だから、絶対に勝ってみせる!私の初陣は、白星で飾らせて貰うから、勝たせて貰います!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

 

「Panzer Vor!」

 

 

「全軍前進!!」

 

 

 

 

こうして始まった練習試合――何方に勝敗が転ぶかは、今は未だ分からないが、其れでも殲滅戦である以上は激しい戦いになるのは間違いな

 

いと言えるだろう……と言うか、激しくなって然りだろう。

 

 

 

ともあれ、西住みほの戦車道の第一歩となる戦いの幕が切って落とされた――つまりは、此処からがみほの腕の見せ所な訳である。

 

 

 

 

しかし、この時ドレだけの人が気付いていただろうか?出撃したみほの顔に僅かではあるが、極薄くではあるが笑みが浮かんでいたと言う事に。

 

後に『軍神』と呼ばれるように成る少女は、この時すでに、その片鱗を見せ始めていたのであった……

 

 

 

 

 

To Be Continued…

 

 




キャラクター補足



近坂凛

明光台付属中学校の戦車部の部長。

みほに隊長の座を譲り渡してからは、副隊長の座に収まり、自身が隊長を務めていた時の副隊長と共に、隊長の補佐に回っている。




言峰乱華

神奈川県立綾南高校付属中学校の戦車道の隊長を務める3年生。

プライドが高い上に、不遜な性格。明光台の事を完全に見下してて、勝って当然の相手位に思っている典型的なやられキャラポジションである。





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Panzer7『軍神招来~眠れる本能です!~』

軍神招来!てやぁぁぁぁぁ!!Byみほ         全攻撃クリティカルだ!覚悟しな!By青子


Side:みほ

 

 

 

いざ始まった練習試合!

 

相手校の隊長は、完全に此方を見下してた――まぁ、万年1回戦負けの弱小チームを相手にして練習試合だから、そうなるのは仕方ないけど。

 

 

だけど、見下すだけならまだしも、近坂部長を馬鹿にした事は許せないかなぁ?

 

近坂部長は、自分のプライドを捨てて、チームの為に私を新隊長としてくれたのに、其れを馬鹿にするなんて言う事は絶対に許せない!否、人として許しちゃいけない事だよ!!

 

 

 

 

「その意見に関しては同意よみほ。

 

 チームの為に自分のプライドを捨てるって言う事が、ドレだけの物なのかって言う事を、向こうの隊長は全然分かってない、って言うか分かろうって言う気が無い。」

 

 

「目先の勝利を求めて、其の後を見れない様じゃ、たかが知れてるわ。

 

 何よりも、向こうの隊長さんが、みほさんが隻腕である事をせせら笑った言動は看過できないから――此処で叩きのめして差し上げるわ!!」

 

 

「ダチを馬鹿にされて黙ってられる程、アタシは人間出来てねぇからな……アイツ等は、手加減抜きでぶっ潰す!!跡形もなく、叩きのめす!!」

 

 

 

 

うん、それ以外の選択肢は有り得ないよね?――なら、真正面から叩きのめします!!

 

 

 

乱華さん、貴方は決して言ってはいけない事を言ってしまった――その報い、この練習試合の場で受けて貰います!!

 

 

戦車道は、戦車の性能だけでは決まらない――其れを、身をもって体験して貰いますから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer7

『軍神招来~眠れる本能です!~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

始まった練習試合。

 

綾南高校附属中は、主力であるティーガーⅠとティーガーⅡで小隊を結成し、残るラングには偵察兼遊撃を命じていた――破壊力抜群の重戦車を運用するのならば、悪くない布陣だろう

 

 

 

 

「敵は、Ⅲ突の待ち伏せを使って来る筈よ……だから、茂みを見つけたら取り敢えず撃て!

 

 違ったら違ったで無問題!Ⅲ突が居る場所を絞り込む事が出来るからね。」

 

 

 

同時に、綾南の隊長である言峰の脳は、全て自分の思い通りになっていると言う錯覚にとらわれていた――そう、偽地図が功を奏していると思い込んでいたのだ。

 

 

だから、其処を突かれた。

 

 

 

 

『どわぁぁぁぁぁぁ!!

 

 こ、此方ラング2号車!すみません、撃破されました!!』

 

 

「はぁ!?」

 

 

『如何やら相手は、山岳地帯には行かず、市街地で待ち伏せを行っていたようです……Ⅲ号とⅢ突が、此方にも……ってラングの1号車も!』

 

 

 

言峰の予想に反し、明光大の面々は、山岳地帯には向かわずに、試合開始直後から市街地に陣を張っていたのだ。

 

そしてみほの読み通り、市街地の方にも、Ⅲ突の隠れ場所に出来る箇所が多く、更に市街地独特の路地周りは、軽快なⅢ号の足を十二分に発揮出来るモノであった。

 

 

Ⅲ号戦車は、攻撃力と防御力は並程度だが、しかしその性能はオール70点を付ける事が出来る高性能の汎用戦車故に、市街地戦ではその汎用性が120%と発揮されていたのだ。

 

 

同時に、綾南の駆逐戦車がラングであったことも大きいだろう。

 

ラングは、Ⅳ号戦車H型を上回る程の超砲身の75mmを主砲に備えた強力な駆逐戦車だが、その攻撃力に反して防御力は並程度で、特別高いとは言えない。

 

正面装甲は80mm傾斜装甲故に、Ⅲ号では撃ち抜くのが難しいが、側面は40mmで、後面は20mmと可也薄く、容易に抜く事が可能なのだ。

 

更にラングは、回転砲塔のない自走砲なので、背面を取ればほぼ撃破は確実と言えるのである。

 

 

これ等の弱点に加え、Ⅲ突の主砲ならば正面装甲も抜ける――故に、綾南は試合開始早々にラング2輌を失う羽目になったのである。

 

 

此れは、綾南側からしたら、完全な想定外だ。

 

明光大には偽の地形データを送ってⅢ突が隠れられる場所は山岳地帯に多いと思わせた筈だったにもかかわらず、明光大は山岳地帯には向かわずに、初っ端から市街地戦を仕掛けて来たのだから。

 

 

それだけに、綾南の隊長である乱華は考える。

 

 

 

「(何故?如何して奴等は、山岳地帯に向かわないの!?

 

  戦車の性能では劣ってるんだから、Ⅲ突の待ち伏せを使って確実に撃破をするのが上策の筈なのに、なんで市街地戦を選んだのよ!?)」

 

 

 

何故こんな事になってしまったのかと。自分の準備は完璧だった筈なのにと。

 

しかし、

 

 

 

――試合前に偽の地形データを送ってくるだけじゃなく、相手を見下すような発言を繰り返す人が隊長だったなんて……

 

 

 

「!!!!!」

 

 

だが、其処まで考えて、乱華の脳裏には、先程のみほとのやり取りが再生されていた。

 

その中で、みほは間違いなく『偽の地形データ』という単語を口にしていた――つまりは、既に乱華の思惑などは、みほによって看破されていたのである、試合が始まる前から。

 

 

 

「――!!」

 

 

 

完全なる己の慢心が招いた失策だった。

 

相手を見下していたせいで、みほが放った重要な一言を完全に聞き流していた、相手の隊長の言う事など大した価値は無いと奢った結果が、こうして目の前に付きつけられていた。

 

 

 

「く、陣形を変更!此れよりティーガーはⅠとⅡが1輌ずつ組んで3組のタッグを作る!

 

 残ったラング2輌は、引き続き偵察兼遊撃を行い、近くに仲間が来たらそれに合流して、護衛に回る事ように!明光大に負けたら恥よ恥!!

 

 市街地戦でも、此処は私達のホームグラウンド、地の利はこっちにあるんだから!」

 

 

 

それでも、即座に頭を切り替えて陣形を変える辺りは、人格的に問題ありとは言っても隊長を任されただけの腕前は有るようだ。

 

確かに、乱華の言うようにホームグラウンドでの市街地戦ならば、ホーム側に地の利があると言うのは間違いではない。少なくとも、相手よりも地元の事を知っているのだから。

 

 

だが、此処にも一つ思い違いがある。

 

実はみほは、練習試合が始まる前に、送られて来た地図データだけではなく、グーグルマップのストリートビューや、学校の帰りに菊代に頼んで現地の視察に来たりと、可能な限り市街地の実際のデータを頭に叩き込んでいたのだ。

 

 

加えて言うのならば、しほに何度も相談に乗って貰って、ありとあらゆる場面を想定しての作戦も立ててある――正に『始まる前から試合は始まっている』状態だったのだ。

 

 

勿論、乱華はみほがそんな事をしていた事など知る由もない。

 

故に、ラング2輌を早々に失ったのは予想外だったが、此処から先は自分達のターンだと、相手にこれ以上は撃破させずに蹂躙出来ると思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ラング2輌撃破しました。現在は、Ⅲ号3号車が残る2輌のラングを引き付けながら、Ⅲ突1号車に新たな場所に待ち伏せして貰ってます。』

 

 

「分かりました。引き続きラングを翻弄してください。

 

 ですが、此方の先制を喰らった事で、相手が陣形を変えてくる可能性は充分にありますから注意してください。

 

 特に、ティーガーと出会った場合は、無理に戦わずに足回りの良さを生かして逃げ回って、Ⅲ突の待ち伏せ場所に誘導するようにして下さい。」

 

 

『たいちょー、伝家の宝刀履帯切りは~~?』

 

 

「勿論、可能ならやって下さい。ただ無理は禁物ですよ?」

 

 

『りょ~か~い!』

 

 

 

一方でみほは、ラング2輌撃破の報告を聞いても気を抜かず、即座に次の指示を出していた。相手の陣形変更の可能性すら考慮してだ。

 

更に見るべきは、みほの柔軟さだろう。

 

 

綾南の隊長である乱華は、言うなれば『隊長の命令は絶対!意見は聞かない!!』と言う感じであるのに対し、みほは命令をしつつも隊員からの提案が有効な物であるのならば、其れを是として作戦に組み込む柔軟さがあるのだ。

 

 

当然、其れは見る人からしたら『優柔不断な隊長』と映るかも知れないが、隊長が全てを取り仕切るよりも、隊員の意見を柔軟に取り入れる部隊の方が成果を上げていると言うのは、過去の様々な戦争からも見て取れる故に、みほのやり方は兵法上も効果が大きいのだ。

 

 

 

「楽しそうね、みほ?」

 

 

「え?そう見えるナオミさん?」

 

 

「気付いてないの?今の貴女は、物凄く良い顔してるのよ?――試合中に笑みを浮かべるなんて、楽しんでる証拠じゃないの?」

 

 

「言われてみればそうかも知れないね?」

 

 

 

同時に、ナオミに指摘されたように、みほは此の試合を楽しんでいるのだ。

 

自分の力がドレだけの物なのか、どうやって相手を倒すか、そう言ったもの全てをみほは楽しいと潜在的に、本能的に感じ取っていたのだろう。

 

 

しかしそうして深層心理で楽しいと感じていた物が、ナオミの一言で表層意識で感じてしまった――

 

 

 

「じゃあ、そろそろ私達も動きましょう。

 

 ラングは兎も角として、最強の重戦車であるティーガーⅠとティーガーⅡが計6輌も居る訳ですから、それら全てを撃破するには、此方の全戦力の投入が絶対ですから。」

 

 

 

其れはつまり、みほの眠れる本能が目を覚ましたと言う事に他ならない。

 

即座に、自身の乗るパンターを発進させ、凛と副部長が車長を務める、2輌のティーガーⅠを率いて市街地に繰り出す!そして、此処からがみほの凄まじい力が発揮される舞台だったのだ。

 

 

 

 

その最初の犠牲者になったのは、2輌のラング。

 

Ⅲ号を追っていた最中、突如としてパンターと2輌のティーガーⅠが現れ、虚を突かれたところで1輌が撃破され、残った1輌も待ち伏せをしていたⅢ突と、凛のティーガーⅠのダブル砲撃を受けてあえなく撃破!

 

 

それだけでは止まらず、偶然近くを通りかかったティーガーⅠとティーガーⅡのタッグを見つけるな否や、Ⅲ号をお供に付けて突撃し、パンターとⅢ号と、Ⅲ突と、ティーガーⅠの集中砲火で此れを撃破!

 

 

正に、凄まじいまでのサーチ&デストロイ。

 

一見すれば、ティーガーⅠ1輌とティーガーⅡ1輌の計2輌に対してⅢ号1輌、Ⅲ突1輌、パンター1輌、ティーガーⅠ2輌の合計5輌で仕掛けたのだから、物量作戦と言われるだろうが、ルール違反をしている訳ではないし、強い相手に複数で戦いを挑むのはある意味での基本だ。

 

 

みほはその基本を生かして、実戦投入できるレベルでは最強の攻撃力と防御力を誇る2種の鋼鉄の虎を葬って見せたのだ。

 

 

 

 

 

だが、此れは乱華からしたら堪ったモノではない。

 

 

 

「残りのラングだけじゃなく、ティーガーⅠとティーガーⅡも1輌ずつ撃破されたですってぇ!?……そんな、冗談でしょ、明光大なんかに――!」

 

 

 

所詮は毎年1回戦負けの弱小校、此の練習試合は大会に向けての足掛かりに過ぎなかった筈なのに、蓋を開けてみれば、自分達は相手を1輌も撃破出来ずに、反対に自分達のチームは残り4輌と言うところまで追いつめられていたのだ。

 

 

対して、相手は未だ無傷の10輌健在のまま――フラッグ戦ならば兎も角、殲滅戦に於いての6輌のビハインドは致命的だと言うしかないだろう。

 

 

 

だが、殲滅戦である以上は、どちらかの戦車全てが行動不能にならければ試合は終わらない。

 

 

 

 

「舐めるんじゃないわよ明光大!

 

 残り4輌とは言え、ティーガーⅠとティーガーⅡは、大戦期最強と謳われた重戦車!6輌のビハインドなんか、簡単に引っ繰り返してやるわ!」

 

 

 

それでも乱華は戦車の性能差に物を言わせて逆転をしようと考えて居る様だが、其れはこの状況に於いては『捕らぬ狸の皮算用』でしかない。

 

 

 

 

『ティーガーⅠ2号車、ティーガーⅡ1号車、行動不能。』

 

 

「嘘でしょぉぉォォォ!?」

 

 

 

直後に入って来た別動隊のティーガーⅠとティーガーⅡが撃破されたとのアナウンスに、乱華の顔は一気に真っ青になる――それは、無理もないだろう、残るは自分のティーガーⅡと、タッグパートナーであるティーガーⅠだけなのだから。

 

 

因みに、撃破された2輌だが、Ⅲ号の誘いに乗って踊らされた挙げ句にⅢ突の待ち伏せ場所に誘き出され、ティーガーⅠが弱点の後面をⅢ突に撃ち抜かれ、ティーガーⅡは駆けつけたみほのパンターからゼロ距離砲撃を喰らわされて沈黙したのだった。

 

 

同時に其れは、この練習試合の結果は事実上決まった事の宣告でもあった。

 

如何に強力なティーガーⅠとティーガーⅡであっても、ティーガーⅠ2輌、パンターG型2輌、Ⅲ突2輌とⅢ号4両の計10輌をたった2輌で相手にするのは無理ゲ~以外の何物でもないのだから。

 

 

 

「此のまま終われるもんですか!!

 

 きっとアイツ等は、私達を撃破する為に全軍で攻めて来るわ!だから相手が見えたら、視認した奴から順に攻撃しなさい!!1輌でも多く撃破するのよ!!

 

 特に隊長車を集中的に狙いなさい!隊長が沈黙すれば、アイツ等は何も出来なくなる筈よ!!」

 

 

 

それでも乱華は、僅かな望みに掛けて、自分達に向かって来る明光大の全軍に対して攻撃を敢行する!!――しかし、其れも無駄な事だった。

 

ティーガーの88mm砲は確かに強力だが、逆に言うならば、どんな強力な攻撃であろうとも、当たらなければ大した事は無いのだ。

 

 

それを示すように、パンターとⅢ号とⅢ突は、軽快な足回りを生かして綾南のティーガーⅠとティーガーⅡに接近し、明光大のティーガーⅠ2輌はロングレンジからの援護射撃で、みほ達を援護している。

 

 

 

 

「つぼみさん、行きますよ!!」

 

 

「明光大一の機動力に不可能は無いのよ!!」

 

 

 

そして突撃の先陣を切っていた、みほのパンターは、ティーガーⅠの眼前に躍り出るや否や、其処からドリフト宜しい軌道で側面に回って、破壊力抜群の超長砲身の75mmで、ティーガーⅠの側面を容赦なく撃ち抜く!

 

 

 

『ティーガーⅠ1号車、行動不能。』

 

 

 

その結果は見事な白旗判定!

 

よって残るは、乱華の乗る隊長車であるティーガーⅡだが……

 

 

 

 

「そんな、そんな馬鹿な!!」

 

 

 

 

ティーガーⅠ2輌とパンター2輌、Ⅲ突2輌とⅢ号4輌に主砲を向けられていては、もうどうする事も出来ないだろう。

 

一斉掃射にカウンターして、Ⅲ号をある程度は道連れに出来るかも知れないが、其れがせめてもの悪足掻き……勝負は、決していたのである。

 

 

 

 

「Schuss!(撃て!)」

 

 

「「「「「「「「「「Jawohl!(了解!)」」」」」」」」」」

 

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァン!!!

 

 

 

 

『ティーガーⅡ1号車、行動不能。

 

 綾南高校附属中、残存車輌0、明光大付属中、残存車輌10――よって、明光大付属中学校の勝利です!』

 

 

 

隊長車へのトドメは、10輌の戦車での集中砲火!

 

如何に最強レベルの防御力を誇るティーガーⅡとは言え、バランスの良いⅢ号の長砲身60口径50mmと、抜群の攻撃力を誇るⅢ突の長砲身75mm、パンターの超長砲身75mm、ティーガーⅠの長砲身88mmの集中砲火を受けて只で済む筈もなく、あえなく白旗判定!

 

 

終わって見れば、明光大の10対0の完全試合!

 

 

西住みほと言う、稀代の軍神が、その力を見せつける結果になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

私達の勝ちですね♪

 

さて、何か言う事は有りますか、乱華さん?貴女の言う弱小校が、こうしてパーフェクトゲームをして見せた訳なんですけれど?

 

 

 

 

「何も言う事なんて無いわよ!寧ろ言えないわよ!!

 

 何なのよアンタ達!去年とはまるで別人じゃない!!アンタ達が私達に勝つなんて、そんなのは絶対に有り得ない事だったのに、何でよぉ!」

 

 

「そりゃ別人にもなるわ乱華。

 

 去年の隊長と違って、西住は真剣に戦車道と向き合ってる上に楽しんでるし、勝つ為の努力は全然怠らないから、其れがアンタとの違いよ。」

 

 

「認めない……認めないわこんな事は!!

 

 今回は不覚を取ったけど、大会ではこうは行かないから覚えておきなさい西住みほ!!このリベンジは果たさせて貰うわ!!!」

 

 

 

 

貴女には出来ないかもしれませんね。

 

自分の負けを受け入れられない者に成長は有り得ないって、お姉ちゃんとお母さんも言っていたから――だから、大会でぶつかる事になってもまた私達が勝ちます!!

 

 

 

 

――轟!!

 

 

 

 

だから、覚悟しておいてくださいね?

 

明光大は今年、万年1回戦負けの弱小校から、強豪に伸し上がる心算ですから――立ち塞がる相手は、全部倒して進ませて貰います!!

 

 

 

 

「言っとくがな、アタシ等は最強だ!絶対に負けねぇよ!!」

 

 

「今年の大会は革命の第一歩……勝つのは私達、明光大付属中学校よ!」

 

 

「大会を楽しみにしてるわ。」

 

 

 

 

何よりも、私に付いて来てくれた青子さん、つぼみさん、ナオミさんの為にも負ける事は出来ないから!!――当然、私を隊長に任命してくれた近坂部長の為にもね!!

 

 

大会を、楽しみにしていますよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

 

今日はみほが隊長に就任しての初の対外試合でしたが、殲滅戦ルールで完全試合をして見せるとは、あの子の才能は底が知れないわね……

 

 

まほは、世間が認めた『天才』であるのは間違いないけれど、みほはまほ以上の才覚をその身に宿した西住流の鬼札とも言うべき子だから、この結果も、ある意味では納得してしまうわ。

 

 

でも、だからこそ期待してしまうわ。

 

 

 

まほが正当な西住流を継承し、其処にみほの戦車道が――言うなれば『西住みほ流』とも言うべき戦車道が加われば、西住流はもっと厚みのある流派になる事が出来のですからね。

 

 

私は本当に幸せ者だわ……正統のまほと、可能性のみほと言う2人の娘を授かれたのですから。

 

 

 

何れにしても、あの子達の代で。西住流は新たな道を歩み出す――それは、間違いない事なのでしょうね。

 

 

 

だからこそ、今年の大会は目が離せないわ。

 

此の大会で、まほとみほがどんな活躍をするのか――私には、母親として、そして西住流の師範として其れを見届ける義務がありますからね。

 

 

 

 

頂点に立つ事が出来るのは、まほとみほのどちらか一方だけれど、2人とも悔いが無いように戦いなさい?

 

どちらが勝とうとも、母は貴女達の戦いを見守っていますからね?――手加減不要で、思い切りやってきなさい、まほ、みほ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer8『大会の組み合わせ抽選会です』

私ってクジ運悪いのかな?Byみほ         いや、ある意味で良いんじゃないかしら?Byつぼみ


Side:みほ

 

 

 

さて、今日は『全国中学校戦車道大会』の組み合わせ抽選会の日。――だからと言って、私の日常が何か変わるって言う訳じゃないんだけど。

 

だけど、今日の抽選会、お母さんも一緒に行かない?

 

 

 

 

「其れは構わないけど、何故かしらみほ?」

 

 

「私の仲間をお母さんに紹介したいって言うのが1つで、もう1つは久しぶりにお姉ちゃんと会えるからかな?

 

 私は陸の学校に通ってるから毎日お母さんと顔を合わせる事が出来るけど、黒森峰は学園艦だから、熊本に寄港した時じゃないとお姉ちゃんと顔を合わせる機会は無いでしょ?」

 

 

「……言われてみれば、そうね?

 

 と言うか今年度に入ってから、まほの顔を見てない気がするわ……みほが居てくれたから、あまり気にしてなかったけど、此れはダメだわ!」

 

 

 

 

でしょ?だから一緒に如何かって思ったの。

 

抽選は、各校の隊長がやる事になってるから、そうなれば黒森峰の隊長であるお姉ちゃんは絶対来る筈でしょ?だから、会う事が出来るから。

 

だから、ね?

 

 

 

 

「そうね……なら、抽選会が終わったら、久しぶりに3人で食事でもしましょうか?」

 

 

「それ、グッドアイディアだよお母さん♪」

 

 

私も、久しぶりにお姉ちゃんと話したい事が沢山あるし、お姉ちゃんから聞きたい事もいっぱいあるからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer8

『大会の組み合わせ抽選会です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

と言う訳で、隊長に引き連れられて大会の抽選会にやって来たのだけれど……此れは、可成りの人が集まってるみたいね?

 

殆どの学校は、隊長チームのみが抽選会に参加してる状態だけど、黒森峰を含む数校は、戦車道チームの全員が来てるから、そりゃ人数も増えるってモンだわ。

 

 

まぁ、誰が相手であっても、西住隊長が指揮する黒森峰が負ける事は無いと思うんだけど――って!!あの子は!!!

 

 

 

 

「如何かしましたか逸見さん?何て言うか、こう『驚いたとはいえ女の子がしちゃいけない顔』になってますけど?」

 

 

「其れはどんな顔よ赤星!?」

 

 

「手鏡有りますけど、観ます?」

 

 

 

 

要らないわよ!!

 

って言うか、驚くなって言うのが無理よ……壇上に上がった『明光大付属中学』の隊長は、西住隊長の実妹の『西住みほ』…そして、小学校の大会で、私を倒して優勝したっていう奴なんだから。

 

 

 

 

「逸見さんを倒したって……流石は西住隊長の妹さんと言うか何と言うか……まぁ、1年生で隊長な位ですから相当だと思いますけど。」

 

 

「相当って言うのは、ちょっと違うわね?以前に西住隊長に挑んで負けた時の様な、圧倒的な力の差は感じなかったわ、あの子には。

 

 自惚れる訳じゃないけど、恐らく実力はホンの少しだけあの子の方が上ってレベルなんだろうけど……何て言うのかしら?

 

 こう言ったら物凄く失礼なのは分かってるんだけど、あの子との戦いは、未知の生物と対峙したような、味わった事が無い感覚を覚えたわ。」

 

 

「未知の生物って……何ですか其れ?彼女も、西住流なんでしょう?」

 

 

 

 

えぇ、西住流『も』出来るでしょうね、やろうと思えば。

 

隊長の戦い方は、紛れもない西住流――圧倒的な力を持ってして、相手を正面から打ち砕く戦い方だから、対策は立てようと思えば幾らでも立てられるんだけど、圧倒的に強いからその対策が意味を成さないのよ。これ、私の経験談ね?

 

 

でも、あの子は――西住妹は対策そのものが立てられないの。

 

正攻法で攻めて来たかと思えば突然奇策に出たり、奇策を警戒してると正攻法で攻めて来たり、時にはとんでもない搦め手まで使ってきたり、ハッキリ言って『何をしてくるか分からない』のよ。

 

極端に言うなら、右の路地に入った筈なのに、左の路地から攻撃して来たとか、穴に飛び込んだはずなのに空から降って来たとか、そんな感じで、本気で未知の生物を相手にしている気分になって来たわ。

 

 

 

 

「なんだかよく分かりませんけど、隊長の妹さんが『なんだか凄い人』だって言うのは良く分かりました。

 

 つまり逸見さんは、そんな凄い人が隊長を務めてる今年の明光大は、万年1回戦負けの弱小チームと思ってると痛い目を見ると、そう思って居ると言う訳ですね?」

 

 

「アタシの話を聞いて、何処からそう思ったのか分からないけど、まぁそう言う部分も無くは無いわ。」

 

 

兎に角、少なくとも中学の3年間は、あの子が私の敵として存在するのは間違いないんだから、中々面白い事になりそうじゃないの?

 

この3年間の間に、小学校の時の雪辱を果たすって言うのも有りだと思うしね?――待ってなさいよ、西住みほ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

組み合わせ抽選会には、隊長チームだけで来たから、明光大は少ないね。逆に、黒森峰は1軍が全員来てたみたいで物凄く多かったけれど。

 

で、クジの結果、明光大と黒森峰は、トーナメントの後半8組の方で、明光大は全体の第6試合で、黒森峰が1回戦の最終試合だから、お姉ちゃんとぶつかるのは準決勝か……

 

 

 

 

「先ずは其処まで勝ち進まないとなんだけどな。

 

 んでよぉみほ、1回戦の相手の『大阪府立浪花中学校』ってのはどんなトコなんだ?強いのか、此処って?」

 

 

「浪花中は、一昨年の準優勝校だけど、去年は確か1回戦で敗退してる筈だよ?」

 

 

「なんだそりゃ?準優勝に浮かれて、去年は弱くなっちまったってのかよ?」

 

 

 

 

其れは違うよ青子さん。

 

一昨年の決勝の相手も、去年の1回戦の相手も黒森峰だったの。特に、去年の黒森峰は、お姉ちゃんが加入した事で一昨年以上に強くなってたから、其れが相手じゃ1回戦敗退も仕方ない事だよ。

 

 

それに、一昨年の大会で決勝まで進んだ実力は本物だから、ある意味で行き成りの強豪との戦いって言っても良いと思うんだ、私達にはね。

 

 

 

 

「だけど、負ける心算は無い――って言うか、勝つ心算なんでしょみほ?」

 

 

「心算じゃなくて『勝つ』んだよナオミさん。

 

 確かに私達は、錬度で言えば他のどの学校よりも劣ってるかもしれない。だけど、皆とならどんな相手とも戦う事が出来るって信じてるから。」

 

 

「だったら、其れには応えないと嘘よね?

 

 なら、私達に対しては、多少無茶な命令も遠慮しないでしてねみほさん?私も、ナオミさんも、青子さんも、其れには応えて見せるから!!」

 

 

 

 

うん、頼りにしてるよ。

 

 

さて、お姉ちゃんを探して、それからお母さんと合流しないと――

 

 

 

 

「みほ。」

 

 

「お姉ちゃん?」

 

 

と思ってたら、お姉ちゃんの方から声をかけて来た。――久しぶりだねお姉ちゃん?元気にしてた?

 

 

 

 

「其れは私のセリフだみほ。お前の方こそ元気だったか?

 

 まさか、戦車道で隊長を務めているとは思わなかったが……見る限りは、息災のようなので安心したよ。」

 

 

「あはは……まぁ、校内紅白戦で、部長率いる上級生チームを事実上完封に近い状態で倒しちゃって、其れで新たに隊長に就任したんだよ。」

 

 

それで、一緒に居る2人は誰なのお姉ちゃん?

 

1人は――銀髪の子は、小学校の大会で会った事が有るんだけど……

 

 

 

 

「あぁ、今年の期待の1年生である逸見エリカと赤星小梅だ。

 

 2人とも、紹介しよう、私の妹の西住みほだ。」

 

 

「逸見エリカよ……今度は負けないからね?」

 

 

「は、初めまして、赤星小梅です!」

 

 

 

 

エリカさんと小梅さんだね?――よし、銀髪はエリカさんで、天然パーマっぽいのが小梅さん、確り覚えたよ。

 

黒森峰とぶつかるのは準決勝になるけど、戦う事になったら、その時は大概の全力を尽くしていい試合にしましょうね?――己の全力を出し切ったなら、勝敗は別にして、悔いはないと思いますから。

 

 

お姉ちゃんも、準決勝で当たったその時は、手加減なんてしないで、本気で戦ってね?

 

 

 

 

「無論だ。言われるまでもない。

 

 如何に相手が格下であろうとも、だからと言って全力を出さないのは無礼千万極まりないからな?準決勝まで駒を進めてきたその時は、私の持てる力の全てを持ってして、お前と戦う心算だよみほ。」

 

 

「負けないよ、お姉ちゃん!!」

 

 

 

 

 

 

「なんや、明光大中の隊長さんは、随分と気が早いモンやなぁ?もう1回戦は勝った気でいるんか?」

 

 

 

 

 

 

貴女は、浪花中の隊長さん!――別にそんな心算は無いですよ?ただ、準決勝で戦う事になったらって言う『もしも』の話をしているだけです。

 

それに、戦車道の大会は『フラッグ戦』だから、弱小校が強豪に勝つって言う番狂わせだってありますから、『もしも』は有り得ない事じゃない。

 

 

 

 

「正論やな……やけど、私等に勝てる思ったら大間違いやで?

 

 私等は、去年の1回戦負けの悔しさをばねにして、血のにじむような努力をして来たんや!――片腕の隊長なんぞには負けへんで!!!」

 

 

 

 

片腕の……まぁ、今更慣れたけど、其れはある意味で禁句ですよ?――特にお姉ちゃんの前では。

 

 

 

――ガッ!!

 

 

 

 

「貴様……今の発言は、みほを侮辱しないまでも、片腕と言う事で見下した発言だったと取るぞ?」

 

 

「みほを見下すとは、良い度胸してんじゃねぇかテメェ…いっそこのまま叩きのめしてやろうか?――其れ位じゃないと、対価が釣り合わねぇ。」

 

 

 

 

訂正。お姉ちゃんに加えて、青子さんの前ででもだったね。

 

お姉ちゃんと青子さんに胸倉を掴まれて、宙吊りにされた浪花中の隊長さんは顔面蒼白――うん、これ以上はヤバいから、その辺で解放してあげて、お姉ちゃん、青子さん。

 

 

 

 

「仕方あるまい……みほの優しさに感謝しろ、下衆が。」

 

 

「次は無いぜ、クソが…今度同じ事しやがったら、今度は容赦なく(精神的に)ぶっ殺す!!――其れを肝に命じとけってんだ、クソ野郎!!!」

 

 

「ごほっ、ごほっ……ゲハァ!

 

 此のクソッタレ、やってくれたな?……上等や、明光大も、黒森峰も叩きのめしたるわ!!大阪人の魂舐めたら痛い目を見るからな!!」

 

 

 

 

その言葉をそっくりそのまま返します。

 

貴女の方こそ、明光大を『万年1回戦負けの弱小校』と侮っていたら、火傷じゃ済まない痛手を被るって言う事を覚えておいた方が良いですよ?

 

私達は、負けません――例えそれが、黒森峰が相手であったとしても!!

 

 

 

 

――轟!!

 

 

 

 

「い、言うやないか?そやったら、1回戦は楽しみにしてるで、隻腕隊長!――まぁ、勝つのは私等やけどな!!」

 

 

 

 

……行っちゃった。

 

でも、アレだけの事を言われた以上は、負ける事は出来ないよね?……寧ろ、私達を甘く見た事を後悔させてやらないと気が済まないよ!!!

 

 

 

 

「黒森峰の隊長が、明光大の隊長に言うのはアレだが……奴の事は、完膚無きまでに叩きのめせみほ。

 

 お前を馬鹿にした事もそうだが、戦車道はあくまでも武道――その戦車道に於いて、武道の心を忘れたとしか言いようがない奴の発言は、正直な事を言って寛容できんのでな。」

 

 

「分かってるよお姉ちゃん。」

 

 

あの人は、私だけじゃなくて、私の仲間達をも侮辱したに等しい発言をした――其れを聞いて、黙ってられる程の聖人君子じゃないからね私は。

 

己が下に見て居た相手の力がどれ程だったのかという事を、骨身に叩き込む事にするよ。

 

 

 

 

「アイツはぶっ倒す!絶対にぶっ倒す!!もう、謝っても許さねぇレベルでぶっ倒す!!」

 

 

「みほの事を甘く見た代償を、その身をもって払って貰おうじゃない?」

 

 

「明光大の隊長からは逃げられない……其れを教えてあげるわ!!!」

 

 

 

「……如何やら、良い仲間に恵まれたみたいだなみほ?

 

 此れだけの仲間がいるのならば、余程の相手ではない限りは、お前が負ける事は無いだろう――だから、奴に見せてやれ『みほの戦車道』と言うモノをな!!」

 

 

「うん!」

 

 

其れは其れとして、お姉ちゃん此の後時間ある?

 

抽選会場には、お母さんも来てて、可能なら、久しぶりに3人で食事でもって思ってるんだけど、如何かな?

 

 

 

 

「其れは、是非もない事だ。

 

 必要な事を終えたら、お母様の所に行くから、その旨を伝えおいてくれ――私としても、お母様に会うのは久しぶりなので、楽しみだからね。」

 

 

「了解です、お姉ちゃん様♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

で、久々に、親子そろっての食事と相成った訳だ。

 

黒森峰の面々も、みほのチームの面々も、此処は空気を読んで、西住親子が水入らずで過ごせるようにしてくれたらしい……素直に感謝だな。

 

 

とは言え、入った店がその辺のファミレスではなく、一流の洋食レストランで有る辺りに、お母様のプライドと拘りを感じるのだけれどね。

 

 

で、頼んだメニューは、私が『欧風ビーフカレーセット』で、お母様が『チキンソテーセット』、そしてみほが『特製サンドイッチセット』……まぁ、妥当な注文だろうな――特に、右腕しか使えないみほはな。

 

 

まぁ、其れでメニューが制限されるって言うのは、アレだから、私はカレーを、お母様はチキンソテーをみほに食べさせてやる心算だけれどね。

 

 

 

 

「さて、いよいよ大会が始まる訳ですが……自身の程は如何ですか、まほ、みほ?」

 

 

「今年の大会も優勝する心算で居ます。

 

 ですが、今年は準決勝でみほと、そしてみほを下して決勝に進んだら、其処で今度は安斎と戦う事になるでしょうから、去年よりもずっと厳しい戦いになるのではないかと思っています。」

 

 

「取り敢えずは、お姉ちゃんが待つ準決勝までは進まないとって思ってるよ。

 

 勝てるかどうか、結果は二の次にしても、黒森峰と戦った経験て言うのは、後で絶対に役に立って来るからね……だから、当面の目標は準決勝進出!そして、準決勝を突破出来たら、優勝を狙って行く心算だよ!!」

 

 

「成程、良く分かりました。ならば、まほもみほも、己の目的を達成できるように全力を尽くしなさい?

 

 『西住流』に撤退の文字は無いけれど、其れはあくまで敵前逃亡を許さないだけの事だから、戦略的撤退は認められているのだから、それも念頭に置いて、悔いの無いように戦いなさい。良いわね?」

 

 

「はい。」

 

 

「うん!」

 

 

 

 

悔いの無いように……か。

 

確かにお母様の言う通りだ。如何に試合で勝ったとしても、その結果に悔いが有ったのでは、勝利も素直に喜ぶ事は出来ない物であるからな。

 

 

だが、其れもまた己の力を全力で出せる相手が居なければ難しい事だが、今年は安斎に加えてみほも居るのだから、どんな結果が待っていようとも、悔いが残るような戦いにならない事だけは確実だ。

 

 

だから、必ず準決勝まで駒を進めて来いみほ!!

 

 

 

 

「勿論、言われなくてもその心算だよ!

 

 それに準決勝に進むだけじゃなくて、黒森峰を倒して、そして優勝する事が私達の目標だから――全力で行くから覚悟してね、お姉ちゃん!」

 

 

「望む所だ!」

 

 

「仲の良い姉妹は、同時に戦車道に於いてはライバルであったか……此れは、貴重な経験でしょうね。

 

 如何に姉妹で戦車道をやっているとは言え、姉と妹が選んだ道は、全く異なるものなのならば、展開の予測も出来ないモノ……何にしても、2人とも頑張りなさい?」

 

 

「「はい!!」」

 

 

 

最愛の妹は、最大のライバルか……其れもまた一興だからね。

 

だが、みほが居て、更に安斎も居ると言う今年の大会は、私からしたらこの上なく相手に恵まれているとしか言えない大会だ――安斎だけでも強敵なのに、其処に新たにみほが加わる訳だからな。

 

 

今年の大会は、去年以上に楽しめるモノになりそうだから、去年以上に全力を尽くさねばな。

 

 

 

 

 

と、決意を固めた訳だが、其の後で、みほに『あ~ん』をさせて、私とお母様が自分のメニューを分け与えて、それを笑顔で食べるみほの姿に完全KOされたのは、仕方ない事なんだろうな。――あの可愛さは、反則だろう本気で。

 

 

ではなくて、兎に角今年も、私は勝たねばな――それが、王者黒森峰の宿命なのだから。

 

だが同時に、みほや安斎にならば、負けた所で、きっと悔いは残らないだろうな――この2人なら、私も死力を尽くす事が出来るだろうからね。

 

 

 

それを考えると、余計に楽しみになって来た――あぁ、心の底から、大会が始まるのが待ち遠しくなって来たよ、柄にもなくな。

 

 

 

こんな言い方はアレかも知れないが、精々私を満足させてくれよ、みほ、安斎!!――お前達との戦いを、楽しみにしているからな、私は!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued…

 

 



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Panzer9『1回戦の相手はフランス戦車団です』

同じ欧州なのに、何でドイツとフランスの戦車は此処まで性能差が…Byみほ         ドイツの化学力にフランスが追いついてなかったんでしょうねByナオミ


Side:みほ

 

 

 

大会の1回戦の相手は『大阪府立浪花中学校』――一昨年の準優勝校だから、気を引き締めて行かないとだね……尤も、一昨年の準優勝校に手間取ってるようじゃ、お姉ちゃんが率いる黒森峰には到底及ばないから、先ずはこの1回戦はかっちり勝っていきたいですね。

 

 

近坂部長、試合会場のフィールドはどうなっていますか?

 

 

 

 

「ちょっと待ってね……OK、出たわ。

 

 私等と浪花中の試合の会場は、広い草原に、小高い丘や、小規模の林が点在する、比較的見通しの良いフィールド……そんな感じだわね。

 

 見通しいが良いから相手の動きを掴みやすいけど、逆に言うなら見通しが良いせいで待ち伏せ作戦には向かないわ…如何する西住隊長?」

 

 

「相手の出方にもよりますが、隠れられる場所が少ないなら、最初から待ち伏せ作戦は捨てて行こうかと思います。

 

 寧ろ、見通しの良いフィールドなら、動きを止めているよりも動いて相手を探した方が効率的ですし……サーチ&デストロイは浪漫ですから。」

 

 

「アンタ、顔に似合わず、時々サラッと怖い事言うわよね?」

 

 

「褒め言葉と取っておきますね♪」

 

 

とは言え、此方は隊員の殆どが戦車道未経験者で、如何に短期間で驚くほど成長したとは言っても、他校の隊員との錬度の差が大きな物であるって言うのは間違いないから、そこは戦術と戦車の性能でカバーしていかないとだね。

 

 

 

 

「お~~~、燃えてんなみほ?」

 

 

「燃えるのは結構だけど、何かみほの纏う闘気が金色になって来てる気がするんだけど……私の見間違いじゃないわよね、つぼみ?」

 

 

「見間違いじゃないわよナオミさん……私にだって、みほさんが纏う黄金の闘気が見えているから。」

 

 

「つまりみほは、超サイ○人に覚醒する一歩手前ってか?」

 

 

「いや、違うからね!?」

 

 

私は人間だから!地球人だから!!野菜をもじった名前を冠した人が集まった某戦闘民族じゃないから!普通の戦車女子だからね私は!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer9

 

『1回戦の相手はフランス戦車団です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で、初戦の作戦会議です。

 

相手の保有戦車は分かりませんが、基本的に私達は、パンターとⅢ号の足回りの強さを生かしての機動戦を軸にして、其処から誘い込み等を利用して、Ⅲ突とティーガーⅠの前に敵を誘き出して撃破する形を取りたいと思います……質問は?

 

 

 

 

「隊長ー、今度の1回戦も、前の練習試合の時みたいに相手の戦車全滅させるんですか?」

 

 

「その必要はありません。

 

 大会はフラッグ戦なので、相手のフラッグ車を撃破すれば其処で試合終了になるので、殲滅戦の時のように、相手車輌を全て撃破する必要は無いんです。」

 

 

勿論、学校によっては、フラッグ戦であっても相手を殲滅する場合がありますけど、私達はあくまでもフラッグ車を狙ったスマートな戦い方で行こうと思っています。

 

無論、相手もそう簡単にフラッグ車を無防備にはしないでしょうけれど。

 

 

 

 

「妥当な判断ね、みほ。

 

 可成り腕が上がってきたとはいえ、私達の学校は、他の学校と比べると、隊員の錬度に差があるんだから、ルールがフラッグ戦ならば、徹底してフラッグ車を狙う――悪くない作戦だと思うわよ。」

 

 

「みほさんの立てる作戦は、作戦の大柱が確りしているにも係わらず、どんな戦局であっても対応できる柔軟さがあるのがポイントよね?

 

 と言うよりも、作戦の大柱だけ作って、細かい部分は実際の試合の場での状況に合わせて指示する感じって言った方が正しいかしら?」

 

 

「まぁ、其れで良いんじゃねーの?

 

 特に今年の1年は、アタシも含めてお前等3人以外はド素人なんだから、事前に彼是細かく指示されるよりも、大まかな部分だけ決めといて、後はその場その場で指示された方が分かりやすいってモンだ。

 

 アレだよ、宮本武蔵の攻撃を鍋の蓋で止めたって言うオッサンのアレみたいなもんだろ?」

 

 

「塚原卜伝の無手勝流?」

 

 

「そうそう、其れ。」

 

 

 

 

無手勝流……言われてみればそうかも。

 

車長専任免許取るために頑張ってた時も、蝶野さんに『みほさんの考える作戦は、次の一手が読めない。予想してもその斜め上を行くわ。』って言われた事があるからね?

 

 

でも、戦車道の無手勝流って言うのも悪くないかも♪其れが、此の大会で何処まで通じるかって言うのも楽しみだしね。

 

そう言えば近坂部長、浪花中学校はどんな戦車を使っているんですか?

 

 

 

 

「確か、フランスの戦車を使ってた筈よ?

 

 軽戦車のルノーR40と、重戦車であるルノーB1bisが主戦力で、切り札にARL-44を備えた布陣だったと記憶してるわ。」

 

 

「ルノーR40とルノーB1bisは兎も角として、ARL-44とは、レギュレーションギリギリの車両を使ってるんですねぇ……違反じゃないですけど。」

 

 

「んあ?ギリギリなのか?」

 

 

「ARL-44は、試作機の完成は大戦後だけど、設計そのものは大戦中で、終戦時には木製のモックアップだけは完成してたから、ギリギリだけどレギュレーションの範囲内なの。

 

 でも、完成は戦後って言う事もあって、主砲は90mm、正面装甲は120mm傾斜装甲って言う、ティーガーⅠ以上の攻守力を持ってるんだ。」

 

 

「うわ、マジでルールすれすれだ其れ。」

 

 

 

 

とは言っても、最高速度はティーガーⅠより劣るし、ルノーR40とルノーB1bisに至っては、あらゆる性能で此方の戦車の方が性能面で上回るから、多分何とかなると思う。

 

尤も、この性能の戦車で、一昨年は準優勝だったって言うんだから、虎の子のARL-44をとっても効果的に使っているんだろうけれどね。

 

 

でも、相手がフランス戦車を使ってくるなら、此方のフラッグ車は近坂隊長のティーガーⅠで決まりですね。

 

ティーガーⅠなら、後面を狙われない限りは、ルノーR40とルノーB1bisに撃破される事は先ず有りませんから……お願いできますか、部長?

 

 

 

 

「隊長直々の使命を断る理由はないでしょ?OK、フラッグ車を務めさせて貰うわ。」

 

 

 

 

お願いします。

 

となると、おそらくはフラッグ車であろうARL-44を如何に撃破するかだね?

 

120mmの傾斜装甲を抜けるのは、ティーガーⅠだけだけど、側面や後面なら、パンターやⅢ突の主砲で抜く事は出来るから……うん、ARL-44に対して、此の作戦で行くのがベスト!

 

 

其れじゃあ、1回戦までの残り3日、確りと練習しようか!!

 

 

 

 

「そう来なくちゃな!!やるぞテメー等!!!初戦突破の為にも、汗水流して練習だーーーー!!!!」

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おーーーーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

「……相変わらずね、青子は……いっその事、副隊長もこの子に変えた方が良いのかしら?割と本気で、そんな事を考えてしまうわ最近は。」

 

 

 

 

あはは……青子さんは周りのテンション上げるの得意ですからね?取り敢えず、ノリと勢いはこの学校の誰よりも凄いって言うのは間違いないですから。

 

でも、あのテンションは練習でも試合中でも、チーム全体の士気を上げてくれるから、絶対に必要なのは間違いありません。

 

 

そして、青子さんが折角皆のテンションを上げてくれたんだから、皆には大会前にもう2段階ぐらいステップアップして貰おうとしようかな?其れが出来れば、1回戦は間違いなく突破できると思うから♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ナオミ

 

 

 

という訳で1回戦当日。

 

実際に見てみると、今日の試合のフィールドは本気で見渡しが良いわね?って言うか、日本で地平線が見えるような場所があったって言う事に、若干驚いてるわ。

 

 

其れは其れとして、試合前の車輌チェックは欠かせないわ。

 

照準良し、トリガーの動作良し、シートのグラつきもないし、此れなら停止射撃で外す事は先ず無いから、思い切り暴れてやろうじゃない相棒。

 

 

 

 

「調子良さそうですね、ナオミさん?」

 

 

「えぇ、調子は上々よみほ。今日の私は、どんな相手にだって砲撃を命中させる自信があるわ。」

 

 

「其れは、頼りになります♪

 

 でも、実際に今日はナオミさんに頑張って貰う事になると思いますから、宜しくお願いしますね?」

 

 

 

 

任せなさいみほ、貴女が撃破しろと言った車輌は全て撃ち抜いてみせるわ。

 

何よりも、戦況によってはARL-44を撃破する事も念頭に置いておかないとなんだけど、此れだけの強力な戦車を撃破するって言うのは、砲撃手の勲章だから、この手で撃破したいのが本音よ。

 

 

何にしても、この1回戦は、絶対に勝つわよみほ?

 

 

 

 

「勿論ですよナオミさん!」

 

 

「毎年1回戦負けの弱小校の快進撃ってモンを見せてやろうじゃねぇか!」

 

 

「弱小校と呼ばれるのは今日までの事……此れからは『強豪』と呼ばせてあげるわ!!」

 

 

 

 

って、私が言うまでもなかったか。――って、ん?

 

 

 

 

「えっと、明光大の隊長さんは何方でっしゃろか?」

 

 

「明光大の隊長は私ですけど……何かご用ですか?」

 

 

 

 

やって来たのは浪花中の生徒と、其れに引き摺られてきた浪花中の隊長?……試合前に一体何の用かしら?この前みたいに、みほを馬鹿にしに来たって言うなら、力尽くで追い返すわよ?

 

 

 

 

「あ~~~……其れに付いてはホンマに堪忍したって!

 

 こっちって言うか、うちらの隊長が全面的に悪いのは分かってるんやけど、ウチらの隊長って基本ヘタレのクセに、頭に血が上り易い上に喧嘩っ早うてなぁ……毎度毎度、喧嘩売ってから後悔してるんよ?

 

 今回も、落ち着いてから『西住流に喧嘩売っちまったぁ!もうお終いだぁ!』って、世界の終りみたいになってしもたからね。」

 

 

「ヘタレのクセに喧嘩っ早いって馬鹿かソイツは?勝てねぇ喧嘩売るんじゃねぇっての。」

 

 

 

 

この間みたいにみほを馬鹿にしに来たって言う訳じゃないみたいだけど、喧嘩っ早いヘタレって言うのはどうにも救いようがない感じがするわ。

 

って言うか、青子に『馬鹿』って言われたら、ある意味でお終いよ?

 

 

 

 

「ちょっと待てナオミ、其れは暗にアタシの事を馬鹿って言ってんのかオイ?」

 

 

「端的に言えばそう成るわね。」

 

 

「アタシは馬鹿じゃねぇ!」

 

 

 

 

果たしてそうかしら?

 

この間の数学の小テスト……隊長の得点は?

 

 

 

 

「えっと、89点だよ。」

 

 

「操縦士!」

 

 

「83点ね。」

 

 

「そして私は85点……で、装填士は?」

 

 

「35点!~~~~って、あるぇ?」

 

 

 

 

現実を受け入れなさい青子。

 

まぁ、其れは良いとして、其方の隊長は使い物になるのかって言うのが心配になって来たんだけど、大丈夫なんでしょうね?隊長が機能しなくなってるチームに勝っても嬉しくないわよ?

 

 

 

 

「ほら、しゃっきりしなさい隊長!!」

 

 

「はいぃぃぃ!!この前はマジ調子に乗ってスンマセンでしたぁ!!

 

 この通り謝るんで、如何か命だけは勘弁して下さい!!ホンマに自分でも、頭に血が上ったとは言え言い過ぎたって思っとりますからぁぁぁ!」

 

 

 

 

と思ったら、腰を90度に曲げて、いっそ清々しい程の謝罪をして来たわね相手の隊長は。

 

其れ以前に、やってから後悔する位なら、そもそも喧嘩なんて売らなければいいと思うんだけど、この人の性格的に、其れは難しい物があるんでしょうね?

 

 

さて、どうするみほ?

 

許すも許さないも貴女次第――相手の隊長さんの生殺与奪権は貴女にある状況だから、ドドンと判決を言い渡しちゃってくれるかしら?

 

 

 

 

「じゃあ無罪で。

 

 私としても、1回戦を軽んじたと思われても仕方のない事を言っていましたから、其れに反応して怒るのは、ある意味で当然の事ですからね。

 

 だから、咎める事は出来ません。

 

 其れよりも、今日の試合は良い試合にしましょう。どちらが勝っても恨みっこなし……互いに全力を尽くして戦いましょうね?」

 

 

「勿論やぁ!!

 

 てか、アンだけの事言った私を許してくれるとか、ドンだけ心広いんやアンタは!!……許してくれた礼として、うち等も慢心を捨てて全力で行かせて貰うで西住!!」

 

 

 

 

無罪か……まぁ、みほならそうでしょうね。

 

って言うか、無罪と分かった瞬間に、相手の隊長は復活したわ……本気でヘタレで喧嘩っ早いお調子者みたいね?――尤も、隊長を務めてる位だから、戦車乗りとしての能力は高いのかもしれないけれど。

 

 

でも無罪放免になった事で、相手の隊長は立ち直ったみたいだから、簡単に勝つ事は出来ないでしょうね?隊長の士気って言うのは、隊員の士気に直結するから、隊長が立ち直ったなら、隊員だって本来の力を発揮できるようになってるでしょうし。

 

 

 

だけど、それでも私達が勝たせて貰うわ。

 

そして、教えてあげるわ、西住みほって言う『軍神』が率いる戦車道チームがドレだけの物なのかって言う事をね……悪いけれど、貴女達には私達の踏み台になって貰うわ浪花中!!

 

 

行くわよみほ!

 

 

 

 

『1回戦第6試合、明光大付属中学校vs大阪府立浪花中学校……試合開始!』

 

 

 

 

「行きましょう!Panzer Vor!(戦車前進!)」

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「Jawohl!(了解!)」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

覚悟はできてるわね浪花中?

 

悪いけれど、貴女達には新生明光大が公式戦で最初に撃破した学校になって貰うわ――既にみほの中では無数の戦術が出来上がってるか

 

ら、どんな事態に陥っても其れに対処する事が出来るからね。

 

 

丸ごと喰らってやるわ、浪花中――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

始まったか、みほの試合が。

 

相手は、圧倒的な戦車の性能の差があるにも拘らず、一昨年と去年、黒森峰と互角にやり合った相手だから警戒していたんだが……どうやら其処まで、警戒すべき相手ではないようだな。

 

 

というか、事前のやり取りを見る限り、明らかに隊長は人選ミスだ……隊長を引き摺って連れて来た子の方が隊長を務めた方が良かったかもだからね。

 

 

まぁ、そんな事は如何でも良い事だ、私に直接関係する事ではないからね。

 

先ずは見せて貰おうかみほ?お前が一体どんな戦い方をするのか、どんな戦車道をするのかじっくりと見させてもらう事にしようじゃないか?

 

 

 

 

『Panzer Vor!!』

 

 

 

 

そして、浪花中の隊長には同情してしまうよ……よりにもよって、1回戦の相手がみほであったという事にね。

 

妹贔屓をする訳ではないが、今の中学戦車道界隈で、みほを倒す事が出来るのは私だけだ……私以外の誰にもみほを倒す事など出来ない。

 

それこそ、私と互角張り合う安斎でも、みほに勝つ事は出来ないだろうからね。

 

 

だから、その力を思い切り見せつけてやれみほ!!一切の手加減をしない方向で徹敵的に、骨の髄にまでぼろぼろな!!!

 

 

 

如何やら今年の大会は、去年以上に面白いモノになるのは、間違いなさそうだ……なので、試合で戦う事を楽しみにしているよみほ!!

 

 

必ず勝ちあがって来い!私も其処には到達するからね。

 

 

とは言え、先ずは1回戦――さて、どんな試合になるのか、楽しませてもうらおうじゃないか?此の試合はエリカと赤星も、よく見ておけよ?

 

今年の明光大は、私達が優勝する上で、安斎率いる『愛和学園』に匹敵する難敵になるであろう事は間違いないだろうからな。

 

 

 

 

「「はい……!」」

 

 

「良い返事だ。」

 

 

さて、ティーガーⅠの力も持ってしても撃破は簡単ではない、フランスのモンスター重戦車ARL-44を相手に如何戦うか、見せて貰うとするぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer10『これが隻腕の軍神の力です!!』

軍神招来!てぁぁぁ!!Byみほ         お~~、今回は巴御前か~~By青子


Side:エリカ

 

 

 

始まったわね、万年1回戦負けの弱小校と言われてる、明光大の1回戦の試合が。

 

西住隊長には『よく見ておけ』と言われたけれど、言われなくともよく見る心算だったわ……あの子の、西住みほの試合は、全部みんな全て!

 

小学校の時に、西住隊長以外で、唯一私に黒星をつけた相手の試合を見て、そして分析しない事には、雪辱を果たす事は出来ないもの。

 

 

 

 

「逸見さん、なんか気合入ってません?」

 

 

「気合が入ってる?……そうかも知れないわね赤星。」

 

 

気合が入っているというよりは、気持ちが昂ってると言った方が正しいのかもしれないけど、何れにしても、今の私の気持ちが高揚してるのは、間違いないとだけ言っておくわ。

 

 

単純な戦車の性能差を言うならば、明光大の方が浪花中を上回ってるけれど、フラッグ車だけは、浪花中の方が圧倒的に強いから、アレをどうやって倒すかが重要になってくるわね?

 

フラッグ戦である以上は、ドレだけ相手戦車を撃破しようと、フラッグ車を撃破出来なければ意味は無いんだから。

 

 

でも、如何言う訳か、あの子が負けるヴィジョンて言う物が、全く以てイメージできないのよね?

 

或は、私の手で倒したいって言う願望がそうさせてるのかも知れないけれど、どうしても、あの子が倒される姿をイメージする事が出来ないわ。

 

 

 

 

「此の試合、明光大が勝つ。其れは間違いない。」

 

 

 

 

って、貴女が言いきりますか西住隊長!!

 

と言うか、貴女が言いきった以上、其れは絶対と言うか何と言うか…取り敢えず試合の結果を見届けて、結論はそれからにするのが一番よね。

 

 

何にしても見せてもらうわ、貴女が如何戦うのかを……西住みほ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer10

『これが隻腕の軍神の力です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

始まった1回戦第6試合。

 

その試合開始と同時に、みほは自軍のⅢ号2輌を本隊から分離させて、敵の動きを掴むための斥候として別行動を取らせていた。

 

戦車道に限らず、どんな競技でも相手の動きを知る事が出来れば優位に立てるのは間違いないのだから、此れはある意味で定石戦術だろう。

 

 

 

「此方、パンターブルー。Ⅲ号B車、Ⅲ号D車、敵部隊に大きな動きは見られましたか?」

 

 

『こちらⅢ号B車。

 

 浪花中は、ARL-44の周囲を、R-40とB1bisが取り囲むような陣形で、草原を移動中――此のまま進めば、10分後に隊長達と接敵すると思うよ。』

 

 

「分かりました、引き続き、無理のない範囲で偵察を続けて下さい。」

 

 

 

そして、どんな些細な事であっても、斥候に出したメンバーから齎されたデータと言うモノが、戦局に大きな影響を与える事は少なくない。本格的な戦闘状態になってからは勿論の事、そうなる前に齎されたデータは特にだ。

 

 

 

「全軍に通達。

 

 敵戦車チームは、フラッグ車を護る形の陣形を展開しているようなので、此れより私達は、隊を幾つかに分けて行動しようと思います。

 

 パンター2輌とティーガーⅠB車が1組となって、此の儘敵の眼前に躍り出て攻撃を仕掛けます。

 

 そしてⅢ突と、斥候に出なかったⅢ号の2輌で2つのチームを作って敵陣のサイドに回り込んで、護衛のR-40とB1bisのみを攻撃して下さい。無理に撃破は狙わず、陣形を崩す事をメインにお願いします。」

 

 

 

それを聞いたみほは、すぐさま最も効果的な作戦を頭の中で構築して、味方全軍に通達する。

 

そして此処でも、指示は大まかなモノしか出さず、後は現場の状況で判断してと言う感じ――正に、かの名将『ハインツ・グデーリアン』が実戦導入した『訓令戦術』その物であり、戦術マニュアルが存在しない明光大にはピッタリの戦術なのだ。

 

 

 

「陣形が乱れたら……お願いしますね、近坂部長?」

 

 

「OK、任されたわ西住隊長。」

 

 

 

最後に、凛にお願いをしたみほは、其のままもう1輌のパンターと、ティーガーⅠB車を引き連れて進軍。

 

Ⅲ突A車はⅢ号C車と、Ⅲ突B車はⅢ号A車と共に、敵陣のサイドに回るように移動を開始し、凛が搭乗しているティーガーⅠA車は、敵陣の後方から攻められるように移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の浪花中学は、フラッグ車であるARL-44を、R-40とB1bisが取り囲む形で平原を進んでいた。

 

この広い平原のフィールドならば、普通は偵察を出して相手の動きを探るのが定石なのだが、ARL-44以外はハッキリ言って低性能の戦車しかない浪花中は、偵察に人員を割く事は出来ないでいた。

 

 

尤も、ARL-44の主砲ならば、相手のフラッグ車がマウスででもない限りは、大抵の戦車の正面装甲を抜く事が出来るので、敵フラッグ車さえ見つけてしまえば勝つ事も出来るのだ……極論ではあるが。

 

 

 

「(おそらく相手は斥候を出して、こっちの動きを掴んでるやろな。せやけど、動きを掴まれたところでうち等は何にも痛いモンはないで?

 

  ……私等のやる事は只1つ!ARL-44の圧倒的な性能で、相手を倒す其れだけや!!)」

 

 

 

実際に浪花中の隊長も、そう考えて居た。

 

ARL-44の正面装甲は、明光大が所有するティーガーⅠの88mm砲でも撃ち抜くのは簡単ではない……故に、R-40とB1bisが全滅したとしても、ARL-44でフラッグ車を撃破すればそれでいいと思っていたのだ。

 

 

 

だがしかし、その考えは、脆く崩れることになる。

 

 

 

「何やアレ……アレは、明光大のⅢ号!!」

 

 

 

進軍する一段の前に、突如2輌のⅢ号が現れて攻撃を仕掛けて来たのだ。

 

 

 

「奇襲とはやってくれるやないか……怯むな、応戦や!!」

 

 

 

この奇襲に対して、すぐさま応戦できるというのは、中々に隊長の能力が高いと言う事の現れだ――だがしかし、此のⅢ号の攻撃は、みほが命じた物ではない。

 

斥候に出ていた2輌のⅢ号が、夫々己の判断で動いて、そして浪花中の前に躍り出たのだ。しかもみほ達が、接敵するよりも早くだ。

 

そもそも、みほからは『無理のない範囲で偵察を続けろ』とは言われたが、だからと言って『攻撃するな』とは言われていないし、此の行為だって見様によっては『敵戦力が如何程かの偵察』と言えなくもないのだから、命令違反でもないだろう。無理矢理だが。

 

 

 

「足回りが強いⅢ号で奇襲っちゅうんは、中々にやるやないか西住隊長も。

 

 最大速度では追いつけへんし、チョロチョロ動かれたら狙うのやって容易やない……尤も、行進間射撃なんぞ碌に当たるもんやないんやけど。

 

 やけど、浪花魂舐めたらアカンで?B1には、砲身が2つある事忘れんなや!B1は、2つの砲門でⅢ号に連続攻撃せやぁ!!初撃破を取れば、流れをつかむ事が出来るからなぁ!」

 

 

 

加えて、浪花中の隊長――風間はやては、奇襲をかけて来たのがⅢ号であったのはラッキーであったと思っていた。

 

総合能力が高い水準で纏められているⅢ号であるが、その装甲はルノーB1bisならば抜く事は出来る上に、B1には砲門が2つあるから、連射に近い連続砲撃が可能なのだ。(その場合の車長の負担は半端なものではないが。)

 

 

すぐさま、B1からの凄まじい砲撃が開始されるが、当たらない。掠りはすれどクリーンヒットには至らない。

 

果たして、戦車道をはじめて間もない、素人同然の操縦士が直撃を受けないように操縦できるのかと思うだろうが、出来るのだⅢ号ならば。

 

Ⅲ号戦車は、ドイツの主力中戦車の先駆け的存在であり、攻守速を比較的高い水準で備えているのが特徴だが、それ以上に『扱いやすさ』と言う点に於いても、抜群に扱いやすいのだ。

 

アメリカ産のシャーマンと比べれば劣るモノの、その扱い易さは数ある中戦車の中でもトップクラスと言っても過言ではない――故に、基本的な動かし方さえ覚えてしまえば、後は割と自由に動かせるのだ。

 

だからこそ、撃破されずに走行をする事だって出来るのである。

 

 

そして、此のⅢ号2輌は、決して無謀な突撃をした訳ではない。

 

この2輌は斥候に出ていた訳であり、みほ達と後どれくらいで遭遇するかは分かっているし、みほの全軍に通達した作戦だって聞いている…つまり、この奇襲は、浪花中の部隊をみほが率いる小隊の前まで誘導するのが目的だったのだ。

 

 

 

「西住隊長、敵連れてきました~~~♪」

 

 

「お疲れ様でした。では、此れより本隊に合流して下さい。」

 

 

「了解したっス!」

 

 

 

その思惑は成功し、程なくみほが率いるパンター2輌とティーガーⅠB車で構成された小隊と、浪花中がエンカウント!

 

同時に、奇襲をかけたⅢ号2輌も旋回して、敵チームと向き合う形になって改めて前進!!

 

 

 

「んな!?……奇襲だけやなくて、誘導までやったんか……上等やないか!!」

 

 

「メインイベントは此処からです……行きますよ!!」

 

 

 

更に其処に、別動隊のⅢ突とⅢ号が合流し、試合は一気に敵味方が入り乱れる戦車戦へと突入していった。

 

そして、その大混戦の中で活躍しているのは、矢張り最強の中戦車であるパンターと、最強と名高い重戦車のティーガーⅠなのは間違いない。

 

パンターは、その能力をフルに活用して、B1やR-40を撃破し、ティーガーⅠも最強の88mm砲で的確に相手の戦車を撃破していく。

 

 

だが、浪花中とてやられっぱなしではなく、ARL-44を中心に的確な砲撃を行い、明光大のⅢ号を撃破していく。

 

 

 

「スイマセン、やられちゃいました隊長!!」

 

 

「いえ、よく頑張ってくれました……其れよりもけが人は居ませんか?」

 

 

「全員無事でーす。」

 

 

「分かりました。後は任せて下さい。」

 

 

 

こんな中でも、仲間の安否を気遣うのがみほらしいと言えばらしいだろう。

 

みほは、自分でも自覚はしてないだろうが、勝利の為に仲間を斬り捨てる事を良しとしない部分がある――だから、撃破された戦車のクルーの事を心配するのは当然の事なのだ。

 

 

同時にそれは、味方が撃破された場合には撃破された仲間の為にも絶対に勝つという思いをみほの中で弾けさせる要因にもなっているのだ。

 

 

 

とは言え、此のままでは互いに決定打が打てないのも事実。

 

そんな状況の中で、先に動いたのは浪花中の隊長だった。

 

 

 

「こうなったら他は無視して、隊長車を撃破や!!

 

 隊長が撃破されれば、指揮系統が機能しなくなって、流れは一気にこっちに向かって来る筈や!!全軍、青いパンターを集中攻撃せやぁ!」

 

 

 

この状況を動かし、そして勝つ為に、明光大の隊長車――引いてはみほが搭乗するパンターの撃破に目的を切り替えて来た。

 

確かに、隊長が撃破されれば、指揮系統が立ち行かなくなり、明光大の部隊は大混乱に陥るだろう――如何に、訓令戦術とは言えど、部隊の長が討ち取られてしまっては、士気も下がってしまい、其処に隙が生じるモノなのだ。

 

 

実際に、みほのパンターに攻撃を集中してからは、浪花中の戦車が撃破される事は少なくなった。――尤も、標的にされた青のパンターは、未だにノーダメージなのだが。

 

しかしそれでも、集中攻撃を受ければ、どうしても足が止まる瞬間が出来てしまう。

 

 

 

「もろたで西住!!」

 

 

 

その生まれた僅かな隙を狙って、ARL-44は青いパンターを撃破せんとするが――

 

 

 

 

「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァァァァァン!!!

 

 

――ベキィィィィィィィィ!!

 

 

 

「何やとぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 

 

隊長車を護ろうとして放たれたⅢ突の砲撃が、ARL-44の主砲をものの見事に、中間部から完全粉砕!!

 

長砲身の75mmの砲撃の破壊力は、化け物染みた性能の重戦車の牙を、ものの見事にへし折ったのだ。――正にⅢ突恐るべしであるだろう。

 

 

だが、砲身が半分になったからと言っても、ARL-44は未だ戦闘が可能な状態であり、実際に折れた砲身から弾を放っているのだ。――尤も本来の砲撃性能の半分も発揮できてはいないが。

 

それでも撃破されていない辺り、ARL-44の装甲厚の凄さを物語って居るだろう。

 

 

しかし、主砲を折られたARL-44は、牙をもがれたライオンに他ならない。

 

 

 

「行きます!」

 

 

 

その号令を合図に、みほが率いる青のパンターは、ARL-44に突撃し、そしてそのまま側面に回り込んで超長砲身75mmの砲撃を炸裂する!

 

無論、其れに負けじとARL-44も、必殺の90mm砲を炸裂!!!

 

 

だが――

 

 

 

――ドガァァァァアッァァァァァァァァァァァァァァン!!

 

 

――パシュン!

 

 

 

 

『浪花中フラッグ車、走行不能。明光大付属中学校の勝利です。』

 

 

 

 

パンターではない砲撃がARL-44の側面をぶち抜き、見事にフラッグ車を撃破!!

 

其れは言うまでもなく、凛が車長を務めるティーガーⅠA車が行った事だ――乱戦には敢えて参加せずに、身を潜めて敵フラッグ車が無防備な姿を曝す瞬間を待っていたのだ。

 

 

そしてみほも、凛ならば必ず撃破してくれると言う事を信じて、突撃を仕掛け、凛のティーガーⅠにARL-44の側面が向くように仕向けたのだ。

 

明光大が撃破された戦車は4輌で、浪花中はフラッグ車を含めて5輌なので、正にどちらも譲らない戦いであったのは間違いないだろう。

 

 

 

 

「負けてもうたか~~……やけど、私の持てる力の全てを出し切ったから悔いはない――やけど、次は負けへんからな西住!!」

 

 

「はい、楽しみにしています。」

 

 

 

そして、闘いが終わればノーサイドなのが戦車道だ。

 

敵味方関係なく、勝者を称え、敗者の健闘を労うのが戦車道なのである――実際に、激戦を繰り広げたみほと浪花中の隊長の顔には笑みが浮かんで居たのだから。

 

 

ともあれ、毎年1回戦負けの弱小校の明光大付属中学校は、一昨年の準優勝校を抑えて初戦を突破すると言う、偉業を成し遂げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

い、今目の前で起きた事をありのままに話すわ。

 

万年1回戦負けの弱小校が、一昨年の準優勝校を、ある意味で圧倒して倒した……其れは、普通では考えられない事なのだけど、明光大の隊長の西住みほはそれをやって見せた。

 

何を言ってるのか分からないかもしれないけど、大番狂わせなんてものじゃない、もっと別の脅威を感じたわ。冗談じゃなくて、可也本気でね。

 

 

 

 

「ポル○レフ乙。」

 

 

「ブラボー!おぉ、ブラボー!!って、違うわよ赤星ぃぃぃぃ!!!」

 

 

「案外ノリ良いですね、逸見さん。」

 

 

「だからって、乗せんじゃないわよ……ブッ飛ばすわよアンタ。」

 

 

「ふむ……その際の必殺技は?」

 

 

 

言わずとも昇龍拳です!って、隊長も乗らないでください!――と言うか、そんなキャラじゃないでしょう西住隊長!或は、其れが素ですか!

 

 

 

 

「かもな。

 

 まぁ、悪ふざけは兎も角として――逸見と赤星も、今の戦いは確り見たな?……アレがみほだ、万年1回戦負けの弱小校を勝たせてしまう。それがみほの力であり、私達の前に立ちはだかる最強クラスの相手だ。

 

 今大会、間違いなく準決勝で、我等は明光大と対峙する事になるだろうから、気を引き締めておけよ?」

 

 

「「はい……!!」」

 

 

 

少し前まではふざけていても、此の切り替えの速さは流石の西住隊長ね。

 

でも、確かに弱小校である明光大を1回戦突破させた西住みほの手腕は侮る事は出来ないわ――もっと言うなら、小学校の時よりもずっと強くなってるみたいだから、気を引き締めないと、吞まれるのはこっちでしょうからね。

 

 

 

 

「とは言え、みほにはみほの、我等には我等の戦いがある――まずは1回戦、王者の戦いと言うモノを見せてやろうじゃないか。」

 

 

「「はい!!」」

 

 

 

だけど、臆する事はないわ……私達は絶対王者の黒森峰――相手が誰であろうとも叩きのめして勝利を掴む!!只、其れだけだからね!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

1回戦は、何とか突破出来たね。

 

で、1回戦の最終試合は――

 

 

 

 

『綾南中、フラッグ車走行不能――黒森峰女学院付属中学校の勝利です。』

 

 

 

 

順当に、黒森峰が勝ったね?まぁ、お姉ちゃんが隊長を務めてる以上は、余程の相手じゃない限りは負ける事がイメージできないんだけどね。

 

 

 

 

「フラッグ戦であるにもかかわらず、敵の残存戦力は0……文字通りの完全滅殺ね此れは。」

 

 

「黒森峰ハンパねぇだろマジで。」

 

 

「絶対王者の名は、伊達じゃないわね……」

 

 

「其れが、お姉ちゃんだから。」

 

 

何よりも、自分でも言ってたけど、お姉ちゃんは西住流そのものだから、重戦車部隊を手足の如く動かす事くらいは雑作もない事だろうからね?

 

 

 

 

「だけど、其れが楽しいんでしょみほ?」

 

 

「否定はしないよ、ナオミさん。」

 

 

確かに私は、今の状況を楽しいって感じてる――って言うか、準決勝でお姉ちゃんと戦えるって言う時点で、テンションはMAX振りきり状態だから、ガラじゃないけど燃えて来たよ!

 

 

 

 

「なら、2回戦もサクッと行こうじゃねぇか!!」

 

 

「ですね!!」

 

 

迷わない!退かない!

 

何があっても一歩を踏み出す勇気を忘れない――それこそが、大事な事だと思うから……2回戦も絶対に突破して、そしてお姉ちゃんの前に立つよ!!

 

 

常勝黒森峰の歴史は、私が終わらせて見せるから、その心算で居てねお姉ちゃん――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 




キャラクター補足



風間はやて

大阪府立浪花中学校の戦車道チームの隊長。

基本ヘタレなくせに、喧嘩っ早いと言う、何とも扱いに困るキャラだが、戦車道における隊長としての能力は高く、部隊を完全に纏め上げている。

が、副隊長には頭が上がらない、なんとも『残念な隊長』である。



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Panzer11『次は水戸市立第弐中学校です!!』

試合が、キンクリされたような……Byみほ         な~~んか、デジャブを感じるぞ?By青子


Side:しほ

 

 

 

まほもみほも、無事に1回戦を突破したわね……まぁ、今の中学戦車道界隈で、あの子達に勝てる相手は早々いるモノじゃないと思うから、この結果は、ある意味で予想通りとも言えるわ。

 

 

尤も、1回戦からまほとみほの違いが出ていたとも言える戦いだったとも言えるわ。

 

みほが、基本的に相手のフラッグ車の撃破のみを狙っていたのに対して、まほは黒森峰の圧倒的な戦力に物を言わせて、フラッグ車の撃破どころか、敵戦力を殲滅しての完全試合をやってのけてくれたのだから。

 

 

お母様に言わせれば、みほの戦い方は『邪道』と映るのかも知れないけれど、私はそうは思わない。

 

確かに、まほはお母様の言う西住流を体現していると言えるけれど、其れが出来るのは、あくまでも戦力的に恵まれている黒森峰だからこその事であり、戦力に恵まれていない環境では、それを体現する事は難しい――と言うか、まず不可能でしょう。

 

 

寧ろ、保有戦車の質は兎も角として、隊員の質では劣るであろう、明光大付属中でアレだけの戦いをしてのける、みほの方が本当の意味での『西住流』を体現しているのではないかしら?

 

 

『撃てば必中、守りは堅く、進む姿は乱れ無し。鉄の心、鋼の掟。』と言う、西住流の理念は、一見すれば圧倒的な戦力を持ってして相手を蹂躙し、ともすれば、勝利の為に犠牲もやむなしとも取れるけれど、逆に言うなら強い心を持ち、必中の思いで引き金を引き、犠牲を出さない為に守りを堅め、仲間と共に進むと取る事も出来るのだから。

 

 

言うなれば、まほは『本西住流』で、みほは『裏西住流』と言った所ね?

 

小さい頃から、まほは『静』で、みほは『動』な部分があったけれど、其れが戦車道にまで現れるとは思っていなかったわ。

 

 

 

 

「楽しそうですね、奥様?」

 

 

「菊代……えぇ、楽しいわ。其れは否定しない。

 

 だって、私の娘達が、戦車道で活躍しているのよ?まほの黒森峰は言うに及ばず、みほの明光大は、万年1回戦負けの弱小校なのに、一昨年の準優勝校を破っての1回戦突破なのよ?其れが楽しくないと思う?」

 

 

「思いません、奥様の――しほちゃんの仰る通りですね。」

 

 

「ぶほぉっ!き、菊代、貴女ねぇ…!!唐突に昔の呼び方をするのは止めて頂戴。嫌ではないれども、行き成りやられると結構驚くモノなのよ?

 

 時々そう呼ばれると言うのは、少し懐かしい感じがすると言うのは否定しないけれど――人前では絶対にやらないで。特に娘達の前では。」

 

 

「畏まりました、奥様♪」

 

 

 

 

全くもう、幼馴染が使用人と言うのは、見ず知らずの人間を雇うよりは気楽だけれど、少し気楽になり過ぎる事があるわね……まぁ、適度に気が抜けると思えば、悪い事ではないか。

 

 

さて、続く2回戦、あの子達はどんな戦いをするのか、楽しみだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer11

『次は水戸市立第弐中学校です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

「おはよう!青子さん、ナオミさん、つぼみさん!」

 

 

「おう!おはよーみほ!」

 

 

「おはようございます、みほさん♪」

 

 

「おはようみほ、今日も元気そうね。」

 

 

 

 

1回戦を突破した翌日。今日も今日とて、ヘリポートで青子さん、ナオミさん、つぼみさんの3人と合流しての登校――私が、此処から登下校をしてるって事が分かってから、何時の間にかこれが当たり前になったね。

 

下校時も、此処で解散するのが最近の御約束……友達と一緒に、登下校って言うのは、それだけで楽しいから、私的には全然OKなんだけど♪

 

 

 

 

「じゃあ、行きましょうか?」

 

 

「だな……にしても、一晩経っても昨日の興奮が全然醒めねぇ。

 

 練習試合の時はそうでもなかったんだけど、やっぱ公式戦だと違うって事なんだろうなぁ?尤も、此の余韻てのもまたいい感じだけどな!!」

 

 

「其れが、大会での勝利の醍醐味よ青子さん。

 

 しかもただ勝っただけじゃなくて、万年1回戦負けの弱小校が、一昨年の準優勝校を破っての1回戦突破なんですから、昨日の勝利は格別な事この上ないわ!!」

 

 

「もっと言うなら、チーム一丸となって、皆で勝つ事が出来たからだね。」

 

 

「そうね、チームの皆が自分の力を100%以上発揮してくれたからこその勝利と言えるわ。――尤も、其れも全ては、隊長が良いからだけど。」

 

 

「隊長が良い?馬鹿言ってんじゃねぇナオミ、『良い』じゃなくて『最高』だろうが!」

 

 

「此れは失礼。確かに、私達の隊長は、最高の隊長だったわね。」

 

 

 

 

最高の隊長かぁ……そう言って貰えるのは嬉しけど、そう呼ばれるのはまだ先かな?

 

1回戦は勝ったけど大会は始まったばかりだし、2回戦を突破したら、その次は間違いなくお姉ちゃんと当たる事になる……今の中学戦車道界隈で、間違いなく最強のお姉ちゃんと。

 

 

ううん、お姉ちゃんだったら、若しかしたら高校生のチーム相手でも勝っちゃうかもしれないからね?――そのお姉ちゃんを倒さないで、最高って呼ばれる事は出来ないよ。

 

 

 

 

「みほの姉ちゃんか……確かに半端ねぇってモンだぜ。

 

 フラッグ戦だってのに、相手を全滅させて、そんでもって自軍は被弾した車輛は有っても撃破された車両は0って言う、完全試合だったしな。

 

 だけどよぉ、みほだって負けてねぇと思うぜアタシは?ナオミとつぼみもそう思うだろ?」

 

 

「愚問ね青子。」

 

 

「言われるまでもないわよ。」

 

 

「あはは、ありがとう。

 

 だけどね?黒森峰のパンツァージャケットを身に纏ったお姉ちゃんが、ティーガーⅠの前で腕組してる姿を想像してみて?

 

 バックの背景は黒雲と、稲光で……さて、どんな感じ?」

 

 

「「「凄く、ラスボスです!!」」」

 

 

 

 

でしょ?だからこそ、お姉ちゃんに勝たないと、最高とは言えないんだよ。

 

去年2回戦で黒森峰と当たった学校の隊長さんは、『中ボス前にラスボス戦だーーー!!』て言う、意味不明の発言をしていたらしいからね。

 

 

 

 

「マジでラスボスかみほの姉ちゃんは……なら、確かに其れを倒さなきゃ『最高』を名乗る事は出来ねぇよな。」

 

 

「うん、そう言う事だよ。」

 

 

自惚れかも知れないけど、お姉ちゃんを倒すことが出来るのは私か、或はお姉ちゃんが『私が唯一ライバルと認めた相手だ』って言っていた『安斎千代美』さんだけだろうからね。

 

 

さてとそろそろ学校に到着――って、なんか校門前が賑わってるみたいだけど……

 

 

 

 

「号外!号外ーーー!」

 

 

 

 

新聞部が号外をばらまいてるね?

 

一体何が書いてあるのか……って、此れは!!!

 

 

 

 

『祝・明光大付属中戦車道部!!

 

 悲願の一回戦突破で、万年1回戦負けの汚名を返上!!』

 

 

 

 

戦車道大会の1回戦突破を伝えるための号外をばらまいてたの!?と言うか、見出しは兎も角この記事は――

 

 

 

 

『万年1回戦負けの我が校の戦車道部が、今年は一昨年の準優勝校を破って、初の初戦突破を成し得た。

 

 この快挙は、今年新たに隊長に就任した『西住みほ』の存在を無くしては有り得なかっただろう――彼女こそは、我が校の新たなるヒーローとなり得るのかも知れない……彼女のこれからの活躍に期待したい所だ。』

 

 

 

 

も、持ち上げすぎにも程があるよ。

 

確かに私は、隊長としてやるべきことをやったけど、一回戦を突破出来たのは、私1人の力じゃなくて、皆の力が有ったからこそだし、こういう風に書かれると、どうしても気恥ずかしさが先にたっちゃうんだよね。

 

 

 

 

「あ、西住隊長!一回戦を突破したことについて何か一言!!」

 

 

「へ?えぇぇぇぇ!?」

 

 

えっと、一回戦突破は通過点に過ぎませんし、私達の戦車道は始まったばかりですから、此処で止まる事は出来ません。

 

新隊長として、若輩者の私が何処まで出来るかは分かりませんけど、私の持っている全ての力を出し切って大会を戦っていく心算ですので!!

 

 

 

 

「いぃやっほーーーー!!此れは良いコメントが頂けた~~~~!捏造の必要すらないわ此れ!!

 

 と、言い忘れたわね!私は、新聞部3年の『原尾恵未(はらおえみ)』!いやーー、連敗続きだった綾南中との練習試合を完封勝ちしたって聞いて、此れは今年は若しかしたらと思って、会場に足を運んだ甲斐があったわ!

 

 まさか、一昨年の準優勝校を倒しちゃうんだからさーーー!いや、一戦車道ファンとしても、アレは魂が震えたわ~~~~!!!」

 

 

「……みほのコメントが今一だったら捏造する心算だったのかよ?其れって、記者としてどうなんだ?」

 

 

「ダメでしょう普通に。

 

 と言うか、会場に来ていたって……確かにこの号外には、試合中の写真が使われてるから、本当なんだろうけど、昨日は普通に授業があった筈だと思うんだけど?」

 

 

「新聞部の顧問が担任だから『取材』の名目で公欠扱いにして貰ったわ♪」

 

 

「「「「人、其れを職権乱用と言う。」」」」

 

 

 

何をしているんですかマッタク……でも、其処までして試合を見に来てくれたんなら、尚の事勝てて良かったです。

 

折角見に来て、写真まで撮ってくれていたのに、其れで負けちゃったら格好悪いじゃ済みませんし、何よりも来た事が無駄足になっちゃったかも知れませんから。

 

職権乱用は兎も角、次の試合も頑張るので、これからも宜しくお願いします。

 

 

 

 

「了解!てか、次の2回戦は土曜日で、学校休みだから堂々と取材できるわ~~~!

 

 あ、勝ったら取材と撮影させてね?今度は号外じゃなくて、月曜日に正式な『新聞』として発行するから。其れでは、アデュ~~~~~~!!」

 

 

 

 

――バビュン!!

 

 

 

 

行っちゃった。って言うか、目の前から消えたよね今!?

 

……何て言うか、嵐みたいな人だったね?

 

 

 

 

「本当に嵐のような人だったわ――だけど、此の号外のせいで、一気に戦車道部は注目されるでしょうから、無様な負け方は出来ないわね?」

 

 

「無様な負けどころか、そもそも負けねーってんだ!

 

 次も勝って、そんでもってラスボス前のラスボスも倒して、ラスボス倒して優勝しかねぇだろ!!」

 

 

「青子、其れ意味が分からないわ。否、言わんとしてる事は分かるんだけれどね?

 

 ともあれ、私達の目標は只一つなんだから、一つずつ確実に勝って行こうじゃない――そうでしょ、みほ?」

 

 

 

 

うん、其の通りだよ!

 

私達が力を合わせれば、きっとどんな相手にだって勝てる筈だから。私はそう信じてるから!!優勝目指して、ぱんつぁーふぉーーーー!!!

 

 

 

 

「「「おーーーーーー!!!」」」

 

 

 

 

――キ~ンコ~ンカ~~ンコ~~ン!!

 

 

 

 

って予鈴!?

 

恵未さんとのやり取りで、意外と時間取っちゃってたみたいだね此れは――じゃあ、ナオミさんとつぼみさんは、また昼休みに会いましょう!!!

 

行くよ青子さん!遅刻したら大変だからね!!!

 

 

 

 

「授業は睡眠学習だから、遅刻しても問題ねぇけどな~~~♪」

 

 

「主要五教科の小テストが炎上してるんですから、少しは危機感持ってください青子さん!!」

 

 

此れは若しかしなくても、試験前には、勉強会が必至かも知れない――って言うか、今の状態だと確定だね此れは絶対に。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

と言う訳で放課後の戦車道の時間です。――言ったにも拘らず、青子さんは今日も今日とて授業は睡眠学習でした、体育以外は。

 

 

さて、次の2回戦の相手は『水戸市立第二中学校』ですけど、この学校の部隊編成はどうなってるんですか、近坂部長?

 

 

 

 

「二中は、アメリカ製の戦車を使う学校なんだけど、対ティーガーの為に作られたパーシングは持ってなくて、部隊全てがM4シャーマンで構成されているわ。

 

 其の内3輌はファイアフライだから、此方の装甲を抜く事は出来るけど、逆に言うならファイアフライを撃破してしまえば、パンターとティーガーⅠが撃破される可能性は極めて低くなるって言えるわね。」

 

 

「確かにその通りですね。

 

 ファイアフライなら、ティーガーⅠの正面装甲すら――其れこそ『食事の角度』を取っていたとしても抜くことが出来ますから。

 

 だけど、逆を言うなら、ファイアフライさえ仕留めてしまえば、残ったシャーマンでは此方の戦力の要であるパンターとティーガーⅠの装甲を抜くのは難しい――76mm砲を搭載したM4でも、500m圏内でなければ100mm以上の装甲を抜く事は出来ませんから。」

 

 

「なら、2回戦は如何行く?」

 

 

 

 

試合開始直後に、Ⅲ号にファイアフライを、ティーガーⅠが潜んでいるキルゾーンに誘導して貰ってこれを撃破。

 

その後は、パンターとⅢ号で敵部隊を強襲しつつ、Ⅲ突とティーガーⅠの援護射撃を貰って、私のパンターブルーが、敵フラッグ車を誘導して、近坂部長のティーガーⅠA車が待ち構えているキルゾーンに誘導します。

 

 

誘導したら、後はお願いしますね近坂部長?

 

 

 

 

「任せなさい隊長。

 

 シャーマン如き、ドイツ戦車の代名詞とも言われているティーガーⅠの、最強の88mm砲(アハトアハト)で、容赦なく撃ち抜いてやるわ!!」

 

 

「お願いします。」

 

 

戦力的は、此方に分があるとは言え、次の相手も去年はベスト4に名を連ねているので、くれぐれも油断だけはしないようにして下さい。

 

2回戦も、私達の戦車道を貫いて勝ちましょう!!

 

 

 

 

「言われなくても、その心算よみほ――私達は、その為に此処に居るんだから其れを忘れるんじゃないわよ?」

 

 

「うん、分かってるよナオミさん。」

 

 

それじゃあ、次の試合も皆の力を合わせて頑張りましょう!!!2回戦に向けて……Panzer Vor!!(パンツァーフォー!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

そうして始まった2回戦だが、此れはもう面白い程にみほの予測した通りの展開となっていた。

 

試合開始と同時に、Ⅲ号4輌が敵部隊のファイアフライに奇襲をかけ、其のまま撃破されないように2輌のティーガーⅠが待ち伏せている『キルゾーン』に誘き出して、そしてティーガーⅠがファイアフライ3輌を瞬く間に撃破!!

 

 

如何に強力な主砲を備えた『蛍(ファイアフライ)』であっても、最強の爪牙を備えた鋼鉄の『虎』の前には、所詮狩られる側でしかなかったのである……蛍で虎には勝てないのだ。

 

 

そして、ファイアフライを全車撃破してからは、正にみほが率いるパンターブルーの独壇場!

 

Ⅲ号とⅢ突をお供に連れて、二中のシャーマン部隊を次々撃破し、文字通りの粉砕!玉砕!!大喝采!!

 

 

無論、敵部隊とて此方のフラッグ車を撃破せんとしてくるが、2回戦のフラッグ車たるみほのパンターは、正面が110mmの傾斜装甲であるのでシャーマンの主砲で抜かれる事は先ず無い上に、Ⅲ号が所謂『食事の角度』を保った状態で、パンターブルーの盾になってくれたおかげで撃破はされていない。

 

 

 

 

そして――

 

 

 

 

「近坂部長、お願いします!!」

 

 

「任せて!!貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

 

――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

 

みほが、敵フラッグ車を凛のティーガーⅠが待ち伏せているキルゾーンに誘導し、誘導されたシャーマンにティーガーⅠ必殺の88mm砲炸裂!

 

重戦車の代名詞とも言われるティーガーⅠの砲撃を受けては、いかに優秀な性能を誇るM4シャーマンと言えども無事では済まない――と言うよりも、お陀仏間違いないのだ。

 

 

 

 

――キュポン

 

 

 

 

『水戸市立第二中学校、フラッグ車行動不能。明光大付属中学校の勝利です。』

 

 

 

 

結果は言うまでもなく、フラッグ車は白旗を上げて、明光大の勝利!それも、1輌も撃破されずのパーフェクトゲームでの勝利であったのだ。

 

 

 

 

「あ……ぐぅ……私達の出番此れだけか?」

 

 

 

 

撃破された二中のフラッグ車から、隊長と思しき人物がふらふらと出てきたが……ぶっちゃけて言おう、君達の出番は此処だけだ。敢えて言うならば、踏み台ご苦労である。

 

 

 

 

「んあぁ!!そんなの、納得できねーべ!!」

 

 

 

納得できなくとも、現実は変わらないのだから、大人しく負けを受け入れるべきだろう。――と言うか、地の文と普通に会話しないで頂きたい。

 

 

 

「よっしゃ、大勝利!!」

 

 

「私達の敵じゃなかったみたいね?」

 

 

「此のまま、一気に頂点目指すわよーーー!!」

 

 

「うん、この勢いに乗らない手はないからね!!」

 

 

 

ともあれ、2回戦は明光大のパーフェクト勝利!!

 

だが、それは同時に、次の準決勝は無敵にして最強の王者に挑むと言う事になる――弱小校の烙印を捺された明光大は、次の準決勝で、まほ率いる黒森峰と激突する事が、略確実に決まったのであった。

 

 

 

「次は、いよいよお姉ちゃんとだね――」

 

 

 

そして、最強への挑戦になるにも拘らず、みほは気負う事なく、姉との戦いに向けて静かに、しかし確実に熱く、己の中で闘志を燃やしていた。

 

ほぼ確定した、準決勝の姉妹対決は、ともすれば中学戦車道の伝説となる試合になるであろう事は、きっと確実と見て間違い無い様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 




キャラクター補足





原尾恵美

明光大付属中学校の新聞部に所属する3年生。

記者としての腕前は高く、極めて的確な情報を学校新聞でも書き連ねている。

また、可成りの戦車道ファンであり、戦車道の試合があるのならば、公然と授業をさぼって現場に赴く筋金入り。突っ込み所は多いが、不思議と憎めないキャラクターをしている。



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Panzer12『最強ボス:その名は中間考査です』

ラスボス前のラスボスの前に立ち塞がった最強ボスだよ…Byみほ         字面だけ見ると意味不明だけど、確かにそうかもね…Byナオミ


Side:みほ

 

 

 

2回戦は難なく突破出来たけど、次の準決勝はそうは行かないだろうね?

 

だって、準決勝の相手は、お姉ちゃんが率いる『絶対王者』である黒森峰なんだから――如何に、互いにドイツ製の戦車を有してるとは言っても保有してる車輛の質も、隊員の錬度も黒森峰の方が絶対的に上だから、綿密な作戦を立てないと、真面に戦う事すら出来ないかもしれない。

 

 

だけど、今はそれ以上の敵が私達の前に立ち塞がってるんだよねぇ?

 

 

 

 

「中間テストって、もうそんな時期か!?ヤバイ、全然勉強してねー!!!」

 

 

「テスト何て嫌いだ!!テストなんて、この世界から消えちゃえばいいんだ!!って言うか、本気で消えてなくなれよ!百害あって一利なし!」

 

 

「今回も炎上か……俺の未来は真っ赤に燃えてるぜ――」

 

 

 

 

あらら、クラスの大半が最終回状態だね……まぁ、気持ちは分かるんだけど。

 

 

そう、大会の準決勝前に、私達の前には『中間考査』って言う、有り難くない敵が現れてくれたんだよね?

 

主要五教科のうち、3個以上が赤点だと追試が有って、その追試の日って言うのが、丁度戦車道大会の準決勝の日だから、絶対に3教科以上で平均以上を取らないとだよ。

 

 

 

 

「まー、大丈夫だろ?何とかなるって♪」

 

 

「私的には、そう言ってる青子さんが一番心配なんですけれどね?」

 

 

事と次第によっては、例え付け焼き刃でも勉強合宿を行う事も考えておいた方が良いかも――主に、青子さんの為にやる事になるのは確定なんだけど。

 

はぁ……マッタク持って、ラスボス前のラスボスと戦う前に、最悪のラスボスと戦う事になるとは思わなかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer12

 

『最強ボス:その名は中間考査です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、中間考査前の小テストの結果が返って来たんだけど――此れは、如何考えても青子さんはヤバいよね、ナオミさん、つぼみさん?

 

 

 

 

「ヤバいなんてものじゃないわ――ヤバすぎる何かよこの結果は。」

 

 

「一体全体、如何やったらこんな点数が……装填士不在では、隊長車は只のデコイになり下がっちゃうわ!!」

 

 

「あはは……返す言葉もねーわ此れ。」

 

 

 

 

ある筈がないよね青子さん?って言うか、散々にも程があるよこの結果は!!

 

中間考査前の五教科の小テストの結果が、国語30点、数学31点、社会35点、理科39点で英語に至っては25点の全教科赤点の完全炎上って言うのは、幾ら何でも笑えないよ!?

 

 

このままじゃ、中間考査が炎上して補習になって、準決勝は欠場が確定しちゃうから……取り敢えず、中間考査を突破できるように今日から青子さんの為に勉強合宿だね?

 

 

 

 

「其れしかないでしょうね、このバカを準決勝に連れて行くには。」

 

 

「装填士としての能力は日々向上しているのですから、勉学の方にも精を出せないものなの青子さん?」

 

 

「いや~~、やらなきゃいけないのは分かってんだけど、教科書を開くとどうしても眠くなっちゃってどうしようもねーんだわ此れが♪

 

 寝ちゃダメだとは思ってんだけど、先生の声が子守歌になっちゃって、眠気を抑えることが出来ねー訳よ?……あれに抗うのは無茶振りだ。」

 

 

 

 

な~~に、其れらしい事言ってるんですか青子さん?

 

って言うか、授業中に何度シャープペンで突いても、起きた事はただの一度もありませんよね?……だから、勉強合宿は確定だから。手加減なんてしないから、覚悟しておいてね青子さん?

 

 

 

 

「大会に出れないのはアタシとしても嫌だけど……だけどお手柔らかに頼みたいんだけど……」

 

 

「西住流に撤退の文字はない。ですよ、青子さん?」

 

 

「ですよねーーー……上等だ、覚悟決めたらぁ!!

 

 皆揃って大会に出て、そんでもって勝たなきゃ意味ねぇからな!中間テスト如き、アタシのノリと勢いをフルスロットルして乗り越えてやる!」

 

 

 

 

その意気や良し!

 

それじゃあ、今日から放課後は、青子さんの寮室に集まって、徹底的に中間考査前の追い込みをかけて行くよ?ナオミさんとつぼみさんも協力の程、宜しくお願いします♪

 

 

 

 

「OK、任されたわ隊長。」

 

 

「お任せ下さい、みほさん♪」

 

 

 

 

せめて、3教科以上で50点取れるようにしないとだよ。

 

取り敢えず3教科以上で50点取れれば、赤点3つは回避することが出来るから、補習を受けずに済む――だから、教える側も頑張らないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ナオミ

 

 

 

で、戦車道の練習も終わって、私と青子とつぼみは一旦寮に戻ってから、外泊届を出して、そして今はみほと一緒に西住家の自家用ヘリで、みほの家に移動中。

 

青子救済の勉強合宿を何処でやるかって言う事になった時、当所は青子の寮室の予定だったんだけど夫々の寮の部屋じゃ4人全員が入るのは厳しい物があるし、みほは外泊の用意なんてしてないから、家に連絡して持って来てもらうかなんかする必要がある――だったら、逆に外泊の用意がすぐに出来る私達の方が、みほの家に行った方が面倒がないって言う事になった訳。

 

 

そしてヘリの中では、青子の小テストの回答がどんな物かを確認しているんだけど……此の回答は、ボケかネタか突っ込み待ちか悩むわね?

 

 

 

 

「鎌倉幕府が開かれたのは何時か?……296年。

 

 いい国作ろうの『1192(いいくに)』じゃなくて『296(作ろ)』で書いちゃったんだ――2960年て書かなかっただけましかな?」

 

 

「こっちはもっと凄いわ……鉄と酸素が反応してできる物質は?の答えなんですけれど……『錆』。

 

 間違ってはいないけれど、テストの答えとしては大間違いよ!此処は『酸化鉄』と書かねば誤答になってしまうんですよ青子さん!!!」

 

 

「英語は実にベタね。

 

 『此れはペンです』を英語で書きなさいの答えが、I am a Pen(私はペンです)だからね………こう言っちゃなんだけど、此れは可也拙いわよ青子?まさか、漫画とかでしか見た事がないような回答が現実に現れるとは思わなかったわ。」

 

 

「いや、取り敢えず空欄てのはどうかと思ったから埋めといた方が良いなと思ってさ?」

 

 

 

 

だからって此れは無いわ。

 

他にも国語のテストで『どんよりを使って文章を作りなさい』の答えが『うどんより蕎麦が好き』とか、数学の角度を求める問題での答えが『多分35度くらい』って、酷いにも程があるでしょう……此れは、徹底的に叩き込まないとダメね。

 

 

如何するのみほ、このバカを短期間で如何にかするのは楽じゃないと思うんだけど?

 

 

 

 

「可成り骨が折れそうだよナオミさん……此れは、究極の付け焼刃方式を使う事も考えておかないとならないかもしれないね……」

 

 

「付け焼き刃でもなんでも、取り敢えず赤点取らなければ何でもいいんだけどな~~~♪」

 

 

「貴女が其れを言ったら、元も子もないでしょう!!」

 

 

 

 

はぁ……この勉強合宿は前途多難だわ。

 

とは言っても、青子が居ないと隊長車は立ち行かなくなるから、何とか『中間考査』と言う名の強敵を突破しないといけないから、覚悟を決めてもうわよ青子?中間考査までの期間、貴女には地獄を見て貰うわ――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

そして始まった勉強合宿。

 

お母さんは、私が学校の友達を連れて来た事を喜んでたけど、今回はちゃんと紹介してる暇もないから、ちゃんと紹介するのはまた今度……凄く残念そうだったけど、青子さんが準決勝に出れるかどうかが掛かってるって言ったら、アッサリ納得してくれたね。

 

 

で、合宿を始めて分かった事は、青子さんは記憶力は良いけど、理解力が壊滅的にない事。

 

実際に、歴史とか理科の化学反応の結果みたいに明確な答えを記憶すれば良い物に関しては、此れまでの間違った記憶を上書きする事で可成り改善されてきたから。

 

 

逆に理解力が必要になる数学の方程式とか、英語の文法は壊滅的で、数学担当のナオミさんと、英語担当のつぼみさんが、如何したものかと本気で頭悩ませてるよ。

 

 

社会と理科は何とかなるかもだけど、もう1教科赤点を回避しないとダメだから……しょうがない、此処は青子さんの記憶力の良さに物を言わせた最終手段を使う事にしよう!

 

丁度今、ナオミさんが青子さんに数学の例題の解き方教えてるから――青子さん、その例題の解き方を覚えて。兎に角、解き方だけ覚えて!

 

 

 

 

「へ?あぁ……まぁ、解き方覚えるくらいなら何てことはねぇって!――よっしゃ、覚えた!」

 

 

「覚えたって……じゃあ此れが、如何言う問題で如何言う式の末に答えが導き出されるか分かったのね?」

 

 

「いや、全然?」

 

 

「は?」

 

 

「でも覚えたよね、青子さん?」

 

 

「そりゃもうバッチリ。だから、次の問題頼むぜナオミ。」

 

 

「って、分かってないならダメでしょ!?分かってないのに次の問題やったって、丸っきり無意味よ其れ!?

 

 と言うか、私が教える意味ないんじゃないの其れじゃ?」

 

 

 

 

普通はそうなんだけど、今はその限りじゃないんだよナオミさん。だって圧倒的に時間が足りないんだから。

 

もう青子さんには、一々理解してる暇なんてない。と言うか、理解させるのが多分無理だから、赤点を回避する為には『全部』覚えてもらうしかないんだよ。

 

 

 

 

「え?ちょっと……まさかそれって――」

 

 

「大丈夫だ、覚えたから。」

 

 

「まさか、この究極の方法を使うとは――!!」

 

 

 

 

それ以外に方法はないから。

 

こうなったら、テスト範囲にでる数学の数式の解き方やら、英語の文法やら、国語の文章問題まで、全部みんな全て覚えて貰う……言うなれば『丸暗記』して貰うよ!

 

 

考えてみれば、戦車道でも青子さんは、私の作戦を逐一全部詳細に記憶してたから記憶力は抜群に良い。だから、テスト範囲の丸暗記だってやって出来ない筈がない!!

 

だから青子さん、理解しないくて良いから、兎に角覚えて。全部脳味噌に叩き込んじゃって!!

 

 

 

 

「おっしゃあ、任せとけ!!理解する事は出来なくても、覚えるだけなら簡単なモンだ!!

 

 赤点回避の為に、覚えるべき事は全部覚えてやる!!だから、ナオミもつぼみも遠慮しないで、兎に角アタシの頭に叩き込んでくれ!!記憶容量だけは自信あるから、5教科全部のテスト範囲の彼是覚えてやるぜ!!」

 

 

「何と言う極端な脳味噌をしているのやら……」

 

 

「100か0か……分かりやすいと言えば、分かりやすいと言えるわ。

 

 でも、それ以外に手もなさそうだし、丸暗記させるしかなさそうね?……良いわ、装填士が居なくちゃ戦車は戦えないんだから、徹底的に貴女の脳味噌に覚えさせてあげるわ青子。

 

 それで、追試喰らうような事態になったその時は、パンターに括りつけて、校庭引き摺り回すから覚悟しておきなさい。」

 

 

「おうよ!ドンと来いってんだ!!」

 

 

 

 

中間考査まであと3日……赤点回避の為に青子さんに全部覚えさせます!!ぱんつぁー・ふぉー!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

そんなこんなで、兎に角青子に『覚えさせる事』のみを考えた『丸暗記作戦』はこれでもかと言う密度で展開され、青子は都合数十ページに及ぶテスト範囲の彼是を全て頭に叩き込んで行ったのだった。

 

 

で、中間考査前日になんとかそれも終わり、教える側のみほとナオミとつぼみも漸く一段落。

 

一方の青子はと言うと、全部終わったその瞬間に、CPUを上書き保存した上で自動シャットダウンしたPCの如く活動を停止して現在爆睡中。

 

言わせて貰うならば、女の子にあるまじきイビキをかいて爆睡中。此れはもう、明日の朝まで引っ叩こうが、頬っぺたを抓り上げようが、何をしても目を覚ます事はないだろう。

 

 

 

「其れでみほ、彼女は何とかなりそうなのかしら?

 

 まほが率いる黒森峰との準決勝、欠員が1人でも居たら明光大付属に勝ち目は無いと思うわよ?いえ、間違いなく勝てないと思うわ。」

 

 

「多分、大丈夫だと思うよ其れは。」

 

 

 

で、現在みほは、母のしほと共に入浴中。(ナオミとつぼみには、先に風呂に入って貰った。)

 

余談だが、西住家の浴室は、ちょっとした温泉くらいの広さがあるので、2人で入っても全然マッタク余裕があるのだ……流石は西住流である。

 

 

尤も母娘の入浴は、全くの偶然――脱衣室にみほとしほが同時に訪れたから、そうなったに過ぎない。

 

それでも、自然と話は勉強合宿の事になる辺り、しほも可成り気にはしていたのだろう。

 

実の娘二人が、夫々全く異なるチームを率いて戦う準決勝――其れは、双方が万全の状態で行われて欲しいと言うのが、しほの偽らざる思いであったのだから。

 

 

 

「必要な範囲は全部教えたし、青子さんの記憶力なら、全部覚えてくれたと思うから。」

 

 

「ならいいのだけれど、正直な事を言うなら丸暗記と言うのはあまり当てにならないと言うのが私の考えなのよね……個人的な意見だけれど。

 

 と言うか、仮に全部丸暗記できたとして、まさかそれで赤点を回避できるなんて言う事にはならないのではないかしら?」

 

 

「其れはそうかも知れないけど……でも、やらないよりはマシだから。」

 

 

「確かにそうかも知れないけれどねぇ………」

 

 

 

 

ところがギッチョン、その『まさか』だった。

 

 

 

 

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・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

中間考査が終わった明光大付属中では、その結果が学年毎に渡り廊下に張り出されるのだが、1年生の結果と順位にはトンデモない事が起こっていた!

 

何故ならば……

 

 

 

 

『1位:辛唐青子:500点』

 

 

 

 

中間考査前の小テストで、全教科炎上していた青子が、まさかの500点満点でぶっちぎりのトップ!!

 

此れだけでも驚く事だが、続く2位以下の面子が、2位がみほで合計451点、3位はナオミとつぼみの同点で447点と、戦車道の隊長チームが1位から同列を含めた3位までを独占したのである。

 

 

 

勿論これには、誰もが驚いたが、一番驚いたのは隊長チームの面々だった。

 

 

 

「徹底的に覚えさせたとは言っても、まさか500点満点を取るとは……丸暗記恐るべしだね。」

 

 

「青子の記憶力があればこそなんだろうけれど、此れは流石に驚きね?――若しかしなくても、青子はタモ○さんと記憶術勝負できるんじゃないかしら?割と本気で。」

 

 

「出来るかも知れないわね此れは……」

 

 

 

徹底的に覚えさせたとは言え、まさか500点満点を達成するとは思わなかったのだろう――記憶力に特化した青子の脳味噌は、みほの予想を遥かに超えるモノであったらしいのだから恐るべしだ。

 

 

ともあれ、此れで青子が追試を受ける事はなくなったので、黒森峰との準決勝にも出場する事が出来る。

 

其れはつまり、みほが指揮する鋼鉄の豹と、まほが指揮する鋼鉄の虎の正面激突が略確実になった事でもあるが故に、今年の『全国中学戦車道大会』の準決勝第2試合が大荒れになるのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

まさか、青子さんが500点満点を達成しちゃうとは思わなかったよ……記憶力特化の脳味噌にとっての丸暗記って言うのは最高で最高の作戦だったみたいだね。

 

だけど、此れでパンターブルーは万全の状態で準決勝に臨む事が出来る。

 

恐らく、次の試合はお姉ちゃん自身が――隊長車がフラッグ車になるだろうから、こっちも隊長車である私達がフラッグ車になって戦わないと多分勝ち目はないからね。

 

 

其れはそれとして――

 

 

 

 

「其れじゃあ此の問題を……辛唐、解いてみろ。」

 

 

 

 

今日の数学の授業中、担当の先生が青子さんを指名して問題を解くように言って来たんだけど、其れは明らかなミスチョイスじゃないかと思う。

 

多分500点満点を達成したから、此れ位は解けるだろうと思って指名したんだろうけど――

 

 

 

 

「ゴメン先生、全然分かんねー。つーか、其処は覚えてねーから当てられても如何しようもねーわ此れ。」

 

 

「ぬあにぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

 

 

 

青子さんには、赤点回避の為に覚えさせただけで、理解をさせた訳じゃないから、新しい応用問題を出しても解ける筈がないよ。だって、其れの解き方は覚えてないんだから。

 

 

 

 

「中間までの事だったら出来るけど、新しいのは覚えてねーから如何しよーもねーな~~~。」

 

 

「あの500点満点は夢だったのか!!一時の、泡沫の夢だったとでも言うのか~~~~!!!誰か、嘘だと言ってくれ!お願いだから!!」

 

 

 

 

認めたくないかもしれないですけど、此れは現実なんです先生。

 

とりあえず分かってる事は、勉強で大事なのはテストの点数じゃなくて、本当の意味でドレだけちゃんと理解できているのかって言う事だよね。

 

 

今回の青子さんは、そのいい教訓だったみたいだよ。

 

 

 

 

とってんぱらりのぷー。ちゃんちゃん♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer13『いざ、絶対王者への挑戦です!』

お姉ちゃんのラスボスっぷりがハンパ無いですByみほ         ラスボス……言い得て妙ね此れはByナオミ


Side:みほ

 

 

 

青子さんが、無事に中間考査を突破してくれたから、次の試合も万全の状態で臨む事が出来る。――戦車は一人じゃ動かせないから、誰一人として、欠ける事は出来ないからね。

 

 

其れこそ、私達が搭乗する隊長車の装填士不在なんて言うのは笑うに笑えない事だから……よく頑張ってくれました、青子さん。

 

 

 

 

「まぁ、やれるだけやってみたって所だけどな。

 

 ぶっちゃけ、丸暗記したところ以外はマッタク持って何もかにも分かってねーからな~~~~。てか、覚えても理解出来ねーってのよ此れ?」

 

 

「自慢気に言わないで青子さん。」

 

 

「先ずは、理解しようとする心構えが重要よ青子?」

 

 

「そう言われても、苦手なモンは苦手だからどうしようもないってのが本音だぜ?

 

 てか、テストで良い点を取るだけなら理解力って必要じゃないだろ?現に、アタシが今回其れを証明しちまったからなぁ~~~~♪」

 

 

 

 

其れを言ったら其れまでなんだけど、青子さんは其れを実践しただけに過ぎませんから。

 

テストで良い点を取るという事と、どれだけ理解しているのかって言う事は別物って言っても過言じゃないって思ってますから、少なくとも私は。

 

 

兎に角、次の準決勝の相手は、問答無用の最強にして無敵の黒森峰な上に、指揮官は多分お姉ちゃんだろうから、何ともやり辛いね。

 

 

ともあれ、負ける心算はないから出来るだけの作戦を考えて行きましょう!!

 

それに加えて、当日までに皆の士気も上げていく必要もあるだろうから、此れはもう徹底的にやる以外に他はない……何よりもフラッグ戦だっら黒森峰が相手でも、勝利の可能性は0じゃないからね。

 

頑張っていきましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer13

 

『いざ、絶対王者への挑戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、準決勝の黒森峰戦は、どんなフィールド何でしょうか近坂部長?

 

 

 

 

「荒野と林が入り混じっていて、更には小高い丘もある最も基本的な形のフィールドになるわ。

 

 どんな戦術でも使うことが出来る、ある意味でチームの実力がストレートに問われるフィールドであるとも言えるわね。

 

 悔しいけれど、チームとしての実力は黒森峰の方が圧倒的に上なのは覆しようがない事なんだけど……王者相手に、如何戦う心算西住?」

 

 

「この地形なら稜線を抑えた方が有利になると思います。ですが今回は、敢えて本来抑えるべき稜線は取らずに行こうと思います。」

 

 

「敢えて有利な条件を手放すって言うの!?」

 

 

 

より正確に言うのなら、最初から稜線を取りには行かないと言う事ですね。

 

此のフィールドなら稜線を取った方が絶対有利なのは火を見るよりも明らかですが、其れはお姉ちゃん――黒森峰の隊長だって分かってるだろうから、私達に稜線を取らせる事はしない筈です。

 

なので、行き成り稜線を取ろうとはせずに、逆に黒森峰に稜線を取らせるように仕向けて、其処に奇襲をかけます。

 

 

 

 

「…成程、そう言う事ね?流石はみほさん、よく考えているわ。」

 

 

「セオリー外しの裏の裏か……マッタク、貴女の智将ぶりには頭が下がるわねみほ。」

 

 

「良く分かんねーけど、みほの考える作戦ならだいじょーぶだろ?現に、大会で2回勝ってんだから♪」

 

 

「……今ので理解できる隊長車のクルーも大概トンでもないと思うわね。」

 

 

「「「「戦車が紡いだ絆の前に、多くの言葉は必要なし!」」」」

 

 

「何故、J○J○立ち!?」

 

 

 

 

何となくです。

 

とは言っても、実力的には黒森峰の方が圧倒的に上な事実は変わらないので、此方の持てる力を100%……以上を出さなくちゃならないとは思いますよ?

 

セオリーから外れる、この考えも、セオリーと言う『枷』を外す事で、限界以上の力を出すことが出来る筈だって考えたからですし。

 

 

 

 

「敢えてセオリーから外れるか……それで実力以上が出せるかどうかは別として、黒森峰の虚を突く事が出来るかも知れないわ。

 

 偉そうな事を言う心算はないけど、黒森峰は徹底したマニュアル戦術だから、そのマニュアルから外れた事が起こった場合に、即座に対応する能力は決して高くないでしょうからね?」

 

 

「不測の事態への対応能力は寧ろ低いと思いますよ、近坂部長。」

 

 

黒森峰は、圧倒的な火力を持ってして相手を殲滅する『蹂躙戦法』とも言うべき戦い方が特徴ですよね?

 

ティーガーを主力にした圧倒的な火力を持ってしての殲滅攻撃は、確かに超強力で、ソコソコの相手ならば簡単に押し潰せる半面、実力が拮抗している相手とは泥仕合になり易く、奇手や搦め手を使ってくる相手には分が悪いんです。

 

特に、奇手や搦め手を使われて、不測の事態に陥った場合は極端に脆くなります――隊長の指示に従って、敵を殲滅する事に慣れてるから、そう言う状況になった時でも、隊長からの指示がないと如何して良いか分からなくなるんです。

 

 

隊長であるお姉ちゃんは兎も角として、黒森峰のレギュラー陣で、そう言った事態に自分で対処出来る人は少ないんじゃないでしょうか?

 

組み合わせ抽選会の時に会った、逸見さんや赤星さんは、余程の事態に陥らない限り、自分で考えて行動する事が出来るかも知れないけど。

 

 

 

 

「確り分析してるのね貴女って。

 

 で、こんな事を聞くのはどうかと思うんだけど、黒森峰の隊長って貴女のお姉さんなのよね?――実の姉と戦う事に抵抗とかないのかしら?」

 

 

 

 

ありませんよそんなモノ。

 

って言うか、小学生の時にも友達と一緒にお姉ちゃんと戦った事もありますし、そもそも学校が違うんですから、大会に出れば何処かで当たる可能性って言うのはある訳ですから、抵抗なんて有りませんよ?

 

 

其れは、多分お姉ちゃんも同じだと思います。

 

例え姉妹でも、戦う時には全力を以てして戦うのが正しい事で、姉妹だから手心を加えようとか考える方が間違いだって思ってますからね?

 

と言うか、抵抗どころか、お姉ちゃんと戦うのが楽しみですから♪

 

 

 

 

「楽しみ?」

 

 

「考えてもみて下さいよ近坂部長。

 

 万年1回戦負けの弱小校が、準決勝で王者黒森峰に徹底的に喰らいついて、その末に倒して決勝に進んだなんて、凄くワクワクしません?」

 

 

「其れは……言われてみれば確かにそうね?弱小校が王者を退けて決勝に進む……其れは何とも最高な事じゃない!!!

 

 普通なら『無理だ』って斬り捨てる所だけど、貴女なら其れが出来るんじゃないかって思うわ西住!!――OK、黒森峰の常勝伝説に、私達が終止符を打ってやろうじゃないの!!」

 

 

 

 

勿論その心算です!

 

私はお姉ちゃんを、黒森峰を倒す。倒して、更にその先に進む!!

 

 

勿論、簡単に勝てる相手じゃないけど、車長専任免許をとるために、お姉ちゃんが色んな戦術を見せてくれたから、大抵の戦術は頭に叩き込まれてるから、どんな事があっても私は対処できるって自負してるからね。

 

 

持てる力の全てを出し切って、黒森峰の牙城を崩して見せる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

明光大付属は――みほは、間違いなく準決勝に駒を進めて来るだろうとは思っていたが、其の予想が当たってくれたおかげで、準決勝は何ともやり辛い試合になってしまったな?

 

 

みほが相手だという事ではなくて、明光大の戦い方はあまりセオリーや定石と言うモノに捕らわれていない事を考えると、戦術がマニュアル化されている黒森峰にとって、これ以上の天敵はないだろう。

 

黒森峰の地力は高いが、其れはあくまでも優秀な火力を持って居る重戦車と錬度の高い隊員が充実しているからだが、逆に錬度の割に隊員夫々が自己の判断で動く事は極めて苦手だ。

 

 

攻めている時は兎も角として、一度守りに回ると如何して良いのか分からなくなってしまう部分があるからな。――実際に、大会前に行った練習試合では、相手の奇襲から陣形を崩されて危なくなる場面も1度ではなく有った事だし。

 

 

何よりも厄介なのは、みほは戦車道での定石と非定石を入り交えて戦う事が出来ると言う事だろうな。

 

定石に則って戦う相手ならば次の一手が予想出来るし、逆に奇策を得意する相手ならばその奇策だけを警戒して居れば何とかなる……しかし両方をバランスよく混ぜ合わせて使う事が出来るとなると厄介極まりない。

 

奇策か正攻法かの二者一択とは言え、次の一手がこれほど読み辛い相手もいない。……加えて、みほは1回戦と2回戦で全く異なる戦術を使って居たから、事前の対策を立てる事も難しいか。

 

 

「準決勝は、逸見と赤星に頑張って貰うのも良いかもしれないな。」

 

 

「あら、期待のルーキーに出張って貰う心算なの、隊長さん?」

 

 

「天城さ……副隊長。」

 

 

「今はプライベートだから名前で良いわよ隊長……うぅん、西住。」

 

 

「では、そうさせて貰います。」

 

 

天城春奈――今年の黒森峰の副隊長を務める『3年生』で、私を今年の新隊長に推薦した人だ。

 

本来ならば、去年の引き継ぎの際に彼女が隊長職を引き継ぐ筈だったのだけれど、その場で私を隊長に推薦し、自分は副隊長の儘で居る事を選んだ稀有な先輩だ。

 

黒森峰の隊長は、黒森峰の戦車道チーム全員が憧れる物だと言うのに、其れを自ら辞退して私に譲るとは、ドレだけの度量があるのやらだ。

 

 

で、何用でしょうか天城さん?

 

 

 

 

「用って程でもないんだけど、次の準決勝は西住にとってはやり辛いんじゃないかと思ってね。

 

 次の相手の隊長さんは、貴女の妹さんなんでしょ?……幾ら貴女であっても、実の妹とやり合うって言うのは少し抵抗があるんじゃないの?」

 

 

「其れに付いては大丈夫です。相手が妹であっても、全力を以てして相手をするのが西住流ですから。

 

 ただ、別の意味でみほとはやり辛いのは事実ですよ……ハッキリ言って、あの子の実力は計り知れない物があります。姉の贔屓目を抜きにしてもです。」

 

 

「ふぅん?そう言う物?」

 

 

 

 

そう言う物です。

 

天城さん、貴女は戦車乗りとしての私に対してどのような評価を下しますか?

 

 

 

 

「え?……そうねぇ、先ず押しも押されぬ隊長の器であるのは間違いないわ。実際、部隊を統率する能力はピカ一だと思っているもの。

 

 其れと、黒森峰の火力部隊の運用法は、冗談抜きで黒森峰始まって以来の物だと私は思っているわ。貴女は最高で最強の隊長よ西住♪」

 

 

 

 

思った以上の高評価、恐縮です。

 

でも其れは、逆を言うなら『最高の戦力を与えられた上で、最高の結果を残した』に過ぎないでしょう?――言葉が過ぎるのは百も承知で言わせて貰うのならば、今の黒森峰の戦力ならば、誰が指揮をしても、それなりの結果を残す事が出来る筈ですよ。

 

だからきっと、私が隊長でなくとも黒森峰は此処まで勝ち進んだでしょう。

 

 

でもみほはそうじゃない。

 

あの子は、万年1回戦負けの弱小校を、隊長就任1年目で準決勝にまで引き連れて来た――此れは、私では絶対に出来ない事です。

 

時間を貰えば、私も弱小校を鍛える事は出来るでしょうが、隊長就任数ケ月で、此処までのレベルにする事は到底不可能――西住流の型に捕らわれないみほだからこそ、此れが出来たと言えますので。

 

 

加えて、あの子は此方の戦い方を徹底的に研究して対策を立てている筈ですからね。

 

 

 

 

「………西住、アンタの妹さんて人間よね?」

 

 

「間違いなく人間ですが、戦車道に関しては、最強無敵の『軍神』と言っても過言ではないと思っています。

 

 私も一部から『武神』等と言われているようですが、軍神と武神では格が違う――今は未だ私の方が僅かに上でしょうが、あの子が完全に其の力を覚醒させた暁には、私は絶対に敵わないでしょうね。

 

 あの子に秘められた才能は、私を軽く凌駕する…其れこそみほこそが、100年に一度現れると言われる伝説の戦車乗り『スーパー戦車長』であるのかも知れませんから。」

 

 

「ゴメン、少しだけ髪が逆立った金髪になって、目が碧色になった貴女の妹さんを想像したわ。

 

 てか、スーパー戦車長って――実の姉である貴女がそう言うなら、きっと間違いないのでしょうね……隻腕隊長を侮ったら、手痛いしっぺ返しを喰らうという事ね西住。」

 

 

 

 

そう言う事です天城さん。

 

だからこそ、逸見と赤星に頑張って貰うんですよ――あの子達は1回戦と2回戦でそれなりの成果を上げていますが、だからと言ってエース級の大活躍をした訳じゃない。

 

 

だから、みほもこの2人に関してはあまり厳しくマークはしていない筈……だからそこを利用する。

 

逸見と赤星に、事前に『独立機動権』を与えておけば、私の指示に従わなかったとしても問題にはならないし、あの二人ならばみほともやり合う事が出来るだろうからね。

 

 

……それでも、逸見と赤星二人が力を合わせて、みほと同等と言う所ではあるだろうけれどな。

 

 

 

だが、黒森峰は王者だから簡単に負けてやる心算はない。

 

私の持てる全ての力を以てしてみほと対峙する以外の選択肢など有りはしないし、私自身がみほとの戦いに試合前から昂っているからね。

 

 

贅沢を言うのならば、決勝でないのが残念だが、準決勝で妹と戦うのも悪くはない。

 

みほを倒せば、決勝への弾みにもなるからな――厳しい戦いになるかも知れないが、今回は勝たせて貰うぞみほ?

 

 

何よりも、此処で負けてしまっては、間違いなく決勝に駒を進めて来るであろう安斎と戦う事は出来なくなってしまうからな?――最高の気分で大会を終える為にも、私は勝つ!!!

 

 

だから、お前も持てる力の全てをぶつけて来いみほ!――其れを正面から受け止めてやるからな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

そして準決勝当日。

 

既に決勝戦の2つの椅子のうち1つは、安斎千代美が率いる『愛和学院』が取って、残る椅子は一つ。

 

 

即ち準決勝の第二試合を戦う、明光大付属と黒森峰の勝者が決勝に進む事が出来る――逆に言うなら、負ければそこで終わりの戦である。

 

 

何よりも――

 

 

 

「万年1回戦負けの弱小校を準決勝の舞台にまで引き連れて来るとは……正直な事を言って驚いている。――一体どんな訓練をしたんだ?」

 

 

「其れは企業秘密です♪」

 

 

「厳しいな、お姉ちゃんにも企業秘密なのか?」

 

 

「お姉ちゃんでもです♪」

 

 

 

其れを戦うのは、西住流の姉妹なのだから。

 

とは言っても、対峙した西住姉妹の間に、緊張やら何やらは感じられない――ともすれば、軽い冗談を言う事が出来る位の空気が其処に出来上がったと言うべきなのかも知れない。

 

 

 

 

「SSS級のプロテクトが掛かっていると言う訳か?」

 

 

「そう言う事です♪」

 

 

「ならば仕方ない、実践の場でその力を知って、その上で考察するしかなさそうだ。――良い試合にしよう、みほ。」

 

 

「うん、最高の試合をしようお姉ちゃん!」

 

 

 

 

――ギュ

 

 

 

 

その空気の中で握手を交わし、明光大付属も黒森峰も気合は十分に充実!!

 

 

 

 

「良いか諸君、実力では我等黒森峰の方が上回っているが、相手はその力量差を埋める為にどんな事をしてくるか分からない。

 

 ともすれば、我等の予想もつかない戦術を繰り出してくる可能性が高いので、不測の事態に陥った場合でも動揺せずに動いて欲しいと思う。」

 

 

 

 

「実力は黒森峰の方が圧倒的に上ですが、だからこそ其処につけ入る隙がある筈です。

 

 幾ら指揮官が気を引き締めろと言っても、相手が格下である以上は、人は無意識に自分の方が有利だと言う感情が働いて、其処に絶対的な隙が出来ます……其処を突いて行きましょう!」

 

 

 

 

それぞれの陣営に戻った指揮官は、己が率いるチームに最後の訓示をする。

 

 

 

「では、行くぞ。」

 

 

「其れじゃあ行きましょう!」

 

 

 

 

「「Panzer Vor!」」

 

 

 

そして、試合開始と同時に、両チーム『戦車前進』を指示し、此処に西住姉妹の手加減なしのガチンコバトルの幕が切って落とされた!落とされてしまった。

 

 

嘗て、姉妹のタイマン模擬戦で、西住流の演習場を半壊させたみほとまほが戦う以上、此の準決勝の第2試合は只では済まないだろう。と言うか、只で済む筈がない。

 

 

試合開始直後であるにも拘らず、フィールドは既に熱狂の渦が巻き起こっている様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

さて、みほは如何出て来るのだろうか?

 

普通ならば稜線を取ろうとしてくると考えるのだが、あのみほがそんな定石通りの戦術を展開して来るとは思えんが、だからと言って地の利を得る事の出来る稜線を自ら放棄するとは考え辛い……果たしてどんな戦術で来るのか。

 

 

とは言え、みほ達が狙ってこないのであれば、此方が稜線を取りに行っても良いかも知れない。

 

――稜線を取れば地の利を得ることが出来る訳だし、序盤での戦果も期待出来るだろうからな。

 

 

「全車前進、稜線を取って有利な陣形を展開する。」

 

 

「了解――」

 

 

 

 

――ズドン!!

 

 

 

 

「のわあぁあぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 

!!……如何した直下!!――其れに今の砲撃音は!!まさか、みほか!?

 

パンターの有効射程ギリギリの距離から狙い撃ちして来るとは、アイスブルーのパンターの砲撃手の腕前は、高校以上なのは間違いないな。

 

 

それ以上に、稜線を取ると言うセオリーを敢えて無視して奇襲を仕掛けてくるあたりにみほの指導の彼是が垣間見えるが……それだけに簡単には終わらないだろうな。

 

 

先ずは定石を外れての奇襲で来たか……上等だ、相手になってやろうじゃないかみほ。

 

絶対王者黒森峰が相手を屠るのか、それとも万年1回戦負けを脱却した奇跡のチームが絶対王者を退けるのか、実に楽しみであるからな!!

 

 

「怯むな、即時陣形を整えて、相手の攻撃に対処しろ。

 

 逸見と赤星も、周囲の状況を常に確認して的確な対処をしてほしい――頼めるか?」

 

 

『『勿論です!!』』

 

 

 

 

其れを聞いて安心した。

 

 

さぁ、初手は譲ったが、本番は此処からだみほ――見せてもらうぞ、お前が明光大付属で培ってきたもの全てを!!得た力の全てを私に見せてくれ!

 

 

見事な奇襲だったが、その次の一手は何だ?――其れを見せて貰うとしようじゃないか…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued…

 

 




キャラクター補足





天城春奈

黒森峰中の3年生で、本来ならば今年度の隊長を務めていた実力者。

だが、まほの方が自分よりも優れていると言う理由から、次年度の隊長にまほを推薦すると言う豪胆な精神の持ち主でもある。

取り敢えず、キレると危険なので、その兆候が見られたその時は、一発殴ってKOするのが上策であろう。



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Panzer14『激戦必須の準決勝です!!』

此れは、大激戦の予感……負けないよお姉ちゃん!Byみほ         あぁ、其れは私もだ……負けないぞみほ!Byまほ


Side:みほ

 

 

 

よし、奇襲は大成功!

 

序盤の盤面は稜線を取るか捨てるかの二者一択、恐らくお姉ちゃんは私達が何方で来るかを考えつつ、どちらに転んでも対応できる戦術を頭の中では考えてた筈。

 

若しかしたら、奇襲の可能性すら考えてたかもしれないけど、幾ら隊長があらゆる可能性を考えていたとしても、隊員が全てそれに対処出来るわけじゃないし、特に黒森峰は指示が出てから動く事が圧倒的に多い。

 

 

だから、隊長からの明確な指示が出る前に攻撃を仕掛ければ、例え撃破出来なくても序盤の流れを此方に引き寄せる事が出来る。

 

 

 

 

「よっしゃー奇襲大成功!!やっぱみほの作戦はバッチリ決まるよな!!」

 

 

「王者黒森峰が、序盤で弱小校の奇襲に翻弄される……其れだけでも、会場が湧きそうじゃない?

 

 弱小が強豪に対して一時の善戦をするって言うのは、見てる側からすれば声援を送りたくなるって言う話を、誰かから聞いた事があるわね。」

 

 

「一理あるけれど、一時の善戦じゃ終わらせない!でしょう、みほさん?」

 

 

 

 

勿論です。勝つ心算だから。

 

とは言え、序盤の流れは此方が握ったけれど、地力は黒森峰の方が上だからこのまま奇襲成功の流れに乗って攻撃してもフラッグ車を撃破するのは難しいよね流石に。

 

だから、そろそろ次行こうかな?多分、まだお姉ちゃんに『ティーガー2輌が居ない』事には気付かれていないと思うから。

 

 

「此方パンターブルー。ティーガーⅠA車・B車に通達。此れより『ドッカン作戦』を開始します。」

 

 

『『了解。』』

 

 

 

 

奇襲は予測出来たかもしれないけど、流石のお姉ちゃんも此れは予測できないと思うな?――と言うか、普通なら先ずやらない事だからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer14

 

『激戦必須の準決勝です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

試合開始直後の明光大の奇襲は成功し、黒森峰の陣形は崩れた――が、其処は流石にまほが隊長を務める黒森峰、攻撃は喰らいながらも1輌も撃破される事なく、陣形を立て直していく。

 

其れこそ、他校と比べたら驚異的な素早さでだ。

 

尤もこれは、まほが隊長だったからだと言うのも大きいのは否定できない。

 

何故なら、みほの姉であればこそ、妹が正攻法で来ない可能性を考える事が出来たし、1・2回戦をちゃんと観戦した事で、みほが戦力の質の低さを、作戦で補う事に長けていると言うのは良く分かっていたからだ。

 

 

ある程度の予測が出来たからこそそれなりに対応も出来たのである。

 

 

 

だが、黒森峰の立て直しを見た明光大付属もまた、奇襲成功から続いていた押せ押せムードの攻撃を止め、此れまでよりも少し距離を開けてからの、堅実な射撃に切り替え、無茶なゴリ押しはしない。

 

地力で勝る黒森峰が陣形を立て直したのならば、ゴリ押しするのは逆に危険だと、みほが判断したのだろう。

 

 

 

「(……何故此処で距離を取るみほ?

 

  如何に陣形を立て直したとは言え、盤面はお前が攻で、私が防の状態だ――ならば、包囲網を完成させ、フラッグ車を追い詰めるのが最上の策である筈なのだが……)」

 

 

 

しかし、其れにまほは違和感を覚えた。

 

確かにみほは、圧倒的な戦力で正面から押すよりも、あらゆる可能性を考慮した上で、様々な作戦を幾つも使って戦う事を得意としている。

 

言うなれば、戦力が十分であるならばより盤石に、戦力が十分でなくとも互角以上に戦えるのがみほの戦い方であり、戦力が十分でない場合は、搦め手や奇策を考えるのが巧かった。

 

とは言っても、奇襲で先手を取り、自分が攻の状態にあるのならば、早い段階で包囲網を完成させて、敵の動きを封じるのが最上策である。

 

にも拘らず、包囲網を完成させるどころか、逆に距離を取って攻撃して来たとなると、流石に違和感は拭えない。――フラッグ車を撃破すれば、其処で勝利が確定するフラッグ戦で有れば尚更だろう。

 

 

 

 

――ドッガァァァァァァァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

 

が、その答えは全く意外な形で示された。

 

突如黒森峰の戦車が集結している場所にティーガーⅠの88mm砲弾が着弾したのだ。それも、有ろう事か上空からだ。

 

 

 

「空からの砲撃!?……一体何処から!!!」

 

 

 

其れを受けたまほは、即座に何が起きたのかを分析する。

 

空からと言う時点で通常の砲撃でない事は明らかだが、だからと言って目視で確認できる高台に明光大付属のティーガーⅠは存在しない。

 

ならば何処から砲撃が来るのか?

 

 

 

「まさか……ティーガーⅠの射程ギリギリの場所から、空に向かって砲撃して砲弾を落としているのか?

 

 不可能ではないが、僅かでも照準がずれたら味方を誤爆する危険がある――から、みほは敢えて包囲せずに此方と距離を開けたのか!」

 

 

 

そう、みほは敢えて明光大付属最強の攻撃力を持つティーガーⅠを奇襲には参加させずに別所で待機させ、準備が整った所でこの変則砲撃を行う役目を与えていたのだ。

 

つまり此れこそが、みほの言う『ドッカン作戦』なのだ。

 

 

尤も、遠方からの、しかも放物線を描いて発射される砲弾だけに、戦車を細かく狙う事は出来ないが、逆に『大体この辺』に落されるのも厄介なのである。

 

当たるか当たらないかは分からないという事は、『当たらない確率の方が高いが、当たる確率は0ではない』という事であり、空から降り注ぐ砲弾が、黒森峰のフラッグ車に直撃する可能性は決してゼロではないのだ。

 

 

如何に優秀な防御力を誇るティーガーⅠと言えども、真上から攻撃されたら一溜まりもない――ティーガーⅠに限らず、多くの戦車は上面の装甲はあまり厚くなく、上面は最大のウィークポイントなのだから。

 

 

同時に此れは、黒森峰大ピンチだ。

 

空からの予測不可能な砲撃に、周囲からの砲撃……如何に所有戦車の戦力では上回っているとは言え、此のままではジリ貧なのは確実だ。

 

或は、去年までの黒森峰ならばそうなって居ただろう。

 

 

だが――

 

 

 

 

『明光大付属中、ティーガーⅠ行動不能。』

 

 

「え?」

 

 

 

突然の撃破アナウンスに、思わずみほは目を見開いた。

 

変則砲撃を行っていたティーガーⅠのうち1輌が撃破されたのだから当然かもしれないが――此れはみほにとって予想外だったのだろう。

 

しかしここでみほは気付いた――黒森峰の車輌が8輌しかない事に。パンターが2輌足りない事に。

 

 

 

 

『こちらティーガーⅠB車の沢村千尋。

 

 ゴメン隊長、行き成り現れたパンター2輌に撃破されちゃった。部長は何とか離脱したけど、此れじゃあ此のまま作戦は続けられないよ。』

 

 

「いえ、よくやってくれました沢村さん。あとは此方で何とかしますから。

 

 (2輌のパンター……遊撃隊って言う事だね?2輌のパンターって言う事は、遊撃隊のメンバーは逸見さんと赤星さんだよね?

 

  1、2回戦を見る限り、あの二人なら隊長からの指示がなくても動く事が出来るから、遊撃隊にはバッチリ。流石の人選だねお姉ちゃん。)」

 

 

 

 

同時に、明光大付属のティーガーⅠB車が撃破されたが、遊撃隊の存在に気が付く事が出来た。

 

奇襲成功時には、乱戦になった事もあって気付かなかったが、試合開始と同時に、逸見エリカと赤星小梅の乗るパンター2輌は、まほが率いる本隊から離れ、別動隊として行動していたのだ。

 

 

結果として明光大は、ティーガーⅠを1輌失う事となったが、逆に言うならば近坂の乗るA車は無事であるのだ。

 

撃破アナウンスはあくまでも1輌のみ……如何に、エリカと小梅が優秀であっても、中戦車のパンター2輌で、同数のティーガーⅠを撃破するのは、流石に無理だったのだろう。

 

 

 

「全車に通達。

 

 ティーガーⅠが1輌撃破されたので、ドッカン作戦は此れをもって終了し、続いて『ピッカン作戦』を開始しますので、各車準備して下さい。」

 

 

『『『『『『『了解!』』』』』』』

 

 

 

ティーガーⅠB車が撃破されたみほは、即座に頭を切り替え、次の作戦を始める。この切り替えの速さも、みほの武器と言えるだろう。

 

通達を受けた全車車長、そして命令を下したみほ自身も、パンツァージャケットのポケットからサングラスを取り出して着用し、更に逆のポケットから何かを取り出して、黒森峰の戦車目掛けて一斉に投擲!!

 

距離にして50mは離れている、黒森峰の部隊にそれが届いた辺り一体全員どんな肩をしているのか不思議ではあるが(余談だが、みほが投げたのは、最も遠くまで飛びまほの車輌の真ん前に落ちた)、投げられたモノを視認したまほはその顔をこわばらせた。

 

 

投げられたのは、所謂手榴弾と呼ばれるものだが、其れは只の手榴弾ではないからだ。

 

 

 

「――!!全員目を……!!」

 

 

 

 

――カッ!!

 

 

 

 

言い切る前に、その手榴弾が炸裂し、物凄い閃光が煌めき、まほ達の視界を遮る。

 

そう、投げられたのは手投げ式の閃光手榴弾、通称『スタングレネード』と呼ばれる、殺傷能力はないが強烈な光で一時的に視界を奪う力を持っているモノだったのだ。

 

尤も、戦車道に於いては、発煙筒と同じく、緊急事態を知らせる手段として戦車への持ち込みが許可されているモノだから反則ではないが、それをこんな風に使うなど、普通は思いつかないだろう。

 

 

 

「ルールで許可されている持ち込み品をこんな風に使うとはな……本当に、私の予測できる範囲を超えてくる子だ、我が妹は。

 

 咄嗟に目を瞑ったとは言え、流石に7個分のスタングレネードの閃光は、瞼の上からでも視界にダメージを与えて来るか……此れは、視界が完全に回復するまでに、最低でも1分はかかりそうだな。

 

 尤も、今の閃光は、此処から安全に離脱する為の物だろうから、此処で畳み掛けられる事はないだろうが………」

 

 

 

みほの行動に、驚きと若干の(いい意味での)呆れを感じながらも、此処で畳み掛けられる事はないとまほは判断していた。

 

 

 

 

其れは正しい。

 

如何に遮光力の高いサングラスを着用したとは言っても、7個分のスタングレネードの閃光を完全に遮る事は出来ないから、多少の視覚障害は避けられないのだ。

 

だから、一気に畳み掛ける為の一手ではなく、この場所から安全に離脱する為の一手であったのだ。

 

 

事実、閃光が晴れた時、明光大付属の戦車チームは、1輌たりともこの場に残ってはいなかったのだから。

 

 

 

「(マッタク、定石無視の奇襲に始まり、空からの砲撃、そしてスタングレネードでの目暗まし……ルール上合法であるとは言え、正に『なんでもアリ』だなみほ。)

 

 此方隊長車、全車視界は回復したか?」

 

 

『は、はい、何とか。』

 

 

『ようやく目が治ってきました……あ~~、眩しかった~~。』

 

 

「よし、では此れより離脱した明光大付属を追撃する。

 

 だが、今ので分かったと思うが、相手は一体何をしてくるか分からない。各車充分に周囲を警戒しながら進行するように……全車前進!!」

 

 

『『『『『『『了解!!』』』』』』』

 

 

 

視界が回復したまほは、其れを確認すると即座に追撃を指示する。警戒を怠るなと言う事を付け加えて。

 

だが――

 

 

 

 

「ん?あぁ~~~履帯が切られてる~~~!?」

 

 

「うわこっちも!?」

 

 

 

いざ進行と言う所で、ヤークトパンター2輌の履帯が見事に切られている事に気が付いた。

 

なんと、あの閃光の中で、明光大付属のⅢ号2輌が、明光大付属の(今年からの)伝家の宝刀である『履帯切り』をヤークトパンターに対して仕掛けて居たのだ。

 

あの閃光の中で、此れを行うとは中々の度胸だろう。――尤もその効果は絶大だった訳だ。

 

 

 

「~~~!!……履帯の修理を急げ、直り次第進行を開始する。」

 

 

『『了解。』』

 

 

 

結果として、黒森峰は追撃をするための時間を食う羽目になってしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

「まさか、緊急事態を知らせるための閃光弾をあんな風に使うとは思ってもみなかったわみほ。尤も、効果は絶大だったみたいだけどね。」

 

 

「ドッカン作戦が継続不可能になった場合にはこれを考えてたからね。

 

 其れに、緊急事態を知らせる為の物を攻撃に使ってはいけないとは言われてないし、ルール上認められてる物を使ってるんだから無問題♪」

 

 

「物は言い様ね…」

 

 

 

 

ルールで認められてるんだから合法なんですよつぼみさん♪

 

まぁ、其れは其れとして、ドッカン作戦の要だったティーガーⅠが1輌撃破されたのは流石に痛いね……此方の最大火力の1輌が失われた訳だからね。

 

 

近坂部長のティーガーⅠA車が残ってくれたのは僥倖だったけど、私達の火力が低下したのは間違いないし、下手をしたらその火力の差で押し切られる可能性もある――お姉ちゃんが指揮する黒森峰は正に最強だからね。

 

 

加えて、遊撃隊の存在も厄介だね……遊撃隊のせいでティーガーⅠB車を失う事になった訳だから。

 

 

 

 

「それで、此処から如何するのみほ?」

 

 

 

 

如何するかか……先ずは遊撃隊を処理した方が良いかもしれないね。

 

遊撃隊を野放しにしてたら、此方はシャレにならない痛手を被る可能性が高いから、遊撃隊を撃破します!Ⅲ突A車は、私達に付いて来て。

 

 

 

 

「了解!!」

 

 

「お願いします。

 

 其れと近坂部長、私が居ない間の本隊の運営を頼んでも良いですか?――私が戻るまでの間だけ、部隊を部長に預けさせて貰います。」

 

 

「任せなさい西住。貴女が戻るまでの間、部隊を指揮させて貰うから、安心して行ってきなさい。

 

 だから、さっさと遊撃隊とやらを撃破して戻ってきなさい?明光大付属は、貴女が居てこそ、其の力を120%発揮する事が出来るんだから。」

 

 

 

 

了解です。

 

それじゃあ、遊撃隊を撃破しに行くとしようか?……ふふふ、覚悟しておいてね逸見さん、赤星さん。必ず、倒してあげますから!!!

 

 

さぁ、本番は此処からだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

ふぅ、明光大付属のティーガーⅠを1輌だけとは言え撃破出来たのは大きな成果でしょうね…敵の火力を一つ潰す事が出来た訳なのだから。

 

欲を言うなら、2輌とも撃破したかったのだけれど、流石にパンターの火力でティーガーⅠ2輌を撃破するのは、流石に難しかったわね。

 

 

とは言え、こっちはまだ1輌も撃破されてないから、数の上では1輌分だけ有利になったって所ね。

 

尤も、序盤の展開から、流れは明光大付属にあるのは否めないから、流れをこっちに引き寄せる為にも、私達遊撃隊が頑張らないとだわね。

 

 

次は敵本隊に奇襲をかけてみようかしら――

 

 

 

 

――ズドン!!

 

 

 

 

って、何事!?

 

いや、此れは砲撃だろうけど……何で!?

 

 

 

 

「此れは……敵襲ですエリカさん!!アイスブルーのパンターと、Ⅲ突が此方に向かってきています!!」

 

 

 

 

アイスブルーのパンターですって!?

 

其れは明光大付属の隊長車……つまりは、西住みほが搭乗する戦車――其れが此処に居るって言う事は、遊撃隊の存在に気付いて、其れを撃破しに来たと取って間違いないでしょうね。

 

 

「上等じゃない。」

 

 

遊撃隊の存在がバレたのは痛いけど、其れを潰す為に隊長自ら出て来たって言うのは逆に好都合だわ。

 

此処で隊長車を撃破してしまえば、その瞬間に私達の勝利が確定する――私達と同様隊長車がフラッグ車である訳だから、やってやるわ!!

 

 

「行くわよ赤星、敵フラッグ車を撃破するわよ!!」

 

 

「はい、行きましょう逸見さん!!」

 

 

 

 

私達を叩きに来たんでしょうけど、逆に返り討ちにしてやるわ!!

 

隊長が自ら指名してくれた、私達遊撃隊の力がどれだけの物なのか、その身をもって知ってもらおうじゃない?――覚悟なさいよ、西住みほ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 




キャラクター補足





沢村千尋

明光大付属の3年生で、ティーガーⅠB車の車長を務めている。

車長のランクとしては、みほと凛の次に続く、明光大付属のナンバー3の実力をもって居る。

温厚な性格だが、戦車に乗ると性格が一変し、可也好戦的になり、口調も可成り砕けた感じになってしまう、ある意味での二重人格者である。



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Panzer15『準決勝、白熱しまくってます!』

やっぱり戦車道は、こうじゃないとね!Byみほ         そうだな……此れこそが戦車道の真髄だ!!Byまほ


Side:エリカ

 

 

 

敵フラッグ車自ら出張って来たって言う事を考えると、普通ならこちらを低く見てか、或は破れかぶれの突撃の二択なんだけど、あの子は…西住みほに限ってはその限りじゃないわ。

 

 

間違いなく『勝つ為』に、私達遊撃隊を落としに来た事は間違いないでしょうね?

 

ティーガーⅠを1輌失った事で、私達を無視できない存在として、隊長自ら討ちに来たという所でしょうけど、其れは願ってもない事だわ――少なくとも私にとっては!!

 

 

正直な事を言うなら、あの敗戦の日からずっと『もう一度戦いたい』と思っていた――小学校時代の雪辱を、今此処で果たさせて貰うわ!!

 

 

「赤星、行ける?」

 

 

「バッチリですよ、逸見さん♪」

 

 

 

 

なら是非もないわね……西住みほを討つわよ!!

 

彼女の車輌がフラッグ車だから、アレを撃破すればその時点で私達の、黒森峰の勝ちが確定するんだからね。

 

とは言え、相手が相手だけに此れは決して簡単な戦いではないわ……一歩間違えば、私と赤星の両方が撃破されるかもしれないのだから。

 

 

隊長の妹である彼女――西住みほは確かに強いわ……其れこそ、戦い様によっては隊長をも凌駕するだけの力があるのは間違いない。

 

 

だからこそ、此処で負ける訳には行かないのよ!!いや、絶対に勝つ!勝ってみせる!!

 

西住みほ……貴女にだけは絶対にね!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer15

 

『準決勝、白熱しまくってます!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とは言え、西住みほが相手と言うのは、矢張り生易しい物でないのは確かよね?ハッキリ言って、あの子は他の同年代の子とは、格が違うわ。

 

1・2回戦の戦いを見る限り、あの子は小学校の時よりも格段に強くなってるもの。

 

 

勿論、私も黒森峰に入学して、あの頃よりも強くなったけれど、今の私じゃ小梅と2人で挑んで、漸く互角と言うレベルでしょうね。悔しいけれど。

 

加えて、1輌だけじゃなくて、Ⅲ突をお供に連れて来てるから余計にやり辛いわ……Ⅲ突の主砲なら、パンターの装甲を抜けるんですもの。

 

 

さて、如何したものかしらね?

 

 

「何にしても、油断だけはしちゃダメよ赤星?

 

 隊長が『最強の指揮官』と言うなら、妹の方は『無敵の軍神』と言っても過言じゃないし、もっと言わせて貰えば『化け物』でも過言じゃないわ。

 

 隊長と戦う位の気持ちで居ないと、最悪瞬殺されるわ。」

 

 

「だとしても『化け物』は如何かと思いますよ、逸見さん?」

 

 

「だって、微妙に事実よ?」

 

 

 

 

『誰が化け物ですか、誰が!!!』

 

 

「「!!?」」

 

 

 

今のは拡声器での声!?しかもこの声は、西住みほ!?

 

まさかとは思うけど、今の会話が聞こえてたとでも言うの!?……有り得ないわよ幾ら何でも!!

 

互いに目視できる距離ではあるけど、距離は目測で100m以上あるから、こっちの会話なんて聞こえる筈がないのに、なんで今の会話の内容を把握できるのよ!?

 

 

 

 

『疑問に思ってますね?……読唇術です!!』

 

 

「はぁ!?にしたって、この距離で双眼鏡も使わずに、口の動きを見る事なんて出来ないでしょうに!!」

 

 

『此れが西住流!』

 

 

「意味が分からない!!」

 

 

『因みに、やろうと思えば、お姉ちゃんもおなじ事が出来ますよ~~?』

 

 

「嘘でしょう!?」

 

 

あ、でも否定できないかもしれないわね?

 

訓練の時に、何度か『その距離で見えてるんですか隊長』って思った事もあったし……西住の人間は、身体機能も一般人とは異なる次元に達するのかもしれないわね。

 

 

 

 

『本当です……と、余計な事を言いすぎましたね。

 

 私達にとって、貴女達遊撃隊は厄介な存在なので、此処で撃破させて貰います――覚悟は良いですね、逸見さん、赤星さん?』

 

 

 

 

この……態々拡声器使って宣戦布告して来るとか、良い趣味してるじゃない西住みほ!!

 

貴女に言われるまでもなく、私も赤星もとっくに覚悟なんて出来てるわ!!――其れこそ、勝利の為に必要だって言うなら、喜んで捨て駒にだってなる覚悟があるわよ!!

 

 

貴女を撃破して、勝利をこの手にして見せる――勝負よ、西住みほ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

みほが、エリカと小梅の遊撃隊と交戦を開始したのと、略時を同じくして、まほ率いる黒森峰の本隊は、明光大付属の本隊に追い付いていた。

 

履帯を切られたとは言え、其処は王者黒森峰。隊員の戦車修復技術でも、他の学校を上回る水準である為、基準とされている履帯修復タイムを大きく上回った上で修理を完了して、極めて短いタイムロスで追撃が出来たのだ。

 

 

 

「(敵部隊を捕捉したが、ブルーのパンターが居ない?……別行動を取っているというのか?

 

  フラッグ戦に於いて、フラッグ車が本隊から離れての独自行動と言うのはあまり考えられないが……みほならば、簡単に其れを選ぶか。

 

  恐らくはエリカたちを倒しに行ったのだろうが……だが、逆に此れは好機かも知れんな。)」

 

 

 

それでも、捕捉した相手にアイスブルーのパンターが居ない事で、まほは即座に状況を判断する――この辺りの状況判断能力の高さは、流石は王者黒森峰で隊を指揮するだけの事はあるだろう。

 

 

或は、姉としてみほの事を知っているからかもしれないが……だが、まほはみほが不在の本隊を相手に、此れは好機と考えていた。

 

其れは決して間違いではない。

 

 

此の準決勝に於いて、明光大付属は隊長車がフラッグ車なのだ。

 

そのフラッグ車が居ないという事は、明光大の本隊には明確な指揮官が存在していない状態であるとも言える――つまりは、指揮系統が最悪な状態であると考えられるのである。

 

 

確かに其れは間違いではない。否、限りなく正解に近い考えだろう。

 

だがしかし、みほが隊長を務める明光大付属に限っては、通常の正答が正答とは限らないのである。

 

 

 

 

――スドォォォォン!!

 

 

――パシュ!

 

 

 

 

『黒森峰、ヤークトパンター、行動不能。』

 

 

 

 

其れを証明するかのように、黒森峰のヤークトパンター1輌が撃破された――明光大戦車道部の部長である近坂凛が搭乗するティーガーⅠによってだ。

 

 

 

「(……如何にティーガーⅠとは言え、こうも簡単に撃破するとは――!しかも、最も装甲の薄い部分を的確に狙ってくるとはトンでもないな。

 

  いや――其れ以前に、彼女は1・2回戦でフィニッシャーとなった子だったじゃないか……侮って良い相手ではなかった。少し慢心したか。)」

 

 

 

此処にきて、まほは凛の能力の高さを思い知った。

 

みほの陰に隠れていたから気付かなかったが、思い起こせば1・2回戦でフィニッシャーとなったのは、凛の乗るティーガーⅠだったのである。

 

無論それは、みほの指示があったからだと言えるかもしれないが、連続でフィニッシャーになっているという事は、みほが凛の乗るティーガーⅠに、絶対的な信頼を寄せている証とも言えるだろう。

 

信頼しているからこそ、フィニッシャーを任せることが出来るのだから。

 

 

 

「西住が戻って来るまで、部隊を任されたものだから、そう簡単には負けないわ――たとえ相手が、最強の王者である黒森峰であってもね!」

 

 

「ならば、楽しませて貰おうか?」

 

 

 

すれ違いざまに放たれた僅かなセリフ――だが、此れだけでも互いの思いを伝えるには充分だろう。

 

 

 

「気合入れなさいアンタ達!!西住が戻るまで、何としても耐えきるわよ!!」

 

 

「「「「「「はい!!」」」」」」

 

 

 

「向こうのフラッグ車が本隊と合流するまでに、可能な限り相手の戦力を削ぐ!王者の力と言うモノを、連中に思い知らせてやれ!」

 

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 

 

かくして、隊長不在の明光大を一気に叩こうと言う黒森峰と、隊長が戻って来るまで耐える明光大との、両軍入り乱れての戦車戦が開始!!

 

構図的には、攻める黒森峰と守る明光大であり、此れだけ見れば黒森峰が圧倒的に有利なのは火を見るよりも明らかだろう。

 

言うまでもないが、黒森峰は徹底して相手を正面から『押し潰す』戦いを得意としており、本格的に攻勢に出た場合は重戦車主体の圧倒的な火力が、瞬く間に相手の部隊を壊滅させてしまう。

 

 

実際に観客の多くは、黒森峰が攻勢に出た事で『決着がついた』と思ったのだが――しかし、そうはならなかった。

 

 

確かに攻めているのは黒森峰だが、であるにも拘らず明光大の戦車は未だ撃破されていないのだ。

 

無被弾と言う訳ではないが、兎に角直撃を喰らわないように動き、黒森峰自慢の大火力攻撃をものの見事に凌いでいる……が、此れは一つは戦車の性能もあるだろう。

 

明光大の戦車は、2輌のティーガーⅠを除けば、残りは中戦車と中戦車クラスの自走砲であるが、それ故に機動力だけは黒森峰に勝る。

 

強大な火力も直撃しなければ怖くない。足回りの良さを生かしながら、回避と反撃を行っているのである。

 

 

そしてもう一つの要因として、普段の訓練の中で行われている『校内紅白戦』がある。

 

文字通り実戦形式の訓練だが、この訓練の際にみほと別チームになった隊員はハッキリ言って地獄に叩き落されると言っても過言ではない。

 

味方なら頼もしいが、敵に回ると誰よりも恐ろしいのがみほであり、みほ率いるパンターブルーなのだ。

 

的確な指示に、普通では考えられない様な機動、恐ろしいまでの装填速度に正確無比な砲撃……一瞬でも気を抜いたら即撃破されてしまうが故に、パンターブルーを相手に回したチームは、少しでも生き残ろうと動き回り、結果として回避能力が向上して行ったという訳だ。

 

 

 

「強いし、正確な砲撃だけど……」

 

 

「隊長の青パンターの化け物ぶりに比べたら……」

 

 

「何て事ないのよ、おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「よし、よく言ったわ貴女達!!!」

 

 

 

だから直撃は喰らわない。

 

黒森峰の精鋭の砲撃を搔い潜りながら反撃をし、兎に角フラッグ車が戻って来るまで耐えようと必死に、全力で格上の相手とぶつかって行く。

 

其れは、弱小校の大健闘を超える戦いぶりであると言えるだろう。

 

 

 

「よもやこれ程とは驚いたが、一体みほはドレだけ厳しい訓練をしているというのだ?……お姉ちゃん、ちょっと心配になって来たぞ。」

 

 

 

その明光大の奮闘ぶりに、まほはみほが凄まじく厳しい訓練をしているのではないかと勝手に想像して、勝手に明光大の選手を心配していたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激しい戦車戦を展開している本隊とは別に、明光大の別動隊と黒森峰の遊撃隊の戦いも、本隊の戦車戦に引けを取らない激烈なものとなっている……いや、激しさだけならば、此方の方が上かも知れない。

 

 

サンドイエローのパンター2輌を相手に、1輌で互角以上に戦っているアイスブルーのパンター。

 

そして、そのアイスブルーのパンターを援護するオキサイドレッドのⅢ突――計4輌の戦車による戦いは、極めて激しい物になっていたのだ。

 

 

 

「く……流石ね西住みほ!!」

 

 

「こっちは2輌なのに、其れが全然アドバンテージにならないなんて……凄すぎますよみほさんは――!」

 

 

 

しかし実際の所、サンドイエローのパンター――黒森峰の遊撃隊を務めている、エリカと小梅は結構一杯一杯だった。

 

エリカと小梅は、今年の黒森峰の新入生の中でも特出しており、それだけにまほに目をかけて貰って徹底的に鍛えられた……故に、1年生であるにも拘らずレギュラーになったのだが、その2人の力を合わせてもみほには苦戦を強いられていたのだ。

 

 

それでも、みほが単騎で乗り込んで来たのならば未だ楽だっただろうが、お供のⅢ突が厄介だった。

 

殆ど動かずに、支援的な砲撃をしているにすぎないのだが、その砲撃がエリカと小梅にとっては邪魔以外の何物でもない――かといって、撃破する事も出来ないのだ。

 

 

否、撃破する事は難しくないが、Ⅲ突に意識を向けたら、その瞬間にみほのパンターに撃破されるのは目に見えている故にⅢ突に意識を向ける事など出来ないのである。

 

 

 

 

「逸見さんと赤星さん、お姉ちゃんが期待の新人だって言ってただけあって強いなぁ……此れは、楽しくなって来たよ。」

 

 

 

そんなエリカと小梅の心情など知らずに、逆にみほはこの戦いに充実感を感じていた。

 

みほ自身は自覚がないだろうが、西住みほと言う人間は、戦車乗りとしては破格の能力を有しているのだが、それ故に同年代には同じ位の能力を持つ者が殆ど居ない――ともすれば0と言っても過言ではないだろう。

 

 

実際に、校内紅白戦や練習試合、そして1・2回戦に於いて、みほ以上の能力を持つ者は存在しなかった。

 

だからこそ、みほは無意識のうちに『退屈』していたのだが、そんな中で出会ったエリカと小梅に、みほは久しぶりに気分が高揚していたのだ。

 

 

同時にそれは歓喜でもあった――同世代のライバルを得る事が出来たという事に対しての。

 

自分が率いるパンターブルーのクルーは何れも超が付くほど優秀であるから、いざ戦えば楽しめるだろうが、同じ学校であり同じチームでは、それは叶わない事だからと、諦めていた。

 

 

だが、準決勝の舞台で自分と互角に渡り合える相手と出会ったのだから、此れは喜ぶ以外にはないだろう。

 

エリカと小梅は、みほが全力を出さねばならない位の相手であったのだから――尤も、2輌で挑んで互角という事を考えれば、個々の能力ではみほの方が上回っているのだが。

 

 

それでも、同程度の実力を持った相手と言うのは、みほにとっては有り難い物であったのだ。

 

 

 

だからこそ、手加減なしで、全力を持ってして相手をするのだ。

 

己の持てる力の全てを出して、みほはエリカと小梅と戦う――その戦いは、苛烈であり激烈であるが、しかし同時にとても美しくもある。

 

 

当然だ、互いに全力を出しているのだから。その戦いに、闘気と言う名の美しさが備わるのは当然の事であるのだ。

 

だがしかし、この戦いは、突如としてその幕切れを迎える事になる。

 

 

 

 

――ズドォォォォォン!!!

 

 

 

――ガクン……!!

 

 

 

「!?」

 

 

 

激しい戦車戦の最中、Ⅲ突の放った砲撃が、小梅のパンターの足元に着弾し、その姿勢を大きく崩させたのだ。

 

如何に足回りの良いパンターと言えど、足場が崩されてはどうしようもなく、Ⅲ突の砲撃で崩された地面に足を取られて動く事が出来なくなったのである。

 

 

勿論、Ⅲ突は狙ってやった訳ではないが、それが結果として小梅の動きを封じるに至ったのだから、受勲モノの働きであったと言えるだろう。

 

そして、動きを止めた相手を見過ごすようなみほではない。

 

 

 

「頂きます!!」

 

 

「!!」

 

 

 

即座に小梅のパンターの側面に移動して、主砲一発!!!!

 

 

 

 

――パシュン!!

 

 

 

 

其れは効果抜群であり、小梅のパンターから白旗が上がる。

 

見事な撃破だが、此れはエリカからしたら最悪以外の何物でもないだろう。小梅と2人で挑んで漸く互角だったのに、小梅が撃破されたとなれば、ハッキリ言って勝ち目はないのだから。

 

 

だが、そんな状況でもエリカの闘志は消えていなかった。

 

 

 

「(赤星が撃破されたのは痛いけど……だからと言って、負けた訳じゃない!

 

  フラッグ車が撃破されない限りは、負けじゃない――逆に言うなら、フラッグ車さえ撃破してしまえば其処で終わり……だから、アンタは私が倒すわ、西住みほ!)」

 

 

 

しかし、そんなエリカの思いに反比例するように、パンターブルーとⅢ突はエリカへの追撃は行わずに、その場から後退を始めたのだ。

 

逃げると言う訳ではない……此れもみほが決めた事なのだ。

 

 

遊撃隊を1輌撃破して、イケイケムードになりかけたのは事実だが、敵フラッグ車を撃破した訳ではないからまだ試合は終わって居ないという事を告げると、本隊との合流を指示して即後退に打って出たのだ。

 

 

 

「でもさ隊長、もう1輌も撃破しても良かったんじゃない?――2輌とも撃破しちゃった方が良いと思うんだけど?」

 

 

「確かにそうかもしれませんが、其れをやったら更に時間がかかって本隊の方が全滅しかねません――そうなったら、勝率は略0%ですから。

 

 其れに、1輌では遊撃隊は務まりませんから、此れで遊撃隊壊滅と言っても良い感じです――だから此処は、本隊と合流して敵フラッグ車を撃破するのが最上策なんですよ翠さん。」

 

 

「な~~る、納得した!」

 

 

 

あくまでも勝利のための戦略的撤退だが、エリカからしたら面白くないだろう。倒すと心に決めた矢先に、相手が後退し始めたのだから。

 

当然逃がさないと、追撃を――

 

 

 

 

『逸見、聞こえるか逸見!!』

 

 

「隊長?」

 

 

 

しようとしたところで、隊長であるまほから通信が入った。

 

 

 

『そちらの状況はどうなっている?』

 

 

「……小梅のパンターが撃破され、相手は其れを期に後退を始めました。」

 

 

『そうか……という事は、成程な。

 

 では逸見、遊撃はもう良いから、本隊に合流してくれ――正直、みほが本隊と合流したら、このまま押し切る事は出来ないだろうからな。』

 

 

「――!!……了解しました!!」

 

 

 

其れは事実上の遊撃隊解散通告だったのだが、まほの様子から全てを察して本体への合流を了解し、即行動に移す。

 

とは言え、其れは決して穏やかなモノではく、みほに対しての攻撃の手を休めない状態での移動ではあったのだが……ともあれ、みほもエリカも、夫々の本隊との合流が出来るのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、場面は再び本隊の戦車戦に移るが……地力で劣る明光大は、徐々に黒森峰の圧倒的な攻撃力の前に屈して行った。

 

如何に回避能力が優れているとは言え、全ての砲撃を回避できる訳がある筈もなく、ギリギリで避けた所に、別の砲撃が突き刺さると言った事が起こり、明光大本隊の残存戦力はティーガーⅠ1輌と、Ⅲ突が1輌のみ。

 

対する黒森峰本隊の残存戦力は、凛のティーガーⅠにヤークトパンター1輌が撃破されただけで、他は無傷で、7輌が健在なのだ。

 

 

圧倒的なアドバンテージの差……

 

 

 

「(此処まで……か。)」

 

 

 

其れに、凛も思わず終わりを覚悟するが……そうは問屋が卸さない!!

 

 

 

 

「お待たせしました!!」

 

 

「たっだいまーーーー!!!」

 

 

 

 

茂みの中からアイスブルーのパンターと、オキサイドレッドのⅢ突が現れ、其のまま黒森峰の戦車部隊を強襲!!

 

 

 

――ズドン!!

 

 

――ドガァ!!!

 

 

――ドォォォン!!

 

 

 

――パシュン!パシュン!パシュン!!

 

 

 

 

そして瞬く間に、アイスブルーのパンターがティーガーⅠ2輌を、Ⅲ突がヤークトパンター1輌を撃破し、一気に黒森峰の戦力を低下させたのだ。

 

これで、総車輌数はみほ達が合流した明光大4輌で、エリカが合流した黒森峰が5輌と、差はなくなっていた。

 

 

 

「ったく、派手な登場ね西住?……だけど待ってたわよ。

 

 とは言っても、可也やられちゃったから、残存戦力には不安があるけれどね。」

 

 

「いえ、黒森峰を相手によく耐えてくれました……其れに、此れだけの戦力が残っているのならば十分です――此れだけあれば、黒森峰とも充分にやり合うことが出来ますから。」

 

 

「マジで?……いえ、アンタがそう言うならそうなんでしょうね――ならどうする、西住隊長?」

 

 

「此処で決めます!!とは言え、お姉ちゃんは簡単に撃破出来る相手ではないので、サポートをお願いします近坂部長。」

 

 

「OK、任せなさい!」

 

 

 

 

 

「一気に3輌撃破とは……流石だなみほ。

 

 此れで戦力差は殆どなくなった上に、隊長が合流し、更には一気に3輌撃破した向こうに流れが傾いているのは間違いないか……ならば此処で、決めねば此方が不利になるか……

 

 よし、敵フラッグ車を叩く!!逸見、サポートしろ!!」

 

 

「了解!!」

 

 

 

だから、みほもまほも、此処が決戦の時と判断し、互いに最も信頼している相手にサポートを頼んで、フラッグ車の撃破に乗り出したのだ。

 

同時にそれは、西住姉妹の直接対決に他ならない――明光大も黒森峰も、フラッグ車は隊長車であるのだから。

 

 

 

「負けないよ、お姉ちゃん――!!」

 

 

 

「見せてもらうぞみほ……お前が其処で得た物をな。」

 

 

 

 

今此処に、最強の姉妹対決の幕が切って落とされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 




キャラクター補足





柴沼翠

明光大のⅢ突A車の車長を務める生徒で、性格は明るく、誰とでも友達になれるタイプの子。

戦車道は初心者だが、自分が乗る事になったⅢ突を相棒の様に考えていて、その思い入れは可成り強い。



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Panzer16『燃え上がる戦車道魂です!』

遂に決着だね――!Byみほ         果たして、勝ったのは何方なのか…Byまほ


Side:しほ

 

 

 

出来れば、会場に足を運びたかったのだけれど、どうしても外せない用事があったから、結局テレビ中継での観戦になってしまったわね、まほとみほの直接対決である準決勝は。

 

 

地力で言うならば黒森峰の方が圧倒的に上だけれど、みほが率いる明光大はその実力差を『工夫』と『粘り』で補って、ともすれば全体的な戦局では黒森峰を上回っているわ。

 

もしも、黒森峰がパンター2輌の遊撃隊を編成してなかったら、最初の奇襲から繋がれた頭上からの砲撃で終わっていた可能性が高いわね。

 

 

だけど、遊撃隊が居たからそうはならなかった……まほもみほも、互いに勝つ為の作戦を確りと立てて、その上でこの最終局面という訳か。

 

 

「総合能力は略互角――となれば、何方が勝つ為の三要素の一つである『運』を引き寄せられるかにかかっているわね。」

 

 

「そして、まほお嬢様も、みほお嬢様も、何方も其れを引き寄せる力をもって居る――故に予想がつかないのでしょう奥様?」

 

 

「えぇ、全く予想がつかないわ。

 

 まほもみほも私の娘だけど、あの子達は私を凌駕する力を秘めているから、だから此処からどうなるのかが全然予想がつかないのよ菊代。」

 

 

「それで良いのではないですか?其れはつまり、お嬢様達は予想以上に成長していたという事なのですから……そうでしょう、しほちゃん?」

 

 

「ぶほあぁ!?」

 

 

げほ、ごほ……だから、その呼び方は止めろって言ってるでしょう菊代!!

 

全くもって、貴女にしろ千代にしろ好子にしろ、なんだって私の事をそう呼ぶかしらね!?『ちゃん』て言うガラじゃないでしょう私は!!!!

 

 

 

 

「島田流家元は、『だが其れが良い』と仰ってましたよ?」

 

 

「OK、近い内に千代はシメた方が良さそうね。主にマウスの128mm砲で。」

 

 

じゃなくて、今は黒森峰と明光大の試合よ!!

 

互いに護衛を引き連れてのフラッグ車同士の直接対決――まほもみほも実力が伯仲しているから、何方が勝つなんて言う事は言えないけど、どちらも思い切りやってきなさい。

 

全力でやり合ったのならば、勝っても負けても、其れは良い経験になるでしょうからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer16

 

『燃え上がる戦車道魂です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

事実上フラッグ車同士の直接対決となった準決勝の第2試合は、此れが決勝戦だと言っても過言ではない位に超爆裂にヒートアップしていた。

 

その直接対決の舞台に上がるのは、明光大はパンターとティーガーⅠ。黒森峰はティーガーⅠとパンターと言う、まるで鏡合わせのような組み合わせなのだ。

 

明光大はパンターがフラッグ車で、ティーガーⅠが護衛。黒森峰はティーガーⅠがフラッグ車で、パンターが護衛と言う違いはあるのだが。

 

 

しかし、違いは此れだけではない。

 

 

 

「パンターならティーガーⅠの正面装甲を抜く事は出来ますけれど、『食事の角度』を取られたら抜く事は出来ません。

 

 なので敵フラッグ車を撃破するには、側面か後面に回り込む必要がある…可也無茶な操縦をお願いしますけど、行けますかつぼみさん?」

 

 

「勿論よみほさん!!

 

 相手は大戦期最強の重戦車だけれど、明光大一の俊足からは逃げられないし、捕らえる事も出来ないって教えてあげるわ!!」

 

 

「お願いします。

 

 近坂部長は、敵パンターの牽制をお願いします。ティーガーⅠの主砲なら、パンターの何処に当てても撃破出来ますから、狙われるだけでも可成りの牽制になる筈です。」

 

 

『OK、任されたわ……隊長!』

 

 

 

 

「パンターは最強クラスの中戦車だが、ティーガーⅠの88mmアハトアハトならばどこに当てても撃破出来る。

 

 だから、何処でも良いから敵パンターに当てろ――逸見も敵ティーガーの隙を見て敵フラッグ車を狙え!!」

 

 

「了解!!」

 

 

『了解しました、隊長!!』

 

 

 

 

戦っているのは明光大も黒森峰もパンターG型とティーガーⅠだが、フラッグ車と護衛の立ち位置が反対であるため、その戦い方はまるで違う。

 

まほは、フラッグ車の攻守力で勝る点を生かし、その火力でみほの乗るアイスブルーのパンターを押し切ろうとし、エリカの乗るパンターにもフラッグ車を狙わせる――最強クラスの重戦車と中戦車のコンビで蹂躙する戦術だ。

 

 

逆にみほは、凛の乗るティーガーⅠにエリカの乗るパンターの牽制(または足止め)を頼み、自分はまほの乗るティーガーⅠと1対1の状況下での戦いを挑む。

 

普通なら、パンターでティーガーⅠに挑むのは分が悪いのだが、みほは仲間を信じているからこの戦い方を選択したのだ。

 

 

凛ならば敵パンターを何とか此方に攻撃させないようにしてくれるだろう。

 

つぼみならば、相手の攻撃を回避または直撃を喰らわないように、そして多少は無茶な操縦だって熟してしまうだろう。

 

ティーガーⅠの弱点である後面を取る事が出来たら、ナオミが確実に其処を撃ち抜いてくれるだろう。

 

青子も、頼めば持っと速く装填してくれるだろう。

 

何よりも、残った仲間達は、試合が終わるまで絶対に持ち堪えてくれるだろう――これ等の、仲間への絶対的な信頼があればこそ、機動力以外の性能では劣るパンターで、最強重戦車の名を冠するティーガーⅠに挑んだのだ。

 

 

 

「回避!そして撃て!!」

 

 

 

「多少の被弾は無視しろ。食事の角度を取って居れば正面装甲が抜かれる事はない。後面を取られないように注意しろ!!」

 

 

 

その戦いは正に熾烈!

 

機動力を武器にティーガーⅠを攻めるみほのパンターに対し、まほのティーガーⅠは装甲の堅さに物を言わせて多少の被弾は無視し、強力な88mm砲でパンターを攻め立てる。

 

 

鋼鉄の豹と虎の戦いは何方も一歩も退かずなのである。

 

 

 

そして其れは、夫々立引き連れてきた者達も同様だ。

 

 

 

「攻撃の手を休めるんじゃないわ!主砲だけじゃなく、機銃も使って兎に角攻撃!

 

 相手のパンターに、西住のパンターを攻撃する機会を与えるんじゃないわ!!さっきの『ドッカン作戦』を応用してでも、アイツ等は止める!」

 

 

 

「この……なんて激しい攻撃――!此れじゃあ、フラッグ車を狙うどころじゃないわ!!

 

 てか、此れだけの戦車乗りが居たのに去年まで1回戦負けって、去年の隊長って言うのはトンデモナイ盆暗だったとしか思えないわよ!?

 

 この戦車の動かしかた、大凡弱小校の選手の物じゃないわ。」

 

 

 

凛の乗るティーガーⅠが、エリカの乗るパンターを果敢に攻め立て、みほの乗るパンターへの攻撃を封じていたのである。

 

無論エリカとて、其れを振りきろうと砲撃し、機動力を生かして距離を開けようとするのだが、砲撃は『食事の角度』で受け流され、距離を開けようとすれば、先刻の『ドッカン作戦』宜しく、空から降ってきた砲弾が進行方向に着弾して、一瞬とは言え足を止められる。

 

 

こんな状況なら、並の戦車乗りならば参ってしまうだろうが――しかしエリカは並の戦車乗りではない。

 

元々気の強いエリカだが、その気の強さは戦車道でもぶれる事なく発揮され、剥き出しにされた闘争本能はあらゆる相手を喰い破って来た。

 

その苛烈さは凄まじく、小学校の時分に、当時ジュニアユースの代表に選ばれていたまほに勝負を挑んだくらいなのだ。――負けはしたが。

 

更に言うなら、小学校時代のエリカの公式記録はみほ以外には負けていないと言う、事実上の小学生ナンバー2だったのだ。

 

 

だから、このままやられている等と言う選択肢は存在しなかった。

 

 

 

「このままじゃ埒があかないわ……だから、此れより敵ティーガーⅠとやり合うわ。アレを何とかしない限り、隊長の援護は出来ないからね。

 

 とは言え、あのティーガーの車長は、下手をしたら隊長と同レベルかも知れないから、気合入れて行くわよ!!」

 

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

此処で、防御と回避から一転しての攻勢に出る。

 

此れは或いは、『みほのパンターがティーガーに挑んでいるのならば、私にだって其れは出来る筈だ』と言う、エリカのみほに対するライバル心が取らせた行動なのかも知れないが、しかしその効果は小さくないだろう。

 

 

 

「此処で攻勢に回った?……成程、アンタは私と同類って事か。攻撃上等って事ね!!

 

 上等!否、面白いじゃない――西住に任された以上、アンタを徹底的に足止めするのが私の役目だからね――望み通り受けてやるわ!!」

 

 

 

 

 

「一気呵成に攻めて撃破する!!隊長に頼まれた以上、護衛にかまけて何も出来なかったなんて言うのはゴメンだわ!!

 

 敵ティーガーを撃破出来ないまでも、何とか隙を作って隊長の加勢に行くわよ!!――此処を突破できるかどうかが勝負の分かれ目だわ!」

 

 

 

エリカの乗るパンターは、すぐさま方向転換し、凛のティーガーⅠに向かって行き、凛も其れに応える。

 

互いに『西住』の命令を受けた以上、退く事は出来ない――否、元より退くなどと言う選択肢が有り得ないのである!

 

 

 

「私とやり合う気?……良い度胸ね、嘴の黄色い鼻垂れの青二才が。

 

 まぁ、可也できるみたいだけど、敢えて言わせて貰うわ――己の格ってモノを知りなさい?」

 

 

「その言葉、そっくりそのまま貴女に返すわ――貴女こそ、私を1年生だからって甘く見てると痛い目を見るわよ?

 

 尤も、万年1回戦負けの弱小校のレベルなんてたかが知れてるけどね。」

 

 

「OK、買ったわその喧嘩。」

 

 

 

だからこそ、この挑発合戦。

 

凛もエリカも互いに笑顔だが、その笑顔は穏やかなモノではなく、獲物を見つけた肉食獣が牙を剥いたかの如くである『獰猛な笑顔』その物。

 

フラッグ車同士だけでなく、そのお供である鋼鉄の虎と豹もまた、凄まじいまでの攻防を繰り広げているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もっと言うのならば、苛烈な戦闘状況なのはみほとまほだけではない。

 

残された明光大と黒森峰の戦車もまた、熾烈な戦いを展開していた――其れこそ、此れが決勝戦ではないのかと思わせる位にだ。

 

 

明光大のⅢ突2輌と、黒森峰のラング2輌とパンターの、合計5輌の戦車が凄まじいまでの戦車戦を展開してくれていたのである。

 

無論戦車の性能的な事を言うならばパンターを有する黒森峰に圧倒的なアドバンテージがあるのは間違いないだろう。

 

そもそもⅢ突には回転砲塔がない事を考えれば、何方に利があるかなどは、戦車道の素人でも分かる筈だ。(ラングにも回転砲塔はないが。)

 

 

だがしかし――

 

 

 

「絶対退くな!試合が終わるまであきらめるなーーーー!!!」

 

 

「王者黒森峰が如何したぁ!!明光大付属舐めんなよぉ!!!」

 

 

 

圧倒的に劣る戦力でありながら、明光大付属の残存戦力は、黒森峰の残存戦力と同等に……否、僅かながらに上回って戦っていたのだ。

 

 

勿論戦車の性能と地力では黒森峰の方が上だが、この局面で隊員の質が顕わになったと言えるだろう。

 

決して黒森峰の隊員の質が低いという訳ではない。

 

寧ろ、黒森峰の戦車道の隊員は、今直ぐにでも有名高校からスカウトが来ても不思議ではないレベルの手練れだが――しかし、それは隊長であるまほが居ればこそのモノでもあるのだ。

 

 

まほの指揮下にあれば、成程彼女達は確かに最強だろう。――だがしかし、まほの指揮下から離れてしまったらどうだろうか?

 

例えば今みたいに、まほが敵フラッグ車との直接対決状態になって他の部隊に指示を送る事が出来なくなっている状態になったのならば……

 

 

 

答えは言うまでもなく、大混乱とは行かずとも、残された部隊は困惑するだろう――何をすべきかの指示がなくなってしまったのだから。

 

いや、それでも残存部隊に副隊長が残っていたならば話は変わったのだろうが、その副隊長の乗るティーガーⅠは、みほが駆け付けた際に撃破されてしまい、本当に指示なしの状態に陥っているのである。

 

 

隊長の援護に向かうか、それとも明光大の残存戦力を押さえつけるか、そのどちらを行えばいいのか判断がついていない。

 

 

それに対して明光大の残存戦力は、黒森峰のフラッグ車の事は完全にみほと凛に任せ、自分達は黒森峰の残存戦力を足止めする事だけを考えて行動している。

 

もっと言うのならば、みほが凛を引き連れて行った瞬間に、自分達が何をすべきか悟ったと言ってもいいだろう。

 

 

誤解なきように言っておくと、黒森峰の隊員の質は決して低くない。寧ろ、戦車道における最上級の名門校であるのだから、其処でレギュラーを務める隊員は、出場校の中でも最高水準なのは間違いない。

 

 

がしかし、だからこそこれまでの経験が、必ずしもプラスに働くとは限らない。特に、黒森峰だとそうだろう。

 

常に圧倒的な力を持ってして、圧倒的な勝利をもぎ取って来ただけに、多少の抵抗ならば兎も角、今回の様に徹底して食い下がられると冷静さを欠いてしまう部分があるのだ。

 

 

逆に明光大付属の残存戦力であるⅢ突2輌のクルーは全員が1年生であり、今年から戦車道を始めた素人と言っても過言ではない集団だ。

 

だが、それだけに変な癖はついておらず、よく言えば臨機応変な、悪く言えば行き当たりばったりな対応が出来る故に、ある意味では柔軟な対応が出来るのである。

 

 

 

「撃てー!!ぜったいにアイツ等を、隊長の方に行かせるんじゃないわよ!!」

 

 

「王者黒森峰がなんぼのモノよ!!叩きのめすわよ……おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

「く、応戦よ!!応戦しなさい!!」

 

 

「先ずはコイツ等を撃破するわ!其の後で隊長の援護に向かうわよ!!」

 

 

 

――バシュン

 

 

 

『黒森峰、パンター走行不能。』

 

 

 

「あ、ごめん。やられちゃった♪」

 

 

「「何してんのよこの大馬鹿者ォ!!」」

 

 

 

その混戦の最中で、黒森峰のパンターが撃破され、残存戦力は互角となった。

 

しかも何の因果か、残っているのは明光大がⅢ突2輌で黒森峰がラング2輌と言う、自走砲同士のぶつかり合いになったのである。

 

加えて、Ⅲ突とラングは夫々能力の差異はあるが、総合的な能力で言うのならば略互角――其れを考えれば、残存戦力同士のぶつかり合いがどちらも譲らずの戦いになるのは火を見るより明らかだ。

 

 

 

「Ⅲ突の底力、見せてあげるわ!!」

 

 

「ぽっと出の弱小校風情が思い上がるなぁ!!」

 

 

 

そしてぶつかり合う弱小校の意地と、絶対王者のプライド。此方の戦いも、まだ決まりそうにはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、みほとまほの直接対決も、未だに決着がついていない。

 

互いにノーダメージではないが、しかし決定打も喰らっていない……装甲に多少の傷はついているが、其れだけであるのだ。

 

 

鋼鉄の虎の牙は敵を捕らえきる事が出来ないが、鋼鉄の豹の牙もまた敵の喉笛を嚙み千切る事が出来ない故に未だに決着付かずなのだ。

 

 

 

とは言え、此のままでは埒があかない。

 

このまま戦い続けた所で、互いの砲弾を打ち尽くしても決着はつかないだろう――だからこそ、此処でみほは決断した。

 

 

 

「ティーガーⅠの後を強引に取って、其れで決めます!

 

 可也無茶な操縦をする事になりますけど、行けますかつぼみさん?」

 

 

「勿論よみほさん!!

 

 可也無茶な操縦でも、必要ならばやって見せるわ!!」

 

 

「お願いします。其れと青子さん、装填速度をもっと速くできますか?」

 

 

「任せな!コンマ1秒単位で修正してやんぜ!!」

 

 

「なら問題ないですね。――ナオミさん。」

 

 

「任せなさい、敵フラッグ車の後面を取ったら、確実に撃破してやるわ。」

 

 

 

此処でまほのティーガーⅠに本格的に仕掛ける事を。

 

其れは綱渡りのような選択で、一つ間違えば即死に直結しかねない物だったが、みほはこの仲間達ならば出来ると信じていた。だからこそ、無茶とも言える命令を下したのだ。

 

 

 

「行きます!!」

 

 

 

そして、みほの号令と共にアイスブルーのパンターは、まほのティーガーⅠに向かって突進!!

 

無論ティーガーⅠからは砲撃されるが、其れはつぼみの類稀なる操縦技術で回避!回避!!超回避!!当てられるモノなら当ててみろだ。

 

 

88mm砲弾の雨嵐を掻い潜って、あと少しでティーガーⅠに肉薄する――

 

 

 

 

――グラァ……

 

 

 

 

その瞬間で、みほ達にとっては何とも不運な事が起きてくれた。

 

この戦いの中で、砲弾を受けて幹を抉られた木が限界を迎えて根元から折れ、突撃を開始したみほ達のパンターの方に倒れて来たのである。

 

 

 

「!!き、緊急回避!!!」

 

 

「り、了解!!!」

 

 

 

これに押し潰されてしまったら、白旗判定は免れない。

 

だからこそ緊急回避をしたのだが……

 

 

 

――ブチィ!!

 

 

 

此処で、アイスブルーのパンターの履帯が切れた。

 

激しく動き回り、更に倒木を避ける為にドリフトめいた動きをしてしまった事で、遂に履帯が限界を迎えてしまったのだ……不運としか言えない。

 

それでも、戦闘行為は可能なので白旗は上がって居ないが、足が死んでしまったら、其れは相手にとって格好の的でしかない。

 

 

当然、まほの乗るティーガーⅠはみほのパンターに照準を合わせているが……

 

 

 

「させないわよ!!敵フラッグ車に攻撃!」

 

 

 

此処で凛が、黒森根のフラッグ車に攻撃を敢行!!

 

其れは正しい判断だったが、フラッグ車への攻撃を敢行したという事は、エリカの乗るパンターがフリーになる事でもある。

 

 

 

「隙が出来た……これで終わりよ!!」

 

 

 

その隙をエリカが見逃す筈もなく、みほの乗るパンターに対して即座に攻撃!!

 

 

 

 

――ズガァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 

 

夫々が放った砲弾が炸裂した影響で、煙に包まれているが………

 

 

 

――バシュン

 

 

 

『明光大付属中学校、フラッグ車行動不能――黒森峰女学院の勝利です。』

 

 

 

煙が晴れると其処には、白旗を上げるアイスブルーのパンターの姿が。

 

其れはつまり、フラッグ車が撃破された証なのだが……みほのパンターを撃破したのはまほではない。

 

 

 

 

「漸く、小学校の時の借りが返せたわね。」

 

 

 

其れをやったのはエリカ。

 

凛の乗るティーガーⅠの砲身がまほのティーガーⅠに向いた隙に、みほのパンターに照準を合わせ、その後面を見事に撃ち抜いたのである。

 

 

これにより試合は終了。

 

勝ったのは黒森峰だが、絶対王者を相手に此処まで食い下がった明光大付属も見事と言うべきであろう。

 

 

否、此の大健闘を目にして、明光大を『弱小校』と称する者は居ないだろう――明光大付属は、今この瞬間に、強豪の仲間入りをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

負けちゃったか……やっぱりお姉ちゃんは強いね。やっぱり敵わなかったよ。

 

 

 

 

「そうでもないんじゃないか?

 

 あの倒木がなかったら結果は違っていたかもしれない――否、アレがなかったら負けていたのは私の方だ……結果的に、私は2度も木と言うモノに助けられたんだな。

 

 みほが小学校の時に私に挑んで来た時も、結果的には私が勝ったが、木に助けられた部分があったからね。」

 

 

「其れって、エミちゃん達と一緒に戦った時の……言われてみればそうかも知れない。」

 

 

でも、其れは逆を言うなら運がお姉ちゃんに味方したって言う事も出来るから、私は運を引き寄せる事が出来なかったんだね?

 

だけど、今度は負けないよお姉ちゃん?――そして逸見さん!!

 

こう見えて、私は負けず嫌いなんです!!負けっぱなしって言うのは性に合わないから、必ずリベンジさせて貰うから!!

 

 

 

 

「あぁ、何時でも挑んで来い。リベンジを楽しみにしているよみほ。」

 

 

「リベンジって……此れで戦績はイーブンでしょ?――ま、最終決着戦て言うのも悪くないかもしれないけどね?けど、次も勝たせて貰うわ!」

 

 

 

 

上等です!!

 

次に戦う時は絶対に負けないからね!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

逸見が機転を利かせてくれたおかげで勝つ事が出来たが、もしも逸見と赤星の両名が撃破されてしまっていたらこうは成らなかっただろうな。

 

倒木に助けられたとはいえ、逸見が生き残っていたからこそ、勝つ事が出来たと言っても過言ではないのだから。

 

 

何とか勝つ事が出来たが、同時にみほの凄さを肌で感じ取る事になったか……まぁ、姉としては妹の成長は嬉しい物だけれどね。

 

 

ともあれ次は決勝だ。

 

安斎が率いる『愛和学園』は、間違いなく、みほが引き連れて来た明光大付属よりも強いだろうからな……十分な準備をしておくべきだろうね。

 

 

此処まで来たら優勝以外には有り得ない……王者黒森峰の力を持ってして愛和学院を粉砕する!――其れが、王者の務めだからな……!!

 

 

悪いが、今年も勝たせて貰うぞ安斎――!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 



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Panzer17『大会終わって、そして急展開です』

此れは……こう来たかだね?Byみほ         流石に此れは、予想外だったわByナオミ


Side:みほ

 

 

 

大会の結果は準決勝敗退……だけど、ベスト4進出って言うのは決して恥じる物じゃないと思う。

 

って言うか、万年1回戦負けの弱小校がベスト4って言うのは快挙だよ。――お母さんも『よく頑張りましたね』って褒めてくれたからね……お婆ちゃんは、ちょっとアレだったけど。

 

 

で、準決勝が終わった週明けの学校なんだけど……此れは、1回戦突破した時以上だねナオミさん、つぼみさん、青子さん?

 

 

 

 

「幾ら何でも、少し騒ぎ過ぎじゃない此れは?」

 

 

「まぁ、悪い気分ではありませんけれど……」

 

 

「別に良いんじゃねぇか?

 

 てかむしろ誇るべきだろコイツは!!アタシ等の活躍が、学校全体を盛り上げたって事なんだからな!!」

 

 

 

 

まぁ、確かにそうと言えるかもしれないね。

 

だけど流石に『祝!明光大付属中戦車道チームベスト4』の横断幕って言うのはやり過ぎなんじゃないかって思うんだよね?……尤も、其れだけの快挙だったって言う事なのかもしれないけど。

 

 

でも、だったら胸を張って行かないとだね。

 

学校全体が凱旋ムードだから、それに水を注すような行為って言うのは、きっとよくないと思うから、此処は堂々と行くのが最もベストだよね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer17

 

『大会終わって、そして急展開です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で、学校の門を潜ったんだけど…校門でばら撒かれた学校新聞の記事は、流石に持ち上げ過ぎじゃないかぁ?嘘は書いてないけど。

 

 

 

 

『全国中学校戦車道大会に於いて、我が明光大付属中学校の戦車道チームは、破竹の勢いで勝ち進みついには準決勝にまで駒を進めた。

 

 その準決勝の相手は、絶対王者である黒森峰だった。

 

 試合の結果だけを言うのならば黒森峰の勝利だったが、絶対王者を相手に回して一歩も引けを取らぬ戦いを見せた、我が校の戦車道チームの力は全国レベルと見て間違いないだろう。

 

 そして、それを成し遂げた戦車道チームの隊長である『西住みほ』の実力は疑う余地もない。彼女こそ、正に戦車道における『軍神』!!

 

 彼女ならば、きっとこれからも素晴らしい活躍を見せてくれるだろう。此れからの戦車道チームに目が離せない。』

 

 

 

 

幾ら何でも、此れは言い過ぎだよ~~!

 

否、皆の実力が全国でも通用するって言うのは、大会を通じて証明された事だから否定する気は更々ないけど、私の実力はマダマダだよ~。

 

準決勝の結果は、多くの人が『黒森峰は運が良かった』って言うかもしれないけど、私にはお姉ちゃん以上の『運を引き寄せる力』がなかった。

 

だから、あそこで負けちゃった訳だからね……もっともっと頑張らないと。

 

 

 

 

「ん~~~、そうでもねぇんじゃねぇかな?

 

 実際にみほの姉ちゃんと戦ってみたから言える事なんだけど、みほとまほ姉ちゃんの実力には殆ど差がねぇだろ?運を引き寄せる力もだ。

 

 ぶっちゃけて言うなら、総合能力は殆ど五分。今回は、偶々コイントスの結果がまほ姉ちゃんに傾いただけで、実力的には負けてねぇ!!」

 

 

「青子さんの言う通りよみほさん。

 

 あの倒木がなければ、突撃から急旋回してフラッグ車の背後に回り……」

 

 

「ティーガーⅠの唯一にして絶対の弱点である後部を、アタシが撃ち抜いてやったからね。」

 

 

 

 

青子さん、つぼみさん、ナオミさん……うん、ありがとう。確かにアレが無かったら、私達が勝っていたかもしれない可能性は否定できないかも知れないね――号外でも其れに触れてるし。

 

まぁ、そう言う事なら私の実力を評価してるって言う事にするけど、流石に『軍神』は言い過ぎじゃないかな?

 

 

 

 

「そーでもねーだろ?

 

 試しに、左の袖を風にはためかせながら、パンターのキューポラの上で仁王立ちしてるみほを想像してみ?――如何よ?」

 

 

「「凄く軍神です!!」」

 

 

 

 

え~~~!?其れで納得!?

 

って言うか青子さん、なんかすごく具体的過ぎるんですけど、その例え……何となく、そう遠くない未来に其れをやる様な気がするんだけど……

 

 

 

 

「あ~~、するんじゃね?多分確実に。」

 

 

「其れって予言ですか?」

 

 

「うんにゃ、只のヤマ勘。

 

 まぁ、其れは其れとして、其処に更に今度は、ティーガーⅠのキューポラの上で、腕を組んで相手を睨みつけてるまほ姉ちゃんを追加ぁ!!」

 

 

「「ダメだ、勝てる気がしない!!」」

 

 

「え、其処まで?」

 

 

確かに私とお姉ちゃんが組んだら、誰にも負けない自信はあるけど、其処までかなぁ?

 

相当に強い部隊になるって言う事は否定しないよ?お姉ちゃんは最強クラスだし、私だって並の戦車長以上だって言うの位は自覚してるから。

 

だけど、勝てる気がしないレベルではないと思うよ?

 

 

 

 

「あめぇなぁ、みほ。

 

 お前の実力がハンパねぇのは、アタシ等が一番よく知ってるが、まほ姉ちゃんだって半端ねえだろ?しかもみほが技ならまほ姉ちゃんは力。

 

 最高の技と、最高の力が合わさって、其れがかみ合ったら、其れは間違いなく無敵にして最強だ……多分誰も勝つ事は出来ねぇよ。」

 

 

「その意見には賛成ね。

 

 みほとまほさんが力を合わせたら、誰も勝てないんじゃないかと思うわよ?」

 

 

「と言うか、みほさんが敵に回った時点で、対峙したチームの勝率は半分以下にまで落ち込むわ!――まほさん率いる黒森峰を除いては!」

 

 

 

 

其処まで凄いかなぁ、私とお姉ちゃんて。

 

まぁ、確かにお姉ちゃんと同じチームだったら、誰にも負ける気がしないのは否定しないけどね?――もっと言うなら、私の乗る戦車が、アイスブルーのパンターのクルーだったら、確実に負ける気がしないよ。

 

 

 

 

「嬉しい事を言ってくれるじゃないみほ?……なら、其れに応えないのは嘘よね?」

 

 

「もっともっと、操縦技術に磨きをかけないといけないわね?其れこそ不意の倒木だって完璧に避けきれるように!――絶対に至ってやるわ。」

 

 

「なら、アタシはもっと装填速度を早くしねぇとだな?装填速度は速過ぎて悪いって事はねぇだろうからさ♪

 

 何よりも、アタシ等を纏め上げてんのは、最高の車長様だからなぁ?余程の事がない限りは負ける事はねぇって!つか、負けねーっての!」

 

 

 

 

言われてみればさもありなんですね。

 

確かに、余程の事がない限りは、私達が負けるという事は想像すら出来ませんから――この前の準決勝の時みたいな事が起こらない限りは。

 

 

 

 

「なら良いだろ?

 

 アタシ等は、最強の一角に斬り込んだんだ――なら、今度は其処から更に斬り込んでい行くだけの事、だろ?」

 

 

「だよね♪」

 

 

だから、負けて落ち込んでる暇なんて無い。次は負けないように、もっともっと頑張って強くならなくちゃだから――勿論、チーム皆で一緒にね。

 

とは言え、準決勝が終わったばかりで撃破された戦車の修理も終わってないから、今日の部活の時間は今大会全体の反省会と、試合のビデオを見ながらの戦術会議になると思うけどね。

 

それと、お母さんから言われた事も、その時に皆に伝えておかないとね。

 

 

其れじゃあ、今日も一日頑張りましょう。ぱんつぁー、ふぉー!

 

 

 

 

「「「おーーーーーー!」」」

 

 

 

 

という訳で、今日も今日とて学校生活始まりです。

 

……この新聞のせいか、教室に付くまでの間に色んな人に声を掛けられて、更に教室に着いたら着いたで大会の事で『凄かった』とか『マジ感動した』とか、挙げ句の果てには『サインください。西住隊長』とか……なんか、一気に『時の人』になっちゃったみたい。

 

取り敢えずは、青子さんが何とかしてくれたけど、ベスト4で此れだと、若しも黒森峰に勝って決勝進出してたらどうなってたんだろう?

 

 

 

 

……考えない方が良いね、うん。

 

 

 

 

因みに今日の午前中の授業、青子さんは珍しく睡眠学習じゃなかった。

 

理由を聞いたら『何かえらく注目されてるせいで、寝る気にならなかった』とか…意外な所で、戦車道の結果が良い効果を齎したみたいだね♪

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

で、放課後になって部活の時間。

 

大会を振り返っての反省会で多くでた意見は、思った通り『経験不足』だった――流石に、こればっかりはどうしようもない部分があるけど、確かに所々で、経験の浅さが出てたのも事実だからね。

 

 

皆の急成長もあって、其れが致命的な弱点になる事は無かったけど、経験の差が明暗を分ける事は少なくないからね。

 

まぁ、その経験の差は、来年までに色んな所と練習試合をする事で可成り解消されると思うし、お母さんが企画してる事が実現すれば経験不足を補えるだけの『練度』が得られるだろうからね。

 

 

続いての試合のビデオを見ながらの戦術会議では、本当に色んな意見が出て来た感じ。

 

改めて試合を見直したからなんだろうけど、試合中には気付かなったっ点が色々出て来たみたいで、1回戦のあそこではこうした方が効果的だったとか、黒森峰戦での『ドッカン作戦』にはティーガーに護衛をつけた方が良かったとか色々ね。

 

それで、それらを纏めてメモにして、新たな戦術の参考資料が完成。――此れを生かして、来年こそは優勝しないと嘘だよ。

 

 

さて、其れじゃあ一段落した事で皆さんに伝えておかなきゃならない事があるんですけど良いですか?

 

 

 

 

「良いわよ?大切な事なんでしょう?」

 

 

「はい。

 

 まず今週末に行われる大会の決勝戦は、全員で観戦しようと思うので、各自公欠届を出しておいてください。お姉ちゃんが、唯一ライバルと認めた安斎さんが率いる愛和学院と、黒森峰の決勝戦は見るだけでも得る物があると思いますから。

 

 それと、大会が終わった翌日の日曜日に、全員で私の実家に来てください――お母さんが、何か話があるとの事だったので。」

 

 

「決勝戦の観戦は兎も角として、西住流の師範が直々に私達を呼び出すなんて……何て言うか、物凄い事なんじゃないかって思うわ此れは。」

 

 

 

 

固くならなくても大丈夫ですよ近坂部長。

 

お母さんは、単純に私が明光大で得た仲間と会ってみたいだけですから。――尤も、他にも目的はあるんですけれどね。

 

 

それじゃあ、今度の土日はそう言う事で良いですね?

 

 

 

 

「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」

 

 

「って言うか、隊長の家って楽しみ!」

 

 

「隊長のお母さんて、西住流の偉い人なんだよね?……ヤバイ、菓子折りとか用意した方が良いのかな?」

 

 

 

 

尤も、私の家に来るって言う事で軽い衝撃が走ったみたいだけど。

 

取り敢えず、あんまり気にしないで気軽に来てくれると嬉しいかな?お母さんは、切れ長の目のせいでちょっと目に見ると怖い人に見えるけど、実は凄く優しい上に、指導者としても最高レベルの人だから。

 

 

……尤も、お母さんが本気で睨み付けたら、大概の人は震えあがって、縮こまって、何も言えなくなるかもしれないけどね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:凛

 

 

 

決勝戦の結果だけを言うなら、黒森峰が勝ったけど、愛和学院は私達以上に食い下がったわね。

 

勝負自体は、西住まほのティーガーⅠと、安斎千代美のIS-2の一騎打ちの果てに、ほぼ同時に相手に白旗を上げさせて、ビデオ判定の結果本当に僅かの差で、愛和学院の白旗が先に上がって居たという事で黒森峰の勝ち。

 

もしも、後0.5秒IS-2の砲撃が早かったら結果は違ってただろうから、西住まほがライバル認定した安斎千代美って言うのは本当にトンでもない戦車乗りだって言うのが良く分かった――来年は当たるかも知れないから、確りと対策をしておかないとね。

 

 

 

んで、その翌日。

 

明光大の戦車道チーム全員で西住の実家に来た訳だけど……

 

 

「でか……」

 

 

「私の家の5倍は軽くある……」

 

 

「流石は西住流の本家。半端ねぇわこれ。」

 

 

 

 

想像以上の豪邸だったわ此れ!!

 

門から母屋までが、純日本建築の大豪邸!!庭には、鹿威し付きの小池があるし、建物の端から端までが軽く100mはあるでしょ此れ!?

 

加えて庭の方だって広そうだし……

 

 

 

 

「あ、庭の8割は戦車道の訓練場になってるんですよ。

 

 大体、明光大の練習場の倍はあるんじゃないかと思いますよ?西住流の門下生は、其処で色々訓練するんです――お母さんの指導下で。」

 

 

「家に戦車の訓練場って……流石は天下の西住流、設備からして違うわ。」

 

 

「戦車が全てですからね西住は。

 

 さてと、こっちにどうぞ。大広間でお母さんが待っていますから。」

 

 

 

 

そ、そうね。

 

其れじゃあ改めて、お邪魔します――

 

 

 

って、此れは如何言う事?

 

大広間の扉を開けたら、其処には黒森峰の生徒が雁首揃えてたって……人数は私達と同じくらいだけど、如何して黒森峰が此処に居るの?

 

 

 

 

「あれ、早かったねお姉ちゃん?」

 

 

「丁度寄港していたからな。地元だから早いのは当然だろ?

 

 寧ろみほの方こそ思ったよりも早かったんじゃないか?迎えに行って戻って来るんだから、もう少し時間がかかると思っていた――如何に菊代さんが操縦するバートルであったとしてもな。」

 

 

「集合場所と集合時間は決めてあったからね。」

 

 

「成程そう言う事か、納得した。」

 

 

 

 

でも、西住は驚いてない所を見ると、今日此処に黒森峰の面々が居るって事は知ってた訳よね?

 

ん~~~、一体全体何が起こるのか予想できないわね?……つーか、なんか睨み付けて来てるわね黒森峰の奴等の一部が――多分、準決勝で苦戦させらたからなんだろうけど――やんのかコラ!!

 

 

 

――ギン!!

 

 

 

「「「「!!!!」」」」

 

 

 

 

はん、私にメンチ切りで勝とうなんて100万年早いのよ。

 

西住まほ以外で、私の眼力に耐えられるのは、大会で遊撃隊を務めてた車輛の車長位でしょうね――と、此処で西住の母上様の御登場ね?

 

さて、何が始まるのやら。

 

 

 

 

「本日は忙しい中で良く集まってくれました。先ずは黒森峰と明光大の双方に、今日此処に来てくれた事に対する感謝を申し上げます。

 

 さて、既に知っている方もいるでしょうが、私は西住しほ。西住流の現師範であり、黒森峰と明光大の隊長を務めているまほとみほの母です。

 

 先ずは、黒森峰の皆さん、大会優勝おめでとうございます。王者の名に恥じない堂々とした戦いぶり、実に見事でした。」

 

 

「ありがとうございます。その賛辞、謹んでお受けします。」

 

 

 

 

で、自己紹介から、黒森峰への賛辞か。

 

それに対して、頭を下げる西住まほの姿が様になってる事……こう言った様式的な事も徹底的に叩き込まれてるんでしょうね。

 

 

 

 

「そして明光大付属の皆さんも、ベスト4おめでとうございます。

 

 正直な事を言うと1・2回戦を破竹の勢いで勝ち進んだとはいえ、準決勝で黒森峰を相手にあそこまで食い下がるとは思っていませんでした。

 

 或は、あの倒木がなければ勝っていたのは貴女達だったかもしれませんね。」

 

 

 

 

って、予想外に、こっちの事も褒めて来た!?

 

あのその……其れは嬉しい評価ですけど、全ては西住が――みほが居たからです。もしも彼女が居なかったら、私達は準決勝に駒を進める事は出来なかったと思うんです。

 

いえ、彼女だけではなく、パンターブルーの存在がなかったら、私達は今年も1回戦負けだったかもしれません。其れだけ、パンターブルーの存在は明光大にとって大きな物だったんです。

 

 

 

 

「そんな事ないですよ?チーム皆が一丸となったからこそ、あそこまでやれたんです。

 

 誰一人欠けた所で、こうはならなかったと思いますから――このベスト4は、皆で掴んだ結果なんですよ近坂部長。」

 

 

「みほの言う通りだな。この結果はみほ1人で掴んだものではないと、私も思っている。

 

 特に近坂凛だったか?君の戦車乗りとしての能力は相当に高い……現時点では、我が校の逸見よりも高いであろう事は間違いないと思う。

 

 正直な事言うと、あの準決勝の時、みほの護衛を務めていた君と本気でやり合いたくなってしまったからね?……新たなライバルを見つけた気分だったよ。」

 

 

「マジか!?」

 

 

知らない間に、彼女にライバル認定されてたとはね……みほとの日々の訓練で地力が思った以上に底上げされていたのかも知れないわね。

 

だけど、アンタにライバル認定されたって言うのは光栄だわ――今度戦う時は負けないからね?

 

 

 

 

「あぁ、楽しみにしているよ近坂凛。」

 

 

「凛で良いわよ、西住まほ。」

 

 

「なら、私もまほで良い。」

 

 

 

 

予想外にライバルゲットか……まぁ、悪い気分じゃないわね。

 

さて、黒森峰と明光大への賛辞だけが目的じゃないとは思うんだけど、果てさてここから何が起こるのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

明光大付属と黒森峰への賛辞は終わったから、本番は此処からだね?……お姉ちゃんと近坂部長が、良い感じにライバルになったのは嬉しい誤算だったけど♪

 

 

 

 

「さて、黒森峰と明光大、準決勝で直接ぶつかり合った訳だけれど……双方の隊長は、夫々に思った事があったんじゃないかしら?

 

 其れを言って貰って良いかしら?……先ずは、まほから。」

 

 

「そうですね……地力と練度、そして戦車の質では明らかに黒森峰の方が上回っていたのは間違いないと思いますが、其れでありながらあれ程の苦戦を強いられたのは、『想定外』の事態に対しての対処能力が低かったからではないかと。

 

 序盤の電撃戦からの上空からの砲弾攻撃、更にはみほ達が合流した後でのフラッグ車同士の戦い……そのいずれの場面でも、黒森峰の隊員は、自らの考えで動く事が出来ていなかったのではないかと思います。

 

 遊撃隊を務めた逸見と赤星は兎も角として、隊長からの明確な指示が無くなった時の黒森峰は、最強の筈なのに脆い……そう感じました。」

 

 

「ふむ、成程。

 

 ではみほ、貴女は如何ですか?」

 

 

「うん、明光大は皆柔軟にどんな局面にも対応できるから、作戦の大筋を伝えておけば、後はその場その場で各自が考えて行動できるんだけど、如何せん経験差と練度の差は、他校と比較するまでもないと思う。

 

 勿論、それでも皆頑張ってくれたけど、追う立場に加えて追われる立場になった今、もっと質を上げないと来年以降を勝つのは難しいと思う。」

 

 

で、もう1つの目的が、明光大と黒森峰の弱点を、隊長の視点から浮き彫りにする事。

 

其れを浮き彫りにする事で、其れを如何にかして次のステップに進める訳だからね?……そして、お母さんが考えたのはそれだけじゃないよ!

 

 

 

 

「双方、己の弱点は良く分かっている様ですね。

 

 今大会の準決勝を見て、黒森峰は勿論ですが、明光大も更に強くなるだろうという事を確信しています……なので、学校が長期休みに入った後の話になりますが、夏休み中に、黒森峰と明光大の合同合宿をこの西住流道場で行おうと思います。」

 

 

 

「「「「「「「「「「「……はい?」」」」」」」」」」」

 

 

「「「「「「「「「「「え~~~~!?」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

流石に驚くだろうけど、お母さんは伊達や酔狂でこんな事は言わない。

 

この合同合宿で、明光大と黒森峰が更なるステップアップをするって確信してるから、こんな事を言った訳だからね?……私とお姉ちゃんも、そう思ってるから、お母さんの提案を受け入れた訳だしね。

 

 

 

 

「黒森峰との合同合宿か……上等だぁ!!盗めるもん、全部盗んでやんぜ!!」

 

 

「命中精度を上げるには、最高の合宿になりそうだわ。」

 

 

「操縦技術を上げる面でも、同じ事が言えるわね。」

 

 

 

 

で、皆もやる気は満々みたいだから、良かった。――其れに……

 

 

 

 

――バチィ!!

 

 

 

 

逸見さんが、獰猛な笑みを浮かべて視線を向けて来てくれたから、それだけでも、楽しい合宿になる事は間違いないんじゃないかって思うよ。

 

って言うか、何となく逸見さんは、私の生涯のライバルにして友になりそうな気がする。

 

 

 

何れにしても、この合宿で得る物は、きっと大きいよね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer18『いざ、合同合宿の始まりです!!』

明光大の回避率の高さは、みほが原因だったか…Byまほ         いやぁ、其れ程でもないよ♪Byみほ      褒めてないわよ!!Byエリカ


Side:みほ

 

 

 

夏休み前の期末考査は……中間考査に続いて、青子さんが500点満点で、堂々の学年トップの栄誉に輝いたね?――丸暗記恐るべしだよ。

 

で、学年別では、2位以下は戦車道部の面々が独占してるから、此れはもう何とも言えないね?

 

 

 

 

「言えないんじゃないの?

 

 特に隊長が、トップにわずか5点差の2位だったって事を考えれば半端じゃないのは明らかだからね…頭脳的にも、結構チートよねみほは。」

 

 

「流石の隊長だわ♪」

 

 

 

 

褒め言葉と受け取っておきます、ナオミさん、つぼみさん。

 

でも、恐るべきは、青子さんのスタミナだよね?――二徹位だったら普通に普段のテンションを保ってるって、其れは普通はありえない事だよ。

 

普通だったら過労死レベルだけど――

 

 

 

 

「だが、アタシは生きていた!!異論あっか、隊長?」

 

 

「無いです。」

 

 

青子さんなら大丈夫だよね♪

 

問う訳で、夏休みに入ったら、即時黒森峰との合同合宿があるので、その心算で――きっと、合宿であっても、お姉ちゃんは手を抜く何て言う事は絶対にしないだろうからね。

 

 

 

 

「黒森峰との合宿、良い経験になりそうね?」

 

 

「これでアタシ等のレベルアップは間違いねぇだろ!」

 

 

「徹底的に研究して、来年こそは勝たせて貰わないとね。」

 

 

 

 

うんうん、その意気だよ皆♪

 

黒森峰も、準決勝で苦戦した相手との合宿って事で(主に逸見さんが)気合入ってるだろうから、互いに良い経験になるのは間違いないしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer18

 

『いざ、合同合宿の始まりです!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

夏休みに入っての今日からは、西住流道場で、明光大付属の面々との合同合宿だったわね。

 

西住流の本家で、隊長と一緒に合宿が出来るなんて夢の様だわ!――しかも、合同合宿だから、隊長の妹も一緒ってのも、ある意味では嬉しい事ではあるわね。

 

大会で、過去の雪辱を果たしたとは言え、マダマダ実力的にはあの子の方が上なのは間違いない……だけど、自分よりもレベルの高い相手と一緒に訓練するのは、自分のレベルを引き上げるのには最高の方法ですもの。

 

 

 

 

「揃っているな、諸君?」

 

 

「其れでは此れより、明光大付属中学校と黒森峰付属女子中学校の合同合宿を執り行います。」

 

 

 

 

で、全員が揃って此れより合宿開始。

 

合宿場所である西住流道場には一番乗りする心算だったんだけど、略同じタイミングで小梅と、明光大の青パンターのクルーがやって来て、残念ながら一番乗りとは行かなかったのは残念だったわ。

 

……尤も、青パンターのクルーの馬鹿そうな黒髪が、私よりも先に門の中に足入れて『勝った』とか抜かしやがったのには、ちょっとカチンと来たけどね。まぁ、アイツも悪い奴じゃないんだろうけど。

 

 

にしても、隊長と西住みほ、西住姉妹が揃うと物凄く華があるわね?

 

凛とした隊長と、大人しそうだけど芯の強そうな西住みほ……其れが揃うと、華やかな上に物凄く戦車乗りのオーラが満ち溢れてるのだから。

 

 

もしも隊長と西住みほが同じチームになったら、恐らく誰も勝つ事は出来ないんじゃないかしら?

 

剛の隊長と、柔の西住みほの組み合わせは、間違いなく中学最強だと思うし、ともすれば高校戦車道界隈でも無敵街道を貫き、大学戦車道を相手に回しても互角の勝負をしてしまうかもしれないのだから。

 

 

 

 

「では合宿に先駆けて、先ずは互いに普段どんな練習をしているのかを把握しておきたいと思う。」

 

 

「明光大は黒森峰の、黒森峰は明光大の練習を見るという事で――なので、早速行いたいと思います。皆さん準備をお願いします。」

 

 

 

 

で、早速合宿の訓練開始ね。

 

互いにどんな練習をしているのかを知るって言うのは、確かに合同合宿を行うに当たっては必要な事よね?――それによって、合宿での訓練内容も決まって来る訳だからね。

 

 

ま、そう言う事なら何時も通りやらせて貰うだけよ――黒森峰は、実戦ありきの模擬戦主体の訓練だからね。

 

 

実戦に勝る経験なし!!――ぶっちゃけて言うなら、小梅と組めば、隊長が相手じゃない限り訓練で負ける気がしないわ!!

 

準決勝では苦戦を強いられたけど、私達が普段どれだけ激しく厳しい訓練をしているのかという事を知ると良いわ明光大付属の面々!!!

 

 

貴女達も相当に厳しい訓練をして来たのだろうけど、黒森峰の訓練は、ともすれば『いっそ殺してくれ』って言いたくなる程にハードだからね?

 

其れに恐れ戦くと良いわ――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

という訳で、先ずは互いの訓練を披露して貰った訳だが、実戦ありきの黒森峰に対して、明光大は私が思いもよらなかった方法で訓練をしていたみたいだ。

 

 

実戦的な模擬戦は当然だが、其れとは別に、ボードゲーム的な要素を取り入れた訓練と言うのは、私から見ても斬新で見る所があるよ。

 

対戦相手夫々に勝利条件を定めて、行動の成否をダイスの目にゆだねる事で、決まった状況を発生させない……そして、ダイスロールの結果で、如何動くかを各自に考えさせる……悪くない訓練方法だな此れは。

 

 

実戦とシミュレーションを併せた独特の訓練。

 

此れが、明光大全体の被弾率の低さと、隊員個々の『自分で考える力』を鍛えて、準決勝まで伸し上がらせ、我々を追い詰めたという訳か。

 

 

……模擬戦で、みほと違うチームになった隊員の諸君には、少しばかり同情してしまったがな。確かに、アノみほを相手にすれば回避率は嫌でも上がりそうだ。

 

 

「さて、双方の普段の練習を見た訳だが、如何だった?互いに参考になる部分があったと思うのだが。」

 

 

「意見があれば、遠慮なく言って下さい。」

 

 

「意見と言うか、明光大の隊長に質問です。

 

 ボードゲームを使ったシミュレーションは、非常に面白いと思いましたが、矢張り実戦的な訓練の比重を増やした方が、より効率よく地力の底上げが出来ると思うのですけれど……」

 

 

「それは、何と言うか此方の学校の事情が大きいですね。

 

 黒森峰と違い、明光大は陸の学校なので演習場があまり大きくなく、一度派手に壊れると次の日は使えないんです。

 

 加えて、保有車両が大会で使える10輌ピッタリしかないので、整備等で戦車が動かせない事もありますので、それ等を総合的に考えるとアレは絶対に外せない訓練なんですよ。」

 

 

「成程、そう言う事だったんですね。納得しました。」

 

 

 

 

学校側の事情もあったか。

 

まぁ、確かに10輌キッカリしかないのでは、整備や修理をしていたら代わりの戦車がない訳だから実践訓練は不可能だものな?……逆に、黒森峰は売る程戦車がある訳だから、多少整備中でも他の車輌で補えるからね。

 

 

尤も、その環境が結果的に明光大を強くした訳だが。

 

 

 

 

「アタシは、黒森峰は逆にこう言う訓練した方が良いんじゃねーかと思うんだよな~?

 

 地力ではアタシ等を上回ってたのに、略互角の戦いになったって事は、この間まほ姉ちゃんが言ってたみてーに、個々で考えて動くのと、想定外の事態が起きた時への対処が苦手だったからだろ?

 

 つか、さっきの模擬戦見てても、まほ姉ちゃん以外で、自分の考えで動けてたのってパンターに乗ってた銀髪とモジャ髪くれーだったし。」

 

 

 

 

彼女は確か、みほのパンターの装填士だったか?

 

確かに、黒森峰でもあぁ言うシミュレーションは大切だと私も思ったよ。

 

実戦訓練も大事だが、あのボードゲームシミュレーションは、行動の成否がダイスによって決められるから先が読めない。それ故に、その場での咄嗟の判断をしなくてはならないからね。

 

しかし、銀髪とモジャ髪と言うのは、逸見と赤星の事か?……まぁ、間違ってはいないが。

 

 

 

 

「ちょっとアナタ、其れって私と小梅の事かしら?」

 

 

「ん?あぁ、そうそう!オメーと、そのモジャ髪の事。てか、今ので分かるとか鋭いな銀髪?」

 

 

「黒森峰で銀髪なんて私しかいないし、天パだって小梅しかいないわよ!って言うか、銀髪言うな!私は逸見エリカよ!!」

 

 

「赤星小梅です!合宿始まる前に、全員自己紹介しましたよ?」

 

 

「ワリー、半分聞き流してた♪」

 

 

「なら改めて覚えなさい!

 

 因みにだけど、そのネーミングセンスで行くと、アナタ自分のチームメイトにはどんなあだ名をつける訳?」

 

 

「ナオミが短髪、つぼみが赤毛、みほは……軍神以外に何かあるか?」

 

 

「「ない。」」

 

 

「え~~~~?」

 

 

 

 

此れは、何とも場が和んだね?

 

緩みすぎるのはダメだが、気を張り過ぎていても良い事はないからな――特に、黒森峰は規律が厳しいから、どうしても態度が固くなりがちなんだが、如何やら今ので適度に解れたらしい。

 

しかし、みほが『軍神』とは、確かにピッタリかも知れないな。本人的には、許容しがたい物みたいだが。

 

 

さて、少々脱線してしまったが他に意見はないか?遠慮はいらないから、意見があったらどんどん言ってくれ。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

ふむ、矢張り出た多くの意見が、黒森峰の個々の考える能力と想定外の事態への対処能力の低さ、明光大の地力の低さを指すモノが殆どだったな。

 

となると、この合宿は実戦訓練だけでなく、あのボードシミュレーションも取り入れた方が良いだろうね。

 

黒森峰を交えての実戦訓練で明光大の地力を引き上げる事は出来るし、シミュレーションで黒森峰の弱点を鍛える事が出来るだろうからな。

 

基本は其れで如何だろうか、みほ?

 

 

 

 

「うん、其れで良いと思う。

 

 だけど折角だから、実戦訓練の方はただ模擬戦をするだけじゃなく、部隊編成は変えないで互いに隊長だけ交換とか、明光大と黒森峰の1年生チームvs明光大と黒森峰の2・3年生チームの模擬戦とかもアリだと思うよお姉ちゃん。」

 

 

「あぁ、其れは確かに面白そうだな?

 

 特に隊長の入れ替えは面白そうだ。隊長が変わったら、部隊の動きがどう変わるのかと言うのも知っておいて損はない事だからね。」

 

 

取り敢えず、今後の方針は決まったが、今日の午後は如何する?

 

午前中に互いに何時ものやり方とは言え模擬戦を行ってしまったから、午後に改めて模擬戦と言うのも如何かと思うし、シミュレーションを行うにしても準備が出来ていないからな……

 

 

 

 

「だったら午後はフィジカルトレーニングだよ。

 

 良い機会だから、合宿参加者に『西住流フィジカルトレーニング』をやって貰うのも良いんじゃないかな?」

 

 

「んな、西住流フィジカルトレーニングって本気かみほ!?」

 

 

「本気だよお姉ちゃん。

 

 何より、この合同合宿は『強化合宿』でもあるんだから、普段通りの練習をしてただけじゃ、大凡『強化』にはならないだろうからね。」

 

 

 

 

其れはそうかも知れないが、アレをやらせるのは幾ら何でも気が引けるんだが……言い出した以上、みほは絶対に退かないだろうな。

 

どうやらみほは、やるとなったらトコトンやる主義だったか――こんな言い方は如何かと思うが、我が妹は軍神であると同時に鬼だったらしい。

 

 

取り敢えず、死人が出ない事を祈っておくか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

という訳で、午後のフィジカルトレーニング終了。

 

訓練を終えて全然へっちゃらなのは私とお姉ちゃんと青子さん。肩で息してるけど、激しい運動の後位で済んでるのがナオミさんとつぼみさんと近坂部長。黒森峰では、逸見さんと赤星さん。

 

 

それ以外は――

 

 

 

 

「「「「「「「「「「⊂((。。⊂))」」」」」」」」」」

 

 

 

 

死屍累々。

 

情けないなぁ、此れ位で根を上げてちゃ、明日からの合宿は乗り切れないよ?

 

 

 

 

「無茶を言うなみほ、ある意味で拷問レベルとも言える西住流のフィジカルトレーニングを行き成り熟せるほうがおかしいんだ。

 

 私達は幼い頃から行って来たから慣れてるとは言え、そうでない者達に対してはこのトレーニングは劇薬以外の何物でもない……寧ろピンピンしている辛唐さんに驚きだ。

 

 もっと言うなら、KOされなかったメンバーが5人もいた事に驚きだよ。」

 

 

 

 

ほえ?そう言うモノなんだ。

 

私的には此れ位は普通だって思ってたから、正直な事を言うと明光大でのフィジカルトレーニングは可也抑え気味だって思ってたんだよ?

 

だけど、一般的は此れって可成りのハードトレーニングだったんだね……其れは其れでカルチャーショックだけどね。

 

 

でも、多分皆すぐ慣れるんじゃないかな?

 

フィジカルトレーニングでくたばってたらその後の訓練なんて出来ない訳だし、そうなったら合宿の意味がなくなっちゃう訳だからね。

 

 

 

 

「其れに関しては同意するが……改めて、自分がどれだけの事をして来たのか、改めて実感させられてしまうなこの光景は。

 

 しかし今日は此処までだろう?動ける者が8人だけでは如何にもならん――今日は此処で打ち切って、明日からに備えるべきじゃないか?」

 

 

「其れは、そうだね。」

 

 

こんな状況じゃ、これ以上の訓練は出来そうにないからね。

 

それじゃあ、本日の訓練は此処までとします。西住道場の大浴場を解放して貰ってますので、其処でしっかりと疲れを取って下さい――明日から、本格的な合宿が始まりますので。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

西住流フィジカルトレーニング……其れがまさか、アレ程とは予想外だったわ。

 

手始めに10kmのランニングから始まって、腕立て・腹筋・スクワットを夫々500回ずつ行ってから、持久力を鍛える為に1時間のシャトルラン。

 

此れだけでも相当だって言うのに、其処から更に綱登りや雲梯運動なんかを熟した訳だから、殆どの参加者がKOされたのは当然だわね。

 

 

其れを熟してケロッとしてる隊長と、西住妹は凄すぎよ。

 

特に西住妹は、腕立てや綱登りも片腕で熟してた訳なんだから……あの子が、ドレだけのレベルに居るのかって言う事は想像もできないわ。

 

 

間違いなく、私や小梅では敵わない次元に居るのは間違いないけれど……この合宿で抜く事は出来なくとも、差を極限まで縮めて見せるわ!

 

 

 

と、決意を新たにしたんだけど、疲れた身体にこの温泉はしみるわね~~~。

 

西住流の大浴場って事で期待はしてたんだけど、これ程の温泉があったとは驚きだわ。――何で、大浴場が露天なのかはこの際突っ込まないけどね。

 

 

 

 

「今日はお疲れ様でした。」

 

 

「うぇい?」

 

 

って、西住妹!!いつの間に。

 

まぁ、確かにお疲れだったかもしれないけど、おかげでやる気が出て来たわ……此れ位熟す事が出来なきゃ、この先何があっても何も出来ないでしょうからね。

 

 

じゃなくて、何でアンタがこっちにいるのよ?

 

アンタのお仲間はあっちよ?来るところ間違えてんじゃない?

 

 

 

 

「間違ってないよ。

 

 準決勝の後から、ずっと逸見さんと赤星さんとは一度お話ししたいなって思ってたの。――準決勝での2人との戦いは、凄く楽しかったから。」

 

 

「楽しかった……ですか?」

 

 

「うん、楽しかった。

 

 正直な事を言うなら、大会の1回戦と2回戦は、本気で戦ったけど面白くなかったんだ、勝てるって確信していたからね。

 

 だけど、準決勝で遊撃隊を務めてた逸見さんと赤星さんとの戦いは本気で戦って、其れで面白かった――お姉ちゃん以外に、此れだけの戦車乗りが居るんだって言う事に喜びを覚えたよ。」

 

 

 

 

ったく、こっちは結構一杯一杯だったってのに、アンタは其れを楽しんでた訳か……勝てない筈だわ。

 

だけど、一杯一杯だったとは言え、私もあの戦いは楽しいと思えたわ――小梅もそう思うでしょ?

 

 

 

 

「はい、あの戦いでは、結果としては撃破されちゃいましたけど、凄く楽しかったです。

 

 其れに撃破された悔しさよりも、もう一度みほさんと戦いたいって言う思いの方が強かったんです――正直な事を言うと、ワクワクしました。」

 

 

「そうなの?」

 

 

 

 

そうなのよ西住妹。

 

小梅が感じた事は、私が小学校の時に感じた事でもあるのよ?

 

アンタとの戦いは、負けた悔しさよりも、また戦いたいって言う思いが強く残るのよ……其れがあったからこそ、私は雪辱を果たす事が出来たという訳なんだけどね。

 

 

何にしても、此の強化合宿でアナタと一緒だった事は、私にとっては嬉しい事だわ。

 

この合宿で、私はアナタを超える事が出来るかも知れない訳だからね――否、超えて見せるわよ西住妹!アナタには、負けたくないからね!

 

 

 

 

「私も、この合宿で越えさせて貰いますよみほさん?」

 

 

「其れは楽しみだよ、逸見さん赤星さん。

 

 だけど、出来るかどうかは兎も角として、その意識が一番大事な事だよね?――自分の限界を突破する意思がなかったら、絶対に伸びる事は無いと思うからね。」

 

 

「言うじゃないの。」

 

 

だけど、其れは真理よね。

 

限界を突破する意思がなければ成長は望めないのは間違いない物ね……或いは、西住妹は自然と意識をそっちに向ける事で明光大を急成長させたのかも知れないわ。――多分、間違ってないはずよ。

 

 

西住みほ……此れだけのライバルと出会えたって言う事は、神様に感謝しても良いかもしれないわ。

 

 

 

 

「逸見さん。」

 

 

「って、何よ、西住妹?」

 

 

 

「炎が……お前を呼んでるぜ。」

 

 

「なら燃え尽きろ……潔くな!」

 

 

って、思わず返しちゃったけど、よくもまぁこんなゲームネタ知ってたわねアナタ?……中々、ユーモアも通じるみたいね?そう言うのは嫌いじゃない――寧ろ、好きよ。

 

 

改めて、合宿中、色々と世話になるけど、宜しくね西住妹。

 

 

 

 

「はい、此方こそ宜しくお願いしますね、逸見さん、赤星さん♪」

 

 

「よろしくお願いしますね、みほさん♪」

 

 

 

 

合縁奇縁か、其れは分からないけど、新たな縁が生まれたのは間違いないわね――この合宿、思った以上に面白い物になるのは確定だわ。

 

この合宿が終わった時に、それだけ自分が強くなっているのか……其れを考えただけでも、ワクワクして来たわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

さて、合宿1日目は無事(?)終わって、各々宛がわれた部屋で過ごしている事だろう。

 

かく言う私も、隊長同士という事でみほと同室になってマッタリと過ごしているのだが――と言うか、一緒の部屋で過ごすなど随分久しぶりだ。

 

 

そう言えばみほ、明光大の戦車の整備は誰がやっているんだ?黒森峰には整備課があるんだが、明光大にはないだろう?

 

 

 

 

「其れについては心配ないよお姉ちゃん。

 

 戦車道チームの子の中に、両親が整備関係の仕事をしてる人が居たから、戦車の整備は其処に一任してるの。だから、整備面では問題はないよ。」

 

 

「そうだったのか。……ミラクルな偶然だが、親が整備関係とは、誰なんだ其の子は?」

 

 

「Ⅲ突B車の車長の『東雲椿姫さん』だよ。

 

 午前中の訓練の時に『おんどりゃぁぁぁぁあ!!』って、絶叫してたあの子。」

 

 

 

 

あぁ、あの子か……印象が強烈だったから、よく覚えているよ。――如何やら、私が思っていた以上に、明光大の整備環境は整っている様だ。

 

だからこそ、この合宿でどれだけ伸びるかが楽しみで仕方ない。

 

 

安斎以外で現れた、私の新たなライバル――其れには、是非とも強くなって貰いたいものだからな?……期待しているぞ、みほ。

 

 

 

 

「勿論、その期待には応えるよお姉ちゃん――来年を楽しみにしておいて。」

 

 

「あぁ、楽しみにしておこう。」

 

 

願わくば、黒森峰の一強時代を終わらせてくれる事を願って居るよ――一強時代が長く続いたら、其れは競技の衰退を招きかねないからな。

 

この合宿で、明光大が更なる躍進をしてくれる事を願わずにはいられない――彼女達は、中学戦車道に新たな息吹を吹き込んだのだからね。

 

 

強化合宿でドレだけ強くなるのか、見せてもらうとするよ明光大戦車道チームの皆さん♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 




キャラクター補足





東雲椿姫

明光大付属中学の1年生で、Ⅲ突B車の車長を務める少女。

普段は物静かだが、いざ戦いとなると性格が豹変して、可也好戦的な性格となる。戦闘中の口癖は『おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!』である。

両親が整備関係の仕事をしている事で、明光大の戦車の整備は彼女の実家が一手に引き受けている。



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Panzer19『合宿2日目は、割と盛沢山です』

だから、此処がこうなって、最後にはこうなるんだよByみほ       ゴメン、全然分からない。Byエリカ


Side:ナオミ

 

 

 

合宿2日目の、早朝5時半。毎日の日課の早朝ランニングに繰り出そうと思ったんだけど、今日は中々の大所帯でのランニングになりそうね?

 

 

 

 

「おはよう、ナオミさん。」

 

 

「君も早朝ランニングか?感心だな。」

 

 

「ま、身体作りは戦車乗りの基本だからね?」

 

 

 

 

みほにまほさん、其れと近坂部長に、つぼみと、それから黒森峰の逸見と赤星まで一緒なんだから。……って言うか、此処にいる全員が早朝ランニングが日課になってた訳か。

 

其れを熟してから、ヘリで通学してるみほって、一体どれだけタフなのか、ちょっと怖くなって来たわ……深く考えない方が良いわね此れは。

 

と言うか、昨日の『フィジカルトレーニング』を考えると、早朝ランニングであっても西住姉妹はとんでもない距離を走るんじゃないかと思うわ。

 

 

ねぇみほ、貴女は普段早朝ランニングでドレだけ走ってるのかしら?

 

 

 

 

「その日によるけど、大体1km~2kmくらいかなぁ?

 

 此れ位なら大した負担にはならないし、終わったころに丁度朝ごはんの時間になるからね♪」

 

 

「そう、其れ位なら安心したわ。」

 

 

もしも、早朝ランニングから、あの頭狂ってるとしか思えないような距離を走るとなったら流石に一緒にという訳にはいかないモノね……本当に西住流は半端じゃないわ。

 

 

何にせよ、合宿2日目も気合を入れて行くわよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer19

 

『合宿2日目は、割と盛沢山です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

という訳で、早朝ランニングを熟した訳だけど……やっぱり隊長も西住妹も普通じゃないわね?

 

昨日のフィジカルトレーニングと比べれば、格段に楽だったとは言え、およそ1.5kmを走り切って平気な顔してるって、幾ら何でも有り得ないわよ……私達だって、倒れるほどではないとは言え、息は荒くなってるって言うのに……一体どれだけのスタミナを有してるのか。

 

 

でも、昨日のトンでもない物を経験したお蔭で、早朝ランニングに参加したメンバーは誰もへこたれなかったわね……合宿2日目にして、その効果が出て来たのかも知れないわ。

 

 

でもって、起床時刻になったから全員を起こすんだけど……まさか、こう来るとは思わなかったわ。

 

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

 

目覚まし代わりに、戦車の空砲を撃つとはね……確かにこの轟音なら、余程の寝坊助でない限りは目を覚ますでしょうね。

 

実際に私も、ランニングの疲れが吹き飛んで、改めて目が覚めたのだから。

 

西住流起床術の効果は、馬鹿に出来ないモノがあるわね?……此れが、西住流公認であるかどうかは別としてだけれど。

 

 

 

 

『おはよう、合宿に参加している諸君。起床の時間だ。』

 

 

『朝ですよ~~?

 

 起きて、顔洗って、着替えたら大広間で朝ごはんにしましょうね~?其れが終わったら、今日の訓練開始です。今日も頑張りましょう!♪』

 

 

 

 

で、西住姉妹からの起床の呼びかけ……此れはもう、戦車乗りとしては贅沢の極みね。……拡声器使ってるのは兎も角として。

 

だからこそ、この合宿で己を伸ばす事が出来ないと嘘だわ――最高に尊敬できる隊長と、最高のライバルが一緒なんだから、伸びて然りって言うモノなんだから。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

で、午前中の訓練は明光大でやってるって言ってた、ボードゲームを応用してのシミュレーション。ダイスの目で行動が決定されるから、即座の判断力を鍛えるのにはもってこいね。

 

 

使うサイコロは白と赤の2つを使い、白が移動を、赤が攻撃の判定になってるみたいね。

 

何方も目が大きい程、いい結果になる訳で、移動で6が出れば問答無用にダイスロール前に宣言した目的地点への到達となり、攻撃で6が出ればダイスロール前に攻撃対象にした敵部隊の戦車の撃破となる。(同じ部隊で3回撃破判定を受けると、部隊壊滅。)

 

逆に1だった場合は、行動失敗となる訳ね――他の目は、夫々の数で移動距離が伸びたり、敵戦車への被ダメージが異なったりって感じね。

 

……攻撃ダイスの5の目が、装甲破損じゃなくて、履帯断裂なのは妙に納得してしまったけれど。

 

まぁ、そう言う訳で相手の行動の結果を見て、自分のターンでどの部隊をそのターン行動させるかが重要になって来る訳だわ。

 

 

そして、今戦ってるのは、西住隊長と、明光大の近坂凛部長。

 

最初の対戦の組み合わせはクジで決めたんだけど、2回目以降は好きな相手を選んでのフリー対戦。で、隊長が明光大の部長を指名したと。

 

だけど、隊長と明光大の部長の戦いはほぼ拮抗状態と言っても過言じゃない位の互角の戦いだわこれ。

 

 

この訓練に慣れてる明光大の部長と互角の戦いをしてる西住隊長が凄いのか、それともシミュレーションとは言え西住隊長と互角に渡り合えてる明光大の部長が凄いのか……多分両方ね。

 

 

 

 

「私のターン、このターンはB小隊を行動させる。ダイスロール!……出た目は、行動、攻撃ともに5!攻撃対象は、まほのC小隊。

 

 よって次のターン、攻撃を受けたあなたの部隊の行動ダイスの結果は出た目の数に関わらず1となる。」

 

 

「履帯を斬られては、移動できないからな……加えてこの盤面では……参ったな、ダイスの目に嫌われたとは言えこうなってしまってはお手上げだ。

 

 西住流に撤退の文字はないとは言え、打つ手がないのではどうしようもない……私の負けだ凛。」

 

 

「だけど、いい勝負だったわね。」

 

 

 

 

だけど後半、隊長はダイスの目に嫌われて良い目が出ずに攻めあぐね、逆に明光大の部長はダイスで良い目が出て一気に攻勢に出て勝利をもぎ取ったって感じね。

 

ダイスの目って言う『運』の要素が絡むから必ずしも実力通りの結果になるとは限らないのが、このシミュレーションの面白い所なのかも知れないわ……にも拘らず、既に黒森峰相手に5連勝してる西住妹は、本気でドンだけだって言いたくなるけどね!!

 

西住妹は、運を引き寄せる力もハンパじゃないのかも知れないわ。

 

 

私は私で其れなりの結果だったわね……黒森峰の生徒相手には全勝で、明光大相手には1勝2敗……慣れの差が出たわね此れは。

 

小梅も、殆ど同じ結果だったみたいだから、此れは黒森峰の弱点が完全に浮き彫りにされたわね?――隊長も、西住妹にはギリギリで競り負けてしまった訳なんだから。

 

 

だからこそ、私はアナタに戦いを申し込むわ、西住みほ!

 

 

 

 

「私を指名してくれるとは……光栄だよ、逸見さん?」

 

 

「シミュレーションとは言え、アナタには負けたくないのよ私――アナタを超える事が、私の目標の一つだしね。」

 

 

「そっか……なら、尚の事負ける事は出来ないね?――行くよ、逸見さん!」

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

「その掛け声は、流石に違うんじゃねーかオイ?」

 

 

 

 

いや、なんとなく『言っておかなきゃいけない気がした』のよ……大体にして、このゲームは先攻ターンは攻撃出来ないんだから、ある意味完全な間違いとは言えないでしょ?

 

という訳で、先攻は貰うわ。

 

私はこのターン、A小隊を行動させるわ。先攻ターンは攻撃出来ないから、移動ダイスをロール……結果は6。目標地点到達ね。

 

 

 

 

「行き成り稜線を取られちゃったか……此れは結構痛いなぁ?

 

 だけど、まだ始まったばかりだから、此処からだね?私のターン!このターンはB小隊を行動させます。」

 

 

 

 

稜線に近いC小隊じゃなくて、少し離れたB小隊を行動させるって事は、C小隊の援軍に向かわせて、稜線を取った私のA小隊を叩く心算ね?

 

普通だったら、行き成り稜線を取られた事に動揺して、稜線にほど近い自分の部隊を行動させようとするものだけど、流石に隊長を務めてるだけあって、状況判断は冷静そのものだわ――

 

 

 

 

 

 

 

――で、結果だけ言うと、私の負けだったわ。

 

負け惜しみじゃないけど、状況判断能力其の物には大きな差があったとは思わないわ。少しだけ、西住妹の方が上だったのは認めるけどね。

 

だけどそれ以上に、この子は恐ろしいまでに『勝負強い』んだわ。

 

大事な場面や、窮地の場面では略確実に行動・攻撃ダイス共に6の目を出して、最高の結果を残してしまったのだから、此れは間違いない。

 

 

的確な判断力に加えて、勝負強さまで備えてるとなると、此れはトンデモナイ戦車乗りじゃないのかしらね?

 

準決勝の時に、倒木があの子の戦車を襲ったのは、死ぬほど性格の悪い気紛れの女神が、勝利の女神に眠り薬でも盛って動けなくした上で悪戯をしたんじゃないかって思ってしまうわ。

 

 

でも、だからこそ、其れだけの相手に挑むのは価値があるわ。

 

例え勝てなくても、戦った経験は絶対に無駄になる事はなくて、全てが自分の血肉となって、そしてレベルアップする事が出来る訳だからね。

 

其れを分かってるから、私の後で小梅が挑戦した訳だし。

 

 

 

 

「やれやれ、ウチの隊長さんは人気者ね?」

 

 

「しょうがないんじゃない?ウチの隊長を倒した相手ともなれば、ウチの子達は挑みたくもなるわよ。」

 

 

「ふ、違いない。」

 

 

 

 

アナタは、西住妹が乗るパンターの砲手の吉良ナオミだったわね?

 

 

 

 

「ナオミで良いわ。そっちの方が呼ばれ慣れてるし、名字で呼ばれるのは、ちょっと違和感を感じるからね。」

 

 

「だったら、私もエリカで良いわ。

 

 ちょっと気になったんだけど、アナタの砲手としての腕前は黒森峰でもレギュラー張れる位だと思うんだけど、其れだけの腕を持ちながら、如何して明光大を選んだの?

 

 結果としてはベスト4になったけど、去年までは毎年1回戦負けの弱小校だった訳でしょ?……其処に好き好んで入学するなんて……」

 

 

「其れは私の意地であり、私が戦車道を続ける為にかな?

 

 ぶっちゃけて言うと、私の両親は私が戦車道をやる事には反対してて、事あるごとに『辞めろ』って言ってきて、正直ちょっと頭に来てたの。

 

 で、売り言葉に買い言葉じゃないけど『万年1回戦負けの明光大を、私の在学中に優勝させる事が出来たら文句言わないで』って啖呵切って、此処に来た訳よ。

 

 流石に、言い過ぎたかとは思ったんだけど、みほが居てくれた事で、自分の言った事が現実に出来る可能性が一気に高くなったからね。

 

 私は私の戦車道を続ける為に明光大に入学し、そしてみほがその道を繋ぐ可能性を示してくれた、大体そんな所ね。」

 

 

 

 

親に反発って、大胆な事をしたもんだわ…上流階級暮らしに飽き飽きして、逸見の家を飛び出した私が言える事じゃないかも知れないけど。

 

でも、その最終目標に至れるかもしれないと思わせる西住妹は、若しかしたら隊長以上のカリスマ性を備えてるのかも知れないわ……矢張りアナタは、私の最大のライバルである事は変えようがないわね。

 

 

今は未だ負けてるけど、必ず追い付いて、そして追い抜いてやるわ……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

ヤレヤレ、慣れてるとは言え、午前中のボードゲームは、殆どみほの一人勝ち状態だったな?

 

自他関係なく、どんな目が出ても其れに即座に対応できると言う、鋭い状況判断能力は私をも上回っていたからね……準決勝の試合の終盤も、あの倒木がなかったら、勝っていたのはみほだっただろうからね。

 

 

ジュニアユースの代表選手と言う事で、メディアに出る機会が多いから、私の名は知られているだろうが、みほは正に無名の軍神だな。

 

ハッキリ言って、同じ条件でもう一度試合をしたら、きっと私は勝てないだろうね……みほの潜在能力は、私を遥かに凌駕するのだからね。

 

 

 

 

其れは其れとして、午後の訓練は同車輌でチームを組んでの訓練だ。

 

同車輌同士での訓練と言うのは、己が乗る車輌の長所と短所を浮き彫りに出来るから、より部隊内での効果的な運用を出来るようになる訳だ……其の後で、各部隊との調整は必要になるけれどね

 

 

にしても、凄いな凛は?

 

 

 

 

「私の勝ちだ!!」

 

 

 

 

私が参加してないとは言え、ティーガーⅠでのバトルロイヤルで最後まで勝ち残った訳だからね……マッタク持って、大した腕前だな凛。

 

私が黒森峰のスカウトだったら、間違いなく黒森峰にスカウトしている所だ――君程の戦車乗りは、早々に居ないだろうからね………………

 

 

君と共に合宿が出来たと言うのは、私にとっては途轍もない幸運だったのかも知れないな。

 

 

 

 

「其れは私もだわ、まほ。

 

 うぅん、私だけじゃなくて、明光大のメンバー全員にとってこの合宿は大きな物だと思うのよ?……確実にレベルアップ出来る訳だからね♪」

 

 

「そうか、其れならば良かった。

 

 時に、君はみほの事をどう評価している凛?遠慮なく言って欲しい。」

 

 

「行き成りねオイ。

 

 まぁ、アナタの妹は、戦車道に於いては間違いなく最強と言っても過言じゃないと思うわ――校内の紅白バトルロイヤルでは、何も出来ずに撃破されちゃったからね?

 

 悔しいけど、貴女の妹さんは途轍もなく強い。明光大の部長として太鼓判を捺しても良いわ。」

 

 

 

 

そうか。貴方ほどの人でも、みほにはその評価を下すのだな。

 

だが、みほが強いのは戦術眼が優れているとか勝負強いとか、それだけじゃないんだ――あの子は、みほは『自分を護らない』事が出来る。

 

 

 

 

「自分を護らない……ですって?」

 

 

「そうだ。多くの人は、自分の身に危険が迫った時には己の身を護ろうとするのだが、みほは其れをしない事が出来る――だから、己の身を顧みずに行動する事が出来るんだ。

 

 そして、それが結果として自チームの勝利を呼び寄せる原動力にもなっているのさ。」

 

 

「そんな、どうしてそんな事が出来るのよ?」

 

 

 

 

みほの身体の事は知って居るだろう?あの子には左腕がない……事故で失ってしまったからね。

 

怪我の功名としか言いようがないが、死者が出てもオカシクない事故に巻き込まれて左腕一本で済んだのは御の字だったが……意識を失うその瞬間まで、みほは暴走した車が突っ込んで来る様を見ていた――死の恐怖を体感した。してしまったんだ。

 

 

だからみほは、大抵の事では驚かなくなってしまったんだ……戦車道を続ける者としては、予想していなかったプラス効果だった訳だがな。

 

自分を護らずに、仲間のために行動できる――それがみほの強さの根幹なんだ。ともすれば、危険なね。

 

 

 

 

「自分を護らないって言う、一種の狂人の考えがみほの強さを支えている訳か……言われてみれば、あの子は進んで矢面に立つ事が多かったような気がするしね。

 

 自分を護ることが出来ないって言うのは、確かに諸刃の剣だから、貴女が危惧するのも分からないじゃないけど、少なくともみほは、其れをちゃんと使いこなしてると思うわよまほ?

 

 己が矢面に立っても、決して無茶はしないで生き残る事を第一に考えて行動してる所があるからさ。

 

 確かにあの子は、自分を護らない事が出来るかも知れないけど、だけど其れが出来るのは仲間が居るからでしょう?……だから大丈夫だと思うわよまほ?――仲間が居る限り、あの子が道を踏み外す事は絶対にない。」

 

 

 

 

そうか、それを聞いて安心したよ凛。

 

其れでは午後の訓練を開始しようとするか!

 

攻守共に最高レベルのティーガーⅠだが、機動力には難があるので、其れを踏まえた上で色んな状況下で訓練をして行こうと思うのだが、くれぐれも体力を使い果たしてくれるなよ?

 

 

この訓練が終わったら、マラソンがないとは言え、昨日の『西住流フィジカルトレーニング』を行うからね。

 

 

 

 

「マラソンなしとは言え……マジでやるのアレを!?」

 

 

「マジだ。『本気』と書いてマジだ。拒否権はない。

 

 何よりも、この合宿のプログラムは9割方みほが製作して、其処に菊代さん――うちの家政婦だが、その人が修正を加えただけのものだから、難易度で言うならS・Hardレベルなんだ……だから諦めろ。」

 

 

「おうふ、神は死んだ。」

 

 

 

 

その気持ち、少しだけ分かるよ凛。

 

幼い頃からのトレーニングで慣れてる私とみほは兎も角、慣れてない者にとって、あのフィジカルトレーニングは拷問以外の何物でもないからな……寧ろ、初日に脱落者が出なかったのが不思議なくらいだ

 

 

だが、アレを熟せない様では所詮はその程度だ――この先何処まで行っても二流止まりだろうさ。

 

この世界に、二流三流の戦車乗りは必要ない!求めるのは、一流の強者のみ!!――その一流のぶつかり合いこそが、戦車道の本領だと私は思っているからね。

 

 

そう言う意味では、みほが明光大に進んだのは間違いじゃなかったのかも知れないな。

 

戦車長となり、信じられる仲間も出来たみたいだからね?……この環境は、みほにとって最高な環境だったのかも知れないな……まぁ、思い出話はこの辺にして、訓練を行うとしようか?

 

 

精々、私のティーガーⅠに撃破されない様にしてくれよ?

 

 

 

 

「まほ、アンタ其れは敵に対しての死刑宣告だわ?」

 

 

「なにぃ?聞こえんなぁ?」

 

 

という訳で全軍前進!!――悪いが、殲滅させて貰うぞ凛!!覚悟は出来ているな?出来ていなくても、殲滅するがなぁ―――!!!!

 

 

 

 

「鬼!悪魔!!高町なのは!!!」

 

 

「ふ、何とでも言うが良い!!」

 

 

さっきのゲームで負けた仕返しではないが、思い切りやらせてもらうぞ凛……居るかどうかも分からない神に、精々祈るがいいさ。

 

さぁ、行くぞ?

 

 

 

 

「くっそー……後でみほに言いつけてやる!!」

 

 

「あ、其れだけは止めてくれ。」

 

 

其れは私にとっての死亡フラグに他ならない…本気で怒ったみほには、お母様ですら太刀打ちできないのだからね……だから辞めてくれ凛。

 

 

 

 

「アンタの妹はドンだけよまほ?」

 

 

「戦車道は兎も角、プライベートで敵に回したら間違いなく死ぬな。」

 

 

「あ、其れ間違いないわ。」

 

 

 

だろう?だから、みほの目が届く範囲で滅多な事は出来んよ……まぁ、元よりやる心算は無いけれどね。

 

まぁ、この話はここまでにして、ソロソロ訓練の続きを始めるとしようか?…君がドレだけティーガーⅠを操ることが出来るのか見せて貰うぞ!

 

 

 

 

「なら、貴女の期待には応えるわまほ。」

 

 

「シミュレーションでは負けたが、実戦では負けん……行くぞ!!!」

 

 

 

 

その後の激しい模擬戦で、私も凛もレベルアップしたのは間違いない――もっと言うなら、合宿に参加している全員のレベルが上昇した筈だ。

 

きっとこの合宿が終わる頃には、黒森峰も明光大も、格段に強くなっているだろうからな……合宿最終日の模擬戦が、今から楽しみで仕方ないよ……色んな意味でな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

 

合宿2日目が終わった訳なんだけど……まほとみほ以外の合宿参加者は大丈夫なのかしら?可成りのハードトレーニングをして居たみたい

 

だから、気になるのだけれど……

 

 

「菊代、其の子たち息してる?」

 

 

「心臓は動いてますけど、呼吸は微弱……正に『死んだように眠る』の状態ですよ。」

 

 

「嘘でしょう!?」

 

 

まさか、それ程とは予想外だったわ……流石のトレーニングをしたみたいね、まほもみほも。……何て言うか、勝てる気がしないわ此れは。

 

だけど、だからこそこの合宿の意味があるわ――どんな結果になろうとも、明光大と黒森峰が発展するのは間違いないでしょうからね?

 

 

 

 

――だからこそ思うわ……何時の日にか、黒森峰の一強状態が終わりが来るんじゃないのかって……正に『盛者必衰』の言葉だけれどね。

 

 

 

 

みほとまほの提案を受けて、私が設定したこの合宿……一瞬たりとも目が離せないわね――戦車道の家元としても、一人の母としてもね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer20『合宿は兎に角燃えています!』

20話まで来たね♪Byみほ       だが、マダマダこれからだ。Byまほ


Side:エリカ

 

 

 

今回の合宿は、1週間の予定で、1日目と2日目は全員が熟したのだけれど、3日目に遂に脱落者が出てしまった……其れも黒森峰からだ。

 

 

3日目の午後に行われた『学年別バトルロイヤル』……其れを制したのは、矢張りと言うか何と言うか、西住みほのチームだった。

 

私と小梅も撃破数では負けていなかったけど、奮闘の末に撃破されてしまった訳だからね……本気で、あの子は今年の中学一年最強だと言っても過言じゃないわよ。

 

 

だけど、其れだけの力があるが故に、黒森峰の1年生の一部の戦車乗りの自信を粉砕するには充分過ぎた。

 

如何して黒森峰がって思ったけれど、考えてみれば、明光大の1年は、西住みほのチームを除いて全員が戦車道未経験者だから、彼女の圧倒的な実力を前にしても、『凄い』と思う事は有っても、其れに押し潰される事がないのよね。

 

 

逆に黒森峰の1年は、戦車道の名門に入学し、更には最初の『振るい落とし』を生き残ったって言う事から、己の腕に絶対の自信を持ってる。

 

だからこそ、西住みほとの圧倒的な実力差を見せられた時のショックはとても大きいのよ……口から、魂が抜けかけてた子すら居たからね。

 

 

だからこそ思い知った。

 

この合宿は、明光大にとっては間違いなく強化合宿だけれど、私達黒森峰の1年にとっては『二度目の振るい』にかけられているのだって。

 

西住みほとの力の差を思い知って、それでも尚潰れなかった者だけが生き残る事が出来る、メンタル世界のサバイバル……上等だわ!!

 

 

 

 

「確かに、此れで潰れてるようじゃ、成長は望めませんからね……頑張りましょう逸見さん!」

 

 

「言われるまでもないわよ小梅!!」

 

 

私も小梅も絶対に潰れたりしない……寧ろ、この合宿中に明光大から盗める物を全て盗んで、あの子と一対一で互角の勝負が出来る位のレベルにやろうじゃない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer20

 

『合宿は兎に角燃えています!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

1人位は脱落者が出るとは思っていたが、まさか黒森峰から2チームが脱落するとはな…其れだけみほの実力が凄まじかったかと言う事か。

 

まぁ、姉としての贔屓目を無しにしても、みほの実力は同世代の中でも抜きんでている――黒森峰の期待の星である、逸見と赤星が連携して挑んでも、撃破出来なかったのだからね。

 

 

恐らくは、その実力差に自信が粉砕されたのだろうが……だとしたら、如何せん甘すぎるな。

 

自ら去る者を追いはしないが、この程度の事で自信が粉砕されて戦車道を辞めるのならば、所詮はその程度であったとしか言いようがない。

 

此れで諦めてしまった者は、戦車道の名門に入学し、最初の振るい落としを生き残った事で、心の隙に慢心が生まれた者だと言っても過言では無いからね。

 

 

 

 

「やり過ぎちゃったかな?」

 

 

「いや、そんな事はない。

 

 寧ろ、あれ位やってくれた方が良い――あれ位の方が、訓練の効果もあるし、黒森峰の強さの質を保つ事が出来るだろうと思うからね。」

 

 

「そうかも知れないけど、辞めちゃった子達だって決して悪くなかったよ?

 

 其れに、戦車道の本当の楽しさを知らないまま辞めちゃったなんて言うのは勿体ないし残念だから……そう思うと、ヤッパリ如何してもね。」

 

 

 

 

ふふ、優しいなみほは。――だが、其処が黒森峰の難しいところでもあるんだよみほ。

 

高校ほどではないが、中学戦車道界隈でも『黒森峰』と言えば4年前から連覇を続け、今年で4連覇を達成した『常勝不敗』の学校故に、先ず勝利ありきなんだ。

 

そして、一度でも常勝不敗のイメージが付いてしまうと、少なくとも公式戦での負けは校内では許されない物となって来るんだ……王者が負けるとは何事だってね。

 

 

だからこそ、厳しいかもしれないが、一度の挫折で辞めてしまうような人間を置いておく事は出来ないんだよみほ。

 

 

 

 

「でも……」

 

 

「絶対王者の敗北は、盛者必衰では済まない物なんだ……黒森峰は負けたら其処で終わりなんだ。

 

 だが、そう言う意味ではみほと安斎の存在は、私にとっても黒森峰にとっても有り難い存在であると言う事が出来る――みほと安斎との試合は、何方が勝ってもオカシクない勝負になるから、負けてもせめてもの言い訳が出来る。」

 

 

少し話が逸れたが、みほの明光大は負けて失うものは何もないが、私の黒森峰は負けた時に失う物が大きい……だから、誰もが勝利に拘って居るのさ。逸見と赤星はそうでもないようだけれどね。

 

 

だが、少なくともみほと戦って挫折しなかった子達は、将来が楽しみだ。折れない心を持って居たのだからね。

 

 

 

 

「厳しいね、黒森峰は。」

 

 

「そうだな……だけど、私は黒森峰に進んでよかったと思っているよ。

 

 黒森峰に進んだからこそ、お前と戦う事が出来た訳だからねみほ。正直、安斎が相手以外で、アレだけ心が躍った試合は久しぶりだった。」

 

 

「それは、私も結構必死だったから。

 

 其れに、お姉ちゃんと戦うのも久しぶりだったから、必死でも楽しかったんだよ?」

 

 

「其れなんだよみほ。」

 

 

「ほえ?」

 

 

 

 

必死でも、大変でも『楽しい』と思う心がなければ、私はどんな事でも続かないと思っている。

 

今回の合宿のプログラムは、ともすれば黒森峰の生徒でも根を上げかねない程にハードで濃密なスケジュールが組まれているが、明光大の諸君に感想を聞いて、私は驚いたよ。

 

 

経験者である2年生は兎も角、みほのチーム以外は全員が素人の1年生達が『厳しいけど巧くなるのが楽しい』『キツイけど強くなってるのが実感できるから、辞めたくない』と、必死で大変な練習の中に『楽しさ』を見出していた――素晴らしい向上心だと思う。

 

 

無論黒森峰の生徒とて、向上心では負けないだろうが、果たして訓練の中に『楽しさ』を見いだせている者がどれ程いるかは分からないな。

 

明確な目標を持っているらしい逸見と赤星は、この厳しい訓練も楽しんでいるのだろうけれどね。

 

 

私はねみほ、黒森峰の生徒にも『厳しさ』の中の『楽しさ』を見出せるようになって欲しいんだよ。

 

其れが出来るようになれば黒森峰は今よりもずっと強くなるだろうし、『只勝つ事』だけを重視する戦車道ではなくなるんじゃないかって思って居るんだ――只勝つ事だけを目指して戦って居たら、間違いなく何時かは『武の心』を無くしてしまうだろうから。

 

 

戦車道は、あくまでも『武道』であり『スポーツ』だ。戦争じゃない。――だから、只勝てばいいと言うモノじゃないからね。

 

 

 

 

「其れは、全く持ってその通りだよお姉ちゃん。」

 

 

「お婆様は否定なさるだろうけれどね。

 

 だが、私は黒森峰の皆にそれを知ってほしい……願わくば、明光大との合同合宿で皆に其れに気付いてほしいと思っているんだよ。」

 

 

……まぁ、其れを考えると、脱落した者達は、なるべくしてなった結果だと言えるのかもしれんがな。

 

脱落しなかったメンバーは、逸見と赤星を筆頭にして、明光大の生徒達と積極的に交流して己の足りない所、或は明光大に足りない所を互いに補強しようとしていた。相手の良い所を見習ってね。

 

 

だが、脱落した連中は其れがなかったからな……みほに負けて心が折れるのは必然だったのだろう。

 

黒森峰としてのプライドかどうかは知らんが、彼女達は明光大の生徒との交流を全くしていなかったのだからね…其れでは伸びる筈もないさ。

 

変なプライドは、己の成長を阻害し、最悪の場合は己の道を閉ざすと言う良い例だったのかも知れないね。

 

 

……其れを考えると、みほが考案したこのプログラムは最適だったのかも知れないな。

 

 

 

 

「お姉ちゃん?」

 

 

「いや、何でもない。

 

 この合宿は、黒森峰にも明光大にも、何方にもプラスになるだけだと改めて実感しただけだ。」

 

 

だから、今日も頑張って行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

合宿4日目は、午前中はポジション別に分かれての意見交換会。

 

私とお姉ちゃんは車長として其れに参加したんだけど……やっぱりと言うか何と言うか、車長は車長でそれぞれ異なった考えがあるみたい。

 

お姉ちゃんが『隊長とかそう言うのは考えないで、純粋に車長としての意見を』述べてくれって言ってくれたおかげかも知れないけど、車長の心構えから、役柄、思考形態まで本当に色々出たね。

 

 

でも、だからこそ色んな考えを聞く事が出来て、自分の戦術の幅が広がったんじゃないかって思う――其れは、他のポジションに関しても同じだろうと思うけど。

 

 

尤も、車長チームの後半は、私とお姉ちゃんと、近坂部長と逸見さんと小梅さんの5人での意見交換会みたいになっちゃってたけれど。(汗)

 

 

 

で、午後の訓練は、明光大と黒森峰の隊長車のみを入れ替えての模擬戦。

 

つまり私が黒森峰を、お姉ちゃんが明光大を指揮しての模擬戦なんだけど……黒森峰の人達は、私の指示に従ってくれるかなぁ?

 

何て言うか、怨念に執念に嫉妬に羨望が入り混じった波動をひしひしと感じるんだけど…此れを纏め上げる自信は流石にないって言うか、先ず無理なんじゃないかなぁ?――どうしたモンだろうね此れは。

 

 

 

 

「はい注目ーーー!!

 

 それぞれ思う所はあるだろうけど、西住妹に変なプレッシャーかけちゃダメよ?此れも訓練の内だし、隊長の命令は絶対なんだからね?」

 

 

 

 

と思ってたら、黒森峰の人が其れを抑えてくれた。

 

貴女は確か、三年生で副隊長の『天城春奈』さんでしたよね?……ありがとうございます。此のままじゃ纏まらない所でした。

 

 

 

 

「此れ位は、お安い御用よ西住妹。

 

 其れと、貴女は色々感じたのかも知れないけど、決してそんな事ないから。黒森峰は規律が厳しくて、模擬戦とかになると途端に戦闘モードに切り替わってピリピリしちゃうだけだから。」

 

 

「そうだったんですか?……でも、天城さんはピリピリしてませんね?」

 

 

「ピリピリギスギスは、ハッキリ言って私のキャラじゃないから。」

 

 

「成程、納得しました。」

 

 

そう言えば、天城さんはお姉ちゃんを隊長に推薦した人だったね。前に、お姉ちゃんがそう言ってのを思い出したよ。

 

確かに、此れだけの人だったら後輩であるお姉ちゃんを隊長職に推薦する事が出来るのかも知れないね?――多分、器量の大きさは、近坂部長と同じかそれ以上かも知れないから。

 

 

……って、其れを考えると、私もお姉ちゃんも、本来隊長になるべき人から推薦されて隊長になったんだね?あはは、責任重大だよ此れは。

 

でも、だからこそ確りやらないとだけれどね!

 

 

では、本日の模擬戦の相手はお姉ちゃん――皆さんの隊長が相手ですけれど、気負わずに行きましょう。

 

お姉ちゃんは、確かに現在の中学校戦車道では最強で、ともすれば高校戦車道チームを相手に回しても勝ってしまうかもしれませんが、決して『完全無欠の無敵の戦士』ではありません。

 

 

 

 

「「「な!?」」」

 

 

「「隊長を馬鹿にする心算!?」」

 

 

「幾ら妹だからって、そんな事は!!」

 

 

「今の発言は取り消しなさいーーー!!!」

 

 

 

 

あ、ヤッパリと言うか何と言うか反発が起きちゃったね此れ。

 

……まぁ、聞きようによっては、お姉ちゃんの事を低く評価したように聞こえるかも知れないからねぇ?……如何しようか、青子さん、ナオミさん、つぼみさん?

 

 

 

 

「カチコミかけて黙らせる!」

 

 

「止めろアホ。」

 

 

「あら、見事な卍固め♪」

 

 

 

 

……いい案は出そうにないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長は、決して超人なんかじゃなくて、私達と同じ人間であるという事でしょう、『西住隊長』?」

 

 

「人間であるから、最強であっても無敵ではなく、完全無欠ではないという事ですね西住さん?」

 

 

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 

 

 

だけど、援護射撃はまさかの黒森峰から……はい、其の通りです逸見さん、赤星さん。

 

お姉ちゃんは最強だけど、あくまで人間だから完全無欠なんて言う事はあり得ません。だから、その僅かな隙を突けば、勝つ事は充分に出来るんです。

 

 

明光大の部隊を指揮する場合、多くの指示をする必要がないので、きっとお姉ちゃんも指示に回す能力の幾らかを自分の戦車の運用に回して来ると思うんですけど、其処につけ入る隙があります。

 

 

隊員の地力では黒森峰の方が上なのは覆しようもない事なので、今回は其れを利用しようと思います。

 

部隊を私が率いる部隊と、天城さんの率いる部隊、そして逸見さんと赤星さんが夫々率いる部隊の4つの部隊で、お姉ちゃん率いる明光大を4方向から包囲して、一気に勝負を決めたいと思います。

 

 

 

 

「大胆な戦術だけど……面白いじゃない、私は乗るわよ西住みほ!!」

 

 

「私も了解したわ西住妹!」

 

 

「此れなら、行けるかも知れません……了解しました西住さん!」

 

 

 

 

ありがとうございます、逸見さん、天城さん、赤星さん。

 

皆さんが賛成してくれたおかげで、黒森峰の皆さんも納得してくれたみたいだから……必ず勝ちましょうね、この模擬戦は!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

みほから聞いてはいたが、予想以上に『緩い』な明光大は。

 

普通は、自分達の隊長が敵に回り、敵方の隊長が味方になるとなると何らかの不安を感じたり、反発が出たりするものなのだが、そう言う物が一切ないと来たのだからね?

 

尤も、逆に其れが余計な力を抜いて、自然体で行動できる明光大の強さの基盤になっているのかも知れないけれどね……或は、この緩さこそが、黒森峰に必要な物であるのかも知れないな。

 

 

とは言え、殆ど素人集団と言っても過言ではない明光大を準決勝まで連れて来たみほが、黒森峰を指揮するとなったら『鬼に金棒』以外の何物でもないだろうねきっと。

 

その、みほ率いる黒森峰に勝つには何時もの様な蹂躙戦法では駄目だろう。と言うか、ティーガーⅠが一時的に3輌になっているとは言っても、明光大の攻撃力では蹂躙戦法など不可能だからな。

 

 

となると重要なのはチーム内でのコンビネーションだが……此れは、私が指示するまでもなく夫々が旨くやってくれるだろう。

 

だから凛、其れと東雲には敢えて個別に指示を出しておく。

 

 

「凛は、私と共に行動し、ティーガーⅠの攻守力に物を言わせて敵部隊への攻撃をお願いしたい。

 

 そして東雲には、その攻撃の隙をついて敵フラッグ車――恐らくはみほの乗るブルーのパンターだと思うが、其れを撃破、或は移動を不可能にしてほしいんだが……出来るか?」

 

 

「任せなさいまほ。やってやろうじゃない!!」

 

 

「隊長に突撃……やってやるわよ!!」

 

 

 

 

その意気があれば大丈夫だな。では、お願いする。

 

しかしみほが率いる黒森峰か……此れは若しかしなくても、私のこれまでの戦車道人生の中でも間違いなく最強の相手だろうね………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

そうして始まった模擬戦だが……結果だけ言うのならば、勝ったのはみほだった。

 

 

みほは、開始早々に偵察を出してまほの動きを察知すると、天城、エリカ、小梅が其れそれ率いる部隊を移動させて4方向からの包囲を完成させ、其処から一気にプレッシャーをかけての速攻に出たのだ。

 

 

其れは非常に有効であったが、明光大とて只ではやられない。

 

まほと凛は、ある程度の事は予測していたので慌てる事なく部隊を展開してこれに応戦し、状況は乱戦の様相を呈して行った。

 

 

が、それでもアドバンテージはみほ率いる黒森峰にあったのは間違いないだろう。

 

如何に明光大の回避能力が優れているとは言っても、4方向から包囲されて、動ける範囲が限られている中では、自慢の回避能力を十二分に生かす事は出来ないのである。

 

 

だからと言って一方的にならなかったのは、偏にまほと凛のティーガーⅠコンビの存在が大きいだろう。

 

機動力は高くなくとも、最強クラスの攻守力を備えているティーガーⅠならば、多少の被弾は無視して攻撃する事が出来る故に、白旗判定にならない攻撃は完全に無視して攻撃し、黒森峰の車輌を撃破していたのだ。

 

 

そして、其れで出来た僅かな隙を狙って、椿姫が『おんどりゃぁぁぁぁぁぁ!!』と突撃したのだが……其れは敢え無く、エリカのパンターに撃ち抜かれて撃沈してしまった。

 

 

其処からはもう、みほの思う壺だ。

 

攻守力では劣るパンターだが、機動力でティーガーⅠを翻弄し、更に天城の乗るティーガーⅠがプレッシャーをかけ、みほとエリカがまほ車の動きを止め、最後は小梅のパンターがまほのティーガーⅠの後部装甲を撃ち抜いて勝負を決めたのだ。

 

 

勝ったのはみほ率いる黒森峰だった訳だ。

 

 

が、この模擬戦が明光大と黒森峰の双方にとってプラスであったのは間違いないだろう――隊長が入れ替わった事で、此れまでとは違う戦術を行う事になったのだから。

 

 

もっと言うのならば、この模擬戦は勝敗は二の次であり、本当に大事なのはこの模擬戦で何を得るかだったのだ。

 

そう言う意味では、この模擬戦は大成功だったと言えるだろう――模擬戦後に、誰に言われるまでもなく、両校での意見交換が行われていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

 

「黒森峰が、弱小校と合宿を行っている様じゃが……如何言う心算かえしほよ?」

 

 

「弱小校とは心外ですねお母様。明光大は、準決勝で黒森峰と互角に戦った学校です。最早弱小校等ではないと思うのですが?

 

 そして、如何言う心算かと問われれば、この合宿は黒森峰にとってもプラスになると考えたからに他なりませんよ……特に、お母様の言う弱小校を準決勝にまで連れて来たみほの戦術は、黒森峰としても学ぶところがあると思うのですが?」

 

 

「……ふん、まぁえぇわい。其れが西住流に泥を塗る事にならぬのならばな。」

 

 

 

 

はぁ……マッタク持って、前時代的の思想を持った石頭の相手は疲れるわ。

 

そもそもにして、自分の西住流の考え方が大間違いだという事に如何して気付けないのかしらねお母様は……其れは、明らかに歪んだ物であると言うのは間違いないのに――或は、其れが正しいと信じて生きて来たからこそ分からないのかも知れないのだけど。

 

 

でも、このままだと、折角切磋琢磨してる明光大と黒森峰に悪影響を与える事をしかねないわ……菊代!

 

 

 

 

「お任せ下さい奥様。

 

 かほ様は、それとなく合宿に近寄らない様にしておきます。」

 

 

「そう、頼むわよ。」

 

 

「御意に。」

 

 

 

 

お母様の歪んだ西住流の在り方は、あの子達にはマイナスにしかならない……ともすれば、あの子達の未来を潰してしまいかねないから絶対に接触させる訳にはいかないわ。

 

 

何よりも、私の娘達を、あの人の歪んだ思想に染める訳には行かないわ――まほもみほも、将来は日本戦車道を背負って立つ存在になるのは、間違いないのだから。

 

 

時に菊代、合宿メンバーは今日は……

 

 

 

 

「泥の様に眠っていますよ奥様。」

 

 

「死んだように眠っているから、大分進歩したわね。」

 

 

合宿は残り3日……其れで、互いにどれだけ進歩することが出来るのか――西住流の師範としても、西住しほ個人としても、実に楽しみね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 




キャラクター補足





西住かほ

現西住流の家元にして、みほとまほの祖母。

大戦期に歪められた西住流の在り方を本道と信じているために『勝利至上主義』の権化と化してしまっている。

それ故に、娘のしほとは折り合いが悪く、対立をする事も珍しくない。

みほの才能は認めているらしく、何とか引き入れようとしているが、みほがかほを苦手と思っているせいで、事あるごとに避けられている。



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Panzer21『合宿5日目~伏兵は西住流家元です~』

うん、ちょっとお祖母ちゃん殺してくるね♪Byみほ       気持ちは分かるが、落ち着けみほ…Byまほ


Side:みほ

 

 

 

そんなこんなで合宿も5日目を迎えた訳なんだけど……まさかこんな事になるとは――流石に此れじゃあ、プログラム通りの練習は出来ないと思うんだけど、如何しようかお姉ちゃん?

 

 

 

 

「確かに……此れは予想外だったからね――さて、如何したものか。」

 

 

「台風が来てる訳じゃないんだけどね……」

 

 

 

 

――ドバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

 

 

 

合宿5日目は、昨日までの晴天が嘘の様な、バケツをひっくり返したような大雨で、テレビの天気予報によると、熊本の降水量は多い所では1時間に200mmとの事で普通に台風を超えてる様な気がする――って言うか、台風以上だよ此れ!!

 

悪条件での練習は大事とは言っても、こんな状況じゃ戦車を使っての訓練は出来ないから、今日はミーティングが主になっちゃうかな?

 

 

 

 

「其れが無難な所なんだろうが、それではあまりにも面白くない………折角の合同合宿なんだから、普段あまりできないような事をしたいと思うんだよ私は――何かないかなみほ?」

 

 

「そう言われてもねぇ?

 

 ん~~~~……其れじゃあいっその事、今日一日は遊んじゃう?

 

 将棋とかチェスとか戦略性の高いボードゲームをメインに、戦車を使う対戦型のビデオゲームとかも使って、遊びの中から学んで貰うって言うのは如何だろう?悪くないと思うんだけど。」

 

 

「よし、それで行こう。午後は、身体を動かせるように、室内で出来るスポーツで汗を流しても良いかもしれないしな。

 

 この悪天候では戦車を動かす事は出来ないから、そう言う形での訓練が適切なのは言うまでもないし、黒森峰ではまず行われない事だからいい刺激にもなりそうだ。」

 

 

 

 

午後は体を動かす遊び……うん、其れで行こう!

 

一見遊びに見える事でも、実は自分の実力の底上げになってたなんて言うのは案外少なくない事だから、まさかの土砂降りであっても、私達の成長の妨げには一切ならないよ!

 

何よりも、どんな訓練だって、訓練を受ける側に『向上心』があれば、絶対にプラスになる訳なんだから♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer21

 

『合宿5日目~伏兵は西住流家元です~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ナオミ

 

 

 

まさかの大雨という事で、今日の訓練は色々なゲームを使っての訓練という事だったけど……大型筐体のゲームを用意する事が出来るって言うのは、ドレだけの財力があるのよ西住流は!?

 

普通にゲーム機が数台あれば済む事でも、ガンコン標準装備の筐体を用意するとは、流石は西住流と言った所なのかしら?――つぼみがやってるレースゲームも、バイク型の操縦席を有したモノだしね……いっそ、突っ込む事が間違いかも知れないわ此れは。

 

 

でも、揃えた物は兎も角として、このゲームを使った訓練て言うのは決して悪くない。恐らくは、合宿参加者全員が思ってるんじゃないかしら。

 

私のやってるシューティングゲームは砲手としての正確な照準セットの訓練になるし、つぼみのやってるレースゲームは操縦能力の向上に繋がり、青子がやってる腕相撲ゲームは装填士の筋力強化になる。

 

何よりも、みほやまほさんがやってる『将棋』や『チェス』と言ったボードゲームは、車長に必要な能力を鍛えるには持って来いのモノだしね?

 

 

さてと、ガンシューティングはパーフェクトクリアしたから、部長とまほさんのチェス対決でも観戦しようかしら?――一体何方が勝ってるのか。

 

 

 

 

「チェックメイト。」

 

 

「またぁ!?……ぐ……ぐぬぬ……これ以上キングを逃がす事は不可能みたいね――参りました!」

 

 

 

 

って、決着がついたみたいね?勝ったのはまほさんか……流石と言うか何と言うか、矢張り常勝校の隊長を務める人は戦車道でなくても、戦略性の高い戦いって言うのは得意みたいね。

 

 

 

 

「将棋ではギリギリ競り負けたが、チェスは私の趣味だから将棋よりも得意なんだ。

 

 チェス勝負だったら、此処にいる誰にも負けない自信があるぞ?其れこそ、チェスだけはみほにだって負けた事は無いからな。」

 

 

「うわ、そりゃ勝てないわ。」

 

 

 

 

チェスが趣味……なんだろう、物凄く納得すると言うか似合ってる気がするわね?と言うか、みほが敵わないんじゃ、本気で誰もまほさんにはチェスで勝つ事は出来ないと思うわ。

 

 

 

 

「でも、将棋だったら西住妹は隊長に勝つわよ絶対に。」

 

 

「その様子だと、今し方みほに将棋でコテンパンにされたみたいねエリカ?

 

 だけど、貴女がそう言うのは意外ね?貴女なら、余程の事がない限りはまほさんが勝つって言うんじゃないかって思っていたんだけど?」

 

 

「私だってそう言いたいけど、取った相手の駒を使える将棋だと、あの子の戦略の幅が恐ろしい程に広がるのよナオミ!

 

 しかも、取った駒を絶妙なタイミングで最高の場所に打って来るんだから、誇張抜きで未来が予測できてるんじゃないかって疑ったわよ!!

 

 こう言っちゃなんだけど、あの子って本気で未来予知の能力でも持ってんじゃないの!?そうじゃないと、アレは説明できないでしょう!!」

 

 

「私も、将棋では100手に満たずに負けちゃいましたからねぇ……」

 

 

 

 

小梅も負けた訳ね?――流石はみほって言う所だけど、取った駒を自分の手駒で使えるからこそ、みほは将棋が強いのかも知れないわ。

 

チェスは取った相手の駒を使う事は出来ないから、自分の残存戦力のみで戦う事になるけど、将棋は取った駒を使う事が出来るから、戦略の幅で言うのならばチェスの比じゃないのよね?

 

そして、戦術の幅が広くなれば、其れはみほの能力を最も生かす事が出来る事になる訳だから、将棋でみほが無双するのは当然か。

 

限られた戦力の中でも一流の戦術を立てられるみほが、取った駒を手駒に出来るとなったら、その戦術は無限の広がりを見せるだろうから、勝つ事は出来ない――改めて、みほは規格外だわ。

 

尤も、だからこそ私の思いを現実にしてくれるって思えるのだけどね。

 

 

ふぅ、其れじゃあ気分転換に、戦車のゲームで勝負しないエリカ?

 

対戦型だから、基本的に1vs1のタイマン勝負――正直な事を言うと、貴女と戦ってみたいと思ってたのよエリカ。

 

 

 

 

「其れは光栄ね……受けて立つわ、ナオミ!」

 

 

 

 

其れじゃあ早速始めようかしら?――って、ん?

 

 

 

 

 

「何をやっとるか貴様等ーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

行き成り、着物姿のお婆さんが現れて怒鳴り込んで来た?……誰だこの婆さん――恐らく『西住』の関係者なんだろうとは思うのだけれど。

 

 

 

 

「お祖母ちゃん……」

 

 

「お祖母様……」

 

 

 

 

って、みほとまほさんのお祖母さん?

 

という事は、西住流の現家元……そんな人が中学生の合宿に一体何の用があるって言うのかしら?しかも、行き成り怒鳴り込んで来るなんて、ちょっと神経を疑うわね。

 

 

 

 

「何を遊び呆けておるか馬鹿者共が!

 

 戦車道に身を置く者には休みなどない!遊んでる暇があったら戦車を動かし、そして己を向上させんか、この未熟者達めが!!

 

 大体にして、天下の黒森峰が、弱小校と合同合宿を行う事自体があり得んわい!如何に善戦したとは言え、所詮は弱小校……西住流を体現している黒森峰には、何の利益もないわ!!」

 

 

「……お言葉ですが、お祖母様、明光大は決して弱小校等ではありませんよ?

 

 戦車道にまぐれ無し、有るのは実力のみ――そう仰っていたのはお祖母様ではありませんでしたか?ならば、明光大は、間違いなく強い。

 

 もっと言うのならば、明光大を弱いと仰るのならば、その明光大に苦戦した我が黒森峰もまた大した事は無いという事になりますが?」

 

 

「明光大は弱くないよお祖母ちゃん……って言うか、この合宿はお母さんが提案して、私とお姉ちゃんで企画した物だから、口出ししないで貰えるかな?

 

 日程そのものは決まってるけど、今日みたいに突発的な事態で戦車を動かす事が出来ない事態が発生した場合に、その日の訓練は如何するかは、私とお姉ちゃんに決定権がある。

 

 私とお姉ちゃんは、今日は此れが適当だと決めたの……其れをとやかく言う筋合いはお祖母ちゃんにはない!」

 

 

「そう言う訳です……何よりも、この合宿に関しては貴女は部外者ですよお祖母様。

 

 故に早々に立ち去って頂きたい、合宿参加者の士気にも関わるのでね――合宿に関わりたいのであれば、企画者であるお母様に許可を取ってからにして頂きたい。」

 

 

「……ふん、そう言う事ならば仕方ない、この場は退くとしよう。

 

 じゃがなまほ、お前はきっと後悔する事になるぞ、弱小校との合同合宿を行ってしまったという事にな。」

 

 

「後悔するかどうか、其れを決めるのは私ですから。」

 

 

 

 

……どうやら、西住流の現家元は、何とも面倒な性格をしてるみたいね?

 

黒森峰を常勝不敗と疑わず、西住流こそが戦車道の最高の流派であって、それ以外は取るに足らない有象無象……そう思っている感じをヒシヒシと感じたわ――少なくとも、仲良く出来る相手ではないわね。

 

 

 

 

「まぁえぇわい。

 

 弱小校の子娘どもよ、精々黒森峰を強くするための踏み台になっておくれ……如何に準決勝に駒を進めてきたとはいえ、所詮は弱小校。

 

 圧倒的な力の差を思い知って、折れて潰れてなくなってしまえばいいわ!ふわ~~~っはっはっは!!」

 

 

 

 

……『さっさとくたばれ糞婆』と思ったのは私だけじゃないわよね?

 

その証拠に、明光大の生徒全員は勿論の事、黒森峰の生徒ですら去りゆく家元様に対して『F○ck you』のポーズを取って居たんだからね。

 

 

 

 

「この陰険婆、犬にでも食い殺されちまえ。」

 

 

「何か言ったかぇ?」

 

 

「……Addio e le feci zia~~♪(さっさとくたばれ、クソ婆~~♪)」

 

 

「フン……」

 

 

 

 

で、度胸あるわね青子?

 

小声の悪口が聞こえたかと見るや否や、イタリア語で思い切り言うとは……家元様は、意味が分からなかったらしく、鼻を鳴らして今度こそ居なくなったけど、場の雰囲気は悪くなったのは言うまでもないわ。

 

 

 

 

「全くお祖母ちゃんは……お母さんが、菊代さんに監視させとくって言ってたのに、どうやって菊代さんの監視の目を逃れて来たんだろう?」

 

 

「さぁな……老いたとは言え、西住流の家元を務めている人だから、妙な所で隙を突くのが巧いんだろうさ。

 

 ふぅ――諸君、西住流の家元が、引いては私達の祖母が無礼を働いた事を謝罪する。特に明光大の皆には非常に不快な思いをさせてしまった……すまなかった。」

 

 

「ゴメンね皆、真剣にやってた所に水を差すような形になっちゃって。」

 

 

「そんな……頭を上げて下さい隊長!其れに西住さんも!」

 

 

「そうです、悪いのは隊長達じゃありません!」

 

 

「あの陰険婆の性格が最悪に悪いだけだっつ~の!

 

 みほもまほ姉ちゃんも何も悪くねー!てか、マジでムカつくなあの糞婆!本気でパンターの75mm砲をブチかましてやりたくなったっての!」

 

 

 

 

青子の考えは、ちょっと危険……とは言い切れないか、私もちょっと思った事だし。

 

だけど皆の言う通りよみほ。其れにまほさん。

 

此処に居る誰もが、貴女達姉妹が悪いとは思ってないわ――と言うか、行き成り合宿の場に現れて難癖つけて来た、家元様の思考形態の方がオカシイのよ。つぼみもそう思うでしょ?

 

 

 

 

「マッタク持って、常識を疑うわ!

 

 大体にして、ちょっと見ただけで、私達がどれ程真剣にやってるかも理解しないで『遊び』呼ばわりとは、天下の西住流の家元が聞いて呆れると言うモノよ!

 

 あの方は、出来るだけ早く隠居して頂いて、しほ小母様が家元を襲名した方が良いんじゃないかしら?」

 

 

「と、まぁそう言う訳だから、責任は感じないで。全ては、空気を読まなかった家元様が悪いんだから。」

 

 

「そうか……そう言って貰えると、此方としても少しばかり気分が軽いよ。――矢張り、身内が皆の気分を害したと言うのは、気が重いしね。」

 

 

「ありがとう。――でも、それなら尚の事、この合宿でレベルアップしないとだね!

 

 この合宿を経て明光大も黒森峰もレベルアップすれば、幾ら石頭のお祖母ちゃんでも合宿は無意味じゃなかったって認めざるを得ないだろうし、明光大は弱小じゃないって証明できるからね!

 

 今日を含めて、合宿は残り少ないけど全力で頑張りましょう!!

 

 

「「Panzer Vor!」」

 

 

「「「「「「「おーーーーーーーーー!!」」」」」」」

 

 

 

 

で、気を持ち直した西住姉妹の号令で、嫌な雰囲気は一気に霧散したわね……此れもまた、みほとまほさんのカリスマ性が成せる物なんだろうけど、流石としか言いようがないわ。

 

みほもまほさんも、タイプは違うけど『生まれながらのリーダー気質』なんでしょうねきっと。

 

 

だけど、そのお蔭で練習を再開できる雰囲気になった訳だから、さて、次は何をしようかしら?

 

 

 

 

「ナオミ、シューティングゲームで勝負しない?」

 

 

「エリカ……貴女は車長だと思ったんだけど、そんな人がシューティングで私と勝負しようって言うの?」

 

 

「そう思うだろうけど、小学校の頃は、基本は車長だったけど、殆ど全てのポジションを試合毎に熟してたから砲手だって出来るのよ私は。」

 

 

 

 

まさかのオールラウンダーだった?……なら、受けて立とうじゃないエリカ。

 

だけど敢えて言わせて貰うわ――オールラウンダーで何でも熟せるからって、小学校の頃から砲手一本でやってきた私に勝負を挑むのは愚の骨頂であるとね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

ふぅ……午前中はまさかのお祖母ちゃんの乱入も有ったけど、皆があまり気にしないでくれたおかげで、あまり滞る事なく練習が出来たね。

 

そして午後は、室内スポーツでフィジカルトレーニングを兼用した『遊び』で汗を流した――片腕って言う事で、私が出来るスポーツは限られて来るけど、テニスや卓球なら問題ないし、フットサルやセパタクローは寧ろ得意分野だから全然OKだった。

 

 

逸見さんからは『一体どんな運動能力してんのよ!?』って言われちゃったけど、片腕のハンデを埋める為に彼是色々やって来たから、足技は得意だとしか答えようがなかったかな。

 

まぁ、その答えも『アンタハンパ無いわ』って言ってたから、納得はして貰えたんだろうけどね。

 

 

でも、午後のスポーツも間違いなくプラスにはなったんじゃないかって思うな。少なくとも、合宿参加者全員の運動能力は底上げされたのは間違いない事だと思うよ?

 

運動の仕上げには、西住流ストレッチを行って、筋肉の強さを保ちつつしなやかさを損なわない状態を保持した訳だからね――このストレッチを考えたお母さんは、本気で凄いと思うけど。

 

 

 

で、今日の訓練をすべて終えて、今は皆で温泉でマッタリ中~~……ふぅ、生き返るなぁ~~~♪

 

 

 

 

「死んでたのか!!……と言う突っ込みは野暮よね。

 

 そう言う私も、密かに訓練終了後の、この温泉は楽しみだから――ホント、この温泉は疲れた身体によく効くわ~~、身体が溶けそうね。」

 

 

「逸見さん、腕が溶けかけてます。」

 

 

「嘘!?」

 

 

「うん、嘘♪」

 

 

「だろうとは思ったけど、やっぱり嘘かよ!って言うか、大人しそうな見た目のくせにやってくれるじゃないのよ西住妹!OK、一発殴らせろ!」

 

 

 

 

うん、其れは無理です♪

 

だけど、こうしてみると、逸見さんてきれいな肌してますね?白くて透き通る肌……憧れちゃいます。

 

おまけに、細身なのに付くべきところに必要な筋肉がついてて、それでいて太くない上に全身のバネは失われてないんですから、正に理想の体型だと言っても過言じゃありません。

 

 

ホント、羨ましい身体ですよ。

 

 

 

 

「うひゃん!?……ちょ、突っつかないでよ!

 

 って言うか、貴女だって負けてないでしょ西住妹?――中学女子で腹筋が割れてる子っ何てそんなに居ないと思うし、それに胸だって…」

 

 

「……胸ね?――逸見さん、お姉ちゃんをご覧あそばせ。」

 

 

「隊長を?……成程。」

 

 

 

 

――バイーン

 

 

 

 

戦車道に限らず、上には上がいるモノなんですよ逸見さん。

 

 

 

 

「そうね……精進、したいわね胸に関しては。」

 

 

「つまりそう言う事です。」

 

 

「……みほと逸見、何かあったのか?何やら、凄い形相で睨んでいるが……」

 

 

 

 

うぅん、何でもないよお姉ちゃん――神様は兎角不公平なんだって言う事を、逸見さんと語ってただけだから、気にする事じゃないし、気にしたら負けだよお姉ちゃん!!

 

 

 

 

「では、深入りしない方が良さそうだ。」

 

 

「うん、深入りしないでね?要らない所で、話がややこしくなりそうだから。」

 

 

「みほがそう言うのならば、そうなのだろうな……時に、一緒にサウナは如何だ?

 

 サウナの健康増進効果は世界的に知られている事だが、こと戦車道に身を置く者にとっては可成りの効果が期待出来るらしい――筋肉疲労の緩和は勿論の事、熱い蒸気には、其れを浴びた直後に体を冷却する事で思考能力が向上する事が出来るらしいからね。」

 

 

 

 

へ~~~……そうだったんだ、知らなかったよ。

 

だけど、そう言う事ならサウナを使わない手はないね?何よりも、沢山汗をかいた後のご飯は美味しいから、此れは外せないかもだよ!此れが、戦車道の能力向上に繋がると言うのなら尚の事ね。

 

 

合宿は残す所僅かだけど、だからこそ確信できる――明光大も黒森峰も、合宿を始める前とは比べ物にならない位に全ての面でレベルアップしていると言う事をね。

 

 

 

因みに、この後私と逸見さんは、互いに譲らずに意地を張り続けたせいで、すっかり逆上せてしまい、翌日にお姉ちゃんから有り難いお説教を喰らう事になったのは、いい思い出だろうね。

 

 

うぅん、此れだけじゃなくて、この合宿の全てが、私にとっては良い思い出だよ――だって、二度と同じ事は起きないんだからね。

 

だから、この合宿を皆と一緒に行い、そして此処まで来れた事が嬉しくて堪らないって言う所かな……だから、残り二日も頑張って行こう!!

 

 

 

 

「「「「「「「「おーーー!」」」」」」」」

 

 

 

 

二度と弱小校とは呼ばせないし、お祖母ちゃんにも明光大の実力を認めさせる――だからこそ、この合宿を完走しないとだよ!この合宿で根を上げてるようじゃ、勝てる相手にも勝てなくなるかもだからね。

 

 

さぁ、明日も全力で行くよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

 

お母様がみほ達に接触したか……みほとまほが咄嗟に対処してくれたおかげで、最悪の事態だけは避けられたみたいだけど、みほとまほから上がってきた報告書を読む限り、お母様が好意的に捉えられる事はないでしょうね、明光大と黒森峰の両方でね――正直、お母様は自分の望む『西住流』を追い求め、其れが何時しか勝利のみを追い求める『戦車道の鬼』と化してしまったのだから、笑い話にもならないわね。

 

 

「菊代、明日からは、お母様への監視の目をより厳しくしてくれるかしら――出来るわよね?」

 

 

「御意に……今日の事も、私の至らなさが招いた事ですので、かほ様への監視の目を一層強化しますよ奥様――私としても、まほお嬢様とみほお嬢様の進む道が潰されるのは本意ではありませんから。」

 

 

 

 

そう、ならお願いするわ。

 

 

 

 

お母様、私は貴女の言う西住流を全て否定します。

 

仲間すら犠牲にして掴んだ勝利には何の価値もない……戦車道は戦争ではなく、あくまでも技能を競うスポーツであるのですから、勝利至上主義は何れ淘汰される運命にあるのですよ。

 

近い内に、みほとまほが其れを証明してくれる筈だわ。

 

 

まぁ、其れは其れとしても……この子達は寝てるのよね?なんだか寝息が念仏を唱えているように聞こえるんだけど、私の気のせいかしら?

 

 

 

 

「気のせいではありませんから安心して下さい奥様、私にもそう聞こえますので。」

 

 

「其れが逆に性質悪いわね。」

 

 

「さもありなん。――或は、お嬢様たちは悟りの境地に至ったのかもしれませんね。」

 

 

「尤もらしい事言うな。」

 

 

でも、あの子達が、その領域に達すると言うのは、決してない話ではないわ……親バカかもしれないけど、まほもみほも間違いなく現代最強の戦車乗りであるのは間違いないのだから。

 

 

そしてこの子達こそが、西住流を本来のあるべき姿に戻してくれると私は信じているわ――お母様が固執する、『古い西住流』は淘汰され、その上で消えて行くものでしかないのだから。

 

 

 

カビが生え、錆び付いた古流流派は現代には必要ない――古き西住流には去って貰い、新たな西住流を作り出す…その時期に来てるのかもしれないわね。

 

 

尤も、其れは願ったり叶ったりだったのだけれどね。

 

 

 

この合宿が完遂し、みほとまほが新たなステージに上ったその時に、西住流は新たな力を得る事が出来る――私はそう信じているわ!!

 

だから、頑張りなさいみほ、まほ――貴女達の能力は、既に全盛期の私とお母さまを凌駕しているからね……貴女達に敵は皆無よ!!!!

 

そして、戦車道に新たな風を吹き込んで……貴女達ならば、それが出来る――私は、そう信じているからね!!

 

 

合宿は残り二日……頑張れみほ、まほ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer22『合宿最終日・最後の模擬戦です!』

此れは、最高のチームを得たのかも知れないね?Byみほ       私達の命、貴女に預けるわ西住妹Byエリカ


Side:みほ

 

 

 

5日目に、お祖母ちゃんの無用な乱入は有ったけど、それ以外はマッタク持って順調に合宿は執り行われたから、明光大は勿論、黒森峰だって、地力の底上げが出来たのは間違いないんじゃないかって思うね。

 

 

特に逸見さんと赤星さんは、黒森峰の中でも特出した成長値を見せていたからね……そう遠くない未来に、間違いなく最高レベルの戦車長になるだろうね?……若しかしたらお姉ちゃんレベルにも辿り着くかも知れないから、今から楽しみで仕方ないよ♪

 

 

 

 

「やれやれ、本気で楽しそうだねみほ?」

 

 

「うん!楽しいよお姉ちゃん。って言うか楽しむなって言うのが無理だよ。

 

 私のパンターのクルーは最高にして最強だって思ってるけど、同じ学校で同じチームじゃ戦う機会は無いからね――だけど、黒森峰との合同合宿ならと思ったんだけど、逸見さんと赤星さんとなら、楽しむ事が出来そうだから♪」

 

 

「……まぁ、逸見と赤星は、今年の黒森峰のホープだからな。

 

 何よりも、2人の可能性を信じて、私が直々に鍛えてやっているんだ、並の同世代など相手にもならないだろう――其れを学年別バトルロイヤルで鎮圧してしまったお前の事が、ちょっぴりだけ怖いけれどなみほ。」

 

 

 

 

怖いって……だって、如何すれば良いかが瞬時に頭の中に浮かんできて、それに従っただけだから、怖い事なんて何もないと思うんだけど?

 

大体にして、此れを怖いって言ってたら、戦車道に携わる大概の人が、化け物になっちゃうんだけど……

 

 

 

 

「それは……確かにそうだな。

 

 だが、それだけに明日の最終日に行われる、模擬戦には不安しか感じないよみほ――お前が一体何をしてくるのか、其れが全く分からないのだからな――私の戦車道史上、最強の相手だよお前は。」

 

 

「それは、とっても光栄だよお姉ちゃん。」

 

 

でも、だからと言って負ける心算は無いし、花を持たせるなんて言うのはもってのほか!――そんな事をしたら、お姉ちゃんの顔を潰す事になるだけだからね?……全力を持ってして、勝つ!最終日の模擬戦で、私に出来るのは其れ位だよ。

 

 

 

 

「ふふ……それは私もだよみほ。

 

 何れにしても、明日の――最終日の模擬戦は、此れまでとは一線を画すモノになるが故に、細心の注意を払い、だが大胆に行くとしよう!」

 

 

「異論無し!!」

 

 

合宿最終日の模擬戦は、若しかしたら全国大会の決勝と同じか、あるいはそれ以上に激しいものになるのは、間違いないかもしれないね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer22

 

『合宿最終日・最後の模擬戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

物凄く濃い内容だった合宿も、今日でいよいよ最終日――僅か7日、されど7日、この合宿が私にとって大きな物であったのは間違いないわ。

 

そして、最終日の1年vs2・3年の模擬戦……マッタク持って上等以外の何物でもないわ!合宿とは言え、隊長と戦えるわけだしね。

 

 

でもまぁ、先ずは1年チームの隊長を決めないとだわ。

 

――隊を指揮する人間が居なくては、ドレだけ優れた人間が何人集まろうとも、其れは烏合の衆に過ぎず、簡単にやられてジ・エンドだしね。

 

とは言え、誰が隊長をやるかで不毛な言い争いが起きるのは、時間の無駄であり徒労だわ。

 

 

だから、私は西住妹を、1年生チームの隊長に推すわ。

 

 

 

 

「ふぇぇ!?ちょ、逸見さん、なんで?」

 

 

「なんでって、当然の事じゃないかしら?

 

 学年別のバトルロイヤルでも勝ち残ったのは貴女でしょ?しかも、最高の撃破数を記録した上でね――此れだけの人を隊長に推薦しない理由があるかしら?

 

 少なくとも、私は無いと思うわ――赤星も、そう思うでしょ?」

 

 

「はい!1年生チームの隊長は、西住さん以外にはあり得ません!

 

 西住隊長とは違いますけど、西住さんなら隊長として過不足ありません――と言うか、このチームでは貴女以外の隊長はありえません!!」

 

 

 

 

OK、言いきったわね赤星?

 

だけど、赤星の言った事は、私達の思いでもあるのよ――だから、このチームを率いてくれないかしら西住妹?……出来るでしょ、貴女なら。

 

 

 

 

「……其処まで言われたら、やるしかないじゃないですか!

 

 分かりました、1年生チームの隊長を、私に出来る範囲で務めさせて貰います――私としても、非公式とは言えお姉ちゃんにリベンジする機会を得た訳ですからね?

 

 だから、この模擬戦は勝ちに行きます!!」

 

 

 

 

――轟!!

 

 

 

 

「!!!」

 

 

途端に目つきが変わったわね?――その目つき、正に『軍神』の化身であると言っても過言じゃないわ。いえ、軍神其の物よ!!!

 

この子が隊長なら、誇張抜きで勝つ事が出来るかも知れない……あの西住隊長を相手に回したこの状況でも、そう思えてしまうわ本気で!

 

 

「西住妹……勝てる?」

 

 

「勝ちますよ、逸見さん。」

 

 

 

 

言いきったか……最高だわ!!

 

あの隊長を、西住まほを相手に回して、こうもハッキリと『勝つ』と言える戦車乗りが、果たしてどれだけ存在するか……だけど、西住妹は当たり前のように、言いきった!勝つって言った!

 

 

なら、其れを現実にする為に、私達は動くだけだわ。

 

 

 

 

「よっしゃー!2・3年混合チームにぜってー勝ーーーつ!下剋上だーーーー!!」

 

 

「下剋上……燃えるじゃない!やってやるわよ、おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

……って、貴女の発言を聞いてテンションが変な方向に上がってるのが2名ほど居るんだけど、アレってあのままで良いの西住い……隊長?

 

 

 

 

「青子さんと椿姫さん……あのテンションなら大丈夫ですよ。アレがあの2人の『パンツァー・ハイ』みたいなものですから。

 

 序に言っておくと、あの状態の青子さんは装填速度が通常状態の1.25倍になり、椿姫さんは車長の能力に+25%の修正が入りますよ?」

 

 

「え、何それ怖いんだけど。絶対に敵に回したくない感じね其れ。」

 

 

「でも、味方だとこの上なく頼りになる。ですよね?」

 

 

 

 

ま、そうとも言えるわね。と言うか、貴女が味方で隊長である時点でそうだったわ。

 

尤も、貴方の場合は、味方なら頼もしいのは当然として、敵であっても全力で戦ってみたいと思わせるものがあるんだけど……或は、そう思わせる時点で、貴女は凄いのかも知れないわね。

 

 

何にしても、この模擬戦では頼りにしてるわよ『西住隊長』。

 

 

 

 

「あはは……はい、頑張ります!

 

 あ、其れじゃあ逸見さんには副隊長をお願いして良いですか?と言うか、隊長権限で逸見さんを副隊長に任命します。異論は認めません。」

 

 

「はぁ!?ちょ、何で私が副隊長なの!?」

 

 

「なんでって……黒森峰の1年生で一番なのが逸見さんですよね?それで、赤星さんが僅差の2位。

 

 歯に衣着せずに言わせて貰うと、幾ら短期間で急成長したとは言え、明光大の1年生で逸見さん以上の人って居ないんですよ現時点では。

 

 もっと言わせて貰うなら、逸見さんなら――小学校の時と、この前の全国大会で私と戦った逸見さんなら、私のやる事も察してくれるんじゃないかって思ったからです。」

 

 

「!!!」

 

 

この子、其処まで私を見ていたって言うの?

 

この間の準決勝は兎も角として、小学校の大会なんて覚えてる人は殆ど居ないって言うのに、あの戦いを覚えていた…覚えていてくれたと言うの貴女は!?

 

 

 

 

「覚えてますよ、小学校の時で一番楽しい戦いでしたから。」

 

 

「そう……そうだったのね。」

 

 

正直な事を言うと、私が一方的にライバル視してるだけで、実際にはあなたの歯牙にもかかって居ないんじゃないかって思っていたのよ。

 

でも、その言葉を聞けただけでも、私にとってはプラスだったわ――貴女は、私の事を覚えていてくれた。強敵として認めてくれてたんだから。

 

 

だけど、そう言う事なら、貴女から直々に下された『副隊長』の件を蹴る訳には行かないわね?――上等、副隊長として貴女を補佐するわ!

 

 

 

 

「期待してますよ、逸見さん?」

 

 

「その期待を上回ってあげるわ、西住隊長。」

 

 

まさか、副隊長に指名されるとは思わなかったけど、指名された以上は己のすべき事をやるだけだわ!!2・3年合同チームに一泡吹かせてやろうじゃない?――私達なら、貴女となら其れが出来るかも知れないわね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

「……何だか、最強のコンビが1年生チームで誕生した気がする。」

 

 

「は?何を言ってるの、まほ?」

 

 

 

 

いや、相手の1年生チームなんだが、みほと逸見と赤星が一緒と言うのは、若しかしなくても最強レベルのチームになるんじゃないかと思ったんだよ凛。若しかしたら、この7日間の模擬戦の中で、一番強い相手かも知れないな。

 

 

 

 

「アンタにとってはそうかも知れないけど、まほとみほと昨日アンタ達姉妹と同じチームだった人以外は、昨日の模擬戦の相手が最強よ?

 

 幾ら姉妹だからって、あそこまで連携できる普通!?ハンドサインとアイコンタクトだけで通じるってどんだけよ!?西住姉妹パネェわ!!」

 

 

「まぁ、幼い頃から戦車に囲まれて暮らしていたからな。」

 

 

思えば、みほとどこかに遊びに行く時もⅡ号戦車を私が運転したからね。

 

其れこそ、小学校に上がる前から私もみほも戦車に触れていたし、2人とも小学校に上がってからは、毎日のようにお母様から戦車道の訓練を受けていたんだ、あれ位は出来るようになるさ。

 

 

 

 

「正に『戦車道における年季が違う』って訳ね――で、合宿最後の模擬戦は、どんな作戦で行くの隊長?」

 

 

「そうだな……如何行った物か。」

 

 

さて、最終日の模擬戦――1年生vs2・3年生の模擬戦で、2・3年チームの隊長は、天城さんと凛の強烈な推しも有って私に決定した。

 

そのお返しではないが、凛を副隊長に指名して(天城さんは頼んだ所で断られるのは目に見えていたので言わなかった。)作戦会議の最中なんだが……1年vs2・3年という事で、見事に車輛が分かれてしまったな?

 

2・3年チームは、攻撃力と防御力に優れた重戦車がチームの殆どであるのに対し、1年チームは機動力に長けたパンターとⅢ号の中戦車と突破力のあるⅢ突とラングの組み合わせで、戦力のバランスとしては1年チームの方に分があるか。

 

 

此方の強みは『相手の何処に当てても撃破出来る』だけの攻撃力だが、みほが相手である以上は、そう簡単には撃破させてくれないだろう。

 

まして、逸見と赤星が居るのならば尚更だし、我が黒森峰の1年も、明光大の1年も、この合宿で相当成長しているだろうから、どんな結果になったとしても、苦戦するのは間違いないだろう。

 

 

特に、ルールがフラッグ戦である以上、みほは徹底してフラッグ車を狙ってくるだろうからな。

 

だが、そうなると事前に作戦を立てるのは、若しかしたら無意味なのかも知れないな?――みほが相手では、此方の作戦を思い通りに遂行するのは難しいだろうからね。

 

ならば、下手に作戦を立てるよりも、相手の出方を見て対処するのが上策だと思うのだが……如何思う副隊長?

 

 

 

 

「其れが良いと思う。って言うか、其れしかないんじゃない?

 

 こう言っちゃなんだけど、みほは何をしてくるか全く分からないし、戦車道の常識をアッサリ引っくり返すようなトンでもない作戦を思いつくから事前に如何するかを考えるのが徒労だわ。

 

 ぶっちゃけて言うと、全国大会での『ドッカン作戦』だって、普通はあんな作戦思いつかないわよ!

 

 幾ら上からの攻撃には意識が向かなくなりがちだからって、相手の頭上から砲弾落とす?――普通は、その発想には思い至らないわよ!」

 

 

「だろうな。――だが、其れがみほなんだ。」

 

 

普通では思いつかない事でも、みほは其れが有効だと思ったなら、前代未聞の作戦でも、それを選択して、そして実行する事が出来るんだ。

 

其処に『迷い』等と言うモノは一切存在していない――其れは、みほが心の底から戦車道を楽しんでいるからだ。勝敗など二の次にしてな。

 

楽しんでいるからこそ、思いついた作戦を実行する事が出来る……其れは、勝利のみを求めて居たら絶対に出来ない事だ――確実に勝利を得るためには、不確定要素を排除した、確実な作戦のみが選ばれるのだからね。

 

 

だが、それがみほの強さだ。

 

不確定要素のある作戦でも、迷わずにそれを選択することが出来ると言うのは、危険と隣り合わせではあるが、しかし逆を言うのならばどんな状況でも柔軟な対応が出来る事の証明であるとも言えるからな。

 

 

故に、この模擬戦は気が抜けないよ。否、この合宿での模擬戦で気を抜いた事は1度たりともないけれどね。

 

だが、恐らく1年生チームの隊長はみほになるだろうし、その配下に逸見と赤星が居ると言うのを考えると、ある意味でみほは最強クラスの戦力を得たと言っても過言ではないからね……ハッキリ言って、自信をもって『勝てる』とは言えない相手だよ。

 

 

 

 

「でも、負ける心算は無いんでしょまほ?」

 

 

「あぁ、勿論だ。

 

 何よりも、強敵を相手にして逃げると言う選択肢は西住流にはない。相手が誰であろうとも、逃げずに真正面から戦ってこその西住流だ。」

 

 

尤も、其れは『誰が相手であっても正々堂々と戦え』と言う事であって、搦め手など使わずに猪武者の如く蹂躙しろと言う物ではないのだけれどね……お祖母様は、如何にも其処を履き違えている気がするけれどな。

 

 

まぁ、何にしても此れが合宿最後の模擬戦だ、悔いの残らないように全力を出して戦おう。

 

黒森峰も明光大もない……此れが、今日の私達のチームなんだ。強気で挑んで来るであろう1年生チームの鼻っ柱を圧し折ってやろうじゃないか!――出来るだろう、私達なら。

 

 

 

 

「異論無しよまほ。貴女が隊長だと、みほとはまた違った安心感があるわね?

 

 みほが『コイツと一緒だったら、取り敢えず何とかなるかも』って言うのに対して、まほは『コイツと一緒なら多分大丈夫』って思えるからね。

 

 みほが『可能性』だとしたら、まほは『安定感』って言った所かしら?――何にしても、頼りにしてるわよ、まほ隊長。」

 

 

「任された。」

 

 

この合宿の集大成とも言える、最後の模擬戦……模擬戦であるにも拘らず、心が躍って来たよ。

 

其れはみほが相手だからなのか、それとも逸見と赤星が敵に回ったからなのかは分からないが、此処まで気分が昂って来たのは全国大会で、みほや安斎と戦った時以来だ。

 

或は、みほの下では逸見や赤星が如何動くのかと言う事にも心が昂っているのかも知れないな。

 

 

見せて貰うぞみほ、お前が黒森峰の1年と、明光大の1年をどう動かして私達に挑むのかを。お前が、急造のチームを何処まで指揮出来るのかを含めてね。

 

合宿の最後を飾る模擬戦……全力で行くぞみほ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

予想通り、2・3年チームの隊長はお姉ちゃんで、副隊長は近坂部長だったね。

 

十中八九、隊長はお姉ちゃんが務めるだろうと思ってたし、お姉ちゃんが隊長になったら、略間違いなく近坂部長を副隊長に指名するだろうって思ってたから、予感的中かな?

 

 

お姉ちゃんと近坂部長のコンビは、若しかしたら最強のコンビかも知れないけど、私達だって負けないよ?

 

この模擬戦は、きっと物凄く楽しい物になるだろうけど、善戦じゃきっと満足出来ないだろうから――この模擬戦は、絶対に勝たせて貰うよ?

 

 

 

 

「上等だ、其れ位の気概がなくては面白くないからな。――其れに、逸見も同じ気持ちなのだろう?」

 

 

「……僭越ながら、勝たせて頂きますよ隊長――!」

 

 

「ふ、そう来なくては……お前達との戦い、楽しませて貰うぞ。」

 

 

 

 

言いきって、パンツァージャケットを翻しながら背を向けるお姉ちゃん……何て言うか、所作の一つ一つが物凄く絵になるよねお姉ちゃんは。

 

でも、そんなお姉ちゃんが相手だから負けたくない――うぅん、勝ちたい!

 

 

「逸見さん……!」

 

 

「えぇ、勝ちに行くわよ!

 

 確かに相手は最強の隊長だけど、私達が力を合わせれば隊長を超える事だって出来る筈よ――だから、絶対に勝ちましょう西住隊長!」

 

 

「西住さんと一緒なら、きっと出来ると思います――だから、遠慮しないで命令して下さい。

 

 私も逸見さんも、ううん、1年生チームの全員が、西住さんに自分を預けています。だから、どんな命令でも遂行して見せます。例え、其れが戦車道の常識から外れた物であったとしてもです!」

 

 

「まぁ、みほの無茶振り命令には慣れてっけどな~~♪」

 

 

「無茶振り?…違うわよ青子、みほは私達なら出来るって信じてるから、命令を下すことが出来るのよ。

 

 だから、無茶振りでも何でもないわ。」

 

 

「何よりも、みほさんの考える作戦は、その局面で極めて有効な物ばかりだから、遂行する側としても安心して行う事が出来るわ。」

 

 

 

 

逸見さんに赤星さん、そして青子さんにナオミさんにつぼみさん……此れだけの期待を寄せられたら負ける事は絶対に出来ない!寧ろ、勝たなかったら嘘だよ!

 

 

相手は最強のお姉ちゃんが指揮する部隊だけど、私達だって負けてないから、全ての力を出して、出し切って戦いましょう!

 

私達だったら、きっと勝てる筈です!!

 

 

「だから、行きましょう!!Panzer Vor!!」

 

 

「「「「「「「「「「Jawohl!(了解!)」」」」」」」」」」

 

 

 

 

合宿最終日の模擬戦、勝たせて貰うよお姉ちゃん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

 

ふふ、始まったわね、合宿最終日の模擬戦が。

 

1年生vs2・3年生チームとしたことで、戦力には夫々利点に偏りが出来てしまったけれど、まほとみほが夫々指揮する部隊としては理想の戦力バランスになったと言っても過言ではないわ。

 

まほは、圧倒的な火力を武器にして相手を圧倒する『力』の戦車道だから、攻防力が高い重戦車を率いてこそ、其の力を発揮できるわ。

 

逆にみほは、火力よりも機動力が武器の中戦車を主力にした『技』の戦車道を得意としているから、パンターやⅢ号がメインの此の部隊編成なら、其の力を120%生かす事が出来る。

 

 

つまり、この模擬戦では、まほもみほも、己の能力を略100%に近い形で発揮する事が出来る――だからこそ、結果は予想できないわね。

 

 

 

 

「楽しそうですね奥様?」

 

 

「えぇ、実際に楽しいわ菊代。」

 

 

手塩にかけて育てた娘達が、夫々大事な仲間を得た上で新たなステージへの階段を上って居るんですもの。

 

西住流の師範としても、あの子達の母親としても、これ以上に嬉しい事はないわ――この私の気持ちは、貴女にだって、分かるでしょう菊代?

 

 

 

 

「えぇ、分かります。

 

 まほお嬢様とみほお嬢様は、私にとっても娘みたいなものですから、奥様の気持ちは良く分かります……だからこそ、私もこの模擬戦は、とても楽しみなのですよ。

 

 現役時代、奥様と共に戦場を駆け抜けた私でも、この模擬戦の結果は予測できませんから。」

 

 

「菊代もそうなのね?……私もよ。」

 

 

西住流師範の私が予測できないとなると、まほもみほも私と同レベルになってるのは間違いないでしょうね――そして、そう遠くない将来、私を超えるのでしょう。

 

 

でも、其れで良いのよ。

 

次世代が、前の世代を追い抜くのは早い方が良い――其れが、その道の発展に繋がっていくのだからね。

 

 

けど、其れは其れとして、貴女達の全力の模擬戦、其れを見届けさせて貰うわ、まほ、みほ。

 

若しかしたら、この模擬戦は、全国大会の準決勝以上の姉妹対決になるのかも知れないけど、そうだとしても遠慮せずに思い切りやりなさい。

 

 

この模擬戦が、黒森峰にとっても、明光大にとっても最高の経験になるのは間違いないのだから。

 

 

「時に菊代、お母様は?」

 

 

「何となく乱入して来て彼是言いそうな気がしたので、マッサージと称してテキサス・クローバー・ホールドで絞め上げて行動不能にしました。」

 

 

「OK、良い仕事をしたわね菊代。」

 

 

「お褒めに預かり恐悦至極です奥様。」

 

 

 

 

自分の母親が締め上げられたって言うのは、本来なら怒る所なんでしょうけど、そんな気は微塵も起きないわね……歪んだ『西住流』を絶対と考えてるお母様だからなのかも知れないけれどね。

 

 

でもまぁ、菊代が締め上げたなら、少なくとも夕方まで目を覚ます事はないだろうから、この模擬戦は普通に行われるわ。

 

 

何方が勝ってもオカシクないこの模擬戦……勝利の女神はまほとみほの何方に微笑むのか――其れを、最後まで見届けさせて貰うわよ?

 

 

 

 

「「Panzer Vor!」」

 

 

 

 

模擬戦開始……!

 

非公式とは言え、この模擬戦は、中学戦車道最強の戦いであると言っても過言ではないかもしれないわ――いえ、間違いなく最強の戦いよ。

 

 

娘達への贔屓目を成しにしても、私はそう言いきれるわ。――だって、観戦する側なのに、現役時代の時の様に、血が湧いて来るのだから。

 

 

だから見せて頂戴、まほ、みほ――貴女達の中に眠っている最高の力と言うモノを!!西住流の未来を導くであろう、其の力をね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer23『全力全壊手加減不要の模擬戦です

殺~ってやる、殺~ってやる、殺~ってやるぞ~~!Byみほ       ファンシーな歌の筈なのに、なんなの、此の悪寒は!?Byエリカ


Side:まほ

 

 

 

合宿最終日の1年vs2・3年合同チームの模擬戦。

 

普通に考えれば、2・3年合同チームが勝つと言えるのだが、今回ばかりはそう言う事は出来ないだろうな?――恐らく、1年チームの隊長はみほが務めているだろうし、その配下には逸見と赤星がいるからね。

 

 

此れは、若しかしたら……否、若しかしなくても、私のこれまでの戦車道人生最強の相手なのかも知れないな。

 

……もしもの話だが、この相手チームに安斎が加入したら、私であっても勝つ事は出来ないだろうね……つまりは、この1年生チームはそれだけの強敵という事か。

 

 

だが、私達とて簡単にやられてやる訳には行かない――此方にも、年長者の意地と言う物があるからね。

 

 

「凛、みほは恐らく徹底してフラッグ車を狙ってくるだろうが、その過程でどんな戦術を繰り出してくるか分からない――殆ど丸投げになってしまうが、フォローを頼む。」

 

 

「任せなさいまほ。

 

 みほの戦術を読み切る事は出来ないけど、一緒に戦って来たから、ある程度の予測はつくから、出来る限りフォローするわ!……尤も、みほは、其れを簡単に超えて来るんだけどね。

 

 ……ホント、貴女の妹は戦車道をやる為に生まれて来たと言っても過言じゃないんじゃないかしら?」

 

 

「かもな。」

 

 

戦況を見極める観察眼、的確な作戦を立てる戦術眼に、どんな状況が起こっても其れに即座に対応できる応用力……戦車道をやる上で、大切な能力を、みほは全て90点以上で備えているからな。

 

 

そしてその力は、西住流に収まる物ではないと私は思う――多分、お母様もそう思っているのかも知れないがね。

 

何れにしても、合宿最終日の模擬戦の相手は、最強だ……だが、だからこそ負けたくない、勝ちたいと思えるのだから、私も相当に戦車道に魅入られてしまって居る様だな。

 

 

さぁ、行くぞみほ……お前の持つ可能性、其れを見せてくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer23

 

『全力全壊手加減不要の模擬戦です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

合宿最終日の、1年vs2・3年合同チームの模擬戦は、先ずは静かにその幕を上げた。

 

西住流の演習場は、ともすればそのまま公式戦の試合会場に使えるんじゃないかと言う程に広く、更には平原と岩場、高地と雑木林まで備えている為に、実戦その物の模擬戦が行えるのだ。

 

 

この実戦的なフィールドで、まず先に動いたのはまほ率いる2・3年合同チームだった。

 

 

 

「此方と向こうの部隊編成を考えると、みほは恐らく高地の稜線は取りに来ない。

 

 だが、この地形ならば稜線を取った方が有利なのは違いない――よって、全車稜線を取り、1年チームが稜線下に現れたら、即座に攻撃出来るようにスタンバイしておけ。」

 

 

 

未だ稜線が取られていない事を確認すると、手堅く稜線を抑えて、みほ率いる1年生チームを迎え撃つ布陣を展開する――即座に其れをやってしまうと言うのは、流石は黒森峰の隊長と言う所だろう。

 

序盤にアドバンテージを得ておけば、其れだけ中盤以降で有利になるのは間違いないと、此れまでの経験から、まほはそう考えたのだ。

 

 

 

「さて、凛。

 

 こうして我々は稜線を取り、フィールドアドバンテージを得た訳だが、稜線を取られた側は、こう言う状況ではどう攻めて来るものだろうな?

 

 部隊編成にもよるが、黒森峰ならば重戦車の砲撃で、逆に下から押し上げる形で相手にプレッシャーを掛けて行く戦法を得意としている。」

 

 

「其れもアリだけど、皆が皆重戦車を持ってる訳じゃないから、普通に考えるなら、部隊を3~4個に分けて周囲から包囲する形で攻めるのがセオリーってモノじゃないの?」

 

 

「そう、その通り。テストだったら二重丸の大正解だ。

 

 だが、みほがセオリー通りに攻めて来ると思うか?」

 

 

「90%の確率で、セオリー通りには来ないでしょうねあの子は……じゃあ、どんな戦術で来るのかって聞かれたら、其れは分からないけど。」

 

 

 

実際に、まほ率いる2・3年連合チームの様に、圧倒的な火力を備えた部隊であれば、稜線を取る事が物凄いアドバンテージになるのは間違いないのだが、みほが相手ではその限りではないのもまた事実。

 

この合宿期間中に、みほの変幻自在で予測不可能かつ定石を踏まえた上での奇策・搦め手・型破りを、これでもかと言う程に見せられたために、相手がみほであるという事だけでも、緊張とはまた違う感覚を覚えてしまうのである。

 

 

そんな中で、稜線を取った2・3年チームの前に、みほ率いる1年生チームが登場!

 

やや遅めの速度で、攻撃されても即座に対応できる態勢を取りながら、少しずつ2・3年チームとの間合いを詰めていく……1年生チームがティーガーⅠの有効射程に入った瞬間に戦闘が始まるのだろうが……

 

 

 

「ラングとⅢ突が居ない……挟み撃ちか?天城さん、後方からの部隊はありますか?」

 

 

「ん~~~……少なくとも目視できる場所には居ないね?

 

 てか、ラングとⅢ突で超長距離射撃は無理でしょ?よしんば出来たとして、ティーガーⅠの装甲を抜くような有効打を与える事は不可能よ。」

 

 

「……如何言う事だ?何を狙っている、みほ?」

 

 

 

目視出来た1年生チームの戦車は、隊長車を含めたパンター3輌とⅢ号が4輌で、Ⅲ突2輌とラング1輌の計3輌の姿がなかったのである。

 

挟み撃ちを疑ったまほが、天城に後方を確認して貰っても、その3輌は確認する事は出来なかった。

 

一体みほが何を狙っているのか、其れを明らかにしようと試みるも、そう簡単に行く筈もなく、考えている間に進行して来た1年生チームは、ティーガーⅠの有効射程圏内に入って来た。

 

 

 

「……分からない以上は、下手な考え休むに似たりか。

 

 ……ならば、先手を取っておくとしよう。全車砲撃準備、此れより敵部隊を一斉攻撃する!」

 

 

 

考えても始まらないと言う結論に達したまほは、先ずは射程内に入って来たパンターとⅢ号に攻撃せんとするが――

 

 

 

 

――ズドン!!

 

 

 

 

「こ、後方から攻撃!?」

 

 

「何だと?」

 

 

「嘘でしょ?さっき確認した時には何もなかったわよ!?」

 

 

 

攻撃しようとした瞬間に、無防備だった後方からの攻撃を受け、攻撃の手が止まってしまった。

 

其れだけならば大した問題ではない。まほの指揮下であれば、直ぐに立て直す事は容易に可能であるのだから――問題は、一体何が、何処から攻撃して来たという事なのだ。

 

 

まほが天城に後方を確認させた時には、1年生チームの戦車を見つける事は出来なかった。

 

否、広い平野を見渡す事が出来る高地ならば、平野を走る戦車を見逃す事などないだろう。――まほ以前に黒森峰の隊長を務めていた者ならば尚更だ。

 

 

ではどこから?――と言う所で、天城は見つけた。後方の茂みから硝煙が上がって居る事に。僅かにⅢ突の主砲が顔を覗かせている事に!

 

 

 

「やられたわ西住!茂みに偽装したⅢ突とラングが後方に待ち構えてる!

 

 恐らく貴女の妹は、私達が稜線を取る事を見越して、先にラングとⅢ突を待機させておいたのよ――私達が攻撃を開始する瞬間にカウンターを打ち込むために!!」

 

 

 

天城の言う通り、みほは事前にⅢ突とラング、3輌の自走砲に別行動を取らせ、稜線下に夫々を有効射程ギリギリの状態で待機させた居たのだ、枯れ木やら何やらで車体を覆って『茂み』に偽装させてだ。

 

 

蓋を開けてみれば単純な偽装待ち伏せだが、しかし相手の虚を突く事が出来たというのは非常に大きいだろう。

 

そして、此れだけでは終わらないのがみほだ。

 

 

 

「部隊散開。

 

 Ⅲ号4輌の内、2輌は私と、残る2輌は夫々1輌ずつ、逸見さんと赤星さんのパンターと組みになって、2・3年チームを包囲するように展開して下さい。

 

 そして、Ⅲ突とラングは、そのまま『有効打ギリギリ』の攻撃を続けて下さい。『当たったら撃破されるかもしれない攻撃』は、予想以上に相手にとってのプレッシャーになりますから。」

 

 

「了解!任せなさい隊長!」

 

 

「了解しました、西住さん!」

 

 

 

すぐさま次の指示を部隊に飛ばし、部隊も其れに応える。

 

特に、黒森峰で1年生ながら、全国大会でエース級の働きをしたエリカと小梅の対応は素早く、夫々ペアになったⅢ号チームと共に、絶妙な距離を保った上で、2・3年チームを包囲する布陣を作り上げてしまったのだ。

 

 

並の相手ならば、此れで押し切られていたであろう。

 

だがしかし、相手は世間で『西住流師範を超えた』と言われている、次期西住家当主たるまほ故に、そうは簡単に行かないのが現実だ。

 

 

 

「見事な戦術だが……私を甘く見るなよみほ!

 

 全車砲撃準備!敵部隊のⅢ号を狙え!相手の最大のアドバンテージである機動力を徹底的に潰すんだ!!」

 

 

 

打ち合いになった戦いの中で、まほは1年生チームのⅢ号を徹底して狙うように指示。

 

大戦期初期のドイツの傑作戦車であるⅢ号だが、攻守力の面で言えばパンターとティーガーには遠く及ばないし、機動力に於いてもパンターには大きく劣る……がしかし、戦車道の世界においては、必要な能力を全て70点で揃えている機体だけに人気が高く、大学や社会人のチームでも使われている汎用機だ。

 

それだけに、どんな作戦にも対応できるが、逆を言えばⅢ号を全て沈黙させる事が出来れば、みほの戦術の幅を圧迫する事が出来るという事でもあるのだ。

 

 

更に言うならば、攻勢に回ったまほは、ティーガーⅠに乗って居るという事もあり恐ろしい程の強さを発揮する。其れこそ、相手の術中に嵌っても、其れを力で突き破ってしまう位にだ。

 

その攻撃能力が遺憾なく発揮され、高所からの重戦車での砲撃が1年生チームに降り注ぐが――4輌のⅢ号は、全て明光大の戦車であると言う事を忘れてはいけない。

 

みほとの訓練で、究極的、或は変態的なまでに回避能力が向上しているⅢ号にクリーンヒットをさせると言うのは、経験豊富な2・3年チームの砲手であっても中々に難しい物があるのだ。

 

 

 

「的を絞らせてはくれないか……このままでは、此方の攻撃は威嚇射撃に終わるだけか――ならば!」

 

 

 

まほも、Ⅲ号を中々撃破出来ない事に若干危機感を抱いたが、其処は流石の黒森峰の隊長。

 

何かを思いつき、其のままクルーにティーガーⅠの主砲を角度限界まで持ち上げさせると、その状態のまま砲撃!クルーは全員『一体何を?』と思っただろうが――

 

 

 

――ドゴン!

 

 

――シュポン!

 

 

 

空に放たれた砲弾は、弧を描いて落下し、其のまま小梅のパンターと行動していたⅢ号を撃破し、白旗を上げさせる。

 

 

 

「掟破りの『逆ドッカン作戦』大成功だな。」

 

 

「自分がやられた事をやり返したって事ね?……妹が妹なら、姉も姉だわ。」

 

 

「褒め言葉と受け取っておくよ凛。」

 

 

 

全国大会準決勝で、自ら体験したみほの『ドッカン作戦』を、今度は逆にまほが使ってⅢ号1輌を撃破して見せたのだ。西住流的には、『?』な作戦なのかも知れないが、模擬戦まで西住流で戦う必要はないと言う事なのだろう。

 

ともあれ、先に1輌撃破出来たのは大きい――

 

 

 

――バゴン!

 

 

――シュポン!!

 

 

 

と思った矢先に、2・3年チームに1輌だけ存在していた明光大のパンターから白旗が上がり、数の上であっと言う間にイーブンに。

 

後部装甲を抜かれたと言う事は、背面のⅢ突かラングが撃破したのだろうが、この2種の自走砲は『有効打ギリギリの攻撃』を行って筈であって、決して撃破出来る攻撃をしていた訳ではない。

 

していた訳では無いのだが、この『有効打ギリギリ』と言うのがみほの命令のミソだったのだ。

 

確かに有効打ギリギリの攻撃では撃破は難しいが、其れは逆に言うならば『僅かな距離の移動で有効打に変わる』間合いであると言っても間違いでは無い。

 

とは言え、自らそのギリギリの間合いの中に入る馬鹿は居ないだろう――だが、試合の中で『入らされる』のを完全に避ける事は出来ない。

 

 

早い話、みほは下からの砲撃を行いながら、稜線上の戦車を少し後ろに下げさせていたのである。其れが結果として、Ⅲ突やラングの有効射程まで敵戦車を誘導した形になり、見事パンターを撃破したのだ。

 

 

 

「パンターが……やってくれるなみほ。

 

 これ以上、この場に留まって戦うのは逆に不利になるか……とは言え、撤退戦は得意ではないからな――よし、此れより部隊を4つに分け、敵部隊を各個撃破する。

 

 みほの相手は私がするので、サポートとしてティーガーⅠ1輌とヤークトパンター1輌はついて来てくれ。

 

 残るヤークトパンター2輌は、ティーガーⅠ1輌と共に後方のⅢ突とラングの相手を、残るティーガーⅠ3輌のうち1輌は赤星の相手を頼む。

 

 そして凛、君には逸見の相手を頼みたい。このチームの中で、私以外で逸見とやり合えるのは君だけだろうからな。」

 

 

「了解……ったく、準決勝の時と言い、何かとあの子とはやり合う運命みたいね。」

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんは恐らく、これ以上稜線上からの攻撃はアドバンテージにはならないと判断して、部隊を此方と同数に分けて各個撃破を狙ってくると思うので、敢えてそれを迎え撃ちます。

 

 ですが、戦車の性能的に此方が相手戦車を撃破するには、的確にウィークポイントを狙わないとならないので、各自『撃破されない』事を最優先にして行動して下さい。

 

 此れはフラッグ戦なので、フラッグ車を叩けば其れで終わりですから、無理にフラッグ車以外を撃破する必要はありませんから。

 

 其れと逸見さん、お願いしますね?」

 

 

「ホント、よくもまぁこんな事を思いつくものだわ……でも、確かに此れなら隊長に勝てるかもね。――だから、任せておきなさい隊長!!」

 

 

 

其処から戦局は一気に動いた。

 

みほもまほも、夫々の部隊に作戦を伝達すると、其のまま即行動に移り、其処からこれまでとは打って変わっての激しい戦車戦が展開される。

 

 

計4カ所の小規模戦闘区域で、それぞれ異なる激しい戦いが行われているのだ。

 

Ⅲ突&ラングvsヤークトパンター&ティーガーⅠの戦闘区域では、攻守力で勝るヤークトパンターとティーガーⅠが攻勢に出ていたが、機動力と突破力で勝るⅢ突とラングはクリーンヒットを受けないように動き回りながら、しかし相手を撃破しようと攻撃を加えて行く。

 

 

小梅のパンターと2・3年チームのティーガーⅠ(天城車)の戦いもまた熾烈だ。

 

 

 

「回避!兎に角、ティーガーⅠの後方に回って下さい。後方を取れれば撃破出来ますから!!」

 

 

 

「何処でもいいから当てなさい。

 

 如何に最強の中戦車とは言え、ティーガーⅠの砲撃ならパンターの何処に当てても撃破出来るから、当てれば勝ちよ!」

 

 

 

1年生ホープの一人である小梅の能力は疑うまでもないが、天城もまたまほが居なければ黒森峰の隊長を務めていただけの人物だけに、戦車乗りとしての能力は抜群に高い――それ故に、互いに譲らない戦いとなっていた。

 

 

 

更に、エリカと凛の戦いはもっと凄い。

 

 

 

「またアナタととは、如何やら神様は、何が何でも私にアナタを倒させたいみたいね近坂さん?」

 

 

「そうみたいね……神様は、如何しても私に貴女を撃破させたいみたいよ逸見!」

 

 

「上等、受けて立つ!」

 

 

「全国大会では付く事のなかった決着……其れを此処で付けるって言うのも悪くないわ!!」

 

 

 

先の全国大会でもやり合った仲だけに、その戦いの激しさは半端なモノではない。

 

エリカは攻守力で勝る重戦車相手に真っ向からの勝負を仕掛ければ、凛も負けじと其れに応じで砲撃を放つ!その戦いの激しさは、準決勝の時以上であると言っても過言ではない。

 

互いに闘志を剥き出しにしての戦いは、戦車道ベストバウトにノミネートしても良い位の名勝負の様相を呈していた。

 

 

 

だがしかし、その中でも最強最大なのが、みほとまほの『西住姉妹対決』だろう。

 

攻守力では圧倒的にまほにアドバンテージがあり、みほが勝っているのは機動力だが……みほは己のアドバンテージを最大限生かす能力に長けている。

 

 

的確な指示でⅢ号を動かし、先ずはヤークトパンターを撃破する。

 

そのⅢ号は、残ったティーガーⅠに撃破されるが、そのティーガーⅠも2輌目のⅢ号に後部装甲を抜かれて白旗を上げる。

 

 

 

「撃て!」

 

 

 

――バゴン!

 

 

――シュポン

 

 

 

しかし、そのⅢ号も、攻撃直後の隙をまほ車に狙い撃ちされて敢え無く撃破。

 

其れはつまり、みほとまほ、隊長車同士の、フラッグ車同士の一騎打ちになったと言う事でもある――つまり、本番は此処からなのだ。

 

 

 

「行くよ、お姉ちゃん!」

 

 

「受けて立つ!来い、みほ!!」

 

 

 

全国大会の準決勝以来となる西住姉妹のガチンコ対決開始!!

 

圧倒的な攻撃力で制圧して来るまほに対し、みほはパンターの機動力を武器にそれを回避しながら砲撃し、まほ車の撃破を狙うが、如何にパンターの主砲が100mm装甲まで抜けるとは言っても『食事の角度』を取ったティーガーⅠを撃破するのは難しい。

 

故に、どうしても隙を狙う戦い方になってしまうのだが――

 

 

 

「(みほのパンターに、何時ものキレがない……如何言う事だ?)」

 

 

 

まほは、みほの乗るブルーのパンターに何時ものキレがない事に疑問を抱いていた。

 

否、キレがないと言うのは語弊があるだろうが、今日のアイスブルーのパンターは、みほが指揮をしているにしては『大人しすぎる』――其れがまほには引っ掛かっていたのである

 

 

 

「(本気を出していない……という訳ではないだろうが――だとしたら、一体何が?

 

 ……考えても答えは出ないだろうな……ならば私は、己の為すべき事をするだけだ――終わりにするぞ、みほ!!)」

 

 

 

だが、考えても答えは分からない。

 

ならば戦って倒すだけだと、みほのフラッグ車を撃破せんと動いたまほだったが――そこで見てしまった、みほの口角が上がっていたのを。

 

自分が攻撃を受けて笑みを浮かべる者は居ないが、みほはこの局面で口元に笑みを浮かべていたのだ。

 

 

 

「逸見さん、今です!!」

 

 

「了解!……ブチかますわよ!!!!」

 

 

 

その笑みの回答となるのは、エリカのパンターだった。

 

みほから連絡を受けたエリカは、凛達に発煙筒を投げて視界を奪った上で、みほの戦線に参加したのだ――2・3年チームに勝利する為に!

 

 

そしてその効果は抜群!

 

 

 

「逸見……馬鹿な!!」

 

 

「勝たせていただきます隊長!!」

 

 

 

滑り込むように乱入して来たエリカ車は、まほ車の後方を取り、其のまま砲撃一発!

 

パンターの超長砲身から放たれる75mm砲は、他の戦車の75mmとは一線を画す破壊力があり、如何にティーガーⅠと言えど、ウィークポイントの後部装甲を至近距離から撃ち抜かれては堪らない。

 

 

結果――

 

 

 

――ズバン!!

 

 

 

――シュポン

 

 

 

『2・3年チーム、フラッグ車、行動不能。よって、1年生チームの勝利です。』

 

 

 

エリカの砲撃が、まほ車を撃破し、模擬戦は此処に決着!――見事1年生チームは、2・3年チームを撃破したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

勝った……お姉ちゃんに勝った!!――『入れ替え作戦』は大成功だったね。――尤も、可也ギャンブル的な作戦だったのは、確かだけど。

 

 

 

 

「入れ替え作戦……車長以外のポジションを完全に入れ替えたか――私が、戦闘中に感じた違和感の正体は此れだったという訳か……マッタク持って見事だったよみほ」

 

 

 

ナオミさんとつぼみさんと青子さんの3人を、逸見さんのパンターのクルーと入れ替える――そうする事で、お姉ちゃんを戸惑わせる事が出来た訳で、その末に勝つ事が出来た訳だからね。

 

 

 

 

「あぁ、完敗だよみほ。

 

 だが、合宿最終日に良い経験をさせて貰ったよ――マッタク持って、車長以外のクルーを纏めて取り替えてしまうなど、考えた事もなかった。

 

 本当に、お前が相手だと退屈しないよみほ……見事な戦い方だった。」

 

 

「お姉ちゃん……ありがとうございました!!」

 

 

其れが出来たのは、お姉ちゃんが強かったからだからだよ。

 

相手が強ければ、強い程、私も燃えて来るからね……この模擬戦は、合宿中最大の戦いだったよ、お姉ちゃん――本当に楽しかったから。

 

 

 

 

「其れは私もだよみほ。

 

 これ程の興奮を覚えたのは、安斎との戦い以来だ――堪能させて貰ったぞ、お前の戦車道をな。」

 

 

「これで、完成じゃないけどね。」

 

 

私の戦車道は、此処からだから、まだまだ強くなる!そうじゃなきゃ、お姉ちゃんを本当の意味で追い越す事なんて出来ないって思うから。

 

でもまぁ、合宿は此れで終わりだから、残るは打ち上げだけ――その打ち上げも、思い切り楽しまないとだね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

 

まさか、こんな結果になるとは……否、ある意味で当然の結果だったのかも知れないわね此れは――私自身、この模擬戦はみほ率いる1年生チームが勝つと思っていたからね。

 

 

そして同時に確信したわ……まほとみほならば、お母様が提唱している『歪んだ西住流』を正すことが出来るのだという事をね。

 

 

勿論それは、簡単な事ではないけれど、まほとみほならば絶対に出来る――あの子達の母として、そして西住流の師範として、其れを確信しているわ。私では断ち切れなかった『歪んだ西住流』を断ち切れるのは、貴女達だけなのだから。

 

 

だけど、今は合宿を無事終えた事を喜びなさい――この合宿で、貴女達が戦車乗りとしてレベルアップしたのは間違いないのだからね。

 

 

そして、戦車道の世界に新たな風が吹き込むのは間違いない。

 

お母様の提唱する『歪んだ西住流』が終焉を迎え『真の西住流』が始まるのは、そう遠くない未来なのかも知れないわ――まほとみほが、あの子達の仲間が、きっとやってくれるでしょうからね。

 

 

 

 

「奥様?」

 

 

「何でもないわ菊代……そう、此れからの戦車道の未来が楽しみになった、其れだけだから。」

 

 

「左様ですか……まぁ、私も同じ気持ちですけれどね。」

 

 

 

 

戦車道の未来の担うのは間違いなくあの子達の世代よ。

 

其れを考えれば、この合宿は未来の世代を育成する為の物であったと言っても過言ではないわ――この合宿に参加した事で、みほもまほも、此れまでとは比べ物にならない位に成長したのだから。

 

 

新たな段階に上った貴女達が、此れからどんな活躍を見せて来るのか…西住流師範としても、貴女達の母親としても楽しみにさせて貰うわ。

 

 

 

私の期待を、はるかに上回る結果を残してくれるのは、間違いないでしょうけれどね――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 



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Panzer24『THE打ち上げ・ウォーです』

打ち上げではっちゃける……王道かな?Byみほ       王道かも知れないが、はっちゃけ過ぎはダメだByまほ


Side:みほ

 

 

 

合宿の全日程を無事に終了して、今は一段落のお風呂タイム。

 

今更だけど、自宅に温泉があるって言うのは、この上ない贅沢だよねぇ?源泉から直引きした、この温泉は掛け値なしに身体に染み込む感じがするからねぇ……あぁ、極楽~~~♪

 

 

 

 

「ホント極楽ね。

 

 この温泉だけでも、合宿に参加した意味はあるんじゃないかって思えるからね?――まぁ、この合宿で底力が大幅に引きあげられた事は間違いないから、本当に参加してよかったわ。」

 

 

「ですね。おかげで、此れまで以上に強くなれた事を実感しましたから。」

 

 

 

 

逸見さん、赤星さん!――そう思ってくれたなら、この合宿は大成功だね。

 

自分が実感できるだけの効果が出なければ、強化合宿は意味を成さないって言うのはお母さんが言ってた事だけど、確かに其の通りだよ。

 

どれだけ厳しいトレーニングを積んだ所で、頑張った本人がその効果を感じることが出来ないのならばマッタク持って無意味この上ないって言う物だからね……お祖母ちゃんには、其れを知ってほしいよ。

 

 

でも、そう言う意味では、己の成長を実感できたこの合宿は意味があったよ。――逸見さんと赤星さんは、来年以降の強敵になりそうだしね。

 

 

 

 

「強敵……アナタにそう評価されるのは、悪い気分じゃないわ――なら、そうなれるように頑張らないとね。」

 

 

「私も、期待に応えられるように頑張ります!!」

 

 

「うん!楽しみにしてるね♪」

 

 

だけど、今は合宿が無事に終わった事をね。

 

お風呂の後は盛大な、合宿の打ち上げが待ってるから、其れも思いっきり楽しもう!打ち上げが終わるまでが、この合同合宿なんだからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer24

 

『THE打ち上げ・ウォーです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、打ち上げなんだけど……何此れ、物凄く豪華だよ!?

 

デリバリーで、此れだけの物を用意するとなったら、其れだけで相当なお金がかかるのは間違い無いと思うんだけど……此れもお母さんが?

 

 

 

 

「一部はそうだが、一部は違う。

 

 と言うか、半分はお前の仲間がやってくれたんだよみほ――彼女は、戦車道以外のスキルも高いみたいだからね。」

 

 

「私の仲間?」

 

 

ナオミさんがこんな事をするとは思えないし、つぼみさんはそもそも不可能だから……と、言う事は青子さん!?いや、料理が得意とは言ってたけど、此処までの料理スキルがあるとは驚きだよ!?

 

普通に、レストランで出せるレベルだよ此れ!!――若しかして、超凄腕シェフなのかな青子さんは?

 

 

 

 

「いや~~、アタシの家って夫婦共働きだから、基本的に晩飯の準備はアタシがしてたんだよ。

 

 んで、やってるうちにどんどん腕が上がって、自分で言うのもなんだけど、気が付いたらプロ級の腕前になってたんだわ此れが――マッタクもって、人生ってのは何処で何が起こるか分からねぇよな。」

 

 

「至言ですね其れ。」

 

 

だけど、その培ったスキルはこの場では物凄く発揮されれてると思いますよ青子さん?この熱々ピザなんて、見てるだけで食欲中枢がダイレクトアタックを喰らった位の衝撃を感じてますからね……戦車道がダメだったら、青子さんはレストランを開くと良いですよ!

 

 

 

 

「まぁ、選択肢の一つとして考えとくわ。

 

 でもまあ、其れは其れとして、合宿の打ち上げなんだから、この場は無礼講だ!!思いっきり楽しんでいこうじゃねぇかよ!!」

 

 

「ですよね♪」

 

 

最終日の最後のイベントである合宿の打ち上げ、其れは全力で楽しまないと満足できそうにないモン――なら、其れを満喫するだけだね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

合宿最終日の打ち上げの為に、少しでも気分を盛り上げようと黒森峰からノンアルコールビール2ダースと、最高級のソーセージを購入した。

 

其れ自体は間違いではなかった。明光大の生徒にも黒森峰特製のノンアルコールビールとソーセージは好評だったからね。

 

デリバリーの品と、辛唐が腕を揮ってくれた料理も実に美味だしね――うん、本当にこのピザは美味しいな。

 

 

が、現在進行形で私の目の前にはとんでもない事態が展開されていた――言っても仕方ない事だが、敢えて言おう。如何してこうなった!

 

 

 

 

「うへへへへ……逸見さん~~~♪」

 

 

「ほわぁぁ!?ちょ、貴女何処触ってるのよ!?そ、其処はダメだって!!こら、止めなさいよ!!」

 

 

 

 

なんで、みほが逸見に襲い掛かってるんだ?

 

此れはノンアルコールだから酔う筈がないし、場の空気に酔ったと言うにはあまりにも弾け過ぎている……一体みほに何があったんだ…?

 

 

……ん?此れは……ノンアルコールじゃなくて、お母様が良く飲んでる普通のビールじゃないか!なんで、そんなものが此処にあるんだ!?

 

 

 

 

「え?其れって普通のビールだったの?

 

 同じ冷蔵庫に入ってたから、其れも黒森峰のノンアルコールかと思って持って来ちまった……あはは、マジのビールも持って来てたんだ♪」

 

 

「辛唐ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

犯人はお前かぁ!!

 

いや、黒森峰のノンアルコールと、お母様の好きな銘柄のビールは缶のデザインがよく似ているから間違えても仕方ないのだが……其れがまさかこんな展開を引き起こすとは、全く持って予想外以外の何物でもないぞ!?

 

こんな想定外、戦車道でも経験した事がない……さて、如何したものか。

 

 

 

 

「それじゃあ、逸見さんも此れ飲みましょうか~~?此れ飲むと、なんかいい気分になれるんですよ~~~♪」

 

 

「アナタ……其れ、ノンアルコールじゃなくて普通のビールじゃない!!なんで、そんな物が此処に有るのよ!!

 

 悪いけど、飲まないわよ!!飲んだらどうなるか、分かったモノじゃないわ。アナタがそんな状態になってるのを見た身としては、尚更に!」

 

 

「ふ~~~ん?……ナオミさん!!」

 

 

「了解した。覚悟を決めろエリカ。」

 

 

「はぁ!?って、何で羽交い絞めしてんのよナオミ!放しなさいよ!!」

 

 

「悪いが、其れは無理だ。

 

 ……此処でアナタを放してしまったら、私達がターゲットになるのは目に見えているからね――私達の為に犠牲になってくれエリカ。

 

 アナタの犠牲は(多分)無駄にしないから。」

 

 

「ふっざけんなぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

……考えてる間に、事態は進んで、如何やら逸見がみほの生贄になる事が決まったようだな。――本来ならば姉として止めるのが正解なのだろうが、あのみほを止める事は私はおろか、お母様でも、そしてアノお祖母様でも無理だろうからな。

 

 

 

 

「隊長、助けて下さい!」

 

 

「非常に申し訳ないが、無理だ。そのみほを止められる自信がない。」

 

 

「隊長ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

「はい、お口あーんして、逸見さん♪」

 

 

「断固拒否するわ!」

 

 

「むぅ……其れじゃあしょうがないですね……」

 

 

 

――グビグビグビ……

 

 

 

 

え?あの、みほ?そんなにビールを飲んで一体何を――

 

 

 

――チュウ♡

 

 

 

「んん!?んーーーーーー!?」

 

 

 

って、まさかの口移しだとぉ!?

 

知識としては知っているが、まさかそれを実際に、其れも実の妹と期待の新人の組み合わせで見る事になるとは、幾ら何でもお姉ちゃん驚いたぞみほ?……みほが素面に戻っても、黙っておくとしよう此れは。

 

 

しかしだ、此れで逸見にもアルコールが入った事になるんだよな?……なんだろう、凄く嫌な予感がする。

 

 

 

 

「如何ですか、逸見さん~~~♪」

 

 

「………アハハハハハハ、なんかいい気分ねぇ此れ!何て言うか、世の中の全てがハッピーに見えて来るわ!!最高の気分って奴ね!!」

 

 

 

 

予感的中か!!

 

と言うか、口移しでの量など大した事ない筈なのに、それであぁなってしまうとは、逸見は相当にアルコールに弱い様だな……絶対に宴会に呼んではいけないと言うか、呼んでも飲ませてはいけないタイプだ……みほと同様にな。

 

あ、其のまま2人とも豪快に1本ずつ空けた……みほも逸見も、明日は記憶が飛んでるかもしれないね此れは。

 

 

だが、だがしかし、この状況を此のまま見過ごして良い筈もない。

 

何よりも、西住流の跡取りとして、黒森峰の隊長として、如何に打ち上げとは言え此処までの事態は何とか抑え込まねばなるまい……一歩間違えれば黒森峰も明光大も、連盟から処分されかねない状態なのだからね。

 

 

 

 

「其れについては大丈夫よまほ、この合宿の事は連盟も知らないから。――其れに、打ち上げで盛り上がるのはある意味で必然でしょう?

 

 否、打ち上げとは大いに盛り上がるモノよ!…何より、限界を超えた合宿を生き残った彼女達には、盛り上がる権利が存在していますよ。」

 

 

「お母様……」

 

 

何時の間に現れたのですか?……でもまぁ其れは、そうかも知れません。

 

彼女達はこの1週間、此れまでとは比べ物にならない程の鍛錬を行って来たのですから、其れが終わった後の打ち上げ位は、好きにさせてやるのが、上に立つ者の度量と器量と言う物なのかも知れませんしね。。

 

其れを考えれば、辛唐のミスからみほが酔っ払い、其れがエリカに伝染したと言うのもまた、この合宿の良い思い出になるのでしょうが……

 

 

「此のまま止めずに放置しておくと、大虎と化した豹の車長2人によって、打ち上げが狂乱の宴になるのではないかと危惧するのですが……」

 

 

「其れについては大丈夫よ。

 

 残りの普通のビールは、全部回収して、現在進行形で私と菊代が処理しているから。」

 

 

 

 

何時の間に!?と言うか、既に5本!?……あの、一気にそんなに飲んで大丈夫なんですかお母様?

 

幾らビールのアルコール度数は5%と低いとは言え、そんなに一気に飲み干したら幾ら何でも酔いが回ってしまうのではないのでしょうか?

 

 

 

 

「まほ、『大人』の熊本女は酒が強いのよ?

 

 自慢する訳じゃないけど、大学の頃の飲み会で、私を酔い潰す目的で飲み比べを仕掛けて来た男子学生5人と連続で飲み比べをして、全勝した事があるのよ私は。

 

 それでいて殆ど素面だった私にとって、ビール5本くらいは飲んだうちに入らないのよ。」

 

 

「其れは何とも恐ろしい蟒蛇っぷりですが、ならばそのお母様の娘であるみほが、あぁも簡単に酔っぱらってしまったのでしょうか?」

 

 

「あら、そんなの簡単な事よ……みほがまだ子供だからよ!大人になれば、大丈夫!貴女もねまほ!!」

 

 

「幾ら何でも適当過ぎます!」

 

 

まぁ、微妙に納得してしまった私が居るのは否定はできませんけれど。

 

だが、お母様と菊代さんが残りのアルコールを処理してくれたと言うのならば、みほとエリカ以外の酔っ払いが出る事はないだろうから、其れについては安心と言う所か――まぁ、酔っぱらった2人が絡んでくる可能性はあるだろうけれどね。

 

 

 

 

「折角の打ち上げなのに、何をやってるのよまほ?

 

 みほと逸見が酔っぱらって心配なのは分かるけど、もうアルコールは無いんでしょ?だったら大丈夫じゃないの。だから、貴女も私達と一緒に楽しみなさいよ?

 

 こっちの隊長は出来上がっちゃってるからアレだけど、あそこまでじゃなくても貴女も少しは羽目を外しても良いんじゃないの?この打ち上げは、ぶっちゃけて言うなら無礼講なんだから♪」

 

 

 

 

凛……其れもそうだな。

 

何よりも、黒森峰の生徒だけであったら、こんな雰囲気になる事もなかっただろうから、其れを考えるなら、この状況は楽しまなければ損と言うやつだ。

 

 

 

 

「お姉ちゃんも、こっちで一緒に飲もうよ~~~♪」

 

 

「隊長~~、一緒に楽しみませんか~~?」

 

 

 

 

何よりも、可愛い妹と後輩に誘われてしまっては断る事も出来ないからな。

 

あぁ、分かった。今行くよみほ、逸見。――其れでは、呼ばれたので行ってきますお母様。……くれぐれもあの2人が気付く前に、其れを全部処理して下さいね?

 

 

 

 

「任せなさい。あ、でも流石にビールだけだとアレだから、何か肴になる物を貰えるかしら。」

 

 

「分かりました。」

 

 

 

――パチン!

 

 

 

「どうぞ師範、黒森峰特製のソーセージの盛り合わせです!」

 

 

「指を鳴らしただけで隊員を動かすとは、やるわねまほ……しかも、物凄く迅速だし。この一皿は、有り難く頂かせて貰うわ。」

 

 

 

 

隊長として、徹底的に隊員を教育しましたので此れ位は朝飯前です。

 

因みに、逸見が健在であったなら今よりも更に迅速にやってくれる筈です。あの子と赤星は、今年の1年の中では飛び抜けていますからね。

 

 

さて、待たせたねみほ、逸見。

 

だが残念な事に、私のグラスは空だから注いでくれるかなみほ?其れと逸見、チョリソーとブルートブルストを取ってくれるか?黒森峰のノンアルコールには、其の2つがよく合うのでな。

 

 

 

 

「はい、どうぞお姉ちゃん♪」

 

 

「チョリソーとブルートブルストですね?了解しました隊長!!」

 

 

 

 

うん、ありがとう。

 

さぁ、今宵は無礼講だ!遠慮はいらないから、大いに盛り上がろう!そして親睦を深めよう!此れもまた、戦車道だからね!!

 

 

 

 

「何だか良く分かんねーけど賛成ーー!」

 

 

「今は、大いに楽しむときですからね♪」

 

 

 

 

私の一言を皮切りに、本当に遠慮も何もなくなって、打ち上げは大いに盛り上がったな。

 

食べて飲んでだけでなく、何時の間にか隠し芸大会が始まったかと思ったら、何処からかカラオケマシンを引っ張り出してのカラオケ大会まで始まって正に無礼講そのものだった。

 

 

こんなに大騒ぎしたのは、一体何時振りだったか分からないが、それでも心の底から楽しんだのは間違いないよ。

 

その宴の果てに、酔いが回りに回って、揃って眠ってしまったみほと逸見は何と言うか、物凄く可愛かった――此れも合宿の褒美かもな。

 

 

そんなこんなで、打ち上げは日付が変わる頃まで続いた。

 

因みに、カラオケ大会でみほと逸見がデュエットした『ライオン』には、私を含め合宿参加者全員が総毛立った……プロかと勘違いしたからね。

 

 

私が歌った『静かな夜に』も大喝采を浴びたが……時折聞こえた『ラクス様ーー』と言うのが気になるのだが、一体誰の事なのやらだな。

 

何はともあれ、この合宿の打ち上げは大成功だったと、そう評して間違いではないだろうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――翌日

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

打ち上げも終わって、此れで本当に合宿は終わりなんだけど……打ち上げの途中からの記憶が無いんだよねぇ?

 

しかも私だけじゃなくて逸見さんもだったから、何があったのかを聞いてみたんだけど、お姉ちゃん達は教えてくれないし、如何言う訳か青子さんは、聞く前にナオミさんがアルゼンチンバックブリーカーで気絶させちゃったから聞けなかったからね。

 

 

でも、きっと打ち上げは上手く行ったのは間違いないかな?皆、満足したらしいからね。

 

 

ともあれ、此れで合宿は本当に終了――皆さん、お疲れ様でした!!

 

 

 

 

「お疲れ様……じゃないわ、この合宿で更に強くなる事が出来たんですもの。――今度戦う事があったら、タイマンで勝ってやるわ西住妹!」

 

 

「楽しみにしています逸見さん。だけど、そう簡単に私に勝てると思ったら大間違いですよ?返り討ちにしてあげます!」

 

 

「言うじゃない……尤も、其れ位じゃないと面白くないわ!――やっぱり、アンタはアタシの一番のライバルである事に変わりはないわね。」

 

 

 

 

其れは私もですよ逸見さん。

 

赤星さん共々、私の一番のライバルは逸見さんですからね……次に機会があったその時は、全力でやりましょう!持てる力の全てを出して!

 

 

 

 

「上等!楽しみにしてるわ!!」

 

 

「はい!楽しみにしています!」

 

 

何よりも、この合宿を通して新たな絆が結ばれたみたいだから、その絆も大事にしないとだよね♪

 

そして、この合宿に参加したメンバーの地力が底上げされた事は間違いないから、中学戦車道全体のレベルもきっと向上して来る筈だよ。

 

 

ふふ、其れを考えたら、なんだか楽しくなってきたかな?――きっと、此れまで以上に戦車道を楽しむ事が出来るかも知れないからね。

 

 

でもまぁ、今は合宿お疲れ様でした♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer25『夏祭りは徹底的に楽しむモノです!』


ザラメ一匙が500円……綿あめってボロイ商売だよね?Byみほ      否定はしないが言ってやるな…彼等も必死なんだByまほ



Side:みほ

 

 

 

無事に合宿が終わって、残りの夏休みを満喫中。

 

宿題も、合宿の最中の自由時間に終わらせちゃったから、残りの日程を遊びに割り当てても全然問題はなくて、其れはお姉ちゃんも同じ。

 

 

だから、夏休み中に、一度は一緒に何処かに遊びに行こうとは思って居たんだけど。

 

 

 

 

「みほ、今度の夏祭り一緒に行こう。」

 

 

 

 

此れは、流石に唐突過ぎないかなお姉ちゃん?

 

いや、一緒に夏祭りに行く事自体は大歓迎なんだけど、もう少し言い方と言う物があるのではないかと私は愚考するんだけど、その辺は如何考えるのかなお姉ちゃん?

 

 

 

 

「?何か間違っていたのか?」

 

 

「間違ってはいないけど、言葉が足りないって言ってるの!

 

 まぁ、夏祭りに行くって言う提案に関しては文句なし、諸手を挙げて賛成なんだけど、私とお姉ちゃんだけじゃ少し寂しい感じがするかな?」

 

 

「其れについては大丈夫だ。逸見と赤星は既に誘ってあるし、先程凛の方にもメールを入れて承諾を貰ったからね。

 

 みほも、友達を呼ぶと言い。折角の夏休みなんだ、多少羽目を外して大騒ぎをしないと、きっと後悔してしまうだろうからな――お母様も、思い切り楽しんで来なさいと言っていたからね。」

 

 

 

 

そうなんだ。

 

だったら、ナオミさんとつぼみさんと青子さんの召喚は確実だね!って言うか、今し方速攻でメール送って、そして速攻で返信が来たから♪

 

勿論、全員参加だったけどね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer25

 

『夏祭りは徹底的に楽しむモノです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で、夏祭り当日。

 

参加メンバーは一度家に集まって浴衣に着替えてから、会場までの神社まで皆一緒に歩いて向かう。履物は、勿論下駄で。(浴衣と下駄は今日の為に、お母さんが菊代さんに用意させたらしい。)

 

うん、下駄の音が心地いいね♪

 

 

 

 

 

――で、歩く事10分。

 

 

夏祭りの会場である神社には、駐車場から境内まで所狭しと出店が犇めいてる……此れは、ここ数年で最大クラスの出店数じゃないかな?

 

 

 

 

「だろうな。

 

 決して規模の大きな祭りではないが、地元の夏の風物詩という事で、商工会の人達も色々と気合が入って居るんだろう。」

 

 

「これで、地域レベルのお祭りだって言うんだから驚くわ……私の地元の地域レベル夏祭りなんて、此れの半分程の規模よ?」

 

 

「まぁ、其れは地域によっても異なるのだろうね。」

 

 

 

 

やっぱり、出店数は最大クラスだよね此れ。

 

それにしても、何て言うか……お姉ちゃんと部長って、2人揃うと可成り『華』があるんだよねぇ?浴衣も、モデルみたいに着こなしてるし。

 

もしもの話になるけど、戦車道をやってなくても、お姉ちゃんと近坂部長は、普通にモデルとしてスカウトとかされてたかも知れないと思っちゃうよ、冗談抜きでね。

 

 

 

 

「アナタだって負けてないんじゃないの?と言うか、アナタの戦車クルーが全員集まると結構目を引くわよ?

 

 何て言うか、夫々は一見バラバラな個性なんだけど、4人纏まると何故か不思議とバッチリ絵になるのよ……此れもチームだからかしら?」

 

 

「逸見さん……其れはあるかも知れません。」

 

 

「まぁ、見た目のインパクトなら、銀髪と天パのコンビのお前等も結構目立つと思うけどな。」

 

 

「て、天パですか……まぁ、否定はできませんけれども……」

 

 

「……赤星の事を『モジャ頭』と言わなかった事だけは褒めてあげるけど、まだ頭髪ネタを持ち出すかアンタは!此の、青唐辛子のクセに!」

 

 

 

 

青子さん、本当に人の事を見た目の特徴で覚えるなぁ?私の事も、片腕って言う事で覚えてたし、ナオミさんとつぼみさんの事も、最初は『ベリショ』と『赤毛』で覚えてたらしいからね。

 

そして逸見さん、青唐辛子って……確かに名前をアナグラムにするとそうなるし、学校でも一部のクラスメイトからそう呼ばれているけどね?

 

 

まぁまぁ、2人ともその辺にして――先ずは如何しようかお姉ちゃん?

 

 

 

 

「そうだな?折角神社に来たんだから、先ずはお参りをしてこようか?

 

 初詣以外では滅多に来る場所でもないから、偶に訪れた時位は参拝したっていいだろう――此処の神社は、色々な勝負事に関する御利益もあるらしいからな。」

 

 

「中学3連覇の為の願掛け?」

 

 

「そう言う訳ではないが、折角来たのに、只祭りを楽しんで帰ると言うのも、此処に祀られている神様に申し訳ないと思ってね。」

 

 

「成程、お姉ちゃんらしいね。」

 

 

一見クールに見えるお姉ちゃんだけど、意外とこう言う事を考えてる所があるんだよね実は。

 

お姉ちゃんだって、神様が居るかどうかを信じてるか信じてないかで言えば、どっちかと言えば信じていない方なんだけど、それでも神社やお寺さんでお参りする時は真剣にお祈りしてるから、神仏に対する心は大切にしてるのかもね。

 

 

だけど、お参りには賛成。御利益があればラッキーだからね♪

 

 

 

 

「100円玉は……よっしゃ、1枚残ってた!後は500円と1円だからなぁ……500円は兎も角、1円じゃ賽銭として安すぎっからなぁ……」

 

 

「なんだ、100円あったのか青子?なければ両替してやったのに……100円玉だけで20枚近くあるから、少し軽くしたかったんだけれど。」

 

 

「なら、悪いけど両替してくれるナオミ?生憎小銭切らしてて、1000円札しかないのよ……英世さんを100円10枚にしてくれる?」

 

 

「OK、毎度あり~~。」

 

 

 

 

こんな事をやりながら、本殿到着。

 

其れじゃあお賽銭を投げてから……

 

 

 

――パン!パン!

 

 

 

二礼のあとに二拍をしてから、手を合わせて心の中で願いをね。……中学校卒業までは、此のメンバーで戦車道を続けられますようにっと。

 

あ、それから、来年こそ優勝できますようにっと。

 

願いが終わったら一礼で、参拝終了!――さて、次は如何しようか?

 

このお祭りの二大イベントである龍舞と花火はマダマダ先だから、先ずは出店巡りって言うのが一番だと思うんだけど、皆は如何思うかな?

 

 

 

 

「異論なーし!って言うか、アタシ的には速攻で出店回りたかったからな!」

 

 

「青子……でもまぁ、異論はないわみほ。

 

 出店巡りって言うのは、祭りの楽しみ方の基本とも言えるし、適当に冷やかすだけでも出店巡りは楽しめるわ。」

 

 

「出店巡り……リミッターを解除するわ!」

 

 

「何のリミッターよ其れは……でもまぁ、食べ物以外にも色々あるみたいだから、出店巡りって言うのは案外楽しめるかも知れないわね?」

 

 

「射的に金魚すくいに、スーパーボールすくい……食べ物も、基本の今川焼やたこ焼き、フランクフルトと綿あめの他にも色々出ていますから目移りしちゃいますね。」

 

 

「ホント目移りするわ……何よりも、此処は地元じゃないから迷いそうよ。――だから、エスコートしてくれるまほ?」

 

 

「了解した。其れではこちらへどうぞ、マドモアゼル。」

 

 

 

 

満場一致で出店巡りに決定!

 

そして、お姉ちゃんと部長は何をしているのやら……冗談めいた部長の一言に、ガチで応えるお姉ちゃんの図は、なんだか凄いね色々と。

 

何て言うか、邪魔するのも悪いし、お姉ちゃんと部長は2人で楽しんでもらうとして、私達は1年生だけで楽しもうか?

 

 

 

 

「異論無しよ。」

 

 

「思いっきり楽しもうぜーー♪」

 

 

「私達は私達でね?良いんじゃない?」

 

 

「何よりも、お祭りは楽しまないと、絶対に損ですもの……と言うか、楽しんだ者勝ちよ!」

 

 

「至言ですね野薔薇さん……まぁ、私もその意見には諸手を上げて大賛成ですけれど。」

 

 

 

 

じゃあ、満場一致という事で、思いっきり夏祭りを楽しみましょう!パンツァーフォー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

そんな訳で始まった、明光大と黒森峰の1年軍団による出店巡り。

 

一行は、先ずは腹ごなしとばかりに『ジャンボ串焼き』の出店で、みほとナオミとエリカが『ジャンボ牛カルビ串』を、青子とつぼみと小梅が『ジャンボ豚バラ串』を購入して、其れを食べながら出店を見て回る。

 

 

 

「逸見さん……此れは外せないよね?」

 

 

「外せるわけないでしょう此れは――ある意味で、日本の夏祭りの代名詞と言っても過言じゃないんだから。」

 

 

 

そんな中で、一行が立ち止まった出店は、御存じ『金魚すくい』。

 

エリカの言うように、夏祭りの出店の代名詞と言っても過言ではない物であり、祭りに参加した者としても、結果はどうアレ、金魚すくいをしないと言う選択肢は存在しない。

 

其れ以前に、取れるかどうかも分からないにも拘らず、客を引き付ける不思議な力があるのだ金魚すくいの出店には――その証拠に、この

 

出店以外の金魚すくいの出店にも人が集まっているのだから。

 

 

となれば、やらないと言う選択肢は存在しないので、各々100円玉を店のおっちゃんに渡し、ポイを片手にレッツトライ!

 

 

 

「先にやって良いぜみほ、お椀は持っててやっからさ。」

 

 

「ありがとう青子さん。じゃあお言葉に甘えて!」

 

 

 

左手でお椀を持つ事が出来ないみほの為に、青子が代わりにお椀をもって、まず最初にみほとナオミと小梅がチャレンジ。

 

狙いを定めてポイですくおうとするが、これが中々どうして難しい。浅すぎると金魚を乗せることが出来ないし、逆に深く突っ込むとあっと言う間にポイが破れてしまうのだ。

 

それでも何とか頑張って、みほと小梅が1匹ずつ、ナオミが2匹と言う結果に。まぁ、1匹でも取れれば上出来と言う所だからこんな物だろう。

 

だがしかし、この店にとっての悪夢は此処からだった。

 

 

 

「さぁて……やってやろうじゃない!」

 

 

「残らず取ってやるぜーーー!」

 

 

「明光大一の俊足からは逃げられないのよ!」

 

 

 

続くエリカ、青子、つぼみの3人が、水面を切るかのような動きで次々と金魚をお椀の中に放り込んでいく。お椀じゃなくて、ラーメン丼を用意した方が良いんじゃないかと言う位に放り込んでいく。

 

此れには、俄かに周囲の客も興味を持って集まり、何時の間にやら人だかりに。

 

因みに、ある程度金魚が溜まって来た辺りで、みほがナオミと小梅に『金魚が可愛そうだから』と言う理由で水を張ったバケツを3つ持って来て貰い、取った金魚をそっちに移した。

 

しかし、そんな事はお構いなしとばかりに、この3人は獲りまくる。とっくにポイの耐久値を超えてるんじゃないかとも思うが、それでも獲る!!

 

獲って獲って獲りまくり、水槽の中の金魚が残り10匹ほどになった所で、遂にポイがクラッシュ!此処に金魚すくいデスマッチは終結した。

 

 

 

「残り10匹か……惜しかったわね。」

 

 

「逸見さん、一体何処を目指してるの?」

 

 

 

青子とつぼみは割とノリと勢いでガンガン行くのでこう言う事もあるかもだが、エリカもまたクールに見えて一度火が付くと止まらないタイプであるらしかった。

 

因みに、大量に獲った金魚は、幾らなんでも全部持ち帰る事は出来ないので、お気に入りを2~3匹だけ貰って、後は全部返却した。

 

なお、この光景をスマホで動画撮影していた野次馬が、後日ネットにアップして何かと話題になるのは、また別の話である。

 

 

 

金魚すくいを楽しんだ一行が続いてやって来たのは射的。

 

食玩のおまけのような賞品から、お金を出したら結構値が張りそうな賞品まで多数取り揃えられている、割とよくあるタイプの射的の出店だ。

 

只一つ、賞品の中に『戦車』と書かれた木の板がなければだが。

 

 

 

「ナオミさん、あの札何としてもゲットして下さい。若しかしたら、明光大の戦力を底上げできるかもしれませんから。」

 

 

「OK、了解したわ隊長。」

 

 

 

エリカと小梅は、精々『太っ腹な賞品』程度にしか思っていなかったが、みほからしたら此れは喉から手が出るほど欲しい賞品だ。

 

試合に出せる規定量10輌しか所持戦車がない明光大は、1輌でも大破したら最悪の場合、次の試合を相手よりも少ない数で戦わなければならない事に成る為、せめて1台くらいは予備が欲しいと思っていた所だったのだから。

 

 

そして、みほから『隊長命令』をされたナオミは、其れを遂行するのみだ。

 

100円払って5発のコルク弾を貰うと、ナオミの顔が祭りを楽しむ女子中学生から、獲物を撃ち貫く砲撃手の物へと変わる……こうなったナオミは撃破率100%だ。

 

 

先ずは3発、上・真ん中・下と弾を当てて、何処に当てれば一番倒れ易いかを確かめる…弾が当たった時の揺れから其れを判断するのだ。

 

 

 

「OK、何処に当てれば良いか見極めた――残り2発で落とすわ。」

 

 

 

そう言いながら4発目を込め、狙いを定めて発射!

 

弾は、一番最初に当てたよりも更に上部に命中し板が大きく揺れる!そして、其れを逃さずに素早く最後の1発を込めて発射!

 

其れは、大きく揺れていた板に見事命中し、そして倒す!明光大一の腕前を誇る砲撃手は、見事隊長命令を遂行したのであった。

 

 

 

「いやぁ、此れが落とされるとはなぁ……だがまぁ、落とされちまったモンはしょうがない。

 

 コイツを持って、駐車場の方に行きな――とっておきの最強重戦車『ティーガーⅡ』と引き換えてくれるからよ!」

 

 

 

しかもゲットした戦車はなんとティーガーⅡ!

 

足回りに問題が多いが、攻撃力と防御力に関しては大戦期に実戦投入され成果を上げた重戦車の中では間違いなく最強であり『キングタイガー』の異名を持つ戦車だ。

 

問題の足回りも、レギュレーションギリギリの範囲で魔改造すれば何とかなる事を考えれば、途轍もない戦力が手に入ったと言えるだろう。

 

 

 

「ナオミさん、よくやってくれました。」

 

 

「隊長の期待に応える事が出来ないんじゃ、隊員として失格だからね。」

 

 

「……思わぬ形で、明光大の戦力が底上げされたわね……」

 

 

「此れは要注意です。」

 

 

 

明光大的には戦力強化、黒森峰からしたら最大級のライバル校の戦力強化と、一口に戦力強化と言っても異なる状況だっただろう。

 

何にしても来年以降の大会で、今年の大会以上に明光大が台頭するのは略間違いない事だと言って間違いない筈だ。

 

その後、エリカと小梅も射的に挑戦し、見事100円の弾数で、普通に買ったら1000円以上する商品をゲットしていた。(但し、エリカに関しては、手元が狂って撃ち損じた一発が偶然商品に当たってゲットした物であり、しかも其れが巨大なボコの縫い包みであった為に、ボコ好きのみほに譲る事に成ったのだが…)

 

 

 

何にしても、一行が夏祭りを思い切り堪能しているのは間違いないだろう。

 

ヨーヨー釣りの出店では、みほが店主からの提案を受け入れてじゃんけんで勝ち、料金1回分で2個のヨーヨーをゲットし、焼きイカの出店では、矢張り店主からの提案を受けたエリカが相子5連続の末にじゃんけんで勝利し、1個分の料金で2個分の焼きイカをゲット。

 

型抜き屋では、みほと小梅が職人芸的なまでの型抜きを披露して、店主が泣きを入れる事態が発生し、スーパーボールすくいでは、金魚すくいの時の様にエリカと青子とつぼみが意味不明な無双を披露して店を営業停止に追い込んでいた……まぁ、此れもまた夏の思い出だ。

 

 

さて、1年生軍団が夏祭りを満喫していた頃、まほと凛は何をしていたかと言うと……

 

 

 

「落ち着いてていいわね此処?」

 

 

「それでいて、祭りの喧騒を感じることが出来るだろう?祭りの空気を感じつつゆっくりできる、私が見つけた穴場なんだ此処は――実を言うとみほにも教えていない。私以外で此処に来るのはお前が初めてだよ凛。」

 

 

「其れは、光栄極まりないわね。」

 

 

 

適当に食べ物と飲み物を購入した後で、夏祭り中は殆ど訪れる人の居ない本堂の一角に腰掛けてまったりと過ごしていた。こう言う過ごし方も、アリなのだろう。

 

実際に、まほも凛も、実にリラックスした状態でこの雰囲気を楽しんでいるのだから。

 

 

 

「時にまほ、その袋の中身はなに?」

 

 

「此れか?合宿の打ち上げでも使ったモノだが、黒森峰特製のノンアルコールビールだ。

 

 打ち上げでは辛唐がトンでもない事をしてくれたおかげでトンでもない事に成ってしまったが、此処に有るのは全てノンアルコールだから大丈夫だ……一本どうだい?」

 

 

「其れじゃあ頂こうかしら?

 

 タコ焼きに焼きイカにフランクフルトと、肴に困らないしね。」

 

 

「ふふ、そうだな……では改めて乾杯しようか?此れからの戦車道の発展を祝って。」

 

 

「乾杯ね。」

 

 

 

――カチン

 

 

 

で、まほが持って来たノンアルコールの栓を開けて、そして乾杯。そして、それと同時に――

 

 

 

 

――ヒュ~~~……ドッパァァァァァァァァン!!

 

 

 

 

この夏祭りの最大の目玉である花火大会が始まった。

 

次から次へと、目まぐるしく色んな花火が打ち上げられる様は正に圧巻!規模的に、隅田川の花火には及ばないが地域祭りの花火大会としては、間違いなく最大クラスの弩派手な物だろう。

 

 

 

「たーまや~~~……だな?」

 

 

「お馴染みの掛け声が、此処まで違和感を感じるってのは初めてね……キャラに合ってないわよまほ。」

 

 

「そうか……残念だな。」

 

 

 

少しばかり、微妙なやり取りがあったが、今年の夏祭りは色々な意味で思い出に残るモノとなる事は間違いないだろう――絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

 

「た~まや~~。」

 

 

「か~ぎや~~♪」

 

 

 

 

毎年の事ながら、此処からは夏祭りの花火が良く見えるわ……まほとみほが付き添いなしで祭りに行けるようになってからは、毎年のように此処から花火を眺めるのがスタンダートになってしまったわ――ま、特等席だから文句はないけれどね。

 

 

今頃はあの子達もこの花火を楽しんでいるのでしょうね……友人が一緒という事で遠慮したけれど、やっぱり一緒に祭りに行きたかったわ。

 

まぁ、あの子達の邪魔をする訳にも行かないから、其れは元より無理な事なのだけれどね。

 

 

 

 

「私では駄目ですか奥様?」

 

 

「駄目だなんて、そんな事はないわ菊代。

 

 何よりも貴女は『飲める』のでしょう?なら、今日はトコトンまで付き合いなさい。夏の夜空に咲く花火を肴に飲むと言うのも割と良い物よ。」

 

 

「風情を肴に酒を飲む……良いですねそう言うのも――今宵は、トコトンまで付き合いますよしほちゃん。」

 

 

 

 

だから、その呼び方は止めろって言ってんでしょうが菊代ぉぉぉ!!――でもまぁ、今日だけはその呼び方を許してあげるわ。

 

今宵は無礼講の夏祭り――神仏ですら祭りの雰囲気に酔ってしまうと言うからね?……だから楽しみましょう菊代?酒の肴もあるでしょう?

 

 

 

 

「スルメにチーズかまぼこ、ビーフジャーキーにカルパス……取り揃えてるわよしほちゃん♪」

 

 

「GJ。流石ね菊代。」

 

 

偶にはこう言うのも悪くないわね。

 

何よりも、私には夜空に咲く大輪の花が、戦車道の明るい未来を暗示しているように思えてならないのよ――まほとみほなら、きっと中学戦車道を塗り替え、そして高校戦車道すら塗り替えるに違いないからね。

 

 

いえ、そうなってもらわないと困るわ…お母様の唱える『歪んだ西住流』を正すには、まほとみほの2人の力が絶対に必要になるのだから。

 

中学時代では無理だろうから、勝負はまほとみほが高校に上がってからね……その時にこそ、お母様の歪みを砕く事が出来る。

 

 

其れは本来ならば、私がすべき事だったのでしょうけど、私では出来なかったから、貴女達に任せるわまほ、みほ。――貴女達なら、お母様の言う歪んだ西住流を正す事が出来ると信じているわ。

 

 

でも今は……

 

 

 

 

「しほちゃん、もう一杯どうぞ。」

 

 

「ありがとう菊代。でも、貴女もちゃんと飲みなさいよ?」

 

 

「はい、ちゃんと頂いています♪」

 

 

 

 

この時間を楽しまないとね……うん、美味い酒を飲みながら友と一緒に花火を楽しむ――此れは最高の夏祭りの楽しみ方だわ。

 

きっとみほもまほも、夫々夏祭りを楽しんでいるでしょうね……ならば、トコトンまで楽しむのが王道!徹底的に、最後の最後まで残らずね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

夏祭りも、フィナーレイベントの花火大会が終わって、此処にお終い。

 

最後まで居たのは今日が初めてだけど、最後の花火は物凄い迫力だったなぁ……思わず身体に力が入っちゃったかね。

 

で、流れで青子さん達は、今日は西住邸に泊まる事に成った――まぁ、異存はないけどね。

 

 

兎に角、お友達と一緒に夏祭りを過ごすなんて言う事は初めてだったから、貴重な経験だったかもしれないね。

 

 

で、その帰り道。

 

話題がお祭りの事だけじゃなくて、戦車の事も出てきちゃうのはまぁしょうがないかな?

 

学校が始まれば練習試合とかもある訳だからね……キッチリ準備して、来年の大会にも備えないと――今度こそ優勝したいし、逸見さんにだけは絶対に負けたくないから。

 

 

 

 

「私も、アナタにだけは負けたくないわ……だから、今度は全力で勝負よ!」

 

 

「望む所です!!」

 

 

だったら、然るべき場所で、完全決着と行きましょうか?――来年の大会で決着をつけましょう逸見さん!

 

 

 

 

「望む所よ、西住妹!!」

 

 

「返り討ちにしてあげます!」

 

 

夏祭りの後の会話としては、ちょっと物騒かも知れないけど、戦車乗り的には此れ位は当たり前のコミュニケーションだから全く問題なし!!

 

来年の大会、楽しみにしてるよ逸見さん!

 

 

……でも、其れよりも前に、射的で手に入れたティーガーⅡをギリギリのレベルで魔改造をするプランを練らないとだね……ギリギリの魔改造をしないと、ティーガーⅡを実戦投入するのはリスクの方が大きいからね。

 

 

前途多難なんだけど、此れ位は乗り越えないと!――まぁ、まだ時間はたっぷりあるから確りと準備しないとね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer26『最強魔改造戦車誕生です!!』

此れは……虎の王に恥じない性能です!!Byみほ      正に『キングタイガー』……頼りになるわねByナオミ


Side:みほ

 

 

 

夏休みも終わって、今日からいよいよ2学期。

 

来年の大会まで戦車道の大会は無い(他のスポーツと違って、戦車道は色々とお金がかかるから秋季の新人戦は無いんだよ。)から、来年に向けて更なるレベルアップをしないとだね!

 

 

その為にも、先ずは夏祭りの射的で手に入れたティーガーⅡを、大会で使えるレベルにまで改造しないとだよ。

 

攻撃力と防御力に於いては圧倒的な強さを誇るティーガーⅡだけど、其の2つを台無しにしちゃう位に足回りが弱いから、其処を何とかしない限り、大会での運用は難しいと思うからね。

 

 

 

 

「だとしても、取り敢えず予備の戦車が確保出来たって事を考えれば悪くねぇんじゃねぇかな?

 

 此れで明光大の所有戦車は11台だろ?たった1台とは言え、予備の戦車が確保できた訳なんだからさ?……性能の方は、専門家に任せときゃ何とかなんだろ?

 

 てか、椿姫の所の整備班なら、大抵の事は如何にかしてくれるだろうからな!」

 

 

「何の根拠もないけど、確かにその可能性は否定できないよ青子さん。」

 

 

実際に、椿姫さんの処には大会中にもお世話になったからね――あそこの整備班の腕なら、いろいろ問題の多いティーガーⅡもレギュレーションの範囲内でのギリギリの魔改造が出来るかも知れないよ。

 

 

ちょっと反則かも知れないけど、レギュレーションに違反しない範囲での改造は合法だから、その範囲内で、出来る限りの事をしないとだね。

 

 

 

 

「いっその事、不○遊星とジェ○ル・ス○リエッティとグラン○・フ○ーリアン呼んでくるか?」

 

 

「頼もしいけど、出来れば止めて……とんでもない超兵器が誕生しちゃうかもしれないからね。」

 

 

さて、椿姫さんの所の整備班がどんな改造をしてくれるのか楽しみだよ。

 

ティーガーⅡが、真に『キングタイガー』の名に恥じない性能を引き出す事に成るかも知れないからね?そうなれば明光大にとって、この上ない戦力の底上げになるのは間違い無いから♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer26

 

『最強魔改造戦車誕生です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ティーガーⅡの整備は椿姫さんの所に任せるとして、私達は戦車道の訓練を確りしないとね!――来年に向けて、もっともっと全員がレベルアップしないと、大会を勝ち残る事は出来ないと思うから。

 

 

 

 

「そうね。

 

 今年の大会でベスト4に入ったとは言っても、それだけに来年からは他校からも目を付けられるだろうから、私達がレベルアップしないと、勝ち抜く事は出来ないでしょうからね……兎に角、練習を重ねるしかないわ。」

 

 

「その通りですよ近坂部長。」

 

 

万年1回戦負けの弱小校がベスト4になったって言うだけで、世間から注目されちゃうからね……だからこそ、絶対に中途半端な試合だけはしたくない――全力を出さないと満足できないし、相手に対しても失礼だから。

 

 

そう言う訳で、本日は走行訓練と砲撃訓練を行い、最後に『バトルロイヤル形式』での模擬戦を行います。

 

どんな形でアレ、最後まで生き残って居た車輛の勝ちになるバトルロイヤルですが、特殊ルールとして、5分以上戦闘行為を行わなかった車輌は強制的に撃破扱いになりますのでその心算で居て下さい。

 

 

 

 

「はい、隊長質問。

 

 その特殊ルールを踏まえて、戦闘には参加してれば1輌も撃破しない状態でも、生き残ればOKって事ですか?」

 

 

「はい、そうなります。

 

 更にルールはバトルロイヤルなので、一時的に他の車輌と手を組む事も、逆に同盟を結んだ相手を行き成り襲う事もルール上は全然OKですから、その辺も踏まえて各車輌は行動する必要があります。

 

 ……勿論、徒党を組んでたった1輌を狙うのもアリです――来たら、真正面から相手になりますから♪」

 

 

「「「「「「「「「「!!!(ヤバイ、目がマジだ!!)」」」」」」」」」

 

 

「……みほ、幾らバトルロイヤルとは言え、同じ戦車道チームの仲間を怖がらせてどうするのよ……」

 

 

 

 

え?怖がらせてないよナオミさん。

 

ただ、私を集中攻撃するなら受けて立つって言う意思を示しただけだよ?――それに、私が幾ら凄んだ所で怖い筈がないよ。凄味って言うならお姉ちゃんの方が遥かに凄いからね?

 

ユース代表に選ばれるだけあって、お姉ちゃんはメディアへの露出が多いんだけど、何処かの週刊誌が『西住まほ選手の眼光の鋭さは、明王の如し』って書いてたから、お姉ちゃんには敵わないって。

 

 

 

 

「……そう思ってるなら、一度戦闘モードに入った己の顔を鏡で見てみる事をお勧めするわみほ。

 

 ハッキリ言って、戦闘モードに入った貴女は『明王』でも生温いくらいよ――其れこそ、閻魔大王と称しても罰が当たらないんじゃないかと思うレベルだからね?

 

 味方なら間違いなく頼もしいけど、敵に回したらこの上なく恐ろしい――正直言って、貴女が敵に回ったら、私は速攻で敵前逃亡したい。」

 

 

「え、其処までなの?」

 

 

「其処までなのよ、みほさん……」

 

 

「まぁ、強くてスゲーから、アタシ的には全く持って問題ねーけどな♪」

 

 

 

 

……な~~んとなく、納得いかない部分があるけど、此れは私が評価されてるって言う事で良いんだよね?そう思わないと色々とアレだし。

 

でも、評価されてるなら、その評価に値する事をしないと評判倒れになっちゃうよね、ナオミさん?

 

 

 

 

「私……若しかして火に油注いだ?」

 

 

「油どころか、ガソリンじゃないかしら此れ……」

 

 

 

 

何か言ってるみたいだけど、全く持って気にしません!!

 

其れじゃあ始めましょうか……最後に『バトルロイヤル』が待ってる本日の練習をね!!

 

 

 

 

「はい、アタシ等以外のチームへの死刑宣告来た此れ。」

 

 

「鬼か悪魔か、或は其れすら超越した軍神か……凄すぎるわみほさんは。」

 

 

「取り敢えず、他のチームには『精々撃破されないように祈れ』としか言いようがないわね……貴女、本気で敵に回したくないわよみほ。」

 

 

 

 

……其処までかなぁ?そうでもないと思うんだけど、ナオミさんが此処まで言うって言う事は、そうなのかも知れないね――だからと言って手加減とかをする心算は全く無いんだけれど♪

 

 

さぁ、精々私達のパンター・ブルーの首を掻っ切って見せてよ……其れ位の実力がなかったら、来年の全国大会では通用しないだろうから。

 

 

さて行きましょうか?練習開始!!!Panzer Vor!!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

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・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

走行訓練と砲撃訓練は、全く持って問題なく終わって、最後のバトルロイヤルも終了。

 

 

結果だけを言うのならば、此のバトルロイヤルの勝者は私達だったんだけど、勝者が誰って言う事よりも、皆の動きが物凄く良くなっていた事に驚いたかな。

 

 

特に1年生。

 

2年生の乗る車輌はティーガーⅠとパンターだから兎も角として、私達以外の1年生は、全車輌がパンターよりも性能で劣るにも関わらず、可也喰らい付いて来るとは予想外。

 

 

夏休みの合同合宿で強化されたとは言え、徹底的に私を狙って来た布陣には結構苦戦したからね……一歩間違ったら、即刻撃破されてたかも知れないからね――私の予想以上に、明光大の底力は増しているみたいだよ。

 

 

 

 

「あの合宿の後も、自主練はしてたし、部活の日以外もチームで集まってミーティングとかしてたから、その効果も大きいかもだよ隊長?

 

 って言うか、あの地獄のような合宿を生きぬいた身としては、来年こそはやっぱり優勝したい訳で、その為の努力はマッタク持って惜しまない心算よ。」

 

 

「そうそう、アレだけやって来年優勝できませんでしたなんて事に成ったら、何の為にあの合宿を生き抜いたんだって事に成るもんね。」

 

 

 

 

成程、皆そうだったんだ。

 

私達パンターブルーのメンバーも、合宿後に部活の日以外でも何度か集まってミーティングやら、時には西住本家で自主練習なんかをしてたからね。時には、お母さんに直接指導もして貰ったし。

 

 

でも、そう言う事なら合宿の成果と併せて、基礎能力に関しては間違いなくずっと戦車道を続けて来た人達と同レベルに引き上げられてる筈だから、此れからは練習内容を、模擬戦形式と基礎練習の比率を此れまでの4:6から8:2にしても良いかも知れないなぁ?

 

あと、月に2回くらいの割合で他校との練習試合もやって行った方が良いかも。実戦に勝る経験は無いからね――そう言う訳で部長、練習試合の予定と相手の選択はお願いします。

 

 

 

 

「任された。そう言うのの調整とかは、部長である私の役目だからね。――で、その練習試合の相手に黒森峰を選んでもいいのよね?」

 

 

「はい、問題ありません。寧ろ願ったりですから。」

 

 

勿論、黒森峰以外の色んな学校と練習試合をしたいですけれどね?色々な所と練習試合をすれば、多種多様な戦術に触れる事が出来るから、どんな場面においても対応が出来るようになるし♪

 

 

さて、それじゃあ今日の訓練は此処まで――お疲れ様でした!

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「お疲れ様でした!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

明日もまた頑張りましょう!

 

あ、そう言えば椿姫さん、ティーガーⅡの改造はドレ位で終わりそうですか?改造が終わったら、問題がないか確かめた上で試運転をしたいんですが……

 

 

 

 

「ん~~~……親父が最優先で仕事をするって言ってたから、どんなに長くても3日後には改造出来てるんじゃないかなぁ?

 

 『ティーガーⅡだと?コイツは遣り甲斐があるじゃねぇか?整備士魂燃えて来たぜおんどりゃぁぁぁぁぁぁぁ!』って、絶叫してたから。」

 

 

「あ、椿姫さんの『おんどりゃぁぁぁぁぁぁ』ってお父さん譲りだったんですね。」

 

 

でも、3日で一部から『攻撃力と防御力以外は、ポルシェティーガー並みの欠陥兵器』と言われてるティーガーⅡを実戦で使えるレベルにまで改造できるって言うのは凄いかな?……お母さんが知ったら、西住流のお抱え整備士として雇おうとするかもだよ。

 

それじゃあ、3日後の放課後に伺ってもいいかな椿姫さん?

 

 

 

 

「3日後ね?OK、親父に言っとくわ『3日後に隊長が見に来る』ってね。

 

 きっと気合い入れて、ティーガーⅡを最強クラスの戦車に仕立ててくれる筈よ?実を言うと、親父って隊長のファンになっちゃってるから、隊長の為なら、120%の力でやってくれると思うわ――他のスタッフ総動員して。」

 

 

「それは……否が応にも期待が高まりますね。」

 

 

攻撃力と防御力に於いては、他の追随を許さないティーガーⅡが如何生まれ変わるのか、期待させて貰いますね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

――そんなこんなで、あっという間に3日が経ちました。

 

 

 

 

今日も今日とて、何時もと変わらぬ日常に、何時もと変わらぬ授業風景(青子さんは爆睡睡眠学習)、お昼はパンターブルーの皆と一緒に摂って(菊代さんが作ってくれたボコのキャラ弁は見事でした)、放課後は紅白戦とフィジカルトレーニング。

 

うん、良い感じにレベルが上がってるね?此れなら、来年の大会で優勝するのは決して夢じゃないよ。

 

加えて、今日はティーガーⅡの改造が出来上がる日でもあるから、其れが加われば車輌面でも強化されるしね?

 

 

 

そんな訳で、部活終了後、私達パンターブルーのクルーは、椿姫さんの案内で『東雲整備工房』にやって来ました。

 

 

 

 

「ただいま~~!親父~、西住隊長連れて来たよ~~!!」

 

 

「お~~、帰ったか椿姫!そんでもって初めましてだな、西住隊長!!

 

 いやぁ、今年の大会は燃えさせて貰ったぜぇ?テメェの娘が出場してるってのもあるが、アンタの指揮は戦車道には明るくない俺から見ても見事なもんだったからな?

 

 準決勝だって、あの倒木がなければ勝ってたのは明光大だったぜ?……不肖の娘に苦労するだろうが、これからも宜しくしてやってくれ。」

 

 

「あ、此方こそ初めまして。

 

 此方こそ、宜しくお願いしますですよ?椿姫さんは、私達の戦車道チームにとっては無くてはならない存在です――突撃も、奇襲も、椿姫さんが居ないと、今一締まりませんからね♪」

 

 

「そうか?其れなら良かったぜ!……でだな、西住隊長、良ければサイン貰えねぇかな?端っこに『源次郎さんへ』って入れて貰って。」

 

 

「……親父、何してんのよ……」

 

 

 

 

あはは……まぁ、サイン位は別に良いから気にしないで椿姫さん。折角だから、私だけじゃなくて、パンターブルーのクルー全員のサインを入れておきますね?

 

サラサラサラッと……ハイどうぞ。

 

 

 

 

「コイツは、一生モンの宝が出来たぜ!将来的にプレミアがついたっておかしくねぇってなモンだ!!」

 

 

「其処までの値打ちがあるかどうかは分かりませんけれどね……さて、ソロソロ本題に入りましょうか?ティーガーⅡはどうなりましたか?」

 

 

「ティーガーⅡ……中々やり甲斐のある機体だったが、レギュレーションギリギリで改造させて貰った。」

 

 

 

 

目の色が変わったね?……基本的には、如何改造したのか聞かせて貰ってもいいでしょうか?その改造で使えるかどうかを判断する必要がありますから。

 

 

 

 

「一番大きく改造したのは回転砲塔だな。装甲厚をヘンシェル砲塔タイプの180mmから、ポルシェタイプの110mmに変更したぜ。

 

 ティーガーⅡは傾斜装甲を採用してるから、110mmの装甲でも実質的には160~180mmクラスの防御力を有する事に成るから、其処を変えてみた。

 

 其れから、他の装甲厚もティーガーⅠ、一部はパンターGクラスにまで低下させある。

 

 大胆に装甲削ったから防御面ではオリジナルのティーガーⅡには及ばないが、その分車体が軽くなって機動力は増したぜ?

 

 エンジンの方も、レギュレーションに違反しないギリギリの範囲で出力を上げたし、履帯の方もレギュレーションで許可されてる素材を使って可能な限りの強化を施したから、滅多な事じゃ切れる事はねぇ筈だ――コイツは、東雲整備工房の最高傑作よ!!」

 

 

 

 

其れはまた、可成り大胆な改造をしたモノですね?

 

敢えて装甲厚を削って車重を減らし、エンジンと履帯をギリギリまで改造して、ティーガーⅡの一番の弱点である機動力を改善しちゃった訳だから……此れは、間違いなく大会レギュレーションを満たしてる戦車の中では最強になると思います。

 

 

それと、改造もさることながら、このカラーリングも気に入りました!

 

金属質な半光沢の漆黒でカラーリングされたティーガーⅡ……正に『キングタイガー』の名に恥じない、見事な佇まいです!此の威圧感は、相手によっては、見ただけで戦意を大幅に削ぐ事が出来るかも知れませんからね。

 

 

来週には、群馬の『伊勢崎市立第一中学校』との練習試合が組まれてたから、その練習試合で早速この機体を使ってみようかな?実際に使ってみて分かる事もあるだろうからね。

 

 

 

 

「其れは良いけど、どのチームがコイツに乗りかえんだ?

 

 ティーガー以上の砲弾を使うとなると、装填士の負担がハンパねぇから、今の状況だと2年のティーガーⅠ2輌のうちどっちかが、此れに乗

 

 るしか選択肢がねぇんだけど……」

 

 

「……青子さんなら、ティーガーⅡの砲弾をどれくらいで装填できますか?」

 

 

「アタシか?

 

……自主練は、パンターの砲弾+20kgの模擬弾使ってやってるから、ティーガーⅡの超長砲身88mmの砲弾でもパンターの時と同じレベルで装填する自信はあるぜ?」

 

 

 

 

なら、今度の練習試合は私達がこの車輌に乗る事にしましょう。

 

駆動系が改善されているのならば、パンターには及ばなくとも、Ⅳ号F2並の機動力は有している筈なので、装填能力が落ちないのであれば此れまでと同じように戦う事が出来る筈ですし、ナオミさんの砲撃技術があればティーガーⅡの超長砲身88mmも生かせますから。

 

操縦面ではつぼみさんに負担をかけてしまいますけれど……やってくれますか?

 

 

 

 

「大丈夫よみほさん!パンターと比べればちょっと足が遅いけれど、此れ位なら明日の放課後の練習で手足の如く動かせるようになるわ!」

 

 

「其れは頼もしいね♪」

 

 

なら、この子の初陣となる今度の練習試合は、絶対に勝たないとだね!!

 

 

 

 

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・・・

 

 

 

 

『伊勢崎市立第一中学校、全車輌行動不能――よって勝者、明光大付属中学校!』

 

 

 

 

で、その練習試合……何と言うか圧倒的に勝っちゃいました。

 

思った以上に、改造ティーガーⅡの性能が凄すぎたって感じ……其れこそ、対戦相手から『魔改造した違反戦車』って言うクレームを付けられてもおかしくない位の性能だったからね。

 

機動力でこそパンターには劣るけど、此れだけの攻撃力と防御力を持った戦車が40km以上で動けるって言うのは其れだけでも脅威だよ。

 

加えて、機動力確保の為に犠牲になった防御力も、考えてみればティーガーⅠと同レベルなんだから大した弱体化じゃなかったから、結果として、明光大は最強の戦車を手に入れたって言っても過言じゃない。

 

 

今日の練習試合も、魔改造ティーガーⅡが殆どの場面を持って行ったからね……正に恐るべき性能だったよ。

 

 

でも、その性能のせいで、この戦車もまたパンターブルーと同様に、私達の専用車輌になっちゃったんだよね……近坂部長曰く『この魔改造戦車はアンタ達じゃないと使えない』って言う事だったんだけど、まぁ、其れは確かにそうかもね。

 

 

クセの強いティーガーⅡの操縦は簡単じゃないし、ティーガーⅠの砲弾を楽にこなせるくらいじゃないとティーガーⅡの装填士は務まらないから、それらを総合すると、確かに私達のチーム以外にはティーガーⅡを使う事は出来ないかもしれないよ。

 

 

そう言う事なら、試合によって隊長車をパンターかティーガーⅡで変えるのが上策だね。

 

機動力が必要な場合にはパンター、攻撃力が欲しい時にはティーガーⅡっていう具合に――ある意味では、戦術の幅が広がったかもだよ。

 

アイスブルーのパンターと、漆黒のティーガーⅡ……どちらも、私の大切な『相棒』である事は間違い無いから、これからも宜しくね♪

 

 

 

 

「操縦技術をもっともっと磨かないとよね。」

 

 

「更なる筋力アップ……ティーガーⅡの砲弾も、最速0.25秒で装填できるようにならねぇとだな。」

 

 

 

 

この日の練習試合を境に、つぼみさんの操縦技術は更に向上し、青子さんの装填速度は日に日に早くなっていった――パンター搭乗時の装填速度は、ぶっちゃけ人の反応速度の限界突破してるっぽかったからね。

 

でも、その成果もあって、2学期以降の練習試合に於いて、明光大は黒森峰以外には負けないって言う凄い成績を残した――黒森峰との対戦成績も、1勝1敗1引き分け(時間切れで残存車輌同数)だった訳だから、いい成績だったと思う。

 

 

 

 

そして、其れからも練習を重ねながらあっと言う間に時が経って、私達は2年生に進級する時がやって来たのだった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 




キャラクター補足




東雲源三郎

『東雲椿姫』の父親で、『東雲整備工房』を取り仕切る、江戸っ子気質のオヤッさん。

職人気質の頑固さはあるモノの、自分が気に入った相手に対してはトコトン厚情で、実際にみほの事を気に入った事で明光大の戦車の整備は、持てる技術の全てを注ぎ込んで行っている。

みほ達が夏祭りで手に入れたティーガーⅡに、レギュレーションギリギリの魔改造を施し、名実ともに最強兵器へと昇華させた。




魔改造ティーガーⅡ詳細スペック

装甲:全面110 防盾100mm 側面&後面80mm 全面上部100mm 全面上部側面80mm 全面下部100mm 全面下部側面80mm

搭乗員:最大5名

最高速度:路上40km

航続距離:路上190km

搭載咆:88mm KwK43 L/71

・東雲整備工房で、レギュレーションギリギリの魔改造が施されたティーガーⅡ。

 防御力ではオリジナルのティーガーⅡに劣るモノの、機動力では圧倒的に勝る、正に鋼鉄の虎の王と言うに相応しい戦車。

 しかし其れだけに、完璧に扱うのが難しく、アイスブルーのパンター同様に隊長専用車となっている。

 だが、この戦車の加入で、明光大の戦術の幅が広がったのは間違いない。



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Panzer27『新たな戦車道の仲間です!!』

此れはフライング出場なのかな?Byみほ      私達の事もあるから、深入りは厳禁よみほByナオミ


Side:みほ

 

 

 

春休みが終わり、今日から私も晴れて2年生。

 

で、今日は始業式なんだけど、新年度の始まりで気になるのは、クラス編成!――今年は一体、誰と一緒のクラスになるのかって言うのは、私だけじゃなくて気になる事だからね。

 

 

んん……よいしょっと。

 

 

私は――今年は2年5組だね。

 

去年一緒のクラスだった人達も其れなりに居るみたいだけど――それ以上に、青子さんとナオミさんとつぼみさんが同じクラスって言うのには流石に驚いたかな?

 

まさか、戦車道の隊長チームが同じクラスになるとは思ってなかったからね――或は、学校側が、隊長チームを同じクラスにして戦車道大会での更なる飛躍を期待した可能性は無くもないけど。

 

 

 

 

「ま~~、その辺はどーでも良いだろ?大事なのは、アタシ達とみほが一緒のクラスになったって事だ。アタシは去年も同じクラスだったけどな。」

 

 

「青子の言う通りね。――私達が同じクラスになったって言うのが重要なのよみほ。」

 

 

「同じクラスであれば、ちょっとした休み時間でも、簡単な作戦会議とかは出来ますから♪」

 

 

 

 

まぁ、深い事は考えないで、今は同じクラスに慣れたって行くことを喜ぶべきだね!――取り敢えず、今年1年、宜しくお願いしますね青子さん、ナオミさん、つぼみさん!

 

 

 

 

「「「此方こそ!」」」

 

 

 

 

新たな年度……進級した今年も、色々と楽しめそうだね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer27

 

『新たな戦車道の仲間です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とは言え、始業式の日は授業がなく、基本的に部活も休みなんだけど――新学期が始まって早々に、部長に呼び出されました。

 

集まってるのは、隊長チーム全員と、それ以外のチームの車長――この面子を考えると、結構重要な何かじゃないのかって思うのが普通だと思いますが、何があったんですか近坂部長?

 

 

 

 

「あったわよ、大当たりな事がね。

 

 昨年度の大会における我が校の快進撃に感激した、地元の商工会が資金を提供してくれて、其れで新たな戦車を買う事が出来たのよ!

 

 しかも聞いて驚け!新たに購入したのは、最強の中戦車であるパンターG型よ!!

 

 此れで我が校は、3体のパンターを有する事に成った!――去年の2学期に齎された、魔改造ティーガーⅡと併せて、此れは即戦力になる戦車よ!」

 

 

「此処でパンターがもう1輌……!」

 

 

其れは、何とも有り難い事ですよ部長。

 

パンターの性能は他の中戦車を遥かに凌駕する、大戦期の超ハイスペック中戦車ですから、明光大の戦車力が更に底上げされたのは間違いありません!――資金提供をしてくれた、商工会の方々には、今度ちゃんとお礼をしないとですね。

 

 

 

 

「パンターがもう1輌ってのは心強いわね。

 

 此れで明光大の得意とする、機動力を生かした戦い方に更に鋭さが増すわ――ルールで使用できる戦車の中に、パンターを超える機動力を持った中戦車以上の戦車は存在しないんだから。」

 

 

「そーそー、ナオミの言う通りだって。

 

 戦車の性能に頼りきる心算はねーけど、最高性能の戦車が増えるってのは、マジで有り難いからな――今年は、出来るかもだぜ優勝!」

 

 

「勿論、新入生がドレだけ入って来るかも、大事な要素ですけれどね♪」

 

 

 

 

新入生かぁ……確かに其れは取っても大事な事だねつぼみさん。

 

今年入部希望者が0だと、来年が凄く大変になるから、去年の私達とまでは行かなくても、3チーム分くらいの人数は入部して欲しい所だよ。

 

明日が入学式で、明後日からは新入生に対する部活動の勧誘とかが出来るようになるから、確りと戦車道部をアピールして、新入部員を確保する事にしましょう!

 

 

 

 

「勿論その心算。――そう言う意味では、去年のベスト4って言うのは宣伝文句としては悪くないわ。

 

 其れも只のベスト4じゃなくて、絶対王者黒森峰と互角に渡り合った末のベスト4なんだから、此れは新入生を勧誘する上での大きな武器になるでしょ?」

 

 

「部長の言う通りだろうな~♪

 

 押しも押されぬ絶対王者と互角に渡り合ったってのは、戦車道に関わってる奴なら知ってるだろうが、関わってない奴でも『スゲー』と思うのは、間違いねーって!実際アタシだったら思うしな!」

 

 

「確かに、新入生の興味を引くには充分かも知れないね。」

 

 

加えて、お姉ちゃんのジュニアユースでの活躍や、黒森峰高等部が無敵の7連覇中って言う事もあって、戦車道は俄かに活気付いて注目度が増してるから、此れなら意外と新入生を呼び込めるかもしれないし。

 

でも、大会の成績だけじゃちょっとアレだから、もっとこう強烈なアピールが欲しい所かな?

 

 

 

 

「なら、戦車に乗ってビラを撒くって言うのは如何かしらみほ?其れも、迫力抜群の新隊長車であるティーガーⅡシュバルツで。

 

 部活の宣伝としては、間違いなく他の部活を完全に凌駕するインパクトがあると思うわよ?」

 

 

「OK、それで行きましょうナオミさん。」

 

 

其れなら確かにインパクトがあるし、其れ位のインパクトが有った方が新入生の印象にも強烈に残るだろうから。

 

――いっその事、ネットで旧日本軍の軍服を買って、カラーリングを黒に改造して着ちゃおうか?更にインパクトは強くなるし。

 

 

 

 

「……黒い日本軍の軍服を着たみほと黒いティーガーⅡか……其処に、同じ軍服を着たまほ姐さんと黒いティーガーⅠを加えてみよう!!」

 

 

「「如何足掻いても勝てる気がしない!!!」」

 

 

「……並の戦車乗りなら、敵前逃亡するわ其れ……」

 

 

 

 

……私とお姉ちゃんを何だと思ってるんですか貴女達は――私とお姉ちゃんは『西住』だから、色々とアレなのは否定しないけど、だからと言って中学最強って言う事でもないでしょ?安斎さんは、お姉ちゃんと互角にやり合ってたし。

 

 

 

 

「気分的な問題よみほ……ぶっちゃけ去年の合宿で、貴女とまほが組んだ時の模擬戦、私は絶望を通り通り越した、真の恐怖って言う物をバッチリと味わったからね?

 

 こう言っちゃなんだけど、アンタ達姉妹は『混ぜるな危険』だわマジで。」

 

 

「去年の合宿の事を言われると、反論できないのが辛いです。

 

 じゃなくて、部活勧誘はその方向で行くって言う事で良いんでしょうか凛部長!!」

 

 

「OK、問題ないわ。」

 

 

「でも、黒の日本軍軍服ってのは味気ないから、衣装の方はアタシがバッチリ用意してやるから楽しみにしてなみほ!

 

……衣装代は、部費で落ちるって言う事だから、思い切りやらせて貰らうからさ!!」

 

 

 

 

えぇと……つまり、この案で良いって言う事だね?

 

青子さんが用意するって言う衣装が少し気になるけど、戦車道部の部員が増やせるなら、余程の際物衣装じゃない限りは着るから大丈夫!

 

何よりも、西住流に『撤退』の文字は無いらしいから、逃げるって言う選択肢は無いからね。

 

 

 

 

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・・・

 

 

 

 

という訳で二日後。

 

今日から新入生の部活勧誘が解禁されるんだけど、まさか青子さんが隊長チーム全員の衣装をネットで発注してるとは思わなかった……しかも、チームメンバーの個性を引き出す衣装だったからね。

 

 

でも、確かに個性は引き立つけど、何でデザインが微妙に『黒のカリスマ』っぽいのかな?

 

ナオミさんは黒のレザーパンツに黒のタンクトップに黒のロングコート、つぼみさんは黒いミニスカートに黒のインナーに黒のノースリーブのレザージャケット、青子さんは黒のハーフパンツに黒のTシャツと黒の短ベスト。

 

其れだけでも凄いのに、私に至っては黒い軍帽に、黒のボタン付きシャツと黒のミニスカート、黒の袖なしコートにサングラス、そしてトドメに黒のハイヒールブーツ+オーバーニーソックスと来てるからね?

 

……ハッキリ言って、普通に街中で会ったら、逃走確実な格好だと思うんだけど……なんで此れをチョイスしたし。

 

 

 

 

「みほなら似合うと思ったし、インパクト半端ねぇから♪」

 

 

「其処まで言いきられると、怒る気すら失せるよ青子さん。」

 

 

まぁ、戦車走らせる前から注目集めてるから、其れを考えるとこの衣装のチョイスは大成功だったって言えるかな?――でも、本番は此処からだから、行きましょう!

 

 

「Panzer Vor!」

 

 

「「「Jawohl.!」」

 

 

 

 

先ずは戦車発進と同時に、昨日のうちに作っておいた勧誘用のビラを青子さんがティーガーⅡの後部に立ってばら撒き、適度に移動した所で、今度はあらかじめ装填しておいた、部活勧誘用の特殊弾を空に向けて発射!

 

うん、角度よし、位置良しの最高の場所だね――あそこなら、外に居る生徒にも教室内に居る生徒にもよく見えるから。流石はナオミさん♪

 

で、その特殊弾が何かと言うと……

 

 

 

 

『新入生諸君、来たれ戦車道部へ!!』

 

 

 

 

文字を形作る特殊スモーク花火の弾。うん、新入生だけじゃなくて加入活動してる他の部活の人達も思わず見ちゃってるから、効果は覿面。

 

さてと、其れじゃあそろそろ仕上げと行こうかな?

 

先ずはキューポラの上に立って、其れからサングラスを外して胸元に引っ掛けて……良しOK。

 

 

「明光大付属中学校戦車道部の隊長、西住みほです。

 

 経験者、未経験者を問わず、私達は貴女達新入生を歓迎します――細かい事は言いません、興味を持ったのなら、是非戦車道部へ。」

 

 

で、此処で一礼して、それで帽子を投げると……こんな感じでOKかな青子さん?

 

 

 

 

「OK、OK!カリスマ性バッチリ。つーか、その格好でキューポラの上に立っただけで『黒の軍神』だから大丈夫だって。

 

 少なくとも、新入生の連中に強烈なインパクトを与えたのは間違いねーだろ?弩デカいインパクトを与えれば、絶対興味持つからな♪」

 

 

「だと、良いんだけどね?……アレ?」

 

 

 

 

――ポス

 

 

 

 

「わひゃ!?」

 

 

 

 

ありゃりゃ……投げた帽子が、偶然1年生の子の頭に被っちゃった。思わぬハプニングだけど、此れは此れで利用できるかな?

 

 

「……その帽子、貴女にあげるよ。大事にしてくれると嬉しいかな?」

 

 

「は、はい!勿論です!!」

 

 

 

 

「……アドリブで其れかよ、マジスゲェなみほ?取り敢えず、1名確保は確実だな。」

 

 

「自分でも、咄嗟にあんな事が出来た事に驚きだよ青子さん。あの子は、間違いなく入部してくれるだろうけどね。」

 

 

何となく、ちょっとやり過ぎてる感はしなくもないけど、私にはお姉ちゃんの『ジュニアユース代表』みたいな分かり易いネームバリューは無いから、此れ位やって強烈な印象を残さないと、戦車道部への勧誘って言うのは難しいもん。

 

加えて、『片腕の隊長』って言うのは間違いなく新入生の間で話題になるだろうからね?……自分の身体のハンデ部分だって、プラスに使えるなら徹底して使うのは当然だよ。

 

 

最終的な入部人数は、仮入部期間が終わった後で正式な入部届を出した人の数になるから今は未だ分からないけど、仮入部期間に戦車道の面白さを知ってもらう事が出来れば、確実に部員を増やせると思うから、そっちの方も大事だね。

 

 

「部員、増えるかなぁ?」

 

 

「間違いなく増えるんじゃない?

 

少なくとも、さっきの貴女のカリスマ性は半端な物じゃなかったと思うよみほ――其れこそ、まほさんにだって負けてなかったわ。」

 

 

「ぜってー増えるから大丈夫だって!経験者だろうと、未経験者だろうと可也来る筈だぜ♪」

 

 

「そうね。私が新入生だったら、さっきのみほさんに惚れちゃうかもだし……其れこそ、学校が学校だったら『お姉さま』って呼んじゃう位に。」

 

 

 

 

其処まで!?

 

って言うかつぼみさん、『お姉さま』って……其れはどっかの『○リア様が見○る』の世界でやってね?

 

 

 

 

「スールの契りは、ロザリオの受け渡しじゃなくて、戦車の受け渡しで!」

 

 

「ロマンチックな雰囲気も何もないよ其れ!?鉄と油と火薬の匂いしかしないからそれだと!!」

 

 

「でも、それが戦車乗りとして正しい匂いでしょう!」

 

 

「うん、否定はしないけどね!?」

 

 

何て言うか、色々アレだなぁつぼみさんは……普段の様子からは考えられないけど、意外とお嬢様的な事に憧れ持ってたりするのかなぁ?

 

……こう言ったら凄く失礼だけど、物凄く似合ってないよ其れは流石に、其れなのにお嬢様キャラになったら、其れは其れで素晴らしいキャラ性を発揮してくれんじゃないかって思う辺りつぼみさんのポテンシャルは計り知れないよ。

 

 

でもまぁ、取り敢えず宣伝はバッチリしたから、後はドレだけ部員が集まるか……其れに尽きるね。

 

 

 

 

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・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

で、仮入部期間も終わった四月半ば……此れは、結構新入部員が集まったね?

 

計16名――4チーム分の人員が確保出来たって言うのは大きいよ。3チーム分確保できれば上出来と思ってたから。

 

 

 

 

「……仮入部期間中に、みほが『西住流フィジカルトレーニング』を敢行しなかったら、もっと部員が増えていた件について。」

 

 

「堅い事言うなよナオミ!アレは、正規部員になる奴等の振るい落としだったんだって多分。

 

 仮入部でアレを経験して、それでいてなお戦車道部への入部を決意した奴だけが此処に集まってる――つまりトンでもなく根性の座った奴等が此処に居るって事だろ其れは!

 

 気合と根性があれば、大抵の事は如何にか出来るから、先ずは其れが無いと話にならねぇだろ!!」

 

 

「……何処かの赤毛三つ編みお姉ちゃんの理論よね其れ……まぁ、否定はしないけれど。」

 

 

 

 

……別に意識した訳じゃないんだけど、仮入部期間のアレが、結果として部員の選定になってたんだ――確かに、あれ位で根を上げるようじゃ、戦車道を続けるのは難しいからね。

 

 

でも、だからこそ新たに入部してくれた16人には、期待しちゃうかな?

 

お姉ちゃんをして『普通じゃない』と言った西住流フィジカルトレーニングを体験して、それでも入部を決めてくれた訳だからね♪此れは、色々と期待しちゃうよ。

 

 

さてと、先ずは挨拶だね。

 

 

「明光大付属中学校、戦車道部隊長の西住みほです。――ようこそ戦車道部へ!

 

 貴女達が入部してくれた事を心の底から有難く思います。共に、大会で優勝を目指しましょう!!」

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

うん、返事も元気があっていいね。

 

其れじゃあ先ずは自己紹介から行こうか?今日からは此れがチームになるから、互いの名前はちゃんと覚えておく事も必要になるからね。

 

じゃあ、先頭の人から行ってみようか?

 

 

 

 

「は、はい!和歌山市立第三小学校出身の田村なのはです。小学校では、戦車道クラブで砲手をやってました。」

 

 

 

 

ふぅん?経験者が居るって言うのは有り難いかな。いろんな面で、頼りになるからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、新入生の自己紹介が続き……次の子は――アレ?あの子は……

 

 

 

 

「ひたちなか市第一小学校出身の澤梓です。

 

 戦車道は未経験ですが、去年の大会に感動してこの学校に来ました!――戦車道に関しては素人ですが、宜しくお願いします!!」

 

 

 

 

部活勧誘の時に投げた帽子が偶然頭に乗っちゃった子……思った通り、入部してくれたんだ。

 

しかも、去年の大会に感動してって……嬉しい事を言ってくれるよ。――未経験者であるにも関わらず、瞳の奥からは凄い闘志を感じるからちゃんと鍛えれば、物凄い戦車乗りになるかも知れないね澤さんは。

 

 

加えて、澤さんだけじゃなく、新入部員全員が相当な資質を持ってるから、此れは今年は本気で優勝する事が出来るかも知れないよ。

 

ううん、絶対しないとだからね今年は――近坂部長に、優勝って言う最高の卒業祝いを送りたいしね。

 

 

今日からこのメンバーが、我が校の戦車道のチームです――頑張っていきましょう!!

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「おーーーー!!!」」」」」」」」」」」×他沢山

 

 

 

 

優勝を目指す以上は、黒森峰を倒さないとならないけど、1回戦で当たろうと、決勝で当たろうと、今年は私達が勝つから覚悟しておいてねお

 

姉ちゃん――今年は、私達が優勝させてもらうから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

ふむ……今年の新入部員は、20名か――まぁ、妥当な所だな。

 

それでも去年と比べると些か数が少ないのは、ある程度の数がみほ率いる明光大か安斎率いる愛和学院に流れたからだろうな……チャレンジャー精神に溢れる者ならば、王者黒森峰に入学するよりも、挑む側である学校に進むだろうからね。

 

 

だが、だからこそ今年は去年以上に面白い大会になるかも知れないな?

 

強化された明光大と愛和学院が、どれほどの力を持ってして私の前に立ちはだかるのか……其れを想像しただけで、私の戦車乗りとしての闘争本能が疼いて来るじゃないか。

 

 

 

 

「隊長?」

 

 

「……何でもない。だが、今年の大会は去年よりも荒れるぞエリカ、小梅。

 

大会は、まだ少し先だが、今の内から覚悟を決めておけ。」

 

 

「「り、了解!!」」

 

 

 

 

私の中学生活最後となる大会は、矢張り優勝して終わりたいからな。

 

願わくば、みほと安斎の両方に勝利して、中学最後の大会に華を添えたいものだ――まぁ、そう簡単に華を添えさせては貰えないのだろうけれどな。

 

 

何にしても、今年が中学最後の大会だ……悔いの残らぬように全力で臨まねばだ!!――私を楽しませてくれよみほ、そして安斎!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 




キャラクター補足







田村なのは

明光大の新入生で、小学校時代は戦車道クラブで砲手を務めていた経験者。

天真爛漫な性格で、誰にも好かれるタイプだが、一度戦車道のバトルスイッチが入ると、二重人格かと言う程に人が変わって、全力全壊の砲撃で敵戦車を殲滅してしまう、ちょっと困った一種のタンクジャンカー。



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Panzer28『始動!新生明光大付属です!』

行くよ、梓ちゃん!Byみほ      はい!By梓      未来の隊長副隊長コンビ……凄いわねByナオミ


Side:みほ

 

 

 

新メンバーを迎えての新生戦車道部が始動した訳だけど、今年の新入部員は、半分以上が経験者だったって言う事もあって上達スピードが凄いね?此れなら、即戦力として使えそうだよ。

 

其れに未経験者の子達も、貪欲に色んな事を吸収しようとしてるから、間違いなく強くなる――特に、梓ちゃんは期待大って言う所かな?

 

 

取り敢えずⅢ号の車長に割り当てたんだけど、練習が終わってからも、私に色々と聞きに来て知識を蓄積しようとしてるからね。

 

 

 

 

「そらまぁそうだろうな?

 

 ぶっちゃけ、梓の奴は部活勧誘の時のアレで、完全にみほにハートブレイクされちまったからなぁ……何とか頑張ろうと必死になるのは当然ってとこだろ?」

 

 

「まぁ、素人とは言え、成長の具合から見て潜在能力は可成りあるみたいだから、期待の新人じゃないの?

 

 練習の度に、梓は目に見えて力を伸ばしているし、指示の出し方も的確になって来てるからね――あの子が率いる新品のパンターは、今年の大会のスタメンにしても良いかもしれないわ。」

 

 

「このままのペースで行けば、大会までに大化けするのは間違い無いですもの!

 

 梓さんは、絶対にスタメンにすべきよみほさん!!」

 

 

 

 

あはは……まぁ、確かに凄い勢いで成長してるから其れもアリかも知れないけど――その最終判断は、来週に予定されてる綾南との練習試合の結果によってかな?

 

この練習試合で、新1年生全員を参加させる心算だから、練習試合でドレだけ出来たかが、大事な評価ポイントになるよ?

 

 

でも、きっと新1年生は、私の予想を超えた活躍をしてくれるんじゃないかな?――いや、きっとしてくれるだろうね。思わず、そう思ってしまう位に、彼女達の成長スピードは凄かったんだもん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer28

 

『始動!新生明光大付属です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、週末。

 

週末にはお姉ちゃんも戻って来てる事が多いから、家族全員が揃う貴重な時間でもあるんだよね――で、例によって大広間には私とお姉ちゃんとお母さんが居る。

 

厳しい話じゃないんだろうけど、此処に態々呼び込んでという事に成ると、戦車道に関する事なのかな?

 

 

 

 

「まほ、みほ、新年度が始まって時が経ちますが、戦車道の方は如何です?」

 

 

 

 

ヤッパリ戦車道の事だったね。

 

私の方は順調だよお母さん。4チーム分の新入生が入部してくれたし、その中の半分が経験者だったの。

 

でも、車長の経験のある子は誰も居なかったから、必然的に未経験者の中から車長を選ぶ事になったんだけど、未経験の子達も凄く成長が早くて、中でも澤梓ちゃんて言う子は特に呑み込みが早くて、アレなら行き成りレギュラーも任せられるかも知れない感じだよ。

 

 

 

 

「其れはまた、有望な新人が入りましたねみほ。去年の快進撃もあり、明光大は各校からマークされるでしょうけれど、恐らく大丈夫でしょう。

 

 黒森峰の方は如何ですかまほ?」

 

 

「今年も、一定水準の能力を持つ者が多く入学して来ました。――ですが、去年のエリカや小梅レベルの生徒は、今年は居ない様です。

 

 其れでも、全能力が75点以上の生徒が多いので、黒森峰の質を保つ事は、此れからの練習次第で難しい事ではないと思いますね。

 

 只、今みほから聞いた話から察するに、明光大は去年よりも強い筈ですし、安斎率いる愛和学院も戦力の増強を図ったと聞いていますので、今年は去年以上に大会では厳しい戦いを強いられる事に成ると考えています。

 

 無論、戦う以上は誰が相手であっても全力を出して勝つだけですが――其れが、例え妹であってもな、みほ。」

 

 

 

 

言われずとも私もその心算だよお姉ちゃん。

 

誰が相手であっても、全力で戦って、心の底から楽しんで、その上で勝ったら最高だからね――って言うか、妹が相手だからって手心加えられる方が不満だよ?

 

やるからには全力全開、己の全てを持ってして相手にぶつかって、そして試合が終わったら勝者は敗者の健闘に敬意を払い、敗者は勝者を讃えて恨み言は言わないのが戦車道だからね。

 

私だって、お姉ちゃんが相手でも――否、お姉ちゃんが相手だからこそ、絶対に手は抜かないから♪

 

 

 

 

「ふふふ……如何やらみほもまほも、夫々今年の大会に対する準備は出来ている様ですね?

 

 黒森峰に、逸見さんと赤星さんの様な逸材が入って来なかったのは残念ですが、明光大の新人には期待できそうですから、新戦力の加入による戦力値は略五分と言っていいでしょう。

 

 大会の何処で当たるかは、抽選次第ですが、何処で当たる事に成っても、戦う事に成ったその時は、全てを出し切って戦うようにね?

 

 相手が誰であっても、手を抜かずに己の全力をぶつけ、ぞして相手の全力を受け、その上で勝つのが真の西住流であるのですから。」

 

 

 

 

うん、分かってるよお母さん。

 

お婆ちゃんは勝利至上主義に凝り固まってるけど、本当の西住流は、武道の本分に重きを置いて、勝敗よりも戦いの内容を重視する流派であって、『撃てば必中、守りは堅く、進む姿は乱れ無し』って言う、西住流の教えだって『常在戦場の気持ちを忘れるな』って言う事だしね。

 

 

 

 

「その通りだなみほ……お祖母様は否定するだろうがね。」

 

 

「あの人の言葉を聞いてはダメよ――あの人の思考は、戦時中に歪められてしまった西住流の思想に染まり切っているのですからね。

 

 勝利至上主義は危険な思想であると同時に、とても脆いという事にお母様は気付いてないし、余程の事が無い限り其れが間違いであると言う事も認めないでしょう……だから、貴女達の活躍は、お母様に考えを改めさせるための起爆剤になると考えているわ。

 

 特にみほ、貴女の戦い方はお母様の言う西住流とはかけ離れているけれど、本来の西住流に最も近いと私は思っている……貴女が大会で結果を残せば、あの人だって文句は言えなくなるでしょうから、今年は絶対に決勝まで勝ち進んで来なさい?

 

 そしてまほ、貴女も絶対王者黒森峰を率いる者として、決勝に進んでくるように――良いわね?」

 

 

「はい!勿論その心算だよお母さん!!」

 

 

「黒森峰は常勝不敗……無論です。」

 

 

「ならば良し。2人とも、大会に向けて、精進なさい。」

 

 

「「はい!!」」

 

 

 

お母さんは、やっぱり厳しくても優しいね。

 

お祖母ちゃんだったら頭ごなしに否定する、明光大の事を認めた上で、勝ち進んで来いって言ってくれたし。お姉ちゃんに対しても王者の座に胡坐をかく事なく精進しろって言う事を、暗に伝えたからね。

 

 

でも、おかげで私は取ってもやる気が出て来たよ!

 

来週に予定されてる、綾南との練習試合――そこで、新生明光大の戦車道部がどれ程なのかって言う事を見せた上で、勝ってくるからね!

 

 

 

 

「大会前の練習試合か……其れが出来る明光大が羨ましいよみほ。

 

 大会前に黒森峰と練習試合を行いたいと言う学校は、先ず無くてな……まぁ、今年は青森県立八戸中学校が受けてくれたんだけれどね。」

 

 

「あはは……まぁ好き好んで、絶対王者と戦おうって言う酔狂な人はいないよね。

 

 でもお姉ちゃん、そう言う事なら明光大に練習試合を打診してくれればすぐにでも受けたんだよ?黒森峰との練習試合なら得る物も多い訳なんだからさ?」

 

 

「だからだよみほ……黒森峰としては、去年の準決勝で苦戦を強いられた明光大にはほんの少しのデータを取られる事も嫌ったのさ。

 

 確かに相互強化も望める練習試合になるのだろうが、得る物が多いのは明光大だからな……其れを考えると、明光大との練習試合と言うのは、黒森峰にとってはデメリットの方が大きい物になってしまうんだ。

 

 其れを踏まえたら、簡単に練習試合を持ちかける事は出来んよ。夏の特別合宿は別だけれどね。」

 

 

 

 

成程、そう言う事なら納得。

 

普通に考えれば、態々宿敵のレベルアップに付き合うなんて言う酔狂な人は居ないだろうからね……だから、其れは正解だよお姉ちゃん。

 

其れに、本音を言うなら、私は練習試合じゃなくて、大会でお姉ちゃんと戦いたかったらね。

 

 

 

 

「其れは私もだ……では、大会で会おうみほ!」

 

 

「願わくば、決勝戦でね。」

 

 

その為にもまずは、今年初めての試合となる綾南との一戦に勝って、1年生に自身を付けさせた上で弾みを付けたい所だね。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

そんな訳で、気付けば綾南との練習試合前日。

 

練習試合の前って言う事で、今日の練習は軽めのフィジカルトレーニングと、走行訓練と射撃訓練と明日の試合に向けてのミーティング。

 

特にミーティングでは、明日の試合のオーダーも発表するから、キチッと決めて行かないとね。

 

 

「それでは、明日の綾南中との練習試合のオーダーですが、明日は3年生は全員参加せず、代わりに1年生に全員参加してもらいますね?

 

 この練習試合で、ドレだけ皆が成長したか、其れを見せて下さい。」

 

 

「「「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

其れと車輌編成ですが、明日はティーガーⅡを隊長車にしますので、残りはティーガーⅠが1輌、パンターが3輌、Ⅲ号が3輌、Ⅲ突が2輌の編成になります。

 

其れと、明日は副隊長車となるパンターブルーには、澤梓ちゃんのチームに搭乗して貰いますね。

 

 

 

 

「え!?ちょ、ちょっと待ってください西住隊長!

 

 確かに私達は、普段の練習でもパンターに乗ってますけど、隊長の乗ってるパンターに乗るだなんて……!!」

 

 

「大丈夫だよ梓ちゃん。此の子も、去年の夏あたりから大分聞き分けが良くなって、一定水準以上の力量があれば動かす事が出来るから。

 

 其れに、普段の練習を見てても貴女達のチームはパンターの高い性能を見事に引き出しているから、此の子を任せるに値するよ?」

 

 

「そ、そんな……ではなくて、副隊長車に乗れと言う事は、その……」

 

 

 

 

うん、明日は3年生が全員出ないから、明日の副隊長は梓ちゃんに勤めて貰おうかと思ってるんだよ。

 

此れに付いては、2年生の全員が賛成してくれてるから心配無用だし、他の1年生の子達で梓ちゃんが明日、臨時の副隊長を務める事に異論はあるかな?あれば遠慮なく言ってね?

 

 

 

 

「異論無し。てかある筈ないよ。ぶっちゃけ、澤の上達の仕方って私等と全然違うからね?」

 

 

「本当に同じ未経験者なのかって思う位よ?」

 

 

「最初の頃こそ、指示の出し方がちぐはぐだったけど、今は殆ど車長の経験者と遜色ないの――梓ちゃんが副隊長には、大賛成なの!!」

 

 

 

 

反対や異論はないみたいだね?皆、異口同音に梓ちゃんの事を評価してるから……改めて、明日の練習試合の副隊長をお願いするよ。

 

其れに、私自身も見てみたいんだ――私が指導した車長が、ドレだけ出来るのかを。

 

 

 

 

「!!……分かりました、明日の練習試合、未熟ながら副隊長を務めさせていただきます!」

 

 

「うん、期待してるね♪」

 

 

それじゃあ、続いて明日の作戦を。

 

相手は、去年圧倒的に此方に負けた事で慎重になって来ると思うので、逆に此方は序盤から大胆に攻めに回って流れを掴んで、そのまま押し切ってしまうのが良いと思います。

 

ですが、逆に相手も攻勢に出て来た場合には、パンターとⅢ号の機動力で攪乱しての各個撃破で行きます。

 

 

何にしても明日の一戦は、明光大の今年を占う大切な一戦ですので、確りと白星で飾って勢いに乗って、その勢いを大会まで持って行きましょう!!

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おーーーーーーーー!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

「今年も勝つぜみほ!去年のベスト4がまぐれじゃなかったって教えてやらぁ!!」

 

 

「勿論、その心算だよ青子さん。」

 

 

去年のベスト4はまぐれじゃなくて実力だって言う事を示す戦いでもあるからね、明日の綾南戦は。

 

そう言えば、綾南の新隊長ってどんな人なんだろう?……去年の言峰さんみたいな人じゃないと良いんだけどなぁ?去年と同じような人だったら、私が『軍神招来』しちゃうかも知れないからね。

 

取り敢えず、人間的に真面な人が隊長である事を祈ろうかな……

 

 

 

 

 

 

 

――で、翌日。

 

 

 

 

 

今年は、明光大のホームグラウンドでの試合だから、去年よりもやり易いかもね。

 

其れでは、今日はよろしくお願いしますね?

 

 

 

 

「此方こそ宜しくお願いします西住隊長。

 

 去年の練習試合で、貴女が率いる明光大は其れまでの弱小校ではないと思い知らされたので、今年は慢心せずに行かせて頂きますよ。

 

 去年のように、簡単に勝てるとは思わない事です。」

 

 

「今年の隊長さんが真面な人で安心しました――では、良い試合にしましょう。」

 

 

「はい、良い試合にしましょう。」

 

 

 

 

今年の綾南の隊長――安曇野雅さんは、去年の隊長の言峰乱華さんと比べると、はるかに人間として真面な人で良かったよ。此れなら、去年よりも良い試合が出来そうだからね。

 

だけど、私達は負けないから。――全力で行きましょう!Panzer Vor!!

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「Jawohl!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

いざ、試合開始です!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

 

そうして始まった、明光大と綾南の練習試合だが、綾南はみほの立てた2つの予測の1つを見事に再現してくれていた。

 

明光大の力を警戒して陣を固めるのではなく、序盤から攻勢に出て来たのだ――確かに其れは、有効な手段であるのだろうが、しかしみほは其れを既に想定してた故に、冷静に対処することが出来るのだ。

 

 

 

「打って出てきましたか……ならば散開して各個撃破で行きます。

 

 Ⅲ突とⅢ号2輌はラングを、残るⅢ号とオキサイドレッドのパンター2輌は、ティーガーⅠとⅡを。パンターブルーは隊長車に付いて来て!」

 

 

「了解!」

 

 

 

すぐさま隊を散開させて、各個撃破に持ち込んでいく。

 

其れにより、場は混戦の様相を呈して、砲弾飛び交う凄まじい戦線上と化し、明光大も綾南も一歩も退かず、そして夫々白旗を上げていく。

 

去年と違い明光大が一方的に攻めている状況ではないが、それでも明光大の方が優位なのは間違いないだろう。

 

 

 

「吉良ナオミ……目標を狙い撃つ!」

 

 

「明光大最強の牙を持つ虎からは逃げられないのよ!」

 

 

「ぶっ倒されてぇ奴からかかって来やがれってんだ!!」

 

 

 

 

「絶対に足を止めないで。それと、当たらなくてもいいから砲撃の手が休まない様にして。」

 

 

「パンターの足回りなら、早々へこたれないから大丈夫!!」

 

 

「勿論です!其れから装填士、もっと素早く装填するの!!」

 

 

「此れでも最速よ!!あんまし無茶ぶらないでなのは!!」

 

 

 

 

中でも特に目を引くのは、本日の隊長車である黒いティーガーⅡと、副隊長車のアイスブルーのパンターだ。

 

みほのティーガーⅡは言うに及ばないが、梓が指揮するパンターもまた、隊長車クルーが登場した場合と比べたら劣るとは言え、充分合格レベルの動きは出来ていた――梓を副隊長にしたみほの目に狂いはなかったのだ。

 

 

勿論、新体制となった綾南とて負けておらずに、明光大の戦車を葬って行くが、しかし次第に押され始め、気が付けば明光大が5輌残っている状態で、綾南は残り2輌と言う状況に陥っていたのだ。

 

 

 

 

「随分と訓練をしたつもりだったのですが、よもやこれ程とは……貴女の力量に、改めて感服します西住隊長。

 

 ですが、私にもチームを引き継いだ意地と言う物ありますので、最後までやらせて頂きます!殲滅戦である以上は、全滅しない限りは負けではないのですから……行きます!!」

 

 

「受けて立ちます!!――梓ちゃん!!」

 

 

「は、はい!!」

 

 

 

それでも試合を諦めていない安曇野に対し、みほも全力で応える。

 

その全力に応えるべく、敢えて同じ車輌数で迎え撃ったのだ――無論、負ければ明光大は指揮系統を失う事に成るのだが、その程度では明光大が揺るぐ事は無いと思ったからこそ、打って出たのだ。

 

 

 

そしてその効果は覿面!

 

梓の乗るパンターが、その足回りの良さを武器にして敵隊長車のティーガーⅠと、副隊長車のティーガーⅠを牽制して動き回った事で、意識せずとも、ティーガーⅠのクルーの意識は、どうしても一瞬パンターに向かってしまう。

 

 

だが、其れはみほの思うつぼだ。

 

一瞬でも隙が出来れば、それで十分!!

 

 

一瞬意識がパンターにそれた事で生まれた隙を逃さずに、みほ率いるティーガーⅡは一気に加速すると、先ずは副隊長車のティーガーⅠに至近距離からの砲撃を喰らわせて白旗を上げさえる。

 

 

 

「な、なんだって!?」

 

 

「これで終わりです!!」

 

 

「私達の勝ちです!!」

 

 

 

そして孤立無援となった、隊長車に対して、ティーガーⅡとパンターの砲撃が炸裂し、綾南の隊長車は敢え無く沈黙。

 

 

 

 

『綾南中、全車輌走行不能。よって、明光大付属中の勝利!』

 

 

 

 

試合終了のアナウンスが響き、今年の練習試合もまた明光大が勝利した。

 

尤も、隊長が変わった事で綾南も底力を引き上げて来たので、去年の様なパーフェクトゲームにはならなったのだが、しかし其れでも今年最初の試合を白星で飾れたと言うのは明光大にとっては大きいだろう。

 

 

 

 

「はぁ……完敗です西住隊長。――今年の明光大は、去年以上ですね?」

 

 

「有望な新人が来てくれましたから♪」

 

 

「其れは……頼もしい事ですね。

 

 此れは今年の大会が楽しみです。――大会で当たったその時は、よろしくお願いします。今回は負けましたが、大会では負けません!!」

 

 

「はい、宜しくお願いします。でも、私達だって負けませんから!!」

 

 

 

そして、試合が終われば互いに一介の戦車乗りゆえに、試合の結果については彼是言わずに、大会での再戦を願い、そしてこの練習試合での互いの健闘を称えて握手。

 

 

如何やら今年の練習試合は、去年よりも遥かに実のあるモノになったらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

さてと、綾南との練習試合が終わった次の週の月曜日……予想はしてたけど凄いね此れ?

 

練習試合は新聞部も見て居たからアレだけど、まさか号外を発行して綾南との練習試合の結果を伝えるとは思って居なった……って言うか普通しないよ此れは!!

 

其れに此の見出し……

 

 

 

『明光大に新星現る。その名は澤梓!!』

 

 

 

梓ちゃんが大きく取り上げられて……あはは、登校途中の梓ちゃんがもみくちゃにされてるよ……まぁ、この間の練習試合ではいい仕事をしてくれたから、期待の新星って言うのは間違いないけれどね。

 

 

ふふ、此れからも期待してるからね梓ちゃん♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

八戸中学との練習試合は、中々に楽しめたかな?みほや安斎と比較すれば比べるべくもないが、ソ連の戦車をメインにした部隊は決して弱くなかったし、もしも雪上での戦いであったなら、負けていたのは黒森峰の方だったからね……良い経験をさせて貰ったよ。

 

 

 

 

「調子はバッチリですね隊長!」

 

 

「あぁ、上々だ。

 

 エリカと小梅も調子はいいみたいだから安心したよ――今年の大会で、要となるのはエリカと小梅だからな……2人とも精進を怠るなよ?」

 

 

「「はい!!」」

 

 

 

 

良い返事だ。大会でも期待しているぞ。

 

安斎とみほと言う最強のライバルがいる大会だが、それでも私は負けたくない――俗っぽい考え方かもしれないが、在学中に三連覇と言う物を達成したいからね。

 

 

だからこそ全力あるのみだな。――今年の大会も、我等黒森峰が制覇してくれる!――止められるのならば止めてみろみほ、そして安斎!

 

大会で相見えるその時を楽しみにしているよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued…

 

 




キャラクター補足




安曇野雅

綾南の新隊長。全隊長の言峰乱華とは違って、相手の実力を素直に認める度量を秘めている。

練習試合ではみほに負けるも、だからと言って落ち込む事はせずに『更なる精進』を持ってして、隊員の士気を高める事に成功している。



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Panzer29『全国大会抽選会と寄り道です』

今年こそ優勝しますよ!!Byみほ      おっしゃー、全力で行くぞオラァ!By青子      ノリノリね2人とも…Byナオミ






Side:みほ

 

 

 

1年生を全員参加させての練習試合は、去年の様な楽勝ではなかったけど、それでも快勝って言う事が出来るレベルだったから、少なくとも1年生全員が大会で使えるレベルになってくれたのは間違いないかな。

 

3年生にとっては最後の大会だから全試合に出て貰うけれど、梓ちゃんのチームをメインに1年生チームも大会に出して経験を積ませないとだね……まぁ、何処と当たるかによりけりだけどね。

 

 

 

 

「出来れば1回戦でいきなり黒森峰ってのは回避したい所だよな?

 

 負ける心算はねーけど、やっぱ黒森峰とは決勝で戦いたいしさ……つっても、1回戦も骨のある相手と戦いてぇけどよ!」

 

 

「其れは組み合わせ抽選会のクジが全てだから何とも言えないんだけど、まぁ黒森峰と1回戦で激突するって事は無いんじゃないのかしら?

 

 みほの、天性の勝負強さなら、きっといい番号を引き当ててくれる筈よ。」

 

 

「明光大一の勝負師の前では、クジなんて無意味よね♪」

 

 

 

 

あはは……地味にプレッシャーなんだけど、今度の組み合わせ抽選会は、行き成り黒森峰と当たらないように祈ってくじを引く事にするよ。

 

別に1回戦で当たっても良いんだけど、お姉ちゃんとの戦いは決勝の舞台で行いたいからね。

 

無論、何処と当たっても、負ける心算は無いから、倒して決勝まで進むだけだから♪

 

 

去年はベスト4で終わっちゃいましたけど、今年は真紅の優勝旗を学校に持ち帰りましょう!!

 

 

 

 

「勿論よみほ。そして証明してやろうじゃない、明光大の去年の快進撃は、決してまぐれじゃなかったって言う事をね。」

 

 

「わ、私も頑張りますから、西住隊長!」

 

 

 

 

うん、明光大の実力は本物だって言う事を、世に知らしめてあげようね!

 

今年の明光大は、去年の倍は強いから、其れを大会で見せてあげる――そして同時に、黒森峰の連覇だって阻止して見せる!私達だったら、其れが出来るだろうからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer29

 

『全国大会抽選会と寄り道です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳でやって来ました、全国大会の組み合わせ抽選会!

 

去年は埼玉スーパーアリーナだったけど、今年の抽選会場は何故か東京ビッグサイトの展示室の一つ……なんでこの場所なんだろうね?

 

広さだけだったらスーパーアリーナの方が一展示室よりも上だから、別に去年と同じでも構わないと思うんだけどなぁ?

 

 

 

 

「戦車道が俄かに盛り上がりを見せているから、それをより広げたいという事なのだろうな。

 

 また聞きの話になるんだが、この抽選会の様子を某動画サイトで生中継して、更に録画も配信する予定があるんだそうだ……高校の大会の抽選会と共にな。

 

 で、東京ビッグサイトのタグの方が、埼玉スーパーアリーナタグよりも再生数が良いらしい。」

 

 

「だとしても、その動画って、戦車道ファン以外には需要無いと思うんだけど?」

 

 

「人伝に動画の事が伝わって、再生数の増加と戦車道ファンの増加を狙っているのかも知れないぞ?」

 

 

「なんだかなぁ……」

 

 

思わず、抽選会で顔を合わせたお姉ちゃんと突っ込み入れたのは仕方ないよね?(会話はあくまでも互いに聞こえる程度の音量でね。)

 

と言うか、都心部の学校なら兎も角、地方の学校だったら此処まで来るのだって大変だよ?明光大は隊長チームのみだから、西住家のヘリを飛ばして何とかなったけど、黒森峰みたいに抽選会でも(多分)一軍は全員参加となったら、旅費だけで偉い事に成る訳だし。

 

此れは、流石にちょっとやり過ぎだから、後でお母さんが連盟の方に釘を刺すだろうと思うけどさ。

 

 

 

 

「まぁ、その辺はお母様に任せておけばいいだろう。

 

 しかし今年は15番か……1回戦の最終試合だな。安斎が引いたのが11番だったから、アイツと戦うのは準決勝か――後は、みほが何番を引くかと言う所だな。」

 

 

「クジはあんまり自信ないんだけどね……」

 

 

 

『続いて、明光大付属中学校。』

 

 

 

っと、私の番だね。

 

箱の中をよくかき混ぜて、適当に何個かとって箱の中でシャッフルして(片手シャッフルはお手の物だよ。)それを繰り返して…よし、此れ!

 

 

 

『明光大付属中学校……1番。』

 

 

 

「「「「!!!!」」」」

 

 

 

ま、まさかの1番!1回戦の第一試合だなんて……ある意味で最高のクジ運だったかな?

 

此処なら決勝までは黒森峰と当たる事は無いし、同じ1回戦第1試合でも、クジ番号2番よりもずっと縁起が良い感じがするもん――なんて言ったって『1番』だからね♪

 

 

 

 

「クジ番号1番を引いて、大会の1番をもぎ取るか?ゲン担ぎとしては、確かに最高の番号かも知れないね。」

 

 

「特に、青子さんは『1番引いたら1番になれるだろ!』とか言いそう。」

 

 

「あぁ、あの子ならば言うかもな。……黒森峰にも、あの子ほどでなくとも、もう少し弾けた子がいてくれると大分違うのかも知れないな。」

 

 

 

 

黒森峰に青子さん……うん、普通に似合わない気がする。

 

と言うか、青子さんがはっちゃけまくって、逸見さんが半ばキレながらそれを注意して、赤星さんが逸見さんを宥めてる光景が目に浮かぶし。

 

青子さんは、規律が厳しい黒森峰には馴染まない気がするなぁ。

 

 

 

 

「矢張りそうか……残念だ。」

 

 

 

 

まぁ、お姉ちゃんの言わんとする事は何となく分かるけどね。

 

さてと、雑談してる間にクジは全て引き終わったみたい。明光大の1回戦の相手は――石川県の『私立白百合中学校』か。目立った成績のある学校じゃないけど、去年はベスト4まで残って来たから決して実力は低くないよ。

 

それに、去年のベスト4って言う事は、お姉ちゃんと互角に戦った安斎さんとやり合った言う事だからね――去年のベスト4同士の戦いだけに、絶対に負ける事は出来ないよ!

 

 

 

 

「1回戦の第1試合をクジ番号1番で引き当てるとは流石だぜみほ!!1番てのは縁起がいいからな!!!」

 

 

「相手は私達と同じ、去年のベスト4……相手にとって不足は無いわ。」

 

 

「その上で、どっちが強かったのかを思い知らせてあげるわ!!」

 

 

 

 

勿論、勝つ心算で行きます!って言うか勝ちますよ?――相手の全力を引き出した上で、其れを上回ってね。

 

其れは其れとして、此れから如何しましょうか?抽選会は学校的に公欠扱いなんですけど、今から学校に戻って授業を受ける気にはならないですよねぇ?

 

 

……良い機会だから、東亰を観光巡りでもしちゃいましょうか?

 

 

 

 

「「「賛成、異論無し!!」」」

 

 

「それでは、ぱんつぁーふぉー♪」

 

 

偶には、少しくらい羽目を外したって罰は当たらないと思うしね♪――取り敢えず、お母さんと、戦車道部の皆へのお土産は買わないとね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

やれやれ、今年もまた去年と同様に、優勝をする為には安斎とみほの両方を倒さねばならない訳か。去年と違うのは戦う順番だけか。

 

1、2回戦は兎も角として、準決勝の相手は間違いなく安斎だろうし、安斎に勝った後での決勝の相手はみほで間違いない――みほと安斎が私と戦う前に、脱落するなどという事は考えられないからね……中学校最後の大会としては最高の舞台かも知れないがな。

 

 

 

 

「今年は準決勝か――此れが中学での公式戦最後の戦いになる訳だから、今度は勝たせて貰うぞ西住!!」

 

 

「受けて立つぞ安斎。お前の持てる全ての力を持ってしてかかって来い――私も、持てる全ての力を駆使して、其れを正面から叩き潰す。」

 

 

「言ってくれるじゃないか……だが、其れでこそだ西住。――必ず、準決勝まで勝ち上がって来いよ?……勝ち逃げはゆるさないからな。」

 

 

 

 

あぁ、重々承知しているよ。

 

戦車道は武道故に、勝ち逃げが許される世界ではないからな――挑んでくる相手が居る以上は、最強で居る事がせめてもの礼儀だしな。

 

組み合わせを見る限り、準決勝まで私とお前を脅かす存在は居ないだろう。みほは反対側だから決勝までは当たらない訳だしな。

 

と言うか、明光大は勿論だが、私と安斎を脅かすような相手は、クジのせいで明光大以外の2校もみほ側に行ってしまったからね。

 

 

まぁ、其れは其れとして、互いに中学最後の大会だ、悔いの残らないようにやろう。

 

 

 

 

「勿論だ!其れじゃあな、今度は大会で会おう!」

 

 

「あぁ、そうだな。」

 

 

と、少し話し込んでしまったな……黒森峰の皆には、安斎と話があるから先に帰って良いとは言ったが、此れは本当に私だけ残ってしまった感じか?……周囲に黒森峰の生徒の姿は……

 

 

 

 

「お話は終わりましたか隊長?」

 

 

「お疲れ様です、隊長。」

 

 

「エリカ、小梅。……待っていてくれたのか?」

 

 

「はい!抽選会直前で寝耳に水でしたが、副隊長に任命された身として、隊長1人を残して帰路に付くのは如何なモノかと思いますので。」

 

 

「本音は、隊長と一緒に帰りたかっただけなんですけどね?」

 

 

「小梅、アナタ何言ってるの!?いや、一緒に帰りたかったって言うのは否定しないけど、その為だけに待ってた訳じゃないわよ!?」

 

 

「そして私は、そんなエリカさんをフォローしつつ、折角東京に出て来たんですから真っすぐ帰らずに、少し寄り道していきませんかと提案する為に残った訳です♪」

 

 

「人の話を聞きなさいよ!!」

 

 

 

 

……仲良いなお前達は。

 

今年はエリカを副隊長に任命して、来年はエリカに隊長職を引き継ぎ、小梅を副隊長にしようと思っていたが、その方向で行って大丈夫そうだ。

 

お互いに、信頼していないと、この様なやり取りは出来ないからね。

 

 

「ふふ、其れ位にしておけ。

 

 だが、待っていてくれたのは嬉しかったぞエリカ?先に帰って良いとは言ったが、誰も残って居なかったなんて言うのは少し寂しいしな。」

 

 

「あ、いえ、隊長を補佐する副隊長として、当然の事です!」

 

 

「それでもだ。

 

 其れと小梅、その提案、受け入れさせて貰うよ。もっと多くの黒森峰生が残っていたのならばダメだが、私達3人ならば偶にはいいだろう。

 

 大会前の羽根伸ばし、と言う事でな。」

 

 

「そうですか?提案した甲斐がありました♪」

 

 

 

 

其れに、先に帰った黒森峰生も、真っすぐ熊本に戻ったとしても、其処からストレートに学園艦に戻るとは考え辛い。間違いなく、久しぶりの陸を楽しむ筈だ――と言うか、其れが中学生として正しい姿だからね。

 

さて、其れじゃあ何処に行こうか?生憎と、私はこう言う事に疎いので、一般的な女子中学生がどんな『寄り道』をするのか分からなくてな。

 

 

 

 

「喫茶店……は、どっちかって言うと高校生だから、中学生だとゲームセンターとかファーストフード店とかその辺りでしょうか?」

 

 

「まぁ、大体その辺りですよねぇ?」

 

 

 

 

ふむ、ではその両方を行ってみるか。

 

正直な事を言うと、その何方にも行った事が無いんだ私は。だからとても楽しみではあるけれどね。――では、出発だ!Panzer Vor!

 

 

 

 

「「了解♪」」

 

 

 

 

この後、人生初となる寄り道と言うのをしたのだが、此れは中々に楽しかったな。

 

エリカと小梅がお勧めだと言うファーストフード店で食べた『えびカツバーガー』はとても美味しかったし、コーヒーも中々悪くなかった。私的には、これでも充分だが、更にフライドポテトまでついて税込み800円ならば、決して高くないな。

 

其の後は、今度はゲームセンターに行ったが、まさか其処でみほ達に会うとは思っていなかった――と言うか、それ以上に、明光大隊長チームが、本日の最高得点を軒並み更新しているのは驚いたよ。

 

流石に片腕のみほは出来るゲームが限られるが、片手で出来るガンシューティングと言う物では吉良と一緒に最高得点を更新してのワンツーフィニッシュ、レースゲームも野薔薇と共に最高得点を更新し、パンチングマシーンと腕相撲マシーンでは辛唐と共に記録更新だからな。

 

それから、みほの大好きな『ボコ』が入っていたと思われるUFOキャッチャーも空になっていたっけ……マッタク、色々凄い子だったよ。

 

まぁ、皆で撮った『プリクラ』なる写真シールは、いい思い出になったけれどね。

 

 

だが、此の寄り道のおかげで、気分がリフレッシュできたから、大会には最高の状態で臨む事が出来そうだ。

 

目標である中学3連覇を成し遂げるのは簡単ではないのだろうが、中学最後の大会も矢張り優勝して終わりたい……何よりも、私は負けず嫌いだからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

さてと、抽選会は金曜日だったので、土日を挟んでの月曜日に早速、1回戦の作戦会議だね。

 

取り敢えず、電話で1回戦の相手の事を部長に伝えておいたから、土日を利用して調べてくれたとは思うんだけど、白百合中学校て言うのはどんな戦車を使ってくるんでしょうか?

 

 

 

 

「どんなとは一概に言えないわね。

 

 大抵の戦車道チームって言うのは、整備面を考えて開発国が同じ戦車を使うモノなんだけど、白百合は使ってる戦車に一貫性がないわ。

 

 隊長車はソ連のT34だけど、主力の戦車にはアメリカのM4にドイツのパンターに、イギリス製のマチルダとクルセイダー。かと思えば自走砲にはヘッツァーを使ってる……ハッキリ言って、捉え所がないわ。」

 

 

「其れは何ともバラエティに富んだ戦車ですね。」

 

 

ソ連とアメリカとイギリスとドイツとチェコの連合軍とは、大戦期だったら絶対にありえない組み合わせですね。

 

でも、それなら、1回戦は隊長車はティーガーⅡで行くのが一番ですね?そうすれば、試合に出せるパンターの数が増えますから、相手の主力部隊と互角に渡り合えますし、相手のパンターを潰せばこちらが有利になりますので。

 

ヘッツァーも、Ⅲ突と並んで優秀な自走砲ですけれど、防御力はⅢ突よりも低いので、待ち伏せにさえ注意すればⅢ号で充分撃破する事は可能です。

 

 

白百合の新隊長がどんな人かは分からないので戦術については分かりませんが、少なくとも戦車の総合性能では負けていないので、相手が去年のベスト4と言う事を考えても、普通に戦えば負ける事は無いと思います。

 

 

尤も、試合は何が起こるか分からないので、一概に勝つとは言い切れませんけれどね。

 

 

 

 

「油断大敵、注意一秒怪我一生かな?

 

 其れでみほ、1回戦はどんな作戦で行く心算?」

 

 

 

 

1回戦の会場は、砂地と岩場に高台が点在してるフィールドで、互いに視界が効くから、待ち伏せとかを考えるよりも、如何に相手より早く敵を発見して、先手を取るかが重要になって来ると思います。

 

なので、足回りの強いパンターとⅢ号を先発隊として進めて敵の動きを探り、接敵したらそのまま攻撃を開始。

 

相手のパンターは難敵ですが、M4とヘッツァーはⅢ号でも充分相手に出来るレベルなので行けると思いますから――で、其処にⅢ突とティーガーⅠとティーガーⅡが合流して相手にプレッシャーを与えつつ、フラッグ車の撃破を狙う。

 

当日の天候や、相手の出方によっては現場での修正が必要になると思いますが、基本的にはこの流れで行こうと思います。異論は?

 

 

 

 

「無いみたいだな。満場一致って奴だぜ♪」

 

 

「流石はみほさん、当日の状況を考慮して修正する事も考えているとは見事ね?――今年こそ、優勝を頂いちゃいましょう!!」

 

 

「勿論、その心算です。」

 

 

部長たちに、最高のプレゼントをしたいですからね。

 

 

あ、其れと1回戦は隊長車がティーガーⅡになるので、アイスブルーのパンターは任せるよ梓ちゃん?あの子も、貴女の事を乗り手として認めてるみたいだからね。

 

 

 

 

「は、はい!頑張ります!!」

 

 

「あはは……まぁ、そんなに緊張しないで、楽な気持でね?過度の緊張は、本来の実力を鈍らせるからね。」

 

 

「楽な気持で……はい、分かりました。」

 

 

 

 

ちょっと言われただけで、気持ちを落ち着ける事が出来るとは、梓ちゃんは相当に凄い子だよ――普通は、言われただけじゃ出来ないしね。

 

でも、それだけに安心できるかな?此れなら、試合でも最高のパフォーマンスをしてくれるだろうからね。

 

 

1回戦の相手は去年のベスト4だから簡単に勝てる相手じゃないけど、私達が力を合わせれば勝てない相手じゃないから全力で行こう皆!

 

明光大は、もう弱小じゃない!私達は強い!!

 

 

 

 

「おうよ、アタシ等は強い!」

 

 

「優勝して、強豪と認識させるわよ。」

 

 

「新生明光大に、死角は無いのよ!!」

 

 

 

 

其れでは、1回戦突破を祈願して、一発気合を入れましょう!!明光大、ファイ……

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おぉーーーーーー!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

先ずは大事な公式戦の初戦で白星をね。

 

此処で勝って、勢いつけて、その勢いに乗って目指すは決勝戦のみ!――勿論楽な戦いじゃないけど、必ず其処まで辿り着いてみせる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:???

 

 

 

1回戦の相手が彼女とは、ある意味で此れはくじ運が良かったかな?

 

西住家の次女の噂は聞いていたから一度戦いたいと思っていたのだけれど、去年の大会では準決勝で私も彼女も負けてしまったから、其の願いが叶う事はなかったけれどね。

 

 

でも、今年は1回戦で戦う事が出来る訳だから、全く運命と言うのは分からない物だよ。

 

 

 

 

「隊長、当日の作戦はどうするんです?」

 

 

「作戦?それは、重要な事かな?」

 

 

「いや、普通に重要でしょう?」

 

 

 

 

そうかも知れないけれど、事前に立てた作戦通りに試合が進む筈がないから、事前に作戦を立てるよりも、戦いが始まってから状況に応じて、臨機応変に対応する事が重要なんじゃないかい?

 

其れに、全ては風の流れのままにしかならないからね……細かい事は、試合が始まってから考えるさ。そっちの方が性に合うからね。

 

 

 

――ポロロン

 

 

 

「……そんな事言って、負けても知りませんからね?」

 

 

「勝負は時の運って言うから、何方が勝つかなんて、分かるのは勝利の女神さまだけじゃないかな?」

 

 

まぁ、1回戦に関しては、私にしては珍しく『勝ちたい』と思っているのは事実だから、私の持てる力の全てを持ってして戦う心算ではいるさ。

 

さぁ、見せて貰おうか西住みほさん――隻腕の軍神の二つ名を持ち、まほさんの双璧とまで言われている貴女の実力と言う物をね。

 

 

 

――ポロン……

 

 

 

 

果たして、試合の日にはどんな風が吹くのか分からないけれど――だけど、どんな風が吹こうとも、楽しめる事だけは間違いないだろうね。

 

1回戦を楽しみにしているよ、西住みほさん♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer30『1回戦の相手はまさかの相手です』

30話まで来ましたね♪Byみほ      マダマダ、飛ばしていくわよ!Byつぼみ      エンジンフルスロットルって所ねByナオミ


 

Side:みほ

 

 

 

さてと……いよいよ2年目の全国大会1回戦だね。

 

相手は去年のベスト4――戦績だけを比較すれば、明光大と同じだけど、白百合中学は過去には準優勝してる事があるから実績の差は否めない……だけど負ける心算は無いけどね!

 

 

私達の全てを持ってして戦って、そして勝つだけだよ!

 

 

なんだけど……何で隊長車クルーは、部活勧誘時の衣装なの!?何時ものパンツァージャケットじゃ駄目なの!?何で此れなの!!??

 

 

 

 

「いや~~、今回アタシ等が乗るのって黒いティーガーⅡじゃん?

 

 だったら、この格好で乗った方が、相手がビビるじゃん?――特に黒いみほの迫力とかマジでハンパねぇから、大抵の相手はビビルぞ?」

 

 

「其れは、女の子的に喜ぶべき事かな青子さん?」

 

 

「分かんねーけど、戦車乗り的にはOKじゃね?

 

 相手をビビらせれば、其れだけこっちが精神的にアドバンテージ取れるし、ビビった相手を叩きのめす事ほど楽な事はねぇからな♪」

 

 

「一理ある……か?」

 

 

「微妙な所だけど、多分……」

 

 

 

 

まぁ、そういう効果を期待した事の結果なら言う事は無いんだけど……私の帽子を改めて用意してないのは評価できるかなぁ?

 

私が此処で新しい帽子を被ったら、梓ちゃんの帽子の価値が下がっちゃうからね?――其れを考えて、新しい帽子を用意しなかったのはGJだったよ青子さん。

 

 

 

 

「其れ位は空気読むぞアタシだって。」

 

 

「お見事でした。」

 

 

其れじゃあ行こうか……明光大の去年のベスト4が、決してまぐれじゃなかったって言う事を証明し、部長達に最高のプレゼントを渡す為の戦いにね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer30

 

[chapter:『1回戦の相手はまさかの相手です』

 

]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

 

いよいよ始まったわね……全国中学戦車道大会が。

 

今年の大会こそが、みほの真価が問われる大会と言えるでしょう――去年の大会では、多くの学校が明光大を弱小と決めつけ、油断していましたが、今年はそうではない。

 

万年1回戦負けから、行き成りベスト4に躍り出た明光大をマークして来るのは必至……故に、それを如何にみほが相手にするかでしょう。

 

 

其れを見る為に、試合会場に足を運ぶ私は相当な親馬鹿なのかも知れないけれどね――菊代、ヘリを出してもらって悪かったわね?

 

 

 

 

「いえ、私もみほお嬢様の試合は見ておきたいと思いましたので。

 

 相手は白百合中学校……あそこの隊長は確か××××××の長女でしたか?……アレを相手に、みほお嬢様がどのように戦うか、とても楽しみなんですよ。」

 

 

「それは、私もね。」

 

 

相手は西住流のライバルにして盟友の流派の長女が隊長を務める学校……果たして、貴女は如何戦うのか、見せて貰うわよみほ。

 

さて、両校の車輌が一列に並んで準備完了ね?……明光大は、1回戦のフラッグ車と隊長車を改造ティーガーⅡにしたか……そのチョイスは悪くないわ。最強の攻守力を誇るティーガーⅡなら、相手の戦車に装甲を抜かれる事は先ず無いですからね。

 

 

だけど、其れであっても――その格好は一体何なのみほ!?と言うか、隊長車のクルー全員!!

 

他の隊員のパンツァージャケットは似ても似つかない黒尽くめで、おまけに全員がサングラス装備って、一体何処の黒のカリスマ集団!?

 

いえ、皆とても似合っているけれどね!?

 

 

其れに……みほのサングラスを外す動作が、とてもスタイリッシュで決まっているわ……此れは、大抵の相手はハートブレイク確定よ!!!

 

まさか、みほに此処までのカリスマダークヒーローの素質があるとは思わなかったわ……本当に予想外以外の何物でもないわ。

 

時に菊代……

 

 

 

 

「ご安心を、バッチリ動画に撮っておきましたので、後でメールに添付して送っておきますね。」

 

 

「GJ、流石ね菊代。」

 

 

「此れでも現役時代は、奥様の副官でしたので此れ位は容易い事ですよ。」

 

 

 

 

ふふ、本当に菊代は公私に渡って、私のサポートをしてくれるから助かるわ。其れは、今も昔も変わらないわね――思うと、菊代が居てくれなかったら、現役時代も苦労したかもしれないわ。

 

其れは兎も角、貴女は此の試合、何方が勝つと思う菊代?

 

 

 

 

「其れは、難しい質問ですね?

 

 私個人の感情としてはみほお嬢様に勝ってほしいのですが、相手が彼女であるという事を考えると、みほお嬢様が稀有な戦車乗りである事を考慮しても難しいのではないかと……」

 

 

「妥当な分析ね。」

 

 

寧ろ、そう考えるのが普通と言えるわ。

 

だけどね菊代……私は、どんな試合内容になろうとも、最後はみほが勝つって思っているの。――あの子の戦術は、本当の意味で読む事が出来ない上に、正道と搦め手の両方を使う事が出来るから、戦術の幅がとても広い。

 

 

白百合の隊長もアレの長女だから、流派の彼是は受け継いでいるのだろうけれど、それでも左腕を失ったあの日から、いっそ愚直なまでにありとあらゆる戦術を頭に叩き込んだみほの相手ではないと思うから。

 

親バカ上等な判断かも知れないけど、みほは私にそう思わせる程の力を秘めているのよ、菊代。

 

 

 

 

「分かります……みほお嬢様の潜在能力は、まほお嬢様を上回っています――今は未だ完全開放には至ってはいませんが、其の力が解放されたその時は、恐らく日本国内でも5本の指に入る戦車乗りになるのではないかと思います。」

 

 

「だからこそ、お母様はみほを歪んだ西住流に引き込みたがっている……か――笑えないわね。」

 

 

そもそもにして、みほは一つの流派の型に収まる存在ではない――寧ろ、型にはめようとしても、その型を破壊して∞にその力を伸ばして行くのがみほなのですから。

 

 

さて、大事な初戦を如何戦うのか、戦車道の指導者として、そして母として見せて貰うわよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

いよいよ1回戦!

 

大会最初の試合って言う事もあって、緊張もあるけど、それ以上に此の試合に対する、喜びの方が大きいかな今は……去年とは違って、イキナリ去年のベスト4が相手だからね。

 

 

よろしくお願いします!明光大隊長の、西住みほです。

 

 

 

 

「存じているよ。去年の戦いは実に見事だった、黒森峰相手にあそこまで戦うとは、正直思っていなかったからね。」

 

 

「ありがとうございます♪」

 

 

「ふふ、今年から白百合の隊長を務めている美佳だ、宜しくお願いするよ。」

 

 

 

 

美佳さんですか……名字の方を窺っても良いですか?

 

 

 

 

「其れを名乗る事に意味があるとは思えないね?と言うか、君なら試合がある程度進めばわかる筈さ。

 

 だけど、其れは其れとして……大変よく似合ってるとは思うけれど、其の黒尽くめの衣装は、果たして戦車道に必要な事だったのかな?」

 

 

「とっても必要です!!

 

 主に、味方の士気を大きく上げる事が出来るので、最高の精神状態で試合に臨む事が出来ます。あと、追加効果で相手の戦意を削ぐ事が出来る事もあるみたいです……貴女には効果が無いみたいですけれど。

 

 こう言ったら失礼かもしれませんけど、何て言うか捉え所がない感じがします。」

 

 

「褒め言葉と受け取っておくよ。と言うか、味方からも相手からも良く言われるからね。まぁ、風を掴む事は出来ないからね。」

 

 

「詩人ですね?」

 

 

本当に飄々としていると言うか何て言うか……ある意味で、敵に回すと最も厄介な相手かも知れないなぁ美佳さんは。

 

正直な事を言うと、まるっきりどんな人なのか分からないんだもん。

 

試合で、相手の隊長と対面した時、話し方とか表情で大体の性格を把握する事が出来るんだけど、美佳さんは此れが素なのか演技なのかが、全く判別できないからね……この時点で、相手の作戦に当たりを付けるのは無理かな今回は。

 

 

ふぅ、其れじゃあお互いに良い試合にしましょう美佳さん。

 

 

 

 

「そうだね。良い試合をする、先ずは勝ち負けよりもそれが大切な事さ。

 

 それと、個人的な事を言わせて貰うならば、私は一度キミと戦ってみたいと思っていたんだよ西住みほさん――西住流でない西住とね。」

 

 

 

 

……其れなら、期待には応えますよ美佳さん。

 

 

 

 

「それでは、互いに礼!」

 

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

 

大会の始まりを告げる初戦で1回戦、先ずは此処ときっちり抑えて、弾みをつけて行かないとだね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

試合前の礼を終えた両校の隊長は、夫々の陣地に戻り、最後のブリーフィングを行う。事前に作戦を立てたとは言え、実際に試合会場を見ての微調整等もあるのだ。

 

 

そして其れも終わり、両校は夫々のスタート位置に戦車を配置していき、会場のオーロラビジョンにも両校の陣形及び、参加車輌が映し出されて行く。

 

 

両校のオーダーは、

 

 

 

明光大付属中学校

 

 

・ティーガーⅡ×1(フラッグ車)

 

・ティーガーⅠ×2

 

・パンターG型×3

 

・Ⅲ号戦車J型改(L型仕様)×2

 

・Ⅲ号突撃砲F型×2

 

 

 

 

白百合中学校

 

 

・T-34/76×1(フラッグ車)×1

 

・T-34/85×1

 

・M4シャーマン(76mm砲搭載型)×2

 

・パンターG型×2

 

・マチルダⅡMkⅣ×1

 

・クルセイダーMkⅢ×2

 

・ヘッツァー×1

 

 

 

と言うラインナップ。

 

ラインナップだけ見れば、ドイツ系の戦車で統一され、最強と名高い重戦車ティーガーと、中戦車パンターを3輌ずつ保有する明光大の方が有利に見えるが、対する白百合もドイツがパンターを開発する原因となったT-34を搭載砲が異なるモノを1輌ずつ揃え、アメリカの主力であったM4シャーマン、最強中戦車パンター、非常に高い防御力を誇るマチルダⅡ、足の速さが売りのクルセイダー、そして侮れない火力を誇るヘッツァーと、可成りの戦力を有している故に、総合的な戦車性能は五分五分と言った所だろう。(重戦車がある分、明光大は火力で勝る部分はあるが。)

 

 

となると、勝敗を分けるのは指揮官の腕前と、隊員の能力という事に成るだろう。

 

 

 

『其れでは、試合開始!!』

 

 

 

「Panzer Vor!!」

 

 

 

 

「それじゃあ始めようか……戦車前進!!」

 

 

 

 

そして、此処に試合開始!

 

 

 

「それでは、手筈通りにお願いします。

 

 敵戦車を発見したら、此方に連絡した上で攻撃を開始して下さい――但し、決して無理だけはしないように、撃破されない事を第一に考え相手にプレッシャーを与えて、足止めをする事に集中するように。」

 

 

『『『『『了解!!』』』』』

 

 

 

明光大は、事前に立てた作戦通りに、足回りの強いパンター3輌とⅢ号2輌の計5輌を先発隊として発進させ、白百合の部隊の索敵を行う。

 

残ったティーガーⅡとティーガーⅠ、そしてⅢ突は先発隊の進むルートを確認しつつ、先発隊とは別のルートで進軍して行く。

 

そんな事をしたら、先発隊が相手の部隊を発見した時に合流が難しいのではないかと思うだろうが、みほは先発隊の指揮官を任せた梓と常に連絡を取り合い、先発隊と付かず離れずの距離で移動しているのだ。

 

 

此れならば何方が相手部隊を発見しても、あまり時間を空けずに合流できる。

 

パンターとⅢ号を先発隊としながら、実は後発隊も索敵を行うと言う、二重のサーチ・アンド・デストロイの布陣を敷いていたのである。何ともみほらしい、大胆さと堅実さを併せ持った部隊展開と言えるだろう。

 

 

 

其れに対して、白百合は、フラッグ車であるT-34/76を他の戦車が取り囲む布陣で岩場を進行中。

 

部隊を散開させない事で戦力を堅め、索敵を行っている相手からの攻撃を受けても、数の差でカウンターを行う事が出来る手堅い布陣であると言えるだろう。

 

 

 

「さて……そろそろかな?前方の岩場に砲撃!!」

 

 

 

その白百合の隊長である美佳は、おもむろに何かを呟いたかと思うと、行き成り岩場に向かって砲撃を指示!

 

明光大の戦車が居る訳でもないのに、岩場に砲撃とは解せないだろう……だが、この砲撃は無意味な物ではなかった――否、無意味どころか、最高の一発だっただろう。

 

 

 

 

「そんな……バレてた!?」

 

 

 

 

砲撃で崩れた岩場の向こうからは、明光大の先発隊が姿を現したのだから。

 

美佳はみほが如何来るかを読んでいた――と言う訳ではない、此の試合会場の地形から考えられる戦術を絞り込み、そして予測を立てた上での攻撃が、巧い具合に決まっただけの事だ。

 

 

が、此れは明光大からしたら堪らない。

 

この予想外のカウンター攻撃は、自分達の作戦が読まれていたのではないかと思うには充分なのだから。――実際に、明光大の先発隊はこのカウンターに驚き、陣形を崩しかけたのだ。

 

 

だが、其処で終わらないのが明光大だ。

 

 

 

「皆さん、落ち着いてください!

 

 此方が相手を発見したと言う報告を西住隊長に入れる前に、相手に此方の存在を知られただけですから、大した事はありません!!!

 

 なので、当初の予定とは違いますが、敵戦車との交戦を開始しましょう!!」

 

 

 

先発隊の『隊長』を任された梓が、部隊を落ち着かせ、本来の作戦通りに白百合との交戦に入る事を通達し、敵戦車へと向かっていく。

 

戦車道は素人の梓だったが、その潜在能力は高く、其れを見抜いたみほが大会までの期間に徹底的な指導(個人指導含む)を行った事で才能が開花し、先発隊の隊長を任される程になっていたのだ。

 

 

そして、そんな梓の号令を受けた他の先発隊のメンバーも落ち着きを取り戻し、作戦通りに白百合への攻撃を開始!!

 

予想外の攻撃で出鼻を挫かれた明光大だが、落ち着きを取り戻したのならば問題ない――パンターとⅢ号が、その戦車性能を如何なく発揮して、白百合を攻め立てる。

 

此れならば、みほ率いる後発隊が合流するまで、持ち堪える事は出来る――少なくとも、敵戦車を撃破出来なくとも、自分達が撃破されるという事態は起きない筈だ。

 

 

そんな状態の中でも、白百合の隊長である美佳は、何処か涼しい顔をしていた。

 

 

 

「興味があったのはみほさんだったけれど、如何やらそれ以外にも、中々面白い子がいる様だね?

 

 あの一撃で出鼻を挫く事が出来ると思ったのだけれど、まさか立て直してくるとは……こんな予想外があるからこそ、戦車道は面白いのだけれどね……あぁ、本当に楽しいよ。」

 

 

 

だが、涼しい顔をしながらも、その瞳の奥には、戦車乗り特有の炎が燃えている――飄々とした態度を取りながらも、美佳もまた生粋の戦車乗りであるが故に、立て直して攻撃して来た明光大とトコトンやり合いたいと思っていたのだ。

 

 

 

「手加減は出来ない……みほさんが、到着するまでに全滅だけはしないでおくれよ?」

 

 

 

――ポロロ~ン

 

 

 

小脇に抱えたカンテレを一鳴らしすると、美佳は戦火へと身を投じて行った。

 

 

 

 

 

 

さて、別動隊のみほだが、先発隊である梓からの報告を聞いて、少し考えていた。

 

別動隊の動きを読んでいた事は別に大した事ではない……自分がもしも白百合の隊長であったのならば、索敵目的の先発隊の存在は、常に頭に入れておくべき事故に、ある程度先発隊の動きを読んで、先制攻撃を仕掛けるだろうから。

 

だから、白百合のまさかの先制攻撃は驚く事ではない――驚く事ではないのだが、みほが考える原因は他に有ったのだ。

 

 

 

其れは、明光大の先発隊と交戦状態になった白百合の対応の高さだ。

 

如何に、相手を目視したとは言え、カウンターのカウンターとも言うべき攻撃を受けたにしては、白百合の対応が的確過ぎるのだ……それこそ、『どんな戦術にも即対応できる』と言わんばかりに。

 

 

 

「此れは……まさか!!」

 

 

 

だが、其処までに至った所で、みほは何かに気付いた。と言うよりも、思い出したと言うのが正しいのかも知れない。

 

 

 

「如何したみほ?」

 

 

「何かあったんですか、みほさん?」

 

 

「あったと言うよりは、何かに気付いたって言う所かしら?……何に気付いたのみほ?」

 

 

 

そんなみほの様子に、青子、つぼみ、ナオミも声をかける。ナオミは、みほが何かに気付いたという事を察していたようだが――何れにしても、この3人とみほとの絆は半端ではないだろう。

 

 

だが、其れは其れとして、みほから告げられた事実は、ある意味でトンでもない物だった。

 

 

 

「気付いたって言うか思い出したって言うのが正しいかなナオミさん。

 

 美佳さんの勘は凄いけど、カウンターのカウンターとも言うべき先発隊の攻撃を受け流してる此の戦術は、並大抵の物じゃないし、事前に明確な作戦を立てて居たら大凡出来るモノじゃない。

 

 敢えて明確な作戦を立てずに、相手の出方に柔軟に対応してペースを握る……此れは、変幻自在の忍者戦術と言われる『島田流』!!」

 

 

「島田流!?……西住流と双璧を成す、戦車道の一大流派じゃない?……まさか、白百合の隊長は!」

 

 

「島田流の後継者の可能性が高い……って言うか、間違いなくそうだろうね――試合が始まれば、自分の名字が分かるって言ってたし。」

 

 

 

相手は、西住流と肩を並べる、日本戦車道の一大流派である島田流だと言うのだから。

 

あくまで、みほの推測であり確定ではないが、試合前の美佳の物言いを考えると、恐らく間違ってはいないのだろうが、だとするのならば、この1回戦の戦いは凄い試合であると言えるだろう。

 

 

みほは正統的な西住流ではないが、戦いの構図だけ見れば『西住流vs島田流』なのだから。

 

 

 

 

「島田流……相手にとって不足はないわ!!寧ろ、叩きのめしてみほさんの戦車道がドレだけなのかって言うのを、世に知らしめるわよ!」

 

 

「相手が誰であろうと関係ねぇ!勝ちに行こうぜみほ!!」

 

 

「相手が島田流なら、願ってもないでしょ?其れに勝ったら、誰も明光大の去年の躍進をまぐれとは言えなくなるわ。」

 

 

「うん!!行こう、全力全壊で!!」

 

 

 

 

だがしかし、そんな事はみほ達には関係ない!!

 

気持ちを新たに、先発隊と合流すべく移動を開始!!――1回戦は、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer31『1回戦から撃滅!爆裂!大爆殺です!』

1回戦からフルスロットルで行きます!Byみほ      おっしゃー、上等だ!!By青子      それじゃあ、ブチかまそうか?Byナオミ


Side:みほ

 

 

 

こっちの戦術を読んでいた……とは言えないかもしれないけど、美佳さんは、兎に角此方の先発隊に対して完璧な先制攻撃を仕掛けて来た

 

んだから、その洞察力は侮れないよ。

 

恐らくは、此れまで戦う機会がなかっただけだろうけど、美佳さんとお姉ちゃんが戦ったら、勝敗は兎も角として、お姉ちゃんは美佳さんの事をライバルとして認めていたかもしれない――そう思う位の物だったからね、私からしてみれば。

 

 

でも――

 

 

 

 

『索敵がバレました!なので、此れより先発隊は、敵戦車との交戦に入ります!――無理はしないで、撃破されない事を優先にして!!』

 

 

「うん、それでいいよ梓ちゃん。」

 

 

『隊長達が来てくれるまで、何とか持たせて見せます!』

 

 

「うん、その意気や良し!すぐに行くから待ってて!!」

 

 

先発隊の指揮を任せた梓ちゃんは落ち着いているみたいだね……此れなら大丈夫かも知れないかな。

 

出鼻を挫かれた先発隊が混乱に陥って、其のままの状態になっているのだとしたら相手チームのカモになるだけだけど、落ち着きを取り戻して、反撃できているのなら、直ぐ撃破される事はないだろうからね。

 

 

何よりも、梓ちゃんは、私が直々に鍛えたんだから、そう簡単にやられるとは思えない――私が指導したって言う事は、私を育ててくれたお母さんとお姉ちゃんのドクトリンも受け継いでいるって言う事だからね。

 

 

さて、其れじゃあ行きましょうか?

 

つぼみさん、履帯が切れず、エンジンがオーバーヒートしない範囲で飛ばしたとして先発隊との合流はドレ位で出来そうですか?

 

 

 

 

「5分もあれば充分よ!

 

 東雲工場で魔改造されたティーガーⅡなら、余程事がない限りは履帯も切れないしエンジンがオーバーヒートする事もないのだから!!」

 

 

「なら、全速力で先発隊が白百合と交戦している地点に向かって下さい!!」

 

 

「了解よ、みほさん!!」

 

 

 

 

出鼻を挫かれる結果にはなりましたが、此処からはそうは行きません――今度は、私のターンですよ美佳さん!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer31

 

『1回戦から撃滅!爆裂!大爆殺です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

明光大の先発隊を発見した白百合は、出鼻を挫くべく砲撃を開始するが、しかしながら明光大の戦車を撃破するには至っていなかった。

 

まぁ、明光大の先発隊がパンターとⅢ号と言う、足回りに定評があり、最高速度も中戦車の中で屈指の速度を持つ戦車であったのではあるが、それでもこの被弾率の低さは凄まじいものがあるだろう。

 

 

決して砲撃が当たってない訳ではないが、その全てがギリギリで回避され、或は白旗判定にならない場所に着弾した事で、たった1輌さえも撃破出来ないでいたのだ、

 

尤も、その原因の最たるものは、みほ率いる隊長車と模擬戦を行う事で、自動的かつ強制的に、明光大の回避能力が超人的に底上げされていたからなのだが――因みに、梓のチームの操縦士も、その境地に辿りつつあるのだ。

 

 

 

「ふむ……少しは慌ててくれるかとも思ったのだけれど、如何やら思った以上の効果は得られなかった様だね?

 

 だけど、この場に居る相手の戦車数と、私達の戦車数では数が違うからね――兎に角、どの戦車でもいいから撃破するように。」

 

 

 

そんな相手を前にしても、白百合の隊長である美佳は何時ものように車長席に腰を下ろし、カンテレを奏でながら試合の様子を見て、そして隊員に(相当に大雑把ではあるが)指示を飛ばしていく。

 

その指示は大雑把ながらも的確で、梓達先発隊が何か行動を起こした瞬間にそれを潰しにかかっている――梓も頑張って先発隊を指揮しているが、此れは経験の差が大きいと言わざるを得ないだろう。

 

 

それでも、交戦開始から10分が経って、1輌も撃破されていないのは大した物だと思うが……

 

 

 

――ズガン!!

 

 

――ズドン!!

 

 

――パシュ!!×2

 

 

 

『明光大付属、Ⅲ号戦車2輌行動不能。』

 

 

 

此処で遂に、Ⅲ号が2輌とも撃破されてしまった――否、今までよく戦ったというべきだろう。

 

Ⅲ号は、Ⅳ号やパンターと共にドイツが誇る中戦車であり、白百合の部隊に対してもヘッツァーとクルセイダーに対しては絶対的に有利…なのだが、マチルダとは略互角で、シャーマンに対しては装甲を抜く事が出来るがやや不利、T-34とパンターに至っては完全不利なのだ。

 

美佳の乗る隊長車でありフラッグ車であるT-34/76と、副隊長車であるT-34/85が、明光大のⅢ号を2輌撃破したのは、T-34ショックその物であると言えるだろう。

 

 

同時にⅢ号が撃破されたというのは、梓にとっては非常に拙い状況であった。

 

元々先発隊の数は、白百合の部隊の半分であるのに、そんな状況で2輌失うのは痛すぎる――如何に残った3輌がパンターであったとしてもだ。

 

と言うか、相手の部隊には、大戦期最強と称された中戦車であるパンターとT-34がいるのだ……如何考えたって分が悪い所の話ではないだろう。

 

 

此れには梓も歯噛みする。

 

自分は憧れのみほから直に指導を受け、ティーガーⅡが隊長車となった際には、アイスブルーのパンターを任されたのに、其れなのに眼前の相手には全く歯が立たないのだから。(とは言え、此処まで持ち堪えたのは普通に凄いのだが。)

 

 

 

「止まらないで下さい!止まったら良い的です!

 

 兎に角、兎に角撃破されないように足を止めないでください!!」

 

 

 

それでも、これ以上の損害を出さない様にと動き回り、更に梓率いるアイスブルーのパンターは回避行動をしながらも砲撃を敢行して白百合の部隊に少しでもプレッシャーを与えようと奮闘する。

 

 

飛び交う砲弾に包囲される陣形……もはや此処までかと思った、その時だった。

 

 

 

――ドッガァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

――パシュン!

 

 

 

 

『白百合中学校、T-34/85行動不能。』

 

 

 

梓の目の前で、白百合で最高の攻撃力を持つT-34/85が、文字通り吹っ飛んで白旗判定になったのだ。

 

此れには梓のみならず、美佳ですら目が点になってしまった……全く予想していなかった砲撃によってT-34/85が撃破されたのだから。

 

 

だが、其れは明光大にとっては希望であり、白百合にとっては有り難くない存在だった。

 

 

 

「間に合った……Ⅲ号を2輌失ったのは痛いけど、損害が其れだけなのは御の字……よく持ち堪えてくれたね梓ちゃん!」

 

 

「西住隊長……!!」

 

 

 

其れは明光大の後発部隊。

 

進行速度をティーガーⅠに合わせていた為に時間がかかったが、白百合の部隊を発見すると同時にみほ率いるティーガーⅡと、凛率いるティーガーⅠが白百合のT-34/85を砲撃し、88mmのダブルアタックで吹き飛ばしたのだ。

 

 

 

「すみません西住隊長……Ⅲ号が――」

 

 

「大丈夫、此れは想定の範囲内だから――寧ろ、被害がⅢ号だけで済んでよかった……パンターが撃破されたら流石にキツイからね。

 

 一度陣形を立て直します!各車、白百合を牽制しつつ後退して下さい!」

 

 

 

此処で、此の土壇場でみほが合流したのは大きいだろう。

 

何とか生き残ったパンターのクルーは、頼れる隊長の合流に安堵し、しかしみほにつられるかのようにその闘気が上昇しているのだから。

 

更に、隊長であるみほが合流した事で、明光大は本来の力が発揮できる状態となったのだ。

 

 

これ以上此処での交戦は無意味と言うかのように、明光大は白百合を牽制しながら後退を始める。

 

逃げるのではない……此れは、最後に勝つための戦略的撤退と言うのが正しいだろう――西住でありながら、此れを迷わず選択できるのがみほの強さなのだが、当然それだけではない。

 

 

 

「喰らえ、スモークボンバー!!!」

 

 

「は?」

 

 

 

――ボウン!!!

 

 

――モクモクモク…

 

 

 

去り際に発煙筒を投げつけ、煙幕で白百合の視界を奪う。

 

発煙筒の煙と言うのは割と強力で最低でも1分待たなければ視界は開けない、そして1分間動きが止まるのであれば、明光大が後退するには充分な時間があると言えるだろう。

 

 

 

「まさか、視界を奪いに来るとはね……でも、随分と私の心を熱くしてくれるものだ。

 

 熱くなる事は戦車道に必要なのかと思って来たけれど……強者相手との試合では必要不可欠なのかも知れない……だから面白いよ。

 

 各員に通達、煙幕が晴れると同時に追撃を開始するから、何時でも発進出来るようにしておいておくれ。」

 

 

 

それでも美佳は、慌てる事なく指示を飛ばしていく。

 

彼女自身もトリッキーな戦術を得意としているだけに、少しばかり驚きはしたものの冷静さを欠くには至らなかったのだろう――それでも、内心は柄にもなく熱くなっている様ではあるが。

 

 

 

「しかし、向こうのⅢ号2輌と、こっちのT-34/85か……ハッキリ言って対価が見合わないかな?せめて、パンター1輌は撃破したかった。

 

 此方の残存戦力で、向こうのフラッグ車であるティーガーⅡの装甲を抜く事が出来るのはパンターだけ…其れも後部装甲だけだからね?

 

 逆に、向こうの残存戦力は此方の戦車の何処に当てても撃破出来るか――まぁ、性能だけが全てじゃないから、其処は腕だね。」

 

 

 

とは言え、T-34/85を失ったのは白百合にとっては非常に痛いと言えるだろう。

 

元より重戦車を持ち合わせていない事で、火力では劣っていたのだが、唯一搭載砲が80mmを超えるT-34/85が撃破されたとなると、その火力の差は更に大きくなるのだから。

 

尤も、美佳は火力の差と言う事で負ける気はない様だが。

 

 

 

「さて、ソロソロ煙幕も晴れて来た……良い風も吹いて来たし、行くとしよう。」

 

 

 

暫くすると、僅かに風が吹いて来て、其れが煙幕が晴れるのを早め、白百合の部隊は視界を取り戻す事が出来た。尤も、既に明光大の姿は何処にも見当たらないのだが……

 

しかし、そんな事を気にする様子もなく、美佳はカンテレを一鳴らしすると、部隊を進めて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、煙幕を張ってその場から離脱した明光大の部隊は、白百合の部隊から十分に距離を取った所で、残った8輌を3つの部隊に分けた上で散開していた。

 

部隊編成は、フラッグ車であるティーガーⅡとアイスブルーのパンター、そしてティーガーⅠ、パンター、Ⅲ突の組み合わせが2組である。

 

 

 

「何とか陣形を立て直せましたけど……発煙筒ってアリなんですか西住隊長?」

 

 

「アリだよ梓ちゃん。

 

 そもそも発煙筒や照明弾は、緊急事態を知らせる時の為に搭載が義務付けられてる物だからね?

 

 で、ルールで持ち込みが許されている物を試合で使っていけないって言う規定はないから合法なんだよ。発煙筒で戦車を撃破するなんて言うのは、流石に不可能だから。」

 

 

「成程、そう言う事ですか。」

 

 

 

そうして部隊分けをした中で、みほと梓は岩陰に身を潜めながら、こんな話をしていた。

 

さっきの発煙筒を使った煙幕攻撃は、梓にとっては衝撃だったのだろう……去年は照明弾を武器として使ったみほだったが、実際にこう言う『裏技』を目の当たりにすると衝撃的だったのだろう。

 

だがしかし、其れもキッチリ『合法』と言われれば納得するしかないだろう。

 

 

 

「それにしても、まさかこんな作戦を思いつくとは思いませんでした……流石は西住隊長です!」

 

 

「ん~~……美佳さんはこっちがどんな作戦でぶつかって行っても、即それに対応しちゃうような人みたいだから、正攻法も搦め手もそれ程効果が望めないからね。

 

 だけど、流石に『予想外』が連続して起こったら、幾ら何でも即対応って言うのは難しいと思うんだ。

 

 尤も、此れに全部対処されたら、ティーガーⅡの圧倒的な攻防力に物を言わせて正面から粉砕する以外はなくなっちゃうんだけれどね。」

 

 

 

さて、部隊分けをしたのには勿論意味があった。

 

先程の白百合との攻防で、美佳の対応能力の高さは嫌と言うほど分かった――其れが、島田流であるのならば尚更だろう。

 

だからみほは、美佳の対応能力をショートさせる事を思いついたのだ……果たして、其れが何であるのかは明光大のメンバーのみが知ると言った所であろうが。

 

 

 

『こちら凛。予定の場所に到着した、何時でも行けるわよみほ。』

 

 

『こちら千尋、白百合の部隊を捕捉、準備完了よ隊長!』

 

 

 

そんな中で、別動隊の指揮を執る部長の凛と、副隊長の千尋から準備OKの連絡が入る。(梓は先発隊の指揮を任されただけで副隊長と言う訳ではない。)

 

その連絡を受けたみほは、笑みを浮かべる。全ての準備は整ったのだと。

 

後は自分の作戦が上か、それとも美佳の対応力がみほの想像を超えて高かったかになるのだろう。多分、恐らく、きっと。

 

 

 

「それでは此れより『ビックリ箱作戦』を開始します!」

 

 

「了解!!」

 

 

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 

 

いざ作戦開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、明光大を追っていた白百合だが、進めど進めど明光大の戦車が見えない事に少しばかり疑問を抱いていた。

 

今回のフィールドは、砂地と岩場に高台が点在していると言う場所であるために、身を潜める事が出来る場所は少ないし、身を潜める事が出来る場所も岩陰である為に、待ち伏せにはあまり向かない。

 

それだけに、明光大の車輌が見当たらないと言うのはオカシイのだ――オカシイのだが……

 

 

 

――ズドン!

 

 

――パシュン!!

 

 

 

『白百合中学校、ヘッツァー行動不能。』

 

 

「何だって?」

 

 

 

突如砲撃が炸裂し、ヘッツァーが撃破された。

 

一体何処から?……いや、探す必要もなかった――ヘッツァーを撃破した相手は白百合の後方から現れたのだ。千尋が率いる小隊が!!

 

 

 

「成程……此方に追わせる形を取らせておいて、その実は追い抜かせての背後からの奇襲か……マッタク、西住流の次女は、姉とは全然違うお転婆なお姫様みたいだね?

 

 だけど、此の程度で私を超える事が出来ると思ったら大間違いだよ?風は、気紛れだからね。」

 

 

 

――ガァァァン!!

 

 

――パシュン!

 

 

 

『明光大付属、Ⅲ号突撃砲行動不能。』

 

 

 

しかし美佳は慌てず、自身の乗るT-34/76を即座に起動させ、流れるような動きからⅢ突の側面を撃ち抜いて見事に撃破!!

 

其れのみならず、同時にパンターのクルーにも指示を飛ばし、明光大のパンターと相討ちにもつれ込む事に成功していた。

 

恐るべき対応力と言えるだろう。

 

 

だが――

 

 

 

「空からこんにちわ!!!」

 

 

「そして此方は地上からこんにちわです!」

 

 

 

そこで今度は、みほのティーガーⅡブラックと、梓のアイスブルーパンターが戦線に加わる。

 

パンターは側面からの奇襲だったが、ティーガーⅡは岩場をジャンプ台にしての空からの奇襲!と言うか、鋼鉄の虎のダイビングボディプレスで、登場と同時にマチルダを圧殺!

 

如何に強固な装甲を誇るマチルダとは言え、重戦車に上から突撃されたのでは堪らない――敢え無く白旗判定となったのだった。

 

 

 

「上から来るとは……本当に君は、お姉さんとはまるで違うんだね?

 

 まほさんとは練習試合で戦った事があるし、勿論彼女との試合は面白かったけれど……君はそれ以上だよみほさん。君の様な戦車乗りとは、初めて戦ったよ。」

 

 

「お褒めに預かり光栄です美佳さん――私も、此処まで対応力の高い人とは初めて戦いました。でも、だからこそ負けたくありません!!!

 

 ううん、私は勝ちたい!!勝って、優勝して部長達を送り出したいんです!!」

 

 

「その気持ちはとても尊いものだとは思うけれど、私も此れが中学最後の大会だからね……負けたくないんだよみほさん。」

 

 

 

そしてそのまま、ティーガーⅡとT-34/76はフラッグ車同士の戦いに突入!

 

火力と防御力では圧倒的にティーガーⅡが有利だが、如何に足回りとエンジンにギリギリの魔改造を施したとは言え、機動力では圧倒的にT-34/76の方が上回る。

 

 

だが其れでも、ティーガーⅡの超長砲身88mmは余程の相手でなければ何処に当てても撃破出来る程の破壊力があるだけに、美佳は大胆な動きをしながらも、慎重な戦いをしていた。

 

それでも、仲間達がパンターとティーガーⅠを抑えてくれていれば何とかなると思ったのだが……

 

 

 

「行くわよ……おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

此処で、最後の別動隊が合流し、椿姫率いるⅢ突がシャーマンを強襲してこれを撃破!!

 

しかし、美佳の対応力も負けることなく、すぐさまパンターに指示を出し、Ⅲ突と2輌のパンターを撃破させる。此れで、明光大の残存戦力は、ティーガーⅡが1輌、ティーガーⅠが2輌、パンターが1輌。

 

対する白百合は、T-34/76が1輌、シャーマンが1輌、パンターが2輌、クルセイダーが2輌と数の上では有利である。

 

 

だがしかし――

 

 

 

「ティーガーⅠが1輌足りない?」

 

 

 

此処で美佳は、明光大のティーガーⅠが1輌足りない事に気付いた。

 

すぐさまどこに居るのかと探し始めるが、みほのティーガーⅡとの交戦状態にあっては、探すのも楽ではない……と言うか集中して探せる筈がないだろう。

 

 

 

「今だよ梓ちゃん!!」

 

 

「行きます!!」

 

 

「!!本命はそっちか!!」

 

 

 

そして、交戦の中で、みほは梓に指示を出し、美佳のT-34/76に攻撃を仕掛ける。

 

完全に側面からの攻撃だけに、如何に美佳であっても対応が遅れるが――

 

 

 

――ガキィィィン!!!

 

 

 

其処に、白百合のパンターが割って入り、アイスブルーのパンターの進行を妨げる。こうなればみほの目論見は潰れたと言える。

 

パンター同士ならば決着にも時間がかかるだろうから、その間に何とかティーガーⅡの後部を取って……と、美佳は考えたのだが、其れは叶う事が無かった。

 

 

 

「部長!!」

 

 

『目標を……狙い撃つ!!』

 

 

 

――ドゴォォォォォン!!!!

 

 

――パシュン!!

 

 

 

『白百合中学校、フラッグ車行動不能!明光大付属中学校の勝利です。』

 

 

 

突如として放たれた砲撃がT-34/76の装甲をぶち抜き、白旗を上げさせたのだ。

 

其れを行ったのは、1輌で高台に陣取っていた、凛のティーガーⅠ!美佳が足りないと思った鋼鉄の虎は、トドメを刺す為に息を潜めていたのである。

 

 

全ては、此の為の仕込に過ぎなかったのだみほの作戦は。

 

ビックリ箱作戦の名の通り、背後や側面からの時間差での奇襲は、其れその物が美佳の判断力を少しでも鈍らせる事が目的であり、そして鈍った所を、ティーガーⅠの88mmで仕留めるのが本命だったのである。

 

 

 

「あんな場所から……マッタク参ったね、完敗だよみほさん。

 

 君の作戦に対応してる心算だったけれど、3連続の奇襲に加えて、射程外からの一撃と言うのには流石に対応できなかったみたいだね?

 

 本当に面白いな君は。」

 

 

「美佳さんは対応力が凄いので、此れ位じゃないと通じないと思いましたから――でも、良い試合でした。楽しかったです美佳さん!」

 

 

「あぁ、そうだね……私もとても楽しかった。

 

 其れに、負けたのにとても清々しい気分だよ……ふふ、本当に強い相手との試合では、勝ち負けと言うのはあまり重要ではないのかも知れないね?

 

 でも、私達に勝ったのだから優勝しておくれよみほさん?そうでなくては、負けた私達が惨めになってしまうからね。」

 

 

「はい!勿論です!!」

 

 

 

そして、試合が終われば、共に戦車乗り同士だけに、そこには友情や絆が生まれるものだ。

 

みほと美佳も、互いの健闘を称えてがっちりと握手し、戦車娘の絆を紡いだようだ――此の絆は、きっと何処かで力を発揮するのだろう。

 

 

其れは兎も角、奇しくも『西住流vs島田流』の構図となった1回戦第1試合は、みほの勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

 

ふふ……ふふふ……勝った、みほが勝ったーーーー!!

 

相手が相手だけに、苦戦はしたけれど、みほは勝ったわ!!――如何やらみほは、貴女の長女を凌駕しているみたいね千代?

 

 

 

 

「何時から私がいるって気付いてたのかしら?」

 

 

「大分最初からよ……あの子が出ている試合を、貴女が見に来ない筈がないからね――間違ってないでしょう千代?」

 

 

「まぁ、否定はしないわ。――それにしても、相変わらず凄いわねみほちゃんは。

 

 左腕を失う前とはまるで別人……何と言うか、みほちゃんの中に眠っていた戦車乗りとしての魂が覚醒した感じがするわ……まさか、美佳が負けるとは思わなかったものね。」

 

 

 

 

……あの事故のせいで、みほは『死の恐怖』を乗り越えたから、其れが戦車道にはプラスに働いているのよ。

 

そして、同時に貴女の予想も外れてはいないわ千代――確かにみほは、左腕を失ってから、急速に戦車乗りとしての能力を開花させて行ったのだから。

 

 

何にしても、あの子はマダマダ伸びるわ――貴女の娘のおかげで、さらに伸びる事が出来たからね千代?

 

 

 

 

「みほちゃんチート過ぎよ流石に。

 

 でも、みほちゃんが居てくれれば、美佳は兎も角として愛里寿にとっては良い壁になるかも知れないわ――成長の為のね。」

 

 

「愛里寿……次女だったかしらね?……だけど、みほの壁は簡単には超えられないわ――そしてまほの壁もね。

 

 西住流は、隙を生じぬ二段構え……負けないわよ千代。」

 

 

「其れを言うなら、島田流だって美香と愛里寿の二枚扉……簡単には負けなくってよしほちゃん?」

 

 

「しほちゃんて言うな!!」

 

 

 

――ガバァ!!ギリギリギリ!!

 

 

――西住流奥義:拷問卍固め

 

 

 

 

「ギブギブギブ!!参ったわしほさん!!」

 

 

「ならいいのよ。」

 

 

でも千代、私達の娘がいる限り、戦車道の未来は明るいわ――みほもまほも、美佳さんも愛里寿さんも、きっとこれからの戦車道には、欠かせない人物となるでしょうからね。

 

 

何にしても、見事な戦いでしたみほ。

 

この勝利に慢心せずに次の戦いに臨みなさい?…貴女ならばきっと、中学戦車道の世界に新たな風を巻き起こしてくれるでしょうからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer32『お約束の2回戦です。お約束です。』

2回戦はどうしてこうなるのかな?Byみほ      仕様か、それとも単なる手抜きなのかByナオミ      仕様と信じましょうByつぼみ


Side:まほ

 

 

 

『大阪府立江坂中学校、フラッグ車行動不能。黒森峰女学院の、勝利です。』

 

 

 

 

よし、先ずは1回戦を危なげなく突破したな。

 

戦術其の物は悪くなかったが、低性能の日本戦車で構成された部隊では、我が黒森峰の相手ではない――黒森峰が取り揃えているドイツ戦車は、何れも日本戦車を圧倒する性能を持っているのだからな。

 

だが、戦車の性能が同じであったのならば、苦戦していたかもしれない……江坂の隊長の指示と言うのは決して悪くなかったからね。

 

 

 

 

「よう、西住!1回戦突破おめでとう!

 

 まぁ、お前なら難なく1回戦を突破するだろうとは思ってたんだが、蓋を開ければ略完封に近い内容での圧倒的勝利だからな?マッタク持って凄い奴だよお前は!」

 

 

「安斎……来てたのか。」

 

 

「来るに決まってるだろ?ライバルの試合を見逃す事は出来ないからな♪」

 

 

 

 

ふふ、確かにそうだな。私も、みほの試合とお前の試合は、会場にまで足を運んで観戦したのだからね。

 

―――で、1回戦を終わって如何思った安斎?今年は、私に勝てそうか?

 

 

 

 

「さてな?ソイツは準決までのお楽しみって奴だ――だが、お前をがっかりさせる事は無いとだけ言っとくよ西住。」

 

 

「そうか……では、期待して待つとしよう。」

 

 

みほも安斎も、そして私も1回戦を突破したのならば、滑り出しは好調と言った所だな?

 

何より、1回戦を見る限り、みほも安斎も去年よりも確実に強くなっているからな……文字通り、相手にとって不足なしと言う所だな此れは!

 

直接対決が、今から楽しみになって来たよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer32

 

『お約束の2回戦です。お約束です。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

1回戦の全日程が終了して、2回戦に駒を進めたのは、私達明光大と、青森の八戸中学(2回戦の相手)、神奈川の私立横須賀中学校、愛媛の市立愛媛第三中学校、安斎さん率いる愛知県立愛和学院、茨城の水戸市立第三中学校、北海道の札幌第一中学校、そして、お姉ちゃん率いる黒森峰女学院……そうそうたる顔ぶれだね。

 

 

何よりも、黒森峰の1回戦は圧巻としか言いようのない物だった。

 

相手が性能で劣る日本戦車って言う事を加味しても、黒森峰はその圧倒的な実力と戦車の性能を持ってして相手を圧倒し、自軍の損害は0でありながら、相手を全滅させた訳だからね……今年も、黒森峰が一番の強敵なのは変わらないか。

 

 

 

 

「まほ姐さんが最高学年で隊長だからなぁ?

 

 去年とは違って、隊員が全員自分と同輩か後輩だから、去年よりやり易いのかも知れねーな。其れが、あの試合結果って事かも。」

 

 

「去年も1回戦は、相手を全滅させていましたけど、今年は全滅どころか完封ですからね……」

 

 

「絶対王者の名は伊達ではないか……ま、週刊戦車道の大会特集ページでも、黒森峰の5連覇は確実って書かれてるからね。

 

 去年の大会で、黒森峰を苦戦させた明光大付属と愛和学院が、ドレだけ絶対王者に喰らい付けるかも見所だろう……だってさみほ。」

 

 

 

 

ナオミさん、その記事って私達と安斎さん達が、負ける事前提で書かれてない?

 

奮闘しても、善戦が良い所で勝つ事は出来ないって、暗に言ってくれちゃってるよね?

 

確かにお姉ちゃんが率いる黒森峰は強いよ?逸見さんや赤星さんの様なAAA級の戦車乗りだっているし(因みにお姉ちゃんはS+ね。)、強力な重戦車の運用も他校と比べてとっても巧いからね。

 

でも、だからって、まだ1回戦の全日程が終わった段階で黒森峰5連覇確実は言い過ぎじゃないかな?

 

お姉ちゃんだって『勝負に絶対はない。如何に全力で挑んでも、負ける時は負ける――其れが連覇中の王者であってもな。黒森峰が連覇を成し遂げるのか、それともみほか安斎が黒森峰の一強時代を終わらせるのか……其れは誰にも分からないよ。』って言ったもん。

 

 

だけど、雑誌が黒森峰の5連覇を確実って書いてるって言うのは、ある意味で『美味しい』シチュエーションではあるかな?

 

 

 

 

「美味しいシチュエーション?」

 

 

「アタシにも分かるように言ってくれ~~、馬鹿だから分かんねー。」

 

 

「自分で馬鹿って言ってたら世話ないよ青子さん。

 

 何て言うか、週刊戦車道だけじゃなく、戦車道を扱ったメディアは紙面でもネット上でも黒森峰の5連覇は確実って見てると思うんだよ?

 

 でも、そんな中で、私達や、或は安斎さんが黒森峰を倒したらどうなるかなぁ?下馬評を覆したって言う事で、話題になると思うんだ♪」

 

 

「其れは言えてるわね。

 

 安斎千代美さんは、まほさんが唯一公式の場でライバルと認めた相手だし、みほの実力だって去年の大会で示されてる上にまほさんの妹だからね……その何方かが黒森峰を倒したとなれば、物凄く話題になるのは間違い無いと思うわ。」

 

 

「でしょ?」

 

 

だから、決勝戦まで勝ち上がって黒森峰との直接対決を制する事が出来たら最高だと思うんだ。

 

そう言う事だから、先ずは次の2回戦も頑張って行こうね、青子さん、ナオミさん、つぼみさん!!必ず勝って準決勝に駒を進めましょう!!

 

 

 

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

 

そうと決まれば、今日の訓練も確りバッチリやらないとね♪

 

1回戦で撃破された戦車の修理も終わってるから、訓練でも全車輌を使う事が出来るしね――この辺は、本当に東雲整備工場に感謝だよ。

 

今度、椿姫さん経由で何かお礼の品を差し入れた方が良いかも知れないね。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

と、言う訳で放課後の訓練。

 

大会中って事もあるから、其れを考えて戦車を使っての訓練は、移動訓練と射撃訓練と、隊長チームは不参加の軽めの紅白模擬戦で終わらせた――大会中は、下手に鍛えるよりも、感覚を忘れないように体を動かして勘を鈍らせないようにするのが一番大事だからね。

 

因みに、模擬戦の結果は、梓ちゃんが隊長を務めた紅組が、実戦時の副隊長の千尋さんが隊長を務める白組を僅かに上回ってギリギリ勝ったか……本当に、梓ちゃんは未経験者だったのか疑いたくなるような上達ぶりだったよ。

 

 

でも、此れだけだと時間は大きく余る……まぁ、余るように予定を組んだからね。

 

その余った時間を使って、次の2回戦を如何言う感じで行くのかのミーティング開始だよ――試合前のミーティングは欠かせない物だから。

 

 

「それではミーティングを始めます。

 

 まず最初に、2回戦の相手である八戸中学校はどのような戦車を使ってくるんでしょうか部長?」

 

 

「1回戦のオーダーを見る限りだと、ティーガーⅠとIS-2と言った高威力の砲撃が出来る重戦車を主にして、自走砲にT28重戦車やブルムベア、果てはシュトゥルムティーガーまで投入している超火力の相手ね……1発でも喰らったら即白旗って所ね此れは。」

 

 

 

 

ティーガーⅠにIS-2は確かに、相手になるとこの上なく怖い存在ですね?

 

でも、T28重戦車は兎も角、ブルムベアとシュトゥルムティーガーはどうだろう?確かに強力だけど、装填に時間がかかる上に機動力は無いに等しいから、懐に入り込まれたら終わりなんだけど……余程運用に自信があるのかなぁ?

 

 

――だけど、相手が火力頼みだと言うのならば幾らでも策は思いつきます。

 

 

此の試合、私達隊長グループはアイスブルーのパンターで出撃します。

 

なのでティーガーⅡは今回は出番がありませんが……次の試合は、明光大の十八番である『機動力を生かした高速戦闘』を可能な限り、最大限発揮して行こうと思います。

 

足の重い重戦車主体の相手にとっては、機動力をフル活用した戦いって言うのは天敵以外の何物でもありませんからね。

 

 

相手のフラッグ車は、恐らく重装甲のT28重戦車でしょう。

 

なので、先ずはティーガーⅠとIS-2を行動不能にして相手のなけなしの機動力を奪い、後は此方の機動力で相手の重爆砲撃を躱しながらフラッグ車を撃破。

 

八戸が揃えた自走砲は、こっちのⅢ突と違って機動力は皆無なので、弱点である後面を取るのは比較的簡単だと思いますから。

 

なので、ティーガーⅠとIS-2を撃破した後は、フラッグ車の後面を取ることが出来た車輌は迷わずに撃っちゃって下さい。Ⅲ号の主砲だと、ややきついかもしれませんが、Ⅲ突やパンター、ティーガーⅠなら後面装甲は楽々抜く事が出来るので。

 

 

 

 

「まぁ、確かに火力はおっかないけど、当たらなけりゃ意味ねぇもんな?

 

 そもそもにして、うちの戦車道チームって、主にアタシ等隊長車のせいであり得ない位に回避能力たけーからなぁ……ノー被弾で勝つ可能性ってのが否定できねぇんだよなぁ♪」

 

 

「その可能性も否定できないわね。

 

 威力の大きい砲撃で相手の出鼻を挫いてって事なんでしょうけど、出鼻を挫かれた程度じゃ動じないのが今の明光大よ。」

 

 

「其れに、幾ら重装甲でも機動力が低いんじゃ意味がないわ。

 

 如何に分厚い装甲でも、何度も叩かれたら何れは限界が来るんですもの――正に厚い皮膚より速い足よね。」

 

 

 

 

ハインツ・グデーリアンですね。

 

兎に角、次の2回戦は動き回って勝ちに行きます。名付けて『ウロチョロ作戦』です!力を合わせて、2回戦も頑張りましょう!!!

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おーーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

「うん♪それじゃあ、時間なので今日の練習とミーティングは此処まで!お疲れ様でした。」

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「お疲れ様でした!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

今日もお疲れ様でしただね。

 

さてと、今日は迎えが来るまで如何しようか?って言っても、大体パターンは決まってるんだけど。

 

 

 

 

「そうだなぁ?ゲーセンはこの前行ったし、カラオケも行ったばっかだしなぁ……ウィンドウショッピングって気分でもねーし。」

 

 

「ならボーリングは如何?

 

 確か、何時も遊んでるビルの最上階に今日オープンした筈よ?――確か開店初日は、4人以上で30%オフだった筈だからお得でしょ?」

 

 

「いいですねボーリング。青子さんとつぼみさんは如何?」

 

 

「アタシは賛成だな。練習が軽めだった上に、紅白戦には出てねーから、正直もっと動きたいと思ってた所だからな♪」

 

 

「私も異論無しよみほさん、ナオミさん。偶にはボーリングって言うのも悪くない物。」

 

 

 

 

其れじゃあ決まりだね?

 

ボーリング場に向かって、ぱんつぁーふぉー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ナオミ

 

 

 

という訳でやって来たボーリング場だったんだけど……澤達の1年生チームが来てるとは思わなかったわね。

 

折角だからって言う事で、一緒にプレイする事に成ったんだけど――大体予想はしてた事とは言え、みほのスコアには1年生全員が驚いてるわね。

 

 

 

「えい!!」

 

 

 

――パカーン!

 

 

 

此れで、1投目から5連続のストライク。

 

私も砲撃手としての腕を生かした正確な投球でスコアを伸ばしてるけど、ストライクとスペアが交互って所だからみほには及ばないし、何よりも、みほが使ってる球は3番目に重い13ポンドなんだから驚くわよね。

 

おまけに、左腕がない事で余計に右に重心が偏り易いにもかかわらず、そんなの関係ないとばかりに正確なショットを連発してる訳だから。

 

みほのフィジカルの強さは、去年の合宿で知ってた心算だけど、フィジカルだけじゃなくてボディバランスも抜群に良いみたいね。

 

 

まぁ、其れとは別に、最重量の15ポンドのボールを床につける事なくピンまでぶん投げた青子のパワーにも驚いてはいたけれどね。……と言うか、ボーリングの球って、空を飛ぶものだったかしらね……?

 

 

其れよりも、何だがギャラリーが増えてない?

 

 

 

 

「増えて……ますね間違いなく。

 

 若しかしたら、西住隊長がパーフェクトゲーム達成しちゃうんじゃないかって思って野次馬的に集まってるのかも知れませんよ吉良先輩。」

 

 

「成程、納得したわ澤。」

 

 

確かにこのまま行くと、パンチアウトまで入れての12連続ストライクを達成しそうな勢いだものね?

 

しかも其れを為そうとしてるのが、隻腕の美少女ともなれば自然とギャラリーが集まっても仕方ないか……まぁ、此れだけの人が見てる中で私だって、無様な結果は残せないわね。

 

連続ストライクは無いけど、他はスペアで取って、ガーターは0……つまりはノーミス。

 

みほがパーフェクトを目指すなら、私はノーミスを目指すわ!!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

で、先ずは私の10投目。

 

1投目で9本倒して、2投目でスペア、パンチアウトでストライクのノーミス達成!最終スコアも240点と最高クラスのモノだったからね。

 

 

そしてみほの10投目。

 

此処まで9連続ストライクのみほだけど……

 

 

 

「は!」

 

 

 

――パカーン!

 

 

 

先ずはストライク!

 

続く2投目も……

 

 

 

――パカーン!!

 

 

 

ストライク!……最後のパンチアウト――此れでストライクを出せばパーフェクトゲーム達成……此処まで来たら、絶対パーフェクトよみほ。

 

 

 

 

「とりゃぁぁあぁ!!」

 

 

 

――パッッカーーーーン!!!

 

 

 

そして12投目もストライク!!見事パーフェクトゲーム、300点満点達成よみほ!!

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!スゲェ、あの片腕の嬢ちゃんパーフェクトゲーム達成しちまったぞオイ!!」

 

 

「ベリーショートの子もノーミスだったけど、まさかパーフェクトゲームを拝むことが出来るなんて……俺は歴史的瞬間に立ち会ったのか!?」

 

 

「おーし、この動画後でYouTubeに上げとこう。

 

 タイトルは……『隻腕美少女のボーリングパーフェクトゲーム』で良いか。」

 

 

 

 

ギャラリーも盛り上がってるわね此れ。

 

最終的には店の店長まで出てきて、パーフェクトを達成したみほと、ノーミスを達成した私で記念撮影して、おまけに景品まで貰ったって、どれだけなのやらだわ。

 

 

で、其の後は1年の子達も一緒に別フロアでアイスを食べて(1年生には私達が奢ってあげた。此れ位は先輩としてやっても良いわよね。)、

 

あっと言う間にみほの迎えが来て、屋上でみほを見送って放課後終了。

 

 

 

 

「自家用ヘリまであるなんて……凄いんですね、西住隊長の家って。」

 

 

「まぁ、天下の西住流だからなみほは。」

 

 

 

 

流石に1年生達は自家用ヘリでのお迎えに驚いていたけど、私達にとってはもう当たり前になってる事だからね――慣れって怖いわね。

 

さて、私達も寮に戻りましょうか?

 

 

明日はいよいよ2回戦――此処で勝って、弾みを付けたい所なんだから。

 

 

 

 

「はい!明日も、頑張りましょう先輩!!」

 

 

「応、気合入れてこうぜ梓!つーか、みほが作戦立ててる上に隊長なんだから、まほ姐さんが相手でもねぇ限りは絶対負けねぇって♪

 

 今日のボーリングじゃねぇが、目指せパーフェクトゲームって所だぜ!!」

 

 

 

 

そうね、其れもインパクトがあるから、出来るなら狙っていくとするわ。――そして、2回戦の試合を持って、去年の明光大の快進撃はマグレじゃなかったって言う事を証明してあげるわ。

 

2年連続でベスト4に進んだとなれば、去年の躍進をまぐれという事は出来ないのだから。……絶対に勝つわ次の試合も!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

そしてやって来た明光大の2回戦。

 

相手の八戸中学校は、みほの予想通りに重装甲のT28重戦車をフラッグ車にして来た――のだが、其れを予想していたみほにとって、この試合はとても楽な物であった。

 

 

試合開始と共に、グデーリアンが提唱した『電撃戦』宜しく速攻を仕掛けて、八戸のティーガーⅠとSI-2を瞬く間に全滅させると、持ち前の機動力を全開にして、アウトレンジに構えているブルムベアとシュトゥルムティーガーを捕捉しこれを後面からの砲撃で撃破!!

 

 

残るはフラッグ車を含めたT28重戦車が3輌だが、此れも全く持って問題になって居なかった。

 

千歳が率いる小隊と、梓の率いる小隊が、2輌を分断し、フラッグ車を丸裸にすると、其処にみほ率いる隊長車が仕掛けて敵フラッグ車を翻弄する。

 

そして、この翻弄ですら見せ技に過ぎない。

 

 

 

「近坂部長……やっちゃってください。」

 

 

『了解よ、隊長。』

 

 

 

みほと凛が通信を終えた次の瞬間、ティーガーⅠの砲撃が炸裂し、T28重戦車の弱点である後面を見事に撃ち抜いたのだ。

 

これにより、フラッグ車のT28重戦車は白旗判定となり試合終了。

 

 

 

『八戸中学、フラッグ車行動不能。明光大付属の、勝利です。』

 

 

 

高々と告げられた明光大の勝利。1輌の損害も出さない、実に見事な勝利だった。

 

 

 

「こ、今年は私達がこんな役目か………は、果てしなく納得できねー!!」

 

 

 

まぁ、お約束だから諦めて下さい。

 

 

 

「試合の詳細がOVA化したりは……」

 

 

 

しません。

 

 

 

「ですよね、こんちくしょー!!踏み台にしたって、この扱いは酷過ぎるだろ幾ら何でもーーーー!!!激しく納得できねーわ此れ!!!!」

 

 

 

2回戦の相手になった時点で諦めるべし。

 

ともあれ、明光大は危なげなく2回戦を突破し、2年連続でのベスト4が確定した――この結果を前に、明光大を『弱小』と言う者は存在しなくなる事だろう――明光大は、立派な強豪になったのだから。

 

 

 

因みに……

 

 

 

 

「みほが勝ったか……其れもパーフェクトとはな――で、如何した安斎?」

 

 

「いや、そう遠くない未来に私も同じような扱いを受ける気がして来たんだよ西住……それが、如何か杞憂であってほしいと思ってな……。」

 

 

「何だか良く分からないが、頑張れよ安斎。」

 

 

 

此の試合を観戦していた西住まほと安斎千代美との間で、こんなやり取りがあったとか無かったとか。

 

 

何にしてもみほはベスト4に一番乗りし――それに続くように、まほ率いる黒森峰と、安斎率いる愛和学院も2回戦を突破してベスト4に!!

 

今年の準決勝は、去年以上に荒れる事に成りそうな組み合わせになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer33『準決勝!初っ端から全力です!!』

準決勝で……フライング出場?Byみほ      そうみたいね、1回戦に続きByナオミ      ま、アタシ等がそもそもフライングだからな♪By青子


Side:しほ

 

 

 

此れで4強が出揃いましたか……まほの相手は好敵手である安斎さんで、みほの相手は強豪の神奈川私立横須賀中学校とは、準決勝も此れまで以上の凄まじい戦いになるのは間違いないわ。

 

 

4強の何処が勝ってもオカシクない戦いだけど、私としては、矢張りまほとみほに決勝に進んできて欲しいわね……最高の舞台で最高の姉妹対決のシチュエーションは、物凄く燃える物だもの。

 

この気持ち、貴女なら分かるわよね菊代?

 

 

 

 

「勿論分かりますよ奥様。

 

 まほお嬢様もみほお嬢様も、私にっては可愛い娘と同じ……その2人が、決勝戦と言う舞台で最高の戦いをするというのは、心の底から素晴らしいと思えますから。」

 

 

「そうよね。」

 

 

でも、勝負には実力の他に時の運も作用するから、一概にまほとみほが勝つとは言い切れないのだけれどね。

 

それでも、私はあの子達の事を信じてるわ……あの子達は、必ず準決勝を制して、決勝に駒を進めて来る筈だわ。みほもまほも、公式戦でのぶつかり合いを楽しみにしていたのだからね。

 

 

 

 

「左様ですか……ならば、明日の準決勝、見に行かない訳には行きませんね?」

 

 

「勿論行くわ。

 

 みほの試合も、まほの試合もこの目に焼き付ける――其れが私の役目よ。……時に菊代、観戦の為の準備は出来ているのかしら?

 

 

「会場は一等席を抑えておきましたから大丈夫ですよ。」

 

 

「お見事。」

 

 

貴女は、本当に優秀な副官ね菊代――現役時代、貴女が味方で本当に良かったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer33

 

『準決勝!初っ端から全力です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

さてと、2回戦は難なく突破出来たけど、本番は此処からだから気を抜かないでね。

 

次は準決勝……相手はベスト4常連の強豪校だから、2回戦よりも可也苦戦するのは間違い無いから、先ずは作戦を立てておかないとね。

 

 

準決勝の会場は湿地交じりの草原だから、戦車を隠す場所には豊富だけど、隠す場所を間違うと、泥に嵌って身動き取れなくなっちゃうか。

 

まぁ、何があっても優勝目指して先に進むだけだから、どんな場所でも誰が相手でも、戦車を楽しんだ上で勝つだけだけどね♪

 

 

「それで部長、準決勝の相手の横須賀中学校って言うのはどんな所なんですか?

 

 可成りの強豪で、ベスト4常連って言う所だった筈ですけど……」

 

 

「そ、ベスト4常連学校ね。

 

 過去5年間で、ベスト4を逃したのは去年のみ。其れも2回戦が、安斎千代美率いる愛和学院だった結果……まほがライバルと認める彼女とぶつかったら、ベスト4常連の戦車道チームでも勝つのは難しいわよ。

 

 でも、だからと言って並の強豪学校って言う訳じゃないの――今年は、隊長も変わって体制も一新してるからね。」

 

 

 

 

新隊長……って、普通に考えれば其れが普通なんだよね?

 

3年生じゃないのに隊長やってて、去年から引き続きそれを継続してる私やお姉ちゃんの方が、一般的に考えると異質なんだった……今更だけど、私とお姉ちゃんって可成りあり得ない存在なのかな?

 

 

 

 

「何を今更……今の中学戦車道界隈で、西住姉妹に対抗できるのは本気で安斎だけじゃない?次点で1回戦で戦った島田流の長女ね。

 

 其れは其れとして、新隊長の名前は『支倉蛍はせくらけい』。ざっくばらんでフランクな性格の隊長さんらしいわ。

 

 で、彼女が隊長になった事で、使用戦車も此れまでとは違ってきてるわ。

 

 此れまでは、M4シャーマンをメインにした中戦車部隊だったんだけど、彼女が隊長になってからは、M24チャーフィー軽戦車と、M26パーシング重戦車をメインにした機動力と攻撃力を兼ね備えた戦車部隊になってるわね。」

 

 

「チェーフィーとパーシング!!」

 

 

大戦末期に開発された、アメリカの最強クラスの重戦車と軽戦車!!

 

チャーフィーはティーガーとパンターで相手に出来るとは言っても、パーシングは対ティーガー用に開発された戦車だから、私達との相性は、悪いを通り越して最悪そのものだよ。

 

 

だけど、去年から通算して、戦車の性能で圧倒的に負けてるって言うのは初めてかもしれないよ?

 

明光大には大戦期の傑作戦車と謳われるドイツ製の名戦車が揃っていたから、戦車の総合性能では、黒森峰を除いて上回ってたからね。

 

そこで、初めて性能差が上回る相手との試合……とても、心が沸き立つじゃないですか!!

 

 

 

 

「性能差で負けても、その差を戦術でカバーして勝つって事?……良いんじゃない?圧倒的不利を覆すってのは、嫌いじゃないわ。」

 

 

「でしょ、ナオミさん?

 

 其れに、如何に最高性能のチャーフィーとパーシングであっても弱点がない訳じゃないから、性能差は戦略で埋める事が出来るよ。」

 

 

でも、そうなるとフラッグ車である隊長車は、今回はティーガーⅡの方が良いね。

 

最高性能を誇るパンターでも、パーシングの砲撃を真面に受けたら其処で白旗判定になっちゃうから、装甲が強固なティーガーⅡをフラッグ車にした方が撃破される確率は下がるし。

 

 

そう言う訳だから、1回戦に続きアイスブルーのパンターは貴女に任せるよ梓ちゃん。

 

 

 

 

「はい!頑張ります!!」

 

 

 

 

……何気に、此れで梓ちゃんは1年生チームの中で1回戦からの皆勤賞だね?まぁ、其れだけ車長としての能力が高いって事なんだけど。

 

今年の夏休み合宿で、間違いなく梓ちゃんはお母さんにお気に入りになるだろうなぁ~~。

 

 

 

 

「まぁ、みほの直接指導受けてるしな。」

 

 

「みほの指導を個人レッスンで受ければ伸びるわよね。」

 

 

「寧ろみほさんの個人レッスンを受けて伸びなかったら嘘よ。」

 

 

 

 

あはは……其処まで、何だろうねきっと。

 

自分で言うのもなんだけど、車長専任免許を取るために、私は戦車に関するあらゆる事を、歴史に戦術、車輌の運用方法まで徹底的に頭に叩き込んだから、知識面では絶対に前けない自信があるよ?

 

自分で言うのもなんだけど、私は『歩く戦車道大辞典』だと思うから。

 

 

 

 

「やっぱ、ぜってー敵に回したくねーよなみほは。

 

 なのに、戦ってみたいって思わせちまうんだから、本気で凄いぜお前!!そんじゃまぁ、軍神の導きで準決勝も突破してやろうぜ!!」

 

 

「勿論、勝ちに行くよ青子さん!!」

 

 

「準決勝は通過点……なら、通り過ぎるだけよね?」

 

 

「明光大一の俊足に突破出来ない物はないのよ!!」

 

 

 

 

うん、私達が力を合わせれば、どんな相手でも勝てるって私は信じてるから!!

 

準決勝も勝って、決勝戦への弾みにしたい所だね……私達は強い!!絶対に勝ちましょう!そして、決勝戦に駒を進めて優勝しましょう!

 

 

 

 

「「「「「「「「「「おーーーーーーーーーーーーーーー」」」」」」」」」」×戦車道チーム全員

 

 

 

 

さて、此れから戦略をじっくりと練らないとだね!!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

そして試合当日なんだけど……此処で思わぬハプニングが起きたよ。

 

夏本番前とは思えないほどの強烈な日差しが何日も続いた事で、湿地交じりの草原が、殆ど乾いた大地の草原になっちゃってるからね……此れじゃあ湿地を利用した作戦は使えないから、少し作戦を修正しないとだね。

 

 

 

 

 

 

「貴女が明光大の隊長さんの西住みほね?

 

 片腕であるにも関わらず、まるで鬼神の如き強さを発揮する戦車乗り――その噂を聞いてから、貴女と一度戦いたいと思っていたのよ♪」

 

 

「其れは光栄ですね?……でも、負けませんよ蛍さん!!」

 

 

「私の名前知ってたんだ……其れこそ光栄よみほ!

 

 西住姉妹に名前を覚えて貰える相手って言うのは、数える程しか居ないと思うもの!最高にエキサイティングで楽しい試合にしましょ!」

 

 

 

 

はい、勿論です!互いに全力を尽くしましょう!!

 

 

 

 

「OK!Get serious♪」

 

 

 

――ギュッ

 

 

 

握手をしたら……

 

 

 

「此れより準決勝、明光大付属中学校と神奈川県立横須賀中学校の試合を始めます。お互いに礼!!」

 

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

 

試合前の礼!

 

後は、試合開始ギリギリまで作戦会議をして、そして試合に臨むだけ……さぁて、思いっきり全力で始めるとしようかな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

両チームとも試合前の最終ミーティングに入り、その間にオーロラビジョンに両校のオーダーと、両校のスタート位置が映し出される。

 

両校オーダーは、

 

 

 

明光大付属中学校

 

・ティーガーⅡ(フラッグ車)×1

 

・ティーガーⅠ×2

 

・パンターG型×3

 

・Ⅲ号戦車J型改(L型仕様)×2

 

・Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)×2

 

 

 

 

神奈川県立横須賀中学校

 

・M26 パーシング×3(内1輌はフラッグ車)

 

・M24 チャーフィー×7

 

 

 

と言う内容。

 

明光大は1回戦と同じオーダーだが、Ⅲ突がシェルツエン装備のG型に改造されている部分が異なる。――東雲工場に頼んで、試合に間に合うように改造して貰ったのだ。

 

 

対する横須賀中は、攻守力の高いパーシングよりも、機動力のあるチャーフィーを多数取り揃えたオーダーだ。

 

此れは、見ようによっては明光大へのあからさまな挑発と取る事も出来るだろう――機動力勝負を得意とする明光大に対して、パンターすら上回る最高速度を誇るチャーフィーをメインにして来たのだから。

 

 

 

 

「機動力勝負を仕掛けて来たってとこか此れ?」

 

 

「そう言う訳じゃないと思うよ青子さん。

 

 多分、私達の機動力重視の戦いを見て其れを潰しに来たんだと思う……こっちに、チャーフィーの最高速度を上回る戦車は無いからね。」

 

 

 

だが、みほは此れが挑発行動ではない事を見抜いていた。

 

単純に自分達の機動力戦を潰しに来たという事を。だから、無駄に熱くなる事はない。頭は極めてクールでクリアーな状態だ。

 

 

 

「火力では圧倒的に向こうが上なのに、機動力まで上回られた。更には、大分乾いてるとは言え、まだ湿地が点在しててドイツ戦車には少し不利な状況。

 

 普通に考えれば攻略難易度MAXの負けゲーなんだけど……其れを覆る作戦を考えてあるんでしょみほ?」

 

 

「其れは勿論考えてあるよナオミさん。

 

 って言うか、向こうがチャーフィーメインで来てくれたのは嬉しい誤算だったかな?

 

 パーシングとチャーフィーが半々だったらきつかったんだけど、パーシングが3輌なら行ける。」

 

 

 

火力も機動力も、そしてフィールド条件さえも不利であるにも拘らず、みほに焦った様子はまるでない。否、焦るどころか、この不利な状況を楽しんでいる様にすら見える。

 

困難な状況を覆して勝つ、凱歌を上げる、其れが楽しみでならないと言う戦人の笑みが浮かんでいる……その姿は、正に軍神其の物だ。

 

 

そして、作戦の内容を隊員に伝え、準備は完了!

 

 

 

 

『其れでは、試合開始!!』

 

 

 

「Panzer Vor!!」

 

 

「「「「「「「「「Jawohl!!」」」」」」」」」

 

 

 

「Go a head!!」

 

 

「「「「「「「「「Yes Mam!!」」」」」」」」」

 

 

 

そして試合開始。

 

横須賀中がチャーフィーを先行させて先手を取ろうとする陣形なのに対し、明光大はパンターとⅢ号が先行し、Ⅲ突が1輌ずつ展開して相手の側面に陣取るように動き、ティーガーⅠは先行部隊の後発部隊として発進し、ティーガーⅡがその殿を務める布陣だ。

 

 

一点突破の集中力を狙った横須賀中に対して、迎撃の布陣を取った明光大と言えるだろう。

 

 

 

「此方隊長車、Ⅲ突A車とB車、守備は如何ですか?」

 

 

『良い感じに隠れられる場所を見つけたよ!

 

 しかも隊長の予想通りに湿地が干上がちゃって、完全に乾いた地面になってるからコンディションも最高!!』

 

 

『こっちも良い場所を見つけました。地面は多少湿っていますが、此れ位なら問題なく行けると思います!』

 

 

「分かりました、敵部隊を目視したら、即攻撃に移って下さい。」

 

 

『『了解!!』』

 

 

 

 

「敵は……まだ発見できないかしら?」

 

 

『こちらに向かってきている様ですか……接敵までは未だかかるかと。どういたしますか隊長?』

 

 

「ん~~……まぁ、接敵したら攻撃すれば良いだけだからあんまり深く考えないで良いわ。

 

 だけど、警戒だけは解かないで――相手は噂の隻腕の軍神だから、幾ら戦車の性能で勝っているって言っても、其れを易々覆してくるかも知れないからね。

 

 兎に角、チャーフィーの足で攪乱して、パーシングの火力で決める!此れに尽きるわ!!」

 

 

『『『『『『『『了解!』』』』』』』』』

 

 

 

互いに指示を出しながら進軍する。

 

此れは、接敵即戦闘は間違いないだろう。陣形は違えども、互いに相手に向かって進軍しているのだから。

 

 

 

そして、試合開始から5分。そろそろ接敵かと言う所で、其れは唐突に起きた。

 

 

 

――ズドン!!

 

 

――バガァァァァァァァン!!

 

 

 

 

「砲撃!?」

 

 

「不味い、履帯を切られた!!」

 

 

 

突如茂みの中から砲撃が放たれ、横須賀中の先発隊であるチャーフィー7輌のうち、2輌の履帯を切ったのだ。

 

其れを行ったのは、言わずもがな茂みに身を隠していた明光大のⅢ突。

 

 

チャーフィーは軽戦車としては破格の攻撃力と機動力を有しているが、その分防御力に関しては可成り低く、Ⅲ号戦車にも及ばない程の紙装甲なのである。

 

なので、Ⅲ突の主砲ならば、ぶっちゃけ何処に当ててもチャーフィーを撃破する事は可能なのだ。そして、此れがみほの立てた作戦の第一段階だ。

 

要するに、火力でも機動力でも負けるなら決して高くない防御を貫いてやっつけろと言う事なのだ……実にシンプルな作戦と言えるだろう。

 

 

流石に、履帯が切れただけでは白旗判定にはならないが、履帯を切ったのもまた、みほの作戦の範疇に過ぎない。

 

 

 

「ぜ、前方にパンターとⅢ号!!」

 

 

 

此処で先発隊のパンターとⅢ号が接敵!!

 

 

 

「行くよなのは……攻撃開始!!」

 

 

「了解!!大人しくぶっ飛びやがれなのぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

――ドガァン!!ドゴォォォォン!!!

 

 

 

 

『横須賀中学校、チャーフィー2輌、行動不能!』

 

 

 

そして、接敵と同時に梓の乗るパンターが仕掛け、履帯を切られたチャーフィーを立て続けに撃破!梓の的確な指示と、装填士の装填の早さと砲撃手であるなのはの正確な砲撃があればこそ出来た事だろう。

 

何れにしても、梓率いるチームが明光大1年最強チームである事は間違いないだろう。

 

 

 

だがしかし、横須賀中とて負けてはいない。

 

先手を取られた上に、チャーフィー2輌を早々に失う羽目になったが、此処は隊長の蛍の指示で陣形を立て直すと、パーシングが、その圧倒的な火力を発揮して……

 

 

 

 

――ドッゴォォォォォォォン!!バガァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

 

『明光大付属、Ⅲ号2輌、行動不能!!』

 

 

 

Ⅲ号2輌をいとも簡単に撃破し、パーシングの性能を見せつける。

 

 

 

「Ⅲ号がやられた……それなら、全車後退!!敵を牽制しつつ後退して下さい。」

 

 

 

Ⅲ号を撃破されたのを確認した梓は、此処での交戦を取りやめ、相手を牽制しながらの後退を指示する。

 

みほに命令された訳ではないのだが、みほから徹底的に教え込まれた戦術・兵法が、直感的に此処からの後退が正解だと導き出していたのだ。

 

 

 

『西住隊長、一旦後退します!』

 

 

「了解。相手と付かず離れずの距離を保ちながら後退して梓ちゃん。こっちも、プランβの準備に入るから。」

 

 

『了解しました。』

 

 

 

そんな梓からの通信を受けたみほは、新たな指示を出しつつ、これまた新たな作戦の準備に取り掛かる。

 

この切り替えの早さがみほの武器なのだろうが、其れが出来ると言うのは、いったい頭の中に何通りの作戦が出来上がっているのかなど、想像する事も出来ないだろう。

 

事前に立てた作戦だけでも数通り、さらに実際の試合で閃いた作戦ですら数通りと、みほの作戦立案能力は本気で凄い物と言える。

 

 

其れも此れも、車長専任免許を取るために努力した末の賜物なのだ。

 

 

 

「此方は既に何通りもある可能性を考えて、その全てに対応できるように作戦も考えて来たから、圧倒的な不利な状況でも負けません!」

 

 

「なら、如何する?」

 

 

「プランβ発動後、大回りして相手の背後を取って、其処から一気に勝負に行きます。」

 

 

「全力全壊ってか?いいじゃねぇか!それで行こうぜ!!」

 

 

「明光大一の攻撃力を誇る虎の牙から逃げる事は出来ないのよ!其れを教えてあげるわ!」

 

 

 

そして、そんなみほが乗る戦車のクルーもやる気は充分!

 

だが、其れだけでなく……

 

 

 

 

「やるじゃないみほ……まさか、開始早々チャーフィーを2輌失う事に成るとは思わなかったわ……やっぱり貴女は最高にして最強よ!!」

 

 

 

横須賀中の蛍もまた、この状況を楽しんでいた。

 

圧倒的に有利な状況であるにも拘らず、先手を取られたという事に驚きつつも、みほの指揮官としての能力を実際に体験して、熱くなったと言う所なのだろう。

 

 

準決勝第一試合は、試合開始直後であるにも拘らず、白熱の試合展開が成されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 



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Panzer34『虎と虎殺しの真っ向勝負です!』

虎が虎殺しに殺されるとは限らないよ!Byみほ      なんか、早口言葉みたいね?Byナオミ      イデ!舌噛んだ!!By青子


Side:まほ

 

 

 

チャーフィーを2輌撃破したとは言え、明光大もⅢ号を2輌失ったから、残存車輌数は同等…となると、性能で上回る向こうの方に分があると考えるのが普通なのだが、みほはいとも簡単に性能差を覆してしまうから、その限りではないだろう。

 

エリカ、小梅、お前達がみほと同じ立場に置かれたら、この状況から如何戦いを展開させて行く?

 

 

 

 

「この状況から……私なら、Ⅲ突に待ち伏せをさせた上で、相手を其処に誘導し、パンターの機動力で相手を攪乱しつつチャーフィーを撃破して相手の機動力を奪い、包囲した上でティーガーⅡの破壊力抜群の主砲で、敵フラッグ車を撃破します。」

 

 

「私も、大体エリカさんと同じ意見です。

 

 この状況では、この作戦が最もベターな物だと思いますから。」

 

 

「うん、2人ともとても優秀な答えだ。ベターな方法であるから100点満点はあげられないが、それでも95点位はあげても良い答えだった。」

 

 

だが、みほはそのベターな答えをも覆して、思いもよらぬ方法でベストな答えを出してしまうんだ。

 

しかもその方法は、みほの直感と、みほの理論が融合して生まれた物なのだから恐ろしい。――最高の感性と、最高の理論は最終的には同じ地点に行きつくとは言うが、その両方を持っている者が辿り着く先は、大凡見当がつかない次元なのだろうと思うよ。

 

 

 

 

「でしょうねきっと……と言うか隊長、私も小梅も、今更あの子がどんな戦術を展開しようとも、余程の事がない限りは驚きませんよ?

 

 去年の大会と合宿で、あの子の凄さとトンでもなさは充分に実感しましたし、今年の1回戦での『戦車ボディプレス』で驚き要素は大体持って行かれましたから。」

 

 

「確かに、アレには私も驚いたがな……」

 

 

「でも、この戦いは確かに見物ですよエリカさん!

 

 西住さんは、此の試合で初めて圧倒的に戦車の性能差で負けてる戦いに挑むんですから!虎殺しのパーシング相手に、漆黒の鋼鉄虎に乗った西住さんが如何戦うのか、とっても楽しみですよ!」

 

 

「ま、其れは確かに小梅の言う通りだけど。」

 

 

 

 

さて、虎殺し相手に如何立ち回るのか。

 

虎殺しが虎を討って終わるか、それとも規格外の虎が虎殺しを食い殺すのか……確りと見せて貰うとするぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer34

 

『虎と虎殺しの真っ向勝負です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

残存車輌数は、明光大、横須賀中共に8輌と、数の上では互角だが、対ティーガー用に開発されたパーシングを有する横須賀中の方が、戦力では上待っていると言えるだろう。

 

 

普通に考えれば横須賀中絶対有利だが、明光大を指揮するのがみほである事を考えると、楽観視出来ないと言うのが現実なのである。

 

みほの実力は疑うまでもないが、実力以上に、仲間を動かすのが巧かった。

 

 

どの戦車をどのタイミングで如何動かすのか、其れを直感と、膨大な知識から構築された理論の両方で瞬時に頭の中で構築して仲間に的確に伝えていき、そして指示された仲間も、其れを的確に熟していく。

 

結果として、優勢であれば押せ押せ、劣勢であれば被害を最小限に留める事が出来るのだ。

 

全ては、左腕を失った時から常人には想像も出来ないような努力を、持って生まれた才能の上に積み重ねた結果であり、みほを『軍神』たらしめているのだ。

 

 

 

だからこそ、蛍はみほの事を最大限警戒して試合に臨んでいる。

 

この圧倒的な性能差も、みほは天賦の才と、努力で培った力の前では、恐らく大したアドバンテージにはならないと思っているのだろう。故に、明光大への追撃も押せ押せではなくなっている。

 

 

蛍は、大胆だが用心深く戦車チームを率いて行く。――足の速いチャーフィーを先行させ、パーシングは其の後をついて行くと言う布陣だ。

 

チャーフィーの機動力を持ってすれば、例え相手に見つかっても逃げに徹すれば逃げ切る事が出来ると考えたからだろう。

 

 

 

「通信士、先行するチャーフィーからまだ連絡はないの?」

 

 

「はい、未だ明光大の部隊は見つけていないとの事です。

 

 ……時に隊長、キューポラから上半身を出すのなら兎も角、キューポラから完全に出て、砲塔の上に座るってのは流石に危ないと思いますよ?」

 

 

「大丈夫よ、戦闘状態になったら中に入るから。

 

 にしても、まだ明光大を発見できないって言うのはおかしいわね?

 

 パンターの最高時速が55㎞なのに対して、チャーフィーの最高時速は56kmだから、そろそろ追い付いても良い頃なのに……地図で見る限りは、身を隠せそうな場所もないから待ち伏せとかも考え辛いんだけど…」

 

 

 

そんな布陣を敷いた中で、未だに明光大の戦車を発見できていない事に蛍は疑問を抱いていた。

 

今進んでいるルートは、見渡す限りの大平原で、戦車を隠せるような藪や茂みは存在していないから、明光大の部隊が待ち伏せをしているとは考え辛いが、だからと言ってチャーフィーを振り切る事が出来るかと言われれば、其れもまた不可能。

 

ならば一体、明光大の部隊は何処に行ってしまったのか――その答えが出ない状態で、此のまま追撃をするのは得策ではないだろう。

 

 

 

「隊長車よりチャーフィー部隊へ。

 

 敵部隊の動きが読めないから、追撃は一時中断して此方に合流して。隊を1つに纏めてから、改めて進軍するわ。」

 

 

『『『『『了解!』』』』』

 

 

 

そう考えた蛍は、一度チャーフィー部隊と合流してから改めて進軍する事を決定し、其れを通達。

 

そして5分後、先行していたチャーフィー5輌が合流し、大戦後も長く使用されていた米国の最強軽戦車と最強重戦車の部隊で進軍を開始。

 

 

そうして暫く進んだ所で、所々に藪が点在する地点に到達した。

 

明光大の部隊が後退したルートから推測してこの場所まで来たのだが、此処に来て蛍は途轍もなく嫌な予感に襲われていた……この藪が点在すると言うポイントに来てしまったという事に。

 

 

此処ならば戦車は幾らでも隠しようがあるし、Ⅲ突得意の待ち伏せ戦法を行うには持って来いの場所だ。

 

否、其れだけならば何と言う事は無かったのだろうが、先程の戦闘で、待ち伏せからの奇襲でチャーフィー2輌を失ったと言う事実が、蛍の中で警鐘を鳴らしていた。『此処は危険だ』と。

 

 

だが一方で、蛍はみほが二度も同じ戦術で来るだろうかと言う思いも持っていた。

 

最初の戦術が巧く決まったからと言って、立て続けに同じ戦術を取るのは二流のする事だと蛍は思っている……それだけに、待ち伏せは無いと思う部分もある。

 

 

だがしかし、みほは見せ技として同じ戦術を繰り出してくる可能性も捨てきる事は出来ない――詰まる所、蛍は全ての選択肢が正解でありながら不正解と言う、理不尽この上ない状況に立たされてしまったのだ。

 

 

 

「ウダウダ考えても仕方ないわ!両翼からの挟み撃ちに警戒しながら前進!

 

 パーシング2輌は砲塔を横に向けて相手の奇襲に対してカウンターを取れるようにして、チャーフィーはパーシングを盾にして進みなさい。」

 

 

『『『『『『『Yes Mam!』』』』』』』

 

 

 

それでも蛍は進軍する事を選び、両翼からの挟撃に備える手堅い陣形で進んでいく。――その中で、其れは突然として現れた。

 

 

 

――ドゴォォォン!!!

 

 

 

突如前方の草藪が、轟音を立てて砲撃を放って来たのだ。

 

 

 

「敵襲!?……アレは、Ⅲ突!?――まさか、藪に紛れるんじゃなくて、自ら藪と化していたというの!?」

 

 

 

その砲撃を放ったのは明光大のⅢ突。

 

車体にブルーシートを被せ、その上から草や枝を被せる事で完全に小規模の藪として息を潜めると言う、何とも見事なカメレオンステルスを使って、横からの挟撃に備えていた横須賀中の虚を突いたのだ。

 

 

とは言え、もっさりと被り物をしていた事で照準が狂い、チャーフィーの撃破には至らず、此処からⅢ突と横須賀中の追いかけっこが開始!

 

だが、此の追いかけっこは実にⅢ突の分が悪い。

 

突撃砲、自走砲では最高クラスの足回りを誇るⅢ突だが、チャーフィーの最高時速には遠く及ばないし、チャーフィーに先回りされてパーシングと挟み撃ちにされたら一巻の終わりである。

 

 

 

「椿姫、あれやるわよ!!」

 

 

「了解よ、おんどりゃぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

所が、其の一般常識が通じないのが明光大だ。

 

Ⅲ突の車長である有波と椿姫は通信を終えると、何と急旋回しながらⅢ突に新たに追加されたシュルツェンをパージ!

 

急旋回中にパージされたシュルツェンは、遠心力を得てブーメランの如くチャーフィーに向かって飛んで行く。

 

 

本来ならば、Ⅲ突G型にシュルツェンをパージする機能はないが、ルールブックには『装甲を意図的に剝がす構造を禁止とする』と言う項目は無く、ルールで認められている戦車の中には履帯のパージ機構を持った物まであるのだから、追加装甲のパージ機能は一応合法なのだ。

 

 

其れは兎も角として、行き成りシュルツェンを投げつけられたチャーフィーの乗員は予想外の事態に驚き、対応が一瞬遅れてしまった。

 

そして対応が一瞬だけ遅れた事で、シュルツェンを躱しきる事が出来ず車体下部に激突!此れだけならば、大した事はないだろうが……

 

 

 

――ギギギギギギ……

 

 

 

何と、パージされたⅢ突のシュルツェンがチャーフィーの履帯に巻き込まれ、2輌のチャーフィーの動きを完全に止めてしまっていたのだ。

 

全くの偶然ではあるが、パージされたシュルツェンをチャーフィーの履帯が巻き込んでしまい、其れがつっかえ棒のようになって転輪の動きを止めてしまっていたのである。

 

 

 

――キュポン!

 

 

 

 

更に、可也深く巻き込んでしまったのか、走行不能による白旗が上がり、まさかの撃破判定になる始末。

 

 

相手の虚を突く事が出来れば良いと思っていた有波と椿姫にとっても、此れは完全に予想外の事態だったが、偶然とはいえ相手車輌を2輌撃破出来たと言うのは大きい。

 

 

だがしかし、蛍とてやられっぱなしで黙っている性分ではない。

 

 

 

「やってくれるじゃない?まさか、身を守るための装甲を武器に使うとはね。

 

 だけど、その攻撃は一度しか出来ないのが難点よね?パーシング2号車と3号車は前に!Ⅲ突を撃破してこの藪を抜ける!挟み撃ちにされる前に、此処を抜けるわよ!」

 

 

 

即座に指示を出すとパーシングの正面装甲の分厚さに物を言わせて、Ⅲ突に向かって突撃!如何にⅢ突が強力な長砲身の75mm砲を搭載しているとは言え、パーシングの正面装甲を抜くのは簡単ではない。

 

従って、Ⅲ突は撤退するのが上策であり、実際に2輌のⅢ突は後退を始めたのだが――夫々全く別の方向に進路を取って後退したのだ。

 

 

 

「逃がさないわ!ファイア!!!」

 

 

 

戦力の分断を狙ったと思われるが、此処で蛍はパーシングで圧力をかけるのを止めて、その代わりにⅢ突目掛けて砲撃をブチかます!!

 

チャーフィーとの砲撃が放たれた椿姫車の方は、あり得ないような軌道を描いて砲撃を回避して逃げ果せたが、2輌のパーシングから砲撃された有波車は、地面に着弾した1発目でバランスを崩した所に、2発目が命中して白旗判定に。

 

此れで、明光大は残り車輌7で、横須賀中は6輌と数の差は大きく開いてはいない接戦の模様を呈して来ていた。

 

 

 

「残ったⅢ突を追うわよ!挟み撃ちになんかさせないから!」

 

 

 

蛍は残ったⅢ突をも撃破すべく、再び追撃を開始。

 

チャーフィーがパーシングの最高速度に合わせて進むために、圧倒的に追い込む事は出来ないが、それでも1輌に対して6輌ならば圧倒的に有利なのは変わりがない。

 

未だみほ率いる本体が現れないのを不気味に思いつつ、蛍は部隊を進軍させていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そう言う訳で、有波がやられたけど、私は無事だから予定通りのコースを進むけど……流石に6輌に追いかけられるって怖いわよ?』

 

 

「Ⅲ突の機動力を以てして逃げ切って下さい。

 

 そのコースは大きめの藪が多いので、比較的小回りの利くⅢ突ならば指定ポイントまで逃げ切る事が出来ます。

 

 チャーフィーは兎も角、パーシングは小回りがⅢ突程は利かないので、この道を通るのは苦労するはずですから。」

 

 

『了解!なら、何とか頑張ってみるわ!』

 

 

「よろしくお願いします。」

 

 

 

一方、椿姫からの通信を受けたみほは、指定ポイントまで逃げ切れと指示を飛ばす。

 

出来ればⅢ突には2輌とも生き残って欲しかったというのが本音だが、そもそもにして8輌に対して2輌で挑んだのだから『敵戦車を撃破する事』が目的ではなくとも可成りの無茶だったと言えるだろう。

 

それでも、此の作戦をみほが選んだのは、椿姫と有波ならば必ずどちらかが生き残って指定ポイントまで辿り着くと確信していたからだ。

 

 

 

『みほ聞こえる?此方凛、千尋と共に指定ポイントに到着したわ。』

 

 

「そのまま待機していてください。Ⅲ突の姿を目視したら始めて下さい。此方も、そろそろ相手を後ろから追撃する態勢に入りますので。」

 

 

『了解したわ。』

 

 

 

続いて入って来た凛からの通信に対しても指示を出すと、己の乗るティーガーⅡを前進させていく。

 

其れに合わせるように、梓の乗るパンターも発進し、ティーガーⅡに並走する形で進んでいく――鋼鉄の虎と豹は、虎殺しを嚙み殺す為に、ゆっくりと背後から忍び寄り始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、Ⅲ突を追撃していた蛍達だが、みほの予想通り障害物の多い地形に苦労しながら進んでいた。

 

決して振り切られる事はないのだが、しかし追い付く事も出来ないという、何とも嫌な距離感を保ったままでⅢ突を追う羽目になってしまって居たのだ。

 

 

それでもⅢ突をロストせずに、ギリギリ目視できる距離を保ったのは流石だろう。

 

この障害物多数の地点を抜ければ障害物の少ない開けた草原に出る、其処まで出てしまえば一気にⅢ突を撃破して、前後からの挟撃を防ぐ事が出来る――蛍はそう考えたから、敢えてⅢ突を追っていたのだ。

 

 

だがしかし――

 

 

 

――ズドォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

障害物地点を抜けた所で、行き成り砲撃を浴びせられたのだ。しかも前方から。

 

 

 

「砲撃!?しかも前からですって!?」

 

 

『ぜ、前方にティーガーⅠとパンターを2輌ずつ確認!!』

 

 

「何ですって!?まさか、私達は誘われていたって言うの!?」

 

 

 

此れには蛍も驚く。

 

先のⅢ突の待ち伏せを受けた際に、即座に蛍の中では明光大が自分達を前後で挟み撃ちにしようとしているのだと看破し、其れをさせない為にⅢ突を撃破せんとしたのだ。

 

否、前後の挟み撃ちと言うのは間違ってはいない。いないが、その形が蛍の考える物とは異なっていたのだ。

 

てっきりⅢ突を囮にして、背後から残りの6輌で攻めてくるものだと思っていたら、実際はそうではなくティーガーⅠとパンターが前方で此方を待ち構えていたのだ。

 

 

 

「やってくれるじゃない、Ⅲ突は私達を誘導するための餌だったって言う訳ね?

 

 だけど、そう簡単にはやられないわ!パーシングは、対ティーガー用に開発された重戦車!纏めて虎を狩るわよ!!」

 

 

 

それでも蛍は怯むことなく応戦!

 

元々挟撃は予測していた事だったから、自分の思っていた形とは違ったとは言え其れに対応するのは難しい事ではないし、何よりも戦車の性能では上回っているのだから慌てる事もないのだ。

 

 

 

――ドゴン!!

 

 

 

『明光大付属、Ⅲ号突撃砲行動不能。』

 

 

 

手始めに、自分達を誘導していたⅢ突を撃破すると、其のまま前方の部隊に向けて進軍!

 

ティーガーⅠ2輌を撃破してしまえば圧倒的なアドバンテージを得る事が出来るし、パーシングならば其れが出来るのだから当然の策だと言えるだろう。

 

 

 

――バッゴォォォォン!!!!

 

 

 

『横須賀中、チャーフィー2輌、行動不能。』

 

 

 

此処で突如2輌のチャーフィーが、文字通り吹っ飛ばされて白旗判定に。

 

一体何が起きたのか?

 

 

 

「プランβ成功!一気に攻めます!!」

 

 

「了解!!」

 

 

 

チャーフィーを吹き飛ばしたのは、後方から現れた漆黒のティーガーⅡとアイスブルーのパンター!

 

大回りをして横須賀中の背後に陣取っていたこの2輌は、蛍が通って来たのとは異なる障害物の全くないルートを通って、横須賀中を追撃して、その背後を取ったのだ。

 

 

そして、横須賀中の部隊を目視すると同時にティーガーⅡもパンターも榴弾を発射してチャーフィー2輌を撃破したのだ。

 

更に、其れを合図に凛達待ち伏せ部隊が、砲撃を開始して蛍達の動きを止める。撃破しない代わりに近付かせないと言った攻撃で、パーシングとチャーフィーを釘付けにする。

 

 

 

「Shit!やってくれるわ!!!だけど、負けないわ!!」

 

 

 

それでも蛍は負けず、動きを制限された状態でありながら仲間に指示を出して攻撃させ、ティーガーⅠとパンターを夫々1輌ずつ撃破する事に成功する。

 

此れで、残存車輌は両校ともに4輌だが、虎殺しであるパーシングが3輌残っている横須賀中の方が有利と言えるだろう――普通ならば。

 

 

 

「此処でケリを付けます!」

 

 

 

しかし、みほが率いている以上『普通』は通じないのだ。

 

みほ率いるティーガーⅡと、梓率いるパンターが急加速したかと思った次の瞬間、パーシングとチャーフィーの横を通り抜けてそのまま砲塔を回転させて砲撃し、パーシング1輌と最後のチャーフィーを撃破!

 

 

 

「行きますよ、蛍さん!!」

 

 

「上等、受けて立つわみほ!!」

 

 

 

そしてそのままティーガーⅡは、蛍のパーシングに突撃!

 

何方もフラッグ車である事を考えると、正にフラッグ車同士の一騎打ちではあるが、戦車の性能を考えるのならば明光大の方が分が悪い。

 

如何にティーガーⅡとは言えパーシングはティーガーⅠだけではなくティーガーⅡをも撃破出来るように設計されているから、真面にやり合うと言うのは得策ではない。

 

其れでもみほは戦いを挑んだのだ。

 

 

ともすれば、其れは只の蛮勇に見えるだろう――だが、この突撃こそがみほの作戦だった。

 

 

 

「部長、梓ちゃん、今です!!」

 

 

「はい!!」

 

 

「ブチかますわよ!!撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

何時の間にか梓のパンターがパーシングの背後に回り、更に凛のティーガーⅠが砲撃を行い、背後に回ったパンターも其れに合わせるように砲撃!!

 

 

パーシングの後面装甲は76mmと、数ある戦車の中でも可成りの厚さを誇るが、至近距離からのパンターの75mmと、中距離からのティーガーⅠの88mmを同時に真面に受けたら堪った物ではない。

 

梓のパンターは、砲撃を行った直後にもう1輌のパーシングに撃破されたが、その時には既に勝負は決していた。

 

 

 

――キュポン!

 

 

 

『横須賀中学校、フラッグ車パーシング、行動不能。よって、明光大付属中学校の勝利です!』

 

 

 

後面装甲を抜かれた蛍のパーシングからは白旗が上がり撃破判定が成されたのだ。

 

何方も一歩も退かない展開となった準決勝の第1試合は、最後はみほの策が蛍の力を上待った形で明光大付属の勝利となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

ふぅ……勝てた。

 

流石に虎殺しのパーシングとやり合うのはきつかったけど、皆が頑張ってくれたおかげで勝つ事が出来た。

 

特に相手の部隊を誘導してくれた椿姫さんと、フラッグ車撃破に貢献した梓ちゃんの活躍は見事だったとしか言いようがないよ。

 

 

 

 

「あ~~~……マッタク清々しい位に負けたわみほ!とっても、エキサイティングな試合だったわ。」

 

 

「蛍さん。此方こそ、とても充実した試合でした。」

 

 

「ティーガーに対して絶対有利なパーシングを持って来たのに負けちゃうとはね……戦車の性能では決まらないって言う事を痛感させられたって言う所ね?

 

 今回は負けたけど、次に戦う機会があったら負けないからね?…まぁ、練習試合でもない限りは次に戦うのは高校になってからだけど。」

 

 

 

 

確かにそうなっちゃいますけど、次に戦う時も私が勝たせて貰いますよ蛍さん?こう見えて、私って物凄く負けず嫌いなので♪

 

 

 

 

「アハハ!OK、OK!そう来なくちゃね!!

 

 黒森峰か愛和学院か、何方が決勝の相手になるかは分からないけど、決勝戦も頑張ってね?必ず応援に行くから!」

 

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 

「其れは其れとして、メアドと電話番号交換しない?

 

 戦車道とは別に、貴女とはお友達になりたくなったわ――ダメ?」

 

 

「いえ、そう言う事でした喜んで♪」

 

 

実を言うと、1回戦で戦った美佳さんともアドレスと電話番号の交換をしてたりするからね。

 

交友関係を広げるって言うのは悪くないし、何より電話で戦車道の彼是を語る事も出来るからね。

 

 

ともあれ、準決勝を突破したから、優勝に一歩近づいたのは間違いない。

 

後は決勝の相手だけど……多分、相手はお姉ちゃん率いる黒森峰だろうね。安斎さんも確かに強いけど、実力ではお姉ちゃんの方が少しだけ上だから、恐らくはお姉ちゃんが勝つと思う。

 

去年は準決勝でぶつかったけど、今年は決勝で――最高の舞台でお姉ちゃんと戦いたいからね!!

 

お姉ちゃんだってそう思ってる筈だから、絶対に勝つ筈だよ!って言うか、中学戦車道界隈に置いて、お姉ちゃんに勝つ事が出来る戦車乗りなんて殆ど居ないと思うもん。

 

だからお姉ちゃんは負けないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

って、そう思ってたんだけど、私達の試合から2日後に行われた準決勝の第2試合は、誰も予想していなかった結果になっちゃったみたい。

 

私の目に映るのは、白旗を上げるティーガーⅠ……お姉ちゃんの乗るフラッグ車。

 

 

 

『黒森峰女学園フラッグ車、ティーガーⅠ行動不能。愛和学院の勝利です!!』

 

 

 

其れが意味するのは、黒森峰の敗北。

 

お姉ちゃんの率いる黒森峰は、まさかの準決勝敗退って言う結果になった――まさか、こんな事に成るなんて思っても居なかったよ。

 

それ以上に、お姉ちゃんを倒すだなんて、決勝相手である安斎さんは一筋縄では行かない相手と見て間違いない……此れは、ある意味で黒森峰とやり合うよりも厳しい決勝戦になっちゃったかもしれないね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 



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Panzer35『決勝戦の相手は予想外です!』

お姉ちゃんが負けた……なら、仇を取らないとね?Byみほ      ……何となく、殺意の波動に目攻めてないみほ?Byナオミ      微妙に目覚めてるわね…Byつぼみ


Side:まほ

 

 

 

『黒森峰フラッグ車、ティーガーⅠ行動不能!愛和学院の勝利です!!』

 

 

 

 

……負けたか。

 

だが、負けたにも拘らず、心はとても晴れやかだ。

 

勝ち戦でも、味わった事のない感覚だ……この感覚は一体何なのだろうな?初めての事で戸惑ってしまうな此れは。

 

 

 

 

「如何だ西住!!

 

 小学5年の時から苦節4年、遂に勝ってやったぞ!!」

 

 

「あぁ、実に見事だったよ安斎。

 

 一対一サシの勝負を挑んで来たと思ったら、その舞台に伏兵を仕込んでいるとは思わなかったよ。実に見事な戦術だった。

 

 序盤でエリカと小梅を分断したのも、全てはこの状況に持ち込むためのモノだったんだらろう?そうでなくては、あの分断は意味をなさないからな。」

 

 

「あぁ、その通りだ。

 

 1、2回戦を見る限り、お前を倒すには、先ずはあの2人をお前の傍から引き剥がす必要があったからな……其れが出来なかったら私達には勝ち目がなかったから、死ぬ気で分断の方法を考えたよ。」

 

 

 

 

成程な……だが、其処までやって私が一対一の勝負に応じなかったらどうする心算だったんだお前は?

 

 

 

 

「その時はその時だが、お前なら必ず受けてくれると私は思っていたよ。

 

 挑まれた勝負からは逃げないのが、私の知ってる西住まほって言う戦車乗りだからな?寧ろ、乗って来なかったらちょっと失望してた。」

 

 

「そうか……そうだったか。

 

 お前は『西住流の西住まほ』ではなく、西住まほ本人を見てくれていた訳だ。」

 

 

確かに、挑まれた勝負を受けないのは私の流儀に反するし、其れが最高のライバルである安斎から挑まれた物ならば尚更だからな。

 

搭乗戦車をIS-2から、T-34/85に変えたのも此れを見越しての事だったという訳だ。

 

完全にしてやられたよ……完敗だ安斎。そして、ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer35

 

『決勝戦の相手は予想外です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、準決勝で私を倒したとは言え、優勝するには明光大を倒さねばならないのだが……みほが隊長を務めてる明光大は、準決勝で強豪の横須賀中を破っているから安斎とて楽にはいかないだろうな。

 

最大限ぶっちゃけて言うなら、総合力ではみほは私を上回るからね……私の妹だからと、私と戦うのと同じ感覚で挑んだら間違いなく負けるぞ安斎。

 

 

 

 

「まぁ、確かに1回戦から準決勝までの3試合を見る限り、純粋な西住流とは言えないかもしれないが、あの状況判断能力は凄い物があると認めざるを得ないさ。

 

 其れに、一体頭の中にどれだけの戦術が組み立てられてるのかって思ったからなぁ?」

 

 

「それがみほなんだ。

 

 みほは、正面から押す私よりも、むしろ策を沢山考えるお前に近いタイプだ安斎。――だが、そうでありながら、みほは西住流の戦い方も出来るからね……ハッキリって隙は無いぞ?」

 

 

「剛柔併せ持ったってか?其れは確かに強敵だけど、私は負けないぞ!!

 

 お前の妹だって、絶対に手加減なんてするもんか!!折角お前に勝ったんだ!此のまま優勝して、優勝旗を持ち帰らないとカッコつかないからな!!」

 

 

 

 

あぁ、全力で相手をしてやってくれ安斎。其れがみほの為にもなるからな。

 

だが、其れは其れとして、とても楽しかったよ安斎……負けたのに、悔しさは微塵も感じないからね?後悔するまでもない位に、私は全力でお前と戦えた……其れを嬉しく思うよ。

 

 

 

 

「礼を言うのは私の方だ。

 

 お前は、何時でも、どんな時でも私と全力で向き合ってくれたからな……私が、此処まで強く成れたのはお前のおかげだ、ありがとう。」

 

 

「そうか……まぁ、私もお前と言う追ってくるライバルが居たから、追い付かせんと必死に頑張る事が出来たから、まぁお相子と言う所だろ。」

 

 

「そうかもな。」

 

 

「其れがベターな落としどころだろ?」

 

 

「確かにな♪」

 

 

 

 

其れに、今回負けた事で黒森峰は再出発をする事に成る……一度、全てをリセットした状態でエリカに引き継ぎが出来るのは良い事さ。

 

先人の残した功績と言うのは、時として後を引き継ぐ者にとって邪魔になる場合があるからな。

 

 

まぁ兎に角、決勝戦も頑張れよ?

 

実の妹と、最強のライバルが激突する決勝戦だけに、何方か一方を応援する事は出来ないが、私は決勝戦の会場にお母様と一緒に行く心算だからな。

 

 

お前とみほが織り成す決勝戦、最後まで確りと見届けさせて貰うさ。

 

……そう言えば、此れまでは決勝戦で戦う側だったが、決勝戦を観戦する側に回るのは初めての事だな?ある意味で、貴重な体験かも知れないな此れは。

 

 

さて、ソロソロ戻るか。

 

試合後の反省会もしなければならないし、今度実家に帰った際に確実に来るであろう、お祖母様からのお小言に対する彼是も考えておかなくてはならないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

まさか、黒森峰が負けるなんて、マッタク持って考えても居なかったよ。

 

愛和学院の隊長の安斎さんは、お姉ちゃんがライバルと認めた数少ない戦車乗りの1人だし、何度か試合を見て、可成りの戦車乗りだって言うのは知ってたけど、其れでもお姉ちゃん以上とは思わなかったからね?

 

 

だけど、其れでも勝った……実力差を工夫と戦術で補って、お姉ちゃんの性格までも把握した上でフラッグ車同士の一騎打ちに誘い込んでおきながら、実は伏兵を潜ませていた訳だからね。

 

 

 

 

「まさか、まほ姐さんが負けるとは思ってなかったぜ流石に。

 

 あの三つ編み眼鏡、地味な見た目のくせに実力はトンでもなかったって事だよな?一騎打ちに見せかけた舞台で不意打ちとか、卑怯って思うかもだけど、まほ姐さんの実力を知ってるからこその戦術だしよ。」

 

 

「どっちかって言うと、安斎隊長はみほに似たタイプかも知れないわね?

 

 正面から力で押すよりも、戦術と戦略で相手を攻略するタイプだわ……そうなると、何方が多くの戦術を練れるかが鍵となって来るわね。」

 

 

 

 

確かに、安斎さんは私と似たタイプだと思うよナオミさん。

 

だけど、自慢する訳じゃないけど、戦車道に関する知識に於いては私の方が絶対に上だと思う。……車長専任免許を取得する為に、頭に叩きこんだ知識は半端じゃないからね?其れを駆使すれば、愛和学院にだって勝てるよ。

 

 

近坂部長、愛和学院は決勝戦は如何言う布陣で来ると思いますか?

 

 

 

 

「そうね……フラッグ車は、恐らく隊長車であるT-34/85だろうけど、他の戦車がドレだけ出て来るかを予想するのは難しいわ。

 

 普通に考えればパンターと同クラスの性能を持つT-34を揃えて来ると思うんだけど、IS-2が出てこないとは言い切れないし、若しかしたらKV-2も持ち出してくるかもしれないわ。」

 

 

「となると、戦車の性能では私達の方が僅かに不利と言う事ですね。」

 

 

長砲身タイプのⅢ突ならT-34シリーズともやり合えるけど、Ⅲ号じゃ圧倒的に不利になる訳だからね。

 

でも、其れを踏まえると決勝は火力よりも機動力を重視した方が良いかもしれない……となると、決勝戦のフラッグ車にして隊長車はアイスブルーのパンター以外にはあり得ないよ。

 

安斎さんに勝つには、此の子の力が必要不可欠になるからね。

 

だけど、決勝戦の隊長車はアイスブルーのパンターだけど、同時にティーガーⅡにも出て貰います。性能で劣るⅢ号を減らせば撃破される確率も減りますから。

 

 

 

 

「其れはその通りだけど、貴女がパンターに乗るなら、ティーガーⅡには誰が乗るのよ?

 

 如何にルールギリギリの魔改造を施したと言っても、ティーガーⅡの性能を完全に引き出すのは並大抵の事じゃないわ……現に、其れを扱う事が出来るのはみほ達だけでしょ?」

 

 

「確かに、今まではそうでしたけど……今年の大会を見て、彼女ならばこのティーガーⅡを扱えると思ってますから。

 

 決勝戦でのティーガーⅡの事、貴女に任せるよ梓ちゃん。」

 

 

「へ?えぇぇぇぇぇぇぇ!?わ、私ですか!!?

 

 そんな、無理ですよ!アイスブルーのパンターを動かすのだって一杯一杯なのに、第二の隊長車であるティーガーⅡに乗るだなんて絶対に無理ですよ!!」

 

 

 

 

無理ね?……悪いけど、私は出来もしない事を誰かに頼む事はしないよ?

 

貴女なら出来ると思ったから、貴女のチームにティーガーⅡを託した…やってくれるよね、梓ちゃん。大丈夫、貴女なら絶対に出来るから。

 

 

 

 

「西住隊長……分かりました!澤梓、その任承ります!!」

 

 

「うん、ありがとう梓ちゃん♪」

 

 

 

 

「……みほのカリスマ性がマジパネェ件について、何か一言。」

 

 

「言うだけ無駄よ、其れが西住みほだから諦めろ。」

 

 

「みほさんは天然の人誑しだから仕方ないわ――そもそも、私達だってみほさんに惹かれたからこそ此処に居るのですから。」

 

 

 

 

なんか、言いたい放題言われてる気がするけど、其れを否定できないって言うのがある意味では辛い感じかもね。

 

 

コホン……其れで、決勝戦の会場はどうなってますか部長?

 

 

 

 

「流石に富士の演習場とは行かないけど、可成りそれに近いシチュエーションだと思うわ。

 

 開始フィールドは草原だけど、所々に丘が点在して、更には近くに市街地が存在しているからね……この多様なフィールドを、貴女なら如何使うみほ?」

 

 

「真正面からぶつかっても良いんですけど、市街地戦が出来るのなら、相手を其処に誘導するのが一番です。

 

 市街地戦は、私の最も得意とする所ですから♪――フィールドが此処である以上、私の方に分があるって豪語しても良い位ですしね♪」

 

 

「確かに、見通しの利くフィールドよりも、障害物の多いフィールドの方が得意だからね貴女は。

 

 と言う事は、開始直後はあまり戦闘を行わずに、相手を市街地に誘い込むって感じかしら?で、市街地戦になってからが本番と。」

 

 

 

 

そうなります。

 

ただ問題になるのは、当日、相手がどういう車輌編成で来るかです。

 

準決勝の時の様に、T-34シリーズをメインにしたバランス型の布陣を組んで来るのか、それともIS-2の数を増やして攻撃力を上げて来るのかで、此方の動きも変わってきますから。

 

 

 

 

「ま、其れは当日の相手のオーダー見てからで良いんじゃね?

 

 此れまでも大体そうして来た訳だし、そもそもにしてアタシ等は試合の前から事細かに作戦立てるのって性に有ってねー。

 

 つーか、事前に彼是決めちまうよりも、大まかな事だけ決めといて、後は出たとこ勝負の方がやり易いって♪」

 

 

「そうね。其れこそがみほさんの持ち味であり、明光大の戦い方ですもの!

 

 当日のオーダー見てからガツンと決めてやりましょう!!」

 

 

「まほさんを倒した、安斎隊長の力は侮る事が出来ないけど、貴女なら彼女にだって負けないと思うわ。

 

 貴方と彼女はよく似てる――真正面からのぶつかり合いよりも、何方かと言うと策を駆使して相手を翻弄して戦う部分とかね?でも、其れだけに、何方がより多くのカードを切れるかが勝負になって来るわ。

 

 策士同士の戦いでは、手札の多い方が勝つって相場が決まっているからね。」

 

 

 

 

そう言う事だったら負ける気はしないよナオミさん?

 

安斎さんがドレだけの手札を持ってるかは分からないけど、市街地戦に限って言うなら、私の手札は毎ターン6枚ある様な状況だからね!

 

 

 

 

「毎ターン手札6枚って、何それ怖い。」

 

 

「みほがオシリス召喚したら、毎ターン攻撃力6000か~~……こりゃ誰も勝てねぇな?」

 

 

「……何で思考が遊戯王かな?」

 

 

其れ位、市街地戦は得意って事なんだけどなぁ?……まぁ、良いか。

 

何にしても、相手のオーダーは当日待ちになりますが、決勝戦の相手は、姉贔屓をする心算じゃないけど、中学戦車道最強のお姉ちゃんを倒した相手なので、気を引き締めて行きましょう!

 

 

そして必ず勝って、真紅の優勝旗を明光大に持ち帰ろう!!私達なら、絶対に出来るから!!

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「おーーーーーーーーーー!!」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

「私達3年にとっては、此れが中学最後の戦い。

 

 どうせ泣くなら、勝って泣きたいわ――だから、最後の最後で我儘を言わせて貰うわみほ。私達に『優勝』を味わわせて。」

 

 

「はい!最初からその心算です!」

 

 

部長が私の事を隊長にしてくれなかったら、此処まで明光大の戦車道でやりたい事は出来なかったと思いますから、そのお礼と恩返しも込めて、必ず優勝して見せます!!

 

其れに、此の決勝戦は『姉の仇を討つ妹』って言うシチュエーションだから益々負ける事なんて出来ないからね!!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

と言う訳で決勝戦当日。

 

試合会場となった○○県××市には、物凄い人が集まってるね?高校戦車道の大会には負けるかも知れないけど、此の観客数は少なくどれだけ少なく見積もっても5000人は堅いよ!

 

出店とか出してる人の数も合わせたら、もっとだろうからね……此れって、中学校の大会の観客数かなぁ?

 

 

 

 

「決勝がこの組み合わせだからかもしれないわね。

 

 無敵にして最強を誇った西住まほを倒した安斎千代美と、その西住まほの妹であり弱小校を今年は決勝まで連れて来た稀代の名将西住みほ――最強を倒した者と、最強の妹にして最強を超える者が戦う決勝戦、此れは盛り上がるでしょ。」

 

 

「成程、そう言う事なんだ。」

 

 

「にしても、決勝を前にして余裕だなみほ?

 

 牛串に始まって、チョコバナナにフランクフルト、そんで今度は焼きイカって……いや、アタシ等も人の事言えた立場じゃねぇのはわかってんだけどさ……」

 

 

「まぁまぁ、良いじゃない青子さん!

 

 此れだけの屋台が出ているんだから、食べないのは損よ損!試合に影響しない程度に、食べましょう。そうしましょう!!」

 

 

 

 

この組み合わせだから此れだけ盛り上がってるって事なんだ。

 

なら、もっともっと盛り上げて行かないとだからね!!この食事は、その為のエネルギーチャージだから問題ないよ!!

 

と言う訳でごちそうさまでした!ナオミさん、コーラ下さい。

 

 

 

 

「はいよ。」

 

 

「頂きます!」

 

 

 

――プシュ!

 

 

――ごくごくごくごくごくごく!!

 

 

 

 

ぷっは~~~~!やっぱり、食後の炭酸は最高だね!

 

炭酸の刺激とコーラ特有の糖分のおかげで、脳味噌にエネルギー補給が出来たから、此の試合における私の能力は120%解放状態になったよ!!

 

 

 

 

「貴女の能力が120%解放って、其れはとても恐ろしいわね?」

 

 

「多分、其れは誰も勝てないんじゃないでしょうか?」

 

 

「!!」

 

 

この声は……逸見さんと赤星さん!!来てたんですか!!

 

 

 

 

「まぁね。隊長と西住師範も来てるんだけど、私と小梅もこの決勝戦は見ておかないといけないって思ったのよ。

 

 隊長を倒した安斎千代美に対して、貴女が如何挑むかって言うのは興味があったし、何よりもこの戦いは色んな意味で私にとっては複雑な試合だし。」

 

 

「複雑な試合?」

 

 

「私達に勝った愛和には負けて欲しくないけど、私としては貴女は私以外には負けて欲しくないのよ。

 

 愛和学院に勝ってもらわないと負けた私達の立つ瀬が無いんだけど、貴女には隊長と私以外には負けて欲しくないのよ西住妹ぉぉぉ!」

 

 

「意外と面倒な性格してますよねエリカさんて♪」

 

 

「んな事は言われるまでもなく分かってるわよ小梅!!

 

 兎に角、黒森峰としては面子を立たせる意味でも愛和学院に優勝して貰いたいけど、逸見エリカ個人としては貴女に勝ってほしいって思ってるのよ。

 

 きっと、隊長だってあなたに勝ってほしいって思ってる筈よ?……だから、必ず勝ちなさい『みほ』。貴女なら出来る筈よ。」

 

 

「頑張って下さい『みほ』さん!!」

 

 

「!!!!」

 

 

名前……はい、頑張ります逸見さん、赤星さん!うぅん、エリカさん、小梅さん!!

 

必ず勝って、優勝して見せます!!!

 

 

 

 

「そう……楽しみにしてるわ。」

 

 

「明光大の皆さんの健闘をお祈りします!」

 

 

 

 

エリカさん、小梅さん……ありがとう。試合前のこのエールは、とっても心に響いたよ!!

 

此れはもう、絶対に負けられない!!部長の為にも、お姉ちゃんの為にも、そして私達を応援してくれてる人達の為にも絶対に!!!

 

其れは、相手も同じだろうけど、思いの強さなら絶対に負けない!!

 

元より、お姉ちゃんの思いと部長の思いを背負ってたけど、其処に更にエリカさんと小梅さんの思いも追加された訳だから、その分だけ私が受け継いだ思いは強い――だから、勝たせて貰いますよ安斎さん!!

 

 

此の決勝戦、私の中の眠れる本能を目覚めさせる必要があるかも知れないけれどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

そして、試合開始の時刻となり、明光大の隊長であるみほと、愛和学院の隊長である千代美は、試合前の挨拶の場に来ていた。

 

 

 

「まさかお姉ちゃんに勝つとは思いませんでした……だから、全力で行きます安斎さん!!」

 

 

「全力で来い西住妹!!

 

 西住は、お前の事を自分を超える戦車乗りだって言っていたからな……その力を見せてみろ!!!」

 

 

「はい!持てる力の全てを持ってして挑ませて貰います!!!」

 

 

 

試合前の挨拶としては、些か荒々しい物がある気がしないではないが、それでもみほと千代美の顔には、此れから強者と試合が出来る事を楽しんでいる笑みが浮かんでいる。

 

一流の戦車乗りのみが、強敵と対峙した際に浮かべる事が出来る笑みを、2人は自然と浮かべていたのだ――ならば、後は戦って何方が強かったのかを決めるだけだ。

 

 

さて、決勝戦の両校のオーダーだが……

 

 

 

・明光大付属

 

 

パンターG型(アイスブルーカラーリング)×1(フラッグ車及び隊長車)

 

ティーガーⅡ×1

 

ティーガーⅠ×2

 

パンターG型(オキサイドレッド)×2

 

Ⅲ号戦車J型改(L型仕様)

 

Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)

 

 

 

 

・愛和学院

 

 

T-34/85×1(フラッグ車及び隊長車)

 

T-34/76×6

 

IS-2×3

 

 

 

 

ドイツ戦車とロシア戦車の違いはあれど、基本的な布陣は中戦車7輌と重戦車3輌の取り合わせ。敢えて違いを上げるとするならば、愛和学院のチームには自走砲が無いと言う所だろう。

 

回転砲塔のない自走砲は、後を取られると不利になってしまうのだが、其処は使う側の腕でカバーする物故に、自走砲の有無が直接試合に影響する事は無いと見るべきだ。

 

 

 

「勝っても負けても此れが最後……全力で行きましょう!!」

 

 

 

 

「必ず勝つぞ!勝って、優勝旗を持ち帰るんだ!!」

 

 

 

そして、みほも千代美もやる気は充分!!更に、そのやる気は隊員にも伝わり、味方の士気を高めていく。

 

 

 

 

『其れでは、第60回中学戦車道全国大会決勝戦、明光大付属中学校と愛和学院中学校の試合を開始します。お互いに礼!!』

 

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

 

そして、試合前の挨拶を終えたみほと千代美は夫々自軍のテントに戻って、作戦の最終調整を行う――全ては勝つ為に。

 

 

 

試合前の礼から5分後、決勝戦のフィールドにはみほ率いる明光大と、千代美率いる愛和学院の全戦車が並んでいた。

 

スタート位置は、明光大が平原で、愛和学院が丘が点在する草原だ――正に、一概にどちらが有利とはいえないフィールド故に、ストレートに隊長の腕が試されるフィールドと言えるだろう。

 

 

 

「此れが最後です!行きますよ……Panzer Vor!!」」

 

 

 

 

「行くぞお前等!勝つのは私達だ!Avanti!!」

 

 

 

そして今此処に試合開始!!

 

最強を打ち倒した安斎千代美と、最強の妹である西住みほの直接対決となる此の決勝戦は、過去のどの決勝戦よりも試合前から盛り上がりを見せて居たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 



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Panzer36『決勝戦は序盤から全力全壊です』

初っ端から全力で行きます!Byみほ      そう来なくちゃね?行くわよ!Byナオミ      よっしゃー、ぶっ放すぜ!By青子


 

Side:みほ

 

 

 

さてと、試合開始だね。

 

私達も安斎さん達も、基本的な部隊編成は其処まで差は無い――何方も、中戦車をメインにして重戦車を切り札的に混ぜ込んだ戦車配備だからね?

 

 

機動力に関しては略互角だけど、攻撃力では愛和が勝り、砲撃の連射性に関しては私達の方が勝ってるから、総じて戦えば五分五分か。

 

だけど、私は絶対に勝ちたいよ――部長に真紅の優勝旗を持ち帰るって言ったって言う事もあるけど、お姉ちゃんを倒した安斎さんには、絶対に勝ちたい!って言うか勝つ!!

 

 

 

 

「気合入ってんなぁみほ?」

 

 

「軍神覚醒ね?……眠れる本能が目を覚ましたかしら?」

 

 

「かも知れないよナオミさん。

 

 何時も勝つ心算で試合には臨んでますけれど、此の決勝戦は必ず勝ちましょう――勝って、私達の強さを世に知らしめちゃおうよ!!♪」

 

 

「是非もないわみほさん!

 

 其れじゃあ初っ端から飛ばして行くわ!!!鋼鉄の豹の爪牙から逃げる事は出来ないわよ!!!」

 

 

 

 

それじゃあ、其のまま突っ走って下さいつぼみさん!

 

相手に稜線を取らせる心算だって思わせながら進んで下さい――この作戦が、巧く行くかどうかはつぼみさんの操縦技術にかかっていますからね?

 

 

 

 

「上等!!そう言う事ならやってやるわ!!超高速の鋼鉄の豹の爪牙、味わわせてやるわ!!!

 

 

「うん、そうだね♪」

 

 

行きますよ安斎さん……お姉ちゃんを倒したその腕前、見せて貰いますよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer36

 

『決勝戦は序盤から全力全壊です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

試合開始直後から、明光大と愛和学院は対照的な陣形を展開していた。

 

明光大が部隊を本隊と護衛の2つに分けて、スタート地点から程近い丘の稜線を取りに行ったのに対して、愛和学院は部隊を広く展開して稜線を取りに行った部隊と、其れの護衛部隊を包囲する陣形を展開して来た。

 

 

形としてはみほが定石に沿って、千代美が定石を潰しに来たという所だろう。

 

 

 

「此処までは定石通り……教科書のお手本として載せても良い位の稜線を取る際の部隊の動かし方だが、此処まで完璧なのは見た事がないぞ?

 

 100点満点と言っても良い位の部隊展開だ!……果たして、これ程までに高速展開をやってのける事の出来る戦車乗りが、今ドレだけいるかだからな?……西住が絶賛するだけの事はあるな西住妹!」

 

 

 

だが、千代美はみほの部隊展開の早さに舌を巻いていた。

 

千代美自身、部隊展開の早さには自信をもって居たが、みほの部隊展開のスピードは、過去に千代美が叩きだした展開スピードを余裕で上回っていたのだ。

 

 

普通なら、此処でペースを乱すだろうが、絶対最強のまほと4年ものあいだ死闘を繰り広げて来た千代美が此れでペースを乱す等あり得ない……その口元には笑みが浮かんでいたのだから。

 

 

 

「上等だ西住妹……お前の力を全て受け止めた上で、私はお前達を超えてやる!!――行くぞ、西住妹!!」

 

 

「受けて立ちます、安斎さん!!」

 

 

 

マイクごしに二度目の試合開始を交わすと同時に、明光大も愛和学院も手加減なしの攻撃を開始!!

 

この状況に於いては稜線を取った明光大の方が絶対有利なのだが、愛和学院はその明光大を包囲する形で陣形を取っているので、一概にどちらが有利とは言い切れないだろう。

 

 

とは言え、みほの目的はあくまで市街地戦に持ち込む事であるので、この稜線での攻防は見せ技に過ぎないのだ。

 

 

 

「主砲を撃ちながら一ブロック前進。

 

 T-34/85とIS-2の砲撃には注意して下さい。特にIS-2はティーガーⅡをも上回る攻撃力を備えていますから、撃破されない様に注意して下さい。」

 

 

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 

『そんじゃあ、一発ぶっ込むみほ?』

 

 

『準備OKよ、隊長?』

 

 

『何時でも行けます、西住隊長!』

 

 

「部長、千尋さん、梓ちゃん……やっちゃって下さい!!」

 

 

 

砲撃が飛び交う中で、みほは部隊を敵に向かって前進させていく。

 

其れと同時に、明光大の攻撃の要とも言えるティーガーⅠ2輌とティーガーⅡの3匹の虎による必殺の88mm砲が炸裂し、正面に居た愛和学院の戦車隊の地面を抉り飛ばす!

 

 

流石に直撃したのではないので撃破判定にはならないが、此の一撃で攻撃の手が一瞬止まったのは事実であり、その隙を突いて明光大の部隊は一気に中央突破して稜線を駆け降りる。

 

しかも先頭は足の速いパンターが務め、殿には高い防御力にも定評のあるティーガーを配置すると言う見事な布陣での中央突破だ。

 

 

 

「包囲されると見るや否や、有利な地形を捨てるだと?

 

 戦術としては正しいのかも知れんが、其れを即決するってのは普通は出来ないぞ……まして、敵陣を中央突破するなんて西住ですら思いついても、余程追い詰められない限りはしないだろう。

 

 それを、簡単に選択して来るとは、若しかして妹は姉以上に大胆な奴なのか?……だとしたら、序盤で調子付かせるのは拙いな。

 

 中央突破は防ぎようがないが、前後は兎も角として横っ腹はがら空きだ!突破される前に1輌でも仕留めろ!!」

 

 

『『『了解!!』』』

 

 

 

だが相手は、中学最強と謳われたまほを倒した千代美だ。

 

中央突破は仕方がないと斬り捨てながら、敵戦力を少しでも削いでおこうと、包囲陣形を展開してた左右の部隊に命令を下して明光大の横っ腹から攻撃を仕掛ける。

 

 

 

 

――ズドン!!

 

 

――パシュン!

 

 

 

 

『明光大付属中学校、Ⅲ号戦車2輌、行動不能!』

 

 

 

其れは見事に決まり、明光大のⅢ号2輌を撃破する。

 

先手を取れたというのは、大きなアドバンテージになる物だが、2輌もやられて黙ってる明光大ではない!寧ろ、味方が撃破されたら倍返しが、ある意味では当然なのだ。

 

 

 

「Ⅲ号が……まぁ、序盤でⅢ号を失う可能性は考えてたから、此れは予想の範疇だけど、だけどやられっぱなしってのは性に合わないよ。

 

 そう言う訳で、椿姫さん、梓ちゃん……お願い!!」

 

 

『行くわよぉ……おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

『吹き飛ばします!!』

 

 

 

其れを示すかのように、椿姫が車長を務めるⅢ突がT-34/76の履帯を2連続で切ると、梓のティーガーⅡが履帯を切られたT-34/76を文字通り吹っ飛ばす!!

 

超長砲身から放たれる88mmの威力は通常の長砲身から放たれる100mmに匹敵すると言っても過言ではないが故に、其れを真面に喰らったT-34/76は言わずもがな沈黙!

 

そして、其れで終わらないのがみほだ。

 

 

 

「このまま逃げ切ります……『もくもくスパーク作戦』を始めて下さい!」

 

 

『『『『『『『『『了解!』』』』』』』』』

 

 

 

 

――カッ!!

 

 

――ブオォォォォォ!

 

 

 

 

此処で、発煙筒と閃光弾を同時に愛和学院に向けて放ち、その相互作用で発生した『閃光の煙』で愛和学院の視界を一時的とは言え完全に奪ったのだ。

 

無論、此れまでの戦いを見て、何処かで視界潰しをしてくるだろうと予想してた千代美は、スモークにも閃光にも対応できる装備を各戦車に搭載していたのだが、予測していた物を同時に発動されては堪った物ではない。

 

 

みほとしては、閃光と煙幕を合わせれば強力な目暗ましになる程度の認識だったのだが、煙幕によって乱反射した閃光は、みほが思っていた以上の効果を発揮したのだ。……自分達はその影響を受けない様にサングラスを用意していたのも見事な物だろう。

 

 

 

「此処で視界を奪いに来たか……しかも、スモークを利用して閃光を拡散させるとは、考えた事もなかったぞ?

 

 ……いや、だからこそ西住妹は、万年1回戦負けの弱小校を此処まで引き上げることが出来たのか?……並の戦車乗りでは考え付かない戦術が有るからこそ、此処まで来れたって言うのか?……だとしたら面白い!面白すぎるじゃないか!!」

 

 

 

だが、そのみほの鮮やかな采配を見た千代美の顔には、強敵を前にした戦車乗り特有の『鋭い笑み』が浮かんでいた。

 

口角は吊り上がりながらも、その目は鋭さを増し、瞳の奥には闘志の炎が滾る……其れは、準決勝に続いて、安斎千代美と言う戦車乗りの力がマックス状態になった証であった。

 

 

 

「全車に通達!煙幕が晴れたら追撃を再開する。

 

 奴等の狙いは、恐らく市街地戦……先に市街地に入られるのは最早仕方ないが、此方の到着が遅れると街中にどんな仕掛けをされるか分かったモンじゃない。速攻で追うぞ!!」

 

 

「隊長、アタシ等の分までお願いします!」

 

 

 

撃破されたT-34/76の搭乗員からの言葉に頷くと、視界が戻って来たのを確認し、残る戦車を全速前進させて明光大を追いかける。

 

 

 

「ゆっくりでいーよ~~♪」

 

 

「そーそー、運転は安全第一で~~~♪」

 

 

「やかましいわ!!!」

 

 

 

が、走り出した直後に、撃破された明光大のⅢ号の搭乗員からの言葉と、其れに(半ば反射的に)反応してしまった事で、何とも締まらない追撃の始まりとなってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、愛和学院の包囲を明光大必殺の『視界抹殺』でもって切り抜けたみほ達は、メインの戦いの舞台となる市街地に向けて進んでいた。

 

序盤で2輌失ったとは言え、明光大もまた相手戦車を2輌撃破しているのだから数は同じ――否、言い方は悪いが、Ⅲ号のみが脱落した上での同数ならば、戦車の性能差は無くなったと言うべきだろう。

 

愛和学院のソ連戦車に対して一方的に性能負けしてしまうのがⅢ号だったのだから。

 

 

 

「取り敢えずは、大体みほの狙い通りね。

 

 稜線を取りに行くと見せかけて、敢えて包囲させた上で其れを突破して市街地に向かう……相手の意表を突く事は出来たんじゃない?」

 

 

「だと良いんだけどね……安斎さんは、お姉ちゃんを倒した程の人だから安心は出来ないかな?

 

 中央突破を狙った私達に対しても、即座に側面の防御が薄いって言う事を見抜いてⅢ号を撃破しに来た訳だからね。」

 

 

「まぁ、まほ姐さんを倒したんだからタダモンじゃねぇよな?

 

 アレ?でも、そうなるとアイツ等先回りして市街地に入る可能性ってねぇのか?先に入られたら、ちょっとばっかし面倒な事にならねぇ?」

 

 

 

其れでも、此処までは大体みほの思惑通りに進める事が出来ていた。

 

流石に、千代美の包囲陣形の展開の早さには驚いたモノの、結果的には序盤は巧く行ったと言えるだろう。Ⅲ号が序盤で撃破される事も可能性に入れていた事を考えれば、充分の成果だ。

 

 

 

「先回りされる心配はないかな?

 

 今私達が通ってる道が、市街地への最短ルートだから、此処を私達が進んでる以上、先回りされる事は無いよ。

 

 部隊をT34シリーズとIS-2の2つに分けて、T-34シリーズが先行したとしても、最短ルートを通らずに先回りをする事は不可能だから。」

 

 

「でも、先回りはされなくても、T-34シリーズだけ追い付いてくる可能性はあるんじゃない?」

 

 

「うん、だから追い付かせない。

 

 部長、千尋さん、梓ちゃん……『通行止め作戦』開始です♪」

 

 

「了解……てか、本当によく考えるわねこんな事?いや、考えつくかもは知れないけど、其れを実行に移す普通!?

 

 追い付かせないためとは言えマッタクよくやるわ……でも、そんな貴女だから、私も隊長職を辞して隊長の座を譲る事が出来た訳だけどねみほ。――主砲装填、ぶっ放せ!!」

 

 

「此処からは通行止めだよ~~~!!」

 

 

「ご迷惑をおかけしますが、市街地へは迂回して下さい~~!!」

 

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァァン!!

 

 

――ズドォォォォォォン!!!

 

 

――バガァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

 

更に、市街地への最短ルートを通りつつ、愛和学院に最短ルートでの追撃をさせないために、なんとティーガーⅠとティーガーⅡの砲撃でルート上の樹木を圧し折って道を塞ぐ。

 

如何に戦車であっても、何本もの樹木が道を塞いでいたら其処を通る事は出来ない。此れでは、愛和学院は否応なしに市街地へは迂回ルートで向かわざるを得ないだろう。

 

策は二重三重とは言うし、相手の進路を潰すのも良くある策ではあるが、此処まで大胆に相手の進路を潰す策など中々思い付く物ではないだろう――みほの能力は底が知れない。

 

 

 

「時に、あの木ってぶっ倒しちゃってよかったのか?」

 

 

「大丈夫だよ青子さん、もし何かあったら連盟の方で何とかしてくれるから。私達は、余計な事は考えないで試合に集中しようね?」

 

 

「連盟が何とかしてくれんなら大丈夫か~~!

 

 そう言う事なら、市街地でも派手に行こうぜ派手に!!民家一戸丸々吹き飛ばす位な、弩派手ですんごい作戦でブチかまそうぜみほ!」

 

 

「うん、勿論その心算だよ!」

 

 

 

そしてみほの顔にも、千代美が浮かべていたモノと同じ笑みが浮かんでいる。

 

其れ即ち、『軍神・西住みほ』が降臨した証であり、同時にみほの中の『眠れる本能』が目を覚ました瞬間でもあった。――瞬間、みほの雰囲気が一変し、纏うオーラが質を変える。

 

其れは、仲間達にも伝わり、皆息を飲む……それ程までに、軍神が降臨したみほは凄いのだ。

 

 

 

「其れじゃあ、行きましょう!優勝の栄冠を手にする為に!!」

 

 

「「「「「「「了解!!」」」」」」」

 

 

 

同時にそれは、味方の士気を大きく高める。

 

軍神・西住みほが降臨した今、市街地での戦闘は激しく、そして凄まじい物になる事は間違いないだろう。軍神と化したみほの力は、普段とは全く異なるのだから。

 

 

試合の本番は、市街地戦……両校が市街地に入ってからが本当の勝負の幕開けだろう。

 

 

 

 

因みに……

 

 

 

 

「此れは……最短ルートを潰して来たなぁ!?

 

 IS-2の主砲でブッ飛ばしても良いんだが、此処で弾を消費するのは有り難くないからなぁ?……仕方ない、迂回して市街地に入るぞ!

 

 マッタク、大人しそうな見た目してて、トンでもないお転婆だな西住妹は……西住も、あの妹を相手に大分苦労したんだろうなきっと……」

 

 

 

明光大を追っていた愛和学院は、最短ルートを倒木に阻まれて迂回する事を余儀なくされていた。

 

此処でも、みほの作戦はズバリ的中したと言えるだろう――だが、千代美とてまほを倒した強者だから、一筋縄で行く相手ではないだろう。

 

 

 

「市街地で何を企んでるかは知らないが、お前の思惑通りにはいかないからな、西住妹!!必ず勝って見せるからな!!」

 

 

 

最短ルートは無理と判断するやなや、迂回路の中で、最も短い時間で市街地に辿り着くみほが待ち構える市街地へと進んで行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

此れは、やるじゃないみほ!!

 

稜線を取りに行くと見せかけて、其れを見せ技にして本命である市街地戦に誘い込むとは、実に見事としか言いようがないわ!若しかしたら隊長であっても、此れには対処しきれないかもしれないわ。

 

 

マッタク、本当に貴女は底が知れないわねみほ?実際に戦わないで、見て居るだけでも此処まで興奮させてくれるなんてやるじゃないの!

 

 

見せて貰うわ、貴女が此処からどんな策を繰り出すのかをね!

 

 

 

 

「エリカさん、若しかして明光大を応援してたりします?

 

 まぁ、そうなっても仕方ないですよね?みほさんの指揮は的確にして鋭いし、此処までの采配を見ても、見事の一言に尽きますからねぇ。」

 

 

「うっさいわよ小梅!!」

 

 

でも、案外小梅の言う通りなのよね此れが。

 

此処からアンタがどんな戦略を見せ、隊長を倒した安斎さんが其れに対して如何戦っていくのか……決勝戦に進めなかったのは悔しいけれど、若しかしたら明光大と愛和学院の対決を見れたって言う事は、優勝以上に価値がある物になるかも知れないわね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued…

 

 



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Panzer37『互いに譲らない互角の戦いです』

楽しい……うん、とっても楽しい。楽しきかな闘争は!Byみほ      乗ってるわねみほ?良い感じよ!Byナオミ      このまま波に乗るわよ!Byつぼみ


Side:まほ

 

 

 

ふむ……序盤はみほが稜線を取りに行ったが、安斎が其れを包囲する形で攻め、包囲されるのは危険と見たみほが、敢えて有利な地形を手放して中央突破を敢行して市街地戦に持ち込んだか。

 

恐らく此れはみほの思い通りなのだろうが、現在の車輌数は同数とは言え、先手を取ったのは安斎の方だったから、如何にみほが得意とする市街地戦であっても、一方的な展開にはならないだろうね。

 

 

それにしても、みほも安斎も良い顔をするじゃないか?

 

安斎は私との試合でもあの顔だったが、みほにあれだけの良い顔をさせてしまうとは、少し安斎に嫉妬してしまうな……出来れば、決勝戦でみほと戦いたかったからね。

 

 

 

 

「如何しました隊長?」

 

 

「いや、何でもないよエリカ。」

 

 

マッタク、私を押しのけての最強決定戦か……私を倒した安斎にも負けて欲しくないが、みほにも勝ってほしい――我ながら、中々優柔不断な性格をしているみたいだな私は。

 

 

だが、月並みかもしれないが、みほと安斎の戦いは何方が勝ってもオカシクない……何方も其れだけの実力者なのだからね。

 

 

ふふふ、ならば卑怯かも知れないが、私は両方を応援するとしようかな?――エリカと小梅は、何方かと言うとみほの事を応援してるみたいだからな。

 

 

みほ、安斎、何方も頑張れ!決勝戦に相応しい、最高の戦車道と言う物を見せてくれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer37

 

『互いに譲らない互角の戦いです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

序盤の草原から一転して、次なる戦いの舞台は市街地。

 

状況としては、みほ率いる明光大が先に市街地入りを果たして各所に陣取った所に、安斎率いる愛和学院が攻め入って来たと言う所だが、先に市街地入りした明光大が、愛和学院が到着するまでにどんな罠を市街地に仕掛けたかは分からない。

 

故に、攻め入ったとは言え、愛和学院は慎重にならざるを得ないのである――下手に特攻したら、罠に嵌ってジ・エンドと言う事に成り兼ねないのだから。

 

 

 

「試合の為とは言え、住民が全員立ち去ってしーんとした街中と言うのは、何とも言えない寒気を感じるモンだな?

 

 ……尤も、此の寒気を感じるのは街が静まり返ってると言うだけじゃないだろうけどな。」

 

 

「相手が何をしてくるか分かりませんからね?」

 

 

 

そして、千代美の戦車乗りの勘が告げていた『何かある』と――其れは、みほが仕掛けた罠なのか、それとも市街地戦そのものに有るのかは分からないが、この市街地戦は、間違いなく一筋縄では行かないだろうことを感じ取っていたのだ。

 

或は其れは、まほから『みほは私よりもお前に近いタイプだ』と聞かされていたからか……策士にとっての一番の強敵は、策を喰い破って来る剛の者ではなく、策を策で喰らう相手なのだ。

 

 

みほも千代美も策士だが、みほが並みの策士と違うのは『普通は思いついても実行しない』作戦を、平然と選択できる事にある。(此れについてはまほも同意しており、千代美もそうだと考えている。)

 

つまり、『あり得ない一手』を選ぶ事が出来る分だけみほに分があるのである。

 

 

 

「とは言え、行かない訳にもいかないだろう。

 

 奴等は此処から動く気はないだろうし、そうなればこちらから攻め入って、何とか敵フラッグ車を撃破する以外には手が無いからな。

 

 よし、行くぞお前等!だが、気は抜くなよ?準決勝で戦った西住まほは勇猛な猛虎だったが、妹の方は狡猾なる女豹みたいだからな……

 

 喉笛を食い千切られない様に警戒しながら行くぞ!」

 

 

 

だがしかし、千代美もまた並の戦車乗りではない。と言うか、並の戦車乗りでは、幾ら研究しつくした所で西住まほの牙城を崩す事は到底不可能なのだ――にも拘らず、千代美は其れを成し遂げた。

 

其れはつまり、あり得ない一手を打つ事は出来ないが、まほですら倒した策を練る事が出来るという事だ。

 

だから、この市街地にはみほが、明光大が潜んでいても怯みはしない。――千代美も並の策士ではないのだ。

 

 

虎穴に入らずんば虎子を得ずではないが、此処で攻め入らなければ明光大の首を取る事は出来ないと判断した千代美は、警戒しながらも全軍を進軍させ市街地に突入!

 

攻守力に長けたIS-2を戦闘と殿に配置している当たり、この市街地戦での警戒度が見て取れるが、此れは最良の布陣と言えるだろう。

 

市街地の道路を進む場合、基本的には前後からの挟撃が最大の脅威となるのだから――故に、市街地戦に於いては、左右の守りよりも前後の守りを固めるのが定石なのである。

 

 

だがしかし、みほに定石など通じるだろうか?――其れは断じて否だ!!

 

 

 

「いらっしゃいませ!!」

 

 

「ご注文は長砲身75mmでよろしかったですか!!」

 

 

 

――ドゴォォォォン!!

 

 

 

民家が連なる場所に差し掛かった途端に、両翼からの砲撃が愛和学院に対して炸裂!!

 

撃破こそされなかった物の、今の一撃が途轍もないカウンターとなったのは間違いないのだから――要は、明光大のⅢ突2輌が、車高の低さを利用して、民家の塀に隠れて機を窺い、愛和学院が目の前に来たところで砲撃をブチかましたのだ。

 

 

そして、此れは『偶々愛和学院が、明光大の待ち伏せ部隊の前に現れた』のではない――みほは、事前にこの市街地の詳細な地図と地形データを頭の中に叩き込み、自分だったら先に市街地に入った相手をどう攻めるか、それを徹底的に考えてこのルートに伏兵を配置したのである。

 

 

みほの作戦は大当たりだった訳だが……しかし、奇襲を仕掛けて来たⅢ突は、それ以上の攻撃は行わずに、その場から全速力で離脱し、あっと言う間に愛和学院の前から姿を消したのだ――其れが千代美には引っ掛かっていた。

 

 

 

「此処で退いただと?Ⅲ突の主砲ならば、T34シリーズを撃ち抜く事は出来る――もちろん私のフラッグ車だって……其れなのになんで?」

 

 

 

長砲身搭載型のⅢ突F型以降は、旧ソ連のT-34シリーズに衝撃を受けたドイツがⅢ突を強化した結果生まれた物であり、長砲身搭載型のⅢ突ならば、T-34シリーズが相手であっても撃破する事は難しくないのだ。

 

であるにも関わらずに此処で退いたのが解せないのだろう。

 

 

何処かに誘導するにしても、攻撃が単発すぎるだけに誘導と言うには余りにも稚拙としか言いようがない……であるにも関わらず、千代美の胸の中では、凄まじいまでの警鐘が鳴っていた――目の前の光景が真実だと思うなと。此れはあくまで見せ技に過ぎないと。

 

 

 

「他に策が有るという事か?……面白いじゃないか、楽しませて貰うぞ西住妹!!」

 

 

 

其れでも、千代美は進軍を選んだ。

 

相手がどんな策を使ってくるからは分からないが、どんな策を打ってきた所で、其れに対処する事が出来れば、事実上相手の策を潰す事だって出来るのだから。

 

 

 

その一方で……

 

 

 

『こちら椿姫、取り敢えず一発かましたわよ隊長?』

 

 

『敵戦車を撃破する事は出来ませんでしたけど………』

 

 

「其れで充分です、椿姫さん、有波さん。

 

 ――この攻撃は、相手を撃破するのが目的じゃなく、相手に此方の存在を認識させるのが狙いですから。――其のままB地点に向かって下さい。」

 

 

『『了解!』』

 

 

 

明光大もまた、仕込を続けていた。

 

千代美の前に現れたⅢ突は、あくまで囮――千代美を確実に市街地に引き込むための罠だったのだ……尤も、誘われた形になった千代美の顔には、笑みが浮かんでいた訳なのだが――戦車乗り特有の、戦車道の試合時にのみ見せる独特な『笑み』を。

 

そして、此れはみほが浮かべていた笑みと同じモノであった。――隻腕の軍神と、愛和の総統の激突は、市街地戦が始まった今こそが真の試合開始だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

策と策がぶつかり合う戦いって言うのは分かるけど……其処で此処まで拮抗するかしら?――ちょっと見には五分に見えるかも知れないけど、先に市街地に入ったみほの方が陣形を整えられた分だけ有利ね。

 

 

それだけに、市街地戦での明光大の『先手』に疑問が湧くわね?

 

長砲身のⅢ突なら、愛和のT-34シリーズだって撃破出来るのに、如何して敢えて撃破せずに自分の存在を相手に認識させるような事をしたのかしら?

 

其れ以前に、横からの奇襲じゃなくて愛和が通り去った後で後ろから仕掛ければ間違いなく1~2台は撃破出来た筈なのに……。

 

市街地戦がみほの十八番って言うのは、小学生の時に嫌でも思い知らされたから、愛和が市街地に入って来たら、間違いなく地形を利用しての大立ち回りが始まる物だと思っていたけど……

 

 

「妙に大人しいわね……」

 

 

「エリカさん?大人しいって、みほさんの事ですか?」

 

 

「そうよ小梅。実際にあの子と市街地戦をやったから言えるんだけど、先に市街地押さえたあの子は本気でトンでもないわよ!?

 

 小学校時の大会で、あの子を追って市街地に入ったら、途端に路地裏から戦車が飛び出してきて攻撃してくるわ、電柱を倒して行く手を塞ぐわ、体当たりして来て水を抜いた用水路に叩き落してくるわで、本当に何をしてくるか分からなかったのよ!

 

 其れなのに、今回はⅢ突での先制攻撃のみ、しかも撃破せずにさようならって、此れを大人しいと言わずして何なのよ!!」

 

 

「あ~~~……確かに、其れと比べたら大層大人しいですねみほさん。」

 

 

「今は、大人しくしているだけかも知れないがな……市街地戦はみほの十八番だ、如何に安斎でも一瞬の判断ミスで負けるぞ?

 

 ただ、安斎は対応力がとても高いから、みほの策はある程度対処してしまう事も考えられる――勝負の分かれ目は、みほの作戦を安斎が全て対処するか、其れとも安斎の対処力が追い付かないほどにみほが奇策を連発するか……かな?」

 

 

 

 

確かに、隊長の言う通りかも知れないわ。

 

でも、負けるんじゃないわよみほ!貴女が、私と隊長以外の誰かに負ける事は許さない――貴女には、私の最強のライバルで居て欲しいんだからね。

 

 

 

――ドゴォォォォォォン!!

 

 

 

 

そんな、私の考えなんかは関係なしに試合は進み、試合の様子を映し出しているモニターには、愛和の前に現れた明光大のパンター2輌が電柱を倒して愛和の戦車の動きを止めんとしている所だった。

 

尤も、流石は隊長を倒しただけあって、安斎さんは難なくそれを躱して、逆にパンターを追い始めた――んだけど、追いかけた先で待って居たのは明光大の本隊……此れも、みほらしい戦い方ではないけれど、きっと裏があるわ。

 

何よりも、市街地戦での必殺技『電柱倒し』が炸裂した以上、みほのエンジンがフル回転してるのは間違い無いんだから!

 

 

 

 

「此処からが本番か。

 

 だが、みほが市街地戦をやるとなると、可也本気で連盟は頭が痛いだろうな……みほが市街地戦を行った場合、最低でも民家レベルが1つ、ホテル・高層ビルクラスが1つは壊れるからなぁ?

 

 市街地戦に於いては、使えるものを何でも使って戦えと教えたのは私だが、まさかそれを額面通りに受け取って、本当に何でも使うようになるとは思わなかったよ……」

 

 

「あはははは……其れは何とも……」

 

 

「家一軒保証できる連盟の資金源てどうなってるんでしょうかね?」

 

 

「さぁな。」

 

 

 

 

まぁ、幾ら壊しても連盟が何とかしてくれるから、思い切りやっちゃいなさい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

明光大の本隊の前に引き摺り出された形になった愛和学院だが、隊長の千代美は全く慌てる事は無かった――Ⅲ突の先制攻撃の意味こそ分からなかったが、パンターでの電柱倒しは『誘導』だと分かっていたから。

 

 

 

「私達を誘い込んだ心算だろうが、誘導だという事は百も承知だ!

 

 だが、良い場所を選んだじゃないか西住妹?……駅前ならば場所も開けているから、両校が激突するには持って来いの場所だからな?

 

 此処で、決着をつけてやる!」

 

 

「焦らないで下さいよ安斎さん……決着の場所は此処じゃありません。此処はあくまでも、決勝戦のクライマックスの第1幕に過ぎません。

 

 雌雄を決する舞台は、別に用意していますから。」

 

 

「其れは楽しみだ――ならば、そのクライマックス第1幕、演じさせて貰うぞ!Avanti!!」

 

 

「Panzer Vor!!」

 

 

 

みほも千代美も、瞳の奥に宿る闘志を隠そうともせずに、寧ろそれを全開にして突撃命令を下す!

 

その瞬間に、エンジンを吹かして両校の戦車は交戦を開始し、砲弾が飛び交う!そして、止まって居たら的になるので各車輌は動き回りながら、攻撃できそうな相手を見つけ次第攻撃!

 

 

だが、此の乱戦ならば少しばかり明光大に理があると言えるだろう。

 

その理由は愛和学院のIS-2だ。

 

IS-2はティーガーⅡの超長砲身88mmを上回る、長砲身122mmを搭載しているが、弾丸と装薬を別々に装填する分離装薬式である為に如何しても射撃の間隔があいてしまうのだ。

 

無論、それをT-34シリーズがカバーしているのだが、通常と比べておよそ1.5倍の装填時間によって生じる隙を見過ごすみほではない。

 

 

 

「梓ちゃん、狙って!部長、やっちゃってください!!」

 

 

『了解しました!!』

 

 

『取り敢えず今の内に謝っとくわ……連盟の方々、負担をかけてごめんね!』

 

 

 

――ドガァァァァァン!!

 

 

――ドゴォォォォン!……ガラガラガラ!!!

 

 

 

 

『愛和学院、IS-2 1号車及び3号車行動不能。』

 

 

 

梓と凛に命令を下すと、梓のティーガーⅡが装填の隙を突いてIS-2の正面装甲を貫くと、凛のティーガーⅠが何と駅前の歩道橋を砲撃で崩し、瓦礫の雨を降らせてIS-2を沈黙させる。

 

 

更にそれだけではなく、千尋のティーガーⅠが街路樹を砲撃で圧し折り愛和学院の戦車へと倒す。

 

が、流石に其れは躱される。

 

 

 

「装填の隙を狙うのは見事だが、まさか砲撃じゃなくて瓦礫を降らせて撃破して来るとはな……だが、私達を舐めるな!!

 

 一度喰らった手は二度は喰らわん!もう上からの攻撃は通じんぞ!IS-2の礼だ、吹き飛べⅢ突!!!」

 

 

 

――ドゴォォォォン!!

 

 

 

『明光大付属、Ⅲ号突撃砲1号車、2号車行動不能。』

 

 

 

更に、其処から千代美のT34/85が凄まじい動きを見せて明光大のⅢ突を続けざまに2輌撃破し、あっという間に車輌数をイーブンに戻す。

 

正に一歩も譲らないとはこの事だろう。

 

 

 

「(凄いなぁ安斎さん……上からの障害物攻撃が1回しか通じないなんて――流石は、お姉ちゃんがライバルと認めただけはあるよ。)」

 

 

「(強い……今は未だ対処出来るが、お前は次はどんなカードを切って来る?どんな戦術を繰り出してくるんだ?

 

  そしてクライマックスの最終幕は、何処で上げてくれるんだ――其れを考えただけでも、ワクワクして来るじゃないか!!)」

 

 

 

それでも、みほと千代美の両隊長は、この戦いを純粋に『楽しい』と感じていた。

 

みほにとっても千代美にとっても、この戦いは此れまで自分達の中で最強であった『西住まほ』との戦い以外では味わう事がなかったワクワク感を感じていたのだ。

 

 

だからこそ、何方も負けないと闘志を燃やすが――此処で先に仕掛けたのはみほだった。

 

千代美のT34/85の上に落ちるように、駅舎2階入り口付近のオブジェを砲撃し、狙い通りに千代美の戦車の上にそれを降らす。

 

直撃したら白旗判定は間違いないだろうが、千代美はそれを躱し白旗判定を回避。(其れでも完全には避けきれず、砲塔側面の装甲を僅かにへこませる事にはなったが。)

 

 

だが、みほは其れで止まらずに、千代美の車輌の足元ギリギリを砲撃すると、その脇を抜けて、重戦車がギリギリ通れる位の細い路地に入

 

って行く。

 

 

 

誘導――其れは千代美にも分かっているが、フラッグ車であるみほのアイスブルーのパンターが其処に逃げ込んでしまった以上は追う以外の選択肢は無い。其れも、己のフラッグ車でだ。

 

 

他の車輌に追わせても良いが、此の乱戦の中にフラッグ車を残すのは得策ではない――乱戦故に、何時流れ弾が有効弾にならないとも限らないのだから。

 

だから、此処は誘いと分かっていてもフラッグ車で追うのが正解なのだ。

 

 

 

「そっちがクライマックスの最終幕の舞台と言うのならば、乗ってやる!!」

 

 

 

置いて行かれない様に、即座に千代美のT-34/85がみほのパンターを追って路地に入る。

 

ならば当然、他の車輌も続こうとするが、其れは叶わない物だった。

 

 

 

 

――ドガァァァァァァァァン!!!

 

 

 

「此処から先は通行止めさね。」

 

 

「此処から先に進みたいのなら、私達を倒して行って下さい!」

 

 

 

パンターの砲撃が愛和の足を止めると、即座に千尋のティーガーⅠと梓のティーガーⅡが、みほと千代美が進んだ路地の入口を塞ぐように陣取り、他の車輌をシャットダウン!

 

 

ならば回り道と思うだろうが、実はこの路地は可成り特殊で、横道は何本かある物の、それらは全て民家に入るためのモノで必ず何処かで一方通行になっている――つまり、路地が終わる場所に行きつくまでは回り道が出来ないのである。

 

更に、駅前からこの路地を使わずにその場所に行くのは市街の道路を使わなくてはならず、結構な大回りなのだ。

 

 

だが、路地も、そして駅前の道路を行くにしても明光大の戦車を撃破しなくてはならない――ティーガーⅠとティーガーⅡのみならず、パンターも、駅前の道路を通せんぼする形で愛和学院を囲っていたのだから。

 

 

愛和学院が千代美を追うには、この鋼鉄の虎と豹の軍団を何とかしなくてはならないのだが、其れは可也難しいと言えるだろう。

 

T-34は確かに優れた中戦車だが、より高いレベルで攻守速を揃えたパンターには性能面で敵わないし、ティーガーに対しては攻撃力と防御力で圧倒的に負けてしまうのだ。

 

 

つまり、事実上愛和学院が千代美を追うのは無理と言える訳で、となると千代美がみほとの一騎打ちを制する事が出来るかどうかが勝敗の分かれ目となるだろう。

 

 

 

「此処から先には行かせない……西住隊長から、通しちゃダメって言われてるからね。」

 

 

 

そして、この道を守る任を受けた梓の瞳の奥にはうっすらとだが、みほと同じ闘気の炎が揺らいでいた。――如何やら、此の決勝戦は梓の中に眠る闘争本能をも目覚めさせてしまったらしい。

 

 

何れにしても、状況を考えると、みほと千代美の一騎打ちで勝負が決まるのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

うん、巧く誘導で来たね……って言うか、あの乱戦の中でフラッグ車である私達が路地に逃げ込んだら、フラッグ車で追ってくる以外の選択肢は無いからね――お姉ちゃんにタイマン挑んだ安斎さんなら、きっと乗ってくれるとは思っていたけど。

 

 

さて、路地は此処で終わりだから、此処がクライマックス最終幕の舞台だよ安斎さん!!

 

 

 

 

「港の倉庫街か……確かに悪くない選択だ西住妹。

 

 しかし、まさかタイマン勝負を挑んでくるとは思わなかったぞ?市街地に入り込んだから、てっきり市街地って言う場所をフル活用して攻撃してくると思ってたんだがな……」

 

 

「フル活用しましたよ?

 

 民家に電柱に歩道橋、果ては駅のオブジェまで使いましたからからね……でも、それらをフル活用した上で、私は安斎さんとの一対一の勝負を選んだんです。」

 

 

「可愛い顔して、意外に性格は苛烈だな?若しかしたら姉以上か――だが面白い、受けてやる!

 

 姉には私からタイマンを仕掛け、逆に妹は私にタイマンを仕掛けて来た……ならば、其れに応えないのは戦車乗りとして無礼だからな!

 

 この勝負、受けて立つぞ西住みほ!!」

 

 

「ありがとうございます安斎さん――貴女なら、そう言ってくれると思ってました。」

 

 

だから、この戦いが決勝戦の最終幕だよ!

 

安斎さんはお姉ちゃんを倒した強敵だけど、私は負けないから――此れが最後、力を貸して貰うよ皆!!!

 

 

 

 

「任せなさい、相手が誰であろうと撃ち抜いてあげるわ。」

 

 

「装填速度を上げろってんなら遠慮なく言えよ?今のアタシなら、最高で1秒装填速度を上げる事が出来るからな!」

 

 

「明光大一の俊足からは逃れられない――其れを教えてあげるわ!!」

 

 

 

 

うん、頼もしいね♪

 

とは言え、安斎さんは中学戦車道最強と謳われたお姉ちゃんを倒した猛者だから、一筋縄で行く相手じゃない――私達の持てる全ての力を出し切って行かないとね!!

 

 

覚悟して下さい安斎さん、此処からは戦車長レベルMAX120%で行かせて貰いますから!!――勝つのは、私達です!!!

 

 

「行きますよ、安斎さん?」

 

 

「来い、西住妹!!受けて立つぞ!!」

 

 

「全力で行きます……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

――轟!!!

 

 

 

「軍神招来、来た此れーーー!!」

 

 

「此れは勝てるわ!!」

 

 

「隻腕の軍神降臨……悪いけど、私達に負けは無くなったわね。」

 

 

 

 

解き放たれた、私の中の『眠れる本能』……其れを全開にして、安斎さん、貴女を倒します!!覚悟して貰いますよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer38『此れが決勝戦の戦いです!!』

これぞ決勝戦……戦車道は、こうじゃないとね♪Byみほ      魅せてくれるじゃない……やるわねみほByエリカ      此れは、目が離せません!By小梅


Side:エリカ

 

 

 

此れは……みほが安斎さんに対して一騎打ちを仕掛けたって事なんだろうけど、如何して此処で一騎打ちを選んだのか疑問が残るわね?

 

みほの実力なら、十八番の市街地戦でも試合を決められたかもしれないのに、見ようによっては自らアドバンテージを捨てた上での一騎打ちって何を考えているのか分からないわよ本気で。

 

 

 

 

「みほ……若しかして、一騎打ちで私の仇を取ろうとしているのか?」

 

 

「「!!!」」

 

 

 

でも其れも、隊長の一言で掻き消されたわ――確かに、隊長の言う事はある意味で最も的を射ているモノだったのだからね。

 

敢えて得意な市街地戦で決着をつけずに、フラッグ車同士の一騎打ちに持って行ったって言う事は、自覚してるかどうかは別として、みほも隊長の仇を取りたいって思ってたんでしょうね。

 

 

だからこそのフラッグ車の一騎打ちか……ホント、何処までも魅せてくれるじゃないのよみほ!!

 

なら、私はどんな結果になろうとも、最後まで貴女の戦いを見て、それを確りと目の奥に焼き付けさせて貰うわ――貴女の戦い方は、不思議な魅力があるからね。

 

 

隊長を倒した奇才の安斎さんが勝つか、其れとも稀代の鬼才を持ったみほが勝つか――何方が勝つにしても、この戦いが戦車道の歴史に残る戦いになるのは間違いないわ!

 

 

 

『『………(ニヤリ)』』

 

 

 

オーロラビジョンに映し出された、両校の隊長の顔には、激しい闘志だけでなく、戦う者特有の笑みが浮かんでいたのだから。――でも、決勝戦は、此れがクライマックスよね。

 

 

みほか、其れとも安斎さんか――最終的に立っているのは一体どっちなのか……現段階では、その結末を予想するのは難しいわよ此れ。

 

隊長は何方も応援してるみたいだけど、私と小梅は貴女の事を応援してるし信じてるわみほ――貴女なら、必ず勝つだろうって言う事をね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer38

 

『此れが決勝戦の戦いです!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

市街地から離れた港地区でのフラッグ車同士の一騎打ちは、序盤から激しい物となっていた。

 

大戦中最強と謳われたパンターとT-34/85の一騎打ちは、互いに決定打を欠く試合となっていたのだが、其れが却って観客の目を引き付ける事に成っていた。

 

 

パンターとT-34/85の性能差を端的に上げるとするならば、機動力は略互角で防御力ではパンターが上回り、攻撃力に関してはT-34/85の方が上であり、総じて戦えば五分なのだ。

 

 

だから互いに決定打を欠いて決着がつかない状態になって居る訳で、そんな状況故に観客は固唾を飲んで試合を見守っているのである。

 

 

 

 

「そのまま前進して、倉庫を一つ越えた所で左に急旋回して下さいつぼみさん!フラッグ車の横から一発かましてやりましょう!!!」

 

 

「了解よみほさん!」

 

 

「横っ腹から風穴を開ける訳ね?

 

 良いじゃない、特大の風穴を開けてあげるわ――尤も、相手が相手だけにそう簡単には開けさせてくれないとは思うんだけど。」

 

 

「まぁ、まほ姐さんに勝ったような奴だから簡単にはやられてくれねぇだろうな。

 

 だけどよ、だからこそ燃えて来るってモンだろ!装填速度マックスオーバーで行くぜ!!!」

 

 

 

みほが倉庫を越えた所で急旋回してT-34/85の側面を狙おうとすれば――

 

 

 

 

「倉庫を越えて左に入った?追いかけっこの延長……じゃないよな?

 

 よし、倉庫前を全速力で通り抜け、大回りして敵フラッグ車に攻撃!」

 

 

「了解!!」

 

 

 

千代美はパンターが左折した場所を猛スピードで突っ切る事で攻撃を回避し、其処から大回りする形でパンターに突進しながら砲撃一発!

 

だが、此の攻撃に対して、みほは所謂『食事の角度』で砲弾を弾くと、つぼみにパンターを急発進させ、更にナオミにT-34/85の背後にあるコンテナを攻撃するように命じ、ナオミは命令通りにコンテナを撃破!

 

 

其れだけならば何て言う事は無いが、このコンテナは実は既に中に荷物が詰め込まれていたのだ――そう、工事なんかに使う為の大量の砂が!!

 

無論砂を被った程度で白旗判定が上がる事は無いが、其れでもコンテナ1台分の砂ならば中戦車の足回りを完全に埋めてしまう事くらいは可能であり、そうなってしまえば完全に『的』になるのは火を見るより明らかだ。

 

 

 

「のわぁぁ!?砂で埋め尽くす心算かオイ!!全速回避ーーーー!!

 

 マッタク、大通での電柱アタックに歩道橋クラッシュ、街路樹ブレイカーに続いて今度はコンテナクラッシャーからの砂攻め狙いか……本当に使える物は何でも使ってくる奴だな西住妹は?」

 

 

 

相手が並みの戦車乗りだったら砂に埋まって居ただろうが、千代美はまほをも倒した強者であり、同時に策を弄するタイプだったので、コンテナが破壊されるのを見るや否や、みほの思惑を読み取って緊急回避!

 

 

 

「砂風呂作戦は躱されちゃったか……でも、まだこれで終わりじゃない――まだ本命の『ドラマチックバトル作戦』が残ってるからね。」

 

 

「其れを発動したら、殆ど勝ちだけどな――相手にとっては、結構嫌なモンかも知れないけどさ。」

 

 

 

それを躱されたみほは、躱された事に驚きながらも焦る事は無かった――何故なら今の攻撃も本命ではなく、精々『此れで決める事が出来たら良いな~~』的な物だったのだから。

 

本命の『ドラマチックバトル作戦』が如何なるものかは分からないが、それでもみほは其れを発動する前から全力で千代美に向かっていく。

 

単純な主砲の撃ち合いのみならず、時にはクレーンが吊り下げた荷物を落下させたり、地面を砕いてコンクリートの礫をぶつけると言った奇策、搦め手上等な戦術を展開して戦いを続けていく。

 

 

対する千代美もまた、其れに的確に対処しながら攻撃を続ける――だからこそ、決定打に至らない攻撃が続き、パンターもT-34/85も校章が掠り取られた状態となっている。

 

正に一進一退――否、一進一進!!何方も退かない、正に決勝戦に相応しい戦いとなっているのだ。

 

 

 

「(安斎さん強いなぁ……お姉ちゃん以外で、此処まで強い人って言うのは中々居ないんじゃないかな?……なら、尚の事負けたくない!)」

 

 

「(西住め……何が『みほはお前に近いタイプだ』だ――確かにコイツは私と同じように策を弄するタイプだが、だからと言って正面からガンガン圧す戦いが出来ない訳じゃない。

 

  西住は勇猛な虎で、妹は狡猾な女豹と思っていたが――如何やら妹の方は虎の勇猛さと女豹の狡猾さを併せ持っているらしいな。)」

 

 

 

みほも千代美も、互いに相手を『強敵』と認めているからこそ戦闘も激しくなるのだろう。

 

みほも千代美も、キューポラから身を乗り出し、相手を目視しながら次々と指示を飛ばして行く――其れは、中学戦車道最高峰の戦車の動かし方と言っても良い物だ。

 

 

 

 

「やりますね安斎さん……私の策にも動じないとは、貴女みたいな人は初めてです――だからこそ、負けたくありません!!」

 

 

「其れは私もだ!!受けて立つぞ西住妹!!」

 

 

 

そして、再び互いに決定打を欠く事に成る交戦を開始!!

 

アイスブルーの鋼鉄の豹と、デザートイエローの雪原の支配者の戦いは、決着にはまだ遠いようである――互いに、勝つだけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、駅前大通りでの戦いもまた、激しい物となっていた。

 

T-34/76とIS-2を包囲し、更には『最終決戦場』へのトウセンボウを行ったのだが、此れは中々如何やらみほの思い通りには行かなかったようだ。

 

T-34/76ならばティーガーⅠとティーガーⅡ、そしてパンターの主砲なら簡単に抜く事が出来るので、明光大のメンバーはT-34/85から先に撃破しようとしたのだが、其処は黒森峰を倒して決勝に進んで来た愛和学院、簡単にはやられずに互角の勝負となっていた。

 

 

道を塞いでいる為にティーガーⅠとティーガーⅡは動きを制限されているが、其処はパンターが補う。

 

一方で全車輌が動く事の出来る愛和は、其れを最大利用しようとするが唯一ティーガーの正面装甲を撃ち抜けるIS-2はパンターにちょっかいを出されてティーガーを攻撃出来ずにいる。

 

 

そんなパンターに対してT-34/76が仕掛ければティーガーからの砲撃で吹き飛ばされ、しかしその直後に別の車輌がパンターの後部を撃ち抜いて沈黙させる……場は再び乱戦の状態となったのだ。

 

 

そんなこんなで戦いが続き、既にパンターとT-34/76は全車白旗を上げ、千尋の乗るティーガーⅠも今し方IS-2の砲撃を喰らって白旗を上げた……つまり此処からは、ティーガーⅡとIS-2の一騎打ち!

 

 

 

「残るは貴女ね?……速攻で撃破してあげるわ!

 

 攻守力は最強レベルだろうけど、エンジンと足回りに致命的な欠陥を抱えたティーガーⅡじゃ、私を倒す事は出来ないわよ?」

 

 

「そう思ってるなら甘いです!

 

 このティーガーⅡは、東雲工房でレギュレーションギリギリの魔改造がされてる最強の戦車ですから、貴女達には負ける事はありません。」

 

 

「言ってくれるじゃないか……よろしい、ならば戦争――ではなく戦車道だ!!」

 

 

「受けて立ちます!」

 

 

 

そして始まった2台の超強力重戦車の戦い。

 

攻撃力ではIS-2が、攻撃速度ではティーガーⅡの方が上回るこの戦いは、しかし何方も一歩も譲らない戦いとなっている――強豪校の副隊長と互角にやり合っている梓は大したモノだろう。

 

 

IS-2の砲撃はギリギリで躱されるが、次弾装填の隙を狙ったティーガーⅡの攻撃も、IS-2が動き回る事で決定打にはならない。

 

梓からすれば、無理にIS-2を撃破する必要はない――ティーガーⅡが撃破されない様に立ち回り、IS-2を最終決戦地に向かわせなければ其れで良い。

 

其れで良いのだが、梓は眼前の相手を『倒したい』と思った。みほからは『此処を通さない様にして』とは言われたが『倒しちゃダメ』とは言われて居ない。ならば――

 

 

 

「通すなって事でしたけど、別に倒しちゃっても良いんですよね隊長?……クロエ、なのは、仕掛けるよ!!」

 

 

「了解!IS-2を隊長の所には行かせられないからネ!」

 

 

「全・力・全・壊!!ぶっ放してやるのぉ!!!」

 

 

 

倒す事を梓は選んだ。

 

そして、仲間に指示を出すと、IS-2の砲撃の隙を突いて突撃し、更に其処から急旋回してIS-2の後部に回り込む!その無茶な軌道に、如何にギリギリの魔改造を施したとは言え履帯と転輪が悲鳴を上げて千切れ飛ぶが、其れでもティーガーⅡは止まらずにIS-2の後部に破壊力抜群の超長砲身88mm炸裂させる!!

 

 

 

――ドガァン!!

 

 

――パシュ!

 

 

 

『愛和学院、IS-2 2号車、行動不能!』

 

 

 

その効果は抜群で、愛和学院の最後のIS-2も撃破する事が出来た。

 

だが、IS-2は倒したモノの、ティーガーⅡもまた、これ以上戦闘を行う事は出来ないだろう。攻撃能力が残っていると言う事で白旗判定には至っていないが、右の履帯が完全に切れた上に、転輪も数個吹っ飛んだ状態となっては、これ以上走る事は不可能なのだから。

 

それでも、明光大のメンバーはみほから与えられた『ここから先に明光大の戦車を進めるな』と言う命令を遂行したと言えるだろう――特にIS-2との大立ち回りを行ったティーガーⅡの活躍は見事だっただろう。

 

 

 

「隊長、後はお願いしますね……」

 

 

 

後は、みほと千代美の戦いがどうなるかだ。

 

 

 

 

だがこの時、愛和学院の隊員達も、観戦していた者達も(しほやまほを含めて)今の戦いの中で明光大のティーガーⅠが1輌足りない事には誰も気が付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、みほと千代美の一騎打ちは、相変わらず双方決定打を欠く互角の戦いが続き、今はみほのパンターを千代美のT-34/85が追いかけると言った展開になっている。

 

尤も、追いかけっこの間も両車輌とも砲撃を行っており、逸れた弾丸が倉庫やコンテナ、クレーンなんかを破壊しまくっているのだが、其れは戦車道の大会に於いて今更なので、まぁ問題ないだろう。

 

 

だが、此の追いかけっこの最中、千代美は少しこの一騎打ちに違和感を感じていた――と言うよりも『此れは本当に一騎打ちなのか?』と思って居たというのが正しいか。

 

 

此れは、準決勝の後でまほが『みほは私よりもお前に近い』と言った事が原因だった。

 

『自分に近い』と言う事は、若しかしてこの一騎打ちは見せ技で、本当は何処かに伏兵が潜んでいて、此の追いかけっこは自分達の事を、伏兵が待っているキルゾーンに誘導しているのではないかと思ってしまったのだ。

 

 

自分がまほに対して行った戦術だからこそ、その可能性に思い至ってしまった。思い至らなくても良い事に気が付いてしまったのだ。

 

伏兵の可能性に気付いてしまったら、目の前のみほにだけ集中すると言う事は出来なくなる――必然的に伏兵の存在も気にかけなくてはならず、それは千代美の判断力を鈍らせる。

 

 

 

「(何処だ、何処に伏兵が潜んでる?

 

  いや、伏兵を気にするよりも、キルゾーンに誘い込まれる前にフラッグ車を撃破するのが先だ――だが、攻撃しようとした瞬間に伏兵が仕掛けて来たら?……クソ、思考がまとまらない!

 

  だが、フラッグ車を倒さねば終わらない……ならば、此処は徹底してフラッグ車を狙うのが上策だ!)」

 

 

 

それでも、『狙うはフラッグ車』と断定したのは見事だろう……流石に即決とは行かなかったが。

 

 

 

「此処がラストステージ……『ドラマチックバトル作戦』を開始します!部長!!」

 

 

「任せなさい!!!」

 

 

 

――バガァァァァァァァン!!!

 

 

 

だが、此処でみほの最後の作戦が発動!

 

突如コンテナが爆発したかと思ったら、その中から凛の乗るティーガーⅠが登場!!

 

そう、凛のティーガーⅠは、駅前での歩道橋クラッシュを行った後すぐに戦線を離脱して、一足早くこの港地区にやってきて、自身をコンテナに偽装してみほからの作戦開始を待っていたのである。

 

 

駅前の大乱戦における弩派手な瓦礫落としなどの攻撃は、凛のティーガーⅠが戦線から離れるのを認識させない為のモノでもあったのだ。

 

 

 

「んな、此処でティーガーⅠだとぉ!?」

 

 

 

此れに驚いたのは千代美だ。

 

伏兵の存在を考えていたとは言え、まさか待ち伏せでの一撃ではなく、真正面から姿を現して戦線に加わって来るとは思わなかった。

 

と言うよりも、自分がまほに対して行った戦術から、みほの狙いも同じだと思い込んでいたのだ。

 

 

 

分が悪い所の話ではないだろう。

 

パンターとT-34/85ならば、タイマン張っても五分五分だが、その五分五分の所にドイツ重戦車の代名詞とも言えるティーガーⅠが加わったとなれば、如何考えても千代美が不利だ。

 

 

否、相手が並みの戦車乗りだったら千代美も如何にか出来ただろうが、相手は最強のまほをして 『強い』と言わしめたみほと、今大会で敵フラッグ車を全試合で倒してフィニッシャーとなっている凛が相手では、如何に千代美と言えども無理があると言う物だ。

 

 

 

「ドイツが誇る最強の中戦車と重戦車のタッグが相手か……相手にとって不足は無い!行くぞ西住妹、近坂凛!!」

 

 

「此れが、ラストバトルです!!」

 

 

「行くわよ安斎!!」

 

 

 

其れでも弱音を吐く事なく、千代美は吠え、みほと凛も其れに応える。

 

そして次の瞬間、みほのパンターが千代美のT-34/85に向かって猛突進し、更に目の前でドリフトめいた動きでT-34/85の背後に回ろうとする。

 

其れを追うように、千代美のT-34/85も砲塔を回転させてパンターの動きを追う――数では負けているが、フラッグ車を倒せば勝ちなのだ

 

から、此れは間違いではない。

 

何よりも、T-34/85の主砲ならばパンターの装甲は何処でも抜く事が出来るのだから、此れに千代美が反応したのは仕方ないだろう。

 

 

だがしかし、この戦いは一騎打ちではない。

 

相手はみほのパンターでけでなく、凛のティーガーⅠも居るのだ――そして、みほのパンターを狙って砲塔を回転させたのを見過ごす凛ではない。

 

 

 

「今よ、撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

砲塔の後部を曝したT-34/85に向かって攻撃!

 

T-34/85の砲塔後部の装甲は全面の半分しかない40mm、ティーガーⅠの88mmならば榴弾でも110mmの装甲を貫けるし、徹甲弾なら156mmの装甲を貫く事が出来るのだ――そして、今回凛が放ったのは徹甲弾だ。

 

其れを防ぐ手段は千代美にはない。故に、砲弾はT-34/85の砲塔後部に命中し――

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァン!!!

 

 

――キュポン!

 

 

 

『愛和学院、フラッグ車T-34/85行動不能!よって、明光大付属中学校の勝利です!!』

 

 

 

撃破の証である白旗を上げさせる。

 

そして、決着を告げるアナウンスと共に、会場内に割れんばかりの歓声が鳴り響く!――が、それは明光大の勝利を称える物だけではなく、最高の決勝戦を戦った両校へ送られた物だっただろう。

 

 

何にしてもこの瞬間に、みほ率いる明光大付属中学校は、嘗ての弱小校から全国大会制覇の王者へと変わったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

勝った……勝てた!私達の勝ちだ、優勝だーーーー!!!!それも、お姉ちゃんを倒した安斎さんを倒しての優勝……何か、感慨深いよ♪

 

 

 

 

「いや~~、負けた負けた~~。

 

 西住には勝ったモノの、妹には言い訳が出来ない位に完敗したな~~…だが、負けはしたがお前との戦いはとても楽しかったぞ西住妹。」

 

 

「安斎さん……はい、私も楽しかったです!ありがとうございました!!」

 

 

「礼を言うのは私の方だ――だが、次は負けんぞ?

 

 公式戦で戦う事に成るのは、お前が高校まで上がって来るのを待たねばならないが、練習試合の機会は此れからもあるからな――負けっぱなしってのは好きじゃないんだ私は。」

 

 

 

 

ふふ、知ってます――そうじゃなかったら、4年間もお姉ちゃんに挑み続けないと思いますから。

 

とってもいい試合でした安斎さん。貴女が決勝戦の相手で良かったです!

 

 

 

 

「私も、お前が決勝戦の相手で良かったよ西住妹。

 

 負けたのは悔しいが、だからと言って悔いは無い――全ての力を出し切ったからな。中学最後の大会で、最高の戦いが出来た事に満足しているよ。とても楽しかった!!」

 

 

「はい、最高の決勝戦でした!」

 

 

本当に強かったからね安斎さんは……お姉ちゃんがライバルとして認めたって言うのも納得だよ。

 

――で、そんなお姉ちゃんに安斎さんと同じくライバル認定されてる部長、一体如何しました?勝ちましたよ?私達は、優勝したんですよ?

 

 

 

 

「みほ……ありがとう。

 

 貴女のおかげで、私は――私達3年は『全国優勝』って言う、最高の栄誉を手にする事が出来た……感謝してもし切れないわよ。」

 

 

「部長……良いんです、此れは私の――と言うよりも、私達隊長チームの目的でもありましたから。

 

 私は其れを成しただけですし、何よりも決勝戦で試合を終わらせたのは部長の一撃だったんですから、我が校のMVPは部長ですよ!!」

 

 

「そう来たか!……でも、そう言う事ならその評価は受け取っておくわ。

 

 だけど、其れとは別に優勝したなら、胴上げは基本よね?そして野球で監督が胴上げされるなら、戦車道では隊長が胴上げされるのが道理ってもんだわ!!

 

 行くわよ皆!!」

 

 

「「「「「「「おーーーーー!!!」」」」」」」

 

 

 

ふえぇ!?胴上げって……

 

 

 

「「「「「「「「「わっしょい!わっしょい!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

って、考えてる間に胴上げが行われちゃってる……強烈な浮遊感を感じるけど、其れは悪い気分じゃないよ――優勝したからこそ味わえるモ

 

ノだからね此れも。でも、上がり過ぎ防止でパンツァージャケットを掴むのは止めてね青子さん……微妙に息がつまるから。

 

 

でも、胴上げは私だけじゃなくて部長もだよ!

 

今大会で、全試合でフィニッシャーになった部長の功績は讃えられて然りだし、此れが中学校最後の大会だったんだから、優勝後の胴上げは体験しておくべきだからね♪

 

 

そ~れ!

 

 

 

「「「「「「「「「わっしょい!わっしょい!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

宙を舞う部長……少し戸惑ってるけど、嬉しいのは間違いないみたいだからよかった。

 

何よりも、この優勝は明光大にとっても、そして私にとっても大きな物になるからね――お姉ちゃんに勝つのが理想だったんだけど、お姉ちゃんを倒した安斎さんに勝ったって言うのなら、私達への注目度は高まるからね。

 

 

だから、もう誰にも明光大を弱小だなんて呼ばせないし、去年のベスト4がマグレだなんて言わせない。マグレで全国制覇をする事なんて出来ないんだから!

 

 

全国大会優勝――今年の大会は、最高の形で終わる事が出来たみたいだよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 




クロエ・ククトミュゼン・武藤

梓率いるチームの操縦士でドイツ系のハーフ。

小学校の頃から操縦士一筋で戦車に乗っていたため、その操縦技術はピカ一であり、明光大ではつぼみとタメ張る程である。

10歳まではドイツで過ごしていたせいか日本語の使い方に微妙な間違いがある場合があるが、其れもまた魅力。

容姿はISのラウラ、またはリリカルなのはStSのチンクの眼帯なしの両目開いた感じ。



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Panzer39『いざ、今年も合宿です!!』

今年も合宿は絶好調です♪Byみほ      脱落者が居ないって言うのは有り難いわねByエリカ      其れじゃあ、頑張っていきましょう!By小梅


Side:みほ

 

 

 

全国大会を制して、その週の日曜日に、お母さんから広間に呼ばれたんだけど、緊張するって言う事は全く無いよ♪だって、私は最高の結果を残したって自負してるからね。

 

 

尤も、その最高の結果も最高の仲間が居たからこそなんだけど。

 

 

 

 

「先の大会の決勝戦、実に見事でしたよみほ。

 

 結果的には、姉の敗北を妹が埋めると言う事に成ってしまいましたが、貴女はあの試合で己の戦車道を示しました――まだ、未完成である事は否めませんが。

 

 ですが、大会の優勝は通過点に過ぎません、一度頂点を極めた事に満足・慢心する事無く、此れからも精進なさい。」

 

 

「はい、全国大会優勝の名に恥じぬよう、精進します!――って、こんな感じでいいのかなお母さん?」

 

 

「全く、其処で聞いたら意味ないでしょうに……でも、其れが貴女なのよねみほ。

 

 貴女は格式ばった事を守るよりも、自由奔放な方が合ってるわ――尤も、其れが貴女の美徳でもあるのだから、其れを大事にしなさい?」

 

 

 

 

うん、そうするよお母さん。

 

 

 

 

「其れがみほの良い所だからな――其れが人を引き付けるのだろうね。」

 

 

「お姉ちゃん――お祖母ちゃんに呼ばれてたみたいだけどもう良いの?お祖母ちゃんのお説教って粘着質だから、もう少し時間かかると思ってたんだけど……」

 

 

「その心算だったんだが、『あの程度の相手に敗れるとは』と言うのを聞いてカチンと来てね――安斎の事をあの程度呼ばわりした事は許せんよ、如何にお祖母様でもね。

 

 だから『安斎があの程度だと仰るのならば、其れに負けた私、引いては西住流はあの程度未満と言う事に成りますね。』と言ってやったら、流石に黙ってしまったけれどな。」

 

 

「言うねぇお姉ちゃん。」

 

 

まぁ、此れは流石にお祖母ちゃんが悪いかな?

 

誰だって、ライバルの事を悪く言われていい気分はしないからね……まして、安斎さんはお姉ちゃんを越える為に強くなったけど、逆を言うなら、お姉ちゃんだって安斎さんに越えられないように強くなった訳だから。

 

 

そんなライバル関係の素晴らしさは、お祖母ちゃんには理解できないのかも知れないけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer39

 

『いざ、今年も合宿です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事があって、あっという間に時は過ぎて、気が付けば期末試験が終わって夏休み!

 

そして、夏休みに入ったって言う事は、今年も明光大と黒森峰の合同合宿が西住流本部で行われる段取りで、今年はお母さんが総監督として、菊代さんが監督補佐として参加する事に成ってるから、去年よりも質が高い合宿になるのは間違いない。

 

 

 

え?期末試験は青子さんは大丈夫だったのかって?……大丈夫、お馴染みテスト範囲丸暗記の裏技で、期末試験をトップで通過したから。

 

そうじゃなかったら、この合宿に参加する事なんて出来ない訳だからね。

 

 

そう言う訳で始まった合宿で、今は両校の1年生同士のバトルロイヤル形式の模擬戦――今年は、脱落者は今のところ何方からも出ていないねお姉ちゃん?

 

 

 

 

「そうだな……正直、初日の『西住流フィジカルトレーニング・完全版』を終えた時点で、黒森峰からも明光大からも誰か脱落するんじゃないかと思っていたのだが、此処までで脱落者が居ないのは喜ばしい事だ。

 

 尤も、其れにはみほの所の、澤が大きく関係しているのは否めないが。」

 

 

「梓ちゃんが?」

 

 

「あぁ、そうだ。

 

 彼女は今年から戦車道を始めたのに、その腕前は最早並の戦車乗りと同等かそれ以上だ――其れが、中学から戦車道を始めた黒森峰の1年生に希望を与えたらしい……中学から始めた子が、此処までなれるなら、自分達だってやれば出来る筈だって思ってな。」

 

 

「それが、結果として互いを高め合う事にもつながるわね。

 

 ですがみほ、貴女はトンでもない逸材を発掘して来たわ――澤さんの潜在能力は、まほや貴女に勝るとも劣らない物があるから、鍛えれば相当なモノになる筈よ。

 

 いえ、今年から始めて僅か4カ月足らずで此処まで伸びるとは、みほは旨い具合に澤さんの才能を引き出す事に成功したのね。」

 

 

 

 

私が引き出したのかなぁ?

 

確かに、梓ちゃんは今年の1年生の中でも特に見所があったから、通常の練習の他にも個人的な指導をしてたのは事実だけど、自分の中の才能を伸ばしたのは、私の指導じゃなくて梓ちゃん自身の努力だと思うなぁ?

 

皆真面目に戦車道に取り組んでるけど、中でも梓ちゃんは人一倍努力して、その結果として1年生の中では実力トップになったんだから。

 

 

 

 

「己の才能を伸ばす事が出来るのは、伸びる為に才能を開花させてくれた存在が居たからだろう?

 

 人は誰しも何かしらの才能を持っているモノだが、其れを自分だけの力で開花できる人は殆ど居ないのが現実だ――スポーツのトップアスリート達だって、己の努力+指導してくれた恩師が居たからと言うのが大半だからね。」

 

 

「そう言う物なの、お姉ちゃん?」

 

 

「そう言う物だ。私の場合は、其れがお母様だった。

 

 みほの場合は、恩師と言える存在は居なかったが、あの時の事故が結果としてお前の戦車乗りとしての才能を開花させる事に成った…形は違うが、私もみほも自分1人の力ではなく、自分以外の外的な要因があったから才能を開花させる事が出来たんだ。

 

 だから、此処まで伸びたのは彼女の努力だろうが、その努力が実を結ぶための下地を作ったのは間違いなくお前だよみほ。」

 

 

 

 

そう、なのかな?だとしたら嬉しいかな。

 

梓ちゃんみたいな戦車乗りの才能を開花させるお手伝いが出来たって言うのは、私としても嬉しい事だからね♪――と、そろそろ模擬戦の決着が着きそうだね?

 

残ったのは、明光大と黒森峰が1輌ずつ……梓ちゃんとツェスカちゃん――まぁ、残るべくして残ったって言う所かな此れは。

 

明光大1年最強は梓ちゃんだから、開始早々狙われたけど、其れは黒森峰のツェスカちゃんも同じで、其れで撃破されないために一時的に手を組んで他の車輌を撃破した結果だからね此れは。

 

 

搭乗車輌はどちらもパンターG型だから性能差は無い上に、梓ちゃんとツェスカちゃんの車長の能力は略互角みたいだから、勝負を決めるのは、どっちが勝利に対して貪欲かって言う所だね。

 

 

「梓ちゃんが勝つに、晩御飯のエビフライ3本。」

 

 

「ならば、私はツェスカが勝つ方にエビフライ4本を全賭けだ。」

 

 

「……貴女達、神聖なる戦車道で下らない賭けをするのは止めなさいな……私は、見逃すけれど、お母様が見たら粘着質なお説教一直線コース間違いなしよ?」

 

 

「「そうなった時は、詭弁上等で何とかする。」」

 

 

「其れで何とかできると思われてるお母様って一体……まぁ、あれだけ歪んだ思考に染まってる人を詭弁で何とかするのは容易だけれど。

 

 私も、常夫さんとの結婚を認めてもらうために、彼是手を尽くしてお母様を黙らせたから……でも、後輩をダシにしての賭けはダメよ。」

 

 

「「は~~い。」」

 

 

 

元より、私もお姉ちゃんも本気じゃなかったけどね。

 

でも、如何やら決着みたいだよお姉ちゃん。

 

 

 

 

『撃てぇぇぇぇぇぇ!!!』

 

 

『なんて変態起動………負けるな、撃てぇぇぇ!!!!』

 

 

 

 

ツェスカちゃんとの戦車戦を行っていた梓ちゃんが、突如として突撃してからの戦車ドリフトでツェスカちゃんの後部を取って一撃炸裂!!

 

其れに超反応したツェスカちゃんも主砲を放ったけど、後部装甲を狙われたのと正面装甲を叩いたのでは余りにも違い過ぎる――パンターG型同士なら、其れは更に大きいからね。

 

 

 

――キュポン

 

 

 

その結果として、梓ちゃんのパンターがツェスカちゃんのパンターを上回った結果になったね?白旗を上げたのは、ツェスカちゃんのパンターだったからね。

 

 

 

 

「ドイツからの鳴り物入りの留学生だったツェスカが負けるとは……本当に、ドレだけお前は澤の事を鍛え込んだんだみほ?

 

 此処まで行くと才能の開花と自身の努力だけでは説明がつかないぞ!?こう言っては何だが、ツェスカはドイツのジュニアリーグで負け知らずの強者だと言うのに、其れを打ち破るとは……澤の潜在能力はお前と同じで底が知れんよ。」

 

 

「と言う事は、最終日の模擬戦は面白い事に成るかも知れないね?

 

 梓ちゃんとツェスカちゃんが今日みたいな一時的にじゃなくて、チームとして本格的に力を合わせたら一体どれだけの強さになるのかって、其れを想像しただけでも私は楽しみで仕方ないんだよ♪」

 

 

「其れは、確かにそうかも知れないな。

 

 特に今年の最終日の模擬戦――1年vs2・3年の模擬戦には、2・3年チームに私と凛、みほとエリカと小梅が揃っているのだから、中学最強の連合軍と言っても過言ではないだろう。

 

 此れだけの相手に、どれだけ1年生チームがやってくれるのかって言うのは確かに楽しみではあるな――此れだけの戦力が揃っているんだから負ける事は無いだろうが、簡単に勝つ事も出来ないだろうからね。」

 

 

 

 

確かに。

 

ふふ、去年のお姉ちゃんもこんな気持ちだったのかな?自分達相手に1年生が何処までやれるのかって言うのはワクワクするからね。

 

 

さてと、1年生のバトルロイヤルの次は、2年生のバトルロイヤルだから行ってきます!

 

恐らくは、私とエリカさんと小梅さんが狙われるだろうから、さっきの梓ちゃんとツェスカちゃんみたいに共闘する事に成るとは思うんだけど、タイマンになってから如何戦うのかって言う、そのお手本を見せてあげるとしようかな♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梓

 

 

 

バトルロイヤルはなんとか勝つ事が出来た~~~……って言うかツェスカさん強過ぎ!

 

日々の回避訓練が無かったら、間違いなく一対一になった時点で撃破されてたよ。

 

 

 

 

「負けたわ、強いのねアズサ。ドイツのジュニアリーグでも貴女ほどの人とは滅多に会えなかったわ。」

 

 

「ツェスカさん。いえ、私の方もギリギリでしたから……ぶっちゃけ、隊長に鍛えられてなかったら瞬殺されてたと思いますし……」

 

 

「それでもよ。

 

 それから、同い年なんだから私の事は呼び捨てで良いし、敬語もいらないわよアズサ。」

 

 

「そう?じゃあ、そうするねツェスカ。」

 

 

「Gut.(其れで良し)……其れで、今度は2年生の模擬戦の見学?

 

 まぁ、私も含めて皆そうなんだけど、貴女は特に注目してるみたいね?――やっぱり、自分の隊長の活躍って気になるのかしら?」

 

 

 

 

其れもあるけど、隊長から『バトルロイヤルでの戦い方の一つのお手本を見せてあげる』って言われたから、其れをキッチリ見ておこうと思ったんだ。

 

私は、まだまだ未熟だから吸収出来る物は何でも吸収して、自分の物にしないとだから。

 

 

 

 

「成程……なら、私ももっともっと強くならないとね――せめて、次にやる時はアズサに勝てるように。」

 

 

「あはは……なら、私は次も勝てるようにしないと。――と、始まったみたいだよ。」

 

 

大体予想はしてたけど、明光大は隊長を、黒森峰は逸見さんと赤星さんを真っ先に狙い始めて、それで狙われた3人は申し合わせたかの様に共闘を開始して、徒党を組んできた相手を一気に撃滅し始めた!

 

隊長の強さは知ってたけど、逸見さんと赤星さんも引けを取らない位に強いし、何よりも連携が凄い――急ごしらえのチームなのに、私とツェスカのコンビとは天と地ほどの差がある見事なコンビネーション……凄い以外の感想が出て来ないよ!

 

 

 

 

「逸見先輩と赤星先輩の強さは知ってたけど、隊長の妹さんが此処までとは思わなかったわ!

 

 全国大会で優勝した位だから相当な人だとは思ってたけど、此れは隊長と同等か、或いはそれ以上?……何れにしても並の戦車乗りでない事だけは確かだわ。」

 

 

「隊長は凄く強い人だから。」

 

 

そんな人から個人的な指導をして貰えた私は、きっと物凄く幸せ者なんだろうな~~……其れだけ期待してくれたって事だからもっと頑張らないとだけどね。

 

 

でも、本当に西住隊長と逸見さんと赤星さんのチームは凄い――瞬く間に他の車輌が減っていく。数の差は圧倒的に不利なのに、其れを全く感じさせない……真の強者ってこう言うのを言うのかな。

 

 

 

 

「負けないわよみほ!行くわよ、おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「みほさんに向かうのは良いですけど、真横がお留守です♪」

 

 

 

――ズドン!

 

 

――パシュン!

 

 

 

 

「……今の絶叫のⅢ突は一体なに?」

 

 

「東雲先輩ぶれないですね……あっさりと赤星さんにやられちゃいましたけど。」

 

 

でも此れで、残ったのは西住隊長達3輌だけ……恐らくは逸見さんと赤星さんが手を組んで西住隊長を倒そうとして来る筈だけど、其れはきっと隊長だって分かってる筈……此処から如何戦うんだろう西住隊長?

 

 

 

 

 

「ご苦労様でした小梅さん、そしてさよならです♪」

 

 

「え?」

 

 

 

――ドゴォォォン!!

 

 

――パシュン

 

 

 

 

………へ?

 

東雲先輩を撃破した赤星先輩を、その直後に西住隊長が撃破したって言うのかな此れ?……いや、残存車輌が一時的に手を組んだ者同士になった時点で、味方は敵になるんだけど、だからってこうも即座に撃破出来る物なの!?

 

 

 

 

「小梅!?」

 

 

「そう言う訳でエリカさんもお疲れ様でした。そして、此れで最後です。」

 

 

「みほ!!アンタ、ドレだけ切り替え早いのよーーー!!」

 

 

 

 

――ズガァァン!

 

 

――パシュン!

 

 

 

 

更には続けて逸見さんの車輌も撃破。

 

赤星さんが撃破された事に気を取られた逸見さんは対応しきれなかったみたいだけど、若しかして西住隊長は最初から此れを狙ってた?

 

自分と逸見さん達が狙われて共闘する事まで予想の範疇で、最後の1輌を自分以外のどちらかに撃破させて、其処を間髪入れずに攻撃して撃破して、突然の事に虚を突かれたもう1人を撃破する――凄い!

 

私は、ツェスカとの共闘で相手を倒す事しか考えてなくて、その先なんて無かったのに、西住隊長は最初からこの結果に持っていく事を考えてたんだ!やっぱり西住隊長は凄いよ!

 

 

 

 

「確かに凄いけど、今まで共闘してた相手を、こうも簡単に切り捨てる事の出来るドライさの方が私は怖いわ……まるで死神じゃないアレ。」

 

 

「バトルロイヤルだからだよツェスカ。

 

 バトルロイヤルは全員が味方で敵なバトルだから、共闘した相手でも目的を果たせば敵になる……だから、隊長は即座に逸見さん達を共闘する仲間から撃破する相手にシフト出来たんだよ――其れが目の前の光景だからね。

 

 バトルロイヤルって言う、特殊な条件だから簡単に此れまで共闘してた相手を斬り捨てる事が出来る――味方が即敵になるから、共闘していても、目的を果たしたら即倒せって言う事なんだと思う。

 

 隊長は、きっとそれを私に伝えたかったんだと思うよ。」

 

 

「……でしょうね。バトルロイヤルに於いては、共闘した相手でも即座に撃破出来るように心構えを持っていろか……勉強になったわ色々。」

 

 

 

 

裏切りは普通は褒められたモノじゃないけど、バトルロイヤルに限っては合法だからね。

 

バトルロイヤルの戦い方の一例、ばっちりと見せて貰いました西住隊長!それと、少数部隊で大勢と戦う際の戦い方も!――この合宿は私の予想以上の効果を齎してくれるのかも。

 

 

よし、残りの日数も頑張るぞーーー!!

 

 

 

 

「Ich werde mein Bestes tun.(頑張るわ。)この合宿で、もっともっとレベルアップしないとね!」

 

 

「うん、頑張ろうねツェスカ!」

 

 

残りの合宿期間も、結構ハードな日程が組まれてるんだろうけど、必ず全部こなして見せます!其れ位出来なかったら、西住隊長のレベルまで達する事なんて出来ないからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

ふぅ……合宿の3日目も何とか無事に終わったな。

 

今日の訓練は学年別のバトルロイヤルだったんだが、結局黒森峰で勝てたのは私だけか――ツェスカは澤に、エリカと小梅はみほにやられてしまったからね。

 

尤も、私も凛とのタイマン勝負を何とか制する事が出来た訳なのだがな……バトルロイヤルと言うのは、何が起きるか分からないから、本当に楽しいモノだけれどね。

 

 

そして、今日の訓練を終えて、只今皆でお風呂タイムだ。

 

ふぅ、子供の頃から慣れ親しんでいるとは言え、矢張りこの温泉は疲れた身体には有難い物だね……全身の力が抜けていく様だ――何よりこの温泉には、疲労回復の効果があるらしいから、訓練で疲れた身体には持って来いだ。

 

 

 

 

「今日も濃い内容だったわねまほ?お疲れ様。」

 

 

「あぁ、お疲れ様だ凛――今日のバトルロイヤルは見事だった。

 

 驕る心算は無いが、もっと楽に行けると思ってたんだが、お前の粘りには驚かされたよ。――お前をライバルと認めたのは間違いじゃなかったらしい。」

 

 

「嬉しい事言ってくれるじゃない?

 

 でも、私がここまでこれたのはみほと、そして貴女が居たからよまほ。みほが、私の力を引き出してくれて、貴女が私を引っ張ってくれた。

 

 だから、私は今此処に居る事が出来る――貴女達姉妹には感謝してもし切れないわ。」

 

 

 

 

そうか、其れならば良かったよ。

 

時に凛、お前は高校は何処に進む心算なんだ?高校でも戦車道は続けるのだろう?……お前程の戦車乗りが、中学で終わってしまうと言うのは勿体ないからな。

 

 

 

 

「高校でも戦車道は続けるつもりだけれど、何処に行こうか迷ってるのよね。

 

 大会で全試合フィニッシャーになったって言う事でサンダースや聖グロから勧誘が来てるんだけど、正直決めかねてるわ。」

 

 

「そうか。……なら、黒森峰に来ないか凛?」

 

 

「へ?」

 

 

 

 

去年の準決勝と合宿、そして今年の合宿でお前の強さは実感させて貰ったからね――行くところが決まってないのならば黒森峰に来い凛。

 

敵としては充分に戦ったから、今度はお前と仲間として戦ってみたいんだ。

 

 

 

 

「其れは、光栄なお誘いだけど、安斎さんは良いの?彼女だって……」

 

 

「いや、安斎にはフラれてしまったよ――彼女は、アンツィオの立て直しに尽力するらしい。」

 

 

「アンツィオの……其れって結構無茶振りな気がするけど、彼女なら出来るかも知れないわね?――黒森峰一強時代を終わらせた訳だし。」

 

 

 

 

あぁ、実に見事だったからな安斎は。

 

其れで如何だろう凛、黒森峰に来てくれないか?お前となら、高校でも良い戦いが出来ると私は思ってるんだ――ダメかな?

 

 

 

 

「……良いわ、その話受けるわよまほ。

 

 何よりも、隊長直々のラブコールを貰ったんだから、安斎さんのように何か目的があるんじゃない限りは、其れを蹴るって言うのは無礼極まりないからね――高校では、お世話になるわまほ。」

 

 

「ありがとう。――尤もお前は、私が世話する事もないと思うけれどな凛。」

 

 

「其れは言葉の綾って奴じゃない?」

 

 

「違いないな。」

 

 

何にしても、凛を黒森峰に引き入れる事が出来て良かったよ――再来年にはみほとエリカと小梅も黒森峰の高等部に来るだろうから、最高の布陣を組む事が出来るからね。

 

 

来年の事を言うと鬼が笑うと言うが、高校での戦車道も中々面白い物になりそうだな?――来年の凛とのチーム、楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

そんなこんなで、恙無く合宿は進んで、今日は遂に最終日。

 

1年生vs2・3年生の模擬戦――戦力だけ見たら負ける事はないと思うんだけど、この数日間で1年生は可成りレベルアップしてるから余裕って言う相手でもないかな。

 

特に、梓ちゃんとツェスカちゃんは、目を見張る位の成長をしてたからね。

 

 

其れは其れとして、2・3年チームの隊長は誰がやったモノかな?

 

本来ならお姉ちゃんか部長を推す所なんだけど、3年生は今年で引退だから後身を育てる意味で、隊長は2年生の中から決める事に成ってるからね……さて、如何しようかな?

 

 

 

 

「迷う事ないんじゃない?隊長はみほで決まりよ。

 

 西住隊長……基、まほ隊長が隊長を務めるなら兎も角、それ以外で部隊を指揮できるのはみほしかいない――だから、私はみほを隊長に推薦するわ。」

 

 

「私もエリカさんに同感です。

 

 此の部隊を纏められるのは、みほさん位の物だと思いますから♪」

 

 

 

 

って、私が隊長!?

 

エリカさんと小梅さんだって隊長を務める事が出来ると思うんだけど、其れなのに私が隊長で良いのかな?

 

 

 

 

「異論は認めないわみほ……あんたは間違いなく最強よ!

 

 寧ろあんたが隊長じゃなくて誰が隊長になる訳?まほ隊長が隊長職に就かないのなら、アンタ以外の隊長は居ないわよみほ。」

 

 

「そう言う事なら、期待には応えないとだね!!」

 

 

合宿最終日の模擬戦、隊長として参加させて貰うよ!――梓ちゃんとツェスカちゃん率いる1年生部隊が何処まで私達に喰らい付く事が出来るか、其れがとっても楽しみだからね♪

 

 

それじゃあ、始めるとしようか、合宿の最後の模擬戦て言う物をね!――全てを蹴散らしましょう、Panzer Vor!!

 

 

 

「「「「Jawohl.」」」」

 

 

 

 

さぁて、見せて貰うよ梓ちゃんツェスカちゃん――即興のタッグであるにも関わらずに、あそこまで見事なコンビネーションを見せた貴女達は、私達に対してどう攻めて来るの?

 

 

其れを考えただけでワクワクして来るよ――如何やら、今年の合宿は去年の合宿以上な事に成るのかも知れないね。……尤も、其れ位の方が、合宿の意味もあるって所だけどね♪

 

 

 

何れにしても最終日の模擬戦は負けたくないから……だから必ず勝ちに行きましょう!この戦力ならば、負ける事は殆ど無いって言って良いからね……さぁ、派手に始めようか!

 

合宿最終日の模擬戦にに相応しい派手さを持ってしてね!覚悟しておいてね梓ちゃんツェスカちゃん、この戦い、手加減は出来ないから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer40『合宿模擬戦全力全壊です』

何だかんだで40話です♪Byみほ      40話…でも、まだまだこれからよ!Byエリカ      益々精進していきましょう!By小梅


Side:梓

 

 

 

合宿最終日の模擬戦――1年生vs2・3年生での模擬戦なんだけど、幾らフラッグ戦ルールとは言え、此れは幾ら何でもキツク無いかなぁ?

 

西住隊長を相手にするのだけだって相当なのに、其処に部長と、隊長のお姉さんと、黒森峰の副隊長と副隊長補佐が居るって、これって相当な無理ゲーって思うのは私だけかなツェスカ?

 

弱音を吐く心算は無いけど、ハッキリ言って戦力差が凄すぎる――其れこそ大戦期のアメリカと日本位の戦力差があるんじゃない?

 

幾ら西住隊長に鍛えられたって言っても、今の私じゃこの戦力差を覆す戦術は思いつかないよ……って、弱気になっちゃダメだよ!!

 

 

 

 

「まぁ、確かに相手はトンでもない位の過剰戦力だけど、其処につけ入る隙が無いとは言い切れないわ。

 

 西住まほ隊長が言ってた事なんだけど、この世界に絶対強者は存在しない――一勢力が栄華を極めようとも、其れは泡沫の夢に過ぎず、必ず次の勢力が力を伸ばしてくる物なんだって。」

 

 

「盛者必衰……隊長のお姉さんが言うと説得力ありますね。」

 

 

自ら盛者必衰を今年の大会で味わった訳だし。

 

だからと言って、この合宿を見る限り隊長と同じかそれ以上に凄い人なのは間違いないし、部長は言わずもがなで、逸見さんと赤星さんも隊長と略互角レベルだから何か策を考えないと瞬殺されちゃうかも……如何しようかな。

 

 

そう言えばツェスカは、この模擬戦はどの戦車に乗るの?この間のバトルロイヤルの時と同じくパンターで行く?

 

 

 

 

「実を言うとパンターにするかティーガーⅠにするか迷ってるわ。」

 

 

「其れなら、パンターにしない?私は今回ティーガーⅡに乗るつもりだから。

 

 で、少し作戦があるんだけど――――って言う感じで、こんなのは如何かな?」

 

 

「此れは……案外いけるかも知れないわよアズサ!

 

 決定打にはならないかもしれないけど、其れでも、此れは隊長達だって予想してない事だろうから、きっといい戦果を齎してくれる筈だわ!

 

 こんな作戦を思いつくなんて、流石は軍神の弟子ねアズサ?」

 

 

「そんな大した事はないよツェスカ……私は、私の為すべき事をして来ただけだからね。」

 

 

だから、この模擬戦で、此れまでの私の全てをぶつけます西住隊長!!――勝てるとは思わないけど、簡単に負ける心算はありません!!

 

受け止めて貰いますよ西住隊長、今の私にできる全力を!!

 

 

因みに、隊長はツェスカね?

 

如何に私があり得ない成長をしてるとは言え、ドイツで鳴らして来たジュニア選手のツェスカの方が経験は上だから隊長には相応しいから。

 

 

さぁ、行きますよ西住隊長!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer40

 

『合宿模擬戦全力全壊です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

合宿最終日の1年vs2、3年連合の模擬戦は、試合開始前から去年よりも凄い熱気に包まれていた。単純に夏の暑さだけではない。

 

その原因は、両チームの隊長と副隊長に有ったと言っても過言ではないだろう。……何と言っても連合チームの隊長であるみほと、1年チーム隊長のツェスカの間には、凄まじいまでの視線のスパークが起こっているのだから。

 

 

しかも其れだけでなく……

 

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 

――バチィ!!

 

 

 

 

両チームの副隊長であるエリカ(3年生勢は副隊長も辞退した)と梓もまた、凄まじいまでの視線のぶつかり合いを展開していた。

 

どちらも全く持って退く気がないところ見ると、試合前の睨み合いから、既に勝負は始まっていたと言えるだろう――何れにしても、みほとエリカと対峙して、全く怯まない梓とツェスカの胆力は大したモノなのは間違いない。

 

 

 

「良い目をしているねツェスカちゃん。

 

 澄んだ瞳の奥に見える闘志の炎……心の底から戦車道が好きで、戦車道を楽しんでいないと出来ない目だよ――ドイツのジュニアリーグで負けなしって言うのも頷けるかな?

 

 貴女と梓ちゃんが、どうやって私達に挑んでくるのか楽しみだよ。手加減をする心算は無いから、最初から全力で来てね?」

 

 

「Ja.(はい。)最初から全力で行かせて頂きます――そうでないと、恐らく勝負にならないかもしれませんから。」

 

 

「ふふ、楽しみにしているよ。」

 

 

 

 

「今年から始めたにしては良い目をしてるじゃない?流石はみほの子飼いの部下……いいえ、みほ自らが見出した愛弟子と言った方が良いかしら?

 

 何にしても、胆が据わってるのだけは確かね?こう言ったらなんだけど、私に睨まれて平気な子ってあんまり居ないのよ?」

 

 

「……西住隊長と練習してると、嫌でも度胸はつきますよ?

 

 回避訓練では止まったら撃破されますし、紅白戦とかバトルロイヤルみたいな実戦形式の練習だと、隊長って割と本気で相手を倒しに来ますから、度胸が無いとあっと言う間に呑まれてお終いなんです。」

 

 

「明光大の練習内容を聞いてると、背筋を嫌な汗が流れてく気がするわ……まぁ、其れだけの度胸があるなら楽しめそうね澤。

 

 今の貴女達が持てる力の全てを遠慮なくぶつけてきなさい――私達が、其れを粉砕してあげるわ。」

 

 

「簡単には砕けませんから!」

 

 

 

みほはツェスカと、エリカは梓と言葉を交わし、その後みほと梓、エリカとツェスカも少し言葉を交わして、両チームの隊長と副隊長は夫々の陣営に戻って行く。

 

 

マッタク持って今更だが、大会さながらの模擬戦を行う事が出来る演習場を有している西住家は一体どれほどの大家なのだろうか……流石日本戦車道における二大流派の片翼を担っているだけはあると言う所だろう。

 

 

 

さて、自軍の陣営に戻って来たみほは、模擬戦開始の前に最後の作戦確認を行い始めた。

 

 

 

「其れで隊長、1年生チームは如何来ると思う?」

 

 

「もう、止めてよお姉ちゃん。お姉ちゃんに隊長とか呼ばれると、背中がむず痒くなっちゃうから……って、ちょっと面白がってやってない?」

 

 

「さぁ、如何だろうな?」

 

 

「もう!

 

 だけど、そうだね……戦力的には私達の方が絶対的に上だから、1年生チームは真正面からのぶつかり合いを避けて、此方を翻弄する為の策を弄して来ると思うんだ。

 

 具体的に言うなら、演習場に点在してる小規模な雑木林に誘い込んでのゲリラ戦を仕掛けて来る可能性がとっても高いと思う。

 

 付け加えるなら、梓ちゃんの策に乗じてツェスカちゃんが黒森峰仕込みの重戦車の火力での真っ向勝負を仕掛けてくる事も頭に入れておくべきかも知れないね。」

 

 

 

姉妹のちょっとしたじゃれ合いはあったが、其れでもみほは1年生チームがやって来るであろう事を模擬戦が始まる前から尽く看破して作戦を確認していく。相手は格下でも、一切の油断はしないと言う事なのだろう。

 

更に言うのならば、みほには梓がどんな事をしてくるかは大凡の見当が付いていた――当然だ、梓を鍛えたのはみほなのだから。

 

 

だからこそみほは、1年生チームが何をしてくるか楽しみで仕方なかった。

 

確かに梓がどんな作戦を展開して来るかを読む事は出来るが、だがツェスカの考えまで読む事が出来るかと言われれば其れは否だ。

 

如何にまほに鍛えられたとは言え、この合宿で初めて知り合ったツェスカの考えを読む事は、如何に人間観察が得意なみほであっても簡単な事ではなく、だからこそ何かしてくるのではないかと言う期待が有ったのだ。

 

 

 

「楽しそうねみほ?」

 

 

「うん、凄く楽しいよエリカさん!

 

 ……梓ちゃんとツェスカちゃん、将来有望なこの2人がどうやって私達に挑んでくるのか、其れを考えるだけでも私の心はワクワクして来るから。

 

 エリカさんだってそうでしょ?」

 

 

「まぁね。

 

 ツェスカは今年の黒森峰の1年では間違いなく最強だし、私に睨まれて臆さなかった澤も相当だと思うから……確かに楽しみではあるわ。」

 

 

 

2、3年連合チームの副隊長であるエリカと話しながら、みほは己の乗る戦車の前にやって来た――最早、己の半身と言っても過言ではないアイスブルーのパンターの前に。

 

 

既に準備は出来ている――後は模擬戦の開始を待つだけだ。

 

 

 

そして――

 

 

 

『其れでは、試合開始!』

 

 

 

スピーカーから、しほの試合開始が告げられる。

 

 

 

「「Panzer Vor!!」」

 

 

 

其れと同時に、みほとツェスカが戦車前進を指示し、両軍とも夫々の戦力を展開していく。

 

2、3年チームはみほとエリカと小梅がメインとなった第1小隊、まほが指揮する第2小隊、凛の指揮する第3小隊と、部隊を3つに分けて1年チームが陣取るであろう場所へと夫々進軍して行く。

 

総合的な戦力で見ると、みほ小隊がやや高い感じがするが、此れはこの模擬戦のルールに於いて『フラッグ車は隊長車』と言う特殊ルールがある為に、フラッグ車を守る意味でやや戦力が高くなっているのだ。

 

 

 

「さてと、このまま何もなく進軍出来たとして、お姉ちゃんと部長が1年生チームと接敵するのは最短で10分後って所だね。

 

 全車停止、本隊は此処で陣を組み、第2小隊と第3小隊からの連絡を待ちます。」

 

 

「了解。って言うか、去年の合宿でも思ったけど、貴女って戦車乗るとちょっと感じが変わるわよねみほ?」

 

 

「ふぇ?そうかなぁ?」

 

 

「そうですねぇ?

 

 普段のみほさんは、何て言うかお転婆少女って言う感じなんですけど、戦車に乗ると冷静沈着で的確に指示を飛ばしてますからねぇ?

 

 戦車に乗ってる時のみほさんは、正に軍神。中学戦車道で知らない者は居ない『隻腕の軍神』ですね♪」

 

 

「まほさんが『冷然たる武神』でみほが『隻腕の軍神』って、西住姉妹はんぱないわね……」

 

 

「もう、止めてよエリカさんも小梅さんも!」

 

 

 

で、みほ小隊は部隊をある程度進めると、遮蔽物のない平原のど真ん中で停車し、まほや凛からの通信が入るのを待つ。この場所ならば見通しも良く、仮に周囲に何個かある藪から1年チームが仕掛けて来たとしても、完全に丸見えなので見てからでも対処が間に合うのである。

 

そして、停車中に仲間と談笑できると言うのも、此れは油断ではなく余裕からきているモノと言えると同時に、みほにしてみれば態と隙を見せていると言う事でもある。

 

双眼鏡で此方を見る事が出来ていたのならば、仲間と談笑してる相手と言うのは隙だらけ以外の何物でもないから、攻め入る大チャンスであり、その大チャンスに1年チームが如何動いて来るのかにも興味があった――尤も、此れに乗って来たら即座に撃破する準備も確りと整えていると言うのだから恐ろしいが。

 

 

 

そんなこんなで、エリカ達と雑談を始めて暫くして――

 

 

 

『こちら第2小隊、第1目的地に到達した。』

 

 

『こちら第3小隊、第1目的地点に到着したわ。』

 

 

 

略同じタイミングでまほと凛から通信が入り、此れを合図にみほの顔は雑談をしていた少女の物から、軍神と称される戦車乗りの物へと変わり、其れを見たエリカと小梅の表情も引き締まる。

 

いよいよ此処からが本番なのだから。

 

 

 

「藪の中に敵影は?如何に藪に潜んでいるとは言え、Ⅲ突は2輌とも此方に居る事を考えると、完全な待ち伏せは難しいと思いますが……」

 

 

『いや、此方には敵影は確認できない。試しにⅢ突での威嚇射撃を行ったが応戦はなしだ。』

 

 

『敵影はないわ。ラングで一発ぶち込んだけど反応はないし、この藪は外れだったのかも知れないわね。』

 

 

「2カ所とも外れ?」

 

 

 

だが、まほと凛からの通信を受けたみほは両方の藪が外れだった事が意外だった。

 

少なくともみほの見立てでは、1年チームの練度や実力を総合的に判断した結果、まほと凛を向かわせた茂みに潜む確率が最も高いと考えていたのだから。

 

 

 

――見立てが外れたか?

 

 

 

そう思った次の瞬間に、其れは来た。

 

 

 

「みほ、前方に敵影!――アレは、1年チームの全軍よ!!」

 

 

「えぇ!?まさか、真正面から挑んで来たって言うの!?」

 

 

 

エリカが双眼鏡で辺りを確認していた所、真正面から向かってくる1年チームを視界にとらえる事が出来たのだ。

 

此れにはみほも流石に驚いた――まさか、真正面から挑んでくるとは思わなかったから。

 

 

 

「(真正面から……でも、そうか。梓ちゃんは敢えて奇策を捨てて挑んで来たんだね?

 

  私が指導したから、どんな策を弄しても私には全て読まれちゃうって思って藪に潜んでのゲリラ戦を捨てて、真正面から挑んで来たか。

 

  其れも、明光大最強のティーガーⅡに乗って、そしてツェスカちゃんがパンターって……此れは、完全に裏をかかれたなぁ。)」

 

 

 

だが、驚きながらもみほの顔には笑みが浮かんでいた。まさか、梓が自分の予想を超える事をしてくるとは思わなかったのだろう。

 

だからこそ面白い。ならば、其れを受けきってやるとばかりに、みほはパンツァージャケットの上着を肩に引っ掛けるように着直し(イメージは遊戯王の闇遊戯が学ランを肩に引っ掛けてる感じ。)真正面から挑んで来た1年チームを見据える。

 

 

 

「真正面から来ましたか……ならば其れには応えましょう!

 

 第2小隊と第3小隊の合流には時間がかかるでしょうが、合流前にフラッグ車を叩いて終わらせます……全軍前進!!」

 

 

 

そして進軍!

 

この模擬戦、みほと小梅はパンターで出ているが、エリカはティーガーⅠで出撃しているので、火力に関しては問題なく、ティーガーⅠの主砲ならば、ティーガーⅡの装甲を抜く事は可能な上に、パンターならどこに当てても撃破出来る。

 

ゲリラ戦を捨てて突撃して来た梓達だが、フラッグ車を容易に撃破出来る戦力を有しているみほ達の方が圧倒的に有利なのは間違いない。

 

 

だが――

 

 

 

「撃て!!」

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァン!!

 

 

 

1年チームのヤークトパンターが放った一発が、みほ小隊の最前線にいた千尋のティーガーⅠを襲い、呆気なく白旗を上げさせる。

 

完全に予想していなかった攻撃に、明光大の副隊長も対処できなかったのだ。

 

 

狙ったのか?……否、そうではない。

 

偶々、最も近くにいる戦車を攻撃したら撃破出来たと言う所だろう――狙うのならば、みほのフラッグ車を狙うのが上策なのだから。

 

其れでも、先手を取る事が出来たのは良い事だろう。先手を取る事が出来れば、其のまま一気に波に乗る事だって不可能ではない上に、先手を取ると言うのは部隊の士気向上にも繋がるのだ。

 

 

たった1輌、されど1輌と言ったところだろう。

 

 

 

だが、其処は流石のみほだ。

 

 

 

「全軍砲撃開始!敵フラッグ車を集中的に狙って下さい――私の予想を思い切り裏切ってくれたんだから、そのお礼はちゃんとしないとね♪」

 

 

 

即座に状況を理解すると、全軍に攻撃を指示し、ツェスカの乗る隊長車兼フラッグ車に攻撃を集中させる。

 

確かに自分の目論見は見事に躱されたが、だからと言って其れが如何した?模擬戦のルールはフラッグ戦なのだからフラッグ車を撃破すれば其処で終わりだ。

 

 

梓が、自分の考えを読んで策を捨てた奇策を使って来た事には驚き、多少の嬉しさを感じたみほだが、真正面から挑んでくるのであれば、それはみほにとってはカモに他ならない。

 

 

みほは自分が正当な西住流ではないと自覚しているし、真正面から押せ押せの戦いよりも、此れでもかと言う位に策を巡らす戦いを得意としているが、だからと言って正面突破上等の西住流殲滅戦法が出来ない訳ではない。

 

寧ろ、戦力で上回っているならば、殲滅戦法上等なのがみほだ。――何よりも、嬉しい誤算として、自分のチームにはティーガーⅠに乗ったエリカがいるのだから、火力面でも不安はない。

 

 

 

「真っ向勝負、受けて立つよ梓ちゃん。」

 

 

「真正面からとは良い度胸してるじゃないツェスカ?……受けてやるわ!!」

 

 

 

だから、此処で終わりにしようとみほ小隊は1年チームに向かい、そしてそのまま激しい戦車戦に突入!

 

1年チームは梓のティーガーⅡがフラッグ車であるツェスカのパンターを護る様に位置を取り、砲塔を『食事の角度』にする事で2、3年チームの猛攻からフラッグ車を護っていた。

 

 

この見事な戦い方には、みほだけでなくエリカや小梅も舌を巻いた。

 

如何にみほが1年生チームの力を引き出したいと言う理由で、本当の意味での全力を出してはいないとは言え、8割開放のみほと互角に渡り合う事の出来る梓とツェスカの実力に驚かされたのだ。

 

 

真っ向勝負を挑んで来た1年チームに対してみほ達も真っ向から対処しようとするが――

 

 

 

「ツェスカ、今だよ!!」

 

 

「OK!喰らえ、閃光煙幕弾!!」

 

 

 

――カッ!!

 

 

――ボウン……!!

 

 

 

そこで、ツェスカがまさかの発煙筒と閃光弾の同時投擲を敢行!

 

敵視界抹殺は明光大のお家芸であり、みほが流れを掴む意味合いで最もよく使う戦術だが、まさかそれを使われるとは思っていなかったのだろう。

 

否、ある程度予測はしていたが、ツェスカが其れを使ってくると言うのは思いもしなかった。だから、こうも見事に嵌ったのだ。

 

 

そして、此れこそが試合前に梓がツェスカに持ちかけた『作戦』だった。

 

梓は自分が策を弄する事はみほに看破されているだろうと考え、ならばとその裏をかき、自分が重戦車での正面突破を敢行し、逆にツェスカに搦め手の視界奪取を行うように言ったのだ。

 

 

其れは実に見事に嵌った。

 

梓は搦め手で来るだろうと考えていたみほにとって、梓の正面突破は予想外であり、ツェスカは策に乗じて蹂躙して来ると思っていたエリカにとってもこの閃光煙幕攻撃をツェスカが行ったと言うのは衝撃的だった。

 

 

だが――

 

 

 

「あは……あははははは!やってくれるよ梓ちゃん。

 

 師が弟子を見ている以上に、弟子は師を見てたって言うのかな?……此れは完全に予想外だった!全く予想していなかったよ。

 

 でも、だからこそ面白いよ――此れこそが戦車道!最高だよ梓ちゃん……私の目に狂いはなかった!!矢張り貴女は最高だよ!!」

 

 

「此処で搦め手とは……やるじゃないツェスカ。

 

 アンタが搦め手で来るのは予想外だったけど、其れはつまり、私達に勝つ為の布石って言う事よね?……上等じゃない、受けてあげる!」

 

 

 

みほ小隊のトップ2であるみほとエリカの顔には『壮絶』でも足りない程の背筋が凍る程の笑みが浮かんでいた――戦車道での戦いを心底楽しみ、それ以上に戦い其の物を楽しんで居なければ浮かべる事の出来ない『戦う者』の笑みが。

 

 

 

「此れは、面白い事に成りそうです。」

 

 

 

そして、みほとエリカには劣るが、小梅もまたその笑みを薄く浮かべていた。

 

此れが後に『黒檻峰の隻腕の軍神』『黒森峰の銀狼』『黒森峰の隼』と呼ばれる事に成る3人のチーム初結成であったのだ――そして、その評価は間違いではない。

 

 

静かに笑みを浮かべるみほは正に軍神であり、獰猛な牙を隠そうともしないエリカは狼で、控えめに笑みを浮かべる小梅は上空から獲物を

 

狙う隼そのものだったのだから。

 

 

 

「視界が回復したら、直ぐに追撃するよ!

 

 私達の視界を奪っておきながら、其処でフラッグ車を狙ってこなかったって言う事は、此方のフラッグ車をより確実に撃破する為の策がある筈だからね……其れが発動する前に、相手のフラッグ車を叩く!――異論は?」

 

 

「無いわよみほ――寧ろ思い知らせてやろうじゃないの……あの子達と私達の間にある絶対的な壁って言う物をね!!」

 

 

「其の壁を越える事が、彼女達が『本物』になるための試練になるのですから、異論はありません。私達も、全力で行きましょうみほさん!」

 

 

「それじゃあ、改めて……Panzer Vor!」

 

 

「「Jawohl!!」」

 

 

 

そして、みほ小隊は視界が回復すると同時に、1年チームを追撃開始!

 

奇策を越えた奇策で、1年チームが先手を取ったとは言え、其れが逆にみほ小隊の力を底上げしたと考えると、一概に何方が先手を取って優位に立ったかとは言えないだろう。

 

 

難にしても、最終日の模擬戦は此処からが本番――其れは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梓

 

 

 

ふぅ~~~……取り敢えず、最初の作戦は何とか巧く行ったけど、逆に言うのなら、西住隊長には此処からはどんな搦め手も多分通じない。

 

戦車戦になったら多分私もツェスカも勝ち目はないし、時間が経てば隊長のお姉さんや部長もやって来ちゃうだろうから、小隊全部が合流する前に、西住隊長を――フラッグ車を叩く!それ以外に勝ち目はないからね。

 

 

 

 

「だからと言って西住妹様が登場してるフラッグ車を落とすのは簡単じゃないと思うんだけど……って言っても、貴女はやるんでしょアズサ?」

 

 

「勿論だよツェスカ……勝つ気で行かなきゃ隊長には敵わないから――私は、この合宿で隊長を越えて見せる!!」

 

 

「其れは……何とも凄い目標じゃない?でも、其れ位の思いが無かったら、あの妹様に勝つ事なんで出来ないだろうけどね。

 

 でも、其れは果てしなく遠い道よアズサ……其れでも、貴女は進むの?」

 

 

 

 

其れは愚問だよツェスカ。私は、西住隊長の勇姿を見て、其れに憧れて戦車道に足を踏み入れたんだから、どれだけ遠い目標でも其処を目指して行けば、何時か必ず追い付けるし、追いかける段階で得た知識だって無駄にはならないから。

 

 

だからこの模擬戦、私の持てる全ての力を持ってして貴女に挑みます西住隊長!

 

 

受け止めて貰いますよ……私の力を――否、私達1年生チームの力を!!

 

私の成長は、貴女の予想の上を言ってるんだって言う事を、この戦いで証明します!――だから、手加減は無しの方向で願いします!!

 

 

 

「手加減なんて最初からないでしょうに……そもそもが無理ゲーレベルだしね?――勝つ気で行くんでしょアズサ。」

 

 

 

 

うん、その心算だよ

 

此処からが第2ラウンドにしてファイナルラウンド……全力で行きますよ、西住隊長!!私達の本気と全力、受け取って下さい!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer41『此れが軍神の本気です』

梓ちゃんとツェスカちゃん…私達を楽しませてよ!Byみほ      持てる力の全てをぶつけてきなさい?Byエリカ      私達が、其れを粉砕します!By小梅


 

Side:みほ

 

 

 

先手を取られちゃった上に、煙幕攻撃で視界まで奪われちゃったか――如何やら梓ちゃんは、私が思ってる以上に戦車長としての力を身に付けているみたいだね?

 

自分とツェスカちゃんの得意分野を敢えて交換して来るなんて事は、全く持って考えても居なかった――完全に裏をかかれた感じだなぁ。

 

 

 

 

「確かに裏をかかれた感じなのは否めないけど、その割には随分と楽しそうじゃないのよみほ?」

 

 

「楽しそうじゃなくて楽しいんですよエリカさん。

 

 私が教えた子が、言うなれば愛弟子が、私の予想を超えて来たんですよ?此れを楽しいと言わずして何て言うんですか♪楽しい以外に形容仕様がないじゃないですか。

 

 其れにエリカさんだって、ツェスカちゃんの意外な成長を喜んでるでしょ?」

 

 

「……否定はしないわ。

 

 隊長から、ツェスカの訓練と教育に関しては一任されたから、徹底的に鍛えてあげたんだけど、其れがこの戦いで発揮されてるって言うのは悪い気分ではないわね。」

 

 

 

 

素直に嬉しいって言えばいいのに素直じゃないなぁエリカさんは……まぁ、其れがエリカさんの個性って言う物なんだろうけどね。

 

 

 

 

「で、此処から如何動く心算なの隊長?

 

 別動隊の合流には最低でも10分はかかるから、其れを待ってたら、相手に策を巡らす時間を与える事に成るんだけど……」

 

 

「分かってるよエリカさん――だから、本隊は此のまま1年生チームを追撃します。

 

 だけど、先の煙幕に乗じて、1年生チームが散開して藪に隠れた可能性も排除できないので、お姉ちゃんの小隊と部長の小隊は、手近な藪などを探して、見つけたら攻撃して下さい。

 

 そうすれば、隠れていた相手をあぶりだす事が出来ますから。」

 

 

 

『『了解!!』』

 

 

 

さあ、本番は此処からだよ梓ちゃん――見せて貰うよ、貴女が持っている力って言う物をね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer41

 

『此れが軍神の本気です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

合宿最終日の1年vs2、3年連合の模擬戦は、1年生チームが先手を、其れもみほ率いる小隊の戦車を撃破しての先手を取って流れを自分に引き寄せた展開となった。

 

 

無論撃破したのは1輌のみなので、その程度の差はないと考えた方が良いのだが、其れでも先手を取れたと言うのは大きい事に代わりはないだろう。

 

 

 

「序盤は、何とかこっちのペースで出来た……1輌撃破出来たのは御の字だよ――多分、同じ手は二度は通じないだろうからね……」

 

 

「でも、貴女の作戦はバッチリだったと思うわアズサ。

 

 貴女の策が、結果として初手を取る事に繋がったんだから自信を持っていいんじゃない?――流石、私を倒しただけの事はあるわね♪」

 

 

「もう、止めてよツェスカ!次にやったら結果は分からないんだから。」

 

 

 

で、1年生チームは現在小規模な雑木林に身を潜めていた。

 

みほ小隊を煙幕で足止めすると、全速力でこの場所まで移動して来たのだ――隊長であるツェスカと副隊長である梓の部隊の動かし方が見事だったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

「其れで、此れから如何しようかしら?

 

 問題は相手の出方なのよねぇ……まほ隊長やエリカ先輩だったら、小隊と合流してから全軍で進撃して来るんだろうけど、妹隊長ってそう言うタイプじゃないでしょ?」

 

 

「妹隊長って……まぁ、確かに西住隊長はそう言うタイプじゃないかな?

 

 多分小隊は小隊で別に動かしながら、自分は自分で私達の事を追って来てるんだと思う。

 

 隊長が、このティーガーⅡに乗ってたなら全軍進撃もあり得たかもしれないけど、今日乗ってるのは元祖隊長車のパンターだから蹂躙戦術は使ってこないと思う……多分。」

 

 

「其処は言い切れないんだ?」

 

 

「言い切れない。って言うか無理。

 

 西住隊長の考えを完全に読み切れる人なんて居るのか疑問だよ?まほさんを倒した安斎さんですら、西住隊長の策を読み切る事は出来なかったんだから。」

 

 

「まほ隊長をして『策に手足が生えて服着てるような奴だ。』って称した安斎隊長でも読み切る事が出来ないって、妹隊長ハンパないわ。

 

 でもまぁ、ある程度アタリを付ける事が出来れば御の字ね――簡素ではあるけど、此処に至るまでのルートに罠は仕掛けたし。」

 

 

「其れに引っ掛かってくれるかは分からないけどね。」

 

 

 

そして、みほ達が此処に到達するまでの時間を使って、此れから如何動くかを詰めていく。

 

基本的には、この雑木林の中からの攻撃を仕掛けるのだが、如何やら此処に来るためのルートに罠を仕掛けていたらしく、其れを使った戦術も考えて居る様だ。

 

 

 

「其れじゃあ手筈通りにお願いするわアズサ。」

 

 

「任せてツェスカ――私にとっても、この模擬戦は良い機会だから、西住隊長に全部ぶつけて来るよ!」

 

 

「私も、逸見先輩に持てる力の全てをぶつけるわ――善戦じゃなくて、勝ちに行くわ!!」

 

 

「だよね♪」

 

 

 

そして1年生チームはツェスカ率いる中隊が雑木林に潜み、梓率いる中隊がみほ小隊への攻撃を敢行する布陣であるらしい――初手で功を奏した『力の梓』と『策のツェスカ』をとことん貫き通す心算で居るらしい。

 

普通に考えれば得意分野の交換などと言う物は、中途半端な物になってしまうのだが、梓は全国大会の決勝戦で重戦車での戦い方を、略完璧に覚えており、ツェスカもまた黒森峰に編入する前は本場仕込みの電撃戦や待ち伏せ戦と言った戦い方を学んでいた為に、得意分野を交換しても、あまり問題はなかったのだ。

 

 

更に言うのならば、梓もツェスカも己の師の事は尊敬しているが、同時に其れは尤も超えたい相手でもあるのだ――尊敬しているが故に越えたいのだろう。

 

 

 

「勝つわよ、アズサ。」

 

 

「勿論だよツェスカ――最初から、勝つ心算だったんだから。」

 

 

 

だから、相手が遥かに格上の相手でもこの2人に恐れや怯えと言う物は全く見えない――それどころか、その瞳には苛烈なまでの闘志が炎となって燃えているのだ。

 

此れならば、勝てずとも簡単に負ける事はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、一方で梓達を追撃していたみほ小隊は、まほ小隊や凛小隊との連絡を密に行いながら、1年生チームが待ち構えているであろう雑木林へと向かっていた。

 

 

そしてその選択はドンピシャリだ。――みほ達が目指しているのは、正に1年生チームが逃げ込んだ雑木林なのだから。

 

恐るべき鋭さと思うかも知れないが、此れは別に難しい事ではない。

 

抑々にして梓に戦車道を叩き込んだのはみほなのだから、自分の教えを受けた梓が視界を奪った後でどんな一手を打って来るのか位は予想が出来るのである。

 

もっと言うのならば『自分だったら、同じ状況で如何するか』と言うシミュレートを行った結果が、バッチリと1年生チームが潜んでいる雑木林へのルートを選択させたのだ。

 

 

 

「このルートで良いの隊長?」

 

 

「うん、多分このルートで合ってる筈――私だったら、間違いなくあそこを選ぶから、梓ちゃん達があそこに向かった確率は90%以上だよ。

 

 如何に得意分野の交換をして来たって言っても、作戦まで一から考えたとは思えない。恐らくは梓ちゃんがツェスカちゃんに、ツェスカちゃんが梓ちゃんに戦い方の概要を伝えて、互いにそれを実行しただけだろうからね。

 

 其れでも、先手を取って来たんだから、梓ちゃんとツェスカちゃんは大したモノなんだけど……まだ、勝ちって言う花丸をあげる事は出来ないかな。」

 

 

「厳しいですねぇみほさん――其れならば、如何しますか?」

 

 

「相手は雑木林に潜みながら此方を牽制し、別動隊が此方を叩くために動いて来る筈です。

 

 なのでフラッグ車の正面よりも、後部や側面を守るように陣形を展開して進みましょう――その布陣なら、目的に到着する前に攻撃されても、耐える事が出来ますから。」

 

 

 

更にみほは、ルートを進みながらもリアルタイムで作戦を組み立てて、其れを隊員たちに伝えていく。

 

そして其れは、電流が流れるかのように各車に伝わり、みほ小隊は小隊全軍で1年生チームが待ち構えている雑木林まで進撃を開始!!

 

 

真面な戦車戦に持ち込めば、其れはもう圧倒的にみほ小隊が有利だ。

 

梓もツェスカも、1年生としては破格の能力を持っているが、其れでも夫々の師であるみほとエリカと比較すれば、今は未だ圧倒的な差が存在しているのだから。

 

 

だからと言ってみほは決して、相手を侮らないし、エリカと小梅もまた然りだ。

 

奇しくもこの3人は、まほから『油断はするな。慢心こそ、既に己に負けた証だ』との教えを受けており、其れが一切の油断を彼女達から取り払っていた。

 

 

 

いたのだが――

 

 

 

「のわぁ!?行き成り地面が陥没したぁ!?」

 

 

「ちょ、大丈夫直下!?」

 

 

 

此処で、同チームのヤークトパンターが、突如として陥没した地面に嵌まり、一行は進軍を一時止める事を余儀なくされてしまった。否『突如陥没した』と言うのは語弊があるだろう。

 

此処は西住流の演習場、演習場の整備は常に万全に行われており、戦車戦で傷付いた場所や砲弾で抉れた地面も常に直しているのだから、整備不良での陥没などまず考えられないのだ。

 

 

 

「此れは……自然に出来た物じゃない。明らかに戦車の砲弾で抉られた跡!

 

 その上に折れやすい枝を置いて、更に沢山の草で穴をカムフラージュした即席の落とし穴――後退しながら、確りと罠を張ってたって言う訳だね梓ちゃん。」

 

 

「あの子がティーガーⅡに乗ってたのって、若しかして此れをやる為でもあったのかしら?って言うか大丈夫直下?

 

 そんなに深くないから、頑張れば出れると思うんだけど……」

 

 

「無理ポ。つーか、落ちた時の衝撃で履帯切れたっぽいから!」

 

 

「またですか!?

 

 黒森峰での練習の時から思ってましたけど、直下さんの乗る戦車って、何故か試合中に履帯が良く切れますよねぇ?…若しかして呪い。」

 

 

「怖い事言うな赤星ぃ!!

 

 てか隊長、私等は自分で何とか履帯直して行くから、隊長達は先に進んで!此処で私等の復帰を待ってたら、其れこそ1年チームの思う壺だと思うから!」

 

 

 

それらを総合的に判断し、地面の抉れ方から、此れが戦車の砲弾による簡易落とし穴だと見抜いたみほだが、其処に落ちたヤークトパンターは、運が悪い事に履帯が切れて動く事が出来なくなっていたのだ。

 

尤も履帯が切れたくらいでは白旗判定にはならないが、動く事が出来ない味方と言うのは重荷になるのも事実だ。

 

だからヤークトパンターの車長である直下は、みほに先に進むように進言した。動く事が出来ないのはキツイが、だからと言って自分達が動ける様になるまで待っていたら1年生チームにアドバンテージを与えてしまうかもしれないから。

 

 

 

「でも……」

 

 

「大丈夫、絶対追い付くから。

 

 それに、仮にこっちに敵部隊が来ても、流石に履帯直す為に搭乗員が外に出てる所に攻撃はしてこないでしょ?つーか、攻撃されたら普通に死ぬし。」

 

 

「……其れは、確かにそうですね――分かりました。

 

 でも、必ず合流するって約束して下さい。直下さん達も、このチームの大事なメンバーなんですから。」

 

 

「了解!」

 

 

 

仲間を置いていく事を渋ったみほだが、其処は直下の口八丁。

 

履帯を直してる所を攻撃はしてこないと言う理屈で、みほを納得させて進軍を選ばせた――代わりに、必ず合流すると言う約束をさせられてしまった訳だが……まぁ、何とかなるだろう。

 

 

再び進軍を開始したみほ達だが、今度は不思議と誰も罠には引っ掛からなかった。

 

みほとエリカ、小梅も注意深く周囲を探しながら進んでいたのだが、草が積み重なった場所や、土が少し盛り上がった場所――つまり落とし穴の特徴を備えた場所が見当たらなかったのだ。

 

 

 

「みほさん、若しかして罠はあの1個だけだったんでしょうか?」

 

 

「ん~~~……フィールドに仕掛けたのはそうなのかも。

 

 若しかしたら、雑木林の方にも罠が仕掛けてあるかもね――そばを通りかかったら木が倒れてきたりとか、上からハチの巣が落ちて来たりとか雑木林ならではの罠が……」

 

 

「倒木は兎も角、ハチの巣って色々ヤバすぎでしょ其れ?スズメバチの巣とかだったら、下手したら搭乗員死ぬわよ?」

 

 

「其れなら大丈夫。演習場内のスズメバチの巣は業者に頼んで駆除して貰ってるから。」

 

 

 

ならば、雑木林内に罠が仕掛けてあると考えるのが普通だろう――尤も、みほが上げた罠の数々は矢張り普通の罠ではなく、並の戦車乗りの斜め上を行くモノであったのだが。

 

 

 

「なら大丈夫ね……で、此のまま進軍してどうするの?私達の小隊だけじゃ、数では完全に負けてるからアドバンテージは相手にあるわ。

 

 別動隊の隊長――もとい西住先輩達に合流して貰わなくても良いの?」

 

 

「其れは大丈夫だよ?お姉ちゃんと部長には、既に『ある作戦』を伝達しておいたからね。

 

 だけど、多分フラッグ車であるツェスカちゃんのパンターは雑木林に身を潜めて出て来ないと思う――恐らくは、梓ちゃんのティーガーⅡ率いる部隊が、私達とやり合う為に来るだろうからね。」

 

 

「つまり、フラッグ車が丸見えになってるこっちの方が不利だから、相手のフラッグ車を雑木林からあぶり出す必要が有るって言う事ですか。

 

 だったら、私に任せて貰えませんかみほさん?」

 

 

 

エリカの指摘を受けたみほは、まほと凛には既に『ある作戦』を伝えてあるから大丈夫だと言う。普通ならば納得できない回答だが、エリカはみほの強さを小学校の頃から知っているから、みほがそう言うのならば大丈夫だと納得していた。

 

続いて浮上した1年生チームのフラッグ車が雑木林内に居て、簡単に攻撃できないと言う問題に対しては、意外にも小梅が其れを如何にかしようと名乗りを上げた。

 

 

 

「小梅さん、何か策が?」

 

 

「隠れてる相手をあぶり出すのは、実は得意なんです。だから――――と言う感じで如何でしょうかみほさん?」

 

 

「……良いね、此れなら間違いなく雑木林からツェスカちゃんを引っ張り出せるし、お姉ちゃんと部長に伝えた作戦がやり易くなるから、お願いします小梅さん。」

 

 

「任されました隊長♪」

 

 

 

そして小梅はみほに何かを伝えると、部隊から離脱して別ルートで雑木林へと進行して行った。

 

 

 

一方のみほ達が、此れまで通りのルートで雑木林に進行している所で、其れは前方から現れた――最早言うまでもないだろう、梓のティーガーⅡが率いる部隊だ。

 

その数は、1年生チームの半分よりも多い……部隊の凡そ3/4を注ぎ込んだ戦力だ。

 

大胆な戦力分配だが、此処は梓の勘が冴えたと言う所だろう。みほから直接指導を受けた梓は、その影響で『みほならば如何するか?』との予想をある程度つける事が出来るようになっていた。(尤も、其れはあくまで模擬戦レベルに限られるのだが。)

 

 

だから、みほが他の小隊との合流を成してから進軍して来る可能性を排除し、逆にみほの小隊で進軍して来る事を予測して、この大胆な戦力分配をツェスカに進言したのだ。

 

 

果たして其れは巧く行ったと言えるだろう。

 

みほの小隊は最初に撃破された1輌に加えて、履帯修理中のヤークトパンターと別行動中の小梅のパンターが居ない事で、初期状態よりも3輌も少ない状態であり、対する梓の部隊はみほ小隊の3倍近い戦力なのだ――普通に考えれば分が悪い所ではないだろう。

 

 

 

「此処で勝負をかけて来たか……良い読みだよ梓ちゃん、此れだけの大胆な戦力分配は中々出来る物じゃない――よく考えたね?」

 

 

「西住隊長にみっちり鍛えられましたから、其れが功を奏して隊長だったら如何来るのかって言うのがある程度は予測出来たんです……尤も、今回は私の予測が巧い具合に当たったって言う事は否めないですけど!」

 

 

「其れでもみほの考えを読んだ貴女は大したモノよ澤――だけど、其処までね。

 

 3倍近い戦力差だけど、その程度の戦力差で私とみほを倒せると思ったら大間違いよ?――隻腕の軍神の剣と、黒森峰の狂犬の牙、味わうと良いわ!」

 

 

 

だが、みほもエリカも怯まない。

 

特にエリカは、まるで猛獣さながらの獰猛な笑みを浮かべると、軍帽を投げ捨て、みほと同様にパンツァージャケットの上着を外套の様に肩に引っ掛け、そして腕を組んで鋭い睨みを梓に突き刺す!

 

まほの『ラスボスの視線』と比べたら、まだまだ温いが、其れでもエリカのメンチギリは、並の戦車乗りなら縮こまってしまう程の迫力がある。

 

 

 

「確かに、私達じゃ隊長達にはまだ勝てないかもしれないけど、だけど勝てる可能性は0じゃないから、絶対に退きません!!」

 

 

「うん、よく吠えたよ梓ちゃん!!」

 

 

 

其れでも梓は怯まずに、みほ小隊との交戦を開始!

 

そしてみほもそれに応じ、雑木林前の平原では、ドイツ製の戦車が入り乱れる、若しかしたら全国大会でもお目にかかる事は出来ないのではないかと言う位の戦車戦が展開されていた。

 

 

梓の部隊は、梓のティーガーⅡの圧倒的な火力をメインに、ヤークトパンターやティーガーⅠの火力で真正面からの押せ押せ戦術でみほ小隊を攻め立て、みほは自身の乗るパンターの総合力と、エリカの乗るティーガーⅠの攻防力の高さを生かして、梓の押せ押せ戦術を捌くが如く対処して、その隙に攻撃を叩き込む。

 

 

だが、其れはほぼ拮抗し、互いに決定打にならない――梓からしたら、3倍近い戦力差を以てしても、フラッグ車であるみほのパンターを倒す事が出来ないでいると言う事でもあった。

 

決して梓が弱いのではない――みほが異常なのだ。

 

自分に向かってくる砲撃は、全てギリギリで回避して決定打を打たせずに、それどころか変態じみた軌道で動いて1年生チームの戦車を撃破して行く。

 

 

正にその姿は鋼鉄の豹にまたがる軍神の如し!

 

 

だからと言って、梓も諦めたかと言われれば其れは否――梓は、みほの単騎駆けはある程度予想していたのだ……数で劣るのならば、先ずは数の利を潰しに来ると考えていた。

 

数の利を潰しに来ると予測していたから、逆に此れだけの大胆な戦力分配を行ったのだ梓は。――数の暴力と言うと、言葉が悪いかも知れないが、如何にみほが強くとも、3倍近い戦力差を簡単に埋める事は出来ない。例え、エリカと言う存在が一緒であったとしてもだ。

 

 

ならば、攻撃していればいつか必ず隙が生まれる。その隙を突けば、みほのフラッグ車だって撃破出来る筈だと、そう考えてのこの攻撃だ。

 

狙いは悪くないだろう。

 

如何にみほが中学戦車道界隈にて破格の能力を持っているとは言え、全く隙を無くして戦う事など不可能に近いのだから。

 

 

だから、このまま行けば勝てる。そう思った梓の耳には、突如予想していなかった通信が入る事に成る。

 

 

 

『こちらツェスカ!アズサ、拙い……私達の作戦は完全に読まれてたっぽい!

 

 後方から凄い砲撃が……雑木林の中に居るから直撃は喰らってないけど、此のままじゃこっちは缶詰にされて包囲されるわ!!』

 

 

「ツェスカ!?まさか、部長達の部隊が……!」

 

 

 

其れは雑木林に潜んでいたツェスカからの通信だった。

 

自軍が後方から砲撃を受けていると言う通信が入ったのだ――と同時に、梓の顔には苦虫を噛み潰した様な表情が浮かぶ。……完全にやられたと言う所だろう。

 

 

フラッグ車の撃破に、みほのパンターに意識が向いていたのは否めないが、まさか雑木林の中にいるツェスカが攻撃を受けるとは思って居なかった――と言うよりも、可能性から排除していたのだ。雑木林に潜む相手を攻撃するのは費用対効果が見合わないからと。

 

 

だが、ツェスカからの通信を聞く限り、みほはその戦術を行って来たのは間違いないだろう。

 

なれば、雑木林の中に潜んでいるのは得策ではない――此のまま留まって居たら、砲弾で倒れた木の下敷きになって白旗判定を喰らいかねないのだから。

 

 

 

「ツェスカ!今すぐ雑木林から出て!」

 

 

『だよねぇ?……こうなったら、身を曝してとことんやってやるわ!』

 

 

 

だからツェスカの部隊は、雑木林から出て、梓の部隊と共にみほ小隊との戦車戦に加わる。

 

ツェスカの部隊が合流したと言う事は、1年生チームとみほ小隊との戦力差は4倍近くになった――のだが、2・3年チームの隊長であるみほには一切の焦りがない。

 

それどころか、その口元には笑みを湛えているくらいだ。

 

 

 

「ありがとう梓ちゃん、自分から殻を割ってくれて。」

 

 

「え?」

 

 

「此れで終わりです!!お姉ちゃん!!近坂部長!!」

 

 

『此れで終わりだな……沈め!!』

 

 

『目標を狙い撃つ!!』

 

 

 

其れが示すのは、決着の合図。

 

みほが指示を出すと同時に、別動隊として動き、そして1年生チームをティーガーⅠの射程ギリギリ圏内に捉えていたまほと凛の一撃が、ツェスカの乗るパンターに向かって炸裂!!

 

 

 

「緊急回避ーーー!!!」

 

 

 

だが、其処は流石のドイツ仕込みのツェスカ。ギリギリでティーガーⅠの砲撃を回避するが……

 

 

 

 

「は~っはっは!約束通り戻って来たぞ隊長!復活記念に一発ブチかます!!」

 

 

「私もやりますよーーー♪」

 

 

 

其処に、履帯の修理を終えたヤークトパンターと、別行動を取っていた小梅のパンターが仕掛け、ツェスカのパンター目掛けて砲撃開始!

 

 

 

「ツェスカ!!……やらせない!!」

 

 

「其れはこっちのセリフよ!」

 

 

 

このままではやられると思った梓が、援護に向かおうとするが、其れはエリカのティーガーⅠが車体をブロックする事で防ぐ。攻防力ならば兎も角、戦車同士の押し合いになったらティーガーⅠはティーガーⅡに負けはしないのだ。

 

 

 

「邪魔しないで下さい逸見先輩!」

 

 

「だが断る!!」

 

 

 

鋼鉄の虎二匹の押し合いはどちらも譲らない――が、其れは同時に、ツェスカの援護がない事にもなる訳で……

 

 

 

「小梅さん、直下さん……やっちゃってください。」

 

 

「「Jawohl.(了解。)」」

 

 

 

みほの死刑宣告と共に、小梅のパンターと、直下のヤークトパンターの主砲が火を噴き、ツェスカのパンターを襲う。

 

単体ならば兎も角、2輌同時の攻撃を受けたら、如何に大戦期最強の中戦車と呼ばれるパンターであったとしても堪った物ではないだろう。

 

更にアウトレンジから、まほと凛の援護砲撃があるとするならば尚更だ。

 

 

 

――キュポン

 

 

 

敢え無くツェスカのパンターは白旗を上げる事に成ったのだから。

 

 

合宿最終日の模擬戦は、みほ率いる2・3年チームの勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

ふぅ……何とか勝つ事が出来たけど、思った以上に薄氷を踏むような戦いだったね――序盤での奇襲が、思いのほか効いていたのかもね。

 

だけど、良い戦いだったよ梓ちゃん、ツェスカちゃん――まさか得意分野の交換なんて言う事をしてくるとは思わなかったからさ。

 

 

 

 

「そうでもしないと勝てないって思いましたから……結局勝てませんでしたけど。」

 

 

「隻腕の軍神……その二つ名の凄さを実感したわ。」

 

 

 

 

あはは……まぁ、そう思うのは仕方ないよ――だけど、それ以外に、梓ちゃん達は無意識のうちに焦りと油断を持ってたみたいだね?

 

私とお姉ちゃん達が合流するんじゃないかって言う焦りと、数の上では自分達の方が上って言う油断をしてたんじゃないかな――無意識に。

 

加えて、ツェスカちゃんが攻撃を受けた時に、かなり焦ったよね?

 

アレは実を言うと本当の砲撃じゃなくて、回り込んだ小梅さんが閃光弾と音響爆弾を併用して行ったトリックプレイで、ツェスカちゃんを雑木林からあぶり出す為の物だったんだけど……其処まで気が回らなかったみたいだね。

 

 

 

 

「言われたら、そうかも……」

 

 

「こんな事で……ドイツのジュニア代表が聞いて呆れるわ――此れじゃあ、逸見先輩に申し訳も立たないわ!」

 

 

 

 

……だからと言って、重く捉えないでね?あくまでも、そう言う部分があったて言う指摘に過ぎないし、其れを克服できれば、次のステップに進む事は出来るからね。

 

模擬戦の結果は確かに悔しかったかもしれないけど、本当に大切なのは『敗北から何を学ぶか』って言う事だから、この負けを無駄にはしないでね?

 

 

 

「「はい!!」」

 

 

 

うん、良い返事。

 

此れなら、梓ちゃんとツェスカちゃんは、此れからも間違いなく伸びる筈だよ――其れこそ、将来的には日本の戦車道を背負って立つ存在になるのかも……少し大げさかもだけどね。

 

 

ともあれ、此れで合宿の全日程はお終い!今年も良い合宿が出来たよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梓

 

 

 

合宿最終日の模擬戦も終わって、皆でお風呂の後に、合宿の打ち上げパーティが開催されたんだけど……

 

 

 

 

「あはははは、楽しいねぇエリカさん♪」

 

 

「そうねぇ、楽しいわねぇみほ~~~♪」

 

 

 

 

顔を赤らめながら肩を組んでる隊長と逸見先輩の姿が……飲み物は多種多様用意されてましたけど、少なくともビールは黒森峰のノンアルだった筈なのになんで!?

 

 

 

 

「あっれー?アタシ、若しかして今年もやっちまった?……なはは、ノンアルにはノンアルのラベルはっといてくれよ……アタシは悪くねぇ!」

 

 

「今年も犯人はお前か辛唐ーーー!って言うか、何故に間違えるラベルのビールを冷蔵庫で冷やしてるんですかお母様ーーー!!!」

 

 

「だって、其れが一番美味しいし。」

 

 

「其れを言われたら、反撃が出来ない!!」

 

 

 

どうやら、辛唐先輩がノンアルコールと間違って冷蔵庫に入れた普通のビールを、隊長と逸見先輩が飲んで、ハイな状態になっちゃってるみたいだね此れは……うん、関わり合いにならないようにしておこう。――赤星先輩は、完全に潰されましたから。

 

 

合宿の打ち上げは、予想外の事が待っていたけど、この合宿で私は更に強くなれたって実感できてるから、合宿に参加した意味はあった。

 

私自身がそう感じてるんだから、多分間違いではないと思う――って言うか、この合宿に参加した皆がきっと思ってる筈だよ。

 

 

この合宿で学んだ事を全て身にして、更に上を目指さないとだからね――必ず辿り着いてみせまよす西住隊長、貴女が居るその領域まで!

 

 

何にしても、この合宿が最高のモノだったって言う事は変わらないよ――この合宿は、とっても充実した日々だったって、そう言えるからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer42『戦車道の新体制発起です』

新体制は、これ以外にはあり得ないね♪Byみほ      まぁ、アンタも私もそうなるかもねByエリカ      頑張っていきましょう♪By小梅


Side:みほ

 

 

 

今年の合宿も無事に終わって、そして夏休みもイベントてんこ盛りで楽しかったなぁ♪

 

西住家全員(お祖母ちゃんを除く)での海水浴では、偶然海水浴場でエリカさんと小梅さんに出会って、一緒に海水浴を楽しんだし、夏祭りは今年も皆を呼んで大盛り上がりだったから。

 

因みにエリカさんが、今年はヨーヨー釣りで取って取って取りまくって、店のおじさんを真っ白にしてた……『勝った』って言ってたけど何に?

 

尚、今年は射的の景品に『戦車』はなかった模様……あったら今年もナオミさんに撃ち落として貰う心算だったからちょっと残念。

 

 

そう言えば、夏祭りでも海水浴でも、私とお姉ちゃんは所謂『ナンパ』に遭ったんだけど、その度にナンパ相手が青子さんとエリカさんに何処かに連れていかれて、数分後に『重大任務を完遂した』って感じの青子さんとエリカさんが居たけど、一体何をしてたんだろうね?

 

 

そうそう、其れから梓ちゃんに御呼ばれして行った水戸の黄門祭りって言うのも、中々に楽しかったかな。

 

地元の人達が、黄門様御一行に扮して練り歩く様って言うのは、見てても面白かったし、それ以外にも花火大会とかもあって凄く楽しめた。

 

一緒に行った、ナオミさんと蔀さんと青子さんも、楽しんでたみたいだからね。

 

お祭りの翌日に、折角だからって『国営ひたち海浜公園』って言う所まで足を延ばしたけど、中々見事な公園だったよ。人は多かったけど。

 

ただ、園内レストランの『青いカレー』(実在)は如何かと思ったね、うん。お姉ちゃんに言ったら『其れはカレーじゃない』って言ってたし。

 

 

そんな充実した夏休みもあっという間に終わり、気付けば2学期の始まり。

 

 

 

取り敢えず8月31日に、青子さんが『宿題終わってない』って言って、私に泣きついて来て、急遽ナオミさんとつぼみさんを我が家に召喚して殆ど徹夜で、青子さんの宿題を終わらせた――まぁ、此れもまたいい思い出って言うのになるんだろうねきっと。

 

 

 

でも、其れとは別に、この2学期は結構忙しいかもね?

 

文化祭や体育祭が有るのは勿論の事、部長達3年生は引退しちゃうから、戦車道部の新体制も考えて行かないといけないからね――去年よりも、充実した2学期になりそうだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer42

 

『戦車道の新体制発起です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で始まった2学期。

 

初日は始業式だけで終わったんだけど、やっぱり校長先生の話は長い……流石に貧血で倒れた人はいなかったけど、青子さんは立ったまま寝るって言う器用な事をしてくれていたからね……ホントに、どうやって寝てたのか知りたいよ。

 

 

流石に始業式だけの初日は、部活も全面的にお休みだから、其のまま家に直帰――なんて事はしないで、隊長チームと梓ちゃんチームでランチを含めての寄り道。

 

お母さんに、其れを伝えたら『そう、気をつけて。楽しんで来なさい。』って言ってくれたから大いに楽しんだけどね。……何かナオミさんが『西住流師範は師範としても一流なだけじゃなくて、母親としての度量もデカいわ。家の親だったら絶対了承しないわね』とか言ってたけど、そう言う物なのかなぁ?良く分からないや。

 

 

 

ってな事を2学期初日にやったので、本日2日目より授業も部活も本格始動!!

 

なので、戦車道の方も確りバッチリやって行かないとね?今年優勝したって事は、来年は今年以上に他校のマークは厳しくなるだろうし、こっちの事を入念に研究して来るだろうから、其れを上回る位にならないとだよ。

 

 

 

 

「その意見には賛成。

 

 でもよ、今年の大会見る限り、来年3年になる連中の中でみほとタメ張れるのって、やっぱ黒森峰のエリカと小梅ぐれーじゃねぇか?

 

 2回戦で黒森峰に負けたとこの金髪とか、2回戦で愛和に負けたとこの茶髪の三つ編みが次点て所だけど、ハッキリ言ってみほとタメ張るレベルじゃねぇって。」

 

 

「其れは今年の話だよ青子さん。

 

 その人達が私の事を研究しまくって、そして練習して来たら、今ある差なんてあっと言う間になくなっちゃうよ。

 

 本人の努力次第で、差は幾らでも埋める事が出来るんだから――今年から始めた梓ちゃんが、バリバリ経験者のツェスカちゃんに勝ったみたいにね。」

 

 

「優勝したって言う事に胡坐をかいてたら足元を掬われるって事ね。」

 

 

「勝って兜の緒を絞めよ!勝った時こそ、奢らずに精進すべきだわ♪」

 

 

「いや、アタシだって慢心してる訳じゃねぇけど、そう思っちまう位にみほが凄すぎるって話だ。

 

 今年優勝、来年は1回戦負けなんてのはカッコ悪いにも程があるから、連覇目指してバッチリ行こうぜ!!」

 

 

 

 

だね。

 

まぁ、今日は2学期最初の練習って事もあるから、フィジカルトレーニングや戦車を使っての練習はせずに、ミーティングを行いますね。

 

夏の大会が終わったので3年生は全員引退したので、近坂部長に代わる新たな部長と、沢村副隊長に代わる新たな副隊長を決めようと思います。

 

 

と、その前に隊長は来年も私が続投って言う事で良いのかな?その心算で話を始めちゃったけど。

 

 

 

 

「いやー、隊長は西住さん以外に居ないでしょ?」

 

 

「明光大の戦車道は、西住さんが作り上げたようなもんだからね?って言うか、今更西住さん以外を『隊長』って呼ぶのは違和感あるわ。」

 

 

「決を採るまでもなく、来年も西住さんが続投で。宜しくお願いしますよ、隊長さん♪」

 

 

「分かりました。そう言う事なら、謹んで隊長を続投させて頂きます。

 

 となると、先ずは部長なんだけど……」

 

 

「西住さんが隊長と部長を兼任するんじゃないの?」

 

 

 

 

其れも考えたんだけど、私にはちょっと無理かな?

 

私が戦車道部に入部する前は近坂前部長が部長と隊長を兼任してたけど、私が入部して直ぐに隊長職を私に譲って、自分は部長職に専念したから、実際には両方の職を兼任した事は無いんだよ。

 

で、他校との練習試合とか、弾薬の手配とか、部長は部長でやる事が多いんだけど、私も隊長として訓練メニューを考えたり、色んな戦術を考えたりしなくちゃならないから兼任は難しいかな。

 

お姉ちゃんですら、事務的な事はエリカさんや、去年は天城さんに任せてたみたいだからね。

 

 

 

 

「成程……でも、そうなると誰を部長にするのかって話になるよね?」

 

 

「其れについては大丈夫です。皆の同意が必要になるけど、私の中で誰を部長に推薦するかは決まってるから。

 

 新しい部長は、ナオミさんにお願いしたいんだけど……如何かな?」

 

 

「私に?貴女が、私が部長に相応しいって思ってくれたのは嬉しいけど、何で私なのかしら?」

 

 

 

 

ナオミさんはどんな時でも冷静沈着で、落ち着いて行動できるからかな?砲手として命中率95%、撃破率89%は最高値だし。

 

此れだけの数値を叩きだすには、どんな時でも冷静さと集中力を維持していないと出来ない事だと思うから、其れが出来るナオミさんなら部長職を務められると思うんだ。

 

そう言う訳で、如何かな?

 

 

 

 

「OK、其処まで言われたらやるしかないじゃない?

 

 他校との練習試合とかに関しては、つぼみや青子に助けてもらう事もあるだろうけど、部長職を何とか勤め上げてあげるわ。」

 

 

「ありがとうございます。皆も異論はありませんか?」

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ありません!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

それじゃあ、満場一致で部長はナオミさんだね。

 

なら次は、副隊長なんだけど……私は、副隊長に澤梓さんを任命したいと思います。

 

 

 

 

「へ?ふえぇぇぇぇぇ!?わ、私ですか西住隊長!?」

 

 

「うん、私は貴女を副隊長に任命したいよ梓ちゃん。

 

 他の2年生の中から選んでも良いんだけど、副隊長は梓ちゃんにするべきだって、私の直感が告げて来たの――そして、私自身が梓ちゃんに副隊長になって欲しいって思ってるんだ。」

 

 

「な、何で私なんですか?

 

 幾ら西住隊長に直々の指導をされたとは言え、私は今年から始めた素人なんですよ?そんな人に副隊長なんて言う重要な地位を任せるなんて、普通はあり得ませんよ!」

 

 

 

 

だろうね。確かに普通ならあり得ない。

 

だけど、梓ちゃんはその普通を覆すだけの成長を、私の予想よりも遥かに凄い成長を見せてくれた――正直な事を言うなら、合宿最終日の模擬戦は、速攻で終わらせる心算だったんだけど、結果としては想像以上の苦戦を強いられたからね。

 

半年にも満たない時間で、此処まで成長してくれた梓ちゃんなら、きっとまだまだ強くなる事が出来るって私は思ってるんだ。

 

だから、副隊長の地位で色んな事を学んで欲しいんだ。私の戦い方や作戦の立て方だけじゃなく、相手の出方や相手の作戦を予測する力とか、色々とね。

 

 

何よりも、私は私のサポートとして、貴女を副隊長に置いておきたい――ダメかな、梓ちゃん?

 

 

 

 

「!!――分かりました、不肖澤梓、副隊長の任を拝命いたします!」

 

 

「うん、宜しくね梓ちゃん♪」

 

 

 

 

「みほが澤を副隊長に任命して、澤が其れを渋るのまでは予想で来てたけど、まさかこうもストレートに口説き落とすとは思わなかったわ。」

 

 

「流石はみほ、天然の人誑し。」

 

 

「靴箱の中から、明らかに容量を超えた、ラブレターやらファンレターが出て来るだけはあるわね。」

 

 

 

 

……アレは実はスッゴク迷惑なんだけどね。

 

ファンレターなら兎も角、ラブレターの場合は指定場所に行ってキッチリお断り入れないといけないから。無視しても良いんだけど、無視すると余計に送って来る人もいるって話だからね――お姉ちゃんも黒森峰で苦労してるみたいだし。

 

てか、女子校の黒森峰でラブレターって、お姉ちゃんは同性からももてるんだね。……あ、其れは私も同じか。

 

 

コホン。其れじゃあ人事は此れで良いとして、次に戦車についてですが、来年以降の事を考えると、矢張りもう少し台数を増やした方が良いと思います。

 

来年の新入部員がドレだけになるかは分かりませんけど、今年と同じ位だった場合、確実に練習で使える戦車が足りなくなるので、何台か増やしておいた方が良いと思うんです。

 

 

「それで、お母……西住流師範が、西住流の訓練で出た殆ど廃棄車同然の戦車を無料で譲ってくれる事に成りました。」

 

 

「別に言い直さなくても良くね?此処に居る全員が、しほさんの事知ってる訳だし。」

 

 

「公私は分けるって言う事だよ青子さん。」

 

 

「まぁ、其れは大事よね。

 

 だけどみほ、無料で譲ってくれるのは良いけど、そんな廃棄寸前のスクラップなんて使い物になるの?」

 

 

 

 

なるよナオミさん。あくまでも廃棄車であるって言うのは、西住流から明光大戦車道部へ譲渡する際の書類上での事だから。

 

勿論、新品て言う事は無いし、可成り練習で使いこまれた中古品だけど、フルレストアすればまだまだ現役で使えるレベルを送るって言ってたから大丈夫だと思う。

 

 

なので、レストアの方は椿姫さんの所にお願いしても良いかな?

 

 

 

 

「OK、任せといて。

 

 明光大の戦車を整備してるってのもあるんだけど、去年のティーガーⅡの魔改造をしてから、親父は戦車の改造とかレストアが趣味になっちゃったみたいだから、きっと話したら狂喜乱舞するわ。」

 

 

「其れなら安心だね。

 

 最後に、3年生が引退した事で、ティーガーⅠ2輌と、パンターが1輌空きが出来たので、チームの配置換えを行います。

 

 先ず副隊長の梓ちゃんのチームは、パンターからティーガーⅠに乗り換えて貰います。今年の決勝でティーガーⅡに乗ったから、重戦車でも大丈夫だよね?」

 

 

「はい、大丈夫です!行けるよね、皆!」

 

 

「「「勿論!!」」」

 

 

 

 

うん、良い返事。此れなら任せられるよ。

 

もう1輌のティーガーⅠには、有波さんのチームが乗って下さい。有波さんは目立たないけど、大会ではキッチリ仕事を熟してくれたので、より性能の高いティーガーⅠならもっと活躍してくれると思うので。

 

 

 

 

「了解。任されたわ隊長。」

 

 

 

 

で、梓ちゃんチームがティーガーⅠに乗り換えた事で、パンターの空きが2つになったので、この2輌のパンターには大会でⅢ号に搭乗してた2チームにお願いします。

 

 

 

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

これで、新体制に関する案件は全部解決したね。

 

思いのほか時間が掛からなかったから、完全下校時刻まではまだ時間があるね?でも、戦車を動かして走行訓練とか砲撃訓練をするだけの時間は無いから……よし、残った時間はボードゲームでの戦略訓練をやろうか。

 

夏休み中に、新たに『市街地』『山岳地帯』『湿地帯』のフィールドを作って持って来たからね。

 

 

 

 

「いいねぇ、其れ賛成だよ隊長!あのゲームは面白いのに為になるから、アタシ結構好きなんだ。」

 

 

「あのゲームは戦略眼が鍛えられるから良いわよね~~?チーム同士でやれば、仲間との相談も出来て、其れが実戦でも生きて来るし。」

 

 

「今日こそは勝たせて貰うからね隊長。」

 

 

 

 

皆やる気満々だね?

 

なら今日は、私は3人纏めて相手になってあげようかな?――戦力的に不利な状況での戦いの方が、私は策が良く思いつくからね。

 

 

 

 

「3人相手に……なら、圧倒的物量で押し切るからね隊長?」

 

 

「如何に隊長でも、3人纏めては無理な筈。……ハンデ戦とはいえ、今日は勝てるかも!!」

 

 

「やったるわ、おんどりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

やる気は充分だね?

 

其れじゃあ始めようか。――私にとっては数で負けてる場合の策の構築、皆には有利な状況でどうやって確実に詰み上げるかの訓練になるからね。

 

 

行くよ、Panzer Vor!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

黒森峰戦車道チームは、現在倉庫にて物凄い緊張感に包まれてるわ。

 

別に、OG会から優勝できなかった事についての小言があるからとかじゃなくて、今年で引退になる西住隊長の最後の仕事が今から行われる――つまり、来期の隊長と副隊長が、今此処で任命されるから。

 

 

まぁ、其れだけの事なんだから緊張もするわよね。

 

私は今年は副隊長を務めさせて貰ったけど、だからと言って私が必ず隊長に選ばれる訳じゃない――私は副隊長のままで、隊長には別の隊員が選抜される可能性って言うのもある訳だし。

 

だから、この緊張感なのよね――去年は隊長が続投するって事もあったから余計にだわ。

 

 

隊長は、果たして次の隊長に誰を選ぶのかしら?

 

 

 

 

「其れでは、私の最後の仕事として、新たな隊長と副隊長を任命する。

 

 先に言っておくが、此れは決して私個人の贔屓目で選んだのではなく、OG会や、黒森峰のスポンサーである西住流の師範と意見交換会を何度も行って決めた事だ。

 

 私は、新隊長に逸見エリカを、新副隊長に赤星小梅を任命する。」

 

 

「え?」

 

 

「エリカさんが隊長は兎も角、私が副隊長ですか!?」

 

 

 

 

いや、私が隊長なのは兎も角って、其処からおかしいわ小梅。

 

隊長に任命されたのは光栄ですが、如何して私なのでしょう?小梅を始め、黒森峰には優秀な人材が揃っています。私以外にも隊長を務めるに値する人物がいるのではないでしょうか?

 

 

 

 

「うん、確かに黒森峰には優秀な人材が揃っているが、隊長を任せられるのはエリカしか居ないし、其れをサポートする副隊長は小梅しか居ないんだよ。

 

 去年の大会でみほを撃破し、合宿では私も撃破したお前だからこそ隊長を任せられるんだエリカ。

 

 公式、非公式含めてだが、中学戦車道界隈で西住姉妹両方から白旗を上げさせたのは間違いなくお前だけだぞエリカ?

 

 安斎ですら、私を倒す事は出来たがみほを倒す事は出来なかったんだからな――私達姉妹の両方から白旗を上げさせたお前だからこそ来季の黒森峰を任せられるんだ。

 

 確かに隊長と言うのは大変な立場かもしれないが、お前ならば大会の優勝旗を再び黒森峰の下に持って来てくれると私は信じている。

 

 お前を隊長にと言うのはOG会も、西住流師範も同意しているからな……受けてくれるなエリカ?」

 

 

「分かりました、謹んでお受けいたします!

 

 黒森峰の隊長の名に恥じないように、益々精進し、来年再び王者に返り咲けるようにいたします!!!」

 

 

「うん、頼もしいな――任せたぞエリカ。」

 

 

「はい!!」

 

 

「そして、今も言ったが、エリカをサポートできる副隊長は小梅だけだ。

 

 『動』のエリカが隊長ならば、副隊長は『静』の小梅が一番だ。去年と今年の大会や合宿を見て、この体制が最良だと判断したんだ。

 

 小梅のサポートが有れば、エリカはよりその力を発揮できる筈だ――副隊長、受けてくれるな小梅?」

 

 

「はい!誠心誠意頑張ります!」

 

 

 

 

此れは小梅共々物凄い大役を任されたけど、隊長が私の事を其処まで買ってくれてたのなら、その期待には応えないと嘘だし、何よりも期待してくれた隊長への裏切りになるからね。

 

大会で優勝するには、みほを倒す必要があるから難易度は決して低くないんだけど、其れでも絶対に王者に返り咲いてやろうじゃない!!

 

 

 

 

「ふふ、燃えてますねエリカさん?」

 

 

「当然よ小梅!隊長直々に新隊長として任命されたんだから、其れに応えるのは当然じゃない!

 

 とは言え、私は西住隊長にはまだまだ及ばないから、フォローの方は任せるわよ小梅?何て言っても、貴女は新副隊長な訳なんだしね。」

 

 

「はい、分かってますよエリカさん。微力ながら、出来る限りの力添えはさせてもらいます♪」

 

 

 

 

頼むわね。

 

まさか、隊長に選ばれるとは思ってなかったけど、だけど任命された以上は其れを果たすだけ――小梅のサポートもあるからきっと大丈夫。

 

来年の大会、必ず勝って見せるわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

 

2学期になって3年生が軒並み引退すると言う事で、何処の学校でも体制が変わるのだけれど、明光大と黒森峰は、確りとした体制を構築したみたいね。

 

みほは梓さんを副隊長に据えて、まほは新隊長にエリカさんを、新副隊長に小梅さんを任命したようだから――此れは、来年の大会は今年異常に面白い事に成るかも知れないわ。

 

 

明光大と黒森峰だけじゃなく、他の学校の人事も大分変わってきている様ですからね。

 

 

果たして来期、みほ達がどんな活躍をするのか、今から楽しみで仕方ないわ――来年の事を言うと鬼が笑うとは言うけれど、来年の大会は今年以上に激しくなるでしょうね。

 

 

さぁ、どうなるのか――其れを考えただけでも楽しくなって来るわ♪期待しているわよみほ、そしてエリカさん♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 



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Panzer43『一大イベント、文化祭です!』

文化祭は盛り上げて行かないとね?Byみほ      盛り上げるなら任せとけ!得意分野だからな!By青子      リミッター外しちゃうわよ!Byつぼみ


Side:みほ

 

 

 

3学期制の学校に於いて、2学期は最も長い学期であると同時に、イベントが盛り沢山の学期でもあるんだよね。

 

明光大もその例に漏れず、2学期は体育祭に合唱祭に文化祭と、イベントがてんこ盛り!――で、只今一大イベントの一つである体育祭の真最中!

 

 

私達2-5が所属する青組は、只今総合3位だけど、最終種目である、此のリレーを1位で通過できれば逆転優勝が出来る!此のリレーで1位になったチームには獲得得点の2倍の得点が入る、一発逆転がある種目だからね。

 

まぁ、そのリレーのアンカーは私なんだけどね……と言うか、此のリレーに参加してるのが、丸々戦車道の隊長チームなんだけどね。

 

 

でも、其れが逆に良かったみたいだね?バトンパスとかもスムーズに出来てたから。

 

って言うか、第1走者のつぼみさんが初っ端から突っ走ってくれて、2位以下にトラック半周で5m以上の差をつけてくれたから、此れは余程の事がない限り負ける事ってないよ。

 

ナオミさんは距離を離せないまでも、距離を詰められる事は無かったし、青子さんは途中でバトンを落としちゃって距離を詰められちゃったけど、持ち前の足の速さで、其れを挽回する程の走りを見せてくれたからね。

 

 

なら、アンカーの私もぶっちぎって堂々の1位を狙うだけ!

 

2位のアンカーとの距離は有るって言っても、油断したら抜かれちゃうかもしれないから、ゴールまで全力で疾走するだけだよ!何より、何時でも全力で戦うのが西住流だから、優位な状況でも慢心は厳禁だからね!!

 

 

「ラストスパート!!」

 

 

 

――パァン!!

 

 

 

ハァ、ハァ……一位通過で来た。

 

此れで青組には倍得点の120点が入るから、逆転優勝は確実!!――1位の赤組は最下位だったし、2位の黄色組もリレーは4位だったから、追加得点は望めないからね。

 

 

ふふ、思い切り燃える体育祭だったよ♪――時に、梓ちゃんが借り物競争で、私を連れて行ったけど、一体借り物は何だったんだろうね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer42

 

『一大イベント、文化祭です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもって、体育祭が終わった後は、今度は文化祭だね。

 

明光大はクラス毎の出し物じゃなくて、部活動や同好会で出し物をやる事になってるから、当然戦車道部も何かやる事になるんだけど、何をやろうか?

 

 

去年は、たこ焼きの屋台出して、其れプラス戦車の試乗体験を行って、結構好評だったけど、今年も同じじゃ味気ないよね?……何か、アイディアはありませんか?

 

 

 

 

「はい!戦車お化け屋敷って言うのは如何だろう?

 

 基本的はお化け屋敷なんだけど、内装を戦場みたいな感じにして、戦車に潰された人とか再現したら怖くない?勿論死体及びお化け役は部員でやるって事で。」

 

 

「お化け屋敷より、戦車喫茶の方が良くない?

 

 ウェイトレスが全員、試合用のパンツァージャケット纏って接客するとか如何でしょう?コーヒーや紅茶は買うにしても、お菓子やサンドイッチは手作りすればコストも抑えられるし、良いんじゃないかと思うんですが。」

 

 

 

 

お化け屋敷に喫茶店……うん、ある意味で文化祭の定番だね。

 

中でも喫茶店は定番だからね――だけど、定番の出し物じゃインパクトに欠けるから、もっと話題性のある出し物をしたいよねぇ?他に、アイディアあるかな?

 

 

 

 

「喫茶店もお化け屋敷も定番て言うなら、いっそのこと屋台村とか如何よ?

 

 戦車道部のグラウンドは広いから、其処に色んな屋台を出すってのは結構いけるじゃねかな?色んな屋台が有るってのは、文化祭に来た人達にとっても面白いモンになるんじゃないかって思うからさ。」

 

 

 

 

屋台村か……いいね、そのアイディア貰ったよ青子さん!

 

3年生が引退したとは言え、今は9チームあるから、チーム毎に屋台出せば9種類の屋台を出す事が出来る訳だし、結構バラエティに富んだ出し物になるかも!

 

屋台の看板も、夫々のチームの戦車をモチーフにすれば、結構インパクトもあると思うし、うん行ける!!

 

 

私は、この『屋台村』のアイディアを採用しようと思うんだけど、皆は如何思う?遠慮しないで意見は言ってね。

 

 

 

 

「良いアイディアだとは思いますけど、9個も屋台出すだけの材料って揃えられますか?

 

 部活ごとに、文化祭で使える費用って決まってましたよね?……まぁ、その部の大会なんかでの成績で多少は色が付くみたいですけど。」

 

 

「そうだね……その辺はどうなってるのナオミさん?」

 

 

「全国優勝したって事で、多少は多めに貰えるわね。

 

 テーブルとかは学校の備品を使うとして、ホームセンターで角材やらコンパネなんかを揃えると、其れで大体使っちゃうわね?

 

 屋台で使う鉄板とかの器具に関しては、地元商店街に頼めば貸し出してくれると思うから、大丈夫、予算の範囲内で出来るわよ。

 

 もし足りない物が出た場合は、自分の家から持って来れる物があったらそれを使えば良い訳だし。」

 

 

 

 

なら、予算の方は大丈夫だね。

 

他に何か意見はある?

 

 

 

 

「あの、当日の服装なんですけど、戦車喫茶の時に出たパンツァージャケットが良いと思うんですけど……その、西住隊長達のチームは、あの黒い服装で出たらどうでしょうか?」

 

 

「へ?梓ちゃん?」

 

 

「あの黒服の西住隊長達凄くカッコ良くって、部活勧誘の時の勇士が忘れられないんですよ~~~♪

 

 アレで屋台に立ったら、絶対にインパクト抜群で、其れが人伝に伝わって屋台村は大盛況になりますよ!折角の文化祭なんですから、派手に行きましょう、派手に!!」

 

 

「よっしゃー、其の案貰ったぁ!!」

 

 

 

 

って、更に青子さん!?

 

あ、此れもう否定できないパターンだ。梓ちゃんの一言で、ナオミさんとつぼみさん以外『其れはアリだ!』って言う感じになってるし、此処で『ダメ』って言ったら、やる気が下がるのは目に見えてるから、此れはもう覚悟決めないといけないパターンだね。

 

ナオミさんとつぼみさんも良いかなぁ?

 

 

 

 

「ま、こうなった以上はしょうがないでしょ?

 

 其れに澤が言ったように、折角の文化祭なんだから、多少は派手に行っても良いんじゃない?――あの黒の衣装はインパクトあるのは間違いない訳だしね。」

 

 

「私も良いわよみほさん。

 

 それに、みほさんだってあの黒の衣装は案外気に入ってるんでしょう?今年の1回戦はアレで行った訳だし。……いっその事、あの黒は明光大隊長チームの勝負ジャケットにしちゃいません?」

 

 

 

 

あはは……まぁ、アレはアレで迫力があるから、それなりに気に入ってるけどね。

 

だけど勝負ジャケットにするのは私達だけにしておこうか?梓ちゃんが私の帽子持ってるけど、梓ちゃん達は『黒のカリスマ』のイメージじゃないからね。

 

さてと、こうなった以上は屋台村で出し物は決定だから、後は何の屋台を出すかだね?

 

 

 

 

「タコ焼き!」

 

 

「イカ焼き!」

 

 

「チョコバナナ!」

 

 

「射的!」

 

 

「金魚すくい!」

 

 

「フランクフルト!」

 

 

「ヨーヨー釣り!」

 

 

「スーパーボールすくい!!」

 

 

 

 

と、いろいろ意見は出たけど、最終的には『たこ焼き』『戦車焼き(たい焼きの戦車型版)』『焼きそば』『金魚すくい』『ヨーヨー釣り』『輪投げ』『綿あめ』『射的』『杏子飴』の9個に決定。割と定番どころに決まったね。

 

因みに隊長チームは目玉の『たこ焼き』の屋台だから、気合入れないと!成り行きで私が焼く係になっちゃったけど、任された以上は、役目をキッチリ熟さないとね♪

 

片腕だから箱詰めにはサポートが必要になるけど、今こそ西住流タコ焼き術の極意を見せてあげるよ!

 

 

 

 

「西住流タコ焼き術って?」

 

 

「いや、冗談だからね青子さん?」

 

 

でも、こう見えて私は家庭レベルのタコ焼き器でタコ焼きを作るのは得意だったから、大型のタコ焼き鉄板でも多分余裕だよ?なにせ、お母さんとお姉ちゃんが、私のタコ焼きを食べて『至福のKO』を喰らった位だからね♪

 

 

自慢じゃないけど、熊本でタコ焼きを焼かせたら私の右に出る者なしだよ♪

 

 

 

 

「片腕なのに、みほって割と万能だよな?」

 

 

「そんなの今更よ青子。みほにとって、片腕なんて言うのはハンデにならないのかも知れないわね――私達と変わらない生活を送ってる訳だしね。

 

 本気で、貴女は凄いと思うわよみほ。」

 

 

 

 

色々と頑張りましたから♪

 

だから、文化祭も全力で行こうか?私達戦車道部が、最高の出し物だったって言われる位に!――文化祭当日が楽しみになって来たよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

さて、行き成り寮の自室に呼び出しておいてなんだが……エリカ、小梅、今度の日曜は何か予定が入っているか?

 

突然の、不躾な質問だとは思っているのだが、良ければお前達の日曜日の予定を教えてくれないか?

 

 

 

 

「はぁ……今の所、日曜日は何もありませんよ?――今度の日曜日は戦車道の方も戦車の整備が入ってるので練習は休みにしてありますので、私が必要ならばお供いたしますよ隊長。」

 

 

「私もその日はフリーですから、お付き合いしますよ隊長♪」

 

 

 

 

其れは良かった――だが、エリカも小梅も、私はもう隊長じゃないぞ?黒森峰の新たな隊長はエリカであり、副隊長は小梅なのだからな。

 

 

 

 

「あ、すみません。つい、クセで。

 

 それで、今度の日曜日は何が有るんですか?」

 

 

「あぁ、みほから学園祭に来ないかと誘われてな。

 

 ちょうど今度の土曜は学園艦の寄港日になっていて、熊本出立は日曜の夜だったから、丁度行けると思ってね。……去年は海の上だったから行く事も出来なかったからな。」

 

 

それで、1人で行くと言うのも詰まらないからお前達を誘った次第だ。

 

日曜の朝に、私の家に来てもらってから菊代さんの運転するヘリで明光大に向かう事になるんだが如何だろう?一緒に出掛けてくれないだろうか?

 

 

 

 

「はい、喜んで!」

 

 

「光栄です、西住先輩♪」

 

 

「うん、承諾してくれてありがとう。」

 

 

みほが言うには、戦車道部は『屋台村』なる出し物をやるんだそうだ。

 

何でも、チーム毎に屋台を出して、更に屋台の裏には夫々のチームが乗っている戦車を配置するらしいぞ?何の屋台が出るかまでは教えてくれなかったが、中々面白い物になりそうじゃないか。

 

……気になるのは当日の天気だが……

 

 

 

 

「明光大のある○○県は土日は晴れ時々曇りでしたよ?ただ、天気マークに無い雨があるかも知れないとは言ってましたが。」

 

 

「てるてる坊主でも作りましょうか?

 

 千羽鶴ならぬ百人てるてる坊主を人間大で。其れを寮のロビーに天井からぶら下げたら絶対に晴れますよ。」

 

 

「いや、其れ逆に怖いわ小梅。」

 

 

「あぁ、何と言うか大量に首吊りしてるみたいだ……まるで、一家心中の現場みたいになってしまうぞ。

 

 と言うか、夜中に見たら間違いなく生徒が驚いて、妙な噂が流れそうだから止めような?」

 

 

「残念です。」

 

 

 

 

大人しそうな顔して、時々とんでもない事を言うな小梅は?

 

まぁ、時々雲が出ても雨が降らなければそれでいいさ。学園祭とは言え、祭りは祭り。祭りは晴れの天気の方が気分も盛り上がるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

そんな訳で、文化祭当日なんだけど、なんか去年より来場者多くないかな?去年って此処まで人は来てなかったよね?

 

其れに、なんか戦車道部の屋台村が思った以上に大盛況!?次から次へとお客さんが来て、どの屋台も人でごった返してる感じになってないかなぁ?

 

 

 

 

「戦車道全国大会制覇が大きいわね此れは。

 

 万年1回戦負けの弱小校が去年はベスト4にまで進出して、今年は優勝したって言うのがネット上でも話題になってるみたいで、戦車道ファンを中心に来客が増えたみたいね。」

 

 

「そうなると、戦車道部の屋台村に人が多いのも頷けるわ。」

 

 

「まぁ、こっちとしては嬉しい悲鳴だけどな?

 

 売り上げは、其のまま部費になるってんだから、稼げば稼ぐだけ戦車に使える金も増えるしな。」

 

 

 

 

成程、そう言う事だったんだ。

 

まぁ、戦車道だけじゃなくて、バスケットと吹奏楽でも全国制覇してるし、華道部でも何人かが全国コンテストで入賞してるから、そこら辺でも人が集まってるのかもね?

 

各部活で活躍した3年生には、高校からのスカウトとかも来てるかもしれないし。

 

 

 

 

「かもな~~。

 

 でも今は、そんな事よりタコ焼きだ!ここらで一丁、パフォーマンス的に焼いてみようぜみほ!」

 

 

「良いね?

 

 其れじゃあ先ずは、タコ焼き用の鉄板に油をたっぷりと流します。大体窪みの2/3位の位置までたっぷりと!そして油の温度が上がったら生地を投入し、其処にタコとねぎと揚げ玉を入れて、生地の表面がカリっとなったら串で引っ繰り返して、裏面もこんがりと!

 

 焼き上がったら箱に詰めて、ソースを塗って、更に特製のからしマヨネーズをかけて、鰹節をトッピングして完成!

 

 これぞ、西住流タコ焼き術極意『西住流揚げタコ焼き』!!こんがり揚がった生地の食感と、パンチの利いた辛しマヨネーズは相性抜群!」

 

 

「1箱6個入りで400万リラな~~♪」

 

 

「高!?」

 

 

「あ、いや、400円で。」

 

 

 

 

あはは、青子さんの冗談を本気にしちゃう人がいるとは驚きだけど、こう言う屋台では青子さんのイケイケドンドンなのがバッチリ合ってる♪

 

青子さんの呼びかけでタコ焼きの屋台に来てくれる人は決して少なくないからね。

 

 

でも、客引きは良いけど、生地と具材を装填する手を休めないで青子さん。

 

ナオミさんも、休まずに焼けたタコ焼きを箱に撃ち込んで下さい。つぼみさんは、会計が滞らないように上手く操縦して下さい。

 

 

 

 

「「「了解!」」」

 

 

 

 

うん、良いノリ♪

 

このノリに乗じて、どんどん行こうね。どうせだから、屋台村で一番の売り上げを上げちゃおうか?ヤッパリ、隊長チームとしては、他のチームより売り上げが低いって言うのは頂けないからね?

 

梓ちゃんの所の焼きそばもタコ焼きに次ぐ人気店だから、油断出来ない――戦車道でも、屋台の売り上げでも負けてあげないよ梓ちゃん!

 

 

 

 

「此れはまた、大盛況だなみほ?」

 

 

「全国制覇のネームバリューは侮れないわね?

 

 黒森峰は『勝って当然』的な空気があったから、全国優勝しても文化祭で人を呼ぶ効果は無かったモノね……去年のベスト4がまぐれじゃなかったって証明した優勝ってのもあるかもだけど。」

 

 

「其れにしたって、この人の量は凄いですよ?

 

 まさか、タコ焼き買うのに20分近く並ぶとは思いませんでしたから。」

 

 

 

 

あ、お姉ちゃん!其れに、エリカさんと小梅さんも!

 

お姉ちゃんが来てくれれば良いな~と思って連絡したんだけど、エリカさんと小梅さんも来てくれるなんて、此れは嬉しい誤算て言う所だね♪

 

 

 

 

「たいちょ……先輩に誘われたのよ、一緒に行かないかってね。

 

 特に予定もなかったし、折角のお誘いを断る理由はなかったし、貴女が屋台村ってのでどんな屋台を出すのかにも興味があったから来てみたわ。ま、此処まで大盛況とは思わなかったけどね。」

 

 

「本当に大盛況ですね?

 

 タコ焼きの屋台が一番人が多いとは言え、どの屋台も満員御礼札止め状態ですよ此れ?正に休む暇もないって言う所じゃないですか?」

 

 

 

 

まぁね?流石にお昼の1時間はお休みするけど、それ以外は屋台をフル回転だよ。

 

何よりも、此れだけ人が来てくれるんだから、其れには応えないとだから。――で、タコ焼きは何箱御所望かなお姉ちゃん?て言っても、店を回す都合で、お一人様2箱までの制限を出してるけど。

 

 

 

 

「なら私は2箱貰おう。

 

 エリカと小梅も2箱買っておくと良いぞ?みほのタコ焼きは、一度食べたらまた食べたくなる程に美味だからね。6個入りで400円と言うのも、私に言わせれば安い位だからね。」

 

 

「そうなんですか?じゃあ、私も2箱で♪」

 

 

「西住先輩が其処まで言うなんて期待出来るわね?なら私も2箱貰うわ。

 

 こう見えて、私は味にはうるさいから、安易な高評価はしないから覚悟しておく事ね。」

 

 

「お?言ってくれんじゃねぇか銀髪!

 

 だがしかし、お前は次の瞬間陥落すっからな?アタシも試食したから言える事だが、みほのタコ焼きはマジでハンパねぇ!先ずは、四の五の言わずに食え!そして、その美味さに泣け!叫べ!!そして、更に食え!!」

 

 

 

 

青子さん、其れは流石にどうかと……でも、取り敢えず食べてみてよ?

 

此れは結構な自信作なんだ?戦車道部の皆に試食してもらったんだけど、物凄く好評だったからね。私自身も、此れまでの最高傑作だって自負してるから。

 

 

 

 

「うん、ではいただきます。」

 

 

「いただきま~す♪」

 

 

「いただきます。」

 

 

 

 

――パクリ

 

 

――ズギャァァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

 

な、何か凄い音がしたけど、如何だった?

 

 

 

 

「こ、此れは……何て言う物を作ってくれたんだみほ!!

 

 からりと揚がった生地の香ばしさに、ソースが絶妙に絡み、更にパンチの利いたからしマヨネーズが全体の味を引き締めている……これはまごう事なく、最高の逸品だ!」

 

 

「く……高々タコ焼きと侮っていたわ……まさか、此処までの味を出してくるなんて――やるわねみほ。」

 

 

「美味しい~~~♪もう、お口の中が幸せです~~~♪」

 

 

 

 

あはは、気に入って貰えたようで何よりかな?

 

でも、お姉ちゃん達の感想を聞いた人達が一気にタコ焼きの屋台に集まって来た!?此れは、此れまで以上にスピードアップしないととても捌けないよ!!

 

青子さん、ナオミさん、つぼみさん……リミッター解除!!

 

 

 

 

「「「全力全壊!!」」」

 

 

 

 

さぁて、もっともっと頑張らないとだね!

 

あ、タコ焼きも良いけど、他の屋台も結構レベル高いから見てみてねお姉ちゃん?特に梓ちゃんの所の焼きそばは、私達のタコ焼きに負けない位に盛況みたいだから♪

 

 

 

 

「あぁ、そうさせて貰おう。――行くぞ、エリカ、小梅!!」

 

 

「「はい!!」」

 

 

 

 

うん、お姉ちゃん達も学園祭を楽しんでるみたいだから、此れなら誘った甲斐もあったって言う所だね♪――さて、もう一頑張りと行こうか♪

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

そんなこんなで、忙しかったけど充実した学園祭もそろそろお終いだね――まさか、本当にお昼の1時間以外は休みがない状況になるとは思ってなかったけど。

 

 

で、学園祭のフィナーレを飾るのは、校庭でのキャンプファイヤー。

 

吹奏楽部の生演奏のフォークダンスが、明光大付属中の文化祭の目玉でもあるんだよね。去年はナオミさんと踊ったけど、今年は如何しようかな?

 

 

 

 

「あの、西住隊長!」

 

 

「ん?如何したの梓ちゃん?」

 

 

「あの、もしよかったら、一緒に踊って頂けませんか?」

 

 

 

 

と思ってた所で、梓ちゃんからお誘いを受けるとは予想外だったかな?――でも、私も誰と躍ろうかって考えてた所だから、ある意味でタイムリーだよ梓ちゃん。

 

 

「Shall we dance Azusa?(踊ろうか、梓ちゃん?)」

 

 

「はい!よろしくお願いします!!」

 

 

 

 

今年は梓ちゃんとフィナーレのフォークダンスだね。

 

まさか、此れが月曜日の校内新聞で『戦車道部隊長と新副隊長の華麗なる舞踏』って一面記事になるのは、完全に予想外だったけどね?

 

 

でも、梓ちゃんとのダンスは楽しかったから、文句はないよ。

 

 

 

其れに、屋台村は今年の学園祭の出し物の中でも一番の売り上げを記録して、結構な額の部費を得る事も出来たからね?

 

お姉ちゃん達も楽しんでくれたみたいだったから、今年の文化祭は大成功の大盛況だよ♪此れは、間違いなく中学時代の最高の思い出の一つになるだろうね♪

 

 

とってもいい文化祭だったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer44『バレンタイン・ウォー!です!』

バレンタインイベントは外せない!のかなぁ?Byみほ      まぁ、やっといて罰は当たらないでしょ?Byナオミ      おっしゃー、取り敢えずチョコ作るぞ!By青子


Side:みほ

 

 

 

文化祭も終わって一息……とは行かないのが二学期!

 

文化祭の2週間後には、絶対外せない一大イベントの『修学旅行』が待ってた!!

 

明光大の修学旅行は、1年生が春先の日光で、3年生が秋の京都、そして2年生は秋の船中泊で、秋が深まる北海道にHere we goだよ!

 

半日授業を終えてから、夜の7時にもう一度学校に行くって言うのは流石に大変だったから、旅行の準備をあらかじめ持って来ておいて、駅のコインロッカーに預けといて、再集合時間の前に取りに行ったけどね。

 

其れまでの時間は、何時もの放課後通りにナオミさん達と過ごしたけど――その日は梓ちゃん達のチームも参戦して、エアホッケー勝負とかして楽しかったっけ♪

 

 

そんなこんなで着いた北海道も楽しかったかな。

 

本土では味わえない自然の空気と、熊本とは異なる北国の雰囲気に、何よりも御飯が美味しかったのが印象に残ってるんだよね凄く!!

 

 

班別行動で小樽に行った時に、事前に決めてたお寿司屋さんで名物の『あずましい丼』って言うのを頼んだけど、まさか店頭サンプルよりも盛が凄いとは思わなかったよ?

 

これでもかって言う位に盛られた、刺身の魚に、有頭エビの御造りに、イクラとウニがふんだんに乗ってたからね?……此れで1500円は安い何て言うもんじゃないかな。

 

 

北海道はサンプルよりも本物が凄いって言う話は聞いてたけど、まさかこれ程とは思ってなかったからね。

 

 

まぁ、人生初の北海道旅行は満喫できたかな。

 

お母さんとお姉ちゃんにお土産で買ってった北海道でしか売ってない『熊の置物のキーホルダー』は気に入って貰えたみたいだし、菊代さんにお土産として買ってった『札幌限定ブリザードボコ』のぬいぐるみも喜んでもらえたからね♪

 

 

 

そんなこんなで、イベント盛りだくさんの二学期があっという間に過ぎて、気が付けば三学期も1月が終わってもう2月。

 

三学期は卒業式以外のイベントは無いって思ってたんだけど……あったんだよね、三学期最大のイベント行っても過言じゃない『バレンタインデー』が。

 

 

隊長チームの皆には去年と同様に『友チョコ』をあげるとして、今年はエリカさんと小梅さんにもあげておこうかな?

 

取り敢えず、お姉ちゃんとお母さんとお父さんには渡しておかないね――私とお姉ちゃんから貰う事が出来なかったら、お父さん泣いちゃう。

 

 

それじゃあ、頑張るとしようかな♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer44

 

『バレンタイン・ウォー!です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で自宅のキッチンでチョコレートを手作りしようと思ったんだけど……何このグラウンドゼロ?

 

しっちゃかめっちゃかになった調理器具に、あたりに飛び散った溶けたチョコレートと、ココアパウダー。そして、キッチンの床で見事なまでのKOポーズになってるお姉ちゃんとお母さん……一体此処で何があったし。

 

 

 

 

「奥様とまほお嬢様は、バレンタインのチョコレートを手作りしようとして、そして失敗して、其れでも西住流の如く退く事を選択しなかった結果このような惨事になってしまわれたのですよみほお嬢様。

 

 こうなる事を予測して助力を申し出たのですが、断られてしまいましたからね……」

 

 

「お母さんもお姉ちゃんも、其処は菊代さんの助太刀を受け取ろうよ。

 

 家庭料理は兎も角として、ちょっと凝った料理やお菓子に関してはお姉ちゃんもお母さんも壊滅的なんだから、やろうとするのが間違いだと思うんだよねぇ……」

 

 

「なにぃ、みほだって凝った料理は得意ではないだろう!」

 

 

「その身体で料理が出来る時点で色々と凄いのだけれど、そもそも料理に関しては私達よりもみほの方がレベルは上なのは否定出来ないわよまほ。」

 

 

 

 

あ、KO状態から復帰した。

 

兎に角、右腕しか使えないから手際は悪いかも知れないけど、料理の腕其の物はお母さんやお姉ちゃんよりも遥かに上だよ?将来的に一人暮らしする事だってあるかも知れないから、その時の為に菊代さんに確り習ったモン。

 

 

 

 

「菊代仕込みだったとは……なら納得だわ。」

 

 

「だとすると、実は凝った料理も作れるようになってたりするのか?

 

 ……いや、文化祭でのタコ焼きは見事だったが、凝ってると言ってもアレはスナックの類だからな……」

 

 

 

 

ある程度は作れるよ?

 

菊代さんからだけじゃなくて、学校で調理実習がある時は青子さんに教わってるし。

 

青子さんって料理凄く上手で、作る料理が決められてない状態で、各班毎に料理を決めて作るって言う時は物凄く凝った料理を簡単に作っちゃうからね?この間の調理実習はテーマが『春巻き』だったんだけど、私達戦車道隊長チーム(実は普段の班分けも隊長チームで纏まってます♪)は青子さんの指導の下、『麻婆春雨春巻き』と『タコスミート春巻き』って言うのを作ったからね。

 

 

 

 

「みほ、其れ今度作って。なんか凄く美味しそうだわ。」

 

 

「私にも頼む。可能なら、調理品を冷凍してクール便で黒森峰の学園艦に送ってくれ。」

 

 

 

 

まさかの反応だったよ此れ!?

 

……機会があったらね?私としても、自分の料理を食べて貰えるのは嬉しいし♪その時は菊代さんも、是非御賞味ください♪

 

 

 

 

「その時を楽しみにしておきますねみほお嬢様。

 

 それで、このグラウンド・ゼロの跡地は如何いたしましょうか?……本気で爆弾が爆発したんじゃないかって思う位にチョコレートとココアが飛び散っているのですが……」

 

 

「此処は吸い込みの変わらないダイソン先生に頑張って貰いましょう。

 

 其れで、このグラウンド・ゼロの被害を処理した後で、改めてバレンタインのプレゼント作りをした方が良いでしょう――今度は、菊代さんの参戦も拒否権はないからね、お姉ちゃん、お母さん?」

 

 

「「はい……」」

 

 

 

 

簡単に陥落した!――まぁ、この惨状を作り出した事を考えれば当然かもね。

 

菊代さんがサポートしてくれれば、少なくともキッチンでグラウンド・ゼロが起きる事もないし、お父さんに『劇物』が渡される事もないだろうからね……お父さん、よく去年は死ななかったよ。思いのほか頑丈なのかもね。

 

 

 

 

「時にみほ、お前はお父様以外にあげる相手が居るのか?

 

 私は、エリカと小梅に感謝の意を込めてやる心算だが……」

 

 

「ん~~~、戦車道部の皆には当然として、お父さんとお母さんとお姉ちゃん以外ではエリカさんと小梅さんかな?後は菊代さん。

 

 学校が違うから、エリカさんと小梅さんへのプレゼントは、お姉ちゃんから渡してもらう事になるんだけどね――お願いして良いかな?」

 

 

「あぁ、構わないぞみほ。

 

 私も凛へのプレゼントをお前から渡して貰う心算だったからな――安斎の方は、流石に宅配便を使うけれどね。」

 

 

 

 

まぁ、其れは仕方ないんじゃないかな?

 

安斎さんの地元って愛知だし、愛和学院も学園艦だから寄港地が被らない限りは会う事も難しいから、此処は学園艦専用の宅配サービスを使うのが吉だよ。

 

 

 

 

「だな。

 

 しかし、黒森峰は女子高だから兎も角として、共学の明光大ではみほからのチョコを欲しがる男子が居るんじゃないか?

 

 こんな言い方をしたら何だが、みほは容姿も良いし器量も良い。片腕と言う身体的ディスアドバンテージを背負ってはいるモノの、其れを感じさせない位に身体能力は高く、料理も巧い……絶対にもてると思うんだが。」

 

 

「其れもそうね?……その辺は如何なのみほ。」

 

 

 

 

靴箱のラブレターを見る限り、私に好意を寄せてる男の子が多いのは否めないけど、私は付き合う気は毛頭ないから安心して良いよ。

 

私だけじゃなく、隊長チームの全員が彼氏を作る心算なんてないから。

 

其れに、誰か一人を選んだら選んだで面倒な事になりそうだから、誰も選ばないのが一番なんだよ。

 

バレンタインデーに私のチョコを期待してる人も居るかも知れないけど、私は学校の男の子達にあげる予定はないよ?――何よりも、青子さんが『対男子対策』をやってると思うからね。

 

 

 

 

「まぁ、そうなるか……取り敢えず明光大の男子諸君には合掌だ。」

 

 

「みほを落とす事は出来ないわ……出直してきなさい。」

 

 

「みほお嬢様は、男女問わずに人気があるのですね♪――時に、青子さんの男子対策とは如何なものなのでしょうか?」

 

 

 

 

手作りしたチ○ルチョコ大のチョコレートを節分の豆撒きよろしく、教壇から教室内にばら撒くんです。

 

本命を貰ったモテ男子は兎も角として、貰えなかった残念男子は、学校きっての有名人である青子さんからのバレンタインプレゼントを貰えたっていうだけで狂喜乱舞だから大丈夫です。

 

 

其れは兎も角、改めて始めようお母さん、お姉ちゃん。

 

今から始めないと、明日には間に合わないからね?

 

 

 

 

「だな……今度はよろしくお願いします菊代さん。」

 

 

「頼むわ菊代……此れは思った以上の強敵だったからね――貴女のサポートに期待するわ。」

 

 

「そんな大袈裟な――ですが、頼まれたのならば応えましょう。

 

 まほお嬢様も奥様も、私の持てる力の全てを持ってしてサポートをしますから失敗を恐れずに思い切りやって下さいませ!!」

 

 

 

 

菊代さんは人を乗せるのも巧いね?

 

流石は現役時代はお母さんの副官を務めてただけの事はあるかな?――お母さんの『剛』と菊代さんの『柔』が巧い具合に噛み合っていたのかも知れないね……お母さんが現役時代無敵だった訳だよ。

 

 

兎に角、バレンタインは明日だからこれ以上の失敗は許されないから、菊代さんの指示のもとにプレゼントを完成させないとね!!

 

それじゃあ、ぱんつぁーふぉー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梓

 

 

 

明日はバレンタインデー。

 

西住隊長と隊長車の人達にバレンタインのプレゼントをしようと思って頑張ったんだけど、此れは意外と難しい物があるかなぁ?

 

もっと凝ったモノにしようと思ったんだけど、此処は無難に手作りトリュフで行った方が良いかも。――下手に冒険して取り返しの付かない事になったら、其れこそ泣くに泣けないよ。

 

料理も戦車道も、先ずは基本から。冒険するのは基本が出来てからね――で、クロエは何してるの?(クロエは寮の同室。)

 

 

 

 

「はい、私も御一緒しようかと思いましテ。

 

 2人で一緒にやれば作業も捗って効率も良いですし、実を言うと私の実家は洋菓子店なので、市販チョコを溶かして作るトリュフ位なら割と簡単に出来ますかラ。」

 

 

「あ、そうだったんだ。そう言う事ならお願いしようかな?

 

 経験豊富な人が手伝ってくれるのは助かるし――時に、クロエは誰かに作らないの?」

 

 

「予定はありませんヨ?特に西住隊長は可成りの数貰うでしょうから、余り多くてもいけませんし。

 

 ――あぁ、アズサは西住隊長に渡して下さいネ?恐らくは隊長からはあると思うので、副隊長が貰いっ放しと言うのは良くありませんから。」

 

 

 

 

アハハ……其れは確かに。

 

でも、そうなるとクロエは如何するの?多分西住隊長の性格からして、戦車道部全員にプレゼント用意してるんじゃないかと思うんだけど?

 

 

 

 

「ホワイトデーにお返しすれば良いでしょウ。」

 

 

「成程。」

 

 

それじゃあ、早速作業に取り掛かろうか?

 

先ずはチョコレートを湯煎で溶かして、其処に生クリームと洋酒……ブランデーかラムを入れるんだけど、中学生の寮室にそんな物は置けないので、此処はバニラで妥協。

 

よく混ぜたら、今度は氷水で『緩くない程度』に固めたら、一口大に丸めて、ココアパウダーやシナモンパウダーをかけて完成!……味は如何かなクロエ?

 

 

 

 

「Es ist sehr lecker.(とても美味しいです。)

 

 此れならば、隊長に渡しても喜んでもらえると思いますよアズサ。

 

 では、この調子でどんどん作っていきましょう。パウダーの塗布と箱詰めとラッピングは任せて下さイ。」

 

 

 

 

うん、任せるよクロエ。

 

戦車道部の皆に、先輩達に、何よりも西住隊長に喜んでほしいから頑張るぞーー!!

 

 

とは言え、流石に35人分も作るのは大変で、全部が終わった時には寮の就寝時間を完全に過ぎてた……大浴場は無理だから、今日は部屋のシャワーで我慢するしかないか。

 

 

それから、手伝ってくれてありがとうクロエ。おかげで良い物が出来たよ♪

 

 

 

 

「ならば良かったでス。――西住隊長に喜んでもらえると良いですネ。」

 

 

 

 

うん、そうだね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

と言う訳でバレンタインデー当日。

 

うん、大体予想はしてたけど、今日は靴箱からファンレターとラブレターじゃなくて、大量のチョコレートが流れ出して来たよ。……本気でどうやって入ってたんだろう?若しかして、学校の靴箱は限定条件下でのみ四次元空間になるのかなぁ?……ある意味学校の七不思議だよ。

 

 

で、HR前の教室では……

 

 

 

 

「オラァ、チョコ貰えなかったモテない男子どもぉ!

 

 お前等に今から、このアタシが施しをくれてやるから有り難く受け取りやがれぇ!サイズは小さいが、全部手作りだから有り難く思えーー!」

 

 

「「「「「「青子大明神様ーーーー!!!」」」」」」

 

 

 

 

青子さんが教壇の上に立って、豪快にチョコを撒いてた。そして其れに群がる貰えなかった男子……まるで餌に群がるお堀の鯉だね。

 

あ、おはようナオミさん、つぼみさん。はい此れ、バレンタインのプレゼント。

 

 

 

 

「おはよ、みほ。此れは有り難く受け取っておくわ。じゃあ、此れは私から貴女にね。手作りできるほど器用じゃないから市販品だけど。」

 

 

「おはようございますみほさん。有り難く頂戴します♪これは私からです♪」

 

 

 

 

ナオミさんとつぼみさんも用意してたんだ。まぁ、去年もそうだったからね。

 

と言う事は……

 

 

 

 

「みほぉ!こいつはお前にだ!!!」

 

 

 

――バスン!!

 

 

 

 

ストラーイク!

 

うん、推定時速100kmはあるね。其れを右手だけでキャッチしちゃう私も大概だけど。――じゃあこれは私からです青子さん!!

 

 

 

 

――バスン!!

 

 

 

 

「ナーイスボール!推定時速120kmってとこだな此れは。みほは戦車道だけじゃなくて女子野球でもピッチャーとして活躍できっかもな♪」

 

 

 

 

かも知れないね。

 

時に青子さんそろそろ教壇から降りた方が良いんじゃないかな?って言うかもう手遅れかも……先生来ちゃったし。

 

 

 

 

「辛唐ーー!教壇に登って何しとるかーーー!!

 

 今すぐ降りんか馬鹿者ーーーー!!男子も普通に貰ってるんじゃない!と言うか、誰か止めないかーーー!!」

 

 

「あぁ?るせーなぁ……折角だから、アンタにもお裾分けだ先生!

 

 アラフォーで独り身のアンタが、バレンタインデーにチョコ貰えるとは思えねぇからな?生徒の心遣いを有り難く受け取れ、礼は要らねぇ!」

 

 

 

 

そして、その先生に向かってチョコ投擲!

 

結果として、青子さんは呵々大笑した後で、HRの間廊下に立たされました。……立たされながらも、廊下を歩く男性教諭にチョコ配ってたって言うのは凄いと思うけどね。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

で、中休み。

 

おーいナオミさん、そろそろ中休み終わるから起きましょう。って、腕の所にチョコ挟まってるよ?

 

 

 

 

「あふ……もう御終いか。

 

 其れでチョコレートですって?……何でこんな所に挟むのよ?体温でチョコが溶けるでしょうに……って、脇の下の方にも入ってた!!

 

 あぁ、更にスカートのポケットにまで!?」

 

 

「其処までされて何で起きねぇんだオメェは?」

 

 

「中休みで此処まで熟睡できるとは驚きね。」

 

 

 

 

確かに、ドンだけ熟睡してたのかってね。

 

まぁ、ナオミさんはボーイッシュな印象で、性格もクールだから男子よりも女子のファンの方が多いから、此れもまた納得かな?チョコ置いて行ったこの気持ちも分からないじゃないからね。

 

 

 

 

「みほが貰うなら兎も角、何で私に……ったく、ホワイトデーのお返しはしないわよ?」

 

 

「まぁ、一方的に送られたのに関しては返さなくても良いと思うよ?それに、こんな渡し方じゃ送り主が不明な訳だしね。」

 

 

送り主の名前でも書いてあれば別だけど、こう言う渡し方をする場合は、大抵匿名希望さんからだからね。だからお返しは考えないのが正解だよ。

 

私も、送り主不明の物に関してはお返しする気はないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

で、時は流れて放課後の部活動の時間。

 

覚悟はしてたけど、戦車道部の皆からプレゼントをもらって嬉しい悲鳴だよ。中には、私がチョコレートを貰う事を見越して、チョコじゃなくてボコのぬいぐるみを持ってくる子も居たけどね。――私の趣味を分かってる子が居るのは嬉しかったかな♪

 

 

それで――

 

 

 

 

「に、西住隊長、その……バレンタインのプレゼントです!」

 

 

 

 

最後に持って来たのは梓ちゃん。

 

よっぽど緊張してるのか、耳まで真っ赤になっちゃってるよ……あぁ、もう可愛いなぁ!!

 

 

 

――ナデコナデコ

 

 

 

 

「ふぇ?ににに、西住隊長!?」

 

 

「ありがとう梓ちゃん、有り難く頂くね?」

 

 

「はうぁ!……そ、その笑顔は反則です西住隊長。頭撫でられただけでヤバかったのに、此れはもう無理――我が人生に一片の悔いなし。」

 

 

 

 

あれ?梓ちゃん?梓ちゃーん?

 

 

 

 

「此れは……立ったまま気絶してるわね澤は。

 

 ……貴女に頭撫でられて、笑顔向けられた事で、澤の中のメーターが振り切れて機能停止したと見て間違いないわね此れ。」

 

 

「流石はみほさん、半端ないわ。」

 

 

「まぁ、梓は幸せそうだから大丈夫だろ?」

 

 

 

 

た、立ったまま気絶って、立ったまま絶命した弁慶じゃないんだから――でも、それだけ喜んで貰えたって考えるなら、逆に梓ちゃんの立ったまま気絶は、喜ぶべき事なのかな?……まぁ、顔が幸せそうだから、大丈夫かも知れないね。

 

 

まさか、こんな事になるとは思わなかったけど、きっと此れも10年後には笑い話のタネになるんだろうね?

 

取り敢えず、梓ちゃんが復帰したら今日の練習を始めようか?バレンタインで甘~~い雰囲気が漂ってるけど、練習を甘くする心算はないから、その心算で居てね♪

 

 

 

 

 

 

で、この後の練習では、実戦形式の模擬戦で、ティーガーⅠに搭乗した梓ちゃんのチームが異常に強かったです。……此れは、来年の大会が期待できそうだよ!

 

 

そう言えば梓ちゃんのチームが強くなった事に関してナオミさんが『憧れの隊長が自分のプレゼント受け取ってくれたら、其れだけで一時的なブースト効果で能力が上がる』って言ってたけど、仮にそうだとしても、やっぱり最終的には梓ちゃんの能力がモノを言うからね。

 

 

バレンタインのプレゼントが、思わぬ効果を発揮したって言うのは、其れは其れで良い事だから♪それじゃあ、今日の練習は此処までだね。

 

 

 

 

そう言えば、近坂先輩にお姉ちゃんからのプレゼントを渡したら、『まほに渡しといて』って逆にプレゼントを渡されたから、家に帰ったら此れを

 

黒森峰の学園艦に届けて貰う準備をしないとだね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

ふぅ、今年のバレンタインデーも凄かったな?……持ち運びが大変な事になるだろうと思って、大きめの紙袋を3つ持ってきて正解だったな。

 

さてと、エリカ、小梅、態々呼びつけて悪かったな?私からのバレンタインのプレゼントだ。

 

菊代さんに手伝って貰ったから、見た目は多少いびつでも、味の方は大丈夫だと思う。

 

 

 

 

「此れは、有り難く頂きますまほ先輩!」

 

 

「ありがとうございます♪」

 

 

 

 

喜んでもらえて何よりだ。

 

其れと此れは、みほからエリカと小梅に渡してくれと言われて持って来た物なんだ。此れも、併せて受け取ってくれると嬉しいな。――ある意味で、みほからのプレゼントは衝撃的かもしれないがね。

 

 

 

 

「みほから……ですか?」

 

 

「どんなチョコレートなんでしょうか?……って、此れは!!」

 

 

 

 

開けるまでもなく見えただろう?

 

みほはエリカと小梅へのプレゼントだけは箱の中が見える『セロファン包装』で包まれているから、開けずとも中に何が入って分かる仕様だ。

 

それで、如何だった?

 

 

 

 

「あの、まほ先輩、この満身創痍の熊を模したと思われるチョコレートは一体?」

 

 

「こ、此れは流石に――って言うか、此れは何ですか!?」

 

 

 

 

ボコられ熊の『ボコ』。――みほの大好きなキャラクターなんだ。

 

 

 

 

「「え゛?」」

 

 

 

 

何でも、ドレだけボコボコにされても、諦めずに立ち上がる姿が凄いんだそうだ……確かに、そうかも知れないな。ドレだけ負けても諦めずに前に進む事が、やがて自分の力になるのだからな。――そう、エリカ、お前の様にな。

 

 

小学校時代に一方的に叩きのめしてやったと言うのに、お前は其処から這い上がって来たからな?――ある意味では、お前もボコと同じ思考形態だったのかもしれんな。

 

だが、そのおかげでお前に私が去った後の黒森峰を任せられると言う物だ。

 

 

慢心せず、此れからも励めよ2人とも?

 

 

 

 

「はい!勿論その心算です!!」

 

 

「副隊長の名に恥じぬよう、精進します。」

 

 

 

 

なら良い。来年の黒森峰は、私が居た頃よりも強くなっているかもしれないな。

 

みほからのプレゼントが余りにも見た目があれ過ぎて、そのインパクトが全てを持って行った感は否定できない事だけれどね。――まぁ、此れで、チームの結束が固まるのなら、其れは其れで良い事だからね。

 

 

ふふ、今日は練習はお休みかな逸見隊長?

 

バレンタインデーと言う事で校内が浮かれているし、何よりも学園艦が丁度雨の地域を航行してるから、少なくとも実際に戦車を動かすと言うのは難しいだろうと思うのだが?

 

 

 

 

「今日に限ってお休みにしますよ――ボードゲームと言うのも考えたのですが、黒森峰ではボードゲームで得られる利点を学ぶ事は難しいでしょうからね……ですが、明日からはビシバシ訓練して、王者奪還に向けて邁進していきますよ。」

 

 

「来年は、真紅の優勝旗を再び持ち帰らないとなりませんから、簡単ではないと思いますけれど。」

 

 

 

 

ふふ、矢張りそう来たか。

 

だが、お前達がそう思ってくれるのなら安心したよ――お互い大変だろうが、その気持ちがあれば、此れからもお互いに支え合って黒森峰の戦車道チームに良い影響を与えてくれ。それが全軍のレベルアップに繋がるだろうからな。

 

 

ヤレヤレ、バレンタインとは程遠い会話になってしまったが、戦車女子には鉄と油と火薬の臭いの方が合ってるかもしれないから、此れは此れで悪くはないさ。

 

 

来年の黒森峰の活躍を、期待しているぞエリカ、小梅♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

 

悪戦苦闘しながらも作り上げた手作りトリュフは、形も歪だっけど、常夫さんは何も言わずにそれを食して、そして最後に『ありがとう、美味しかったよしほ』とか囁くって、反則も良い所だわ此れ!!私、よく陥落しなったわね……まぁ、常夫さんに喜んで貰えたのならば良い事だから文句はないけれど。

 

 

まぁ、何にしても、今年のバレンタインデーは、私も娘達も大成功と言う事ね。――ふふ、偶には、こう言う夫婦間のやり取りってのが有っても良いでしょうからね。

 

 

 

ふふ、聖ウォレンティーヌスの命日にあやかったイベントだけど、其れが此処まで楽しいと思えたのは初めてかもしれないわ。

 

――そう言えば、千代の長女と、横須賀の前隊長と、愛和の安斎さんからもみほへのプレゼントが来ていたから、みほが帰ってきたら、其れを渡さなくてはね。

 

 

如何やらみほは、人を引き付ける魅力があるみたいだわ――だからこそ、戦車道における最強エースと言われているのだからね。

 

自校の生徒からだけじゃなく、他校の生徒からも好かれてたと知ったら、みほは一体どんな顔をするのかしら?……ふふ、楽しみになって来たわ此れ♪

 

 

バレンタインのイベントは、未だ未だ楽しみが尽きそうにはないわ――ビバ、ハッピーバレンタイン♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer45『此れが最高の卒業式です』

3学期最大のイベント卒業式!Byみほ      おっしゃ、忘れられない卒業式にしようぜ!By青子      異論はないわ。Byナオミ


Side:みほ

 

 

 

3学期の一大イベントである『バレンタイン』が終われば、あっという間に学年末考査が行われて、そして短い2月が終われば卒業式が待ってる……在校生代表の送辞を読む事になってるから頑張らないとね。

 

 

 

 

「でもって答辞は前部長……此れって、間違いなく狙ってやってるよな?」

 

 

「狙ってるんじゃない普通に。

 

 全国優勝を果たした戦車道部の隊長の送辞と、部長の答辞って言うのは、魅せる要素も大きいから、学校側が設定したとしてもオカシクないんじゃない?……戦車道を、学校の宣伝に使われるみたいだから、あんまり好きじゃないけど。」

 

 

「でも、そのお陰でみほさんが在校生の最高の役目を行えるんだから其れで手打ちにしましょうナオミさん。」

 

 

 

 

私が送辞で、凛さんが答辞って言うのは、流石に作為的な何かを感じるけど、確かに学校側としては、全国制覇した凛さんの功績を讃えた上で、私の価値を誇示できるから、私の送辞と凛さんの答辞は最高の組み合わせなのかも知れないけどね。

 

 

でも、だからと言って其れで終わりにはしないのが戦車道だよ♪

 

最後のサプライズは着々と進行してるから、楽しみにしていてね――各員、準備をしておいてください。卒業式が終わった後の、見送りの『花道』を派手に飾りましょう!

 

 

 

 

「りょ~かい。此れは、きっと忘れられねぇ卒業式になるだろうな!」

 

 

「其れが目的だからね♪」

 

 

「なら、全力で行くわ。」

 

 

「私達で最高の卒業式を作り上げましょう!」

 

 

 

 

勿論その心算です!

 

だから頑張りましょう!部長達卒業生に、『最高の卒業式だった』って思って貰う為にも全力で。――大丈夫、私達なら出来るよ。

 

この、最高のチームなら絶対にね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer45

 

『此れが最高の卒業式です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてやって来ました卒業式!

 

結構厳しめな練習をこなして来たから、間違える事は想像出来ないよ――其れ以前に、卒業生を送る卒業式でトチったら、其れこそ末代までの恥になりかねないからね。

 

 

大舞台の時ほど頭を冷静に……お姉ちゃんとお母さんに教わった事が役に立った。おかげで、全く緊張してないからね。

 

 

 

でも、其れでも退屈なのは否定できないかな?

 

入場や、各方面からの祝辞は兎も角として、『卒業証書授与』はある意味で拷問だよ……クラス毎に呼ばれた順で返事して立つのは良いとして、なんで全員に手渡しするかな!?

 

この人数だったら、普通は名前だけ呼んで、後は代表者一名が全員分を受け取るシステムだって言うのに、何で一人一人に渡すって言うのを採用してるんだろうね?

 

無駄に長くなるから、在校生にとっては結構暇な時間――だからって寝ちゃダメだよ青子さん。

 

 

 

――ズビシ!

 

 

 

「おぉ!?……って、そうか卒業式だったっけ。

 

 あんまりにも退屈なんで寝ちまったぜ~~~……お蔭さんで、卒業式が終わるまではパワーが持続するからマッタク問題なしだけどな♪」

 

 

「あ、復活した。」

 

 

「まぁ、青子が寝るのも仕方ないんじゃない?

 

 1クラス30人以上で、其れが3年生だけで6クラスもあるんだから、人数にして200人は居るでしょ?……其れを全員に手渡ししてたら、退屈にもなるわ。」

 

 

「此れは、来期の生徒会に頼み込んで、卒業式の仕様変更を学校側に申し入れた方が良いかも知れないわね。」

 

 

 

 

ナオミさんとつぼみさんもそう思うよねぇ?

 

1クラス25人程度で5クラス以下なら兎も角、30人以上6クラスでのこの方式は、在校生にとっては――否、待たされる卒業生にとっても割と辛いモノがあるんじゃないかと思うんだよね?

 

 

此れから授与される人は兎も角、既に貰った人の中には手持ち無沙汰にスマホを弄ってる人も居るみたいだし。まぁ、幾ら退屈だからって、卒業式の最中にスマホを弄るのは如何かと思いますけれど。

 

 

 

 

『近坂凛!』

 

 

「はい!!」

 

 

 

 

っと、今度は近坂先輩の番だね。

 

戦車道の試合では頼りになる仲間だったけど、こう言う式典の時とかでも、近坂先輩は名前の通り、凛としてて格好良かった――うん、卒業証書を受け取る姿も、誰よりも様になってる感じだよ。

 

 

高校は、お姉ちゃんに誘われて黒森峰に行くって事だったけど、此れはお姉ちゃんと近坂先輩は大人気になるかもね?お姉ちゃんと近坂先

 

輩はどこか似てる所があるし、2人共見た目はクール系だから、女子高でもファンはつくだろうからね。

 

 

 

 

「共学の明光大でも、みほとナオミの同性からの支持率がめっちゃ高い件について。」

 

 

「愚問よ青子さん。

 

 隻腕の軍神と、冷徹なるスナイパーは、男子のみならず女子の心もガッチリと鷲掴み。この支持率の高さは、なるべくして

 

なった物だと、私は思ってるわ。」

 

 

「言われてみりゃ、其れもそうだな♪」

 

 

 

 

……この前のバレンタインで大体分かってた事だけど、やっぱり私とナオミさんて、女子のファンも多いんだ?

 

ちょっと複雑だけど、女子のファンなら、男子のファンよりもある意味では扱い易いから良いかな?――余程の事がない限り、男子ファンの中に偶にいる『狂愛者』は出て来ないからね。

 

 

 

 

「其れは其れとして、異性よりも同性にもてるって、女子として如何なの此れ?」

 

 

「ナオミさん、戦車女子は女子にもてるんですよ?

 

 お姉ちゃんは言うに及ばず、お母さんも現役時代は同性にもてたって言ってたから。……そんな中で、お母さんのハートをブレイクしたお父さんは凄いと思うよ?」

 

 

「しほさん以上に常夫さんが凄かったか……でもまぁ、人に好かれるってのは悪い事じゃねぇよな♪」

 

 

 

 

ま、そうなんだけどね。

 

人に嫌われるようじゃ、何をやったって結局は巧く行かずに頓挫する未来しか待ってないからね?――そう言う意味では、私は得なのかも知れないよ。

 

お姉ちゃんもお母さんも『みほには人を引き付ける力がある』って言ってたからね。

 

 

 

 

『送辞。在校生代表、西住みほ。』

 

 

 

 

っと、いつの間にか卒業証書の授与が終わって、送辞が来たね。

 

 

「はい!」

 

 

送辞は、在校生の見せ場だから頑張らないとね。

 

……来賓や保護者から、何かひそひそ話が聞こえるけど、十中八九、私に関してだよね?――まぁ、片腕の生徒が送辞を送るなんて言う事は、予想もしてなかっただろうからね。

 

 

でも、誰に何を言われても関係ないよ。――私は私だから!!

 

 

「送辞。

 

 深々と大地に根を伸ばし、じっと冬に耐えてきたタンポポも、今太陽に向かって花開こうとしています。

 

 雲梯に寄り添うように立つ桃も健気に花を咲かせ、春の香りが漂い始めました。

 

 この素晴らしい日に明光大付属中学校を旅立たれる皆さま、ご卒業まことにおめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。」

 

 

「卒業生の皆さまのことを考えると、体育祭、文化祭、委員会活動等で頼りがいのある姿が次々と思い出されます。」

 

 

 

 

ふぇ、ナオミさん!?

 

なんで壇上に…

 

 

 

 

「そのなかでも、卒業生の皆さまと最も多く過ごした時間は部活動でした。

 

 部活動という厳しい世界で、自分はうまくやっていけるのか、私達1年生2年生は一様に不安でした。

 

 しかし、先輩方の真摯に取り組む姿、果敢にチャレンジする姿、なにより私たちに厳しくも温かく接してくださった姿に、私達は励まされてきたと思います。」

 

 

 

 

更につぼみさん!?

 

若しかして、私にも内緒のサプライズ考えてたの!?

 

 

 

 

「先輩方を頼りにし、また憧れながら、私達はいつの間にか学年の垣根を超えて一致団結し、共に高い目標を目指してきたと思います。

 

 体育祭の応援合戦では、先輩たちの熱いご指導のもと、私たちは一つになって闘い合いました。あれほど胸が高鳴ったことはありません。

 

 合戦後に先輩方とグラウンドで円陣を組み、健闘を称え合ったことは、私たちの誇りです。

 

 卒業生の皆さま、私たちを導いてくださり、ありがとうございました。次は私達が新2年生を、そして新入生を導く番です。

 

 先輩方のたくましく、果敢で、心優しい姿を目に焼き付け、しっかりと志を継いで参りたいと決意しています。」

 

 

 

 

青子さんも。――此れは、私にも内緒だったのは確定だよ。

 

でも、此れは最高の送辞になるかも知れないね。

 

 

「四月から高校生となられる卒業生の皆さま。新しい環境で困難に直面することもあると思います。

 

 しかし、明光大付属中学校で様々な困難を乗り越え、私たちを立派に纏め上げた先輩方なら、きっと力強く前に進まれる事と信じています。

 

 卒業生の皆様の新たな一歩が光り輝き、未来まで明るく照らされますよう、在校生一同心からお祈りしております。

 

 在校生代表、西住――ううん、明光大付属中学校戦車道部・隊長チーム一同!」

 

 

「「「「卒業、おめでとうございます!!」」」」

 

 

 

 

――パチパチパチ!!

 

 

 

 

ちょっと驚いたけど大成功って言う感じだね?――何やらひそひそ話してた人達も、拍手をしてるからね。

 

だけど、此れをやるなら事前に教えて欲しかったよ3人とも。おかげで少し、驚いちゃったんだから。

 

 

 

 

「わりぃわりぃ。

 

 でも、秘密にしといた方が、みほにも良いかと思ってさ?――アタシ達が、こんな事を考えてたなんて事は予想してなかっただろ流石に?」

 

 

「完全に予想外だったよ。」

 

 

「だからこそ、サプライズになるのよ。

 

 みほが予想外なら、大抵の人にとっては予想すらしてなかった事態になる訳だからね。」

 

 

「今回は青子さんの読み勝ちね♪」

 

 

 

 

青子さんの勘は鋭いからなぁ。その勘が冴え渡ったら、私でも戦車道で勝つのはちょっと難しいかな?

 

――って言うか、その勘を駆使したプレイングでゲームセンターでは常にランキングの上位に名を連ねてるんだけどね。

 

 

 

 

『其れでは、続いて答辞。卒業生代表、近坂凛。』

 

 

「はい。」

 

 

 

 

と、今度は近坂先輩の答辞だね。

 

流石に、私達みたいな事はしないだろうけど、近坂先輩の答辞はちゃんと聞いておかないとね。

 

 

 

 

「答辞。

 

 卒業の時を迎えた今では、中学生活のそんな側面は非常に魅力的であるように思われます。

 

 自分の居場所を自分で見つけようとするうちに、どれほどたくさんの人たちにめぐり逢う事が出来たか、そしてその人達との出逢いが自分自身にとってどれほどの糧になったか。素晴らしい出逢いの数々に思いを馳せると、明光大付属中学校で過ごした時間は自分自身の人生にとって欠く事の出来ない1ページであったという事に、疑いの余地はありません。

 

 最後になりますが、未熟な私たちにいつも適切な助言を与えて下さった諸先生方、また様々な場面で私たちを支えて下さった職員の皆様に改めて御礼申し上げるとともに、中学卒業を迎えた今日まで私たちの成長を見守り続けてくれた家族に感謝します。

 

 そして、明光大付属中学校の一層の発展を願い、答辞とさせていただきます。

 

 卒業生代表、近坂凛。――ありがとう、皆。」

 

 

 

 

――パチパチパチパチパチ!

 

 

 

 

お見事。流石、近坂先輩は部長を務めてただけあって、大勢の前での挨拶とかが凄く様になってる。何て言うか、お姉ちゃんとはまた違った格好良さがあるよ。

 

感極まって泣いちゃうなんて言う事もないし、凄くカッコイイ答辞だったよ――私は、小学校の卒業式の答辞で泣いちゃったからね。

 

 

其れからも式は滞りなく進行。

 

無駄に長い来賓挨拶や、校長先生の挨拶は最早誰も聞いてなかったって言うのはある意味でお約束だね?青子さんは思いっきり夢の世界に旅立っていたから。

 

 

其れから校歌を歌い、最後に卒業生が『仰げば尊し』を歌って式は閉会。

 

『蛍の光』の演奏で卒業生が講堂から退場して、此れで終了!――だけど私達在校生には、卒業生を送る最後の大仕事が待ってるから、此処からがある意味では本番!

 

 

戦車道部全員準備開始!

 

部長達卒業生の花道を、戦車道部らしく派手に彩るよ?準備は良いね?それじゃあ、パンツァーフォー!!

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「Jawohl!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

忘れられない卒業式の花道を卒業生にプレゼントだね♪

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

と言う訳で、卒業生が校門までの道を歩いて行く、卒業式の最後の花道。

 

吹奏楽部の演奏が花道を盛り上げてるけど、其れを更に盛り上げるのが私達戦車道部だよ。既に準備は完了してるからね……其れでは全車『卒業おめでとう作戦』を開始して下さい!

 

 

 

『『『『『『『『了解!』』』』』』』』』

 

 

 

 

――ドン!!×9

 

 

 

作戦開始と同時に、全車一斉に主砲発射!

 

ティーガーⅠ2輌、ティーガーⅡ1輌、パンター3輌、Ⅲ突3輌の同時発射は流石に迫力があるなぁ~~~?この日だけの特別編成チームだ

 

けど、本来担当じゃない戦車に振り分けられたチームも見事に任務達成だね♪

 

 

 

 

「くおらぁ、戦車道部!何をしておるか何をーーー!!

 

 卒業式の日に戦車を持ち出して、更には主砲を撃つとは何事かーーーー!学校を破壊する気なのかお前達はーーーーー!!!」

 

 

「そんな事する筈がないじゃないですか教頭先生。此れは祝砲ですよ祝砲♪

 

 特殊なスモーク花火弾で、卒業生の皆さんをお祝いしてるんですよ――何よりも、戦車乗りとしては、戦車無くして卒業生を送る事なんて出来ないんですよ。」

 

 

「だからと言って戦車を持ち出すのは……」

 

 

「問題ないわ、校長先生から許可は得てるから。」

 

 

「何を許可してるんですか校長ーーーー!!!!」

 

 

 

 

あはは……まぁ、校長先生も昔は戦車女子だったらしくて、割とあっさり許可出してくれたんだよねぇ?まぁ、そのお陰でこんな事が出来た訳なんだけど♪

 

 

其れよりも、皆様空に注目!

 

今のは只の祝砲に在らず!特殊スモーク花火弾は、空にメッセージを描き出します!!

 

 

 

 

「此れは……やってくれるじゃない戦車道部!!」

 

 

「ちょっとびっくりしたけど、此れは見事ね?……流石、全国制覇した部活はやる事のスケールが違うわ。

 

 ――此れは、一生心に残る卒業の花道になるわね。」

 

 

 

 

驚いてくれましたか?

 

私達の祝砲は、特殊スモーク花火弾で、空に『卒業おめでとうございます』の文字を描くためのモノ。――此れならインパクトは絶大だし、戦車が卒業式の花道に現れたって言う事と相まって、絶対に印象に残ると思ったからね♪

 

 

 

 

「貴女の事だから、絶対に卒業式で何かしてくるとは思ったけど、まさか戦車を持ち出してくるとは思わなかったわみほ。

 

 其れに、此のスモーク花火をつかったメッセージも見事な物だった――マッタク、此れは最高の卒業の思い出になったわよ大馬鹿者共!」

 

 

「大馬鹿者上等です!って言うか、褒め言葉ですよ♪

 

 でも、戦車道部の先輩達には此れだけじゃないんです。有波さん、持って来てもらえますか?」

 

 

「まだ何かあるの?」

 

 

 

 

はい、此れは絶対に先輩達に貰ってほしかったので。

 

受け取って下さい、私達から先輩達への卒業の贈り物です。

 

 

 

 

「有波の家は写真屋だから、安くやって貰ったんすよ。」

 

 

「此れは――!」

 

 

「私達、明光大戦車道部が全国優勝した時の集合写真を引き伸ばしたパネル!!」

 

 

 

 

万年1回戦負けの弱小校と言われていた明光大が全国を制覇した時の記念の1枚を、是非先輩方に持っていて欲しかったんです。私達と一緒に戦った証としても。

 

 

 

 

「そう……そうよね。

 

 思えば万年1回戦負けの弱小校って言われてたのが、みほ達が入学してきた年にはベスト4に躍り出て、そして今年度の大会では優勝をしたんだもの……私達卒業生にとっては感慨深いわ。

 

 改めて、貴女には感謝ねみほ?――もしも貴女が居なかったら、私はきっと不完全燃焼のまま中学生活を終えてただろうし、まほともライバルになる事もなかったし、そのまほに誘われて黒森峰に行く事もなかったと思うから。

 

 だから、ありがとうみほ。」

 

 

「私の方こそありがとうです近坂先輩。

 

 先輩達の様に戦車道に真剣に向き合ってる人達が居たから、私は明光大の戦車道を作り上げる事が出来たんだと思いますから。

 

 先輩達と、気心の知れた同輩と、成長著しい後輩が居たから、今年の全国制覇は成し遂げられたって、私はそう思ってますから♪」

 

 

「至言ね。

 

 でも、このパネルは一生モノの宝物だわ――ありがとう皆!私は、私達は、明光大付属での戦車道の日々を決して忘れないわ!

 

 私達は卒業するけど、弱小校の汚名を返上して、王者になり上がった明光大の戦車道をこれからも伝えて行きなさい?黒森峰と肩を並べるだけの戦車道名門校になる事を、願ってる!」

 

 

 

 

黒森峰と肩を並べられるかどうかは分からないけど、少なくともベスト4の常連校位にはする心算ですよ近坂先輩。其れ位にならないと、今年

 

度の優勝は『まぐれだ』って言われちゃうからね。

 

 

尤も、お母さんが言うには『戦車道にまぐれ無し。あるのは実力のみ。』って言う事だから、明光大は全国制覇する実力が有るって事だけど。

 

 

まぁ、其れを本当にする為にも、益々精進していきますよ近坂先輩。

 

それこそ、先輩達が高校で『明光大出身』だって言う事を誇れる位に強くなってやります!何よりも、私達はまだまだ伸びる!って言うか、自分で限界を決めなければ、何処までも伸びる事が出来ますから!!

 

 

 

 

「おっそろしい暴論だけど、貴女達を見てると、あり得ないと言えないのが怖いわね?

 

 それだけに、貴女の言ってる事は只のビッグマウスと切り捨てる事は出来ないわ――期待してるわよみほ?」

 

 

「はい、任せて下さい!

 

 此れだけの仲間が居るんですから、きっと大丈夫です!!」

 

 

「ふふ、そうね。」

 

 

 

 

皆が居るからね♪

 

ともあれ、お疲れ様でした近坂先輩及び卒業生の皆さん!改めて、卒業おめでとうございます!!皆様の、高校での活躍を期待してます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

今日は黒森峰も卒業式で、式そのものは順調に進んだわ。

 

私と小梅が在校生代表として送辞を述べ、西住隊長……もとい、西住先輩が答辞を述べて、校歌を歌ってね――私としては、みほから『卒業式でお姉ちゃんが泣いたら、写真に撮って送ってね♪』ってメールが来てた事に驚いたけどね。

 

 

まぁ、確かに西住先輩の泣き顔を拝む機会なんてそうそうないでしょうから、其の写真が欲しいって言うのは分からないでもないけど、普通は姉の泣き顔の写真を求めないでしょ!?

 

 

尤も、西住先輩が泣くなんて事はないから、此れはそもそもミッションが不可能だったんだけどね……後で、答辞を述べる西住先輩の写真でも送ってあげるとしましょう。

 

 

 

で、今は卒業生を送る花道――卒業おめでとうございます、西住先輩。

 

 

 

 

「おめでとうございます。」

 

 

「エリカ、小梅……うん、ありがとう。

 

 高校も黒森峰に行くから、それ程感慨はないと思っていたのだが、自分が3年間過ごした中学校を離れると言うのは、思った以上に心に来る物があるよ。

 

 泣くほどではないが、此れが卒業の感動と言う物なのだろうね。」

 

 

「そうだと思います――私も、小学校の時はそうでしたから。」

 

 

「私は、小学校の時は其れを感じる事もなかったのだが――そう感じるのは、此処での3年間が充実していたからなのだろうな。

 

 特にエリカと小梅が入学してからの2年間は、とても充実していたよ……みほの明光大と死闘を演じ、安斎の愛和と激闘を繰り広げた訳だしね?……本当に充実していた。

 

 だからエリカ、小梅、お前達も中学最後の1年を悔いの無いように過ごせ――それが、前隊長として、お前達に下す最後の命令だ。」

 

 

 

 

西住先輩……はい、その命令、承りました!!

 

私も小梅も、中学最高学年となる来年度を悔いの無いように過ごし、その上で大会の優勝旗を黒森峰に持ち帰ります!貴女に約束します!

 

 

 

 

「卒業の日に、其れを誓います!!」

 

 

「ふ……そう来たか。

 

 ならば楽しみにしているぞ2人とも?必ず真紅の優勝旗を持ち帰れ。そして、その実績を携えて黒森峰の高等部に進んで来い!!」

 

 

「「はい!!」」

 

 

 

必ずや、この約束を果たして見せます!――例え、みほが目の前に立ち塞がっても絶対に勝って、そして優勝旗を黒森峰に持ち帰ります!

 

だから楽しみにしててください!!

 

 

 

 

「ふふ、期待しているぞ?」

 

 

「「はい!!」」

 

 

 

其れは其れとして、お疲れ様でした西住先輩――そして、改めて卒業おめでとうございます!高校での活躍もお祈りしています!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

『卒業おめでとうございます』……で、送信と。

 

お姉ちゃんには電話で卒業おめでとうを伝えたけど、美佳さんと蛍さんと安斎さんにはメールでね。直接言う事は出来ないけど、逆にメールなら確実に届ける事が出来るから。

 

 

でも、此れで激戦を行った人達は、皆卒業して高校に行っちゃうんだ――そして、今度は私達が最高学年として、下を引っ張って行く立場になるんだよね?……此れは、益々頑張らないとだよ!!

 

 

既存メンバーのレベル上げは当然だけど、来年度の新一年生も4チーム分は戦車道部に来て欲しいって言うのが本音だから、部活勧誘の策も練らないとね♪

 

 

 

 

 

 

そして、あっという間に3月は終わり(学年末テストは何時もの方法で青子さんがトップだった)、桜が舞う4月に。

 

私達の中学校最後の1年が、いよいよ始まろうとしていた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer46『中学最高学年の始まりです』

いよいよ3年生、気合を入れないとね!Byみほ      気合入れんなら任せとけ!大得意だ!By青子      今年も突っ走るわよ!Byつぼみ


Side:みほ

 

 

 

桜舞い散る4月のはじめ、今日から私も中学校の最高学年!

 

当然進級に当たってクラス替えは行われたけど、今年も隊長チームは同じクラスになれたから、中学校最後の1年もよろしくね、青子さん、ナオミさん、つぼみさん♪

 

 

 

 

「此れでアタシは、3年連続でみほと同じクラスだな~~♪

 

 ま、この面子が一緒のクラスってのは最高だから、今年も息を合わせてバッチリ行こうぜ!!」

 

 

「若しかしたら、校長先生が私達が一緒のクラスになれるように取り計らってくれたのかも知れないわね?

 

校長先生も昔は戦車道女子だったらしいから、隊長チームの大切さは分かるのかもね。」

 

 

「真実は兎も角、今年もみほさんと一緒と言うのは嬉しい限りだわ!

 

 バッチリしっかり頑張って、今年も大会で優勝を掻っ攫っちゃいましょう!!って言うか、明光大が黒森峰に代わって絶対王者になってやるってモンだわ!!!」

 

 

 

 

あはは……うん、その心算だよ私もね。

 

去年初優勝を飾ったけど、其れだけで満足する事は出来ないよ――今年も勝って、連覇して明光大の強さは本物だって言う事を世間に見せ付けないと満足出来ないからね。

 

 

全力で戦車道を楽しんだ上で、優勝を狙いに行く心算だよ♪

 

 

 

――ピンポンパンポーン

 

 

 

『呼び出しをします。3-1の西住みほさん、至急職員室まで来てください。

 

 繰り返します。3-1の西住みほさん、至急職員室まで来てください。』

 

 

 

 

って、此処で予想外の呼び出し?

 

一体なんだろう?放課後の寄り道はしてるけど、その程度で職員室に呼び出される事はないだろうから、別の事なんだろうと思うけど……職員室に呼び出されるような事したかなぁ?

 

……取り敢えず、行ってみない事には分からないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer46

 

『中学最高学年の始まりです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、やって来ました職員室。

 

呼び出されたのは私だけだけど『何かあった時の為に』って言う事で、青子さんとナオミさんとつぼみさんも一緒に来てくれた――此の友情には感謝感激だよ。

 

 

 

――コンコン

 

 

 

「3-1の西住みほです。」

 

 

「同じく吉良ナオミ。」

 

 

「続いて野薔薇つぼみ。」

 

 

「最後に辛唐青子。アタシ等はみほが心配だからくっついて来た♪」

 

 

「え~~と、そう言う事で西住みほ以下4名来ましたが、入ってもよろしいでしょうか?」

 

 

「あぁ、西住さんか……うん、他の子達も一緒に入って来てちょうだい。」

 

 

 

 

失礼します。……って、此れは一体何がどうなってるんですか?

 

校長先生が居るのは良いとして、学年主任の先生と、蝶野教官と同じ位の年頃の女性教諭が何やら言い争ってるみたいなんですけど……

 

 

あのぉ、一体何が原因でこうなったんですか?って言うか、何で私は呼ばれたんですか!?

 

 

 

 

「うん、あの若い子は今年此方に赴任して来たのだけれど、部活の顧問決める会議で戦車道部の新顧問を決める段階になって途端に『私がやります』って言い出してね。」

 

 

「ナオミ、お前戦車道部の顧問の顔知ってたか?」

 

 

「知らないわ。見た事ないし。」

 

 

「って言うか去年も一昨年も、練習はおろか大会の会場でも見なかったわよ?……居たのですか、顧問の先生。」

 

 

「居たわ――と言っても、部活の時間は自分の仕事の整理に当ててたから会った事は無いと思うけれど。

 

 だけど、前の顧問は今年の移動で別の学校に移ったから、形だけでも新顧問をと思ったら彼女がね?

 

 いや、別に彼女でも良いのだけれど、教頭先生が『全国大会優勝チームを新人に任せる事は出来ない』って言ってこの状況。」

 

 

 

 

へ~~~……で、だからってなんで私が職員室に呼び出される事になったのでしょうか?

 

部活動の顧問を決めるって言う事なら、其れこそ校長先生の鶴の一声で決める事が出来るんじゃないでしょうか?……話を聞く限り、今まで戦車道部の顧問は名ばかりだったので、誰がなっても活動に支障はないと思いますから。

 

 

 

 

「私もそう思ったのだけれど、彼女は『私は経験者であり、戦車道教官の免許も持ってる』って言う事でね?

 

 それで、隊長である西住さんに実際に会って貰って、彼女が戦車道部の顧問に向いているかどうかを見極めて貰おうと思ったのよ。

 

 彼女が本当に経験者であるかどうかは、現役の西住さんには分かるでしょう?」

 

 

「其れは現役とか関係なく、本気で戦車道に取り組んだ事がある人なら分かると思いますよ校長先生。

 

 ……でも、そうですね?経験者であるのは間違いないし、教官免許を持っているって言うのも嘘ではないと思います。あの人からは、私が車長専任免許を取る時にお世話になった蝶野亜美教官と似たような匂いを感じますから。」

 

 

「成程ね?

 

 はい、教頭先生も不知火先生も其処までです。西住さん以下、戦車道部の隊長チームが来てくれました。後は、彼女達の判断に任せるとしましょう。」

 

 

 

 

って、此処で丸投げですか校長先生!?

 

部活動の顧問を部員が決めるなんて言う話は聞いた事が無いけど、このフリーダムさはある意味で明光大の特色なのかな?……少なくとも黒森峰だったら絶対にあり得ない事だと思うからね。

 

 

でも、此れは責任重大だよ?

 

幾ら経験者で教官免許を持ってるとは言え、自分の戦い方を押し付けて来るような人だったら絶対にお断りだよ――明光大の戦車道は型に捕らわれない無形が持ち味だからね。

 

 

先ずは――

 

 

 

 

「西住?……って、貴女は!!みほちゃ~~~~~~~~ん!!!」

 

 

 

 

――グワバ!!

 

 

 

 

って、はい!?

 

な、何で私は件の先生に抱き付かれてるの!?ちょっと……って言うか滅茶苦茶理解が追い付かないんですけど、此れは一体如何言う事なんですか~~~!?

 

 

 

 

「オイこら、みほを放せ!盛大に困ってんだろうが!!」

 

 

「と言うか、普通生徒に行き成り抱き付く?

 

 同性だから兎も角、貴女が男性教諭だったら、間違いなく『淫行』と認定されて教師生命断たれてるのは間違い無いと思うわよ?絶対に。」

 

 

「何て言うアクティブな先生……此れなら、戦車道部の顧問でも良いかも知れないけれど――って言うか、みほさんの知り合いなの?」

 

 

 

 

し、知りませんよつぼみさん!

 

すみません放してください!って言うか、貴女は一体誰なんですか?私の事を知ってるみたいですけど、私は貴女の事を全く全然知らないんですけど?

 

 

 

 

「え?若しかして忘れられちゃってる?

 

 ……あ~~~~、でも仕方ないか、最後に会ったのは10年も前の話だからねぇ。

 

 なら改めて自己紹介するわみほちゃん。私は不知火美姫。今年から明光大に赴任した教師で、教師になる前は西住流の門弟だったわ。」

 

 

「「「「なんだってーーーー!?」」」」

 

 

 

隊長チーム驚愕です!いや、此処に戦車道部のメンバーが居たら間違いなく驚いてますよ!?

 

西住流の門弟だったって事は、つまりお母さんの弟子な訳で……だから、蝶野教官と同じ匂いを感じ取ったんだ――となれば、戦車乗りとしての能力は疑う余地もない位に抜群なのは間違いないよ。

 

 

でもって思い出した。

 

不知火美姫さんは、当時師範になったばかりのお母さんの下でメキメキ頭角を現した凄い戦車乗りの人だよ!――お母さんが言うには『私が育てた戦車乗りの中では亜美と美姫が最強クラスでしょうね』って言ってたから実力は折り紙付きだよ!

 

 

「思い出しました、お久しぶりです不知火さん。」

 

 

「あ、思い出してくれた?其れは良かったわ~~~。――貴女が思い出してくれなかったら、このバーコードと不毛な舌戦を続ける事になってたかも知れないらね。」

 

 

「いや、一教師が教頭に向かって面と向かってバーコードって如何かと思うんだけど……」

 

 

 

 

まぁ、流石に其れは如何かと思うようん。

 

多くの生徒が『校長先生不在時の代理以外に何の仕事してんの?』って思われてる教頭先生だけど、一応は学校のナンバー2なんだから。

 

 

 

 

「其れもそうね、口が過ぎました教頭先生。

 

 でも、此れで私が経験者で教官免許持ってるって事は信じて貰えましたよね?

 

 其れに、天下の西住流の門弟であり、現師範が太鼓判を押して下さる私以外に戦車道部の顧問を務められる方がいますでしょうか?」

 

 

「む……其れを言われるといない。

 

 我が校の教師で戦車道経験者は校長先生のみであるからな……仕方ない、戦車道部の顧問は君に任せるとしよう不知火美姫先生。」

 

 

「はぁい、お任せあれ♪」

 

 

 

 

……多分、って言うか絶対にこんな形で部活動の顧問が決まるなんて全国初だと思うなぁ。

 

でも、不知火さんが顧問なら安心かな?実力は蝶野教官と同等クラスだった訳だし、『お母さんの西住流』を習ったなら、自分の理想を押し付ける様な事はしないだろうから。

 

 

「それじゃあ、顧問の先生をお願いします不知火さん。」

 

 

「はい、任せといて♪

 

 とは言っても、去年までの話を聞く限り、隊員の皆で練習が巧く行ってるみたいだから、練習に関してはあんまり口を出さずに、練習試合を組んだりとかが仕事になると思うけれどね。」

 

 

 

 

其れだけでも充分です。

 

そうじゃなかったら、そっちの方まで部長のナオミさんがやる事になっちゃって、負担が凄い事になっちゃいますから。――そう言う意味でも、ちゃんとした顧問の先生が居るって言うのは有り難い事だよ♪

 

 

それにしても、まさか顧問の先生を決める為に呼び出されるとは思ってなかったからびっくりしたね。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

と言う訳で時は進んで放課後。

 

今日の部活は全国大会に向けての練習――じゃなくて、3日後の部活勧誘を如何やるかと、お母さんがこっちに寄越してくれた戦車の詳細を皆に伝える、いわばミーティングだね。

 

 

「さて、全国大会で優勝した以上、今年は去年とは違って、出場校は完全に明光大をマークして来る事になると思います。

 

 其れを考えると今年の大会は去年以上に激しい戦いになるのは確実であり、私達もレベルアップをしなければならないし、戦車道部の部員も増やさないといけません。

 

 部員勧誘の件に関しては後で話し合いますが、まず最初に、去年話した西住流師範が明光大に戦車を譲ってくれると言う話ですが、譲ってくれる戦車は全部で4輌。

 

 ティーガーⅠの前期型が1輌と、パンターG型が3輌になります。――明日には此方に船での輸送が完了すると言う事なので、其処から直に東雲工場に運んでもらおうと思ってるんですが、大丈夫ですか椿姫さん?」

 

 

「ん、問題なし。

 

 親父には既に話通してあるから何時来ても大丈夫。って言うか、親父ッてば『俺に戦車を整備させろ、おんだりゃぁぁ!』って絶叫してたからね?……多分、3日もあれば普通に使える物になってると思うわ。」

 

 

 

 

其れは心強いです。東雲工場の整備技術は折り紙付きですので。

 

只、『此れを送るわ』って見せられた時の感じだと、大きな破損は無いにしてもターレットリングや転輪が大分錆び付いていたので整備するのは一苦労だと思うけどね――其れでも、きっと何とかしちゃうんだろうけど。

 

 

だけどティーガーⅠとパンターの追加は嬉しいかな?

 

此れでティーガーⅠが3輌になったし、試合に出す中戦車を全て最強のパンターにする事が出来るからね?

 

攻守に長けたティーガーと、圧倒的な総合力の高さを誇るパンター、待ち伏せに適していて強力な主砲を搭載したⅢ突の組み合わせは、戦力的にもバランス的にも可成良いから。

 

 

自走砲の総合性能で言うなら、装甲厚と主砲の威力で勝るヤークトパンターが最強なんだけど、Ⅲ突には極端に低い車高って言う待ち伏せに適した利点と、ヤークトパンターよりも足回りが強いって言う利点があるから、私の戦い方にはⅢ突の方が合ってる。

 

だから、今年の明光大は去年よりも強いよ?

 

ティーガーにパンターにⅢ突、此れだけの戦力があるなら負ける気はマッタクしないし、場合によってはⅢ号にも出て貰う事があるから、戦車を切り替えて戦う事も出来るからね。

 

 

だけど、其れも部員が潤沢でないと出来ない事だから、3日後の部活勧誘は重要だね?

 

去年は隊長チームが黒のティーガーⅡに搭乗して、全員が黒のカリスマ的衣装を纏って大々的にやった事で部員を確保する事が出来た訳だけど、今年は如何行こうか?

 

 

 

 

「今年も、去年と同じで良いんじゃね?

 

 アタシ等の黒衣装は、去年の文化祭でも披露したから割と知られてるし、黒衣のみほはカリスマ感が大幅にアップしてっから、去年の澤みたいに陥落する生徒は少なくねぇって。」

 

 

「まぁ、そう来るとは思ったけどね?

 

 だけど、去年と同じだと面白くないから、今年は副隊長チームも一緒に着てもらおうかな?」

 

 

「へ?其れって、私達がですか!?」

 

 

 

 

うん。そうだよ梓ちゃん。

 

隊長チームと副隊長チームが一緒に部活勧誘を行えば、結構なインパクトになると思うんだ?――其れに、梓ちゃんと一緒に部活勧誘するって言うのは、私としても楽しみだからね。

 

やってくれるよね梓ちゃん?

 

 

 

 

「はい!御使命とあらば、その任務務めさせて頂きます!」

 

 

「うん、良い返事♪頼りにしてるよ。」

 

 

で、当日の衣装なんだけど、私達は去年のアレで良いとして、梓ちゃん達は黒い衣装よりもアイドル的な衣装の方が似合うかもだね?って言うか絶対にそっちの方が似合う。

 

 

青子さん、ネットでその手の衣装を手配する事って出来ますか?

 

出来れば、派手過ぎないで、それでいて梓ちゃん達の魅力を引き出す事が出来る衣装があると最高なんですけど……

 

 

 

 

「ん、問題ねぇよ。

 

 Amaz○nで探せばその辺の衣装もあるだろうし、購入費は部費で落とす事が出来っからな――寮に帰ったら、速攻で商品検索して、翌日配送希望で注文してやるから安心しろよ♪」

 

 

「其れは、安心ですね♪」

 

 

青子さんはこう言った面での彼是が凄いから、とっても頼りになるんだよね。

 

そんな訳で、今年の部活勧誘は、隊長チームが去年と同じ黒い衣装を纏って黒いティーガーⅡに、そして梓ちゃん達副隊長チームが、アイドル風の衣装を纏ってティーガーⅠに乗って行う事が決定!

 

 

最低でも2チーム分は欲しい所だから、此れは3日後は頑張らないとだね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

ふぅ、新年度が始まったばかりだって言うのに、鬼のような忙しさね?……まさか、これ程までの量の書類を処理する事になるとは思っても居なかったわ。

 

 

まぁ、この書類処理も戦車道にとっては必要な事だから確りとやらないとなんだけどね。

 

機甲科に入ってくる生徒は結構多いみたいだけど、今の所此れと言った子は居ないのよね……流石に黒森峰に進学して来ただけあって実力は確かだけど、みほ――は言い過ぎにしても、澤にも及ばない子が大半ね?小梅、目ぼしい子は居た?

 

 

 

 

「特にこれって言う子は居ませんねえぇ?

 

 実力は可成りなモノですけれど、去年のツェスカの様な子は居ないと言うのが正直な所ですね……個々の能力はそれなりみたいですが。」

 

 

 

 

ソコソコの力か…其れを大会までにどれだけ伸ばす事が出来るのかは私にかかってると言う訳ね?――上等、やってやろうじゃない!!

 

 

あの子が、みほが素人集団であった明光大を全国優勝にまで持っていく事が出来たんだから、経験者が集う黒森峰に於いて、新体制であって上手くやれない道理はないわ。

 

 

取り敢えずは全員機甲科への入学を認めるわ。

 

どうしても戦車道に向かない子が居たら、そう言った子は機甲科の整備班に回ってもらう事になるだろうけど、戦車道と完全に切れる訳じゃないから、どんな形で戦車と関わって行くかを考える事は出来るからね。

 

 

何にしても、新しく入って来る子達を徹底的に鍛えて、黒森峰に名を連ねるに恥じない実力を備えさせないとだわ――そうでなかったら、あの子に、みほに勝つ事は絶対に出来ないでしょうからね。

 

 

ふふ、精々待ってなさいみほ。

 

此の子達を大会までに鍛え上げて、最高の力を持って貴女に挑ませて貰うわ!――そしてその上で、貴女を倒して黒森峰に真紅の優勝旗を持ち帰って見せる!それが、まほさんとの約束だからね。

 

 

 

大会で相まみえる時を楽しみにしているわよ、みほ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 




キャラクター補足




不知火美姫

明光大付属中学校に新たに赴任して来た教師で、嘗ては西住流の門弟だった人物。

幼い頃の西住姉妹とは交流があり、その時の縁がモノを言って、明光大の戦車道部の顧問となる。

戦車乗りの実力としては、蝶野亜美と実力を二分にしていたと言う事から相当な腕前である事は間違いないだろう。

因みに可成りの子供好きであり、教員免許の他に、保育士免許を取得して、幼稚園の先生をする事が出来るように備えていたりする。



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Panzer47『元気一杯の新入部員です』

此れは、活きの良い子が入って来たね?Byみほ      なら、活きの良い内に叩いてやるか!By青子      鉄は熱いうちに打てって言うからねByナオミ


Side:みほ

 

 

 

さて、今日は部活勧誘当日なんだけど、此れは予想していたよりも好感触って言う感じかな?

 

黒いティーガーⅡに乗り込んだ『黒のカリスマ』な隊長チームは去年同様のインパクトがあるのは当然だけど、今年は其れに加えて、副隊長車としてパールホワイトに塗り直したティーガーⅠに『アイドル衣装』を纏った梓ちゃん達が搭乗して勧誘をしてくれてるから、宣伝効果は去年の倍は間違いないよね。

 

 

 

 

「だろーな。

 

 黒装束のみほのカリスマ性に、アイドル衣装の梓の可愛らしさがプラスされたら、此れはもう無敵の広告塔だろマジで?――去年の倍の数が入部するかは分からねぇけど、最低でも3チーム分は確保できるってアタシは確信してるぜ?」

 

 

「『隻腕の軍神』の名は、戦車道関連の雑誌で戦車女子達には広まってるけど、澤も去年の大会で大分活躍した事と、今年副隊長を務めてる事で『軍神を継ぐ者』って話題になってるみたいだしね。」

 

 

「何よりも、去年の全国優勝の肩書はとても大きいわ!

 

 名門黒森峰、強豪愛和学院に続いて、王者明光大ですもの!これなら、結構な人が戦車道部に入部してくれる筈よみほさん!!」

 

 

 

 

だと良いなぁ♪

 

取り敢えず入部希望者は全員入部させるって言う事については、美姫さんもOKを出してくれたから、その上で、練習や訓練を行って本気で戦車道をやりたいって言う人達を選別しないとだね。

 

 

戦車道は勝つだけが全てじゃなくて、楽しまないとなんだけど、だからと言って中途半端な心構えで臨んでいい物じゃない――他のスポーツ武道と違って、戦車道は幾ら戦車内部が特殊なカーボンコーティングされてるとは言え、一歩間違えば一生モノの怪我を負う事になるから。

 

 

私もお姉ちゃんも、戦車道の始動が本格化する前に、お母さんから体を鍛えておけって言われて、西住流フィジカルトレーニングを熟して、おかげで、戦車道は生半可な気持ちで臨むべきじゃないって言う事を確りと身体に刻み込んだからね。

 

 

でも、其れは其れとして、どんな子が入部して来るのが楽しみなのは否定できないかな?

 

梓ちゃん並みの人材は稀だけど、その上でドレだけの子が入部して来るのか、考えるだけでも楽しいよ――若しかしたら、其れなりの掘り出しモノがあるかも知れないからね。

 

 

 

ふぅ、取り敢えず新入生諸君、弩の部活に入ろうか迷っているのならば、先ずは我が戦車道部においでませ!

 

経験者、未経験者問わず、私達は新入部員の皆さんを歓迎します――仮入部の期間を存分に使って、戦車道の素晴らしさを知って下さい。

 

 

 

 

「入部待ってまーす♪」

 

 

 

 

で、私の演説に合わせる形で梓ちゃんが、腕にぶら下げたかごからチラシを投げ飛ばした!!

 

OK、良い演出だよ梓ちゃん!――このパフォーマンスのお陰で、去年以上に新入生に戦車道部をアピールする事が出来たからね――後は結果を待つだけだね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer47

 

『元気一杯の新入部員です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして部活勧誘会から、仮入部期間を経て1週間後――私達戦車道部の練習場所には、1年生達20人が整列してる。

 

如何やら宣伝効果はバッチリだったみたいだね?20人て言う事は5チーム分の人員が確保できた上に、いざと言う時の為の補充メンバーを考えたら充分過ぎる数だよ。

 

校内模擬戦をやる時でも、7vs7って数が振り分けやすいからね。

 

 

其れに、集まった子達は中々に良い目をしてるよ?

 

梓ちゃん程のオーラを感じる子は居ないけど、其れでも戦車乗りとしては平均値をクリアしてる子が多いから、其れをどれだけ生かす事が出来るのかは、私と美姫さんの指導次第だね。

 

 

お母さんが送ってくれた戦車もレストアが完了してるし、戦力は充分揃ったって言う感じかな。

 

 

 

 

「そんじゃあそろそろ行くか?あんまし待たせるのも1年坊達に悪いからな?」

 

 

「行きましょうみほ、先ずは隊長が確りと締めないとね。」

 

 

「まぁ、みほさんのカリスマは半端ないから、新1年生の8割5分は陥落すると思うけれどね――ホント、みほさんは上に立つ人なのよ♪」

 

 

 

 

自分では自覚無いんだけどね。

 

だけど、最初が肝心なのは間違いないから、此処で確り締めておかないとだよ。あ、私が隊長として挨拶するのは当然だけど、ナオミさんにも部長として挨拶して貰うからその心算で。

 

 

 

 

「ま、そうでしょうね。

 

 部長と隊長が別途分かれてるなら、双方から挨拶があって然りだわ――なら、先ずは部長として私が挨拶して、其の後隊長からって感じで行った方が方が良いわね?」

 

 

「だね。」

 

 

さてと、倉庫の前には新入部員の皆がちゃんと整列して待っているね?

 

梓ちゃんやクロエちゃんが中心になって纏めてくれたんだろうなぁ。――取り敢えず、直前までは雑談してても、私達が現れたのを見て雑談を止めたのは評価できるね。

 

 

じゃあ、先ずはナオミさんお願い。

 

 

 

 

「先ずは、我が戦車道部に正式入部してくれた事に礼を言うわ。

 

 仮入部の時に自己紹介したから知ってるだろうけど、明光大戦車道部部長の吉良ナオミよ――西住流フィジカルトレーニング(体験版)を、仮入部期間に体験しても入部してくれたって言う事は、貴女達は本気で戦車道に取り組む気が有るのだと思ってる。共に頑張りましょう。

 

 其れじゃあ続いて、戦車道部隊長の西住みほから挨拶を貰うわ。」

 

 

 

 

出番だね。

 

 

皆さんこんにちわ。明光大付属中学校戦車道部の隊長の西住みほです。

 

仮入部期間を経て、皆さんが戦車道部を選んでくれた事はとても嬉しい事だと思っています――其れだけ戦車道の魅力が皆さんに伝わったと言う事だと思いますから。

 

さて、知っての通り、明光大は昨年の全国大会で優勝しています。故に、今年の大会は各校からのマークがキツク成ると思いますが、それらを全て倒して、私達は優勝する心算で居ます。

 

そして、連覇する為には新たに入部してくれた貴女達の力も必要になりますから、共に頑張っていきましょう。

 

ですが、連覇を狙うとは言いましたが、勝つ事以上に戦車道を楽しんでください。――楽しむ事を忘れて勝利だけを求めてしまったら、それはもうスポーツや武道ではなくなってしまいますから。

 

 

約束ですよ?

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

はい、良い返事だね♪

 

それじゃあ、私達の挨拶はここまでにして、今度は新入部員の皆に自己紹介して貰おうかな?

 

名前とクラスと、小学校からの経験者の子は、小学校時代にはどのポジションを担当してたのかを言ってくれると助かるかな?そっちの方が後でチーム分けもしやすいからね。

 

 

じゃあ、私から見て列の左側の先頭の子から始めようか。

 

 

 

 

「は、はい!

 

 1-1の沢渡姫子(プリンセス)です。小学校時代は砲手を担当していました。宜しくお願いします!!!」

 

 

 

 

……此れは、1人目から凄いのが来ちゃったなぁ?

 

性格は普通っぽいけど、名前が凄すぎるよ。ナオミさんから新入部員の名簿リストを見せて貰ったけど『姫子』と書いて『プリンセス』と読むのは、幾ら何でも無理があるって言うか、キラキラネームにしてもやり過ぎ!

 

まさかとは思うけど、騎士と書いて『ナイト』って読む兄弟が居たりしないよね?

 

 

 

 

「騎士(ナイト)は兄です。」

 

 

「「「「マジか!!!」」」」

 

 

 

まさか本当に血縁者に居たとは驚きだよ……行き成りの凄いインパクトだったから、今年の子達は名前や性格にある程度のインパクトが有る子が多いのかもね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――自己紹介中だから、少し待ってね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

で、恙無く自己紹介は進んで残るは1人。

 

それにしても、今年はキラキラネームが多過ぎだよ…『姫子(プリンセス)』に始まり『萌華(もか)』『神姫(アテナ)』『銀世界(ユキ)』と来て、は

 

ては『女王(クイーン)』なんて言う子も居たから、今年の新入部員は名前を覚えても、顔と名前を合致させるのは意外と難しそうな感じだよ。

 

 

さてと、此れで1年生の自己紹介も最後の1人だね。

 

 

 

 

「大阪府立浪花小学校出身の新藤歩美です。小学校時代は車長をやってました。」

 

 

 

 

新藤歩美ちゃん……経験者だけあって中々の戦車乗りのオーラを纏ってるね?

 

私達にはまだ及ばないけど、其れだけのオーラを纏っているっていう事は、歩美ちゃんの実力が途轍もないモノなのは間違いないと思うな。

 

 

 

 

「まぁ、車長以外のポジションも一応一通りは出来ます。」

 

 

「へぇ?戦車道って、割とポジションが専門職になるのにオールラウンダーって言うのは凄いね?――ポジションごとの役割を全部覚えるって言うだけでも、結構大変な事だし。」

 

 

「お褒めに預かり光栄です西住隊長。チームを全国優勝に導いた将に評価して貰えるとは思いませんでした。

 

 が、非常に不躾とは思いますが、私と勝負して頂けませんか西住隊長?」

 

 

「は?何言ってんだお前行き成り。

 

 正式入部一日目に隊長に勝負申し込むとか正気かオイ!?」

 

 

「元気が良いのは悪い事ではないけれど、其れは幾ら何でも少々失礼じゃないのかしら?不躾とは思って居るみたいだけれど……」

 

 

 

 

ふぅん?私に勝負を挑むか……良いね、そう言う元気な子は嫌いじゃないよ♪

 

だから、青子さんとつぼみさんも気にしなくていいから。――其れに、全国大会優勝の肩書に加えて、『西住』を名乗ってる以上、今年は若しかしたらこういう子がいるんじゃないかとは思ってたから。

 

 

だけど、此れは私1人じゃ決められないかな?

 

勿論私は勝負を受ける事に対しては全面的にOKだけど、此れは完全に私闘になるから、部長から許可が下りないとやる事は出来ないよ。

 

で、如何しますか部長?

 

 

 

 

「分かり切ってる答えを聞く必要があるみほ?って言うか、貴女が渋ってるなら兎も角、別に構わないなら許可するしかない流れでしょ此れ。

 

 但し、勝負は明日よ。今日は新入部員の歓迎会をやる予定だから。」

 

 

「だね。

 

 そう言う訳だから、貴女との勝負は了承されたよ歩美ちゃん――で、試合形式は何がお望みかな?」

 

 

「5対5の殲滅戦で如何でしょう?」

 

 

「良いよ。

 

 其れじゃあ使用戦車は、互いにティーガーⅠ1輌、パンター3輌、Ⅲ突1輌で良いかな?」

 

 

「はい、それで結構です――隻腕の軍神の力、見せて頂きますよ。」

 

 

 

 

まぁ、その期待には応えようかな。

 

態々勝負を挑んできてくれたんだから、私の――私達の戦車道って言う物を、確りとその身で感じ取って欲しいし、その上で更に上を目指して欲しいって思うからね。

 

 

はい、其れじゃあこの話は此処まで!

 

皆倉庫の中に入って。もう歓迎会の準備は出来てるから、今日は無礼講で思いっきり楽しんで行ってね♪倉庫内の戦車も、自由に乗ってくれて構わないから。――勿論動かすのはNGだけどね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:青子

 

 

 

あ~~~、騒いだ騒いだ。

 

アンだけ騒いだら、普通は他の部活から顰蹙買う所だけど、戦車道の部室(倉庫)は他の部活とは違って練習場所共々裏庭にあるから、どんだけ騒いでも文句が来る事はねぇんだよな。

 

 

今年入ってきた奴等も結構ノリのいい奴が居るから、あぁ言う宴会の場も結構楽しめたな。

 

んで、帰り道な訳だが――

 

 

「みほよぉ、本当に良かったのか?」

 

 

「え、何が?」

 

 

 

 

何がって、あの1年坊との勝負だよ。

 

アイツが強いってのは分かるんだが、口調は兎も角、アイツは絶対に自分の方がお前よりも強いって思ってるタイプだと思うぞ?言い方は悪いが、アイツ下克上狙ってるのかもしれないぜ?

 

 

 

 

「うん、知ってる。知ってるからこそ敢えて受けたんだよ青子さん。

 

 私は負ける心算は毛頭ないよ?って言うか、負ける要素が何処にもないから。だけど、あの子みたいなタイプは負けた際にどうなるかは2つに限定されるんだよ。

 

 1つは敗北のショックで戦車道を止めてしまうタイプ。もう1つは、負けた悔しさをバネに私を倒そうと努力して伸びるタイプ。

 

 歩美ちゃんがどっちのタイプになるかは分からないけど、あの子はきっと小学校で負けなしのタイプだったと思うから敗北を知らないと思う。

 

 負けを知らない者の成長はいずれどこかで止まってしまうから、あの子は一度負ける事を知るべきなんだよ――其れも決定的なね。

 

 其れを経験して、止めるのか進むのかを選ぶのは歩美ちゃん次第だけど。」

 

 

「そう言うもんかねぇ?」

 

 

「そう言う物だよ?

 

 私もお姉ちゃんも、戦車道の訓練を始めた頃は、お母さんや菊代さんに数えきれない位にコテンパンにされたからねぇ?

 

 お母さんと直接戦う事は少なかったけど勝った記憶はないし、菊代さんとの対戦成績だと私もお姉ちゃんも勝率2割切ってるんじゃないかと思うよ?

 

 対戦してたのは小学生までだから、今戦ったらどうなるかは分からないけどね。」

 

 

 

 

うわお、しほさんと菊代さん半端ねぇな?

 

みほとまほ姐さんが勝率2割切るとは、ドンだけだあの人達……でも、そんだけ負けても戦車を止めようと思わなかったみほだからこそ説得力があるな。

 

 

アイツが負けても潰れずに立ち上がってくるタイプだったら、間違いなく明光大にとっていい戦力になるだろうし、みほの実力を目の当たりにしたら、絶対ついて行こうと思うだろうからな。

 

 

 

 

「青子の意見に賛成ね。

 

 まぁ、ちょっと生意気な1年生にお灸を据えてやるのは上級生の役目だから、キッチリとその役目を果たしてやろうじゃないみほ?」

 

 

「隻腕の軍神の力、見せてあげましょう!!」

 

 

「うん、勿論その心算だよ♪」

 

 

 

 

此れは、あの1年坊にゃ悪いが、下手したら完封しちまうかもな。

 

アイツの方は1年全員でチームを組んでくるんだろうが、みほが出張る上に梓のチームもこっちにいる以上は如何足掻いたって負ける筈がねぇからな。

 

 

まぁ良いか、明日はアタシも全力でやるだけだからよ!

 

おまえが喧嘩を売った隻腕の軍神と、そのチーム、そして其れが操る戦車隊がドレだけの物だったかって言う事を身体で感じやがれだぜ!

 

 

なんて事を話してる間に、もうヘリポートか。

 

そんじゃ、また明日なみほ!――明日は、絶対勝つぞ?

 

 

 

 

「うん!全力で行こう!――それじゃあ、また明日ね♪」

 

 

 

 

応!

 

てかよ、今年になってから送迎のヘリが変わってねぇかそう言えば?去年までは報道機関とかも使ってるよくあるタイプのヘリだったけど、今年から使われてるのって……

 

 

 

 

「米軍の最新輸送機オスプレイ。」

 

 

「一体何処から手に入れたのかしら?」

 

 

 

 

マジでな……まぁ、西住流は色々スゲェみたいだから今更突っ込みは不要なのかも知れねぇけどさ――今度頼んで、乗せて貰おうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

ふぅ~~~、今日も1日お疲れ様だったかな。まぁ、此れ位は何時もの事だけどね。

 

菊代さんと帰りの便の中でお喋りするのは楽しいし、お母さんに今日会った事を話すのも楽しんだけど、流石に2人とも『新入部員に喧嘩売られた』って言ったら驚いてたなぁ。

 

世間的には『鉄の女』として知られてるお母さんの驚いた顔なんて滅多に見られるモノじゃないから、スマホで写真撮っちゃったよ。お姉ちゃんに写メ送ったら『よくやった』って返信が来たしね。

 

 

さてと、寝る前に明日の歩美ちゃんとの試合の作戦を立てないとだね。

 

 

 

『や~ってやる、や~ってやる、や~ってやるぜ。』

 

 

 

っと、スマホに着信が。――相手は、エリカさん。

 

はい、もしもし、みほです。

 

 

 

 

『もしもし、今時間大丈夫?』

 

 

「うん、大丈夫だけど、如何したの?エリカさんの方から連絡して来るなんて珍しいよね?」

 

 

『そうかしら?

 

 まぁ、良いわ――明光大は部活で戦車道を行ってるから、今日あたりが新入部員が入って来たんじゃないかと思ってね。』

 

 

 

 

あぁ、そう言う事ね?

 

こっちは20人の新入部員が居るよ。黒森峰の方は如何なの?

 

 

 

 

『詳細は言えないけど、概ね平均以上の子達が入って来たとだけ言っておくわ。

 

 そっちは20人入ったって事だけど、目ぼしい子は居た?――流石に、去年の澤みたいな逸材は居ないとは思うんだけど……』

 

 

「流石に梓ちゃん程の子は居ないけど、元気な子は居たよ?――初日から、行き成り私に喧嘩売って来た子が居たからね。」

 

 

『……は?』

 

 

 

 

だから、初日から私に勝負を挑んで来た子が居たの。其れも5対5の殲滅戦ルールで。

 

其れも自分の自己紹介を済ませた直後にだよ?余りにも元気が良すぎて、思わず失笑しちゃいそうになったからね――あれ位の子が入部してくれたのはプラスだと思うけどね。

 

 

 

 

『いやいやいや、アンタに喧嘩売るって身の程知らずにも程があるでしょその子!?

 

 隻腕の軍神・西住みほは今や全国区の有名人――其れこそ、戦車道に係わってる者でその名を知らないのはモグリって言うレベルよ?

 

 其れに喧嘩を売るって、胆が据わってると言うか向こう見ずと言うか……』

 

 

「小学生の時にお姉ちゃんに喧嘩売ったエリカさんが其れを言う?」

 

 

『其れは言わないで!

 

 でもまぁ、負けるんじゃないわよみほ?生意気な1年生は叩きのめして、力の差を教えてあげなさい――それが、其の子の為にもなる筈だからね。』

 

 

 

 

うん、勿論。

 

其れは其れとして、今年の大会で戦う事を楽しみにしているよエリカさん。戦う事になったその時は、互いに全力でやろうね!!

 

 

 

 

『そうね、その舞台が決勝戦で有れば言う事はないわ。

 

 どうなるかはクジ次第だけど、貴女と戦う事になったその時は、持てる力の全てをもって貴女に挑ませて貰うわ――それじゃあ、大会で会いましょうみほ。

 

 Gute Nacht.Ein guter Traum.(おやすみなさい。良い夢を。)』

 

 

 

 

うん、おやすみなさい。

 

それにしても、態々ドイツ語でって、エリカさんて意外とカッコつけ屋さんなのかな?――其れが滅茶苦茶似合ってるから、からかう事も出来ないんだけど。

 

 

取り敢えずは明日の試合だね――私の力、たっぷりと味わってもらうよ、歩美ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ナオミ

 

 

 

でもって翌日の部活、新藤との試合なんだけど……こう言っちゃ悪いけど、マッタク持ってみほの相手にはなってないわね。

 

殲滅戦ルールだから、真っ先に隊長車であるアイスブルーのパンターを狙って来たのは悪くないわ――殲滅戦、フラッグ戦を問わずに、隊長車が白旗上げれば部隊は総崩れになるって言うのがお決まりだからね。

 

 

だけど、そうは行かないわ。

 

徹底して隊長車を狙って来たのは悪くないけど、こっちにはみほが手塩にかけて育てた澤のチームが居るから、隊長車を撃破するのは難しいわよ?

 

 

実際に、隊長車を狙って来た車輌の内2輌が――ティーガーⅠとⅢ突が澤の乗るティーガーⅠに撃破されてる訳だしね。

 

更に、陣形が崩れた所でみほが攻勢に出てパンター2輌を撃破。

 

 

此れで、残るは新藤の乗る隊長車のみ。

 

フラッグ戦ならいざ知らず、殲滅戦で1対5の状況を引っ繰り返すのは難しいわ。

 

 

新藤は確かに強いけど、其れはあくまでも『強者』に過ぎない。

 

でも、みほやまほさんは其れより2段階上の『絶対強者』の領域に居るから、『強者』では敵わない――加えて、1年で強者の領域に至って、2年目で『超強者』の域に踏みこんだ澤が居るのだから、負ける事は有り得ないわ。

 

 

 

 

「此れで決めます。ナオミさん!」

 

 

「了解。吉良ナオミ、目標を狙い撃つ!!」

 

 

 

――ドゴォォォォォン!!

 

 

――キュポン

 

 

 

『新藤チーム、全車行動不能。よって、西住チームの勝利!』

 

 

 

 

で、終わってみればみほの完封勝ちね。

 

どう新藤、明光大戦車道部部長の隻腕の軍神・西住みほの実力は分かって貰えたかしら?此れが、万年弱小校を優勝へと導いた指揮官の力よ。

 

 

 

 

「……まさか、1輌も撃破出来ないなんて……凄い、此れが隻腕の軍神の力!!

 

 その力、感服しました西住隊長!!軍神の名は、噂に尾鰭がついたものではないと実感しました……貴女は、正に最強の戦車乗りです。」

 

 

「私は最強なんかじゃないよ――黒森峰のエリカさんと小梅さんも、私と同じ位の実力者だからね。

 

 だけど、私は貴女の要求に応える事が出来たかな歩美ちゃん?」

 

 

「はい!――貴女の実力を疑い、勝負を挑んだ己を恥じるばかりです。

 

 西住隊長、此れからよろしくご指導ご鞭撻のほど!もっともっと精進し、明光大戦車道チームの一員として恥ずかしくないように努めます!」

 

 

 

 

……って、此れはみほの圧倒的な実力を肌で感じて、完全に落ちたわね。

 

圧倒的な力に鼻っ柱を圧し折られてどうなるかって思ったけど、此れなら大丈夫だと思うわ――試合に参加した1年生達も、みほが相手だからしょうがないと思ってる感じだし。

 

 

でも、此れで懸念事項は解消されたから、此処からはチームとしてバッチリ行くわよ!

 

1週間後には綾南との練習試合が控えてるけど、其れにも勝って全国大会への弾みをつけて行こうじゃない?――そうでしょみほ?

 

 

 

 

「はい、綾南との練習試合に勝って勢いをつけて行きましょう!

 

 そして、今年の大会も優勝を目指します!!頑張りましょう!Panzer Vor!!」

 

 

 

 

Jawohl Kapitan.(了解、隊長。)

 

今年も優勝してやろうじゃない?――何よりも、私達にとっては中学最後の大会だから、優勝して有終の美を飾りたいって言う所だからね?

 

 

今年の大会も、精々暴れせて貰うわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 




キャラクター補足




新藤歩美

明光大戦車道部の1年生。

小学校時代は負け知らずの猛者であり、入部初日にみほに戦いを挑んだ怖い物知らず。

試合其の物はみほが完封勝ちしたが、其の力を目の当たりにした事でみほの力を知り、己の小ささを知りみほに師事するようになる。

プライドが高いタイプだが、根は素直ないい子である。



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Panzer48『此れが明光大の底力です!』

練習試合……勝って勢いを付けようね!Byみほ      異論無し!全力でやってやらぁ!By青子      頑張りましょう隊長!By梓


Side:しほ

 

 

 

ふぅ、一日の仕事を終えてのお風呂と言うのは格別ね。西住の家のお風呂は桧木造りの温泉だから、余計にそう思うわ。~~ふぅ、これぞ正に至福の時と言う所ね。

 

菊代が気を利かせてお銚子を2本も付けてくれたのだから尚更だわ。――最高の温泉で最高の酒、素晴らしいわね。

 

 

 

 

「手酌は寂しいから、ハイどうぞ。」

 

 

「あら、ありがとうみほ。」

 

 

更には、愛する娘が一緒なんですもの、此れに文句を言ったら罰が当たるわね。

 

そう言えばみほ、貴女に喧嘩を売って来たていう子はどうなりました?元気なのは結構な事ですが、隊長に喧嘩を売る等言語道断の所業故に、厳しい判断が求められるのですが……

 

 

 

 

「ん~~~……勝負自体は、私が圧倒的に勝ったから問題ないかな?

 

 5対5の殲滅戦だったけど、結局は私と梓ちゃんの2チームで完封する事が出来たから。

 

 それに、歩美ちゃんはプライドが高いけど根は素直な子だから、キッチリと実力を示してあげたら、思ったよりもアッサリと私を認めたから。」

 

 

「圧倒的な敗北を刻み込む事で厳しい判断を下す代わりにしたと言う事ね?

 

 でも、それだけ気性の激しい子なら、鍛えれば可成りの物になるんじゃないかしら?――此れは、あくまでも西住流師範の見解だけれど。」

 

 

「うん、鍛えればモノになると思う。

 

 梓ちゃんには及ばないけど、歩美ちゃんも戦車乗りとしては高い能力を有してるから、鍛えれば黒森峰の1軍レベルにはなれる筈だよ。」

 

 

「そう、其れは楽しみね。」

 

 

みほの中学最後の年も、如何やら面白い事になりそうだわ――今年の大会は、去年以上に凄い事になるかも知れないわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer48

 

『此れが明光大の底力です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

私と歩美ちゃんの戦いから早6日――去年よりも経験者が多いとは言え、今年の1年生チームは短期間でメキメキと腕を上げて来た感じがしているね。

 

 

特に、私に喧嘩を売って来た歩美ちゃんはそれが著しい感じだよ。

 

元々攻撃的な戦い方を得意としてるみたいだったけど、この6日間で、其れが更に磨きがかかってるみたいだからね――小学校時代無敗の名は伊達じゃないって感じかな。

 

 

でも……

 

 

 

 

「撃て!」

 

 

「打っ飛びやがれなの!!」

 

 

 

――ドゴン!

 

 

――キュポン!!

 

 

 

 

梓ちゃんにはまだ及ばないね。

 

戦車に乗ってる時間なら歩美ちゃんの方が圧倒的に勝ってるんだろうけど、その時間の差を蹴り飛ばしちゃう位に、梓ちゃんは去年1年間で急成長して、ドイツのジュニアリーグのトップ選手だったツェスカちゃんと肩を並べるくらいにまで急成長してるから、小学校無敗の強者レベルじゃあ、最早相手にならない感じだよ。

 

 

 

 

「く……マッタク相手にならないとは。

 

 西住隊長が手塩にかけて育てたエースが副隊長になったとは聞いていましたが、最早これ程とは……中学から戦車道を始めたとは、到底思えない腕前です。」

 

 

「其処はほら、私の場合は師匠せんせいが最高だったから♪」

 

 

 

 

私の直接指導が効いてるんだって言うのはお姉ちゃんも言ってた事だけど、其処までの戦車乗りに成長する事が出来たのは、偏に梓ちゃんの努力の賜物だと思うんだよね。

 

今の1年生vs2年生の模擬戦でも、梓ちゃんは6日前の私と歩美ちゃんの私闘から得た歩美ちゃんの戦い方を確りと頭に叩き込んだ上で的確に対処して勝利を収めた訳だから見事なモノだと思うな。――間違いなく、また強くなってたからね梓ちゃんは。

 

 

 

 

「其れまで。1年生チームのフラッグ車が行動不能になったので、勝者は2年生チーム。互いに礼!」

 

 

「「ありがとうございました!!」」

 

 

 

 

美姫さんが顧問になってくれた事で、模擬戦での審判とかをお願いできるようになったのは有り難いね。

 

其れに美姫さんは、明らかな間違いや、戦車道の心構えに反する事に関しては注意する事があっても、それ以外の事は基本的に私に任せてくれてるから凄くやりやすい感じだね。

 

 

ともあれ、此れで今日の練習内容は全部終了。

 

学年別総当たり戦だったんだけど、結果は私達3年生が2勝で、梓ちゃん達2年生が1勝1敗、歩美ちゃん達1年生は2敗って言う結果になったか……まぁ、予想通りだけどね。

 

 

でも、今日の模擬戦を見る限りでは、今度の綾南との練習試合は去年同様に1年生全員を出場させても良いかも知れないかな?

 

歩美ちゃん達ならそこそこの戦果は期待出来るだろうし、私との私闘に続いて部活での模擬戦でコテンパンにやられた後の練習試合で成果を上げれば、間違いなく自信に繋がると思うからね。

 

 

練習試合で自信をつけて、其処から精進していけば大会でも期待出来る戦力になるだろうし。――その方向でも良いかなナオミさん?

 

 

 

 

「異論はないわみほ。

 

 と言うか、部の運営に関しては部長の権限の方が上だけど、試合に関する彼是なら貴女の方が権限が上だから一々私に了承を得る必要はないでしょ?」

 

 

「一応、部の最高責任者に許可を取った方が良いと思って♪」

 

 

「楽しんでるわね貴女……まぁ、異論はないわ。

 

 綾南との練習試合で自信をつけて貰って、其処から精進していけば大会までには良い感じに育つとは思うからね――今年の1年も割かし活きが良い子が多いから、間違いなく戦力になるでしょうからね。」

 

 

 

 

うん、間違いなく戦力になってくれる筈だよナオミさん。

 

この間の私との喧嘩と、今日までの訓練で、1年生はレベルの差を感じた筈だから、その差を埋めようと努力すれば間違いなく強くなる事が確定だからね♪

 

 

でも、今日の訓練は此処まで!

 

各自練習後のストレッチは入念に行ってください。練習で疲れた身体をそのままにしておくのは危険ですので、其れを解消する意味でも練習後のストレッチは欠かせませんから。

 

 

 

 

「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」

 

 

「ならば良し♪」

 

 

それじゃあ、ストレッチが終わった人か順次解散の方向で。――今日もお疲れ様でした♪

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

部活が終わったら、恒例の放課後アフターの時間。

 

菊代さんの迎えが来るまでの時間を遊び倒すフリーダムタイムなんだけど、今日は梓ちゃんのチームも交えて総合商業ビル5階のアミューズメントエリアに展開してるカラオケチェーンでカラオケ三昧だね。

 

 

全国ランキングに挑戦する形でやってるんだけど、青子さんもナオミさんもつぼみさんも、持ち歌で全国ランキング2位って言うのは凄いよ!

 

私も梓ちゃんも、全国ランキングは最高で3位なのにね。

 

でも、負けっぱなしって言うのは好きじゃないから、今度はこの曲で――梓ちゃんとのデュエットで全国ランキング1位を取って見せるよ!

 

 

 

 

「お~~、燃えてんなみほ!」

 

 

「西住流に撤退の文字なし!――例えカラオケであっても、負けぬ!退かぬ!!顧みぬ!!!」

 

 

「軍神招来!?……此れは、みほさんと梓さんのデュエットは期待出来るわ!」

 

 

 

 

ふふふ、その期待を遥かにぶち抜いてあげますよつぼみさん――行くよ、梓ちゃん!!

 

 

 

「は、はい!!」

 

 

 

 

では聞いてください、私と梓ちゃんのデュエットで『Future』

 

 

 

 

――さぁ行こう、もう振り返らない

 

   このまま、当てなどなくていい

 

   夢見るような、夢は欲しくない

 

 

   絡み合う星にかけた願いは一つ

 

   枯れる事ない、強さをください

 

   何処までも続いて行くこの道を、歩き続けて行くしかない

 

 

 

   幸福に、理由なんていらない

 

   哀しみは、想像からは始まる

 

   また探せば良い、何処かにあるわ

 

 

 

   ――激しく

 

 

 

   絡み合う、気持ちの糸ほどいたら

 

   思うより心は孤独だった

 

   水を求める肴みたいに儚く、煽られて明日には向かない

 

 

 

   絡み合う星にかけた願いは一つ

 

   枯れる事ない、強さを下さい

 

   何処までも続いて行くこの道を、歩き続けて行くしかない

 

 

 

 

うん、完璧!

 

青子さん、得点及び全国ランキングは何処まで行きましたか?今のデュエットは可成り良い感じだったので、最低95点の全国ランキング2位は確実だと思うんですけど?

 

 

 

 

「評価点100点!全国ランキング1位だと!?

 

 明光大の隊長・副隊長コンビは、戦車道以外でも組んだら最強ってことか!?…此奴は、中々凄い事になりそうだな今度の練習試合!」

 

 

 

 

勿論、凄い事にするよ?

 

梓ちゃんとのデュエットが100点満点の全国ランキングトップになったのは予想外だったけど、逆に言うなら、其れ程に私と梓ちゃんが通じ合ってる事の証でもあるから、素直に喜ばしい事だね。

 

今度の練習試合でも、バッチリと息を合わせて行こうね梓ちゃん!!

 

 

 

 

「はい、西住隊長!!」

 

 

「……隊長と梓ちゃんは、本当に仲良しさんなの。」

 

 

「アズサは西住隊長を尊敬しているし、隊長はアズサの事を頼れる副隊長として信頼しているからネ。」

 

 

 

 

まぁ、否定はしないかな?

 

流石にお姉ちゃんと組んだ時みたいに、アイコンタクトやハンドサインだけで作戦を伝える事は出来ないけど、それでも作戦を少し話しただけで全容を略理解してくれるって言うのは有り難い事だからね。

 

僅か1年で、梓ちゃんは副官に最低限必要な能力をその身に付けたんだから大した物だよ。

 

 

 

 

「と言う事は、最強のみほが隊長で、そのみほが認める梓が副隊長を務めてる以上、今度の練習試合は……」

 

 

「間違いなく勝つわね。

 

 綾南は新隊長になってるから、其れがどんな奴かにもよるだろうけど、一昨年のアレみたいな奴だったら10vs10の殲滅戦でもパーフェクト勝利確実じゃない?」

 

 

「そうじゃなくても、ダブルスコアで勝利確実だと思うわ。」

 

 

「10vs10の殲滅戦でダブルスコアって言う事は、撃破される数を5輌以下に止めろって言う事だよね?

 

 去年までなら兎も角、今年は優勝校って言う事でマークされてる中で、其れは結構難しいんじゃないかな?出来なくはないと思うんだけど。

 

 って言うか、試合前にハードル上げないでよナオミさん、つぼみさん!!」

 

 

「出来ないとは言わないんですね西住隊長……」

 

 

 

 

うん、言わないよ梓ちゃん。

 

やる前から『出来ません』って言っちゃったら、本当に出来なくなっちゃうし、只勝つだけじゃなくて、試合前にその試合での目標を設定しておいて、其れを達成できるように努力する事も大事だからね。

 

 

元より勝つ心算だったけど、良いよナオミさん、つぼみさん、その条件受けます。

 

此方の損害が5輌以下でスペシャル勝利、損害0でウルトラ勝利です!!って言うか、練習試合で其れ位出来なきゃ、マークがキツクなってるであろう大会では勝つのが難しいと思いますから!

 

 

 

 

「お~~、みほが燃えてる!此れは、今度の練習試合は貰ったな!」

 

 

「はい、勝ちに行きます!全力で頑張りましょう!!」

 

 

「「「「「「「おーーーーーー!!!」」」」」」」

 

 

 

 

其れじゃあ、帰ったら練習試合のオーダーを考えないと。1年生全員に出て貰うとなると、どのチームをどの戦車に乗せるのかって言う事になって来るからね。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

と、言う訳で練習試合当日。

 

今年はこっちが綾南の方に出向く形だから、状況としてはアウェーでの試合……地の利は綾南にあるけど、其れでも負ける気は更々ないん

 

だけどね。

 

 

 

 

「態々出向いて貰って申し訳ない。

 

 綾南の新隊長を務めさせて貰っている、真田雪村と言います。」

 

 

「へ?真田幸村?」

 

 

「『幸に村』ではなく『雪に村』で雪村です。

 

 何分両親共々歴史マニアな上に、真田幸村の大ファンで、子供が生まれたら『ゆきむら』とつけようと考えてたらしいんですが、生まれた私が女子だったので女の子っぽくと言う事で、雪の字を当てた雪村にしたそうです……もっと女の子らしい名前を付けて欲しかったのですが。」

 

 

 

 

それは、確かにそうかも知れないですね。

 

でも、戦車乗りとしては、名将『真田幸村』と同じ読みの名前って言うのは良いんじゃないかって思います。

 

あ、申し遅れました。明光大隊長の西住みほです。

 

 

 

 

「1年の頃から存じていますよ。

 

 貴女が隊長に就任してから、我が校は明光大に練習試合で勝つ事は出来ないでいる――それどころか、此方は全国大会2回戦負けだったのに対して、其方は全国大会優勝ですからね。

 

 最早、嘗ての弱小校の面影はない……否、今や黒森峰に肩を並べる強豪校と言っても過言ではないと思います。

 

 隻腕の軍神・西住みほ、全力で挑ませて頂きます!!」

 

 

「はい、良い試合にしましょう雪村さん。」

 

 

去年の雅さんも隊長として立派な人だったけど、今年の雪村さんはそれと同等かそれ以上だね。

 

ヤッパリ、名将の名を冠してるだけの事はあるって言うのかな?――此れは、ウルトラ勝利はすこ~~し、難しいかも知れないね?去年よりも更に強くなった綾南相手にパーフェクトゲームって言うのはハードルが激高だよ。

 

でも、それでもそれを達成する心算で行くけどね。

 

 

奇しくも、今日はエリカさん率いる黒森峰も大会前の調整として練習試合を行うって言ってたから、出来れば互いに勝った事を報告しあいたいモノだからね。

 

それじゃあ、全力で行きましょう!Panzer Vor!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

恒例の練習試合が始まり、両陣営とも前進していくが、今年は綾南の方に地の利があるため、先手を取って攻めて来るのは綾南だ。

 

 

と、練習試合を見物に来ていた綾南の生徒達は思っただろう。(練習試合の様子は、綾南の放送部によって設置された野外モニターで中継されている。)

 

 

だが、其の予想に反してアウェーであるにも拘らず先手を取って来たのは明光大の方だった。

 

 

 

「先手必勝!おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

「Ⅲ突!?まさか、既に隠れていたって言うの!?」

 

 

 

物陰に隠れていた椿姫のⅢ突が、綾南の部隊を強襲してラングを撃破!!

 

アウェーでの戦いではあるが、否アウェーでの戦いだからこそ、みほは一昨年の練習試合で得ていた情報をフル活用して、作戦を立てていたのである。

 

 

練習試合で使用される場所が一昨年と同じ区域だった事もまたみほにとっては嬉しい事だった――何故ならば、その区域の地形データは完璧に頭の中にインプットされていたのだから。

 

だからこそ、試合開始と同時に綾南が通って来るであろうルートを割り出し、そのルート上の物陰にⅢ突を展開していたのだ。

 

 

しかし綾南の雪村とて負けてはいない。

 

 

 

「奇襲……!

 

 怯むな、周囲を警戒しつつ応戦しろ!Ⅲ突が1輌だけで潜んでいたとは考え辛い――必ず近くに本隊が居る筈だ!!」

 

 

 

すぐさま指示を飛ばして陣形を立て直しつつ周囲を警戒し、奇襲をかけて来たⅢ突に対処する。

 

圧倒的な砲門に狙われたⅢ突は、奮闘虚しく白旗を上げる結果となったが、試合の本番はここからだった。

 

 

 

 

「其れでは此れより『じわじわ作戦』を開始します!」

 

 

『『『『『『『『了解!!』』』』』』』』

 

 

 

みほが指示を飛ばすと同時に、明光大の部隊は一気に綾南の部隊との距離を縮めていく。

 

其れも一方向からではなく、前後左右の両方向からだ――地形データが頭にインプットされているみほは、試合開始と同時にⅢ突を隠れさせるだけではなく、部隊を綾南を取り囲む形で展開していたのである。

 

 

 

「此れは……地の利を逆手に取られた!?

 

 く……流石は隻腕の軍神・西住みほ……アウェーであるにも関わらず此方を出し抜いて来るとは、その戦略眼の鋭さ、感服するばかり。

 

 だが、此方とて簡単に負けなしない!全軍、迎撃態勢を取れ!」

 

 

 

其れでも慌てる事なく部隊に指示を飛ばす雪村は、その名に恥じない名将と言えるだろう。

 

 

しかし、悲しいかな『名将』と『軍神』ではレベルが違う。

 

みほと梓が戦線に加わった瞬間に、其れが顕著に現れたのだ。

 

 

 

「撃て!!」

 

 

「後ろがガラ空きです!!」

 

 

 

蒼き鋼鉄の豹と、純白の鋼鉄の虎の爪牙に狙われたモノは、抵抗虚しくその喉笛を噛み千切られて戦闘不能に陥って行く。同じ、ドイツ製の戦車を使っているにも拘らず、綾南の車輌はみほと梓を捉える事が出来ないのだ。

 

 

無論綾南も負けじと攻撃し、2輌目のⅢ突と、パンター2輌を撃破するが、その車輌も直後にみほと梓に撃破され、気付けば残るは隊長車の

 

みの状況。

 

 

其れに対して明光大は、まだ6輌が健在なのだ。

 

殲滅戦である以上、此れは勝負が決したも同然だが、しかし綾南雪村は諦めず、せめて隊長車は討ち取らんと、みほの乗るパンターに向かって、真田幸村の単騎駆け宜しく突撃!!

 

 

が、この状況に置いて、其れは無謀な突撃でしかない。

 

 

 

 

「此れで終わりです――歩美ちゃん!!」

 

 

『了解です!!』

 

 

 

突撃して来た雪村のティーガーⅠの後を取る形で、歩美が搭乗するパンターが強襲し、ティーガーⅠの弱点である後部装甲に一発かます。

 

其の効果は覿面で、ティーガーⅠは白旗判定となり、此れにて綾南は全車輌行動不能となり、明光大の勝利が確定したのだ。

 

 

 

 

「……1年の頃からお見受けしていましたが、いやはや以前よりも更に強くなっておられる……勝つ気で行ったのですが、マッタク持って歯が立ちませんでした。

 

 西住殿の戦、お見事でした。」

 

 

「此方こそ、良い試合をさせて貰いました――ありがとうございます、雪村さん。」

 

 

 

そして、試合が終われば互いに礼。

 

練習試合は明光大の勝利に終わったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

ふぅん?其れで勝ったのね?

 

 

 

 

『うん、勝ったよ。

 

 エリカさんの方は如何だったの?確か今日は練習試合だった筈だよね?』

 

 

「愚問ねみほ、勝ったに決まっているでしょう?

 

 貴女達の去年の準決勝の相手との練習試合だったけど、圧倒的に勝ってやったわ――まぁ、勝てたのは、去年の貴女の戦術を少し真似させて貰ったからだけど。」

 

 

『其れは、少し嬉しいかな。

 

 去年の私の戦い方が、エリカさんに勝利を齎したって思うと嬉しいモン。』

 

 

 

 

そう言うモノなのかしら?少し分からないけど、みほがそういうのならきっとそうなんでしょうね――本当に変わってるわ、あの子って。

 

でも、其れは其れとして、大会前の練習試合で勝てたって言うのは、黒森峰は当然として、明光大も士気を上げる事になったでしょうからね。

 

 

「何にしても、お互い絶好調である事に変わりはないわ。

 

 大会で、貴女と戦う事を願っているわよみほ。」

 

 

『はい!私も願っていますエリカさん!』

 

 

 

 

ふふ、大会が楽しみで仕方ないわね。

 

今年こそ、決勝の舞台でみほと戦いたいって、そう思っているのだから――もし、この世に神様が居るのなら、是非ともこの願いを聞き入れて欲しいモノね。

 

 

何にしても、大会でぶつかる事になったら容赦しないから、覚悟しておきなさいよみほ!!

 

 

今年の大会は、去年よりもっと楽しめるかも知れないわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 




キャラクター補足




真田雪村

綾南中学校の新隊長にして、歴史マニアの両親から大凡女の子らしくない名前を付けられてしまった不憫な少女。

しかし、戦車道に於いては優秀な能力を発揮し、的確に敵を殲滅していく。

練習試合ではみほに負けるモノの、武人然とした態度は変わらず、みほの圧倒的な力に対して敬意を表した。



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Panzer49『まさかの評価と抽選会です』

週刊戦車道……此れは、私に喧嘩売ってる?Byみほ      ……何で、殺意の波動に目覚めてんの?Byエリカ      其処は察して下さい!By梓


Side:エリカ

 

 

 

大会の抽選会まであと3日か……いざ、自分が隊長としてあの場に行くと言うのを考えると、ガラにもなく緊張してしまうわね。

 

3年生になって隊長に就任した私がこうなんだから、1年生の頃から隊長を務めていたみほは、一体どれ程の緊張と戦っていたのか、正直な所想像がつかないわ。

 

 

そもそもにして、1年の頃から隊長をやれと言われても、私だったら其れを熟す事は出来なかったでしょうからね――にも拘らず、隊長就任1年目でベスト4、2年目で全国制覇したみほは、やっぱり類稀なる戦車乗りなのは間違いないわ。

 

 

だからこそ、今年の大会で勝って優勝したいって思えるんだけどね。

 

今はまだタイマンでは勝てないかも知れないけど、小梅と力を合わせればみほに勝つ事は不可能じゃないから、作戦如何では、明光大を倒す事は可能だわ――でしょ、小梅?

 

 

 

 

「みほさんは私とエリカさんで何とかとは言っても、他のチームだっていますよ?澤さんだって強敵でしょう?」

 

 

「逆に言うなら、圧倒的に黒森峰の隊員を上回ってるのはその2人と言えるわね。澤に関しては、私と小梅にはまだ及ばないけど。

 

 その澤にだって、ツェスカをぶつければ最悪でも致命的な打撃は与えるはずでしょう?

 

 後は徹底的にフラッグ車を狙って行けばこっちにだって勝機はあるわ――まぁ、其れは明光大と戦う事になったらの話だけどね。」

 

 

最短で1回戦、最長では決勝戦になるからね明光大とは。

 

私としては、みほとは決勝戦で戦いたいわ――中学生活最後の大会では、最強のライバルと優勝を争って完全燃焼で終わりたいもの。

 

 

 

 

「その気持ちは分かりますよエリカさん。

 

 そう言えば、今週の『週刊戦車道』見ましたかエリカさん?」

 

 

「見てないけど……何か面白い記事でも載ってたの?」

 

 

「面白いかどうかは分かりませんけど、丁度持ってるんで見てみますか?」

 

 

「うん、見せて頂戴小梅。」

 

 

果てさて、何が書かれているのやら……ゴシップ記事であっても気になるのは、戦車女子とは言え、私も年頃の女子中学生って事よね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer49

 

『まさかの評価と抽選会です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、小梅から渡された週刊戦車道の記事を読んだんだけど……

 

 

「く……くはははは!あはははははは!!!な、何よこの記事、私を笑い殺す心算?

 

 だとしたら良く出来てるわ。この場には居ないけど、まほさんがこの場に居たら、あのクールフェイスが割れて失笑漏らしてるわ!『此処まで書かれると、いっそ清々しいな。』って。」

 

 

「え~~と、怒りが湧いたりは……」

 

 

 

 

する筈ないでしょ小梅?

 

よくもまぁ、こんな記事を書いたモノね?怒りを通り越して感心するわ。

 

 

 

 

『今年の大会は、隻腕の軍神率いる明光大が優勝筆頭候補であり、次点として黒森峰と愛和学院が上げられるが、黒森峰の栄光奪還は相当に厳しい物になるだろう。

 

 西住まほ無き黒森峰が、軍神を有する明光大にドレだけ喰らい付けるか?黒森峰の新隊長が軍神相手に何処まで戦えるかに期待だ。』

 

 

 

 

直接的な表現はないとは言え、此処までハッキリと、私じゃみほには敵わないって言ってくれるのは却って清々しい気分すらするわ。

 

おかげさまで、前評判て言う有り難くない物が無くて助かったわ――此れなら、ドンだけ泥臭い試合をして勝っても、雑誌や新聞で叩かれる事だけはないからね。

 

 

王者で無くなった途端にこの扱いって言うのは、少しカチンとくるけど、去年までは黒森峰が勝つ事を前提に記事が書かれていたから、他校の戦車女子はきっと面白くなかった筈……其れを、身をもって味わうのも良い経験よ。

 

其れに、この記事を引っ繰り返して黒森峰が優勝したら、其れは其れでインパクトが有るってモノじゃない。

 

 

 

 

「意外でした。エリカさんだったら、その記事を読んだ瞬間、雑誌を真っ二つに引き裂くんじゃないかって思ってましたから。」

 

 

「小梅……アンタ、私を何だと思ってるの?」

 

 

「誰よりも努力を惜しまないストイックさを持った戦車女子ですが、気性は可成り荒い上に好戦的で、敵と認識した相手は誰であろうと構わず噛み殺そうとする狂犬と言った所でしょうか?」

 

 

「其処まで見事に言われると何も言えないわ流石に。ストイックさは兎も角として、誰彼構わず噛みつく狂犬は否定しないわ。

 

 でもまぁ、この記事を読んで怒ってるのは、私よりもみほかも知れないわね?」

 

 

「みほさんが?」

 

 

 

 

そう。

 

あの子は、多分自分が悪く言われるならドレだけでも耐える事が出来るけど、自分に近い人間が悪く言われる事には耐えられないタイプよ。

 

少なくとも、みほは私の事をライバルとして認めてくれているから、そのライバルが軽く扱われてる、この記事には怒り心頭なんじゃないかしらね?……下手したら明光大に『殺意の波動に目覚めたみほ』が降臨するかも知れないわ。

 

 

 

 

「『我は戦車道を極めし者。うぬらの無力さその身をもって知るが良い』ってですか?……パンツァージャケットの背に『戦』一文字を背負って仁王立ちするみほさんとか、普通に迫力あり過ぎると思います。」

 

 

「其処で即座に『瞬獄殺』をイメージするアンタも大概ね小梅。」

 

 

ま、そう言う訳で、私はこんな記事は気にしてないわ。

 

此れがまほさんやみほ、或はまほさんのライバルである安斎さんを貶すようなものだったら、私だって怒り爆発だけど、結局は私が隊長の黒森峰じゃ明光大に勝つ事は出来ないって言われてるだけだから目くじら立てるモノでもないわ。

 

言いたい奴には言わせておけって所ね。

 

 

 

 

「ですね。……そして、エリカさんはみほさんと絶対値は同じなんだって認識しました。」

 

 

「……何で?」

 

 

「分からないなら分からなくて良いですよ。

 

 取り敢えず、私達の隊長さんは最高なんだって、改めて認識させて貰っただけですから♪」

 

 

 

 

何よ其れ?

 

でも、副隊長の貴女にそう思って貰えるのは嬉しいわよ小梅。――取り敢えずこの記事に関して何か言ってくる子は居るだろうけど、その時は、『大会で見返しましょう』とでも言っておいて。

 

下手に抑えるよりも、そう言った方がやる気も出るでしょうからね。

 

 

 

 

「ふふ、了解です。」

 

 

「それじゃあ、今日は此処までね。

 

 って、もういい時間じゃない?……学校の食堂は閉まってるから、どっかで食べて帰るしかななさそうね。

 

 良ければ、一緒に如何よ小梅?――こんな時間まで付き合ってくれたお礼に奢るわ。」

 

 

「え?良いんですか?」

 

 

 

 

良いわよ。私がそうしたいんだから。

 

と言っても、馴染みの洋食屋だけどね?……あそこは兎に角ハンバーグが美味しいのよ。

 

特にデミグラス煮込みハンバーグと、ガーリックバターハンバーグと、完熟トマトソースのモッツァレラチーズインハンバーグは絶品と太鼓判を推すわ!

 

 

 

 

「ハンバーグマスターのエリカさんが太鼓判を推すなら期待できそうですね♪」

 

 

「その期待には応える味だと言う事だけは保証するわ小梅。」

 

 

てか、誰がハンバーグマスターか。

 

確かにハンバーグは好物だけど極めてはいないわよ!!――マッタク、小梅は変な所でぶっ込んでくるから困るわ。……罰として、あの店の良さを徹底的に知ってもらうとしましょうかね。

 

 

 

 

「お手柔らかに?」

 

 

「何で疑問形なのよ――ま、貴女も絶対に気に入る店だとは思うから、私が何かする必要はないかもだけれどね。」

 

 

其れより大事なのは、3日後の抽選会ね。

 

何処が相手でも勝つだけだけど、如何か明光大とは決勝戦で当たる組み合わせになりますように――それが、私の願いだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:青子

 

 

 

あ~~……現在、明光大戦車道部の部室は絶対零度の空気と、みほが発する『軍神の煉獄闘気』に包まれて、熱さと寒さの二重唱状態!

 

最新の『週刊戦車道』を読み始めてからみほがアレなんだが……何が書いてあったんだ?

 

 

 

 

「エリカさんを馬鹿にするなぁぁ!!!」

 

 

 

――バガァァァァァン!

 

 

 

「雑誌を床に叩き付けて燃やしたわね此れ。」

 

 

「素晴らしいまでに見事な『琴月 陰』ねみほさん。」

 

 

 

 

軍神招来てか、鬼神招来か、或いは魔神招来かこの場合は。

 

取り敢えずみほがブチ切れる程の事が書いてあったんだろうが、一体何が書いてあったんだよみほ?黒森峰の銀髪を低く評価した様な記事が書いてあったんだろうって想像は出来るけどよ。

 

 

 

 

「どうもこうも読んでよ此れ!!」

 

 

「いや、無茶言うな!真っ黒な灰になった本が読めるかぁ!!だから、何が書いてあったか教えてくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

――みほ説明中だ、少し待ってろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

……成程な、確かにそいつは笑って済ませられるもんじゃねぇわ。

 

黒森峰の銀髪と天パは、みほが中学戦車道で見つけた数少ないライバルだし、今年の大会なら最強の対抗馬になる可能性がある奴等な訳だからな?

 

特に銀髪は、みほに勝るとも劣らない力を付けてきてるから、今年の大会の最大の相手なのは間違いねぇ……其れを安く見られたら、みほとしては黙ってられねぇか。

 

 

 

 

「全くこの記事は、お姉ちゃんがエリカさんを隊長に指名したって言う事を知らないんじゃないのかな?知ってたら、こんな記事書かないよ!

 

 西住まほが隊長に指名した戦車乗りがどれ程のレベルなのかって事を考えてないもん。」

 

 

「言われてみりゃそうだ。

 

 まほ姐さんが生半可な実力の奴を隊長に指名する筈がねェモンな。」

 

 

「隊長のお姉さんが指名したなら相応の実力が有るって事になりますからね?

 

 実際、逸見先輩って凄く強いですし……隊長と逸見先輩と赤星先輩が組んだ去年の合宿最終日の模擬戦は全然敵いませんでしたから。」

 

 

「そう!お姉ちゃんが指名したんだからエリカさんは強いの!」

 

 

 

 

でもまぁ、ライバルを低く言われて此処まで怒れる奴ってのも早々居ねぇんじゃねぇか?

 

自分のチームが悪く言われて怒る奴はごまんと居るだろけどな。……ま、そんだけみほが銀髪の事を好敵手として見てるって事なんだろうなぁ~~~……あと天パの事も。

 

 

「取り敢えずみほ、この記事の内容は前評判で終わるんじゃねぇかと思うぞ?」

 

 

「そうね、エリカならこの下馬評を引っ繰り返す位の事はやってのける筈よ。

 

 まぁ、みほ率いる私達明光大が、バリバリ快進撃するって言うのだけは間違ってないけれど。」

 

 

「エリカさん率いる黒森峰は、明光大と当たるまでは負けないわよみほさん!!」

 

 

「……そうだね。

 

 エリカさん――だけじゃなく、小梅さん達も居る黒森峰がそう簡単に負ける筈がないよね……」

 

 

「そうですよ隊長!それに、2年生にはツェスカも居るんですから、選手層だって確りバッチリ大丈夫です!」

 

 

 

 

そうそう、黒森峰の選手層は、ウチ等の3倍はあっからな。

 

兎に角だ、アイツは絶対に下馬評引っくり返してくるだろうから、アタシ達も前評判に負けないようにバッチリやってこうぜ?目指せ2連覇だ!

 

 

 

 

「うん!目指せ2連覇!願わくば決勝戦を黒森峰とで!!」

 

 

「そうなったら、燃えるシチュエーションね。」

 

 

 

 

ライバルとの決勝戦は王道だからな――全ては、今度の抽選会だけど、多分みほなら良い番号を引き当てるんだろうな。

 

今年はどんな所と戦えるのか、楽しみって奴だぜ♪

 

 

 

そんな訳で、今日の練習は終わった訳だが、まさか翌日の学校新聞に『西住隊長、週刊戦車道に怒りの琴月 陰』なんて記事が載るとは思ってなかったぜ……記事見たみほが頭抱えてたからな。

 

 

一体何時撮ったのか、明光大の新聞部、侮れねぇな此れ。(汗)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

そんなこんなで、抽選会当日!

 

今年の抽選会場は……なんで態々東京ドームホテルの大フロア!?高校戦車道大会の抽選会会場は、日本武道館でやるみたいだし……試合での損害の補償とかもしてる事を考えると、連盟の資金源が何処なのか激しく謎だね。

 

 

それにしても各校の隊員以外にも結構人が来てるね?戦車道関係の雑誌の取材陣も来てるんだ。

 

まぁ、学校毎に来てる人数には差があるみたいだけどね――私達は隊長チームと副隊長チームだけだけど、レギュラーを全員連れてきてる所もあるみたいだし、黒森峰に至っては一軍全員連れてきてるよねアレ?

 

エリカさんの性格を考えれば、あの大所帯は考えられないんだけど、大方一軍の子達が『隊長に付いて行かせてください』って感じでグイグイ来られて押し負けちゃったんだろうなぁ……

 

 

其れよりも、今年は明光大、黒森峰、愛和学院の3つ以外は見事に顔ぶれが異なってきた感じだね?

 

戦車道の地区大会は有ってないような物(都道府県によって戦車道をやってる学校の多さに差がある為、多い所は予選選抜を行うけど、少ない所は練習試合なんかの戦績で行政が代表を決定する場合があるから。)だけど、こうもガラリと変わって来るって言う事は、結構な戦力変化があったんだろうね……楽しみだよ。

 

 

 

 

「相変わらず、こう言う場所では良い顔するわねみほ?」

 

 

「エリカさん。――うん、抽選会は大事だからね。」

 

 

「自分のくじ運で何処と当たるかが決まる訳だから、大事なのは否めないわ――まぁ、何処と当たろうと私達黒森峰は勝つ、其れだけよ。」

 

 

「勝つだけですか?」

 

 

「勿論、全員が試合を楽しんだ上でね――楽しんだ上で勝つって言う、合宿で貴女に教わった事は忘れてないわ。」

 

 

 

 

なら良かったです。

 

そう言えば、エリカさんも読みましたよね、あの記事?……頭に来ませんでしたか?

 

 

 

 

 

「あ~~……アレね、怒りを通り越して笑いが出てきたわ。

 

 あそこまでハッキリと、みほには勝てないって書かれると、清々しく感じた位よ?おかげさまで、今年は『王者の戦い』に拘る必要もなくなった訳だしね。」

 

 

「成程、怒りを通り越して感心したと。それ程酷い記事だったって事ですね。」

 

 

でも、それで『王者の戦い』をする必要が無いって判断したエリカさんは凄いと思うなぁ?

 

黒森峰みたいな学校だと、伝統を重んじるから、王者の戦いに拘るんじゃないかと思ってたよ――お姉ちゃんが卒業して、西住流が居なくなったから余計にね。

 

 

 

 

「黒森峰だからよ。

 

 私が今年言われてるのは只一つ『再び王者となれ』と言う事だけで、戦い方まで煩く言われてないの。おかげで、好きなように出来るわ。」

 

 

「そう言う事ですか。」

 

 

と言う事は、王者の戦いって言う枷がない状態でエリカさんは大会に臨む訳だね……此れは、狼が檻から解き放たれたと考えて良いかも。

 

確かに此れなら、エリカさん率いる黒森峰なら、あの下馬評を軽く引っ繰り返すだろうね。

 

 

と、黒森峰の番だねくじ引き。

 

 

 

 

『黒森峰女学院、8番。』

 

 

 

 

8番て言う事は、前半ブロックの最後だね。――私が前半ブロックの残り3つの内の何処かを引かない限りは当たるのは決勝だね。

 

7番の学校は既に決まってるから、1回戦で当たる事だけは無いけど。

 

 

 

さて、次は私の番だね。

 

箱の中に手を突っ込んで、かき混ぜてかき混ぜて……ドレにしようかな?……よし決まった!

 

私が選んだのは此れだよ……ドロー!!

 

 

 

 

『明光大付属中学校、9番。』

 

 

 

 

9番て言う事は、トーナメント後半の第1試合!

 

そして番号の上では1番しか違わないけど、8番と9番なら、決勝まで当たる事は絶対にないから、エリカさんと戦う事になるのは決勝戦!!

 

此れは、最高のくじ運だったって言わざるを得ない感じだよ。

 

 

 

 

「如何やら、貴女と当たるのは決勝戦みたいねみほ?……最高じゃない、必ず決勝戦まで勝ち上がって来なさい?

 

 貴女は、私が黒森峰以外の戦車乗りで唯一認めた戦車乗りなんだから、私以外に負ける事なんて断じて許さない――何よりも、貴女には最強のライバルで居て欲しいからね。」

 

 

「その言葉、そのまま返しますよエリカさん。

 

 私達と戦うまで負けちゃダメですよ?順当に勝ち上がれば、準決勝で愛和と当たる事になりますけど、其れこそ去年の雪辱を果たして決勝に駒を進めてきてください。」

 

 

「言うじゃないの?……OK、約束するわ。

 

 私達は絶対に決勝に駒を進めるって此処で誓うわ――だから、貴女達も必ず決勝まで来なさいよ?」

 

 

 

 

勿論ですエリカさん。

 

私達は必ず決勝戦まで勝ち抜くって、私の魂と、隊長車輌であるアイスブルーのパンターに誓うよ。それで足りなかったら、お母さんに『西住流師範』の署名入りの誓約書作って貰って、其処に記名捺印したっていいから!

 

 

 

 

「……其処までしなくて良いわよ、貴女の気合は分かったから。

 

 でも、私達が決勝に進む以上に、貴女達が決勝に進むのは難しいわよ?――去年の優勝で、明光大は各校からマークされてるからね。」

 

 

「其れは分かってるよエリカさん。

 

 だけど、マークされてる中で勝ち進んで行ったら、其れはきっと皆の自信になるだろうから、此れ位は越えてなんぼって言う所かな?」

 

 

「マークされてる事を、逆に自信を付けさせる機会と取るって、本気で恐ろしいわ貴女。

 

 けど、そう言う事なら私の心配は杞憂に過ぎないでしょうね――決勝で待ってるわよみほ。」

 

 

 

 

はい、決勝で会いましょうエリカさん。

 

今年の大会も強敵揃いだから、楽な試合にはならないだろうけど、其れを全部倒して私達は決勝に進むから、最高の舞台で待っててね。

 

 

中学校最後の大会で、最高の試合をして優勝する――それが、今大会の目標!必ず、果たして見せるよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer50『全国中学校戦車道大会開幕です』

いざ大会開催だね!Byみほ      気合会入れ行こうぜみほ!狙うは優勝だぜ!By青子      私達の力、見せてあげましょう!By梓


Side:みほ

 

 

 

そんなこんなで始まった全国中学戦車道大会。

 

1回戦の第1試合は、新隊長の西さんが率いる愛和学院が、正攻法と搦め手を大胆に組み合わせた戦術で見事な勝利を収めた。

 

西新隊長は、安斎さんの遺産を自分なりにアレンジして愛和の新たな戦車道を作ったみたいだね。

 

 

続く第2試合と、第3試合も見事なモノだったって言う他はないよ。

 

明光大、黒森峰、愛和の3校以外は勢力がガラっと入れ替わった今大会だけど、其れだけに去年までとは違った戦いが展開されていてたおかげで、中学大会であるにも拘らず、物凄い盛り上がりを見せてたからね。

 

 

そして、今日は1回戦前半の最後の試合である4試合目だったんだけど……

 

 

 

 

『海聖第一中学校、フラッグ車走行不能。黒森峰学園の、勝利です。』

 

 

 

 

エリカさん率いる黒森峰が大勝利!

 

お姉ちゃんみたいな完全殲滅ではないけど、エリカさんはスマートに、徹底してフラッグ車を狙って、海聖の部隊を半壊させつつ、自軍の損害はゼロっている、お姉ちゃんとは違うパーフェクトゲームをなし得た――此れは、決勝で当たるのが楽しみだよ。

 

 

 

 

「自軍損害0でフラッグ車を討つ……フラッグ戦ルールでは、最高の勝ち方ね。

 

 まさか、エリカが其れを出来るまでの力を付けて来ていたとは予想外だったわ――エリカの強さを知っていたとしても、此れは流石に、ね。」

 

 

「予想外……じゃないよ私にとっては。

 

 エリカさんは、兎に角ストイックに戦車道に係わってたから、若しかしたら自分の戦術を――西住まほをなぞるんじゃない戦術を確立するんじゃないかって思ってたからね。」

 

 

副官に小梅さんが居るのも大きいかもね。

 

動のエリカさんと、静の小梅さんの組み合わせは最高だからね――多分、お姉ちゃんも其れを考えて、エリカさんを隊長に、小梅さんを副隊長に任命したんだろうけれど。

 

 

でも、其れだけに相手にとって不足なし――決勝で待っててね、エリカさん、小梅さん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer50

 

『全国中学校戦車道大会開幕です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、黒森峰にあれだけ見事な試合を見せられた以上、私達も無様な戦いは出来ないので、試合の作戦を立てて行きましょう。

 

ナオミさん、1回戦の相手である『横浜アドヴァンス中学』はどんな戦車を使ってくるのか、情報を掴む事は出来ましたか?――少々、無理を

 

言ったかもですけれど。

 

 

 

 

「無理はしてないから安心しなさいみほ。

 

 横浜は、戦車の統一性は無いけど、10輌全てを、最高性能を誇る中戦車である、パンターG型5輌と、T-34/76を3輌、T-34/85が2輌って言う布陣になってるみたいね。

 

 特出能力はない代わりに、高いレベルで纏められた中戦車軍団て言うのは中々厄介な相手だと考えるわ。」

 

 

「其れは、確かに厄介ですね。」

 

 

大戦期最強の中戦車と謳われたパンターと、T-34が手を組んだら、攻守速に於いて隙のない最強の中戦車部隊が出来上がる訳だから。

 

とは言え、此方もパンターが5輌に、最強重戦車ティーガーⅠが3輌、待ち伏せさせたら他の追随を許さないⅢ突が2輌の編成だから、不利とは言えないかな?

 

寧ろ、ティーガーⅠが有る分だけ此方が火力と防御力では上回ってると言った所だね。

 

 

 

 

「だな。

 

 向こうは特化してる能力が無いけど、アタシ等の方は最強の88mm搭載してるティーガーⅠが有るんだから火力では負けねぇし、パンターも5輌有るから、機動力でも引けは取らねぇだろ!

 

 つまり総じて戦えば、6:4でアタシ等が有利だ!更に、こっちはみほが隊長なんだ、余程の相手じゃねぇ限り負ける気がしねぇ!!」

 

 

「いや、其れは如何かなぁ?私よりも凄い隊長さんは居ると思うんだけど……」

 

 

「甘いわよみほさん!確かに去年までなら、島田さん、支倉さん、安斎さんにまほさんと、みほさんと同等か僅かに上の人達は居たわ。

 

 だけど、今年は逸見さんと赤星さん、其れから愛和の新隊長の西さん位しかみほさんとタメ張れる隊長は居ないわよ!――残る学校は未知数ですけれど、少なくとも前半戦を見る限り、みほさん以上の人は居なかったわ。」

 

 

 

 

だからと言って、後半ブロックに居ないとは限らないから油断は禁物だよ、青子さん、つぼみさん。

 

其れに、使用戦車は分かっても今年初めて出て来た学校だから実力は未知数で戦うまで分からないのに、相手は此方の詳細なデータを持ってるって言うのは、逆に燃えるモノが有ると思わない?

 

 

 

 

「分かります西住隊長!

 

 徹底的に研究されたにもかかわらず、其の研究を越えて行くのが良いんですよね!」

 

 

「うん、分かってるね梓ちゃん。

 

 大体にして、黒森峰以外の学校が持ってるデータは、去年の大会までの物だから、明光大と黒森峰に限っては事前情報何て言う物は有って無いようなモノだよ。

 

 去年の大会の時の私達と、今年の私達じゃ全然違うし、新入生のデータは未知数な訳だからね。」

 

 

そもそもにして、大会後に『あの』合宿を行った時点で、私達の戦車乗りとしての能力は相当に引き上げられたのは間違い無いんだもん。

 

西住流フィジカルトレーニングを生き残ったって言うのは伊達じゃないんだよ――今だから言うけど、去年の合宿での脱落者が居なかったって言うのは、信じられない事だったからね。

 

 

でも、梓ちゃんの言うように、研究された上で其れを越える事が楽しみなのは確かだよ。其れが出来れば、成長してる証になるからね。

 

其れでナオミさん、後半戦最初の試合になる第5試合の会場はどんな感じなんですか?

 

 

 

 

「此れはラッキーとしか言いようがないんだけど、海外線の市街地よ。

 

 住宅地や商店は元より、浜辺まで戦闘区域に指定されてる場所――みほの十八番である市街地戦が出来るフィールドよ。」

 

 

「それは、確かにラッキーですね。」

 

 

市街地戦は私の最も得意とする所だし、障害物の多い市街地なら余程慣れてない限りはパンターもT-34もその機動力を存分に生かす事が出来ない上に、私達はⅢ突を隠せる場所が多い――圧倒的なフィールドアドバンテージを得た感じだよ。

 

 

勿論それで全てが決まる訳じゃないけど、アドバンテージを取れたのは間違いないからね?……大事な初戦だけに、必ず勝つよ!!

 

此処で勝って弾みをつけて、決勝戦まで一直線一択!

 

何よりも、エリカさんと小梅さんと戦う為には決勝戦まで駒を進めないとならないんだから、絶対に負ける事なんて出来ないよ!……特にエリカさんとは、小学校では私が勝って、中学校では1年次にエリカさんが勝ったから、3年次の今年が決着戦になるからね。

 

 

 

 

「ライバルとの決着戦か?そいつは確かに燃えるよな!

 

 なら、1回戦を圧倒的に勝って、黒森峰の銀髪と天パに見せてやろうぜ!『西住みほ』はこれほど強くなってるって言う事をさ!」

 

 

「勿論その心算だよ青子さん。」

 

 

尤も、エリカさんも小梅さんも、其れに怯む人じゃないけどね。あと、愛和の新隊長の西さんも怯まないだろうね。

 

 

何にしても、中学校最後の大会だから、最高の形で終わりたいからね――3日後の1回戦、勝って弾みを付けて行きたい所だよ。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

其れで試合当日。

 

去年の優勝校が出るって事もあって、会場は大賑わいで、ちょっとした縁日状態になってる感じだね?屋台も其れなりに出てるみたいだし。

 

取り敢えず試合前に力を付けておきたいので、ジャンボカルビニンニク串を4本下さい。

 

 

 

 

「お嬢ちゃん、明光大の隊長さんだろ?

 

 去年の優勝は見事だったから、今年も良い試合を見せてくれる事を期待してるぜぇ?

 

 ジャンボカルビニンニク串が4本って事だったが、お嬢ちゃん達の勝利を願って、特別にジャンボ豚バラネギ串もおまけしといた!優勝してくれよ?俺は明光大のファンなんだ!」

 

 

「はい、頑張ります♪」

 

 

「グハァ!!……そ、その笑顔は反則だぜ……」

 

 

 

 

あれ?倒れちゃった……大丈夫ですかオジサン?おーい……聞こえてますか?

 

 

 

 

「狙わずに、素であれとは……みほ、恐ろしい子。」

 

 

「私、何かしたっけ?別に恐ろしい事はしてないと思うんだけどなぁ?」

 

 

「まぁ、気にすんな。みほが可愛かったってだけの話だからよ。」

 

 

「其れよりも、熱いうちに食べちゃいましょう!折角おまけまで付けてくれたんだから、冷めちゃったら勿体ないわ!」

 

 

「其れもそうだね。それじゃあ……」

 

 

「「「「いただきまーす!!」」」」

 

 

 

 

ん~~~、美味しい!此れは、試合前にバリバリ力が湧いてくる感じがするよ!

 

うん、此れなら試合が長引いてもスタミナ切れを起こす事はないだろうね!……あ、でも試合前にブレスケア飲んどこうね?幾ら火を通したとは言え、ニンニクはニンニクだから。

 

 

 

 

「「「了解!」」」

 

 

 

 

「試合前でも余裕綽々ねみほ?調子は上々って所かしら?」

 

 

「どんな時でも自然体なのが、明光大隊長チームの強さの秘訣なのかも知れないですね。」

 

 

「エリカさん!小梅さん!見に来てくれたんですか!」

 

 

「当然でしょ?貴女達が1回戦を観戦してたように、私達だって他校の試合を観戦するわ。偵察を兼ねてね。

 

 その序で来てみたんだけど、調子が良さそうで安心したわ――でも、実を言うと只会いに来たって訳じゃないの。」

 

 

「あん?如何言うこった銀髪?」

 

 

 

 

只会いに来た訳じゃないって……若しかして、対戦相手の横浜アドヴァンス中学の事で何かあるんですか?

 

確か、4年ぶりに全国大会に出場して来た学校で、中戦車で固めた部隊を使ってるみたいだけど、それ以外は特に特徴はない感じだったんだけど、態々エリカさんが来るって言うのは何かあるんだよね?

 

 

 

 

「偶々思い出した事なんだけど、向こうの隊長には気を付けなさい。

 

 横浜の隊長『樋宮アリサ』は、勝つ為なら手段を選ばない所が有るからね――小学校の時に何度か対戦した事があるけど、『ルールで禁止されてないけど、合法ともされてないグレーゾーン』を平気で使ってくるような奴だから、何をしてくるか分からないのよ。

 

 貴女が遅れを取る様な相手ではないけれど、場所が市街地だけに仕掛けを設置する場所は多いから、くれぐれも気を付けなさい?」

 

 

「うん、肝に銘じとくよエリカさん。」

 

 

勝つ為に手段を選ばない選手はいるけれど、其れはあくまでも『ルールで合法とされてる範囲』で手段を選ばないだけ――私が使う煙幕や閃光の目暗ましや、フィールドにある物を倒して攻撃するとかも其れに該当するけど、ルールのグレーゾーンを使ってって言うのは感心出来る物じゃないよ。

 

 

『禁止されてないから使っても良い』ってなったら、極論を言うなら戦車長がキューポラから身を乗り出して、バズーカ砲撃って攻撃してもOKって事になっちゃうからね。

 

 

戦車道はあくまでも武道でありスポーツだから、ルールを守った上で勝たないと意味はない。

 

ルールに抵触しないからって、ギリギリの事をして勝っても虚しいだけなのに……なら、横浜の隊長さんに、本当の戦車道を教えてあげないとだね?

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「……みほの闘争本能が覚醒したわね。こりゃ勝ったわ、相手が何をしてきた所で絶対に。」

 

 

「エリカさん、みほさんの背後に不動明王が見えます。」

 

 

「そう。私は背後にラーの翼神竜・ゴッドフェニックスが見えるわ――まさかその身に神を宿してるとは驚きよみほ。」

 

 

 

 

……不動明王は兎も角、ラーの翼神竜って私から何を感じ取ったのかなエリカさんは?まぁ、そんな物を幻視する位に私の気合が入ってるのは間違い無いけどね!

 

1回戦、全力で行くよ皆!

 

 

 

 

「「「おーーーー!!!」」」

 

 

 

「この調子なら、大丈夫そうね。」

 

 

「はい、相手が誰でもみほさんは、明光大の皆さんは負けないと思いますエリカさん。」

 

 

 

 

うん、絶対負けないから見ててねエリカさん、小梅さん!

 

相手を過小評価する気はないけど、グレーゾーンな事を普通にして来るって言うのは、勝つ為なら手段を選ばないと言うよりも、裏を返せば『そうでもしないと勝てない』ってとる事も出来るからね。

 

 

だったら、私はギリギリのグレーゾーンを使ってきた戦術を真っ向から切り伏せて戦うだけ――悪いけど、横浜の隊長さんには、隻腕の軍神の二つ名をとくと味わってもらうよ!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

そして、いよいよ試合開始!

 

 

 

「此れより、明光大付属中学校と、横浜アドヴァンス中学校の試合を開始する。互いに、礼!」

 

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

 

横浜の隊長、樋宮アリサさん……赤茶の髪をツインテールにしたそばかすが印象的な人だね。外見だけ見るなら、なりふり構わず勝ちに来るような人には見えないんだけど、エリカさんが嘘を言うとは思えないから油断は禁物だね。

 

 

 

 

「隻腕の軍神、西住みほさん……噂は聞いているわ。

 

 万年1回戦負けの超弱小校である明光大を優勝にまで導いたその力、見せて貰うわよ?――その上で、言わせて貰うわ、勝つのは私達だってね。」

 

 

「私も負けませんよ。

 

 何よりも、去年の優勝校が1回戦敗退なんて言うのは笑い話にもならないですからね。」

 

 

「ふ、そう来ないと面白くないわ。」

 

 

 

 

でも、握手を交わしたアリサさんの瞳は奥が見えなかった……勝ちに固執して濁った感じがしてた。

 

あの目は、お祖母ちゃんに通じるモノが有るから、あんまり好きになれないなぁ?……願わくば、此の試合であの曇りが晴れてくれる事を願うだけだよ。

 

 

って、如何したの梓ちゃん?何やらお怒りの様子だけど。

 

 

 

 

「西住隊長は気付いてなかったかも知れないですけど、あの人、西住隊長の事見下してましたよ?

 

 要約するなら『所詮は片腕の隊長だから、大したことない』って!絶対許せません!隊長は好きで隻腕になったんじゃないのに、其れを嘲笑う様な態度を取って!!」

 

 

 

 

あ~~……何か悦に入ってる感じがしたのはそう言う事だったんだ。

 

どうにも私は、この身体の事で色々言われた経験が有るから、片腕に対する偏見とか言った物が鈍感になっちゃってるみたいだね?思えば1年生の時も、綾南の隊長が片腕ってだけで見下して来たからね。

 

 

でも、梓ちゃんは其れを感じ取って、私の為に怒ってくれたんだね?それは、正直に嬉しいかな。

 

 

 

 

「隊長、私あの人にだけは負けたくありません!絶対に勝ちましょう!!」

 

 

「元よりその心算だよ。

 

 何よりも、戦車道の本質を忘れて勝ちに固執した人に負ける心算は毛頭ないからね――全力を持ってして、勝ちに行くよ。」

 

 

戦車道の本髄、其れを教えてあげないとだからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

いよいよ試合が開始され、去年の優勝校である明光大付属中学校の1回戦が始まった。

 

両校のオーダーは、

 

 

 

明光大付属中学校

 

 

・パンターG型(アイスブルーカラーリング、隊長車)×1

 

・ティーガーⅠ(パールホワイトカラーリング、副隊長車兼フラッグ車)×1

 

・ティーガーⅠ(オキサイドレッドカラーリング)×2

 

・パンターG型(オキサイドレッドカラーリング)×4

 

・Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)×2

 

 

 

 

横浜アドヴァンス中学校

 

 

・パンターG型×5(うち1輌は隊長車兼フラッグ車)

 

・T-34/76×3

 

・T-34/85×2

 

 

 

 

という布陣。

 

総合的なバランスで言うならば、最高性能の中戦車を揃えた横浜アドヴァンスが勝っているだろうが、逆に明光大は、重爆が出来る重戦車と機動戦が出来る中戦車、待ち伏せに向いた突撃砲が揃っている事で、多様な戦術を取れるのが強みだ。

 

 

更に言うのならば、試合会場は市街地であり、みほが最も得意とする市街地戦が出来る場所なのだ。

 

其れを考えるのならば、フィールドアドバンテージは明光大に有ると言っても過言ではないだろう――公式記録には残らない西住流道場での試合ではあるが、市街地戦を模した模擬戦では、まほですらみほには只の1度も勝った事はないのである。(市街地以外のフィールドではまほの方が勝っているので、総合成績は五分であるが。)

 

 

また、みほ自身も、己が最も得意とするのは市街地戦であると理解しているから、その得意フィールドで負ける事は断じてできないだろう。

 

 

 

「其れでは行きます!Panzer Vor!!」

 

 

「「「「「「「「「Jawohl!」」」」」」」」」

 

 

 

試合開始と共に、部隊を4つに分けて市街地に散らばらせた。

 

みほが率いる隊長車含めた計3輌のパンターで構成された隊長チームがこれまで通り進軍し、梓率いる副隊長車を含めたティーガーⅠ3輌で構成された副隊長チームが、隊長チームが進軍する道路と平行に走っているバイパスを通って進軍し、Ⅲ突とパンターで構成された2つの部隊が大回りして横浜の側面を取る形で進軍して行く。

 

 

 

 

其れに対して横浜は部隊を散開させず、全車輌で進軍を進めていた。

 

固まっていた方が撃破されにくいとか、或は敵の遊撃部隊が出て来た時に対処しやすいなど、理由は幾らでもあるだろうが、市街地戦に於いて、全部隊が固まって動くのは得策でない事を考えると、少し奇異な部隊配置と言えるだろう。

 

 

 

「去年の決勝を見る限り、西住みほは市街地戦を最も得意としてるのは間違いないわ。

 

 だからと言って、此方に分がないのかと言われれば其れは否……ルールで禁止されていない事は、裏を消せば無言で合法って言う事も 出来るから、其れを存分に使わせて貰うわ!」

 

 

 

だが、横浜の隊長であるアリサは、黒い笑みを浮かべると、手元の謎の装置をスイッチオン!

 

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

 

その瞬間、市街地に存在するアパートが爆発し、そこを通りかかっていたみほ達の車輌に瓦礫が降りそそぐ。

 

瓦程度の物ではパンターの装甲に傷をつける事は出来ないが、其れでも行き成りアパートが爆発したとあっては、驚かない方がおかしい。

 

 

 

 

「緊急回避!!」

 

 

「「了解!!」」

 

 

 

それでも、見事な操縦により、瓦礫の雨を回避すると、再び進軍開始!!

 

 

だが今の爆発は少し不自然だったのは否めない――アパートは、戦車砲が直撃した訳でもないのに殆ど全壊状態になっていたのだから。

 

ならば、何故アパートは爆発したのか?

 

 

 

「此れは、確かにルールで禁止されてはいないけど、此れは絶対やっちゃダメな事だよ――スイッチ式の地雷でアパートを吹き飛ばすなんて、普通は思いついたってやらないのに、それを軽々選ぶなんて……此れは、徹底的に教えてあげないとだよ、本物の戦車道をね。」

 

 

 

其れは試合開始までの僅かな時間を使って、アリサが部下達に命じて市街地戦の会場の至る所にリモコンで起爆できる爆弾を仕掛けていたからである。

 

 

確かにルールで禁止されている事ではないが、此れはみほにとっては許せない。

 

みほも市街地戦では派手に街を破壊するが、其れはあくまで戦車の武装で行う事であって、ルールで許されているモノだが、事前に爆弾を仕掛けておいて爆破するなどと言う事は、ルールで禁止されてないとは言え、戦車乙女にはあるまじき行為と言っても過言ではないのだ。

 

 

 

だがしかし、この行為がみほの中に存在している『西住の魂』と『眠れる本能』を呼び覚まさしたのは間違いないだろう。

 

 

 

「こんな事をしてくるなんて、戦車道を馬鹿にするにも程があるよ――梓ちゃん、敵を発見したら思い切りやっちゃって!

 

 機動力では劣るとは言え、攻撃力と防御力に関してはティーガーⅠの方がパンターやT-34を圧倒的に上回るから、早々やられるって言う事はないだろうから。」

 

 

『了解しました西住隊長!

 

 接敵即撃滅……サーチ・アンド・デストロイで任務に当たります!』

 

 

「うん、そっちは任せるね!」

 

 

 

最大級の警戒をしつつ、みほは進軍している。

 

明光大の1回戦は、行き成りの相手のグレーゾーン攻撃に対して、真っ向勝負を仕掛けると言う、実にみほらしい戦いが展開されようとしていた。

 

 

1回戦は、此処からが本番と言っても過言ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 



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Panzer51『姑息な手段をぶち壊します!』

殺ってやる殺ってやる殺ってやるぜ…Byみほ      あ、処刑BGM入った此れ。By青子      南無阿弥陀仏ね。Byナオミ


Side:エリカ

 

 

 

スイッチ式の地雷で建物爆破とは……確かにルールで禁止されてないグレーゾーンではあるけど、合法か違法かって言うのならば間違いなく『違法』よ!

 

ルールでは『戦車砲及び機銃以外での建造物破壊』はルールとして認められているけどそれ以外の方法は是でも非でもないグレーゾーン。

 

グレーゾーンは使わないって言う暗黙のルールすら破るなんて、横浜アドヴァンスの隊長は、勝利至上主義である事は間違いないわ。

 

『勝つ事』以上に優先する物は無いって考えてる以上、此れから先もグレーゾーンな手段を次々使ってくるのは確実――小学校の時から全然成長してないわねアイツ。

 

 

 

 

「勝利至上主義とは言え少しやり過ぎですよ此れは――若しかしなくてもみほさんの逆鱗に触れるんじゃないですかアレは!?」

 

 

「言うまでもなく逆鱗に触れたわよ小梅。」

 

 

みほは、まほさんと比べるとのほほんとしたイメージだけど、戦車道に関しては誰よりも真剣に取り組んでいて、そして楽しんでいるわ。

 

そもそもにして、みほは勝つ事よりも楽しむ事を重視してるわ――其れで勝っちゃうのだから、あの子の戦車乗りとしての能力は疑う所がないわよ。

 

 

だからこそ、勝利を得る為にルールのグレーゾーンを使って来た横浜を許す事は出来ないでしょうね。

 

 

 

 

「と言う事は?」

 

 

「1回戦をみほが勝つのは必然よ小梅。」

 

 

あの子は今もまだ強くなってるから、小学校の頃から成長してない隊長が率いる相手なんて塵芥にもならないのでしょうね……益々、貴女と決勝で戦いたくなったわみほ!!

 

 

だから、こんな所で負けないでよ?――私が望むのは、貴女との試合なんだからね!!――私も勝ち抜いて、待ってるわみほ、決勝で!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer51

 

『姑息な手段をぶち壊します!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

1回戦第5試合である明光大付属中学校と横浜アドヴァンス中学校の戦いは序盤に、アドヴァンスがルールギリギリの瓦礫攻撃を仕掛けて来たにも拘らず、其れに冷静に対処して明光大は致命傷を悉く回避し、アドヴァンスに決定打を与えない――幼い頃より西住流の手解きを受けて来たみほにとって、試合中に瓦礫が落ちて来ると言う事は少なくない回数体験してるので、さして気にはしていなかったのだろう。

 

 

だが、此の瓦礫攻撃よりもみほには気になって居る事があった。

 

 

 

「(なんで向こうは、私達が此処を通る事を知ってたの?

 

  分散したチームの何れかが瓦礫攻撃を受けたのなら兎も角、全部のチームに正確に瓦礫攻撃を仕掛けるなんて言う事は不可能だし、仮に偵察を出していたとしても、私達が進んでるのは大通りじゃないから高いビルの上からでも見つけるのは難しい。

 

  何よりも、私達が何チームに分かれてるのかも分からないのに乗組員を偵察に出すのは得策じゃない……なら、どうして?)」

 

 

 

其れは、4つに分けた部隊全てが瓦礫攻撃を受けたと言う事だ。

 

自分の隊長チームと梓の副隊長チームだけが攻撃を受けたのならば未だ分かる。この2チームは分かれて居るとは言え、並行して通っている道路を使ってアドヴァンスの試合開始位置に向かって居るのだから、偵察を出して見つけ出せば、この2チームに関しては同時瓦礫攻撃を仕掛けるのは可能と言える。

 

 

だが、残る2チームは大回りしている為隊長チームと副隊長チームのように同時に発見するのは極めて難しいと言えるのである。

 

そうであるにも拘らず正確に全てのチームに瓦礫攻撃を仕掛けて来たと言うのは、矢張り解せない――まして航空機を使っての空からの偵察はルールで禁止されているのだから余計にだ。

 

 

更に――

 

 

 

『此方Cチーム!敵戦車と遭遇!先回りされていたようです!』

 

 

『此方Dチーム!敵戦車より砲撃を受けました。待ち伏せされていた模様!』

 

 

「!?」

 

 

 

大回りしていた残る2チームから敵と交戦状態に入ったと言う連絡が入った。それも、あらかじめ其の場所を通る事が分かっていたかの様に先回りや、待ち伏せをしていた部隊とだ。

 

 

 

「(何で、こうまで正確に此方の動きを把握する事が出来るの?幾ら何でもおかし過ぎる――まるで、空から見られているみたい……)

 

 落ち着いて、無理に撃破しようとはせずにCチームは駅前に、Dチームは役所前まで移動して下さい。追撃を振り切るのに必要だったらスモーク弾や閃光弾を使っても構いません。」

 

 

『『了解!』』

 

 

 

その連絡に、更に疑問を持ちつつも、みほは冷静に指示を出して指定場所まで移動するように伝達し、自身のチームは進軍して行く。

 

完全に手の内が読まれているとしか思えない状況でありながら、しかし明光大のチームは大慌てしてチームが混乱する事もなく冷静に対処出来るのが強みとも言えるだろう。

 

とは言え、このままでは良くない。此方の手の内が相手に筒抜け状態では、圧倒的に不利なのだから。

 

みほは指示を出しながらも、この状況をどう打開するかを同時に考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、アドヴァンス中の隊長であるアリサは、隊長車の中でほくそ笑んでいた。

 

瓦礫攻撃こそ決定打にはならなかったが、今の所試合は自分の思うように進んでいるのだから当然とも言えるだろう――何よりも、去年の優勝校を倒したとなれば一躍ヒーローになるのは間違いないのだから。

 

 

 

「さぁて、如何するの隻腕の軍神さん?アンタ達の動きはバッチリ把握できてるわよ?」

 

 

 

そんなアリサの手元にはタブレット端末が。

 

端末自体の持ち込みは違法ではないが、問題はその端末が映し出している画面――其れは、上空から試合会場を撮影した映像であり、明光大の戦車の位置が確りと映し出されていたのである。

 

みほが『空から見られているみたい』と感じたのは、間違いではなかったのだ。

 

 

 

「弱小校とは言え、1年の頃から隊長を務めてチームをベスト4に導き、去年は優勝までさせた、今や中学戦車道界隈でその名を知らない者は居ない、生きる伝説と化している隻腕の軍神・西住みほ。

 

 アタシがアンタの伝説を終わらせてやるわ。」

 

 

 

手元のタブレットを弄りながら、アリサは次々と隊員に指示を飛ばして行く。

 

勝つ事以上に優先する物が無くなってしまった競技者の成れの果て――其れが、今のアリサだと言えるだろう。普通は守るべき『暗黙のルール』であるグレーゾーンを堂々と使っているのだから。

 

 

少なくとも今のアリサから、戦車道と言う武道を行う者に必要な心は感じられない――有るのは『勝利』と言う美蜜に酔ったジャンキーの姿だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのアリサの策略で、みほ率いる明光大はマッタクペースを掴む事が出来ていなかった。

 

如何に敵戦車から戦略的撤退をして、みほが指示した場所へ向かっても、アドヴァンス中の戦車は必ず先回りしているのだ。如何にみほであっても、こうも次々と自分の策を読まれていたのでは流石にキツイだろう。

 

 

だが、だからこそ強烈に『オカシイ』と感じていたのだ、明光大の全員が。

 

みほの指揮官の能力は極めて高く、明光大と黒森峰の合同合宿では模擬戦とはいえみほが隊長を務めたチームは負け知らずな上、バトルロイヤルであっても負けなしなのだ。

 

其れだけの能力を持ったみほが、こうも相手に手の内を読まれる物だろうか?其れが、疑問となっていたのだ。

 

 

 

「クソっ垂れ、どうなってんだオイ!?みほの策が此処まで読まれるって有り得ねぇぞ?

 

 まさかとは思うが、あいつら通信傍受とかしてんじゃねぇだろうな!?」

 

 

「其れは無いと思う、通信傍受のバルーンは見当たらなかったから。」

 

 

 

だから、当然のように『こちらの通信が傍受されているのではないか?』と言う疑問にぶち当たる。

 

だが、みほもその可能性を考えて空をくまなく探してみたが、其れらしきものは一切見当たらなかったのだ。だからこそ、手の内が筒抜けになっているカラクリが分からないのだ。

 

 

 

「(通信傍受じゃない……だとしたら如何して此処まで正確に私達の動きを把握できるの?

 

  航空機での上空からの偵察はルールで禁止されてるから無理なのに、此れはまるで空から私達の動きを把握してるとしか思えないよ!

 

  ……って、航空機での偵察は禁止?――と言う事はまさか!)

 

 つぼみさん、A-3地点のマリンタワーに向かって下さい!あそこは砲撃禁止区域ですから、入ってしまえば安全です。」

 

 

「何か考えがあるのねみほさん?了解したわ!!」

 

 

 

だが、此処でみほが『航空機での偵察は禁止』と言う所から、何かに気付いて操縦士のつぼみに試合会場である都市のランドマークともなっている海沿いのマリンタワーに進むように命令。

 

そして其処は『砲撃禁止区域』であるから、其処に入ってしまえば攻撃を受ける事はないのだ。(市街地戦の場合、史跡やランドマーク等の場所は、戦車で入る事は出来ても戦闘行為が禁止されている場所なのである。)

 

 

そしてつぼみの見事な操縦で、隊長車はあっと言う間にマリンタワーに到着し、到着すると同時にみほは戦車を降りてマリンタワーの階段を駆け上がる。(市街地戦の会場になった都市は、試合中はエレベーターやエスカレーター等の電源はオフにしなければならない。)

 

常人ではあり得ないほどの速さで階段を駆けあがって展望台まで到達すると、ポケットからヘアピンを取り出して関係者しか入る事の出来ない屋上へと続く扉をピッキングでオープン!

 

そのまま、屋上へと上がって周囲を見渡す――そして……

 

 

 

「見つけた……!!」

 

 

 

目的の物を発見。

 

みほが見つけたのは、周囲の景色を反射するようにミラー塗装が成された無人機のドローン。地上からでは見つける事が出来なかった相手だが、500mを越えるマリンタワーの屋上に来た事で見つける事が出来たのだ。

 

 

アリサは此のドローンが撮影した映像をリアルタイムで自らのタブレットに送信させて、明光大の動きを把握していたのだ。

 

確かに航空機での偵察は禁止されているが、ドローンのような無人機を使っての偵察は禁止ではない――此処でも確りとグレーゾーン事態を使ってきてくれたのだ。

 

 

ルールで禁止されていないのならば反則でないとは言え、其れを堂々と使うと言うのは普通はためらうだろう――そんな事をして勝って、何の意味があるのかと思ってしまうから。

 

そうであるにも拘らず、堂々とグレーゾーンを使ってきたアリサに対してみほが抱いたのは『怒り』でしかない。

 

 

みほは心の底から戦車道が大好きで、其れを楽しんでいるが故に、戦車道を穢すアリサの行為は断じて許せるものではないのだ。みほとしても『西住流の娘』としても。

 

 

 

「ドローンを飛ばして……瓦礫攻撃に続いて何処までも卑劣な――アリサさん、貴女にだけは絶対に負けないよ!!」

 

 

 

だからこそ、アドヴァンス中のドローンは破壊対象でしかない。

 

みほはポケットからピンを抜いていない閃光弾を取り出すと、ピンを抜かないままドローンに全力投球!!

 

ピンを抜いていないから閃光を発する事はないが、ピンを抜いていない閃光弾は野球ボール大の鉄球と同じであると言える。そんな物がみほの投擲(最大時速130km:女子中学生最強)でドローンに放たれたらどうなるか?

 

 

 

――バァァァァァァァン!!!

 

 

 

答えは言うまでもなく、閃光弾がぶち当たった瞬間にドローンは大爆発を起こして落下。此れではもう、明光大の動きを把握する事は出来ないだろう。

 

 

 

「敵の無人機、ドローンは破壊しました――なので、此方の手の内が読まれる事はもうありません。

 

 さぁ、反撃と行きましょう!此れまで好き勝手やってくれた相手に、私達の――明光大の本当の力を教えてあげましょう!Panzer Vor!」

 

 

『『『『『『『『『Jawohl!』』』』』』』』』

 

 

 

そして其れは明光大の真の力が解放された事と同義。

 

此れまで先回りを許して来た明光大が、此れで先手を取れるようになったのである。――だから、CチームとDチームは閃光弾を使ってアドヴァンス中の戦車に目暗ましを行ってその場から離脱する。

 

 

同時に、ドローンが文字通りみほの手によって破壊されたアドヴァンス中は一気に混乱の極みに陥っていた。

 

今までは隊長であるアリサの指示に従っていればそれでよかったのが、ドローンが破壊された事で、アリサは明光大の動きを把握すると言う事が出来なくなってしまった事で、明確な指示が出せなくなっていたのだ。

 

 

 

「な、何でいきなりカメラが砂嵐になってるのよ!?

 

 其れに、画像が途切れる前に聞こえた鈍い音……若しかして、カラクリがばれてドローンが破壊された!?

 

 あり得ない!!戦車砲で撃ち落とすのは不可能なのに……ま、まさかビルの屋上とかから石でも投げてドローンを落としたって言うの!?

 

 でも、其れにしたってドンだけの強肩の持ち主だってのよ!!」

 

 

 

加えてマッタク予想していなかった事態に、隊員以上にアリサが大焦り状態となり、明光大の位置を把握できなくなった今、どう戦うのかと言う事が全然思い浮かばなくなっていた。

 

だが、其れはある意味で当然だろう。元々碌な戦術も立てず、言うなれば相手の手札を覗き見しながらゲームをしていたようなモノなのだ。

 

その覗き見が出来なくなった、相手の位置が分からなくなったとなっては如何して良いのか分からなくなるのは道理――加えてアリサはみほと違い、事前にフィールドを下見する、或はネットマップの航空写真で試合場の全体図を頭に叩き込むと言う事をしていないせいで、離脱した明光大の戦車が何処に行ったのか予測も出来ない。

 

予測が出来ないから正確な指示が出せない――となれば、どうなるか?

 

 

 

 

『横浜アドヴァンス中、パンターG型、行動不能。』

 

 

 

「んな!なんですってぇ!?」

 

 

 

明光大の部隊の迎撃に出していた部隊のパンターが撃破されたのだ。

 

 

 

 

『た、隊長!此方αチーム!

 

 敵チームの強襲!敵フラッグ車を含めたティーガーⅠ3輌が攻撃してきました!』

 

 

『こ、此方βチーム!

 

 パンター2輌とⅢ突2輌による奇襲!目暗ましを喰らった隙に回り込まれて挟撃を受けた模様!指示を願います!!』

 

 

 

其れと同時にアリサに入る隊員からの現状報告は、一気に自分達に逆風が吹いて来た事をアリサに実感させるには充分なモノであった。

 

タブレットの映像が途切れてから3分と経っていないにも拘らず、明光大が別動隊であるαチームとβチームを強襲!しかもβチームの方には2輌のパンターとⅢ突の計4輌による挟撃が成されているのだから、此れはもう驚く他ない。

 

 

そしてこれ等は全てみほの的確な指示と、明光大の戦車道チームの隊員の迅速かつ柔軟な対応が有ればこそだろう。

 

閃光弾攻撃成功の報告を受けたみほは、マリンタワーを駆け降りながらCチームにDチームと合流して相手部隊を攻撃するように指示し、梓率いる部隊にはCチームと戦っていた部隊の攻撃を指示。

 

みほがしたのは其れだけであり、CチームとDチームの挟撃作戦は、夫々のチーム間で連絡を取り合って自分達で考えた物であったのだ。

 

 

そしてその効果は抜群!

 

 

 

 

『横浜アドヴァンス中、パンターG型が2輌、T-34/76が3輌、行動不能。』

 

 

 

 

瞬く間にαチームとβチームは全滅!

 

梓率いる部隊が、ティーガーⅠの圧倒的な火力と防御力で攻守力で劣るパンターを撃破し、CチームとDチームは見事な連携でT-34/76を全て撃破!

 

 

此れで横浜アドヴァンス中の戦車は残り4輌に対して、明光大は無傷の10輌。

 

フラッグ戦である事を考えれば逆転できない数字ではあるが、如何せん分が悪いのは否めない。

 

此れだけの車輌数に差があると、明光大はフラッグ車を後方に下げた上で、横浜アドヴァンス中のフラッグ車を包囲すると言う戦術を取る事が可能であり、横浜アドヴァンス中がフラッグ車を狙うのは極めて困難になるのである。

 

更に、フィールドはみほの十八番である市街地戦であり、フィールドマップが頭に叩き込まれているみほならば、横浜アドヴァンス中のフラッグ車を発見し次第、他の車輌を最短ルートを通らせてフラッグ車へ向かわせる事が可能……最早、盤面は完全に明光大の形となっていた。

 

 

 

「そ、そんな……会敵してから僅か2分で、6輌のパンターとT-34/76が全滅ですって?……これが、隻腕の軍神の力だとでも言うの!?」

 

 

「て、敵戦車来ます!アイスブルーのパンター……明光大の隊長車です!!」

 

 

「!!ほ、砲撃開始!撃ち貫け!!」

 

 

 

戦車道に於いては瞬殺とも言えるタイムでαチームとβチームが撃破された事に動揺するアリサの前に、みほ率いるパンター軍団が出現!

 

あまりにも早いと思うかもしれないが、ドローンを破壊する為にマリンタワーの屋上に登った際に、みほは双眼鏡を使ってアリサの部隊の位置を確かめていたのである。

 

そして、自身が戦車に乗り込むと同時に最短距離を通って此処まで来たのだ。

 

 

其れに驚いたアリサは、即時攻撃を命令するが、その攻撃は当たらない。

 

つぼみが操縦する隊長車は元より、残る2輌のパンターも、普通では考えられないような変態軌道で横浜アドヴァンス中の攻撃を悉く回避。

 

全国最強レベルの回避能力を誇る明光大の戦車に対して、焦りのある砲撃が当たる筈もなく――

 

 

 

――ズドォォォォン!×2

 

 

――キュポン!×2

 

 

 

 

『横浜アドヴァンス中、T-34/85、パンターG型、走行不能。』

 

 

 

 

逆に横浜アドヴァンス中のパンターとT-34/85を1輌ずつ撃破!此れで、残るはアリサの乗るフラッグ車であるパンターと、副隊長の乗るT-34/85のみ。

 

この時点で絶望的な事は間違いない――この場に明光大のフラッグ車である梓のパールホワイトのティーガーⅠが居るのならば、其れを狙う事も出来たが、この場に居るのはみほ率いるパンター軍団のみなのだ。

 

此処から離脱してフラッグ車を探すと言う選択肢もあるが、如何せん効率が悪い上に、そうなると追撃を受けて益々不利になるのは火を見るよりも明らかであるが故に、先ずはみほの部隊を倒さない事にはフラッグ車を撃破しに行く事すら出来ない。

 

 

だが、其れは不可能だろうと思ったのは、他でもないアリサ自身だった。

 

 

 

「ルールで禁止されていないからと言って、ギリギリのグレーゾーンを平気で使い、戦車道を穢した代償を払って貰いますよアリサさん?」

 

 

 

パンツァージャケットの上着を肩に引っ掛けた状態でキューポラの上に仁王立ちして自身を睨みつけるみほを前にして、アリサの戦意は完全に消失してしまい、同時に真に強い者に対しては如何なる謀略も意味を成さないのだと理解してしまったのだ。

 

 

 

「あ……あ……あぁぁぁぁぁぁ!!

 

 撃て!撃て撃て撃て!!あいつを倒せ!西住みほを倒せぇ!!」

 

 

 

其れが睨み付けられた恐怖とごっちゃになって、アリサは半ば半狂乱のような状態になって攻撃を指示するが、当てずっぽうな攻撃など、みほのパンターには通じずに、全て回避され――

 

 

 

「Das ist das Ende!(此れで終わりです!)」

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

――ドォォォォォン!!

 

 

――キュポン!

 

 

 

 

『横浜アドヴァンス中、フラッグ車、行動不能。

 

 明光大付属中学校の勝利です!!』

 

 

 

流れるような動きで後部を取ったアイスブルーのパンターの砲撃が、アリサのパンターの後部装甲を撃ち抜いて試合終了!

 

序盤はアリサの謀略に苦戦した明光大だったが、ドローンを破壊してからは文字通りのワンサイドゲーム。

 

自軍は損失0でありながら、敵部隊の残存車輌は1輌のみと言う、フラッグ戦における『完全勝利』の定義を見事に満たした大勝利なのだ。

 

 

 

「勝つ事に固執した事で、貴女は戦車道の何たるかを忘れてしまった……其れじゃあ私に勝つ事は出来ない。

 

 戦車道は勝つ事が全てじゃないし上に、そもそもにしてスポーツであり武道だよ?――この負けを期に、戦車道の本質を見直すべきだね。

 

 其れが出来れば、貴女はもっと伸びると思うから。」

 

 

「西住みほ……!!次に戦う事が有ったら絶対に負けないわ!――アンタを倒して、アタシは!!だから、次は負けないわ!!」

 

 

 

アリサから睨まれてもみほは何のそのだ。自覚はしてないが『強者の余裕』で、完全にアリサの怨念染みた一言も見事に受け流していた。

 

兎にも角にも此れにて決着!

 

1回戦の第5試合は、みほ率いる明光大付属中学校が自軍損失0のパーフェクト勝ちで、横浜アドヴァンス中学を下したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

 

ふぅ、ドローンを使っての偵察に少々冷や冷やしたモノの、ドローンを破壊してしまえば、あとはみほのペースでしたね。

 

ルールで禁止されていないグレーゾーンを使うのは、確かに有効と言えるでしょうが、逆に言うのならば其れは各校が『暗黙のルール』として遵守している事を破る事であり、同時に戦車道への冒涜でもある――みほが怒るのも当然ね。

 

 

でも、今回の事を考えると、来期のルール改正の際には『試合中の偵察は、有人による地上及び建物・高台からに限る』と明記しなくてはね。

 

 

 

 

「そのグレーゾーンを堂々と使ってきた相手に対してパーフェクト勝ちしてしまうみほお嬢様は流石ですね奥様♪」

 

 

「菊代、あの子を誰だと思ってるの?現役時代は『日本戦車道に西住あり』とまで言われた私の子よ?

 

 純粋な西住流を使ってもみほは充分に強いけれど、あの子は西住流とは異なるドクトリンも使う事が出来る――西住流の『剛』とみほ独自の『柔』が合わさった戦術は、まだ完成形ではないとは言え相当なモノよ。」

 

 

故に、姑息な手を使ってくる相手など敵ではない――此の試合結果は当然の帰結だと私は考えているわ。

 

 

 

 

「其れに関しては同感です。」

 

 

「真の強者には如何なる謀略も策略も通じない――みほは此の試合で、其れを証明したわね。」

 

 

そう、まだ未完成な戦術であるにも拘らず、みほは既に『絶対強者』の領域に達しているから、あの子の戦術が完成したら果たしてどうなるののか想像も出来ないわ。――将来的には、私やまほすら凌駕する戦車乗りになるのかも知れないわ。

 

 

でも、それらは取り敢えず置いておいて、見事な戦いでしたみほ。――今年の大会も、貴女が率いる明光大付属中学校が更なる活躍をする事を願っていますよ。

 

西住流師範としてではなく、貴女の母としてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer52『隻腕の軍神の休日です』

休日は思い切り楽しまないとね♪Byみほ      其れは至言だわみほByエリカ      其れじゃあ、思い切り楽しみましょう♪By小梅


 

Side:みほ

 

 

 

全国大会2回戦。

 

西さん率いる愛和学院は2回戦の第1試合で、正面突破を囮にしての挟撃でキッチリとフラッグ車を撃破して準決勝進出を決め、エリカさん率いる黒森峰も地形を生かした戦い方で、自軍の車輌は1輌も撃破されずに相手戦車は全滅させるパーフェクトゲームを達成。

 

敢えて性能で劣るⅢ号を使用して、小回りが利く機動力を駆使して相手を振り回した上でキルゾーンに誘い込んでの撃破は見事だったよ♪

 

 

エリカさんが隊長になった黒森峰は、お姉ちゃんが隊長だった頃みたいな圧倒的な強さは無いけど、代わりにどんな相手であっても仕留める事が出来る柔軟性がある気がする――まるで、狼の群れが獲物によってフォーメーションを変えて狩りをするようにね。

 

そして、副隊長の小梅さんがそんなエリカさんの戦術を見事に補佐してるから、この戦い方には隙が無い――だからこそ、燃えてくるんだよ!

 

絶対戦いたいって思えるからね。

 

 

で、私達明光大の2回戦なんだけど……

 

 

「Sie konnen nicht aus der Niederlage entkommen.(貴女は敗北から逃げられません。)」

 

 

「Das ist das Ende!(此れで終わりです!)」

 

 

「そんな、まさか……嘘だぁぁぁ!!」

 

 

「でも、此れが現実です♪」

 

 

 

 

――ドガァァァァァァァァン!!

 

 

――キュポン!

 

 

 

『私立ジャスティス中学校、フラッグ車、行動不能。明光大付属中学校の勝利です!』

 

 

「まさか、二度も同じ手に引っ掛かるとは……其れ以前にオチどころか、タイトル前でやられるとは納得できん……!」

 

 

「何を言ってるのか分かりませんが、私達の勝ちです!」

 

 

1回戦とは違い、パーフェクトとは行かなかったけど大勝利!

 

高い能力で性能をまとめたアメリカ戦車を揃えて来たのは悪くないし、序盤で喰らった罠を『また来るんじゃないか』って警戒してたのは悪くないけど、2度目も同じ手で来るって考えたのは拙かったね。

 

それが結果として、『仕掛けは同じだけど中身は違う罠』を喰らう羽目になった訳だから。

 

 

何にしても、明光大も準決勝進出!

 

あと1回勝てばエリカさんとの試合が待ってるって考えると。否応なしに心が燃え上がって来るよ――だから、次の準決勝も皆と力を合わせて頑張らないと!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer52

 

『隻腕の軍神の休日です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもって、2回戦が終わった後の土曜日――学校もないから結構暇なんだよね?土日は青子さんもナオミさんもつぼみさんも既に予定が入ってるって言ってたし。

 

身体を休めるには持って来いなんだろうけど、何て言うか暇を持て余すって言うのは良くない気がするんだよねぇ?

 

戦車の彼是をお母さんに聞こうにも、お母さんは連盟が開いた戦車道指導者育成の為の講演会に、講師として出掛けてるから夕方までは戻らない……ボコのアニメDVDは全部見ちゃったしなぁ。

 

 

だからと言って、家でごろごろしてるって言うのは凄く勿体ないし……天気もいいからお出掛けしてみようかな?何か目的がある訳じゃなくても、ちょっと出掛けるのも楽しい物だし♪

 

そうと決まれば善は急げ!

 

ウェストポーチにお財布とスマホを入れて、ハンカチとポケットティッシュも入れて準備OK!

 

折角だから、今日はこの前かったばかりの新しいファッションサンダルを履いて行こうかな?学校に履いていく事は出来ないしね。

 

 

 

 

「あら、お出かけですかみほお嬢様?」

 

 

「ちょっと出かけてきますね菊代さん。」

 

 

「何処へ行くかは聞きませんが、くれぐれもお気をつけて。

 

 みほお嬢様が傷付いたら――其れだけならばまだしも、意識がないなどと言う事になったら、奥様とまほお嬢様が完全暴走して、相手を滅殺する未来しか見えませんので。」

 

 

 

 

菊代さんにこう思われてるって、お母さんとお姉ちゃんは一体何者なんだろう?疑問は残るけど、其れはきっと追求しちゃいけない事だね…。

 

とりあえず行ってきます菊代さん。何かあったら携帯に連絡しますから。

 

 

 

 

「了解しましたお嬢様――偶の休日を楽しんでください。」

 

 

「うん、行ってきます♪」

 

 

さてと、先ずは家の近くの田んぼ道を散歩して、其れから繁華街か商店街に行こうかな。ウィンドウショッピングって言うのも偶には良いしね。

 

それにしても、此の田んぼ道は昔から変わらないなぁ~~。お姉ちゃんとⅡ号に乗って遊びに来てた頃のままだ。永遠なんてモノが無いって言うのは分かってるけど、此処は出来るだけ変わらずにいて欲しいと思うよ。

 

何より、此処を吹き抜ける初夏の風は気持ち良くて好きだから。

 

 

其れで其のまま歩いて田んぼ道が終わろうとしてる所で……えっと、何してるのかな?

 

 

 

『♪』

 

 

 

突然私の前に現れた子ぎつね。

 

山や林にきつねが住んでるって言う話は聞いた事があるけど、実際に見るのは初めてだよ――しかも、なんかニコニコ(?)して、お花を口に咥えてるんだから。

 

えっと……くれるって言う事かな?

 

 

 

『コン♪』

 

 

「そうなんだ。ありがとう、綺麗なお花だね。

 

 でも、街は危ないからお家に戻った方が良いよ?お母さんが心配してるかもしれないから。」

 

 

『キュ~~♪』

 

 

 

 

って、わわ!お花を受け取ったら腕を上って、其のまま頭の上に登って来た!?……確り掴まってるみたいだし、若しかして凄く懐かれてる?

 

そう言えば、今年に入ってから家で戦車の練習をしてる時に視線を感じる事があったけど、若しかして此の子だったのかな……まさかとは思うけど、戦車に乗ってる私に興味を持っちゃったとか?

 

 

「お家にお帰りって言っても、此れだけ好かれてるんじゃ追い返すのも悪いし……一緒にお出掛けしようか?」

 

 

『♪』

 

 

 

 

あはは、期せずしてお出掛けのお供ゲットだね。

 

でも、頭の上は目立つから右肩の上に乗ってて貰って良いかな?其れから出来るだけ動かないで。動かなければ『ぬいぐるみ』って言い張る事が出来るから。

 

 

 

――シャキーン!!

 

 

 

 

って、まさかの不動!?……瞬き一つしないとは、見事なぬいぐるみっぷり。流石はきつね、化けるのは得意なんだね。

 

取り敢えず、此の子がくれたお花は茎部分を編んで即席の髪飾りにしようかな。それじゃあ、きつねさんと一緒に繁華街にぱんつぁーふぉー!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

やって来ました繁華街!あんまり来る場所じゃないけど、土曜日って言う事で賑わってるなぁ。

 

駅前の広場にはくまモンも来てるしね。――若しかしたら、今日は何らかのイベントの日だったかもしれないね。……其れは其れとしてボコ仕様のくまモンは出ないのかなぁ?出たら絶対に買うのに。

 

 

 

 

「みほ?」

 

 

「みほさん?」

 

 

「ほえ?」

 

 

この声は……エリカさん!其れに小梅さんも!

 

何で此処に居るの?黒森峰は中学も学園艦だから、洋上に居ると思ってたのに……若しかして、今日は――

 

 

 

 

「お察しの通り寄港日よ。

 

 大会期間中は試合会場の港に停泊するとは言え、試合が終わればまた海の上だから陸に降りてゆっくりする機会はあんまり無いのよね。」

 

 

「それで、折角の寄港日なので外出してみたんです。

 

 外出先で、まさかみほさんと出会うとは思っていませんでしたけど――時に、右肩のその子は一体?」

 

 

 

 

ヤッパリ寄港日だったんだ。略年中海の上で過ごす学園艦暮らしじゃ、偶の寄港日に陸に上がりたいって思いは何となく分かる気がするよ。

 

で、右肩のこの子はさっきそこで知り合った子ぎつねさんだよ。

 

何だか私に懐いてくれてるみたいだから、一緒に来たんだ♪

 

 

 

 

「さっき知り合ったって……そうは思えない位に懐いてない其の子?

 

 いや、懐いてるなんて言うレベルじゃないわ……その子は完全に貴女にその身を委ねてるわ!狐は本来警戒心の強い動物だから人間に懐く事は滅多にないのに、其れが子供とは言えこうまでとは、驚きだわ。」

 

 

「野生動物は勘が鋭いから、野生の勘でみほさんの事を見極めたのかも知れませんね?」

 

 

「だとしたら、其れは喜ぶ事かな?――打算も何もない純真な子ぎつねに認められたって事だからね♪」

 

 

時にエリカさんと小梅さんは、この後の予定ってどうなってるんだろう?

 

もしよかったら、私と一緒に繁華街をぶらぶらとウィンドウショッピングでも如何かな?此処の繁華街は店も多いから、見て回るだけでも、結構楽しめるからね。

 

 

 

 

「悪くないわね?その案に乗らせて貰うわ――小梅も其れで良い?」

 

 

「勿論ですエリカさん。この3人で出かけるなんて言う事は、合宿の時ですらなかった事ですから♪」

 

 

「其れじゃあ決まり♪」

 

 

それにしても、エリカさんが私服でもスカートって言うのはちょっと意外。

 

凄く勝手なイメージだけど、エリカさんて私服は絶対にパンツルックだと思ってたんだ?何て言うか、やっぱりクール系女子はパンツルックの方が似合うイメージだから。

 

 

 

 

「偏見……とは言わないわ、私だってそれなりにレディースのジーンズ持ってるしね。

 

 でも数だけ言えばスカートの方が圧倒的に多いわよ?序に言わせて貰うなら、私としては貴女のショートパンツ姿の方が意外よ。

 

 私服は絶対にスカートだと思ってたのよ貴女は。」

 

 

「あ、其れは私も思いました……でも、ショートパンツも似合ってますよ。」

 

 

「だって、スカートよりもこっちの方が動きやすいから。其れに、小学校の頃も高学年に上がるまではスカート穿いた事なかったモン。

 

 其れに、エリカさんの『その』スカートよりは予想外じゃないと思うなぁ?」

 

 

タイトスカートじゃなくてプリーツスカートって言う時点でも結構意外なのに、スカート全体にフリフリがあしらわれてる凄く可愛い系のデザインだなんて、意外にも程があると思うよ?

 

エリカさんは服を選ばないタイプだと思うから、基本何着ても似合うと思うから、そのスカートも似合ってるけど、黒森峰の制服姿とパンツァージャケット姿しか知らない私からしたら予想外過ぎた感じ。

 

 

 

 

「……黒森峰でも小梅を含めた数人しか知らない事だけど、服装に関してはクール系も好きだけど、実はゴスロリ系も好きなのよ私。

 

 流石に今は此の位のデザインのスカート程度に止めてるけど、小学校に上がる前は結構ガチなゴスロリファッションしてた事も有ったわね。」

 

 

「意外ですよねぇ、みほさん?」

 

 

「うん、スッゴク意外だった。」

 

 

って、ん?小学校に上がる前は、結構ガチなゴスロリファッションしてたって、んん?……若しかして!

 

エリカさん、そのゴスロリファッションしてた頃に、Ⅱ号戦車に乗った姉妹に会った事ってない?妹の方が、結構強引に戦車に乗せようとしてたと思うんだけど……

 

 

 

 

「え?……そう言えば、そんな事もあったわね?

 

 そうそう、物静かな姉の方と違って、妹の方は物凄くアグレッシブで、ヤダって言ってるのに『良いから』って強引に戦車に乗せられたわ。

 

 でも、いざ乗ってみると今まで知らなかった景色が見えて、風を切って走るのが気持ち良くて……思えば、アノ体験が私が戦車道を始める切っ掛けだったのかも知れないわ――って、何で貴女がそんな事知ってるのよ?」

 

 

「その姉妹、小さい頃の私とお姉ちゃんです。」

 

 

「……え?」

 

 

「それ、本当ですかみほさん?」

 

 

 

 

マジです。本気と書いてマジです。序に、真剣と書いてもマジです。

 

エリカさんと会ったのは、小学校の大会の時が初めてだと思ってたけど、本当は其れよりも前から会ってたんだね私達姉妹とエリカさんは。

 

 

 

 

「本当に、驚きだわ……まさか、10年近く前に会っていたなんて。

 

 でも、そうなると私の戦車の原点は本当に『西住』からだったのね。

 

 小学校の時にまほさんにコテンパンにされて、その強さに憧れて黒森峰に入ったけど、本当はもっとずっと前から貴女達とは繋がって居たと言う訳ね。」

 

 

「運命的な関係ですね♪ちょっと、憧れちゃいます。」

 

 

 

 

そうだね。

 

もしもあの時エリカさんと私達が会わなかったら、エリカさんは戦車道をやってなかったかも知れないし、今日こうして偶然出会う事だって無かったかも知れないから。

 

 

 

 

「本当よね。

 

 それじゃあ、そんな運命的な出会いであった事が判明した所で、先ずは何処に行きましょうか?

 

 どうせ、ウィンドウショッピングなんだから、どんな店でも良いとは思うけど。」

 

 

「特に決めてないけど、気に入ったモノが有ったら何か買うかもしれないし……」

 

 

「なら此処は女の子っぽく洋服屋さんから回りませんか?

 

 そろそろ今年の夏物も出てくる頃ですし、試着するだけならタダですから。」

 

 

 

 

服屋さんかぁ?確かに良いかも。……そう言えば、最近少し下着がキツクなって来たから機会が有ったら新しいの買おうと思ってたしね。

 

じゃあ、先ずは駅ビルの6階に行こうか?あそこは1フロア全部服屋さんのテナントが入ってるから、見て回るには丁度良いと思うから。

 

 

 

 

「そうね、あそこならカジュアル系からフォーマル系まで色んな店が揃ってるから結構楽しめるでしょうし。」

 

 

「其れじゃあ出発進行ですね♪」

 

 

 

 

では、改めてぱんつぁーふぉー♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳でやって来た駅ビル6階のファッションフロア。(子ぎつねさんは『ぬいぐるみ』って言ったらアッサリ入店できた。)

 

先ずは婦人服売り場で目的の物(1サイズ上の下着)を買ってから、色んな店を見て回ったんだけど……どうしてこうなっちゃったのかな!?

 

 

 

 

「うん、思った通りみほには主張しない程のゴス系ファッションも良く似合うわ。」

 

 

「確かに良く似合うと思いますが、みほさんにはもっとラフな格好の方が合いますよ。だから今度は、レディースのチノパンに黒のTシャツで。

 

 そして、ワンポイントに水色の夏用短ベストを!!」

 

 

 

 

何故か只今絶賛『着せ替え人形』状態!

 

エリカさんも小梅さんも、私が試しに店員さんの言う『この夏おすすめ』って言うカジュアルなサマードレスを試着したのを見て何かスイッチが入っちゃったみたいだよ此れ!?

 

 

 

 

「確かに似合ってる、其れは否定しないけど甘いわ小梅。

 

 良い?まほさんがどっちかと言うとクール系で纏めるタイプだから、みほは可愛い系で纏めた方が2人揃った時に夫々が映えるのよ。」

 

 

「クール系と可愛い系を合わせるのは確かに基本でしょう。

 

 ですが、クール系でびしっと決めたまほ先輩とは正反対に位置するラフな服装なみほさんもまた可成り映えるんです!此れは新しい境地!」

 

 

 

 

え~と、人の事を着せ替え人形にしておいて争うのは如何かと思いますが……でも、エリカさんが選んでくれたのも、小梅さんが選んでくれたのもどっちもデザインは良いし、そんなに高くないから両方買っちゃおうかな?

 

 

 

 

「「え?」」

 

 

「着せ替え人形にされて驚いたけど、色々着せられた中でもこの2つは私好みのデザインでもあるから、どっちも買おうかなって思って。

 

 さっきのカジュアルなサマードレスを一緒に買っても余裕はあるしね。」

 

 

だけど、此処からは私のターンだよエリカさん小梅さん?

 

散々私の事を着せ替え人形にしてくれたんだから、今度は2人に私の着せ替え人形になって貰うから♪――取り敢えず、2人には私が夫々に着せられたのと同じ数の数を着て貰うからその心算でね?

 

因みに拒否権はないから♪

 

 

 

 

「まぁ、そうなりますよね?」

 

 

「結構好き放題やっちゃったからねぇ私も小梅も……まぁ、好きにしてくれていいわ。」

 

 

 

 

えへへ~、じゃあ好きにさせて貰いますね?

 

2人に似合いそうな服は大体辺りを付けておいたので、直ぐに持って来るから♪

 

 

それから、今度はエリカさんと小梅さんのファッションショーが始まって、2人共私が選んだ服の中から1つ選んで購入。

 

其の後で、別の店で浴衣を買ってファッションショッピングは終了。

 

 

其処で丁度良い時間になったから、お昼にって入ったのはエリカさんがお勧めだって言う9階のレストラン街にあるハンバーガー専門店。

 

その辺のファーストフードとは違って本格的なハンバーガーが食べられるって事だけど、ハンバーガー専門店が有るなんて言うのは初耳。

 

注文もファーストフードみたいにレジでするんじゃなくて、案内された席で店員さんを呼んでするって言うんだからファーストフードとは大違いだよ……初めての体験かな此れは。

 

 

 

 

「本音を言うならお勧めのハンバーグ屋さんを紹介したかったんだけど、みほはハンバーグだと食べづらいでしょ?

 

 だからこの店にしたのよ。ハンバーガーなら片手でも食べられるし、何よりもこの店のハンバーガーはそんじょそこらのハンバーガーとは訳が違うのよ。

 

 この店のハンバーガーを食べたら、マッ○のハンバーガーは食べられなくなるわ。」

 

 

「其れは凄そうだね……」

 

 

「ハンバーグマスターのエリカさんが太鼓判を押すハンバーガー……確かに期待大ですね♪」

 

 

 

 

ハンバーグマスターって……えっと、お勧めとかはあるのかなエリカさん?

 

 

 

 

「そうね、ドレを食べてもおいしいけど、お勧めはBLTハンバーガー、和風照り焼きバーガー、ワイルドテキサスバーガーだわ。」

 

 

「じゃあ、其れを頼みましょう。

 

 3人で別々に頼めば、分け合う事で全部の味を楽しむ事が出来るから。」

 

 

「ナイスアイディアですみほさん、それで行きましょう!!」

 

 

「そうね、其れじゃあそれをドリンクとサイドメニューのセットで頼みましょうか。サイドメニューとドリンクは決まってる?

 

 私は、ポテトとアップルタイザーにするけど。」

 

 

「私はポテトと、ジンジャーエールで。」

 

 

 

 

私はポテトとコーラで。

 

此れは、3人ともポテトと炭酸飲料だね?でも、ハンバーガーにはポテトと炭酸飲料がよく合うからね♪

 

 

取り敢えず、エリカさんが太鼓判を押すこの店の味は最高だった!冗談抜きで、今まで食べたハンバーの中で一番おいしいハンバーガーだったって言えるもん♪

 

 

そう言えば、店内のテレビのニュースで、熊本市内の動物園から生まれて1年の若虎が逃げ出したって言ってたけど大丈夫かなぁ?

 

無事につかまると良いな。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

そして、昼食の後も色んな店を見て、夫々が気に入った物を買って、最後にゲームセンターでゲームを楽しんでたんだけど……

 

 

 

 

「ねぇねぇ、お嬢ちゃん達、俺達と遊ばない?」

 

 

「楽しいとこ知ってんだよね俺達。ゲーセンよりももっと良い場所しってるから、一緒に如何よ?」

 

 

 

 

見た目からしてとっても軽そうな高校生くらいのお兄さん達からナンパされてます。でも、付き合う気は毛頭ないからお断りします。

 

其れに、下心が見え見えですよ?女の子をナンパするなら、せめてその駄々洩れの欲望を抑える事が出来る様になってからの方が良いと思いますよ?

 

そんなんじゃ、誰も引っ掛ける事は出来ないと思いますから。

 

 

 

 

「みほさんの意見に賛同ですね。」

 

 

「そう言う訳だからさっさと散りなさい三下。

 

 馬鹿は馬鹿でも、つまらない馬鹿程疲れる物は無いのよね。せめて声かけるなら、もう少し脳味噌の皺を増やしてからにしてほしいわね。」

 

 

「そして回れ右、後で猛獣が唸ってますから♪」

 

 

「「「へ?」」」

 

 

『ガルルルルルル……』

 

 

 

 

何時の間にか、ナンパさんの後には、昼間のニュースで言ってた動物園から逃げ出したのだと思われる若虎が……食い殺されたくなかったら早急に逃げる事をお勧めします。

 

 

 

 

「「「虎ぁ!?」」」

 

 

『ガァァァァァァァァァ!!!!』

 

 

「「「ひぃ!?に、逃げろーーー!!!」」」

 

 

 

 

……蜘蛛の子散らすように逃げてったね。

 

取り敢えずありがとう、アナタのお陰で面倒な事にならずに済んだよ虎さん。

 

 

 

 

『グルル……』

 

 

「って、あらら……」

 

 

「みほさんの前に伏せて頭を摺り寄せてますね此れ……」

 

 

「完全服従のサイン……虎を従えるって、本気でハンパないわねアンタ――だけど、如何するのよ此れ?動物園から逃げ出したんなら放って

 

 は置けないでしょ?」

 

 

 

 

まぁ、そうだけど、取り敢えず動物園に連絡して引き取りに来てもらおうか?

 

其れで大人しく職員の人に従えば其れで良いけど、私の傍を離れないようだったら、その時は私が引き取る事にするよ――西住の家は昔から、当主がいろんな動物を飼ってたみたいで、希少動物を飼う際に必要になる『飼育許可書』も色々取得してるから虎の飼育も出来るから。

 

 

 

で、連絡を入れたらすぐに動物園の職員さんが来てくれたんだけど、虎が私の傍から離れなかったから、協議の結果私が飼う事になったよ。

 

キツネと虎……期せずして犬に続く新たなペットがゲットできたよ。

 

キツネの名前は『ロンメル』で、虎の名前は『アンドリュー』だね。

 

 

そして、楽しい時間もそろそろ終わりだね。

 

期せずして、一緒にお出掛けする事になったけど、今日はとっても楽しかったよエリカさん、小梅さん。

 

 

 

 

「其れは私達もよ――虎と出会うなんて言うハプニングにも遭遇できたし、そう言う意味ではとっても充実していたわみほ。」

 

 

「私もとっても楽しかったですみほさん。最高の休日でした!」

 

 

「なら良かったです――次に会うのは大会の会場でしょうか?」

 

 

「でしょうね――次は準決勝。

 

 私達黒森峰の相手は、因縁の相手である愛和学院――去年の雪辱を果たして決勝に進んで見せるわ!だから、貴女も必ず決勝に上がって来なさいよみほ?」

 

 

 

 

はい、勿論その心算です!

 

中学校最後の大会、其れはエリカさんと小梅さんと戦って終わりたいですから!!だから、週明けの準決勝は互いに頑張りましょう!!!

 

 

 

 

「決勝で待ってるわよみほ。」

 

 

「決勝で最高の戦いをしましょうみほさん。」

 

 

「うん!必ず決勝で待っててね!私も絶対に其処まで行くから!」

 

 

別れ際に、決勝戦を戦う約束をね。

 

此れは、絶対に今度の準決勝は勝たないとだよ――エリカさん率いる黒森峰は、愛和学院に去年の雪辱を果たすだろうからね。

 

だから私達明光大も絶対に勝つよ!勝って、決勝戦を最高の形で迎えたいから。――最後の大会は、最高のライバルとの対決で終わりたいからね。

 

 

決勝で会うのを楽しみにしてるよエリカさん、小梅さん♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 




キャラクター補足




ロンメル

みほが出会った子ぎつねで、みほに懐いている。

あまりに懐いているのでみほがペットとして飼う事にした。

名前の由来は『砂漠の狐』として名をはせたドイツのロンメル将軍から。




アンドリュー

熊本市内の動物園から脱走した若虎。

野生の本能でみほが自分よりも上だと感じたらしく、初対面でありながらみほに服従を示し、其のままみほのペットになる。

名前の由来は『機動戦士ガンダムSEED』に登場した『砂漠の虎』アンドリュー・バルトフェルドから。



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Panzer53『いざ、準決勝の開始です!』

相手にとって不足なし……全力で行くよ!Byみほ      おっしゃー!ブチかます!!By青子      撃ち抜いてあげるわ!Byナオミ


No Side

 

 

 

全国大会準決勝第1試合である黒森峰女学院中学校と、愛和学院中学校の、ある意味で因縁の対決とも言える試合は、終盤に入って手に汗握る展開となっていた。

 

 

序盤は双方探りを入れたような戦い方だったが、中盤で試合が動き、残存車輌数は黒森峰が8、愛和が9と、若干愛和有利の状況となっていたのだ。

 

 

そしてこの終盤、黒森峰はエリカが搭乗する隊長車にしてフラッグ車であるティーガーⅠと、小梅が搭乗する副隊長車のティーガーⅠを含む3輌のティーガーⅠが開けた場所までやって来たのだが、其れこそが愛和の隊長である西の狙いだった。

 

キルゾーンにフラッグ車を誘き出して一斉掃射で終わらせる――其れが西の狙いだったのだが。キルゾーンに誘い込まれた筈のエリカは、焦るどころか、逆にその顔に笑みを受けベていた。

 

 

 

「トロイの木馬は予定位置に到着したわ。サンドウィッチ作戦開始よ!」

 

 

 

そして、エリカが作戦開始を告げると同時に、愛和の後方からパンター3輌とヤークトパンター2輌が現れ、キルゾーンに入った黒森峰のフラッグ車を攻撃しようとしていた愛和の戦車を強襲!

 

それによって、愛和の隊列は乱れ、戦局は一気に激しい戦車戦へと発展。

 

 

此れこそがエリカの策だった。

 

敢えて相手に誘い込まれたと見せかけて、その実包囲を越えた挟撃を仕掛ける事こそが狙いだったのである。

 

 

そのエリカの狙いがバッチリと嵌り、挟撃を喰らった愛和の一時的に指揮系統が乱れ部隊は大混乱!そして、其れを逃すエリカではない。

 

 

 

「此れで終わりよ西!!」

 

 

「しまったぁ!!!」

 

 

 

奇襲部隊に気を取られた西のT-34/85(フラッグ車)を、エリカのティーガーⅠの88mm砲が撃ち貫き、ゲームセット!

 

黒森峰は、見事去年の雪辱を果たして決勝の椅子を手にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer53

 

『いざ、準決勝の開始です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

ふぅ……何とか勝つ事が出来たわね。西が、挟撃に的確に対処して来たら不味かったけど。

 

まほさんだったらもっと簡単に勝てたのかも知れないけど、生憎と私には其れだけの力はないから、私の持てる力の全てを持ってして戦わせて貰ったわ。

 

勝ったとは言え、やり辛い相手だったのは間違いないけれどね。

 

 

「やるわね西。貴女の戦車道、しかと見せて貰ったわ。」

 

 

「いやぁ、貴女こそ見事なものです逸見隊長。

 

 我等の策を逆手にとってそれを逆利用するなどと言う事には、考えも及びませんでした!!逸見殿の思考の柔軟さには驚かされました!!

 

 何とか決勝に駒を進めて、明光大に去年の雪辱をと思っていたのですが、思うようには行かないモノです。」

 

 

 

 

こっちだって2年連続で同じ相手に負ける事は出来ないわよ。

 

其れにね西、悪いけど明光大を倒すのは黒森峰であり、あの子を、西住みほを倒すのはこの私……他の誰にも其の役は渡さないわ。

 

みほは、私にとって一番の恋人なのよ。

 

 

 

 

「こ、恋人とは!?其れはもしや、禁断の恋と言う物では……」

 

 

「……何を勘違いしてるのか丸分かりだけど違うわよ?

 

 って言うか、一番のライバルや、最も戦いたい相手の事を『恋人』って称する事が有るんだけど……若しかて知らなかったの?」

 

 

「はい、存じ上げておりません!」

 

 

「あ、そう……」

 

 

兎に角、今年の大会で優勝するのは私達黒森峰よ。

 

十中八九、決勝に上って来るのは明光大だから、アンタも決勝を見に来なさいよ西?――狂犬と軍神の戦を、その目に焼き付けると良いわ。

 

 

 

 

「はい、楽しみにしております!!――しかし、逸見隊長は狂犬と言うより、銀狼では?」

 

 

「そんな上品なのは、私のキャラじゃないわ。敵は全て食い殺す狂犬の方が性に合ってるのよ。」

 

 

私達は決勝に駒を進めたから、次は貴女の番よみほ――必ず準決勝を制して決勝まで上がって来なさい。其れが、今の私の一番の願いよ。

 

決勝で最高の戦いをしましょうみほ――一足先に最高の舞台で待ってるわ。

 

 

 

 

「それにしても、西住みほ隊長殿は、観客席に居ても目立ちますなぁ?

 

 よもや肩に子ぎつねを乗せ、更には虎まで引き連れて観戦とは……いやはや、流石は天下の西住流!我々とはスケールが違いますな!」

 

 

「まぁ、其れは否定しないわ。」

 

 

みほったら、本当にあの時の虎を自分のペットにしちゃったのよねぇ……流石のまほさんも寄港日に家に帰ったら虎が居て驚いたでしょうに。

 

まぁ、真に驚くべき事は、子ぎつねは兎も角、獰猛な虎をみほが完全に飼いならしてる事なのよね……此れもみほの才能と言うか、軍神のオーラが可能としているのかもね。

 

 

何よりも虎は勇猛の証であり、其れを従えているって言うのは猛将であり名将である証――益々、貴女に勝ちたくなってきたわ!!

 

必ず勝ちなさいみほ。中学校最後の大会で、最大のライバルと戦わずに終わったなんて言うのは、流石に興醒めも良い所だからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

準決勝第1試合はエリカさん率いる黒森峰が制したか……まぁ、予想通りだけどね。

 

西さんも戦車乗りとしては『強者』のレベルだけど、エリカさんと小梅さんは『絶対強者』の域に達しようとしてるし、中戦車部隊を率いてたツェスカちゃんも『強者』の域に達してるから、圧倒的に力の差があったよ。

 

でも、今回の敗北で西さんも更に強くなるだろうから、来年の高校戦車道は面白い事になりそうだね♪

 

 

 

 

「だろうな。

 

 其れと、今週の週刊戦車道見たかみほ?」

 

 

「見てないけど、如何したの青子さん?」

 

 

「いんや、大会前のお前の激怒を収める程度の記事は載ってたからな。……取り敢えず見てみ?」

 

 

 

 

ふむふむ……ふぅん?此れは、エリカさんの黒森峰の快進撃を見て、大会前の自分達の下馬評は間違いだった事を認めたって言う事かな?

 

大会前の記事とは違って、この記事を書いた人は、ソコソコ戦車道を見る目が有るみたいだね。

 

 

 

 

『逸見エリカ率いる新生黒森峰快進撃!圧倒的な戦い方ではないが、相手フラッグ車を確実に撃破する作戦を駆使して決勝進出!!

 

 隻腕の軍神・西住みほが率いる明光大と決勝で相まみえるのは確実――今年の決勝戦は、去年の決勝戦以上になるのは間違いない。』

 

 

 

 

エリカさんの活躍を見て、その実力を正しく評価しているからね。

 

だけどエリカさんは本当に凄いと思うなぁ?――言っちゃ悪いけど、去年までの黒森峰はエリカさんや小梅さんが居たとは言っても結局はお姉ちゃんありきのチームだったから、頭を潰されたら其れまでだったけど、新生黒森峰はエリカさんのワンマンチームじゃなく、全員が力を合わせて戦うチームになってるからね。

 

 

此処までチームを作り上げたエリカさんと、其れをサポートした小梅さんには頭が下がるよ。

 

 

でも、だからこそ準決勝を突破して決勝戦に進まないとなんだけど――ナオミさん、確か次の相手は……

 

 

 

 

「茨城県の私立つくばガーディアン中学よ。

 

 戦車道のチームとしては、今年全国大会に出て来た新参校だけど、隊長の見事な指揮と重装甲で防御力の高い戦車で構成された部隊は、機動力こそ低いけれど堅くて隙が無いわ。

 

 現実に、準決勝までの2試合で撃破された戦車は僅かに1台……此れだけでも、相手の力量が分かるんじゃないかしら?」

 

 

「確かに途轍もない戦車乗りみたいだねガーディアン中学の隊長は。」

 

 

2試合で1輌しか撃破されてないって言うのは恐らく今大会に於ける最低の損害率なのは間違いないかな……私達だって1回戦はパーフェクトだったけど、2回戦では3輌撃破されてるし、黒森峰は準決勝終了時点で10輌撃破されてる訳だから。

 

そして、高い防御力を誇る戦車は車体が頑丈って言う事もあって、総じて強力な主砲を備えてる場合が多い――普通に考えると、火力と防御力では向こうの方に分があるって言う事だね。

 

明光大が勝ってるのは機動力って言う事になるけど、準決勝の会場はどんな場所だったっけ?

 

 

 

 

「試合会場も、何方かと言えばガーディアンの方に分があるわね。

 

 フィールドは開けた平原に幾つかの小高い丘が点在してる見晴らしのいいフィールド……複雑に入り組んだ地形や障害物らしい障害物もないから、機動力の低さはあまり問題にならないって言う所ね。」

 

 

「と言う事は、私達が唯一勝っている機動力も活かしきる事が出来ない……可成り不利な戦いねみほさん?」

 

 

「準決勝は、隊長車をティーガーⅡにしたらどうでしょうか西住隊長?

 

 機動力でかき回すのが難しいのなら、此方も少しでも火力と防御力を上げた方が良いと思うんですが……」

 

 

 

 

其れは私も考えたよ梓ちゃん。

 

だけど、其れは多分ガーディアンの隊長も予想してる事だと思うんだ……最悪の場合、徹底して明光大最強のティーガーⅡを潰しに来る作戦だって考えてるかもしれない。

 

だから、此の試合でティーガーⅡは使えない。1回戦、2回戦同様に、準決勝も隊長車はパンターで行こうと思うんだ。

 

 

それで、フラッグ車は1回戦同様に梓ちゃんのティーガーⅠにお願いしたいんだけど、良いかな?

 

 

 

 

「はい、勿論です!

 

 でも、どうして私なんですか?相手の機動力が低いなら、パンターの機動力で攻撃を逃げ切る事が出来ると思うんですけれど……つぼみ先輩の操縦技術って凄いですし。」

 

 

「確かに其の通りだけど、逆に言うなら避け切れなかった1発が決定打になっちゃう可能性も否定できないんだよ。

 

 勿論戦車の性能によるけど、機動力を捨てて防御力を上げた戦車は、さっきも言ったけど火力が高くて、パンターの装甲を軽く貫けるモノが結構多いんだ。

 

 だけど、『食事の角度』を取ったティーガーⅠの正面装甲なら耐える事が出来る事も多い。

 

 其れに、ティーガーⅠは数ある重戦車の中でも攻守速のバランスが抜群に良いから、堅くて強い集団を相手にする場合のフラッグ車には持って来いなんだよ。」

 

 

「分かりました。そう言う事なら、誠心誠意務めさせて頂きます!!」

 

 

 

 

うん、お願いね。

 

さてと、其れじゃあ作戦を考えないとね――攻守で劣ってる上に、機動力が意味を成さないフィールドじゃあ、如何足掻いても明光大絶対不利なのは間違いないから、其処は作戦で補わないと。

 

 

取り敢えずネットマップとストリートビューで試合会場の地形とか特徴を徹底的に頭に叩き込まないとね。

 

30分で覚えるから、其れまでは夫々ボードゲームで練習してて。

 

 

 

 

「試合会場の地形やら何やらを30分で完全記憶って……ナオミ、お前出来るか?」

 

 

「無理ね。」

 

 

「青子さんは出来るんじゃない?テスト範囲丸暗記で3年間試験を乗り切って来たんですから。」

 

 

「いや、無理。

 

 戦車道の試合フィールドって滅茶苦茶広いじゃんよ?その全てを頭に叩き込むなんてみほ以外には出来ねぇって。

 

 其れこそ、まほ姐さんや銀髪だって、全部を完璧にってのは無理だろ?

 

 クラス全員の名前と誕生日を完璧に記憶してるみほだからこそ出来る芸当だっての。」

 

 

 

 

ふっふっふ、自慢じゃないけど記憶力には自信が有るんだよ私。

 

小学校の時だって、掛け算の九九を学年で1番に1~9の段まで覚えたし、歴史年表だって完璧に覚えたからね!!

 

 

 

 

「1192年。」

 

 

「鎌倉幕府の発足。」

 

 

「1573年。」

 

 

「室町幕府崩壊の始まりだね。」

 

 

「「「「「「「「「「おーーーー!!ハラショー!!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

此れ位は余裕だよ?

 

だけど、広大なフィールドを全部記憶するのは可成り集中力が居るから、私が『終わった』って言うまで話しかけないでね?集中力が乱れると覚えられるモノも覚えられなくなっちゃうから。

 

 

 

 

「りょーかい。アタシ達はアタシ達で『終わった』の声が出るまでボードゲームやってっから、みほはみほでバッチリ地形覚えて作戦考えてくれ。

 

 中学最後の大会は、やっぱ優勝で飾りたいからな!!」

 

 

「うん!最高の最後にしようね!!」

 

 

それじゃあ、記憶開始!!――ふむふむ、西側陣営のスタート地点にはすぐ近くに丘が有って、逆に東側のスタート地点には小さな藪が点在してるか……スタート地点が何方になるかで戦い方が変わって来るね此れは。

 

出来るなら西側のスタート地点を取りたい所だね……堅い相手とは言え上からの攻撃は有効打になり得るから、稜線を取っておけば地の利を得る事が出来るから。

 

逆に西側のスタート地点を取れなかったら……その時は明光大の機動力を見せる時だね。相手が稜線を取る前に仕掛けるだけだよ。

 

 

決勝戦ではエリカさんが、小梅さんが待ってるから、先ずは準決勝を勝たないとね!

 

 

 

 

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・・・

 

 

 

 

そして準決勝当日!

 

準決勝第1試合も相当な盛り上がりで屋台が結構出てたけど、私達の準決勝第2試合も負けない位の大盛り上がりだね!第1試合の時に負けず劣らずの屋台の数と観客の数だからね。

 

 

で、今は何をしてるのかと言えば、お決まりの試合前の腹ごしらえ。腹が減っては戦は出来ぬ。因みに本日のメニューは関西風タコ焼きです。

 

ふわふわの生地と、タコの食感が相性抜群!お陰で、試合前にエネルギーがチャージ出来たよ!!

 

今の私は、阿修羅をも超える存在だぁ!!!

 

 

 

 

「……私の娘は、一体何時どこぞのフラッグファイターになったのかしら……?」

 

 

「……お母さん?」

 

 

どうしたの?って言うか、何でこんな所に居るのかな?

 

 

 

 

「あら、娘の試合を見に来て悪いかしら?

 

 2回戦は連盟の方の仕事と重なってたから見れなかったけれど、今日は見に来る事が出来たのよ――貴女達が準決勝を、如何戦うのかを楽しみにしていますよ。」

 

 

「なら、その期待には応えるよお母さん。

 

 私の戦い方は純粋な西住流じゃないかも知れないけど、だけど私は私の戦い方に誇りを持ってる――此れが、私の戦い方だから。」

 

 

「ふふ、それで良いわみほ。寧ろそれが大切なのよ。

 

 まほは西住流こそが自分に最も合った戦い方だと理解して其れを極めんとしているけれど、貴女は貴女の戦車道を模索して、見つけた其れを貫こうとしている……それで良いのよ。

 

 西住流の娘だからと言って、其れに拘る必要はないわ。貴女は貴女の戦車道を突き進みなさい。」

 

 

 

 

うん、勿論だよお母さん!

 

お姉ちゃんにも言われたからね『お前はお前の戦車道を見つけるんだ』ってね――まだまだ模索中だけど、必ず見つけるよ、私の戦車道を!

 

 

 

 

「ハッハッハァ!まあ、見ててくれよしほさん!アタシ達は絶対勝つからよ!!

 

 準決勝は圧倒的に不利なシチュエーションだけど、其れが負ける理由にはならねぇって!何たって、みほが地形を完全暗記して作戦を立ててくれたからな!」

 

 

「正直、負ける気がしないわ。」

 

 

「私達は勝ちますよ、絶対にね。」

 

 

「……その意気や良し。貴女達の戦い、見せて貰います。」

 

 

 

 

うん、見せてあげるよお母さん。そして魅せてあげるよ、まだまだ未完成だけど、明光大の3年間で見つけた私の戦車道の欠片と言う物をね。

 

 

 

 

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・・・

 

 

 

 

そしていよいよ試合開始。

 

試合前の礼……つくばガーディアン中学校の隊長は綺麗なブロンドの髪に翡翠のような緑の瞳……ハーフか、或は髪を染めてカラコンを入れてるのかは分からないけど、目を引く外見なのは間違いないね。

 

 

「明光大付属中学校戦車道チーム隊長の西住みほです。今日はいい試合をしましょう。」

 

 

「つくばガーディアン中学隊長の湖城雛菊です。

 

 中学戦車道界隈ではその名を知らぬ者は居ないと言われる『隻腕の軍神』こと西住みほさんと戦えるとは光栄の極みです。

 

 全力を尽くしましょう。」

 

 

 

 

言われるまでもなくその心算です。最高の試合をしましょう、雛菊さん!!

 

 

 

 

「此れより明光大付属中学校と、つくばガーディアン中学校の試合を始める。互いに礼!」

 

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

 

 

さぁ、始めようか?決勝戦の最後の椅子を懸けた戦いをね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

準決勝第2試合はこうして幕が上がった訳だが、先ずは両校のオーダーを見て行くとしよう。

 

 

 

明光大付属中学校

 

 

・パンターG型(アイスブルーカラーリング、隊長車)×1

 

・ティーガーⅠ(パールホワイトカラーリング、副隊長車兼フラッグ車)×1

 

・パンターG型(オキサイドレッドカラーリング)×4

 

・ティーガーⅠ(オキサイドレッドカラーリング)×2

 

・Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)×2

 

 

 

 

つくばガーディアン中学校

 

 

・ブラックプリンス歩兵戦車×5(其の内1輌は隊長車兼フラッグ車)

 

・トータス重突撃戦車×4

 

・SECRET×1

 

 

 

 

明光大は1回戦と同じオーダーだが、ガーディアンの方は此の準決勝にSECRET戦車を持って来ていた。

 

ルールでは、2輌まで試合に使用する戦車をSECRET扱いにして、その存在を秘匿する事が認められている――故に、つくばガーディアンは、此の準決勝でSECRET車輌の使用に踏み切ったのだ。

 

裏を返せば、其れだけみほの事を脅威と感じていると言う事なのだが、正体不明の戦車があると言うのは、相手にとってはプレッシャーになるのだから。

 

 

だがしかし、みほの顔にはプレッシャーを受けた感じはまるでない。

 

それどころか、浮かんでいるのは未知の強敵と戦える事への歓喜――みほの中の眠れる本能が覚醒し、この準決勝をとことん楽しもうとしているのだ。

 

 

更に運が良い事に、明光大のスタート地点は西側――すぐ近くに小高い丘があるスタート地点を得る事が出来たのである。

 

 

 

「其れじゃあ行きます!Panzer Vor!!」

 

 

「「「「「「「「「Jawohl!!」」」」」」」」」

 

 

 

みほの号令と共に、明光大の戦車は、一路丘を目指して前進!

 

同時にガーディアン中の部隊も進撃を開始。

 

 

ガーディアンの部隊は明光大を取り囲む形で陣を展開しているが、機動力で勝る明光大が稜線を取って陣形を整えるのが先なのは間違いなく、観客の多くもそうだと思っていたのだが――

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

「!?」

 

 

 

稜線を取ろうとしていた明光大の部隊に、突如として砲撃が炸裂!!

 

幸いにして撃破された車両はないが、着弾地点に出来たクレーターを見る限り、少なくとも20mmを越える砲弾での砲撃である事は間違いないだろう。

 

 

 

「――!!散開!稜線を取るのは中止!平原に出て、相手を迎え撃ちます!!」

 

 

「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」

 

 

 

此れに稜線を取るのは無理だと判断したみほは、すぐさま作戦を変更して其れを伝える。

 

この柔軟さもまた明光大の強みであるのだが――

 

 

 

――ズガァァァァァァァン!!!

 

 

 

「こんの……おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

「ごめんなさーい!!!」

 

 

 

 

――キュポン!×2

 

 

 

 

『明光大付属、Ⅲ号突撃砲1号車、2号車行動不能。』

 

 

 

その最中に再び凶悪な砲撃が炸裂し、試合開始2分で、明光大はⅢ突を2輌失う結果に。――だが、此れが逆にみほの間隔を研ぎ澄ませて謎の砲撃を放った相手が何であるのかを看破するに至っていた。

 

 

 

「(此れは明らかに此方の射程外から攻撃出来る超長距離砲撃が出来る戦車である事は間違いない。

 

  多分、SECRETの戦車なんだろうけど、Ⅲ突2輌が撃破される直前に見えた砲弾にはロケット推進機構が見えた……と言う事は!!)

 

 この砲撃を放ったのは、シュトゥルムティーガー……!!」

 

 

「はぁ!?シュトゥルムティーガーだと!?……マジかオイ……!!」

 

 

 

その正体はシュトゥルムティーガー。

 

現在の戦車道のレギュレーションで認可されている戦車の中では、最強無比の380mmロケット砲を搭載した超重爆の自走砲――其れがつくばガーディアン中のSECRET機体の正体だったのだ。

 

 

 

「シュトゥルムティーガー……まさか、そんな物を持ち出してくるとは、何が何でも私達に勝ちたいって言う所かな?

 

 だけど、勝つ為にあらゆる手段を講じるって言うのは嫌いじゃないよ、ルールで合法とされてる物を使ってくるならね――最高だよ雛菊さん、貴女なら準決勝の相手として申し分ない。

 

 隻腕の軍神の力、見せてあげるよ。」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

しかし、みほは其れに怯むどころか、口元に凶暴な笑みを浮かべた上で、稜線の下からやって来るガーディアン中の部隊を見やる。

 

2輌のビハインドを喰らったとは言え、そんな物はみほにとっては大した痛手ではないのだろう。

 

 

 

「本番は此処から……行くよ、ナオミさん、青子さん、つぼみさん!!」

 

 

「任せなさいみほ!どんな相手でも狙い撃ってやるわ。」

 

 

「お前の言うレベルで装填速度を早くしてやるから、ガンガン命令してくれよみほ!!」

 

 

「みほさんと一緒なら負ける気がしないわ!!どんな無茶な命令でも熟して見せるわ!!」

 

 

「……ありがとう。其れじゃあ、行くよ!!」

 

 

「「「「了解!!」」」」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

同時に、みほの命令を受けた隊長車のクルーも己の潜在能力を解放!!その影響で、隊長車であるアイスブルーのパンターには白銀のオーラが纏わりついているのだ。

 

 

 

「今のは序章、本幕は此処からだよ。」

 

 

 

先手を取ったのはつくばガーディアンだが、しかし明光大の士気は逆に高まっている。――準決勝第2試合は、此処からが本番だろう。

 

 

 

 

「炎が、お前を呼んでるよ雛菊さん……」

 

 

「ならば燃え尽きて下さい西住さん……潔くね。」

 

 

 

「「行くよ!!」」

 

 

 

激闘必至の準決勝2試合目は、序盤から予想外かつ、凄まじい試合展開となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer54『激突!撃滅!そして大喝采です!!』

白熱する試合…これぞ戦車道!Byみほ      ガンガン燃えて行こうぜ!By青子      明光大一の俊足は止まらないわ!Byつぼみ


Side:エリカ

 

 

 

つくばガーディアン中学――黒森峰、明光大、愛和以外が初出場校である今大会で、準決勝まで上り詰めて来たって言うのは、其処まで3強である私達と当たらなかっただけだと思ってたけど、つくばガーディアンの隊長は中々の物だわ。

 

稜線を取ろうとした相手を妨害するのは当然だけど、まさか今のレギュレーションで許されている戦車の中では、最強の380mmロケット砲を使えるシュトゥルムティーガーを投入して来るとはね。

 

 

しかもルールで許されている『SECRET』を使ってでの使用だから、みほでも此れは予想出来なかったでしょうね。

 

何よりも、みほが明光大に入ってからの3年間で、本当の意味で先手を取ったって言うのも見事ね……此れまでは、初撃破を取ったとしても、みほはそれを補って有り余る戦術を展開していたからね。

 

だけど、今回は全てにおいて明光大が圧倒的に不利……こんな事は、初めてよ。

 

 

 

 

「でも、みほさんが負けるとは思ってませんよねエリカさん?」

 

 

「当たり前でしょ小梅。」

 

 

つくばガーディアンの隊長が切れ者であるのは間違いないし、実力だってあるのは認めるわ。

 

だけど、其れでも最終的に勝つのはみほ率いる明光大よ。其れだけは、絶対に覆る事はないって私は思ってるからね。

 

 

 

 

「えへへ、実は私もですよエリカさん。

 

 と言うか、Ⅲ突2輌を失った代わりに、みほさんはつくばガーディアンがシュトゥルムティーガーを使ってる事は看破したと思うんですよ?

 

 となれば……」

 

 

「先ずはシュトゥルムティーガーを撃破しに行くでしょうね。」

 

 

超長距離砲撃は、近くに敵が居ないから出来る事であって、逆に近寄られてしまったら、其れに対処しなくてはならなくなるから、近付く事さえ出来ればシュトゥルムティーガーの砲撃を封じることができるモノ。

 

 

さぁ、この局面を如何引っ繰り返すか……自分の試合でもないのに、楽しみになって来たわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer54

 

『激突!撃滅!そして大喝采です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

序盤でⅢ突2輌を失った明光大だが、Ⅲ突2輌の犠牲をコストに、みほは砲撃を放った相手を看破するに至っていた。

 

着弾直前に一瞬見えた弾丸から、超長距離砲撃を放ったのはシュトゥルムティーガーだと見破ったのは流石としか言いようがないが、着弾前の一瞬で、弾丸の詳細を読み取った動体視力は凄まじいとしか言えないだろう。

 

 

だが、超長距離砲撃を放った犯人を看破してからのみほの決断は早かった。

 

 

 

「此れより、私達はシュトゥルムティーガーを撃破しに行きます。隊長車1輌のみで。

 

 残った部隊は、進軍しつつ、敵チームの動きに細心の注意を払って下さい――重装甲、重火力の戦車と戦う場合は、何時も以上に気を引き占めておかないと、即撃破されちゃいますから。

 

 接敵して、交戦可能な状態になったら、攻撃よりも回避重視の戦術で戦って下さい。」

 

 

 

自らシュトゥルムティーガーの撃破に向かい、残る部隊にはつくばガーディアンと交戦状態になった際にどう戦うべきかをザックリ伝えて行く。

 

アバウトと思うかもしれないが、此れが中々どうして功を奏しているのだ明光大は。

 

と言うか、明光大の隊員にとっては、このみほの指示のアバウトさこそが武器とも言えるのである。

 

 

みほの指示は、一見すると『大筋は伝えたから、後はお前等で考えてやれ』と言わんばかりの物にも見えるが、其れは実は、大筋だけを決めておいて、細かい所は各員の裁量に任せた物であるのだ。

 

そして、其れが出来るのはみほが仲間の事を信じているからに他ならない。何よりも、明光大の戦車道はみほが立て直した様なモノであるのは間違いないが、その隊員達は、みほからあらゆる戦術を教え込まれていたのである。

 

 

だから、ザックリとしたアバウトな指示であっても、其処から自分のチームが動くべきかを判断することができるのだ。

 

 

 

「そして、隊長車が戦線を離れている間は、副隊長の梓ちゃんに隊の全指揮権を譲渡します。

 

 ――私が居ない間、やってくれるね梓ちゃん?」

 

 

「――はい!大役ですが、務めさせて頂きます!!」

 

 

 

更にみほは、此処で一時的に隊の全指揮権を副隊長の梓に譲渡。

 

普通なら、隊長車自らが1輌のみで、敵の超長距離射撃砲撃を担っている戦車を撃破しに行こうとは考えない故に、如何に副隊長とは言えども、一時的に指揮権の全権譲渡など行わないだろう。

 

 

しかし、明光大の誰もがその決定に異を唱えはしない。

 

みほ率いる隊長車が、明光大戦車道チームの中でも群を抜いた実力であるのは、誰もが認める事であるし、副隊長の梓も、みほの直接指導によって、戦車道を始めて僅か1年であるにも拘らずジュニアユース選抜選手級の戦車乗りとなっている。

 

だからこそ、最も高い実力を持つ者がシュトゥルムティーガーの撃破に向かうのは当然であるし、みほの愛弟子とも言うべき梓が、一時的とは言え指揮権を譲渡されても当然だと思っているのだ。

 

 

同時に此れは、みほが梓を心底信頼しているからこそ出来た事でもある。

 

全くの素人であったにも拘らずメキメキと成長し、通常の練習以外の時間でも己の個人指導に弱音一つ吐かずに喰らい付いて、そしてその全てを自分の血肉にして来た梓だから、みほも全権譲渡をする決断をしたのだ。

 

 

 

「それじゃあ、ちょっと大虎退治に行ってきます。撃破したら、発煙筒で合図しますので。」

 

 

「了解。隊長、御武運を。」

 

 

「うん、頑張って来るね。」

 

 

 

シュトゥルムティーガー撃破に向かうみほに対して、梓が敬礼すれば、みほも其れを返す。

 

 

其のままみほ率いる隊長車は本体を離脱してシュトルムティーガーの撃破に向かい、此処からは梓が本体の指揮官だ。

 

 

 

「シュトゥルムティーガーは、必ず西住隊長が撃破する筈ですから、私達は敵本隊との戦闘に集中しましょう。

 

 重装甲の高火力戦車は、総じて足回りが弱いので、唯一私達が勝ってる機動力を駆使して、敵戦車の足元に攻撃を集中するのが良いと思います。

 

 足を止める事が出来れば、相手は『堅いだけの的』になると思いますから。」

 

 

 

すぐさま、敵本隊との戦闘になった際の作戦を伝えていく。――其れも、みほが指示した内容を確りと踏まえた上での作戦だ。

 

みほが指示した『攻撃よりも回避を優先』と言う前提を抑えつつ、梓は高火力重装甲戦車の共通の弱点であると言っても過言ではない足回りに注目し、其処への攻撃を指示したのだ。

 

 

履帯や転輪の破壊は、戦車道においては合法の物であり、合法であるのならば、其れを活用しない手はないのである。

 

尤も、みほの指示を確りと覚えておいて尚、この作戦を思いついた梓は、真に才能が開花してなかっただけで、戦車道の才能をその身に秘めていたのだと言う事が分かるだろう。

 

 

 

「西住隊長達が。シュトゥルムティーガーと交戦状態になれば、あの砲撃は止みます。

 

 その間に、敵本隊に攻撃を仕掛けます――行きましょう、Panzer Vor!!」

 

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 

 

だから、迷う事は何もない。

 

明光大の本隊は、梓の乗るパールホワイトのティーガーⅠを先頭に、つくばガーディアン校の本隊を目指して進撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梓達が進撃する中、シュトゥルムティーガーの撃破に出たみほ達は、つくばガーディアンの本隊に見つからない様に、大回りをした事で、予定よりも大分時間が掛かってしまったが……

 

 

 

「見つけた……!」

 

 

「此処であったが100年目!ぜってーぶっ倒す!!」

 

 

 

その甲斐あって、みほが『此のフィールドでシュトゥルムティーガーが砲撃を行う事が出来るのは此処だ』と予測した場所で発見する事が出来たのである。

 

 

 

「つぼみさん、適度にフェイント入れながら全速力で走り回って!」

 

 

「了解よみほさん!!」

 

 

「青子さん、可也無茶だって言うのは分かってますけど、私が指示したら1秒だけ装填速度を上げて装填してくれる?」

 

 

「1秒か……結構きついけどやって出来ねぇ事じゃねぇ!任せとけや!!」

 

 

「任せたよ。

 

 ナオミさん……『狙う事』って出来るかな?」

 

 

「愚問ねみほ……私を誰だと思ってるの?

 

 ネットでは中学戦車道最強の砲手って言われてる私に、仕損じはないわ――貴女の望みの物、狙い撃ってあげるわ。」

 

 

「其れは頼もしいね……なら、指示したら頼むよ!!」

 

 

 

そして、シュトゥルムティーガーを目視したみほは、すぐさま仲間達に指示を飛ばす。

 

内容だけを聞けば、結構な無茶振りであると思えるのだが、仲間を信じているみほだからこんな指示が出せるのだ――己の乗る戦車の仲間ならば、其れができるだろうと信じて。

 

 

同時に車長に任されたクルーもまたその思いに応えようとせんとするのは当然の事と言えるだろう。

 

 

操縦士のつぼみは、パンターの最高時速55kmを維持しながら、的を絞らせない様にフェイントを入れながら兎に角動き回る。

 

シュトゥルムティーガーは自走砲なので回転砲塔がない為、方向転換する場合には車体全体を動かさねばならない為、相手に動き回られると可成り戦い辛いのだ。

 

シュトゥルムティーガーの主砲ならば、大抵の戦車は、其れこそマウスであっても当たれば一撃必殺だが、逆に言うなら当たらなければどうって事ないのである。

 

 

ナオミは未だみほから『狙って』の指示は出ていないモノの、牽制目的の砲撃を行い、其れを青子の装填がサポートする。

 

因みにナオミが撃破狙いで打って居ないのは、パンターの主砲では、シュトゥルムティーガーの150mm装甲を抜く事が出来ないのと、動き回る中でみほが何かを数えている様だったからだ。

 

 

 

「(みほは何を数えてるの?……っと、今のは際どかった、よく避けたわねつぼみ?)」

 

 

「1、2、3……」

 

 

「(……カウントが1からに戻ってる?……まさか!!)」

 

 

「18、19、20……」

 

 

 

――ドン!!

 

 

 

みほが20まで数えた所で、シュトゥルムティーガーの主砲が火を噴く!

 

無論それはつぼみが巧みな操縦技術で回避するが、此れでナオミはみほが何の数を数えていたかが分かった――そう、みほはシュトゥルムティーガーが1発発射してから次弾発射までの間隔を数えていたのだ。

 

 

交戦を開始してから、シュトゥルムティーガーが放った砲撃は4発だが、その全てが発射までに20秒かかっている。

 

普通に考えれば遅い装填速度だが、380mmロケット砲はクレーンの補助を使っても通常は乗員5人全員で行わなければ不可能なのだ。

 

が、つくばガーディアンのシュトゥルムティーガーは、車体を動かしながら砲撃を行っている為、操縦士と砲撃手以外の3人で装填を行っている事になる訳で、其れで20秒と言うのは逆に驚異的なスピードである。

 

 

では、なぜみほは次弾発射までの時間を数えていたのか?

 

其れこそが、ナオミと青子へ出した指示に必要だったからだ。

 

 

砲撃が放たれた直後、みほは再びカウントを開始。

 

 

 

「11、12……青子さん、最速装填!!」

 

 

「よっしゃー、任せろい!!」

 

 

 

12まで数えた時点で、青子に『1秒早い装填』を指示し、青子も其れに応えて高速装填!この時点で、14カウント。

 

 

 

「ナオミさん、狙って!!」

 

 

「了解!」

 

 

 

そして、ナオミもみほの指示を受け、狙いを定めて発射!

 

みほは『何処を』『何を』狙えとは言わなかったが、みほが砲撃の間隔を計っていた事を知ったナオミは、自分が何処を狙って撃つべきなのか

 

を、確りと理解していた。

 

 

パンターから発射された砲弾は、真っすぐとシュトゥルムティーガーに向かって行き、そして、なんと主砲に吸い込まれて行く。

 

そしてその直後……

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァァァン!!!

 

 

――キュポン!!

 

 

 

凄まじい爆発が起こり、シュトゥルムティーガーの主砲は元より正面装甲が吹っ飛んで白旗判定に!

 

此れだけの爆発が起こったと言うのに、シュトゥルムティーガーの乗員は無事だと言うのだから、特殊カーボンの防御力は素晴らしいと言わざるを得ないだろう。

 

 

しかし、幾ら主砲内部に砲弾が飛び込んだからと言って、此処までの爆発は起こさない。

 

では、なぜ爆発したのか?

 

それは、シュトゥルムティーガーの主砲が発射された直後、まだロケット砲弾が主砲から出る前にパンターの弾丸が飛び込んだからだ。

 

その為に、本来ならば目標物に着弾して炸裂する筈のロケット砲弾がパンターの砲弾にぶつかって砲身内部で炸裂してしまい、結果として正面装甲を吹き飛ばす程の爆発が起きたのである。

 

 

そしてみほが砲撃の間隔を計っていたのは、此れを成功させるためだ。

 

シュトゥルムティーガーの短砲身からロケット砲弾が射出されるまでの時間は殆どないが、そのギリギリに打ち込む事が出来れば暴発を誘発出来ると考え、間隔を計っていたのだ。

 

計4発の砲撃から、何秒目で装填を終えて、何秒までに撃てばいいのかを計算し、実行したのだ……其れは、コンマ1秒レベルでの計算であるのだから、マッタク持って恐れ入る物だ。

 

 

 

「数を数えてたから、若しかしてと思ったけど……主砲の砲身にぶっ放すのは正解だったみたいね?――マッタク、よく思い付くわこんな事。」

 

 

「シュトゥルムティーガーは正面が傾斜150mm装甲、側面が傾斜80mm装甲だから、パンターの超長砲身75mmで抜くのは難しいから、撃破するにはアレしかないと思ったんだ。

 

 でも、成功できたのは青子さんの装填速度のアップと、ナオミさんの正確な狙い、其れから相手の砲撃を悉く躱してくれたつぼみさんの操縦が有ったからこそだよ♪」

 

 

「ま、アタシ等全員で倒したって事だな!!」

 

 

「それじゃあ、本隊に合流しましょうかみほさん!」

 

 

「うん、行こう!」

 

 

 

見事シュトゥルムティーガーを撃破したみほ達は、梓達の本隊に合流すべく移動を開始。――この、シュトゥルムティーガーの撃破が、戦局に大きな影響を与えたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――時は少し遡り、みほ率いる隊長車が単独行動を介した直後。

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

隊長車の単独行動……みほは如何やら小梅の予想通り、相手のSECRETが何であるかを看破したみたいね?その上で、隊長自ら其れを倒しに行くって訳か……良いじゃない。

 

みほの隊長車がフラッグ車だったら褒められた事じゃないけど、そうでないのなら、この判断は全然ありだわ。普通は、やらないけれどね。

 

其れに、仮に撃破出来なくても交戦状態になれば超長距離砲撃は封じる事が出来るし、戦闘が長引けば、それだけシュトゥルムティーガーが不利になる……搭載できるロケット砲弾は14発しかない訳だからね。

 

尤も、此の試合では固定砲台としての運用を前提としてるから、無理矢理な方法でもっと持って来てるかもしれないけど。

 

 

 

 

「隊長車自らシュトゥルムティーガーを撃破しに行くとは、相変わらず大胆ですねみほさん。

 

 シュトゥルムティーガーの存在を看破したら、真っ先に倒しに行くとは思いましたけど、まさか自分で倒しに行くとは思いませんでしたよ?」

 

 

「まぁ、みほだからね。」

 

 

本気であの子は、『普通ならあり得ない事』を簡単に選択するのよね。

 

普通に考えれば、隊長が本隊を離脱しての単独行動は指揮系統の混乱を招くだけだけど、恐らくみほは副隊長である澤に、一時的に指揮権を譲渡して、隊の指揮を任せたのでしょうね。

 

 

同時にそれは、訓令戦術が浸透している明光大だから出来た事……車長が夫々『自分で考えて動く事が出来る』から、詳細な指示がなくとも動く事が出来る訳だからね。

 

 

 

 

「ですね。

 

 だけど、澤さんはつくばガーディアンの重装甲高火力の戦車を相手にどう戦う心算なんでしょう?

 

 幾ら機動力では勝ってるとは言え、このフィールドじゃあ、障害物もあまりありませんから、機動力もあまり活かせるとは思えないんですけど……」

 

 

「そうね。

 

 でも、此のフィールドだからこそ活かせる機動力の戦術がある――相手の動きの重さを利用した戦術がね。……分かるでしょう、小梅?」

 

 

「まさか!――相手の動きの重さに付け込んで、機動力に物を言わせて動き回りながら攻撃と回避を同時に行う、ヒット&アウェイならぬ、ヒット&エスケープ!!」

 

 

 

 

正解。

 

更に、幾ら重装甲のブラックプリンスとトータスとは言えども、パンターの75mmなら兎も角として、ティーガーⅠの88mmを連続で撃ち込まれたら堪ったもんじゃないわ。

 

其れでも、分の悪い戦いである事は間違いないけれど、みほがシュトゥルムティーガーを撃破すれば戦局が大きく動く事になるのは間違いないわよ小梅。

 

 

 

 

「ですね!……って言うか、みほさんなら、撃破せずとも、シュトゥルムティーガーに搭載されてる14発のロケット砲弾全部撃ち切らせそうな気がするんですけど、その辺如何考えます?」

 

 

「……其処は、シュトゥルムティーガーが、固定砲台として運用する事を前提にしてるから、無理矢理搭載限界を超えた砲弾を搭載してる可能性を考えて、弾切れは狙わないって事で如何?」

 

 

「まぁ、その可能性もありますね確かに。」

 

 

 

 

まぁ、其れでも積めて20発まででしょうけどね。

 

さて、此処から如何試合が動くのか、楽しみだわ――少し離れた席で見てる、西住師範も楽しそうに試合の行方を見守ってるものね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

エリカと小梅がこんな会話をしてた頃、梓率いる本隊は、つくばガーディアンの本隊を捕捉し、そして迷う事無く進撃を開始していた。

 

普通に考えれば、攻守力で上回る相手に、真正面から戦いを挑むのは自殺行為でしかないのだが、明光大の戦車は重戦車であっても、レギュレーションギリギリの改造が施されているせいで、カタログスペック以上の機動力を有しているのだ。(ティーガーⅠ、Ⅱ共にカタログスペックは最高時速38kmだが、明光大のティーガーⅠとⅡは最高速度が40km出る。)

 

 

だからこその正面突撃!

 

梓は、明光大の機動力と回避能力を持ってすれば、つくばガーディアンの攻撃を回避する事は可能だと考えたのである。

 

 

だがしかし、つくばガーディアンの隊長である雛菊とて、伊達に準決勝に駒を進めて来た訳ではない。

 

 

 

「(アイスブルーのパンターが、みほさんが居ない?

 

  ……成程、Ⅲ突を2輌失った事で、私達のSECRETが何であるかを看破し、自ら其れの撃破に向かったと言う所ね……と言う事は、シュトゥルムティーガーの超長距離砲撃の援護は、遠からず望めなくなる。

 

  なら、此方は此方で、フラッグ車を狙うのが上策――相手も、フラッグ車を、私を徹底して狙ってくるはずだから。)

 

 各員に通達。防御力が高い私達ならば、そう簡単に撃破される事はないわ――だから、あまり動かずに砲塔だけを回転させて敵戦車を狙って!

 

 如何に最強と名高いティーガーⅠとパンターであっても、ブラックプリンスとトータスの砲撃なら、何処に当てても倒せるから。」

 

 

 

みほ率いる隊長車が居ない事を確認すると、すぐさまそれが何でかを看破し、シュトゥルムティーガーの超長距離砲撃による支援は、遠からず望めなくなると言う事を見越して、隊に指示を出す。

 

 

隊員も其れに従って攻撃を開始し、明光大の戦車を攻め立てる。

 

 

しかし、梓率いる明光大の本隊も、其れに負けずに応戦し、開けた平原では、凄まじいまでの戦車戦が展開されて行く。

 

明光大のヒット&エスケープは決定打を出せないが、つくばガーディアンもまた、動き回る明光大の戦車を捉えきれずに砲撃をクリーンヒットさせる事が出来ない。

 

 

此のままでは膠着状態になるのは避けられないが、

 

 

 

「(やっぱり堅い……だけど、西住隊長は『無敵の戦車なんて無い』って言ってたから、ブラックプリンスにもトータスにもどこかに必ず弱点が存在してる筈……

 

  其れは、重装甲の隙間だと思うんだけど……その隙間があるとしたら――)」

 

 

 

梓は、つくばガーディアンの戦車の弱点を探していた。

 

ブラックプリンスもトータスも、正面装甲の厚さが150mmあると言う、ダイヤモンドの甲羅を持つ戦車であり、その防御力は88mm砲であっても余裕で防ぐ事が出来る代物なのだ。

 

だがしかし、多くの兵器がそうであるように、動きを阻害しない為に、可動部の防御力と言うのは、如何しても低下してしまうのだ。

 

 

そして、梓はその弱点を見つけた。

 

 

 

「(装甲が薄い所……ターレットリングと足回り!!回転砲塔と本体の僅かな隙間と、転輪と履帯を撃ち抜けば倒せる!!)

 

 全車に通達!ヒット&エスケープを仕掛ける時、可能な限り、車体と回転砲塔の隙間か足回りを狙って下さい!」

 

 

 

如何に重装甲の戦車であっても、絶対に隠す事が出来ない車体と回転砲塔の隙間と転輪と履帯――全ての戦車が持っている共通の弱点を梓は看破し、その弱点を攻めるように指示を飛ばす。

 

 

そして、その指示は効果抜群!

 

如何に強固な防御力を誇る重装甲の戦車であっても、装甲の『隙間』と『足』を狙われたら、幾ら何でも如何にもならない。

 

その甲斐あって――

 

 

 

 

『つくばガーディアン中学校、トータス2号車、トータス3号車、行動不能。』

 

 

 

 

見事トータス2輌を撃破!

 

しかし、つくばガーディアンも負けてはおらず――

 

 

 

 

「撃てぇ!!!」

 

 

 

――バガァン!!

 

 

 

『明光大付属中学校、パンター4号車、行動不能。』

 

 

 

すぐさまパンターを撃破!

 

此れで残存車輌数は、明光大が7、つくばガーディアンが8と略同数だ――故に、気が抜けない。

 

だから自然と、梓と雛菊の視線にも熱が籠る――特に雛菊の其れは相当なモノだが、其れもまた仕方ないだろう。雛菊としては、隻腕の軍神と名高いみほと戦えることを光栄に思っていたのだが、梓と言う予想外の強敵と相見える事になったのだから。

 

 

いざ尋常にと言う所で、其れは起きた。

 

 

 

 

『つくばガーディアン中学、シュトゥルムティーガー、行動不能。』(此処で、みほがシュトゥルムティーガーを撃破した時と時間が同期。)

 

 

 

 

入って来たのは、つくばガーディアンのSECRET車輌であったシュトゥルムティーガーが撃破されたと言うアナウンス。

 

 

 

 

「く……隊長車が居ない事から予想はしてたけど、シュトゥルムティーガーをパンターで撃破するなんて……流石としか言えないわみほさん。」

 

 

「超長距離砲撃を行う戦車を撃破したんですね隊長……流石です!!」

 

 

 

其れを聞いた雛菊は、パンターがシュトゥルムティーガーを撃破した事に驚きながらも、みほの手腕に感心し、梓はみほの戦車乗りとしてのレベルの高さに、改めて惚れ直していた。

 

 

何れにしても、此れで残存車輌数は五分になり、超長距離砲撃も封じた――準決勝の戦いは、クライマックスが幕を上げようとしていた。

 

 

 

「行きます!!!」

 

 

「受けて立つわ!!」

 

 

 

そして、この準決勝第2試合が更に白熱するのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer55『鋼鉄の猛獣と黒き王子の激突です』

鋼鉄の虎と豹の爪牙、味わってもらおうかな?Byみほ      命令あらば、何時でも行けます!By梓      なら、行きましょうByナオミ


Side:しほ

 

 

 

ふむ、つくばガーディアン中の隊長はそんじょそこらの掃いて捨てるような戦車乗りではなかったみたいね?

 

恐らくは徹底的に明光大の事を研究して来たのでしょうけれど、それでもみほを相手にファーストアタックを取ったと言うのは、とても大きいわ。

 

まほですら、最終的には勝った模擬戦でも、ファーストアタックを取ったのは数えるくらいしかないのだからね。

 

射程外からの超長距離砲撃と言うのは、思った以上の成果を上げたみたいだわ――

 

 

 

 

「ですが、その砲撃を放っていたシュトゥルムティーガーはみほお嬢様が撃破し、明光大の本隊も、重装甲の戦車を相手にして中々頑張っていますから、如何転ぶかは分かりませんよ?」

 

 

「確かにそうかも知れないけれど、結果は覆らないわ、みほの試合に限って言えばね。」

 

 

みほの戦い方は、あの子の母を15年間務めて来た私にも予想はつかない――と、言うよりも予想できなかったと言うのが正しいのかも知れないわ。

 

みほの戦術は、古今東西ありとあらゆる戦術を取り入れた物だから次の一手が予測できない。

 

 

そして、其れを受け継いだ副隊長の澤さんもまた、戦車道を始めて1年であるにも拘らず、並の戦車乗りを凌駕してしまっているもの。

 

その証拠につくばガーディアンの本隊に攻め入った、梓さん率いる部隊は、パンターが撃破されたけどフラッグ車は無事――此の準決勝は、このままでは終わらない――寧ろ、別動隊となっていたみほが本隊に加わわり、隊長と副隊長が揃った時に、明光大の本領が発揮される。

 

 

さて、此処からどう攻めていくのか、楽しみね。

 

 

 

 

『ガルルルル……』

 

 

『♪』

 

 

 

 

そして、彼方達は本当にいい子だわ、ロンメルにアンドリュー。みほから話を聞いた時には驚きましたけれどね――ふふ、ならば彼方達も、しかと見届けなさい?

 

彼方達の主が、みほが、決勝戦へと駒を進めるその瞬間をね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer55

 

『鋼鉄の猛獣と黒き王子の激突です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

開けた土地で戦車戦となった明光大とつくばガーディアンの戦いは、序盤につくばガーディアンがシュトゥルムティーガーの砲撃で先手を取ったが、そのシュトゥルムティーガーの存在に気付いてからのみほの対応は迅速で、シュトゥルムティーガーの単騎征伐に向かって、其れを撃破して見せたのである。

 

 

 

そして撃破と同時にみほは、本隊との合流をすべくパンターを発進させる。

 

目的を果たしたのならば本隊に合流し、敵部隊との戦闘に加わるのは当然の事であるが、其処で一計を案じるのがみほなのだ。

 

 

 

「此のまま本体と合流します。

 

 ですが、最短ルートで合流するのは相手も読んでる筈だから、迂回ルートになる高台の裏を通って行きます。悪路だけど、大丈夫だよね?」

 

 

「お任せ下さいみほさん!!」

 

 

「じゃあ、態々遠回りするのに矛盾してるかも知れないけど、最速でお願いね、つぼみさん?」

 

 

「かしこまり!リミッター外しちゃうわよぉ!!」

 

 

 

先の撃破アナウンスは当然みほも聞いているので、現在残存車輌数が同数だと言う事は知っている。で、あるのならば普通は最速で本隊との合流を考えるだろう。別動隊を含めて車輌数が同じと言う事は、別動隊の分だけ本隊の車輌数は少なくなるのだから。

 

しかし、此処で敢えてみほは最短ルートを捨てて、迂回ルートを最速で進むと言う選択をしたのだ――如何やら、シュトゥルムティーガーの超長距離砲撃のお返しに、何かを思いついたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、明光大の本隊と交戦状態になったつくばガーディアンの隊長である雛菊は、現在明光大の部隊を指揮している梓の腕前と、明光大の実力に舌を巻いていた。

 

 

 

「(見事な物ね、明光大の副隊長は……普通、副隊長と言うと隊長の補佐のような役割で、指揮権も一部しか持ってないと言うのに、彼女はみほさんが不在の間、完全に全権を委任されてる。

 

  其れはつまり、みほさんが彼女の事を信頼している証であり、明光大の隊員も副隊長である彼女の事を信頼していると言う事……自分達

 

  が、自由に動く為とは言え、指揮権の全権委任なんて、普通は絶対にしないわ。)

 

 側面を取られない様に気をつけて!常に正面で相手を捉えておいて!!」

 

 

 

何よりも、普通では考えられない『副隊長に指揮権の全権委任』を一時的とは言え行った事が一番の驚きだ。

 

確かに、そう言う場面がない訳ではないが、普通はそう言う事は隊長車が撃破されてしまった時や、一時的に動く事が出来なくなった場合に限る事で、隊長車が独自に動く為に、副隊長に全権委任する等と言う事は考えられない事なのである――下手をしたら、指揮系統が混乱して、部隊総崩れの危険性すら孕んでいるのだ。

 

 

だが、みほが迷わずそれを選択したと言う事は、梓ならば全権を委任するに値する副隊長であり、自分達が目的を果たすまで部隊を持ち堪えさせてくれると確信していたから。

 

同時に、明光大の隊員達も、隊長であるみほが手塩にかけて育てた梓ならば、一時的な指揮官代理であっても不安は全く無かったのだ。

 

 

 

「兎に角、足を止めずに動き回りながら撃って下さい!

 

 行間射撃では精度は落ちますが、攻撃の手を緩めたら相手に攻撃の機会を与えてしまいますから!徹底してヒット&エスケープです!!」

 

 

 

だから、明光大の動きはみほが指揮している時と遜色ないと言って良いだろう。

 

勿論、梓はまだまだみほには及ばないが、みほから直接指導された事と、明光大と黒森峰の合宿が、梓の潜在能力を開花させ、戦車道を始めてから僅か1年であるにも係わらず、小学校から戦車道を続けて来た雛菊と互角に渡り合っているのである。

 

 

 

「(まだまだ粗削りな部分はあるけど、基本は確り押さえている――此方の攻撃を悉く避けるだけでなく、回避できないと判断した攻撃は、『食事の角度』を取る事でやり過ごしている……才能に物を言わせた強さではないと言うのは、厄介ね……)

 

 全車散開!敵フラッグ車を包囲して、叩きます!」

 

 

 

此のままでは分が悪いと判断した雛菊は、此れまで固まっていた部隊を散開させ、梓が乗るフラッグ車を徹底して狙う作戦にシフトし、部隊を展開していく。

 

 

ヒット&エスケープを行っている相手に対して部隊を展開するのは、各個撃破される危険性がある事から、本来は悪手なのだが、敵の攻撃に耐えられる防御力を有しているのならばその限りではない。

 

実際にブラックプリンスとトータスの装甲厚は最大で140mmを越える堅牢さであり、此れは実戦投入に耐えうる戦車では最高の防御力であると言える。(マウスとヤークトティーガーの装甲厚は200mを越えるが、利点よりも欠点の方が大きいので実戦向きではない。)

 

だから、この方法を選択する事が出来る。

 

相手の攻撃に耐える事が出来るのであれば、多少の被弾には目を瞑って、敵フラッグ車を徹底的に狙った方が得策なのだ。

 

 

 

しかし、そう簡単には問屋が卸さない。

 

 

 

 

「部隊を展開して来た……ティーガーⅠは後方に下がってパンターは前に!

 

 機動力で勝る中戦車で対応しつつ、強力な重戦車の砲撃で相手を沈黙させます!!」

 

 

 

つくばガーディアンの部隊展開を見た梓は、すぐさま陣形を変え、パンターが前衛でティーガーが後衛の布陣を完成させ、つくばガーディアンを迎え撃つ。

 

大戦期に製造された戦車の中では最高の機動力を有するパンターが動き回れば敵は狙いを絞る事が出来ない――ならば、フラッグ車を直接叩けばいいと思うだろうが、其れはちょこまかと動くパンターのせいで相当に難しいのだ。

 

 

 

「トラップ発動『攻撃の妨害』!攻撃を無効にするよ~♪」

 

 

「おのれぇぇぇ!!!」

 

 

 

更には、フラッグ車を狙って攻撃しようとした車輌には的確に『妨害』が入るので、フラッグ車を集中狙いするのも儘ならないのである。

 

 

 

 

――ドォォォォン!

 

 

――キュポン!

 

 

 

 

『明光大付属中学校、パンター2号車、行動不能!』

 

 

 

それでも、明光大の主力であるパンターを再び撃破出来た言うのは大きいだろう――主力車輌が減少すれば、其れだけ自分達に追い風となるのは間違い無いのだから。

 

しかし、それでもフラッグ車を撃破出来ないのでは意味がない。

 

如何に主力戦車を撃破して、数の上で有利になったとしても、フラッグ車を倒さない限りは勝ちではなく、逆に言うならばフラッグ車が倒されなければ負けではない。

 

 

加えて、つくばガーディアンは出来るだけ早く梓の乗るフラッグ車を撃破せねばならない。

 

シュトゥルムティーガーを撃破したのならば、みほの隊長車は確実に本隊に合流するだろう――副隊長の指揮で略互角な状態な所に隊長が帰還し、再び指揮に当たったら間違いなく拮抗は崩れてしまうのだから。

 

 

そうした焦りもあるだろうが、パンターが2輌やられた事で、明光大の動きは逆に良くなり、砲撃が更に当たりにくくなった。

 

此れにはつくばガーディアンの部隊は驚きを隠せず、そして焦りも加速する。

 

 

 

「た、隊長、敵戦車の回避能力が上がりました!的を絞る事が出来ません!!」

 

 

「……!そんな………如何に最高の機動力を持っているパンターであっても、あんなに機敏な動きが出来るなんて……!

 

 それ以上に、重戦車であるティーガーⅠですら、カタログスペック以上の機動力で……幾らレギュレーションギリギリの改造を施したとしてもあんな事は……いえ、其れだけ明光大は回避訓練に力を入れていると言う事?

 

 それで鍛えられた回避能力が、パンターを2輌失った事で100%解放されたと言うのなら、戦車の性能を越えた回避もありうるわ……!!

 

 全車へ通達。動き回る戦車に攻撃はせず、此方を撃破する為に動きが止まった所を狙って下さい。

 

 其れなら、最悪でも相討ちには持ち込めるはずです。」

 

 

 

だが、雛菊は流石隊長と言うべきか、動き回る戦車を狙うのは止め、自軍の戦車を撃破する為には行間射撃でなく停止射撃をするだろうと予測して、その瞬間を狙うように指示。

 

此れならば、攻防力で勝る自軍の方が戦果が上がると考えたのだろう。そして、其れは実際に間違った選択ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

その予測が的中したのならば。

 

 

 

 

 

 

「な、なんで?如何して止まらないの?」

 

 

 

雛菊の予想に反して、明光大の戦車隊は一向に動きを止める気配がない。

 

行間射撃にしては可成り正確ではあるが、それでもブラックプリンスとトータスのウィークポイントに命中する数は極めて少ない――と言うよりも、ウィークポイントには命中していない。

 

端から見れば、其れはつくばガーディアンの戦車を撃破する気が無いように見える……が、だからこそ雛菊は気付いた。

 

この攻撃は『時間稼ぎ』であると。

 

 

梓は最初からフラッグ車の撃破は狙っておらず、あくまでみほが合流するまでの時間を稼ぐのが目的だったのだと。

 

ならば完全に術中に嵌った事になるのだが、其れに気付いた事で同時に疑問も新たに浮かび上がった――みほが合流するのに時間が掛かり過ぎていないか、と。

 

 

シュトゥルムティーガーの配置位置から、現在の交戦場所までは、パンターの機動力をもって最短ルートを通って来れば5分弱で到達できる。

 

しかし、既にシュトゥルムティーガー撃破のアナウンスが響いてから10分が経過しようとしている事を考えると、余りにも遅い。

 

或いは、此方に向かう際にマシントラブルでも起こして走行不能になったのかとも考えてしまうが、そうであるならば『パンター走行不能』のアナウンスが別途入るので、其れはない。

 

 

ならば如何して?

 

 

 

その答えは、突如として訪れた。

 

 

 

――ズドォォォォン!!!

 

 

 

『ブラックプリンス3号車、行動不能!』

 

 

 

ブラックプリンスが突如撃破されると言う形で。

 

 

 

其れは全く予測して居なかった事であり、予測しない場所からの砲撃……つくばガーディアンの真後ろから現れたアイスブルーのパンターが、ブラックプリンスのターレットリングを撃ち抜いて沈黙させたのだ。

 

 

此れは完全に雛菊の予想を超えた事だった。

 

何故ならば、みほ率いる隊長車が現れた場所は、最短ルートを通って来たのならば絶対にあり得ず、自軍の背後から気付かれない様に現れるには、シュトゥルムティーガーを配置した場所から大回りをしてこなければならないからだ。

 

 

 

「(背後から……確かに有効かもしれないけれど、大回りをすると言う事は其れだけ本隊との合流に時間が掛かると言う事であり、フラッグ車が撃破される可能性も高まるのに、其れを迷わず選択するなんて……!

 

  ……いえ、みほさんは、副隊長ならば自分が合流するまで持ちこたえられるって確信していた――!)」

 

 

 

雛菊は思わず歯噛みする……余りにも、あり得ない事が連続で起きたと言う現実に。

 

シュトゥルムティーガーの撃破は未だ良い。超長距離砲撃の犯人を看破されたら、真っ先に撃破しに来る事位は予想していたから――だがしかし、副隊長への指揮権全権委任と、不意を突く為の大回りなど普通は絶対にあり得ない事だけに予測のしようがない。

 

それが結果として、みほを本体に帰還させる事になってしまったのだから、歯噛みするのも仕方ないだろう。

 

 

 

「隊長、待ってましたよ~~!指揮権全権、お返しします!!」

 

 

「ただいま皆!よく持ち堪えてくれたね――さぁ、此処から一気呵成に攻めるよ!!」

 

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

反対に、明光大はみほが戦線に加わった事で一気に士気が爆発的に上昇していた。

 

決して梓の指揮に問題があった訳でなく、指揮そのものは見事だったが隊長と副隊長では、どうしても隊員の信頼度に置いて差が出てしまうモノなのだ――寧ろ、其れを考慮するとみほ合流まで持ち堪えた梓の指揮官としての能力は凄まじいの一言に尽きるだろう。

 

 

兎に角、隊長が合流した事で明光大の力は120%発揮される事となる。

 

そうなれば、残存車輌数であるのは有利な状況であると言える――みほは、圧倒的に不利な状況からでも戦況を引っ繰り返してしまうだけの力があるのだから。

 

 

更に、みほがつくばガーディアンの後方から現れた事で、戦況は明光大がつくばガーディアンを挟撃した状態であり、動きの遅い重装甲戦車にとっては完全にアドバンテージを失った盤面であった。

 

 

 

「……此れが、みほさんの……いいえ、明光大の実力……!!

 

 全軍総攻撃!隊長車でないパンターは無視して、徹底的に隊長車とフラッグ車を狙って!」

 

 

 

それでも雛菊の闘志は衰えず、徹底的に明光大の隊長車とフラッグ車を狙うように指示。

 

フラッグ車を撃破出来ればその時点で勝ちであるし、隊長車を撃破すれば指揮能力を低下させる事が出来るからだ。

 

 

しかし、みほが合流した以上其れはない。

 

 

 

「行くよ、梓ちゃん!!」

 

 

「はい、隊長!!」

 

 

 

みほと梓はつくばガーディアンの砲撃を回避すると、其のまま疾走して、此のフィールドに存在する数少ない障害物である大岩に登ると、其処からスピードを緩めずに飛び出して大ジャンプ!

 

此れには、つくばガーディアンの部隊も驚き、攻撃の手が止まってしまうが、其れが命取りだった。

 

 

 

「必殺!」

 

 

「戦車ボディプレス!!」

 

 

 

――ドゴォォォン!!

 

 

 

『トータス1号車、ブラックプリンス5号車、行動不能!』

 

 

 

大ジャンプしたパンターとティーガーは、其のままつくばガーディアンのトータスとブラックプリンスを1輌ずつ押し潰して撃破!

 

如何に強固な装甲を持っているとは言え、重戦車と中戦車が真上から、其れも落下速度を伴って降って来たら堪ったモノではない――尤も、こんな攻撃をするのは明光大位の物だろうが。

 

 

しかし、この戦車ボディプレスは単なる奇策ではなく、勝利への布石だ。

 

 

 

「これで……」

 

 

「チェックメイトですね?」

 

 

「――!!」

 

 

 

ブラックプリンスを押し潰したみほのパンターと、トータスを押し潰した梓のティーガーⅠの砲身は、雛菊の乗るフラッグ車である、ブラックプリン

 

ス1号車に向いていたのだから。

 

 

ゼロ距離とは言わないが、この超至近距離でパンターの超長砲身から放たれる75mmと、ティーガーⅠの88mmを喰らったら、如何に強固な装甲を有するブラックプリンスでも耐える事は不可能だろう。

 

 

 

「「撃て!!滅びの爆裂疾風弾バーストストリーム!!」」

 

 

 

――ズガァァァァァン!!

 

 

――ドォォォォォォォォン!!!

 

 

 

 

――キュポン!

 

 

 

 

『つくばガーディアン中学校、フラッグ車行動不能。明光大付属中学校の勝利です!!』

 

 

 

結果、鋼鉄の虎の牙と、鋼鉄の豹の爪が、黒い王子の喉笛を切り裂き試合終了。

 

キューポラから身を出していたみほと梓は、敵フラッグ車撃破のアナウンスを聞くと、互いにサムズアップして勝利した事を感じ合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

ふぅ……勝てた。

 

5輌も撃破されるなんて、今大会最大の損失だよ……其れだけ雛菊さんが強かったって言う事だけどね。

 

 

「お疲れ様でした雛菊さん。良い試合でしたね。」

 

 

「はい。負けたとは言え、私は全力を出したので悔いはありません……隻腕の軍神の実力、この身をもって体験させていただきました。」

 

 

 

 

あはは……でも、まさかシュトゥルムティーガーを持ち出してくるとは思いませんでした――アレのお陰で、序盤に考えていた戦術を取る事が出来なくなりましたから。

 

でも、シュトゥルムティーガーのような超長距離砲撃が出来る戦車があるのならば、其れで徹底してフラッグ車を狙うべきでしたね。

 

 

 

 

「え?」

 

 

「此方の戦術を崩すと言うのは良い手であり、殲滅戦であれば其れは可成り効果を発揮するでしょう。

 

 ですが、フラッグ戦の場合はその限りじゃないんです――極端な事を言えば、最終的にフラッグ車を撃破した方の勝ちなんですから。

 

 なら、貴女はシュトゥルムティーガーで徹底的にフラッグ車を狙い、本隊で圧力をかけるべきだった――そうすれば、シュトゥルムティーガーを倒されても、アドバンテージは維持出来たかもしれないし、シュトゥルムティーガーが撃破される前に、私達のフラッグ車を撃破する事が出来たかもしれないから。」

 

 

「あ……言われてみれば。」

 

 

 

 

私達の射程外から攻撃出来る手段を得た事で慢心しちゃったね?

 

同時に、攻防力でも上回っていたから、圧倒的に有利って考えたんじゃないかな?――確かにそうかも知れないけど、カタログスペックなんて言う物は、戦術と戦略で幾らでも覆す事が出来るんだからね。

 

 

 

 

「そうですね……此の試合で、其れを痛感させられましたみほさん。

 

 隻腕の軍神の二つ名は決して伊達ではなく、その実力に相応しいモノだと思い知りました……だから決勝戦も頑張って下さい。

 

 烏滸がましいかも知れませんが、御武勇をお祈りしています。――貴女に、勝利の祝福が有らん事を……」

 

 

 

 

ありがとう雛菊さん。そのエールは確かに受けとったよ。

 

元より、負ける心算なんて毛頭ないよ――決勝戦の相手が、最強のライバルであるエリカさん率いる黒森峰であってもね。否、寧ろエリカさん率いる黒森峰だからこそ負けられない!寧ろ勝ちたい!!

 

 

私とエリカさんの戦績は、此れまで1勝1敗だから、此処で決着を着けても良いかも知れないからね。

 

 

「Bang!」

 

 

だから、『絶対に負けないよ』って言う意味を込めて、手で拳銃の形を取って客席にいるエリカさんに向かって撃てば、エリカさんも其れに応えるように親指で首を掻っ切る動作で返してくれた。

 

 

「(勝たせて貰いますよエリカさん!)」

 

 

「(貴女には負けないわみほ……勝つのは私よ!!)」

 

 

「(私も居ますからね!!)」

 

 

 

 

そして私とエリカさん、小梅さんの視線が交錯して火花を散らす――ふふ、最高だよ。

 

エリカさんも小梅さんも強いから相手にとって不足はないし、ツェスカちゃんも相当の実力者だから油断はできないかね――マッタクもって楽しみな事この上ないよ!!

 

 

だから確信できる……此の決勝戦は、私が此れまで戦って来たどんな試合よりも激しく楽しい物になるってね。

 

 

ふふ……決勝戦当日が待ち遠しい――此れは、待ち切れるか怪しいかもね。まぁ、待ち切れなかった時は、お母さんか菊代さんに模擬戦の相手をして貰おうかな?そうすれば、決勝戦まで持つだろうからね。

 

 

 

何れにしても、次が中学校最後の公式戦だから、全力をぶつけて優勝をもぎ取らなくちゃだね!!

 

 

 

 

「応よ!!」

 

 

「勿論その心算よ。」

 

 

「優勝以外にはないわ!!」

 

 

 

 

うん、だから全力全開を越えた全力全壊で決勝戦に臨まないとね!!――中学最後の公式試合で、有終の美を飾るとしようか♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer56『決勝戦直前です!全力で行きます!』

決勝戦前に一息だねByみほ      体を休ませんのは大事だからなBy青子      確り休んで英気を養いましょうByナオミ


Side:まほ

 

 

 

大体予想はしていたが、今年の中学戦車道の全国大会の決勝は、みほ率いる明光大と、エリカ率いる黒森峰の頂上決戦となったようだな?

 

こう言っては手前味噌かもしれないが、みほの戦車乗りとしての能力は同世代では間違いく最強であるが、逆にエリカと小梅もまた稀有の才能の持ち主であり、中学時代は私が徹底的に鍛えてやったから相当に強くなってるだろう。

 

 

だからこそ此の決勝戦は目が離せない物になりそうだ。

 

 

 

 

「楽しそうねまほ?やっぱり気になるわよね中学戦車道全国大会も。」

 

 

「あぁ、其れは私でも気になるさ――愛しい妹と、可愛い後輩達が頑張っているのだからね。

 

 特に今年の決勝は、何方を応援すれば良いのか 分からなくなる組み合わせだからな。」

 

 

「私の古巣であり、みほが隊長を務める明光大と、貴女から隊長の座を引き継いだ逸見率いる黒森峰の戦いだからね?何方か一方を応援するのは幾ら貴女でも出来る事じゃない――なら、どっちも応援してあげればいいのよまほ。

 

 『どっちも頑張れ』なんていう言葉がある位だもの。」

 

 

 

 

……成程、両方を応援と言うのは盲点だったな。

 

双方を応援すれば、何方かを贔屓にしていない事は明白だからな――何にせよ頑張れよみほ、エリカ、小梅。私も必ず高校大会で優勝して真紅の優勝旗を黒森峰に持ち帰り、9連覇を達成してみ見せる。

 

 

ふふ、大会が終わって実家に帰ったその時は、結果が如何であっても、みほ率いる明光大が、どんな活躍をしたのか聞かせて貰うとしよう。

 

取り敢えずみほもエリカも小梅も、悔いが残る戦いだけはしないでくれ――此の試合を高校大会の都合で、生で見る事が出来ないのが残念だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer56

 

『決勝戦直前です!全力で行きます!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

本日の戦車道の時間は、明後日に決勝戦を控えてるから当日のオーダーと、試合に出る選手を決めるミーティングだけにしておいた。

 

ギリギリまで練習をするのも良いけど、今日と明日は戦車に乗った練習はお休みにして、確りと体を休めた方が良いからね。

 

 

私の隊長車と、梓ちゃんの副隊長車はポジションが固定されてるけど、他はその都度その都度メンバーが変わってるから、意外と試合のオーダーを決めるのは楽じゃないんだよね此れが。

 

 

黒森峰の伝統は重戦車の圧倒的な火力で、相手チームを蹂躙する戦い方だから、普通に考えるならこちらはいっそ重戦車を全てオーダーから外して、パンターとⅢ号で構成された『厚い皮膚より速い足』を体現したオーダーで行くのがベスト。

 

だけど、『エリカさんの黒森峰』は、『勝つ為には伝統なんて只の足枷』とでも言うかのように、1回戦から準決勝まで重戦車と中戦車で構成された、攻守速に隙のない隊編成だったから、足回りの重い重戦車へのセオリーは、略間違いなく通じないよね……

 

 

となると……よし!

 

 

「決勝戦、隊長車はティーガーⅡとし、同時に此れをフラッグ車にしようと思います。」

 

 

「パンターじゃないんですか隊長?

 

 黒森峰のフラッグ車は1回戦から一貫して隊長車のティーガーⅠだったので、てっきり此方のフラッグ車は機動力で勝るパンターで行くと思ったんですけれど……」

 

 

 

 

うん、其れは私も考えたよ梓ちゃん。

 

だけど、エリカさんは一昨年の準決勝と、2回の夏休み合宿を通して『パンターに乗った西住みほ』を相当に知ってるし、同時に研究もしてると思うから、パンターで出るのは逆に悪手なんだよ。

 

と言うか、エリカさんだけでなく、小梅さんも、もっと言うなら合宿に参加してた黒森峰全員が、アイスブルーのパンターにはこの上ない警戒をしてると思った方が良い。

 

そうなると、パンターで出た場合、相手の対抗策に潰される可能性があるんだ。

 

 

 

 

「みほだったら、その対抗策すら超えるんじゃねぇかと思う奴挙手~~。」

 

 

「「はい!!」」

 

 

「「「はい!はい!!」」」

 

 

「「「「はい!はい!!はい!!!」」」」

 

 

 

 

……青子さん、その質問は如何なの?そして、それに対して隊員全員が手を上げてるってどういう事!?

 

確かに私は戦車乗りとしては優秀なのかも知れないよ?自分では分からないけど、お母さんもお姉ちゃんも、果ては菊代さんまでそう言ってくれるからそうなんだと思う。

 

特にお母さんなんて『今のみほと菊代が戦ったら、10回中9回はみほが勝つんじゃないかしら。』って言う位だしね。

 

 

だけど、今度の決勝はそうは行かないんだよ。

 

何て言ったって、黒森峰の隊長はエリカさんで、副隊長は小梅さんなんだから。

 

 

多分、一昨年までならエリカさんと小梅さんの2人を相手にしても、多分私は勝つ事が出来たと思うけど、2度の合宿で、エリカさんと小梅さんは、他の黒森峰の生徒とは比べ物にならない位にレベルアップしてるから、タイマンなら兎も角、1vs2の状況に持ち込まれたら、一昨年の準決勝みたいには行かないと思うんだ。

 

だから、決勝戦は機動力では劣るけど、圧倒的な攻撃力と防御力を有するティーガーⅡで行くのがベターだと思うんだ――其れに、此の子は今大会1度も使ってないから、最後の舞台で花を持たせてあげたいんだ。

 

 

 

 

「戦車への愛情も忘れずに。みほらしいわ。でも、そのみほがそう言うならそうなんでしょうね。

 

 何よりも、エリカも小梅もまほさんが引退前に直々に隊長と副隊長に任命したって言う事を考えれば、その実力が生半可な筈ないわね。」

 

 

「でも、だからこそ燃えて来るわよね!」

 

 

「レベルアップした銀髪と天パ……楽しめそうじゃねぇか♪」

 

 

 

 

確実に削り合いの潰し合いみたいな戦いになると思うんだけど、だからこそ楽しみなんだ私も。

 

削り合いの潰し合いは、両チームの実力に大きな差がなく伯仲しているからこそ起こる事だと思うからね?――それに、去年から加入した新戦力のツェスカちゃんも可成りの実力者だから、楽しみにするなって言うのが無理だよ。

 

 

梓ちゃんもそうだよね?

 

 

 

 

「はい!実を言うと、ツェスカと戦うのが楽しみで仕方ないんです!

 

 去年の合宿での模擬戦では私が勝ちましたけど、ツェスカだってアレから間違いなく強くなってる筈だから、改めて戦ってみたい……自惚れ かも知れませんけど、多分ツェスカもそう思ってくれてると思いますから。」

 

 

「其れは自惚れじゃなくて、ライバルの事を信じてる証拠だよ梓ちゃん。

 

 自分のライバルが自分と戦いたいって思ってくれてるって思う事は、同時に貴女のライバルも同じ事を思っている証だからね?――だから、決勝戦の舞台で、ツェスカちゃんと一騎打ちの機会が訪れたら、其れを優先して良いから。」

 

 

「――!ありがとうございます、隊長!!」

 

 

 

 

ライバルとの真剣勝負は、私も楽しみたいからね。

 

何よりも、梓ちゃんにとってライバルとの真剣勝負は、私が教える事以上の価値があるかも知れないもん。結果が勝ちであっても負けであってもね。

 

 

それじゃあ、決勝戦のフラッグ車が決まった所で今日は解散。

 

明日の練習はお休みにするので、各自確り休んで、決勝戦に向けて英気を養って下さい!……それで良いよねナオミさん、先生?

 

 

 

 

「そうね、其れが一番だわ。

 

 試合の前は確りと休んで、試合当日に最高のパフォーマンスが出来る体にしておかないとよ。」

 

 

「OKよみほちゃん。ナオミちゃんもこう言ってる事だし、明日の練習はお休みにしちゃいましょう。

 

 どんな結果になっても、明後日の決勝が今大会最後の試合になるから、悔いの残らない様に全力出し切って戦っちゃいましょう!!」

 

 

「「「「「「「「「「おーーーーーーーーーー!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

ふふ、相変わらず皆ノリが良いなぁ♪

 

 

さてエリカさん、私の方は試合に出す戦車と選手を決めたよ?決勝戦、一体エリカさん率いる黒森峰がどんな布陣で来るのか、楽しみにしてるからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

次の決勝戦、オーダーはこんな感じで行こうかと思ってるんだけど、貴女は如何思う小梅?意見が有れば遠慮なく言ってくれて構わないわ。

 

此れが、私的には最もベターなオーダーだと思うんだけど……

 

 

 

 

「確かに悪くないと思います。

 

 隊を構成してる戦車は3種類ですが、其れが却って黒森峰が伝統としている悪しきドクトリンを崩す形になっています――此の戦車オーダーなら、みほさんも驚くかもしれませんね?」

 

 

「驚かす事が出来たら僥倖よ小梅。」

 

 

まほさんから聞いた話だけど、みほは左腕を喪失する程の大事故に遭ったせいで、私達が普通に持ち合わせてる『恐怖』と『驚愕』の感情が極端に麻痺してるらしいのよ。

 

だから、大概の事には驚かないし、恐怖も覚えない――そんな相手を驚かす事が出来たら、凄い事だって思わない小梅?

 

 

 

 

「其れはそうですけど、驚かすだけじゃ勝てませんよね?」

 

 

「確かに其の通りね。

 

 悔しいけど、今の私とみほの間にはハッキリとした実力差がある――其れは、貴女と力を合わせても埋めるのは簡単じゃないわ小梅。」

 

 

だけど、ほんの1秒でも虚を突く事が出来れば、其処から好機が生まれるかも知れないでしょ?

 

大凡黒森峰の伝統から逸脱してるし、王者らしからぬ戦いだって言うのは自覚してる――だけど、伝統を重んじて王者の戦いをしてたら、どうやったって、みほに勝つ事は出来ない!

 

私は、みほに勝ちたい――みほに勝って黒森峰を王者に返り咲かせたいのよ!

 

だから、その為には私はどんな策だって考えるわ――其れが、例え『机上の空論』だって馬鹿にされてもね!!

 

 

 

 

「……分かりました。エリカさんの覚悟と思い、この赤星小梅、確かに受け取りました!!

 

 なら、思い付く手を全て使って行きましょう!寧ろ、其れ位しないとみほさんが率いる明光大に勝つ事なんて出来ないと思いますから!!」

 

 

 

 

小梅……ありがとう。貴女が副隊長で良かったわ。

 

それにしても、何だって黒森峰はこんな大火力で押せ押せのドクトリンを伝統にしてる訳?

 

西住流の影響を色濃く受けてるのと、ドイツの重戦車は軒並み強力だからって言われたら其れまでだけど、黒森峰の歴代隊長全部が、蹂躙戦術を得意としてた訳じゃないと思うんだけど……

 

 

 

 

「保有する重戦車が強力で、細かい事を考えなくても勝ててしまっていたからかもしれませんね。

 

 圧倒的な火力を持ってして、ローラー作戦よろしく相手部隊を磨り潰して行けば、先に疲弊するのは相手の方ですから……だから、この様なドクトリンが伝統となってるのかも知れません。」

 

 

「だとしたらアホくさいわね。

 

 相手がソコソコの相手なら、一流半の隊長でも其れで勝てるかもしれないけど、相手がみほみたいな選手だったら其れは通じない――と言うか、あのまほさんですら去年は安斎さんに負けちゃった訳だしね。」

 

 

まぁ、アレは蹂躙戦術が通用しなかったと言うよりも、安斎さんがまほさんの性格を巧く利用した上での事だったけれど。

 

其れでも此れを伝統として掲げておきながら、今年の私のやり方に文句が付かないのは、この伝統が悪しきものだと気付いたからなのか、それとも、私のやり方で今の所勝っているから何も言わないのか……何にしても、決勝戦まで余計な口出しが無かったのは有り難いわね。

 

 

ん~~~……結構時間経ってるわね。

 

お疲れ様小梅。何時も試合前は付き合って貰って悪いわね?

 

 

 

 

「副隊長ですから。

 

 ところでエリカさん、少し早いですけどこの後一緒に晩御飯食べに行きませんか?最近見つけた、美味しいお店が有るんですよ。」

 

 

「いいわね?小梅が美味しいって言うのなら期待が持てるわ。」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

で、小梅に連れて来られてのは、ちょっと路地を入った所にある、煉瓦造りの味のある店。

 

小梅の話によると、本格的なドイツ料理が食べられる店らしくて、更に店長の拘りで店内の椅子やテーブルはドイツ製なだけじゃなく、調度品なんかもドイツのアンティークを使ってるみたい。……ドンだけ拘ってんのよマッタク。

 

でも、店内の雰囲気は確かに悪くないわ。照明も落ち着いた色だし、BGMとして流れてるバラード系の音楽も落ち着いていて良いわ。

 

 

 

 

「でしょう?エリカさんなら気に入ってくれると思ったんです。」

 

 

「えぇ、気に入ったわ店の雰囲気はね。

 

 だけど問題は料理の味……貴女のお勧めを注文して貰いましょうか小梅?」

 

 

「勿論その心算です♪」

 

 

 

 

で、小梅が頼んだのはヴィーナー・シュニッツェル(ウィーン風子牛のカツレツ)。

 

日本でドイツ料理って言うと、ソーセージかアイスバインが筆頭に上がる中で、この料理がお勧めとなると、この店のレベルは決して低くないのは確実ね。

 

 

オーダーしてから待つ事10分弱、出てきたわ出来立て熱々のシュニッツェルが!

 

香ばしく焼かれたジャガイモが添えられて、何とも食欲をそそるじゃない!……それじゃあ、頂きます!……こ、これは!!

 

 

 

 

「如何ですかエリカさん?」

 

 

「此れはもう、何て言うか、美味しい以外の感想が言えないじゃないの!

 

 人は本当に美味しい物を食べると、余計な事が言えなくなるって言うけど、本当ね此れは!細かい感想なんてどうでも良い!美味しい!」

 

 

何此れ、今まで食べたシュニッツェルの中で一番美味しいんですけど!やばい、本気で舌がとろけてほっぺが落ちそうだわ。

 

こう言っちゃなんだけど、此れなら何枚でも行けそうだわ。マジで旨いです此れ!!

 

 

 

 

「気に入ってもらえて良かったです♪

 

 この味のシュニッツェルに、ライ麦パンとカルトッフェル・スッペ(ドイツ風ジャガイモのスープ)が付いてお値段980円なんですから、物凄く安いですよね。」

 

 

 

 

其れは確かにそうかもね。

 

それで、なんでこの店に私を連れて来ようと思ったの小梅?ただ、お勧めの店を紹介したかっただけって事でもないんでしょう?

 

 

 

 

「分かります?

 

 まぁアレです、よく有るゲン担ぎですよ。シュニッツェルはドイツのカツレツ、つまりカツ。決勝前にカツを食べて試合に勝つってやつです♪」

 

 

「成程、納得したわ。」

 

 

なら、今度の決勝戦は絶対に勝たないとね?

 

こんなに美味しいシュニッツェル――カツを食べて勝つ事が出来なかったら格好が付かないし、この店を教えてくれた貴女に申し訳が立たないもの。

 

 

厳しい戦いになるのは確実だけど、勝つわよ小梅!!

 

 

 

 

「はい、勿論です!!」

 

 

 

 

西住流の次女であるみほが、西住流の影響を色濃く受けている黒森峰の決勝戦の相手として立ち塞がると言うのは、少し皮肉かも知れないけど、私にとっては有り難いわ。

 

もしもみほが黒森峰に来てたら、試合で戦う機会はなかったでしょうからね。――貴女との最高の頂上決戦、楽しみにしてるわみほ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

「さて、いよいよ明後日が決勝戦ですが、調子は如何かしら?」

 

 

「上々っすよしほさん!

 

 アタシ等は絶対に負けねぇっすから!黒森峰が相手だって勝ってやるっすよ!!てか、アタシ等の目標は優勝只一つ!寧ろ優勝一択!」

 

 

「其れは頼もしいわね。」

 

 

 

 

青子さん……まぁ、実際その心算だから否定はしないけどね。

 

 

只今隊長チーム全員+お母さんとお父さんで晩御飯の真最中。

 

本当なら連中後に何時もの様に放課後を楽しんでから帰る心算だったんだけど、お母さんから『今日は貴女のチームメイトを連れて来なさい』って言う電話を貰った事で、こんな事態に……ま、合宿で面識があるから緊張とかはないから良いんだけどね。

 

 

と言うか、久しぶりだねお父さん?仕事が忙しくて、中々家に居ないからね。

 

 

 

 

「僕としてはもっと家に居たいんだけど、整備士として彼方此方飛び回ってると中々そうも行かないんだよね……特に高校の戦車道チームから、戦車の整備を頼まれると学園艦を転々とする事になるから、こっちに戻って来るのは1シーズンに1回なんて事になっちゃうからね。」

 

 

「でも裏を返すと、其れだけ忙しいって事は、お父さんの整備の腕が確かだって言う事だから、私としては其れが誇らしいかな?」

 

 

だけど、仕事も良いけど可能な限り家には帰ってきてね?お父さんが居ないと、お母さんも寂しいみたいだし♪

 

 

 

 

「え?そうだったの?……ゴメンねしほちゃん、今の仕事が一段落したら少し暇になるから、その間は家に居るから。」

 

 

「つ、常夫さん!?と言うか、何を言ってるのよみほ!!」

 

 

 

 

何って、事実をありのままに述べただけだよお母さん。

 

もっと言うなら、お母さんは普段西住流の師範として色々気を張ってるから、お父さんが居る時くらい思いっきり甘えちゃっても罰は当たらないんじゃないかと思うのです。

 

 

 

 

「~~……その心遣いには、少し感謝しておきますみほ。」

 

 

「僕も感謝するよみほ。おかげで、可愛いしほちゃんが見れたからね♪」

 

 

「常夫さん!!」

 

 

 

 

「オカシイ、カツカレーが甘いぜナオミ。」

 

 

「安心しなさい青子、私もそう感じるわ。」

 

 

「みほさんのご両親は、今もラブラブなのね。」

 

 

 

 

まぁ、お母さんとお父さんは万年新婚状態だから、2人が一緒に居ると大体こんな感じだよ……お姉ちゃんなんて『お父様とお母さまが年中一緒に居るなら西住家に砂糖は必要ない』って言った位だからね。

 

両親仲良きことは良き事だから文句は無いけど。

 

 

所で菊代さん、今日のメニューは何でカツカレー?

 

私の友達が来るって事なら、もっと凝ったメニューになるのかと思ってたんですけど。

 

 

 

 

「決勝前なので、敵に勝つのゲン担ぎですよお嬢様。

 

 黒森峰は西住流がバックに居る学校ではありますが、それ以上に私が望むのはお嬢様達の勝利です……決勝戦での活躍を期待していますお嬢様。」

 

 

 

 

そう言う事か……なら、勝たないとね♪

 

エリカさんと小梅さんが相手だから簡単に勝つ事は出来ないだろうけど、私は絶対負けませんよ菊代さん!――何よりも、私には此れだけの仲間が居るんだから負けるヴィジョンは想像すら出来ませんから!!

 

 

 

 

「おうよ!誰が相手でもぜってー負けねー!!」

 

 

「やる前から負けるのを考えるのは、勝つ事を諦めるのと同じだからね。」

 

 

「必ず優勝の栄光をもぎ取ってあげるわ!!」

 

 

 

「ふふ、頼もしいわね?

 

 ならば、これ以上言う事はありません――みほ、貴女の戦車道で優勝をもぎ取りなさい。黒森峰が西住流の援助を受けているなんて言う事を考えずにね。」

 

 

 

 

うん、勿論だよ。

 

如何に西住流の援助を受けてる黒森峰が相手だからって、戦うとなったらそんな事はマッタク関係ないからね。――だから、決勝戦でも私は私の戦車道を貫く……と言うか、其れが出来なきゃ何も出来ないからね。

 

 

私は私の戦車道で勝つ!――そして優勝するから!!

 

 

 

 

「その意気や良し!頑張って来なさい。」

 

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

 

 

 

なはは……青子さん達も私と一緒に頭下げちゃったか――だけど、此れもチームワークが抜群の証と言えばそうだから、悪い事じゃない。

 

さぁ、最高の決勝戦を戦おうかエリカさん、小梅さん!!絶対に優勝は譲らないかからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

こうしてこうして、それで、このボタンを押してメール送信完了と……普段はあまりやらないから、少し疲れたが、此れ位はしても良い筈だ。

 

 

 

 

「まほ?貴女がスマホと弄ってるのは珍しいわ……何処かに連絡してたの?」

 

 

「其れで正解だ凛。

 

 みほとエリカと小梅に激励のメールを送ったんだよ。」

 

 

試合其の物を見る事は出来ないが、激励のメール位は送っても罰は当たらない筈だ――何よりも、此の決勝戦は、中学戦車道史上に残る戦いになるのは間違いないだろうからな。

 

 

それこそどちらが勝ってもおかしくない試合になるだろう――だから頑張れみほ、エリカ、小梅。

 

 

どんな結果になっても悔いがない様に戦え――其れが、一番大切な事だからね。

 

 

尤もそんな事は分かり切ってるだろうから、今更私が言う事でもないかも知れないがな――一体どんな決勝戦になるのか、ワクワクして来たよ――見せて貰うぞ、お前達の戦車道と言う物をな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer57『最高の決勝戦開始です!』

いよいよ来たね、此の舞台が!Byみほ      最高の舞台にしましょう!Byエリカ      龍虎相対するですね♪By小梅


Side:みほ

 

 

 

決勝戦前夜って言うのは、やっぱり興奮してなかなか寝付けるモノじゃないね。

 

相手がソコソコの実力者なら兎も角、エリカさんが隊長で、小梅さんが副隊長の黒森峰は、去年の決勝で戦った、安斎さん率いる愛和学院よりも上なのは間違いないから、気持ちも昂って来るってモノだよ。

 

 

 

 

「如何したみほ、眠れねぇのか?」

 

 

「青子さん……うん、ちょっとね。」

 

 

昨日から私の家に来てる隊長チームの面々は、なし崩し的に今日も泊って行く事になって、明日の朝に菊代さんの操縦するヘリで私と一緒に会場入りする予定になってたりするんだよ此れが。

 

まぁ、そのお陰で今日は、1日皆と一緒に過ごす事が出来て楽しかったし、

 

 

 

 

「若しかして、気持ちが昂ってるとかか?」

 

 

「正解。」

 

 

明日の決勝戦が、中学3年間で一番楽しい試合になるのは間違いないと思うんだけど、其れだけに興奮して目が冴えちゃって眠る事が出来なくなっちゃったみたいなんだ――まぁ、そう言っても、確実に脳味噌はどっかで寝てるんだけどね。

 

 

 

 

「まさかとは思うが、ビビってる訳じゃねぇよなみほ?」

 

 

「其れは違うよ青子さん。

 

 ……決勝戦が楽しみ過ぎて眠れないんだよ――遠足が楽しみで眠れなくなる小学生と同じだと思ってくれると、分かり易いかも。」

 

 

「あ、そりゃ分かり易いわ。

 

 大丈夫!お前等なら、勝てるさみほ!!アタシ達をお前が指揮するんだ、あの銀髪が率いる黒森峰が相手だって負ける筈がねぇ!

 

 勝って、優勝旗を持ち帰ろうぜみほ!」

 

 

 

 

うん、そうだね青子さん!

 

私の持てる力の全てを、明日の決勝戦に注ぐ!!――絶対に負けないからね、エリカさん、小梅さん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer57

 

『最高の決勝戦開始です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。中学戦車道全国大会の決勝戦。

 

同じ日に、高校戦車道の全国大会決勝戦も行われるって言うのに、可成りの観客が会場に詰め掛けてるみたいだね?――中学戦車道ってそれ程ファンに注目はされてなかったと思うんだけど、このお客さんの入りは一体……

 

 

 

 

「最新の『週刊戦車道』のせいでしょうね。

 

 特集として、中学戦車道の決勝戦に触れてるんだけど、ちょっと読んでみなさい。」

 

 

 

 

週刊戦車道がですかナオミさん?……ドレドレ……

 

 

 

 

『今年の中学校戦車道全国大会の決勝戦は、これまでにない最高の組み合わせと言っても良いかも知れない。

 

 隻腕の軍神こと西住みほが率いる明光大付属中学校は、嘗ての弱小校の面影はなく、今や押しも押されぬ強豪校の一角となっている。

 

 対する孤高の銀狼こと逸見エリカが率いる新生黒森峰は、伝統を捨て泥臭く勝ちをもぎ取る戦いで、下馬評を覆し決勝に駒を進めて来た。

 

 加えて明光大副隊長の澤梓と、黒森峰副隊長の赤星小梅の実力も隊長に引けを取らないと言える程であり、決勝は激戦必至である。

 

 それだけに、今大会の決勝戦は、中学戦車道史に残る戦いになるのは間違いないだろう。』

 

 

 

 

此れはまた、何とも大袈裟な記事だけど、あながちこれは否定できない気がするかな?

 

エリカさんが率いて、小梅さんがサポートに回ってる今年の黒森峰には隙がない――お姉ちゃんが隊長を務めていた時のような圧倒的な強さはないけれど、エリカさん率いる黒森峰には、エリカさんが中心になりつつも、夫々の戦車長が、隊長の命令がなくとも自分の判断で動く事が出来るようになってる……だから、強いんだよね。

 

加えて、副隊長の小梅さんの実力も可成りの物だから、エリカさんと小梅さんの2人を同時に相手する事態になったら、可也苦戦する事になるのは間違いないだろうね。

 

 

 

 

「苦戦するとは言っても、勝てないとは言わないのよね、みほさんは。」

 

 

「ある偉大なるプロレスラーは言いました。『試合やる前から、負ける事考える奴が居るかバカヤロー!』と。」

 

 

「ま、言ってる事は正しいわな。」

 

 

「でしょ?……それにしても、なんか私が注目されてる様な気がするんだけど?

 

 此れは、週刊戦車道の記事のせいだけじゃないよね?」

 

 

「いや、原因は貴女のお供でしょう?」

 

 

 

 

お供って……ロンメルとアンドリューの事?

 

2人ともとっても良い子だから、何も問題は起こしてないし、私が注目されてる事の理由にはならない気がするんだけど……違うのかなぁ?

 

 

 

 

『キュ?』

 

 

『ガウ?』

 

 

 

「飼い主もお供も揃って首傾げんなって。

 

 問題起こしたとかそう言う事じゃなくて、何処の世界に狐と虎をお供に連れてる女子中学生が存在してんだって話だよ!しかも、言っちゃ悪いが、みほは片腕だから如何しても人には見られるし、其れ抜きにしても顔が可愛いからつい視線が向くだろ。

 

 そんだけ見られる要素がある所に、更に虎と狐をお供に付けてみろ!普通の感覚持ってる人間だったら、間違いなく見ちまうだろうが!!」

 

 

 

 

そう言うモノなのかな?

 

何て言うか、此の子達と一緒に居るのが普通になっちゃってるから、そんなに注目しなくてもって思っちゃうんだよ……感覚的には、愛犬連れて歩いてるのと大差ないから。

 

 

 

 

「流石はみほ、大した度胸だわ。

 

 其れは其れとして、さっきの3人揃っての首傾げがめっちゃ可愛かったから、写真をSNSにアップしとこうかしら?『美女と野獣』って題で。」

 

 

「其れはちょっと恥ずかしいよナオミさん!」

 

 

「良いじゃない?週刊戦車道で、顔は全国的に知られてるんだから今更でしょう?」

 

 

「かも知れないけど、SNSは流石にちょっと恥ずかしいと言うか……って、言ってる傍から投稿してるし!!」

 

 

も~~~……後でエリカさん辺りから、なんか言われそうだなぁ。

 

って言うか、其れよりもお姉ちゃんがこの画像を速攻で保存しそうな気がする。気がするよりも、間違いなくする。前に体育祭で取って貰った写真を見せたら、『私のスマホに送ってくれないか?』って言ってたしねぇ……まぁ、其れだけ大事に思われてるって事だよね。

 

 

それじゃあ、恒例の試合前の腹ごしらえと行きましょう!

 

 

 

 

「そう来ると思って既に買っておきました西住隊長!

 

 屋台の定番の焼きそばとタコ焼きとソーセージ。其れとこっちはロンメルとアンドリュー用に作って貰った塩やタレを付けてない焼き鳥です。」

 

 

「おぉ、気が利くね梓ちゃん♪」

 

 

タコ焼きも焼きそばも美味しそう!其れに此のソーセージ、よく有るフランクフルトじゃなくて粗挽きの本格的なやつだね?ケチャップは付けずに、粗挽きマスタードだけを付けて来たのは高得点だよ梓ちゃん♪

 

 

 

 

「クロエが教えてくれたんです。『本場ではケチャップは付けなイ。付けるのはマスタードだけだヨ。』って。」

 

 

「ケチャップの酸味と甘みはソーセージの味を殺すからネ。風味を際立たせる粒マスタードだけを付けて食べるのが正しい流儀なんデス。」

 

 

 

 

流石ドイツハーフのクロエちゃんは、その辺の拘りが素晴らしいね。

 

それじゃあ早速、いただきまーす!……って、アレは――エリカさんと小梅さんとツェスカちゃん?……此れは、思わぬ鉢合わせだね。

 

 

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

何時もなら、『賑やかね』って言ってくるエリカさんだけど、今日は何も言わずに私と視線を合わせるだけで、行っちゃった――小梅さんとツェスカちゃんは、去り際に軽く会釈だけしてくれたけど。

 

 

でも、私は不快にも思わないよエリカさん?

 

試合の前に、余計な言葉を交わす事はないって言う事だと思うから――そう言うのは、私も嫌いじゃないよエリカさん。だから、全力を出して、出し切って戦おうね!

 

 

 

 

「あの銀髪と天パ……良いオーラ出してんじゃねぇか!相手にとって不足はねぇ!!」

 

 

「ツェスカも、やる気充分でしたよ!――だからこそ、絶対に負けたくない!其れよりも勝ちたいです西住隊長!!」

 

 

「勿論、勝つ心算だよ私は。」

 

 

同学年では間違いなく最強のライバルであるエリカさんと小梅さんには、私だって負けたくないし勝ちたい。

 

特にエリカさんには一昨年の準決勝で撃破されてるだけにね……公式戦での記録は1勝1敗だから、此の試合で決着を付けて見せるよ!!

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「軍神招来キタコレ!」

 

 

「今日は『上杉謙信』……毘沙門天の化身を自称する武将が来たなら勝てるわね。」

 

 

「優勝旗を、再び持ち帰りましょうみほさん!!」

 

 

 

 

言われなくてもその心算だよ!――此の試合、絶対に勝つからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

みほ達の所は、相変わらず試合前だって言うのにリラックスしてたわね?まぁ、それは黒森峰も同じかも知れないけれど。

 

でも、一瞬だけ交錯した視線で分かったのだけど、みほはリラックスしながらも、瞳の奥には既に闘気の炎が燃え上がっていた……伊達に隻腕の軍神と呼ばれてる訳じゃないって、改めて実感したわ。

 

あれ程の戦車乗りと決勝戦って言う最高の舞台で戦う事が出来るなんて、この幸福には主に感謝すべきだわ。

 

 

 

 

「あれ?エリカさんてカトリックでしたっけ?」

 

 

「んな訳ないでしょ?てか、どっちかって言うと無神論者よ私は。

 

 ――そんな私でも神に感謝したくなる位の最高の舞台だって言う事なの、此の決勝戦はね。

 

 今や押しも押されぬ中学戦車道最強の西住みほと決勝戦で戦える……中学戦車乗りにとって、これ以上の相手は居ないでしょう?」

 

 

「其れは確かにそうですね?

 

 ……でも、だったら何でさっきみほさんに一言かけなかったんですか?エリカさんなら、何か一言言うと思ったんですけど?」

 

 

 

 

言おうと思ったわよ。

 

だけど、試合前に両校の隊長が親しげに話していたら、良識あるマスコミは兎も角、ゴシップ系のマスコミは如何思うかしら?話の内容なんてそっちのけで、どんな結果になろうとも、『口裏合わせ』が有ったって記事を書きかねないじゃない?

 

互いに全力を出した試合結果に『八百長疑惑』を持ち込まれたくないのよ――だから、視線を合わせるだけにしておいたの。其れだけでも、みほには伝わったと思うからね。

 

 

 

 

「成程、其処まで考えてたんですねエリカさん。

 

 確かに試合前に談笑してる所を写真に撮られたら、どんなゴシップ記事書かれるか分かった物じゃありませんから用心するに越した事は、ありませんよね……それ以前に、捏造記事を書くって言うのは如何なんでしょうか?」

 

 

 

 

ゴシップ誌の連中にとっては、真実がどうであるか何てどうでも良い事なのよ小梅。

 

アイツ等は、単純に本が売れれば其れで良いんだから――火のない所に煙は立たぬって言うけど、アイツ等の場合は燃えそうな物を見つけたから火をつけるって感じでしょ?

 

あらぬ事を書かれるのは本意じゃないし、ありもしない事を書かれたら、何方が勝つにしてもその勝利を手放しで喜ぶ事は出来ない……そんなのはつまらないでしょう?

 

 

私個人としては、決勝前にみほと話したかったけど、ゴシップ詩にネタ提供する位なら、其れは止めておいた方が良いって思ったのよ。

 

……尤も、みほが連れて来てた虎と狐が、それ以上のインパクトを生み出してた可能性も否定しないけど。

 

 

 

 

「確かにみほさんの虎と狐は途轍もないインパクトでした。

 

 狐だけなら兎も角、金色の体毛に黒の縞模様が入った虎は迫力充分でしたよ――其れを、みほさんみたいな美少女が連れているんですから、注目度は高いと思います!!」

 

 

「そっちがクローズアップされてくれればいいんだけど、そうならなかった事を考えると、試合前に話す事は憚られる訳よ。」

 

 

でも、其れが逆に良かったんじゃないかって今は思ってるわ……一瞬だけ交錯したみほの視線からは、一流の戦車乗りだけが発する事の出来る力を感じたもの。

 

あの視線だけで、私の闘気は覚醒させられたわ。――貴女もでしょう、小梅?

 

 

 

 

「はい、其の通りですエリカさん。自分でも分かる位に、昂ってますから。」

 

 

「矢張りね。」

 

 

此れも全ては、みほが最高の試合にしたいって思った結果なんだろうけど、私と小梅の闘気を覚醒させたのは拙かったわね?何よりも、私達だけじゃなく、ツェスカも澤の闘気を感じてやる気は充分ですもの。

 

此れだけの戦力が揃ってるなら、負ける事は無いって思ってるわ。

 

 

 

 

「ですねぇ~~~。

 

 ところでエリカさん、私達も試合前に腹ごしらえしません?なんだか、気持ちが昂って来たらお腹減っちゃって♪」

 

 

「小梅……貴女少し緊張感って言うモノをね……」

 

 

「逸見隊長、私も何か食べたいです。」

 

 

「ツェスカ、アンタもか……」

 

 

まぁ、良いわ。確かに小腹も減ってるし、何か食べましょう。『腹が減っては戦は出来ぬ』って言うしね。

 

でも、タコ焼きだけは除外するわよ?此処に出てる屋台で、みほの揚げタコ焼き以上の物は無いと思うから。――だから、どうして其れをメニューとしてチョイスしたのか分からないけど、ドイツのB級グルメって言われてる『カリーヴルスト』にしましょう。

 

 

 

 

「「賛成です♪」」

 

 

 

 

此れを食べたら、試合前に最後の点検をしておかないとね……みほが相手なら、万全以上の万全でも行き過ぎって言う事はないんだから。

 

因みに、この屋台のカリーヴルストは中々の味だったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

第61回全国中学校戦車道大会の決勝戦は、遂に試合の時間となった。

 

試合前の礼を前に、両校とも隊長が審判団の前に現れ、そのずっと後方に夫々のチームの隊員達が戦車と共に整列している……戦車道の試合に於いて、最も静かであるのが試合前だと言えるだろう。(それでも、静かなだけでこの場には両校の選手から発せられる闘気で満ちて

 

居るのだが……)

 

 

 

「此の最高の舞台で、貴女と戦う事を楽しみにしていた――此処まで勝ち上がって来てくれた事に、礼を言うわ。」

 

 

「其れは、私もですエリカさん。」

 

 

 

そんな中で、先に口を開いたのはエリカだ。

 

試合前は妙な噂を立てられるのを嫌い、声を掛けなかったが、試合直前の礼の場ならばその限りではないと思いみほに話しかけたのだ。

 

みほもまた、それに応じ、そして右手を差し出す。試合前の握手と言う奴だ。

 

 

 

「最高の試合にしましょう、エリカさん。」

 

 

「貴女達が相手なら、最高の試合にしかならないわ。」

 

 

 

差し出された右手を握り返し、ガッチリと握手。

 

互いに笑みを浮かべつつ、目付きは戦車乗り特有の鋭い光を宿し、同時に内に秘めている闘気に火が点き、身に纏う雰囲気が一変する。

 

後はもう、戦うだけだ。

 

 

 

「其れでは此れより、決勝戦、明光大付属中学校と黒森峰女学院の試合を始めます。互いに、礼!!」

 

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

 

この礼が合図となり、試合会場の熱は一気に急上昇!此の試合が、大盛り上がりになるのは間違いないだろう。

 

そして、その熱気に後押しされるように、オーロラヴィジョンと両校の戦車長の携帯端末に両校のオーダーが表示される。

 

 

 

 

明光大付属中学校

 

 

・ティーガーⅡ×1(隊長車兼フラッグ車)

 

・ティーガーⅠ×3(内パールホワイトカラーリングは副隊長車)

 

・パンターG型×4

 

・Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)×2

 

 

 

 

明光大のオーダーは、重戦車と中戦車が4輌ずつに、傑作と名高い突撃砲であるⅢ突が2輌と言うバランスの取れた編成であり、隊長車が

 

ティーガーⅡになっている以外は、今大会で良く使われたオーダーと言えるだろう。(2回戦のみ、Ⅲ号戦車J型改を2輌使用している。)

 

此れに対し……

 

 

 

 

黒森峰女学院

 

 

・ティーガーⅠ×4(内ナンバー123号は隊長車兼フラッグ車)

 

・パンターG型×4

 

・Ⅳ号駆逐戦車/70(V)×2

 

 

 

 

黒森峰もまた重戦車4輌に中戦車4輌に回転砲塔のない突撃砲または自走砲と呼ばれるⅣ号駆逐戦車/70(V)(以下ラングと表記)の編成。

 

単純に見るならば同じような構成だが、ティーガーⅠとパンターは兎も角として、黒森峰が、エリカがラングを使用して来た事に、観客とみほは驚いていた。

 

 

黒森峰の充実した戦車軍ならば、自走砲にしても、ヤークトティーガーやエレファント、そして最強の自走砲と名高いヤークトパンターを出して来るのが普通であり、実際に準決勝までは、自走砲はヤークトパンターをメインに使っていたのだ。

 

其れが決勝戦でラングの使用と言うのが、結構衝撃的だったのだ。

 

 

 

 

「……成程、そう言う事だねエリカさん。」

 

 

 

だが、みほだけはエリカの真意を読み取ったらしく、口元に薄い笑みを浮かべている。まるで『上等だ、受けて立つ』と言わんばかりに。

 

 

 

「そう言う事って、どう言うこったみほ?」

 

 

「簡単だよ青子さん。

 

 エリカさんは敢えて戦車の性能的有利を捨てて、私達と略同性能の戦車で構成して来たんだよ――自走砲を使ってくるなら、ヤークトパンターが出て来ると思ったんだけど、此れは完全に意表を突かれたなぁ。」

 

 

 

意表を突かれたとは言いながらも、みほは何処か楽しげだ。

 

其れは、この構成の裏に隠されたエリカの思いが――『略同格の戦力で戦って勝たなければ意味がない』と言う真意が見えたからであり、其処にエリカの戦車乗りとしての誇りを見たからだ。

 

 

圧倒的な戦力を持って勝つのは当然だが、本当の勝利とは同等の戦力か、或いは劣る戦力で勝ってこそと言えるだろう。

 

だからエリカは、戦車の性能的有利を捨て、略同性能の性能を持つ戦車の部隊構成で決勝戦に挑んで来たのである。全ては、みほに完勝する為にだ。

 

 

其れがみほには嬉しかった。

 

勝負は正々堂々。当たり前の事だが、明光大の戦車の性能に合わせてくれた、エリカの武士道精神が途轍もなく嬉しかった。――実際にはエリカは、みほの意表を突ければと思って考えた構成だと言うのは無粋だろうが。

 

 

しかし、そうであるのならば其れに応えないのは、戦車乗りとして不義理が過ぎるだろう。

 

だから、みほは精神を集中し、持てる力の全てを引き出さんとする。

 

 

 

同時に黒森峰の陣営でも、ティーガーⅠに乗り込んだエリカが、目を瞑って精神を集中し、己の潜在能力を引き出さんとしている。

 

 

 

そして……

 

 

 

 

『試合開始!!』

 

 

「「Panzer Vor!!」」

 

 

 

試合開始と同時に、みほとエリカは部隊に号令を下す。

 

その号令を受けた両校の戦車は、エンジン音を唸らせながら前進を開始し、明光大は稜線を取りに、黒森峰は稜線近くの茂みを目指して進んで行く――如何やらみほは、定石通りに稜線を取りに行き、逆にエリカは稜線を取りに行く明光大を茂みで待ち伏せる作戦のようだ。

 

 

 

「(稜線を取れば有利になるけど、そう簡単に取らせてはくれないよねエリカさんは。……と言う事は、待ち伏せか電撃戦の二択かな…?)」

 

 

「(此れで潰す事が出来れば御の字だけど、みほなら多少は手こずっても稜線を取る筈……兎に角、ファーストアタックは大事ね。)」

 

 

 

試合開始直後から、みほとエリカは相手の動きを予測し、その上で作戦を頭の中で構築して行く。

 

後に『中学戦車道史上最高の試合』を称される事になる戦いは、今此処に幕を開けたのであった。

 

 

 

「(行くよ、エリカさん!!!)」

 

 

「(全力で行くわよ、みほ!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued…

 

 



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Panzer58『決勝戦は序盤から白熱してます』

本気で行くわよみほ!Byエリカ      受けて立ちます!エリカさん!Byみほ      頂上決戦開始ですね!By小梅


Side:みほ

 

 

 

黒森峰のオーダーは、ちょっと意外だったかな?

 

私は、エリカさんなら攻撃力重視で、強力な重戦車部隊を持って来ると思ったんだけど、蓋を開けてみれば重戦車は4輌で、他は中戦車のパンターが4輌で、あと2輌はラング……多少の差はあるけれど、此れはどう見ても私達に戦力を合わせて来たのは間違いない。

 

 

そうでないと、ヤークトパンターよりも性能で劣るラングを投入した説明がつかないからね。

 

此れは完全に予想を外された形だなぁ……

 

 

「でも、だからこそ燃えて来るんだけどね?戦車の性能差が殆どないなら、カギとなるのは戦略と戦術だから。」

 

 

「だな。

 

 つかマジ燃えてるよなみほ。

 

 試合開始直後から、行き成り鬼神状態かって位にオーラが溢れ出してたからなぁ?……其れこそ、戦車乗りじゃない奴が喰らったらKO必至のオーラだったからな。」

 

 

 

 

そんなに凄いオーラ出てた?まぁ、エリカさんも小梅さんも、前とは比べ物にならない位に強くなってるから私のオーラでKOされる事はないと思うんだけど。

 

何れにしても、先ずは予定通りに稜線を取りに行こうか?

 

当然黒森峰だって稜線を簡単には取らせてくれないと思うので、進行中に強襲してくる可能性は充分にあります――ティーガーを外側に、パンターとⅢ突を内側に配置する形で進んで行きましょう。

 

 

 

 

『『『『『『『『『了解。』』』』』』』』』

 

 

 

 

何もなければ、あと10分くらいで目的地に到着できるかな。

 

試合は始まったばかりだけど、だからこそ序盤で戦果を挙げて波に乗りたい所……さて、先ずは決勝戦の第一幕を始めるとしましょう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer58

 

『決勝戦は序盤から白熱してます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

みほ達、明光大の部隊は、稜線を目指して進行を続け、やがて目標となる稜線のふもとに近付いて来た。

 

此処までは何もなく来る事が出来たのだが、だからこそみほは警戒を強めていた。――余りにも順調過ぎるのだ。此れまでのルート上には、戦車が隠れられそうな茂みや、小規模な林が幾つか存在しており、其処を通る時は突然の襲撃に警戒しながら進んで来た。

 

だが、此処に至るまで、そう言った事が一切なかったのだ。

 

 

 

「西住隊長、なんかアッサリ稜線取れそうですよ?」

 

 

「ん~~~……このまま行くと、そうなりそうだねぇ?

 

 でも、まだ取った訳じゃないから警戒は怠らない様にね梓ちゃん。」

 

 

「はい、了解です!」

 

 

「(エリカさんにしては大人しすぎるし、此方が有利になる状況をみすみす作り出すとも思えないんだよね?…一体何を狙ってるんだろう?)」

 

 

 

無論、簡単に稜線を取る事が出来るのに越した事はない。稜線を取れば、上からの攻撃が可能になり、下から撃ってくる相手に対してのアドバンテージは可成りな物なのである。

 

そんな事は、みほは勿論、戦車道に身を置く者ならば分かり切って居る事であり、当然エリカと小梅も熟知している事だ。だからこそ、此処まで順調に進軍出来た事が不可解でならない。

 

 

此れがもし、準決勝のつくばガーディアンの様に、超長距離砲撃が可能な戦車を、黒森峰が使っているのならば『敢えて稜線を取らせておいて、其処を超長距離砲撃で仕留める』と言う戦術もあるだろうが、黒森峰のオーダーにそんな戦車はない。

 

其れ以前に、最大射程がティーガーⅠの黒森峰では、ティーガーⅡを運用している明光大の射程外から攻撃する事は不可能なのである。

 

 

 

「(考えられる作戦は2択……もうすぐ差し掛かる、稜線直前の最期の小規模林に潜んでの待ち伏せか、此れまで通り過ぎた茂みや林に隠

 

  れていて、後から強襲する不意打ち。)」

 

 

 

それ等の状況を踏まえて、みほは考える。

 

車長専任免許を取るために学んだ、古今東西ありとあらゆる戦術の中から、この状況で考えられる戦術を割り出して、どんな攻撃を仕掛けて来るかを予測し、対抗策を考える。

 

 

 

「(或は……よし!)もうすぐ稜線のふもとに到着しますが、その直前の小規模林に黒森峰の部隊が隠れている可能性があります。

 

 全車、左手と後方に注意しながら進んで下さい。

 

 其れから、後方の副隊長車と右舷のティーガーⅠは、砲塔を後ろに向けて、背後からの強襲にも備えておいてください。」

 

 

『『『『『『『『『了解!』』』』』』』』』

 

 

 

その考えが纏まったのだろう。

 

みほは全車に通達を終えると、其のまま一気に進軍し、序盤の攻防の始まりを告げるであろう小規模林の側面に到達し――その瞬間に、其れは来た。

 

 

 

――ドォォォォォォォン!!

 

 

 

小規模林から砲撃が放たれ、明光大の部隊を襲ったのだ。

 

幸いにも、その砲撃が明光大の戦車に直撃する事は無かったが、その砲撃を皮切りに、連射砲とでも言うべき砲撃が小規模林から放たれ、明光大の部隊を蹂躙せんとする。

 

 

無論明光大とて負けてはおらず、パンターとⅢ突は持ち前の回避力の高さで其れを避け、ティーガーⅡとティーガーⅠは回避能力+高い防御力で其れを凌ぎ、反撃を行う。

 

 

 

「撃て!!」

 

 

「姿を現して貰おうかしら?」

 

 

 

中でも、みほの乗るティーガーⅡは、決勝戦に出場している戦車の中で最強の攻撃力を誇る戦車であり、超長砲身から放たれる88mm砲弾は、小規模林の樹木を薙ぎ倒しながら、黒森峰の部隊を襲う。

 

尤も、樹木を圧し折って進む過程で威力は減衰しているので、当たった所で決定打にはならないのだが、しかしティーガーⅡの攻撃によって樹木は圧し折られ、潜んでいた黒森峰の部隊が姿を現す事になった。

 

 

 

「もっと早い段階で仕掛けて来るかと思ったんだけど……部隊編成に続いて、意外だったよエリカさん。」

 

 

「早い段階で仕掛けるのは、絶対に読まれると思ったから、敢えてギリギリまで仕掛けなかったのよ――其れでも、こうして対処しちゃうんだから大したものと言わざるを得ないけれどね。――でも、待ち伏せだけじゃないわ!!」

 

 

 

姿が顕わになった黒森峰の部隊……エリカは、みほの能力に改めて賛辞を送りつつ、しかしその口元の笑みは消えてはいなかった。

 

 

 

「頼むわよ小梅!!」

 

 

『お任せ下さい、エリカさん!』

 

 

 

直後、明光大の部隊はエリカ率いる部隊とは、別の攻撃を受ける事になった。

 

其れは言わずもがな、黒森峰の副隊長である赤星小梅が率いる別動隊だ。――待ち伏せと別動隊による波状攻撃は、みほも可能性の1つとして考えていた。

 

 

しかし、小梅が現れたのは、みほの予想外の場所からだった。

 

みほは、『此れまで通り過ぎた林や茂みに隠れていた部隊が後方から仕掛けて来る』と予測していたのだが、何と小梅の部隊は明光大の右舷から現れて攻撃して来たのだ。

 

 

 

「右舷から!?……まさか、小梅さんの部隊はスタート地点から大回りして、私達に気付かれない様に側面を取りに来てたって言うの!?

 

 ……これは、完全にやられたね――だけど、挟み撃ちにされて負けるような明光大じゃない!」

 

 

 

完全に予想外だった攻撃にみほは驚くも、すぐさま気を取り直して部隊を立て直す。

 

みほ自身は、ティーガーⅠ1輌とパンター2輌、Ⅲ突1輌をお供にエリカの部隊と交戦し、副隊長の梓もまた同様の戦力を持って小梅の部隊と交戦し、序盤の攻防は何方も退かない苛烈な戦車戦が展開される形となった。

 

 

 

「勝負よアズサ!!」

 

 

「ごめんツェスカ、今はまだその時じゃないから。また後で!」

 

 

 

そんな中で、ツェスカが梓に勝負を挑んだが、梓は『今は受けるべきではない』と判断して、ツェスカとの交戦を回避――如何にライバルとの戦いが楽しみとは言っても、其れだけに固執したらチームの為にならないと考えたのだろう。この梓の考えは正しかったと言えるだろう。

 

 

其れは其れとして、現在の状況がどちらが有利かと言えば、其れは間違いなく黒森峰だ。

 

如何に明光大の回避能力が高いと言っても、挟撃を受けては、持ち前の回避能力で避け続けるのにも限度がある……一方向からならば兎も角、左右から挟まれた状態では尚更だ。

 

 

普通なら、此処でゲームエンドだが、みほが相手な場合に限ってはそうは問屋が卸さない。

 

 

 

「全車『爆音モクモク作戦』を開始して下さい!!」

 

 

 

だから、みほがそう命じた次の瞬間……

 

 

 

 

――ブシュッゥゥゥゥゥ!!

 

 

――ズギャァァァァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

 

「んな、此れは!!」

 

 

「スモークと爆音のダブル攻撃!?」

 

 

 

視界を覆うスモークと、戦車砲とは異なる爆音が発生し、黒森峰の部隊は攻撃の手が止まってしまった。

 

エリカも小梅も、此れまでの明光大の戦い方から、閃光弾とスモーク弾の対策はしていたのだが、此処に来て音響弾が来るのは完全な予想外だった。

 

だから、普段戦車砲で大きな音には慣れている筈なのに、普段聞かない類いの爆音に虚を突かれ、攻撃の手が止まってしまったのだ。

 

序に、キューポラから上半身を出していた、車長ポジションの者には一時的な耳鳴りまで発生するおまけつきである。

 

 

 

「効果あり……この機に一気に稜線を上ります!!」

 

 

 

そして、この機を逃すみほではない。

 

黒森峰の攻撃の手が緩んだを確認すると、部隊を一気に進めて丘の頂上を目指す。――視界は兎も角、エリカ達が正常な聴覚を取り戻すまでに、稜線を抑える事は出来るだろう。

 

明光大の隊員は、作戦開始と同時に車内に引っ込んだので無事であり、みほ自身も耳栓をしていたので聴覚は問題ないのだ。

 

 

逆に黒森峰は、閃光対策としてサングラスを、煙幕対策としてサーモグラフィーを用意していたのだが、視覚以上に耳を潰しに来るとは思って居なかったので、明光大の音響攻撃には完全にやられていた。

 

 

聴覚と言うのは、戦いに於いて視覚の次に大事な要素である。それが、一時的に役に立たなくなったと言うのは、黒森峰にとっては、痛手以外の何者でもないだろう。

 

 

現に、スモークが晴れ、聴覚が効くようになった時には、明光大の部隊は稜線を抑えていたのだから。

 

 

 

「視覚だけじゃなく、聴覚まで奪って稜線を取るとは、見事よみほ……隻腕の軍神の二つ名は伊達じゃないわ!!」

 

 

「流石はみほさんですね……挟撃を受けて尚、部隊を立て直しちゃうんですから、本当にお見事です。

 

 ――でも、本番は此処からです。絶対に逃がしません、みほさん。」

 

 

 

だが、稜線を取られてもエリカと小梅は冷静だった。

 

2人共、みほならば確実に稜線を取りに来るだろうと予測し、最初から『稜線は取られる』事を前提にして作戦を立てて居たのだ。故に、其処からの部隊展開も素早い。

 

 

 

「黒森峰の部隊が散開していく?隊長、此れは……!」

 

 

「流石はエリカさんと小梅さんだって言うべきかな?稜線を取られたのならば、逆に稜線を取った事が有利に働かないようにすればいい。

 

 下から上に攻撃する場合は、停止射撃が基本で部隊をある程度纏めて行うのが基本だけど、常に動いて攻撃すれば、命中率こそ下がる物の、動けるスペースが限られてる稜線上の相手にはプレッシャーになる。

 

 加えて、動ける場所が限られてる稜線上の戦車では、広く展開して動いてる相手を狙うのは難しいからね。」

 

 

 

黒森峰の部隊は、稜線を取り囲むように散開し、更に足を止めずに行間射撃でもって明光大の部隊を攻撃して来たのだ。

 

行間射撃で、しかも下から上に向かって攻撃するせいで命中率こそ下がるが、代わりにプレッシャーを与える事が出来る。

 

加えて、明光大が動ける範囲が限定されているのに対し、黒森峰が動ける範囲は可成り広く、稜線上からの砲撃を躱すのも、其れ程難易度が高い訳ではないのだ。

 

 

エリカと小梅は見事に、みほに対して『アドバンテージを取らせておいて、其れをディスアドバンテージに変える』と言う事をして見せたのだ。

 

 

有利な状況を取ったと思ったら、其れが有利に働いていないと言うのは、通常あらば由々しき事態であるのだが、そんな状況であるにも関わらず、みほの顔には笑みが浮かんでいた。

 

 

 

「(やるなぁ、エリカさんも小梅さんも……まさか、こう来るとは思わなかったよ。

 

  2人とも一昨年の準決勝で戦った時とはまるで別人――やっぱり、決勝戦はこうでないとね!!)」

 

 

 

みほはエリカと小梅が立てた作戦に、純粋に驚き、そして其れが楽しかった。完全に予想外の展開だったからだ。

 

稜線を取れば序盤のアドバンテージを得られると思っていたみほにとって、稜線を取った事がディスアドバンテージになると言うのは、初めての経験だったのだ。

 

本来ならば、有利な状況を不利な状況に変えてしまったエリカと小梅の作戦は、みほにとっても新鮮だったのである。

 

 

だが、同時に其れはみほの中に眠る『西住の血』を目覚めさせる物でもある。

 

みほは普段は天真爛漫の明るい女の子であるが、其の内には『西住』特有の闘争本能が眠っており、其れが目覚めた際には猛獣の如き攻撃性が表に出て来る。

 

それでいて、冷静な思考は保たれているのだから凄まじいとしか言いようがない。

 

 

 

「コイツは結構厳しいが、如何するよみほ?」

 

 

「こうなった以上、此処に留まるのは得策じゃないから、稜線を捨てて市街地に向かうよ。

 

 なので、全車『ドッカン作戦』を開始して下さい!!」

 

 

 

西住の闘争本能が覚醒したみほは、すぐさま稜線を捨てる選択をし、2年前の準決勝で使った『ドッカン作戦』を展開!

 

普通に撃つのではなく、主砲を上に向けて撃つ事で、砲弾を敵戦車の上から降らす作戦であり、可成り有効な作戦だが、稜線の上から其れを行えば、更に効果は高くなる。

 

相手が動き回ってる事で、命中率は下がるが、真上から落ちて来る砲弾は撃破が目的ではないので問題ない。

 

稜線上から正面切って撃たれるのと、砲弾が真上から降って来るのは別物であり、戦車の上部フラット部分の装甲は薄いために、真上からの攻撃を喰らったら、其れだけで白旗が上がるのは確実。

 

故に、上からの攻撃が始まったら、己の攻撃の手を止めて回避に専念せざるを得ない――そして、其処がみほの狙い目だ。

 

 

 

「今です!一気に稜線を駆け降りて!!」

 

 

 

黒森峰の攻撃が止まった瞬間に、一気に稜線を駆け降りる。

 

無論この間も、ドッカン作戦は展開しており、黒森峰の攻撃の手を止める事を忘れていない――にも拘らず、エリカ車と小梅車、ツェスカ車だけは、回避しながらも行間射撃で攻撃をして来た。

 

 

回避行動をしながらの行間射撃なので精度は低いが、それでも明光大の部隊にとっては嫌な物だろう。命中率が低いとは言え、どんな幸運打が有るか分からないのだから。

 

 

 

――ドォォォォン!!

 

 

――ドガァァァァァン!!

 

 

 

――キュポン×2

 

 

 

『明光大、Ⅲ突1号車、Ⅲ突2号車行動不能。』

 

 

 

そして、其れは起きてしまった。

 

エリカと小梅の乗るティーガーⅠが、明光大のⅢ突2輌を撃破したのだ。

 

此れは、明光大にとっては結構痛手だ。火力で言うのならば同じ75mmでもパンターの方が上だが、Ⅲ突には極端に低い車高を利用した待ち伏せが出来る――此れから市街地戦を考えていたみほにとって、Ⅲ突の離脱は大打撃だろう。

 

 

 

「Ⅲ突が……でも、只ではやられないんだよね?」

 

 

『当然!直前にシュルツェンパージして、ラングの履帯を切ってやったわ!』

 

 

 

しかし、Ⅲ突は撃破される直前にシュルツェンをパージして其れを飛ばし、ラングの履帯を切っていたのだ。

 

撃破されても只ではやられぬ。Ⅲ突は、撃破されても確りと仕事はしていたのである。――尚、履帯を切られたラングに乗っていたのは直下であった。如何やら、彼女には、本当に『履帯が切れる呪い』が掛かって居るのかも知れない。

 

 

何にしても、Ⅲ突2輌を失ったとは言え、明光大は稜線を駆け降り、市街地に一目散に向かって行く。

 

黒森峰もそれを追いたい所だが、ラングの履帯修復の為の時間があり、即座に追撃と言う形をとる事は出来ないで居た……履帯の修復と言うのは、結構時間が掛かる物であり、同時に其れは明光大が市街地に到達するのは確実な物になると言う事だった。

 

 

此れはエリカにとっては有り難くない。

 

市街地戦におけるみほの強さは身に染みて知っているだけに、絶対に市街地にはいかせたくなかったのだが、そうはならなかった――稜線での攻防では、優位に事を薦められたが、2輌を撃破したとは言え、市街地戦と言うアドバンテージをみほに与えてしまったのだ。

 

 

だが、だからと言ってエリカの闘志が萎えるかと言えば其れは否だ。

 

 

 

「上等じゃない……貴女の得意とする市街地戦で、貴女を倒してやるわみほ!全軍、全速で明光大を追うわよ!」

 

 

「いや、ゆっくりでいーよ♪」

 

 

「うっさいわよ!!」

 

 

 

寧ろ闘気を全開にして、明光大を追撃する。

 

その中で、軽口を叩いたⅢ突の椿姫に、黒森峰の略帽を投げつけたのは御愛嬌と言う所だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、稜線から離脱した明光大は、みほ率いる隊長部隊と、梓率いる副隊長部隊の2つに分かれて市街地を目指していた。

 

みほの部隊は最短距離で市街地を目指し、梓の部隊は2番目に速いルートを進んで市街地に向かっている――普通ならば、全軍最短距離を進む所で、何故別々に進んでいるのか?

 

 

其れは――

 

 

 

「それじゃあ、此処は此れで通行止めです!」

 

 

 

「橋の修理中に付き、迂回願いますっと!」

 

 

 

――ドォォォォォン!!

 

 

 

2つのルートを黒森峰に利用させない為だ。

 

最短ルートは去年の決勝戦同様に、木を倒して進路を塞ぎ、2番目に短いルートは、市街地直前にある橋を落として入って来れないようにする。……これで、黒森峰の部隊が市街地に入って来るのを遅らせようと言うのだ。

 

因みに、塞いだルートと、落とした橋の入り口には黄色いヘルメットを被ったSDみほが頭を下げているイラストが入った看板を設置すると言う入念ぶりであった。

 

 

 

そして、みほ達が市街地に入ってから遅れる事5分、黒森峰の部隊は漸く最短ルートでもって市街地に入ろうとしたのだが、其処は倒木で塞がれて通る事が出来なくなっていた。

 

普通ならば迂回を選択するだろう。(去年の決勝でも、安斎千代美は迂回を選択した。)

 

だが、エリカは迂回を選択しなかった。

 

 

 

「邪魔よ……ブチかませ!!」

 

 

 

迷う事無く、看板ごと倒木を戦車砲で吹き飛ばして強引に進軍して行く。ベクトルは違うが、エリカもまたみほと同様に結構常識が通用しない戦車乗りであるらしい。

 

 

 

「大胆ですぇ、エリカさん。――尤も、其れ位じゃないとみほさんに勝つ事は出来ないかも知れませんけれど。」

 

 

「その通りよ小梅。

 

 みほは、此れで私達の進行を遅らせると思ったんだろうけど、そうは行かないわ――あの子のやりそうな事は、合宿のお陰で予想が付く。

 

 此のまま市街地に攻め込んで、みほが態勢を整える前に叩くわよ!」

 

 

「了解です!」

 

 

 

そしてエリカは、みほが最も得意とする市街地戦の舞台に向けて進軍!

 

Ⅲ突2輌を撃破したとは言え、2輌のビハインドは、市街地に入ったみほにとっては有ってないような物であり、逆にみほの主戦場に押し入る黒森峰の方が不利と言っても過言ではない。

 

 

であるにも拘らず、エリカの口元には笑みが浮かんでいる。

 

 

 

「(貴女が最も得意とする市街地戦……其れで私達が勝ったら、最高にショッキングよね?――悪いけど、勝たせて貰うわよみほ!)」

 

 

 

エリカの中に眠る獰猛な戦闘本能が、此処で目を覚まし、孤高の銀狼の牙を研ぎ澄ましたのだ。

 

市街地戦は、此れまではみほの独壇場だったが、此の決勝戦に限っては、どうやらその限りでな無くなりそうである――隻腕の軍神と、孤高の銀狼の戦いは、此処からが本番なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

まさか、稜線を取ったにもかかわらず、先手を取られるとは思わなかったよ――序盤で2輌のビハインドを背負う事になっちゃったしね。

 

だけど、市街地に入った以上、今度はこっちのターンだよエリカさん、小梅さん!

 

最短ルートと、準最短ルートは潰したけど、エリカさんならきっと強引にでも最短ルートを通って来る筈――だから、黒森峰が市街地に入ってからが勝負だよ!

 

 

「梓ちゃん、首尾は如何?」

 

 

『上々です西住隊長!全車、配置につきました!』

 

 

 

 

OK!其れで良い、其れがベスト!

 

第一幕では完全にしてやられたけど、この第二幕では、市街地戦ではそうは行かないから覚悟しておいてねエリカさん、小梅さん?――この決勝戦、勝つのは私達明光大付属中学校だよ!

 

 

 

 

『ですね!其れじゃあ行きましょうか、西住隊長!!』

 

 

 

 

そうだね梓ちゃん!

 

決勝戦は此処からが本番だから気合を入れていくよ!!Panzer Vor!!

 

 

 

 

『『『『『『『『『Jawohl Kapitan!!(了解、隊長!!)』』』』』』』』』

 

 

 

さぁ、此処からが決勝戦の本番――お楽しみは此れからだよ!エリカさんも小梅さんも、バッチリついて来てね!!最高の試合を、此の試合を観戦してる人達に見せてあげよう!!

 

 

さぁ、行くよ、エリカさん、小梅さん!!

 

私のフィールドである市街地戦で、私の全力を味わって貰うよ!!――隻腕の軍神と呼ばれる私の力を見せてあげるからね!

 

 

ふふ、此の決勝戦は、思った以上に楽しい物になりそうだね?――だからこそ勝ちたい!勝って真紅の優勝旗を持ち帰りたいんだ……だから、勝たせて貰うよ此の試合!

 

 

とは言っても、エリカさんと小梅さんは簡単に勝てる相手じゃないから、苦戦は必至だけどね。

 

だけど、其れを越えて私は勝って見せる!――さぁ、始めようか、決勝戦の第2幕って言うモノを!お楽しみは、此れからだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer59『一進一退の大激戦の決勝です!』

此れ位は、ジャブでしょエリカさん?Byみほ      此の程度は屁とも感じないわ!本気で来なさい!Byエリカ      この戦いは、激しくなりそうですねBy小梅


 

Side:みほ

 

 

 

私が最も得意とする市街地戦が出来る場所に、黒森峰よりも先に入る事が出来たのは僥倖だね。

 

最短ルートと、準最短ルートは潰して来たから、黒森峰の部隊が到達するにはまだ時間が掛かるだろうから。

 

 

仮にエリカさんが最短ルートに積み上げられた倒木を吹き飛ばして来たとしても、ストレートに最短ルートを通って来るのに比べたら、どうしたって余分な時間が掛かる――だから、黒森峰の部隊が此処に到達するには最低でもあと5分はかかる筈。

 

 

僅か5分、されど5分!5分あれば市街地戦の仕込をするのは充分だからね!

 

 

「各員2輌一組になった上で散開して、市街地に散らばって下さい。

 

 市街地ならば遭遇戦がしやすくなりますので、黒森峰の部隊を発見したら、私に許可を得ずに攻撃しちゃって下さい……私達の戦車道って言う物を、黒森峰の皆さんに教えてあげましょう!!」

 

 

『『『『『『『了解!!』』』』』』』

 

 

 

 

うん、頼もしいね♪

 

残り8輌だから、必然的に4チームに分かれる事になるんだけど、梓ちゃんは独立部隊として私とは別行動をして貰っていいかな?

 

梓ちゃんなら、例え単騎で黒森峰の戦車と遭遇しても、相手がエリカさんや小梅さんでない限りは負ける事はないだろうから、そうであるなら私と梓ちゃんは別行動の方が良いんだよ。

 

そうすれば、本来4組である所を5組にする事が出来る訳だから。

 

 

其れに、こう言う風にすれば、ツェスカちゃんと遭遇した時に一騎打ちも出来るでしょ?

 

 

 

 

「西住隊長……ありがとうございます!!独立部隊としての任、果たして見せます!!」

 

 

「うん、戦果を期待してるよ梓ちゃん♪」

 

 

さて、決勝戦は此処からが本番だよエリカさん、小梅さん!――隻腕の軍神の真髄、たっぷりと味わって貰うよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer59

 

『一進一退の大激戦の決勝です!』[chapter:

 

]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

さてと、市街地に到着した訳なんだけど、異様なまでに静かね?――小学校の時は、市街地に入った途端に電撃戦その物の速攻を受けた挙げ句に、部隊を引っ掻き回されて負けたから、其れを警戒してたんだけど、今回はそうじゃないみたいだわ。

 

市街地での電撃戦を仕掛けて来ないって言う事は、或いは地の利を生かした待ち伏せ戦術かしら?……或は、此方を集団で移動させた上での包囲絨毯砲撃か……予測がつないわね。

 

 

だけど、此処でウダウダ考えたっていい答えが出る筈もないわ――『下手な考え休むに似たり』って言葉もある位だからね。

 

 

 

 

「ですね……でも、一体如何したものでしょうか此れは?

 

 市街地戦はみほさんの十八番であり、同時にみほさんの能力を最大限に発揮する事が出来る、みほさん絶対有利の戦場ですよ?――正直な事を言うと、市街地に入り込んだみほさんを倒せる自信が無いです。」

 

 

「其れは間違ってないわ小梅……市街地戦に於いて、みほは無敵よ――まほさんも『シミュレーター上の事とは言え、市街地戦では一度もみほに勝つ事は出来なかった』って言ってたからね。」

 

 

まず間違いなくみほが相手だと、通常の市街地戦のマニュアルは役に立たない……だから、市街地戦の常識、定石は完全に無視するわ。

 

みほ達が先に入った以上、市街地はみほの手の平って言っても過言じゃない――其れを考えると、此のまま集団でいる方が危険ね?

 

なら此処からは、部隊を散開させて市街地を進むのが上策……此れなら、遭遇戦もやり易くなるし、仮にみほが集団で待ち構えている所と遭遇しても、1~2輌の小隊なら追撃を躱す事も難しくは無いもの。

 

 

「各員散開!諸君らの健闘を望む!!」

 

 

『『『『『『『Jawohl!!』』』』』』』』

 

 

 

 

マッタク持って、頼りになる返事ね……でも、私達ならみほの十八番である市街地戦でも戦う事が出来る。勝つ事だって出来る筈!

 

隊長としてはみほには勝てないかも知れないけれど、黒森峰と明光大って言う大きな括りで見たら分からない――隊長としては、及ばなくても、チームとしては負けないわ!

 

 

そうだ、言い忘れてたけど、ツェスカは単騎で自由に動いてくれていいわよ?貴女は、私が指示するよりも、自分で考えて動いて貰った方が戦果が上がりそうだし、明光大の副隊長の澤と、タイマンで戦いたいんでしょ?

 

 

 

 

「そ、其れはそうですが、良いんですか逸見隊長!?」

 

 

「私と小梅だけライバルとやり合っておいて、貴女がライバルとガチで戦う事が出来なかったなんてのは不公平でしょ?

 

 だから此れで良いのよ。ねぇ、小梅?」

 

 

「うん、そう言う事だから安心して良いよツェスカ。此れはエリカさんと決めた事だから――貴女は貴女のライバルと存分に戦ってきてね?」

 

 

 

 

何よりもライバルとのガチバトルは、勝っても負けても己の糧となる物が大きいし、共に高め合うライバルがいてこそ人は成長できるって、私は信じてるのよ……己の経験からね。

 

指揮官の首は、私と小梅で取るから、副官の首は貴女が取って来なさいツェスカ――貴女の手で、私達の中学最後の試合に華を添えて欲しいのよ。

 

 

 

 

「その心遣いに感謝を!……そして、必ずアズサを倒して見せます!!見てて下さい逸見隊長!赤星副隊長!!」

 

 

 

 

えぇ、戦果を期待してるわツェスカ。……私達が、この選択をしたって事は、みほもまた澤に同じような事を命じているのかもしれないけどね。

 

さてと、貴女には私と一緒に来てもらうわよ小梅?――みほと遭遇した場合、私だけの力じゃ勝てないけど、貴女が一緒なら勝てるから。

 

 

 

 

「最初からその心算ですよエリカさん。

 

 私は黒森峰の副隊長――隊長を補佐する立場の人間ですから、みほさんとの戦いになったら全力で、全力を越えてサポートしますから安心して下さい!1人では無理でも、2人ならみほさんにだって勝てる筈ですから!」

 

 

「其れを聞いて安心したわ小梅!」

 

 

此れは、小梅も完全に火が点いたわね?

 

小梅は普段は大人しいし、戦車道でも副官として冷静に補佐をしてくれるけど、その反面、一度火が点くと誰よりも激しく燃え上がって、戦いが終わるまでその火が消える事はないもの。

 

校内の紅白戦で、隊長チームvs副隊長チームで何度か戦った事があるけど、小梅に火が点いた時には勝つのが難しかった――小梅が同じチームに居た場合の勝率は100%だけど、小梅が相手に居た場合の勝率は50%だったからね。

 

 

この小梅が一緒なら、みほに勝つ事も出来る!

 

さぁ、部隊は整ったわよみほ?――決勝戦第2幕の開演と行きましょうか!!

 

 

第2幕は主役がトリプルキャストの凄い一幕になるのは確定しているわ……私と小梅の戦車道と、貴女の戦車道のどちらが上か、白黒つけ

 

させてもらうわ、みほ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

決勝戦の第2幕である市街地戦だが、此れは奇しくも明光大、黒森峰共に部隊を散開させて市街地を進むと言う異例の展開を見せていた。

 

形としては、市街地での遭遇戦を考えたみほの戦術に対して、エリカが応えたと言う所だが、実のところそんな事は無く、エリカは単純に、集団で固まっている方が危険として部隊を散開させたに過ぎない。

 

 

だが、其れが逆にみほの戦術に対応する布陣となっていた。

 

此れもまた偶然なのだが、明光大の散会した部隊は、黒森峰の部隊を目指して進軍しており、逆に黒森峰の部隊は、進撃する明光大と戦う事を望んでいるかのように進んで行く。

 

 

仕組まれたかのような部隊展開だが、見晴らしの悪い市街地では、マップ上では見敵状態にあっても、実際には互いに相手を確認出来する事が出来ないと言う事もあり、必ずしもマップ上の通りに戦局が動くと言う訳ではない。

 

 

 

「こっちのルートは外れだったなぁ?敵の姿が全然見えない。

 

 Ⅲ突が健在なら、民家の垣根とかに隠れてる可能性もあるけど、Ⅲ突は2輌とも、さっきの稜線の攻防で撃破されてるから待ち伏せてる可能性は低い……だけど、何もないとは思えないんだよなぁ。」

 

 

 

故にラング2輌で構成された小分隊の指揮官である直下は、此処からどう攻めるかを悩んでいた――否、相手が並みの戦車乗りであったのならば迷う事は無かっただろう――黒森峰の戦車道戦術なら、そこそこの相手は火力で押し切る事が出来るのだから。

 

しかし、明光大は其れで如何にか出来る相手ではない。――隊長のみほは西住流の教えを受けている故に、真正面から力で押す戦いも出来るが、みほの真骨頂はあらゆる戦術と戦略を駆使して戦いだ……それを知ってるからこそ、直下は慎重にならざるを得なかったのだ。

 

もしも、此処で読み誤ったら、其れは黒森峰にとって途轍もない打撃となってしまうのは火を見るよりも明らかなのだから。

 

 

だから、直下は慎重になり、周囲をまるで鷹が獲物を狙うかのような鋭い目つきで観察する――エリカや小梅の陰に隠れて、今一つパッとしない直下だが、黒森峰のレギュラーを勝ち取った腕前は伊達ではないのだ。

 

だが、幾ら注意深く周囲を観察しても敵影は見えない。いっその事、ラングの車高の低さを利用して待ち伏せ(ラングもⅢ突並みに車高が低く待ち伏せには適している。)でもしてやろうかと考え、今いる場所を移動しようとしたが――

 

 

 

――ドォォォォォン!!

 

 

 

「んな、敵襲!?」

 

 

 

此処で、明光大からの攻撃を受けた。全く敵影は見当たらなかったのに一体何処から攻撃されたのか?

 

すぐさま直下は、周囲を確認し、そして見つけた――駐車場に止められていた、2台の大型トラックの間からパンターの砲身を。……何とも見事な待ち伏せだった。

 

Ⅲ突よりも遥かに車高の高いパンターで、此処まで気付かれずにいたと言うのは大したモノだろう……尤も、此れには直下が車高が低めのラングに乗っていた事も影響するのだが。

 

もしも直下がパンタークラスの戦車に乗っていたなら、より視点が高くなったために隠れているパンターを発見できたかもしれないが、視点が低いラングでは、隠れているパンターの存在を見つける事が出来なかったのだ。

 

加えて『市街地で、ティーガーとパンターが待ち伏せ戦術を行うのは難しい』と言う先入観から、可能性を排除していたのも痛いだろう。

 

結果として、黒森峰のラング2輌は、明光大のパンター2輌を相手にしなくてはならなくなったのだから。

 

 

ラングもパンターも、主砲は超長砲身の75mm砲で攻撃力は互角だが、機動力と防御力には大きな差がある。

 

最高速度ではパンターの方がラングを20kmも上回っている上に、ラングの主砲ではパンターの後部を取らない限り撃破するのは難しい。

 

更には、ラングは駆逐戦車である為に回転砲塔がなく、攻撃の自由度も相当に低くなってしまう――故に、如何に直下が優秀な戦車乗りであったとしても、此れだけの性能差を覆すのは難しいだろう。

 

 

 

「く……普通、パンターで待ち伏せとかするかぁ!?トラックが停車してなかったらどうする心算だった訳!?」

 

 

「その時は真正面からぶつかったわ!それと、西住隊長の戦車道に常識は通用しないわよ!!」

 

 

「うっわ、すっごい納得!!」

 

 

 

姿を現したパンターと、果敢にやり合う物の、矢張り回転砲塔が無いのは痛く、如何しても対応が後手後手になってしまう上に、2輌のパンターから矢継ぎ早に放たれる砲撃を避ける為に動き回ったせいで、直下名物『履帯の呪い』が発動し、ラングは2輌とも履帯が切れてしまう。

 

こうなってしまっては、もうどうしようもないだろう――足が止まった回転砲塔のない戦車は只の的でしかないのだから。

 

 

 

「撃破される前に何か言っておく事はある?」

 

 

「なんで、こうも簡単に私の乗る戦車は履帯が切れるのよ!!嫌がらせか!?或は呪いか!?はたまた、孔明の罠か!!?」

 

 

「その答えは……其れが貴女の運命なのよ。」

 

 

「おのれぇ!そんな運命、何時か断ち切ってやるーーー!!」

 

 

「ま、頑張ってね?……撃て!!」

 

 

 

――ドォォォォォォン!!

 

 

――キュポン!

 

 

――キュポン!

 

 

 

 

『黒森峰女学院、Ⅳ号駆逐戦車1号車、Ⅳ号駆逐戦車2号車、行動不能!』

 

 

 

結果、2輌のラングは奮闘虚しくKO!

 

長い槍を備えた軍馬も、攻守速の全てに於いて最高レベルの水準を持っている鋼鉄の豹の爪牙の前には討たれるより他なかったようだ。

 

此れで、明光大も黒森峰も残存車輌は8輌と、数の上では同じになったが、市街地戦である事を考えると、みほ率いる明光大に分があるのは間違いない。

 

 

得意の市街地戦に持ち込んだ事で、明光大は2輌のビハインドを跳ね返し、逆にアドバンテージを取るに至ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、市街地の少し開けた住宅地では、パールホワイトのティーガーⅠと、デザートイエローのパンターが遭遇し、今正に戦闘に入ろうと言う状況になっていた。

 

早い話が、梓とツェスカが、この場でエンカウントしたのだ。

 

 

互いの動きを把握していた訳ではなく、全く偶然に出くわしたのだ――或は、勝負の神様とやらが、此の2人を引き合わせたのか。

 

何れにしても、期せずして訪れたライバル対決の舞台が幕を上げようとしていたのだ。

 

 

 

「まさか、此処で貴女と会うとはね……Spielen mit den besten und Azusa!(最高の勝負をしましょう、アズサ!)」

 

 

「貴女との一騎打ち、楽しみにしてたよ……勝負だよツェスカ!!」

 

 

 

言うが早いか、梓のティーガーⅠと、ツェスカのパンターのエンジンが唸りを上げ、小細工無しの一騎打ちを開始!!

 

戦車の性能で言うのならば、攻撃力と防御力ではティーガーⅠの方が圧倒的に上だが、機動力に関してはパンターの方が遥かに勝る。

 

加えて明光大も黒森峰も、使用戦車にレギュレーションギリギリの魔改造を施してある為、戦車の性能を限界まで引き出しており、双方の利もまた、限界まで引き上げられているのだ。

 

 

機動力で勝るパンターは、動き回りながらティーガーⅠを狙うが、ティーガーⅠもまた、パンターの攻撃に対して『食事の角度』を取って被ダメージを軽減し、カウンターの88mmを放つ。

 

ティーガーⅠの88mmは、総合性能を考えれば重戦車に搭載されている主砲の威力ではティーガーⅡに次いで強力であり、其れこそマウスやヤークトティーガークラスが相手でなければ、正面装甲を抜く事が出来る。

 

パンターが喰らったら当然一溜りもないが、ツェスカはパンターの機動力を持ってして88mmの攻撃をギリギリで躱し続ける。

 

 

此のまま続ければ、明光大か黒森峰、何方かのフラッグ車が撃破されるまでこの攻防は続いてしまうかもしれないと思う位の互角の勝負が展開されているのだ。

 

 

 

「戦車道を始めて1年ちょっとで此処までって、正直信じられないわアズサ。

 

 ――貴女がドイツに居たら、私がジュニアリーグのトップに立つのは、難しかったかもしれないわね。」

 

 

「そう言って貰えると嬉しいかな?……まぁ、私の場合、師匠先生が良かった上に、西住隊長の教えは私に合ってたみたいだからね。」

 

 

 

そんな激しい攻防の中で、しかし梓とツェスカの顔には笑みが浮かんでいた。最高の好敵手との戦いを楽しんでいる者特有の笑みが。

 

互いにその笑みを浮かべていると言うのは、互いにこの戦いを楽しんでいる証であり、同時にこの戦いが更に激化する証でもある。

 

 

 

「フルスロットル!行くよツェスカ!!」

 

 

「受けて立つわ、アズサ!!」

 

 

 

其れを証明するかのように、梓とツェスカの戦いは更にヒートアップ!

 

何方も果敢に攻めるが、互いに決定打を欠くと言う、手に汗握る戦車戦!其れこそ、戦車道の年間ベストバウトにノミネートされてもオカシクない程の激烈な戦車戦が展開されて行く。

 

 

躱すツェスカと弾くアズサ……戦車の性能的にも、この拮抗状態を破るのは、外的な何かが無いと難しいかも知れない。それ程に、梓とツェスカの戦いは差が無く、拮抗していたのだ。――もしも梓がパンターに乗って居たら、更に戦局は混迷を極めていたかもしれない。

 

 

ともあれ、戦闘は激化し、梓はパンターの足を止めようと履帯を狙うが、其れは躱され、逆にツェスカはティーガーⅠの後部を取ろうと機動力に物を言わせて動き回るが、ティーガーⅠもそうはさせないとばかりに動いて後部を取らせない――決着の先が全く見えないのだ。

 

 

だが、此の白熱のライバル対決は、唐突に終わりを迎える事になる。

 

 

 

「「撃て!!」」

 

 

 

もう何度目になるか分からない攻撃に対し、梓はティーガーⅠに食事の角度を取らせて砲弾を弾き、ツェスカはパンターの機動力を持ってして回避したのだが、弾かれた弾丸と、避けられた弾丸が、夫々道路の両脇に建っている高層ビルにジャストヒット!!

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

超強力な戦車砲に撃ち抜かれた2つのビルは、砲弾が撃ち込まれた2階付近から崩れ始め、其のままアメリカのビルの爆破解体の動画の如く足元から崩れて完全倒壊!!

 

その影響で、道路には無数の瓦礫が散らばり、其れが梓とツェスカを分断してしまっていた。

 

ビル2つ分の瓦礫となれば其れは相当な量となり、如何に戦車でも乗り越えて行ける物ではない――其れ以前に、乗り越えて行ったとしても、乗り越えた所で相手に狙い撃ちされるのがオチだろう。

 

となれば、これ以上此処で梓とツェスカが戦う事は出来ないのだお互いに。

 

 

 

『まさか、こんな事になるとは……貴女との決着は次に持ち越しねアズサ。』

 

 

『だね……如何やら、此処は私と貴女が決着を付ける舞台じゃなかったみたいだよツェスカ。――だけど、次に会ったら勝たせて貰うから。』

 

 

『言ってなさい……勝つのは私、勝利は譲らないわ!』

 

 

『私だって譲らない……寧ろ、その勝利をもぎ取るから!!』

 

 

『上等、やってみなさいアズサ!!』

 

 

 

故に、此処は互いに一時休戦と言うか、戦闘が強制終了だ。

 

だからと言って終わりではなく、互いに通信越しに次の機会で決着を付けると言う事を言い、夫々に行動を開始する。――梓とツェスカのライバル関係も、この戦いでより強くなったのかも知れない。

 

 

何にしても、ライバル対決の第1ラウンドはドロー。決着は第2ラウンド以降に持ち越される事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

黒森峰のラングを2輌撃破したか……此れで、序盤の稜線攻防戦でのビハインドは回復できたけど、相手が相手だけに安心は出来ないよ。

 

エリカさんも小梅さも、相当に力を上げてきてる――其れこそ、2人が力を合わせたらお姉ちゃんに勝つ事だって出来るかも知れないレベルだからね?……だからこそ、ワクワクして来るんだけどね!!

 

 

 

 

「みほがワクワクする程に強くなった銀髪と天パ……相手にとって不足はねぇ!!

 

 つか、その2人を倒した上で勝たねぇと、本当に勝利したとは言えねぇ感じだぜ!!

 

 両方ぶっ倒して、勝とうぜみほ!!」

 

 

「言われなくても、その心算だよ青子さん!」

 

 

私自身の手で、最低でもエリカさんの乗るフラッグ車を撃破しないと本当の意味で勝ったとは言えないからね……だから、此処から更にガンガン行くから、覚悟しておいてね?

 

 

 

 

「ハッ、とっくに覚悟は完了してるぜみほ!!」

 

 

「どんな命令にだって応えて見せるわみほさん!!」

 

 

「だから、私達に気兼ねせずに、ドンドン命令なさい――例え誰が相手であろうと、撃ち抜いてあげるわ。」

 

 

「……わざわざ言うまでもなかったね。

 

 其れじゃあ先ずは、此方に向かってきてる、黒森峰のパンター2輌を撃破するとしようか?」

 

 

気付かれずに来た心算なんだろうけど甘いよ?フラッグ戦である以上、他の戦車を無視してでもフラッグ車を狙うって言うのは、一番最初に考える物だからね。

 

だから、エリカさんと小梅さん以外の黒森峰の戦車が真っ先に、明光大のフラッグ車である私達のティーガーⅡを狙ってくる事は分かってた。

 

そして、分かっていたから、対応する事も出来る!

 

 

「ナオミさん、撃って!!」

 

 

「了解!吉良ナオミ、目標を狙い撃つ!!」

 

 

「青子さん、次弾装填!!」

 

 

「おっしゃー!任せとけ!!」

 

 

 

ナオミさんの正確な砲撃と、青子さんの高速装填が有れば、どんな相手でも負ける事はないし、其処につぼみさんの操縦が加われば正に鬼に金棒!

 

最初の砲撃でパンター1輌を撃破して、其処から青子さんが高速装填で砲弾を詰めると、つぼみさんが通常のティーガーⅡでは、絶対に有り得ない軌道でパンターの後部を取って、ナオミさんが一撃かまして撃破!!

 

 

此れで数の上では有利になった――

 

 

 

 

『明光大付属中学校、パンター2号車、パンター4号車行動不能!』

 

 

 

と思ったら、こっちのパンターも2輌が撃破された……このパンター2輌は、ラング2輌を撃破した後も更に進軍していて、その中で恐らく、エリカさんか小梅さんと遭遇して戦いを挑んだんだろうね。

 

確かに、フラッグ戦に於いて、発見したフラッグ車か隊長クラスの戦車を叩くのは間違いじゃないし、最もベターな戦術なのは間違いないんだけど、エリカさんと小梅さんが相手の場合はその限りじゃない。

 

エリカさんも小梅さんも、自分を撃破しに来た相手を逆に返り討ちにするだけの力を持ってるからね……下手に挑んでも撃破されるだけ。

 

だけど、だからこそ……

 

 

「楽しいなぁ。うん、凄く楽しい!!」

 

 

「おぉ、ノリノリだなみほ?――なら、もっと楽しむとすっか!!」

 

 

「うん、もっと楽しもう!この戦いを!最高の戦車道を!!」

 

 

最高の戦いだよ此の決勝戦は!!

 

残存車輌は互いに6輌で、実力的な差も殆どない――なら、最後に勝負を分けるのは、何方が勝利に対して貪欲であったかって事になるのかも知れないね?

 

私は勝利に固執してる訳じゃないけど、でもやる以上は負けたくない!!

 

 

第2幕は略互角……なら、始めようか決勝戦の第3幕を!!手に汗握る、最高の戦車戦を!!

 

 

「行くよ、青子さん、ナオミさん、つぼみさん!!」

 

 

「おうよ!全力でやってやらぁ!!」

 

 

「鋼鉄の豹の爪牙からは逃げられないって言う事を、黒森峰の連中に教えてあげるわ。」

 

 

「全力全壊!!リミッター外しちゃうわよ!!」

 

 

 

 

最高の決勝戦、お楽しみは此処からだよエリカさん!小梅さん!!

 

遠慮も何もいらない……私達の持てる力の全てを出し切って、最高の試合をしましょう!!――其れこそ、高校戦車道の決勝戦にも負けない位の戦いを!!

 

 

さぁ、行きますよ!!

 

 

 

――轟!!

 

 

 

 

「本日二度目の軍神招来……今度は『真田幸村』みたいね。」

 

 

「なら、最高ですね♪」

 

 

中学最後の公式戦となる此の決勝戦――勝たせて貰うよエリカさん、小梅さん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer60『戦いは白熱のバーニングです!』

大会のルールって『フラッグ戦』だよね?Byみほ      その筈だけどこれは……Byエリカ      まるで『殲滅戦』ですねBy小梅


 

Side:しほ

 

 

 

序盤の平原での攻防は、逸見さんが敢えてみほに稜線を取らせた上でその裏をかいて、Ⅲ突2輌を撃破して先手を取ったのだけれど、続く市街地戦では、明光大のパンター2輌が、黒森峰のラング2輌を葬って残存車輌数をイーブンに戻した。

 

そして、その後、みほのチームが黒森峰のパンター2輌を撃破し、逸見さんと赤星さんのチームも明光大のパンターを2輌撃破して、明光大と黒森峰共に、残存車輌は6輌……この状況、貴女はどう見るかしら菊代?

 

 

 

 

「そうですね……残存車輌数が同じで、なおかつ市街地戦であると言う事を考えると、みほお嬢様が絶対有利であるのは間違いない事ですが、逸見さんと赤星さん、そして去年から加入したツェスカさんの実力も相当なものです。

 

 夫々と一対一の戦いをしたら、みほお嬢様が勝つでしょうけれど、一対二以上の状態であるのならばその限りではないかと思います。

 

 ――最強のライバル2人を相手にするのは、如何にみほお嬢様でもかなり厳しいモノが有ると愚考します、奥様。」

 

 

「貴女も、そう考えるのね菊代……」

 

 

一対一の戦いなら、現在の黒森峰の誰を相手にしたところでみほが勝つのは間違いないわ――黒森峰側は、精々逸見さんと赤星さんが引き分けに持ち込むのがやっとでしょうから。

 

だけど、一対一でないのならば話は変わって来るわ。

 

今年の大会を見る限り、逸見さんと赤星さんのコンビネーションは、去年のまほと逸見さんのコンビネーション以上の物を感じるから、彼女達ならば、みほに勝つ事だって出来るかも知れない。

 

 

無論みほだって、簡単に倒せる相手じゃないから、そうなった場合は激戦必至なのは間違いないでしょうけれどね。

 

 

 

 

「ですが、奥様はそう言う展開になる事を望んでいるんですよね?」

 

 

「……其れは否定しないわ菊代。否定する気もないからね。」

 

 

貴女達の戦車道の試合は、西住流の師範に落ち着いた私の心にすら火を点けて、現役時代の思いを蘇らせてくれるからね……だから、何方も頑張りなさい?

 

互いに全力を尽くして戦った先には、勝利よりももっと素晴らしい物が待っているのだから――其れを、手に入れなさい、何方の学校もね。

 

貴女達は、まだまだ強くなれるのだからね――此の決勝戦は、マッタク持って目が離せないわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer60

 

『戦いは白熱のバーニングです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

残存車輌は互いに残り6輌……其れも残ってる車輌は、私達明光大がティーガーⅠが3輌とティーガーⅡが1輌でパンターが2輌。黒森峰もティーガーⅠが4輌で、パンターが2輌だから、戦車の性能的には完全に互角って言う感じになったかな――でも、フラッグ戦ではどれだけ車輌が残っていてもフラッグ車を撃破されたら其処でお終いだから、数の差は実はあまり問題じゃない。

 

 

互いに戦力の4割を失った今、一つの判断ミスが勝敗を決すことにならないから、私の指示にミスは許されないよ――そんな状況を、楽しいって思ってる私は、可成り戦車道に浸かってるんだって思うからね。

 

 

「つぼみさん、此のまま市街地を周って行きましょう。

 

 黒森峰は、恐らくこのフラッグ車を徹底的に狙ってくるはずですので、市街地戦である事を有効に活用して、黒森峰のペースを乱して行こうと思います――ペースを乱す事が出来れば、其処に勝機を見出す事が事が出来るから。

 

 勝ちに行きましょう此処で!!」

 

 

「お任せあれみほさん!!

 

 市街地を全速力でかっ飛ばして、黒森峰の戦車を見つけてあげるから安心していいわ!明光大最強の虎の王からは逃げられないわ!」

 

 

「どんな敵が来ても、撃ち抜いてあげるわ……ティーガーⅡの88mmなら、黒森峰の戦車をドレでも撃ち抜けるからね。」

 

 

「だから任せとけって!!」

 

 

 

 

本当に頼りになるなぁ皆。

 

さてと……黒森峰が徹底して私達を狙ってくるのは間違いない。なら、こっちもフラッグ車を、エリカさんを徹底的に狙って行くとしようかなぁ?

 

私の予測が正しければ、今年の黒森峰のトップ2であるエリカさんと小梅さんは多分一緒に行動してる筈――その状況で、フラッグ車だけを狙いに行けば、フラッグ車は撃破出来なくともフラッグ車を守ろうとした小梅さんを撃破する事は出来るかも知れない。

 

今年の大会を見る限り、私1人でエリカさんと小梅さんの2人を相手にするのはちょっと厳しいからね……梓ちゃんが、ツェスカちゃんとのタイマン勝負を制して、援軍に加わってくれるなら大丈夫だろうけど、此ればっかりはどうなるか分からないからね?

 

最低でも小梅さんの事は撃破しておきたいって言うのが正直な所かな。

 

 

「全車に通達。黒森峰の他の戦車には構わずに、フラッグ車を徹底的に狙って下さい。」

 

 

『隊長!其れじゃあ隊長のフラッグ車が黒森峰の残存戦力に囲まれちゃったら拙くないですか!?』

 

 

「大丈夫。ティーガーⅡの防御力なら、ティーガーⅠとパンターの砲撃でもそう簡単に撃ち抜かれる事はないし、エリカさんと小梅さん以上の戦車乗りが相手じゃなければ、私は負けないから。

 

 だから、私を信じて敵フラッグ車のみを狙って下さい。」

 

 

『大丈夫です!もしもの場合は、私が全力で西住隊長のサポートに回りますから!!』

 

 

 

 

私が敵車輌に囲まれる危険性についての意見は出るとは思ってたけど、此処で予想外の梓ちゃんの援護射撃が来たね?

 

梓ちゃんの車長としての能力は、私以外の3年生をも凌駕して、今や完全に明光大のナンバー2の地位を確立してる副隊長だから、その副隊長がサポートに回るって言うのなら、これ以上に安心できる物はないからね。

 

だけど、梓ちゃん、ツェスカちゃんとの戦いは良いのかなぁ?

 

 

 

 

『もちろんツェスカにも勝ちたいですけど、優先すべきは私の戦いよりも明光大の勝利ですよ西住隊長!

 

 戦車道は、まず楽しむ物だって言うのは理解してますけど、西住隊長にとっては中学最後の公式戦となる此の決勝戦は、やっぱり勝ちたいんです!!

 

 何よりも私が、隊長には優勝を手にして明光大を卒業して欲しいって思っていますから!!』

 

 

 

 

梓ちゃん……ライバルとの直接対決を捨ててまで、明光大が勝つ為に動くって言うなんて、実に立派な事だよ其れは。

 

人は誰しも、己のライバルとの直接対決を目の前にちらつかせられたら、そっちに意識が向いちゃうって言うのに、ライバルを前にしながらもチームの為にって言う選択ができる梓ちゃんは大した者だね。

 

 

でも、だからこそ背中を任せる事が出来るよ。

 

仮に私が窮地に陥ったその時は、梓ちゃんがきっと助けてくれるだろうからね――うん、頼りにしてるよ梓ちゃん!!

 

 

 

 

『任せて下さい西住隊長!!私のサポートが必要な場合には、スマホに1切り入れて下さい!!』

 

 

「了解です副隊長さん。その時は、頼りにさせて貰うよ♪」

 

 

『はい!!』

 

 

 

 

互いにフラッグ車を狙うって言う作戦に出た以上、此処からは更なる激戦が予想される――って言うか、確実に超激戦になるのは間違いないんじゃないかと思うよ。

 

其れこそ、大会のルールはフラッグ戦であるにも関わらず、殲滅戦みたいな様相を呈して来るんじゃないかって思うからね?

 

 

でも、其れなら其れで上等だよ!!――私の持てる力の全てを持ってして、勝利をもぎ取って見せるから!!

 

だから、絶対に負けないよエリカさん、小梅さん!!明光大付属中学校の戦車道部の真髄を、満腹になるまで味わって貰うから、覚悟しておいてね?――きっとエリカさんと小梅さんでも驚くだろうからね!!

 

 

さぁ、行こう!勝利の旗を目指して!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

明光大、黒森峰共に残存車輌は残り6輌であり、何方が有利とは一概に言えないだろう。

 

みほは市街地戦を得意としているので、フィールドアドバンテージを見ればみほが絶対有利に見えるだろうが、研ぎ澄まされた牙を持つ『黒森峰の銀狼』こと、逸見エリカと、『黒森峰の隼』こと、赤星小梅が力を合わせたのならばその限りではない。

 

 

今年の黒森峰の強さは、エリカの持ち前の行動力と、小梅の冷静な判断力が巧く調和した結果の強さだ。

 

前隊長のまほの様に、圧倒的に勝てる訳ではないが、しかしエリカと小梅の戦い方は圧倒的では無いが、エリカの大胆な戦い方と、小梅の鋭くも繊細な戦い方が融合し『どんな相手と戦っても勝てる戦車道』となっているのだ。

 

 

言うなれば剛柔の両方が入り混じった戦い方であり、如何に『隻腕の軍神』と渾名されるみほでも、簡単に勝てる相手ではないのだ。

 

みほが『フラッグ車のみを狙え』と指示したのも、エリカと小梅の両方が揃っている状態と言うのは危険だと判断したからに他ならないのだ。

 

『フラッグ車のみを狙え』の裏には『フラッグ車を倒す事もが出来なくても副隊長車を撃破出来れば儲けもの』と隠れた命令もあったのだ。

 

 

明光大がフラッグ車を目指して進軍を開始した頃、黒森峰の部隊もまた、みほの読み通り明光大のフラッグ車に向かっていた。

 

が、此れはエリカが命じた事ではなく、黒森峰の隊員略全員が、同じ考えに至った事で自然に発生した事なのだが、此れはある意味で当然の事であったのかも知れない。

 

黒森峰の2年生以上の機甲科の生徒は、去年と一昨年の合宿で『西住みほ』と言う戦車乗りの規格外さを知っている――2回の合宿に於いて、みほ達の乗るアイスブルーのパンターは只の一度も撃破された事は無く、合宿中の無敗伝説を打ち立てているのだから。

 

加えて、明光大の戦車部隊は有り得ないような軌道を普通にやる様な連中であり、それらと市街地でやり合うのはリスクが高い――ならば他は無視してフラッグ車を狙いに行くのが上策だと考えたのだろう。

 

 

しかし、この時黒森峰の部隊は『ティーガーⅠ2輌』が明光大のフラッグ車へと向かっていた。

 

ツェスカの乗るパンターは、梓の乗るティーガーⅠを探しているのかも知れないが、残るもう1輌のパンターは何故かフラッグ車には向かわずに、市街地をうろついて明光大の部隊を探していたのだ。

 

みほの凄さを分かっていないのか?――いや、その凄さを体験していないだけだった。

 

このパンターの車長は、今大会で唯一1年生の車長であり、更に乗組員も全員1年生と言うルーキーチームだったのだ。

 

それ故に、此れまでの試合で明光大が強いと言う事は漠然と理解出来ていても、合宿の経験がない為に『西住みほ』がドレだけ凄まじい戦車乗りであるのかと言う事を全く理解していなかった。

 

エリカや小梅、その他黒森峰の先輩の話を聞いても『少しオーバーに言ってるよね此れ?』と言った感じで捕らえてしまい、みほの戦車道力を本来よりも低く見積もってしまい、フラッグ車を討つよりも敵戦車の数を減らして、数のアドバンテージを取る事を選んでしまったのだ。

 

 

だが、彼女が発見した明光大の戦車は、最悪の相手だった。

 

見つけたのはパールホワイトのティーガーⅠ――明光大の副隊長車だったのだ。

 

みほに徹底的に鍛えられた梓は、戦車道を始めて僅か1年でありながら、黒森峰のレギュラー陣をも凌駕する力を身に付けている――中学から始めた梓だからこそ、変な癖がついて居なくて、スポンジが水を吸収する様にみほの教えがすんなり浸透したのだ。

 

故にその力は可成りなモノなのだが、副隊長車を発見したパンターの車長は、此れはチャンスだと思ってしまった。

 

 

副隊長を撃破する事が出来れば、隊長の補佐が居なくなって黒森峰にとって有利になると考えたのと同時に、副隊長車を撃破したと言う事になれば、自分の評価も上がると言うちょっとした欲もあったから。

 

とは言え、マッタク勝算が無く挑む心算は無かった。

 

攻防力では劣るが、機動力ならばパンターの方が圧倒的に上なので、市街地と言う特性を利用すればティーガーⅠが相手でも勝てると踏んだのだ。

 

 

しかし――

 

 

 

「敵戦車発見……なのは!」

 

 

「88mmのバスターを喰らいやがれなのぉぉぉ!!!」

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァン!!

 

 

 

いざ動こうとした所で、ティーガーⅠからの先制攻撃を受ける形になってしまった。

 

 

 

「か、回避!!」

 

 

 

その攻撃はギリギリで回避したが、パンターの車長は内心で冷や汗をかいていた。

 

自分達がティーガーⅠを発見した時、相手は此方に気付いていない様子だった――だからこそ、奇襲をかけて先手を取ろうとしたのだが、逆に先制攻撃をされてしまった。

 

 

其れが意味するのはつまり、梓は黒森峰のパンターに発見される前から、パンターの存在を認識してたと言う事に他ならない。

 

既に見つけていたにもかかわらず、気付いていないフリをして、相手が動き出した所に出ばなを挫く一撃をお見舞いしたのだ――この辺りの巧さも、みほ流を確りと受け継いでいると言えるだろう。

 

 

そして先手を取った梓は、其のまま一気にティーガーⅠを加速させてパンターに迫る。

 

当然パンターは逃げるが、此処でパンターの車長は己が致命的なミスをしていた事に気付く――自分が居た場所は開けた場所ではなく、ビルが密集している狭い場所であったと。

 

 

戦車の性能で言えばパンターの方がティーガーⅠよりも機動力は上だ。(ティーガーⅠの最高速度は38kmで、パンターは55km。但し、明光大のティーガーはⅠ&Ⅱ共に魔改造により、最高速度が40㎞まで引き上げられている。)

 

開けた場所ならばその機動力を持ってして豹が虎を翻弄する事も出来ただろう。

 

しかし、動ける範囲が限定されている場所では、高い機動力も本来の力を発揮するのは難しい。――こう言っては何だが、ティーガーⅠの先制攻撃を回避できたのも奇跡的なモノなのだ。

 

 

それ程までに限定的な空間に於いて、パンターでティーガーに挑むのは無謀だろう。

 

しかしながら、このパンターの車長は可也好戦的な性格だったらしく……

 

 

 

「やってくれたわね?絶対にぶっ倒してやるわ!!」

 

 

 

退くどころか、逆に梓のティーガーⅠに向かって行く。

 

もしもこのチームに2年生以上の隊員が居たのならば、撤退を指示しただろう――其れこそ先輩と言う立場を利用してでもだ。

 

だが、此のパンターの乗組員は全員が1年生で構成されているが故に、車長に異を唱える者はいない――他の乗組員たちもまた、車長と同じ思いだからだ。

 

 

やる気むんむんのパンターに対して、明光大副隊長の梓は極めて冷静だった。

 

 

 

「クロエ、右にフェイトを入れた後で左に急旋回して。

 

 そうすれば、相手は態勢を崩して最低でも此方に側面を曝す事になるから、相手の側面か後部を捉えたら容赦なく撃ち抜いて、なのは。」

 

 

「了解したヨ、アズサ!!」

 

 

「全力全壊!ブチかましてやるの!!」

 

 

 

向かってくるパンターに対して正面から迎え撃つと見せかけながら広い場所まで誘き出すと、右に少しのフェイントを入れ、そのフェイントに誘われたパンターを左側から抜いて側面を取り、其のまま88mmの主砲を発射!!

 

如何に攻守速に優れているパンターと言えど、近距離から側面をティーガーⅠの88mmで撃ち抜かれたら堪った物ではない。

 

横っ腹から強烈なストレートをブチかまされたパンターは、その威力で吹っ飛び、横転し、その後に白旗を上げる事になった。

 

 

 

『黒森峰、パンター3号車、行動不能!』

 

 

 

エリカと小梅は、経験を積ませる意味で今大会には必ず1年生だけのチームを出場させていたのだが、此の決勝戦に限っては、其れが裏目に出た結果となってしまっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、試合はまだ終わっていない。

 

梓がパンターを撃破した頃、みほは黒森峰のティーガーⅠ2輌とエンカウントしていた。

 

最強クラスの重戦車2輌を相手にしなければならないと言うのは、普通ならば可成りきついモノが有るのだが、みほはそんな物は何処吹く風だと言わんばかりに冷静だ。

 

それどころか、顔には笑みを浮かべ、其れと同時にパンツァージャケットの上着を脱いで、外套の様に肩に引っ掛ける『超軍神モード』(命名青子)となる。

 

 

 

「良い気迫だね?……相手になるよ!!!」

 

 

「西住みほ、覚悟!!」

 

 

「我ら黒森峰の勝利の為に、貴女を討ちます!!」

 

 

 

みほが超軍神モードになったのを合図と言うかの様に、戦闘開始!

 

2輌のティーガーⅠは、みほのティーガーⅡを挟み撃ちにしようと両脇から攻めて来るが、その挟み撃ちはつぼみの華麗なる操縦で躱し、逆に、ティーガーⅠ3号車の側面に回って一撃を叩き込む!

 

回避行動とタイムラグが無い砲撃は、青子の高速装填と、ナオミの正確無比な砲撃があればこそだろう――装填手と砲撃手の呼吸がピタリとあって居なければ、不可能なほどの超砲撃なのだ。

 

 

辛うじてティーガーⅠ3号車は『食事の角度』で撃破を免れたが、その程度でみほ達隊長車の猛攻を止める事は出来ない。

 

 

みほ自身はありとあらゆる策を使って戦う策士だが、同時に母であるしほから西住流を叩き込まれており、押せ押せの戦い方も出来る。

 

故に、一度攻撃のスイッチが入ったみほは、凄まじいの一言に尽きる――天性の才能に、西住流の攻撃特化の戦術がプラスされたのなら、其れは最強の矛となるのだから。

 

 

 

「如何したの?其れじゃあ私を討つ事は出来ないよ!!」

 

 

「く……ティーガーⅡでこれ程の動きをするなんて……妹様は化け物か!?」

 

 

 

更に恐ろしいのは、西住流の攻撃特化の戦術を使いながらも、同時に自身が得意とする搦め手も確りと使ってくる事だ。

 

みほはティーガーⅡの圧倒的な攻守力を生かしながらも、『電柱を攻撃して倒す』、『ビルを攻撃して瓦礫を降らせる』、『道路を抉って敵戦車を落とす』と言う、アウトサイド攻撃を行い、黒森峰のティーガーⅠ2輌を、完全に手玉に取っていたのだ。

 

 

其れでも簡単にやられないのは、流石は黒森峰と言う所だが、みほの力は黒森峰のレギュラー陣を軽く凌駕するのだ。

 

 

 

「ナオミさん『狙って』!!」

 

 

「任せなさい。目標を狙い撃つわ!」

 

 

 

みほに命じられたナオミは、今はもう使われていない火の見櫓に砲撃を喰らわせ手鉄塔を圧し折り、圧し折られた鉄塔がティーガーⅠ2輌に向かって倒れて行く。

 

倒れて来る鉄塔の先に位置する場所に居たティーガーⅠはギリギリで回避する事に成功したが、根元に近い部分に居たティーガーⅠは、有り得ない事態に慌てて回避行動が間に合わず、哀れ鉄塔の下敷きに。

 

 

特殊なカーボンのお陰で乗組員は無事だが、めでたく白旗を上げる結果となってしまったのだ。

 

 

 

『黒森峰、ティーガーⅠ3号車行動不能!』

 

 

 

更に、鉄塔攻撃を回避したティーガーⅠに対しても、みほのティーガーⅡの行動は素早く、回避先に車輌を滑り込ませて後部をとる。

 

一見すれば、ドレだけ勘が良いのかとも思うだろうが、鉄塔攻撃を回避した際の起動は、鉄塔の先端の横にずれるか後方に下がるかの2択なので、みほにとっては簡単な事だった。

 

確率的に、横に避けるよりも、後に下がる確率が高いと読んでティーガーⅡを移動させたのだ。

 

 

みほの読みもさることながら、つぼみの操縦技術があったからこそ出来た事だ――そして、其の効果は覿面であり。

 

 

 

「装填完了!ブチかませナオミ!!」

 

 

「此れで終わりよ……吹き飛びなさい。」

 

 

 

――バガァァァァァァン!!

 

 

――キュポン!!

 

 

 

『黒森峰、ティーガーⅠ4号車行動不能!』

 

 

 

残るティーガーⅠをも撃破!

 

みほは、己を狙って来た相手を見事に返り討ちにしたのだ――隻腕の軍神の二つ名は伊達ではないと、知らしめて見せたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほが黒森峰のティーガーⅠ2輌を撃破した頃、エリカと小梅は明光大のティーガーⅠ2輌と、パンター2輌の襲撃を受けていた。

 

みほから『フラッグ車のみを狙え』と言う命令を受けた明光大の隊員は、梓を除いて全員がエリカと小梅を狩らんと、進撃して来たのである。

 

 

 

「コイツ等……上等じゃない!!受けて立つわよ小梅!!」

 

 

「はい、行きますよ!!エリカさん!!!」

 

 

 

数の上では2対4と可成り不利だが、その程度で怯むエリカと小梅ではない。

 

怯むどころか、口元には笑みを浮かべて明光大の戦車との戦車戦を開始し、凄まじいまでの攻防を展開する――エリカが持ち前の行動力で明光大の戦車に突っ込めば、小梅が其れを繊細な戦術でサポートし、数の差をものともしない戦いを見せているのだ。

 

 

並の相手なら、此れで勝利は確実だが、しかし相手は明光大なのでそうは行かない。

 

エリカと小梅の猛攻を受けながらも、明光大の部隊は其れに対処しつつ、正確にエリカの乗るフラッグ車を狙ってきているのだ――此のまま戦い続ければ、何方が先にジリ貧になるかは言うまでもないだろう。

 

 

 

「(ち……分かってはいたけど、面倒な連中だわ!!)」

 

 

「(たった2輌の差が、此処まで重いと思うのは初めてですね……流石はみほさんの指導を受けているだけありますよ――!)」

 

 

 

此のままならジリ貧だが、しかしそうはならなかった。

 

 

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!!やらせるぁぁぁ!!!」

 

 

 

――ドガシャァァァァァァァ!!!

 

 

――キュポン!

 

 

 

『明光大、パンター2号車、行動不能!』

 

 

 

ツェスカが乗るパンターが(どうやって乗ったのか分からないが)コンビニの屋根から飛来して、明光大のパンター2号車を押し潰して行動不

 

能にし、更に――

 

 

 

「どっせい!!」

 

 

「うっそだぁ!?」

 

 

 

――バガァァァン!!!

 

 

――キュポン!

 

 

 

『明光大、パンター3号車、行動不能!!』

 

 

 

目にも留まらぬ速さで、明光大のパンター3号車を撃破!!

 

ドイツのジュニアリーグのトップ選手であったツェスカの実力は本物であり、明光大のパンターを2輌連続で撃破したのだ――ツェスカは『何となく嫌な予感がする』と思って、エリカ達の元に向かったのだが、其れが結果として大当たりだったのだ。

 

 

そして、数の差がなくなればエリカも小梅も同性能の戦車が相手であっても負けはしない。

 

 

 

「やるじゃないツェスカ……貴女が齎してくれた好機、無駄にはしないわ!!――行くわよ小梅!!」

 

 

「はい、エリカさん!!」

 

 

 

瞬く間もなく、エリカの隊長車から砲撃が放たれて明光大のティーガーⅠを強襲!

 

明光大のティーガーⅠ2輌も、持ち前の変態的回避能力で其れを避けるが、回避した先には既に小梅のティーガーⅠとツェスカのパンターが先回りしており、詰まり次の攻撃を回避する事は不可能だ。

 

 

 

「此れで終わりです!!」

 

 

 

――ガァァァァァァァァン!!!

 

 

――キュポン

 

 

 

『明光大、ティーガーⅠ2号車、行動不能。』

 

 

 

先ずは小梅が、明光大のティーガーⅠ2号車を行動不能にし、続いてツェスカが明光大のティーガーⅠ3号車に攻撃するが、それは『食事の角度』で弾かれる。

 

だが、ツェスカ車の放った1の矢の次には、エリカ車からの2の矢が待っていた。

 

 

 

「大人しく眠りなさい……」

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァン!!

 

 

――キュポン!!

 

 

 

『明光大、ティーガーⅠ3号車行動不能!』

 

 

 

食事の角度を取っていた明光大のティーガーⅠ3号車の裏に回ったエリカは、其のままウィークポイントである後部を撃ち抜いて、ティーガーⅠ3号車を沈黙させる。

 

 

此れで残存車輌は明光大がティーガーⅡ1輌とティーガーⅠが1輌の計2輌。

 

黒森峰がティーガーⅠが2輌とパンターが1輌の計3輌と、何方も一歩も譲らない戦いの結果が現れているような残存車輌数となっていた。

 

 

同時に此の決勝戦は、フラッグ戦であるにも拘らず、最終的には何方かの車輌が全滅するまで決着の付かない『殲滅戦』の様相を呈して来ていた。

 

 

 

「(此れは面白くなって来たね……トコトンやろう、エリカさん、小梅さん!!)」

 

 

「(この展開……上等じゃない!徹底的にやってやるわみほ!!)」

 

 

「(此処からが本当の勝負……行きますよみほさん!!)」

 

 

「(最高の舞台が整ったわ――Zu begleichen Azusa!(決着を付けましょう、アズサ!))」

 

 

「(この戦い、絶対に負けられない――勝たせて貰うよツェスカ!!)」

 

 

 

そして残った車輌の車長は、夫々の思いを胸に最終決戦へと向かう――決勝戦は、此処からがクライマックスだと、観客の誰もが、そう確信していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer61『全力全壊?そんな物は基本です!』

フラッグ戦なのにこうなるって事は、実力が拮抗してるって事?Byみほ      まぁ、そう言う事でしょうね……Byエリカ      だからこそ、楽しめますね♪By小梅


Side:みほ

 

 

 

互いに全力を出した結果、残る車輌は、私達が2輌で、黒森峰が3輌……数の上では負けてるけど、私が最も得意としてる市街地戦での戦言って言う事を考えると状況は五分五分って言う所だろうね。

 

何よりも相手は、今や中学戦車道界隈に於いて、最強の一角に数えられてるエリカさんと小梅さんだからね――加えて、ドイツのジュニアでバリバリのトップを張ってたツェスカちゃんの実力も計り知れないモノが有るから、此処はバッチリ行かないとだよ。

 

 

 

 

「なら、バッチリ行きましょう西住隊長!!

 

 ガツンと行って、とことんやり合って、その上で勝ちましょう!!

 

 ツェスカの方は私が相手になりますから、西住隊長は逸見先輩と赤星先輩に集中して下さい!!

 

 ツェスカを撃破したら、直ぐに援軍にむかいますから!!」

 

 

「うん、その時は頼りにしてるよ梓ちゃん!」

 

 

キャリアで言うならツェスカちゃんの方が上だけど、梓ちゃんもこの1年で、普通では考えられない位に強くなってるし、実際に此の決勝戦でも、そのポテンシャルを爆発させて、此処まで残ってくれた訳だからね。

 

 

そう言う意味では、此処で梓ちゃんと合流したのは正解だったかな?

 

もしも残る3輌が纏まって行動してた場合、こっちもバラバラに動いてたら1対3の圧倒的に不利な状況で戦う事になってただろうからね。

 

 

2対3の状況なら、少しは楽になるし、梓ちゃんがツェスカちゃんを抑えていてくれれば、私はエリカさんと小梅さんに集中できる――最高なのは、梓ちゃんがツェスカちゃんを倒して加勢してくれる事だけど、其ればかりはどうなるか分からないからね。

 

 

 

 

「大丈夫です!勝ちます!!」

 

 

「ふふ、頼もしいね――其れじゃあ行こうか!」

 

 

「はい!」

 

 

 

 

エリカさん達が如何来るかは分からないけど、そろそろ試合も終盤戦。悔いが残らない様に、最高の戦車道をして楽しまないとね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer61

 

『全力全壊?そんな物は基本です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

みほと梓が、駅前の広場に差し掛かった時、ほぼ同時にエリカと小梅とツェスカも駅前の広場にその姿を現していた。勿論示し合わせた訳ではなく、本当にマッタク偶然にこの場でエンカウントしたのだ。

 

 

普通ならば、即戦車戦に入る所だが、互いに此れから探そうと思っていた相手と突然エンカウントした事で虚を突かれ、所謂お見合い状態になってしまう。

 

人間、予想してなかった事態に陥ると動きが止まると言うが、それは同い年の普通の女子以上の胆力やら何やらを備えている戦車乙女であっても変わりはなかったらしい。

 

 

 

「……こんな所で出会うとは奇遇ねみほ?

 

 此方から迎えに行ってあげる心算だったんだけど、まさかそっちの方から出てきてくれるとは思わなかったわね?まぁ、お陰様で広い市街 地を探し回らなくて済んだけど。」

 

 

「其れはこっちのセリフかなエリカさん?

 

 エリカさんなら、遮蔽物の少ない海岸線のエリアで待ってると思ったのに、まさか此処まで来てくれるとは思わなかったよ――駅前広場は開けてる場所とは言え、駅前特有の障害物も多いから、どっちかって言うと私達の方が有利なのに。」

 

 

 

だが、其れも一瞬の事であり、みほもエリカも笑みを浮かべると、互いに挑発とも取れるやり取りを始めた。

 

特に意識した訳ではないが、自然と言葉が出て来たとかそう言う事なのだろう。実際にみほとエリカの言った事は、夫々が思っていた事であるのは本当の事なのだから。

 

同時にこの状況は、序盤の稜線での攻防の時の様に、エリカの行動がみほの予測を裏切った事でもあった。

 

みほは、エリカならば自身の攻撃力を最大限に生かしつつ、自分の奇策を封じる為に、遮蔽物の少ない海岸線エリアの何処かで只管自分達を待っていると考えていたが、実際にはこうして駅前まで進行して来ていたのだから。

 

 

 

「確かに、最初は其れが一番だって私もエリカさんも思っていたんですけど、みほさんだったら其れすらも読んで、その対抗策を考えちゃうんじゃないのかって思いまして、其れならフィールドアドバンテージを捨てて、みほさんの予想を崩す方が効果があるって思いまして♪」

 

 

「うん、実際効果あり。此処でエンカウントしたせいで、頭の中で考えてた作戦が全部おじゃんになっちゃったからね。

 

 だけど、其れで私達を倒せると思ってるのかな?――市街地戦は私の十八番。此処は、私のフィールドと言っても過言じゃないから、1輌程度の差は無いに等しいよ。」

 

 

「そんな事は分かってるわ……だけどね、私も小梅も貴女の最も得意とする市街地戦で貴女に勝ちたい。

 

 戦車乗りとしての力が120%発揮された西住みほと戦って勝ちたいのよ――中学戦車道最強と謳われる、隻腕の軍神の本気を越えて掴んだ勝利こそ、究極にして至高の勝利だと言えるんだから。」

 

 

 

しかし、予想を崩した程度ではみほは揺るがない。それどころか、その場で新たな作戦を思いついてしまう程の鬼才なのだ。

 

無論そんな事はエリカと小梅も分かっている。分かっている上で、敢えて進軍して市街地戦での戦いをみほに挑んだのだ――みほが最大の力を発揮する市街地戦で勝ってこそ本物だと考えて。

 

 

普通なら、その判断を愚かだと断じる所だろうが、みほは其れを聞いて嬉しくなっていた。

 

 

 

「(態々自分達に有利なフィールドを捨てて、逆に私に有利なフィールドで戦おうとするなんて、とってもいい感じだね。

 

  エリカさんも小梅さんも、一昨年の準決勝の時とはまるで別人……若しかしたら、此の試合中にさらに成長する事が無いとも言い切れない……やっぱり、決勝戦はこうでなくちゃね!)」

 

 

 

2年前ならば、自分の方が圧倒的に上だったが、今のエリカと小梅の実力は、みほには勝てずとも、しかし劣らないと言うレベルにまで到達している故に、同世代で互角のライバルが居なかったみほにとって、エリカと小梅が強くなっていると言う事は、素直に有り難かった。

 

 

そして、其れとは別に闘志を燃やしているのが……

 

 

 

「此れが3回目の邂逅……日本の諺では『三度目の正直』って言うんだったかしら?――今度こそ、決着を付けてやるわアズサ!!」

 

 

「1回目は戦闘無し、2回目はドロー……確かに三度目の正直だねツェスカ。

 

 状況的に、此処で決着を付ける事になるんだろうけど、負けないよツェスカ――うぅん、絶対に勝つ!勝って、西住隊長の勝利を導く!!」

 

 

「上等!私だって絶対に勝ってやる!勝って、隻腕の軍神の首も掻っ切ってやるわ!!」

 

 

 

明光大の副隊長の梓と、黒森峰の次代のエースであるツェスカだ。

 

去年の合宿にて、親友兼ライバルとなった梓とツェスカは、合宿中は互いに切磋琢磨して研鑽を積んだが、同時にお互いに模擬戦ではない大会の場で戦う事になったら如何戦うかをシミュレーションしていたのである。

 

その成果を発揮できる最高の舞台での、3度目の邂逅に、梓とツェスカの闘気が燃え上がらない道理はないのだ。

 

 

そしてその闘気は、当然みほとエリカ、小梅にも伝わり、それに触発されるように、みほとエリカと小梅の闘気も一気に燃え上がる!!

 

其れこそ、活火山が噴火してマグマを噴き上げるかのように強烈にだ。

 

 

 

 

「其れじゃあ始めましょうか、エリカさん、小梅さん――決着を付けましょう!!」

 

 

「貴女の敗北を持ってね――行くわよみほ!!」

 

 

「勝たせて貰いますよ、みほさん!!」

 

 

 

 

「貴女はドイツのジュニアリーグでもトップで活躍できるだけの実力がある。

 

 だから、戦車道を始めて1年程度の相手とは思わずに、ドイツのトップ選手と戦う心算で行くわアズサ――!!」

 

 

「其処までの高評価をしてくれるって言うのは光栄だよツェスカ。

 

 だけど私だって負けない!絶対に勝って見せる!!私の持てる力の全てを持ってして貴女と戦わせて貰うよツェスカ!!!」

 

 

 

夫々闘気は120%!!

 

其れこそ、溢れ出た闘気が地面を揺るがしているのではないかと錯覚しているくらいに強烈なモノだ――が、その渦中にいる彼女達からすれば、そんな事は些事に過ぎないのだろう。

 

 

 

「此れがラストバトル……行くわよみほ!!」

 

 

「受けて立つよエリカさん!!」

 

 

 

 

「「Panzer Vor!!」」

 

 

 

 

そんな中で発せられた『戦車前進』の号令。

 

弱小校の汚名を返上した明光大付属中学校と、絶対王者から陥落しながらも、今再び王者となるべく再起した黒森峰による決勝戦は、ここからがクライマックスだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのクライマックスの舞台で、明光大の副隊長である梓と、黒森峰の次代のエースであるツェスカ、次期隊長候補である2人の戦いは、戦闘開始直後から、手加減無用の戦車戦が展開されていた。

 

 

 

「く……流石はティーガーⅠ――食事の角度で対応されたら、如何にパンターの超長砲身の75mmでも撃ち抜くのは難しわ。」

 

 

「何処でも良いから確実に当てる事が出来れば勝てるとはいえ、ティーガーⅠでパンターの機動力について行くのは難しい――如何に、此のティーガーⅠが東雲工場で魔改造を施されていると言ってもね。」

 

 

 

戦車の性能で言えば、梓の乗るティーガーⅠは、ドイツの傑作重戦車と言われるだけの事があり、重戦車としては攻守速のバランスが素晴らしく、大戦期最強の重戦車であったのは間違いない事から、梓の方が上だと思うだろう。

 

 

だが、ツェスカのパンターも、攻守速を高いレベルで纏めた傑作中戦車であり、特に機動力に限ればティーガーⅠを遥かに凌駕するのだ。

 

鋼鉄の虎と、鋼鉄の豹の戦いは、文字通り力と機動力の勝負になると言えるだろう。

 

 

実際に、梓とツェスカの戦いは、セカンドコンタクトの時よろしく、『避けるツェスカ』と『弾く梓』と言う状況になっているのだから。

 

しかし、此れでは決定打を与える事にはならないと言う事は、梓もツェスカも理解している。其れ故に勝つ為には、此れまでとは異なった戦い方をする以外の方法はない。

 

 

だが、そんな事ですら、今の梓とツェスカにとっては『如何でも良い事』だ。

 

 

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「デヤァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 

そんな事を頭の片隅に置いておけるほどの余裕もない位に、互いに目の前の敵を倒さんと全神経を集中しての、年間ベストバウトに、ノミネート確実な戦いが繰り広げられているのだ。

 

ティーガーⅠの砲撃を悉く避けるパンターと、パンターからの砲撃を『効かぬ!』とばかりに弾くティーガーⅠの攻防はドンドンと激しさを増し、戦車道の俄ファンをも魅了する凄まじい戦車戦が展開されているのだ。

 

 

ティーガーⅠの性能を駆使して一気呵成に攻める梓に対して、パンターの運動能力を全開放して被弾を避けながら攻撃するツェスカ――戦車乗りの能力的には、略互角と言って間違いないだろう。

 

 

 

「クロエ、機動力では負けるけど、絶対に後ろを取られない様にして。常に背後に何かを背負う形で移動してくれる?」

 

 

「了解。可成り難しいけど、頑張ってみるヨ!」

 

 

 

「兎に角足を止めるな!止まったら虎の牙に喰いちぎられて終わりよ!

 

 常に動き回って攻撃して、何としてでもティーガーの後部を取る!後部さえ取れれば、最悪でも相討ちに持ち込む事は出来るんだから!

 

 アズサを、副隊長車を倒せば此方が俄然有利になるんだから、絶対に倒すわよ!」

 

 

「りょ~かい。いやぁ、車長がライバル同士だと、燃えて来るわぁ!」

 

 

 

梓もツェスカも次々と指示を出し、隊員達も其れに応える。それが、可也無茶な軌道や、厳しい装填速度であってもだ。

 

だから、どうしても互いに決定打に欠く展開となってしまうのは仕方ない。観客からすれば、何方が勝つのか手に汗握る戦いと言う所なのだろうが、戦ってる側からすれば此のままでは泥仕合は必至だ。

 

 

決定的な一手を打つ必要がある――梓もツェスカも、そう考えていたのは当然だろうが、此処で先に動いたのは梓だった。

 

 

 

「撃て!!」

 

 

 

何度目になるか分からない砲撃は、しかしツェスカのパンターには向かわず、その頭上にある歩道橋に命中し、瞬く間に歩道橋が破壊されコンクリートの礫が、ツェスカのパンターの上に降って来る。

 

 

 

「何時来るかと思ってたけど、此処で来たわね、妹隊長直伝と思われる裏技が!」

 

 

 

だが、梓が絶対にみほ直伝の裏技を使ってくる事はツェスカも予想済みだったので、慌てる事なく即時その場から離脱してコンクリートの雨を躱す。

 

可能性の1つとして考えておけば、該当する事態が起きた時にも対処は容易いと言う事だ。

 

 

しかし、梓の狙いはコンクリートで押し潰して撃破する事ではない。

 

本当の目的は、パンターを自分達の方向に向けて走らせる事・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だった。

 

多くの車が前進と後退ならば、前進の方がスピードが出るのと同じで、戦車もまた前進する方が最大限のスピードを出す事が出来る故に、上からの障害物が降って来た場合には略間違いなく前進してその場を離脱する物だ。

 

後退して避ける事がない訳でもないが、その場合は態々目の間に障害物が出来る事になり、其れを越えて戦いを続けると言うのは、あまり得策ではない――瓦礫の山を乗り越えようとした所を狙い撃ちにされる危険性があるから。

 

ツェスカもまた、後退して避けるのはリスクが大きいと判断し、前進する事でコンクリートの雨を避けたのだが、同時に其れは、梓の狙いにまんまと乗っかってしまった事でもあった。

 

 

 

「そう避けるのは読んでたよ!なのは!!」

 

 

「全力全壊!!」

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァァァン!

 

 

 

前進して来たパンターに向けて、ティーガーⅠの88mmが炸裂!

 

しかし其れは、パンターではなく、パンターの手前に着弾し、道路にクレーターを穿つ。

 

車が急には止まれない様に、戦車も急には止まれない。ならばどうなるか?――答えは簡単だ。前進していたパンターは、突如出現したクレーターに車体の右半分を落っことす結果になり、これ以上の進行が不可能になってしまったのである。

 

時間を掛ければ抜け出す事も出来るだろうが、目の前にティーガーの主砲が待ち構えている以上、脱出は不可能な上に、動く事が出来なくなってしまえば、其れはもう只の的でしかない。

 

 

 

「此れで終わりだよツェスカ!撃て!!」

 

 

「転んでもただでは起きないわアズサ!撃てぇ!!!」

 

 

 

動けなくなったパンターに対して梓はトドメとなるであろう砲撃を命じるが、ツェスカも只でやられる心算は無く、最後の砲撃を放つ!!

 

 

 

――ドガァァァァァァァン!

 

 

――キュポン!

 

 

 

『黒森峰、パンター1号車、行動不能!』

 

 

 

その攻撃は梓の方が有効打となり、此れで数の上では互角になった。

 

互角になったのだが――

 

 

 

「履帯がやられるなんて……!!」

 

 

「履帯切りは、明光大の専売特許じゃないのよ。」

 

 

 

梓のティーガーは、パンターの最後の砲撃で履帯を切られてしまっていた。

 

自分は此処で撃破されると判断したツェスカは、せめて梓がみほと合流するまでの時間を遅らせようと、履帯を切ると言う選択をしたのだ。

 

梓の合流が遅れれば、其れだけエリカと小梅のタッグがみほを攻める事が出来る時間が延びるのだから。

 

 

梓とツェスカのライバル対決は、戦車を撃破したのは梓だが、最後の最後でチームの為の一撃を喰らわせたツェスカと言う事を考えると、引き分けよりの、梓のギリギリ優勢勝ちと言った所だろう。

 

 

何にしても梓達は、1秒でも早くみほ達と合流すべく、ティーガーⅠの重い履帯の修理をする事になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梓とツェスカが凄まじい戦車戦を繰り広げていた頃、みほvsエリカ&小梅の戦いも、最初からヒートアップしていた。

 

通常の戦車性能で言うのならば、ティーガーⅡは、ティーガーⅠよりも攻防力で圧倒的に上回る代わりに、足回りが非常に弱いのだが、明光大のティーガーⅡは、防御力を若干下げる事で、弱点の足回りの弱さを克服している。

 

故に、戦車の性能的には有利になると思うだろうが……

 

 

 

「この動き……ティーガーⅠのカタログスペックを上待ってる?――若しかして、そっちもかな?」

 

 

「正解よみほ。

 

 黒森峰の全車輌とは流石に行かなかったけど、隊長車と副隊長車のティーガーⅠには、レギュレーションギリギリの魔改造を施させて貰ったわ。」

 

 

「OGのおば様達が、王者の云々なんて口喧しかったんですけど、『西住みほ』に勝つには、そんな事言ってられないってエリカさんが一喝したら渋々ですが許可して貰えたんですよ。」

 

 

 

エリカと小梅のティーガーⅠもまた、エンジンと足回りをレギュレーションギリギリまで魔改造を施してあるらしく、明光大の最強戦車である魔改造ティーガーⅡと互角に張り合っているのだ。

 

だが、其れでもみほの方が戦車性能で勝っているのは変わらない。

 

ティーガーⅡの超長砲身88mmならば、ティーガーⅠが食事の角度を取ったとしても正面装甲を楽に抜く事が出来る――逆にティーガーⅠの長砲身88mmで事実上200mm近い装甲となる、ティーガーⅡの正面傾斜装甲110mmを抜くのは難しいのだから。

 

 

しかし、状況は1対2のハンディキャップマッチ状態故に、戦車の性能差では勝負が決まらない。

 

みほの戦車乗りとしての能力は、間違いなく現在の中学戦車道では最強だろうが、エリカと小梅のコンビもまた、中学戦車道最強のタッグとして認識されつつある。

 

それだけに、この3人の戦いは、何方も退かない激しい物となっているのだ。

 

 

 

黒森峰は、エリカが持ち前の攻撃力を持ってしてみほに攻撃を仕掛け、小梅がエリカの攻撃の隙を補う形で動く『静と動』のコンビネーションで、対するみほは、エリカの攻撃を避け、そして弾きながら小梅のティーガーⅠを狙う。

 

この状況でエリカのティーガーⅠを狙って撃破するのは難しいと考え、先に小梅のティーガーを撃破する事を選択したのだ。

 

 

 

「う~~ん……小梅さんを撃破するのも難しいね……」

 

 

「天パを撃破しようとすれば、こっちが撃つ前に銀髪が撃ってくっからなぁ……正直ウザってぇ!

 

 てか、此のままだとジリ貧だろ?如何すんだよみほ!!」

 

 

 

しかし其れも、小梅を攻撃しようとした瞬間に、エリカからの攻撃が来るので難しい物となっていた。

 

エリカと小梅は、この2年間で、合宿の効果もあって急成長し、更には決勝戦前に、此れまでのみほの試合の映像を何度も見直し、徹底的にみほの事を研究して来たのだ――その成果が十二分に発揮され、みほを防戦一方の状態にしていたのだ。

 

 

 

その最中に、ツェスカのパンターが撃破されたアナウンスが入るが――

 

 

 

 

『すみません西住隊長、ツェスカは倒したんですけど、履帯を切られちゃいました――合流には、時間が掛かります。』

 

 

「……履帯を……分かった、決して焦らないでね梓ちゃん。」

 

 

『了解です!』

 

 

 

同時に梓から『履帯を切られた』との通信が入る。

 

ティーガーⅠの履帯は重く、ドレだけ急いで修復しようとも、修復には最低でも5分はかかる――寧ろ、5分ジャストで直す事が出来たら、褒章モノだろう。

 

 

とは言え、此れはみほにとっては有り難くない。

 

梓が合流してくれれば状況が好転すると考えていたみほにとって、梓との合流が遅れると言う事は、その分だけエリカと小梅の2人を相手にする時間が増えると言う事なのだから。

 

 

ライバル同士の戦いは、確かに楽しいが、己に勝るとも劣らない力を持った2人を同時に相手にすると言うのは、存外疲れる物であるが故にみほとしては、梓の合流が遅れると言うのは嬉しくない事だった。

 

 

 

「つぼみさん緊急回避!青子さん、装填速度を0.5秒上げて!ナオミさん、出来るだけ相手の足元を狙って!!」

 

 

「了解よみほさん!!」

 

 

「0.5秒か……少しきついがやってやらぁ!!」

 

 

「鋼鉄の虎の王の牙からは逃れられない――目標を狙い撃つわ!」

 

 

 

其れでも、次々と指示を飛ばして、1対2の状況であるにも拘らず、互角の戦いを展開する。――此れだけでも、西住みほと言う戦車乗りが現在の中学戦車道界隈で、ドレだけ特出しているのか分かるだろう。

 

 

しかし、エリカと小梅もまた現在の中学戦車道に於いてはみほに続く強者であり、中学戦車道のトップ3に名を連ねているのだ。

 

実力の差はコンビネーションで埋めると言わんばかりに、エリカと小梅は互いの長所を生かしたコンビネーションを持ってしてみほを攻め立てる――相手がみほでなければとっくに決着はついていただろう。

 

 

みほvsエリカ&小梅の戦いもまた、観客が手に汗握る展開となっていたのだが、此処で事態が動いた。

 

 

 

「取りました!!」

 

 

「しまった!!」

 

 

 

エリカからの攻撃を避けたみほの後に回り込む形で小梅のティーガーⅠが移動し、みほのティーガーⅡの後を取ったのだ。

 

如何に最強の攻防力を持つティーガーⅡと言えど、後面を88mmで撃たれては堪った物ではない――、喰らったら撃破は免れないのだ。

 

砲塔を回転しようにも、その時間すらない――急発進した所で、致命傷は免れない。

 

此処までかと、ティーガーⅡの搭乗員全員が思ったその時だった。

 

 

 

「させるかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

――ズドォォォォォォォン!!

 

 

 

「んな!?」

 

 

「梓ちゃん!!」

 

 

 

突如小梅のティーガーⅠに砲撃が撃ち込まれ、試合を決めるであろう一撃を放つのを止めた。

 

その砲撃を放ったのは、言うまでもなく梓の乗るティーガーⅠ!最速で履帯を修理し、全速力で駆けつけた結果、みほが撃破されるかも知れないギリギリのタイミングで戦線に加わったのだ。

 

 

そして、この砲撃で虚を突かれた小梅の一瞬の隙を突いてみほはその場から離脱!

 

当然小梅は離脱したみほを攻撃しようとするが、其れよりも早く梓のティーガーⅠが全速力での体当たりを食らわし小梅の攻撃を封じる。

 

 

此れだけの至近距離なのだから砲撃を撃ち込めばいいと思うだろうが、梓のティーガーⅠは、先程の砲撃で砲弾が尽きてしまい、体当たりで攻撃をするしか攻撃手段が残されていなかったのだ。

 

 

しかし、其の効果は覿面だ。

 

正面からぶつかったのならば兎も角、側面から押された小梅のティーガーⅠは殆ど抵抗する事は出来ず、梓のティーガーⅠにグングン押し込まれているのだ。

 

 

 

「此のまま押し込めぇ!!」

 

 

「砲塔を回して!撃てぇ!!」

 

 

 

そしてそのまま梓は小梅を花火店に押し込み、其れと同時に小梅のティーガーⅠから砲撃が放たれる!

 

が、その爆炎を受けた店内の花火は一斉に点火し――

 

 

 

――ドパパパパパパパパパパパパパパ!!

 

 

――ブシュオォォォォォォォォォォ!!

 

 

――シュゥゥゥゥ……ドパァァァァァン!!!

 

 

 

 

「「た~まや~~~……」」

 

 

 

手持ち花火、噴出花火、果ては打ち上げ花火まで炸裂して、お祭り顔負けの事態に――みほとエリカが、思わず花火お決まりのフレーズを口にしてしまったのも無理ないだろう。

 

 

 

 

『黒森峰ティーガーⅠ2号車、明光大ティーガーⅠ1号車行動不能!』

 

 

 

 

其れと同時に、梓と小梅の車輌が白旗判定となった事を示すアナウンスが入る。

 

弩派手な相討ちとなったが、両車輌の搭乗員は、全員が煤塗れになりながらも降車して来たので、取り敢えず無事なようであり、其れについては、みほもエリカも胸をなでおろす。

 

 

 

「何て無茶苦茶な……師が師なら、弟子も弟子ねみほ?」

 

 

「あははは……否定できないよエリカさん……」

 

 

 

だが此れで、決勝戦は、フラッグ車以外が全滅した上で、フラッグ車同士の一騎打ちと言う異例の事態になったのである。

 

 

一騎打ちとなればみほに分があると思うだろうが、みほ自身はそうは考えていなかった。

 

 

 

「(エリカさんにとってはこの状況は不利な筈だけど、不利な状況でこそ人は其の力を発揮する――私が菊代さんに初めて勝った時も、圧倒的に不利な状況からの逆転だったからね。

 

  確実に、エリカさんは此処で自分の殻を割って来る――!)」

 

 

 

この戦いでエリカが更に強くなると言う事を確信していたのだ。

 

 

 

「此れで残るは私達だけか……隊長車にしてフラッグ車の一騎打ち――勝たせて貰うわよみほ!」

 

 

 

其れを示すかのように、一騎打ちと言うシチュエーションになったにもかかわらず、エリカの顔には笑みが浮かんでいた――純粋な戦いを求める者が浮かべる獰猛な笑みが。

 

 

だが、其れを見てもみほは怯まない。

 

 

 

「私だって、負けませんよエリカさん!!」

 

 

 

怯まない所か、エリカに勝るとも劣らない獰猛な笑みを浮かべてエリカと対峙する。

 

第61回中学戦車道全国大会の決勝戦は、異例の残存車輌がフラッグ車のみでの一騎打ちと言う事態になっていたが、其れは同時にみほとエリカの完全決着戦でもあった。

 

 

 

「行くわよみほ!!」

 

 

「行くよエリカさん!!」

 

 

 

隻腕の軍神が軍刀を抜き、黒き森に生きる銀狼がその牙を剥く――隻腕の軍神と、シュバルツバルトの銀狼の文字通りの一騎打ちの火蓋が切って落とされた。

 

 

今此処に、決勝戦の最終幕の幕が上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer62『軍神vs銀狼の壮絶な結末です』

エリカさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!Byみほ      みほぉぉぉぉぉぉ!!Byエリカ     パリーン(何かが弾ける音)      此れは……まさか、種割れ!By小梅


Side:まほ

 

 

 

『聖グロリアーナ、フラッグ車行動不能。――黒森峰女学院の勝利です!』

 

 

 

 

ふぅ……勝てたか。

 

黒森峰の高等部でも、最初は天城さんが隊長だったんだが、私が高等部に入学してくるや否や、速攻で私を隊長に指名して、自分は後ろに下がってしまったのだが、其れが逆に良かったのかも知れないな?

 

こう言っては何だが、同輩にしろ先輩にしろ、私と互角に戦えるのは天城さんか凛くらいだったからな――尤も、流石は黒森峰と言うか、私には及ばずとも、隊員のレベルは高いがな。

 

 

だが、決勝を戦った聖グロの新一年生――名をダージリンと言ったか?彼女は、将来間違いなく聖グロの隊長となり、強敵となるだろうな。

 

否、ダージリンだけじゃない。サンダースのルーキーエースであるケイに、僅か半年足らずでアンツィオを全国大会に出場出来るまでに、戦車道を立て直した安斎、そしてプラウダのルーキーエースであるカチューシャとノンナ、何故継続に行ったのかは分からないが、島田流長女の美佳(本人は『今の私は名無しのミカだよ』とか訳の分からん事を言っていたが…)、私が最高学年になる年は、強敵だらけになりそうだ。

 

 

 

 

「お疲れ様まほ。」

 

 

「凛か……お疲れ様だ。――お前が居なかったら、此の決勝戦は、もっと苦戦してたよ。

 

 去年の中学大会で、全試合でフィニッシャーになったお前の実力は本物だと言う事を、改めて実感させて貰った――此の決勝戦でも、聖グロのフラッグ車を撃破したのはお前だからな。」

 

 

「其れは隊長が良かったからよ――貴女が隊長じゃなかったら、私は此処まで出来ていなかったと思うからね。」

 

 

 

 

其れは嬉しい事を言ってくれる――其れは其れとして、中学戦車道の全国大会はどうなったのだろうか?みほとエリカが戦う以上、一方的な展開にはならないと思うのだが……

 

 

 

 

「貴女の予想道理、一方的な展開にはならず、試合はまだ続いてるわ。

 

 それも、明光大も黒森峰も、互いに残るは隊長車でありフラッグ車である1輌のみって言う状況なの――正真正銘の一騎打ちよ、此れは。」

 

 

「!!」

 

 

他の車輌が全滅した上でのフラッグ車同士の一騎打ちなど、前例がないが、だからこそワクワクしてくるじゃないか――みほが、エリカの事を圧倒的に上回るのか、それともエリカがみほの隙を突いてその喉笛を喰いちぎるのか……そう言う戦いだからな此れは。

 

 

だが、何方が勝っても私は満足だ――だから、みほもエリカも己の戦車道を思い切りぶつけ合え!!一切の遠慮など捨て去ってな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer62

 

『軍神vs銀狼の壮絶な結末です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

第61回全国中学校戦車道大会の決勝戦は、フラッグ戦でありながら、フラッグ車以外が全滅と言う異例の事態になっていた。

 

 

 

「「Panzer Vor!!」」

 

 

 

明光大も黒森峰も、残存車輌はフラッグ車のみであり、そうなると必然的に、フラッグ車同士の一騎打ちで勝負が決まる物なのだが、この状況なった時点で、多くの観客は、明光大の勝利を確信していた。

 

みほとエリカの間には、明確な実力差が有るにも拘らず、此処まで互角に戦う事が出来ていたのは、他の隊員の存在があって事であり、タイマン勝負ならば、間違いなくみほが勝つと誰もが思っていたのだ。

 

 

事実、一騎打ちが始まった直後は、エリカは防戦一方であり、一瞬でも判断を間違えば即撃破されてしまうのではないかと言う様な状態だったのだ。

 

 

 

 

しかし――

 

 

 

 

「逃がすな、撃て!!」

 

 

「回避!!そして横っ腹に撃て!!」

 

 

 

時間が経つにつれ、エリカは次第にみほの攻撃に対応できるようになり、更にはカウンターを叩き込むようになっていき、一騎打ちが始まって5分が経過した頃には、エリカはみほと互角にやり合っていた。――車長としての能力で劣り、更にはみほに有利な市街地戦であっても、エリカはみほと互角にやり合っているのだ。

 

 

否、車長の能力として劣っていると言うのは、少々語弊があるかも知れない。

 

実は元々、逸見エリカと言う少女は、戦車道の才能に関しては、みほに勝るとも劣らない物を持っていたのだが、小学生の時に、西住姉妹に完敗した事で、自分で『西住姉妹には勝てない』と思い込んでしまい、常に戦車道ではナンバー2に甘んじるようになっていたのだ。

 

 

 

だがしかし、エリカは誰よりもストイックに戦車道と向き合い、人の何倍もの努力をしてその力をぐんぐんと伸ばして行った――だが、其れでも西住姉妹(特にみほに対して)に勝利すると言う事が想像出来ず『自分1人では勝てないが、仲間が居ればその限りではない』と言う考えを持つに至り、己の才能に自ら蓋をしてしまったのだ。

 

 

勿論、その考え自体は間違いではなく、実際に小梅との連携は、みほを追い詰めた。

 

もしも、梓の援護が間に合わなかったら、みほのティーガーⅡは撃破されていたのかも知れないのだから。

 

 

しかし其れはならず、乱入して来た梓が小梅を相討ちと言う形で撃破し、結果として、味方の援護は無い状態でみほと戦う事になってしまったのである。

 

 

だが、何の悪戯か神の気紛れかは知らないが、この状況が、仲間からの支援が期待できないと言う極限の状況が、エリカの精神を研ぎ澄まし、集中させ、その結果として己で施した蓋を開ける事になっていた。

 

 

 

「(エリカさんの動きが目に見えてよくなった――此れは、覚醒したかなエリカさんが。

 

  だとしたら、もう私とエリカさんの間に実力差は殆どない。精々私の方がエリカさんよりも早く戦車道を始めていた位の差しかないかな。)」

 

 

「あんの銀髪、目に見えて動きが良くなったじゃねぇか!?何だよ、今まで手ぇ抜いてたのかアイツ!!」

 

 

「まさか、手を抜いて戦ってこの状況に持って行ける相手じゃないでしょみほは。」

 

 

「なんだか、一気に一皮剥けた感じねぇ……」

 

 

「一皮剥けた……正にその通りだよ。

 

 エリカさんは、此れまでも全力で戦っていたけど、この一騎打ちの中で自分の本当の力が覚醒したんだよ――このエリカさんは、今までのエリカさんとは比べ物にならない程に強いと思う。

 

 今のエリカさんが相手じゃ、私も絶対勝てるとは言い難いよ?」

 

 

「マジかオイ?だが、其れは其れで面白れぇ!てか、最後の一騎打ちが呆気なく終わるってのは無しだからな!!」

 

 

 

其れは、普通ならば有り難くない事なのだろうが、明光大の、特にみほ達隊長車の面々からすれば、嬉しくて楽しい事でしかなかった様だ。

 

簡単に勝つ事は出来ないレベルにまで、一騎打ち開始から僅か5分で到達したエリカの眠っていた才能と、剥き出しにされた闘争本能は、一騎打ちの相手として申し分ない所か最高なのだから。

 

 

そして、其れはエリカもだ。

 

 

 

「みほの動きが見える、ある程度読める……何だって急に――?

 

 若しかして、追い詰められた際の火事場の馬鹿力って奴なのかしら此れが……まぁ、何でも良いわ。此れならみほと互角に戦えるもの。

 

 いいえ、互角じゃない、勝つのは私達よ!!全員、限界なんて突破していくわよ!!」

 

 

「任せとけ逸見!!」

 

 

「明光大がナンボのモンよ!新生黒森峰の力、見せてあげるわ!!」

 

 

「覚悟して貰うよ、妹様!!」

 

 

 

自分の戦車乗りの、車長としての能力が、感覚が行き成り鋭くなった事に驚きつつも、此れならばみほと互角に戦えると、勝てると確信し、仲間に激を飛ばす。

 

仲間達も其れに応え、全力で明光大に向かって行く。

 

 

漆黒と、デザートイエロー。鋼鉄の虎2頭の戦いは、始まった時よりも遥かにその激しさを増していた。

 

 

みほもエリカも、本当に重戦車に乗っているのか疑いたくなるほどに駅前広場を縦横無尽に駆け巡り、互いの砲手は的確に相手を狙うが、操縦士の類まれな戦車操縦でクリーンヒットを許さない。

 

更に、装填士が、重戦車の重砲弾を装填しているのかと疑いたくなるような高速装填を見せ、攻撃の手が止まらない様にしている。

 

そして何よりも、みほとエリカ――車長の指示が的確だ。

 

 

基本的には仕掛けるみほに対して、後の先を取るエリカと言う図式だが、エリカはみほのしてくる事を予想していたかのような指示を出して撃破を回避してカウンターを叩き込み、みほはみほでエリカのカウンターを読んでいたかのように其れを躱して、次の一手を打つ。

 

 

 

「(此のままじゃ、此方が不利――なら、今度のカウンターで此方から仕掛ける!)

 

 回避!そして、撃てぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

だが、此のままでは勝てないと判断したエリカは、みほの攻撃を回避したカウンターの砲撃を放った――みほの乗るティーガーⅡではなく、その頭上に有る横断歩道に。

 

 

 

――ドガァァァァァァァン!!

 

 

 

「んな!?つぼみさん、緊急回避!!」

 

 

「掟破りの逆瓦礫落とし!?か、かしこまりよみほさん!!」

 

 

 

みほが得意とする、戦術の一つである『瓦礫落とし』を逆に仕掛けて、みほの攻勢を一旦止めようとしたのだ。

 

そして、エリカの読み通り、其れは効果があり、みほからの攻撃の手は一瞬だが、しかし確実に止まった。そして、その一瞬があれば、今のエリカにとっては充分だ。

 

 

 

「今よ、撃てぇぇぇ!!」

 

 

 

其処に向けてティーガーⅠの砲撃が放たれる。

 

瓦礫を回避する為に、急発進したティーガーⅡは、ティーガーⅠに対して無防備な側面を曝しており、其れは黒森峰にとっては絶好の好機でしかない。

 

如何にティーガーⅡと言えども、側面装甲ならばティーガーⅠの88mmは貫通してしまう。故に、命中すれば必殺間違いなしだが――

 

 

 

「明光大一の俊足に、躱せないモノなんて無いのよ!!」

 

 

 

最早超反応と言っても過言ではない反応スピードで、つぼみがティーガーⅡを急発進してクリーンヒットを免れる。……が、こんな事が出来たのも、このティーガーⅡが東雲工場にてレギュレーションギリギリの魔改造をされていたからだろう。

 

ノーマルのティーガーⅡでこんな事をやったら、その時点で履帯が切れてゲームオーバーだろうから。

 

 

 

「此れすら躱すとか、本気で貴女は底が知れないわねみほ?」

 

 

「エリカさんだって凄いと思うよ?――まさか、覚醒したばかりで此処までとは思わなかったから。

 

 覚醒した潜在能力を、直ぐに此処まで扱うなんて言う事は、早々できるモンじゃないよ?……それこそ、私やお姉ちゃんだって、解放された潜在能力を使いこなせる様になるのに半年はかかったからね。

 

 若しかしたら、今大会の中で、少しずつエリカさんの潜在能力は開花していたのかも知れないね此れは。」

 

 

「私の潜在能力の覚醒?此の急な力の上昇がそうだって言うの?

 

 だとしたら、戦車道の神様も随分と粋な事をしてくれるものだわ――貴女との一騎打ちで、其れに覚醒したんですからね!!

 

 此の試合、勝つのは私達よ!!勝利は譲らないわ!!」

 

 

「否!勝利とはもぎ取るものです!!」

 

 

「……そうだったわね!!」

 

 

 

だが、其れはエリカのティーガーⅠにも言える事だ。ノーマルのティーガーⅠで此れだけ動き回って居たら、とっくに履帯が断末魔の悲鳴を上げていただろう。

 

共に、魔改造された最強重戦車に乗っているからこそのこの戦車戦だが、その激しさは、衰えるどころかドンドン激しくなっていく。

 

 

 

「「撃て!!」」

 

 

 

互いに相手の戦車を狙いつつ、その時々に電柱を倒したり、信号機を頭上から落としたりと、市街地戦と言う物をこれでもかと言う位に最大利

 

用した戦いが展開されているのだ。

 

 

そして、この展開は、残存車輌がフラッグ車のみと言う事が大きく関係して来ている。

 

みほもエリカも類まれな戦車乗りであり、隊長としての能力も高いが、隊長であるが故に、普段は自分の隊の状況や相手の状況など、多くの事を瞬時に把握・判断しなければならず、自身の能力のリソースの多くを隊全体と相手チーム全体に割く必要がある。

 

その為に、隊長は本当の意味での全力を出す事が出来ないのだが、互いに残る相手はフラッグ車のみとなったこの状況に於いては、みほもエリカも『隊長』である必要はなかった。

 

 

既に自分達以外の戦車は沈黙してしまい、味方は居ない代わりに敵も1輌のみ。

 

この状況ならば、敵味方問わず状況を全て把握する必要はなく、互いに目の前のフラッグ車にだけ集中できる為に、己のリソースを全て目の前の相手との戦いに割り振る事が出来ていたのだ。

 

 

 

 

「此れが、隊長である事を捨て去った西住隊長と、逸見さん……!」

 

 

「エリカさんもみほさんも凄いオーラ……軍神が銀狼を斬り捨てるのか、それとも銀狼が軍神の喉笛を喰いちぎるのか……予想出来ません。」

 

 

 

そして、其れは客席まで戻って来た両校の副隊長である澤梓と赤星小梅も理解していた。(この2人以外で理解しているのはツェスカ含めて数名のみ。)

 

『隊長』と言う枷から解き放たれたみほとエリカだからこそ、これ程までの戦車戦が行えているのだと。

 

 

 

「それにしても、エリカさんもみほさんも一体どれだけ集中してるんでしょうね?

 

 極限の集中状態の表現で、漫画とかアニメでは見る事がありますけど、まさか現実で見る事になるとは思いませんでした。」

 

 

「今の西住隊長と、逸見先輩ってドレくらいの強さなんでしょう、赤星さん?」

 

 

「さぁ?少なくとも、私達ではとても適わないレベルなのは間違いありませんよ澤さん。」

 

 

 

同時にオーロラヴィジョンに映し出されたみほとエリカの表情には、両校の隊員の全てが驚かされていた。

 

みほとエリカは強敵との戦いを楽しんでいるとき特有の笑みを口元に浮かべているが、瞳からはハイライトが消えて瞳孔が極端に収縮した状態に――『極限の集中状態』とも言うべき状況になっていたのだ。

 

 

ベタな言い方だが、心は熱く燃えても頭はクールで、思考はクリアーと言う、戦う者としては最高の状況だが、真に其れに至れる者は多くはないだろう。

 

まほですら、この状態になった事は無いのだ。(まほの場合は、そうなる必要がある相手が居なかっただけであり、唯一千代美との戦いで、限りなくそれに近い状態にはなっている。)

 

 

此れもまた、実力が拮抗している一騎打ちだからこそみほもエリカもその状態になったのだろう。

 

 

 

そんな状態の2人の戦いは、比喩ではなく目が離せない状況となっている。

 

実力は略拮抗しているが故に、決定打に欠き、中々互いに相手を撃破出来ない――故に、目を離したその一瞬に、試合が決定してしまうかも知れないから。

 

 

現に今も、みほ車が『元祖瓦礫落とし』を炸裂させれば、エリカ車は其れを見事に躱して、カウンターの『掟破りの逆電柱倒し』を仕掛け、倒れて来た電柱をティーガーⅡの主砲が粉砕すると言う、息もつかせぬ攻防が行われたばかりだ。

 

 

 

 

「(残り段数は、あと10発……搭載可能砲弾はティーガーⅠの方がティーガーⅡよりも8発だけ多いから、此のまま長引けばこっちが弾切れ起こしちゃう……次で決める!!)」

 

 

「(残り段数は11発ね……みほのティーガーⅡが何発残ってるか分からないけど、残弾数が心許ないのは確か――次で決めましょうか!)」

 

 

 

 

しかしながら、なかなか決着が付かない戦いと言うのは、弾数を消費しているのと同じであり、みほのティーガーⅡも、エリカのティーガーⅠも残弾数が心許ない状況となっており、試合を長引かせる事は出来ない状況になっていた。

 

なので、互いに次で相手を仕留めると決め、夫々最後の命令を下す。

 

 

 

「「撃てぇぇぇ!!」」

 

 

 

同時に発せられた砲撃命令。

 

だが、何方の砲撃も相手の戦車には向かわず、その頭上に有る信号機のアームを圧し折る!――奇しくも、交差点を真ん中にして向かい合って居た事で、互いに頭上からのシグナル落としを選択する結果になったのだ。

 

 

無論それを大人しく喰らうみほとエリカではなく、砲撃と同時に急発進し、シグナル落としを回避!

 

そのまま、互いに真正面から向かい合って1発ずつ打つが、其れは回避され、すれ違うような形となる。――が、すれ違いざまに互いに砲塔を回転させて相手の戦車に向け……

 

 

 

 

「Feuer!!(撃て!!)」

 

 

「Das ist das Ende!!(打ちかませ!!)」

 

 

 

同じタイミングで、ティーガーの象徴である88mm(アハトアハト)が炸裂し、互いの戦車から白煙が上がる。

 

果たして勝ったのは何方なのか……徐々に白煙が晴れ――

 

 

 

――キュポン×2

 

 

 

ティーガーⅡとティーガーⅠから、同時に白旗が上がったのだ。

 

 

 

 

『明光大付属、黒森峰女学院、共にフラッグ車、行動不能!――よって、此の試合、両者引き分け!!』

 

 

 

 

なんと、一騎打ちの結果は、まさかの引き分け。つまりは、決着付かず。

 

だが、勝敗が付かなかったにも拘らず、観客も、両校の隊員も、惜しげない拍手と歓声を送っていた――勝ち負けと言う結果以上に、みほとエリカの一騎打ちは、人々の心に大きな印象を残したのだ。

 

 

 

「引き……分け?」

 

 

「そう……みたいだね。」

 

 

 

みほとエリカも、まさか引き分けになるとは思っていなかったが、しかしその表情は晴れやかだ――全力を出し切ったのだから当然だろう。

 

しかし、全力を出し切ったと言うのは、精も根も尽き果てたの同じであり、試合後の握手をしようと、戦車を降りたみほとエリカは、握手をするどころか、互いに歩み出た所でダウン!

 

死力を尽くして戦った2人には、最早立つだけの力すら残って居なかった様だ。

 

 

 

「もう無理、限界……此処まで戦った自分を褒めてやりたいわ。」

 

 

「あはは……それは私もだよ――だけど、楽しかったよね?」

 

 

「其れだけは、間違いないわ――だけど、此の試合は、どう処理されるのかしらね?」

 

 

「其れは、私達の考える事じゃない――連盟がどんな判断を下すかって事にかかってるからね。」

 

 

「確かに――だけど、連盟がどんな判断を下そうと、私は満足してるわ。

 

 貴女と全力で戦う事が出来たのだから。――最高の試合だったわ、ありがとう、みほ。」

 

 

「お礼を言うのは私の方だよエリカさん――こんなに興奮した試合は、本当に久しぶりだったから。ありがとう、エリカさん。」

 

 

 

其れでも、みほとエリカは、寝転がりながらも互いに手を握って握手して、健闘を称える。

 

第61回全国中学校戦車道大会は、異例のフラッグ車以外全滅での一騎打ちに加え、前例のない引き分けと言う、後にも先も例のない幕切れとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、この結果に頭を悩ませたのは連盟だ。

 

互いにフラッグ車以外の戦車が全滅した上でのフラッグ車の一騎打ちだけでも例がないと言うのに、その上、その一騎打ちすら引き分けと言う結果に終わった為に、どう対応するかとの緊急会議を開く事になったのだ。

 

 

その会議では色々な意見が出た。

 

 

『双方とも学園から、同性能の戦車を輸送させて延長戦をしたらどうか?』

 

 

『ダメだ、両校の隊長には、延長戦を行う体力は残って居ない。』

 

 

『ならば、後日再試合を行うと言うのは?』

 

 

『其れも如何だ?実力が拮抗している以上、再試合でも同じ結果になる可能性が否定できない――もし、そうなった場合は如何する?』

 

 

『我々と観客によるジャッジで決めるのは如何だ?』

 

 

『我々は兎も角、観客は自分の贔屓の方に入れるだろうから公平ではない。』

 

 

 

だが、その何れもが却下され、決まって居ない状況となっていた。

 

此のままでは、何もどうしようもないと言う所で、誰かが言った――両校とも優勝で、同点優勝で良いのではないかと。

 

 

 

『同点優勝……そうだ、それで行こう。

 

 スポーツの世界に於いて、同点優勝と言う物は決して珍しい物ではない。』

 

 

『実に良きアイディアだ。

 

 此れだけの戦いをしたのならば、明光大も黒森峰も優勝校として恥じない力を有している――あの戦いを見たのならば、観客もまた同点優勝でも納得するだろう。』

 

 

 

 

そして、その意見は驚くほどすんなりと採用され、第61回全国中学校戦車道大会は、同点優勝によって、優勝校が明光大と黒森峰の2校と言う、異例の幕引きとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

『第61回全国中学校戦車道大会、優勝、明光大付属中学校、黒森峰女学院!』

 

 

 

 

試合其の物は引き分けだったけど、まさか同点優勝って言う結果になるとは思ってなかったかな?――再試合の可能性を考えて、次の作戦を考えてたんだけど、如何やらそれは必要なさそうだね。

 

 

壇上では、私とエリカさんが、連盟の会長から優勝旗の授与をされている所。

 

明光大と黒森峰の2つの学校の隊長が、1つの優勝旗を2人で受け取るっていう光景は、マスコミの目を引くのか、なんかうざったい位にフラッシュが炸裂してた気がするよ……

 

 

 

 

「まぁ、仕方ないでしょ?前代未聞が満載な決勝戦だったんだから。――間違いなく、今月の月間戦車道のトップは、私と貴女の戦いがトップを張るんじゃないかって思うわ。」

 

 

「うぅ……其れは勘弁してほしいぁなぁ?

 

 普通にインタビューを受けるなら兎も角、マスコミに押しかけられるのは嫌だよ?」

 

 

「其れについては同意するけど、多分大丈夫でしょ?

 

 貴女は家か学校に居れば安全だし、休日に出かけるにしても、虎と狐がお供で付いて来るでしょうから、猛獣を従えてる女に命知らずな取材をする輩は居ないだろうし、黒森峰の方も、西住師範が何とかやってくれると思うから大丈夫だと思うわ。」

 

 

 

 

……確かに、ロンメルとアンドリューを引き連れていれば、並のマスコミは寄ってこないだろうし、パパラッチの類もアンドリューが猛獣の咆哮をかませば蜘蛛の子散らすように逃げるだろうからね。

 

加えて、黒森峰の過剰な取材はお母さんが『西住流師範』の雷名を使えば簡単に抑える事が出来るから、安心できるかな。

 

 

なら今は、優勝できた事を喜ぼうか!!

 

 

「明光大が!!」

 

 

「黒森峰が!!」

 

 

「「否、私達が王者だ!!!」」

 

 

 

私が右手で、エリカさんが左手で優勝旗を掴んで、其れを高々と掲げる――と同時に、会場からは割れんばかりの歓声と拍手が湧き上がる。

 

其れだけ、此の試合は、強烈な印象を残したって言う事だね。

 

 

 

 

「そうね……私達の戦いが、此れだけ多くの人を魅了した。そう考えれば、この結果も悪くない。寧ろ最高だったって言えるんじゃない?」

 

 

「確かに言えてるかも。」

 

 

何よりも、引き分けだったとは言え、此の試合は最高に楽しめたからね。

 

 

 

 

「よっしゃー!!準備は良いかテメェ等!!

 

 死力を尽くして戦ったアタシ等の隊長を胴上げだ!!明光大も黒森峰もねぇ!!アタシ等の最高の隊長の戦いを讃えて胴上げだーー!!」

 

 

「異論無しです♪」

 

 

 

 

って、わわわ!あっと言う間に明光大の隊員と黒森峰の隊員が集まって来て、そのまま私とエリカさんの同時胴上げ!?――此れは、エリカさんの覚醒以上に予想外だったよ!!

 

 

 

 

「「「「「「「「「「ワッショイ!ワッショイ!!」」」」」」」」」」

 

 

 

「マッタクコイツ等は……でも、悪い気はしないわね。」

 

 

「うん、悪い気はしないね。」

 

 

だって、皆が私達を祝福してくれてるって言う事なんだから、此の胴上げは。

 

引き分けの末のダブル優勝って言う結果だったけど、この大会は、中学校3年間で最高の大会だったって、そう言う事が出来る試合だった。

 

 

中学最後の大会の、其れも決勝戦で此れだけの試合が出来た事には、感謝してもし切れない位だね。

 

 

本当に、最高の試合だったよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 



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Panzer63『夏休みは明黒の合同合宿です』

合宿だと思った?残念、打ち上げだよ♪Byみほ      となると、此れってタイトル詐欺?Byエリカ     詐欺とは違うと思いますけど…By小梅


Side:みほ

 

 

 

全国大会も終わって、あっという間に時が過ぎて、気が付けば夏休み目前だね。

 

全国大会は、エリカさん率いる黒森峰と、両チーム全滅の末のダブル優勝って言う結果になったんだけど、其れが逆に明光大の新聞部にとっては、良いネタだったらしくて、決勝戦後の月曜日には、掲示板にでかでかと『明光大、壮絶な痛み分けの末に、同点優勝にて二連覇達成』って言う見出しの新聞が張られてただけじゃなくて、校門前では新聞部の人達が『号外』を配ってたからね。

 

 

お陰で、7月は、色々と濃い期間だったよ――まさか、隊長チームと副隊長チーム全員が新聞部のインタビューを受ける事になるとは思わなかったしね。

 

まぁ、インタビューに応じて、其れが新聞に掲載されたお陰で周囲の反応はある程度軽減したけど、其れでも1学期中は、私をはじめとした隊長チームに対しての視線は結構多かったよ。

 

 

後で聞いた話だけど、梓ちゃん率いる副隊長チームも其れなりの人気を獲得していて、特に同学年である2年生からの賞賛は凄いみたい。

 

 

 

 

と、其れは其れとして、学生の身としては、夏休み前の何とも有り難くないイベントである、期末考査なんだけど、此れは例によって例の如く、青子さんがテスト範囲を全て丸暗記するって言う裏技を使って、今回も500点満点の栄冠に輝きました!

 

 

そして、其れだけではなく、総合2位が私で、つぼみさんとナオミさんが同率の3位――トップ5を、戦車道の隊長チームが取ったよ!!

 

 

此れなら、安心して夏休みを迎える事が出来そうだね!!

 

 

 

 

「1人だけ補習って言うのは見てて哀れになるからね……青子がトップ通過って言うのは、最早突っ込んだら負けなのでしょうね絶対に。」

 

 

「聞いちゃいけない事なのよきっと……!!」

 

 

 

 

あはは……あんまり聞かないでいてくれると助かります。

 

ともあれ、1学期のイベントは全て終わりました――そして、此れから待っているのは、とっても楽しい夏の一大イベント『夏休み』!!

 

今年も合宿が設定されているから、濃い夏休みになるのは決定しているし、何よりも、黒森峰との合同合宿はとっても楽しい物だからね♪

 

 

今年の夏休みも、きっと楽しい物になるのは間違いないよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer63

 

『夏休みは明黒の合同合宿です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言う訳で夏休みに入って、そして直ぐに熊本に有る西住の家で、明光大と黒森峰の合同合宿は行われたんだけど、今年の合宿は様々な事を学ぶ事が出来る場だったよ。

 

私が黒森峰を、エリカさんが明光大を率いて戦った『隊長交換戦』では、お母さんも感嘆する位の攻防が展開されてたって事だったしね。

 

 

そして、今年の1年生vs2・3年チームの戦いは、此れまで以上の戦いだったかな。

 

去年に引き続き、2・3年連合の隊長は、私が勤めたんだけど、2・3年チームには、私の他にエリカさんと小梅さん、梓ちゃんとツェスカちゃんが居るから、負ける事はなかったけど、1年生チームも中々どうして頑張ってくれたからね。

 

3輌がかりで来られたとは言え、梓ちゃんとツェスカちゃんが撃破されて、直下さんには最早お約束になってる履帯切りを喰らわせたみたいだったし。

 

最終的には、エリカさんと小梅さんのティーガーⅠが、1年生チームのフラッグ車の護衛を吹き飛ばした上で、私のパンターがフラッグ車を撃破して勝ったけれどね。

 

だけど、このチームは私にとって最高のチームだったかな?

 

副隊長として任命した、エリカさんと小梅さんはバッチリ私をサポートしてくれたし、1つずつ小隊を任せた梓ちゃんとツェスカちゃんも、確りと自分の役目を果たしてくれた訳だからね。

 

 

この合宿で、両校の地力が底上げされたのは間違いないよ。……戦車道全体の底上げを考えると、明光大と黒森峰だけじゃなくて、もっと色んな学校が、合同合宿とかやっても良いのかも知れないね?

 

今度、お母さんに提案してみようかな?お母さんなら戦車道の為に了承してくれるだろうし、若しかしたら千代おばさんも協力してくれるかもだからね♪

 

 

 

そして、その合宿も遂に最終日。

 

その最終日に、私達は何処に来てるかと言うと……

 

 

 

 

「「「「「「「「「「海だーーーー!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

絶賛、熊本の海水浴場!しかも、西住のプライベートビーチ!!

 

……此れだけの土地をプライベートビーチに出来るとか、今更ながら、西住流の力は果たしてドレだけなのかな?……そして私とお姉ちゃんが子供の頃に海水浴に来てたのって此処だったんだね……

 

 

ま、そんな事よりも今は此の海水浴を目一杯楽しまないとね!!

 

 

さて、海となれば皆水着な訳だけど、隊長チームは結構華があるね?

 

ナオミさんはシンプルな黒のビキニで、つぼみさんはパレオ付きの真紅のセパレートで、青子さんは青と白のボーダー模様のタンキニと、夫々とっても良く似合う水着だよ。

 

 

 

 

「隊長、如何ですかこの水着?」

 

 

「梓ちゃん?……良いんじゃないかな?良く似合ってるよ♪」

 

 

で、梓ちゃんは清純なパレオ付きの白のビキニ。セクシーさよりも、可愛らしさの方が押し出されてるのが梓ちゃんらしいね♪――エリカさんに水着を見せてるツェスカちゃんは、背中の大きく開いたスポーツタイプを着用してるみたいだね。

 

そのエリカさんは、肩紐がないビキニトップと、鋭くV字に切れ上がったアンダーって言うセクシーさ大爆発の水着!言うなればこれは『童貞を殺す水着』って言う所かな?

 

 

 

 

「貴女ね……まぁ、可成り気合い入れたのは間違いないけど、貴女だって可成りなモノだと思うわよみほ?

 

 トップがネックタイプなのは片腕だから通常のビキニトップじゃ水着がずれるからなんでしょうけど、胸元はハート型に抜けてるし、アンダーだって、私に負けず劣らずのVカットじゃないのよ!

 

 お世辞抜きにして、雑誌のグラビア飾れるレベルよ此れは!!」

 

 

「そう言う話があったら、エリカさんも一緒が良いなぁ♪」

 

 

「そうね、もしもそんな事があったら考えてあげるわ……って、違うでしょ!!てか、貴女、人を乗せるのが恐ろしい位に巧いわね!?」

 

 

「隊長ですから♪」

 

 

「……其れで納得しちゃった私に吃驚だわ。」

 

 

 

 

なはははは……だけどエリカさん、私もエリカさんも、小梅さんに比べたら相当に大人しいと思うんだけどなぁ?

 

小梅さんなんて、ビキニなのは兎も角として、トップだけじゃなくてアンダーも紐ですよ!?より分かり易く言うなら紐パンですよ!?

 

其れだけでも破壊力は青眼の究極竜レベルなのに、更に色は此れでも可って言う位に色気を醸し出す暗めの銀色――此れは、絶対に中学生がチョイスする水着じゃないと思います。

 

 

 

 

「……大人しそうに見えて、小梅は時々ぶっ飛んだ事してくれるのよ――この水着も、多分そう言う事なんでしょうね。

 

 だけど、それ以上に凄いのは、貴女のお母様にして西住流師範と、その側近である菊代さんだと思うんだけど、その辺は如何よ、みほ?」

 

 

「出来ればノーコメントで。」

 

 

小梅さんも相当に刺激的な装いだったけど、お母さんと菊代さんはその上を行くからね。

 

お母さんは際どい黒のビキニだし、菊代さんは胸にはサラシを巻いて、下は褌(六尺や越中ではなく祭りとかで使われてる紐パン的なやつ)って色々水着を勘違いしてるんじゃないかって思うレベルだよ!――何よりも問題なのは、其れが滅茶苦茶似合ってるって事だよね!?

 

って言うか、2人共歳考えて欲しいんだけど……

 

 

 

 

「……此れが、西住流?」

 

 

「其処は否定したいよエリカさん……って言うか、此れが西住流なら、私は其れを全力で否定したいから。」

 

 

「まぁ、そうよね。

 

 取り敢えず、師範や小梅の水着姿は置いておくとして、ビーチバレーでも如何かしらみほ?貴女なら、右腕一本でも充分にプレイできるんじゃないかと思うんだけど……」

 

 

 

 

其れはまぁ、多分大丈夫だと思うよエリカさん?

 

自慢じゃないけど、世間的には身体障害者の私だけど、両腕を使わなくても良い競技に限れば、スポーツテストでも全国トップ5に名を連ねてるし、幅跳びと50m走と、ソフトボール投げと、シャトルランでは全国トップですので。

 

勿論、ビーチバレーでも、充分に動ける自信はあるよ?

 

 

 

 

「なら安心したわ……だから単刀直入に言うわみほ、私と組みなさい。

 

 私と貴女が組めば、誰が相手であろうとも負ける気はしないわ――特に、小梅のチームと、澤とツェスカが組んだチームには負けたくない。

 

 黒森峰の隊長である私と、明光大の隊長である貴女が組めば、最強だって言う事を示してあげようじゃない!!」

 

 

「成程、そう言う事なら拒否する理由がないよエリカさん――隻腕の軍神と、孤高の銀狼が力を合わせたらドレだけなのかって言う事を、戦車道以外でも、教えてあげようか……!!」

 

 

 

――ギン!!!

 

 

 

「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」

 

 

「「私達に勝てると思ってるなら、かかって来な。」」

 

 

 

ふふ、楽しいビーチバレー大会の開幕だね♪

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

そのビーチバレー大会の決勝戦は、私とエリカさんのコンビvs梓ちゃんとツェスカちゃんのコンビって言う、明光大と黒森峰の隊長vs明光大副隊長&黒森峰の次期隊長の図式になったのは、偶然とはいえ運命的なモノを感じるかな。

 

 

 

――バン!!

 

 

 

「ナイスアタック、ツェスカ!」

 

 

「アズサのトスが良かったからよ。」

 

 

 

 

で、コンビとしても中々いいかんじかな。

 

梓ちゃんがトスを上げて、ツェスカちゃんが的確にスパイクを打ち込むって言うスタイルは悪くないと思う。今ので、3連続ポイントだからねぇ?

 

此れで、5対6……逆転されちゃったね。

 

 

梓ちゃんの的確なトスと、ツェスカちゃんの鋭いスパイクは見事だけど、3連続ポイントって言うのはちょっと良くないよねエリカさん?

 

隊長としてやられっぱなしなのも如何かと思うから……

 

 

 

 

「そうね、反撃するわよみほ。

 

 次のサーブを拾ったら、其処からはずっと私達のターンよ!!」

 

 

「連続5ポイントで、一気に勝負を決めに行こうか!!」

 

 

「勿論その心算よみほ!――軍神と狂犬が本気を出したらどうなるか、見せてやるわ!!」

 

 

 

――た~たたた~たたた~~~~~~~(クリティウスの牙の前奏)

 

 

 

「……お母さん、ずっと私達のターンって言ったからって『クリティウスの牙』流さなくても良いからね?

 

 って言うか、何処から持って来たの、その無駄に本格的なオーディオセット……それ以前に、さっきまで何処にもそんな物なかったよね?」

 

 

「ビーチに音楽があった方が良いかなぁと思って、貴女達が熱戦を繰り広げてる間に、常夫さんに持って来て貰ったのよ。」

 

 

 

 

お父さんも何してるの!?

 

って言うか、本気でBGMはいらないから。梓ちゃんもツェスカちゃんも、下劣な蟲野郎じゃないから、ライフが尽きても滅多斬りにするなんて言う事はしないから。

 

そもそも、此れビーチバレーだからね!?

 

 

 

 

「あら、残念。」

 

 

 

 

……時々、お母さんの考えが分からなくなるんだけど、私にも確実に同じ血が流れてるんだよね……あ、半分はお父さんの血だけど。

 

兎に角、此処から一気に行くよエリカさん!!

 

 

 

 

「了解……来たわね!よっと!!」

 

 

「そぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

――バスン!!

 

 

 

梓ちゃんのサーブを、エリカさんが拾って、ボールを浮かせたところで私がスパイク!

 

自分で言うのもなんだけど、砂の上とは思えない程のジャンプから放たれたスパイクには、梓ちゃんもツェスカちゃんも反応する事が出来なかったみたいだね。

 

 

 

 

「今のは……!!」

 

 

「隊長、自分の身長と同じくらい飛んでた……!!!」

 

 

 

 

ふふふ、踏ん張りが利かない砂地でも、足腰が強ければ此れ位は出来るんだよ?まぁ、こんな事が出来るのも西住流フィジカルトレーニングのお陰だけどね。

 

 

 

 

で、其処からはエリカさんが宣言した通り、ずっと私達のターン。

 

此方のサーブを梓ちゃんが拾ってツェスカちゃんにボールを上げるも、ツェスカちゃんのスパイクは必ず私かエリカさんの何方かが拾って、そして、私の高角度スパイクか、エリカさんの超高速スパイクで一気に4連続ポイントで9対6になって、私達のマッチポイント!!

 

 

 

 

「一気に4連続ポイントでマッチポイントって……なんで、私のスパイクが全く決まらないのよ……」

 

 

「確実に決まる場所に打ってる筈なのに……隊長と逸見さんは、身体が自然に動く超反応でも会得してるのかな……」

 

 

 

 

流石にそんな物は会得してないよ。

 

 

まぁ、ツェスカちゃんのスパイクに反応で来てるのは、態と打ち込みやすい場所を作って其処に打たせてるからだよ。言わないけどね。

 

打ち込まれる場所が分かってるなら対処は容易だし、其処からの反撃だってやり易い――ビーチバレーも戦車道も、大事なのは勝つ為の策を如何考えるかだよ。

 

 

さて、今度のサーブは私の番だから、此れで決める!!

 

ボールを放り投げると同時に助走をつけてジャンプして……喰らえ、必殺『西住流88mm砲撃アハトアハトカノンサーブ』!!

 

 

 

――ズドォォォォォォォォォォォン!!

 

 

 

「さ、サービスエース!

 

 其れは普通に凄いし、此れで私達の勝ちなんだけど、明らかにボールが砂地にぶつかったとは思えない音がしたわよ!?てか、軽くクレーター出来てんじゃないのよ!?」

 

 

「……88mmサーブだからね。」

 

 

「西住流……恐るべし。」

 

 

 

 

西住流フィジカルトレーニングを日常的に行ってると、女性らしい曲線を失う事無く、凄まじい身体能力を得る事が出来るので♪……エクササイズDVDとか出したら売れるかも――ううん、アレは何も知らない素人がやったら確実にお陀仏になるから止めた方が良いね。

 

 

 

 

「其れが良いわね。

 

 でも、貴女のサービスエースのお陰で私達の勝ちよみほ!」

 

 

「はい、私達の勝ちですエリカさん!!」

 

 

 

「逸見隊長と妹隊長が力を合わせて本気を出すと、戦車道以外でも此処まで凄いとは……流石としか言いようがないわね。」

 

 

「3連続ポイントで逆転したのに、其処から一気に5連続ポイントで……はぁ、完敗です。」

 

 

 

 

ふふ、梓ちゃんもツェスカちゃんも頑張ったけど、今回は私達の勝ちだよ。

 

だけど、とっても楽しかったから、機会があればまたやろうね?――尤も、その時も私達が勝たせて貰うけれどね♪

 

 

 

 

「今度は負けませんよ隊長、逸見さん!!」

 

 

「今度は私と梓が勝ちますから!!」

 

 

「ふ、精々やってみなさい――楽しみにしてるわ。」

 

 

 

 

リベンジに闘志を燃やす梓ちゃんとツェスカちゃん、そして其れを煽るエリカさん……何だろう、エリカさんてこう言う場面でのヒールな役割が、とっても似合ってるような気がする。

 

 

何にしても、ビーチバレー大会は、私とエリカさんのタッグが優勝だね。

 

さて、もっともっと真夏の海を楽しむとしようか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

ビーチバレー大会は、私とみほのタッグが優勝して、其れからは夫々が海を楽しんでるんだけど……小梅、貴女が作り上げた其れは何?

 

 

 

 

「へ?見て分かりませんかエリカさん?

 

 赤星小梅サンドアートナンバー01『1/1ティーガーⅡ』です。装甲や主砲は元より、キューポラや機銃に、転輪に履帯まで、細部にも徹底的に拘ってみました!どうですかエリカさん!」

 

 

「どうって、普通に凄いと思うわ。其れこそ、サンドアートフェスティバルに出したら一等間違いなしの大作だと思うわ。」

 

 

「ありがとうございます!

 

 そして此れがセットとなる、1/1のみほさんと、同じく1/1のエリカさんのサンドアートです!」

 

 

 

 

此れはまた、無駄に似てるわねぇ……ご丁寧に、パンツァージャケットに刺繍されてる校章まで再現してあるし。小梅ってば、機甲科に入らないで、普通科で美術部に所属してても可成りの賞を取れたんじゃないかしら?

 

それで、作って満足した?

 

満足したなら、此れから私達とシュノーケリングでも如何?

 

 

 

 

「シュノーケリングですか?

 

 良いですね。因みに御一緒するメンバーは?」

 

 

「私とツェスカ、其れから明光大の隊長チームと澤ね。」

 

 

「メンバーも中々豪華ですね♪」

 

 

 

 

まぁ、そうかも知れないわね?今年の大会で優勝した学校の隊長と副隊長が揃ってる時点で、可成り豪華って言えるかもしれないわ――それこそ、間違いなく中学最強が揃ってる訳だしね。

 

此れだけの面子が一堂に会して、海を楽しむって言う事は滅多にないかも知れないから、今は其れを楽しむべきだわ。

 

 

 

 

「確かに其の通りですね。」

 

 

「其れじゃあ行くわよ!」

 

 

で、西住家の自家用クルーザーで、浜辺から30mくらいの場所まで来たら各自海に飛び込んでシュノーケリング開始!――此れは、思ったよりも水の透明度が高くて良く見えるわ。

 

珊瑚礁に集まる色取り取りの魚に、珊瑚に張り付くイソギンチャク、海底を歩くエビやカニ……幻想的な光景が広がってるわね……此れがシュノーケリングの醍醐味よね。

 

 

って、何かが沖の方からこっちに来てるわね?

 

大分大きいみたいだけどサメ?或はイルカかしら?……って、近付いて来るにつれてシルエットがはっきりして、此れは魚の形をしてない?

 

大きな体にヒレが付いてるのは大型の魚類を思わせるけど、長く伸びた首が其れを否定してる――此れは、まさか!!!

 

 

 

『グルルルルルルルルル……』

 

 

「「「「「「「!!!」」」」」」」

 

 

 

う、嘘でしょう!?此れは、首長竜!6500万年前に絶滅した筈の海の王者が、生きていたって言うの!?……目の前で起きた事であるにも関わらず、ちょっと信じられないわ。

 

 

「ぷはぁ!!みほ、さっきの見たわよね?私の見間違いじゃないわよね!?」

 

 

「確かに見たよエリカさん……沖の方に戻って行ったけど、此れはトンデモナイ物をみちゃったかも……小梅さんも見たよね?」

 

 

「はい、見ました!

 

 間違いなくトンでもないですよ――写真の一枚でもあれば、恐竜絶滅説が覆るかもしれませんし、世界の大型湖に生息してる謎の水棲UMAの正体解明にも一役買ってくれるかもしれませんよ。」

 

 

 

 

くっそー~~!水中でも使えるカメラが無かった事が恨めしいわ!世紀の大スクープを逃した訳だからね。

 

でも、若しかしたら其れが正解だったのかしら?彼等は、今は誰の目にも触れない様に広い海でひっそりと暮らしてるのだとしら、其れを壊す事もないでしょうからね。

 

 

まさか、海水浴で未知との遭遇をするとは思わなかったけど、此れは本当に貴重な体験としか言いようがなかったわね。

 

だけど、其れ以前に、絶滅した筈の古代生物が普通に泳いでる西住のプライベートビーチってどうなってんのかしら?――少なくとも、普通のビーチでない事は間違いないわ。

 

……深く考えるのは、止めた方が良さそうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:小梅

 

 

 

たっぷりとビーチで遊べば、その分お腹も減る訳なんですけど、合宿最終日の晩御飯は、西住流の演習場を使っての豪華バーベキュー!!

 

薩摩港で上がった新鮮な魚介に、地元の農家さんから分けて貰った美味しい野菜と、師範が取り寄せてくれた薩摩黒豚の極上バラ肉と、神戸牛の極上カルビが、豪華さを演出してくれてます!

 

 

其れだけでも凄いのに、何と澤さんが地元の茨城から、ローズポークのロース肉と、常陸牛のハラミやらホルモンやらを取り寄せてくれていたみたいで、豪華さは更に倍です!!

 

序に、黒森峰特製のソーセージも一緒に焼いてるので、正により取り見取りですよ。

 

 

其れだけなら、とっても楽しくて美味しいバーベキューなんですが……矢張り今年も起こってしまいましたか、恒例の此れが。

 

 

 

 

「えへへ~~~~♪」

 

 

「あ……今年もやっちまった~~~!間違えて、普通のビール持って来ちまったわ♪」

 

 

「3年連続って、貴女絶対確信犯でしょ青子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

青子さんが間違って持って来た普通のビールをみほさんが飲んで、良い感じに酔っぱらってますね?

 

そして、青子さんはエリカさんから、コブラツイスト→卍固め→シャイニングケンカキック→STFのコンボで絞め上げられてます……流れるような連続技、見事でしたエリカさん。

 

ですが、其れでみほさんは止まりませんよ?――と言うか、次のターゲットはエリカさんですから。

 

 

 

 

「へ?」

 

 

「まぁ、一昨年と同じだ。私達の為に犠牲になってくれエリカ……」

 

 

「ふざけんなぁ!!」

 

 

 

 

ですよね~~?でも、此れ決定事項なので諦めて下さいエリカさん。――何よりも、みほさんが確りと此方に来ていますので……取り敢えず、頑張って下さいねエリカさん。骨は拾ってあげますから。

 

 

 

 

「ふ、不吉な事言ってんじゃないわよ、他人事だと思って!!」

 

 

「実際他人事ですからね。」

 

 

「うっわ、スッゴクムカつく!

 

 私がみほに酔わされたその暁には、真っ先にアンタを襲ってこちら側に引き込んでやるわ――精々覚悟しておきなさいよ小梅。私もみほも絶対に逃がさないからね。」

 

 

 

 

あぁ、確かに其れは逃げ切れる気がしませんね。

 

 

そして、目の前でナオミさんに拘束されたエリカさんが、みほさんから口移しで強制的にビールを3回大量に飲まされて、エリカさんも良い具合に酔っぱらって、そして直下さんが落とされた辺りで、私の記憶は途絶えました――なぜなら、エリカさんが私を拘束して、そしてみほさんが私の口に、中身の入ったビール瓶を突き刺してくれたから。

 

 

こうなっては飲むしかないので、飲みほした訳ですが、アルコールがドレだけ恐ろしい物なのかと再確認しました。――去年もダウンさせられて、今年もダウンするとは思いませんでしたから。

 

 

 

翌日効いた話ですが、みほさんとエリカさんは酔った勢いで師範と菊代さんに飲み比べを挑んで、有ろう事か余裕がちだったみたいです。

 

みほさんもエリカさんも、最後は一升瓶をラッパ飲みしてたらしいですからね――何とも空恐ろしいものです。いくら薩摩女は酒が強いと言っても、酔っぱらった状態でアレだけ動けたみほさんとエリカさんは凄いと思います。

 

 

ともあれ、最終日にお約束とも言えるアルコールトラブルがあったモノの、合宿全体としては大成功だったんではないでしょうか?

 

西住師範が指導に当たってくれたおかげで、黒森峰も明光大も底力を上げる事が出来ましたから、後は私達の努力次第ですね。

 

 

今年の合宿も、実に中身の濃いモノになりましたね――ですが、とても楽しい合宿でしたし、学ぶものも多かったので、充実した時間でした。

 

今年も合宿に参加して、本当に良かったと思ってます――今年の夏の思い出も、暫定で合宿がトップになりそうです。

 

地力の底上げは勿論の事、最終日の海水浴とバーベキューは、忘れろと言われて忘れられるモノでもありませんから♪此れは、一生涯の思い出ですね♪

 

 

 

最高の合同合宿でした――今年も、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 



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Panzer64『夏と言えば怪談か肝試しです♪』

お母さんが前髪を際限なく伸ばしたら『貞子』になる気がするByみほ      ……其れは、否定できないのが悲しいなByまほ     自分の母親を貞子呼ばわりって……Byエリカ


Side:みほ

 

 

 

合宿も無事に終わって、漸く夏休み本番っていう所だね。宿題は、夏休みに入って3日目までに終わらせたから、此れで後顧の憂いなく夏休みを満喫できるって言うモノだよ♪

 

 

 

 

――シャシャシャシャシャシャシャシャシャ!!!

 

 

 

 

だけど、連日の此の暑さは流石に参るね?クマゼミの鳴き声が暑さに箔を掛けてくれるし……此れはもう、猛暑を通り越して『酷暑』だよ!!

 

風通しのいい居間の障子を全開にして、扇風機を回して風鈴までぶら下げてるのに、それらが全く効果なし!って言うか、このご時世にクーラーがないってどういう事なのかなぁ!?

 

 

 

 

「お母様は入れたいようだが、お祖母様が大反対しているらしい……『機械の冷風は好かん』とか言ってな。

 

 異論はあるのだろうが、お祖母様と面倒な事を起こしたくないので、お母様は黙っていると言う所だが……秘密裏に、お母様の書斎にはク-ラーが入ったようだぞみほ?」

 

 

「何それ、お母さんずるい。」

 

 

「案ずるな、順次私達の個室にもクーラーが入る予定らしい。

 

 私達は夏休みだが、お母様は西住流の師範として、書斎で仕事をする事も多いんだ……なれば、真っ先に冷房を完備するのも致し方ない事だ……暑さで仕事が滞ってしまっては、其れこそ大事に繋がりかねないからね。」

 

 

 

 

言われてみれば其れもそうだね。

 

菊代さんがお昼に作ってくれた『韓国冷麺風ぶっかけ冷やしそうめん』は絶品だったけど、最高気温がニア40℃の酷暑は、此れだけじゃ凌ぐ事は出来ないよ……さて、如何したものだろうね?………取り敢えず、今すぐにでもお母さんの書斎に飛び込みたい気分だよ。

 

此の暑さは、本気でハンパなモノじゃないよぉ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer64

 

『夏と言えば怪談か肝試しです♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでさ、此の暑さを凌ぐ良い方法って、何かないかなお姉ちゃん?

 

海水浴や市民プールって言う手もあるんだけど、夏休みシーズンだとプールもビーチも人でごった返してると思うから、余計に暑さを感じるだけのような気がするんだよね。

 

 

西住のプライベートビーチって言う選択肢もあるけど、あそこは合宿の最終日に行ったし、お父さんとお母さんが近々出掛けるらしいから、そこに行くのは気が引けるよ。

 

 

 

 

「そうだな……ふむ、ならば肝試しや怪談は如何だ?

 

 肝試しも怪談も、100年以上前から行われていた、ある意味では日本の伝統的な夏の過ごし方と言えるだろう?――何よりも、熊本は、天草伝説に端を発する怪談も数多いし、確か今日は町内で『納涼肝試し大会』があった筈だろう?其れに行くのも良いかも知れない。

 

 夏休みのイベントとしては、悪くないと思うんだが如何だ?」

 

 

「怪談と肝試し……か。」

 

 

確かに悪くないかも知れないね?

 

此れなら元手要らずで涼を取れるし、怪談や肝試しの内容で盛り上がる事だって出来るだろうから、其れを考えたら市民プールやどっかのテーマパークに行くよりもずっといいかも知れないよ♪

 

 

あ、だけど怪談か肝試しか、どっちかにしよう?幾ら涼しくなる為とは言え、怖いの2つは流石に……夜眠れなくなっちゃうかもだから。

 

 

 

 

「ならば、肝試し大会の方に行くか。

 

 簡単な屋台も出るみたいだし、町内会の催し物ならば、廃屋や廃工場の様な危険な場所を選ぶ事もないだろうからね――どうせなら、少し人を呼ぶか?」

 

 

「其れも良いね?

 

 じゃあ私は、隊長チームの皆と、梓ちゃんとクロエちゃん、エリカさんと小梅さんに連絡入れるから、お姉ちゃんも誰か呼んでね?」

 

 

「……取り敢えず、凛と安斎に連絡を入れてみるか。――アンツィオの戦車道の現状を考えると、安斎は望み薄だがな。」

 

 

「……お姉ちゃん、まさかと思うけど同学年で友達って言える存在が、その2人だけとか言わないよね?だとしたら、物凄く交友関係が狭いと思うんだけど……」

 

 

「自分でもそう思うが、如何せん黒森峰の隊長をやっていると言うだけで、同学年の子達からは畏怖の対象になっているらしくて、話しかけて くる子は中々居ないし、私から話しかけると委縮してしまってな。

 

 何よりも私の場合、この顔がな。……私自身は普通にしている心算でも、どうにもお母様似の此の顔は、話しかけられた相手には威圧感があるらしくて委縮してしまうんだ。

 

 同学年で、私に普通に接してくれるのは黒森峰では凛だけだ……何と言うか、彼女を黒森峰に誘って良かったと心底思っているよ。」

 

 

 

 

……近坂先輩、お姉ちゃんと仲良くしてくれてありがとうございます。

 

でもまぁ、其れじゃあ仕方ないのかな?絶対王者黒森峰の隊長ともなれば一般生徒にとっては雲の上の存在だろうし、其れを1年生でありながら務めてるとなれば、同じ1年生にとっても特別な人になっちゃうからね。

 

 

あれ?でも其れを考えると、そんなお姉ちゃんに普通に話しかけてる近坂先輩も、ちょっと注目されてるんじゃないのかな?

 

 

 

 

「凛は凛で注目されているよ。

 

 私と普通に話すと言うのもそうだが、私に隊長職を譲った天城さんが、有ろう事か自分が座る筈だった副隊長の椅子をも凛に明け渡したからな……隊長と副隊長の両方が1年生と言う異例の状況になっているよ今年の黒森峰は。」

 

 

「近坂先輩は、黒森峰の前隊長が副隊長を任せても良いって思える位だったんだね……流石、去年の大会で全試合フィニッシャーになった実力は伊達じゃないね。」

 

 

「凛自身は、自分が此処までなれたのは、お前のお陰だと言っていたがな。」

 

 

 

 

あはは……私はそんな大した事はしてないよ。近坂先輩には、元々才能やセンスがあったけど、其れが燻ってただけで、私は燻ってた炎に酸素を送っただけで、其処から燃え上がったのは近坂先輩自身の力だよ。

 

 

まぁ、其れは良いとして、肝試し大会にロンメルとアンドリューも連れて行って良いかな、お姉ちゃん?2人共とっても暑いみたいだし。

 

ロンメルはフローリングの床で長くなってるけど、アンドリューに至っては鯉を飼ってる庭の池に首から下を浸けて水風呂状態――なんて言うか、頭にタオル乗せたい感じだよ。

 

 

 

 

「動物が肝試しで涼を取れるかは分からんが、まぁ連れて行っても良いんじゃないか?

 

 ロンメルは兎も角、アンドリューが行けば、少なくとも町外から参加してる人は驚いて肝を冷やすだろうから、ある意味で納涼に一役買ってくれるだろうからね。」

 

 

「じゃあ、ロンメルとアンドリューも一緒にだね♪」

 

 

此の2人が一緒なら、例え本物の幽霊が出てきてもきっと大丈夫だよ♪狐は妖に近い獣だし、虎の勇猛さは神格の迫力が有るから幽霊位なら撃退できるだろうしね。

 

 

それじゃあ、早速皆に連絡を取らないとね♪

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

さてと、そんな訳で納涼肝試し対大会です。

 

集まったのは私とお姉ちゃんに、明光大の隊長チームに梓ちゃんとクロエちゃん、エリカさんと小梅さんに近坂部長にロンメルとアンドリュー。

 

……安斎さんはやっぱり来れなかったか、ちょっと残念。

 

まぁ、安斎さんは仕方ないかも知れないけど、ツェスカちゃんも居ないのは何で?梓ちゃんに連絡入れれば、ツェスカちゃんを誘うだろうと思ったんだけど……

 

 

 

 

「誘わなかったんじゃなくて、誘えなかったんですよ西住隊長。」

 

 

「まぁ、お誘いの電話は掛けたんでしょうけど無理だったんじゃない?ツェスカは、夏休みを利用してドイツに帰省してるからね。」

 

 

 

 

ツェスカちゃん、ドイツに帰ってたんだ?……其れじゃあ確かに仕方ないよね――今日連絡して、今日中にドイツから戻って来いって言うのは幾ら何でも無茶振りだからね。

 

なら、此のメンバーで楽しむ事になるんだけど、此の肝試し大会は2人1組で回る事になってるから、誰が誰と組むかをきめないと。

 

 

 

 

「其れはクジで決めれば良いんじゃないか?

 

 トランプのハートとスペードで1~5までを用意した。此れを引いて、同じ数同士で組んで回れば良いだろう……意外な組み合わせが出来るかも知れないし、肝試しの場で新たな一面が見れるかもしれないからね。」

 

 

「良いね、それで行こうお姉ちゃん♪」

 

 

「ま、其れが妥当だわね。」

 

 

 

 

で、クジの結果組み合わせは――

 

 

 

・第1組:お姉ちゃん&梓ちゃん

 

・第2組:近坂先輩&クロエちゃん

 

・第3組:青子さん&エリカさん

 

・第4組:つぼみさん&小梅さん

 

・第5組:私&ナオミさん+ロンメルとアンドリュー

 

 

 

と言う組み合わせになりました。私とナオミさん以外は、見事に明光大と黒森峰に分かれたね~~~?近坂先輩は元明光大だけど、今は黒森峰って言う事で。

 

 

 

 

「ホント、見事に分かれたわね?其れでみほ、此の肝試し大会は賞品とか有るの?」

 

 

「一応、最後のチェックポイントまで行った証のスタンプを捺して来れば参加証がもらえるみたいだよナオミさん。中身は分からないけど。」

 

 

「逆に言うと、途中で引き返したら何も無し。

 

 まぁ、其れでも怖い思いをして涼しくなりたいっていう目的は達成できてる訳だからオーライだとは思うけけど……まぁ、所詮は町内会の催し物だから、其処まで怖いモノでもないでしょ?」

 

 

「エリカさん……白装束纏って髪を乱したお母さんが出てきても怖くない?」

 

 

「……ゴメン、其れはとっても怖い。見た瞬間、速攻で逃げ出す自信があるわ。」

 

 

 

 

まぁ、流石に其れは出て来ないから大丈夫だとは思うけどね。

 

それじゃあ、全組ゴールスタンプ捺して来れる様に張り切って行きましょう!ぱんつぁ~~ふぉ~~~♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

肝試しのコースは、スタートが神社の境内で、其処から隣接する墓地を通って裏山に抜けて山道の石段を登って、その先にある祠でスタンプを捺して戻って来ると。

 

明かりは懐中電灯のみと言うのも本格的だな?……難を言うのなら、今時のLEDランプではなく、昔の豆電球タイプの方が雰囲気が出たんだが、まぁ其処は仕方ないと言う事にしておくか。

 

 

「……怖いか、澤?」

 

 

「は、はい。少し……やっぱり夜のお墓は怖いですよ。何か出そうな雰囲気ですし。

 

 隊長のお姉さんは、怖くないんですか?」

 

 

「怖くなくはないが、この墓地自体は西住家の墓もあるから、昼間の時間帯だったとは言え何度も来ていて慣れているからね。無論、昼と夜では雰囲気がガラリと違うが、見慣れている風景だから恐怖は其処までではない。

 

 其れよりも、隊長のお姉さんは無いんじゃないか?」

 

 

「え?でも、じゃあどう呼べば?……先輩と言うのもオカシイですし……」

 

 

 

 

個人的には名前で呼んでもらいたい所だが、君はみほの事を『西住隊長』と呼んでいるみたいだから、私が名前で呼ばれてるとなったら、絶対に羨ましがるだろうからね……

 

 

 

 

「あ~~~、分かる気がします。じゃあ、ツェスカが西住隊長の事を『妹隊長』って呼んでたので、お姉さんの事は『姉隊長』で如何でしょう?」

 

 

「姉隊長か、其れも良いな。」

 

 

黒森峰ではそう言う呼ばれ方や呼び方はあまりしないからね。

 

さて、そろそろ墓地を抜けるが……

 

 

 

――ガサガサ!!

 

 

 

「ひっ!?ななな、何か音しましたよ姉隊長!!」

 

 

「落ち着け澤。此処は山に近いからタヌキでも出て来たのかも知れない。

 

 タヌキなんかの野生動物にとって、墓に備えてあるお供え物は途轍もないご馳走だからね――山から降りてきて食べに来たんだろう。」

 

 

「で、でもそんな小さなモノが動いた音じゃなかったですよ!?」

 

 

 

 

なら熊か?……其れは其れで問題だが――

 

 

 

 

――カッ!!

 

 

 

「バァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

「うわぁぁぁぁ!?宙に浮かぶ生首ぃぃぃ!?」

 

 

 

 

いやいやいや、よく見ろ澤。此れは生首じゃなくて、首から下を真っ黒なタイツで固めた町内会の人が、頭の下からライトを当てているだけだから危険は無いぞ?

 

いやはや、結構凝った事をするモノなんだな……

 

 

 

――チュイィィィィィン……

 

 

 

って、何だこの音は?後ろから聞こえてくるようだが……

 

 

 

 

「コーホー……」

 

 

「「ジェイソン!?」」

 

 

 

いやいやいや、幾ら何でもやり過ぎだろう!?と言うか、私はジェイソンは駄目なんだ!!と言うか、あのホッケーマスクが不気味で仕方ないんだよ!!

 

西住流に撤退の文字は無いと言うが、此処は逃げるぞ澤!!

 

 

 

 

「はいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 

 

そのまま脱兎の如く逃げ出して、山道の石段を駆けあがってゴールの祠に到着だ……まさか、ジェイソンが出て来るとは、町内会のイベントだと思って油断していたよ。

 

兎も角、後はスタンプを捺して戻るだけだ。……が、帰りもジェイソンが襲ってくるかも知れないから気をつけような?

 

 

 

 

「はい。……と、祠の所に何かいますよ?其れこそタヌキでしょうか?」

 

 

「なんだ?照らしてみるか……」

 

 

 

 

 

 

「にょろ~~~ん……」

 

 

 

 

 

 

「……ちゅるやさんですね。」

 

 

「ちゅるやさんだな。」

 

 

「如何しましょう?新種の生物として捕獲しちゃいましょうか?」

 

 

「いや、見なかった事にしよう。」

 

 

こう言うモノは、見なかった事にしてやり過ごすのが一番なんだ。

 

下手に係わりを持つと後が面倒くさいし、懐かれでもしたら大変だし、飼うにしても家には既に犬と狐と虎が居るから無理だ。

 

 

 

 

「じゃあ放置の方向で行きましょう。

 

 其れでは改めてスタンプをポチっとな♪」

 

 

「私もペッタンとね。」

 

 

では戻るか。……出来るだけジェイソンに会わないルートを選択して行こうな墓地は。

 

 

 

 

「ですね……」

 

 

 

 

と言う訳で、帰りのルートは慎重に選んだことでジェイソンには会わなかったが、まさか代わりにフレディに出会い、更には謎の追跡者まで出てきて、追い回される事になった……町内会のイベントにしては気合が入りまくっていたぞマッタク。

 

尚、私達が発見したちゅるやさんは、私達の次に出発したどこぞのカップルが連れて帰ったらしい。……取り敢えず、ジェイソンとフレディと謎の追跡者のお陰で胆が冷えたのは間違いない。

 

若しかしたら、みほやエリカには墓場の底からゾンビが出てきたりするかもしれんな此れは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:クロエ

 

 

 

西住隊長から誘われて『キモダメシ』って言うモノに参加してみたけれど、此れは中々スリルがある物だネ?夜の墓地の怪しい雰囲気に、ゴーストやモンスターに扮した人達が驚かしに来ると言うのは、スリリングだヨ。

 

 

だけど、リンさんは大分参ってるようだネ?そんなに怖かったかナ?

 

 

 

 

「怖いと言うよりも心臓に悪いわ此れ……って言うか、墓場にゾンビって、似合ってるけど特殊メイク凝り過ぎ!100均で売ってるゾンビマスクでやりなさいよ!

 

 町内会のイベントで、ハリウッド張りの特殊メイクしてんじゃねーわよ!!」

 

 

「……言われてみれば其れは確かニ――チョウナイカイのイベントとしては気合が入り過ぎだネ。」

 

 

でもまぁ、この石段を抜ければゴールだからもう少し頑張ろウ。

 

 

 

 

「そうね……しかし、只の石段でも、夜だと妙に不気味になるわね?……まるで、1段上る毎に異界に近付いてるんじゃないかって錯覚を起こしそうだわ。

 

 昼間だったら、足腰の鍛錬として石段ダッシュをする所だけど……って、何アレ?……光ってる?――まさか、ヒトダマ!?」

 

 

 

 

ヒトダマ?……死者の魂だったかナ?

 

もしもそうなら凄いモノが見れたと言う所だが……此れは多分、光の色からしてホタルが集まって居るんじゃないのカ?ホタルが好む何かが其処にあって、其れに群がって光ってるのだとしたら……

 

 

 

 

「……浮いてるけど?」

 

 

「空中の何かに集まっているのかも知れないヨ。」

 

 

 

 

――フッ……

 

 

 

 

「消えたんだけど……そして、もう光ってないんだけど……」

 

 

「………」(滝汗)

 

 

……見間違いダ。見間違いと言う事にしておこうリンさん!きっと、キモダメシの雰囲気に呑まれて、私も貴女も脳味噌がハイになって幻覚を見たんだ!そうに違いないヨ!!

 

 

 

 

「ゴメン、今の一部始終をスマホで動画にとってSNSにアップしちゃった。」

 

 

「意外と余裕だなリンさんハ!!」

 

 

まさか、キモダメシとやらで、こんな体験をするとは思っていなかったヨ……尤も、二度は体験したいとは思わないけれどね――何にせよ、祠でスタンプを捺して、無事に戻る事が出来たヨ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

夜の墓地ってのは不気味極まりない所なんだけど、其れも一緒にいる相手によっては完全に相殺されるって言う事を現在進行形で体感してるわね……コイツに怖いモノが有るのか甚だ疑問に思うわね。

 

アンタ、目の前にジェイソンが出て来たってのに怖くない訳?どんな精神構造してんのよ青子?

 

 

 

 

「……このジェイソンは駄目だな。」

 

 

「……何が?」

 

 

「ジェイソンはチェーンソーじゃなくて鉈だろ!

 

 鉈で次々と人を惨殺してこそジェイソンだろ!!チェーンソーってのは、ジェイソンギミックの悪役レスラーが演出の為にやった事であって、アタシ的には認めねぇ!!」

 

 

 

 

って、其処か!アンタが驚かなかったのは、そのせいか!!

 

この状況で、そんな事を言えるアンタに驚きよ本気で!!――だけど青子、次の石段は覚悟しておいた方が良いわよ?……この石段、ネットで『出る』って噂だからね。

 

 

 

 

「所詮噂だろ?幽霊なんて出る筈ねぇって。」

 

 

『うらめしや……表はパン屋で右はうどん屋で左はマック……』

 

 

「出てきた所で、こんな阿呆な幽霊だしな♪」

 

 

 

 

……アンタに阿呆って言われたら終わりだとか、実際に幽霊っぽい何かが出てきてるとか、其れが言ってる事が果てしなく下らないとか、どこから突っ込みを入れれば良いのか分からないわね此れ。

 

 

取り敢えず、この幽霊は害はなさそうだから、無視してゴールを目指すわよ。気になるなら、塩でも撒いておけばいいわ。……全然怖くなかったけど、ガチで幽霊に出会うと思わなかったわ。

 

SNSへの投稿は……どうせ信じて貰えないだろうからしないのが賢明ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:小梅

 

 

 

墓地で襲って来たジェイソンを始めたとしたモンスターは、つぼみさんが速攻で倒して、只今最後に残ったタイラントにドラゴンスクリューからの足四の字固めを決めて……あ、タイラントがタップアウトしました。

 

 

 

 

「私の勝ちね♪」

 

 

「まさか、全員倒すとは思いませんでした。と言うか、逃げるって言う選択肢はなかったんですか?」

 

 

「勝てる相手に逃げる必要性は感じませんモノ――其れに、お化けだろうが妖怪だろうが、物理的な干渉が出来るなら恐れるモノじゃないわよ?……物理的干渉が出来るなら、殴って倒せますもの。」

 

 

「その考えがそもそもおかしい気がします。」

 

 

まぁ、そのお陰でゴールに無事に辿り着けた訳なんですけどね?――スタンプ捺して、早く帰りましょうか?

 

 

 

 

――ザザザ……

 

 

 

 

「「え?」」

 

 

 

今の音は、一体……

 

 

 

――キラ~~ン☆

 

 

 

ほ、祠の奥で何か光ったぁ!?ななな、何ですか!今の光は一体なんですかつぼみさぁぁん!!めっちゃ光ってましたよ!!LEDライトよりも全然明るかったですよ、一瞬でしたけど!!

 

 

 

 

「きっとネコでも居たんじゃないかしら?」

 

 

「其れで良いんですか!?」

 

 

ま、まぁ、深く考えるとヤバそうなので、そう言う事にしておきましょう……ですが、此れは最終組であるみほさんとナオミさんのペアに何か起きそうな気がします。

 

 

頑張って下さい、みほさん、ナオミさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

お姉ちゃん達から、墓地にジェイソンとかフレディとか、謎の追跡者をはじめとしたバイオハザードのクリーチャーが多数現れるって聞いてたんだけど、今のところ何も出て来ないねナオミさん?

 

 

 

 

「出て来れないんじゃないの?

 

 狐だけなら兎も角、虎を従えた相手を襲おうとは思わないわ……下手したら返り討ちに遭うからね?と言うか、返り討ちにされる位なら御の字で、下手したら腕喰いちぎられるでしょうに……」

 

 

「アンドリューは私が『止めろ』って言えば止めるから大丈夫だよ?」

 

 

「……虎を飼いならしてる貴女に脱帽だわみほ。」

 

 

 

 

なんか懐かれてるからね。

 

物理的な存在は、アンドリューが居れば大丈夫だし、仮に悪霊が出てきても、呪力に長けた狐のロンメルが居るから大丈夫だと思うよ?ロンメルは成長して尻尾が2本になってるから普通の狐じゃないしね♪

 

 

 

 

「まさかの妖狐!?……其れを飼いならすって、本気で貴女を尊敬するわみほ……」

 

 

「其れはどうもです♪」

 

 

って、如何かしたアンドリュー?

 

 

 

 

「グルルルルルルル……」

 

 

 

 

ゴールの祠に向かって唸ってる?ロンメルが反応してないのを見ると、幽霊の類じゃないんだろうけど……だとしたら一体何が?――もうスタンプは捺してあるから、大丈夫だけど……

 

 

 

 

――ッタン!タラッタタラタタータラタッタッタッタ、タラッタタラタタ、タタタタタタタタタタタタタ、タン!(BGM By:愚零闘武多協奏曲)

 

 

 

 

此れは、この曲は!それに、曲に合わせて祠の奥が光って……

 

 

 

 

「…………!」

 

 

「出たぁ!!!」

 

 

「本物のグレート・ムタ!!町内会は、ドレだけの此のイベントの為に金使ってるのか問い質したいわね!?」

 

 

 

 

――ブシュゥゥゥゥ!!!

 

 

 

 

あ、毒霧噴射……生で見れるとは思わなかったよ。

 

まさか、こんな大物が出て来るとは思わなかったけど、此れは良い機会だからサイン下さいムタさん。グレート・ムタの生サインなんて皆に自慢出来ますから。

 

折角だからナオミさんもサイン貰っておくと良いよ。

 

 

 

 

「そうね。じゃあ、このシャツにお願いできるかしら?」

 

 

「………」

 

 

 

 

無言ながら、サインをしてくれる辺りにプロフェッショナルの精神を感じるね――うん、此れは一生モノの宝物になりそうだよ。グレート・ムタの生サインを持ってる人なんて滅多にいないだろうからね♪

 

アンドリューのお陰でクリーチャーには襲われなかったけど、最後の祠で、まさか最強ヒールレスラーのザ・グレート・ムタが待ち構えてるのは予想外だったよ!あの不気味なペイントは肝試しにピッタリだったからね……肝試しの目的は果たせた感じだね。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

そんな訳で、私達は全組見事にゴールして、参加賞をゲット!――参加賞は、夏にピッタリの冷やして美味しい水羊羹とゼリーのセットだったけどね。

 

 

でも、随分と今回は懲りましたね町会長さん?まさか、祠にグレート・ムタが出て来るとは思いませんでした。

 

 

 

 

「へ?何言ってんだいみほちゃん?

 

 墓地の彼是には拘ったが、グレート・ムタは呼んでないよ?そんな大物を呼んだら、町内会の予算が吹き飛んじまうってな。」

 

 

 

 

………え?呼んでないんですか、グレート・ムタ?

 

じゃあ、私とナオミさんが見たグレート・ムタは一体……そう言えば、私達の前に現れたグレート・ムタは、髪の毛が有った頃の極悪ペイントだった気が……と言う事は、あのグレート・ムタは……本物の悪魔――!!

 

 

 

 

「如何した2人共、汗が凄いぞ?大丈夫かオイ?」

 

 

 

 

だ、大丈夫じゃないですお姉ちゃん……だって、私とナオミさんが祠であったのは、真の魔界の住人だったかもしれないんだから!!

 

 

 

 

「「うわーーーーーーーーーーーー!!!」」

 

 

 

 

直後、私とナオミさんの悲鳴が神社の境内に響き渡った。

 

納涼目的で参加した肝試し大会で、まさか本物の魔界の住人と出会う事になるとは思ってなかったから、この悲鳴は仕方ないよね。……でも此のサインは貴重だから取っておこうね。

 

 

此度の肝試しは、最後の最後でトンデモない『肝試し』が待っていたよ……ま、此れもまた良い思い出かも知れないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer65『引継ぎと、夫々の進路です』

次代への引継ぎと己の進路は大事だよねByみほ      高校の選択は、一生モノって言うしByナオミ     まぁ、如何とでもなるだろうけどなBy青子


Side:みほ

 

 

 

思い返してみれば今年の夏休みも色々あったなぁ。

 

 

恒例の合宿では、私とエリカさんと小梅さんが半ば無双、そして最終日の打ち上げでは、海水浴のシュノーケリングでまさかの首長竜と遭遇して、その日の夜はバーベキューで盛り上がったね。

 

 

町内肝試し大会では、まさかのリアルな魔界の住人であるザ・グレート・ムタと出会って、あまつさえサインまで貰っちゃったけど、其れもまた良い思い出だね――魔界の住人の生サインなんて、まず貰う事は出来ないだろうと思うから。

 

 

夏祭りは、皆が新作の浴衣を着て楽しんだね――エリカさんの黒地に銀糸で天の川が刺繍された浴衣はとてもよく似合ってたし、小梅さんの真紅の生地に金糸で刺しゅうを施した袖なしタイプの浴衣も凄かったね。

 

私の水色の生地に、金魚が刺繍された浴衣も、結構人気だったみたいだけど。

 

 

アウトドアは、何故か途中からサバイバル訓練と化してたんだけど、その甲斐あって、どんな状況であっても生き延びる事が出来る自信は付いたのは間違いないよ。

 

 

そして、夏休みに行われた、進路相談を兼ねた三者面談は、担任の先生が戦々恐々だったね。

 

まぁ、お母さんが相手じゃしょうがないかな?……日本の戦車道二大流派の片割れである西住流の師範が来たとなれば、先生だって緊張しちゃうだろうからね。

 

 

加えて『娘さんの進路は?』って聞かれたお母さんは、考える事もせずに『みほは黒森峰に入学させます――今年の大会を見る限り、みほへのスカウトが増えるのは確実。けれど、他所の学校にみほは渡さない』って言って、先生を驚愕させてたよ……うん、その気持ちは嬉しかったけど、此れで私が黒森峰に通う事は確定しちゃったね――まぁ、西住の娘に生まれた以上、高校は黒森峰は避けられないからね。

 

 

だけどまぁ、エリカさんと小梅さんも黒森峰に来るだろうから、窮屈な思いはしないで済むかもしれないよ――

 

 

 

 

其れは其れとして、今年の夏休みも最終日の8月31日は、青子さんの夏休みの課題の消化って言う事で、西住流の屋敷に泊まり込んで夏休みの課題をフルコンプリート!

 

 

そして気が付けば、2学期の始まり――此処からが、明光大の大事な所だね。私達が引退した後のチームの事を考えないといけないしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer65

 

『引継ぎと、夫々の進路です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてと2学期始まって早々の部活だけど、今日は来季に向けての新隊長を任命しようと思ってんだ――勿論それだけじゃなくて、今後の彼是を考える機会なんだけどね。

 

 

取り敢えず、そう言う事でミーティングを始めましょう。

 

 

 

 

「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

うん、良い返事だね♪

 

 

其れじゃあ、まず最初に来年度の隊長を任命したいと思います――来季の隊長は……澤梓さん、貴女に隊長職のバトンを渡します。……受けてくれるよね、梓ちゃん?

 

 

 

 

「勿論、このバトン、しかと受け継ぎ、そして後年にも回して行きたいと思います!!

 

 まだまだ西住隊長には及びませんが、隊長が私を新隊長として選んでくれたのならば、これ程嬉しい事はありません!――隊長職、精神誠意務めさせて頂きます!!」

 

 

「うん、その意気だよ梓ちゃん♪」

 

 

此れで隊長は梓ちゃんで決まりだね。皆が拍手して、満場一致って奴だよ。――それで、副隊長は如何しようか?

 

去年と一昨年は、私が隊長で副隊長が近坂先輩で、今年は私が直々に梓ちゃんを副隊長に指名したから、次の副隊長はどうなるかって言うのは当然の事だよ。

 

 

でも、此れに関しては、梓ちゃんが直接指名して決めるの良いと思うな――私も去年、其れで貴女を副隊長に選んだんだからね。

 

 

 

 

「わ、私が副隊長を選ぶんですか!?」

 

 

「そう言ったつもりだけど、若しかして分かり辛かったかな?

 

 副隊長を選ぶって、実は新隊長の初めての仕事なんだよね?――勿論、私が指名しても良いんだけど、其れだと私が副隊長にしたい子を選んじゃうよね?

 

 新副隊長は、新隊長が自分の副官足り得ると思う子を選ぶのが一番だと思うんだ。」

 

 

「それは……確かにそうですね?――分かりました、副隊長は自分で選びます!」

 

 

 

 

うん、良い返事だね梓ちゃん。其れで、誰を副隊長にするのかな?

 

この場で決めろって言うのは、少し乱暴なのかも知れないけど、梓ちゃんは副隊長として大会でチームを指揮する事も有ったし、普段の練習でも、私と一緒にチームを指揮する事が多かったから、明光大戦車道チームの個々の能力はある程度把握してる筈。

 

なら、その中から梓ちゃんが、自分の副官に最も適してるのは誰か位は、少し考えていたと思うからね。

 

 

 

 

「私は、新藤歩美さんを副隊長に選びたいと思います!」

 

 

「いぃ、私ですか澤先輩!?」

 

 

 

 

歩美ちゃんか……入部早々、私に喧嘩売って来た威勢の良い子だし、その後の練習を経て1年生の中でもメキメキと頭角を現して来た子だから副隊長としては申し分ないと思うけど、一応理由を聞いておこうかな?

 

 

 

 

「彼女は、今年の1年生の中でも可成り高い実力を持っていました。

 

 其れだけならば何と言う事はないんですが、入部して行き成り西住たいちょ……先輩に喧嘩を売った度胸と、敗北を素直に受け入れる態度 に、その後の練習に誰よりも真摯に打ち込んで己を伸ばしていた姿勢、それらを考えると、歩美さんは副隊長に適任だと思うんです。」

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください澤先輩!

 

 私を其処まで評価してくれるのは有り難いんですけど、私が副隊長で良いんですか!?入部早々、西住隊長に喧嘩売ったならず者ですよ私は!?」

 

 

「その度胸を評価したんだから問題ないよ新藤。

 

 其れに、西住先輩の一番弟子である私が選んだんだから間違いない。少なくとも、私はそう思ってるから。」

 

 

 

 

私の一番弟子が選んだんだから間違いないとは、大きく出たね梓ちゃん?

 

だけど、其れ位の気概が無いと隊長なんて務まらないから良いと思うな。――で、歩美ちゃんは如何するの?梓ちゃんは、貴女を副隊長にしたいと思ってるみたいだけれど?

 

どうしても無理だって言うなら辞退しても良いんだよ?その時は、別の誰かに頼むだけだから。

 

 

 

 

「……其処まで言われたら、やるしかないじゃないですか。

 

 てか、副隊長として澤先輩の片腕になれるなんて光栄ですよ――隻腕の軍神の後継者である『軍神を継ぐ者』の副官、誠心誠意職務を全うさせて貰います!!」

 

 

「うん、頼りにしてるよ新藤♪」

 

 

「此れで副隊長も決まりだね。――残るは部長だけど、如何しようか梓ちゃん?」

 

 

「部長はクロエに頼む事になってますよ西住先輩。

 

 クロエと相談して、もしも私が隊長に選ばれた時にはクロエに部長をお願いするねって言ってありましたから。」

 

 

「だから心配ないヨ。

 

 アズサは隊長職で色々忙しいだろうから、部の運営は私が全力で取り組むサ――ミキ先生も顧問として手伝ってくれるだろうから、戦車道部の運営は其処まで大変じゃないと思うしネ。」

 

 

 

 

部長はクロエちゃんに頼んでたんだ。うん、良いかもね。

 

奇しくも私の時と同じく、隊長と部長が揃って隊長チームって言う事になったけど、其れは其れで隊長と部長の距離が近いから良い事なのかも知れないね。

 

 

此れで、来年度の体制は取り敢えず決まったね。

 

 

そして、其れとは別に、西住流から新たに明光大にパンターG型1輌と、ティーガーⅡ1輌、ヤークトパンター2輌を送って貰えるんだけど、例によってボロボロだからレストアが必要なんだ。

 

今年までは、椿姫さんの東雲工場に頼んでたけど、来年からは椿姫さんが居なくなるから整備を簡単には頼めない……此れからの明光大の整備班を考えないとだよ。

 

 

 

 

「其れなんだけど、心配ないわよ西住。

 

 親父ったら偉く明光大の事を気に入っててさ、『俺の目の黒い内は、明光大の戦車の整備は俺が引き受けたるわぁぁぁぁ!!』って言ってたからね。」

 

 

「……アッサリ整備の問題も解決したね。」

 

 

本当に、東雲工場の方々には頭が下がります!今年の大会を勝ち進む事が出来たのも、東雲工場の皆さんが戦車に神レベルの整備をしてくれたお陰だからね。

 

 

でも、その東雲工場が此れからも整備をしてくれるって言うなら明光大の戦車道部は安泰かな?東雲工場の整備の腕は、お父さんに勝るとも劣らないレベルだからね。

 

 

此れなら、安心して引退できそうだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

さてと、大会も終わり、夏休みの合宿も終わって、そして2学期な訳だけど、来年度に向けて新体制を考えないといけないのよね――私としては、来年度の隊長はツェスカが適任だと思うけれど、貴女は如何考えるかしら小梅?

 

 

 

 

「良いんじゃないですか?ベストとは言いませんが、最もベターな選択だと思いますよエリカさん。――と言うか、エリカさんの中ではツェスカを次期隊長に任命する事は決まっているのでしょう?

 

 なら、悩む事なんて無いじゃないですか。」

 

 

「普通に考えればそうなんだけど、問題はツェスカがドイツからの留学生って事なのよ。」

 

 

此れまで黒森峰の隊長を務めていたのは、人種を問わずに『日本に住んでいた』人達で、海外からの留学生が隊長になった例は、一件もないのよ此れが。

 

勿論、そんな伝統がある訳でもないから、ツェスカが隊長でも問題ないとは思うんだけど、頑固頭のOG会のババア共が何言ってくるか分かった物じゃないから、ちょっと慎重にもなるのよ、私でもね。

 

 

 

 

「あ~~……高等部ほどじゃないにしても、OG会の小母さま達は、自分が試合に出る訳でもないのに彼是と口喧しいですからね?

 

 あんまり口煩く言ってくるようだったら、喧嘩キックからのSTFのコンボを決めてOG会の適当な誰かをKOしちゃえばいいと思います――口だけのOG会なんて、其れで黙らせればいいんです。」

 

 

「……それを実行した場合、貴女は如何するのかしら小梅?」

 

 

「ドラゴンスクリューからシャイニングウィザードに繋いで、トドメに足四の字固めでガッチリ決めます。其れで決められなかったら、ローリングエルボーからフェイスクラッシャーを喰らわせて、ムーンサルトプレスで止めです。」

 

 

 

 

何で、選択したコンボがどこぞの天才プロレスラーのフィニッシュコンボなのか……まぁ、副隊長様に其れだけの気概があれば、隊長としては心強い限りよ。

 

来季の隊長はツェスカ以外に居ないから、何が何でも其れをOG会のババア共に教えてやらないとだからね!

 

 

時に、隊長はツェスカとして、副隊長は如何するの?副隊長の人選は、貴女に任せていたわよね小梅?

 

 

 

 

「ご安心くださいエリカさん。其処は勿論抜かりなしです。

 

 副隊長には、今年の1年生の中から、行きの良い子を選びましたから期待してくれていいですよ?あの子なら、ツェスカの副官としても最高だと思いますから。」

 

 

「ふぅん?……貴女が其処までの太鼓判を押すなら期待出来るわね。」

 

 

小梅は人を見る目が有るから、その小梅が選んだ人なら副隊長として申し分ないのは間違いないわ――此れで、黒森峰の来季の体制も盤石と言えるわ。

 

 

最も、明光大も負けず劣らずの新体制を確立しているだろうけどね。

 

 

今年の大会は、引き分けの同点優勝だったけど、その戦いの決着は、きっと私達の後輩達が付けてくれる筈――ツェスカが隊長を務める黒森峰と、恐らくは澤が隊長となるであろう明光大……それが来年の大会で、どんな戦いをするのか、今から楽しみだわ。

 

 

きっと、凄い試合になるのは間違いないでしょうね――楽しみにしているわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

練習が終わった後は、毎度馴染み放課後ターイム♪

 

本日はゲームセンターで、只今エアホッケーで対戦中!チーム分けは、私とナオミさん、青子さんとつぼみさんでね。――よし、パッドを止めたので、ナオミさんお願いします!!

 

 

 

 

「任せなさい!吉良ナオミ、目標を狙い撃つ!!」

 

 

 

 

――パカーン!!……スコン!

 

 

 

 

お見事、壁の反射を利用しないストレートショットでゴールするとは、流石は明光大一の砲撃手、針の穴を抜くような正確なショットだね?

 

さっきは、ガンシューティングで本日の最高得点記録してたし、『撃つ』事に関しては、ナオミさんの右に出る者は居ないかも知れないよ。

 

 

 

 

「流石はナオミ、見事な一撃だったが、明光大最速装填記録持ってるアタシと!」

 

 

「明光大一の俊足を舐めたらいけないわよ!!」

 

 

 

 

む……青子さんの素早いバッドセットから、つぼみさんの高速スマッシュ!

 

壁反射を巧く使った、高速のリフレクショットは、中々読みづらい。――だけど、読めない訳じゃないから……ここで、カウンターのスマッシュ!

 

 

 

――パコーン!!……カコン!!

 

 

 

 

「んな!?」

 

 

「スマッシュ一撃で!?」

 

 

「えへへ、此れで10対7。私とナオミさんの勝ちだね♪」

 

 

「そう言う訳だから、この後のスウィーツは、貴女達持ちね。」

 

 

「「うぇ~~~~い。」」

 

 

 

 

『負けた方が勝った方に、スウィーツ奢る』って言う条件を提案して来たのは、青子さんとつぼみさんだから、其処はキッチリ約束を守ってね?

 

……『口約束は約束ではない』何て言っちゃダメだよ?

 

 

 

 

「言わねぇよ、そんなセコイ事!ただ、あんまし高いのは勘弁な?……中学生の小遣いなんて高が知れてんだから。」

 

 

「勿論、そんな無茶な物は頼まないよ。」

 

 

其れに、このビルのテナントで入ってる軽食屋さんて、アイスとかクレープとか、タコ焼きとかドーナツって、それ程高いモノじゃないし、学生や若者をターゲットにしてるから、お高い高級店は無いからね。

 

 

さてと、其れじゃあそろそろ移動しようか?行くよ、アンドリュー。ロンメル。

 

 

 

 

「ガウ。」

 

 

「コン♪」

 

 

 

「……慣れとは恐ろしいモノだと言うけれど、慣れたとは言っても、毎度の事ながら凄い光景よね此れ?SNSでも、結構話題になってるし。」

 

 

「『虎と狐と隻腕の美少女』な。」

 

 

「Y○u Tu○eとかには動画も上がってるものねぇ……みほさんは、戦車道以外でも全国区の人気者になってると言えると思うわ。」

 

 

 

 

へ?そんな事になってたの!?……全然知らなかったよ。

 

でもまぁ、確かに左腕のない女子中学生が、頭に子ぎつねのっけて、更に大虎を連れていれば注目もされるか……アンドリューは、今や『明光大付属中の門番』と言われる位に、この地域でも有名だしね。

 

ふふ、此れもまた私の個性って言う所なのかもしれないかな♪

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

で、最上階にあるフードコーナーで、今日はクレープです。

 

アイスって言うほど暑くもないし、だからと言ってたい焼きやドーナツって気分でもなかったからクレープと、甘いカフェオレで。因みに、私がキャラメルチョコホイップで、青子さんが王道のチョコバナナカスタードで、ナオミさんがキャラメルアーモンドホイップで、つぼみさんがトリプルベリーホイップ&カスタード。

 

さっきのエアホッケーの結果で、私の分は青子さんが、ナオミさんの分はつぼみさんが支払ったんだけど、つぼみさんはナオミさんが頼んだのよりも高いやつだよね?……ナオミさんよりも自分でお財布にダメージを与えてるよ此れ……まぁ、其処は言わない方が良いね。

 

 

「そう言えば、皆は進路は如何するの?高校戦車道の有名所からスカウトが来てると思うんだけど?」

 

 

「あ~~~……そう言えば来てたな、色んな所から。

 

 アタシの所には、BC自由学園、アンツィオ、サンダースとコアラの森と、黒森峰から来てんな。」

 

 

「私の所には、サンダース、ヴァイキング水産、継続とプラウダ。それから黒森峰からだね。」

 

 

「私には、聖グロリアーナ、アンツィオ、知波単、BC自由と黒森峰から来てるわ。――そう言うみほさんは、何処からスカウトを受けてるの?」

 

 

 

 

私は、聖グロ、サンダース、プラウダ、黒森峰の『高校4強』の他に、継続とアンツィオから熱烈なラブコールを貰ってるよ。特にサンダースなんて、去年の準決勝で戦った蛍さん改め、ケイさんが直接スカウトに来てくれたからね。

 

でも、こうしてみると、隊長チーム全員が黒森峰からスカウト受けてる訳だから、此れは凄い事だと思うよ?今年の大会で、高校戦車道大会9連覇を成し遂げた『絶対王者』からスカウトを受けた訳だからね。

 

ケイさんには悪いけれど、私は黒森峰に行くけど、皆は如何するの?――一応確認しておくけど、黒森峰に来る気はないんだよね?

 

 

 

 

「そうね、折角のお誘いだけど、私はサンダースに行くわ。私の所にもケイさんが直々にスカウトに来てくれたしね。」

 

 

「私は聖グロに行くわ。

 

 アンツィオや知波単、黒森峰も魅力だけれど、お堅そうな聖グロが態々私みたいな暴走超特急に声をかけてくれたのには、何か理由がある筈!なら、其れに応えないのは不義理ですもの!」

 

 

 

 

暴走超特急って、其れ自分で言っちゃうのが凄いよつぼみさんは。

 

其れで、青子さんは何処に行くのかな?

 

 

 

 

「アタシは、アンツィオに行こうと思ってんだ。」

 

 

「「「え!?」」」

 

 

 

まさかのアンツィオ!?

 

お姉ちゃんのライバルだった安斎さんが隊長を務めてるって言う事だけど、タンケッテのCV33と自走砲のセモヴェンテしかないアンツィオを選ぶなんて、随分思い切ったね青子さん?

 

 

 

 

「いやぁ、アンツィオの総帥ドゥーチェってのが直々にスカウトに来てくれてさ?

 

 『お前の思い切りの良さと、勢いの良さはアンツィオにとって必要な物だ!アンツィオ再興に力を貸してくれ!』なんて、言われたら断れねぇじゃん?

 

 何よりも、弱小校の立て直しってのが気に入ったんだ――みほが明光大を強豪にしたように、アタシが加入した事でアンツィオが強くなれるんなら、こんなに嬉しい事はねぇしな♪」

 

 

 

 

成程、そう言う事ならアンツィオへの進学もアリかもね。――そして嬉しいな、安斎さんは、青子さんの力をアンツィオ再興に必要だと思ってくれた訳だからね。

 

 

でも、分かってた事だけど、高校では皆バラバラになちゃうんだね……それが、少し寂しいかも。

 

 

 

 

「其れは、確かにそうだけど、高校がバラバラになったからってアタシ等の絆が消えてなくなる訳じゃねぇだろ?

 

 此れまでは仲間として戦ってきたが、今度はライバルとして戦う事になるってだけのこった!――其れに、中学では3年間、みほと一緒に戦ったから、高校ではみほと戦いたいんだよ。」

 

 

「最高の軍神と共に戦う事が出来たのは良い経験だったから、高校では私達が軍神に挑ませて貰うわ。」

 

 

「仲間としては、心行くまで一緒に戦ったから、今度は対戦相手として心行くまで戦いましょうみほさん!」

 

 

 

 

そうだね、確かに青子さんの言う通りだね――学校はバラバラになっても、絆が消えてなくなる訳じゃないからね。

 

其れに、皆と戦いたいって言うのは私もだから。……撃破率は中学戦車道最高の90%を誇るナオミさんに、最高装填速度0.6秒を誇る青子さん。そして、戦車の常識を余裕で覆す操縦をするつぼみさん。

 

皆とは、是非一度戦ってみたいと思っていたから、そう言う意味では高校がばらけるのは良いのかも知れないね。

 

 

 

 

「仲間として戦った後はライバルだってな?……簡単には勝たせねぇからな!!何たって、アタシはみほのやって来そうな事は、全部予想出来るからな!!」

 

 

「青子、アンタが予想してる事なんて、みほは簡単に超えて来るわよ?」

 

 

「隻腕の軍神は、そう簡単に倒せないわよ青子さん。」

 

 

「んな事は分かってらぁ!此れ位の気概が無きゃみほには勝てねぇって言う事だよ!!」

 

 

「なら、アンツィオに行ったら頑張らないとだね青子さん?――アンツィオの総帥と青子さんが力を合わせれば、或いは私とお姉ちゃんが居る黒森峰を倒す事が出来るかも知れないよ?

 

 勿論、ナオミさんの居るサンダースと、つぼみさんが居る聖グロもね。」

 

 

だけど、来年の黒森峰にはお姉ちゃんと私、其れに近坂先輩と、エリカさんと小梅さんが居るからそうそう簡単には負けないと思うけどね。

 

 

 

 

「その最強黒森峰を倒したら最高にカッコいい件に付いて。」

 

 

「其れは否定しないかなぁ?」

 

 

観客は絶対王者の勝利を信じていながらも、心の何処かではジャイアントキリングを期待する物だからね――もしも其れを成し遂げたら、もの凄い支持を得るのは間違いないよ。

 

 

まだ先の事だけど、高校での戦車道が楽しみになって来たよ♪

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

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・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

家に帰ってから、お母さんに正式に黒森峰からの推薦を受ける旨を伝えたら、お母さんは二つ返事でOKしてくれたよ。――三者面談では、あんな風に言ってたけど、最終的に決めるのは私だからね。

 

西住の娘だから、高校は黒森峰って言う事がなかったとは言わないけど、それ以上に、黒森峰でエリカさんと小梅さんと一緒に戦いたいと思ったから、私は黒森峰を選んだんだから。

 

 

お姉ちゃんと近坂先輩もいるし、今から高校生活が楽しみだよ。

 

 

 

 

『や~ってやる、や~ってやる、や~ってやるぜ。』

 

 

 

 

っと、着信?ボコのテーマは、エリカさんだね?……はい、もしもし。

 

 

 

 

『もしもしみほ?エリカだけど、そっちは引継ぎとか如何?巧く行ってる?』

 

 

 

 

勿論巧く行ってるよエリカさん。――今日のミーティングで、新隊長と新副隊長も決まったしね?……来季の明光大も、可成り強いから、簡単に勝つ事は出来ないと思うよ。

 

 

 

 

『でしょうね――其れは其れとして、貴女は進路は決まってるのかしら?』

 

 

「うん、決まってるよ――私は黒森峰に進む心算だよ。熱烈なラブコールも受けていたからね。……何よりも、お姉ちゃんと一緒に戦う事が出来るなんて、こんなに嬉しい事はないからね!

 

 あ、勿論エリカさんや小梅さんと一緒に戦う事が出来るのも嬉しいからね♪」

 

 

『黒森峰に来てくれるのね?……なら嬉しいわ。

 

 小学校と中学校ではとことんやり合たから、高校では仲間として戦いたいと思っていたのよ――願いが叶ったわね此れは。

 

 高校に入ったら、世話になるわねみほ。』

 

 

 

 

此方こそお願いしますエリカさん。貴女と一緒なら、きっと最高のパフォーマンスが出来ると思いますから!勿論小梅さんもですけれど!!!

 

 

 

 

『その言葉、小梅にも伝えておくわ――其れじゃあまたねみほ、高校で会うのを楽しみにしているわ。』

 

 

「はい、其れは私もですエリカさん。」

 

 

私の進路は黒森峰一択だけど、黒森峰に、私の戦車道って言う楔を打ち込む心算だしね――今の黒森峰は、搦め手に弱いから、そう言った部分を克服していかないといけないからね。

 

其処を克服するのが私の役目だろうって思うから。

 

 

何にしても、高校は皆バラバラになっちゃうから中学の思い出はいっぱい作っておかないとだよ――中学校生活は、残る所半年だからね?

 

 

 

 

『そうね、忘れられない思い出を作らないと損よね。』

 

 

「はい、そうです。その通りです!」

 

 

だから残り半年を精一杯過ごさないとだよ――中学最後の一年は、最高の思い出をたくさん残したいって思ってるからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer66『激闘!熱闘!!体育祭です!!!』

体育祭でもPanzer Vor!!Byみほ      全力で行くわよ?Byナオミ     おっしゃー、圧倒的に勝つ!By青子


 

Side:みほ

 

 

 

2学期、其れは1年の中で最もイベントが盛りだくさんの学期!

 

体育祭に文化祭に、3年生は卒業旅行兼修学旅行!それに加えて学校独自の秋のイベントが目白押しだから、もう食べられませんって位に全てのイベントを堪能しないとね!

 

 

そして本日は、その重要イベントの一つである体育祭の当日です!!

 

今年の私は青組だけど、同じ青組には、梓ちゃん達が居るから結構頼りになるね♪――目標は、2位以下に100点以上の差をつけて勝つ事だけど、出来るかな?

 

 

 

 

「出来るかどうかは問題じゃねぇ!

 

 大事なのはやるかやらねぇかだろ?――何よりも、みほが2位以下に100以上の差をつけて勝つと言った以上、アタシ等の勝利は絶対!

 

 アタシ等の力を見せてやろうぜみほ!!」

 

 

「隻腕の軍神は、戦車を降りても最強だって言う事を教えてあげましょう?――無知な下級生に、其れを教えてあげるのも上級生の務めだと思うしね。」

 

 

「みほさんと澤さんが一緒のチームなら負けは無いわ!!圧倒的勝利をもって、中学校生活最後の体育祭の優勝を攫っちゃいましょう!!」

 

 

 

 

勿論その心算だよ?

 

たかが体育祭、されど体育祭……こう見えて、私って負けず嫌いだから、例え体育祭であっても、絶対に負けたくない――だから、勝ちに行くよこの体育祭は!!

 

 

勝って優勝して、其れで最高の思い出にしようよ。

 

 

 

 

「異論はねぇぞみほ!!満場一致ってやつだ!!」

 

 

「なら、目標を達成できるように、頑張らないとだね♪」

 

 

中学生活最後の体育祭、いよいよ開幕だね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer66

 

『激闘!熱闘!!体育祭です!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言う訳で始まった体育祭。

 

先ずは、ブラスバンド部に率いられての入場行進に始まって、其処から全学年がトラック内に入った所で開会式……校長先生のお話しが長くなかったのは良かったよ。

 

 

まさか『本日は晴天にて体育祭日和。各組、全力で競技に挑んで下さい!』って言うシンプルな物になるとは思わなかったからね……校長先生は、校長先生で考えたのかもね。

 

 

で、開会式のラストと言えば選手宣誓で、其れを務めるのは私。

 

まぁ、選手宣誓其の物は、去年もやってるし、今年の戦車道大会でもやってるから緊張なんてものは全くないけれど、此処は大事な所だからキッチリと決めないとね!

 

 

「宣誓!我々選手一同は、スポーツマンシップにのっとり、力の限り正々堂々と戦う事を誓います!!選手代表、3年1組、西住みほ!!」

 

 

「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」

 

 

 

 

保護者と来賓のみならず、全校生徒からも拍手を貰えたって事は、取り敢えず選手宣誓は巧く行ったみたいだね……何と言うかホッとした。……保護者の中に、ハンディカム装備してるお母さんと、三脚にデジタル一眼を付けて撮影してるお父さんと、お手軽にスマホで撮影してる菊代さんは見なかった事にしよう。

 

って言うか菊代さんは、絶対写真をお姉ちゃんに送る心算だよね……まぁ、実害はないから良いって事にしとこうかな。

 

 

 

 

「お疲れさんみほ……今の選手宣誓、カッコ良かったぜ!」

 

 

「今の選手宣誓で、完全に会場を飲み込んだのは間違いないわ――流石はみほ、選手宣誓で会場を飲み込んでしまうとは見事としか言い様がないわね。」

 

 

「みほさんのカリスマ性は半端じゃないわ……みほさんは、生まれながらにして人の上に立つリーダーなのよきっと!!」

 

 

 

 

あはは……想像以上の高評価をありがとうございます。

 

だけどつぼみさん、私が生まれながらのリーダー気質って言うのは如何だろう?其れは、どっちかって言うとお姉ちゃんの方が合ってるんじゃないかなぁ……って、よくよく考えてみたら、小さい時は私がお姉ちゃんを引っ張って遊びに行ってたっけか?

 

思えば、エリカさんを半ば強制的にⅡ号戦車に乗せたのも私だし――アレが、リーダーの気質の芽生えみたいなものだったとしたら、確かに私って、つぼみさんの言う通りなのかなぁ?

 

 

なら、リーダーとして3年1組を、引いては青組を引っ張って行かないとね!

 

 

「それじゃあ、優勝目指して、パンツァーフォー!!」

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」(青組全員*鍵カッコ数省略)

 

 

 

 

青組全員、総勢92人が一斉に了解って言うと可成りの迫力があるね♪

 

今ので、他チームは少し気圧されたみたいだし、一気に勢いで呑み込んで、勢いを止めずにそのまま優勝街道まっしぐらで行きましょう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

こうして、みほの選手宣誓の後に開始された体育祭は、一番最初の競技である、1年生による100m走から熱戦が繰り広げられていた。

 

こう言う競技は、大抵の場合陸上部が圧倒的に有利になるのだが、戦車道部の部員が其れに喰らい付く形でギリギリのデッドヒートを見せ、上位を陸上部が独占と言う状態を許さなかった。

 

西住流フィジカルトレーニングによって鍛えられた身体は、陸上専門の陸上部員と陸上競技で競っても、勝てないまでも負ける事は無いレベルの成績を残す事が出来るようだ。

 

 

其の1種目目が終わった時点での順位は、青組と白組が同点トップで、以下赤組、緑組、黄色組の順で並ぶが、その差は僅差である。最初の競技で、得点が大きく開かなかったのは、展開としては面白いだろう。

 

 

とは言え全ての種目を見ていく事は出来ないので、みほ達元隊長チームの面々と梓達新隊長チームの面々の出場競技を見て行こう。

 

 

 

・3年生:借り物競争

 

 

 

この競技には、みほ、青子、ナオミ、つぼみが全員エントリー。

 

運動神経には自信があるし、スポーツテストの50m走に於いても、陸上部をぶっちぎって1位から4位までを独占している面々だが、借り物競争は、足の速さだけでなく、如何に容易く借りられる物が書かれたカードを引くかがカギとなる競技であり、足の速さの他に運の強さと、カードを選ぶ直感力が物を言う競技なのだ。

 

 

第1走者はつぼみ。

 

自称『明光大一の俊足』の俊足であり、実際に50m走の記録は6秒89と言うトンデモないタイムを叩き出している韋駄天であり、此の体育祭の殆どの競争競技にエントリーしてる猛者だ。

 

 

 

「初っ端からリミッター外して行くわよ!!」

 

 

 

その俊足を発揮し、スタートダッシュからトップスピードに乗ってるんじゃないかと誤解するほどの勢いでカッ飛び、一番で借り物が書かれたカードをゲット!

 

だが、書かれていた借り物は、何と『ステンレスのバケツ』。

 

ハッキリ言って、応援している生徒や、保護者、来賓や教員が個人的に其れを持っている可能性はゼロである……つまりは、何処かから持って来なくてはならない訳で、此れは可成りのタイムロスとなる。

 

最も近い場所でも、昇降口の掃除用具入れになるのだから、可成りきついだろう……普通ならば。

 

 

 

「ステンレスのバケツですって?上等だわ!!」

 

 

 

言うが早いか、つぼみは砂煙を巻き上げながら昇降口まで突撃し、そしてステンレス製のバケツを手に持って帰還!この間僅かに30秒!!

 

勿論その間に、『ひも靴』と言う簡単な借り物を引き当てた生徒がトップに躍り出ていたのだが、バケツを持ってきたつぼみは猛烈な勢いで追いかけ、そしてゴール5m前で抜き去り、更に其処から1mの差を開けてゴールイン!!

 

意地悪な借り物も何のその、持ち前の俊足を120%発揮して、見事に1位となったのだった。

 

 

 

続く第2走者は3位に終わり、第3走者である青子が登場。

 

青子もまたつぼみ程ではないにしても足は可成り速いので、スタートからトップに躍り出てカードを拾ったが……

 

 

 

「マジかオイ?」

 

 

 

青子の借り物は『和服』。

 

此れは可成り難易度が高い借り物だと言えるだろう。今のご時世、こう言う場所に和服で訪れる人など殆どいない――其れこそ、其れなりの上流階級の奥様か、華道や茶道の家元でもない限りは先ず有り得ない。

 

故に、青子の借り物は無茶振りと言えるのだが……

 

 

 

「だが、和服なら1人だけ居るぜ!!菊代さん、悪いけど一緒に来てくれ!!」

 

 

「おや、私ですか?みほお嬢様のご友人の頼みとあらば断わる訳には行きませんね。」

 

 

 

この会場には西住夫妻と共にやって来ていた菊代が居たのだ。

 

井手上菊代と言う人は、普段から和服で過ごしている人であり、其れは西住家の家政婦の時でもプライベートの時でも変わらず、此の体育祭にも若草色の着物で応援に来ていたのだ。

 

全くの偶然だが、此れは本来ならば『ハズレ』となるカードを引いた青子には有り難かった。

 

すぐさま青子は、菊代の手を掴んで猛ダッシュ!!そして、菊代もまた着物に下駄(歯のないタイプ)と言う出で立ちでありながら青子のダッシュに付いて行く。

 

現役時代は、西住しほの片腕と称された戦車乗りの運動神経は、一線を退いた今も未だ健在であったらしい。

 

そのお陰で、青子は見事に1位をゲットし、青組は大きく得点を伸ばす事になった。

 

 

続く第4走者はナオミ。

 

長身の半分を占める長い足は一歩が大きく、其れでタイムを稼ぐ事が出来るスプリンターだ。

 

 

 

「走りでは負けないけれど、問題は借り物よね……ま、せめて楽な物を引き当てる事を願うしかないわね。」

 

 

 

其れでも、借り物競争は足の速さが全てではないと言う事をナオミは知っているので、如何か楽な借り物を引き当てられる様にと願って居たのだが、神様とは意外と残酷な物であったらしい。

 

 

 

「げ……此れはマジ!?」

 

 

 

余程な物が書かれていたらしく、ナオミは校門を出て外に。

 

その間にも、他の選手が次々と借り物カードを引いて行くのだが……

 

 

 

「ごめーん、ちょっと西住さん貸してくれる?」

 

 

 

赤組の走者がみほの所にやって来た。

 

其れだけならば問題は無い。借り物に『西住みほ』と記載されている可能性は決してゼロではないのだし、赤組走者のカードには確かに『西住みほ』と記載されてのだから――一度、マジックで借り物が消されて西住みほと記載されていたが。

 

其れを見る限り、審判にバレない様に不正を働いたのだろうが……事は其れだけで済まなかった。

 

 

 

「おぉっと!みほは白組が貰うわよ!」

 

 

「させるか、西住さんは緑が貰うわ!」

 

 

「黄色も西住さんを指名したわ!」

 

 

 

なんと、白組と緑組と黄色組も、マジックでカードを修正して借り物を『西住みほ』にしていおり、赤、白、緑、黄色の間で凄まじいみほ獲得争いが始まろうとしていたが……

 

 

 

 

「いい加減にしなさいアンタ等!!」

 

 

 

――ドッゴーン!!

 

 

 

其処に、電柱を抱えたナオミが突撃し、赤組、白組、緑組、黄色組の走者を吹っ飛ばす!!

 

明光大戦車道部最強の砲撃手は、戦車戦でなくても、的確に敵を撃ち抜く力を持っている様だ――ナオミに吹き飛ばされた4人は顔からグラウンドに突っ込んで、白旗判定なのだから。

 

 

 

「ナオミさん、そんな物もってきてよかったの!?」

 

 

「仕方ないでしょう、書いてあったんだから!」

 

 

 

で、ナオミの借り物は『電柱』。

 

無茶振りとかそう言うレベルではないが、ナオミは運良く電柱の交換工事をしている所に出くわし、老朽化した電柱を貰ってくる事が出来たのである……だとしても1本数十キロはあるコンクリートの柱を1人で持って来ると言うのは驚きだろう。

 

 

 

「取り敢えず審判、あの4人は失格でしょ?」

 

 

「そうね、失格により、各チーム減点5!」

 

 

 

そして、そのナオミの訴えにより、赤組、白組、緑組、黄色組の第4走者は仲良く失格となり、夫々のチームは減点5と言う手痛いペナルティを喰らってしまった……下手な謀はしない方が良いと言う教訓と言えるだろう。

 

 

その後は、各チーム一進一退のレースが続き、遂に迎えた最終走者。

 

青組の最終走者は、今や明光大のヒーローとなった『隻腕の軍神』こと、みほだ。

 

 

みほは、50m走の記録こそ学年4位だが、スポーツテストの全ての種目でトップ5に入っていると言う驚異の身体能力の持ち主であり、同時に運の強さも可成りなモノだ。

 

つまりは、青組最強の存在である総大将なのである。。

 

 

 

――パァン!!

 

 

 

そんなみほが、出発の合図と同時に地を蹴り、一足飛びかと言う勢いでトップに躍り出る。

 

驚くべきは、一足飛び後もスピードは衰えず、寧ろそこからトップスピードに至って、1位で借り物のカードをゲット!――したのだが、みほの表情は優れない。

 

 

何故か?

 

 

答えは単純明快――借り物が『黒』だったからだ。

 

 

余りにもアバウトすぎるこの借り物は、一見簡単そうに見えるが実は可成り難しい借り物だと言えるのだ――走者のみならず、審判団も納得する『黒』を選ばねばならないのである。

 

 

そうなって来るとハードルは可成り高くなるが、みほに迷いはなかった。

 

 

 

「お母さん、一緒に来て!」

 

 

「良いでしょう。」

 

 

 

客席に行ったかと思ったら、即座に母であるしほを選び、そのままゴールに向かって驀進!!

 

そして見事に1位でゴールしたが、借り物として連れて来られたしほも、借り物の定義を満たしてるとして認められた――しほの純和風な黒髪と、黒で纏めた『西住流師範』としての服装が『黒』の条件を見事に満たしていたのだ。

 

 

此の借り物競争で、青組は一気に単独首位に立ったのだった。

 

 

 

 

 

・2年生:障害物競走

 

 

 

2年生の障害物競走には、戦車道部から新隊長である梓と、新部長であるクロエがエントリーしていた。

 

もっと言うのならば、第1走者がクロエで、最終走者が梓である。此の2人もまた、2年生の体力測定上位者なので期待が持てるだろう。

 

 

まず簡単にコースを説明しておくと、スタート直後にハードルが有り、其の後は跳び箱、その着地点には柔らかく分厚いウレタンマットが有り、コーナーの半分はラグビーボールをサッカーのドリブルで運び、残り半分は足を麻袋に突っ込んだ状態でジャンプで移動、最後のストレートに入った直後に平均台が有り、ゴール直前には滑る床と言う、此処までやるかと言う位のコースだ。

 

 

そんな高難易度の障害物競走の第1走者は、位置に付くとピストルの合図と共に一斉にスタート!

 

第2コースのクロエは、軽やかにハードルをクリアすると、そのまま助走をつけて跳び箱を飛び越え、足を取られる分厚いウレタンマットにはやや苦戦するも、他の選手に送れる事無くコーナーに突入。

 

ラグビーボールと言う不規則な転がり方をする物体を蹴ってドリブルするのは至難の業であり、多くの生徒が苦戦しているが、此処でクロエが奇策に出た。

 

 

 

「転がり方が不規則なら、転がさなければ良いんだヨ。」

 

 

 

ボールを足で蹴り上げると、なんとリフティングをしながら移動を開始!

 

確かにラグビーボールは地面を転がした場合には不規則な転がり方をするが、常に横向きになる状態でリフティングすれば安定してボールを運ぶ事が可能になるのだ。

 

尤も、其れも簡単な事ではないが、実はクロエはサッカーも得意で、此れ位のリフティングなら朝飯前であり、此処で他の生徒を抜き、一番で麻袋に到達!

 

そのまま両足を麻袋に突っ込むと、ピョンピョンと移動しながら残るコーナーを曲がり、最終ストレートの平均台を慎重に渡り切り、ゴール直前の滑る床を――

 

 

 

――ズデーン!!

 

 

 

渡ろうとして、盛大に滑った。其れこそ思い切り尻餅をついた。

 

立とうとしても、滑ってしまって巧く行かない……一体全体、表面にどんな加工がしてあるのか知りたい床材だが、こうも滑っては立ち上がるのは無理とクロエは判断し、何と転がりながら移動を開始!

 

此れは巧い一手だろう。

 

靴や手では滑ってしまっても、布である体操服ならば滑らないと言う事を生かして、寝転がってコロコロ転がって滑る床を攻略!

 

そのままゴールまで駆け抜け、1位でゴールインを果たした。

 

 

尚、このクロエの裏技を他の生徒が真似るであろう事を予想した審判団は、第2レース以降ボールのリフティングと、滑る床での転がり移動を禁止するアナウンスを行ったのだった。

 

 

 

この2つの裏技が禁じ手となった事で、レースは混迷を極め、どのチームも1位が連続で取れない状態となり獲得得点は略同じ。

 

青組以外は借り物競争での減点が響いている為、青組との得点差も埋まって居ないのだが。

 

 

そんなこんなで最終走者である梓の番。

 

1位になった人数が略横ばいの状態での最終走者には、大きな責任が生じるだろう――此処で1位になれば大きく得点を伸ばす事が出来るのだから。

 

勿論梓だって、1位を狙っているが、他の組の最終走者は揃いも揃って陸上部。

 

足の速さだけでは決まらない障害物競走であっても、此れは分が悪いだろう――梓が只の生徒であったのならば。

 

 

 

「位置に付いて!よーい……」

 

 

 

――パァン!!

 

 

 

ピストルと同時に飛び出したのは梓だ。

 

借り物競争の時のみほよろしく、一足飛びで飛び出すと、其のまま一気にトップスピードに乗ってハードルをクリアし、その勢いのまま跳び箱を飛び越え……た勢いに任せて頭からウレタンマットに飛び込んで、着地と同時に連続前転でウレタンマットを高速でクリア!

 

みほの一番弟子であり、西住流フィジカルトレーニングにも最初からへこたれずについて来た梓の身体能力は、陸上部の其れを遥かに凌駕しているのである。

 

 

高難易度のラグビーボールドリブルも、両足を巧く使う事で不規則運動を最小限に抑えてクリア。

 

麻袋ピョンピョンも、立ち幅跳びの要領で距離を稼いで4跳躍で終わらせて見せ、最終ストレートの平均台に至っては、何とその上で側転とトンボ返りをして見せて全生徒の度肝を抜いて見せた。

 

そして最後の滑る床だが……

 

 

 

「滑るのなら、其れを利用するだけ!」

 

 

 

猛ダッシュで床に近付くと、其処で軽くジャンプをすると、正座の姿勢で着地しそのまま床を滑る。

 

走るのが難しいなら滑る特性を利用してしまえと言わんばかりに、正座の姿勢のままツイ~~~っと滑り切って此れをクリア!

 

他の生徒もこの床を同じ方法で攻略するが、もう遅く、梓は1位でゴールイン!

 

デッドヒートの障害物競走は、最後で梓が1位になった事で青組が更に得点を重ねる事になったのだった。

 

 

 

 

・3年生:二人三脚

 

 

 

午前中最後の種目となるこの種目には、青組からはみほとつぼみがコンビで出場している。

 

得点は、相変わらず青組がトップではあるが、他の組も頑張っていて、その点差は可成り埋まってきており、2位の緑組との得点差は僅かに10点――この二人三脚の結果如何によっては、逆転されてしまうだろう。

 

 

みほとつぼみは最終走者であるが、出来れば他のコンビにも1位を取って欲しい所である。

 

取り敢えず第1組は青組が1位を取ったが、其の後は緑が2回、赤が1回、白が2回、黄色が1回と1位を取っており、最終組が走る時点で青組と緑組は同率首位となっていた。

 

つまり、この最終組は青組か緑組は、1位になった方が単独首位となり、それ以外が1位になった場合には、順位を上げる事が出来る状況なのである。

 

 

だがしかし、みほとつぼみに気負いはない。

 

 

 

「つぼみさん、行きますよ!」

 

 

「了解よみほさん!明光大一の俊足と、最強の軍神が組んだら、其れはもう負けなしよ!!」

 

 

 

ガッチリと肩を組んでスタートに備える。

 

そして、スタートのピストルがなった瞬間に……

 

 

 

――ドォォォォン!!

 

 

 

まさかのロケットスタート!

 

みほのつぼみも、繋がれていない方の足で思い切り地面を蹴って飛び出し、強力な推進力を持ってしてスタートダッシュを決めた――に留まらず、其処から凄まじい猛ダッシュ!!

 

パートナーとの息を合わせる事が必要となる二人三脚で、これ程のスピードが出るのかと疑いたくなるスピードでゴールに向かって驀進!!

 

正に阿吽の呼吸。戦車道で鍛えられたツーカーの関係は、二人三脚でもその力を発揮し、2位以下に3m以上の大差をつけての圧勝だった。

 

 

此れにより、午前中の競技が終わった時点で、青組は単独トップに立ち、二着の黄色組が三着の緑組と並んで2位。以下赤と白が続く展開となっていた。

 

 

余談ではあるが、応援合戦の際に、青組の応援団長を務めた梓のボンタンズボン、長ラン、鉢巻、胸にサラシと言う出で立ちは、応援団の中で抜群の人気だったことを明記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

午前中が終わった時点で単独トップ……此のまま午後もかっ飛ばして優勝を勝ち取りたい所だね。

 

で、午後の競技の前には昼休みなので、お父さんとお母さん、そして菊代さんと一緒にお昼御飯です。青子さん達も、家族と一緒にお昼ご飯みたいだね。

 

 

そしてお昼ご飯なんだけど……美味しそうなお弁当!

 

重箱に詰められた色取り取りのおかずに、綺麗な三角形のおにぎり……見てるだけで食欲をそそられちゃうよ!いただきまーす!!!

 

 

「うん、美味しい!この明太高菜のおにぎりは最高だし、唐揚げも衣はカリっと、お肉はジューシーでスッゴクおいしい!流石は菊代さん!!」

 

 

「お褒めに預かり、光栄ですみほお嬢様。」

 

 

 

 

ホントに菊代さんの料理は、ほっぺが蕩けるんじゃないかって思う位に美味しいよ。

 

だけど、このお弁当の中で、ただ1つだけ、此の卵焼きだけは菊代さんが作ったモノじゃない筈だよ……では、いただきます!

 

 

「……うん、美味しい。美味しいよお母さん!」

 

 

「そう、良かったわ。」

 

 

 

 

お母さんは料理は得意じゃないけど、私の大好きな卵焼きと、お姉ちゃんの好物であるカレーだけは、一生懸命練習して美味しいのを作れる様になってるから、卵焼きだけはお母さんが作ったと思ったんだ。

 

そして其れは大当たりで、本当に美味しかった。

 

出汁を利かせた甘めの味付けは、私の好みだしね?――此の卵焼きのお陰で、午後も頑張れそうだよ!勿論、菊代さんの料理にだって同じ事が言えるけどね。

 

 

 

 

「頑張って下さい、みほお嬢様。」

 

 

「頑張ってね、みほちゃん。」

 

 

「西住流に敗北の文字は無いわ……思い切り楽しんで、その上で勝って来なさいみほ。」

 

 

 

 

はい!頑張ってきます!!

 

午後の種目も、ぶっちぎって行くよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

体育祭の午後の部も、各種目でデッドヒートが繰り広げられ、順位が二転三転する激しい争いとなっていた。

 

そんな中で始まった、3年生の男女別騎馬戦:女子の部だが……

 

 

 

「Panzer Vor!!」

 

 

「「「Jawohl!!」」」

 

 

 

此れはもう、青組総大将のみほが無双だった。

 

ナオミと青子とつぼみが組んだ騎馬に、みほが乗った騎馬武者なのだが、みほは片手であると言うハンデをものともせずに、他チームの騎馬の鉢巻を取り、青組を勝利へと導く。

 

 

そして最終戦の、赤組との決勝戦でも戦車道元隊長チームの騎馬は、一番の活躍を見せ、赤組を全滅させた上で青組は被害ゼロと言う、圧倒的な結果をもって勝利したのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

そんなこんなで競技は消化され、残るは最終種目である『組別対抗リレー』のみ。

 

この最終種目は、各組の学年別に4人ずつ選手を選出して、学年毎に走るルールになっており、青組は1年に新副隊長である新藤歩美がエントリーし、2年にはクロエと梓が。

 

そして3年には元隊長チームである、みほと青子とナオミとつぼみの4人がエントリーし、アンカーを務めるのはみほだ。

 

他の組も、陸上部のスプリンターを筆頭とした生徒をこの競技に当ててきているので油断は禁物。

 

 

加えて、この時点での得点差は最大で5点と言う状況であり、此のリレーで1位を取ったチームが優勝すると言う分かり易い構図故に、このリレーでの勝利は絶対となって来るのだ。

 

 

正に優勝をめぐる天王山。

 

 

 

「位置に付いて……よーい!」

 

 

 

――パァン!!

 

 

 

その戦いの火ぶたが切って落とされた!

 

先ずは1年生がデッドヒートを展開!どの組も一歩も譲らず、略横ばいの状態で走り抜け、そのまま2年生にバトンタッチ!一応新藤が少しだけ早く2年生の第1走者であるクロエにバトンを渡したので、此れは小さくとも大きな成果だろう。

 

 

そのバトンを受け取ったクロエは、おそるべきスピードでトラックを半周し、次の走者へと流れるようなバトンパス!此処までは順調だ。

 

 

 

が、此処でアクシデントが発生!

 

 

クロエからバトンを受け取った生徒がコーナーで転倒し、更にその際に左足を痛めたのか、左足を引き摺るような形で走る……のだが、其処で他の組から抜かれてしまい、青組は一気に最下位に。

 

バトンを受け取った第3走者が奮闘するも、4位の走者に追い付くのがやっとの状態で、2年生の最終走者である梓にバトンパス。

 

 

 

「行きます!!」

 

 

 

そのバトンを受けた梓は凄まじいスピードで飛び出し、同率5位だった白組走者を追い抜き、4位の赤組走者を猛追し、略並ぶ形で最終組である3年生の第1走者の青子にバトンパス。

 

 

 

「お願いします、辛唐先輩!」

 

 

「任せとけや!!」

 

 

 

梓からのバトンを受けた青子は、猛ダッシュで4位の赤組を追い越し、3位の緑組を猛追し、追い付く事は出来なかったモノの、殆どタイムラグ無しでナオミへと繋ぐ。

 

 

 

「頼んだぜナオミ!」

 

 

「任されたわ。」

 

 

 

そのナオミは足の長さを生かした大きなストロークでの大胆な走りで、緑組を抜き去って単独3位に。

 

2位との差は大きいので追い付く事は出来なかったが、順位を上げて第3走者であるつぼみにバトンタッチ!

 

 

 

「全力で行けつぼみ!!」

 

 

「言われなくとも!リミッター解除!!」

 

 

 

そのバトンを受けたつぼみは、リミッター解除の宣言の通りに、凄まじい猛ダッシュ!

 

明光大一の俊足の名に恥じないスピードを持ってして、前を走っている2位の黄色組走者を猛追!砂煙を上げながら猛追!驀進!!

 

 

その凄まじい迫力に押されたのか、黄色組の第3走者は、僅かにスピードが鈍り、バトンタッチ寸前で追い付かれ、青組も黄色組も略同時にアンカーにバトンタッチ。

 

 

 

「頼みましたよみほさん!!」

 

 

「うん、任せておいて!」

 

 

 

略同時にスタートした青組アンカーのみほと、黄色組のアンカー。

 

黄色組のアンカーは、陸上部のエースだった生徒であり、普通なら勝つのは難しい相手だが、『片腕?何それ美味しいの』と言わんばかりの身体能力を有するみほにとっては強敵ではなかった。

 

 

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「!?」

 

 

 

可成り深い前傾姿勢で奪取するみほは、黄色組のアンカーの前に出ると、そのままグングン距離を離して行く。――片腕である為に、腕の振りで得られる推進力が半分の状態でこのスピードは驚異だろう。

 

 

そしてみほは其のまま疾走し……

 

 

 

――パァン!

 

 

 

1位でゴール通過!

 

同時にこの瞬間に、青組の優勝が確定した。

 

 

 

『最終種目のリレーを制したのは、青組!明光大中学のヒーローである西住みほが、リレーのアンカーで鮮やかに決めてくれたーー!!』

 

 

 

今年度の体育祭は、隻腕の軍神を有する青組が優勝を果たした。

 

そして其れは、みほにとって体育祭3連覇を果たした瞬間でもあった。(1年次は赤組で、2年次は緑組で優勝している。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

 

お見事、よくやったわねみほ。

 

組は違うとはいえ、中学校3年間で体育祭3連覇と言うのは見事だわ……まほですら、其れは出来なかったのだからね。――何時だったか、まほが『みほは自分よりも強い』と言った事があるけど、此の体育祭を見る限り、その可能性は否定できないわ。

 

だけど、だからこそ、其れが頼もしいわ。

 

 

みほが黒森峰に来てくれれば、剛のまほと柔のみほの最強の布陣が出来上がるからね……其れこそ、自分の娘と言う事を差し引いても、最強チーム誕生は間違いないわね。

 

 

――でもまぁ、今はそんな事は後回しにして、みほの体育祭優勝を喜ばないとね――何なら青組全員を打ち上げに招待しちゃおうかしら?

 

菊代!!

 

 

 

 

「ご安心ください奥様、近くの焼き肉店を貸し切りにして貰いましたので、青組全員が来ても大丈夫ですよ。」

 

 

「ベリーナイス。グッジョブ菊代。」

 

 

貴女の仕事の速さには、相変わらず頭が下がるわ。――尤も、そのお陰で豪華な打ち上げが出来る訳だけれどね。

 

 

其れは兎も角、本当に見事だったわみほ――打ち上げで、色々聞かせて欲しいわ。貴女が明光大の3年間で何を学んだのかと言う事も含めて色々とね。

 

 

 

 

「うん!全部話すよ!聞いて欲しい事も一杯あるから!!」

 

 

「其れは楽しみだわ。」

 

 

何にしても、体育祭の優勝おめでとう、みほ。西住流の名に恥じない、見事な戦いでした。――態々見に来た甲斐がありましたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer67『突撃!黒森峰の文化祭です!』

ガチガチかと思ったけど、文化祭はオープンなんだね?Byみほ      お祭りもガチガチじゃ息が詰まるわよByエリカ


Side:みほ

 

 

 

体育祭と並ぶ、2学期の一大イベント、其れは文化祭!

 

明光大の文化祭は今年も大盛況で、特に去年に引き続いて行った、戦車道部の屋台村は今年も他の部の出店を余裕でぶっちぎって最大の売り上げを記録したね。

 

 

此れだけ盛況だったのは、梓ちゃんが私特製の揚げタコ焼きを習いに来た事が大きいね。

 

戦車道のみならず、梓ちゃんは物覚えが良いみたいで、私が2回ほど実演して見せたら、其れだけで揚げタコ焼きの極意を会得して、文化祭では、私の屋台と人気を二分にしていたからね。

 

 

尤も、招待したエリカさんと小梅さんによると――

 

 

 

 

『中々良い線行ってると思うけど、みほと比べればまだまだね……だけど基礎が出来てるから、此処からの伸びしろは少なくないわ。』

 

 

『お口の中が幸せ~~……とは行きませんが、余程のタコ焼きマニアでない限り、澤さんの揚げタコ焼きに難癖をつける事は出来ません!

 

 みほさんの揚げタコ焼きには少々劣りますけど、それでも、至高のタコ焼きであるのは間違いありませんから♪』

 

 

 

 

なんてことを言ってたから、梓ちゃんのタコ焼きも大盛況だったんだろうね。

 

 

で、大盛況の中で明光大の文化祭は終わり……そして今、私達は目の前のド級の学園艦と対峙していた……黒森峰の学園艦と。

 

正にその大きさは圧倒的だね?……高等部の学園艦は更に大きいみたいだから、マッタク持って想像もつかないよね此れは……改めて学園艦って言うモノがドレだけ凄かったのかって実感させられたよ。

 

 

だけど、私達は学園艦に圧倒されるために此処に来た訳じゃないよ?――本当の目的は、エリカさんと小梅さん(梓ちゃんの所にも招待状が来てたみたいだね。)から、黒森峰の学園祭の招待状を貰って、偶々寄港日が重なるから色々調整して、そして無事に参加できました!!

 

 

招待状を貰った以上は出るのが礼儀だし、なによりも黒森峰の文化祭がどんなものなのか、期待が膨らんじゃうね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer67

 

[chapter:『突撃!黒森峰の文化祭です!』

 

]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其れにしても、流石は黒森峰。学園の規模が大きいから、文化祭の規模も明光大とは桁違いだよ。

 

文化祭の時には、幾ら黒森峰でも、お祭り色一色にそまって普段のガチガチに堅いイメージは薄れてるみたいだし、色んな出店が所狭しと出ててとっても楽しそう!

 

 

で、私が今現在何をしてるのかと言うと、屋台の定番の一つであるスーパーボール掬い!

 

何時もなら興味はそそられないんだけど、激レア『フォーリンダウンボコ』を閉じ込めた、直径5cmのスーパーボールがあるって言うのなら話は別だよ!!

 

超限定品で僅か10個しか作られてない激レアボコを内蔵したスーパーボールは、絶対に外せないからね!!

 

 

「1回200円……此れって、取れるだけ取って良いの?」

 

 

「まぁ、お玉に入るだけ取って貰って構わないわ。……だからと言って、超巨大な給食調理用のお玉を持って来て全部取られても困るけど…」

 

 

 

 

いや、やらないよそんな事?……エリカさんが一昨年の夏祭りの時に、青子さんとつぼみさんと一緒に、金魚全部取りつくす勢いで掬いまくってたけど、沢山取っても困るだけだからね。

 

其れに、私の目的は只一つだから!

 

 

激レアボコ入りスーパーボール……貰ったぁ!!!

 

 

 

――スパン!!……コロン。コンコンコン……

 

 

 

 

「激レアボコ入りスーパーボール他3個、ゲットだよ!!」

 

 

「お~~~!特大スーパーボールだけじゃなくて、中型のスーパーボールも3つ同時に取るなんて、流石は隻腕の軍神様ね!!」

 

 

「へ?私の事知ってるんですか?」

 

 

「黒森峰で、貴女の事を知らない人はいないわよ?

 

 あの西住まほ隊長の妹さんにして、弱小校を隊長就任1年目でベスト4に引っ張り出し、2年目では黒森峰を倒した愛和学院を下して優勝。

 

 そんでもって今年は、あの狂犬逸見と大激戦を演じた末の壮大な痛み分けでの同点優勝をした訳だから、貴女の意志に係わらず有名にもなるってモンでしょ?

 

 と言うか、今の戦車道界隈で、弱小校を強豪に育て上げた隻腕の軍神・西住みほと、同点優勝とは言え、大会前の下馬評を引っ繰り返した狂犬・逸見エリカの名を知らない人はいないんじゃないの?

 

 序に言うと、その両名の副官を務めた赤星と、澤も、其れなりに有名人になってるわね。」

 

 

 

 

まさか、其処まで名が知れ渡ってるとは思わなかったよ、うん。

 

戦車道が必須科目だって言う機甲科の生徒ならいざ知らず、そうじゃない学科の生徒にまで名が知られてるって言うのは意外だよ。……其れ以前に、戦車道界隈でエリカさん共々名が知られてるとは思わなかった。

 

……でも、エリカさんが狂犬て言うのは如何だろう?どっちかって言うと、強大な相手にも怯まない銀狼って言う感じがするんだけどなぁ?

 

 

 

 

「周りの連中は、逸見の事を、髪の色に準えて『銀狼』って言ってるんだけど、当の逸見自身が『私は銀狼なんて上品なモンじゃない――敵と見做した相手には、誰彼構わず噛みつく狂犬よ』って言ってるからさ。

 

 下級生の間では兎も角、同級生の間では銀狼よりも、狂犬の二つ名の方が定着しちゃってんだわ。」

 

 

「自分で自分を狂犬と言うなんて、狂犬の如き凶暴性を、エリカさんは自覚してコントロールしてるって事なのかも知れないね……うん、何となく間違いじゃない気がして来た。」

 

 

だとしたら、エリカさんは凄すぎるとしか言いようがないよ?……己の中に眠る凶暴性を自覚して、其れをコントロールするって言うのは、並大抵の事じゃないからね――流石はエリカさんだよ。

 

 

さてと、目的の物はゲットできたし、そろそろ移動しようか?

 

ナオミさんは、射的をやってたみたいだけど何か良い物は取れた?ナオミさんの砲撃手としての腕を考えれば、取った商品の数=使える弾の数なんじゃないかと思うんだけど?

 

 

 

 

「期待は裏切らないわよみほ。300円で10発のコルク弾で、賞品を12個ゲットしてあげたわ。」

 

 

「弾数と、ゲット商品の数がおかしくねぇか?」

 

 

「跳弾を利用して、1発で2個ゲットって言うのを2回だけやってみたのよ――自分で言うのもなんだけど、見事なまでに成功したわね。」

 

 

「流石、明光大一の砲撃手の狙いは、的確に目標を狙い撃つと言う事ね?」

 

 

 

 

まさか、跳弾を利用して商品を2個ゲットしての、パーフェクトを上回る戦果を叩き出すとは凄すぎるよナオミさん!

 

若しかしなくても、ナオミさんの砲撃手としての腕は、お姉ちゃんが見事だって言ってた、プラウダ高校のノンナさんに匹敵するか、それ以上なんじゃないのかな?

 

そんなナオミさんが加わる、来年のサンダースは間違いなく強敵になるだろうね……時に青子さんとつぼみさんは、何を買ってるの?

 

明らかに超有名な電気ネズミのパクリとしか思えないお面と、某ネコ型ロボットのパチものなお面を装備してるを見る限り、突っ込んで貰いたいんだろうけど……敢えて言おう、私は突っ込まない!!

 

 

 

 

「なにぃ!タバコ咥えた、目付きの悪いピ○チュウに突っ込まねぇだと!!?」

 

 

「悩みに悩んで此れをチョイスしたのに、突っ込みなしとは……流石ですねみほさん!!」

 

 

 

 

だって、ベタベタ過ぎるから、突っ込む気にもならないよ?……私に突っ込ませたいなら、もっとインパクトのあるお面じゃなきゃ無理だよ?…

 

…それこそ、ゴールデンボコプラチナ包帯バージョンのお面か、極悪ペイント版のグレート・ムタのお面でもない限りは驚かないからね。

 

でも、そのお面自体は良く似合ってると思うよ?――黒森峰の学園祭で、そんなにはっちゃけたお面が売られてるって事には驚いたけどさ。

 

 

まぁ、合宿で、黒森峰の子達も、戦車を降りれば普通の女子中学生だって言う事を知ってるから、其れを考えればこの程度のはっちゃけぶりもアリなのかも知れないね?

 

尤も、お祭りは楽しんでナンボだからね♪

 

 

さて、次は何処に――

 

 

 

 

「西住先輩?」

 

 

「此れは、奇遇だねネ?」

 

 

 

 

ほえ?

 

この声は……梓ちゃんとクロエちゃん!貴女達も、黒森峰の学園祭に来てたんだ!此れは、嬉しい誤算だったよ!招待されていたとは言え、文化祭の会場で会うとは、思ってなかったよ……黒森峰は学園の規模が大きいからね。

 

 

こんにちわ梓ちゃん、クロエちゃん。2人共、招待されたんだよね?

 

 

 

 

「はい!私とクロエはツェスカから招待状を送って貰って、それで学園際に参加してみたんです♪」

 

 

「成程、そう言う事だった訳か。」

 

 

でも、そう言う事なら、私達と一緒に文化祭を見て回らない?――何をするかだけじゃなくて、文化祭って言うのは見ているだけでも楽しい物だからね。

 

 

 

 

「其れは、先輩がそう仰るのでしたら拒否する理由が有りませんし、先輩と一緒なら此の学園祭をもっと楽しむ事が出来ると思いますから、私の方からお願いしたいくらいです♪

 

 一緒に文化祭を回りましょう!」

 

 

「其れじゃあ、一緒に!」

 

 

 

「「パンツァー・フォー!!」」

 

 

「「「「りょーか~い!!」」」」

 

 

 

 

さてと、其れじゃあ何処に行こうか?

 

出店を回るのも良いけど、クラスや学科、部活ごとの出し物なんかもあるみたいから、講堂や部室等の方でもイベントやってるだろうし……皆は行きたい所とか有るかな?

 

 

 

 

「ミホさん、私は講堂に行きたイ。

 

 先程、小耳に挟んだんだが、機甲科の生徒数名と、演劇部が合同で劇をやるらしいんダ。……しかも、驚いた事に劇の主役は逸見エリカさんだと言っていタ。」

 

 

「へぇ!?そ、其れは本当なのクロエちゃん!?」

 

 

「あ、そう言えばそんな話を聞きました私も!逸見さんだけじゃなくて、赤星さんも出演するとかなんとか……」

 

 

「エリカと小梅が劇に……此れは確かに興味をそそられるわねみほ?――此れはもう、目指すは講堂一択でしょう?」

 

 

 

 

勿論講堂一択だよナオミさん!

 

エリカさんと小梅さんが劇を演じるなんて、其れは一見の価値ありだし、見ておけば、後で会った時の話のタネにも困らないしね?……だから講堂に行こう!

 

どうせなら、出来るだけ良い席で見たいからね!!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

と言う訳で講堂に到着!

 

開演15分前だって言うのに、既に講堂には人が一杯!!どれだけこれから始まる劇が、お客さんの興味を引いてるかって事だよね?

 

確かに、戦車道全国大会優勝校の1つである、黒森峰の隊長が主役を務める劇って言うのは、其れだけで話題になる訳で……演劇部の人達は、結構分かってるみたいだねお客さんの集め方を。

 

 

 

 

「すっげー人だな?こりゃ、前から5列目の席が確保できただけでもラッキーかも知れねぇな?」

 

 

「ホント凄い人数だわ……明光大の演劇部の出し物の倍は入ってるんじゃないかしら?」

 

 

「実際に其れ位入ってるだろうね此れは。」

 

 

まぁ、しょうがないよ。

 

話題性が段違いだし、入り口でもらったパンフレットによると、既存の演目を演じるんじゃなくて、演劇部が独自に製作した、完全オリジナル作品って事だからね。

 

此れだけ人が集まるのも頷けるってモンじゃないかな?

 

 

 

 

「やっぱりそうですよね西住先輩。……明光大の演劇部も、先輩に出演依頼すればよかったのに。」

 

 

「あはは、其れは無理だよ梓ちゃん。

 

 片腕無しじゃ、演じられるキャラなんて限られてるし、何よりも私は演技とか得意じゃないから。……戦車道でのブラフは大得意だけどね?」

 

 

「いや、演技力よりも『西住みほ』のネームバリューだけで人集まんだろ?」

 

 

「青子の意見に賛成ね。」

 

 

「ナオミさんに同意だナ。」

 

 

 

 

左様ですか。……まぁ、出演依頼が来ても、屋台村の営業が有ったから丁寧にお断りしたと思うけどね。

 

 

 

 

――ビー!

 

 

 

『大変長らくお待たせいたしました。

 

 此れより演劇部による劇『黒き森の騎士と魔女』を開演いたします。どうぞ、最後までお楽しみください。』

 

 

 

 

っと、いよいよ始まるみたいだね?

 

『黒き森の騎士と魔女』なんて、タイトルは若干厨二臭が漂ってるけど、だからこそ完全オリジナル作品て言うのは間違いないって言えるよ!

 

一体どんなお話しなんだろう?

 

 

 

 

『昔々、正確に言うのならば、大体17世紀の中頃の辺り、ドイツの『黒い森』と呼ばれる森の中にひっそりと暮らしている魔女が居ました。』

 

 

 

 

ゆっくりとした語り口と共に幕が上がって、まず現れたのは小梅さん!

 

語りからすると、如何やら小梅さんは、この劇における魔女――ソフィー・リリューティス、通称ソフィーまたはリリュの役みたいだね?

 

で、エリカさんなんだけど……出てきた瞬間に会場が沸くって!

 

 

エリカさんの役は、自らも魔女の母親を持ち、魔女だった母親を殺された過去を持つが故に、森の中でひっそりと暮らすソフィーを護ろうとする騎士――ダンテ・ストライフなんだけど、その出で立ちがスッゴクカッコ良かったから!

 

肩までの銀髪を首の辺りで一本に束ねて、黒いズボンとインナーに、目の覚めるような蒼のコートを羽織り、その背には身の丈程もある長剣を携えた美剣士様って、そりゃあ会場も沸くって物だよ!!

 

 

如何やらこの劇は、魔女ソフィーと、騎士ダンテを中心に繰り広げられていくみたいだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――エリカさんと小梅さん熱演中。どんな内容かは、この後のザックリとしたあらすじから、各自脳内補完してね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話の内容としては、魔女である母を殺された過去を持つダンテが、黒き森の中でひっそりと暮らすソフィーを護りながら、互いに絆を深めて行くって言うモノだったけど、物語の中盤で、魔女狩りに来た帝国の兵士の罠にダンテが嵌ってしまい、その隙を突いてソフィーが帝国に連れさられちゃった。

 

 

それで、何とか罠を外したダンテは、ソフィーが処刑される前に救出しようと、罠で負った傷を手当てもせずに帝国へと向かい、門番をはじめとした、兵士達を長剣でバッタバッタと斬り倒しながら、ソフィーが連れて行かれた処刑場を目指す。……エリカさんの殺陣アクションは、プロじゃないかと思う位に素晴らしかったよ。

 

 

で、何とか処刑場まで辿り着いたダンテを待ってたのは、かつて自分の母を殺した怨敵『ムンドゥス・アルマジーナ』だった……って、ダンテとムンドゥスって、名前は完全にDMCの主人公とラスボスだよね?『ムンドゥスに母を殺された』って言うのも一緒だし……まぁ良いや。

 

 

怨敵を前にしたダンテは、母を殺された怒り、護れなかった事の後悔、そして今度はソフィーをも手にかけようとするムンドゥスに対する怒りが爆発し、連戦の疲労など知らないとばかりに、ムンドゥスを攻撃!

 

追い詰められたムンドゥスは、ソフィーを解放するから助けてくれと命乞いをするも、『貴様の言う事が信用できるか!』と、ダンテに袈裟懸けに斬り捨てられて絶命。

 

ソフィーを助け出したダンテは、そのまま帝国の王城にまで進行し、遂には帝国国王の間まで到達。

 

そこで、国王に魔女が邪悪な存在だと言うのはマッタクの迷信でありデマであり、魔女からしたら完全な風評被害だと言う事を訴え、無意味な魔女狩りを止める様に直談判。

 

同時に、魔女狩りそのものが己の功績を上げたいムンドゥスが発案した事であり、魔女が危険な存在であるか否かは、全く議論されてなかった事が判明し、国王は魔女狩りを禁止するとともに、魔女狩りを行った者には思い罰を与えるお触れを発行。

 

 

此れにより、魔女が迫害される事は無くなり、ダンテとソフィーは黒い森で静かに暮らして……

 

 

 

 

「そんなに慌ててどうしたんだソフィー?」

 

 

「仕事の依頼よダンテ。帝国郊外に現れた、魔物の討伐ですって。」

 

 

「最高だね?なら10分で終わらせるとしようか?人に仇なすクソっ垂れを、生かしておく事は出来ないからな。」

 

 

「まさか……5分でしょ?」

 

 

「ハハハ……楽勝!」

 

 

 

 

なんて事にはならずに、黒い森の魔女と、魔女の騎士は魔物退治専門の仕事屋を始め、帝国の平和を陰ながら支える存在となりましたと。

 

最後はダンテとソフィー――エリカさんと小梅さんが、魔物相手に大立ち回りを演じてる所で幕が下りてTHE END!

 

 

と同時に、会場からは割れんばかりの拍手と大喝采!!

 

再び幕が開いて、出演者が揃って礼をした時には、何とツェスカちゃんが舞台に上がってエリカさんと小梅さんに花束を渡して、会場に更なる拍手の渦を呼び込んでくれたからね?

 

 

どんなモノになるのかって思ったけど、エリカさんと小梅さんが物凄く演技力があって驚いたよ!

 

下手したら、演劇部の子よりも上手かったんじゃないかなぁ?……特に、怒りに燃えるダンテの表情なんて、鬼気迫るモノが有って、凄く迫力が有ったからね。

 

 

うん、此れは予想以上に楽しめる劇だったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

あ~~~……何とかやり切ったけど、本気で滅茶苦茶恥ずかしかったわ此れ!

 

衣装は兎も角、私が演じたダンテは、所々でこっ恥ずかしいセリフがあるもんだから、正直噛むんじゃないかって戦々恐々だったわよ!『君は俺が護る』だの、『俺はソフィーの騎士……魔女の騎士だ』だの、『君が居てくれるなら、俺は神とだって戦える』だの、演劇部の連中、脳味噌沸いてんじゃないの!?

 

一度脳外科受診した方が良いんじゃないのマジで!?

 

 

 

 

「その気持ちは分かりますが、落ち着いてくださいよエリカさん……私だって、こんなオープン胸元セクシーな魔女衣装着せられて恥ずかしかったんですから!

 

 こんな事言ったらアレですけど、ちょっとマウスの128mm砲で演劇部を吹っ飛ばしたいです。」

 

 

「いや、いっその事、幻の超弩級重戦車P1000ラーテの280mm砲の方が良くないかしら?」

 

 

「……アレとかP1500モンスターとかって、レギュレーション的に如何なんでしょうかね?」

 

 

 

 

さぁ?実機は無いけど、設計は存在してるからギリOKじゃないの?……尤も、どっちも馬鹿デカいだけの、マウス以上の化け物欠陥兵器だから、使う事は出来ないでしょうけどね。

 

 

ふぅ……でもまぁ、此れで演劇部への義理も果たしたし、私等の本来の持ち場に戻るわよ小梅。

 

機甲科の『ドイツサロン』の方だって、結構お客さんが来てるみたいだから行くわよ?だから、ちゃっちゃとサロンのユニフォームに着替えちゃいなさい。

 

 

 

 

「はい、了解です♪

 

 でも、まさかディアンドルを用意するとは思いませんでした……と言うか、エリカさん滅茶苦茶似合ってますね、そのシックなデザインのディアンドルが。」

 

 

「私はドイツ系のクォーターだからじゃない?

 

 顔の作りは日本人だけど、この銀髪と蒼い目は、思いっきりドイツ人の特徴だからね?ドイツの農村で着られていた、女性の為の労働着であるディアンドルも似合うのかも知れないわね。」

 

 

兎に角、演劇部のゲストは終わったから、本来の持ち場に戻るわよ!

 

 

 

 

 

って意気込んで、機甲科の出し物である、ドイツサロンに戻って来たんだけど……何で居るのよみほ+α!!いや、私と小梅が連名で招待したんだけど、何で此処にいるの!?

 

 

 

 

「何でって……戦車乗りとして、同じ戦車乗りである機甲科の人達の出し物を見て行かないって言う選択肢は無いでしょうエリカさん?多分、同じ立場ならエリカさんだって、私と同じ行動をしたでしょ?」

 

 

「其れは……まぁ、否定しないわね。

 

 なら、改めて。ようこそドイツサロンへ――ご注文はお決まりですか?」

 

 

「黒森峰特製ノンアルコールビールを6つ。

 

 それから、特性ブルストの盛り合わせを3つと、シュニッツェルを3つと、ライ麦パンを6人前お願いします。」

 

 

「畏まりました。」

 

 

其れじゃあ注文の品が届くまで少し待っていてね?

 

其れから、学園祭が終わるまで帰らないでよ?午後からは、機甲科による戦車パレードがあるし、陽が沈んだ後のフィナーレでは、盛大なキャンプファイヤーも行う予定だから。

 

 

 

 

「其れは楽しそうだね?なら、最後まで参加させて貰うよエリカさん、小梅さん♪」

 

 

「はい、最後まで楽しんで行って下さい♪」

 

 

「黒森峰の文化祭、思った以上に楽しめそうね。」

 

 

 

 

是非最後まで楽しんで行ってちょうだい。――今年の文化祭は、生徒会に掛け合って、例年よりもフランクで活気のあるモノにしたんだから!

 

因みに、みほ達が満足したって事は、このドイツサロンの料理は、悪くないレベルだったのは間違いないわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

楽しい時間て言うのはあっと言う間に過ぎるって言うけど、本当にそうだね。

 

機甲科のドイツサロンでお昼ご飯を済ませて、午後の部に臨んだけど、色んな出店やイベントに参加してる内に時間が過ぎて、機甲科による戦車パレードが終われば、あっという間にもう日暮れで、キャンプファイヤーが始まったよ。

 

私以外の明光大のメンバーは、キャンプファイヤーを取り囲んで楽しんでるね?梓ちゃんとツェスカちゃんは軽快な音楽に合わせてフォークダンスをやってるし、ナオミさんと小梅さんは、プロの如き社交ダンスを披露してるからねぇ……皆スキルが半端ないよ。

 

 

戦車パレードの時に、隊長車である123ナンバーのティーガーⅠの砲塔の上に立ってたエリカさんはカッコ良かったなぁ……若しかしなくてもエリカさんて、物凄くもてるんじゃないかな?――黒森峰は女子しか居なくても。

 

 

 

 

「その可能性が否定できないのが悲しいわね。」

 

 

「エリカさん。」

 

 

「マッタク持って、女子からのラブレターで靴箱スプラッシュが起るとは思わなかったわよ……慕われて悪い気はしないけど、度が過ぎるとちょっと引くわ。」

 

 

「あはは……その気持ちは分かるよエリカさん。」

 

 

私も、明らかに下駄箱の容量を超えたラブレターとファンレターを貰った事があるからね……最終的には、戦車道部の部室の前に、専用の郵便受け(ドラム缶製:内容量300kg)を設置する事で何とかなったけどね。

 

 

 

 

「専用郵便受け……其れもアリかも知れないわね。

 

 来年の隊長であるツェスカに対するファンレターとかも増えるでしょうから、此れは前向きに検討してみるわ。

 

 其れは兎も角として、貴女はフィナーレには加わらないのみほ?」

 

 

 

 

加わらないと言うか、加われないよ。

 

皆が夫々にパートナーを見つけて、音楽に合わせて踊ってるのに、其処に片腕の私が入るって言うのは憚られるし、何よりも、片腕でダンスをするって言うのは、ちょっと無理だと思うしね……

 

 

 

 

「なら、貴女と一緒に踊れる人がいれば良いって事よね?……なら、私と躍らないみほ?一曲お願いできますか、マドモアゼル?」

 

 

「ほえ?わ、私なのエリカさん!?」

 

 

「貴女となら、刺激的なフィナーレを迎える事が出来そうだし。何よりも、私が貴女と躍りたいのよみほ。――誘い、受けてくれるわよね?」

 

 

 

 

ふぅ、そんな風に言われたら断れないじゃないの……尤も、断られない様に言ったんだろうけどね。

 

だけど、私もエリカさんがパートナーだったら、踊っても良いと思えるよ――明光大の生徒以外で、私の事を片腕だからって差別しない人って言うのは、ほんの一握りで、そんな中でもエリカさんは『西住流』のフィルターを通さずに私を見てくれた。

 

そんなエリカさんとなら一緒に踊りたい――それじゃあ、お願いしますエリカさん!

 

 

 

 

「Shall We Dance Miho?(一曲踊ってくれるかしら、みほ?)」

 

 

「It's of course Erika.(勿論だよエリカさん。)」

 

 

其処からは、キャンプファイヤーの前で、エリカさんと共にダンスパーティ。

 

基本はエリカさんと躍ってたけど、時々ナオミさんとパートナーを交換して小梅さんとも躍ったし、乱入して来た青子さんや梓ちゃんとも躍って、最後の最後まで黒森峰の文化祭を楽しんだよ……うん、本当に楽しかったよ!

 

 

 

 

因みに後日、私とエリカさんのダンスを収めた動画がY○u Tub○にアップされて大人気になったんだけど、何処かから謎の圧力がかかったらしく、公開から僅か2日で閲覧不能になっちゃったよ……間違いなくお母さんが手を回したんだろうね。

 

 

其れは其れとして、黒森峰の学園祭は思ってた以上に楽しかったよ――其れこそ、機会があればまた行きたいって思える位にね♪

 

 

中学校の思い出が、此れでまた一つ増えたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer68『中学最後で最強の修学旅行です』

Side:みほ

 

 

 

体育祭も終わった10月の半ばの日曜日、何をしてるかと聞かれると、大型のバックに3日分の替えの下着とパジャマと旅行のしおりとデジカメ諸々を詰め込んでる所だよ。

 

月曜日からは、中学最後の修学旅行で京都に行く事になってるから、準備はちゃんとしておかないとだからね。

 

特に、京都は名所が多いから、写真は撮っておかないと損だし、撮った写真をSNSにアップするのも良いと思うから♪本当に、楽しみで仕方ないよ!

 

 

まるで、小学校の時の遠足の前日みたいだね。

 

 

 

 

「言い得て妙ね……小学校の時も、遠足の前日だと貴女は眠ってくれなかったから、寝かし付けるのに苦労したわ……菊代が居なかったら、私は発狂してたかもしれないわね。」

 

 

「へ~~、やっぱりそうだったんだ……」

 

 

それで、何で居るのかなお母さん?――マッタク気配を感じなかった事がとっても怖いんだけど、其れはこの際置いておくとして、何か用?

 

見ての通り、私は修学旅行の荷造りで、ちょっと忙しいんだけど……

 

 

 

 

「用と言えば用ね?其れも、最上級の作戦レベルの用よ――みほ、生八つ橋は忘れずに買ってきてちょうだい。」

 

 

「それが最上級の用なの!?」

 

 

いや、生八つ橋は京都の名物だし、お土産としても有名だから買っていくつもりでいたんだけど、まさか旅行前にお母さんから要求されるとは思わなかったよ、割とマジでね。

 

心配しなくても、ちゃんと買って来るから安心してよお母さん。お姉ちゃんが一緒になっても大丈夫なように大きいのを買って来るから♪

 

 

 

 

「其れを聞いて安心したわ……中学最後の修学旅行を、楽しんで来なさい。」

 

 

「はい!」

 

 

お母さんには突っ込みたい所が多数あるけど、其れは言わないでおこうね。――ともあれ、日本が世界に誇る古都京都での修学旅行は、一体どんな物になるのか楽しみで仕方ないよ!

 

 

……因みに、案の定寝付けなくて、翌日菊代さんに超特急でヘリを飛ばして貰う羽目になったのはお約束だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer68

 

『中学最後で最強の修学旅行です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、修学旅行当日!

 

何時もよりも1時間早く学校に集まった私達は、クラス毎にバスに乗り込み、東京駅に向かってレッツゴー!

 

明光大から東京駅までは片道1時間半かかるから、その間は車内でカラオケやらビンゴゲームやらをして盛り上がったから、退屈だとは思わなかったね。

 

 

そして、東京駅についたら、今度は京都行きの新幹線に乗り込んで京都まで一直線!

 

貸し切り車輌とは言え、流石に大騒ぎする事は出来ないから、適当なおしゃべりや、トランプやミニ将棋みたいなゲームで暇をつぶし、そんなこんなをしてる間に、列車は京都に到着!!

 

……それにしても、アンドリューとロンメルは、普通にバスと新幹線に乗ってついて来たよね?まぁ良いか♪

 

 

「へぇ……新幹線から降りた途端に、京都の風を感じるとは思わなかったよ。」

 

 

「うっは~~……思った以上の大都市だなオイ?」

 

 

「流石は、1000年王都と言われただけの事はあるわ……もしも徳川が天下を取って無かったら、日本の首都は京都だったかも知れないわね……」

 

 

 

 

其れは、そうかも知れないねナオミさん。

 

歴史に『たら』『れば』はないけれど。やっぱりそう言う事って考えちゃうものだからね……まぁ、徳川さんのお陰で江戸が有名になり、後に『東京』として日本の中心都市となったんだからね。

 

 

だから、京都の街中が風情あるのは、ある意味で当然なんだよね?江戸が出来なければ、此処が首都だったんだから。

 

 

 

 

「確かに東京とか大阪とは、全然雰囲気が違うよな?

 

 結構ビルとかはあるんだけど、なんつーか古き良き時代の雰囲気も残ってるつーか……うん、街中で舞妓さんとか坊さんに会っても、あんまし違和感を感じないような空気だよな。」

 

 

「ザックリしてるし、ちょっとアレだけど、言わんとしてる事は分かるわ青子。」

 

 

「と言うか、実際に駅降りた瞬間に舞妓さん見たわよ私?」

 

 

「えっ?舞妓さん見たの、つぼみさん!?」

 

 

「ちらりとだけ。入れ替わるように駅の中に入って行っちゃったから、写真を撮る事は出来なかったわ。」

 

 

「まさか、京都に着いた瞬間に、舞妓さんとエンカウントするとは……初っ端から、やってくれるね京都は?

 

 此れは、初日から楽しむ事が出来そうだね♪」

 

 

修学旅行初日は全体行動で、平等院鳳凰堂と三十三間堂と清水寺を回る事になってる。

 

何処も京都観光では、トップ10に入るであろう名所だから、バッチリ写真を撮っておかないとね!お母さんとお父さんと菊代さんにはプリントアウトした写真を、お姉ちゃんには写メを送る心算だから。

 

 

 

 

「よーし、全員バスに乗り込んだな?其れじゃあ出発するから、号令かけてくれ西住~~。」

 

 

「何でですか!?」

 

 

「いやぁ、やっぱり此処は、全国大会2連覇を成し遂げた戦車道部の隊長さんにやって貰った方が良いかなぁと。

 

 と言うか、ぶっちゃけると、例の掛け声を一度やってみたいなぁって。」

 

 

 

 

……担任が、此れで良いのかな?否、多分良いんだよね。

 

其れに、指名されたのならば受けるが礼儀!何よりも、西住流に撤退の文字はない訳だし……それじゃあ、京都での修学旅行です!

 

パンツァ~~~……

 

 

 

 

「「「「「「「「「「フォー!」」」」」」」」」」(3-1総勢30名。鍵カッコ2/3省略。)

 

 

 

 

それじゃあ、思い切り楽しみましょう♪

 

 

 

 

・平等院鳳凰堂

 

 

 

「お~~~~、ホントに同じだな?」

 

 

「全く同じだわ……でも、此れだけの物が10円玉って、如何かと思うわね……」

 

 

「何方かと言うと、硬貨よりも紙幣に使用されるべき建物よね?平等院の名が示す通り、完璧なシンメトリーの造りはとっても見事ですもの。」

 

 

 

 

ここではお約束的に、10円玉の裏側を確認。

 

歴史の時間に、平等院鳳凰堂は10円玉の裏側に描かれてる建物だって聞いてたから、実物を見たら10円玉の裏側を確認したくなるのは当然だと思うからね。

 

丁度時期的に、木々が紅葉しててとっても綺麗だったから、鳳凰堂を背景にして元隊長チーム4人で記念撮影。三脚は無かったけど、手頃な高さの木の枝にデジカメをタイマーセットしてパチリとね。

 

うん、よく撮れてる♪ファーストショットから、良いのが撮れたね。

 

 

 

 

 

・三十三間堂

 

 

 

言わずと知れた此処は、千手観音が数えるのが面倒になる位にいらっしゃるね?……数もさることながら、此れだけの千手観音像が全て人の手で彫られているって言う事に驚きだよ。

 

全て人の手で彫られてるから、1つとして同じ物がない――それが『自分に似た仏像が居る』って言う話に繋がってるのかもね。

 

 

 

 

「まぁ、全部顔違うからな。……何処を探しても、アタシ等に似た千手観音は居なかったけどよ。」

 

 

「いや、居たら居たで、其れは引くでしょう?」

 

 

「でも、西住師範に似た千手観音は居そうよね?」

 

 

 

 

いや、逆にお母さんに似た千手観音だけは絶対に無いと思うよつぼみさん?お母さんは観音様よりも、憤怒の形相で鬼をも踏み砕く、明王様の方が合ってると思うから。

 

名付けて、西住戦車明王だよ。

 

 

 

 

「し、しほさんが明王って……容易に想像できて怖いわ。」

 

 

「右肩を開けさせて、左手に剣を持ち、背後に炎を背負った西住師範……ヤバいわ此れ、容易に想像できる上に、勝てる気がしないわ。」

 

 

「お母さんだからね。」

 

 

時に如何かしたの青子さん?何やら、中央に居る特別大きな千手観音をじっくり見てたけど……

 

 

 

 

「いやぁ、一番でっかい仏像の腕を数えてたんだけどさ、千手観音てのはちょっと言い過ぎじゃね?

 

 今数えたら86本しかなかったぞ!(作者が修学旅行の際に数えた数なので、違う可能性あり。)1/10もねぇじゃねぇかよ!!千手なんて、誇大広告もいいとこだろオイ!!」

 

 

「千手って言うのは、腕が一杯ある事の意味であって、本当に腕が1000本ある訳じゃないからね青子さん!?」

 

 

まさか、千手観音の腕が、本当に1000本あると思ってた青子さんに驚きだよ……まぁ、名前からそうだと思っても、無理はないのかも知れないけれどね。

 

 

で、此処は建物内部での撮影はNGなので、外で記念撮影。出来れば、千手観音像を一緒に撮りたかったね。

 

 

 

 

・清水寺

 

 

 

京都名所の1つである清水寺の舞台からの景観は、正に絶景と言っても過言じゃないよ!何と言っても、京都の町が一望出来る訳だから!

 

本当に最高の見晴らしだから、此処からの景色を写真に収めるだけでも価値があるってものだよ!

 

 

 

 

「本当に最高だよな!

 

 折角だから、誰か清水の舞台から飛び降りろー!!」

 

 

「はーい!明光大一の俊足、野薔薇つぼみ、いっきまーす!!」

 

 

「止めんか、馬鹿垂れ!」

 

 

「此処からの紐なしバンジーとか、普通に死ぬからねつぼみさん!?」

 

 

「あははは、流石に冗談よみほさん、ナオミさん♪」

 

 

「貴女や青子が言うと、冗談に聞こえないから困るのよ。普段の態度と冗談の時とのテンションに、殆ど差がないんだから。」

 

 

 

 

ナオミさんの言う通りだよつぼみさん。冗談は冗談らしいテンションで言わないと、マジなのか冗談なのか分からないからね?

 

……まぁ、此処から本気で飛び降りようとする人は、幾ら何でも居ないと思うけど……周りを見渡すと、どのクラスも1人は同じような事をしようとして止められてるから、此処での此れは寧ろデフォなのかもしれないね……嫌なデフォだけど。

 

 

此処では、清水の舞台からの眺望をバックに1枚パチリ。丁度、舞台に来てた舞妓さんも一緒に写真にね。

 

ロンメルとアンドリューは、何故か舞妓さんに大人気だった。

 

 

 

 

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で、ホテル。

 

外見は普通のホテルだけど、内装は和風で、班別の部屋も畳の和室!やっぱり京都に来たら、ベッドよりも畳に布団の方が雰囲気出るよ♪

 

何より、畳に布団なら、修学旅行お決まりのまくら投げウォーが出来るからね。

 

 

食事は、大ホールに集まって全クラスで一緒に食べるんだけど、ハッキリ言って『此れって修学旅行のメニュー?』って思う位の物だったよ!

 

京風の出汁の利いたお鍋に、天婦羅にお造り……結構豪華な夕ご飯で皆大満足したのは間違いないかな。デザートに、京菓子までセットになってたからね。

 

 

そして御飯の後は、皆でお風呂~~。

 

は~~~……露天風呂の方を貸し切りにしてくれるなんて、学校も結構太っ腹だよねぇ~~~?あ~~~、泉質も良いし、もう最高だよ~♪

 

 

 

 

「本当に最高ね?……ただ、此れと同じ規模の露天風呂が自宅にある西住家は、改めて凄いって、実感させられてる真最中だけど。」

 

 

「みほの家の風呂はマジでけーからなぁ?明光大と黒森峰の戦車道チームが一緒に入ったって余裕あったぐらいだからなぁ?半端ねぇよ。」

 

 

「流石は西住流よね♪」

 

 

「あははは……まぁ、西住流の門下生も練習後に使う事があるからって、アレだけの規模にしたんだって、前にお母さんから聞いたけどね。」

 

 

「門下生の事も考えてんだな~~。

 

 其れは其れとして、みほ……テンメェ、ま~た育ちやがったなこの野郎!!1年の時は、アタシと大差なかったくせに、いつの間に特大アップルを2つも装備しやがったぁ!!」

 

 

「ナオミさんも、育ったわねぇ!?うわっ、手から溢れるわ此れ!!」

 

 

 

 

ちょっ!何処触ってるの青子さん!?そして、つぼみさんも何してるの!?

 

 

 

 

「んな!?止めなさいよつぼみ!!」

 

 

「恥ずかしがることないでしょう!一体ナオミさんは、今サイズ幾つなの!?」

 

 

「みほは幾つだ?黙秘&回答拒否は認めねぇ!!!」

 

 

「「何それ横暴!!」」

 

 

 

……まぁ、別に隠す程の事でもないから良いけど――あのですね、遂に80を越えました……因みに、お姉ちゃんは83で、エリカさんは81だそうです……風の噂で、サンダースのケイさんは85って聞いたよ。

 

 

 

 

「……アタシは84よ。序に言うと、背も伸びたわね。」

 

 

 

 

ナオミさんはお姉ちゃんを越えてました!

 

と言うか、ナオミさんは背も高くてスタイルも良いから、モデルさんも出来るかも知れないね?若しかしたら、将来的には月間戦車道の表紙グラビア飾ってるかも。

 

 

 

 

「もしもその依頼が来たら、みほとエリカも巻き込もうかしら?そっちの方が1人よりも映えるだろうしね。」

 

 

「その時が来たら、遠慮なく巻き込んでくれていいよ♪――エリカさんが応じるかどうかは別だけど。」

 

 

さて……それじゃあ、覚悟は良いかな青子さん、つぼみさん?思いっきりセクハラしてくれたそのお礼に……喰らえ!西住流格闘術、48の殺人技『拷問卍固め』!!

 

 

 

 

「同じく、西住流格闘術、48の殺人技『駱駝固め・真打』!!」

 

 

「「ギブギブギブ!!」」

 

 

 

 

で、アッサリとタップアウトしたね青子さんもつぼみさんも?……まぁ、この技はプロの格闘家であっても、一度決まったら逃げ出す事は出来ない拷問技だから、早めにタップしたのは正解だね。

 

 

と、ちょっとしたアレな事はあったけど、露天風呂を十分満喫して、風呂上がりの牛乳を堪能してお風呂は終了。

 

その後、部屋で盛大なまくら投げウォーが行われ、就寝前の点呼を取りに来た先生に全員でまくらブチかまして、ちょっと説教喰らったのも一つの思い出と言えば、そうなんだろうね♪

 

 

 

 

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修学旅行2日目は班別行動!

 

この班別行動こそが修学旅行の醍醐味であると言っても過言じゃないよ。全体行動やクラス別行動とは違って、本当の意味で自由に京都の町を歩く事が出来るからね。

 

 

そんな班別行動で私達がやって来たのは『京都・映画村』!

 

映画のロケなんかに使われるセットが多数存在してるテーマパークで、実際に此処で映画のロケなんかも行われる事があるって言う場所。

 

加えて、園内では映画の衣装を借りる事が出来て、其れを着て園内を回る事が出来るみたいだから、勿論私達も衣装を借りたよ。

 

 

青子さんは網タイツがセクシーなくノ一装束で、ナオミさんは胸にサラシを巻いて着物を着崩した女剣客、つぼみさんは胸回りと腰回りにだけ簡素な甲冑を装備して、槍を持った姫武将。

 

 

其れで私は……

 

 

 

 

「やばい。みほの此れはヤバい。」

 

 

「梓が見たら、卒倒するわね此れは……まさか、此処まで似合うとは思わなかったわ………」

 

 

「流石はみほさん、コスプレでも隻腕の軍神が発動してるわ。」

 

 

 

 

ボロボロの着物を着流した隻腕の女剣客の出で立ち。

 

更に、隻腕なだけじゃなくて、隻眼の設定だから右目には眼帯を装備してね……うん、自分で言うのもなんだけど、凄く嵌ってる気がするよ。

 

左腕がない事で、隻腕の女剣客のリアルさが出てるのかも知れないけどね。――右手一本の逆手居合で、相手を倒す隻眼隻腕の女剣客の格好良さは半端ないから、似合ってるって言われるのは良いけどさ。

 

 

さて、この映画村の特徴は、仮装してるお客さんを巻き込んだ劇が突然起こるって言う事で、其の劇に巻き込まれたら否が応でも参加しないとならないんだけど、此れが意外と好評みたいなんだよね?

 

即興のアドリブになるけど、其れが却って面白いって、実際に巻き込まれた人がTwitterで、呟いてたのを見た事があるし。

 

 

 

――でも、自分がまきこまれるとは思わなかったんだよね流石に!

 

 

 

 

「オラオラ!道を開けろぉ!!俺たちゃ、極悪盗賊団の一団だ!今も、この姫様を攫って来たばかりよ!

 

 死にたくなけりゃ、道を開けな!!」

 

 

 

 

園内の橋を渡ろうとした所で、まさかのエンカウント!

 

しかも、此処からはアクションが必要な要素で――って、盗賊団とやらに捕らわれてるお姫様って……ツェスカちゃん!?

 

 

 

 

「妹隊長!?何で此処に!?」

 

 

「何でって、修学旅行だけど……若しかしてツェスカちゃんも!?」

 

 

「修学旅行で来たんだけど、捕まっちゃった次第です……助けてください妹隊長。」

 

 

 

 

なはは……黒森峰は2年生がこの時期に修学旅行なんだ?……去年は黒森峰も沖縄だって言ってたのに、道理でエリカさんと会わなかった筈だよ。

 

まぁ、其れは良いとして、助けてと言われたら助けるしかないよね?

 

 

「……隻腕の剣士の名において命ずる。

 

 ナオミ、つぼみ、青子よ、敵を殲滅し、異国より来たれり姫君を、狼藉者達から解放せよ!!」

 

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

 

で、此処からは本気の本気で大立ち回り!

 

青子さんとつぼみさんは言うに及ばず、ナオミさんも刀と脇差の二刀流で賊を打ち倒し、その隙を突いて私はツェスカちゃんを救出し、右手一本の逆手居合で賊をバッタバッタと薙ぎ倒す!……映画村のスタッフさんは、やられる演技も見事だね。

 

 

そして大立ち回りの最後は、私と盗賊団長の一騎打ち!

 

橋の真ん中で睨み合いながら、機を伺い……青子さんの投げた手裏剣が地面に落ちた瞬間に飛び出し、盗賊団長の唐竹割をカウンターする形で、私の逆手居合を炸裂させる。

 

 

一瞬のすれ違いの後に……倒れたのは盗賊団長。

 

見事姫様の救出に成功し、他のお客さんからは拍手喝采が巻き起こった。劇が終わったら、盗賊団に扮した映画村のスタッフの人達も一緒に、礼をしてくれたしね。

 

 

……後で知った事だったけど、この劇に巻き込まれた客には特製ブロマイドが作って貰えるらしくて、明光大の元隊長チームとツェスカちゃんは、ブロマイドの撮影にも駆り出されてしまいました。まぁ、此れも貴重な体験だね。

 

 

 

 

で、映画村内の施設でお昼を済ませて、適当に園内をぶらついて、今はお土産コーナーを物色中。

 

映画に関する物もあるけど、京都の郷土品も売ってるって言う、割といいお店みたいだね此処は――とは言っても、流石に京都の職人が作り上げた漆塗りの櫛なんかは手が出ないけど。(0が4つも付いてたからね。)

 

 

折角だから、中学最後の修学旅行の思い出に、皆で同じ物を買いたいなぁ?……なんか良いのないかな?

 

 

 

 

「其れなら、此れは如何だみほ?

 

 ステンレス製のドッグタグなんだけど、此れなら同じもんで揃えられるし、自分の名前の他に、仲間の名前を入れて貰えば、一生モンの物になるだろ?」

 

 

「ドッグタグ……いいね、それいっただき!!」

 

 

「京都特有とは言い難いけど、戦車乗りにはこっちの方が良いかも知れないわね。」

 

 

「でも、こっちの方が私達らしいわよナオミさん。」

 

 

 

 

うん、つぼみさんの言うように、こっちの方が私達らしいよ――ドッグタグは兵士の認識票でもあるから、戦車乗りである私達にはピッタリだからね。

 

 

なので購入したのちに、表に自分の名前を、裏に皆の名前を入れて貰って完成!――世界に1つしかない、私達だけのドッグタグは、中学最後の修学旅行に相応しいお土産になったかもね。

 

……因みにツェスカちゃんは、表面に自分の名前を、裏面に梓ちゃんの名前を入れた物と、表面に梓ちゃんの名前を、裏面に自分の名前を入れた物を作って貰って、後者は梓ちゃんに渡すみたいだね。ツェスカちゃんも、梓ちゃんとはいい関係を築いてるみたいだね。

 

 

 

そんなこんなで2日目は楽しんで終了!――2日目の夜は、クラス別対抗まくら投げウォーが勃発し、ホテルの全てが戦場となり、参加した生徒は、もれなく正座させられたという事を追記しておくよ。

 

 

 

 

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3日目はクラス別行動で、行先は金閣寺に決まっていたから、其れ程の感慨はないかな?……私と青子さんと、ナオミさんと、つぼみさんとしては銀閣寺の方に行きたかったんだけど、クラスの多数決で負けて金閣寺にね。

 

 

まぁ、生で金閣寺を見る機会って言うのは無いと考えれば貴重なんだけど……ハッキリ言わせて貰うと、凄いとは思うけど滅茶苦茶悪趣味と

 

しか言いようがなかったよ金閣寺は。……光ってりゃいいってもんじゃないんだよ!!

 

 

でも、此処も名所だから、金閣寺をバックに皆で一枚記念撮影。――取り敢えず此れで、京都の有名所は写真に収める事が出来たよ。

 

此れが出来ただけでも、此の修学旅行は価値があったって言うモノだよ。

 

 

 

金閣寺を後にした一行は、クラス別で決められたコースを回った後で京都駅に集合したらしいけど、正直言って金閣寺以降の事はあまり覚えてないんだ……其れ程に修学旅行を楽しんだって言う事なのかも知れないけどね。

 

 

「よく寝てるね?……東京駅についたら起こしてあげるから、今は寝ると良いよ。」

 

 

「「「Zzz……」」」

 

 

 

 

で、新幹線の中では、私の隣に陣取ったナオミさんが膝枕状態になって、青子さんとつぼみさんは、互いに頭を合わせた状態で爆睡中!

 

まるで修学旅行で失われた体力を回復してるみたいだけど、あながち間違いじゃないのかも知れないね?……かく言う私も眠くなって来た。

 

 

ふぁ~~~あ……東京駅まで、お休みなさい。

 

取り敢えず、中学最後の修学旅行としては、申し分ない位の物だったのは間違いない――心の底から、楽しめたからね。

 

 

 

 

因みに後日、私の映画村でのコスプレ写真を見たお姉ちゃんが、鼻血を大量噴射して凄い事になったって言うメールを近坂先輩から貰ったけど、お姉ちゃんが一体何を考えていたのかが気になるかな?……まぁ、実害はないだろうからスルーの方向で問題ないよね♪

 

 

京都での二泊三日は、本当に楽しかったからね♪――中学最後の修学旅行は、中学生活最高の修学旅行になったよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 



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Panzer69『追い出し試合は、師弟対決です!』

戦車道の炎が、貴女を呼んでるよ梓ちゃん……!Byみほ      なら其れには応えます……全力で行きますy西住隊長!By梓


 

Side:みほ

 

 

 

修学旅行が終わってからの、残りの2学期は、あっという間に過ぎて行った感じがするかなぁ?

 

修学旅行が終わった直後に中間考査があって、12月に入ったらすぐに、私立の入試が始まって、息をつくも暇なく年末考査に入って、結果が出た途端に、終業式で冬休みだったからね。

 

 

そして、その冬休みもイベント盛り沢山で楽しめたよ。

 

クリスマスには、西住本家にて、明光大戦車道部のメンバーと、黒森峰の機甲科のメンバーが集結して、絢爛豪華なクリスマスパーティが開催されて大いに盛り上がった!――まさか、お母さんがサンタさんのコスプレをして、参加メンバー全員にプレゼントを配布したのは、流石に予想外だったけどね。

 

其れでも、皆には大うけだったから、問題ないかな?……否、ソリの代わりにティーガーⅠで登場した時点で問題だらけだったけどね。

 

でも、それも『西住流最高師範』の肩書のお陰で、誰も突っ込まなかったから、ある意味ではOKだったかな?

 

 

其の後は年を越してのお正月。

 

初詣では、菊代さんにヘリを飛ばして貰って、お姉ちゃんと一緒に明治神宮までやって来たんだけど、其処で振袖で着飾った、ナオミさんとつぼみさんと青子さん、エリカさんと小梅さんよ近坂先輩、そして梓ちゃんとクロエちゃんとツェスカちゃんと出くわすとは思わなかったよ。

 

 

此れも縁だって言う事で、皆で参拝したけどね……ツェスカちゃんの振袖が、とっても似合っていた事には驚いよ。

 

 

その後引いたお御籤は、私とエリカさんと小梅さんが大吉、梓ちゃんとツェスカちゃんとクロエちゃんは小吉、ナオミさんと青子さんとつぼみさんが中吉、お姉ちゃんと近坂先輩が中吉って言う結果だった。

 

大吉を引いたのは幸先が良いけど、ちょっと気になる部分もあるんだよね?……私とエリカさんと小梅さんのお御籤は大吉だったけど、細かい運勢の部分では、3人とも『大量の水に注意せよ』って、水難の相を思わせる記述があったからね……うん、大量の水には注意しておこうね。

 

 

 

――で、そんなこんなな年末年始を過ごし、時はあっと言う間に3学期……私の中学生活最後となる学期が、その開始の鐘を鳴らしたみたいだね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer69

 

『追い出し試合は、師弟対決です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とは言え、3学期って言うのは、生徒のやる気が滅茶苦茶異なる時期なんだよね?

 

本命が私立組と、推薦組は2学期の間に受験戦争から抜け出してるけど、公立組は入試が此れからだから、割と精神がギスギスしてるんだよねぇ……まぁ、頑張って下さいとしか言えないけどね。

 

 

 

 

「周りが受験で忙殺状態であるにも拘らず、此の快適さは、推薦を取れたゆえか……あ~~~、推薦枠って素晴らしい!!」

 

 

「大声で言うんじゃないわよ青子……公立組には、嫌味に聞こえるからね。」

 

 

 

 

なはは……確かに、進学先が決まってない人にとって、公立試験は正念場だから頑張らないとだからね……諦めなければ、道は見える筈だから、きっと進学先は決まると思うからね。

 

兎に角私達は、何時も通りに授業を受けようか?

 

 

 

 

「だな。みほに賛成だ。」

 

 

「素行が悪くて、推薦を取り下げらたなんてことになったら、其れこそ笑えないモノね。」

 

 

「そうね、形だけでも授業を受けてる様を出さねばね♪」

 

 

 

 

……其れは其れで如何かと思うよつぼみさん?……まぁ、授業態度が悪くても、旧隊長チームは追試を楽々クリアできるから問題は、其れ程無いと思うけれどさ。

 

 

そしてあっと言う間に授業は終わり。取り敢えず、今日も1日お疲れ様でした!!――じゃあ、行こうか?我々戦車道部の部室にね。

 

 

 

 

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・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

で、放課後。戦車道部の部室前に集まってたのは、旧隊長チームだけでなく、戦車道部の3年生全員だった……引継ぎが終わった後は、旧隊長チーム以外の3年生は引退して受験戦争に突入したから、全員揃うのは可成りひさしぶりかも。

 

梓ちゃんが『戦車道部だった3年生に、明日集まって貰うように頼みました』って言う事だったけど、本当に全員集まるなんてね?

 

……まぁ、私達以外にも、戦車道の有名校から推薦受けた人はいるし、そうじゃなくても私立の受験者ばっかりだったから、もう結果は出てる訳だけどさ。

 

 

 

 

「……青子さんはアンツィオから、椿姫さんは知波単から推薦が来なかったら、今も進学先が決まらずに悶絶してたと思う人挙手~!!」

 

 

「「「「「「「「「「はい!!!」」」」」」」」」」

 

 

「テンメェつぼみぃぃぃ!失礼な事言ってんじゃねぇ!

 

 お前がその心算なら、アタシだって言わせて貰うぞ?つぼみが聖グロに行って、淑女然としたお嬢様になるのは無理があると思う奴、遠慮しねぇで手を挙げろ!!」

 

 

「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

だから、このノリも大分ご無沙汰だねぇ?

 

そして、つぼみさんの質問も、青子さんの質問も、どっちも否定できないかなぁ?……つぼみさんは、お嬢様になり切れてないお嬢様になっちゃう気がするけどね♪

 

 

さてと、私達3年生を集めて、一体何を始める心算なのかな梓ちゃんは?

 

 

 

 

「部活ではお久しぶりです先輩方。本日は、お忙しい所を集まって頂きまして、ありがとうございます!!」

 

 

「そんな事は気にしなくていいわよ澤。

 

 私を含め、戦車道部の3年は、推薦貰ってたり、私立の受験者ばかりだから、全員結果が出てて、後は卒業式を待つだけの暇人だけだから。」

 

 

「ナオミさん、事実とは言え、その言い方はどうかと思うよ?」

 

 

まぁ、実際に時間が取れたからみんなが集まれたのは否定しないけどね。

 

それで、私達3年生を全員集めて、何を企んでるのかな梓ちゃん?

 

 

 

 

「明光大付属中学校の戦車道の基礎を固めた、現3年生の正式な引退試合を行おうと思ったんです――3年生チームと、1・2年生チームの5対5の殲滅戦ルールで。」

 

 

「其れって、若しかして所謂一つの『追い出し試合』って言うやつかな?」

 

 

「はい、そう言うやつです♪」

 

 

 

 

ふふ、何とも粋な事をしてくれるね梓ちゃん?

 

こんな事は、去年の私は思いつかなかったよ……明光大を優勝に導いて、近坂先輩に優勝旗を手にさせた事で満足しちゃってたからね?

 

だけど、梓ちゃんは私達が優勝旗を手にしただけでは満足しないで、態々引退試合の舞台を用意してくれた訳だ……マッタク持って、私は出来た弟子を持ったモノだよ。

 

 

ありがとう梓ちゃん……この粋な計らいのお礼に、私の持てる全てを此の試合で出し切るから、其れを全部見ていてね?

 

 

 

 

「はい!勿論その心算です!」

 

 

「ふふ、新隊長様のお手並み拝見と行こうかな?」

 

 

まさか、こんなサプライズを考えていたとは、驚かされたよ梓ちゃん……なら、中学最後の試合となる、此の引退試合で今一度指揮させて貰うよ――西住みほ流の戦車道を!

 

 

折角の引退試合なんだから、派手に行こうか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

梓が計画した引退試合は、5対5の殲滅戦ルールだが、両チームとも使う戦車は、保有戦車の中から自由に選ぶと言う事になっており、更に3年生が先に選んで良いと言う事になっていた。

 

其処には、引退試合だから3年生チームに華を持たせたいと言う梓の思惑があったのは確かだろう……先に戦車を選べるのなら、強力な戦車を先に確保できるのだから。

 

 

そうして決まったオーダーは……

 

 

 

・3年生チーム

 

 

・パンターG型×3(アイスブルーカラーリングは隊長車)

 

・ティーガーⅡ×1

 

・ティーガーⅠ×1

 

 

 

・2・1年生チーム

 

 

・ティーガーⅠ×3(パールホワイトカラーリングは隊長車)

 

・パンターG型×2

 

 

 

 

3年生チームが機動力に重点を置きながらもバランスの取れた構成であるのに対し、2・1年チームは、攻守速のバランスを保ちつつ、攻撃力と防御力に重点を置いた戦車構成となっている。

 

両チーム共に、Ⅲ突を選んで居ないのは、学校の演習場にはⅢ突が隠れて待ち伏せできるような場所がないからだ。

 

 

戦力的には、総じて戦えば五分……なれば、勝負の分かれ目となるのは、隊長の指揮能力に他ならない……此の試合は、3年生の壮行試合であると同時に、みほと梓の師弟対決でもあるのだ。

 

 

 

「其れじゃあ始めようか……って言いたい所だけど、審判の1人が顧問である美姫先生なのは良いとして――何で居るんですか菊代さん!」

 

 

 

が、いざ試合開始と言う所で、みほは審判の1人に驚いた。

 

1人は顧問である不知火美姫だったのだが、もう1人が何と西住家の家政婦である井手上菊代だったのだ。――まさか、実家の家政婦が学校での壮行試合の審判をやるとは思わなかって居なかったのだから驚くなと言うのが無理だ。

 

 

 

「あ、私が呼んだのよみほちゃん。5対5の殲滅戦でも、1人で審判をやるのはキツイからね?

 

 亜美を呼ぼうかとも思ったんだけど、流石に現役自衛官を部活の壮行試合の審判に駆り出すのもどうかと思って、菊代さんに頼んだのよ♪」

 

 

「私としましても、元々お嬢様をお迎えに行く心算でしたので特に問題もありませんでしたから、受けさせて頂いた次第です。

 

 ――私が審判では、御不満でしょうか、お嬢様?」

 

 

「いえ、菊代さんなら安心して審判を任せられます……菊代さんが審判だなんて、エミちゃん達と一緒にお姉ちゃんと戦った時の事を思い出しますよ。」

 

 

 

如何やら美姫が呼んだようだが、みほとて驚きはしたモノの、菊代が審判を務めると言う事自体に文句はない。

 

元々菊代は、西住流の訓練においても、模擬戦の審判なんかを務めており、本職に勝るとも劣らないジャッジが出来る人物なのだ。ある意味で、最も適した人物と言えるだろう。

 

 

 

「それじゃあ、審判の方、お願いしますね美姫先生、菊代さん。」

 

 

「任せなさいみほちゃん。」

 

 

「誠心誠意務めさせて頂きますよお嬢様。

 

 ――其れでは、此れより明光大戦車道部3年生チーム対1・2年生連合チームの試合を行います。お互いに、礼!」

 

 

 

「「よろしくお願いします!!」」×40

 

 

 

審判が無事に決まった所で、菊代の号令で互いに礼をし、自軍の陣地に戦車を移動させる。

 

スタート地点としては、3年生が訓練場の東側に位置する草原と丘のあるエリアで、1・2年生が砂地と岩場で構成された西側のエリアとなる。

 

何方のエリアも、戦車が隠れられるほどの障害物は無いので、見晴らしは良く、開けた視界での戦車戦が出来るだろう――それだけに、隊長の実力がストレートに問われるフィールドであるのだ。

 

 

 

「さてと、此れが本当の意味で中学最後の試合……楽しませて貰うよ、梓ちゃん?」

 

 

 

「西住先輩との中学最後の試合……先輩に教わった全てを、今の私の持てる力を全部ぶつける!!」

 

 

 

 

「「Panzer Vor!!」」

 

 

 

 

みほと梓は、それぞれの思いを胸に戦車前進!

 

陣形としては、3年生チームが隊長車の両前を2輌のパンターが走り、その両脇をティーガーⅡとティーガーⅠが固める変形V字形陣形であるのに対し、1・2年生チームは、隊長車であるティーガーⅠが先頭に出て、後方にパンターが2輌続き、最後尾にティーガーⅠ2輌が構えてると言う、逆Vの字の陣形だ。

 

 

 

「先ずは丘の上に部隊を展開します。

 

 あまり高くはありませんが、高所を取ればこちらが有利になるので、其処に陣取って梓ちゃん達を待ちます。」

 

 

 

みほは、先ずは梓の出方を見る為に、セオリー通りに丘の上に部隊を展開させていく。

 

此れならばフィールドを広く見渡す事が出来るし、高所を抑えると言うのは、作戦上も理に適っている――下から上に撃つよりも、上から下に撃つ方が遥かに楽であり、有利なのだから。

 

 

程なく3年生チームは、丘の上に部隊を展開し、1・2年生チームを待ち構える。

 

 

 

「来た……全車、砲撃開始!!」

 

 

「「「「了解!!」」」」

 

 

 

丘の上に部隊を展開してから、約3分後、梓率いる1・2年生チームが自軍の近くまで進軍して来たのを見て、みほは部隊全体に砲撃命令を下し、凄まじい砲撃が1・2年生チームに向かって放たれる。

 

其れも、只撃つだけでなく、各車とも砲撃のタイミングをずらす事で、さながら連射と言っても良い位の凄まじい砲撃の雨を降らせているのだ。

 

 

 

「流石に先輩の攻撃は激しいけど……だけど、そう簡単にはやられないから!!全車『パニック大作戦』開始!!」

 

 

 

だがしかし、その砲撃も、全国屈指の回避能力を誇る明光大戦車道部の現役世代には割と容易く避けられてしまう。……尤も、1・2年生チームの隊長が、みほの一番弟子である梓だからこそ、避ける事が出来るのだが。

 

 

その梓は、チームに『パニック大作戦』なる作戦の発動命令を下す。

 

その命令を受けた1・2年生の車長は、(梓を含めて)キューポラから身を乗り出して、3年生チームが陣取っている丘に向かって、ハンドグレネードらしき何かを投擲!

 

 

 

――カッ!!

 

 

――ブシュゥゥゥゥ!!!

 

 

――ギャッバァァァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

「んな!?此れは、閃光と煙幕と爆音の三重攻撃!?……視覚と聴覚を同時に潰してくるとはね……しかも、視覚に関しては、煙幕と閃光のダブルだったからね。

 

 やってくれるよ梓ちゃん!!」

 

 

 

そのハンドグレネードは、閃光弾と煙幕弾と音響弾の3種類で、其れを喰らった3年生チームは、一時的に視覚と聴覚を喪失する事態に陥ってしまった……眼も耳も効かないと言うのは、一時的であっても致命的だろう。

 

 

 

「今です!」

 

 

 

――ズガァァァァァン!!

 

 

――キュポン!!

 

 

 

『3年生チーム、パンター2輌、行動不能!』

 

 

 

その隙を突いた梓の攻撃で、対象者でないパンターを2輌撃破する事に成功!壮行試合のファーストアタックは、梓が取った形となった。

 

だがしかし、其れで負けているみほではない。

 

 

 

「目と耳の二重苦を味わわせてくれるとはね……なら、其れには応えるよ!ティーガーⅠとティーガーⅡは、パンターを狙って下さい。

 

 パンターが全滅すれば、此方に機動力での利が生まれますから!」

 

 

『『了解!』』

 

 

 

すぐさま、反撃の一手を考え、ティーガーⅠとティーガーⅡと言う、二頭の鋼鉄の虎の牙も持ってして、相手の二頭の豹を狩る事を命令!

 

耳はまだ唸っているが、目に関しては、3年生チームの全員がサングラスを持参していたので閃光による目暗ましを、最低限のダメージで済ませられたのだ。

 

 

故に、聴覚は兎も角、視覚は最短で回復が出来ており、即座に1・2年生チームのパンターに狙いをつけ、そして最強の88mm砲を放つ!!

 

 

 

――ズガァァァァァン!!

 

 

――キュポン!!

 

 

 

『1・2年生チーム、パンター2輌、行動不能。』

 

 

 

その砲撃は、見事に1・2年生チームのパンターを撃破し、瞬く間に、全損車輌を五分に戻してしまった……先手を取られても、動じないみほが隊長であったからこそだろう。

 

 

 

 

「此のまま一気に攻め立てるよ!丘を降りて驀進!!(……やるね梓ちゃん、まさか先に此方の車輌が撃破されるとは思わなかったよ。)」

 

 

 

「部隊散開!西住先輩を包囲します!(……此れで行けると思ったんだけど、そう簡単には勝たせてくれませんよね、西住先輩。――だけど、絶対に負けません!……行きますよ、西住先輩!!)」

 

 

 

3年生チームは、一機に丘を駆け降り、1・2年生チームは其れを迎え撃つ形となる。

 

隻腕の軍神と軍神を継ぐ者の手加減無用の試合は、此処からが本番であると言っても過言ではない――何方も、一歩も退かないのだから。

 

 

 

「お楽しみは此れからです……勝たせて貰いますよ西住先輩!」

 

 

「うん、楽しませてよ梓ちゃん!……だけど、勝ちは譲ってあげないけどね♪」

 

 

 

丘を駆け降りる時に、一瞬だけ交差したみほと梓の視線は、何方も獰猛な色を湛えてた……如何やら2人共、トコトンガチンコでやり合う心算のようだ。

 

 

同時に、戦車道部が壮行試合を行うらしいと言う話を聞いた一般生徒達が練習場に押しかけ、壮行試合は超満員御礼札止め状態に!!

 

それだけ、明光大の戦車道部は注目されていると言う事なのだろう。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

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・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

試合は進み、3年生チームも、1・2年生チームも、残るは隊長車1輌のみとなっていた。

 

殲滅戦ルールである以上は、相手の車輌を全滅させた方が勝ちなのだが、そうなると隊長車の撃破と言うのは、フラッグ戦以上に重要になってくる。

 

 

隊長車が撃破されてしまったら、部隊の統率する存在が居なくなり、部隊は混乱に陥ってしまうのは火を見るよりも明らかなのだから。

 

故に、みほも梓も互いに隊長車を撃破する事を考えて戦っていたのだが、隊長車を撃破出来るタイミングで、他の車輌が割って入り、その結果――

 

 

 

「一騎打ちだね、梓ちゃん?」

 

 

「そうですね、西住先輩。」

 

 

 

壮行試合は、隊長同士の一騎打ちと言う形になっていた。

 

両チームとも、残っているのは隊長車のみであるので、この戦いに勝った方が勝者と言う、分かり易い展開となっていたのだ。

 

 

 

「行きますよ、西住先輩!」

 

 

「受けて立つよ、梓ちゃん!」

 

 

 

そして、互いに言うが早いか、戦車前進!

 

攻撃力と防御力で勝るティーガーⅠが果敢に攻め立てるが、機動力で勝るパンターは、その砲撃を悉く回避した上でカウンターの砲撃を叩き込む!

 

 

が、梓はティーガーⅠに『食事の角度』を取らせる事で決定打を回避し、パンターに対して攻撃を続ける。

 

 

 

「つぼみさん、全力回避!ナオミさん、ターレットリングを狙って下さい!」

 

 

「お任せあれみほさん!!」

 

 

「吉良ナオミ、目標を狙い撃つわ!!」

 

 

 

その猛攻を回避しつつ、みほは梓のティーガーⅠに攻撃を加えて行く……其れも弱点を狙ってだ。

 

無論、梓とてそれを簡単に許さず、ティーガーⅠの持てる力の全てを賭して、回避に専念する――だが、同時に無茶な軌道で履帯が悲鳴を上げて居るのは否めない。

 

 

次の攻防が最後になるのは間違いないだろう。

 

 

 

「つぼみさん、ティーガーⅠの後を取る事は出来ますか?」

 

 

「戦車ドリフトを使えば可能だけれど……やったら、履帯と転輪が吹っ飛ぶわよみほさん?」

 

 

「其れで良いです……此れで決めますから!!」

 

 

 

 

「この局面なら、西住先輩は絶対に仕掛けて来る……行くよ皆!!」

 

 

「了解だよ隊長!」

 

 

 

みほのパンターはエンジンを吹かしたと思った思った直後に、梓のティーガーⅠに突撃、正面衝突寸前で、軌道を変更して、ティーガーⅠの弱点である後部を捉えて砲撃!!

 

其れと同時に、梓率いるティーガーⅠも砲撃!

 

 

 

――バガァァァァァァァァァン!!

 

 

 

 

略同時に砲撃が放たれ、どちらが勝ったのかと言う事になるのだが……

 

 

 

――キュポン!

 

 

 

『1・2年生チーム、残存車輌0!3年生チーム、残存車輌1……よって、3年生チームの、勝利です!』

 

 

 

結果は3年生チームの勝利!

 

壮行試合は、みほ率いる3年生チームが、戦車道における年季の違いを見せつける結果となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

ふぅ……何とか勝てたよ――私が思ってた以上に、梓ちゃんは成長してたみたいだね?……勝つ事が出来たとは言え、結構ギリギリだったって言うのは否めないからね。

 

だけど、それは裏を返せば、其れだけ梓ちゃんが成長してくれた事でもあるからね?……うん、最高の壮行試合だったよ梓ちゃん。

 

 

 

 

「そう言って貰えると光栄です――だからこそ、お願いがあるんです。

 

 アイズブルーのパンターと、漆黒のティーガーⅡを、持って行ってくれませんか西住隊長?……此の子達は、西住隊長と戦いたいって思ってるみたいなんです……だから、連れて行ってくれませんか?」

 

 

「そう来るとは、マッタク持って予想外だったよ。」

 

 

まさか、ティーガーⅡとアイスブルーのパンターを持って行ってくれと言われるとは思わなかったね。

 

だけど、アイスブルーのパンターも、漆黒のティーガーⅡも、明光大で共に戦ってきた相棒だから、連れていく事に異議はないよ?

 

カラーリング的に、黒森峰で使うのは難しいだろうけど。使わなくてもお父さんに整備はお願いできるからね。

 

だけど、この2輌を持って行ったら、明光大の戦力も落ちちゃうんじゃないかな?

 

 

 

 

「其れは大丈夫です。先輩のお母さん――西住流師範が、半壊状態のティーガーⅠとパンターG型を1輌ずつ譲渡してくれるらしいので。」

 

 

「……そう言えば、奥様がそんな事を言っていたような気がしますねぇ?」

 

 

「へ~~~……私は初耳だったなぁ?まぁ、其れなら戦力は維持できるから問題はないけれど。」

 

 

でも、そう言う事なら有り難くこの子達は貰って行くよ梓ちゃん。――戦車の思いに応えるのは、戦車乗りの義務だと思うから。

 

 

 

「ふふ、先輩なら最終的にはそう言ってくれると思いました。」

 

 

「まぁ、私は戦車を愛してるからね♪」

 

 

ともあれ、良い試合をありがとう梓ちゃん。最高の追い出し試合だったよ♪

 

 

 

 

 

で、お母さんにパンターとティーガーⅡを運びたいって言ったら、サンダースの輸送機であるスーパーギャラクシーが明光大に来て、何の問題もなく、パンターとティーガーⅡを西住本家に運んでくれたんだけど……お母さんは一体ドレだけの力があるんだろうか?

 

明らかに『西住流戦車道師範』の肩書を越えてる権力を持ってる気が……うん、深く考えないでいた方が良いね此れは。

 

 

因みに、西住家に搬送されたパンターとティーガーⅡは、お父さんの手によって、最高のパフォーマンスが出来る様に整備されたみたいだよ。

 

ともあれ、追い出し試合は、梓ちゃんの成長をこれでもかって言うくらいに見る事が出来た……此れなら安心して引退できるよ。

 

 

来年の明光大の事を任せたよ、梓ちゃん♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 



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Panzer70『中学卒業。最高の門出です!』

中学校は、此れで終わりだねByみほ      次に会うのは、高校での試合だな?By青子     戦うとなったら手加減はしないわByナオミ    でも、私達の絆は切れないわよByつぼみ


Side:みほ

 

 

 

梓ちゃんがセッティングしてくれた追い出し試合は、大会の決勝戦でエリカさんとの一騎打ちに匹敵する興奮を与えてくれたよ……梓ちゃんが其れだけ成長してくれた証でもあるから、あの試合は私としてはとっても満足してるよ。

 

 

そして、追い出し試合の前に行われた、中学最後の試験の結果が帰って来た訳なんだけど……如何だった、5教科合計の点数は?

 

言わずもがな、試験に関しては、青子さんが学年トップの500点満点を叩き出してるから、青子さんは除外するけどね。

 

 

因みに、私は5教科合計で、485点だったよ。

 

 

 

 

「5教科合計で480点!」

 

 

「合計で470点よみほさん。」

 

 

 

 

ナオミさんもつぼみさんも、ガッチリとトップファイブ入り……3年生の成績トップファイブの内4人が、戦車道部の部員であるって言うは鼻が高いかな?正に『文武両道』をやってる訳だからね♪

 

でも、そんなこんなで、中学最後のテストが終わり、残すイベントは卒業式のみ。

 

卒業生の代表として、答辞を述べる事になっちゃったけど、そこはまぁ、何とかできるだろうね……若しかしたら、今年は卒業生の答辞が、戦車道部の元隊長チーム全員で行われるかもしれないね。

 

 

中学最後の大イベントである卒業式……どうせなら、一生の思い出になる事をしたいからね♪

 

 

でも、いざ卒業ってなると、感慨深いものがあるかなぁ?……たった3年、されど3年、私達が、明光大付属中学校で過ごした日々は、とても充実してたからね……だからこそ、最後の卒業式では、立派にやらないとだよ。

 

 

私達、明光大付属中学校を卒業します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer70

 

『中学卒業。最高の門出です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてやって来ました卒業式当日!

 

明光大の卒業式は、在校生は明光大の制服で参加するんだけど、卒業生は、何故か進学先の制服で出る事になってるんだよね……其れだモンだから、元隊長チームは、私が黒森峰でナオミさんはサンダース、青子さんはアンツィオで、つぼみさんは聖グロって言う、中々のカオス状態になってるよね……まぁ、戦車道部に所属してた3年生は、例外なく略全員が高校戦車道の有名チームからのスカウトを受けて、結果として高校戦車道に名を連ねる学校に進学した事で、色んな制服が入り混じってるんだけどさ。

 

 

まぁ、これも明光大の『個性』ってモノなんだろうね。

 

 

 

って、青子さん寝ちゃダメだよ!!せめて、トップバッターである3-1全員の名前が呼ばれて、代表1名が卒業証書を受け取るまで眠っちゃダメだよ、絶対に!!

 

って言うか、何で立ったまま寝ようとするかなぁ!?

 

 

 

 

「そうは言っても結構ギリギリなんだぜ?……ダメだ、可成り眠い……あくびしねぇのを褒めて貰いたいくらいだぜ。」

 

 

「其れを言っちゃ元も子もないと言うか、今更何言ってんだレベルだけど……3-1の代表で卒業証書を受け取るのはナオミさんなんだよ?」

 

 

「そういやそうだったな……OK、一気に目が覚めた。

 

 ともに3年間戦って来た戦友の、中学最後の晴れ舞台は、ちゃんと拝んでおかねぇとな!」

 

 

 

 

去年の卒業式の時に話してた事だけど、生徒会に打診して、そして会議で検討した末の全校生徒投票を行い、卒業式の卒業証書授与は今年から、名前だけ呼んで立ってもらって、代表1名が受け取る形に変更されたんだよね。

 

で、3-1の代表は、私が強烈に推されてたんだけど、今回ばかりは辞退して次点だったナオミさんにお願いしたよ。

 

一人一人受け取るなら兎も角、代表1名が受け取る時に、片手で受け取るってのはどうかと思うし、片手で受け取ると如何しても卒業証書がしなって曲がっちゃうから、見た目的にも良くないしね。

 

 

最初はクラスの大半が不満そうだったけど、ナオミさんが『みほが直々に推薦してくれた私じゃ不満かしら?』って言ったら、皆アッサリと引き下がったよ……流石はナオミさん、ネームバリューの使い方って言うモノを良く分かってたよ。

 

 

 

 

『涌井一馬。』

 

 

「はい!」

 

 

『以上3年1組、35名。代表、吉良ナオミ。』

 

 

「はい。」

 

 

 

 

っと、遂に1組の名前が全員呼ばれて、代表であるナオミさんが壇上に。

 

ボーイッシュな外見だけど、ナオミさんは背も高いモデル体型だから、こう言う舞台はとっても良く似合うよね……女子から貰ったラブレターの数は、私よりも上なだけあるかな?本人は、嬉しくないだろうけどね♪

 

 

 

 

「『卒業証書。吉良ナオミ、右の者、明光大付属中学校の中学校全工程を終了した事を、此処に証明する。

 

 平成23年、3月5日』……高校に行っても、戦車道を頑張ってね?」

 

 

「……はい。」

 

 

 

 

なんて事を考えてる間に、校長先生から卒業証書が授与されて、其の後で何か言葉を交わした上で握手――此れは、結構卒業式的に良い演出になったんじゃないかな?

 

残るクラスの代表にも、校長先生が何かを言って、代表が其れに返して握手って言う流れが出来た訳だからね。

 

 

取り敢えず、大役お疲れ様だったねナオミさん?

 

 

 

 

「ふ~~……トチらないかどうか緊張したわ~~……ぶっちゃけ、戦車道の試合の時よりも緊張したわ。

 

 クラス代表の1人で何かする事に比べたら、フラッグ車同士の一騎打ちで、行間射撃をキッチリ決めろって言われる方が緊張がないわね。」

 

 

「クラス代表は重責だものねぇ……」

 

 

「でもよ、ばっちり決まってたぜナオミ!」

 

 

「うん、凄く絵になってたよナオミさん!!」

 

 

「ま、其れなら良かったわ……アレが写真に収められてたらと思うと、少し恥ずかしい気もするけどね。」

 

 

 

 

あはは……まぁ、其れは仕方ないって割り切るしかないよ。

 

親御さんが、自分の娘の晴れ姿を写真に残そうとするのは至極当たり前の事だし、明光大の新聞部が、卒業式って言うイベントは見逃さないだろうし、卒業証書授与の代表者が戦車道部の元部長となれば注目するのは当然だからね。

 

 

 

 

「ウチの新聞部、力入れる所間違ってないか?」

 

 

「其れは多分、言っちゃいけないお約束だよナオミさん♪」

 

 

「……其れを言われたら何も言えないけど、今一釈然としないわね……もやもやが残るわ。」

 

 

「じゃあ、そのモヤモヤを吹き飛ばす為に、卒業式が終わったら、ティーガーⅠの88mm砲をぶっ放してすっきりしようか?」

 

 

「いいわね……って、やるか!それだけの為にティーガーⅠを動かす事が出来る筈ないでしょう?

 

 大体にして、去年私達が色々やったから、梓だって花道で何かを考えてると思うから、ティーガーⅠはその為に待機させられてて、私達が動かす事なんて出来ないと思うわよ?」

 

 

 

 

あ~~、其れは確かにそうだね?

 

梓ちゃんてば、昨日の夜にメールで『明日の卒業式は楽しみにしていてください』って言ってたからね……間違いなく、最後の最後で梓ちゃん率いる新戦車道部が何かしてくると思うからね。

 

 

其れじゃあ仕方ないので、此のボコを適当にボコボコにしてそのモヤモヤを解消してよナオミさん。

 

 

 

 

「……此のボコ、何処から出したのみほ?」

 

 

「さぁ、何処からだろうね?」

 

 

其処はあまり深く追求しない方が良いよナオミさん……ボコと言えば私で、私と言えばボコだから♪私が居る所には、必ず何処かにボコが居るからね♪

 

 

 

 

「……深く考えないでおくわ。」

 

 

「其れが一番だよ。」

 

 

私だって、未だにこの現象は良く分かってないんだら。――って、こんなやり取りをしてる間に、何時の間にか全クラスの卒業証書の授与を終えたみたいだね?

 

と言う事は、次に待ってるのは在校生からの送辞。

 

在校生代表は梓ちゃんだったから、これ以上の送辞は無いかも知れないね……愛弟子に送り出して貰えるって言うのは、師匠冥利に尽きるって言う所だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梓

 

 

 

ふぅ……流石に緊張するなぁ此れは……西住先輩を送り出したい一心で、送辞を読み上げる代表に真っ先に立候補して、見事に送辞を読み上げる大役を務める事になったけど、やっぱり本番だと緊張しちゃうんだよね如何しても。

 

 

だけど、此の大舞台で無様な姿は曝せないから、キッチリバッチリ決めないとね!!――サプライズも用意してある訳だしね♪

 

 

「送辞。

 

 深々と大地に根を伸ばし、じっと冬に耐えてきたタンポポも、今太陽に向かって花開こうとしています。

 

 雲梯に寄り添うように立つ桃も健気に花を咲かせ、春の香りが漂い始めました。

 

 この素晴らしい日に明光大付属中学校を旅立たれる皆さま、ご卒業まことにおめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。」

 

 

「卒業生の皆さまのことを考えると、体育祭、文化祭、委員会活動等で頼りがいのある姿が次々と思い出されまス。」

 

 

 

 

此処でクロエが舞台袖から壇上に乱入。

 

去年の先輩達の送辞を見てヒントを得たサプライズだけど、此れは結構イケてるかも!送辞を読み上げてる、私とクロエにシャッターが大量に切られてるみたいだし。

 

 

「その中でも、卒業生の皆さまと最も多く過ごした時間は部活動でした。

 

 部活動という厳しい世界で、自分はうまくやっていけるのか、私達1年生2年生は一様に不安でした。

 

 しかし、先輩方の真摯に取り組む姿、果敢にチャレンジする姿、なにより私達に厳しくも温かく接してくださった姿に、私達は励まされてきたと思います。」

 

 

「先輩方を頼りにし、また憧れながら、私達はいつの間にか学年の垣根を超えて一致団結し、共に高い目標を目指してきたと思いまス。

 

 その部活動の大会では、先輩達と力を合わせ、私達は一つになって全力で戦い抜きましタ。あの時の興奮は、今も鮮明に思い出せまス。

 

 大会後に先輩方と全力で戦った事を称え合ったことは、私達の誇りデス。

 

 卒業生の皆さま、私達を導いてくださり、ありがとうございました。次は私達が新2年生を、そして新入生を導く番デス。

 

 先輩方のたくましく、果敢で、心優しい姿を目に焼き付け、しっかりと志を継いで参りたいと決意していまス。」

 

 

 

 

此処までは、特に問題なく出来てるから、最後もちゃんと締めないとだね。

 

 

「四月から高校生となられる卒業生の皆さま。新しい環境で困難に直面することもあると思います。

 

 しかし、明光大付属中学校で様々な困難を乗り越え、私たちを立派に纏め上げた先輩方なら、きっと力強く前に進まれる事と信じています。卒業生の皆様の新たな一歩が光り輝き、未来まで明るく照らされますよう、在校生一同心からお祈りしております。

 

 平成23年、3月5日。在校生代表、戦車道部隊長、澤梓。」

 

 

「同じく在校生代表、戦車道部部長、クロエ・ククトミュゼン・武藤。」

 

 

「「卒業、おめでとうございます!!」」

 

 

 

――パチパチパチパチパチ!!

 

 

 

 

よし、大成功!

 

クロエが壇上に出て来るタイミングもばっちりだったし、少しアレンジを加えた文章も、結構受けたみたい――部活動の大会の下りは、普通は体育祭でやる所だから。

 

 

西住先輩達には、伝わったよね?……今年の大会が、私達在校生にとっても最高の舞台だったんですって言う事が。

 

 

 

 

「伝わってる筈だよアズサ。何て言ったって、西住先輩だからネ。」

 

 

「ふふ、そうだよねクロエ♪」

 

 

この後は、西住先輩による答辞――なんだけど、絶対に何か仕込んでる筈だよ?……去年は辛唐先輩達が送辞に乱入したけど、今年は果たして――

 

 

 

 

『答辞。卒業生代表、西住みほ、吉良ナオミ、辛唐青子、野薔薇つぼみ。』

 

 

「「「「はい!!」」」」

 

 

 

 

って、乱入じゃなくて、代表者が4人!?

 

しかも、戦車道部の前隊長チームって……流石は西住先輩、人の予想の遥か上の事をやってくれますよ!

 

息の合った隊長チーム4人の答辞、楽しみです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

梓ちゃんの送辞に、クロエちゃんが乱入するとは、まるで去年の私達みたいだったけど、去年の私と違って、梓ちゃんはクロエちゃんと確り計画をしてたみたいだね。

 

クロエちゃんが乱入した時に、『ナイスタイミング』って顔してたし。

 

それと、梓ちゃんの私に向けてのメッセージも良く分かったよ……確かに、今年の大会は3年間の中でも最高だったから、梓ちゃんもそう感じていてくれた事は、嬉しい事だよ。

 

 

で、答辞を担当する私は、先生に事前の申し入れを行って、今年は最初から元隊長チームの4人で答辞を読ませて貰う事にした――ナオミさん達が乱入するのは去年やったから、同じ手は面白くないし。

 

代表者4人て言うのは、流石に異例の事だから、驚きは与えられたみたいだからね?

 

 

 

 

「澤とクロエが、良い感じに送辞で盛り上げてくれたが、答辞を読むのが4人て事で、更に期待値が上がってるみたいだからな?」

 

 

「此処は、きっちりと決めて、卒業に華を添えましょうみほ。」

 

 

「最後の晴れ舞台を、ばっちり決めちゃうわよ!」

 

 

 

 

うん、きっちり決めて行こうね!

 

 

「答辞。

 

 窓から差し込む光りが日に日に暖かくなり、春の訪れを感じます。

 

 私達は、212名の仲間と共に切磋琢磨しながら今日を迎えることが出来ました。

 

 同じ空間、同じ時を過ごす中で得た、数え切れないほどの思い出と言葉にならないほどの思いが溢れるほどあります。

 

 そして今、ふと目を閉じるとそれらの思い出が、脳裏を駆け巡ります。卒業する212人皆も同じ思い出がよみがえっている事でしょう。」

 

 

「3年前の入学式、。中学校の独特の雰囲気に圧倒され、学校や先輩、先生方、全てが大きく見えたのを覚えています。

 

 先輩の大きな背中を必死で追いかけ、少しでも大きくなろう、大きくなろうと努力しました。」

 

 

「そんな私達も、後輩を引っ張っていく立場になり、部活動では自分たちの代になりました。

 

 チームをまとめることの難しさを身にしみて感じました。

 

 同じコートでプレイをし、同じ空間で演奏をし、一緒に練習をしていたあの日。

 

 色々なことを教えて下さった先輩、毎日の練習を一緒にしてきた後輩、土日の大会で応援して下さった保護者の方々、素晴らしい指導をして下さった先生。その想いに触れ、感謝したことが幾度と無くありました。」

 

 

「そして何よりも一緒に過ごしてきた仲間たち。

 

 これから成長する過程でこれほどの仲間に出会うことができるのだろうかと思うくらい、私はこの仲間が大好きです。」

 

 

 

 

私から始まって、青子さん、ナオミさん、つぼみさんの順で滞りなくね。

 

去年の近坂先輩の答辞と被らない様に、皆で考えた甲斐もあって、結構いい感じの答辞に仕上がってると思うから、後は皆で其れをつっかえないように読めばOKだよ。

 

 

 

「私達がここまで成長し、豊かな中学校生活を送る事が出来たのは、先生方、家族の皆、その他地域の皆様のおかげです。

 

 沢山の迷惑や心配をかけてきましたが、どんな時も私達のそばにいてくれ、どんな時も味方になってくれ、時には厳しく指導してくださり、ありがとうございました。」

 

 

「中学をこんなに楽しく過ごすことができたのも先生方の支えや家族の励ましのおかげです。

 

 教えて下さった事は何一つ無駄にせず、今後の自分をどんどん磨いていきたいと思います。」

 

 

「仲間と共に笑い、泣き、助け合い、最高の思い出が出来た、そんなことを忘れず夢や理想に近づくために頑張って行こうと思います。

 

 私達は伝統ある明光大付属中学校で生活し、最高の仲間と出会えたことに誇りに思います。」

 

 

 

 

いよいよラストだね……ふぅ――

 

 

「最後に、卒業していく私達も、在校生の皆さんも、これから進む道に絶対と言う答えはありません。

 

 それだけに見つけて行きましょう、私達夫々が選びたい道を、自分だけの道を!

 

 その道を見つける為に、夫々の思いを胸に抱き、私達212名はここに卒業いたします。

 

 明光大付属中学校の、益々の発展を願い、答辞とさせていただきます。

 

 平成23年、3月5日、卒業生代表西住みほ。」

 

 

「同じく辛唐青子。」

 

 

「吉良ナオミ。」

 

 

「野薔薇つぼみ。」

 

 

 

 

「「「「ありがとう、皆!!」」」」

 

 

 

 

――パチパチパチパチパチ!

 

 

 

 

大成功!だね。

 

滅茶苦茶フラッシュが点滅してたから、結構な量の写真を撮られてるんじゃないかと思うんだけど、撮られて恥ずかしい事なんて何もないから無問題だけどね。

 

ただ、此れで去年と今年で、ちょっと変わった送辞と答辞の形が出来ちゃったから、来年以降も送辞と答辞が2人以上で行われるって形が取られる可能性は否定できないよ。

 

特に校長先生が、こう言うの割と好きだからね。

 

 

 

 

「ま、其れなら其れで良いんじゃね?」

 

 

「他と違うと言うのは、個性とも言えるモノね♪」

 

 

「願わくば、送辞と答辞は、戦車道部の人間が行うって言う伝統が生まれてくれると嬉しいんだけど……」

 

 

 

 

なはは……其れは来年以降の戦車道部の活躍にかかってるんじゃないかな?

 

少なくとも来年に関しては、準優勝以上の結果が確定してるって自信を持って言う事が出来るから、多分答辞は梓ちゃんがやる事になると思うけどね。

 

 

其れから式は滞りなく進んで、『仰げば尊し』を歌って、そして『蛍の光』で卒業生が退場。

 

後は在校生の作る花道を通って、校門を通れば晴れて卒業だけど、梓ちゃんは間違いなく花道で何かをしてくると思うんだよね?――私達が卒業する日の最後に何を見せてくれるのか、ワクワクだよ♪

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

そして、最後の花道。

 

吹奏楽部の演奏する、『ARENA』(真・三国無双のステージテーマの1つ。……何でこれをチョイスしたし。)と、在校生の拍手に迎えられながら私達卒業生は、花道を歩いて行く。

 

各部の皆が、後輩から花束なんかを渡されてるけど、私達戦車道部の面々も其れに漏れずに、花束なんかを貰ってる。

 

 

だけど、明光大の戦車道部が、此れで終わる筈はないよね、梓ちゃん?

 

 

 

 

「先輩方!卒業おめでとうございます!全車、祝砲発射ーーー!!」

 

 

「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

その期待を裏切らずに、校門直前で梓ちゃんのパールホワイトのティーガーⅠをはじめとした、明光大の戦車隊が現れて、弩派手に祝砲を響かせてくれた。

 

しかも、其れは只の祝砲じゃなくて、紙吹雪が舞う特別製の物だったって言うから驚きだよ。

 

 

 

 

「驚いてくれましたか?でも、此れだけじゃないんですよ先輩……此れを持って行ってください。」

 

 

「梓ちゃん?……此れは!」

 

 

エリカさん率いる黒森峰と引き分け優勝した際に撮った、両チームの選手が一堂に介した集合写真だよね?それを、パネルサイズに引き延ばして額に入れてなんて……此れは、最高の卒業プレゼントだよ梓ちゃん。

 

 

 

 

「喜んでもらえて良かったです。この写真は、先輩達に、ずっと持っていてほしかったから。」

 

 

「その心意気に感謝するよ梓ちゃん。貴女は、本当に最高の後輩だった――来年の明光大を、頼んだよ!」

 

 

「はい、頑張ります、西住先輩!」

 

 

 

 

迷いのない、良い目をするようになったね梓ちゃん。此れなら、来年以降の明光大の戦車道部も安泰なのは確実だよ――中学4強の一角になるのは間違い無いからね。

 

 

梓ちゃんと握手した後は、校門をくぐって、其処でお母さんが、戦車道部だった3年生を集めて記念撮影を敢行して、卒業式はお終い。

 

これで、お別れだね青子さん、ナオミさん、つぼみさん。

 

 

 

 

「今度会う時は、ライバル同士だな?」

 

 

「戦う事になったら、手加減しないから、覚悟しておく事ね。」

 

 

「仲間としては充分に戦ったから、今度はライバルとして!皆と戦う時を楽しみにしているわ!!」

 

 

 

 

うん、そうだね!

 

高校はバラバラになるから、今度はライバル同士になるけど、戦う事になったらその時は、全力で悔いの残らない様に戦おう!皆となら、最高の戦車道が出来るって思ってるから。

 

 

でも、最後に卒業の最後の挨拶をしないとだよ――一同気をつけ!!

 

 

「3年間、お世話になりました!」

 

 

「「「お世話になりました!!」」」

 

 

 

 

私の号令で、校舎に向かって礼!

 

3年間、本当にお世話になったよ――ありがとう。そしてさようなら、明光大付属中学校。

 

此処での3年間の生活は、絶対に忘れない――何よりも、掛け替えのない仲間達と出会う事が出来た訳だからね。その経験を胸に、新たな高校生活に、羽ばたいていくよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

ふ~~……堅苦しい、卒業式もやっと終わったわね。卒業式位、もう少し柔らかくしても良いんじゃないかしら黒森峰は?

 

尤も、来年は黒森峰の高等部に通う事になってるから、卒業したって言う実感が薄いんだけどさ……ぶっちゃけて言うと、卒業式で大泣きしてた連中は、進学先を黒森峰以外にした奴等だからね。

 

 

そう言う意味では、私と小梅と直下は泣きもしない異質な存在だったのかも知れないわ……あくまで、エスカレーターを外れた連中からしたらの話だけどね。

 

 

でも、私の意識は、卒業よりも、既に来年の黒森峰の高等部の戦車道に向いてるわ。

 

 

私や小梅と一緒に、あの子が、西住みほが黒森峰の高等部に入学する――それだけで、胸が高まるって言うモノじゃない!!

 

 

卒業したばかりだけど、高校生活がとても楽しみになって来たわ……黒森峰の高等部で、貴女がどんな活躍をしてくれるのか、とても楽しみにしてる私が居る。

 

 

貴女と本当の意味で同じチームで戦えるのを、楽しみにしているわよ、みほ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer71『高校生活開始。黒森峰に入学です!』

高校生活開始だね♪Byみほ      そうねByエリカ     気張らずに行きましょう!…黒森峰では難しいかも知れないですけどBy小梅


Side:みほ

 

 

 

4月。今日から新しい季節になって、私は黒森峰女学園の高等部に入学する。――西住の女性は、高等部は黒森峰に通う事が決まっているって事だったけど、お母さんに聞いた話だと、中学が黒森峰じゃなくて、高校が黒森峰って言うのは、私が初めてだったみたい。

 

 

もっと言うなら、黒森峰じゃない中学の生徒で、黒森峰の高等部からスカウトを受けた生徒って言うのも、私を含めて10人にも満たないらしいから、此れはとっても光栄な事かもしれない――ううん、光栄な事だよね。

 

 

何よりも、高校では又お姉ちゃんと一緒に戦車道が出来るし、エリカさんや小梅さん、近坂先輩とも仲間として戦うことが出来るんだから、こんなに嬉しい事はないよ!!

 

 

で、黒森峰の制服を着た訳なんだけど、可笑しくないかなお母さん、菊代さん?

 

 

 

 

「おかしくないわよみほ……とてもよく似合ってるわ。

 

 まほはその制服がはまっていたけれど、みほはまほと違った感じで、その制服が馴染んでいる気がするわね?

 

 ……貴女も西住の子だから黒森峰とは、切っても切れない関係だったという事なのかしら?……でも、そんな事を抜きにしても、良い感じよみほ。」

 

 

「とてもよくお似合いですよみほお嬢様。

 

 みほお嬢様の黒森峰の制服姿は、まほお嬢様と違った魅力があります……きっと、黒森峰の高等部でも、みほお嬢様は巧くやれる筈です。

 

 菊代は、そう確信しております。」

 

 

 

 

ふふ、ありがとうお母さん、菊代さん♪

 

不安やら心配事がないとは言わないけど、此れから始まる高校生活に、私の心はワクワクしてるのは間違いない――そのワクワクを全力で楽しまないとだね!

 

 

 

 

「其れはそうだけれど……みほ、貴女はアンドリューとロンメルも黒森峰の学園艦に連れて行く心算なの?」

 

 

「そうだけど?」

 

 

「……色々問題はありそうだけど、多分大丈夫よね?

 

 私も現役時代は、猛獣を持ち込んでた訳だし……何とかなるわね絶対に――取り敢えず、高校生活を楽しみなさいみほ。」

 

 

 

 

うん!勿論その心算だよお母さん♪其れじゃあ、行ってきます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer71

 

『高校生活開始。黒森峰に入学です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、黒森峰の入学式当日。

 

熊本港に停泊してる黒森峰女学園高等部の学園艦の前までやって来たんだけど……此れは、想像してたのよりも遥かに大きいね?

 

黒森峰の中等部の学園艦には、エリカさんから文化祭に招待された時に行った事があるけど、高等部の学園艦は、中等部の其れとは規模が違う!

 

 

此れから此処が、私の生活する場所だって考えると、身が引き締まる思いだね……!!

 

 

それにしても、何か注目されてる気がするんだけど……やっぱり、戦車道の名門である黒森峰に、左腕のない生徒が入学するって言うのは、人の目を引くのかな?

 

 

 

 

「それ以上に、貴女は有名人だからよみほ。尤も、注目を集める決定打は貴女のお供2匹だと思うけど。」

 

 

「初めて見る人には凄いインパクトですからねぇ此れは……でも、慣れてしまった自分が少し恐ろしいです……」

 

 

「エリカさん、小梅さん!」

 

 

2人とも、黒森峰の高等部に進むって言う事は聞いてたけど、こうして実際に会うと、本当に黒森峰の高等部に進学して来たって言う事を実感できるかな?……此れから3年間、お願いしますねエリカさん、小梅さん!

 

 

 

 

「其れはこっちのセリフよみほ。高校3年間、世話になるわ。」

 

 

「一緒に頑張って行きましょう、みほさん♪」

 

 

「勿論です!」

 

 

中学時代に激闘を繰り広げた相手が、高校では味方になるって言うのも面白いし、敵としての強さを知ってる分、味方であればとても頼りになるのは間違い無いからね。

 

……まぁ、その逆もバッチリ味わう事は、すでに確定してると言っても過言じゃないけど。

 

 

 

 

「……どうかしましたかみほさん?ちょっと不思議な顔してましたけど。」

 

 

「何でもないよ小梅さん。

 

 只、強敵だった相手が味方になるのは頼もしくて、頼りになる味方だった人が敵に回るのは厄介な事なんだなぁって思っただけだから。」

 

 

「あ~~……中学の時の貴女の戦車のメンバーは、見事にバラバラになったんだったわねそう言えば。

 

 つぼみもナオミも、アレだけの腕があれば、名門の聖グロやサンダースでも1年生からレギュラーを取れるかもしれないし、アンツィオはアレだから青子のレギュラーは間違いないでしょうからね。

 

 でも、心配ないわみほ。相手が誰であろうと、私達なら負けないわよ!

 

 まほさんが隊長で、そして貴女が居る。

 

 まほさんの押せ押せの蹂躙戦術に、貴女のトリッキーな策が合わさったら、其れはもう最強って言っても過言じゃないと思うわ。」

 

 

 

 

ん~~~……確かにお姉ちゃんの『剛の戦車道』と、私の『柔の戦車道』が合わされば確かに強いと思うけど、黒森峰で私が私の戦車道をやるのは難しいかも知れないかな?

 

明光大には伝統の戦術があった訳じゃないし、1年の頃から近坂先輩に隊長職を任されちゃったから私のやりたいようにやれたけど、黒森峰には黒森峰の戦い方があるから、私の戦い方を色濃く出す事は多分できないと思うよ。

 

 

 

 

「う……それは、確かに言えてるかもしれないわね……だけど、そうなるとちょっと寂しいわ。

 

 貴女の戦車道は、次の一手がまるで読めないから見てる側としても戦ってる側としても楽しい物だからね?……貴女の戦車道は、結構好きだったんだけどね私は。」

 

 

「私もみほさんの戦車道は大好きですよ♪」

 

 

「そ、そうだったんだ……ちょっと照れ臭いけど、ありがとうエリカさん、小梅さん。」

 

 

「いえいえ、私もエリカさんも思った事を言っただけですから。

 

 でも、案外黒森峰でもみほさんの戦車道をやる事って出来るんじゃないですかねぇ?」

 

 

 

 

へ?黒森峰でも、私の戦車道が出来るって、どういう事かな小梅さん?

 

 

 

 

「いえ、隊長はみほさんの戦車道をよく知っていて、みほさんの戦い方を認めてるんですよね?

 

 だとしたら、隊長として最強の戦力となるであろうみほさんを縛るような事はしないんじゃないでしょうか?……例えば……そうですね、みほさんを小隊の隊長に任命して、独立機動権を与えるとかするんじゃないでしょうか?

 

 通常の指揮系統の外にある独立機動部隊なら、ある意味で好き勝手やった所で誰も文句を言う事なんて出来ませんよね?自由に動く事を認められた部隊である訳なんですから。」

 

 

「……成程、確かにその手があったわね。

 

 だけど、私は元より、みほですら辿り着かなかったその可能性に真っ先に気付くとは、やっぱり貴女って結構とんでもないわね小梅。」

 

 

「お褒めに預かり光栄ですエリカさん♪」

 

 

 

 

うん、私もその可能性は全く考えてなかったからね……若しかしたら、小梅さんには『普通では考えられない極僅かな可能性』を考えて、考察する力があるのかも知れない――其れは、戦車乗りとしてとっても強力な武器になるのは間違いないよ。

 

私が知将で、エリカさんが猛将なら、小梅さんは参謀って言う所かな?――何て言うか、エリカさんと小梅さんが一緒のチームに居るなら、誰が相手でも負ける気がしないよ本気で。

 

 

小梅さんの予想が現実になるかどうかは別として、エリカさんと小梅さんと一緒に戦車道が出来るって言うのは、私にとっても良い経験になるのは間違いないよ!

 

 

「所で、何時の間にか周りから生徒がいなくなってるんだけど、そろそろ乗船した方が良くないかなぁ?

 

 ……入学式で遅刻って言うのは、いくらなんでも笑えない事だと思うから……」

 

 

「何ですってぇ!?……急ぐわよみほ、小梅!初日から遅刻とか洒落にならないから!!」

 

 

「ぜ、全速力で行きましょう!!

 

 入学式に遅刻したなんて事になったら、3年間、何かある度に其れをネタにされて笑われる事になっちゃいますよ!!」

 

 

 

 

なので、速攻で学園艦に乗り込んで、然る後に黒森峰高等部を目指して猛ダッシュ!序にアンドリューも一緒に猛ダッシュ!(ロンメルは、子狐モードで私の頭の上でまったりしてたけどね。)

 

 

その甲斐あって、入学式にはギリギリセーフ。大虎と狐の登場には、流石に皆驚いてたけど。

 

初日から色々とアレだったけど、取り敢えず、無事に入学式を済ます事が出来て良かった……そして、いよいよ始まるんだね、私の高校生活って言う物が。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

さてと、入学式も終わって、今日は授業も無いから、後は自由時間――とは言っても、割り当てられた寮部屋の整理とか有るから、あまりノンビリする事は出来ないと思うけどね。

 

私に割り当てられた寮部屋の番号は『2423号』……語呂合わせで『西住』って読む事が出来る部屋だったのは偶然だと思いたいよ。

 

 

さてと、一緒の部屋の人は誰かな?出来れば、エリカさんか小梅さんか直下さん……知ってる人の方が良いんだけど、誰と一緒になるかまでは自分じゃ決められないから、決まった事に従うしかないんだけどね。

 

 

其れじゃあ、失礼します。……って、あれ?

 

 

「エリカさんと小梅さん?」

 

 

『ガウ?』

 

 

『キュ?』

 

 

「来たわねみほ?それと、アンドリューとロンメルも。」

 

 

「待ってましたよみほさん、アンドリュー、ロンメル。」

 

 

 

 

此れは、私のルームメイトはエリカさんと小梅さんて言う事だよね?

 

だけど、黒森峰の寮って、2人1部屋だったと思うんだけど、其処で3人1部屋って言うのは、ちょっとおかしくないかな?流石に3人が1部屋で暮らすとなると、2人部屋のスペースじゃ狭いと思うんだけど……

 

 

 

 

「と、思うでしょう?私と小梅もそう思ったわ。

 

 だけどね、此の部屋は、元々『3人部屋』として作られていた物みたいで、3人で生活するには充分なスペースが確保されてるのよ。」

 

 

「機甲科の生徒が必ずしも偶数とは限らないので、1人になる人が出ない様に3人部屋を作っておいたらしいんです。

 

 で、今年の機甲科の1年生は奇数なので、目出度く私達3人が同じになったと言う訳ですよ――部屋割りは、隊長が決めたそうですけど。」

 

 

「お姉ちゃんが?……何で、私達3人なんだろう?」

 

 

「見ず知らずの奴と一緒にするよりも、見知った相手の方がお互いに良いって事なんじゃない?

 

 去年の黒森峰中の3年全員が、黒森峰の高等部に来てるって訳でもないからね?――実際に、私や小梅みたいな持ち上がりは約6割で、4割は他校に進学したんですもの。」

 

 

「そうだったんだ……」

 

 

去年の大会で見知った顔が、思ったより居なかったのはそう言う事だったんだね?他校に進学した4割の人は『今度は黒森峰と戦いたい』と思ったのかも知れないね。

 

 

 

 

「多分そうでしょうね。貴女の仲間が、貴女と戦いたいって思ったのと同じじゃないかしら?

 

 ……さてと、話は此れ位にして貴女の荷物を片付けちゃいましょうみほ。私と小梅は、春休み中に学園艦に入ってたから荷物の整理は終わ ってるけど、貴女の荷物は、まだ荷解きもしてないからね。

 

 私と小梅も手伝うから、さっさと終わらせてしまいましょう。」

 

 

「うん、ありがとうエリカさん、小梅さん♪」

 

 

「いえいえ、此れもルームメイトとしての務めですので。

 

 其れじゃあ早速、この熊の絵が描かれた箱から……って、みほさん、此れは一体?と言うか、この箱1個、丸々ボコのぬいぐるみが入ってるんですか!?」

 

 

 

 

うん、そうだよ?

 

箱に詰められるだけ詰めて来たんだ~~♪やっぱり、ボコが無いと落ち着かないし、ボコのない部屋で暮らす事なんて考えられないもん♪

 

 

 

 

「いや、其れにしたって段ボール箱1個分の量ってのは如何なのよ?……って言うか、ドンだけ詰め込んだの貴女!?

 

 明らかに箱の許容量を超えた数のぬいぐるみが出てきてるじゃない!!此の部屋を、ボコで埋め尽くす心算なの貴女は!?」

 

 

「だ、出しても出してもボコが出てきます……」

 

 

 

 

埋め尽くすだなんて、此れでもコレクションのホンの一部なんだよ?

 

出来れば全部持って来たかったけど、流石に其れは無理だから、可成り厳選して、コレクションの中から1割くらいを選んだ心算だったんだけけど……

 

 

 

 

「此れで1割なんですか!?」

 

 

「実家での貴女の部屋は一体どうなってるのよ!?生活する場がない位、この熊で埋め尽くされてるんじゃないの!?」

 

 

「いやぁ、流石に其れはないよ?定期的に入れ替えてるから。」

 

 

此の子達も、入れ替える予定で持って来た訳だから、別に全部出さなくてもいいし……最初に飾る子だけを何体か選ぶから、残りは箱に詰め込んで、押し入れの中に入れておく事にするよ。

 

 

 

 

「なら、最初からそう言って下さいよみほさん!全部出すのかと思って、可成りの数取り出しちゃったじゃないですか~~!」

 

 

「あはは……ゴメンね小梅さん。

 

 だけど、取り出してくれた子達の中から、最初に置いておく子達を選ぶから……ロンメルとアンドリューは、選ばれなかった子達を箱に戻してあげてね。」

 

 

『グルル。』

 

 

『キュン。』

 

 

「今更ながら、良く出来た子達だわ此の2匹は……大層な名前は伊達じゃないわね。」

 

 

 

 

エルヴィン・ロンメル将軍と、アンドリュー・バルトフェルド隊長だからね。

 

取り敢えず、ボコは此れで良いから残りの荷物の整理をしないと――とは言っても、他の荷物って寮で着る私服とかパソコンとかだから、そこまで多くは無いから直ぐに終わると思うけど。

 

 

 

 

「そうみたいね……ってみほ、貴女このノートパソコン持ってたの!?

 

 此れって100台限定生産された、クリアーレッドのノートパソコンじゃない!秋葉原のビッグカメラで販売されて、即売り切れだったレアPCを持ってるとは驚きだわ!」

 

 

 

 

私専用のノートパソコンが欲しいと思ってた所で、其れが販売される事を知って、お母さんのパソコン使って、オンラインショップで速攻で予約したんだよ。――其れで、何とかギリギリ予約で来たって感じかな。

 

予約完了した後で見たら、もう予約不可になってたからね――それだけに、このノートパソコンは、本当に修理不能になるまで使って行こうと思うんだ。

 

 

 

 

「其れが良いですよみほさん。いっその事、付喪神になって百鬼夜行に加わるように成るまで使いましょう!」

 

 

「あはは……そうなるまで使えば、パソコンも満足してくれるかもしれないね。」

 

 

物は大事に使ってこそだからね。

 

で、其のパソコンのコンセントを繋いで、ネット回線と接続させて、枕元にボコの目覚まし時計を置いて(3段ベッドだったけど、梯子から転落の危険性を考えて、私は1階のベットにして貰った。)、机にパンター型の置時計を置いて、私のタンスに着替えやら何やらを入れ終えたら、荷物整理終了!!

 

手伝ってくれてありがとう、エリカさん、小梅さん!

 

 

 

 

「お礼は別に良いわ。此れ位は当たり前でしょう?」

 

 

「1人よりも、3人でやった方が早いですからね♪」

 

 

「其れでも、だよ。」

 

 

皆が皆、こうして手伝ってくれるとは限らないし、最悪の場合は『さっさと終わらせろ』って催促してくるかもしれないから、其れを考えると、無償で手伝ってくれたエリカさんと小梅さんには感謝しかないって。

 

手伝ってくれたお礼に、今夜の晩御飯奢らせてくれないかな?学食のメニューだったら、そんなに高くないと思うから、2人分位なら、増えても懐へのダメージは殆どないから。

 

 

 

 

「そう?なら、お言葉に甘えさせて貰うわね。」

 

 

「みほさん、ゴチになります♪」

 

 

「は~い、ゴチします。」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

と言う訳で、晩御飯の為に食堂に来たんだけど、食堂は結構凝った造りになってるんだね?

 

壁紙は煉瓦造り調の物を使ってるし、床は板張りで、照明も落ち着いた色合いだし、何よりも食堂で流れてるBGMが素晴らしいよ。ベルリンフィル演奏のクラシックを流してるてるからね。

 

雰囲気だけなら、一流レストランって言っても良い感じだよ。――此れは、料理の味にも期待出来るって言う所だよ♪

 

 

私が頼んだのは、生ハムとチーズを使ったライ麦パンのサンドウィッチと、牛タンの煮込みだけど、エリカさんと小梅さんは何を頼んだのかな?

 

 

 

 

「私は煮込みデミハンバーグ定食ね。

 

 中等部にもあったメニューだけど、此れが高等部にもあったって言うのは、とっても嬉しい事だわ。」

 

 

「エリカさんのハンバーグ好きは相変わらずですねぇ?

 

 私は、シンプルに鶏のから揚げ定食しました。――ドイツ風の造りであっても、日本食のメニューがあるって言うのは有り難いですよね♪」

 

 

 

 

うん、其れは言えてるかも。

 

いくら黒森峰がドイツを模した学校だからと行っても、学食のメニューがドイツ料理オンリーじゃあ流石に参っちゃうからね……日本食や、馴染みのメニューがあるって言うのは本当に有り難い事だよ。

 

 

「其れじゃあ、いただきます♪」

 

 

「「いただきます!」」

 

 

 

 

うん、味は可成り良いね!

 

この味のレベルは、菊代さんや青子さんに匹敵すると言っても良いかも知れないよ……流石は黒森峰、学食のレベルにも妥協はないって言う所だよ。

 

冗談抜きで、この味なら全国に黒森峰印の食堂を展開しても良いと思うなぁ?エリカさんと小梅さんもそう思うでしょ?

 

 

 

 

「中学の時から、黒森峰の食事はレベルが高いって思ってたけど、高校に入って其れが確信に変わったわ――確かに、貴女の言うように、全国に展開しても良いかも知れないわね、黒森峰印の食堂を。」

 

 

「アンツィオが、最大の商売敵になるかも知れませんけどね。」

 

 

 

 

あ~~……其れは言えてるかも。

 

アンツィオは、『食の為には労を惜しまない』って聞いた事があるから、最大の相手となるかも知れないね?――特に今年は、料理を限りなく極めた青子さんがいるから、レベルは相当に高いだろうからね。

 

 

「でも、このご飯はとっても美味しいから、アンツィオよりも上か下かなんて、如何でも良い事だよ!!食事は美味しくて栄養バランスが取れてる事が大事だからね。

 

 美味しければ食が進むし、栄養バランスが良ければ身体も健康になるし、序に腹が減っては戦は出来ぬって言うからね?――戦車道の試合で最高のパフォーマンスをする為にも、『食』って言うのは大事な事だから、黒森峰の学食レベルが高いのも頷けるよ。」

 

 

だから、ガッツリ食べて、戦車道で最高のパフォーマンスが出来る様に備えておかないとだよ。――黒森峰は、食事からも戦車道の事を考えてるのかも知れないなぁ。

 

其れがあったからこそ、9連覇なんて言う事が出来たのかも知れないけどね。

 

 

取り敢えずこのサンドウィッチと、牛タンの煮込みは最高だったよ!――黒森峰製のノンアルコールビールを飲んでハイになった生徒が始めた喧嘩を、お姉ちゃんが脳天への鉄拳制裁で黙らせたのは見なかった事にしようかな。

 

まさか、拳骨一発で、ダウンするとは思わなかったからね……若しかしなくても、お姉ちゃんの鉄拳は、世界最強であるのかも知れないよ。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

で、食事が終わったらお風呂なんだけど、今日は大浴場は混んでるみたいだから、部屋のシャワーで我慢しましょうかエリカさん、小梅さん。

 

今し方見て来たら、大浴場の前に長蛇の列が出来ていたから、今日は大浴場は諦めるのが得策だと思うんだけど、エリカさんと小梅さんは如何思いますか?

 

 

 

 

「聞くまでもないでしょうに……貴女の意見に賛成するわみほ。

 

 大浴場でゆっくりしたい気持ちはあるけど、だからと言って行列に並んでまでする事じゃないと思うから、今日は部屋のシャワーで済ませましょう?」

 

 

「そうしましょうか?……3人部屋のシャワールームは結構広いので、いっその事3人で入りましょうか?」

 

 

「其れも良いかも知れないね?

 

 片腕の私じゃ、体を洗うのも一苦労だから、背中を洗ってくれる人がいて来ると助かるし――実家では菊代さんがやってくれてたけど、学園艦だとそうは行かないから。」

 

 

そういう訳で、一緒に入ってくれますか、エリカさん、小梅さん?

 

 

 

 

「そう言う事なら異論はないわみほ。寧ろ、暫定的とは言え1年最強である貴女の背中を流す事が出来るなんて、光栄この上ないわ。」

 

 

「其れじゃあ、親睦を深める意味で、裸の付き合いと行きましょうか♪」

 

 

 

 

そ、其れはちょっと使う所が違うんじゃないかな小梅さん?――いや、シャワールームだから、裸の付き合いって言うのは間違ってないと思うけどね?

 

取り敢えず、エリカさんのプロポーションは、色々と反則だって言う事を実感したよ――私と小梅さんも負けてないとは思うけど、純血の日本人じゃ、ドイツクォーターのエリカさんには敵いませんでした!

 

中学時代は私が勝ってたけど、高校に入って抜かれちゃった感じだなぁ……こっちの方面でも、色々と頑張らないといけないみたいだね。

 

だけど、黒森峰での高校生活は、とっても楽しみだよ♪

 

 

お姉ちゃんが隊長で、副隊長は近坂先輩が務めてるし、何よりもエリカさんと小梅さんがいるからね?――エリカさんと小梅さんは、敵に回すと厄介だけど、味方としてはとっても頼もしいのは間違いないモン。

 

其れを考えたら、最高に楽しい高校生活になるのは間違いないって、私は思ってるよ――何よりも、楽しむ事が出来ないなら、何をやった所で、いい結果は得られないからね。

 

 

黒森峰での3年間、思い切り楽しませて貰うよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

まほさんから、事前に『妹の事を頼む』ってお願いされていたから、小梅と共に3人部屋になる事は異論はなかったわ……あの子を加えた寮生活って言うのは楽しい物になるだろうからね。

 

 

だけど、それ以上に、私の心は高等部の戦車道について沸き上がってるわ――西住姉妹が揃ってるなら、今年の黒森峰に隙は無いって胸を張って言えるからね。

 

 

隊長とみほの力が合わされば、サンダースだろうとプラウダだろうと、障害になり得ないわ!

 

貴女と一緒に戦車道が出来るって事だけでも、私にとっては喜ばしい事なんだけど、どうせなら10連覇を成し遂げてやろうじゃない?――貴女が、一緒なら其れも決して夢物語とは言えないからね。

 

 

此れから3年間世話になるわよみほ――貴女の戦車道、バッチリ見させてもらうから、覚悟しておきなさい?――盗める物は全部盗んで、何時の日か、貴女の事を追い抜いてやるんだから!!

 

 

 

でも今は、最強の存在が仲間になった事を喜ぶべきよね。

 

 

如何やら、黒森峰の高等部での生活は中学の時の何倍も楽しい事になりそうだわ。特に戦車道に関しては!

 

自惚れかも知れないけど、貴女と私と小梅が組めば、其れはきっと最高にして最強のチームになると思うしね。

 

 

明日から始まる、本格的な戦車道の授業が楽しみになって来たわ!

 

 

……そういえば……

 

 

「みほ、アンタのお供2匹は何処で寝る訳?」

 

 

「ロンメルは私の枕元で、アンドリューは用心棒としてドアの近くで寝てるよ~~。」

 

 

「ドアの所にアンドリューがいてくれるなら安心ですねぇ。」

 

 

 

 

……最強のセキュリティが施されてる訳ねこの部屋は。前言訂正、戦車道以外でも退屈する事だけは無さそうね、此の3年間は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer72『行き成りの振るい落としです!!』

なんか、今回は走ってる気がするんだけど?Byみほ      実際結構走ってるでしょ?Byエリカ     本当に。ハードですよ此れは……By小梅


 

Side:みほ

 

 

 

ん……もう朝か~~♪

 

はて、何やら何時もと景色が違う様な?

 

……あ~~~、そうだ。もう家じゃないんだ!昨日から、黒森峰に入学して、陸を離れて学園艦での生活になったんだった!でもって、此処はエリカさんと小梅さんがルームメイトの寮の3人部屋……見慣れた景色じゃない筈だよ。

 

 

時刻は……6時ちょっと前。大体何時も起きてるのと同じ時間かな?

 

何時もだったら、早朝ランニングに行く所なんだけど、エリカさんと小梅さんは誘った方が良いのかなぁ?――中学の夏休み合宿の時は、2人とも私やお姉ちゃんと一緒に朝ランしてたけど、今はぐっすり眠ってるから起こすのも悪いしねぇ?

 

 

……うん、今日は1人で行く事にしよう。

 

エリカさんも小梅さんも、入学式と私の荷解きの手伝いでつかれてるだろうしね……特にエリカさんは、入学式で新入生代表の挨拶なんてモノをやってたから、疲労度は高いと思うし。

 

 

「其れじゃあロンメル、アンドリュー、行ってきます。

 

 7時になったら、エリカさんと、小梅さんを起こしてあげてね?……但し、くれぐれも噛みついたり引っ掻いたりしない様に。分かったかな?」

 

 

『ガウ。』

 

 

『コン♪』

 

 

 

 

うん、宜しい!

 

あ、それからアンドリューは舐めるのもNGだよ?猫の舌をより強力にした虎の舌で舐められたら、人の皮膚なんて簡単に剥けちゃって、大変な事になるから。……って、そんな事は、言われなくても分かってるよね。

 

 

其れじゃあ早朝ランニングに行ってきます。エリカさんと小梅さんと一緒に走るのは、明日からになるだろうけど、一緒に早朝ランニングが出来るようになったら、朝から良い気分になれるかもね♪

 

 

……だけどまさか、ランニングに出る時ですら、許可証が必要だとは思わなかったよ。

 

まぁ、門限を過ぎて、外出可能時間前だから仕方ないのかも知れないけど、機甲科及び運動部の自主練くらいは、許可なしでもやれるようにしてほしい所だね?……今度、お姉ちゃんに相談してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer72

 

『行き成りの振るい落としです!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

許可を貰って寮の玄関まで来たら、やっぱり居たねお姉ちゃん。其れから近坂先輩も。おはようございます!

 

 

 

 

「みほか、おはよう。お前も此れから早朝ランニングか?」

 

 

「おはようみほ。入学した次の日からとは、良い心掛けね。」

 

 

「まぁ、此れも日課になってるのでやらないと落ち着かないと言うか……お姉ちゃんと近坂先輩もそうでしょう?」

 

 

……あ、此処では隊長と副隊長って呼んだ方が良いのかな?つい、此れまでの癖で、今まで通りに読んじゃったんだけど……若しかして、拙かったかな?

 

 

 

 

「戦車道の時ならば咎める所だが、今はプライベートだから問題なかろう。

 

 其れにだ、今年の機甲科の面子の多くは、西住本家での合宿の経験者だから、みほが私にどう接しているかを知っているから、変に公私を分ける方が違和感を感じる奴が多いさ。」

 

 

「とか言いつつ、実は『お姉ちゃん』と呼んでもらえない事が、ちょっと寂しいのよね~、まほは♪」

 

 

「凛!!」

 

 

「あら、間違ってた?」

 

 

「ぐ……若干間違っていないだけに、非常に悔しく腹立たしい……ではなくてだな!――まぁ、アレだ、公私を分けるのは大事な事だが、無理して分ける必要もないと言う事だ。」

 

 

 

 

……何だか若干突っ込み所が有った気もするけど、其れはスルーした方が良さそう……私の姉が、こんなにシスコンな筈がないから。

 

にしても、何て言うか息がピッタリだねお姉ちゃんと近坂先輩って。まるで、長年連れ添った相棒みたいだよ?

 

 

 

 

「単純に馬が合ったと言うのも大きいだろうが、同学年で私に気兼ねなく話しかけて来てくれるのは凛位なものだからね……私も自然と戦車チームの隊長ではなく、素の西住まほとして接する事が出来ているからだろうな。」

 

 

「相性が良いのは間違いないわね。性格的にも動の私と、静のまほでバランスが取れてるだろうし。

 

 其れに、隊長としてのイメージで皆誤解してるけど、まほってば話をしてみると、ちょっと世間とずれてる所があったり、真面目にボケたり、結構面白いからね。」

 

 

「確かに、お姉ちゃんは時々真面目にボケますからね?」

 

 

「……自分では、マッタク持って自覚は無いんだが、真面目にボケているのか私は……自分で言うのもなんだが、其れはとっても面倒な事をしてしまっているな。」

 

 

「まぁ、良いんじゃないかな?

 

 近坂先輩は、そんなお姉ちゃんを気に入ってるみたいだし。」

 

 

時に、近坂先輩も一緒って事は、早朝ランニングは軽めで行くの、お姉ちゃん?――こう言っちゃなんだけど、幾ら西住家での合同合宿を2度経験してるからって、私達姉妹の早朝ランニングガチバージョンをやったら、登校前にグロッキーになると思うんだけど……

 

 

 

 

「あぁ、其れについては大丈夫だ。

 

 凛は去年から、私と一緒に早朝ランニングを行っていて、段階的に走る距離を伸ばしていった結果、私の本気にも付いて来られるようになったからね。」

 

 

「毎日少しずつ、走る距離を伸ばしてくもんだから、気が付いたらまほのガチランニングに付き合えるようになってたわ……人間の身体の順応性に、限りない可能性を見たわね。」

 

 

 

 

徐々に慣らして行ったって事だったんだ……でも、其れなら私達の本気のランニングが出来るからOKだね♪

 

序に、近坂先輩の事を考えれば、合同合宿を3回も体験してるエリカさんと小梅さんと直下さんなら、ガチランニングにも付き合えるよね?

 

去年の合宿の時には、エリカさんと小梅さんと直下さん、後は梓ちゃんとツェスカちゃんが私の早朝ランニングに付き合ってた訳だしね。

 

 

 

 

「エリカと小梅と直下は問題ないだろうさ……さて、そろそろ行くか。」

 

 

「そうでね、行こうか♪」

 

 

其れじゃあ、早朝ランニング、ぱんつぁ~ふぉ~~!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

で、およそ1時間で、早朝ランニング15㎞は終了。……最後まで確りと付いて来た近坂先輩は、本当に毎日お姉ちゃんに付き合ってたんだ。

 

今の近坂先輩は、中学時代とは比べ物に成らないほどの猛者になってる感じだね……黒森峰の副隊長の座に座ってるのは伊達じゃないよ。

 

 

取り敢えず部屋に戻ってシャワー浴びようかな?流石に15kmも走り込んだら、汗がびっしょりだし……って、何やら部屋の中から良い匂いがして来るなぁ?

 

エリカさんと小梅さんが、起きて何か作ってるのかな?

 

 

「ただいま~♪」

 

 

「あ、おかえりなさいみほさん。」

 

 

「おかえり。

 

 早朝ランニングは結構だけど、次からは私と小梅の事も誘いなさいよ?今日は、偶々寝過ごしちゃったけど、普段は私も小梅も、貴女と同じくらいの時間に起きているからね。」

 

 

 

 

なはは……気持ちよさそうに寝てたから、起こすのも悪いと思ってね?だけど、次からは一緒に早朝ランニングをする心算だから、今回だけ大目に見てくれると嬉しいよ。

 

時に、アンドリューとロンメルに、7時になったらエリカさんと小梅さんを起こしてあげてって言って行ったんだけど、ちゃんと起こしてくれた?

 

 

 

 

「起こしてくれたと言えば起こしてくれたわね……ゆさゆさ揺すられて、煩いと思って目を開けたら、目の前に虎の顔があれば、どんな奴でも一瞬で目が覚めるってもんよ。」

 

 

「ロンメルは、私のほっぺを甘噛みしてみょ~~~んと伸ばしてくれましたので……嫌でも目が覚めましたよ。」

 

 

「……取り敢えず、ミッションは達成したみたいだねアンドリューもロンメルも――方法は兎も角として、よくやってくれたよ。」

 

 

『ガウ。』

 

 

『コン♪』

 

 

 

 

本当に良く出来た子達だねアンドリューとロンメルは。此れだけ賢い虎と狐って言うのは、結構珍しいんじゃないかって思えるレベルだから。

 

所で、とっても良い匂いがしたんだけど、若しかして朝ごはんが出来てたりする?

 

 

 

 

「もう少しで出来るから、貴女はシャワーを浴びて来なさい。

 

 幾ら貴女でも、息が切れてないとは言え汗は掻いてるだろうから、汗を落としてサッパリして来なさいよ――其の後で朝食にしましょう。」

 

 

「はーい♪」

 

 

と言う訳で、シャワーを浴びて、制服に着替えて来た訳なんだけど……此れは、中々豪華な朝ごはんが並んでるね?

 

良い具合にトーストされたパンが2枚に、ふわっふわのオムレツに、生ハムが付いて、そして野菜たっぷりのコンソメスープが付いて、飲み物に牛乳が用意されてるんだから、栄養バランス的にも完璧な朝ごはんだよ♪

 

エリカさんも小梅さんも、料理上手なんだね?

 

 

 

 

「此れ位は如何って事ないでしょ?

 

 パンは焼けば良いだけだし、スープだって市販の固形コンソメを使って適当に野菜を入れただけだから、其処まで手は掛かってないわよ。」

 

 

「朝は忙しいのであまり手をかけられませんからね……明日からは、みほさんと一緒に早朝ランニングをするでしょうから、手作り朝食は、学校が休みの日だけになりそうですよ。」

 

 

「あ~~……其れはそうかも。」

 

 

早朝ランニングをやったら汗を掻くから、終わった後でシャワーを浴びたくなるし、そんな事をしてたら朝ごはんを作ってる時間なんて無くなっちゃうから、必然的に学食のモーニングメニューになっちゃう訳か。

 

だったら、尚の事、この朝ごはんは有り難く頂かないとだよ。――それじゃあ、いただきま~す!

 

 

 

うん、美味しい!

 

野菜のコンソメは優しい味わいだし、オムレツはこの上なくふわっふわで、トーストは表面はカリっと香ばしくて中はもっちり柔らかい最高の焼き加減……此れは喫茶店のモーニングセットとして出せるレベルだよ。

 

其れと、味もさることながら、片腕の私でも食べやすいメニューにしてくれた事に感謝かな?トーストもバターを塗ってから焼いた、バタートーストだったからね。

 

 

 

 

「其れ位の事はするわよ。

 

 貴女は片腕である事を感じさせない身体能力を持ってはいるけど、片腕じゃやる事が難しい事も多いのも事実なんだから、其処ら辺のフォローはさせて貰うわ。――其れ位は、ルームメイトとして当然の事でしょ?」

 

 

「そう、なのかな?

 

 良く分からないけど、その心遣いには素直にありがとうって言っておくよエリカさん。勿論小梅さんも。」

 

 

「いえいえ、此れ位当たり前ですから気にしないで下さい。

 

 其れよりも、今日から本格的な授業が始まりますから、機甲科の授業も始まる訳ですよね?……黒森峰の高等部の機甲科の授業――つまりは戦車道ですが、中等部とは比べ物に成らないレベルみたいです。

 

 聞いた話だと、新入生の半分が、半年以内に機甲科から普通科に転属願を出すとか……可成り厳しい世界なのは間違いなさそうです。」

 

 

 

 

まぁ、黒森峰だからね。

 

絶対王者としての強さを保つ為には、隊員の質の高さが重要になって来るから、厳しい訓練と言う振るい落としにかけて隊員を選別して行く必要が有るって事だよ。

 

序に言うなら、その振るい落としに生き残った者の中でも、レギュラーになれるのはホンの一握りだからね……正に実力主義の厳しい世界だけど、其処を生き残ってこそ、黒森峰の戦車乗りになれるんだろうから。

 

 

「だけど、厳しくとも楽しみだよ私は。

 

 中学の時は、レギュラー確定で、しかも行き成り隊長だったから、こう言う振るい落としって体験した事ないし。……逆に、隊長として振るい落としにかけた事はあったけどね。

 

 だから、自分の方が試されるって言うのは、ちょっと新鮮かな?」

 

 

「そう言いきっちゃう辺りが凄いですよねみほさんは……それで、勿論振るい落とされる心算は無いんですよね?」

 

 

「其れは当然だよ小梅さん♪」

 

 

「そう来なくっちゃね?とは言っても、西住流フィジカルトレーニングを平然と熟せる貴女なら、振るい落とされる事なんて無いでしょうけど。

 

 勿論、私と小梅も振るい落とされる心算は毛頭ないわ。

 

 中学1年の合宿の後で、私も小梅もフィジカルトレーニングの量を増やして体力付けて来たし、貴女が居てくれたおかげで、戦車乗りとしても大きく成長できたって自負してるから。

 

 ねぇ、小梅?」

 

 

「そうですね。多分、体力は3年前の数倍はあると思いますよ?

 

 戦車道に関しては、まほさんが私とエリカさんの才能を見出して、指導してくれたから中学の時も1年生からレギュラーに成れた訳ですが、でも、みほさんと言う最高のライバルが居なかったら、黒森峰の中等部のトップ2になる事は出来なかったかも知れませんね。

 

 正に、好敵手が居てくれたからこそ強くなれたって言うやつですよ。」

 

 

 

 

そ、そう言われると照れちゃうかな?

 

でも、そう言って貰えるのは嬉しいよ――なら、中学ではライバルとして存分に戦ったから、高校では最高の戦友として頑張ろうか?どうせなら『黒森峰に此の3人あり』って言われるようになってみるとか如何かな?

 

 

 

 

「其れも良いわね?黒森峰の三羽烏って感じで。――筆頭のみほは、『黒森峰の隻腕の軍神』で二つ名は確定よね。」

 

 

「其れじゃあエリカさんは、『黒森峰の銀狼』だね。」

 

 

そうなると小梅さんは……観察眼が結構高いから、上空から得物を見つけて強襲する猛禽類――『黒森峰の隼』って言う所かな?隼って言うには、少し大人しいかも知れないけど。

 

如何かな小梅さん?

 

 

 

 

「隼ですか……良いですね?そう呼ばれるように、頑張りましょう!」

 

 

「気に入ってくれたみたいで良かったよ。――其れじゃあ、高校戦車道も全力で行こうか?」

 

 

「言われるまでもないわ。私達の手で、黒森峰の10連覇を達成するわよ!!」

 

 

 

 

そう言えば、そんな大記録もかかってるんだったね今年の大会は。

 

一強時代が続くのは、競技の質の低下を招くけど、出来れば切りよく10連覇は成し遂げたいかな?……こう言っちゃなんだけど、V9で止まるよりもV10を遂げた後で連続V記録が途絶えた方が切りも良いしね……って、OG会に聞かれたら怒られちゃうけどね。

 

 

兎にも角にも、今日から本格的に戦車道も始まるから、キッチリと気合を入れておかないとだよ――お姉ちゃんが隊長である事を考えると、初日から何を仕掛けて来るか分からないからね?

 

 

流石に初日から西住流フィジカルトレーニング完全版は無いと思うけど、少し警戒しておいた方が良いかも。

 

お姉ちゃん、頼むから初日から機甲科の生徒が大量離脱する事態が発生するような事だけはしないでよ?……と言っても、学園艦1周して来い位なら、お姉ちゃん的には軽い方かも知れないけどね。

 

 

果てさて、初日は一体どうなるんだろうね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

入学2日目から本格的な授業が始まった訳だけど、みほは戦車道だけでなく学業に関しても可成りレベルが高かったわ。

 

隊長の妹って言う事で、教師共も無意識にみほを当てる事が多かったんだけど、主要5教科は勿論の事、黒森峰では必修外国語になってるドイツ語の授業でもバッチリついて来たからね?

 

ドイツクォーターの私が聞いても、みほのドイツ語は完璧だったし……みほの事を超人と称しても、決して罰は当たらないと思うわ私は。

 

そう言えば、体育の時間では、マット運動で片腕ながら側転からの見事なバック宙を決めてクラスメイトの度肝を抜いていたわね……天は二物を与えないって言うけど、天はみほから左腕を奪った代わりに、其れを奪って有り余る代価を用意してくれたみたいね本気で。

 

 

そんな訳で、みほは2日目にして1年生の中での有名人になってたわ――まほ隊長の妹って言う事も有るでしょうけどね。

 

まぁ、本人が自分の凄さを鼻にかける事も無いから、敵を作る事はないんじゃないかしら?……少なくとも、同輩に限ってはって話になるけど。

 

 

何にしても、みほが己の凄さを周囲に認めさせた所で、いよいよ来たわね戦車道の時間が!!

 

ざっと見た所、今年の新隊員は中等部からの持ち上がりと、外部入学を含めて100人ちょっとって所かしら?……この中で、レギュラーに成る事が出来るのは1割程度って言うんだから、黒森峰高等部の厳しさが分かるわ。

 

黒森峰の中等部で隊長を務めてた人が、高等部では補欠にしかなれなかったって話も聞くからね……だけど、それくらい厳しい環境ってのは上等以上の何者でもないわ!

 

戦車乗りとして、更なる高みに至るには、其れ位の厳しい環境で荒波に揉まれないとだからね……にしても、何だって新入生は、パンツァージャケットじゃなくて体操着で集合だったのかしら?

 

 

 

 

「諸君、よく集まってくれた。

 

 私が黒森峰女学園戦車道隊の隊長を務めている西住まほだ。――先ずは、諸君が黒森峰に進学してくれた事を嬉しく思う。」

 

 

 

 

と、此処で隊長が……佇まいはちゃんとしておかないと……みほもそう思ったらしく、背筋をピッと伸ばして隊長の話に耳を傾けてるわね?此れは、隊長の話を真剣に聞いてる証だから、他の新入隊員の模範となったでしょうね。

 

実際に、みほの佇まいを見て、己の姿勢を正した生徒も少なくないもの。

 

 

 

 

「さて、知っていると思うが、我が黒森峰女学園は、高校戦車道の全国大会で9連覇を成し遂げ、今年は10連覇の大記録が掛かってる大事な年だ。

 

 私自身は連覇記録などに興味は無いが、どうせなら10連覇という前人未到の記録をこの手で成し遂げたいと思っているのも事実だが、10連覇の大記録を打ち立てるには、君達の力が絶対に必要になって来るだろう。

 

 だから、先ずは君達の力を見せて貰うとしよう……諸君には、此れから学園艦を1周して貰う。」

 

 

 

 

……はい?

 

ちょっと待って、隊長は今なんて言った!?私の聞き間違いじゃ無ければ学園艦を1周して来いって言ったわよね!?……黒森峰の学園艦は、周囲40㎞って言う化け物学園艦なのに、其れを1周して来いって……行き成りの振るい落としが来たって事か此れは……!

 

 

 

 

「ショートカットのようなずるは駄目だが、それ以外なら歩こうとも、休みながらでも構わないから、完走を目指してくれ。

 

 初日からキツイとも思うだろうが、君達ならば必ずやれると私は信じているよ……中等部からの持ち上がりは兎も角として、外部入学の子達は、黒森峰の厳しさを分かって入って来たんだろうからね。」

 

 

「そう言われましても、初日からこの距離ってのは、流石に厳しくないですか隊長?」

 

 

「ふ……此れも戦車道よ。」

 

 

 

 

隊長、其れを言われたら誰も何も言えないと思いますよ?ぶっちゃけ、其れを言われたら、私も何も言えません――其れに反論出来る人物なんて、日本全国を探してもみほ位のものだと思います。

 

 

でも、隊長がやれと言った以上は拒否権は無いから、やってやろうじゃないのよ学園艦1周を!!――完走する為にも、準備運動は確り行わないとだけどね。

 

 

……そう言えば、私と小梅が準備運動を始めた時には、みほは準備運動がほぼ終わってたけど、あの子ったら、若しかしなくても隊長が学園艦の1周を命じた時から準備運動をしてたって事なのかしら?

 

恐らくはそうでしょうね……流石は姉妹、正に一を聞いて十を知るって言うか、一を聞いて十を理解するって所だわ――本当にやってくれるじゃないのよみほ!!

 

 

だからこそ仲間としては、この上なく頼りになるわ。

 

行き成り訪れた振るい落としだけど、必ず生き残るわよ?……此処で脱落したら、レギュラーなんて夢のまた夢だからね。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

で、走り始めて1時間なんだけど、予想通りと言うか何と言うか、トップは私とみほと小梅と直下の4人だけになったわね?

 

……それ以外の連中は、相当に遅れてるか、或いは脱落したって考えた方が良いわ……其れを考えると、この振るい落としで新入隊員の5割が残れば御の字って言う所でしょうね。

 

 

まぁ、あの合宿を体験してなかったら、私達も脱落してたかもしれないけど。

 

 

にしても、貴女は本当に凄いわねみほ?

 

片腕しかないから、腕の振りによる推進力は、私達の半分しかないのに同じペースで、しかも息切れする事無く付いて来てるって、今更だけど一体どんな身体能力してるのか疑いたくなってくるわ。

 

 

 

 

「あはは……全ては西住流フィジカルトレーニングの賜物かな?

 

 あのスーパーハードトレーニングに比べたら、黒森峰の学園艦を1周するなんてのは、お相撲の横綱が新弟子を捻るよりも軽い事だから。」

 

 

「その感覚の凄さに驚くわ普通に。」

 

 

尤も、軽く息切れしながらも、余裕のみほに付いて行ってる私達も大概なのかも知れないけどね……だけど、私は4人揃って同着なんて事を望んではいないわ――一着になるのは私だからね?

 

 

 

 

――ダッ!!

 

 

 

 

「あ、ずるいですよエリカさん!?」

 

 

「抜け駆けすんなよ、エリカ!!」

 

 

 

 

抜け駆けとは人聞きが悪いわね直下?……私は一番でゴールしたいだけよ。

 

――其れに、こんな行動に出れば、みほだって黙ってないと思うからね?……そうでしょう、みほ?

 

 

 

 

「ふふふ、一番は譲りませんよエリカさん?最初にゴールするのは私ですから!!」

 

 

「そう来なくちゃ面白くないわ……勝負よみほ!!」

 

 

「受けて立ちます、エリカさん!!」

 

 

 

 

んでもって、みほとのバトルが始まって、残りが1kmになった時点では、何方も一歩も譲らずのデッドヒートを繰り広げた結果、最後の100mのバックストレートで、みほが私を抜き去って、其処からは私を寄せ付けずに駆け抜けて、みほは見事1位でゴールイン!

 

私も1秒後にゴールインし、小梅と直下も1分後にはゴールしたから、己の力を示す事は出来たと思うけど、1位で通過したみほのインパクトはハンパなかったから、間違いなく隊長以外の先輩の目にも留まったでしょうね。

 

 

 

 

「其れはエリカさんと小梅さんと直下さんもだと思うよ?

 

 私は西住流のフィジカルトレーニングを日常的に行ってたから、学園艦を1周する位は余裕だったけど、エリカさんと小梅さんと直下さんのフィ ジカルが向上してるのを知ってるのはお姉ちゃんか近坂先輩……或は天城先輩位だろうから、それ以外の人達には、結構新鮮に映ったんじゃないかと思うよ?

 

 何よりも、学園艦1周ていう、無茶振りを言い渡された1年生のうち4人が、ゴールタイム1分以内でゴールしてるんだから、目に留まらないのがオカシイと思うよ?」

 

 

「ふふ、其れは言えてるわね?」

 

 

「って事は、アタシ等レギュラー確定って事かな?」

 

 

「そうは行かないと思いますけど、好印象を残せたのは間違い無いと思いますよ直下さん……取り敢えず、レギュラーに選ばれたら、履帯を切られないように注意してくださいね直下さん?」

 

 

「善処する……ってか、アタシの乗る戦車は、履帯が切れることが前提か!!」

 

 

 

 

アンタは、本気で履帯の呪いを受けてるんじゃないかって思うくらいに履帯が破損するからね……まぁ、その不幸を除けば、直下は優秀な戦車長だから、仲間としては頼りになるけれど。

 

 

でも、最初の振るい落としで、私とみほと小梅と直下の能力の高さを示す事が出来たと思うから、レギュラーに成れるか成れないかは、此処から先の己の努力次第って事でしょうね。

 

 

必ず残ってやるわ、レギュラーに……みほと小梅、直下と一緒に、絶対に!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

ふむ……大体予想していた事だが、学園艦1周マラソンのトップはみほで、其の後にエリカ、小梅、直下の順で並ぶ結果となったか……最終的に、脱落者は誰もいなかったが、此の4人がトップ4になったのは有り難いな。

 

みほとエリカは、戦車道界隈で知らぬ者はいないし、小梅と直下は、目立たなくとも実力は筋金入りだから、其れを考えると、黒森峰の目標である、前人未到の10連覇も、夢ではないかも知れないな。

 

 

ふふ、つくづく私は恵まれているらしい。

 

中学時代は最高のライバルが居て、高校時代は最高の隊員が居ると来てるからね……ならば、10連覇を成し遂げなければ嘘だな。

 

 

 

 

「えぇ、やってやろうじゃない?って言うか、私達が力を合わせれば、10連覇なんて簡単でしょまほ?」

 

 

「あぁ、その通りだよ凛。」

 

 

私達が力を合わせれば、サンダースだろうが聖グロだろうがプラウダだろうが敵ではない……見せてやるさ、姉妹が揃った時にのみ発動する『真の西住流』って言うモノをな!

 

 

一強時代が続くのは良くないと分かって居るが、10連覇の偉業は成し遂げさせて貰う……今年の黒森峰は、間違いなく此れまでで最強の部隊となっているからね。――寧ろ、此れで負けるのが嘘ってモノだよ。

 

 

だが、そんな事よりも、今はみほと共に戦車道が出来る事が嬉しくてたまらないよ……中学では敵同士だったが、高校では仲間だから、お前の力を頼りにしているよみほ。

 

型に捕らわれない、お前の自由な発想は、黒森峰が発展していく上で絶対に欠かせない物になって行くだろうからな。

 

 

みほと言う存在が、黒森峰の起爆剤になってくれたのなら、戦車乗りの姉として、これ以上に嬉しい事は無いよ――此れからは同じチームの仲間だから、息を合わせてバッチリ行こうじゃないか?

 

私とお前が手を組めば、誰が相手であっても敵ではないし、エリカに小梅に直下、凛は間違いく味方となるだろうからそもそも敵性勢力なんてモノは存在していないのかも知れないな。

 

 

ふふ、如何やら今年は、10連覇って言う錦を飾るのも夢ではないようだ……ならば、成し遂げるしかないだろうね、全損未踏の大記録って言う物をな!!

 

 

みほ達と共に、この大記録を、必ず成し遂げてやる……其れが、今年の私の目標だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer73『全力全開バトルロイヤルです!!』

バトルロイヤルかぁ……燃えるね!Byみほ      ある意味で、最も実力が試される戦いだからね?Byエリカ     全力で行きましょう!By小梅


Side:みほ

 

 

 

黒森峰の高等部に入学して、あっという間に1週間が経ったね……此の1週間で、新入生は多種多様な振るい落としに掛けられて、1週間経った時点で、機甲科に残ってるのは60人――其れはつまり、此の1週間で、40人が機甲科から別の学科に転属になったか、戦車乗りじゃなくて、整備士に回った事を意味してる。

 

 

でも、其れは無理もないかもだよ……ハッキリ言って、黒森峰の新人の振るい落としは異常としか言えないレベルだからね?

 

初日の学園艦一周に始まり、ティーガーⅡの砲弾を抱えての100メートルを何度も往復する砲弾運びに、体力作りの為の筋力トレーニングまである訳だから、寧ろ60人も残ってる事に驚きだよ私は!!

 

 

 

 

「でしょうね……去年の隊長の同世代も、1週間が経った時点で、機甲科に残ってたのは、最初の半分にも満たなかったみたいよ?」

 

 

「其れを考えると、今年の1年生は、わりと根性があるように思いますね?……まだ60人も残ってるんですから。」

 

 

「逆に、其れだけ戦車道が好きだって事なんだろうけどね。」

 

 

好きこそものの上手なれって諺があるけど、先ずは好きにならなきゃ上達は見込めないもんね……尤も、機甲科から転属になった人達の中には、整備に心血を注いでる人もいるから、戦車道との係わりあい方は十人十色って事なのかも知れないけどさ。

 

 

 

 

「好きこそ物の上手なれとは、至言ねみほ……先ずは好きにならなきゃ、上達なんて望めないモノ。」

 

 

「好きになるから上手くなる、そして上手くなるからより好きななる……戦車道も、整備も好きだからこそ向上するんですね!――逆に言うなら、戦車と完全に切れてしまった人は、本気で戦車道が好きではなかったという事ですね?」

 

 

「うん、其れは否定できない。」

 

 

本当に戦車道が好きなら、選手としては駄目でも、整備士や審判て言う形で戦車道に関わって行くと思うからね……勿論、100%そうだとは言えないけどさ。

 

 

結局の所、大事なのは自分の道を貫き通す事だと思うなぁ?……自分の確固たる道があれば、どんな事があっても前に進む事が出来る訳だから――少し、偉そうな事を言わせて貰えばだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer73

 

『全力全開バトルロイヤルです!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其れは其れとして、予想してた事だけど、私は滅茶苦茶注目されてると言うか何と言うか……望んでなくても学園艦に名が知られてるみたいだね?……まぁ、高等部で1年生の頃から隊長を務めてる『西住まほ』の妹となれば注目されない方がオカシイのかも知れないけどさ。

 

片腕って事で注目された事はあるけど、中学の時はお姉ちゃんと別々の学校だったから『西住まほ』の妹って言う事で注目された記憶は、殆ど無いから、ちょっと戸惑っちゃうなぁ?

 

 

 

 

「いや、隊長の妹って事だけじゃなく、3日目に行われた1年生の紅白戦の結果も影響してるんじゃない?

 

 紅組の隊長が貴女だった訳だけど、殲滅戦ルールで完封勝利ってのは普通有り得ないわよ?幾ら、私と小梅と直下が貴女と同じチームだったとは言え、白組は黒森峰中等部からの生え抜きばかりで構成されたチームだったんだから。」

 

 

「隊長や副隊長は兎も角、大抵の人は黒森峰中からの生え抜きで構成された白組が勝つと思ってた所で、外部入学組が混じってる、言わば混成チームの紅組が完封勝利ですからねぇ?

 

 しかも紅組の隊長を務めていたのは、黒森峰の現隊長の妹ともなれば、注目されるのも当然ですって。」

 

 

「有名人の妹は元々注目されるのに、更に自分で注目される切っ掛け作っちゃったんだから、諦めるしかねーんじゃない?

 

 まぁ、戦車道以外でも、片腕であるにも拘らず、体育で跳び箱7段楽々クリアしたり、片手倒立をやってのけたり、パラアスリートも吃驚な事をしてくれてるからねぇ……身から出た錆だ、諦めろみほ。」

 

 

 

 

……エリカさんと小梅さんの言うように、あの紅白戦はちょっとやり過ぎたと言うか、あそこまで圧倒的に勝てるとは思ってなかったんだよ?

 

エリカさんと小梅さんと直下さんが一緒だったから、結構やり易くはあったけど、私の考えた策が、次から次へと面白いように決まるなんて、完全に予想外だったんだって――勿論、相手が黒森峰中からの生え抜きチームだって言うのは分かったから、アンチ黒森峰な奇策と搦め手に満ち溢れた策ではあったんだけどね?

 

それでもまぁ、完封勝利したとなれば注目されちゃうのは当然か……直下さんの言うように、戦車道以外でも色々やってるし、何よりも虎と狐を引き連れて登校してる時点で、注目されるなって言う方が無理な相談だったよね。

 

 

でも、注目されるのは未だ良いとして、余所余所しく接するのは止めて欲しいんだよね?

 

同学年でも名前で呼んでくれるのってエリカさんと小梅さんと直下さんだけだし、上級生でも『さん』付けで呼んでくる人が多いから……上級生で、私に対して余所余所しくないのって、お姉ちゃんと近坂先輩を除いたら、整備科の西濱先輩位じゃないかな?

 

西濱先輩も、私の事を『妹ちゃん』て呼んで、名前では呼んでくれないけど、結構フランクに接してくれるから気分的には楽な部分があるしね。

 

『妹ちゃんの乗る戦車は、アタシがガッツリ整備してやるから安心しな!』って言ってくれたのも嬉しかったし。

 

 

なんて言うか、黒森峰の厳しさよりも、回りの態度が悩みの種だよ……中学時代が普通だっただけに余計にね。

 

 

 

 

「其ればっかりは、実力主義の黒森峰では仕方ないと割り切りなさい。

 

 貴女には実力がある。実力があれば注目されると同時に、同学年所か上級生であっても畏怖してしまうのが実力主義の世界なんだから。」

 

 

「実力なら、エリカさんと小梅さんと直下さんだって、並の上級生を凌駕してると思うんだけど……」

 

 

「其処はネームバリューでしょヤッパリ?」

 

 

「エリカさんは中等部の隊長で、私は副隊長でしたけど、それでもやっぱり『西住流の次女』にして、弱小校を立て直して、全国大会で2連覇させた『隻腕の軍神』のネームバリューには、到底及びませんて。」

 

 

「何か其れ、スッゴク納得いかないよ……」

 

 

でもまぁ、エリカさん達が居るから、実は其処まで深刻に悩んでる訳でもないんだけどね――ただ、出来ればもう少しフランクに接して欲しいってだけの話だから。

 

 

で、そんな話をしてる間に学食に到着しちゃったけど、今日のお昼は何を食べようか?

 

 

 

 

「午後もガッツリ行きたいから、今日はカツ丼かな~~。」

 

 

「無難にから揚げ定食ですね私は。」

 

 

「ハンバーグランチ……今日はガーリックを利かせたスパイシーなスタミナソースで攻めてみようかしら?でも、濃厚なゴルゴンゾーラソースも捨てがたいわね……よし、ハンバーグを2個盛にして、両方のソースを試す事にしましょう。」

 

 

「エリカさんのハンバーグへの拘りって凄いよね?……と言いながら、私は今日は、オムハンバーグカレーで行こうかと思ってる。」

 

 

チキンライスの上にトロットロの卵を乗せて、其処にハンバーグをトッピングして、スパイシーなカレーを上からかけたメニューは、絶対に美味しいに決まってるし、此れならスプーン1本で食べる事も出来るからね。

 

 

夫々メニューを受け取ったら、窓際の4人掛けのテーブルに陣取って食事開始。

 

食事中は、取り止めのない話から、戦車道の話、雑誌やテレビの話題で雑談しながら食べるのが流儀って言うか、楽しく食事が出来るコツかも知れないね。

 

 

取り敢えず、今日のランチも美味しかったです。ごちそうさまでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

で、今日も今日とて戦車道の時間がやって来たわね。――正直言って、どの時間よりも、この戦車道の時間が一番楽しくて待ち遠しいって言うのは間違いないわ。

 

間違いないけれど……

 

 

 

 

「本日の練習だが、1年生には基礎訓練の後にバトルロイヤル形式での模擬戦を行って貰う。

 

 なお、このバトルロイヤルでは、ルールに違反しない限りはどんな戦い方をしようとも構わないので、各々自由に戦ってみて欲しい。」

 

 

 

 

隊長、其れは『四の五の言わず全員みほに倒されて来い』って事ですか?……いえ、負ける気はないですし、バトルロイヤル形式なら誰にでも生き残る可能性が残されていると言うのは理解出来ますけどね?

 

……まさか、このバトルロイヤルで更なる振るい落としを行う心算なんじゃ……

 

 

 

 

「ん~~……流石に其れは無いと思うよエリカさん?

 

 バトルロイヤルを使って振るい落としをするなら、もっと最初の方にやっておいた方が効果があると思うから。多分、お姉ちゃんには振るい落とし以外の目的があるんだと思うんだよ。」

 

 

「何よ、その目的って?」

 

 

「其れまでは流石に分からないよ。

 

 『西住まほ』の考えならある程度分かるけど、『黒森峰戦車道の隊長』の考えとなると、普段のお姉ちゃんとはちょっと違う感じがするから。」

 

 

「普段のまほさんてどんな感じよ?」

 

 

「其れは秘密のアッコちゃん♪」

 

 

「ぶふぅ!!」

 

 

そ、其処でボケかまさないでくれる!?油断してたボディに思いっきり来たわ!!

 

……隊長が話してる時に噴き出すだなんて、大恥モノじゃないのよ!!隊長のバトルロイヤル発言で、1年がざわついてる中だったから目立たなかったけど!!――下手したら、高校生活でネタにされる失態を曝す所だったわ。

 

 

 

 

「静粛に。

 

 何故今バトルロイヤルと思うだろうが、此の1週間の訓練――通称『新人振るい落とし期間』を生き残った諸君等は、真に黒森峰の戦車道チームの一員となったと言えるだろうからだ。

 

 と言うのも、黒森峰は今年より、新たな戦術として、通常の指揮系統に属さない『遊撃隊』を組織する事になったのだ。そして、その部隊の一期生となる隊員を、、今年の1年生から選出しようかと考えている。

 

 遊撃隊は独立機動権を持つ代わりに、隊長である私からの指示を受ける事が出来ない故に、高い個人資質が重要になって来る故に、このバトルロイヤルで遊撃隊のメンバーを選出したいと考えている。」

 

 

「「「!!!」」」

 

 

 

遊撃隊って……其れも、今年の1年生で組織するって、此れは間違いなくみほが試合で自由に動けるようにする為の処置よね?

 

こう言っちゃなんだけど、どんな試合展開になっても、最後まで生き残るのは私と小梅と直下、そしてみほの4人でしょうから……そうなれば、誰が生き残っても、みほと私と小梅と直下のチームは遊撃隊のメンバーとして残る事が出来る筈よ。

 

そして、此のメンバーが残れば、仮にみほが勝利しなくても、私も小梅も直下もみほを推すのは間違いないモノね?……此れは、入学式の日に小梅が言っていた事が現実になったって事か。

 

 

 

 

「そして、このバトルロイヤルは、チームメンバーは此方で決めたが、使用戦車は夫々のチームで良く考えて決める様に。

 

 尚、マウスは使用禁止とする――此処までで、何か質問は?……無いな。では、バトルロイヤルのチーム編成を発表する。」

 

 

 

 

チーム編成は隊長が決めたとは言え、使用戦車はチームが独自に決めるって言うのも、このバトルロイヤルの鍵になりそうね?

 

で、出来上がったのは4人1組のチームが15個……バトルロイヤルでは通信士が必要ないから、この編成だったんだろうけど、非情に有り難い事に、私のチームは、操縦士と砲撃手が去年の大会で一緒だった子達だったわ。

 

装填士の子は、外部入学だけど、振るい落としを生き残ったって事を考えれば実力は確かだから不安はないしね。――と言うか、他のチームをざっと見た所、持ち上がり組2~3人と外部入学組1~2の混成チームばかりみたいね?

 

唯一、みほのチームだけが出身校が全員バラバラの人間で構成されてるみたいだけど……多分、戦力を巧くばらけさせた結果だと思うわ。

 

 

チームメンバーは此れで良いとして、問題はどの戦車を使うかね?

 

ティーガーⅠやティーガーⅡの人気が高いけど、ヤークトティーガーやエレファントなんかを選ぶ連中が居る中で、小梅は手堅くティーガーⅠを選んで、直下は回転砲塔こそないけど、パンターと同程度の防御力と機動力を有しながらもティーガーⅡと同等の火力を備えた最強駆逐戦車のヤークトパンターを選んで来たか……私は如何しようかしら?

 

紅白戦とかだったらティーガーⅠかティーガーⅡを選ぶ所だけど、バトルロイヤルは生き延びてナンボだから、防御力だけじゃなくて機動力も優れてないといけないから……此処は、パンターで行くのが最良ね。

 

 

何よりも……

 

 

 

 

「西住さん、どの戦車で行くの?」

 

 

「ん~~……黒森峰の保有戦車はドレも強力だけど、今回はパンターで行きましょう。

 

 攻守速のバランスが取れたパンターなら、バトルロイヤルに最適ですから。」

 

 

 

 

みほもパンターを選んだからね。

 

パンターは中学時代のみほの愛機だったから、多分1年生の中では誰よりもパンターって言う戦車の事を分かってる……その愛機でバトルロイヤルに臨むのはある意味で当然だけれど。

 

 

さて、其れじゃあ始めましょうか……遊撃隊メンバー選出のバトルロイヤルってモノをね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

『其れでは、試合開始!』

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「Panzer Vor!!」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

まほの号令で始まったバトルロイヤルだが、大方の予想通りに、15チーム中、11チームがみほとエリカと小梅を真っ先に潰そうと、一時的な同盟を結んで行動していた。

 

まぁ、此れは当然の事だろう。

 

みほとエリカは、去年の中学大会で壮絶な痛み分けを演じた戦車乗りであるし、小梅もエリカと共に、みほをあわやと言う所まで追い詰めた猛者なのだから、此の3人を真っ先に排除しようとするのは自然と言える。

 

 

だがしかし、そんな事はみほもエリカも小梅も分かって居る。

 

 

 

「前進してください。ジグザグに動きながら、威嚇砲撃を行ってください。

 

 敵の動きが止まった所を突破します。」

 

 

「機動力の低いヤークトティーガーとエレファントを撹乱しつつ、ティーガーⅠとティーガーⅡの後部か履帯を狙いなさい。

 

 履帯を切ってしまえば動く事が出来なくなるから、動けない戦車はバトルロイヤルでは的になるだけだからね。」

 

 

「敵に後部を取られない様に注意しながら、的を絞らせない様に動いてください。

 

 砲撃は、出来るだけ相手の足元を狙って撃つようにしてください。」

 

 

 

夫々が最適と思われる方法で其れに対処して行く。

 

此れに加えて、集中攻撃の対象にならなかった直下が、ヤークトパンターの火力を持ってして仮初の連盟軍の戦車の横っ面を殴りつけ、其れを皮切りに、バトルロイヤルらしい大乱闘が勃発!

 

本来バトルロイヤルとは、自分以外が全て敵で味方である戦い故に、仮初の協力や裏切りが当たり前であり、このバトルロイヤルでも其れは同じ事だ。

 

 

強敵であるみほ、エリカ、小梅の3チームを真っ先に倒そうと考えた11チームは、手痛いカウンターを喰らった上で、手を組んで居なかった直下からの一撃を受けて連携どころではなくなり、夫々が好きに動く事態となっていたのだ。

 

 

 

「何やってるのよ!ヤークトティーガーなら、射程外から赤星を撃破出来たでしょ?何で前に出て来たのよ!!」

 

 

「エレファントに乗ってるアンタが其れを言うか?アンタの方こそ、前に出なくても逸見を撃破出来たんじゃないの?」

 

 

 

更に、みほ達を撃破出来なかったと言う事で、仮初の同盟は此処で仲間割れを起こして、交戦状態に突入し、本当の意味で、バトルロイヤルになったのだ。

 

 

そんな中で、エリカと小梅と直下は、自分から攻める事はせずに、自分達に向かってくる相手のみを相手にしていたのだが、仮初の同盟軍の攻撃を突破して以降、みほのチームは何処かに雲隠れして、一向にその姿を見せてはいなかった。

 

 

 

「(みほが攻めて来ない?……此れはちょっと不気味ね……)」

 

 

「(みほさんにしては大人しすぎる……さて、何を狙ってるんでしょうか?)」

 

 

「(みほならこの混戦の中でも見事に立ち回る筈なのに仕掛けて来ないなんて……絶対に、土壇場で仕掛けて来るよね此れは。)」

 

 

 

エリカと小梅と直下は、其れを不思議に思いながらも、的確に相手を撃破して数を減らして行く。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、そろそろ行こうか?」

 

 

「其れを待ってたよ西住さん。」

 

 

 

 

試合が動いたのは、残り車輌が約半分の8輌になった時だった。

 

突如として、みほの乗るパンターが戦場に躍り出て、瞬く間にエレファント1輌と、ヤークトティーガー1輌、ティーガーⅠ2輌を撃破してのだ。

 

其れは余りにも素早い電撃戦であり、各戦車の弱点を的確に射貫いていると言うのだから驚く他ないだろう。

 

 

 

「沈黙の前半は、最後に勝つ為の布石って事だったのね……バトルロイヤルの戦い方を良く分かってるわ貴女は……!

 

 だけど、負ける心算は無いわみほ!!」

 

 

「バトルロイヤルって言うのは、最後まで生き残ってたのが勝者だから、序盤は潰し合いを静観するのが吉だからね?

 

 ……だけど、静観するのも飽きたから、此処からは本気で行かせて貰うよ!!」

 

 

「上等!!」

 

 

 

そのみほ車は、其処からエリカのパンターと交戦状態に。

 

普通に考えるなら、小梅と直下もエリカに付いてみほを狙うのだろうが……みほが参戦したと同時に、何と直下は小梅に向かって攻撃を始めたのだ。

 

 

 

「直下さん!?」

 

 

「悪いね小梅、生き残る為には、これも必要なんだわ。」

 

 

 

直下は、悪びれる様子もなく小梅を攻撃し、しかし小梅もその攻撃を食事の角度で弾くなり、躱すなりして防ぎながら、直下のヤークトパンターと交戦を開始する。

 

 

その戦いは激しく、しかし戦車道のお手本となるような戦いで、早々に脱落したチームの1年生は元より、2・3年生ですら目を見張る物があったらしく、試合を食い入るように見つめているのだ。

 

 

しかし、その戦いも唐突に終わりを迎える事となる。

 

 

 

「行くよ、エリカさん!」

 

 

「受けて立つわ、みほ!!」

 

 

 

パンター同士で激戦を繰り広げていたみほとエリカは、決着を付けるべく互いに全速力で前進し、擦れ違い様に戦車ドリフトをかまして相手の側面を捉えて砲撃――

 

 

 

「撃て!」

 

 

「急速前進!!」

 

 

 

する刹那に、みほのパンターは急発進し、結果としてエリカのパンターは砲撃をギリギリで躱される結果となったのだが、エリカのパンターが放った砲撃の射線上には、直下と交戦していた小梅のティーガーⅠが!

 

 

 

「な…!!そんな!!」

 

 

 

激戦の末に直下を下した小梅だが、完全に予想外の一撃に対処出来る筈もなく、ティーガーⅠは後部装甲を撃ち抜かれて白旗判定!(因みに、小梅に撃破された直下のヤークトパンターは、お約束的に履帯が切れていた。)

 

 

そして、其れでは終わらずに、みほはパンターを急旋回させると、エリカの乗るパンターに突撃し、横っ腹からのゼロ距離砲撃を敢行!!

 

 

 

――キュポン!

 

 

 

其れを喰らったエリカのパンターは沈黙し、同時にバトルロイヤルは終了したのだった――西住みほが勝者となって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

ふぅ……やっぱり勝ったのはみほだったわね……とても見事な戦いだったわよみほ。正に、バトルロイヤルの戦いのお手本のような戦い方だったわ――相変わらず、良い腕をしてるわね。

 

 

まぁ、其れが分からないアホ共も居るみたいだけど。

 

 

 

 

「雲隠れして、数が減った所で出て来るなんて卑怯よ!」

 

 

「黒森峰に在籍してるなら、搦め手とか使わないで正々堂々と戦えーーー!西住流の名が泣くぞーーー!!」

 

 

 

 

はぁ……聞いてて呆れるわね此れは。

 

何を勘違いしてるのか知らないけど、バトルロイヤルって言うのは最後まで生き残っていた者が勝者なんだから、生き残る為には、どんな手を使っても其れを非難する事は出来ないわよ?

 

何よりもみほのチームは、全てのメンバーの出身校がバラバラだったから、其れを一つに纏め上げる時間も必要だったんじゃない?

 

 

……私の予想では、あの沈黙の間で、みほはチームメンバーの癖やら何やらを把握して、其れを自分の中で最適化して、どんな指示を出せば良いかって考えてた時間だと思うからね。

 

 

そして其れはみほが戦線に加わるまでの時間だから、時間にして僅か20分なのよ?……たったそれだけの時間で、初めてチームを組んだ人の事を把握する事なんて出来ないでしょ?

 

にも拘らず、みほは流儀も練度もバラバラなチームを纏め上げて、バトルロイヤルを勝ち抜いたのよ?――果たして、貴女達に其れが出来たかしら?

 

 

こう言っちゃなんだけど、私と小梅だって無理だと思うわ。

 

だから、此れがみほの実力なんだって認めなさい?――何よりも、チーム内で内乱が起きたって言うのは洒落にならないし、何よりもまほさんが待ってる集合場所で試合後の挨拶をしないとだもの。

 

 

何にしても、このバトルロイヤルの結果で、みほが遊撃隊の隊長になるのは間違いないでしょうね……此れはもう、今年の黒森峰は安泰であるのは間違いないわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

バトルロイヤルは私が勝って、その後のミーティングで遊撃部隊のメンバーが発表されて、遊撃隊の隊長も明らかになったんだけど、まさか私が遊撃隊の隊長に選出されるとは思わなったよ!!(因みに遊撃隊のメンバーは私のチームと、エリカさんのチームと、小梅さんのチームと、直下さんのチームが暫定的なスタメンになったね。)

 

 

 

 

「いや、此れは順当な選択だと思うわよ?……こう言っちゃなんだけど、貴女の指揮能力はずば抜けてるから、遊撃隊の隊長ってのは適任だ

 

 と思うわね。」

 

 

「エリカさんに賛成です。

 

 みほさん以上に、この遊撃隊を指示できる人なんていないと思いますから。」

 

 

「其れは高評価だと思うけど、この人事には納得してない人も居るんじゃないかな?」

 

 

「いるわよ、其処に……」

 

 

 

 

「確かに彼女は優秀でしょうが、だからと言ってバトルロイヤルを生き延びたと言うだけで、遊撃隊の隊長に任命されると言うのは、幾ら何でも納得できません!」

 

 

「ふむ、つまりみほには遊撃隊の隊長は務まらないと、そう言いたいんだなお前は?」

 

 

 

 

うん、居たね……私の遊撃隊隊長選出に真っ向から異を唱える人が居るとは思わなかったよ――お姉ちゃんの言う事には、基本的に誰も異を唱える事が無いからね?

 

そうであるにも拘らず、お姉ちゃんに食って掛かるとは、結構いい度胸の持ち主なのは間違いないよ。

 

 

 

 

「そうは言ってません!

 

 このバトルロイヤルの結果だけで、遊撃隊の隊長を決めるのはおかしいって言ってるんです!――だから私は、この場で遊撃隊隊長の座をかけて、西住みほに勝負を申し入れます!!」

 

 

 

 

……はい?

 

ちょっと、何言ってるのか分からなかったから、要約してくれるかなエリカさん?

 

 

 

 

「端的に言うなら、みほじゃ遊撃隊の隊長は務まらないから、隊長を私にしろって事なんでしょうけど、此れは明らかに喧嘩を売る相手を間違えたとしか言いようが無いんじゃない?」

 

 

「みほさんに喧嘩を売るとは身の程知らずとしか言いようがないですよ。」

 

 

「今のバトルロイヤルで分からなかったのか、それとも単純に同じ1年なのに大役を任されたのが気に入らないのか……多分両方だな。」

 

 

 

 

成程、そう言事だったんだ……だけど、売られた喧嘩は買うのが礼儀だから、本気で行くよ?――新たな火種が見つかったけど、其れは私が鎮火すれば良い事だしね。

 

 

突然の事だから、此処で勝負って事にはならないと思うし、準備期間が設けられるはずだけど、試合をするって言うなら負けられない――何よりも、私の事を遊撃隊隊長に任命してくれたお姉ちゃんの為にもね。

 

そして、骨の髄まで知ってもらうかな……隻腕の軍神に喧嘩を売ったら火傷じゃ済まない事になるって言う事を。

 

 

 

バトルロイヤル直後に厄介事が発生してくれたけど、此れは此れでちょっと楽しみかも。

 

私の実力に不満があるみたいだから、たっぷりと味わわせてあげるよ――私の、『西住みほ』の戦車道って言うモノを……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer74『遊撃隊長争奪戦……本気で行きます!』

それじゃあ、遊撃隊長の座を勝ち取って来ますByみほ      えっ楽軽いノリで行ったわね?Byエリカ     みほさんんに敵はありませんからね♪By小梅


Side:みほ

 

 

 

1年生によるバトルロイヤルは、私が率いるチームが勝利した訳だけど、其の後で火種が待ってるとは思わなかったよ。

 

遊撃隊の隊長に選出されたのは予想外だったけど、まさかお姉ちゃんの――黒森峰戦車道チームの隊長である『西住まほ』の決定に異を唱える人が居るとはね。

 

 

其れだけなら兎も角、遊撃隊長の座をかけて私に勝負を挑んで来るなんて……勿論、売られた喧嘩はキッチリ買う心算だけど、私とあの子が戦うかどうかは、全てはお姉ちゃんの判断にかかって来るから、私からは何も言えないんだけどね?

 

果たして、お姉ちゃんはどんな判断を下すのか……

 

 

 

 

「ふむ……良いだろう、不満を抱えたままでは、実戦でいい結果を出す事が出来る筈もないからな。

 

 では、3日後に西住みほと、時坂ヒカリによる、遊撃隊長決定戦を行う事とする。ルールは、二対二のフラッグ戦とし、試合に参加できるメンバーは、1年のみとする。

 

 チームメンバーと使用戦車は、各々で決めて貰う事になるが、無論志願するのもアリだ。遊撃隊長に相応しいのは何方か。そして、自分が力を貸したいと思う相手に、其の力を貸してやってくれ。」

 

 

 

 

で、決まったのは二対二のフラッグ戦……敢えてフラッグ戦にしたのは、そっちの方が殲滅戦ルールよりも戦術眼を計れるって判断したからなんだろうねきっと。

 

となると、3日後に向けて準備をしないとだよ。

 

使用戦車は兎も角、隊員は出来るだけ早く確保しないと、作戦を立てる事も出来ないからね――って、何してるのエリカさん?

 

 

 

 

「さて、みほの実力に盛大にいちゃもんをつけてくれた訳だけど、隊長の鶴の一声で決まりかけていた遊撃隊の隊長の座をみほに賭けさせるって言うのなら、当然貴女も相応の物を賭けるんでしょうね?」

 

 

 

 

ヒカリさんの方に向き直って、鋭い眼光で睨み付けながら『お前も何か賭けろ』って……迫力が凄すぎるよエリカさん!!

 

……喧嘩を売られた側としては、間違ってるのかも知れないけど、喧嘩を売って来たヒカリさんにちょっと同情しちゃうよ……今のエリカさんは、正に銀狼そのものと言っても過言じゃないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer74

 

『遊撃隊長争奪戦……本気で行きます!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな状態のエリカさんに睨まれたら、大概の人は縮み上がっちゃって何も言えないかも……それどころか最悪の場合は、失神した上で失禁して、拭い去れない黒歴史を刻んじゃうかもだよ。

 

 

 

 

「其れで、アナタは遊撃隊長の座に匹敵する何を賭ける心算なのかしら?」

 

 

「わ、私が負けたら……戦車道を止めるわ!!

 

 私が追い求めて来た道を全て捨てて、戦車道には一切関わらない事にする……対価としては充分でしょう?」

 

 

 

 

エリカさんに迫られたヒカリさんは、私に負けたら戦車道から身を引く事を遊撃隊長の座に対する対価として来たけど……悪いけど、其れは却下と言うしかないよヒカリさん。

 

私が就任予定だった遊撃隊長の座と、貴女の戦車道じゃ対価が見合わない……私に負けた位で、戦車道から身を引くなんて言うのは、あまりにも勿体ないからね。――其れは、口にはしないけどさ。

 

 

 

 

「却下ね。

 

 負けたら戦車道を辞める?……馬鹿言ってんじゃないわよ、このスットコドッコイが!!――そんな物が対価になると思ってるなら、アンタの脳味噌の構造を疑うわ本気で。

 

 地獄の振るい落とし期間を生き残ったんだから、アンタには相応の力があるってのは間違いないけど、だからこそ、其れが抜けたら僅かであっても、黒森峰の戦力がダウンする事になるのよ?

 

 其れとも、己の進退を賭ける事で、みほの優しい部分につけこんで勝利を譲ってもらう心算だったのかしら?」

 

 

「な、そんな筈が有るか!!」

 

 

「なら、己の進退以外の事を賭けるのね。

 

 そうねぇ……Amaz○n限定の、『ハイパーDXヌイグルミ ゴールデン天使ボコ』を賭けるってのは如何?みほが遊撃隊長の座を賭けるなら、此れ位の対価は用意すべきよ。」

 

 

「あ、其れは普通に欲しいかもだけど、流石に定価10万円は無理だと思うよ?」

 

 

「無理、買える訳ないでしょそんなの!!」

 

 

 

 

だよねぇ?スッゴク欲しいけど、此れを賭けるのは止めるとしようか?――と言うか私は別に、貴女に何か賭けて貰わなくていいよヒカリさん。

 

私が本当に遊撃隊長に相応しいのかって思ってる人は、きっと他にも居るだろうから、私はその疑念を払拭する為に戦うだけだから。……其れから、私を遊撃隊長に選んでくれたお姉ちゃん……もとい、隊長の選択は正しかったって証明する為にもね。

 

 

 

 

「む、何よ其れ?戦う前から、もう勝った気でいる訳!?うっわ、スッゴクムカつくんだけど其れ!!」

 

 

「そうは言ってないよ――無論、負ける気は更々ないけど。

 

 と言うか立場が逆だったら、貴女も負けられないんじゃないかなヒカリさん?……この勝負で負けるって事は、自分を遊撃隊長として推してくれた隊長の顔に泥を塗る事になる訳なんだから。」

 

 

私と貴女じゃ、負けて失うモノの重みがまるで違うんだよ。

 

貴方は負けても何も失わないかも知れないけど、私は負けたら決まりかけていた遊撃隊長の座だけじゃなく、隊長からの信頼だって失うかもしれない訳で、隊長からの信頼を失ったら機甲科での居場所もなくなるかもしれない……だから、絶対に負けられないんだよ。

 

 

 

 

「背負う物が違うって言いたいの?

 

 なら、尚の事私も遊撃隊長の座と等価となるモノを賭けないと不釣り合いよね?……良いわ、私が負けたら、貴女のチームの操縦士になって、戦車道の時は貴女の命令に絶対服従すると約束するわ。……序に、勝負の次の日から1週間、試合で貴女のチームに参加したメンバー全員の昼食を奢るわよ!

 

 こう言っちゃなんだけど、今は車長をやらせて貰ってるけど、小学校と中学校は操縦士だったから、操縦技術は悪くないと思うわよ?

 

 私が負けて失うモノは昼食代だけだけど、貴女は勝って得る物が増えたでしょう?……此れなら、悪くない条件だと思うけど如何かしら?」

 

 

「……うん、確かに悪くないね。」

 

 

今思い出したけど、時坂ヒカリさんは、去年の決勝戦で駅前で私のティーガーⅡとやり合ったティーガーⅠの操縦士だったね……確かに、私の十八番である障害物落としを回避したのは見事だったっかな?

 

まさか避けられるとは思ってなかったけど、物の見事に火の見櫓倒しを回避されちゃったからね?……確かに、私が勝った場合に貴女が失うモノは少ないけど、私が得るモノは大きい……OK、その条件飲んだよ!

 

お姉ちゃん……隊長も其れで良いですよね?

 

 

 

 

「うむ、当事者同士が其れで良いのならば、私は何も言わないよ――最終的に決めるのは当事者だからな。

 

 さて、此れにて本日の訓練は終了とする。各員、確りと体を休めて、明日に備えてくれ。……明日からも、厳しい練習は続くのだからな。」

 

 

 

 

最終的に決めるのは私達か……とは言え、負ける事が出来ないのは変わらないから、3日後の勝負への準備は確り行ってないとだよね。

 

 

 

 

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

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・・・

 

 

 

 

と言う訳で、今日の訓練は終わって、ただいま寮への道のりを歩いている真最中!――その途中で周囲から聞こえてくる会話は、3日後の私と光さんの勝負に関する事が多いね?

 

『どっちが勝つ?』『どっちを応援する?』なんて物から、『遊撃隊長に相応しいのってどっちって聞かれても難しい』『てか、隊長がそう決めたんだから、其れに従うのが筋なんじゃないの?』何て言うモノも聞こえて来る。

 

……中には『身体障害者が遊撃隊長ってのは如何なんだろう?』って言うモノも聞こえて来たけどね?

 

 

 

 

「まぁ、あんなのは無視するに限るわよみほ。

 

 多分アイツに悪意はなくて、純粋な疑問を口にしてるんだろうけど、其れが無自覚の差別だって事に気付いてない輩だからね?……だからアンドリューは唸らない、ロンメルは尻尾の先に炎宿すんじゃないわよ。」

 

 

「エリカさんの言う通りだよ、アンドリュー、ロンメル。私は別に気にしてないから。」

 

 

『ガウ。』

 

 

『コン。』

 

 

「ホントご主人様の言う事をよく聞くよね此の子達って?

 

 多分サーカスで調教された猛獣よりも言う事聞くんじゃない?……って、1週間経って普通にこの光景に慣れてしまった自分が恐ろしい。」

 

 

「慣れないと、精神的に疲れるから、慣れた方が良いんですよ直下さん。

 

 其れよりもみほさんは、3日後の試合は誰と組むか決めてあるんですか?」

 

 

 

 

自分のチームはもう決めてあるよ。今日のバトルロイヤルで一緒のチームになった人達に頼もうと思ってるんだ。

 

練度も個性もバラバラだったけど、今日のバトルロイヤルでそう言った物は把握できたし、バトルロイヤルを勝ち抜いたって事で、自信が付いたと思うからね。

 

だけど、もう1チームは如何しようか考え中なんだ。

 

 

 

 

「もう1チームが考え中なら、そのチームの車長は私じゃ駄目かしらみほ?

 

 大会で戦って、合宿では同じチームを組んだ事も有るから、貴女の命令を熟す自信はあるわ――私の力を使ってみない、みほ?」

 

 

「あ、抜け駆けはずるいですよエリカさん!

 

 私だって、みほさんのチームのもう1チームの戦車長に立候補します!」

 

 

「此れは、エリカと小梅による、みほ争奪戦!?みほの右腕の座を賭けての骨肉の争いか!?……いやぁ、モテモテだねぇみほは。」

 

 

「モテモテって言うのかな此れは?」

 

 

だけど、折角の申し出は有り難いんだけど、今度の試合では、エリカさんと小梅さんとは組む心算は無いんだ……非常に申し訳ないけれど!

 

 

 

 

「「何故!!?」」

 

 

「え~っと……ほら、エリカさんと小梅さんは、黒森峰の中等部で隊長と副隊長を務めてて、引き分けとは言え黒森峰中を王者に返り咲かせたって言う事で名が知られてるからかな?」

 

 

そんな2人と組んで勝っても、多分ヒカリさんは納得しないと思うんだよ。

 

言うなれば『強キャラ使って勝って、勝った気になるな』みたいな感じかな?……だから、今度の勝負に限っては、エリカさんと小梅さんは除外せざるを得ないんだよ。

 

 

 

 

「確かに、強キャラ使って勝っても実力とは言えないけれど……じゃあ、一体誰を誘う心算なの?

 

 こう言っちゃなんだけど、隊長が貴女を遊撃隊長に指名したのを、身内贔屓って感じてる奴も少なくないだろうから、メンバー集めは楽じゃないと思うわよ?」

 

 

「其れは大丈夫だよエリカさん。

 

 もう1チームの車長は、直下さんにお願いする心算だから――良いよね、直下さん?」

 

 

「うぇぇぇ?アタシか!?

 

 いや、普通にOKだけどアタシで良いのか?……と言うか、今の理論で言うと、アタシは強キャラじゃないって事か?……確かに、履帯が切れるからなぁ、アタシは……」

 

 

「いや、履帯と強さは関係ないからね?」

 

 

強さとかじゃなくて、直下さんはエリカさんや小梅さんと比べると、余り名は知られてないから『強キャラ使用』とは言われないと思ったんだよ。

 

だけど、直下さんは、ネームバリューは無くてもキッチリと仕事は熟してくれる人だから頼りになるのは間違いないって思ってるんだ――私や、エリカさん、小梅さんが派手なゴールを決める花形プレイヤーだとしたら、直下さんはそのゴールをアシストする黒子って感じかな。

 

そして、今度の試合では、その黒子の存在が必要なんだよ――ダメかな?

 

 

 

 

「な~る、そう言う事か。

 

 確かにエリカや小梅と比べたら、アタシには華がないかも知れないけど、黒子に徹するのは得意だからね?――OK、そう言う事なら目一杯頑張らせて貰うとするわ!

 

 ……ただ、履帯が切れるかも知れないから、その時は勘弁してね?」

 

 

「……履帯の呪いは、軍神の加護で何とかならないモノかな?」

 

 

「其れは可成り厳しいんじゃないかしら?」

 

 

「軍神の加護が『全ての状態異常をほぼ完全に防ぐ』で『状態異常防御力255%』だとしたら、直下さんの履帯の呪いは『発生率255%』なので、履帯が切れるかどうかは五分五分ッて言う所ですね。」

 

 

 

 

……多分大丈夫だって思っておくよ。

 

 

 

 

「ふふ、貴女の周りは、自然と賑やかになるみたいねみほちゃん?」

 

 

「ふぇ?天城さん!!」

 

 

「「「お、お疲れ様です天城先輩!」」」

 

 

「お疲れ様。……って、そんなに硬くならなくてもいいわよ~~?気軽に行きましょ、気軽にね。」

 

 

 

 

そうは言われましても、お姉ちゃんが『尊敬するに値する』って言った天城さんに声を掛けられたら、大抵の1年生は硬くなると思いますよ!?

 

私を含め、この面子は合宿で耐性が付いてたからアレですけどね!?

 

 

 

 

「其れは失礼。

 

 其れは其れとしても、今度の試合、頑張ってね?貴女なら、負ける事は無いと思うけれど、件の遊撃隊は、まほが黒森峰を改革する為に考えた事だから、絶対に成果をあげさせたいの。」

 

 

「「「「黒森峰の改革?」」」」

 

 

 

其れって何なんですか天城さん?

 

 

 

 

「黒森峰女学園は、去年で全国大会9連覇を達成した絶対王者となっているけど、その戦い方は圧倒的な戦力で相手を真正面から押し潰す蹂躙戦術で、そこそこの相手なら叩きのめせるけど、技が切れる相手には苦戦を強いられる物なの――実際に、去年は練習試合で継続とアンツィオには思わぬ苦戦を強いられたからね。

 

 その経験から、まほは黒森峰の押せ押せ戦術とは違う戦術が必要だと考えて、独立機動権をもつ遊撃隊の発足に踏み切ったのよ。

 

 そして、その遊撃隊の能力を120%発揮するには、貴女が遊撃隊長にならないとなのよみほちゃん。」

 

 

「お姉ちゃんは、其処まで考えてたんですね……」

 

 

「正に、剛と柔が融和した戦術って事ですよね此れは……」

 

 

「確かに、其れなら遊撃隊長はみほさん以外に有り得ないですね……みほさんの戦車道は、次の一手が読めない凄さがありますからね?」

 

 

「そう言う事なら、尚の事アタシは頑張らないとだわ!……3日後の勝負、勝ちに行くわよみほ!!」

 

 

 

 

勿論だよ直下さん!お姉ちゃんが、其処まで考えてた以上、私は絶対に遊撃隊長にならないとだからね!!――私は絶対に勝つよ!!!

 

 

 

 

――轟!!

 

 

 

 

「……此れが噂に聞いた軍神招来か……宿した力は、猛将『真田幸村』ね?」

 

 

「私には、幕末の英傑にして新撰組の一番人気の『土方歳三』が見えましたけど……」

 

 

「アタシには、三国志最強の『呂布奉先』が見えたぞ?」

 

 

「甘いわね天城さんも、小梅も直下も……私には、みほの背後に最上級能力を発動した上で、『神の進化』によって最上級のランクを得た、攻撃力∞の『真祖オベリスク』が見えたわ――みほは、神をも従える戦車乗りなのよ!!」

 

 

 

 

……戦国の英雄と幕末の英雄と三国志の英雄は兎も角、此処で神に至るってのは如何なのエリカさん!?……と言うか、神を従える戦車乗りって訳が分からないよ!!

 

 

 

 

「貴女の戦車道は神レベルって事よ!はい、説明終了!!」

 

 

「幾ら何でも説明が大雑把過ぎるよエリカさん!!」

 

 

でも、私の戦車道を『神レベル』って評価してくれた事は素直に嬉しいかな?……私は、まだ私の戦車道を見つけきってはいないけど、その欠片は掴んでるから、その状態の私の戦車道を高く評価してくれた事は嬉しいよ。

 

でも、其処までの評価を貰ってるなら尚の事負ける事は出来ないね!!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

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・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

で、あっという間に3日後です。

 

今日の訓練の最初に、私のチームとヒカリさんのチームによる、二対二のフラッグ戦が行われる事になってる……勝った方が遊撃隊長になる此の戦いは、お姉ちゃんを始めとして、色んな人が見てるから、少し緊張しちゃうかも……直下さんは大丈夫?緊張とかしてないかな?

 

 

 

 

「貴女と組むと言うだけで、緊張なんて宇宙の彼方のブラックホールまで吹っ飛んだわ……此の試合、屁のツッパリはいらんですよ!」

 

 

「なら、大丈夫だね。」

 

 

それじゃあ、確りバッチリ勝ちに行こうか!!――隊長、試合を開始してください!!

 

 

 

 

「其れでは、此れより西住みほチームと、時坂ヒカリチームの試合を始める。互いに、礼!」

 

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

 

さて、私の本気を確りと見て貰おうかなヒカリさん?……遊撃隊長の椅子に固執してる訳じゃないけど、勝つのは私だよ――たっぷりと味わってみてね、私の戦車道って言うモノを!!

 

 

其れじゃあ行くよ?Panzer Vor!!

 

 

 

 

『『『『『『『『『Jawohl!!』』』』』』』』』

 

 

 

 

手加減なし!本気で行くから、覚悟してねヒカリさん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

遊撃隊の隊長の座を賭けて始まった此の試合だが、先ずは始めに両チームのオーダーを見て行くとしよう。

 

 

 

・みほチーム

 

パンターG型×1(隊長車兼フラッグ車)

 

ヤークトパンター×1

 

 

 

・ヒカリチーム

 

ティーガーⅡ×1(隊長車兼フラッグ車)

 

ヤークトティーガー×1

 

 

 

 

何方のチームも、戦車1輌と自走砲が1輌と言う編成だが、みほの方が攻守速のバランスを考えた編成であるのに対して、ヒカリのチームは攻撃力と防御力を重視して、機動力を捨てた編成と言えるだろう。

 

とは言え、みほチームの戦車では、フラッグ車のティーガーⅡを撃破するには、可成り相手に近付く事が必要となるので、決定打を与える為には、相応の戦術が必要になるだろう。

 

 

無論、そんな事はみほには分かって居る。

 

だからこそ、試合開始直後に、みほのチームは2つに分かれて、直下のチームを藪の中に隠れさせたのだ……其処を敵が通るのを待って。

 

 

待ち伏せ作戦は有効だが、しかし危険も多い――もしも、読み違えたら待ち伏せが無駄になっただけでなく、其処から手痛いカウンターを喰らう事だってあるのだから。

 

 

だが、みほはそんな愚を犯す戦車乗りではない。

 

 

 

「相手チームは予想通り、ポイントA-1に移動したみたいなので、やっちゃってください直下さん!!」

 

 

『りょーかい!!』

 

 

 

一方のみほは、試合開始直後に高台に移動すると、其処から戦場を見渡して、ヒカリチームの動きを逐一観察していたのだ――そして、直下のヤークトパンターが潜んでいる地点にヒカリチームが差し掛かった事を確認すると、即時攻撃命令を下し、直下も其れに応える。

 

 

 

「藪の中から……ヤークトパンターか!!」

 

 

 

その強襲には驚いたヒカリだが、ヤークトパンターの主砲では、ティーガーⅡとヤークトティーガーの正面装甲を抜くのは難しいと考えたらしく、『相手の戦力を削いだ方が良い』と思い至り、フラッグ車よりも先に、ヤークトパンターをターゲットにする。

 

如何にヤークトパンターが、最強クラスの駆逐戦車であっても、ティーガーⅡとヤークトティーガーの攻撃を真面に受けたら一溜りもない――にも関わらず、ヤークトパンターの車長である直下は余裕綽々の表情だ。

 

 

 

「何を笑ってるんだ?……敗北を前にして、気でも触れたって訳?」

 

 

「気が触れた?……馬鹿言ってんじゃないよ――アタシは、勝利を確信しただけだ――出番だよ、隊長!!」

 

 

「此処から一気に決めます!!」

 

 

 

その直下の余裕に応える様に、ヒカリチームの背後からみほのパンターが出現……と言うよりも、小高い丘をジャンプ台にして空を飛んでの驚愕の登場だ!!

 

其れだけでも驚きだが、みほのパンターはヤークトティーガーに着地し、それと同時にヤークトティーガーからは、戦闘不能を現す白旗が上がり、先ずは先手を取った形だ。

 

 

否、先手ではなく、此れはフィニッシュへの一手に過ぎない。

 

 

 

「直下さん、狙って下さい!!」

 

 

「了解!喰らえ、掟破りのトラップカード『逆履帯の呪い』!!」

 

 

 

ヤークトティーガーから降りたみほは、直ぐに直下に指示を飛ばして、ヒカリの乗るティーガーⅡの履帯を切る!履帯が切れる直下が、相手の履帯を切ったのだ!……此れは、精神的にも来るだろう。

 

が、此の一手は有効だ。

 

 

ティーガーⅡは、攻防力は間違いなく最強クラスだが、機動力は最低クラスであり、そんな戦車の履帯が切れたとあっては、其れはもう『頑丈な的』でしかない。

 

 

 

「そんな……此れが、隻腕の軍神の力だって言うの!?……桁違い何て言うモノじゃない、格が違ったわね此れは……!」

 

 

 

攻撃能力は残ってるとは言え、機動力に長ける2匹の鋼鉄の豹を、機動力を失った鋼鉄の虎の王が捕らえる事は難しい。と言うよりも、先ず不可能だろう。

 

 

 

「此れで終わりです!!」

 

 

「打っ飛べやこらぁ!!」

 

 

 

動く事の出来なくなったティーガーⅡを相手に、みほと直下は機動力を駆使して背後に回り込み、ティーガーⅡの最大の弱点である後部装甲

 

とターレットリングに砲撃を叩き込む!!

 

 

 

――キュポン!

 

 

 

『ヒカリチーム、フラッグ車行動不能。よって此の試合、みほチームの勝利。』

 

 

 

その攻撃は覿面で、ヒカリの乗るティーガーⅡは沈黙し、撃破された証である白旗が上がっている――遊撃隊長の座を賭けた戦いは、みほがヒカリの事を圧倒して、完封勝利したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

と言う訳で、試合は私の勝ちです。なので、遊撃隊長は、私に決定って事で良いんですよね西住隊長?

 

 

 

 

「うむ、此の試合の結果を持ってして、遊撃隊の隊長は西住みほに決まった。――異論はないな?……尤も、有った所でこの決定が覆る事など、有りはしないがな。」

 

 

「みほは実力を示したからね……此れなら、文句はないでしょう?」

 

 

 

 

うん、私が遊撃隊の隊長だね!――精一杯頑張るよ!!

 

で、問題は私に負けちゃったヒカリさんなんだけど……え~~っと、頭抱えちゃって大丈夫?……流石に、ヤークトティーガーを戦車ボディプレスで潰した後での履帯切りから、集中砲火はやり過ぎたかなぁ?……え~っと、生きてるかなヒカリさん?

 

 

 

 

――グワバァ!!

 

 

 

 

!?……い、行き成り私の手を掴んで、如何したのヒカリさん!?ちょ、ちょっと怖いんだけどこれは!?

 

 

 

 

「負けた……完膚なきまでに負けた、其れは認めるわ。

 

 ぶっちゃけて言うと、去年の中学全国大会の時よりも強くなってる……確かに、遊撃隊の隊長は、貴女以外には有り得ないって実感したわ。

 

 だから……私は、今この時より、貴女に絶対の忠誠を誓うわ妹様!!」

 

 

「忠誠!?」

 

 

「てか、妹様って呼び名は如何なのよ?」

 

 

「普通にみほさん……忠誠を誓ったのなら、みほ様とでも呼べばいいんじゃないですかねぇ?」

 

 

「まさかこうなるとは、流石に予想できなかったわ……正にどんでん返しの驚天動地だっての!!……マッタク持って予想外だったわ。」

 

 

 

 

だよねぇ?……まぁ、取り敢えず実害はないだろうから、此のままで行こうか?

 

まさか、遊撃隊長の座を賭けた戦いで、勝利報酬として思わぬ物を手にするとは思ってなかったからね……でも、ヒカリさんの操縦技術は、つぼみさんには劣るけど一流レベルだから、仲間なら頼もしい事この上ないから大歓迎かな。

 

 

何にしても、遊撃隊長の任、確りと務めさせて貰うよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued…

 

 



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Panzer75『日曜日はまったり行きましょうです』

日曜日位は、まったりゆったりとね?Byみほ      日曜日位はね~~Byエリカ     思いっきりリラックスしていきましょう~~By小梅


Side:まほ

 

 

 

遊撃隊の隊長の座を賭けた戦いは、見事にみほが完勝した訳だが、まさかみほに喧嘩を売ったあの子が、敗北した直後にみほに忠誠を誓うとは思って居なかったよ……まぁ、アイツは中学時代は操縦士として名を馳せていたから、みほのチームの一員としては申し分ないがな。

 

とは言え、あの手のタイプは一度懐くと結構面倒だから、無理はするなよみほ?

 

 

 

 

「あはは……其処はまぁ上手くやるよ?

 

 ヒカリさんの操縦技術はつぼみさんには若干劣るけど、黒森峰の1軍になるには申し分ないレベルだからね……私にとっては、嬉しい事この上ないかな?」

 

 

「……みほがそう思うなら其れで良いさ。私から言う事は何もない。」

 

 

が、遊撃隊の編成についてはお前の意見を聞いておきたいな。

 

新編成される遊撃隊は3~5輌の小隊で構成する心算なんだが、その編成にはお前の意見も聞いておきたいんだ……遊撃隊の隊長であるお前にな。

 

 

 

 

「車輌数は、試合に合わせて変えるのが良いと思うよ?全国大会の1~2回戦は3輌、準決勝と決勝は5輌って具合に。」

 

 

「ふむ、妥当な所だな。必ず入れておきたいメンバーは居るか?」

 

 

「隊長は私だけど、副隊長にはエリカさんを推薦するよ――其れから、小梅さんと直下さんは確定かな?

 

 其れから使用戦車は、パンター3輌、ティーガーⅠ1輌、ヤークトパンター1輌が理想かな?私と小梅さんがパンターで、エリカさんがティーガーⅠ、直下さんがヤークトパンターって言う感じで考えてるんだけど、如何かなお姉ちゃん?」

 

 

「使用戦車及びそれぞれの車長は、其れで良いと思う。」

 

 

みほと小梅みたいなタイプは、攻守速を高い水準で備えたバランス型の中戦車で力を発揮するから、その中でも最強と名高いパンターならばより力を発揮できるだろう。

 

逆にエリカのようなタイプは、多少機動力を犠牲にしても高い攻防力を誇る戦車でこそ、其の力を発揮できるからな?

 

そして、直下もまた、回転砲塔のない突撃砲や自走砲の車長の方が己の力を発揮できるようだからね……遊撃隊は、とても個性的で強力な部隊になるのは間違いなさそうだな――取り敢えず、車長の決まってないパンターのメンバーは、私が選抜しておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer75

 

『日曜日はまったり行きましょうです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

遊撃隊の編成が終わった翌日の日曜日。今日は練習もお休みで、機甲科の生徒も全面的にオフの日。

 

オフの日は、言うなれば『体をゆっくり休めなさい』って言う事だから、この日だけは日課である早朝のランニングもお休みだね――万全のコンディションを維持する為に設定された休養日にトレーニングをするのは本末転倒だからね。

 

まぁ、趣味でのランニングや水泳はその限りじゃないのかも知れないけど。

 

 

「でも、それとは別に、幾ら日曜だからって、ちょっと寝過ぎじゃないかな?……おーい、起きて下さいエリカさん、小梅さん?」

 

 

「あと5分だけ………今日は日曜だから、もう少しだけ……」

 

 

「睡魔が……睡魔が私を襲っているんです……起きる事なんで出来ません……あぁ、待って下さい羊さん……」

 

 

 

 

……ある意味で、予想通りだったけど、まさか此処までとは思っても居なかったよ……って言うか、小梅さんはどんな夢を見てるんだろう?

 

此れは、普通に声をかけても起きないよねぇ?アンドリューの咆哮って手もあるけど、其れは他の部屋の迷惑になるし……仕方ないね、かくなる上は……切り札を切らせて貰うよ!!!

 

 

「エリカ、小梅!日曜だからと言って何時まで寝ているんだ!少したるんでいるぞ!!」

 

 

「隊長!?すみません!!」

 

 

「す、直ぐ着替えます……って、アレ?」

 

 

「目が覚めましたか、エリカさん、小梅さん?」

 

 

「~~~~!今のって、若しかしなくても貴女がやったのみほ?」

 

 

「恐ろしい程、隊長に似てましたよ?」

 

 

 

 

そりゃあ、姉妹だからね?多分だけど、お姉ちゃんだって私の声真似位は出来ると思うよ?……但し、お姉ちゃんが私の真似をしたら高確率で、周りの人が引くと思うけれど。

 

其れよりも、もう8時だから起きよう?幾ら日曜日で、戦車道の練習もお休みだからってだらけるのは良くないと思うよ?

 

何よりも、早く行かないと寮の食堂も朝定食終わっちゃうから。

 

 

 

 

「どうせなら、偶には作って食べない?今日は、1日オフだからゆっくりのんびり朝ごはんってのも悪くないでしょ?」

 

 

「そうですねぇ?折角なので、ご飯と焼き魚とお味噌汁と納豆で行きましょう。

 

 寮の食堂の食事は確かに美味しいんですけど、ドイツ料理が基本なので、中々和食な朝ごはんは食べる事が出来ませんから。」

 

 

「良いね、其れじゃあそれで行こうか♪」

 

 

幾ら黒森峰がドイツをモチーフにした学園艦だからって、食事までドイツにする事は無いと思うんだけどなぁ?……まぁ、学食にはドイツ料理以外のメニューもあるし、学園艦の市街地には普通にファーストフード店に牛丼屋、ラーメン屋さんに○亀製麺(伏字意味なし)もあるから、朝食以外ではドイツ料理も食べられるんだけどね。

 

でも、純和食の朝ごはんは久しぶりだから、とっても楽しみだよ!――と言う訳で、2人ともさっさと着替えちゃって?

 

2人が朝ごはんの準備してる間に、私は洗濯とかしちゃうから。……どうせ、私にはご飯の準備手伝わせてくれないだろうし……

 

 

 

 

「いや、そりゃ手伝わせる筈ないでしょう!?

 

 右腕一本でも料理は出来るって言うから手伝って貰ったら、何処の世界に食材に包丁を噛ませた上でまな板に叩きつけて切る奴が居るのよ!正直言って、滅茶苦茶怖かったのよあれ!?」

 

 

「え~~?菊代さんは『お見事ですみほお嬢様』って褒めてくれたのに?」

 

 

「こう言っては失礼ですけど、其れって家政婦としての建前だったんじゃないでしょうか?……そうじゃなかったら、菊代さんの感覚を疑いますよ流石に……」

 

 

「あ~~……菊代さんは、落ち着いて頼りになる人だけど、ちょっとぶっ飛んでる所があるかも?

 

 何と言っても、現役時代はお母さんの右腕として活躍してたって話だからねぇ?……其れだけの人が、普通である筈がない絶対に!!」

 

 

「「凄く納得!!」」

 

 

 

 

でしょ?まぁ、確かに自分でもあの方法は如何かと思うし、危険が危ないから、料理の方はエリカさんと小梅さんにお願いするよ。

 

その代わりに、私は洗濯したり、掃除機かけたりしちゃうから。

 

 

 

 

「お願いするわ。」

 

 

「朝ごはんは期待してくださいねみほさん♪」

 

 

「うん、期待してるよ♪」

 

 

さてと先ずは洗濯だね。

 

黒森峰の寮は、共同洗濯場じゃなくて、夫々の部屋に全自動のドラム式洗濯機が備え付けられてるから、私がやる事と言えば洗濯物を放り込んで、洗剤を入れてスイッチを入れるだけ。

 

そうすれば、水は自動で注入されて洗濯が始まって、後は濯ぎと脱水に乾燥までやってくれるから、私がやるのは此処まで。

 

掃除機も、使い易いバッテリータイプのコードレスタイプだから、片手でも使える上に、軽くて楽々お掃除が出来るから苦労は無いからね~♪

 

 

掃除洗濯、全て熟しても15分でお終い!

 

エリカさん、小梅さん、そっちは如何かな?

 

 

 

 

「味噌汁は出来たから、後はご飯が炊けて、魚が焼ければ出来上がりよ。大体、あと5分て言う所ね。」

 

 

「所でみほさん、納豆にはネギは入れますけど、その他のトッピングは海苔と卵と鰹節のドレにします?」

 

 

「甲乙つけがたいので全部乗せで。それから辛子も。あと、付属のタレじゃなくて醤油で。」

 

 

「安心しなさい、冷蔵庫にストックしてあるのは、タレ無しの納豆だから。」

 

 

「其れを聞いて安心したよエリカさん。」

 

 

人によっては、タレ付きの方が良いんだろうけど、私的には付属のタレは甘みがあるからあんまり好きじゃないんだよね?

 

お姉ちゃんは、醤油よりも付属のタレの方が好きみたいだけどね。……因みに、お母さんは辛子と塩だったなぁ。

 

 

なんて事を話してる内に、ご飯が炊きあがって、そして魚も焼けて、久しぶりの和食の朝食の出来上がり!

 

ホカホカのご飯に、ワカメと豆腐となめこのお味噌汁、脂が乗っていて如何にも美味しそうな鮭のハラスの塩焼きに納豆……凄く食欲をそそられるよ!それじゃあ……

 

 

 

「「「いただきまーす!」」」

 

 

 

ん~~~~、美味しい!やっぱり朝ごはんは和食が良いね~~~♪

 

御飯もふっくらしてるし、お味噌汁も出汁がよく出てるし、鮭の焼き加減も抜群だし、納豆もトッピング全部乗せは最高!そして、毎度の事だけ

 

ど、右腕一本でも食べられるように配慮してくれてるエリカさんと小梅さんに感謝だよ。

 

 

 

 

「普段の生活面でのサポート位は当然ですよみほさん。

 

 所で、昨日の練習後は隊長に呼ばれていたみたいですけど如何かしたんですか?聞こうと思ってたんですけれど、昨日は聞きそびれてしまったので……」

 

 

「えっとね、遊撃隊の事に付いて話してたんだよ。

 

 遊撃隊で使う戦車は如何するとか、メンバーは如何するとかをね。」

 

 

「あ~~~……成程、其れは確かに大事よね?

 

 今年からの運用になる新設部隊の編成となれば、隊長と遊撃隊長で行った方が良いもの――其れで、どんな具合に纏まったのかしら、貴女が隊長を務める遊撃隊は?」

 

 

 

 

使用戦車は、パンターが3輌、ティーガーⅠとヤークトパンターが1輌ずつの計5輌だけど、大会では1~2回戦は5輌全部じゃなくて、3両編成の遊撃隊になるかな?

 

で、メンバーだけど、エリカさんと小梅さんと直下さんは車長確定で、夫々の戦車の搭乗員も確定してるから。

 

 

 

 

「私と小梅と直下が遊撃隊に……光栄よみほ!その期待には、応えてあげるわ!」

 

 

「私も、精一杯務めさせて頂きますね。」

 

 

「よろしくお願いします♪あ、其れからエリカさんは、遊撃隊の副隊長だから、その辺もよろしく~~♪」

 

 

「私が副隊長ですってぇ!?……中々の大役だけど、上等じゃない!

 

 中学の頃、隊長の副官を務めてたのは伊達じゃないってのを見せてあげるわよ!」

 

 

「期待してるよエリカさん。……で、小梅さんは何してるの?

 

 ご飯の最中にスマホを弄るのは、あんまり行儀が良いとは言えないと思うんだけどなぁ?」

 

 

「其れは承知してますけど、直下さんに遊撃隊のメンバーに選出されたって事を伝えておいた方が良いと思いまして。」

 

 

 

 

其れは確かに大切な事かもしれないけど……何だろう、何か凄く嫌な予感と言うか、何かが起きる予感しかしないんだけど――

 

 

 

 

「アタシが遊撃隊のメンバーだとぉぉぉぉ!!」

 

 

「……やっぱり来ちゃったね直下さん。」

 

 

「朝っぱらからテンション高いわねぇ?」

 

 

「と言うか、直下さんの部屋はロビーに一番近い所で、此の部屋は廊下の一番奥なんですけど、メール送ってから僅か2秒で来ましたよ?」

 

 

「其れだけ意外だったのかな?」

 

 

「意外も意外に決まってるでしょうみほ!本当に、アタシが遊撃隊のメンバーで良いの!?」

 

 

 

 

勿論。私自身が、直下さんを推した訳だからね。

 

この前の、ヒカリさんとの遊撃隊長の座を賭けた試合でも、直下さんは役目を果たしてくれたから――何よりも、ヤークトパンターを部隊に組み込むなら、直下さんの力は絶対に必要になるから。

 

 

 

 

「嬉しい事言ってくれるねぇ?なら、その期待に応えられるように、精一杯頑張るとしますか!

 

 何よりも、みほと一緒なら履帯が切れる事も無さそうだからね?……アタシの履帯の呪いを無効化するとか、軍神の加護はハンパないわ。」

 

 

「直下に掛かってる履帯の呪いを無効にするとは、流石はみほね。」

 

 

「凄いですみほさん。」

 

 

「其れって私の力なのかな?」

 

 

「間違いなくみほの力だわぁ……と言うか、この前の試合もそうだけど、履帯が切れない所か、逆に相手の履帯切ってやった訳だしさ。

 

 ……時に、上手そうな朝飯だね?……悪いけど、アタシにも貰えるかな?未だ朝飯食べてないんだわ。」

 

 

 

 

其れ位は、別に良いよね、エリカさん、小梅さん?

 

 

 

 

「構わないけど、焼き魚は3人分しかないから、アンタは飯と味噌汁と納豆よ?其れでも良いなら分けてあげるけど。」

 

 

「其れでも構わねーわ。朝飯抜くと可成りキッツいからね~~……幾ら練習がないとは言え、1日2食って言うのは厳しいわ。」

 

 

「食は身体の基本だからね?ちゃんと食べないとダメだよ。」

 

 

「分かってるって。飯と味噌汁と納豆が有れば、充分だよ。いっただきまーす!!」

 

 

 

 

なはは……期せずして、私が遊撃隊のメンバーとして選出した戦車長が全員揃ったね?なら、今日は此のメンバーで街に繰り出そうか?

 

戦車道に於いて大事なのは、己の乗る戦車に於ける各ポジションの連携と、各車長の連携だからね――一緒に過ごす事で、絆が深まれば、車長同士の連携も巧く行くと思うから。

 

 

 

 

「何を馬鹿な……って言いたい所だけど、貴女がそう言うなら、きっとそうなんでしょうね。――貴女以外の人が提案したら、一蹴してるけど。」

 

 

「エリカさん、其れは如何なんでしょうか?」

 

 

「いや、間違ってるようで間違ってないでしょ此れは?

 

 そんじょそこらの一般ピープルが提案したのなら陳腐な戯言で終わる事でも、みほが言えば説得力があるからね~?此れが、カリスマ性ってやつなんじゃない?」

 

 

「成程、言われてみればそうですね。みほさんには、隊長とは違ったカリスマ性がありますから。」

 

 

 

 

……カリスマ性って、私にはお姉ちゃん程のカリスマ性はないと思うんだけどなぁ?自分で言うのもなんだけど、やっぱり片腕って言うのは偏見を受けやすいからね。

 

 

 

 

「甘いわよみほ!

 

 貴女の場合は、その片腕がステータスなのよ!パンツァージャケットの左袖を風になびかせながらキューポラから身を乗り出して指示を飛ばす戦車長の姿はとってもカッコいいのよ!

 

 本人に言うのはどうかと思うけど、試合中の貴女の姿を収めた写真が、ネットオークションで結構良い値で取引されたりするのよ!!」

 

 

「はい!?其れってマジですかエリカさん!?」

 

 

「本気と書いてマジよみほ。

 

 Yaho○(再び伏字意味なし)オークションだと、去年の決勝戦での、超集中状態にある貴女の写真には最終落札価格50万が付いてたわ。

 

 因みに、私の超集中状態の写真は、最終落札価格40万だったわ。」

 

 

 

 

まさか、そんな事になってるとは思わなかったよ……と言うか、其れって普通に肖像権の侵害に当たるよね?別に訴える気はないけどさ。

 

でも、其れだけ注目されてるなら、遊撃隊長として確りと結果を残さないとだよ。

 

 

取り敢えず、今日は一日遊び倒そうね?

 

 

 

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

 

さて、楽しい日曜日の始まりだよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

と言う訳で、街に繰り出した訳だけど、黒森峰の学園艦は、娯楽施設があまり無いのが難点かも知れないわね?……一応映画館とゲームセンターとボーリング場とカラオケボックスはあるけど、女子高生が楽しむには圧倒的にレジャー施設不足だわ此れ。

 

まぁ、今日は運よく中央体育館で、プロレスの興業があったから、其れで時間を潰す事は出来たけどね。――みほと小梅が、プロレス好きだったのは意外だったけど。

 

 

で、今は何をしてるかと言うと、カラオケボックスでカラオケ三昧ね。

 

全国ランキング参加でやってるから、全員が可成り気合入って歌ってるわ――今歌ってる小梅も、中々の歌唱力だからね。

 

 

 

 

「何時か君を悲しませるもの、全てが嘘でありますように…如何か優しさに追われない様に、全てが嘘でありますように……」

 

 

 

 

見事に歌いきった『All is a lia』の得点は……本日の最高得点である94点ですってぇ!?やるわね小梅……こう言っちゃなんだけど、貴女は

 

将来的には歌手としてもやって行けるんじゃないかって思うわ。

 

 

 

 

「お褒めに預かり光栄です♪

 

 でも、多分次のみほさんは、私の得点を軽々超えて来ると思いますよ……みほさん、やる気ですからね。」

 

 

 

 

――轟!!

 

 

 

 

……やる気があるってのは良い事だと思うけど、高々カラオケで、黄金のオーラを纏うのは如何なのみほ?カラオケ如きで超サイ○人状態に

 

なる事も無いでしょうに。

 

 

まぁ、逆に言うなら、その状態の貴女の歌は期待出来るけどね。

 

さて、貴女は何を歌ってくれるのかしらみほ?

 

 

 

 

「其れじゃあ聞いてください……Don't wanna cry

 

 ふぅ……La la la…いつの日か I'll be there...

 

 I've gotta find a way、so let me go Because baby I don't wanna cry

 

 I've gotta find a way、so let me go Because baby I don't wanna cry

 

 そうやって待っていても無駄だってみんなわかってるけどね

 

 じゃあ何で待っているのかって聞かれた時に気がついた

 

 殴り合う事じゃなくて傷つけられたくない

 

 うずくまってガマンしてるのって痛そうで つらそうで 後がない

 

 今日が終わるたび胸をなで下ろすなんてやめよう?あきらめること許したらHELLO だって言えなくなるから

 

 どこへでもつづく道があるいつの日か I'll be there…I've gotta find a way、so let me go

 

 急いだってしょうがないけどBecause baby I don't wanna cry止まっているヒマはない

 

 I've gotta find a way、so let me go行くんだってばもうBecause baby I don't wanna cry

 

 

 いろんな顔と心って世界中に溢れてるね?

 

 敵味方に分かれ、殺し合いをしているね……そういう事でしかたしかめあう事ができなくって愛しい人、大切な何もかも守れなくなるよ?

 

 I've gotta find a way、so let me go.

 

 やめちゃえばいいのにね。

 

 Because baby I don't wanna cry

 

 ツライ・イタイ事なんか

 

 

 La la la…

 

 いつまでも I'll be there...

 

 遠くても 地図にない場所も行けるから I'll be there…La la…」

 

 

 

 

此れは、平成の歌姫である安室奈○恵のヒットナンバーですって!?……此れをチョイスした事にも驚きだけど、それ以上にみほの歌唱力に脱帽だわ此れは!!

 

だって、全国ランキングでは、ぶっちぎりの99点をマークしてトップになった訳だからね?……こんな事を言うのは如何かと思うけど、みほは、多分アイドル歌手としてデビューしても売れっ子になったでしょうね。

 

 

 

その後、アタシも『Seize the day』を熱唱したけど、得点は97点で、みほには及ばなかったわね……本当に多芸だわみほは。

 

まぁ、その多芸さは、仲間であるうちはとても頼もしい物だけどね。

 

だけど、貴女の力はこんな物じゃない……その力の本気が解放されたらどれだけのか、考えるだけでもドキドキして来るわ――まぁ、貴女なら

 

力に溺れる事はないでしょうから安心だけれどね――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

そんな訳で、週明けの月曜日。

 

今日も今日とて、戦車道の訓練が終わった訳だけど、今日は此れで終わりじゃないんだよね?……お姉ちゃんは、今日遊撃隊のメンバーを発表するって言っていたからね、

 

 

 

 

「今日もご苦労だった諸君。

 

 さて、訓練後で悪いが、此処で新設された遊撃隊のメンバーを発表しようと思う――先ずは遊撃隊での使用戦車だがパンターG型が3輌にティーガーⅠとヤークトパンターが1輌ずつの編成とする。

 

 続いて遊撃隊のメンバーだが隊長は西住みほが務める。此れは既に決定している事なので変更はない。

 

 残るメンバーだが……其れは、遊撃隊隊長であるみほから発表して貰おうか?」

 

 

「はい!?」

 

 

「如何した?」

 

 

 

 

いや、如何したじゃなくて、行き成りすぎると言うか、私に発表させるならあらかじめ言っておいて欲しいと言いますか……余りにも突然すぎると思うんですが、その辺如何なんでしょうか隊長?

 

 

 

 

「此処は矢張り遊撃隊の隊長が直々に発表すべきだと思っただけだ。

 

 何、安心しろメンバーは全員このメモに書いてあるから大丈夫だ。――其れに、遊撃隊のメンバーを発表するだけならば大した事でもないだろう?」

 

 

「大した事じゃないって事と、行き成りだって言う事は別だと思います……」

 

 

まぁ、やれと言われた以上はやるけどさ。

 

其れでは改めて、遊撃隊のメンバーを発表します。

 

遊撃隊の隊長車は、パンターG型の217号車。車長は私、西住みほが務めます。続いて隊長車の操縦士に時坂ヒカリさん。

 

 

 

 

「はい!」

 

 

「砲撃手に草薙京子さん。」

 

 

「はい。」

 

 

「装填士に八神伊織さん。」

 

 

「任せて。」

 

 

「通信士に神楽衛さん。」

 

 

「了解。」

 

 

 

 

ヒカリさん以外は、バトルロイヤルで一緒だった子達だから、とってもやりやすい感じだよ♪

 

次に、遊撃隊の副隊長ですが、此れは逸見エリカさんにお願いしようと思います――って言っても、既に伝えてあるから大丈夫だよね。

 

 

 

 

「任せて貰っていいわよ隊長。確りと副官の任を務めさせて貰うわ。」

 

 

「お願いします。

 

 副隊長車はティーガーⅠ。車長は逸見エリカさんで、操縦士は美神佳苗さん。砲撃手は藤原可津美さん。装填士は原忍さん。通信士は尾上雪乃さん。」

 

 

「「「「了解!」」」」

 

 

 

 

パンターG型222号車は、車長兼通信士に赤星小梅さん。

 

 

 

 

「任されました。」

 

 

「操縦士に中村千恵さん。砲撃手に山元宇蘭さん。装填士に山元心春さん。」

 

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 

砲撃手の宇蘭さんと装填士の心春さんは双子だから、息の有ったコンビネーションが期待出来るね。

 

続いてパンターG型256号車のメンバーを発表して……最後にヤークトパンターのメンバーを発表します。

 

 

 

 

「「「「何か、ザックリ端折られたくさい!?」」」」

 

 

「気のせいです♪

 

 ヤークトパンターの車長兼通信士に、直下理子さん。」

 

 

「OK!任せなさい。」

 

 

「操縦士に川上瑞穂さん。砲撃手にルナマリア・H・大和さん。装填士に牧みぞれさん。」

 

 

「「はい!」」

 

 

「Jawohl.」

 

 

 

 

以上で、遊撃隊のメンバーの発表を終わります。新説の部隊ですが、頑張って行きましょう!!

 

――それじゃあ、後はお願いします隊長。

 

 

 

 

「ご苦労だったみほ。此れにて、遊撃隊の編成は終了とする。

 

 そして、其れとは別に、来週に練習試合を組んだ。――相手は継続高校だ。取り立てて強力な相手ではないが、黒森峰が伝統として来たドクトリンが通じにくい相手でもある……だからと言って負ける心算は無い。

 

 我等黒森峰は絶対王者――誰が相手でも叩きのめすだけだからな!!皆もその心算で、試合に臨んでくれ!!」

 

 

 

 

って、練習試合!?

 

大会前の練習試合って言うのは組むのも大変なのに、その練習試合の相手が継続高校とは、相手にとって不足はないって言う所かな?

 

遊撃隊の初陣になるけど、此の初陣で、遊撃隊の有用さを示す事が出来るかも知れないね?……なら、手加減なしの全力全壊で行かせて貰うよ!!

 

 

全国大会の前哨戦となる練習試合――しかも相手は、ミカさんのいる継続高校!此れは、楽しい試合が出来そうだね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 




キャラクター補足




八神伊織

みほが率いる遊撃隊の隊長車の装填士。

髪の毛が赤かったり、目付きが鋭かったりと色々と謎が多い生徒だが、装填速度に関しては、現時点での女子高生最強レベル。



草薙京子

みほが率いる遊撃隊隊長車の砲撃手。

針の穴をも射貫く、その砲撃の能力は一級品である。



神楽衛

みほが率いる遊撃隊隊長車の通信士。

コミュニケーション能力に長け、どんな相手ともざっくばらんに話す事が出来る。



美神佳苗

エリカのティーガーⅠの操縦士。

普段の生活態度はテキトーだが、戦車に乗っている時は別人のような集中力を発揮する。



藤原可津美

エリカのティーガーⅠの砲撃手。

自称視力5.0と豪語し、1km先にある30㎝四方の紙に書かれた『C』の文字がどの方向を向いているのか判別できる。



原忍

エリカのティーガーⅠの装填士。

可成り寡黙な性格で、人と話す時でも必要な事を要点だけ言って終わらせてしまうが、何故か其れでコミュニケーションが取れている。



尾上雪乃

エリカのティーガーⅠの通信士。

聞くと話すを同時にこなす事が出来る特技を持ち、其れを生かして伝えられた指示を略タイムラグなしで他の車輌に伝える事が出来る。



中村千恵

小梅のパンターの操縦士。

操縦士の腕を買われて黒森峰にスカウトされた事も有り、その能力は一級品。



山元宇蘭

小梅のパンターの砲撃手で、装填士を務める山元心春の双子の姉。

落ち着いた性格で、物事を的確に確実に熟す事を得意とする。



山元心春

小梅のパンターの装填士で、砲撃手を務める山元宇蘭の双子の妹。

姉と比べると天真爛漫で明るく、勢いに任せて一気に物事に当たるのを得意とする。



川上瑞穂

直下のヤークトパンターの操縦士。

自身はどのポジションでも熟せるが、操縦士が一番得意と言う事で高校からは操縦士に専念している。



ルナマリア・H・大和

直下のヤークトパンターの砲撃手。

ドイツ系のハーフで、日本語とドイツ語が入り混じった、みょうちくりんな話し方をするのが特徴。



牧みぞれ

直下のヤークトパンターの装填士。

小柄だが、まるで女性ボディビルダーの様な体つきをしており、ベンチプレス200kgの記録を持っている。



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Panzer76『練習試合前の作戦会議です!』

作戦会議は重要です!!Byみほ      そうね……其れで全てが決まると言っても過言じゃないからね?Byエリカ     大事ですね、作戦はBy小梅


 

Side:エリカ

 

 

 

継続高校との練習試合を3日後に控えた本日の練習は、隊長チームと副隊長チームに分かれての紅白戦で、みほ率いる遊撃隊のメンバー全員が隊長チームである紅組に組み込まれた訳だけど……流石にこの試合結果は予想してたとは言え凄まじいわ。

 

 

 

 

『白組フラッグ車行動不能。よって、紅組の勝利!』

 

 

 

 

隊長の指揮が見事だったのは当然だけど、それ以上に此の試合では、みほ率いる遊撃隊がその力を十二分に発揮したと言っても過言じゃなかったわよ!

 

同じ中学だったって事を加味しても、隊長が認めた副隊長である凛さんを、あそこまで完璧に抑え込むとは思って居なかったわ……それ以上に見事だったのは、『フラッグ車を確実に撃破する』事に重点を置いた戦術ね。

 

黒森峰は、真正面からの蹂躙戦術を得意としてるから、フラッグ戦であっても、相手の戦車チームを全滅させてしまう事が多くて、其れが批判の対象となる事も少なくないんだけど、みほの戦い方はそうじゃない。

 

 

副隊長の乗るフラッグ車の動きを予測した上で、其れを誘導するような攻撃を仕掛けて、最後は隊長の前に誘き出した訳だからね?

 

校内の紅白戦とは言え、遊撃隊の有効性は此れで可成りアピールできた筈――出来た筈なんだけど、最後の一手だけは少し解せないのよね……やろうと思えば、みほは副隊長のティーガーⅠを撃破出来た筈なのに、其れをせずに仕上げ役を隊長に任せるなんて、言い方は悪いけど隊長に花を持たせるような真似をしたのかしら?

 

みほ以外の遊撃隊の車輌は、敵フラッグ車の護衛と戦ってたからフラッグ車を狙う事は出来なかったから兎も角として……

 

 

「みほ、如何して隊長に仕上げ役を任せたの?貴女なら、副隊長のティーガーⅠを撃破する事が出来た筈でしょう?」

 

 

「うん、やろうと思えば出来たよ――だけど、遊撃隊の役目は敵戦車を撃破する事よりも、勝利を引き寄せる事だと思うんだ私は。

 

 あそこで欲張れば、撃破する事は出来たかも知れないけど、若しも撃破出来なかった場合は、其処から隙が生じて盤面を引っ繰り返されるかも知れないから。

 

 あの局面では、お姉ちゃんにフィニッシャーを任せて、私達遊撃隊はそのサポートに回るのが最善だったんだよ。」

 

 

 

 

つまり、より確実に勝つ為に、隊長にフィニシャーを任せて自分は黒子に回ったと?……一瞬で、其処まで判断するとは恐れ入るわ本気で。

 

でも、そんな貴女が隊長を務める遊撃隊なら不安は何処にもないわね……3日後の練習試合。必ず勝つわよみほ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer76

 

『練習試合前の作戦会議です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

紅白戦が終わって、今は隊長室で、お姉ちゃんと近坂先輩と私の3人で、今日の紅白戦についての雑談中……お姉ちゃんが、戦車道の時間じゃないから、楽にしろって言ってくれたから、私は畏まった態度ではないけど

 

 

取り敢えず総合的に見て今日の紅白戦は結構巧く行ったかな?……遊撃隊としては、初めての試合だったけど、思ったよりも思い通りに動かす事が出来たからね。

 

エリカさんも、小梅さんも、直下さんも、自分の役割を確りと熟してくれたから次の一手も打ちやすかったし。

 

 

流石に、今度の練習試合では紅白戦とは違うから今日みたいには行かないかもしれないけど、今日の紅白戦で確信したよお姉ちゃん――この遊撃隊は、間違いなく黒森峰の新しい戦力になるって。

 

 

 

 

「あぁ、そうだな。此れだけの動きが出来るのならば問題はないだろう……信じていなかった訳ではないが、まさか此処までの成果を上げるとは思って居なかったけれどな。……だが、其れだけに頼りになる。

 

 いずれにせよ、今日の紅白戦で機甲科の生徒の多くは――取り分け、紅白戦に参加していた者は遊撃隊の有効性を実感した筈だから、後は、今度の継続との練習試合で結果を出せば、口喧しいOG会も文句は言えなくなるだろうさ。」

 

 

「ま、そう言う訳だから、今度の練習試合は結構重要な試合になるって言えるわね。」

 

 

「そうなんだ?なら、尚の事頑張らなきゃいけないね!」

 

 

そう言う事なら、早速部屋に戻って、直下さんと狭山さん(前回紹介を端折られたパンターの車長)を部屋に呼んで、遊撃隊車長会議をしないとね!

 

そう言う訳だから、今日は此れで失礼するねお姉ちゃん、近坂先輩!

 

 

 

 

「ふむ、作戦会議か……普通ならば、結果を報告しろと言う所だが、作戦会議の結果は報告しなくて良いぞみほ。

 

 本隊が遊撃隊の作戦を全て知っていては遊撃の意味を無くす……味方ですら思わぬ形で戦況を動かすのが遊撃の本領だからな?遊撃隊の、みほの好きなようにやってくれて良いさ。」

 

 

「本気で?って、言う所だけど、遊撃隊の隊長がみほである事を考えると、其れがベストね。

 

 みほの場合、本隊の動きに合わせて動いて貰うよりも、みほの考えで動いて貰う方が結果として本隊に合わせるよりもいい結果になるからね?……中学時代は、実際にみほの考えでチームが動いて、結果として明光大は優勝できた訳だし。」

 

 

「今にして思えば、みほが隊長を務めていた明光大は、チーム全てが本隊であって遊撃隊のような物だった訳か……改めて考えると、恐ろしい事この上ない事だな此れは……」

 

 

 

 

其処まで怖いかなぁ?……私の主観と、第三者の主観じゃ違うのかも知れないけど。――その明光大も、今年最初の練習試合は白星で飾る事が出来たって、この間、梓ちゃんからメールが来てたなぁ?

 

抽選の組み合わせにもよるけど、中学戦車道の全国大会は、明光大と黒森峰が前半ブロックと後半ブロックで分かれた場合、決勝戦のカードは、去年と同じく明光大vs黒森峰になるだろうね。

 

 

ま、何にしてもそう言う事なら、やりたいようにやらせて貰うよお姉ちゃん。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

と言う訳で、此れより『第1回遊撃隊作戦会議』を始めます!!――何て言っても、部屋の真ん中に、今度の練習試合の試合場のマップを広げて、適当にお菓子やジュースを持ち寄っての物だけどね。

 

服装だって、皆ラフだからね?……って言うか、色とメーカーこそ違うけど、全員がジャージの長ズボンにTシャツって言う組み合わせだから。

 

まぁ、晩御飯を食べて、お風呂入ってからになったら、こう言う服装になるとは思うけどね。

 

……本当は、直ぐにでも始めたかったけど、それをやったら間違いなく晩御飯を食べそびれる事になるってエリカさんが言うから、晩御飯とお風呂の後になったんだけど、ある意味で良い判断だったかもだよ。

 

自分で言うのもどうかと思うけど、色々と作戦を考えると徹夜してたって事も有るから、下手したら晩御飯抜きになったかもだからね……エリカさんの判断には感謝だよ。

 

 

さて、その作戦会議だけど、色々な意見が出てるみたいだね?……いろんな意見が出るのが作戦会議の醍醐味って言えるよね♪

 

 

 

 

「今度の練習試合は、継続高校の学園艦の演習場で行われるから、アウェーでの戦いになる……つまり地の利は継続の方にある事になるか ら、余計に私達遊撃隊の働きが大事になって来るわね?」

 

 

「地の利が向こうにある以上は、待ち伏せなんかはあまり意味がない気がします――何処が待ち伏せポイントになっているか、継続側は把握してると思いますから。」

 

 

「うん、エリカさんと小梅さんの言うように、地の利は継続さんにあるから、待ち伏せはあまり有効じゃないかも知れない。

 

 だけど、地の利があればこその弱点も存在してるかな?」

 

 

「うん?如何言う事よみほ?」

 

 

 

 

簡単な事だよ直下さん。

 

地の利は継続さんにあるって言うのは、試合場が継続さんのホームだからだよね?……だからこそ、向こうには『此処から攻めて来る事は無いだろう』って言う、いわば精神的死角とも言うべき物が有るんだよ。

 

このマップで言うなら、ポイントAの岩石地帯と、ポイントCの荒野地帯が其処に当たるかな?

 

岩石地帯は、大小様々な岩石が無造作に配置された場所で足場が悪いから、如何に戦車であっても其処を通って来る事は考えないし、見渡しの良い荒野地帯で馬鹿正直に仕掛けて来る者は居ないって考えちゃうんだよ、無意識にね。

 

だからこそ、その何方かから、或いは両方で遊撃隊が継続さんに仕掛けるのは、間違いなく有効打となると思うけど、皆は如何思うかな?

 

 

 

 

「精神的死角……まさか、そんな物が有ったとは、考えた事も無かったわ……良いじゃないみほ、それで行きましょう!!」

 

 

「此れは、確かに有効な一手になるかも知れませんからね……継続の皆さんの驚く顔が目に浮かびますよ♪」

 

 

「継続のペースを狂わせる事が出来れば、こっちに流れを引き寄せる事も出来るしね?……良いじゃんみほ、その作戦でバッチリ決めよう!」

 

 

「隊長の意見に賛成ーっす。」

 

 

「じゃあ、その方向で進めてみるね。

 

 尤も、開始時の自軍の陣営が何処かによっても、此れを仕掛けるタイミングは異なって来るから、其れは試合当日に決める事になるけど。」

 

 

「まぁ、其処は臨機応変に行くとこじゃない?

 

 と言うよりも、直前に細かく色々決めるより、その場で臨機応変に対応する方が得意でしょ、みほの場合は?――だから、試合中に想定外の事態が起きても即時対応が出来る訳だし。」

 

 

「其れを言われたら、そうなんだけどね?」

 

 

臨機応変に対応できないと、いざって言う時に困るし。

 

取り敢えず、継続さんの精神的死角を利用するのは良いとして、他に何か思いついた事ってある?あれば遠慮なく言ってくれて良いよ?

 

ちょっとした事から新たな作戦が思い浮かぶかもしれないし、見落としてた注意点なんかに気付く事も有るかもだから。

 

 

 

 

「なら、アタシから。まぁ、思い付いたってか、マップ見てて気づいた事なんだけどさ……此処、マップ中央のやや北側なんだけど、ちょっとオカシクないか?

 

 継続のフィールドは、見た感じはあんまり起伏のない場所なのに、此処だけが不自然にアップダウンの多い地形になってるんだよ。」

 

 

「ドレドレ?……言われてみれば確かに――最大高低差100mって言うのは小さくないわね?」

 

 

 

 

確かに、ちょっと不自然だね此れは?

 

普通に高台があるだけなら兎も角、高台のすぐ下は抉れたような大きな窪地になってる訳だからね?……なんで、こんな不自然な地形をしてるんだろう……?

 

 

 

 

「此れは……若しかして、継続用キルゾーンじゃないでしょうか?」

 

 

「「「「え?」」」」

 

 

 

継続用キルゾーンって……詳しくお願いできますか小梅さん!スッゴク大事な事だと思うので!!

 

 

 

 

「えっと、あくまで私の想像として聞いて欲しいんですけど、多分この窪地って結構勾配がキツクて、一度中に入ったら出るのが結構大変な作りになってるんじゃないでしょうか?

 

 窪地の外形の直径と、底の直径と深さを考えたら、チャーチルみたいな戦車じゃないと脱出は難しい位の勾配があると思うんです。

 

 其れを考えると、継続さんは部隊を最低でも2つに分け、一方が高台に陣取って、もう一方がこの窪地に相手のフラッグ車を誘い込んでくるって言う事をしてくるんじゃないかと思ったんです。」

 

 

「成程、完全にホームでの試合だからこそ出来る必殺技って事ね?」

 

 

「確かに、その一手は考えられるね……」

 

 

となると、継続さんが部隊を分けて、フィールドの中央北側に黒森峰の本隊を誘導し始めたら危険信号って事か……此れを見落としてたら致命的な大打撃を被る所だったよ。

 

良く気付いてくれたね直下さん!それから、その地形の持つ意味を叩き出してくれてありがとう小梅さん!

 

 

これで、遊撃隊のやるべき事は一つ増えた――相手のフラッグ車を撃破する下準備だけじゃなくて、黒森峰の本隊をキルゾーンに誘導しようとする部隊の殲滅もだからね。

 

遊撃隊も、楽じゃないね?

 

 

 

 

「と言いつつ、みほが楽しんでる可能性について。」

 

 

「言うまでもなく楽しんでるでしょみほは?」

 

 

「楽じゃないねと言いながら、口元に笑みを浮かべて、瞳に剣呑な光を宿したみほさんの姿は正に軍神ですよ……私が男性だったら、間違いなく惚れてるって断言します!!

 

 否、同性でも惚れます!!みほさんは、中学校時代に異性同性問わずに大量のラブレターを貰ったと聞いてますし!」

 

 

「マジっすか!?……いやまぁ、小隊長の場合は、其れも否定はできねっすけど……」

 

 

「其処は否定して欲しかったかなぁ……」

 

 

今はまだそんな事は無いけど、全国大会が始まって、其れで優勝でもしたら先ず間違いなく、私とエリカさんとお姉ちゃんの靴箱は、謎の四次元空間になると思うんだよね……黒森峰が女子高であっても。

 

其れだけじゃなく、小梅さんと直下さんと狭山さんも可成りのファンレターが来るようになるかもなんだけどね。――遊撃隊が、黒森峰の勝利に大きく貢献したって事になれば、間違いなく注目されるし。

 

 

 

 

「注目されるのは悪い気分じゃないけど、行き過ぎた彼是は勘弁願いてぇっすな……」

 

 

「ファンレターもラブレターも、貰って悪い気はしないとは言え、持ち帰るのも処分するのも面倒だからな~~……」

 

 

「そうなんだよね~~……」

 

 

「その気持ちは察するわみほ……所で、アタシは貴女に言いたい事が有るんだけど、聞いてくれるかなみほ?」

 

 

「え~っと、何でしょうか直下さん?」

 

 

「何で、何で逸見と赤星は名前呼びなのに、アタシは名前呼びじゃないの!?狭山は兎も角として、アタシ等合宿でも一緒に戦った仲でしょ?

 

 其れなのに、アタシだけ名前呼びじゃないってのは、なんか寂しい!!!」

 

 

「えぇ、言いたい事って其れ!?」

 

 

完全に予想外だったと言うか何と言うか……名前呼びじゃないのが寂しかったと来ましたか……でも、確かにエリカさんと小梅さんは名前で呼んでるし、名前で呼ばれてるからね?

 

直下さんも私の事を名前で呼んでくれてるし……其れじゃあ、理子さんで良いですか?

 

 

 

 

「其れが良い!

 

 やっぱ、逸見と赤星が名前で呼ばれてて、アタシもみほって呼んでるのに、アタシは名前で呼ばれないってのはアレだから。

 

 其れとだ、この理論で行くと、貴女を小隊長って呼ぶ狭山は名前呼びする理由がないって事になるんだけど如何よ?」

 

 

「勿論狭山さんも、名前呼びにしましょう……良いですよね、サトルさん?」

 

 

「構わねぇっすよ……ちょっと男っぽい名前っすけど、名前で呼んでもらった方が親近感わくっすから。

 

 ……幾ら、初代タイガーマスクのファンだったからって、第一子の長女にこの名前を付けるのはどうかと思うっすけどな……なんで、弟が生まれるまで待てなかったし……」

 

 

 

 

其れについては何も言えないなぁ流石に。……って言うか、呼び方は戦車道とあまり関係がない――とは言えないか。

 

名前呼びが、イコール親密度の深さだとするなら、名前呼びで指示を出した方が、指示を出す→受ける→支持を熟すの一連の動作のタイムラグが短くなるかもだからね?

 

此れはまた、理子さんがマップの不自然さに気付いたのに次いでいい仕事をしてくれたって感じだよ♪

 

 

これで、遊撃隊も――

 

 

 

 

――コンコン

 

 

 

 

って、ドアをノックする音?

 

誰だろう?……って、アレ?時計のデジタル文字盤が、何時の間にやら『22:10』を表示してる?……寮の完全就寝時刻を10分もオーバーしてるって、其れだけ作戦会議に集中してたって事!?

 

 

 

 

――ガチャリ……

 

 

 

 

「……作戦会議を行うと聞いてもしやと思ったが、矢張り思った通りだったか……」

 

 

「お姉ちゃん?」

 

 

「寮の見回りをするのも隊長の仕事だ……何時もならば明かりが消えているからスルーするのだが、今日はドアから明かりが漏れていたのでよらせて貰ったよ。

 

 完全就寝時間違反は、本来ならば軽く説教をする所なのだが……まぁ、黒森峰の象徴とも言える戦車道に関する事による違反だから不問にしておこう……事実、就寝時間違反以外の違反をしていた訳ではないからね。」

 

 

 

 

うん、ありがとうお姉ちゃん。

 

 

 

 

「どういたしまして……とは言え、夜更かしは良くないから、キリが良いのならばその辺にしておけ。

 

 直下と狭山は、私が部屋まで送って行こう――戦車道チームの隊長が一緒ならば当直の教師に彼是言われる事もないし、何か言われても『トイレに行った生徒を安全に部屋まで送る為に一緒に居た』と言えば何とかなるからな……」

 

 

「其れで何とかなるんだ……凄いんだね、黒森峰の隊長って……」

 

 

「下手をしたら、一介の教師よりも大きな権限を持っているかもしれないな私は。

 

 まぁ、其れは今は良いとして、直下と狭山は私が部屋まで送って行くから、みほ達もそろそろ寝ておけ――寝不足で頭が働かなかったなんて言う事にならない様にな。」

 

 

 

 

あはは……そうだね。お姉ちゃんの言う通りだよ。

 

寝不足で頭が働かなかったなんて言うのは、笑うに笑えないからね……了解ですお姉ちゃん、此れより西住みほ以下3名は就寝の床に就く事にします。

 

なので、理子さんとサトルさんを無事に部屋に送り返してねお姉ちゃん?

 

 

 

 

「任された。――それじゃあお休みみほ……Ein guter Traum.(良い夢を。)」

 

 

「うん、お休みなさいお姉ちゃん。」

 

 

 

「隊長のドイツ語での『良き夢を』って……本気でカッコイイです!ありがとうございました!!」

 

 

「流石は姉妹と言うか何と言うか……隊長もみほさんに負けず劣らずだって、実感しました――そして、無自覚なのが恐ろしいですよ。」

 

 

「西住流、恐るべしだな……割とマジで。」

 

 

 

 

なはは……西住流はあまり関係ないと思うけどね?

 

まぁ、お姉ちゃんは無自覚であぁ言う事やるからね……其れが凄く様になってるから何も言えないんだけどさ――さて、其れじゃあベッドに入ろうか?

 

理子さんとサトルさんはお姉ちゃんが連れて行ったけど、私達が何時までも起きてるのは悪いからね。

 

 

 

 

「そうね……だけど寝る前に、此れだけは言っておくわみほ――今度の継続との練習試合、絶対に勝つわよ?」

 

 

「私も其れを言おうと思ってました!必ず勝ちましょうね、みほさん!!!」

 

 

「うん、勿論その心算だよ――最初から勝ちに行く気でいたからね!」

 

 

だから、絶対に勝つよ!

 

今年最初の練習試合で白星を挙げる事が出来れば、其れが全国大会まで続く勢いを作る事が出来るともうからね?……必ず勝とう、エリカさん、小梅さん!!

 

 

 

 

「「Sir-Kapitan!!(了解です、隊長!!)」」

 

 

「良い返事だね?……本当に、頼りになるよ。」

 

 

既に士気は高まってるし、今日の作戦会議で色々決める事も出来たから、後は練習試合に臨むだけだよ……継続さんとの練習試合、本当に楽しみだね――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ミカ

 

 

 

島田の家を出て継続高校に入学した訳だが、まさか2年次最初の練習試合の相手が黒森峰とは、何ともついてないと言うべきだね此れは?

 

ウチの隊長は『トリックスター』と呼ばれる程の奇策搦め手上等な人物で、私も其れを得意としているけど、今回に限っては黒森峰との練習試合を組んだのは良い選択ではないかな?

 

 

 

 

「ミカ、如何したの難しい顔して?」

 

 

「あぁ、アキかい?……ちょっと、今度の練習試合について考えていてね……」

 

 

「練習試合って、黒森峰との?――まぁ、相手が相手だから勝てるかどうか分からねーけど、ウチの隊長なら一矢報いる事位は出来るんじゃねーの?

 

 その一矢が、フラッグ車を撃ち抜いてくれれば最高なんだけどな~~。」

 

 

「マッタク持てその通りだねミッコ。」

 

 

まぁ、相手がまほさんだけの黒森峰なら勝てないまでも苦戦させる事は出来ただろうね?……ウチの隊長は『トリックスター』と呼ばれる程の策士だから、まほさんをキリキリ舞いさせるだけの作戦を考える事は出来るだろうさ。

 

 

――だが、黒森峰に隊長を上回る『トリックスター』が……否、トリックスターなんかじゃない『軍神』が居たら、その限りじゃないんじゃないかと思わないかい、2人とも?

 

 

 

 

「隊長を上回るトリックスター以上の軍神て……まさか!!」

 

 

「弱小校を全国大会で優勝させた稀代の戦車乗り……『隻腕の軍神』こと、西住みほさんが今年の黒森峰には居るって言う事!?」

 

 

「うん、間違いなくいる筈さ。」

 

 

スマホに、『黒森峰に入学しました』って言うメールが来てたからね……恐らく、私以外の人達にも送られたメールなんだろうけれどね。

 

だけど、みほさんと戦えると言うのはとても嬉しいね……2年前の雪辱を果たす事が出来る訳だから……ふふ、継続に来てから本気を出した事は無かったけど、久しぶりに本気を出してみようかな?

 

みほさんとまほさんが力を合わせたって言うのなら、私も本気を出さないと勝つ事は出来ないだろうからね……マッタク、こんな気分になるのは、2年前の大会1回戦以降だよ。

 

 

でも、其れだけの凄い試合になるって言うのは確実なんだろね……風もそう言ってるし、カンテレが奏でる音も何時もよりも堅いからね。

 

 

なら、精々堪能させて貰おうかな?『姉の剛』と『妹の柔』が合わさった戦車道と言うモノを――真の『西住流』とも言うべき戦いをね…………

 

 

 

私の挑戦状を、是非受けて貰うよみほさん――!

 

 

 

 

「眼光が鋭いミカ……カッコいいかも知れないけど、ミカっぽくない!」

 

 

「其れは言い過ぎじゃね?」

 

 

「いや、言い過ぎではないよミッコ――実際に私は、当てもなくふらついている風来坊だからね?」

 

 

だから勢是見届けさせて貰うさ――西住のお転婆姫の高校デビューって言うモノをね。

 

 

 

 

ふふ……君が高校でどんな戦いをするのか楽しみだよみほさん――さぁ、風の赴くままに思いっきり楽しもうじゃないか――戦車道は、勝つ事よりも、楽しむ事が大事だからね。

 

 

堪能させて貰うよ……貴女とまほさんの戦術が融合した、最強の戦車道って言うモノを――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 




キャラクター補足




狭山サトル

みほ率いる遊撃隊のパンターG型の車長。

語尾に『~~っす』を付けるのが特徴的な女の子だが、天真爛漫で誰とでも分け隔てなく仲良くなる事が出来る。

父親が初代タイガーマスクの大ファンであった事から、女の子でありながらも男の子のような名前を付けらえてしまったが、本人は『此れも仕方ない』と、受け入れている様子。

まかり間違っても『タイガー』と呼んではいけない、絶対に。



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Panzer77『いざ、継続高校との練習試合です』

相手はトリックスター……不足はないよ!Byみほ      そもそも軍神とトリックスターじゃ比べ物に成らないわByエリカ     みほさんの力は凄いですからね♪By小梅


Side:まほ

 

 

 

いよいよ明日は、継続高校との練習試合だが……こう言っては何だが不安要素は何もないな。

 

アイツが、ミカが継続に居ると言うのは予想外だったが、如何にアイツが稀代の戦車乗りであったとしても、其れに着いて来れる戦車乗りが居なくては意味がない……まぁ、アイツの事だから、己の力を発揮する事が出来る仲間を発掘しているかもしれんがな。

 

 

だが、其れでも負ける気はマッタクしない……此れも、今年はみほが一緒だからだろうか?

 

 

 

 

「その可能性は大いにあると思うわよまほ。

 

 貴女の真正面から相手を叩きのめす戦い方は確かに強力で強いけど、その一方で柔軟性に欠ける部分があったでしょ?……だけど、今年は、みほが加入した事で、貴女の戦い方の弱点を補う事が出来る様になった。

 

 天下無敵の黒森峰の剛の戦車道に、みほの柔の戦車道が合わさったら、其れはもう絶対無敵と言っても過言じゃないでしょう?

 

 貴女とみほは、間違いなく戦車道における最強姉妹であるって言えるわよ。」

 

 

「矢張りそうか……最強とは、些か言い過ぎかもしれないがな。」

 

 

私はみほをお祖母様の魔の手から逃れさせるべく、お祖母様の教えに従うふりをしながら、戦ってきたが、その中で私の戦い方は真正面から相手を押し潰す力押しの戦車道になっていたのは否めない事だ。

 

 

此のままでは、何れ攻略されてしまう所だが、今年はみほが此処に加わり、力押しの中に技が見える戦車道となったからね……遊撃隊の存在が、黒森峰の改革の先駆けとなってくれる気がするよ。

 

 

 

 

「そう……其れは良かったわ。

 

 で、其れは其れとして、アタシは此処でナイトを進撃させ、まほのナイトを貰うわ。」

 

 

 

 

で、今何をしてるかと言うと、隊長室で凛とチェスの勝負だ。――その一手は悪くないが……其れは私にとっても最高の一手だ!!

 

私のターンでナイトを此処に配備してキングを追い詰め、次のターンでクイーンで退路を塞ぎ、さらに次のターンでビショップでキングの逃げ場を潰してターンエンド……さて、如何する凛、もう逃げ場はないぞ?チェックメイトだ。

 

 

 

 

「……負けました!!」

 

 

「今回は、私の勝ちだね。」

 

 

とは言え可成り追い詰められたからね……凛の実力は疑いようもないさ――戦車道だけでなく、チェスの腕も中々の物だよ凛は。

 

 

いずれにせよ、継続との練習試合は簡単に勝つ事はできないだろう……向こうの隊長は『トリックスター』と呼ばれているらしいからね。

 

試合を左右するのは、みほ率いる遊撃隊になるのは間違いない――トリックスターの奇策が上か、それともみほの妙策が上かの戦いだな。

 

其れは兎も角、私が継続の奇策に嵌って撃破されてしまう事だけは、絶対に避けなければならないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer77

 

『いざ、継続高校との練習試合です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

ん~~~……今日もいい気持の朝だね~~?天気も良いし、試合をするには最高の日だよ!

 

今日は、待ちに待った継続高校との練習試合の日。そして、私が隊長を任された遊撃隊が対外試合で初めて運用される、遊撃隊の初陣の日でもあるから、目が覚めたばかりでもやる気は充分だよ!!

 

 

「エリカさん、小梅さん、朝だよ!さぁ、起きて!!」

 

 

「起きてるわよ!……てか、ついさっき起きたんだけどね。」

 

 

「あ~~~、今日もまたみほさんが一番最初に起きましたね?……今日こそは、みほさんよりも先に起きる事が出来ると思ったんですけど…」

 

 

 

 

今日みたいな日に、私よりも早く起きるのは可成り難しいと思うよ小梅さん?

 

私って、小さい頃から楽しみな事がある日の朝は物凄く早起きになるから。……小学校の時なんて、遠足とか戦車道の大会の日は、何度か菊代さんよりも早く起きてた事があったからね。

 

 

流石に中学校に上がってからは、其処まで早く起きる事は無くなったけど、其れでも普段と比べると2~30分は早く目が覚めちゃうんだ。

 

 

 

 

「住み込みの家政婦より早く起きるって、5時とかその辺に起きてた訳?……前日の夜に楽しみで眠れないよりは遥かに良いのかしら?」

 

 

「良いんじゃないですか?

 

 眠れずに寝不足になるよりは、前日の夜に確りと寝て、翌朝スッキリ目覚める方が遥かに良いですよ。――目の前のみほさんのコンディションが其れを証明してますから。」

 

 

「……確かに、今日の貴女は、何時にも増して調子が良さそうじゃないみほ?

 

 此れは、今日の練習試合は期待出来るわね。――今年最初の試合となるこの練習試合は、とっても大事なモノになると思うから、絶対に勝つわよ!!」

 

 

「勿論!初戦の白星発進は幸先が良いからね!」

 

 

予定では、継続高校の地元である石川県の港に到着するのが午前9時……今がジャスト5時半だから、後3時間半か。

 

此れなら、早朝ランニングをして、シャワーを浴びてから朝ごはんを食べても、入港前の隊長の訓示には楽々間に合うね?――とは言っても、今日は試合の日だから、早朝ランニングは軽めにしておかないとだね。

 

何時もの距離を走ったせいで、試合でオーバーヒートしちゃったら意味が無いから、軽めのウォームアップ程度じゃないと……今日は、何時もの半分、ううん、1/3の距離で良いかなエリカさん、小梅さん?

 

 

 

 

「1/3だと、約3㎞……まぁ、其の後のシャワーとか食事で取れるインターバルを考えると妥当な所じゃないでしょうか?」

 

 

「って言うか、今更ながらに、毎朝10㎞走ってるって、結構普通じゃないわよね?……この距離を、子供の頃から毎日走って居たって言うん だから、隊長とみほが凄いのには納得しちゃうわね。」

 

 

「……1ヶ月もしないうちに、其れに慣れたエリカさんと小梅さんと理子さんも大概だと思うんだけどなぁ?」

 

 

其れもまた、中学時代の合宿で西住流フィジカルトレーニングを熟したからかもしれないけどね?……アレに比べたら、10㎞のランニングなんて、可成り楽な部類になるから。

 

 

それじゃあ、今日も元気に行こうか?早朝ランニングショート版に出発進行~~!!

 

 

 

 

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・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

で、早朝ランニングは理子さんとサトルさんも加わって、遊撃隊の車長全員で走った。(サトルさんは初参加だったけど、3㎞位は楽々だね。)

 

その後大浴場でシャワーを浴びたんだけど……まさか理子さんが紫の下着だとは思わなかったよ。

 

小梅さんの黒も結構衝撃的だったけど、大人でも着こなしが難しいって言う紫を見事に着こなしてた理子さん恐るべしだね……一緒に入ったお姉ちゃんの赤と、近坂先輩の紐パンも相当なインパクトだったけど。

 

 

其の後で、食堂で遊撃隊の車長が集まっての朝食兼作戦の最終確認を行って、今は部屋で試合に向けての身支度の真最中。

 

戦闘モードへの切り替えスイッチって言う訳じゃないけど、パンツァージャケットに身を包むと、自然と気が引き締まる気がするよ――試合の前だと余計にね。

 

 

 

 

「其れは、戦車乗りとして当然じゃないの?私だって、パンツァージャケットを着ると気が引き締まるわよ?」

 

 

「実は、私もです。――と言うか、大抵の戦車乗りの人はそうなんじゃないんですかねぇ?

 

 ……中には、パンツァージャケットに着替えた途端に人が変わるって言う人もいるみたいですけど……そう、天才レスラー武藤敬司が、悪鬼グレート・ムタに変貌するかのように。」

 

 

「其れは流石に怖い気がするよ小梅さん……」

 

 

其れはもう、パンツァー・ハイで済む話じゃなくて、間違いなく重度の二重人格の類なんじゃないかと思うよ。

 

でもまあ、此れを着て気が引き締まるって言うのなら、其れ自体は悪い事じゃないし、逆に言うなら試合に臨む準備が出来たとも言えるから、気持ちの切り替えの上でも重要な事なのかもね。

 

 

時刻は8時20分……隊長の訓示の10分前だから、そろそろ行こうかエリカさん、小梅さん。

 

 

 

 

「そうですね、行きましょう!」

 

 

「多分、直下もロビーで待ってるだろうしね。」

 

 

 

 

このエリカさんの予想は的中して、ロビーで待って居た理子さんと合流して校庭に出て整列。

 

此れは、本隊と遊撃隊が分かれる形での整列になってるね?……まぁ、遊撃隊と本隊がごっちゃになってたら分かり辛いから、この区別は当然の事かな。

 

 

全員が整列してるのを見て、お姉ちゃん――隊長が皆の前に出てきた……うん、一気に空気が引き締まったね。

 

 

 

 

「諸君、我々は、此れより継続高校との試合に臨む。

 

 継続はサンダース、プラウダ、聖グロリアーナとは違い、所謂4強の一角ではないが、変幻自在かつトリッキーな戦術は、我等黒森峰でも簡単に勝てる相手ではないだろう。

 

 特に、今年の隊長は、トリックスターなどと呼ばれる策士である事を考えると、去年の練習試合以上に厳しい戦いになるかも知れないが、其れでも我々は勝たねばならない、王者として!!

 

 ……と、大会であるのならば言う所だが、今日は練習試合だから其処まで硬くならなくても良い。無論、練習試合とは言えども、今年度最初の試合だから勝っておきたいのが正直なところではあるけどな。」

 

 

「だから、各員緊張し過ぎずに、でも気を抜かないように行きましょう。

 

 そうすれば、自ずと勝ちは見えるわ――そうよね、隊長?」

 

 

「其の通りだ。的確なフォロー説明に感謝するよ副隊長。」

 

 

 

 

お見事。

 

最初に厳しい事を言った上で緊張感を高めた上で、ハードルを僅かに下げる事で緊張を解し、其の後で緊張しないように引き締めつつ士気を高めるとは……お姉ちゃんが隊長、近坂先輩が副隊長って言う現体制は、歯車がガッチリ噛み合ってる気がするよ。

 

其れこそ、中学時代よりも近坂先輩が生き生きしてる気がするし……若しかして、私よりもお姉ちゃんみたいなタイプの方が、近坂先輩とは相性が良いのかもね?

 

 

 

 

「いずれにせよ、誰が相手であろうとも私達は私達の戦い方をするだけだ。

 

 尤も、新設の遊撃隊には独立機動権が与えられているので、私の命令は度外視して、遊撃隊隊長の好きなようにやって貰って構わないがね……お前達の戦いに期待しているぞ、遊撃隊隊長?」

 

 

「なら、その期待には応えて見せましょう隊長。」

 

 

「ふ、頼もしいな。」

 

 

「期待されてるなら、応えない訳には行きませんので♪」

 

 

何よりも、お姉ちゃんに、隊長に期待されたのなら、其れに応える事が出来なくちゃ遊撃隊の存在意義を問われかねないからね?……黒森峰の推し進める戦車道とは違うかもしれないけど、本隊が最高の力を発揮できるように、遊撃隊の役目を果たして見せるよ。

 

 

 

 

「其れでは諸君、健闘を祈る等とは言わん……全力で戦え!!」

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「Jawohl!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」(鍵カッコ省略……全員分なんぞ書けるか!)

 

 

 

 

……何か、余計なモノが聞こえた気がするけど、最後の最後に隊長が『全力で戦え』って言った事で、隊員の士気はMAXまで高まったね!

 

此れなら、最高のパフォーマンスが発揮できる筈!

 

 

 

 

――ピンポンパンポーン

 

 

 

 

『間もなく、当学園艦は金沢港に入港します。機甲科の生徒は、試合に使用する戦車を降ろす準備をしてください。

 

 繰り返します、間もなく当学園艦は金沢港に入港します。機甲科の生徒は……』

 

 

 

 

そして隊長の訓示が終わった絶妙のタイミングで金沢港に入港とは、此れは入港から接岸、停泊のタイミングも船舶科の生徒が巧い具合に決めてるのかも知れないね?……このタイミングで入港すれば、接岸するまでには戦車を降ろす準備が出来るから、停泊して直ぐに戦車を陸に持ち込む事が出来るからね。

 

 

それにしても金沢港かぁ……此処って近くに新鮮なお魚が買える魚市場とか、新鮮なネタを提供してくれるお寿司屋さんが有るんだよねぇ。

 

生モノは流石に日持ちしないから無理だけど、干物とかなら買っておいても良さそう――そうだ、今日の練習試合に勝ったら、お寿司屋さんで祝杯を挙げるってのはどうかな?

 

 

 

 

「悪くないわね?回らないお寿司ってのは、女子高生には敷居が高いかも知れないけど、祝杯を上げるには丁度いいチョイスだわ。」

 

 

「でしょ?」

 

 

「ふむ……では、今日の試合で勝った場合は、その寿司屋を借り切っての祝勝会を開くとしよう。

 

 安くはないだろうが、戦車道の経費として学園から落とす事は出来るだろうからな――と言うか、落ちないとオカシイ。

 

 機甲科の教師の何人かは、私的なものを購入しておきながら、戦車道の必要経費として落としているみたいだからね。」

 

 

「……そんな教師は、懲戒免職にした方が良いと思います。」

 

 

「小梅さんに賛成だよ。」

 

 

そんなろくでもない教師は、内部告発して懲戒処分にするべきだよ!――とは言っても、決定的な証拠がないから難しいんだろうけどね。

 

でもまぁ、必要経費で落とす事が出来るって言うなら問題はないね?……その祝勝会を行うためにも、此の試合は絶対勝たないとだよ!って、お姉ちゃんの一言で皆目の色が変わってる!?

 

期せずして目の前に現れたアメは、思わぬ効果を発揮したみたいだね……余程の事がない限りは、恐らく負ける事は無いんじゃないかな?

 

 

継続の隊長さんが私以上の策士であるか、ミカさんが更なる気侭な戦術を繰り出してこない限りは、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

金沢港に入港して、停泊した後に戦車を降ろして、其処から練習試合の開始地点となる場所まで輸送車で戦車を運び、目的地に着いた時には、継続の部隊は既に集結していたわ……流石は地元だけあって早いわね。

 

 

偉そうな事を言える立場じゃないけど、私でも相対した相手がドレだけの戦車乗りなのかを推し量る事位は出来るから、継続の戦車乗りのレベルも大体分かるわ。

 

 

多くの隊員は黒森峰の他員には及ばないけれど、隊長車のメンバーと、BT-42のメンバーに限って言えば、黒森峰の並の隊員を遥かに上回ってると言えるわね絶対に。

 

 

特にBT-42の車長だって言う、チューリップハットを被ってカンテレ(フィンランドの民族楽器である弦楽器)を手にしたミカって言うのは、侮る事の出来ない相手なのは間違いないわ。……中学時代に、みほと死闘を演じたって言う事を考えれば余計にね。

 

 

其れに、継続出身者の中には進学後に大学選抜チームに選ばれた生徒もいるんだから、その地力は決して低くはない……つまり、舐めてかかると予想外の痛手を被る相手って事ね――確かに、今年度の最初の相手としては申し分ないわ!!

 

 

申し分は無いんだけど……

 

 

 

 

「黒森峰女学園戦車道隊の隊長の西住まほだ。本日は、練習試合を受けてくれた事に感謝する。」

 

 

「継続高校隊長のトウコ。以後お見知りおきをね~~?

 

 ま、大会前ってのは色々ごたごたしてるから練習試合どころじゃないってのが多いんだろうけど、継続的には練習試合であっても試合を行えば其れなりの経験値が積めるから大歓迎って所なんだよね~~?

 

 まぁ、正々堂々と戦いましょう西住まほさん?」

 

 

「無論だ……黒森峰の持てる力の全てを持ってして、お前達を倒して見せよう。」

 

 

「そりゃ楽しみだ。」

 

 

 

 

隊長の言う事に軽口で返すとは只者じゃないわよ継続の隊長は!……そもそもにして、触覚付きのカチューシャを頭に装備してる時点で、可成り普通じゃなくて、只者じゃないんだけどね?

 

……学園艦だから兎も角として、陸で生活したら間違いなく補導されてるわねコイツは!!

 

 

 

 

「其れじゃあ黒森峰さんには、トリックスターの織り成すイリュージョンを楽しんでもらうとしようかな~?」

 

 

「イリュージョンと来たか……ならば、お前達の方こそ味わうが良い。

 

 黒森峰が、今年から運用を開始した新設部隊である遊撃隊の織り成すイリュージョン……否、幻想すら超えた本物の策士の策と言う物を思う存分たっぷりとな。

 

 今年の黒森峰を、今までの蹂躙戦術ありきの力押しのチームだと思ったら大間違いだぞ?継続高校戦車道隊長トウコ殿?」

 

 

「へぇ?言ってくれんじゃん?

 

 ……なら見せて貰おうじゃない、本物の策士の策とやらを?……黒森峰女学園隊長にして西住流の正当後継者の西住まほさん?」

 

 

 

 

だけど、見た目は兎も角としてコイツの実力は相当なモノであるのは間違いないわ……まほさんと面と向かって睨み合う事が出来る事を考えたらね。

 

まほさんと睨み合って退かない胆力の持ち主なら、相当な実力者であるのは間違いないだろうけど、それ以上に不気味なのが、後に控えていたBT-42の車長のミカね。

 

 

何処か捉えどころのない人物だけど、アイツがみほとの戦いを望んでるって言う事だけは、私でも分かったわ……まぁ、みほなら、相手がまほさん以上でない限りは、早々簡単に負ける事は無いと思うんだけれど、其れでも警戒しておくに越した事は無いわね。

 

万が一にもみほが撃破されたら遊撃隊は、その機能を失う事になる訳なんだから。

 

 

でも、私がそんな事を考えるのも野暮だったみたいだわ。

 

 

 

 

「お久しぶりですねミカさん?今日は、最高に戦車道を楽しみましょう♪」

 

 

「その提案には賛成だね?……戦車道で大切なのは勝ち負けじゃない――本当に大切なのは、その試合をどれだけ楽しめたかだからね。」

 

 

「至言ですね♪」

 

 

 

 

隊長と継続の隊長が火花を散らしながら握手したのに対して、みほとミカは、闘気を漲らせながらも、其れを燃え上がらせる事はせずに、己の内側に押しとどめた上で互いに健闘を誓うとは恐れ入るわ。

 

でも、其れだけじゃない……否、みほが此れで終わる筈がないのよ!!

 

 

 

 

「でも、そう言う事なら、目一杯楽しんだ上で私は勝ちますよミカさん!!」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「此れは……此れが噂に聞いた軍神招来か……如何やら今日の風は、相当に吹き荒れるみたいだね。」

 

 

 

 

此処で軍神招来!

 

此れが発動した以上、みほの勝利は絶対よ?……軍神招来状態になったみほは、隻腕の軍神としての力を120%以上発揮した状態になる訳だからね……

 

 

 

 

「其れでは此れより、黒森峰女学園と継続高校の練習試合を開始する!互いに、礼!!」

 

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

 

 

其れだけに、私達の負けは有り得ないわ!

 

トリックスターなんて呼ばれてるみたいだけど、此の試合で目一杯味わいなさい継続の隊長さん?……西住みほと言う、稀代の天才が生み出

 

す戦術の数々って言う物をね。

 

 

そして断言するわ。

 

まほさんとみほが揃ってる以上、黒森峰の勝利は絶対だって!!――精々覚悟しなさい、みほ率いる遊撃隊が、貴女達を叩き潰してやるわ。

 

 

行くわよみほ!!

 

 

 

 

「それじゃあ、行きましょう!

 

 本隊はすでに動き始めているので、本隊が円滑に動けるように立ち回って行きましょう――それでは、Panzer Vor!!」

 

 

「「「「Jawohl!!」」」」

 

 

 

 

見せてやるわ、遊撃隊の力って言う物を!!……新制黒森峰の、此れまでとは異なる戦車道を!!――そして、思い知ると良いわ……貴女達がドレだけ巧妙に立ち回ろうとも、軍神を越える事は出来ないって!!

 

西住姉妹が揃った事で真の力を発揮する西住流――其れをその身に刻み込みなさい!!

 

 

試合形式は20対20のフラッグ戦……このルールである時点で、負ける気はしないけれどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

黒森峰にとっても継続にとっても今年度最初の試合となる練習試合は、試合前から火花が散り、激戦を予想させる状態となっていたのだが、しかし逆上はせずに、まほもトウコも自陣営に戻って作戦の最終確認をした後に、夫々のスターティングポジションに部隊を展開する。

 

 

ホームゲームとなる継続はフィールドの西側――件の窪地が近い西側がスターティングポジションとなり、アウェーゲームとなる黒森峰は特徴のない東側からのスタートとなる。

 

 

フィールド的には継続が有利に見えるが、戦力と隊員の練度から言うならば黒森峰の方が上であり、それ等総合的に考えると、試合展開は五分五分と言って差し支えない位の攻防になるのは間違いないだろう。

 

 

その練習試合を行う両校のオーダーだが――

 

 

 

・黒森峰女学園(本隊)

 

ティーガーⅠ×5(212号車は隊長車兼フラッグ車)

 

ティーガーⅡ×2

 

パンターG型×3

 

Ⅲ号戦車J型×3

 

ヤークトパンター×2

 

 

・黒森峰女学園(遊撃隊)

 

パンターG型×3(217号車は遊撃隊隊長車)

 

ティーガーⅠ×1

 

ヤークトパンター×1

 

 

 

・継続高校

 

Ⅳ号戦車J型×10(内ガンメタルカラーリングは隊長車兼フラッグ車)

 

Ⅲ号突撃砲×9

 

BT-42突撃砲×1

 

 

 

以上のような構成となっている。

 

戦力だけならば黒森峰が圧倒的に有利だが、その戦力差を工夫と知恵で埋めるのが継続である事を考えると、この戦いは一筋縄で決着するものではないのだろう。

 

何の運命の悪戯かは分からないが、隻腕の軍神と、風に身を任せる風来坊の再戦が実現した以上、其れはまず間違いないだろう。

 

 

何れにしても、此の試合が練習試合の域を超えた戦いになるのは、間違いないだろう――

 

 

 

全国大会の前哨戦とも言うべき練習試合、その戦いの火蓋が、此処に切って落とされた……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 




キャラクター補足




トウコ

継続戦車道チームを纏め上げてる現隊長。

何処か捉えどころがなく飄々としたイメージだが、戦車道の実力は相当に高く、とりわけ策を弄しての戦い方においてはトップクラス。

なのだが、その作戦は場当たり的なモノが多いせいか滅多に成功せずに、継続に流れて来たが、継続で生活していくうちに色々ぶっ飛んでしまったらしく、触覚付きのカチューシャを標準装備するようになってしまった。

取り敢えず、車長としての能力は高い。





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Panzer78『継続高校との戦い白熱してます』

見せてやる、西住の戦車道を!Byみほ      軍神招来キタコレ!此れは勝てる!Byエリカ     負ける気がしませんね此れはBy小梅


 

Side:ミカ

 

 

 

黒森峰との練習試合が始まった訳だが……正直な事を言わせて貰うなら、私達が勝つ確率は相当に低いと言わざるを得ないだろうね?精々1割の勝率があれば上等と言う所だよ。

 

 

 

 

「まだ始まったばかりなのに、もう負ける気なの?」

 

 

「ミカらしくねーな?

 

 幾ら相手が黒森峰だからって、其処まで悲観する事もねーんじゃないか?確かに、勝つのは難しいかも知れないけど、トコトン食い下がる事位は出来るんじゃねーの?」

 

 

「うん、ミッコの言う事も一理ある。

 

 トウコさんの能力を考えれば、まほさんを出し抜く事だって出来ただろうし、其処から黒森峰の陣形を崩す事が出来たかもしれないだろう。」

 

 

だが、今年の黒森峰は、まほさんのワンマンチームじゃない。

 

去年1年で副隊長の凛さんは急成長を遂げたし、何よりも今年から加入したみほさんと、逸見さんと、赤星さんの戦車乗りとしての能力はずば抜けているとしか言いようがないよ。

 

ヤークトティーガーの直下さんも、中々侮れないんじゃないかな?

 

 

其れだけでも、私達との戦力差が如何程か分かるけど、何よりも恐ろしいのはみほさんだ。

 

トウコさんはトリックスターとして高校戦車道界隈に名を轟かせているけど、みほさんの考える策は、トウコさんの比じゃない……分かり易く言うなら、トウコさんの策が、戦車道の常識の中での奇策だとしたら、みほさんの策は戦車道の常識が通用しない物だからね?

 

 

それと、忘れてはいけないのが、みほさんと戦う時には、前後左右よりも、注意すべきは上だって事かな?

 

……砲弾だけでなく、信号機に、ビルの瓦礫に歩道橋に、挙げ句の果てには戦車が降って来るからね?

 

いやぁ、中学の時に味わった戦車プレスは未だに鮮明に思い出せるよ。

 

 

 

 

「戦車が降って来るって、幾ら何でも有り得なくね?」

 

 

「でも、其れをやるのが……」

 

 

「黒森峰遊撃隊隊長の西住みほさ……」

 

 

黒森峰に入学したと聞いて、君の自由な戦車道が失わてしまうのではないかと危惧したが、まほさんが遊撃隊を組織した事で、彼女の才能を無駄にしないで済んだようだね。

 

 

とは言え、この練習試合は、私にとってはリベンジマッチと言えるものだからね?……継続高校として勝つ事は出来なくとも、みほさんの乗る戦車を倒したいと思っていたからね……君達と邂逅するのを、楽しみにしているよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer78

 

『継続高校との戦い白熱してます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

試合が始まった直後、私達遊撃隊は本隊と離れて、早速独自行動を取らせて貰ってる――って言っても、独立機動権が認められてるんだから、試合直後に本隊から離脱しても何の問題もない事なんだけどね。

 

 

で、何をしてるのかと言うと、本隊と離れながらも、実は本隊が進んでるルートに並行する形で存在してる高台の上を、ある意味で本隊と並走してる所。

 

この高台の便利な所は、上からは下を走る戦車を見る事が出来るけど、傾斜の角度のおかげで、下からは上を走る戦車を見つける事が極めて難しいって事にある――つまり、敵からも味方からも私達の姿は見えないけれど、此方からは動きは丸見えって訳。

 

 

 

 

「そうでありながら、こっちは本隊との連絡を取り合えるから、継続に対して高台からの攻撃を一方的に仕掛ける事が出来るって訳ね?

 

 ……だけどみほ、この高台の有効性は継続側だって知ってると思うんだけど?」

 

 

「そう思うよね?だけど、継続の人達はこの高台の存在は知らない筈だよ。」

 

 

「地元なのに知らないって、どう言う事ですかみほさん?」

 

 

 

 

うん、実に簡単な事なんだけど、此の場所って前回継続の学園艦が寄港した時には、今みたいな高台の平原じゃなくて、斜面も、今私達が進んでいる場所も、杉が生い茂ってた、杉の丘だったんだ。

 

だけど、今回寄港するまでの間に、スーパーメガソーラー設置の為に僅かな部分を除いて、殆どの木が伐採されちゃったんだよ。

 

まぁ、私も此処が、こんな事になってるって言うのは今日初めて知ったんだけどね?グー○グルアースの航空写真で見た時には、まだ此処は林だったし。

 

 

当然継続さんも、此処は今まで通り杉の丘が広がってると思ってた筈だよ?……だからこそ、此処に部隊を派遣して来る事は無い。

 

例えばの話だけど理子さん、自分が良く見知った景色が、何処か様変わりしてて、その変わった場所が何処かを断定したとして、戦車道の試合で、其処に戦車隊を送り込む?

 

 

 

 

「いや、アタシなら送り込まねーわ。

 

 自分の知ってる場所が知ってる場所じゃなくなってた場合、其処には何が有るか分からないじゃないよ?……何もなければ僥倖だけど、何かあったら、特に不利に働くような事が有ったら笑えないじゃん?」

 

 

「そう、其れが正解。だから、継続さんは此処には、部隊を展開してこない。」

 

 

「でも私達は、此の場所を知らなかったから、そんな前提なんて纏めて吹っ飛ばして此処を進む事が出来るって事?

 

 そうだとしても、試合当日に知った情報を、こうしてぶっつけ本番で作戦に組み込むなんて、隊長でも思いつかないんじゃないの?……毎度の事ながら、貴女の戦車道には驚かされてばかりだわ。

 

 柔よく剛を制したかと思えば、剛よく柔を折り、セオリーに沿った戦い方をした方と思えば、セオリーを無視した戦術を繰り出し、普通なら一瞬考えちゃうような事でも、即決して作戦に組み込んじゃうんだから……今更ながらに、去年の決勝、我ながら良く引き分けたモノだわ。」

 

 

「自慢じゃないけど、私の頭の中には古今東西ありとあらゆる戦車道の戦術がインプットされてる上に、それ等の戦術と戦う場合にはどんな戦術が有効なのかを考えた私独自の戦術が無数に存在してるから、どんな相手にだって対応する事は出来るからね?」

 

 

だから、王道の戦いも、奇策上等な戦いも出来る訳だし。これも、車長専任免許を取る為に、必死に勉強した賜物なんだけどね。

 

で、私と引き分けられたのはエリカさんが凄かったからだよ?

 

――正直言って、隊長って言う役職から解き放たれたエリカさんは、本気で其れまで戦って来たどんな戦車乗りよりも強かったからね……若しかしたら、あの時のエリカさんはお姉ちゃんを上回ってたかもだし。

 

 

 

 

「隊長以上だなんて恐れ多い事言わないでよ!

 

 其れよりもみほ、この高台に継続が部隊を展開してこない理由は分かったけど、私達は遊撃隊として如何動く心算なの?」

 

 

 

 

先ずは黒森峰の本隊と、継続が戦闘状態に入るのを待とうと思う。

 

私の予想の通りに進めば、およそ10分後にマップの略中央のCF(セントラルフィールドの略)地点で黒森峰と継続は接敵して戦闘状態に入る筈だから、その戦況を見てから行動を開始しようと思うんだ。

 

 

継続側が何輌で進軍してるかによって私達が如何動くかは変わって来るからね?

 

 

 

 

「参考までに、継続が20輌全てで進んで来た時にはどうする心算ですかみほさん?」

 

 

「その時は、この高台から一斉砲撃をブチかまして、横っ腹から継続の部隊を喰いちぎるだけだよ小梅さん――勿論、其れだけじゃなく、砲撃の他に煙幕か閃光もぶつけてあげる心算でいるけれど♪」

 

 

「笑顔でサラッと恐ろしい事言うんじゃないわよみほ!

 

 それで、継続が20輌未満の部隊で進んで来た時にはどうする心算?……地の利が継続に有る以上、連中が伏兵を使ってくる可能性は充分にある筈でしょ?」

 

 

 

 

20輌未満の部隊で現れたその時は、足りない車輌を見つけ出して撃破するだけだよエリカさん――20輌に満たない場合は、継続さんも遊撃隊の様な別動隊を派遣したって言う事だからね。

 

出来れば、20輌全てで来てほしい所だよ……正直な事を言うと、別動隊が展開されて居た場合、其れを片付けるのは決して楽じゃない可能性があるからさ。

 

 

 

 

「楽じゃないって、そうかなぁ?

 

 継続が別動隊を展開してたって、みほ率いるアタシ達遊撃隊が遅れを取るとは思えねーんだけどなぁ?……油断や慢心をしてるわけじゃないけど、アタシ等なら負けないでしょみほ?」

 

 

「……別動隊に、ミカさんの戦車が居なければね。」

 

 

「「「――!!」」」

 

 

「ミカ……そうだった、継続にはアイツが居たわね――!!」

 

 

 

 

ミカさんの戦車乗りとしてのレベルは、恐らくお姉ちゃんと同等クラス――お姉ちゃんが剛だとしたら、ミカさんは柔だから、戦車乗りとしてのレベルに差がなくとも、戦い方には差が出て来る。

 

中学校の時は勝つ事が出来たけど、ミカさんだってアレからずっと強くなってる筈……寧ろ島田の名を隠してる今の方が、島田流に拘ってない分だけ、余計に強さが底上げされてるかもだからね。

 

 

 

 

「そう言えば、中学の時にみほ率いる明光大とガンガンやり合ったんだよねあの人……何で、継続に居るんだろ?」

 

 

「お姉ちゃんが言うには『風に流されて来ただけさ』って言ってたらしいよ?」

 

 

「何ですか其れ?」

 

 

「さぁ?」

 

 

其れはミカさんにしか分からない事ですが……そろそろ準備をしておこうか?

 

東側から黒森峰の本隊が、西側から継続さんの部隊が来たみたいだからね?――サトルさん、継続側が何輌で進軍して来てるか見える?

 

 

 

 

「ちょい待ち、今数えてるから。

 

 Ⅳ号J型が10輌、Ⅲ突F型が9輌に、BT-42が1輌……20輌全部で進軍して来たみたいだよみほ隊長。」

 

 

「まほさん相手に全軍で真正面から来るとはね?

 

 奇策は予想されてると考えての正攻法なのかも知れないけど、其れは悪手だったって事をたっぷりと教えてあげるとしましょうか、みほ?」

 

 

「みほさん、御命令を。」

 

 

「派手に行こうか、隊長?」

 

 

「本隊と継続の部隊が交戦を開始する直前に、継続側に先制パンチを打ち込むから、全車何時でも撃てるようにしておいて。」

 

 

「「「「了解!!」」」」

 

 

 

 

さて、奇策で来るのは予測されてると考えての正攻法なのか、それともこの正攻法自体が何かの罠なのかは分からないけど、何にしても、先ずは、出端を挫かせて貰おうかな?

 

 

……それと全く関係ないけど、さっきのエリカさんの獰猛な笑顔はとってもカッコ良かったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

みほの予想通り、遊撃隊が高台に陣取ってから10分後、試合会場の略中央となる開けたCF地点で、黒森峰の本隊と継続の部隊は互いに相手を目視できる距離にまで近づいていた。

 

が、継続の部隊の戦車数を見たまほは、これに疑問を抱いていた。

 

 

 

「(全軍で進撃してきただと?真正面からの真っ向勝負は大歓迎だが……その戦力で黒森峰と真正面から遣り合うと言うのは自殺行為だ。

 

  火力でも防御力でも、此方の方が圧倒的に上だ――唯一Ⅲ号だけは、Ⅲ突やBT-42に火力と装甲で劣るが、小回りが利くと言う点で、機動力で勝る……トリックスターと言うから奇策で来ると思ったのだがな?

 

  其れとも、己がトリックスターとして知られているからこそ、奇策を使わずに正面から当たって来たのか……先ずは、其れを見極めるか。)」

 

 

 

火力でも防御力でも圧倒的に劣る戦力で真正面から挑んで来るなんて言う事は自殺行為に等しいからだ。

 

無論、奇策で来る事を予想されていると考えた上で、其の予想を覆す為に敢えて正攻法を選んだと言う可能性が無くは無いが、リスクとリターンを考えた場合、リスクがあまりにも大きいのである。

 

 

であるにも関わらず仕掛けて来た全軍進軍の真っ向勝負――並の戦車乗りならば、『有り得ない事を普通にやって来た』と言う事に吃驚して次の一手が僅かでも遅れる所だ。

 

が、まほは高校生にして世界に名を轟かせている戦車乗りであり、その実力は超高校級でも足りない位な上に、胆力だって可成りなモノだ。

 

故に、疑問には思いながらも驚く事はせず、冷静に部隊に指示を飛ばして行く。

 

 

 

「如何やら継続の皆さんは、真っ向勝負を御所望のようだ。

 

 ティーガーⅠ、ティーガーⅡ、ヤークトパンターは私と共に真正面から敵部隊とぶつかる。

 

 パンターとⅢ号は、機動力で継続の部隊の横や後に回って撹乱してやれ。」

 

 

「私がトップ、まほがアンダーで良いわよね?

 

 フラッグ車同士の一騎撃ちでもない限り、フラッグ車が最前線に出るって言うのは余り良い手じゃないから。」

 

 

「あぁ、先陣は任せたよ凛。」

 

 

 

黒森峰の本隊は、副隊長である凛がヤークトパンター2輌を引き連れる形で最前線に出て、その後ろにまほがティーガーⅠを引き連れる形で続き、ティーガーⅡがその両翼を固め、攻守速のバランスのいいパンターと、小回りの利くⅢ号は本隊から離れて、継続を包囲するように展開して行く。

 

 

 

 

「さぁてっと、そんじゃあおっ始めるとしますかねぇ?全軍、攻撃開始ぃ!」

 

 

 

一方で継続の隊長であるトウコは、黒森峰の本隊を目視すると、黒森峰の部隊が何輌で来てるか等と言う事はマッタク考えずに攻撃を命令。

 

 

 

 

――ドゴォォォォォォォォォン!!

 

 

 

 

するよりも早く、継続の部隊を砲撃が襲った。

 

 

 

「んな!?……砲撃って、一体何処から!?」

 

 

「正面からじゃなくて上からの砲撃……此れは、如何やらまほさんが仕掛けて来るよりも早く、みほさんが仕掛けて来たみたいだね?」

 

 

 

その砲撃を放ったのは、言うまでもなくみほが率いる遊撃隊だ。

 

其れも只の高台からの砲撃ではない――自分達の姿が相手から見えないようにする為に、高台の際から離れて状態で砲身を上に向けての砲撃を行っているのだ。

 

 

其れでは相手が見えないのでは?と思うだろうが、其処は流石のみほ。

 

自身の戦車の通信士である神楽衛を、高台の際ギリギリに伏せさせて、高台の下を観察させながら、マルチ通信で継続側の戦車の位置を遊撃隊全てに伝えているのである。

 

これならば、相手を見ずとも可成り正確な砲撃を行う事が出来るだろう。

 

言うなれば『ドッカン作戦ヴァージョン2.0』と言うべき先制攻撃だが、この予想外の先制パンチは、継続に対しても、そして黒森峰に対しても充分な効果があった。

 

 

 

「(まさか、あの高台から砲撃してる?……でも姿は見えない――下からじゃ目視出来ない位置まで下がってるって事かい!

 

  何が有るか分からないから、木が伐採されたあの高台は敬遠してたんだけど、こんな事なら別動隊を編成して、そっちに向かわせるべきだったのかも知れないね此れは。

 

  其れ以前に、黒森峰の隊長さんは、有り得ない一手を見ても動揺すらしてないからね……此れは、早急に立て直さないとヤバ気だね。)」

 

 

 

「(今の砲撃はみほ達遊撃隊か?

 

  ……恐らくは、あの高台に陣取って居るのだろうが、此方が攻撃する前に先制攻撃を仕掛けるとは、相変わらず、私の予想を良い意味で裏切ってくれる。

 

  だが、此の先制攻撃で流れは此方に向いた……お前が作ってくれた勝利への一手、無駄にはしない!)

 

 如何やら遊撃隊が、私達の見えない場所から支援をしてくれているようだ――この機に一気に攻め立てる!!」

 

 

「一気呵成に行くわよ!全軍、砲撃開始!!」

 

 

 

継続の隊長であるトウコには焦りを与え、逆にまほには攻め込む好機を与えたのだから。

 

否、まほ以上に凛に攻め込む好機を与えたと言うべきなのかも知れない。

 

 

 

「フラッグ車への道を開けろ雑魚共ぉ!!」

 

 

 

ヤークトパンター2輌を伴って突撃すると、継続の部隊の砲撃なんぞ何のその――ティーガーⅠの装甲厚なら余程の至近距離でなければ、撃破される事は無いので、その防御力を生かして敵陣に斬り込み――

 

 

 

――ズドン!!

 

 

――バガン!!

 

 

――ドガァァァァァン!!

 

 

――キュポン×3

 

 

 

『継続高校、Ⅳ号3号車、7号車、10号車行動不能。』

 

 

 

瞬く間に継続のⅣ号を3輌撃破!

 

中学時代に、全国大会の全ての試合でフィニッシャーになったと言う前人未到の記録を打ち立てた凛にとって、これくらいの事は朝飯前だったのだろう。

 

 

 

「うげ、行き成り3輌も!?……此れはキッツいわぁ。

 

 予想外の正攻法で行けば、少しは動揺させられるかと思ったけど、如何やら効果は無いみたいね?

 

 ……そう言う事ならしゃーない、此処は一時撤退するよ?

 

 このまま此処で続けても、黒森峰に磨り潰されるだけだからね……そう言う訳で、逃げる為の時間を稼ぐために、全車『狙え』ってね♪」

 

 

 

序盤から3輌のビハインドを背負う事になった継続だが、其処は流石にトリックスターと呼ばれている隊長だけあって、すぐさま一時撤退を決めて、部隊に指示を出す。

 

 

 

「逃げられると思っているのか?」

 

 

「思ってるとかじゃなくて、逃げるんだよ私達は!~~そんな訳で、アディオ~ス♪」

 

 

 

追撃を行おうとするまほ達に向かって、継続の部隊は砲撃し、一点突破とも言うべき事をした――其れはつまり、黒森峰の足元を狙って攻撃したのである。

 

ドイツ戦車は、火力と装甲は強いが足回りは弱いと言われるように、履帯に弱点が存在している――アメリカやソ連の戦車と比べると、履帯が可成り脆く、斬れやすい。

 

 

其れを利用して、トウコは黒森峰の足止めを狙ったのだ――自分達が状況を立て直す為に。

 

 

そしてその効果は覿面!

 

 

 

「しまった!!」

 

 

「く……履帯が!!」

 

 

「……狙いは、此方の足を殺す事だったか――!」

 

 

「此れは、完全にしてやられたわね……!」

 

 

 

陣形の両翼を担っていたティーガーⅡの履帯が切られてしまい、黒森峰の本隊は継続を追撃できない状況になっていた。履帯の修理が必要だからだ。

 

 

其れを考えた場合、此の一手は最高の一手だったと言えるだろう――高台にみほが率いる遊撃隊が存在していなければ。

 

 

 

 

「形勢不利と見て離脱を選択し、更に相手の追撃を遅らせる為に履帯を斬るって言うのは悪くない作戦だね……この切り替えの速さも、トウコさんがトリックスターって呼ばれる所以なんだろうね。

 

 だけど、戦神であるお姉ちゃんから逃げても、軍神である私が逃がさない……逆に、私が取りこぼした相手はお姉ちゃんが撃破するからね。

 

 ――西住姉妹から逃げる事が出来ると思ったら大間違いだよ!継続の部隊を追撃するよ、エリカさん、小梅さん、理子さん、サトルさん!!」

 

 

「上等じゃない?……狂犬は狂犬らしく、継続の喉笛を喰いちぎってやろうじゃない?……生憎と、私の牙は血に飢えてるのよ――油と鉄と火薬の匂いに染まった血にね!!」

 

 

「追撃して一気に決めるんですね?――仮に決められなくても、本隊が履帯を直して合流するだけの時間を稼ぐ事が出来れば御の字って言う所ですけど……此処で攻勢をかけるのは悪くないですね♪」

 

 

「寧ろここは攻め一択でしょ?――思いっきりぶちかましてやりましょうみほ!貴女となら、其れが出来るような気がする。

 

 うぅん、気がするじゃなくて絶対に出来るって思ってるわアタシは!派手に行こうじゃない!」

 

 

「アタシ達の存在に気付きながらも、目の前の相手に集中した結果が此れだからね……見せてやろうじゃないみほ隊長――継続の皆さんに、本当の戦車道が如何言うモノなのかって言う事を!!」

 

 

 

高台に陣取っていたみほ達は、即座に作戦を考えて次の一手を考えていたのだ。――此れもまた、みほの驚異的な記憶力に蓄積された数多の戦術が有ればこそだが、そうして導き出した答えは、安心ではなくとも安定ではあるだろう。

 

 

 

「うん、行こう!」

 

 

 

みほは速攻で継続の部隊を追撃を行うことを決定して、僅か5輌で17輌を相手にする戦いを行おうとしていた――普通なら無謀な戦力差であるが、機体性能を考えれば五分と言う所だろう。

 

 

試合は始まったばかりだが、そうであるにも拘らず、試合展開は白熱するばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ミカ

 

 

 

予想していた事だけど、みほさんの戦車乗りとしての力は、2年前の全国大会の時よりも遥かに上がっているね……此方の、意識外からの攻撃はある程度予想していたとは言え、実際にやられると厳しい事この上ないからね。

 

 

此のままじゃみほさんに、黒森峰に勝つ事は出来ないだろうね――だからこそ、私は貴女に提案をしようと思うんだトウコさん。

 

 

 

 

「提案って?……内容によっては承認するけど――」

 

 

「其れが継続の良い所だね……」

 

 

まほさんが率いる黒森峰は確かに強敵だけれど、それ以上に恐ろしいのはみほさんが指揮している別動隊だ……みほさんが率いてる別動隊が存在してる限り、私達は苦戦を強いられるだろうからね?

 

だから、先ずは其れを討つだけさ……出来るかどうかは分からないけどね。

 

 

 

 

「西住妹の指揮する別動隊を?……確かに、アレは驚異だけど、任せても良いのかなミカ?」

 

 

「撃破出来ずとも、足止めくらいはして見せるよ隊長。」

 

 

「そうかい……なら任せるよミカ!!」

 

 

「期待には、最低限応えないとね。」

 

 

正直な事を言うと、足止めも可成りきついんだけど、私じゃないと足止めだって難しいだろうさ――トウコさんがみほさんと戦うのでなければ。

 

 

だけど此れは、私にとっては嬉しい事なのは間違いないかな?――また、みほさんと戦う事が出来るんだからね。

 

 

さぁ、本番は此処からだよみほさん――ぶつけ合おうじゃないか、私達の戦車道って言う物を。――精々、中学の時の雪辱を果たさせて貰うとしようかな?

 

 

いや、そんな事は如何でも良い事だね?……大事なのは、此処から如何動くかって言う事さ……ふふ、楽しませて貰うよ隻腕の軍神殿♪

 

 

貴女との試合は、心が躍るからね――!

 

 

感じさせて貰うよ、黒森峰に吹き込んだ新たな風って言う物を――まぁ、その風は、台風をも凌駕するモノだったみたいだけれどね。

 

だからこそ私も全力を出そう。……行くよ、みほさん――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer79『激しく燃えまくってる練習試合です』

此れは、燃えて来るね!!Byみほ      継続のミカ……侮れないわね?Byエリカ     でも、私達は負けませんよ!By小梅


 

Side:エリカ

 

 

 

みほの読みがバッチリと当たって、先手は黒森峰が取った形になったけど、形勢不利と見るや否や、継続の隊長は黒森峰本隊の戦車の履帯を切った上で離脱して体勢を整えるって言う戦術で来たか。

 

あの状況の中で、即座に撤退の一手を打ったのは見事だし、ドイツ戦車の弱点でもある足回りを狙うってのも悪くない――だけど、若しもみほが継続の隊長だったら、状況が不利になる前に何か手を打っていたのは間違いない筈だわ。

 

 

つまり、継続の隊長は秀でた能力を持ってはいるけど、みほよりも上って事は無い……そうであるなら、此の試合に負けは無いわ!!

 

西住の猛虎であるまほさんと、西住の女豹のみほが一緒に居る時点で黒森峰に弱点は無いんだから――と、言う所だけど、継続には島田流の長女であるミカが居るから油断はできないのよね。

 

 

「ねぇみほ、逃げた相手を追撃ってのは良いんだけど、具体的な作戦は如何するの?」

 

 

「特にないよエリカさん……ぶっちゃけ、好きにやってくれて構わないって所かな?

 

 私達のやるべき事は、本隊が行動可能なって此方に向かうまで、継続の部隊を足止めする事と、黒森峰の本隊を、例のキルゾーンに誘い出させないようにする事だから。

 

 其の2つが果たされるなら、どんな事をしても構わないよ……ルールブックで合法とされてるものならばね。」

 

 

 

 

そう……あくまで目的は足止めとキルゾーンへの誘導阻止だから、遊撃隊5輌に対して、継続の本隊は17って言う不利な戦いでも、戦いきる事は出来るわ――遊撃隊の目的は、相手のフラッグ車を叩く事じゃなくて、如何にして勝利を自軍に呼び寄せるかって言う事だもの。

 

 

でも、そう言う事なら私の血が騒ぐわ……何よりも、足止めと誘導阻止との事だったけど……だけど、別にフラッグ車を倒してしまっても構わないのよねみほ?

 

 

 

 

「主な目的は、足止めと誘導阻止だけど、継続のフラッグ車を確実に撃破出来る状況であれば、迷わず倒しちゃって構わないよ!――フラッグ戦は、フラッグ車を撃破すれば勝ちだから。」

 

 

「了解したわ、遊撃隊長!!」

 

 

数の差がアレだから、本隊が合流するまでは可成りきつい戦いになるでしょうけど、隙あらばフラッグ車の喉笛を喰いちぎってやろうじゃない!

 

黒森峰の銀の狂犬の爪牙を、其の身で味わえ継続高校――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer79

 

『激しく燃えまくってる練習試合です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

自ら隊長であるトウコに、みほ率いる遊撃隊の相手を申し出たミカは、Ⅳ号戦車J型2輌を引き連れての3輌編成で、みほ達を探していた。

 

主砲の破壊力ならばⅢ突の方が上なのだが、自分達の乗るBT-42が回転砲塔のない突撃砲タイプの戦車なので、フレキシブルに動けるようにⅣ号を連れて来たと言う所だろう。

 

 

 

「其れでミカ、西住の妹さんが指揮してる遊撃隊に勝つ見込みはあるの?」

 

 

「勝つ見込みはない。だけど、打撃を与える事位は出来ると思ってるよ。」

 

 

 

5輌編成の遊撃隊に、3輌編成で、しかも性能で劣る戦車で挑むと言うのは無茶を通り越して無謀としか言いようがない――トウコもその様に考え、ミカに対してⅣ号とⅢ突を2輌ずつ引き連れて行くように言ったのだ。

 

 

が、其れはミカが、3輌のビハインドを背負った状態で本隊の数を減らすのは拙いと言って、Ⅳ号2輌のみを引き連れて来たのである。

 

 

確かにミカの考えは理に適っているとは言えるだろう。

 

ファーストアタックを喰らった継続は、行き成り3輌を失い、数の上では20対17――黒森峰が遊撃隊として5輌別行動をしているとは言え、その遊撃隊とやり合うために5輌輩出してしまっては、本隊の数は12なのだ。

 

それに引き換え、無傷の黒森峰の本隊は15輌――其れを考えると、本隊を離れるのは3輌と言うのがギリギリ連れて行ける最大数なのだ。

 

12対15では余りにも不利だが、14対15なら、数の差は1輌で足りるのだ。

 

 

そして何よりも、ミカ自身、みほ率いる遊撃隊を撃破出来るとは思っていない――と言っては語弊があるだろう。撃破出来ずとも、足止めをする事が出来れば良いと考えているのだ。

 

 

 

「打撃を与えれば良いって……其れで良いのかよミカ?」

 

 

「良いんだよミッコ。

 

 みほさんは恐らく、黒森峰の本隊の足がやられた事で、本隊が行動可能になるまで継続の部隊を足止めしようと考える筈さ――此方の切り札とも言える、あの場所に黒森峰の本隊が連れて行かれない様にね。

 

 だから、私達はそんなみほさん達の邪魔をしてやれば良いのさ。……そう、トウコさんがまほさんをキルゾーンへ誘導し始めるまでね。」

 

 

「あのキルゾーンに誘導できれば、私達の勝ちだから?

 

 だけど、黒森峰の隊長さんって、あの西住まほでしょ?……うちの隊長の誘導なんかに引っ掛かってくれるかなぁ?」

 

 

「其処は、トウコさんの演技力と挑発の能力次第じゃないかな?――まぁ、まほさんを挑発して逆上させるのは可成り難しいと思うけどね。

 

 まぁ、其処はトウコさんに任せよう。私達は私達の戦いをしようか。」

 

 

 

自分達が遊撃隊をある程度足止めすれば、其れだけ継続が自軍の切り札を切り易くなるのだから。

 

カンテレの弦を軽く弾くと、ミカは少し速度を上げてみほ達を探すが、ミカと同じ戦車に乗っているアキとミッコも気付いていなかった――勝つ見込みは無いと言ったミカの瞳に、静かな闘志が宿っていた事に。

 

 

 

「(下手に緊張させない為とは言え、アキとミッコには少し嘘を吐いてしまったね。

 

  足止めが出来ればと言うのは本当だけれど、私はみほさんと戦いたいんだ……中学の頃に味わった、あの高揚感をもう一度味わいたい。

 

  不利な戦いなのは分かって居るけれど、挑ませて貰うよみほさん――!)」

 

 

 

その静かな闘志を胸に、ミカはみほとの再戦の時が訪れるのを心待ちにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方でみほ率いる黒森峰の遊撃隊は、中々継続の部隊を見つけられずにいた。

 

遊撃隊が陣取っていた高台は天然のGPSとも言うべき場所だが、完全に空から見る訳ではないので、森や林、ビルが立ち並ぶ場所に入り込まれてしまった場合には見つける事が困難になるのだ。

 

 

これが、勝利に固執する輩だったら、ルールで禁止されてないと言う理由でドローンでも飛ばして上空から見つけるのだろうが、生憎とみほはそんな事はしない――故に、林に潜んでいた継続の部隊を見つけ出す事が出来なかったのだ。

 

 

 

「(高台から見つける事が出来ないって事は、林か森、或いはビルが密集してる場所に隠れたかな?

 

  黒森峰本隊の足回りを壊して撤退してからの時間を考えると、街中に到達したとは考え辛い――いや、街中だけは絶対にないか。

 

  例のキルゾーンは街中とは離れてるからね……となると、継続の部隊が居るのはさっき通り過ぎたC地点の林か、この先のG地点の林だけど、継続の使用戦車の速度を考えるとG地点に到達してる可能性は低い……となると、居るのは通り過ぎたC地点!

 

  でも、これは逆に考えれば継続の部隊を、本隊と遊撃隊で挟み撃ちに出来る状態……其れも、真後ろからじゃなくてこの高台から突っ込んで行けば奇襲効果も狙えるから……やる価値はあるね!)

 

 全体停車!本部隊は此れより此処で待機――継続は、さっき通り過ぎたC地点の林の中にいる筈だから、此処で出て来るのを待とう。」

 

 

「んな、本当ですかみほさん!?」

 

 

「間違いないよ小梅さん。

 

 継続の使用戦車の最高速度を考えれば、私達が追い抜いてしまってもおかしくないから……完全に継続の部隊の前に出てる筈だよ。」

 

 

「別に良いんじゃない?

 

 通り過ぎたって事は、逆を言えば戻る事でまほさんが率いる本隊と、私達遊撃隊で継続を挟み撃ちに出来るって事でしょ?――なら、前と後から挟み込んで逃げ場を無くしてやれば良いだけよ!」

 

 

「相変わらず、考え方が暴力的ってか、攻撃的だなぁエリカは?……そんなんだから、狂犬って呼ばれんだよ。」

 

 

「ハッ、狂犬上等よ直下!!

 

 敵と見れば、其れが格上の存在であっても牙を剥いて噛みつくのが私だからね?……狂犬は狂犬らしく、相手を噛み殺してやるだけよ!」

 

 

 

だが、そうであっても遊撃隊に焦りはない。

 

隊員全員が1年生で構成されていると言う事も有るだろうが、それ以上に、遊撃隊の面子――特に各車両の車長は、親友と言える間柄故に、こうして、緊張感があまり無い会話も、試合中でも出来るのだ。

 

 

 

「勿論、エリカさんの言うように、挟み撃ちにする心算だよ。

 

 隊長率いる本隊も、そろそろ切られた履帯の修理を終えて、此方に向かってきてる筈だからね。――一応、連絡は入れてみるけど。

 

 ――此方、遊撃隊のみほです。」

 

 

『如何した、みほ?』

 

 

「現在遊撃隊は、継続の部隊を追い抜いて、継続の進行方向の先に出ていると思われます。

 

 なので、遊撃隊は此処で待機し、継続の部隊が見え次第、高台より砲撃を行って足止めし、黒森峰の本隊が継続に追い付いた所で、高台を駆け降りて強襲して挟み撃ちにしようと思うのですが、如何でしょう?」

 

 

『挟み撃ちか……悪くない作戦だな。

 

 丁度此方も、履帯の修理が完了した所だ――大体10分もあれば継続の部隊に追い付く事が出来るだろう……履帯の跡を追って行けば、その先に継続の部隊が居るのは間違い無いからね。

 

 トリックスターにあまり動かれても面倒だからな……地の利を生かされる前に、挟み撃ちで倒してしまうとしよう。

 

 只、私達が到着するまでの足止めくらいなら大丈夫だろうが……ミカには気をつけろ。

 

 アイツの戦車乗りとしての実力は、トウコ隊長以上だからな。』

 

 

「分かって居ます、隊長。」

 

 

 

挟み撃ち作戦を決めたみほは、まほと連絡を取り、ザックリとではあるが此れからの戦い方を決定する。少々ザックリし過ぎていると思うかもしれないだろうが、みほとまほには、この程度のやり取りで充分に伝えるべき事は伝わって居るのである。

 

此れも、姉妹故の信頼感と言うやつなのだろう――ともあれ、此れでやる事は決まった。遊撃隊は現在地で待機し、継続の部隊が現れるのを待って居ればいいのだ。

 

 

だが、待っている間も、みほをはじめとした遊撃隊の車長達は、周囲への注意を疎かにせずに、常に周りに目を配っている。

 

単に継続の部隊を探しているという訳ではない……全員が、挟み撃ち作戦へとすんなり移る事は出来ないだろうと考えているからこそ、周囲に目を配り、状況を確認しているのだ。

 

 

そして、其れは正解だった。

 

 

 

「前方に敵影!BT-42が1輌と、Ⅳ号J型が2輌!!」

 

 

「BT-42って言う事はミカさんか……やっぱり、本隊と別行動に出て来たね――そう来なくっちゃ!!」

 

 

 

暫くして、進行方向から向かってくるBT-42とⅣ号を発見。ミカが率いる部隊が、みほの遊撃隊へと向かってきていたのだ。

 

其れを見たみほの顔には、歓喜と闘争本能が混ざった笑みが浮かぶ。

 

同時にエリカの顔には獰猛な野獣の笑みが浮かび、小梅の表情は引き締まって目が獲物を狙う猛禽類の様に細くなる。(直下と狭山も、気合が入っているが、みほ、エリカ、小梅は相当に別格レベルなのである。)

 

 

そして、戦闘態勢に入っていたのはみほ達だけでなく、BT-42の車長であるミカも同様だ。

 

 

 

「さぁ、風と共に舞おうか?

 

 黒い森に吹き込んだ、新たな風は、風の流れるままに生きる私に、どんな世界を見せてくれるかな?」

 

 

 

膝の上に置いたカンテレの弦を一弾きすると、其処から軽快な演奏を開始し、車内にカンテレの音が響き渡る。

 

普通なら、試合中に何をしているんだと言う所だが、ミカの乗る戦車に限っては、此のカンテレの演奏は突撃喇叭に近い物が有る――ミカがカンテレを試合中に演奏すると言うのは、テンションが高まっている証なのだ。

 

操縦士のミッコと、装填士兼砲撃手のアキも、はじめはこの演奏に戸惑っていたが、今ではミカの演奏が始まると、共にテンションが高まり、本来の実力以上のモノが出るのである。

 

 

 

「来ましたねミカさん?……出来れば、本隊で大人しくしていてほしかったんですけど……」

 

 

「其れも良いかと思ったんだけど、此れだけの新たな風をこの身で感じないのは勿体ないと思ってね?

 

 私の我儘に付き合わせる形になってしまって申し訳ないけど、楽しませて貰えるかなみほさん?――もう一度、君と戦った時の高揚感を味わわせて欲しいんだ。」

 

 

「そう言う事でしたら、喜んでお相手しますよミカさん!」

 

 

 

軍神招来状態のみほと、風の旅人とも言うべきミカは、軽く言葉を交わすと、そのまま交戦状態に突入!!

 

 

 

「此方遊撃隊のみほ。

 

 只今遊撃隊は、継続のミカさん率いる別動隊と交戦状態に入り、予定していた継続の本隊の足止めがやや弱くなると思われますので、出来るだけ急いで、継続の部隊に追い付いていただけますか隊長?」

 

 

『ミカのやつ、矢張り遊撃隊に仕掛けて来たか。

 

 だが安心しろ、如何やら整備班が今年最初の対外試合と言う事で気合を入れたらしくて、エンジンの調子がすこぶる良い――此れなら、予定よりも早く継続の部隊に追い付く事が出来る。』

 

 

「了解しました。

 

 ミカさんとの戦いを続けながら、継続の本隊を発見し次第、可能な限りの足止めを行います。」

 

 

 

その間でも、本隊との通信を怠らずに、作戦の微妙な変更を行っていく。

 

独立機動権を与えられているからと言って、全然マッタク好き勝手やったのでは部隊は大混乱してしまうので、最低限の通信と言う物は必要なのである。

 

 

そして、通信を終えると同時に、みほのパンターがミカのBT-42に向かって砲撃を放ち、BT-42は其れを巧みな操縦技術で躱して、反撃としてエリカのティーガーⅠに向かって砲撃!!

 

 

その砲撃をティーガーⅠは避けずに、食事の角度を取る事で弾き飛ばす。

 

其れと同時に、継続のⅣ号も攻撃を開始するが、Ⅳ号J型の主砲では、遊撃隊の戦車の装甲を抜く事は略不可能であり、ミカ率いる部隊が決定打を与えるには、BT-42の砲撃をウィークポイントに命中させるしかない。

 

 

となれば、圧倒的に有利となる訳だが、有利な状況と言うのは時として――否、少なからず必ず慢心を生む。

 

 

 

「そんな性能が下の戦車で仕掛けて来るとは笑止!此処で、沈めてくれる!!」

 

 

「サトルさん!?ダメだよ、突っ込んだら!!」

 

 

 

その慢心が生じたのは、遊撃隊の狭山だった。

 

1年生の中では優秀な戦車乗りであると言う事から、遊撃隊の隊員に抜擢されたが、戦車乗りのレベルとしては直下との差が可也あるのは否めない。

 

分かり易く言うなら、遊撃隊の実力差は、みほ≒エリカ≧小梅≧直下>>狭山と言った具合なのだ。

 

故に、圧倒的有利な状況に慢心し、単身ミカに突っ込んで行ってしまったのだ――其れが、ミカの狙いであるとも知らずに。

 

 

 

「血気盛んな事だね?……だけど、それが命取りだよ。」

 

 

 

突っ込んで来た狭山のパンターを囲む形でⅣ号が動くと、同時に砲撃を行い、履帯を破壊し動きを封じる。

 

如何に、大戦期最強と謳われた鋼鉄の豹であっても、その足が破壊されたのならば只の的でしかない……鋼鉄の豹は、風来坊の罠にまんまと嵌ってしまったのだ。

 

 

 

「Tulta!(撃て!)」

 

 

「喰らえ!!」

 

 

 

――ドッガァァァァァァン!!

 

 

――キュポン!

 

 

 

『黒森峰、パンターG型行動不能。』

 

 

 

そのまま狭山のパンターは白旗判定となり沈黙。――黒森峰側の初撃破車輌と言うのは不名誉極まりないが、此れも己の浅はかな行動の末の自業自得なので仕方ないだろう……此れを糧に、成長すべきだろう狭山は。

 

 

これで遊撃隊は1輌を失った訳だが、しかしながらみほの顔に焦りはない。

 

否、焦るどころか、『そう来なくては面白くない』と言わんばかりの笑みを浮かべているのだ……ミカの先制撃破は、遊撃隊に打撃を与えはしたが、同時に遊撃隊の残存戦力の能力の底上げもしてしまったようだ。

 

 

 

「流石ですねミカさん……だけど、これ以上はやらせません。

 

 何よりも、お姉ちゃん達が継続の本隊に合流するまで、私達は継続の本隊を足止めしないといけないからね……此処で倒させて貰いますよミカさん!!」

 

 

「ふふ、果たしてそう巧く行くかな?

 

 風は無形だけど、唯一風に流される儘の風来坊だけは風であっても捕らえる事は出来ないからね?……さぁ、其れを如何する心算だい?」

 

 

「知れた事……その風来坊が乗る事の出来ない暴風で吹き飛ばすだけの事です……サトルさんの代償は払って貰います――直下さん!」

 

 

「ほいさぁ!!」

 

 

 

――ズドガァァァァアァァァン!!

 

 

――キュポン

 

 

 

『継続、Ⅳ号行動不能。』

 

 

 

其れを示すかのように、直下のヤークトパンターが、Ⅳ号のどてっぱらをぶち抜いて吹き飛ばし、そのまま戦闘不能の白旗判定に持ち込む。

 

これで数の上では4対2と、2輌差であるのは変わらないが、一気に黒森峰が有利になったのは間違いないだろう。

 

パンター2輌と、ティーガーⅠが1輌、ヤークトパンターが1輌の黒森峰の遊撃隊に対して、ミカが率いる部隊は、BT-42とⅣ号J型が1輌ずつなのだ――戦車の性能に、圧倒的な差が存在しているのである。

 

 

つまり直下のヤークトパンターが、Ⅳ号を撃破したのは、ある意味で道理なのだ。

 

 

 

「流石だねみほさん……精々楽しませて貰うとしようじゃないか――見せてくれ、君の戦車道を!!」

 

 

「言われずともその心算ですよミカさん!!」

 

 

 

そして其れは、みほにとってもミカにとっても己の闘争本能を燃え上がらせるには充分過ぎたらしく、闘気の炎が巻き上がり、そして激しく燃え上がる。

 

 

黒森峰の遊撃隊と、継続の別動隊の戦いは、互いに1輌ずつ失った状態でありながら、しかし燃え上がる様相を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

ミカの奴め、予想通りに仕掛けて来たか――否、仕掛けてくるしかなかったの知れないな。

 

慢心している訳ではないが、私の率いる黒森峰に対して、序盤からビハインドを背負ったというのはマイナスの要素でしかないから、其れを埋めるべく、遊撃隊を撃破する為にミカが動いたのは道理だ……と言うか、アイツが此処で動かなったら、アイツは所詮その程度の戦車乗りと言う事になってしまうがね。

 

 

だが、ミカは動いた。

 

それも、只動くだけじゃなく、みほが率いる遊撃隊を攻撃する形で仕掛けて来たのだ……何とも面白いじゃないか?

 

 

お前を侮る訳ではないが、果たしてお前にみほを止める事が出来るかな?――一時的な足止めは出来ても、みほが率いる遊撃隊を完全に抑え込む事など不可能だからな。

 

 

 

 

「みほはミカと交戦中みたいだけど……如何するのまほ?」

 

 

「愚問だな凛……このまま一気に継続の部隊を叩く。」

 

 

少なくとも、みほとエリカと小梅の3人がミカに撃破される事は無いだろう……其れを考えれば、遊撃隊は最低でも3輌が残る形となるからね。

 

みほとエリカと小梅の3人が残っていてくれるのならば、黒森峰の勝利は絶対だ――みほが妹であると言う事を抜きにしてもな。

 

 

 

 

「そうまで言い切るってのは、其れだけみほを信頼してるって事ね?……OK、そう言う事なら貴女を信じるわまほ。

 

 継続の連中に目に物を見せてやろうじゃない――姑息な戦術なんて、黒森峰には通じないって言う事を。そして、トリックスターの力も隻腕の軍神と、冷徹なる猛将の前には塵芥に等しいって事を!!!」

 

 

「冷徹なる猛将とは私の事か凛?……ふふ、悪くない名だな。」

 

 

ならば、その名に恥じぬように、冷酷に、冷徹に継続に敗北の鞭を振り下ろすとしようか?

 

みほ達は必ずミカを倒して、当初の予定である挟み撃ちを成功させるはずだからな……行くぞ凛、継続の連中に、中学大会で全試合でフィニッシャーと言う前人未到の記録を打ち立てた、その腕を見せてやれ!!

 

 

 

 

「Ich habe zugestimmt, Maho.(了解したわ、まほ。)

 

 中学大会全試合フィニッシャーの力、存分に発揮させて貰うわ……期待してくれていいわよ隊長さん?」

 

 

「あぁ、期待しているよ副隊長。」

 

 

みほを押さえつければ勝てると思ったのだろうが、その認識は大間違いだ継続高校。

 

確かにみほ――と言うか、みほが率いる遊撃隊は、黒森峰にとって大事な要素だが、其れを抑えた程度で攻略出来るほど、黒森峰の戦車道は浅くはないし、みほ達は早々簡単に抑えらえるモノではない。

 

 

だから断言してやる、勝つのは私達だとな。

 

そして思い知れトウコ――トリックスターと隻腕の軍神の間に存在する、覆しようのない絶対的な壁と言う物を!!

 

 

お前の力は大した物だが、しかしみほ以上ではない――精々その身に刻み込むが良い、西住姉妹が揃った黒森峰の戦車道のスケールの大きさと、みほが率いる遊撃隊の強さをな。

 

 

みほは当然として、本気モードになったエリカと小梅の力も計り知れないからね……其れを相手に、お前が何処まで出来るか楽しみだよミカ。

 

 

 

――尤も、私達が勝つと言う結果は、どうやっても変わらないだろうがな。

 

 

 

 

「大した自信ですこと……不遜にも思えるけど、貴女がやると王者の威厳にあふれてるわねまほ。」

 

 

「実際に自信があるからな。」

 

 

と言うか、自信が無くてこんな事をしたら、其れは只の虚栄に過ぎないからね……自信があればこそだよ。――何にしても、次の攻防が、この練習試合の大事な場面だから、有利な状態を保たねばだ。

 

 

みほが女豹の狡猾さを有していると言うのならば、私は猛虎の勇猛さを宿しているからね……その猛虎の爪牙で、喉笛を引き千切ってやるから覚悟していろ継続高校!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer80『VS継続戦、練習試合決着です!』

練習試合でも全力で行くのが基本だよ!Byみほ      戦車道に手加減は不要って事よね?Byエリカ     全力じゃないとおもしろくありませんしね♪By小梅


 

Side:みほ

 

 

 

可能性の一つとして考えてはいたけど、実際にミカさんが別動隊として仕掛けて来たって言うのには驚いたよ――しかもあろう事か、戦車の性能でも、数でも劣る編成で来たんだからね。

 

 

其れだけでも驚きなのに、慢心していたとは言え、サトルさんのパンターを撃破した訳だから……やっぱりミカさんの戦車乗りとしての実力を侮る事は出来ないよ。

 

一昨年の中学大会では、梓ちゃんも苦戦させられた訳だし……流石は島田流の長女って感じかな?尤も、ミカさんには流派なんて、関係ないだろうけど。

 

 

 

 

「その辺は貴女に似てるわねみほ?

 

 戦車道の一大流派の娘でありながら、流派の型には捕らわれない……だけど、勝つのは私達の方でしょ、みほ?」

 

 

「愚問だねエリカさん……負ける心算は毛頭ないよ?――如何に相手が強くても、だからと言って絶対に勝つ事の出来ない相手は存在しないから。

 

 ここでミカさんを倒して、そして本隊の支援をしつつ継続の部隊を挟み撃ちにしてフラッグ車を討つ!其れに変わりはないよ。」

 

 

「なら、尚の事頑張らないとダメですね!!」

 

 

「寧ろ上等だ――継続の連中に、アタシ等が本気を出したらどうなるのかって言う事を、教えてやるのも一興だからな。」

 

 

 

 

其れはまた、何とも頼りになる事を言ってくれるね理子さん?

 

でも、其れを成す為には、先ずはミカさんを何とかしないとどうしようもない――さっきの通信から既に5分が経過してる……となれば、そろそろ継続の部隊が此処に差し掛かる事になるからね……その前に、ミカさんを倒さないと継続の部隊を挟み撃ちにする事は出来なくなる。

 

 

だから貴女の事は、何が何でも速攻で倒させて貰いますよ、ミカさん!

 

 

 

 

「其れは楽しみだが……君達の戦車乗りとしての力がドレだけのモノか、楽しませて貰おうかな?――丁度、良い風も吹いて来たからね……」

 

 

「その風は、台風かも知れないのでに流されないようにしてくださいよミカさん?――風って言うのは、割と気紛れな物なんですから……!!」

 

 

さぁ、再戦と行きましょう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer80

 

『VS継続戦、練習試合決着です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

みほ率いる遊撃隊の残存戦力が、パンターが2輌に、ティーガーⅠとヤークトパンターが1輌の計4輌なのに対し、ミカ率いる別動隊の残存戦力はミカの乗るBT-42とⅣ号戦車J型が1輌ずつと言う物であり、数でも戦車の性能でもみほ達の方が圧倒的に有利なのは誰の目にも明らかだろう。

 

 

実際に、この練習試合を観戦していた人々も、ミカ率いる別動隊はパンターを1輌撃破したモノの、それから後は瞬殺されるだろうと思っていたに違いない――其れこそ、目の肥えた戦車道ファンでも、そう考えた筈だ。

 

 

 

「コンのぉ、ちょこまかと……そんなバランスの悪い戦車で、よくそれだけ動けるモノだと逆に感心するわ!!」

 

 

 

だが、実際にはそうならず、ミカの別動隊はみほ率いる遊撃隊の進軍を完全に抑え込んでいた。

 

付かず離れずの距離を保ちながら、『ギリギリ当たらない』ように動き回り先に進ませず、その時々で砲撃も行い、Ⅳ号もソコソコある機動力を生かして攻撃を仕掛ける。

 

とは言え、Ⅳ号J型の長砲身75mmでは至近距離でないとパンターやティーガーの装甲は抜けないし、BT-42は114mm砲を搭載しているモノの、短砲身である事と、使用砲弾の性質のせいで100mmの装甲を貫通するのも難しいので決定打にはなり得ない。

 

が、ミカの目的は遊撃隊の撃破ではなく足止めなので、決定打にならなくとも、此の場所に釘付けにする事が出来れば良いのだ――最低でも継続の本隊が、この高台の下を完全に通過するまでは。

 

 

とは言え、ミカが本気を出していない訳ではない。

 

ギリギリの間合いで放たれる砲撃は、可成り高い確率で、パンター、ティーガーⅠ、ヤークトパンター夫々の最も装甲の薄いウィークポイントを狙っているのだから。

 

其れでも撃破出来ないのは、相手がみほ率いる遊撃隊だからだろう。

 

 

みほの実力は今更疑いようもないが、エリカも去年の中学全国大会の決勝戦以降、急激に力を伸ばし、今やその力はみほに匹敵するレベルであり、小梅は此の2人には僅かに劣るモノの黒森峰1年のナンバー3なのは間違いないし、直下も此処の所急激に力を伸ばし、1年トップ3に肉薄する実力をつけてきているのだ。

 

そんな4人が集い、そしてみほの指揮の下で戦っている以上、そう簡単に撃破されはしない。

 

 

 

「そうはさせないわよ、ミカ!!」

 

 

「どうやら、さっきのパンターが特殊だったようだね?そう簡単に、遊撃隊の首は取らせてはくれないか……」

 

 

 

ミカがウィークポイントを狙って来た時には、必ず誰かがフォローして、撃破を防いでいるのだ。

 

そして、其れはみほの命令ではなく、夫々が己の考えで動いている結果であり、遊撃隊の車長達の判断能力の高さが伺える事だろう――とは言え、此のまま続けていても泥仕合になるばかりであり、此処での戦いが長引けば、継続に有利になるのは間違いない。

 

 

だからだろうか?此処で小梅と直下が仕掛けた。

 

 

 

「いい加減、大人しくしてください!!」

 

 

「履帯が切れる恐ろしさを、其の身で味わえ!!!」

 

 

 

小梅のパンターがⅣ号の履帯を斬り、直下のヤークトパンターがBT-42の履帯を斬る。

 

履帯を切られた戦車は動く事が出来ない故にⅣ号は直後にみほのパンターの砲撃を受けて沈黙し、同じく履帯を斬られたBT-42には、エリカのティーガーⅠの88mmが放たれる。

 

長砲身の88mmは、破壊力と実用性の両方を満たした戦車砲であり、大抵の戦車を撃破する事が出来る一撃だ――正面の装甲厚が15mmしかないBT-42が喰らったら撃破される事は間違いないだろう。

 

 

 

「天下のクリスティ式を、舐めんなよ!!」

 

 

 

だがしかし、砲撃が当たる直前にBT-42は急発進して砲撃から逃れる――履帯が切れてるにも関わらずにだ。

 

 

 

「履帯がないのに走るですって!?」

 

 

「BT-42は履帯が無くても走れるクリスティ式を採用してる戦車だったっけ……しかも、転輪走行時の方が機動力は上がる――BT-42相手に履帯を斬るのは、悪手だったかもね。」

 

 

 

そう、BT-42は履帯が切れても転輪で走行する事の出来る『クリスティ式』が採用されてる戦車であり、機動力の事を言うのなら、寧ろ履帯が無い方が向上する位なのだ。

 

 

実際に、履帯を斬られたBT-42は、その機動力を持って、これまで以上に動き回ってみほ達を足止めしている――其れこそ、一対四の状況をモノともしない位にだ。

 

 

このまま行けば、遊撃隊を足止めできると、ミカが思ったその時だった。

 

 

 

 

『隊長、継続の部隊が見えたよ。』

 

 

「本隊との通信から凡そ7分……少し遅れたけど、大体予定通りに現れたね。」

 

 

 

みほに継続の部隊を目視したとの報告が入る。

 

だが、其れは本隊からのモノではなく、そして今戦っている遊撃隊のメンバーからのモノでもない……では一体誰が、みほに此の通信を寄越したのだろうか?

 

 

 

「よく見ていてくれたね?助かったよサトルさん。」

 

 

『まぁ、先走ってしくじっちゃったからね?……罪滅ぼしに此れ位はね。』

 

 

 

その正体は、先走って撃破されてしまったサトルだった。

 

慢心して撃破されたサトルだが、其れが逆に彼女に冷静さを取り戻させ、己が何をすべきかを考えさせ、その考えた結果として、サトルは継続の部隊の動きを観察していたのだ。

 

 

戦車道の試合に於いて、白旗の上がった戦車は戦う事は出来ないが、逆に言うのならば撃破されたらそれ以上攻撃される事は無い上に、回収車が来るまでは、その場に留まる事が出来る――其のルールを最大限利用した頭脳プレイと言えるだろう。

 

そして、サトルが齎した情報は、遊撃隊にとっては有り難い事この上ないモノだ。

 

ミカ率いる別動隊と戦闘状態にあっては、どうしても継続の本隊の動きを掴むのは困難になって来る――下手をしたら、気付かぬ内に継続の本隊が、下を通過してしまったかもしれないだろう。

 

 

だが、ある意味で自由になったサトルのおかげで継続の動きを把握する事が出来た――ならば、みほの判断は一択だった。

 

 

 

「エリカさん、小梅さん、理子さんは継続の本隊を足止めして!ミカさんは、私が抑えるから!!」

 

 

「了解よみほ!……これ以上先には行かせないわ!絶対にね!!」

 

 

「お願い!それから、此れより一時、遊撃隊の指揮権をエリカさんに譲渡するから、頼んだよ副隊長?」

 

 

「任された。

 

 って言っても、私は貴女ほど『指揮官としては上手くない』から、出来るだけ早くミカを倒して指揮権を元に戻してよ?」

 

 

「うん、出来るだけ早く倒せるように頑張ってみるよ。」

 

 

 

自分がミカの相手をする事を決めると、エリカ、小梅、直下に対して、本隊の支援をするように指示を出し、更に自分がミカの相手をしている間の指揮権を、遊撃隊副隊長のエリカに譲渡。

 

この判断は自分の実力に自信があり、そしてエリカの実力を信じていなければ出来ない事だ。

 

そして指揮権を譲渡されたエリカもまた、『指揮官としてはみほ程上手くない』と言いながらも、其れを快諾したあたり、みほの信頼に応えようとする気持ちと、己の実力への自信があるのだろう。

 

 

 

「行くわよ小梅、直下!継続の連中を足止めするわ!」

 

 

「そして、隙を見て、裏から回り込んで挟み撃ちですね!!」

 

 

「いいねぇ、燃えて来たぁ!!1年だからって、遊撃隊を舐めるなよ!!」

 

 

 

「一騎打ちかい?……望む所だよみほさん。」

 

 

「一騎打ちで抑え込まないと、私達の方が引っ掻き回されてしまいそうですからね……何より、遊撃隊の初対外試合は白星で飾りたいので!」

 

 

 

そして、エリカ、小梅、直下の戦車は高台からの砲撃を始めて継続の部隊を足止めし始め、みほはミカとの一騎打ちに突入したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、この攻撃に驚いたのは、継続の隊長であるトウコだ。

 

ミカがみほの部隊を抑え込むと言っていたからこそ、安心して黒森峰から距離を取り、そしてキルゾーンへと誘導しようとしていた矢先に上からの砲撃が来れば、其れは驚くだろう。

 

 

 

「(砲撃~~!?ななな、何で砲撃が?

 

  まさか、ミカがやられたって?……いんや、其れはかな~り考え辛いし――高台に居る戦車は3輌って事を考えると、1輌は撃破したモノのお供のⅣ号はやられて、今は1輌と一騎打ちって所かいな?

 

  状況としては、かな~~り拙いんだけど……でも、こう言う所からの逆転てのが楽しいんだわな。)

 

 フヒヒヒ、ミカが行っても抑えきる事が出来ないとは、向こうの遊撃隊ってのは本当に優秀なもんだね~?羨ましい位さね。

 

 しかも、たった3輌ながら、砲撃のタイミングを絶妙にずらす事で、ほぼ連射に近い砲撃をしてると来たもんだ――此のままだと足止めされて、更に黒森峰の本隊に追い付かれてジリ貧て所なんだけど……そ~簡単には行かないんだよね~此れが。」

 

 

 

しかし、驚きながらもすぐさま思考の修正が出来るのがトウコの凄い所と言えるだろう。

 

即座に状況がどうなっているかを予測し、可成り拙い状況であると認識しながらも、其処からの逆転劇が楽しいと考えているのだ――或は、この思考の切り替えの速さが、彼女をトリックスターとさせているのかも知れない。

 

 

 

「下から上の戦車を撃破するのは難しいけど、足場を崩すのなら難しくないからね?

 

 遊撃隊の皆さんの足元を崩してやんな~~?流石に、足元を崩されたら高台の上からの砲撃だって難しくなるだろうし、後退してくれればその分だけ、こっちは黒森峰の本隊を誘導出来っからね~~?」

 

 

 

その上で考えた戦術は、先ずは高台からの砲撃を行っている戦車の足元を崩す事だ。

 

単純な事ではあるが、状況を考えれば最も理に適った方法だろう――足元を崩されてしまったら、砲撃を続行するよりもまず、体勢を立て直す事が先決となる為、攻撃の手を強制的に止める事が出来るのだから。

 

同時に、攻撃が止まれば自分達は目的地に向けて動き出す事が出来る。動く事さえできれば、黒森峰の本隊に追い付かれようとも、なんら問題ないのである。

 

 

 

 

そう、攻撃の手が止まった後だったならば。

 

 

 

 

「履帯を斬ってから撤退するとは……私の妹も良くやるから、姑息等と言う気はないが、其れで私達の進軍を止める事が出来ると思ったら大間違いだぞトウコ!!」

 

 

「げぇ!?もう追い付いてきた!?」

 

 

 

継続が遊撃隊の足場を崩しにかかるよりも早く、まほ率いる黒森峰の本隊が継続の部隊に追い付いてしまったのだ。

 

此れはトウコにとっては予想外。少なくとも、重戦車の履帯を直すのにはもっと時間が掛かる筈だと考えていたのだから当然だが……此処に、トウコの誤算があった。

 

ドイツ戦車は足回りが弱いくせに履帯が重いと言う弱点がある故に、黒森峰の機甲科に於いては、履帯の修理もまた必須能力として1年の頃から徹底的に鍛えられるのだ。

 

そのお陰で、履帯の修理に関しては、機甲科の生徒は整備科の生徒以上に速く正確に行う事が出来る――ヤークトティーガーやマウスの様な化け物戦車の履帯でなければ、大体5分もあれば修理できてしまうのである。

 

 

そしてその修理のスピードがトウコの誤算だったのだ。

 

 

 

「なんちゅー修復速度……だ・け・ど、逃げ切る!高台に向かって攻撃ぃ!!」

 

 

 

其れでもトウコは慌てずに、高台への攻撃を敢行!と、同時に、黒森峰の本隊に向けても牽制攻撃を行って、少しでも進軍を止めようとする。

 

黒森峰の戦車の性能を考えれば、牽制攻撃はあまり意味を成さないかも知れないが、其れでも無いよりはマシなのだろう――実際に、牽制していた事で、足元崩しは巧く行ったのだから。

 

 

 

「よっしゃ~~、今の内に駆け抜けろ~~!!」

 

 

「逃がすか。(キルゾーンに誘い込む心算だろうが、そうはさせん……みほ達がそうさせない。)」

 

 

 

その隙を突いて継続の部隊は前進し、黒森峰は其れを追いかける。

 

そしてまほは、トウコが自分達をキルゾーンに誘導しようとしていると言う事を見切りつつも、敢えてそれに乗る形を取り、遊撃隊が其れを喰い止めると信じていた。

 

 

 

 

その遊撃隊で継続の部隊の足止めを任されたエリカ達は、足場を崩された事で高台の際から後退する事を余儀なくされていた。

 

此のまま並走して前に出て、再び足止めと言う事が出来なくはないが、それではまた足元を崩されて同じ事の繰り返しになり、何れは継続が、黒森峰をキルゾーンに誘い出してしまうだろう。

 

其れをさせない為には、一刻も早く挟み撃ちにするしかないが、だからと言って大きく回り込んでいる時間はない。

 

 

 

「此れは、此のままじゃ拙いですね?継続をこのまま進行させたら、間違いなくキルゾーンに……」

 

 

「いっそ、此処からフラッグ車狙うか?撃破するのは難しいかもだけど。」

 

 

「……えぇ、確かに不味いわ。だから……此の斜面を滑り降りて、強引に継続を挟み撃ちにするわよ!!」

 

 

 

だが、その状況が、エリカにとんでもない判断をさせる事になった。

 

エリカが選んだ策は、なんと高台の急斜面を滑り降りて、継続の前に出て本隊と挟み撃ちにすると言う物だ――まぁ、この高台は以前は多くの木が茂っていた場所故に、斜面は可成り勾配がきつくても断崖絶壁ではないので、滑り降りる事は可能なのだが、普通ならこんな事は絶対に考えないだろう。

 

しかし、其れをアッサリ選択する辺り、エリカは確りとみほの影響を受けて居る様だ。

 

 

 

「此の斜面を滑り降りるって……クレイジーな事言ってくれるなぁ逸見?――だが、その策乗ったぁ!!」

 

 

「鵯越の逆落としの戦車版ですか?……良いですね、それで行きましょう!!」

 

 

「馬で崖を駆け降りるよりも、戦車で勾配のきつい斜面を滑り降りる方が遥かに安全よ――新制黒森峰の象徴である遊撃隊、その心意気のある奴は、私に続けぇ!!」

 

 

 

そして、その提案をあっさり受け入れる小梅と直下も大概だろう。

 

そのままエリカの号令で、ティーガーⅠ、パンター、ヤークトパンターの3輌は斜面を滑り降りて強引に継続の前に姿を現し、その侵攻を強制停止させる。

 

 

 

「悪いけど、アンタの首は此処で刈らせて貰うわよ、継続の隊長さん?」

 

 

「あの角度の斜面を滑り降りるって、正気かお前!?……とんでもないな、黒森峰は!!」

 

 

 

その無茶のお陰で進行を止められたトウコからしたら、此れは拙い事だろう――完全に前後の挟み撃ち状態になってしまったのだから。

 

目の前には一時的に指揮権を譲渡されたエリカが率いる遊撃隊、後にはまほが率いる本隊……今の継続は正に『前門の虎、後門の狼』所か『前門に虎を引き連れた狼、後門に豹と虎を引き連れた虎の長』と言った状況なのだから。

 

 

 

「だが、上等じゃないの?此れ位の逆境を跳ね返せなきゃ、大会では勝てないからね~~!」

 

 

 

其れでもトウコは諦める事はせずに、頭の中でありとあらゆる戦術と作戦を計算しながら、まほとエリカに戦いを挑み、その戦いは見事な戦車戦の様相を呈して来ていた。

 

 

戦車の性能で勝る黒森峰が継続の戦車を次々と撃破していく中で、トウコの乗る隊長車はギリギリで攻撃を躱して決定打を受けずに居て、隙があれば、まほが乗っているフラッグ車も狙っているのだから。

 

 

だが、この時は誰も気付いていなかった――エリカの目からハイライトが消え、瞳が極端に収縮していた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、みほとミカの一騎打ちは、加熱の一歩を辿っていた。

 

カタログスペックでは、転輪走行時の最高が70kmを越えるBT-42が相手では、如何に攻守速に優れ、大戦期最強と謳われたパンターであっても、その動きを捉える事は難しい。

 

 

だが、同時にBT-42の主砲が大口径であるとは言え、至近距離からでないと100mm装甲を抜く事は出来ないのだ。

 

 

 

「やっぱり、君は素敵だねみほさん……君との戦いは、私の魂を熱く燃やしてくれる……此れは、島田流の訓練や、君以外の相手との試合では感じなかった感覚だ。

 

 君が吹かせる風を、もっと感じさせてくれみほさん。」

 

 

「勿論ですミカさん!――と、言いたい所なんですけど、これ以上私を釘付けにされては困りますからね?……だから、次で決めます!!」

 

 

 

其れでも両者がヒートアップしてるのは間違いないだろう――みほの目からはハイライトが消え、瞳孔が極端に収束した状態になっているのだから。

 

 

つまり、今のみほは去年のエリカとの決勝戦で至った究極の極限状態になっているのである。

 

そして、この状態になったみほに敵は無いと言っても過言ではないだろう――その証拠に、みほは砲撃を命じると同時に、砲撃と同時に急発進して、ミカのBT-42の横をすり抜け、そして電柱に向かって砲撃!!

 

 

此処は伐採が進んだ嘗ての杉山だが、太陽光発の為に太陽光パネルが設置されている場所だ。

 

そして太陽光パネルで発電した電気を送電する為の電線や、電柱は既に設置されていると言う場所なのだ此処は。

 

 

みほは、その電柱に砲撃を行って叩き折り、ミカの乗るBT-42の頭上に落としたのだ。

 

当然、此れはBT-42の車長であるミカが回避を命じるが、次々と倒れて来る電柱は躱しきれるものではなく、遂に完全回避出来ずに砲身が倒れた電柱に挟まれて身動きが取れなくなってしまう。

 

 

だが、此れはみほにとっての最大の好機だ。

 

 

 

「此れで終わりですね、ミカさん?」

 

 

「如何やら今回も、勝利の女神は私には微笑んでくれなかったらしいね?

 

 ……今回は、完敗だよみほさん……機会があれば、また戦ってくれるかい?」

 

 

「その時は喜んで。」

 

 

 

――ズガァァァァァァァン!!……キュポン!

 

 

 

 

『継続高校、BT-42行動不能。』

 

 

 

直後にミカの戦車は白旗判定となり、沈黙……そして、其れはみほが解き放たれた事の証だ。

 

 

 

 

「一気に行くよ?ヒカリさん、全速力で行って!!」

 

 

「あいさーーー!任せとけ妹様!!」

 

 

 

そこからみほは最大出力加速すると、一気に崖から飛び出して、継続の部隊に必殺の戦車プレスをお見舞いした上で2輌の戦車を撃破し、更に、操縦士であるヒカリが類稀な力を発揮し、隊長車の護衛を務めていた戦車部隊を鎧袖一触!!

 

 

 

「今です近坂先輩!!」

 

 

「ブチかませ、凛!!」

 

 

「天下の西住流に言われたら断れねーわ……此れで終いだ!!88mmの一撃で沈め、継続高校隊長、トウコ!!」

 

 

 

そしてその隙を逃さずに、凛の戦車が躍り出て、まるで流れるかのような動きでトウコの戦車を撃破――トウコの戦車はフラッグ車だったので、これで勝負ありだ。

 

中学時代に全試合でのフィニッシャーと言う前人未到の記録を打ち立てた凛の強さは健在だったようである。

 

 

 

『継続高校、フラッグ車走行不能――黒森峰女学園の勝利です。』

 

 

 

「あ~~負けたか~~……もうちょっと食い下がれるかとおもったけど、お宅の遊撃隊にやられたわ……完敗だったけど、楽しかったよ。

 

 西住姉妹が組んだら無敵と言う話は聞いていたけど、よもやこれ程とは思わなかった……だけど、大会で会ったら負けないわよまほ隊長!」

 

 

「ふ、其れを楽しみにしているぞ。――良い試合だったな。」

 

 

 

この練習試合の結果は黒森峰の勝利に終わったが、継続の隊長であるトウコと、BT-42の車長であるミカは最重要人物として各校からマークされる事になったのはまた別のと言う事にしておこう。(語られるかどうかは不明だが。)

 

 

ともあれ練習試合は黒森峰の勝利であり、遊撃隊の初対外試合も、白星で飾る事が出来たのだ――此れは、幸先の良いスタートだと言えだろう。

 

 

只一つだけ確実に言えるのは、『今年の黒森峰は、西住まほのワンマンチームではない』と言う印象は与える事が出来たと言う事だ。

 

それが、大会で大きな武器となるのは間違いないだろう――ワンマンチームではないと聞けば、どうしても周囲に目を回す時間が長くなり、注意が疎かになるから、其処に付け入る隙がある。

 

なんにせよ、新制黒森峰の初の対外試合は、みほ率いる遊撃隊がその能力を発揮して、勝利を手にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

ふぅ、練習試合を勝利で飾って、今は港近くのお寿司屋さんなんだけど……流石に、100名超って言うのは無理があったのではないかと愚考する次第ですが、如何なのお姉ちゃん?

 

 

 

 

「2階席も使って居るから大丈夫だろ?――其れよりも、此処の寿司を味わえ。

 

 此れだけの上等な寿司は、中々食べられるものではないからね?……大将、この穴子は素晴らしいな?蒸し加減と言い、ツメの味と言い文句無しだ。

 

 お世辞抜きに、此れまで食べた穴子の握りの中で最高だと評価するよ。」

 

 

「ありがとうございます。

 

 天下の黒森峰さんが来るってんで、魚を厳選した甲斐が有ったってもんです。是非とも、心行くまで味わってください。」

 

 

「うん、そうさせて貰おう。」

 

 

 

 

……すっかり馴染んでるねお姉ちゃん?店の大将とのやり取りも様になってるしね。

 

でも、心行くまで味わってくれって言うなら、そうさせて貰うのが道理だから、お高い店だと思って抑えて来たけど、行くよエリカさん、小梅さん、理子さん!!

 

 

 

「「「「リミッター解除!!!」」」」

 

 

 

と言う訳で、美味しいお寿司をお腹いっぱい頂きました。

 

因みに、ミカさんがさらっと加わってたけど、其れについてあれこれ言うのは野暮って言う物なんだろうね?――お姉ちゃんも、気付いて居ながらも、ミカさんの分も払ってたからね。

 

 

何にしても、遊撃隊の初の対外試合を白星で飾る事が出来たのは、最高の結果だったね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer81『黒森峰での日常風景です』

結構濃い日常だよね?Byみほ      此処に戦車道が加わるんだから間違いなく濃いわねByエリカ     濃縮還元果汁もビックリの濃さですよ……By小梅


 

Side:みほ

 

 

 

継続高校との練習試合は勝てたけど、だからと言って気を抜く事は出来ない――勝って兜の緒を締めよって言葉がある位だから、勝利に慢心したら、待っているのは敗北だからね。

 

 

だから、毎朝の基礎訓練は欠かせないよ。

 

10kmのランニングに始まって、ダンベル運動なんかで筋力強化をしつつ、身体の柔軟性は失わないようにする……此れだけの朝練が出来るようになっただけでも、アスリートとしては、結構なレベルなんじゃないかな?

 

 

 

 

「そうかも知れないけど、私の目指す高みは、まだまだこんなこんなもんじゃないわ!!――貴女を越えるのが私の目標だからね、みほ!!」

 

 

「其れは私もですよみほさん♪」

 

 

「エリカさん、小梅さん……」

 

 

其れはまた、何とも嬉しい事を言ってくれるね?――なら、2人の為にも私は最強の存在として居続けないとだよ……それが、礼儀だろうから。

 

 

 

 

「最強とは大きく出たけど、其れ位じゃないと越え甲斐もないわ。

 

 ん?……でも、みほが最強なら、まほさんだって最強な訳で、つまりは最強の姉妹で、その姉妹が揃ってるんだから――今更ながらに、負けるなんて事は有り得ないわね絶対に。」

 

 

「……勝負に絶対はないと思うけど、確かに負けは想像出来ないかなぁ?」

 

 

こう言っちゃなんだけど、今年の黒森峰は、恐らくお母さんが現役だった頃の黒森峰より強い……若しかしたら過去最強かも知れないからね。

 

だけど、他のチーム……特にサンダース、聖グロ、アンツィオに、この間戦った継続は要注意の相手だから、大会で当たった時には気をつけて行かないとだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer81

 

『黒森峰での日常風景です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、幾ら戦車道の絶対王者である黒森峰だからって、機甲科の生徒が四六時中戦車に乗ってるなんて事は無くて、普通の授業だって勿論ある。と言うか、戦車道は何方かと言うと放課後の部活動に近い感じだからね。

 

 

で、黒森峰は偏差値も高めの学校だから、学業のレベルも当然高くて、授業態度も真面目な生徒が多い……筈なんだけど、この光景は間違いなく私達のせいかな、エリカさん、小梅さん?

 

 

 

 

「いや、コイツ等の自業自得でしょ?行き成りはキッツイから止めとけって注意しといたのにやるからこうなるのよ。」

 

 

「私達の朝練は、行き成り参加して出来るモノじゃないですからねぇ……戦車道の時間までに復活出来ると良いんですけれど……?」

 

 

「其れは多分大丈夫じゃないかなぁ?……戦車乗りは、戦車の前ではシャキッとするモノだから。」

 

 

 

 

「「「「「「「「「「Zzz………」」」」」」」」」」

 

 

 

 

クラスの内、約10人が授業中であるにも関わらず爆睡中!

 

せめてもの救いはイビキをかいてない事だけど、其れにしたって見事な爆睡っぷりだよ。

 

 

まぁ、無理もないかなぁ?

 

寝ちゃってる人達も、朝の自主練はしてたみたいだけど、今日は、私が率いる遊撃隊のメンバーが行ってる、特別メニューの朝練に参加してた訳だからね?

 

 

10kmのランニングに始まり、ダンベル運動(片方5kg)左右200回ずつ、腹筋200回、スクワット200回を熟して、其の後で筋肉が柔軟性を失わないように、中国式の太極拳やスポーツヨガで身体を解して、最後に入念なストレッチって言うメニューを大体3時間で行うんだから、慣れてないと授業が睡眠学習になるのは仕方ないかな?

 

 

 

 

「聞いてるだけで吐き気がしてくる練習内容だが、西住も逸見も赤星も、なんで平然としてられるんだ!!」

 

 

「何でって、そりゃあ慣れてるからじゃないですかね?

 

 ぶっちゃけ、西住流フィジカルトレーニングを中学の頃に3年連続で合宿で熟した身としては、この程度の朝練はウォーミングアップ程度?」

 

 

「もうすっかり慣れちゃいましたからねぇ?多分、直下さんと時坂さんも、クラスは別ですけど平然としてると思いますよ?」

 

 

「そして私の場合は、小学生の頃からこれ以上のハードトレーニングをやってるので、今更これくらいどうって言う事は無いんですよ先生♪」

 

 

「其れだけのハードトレーニングを行って尚平然としているとは……此れが西住流――恐るべし!

 

 とは言え、此れだけの生徒が寝てたんじゃ授業にならん。遊撃隊の隊長として、何とか寝てる連中を起こしてくれないか西住?」

 

 

 

 

え~~?そう言われても、起こして起きるかなぁ?

 

こんな事言ったら身も蓋もないけど、寝てる人達は全員深い夢の中……人によっては、意識や魂が遠い宇宙の果てのブラックホールか、異界に飛んでると思うからねぇ?……如何やったら、起きるかなぁ?

 

 

 

 

「何を迷っているのよみほ?貴女には、熟睡してる相手や寝ぼけてる相手を一発で覚醒させる必殺技があるでしょう?

 

 其れを使えば、寝てる連中なんて速攻で起きるわよ!それどころか、気合が入って逆に授業に身が入るんじゃないかしら?……こう言っちゃなんだけど、恐ろしい程に似てたからねアレは……」

 

 

「一瞬、本当に隊長に一喝されたのかと思いましたよアレは……」

 

 

「あぁ、確かにその手があったね。」

 

 

それじゃあ、授業を進める為にも一発行こうか?

 

ふぅ……お前達、如何に朝練で疲れているとは言え、授業中に居眠りをするとは何事だ!!

 

 

 

「「「「「「「「「「はいぃぃぃぃ!すみませんでした隊長!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

「……本当に起きたし。」

 

 

「本当に似てるわよねぇ……貴女とまほさんが夫々真似したら、師範でも見分けがつかないんじゃないのかしら?」

 

 

 

 

そう思うかもしれないけど、お母さんはバッチリ見分けるんだよ此れが。

 

確か小学校の時だったと思うけど、お姉ちゃんと髪型取り換えての入れ替わりをした事があったんだけど、お姉ちゃんはアッサリとお母さんに見破られちゃってたからね?

 

と言うか、真面目で実直なお姉ちゃんには声真似なら兎も角として、ガチの物真似とか無理です。……であるにも拘らず、ガンダ○SeeDのラク○のキャラソン歌わせると満点を叩き出すんだけど。

 

 

其れは其れとして、皆起きた?

 

幾ら朝練で疲れたとは言っても、授業で寝ちゃダメだよ?起こす為にお姉ちゃんの真似をして言ったけど、言った内容は私が思ってる事だからね?

 

……興味本位で、遊撃隊の朝練に参加するのは勝手だけど、其処でへばったからって授業で寝るのは言語道断だよ!

 

 

 

 

「た、隊長じゃなくて、遊撃隊長だった?」

 

 

「お、オッソロしく似てたわぁ……流石は姉妹……顔は似てないけど、遊撃隊長が低めの声出すと、隊長にそっくりの声だわぁ。」

 

 

「此れが、西住流の真髄……御見それしました!!」

 

 

「……色々と突っ込みたい所は有るけど、私が言った事は分かったかなぁ?……分かったら、返事をしてほしいんだけど?」

 

 

「「「「「「「「「「Ma'am Yes Ma'am!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

宜しい。

 

と言う訳で寝てた人達は全員起きたので、授業を続けて下さい先生。え~っと、確か今日はテキストの38ページ目からでしたよね?……如何かしましたか?

 

 

 

 

「西住、お前は絶対に最高の指揮官になれるんじゃないかと思うわ私は……10年前に隊長を務めた私を竦ませるとは大したモンだわ。」

 

 

「?」

 

 

なんか、先生も若干引いてたみたいだけど、どうしたんだろうね?

 

まぁ、良いか……此れで授業が円滑に行われる訳だから。――尚、1時間目の必修外国語であるドイツ語の授業では、ドイツ系クォーターのエリカさんが終始無双でした!

 

私もドイツ語は得意だけど、流石にエリカさんみたいにネイティブな発音は出来ないからね……今更ながらに、流暢にドイツ語を話すエリカさんってかっこいいなぁ。

 

小梅さんから聞いた話だけど、中学時代――特に3年生の時にはラブレターが絶えなかったって言うのも納得かな?

 

 

……こんな事言ったらアレだけど、中学時代に貰ったラブレターの数を競ったら、私とエリカさんって結構いい勝負なんじゃないかなぁ?

 

尤も、私とエリカさんのラブレターの総数を合わせても、多分お姉ちゃんが貰った数には遥かに及ばないんじゃないかって思うけどね……まぁ、お姉ちゃんのネームバリューは、国際強化選手って事も有ってワールドレベルだから比べるのが間違ってるけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

みほの一喝(まほさん仕様)で何とか授業が成り立った後は、居眠り組の目も完全に覚めて、授業が滞る事は無かったわね。

 

で、授業は進んでただいま4時間目……昼休み前の此の時間だけど、水曜日の今日は、体育なのよね?昼休み前の運動って事で、何時もよりもお腹が空くから、この後の学食は結構激戦なのよ。

 

まぁ、私は中休みの時に、水曜日限定のデミハンバーク定食を予約しといたから安心だけど。

 

 

その体育の授業は、本日はサッカー。

 

女子高でサッカーと思うだろうけど、なでしこジャパンの活躍で女子サッカーは盛り上がりを見せてるし、ドイツ風の流れを汲んでる黒森峰でサッカーは外せないでしょうよ?

 

ドイツは、過去に何度もワールドカップを制覇してるサッカーの強豪国だからね。

 

 

で、試合のチームは申し合わせたかのように私と小梅と、そしてみほが一緒のチーム。

 

ポジションとしては、小梅が特殊ディフェンダーであるスイーパー(最後線で待機し、斬り込んで来た相手フォワードを止めるディフェンスの切り札)で、私とみほがトップ2のフォワード……負ける気がしないわね。

 

流石に50分の授業中で前後半を分ける事は出来ないから、40分間の1ゲームだけど、授業とは言え絶対に勝つ――行くわよみほ!!

 

 

 

 

「うん、行こうエリカさん!!」

 

 

「黒森峰の軍神と狂犬は、戦車だけじゃないって教えてあげるわ。」

 

 

コイントスの結果、キックオフを得たのは相手の白組だけど、其れ位は丁度良いハンデだわ……遊撃隊隊長と副隊長のコンビネーションを、其の目に焼き付けてやろうじゃないの。

 

 

 

 

――ピーーー!!

 

 

 

 

で、試合開始。

 

相手はオーソドックスなパスから攻めて来たけど甘いわ……スライディングカットでボールを弾けば、其れをみほが巧くトラップしてからドリブルに繋いで一気にゴール前まで!

 

 

そうなれば当然、相手のディフェンダーはみほを潰しにかかる訳なんだけど……

 

 

 

 

「おぉっと、そうはさせないよ?エリカさん、お願い!!」

 

 

「任されたわみほ!!」

 

 

ディフェンダーがカットに入る前に、みほは私に弧を描くような軌道でのパスを出してくれた……そして、此れは私にとっての絶好球に他ならないわ!!

 

地面を蹴って跳躍して、そのままサッカーボールを右足で一閃!!

 

 

 

――ズバァァン!!

 

 

――ピピィ!!

 

 

 

決まったわ、ジャンピングボレー!

 

先ずは1点先取ね。ナイスパスよみほ!!

 

 

 

 

「エリカさんも見事なシュートだったよ♪――此のまま一気に突き放しちゃおう!!」

 

 

「了解!」

 

 

んで、再び相手の攻撃から。

 

細かいパスはカットされると読んで、私とみほの頭上を越える大きなパスを出して来たわね?……まぁ、悪くない判断だとは思うわ。

 

前線にパスを出せば、速攻に繋げる事も出来るし、学校の授業じゃオフサイドみたいな良く分からないルールは適用されないから攻め込み過ぎるって事も無いからね。

 

 

パスを受け取ったミッドフィルダーの子も、速いパス回しでフォワードの子に回して、こっちのディフェンダーを躱してゴールまで一直線って所だけど、ゴール前にはスイーパーである小梅が居る。

 

其れを考えれば真っすぐ突っ込むのは悪手……となれば、当然パス回しで小梅を抜こうとするはずだけど……

 

 

 

 

「見切りました!!

 

 パスで抜く……と見せかけての強引な突破は読んでましたよ?ボールは頂きます!!」

 

 

 

 

パスは見せかけだって読んだ小梅が、見事なインターセプト!からの前線へのロングパス!!

 

其れをミッドフィルダーの子がヘディングで私に繋いで、其処から一気に斬り込む!ディフェンダーがカットに来たけど……甘い!!

 

 

 

――バシュン!!

 

 

 

「えぇ!?な、何この高速フェイント!?」

 

 

「必殺の超鋭角フェイントよ!」

 

 

急激な方向転換が必要になるから、足には可成りの負担がかかるんだけど、みほ達と毎日行ってるトレーニングで培った、ゴムの柔軟性と鋼の剛性を併せ持つ筋肉の前には無問題よ!

 

さっきは御膳立てして貰ったから、今度は貴女が決める番よみほ!!

 

 

 

 

「ナイスパス!それじゃあ華麗に決めちゃおうかな?……此のディフェンダーを躱す所からね!」

 

 

 

 

言うが早いか、みほはカットに来たディフェンダーに背を向けるとボールを背面方向に大きく蹴り上げてから急旋回し、その過激な動作で一瞬の虚を突かれた相手の横を抜き去り、落ちてきたボールをオーバーヘッドキック!

 

 

 

 

「行けぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

其れも只のオーバーヘッドキックじゃなく、オーバーヘッドでのドライブシュート……大きく下に落ちるドライブ回転をオーバーヘッドで放った場合には、回転が逆になるから浮き上がるシュートになる訳で、みほのシュートはゴール手前で大きくホップして、キーパーの手をすり抜ける形でゴールネットを揺らしたわ。

 

 

「魅せてくれるじゃないみほ?

 

 サンタナターンからのオーバーヘッドドライブだなんて、機甲科じゃなかったら女子サッカー部が勧誘に来るんじゃないかってレベルよ?」

 

 

「えへへ~~、どうせなら華麗で派手に決めたかったからね♪」

 

 

「狙い通りに華麗で派手に決まったわよ。」

 

 

で、其の後も試合は、私とみほと小梅の居る紅組が終始有利に試合を進めて、終わってみれば6-0の圧勝。(因みに私とみほで夫々ハットトリックで、小梅は驚異の5ブロックと5インターセプトを達成。)

 

自分で言うのもなんだけど、私とみほと小梅が組むと、戦車道じゃなくても最強みたいね?

 

 

 

因みの此の授業の事が、サッカー部の先輩の耳に入って、サッカー部の部長が『機甲科所属なのが本気で恨めしい』って血涙流してたって話を聞いたけど、其れは諦めてとしか言いようがないわ。

 

 

私達の本領は、やっぱり戦車道だからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

そんなこんなでお昼休み。そして、場所は食堂。

 

朝ごはんは手作りだけど、流石にお弁当まで用意してる暇はないから、どうしてもお昼は食堂になっちゃうんだよね……尤も、黒森峰の食堂のレベルは高いから文句はないけど。

 

 

午前中に体育があってお腹が空いてるから、私は……ハヤシライスを大盛りで。

 

其れが主食で、おかずに鯖の塩焼きと、メンチカツと、コロッケと、回鍋肉。其れでお味噌汁の代わりに味噌ラーメン、牛乳はパックで宜しく。

 

 

 

 

「す、すっごいわねみほ……そんなに食べて大丈夫なの?」

 

 

「ボリュームが物凄いですよ此れ……体重計に乗るのが怖いレベルです……」

 

 

「ところが全然平気なんだよね此れが?

 

 如何やら、左腕ないって言うのは結構身体にとっては負担が大きいみたいで、体育で身体を使った後はとってもお腹が減るんだよ……それこそ、エネルギーを求めてるようにね。」

 

 

だから、此れで良いの。

 

確かに高カロリーなメニューだけど、摂取カロリーを上回る消費カロリーがあるから、食べ過ぎて太るって事も無いし、何よりも毎日のトレーニングで『燃える身体』になってるから、動き回った後は此れ位食べないと身体が持たないんだよ。

 

 

大体にして、私ほどじゃないとは言え、エリカさんと小梅さんも何時もよりも大盛りだよね?

 

エリカさんはライス大盛りに加えてハンバーグがキングサイズだし、小梅さんのチキン南蛮定食も、チキン南蛮が2枚乗せになる極盛タイプだからね……まぁ、御飯が美味しく食べられるのは良いって事で♪

 

 

 

 

「あぁ、その通りだな、

 

 医食同源と言う言葉があるように、食は身体の基礎となるモノだからね?……食事が美味しく摂れている間は、大病はしない筈さ。」

 

 

「あ、お姉ちゃん……其れと、近坂先輩も。」

 

 

「ちょっと席が埋まっててね……相席しても良いかしら?」

 

 

 

 

はい、其れはもう。

 

遊撃隊のトップ3と、本隊の隊長と副隊長が、こう言う場所で一緒になったって言うのは、新聞部にネタを提供する事になるかも知れないけど、記事にされて困る事なんて何一つないから、問題なしだよ。

 

 

時にお姉ちゃん、今日のランチのメニューは何かな?私の見間違いじゃ無ければ、トレイの上には食欲をそそるスパイシーな香りを放つ、至高のビーフカレーが見えるんだけど?

 

 

 

 

「見間違いじゃないぞみほ、紛れもなく私の本日の昼食は、黒森峰特製のビーフカレーだ。」

 

 

「うん、其れは分かった。

 

 だけど、昨日も、そしてその前も……ぶっちゃけて言うなら、お姉ちゃんは昼食を食堂で済ませてる上に、頼むのは決まってカレーって言うのは如何言う事!?」

 

 

好物に祟りなしとは言うけど、お姉ちゃんの場合はカレー食べすぎ!!

 

まさかとは思うけど、朝からカレーを食べたりしてないよね?……もし、そんな事をしてたらちょっとお話が必要なんだけど……その辺は如何なんですか近坂先輩?

 

 

 

 

「流石に朝はトーストと珈琲で済ます事が多いけど、其処まで乱れてはいないと思うわよ?……其れでも、昼食は毎日カレーだけどね……

 

 夜は私が作るから兎も角、昼までは制限できないわ流石に……まほは『カレーの王女様』って言っても良いかも知れないわねマジで。」

 

 

「お姉ちゃんがカレーの王女様なら、エリカさんはハンバーグのお姫様ですね……」

 

 

「誰がハンバーグ姫か!」

 

 

「だってエリカさんのランチも、週に3~4回はハンバーグだし?ただ毎日じゃないから王女様じゃなくてお姫様♪」

 

 

なんて、くだらない冗談を言ってる場合じゃないよね?

 

お姉ちゃん、幾ら栄養バランス的には優れてるとは言っても、ランチが毎日カレーっていうのはどうかと思うよ?『好物に祟りなし』って言葉があるとは言え、幾ら何でも食べ過ぎです!!

 

 

 

 

「そうか?此れでも抑えているんだぞ?

 

 本音を言うなら、1週間の内、4日は3食カレーでも私はマッタク問題ない!寧ろウェルカムだ!!カレーは正義だ、異論は認めんぞ絶対!」

 

 

「うん、其れ色々間違ってるから!」

 

 

はぁ……お姉ちゃんは、戦車に乗ってる時はカッコいいし、普段の生活の中でもカッコよさが際立つ人なんだけど、所々でポンコツさが顔を出すんだよねぇ?――其れが魅力って言えば魅力なのかも知れないけどね。

 

 

取り敢えず近坂先輩、お姉ちゃんの食生活には目を光らせておいてください――くれぐれもカレーを食べ過ぎないようにさせてください。

 

 

 

 

「まぁ、出来る範囲でやってみるわ。……まほのカレー好きは、凄まじいから難しいかも知れないけど。」

 

 

「そこは、何とか頑張って下さい!!」

 

 

お姉ちゃんのカレー好きは、お母さんや菊代さんが引くレベルだったので難しいかも知れないけど、食べ過ぎるようだったら何が何でも止めて下さい!

 

場合によっては多少荒っぽくても許可します、妹として!!

 

 

 

 

「OK、任されたわみほ。」

 

 

「カレーの食べ過ぎは駄目なのか?……何も問題は無いと思うんだが……」

 

 

「……その認識がそもそも大問題だよお姉ちゃん。」

 

 

取り敢えず、幾ら好物だからって、食べ過ぎは厳禁!

 

栄養バランス的に優れてるとは言っても、カレーは刺激物だから摂り過ぎは身体によくないからね?……カレーを食べるなとは言わないけど、毎日食べるなら昼食のみで!分かった?

 

 

 

 

「むぅ……みほに言われたら従うしかないな……もしも約束を破ったら、お母様や菊代さんに言いつけられてしまうだろうからね?

 

 其れはとっても恐ろしいので、食べ過ぎないって誓うよみほ。」

 

 

「其れなら良いです。」

 

 

流石のお姉ちゃんも、お母さんと菊代さんには頭が上がらないんだよね……お婆ちゃんには従うふりをしながら、見えない所で中指を立てたりしてるけどさ。

 

 

所で、そろそろ全国大会の時期だよね?

 

大会の目標とか有るのかな、お姉ちゃん?

 

 

 

 

「全国大会の目標だと?……聞くだけ野暮だなみほ。

 

 我等黒森峰は、此れまで無敵の9連覇を達成しているんだ……ならば今年の目標は、10連覇達成以外にないだろう?

 

 お前の中学時代の同級生が夫々、聖グロ、サンダース、アンツィオに分かれたのを考えると簡単な事ではないだろうが、大激戦を制してこそ 勝利には意味があるからな。

 

 そして、大激戦を制して10連覇の偉業を達成したとなれば、話題にはなるし――この大記録を、お前と一緒に成し遂げたいからな、みほ。」

 

 

「お姉ちゃん……うん、絶対に勝とうね!!」

 

 

私と一緒に10連覇の偉業を成し遂げたいって、嬉しい事を言ってくれるねお姉ちゃんは?

 

――だけど、その思いは私も同じなんだよお姉ちゃん?10連覇の偉業を達成すれば、お姉ちゃんと近坂先輩……ぶっちゃけて言うなら、3年生全員の評価に箔が付くからね。

 

 

全国大会は決して楽な戦いじゃないだろうけど、必ず勝とうねお姉ちゃん――大丈夫、私達ならやれるよ!!

 

 

 

 

「みほ……あぁ、そうだな、私達ならやれる。

 

 何よりも、私にもお前にも心から信じられる仲間が居るんだ……ならば、負ける事等有り得んな――!!」

 

 

「うん、有り得ないよ!!」

 

 

大会の抽選会まであと1週間……どんな組み合わせになるのかは分からないけど、初めての高校戦車道の全国大会は、間違いなく大荒れになるって言う事だけは確かだろうね。

 

 

ふふ……何処とどんな戦いが出来るのか、今からワクワクして来たよ♪楽しみだね、全国大会が!!

 

 

 

 

「えぇ、楽しみだわ……ドレだけの猛者が居るのか、想像しただけでワクワクして来るわ!!」

 

 

「それでも、勝つのは私達ですけどね?……絶対に負けませんよ、みほさん率いる遊撃隊を有する黒森峰は!!」

 

 

 

 

そうだね……必ず持ち帰って見せるよ、真紅の優勝旗を黒森峰にね!!――きっと楽しめるだろうね、高校戦車道の全国大会は……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer82『練習試合と抽選会と+αです♪』

……何、この組み合わせ?Byみほ      穿った見方をすれば、黒森峰潰しよね?Byエリカ     かも知れませんが、其れを越えてこそですよ!By小梅


 

Side:みほ

 

 

 

来週の日曜日に、全国大会の抽選会を控えた本日は、大会前最後になるであろう練習試合の真最中!

 

相手は古豪の『マジノ女学院』――フランス製の戦車を使って、マジノの伝統とも言える『浸透強襲戦術』を使って来たけど、伝統の名の下に使い古されて、錆びついた戦術じゃあ私とお姉ちゃんには通じない!

 

 

 

 

「貴女の読み通りねみほ?此処から一気に行くわよ!!」

 

 

「背後を取れば、浸透強襲戦術も恐れるに足りませんからね?……其れでは御命令を遊撃隊隊長殿♪」

 

 

「こう言う時にノリが良いよね小梅さんは?」

 

 

だけど、私の命令は只一つ!!

 

私達は敵部隊の背後を取る事に成功した!――なら、後は倒すだけだよ!全軍一斉掃射!!!マジノの部隊に、黒森峰の強さって言うモノを見せてあげよう!!

 

 

 

 

「上等!!黒森峰遊撃隊の名を、敗北と共に、テメェの魂に刻み込めってな!!」

 

 

「一生消えないように、刻み込んでやろうじゃない!!」

 

 

 

 

エリカさんと小梅さんだけじゃなくて、理子さんとサトルさんもやる気は充分だね?――なら、このまま押し切るから、どんどん攻撃して!

 

其れこそ、相手に反撃の機会を与えないように!!

 

 

 

 

「上等!!叩き潰してやるわ!!」

 

 

「行きますよ!!」

 

 

 

 

そして、エリカさんと小梅さんの奮闘もあって、大会前の最後の練習試合も白星で飾る事が出来た……少なくとも、此れで遊撃隊の有用性を疑問視してた一部のOG会のメンバーは黙らせられるだろうね。

 

 

でも、其れよりも気になるのは、マジノの現状かな?

 

毎年全国大会に出て来るとは言え、殆どが例外なく2回戦で敗退……此れじゃあ、とてもじゃないけど古豪と言う事も出来ないよ。まして、今回の練習試合は、黒森峰が完封しちゃったわけだからね。

 

 

此れは、そろそろ伝統を壊す時なんじゃないかなマジノは……其れを考えるのは私じゃないとは言っても、伝統の縛鎖は、何処かで断ち切らないとだから、試合後の挨拶の後で、一言言った方がいいかも知れないね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer82

 

『練習試合と抽選会と+αです♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

試合後の挨拶は大事だ、戦車乗りの礼儀だ……じゃなくて、礼に始まり礼に終わるのが戦車道だから、勝っても負けても試合後の挨拶って言うのは、試合前の挨拶以上に大切かも知れないね。

 

 

 

 

「継続高校との練習試合で、遊撃隊を運用していたと言う噂は耳にしていましたが、まさか本当だったとは驚きですわ、西住まほさん。

 

 黒森峰……引いては西住流は、正面から真っ向勝負を挑んでくるモノだと思っていましたが……」

 

 

「確かに、真っ向勝負が黒森峰と西住流の根底にあるモノかも知れないが、だからと言って遊撃隊の様な別動隊を組織しない訳じゃない。

 

 寧ろ、持てる戦力と使える戦術の全てを使って戦う事こそが、真の真っ向勝負と言うモノだと思うんだよ、私はね。」

 

 

 

 

お姉ちゃんはマジノの隊長であるマドレーヌさんと試合後の雑談中って所だね?

 

それとなく、お姉ちゃんが『黒森峰は此れまでとは変わっている』って言う事を伝えてるみたいだけど、果たして伝わるかなぁ?……伝統を守ってる学校って言うのは、改革が難しいからね……

 

 

 

 

「……貴女が、遊撃隊を指揮していた方でしょうか?」

 

 

「ん?あ、はい!私が遊撃隊を指揮していました、西住みほです。」

 

 

「矢張り……遊撃隊の指揮官は貴女でしたか、西住みほさん。

 

 『隻腕の軍神』の名は、中学の頃より耳にしていましたが、本日実際に砲を交えてみて、噂が誇張されたモノではないと感服いたしましたわ。

 

 実に見事な戦いぶりでしたわ……私の知っている、黒森峰や西住流とは少し違うようですが。」

 

 

「私は、私の戦い方をしてるだけですよ。え~っと……お名前を伺っても宜しいですか?」

 

 

「失礼しましたわ。

 

 私はエクレールと申します。以後お見知りおきを。」

 

 

 

 

エクレールさんですね、覚えました。

 

それで、エクレールさんの知ってる黒森峰や西住流とは違う私の戦い方は如何でしたか?今回の作戦も、結構巧く行ったんじゃないかって思ってるんですけど。

 

 

 

 

「えぇ、実に見事でしたわ。

 

 私達に気付かれないように背後に回って、本隊との挟み撃ち……だけでなく、此方の部隊を掻き乱す為に足場を崩したり、木を倒したり、ティーガーⅠをジャンプ台にしてパンターでの空中殺法を繰り出したりと、マッタク持って予想も付かない事ばかりでしたわ。

 

 其れだけに、あんな事をして後でお咎めを受けません事?」

 

 

「其れについては問題なしです。

 

 遊撃隊の運用を決めたのは隊長だし、私達遊撃隊には『独立機動権』が与えられてるので、遊撃隊の隊長である私の考えで自由に動く事が許されてるんです。勿論、遊撃隊の隊員達にも。

 

 だから、遊撃隊がどんな事をしたところで、誰も咎める事は出来ないんですよ。ルールに違反した事をしない限りは。」

 

 

そして、この遊撃隊を組織したって言うのは、黒森峰に変革の風が吹いたって言う事なんですよエクレールさん。

 

黒森峰は現在無敵の9連覇を達成してる『絶対王者』ですけど、だからと言って伝統の戦術に固執してたら、何時か必ず攻略法が確立されてしまうのは火を見るよりも明らかです。

 

そうならない為には、伝統に固執しないで、伝統を受け継ぎつつも新たな事をやって行かないとダメだと思うんです――貴女も、そう思ってるんじゃないですかエクレールさん?

 

 

 

 

「……分かりますの?」

 

 

「何となく……ですけど。」

 

 

「流石は隻腕の軍神ですわ……洞察力と勘の鋭さも見事なモノですわ。

 

 確かに私は、マジノを変えたいと思ってますの。……如何に全国大会出場校とは言っても、ここ最近は準決勝にまで進んだ事は有りません。

 

 過去には準優勝した事も有ったようですが、最近はめっきり……今のマジノは古豪と呼ばれるようになって久しいのですわ。

 

 古豪ではなく、強豪と呼ばれるようになりたい……その為には、伝統は枷でしかありませんのよ!!」

 

 

 

 

其処まで思ってるなら、変革の風は自分で起こすべきだと思いますよ?

 

お姉ちゃんも、誰に言われたからじゃなくて、自分自身が黒森峰の改革が必要だって判断して、遊撃隊の組織に踏み切った訳ですから……現状を変えたいって思うなら、思った人が動かなきゃ変えられないんです。

 

 

 

 

「自分から動く……考えても居ませんでしたわ。

 

 目から鱗ですわみほさん!私、マジノを改革する為に自分で動いてみようと思います。そして必ずや、マジノを改革して見せますわ!

 

 その時は、また戦って頂けますこと?」

 

 

「はい、勿論です♪」

 

 

マジノには伝統の名の下に押さえつけられてるポテンシャルがあるから、其れを引き出す事が出来れば今よりもっともっと強くなるだろうから。

 

改革が成功したマジノと戦うのを楽しみにしてますよ、エクレールさん。

 

 

 

 

「約束ですわよ?」

 

 

「分かってます。」

 

 

再戦を誓って握手をしてエクレールさんとは別れたけど、きっとエクレールさんはマジノの改革を成し遂げるんじゃないかって思うよ。――柔らかな物腰の奥に秘めた闘志は、マジノの誰よりも凄かったからね。

 

今年は兎も角、来年のマジノは結構な注目校になるかも知れないよ。

 

 

 

 

「だけど、そうなった方が面白いんでしょ、貴女的には?……相手は強い方が面白いモノね、みほ?」

 

 

「まぁ、其れは否定しないよエリカさん。」

 

 

どうせ戦うなら強い相手の方が良いに決まってるよ。

 

相手が強い方が、自分もレベルアップできるし、何よりも相手が強ければ強いだけ、試合を楽しむことが出来るんだからね?――そう言う意味でも、マジノが強くなるのは大歓迎なんだよ♪

 

 

 

 

「やっぱりみほさんにとって、戦車道は『まず楽しむ物』なんですねぇ……まぁ、確かに試合を楽しまずに勝っても、ちょっと虚しいですけれど。」

 

 

「楽しんだ上で勝つ、其れが私の戦車道の信条だから。

 

 尤も、其れが出来るのも、お母さんとお姉ちゃんが私の戦車道を――分かり易く言うなら、世間的に知られてる西住流とは、全く違う戦車道を認めてくれたからなんだけどね?

 

 そうじゃなかったら、私にとっての戦車道は、窮屈でつまらないモノになってたかも……」

 

 

「師範と隊長様様ってこったね~~?

 

 でもさ、家元は如何なの?言っちゃ悪いけど、家元って考え方が前時代的って言うか、まるで戦争で敵を倒すかのような事を言うじゃん?

 

 あの考え方だと、みほの戦車道ってアウトなんと違うの?」

 

 

 

 

そう思うだろうけど、私は此れで勝ってるからお婆ちゃんも何も言わないんだよ理子さん。

 

……それどころか、何とかして自分の考える西住流に引き込もうと画策してたらしいからね?その計画は、お姉ちゃんがお婆ちゃんの言う西住流に従順なフリをする事と、お母さんが流派の考え方の違いでお婆ちゃんと対立する事でうやむやになってるんだけどさ。

 

って言うか、お婆ちゃんの考えって化石みたいに古臭いって言うか、スポーツとしての戦車道とはまるで合わないんだよ!兎に角相手を倒せって、そんなのはスポーツじゃない!

 

其れだけなら兎も角、勝利の為なら味方を見捨てろって、幾らなんでもオカシイでしょ此れ!?

 

 

 

 

「うん、オカシイ。ぶっちゃけ有り得ないわね……こう言っちゃなんだけど、あのお祖母様が家元で大丈夫か西住流?」

 

 

「ダメだね、問題しかないよエリカさん。

 

 私としては、さっさとお婆ちゃんには引退して貰って、お母さんに新たな家元になってほしいと思うのです。」

 

 

お母さんは、西住流の伝統に、私の戦車道をミックスさせて新たな西住流って言うのを描いてるみたいだし、何よりも日本戦車道の片翼を担う島田流の家元が、若々しい千代おばさまなのに、西住流の家元が顔面ひび割れ梅干しお婆ちゃんってのはどうかと思いますので。

 

 

 

 

「顔面ひび割れ梅干しお婆ちゃんか……言い得て妙だな。まぁ、お祖母様は晩婚であったし、跡取りであるお母様が生まれるのに10年掛かっているから、お年を召しているのは仕方ないがな。

 

 ……しかしだ、あの干からびているお婆様をお湯を掛けて3分待ったら若々しくなるだろうか?如何思うみほ?」

 

 

「カップラーメンじゃないんだから、お湯に掛けて3分待っても若くはならないと思うよ?

 

 寧ろふやけて、もっと酷い状態になるかもだから。」

 

 

其れよりもサラッと会話に入って来たけど、マドレーヌさんとの話は終わったのお姉ちゃん?

 

隊長同士、意見交換とか有ったと思うんだけど、其れをしたにしてはちょっと早くないかな?……若しかして、早めに切り上げたとかだったり?

 

 

 

 

「あぁ、そうだな。その通りだ。

 

 如何にもマジノは伝統に捕らわれてるきらいがあるので、其れでは駄目だと暗に言ってみたんだが、如何やら伝わらなかった様だ……このままでは、マジノは衰退の一歩を辿るだけだというのにな……

 

 そう言えば、みほもマジノの隊員と話していたみたいだが……」

 

 

「うん、話してたよ。エクレールさんと。」

 

 

こっちは、割と有意義だったよ?

 

エクレールさんは、マジノは変わらないといけないって考えてる人だったみたいだから、改革をしたいなら自分から動かないとダメだって事を伝えたんだけどね。

 

 

改革って言うのは難しいけど、エクレールさんなら、きっとマジノの改革を行うと思う……来年以降のマジノには要注意だよ、お姉ちゃん。

 

 

 

 

「みほが其処まで言うのならば、来年のマジノは強敵となるのだろうな?

 

 だが、そうであっても我等黒森峰は常勝不敗だ!――前人未到のV10は、何としても達成しなくてはな……勿論、戦車道を目一杯楽しんだ上でだがな?」

 

 

「そうだね、楽しんだ上で10連覇を達成しないと、意味が無いもん♪」

 

 

だから、今年の全国大会は楽しみかな?

 

中学の時とは違う試合が出来るだろうし、中学の時に一緒に戦ったナオミさんとつぼみさんと青子さんが、今度は敵として立ち塞がる訳だからね……頼もしかった仲間が、今度は最強の敵となるってのは燃えて来るよ!!!

 

 

そんな訳で、出来れば全国大会では、聖グロと、アンツィオと、サンダースとは戦いたいですお姉ちゃん!!

 

 

 

 

「そう言われても、こればかりは運だからなぁ……クジの神様が、みほの願いを聞き入れてくれるかどうかにかかっているな此れは。」

 

 

「つまりは、運頼みって事だよね……」

 

 

でも、大丈夫じゃないかな?

 

私の記憶が正しければ、お姉ちゃんは凄くクジ運が良くて、デパートの福引でもいっつも3等以上を当ててたし、初詣もお御籤も、最低でも『吉』を引き当ててからね?……其れを考えると、全国大会の抽選でも、最高の番号を引いてくれる筈だって思っちゃうよ!

 

期待してるからね、お姉ちゃん?

 

 

 

 

「ふふ、なら期待には応えねばだ……最高の番号を引き当てて見せるさ。」

 

 

「うん、期待してるよお姉ちゃん♪」

 

 

だけど、まさか申し合わせたような組み合わせになるとは、この時は思ってなかったよ――そして、その組み合わせが、崩壊への序曲だったって言う事にもね。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

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・・・

 

 

 

 

マジノ学園との練習試合から3日後、全国高校戦車道大会の抽選会の日。

 

黒森峰は、隊長と副隊長、そして遊撃隊の車長が抽選会に参加してるんだけど……抽選会場が、東京ドームって言うのは幾ら何でもオカシクないかな!?

 

夏の甲子園の抽選会だって日本武道館なんだよ!?なのに、なんで戦車道が東京ドームなの!?運営は馬鹿なの、死ぬの!?

 

 

 

 

「気持ちは分からなくもないけど落ち着きなさいってみほ……再来年には、プロリーグの発足と世界大会の誘致を目指してる文科省の思惑としては、戦車道への注目を集めたいって事なんじゃないかしら?

 

 日本武道館以上の規模であり、知名度も高い東京ドームで抽選会を行えば、其れだけで注目は集まるからね……きっと、そう言う事なんじゃないかと思うわ。」

 

 

「だからって、東京ドームはやり過ぎだと思うよエリカさん……」

 

 

「因みに、此の抽選会は、絶賛ニコニコ生放送で配信中だそうです♪」

 

 

「つまり、隊長は名実ともに全国区の顔って訳か~~……此れは、絶対に負けられないね!!」

 

 

 

 

何をしてくれたのドワン○!!

 

幾ら戦車道を盛り上げたいからって、抽選会に東京ドームを使って、更にその光景をニコニコ生放送で流すってのはやり過ぎじゃないのかな?

 

まぁ、資金は連盟と文科省が出してるんだから文句はないけどね。

 

 

それで、黒森峰の抽選の番だけど……

 

 

 

 

『黒森峰女学園、3番!』

 

 

 

 

お姉ちゃんが引き当てた番号は3番……此れは、何とも激戦区に入ったみたいだね?

 

3番は、1回戦が聖グロで、2回戦はシード権を獲得したアンツィオ、順当にいけば準決勝はサンダースで、決勝はプラウダになるのは間違いないだろうからね。

 

つまり、この組み合わせは、黒森峰にとっては星の潰し合いになる組み合わせ……10連覇を達成する為には、黒森峰以外の4強を全てに勝たないといけない訳か……簡単な事じゃないけど、だからこそ燃えて来たよ!!

 

 

 

 

――轟!!!

 

 

――ドォォォォォォォォッォォン!!

 

 

 

 

「……軍神招来は良いけど、東京ドームのグラウンドにクレーターを作らないでよ……人工芝のグラウンドが抉れるって、ドンだけの闘志よ…」

 

 

「今の私の戦車力は、53万だよエリカさん……試合ではもっと上がるかもね。」

 

 

「何処の宇宙の帝王だアンタは!!

 

 だけど、其れ位じゃないと遊撃隊の隊長は務まらないわ――隊長のクジ運が良すぎて、1回戦から強い所と当たっちゃったけど、絶対に勝つわよみほ?

 

 誰が相手だろうと勝って、真紅の優勝旗を黒森峰に持ち帰りましょう!」

 

 

「黒森峰の10連覇に、待ったなしです♪」

 

 

 

 

うん、絶対に勝とう。

 

全国大会10連覇って言うのは前人未到の記録だし、姉妹で其れを成し遂げたとなれば、高校戦車道の歴史に残る事になるかも知れないからね……目立つのは、好きじゃないけど、此れは達成しないとだよ。

 

 

だけど、それを成す為には、私達遊撃隊がドレだけの働きが出来たかにかかって来るから、其処はキッチリ押さえておかないとね。――何にしても、今年の全国大会の前半ブロックは荒れるのは間違いないよ。

 

逆を言うなら、荒れるからこそ楽しめるって言えるんだけどね……何にしても、今年の全国大会は只で済むとは思えない――詳細は、分からないけど、絶対に何かが起こるだろうからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

マッタク、大会の抽選は操作されたんじゃないかって疑うくらいの組み合わせだったわ……黒森峰が引き当てた前半ブロックには、1回戦で聖グロ、2回戦はシード権を得たアンツィオ……順当にいけば、サンダースとプラウダと戦う事になるのは、略確定してるって言っても過言じゃないけど、だからこそ油断は禁物だわ……2回戦の相手であるアンツィオの隊長は、一昨年の大会でまほさんを倒した安斎隊長だからね。

 

 

みほがいる以上は、そう簡単に負ける事は無いと思うけど、最も警戒すべきは新生のアンツィオかも知れないわ……で、貴女は一体何をしてるのかしらみほ?

 

 

 

 

「気が付いたらこうなってました♪」

 

 

「やっぱりみほ分は補給しとかないとね……」

 

 

「ひっさぶさのみほさんの抱き心地ですわ~~!!此れはもう、至高の抱き心地でしたわ!」

 

 

「程々にしとけ、私が言えた義理じゃないけどな。」

 

 

 

 

サンダースのナオミ、聖グロのローズヒップ、アンツィオのペパロニがみほに抱き付いてるって、幾らなんでもオカシイでしょ此れは!!

 

ほらほら、サッサと離れなさいっての!

 

みほの身体は、誘蛾灯じゃないのよ?……群がった先に『死』が待ってるのとは違うからね?――でもまぁ、その気持ちは分からなくもないわ……中学の頃は、誰よりも信頼できる仲間だったんでしょうからね。

 

最高の仲間と、試合で砲を交える事が出来るって言うのは、戦車乗りとしてこの上ない幸せかもしれないから、ナオミ達がみほに抱き付くのも、ありなんでしょうね。

 

 

だけど、覚悟して来なさい?……大会で当たったその時は、私達の全力を持って貴女達を潰してあげるわ!!

 

 

 

 

「そう来なくては面白くありませんわエリカ様!!全力で行きますのよーー!!」

 

 

「そう簡単に勝てると思うなよ?

 

 ドゥーチェに、みほが纏めたノートの写しを見せたら、やる気マックスだったからなぁ?

 

 勝ち負けは兎も角、最高の試合を試合をしようぜ、みほ!!」

 

 

「貴女との準決勝、楽しみにしてるわみほ。」

 

 

「うん、楽しもうね……全力全壊で!!」

 

 

 

 

全力全壊とは大きく出たけど、それ位じゃないと、私達を倒す事は出来ないって言っておくわ!そして、みほがそう言った以上、私達の勝利は絶対だわ!!

 

 

「全国大会、勝ちに行くわよみほ!!」

 

 

「勿論、その心算だよエリカさん!!」

 

 

 

 

悪いけど、今年も勝つのは黒森峰で決まりよ?

 

他校にみほ以上の相手がいない限り負ける気はしないし、味方にみほがいるなら勝利は絶対だからね?――圧倒的な力の前に平伏すと良いわ!!

 

 

そして思い知るが良いわ……隻腕の軍神の前に立ち塞がる事は出来ないと言う事をね――!!

 

 

 

 

なんにしても、今年の全国大会は、楽しめるモノになるのは間違いない……みほじゃないけど、燃えて来たわ!だったら、尚の事、最高の大会にしないとだわ!!

 

 

 

 

「だね。……だから、1回戦から全力で行くから。」

 

 

「了解。寧ろそう来ないと面白くないわ!!!」

 

 

さぁて、覚悟して貰おうかしら?遊撃隊を組織した黒森峰の新たな戦車道って言うものを、貴女達に見せてあげるわ!!――そして、勝利は絶対に譲らない!!

 

 

誰が相手でも勝つ――其れが、王者の宿命だからね?

 

 

取り敢えず1回戦の聖グロ戦は、絶対に勝つわよみほ!!――新制黒森峰の強さと、新設された遊撃隊の恐ろしさを、其の身に刻み込んでやろうじゃない!!

 

 

全国大会は、1回戦から油断できない相手になったけど、そんな物は問題にもならないわ。

 

みほとまほさんが力を合わせれば、ドレだけ強大な相手であっても勝つことが出来るって思ってるからね……だから、絶対に成し遂げましょう!

 

前人未到の全国大会10連覇をね!!

 

 

精々覚悟しておきなさい聖グロ……真正面から叩き潰してやるわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer83『開幕。第62回戦車道全国大会です!』

開会式ってなんで眠くなるんだろう?Byみほ      お偉いさんの話が長いからでしょ?Byエリカ     ですよね?……Zzz……By小梅


 

Side:エリカ

 

 

 

本日は全国高校戦車道大会が開幕する日……何が何でも10連覇を達成したいってのは、黒森峰の機甲科の全員が思ってる事でしょうね?

 

……片腕だからって理由だけで、みほの実力を見ようともしなかった奴等は除外するけどね。

 

 

其れは其れとして、貴女は一体何をする心算なのかしらみほ?『ついて来てほしい』って言うから付いてきたけど……此処って、寮の放送室よね?……其処に平然と入っていくあたりがみほよね。

 

 

付いて来てる私と小梅も大概だけど――時間は6:30、まだみんな寝てると思うけど……起床ラッパでも放送する?

 

 

 

 

「ん~~~、似てるけど違うかな?正解はね……こうするんだよ!」

 

 

 

 

――ピンポンパンポーン!

 

 

 

 

「さぁ、朝ですよ!起きて下さい皆さん!!

 

 今日から大会が始まるんです――のんびりしている暇なんて有りませんから!――そう言う訳で、朝会に遅れて来た人には、ペナルティがあるので、全力で頑張って下さいね?――さて、出番だよエリカさん、小梅さん!!」

 

 

「其処で私に振る訳!?……上等じゃない、やってやるわ!

 

 オラァ!さっさと起きなさいアンタ達!!いつまでも寝腐れてるなら、ティーガーⅠの88mmペイント弾を10連発で撃ち込むわよ!!」

 

 

「其れでも起きない場合には、とっても怖い事になっちゃう体験をして貰いましょうか?

 

 ……取り敢えず、寝起きの悪い部屋には、アンドリューを向かわせますね――寝起きに虎のドアップは効果覿面でしたからね。」

 

 

 

 

其れについては否定しないわ小梅。

 

何にしても、今日が大会初日……初戦は聖グロだから油断はできないけど、本気で戦えば負ける相手じゃない――だから、自信を持って行こうじゃないみほ!!

 

 

 

 

「そうだねエリカさん。

 

 何よりもお姉ちゃんは、私と一緒に優勝旗を掲げたいって言ってたからね――その思いを叶える為にも私は負けられない――絶対に勝つ。」

 

 

「貴女ならそう言うと思ったわみほ。」

 

 

ならその願いを現実のモノにしましょう?

 

出来るしょう?貴女とアタシと小梅が組んだら、其処に敵は存在する事が出来ないんだから、バッチリ勝ちに行こうじゃない?――他校の皆さんには、悪いけど、今年も王座の座は私達黒森峰が頂くわ!

 

 

 

……因みに、この起床放送の事で、放送直後に3人揃って隊長に滅茶滅茶怒られた。……ま、当然よね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer83

 

『開幕。第62回戦車道全国大会です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

起床放送の効果もあってか、誰1人遅れることなく出発時間の10分前には正門前……ではなく、戦車道の練習場に集合!

 

此れから1回戦の試合会場兼開会式会場に向かう訳だけど、陸路の場合渋滞に巻き込まれる恐れがあるって事で、黒森峰の自家用輸送機『ツェッペリン飛行船』で向かう事になってるから此の場所。

 

 

……此れで移動する位なら、昨日の内に海路で会場に向かわせた戦車と一緒の船で行けばよかったと思うんだけど、その辺は如何思うエリカさん、小梅さん。

 

 

 

 

「確かに其の通りだけど、試合当日でもないのに移動の為に学校を公欠扱いにするのは如何なモノかって話だったんじゃないのかしら?」

 

 

「戦車道に力を入れてるって言うのなら、その辺は融通を利かせてくれても良いと思うんですけどねぇ?

 

 と言うか、私達よりも整備科の人達の方が大変ですよ。船で一緒に行けば、船の中で最終調整が出来たのに、私達と一緒だと、会場に着いてから試合開始までの間に最終調整をしないとならないんですから。」

 

 

 

 

だよねぇ?

 

まぁ、戦車道って言うスポーツの特性を考えたら、全試合バラバラの会場でやるしかないから、どうしても会場によっては遠征する事になるって言うのは仕方ないけど、試合会場が決まって、遠征になる事が分かってるならその辺も考えて欲しいモノだよ。

 

まぁ、其れについては愚痴を言っても仕方ないか。

 

 

其れよりも、出発前にお姉ちゃん――隊長からの訓示があるから襟元を正しておかないとね。

 

 

 

 

「全員集合しているな?――あまり褒められた内容ではなかったが、遊撃隊の3車長の起床放送は大いに効果があった様だ。

 

 諸君、我々は此れより『第62回戦車道全国高校生大会』に臨む!

 

 知っての通り、我が黒森峰は、全国大会で大会記録となる9連覇を達成しているが、其れで満足はしていられない――我々は、絶対王者として、10連覇を成し遂げる!

 

 そして、諸君らの力を持ってすれば、其れは決して不可能ではないだろう。

 

 私のクジ運の悪さ故に、今年は決勝戦を含め『戦車道4強』の内、黒森峰を除く3校と戦う事になるので、楽な大会ではないだろうが、逆に言えば、聖グロリアーナ、サンダース、プラウダの3校全てと大会で戦えると言うのはとても貴重な事だろう。

 

 また、2回戦の相手であるアンツィオも、戦車の性能は貧弱だが、隊長が中学時代に私を倒した安斎千代美である事を考えると、決して楽に勝てる相手ではない筈だ。

 

 だが、其れでも私は、皆と一緒なら10連覇を成し遂げることが出来ると信じている!私に、10連覇と言う偉業を達成させてくれるとな!!

 

 必ずや今年も、真紅の優勝旗を学園に持ち帰ろう!そして、ノンアルコールビールで乾杯をしようじゃないか!

 

 其れを成す為にも、先ずは此の1回戦、絶対に勝つぞ!!」

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「Jawohl!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」(例によって鍵カッコ省略。)

 

 

 

 

ふふふ、流石だねお姉ちゃん?こう言う訓示でのカリスマ性はハンパないよ……こう言っちゃなんだけど、妹じゃなかったら完全に落ちてたよ。

 

実際に、今の訓示で殆どの隊員がお姉ちゃんのカリスマ性に陥落したんだから――だからこそ、何で無事なのか聞きたいんだけど良いかな?

 

なんで平気なのエリカさんと小梅さんと理子さんは?

 

 

 

 

「まほ隊長のカリスマ性の高さは中学の頃から知ってるから耐性があるって所かしら?」

 

 

「右に同じく。」

 

 

「其れと、遊撃隊としてみほさんの下で戦ってると、試合の時のみほさんのカリスマ性の方がずっと高く感じちゃいますから、それで平気なんですよきっと。」

 

 

「……サトルさんは、耐性がなかったみたいだけど?」

 

 

「狭山に関しては言わないであげて。

 

 アイツは、完全にまほさんに惹かれて黒森峰に来た口だけど、私と違って他校にライバルを見つけることが出来なかったせいで、完全にまほ隊長に心酔してるからね?」

 

 

 

 

……成程ね。

 

そうであっても、試合になれば私の指示に従ってくれる辺り、サトルさんはお姉ちゃんに心酔してても、私の実力は認めてくれてる訳だから、問題はないよ。

 

 

其れじゃあ飛行船に乗り込もうか?アンドリューとロンメルもね♪

 

 

 

 

「ちょっと待てみほ、其の2匹も連れて行くのか?」

 

 

「その心算だけどダメ?……中学の時には、全試合連れて行ってたから、高校でもこの子達を連れて行きたいんだけど……」

 

 

「いや、其れ自体は問題ないが、此れを見た聖グロのメンバーがビビって戦意喪失しないか?と思ってな……」

 

 

 

 

其れは大丈夫じゃないかな?

 

聖グロにはつぼみさん改めローズヒップさんが居るから、私が虎と狐を引き連れてる事は知ってると思うからね?――大体にして、生の虎と狐を見て、戦意喪失するような相手じゃ、私達の敵じゃないでしょ?

 

 

 

 

「ふ……確かに其の通りだったな。何よりも、聖グロの隊長は勿論、あのダージリンが虎と狐が現れたからって驚くとも思えん。

 

 其れよりも、アンドリューもロンメルも如何して黒森峰の略帽を被っているんだ?――と言うか、虎と狐の頭のサイズに合った略帽と言うモノはなかった筈だが……?」

 

 

「其れは、エリカさんと小梅さんに手伝って貰って私が作ったんだよ。

 

 アンドリューとロンメルだって、今や立派に黒森峰の一員だし、戦車道の練習の時間には、2匹揃って演習場で練習を見てるんだから、黒森の略帽を被る資格は充分にあると思うんだ。」

 

 

「……其れもそうか。

 

 いっその事、此の2匹をモチーフにして黒森峰のマスコットキャラでも作るか?そうすれば、『堅くて面白みのない黒森峰』のイメージを、少しでも変える事が出来るかも知れん。

 

 OG会に打診……しても、蹴られるだけだから、現機甲科の生徒だけで計画を進めてみるか。」

 

 

 

 

やるなら其れが最善だと思うよ?OG会に提案しても、一蹴されて終わりだろうから――OG会にお母さんや菊代さんみたいな人がいれば話は別だけどさ。

 

其れじゃあ行こうか!10連覇を成し遂げる為の大事な1回戦の会場にね!!

 

 

 

 

――余談だけど、移動中に暇にならないようにって処置なのか、飛行船にはカラオケが設置されてて、会場に着くまでの間、1回戦出場選手の間でカラオケ大会が行われました!

 

そしてお姉ちゃんと近坂先輩は、プロなんじゃないかって思うくらいに上手かったです!

 

尤も、私とエリカさんと小梅さんで熱唱した『ACUTE』(私がKAITO、エリカさんが巡音ルカ、小梅さんが初音ミク)は100点満点で大喝采を貰ったんだけど、此れを動画に撮ってた生徒が後日、私とエリカさんと小梅さんの顔ボカシを入れた上でようつべとニコニ○にアップして大反響を貰う事になるとは思ってなかったよ。

 

 

 

 

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そんなこんなで会場入りし、今は開会式の真最中。

 

戦車道の全国大会の開会式は、他のスポーツの全国大会とは違って、1回戦の各会場をオンラインで結んで、モニター中継を使って行われるんだよね?

 

で、開会式の会場となるのは、前年度の優勝校の1回戦の試合会場だから、黒森峰と聖グロは、中継じゃなくて生の開会式に出てる訳――でも何故か、此の2校だけじゃなくて、シード権を獲得したアンツィオもこの会場に来てるんだけどね。

 

 

 

 

『宣誓!

 

 我々、選手一同は、戦車道の精神に則り、どんな相手にも全力と誠意をもって試合に臨み、戦車乙女として正々堂々戦う事を誓います!!

 

 選手代表、黒森峰女学園、西住まほ!!』

 

 

 

 

で、その開会式もお姉ちゃんの選手宣誓がバッチリ決まって無事閉会!

 

なんて言うか、お姉ちゃんは本当にあぁ言うのが絵になる人だよね?マスコミの人達のフラッシュも凄かったから、此れは明日発売の『月間戦車道』と、来週の月曜日に発売の『週刊戦車道』をはじめとした、戦車道関係の雑誌の表紙はお姉ちゃんで決まりだね。

 

 

さて、開会式も終わったし、試合開始10分前までは自由時間。

 

去年までは、試合開始直前までブリーフィングを行ってたらしいんだけど、其れだと緊張してる時間だけが続くって言う事で、試合開始10分前までは自由時間にしたみたい――OG会は当然渋ったらしいけど、お姉ちゃんが隊長権限でねじ込んだらしいね。

 

 

エリカさん、小梅さん、理子さん、サトルさん、この自由時間をどう過ごそうか?

 

 

 

 

「はい、遊撃隊長!自分は試合前に腹ごなしがしたいです!腹が減っては戦が出来ません!!

 

 てか、アンツィオが展開してる屋台から、美味そうな匂いが食欲中枢にダイレクトアタックかましてくるのでもう無理!開会式の間、よく耐えたアタシ!頑張った!!」

 

 

「直下ぁ!って言いたい所だけど、其れには賛成だわ!

 

 今日は朝ごはんも、何時もより早い時間だったし、飛行船の中でのカラオケ大会で結構歌って腹減ってるのよね……」

 

 

「其れじゃあゴハンにしましょうか?……何処にします、みほさん?」

 

 

「其れは勿論ペパロニさんの屋台で!」

 

 

青子さん改め、ペパロニさんの料理の腕前は一級品!

 

中学の頃は、主要5教科は低空飛行でも、体育と家庭科は3年9期連続で5だったからね?――特に調理実習の時には、家庭科の先生が驚愕する程の腕前を発揮したから、味は保証できるよ。

 

 

と言う訳でペパロニさーん♪

 

 

 

 

「らっしゃい!

 

 よく来たなみほ~~!アンツィオ名物『鉄板ナポリタン』食ってきな!銀髪と天パと履帯+αもな!!」

 

 

「アンタ、徹底的に私と小梅と直下の名前呼ぶ気ない訳ね……てか、私と小梅と直下は未だしも+αってのは如何なのよ?」

 

 

「だってアタシ、そいつの事知らねぇし♪」

 

 

「狭山だ!狭山サトル!覚えとけ!!」

 

 

「おぉ、タイガー・マスクか!!」

 

 

「言うなぁ!!!」

 

 

 

 

アハハ……ペパロニさんは相変わらずだね?

 

取り敢えず、その鉄板ナポリタンを5人前貰えるかな?

 

 

 

 

「はいよ!

 

 炒めた挽き肉を、アンツィオ特製のトマトピューレで味付けして、其処に卵を落として半熟になったら、鉄皿に持った熱々のナポリタンの上にトッピング!

 

 これぞ、アンツィオ名物の屋台料理『鉄板ナポリタン』!美味しいよ~~♪」

 

 

「美味しそう!あれ?でも何で4つなの?注文は5つだよペパロニさん?」

 

 

「わーってるって。

 

 でも、普通の鉄板ナポリタンだとみほには喰い辛いだろ?

 

 ――と言う訳で、特製の大型パニーニに、鉄板ナポリタンを挟んだ『鉄板ナポリタンサンド』を作ってみたぜ!!」

 

 

「私用の特別メニューを作ってくれてたんだ。」

 

 

その心遣いに感謝しつつ、其れでは頂きます。――此れは!!!

 

 

 

 

「「「「「美味いぞーーーー!!!!」」」」」

 

 

「おぉ、ミスター味っ○的反応。」

 

 

 

 

いや、そうなるのは仕方ないよペパロニさん!

 

こう言っちゃなんだけど、こんなに美味しいナポリタンサンドは初めて食べたよ!!パスタがアルデンテなのは当然として、パニーニの焼き具合も絶妙だし、ナポリタンは自家製のトマトソースで味付けされてて市販のケチャップじゃ出せない味わい深さがあるし、トッピングの挽き肉入り半熟卵が美味しさを広げてるからね!!

 

本気で感激したよペパロニさん!こんな美味しいご飯のお代は幾らかな?

 

 

 

 

「300万リラで♪」

 

 

「待てこら、何時の為替レートよ其れ!!」

 

 

「いや、300円だから。其れ位察しろよな銀髪?」

 

 

 

 

この味で300円は安いね?――この味だったら500円で売っても安い位だよ。

 

アンツィオの校内で売る時は兎も角、こう言う場所で売る時は、場合によっては倍額で売っても罰は当たらないと思うよペパロニさん?其れだけの価値があるからね鉄板ナポリタンには!!

 

 

 

 

「そうか?なら、今度からはそうする。

 

 何にしても、1回戦頑張れよ?ローズヒップの奴も試合前の腹ごなしで、特盛の鉄板ナポリタン食ってったから、エネルギーは満タンになってるだろうから、十全の力を発揮して来るだろうからな。」

 

 

「其れは、確かに油断禁物だね。」

 

 

ローズヒップさんの操縦技術は、現在の高校戦車道の操縦士の中でもピカ一なのは間違いない――其れこそ、下手したら大学選抜の操縦士にだって引けを取らないからね。

 

でも、だからこそ燃えて来るよ――中学の頃は頼もしい仲間が、高校ではライバルとして立ち塞がるって言うのは、話題性もバッチリだからね。

 

だけど、私は勝つよペパロニさん。だから、2回戦で待っててね?

 

 

 

 

――轟!!

 

 

 

 

「毎度お馴染み軍神招来――今日はスサノオ……遂に神をその身に宿したかみほ、こりゃ負けねーわ。」

 

 

「こう言っちゃなんだけど、負ける気はないよペパロニさん――例えそれが、中学時代の仲間であってもね。」

 

 

ローズヒップさんの操縦士としての能力は高いし、聖グロの隊長のアールグレイさんと、副隊長のダージリンさんも、お姉ちゃんが其の力を認めてる以上は、並の戦車乗りでないのは間違いないけど、其れでも私達は勝つよ。

 

お姉ちゃんと近坂先輩が強いってだけじゃなくて、私が率いる遊撃隊には、私の他にエリカさんと小梅さんが居るからね?……自惚れる訳じゃないけど、私とエリカさんと小梅さんが力を合わせたら、敵は居ないよ。

 

 

 

 

「だろうな~~……合宿でも、お前等が組んだら無敵だったからな。

 

 でも、そうなら心配する事は何もねぇな?――だけど、瞬殺だけはしてくれんなよ?

 

 あんまり試合が速く終わると、観客が直ぐに帰っちまって、売り上げが減っちまうからな。」

 

 

「なはは……善処します。」

 

 

取り敢えず、ペパロニさんの屋台でエネルギー補給は出来たから、此れで試合には十全の状態で挑む事が出来るから、最高の試合をしないと嘘だよね!!

 

――絶対に勝つよ、皆!!

 

 

 

 

「言われるまでもなくその心算よみほ――楽しんだ上で勝つのが、新たな黒森峰よ!!」

 

 

「行きましょうみほさん!――私達遊撃隊の事を、世間に知らしめる戦い、絶対に勝ちましょう!!」

 

 

 

 

エリカさん、小梅さん……うん、絶対に勝つよ!!

 

此の試合で遊撃隊が成果を上げれば、ま~だ口喧しく『遊撃隊は邪道』だって喚いてるOG会を沈黙させる事が出来るだろうからね。

 

 

 

 

 

――と、決意を新たにした所でお姉ちゃんと近坂先輩と出会ったんだけど、如何にも此の2人は安斎さんの屋台で、熱々のピザに舌鼓を打ってたみたいだね?

 

だって、口の周りに少しトマトソースが付いてたから――相当食べたみたいだねお姉ちゃん?其れと近坂先輩も。……尤も、其れを如何言う心算は無いからあれだけどさ、程々にね?

 

 

ともあれ、先ずは1回戦だね――相手は強豪聖グロだけど、私達に負ける要素は何処にもない!

 

聖グロは、イギリスの戦車をメインに使って居たから戦車の性能差では負けないし、チャーチルとマチルダじゃローズヒップさんの操縦士の腕を生かし切る事は出来ないからね?

 

 

お姉ちゃんが評価してる以上、ダージリンさんには要注意だけどね。

 

 

「行くよ、皆!!」

 

 

「えぇ、勝ちに行きましょう!」

 

 

「黒森峰の遊撃隊は、無敵にして最強ですからね!!」

 

 

「聖グロなんざ、蹴散らしてやるわ!!今宵のヤークトパンターは血に飢えてるぞ……」

 

 

「いや、今はまだ昼だからね直下!?……てか、血に飢えてる戦車なんてオッソロしい事この上ないわ!

 

 呪われてるかもしれないから、どっかの寺院で浄化されて来い!!」

 

 

「だが、断る!!」

 

 

 

 

……くふ……あはははは!

 

此れだけリラックス出来てるなら一切問題はないよ?――精神がリラックスして居れば、余計な緊張もなくなるから、試合でも最高のパフォーマンスが出来るだろうからね

 

此れなら、1回戦でも遊撃隊は大暴れできそうだよ。

 

だけど、1回戦と2回戦は使える車輌が10輌までだから、遊撃隊も出撃部隊は、私とエリカさんと小梅さんの3つで行こうか?理子さんとサトルさんは、2回戦で活躍して貰うから、今回は勘弁してくれるかな?

 

 

 

 

「OK、試合に出ることが出来ないのはアレだけど、その分だけ客席で応援させて貰うさ。」

 

 

「絶対に負けるんじゃないわよ!!」

 

 

 

 

ふふ、言われるまでもなく負ける気はないよ――と言うか、私とエリカさんと小梅さんが一緒に力を合わせれば倒せない相手って言うのは存在しないんだからね!!

 

エリカさん、小梅さん、高校最初の公式戦、絶対に勝ちましょう!!

 

 

 

 

「当然よみほ!――幾ら聖グロが4強の一角とはいえ、貴女と私と小梅が出張る以上は負ける事のない相手――見せてあげましょう、力の差って言うものをね!」

 

 

「新生黒森峰の公式戦初試合で派手に暴れてやりましょう♪」

 

 

「うん、そうだね!」

 

 

遊撃隊は通常の指揮系統に組み込まれてない、独立機動権を持った部隊だから、精々私の好きなようにさせて貰う心算――聖グロも対黒森の作戦を練って来てるだろうけど、其れはあくまでも『此れまでの黒森峰』を想定しての事だろうから、遊撃隊で掻き乱す事が出来る筈。

 

全力で暴れさせて貰うよ!!

 

 

 

 

「遠慮はいらん……全力で暴れろみほ。お前が率いる遊撃隊が暴れてくれるだけ、私達の勝利は確実となるからな。」

 

 

「うん、了解だよ隊長。」

 

 

――さぁ行こうか?悪いけど勝たせて貰うよ聖グロリアーナ女学院!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

試合前の自由時間を満喫した黒森峰のメンバーだが、其れでも試合開始10分前には全員が試合会場での整列を完了していた。

 

この辺の真面目さは、流石は黒森峰と言った所だろう。

 

 

 

「もう整列していたのですか?

 

 此方も、時間前には行動していたのですが……此れもまた、黒森峰の美徳と言う所なのでしょうか?

 

 待たせてしまいましたわね西住まほさん?――遅れた事には、謝罪いたしますわ。」

 

 

「いや、私達の方が早すぎただけのこと、気にしないでくれアールグレイ。」

 

 

 

黒森峰の整列から遅れる事3分、聖グロのメンバーも勢揃いし、隊長であるまほとアールグレイが試合前に言葉を交わす。――本当に簡単な言葉だったが、其れでも通じるのは、互いに一流の戦車乗りだからだろう。

 

 

 

「ふふ、其れだけ私達との試合が待ちきれなかったと解釈させて貰いますね?

 

 ですが、そうであるのならば、私達も騎士道精神を持って全身全霊でお相手させて頂きます……ですので、貴女達も本気で来て下さいな?」

 

 

「あぁ、無論その心算だ――良い試合にしよう。」

 

 

 

まほとアールグレイは、ガッチリと握手を交わし、健闘を誓う。――と同時に両者の間には見えない火花がスパーク!

 

如何やら今年の大会は、1回戦から凄まじい展開になるのは間違いない様だ。

 

 

 

「其れでは此れより、黒森峰女学園と、聖グロリアーナ女学院の試合を始めます!お互いに礼!!」

 

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

 

黒森峰の10連覇を掛けた戦いの初戦の火蓋が、此処に切って落とされた――此の試合が、大会の1回戦とは思えない試合になるのは、きっと間違いない事だろう。

 

 

 

今此処に、第62回戦車道全国高校生大会が幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer84『ドイツとイギリスの全面戦争勃発です』

ドイツ戦車ならイギリス戦車には負けないよ!Byみほ      性能差が凄いからね……Byエリカ     ドイツの化学力は世界一ぃ!ですね♪By小梅


Side:みほ

 

 

 

試合前の挨拶を済ませたら、即試合って訳じゃなく、挨拶の後には15分間の作戦タイムが設けられてる――大体は、最後の確認に使われる時間であり、黒森峰の本隊も御多分に漏れずだよ。

 

 

だけど、此の15分は遊撃隊にとってはとっても大事な時間になるんだよ。

 

15分あれば、試合直前で相手が戦術を変えて来るか否かを見極める事が出来るし、其れが出来れば本隊に最高のサポートを提供する事が出来るんだから。

 

 

 

 

「サポートをしつつ、状況によっては自分が相手のフラッグ車を狩るとは言わないのねみほ?」

 

 

「それは……勿論それが出来たら最高だけど、其れは私の役目じゃないんだよ――私達は遊撃隊……チームに勝利を齎す為の部隊なんだから、無理に相手のフラッグ車を狙う必要はないからね。」

 

 

「自分達の手で撃破するよりも、より確実に撃破出来る状況に持って行く、ですよねみほさん?」

 

 

「罠や囮を駆使して、敵フラッグ車を誘き出して撃破するってのもアリよね?」

 

 

 

 

小梅さん、大正解!そしてエリカさんも大正解だよ。

 

私達の役目はあくまで、チームが勝利するための下準備を整える、言うなれば黒子だから、あんまり騒がれない方が良いんだよ。絶対にね。

 

 

 

 

「其れは、確かにそうね?」

 

 

「あまり注目されると、動きづらくなりますからねぇ……ですが、そう言う事なら、私達の勝利は揺るぎません――聖グロに見せてあげようじゃな いですか!新たな黒森峰の力を!」

 

 

 

 

勿論その心算だよ小梅さん。

 

聖グロの淑女諸君には、隻腕の軍神の力を、骨の髄まで味わってもらうとしようかな?――何にしても、此の1回戦は勝たせて貰うから、その心算で居てね?

 

そして、見せて貰うよ聖グロリアーナ――貴女達がドレだけの力を持っているのかをね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer84

 

『ドイツとイギリスの全面戦争勃発です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

試合前の挨拶を終え、両チームともに15分間のミーティングに入った訳だが、其れでも会場に設置された大型モニターに、両校のオーダーが表示されると、会場の熱は一気に上がっていく。

 

オーダーからどんな戦いになるのかを予想するのも、戦車道の一つの楽しみであると言えるのだろう。

 

 

因みにこの試合のオーダーは……

 

 

黒森峰女学院

 

・ティーガーⅠ×3(ナンバー212車は隊長車兼フラッグ車、ナンバー123車は遊撃隊副隊長車、ナンバー222車は副隊長車)

 

・パンターG型×5(ナンバー217車は遊撃隊隊長車)

 

・ヤークトパンター×2

 

 

 

聖グロリアーナ女学園

 

・チャーチル歩兵戦車Kk.Ⅶ×3(内1輌は隊長車兼フラッグ車、1輌は副隊長車)

 

・マチルダⅡ歩兵戦車Mk.Ⅲ/Ⅳ×5

 

・シークレット×2

 

 

 

 

と、この様なオーダーとなった。

 

黒森峰の方は特に特出すべき点はなく、高性能の戦車で固めた手堅い布陣と言えるだろうが、客の目を引いたのは、聖グロリアーナがシークレット車輌を設定して来たと言う事だ。

 

どんな時でも優雅に、かつ騎士道精神を持って正々堂々と戦う事を信条としている聖グロリアーナが、オーダーで手の内を隠すと言うのは異例の事だろう。

 

 

既に観客の間では、シークレットの2輌が何であるかと言う話が出ており、当然黒森峰も最後の15分間のミーティングでは、聖グロリアーナのシークレット車輌が何であるかと言う話になっていた。

 

 

 

「まさか聖グロがシークレットを使ってくるとは予想外だったが……果たして何を投入して来るのか?――凛、お前は如何思う?」

 

 

「イギリス戦車って言うのを考えると、ブラックプリンスやトータス、生まれはアメリカだけどイギリスで強化進化されたシャーマン・ファイアフライなんかが有力候補かな?

 

 でも、其れはあくまで普通に考えた場合。聖グロは伝統を重んじてて、OG会にも派閥があるらしいから、その派閥でない戦車は、如何に強力でも出て来る事は無いわ。

 

 だけど、そうなるとチャーチルかマチルダかって話になるから、シークレットを使ってくる意味が無いのよね……」

 

 

 

が、聖グロの体質を考えると、態々シークレット域を設定する必要が無いという結論に達してしまう。

 

――となると、シークレットは黒森峰を混乱させる為の張り子に思えてくるのだが……

 

 

 

「……シークレットの2輌は、多分クルセイダーだと思う。」

 

 

「なに?」

 

 

 

シークレットの戦車が何であるかを予想した者が居た――そう、言わずもがなみほである。

 

此れまで黙っていたのは、意見がなかったのではなく、自分の中で聖グロリアーナのシークレットの可能性を、OG会の派閥を含めてトコトン考えていたのだろう。

 

 

 

「クルセイダーだと?理由を説明して貰っても良いか、遊撃隊隊長。」

 

 

「了解です隊長。

 

 先ず、聖グロのOG会の派閥は『チャーチル会』と『マチルダ会』が2大勢力として君臨し、試合で使われる戦車も両派閥が対立しない様に、バランスを考えていると聞いています。

 

 ですが、聖グロに進学した中学時代の友人の話では、OG会にはこの2大勢力の他に、ごく小規模ですが『クルセイダー会』が存在しているそうです。

 

 クルセイダーは、その性能的に、聖グロが伝統としている浸透強襲戦術とは相容れないので、此れまで使われる事は有りませんでしたが、新隊長であるアールグレイさんが、聖グロの改革の一歩としてクルセイダーを起用した可能性は0じゃないと思うんです。

 

 黒森峰が、遊撃隊を新たに設立したように。」

 

 

「成程……確かに彼女ならばやりそうだな?

 

 アールグレイは去年は副隊長だったが、去年の大会の試合後に『此のままでは聖グロは駄目になる、改革しなくては……』と漏らしていたからな……其れを考えれば在り得る事だろう。」

 

 

 

みほの考えを聞いたまほも、去年の事を思い出して納得する。

 

伝統を重んじる聖グロだが、今年の隊長であるアールグレイは『伝統に縛られてはいけない』と言う考えを持っており、自身が隊長となった事で改革に乗り出したとしても不思議はないのだ。

 

 

 

「しかしクルセイダーか……もしもそうであった場合、機動力で掻き乱されると厄介だな?

 

 よし、聖グロのシークレットは遊撃隊隊長の予想通りクルセイダーである可能性が高いので、相手のシークレット車輌の相手は遊撃隊に一任する。任せても良いな?」

 

 

「はい、勿論です!」

 

 

 

あくまでもみほの予想ではあるが、其れでもシークレット車輌が何であるかのアタリをつける事が出来れば、其れを基準に作戦を構築する事は出来るし、仮に予想が外れていたとしても、シークレットの相手を遊撃隊に一任しておけば対処出来る。

 

そう考えて、まほはみほにシークレットの対処を一任し、みほも其れを拝任したのだ。

 

 

こうして、試合前の話題は、観客も黒森峰も聖グロリアーナのシークレット車輌で占められていたが、だからこそ観客と聖グロリアーナの面々は気付かなかった。

 

黒森峰のオーダーが、高性能戦車で固められてはいる物の、黒森峰の代名詞である重戦車が3輌だけで、オーダーの半分が中戦車で構成されていたと言う事に。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

そして、15分後、最後のミーティングを終えた黒森峰と聖グロリアーナの隊員達は、夫々戦車に乗り込み――

 

 

 

『黒森峰女学園対聖グロリアーナ女学院、試合開始!!』

 

 

 

「Panzer Vor!」

 

 

「Tank starting.」

 

 

 

試合開始の合図と同時に、両校の隊長の号令が下り、エンジンを唸らせながら戦車が動き始める。

 

黒森峰vs聖グロリアーナの試合が行われるフィールドは、起伏が少ない代わりに、茂みや林などの遮蔽物が多いマップであり、直ぐ近くにはゴルフ場もあると言う、少々特殊な会場であると言えるだろう。

 

茂みや林を巧く利用するのは勿論だが、ゴルフ場特有のバンカーや池を使う事も考えれば、戦術の幅が大きく広がるのだから。

 

 

 

「私達本隊は、此のまま前進し、聖グロを迎え撃つ。」

 

 

「で、私達遊撃隊は、聖グロのシークレットを狙うために別行動と――戦車の総合性能では黒森峰の方が上だけど、聖グロの戦車は『堅い』から気をつけて下さい隊長。

 

 其れと、新隊長のアールグレイさん……あの人は多分、聖グロの隊長でありながら、戦術的な本質は安斎さんに近いモノがあるんじゃないかって思うので。」

 

 

「ふ、其れに気付くとは流石だな。

 

 だが、彼女は優秀だが、安斎以上ではない――寧ろ、アールグレイ以上に恐ろしいのはダージリンだ。

 

 若しかしたら、ダージリンがシークレットに乗っているかもしれない……何にしても、気をつけてな?無茶は良いが、無理だけはするなよ?」

 

 

「はい、了解です隊長。」

 

 

 

試合開始と同時に、みほ率いる遊撃隊は本隊から離れて独自行動へと移る。

 

其れはつまり、聖グロリアーナのシークレット2輌が独立行動をしているとしても、黒森峰は1輌少ない状態で戦わねばならないと言う事になるのだが、黒森峰の本隊には、最強の重戦車と言われるティーガーⅠが2輌、最強中戦車の名を欲しいままにしているパンターG型が3輌、誰が何と言おうと、自走砲・突撃砲の類では間違いなく最強のヤークトパンターが2輌存在しているので、防御力が高いだけの英国戦車を使っている聖グロリアーナが相手ならば、1輌程度の差はあってないような物なのだ。

 

もっと言うなら、チャーチルとマチルダでは、黒森峰の戦車の正面装甲を撃ち抜くのはまず不可能であるし、側面や後面を狙うにしても、機動力が致命的に低いために、其れもまた難しい。

 

 

つまり、普通に戦った場合は、黒森峰が聖グロリアーナに負ける要素は何処を探しても存在しないのだ。

 

聖グロリアーナとて、そんな事は分かり切っている。分かり切っているからこそ、1回戦から『シークレット』と言う切り札を切って来たのだ――此れまで、只の一度も勝った事がない黒森峰に勝つ為に。

 

 

とは言え、黒森峰も絶対王者として『はい、そうですか』と、勝ちを譲る事は出来ない。

 

故に遊撃隊は、聖グロリアーナのシークレットを探す為に別行動を開始したのだ。(尤も遊撃隊は、その性質上、本隊と共に行動する事は滅多に無いのだが。)

 

 

 

 

「小梅さん、聖グロの部隊は見えたかな?」

 

 

「はい、見えましたよみほさん。――結構距離が離れてるのに、此れだけハッキリ見えるとは、最近の双眼鏡は凄いですね?

 

 流石はデジタル双眼鏡、良く出来ています。」

 

 

「技術革新の賜物よね……んで、デジタル双眼鏡の性能は兎も角、聖グロの部隊はどんな感じなの小梅?」

 

 

「えっとですね……チャーチルが2輌、マチルダが5輌の計7輌で進行してるみたいです。

 

 チャーチルが1輌足りないので、単独行動をしているのか、或いはシークレット車輌と共に行動してると思われますね。」

 

 

「チャーチルがシークレットと一緒に居る可能性があるか……」

 

 

 

 

その遊撃隊は、ゴルフ場の林に陣取り、其処からフィールドを見渡して、黒森峰の本隊と、聖グロリアーナの動きを観察していた。

 

黒森峰も聖グロリアーナも、7輌がスタート地点から真っすぐに前進し、このまま行けば10分後には平原エリアでの戦闘が開始されるのは間違いないだろう。

 

 

が、聖グロリアーナの車輌も7輌と言う事は、チャーチル1輌がシークレットの2輌と行動を共にしている可能性は決して低くないだろう。

 

双眼鏡で観察した結果から、その可能性を即考えた小梅だが、そのお陰でみほはチャーチルとシークレット(仮にクルセイダーとした場合に)を相手に、如何戦うかを構築する事が出来た様だ。

 

 

 

「チャーチルの最大速度を考えると、シークレットがクルセイダーであった場合、機動力の面でクルセイダーの足を引っ張る事になりかねない。

 

 だけど、チャーチルがクルセイダーの盾になる事が出来れば、クルセイダーの紙装甲を補う事が出来る……となると、クルセイダーとチャーチルを分断するのが上策だよね?

 

 ――エリカさん、お願いできるかな?」

 

 

「チャーチルがシークレットと行動していた場合は、優先的にチャーチルをブッ飛ばせって?……OK、任せなさいみほ。

 

 狂犬は狂犬らしく、温室育ちのお嬢様の喉笛を噛み千切ってやろうじゃない――聖グロのスカした態度に風穴をブチ空けてやるわ!」

 

 

 

みほは即座にチャーチルとシークレットを分断すると言う作戦を立て、重装甲を誇るチャーチルの相手をエリカに一任する。

 

パンターの主砲ではチャーチルの装甲を抜くのは難しいが、ティーガーⅠの88mmならチャーチルの装甲を抜くのは難しくないので、みほはエリカにチャーチルを任せたのだ。

 

 

そして、その命を受けたエリカもまた狂犬上等の獰猛な笑みを浮かべ、みほの命令を拝領する。――其れは、鋭い牙を持った猟犬が鎖から解き放たれたのと同義だ。

 

 

みほ率いる遊撃隊は、聖グロリアーナのシークレット2輌+チャーチル1輌から構成されているであろう別動隊を探し――

 

 

 

「ん?アレは……聖グロの戦車?――チャーチルが1輌に、クルセイダーが2輌!みほさん、聖グロの別動隊を見つけました!」

 

 

 

――そして見つけた、ゴルフ場の近くで待機しているチャーチル1輌とシークレットの2輌……クルセイダーMk.Ⅲを。

 

みほの読み通り、聖グロリアーナのシークレット車輌は、クルセイダーであったのだ。

 

同時に、小梅が考えた可能性も大当たりで、本隊とは別に行動していたチャーチルは、クルセイダーと共に行動していたのだ。

 

 

 

「やっぱりクルセイダーだったか……となるとその内の1輌の操縦士はつぼみさんもとい、ローズヒップさんで間違いないかな?

 

 ローズヒップさんの操縦士としての能力を最大限に生かすなら、機動力のある戦車を操縦させるのが一番だからね――でも、先ずは向こうの部隊に挨拶しておこうか?

 

 エリカさん、小梅さん……直撃しないように、チャーチルの足元に一発ブチかましてくれるかな?」

 

 

 

己の読みが当たっていた事に慢心せずに、みほはエリカと小梅に新たに命令を下す。

 

直撃しないように攻撃しろと言うのは、普通に考えれば挑発目的の一撃であり、費用対効果を考えれば、無駄撃ちにも等しい行為だが、エリカと小梅は、みほの真意を読み取っていた。

 

 

 

「……大胆不敵って言葉は貴女の為にあるような言葉よねみほ?

 

 ……だけど上等!一発弩派手な一撃をブチかまして、温室育ちのお嬢様達に盛大に挨拶してやろうじゃないの!」

 

 

「任せて下さいみほさん……チャーチルの動きを止めて見せます!!」

 

 

 

みほの目的はチャーチルの足止め。

 

チャーチルを足止めし、其れに乗じてクルセイダーを分断する心算なのだろう――エリカと小梅は、其れを確りと理解していたのだ。中学時代の合宿で、同じチームになった事がある経験は伊達では無いのだ。

 

 

 

「頼もしいね?なら頼んだよ!」

 

 

「「任せなさい!(任せて下さい!)」」

 

 

 

 

――轟!!

 

 

 

 

そして、みほの号令を受けたエリカと小梅は、己の闘気を完全開放!――その身から発せられるオーラは、軍神招来状態のみほに勝るとも劣らないレベルのモノだ。

 

そして、其れと同時に、みほとエリカと小梅の瞳はハイライトを失って、瞳孔が極端に収縮した『超集中状態』に移行する――この状態に成った以上、黒森峰の勝利は絶対と言っても過言ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

エリカさんと小梅さんが、私の考えを読み取ってくれて、聖グロの別動隊の足場に一撃かました訳なんだけど、其の効果は小さくなかったよ。

 

そのお陰で、別動隊に対しての奇襲が巧く行って、此方に意識を向けさせられたからね?此処で、別動隊を抑えておけば黒森峰の本隊は、聖グロの本隊との戦いに集中する事が出来るもん。

 

 

それにしても、聖グロのシークレットは、私の読み通りクルセイダーだったね?

 

いいよ、相手にとって不足は無い――思い切りやろうローズヒップさん!!

 

 

 

 

「モチのロンでございますわみほさん!

 

 聖グロ一の俊足の力をご覧あそばせ!!――やっつけてさし上げますわ!!」

 

 

「やっつけてあげるか……上等だよローズヒップさん!出来るモノならやってみろだよ!!」

 

 

戦車の性能差で言うなら、パンター2輌とティーガーⅠ1輌で構成された黒森峰の遊撃隊に利があるけど、俊足のクルセイダー2輌と、堅牢な防御力を誇るチャーチル1輌で構成された聖グロの別動部隊の力は馬鹿に出来ない……其れこそ、エリカさんと小梅さんの力を持ってしても、

 

そう簡単に勝つ事は出来ないかも知れないよ。

 

 

何より――

 

 

 

 

「ふふふ……お初にお目にかかりますわね西住みほさん?

 

 聖グロリアーナ女学院戦車道チームの副隊長を務めさせて頂いているダージリンと申しますわ、以後お見知りおきを。」

 

 

「ダージリンさん……」

 

 

お姉ちゃんが、アールグレイさんよりも恐ろしいって言ったダージリンさんがチャーチルに乗って、別動隊として動いていた訳だからね?

 

此れは、一筋縄ではいかないかもしれないけど、だからこそ面白いよ。

 

 

「手加減は不要です、思い切りやりましょう!」

 

 

「ふふ、勿論その心算ですわよみほさん。」

 

 

 

 

如何やら、1回戦から激闘は避けられないみたいだね?……上等だよ、それでこそ燃えて来るって言うものだからね!

 

だけど、覚悟して貰うよダージリンさん、そしてローズヒップさん――隻腕の軍神と、孤高の銀狼と、慧眼の隼に挑むのは命知らずの証だから。

 

 

悪いけど此の試合、10連覇の足掛かりにさせて貰うからね?――見せてあげるよ、私の戦車道を!!さぁ、行くよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer85『挑発と誘導と全力全開です!』

まさか、この設定を使ってくるとはね?Byみほ      まさか私が……まぁ良いけどね?Byエリカ     其れ以前に、この設定は何処で生まれたのでしょうか?By小梅


Side:しほ

 

 

 

ふむ……黒森峰も聖グロリアーナも、部隊を二つに分け、本隊と別動隊で別行動する布陣で来ましたね?

 

――その布陣が功を奏したのか、みほが率いる黒森峰の遊撃隊は、聖グロリアーナの別動隊と交戦状態に入りましたからね……でも、みほなら勝つって思ってる辺り、私は可成りの親バカかもしれないわね菊代?

 

 

 

 

「いえいえ、子供の活躍をその目に焼き付けて起きたいのは親としての真理ですよ奥様。

 

 私も娘が戦車道に進んで、其処で結果を出せば応援したくなりますから――それ以上に、親と言うものは、己の子供の力を信じて疑わない所がありますので、奥様の考えは間違ってはいませんよ。」

 

 

「成程ね……」

 

 

子供を持つ親として、子供の応援をするのは当然か……だけど、それが正しいとしたら、貴女は一体何で此処に居るのかしら千代?

 

継続の1回戦の会場は、埼玉の会場だったわよね?

 

 

 

 

「応援に行こうかと思ってったんだけど、あの子ったら『今の私は名無しのミカだ……その名無しの試合に島田流の家元が現れたら、要らぬ事をマスコミに提供する事に成りかねないからね――私の試合には応援に来ない方が良いよ』って言ってね?

 

 母親としてはちょっと寂しいわね……」

 

 

「其れは、確かに寂しいわね?」

 

 

あの子も中々不思議な子よね?島田流の長女でありながら、島田である事を隠して継続高校で戦車道をやっているんですもの。

 

其れだけなら未だしも、継続高校の誰にも島田の娘だと言う事がバレていないのが凄いわよね?……余程、周囲の目を欺くのが得意なのか、其れとも己の素性を隠し通すのが巧いのか……何にしても一筋縄ではいかない子だわ。

 

 

其れで千代、貴女は如何してこの会場に?――貴女が黒森峰の試合を見に来るなんて珍しいじゃない?

 

 

 

 

「まほさんとみほさんの2人が揃って、十全の状態となった黒森峰の試合を見たかった……では駄目かしら?」

 

 

「及第点ね。本音は?」

 

 

「偶には旧友と一杯やりながら戦車道を観戦するのも良いんじゃないかと思って。」

 

 

「あら、其れは素敵な提案ですね千代様♪」

 

 

 

 

其れが本音か千代!そして菊代も乗るんじゃないわよ!……まぁ、確かに悪くない提案だし、偶には旧交を温めるのも良いかも知れないわ。

 

取り敢えず此の試合、勝つのは黒森峰よ。

 

力のまほと、技のみほが力を合わせれば、其れは間違いなく最強と言えるでしょうからね?――聖グロの隊長さんも優秀な人のようだから、まほかみほのどちらか一方だけだけならば勝つ事が出来たかもしれないけど、2人が揃ってる以上はね。

 

 

もっと言うなら、私の娘達が最強なのは当然として、まほの副官である近坂凛さんと、みほとチームを組んでいる逸見エリカさんと赤星小梅さんの戦車乗りとしてのレベルは高校最高レベルと言っても過言ではないからね?――今年の黒森峰に隙は無いわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer85

 

『挑発と誘導と全力全開です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

試合開始から10分弱、スタート地点から可成り進んだ所で漸く聖グロの部隊を発見。――矢張り、聖グロの伝統とも言える強襲浸透戦術で戦う心算のようだな?

 

茂みの多いフィールドに陣を張り、茂みを利用して防御に重点を置いて戦う、か。

 

去年までの聖グロが相手ならば、同じような状況であっても戦車の性能差と私が最も得意とする攻撃重視の戦い方で蹂躙出来たが、今年の聖グロが相手ではそうは行かないだろうな。

 

 

1回戦からシークレット車輌を使っておきながら、此れまでと全く同じ戦術を執ると言うのでは意味が無いからね――その証拠に、待ち構えている聖グロの部隊は7輌だ。

 

確認できるのがチャーチルとマチルダだけと言う事は、シークレットは別行動と言う事だからな?……其れを考えると、矢張り遊撃隊を組織したのは正解だったね。

 

今まで通りの蹂躙戦術で挑んで居たら、別行動のシークレットに掻きまわされて、部隊は大混乱に陥っていたかもしれないが、本隊とは別行動が基本の遊撃隊があれば、相手の別動隊に対処出来るからね。

 

 

とは言え、聖グロの強襲浸透戦術の練度の高さは、マジノの比ではないから油断は出来ん。――何よりも、今年の隊長であるアールグレイの戦車乗りとしての実力は、私の中で(みほとエリカと小梅と凛を除いて)5本指に入るからな。

 

 

だが、そうでなくては面白くない。

 

勝って当然の相手に勝っても、何の感慨もないが、強者との戦いの果てに掴み取った勝利と言うのは、何物にも代えられないモノだからね?

 

楽しませて貰うぞ、アールグレイ!

 

 

 

 

『此方遊撃隊の西住みほ。隊長、応答を願います。』

 

 

「っと、どうした遊撃隊隊長?」

 

 

『ゴルフ場で、聖グロのシークレット車輌であるクルセイダー2輌と、チャーチル1輌を発見。

 

 此れより交戦を開始し、相手を撃破し次第、本隊に合流します。』

 

 

 

 

ふむ、みほの読み通り、シークレットはクルセイダーだったか……リミッターを解除すれば、その最大速度はパンターをも上回る快速戦車だから下手をしたら完全に此方の部隊が掻き乱されてしまう所だ。

 

聖グロの本隊との交戦中に乱入されたら厄介だったが、みほに見つかった以上、其れを振り切って此方に来るのは不可能だろうね?

 

 

――こう言っては何だが、みほは己が捕捉した獲物を絶対に逃がさないからな。

 

そして、其れはエリカも同様だし、小梅は大人しそうな見た目とは裏腹に、戦車道では獲物を狙う隼の如き激しい攻めを行うからな――みほとエリカと小梅が組んでいる以上、取りこぼしは有り得んだろう。

 

 

まぁ、別動隊にダージリンが居た場合は、そう易々と勝つ事は出来ないかも知れないが、其れでも負ける事は有り得んよ。

 

 

「あぁ、了解した。此方も聖グロの本隊を目視したので、此れより戦闘を開始する。――武運を祈るぞ遊撃隊隊長。」

 

 

『其方も御武運を隊長。通信終わり。』

 

 

 

 

ふふふ、御武運をと言われたら、其れに応えない訳には行かないな?

 

全軍攻撃準備!聖グロの本隊を一気呵成に攻める!フラッグ車を狙うのは当然だが、フラッグ車撃破を阻む相手も容赦なく吹き飛ばせ!!!

 

生憎と私は、フラッグ車だけを倒して勝つなどと言うスマートな戦い方は出来ないのでな……相手チームは全車輌を倒してこそなんだよ。

 

 

 

 

「まぁ、まほにスマートな戦い方は似合わないわね?

 

 貴女は、圧倒的な力を持ってして相手を叩き潰す方が似合ってるわよ。……差し詰めまほは、海馬って所かしらね?」

 

 

「ふむ、そうなると様々な戦術を見事に使うみほは差し詰め遊戯か?――うん、その例えで行くと、みほが一緒なら絶対に負ける気がしない。」

 

 

「でしょうね。

 

 如何やら貴女は、みほが一緒だと3割り増しで強くなるみたいだからね?……余程みほの前でカッコいい所を見せたいと見えるわ。

 

 流石のシスコン、恐るべし。」

 

 

 

 

誰がシスコンだ誰が!

 

シスコンとかそう言うのは関係なく、姉と言うのは妹の前ではカッコつけたいモノなんだよ!

 

一人っ子であるお前には分かるまい、妹が観戦していた試合で勝利して、『お姉ちゃんて凄いんだね』と言われた時の嬉しさが!ぶっちゃけて言うなら、妹が応援してくれる限りお姉ちゃんて言うのは無敵にして最強なんだ!

 

みほに武運をと言われた今の私は、阿修羅も毘沙門天も、明王すらも凌駕する存在だ!!故に、覚悟して貰うぞアールグレイ!!

 

 

 

 

「お姉ちゃんは妹の前ではカッコ良くありたい……その思い、良く分かるわまほさん。

 

 私にも可愛い妹が居る上に、此の試合に参加しているから、姉として無様な試合をする訳には行かないの……全身全霊を持って、挑ませて頂くわ――黒森峰の隊長にして、次期西住流の当主である西住まほ!!」

 

 

「受けて立つぞアールグレイ!」

 

 

そして、姉の気持ちが分かるとは驚きだよ。

 

しかも妹が試合に参戦しているというのならば尚更だ――って、妹?……まさかとは思うがお前の妹と言うのは……アイツの事か?そう言えば似てなくもないか。

 

其れにアイツは、以前に『姉は聖グロに行ってる』と言って居たからな。

 

此の1回戦は、姉妹対決でもあった訳か――尤も、姉妹の直接対決は、少し先になりそうだけれどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

ゴルフ場で聖グロリアーナのシークレット車輌であるクルセイダー2輌と、其れと行動を共にしていたチャーチル1輌を発見し、先制攻撃をブチかまして戦闘状態に入った黒森峰の遊撃隊だが、意外な事に結構手こずっていた。

 

先制攻撃こそ巧く行ったものの、其処からチャーチルとクルセイダーを分断させるのに難航していたのだ。

 

 

 

「マッタク持ってこっちの挑発には乗ってこないなぁ?……クルセイダーとチャーチルを分断したいんだけど、中々巧く行かないモノだね?」

 

 

「ダージリンって言ったかしら?……アイツは完全にこっちの挑発には乗らないみたいだわ。――みほの挑発に乗ってこないってだけでも、大したモノだと思うけどね。」

 

 

「如何やらダージリンさんは、目先の彼是よりも、大局を見る力があるみたいですね――だとしたら厄介極まりません。

 

 どうしますかみほさん?」

 

 

 

その理由は単純明快。

 

チャーチルの車長であり、聖グロリアーナの副隊長でもあるダージリンが、徹底的にみほの挑発に乗らなかったからだ――挑発で相手を逆上させて分断しようと考えていたみほにとって、此れは可成りの痛手だろう。

 

 

だが、一つの策が潰された程度では如何と言う事が無いのがみほだ。

 

 

 

「なら、ダージリンさんの方から今の陣形を崩してしまう状況に持ち込めばいいだけの事だよ――そう言う訳で、頼んだよエリカさん?」

 

 

「Jawohl.(了解。)

 

 温室育ちのお嬢様が、黒い森で生き抜いてきた狂犬の牙に何処まで抗えるか試してやるわ。」

 

 

 

すぐさま思考を切り替え、エリカにチャーチルの事を一任する。挑発に乗って来ないのならば、力ずくで引き剥がす心算なのだろう。

 

エリカの持ち味である超攻撃的な戦い方を挑めば、多少強引であってもクルセイダーとチャーチルを引き剥がす事が出来るだろうし、一度分断してしまえば、クルセイダーはみほと小梅で引き受ける事が出来る。――クルセイダーの1輌にローズヒップが居るのならば尚更そうするべきだろう。

 

 

エリカも其れは分かって居るので、自分の役割を果たす為に、ティーガーⅠを砲塔だけでなく車体ごと後方の聖グロリアーナの方に向け……

 

 

 

「騎士道精神が云々言う割に、此方の誘いに乗ってこないとは、随分と肝っ玉が小さいのね聖グロの副隊長さんは?」

 

 

 

砲撃ではなく、口撃が炸裂した。

 

尤もそれは、誰が聞いても安っぽい挑発でしかないのだが、其れでもダージリンの意識をエリカに向けさせるには充分だった。

 

 

 

「こんな格言を知っている?『イギリス人は恋と戦争では手段を択ばない。』」

 

 

「あらゆる方法が正当化されるって?流石はイギリス風の学校ね、本物のイギリス人張りの二枚舌には恐れ入るわ。

 

 まぁ、其れ位じゃないと聖グロの副隊長は務まらないのかも知れないけどねぇ?

 

 ……でも、今年の副隊長は優秀だって、アンタ達の隊長から聞いてたから期待してたけど、二枚舌の臆病者とはガッカリだわ。」

 

 

 

そして、此処からがエリカの本領発揮だ。

 

逸見エリカと言う少女は、負けん気が強くて気性も激しいが、仲間に対しては厚情であり、己が認めた相手には敬意を払う人物だが、敵とみなした相手には、兎に角口が悪くなる。

 

安っぽい挑発から始まる其れは、次第にエスカレートし、終いには毒舌を売りにしてる芸能人ですらドン引きする程の罵詈雑言が此れでもかと言うくらいに飛び出してくる。

 

そのあまりの口撃の凄まじさに、黒森峰中等部には『逸見エリカは隊長時代に練習試合の相手の心を罵詈雑言で圧し折った』と言う逸話が残っているくらいだ。

 

 

 

「って言うか、試合中に紅茶飲むとかどんな神経してるの?馬鹿なの死ぬの?

 

 そんな利尿作用のあるモノを試合中に飲むなんて正気の沙汰じゃないわね?

 

 ……若しかして、聖グロの戦車乗りは大人用の紙おむつを穿いてるとか、車内に尿瓶を持ち込んでるって言う噂は本当なのかしらね?」

 

 

「……安っぽい挑発ですわね?」

 

 

「と言いつつ、結構怒りのボルテージが溜まってるんじゃない?カップ持つ手が震えてるわよダージリンさん?

 

 まぁ、此れだけ言われて怒らない方がおかしいわよねぇ?――どうやら、アンタ等の隊長が言うように、戦車道の戦術的挑発に乗る事はなくても、口撃には耐性が無いみたいね?」

 

 

 

これでもかと言うくらいに煽る煽る。

 

焼け石に水所か、焼け石にガソリンをぶっ掛けて更に燃え上がらせんとするかの如く煽りまくる。

 

 

其れでもまだダージリンは平静を保っているが、エリカの物言いの中で気になる事があった――エリカが聖グロリアーナの隊長であるアールグレイから色々聞いているらしい事だ。

 

 

 

「其れよりも貴女、アールグレイ様と如何言うご関係で?何故、アールグレイ様が貴女にそんな事を……」

 

 

「あれ?アンタ等の隊長はアンタ達に言ってないの?……アンタ達の隊長であるアールグレイは、私の姉『逸見カンナ』よ。」

 

 

 

此処で衝撃の事実発覚!

 

聖グロリアーナの隊長であるアールグレイは、何とエリカの実姉であった。――成程、そうであるのならば妹との電話での雑談の中で自校の戦車道の事を話していたとしても不思議はないだろう。

 

尤も、この事実にはダージリンだけでなく、みほと小梅も驚いて目が点になっていたのだが。

 

 

 

「貴女がアールグレイ様の妹ですって?……本当ですの?」

 

 

「いや、嘘に決まってんでしょ?」

 

 

「嘘ですの!?」

 

 

「うん、嘘って言うのが嘘。」

 

 

「どっちですの!?」

 

 

「私の言葉が嘘であるか真実であるか、其れは貴女自身の判断に委ねられていると言う事よ、田尻凜さん。」

 

 

「ダージリンですわ!!」

 

 

 

そして、其れすら利用して、エリカは兎に角煽って煽って煽りまくる。

 

言葉で煽るだけでなく、イラっとする仕草も交えている辺り、相手を挑発すると言う事に関しては、エリカは高校戦車道において最高レベルであると言えるだろう。

 

 

 

「田尻凜をもじってダージリンって、安易すぎない?……まぁ、姉さんにネームセンスを期待するだけ無駄よね?

 

 なんてったって、実家によくあらわれる野良の三毛猫に『三毛猫太郎』って名前つけちゃうくらいだもの……三毛猫は雌だってのに……そう言う訳で、御愁傷様でした田尻さん。」

 

 

「良い度胸をしてますわね逸見さん……いいでしょう、ぶっ殺して差し上げますわ。」

 

 

 

その挑発に、ダージリンの堪忍袋の緒が対に切れ、エリカの乗るティーガーⅠに向かって進撃開始!ダージリンからは、必ずエリカを撃破すると言う気迫が見て取れるくらいだ。

 

 

 

「お嬢様らしくない物言いねダージリン。

 

 まぁ、私とやり合いたいって言うのなら付き合わせて貰うけど、貴女が私に着いて来れるかしらね?」

 

 

「逃がしませんわよ逸見エリカさん……チャーチルの全能力を持ってして、貴女を倒しますわ!絶対に倒して差し上げますわ!

 

 逃げ切れるとは思わない事ね?」」

 

 

「そんな鈍足戦車で機動力勝負ぅ?本気だとしたらおかしくて臍で茶が沸かせるわ~~聖グロは冗談の授業もあるみたいね?

 

 機動力も攻撃力もティーガーⅠに劣る戦車で、私に勝とうってんなら舐め過ぎよダージリン……この世にアタシを倒せる戦車乗りは2人しか存在しない……まほさんかみほだけよ。

 

 アンタなんか、あの2人に比べたら雑魚も良い所なのよ!――だから、此処で叩きのめすわ!!」

 

 

「上等ですわ……!」

 

 

 

そのままエリカのティーガーⅠとダージリンのチャーチルは交戦を開始!ダージリンを逆上させたエリカの毒舌は恐るべしだろう。

 

そして、其れと同時にチャーチルの陰に隠れていたクルセイダーの姿が顕わになり、其処にみほと小梅が仕掛ける。

 

 

 

「分断成功!……此のまま攻め込むよ小梅さん!!」

 

 

「了解しましたみほさん。」

 

 

 

最強中戦車の呼び名も高いパンターの最高時速は55kmと、リミッター付きのクルセイダーを大きく上回る上に、主砲の威力と装甲厚でもクルセイダーを凌駕する。

 

となれば、クルセイダーが真正面からパンターの相手をするのは悪手と思えるだろうが……

 

 

 

「来ましたわねみほさん!いざ、尋常に勝負ですわ!!」

 

 

 

2輌のクルセイダーの内の1輌に乗るローズヒップにとっては、そんな事は宇宙の果てのブラックホールに蹴り飛ばした物であったようだ。

 

勿論、ローズヒップとて、クルセイダーでパンターに挑むのは無謀だと言う事は分かって居るが、其れを分かって居ても、嘗ての戦友であるみほとの戦いに、己を抑える事が出来なかったのだろう。

 

 

 

「尋常に勝負か……そう来なくっちゃね!

 

 だけど、勝負を挑んできた以上は楽しませてくれるんだよねローズヒップさん?」

 

 

「勿論ですわ!」

 

 

 

みほの挑発的な一言にも過剰反応する事も無く、ローズヒップはみほに向かって何かを投げつける。

 

 

 

「白い手袋?……成程ね。」

 

 

 

其れは白い手袋。

 

イギリスにおいて、白い手袋を投げつけると言うのは、決闘の申し込みに他ならない――お嬢様言葉は中途半端であるが、ローズヒップは聖グロのイギリス文化は確りと身に着けているようだ。

 

 

 

「聖グロリアーナ、クルセイダーMk.Ⅲのローズヒップはみほさんに決闘を申し込みますわ!

 

 でも、目の前に手袋を投げつけられても微動だにしないとは……この程度では動じませんのね?本気で行きますわよーーー!!」

 

 

「受けて立つよローズヒップさん!――小梅さん!!」

 

 

「もう1輌のクルセイダーの事は私に任せて下さいみほさん。

 

 速攻で撃破して見せますから!――其れよりも、みほさんの方こそ気をつけて下さいね?

 

 ローズヒップさんは、みほさんの中学時代の戦友でしたので、みほさんの作戦を読んでいる可能性がありますから。」

 

 

 

無論みほとて、その決闘の申し込みを無視するような無粋な真似はしない。

 

此れが命のやり取りをする戦場であったのならば愚かな行為だろうが、此れはルールが設定された上で行われている戦車道という『スポーツ』なのだから、此れ位の事をしても罰は当たらないだろう。

 

尤も、ローズヒップからの決闘の申し込みを受けつつ、小梅にもう1輌のクルセイダーを任せるあたり、みほが楽しんだ上で勝利する事を信条としている証なのかも知れない。

 

 

 

「其れじゃあ、行きましょうみほさん!号令を!!」

 

 

「速攻で片付けよう!10分でカタをつけるよ!」

 

 

「10 Minuten?…Haben Sie einen 5Minute Sieg!(10分?……5分あれば充分でしょう?)」

 

 

「ハハ……Ist ein Kinderspiel!(楽勝だね!)其れでは改めて、Panzer Vor!!」

 

 

「Jawohl!(了解!)」

 

 

 

そしてみほの号令を受けた小梅はクルセイダーの1輌と交戦を開始!

 

本隊とは別行動をしているみほ率いる黒森峰の遊撃隊と、ダージリン率いる聖グロリアーナの別動隊の戦いは、エリカの挑発からチャーチルvs

 

ティーガーⅠ、クルセイダー×2vsパンター×2の構図となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:小梅

 

 

 

チャーチルはエリカさんが、ローズヒップさんが乗るクルセイダーはみほさんが夫々相手になっているみたいですけど、私も確りと相手を抑えないとですね?

 

私の相手のクルセイダーの車長は、有名選手ではありませんが、中学時代にはソコソコ鳴らした戦車乗りでしたので、油断は禁物ですけれど。

 

 

 

 

「小娘が……私に勝てると思っているのかしら?」

 

 

「勝てると思ってるんじゃなくて、勝つんですよ。……こう言っては何ですが、貴女は私の敵じゃありませんので。」

 

 

「良い度胸をしてるじゃない……叩きのめしてやるわ!!」

 

 

「やってみてください。貴女なら出来るかも知れませんよ?」

 

 

でも絶対に負けません!

 

私は遊撃隊の隊員として、己の役目を全うしますけれど、其れはみほさんに勝利を齎す為の事……だから、私は、私達は絶対に負けません!

 

チャーチルがエリカさんによって分断された時点で、貴女達の命運は決まっていたんです。

 

 

敢えて言わせて貰います――此の試合、私達黒森峰の勝利です!其れだけは、絶対に覆る事は有りませんからね!

 

 

精々その目に焼き付けておいて下さい――新生黒森峰の、最強の戦車道って言うモノを。他の追随を許さないレベルの、最高の戦車道の戦いと言うモノを!!

 

 

そして、みほさんの本気はまだまだこんな物じゃありません――隻腕の軍神が本気を出したら、その時点で試合が終わりますからね。

 

でもみほさんが此の試合を楽しんでいるのは事実ですので、其れを踏まえて考えると、貴女達聖グロリアーナが2回戦に進出する事はありえません……隻腕の軍神としての力を解放したみほさんは、正に天下無敵ですからね。

 

 

そう言う訳ですので、勝たせて貰いますよ聖グリアーナ女学園――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer86『黒森峰vs聖グロは此れでも1回戦です』

1回戦でも本気で行くよ!Byみほ     其れ位は当然でしょ?Byエリカ     本気で勝ちに行きましょう!By小梅


Side:まほ

 

 

 

会敵してから10分経つが、未だに黒森峰も聖グロも、1輌も撃破されていないとは……完全に攻める黒森峰と、守る聖グロだな。

 

障害物を巧く使って隠れてくれる上に、装甲が厚いせいで有効打を与える事は出来ないが、逆に聖グロは主砲の威力が足りなくて、黒森峰の戦車を撃破することが出来ない……互いに、別行動をしている3輌の戦車がどうなるかで状況は変わるか……

 

 

しかし、聖グロがシークレット枠を使ってクルセイダーを使って来たのには純粋に驚いたぞアールグレイ?――聖グロには、苔むした様なOG会の派閥と言うものが存在してる故に、使用車両はチャーチルかマチルダだと思ってたからね。

 

どうやってOG会を黙らせたかは知らないが、随分と思いきった事をしたモノだな?――尤も、そのお陰で去年の準決勝よりも楽しい戦いが出来るのは間違いないのだが。

 

 

 

 

「戦車道とは、互いに持てる力の全てを出して戦う武道……でも、勝利以前に勝負を楽しまなければ本末転倒でしょうまほ?

 

 聖グロリアーナの戦車道は、いつ如何なる時でも優雅である事が身上だけど、だからと言って優雅である事が第一じゃない……エレガントでありながら勝利してこそなの。

 

 だけど、OG会の小母さま達は下らない派閥争いをしてたから、私が隊長権限を発動してクルセイダーの運用に踏み切ったのよ。

 

 ――尤も、ローズヒップとルクリリの可能性、そして聖グロにとってクルセイダーは絶対に必要になると言っていたのはダージリンだったけど。」

 

 

「成程、ダージリンは先を見通していたと言う事か。」

 

 

尤も、後輩の進言を即座に受け止めるお前も大概だと思うぞアールグレイ?

 

普通はその意見を持ち帰って検討する所だが、お前はダージリンの提案をその場で受け入れたのだろう?……だからこそ、黒森峰の本隊と、聖グロの本隊が真正面から遣り合う展開になっているのだからね。

 

 

恐らくはダージリンはみほと交戦中なんだろうな……だが、みほは負けんぞアールグレイ!!

 

 

 

 

「大した自身ねまほ……如何してそう言いきれるの?」

 

 

「みほを甘く見るなよアールグレイ?

 

 みほは戦車道に於いて天才的な力を発揮する――こう言っては何だが、私とみほが同じ戦車に乗ってタイマンしたら、10回戦って9回は負けるだろうな……其れ程にみほは強いんだ。」

 

 

加えて其処にエリカと小梅が加わるのだから、正に隙なしだ。――そしてあの3人ならば、早々撃破される事も無いだろうからね。

 

とは言え、遊撃隊と別動隊の戦いばかりが注目されても面白くないのでな……私達は私達で派手に行こうかアールグレイ?

 

……私を楽しませてくれるのだろう?――持てる力の全てを掛けてかかって来い!私の戦車道が其れを粉砕する!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer86

 

『黒森峰vs聖グロは此れでも1回戦です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

エリカさんがダージリンさんを(二流悪役全開の)挑発してくれたおかげで、チャーチルとクルセイダーを分断する事が出来た……ダージリンさんはエリカさんを倒す事に躍起になってるから、お陰で私と小梅さんは、目の前の2輌のクルセイダーに集中する事が出来るよ。

 

何よりも私の相手のクルセイダーの車長兼操縦士は、つぼみさん――改め、ローズヒップさんだったんだから!

 

こう言ったらアレだけど……中学時代の頼れる仲間が、今度は強敵として現れるって言うのは燃えて来るよね?

 

 

 

 

「マッタク持ってその通りでごぜーますわみほさん!!いざ、尋常に勝負ですのよ!!」

 

 

「勿論、全力で行くよローズヒップさん!」

 

 

この別動隊の要は、ローズヒップさんのクルセイダーだろうからね……逆に言うなら、その要を壊してしまえば、恐れるモノは何もなくなるって言う事だよね?――だから、全力で撃破させて貰うから!!

 

 

尤も、ローズヒップさんの操縦の腕前は凄まじいから、簡単に撃破させてはくれないだろうけどね。――遊撃隊隊長、西住みほ、行きます!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

ドイツの誇る最強中戦車であるパンターG型と、イギリス生まれの快速の巡航戦車クルセイダーMk.Ⅲのエンジンが唸りを上げると同時に、みほとローズヒップの戦いが幕を上げた。

 

戦車の性能差で言えば、クルセイダーの主砲ではパンターの装甲を抜く事は難しいが、パンターの主砲ならばクルセイダーの何処に当てても撃破する事が出来るのだからみほが絶対有利と言えるのだが……

 

 

 

「オーッホッホ!!聖グロ一の俊足を捉える事は出来ませんのよ!!」

 

 

「うげっ!何つー変態軌道をするんだあのクルセイダーは……妹様の嘗てのお仲間はバケモンか!?

 

 ってか、何であんな無茶な動きをして履帯が切れないんだろうか?」

 

 

「多分、ローズヒップさんが任されたクルセイダーは、レギュレーションギリギリまで足回りが強化されてるんだろうね。多分エンジンも。

 

 如何に快速が自慢のクルセイダーだからって、あんな無茶な動きを連発してたらエンジンと足回りが悲鳴を上げる筈だから。」

 

 

 

ローズヒップのクルセイダーは凄まじい機動力を駆使して、パンターからの攻撃を悉く、まるで軽業師が飛び回るかの如き動きで躱しに躱していたのだ。

 

みほは中学時代にローズヒップと共に戦っていたので、ローズヒップの操縦士としての腕前は知っているが、其れを知らない者達からしたら、クルセイダーの変態的とも言える動きに驚くのは無理もないだろう。

 

 

 

「(ローズヒップさん、中学の時よりも操縦の腕前が上がってるなぁ?

 

  幾らクルセイダーじゃパンターを倒すのは難しいって言っても、こうも尽く避けられたんじゃ、無駄弾を撃つ事になっちゃうから……此処は攻め方を変えた方が良いね。)

 

 ヒカリさん方向転換してくれる?此のままじゃ無駄弾を撃つ事になるから、別の手で行こうと思うんだ。」

 

 

「敵に背を向けるって本気か妹様?――そんな事したら隊長や師範やOG会に怒られるんじゃ……『王者らしくない!』『西住流に撤退の文字はない』って。」

 

 

「其れは大丈夫。西住流に於いて敵前逃亡は御法度だけど、勝つための戦略的撤退は全然OKだから。

 

 其れに隊長であるお姉ちゃんと、師範であるお母さんが咎めないなら、OG会が強く出る事は出来ないと思うし――勝てば文句は言わないと思うからね。」

 

 

 

そして、みほ自身もローズヒップの操縦の腕が上がっている事を認識し、同時に『此のまま戦っても無駄に砲弾を消費する事になる』と考え、次の一手を打つ。

 

操縦士であるヒカリに方向転換を命じると、180度向きを変えて、クルセイダーの前から走り去ろうとする。

 

敵戦車からの撤退とも取れるこの行動は、まほやしほは兎も角、ヒカリの言うように黒森峰のOG会は煩く口を出してくる可能性はあるかもしれないが、結果的に勝てば問題ないとみほは考えていた。

 

黒森峰のOG会は勝利至上主義に染まっている故に、勝てば官軍負ければ戦犯であり、勝ちさえすれば戦術に彼是言ってくる事は無いのだ。

 

 

其れに、この撤退はみほの作戦でもある。

 

 

 

「逃げますの?逃がしませんわ!リミッター外しちゃいますのよ!!」

 

 

 

撤退するパンターを見たローズヒップは、変態軌道を止めて撤退するパンターを追いかけて来た――通常ならば最高速度はパンターの方が上だが、リミッターを解除したクルセイダーならばパンターを上回る事が出来る。

 

逃げるパンターを追うために、ローズヒップはクルセイダーをリミッター解除し、その機動力をマックスまで引き上げる!

 

 

 

「やっぱり乗って来たねローズヒップさん。」

 

 

 

だが、此れこそがみほの狙いだった。

 

みほはローズヒップの性格から、自分達が撤退行動を始めれば、必ず追いかけて来ると考え、彼女を誘い出す為に撤退行動をとったのだ――そして、其れは大当たりだ。

 

みほの読み通りにローズヒップはクルセイダーのリミッターを解除して追いかけて来たのだから。

 

 

 

「京子さん、撃って!!」

 

 

「任せて!喰らえ!!」

 

 

 

「当たりませんわ!反撃ですのよ!!」

 

 

「お任せをローズヒップさん。」

 

 

 

そしてこの追いかけっこの間にも戦闘は行われている。

 

パンターもクルセイダーも互いに行間射撃を行い、相手を撃破せんとするが、パンターの砲撃は躱され、クルセイダーの砲撃は弾かれると、どちらの攻撃も決定打にはなっていない。

 

 

が、其れはみほの予想の範疇だ。――みほの狙いは追いかけっこの間にローズヒップのクルセイダーを撃破する事ではない。

 

この追いかけっこもみほのシナリオの一つに過ぎないのだ……そう、ローズヒップのクルセイダーを『確実』に撃破する為の一手でしかないのである。

 

 

 

「くっそー!やっぱりパンターは堅いですわねぇ!

 

 中学の頃は頼もしい仲間でしたけれど、敵に回すと此処まで厄介だとは思っても居ませんでしたわ!!でも、負けませんわよ!!」

 

 

 

砲撃は命中しているのに撃破判定にならないパンターに、ローズヒップは歯噛みする……確かに命中しているのに撃破出来ないとなれば、ストレスも溜まるだろう。

 

ローズヒップの場合は、操縦士でありながら車長である為、操縦と指示を同時に行わなければならない為に負担も大きい故に余計に撃破出来無いストレスは蓄積するだろう。

 

或いは、みほはそれすらも織り込んでいたのかも知れない。

 

 

 

「見えて来た……ヒカリさん!!」

 

 

「アイサー!」

 

 

「此処で急旋回ですの!?ま、曲がり切れませんのわわわわわわわわわ~~~~~!?」

 

 

 

しかし、この追いかけっこは唐突に終わりを迎える事になる。

 

バンカーを目前にしてパンターがドリフト張りの急旋回を行い、軌道を大きく変えたのだ。無論、ローズヒップのクルセイダーも其れを追いかけようとするが、パンター以上の速度で走っていたクルセイダーは完全に方向転換する事は出来ず、横滑りを起こしてバンカーに落下!

 

 

此れだけでも大成功だが……

 

 

 

「みほさん?」

 

 

「小梅さんもこっちに来てたんだ?」

 

 

 

もう1輌のクルセイダーとやり合っていた小梅がこの場に居た――奇しくも、クルセイダーの動きに苦戦していた小梅は、みほ同様、クルセイダーをバンカーに誘導していたのだ。

 

小梅の方も策が巧く嵌り、ゴルフ場のバンカーにはクルセイダーが2輌嵌った状態となったと言う訳だ。

 

 

 

「ぐぬぬ……やりますわねみほさん!でも、この程度で聖グロ一の俊足は……止まりませんのよーーーー!って、あら?」

 

 

 

無論そのまま的になる心算などなく、2輌のクルセイダーはバンカーから脱出しようとするが、出る事が出来ない。

 

頑張って登ろうとしても、履帯が空転してしまい巧く動く事が出来ないのだ。

 

これこそが、みほと小梅の狙いだった。

 

クルセイダーは開けた場所ではその快速を発揮するが、逆に入り組んだ地形や窪地では其の力を発揮する事が出来ない。

 

もっと言うのならば如何にレギュレーションギリギリの改造を施したとは言っても、元々の機関系の問題点を完全に解消する事は出来ず、また、機動力はあっても馬力に欠けるエンジンのせいで鋭角なバンカーの壁を上がる事が出来ないのだ。

 

 

 

「……若しかして私達、やっちまいましたのバニラ?」

 

 

「盛大にやらかしてしまいましたわローズヒップさん……」

 

 

「うん、盛大にやっちまいましたねローズヒップさん?」

 

 

「操縦士としての腕前は超一流でも、車長としてはまだまだでしたね?」

 

 

 

こうなってはクルセイダーは如何する事も出来ない。

 

快速が売りの巡航戦車もバンカーに嵌って動きを止められては只の的であり、同時にパンターの砲撃に耐えられるほどの装甲がある訳でもないのだから。

 

 

 

「くぬぅ……此れは、帰ったらアールグレイ様やダージリン様から車長としての彼是をご教授願わねーとですわ!!

 

 次に戦う時は負けませんのよみほさん!!それから、小梅さんも!!」

 

 

「隻腕の軍神だけでなく、貴女も見事でしたわ赤星小梅さん……ですが次に戦う時は……!」

 

 

「うん、次に戦う時を楽しみにしてるよ♪」

 

 

「ですが、今回は私達の勝ちです。」

 

 

 

「「Feuer!!(撃て!!)」」

 

 

 

――ドゴォォォォォォォン!!

 

 

――キュポン×2

 

 

 

動けぬ的となったクルセイダーに、パンターの砲撃が炸裂し、2輌のクルセイダーは敢え無く白旗を上げる。

 

機動力で掻き乱しに来たクルセイダーだったが、みほと小梅の巧さが快速を潰しての見事な勝利だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し巻き戻り、みほと小梅が2輌のクルセイダーと交戦を開始したころ。

 

ダージリンの乗るチャーチルをクルセイダーから分断する事に成功したエリカは……

 

 

 

「そう言えば姉さんから聞いたんだけど、貴女って本物のイギリス人もビックリのバカ舌ってホントなの?

 

 姉さんから聞いた話だと、カップに最高級のアールグレイとリプト○のアールグレイストレートティーを入れて『効き茶』させてみたら、正解はしたけどかなり悩んでたって聞いたんだけど?」

 

 

「最近のペットボトルの紅茶は可成りレベルが高いのですわ!!」

 

 

 

相変わらずダージリンを煽っていた。寧ろ弄り倒していた。

 

勿論この間も戦車戦は行われ、チャーチルの砲撃がティーガーⅠに放たれるのだが、チャーチルの主砲では高威力の徹甲弾を500m以内の距離から放っても75mmの装甲までしか抜けない。

 

つまり正面装甲厚100mmを誇るティーガーⅠに『食事の角度』を取られてしまっては如何足掻いても撃破出来ないのである。

 

その証拠に、彼是10発ほどの砲弾を喰らってるにも拘らず、エリカのティーガーⅠは殆ど無傷に近いのだから。

 

 

 

「効か~ぬ!効か~~ぬわ~~っはっは!!」

 

 

「本気で腹が立ちますわね……!」

 

 

 

序に言うと、エリカはチャーチルの攻撃を態と喰らっていた。

 

後面を曝さない限り撃破される事は無いから出来た事だが、敢えて攻撃を受けて其れを弾く事で『お前では私を倒す事は出来ない』と言う事を演出した上で、更に相手の神経を逆撫でするのだから見事なモノだろう。

 

 

 

「と言うか貴女本当にアールグレイ様の妹なのですか?あのお方の妹君にしては口が悪過ぎますわよ?」

 

 

「間違いなく妹よ?何なら出生届け見せようか?其れとも私と姉さんの髪の毛でDNA鑑定でもする?

 

 って言うか、その口振りだと姉さんはアールグレイとして聖グロでは猫被ってるみたいね?……こう言っちゃなんだけど、私の口の悪さは姉さん譲りだからね。」

 

 

「そんな事を言って、其れもまた嘘なのでしょう?」

 

 

「ところがどっこい此れは本当の事なのよね。

 

 今でも忘れないわ、小学校の時に戦車道クラブの紅白戦で私にいちゃもん付けて来た6年生を、姉さんが罵詈雑言の雨霰で叩きのめした時の事を……放送禁止用語上等だったわあれは。」

 

 

「ま、まさかそんな……!」

 

 

「まぁ、今のは実際にあった事を私が話を120%ほど盛ったモノなんだけどね?」

 

 

「其れは殆ど捏造じゃありませんの!?」

 

 

「捏造だなんて人聞きの悪い……事実を基にしたフィクションよ。」

 

 

「逆に悪いですわ!!!」

 

 

 

一応言っておくが、此れでも戦車道の試合である。

 

会話だけを聞いてると、非常に下らない口喧嘩にも思えるが、此れでも全国大会における絶対王者黒森峰と伝統ある強豪校聖グロリアーナの公式試合なのだ。

 

 

だが、エリカとて分断してからも無駄に挑発を繰り返していた訳ではない。

 

ダージリンを自分にクギ付けにする事で、分断されたクルセイダーの援護に向かう事を阻止する事が目的だったのだ――みほと小梅がクルセイダーを撃破するまで。

 

 

 

「ところで紅茶格言さん、一緒に居たクルセイダーは何処に行ったのかしらね?」

 

 

「え?ローズヒップ、バニラ!……しまった!!!」

 

 

 

そして気付いた時にはもう遅い。

 

 

 

 

『聖グロリアーナ、クルセイダー1号車、2号車、行動不能!』

 

 

 

 

ローズヒップとバニラが操るクルセイダー2輌が撃破されてしまったのだ。

 

当然この結果にダージリンは歯噛みする……エリカの挑発に乗ってしまった結果、シークレット設定をし、此の試合のキーマンになる筈だったクルセイダーを2輌とも失ってしまったのだから。

 

 

 

「此れが目的……おやりになりますわね?」

 

 

「言葉もまた兵法、覚えておくと良いんじゃない?

 

 何にしても此れで目的は果たしたから、私はみほと小梅と一緒に本隊に合流するわ。そう言う訳で、アディオース!!」

 

 

「に、逃がしませんわ!!」

 

 

「は~っはっは!アバヨとっつぁ~ん!」

 

 

 

そして最後の最後までエリカはダージリンを煽るのを忘れない。

 

何れにしても、このゴルフ場での攻防で黒森峰の遊撃隊がドレだけのモノかと言うのは観客と、そして偵察の為に試合を観戦しに来ていたライバル校には伝わっただろう。

 

特に、言葉巧みに聖グロの副隊長であるダージリンを手玉に取ったエリカの実力は高く評価される事になる筈だ。

 

 

 

「さてと……クルセイダーは片付けたみたいだから、このまま一気に畳み掛けるわよみほ、小梅!」

 

 

「勿論その心算だよエリカさん!」

 

 

「新生黒森峰の底力、味わって貰いましょう!」

 

 

 

そしてみほと小梅とエリカは合流すると、そのまま黒森峰の本隊と聖グロリアーナの本隊が交戦している場所を目指して邁進!!

 

3年連続で高校戦車道の準決勝を飾った、ある意味で黄金カードの黒森峰vs聖グロリアーナの戦いも、いよいよ佳境に入ってきたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰の遊撃隊が、聖グロリアーナの別動隊と交戦していた頃、本隊の戦いにも動きがあった。

 

 

 

「遮蔽物である茂みが邪魔か……ならば!

 

 ヤークトパンターに通達!此れより、ティーガーⅠが放った砲弾を狙うようにして主砲を放て!!」

 

 

『いぃ、其れはマジっすか!?』

 

 

「本気と書いてマジだ!拒否権は無い!!」

 

 

『ですよね~~!!』

 

 

 

茂みを利用しての強襲浸透戦術を見事に使ってくる聖グロリアーナに対し、まほは此処で西住流お得意の超攻撃的戦車道に打って出たのだ。

 

自車の放った砲撃を追って砲撃しろと言うのは可成りの無茶があるが、まほは出来ない事を命令はしない。

 

つまり、まほが命令した以上は、如何に難易度の高いモノであっても成功する確率が高いのだ。

 

 

そして、其れは今回も例外ではなく、ティーガーⅠの砲撃を追うように発射されたヤークトパンターの砲撃は、最初に放たれたティーガーⅠの砲弾が薙ぎ払った茂みを通過して、隠れていたマチルダにダイレクトアタック!

 

マチルダはチャーチルと比べれば防御力が劣るモノの正面も側面も75mmの装甲を纏っている堅牢さがあるが、そうであっても茂みと言う緩衝材が無い状態でヤークトパンターの88mmを喰らったら堪ったのモノではなく、敢え無く白旗判定に。

 

 

無論タダでやられる聖グロリアーナではなく、アールグレイの乗るチャーチルは、黒森峰のパンターを2輌撃破しているのだが、其れでも分が悪いのは否めないだろう。

 

何よりもクルセイダー2輌を失ったのは痛すぎる。

 

 

 

「遊撃隊、此れより本隊と共に行動を開始します!」

 

 

「さぁ、かかって来なさいお嬢様……狂犬の牙に喉元を噛み千切られる覚悟があるならね!!」

 

 

「軍神の軍刀と、狼の牙から逃れたからって安心は禁物ですよ?……その隙を、隼は目敏く狙ってるんですから。」

 

 

 

更に此処で遊撃隊が本体に合流し、聖グロリアーナの部隊を挟み撃ちする形になる。

 

こうなっては、地形を利用した防御型の布陣である強襲浸透戦術は意味を成さない……聖グロリアーナが伝統として来たこの戦術は、あくまでも正面から挑んでくる相手だからこそ光るのだから。

 

 

 

「姉さん……そっちの副隊長さんなんだけど、もう少し精神を鍛えた方がいわよ?てか、私の挑発に乗るのはどうかと思うから。」

 

 

「エリカ……確かにアンタはダージリンにとっての天敵だったわね……アンタが遊撃隊の隊員だってのをもっと重く見とくべきだったわ……!!」

 

 

 

なので、挟撃を受けた聖グロリアーナの部隊は大混乱。

 

みほもエリカも小梅も、全速力で此処にやってきたため、最高速度で劣るチャーチルのダージリンは置き去りにして来たのだ――で、実の姉に対して、開口一番エリカがかます。

 

其れにアールグレイは一瞬頭を悩ませるが、即座に今が試合中だと言う事を思い出し、エリカを睨みつける。――余りの鋭さに、エリカは少しばかり怯むが、しかし退きはしない。

 

 

 

「そして其れだけじゃないわ姉さん……此の試合、貴女の首は私が取る!」

 

 

「上等じゃない……やってみなさいエリカ!」

 

 

 

己の手でフラッグ車を狩ると言ったエリカに対して、アールグレイもまた挑発的に返し、そのまま姉妹対決に発展!!

 

放たれたチャーチルの砲撃を避けて、ティーガーⅠの主砲が火を吐くが、其れでもチャーチルの正面装甲を抜く事は出来ない――否、出来なくはないが、可成り難しいだろう。

 

 

逆に言うなら、チャーチルも威力不足でティーガーⅠを撃破出来ないでいる……このまま行けば泥仕合は避けられないが……

 

 

 

 

「後ろがガラ空きです!」

 

 

「油断大敵ですよ!!」

 

 

「此れで、終わりにするわ。」

 

 

「何時の間に!!!!」

 

 

 

何度目かのエリカ車からの攻撃に耐えたチャーチルだが、移動した先でみほと小梅のパンター、そして鈴のティーガーⅠに包囲される形となっ

 

てしまった。

 

 

そして――

 

 

 

「……Zu toten!(殺れ!)」

 

 

「「「「Jawohl!(了解!)」」」」

 

 

 

まほの号令の下、2体の鋼鉄の豹と、2体の鋼鉄の虎から必殺の砲撃が火を噴き、其れは寸分違わずアールグレイのマチルダに着弾し――

 

 

 

 

――キュポン!

 

 

 

 

『聖グロリアーナ、フラッグ車行動不能!黒森峰女学園の勝利です!!』

 

 

 

アールグレイが搭乗するチャーチル――フラッグ車撃破のアナウンスが入って試合終了。

 

高校戦車道全国大会に於いて黄金カードとも言われる黒森峰vs聖グロリアーナの試合は、絶対王者黒森峰が勝利をもぎ取る結果となったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

ふぅ……先ずは1回戦突破だね。

 

今回は倒す事が出来たけど、ローズヒップさんが指揮官としての能力を開花させたら、聖グロのクルセイダー部隊は可成り厄介な相手になるのは間違いないか……まぁ、其れは追々対処していくとして、次はアンツィオ戦か……高校戦車道では毎年1回戦負けでも、隊長がお姉ちゃんを倒してた安斎さんである以上油断は禁物だよ。

 

 

可成りの激戦区だけど、其れを生き残らなきゃ全国制覇は出来ないからね。

 

 

 

――Pin!新規メールを受信しました。

 

 

 

 

っと、此処でメール?……送り主は……梓ちゃん!!

 

 

 

 

『1回戦突破おめでとうございます西住隊長もとい、西住先輩。

 

 明光大も全国大会の1回戦を難なく突破しました!!――今年も必ず優勝して見せます!楽しみにしていてください!』

 

 

「そっか、梓ちゃんも1回戦を突破したんだね……お見事だよ。」

 

 

そう言えばトーナメント表見たけど、黒森峰と当たるのは決勝戦だよね?

 

……ツェスカちゃんの能力を考えたら楽に行ける相手じゃないけれど其れでも付け入る隙はあると思うから諦めないで自分の戦車道を貫いてね?――送信っと。

 

 

 

『はい!!精進します!』

 

 

 

 

うん、良い答え!メールだけどね。

 

取り敢えず明光大の3連覇と、黒森峰の10連覇を阻む相手は誰であろうとも散らすだけかな?――1回戦で聖グロを撃破出来たのは僥倖だったけど大会は始まったばかりだからね。

 

 

取り敢えず、私も持てる全力を出すから、梓ちゃんも頑張ってね?――今年の中学大会の決勝戦日程と、高校の決勝戦の日程がずれてるお蔭で梓ちゃんの試合を見に行く来が出来るかもだからね。

 

 

いずれにせよ強敵だった聖グロと初戦で当たったのはある意味で幸運だったのかもしれないよ――尤も、此処から先に待ってる相手は1回戦の聖グロ以上なのは間違いないけどね。

 

初めての全国高校戦車道大会だけど、何とも楽しむ事が出来そうだよ♪――楽しんだ上で勝って得た優勝じゃなきゃ意味はないモン。

 

この大会は、中学の時とは比べ物に成らない位にドキドキワクワクしてるから、可成り楽しめると思うんだ……だから、次の2回戦も勝って勢いの波に乗らないとだよね、エリカさん、小梅さん。

 

 

 

 

「それ以外に何があんの?」

 

 

「誰が相手でも全力で行く、其れだけですから♪」

 

 

「だよね♪」

 

 

目指すは10連覇只一つ!その栄光に向かってぱんつぁーふぉ~~!だね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 




キャラクター補足




・アールグレイ

聖グロリアーナ戦車チーム隊長。聖グロリアーナの隊長を務める少女であり、エリカの実の姉。

綺麗なプラチナブロンドの髪は染めているのではなく、エリカの銀髪と同様に天然もの。

指揮官としての能力が高いほか、聖グロリアーナの改革を推し進めるなど、歴代の隊長と比べるとアグレッシブな部分が目立つ。

エリカとの姉妹中は良好で、偶に実家に帰省に一緒に帰省した際には、よく構っているらしい。



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Panzer87『予想外の寄港日?大洗を堪能します』

此れもフライング登場かな?Byみほ     フライング登場と言うかフラグ登場と言うか…Byエリカ     取り敢えず私は髪型でキャラ被りますね……By小梅


Side:みほ

 

 

 

今週の土曜日は大会の試合も無いから、中学戦車道の全国大会を見に来てた訳なんだけど、ツェスカちゃん率いる黒森峰の部隊は圧倒的な強さで2回戦を難なく突破したね。

 

そして、梓ちゃん率いる明光大の2回戦。

 

相手は初出場の釧路第一中学……聞いた話だと、1回戦を略無傷で突破した事でダークホースになるんじゃないかって事だったけど――

 

 

 

 

――ドガァァァァァァン!!

 

 

 

 

『釧路第一中学校、フラッグ車行動不能!――明光大付属中学校の勝利です!』

 

 

「私達のぉぉぉぉ………勝ちだぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

結果は明光大の完全勝利って言っても良い物だった。

 

梓ちゃんは的確に相手の策を読んだ上で各車両に指令を出して、その上で自分は隊長車であるパールホワイトのティーガーⅠを指揮して、相手の戦車を的確に撃破して行った訳だからね。

 

確実に梓ちゃんは、去年よりも強くなってる。……今の梓ちゃんと戦ったら、『追い出し試合』の時よりもいい試合が出来るかも知れないよ。

 

 

兎に角よく頑張ったね梓ちゃん?――次の準決勝も頑張ってね♪

 

 

 

 

「……お約束が冒頭に来るとは……」

 

 

「しかも、私達の試合じゃなくて中学大会の方でやられるとは思いませんでした……」

 

 

 

 

エリカさんと小梅さんが何か言ってたけど、何の話をしてたんだろうね?偶然試合を見に来てたペパロニさんも『なんか黒森峰との試合は、スッゲェ嫌な予感がする。』って呟いてたし……?

 

なんかよく分からないけど、まぁいいか。

 

 

何れにしても、次の準決勝も楽しみにしてるよ梓ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer87

 

『予想外の寄港日?大洗を堪能します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明光大の試合を観戦した数日後、今度の日曜日にはアンツィオが相手の2回戦がある訳なんだけど、練習が終わった後で、私とエリカさんと小梅さんは、何故かお姉ちゃんから隊長室に呼ばれてた。

 

練習も終わってるから、楽にさせて貰うけど、如何かしたのお姉ちゃん?

 

 

 

 

「いや、明日急遽寄港する事になってな。其れを伝えておこうと思ったんだ。」

 

 

「明日って、本当に急だね?何か問題でも起きたの?」

 

 

「少し補給の為にな。

 

 食料やら何やらは問題ないんだが、整備班の方からエンジンオイルやボルトなんかが少し不足してるとの報告があったのでね。

 

 次の試合会場の事を考えると熊本まで行くのは、可成り遠回りする事になるし、其れだと試合に間に合わないのでな――其れで急遽明日、茨城の大洗に寄港する事になったんだ。」

 

 

「そうだったんですか。

 

 ですが隊長、寄港するとは言っても、大洗で戦車の整備に必要なモノが揃うのでしょうか?」

 

 

 

 

あ、其れについては大丈夫だと思うよエリカさん。

 

大洗って20年前までは戦車道が盛んだったってお母さんが言ってたし、その頃の名残で今でも戦車関連のモノを扱う店は残ってるって、お父さんが言ってたから。

 

 

 

 

「え?そうなのみほ!?」

 

 

「うん。

 

 あと、お母さんが高校生だった頃、千代さん以外でお母さんを苦戦させた人が居たのも、当時の大洗だったんだって。」

 

 

「西住師範を苦戦させた人が大洗に!?……一体誰なんでしょうか?

 

 其れ程の人ならば、さぞ社会人のチームで名を上げてると思いますが……」

 

 

「あ、その人はお母さんと千代さんが結婚して一線を退いた時に、自分も戦車道止めちゃったらしくて、今は戦車と無縁なんだって。

 

 だから、誰もそんな凄腕の戦車乗りが居たって言う事を覚えてないんだって。」

 

 

きっとその人にとっては、お母さんと千代さんが、自分が戦車に乗る理由だったんだろうね。

 

で、お姉ちゃん本題は?

 

明日大洗に寄港するって言う事だけなら、態々私達3人を隊長室に呼び出す必要はないよね?って言うか、少なくとも今日の夜には学園艦全体に放送が入る筈だし。

 

 

 

 

「ふむ、その通りだ。

 

 知っての通り、今度の2回戦は日曜日になるのでな、明日の寄港日は其の振替休日と言う事になったんだ――其れで、折角の休日なので少し3人で遊んで来たらどうかと思ってな。

 

 丁度3枚あるから、お前達を呼んだんだよ。」

 

 

「此れって……全国共通で使える動物園と水族館の無料チケットだよね?如何したの此れ?」

 

 

「春先に帰省した時に、商店街の福引で偶然当てたんだ。

 

 学園艦では使う事も無いし、其れ以前に私が使う事は無いからね……此のまま腐らせるのも勿体ないから、お前達に使って貰おうと思ってな?

 

 幸い、大洗には大きな水族館があるらしいから丁度良いだろう。」

 

 

「そんな、良いんですか隊長!?」

 

 

「とってもありがたいですけど、なんか申し訳ない気が……」

 

 

「エリカも小梅も気にするな。

 

 凛を誘って行ったところで、どうせ1枚余るしな。ならば、お前達3人で使い切ってくれる方が良いさ。――其れに偶の休日だ、初めての土地で大いに羽を伸ばすのも良いだろうからな。」

 

 

 

 

そう言う事なら、このチケットは有り難く貰うねお姉ちゃん♪

 

其れじゃあ明日は一緒にお出掛けだね、エリカさん小梅さん♪折角だから思いっきり楽しんじゃおう!!

 

 

 

 

「貴女ね……まぁ、隊長の好意は無下にできないし、偶には羽を伸ばすのもいいかもしれないからね――なら明日は、徹底的に遊び倒すとしようじゃない!」

 

 

「そうですね、そうしましょう!1回戦以来の陸なんですから、楽しまないと損ですから!」

 

 

「ふふ、まぁ羽目を外し過ぎないようにな?」

 

 

 

 

はーい♪

 

エリカさんと小梅さんとお出掛け……楽しみだね♪――因みに、楽しみ過ぎて、この日は中々寝付けなくて、最終的にロンメルの催眠術で眠る事が出来ました。

 

 

流石ロンメル、妖術もバッチリだったね。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

 

そして翌日!

 

黒森峰の学園艦が大洗に入港して接岸したと同時に、私とエリカさんと小梅さんは大洗の町に飛び出した!

 

今日は、徹底的に楽しむ心算だから、最初から飛ばして行かないとね!

 

 

因みにお出掛けの服装は、

 

 

 

私:モスグリーンのハーフパンツ、水色のTシャツの上にボコがプリントされたピンクの袖なしシャツを重ね着、アリストトリストのネックレス、白のスニーカー

 

エリカさん:クリーム色のプリーツスカート、『戦車道』ってプリントされた黒のTシャツ、白のパーカー、十字の飾りがついたチョーカー、膝下までの茶色のロングブーツ

 

小梅さん:7分丈のジーパン、青眼の白龍がプリントされた白のTシャツ、袖なしベスト、ウォレットチェーン、ピンクのファッションサンダル

 

 

 

うん、可成り気合が入ってるね此れは。

 

エリカさんも小梅さんも、とっても良く似合ってるしね♪

 

 

 

 

「貴女も良いんじゃない?とってもみほらしいと思うわ。」

 

 

「ボコとアリストトリスト……意外と合いますね。」

 

 

「えへへ、そう言ってくれると嬉しいかな?――で、今日は如何しようか?水族館は確定だけど……」

 

 

「そうね……先ずはバスで大洗アクアワールドに向かって、午前中は水族館巡りを楽しんで、バスでこっちまで戻って来て、リゾートアウトレットでお昼にして、其の後はアウトレットでウィンドウショッピングをしてからかねふくのめんたいパークを見学してってので良いんじゃない?」

 

 

 

 

良いね、それで行こうか!

 

其れじゃあ、早速水族館『大洗アクアワールド』にレッツゴー!!ロンメルとアンドリューも行くよ!!

 

 

 

 

『♪』

 

 

『ガウ。』

 

 

 

 

 

で、バスに揺られる事約5分、到着しました大洗アクアワールド!

 

バスを降りたら、金属製のイルカさんがお出迎えだね♪――結構施設としては大きいみたいだけど、何か特徴があるのかなこの水族館は?

 

 

 

 

「そうね、規模は日本でも有数なんだけど、この水族館の特徴は何と言っても『サメ』ね。

 

 施設内で飼育してるサメの数と種類は日本一らしいわ。序に言うと、世界で初めて『ネコザメ』の人工繁殖に成功した水族館みたいよ?」

 

 

「其れは、凄そうですね?」

 

 

「世界初の人工繁殖に、日本一のサメの飼育量……確かに楽しめそうだね♪」

 

 

其れじゃあ早速中に。勿論、ロンメルとアンドリューも一緒にね。

 

入り口でチケットを切って貰って入場したんだけど……此れは行き成り大迫力なお出迎えだね?まさか、クジラの骨格標本2つと、ウバザメの剥製がお出迎えしてくれるとは思わなかったからね。(実際に展示されています。)

 

 

そしてインパクト大のお出迎えから始まる順路は、先ずは回遊魚の円筒形の水槽から。

 

鰯みたいな身近な魚から、コブダイみたいな珍しい魚まで居て、初っ端から結構楽しめたよ――小梅さんが泳いでる鰯を見て、『刺身にしたら美味しそうですね』って言ってたのは聞かなかった事にするけど。

 

 

その次に待ってたのは、超大型の水槽に色んな海の生き物がいる場所。

 

回遊魚に、サメにエイに、ウツボにウミガメ……まるで竜宮城に来たんじゃないかって思う位の幻想的な光景が広がってた……アンドリューとウツボが睨めっこをしてたけど、その光景が逆に他のお客さんには受けてたみたい。

 

 

「そう言えば、港に黒森峰以外の学園艦があったけど、何処の学園艦だったんだろうね?」

 

 

「其れは地元の学校じゃない?

 

 他所の学校が寄港するなんて、私達みたいに余程急な事情がない限りは有り得ないでしょうし。」

 

 

「多分地元の学校だと思いますよ?

 

 白と緑のセーラー服を着た女子生徒を何人か見ましたし、見回りなのか『大洗女子学園:風紀委員』の腕章してる子も居ましたから。」

 

 

「大洗女子学園……」

 

 

そう言えば、お母さんが苦戦したって言う人が居たのも、そんな名前の学校だった気がするなぁ?今度家に帰ったら聞いてみよう。

 

さてと、大型の水槽の次に待ってたのは、幻想的なクラゲゾーン。

 

クラゲ自体も綺麗だけど、暗い部屋の中で水槽だけが光ってるって言うのが幻想的な感じを醸し出してるんだね。

 

 

 

 

「ですねぇ。

 

 次は『暗黒の深海ゾーン』ですか……一体何が出て来るんでしょうか?」

 

 

「流石にガチの深海生物はいないと思うけど……」

 

 

「まぁ、剥製が置いて……あるねうん。海岸に打ち上げられた『リュウグウノツカイ』、全長3メートル。

 

 リュウグウノツカイの中では、この大きさでも小型だって。」

 

 

「記録では15mを越える個体が上がった事があるらしいからねぇ?確かに3m程度だと小型なのかも知れないわ。」

 

 

 

 

だね。

 

深海コーナーは予想通り生の超深海生物は居なかったけど、その次の展示には比較的浅め(?)の深海に居るアンコウとかダイオウグソクムシなんかが展示されてて……其処を抜けると、やって来ましたこの水族館最大の目玉であるサメの展示コーナー!

 

レモンシャーク、ネコザメ、シュモクザメにノコギリザメにサカタザメにエイまで……他にも一杯いる!サメの飼育数日本一は伊達じゃないね!

 

 

 

 

「ホント凄いですね?

 

 生のシュモクザメやノコギリザメなんて初めて見ました。ちょっとしたサメの蘊蓄が書いてあるのも面白いですよ。」

 

 

「其れも良いけど、こっちも凄いわよ?

 

 ネコザメの卵の成長ですって。卵の殻の一番堅い所だけを剥がして、中の成長が見れるようになってるわ。飼育だけじゃなくて、繁殖もしてるとは聞いてたけど、実際に見ると凄いわね。」

 

 

「本当だね。元気に育ってほしいね――……ん?」

 

 

「如何かした、みほ?」

 

 

 

 

あ、うん……ちょっと視線を感じてね。

 

誰も居ないし、気のせいだったのかなぁ?

 

 

 

 

「貴女のファンでも居たんじゃない?

 

 今や戦車道界隈で『隻腕の軍神』の名を知らない奴は居ないでしょ?知らないのは俄かモグリって言われる位よ?」

 

 

「え、其処までなの私って!?」

 

 

「みたいですねぇ?

 

 まぁ、中には『大人しそうな顔して、やる事がえげつない。でも其処に痺れる憧れる。』とか、『キューポラから身体を出して、左袖を靡かせてる姿に底知れぬ闇を感じる。』とか微妙な意見もありますけど。」

 

 

「うん、そう言った意見は掲示板の管理人の人に言って削除して貰わないとね。」

 

 

其れよりも、そろそろイルカショーが始まるから、アクアシアターに移動しよう?

 

どうせなら最前列で、水が掛かって上等な場所で見てこそのイルカショーだからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

高校生にもなってイルカショーと思わなかった訳じゃないけど、実際に見てみると予想以上に面白いわね?

 

何て言うかこう、童心に帰るって言うのかしら?そんな感じがしたわ。

 

其れとこのイルカショー、結構シャレが利いてるしね。

 

 

 

 

『フォフォフォフォフォ、地球人の諸君、私を倒す事が出来るかな?』

 

 

『出たなバルタン星人!俺達の力を見せてやる!』

 

 

 

 

如何やら今回はウルトラマンの劇構成みたいで、天井から下がって来たボールがバルタン星人で、イルカがウルトラマンになってドルフィンキックで其れを攻撃するって言う事もしてるしね。

 

 

 

 

――バッシャーン!!

 

 

 

 

「予想してたけど……来たわね♪」

 

 

「きゃ~~~♪」

 

 

「きたー♪」

 

 

 

 

最前列に陣取った事で、イルカの着水と共に盛大に水を喰らったけど、此れもまたイルカショーの醍醐味よね。

 

そしてイルカショーの最後を飾るのは、この水族館のイルカショーの目玉である、イルカがアシカをおんぶしての高速水泳!アシカを乗せた状態で高速で泳ぐイルカも凄いけど、ヒレでイルカの背びれに捕まりながら、もう片方のヒレは観客に向かって振ってるアシカも相当よね?

 

此れは、目玉になるのも頷けるわね。

 

 

ふむ、結構楽しめたわ。みほと小梅は如何だった?

 

 

 

 

「最高でした!イルカショーなんて小学校以来でしたから、とっても楽しめましたよ♪」

 

 

「其れにウルトラマンって言うのも新しかったからね?

 

 ショーの規模としては大きくないけど、調教師さん達のお喋りが上手で、思わず引き込まれちゃったよ♪」

 

 

「確かに魅せ方は上手かったわね。」

 

 

その後は、残りの展示を見て(みほと小梅はチンアナゴに興味津々だった。私的には川の生き物コーナーに居た『青いアユ』に驚いたわ。)屋外展示場になぜかカピバラが居る事に驚いて、土産コーナーで記念コインを買って名前を刻印して、兎に角水族館を目一杯楽しんだわ。

 

そしてみほ、予想はしてたけどやっぱり買うのね其れ?

 

 

 

 

「当然だよエリカさん!

 

 大洗アクアワールド限定の『水兵さんボコ』は、ご当地ボコでもこの水族館でしか買えないんだから、ボコファンとしては絶対に外せないんだよ!!寧ろ購入一択で!!」

 

 

「あ~~……うん、良く分かったから。」

 

 

本気で貴女のボコ愛は凄いわね?私には何が良いのかよく分からないけど、好きなモノが有るってのは良い事だと思うわ。

 

ともあれ、水族館は堪能したから、次はアウトレットに行きましょう?そろそろお昼にも良い時間だからね?――ネットで調べた限りでは、大洗

 

のリゾートアウトレット内には結構美味しい店があるらしいから期待できそうね。

 

 

ん?何か視線を感じたけど気のせいかしら?……若しかしてみほが感じたのと同じ視線かしら?……まさかストーカーじゃないわよね?

 

一応の警戒はしておいた方が良さそうだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

大洗アクアワールドを後にした私達は、リゾートアウトレットにやって来てお昼ご飯。

 

お店が色々あって迷ったけど、最終的には地元の新鮮な魚が食べられるって事で、鮮魚食堂の『お魚天国』で摂る事にした。店先のおばちゃんの呼び込みも凄かったけど、『生シラス丼』に惹かれたからね。

 

 

なので、私もエリカさんも小梅さんも揃って生シラス丼を注文したんだけど、此れは予想以上の美味しさだった!

 

釜揚げのシラスとは違って、生のシラスはとろける様な味わいで、本気でほっぺたが落ちるかと思ったよ!付け加えるなら単品料理として注文した浜焼きの蛤と岩ガキとサザエがまた絶品だったからね?

 

此れだけの海の幸が堪能出来て、1人頭1500円て言うのは決して高くない……寧ろ安いって思うからね。

 

 

 

さてと、美味しいお昼ご飯を食べた後は、アウトレットでウィンドウショッピングなんだけど、本当に色々なお店が入ってるね?

 

靴屋さんに服飾屋さんに、レゴショップにパズルショップ、果ては誰が買うのか分からないプロレスのマスク専門店まで――まぁ、3人で悪乗りして、私が『エル・サムライ』、エリカさんが『獣神サンダー・ライガー』、小梅さんが『タイガーマスク』のマスクを装備して写真を撮ったりね。

 

 

其れは其れとして、気付いてるエリカさん、小梅さん?

 

 

 

 

「えぇ気付いてるわみほ……」

 

 

「完全に私達を尾行してますよね?……水族館でみほさんが感じた視線の主かも知れません……」

 

 

「多分間違いないよ……」

 

 

なら、作戦決行と行こうか?

 

適当に雑談をしながら移動する振りをして、階段を降りて、駐車場に行く振りをして……中央階段の下を通った所で壁際に身を隠す!!

 

 

 

 

「あ、あれ?消えたでありますか?そんな、絶対にこっちに来た筈です!!」

 

 

「貴女が探してる相手は此処に居るわよ、ストーカーさん?」

 

 

「人の後を付けるのは、余り良い趣味とは言えませんね?」

 

 

「!!」

 

 

 

 

で、作戦大成功。

 

駐車場に居る筈の私達の姿が見えなかった事で動揺したモジャモジャ頭の子をエリカさんと小梅さんが見事に捕縛!

 

白と緑とセーラー服って言う事は、大洗女子学園の子だよね?如何して、私達を尾行してたの?

 

 

 

 

「ももも、申し訳ありません西住殿!逸見殿!赤星殿!

 

 自分は、大洗女子学園の普通科C組の秋山優花里と言います……恥ずかしながら、私戦車が大好きでして、そして戦車道も大好きで、西住殿の大ファンなんです!!

 

 今日は大洗の寄港日だったのですが、港に入って吃驚、黒森峰の学園艦があるではありませんか!

 

 ならば若しかして西住殿が!?と考え て水族館に行ってみれば西住殿を発見!更には逸見殿と赤星殿まで!!

 

 絶対王者である黒森峰の新勢力である遊撃隊のお三方と出会えるなんてとても幸運と思ったのですが……その、私の様な一般人が声を掛けるのは烏滸がましいと思い、結果として尾行するような事になってしまいました……折角の寄港日でしたのに、不快な思いをさせてしまいました。すみませんでした。」

 

 

「そうだったんだ……でも、そう言う事なら怒る気はないから安心して秋山さん。」

 

 

「え、怒らないのでありますか?」

 

 

 

 

怒る要素がないもん。

 

確かに尾行されてたのは不気味だったけど、其れは単純に秋山さんが私達にどうやって声を掛けようかって迷ってたから、結果的にそうなっちゃっただけだら。

 

其れに、私のファンだって言う貴女に怒る事なんて出来ないよ。――自信過剰かもしれないけど、若しかして、サインが欲しかったりする?

 

 

 

 

「はい是非とも!!あ、『優花里さんへ』って入れて頂けると嬉しいであります!

 

 其れから、逸見殿と赤星殿もサイン下さい!『黒森峰の銀狼』と『黒森峰の蒼穹隼』のサインも、戦車道ファンとして欠かせませんので!!」

 

 

「アンタね……まぁ良いわ。サインなんてした事ないから期待されても困るけどね。」

 

 

「と言いながら、サインの崩し文字の中に自身のイニシャルである『E・I』を織り込む芸の細かさを見せるエリカさんなんですけどね?」

 

 

 

 

そう言う小梅さんも、赤星の『星』を『☆』で書いてるから、結構芸が細かいと思うんだけどね?

 

私はそう言う細かい芸は出来ないから、サインと宛名を書いて、余った余白にボコを書いてはい完成!此れで良かったかな秋山さん?

 

 

 

 

「はうぁぁぁ!黒森峰の新鋭三羽烏からのサインを貰えるとは、感無量であります!

 

 西住殿、逸見殿、赤星殿!次の2回戦も必ず見に行きますので絶対に勝って下さい!!天下無敵の黒森峰の10連覇、期待しているであります!!」

 

 

「うん、任せておいて秋山さん。次も必ず勝つから!」

 

 

お姉ちゃんがライバルと認めた安斎さんが率いるアンツィオは、此れまでの弱小校ではなくなってるだろうし、ペパロニさんも居るから簡単に勝てる相手じゃないと思うけど、私達は負けないからね。

 

 

予期せぬ休日で、予期せぬファンと出会ったけど、其れが逆に良かったかもね。――秋山さんのエールを受けて、闘気が高まったからね。

 

 

秋山さんとはそこで分かれて、其の後かねふくのめんたいパークに行って、とっても美味しかった辛子明太子と其れを使ったおつまみ各種をクール便でお母さんに送って、またアウトレットに戻ってクレープを堪能して、兎に角今日の寄港日は思い切り楽しませて貰ったよ。

 

そのお陰で次の2回戦も良いコンディションで行けそう!――絶対勝つよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

 

急な寄港が有った事が響くかと思ったが、2回戦のふたを開けてみればマッタク持ってそんな事は無かったな。

 

2回戦では試験的に遊撃隊の全車輌を投入したが、此れが巧い具合に働いてくれた――巧く相手を誘い、その上で撃破し、最終的には……

 

 

 

 

『アンツィオ高校、フラッグ車行動不能。黒森峰女学園の勝利です!』

 

 

 

「くそ……3年前の嫌な予感が現実になってしまったか……」

 

 

「まぁ、2回戦っすからねぇ……」

 

 

 

 

私に一騎打ちを挑んて来た安斎のセモヴェンテの横っ腹に、待機していた直下のヤークトパンターの一撃が炸裂してゲームエンド。

 

黒森峰の被害が0だったのを考えると完全試合と言えるかも知れないが、若しもアンツィオに強力な戦車が有ったらかなり苦戦しただろうな?

 

今回もみほの作戦が巧く嵌った結果だからね。

 

 

 

 

「だとしたらお前の妹は本気でトンデモないぞ西住?――ハッキリ言って、一昨年決勝戦で戦った時よりも強くなってるんじゃないのか?」

 

 

「かもな……こう言っては何だがみほには――否、私以外でみほに近しい者には成長限界がないからな――上を目指す気持ちがある限り、

 

 何処までも伸びる筈さ――其れこそ無限大にな。」

 

 

「なんだそれ怖い。――だがまぁ、私達に勝ったんだ、絶対に優勝しろよ?

 

 そうじゃないと、負けた私達が惨めになってしまうからな?」

 

 

 

 

そして何を言うかと思えば……当たり前の事を言うな安斎。

 

敗者の思いを背負うのは勝者の宿命だ――ならば私は、お前の思いに応えて優勝するだけの事だ!!

 

準決勝の相手は十中八九サンダースになるだろうが、誰が来た所で負ける要素は何処にもない!!――力の私と技のみほ、其れがガッチリと噛み合えば敵は無いからな!!

 

まぁ、今年のサンダースにはみほのチームメイトだったナオミが居る上に、副官のケイは優秀だから楽観出来る相手ではないけれどね。

 

 

だが、だからこそ燃えて来るじゃないか?――次の準決勝を楽しみにしているぞサンダース……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 



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Panzer88『準決勝の始まりです!全力全開です!』

準決勝……相手にとって不足は無いよ!Byみほ     なら、真正面から行くわよ!Byエリカ     通じなかったら搦め手で!By小梅


Side:まほ

 

 

全国大会もいよいよ準決勝か――相手は、高校戦車道の4強に名を連ねるサンダース大学付属高校か。戦車の性能だけを言うのならば、黒森峰が絶対に有利だが、戦車の性能だけでは決まらないのが戦車道だ。

何よりも、今年のサンダースは、副隊長が一昨年の中学全国大会の準決勝でみほとやり合ったケイだし、砲手には中学時代のみほの右腕とも言える砲手のナオミが居るからな……決して油断出来る相手ではないだろう。

 

 

 

「確かに、ケイとナオミは要マークよまほ。

 こんな事を言ったらアレだけど、私がサンダースの隊長だったら、隊長職を退いてケイに隊長職を譲ってたと思う――其れ位に、ケイは優秀な戦車乗りだからね。

 加えて、ナオミは更に脅威よ?

 大会はフラッグ車ルールだったからアレだけど、中学の大会で、みほがその気になれば、ナオミに命令して、敵部隊を壊滅させる事だって出来た筈よ?――ナオミの砲手としての腕前は、正に狙った獲物は逃がさないレベルだから。」

 

「其れ程の腕前か……其れは確かに要注意だな。」

 

準決勝では、使える車輌が15輌まで増えるから、其れを考えると、サンダースは部隊の1/3に当たる5輌をファイアフライで固めて来るかも知れないな?

そして私の予想が当たった場合、ファイアフライのどれか1輌には、間違いなくナオミが乗っている筈だ。

サンダースとしても、ファイアフライの火力を最大限に生かす事の出来る砲手を、補欠にしておく理由は無いからな?――何よりも、私がサンダースの隊長だったら、まず間違いなく彼女はスタメンに選ぶだろうからね。

 

「凛、如何やら次の準決勝は、私が思っていた以上に楽しいのモノになるかも知れんぞ?」

 

「へぇ?其れは楽しみじゃない?

 まほが思った以上って言うなら絶対に楽しめるだろうし……みほ達遊撃隊が、更に試合を面白くしてくれるであろう事は、間違いないモノ!」

 

 

 

ふふ、その通りだな凛。

だがまぁ、相手は油断禁物の強豪校だからね……精々寝込みを襲われないようにしないとな?――間違った、『寝首を掻かれないようにしないとな』だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer88

『準決勝の始まりです!全力全開です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

2回戦を難なく突破して、明日はいよいよ準決勝――高校戦車道の4強の一角であるサンダースとの試合だね?

準決勝では、使える戦車が15輌になるから、遊撃隊も2回戦に続いてフルメンバーで出撃する事が出来るよ――つまり、準決勝でも遊撃隊のフルスペックを披露できる訳だよ♪

 

 

 

「遊撃隊がフルスペックで動く事が出来るのは最高だわ。

 自分で言うのも何だけど、今や私達遊撃隊は、黒森峰の戦車道に於いて、無くてはならない存在になってるものね?」

 

「私達の手で、決勝にコマを進めましょうみほさん!」

 

「うん、勿論その心算だよエリカさん、小梅さん♪」

 

負ける心算なんて無いけど……でも、サンダースのチームには副隊長であるケイさんは確実に参戦して来るとして、ナオミさんがファイアフライの砲手として出てくる可能性は可成り高いよね?

って言うか、1回戦と2回戦の事を考えると、此れはもう確定なんじゃないかな?

1回戦の聖グロ戦では、ローズヒップさんが操縦士としての腕前を披露してたし、2回戦のアンツィオ戦では、ペパロニさんが驚異の装填速度を見せてくれたからね?

其れを踏まえると、ナオミさんがファイアフライの砲手として現れるのは間違いないよ。

1回戦と2回戦では、温存の為かファイアフライは出してこなかったけど、火力と防御力でM4を上回る黒森峰に対抗するには、17ポンド砲搭載のファイアフライを外す事は出来ない。

そして、ファイアフライの火力を最大限に発揮するなら、ナオミさんをファイアフライの砲手にするのが一番だからね?――中学時代、パンターは元より、ティーガーⅡでも抜群の命中率を誇っていた訳だから。

 

 

 

「ナオミか……確かにあいつがファイアフライの砲手として出て来たら厄介ね?

 聞いた話だと、ナオミの所には今の副隊長が直々にスカウトに来たんでしょ?……って事は間違い無く期待の新人――その期待の新人が準決勝の大舞台で、満を持して登場って訳か。」

 

「あの人の狙いは正確ですからねぇ?

 正直な事を言わせて貰うなら、あれ程の腕の砲手が相手に居ると言うのは、戦う側としてはあまり有り難くないんですよね……」

 

「やっぱり、ナオミさん程の砲手が相手に居るって言うのは嫌なモノなんだ……」

 

私は中学の3年間、ナオミさんと同じ戦車に乗ってたから、車長として砲手の腕前を頼もしく思ってたんだけど、其れが相手になると確かに少し嫌かも知れないね?

加えて、ナオミさんの乗るファイアフライの車長がケイさんだったら、更に怖い事になるかも。

ケイさんの車長としての腕前は可成り高い――其れこそ2年生で隊長をやってるお姉ちゃんを除いたら、同学年の中でもトップクラスなのは間違いないし、下手をしたら今のサンダースの隊長さんよりも上かも知れないからね?

それ程の人がナオミさんに指示を出すとなったら、ファイアフライはその大火力を120%発揮出来ると言っても過言じゃない。

 

元々楽に勝てる相手じゃないって言うのは分かってたけど、此れは予想以上に難しい戦いになるかも知れないよ。

 

 

 

「と、言いつつも、其れを楽しみにしてるんですよねみほさんは?」

 

「あ、分かっちゃう、小梅さん?」

 

「分からいでか。

 貴女は相手が強ければ強いだけ楽しくなってくるタイプでしょみほ?――私と小梅も同じだから、其れ位は分かるのよ。」

 

「あぁ、成程。そう言えばエリカさんと小梅さんも、相手が強い程燃えるタイプだったね。」

 

「強い相手に勝ってこそですから♪

 それにしても、こうして普通に会話してますけど、何て言うか凄い絵面ですよね此れ?」

 

 

 

へ?凄い絵面ってどう言う事、小梅さん?

寮のトレーニングルームで自主トレーニングしながらの雑談だから、何もオカシイ事は無いと思うんだけど……

 

 

 

「いえ、凄いです。普通は雑談て言う状態じゃないですよみほさん?

 私は軽いダンベル運動ですけど、みほさんはブリッジした状態で、しかもお腹の上にエリカさんが乗っかってるんですよ?

 普通なら会話を出来る状態じゃないですから!

 って言うか、つま先と首と右腕のブリッジでエリカさんの体重を支えるなんて凄すぎますよ!!」

 

「……小梅、その言い方だと私がスッゴク重い様に聞こえるから止めてくれない?」

 

「そうは言ってませんよエリカさん!

 私は、つま先と右腕と首の力で、女子高生の平均的な体重を支えてるみほさんが凄いって言ったんです!!」

 

「あはは……まぁ、此れ位は余裕だよ小梅さん。

 お姉ちゃんなら、私とエリカさんが乗っかっても余裕だし、現役時代のお母さんと菊代さんなら、腕を使わない首ブリッジでも、私とエリカさんと小梅さんを支えられたと思うから。」

 

「「マジで!?」ですか!?」

 

 

 

本気と書いてマジだよ?

お母さんと菊代さんは現役を退いたから流石に衰えたけど、其れでも日々の鍛錬は欠かしてないから、今でも首ブリッジで私1人位は余裕だと思う。

序に言うと、お姉ちゃんのティーガーⅠの操縦士である武子さんも、頭の後で腕を組んだブリッジならエリカさん位は余裕だと思うよ?……武子さんは、菊代さんの娘さんだからね。

 

 

 

「はぁ!?菊代さんて娘居たの!?てっきり独身の美人さんだと思ってたわ!!」

 

「そしてその娘さんが、隊長のティーガーⅠの操縦士……凄い巡り合わせですよね此れ……」

 

「うん、私もこの事実を知った時には驚いたからね。」

 

っと、少し話が逸れたけど、私以上に凄い事をやってのける人達は居る訳だから、この状態で会話が出来てるとしても驚く事じゃないんだよ小梅さん。

確かにインパクトがあったのは否定しないけどね。

 

さてと、トレーニングは此れ位にしましょうか?やり過ぎは良くないからね。

シャワーで汗を流して、晩御飯にしようよ。

 

 

 

「そうね、其の後でゆっくりお風呂に入って、今日は休みましょう。

 トレーニングのし過ぎで明日の試合に差し支えるなんて事が有ったら笑えないし、そんな事になってるようじゃ黒森峰のレギュラーとしても如何かと思うモノ。」

 

「確かにそうですね。

 ……まぁ、世の中には疲れと言う言葉を知らない人種が居るのもまた事実ですけれど……」

 

「其れに該当するのはローズヒップさんとペパロニさんかな……」

 

あの2人は、本気で疲れしらずだからねぇ……今思うと、よく3年間同じ戦車に乗ってて振り回されなかったなぁ?――私が確り手綱を握ってたからだって言われたらそれまでだけどね。

 

ま、良いか♪

取り敢えずシャワーと御飯だね♪

 

 

 

因みにこの日の晩御飯は3人揃ってハンバーガー。

サンダースの名物を食べて、サンダース其の物も食べつくしてやるって言う、ある意味でのゲン担ぎ――だったんだけど、ヒカリさんが『妹様がサンダースを食ったーー!』なんて言うから、食堂が大騒ぎになっちゃったのは御愛嬌なのかな。

 

まぁ、その騒ぎはお姉ちゃんが一喝して沈めたけどね。

そしてそんなお姉ちゃんの晩御飯は……カレーうどんでした。……昼間はカレーライスだったのに、夜がカレーうどんとは、恐るべしだよお姉ちゃん!

 

 

 

「昨日は1日カレーを食べなかったから、今日は此れで良いんだ。」

 

「あ、そう……」

 

前から分かってたけど再確認。お姉ちゃんの身体は、間違いなく無限のカレーで出来てるみたいだね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

そして翌日!やって来ました準決勝の会場に!

天気は、雲一つない快晴だし、正に準決勝の大舞台に相応しい天候!!やっぱり、戦車道の試合は晴れてる時の方がやり易いし、不慮の事故も減るからね。

 

試合開始まで、あと1時間て所だけど如何しようか?

暫くは自由時間になるんだけど……例によって、アンツィオの屋台で腹ごしらえでもする?それとも、会場に出てる出店の射的とか金魚すくいとかで遊ぼうか?

 

 

 

「其れも良いんだけど、如何やらサンダースの方から誰か来たみたいよ?」

 

「本当ですね?……アレは副隊長のケイさん?」

 

「其れとナオミさんと……アリサさん?」

 

アリサさんもサンダースに進学してたんだ……ちょっと意外だったかな?

サンダースはアメリカ風の自由な校風だけど、戦車道に関しては『フェアプレー』をモットーにしてる学校だから、ある意味ではアリサさんとは最も相容れない場所だと思ったんだけどなぁ?

若しかして、心を入れ替えて、反則ギリギリのルールのグレーゾーンを使わないようにしたのかな?――其れなら凄く嬉しい事だけどね。

 

 

 

「Hiみほ!元気そうね~~!」

 

「ケイさんもお元気そうで……こうして戦うのは、2年ぶりですね?」

 

「そうね。

 あの時は負けちゃったけど、今度はそうは行かないわよ?――なんてったって、嘗ての貴女の右腕とも言える砲手のナオミがサンダースに居るんだから♪

 幾ら黒森峰が、強力なドイツ戦車を揃えてるって言っても、ナオミなら撃ち抜けるわよ♪」

 

 

 

確かに、ナオミさんの腕が有れば砲撃は殆ど必中と言っても過言じゃないからね?

そしてそんなナオミさんが、サンダースの切り札とも言えるファイアフライの砲手として出て来るなら、其れはもうサンダース最強の戦車だと言っても言い過ぎじゃないから。

 

だけど、其れだけで勝てる程黒森峰は甘くない。――ローズヒップさんとペパロニさんに続いて、今度はナオミさん、貴女を倒すから!

 

 

 

「おぉっと、敵として喰らうと結構凄いわねみほのオーラは。

 まぁ、其れだけのオーラが出るなら相手として不足ない所か、お釣りが出る位よ――私の方も、全力で行くから覚悟してなさい?」

 

「その言葉、そっくりそのまま返すわよナオミ。

 隻腕の軍神と、敵は噛み殺す狂犬、鋭い観察眼を持った慧眼の隼に勝てると思ったら大間違いよ?――って言うか、貴女達は宣戦布告に来た訳?」

 

「Oh!そうじゃないわ。ちょっとした御招待に来たの。

 自校の試合限定で、サンダースも屋台を展開してるから、是非とも遊びに来てってね?――流石にアンツィオには負けるけど、屋台の料理の味は保証するわ。

 特に、チーズバーガーとポテトは絶品だから是非食べてみてね?」

 

 

 

って、宣戦布告かと思ったら、サンダースの屋台への招待だったんだ。

アンツィオの料理が美味しいのは全国的にも有名だけど、サンダースのチーズバーガーとポテトの美味しさだって可成り有名……だった筈だよねエリカさん?

 

 

 

「そうね。

 サンダースのチーズバーガーとポテトは『全国戦車道校グルメランキング』でもベスト5に名を連ねてるから、期待しても良いんじゃないかと思うわ。」

 

「其れは期待できそうだね?」

 

「期待して良いわよみほ?

 取り敢えず、お誘いの品として、ポテトを持って来たから、味わってみて?結構イケてると思うから。」

 

 

 

うん、此れは確かに美味しそうだから有り難く頂くよナオミさん。

だけど、此れは此れ、試合は試合だから、持てる力の全てを出して戦おうねナオミさん!それからケイさんも!!

 

 

 

「言われなくてもその心算よみほ……此の試合、勝たせて貰うわ。」

 

「OK!そう来なくっちゃ!最高にエキサイティングな試合にしましょ!期待してるわよみほ!!」

 

「なら、その期待には応えて見せます!!――アリサさんは、何も無しですか?」

 

正直な事言うなら、絶対に噛みついて来ると思ったのに、予想外に大人しいからちょっと心配になるよ?……若しかして体調が悪いのかな?

だとしたら、無理は良くない――

 

 

 

「……けない……」

 

「はい?」

 

「負けない!絶対に負けないわよ西住みほ!

 去年は負けたけど、今年は絶対に負けない!って言うか勝つ!勝って去年の雪辱を果たしてやるわ!!

 覚悟なさい!去年の礼を100倍にして返してやるんだからね!!」

 

「100倍か……大きく出たねアリサさん。」

 

だけど、その意気は嫌いじゃないよ?

寧ろ、私的には大歓迎かな……其れだけの意思と気概があれば、間違いなく自分の潜在能力を試合中に引き出してくるだろうからね?

そうなれば、試合はきっととっても面白い物になるに違いないから!

なら、楽しみにしてるよアリサさん――今度は、私を失望させないでね?

 

 

 

「誰がさせるもんですか!

 寧ろ今度はアタシの前にアンタを跪かせてやるから覚悟なさい!!――絶対に倒してやるんだから!!」

 

「ふふ、そう来なくっちゃね。」

 

如何やらアリサさんの標的は私みたいだね?……まぁ去年の大会で、偵察用のドローンを破壊した後に無双したのが響いてるんだろうけど。

だけど、其れが出来たのは、私の方が強かったからだよ。

『強者は強いからこその強者であり、其処に理屈は必要ない』って言う言葉があるけど、アリサさんは其れを知らないみたいだったからね。

だけど、頭に血が上った状態じゃ私達を倒す事は出来ない――悪いけど勝たせて貰うからね此の試合!!!

 

 

 

「流石は隻腕の軍神、闘気がGreatね♪――最高にExcitingなGameを期待してるわみほ!そして、エリカと小梅もね!!」

 

「なら望み通りにしてやるわ……エキサイトし過ぎてのたうち回る位にね!」

 

「勝つのは私達です!絶対に負けませんから!」

 

「Excellent!そう来なくっちゃ!最高の戦車道をしましょう♪」

 

 

 

最高の戦車道……はい、勿論ですケイさん!

此れこそが戦車道だって言う戦いをして、観客の皆さんに見せて、魅せてあげましょう!――ドイツの黒森峰と、アメリカのサンダースが戦うって言う構図も悪くないですから。

 

――此れは、思ってた以上に激しい戦いになりそうだよ。

だけど、私達は負けない!負ける心算はないから、全力で楽しんで勝ちを捥ぎ取りに行こうか、エリカさん、小梅さん!!

 

 

 

「勿論よ……奴等の喉笛は、狂犬が噛み切ってやるわ!」

 

「勝利は譲られるものではなく捥ぎ取るモノ……えぇ、行きましょうみほさん!」

 

 

 

いよいよ始まる準決勝――此れは可成りの激戦になりそうだね。

 

尚、招待されたサンダースの屋台のチーズバーガーとポテトは確かに美味しかった――ハンバーグマスターのエリカさんが絶賛する位の美味しさだったからねチーズバーガーは。

だけど、この絶品屋台グルメを堪能した事で、私のテンションは更に上がったから、ちょっとやそっとじゃ負けないよ!!

 

隻腕の軍神の力、其の身で味わってもらうよサンダース!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

晴天の下に始まった第62回全国高校戦車道大会の準決勝戦である黒森峰女学園vsサンダース大学付属高等学校の試合。

 

 

 

「此れより黒森峰女学園と、サンダース大学付属高等学校の試合を始める。お互いに、礼!」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

 

先ずは試合前の礼から。

礼に始まって礼に終わるのは武道の基本――であるのならば、戦車道でも其れは然りだ。(最近は、其れを忘れて礼節を疎かにする輩が少なく無いのだが……)

 

そして、礼の後はガッチリと握手して全力で戦う事を無言で確認するのだ。

 

 

「勝たせて貰うよまほ!」

 

「お前が私を倒すと言うのかジェーン?

 出来るモノならばやってみるが良い――尤も、お前には出来ないかも知れないがな。」

 

 

その確認が終われば、今度は軽い舌戦になるのはお約束と言った所だ。――尤も、まほの場合は、殆ど脊髄反射で出てきてる言葉が、相当な挑発になり、相手を逆上させるのだがmしかし、サンダースの現隊長である『ジェーン・スティール』にはあまり効果がない様だ。

 

 

「私は無理でもサンダースなら出来るかもね?」

 

「そう来たか……上等だ。」

 

 

まほもジェーンも、静かに闘気を漲らせている……此れだけでも、準決勝がタダで終わる事が無いのは確実だろう。

 

 

そして、試合前の睨み合いが行われている中で、両校のオーダーがオーロラビジョンに映し出される。

其れによると……

 

 

・黒森峰

ティーガーⅠ×3(212号車はフラッグ車兼隊長車)

パンターG型×9(217号車は遊撃隊長車)

ヤークトパンター×3(704号車は遊撃隊)

 

 

 

・サンダース

M4シャーマン(75mm砲搭載)×4(1輌は隊長車兼フラッグ車)

M4シャーマン(76mm砲搭載)×6

シャーマン・ファイアフライ×5

 

 

 

この様なオーダーとなっていた。

黒森峰もサンダースも、攻守速のバランスの取れた布陣だが、其れだけに指揮官の能力がダイレクトに問われる部隊構成であると言えるだろ

う――否、間違いなく其れが問われる布陣だ。

 

だが、其れはあくまでも外野の声であって、実際に試合を戦う戦車乙女には関係ない事なのだろう。

 

 

 

『黒森峰女学園対サンダース大学付属高校……試合開始!!』

 

 

「Panzer vor!!」

 

「Go A head!!」

 

 

 

そして今此処に戦いの火ぶたが切って落とされた!

決勝戦の椅子の1つは、既にプラウダが獲得しているが、残る1つの椅子を巡る戦いは、可成り激しい物になるのは間違いなさそうだ。

 

 

準決勝、試合開始――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer89『セミファイナルでも手加減無用です!』

相手はサンダース……不足は無いよ!Byみほ     なら、勝ちに行くわよ!Byエリカ


Side:ナオミ

 

 

黒森峰を相手に迎えた準決勝――下馬評では黒森峰絶対有利だったけど、其れ自体をを否定する事は、流石に出来ないわね。

 

確かにサンダースは高校戦車道の4強の一角ではあるけど、戦車の性能では黒森峰が運用してるドイツ戦車には如何足掻いたって勝つのは難しい――故に、此の準決勝は黒森峰が圧倒的に勝つ……

 

「てな事を、マスコミ連中は考えてるんだろうな。」

 

「まぁ、其れは否定できないわよナオミ。黒森峰の強さは圧倒的だし、西住姉妹が揃った今年は、10連覇待ったなし状態だから。」

 

 

 

うん、其れは私も分かってるよケイ。

今年の黒森峰は、過去最強と言っても過言じゃない――1回戦と2回戦は、圧倒的に勝ってたからね。

そして、今年の黒森峰の強さを支えてるのは、間違いなくみほ率いる遊撃隊さ――あの遊撃隊の存在が、此れまでの黒森峰には無かった戦い方を引き出し、黒森峰の戦術ドクトリンに厚みを持たせてるからね。

 

其れだけを聞くと、遊撃隊を率いてるみほを倒せば如何にかなるんじゃないかって思うけど、遊撃隊の2人の副官であるエリカと小梅の能力だって侮る事は出来ないわ。

1回戦と2回戦を見る限り、みほの指示を的確に熟してたのはエリカと小梅だったから、例えみほを倒しても此の2人が遊撃隊の指揮を受け継ぐのは間違いない……つまり、みほ1人を攻略した程度じゃ、勝つ事は出来ないな。

 

 

 

「そうよねぇ……ならどうするナオミ?」

 

「遊撃隊を全滅させる。其れしかない。」

 

だが、そう言う事なら遊撃隊を全滅させればいいだけの事だ――私には其れを出来るだけの腕があると自負してるし、出来ると思われたからこそ、準決勝の大舞台でファイアフライの砲手に抜擢された訳だしね。

黒森峰の偉業達成を望んでた人達には申し訳ないけど、黒森峰の最強伝説は、今日ここで終わる―ー私の、私達の手で終わらせるわ!!

ローズヒップもペパロニも貴女を止める事は出来なかったけど、黒森峰の最強伝説と共に、貴女の快進撃も終わらせるわ、みほ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer88

『セミファイナルでも手加減無用です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

準決勝の試合会場は、幾つかの岩山と、もう使われなくなった廃工場跡が点在してる荒野……大会で戦うたびに思うんだけど、此処って本当に日本なんだよね?

なんて言うか、他校の試合だと明らかに南国――は、沖縄でやったとして、砂漠地帯とか、火山の群集地帯とか、果ては夏なのに積雪と降雪のある場所とか、本当に日本なのか疑いたくなる場所が多々あるんだけど、如何思うエリカさん?

 

 

 

「連盟が日本と言い張ってる以上は日本なんじゃないの?

 そもそも、海外で試合してたらその都度入国審査やらビザの取得をしないといけない訳だし、そんな事をしたって話は聞かないから、ヤッパリ試合会場は日本なのよ……多分。」

 

「確かにみほさんの疑問も然りですよね?

 今日の試合会場だって、日本の廃工場地帯と言うよりは、アメリカの広大な荒野を思わせますから――まぁ、相手がサンダースだけに、アメリカ風の荒野って言うのは、味がありますけど♪」

 

「確かにサンダース相手に、アメリカ風の荒野って言うのは味があるかも。――フィールド的には、完全にアウェーな雰囲気だけどね。」

 

さてと、そんなフィールドで如何動こうかな?

黒森峰の本隊は、何時ものように正面から相手に向かって行ってるし、サンダースも基本的には搦め手をあまり使わずに、真正面から撃ち合うスタイルだから、ドクトリンのタイプで言えば黒森峰とサンダースはよく似てるって言える。

其れだけなら、性能差で上回る黒森峰が絶対有利だけど、基本押せ押せの黒森峰に対して、サンダースは即座に戦略的撤退を行う柔軟さも持ち合わせてるから、一気に蹂躙するのは難しいし、劣勢になった時にこそ逆転の切り札となるファイアフライが本領を発揮するからね。

 

そのファイアフライが此の準決勝では5輌も出て来てるって言うのは、完全に黒森峰シフトなのは間違いないと思うんだよ。

 

 

 

「確かに、M4の発展形とは思えないほどの火力を有し、『虎殺し』の異名を持つファイアフライが5輌ってのは、黒森峰の重戦車を警戒しての事なのは間違いないわ。

 ファイアフライの火力なら、スペック上は今日の試合に出てる黒森峰の戦車を全て撃ち抜ける訳だしね。」

 

「そんなファイアフライが5輌も居るって言う事を考えると、幾ら黒森峰でも苦戦は免れない――如何にお姉ちゃんが指揮を執ってるとしても、5輌のファイアフライに囲まれたらきついだろうからね。」

 

「と言う事は、先ずは5輌のファイアフライを見つけ出して撃破するのが、今回の遊撃隊の役目でしょうか?」

 

 

 

ん~~~……其れは半分正解で、半分不正解かな小梅さん。

普通に考えれば、脅威であるファイアフライを見つけ出して真っ先に叩くって言うのは正解なんだけど、今回に限っては、5輌の内の何輌かは向こうから私達の方に来る筈なんだよ。

 

 

 

「敵さんの方から現れてくれるってのは探す手間が無くていいけど、何だってそんな事になるんだ?」

 

「簡単な事だよ理子さん。

 サンダースには、私の中学時代の仲間だったナオミさんが居るし、中学の大会で戦ったケイさんとアリサさんが居る――自惚れる訳じゃないけど、その3人は私の実力をサンダースの中では誰よりも知ってるから最大限に警戒してる筈なんだよ。

 だとしたら、その私が隊長を務めてる遊撃隊を、真っ先に潰しに来る可能性は可成り高いんじゃないかって思うんだ。」

 

「成程……確かに、嘗ての戦友と対戦相手が相手に居るなら、みほを警戒して真っ先に潰しに来るのは間違いないかも知れないわね?

 下手したら、ファイアフライ5輌を全て、遊撃隊潰しに使ってくる可能性だってあるかも知れないわ。――尤もそれは、可成りの極論だけど。」

 

 

 

極論かも知れないけど、その可能性も視野に入れておくべきかもね?

ファイアフライは、数少ない黒森峰の天敵だから、其れを集中されたら流石に少し厳しいかも知れないから。

 

 

 

「それでも、みほさんは『少し厳しい』レベルなんですよねぇ……普通なら『可成り厳しい』で、最悪の場合は『勝てない』って言う所ですよ?」

 

「うん、そうだろうね。

 だけど、自分で『勝てない』って口にしちゃったら本当に勝てなくなっちゃうし、遊撃隊を率いる立場として、ネガティブな事を言うのは如何かと思うからね。」

 

部隊の長が『もうダメだ』って言ったら、その部隊は其処で終わるからね。

其れに、ファイアフライが5輌で攻めて来ても、私は負けないから……大体にして、蛍(ファイアフライ)じゃ、軍神と狼と隼を止める事は出来ないから。

来たら来たで、全力で叩きのめすだけだよ!!

 

 

 

「その意気は流石ねみほ。

 だけど、その闘気に当てられたかの如く、サンダースの部隊のお目見えよみほ――ファイアフライは『2輌』で、75mm搭載のM4が3輌が、別動隊として動いて居たみたいね。」

 

「数の上では5対5ですけど……ファイアフライ2輌は、流石に厳しいですね――火力の全てを集中されたら、幾ら何でも耐えきれませんから。

 でも、向こうから出向いて来てくれたのなら探す手間が省けました。

 ――みほさん、号令を!」

 

 

 

ファイアフライの全機編成ではなかったけど、ファイアフライ2輌と、M4シャーマン3輌の編成は悪くないから、簡単に勝つ事は出来ない――なら思い切り暴れさせて貰うよ!!

 

「敵部隊を壊滅させる!それじゃあ行くよ……Panzer Vor!!(戦車前進!)」

 

「「「「「Jawohl!!(了解!!)」」」」」

 

 

 

先ずは挨拶代わりだよ!エリカさん、1発やっちゃって!

 

 

 

「任せなさい!撃て!!」

 

 

――ドガァァァァァァァン!

 

――ドゴォォォォン!!

 

 

っと、向こうからも挨拶代わりの1発が来たね?

撃って来たのはファイアフライ……回転砲塔の上にケイさんが腰かけてる車輌か――と言う事は、あのファイアフライの砲手がナオミさんと見て間違いない。

挨拶代わりの一撃を、相手の戦車の前に着弾させるのはナオミさんの『挨拶』の時の癖だからね。

 

「其方から来てくれるとは、助かりましたよケイさん。探す手間が省けました。」

 

「そう?

 でも、私達が此処で貴女達とBattleを始める以上、互いに相手を全部倒さないと本隊との合流は出来ないわよ?」

 

「其れは勿論分かってます――そして、ケイさん達の部隊の目的は、私達遊撃隊を足止めする事じゃなくて、沈黙させる事……ですよね?」

 

「Yes!其の通りよみほ!

 貴女達遊撃隊を、最悪でも痛み分けで壊滅させる事が出来れば勝機も見えるからね?だから、貴女達を倒す為に貴重なファイアフライを2輌も連れて来たんだから、絶対にKOしてあげるわ♪

 其れに、一昨年の中学大会でのリベンジも果たしたいからね♪」

 

「ふふ、そう簡単にはリベンジさせませんよ!」

 

「言ってくれるわねみほ?でも、其れ位じゃないと面白くないわ!!

 Let's party of the Crazy Miho?Come on Get serious!!(さぁ、イカレタパーティの始まりよみほ?マジで遣り合うとしようじゃない!!)」

 

「Gesagt dass es ihren Willen Miss Kay!(言われなくてもその心算ですよ、ケイさん!)」

 

手加減抜きの全力全壊は基本だけど、持てる力の全てをぶつけあってこその戦車道だし、互いに全力を尽くさないで戦う事よりもツマラナイ事は無いからね?

正々堂々、ルールに則って全力で行きましょうケイさん!!

 

 

 

「ルールに則って正々堂々……OK!」

 

 

 

あはは……流石にケイさんには意味が分かったよね?

ルールに違反する行為は当然だけど、ギリギリのグレーゾーンと言うかどちらかと言えば黒に近いグレーゾーンは無しで、ルールの中での正々堂々の全力って言うのは、ルールで許されてる事ならどんな手でも使ってOKって事だから。

 

つまりは、ルール内での合法を何処までギリギリ使う事が出来るかがカギになる訳だけど、そう言う戦いなら私は絶対に負けないよ?

お婆ちゃんに言わせれば『邪道』らしいけど、搦め手やトリックプレイは私の十八番だし、廃工場跡とかもあるこのフィールドは、私にとっては市街地戦の次に得意なフィールドだからね。

 

私達遊撃隊を壊滅させるための別動隊なんだろうけど、その目的は果たさせない……返り討ちにしてあげるよ!!

 

 

 

「Angriff Saunders!(来なさい、サンダース!)

 軍神の軍刀と、狂犬の牙と、隼の爪と……プラスαに叩きのめされたいならね!」

 

「オイこら逸見!プラスαってなんだー!アタシと狭山には何か名は無いのか!?」

 

「直下さんと狭山さんには無いんですよねぇ……と言うか、私とエリカさんに二つ名があるのも中等部で隊長と副隊長だったからですし。

 二つ名をつけるなら……『呪われた履帯』と『初代虎仮面擬き』とか如何でしょう?」

 

超却下(ふざけんな馬鹿)

 

 

 

そう言えば理子さんとサトルさんは、二つ名が無かったっけ?

なら、理子さんが『猛攻の女豹』、サトルさんが『黒き森の猛牛』で如何かな?

 

 

 

「猛攻の女豹……良いね其れ。」

 

「黒き森の猛牛……凄く強そう!!」

 

「でしょ?」

 

其れじゃあ遊撃隊の車長全員の二つ名が決まった所で弩派手に行こうか?

決勝前のセミファイナルとは言え、決勝戦が大いに盛り上がる為にも、セミファイナルの準決勝は弩派手に行かないとね!――其れに、準決勝で弩派手に暴れれば、其れが決勝の椅子で待ってるプラウダへの牽制にもなるからね!!

 

戦車道魂を燃やして行くよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

試合が始まって20分か……サンダースの部隊が順調に行軍して来たと仮定すれば、そろそろ接敵しても良い頃だな。

勿論それは、サンダースの部隊がストレートに此方に向かってきていた場合の話だが、このフィールドの高台の岩は脆く、下手に陣を張ると言うのは自殺行為だ――足場を崩されたら其れまでだからな。

 

 

 

「此処の高台は、粘土と砂利で構成されてるから強度は可成り低いわ――ぶっちゃけると、ティーガーⅠの88mmを2~3ぱつ打ち込めば、簡単に崩れる位にね。

 其れを考えると、高台から攻めてくる可能性は低いわよまほ。

 ディスアドバンテージがアドバンテージを上回るモノを選択するってのは、余程の馬鹿か、其れとも自信過剰かのどちらかだからね。」

 

「ふ、確かに其の通りだな凛。」

 

如何に高台からの攻撃が有利に働くとは言っても、足場を崩されたら総崩れになりかねない高台からの攻撃を選択するのは愚の骨頂だ。

尤もみほならば、そのディスアドバンテージすら織り込んだ上で、並の戦車乗りでは思いつかないような戦術を構築してしまうのかも知れないけどね。

 

こんな事を言ったらアレだが、みほは西住流と島田流の両方をその身に宿した様な戦車乗りだからな?――正直な事を言わせて貰うなら、今のみほには同性能の戦車に乗って戦ったら勝てる気がせんよ。

今はまだ隊長である私の顔を立ててくれてるが、みほが隊長になってあとの黒森峰は、間違いなく最強になるぞ?……姉であり隊長である私が居なくなれば、みほは私に合わせる必要は無くなるからな。

 

――っと、通信か。如何した遊撃隊隊長?

 

 

 

『此方遊撃隊隊長のみほです。

 サンダースの別動隊に発見され、此れより交戦に入ります。』

 

「サンダースの別動隊だと?……みほ率いる遊撃隊を警戒しての別動隊と言う訳か。

 遊撃隊隊長、別動隊の総車輌数は?其れと車両編成はどうなっている?」

 

『別動隊の車輌は5輌、うち2輌がファイアフライです!』

 

 

 

5輌のファイアフライの内2輌が、別動隊にだと?

態々2輌を投入してまで、遊撃隊に対しての別動隊を編成するとは、みほが率いる遊撃隊は、私が思ってた以上に各校に対してプレッシャーになっているみたいだな。

 

だが、みほ達を倒す為にファイアフライ2輌を対遊撃隊の部隊に回してくれたのは有り難いな?……サンダースの保有車両の中で、唯一ティーガーを撃ち抜く事の出来る戦車の数が想定よりも少ないと言うのなら、此れは有り難い誤算であるとしか言いようがない。

 

遊撃隊長、此方でもサンダースの本隊を確認したので、此れより交戦状態に入る――其方も充分に警戒して敵を撃破せよ!……やられるなよ、みほ!!

 

 

 

『隊長……はい!!

 この別動隊を倒して、直ぐに援軍に向かいます!!』

 

「だが、無理はするなよ?無理をして取り返しのつかない怪我を負ってしまったと言う事になったら、流石に笑えないからな。」

 

『もう!!無茶はするけど無理はしないからね!』

 

 

 

ふふふ、そう怒るな。

だが、お前のおかげでサンダースの隊長がどんな展開を考えてるのかが、お前からの情報でクリアに分かったよ――連中は、3輌のファイアフライと、7輌のM4で私達黒森峰を包囲する心算だ。

そして包囲した上で、ファイアフライでフラッグ車を狙うと言う所だな。

 

戦術としては悪くないが、その程度の戦術で私を倒せると思っているのならば、黒森峰も西住流も随分と舐められたものだ――蛍の光で、虎を倒す事が出来ると思っているのならば、先ずはその幻想をぶち砕いてやる!

別動隊の相手は任せるぞみほ!

 

 

 

『了解です――隊長も無理はしないで下さい。通信終了。』

 

 

 

無理はするな、か……みほらしい気遣いの言葉だが、生憎とそれは約束できないぞみほ。

お姉ちゃんと言う生き物は、妹の前では何処までもカッコ良く振る舞いたいものなんだ……だから、少しばかり無理するのは容赦してくれよ?

お前が真に己の戦車道を見つけて私に挑んで来るまで、私は最強で居る義務があるからな。

 

だが、先ずは目の前の敵だな――私達に真正面から挑んで来たと言う勇気は褒めてやるが、其れは所詮蛮勇でしかないと知るがいい!!

貴様等の攻撃など痛くも痒くもないが、数があるだけに簡単には行かないな。

向こうの部隊にはファイアフライが3機も居るから、激戦は免れんだろうが、其れでも勝つのは私達だ!

黒森峰の快進撃は、お前達では止められない――その事実をその身でもって知るが良い!!……何よりもみほと共に10連覇を達成するのが私の願いだ!!

その障害となるモノは叩き伏せる――誰が相手であってもな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

ケイさん率いる別動隊との交戦が始まってそろそろ20分が経つけど、互いに決定打を与える事が出来ないって言うのは、其れだけ実力が均衡してるって事なんだろうけど……何か嫌な予感がするんだよね?

其れが何なのかって聞かれると困るんだけど、兎に角嫌な感じがしたよ。

 

黒森峰の遊撃隊と、サンダースの別動隊の戦いは、未だに1輌も白旗を上げてないって言うハイレベルな戦いが展開されてるけど、此のまま試合が進めば泥仕合になるのは間違いない。

 

そうならない為にも、ケイさん達を何とかしなくちゃならないんだけど――ナオミさんの正確無比の砲撃は、誇張抜きで凄かったから、此れを真正面から受けるのは愚の骨頂。

受けるんじゃなくて、斜めの角度で弾く事が重要になって来るよ……其れ位はケイさんも分かってる筈なのに、其れでも攻撃してくるって言うのはトコトン私と遣り合いたいみたいだね?上等だよ!!

 

隻腕の軍神の力、其の身で味わって貰おうか!!

 

 

 

――ピピピピピ!!

 

 

 

ん?此処でお姉ちゃんから通信?

此れはお姉ちゃんと近坂先輩と私しか知らない非常コードでの通信……一体何が書かれてるんだろう?――……此れは、マジなのかな!?

黒森峰の本隊の前に『4輌』のファイアフライを従えたサンダースの部隊が現れてパンター2輌が撃破された!?

 

そんな……幾ら何でもそんな事がある筈ないよ!

だってこっちには、2輌のファイアフライがあるんだよ?其れなのに本隊の方に4輌のファイアフライって、幾ら何でも数が合わないよ!

でも、だけどお姉ちゃんが試合中に嘘を言う筈がない……なら何処かに仕掛けがある筈だけど――まさかファイアフライの鎧装を張り付けた偽物が存在してる?

なら――ケイさんが乗っていない方のファイアフライに照準!……撃て!!

 

 

 

――ドッガァァァァァァァァァン!

 

 

――カランカラン……

 

 

 

ヤッパリ……此れは完全にやられたなぁ。

砲撃の煙が晴れるとそこには、張りぼての17ポンド砲がなくなったファイアフライ――もといM4シャーマンが居た……ファイアフライが2輌別動隊に存在してると思わせる為のトリックプレイだったって言う訳か。

使用車輌の偽装申請はアウトだけど、試合中の偽装工作はルール上は合法だから、其れを巧く使ったって言う事だね……私を騙すとは、やってくれるねケイさん、上等だよ!!

 

 

 

「上等は良いけど、此れは完全に敵の仕掛けに乗せられたわ。

 此のままじゃ隊長達は窮地に陥る……黒森峰が討たれる!!」

 

「なら、其れは絶対に阻止する!!」

 

だから小梅さんと理子さんとサトルさんは、行って!

サンダースの別動隊は、私とエリカさんで抑えるから!!

 

 

 

「マジか!?でもそうなったらみほ等は……!!」

 

「大丈夫、私とエリカさんならそう簡単にやられる事は無いし、これはえっと……遊撃隊の隊長としての命令だから!

 ――不本意でも従って貰うよ!!早く本隊の援護に向かって!!」

 

「命令なら仕方ありませんね……でも約束してくださいみほさん――後でまだ。」

 

「……うん!」

 

「後でまた、絶対にね!やられんじゃないわよ小梅!!」

 

「はい!!」

 

 

 

さてと、本番は此処からだね?

数では負けてるけど、其れを越えて勝利を捥ぎ取ってくのが、私達黒森峰の遊撃隊だからね?――此れ位の劣勢で止まる事は有り得ない!

寧ろ遊撃隊の本領発揮は此処からかな?――押されてる状況を逆転するのが遊撃隊の役目とも言えるしね。

 

私が率いる遊撃隊を壊滅させれば勝てるって思ったんだろうけど、生憎と遊撃隊はそんなに軟じゃない!――むしろ、この状況を逆利用する

だけだよ!!

 

 

 

楽しませて貰うよサンダース?……貴女達の実力は、まだまだこんな物じゃ無い筈だからね!!

だけど最終的に勝つのは、私達黒森峰だよ?――其れだけは、絶対に譲れないから……前人未到の10連覇がかかってるなら尚更ね!!

黒森峰の最強伝説は終わらない……私が終わらせない!

 

行くよ!全力全壊でね!!

覚悟して貰うよサンダース……私達の前に立ちふさがる相手は、誰れあっても排除する――其れが例え近い友人であってもね。

 

さぁ、第2ラウンドを始めるとしようか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer90『熱闘:ガールズ&パンツァー’62です!』

遂に90話まで来たよ!Byみほ     読者の皆さんに感謝しつつ、マダマダこれからでしょ?Byエリカ     これからもガンガン行きますよ!By小梅


Side:まほ

 

 

く……まさかサンダースが偽装工作を使ってくるとは夢にも思わなかったな……否、そんな手を使ってでも、私達を、黒森峰を倒したかったと言う訳か……絶対王者と言われてる側としては、光栄な事だ。

それに、その気持ちは分からんでもないよ――絶対王者を倒したいと言う気持ちは誰にでも少なからずあるからな。

 

そして、その気持ちが現実になった時の恐ろしさを、絶賛この身で体験中だ!

みほが率いる遊撃隊の方に2輌のファイアフライを向かわせたと思わせておきながら、その実遊撃隊に挑んだファイアフライは1輌だったのだからね。

 

つまりサンダースの本隊には虎殺しのファイアフライが4輌も居る事になるのだから……これは、少し拙いかも知れん――此の状態が長引けば、ジリ貧になるのは目に見えているからな。

 

 

と、普通ならばこのように考える所なのだろうが、生憎と私は、後ろ向きな考えは好きじゃないし、既に秘匿回線を使って状況をみほに伝えてある――遠からず、遊撃隊の方から援軍が来る筈だ。

だから、慌てる事はない。状況が好転するまで凛の乗るフラッグ車が撃破されないように注意しながら戦うだけの事だからね。

 

「撃て!!」

 

「Jawohl!!(了解!!)」

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァァァァン!!

 

――パシュン!!

 

 

 

『サンダース大学付属高校、M4シャーマン1号車、3号車行動不能!!』

 

 

「!!――く……流石に簡単にはやられてくれないわね!?」

 

「当たり前だ。

 確かに先手は取られた上に状況だけを見るならば分が悪いが、その程度の事で倒されていては9連覇など達成出来る筈もないだろう?」

 

絶対王者とは、簡単に負けないからこそ、そう呼ばれるに至るのだからな?……

尤も勝負には時の運があるのは否定できないから、決勝戦にコマを進めるのは、黒森峰か其れともサンダースかは結果が出るまで分からないが、此れだけは言っておく――私とみほが揃った、真の西住流に隙は無い、とな。

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer90

『熱闘:ガールズ&パンツァー’62です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

さてと、小梅さん達を本隊の援護に向かわせた訳だけど、此処からは2輌で5輌を相手にしないとならない上に、サンダースにはティーガーⅠの装甲を抜く事の出来るファイアフライがある……さて、如何行こうかエリカさん?

 

 

 

「如何もこうもないでしょ?

 私達がやられて、小梅達を追撃されたら、其れこそアウトなんだから、徹底的に足止め――なんてのは性に合わないから、正直に言うわ。

 1輌残らずぶっ倒す!!1輌たりとも本隊の方には向かわせないわ!!」

 

「だよねぇ!!」

 

足止め?本隊への合流を阻止する?其れは確かに戦術としては正しいし、数で劣ってる以上は策を弄してそうするのがベターな選択だって言うのは分かってるけど、正直言って私もエリカさんも、そんなのは性に合わないよ!

勿論、状況によっては足止めや本隊への合流阻止だって選択するけど、今回に限っては足止めや合流阻止じゃダメなんだ――ケイさんが車長を務め、ナオミさんが砲手を務めてるファイアフライが居る以上ね。

数で劣ってる状態での足止めって言うのは、自分達が撃破されない事を前提に行うから、場当たり的な策が多くなるし、合流を阻止する場合でも、撤退戦のような戦い方になっちゃう――そんな戦い方をしてたら、ナオミさんに狙い撃ちされてTHE ENDだしね。

 

だったら、最初から足止めとか、合流阻止って言う考えを捨てて、ケイさん率いるサンダースの別動隊を全滅させる一択だよ!!

 

 

 

「軍神招来、狂狼咆哮、敵機殲滅、我勝必来。」

 

「エリカさん、其れ漢詩?」

 

「即興だし、あんまり意味ないけどね。」

 

 

 

いや、結構イケてたと思うよ?

軍神が現れ、血を求めて狂った狼が吼える時、敵は殲滅され、我等は勝利を得る……うん、悪くない!――なら、その通りに行くとしようかエリカさん!!

 

 

 

「言われなくともその心算よみほ!

 軍神の軍刀と、狂犬の牙で、連中の喉笛を切り裂いて、喰いちぎってやろうじゃない!!――さぁ、高らかに命令してくれるかしら、みほ!」

 

「勿論!――サンダースの別動隊を撃破せよ!1輌たりとも残さずに、殲滅せよ!!」

 

「Jawohl!(了解!)」

 

 

 

「ウワォ!自分と副官を残して、残りは本隊の援護に向かわせるとは、相変わらず大胆な戦術を執って来るわねみほは?

 私達と本隊の位置関係を考えると、みほ達を倒さない限り追撃は難しそうだから……先ずは貴女達から倒させて貰うわよ!」

 

「そうは行きません、寧ろここで貴女達を倒します!」

 

ケイさんとナオミさんが居る以上、この別動隊は可成りの強敵だろうとは思うけど、決して勝てない相手じゃないから、絶対に倒しとかないとだよ!――仮に殲滅できなかったとしても、最低でもファイアフライの撃破は必須だけどさ。

 

ファイアフライを本体に向かわせてしまったら、状況が相当に悪くなるのは目に見えてるからね?

だからこそ、此処で討つ――覚悟して貰うよ、ケイさん!ナオミさん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

数で言えば黒森峰側が3輌のビハインドを背負ったのと同じ状況で始まった、黒森峰の遊撃隊トップ2vsサンダースの別動隊の戦い。

観客の多くは、遊撃隊が奮戦虚しく散る展開を予想していただろう――数で劣る上に、パンターもティーガーも容易に撃破出来るファイアフライが居ては、如何に黒森峰の遊撃隊と言えども分が悪いと、そう思っていたのだ。

 

だがしかし、現実は違った。

 

 

「エリカさん、狙って!!」

 

「其処だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

みほとエリカは、抜群のコンビネーションを発揮し、数で勝るサンダースの別動隊を相手に苦戦するどころか、互角以上に戦っていたのだ。

状況が状況だけに、サンダースの車輌を簡単に撃破する事は出来ないが、其れでも最終防衛ラインを守りつつ、サンダースの別動隊を翻弄していた。

 

 

「西住本家での合宿の時にも思ったけど、みほとエリカは組むと凄いな?

 ……相手となって初めて分かったけど、敵に回すとこれほど恐ろしいとはね……此れはまほさんも、澤も勝てない筈だわ…」

 

 

そんなみほとエリカのコンビネーションに誰よりも戦慄を覚えていたのは、他でもないファイアフライの砲手であるナオミだった。

ナオミは中学時代の3年間、みほの指揮する戦車の砲手を務めており、みほの凄さは十二分に理解しているが、同時に夏休みのお決まりだった西住本家での明光大と黒森峰の合同合宿でエリカの実力の高さも理解していたし、模擬戦の結果から、みほとエリカが組んだ時は、凄まじいほど強いと言う事も実感していた。

 

だが、模擬戦の時には味方だった最強コンビが、今は敵として自分達と対峙していると言うのは、驚異以外の何物でもなかった。――だからと言ってナオミとて負ける心算は毛頭ない。

何よりも、『黒森峰の最強伝説を終わらせる』と豪語した手前、驚異の存在が相手であっても怯みはしない。

みほと過ごした中学3年間で、ナオミの精神力は相当に鍛えられており、『強敵』を前にしても怯まない――それどころか、逆に闘争心が燃え上がるレベルになっているのだ。

 

 

「ウワォ!たった2輌で5輌を相手にするとか、相変わらずExcitingな戦い方をするわねミホは!

 私達に最終防衛ラインを越えさせないように立ち回りつつ、自分達は絶対に被弾しない様に回避、或いは撃破されないように食事の角度で防ぐ……言葉にするのは簡単だけど、此れって試合の中で咄嗟にやるのって難しいのよ?

 ホント、ミホってばExcellentね!一緒に戦ってる銀髪の子――エリカって言ったかしら?彼女も中々にGreatよ!」

 

 

ファイアフライの車長であるケイも、中学の大会以来となるみほとの戦いに心が躍っているようだ。

名門のサンダース大学付属高等学校に進学し、2年生で副隊長の大役を務める事になった事で、ケイは自分が戦車乗りとしてレベルアップした事を実感していた。

故に、レベルアップした己の力をみほにぶつけてみたいと常々思っていたのだ――そして、其れが全国大会の準決勝の大舞台で叶った。

シチュエーションとしては、中学の大会の時と同じだが、今回は4強の一角vs絶対王者の構図であり、中学の時とは観客の盛り上がり方も段違いで、其れがまたケイの心を滾らせていた。

 

 

「Audienceの多くは黒森峰のV10を望んでるんだろうけど、その反面『どこが黒森峰の快進撃を止めるのか?』って期待もある筈よね。

 なら、その期待は私達で叶えるとしようかな?――ナオミ、照準をティーガーⅠに合わせて。」

 

「ティーガーⅠに?パンターじゃなくて?」

 

 

其れでも、ケイと言う少女は表面上はエキサイトしていても、心の一番奥は常にクールで居る事が出来る人物であり、熱くなりすぎる事なく指示を飛ばす事が出来る。

そのケイの指示を深読みするなら『パンターは無視してティーガーⅠを狙え』と言うモノだ。

確かに高い火力と防御力を有するティーガーⅠは強敵であり、それこそ『虎殺し』であるファイアフライで真っ先に撃破するのがセオリーと言えるが、ナオミからしたら真っ先にみほのパンターを撃破すべきと考えていたから、この指示は可成り意外なモノであった。

 

 

「確かにミホを倒す事が出来ればBestなんだけど、ミホを倒すのは簡単じゃないわ。

 でも彼女は、自分よりも仲間を優先するでしょ?……なら、ティーガーⅠを集中的に狙えば、間違いなくミホはフォローに入って来る――そこを狙うのよ。」

 

 

だが其れがケイの作戦であった。

みほは厄介な相手だが、仲間を最優先にする所があるので、みほを無視してエリカを集中的に狙えば、みほは必ずフォローに入る。そこを狙えば、撃破するのは難しくないと、そう考えたのだ。

 

確かにその考えは間違いではない。

みほは仲間の事を第一に考える上に『自分を守らない事が出来る』人物だ――ならば、仲間を窮地に追い込んでやれば、間違いなく自分を犠牲にしても仲間を守る為に動くだろう。

 

そうなってくれれば、狙い撃つのは難しくないが……西住みほと言う戦車乗りは、とことん相手の斜め上を行く戦車乗りであった。

 

 

「副隊長、パンターが単機で突っ込んで来ます!!」

 

「Wha's!?単機でって、まさか特攻!?……じゃあないわよね?」

 

 

エリカの乗るティーガーⅠを集中攻撃しようとした矢先、みほの乗るパンターが、サンダースの別動隊目掛けて、真正面からの単機駆けを仕掛けて来たのだ。

 

普通ならヤケになって特攻して来たと思う所だが、相手がみほだと言う事を考えると、其れは無いと即座に判断できる――ならば、何故此処で突撃して来たのか?

 

その答えもまた、予想外の形で齎される事になった。

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

「んな!?味方が突撃した所に砲撃を打ち込むって、正気!?Crazyにも程があるわ!!」

 

 

みほのパンターが単機駆けを行ったと同時に、エリカのティーガーⅠが其れを追う形で砲撃!

地面に着弾した事でサンダースの車輌が撃破される事は無かったが、普通なら有り得ない攻撃に、流石のケイも背筋に冷たい物を感じてしまったのは仕方ないだろう。

味方が突っ込んだ所に砲撃を放つなど、相手の虚を突く効果があるとは言え、一歩間違えばフレンドリーファイヤーで味方を撃破しかねない危険な行為なのだ。

だが、エリカは其れを迷うことなく選択した……それが、ケイには背筋が凍る思いだった。

 

 

「鋼鉄の豹の動きに付いて来れるかな?」

 

「ほらほら、豹の動きに惑わされてると、鋼鉄の虎の牙が喉笛を喰いちぎるわよ?」

 

 

そんなケイを他所に、みほのパンターはサンダースの別動隊の中を縦横無尽に動き回り、その動きに合わせるようにエリカのティーガーⅠからの砲撃が放たれる。

この味方を撃破しかねない戦術に、サンダースの別動隊は混乱。

入り込んだパンターを撃破しようとすれば誤爆の可能性があるし、ティーガーⅠを狙おうとすれば、其処をパンターに狙われる危険性がある……完全に、別動隊は恐慌状態に陥っていた――ケイが車長を務めるファイアフライを除いては。

 

 

「やってくれるわみほ……でも、何だってこんなRiskyな戦術を?……一歩間違えば誤爆で自滅する可能性があるのに。」

 

 

そのケイも、みほがリスクの方が大きい戦術を展開して来た事が謎だった。

みほは常人では考えも付かない戦術を展開する天才だったが、同時にリスクの高い戦術を執る事は余りなかった――だからこそ、自機が撃破される危険性のあるこの戦術を執って来た事が解せないのだ。

 

 

「……信頼ね、此れは。」

 

「ナオミ?」

 

「此れはみほとエリカが互いを信頼してるからこそ出来る作戦なんだケイ。

 みほは『エリカなら絶対に誤爆は無い』って信じて、エリカはエリカで『みほなら絶対にギリギリで回避する』って信じてるから、こんな非常識な戦術が採れるんだ……隻腕の軍神と、孤高の銀狼の信頼関係は、其処まで強くなってたって事だわ……!」

 

「マジで……!?」

 

 

だが其れも、ナオミの一言で理解できた。

みほもエリカも互いに信頼していたからこそ、こんなリスクの高い戦術を選択したのだ――幼少の頃に出会い、小学生の大会で戦い、中学時代は大会と合宿で切磋琢磨し、黒森峰の高等部では遊撃隊の隊長と副隊長として絆を紡いできた。

そんなみほとエリカにとって、この戦術のリスクなどないに等しいのだ――みほはエリカなら誤爆は無いと信じているし、エリカはみほなら絶対に回避すると信じているのだから。

 

其れは正に最強と言っても過言ではないが、だがしかし、其れを聞いてもケイは一瞬驚いたモノの、次の瞬間には戦車乗り特有の獰猛な笑みを浮かべ、瞳には剣呑な光が宿っていた。

 

 

「Good!Great!!Excellent!!!

 ミホもエリカも楽しませてくれるじゃない!!此れが戦車道……此れこそが戦車道だわ!!――でも、だからこそ私は貴女達には負けたくないわ!!!

 こうなりゃとことんやってやろうじゃない?Could I determine?Miho&Erica!?(覚悟は良いわね?ミホ、エリカ!?)」

 

「Es ist naturlich Kay!(勿論その心算ですよケイさん!)」

 

「Bekomme ich die Starke der Sanders zu sehen!(サンダースの底力、見せてもらうわ!!)」

 

「Kira Naomi……snipe at a target!(吉良ナオミ……目標を狙い撃つ!)」

 

 

其れに応えるようにナオミの闘気が滾り、そしてみほとエリカの闘気が爆発する!

そしてその瞬間に、みほとエリカの瞳からはハイライトが消え、極端に瞳孔が収縮した『超集中状態』に移行する。

 

黒森峰の遊撃隊トップ2と、サンダース別動隊の戦いは、此処からが本番と言う事なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、本隊の援護に向かった小梅達は、予想だにしなかった相手と対峙していた。

 

 

「遊撃隊を分割させて攻めて来る事なんて、予想していたわ!」

 

「流石、4強の一角の名は伊達ではないと言う事ですね?」

 

 

小梅達の前に現れたのは2輌のM4シャーマンだ。

サンダースは、本隊が窮地に陥れば、遊撃隊を2つに分け、別動隊の足止めと本隊の援護を行うだろうと予想しており、そうなった時の為の備えはしていたのだ。

 

そして、其れは見事に功を奏し、小梅達の行く手を阻んでいるのだが……

 

 

「ですが、貴女如きで私を止められると思ってるんですかアリサさん?」

 

「あん、何ですってぇ?」

 

「貴女では私の足止めをするのは役者不足だって言ってるんです――正直な事を言わせて頂きますと、貴女如きは私の敵じゃないんです。」

 

 

小梅は余裕綽々の挑発を行いアリサを煽る。

言葉での挑発だけでなく、親指を己の首元に当て、そして真横に親指を走らせ、最後にサムズダウンすると言う物理的な挑発のおまけつき。

更に、此れだけの挑発行為を爽やかな笑顔で行っているのだから性質が悪く、アリサを逆上させるには充分だった。

 

 

「舐めんじゃないわよ此の天パ娘!!

 アンタ達なんて、速攻でぶっ倒して、サンダースの勝利の礎にしてやるわ!!――アタシを怒らせたことを後悔させてあげるわ!!!」

 

 

顔を真っ赤にして攻撃してくるアリサは、正に修羅の如しだが、しかし小梅が冷静さを失う事はない。

確かに今のアリサは修羅其の物だが、小梅が信じているみほは、その修羅を軽々と踏み砕く力を持った軍神だ……故に修羅を前にして怯む事など有り得ないのだ。

 

 

「アリサさん、貴女では勝てません。」

 

「なんですってぇ!?――言ってくれるじゃない天パ娘!

 アンタ、中学時代も黒森峰だったらしけど、何よ、絶対王者の中に居る余裕だっての?……流石は、エリート様、その思考には脱帽だわ!」

 

「そうじゃないんですけど……やっぱりそう思われちゃうんですかね?

 此れは、いよいよ他校の短絡思考が危険に思えてきました……如何やら、思考形態の矯正が必要みたいですね?――尤も、其れで矯正されるかは謎ですが。」

 

 

そして舌戦でも小梅は負けていない。

と言うか、アリサを完全に手玉に取っている行っても過言ではなないだろう。

 

『言葉もまた兵法』と言う言葉があるが、今の小梅は其れを実践している状態だ――言葉で敵を煽って冷静な思考力を奪った上で、叩く。

言葉にすれば簡単だが、実際に行うとなると可成り難しい戦術を小梅は迷うことなく選択し、そして成果を挙げていた。

 

 

「ぶち殺す!そこを動くな!!」

 

「と言われて、動かない相手は居ませんよアリサさん!」

 

 

乱射される砲撃も何のそのと言わんばかりに、小梅はアリサの攻撃を、大胆に、そして華麗に回避する――其れはまるで、牛若丸が弁慶の剛撃を回避するかの如くだ。

そして、この華麗な回避は只の回避に非ず。

 

 

「呼び込みました……やっちゃってください直下さん。」

 

「よっしゃー!!其れを待ってたわよ赤星ぃぃぃぃぃ!!」

 

「しまった!!!」

 

 

その本命は誘導。

小梅はアリサを挑発しながら砲撃を回避し、直下のヤークトパンターの前まで誘導していたのだ――アリサが冷静であったのならば気付いたかも知れないが、小梅の挑発で冷静さを失っていたアリサは其れに気付く事が出来なかった。

 

そして其れは、致命傷だ――

 

 

「Ein Gebet zu Gott!(精々神に祈るんだな!)」

 

「Jesus……!(神よ……!)」

 

 

その隙を逃す筈もなく、直下のヤークトパンターの主砲が火を噴き、そのままアリサの乗るM4シャーマンを撃破!!――虎の牙と豹の俊敏さを併せ持ったヤークトパンターは、その役割を見事に果たしたのだった。

 

 

そして其れだけでは終わらず……

 

 

「此れで終わりです……みほさんとの訓練をしている私達にとって、貴女は敵ではありませんでした。」

 

 

小梅のパンターが、もう1輌のM4シャーマンを撃破!!!

同時に此れは、小梅達の行く手を阻む物が何もなくなった証だ――ならば、この好機を逃す手はない。

手を拱いて居たら、第2、第3陣が来た可能性は可成り高く、そうなってしまってはどうしようもない……そこで、小梅は本隊で副官を務めているアリサを利用する事を考えた。

 

アリサは参謀として高い能力を持っているモノの精神的に幼い部分があり、ちょとした事で直ぐに逆上してしまう――そんなアリサの性格を逆に利用して、小梅は敢えて挑発したのだ。

 

其してそれは上手く嵌り、結果として残ったのは、まごう事無き、勝者と敗者の構図だった……

 

 

「私の勝ち、ですね?」

 

「……忌々しいけどね。

 だけど、今回は負けたけど次は負けないわよ!!アンタも西住みほ同様に、アタシが倒すべき相手に認定されたからね!――次にやる時は負けないから、覚悟なさい!!」

 

 

其れでも減らず口を叩くアリサに対して、小梅は何も言わずに笑みを浮かべると、そのままパンターに乗り込んで、直進!

 

 

「まぁ、精々頑張りなさい……貴女達の道が何処で終焉するのか……見届けさせて貰うわ。」

 

 

そんな小梅を見ながら、アリサは一人呟いていた――其れは、此の小梅が率いる遊撃隊の別動隊がとんでもない力を秘めている事を実感したからの言葉だったのか其れは分からないが、何れにしても、この場で勝ったのは小梅だ。其れは変えられない事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

既に黒森峰の防衛線は決壊し、サンダースに決定打を与えられないまま逃げ回り、結果として残っているのは私と鈴のティーガーⅠだけだ。

圧倒的に不利……認めたくないが、正直此処までなのかも知れないな。

徹底的に研究された末か――ある意味で戦車乗りとしては誉だが……

 

 

 

「まだです!まだ試合は終わってません!!」

 

「道を開けろ雑魚共!!開けねぇならひき殺すぞコラァ!!」

 

 

 

如何やら私の運はまだ尽きていないようだな?

此の土壇場で、小梅と直下と狭山……遊撃隊の3人が合流してくれたからね――だが、良いタイミングで合流してくれた。

正直、お前達が来てくれなかったら、私も凛も撃破されていた筈だからね……だから礼を言わせてくれ。よく間に合ってくれた。

 

 

 

「みほさんの大胆な選択のおかげですよ隊長―ーそれは兎も角として、やられっぱなしってのは性に合いませんよね?」

 

「あぁ、勿論だ小梅。」

 

確かにやられっぱなしと言うのは性に合わんのでな……やられた分はキッチリ返させて貰うぞサンダース!!――尤も拒否した所で、強制的に礼はさせて貰うがな!!

 

如何やら、クライマックスが近づいているようだな――終焉が訪れるその時まで、精々私を楽しませてくれよサンダース?

そして味わうが良い――西住の戦車道をな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer91『熱闘!激闘!大爆闘の準決勝です!』

準決勝でもたつく事は出来ないよね?Byみほ    なら、持てる力の全てをもってい
くわよ!Byエリカ     目指すは勝利のみですね!By小梅


Side:まほ

 

 

私と凛以外が撃破され、絶体絶命のピンチと言う状況で、援軍が駆けつけてくれるとは……みほの判断に感謝しかないな此れは。

此れで此方の本隊は5輌、サンダースの本隊は7輌だが、私達の5輌は此れまでとは訳が違う――小梅と直下と狭山は、私が黒森峰の改革の為に組織した遊撃隊のメンバーだ。

 

此の3人が車長を務める戦車が援軍として加わってくれた以上、私に負けは無い。――此処からは、私達のターンだ!覚悟は良いな?

 

 

 

「まさか援軍が来るとはね……だけどまほ、この状況を覆せるのかしら?」

 

「覆す!!」

 

私を誰だと思っているんだ?

天下の西住流を継ぐ者だぞ?……そして、私と凛を助ける為にやってきた援軍は遊撃隊の隊長であるみほが寄越したものだ――ならば、絶対に負ける事は出来ないだろう?

みほが援軍を送ってくれたにも拘らず負けたとあっては、みほに合わせる顔が無いからな!!

だから私は負けん!!――何よりも、逆転勝利と言うのは、存外観客を盛り上げるモノみたいだからね?

 

 

 

「此処から逆転する気?……良いわ、見せてもらうわよまほ、貴女の力を!」

 

「存分に見るが良い。

 そして知れ、姉と言うのは妹の応援を貰ったら最強の存在になるのだと言う事をな!!」

 

そして、それ以上に此れまでの礼をさせて貰うぞサンダース!!

ファイアフライによって撃破された8輌の仇、先ずは確りと取らせて貰う――全車撃破されても文句を言うなよ?

……鋼の虎の闘気に火を点ける所か、ガソリンを放り込んで盛大に燃やしたのはお前達自身なのだから!

 

そして虎は追い詰められた時にこそ100%の力を発揮すると言うからな?……手負いの虎の潜在能力、とくと味わうが良いさ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer91

『熱闘!激闘!大爆闘の準決勝です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

ったく、相変わらず可愛い顔してやる事が大胆だわみほは。

一体何処の誰が、数で劣る戦いの中で、敵部隊に単騎で斬り込むなんて言う、言い方は悪いかも知れないけど『狂った』としか思えない戦術を選択する事を予想出来るかだわ。

 

下手したらまほさんでも予想できないかも知れないわ――私が予想できたのは、単純に小梅も交えて、何度もみほと自室で戦術シミュレーションをしたからに過ぎないし。

だけどその経験のおかげで、みほが何を狙ってるのかは分かった。

 

みほの単騎駆けは、要約するなら『私ごと撃て』って合図だった。

……まさか、シミュレーションの時に『単騎駆け敢行した味方を追う形で砲撃したら、相手は絶対驚くよね』って冗談で言ってた事を実行するとは思わなかったけど。

 

だけど、其れに従ってみほを追う形で放った砲撃は効果抜群だったわ……その弾はみほのパンターに直撃する事は無く、地面に着弾して炸裂し、舞い上がった砂埃でサンダースの連中の視界を一時的に奪う事に成功した訳だからね。

 

其れは斬り込んで行ったみほも同様な訳だけど、サンダースとみほには決定的な違いがある――サンダースの連中からしたら、敵戦車が1輌だけ入り込んだ状態で視界が悪いと言うのは、攻撃の手が完全に止まる事を意味してるわ。

下手に撃ったらフレンドリーファイヤーの危険性があるしね。

 

だけどみほは違う。例え視界が悪くても、単騎で斬り込んだみほの周りに居るのは全てサンダースの戦車……つまり――

 

 

――ドゴォォォォォォォォォォン!!

 

――キュポン!!

 

 

 

『M4シャーマン5号車、行動不能!』

 

「Wha's!?マジで!?」

 

 

 

普通に攻撃する事が出来るって訳ね。

まぁ、視界が悪い中で攻撃するのは余り良い手じゃないけど、みほなら着弾直前のサンダースの車輌配置を記憶しててもオカシクないし、仮に覚えてなくても、サンダースの隊員の声や戦車の出すエンジンから距離と方角を略正確に割り出すでしょうしね。

 

今更ながら、本気で化け物だわあの子――尤も……

 

「そんな化け物に追い付き、追い越そうとか考えてる時点で、私も小梅も充分化け物なのかも知れないけどね!

 さぁ、もう1発ブチかますわよ?今度は地面じゃなくて戦車に当てるわ!!Abfeuern!!(撃て!!)」

 

「ぶっ放す!!!」

 

 

――ドゴォォォォォォォン!!

 

――キュポン!!

 

 

『M4シャーマン10号車、行動不能!』

 

「立て続けに2輌も……!It's Exciting!!やるじゃない貴女達!!

 数の上では有利だった筈なのに、あっという間に差が1輌になっちゃうなんてね?……何よりも、さっきの単騎駆けと、其れを追う形での一発には本気で驚かされたわ!!

 普通なら味方を撃つって言う行為に異を唱える所だけど、貴女達のアレは信頼の上に成り立っていた立派な作戦だった……もう、本当に貴女達は最高だわみほ、エリカ!

 こうなったら、とことんまで楽しませて貰うわよ2人とも!!」

 

「勿論、徹底的に楽しみましょうケイさん!楽しんでこその戦車道ですから!!」

 

「みほの意見に賛成。

 だけど、楽しむのは当然だけど勝つのは私達よサンダースの副隊長さん!!」

 

「Wao、言ってくれるじゃない?……でも、そう来なくっちゃ面白くないわ♪」

 

 

 

ちょっとした挑発程度じゃ動じないみたいね?……尤も、聖グロの田尻さんみたいでも困るんだけど。

だけど、今言った事は決して冗談じゃない――勝つのは、私達黒森峰よ!!

噂に名高い隻腕の軍神と、その軍神の文字通りの片腕である狂犬のコンビネーションをその身でもって味わうと良いわ……アンタ達に残された選択肢は、軍神の軍刀で首を落とされるか、狂犬の牙で喉笛を喰いちぎられるかの二つに一つよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

みほの単騎駆けと、其れを追従してのエリカの砲撃から一気に試合が動いた黒森峰の遊撃隊とサンダースの別動隊の戦いは、戦車道のセオリーを無視した様相を呈して来ていた。

と言うか、戦車道の王道を掲げる黒森峰に在籍しているみほとエリカが、思いっきり戦車道のセオリーを無視していた。ともすれば、戦車道のセオリーなど宇宙の彼方に蹴り飛ばした上でブラックホールで破壊している状態だった。

 

 

「如何したのナオミさん、私は此処だよ?」

 

「く……本当に嫌な位置に動いてくれるわねみほ――!」

 

 

相変わらずみほは、サンダースの別動隊の中を縦横無尽に動き回り、敵に的を絞らせない――と言うよりも、攻撃させないように動き回る。

此れには流石のナオミも歯噛みする……如何に動き回る相手でも撃破出来る腕を持つナオミだが、その射線の延長線上に味方の車輌が居るならばその限りではない。

ナオミの狙いは正確故に、若しもその正確な狙いの一撃を躱された場合、射線の延長線上にいる味方を誤爆しかねない……故に、ナオミはみほのパンターを攻撃出来ないでいたのだ。

 

そして、外からはエリカのティーガーⅠが攻撃を行っている。

此のまま試合を続けたら、負けるのは目に見えている――ケイはそう判断したのだろう。

 

 

「ナオミ、撃って!但し、パンターの足元を目掛けて!」

 

「履帯切りかいケイ?」

 

「其れが出来れば最高だけど、一瞬だけパンターの足が止まれば良いから、兎に角足元に一発かましてくれる?」

 

「Yes Ma'am.」

 

 

フレンドリーファイヤーの危険性を避け、みほのパンターの足元を攻撃する様にナオミに指示を下し、ナオミも其れに応える形で砲撃!!

其れを見たみほは、咄嗟に回避するも、地面に着弾した事で発生する揺れを完全に回避する事は出来ず、ホンの一瞬だけ動きが止まる。

 

其れは刹那の瞬間ではあるが、一流同士がぶつかる場に於いて、一瞬ではあっても確実に動きが止まったと言うのは絶好の機会なのだ。

 

 

「今よナオミ!」

 

「軍神の首、貰うわよみほ!」

 

 

その絶好の機会を逃すケイではなく、連射とも言える砲撃を命令し、ナオミも即座にみほのパンターに狙いをつけて引き金を――

 

 

「させないわ!!」

 

「「エリカ!?」」

 

 

引く直前に、エリカのティーガーⅠが射線上に割って入り、みほのパンターを撃たせんとする。――だけでなく、砲塔をファイアフライに向けた状態で割って入って来た事を考えると、既に砲撃の準備は整っているのだろう。

 

だが其れは、パンターを狙っていたファイアフライも同じだ。

みほを撃つのは、寸での所でエリカに邪魔されたが、何時でも撃てる状態であるのは間違い無い。だからケイは、即座に指向を切り替え、目標を、射線上に割り込んで来たティーガーⅠに変更する。

 

この距離ならば互いに外す事は無いし、ティーガーⅠの88㎜は容易にファイアフライの正面装甲を、ファイアフライの17ポンド砲はティーガーⅠの正面装甲をそれぞれ容易に抜く事が出来る――つまりは痛み分けになる可能性が凄まじく高いのだが、そうであってもエリカの乗るティーガーⅠを撃破するメリットは大きいとケイは判断したのだろう。

 

ベストなのはみほを撃破する事なのは間違い無いが、エリカは黒森峰の1年生の中でのナンバー2と言える実力者であり、みほが率いる遊撃隊で一番の撃破数を誇るスコアラーであるエリカを撃破すれば、黒森峰の攻撃力はガタ落ちするし、みほの最大の牙を折る事が出来るのだから。

 

 

「Very Exciting!貴女もみほに負けず劣らず最高よエリカ!!」

 

「サンダースの副隊長様に、そう言って頂けるとは光栄ね!!――でも、蛍の光は狂犬の牙で噛み砕かせて貰うわ!!」

 

「貴女はMad Dogよりも、Wild Wolfって感じだけどね?……でも、蛍は意外と攻撃的だから、狼でも鼻っ柱に噛みつかれたら痛いわよ?

 ――撃て!!」

 

「叩きのめしてやるわ!ブチかませ!!」

 

 

――ドガァァァァァァァァァン!

 

――ドゴォォォォォォォン!!!

 

 

次の瞬間、同時に砲撃が放たれ、至近距離で88㎜と17ポンド砲がそれぞれ、相手の戦車に突き刺さる!!

ティーガーⅠの88㎜は、M4シャーマンの射程外から一方的に攻撃出来るほどの強力な戦車砲であるが、ファイアフライの17ポンド砲は、パーシングを除けば、レギュレーションの範囲内のアメリカ、イギリスの戦車の中では唯一ティーガーⅠを撃破出来る火力を備えている。

其の2輌が、至近距離で砲撃を行ったらどうなるか……

 

 

――キュポン!

 

――キュポン!

 

 

 

『ティーガーⅠ123号車、ファイアフライ2号車、共に行動不能!』

 

 

結果は相討ち。

エリカからしたら、みほを守る事は出来たし、ケイからすればエリカを撃破出来たのだから、夫々目的は達成出来たと言えるのだが、撃破された筈のエリカの顔には笑みが浮かんでいた。――其れも『計算通り』と言わんばかりの笑みが。

 

 

「御膳立てはしたわよみほ。」

 

 

エリカがそう呟いた次の瞬間、砲撃音が立て続けに2連続で響き渡り――

 

 

 

『M4シャーマン8号車、6号車、行動不能!』

 

 

 

2輌のM4シャーマンが立て続けに撃破された。

其れをやったのは、言うまでもなくみほが駆るパンターだ。エリカのとっさの判断で窮地を脱したみほは、己に向かって突撃して来た2輌のM4シャーマンをパンターの機動力で翻弄し、そして必殺の履帯切りを敢行して足を殺した上で撃破したのだ。

その鮮やかさは、正に軍神と言った所だろう。

 

が、これでサンダースの別動隊は全滅させたとは言え、黒森峰の遊撃隊もエリカがやられてしまい、本隊と合流できるのはみほのみ……エリカと共に本隊に合流する心算でいたみほにとっては、この結果は誤算だっただろう。

パンターを停車させると、キューポラから飛び出して、エリカの傍までやって来る。

 

 

「エリカさん……ゴメン、私の為に……」

 

「謝るんじゃないわよみほ。

 黒森峰が勝つ為には何方が生き残るべきか……其れを考えた末の結果なんだから、貴女に罪は無いわ。

 だからみほ、貴女は行きなさい?――もしも私が倒された事に責任を感じてるなら、隊長を助けて。そして黒森峰を勝たせてくれるかしら?

 どんな謝罪の言葉よりも、私に対しては其れが一番の罪滅ぼしになるわ。」

 

「――!!!……分かったよ、エリカさん!!」

 

 

其れでもエリカは、恨み言一つ言わずに、寧ろみほの背を押してやった。

ルームメイトとして、ライバルとして、親友として……そして戦友(カラメイト)として。

 

みほもまた、エリカの思いを汲んで、パンターに戻り、何時ものようにキューポラから上半身を出した状態で戦車を発進させ、エリカに向かって右手をサムズアップし『行ってくる』の意を示す。

そしてエリカもみほに対してサムズアップし、『行ってこい』の意を示し、直後にパンターは本隊に合流すべく驀進!

 

 

「まさか、あそこで割って入って来るとはね……そしてみほを鼓舞して送り出すって、お前本当に『良い女』だよエリカ。」

 

「月間戦車道で『高校戦車道1のハンサムガール』に選ばれた貴女にそう言って貰えるなら光栄だわナオミ。」

 

「いやぁ、みほは撃破出来なかったかぁ……此れは、ちょ~~~っと拙いかな?

 みほとまほが揃ったら、最強なのは間違いない感じだしね……後は、本隊の頑張りに期待するしかないか~~。」

 

「ま、いくら頑張っても無駄と言っておくわ。

 みほと隊長が揃ったら其れは絶対無敵の『真の西住流』が発動する訳だからね?……そして真の西住流の前に敵は無いわ!

 みほが生き残って本隊への合流が可能になった時点で、私達が負ける要素は何処にもなくなったわ――みほが本隊と合流したその時が、この戦いの終幕の時よ。」

 

 

撃破されたファイアフライのナオミとケイと雑談をしながら、エリカはジャケットのポケットからアロマシガレット(乾燥させたハーブを紙巻にしたアロマ嗜好品。タバコではない。)を取り出して火を点け、その紫煙をくゆらせながら、みほが本隊に合流したその時が、此の試合の終幕の時だと告げる。

 

 

「Gewinnen Miho――!(勝ちなさい、みほ――!)」

 

 

其れは誰よりも――切磋琢磨して来た事で、まほ以上にみほの事を知っているエリカだからこその信頼の賜物だろう。

蒼空に突き出したエリカの拳は、黒森峰の勝利を疑う事が無いかの如く、力強く握りしめられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、小梅達が合流した黒森峰の本隊と、サンダースの本隊の戦いは熾烈を極めていた。

黒森峰の本隊を残り2輌まで追い詰めたサンダースだったが、ギリギリの所で小梅達が合流した事で、数の優位性が失われ、全面的な正面衝突となっていたのだ。

 

其れでも数の上ではサンダースの方が3輌だけ上回っていたのだが……

 

 

「小梅、ファイアフライの後ろに回り込め!

 直下は、どの車輌を狙っても良いから兎に角攻撃の手を休めるな!狭山は機動力で翻弄しろ!

 ――そして隙が出来たら、任せたぞ凛!!」

 

「了解、任されたわまほ!」

 

 

援軍を得たまほは水を得た魚の如く指揮が冴えわたっていた。

まほはみほと違い、正面からの押せ押せな攻撃的な戦車道を得意としているが、それ故に味方が必要以上に撃破されてしまった時には思わぬ弱さを露呈する事があり、此の試合もそんな展開になりかけたが、ギリギリで小梅達が駆けつけてくれた事でそうならずに済んでいた。

 

そして、小梅達の加入は、まほの戦力が増強された事に他ならない――其れが、まほ本来の戦車道に火を点けたのだ。

攻撃上等な戦車道に火が点いたらどうなるかなど、言わなくても分かるだろう。

 

 

「オラオラオラァ!!撃破しちまうぞゴルァ!!!」

 

「何処を狙ってるんですか?私は此処です!!よそ見はしないで欲しいですね!!」

 

 

援軍として駆けつけた遊撃隊の中でも、小梅と直下が大活躍し、サンダース本隊のM4シャーマンを立て続けに撃破し、数の差を1輌にする。

小梅の卓越した指揮と、直下のヤークトパンターの火力に物を言わせたイケイケ戦術は、思った以上に有効だったようだ。

 

何にしても此れで数の上では互角――本番は此処からと言う所だが……

 

 

 

「……来たか。」

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァァァン!!

 

――キュポン!

 

 

『ファイアフライ4号車、行動不能。』

 

 

まほが不敵に呟いた次の瞬間に、ファイアフライの4号車が撃破されて白旗を上げる。

だが、今この場にファイアフライを撃破出来る戦車はいるが、だからと言ってこのタイミングでの攻撃は不自然さしか残らない――誰が、何の目的で行ったのか分からないのだから。

 

 

「待っていたぞみほ。」

 

「えへへ……ちょっと遅刻かな?」

 

「いや、良いタイミングだった。」

 

 

だが、その攻撃を行った人物を目にした途端、まほの顔にも笑みが浮かぶ。

ファイアフライの4号車を撃破したのは、他の誰でもないみほだったのだ――まほは、このタイミングでのみほの乱入を予測してたのか、否!

まほはみほならば必ず来ると信じていたのだ。

 

そしてみほは其れに応え、まほの前に現れた――こうなった以上、黒森峰の勝利は絶対と言っても過言ではないだろう。

『隻腕の軍神』と『不敗の武神』が隊を纏め上げている今年の黒森峰は、誇張でなくて過去最強と言っても過言ではないだろう――だが、そうであっても、サンダースは簡単に勝てる相手ではないが。

 

だが、そうであっても、姉妹揃った真の西住流は凄まじく、サンダースの事を完全に手玉に取っていた――みほとまほの身体に染み付いた西住流の教えのおかげかも知れないが、其れでも西住姉妹が揃った黒森峰の戦い方は、正に圧巻の一言に尽きた。

 

 

「馬鹿な……こんな事が――此れが、真の西住流だって言うの!?」

 

「その目に焼き付けろジェーン!此れこそがみほと私が揃った時にだけ発動する最強の『真の西住流』だ!とくと味わうが良い!!!」

 

「尤も、これで終わりですけどね!」

 

 

まほの剛性と、みほの柔軟性がガチっと噛み合わさった黒森峰の部隊はマッタク隙のない部隊となり、黒森峰対策をして来たサンダースの事を、逆に追い詰めていたようだ。

 

その布陣に翻弄されたサンダースの部隊は、次々と討ち取られ、残すは隊長車のみだが、其の命は風前の灯火だった。

 

 

「覚悟は良いか?」

 

「辞世の句は出来てるかしら?」

 

「大人しく負けを認めて下さい……此れで終いです!!」

 

「寧ろ、そのまま死んじゃって下さい♪そして二度と復活しないで下さい。」

 

 

其れを示すかのように、躍り出てきた隊長車を囲むようにみほとまほと凛と小梅が陣取り、その主砲は隊長車に向けられている――言うまでもなく、これでフィニッシュだろう。

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァン!!

 

 

――キュポン!

 

 

 

『サンダース、フラッグ車走行不能!――黒森峰女学園の勝利です!』

 

 

 

そして試合を決める一撃が炸裂し、アナウンスが黒森峰の勝利を告げると同時に、試合の行方を見届けていた観客連中も大興奮である!

序盤の窮地からの逆転勝利と言うのは、観客の心もガッチリと掴んだのだ。

 

かなり苦戦したとは言え、決勝の最後の椅子は黒森峰が手にした――此れはもうV10は確実と見て間違い無いだろう。

プラウダと黒森峰が真正面からぶつかっても、戦車の性能差的に黒森峰の方が上なのだから――故に栄光のV10は目前まで迫っていた。

いずれにせよ、この大会で得られたデータが戦車道に新たな風を吹き込むのは間違い無いだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

ふあぁ~~、ケイさんとナオミさんが居るからサンダースは強敵だって思ってたんだけど、蓋を開ければ何とかなったね?――自惚れかも知れないけど、私とお姉ちゃんが力を合わせれば、其れはもう絶対最強の存在だって思うから。

 

だからこそ言わせて貰うよ!

此の試合の逆転劇は、まぐれじゃない――私達が勝った、其れが重要だからね。

 

決勝の相手は黒森峰と双璧を成すって言うプラウダ……此れは、間違いなく決勝戦で何らかの事が起きるのは確定だよ!!――尤も、それを越えてナンボなのかも知れないけどね。

 

だから次も勝つ!勝って10連覇を達成したい!――って言うかする!

その偉業を達成するためにも、次の決勝戦は負けられないよ!――だから本気で行かせて貰うよプラウダ!――期待してるよ、貴女達の戦車道の魂と、私達の戦車道の魂がぶつかり合う決勝戦は、絶対に只では済まないだろうからね!

 

 

 

 

そして、此の決勝戦が『破滅の前触れ』だったなんて言う事は、この時の私は知る由もなかった――まさか決勝戦であんな事が起きるなんて

いう事は予想していなかったからね………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer92『決勝戦前のブレイクタイムです』

UM11420だって……Byみほ    お気に入りも138件……マジか?Byエリカ   此れは、益々精進必須ですねBy小梅


Side:みほ

 

 

準決勝は、予想以上に苦戦させられたよ……此れも、ナオミさんとケイさんがサンダースに居たからなのかも知れないけどね。

だけど、此れで中学の時の仲間が居る学校は全て倒した!――と言っても、決勝戦が楽勝って言う事は無い筈……決勝の相手であるプラウダ高校は、今の高校戦車道界では、黒森峰に次ぐ実力派として知られてる高校だから。

 

加えて、中戦車の性能に限って言えば、T-34はパンターには僅かに劣るけど、Ⅲ号やⅣ号は余裕で上回るからね……部隊の構成によっては、かなり苦戦するかもだね。

 

 

 

「でしょうね。

 でも、それ以上に重要になるのは、当日のフィールド状況だわ。――前日に大雨でも降って地盤がぬかるんでたら、其れだけで黒森峰には不利な条件になるからね。」

 

「ですねぇ……黒森峰が所有してるドイツ戦車は強力ですが、足回りが弱いですから。

 逆にプラウダが所有するソ連の戦車は、足回りは抜群に強いですからね……確かにエリカさんの言うように、戦車の性能よりも、フィールドの状況が重要になってくるかもしれません。」

 

「確かに、其れは言えてるかもね……」

 

だけど、其ればっかりは私達で如何にか出来る問題じゃないから、今はどんなフィールド状況であっても、其れに対応出来る作戦を考えるべきだよ――次の決勝戦では、此れまで以上に遊撃隊の存在が重要になって来るのは間違い無いからね。

 

 

 

「確かに、其れは言えてるかもしれないわ――遊撃隊の存在は、今や黒森峰には欠かせないのだからね?」

 

「なら、決勝でも遊撃隊の力を見せつけてあげましょうみほさん。

 遊撃隊の力で10連覇を成し遂げたとなれば、誰も文句は言いようがないでしょうからね?――決勝戦でも暴れますよ♪」

 

「うん、頼りにしてるよエリカさん、小梅さん。」

 

激闘の準決勝を制した事で、黒森峰の10連覇は待ったなし!――って言いたいけど、油断は禁物だから、確りと作戦を立てないとだね。

まぁ、決勝戦でも遊撃隊は、その役目を果たすだけだけどね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer92

『決勝戦前のブレイクタイムです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

決勝戦まで後3日ね……相手は強豪プラウダだけど、決勝戦の相手としては申し分ないわ。

寧ろ強い相手を叩きのめした上で10連覇を達成した方がインパクトがあるかも知れないからね……尤も、今大会の黒森峰の試合は、2回戦以外の全てが決勝戦クラスの組み合わせだった訳だけど。

 

まぁ、其れは其れとして、最新の週刊戦車道は中々書いてくれるわね?

特集記事はこの間の準決勝……プラウダが順当に勝ち進んだ事には軽く触れてる程度だけど、黒森峰vsサンダースの試合については巻頭カラーで5ページ分の大特集と来て、しかも内容が……OG会の小母さま方が知ったら烈火の如くブチ切れるでしょうね此れは。

 

 

 

「如何したのエリカさん?今週の週刊戦車道に、なんか載ってた?」

 

「如何したもこうしたも、その黒森峰vsサンダースの記事を読んでみなさいみほ、小梅……中々面白いわよ?」

 

「この間の準決勝ですよね?ドレドレ……成程、こう来ましたか?」

 

 

 

『王者・黒森峰女学園まさかの大苦戦?サンダース大学付属高等学校の奮闘ぶりにあわや!!

 第62回全国高校戦車道大会の準決勝、第1試合のプラウダ高校vs青師団高校の試合は、プラウダが圧倒的な実力差を見せ、順当に決勝戦へと駒を進めたが、続く第2試合の黒森峰女学園vsサンダース大学付属高校の試合はまさかの展開が待っていた。

 両校ともに、10輌の本隊と、5輌の別動隊に分かれて行動していたのだが、サンダースの別動隊がまさかの戦車偽装工作を行い、別動隊にファイアフライが2輌出張ったと黒森峰に誤認させてきたのだ。

 此れが何と大当たりし、虎殺しのファイアフライ4輌が投入されたサンダースの本隊を相手に、黒森峰の本隊は大苦戦を強いられた。

 隊長である西住まほ、副隊長である近坂凛が奮闘した事も有りフラッグ車が撃破される事は無かったが、其れでも本隊は、隊長と副隊長以外の全てが撃破され絶体絶命の窮地に立たされたのだ。

 絶対王者まさかの敗北かと思われた矢先に現れたのが、別動隊からやって来た2輌のパンターと、1輌のヤークトパンターだった。

 此の3輌は現れるなりサンダースの戦線に風穴を開け、本隊の窮地を救うと共に、反撃の狼煙を上げる切っ掛けとなった。

 時同じ頃、別動隊を率いていた西住みほは、逸見エリカと共に5輌の戦車と対峙していたが、其処は流石に隻腕の軍神と言った所か、単騎でサンダースの部隊に斬り込むと、逸見エリカが其れを追うように攻撃をし、サンダースの部隊を混乱に陥れたのだ。

 無論それでやられるサンダースではなく、副隊長のケイが乗るファイアフライが逸見エリカのティーガーⅠを道連れにするが、其れで止まる西住みほではなく、逸見エリカが撃破されると同時に、流れる様な動きでサンダースの別動隊の残りの車輌を撃滅!

 そのまま、本隊へと合流し、姉である西住まほと力を合わせてサンダースのフラッグ車を撃破し、何とか勝利を捥ぎ取る事に成功した。

 辛くも勝利を捥ぎ取った黒森峰だが、若しも西住みほ率いる別動隊の存在が無ければ、此の試合で敗北を喫していたのは火を見るよりも明らかだろう。

 此の試合は、王道の戦いを掲げる絶対王者の限界と、今年から運用を始めた別動隊――遊撃隊の有効性を認識させてくれる戦いだったと言えるだろう。

 絶対王者にも変革の時が来たと、筆者は強く感じた次第だ。』

 

 

 

「あはは……此れは、確かにOG会の人やお祖母ちゃんが見たら怒り心頭は間違いないかも。」

 

「下手したら、編集部に抗議の電話入れて、記事の撤回と謝罪文の掲載を求めそうですよね……ですがこの記事は、あの試合の事実を誇張無く、正確に伝えてると思いますよ?

 ――唯一の相違点があるとすれば、ケイさんがエリカさんを道連れにしたって言う事位ですし。」

 

「まぁ、アレは私の方がファイアフライを道連れにしたって言うのが正しいからね。」

 

でもこの記事は、私達遊撃隊が黒森峰を勝利に導いたって事を暗に伝えてるでしょ?

隊長がこの手の雑誌を読んでるとは思えないけど、副隊長が隊長にこの記事を見せてる可能性は可成り高いから、隊長もこの記事の内容を知ってると見て間違い無い――だとしたら、OG会の小母さま方がどんなに喚いても、隊長の鶴の一声で黙ると思うわ。

 

『勝ったのだから文句を言うな。その勝利の立役者は遊撃隊なのだから、遊撃隊の運用に関して口を挟むな』ってね。

 

 

 

「『勝利こそが全てなのだろう?ならば勝ったのだから文句を言わないで頂きたい!

 何よりもこの勝利は、みほ率いる遊撃隊があっての物……貴女方は王道の戦い方に反するとして遊撃隊の存在を不要と言っていたが、遊撃隊の存在が無ければ負けていた。

 この勝利の立役者は遊撃隊だ!――これ以上、遊撃隊の運用に関しては口を挟まないで頂きたい!』って感じで?」

 

「そうそう、そんな感じよみほ!」

 

「相変わらず恐ろしいほど似てますねみほさんの隊長の物真似は?

 しかも声だけじゃなくて、真似するときは目じりを釣り上げてるから、後は隊長の特徴的な後ろ髪のハネがあれば殆ど本人ですよ此れ。」

 

 

 

本当にね?

でもだからと言って、隊長の目じりを下げて、後ろ髪のハネを失くしたらみほになるかと言われるとそうでもないのよね?――目じりを下げて、後ろ髪のハネを失くした隊長は、ぶっちゃけて言うと『誰だお前』って感じだし。

 

 

 

「誰だお前だと?……良い度胸だなエリカ、その度胸に敬意を表して、今日は私が一対一で指導してやる。何、遠慮は要らんぞ?」

 

「ちょ、もうやめてみほ。マジギブ、似すぎてるから……!!」

 

って言うか、貴女の顔で隊長ボイスって色々アレだわマジで。

――で、馬鹿話は此れ位にして、みほと小梅はこの記事を如何思う?

 

 

 

「私は、別に如何とも思わないかな?

 此処に書かれてる事は真実だし、黒森峰が苦戦した事に変わりは無いからね?――遊撃隊の存在を有効だって、暗に示してくれた事に関しては良いと思うけど。」

 

「私もみほさんと同感です。

 ただ、週刊誌としては珍しく誇張的表現があまり無いのには好感が持てますけれど……みほさんとエリカさんの名前が出てるのに、本隊の窮地を救った私と直下さんと狭山さんの名前が無いのが大いに不満ではありますけれどね?」

 

「「………(汗)」」

 

 

小梅……貴女って意外と、目立ちたがりと言うか、案外自己主張が強い子だったのね?――否、単純に私とみほの名前が出てるのに、他の

遊撃隊の車長の名前が出てない事が不満なのかも知れないけど。

でも、みほと小梅が言うように、この記事は正確な事実を伝えてるでしょ?……此れは、次の決勝戦でも遊撃隊は好きに動く事が出来るって事でもあるわ。

遊撃隊の有用性は、戦車道を取り扱う有名雑誌が認めたんだから、流石にその評価を無視する事は出来ないモノ。

 

「まぁ、此れまでの戦いで遊撃隊の有用性は証明されたから、決勝で勝って其れを盤石な物にしようじゃない?

 決勝戦で遊撃隊が勝利に多大な貢献を果たせば、頭の固いOG会の小母様達だって遊撃隊の存在を認めざるを得ない――そうなれば、隊長が目指した黒森峰の改革に繋がるんだから。」

 

「勿論その心算だよエリカさん。

 お姉ちゃんは私の戦車道を認めてくれたんだから、だったら私はお姉ちゃんが打ち出した改革案は正しかったって証明するだけだから。」

 

「絶対不変の強さは存在しない……頂点を目指し、極に至り、更にその上を目指すのならば常に変わる事を心掛けよ、ですね?」

 

 

 

其の通りよ小梅。

極の更に先を目指すのなら、変革は必須なのよ――って言うか、言わせて貰うなら『王道の戦い』なんて考え方は下らないにも程があるわ。

だって、隊長の力押しの蹂躙戦術と、みほの搦め手上等のトリッキー戦術が合わさった時にこそ、今の黒森峰は真の強さを発揮する事が出来るんだからね。

 

故に、隊長とみほが揃ってる今の私達に負けは無いわ!

みほと隊長が揃ってる今の黒森峰は、天下無敵の真の西住流が存在してるって言っても過言じゃないのだから!――悪いけど、決勝は勝たせて貰うわプラウダ!!

 

黒森峰の10連覇を阻止するモノは存在しないって、教えてやるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

決勝戦の2日前。今日は中学全国大会の決勝戦の日で、決勝戦の組み合わせは明光大vs黒森峰。

当然観戦に来てるんだけど、母校である明光大を応援すべきなのか、其れとも黒森峰高等部の生徒として黒森峰中等部を応援するのか、迷う所だね此れは。

 

 

 

「いや、貴女の場合は明光大の応援で良いんじゃないのみほ?

 別に黒森峰の生徒として応援に来てる訳じゃないんだし。……何よりも、貴女が黒森峰の応援をしたら、澤は間違い無く凹んじゃうわよ?」

 

「あ~~……うん。其れは確かにそうかも。

 私が梓ちゃんの立場だったら、自校の卒業生が相手校を応援してるのを見たら、可成り凹んじゃうかもしれないからね。」

 

「まぁ、みほさんの場合、凹んだ後で逆に燃え上がりそうですけど♪」

 

「言えてるわ其れ。

 憧れの先輩が対戦相手の方を応援してる事にショックを受けつつも、次の瞬間にはそのショックが闘志となって燃え上がり……奇想天外な戦術をこれでもかと駆使して、相手を葬るわね絶対に。」

 

「言いすぎじゃないかなぁ?……あ、でもちょっと否定できないかも……」

 

若しも去年の決勝戦を近坂先輩が見に来てて、黒森峰の応援をしてるのを見たら……うん、間違いなく凹んだ後に、逆に燃えてるね私なら。

 

其れは其れとして、今年の決勝戦も去年と同様かそれ以上の戦いになってるね?

展開としては、明光大が黒森峰を市街地戦に連れ込んだ感じだけど、その手法は中々鮮やかで、ツェスカちゃんからしたら、梓ちゃんの策に嵌められたって所かな?

まぁ、其れに関しては、このフィールドは梓ちゃんにとっては3回目で、ツェスカちゃんにとっては2回目だったって言うのが大きいかな?

たった1回の差かも知れないけど、其の1回の差って言うのが、実戦では意外と大きな差になって来るからね――1回分の差だけ、此のフィールドでの戦い方は梓ちゃんの方が知っていたって事だから。

その後の市街地は、何方も一歩も退かない戦いって言う所かな?

梓ちゃんの奇策、搦め手に対して、ツェスカちゃんもドイツ仕込みの戦車道テクニックで対抗して、両チームとも確実に数を減らしてるからね。

 

此れは、若しかしたら去年と同じ展開になるかな?

 

 

 

「かも知れないわね。

 だけどまぁ、澤ってのは本当に凄い子ね?貴女が抜けた後の明光大を、確りと纏め上げてるんだから……正直言って、此れは予想外よ。」

 

「む、其れって梓ちゃんが隊長には向かないって事かなエリカさん?」

 

「違うわよ。……正直言って、貴女が抜けた後の明光大はまた弱小に戻るんじゃないかって思ってたのよ。

 貴女は確かに強いけど、貴女の戦車道は貴女の能力による所が大きい――分かり易く言えば才能って言う所かしら?

 こう言っちゃなんだけど、貴女の戦い方はマニュアル化出来るモノじゃないって思ってたから、次の世代に継承できる物じゃないと思ってたんだけど……澤は見事に其れを継承したわ。

 其れも、只継承するだけじゃなくて、貴女の戦い方を自分の中で徹底的にトレースした上で、ある程度の形を作り、其れを明光大戦車チームの戦い方の基本にしてしまった……才能が生み出した戦い方をマニュアル化するなんて、早々出来るモノじゃないわ。」

 

「ですね……1人の天才剣豪が感覚で編み出した剣術を、弟子が一つの流派に昇華させるような物ですからね此れは。

 私が同じ事をやれと言われても、多分無理です。って言うか絶対無理です。」

 

「……確かに、そう言われてみると確かに梓ちゃんは凄いかもね……」

 

其れが出来たのは梓ちゃんの才能と、明光大では誰よりも私の戦い方を見てたからかも知れないね。

っと、そんな事を話してる内に、何時の間にやら残る車輌は互いにフラッグ車のみに!――此れは、本当に去年と同じ展開になってきたよ。

 

睨み合うのはパールホワイトとデザートイエローの2輌のティーガーⅠ……2頭の鋼鉄の虎が睨み合う構図って言うのは、観客側から見ると、可成りの迫力があるね。

そしてそれ以上に絵になるのが、キューポラから上半身を出してる梓ちゃんとツェスカちゃんかな。

梓ちゃんはジャケットの上着を型に引っ掛けるように羽織って腕を組み、ツェスカちゃんは略帽を外し、上着のボタンを全て外してインナーのシャツも大きく胸元を開けてちょっぴりセクシーな感じになってるからね?

まぁ、2人とも狙ってやった訳じゃなくて、単純にヒートアップして来て熱くなったからそうなっただけなんだろうけど。

 

で、始まった一騎打ちは凄まじいの一言に尽きるかな?

互いに動き回りながら、時には搦め手やトリックプレイを織り交ぜながら、相手の戦車を撃破しようと縦横無尽に走り回る……其れが結果として互いに決定打を与える事が出来ない……だけど、そのせめぎ合いは長くは続かないモノだよ。去年の私とエリカさんがそうだったからね。

 

 

 

「でしょうね……ツェスカも澤も、次で決めるみたいだから。」

 

「実力は略互角で、乗る戦車も同性能……最後の攻撃となるタンクジョスト――此れはマッタク予想がつきませんよ。」

 

「うん、私も予想が付かないよ小梅さん。」

 

オーロラヴィジョンに映し出された梓ちゃんとツェスカちゃんの顔には、どちらも笑みが浮かんでる……本当に心の底から、此の試合を楽しんで居たからこそ浮かぶ笑みが浮かんでる。

その笑みを浮かべる者同士のラストバトルの結果を予想するのは、100年以内に地球の落下する隕石の数を完璧に予想するのと同じ位難しい事だからね――でも、頑張って梓ちゃん!!

 

 

 

「「…………………」」

 

 

 

10秒ほどの沈黙の後、先に仕掛けたのは梓ちゃんの方だった。

ツェスカちゃんの足元に砲撃を放って強制的に動かすと、次の瞬間にツェスカちゃんが逃げた方向にある歩道橋を砲撃で崩し、巨大なコンクリートの塊を上から降らせる。

でもツェスカちゃんも其れに的確に対処し、逆に梓ちゃんへと突進し……其れに応えるかのように梓ちゃんも突撃!

そして互いに擦れ違う直前で、まさかの戦車ドリフト!

梓ちゃんもツェスカちゃんも戦車ドリフトを行った事で、戦車ドリフトのアドバンテージは得られないけど、だからこそ静止した瞬間の砲撃が重要だよ。

 

その結果は――

 

 

 

――ドゴォォォォォォォォォォォォォン!!

 

――キュポン!

 

 

 

『明光大、フラッグ車行動不能。

 黒森峰女学園の、勝利です!!』

 

 

 

負けちゃったか。

最後の最後で運に見放されちゃったね梓ちゃんは……でも、手に汗握る戦いだったのは間違い無いから、梓ちゃんの実力を多くの人に認めさせる事は出来たと思うけどさ。

 

だけど、それ以上にお疲れ様でした梓ちゃん。

とってもいい試合だったよ!

 

 

 

「西住先輩!?……来てたんですか。

 あはは……今回は負けちゃいました……でも、持てる力の全てを出し切ったので悔いはないです。中学最後の大会を、最高のライバルとの試合で終える事が出来たのはとっても幸福な事でした。」

 

「うん、その気持ちはよく分かるよ梓ちゃん。――私も、去年の決勝戦は燃えたからね。」

 

「だったら今年の決勝戦でも燃えて下さい西住先輩!

 西住先輩の活躍と、黒森峰の前人未到の10連覇の偉業達成を信じています!」

 

「なら、その期待には応えないとだね♪」

 

約束するよ梓ちゃん。

私達は決勝戦も勝って、10連覇の偉業と共に、真紅の優勝旗を手にするって!――其れにV10の栄冠は、戦車道だけじゃなくて、どんなスポーツに於いても達成された事のない偉業だから、絶対に達成したいからね。

 

 

 

「先輩、決勝戦は絶対に見に行きますから、カッコ良く決めて下さい!出来ればフラッグ車の撃破をしちゃってください!!」

 

「あはは……其れは流石に確約しかねるけど、其れが可能な状況だったら絶対に撃破するって約束するよ梓ちゃん。」

 

其れと、優勝は出来なかったけど、健闘したって言う事で、此れは御褒美だよ。

 

 

 

――チュ

 

 

 

「ほえぇぇ!?西住先輩からデコチュー!?……はうあぁ///」

 

「梓ちゃん?おーい、梓ちゃん?」

 

「呼びかけても無駄だわ……今現在、澤の意識は宇宙の彼方を話迷ってるだろうからね……」

 

「それ以上に、ナチュラルにデコチューを敢行するみほさんに驚きですよ……」

 

 

 

ナチュラルにって……私にとっては別に普通なんだけどなぁ?

練習で良い結果を出したら、お姉ちゃんが『よくやったなみほ』って言っておでこにキスしてくれたし、模擬戦で勝った時には、お母さんが『実に見事でしたよ』って言っておでこにキスしてくれたし。

西住流的には、デコチューは最大の賛辞だと思ってたけど、違うのかな?

 

 

 

「隊長からのデコチューですって!?羨ましい事この上ないわコンチクショー!!」

 

「なんなら変わるエリカさん?

 カッコいいお姉ちゃんと、カッコいいお母さんが付いて来る代わりに、前時代的な思考に捕らわれた救いようの梅干しお婆ちゃんがどうやっても付いて来るけどね。」

 

「隊長と師範だけなら喜んでって言う所だけど、家元が付いて来るならお断りだわ……ぶっちゃけ、あの人の考え方には共感できないから。」

 

「其れは私もです――勝利ありきの考え方は、スポーツの世界では絶対に間違ってると思いますから。」

 

 

 

うん、絶対に間違ってる――だから、私はお婆ちゃんの言う西住流を真っ向から否定する!

戦車道はスポーツであって戦争じゃないんだからね……お婆ちゃんには其れを言葉じゃなくて、行動で受け入れさせるしかないのかも知れないけどさ。

 

ともあれ、よくやったね梓ちゃん?

結果は準優勝だったけど、本当によく頑張ったよ梓ちゃん……貴女は、私の誇りだよ。

 

 

 

「そう言って貰えると光栄です――決勝戦、勝って下さいね西住先輩!」

 

「うん、絶対に勝つよ!」

 

勝って黒森峰の大記録を成し遂げる!!

きっとお姉ちゃんも、10連覇を達成するための作戦を考えてるだろうからね――だから梓ちゃん、その目に焼きつけなさい……黒森峰が10連覇を果たすその瞬間をね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:小梅

 

 

決勝戦前日……昨日から降り始めた雨は弱まる所が、更に強くなっていますね……此のままじゃ明日の決勝戦に影響が出るのは間違いあり

ません!!

 

なので、こんな物を作ってみました!!

 

 

 

「何此れ?」

 

「てるてる坊主みたいだけど……数がハンパない感じが……」

 

 

 

おぉ、流石に気付きましたねみほさん?

仰る通り、此れはただのてるてる坊主ではなく、千羽鶴ならぬ400人てるてる坊主です!

此れだけのてるてる坊主があれば、明日は快晴間違いなしです!――序に等身大のてるてる坊主を、寮のロビーと軒先に可能な限りぶら下げてみました!!

これはもう、明日は快晴以外は有り得ません!!

 

 

 

「かも知れないけど、等身大のてるてるボーズを大量に設置するのは如何なものかと思うよ小梅さん?

 こう言ったら何だけど、等身大のてるてる坊主が複数体吊り下げられてる様は、殆ど『一家心中』の現場みたいだからね……余り過剰な演出は遠慮してね小梅さん?」

 

「う……了解です――」

 

でも、ロビーのは兎も角、軒下に設置したてるてる坊主は除去しませんよ?

このまま雨が降り続いたら黒森峰が不利になるの目に見えてますから……ゲン担ぎの意味でも、このてるてる坊主は残しておきたいんです。

此の子が居たからこそ、決勝戦の舞台は晴れたんだって、そう言いたいですから。

 

 

 

「うん、それで良いよ小梅さん――この大量のてるてる坊主は、確かに大きな力になるかも知れないら。」

 

「なら、適当にその辺に吊るしちゃいましょ?――此の子が天気をもたらしてくれるのなら、其れは其れで悪い事じゃないからね。」

 

「はい♪」

 

そんな訳で、私がこしらえたてるてる坊主は寮の軒下に飾られる事になりました!――頼みますよてるてる坊主さん、雨の中での決勝戦なんてのは、絶対にゴメンですからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

決勝戦当日は、昨日までの雨が嘘のような大快晴!それこそ、決勝戦に相応しい天気って言う所だよ!!

まぁ、前日の雨の影響でフィールドのぬかるみは多いかも知れないけど、其れ位の事ならディスアドバンテージにはならない……だから、此の決勝戦は、黒森峰にとってもプラウダにとってもイーブンの条件だって思うよ。

 

でも、だからこそ勝って見せるよ、絶対に!!

 

 

 

「気合が入ってるわねみほ?」

 

「勿論、入りまくりだよエリカさん!!」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「軍神招来……此れは、勝てますね!!」

 

「勿論、勝ちに行くよ小梅さん!!」

 

だから覚悟してねプラウダ……貴女達を倒して、私達は10連覇を達成するよ?

恐らくは黒森峰対策をして来てるんだろうけど、そんな物は無意味だって言う事を教えてあげる――その上で、見せてやる西住の戦車道を!

 

第62回全国高校戦車道大会の決勝戦……此れまで以上に本気で行くよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer93『決勝戦前に色々あるみたいです♪』

いよいよ決勝戦……先ずは屋台巡りだね!Byみほ     取り敢えず何でその思考に至ったし?Byエリカ     みほさんの勘かも知れませんねBy小梅


Side:みほ

 

 

決勝戦の舞台は、昨日までの大雨が嘘のような大快晴!これは、間違いなく小梅さんの渾身のてるてる坊主のおかげだって断言しちゃうよ。

まぁ、あの大雨のせいでフィールドコンディションは最悪かも知れないけど、天気が晴れって言うだけでも儲けモノだよ――フィールドコンディションが最悪な上に雨って事になったら、黒森峰にとっては不利どころの騒ぎじゃないからね。

 

「そう言う意味でも、あのてるてる坊主は無駄じゃなかったんだよ小梅さん!」

 

「アレだけ大量のてるてる坊主をこしらえた根気に敬意を表すると共に、よくやってくれたわ小梅……この快晴は、貴女が齎してくれた物よ。」

 

「えへへ……そう言われちゃうと照れますけど……でも此れで、雨の試合って言う最悪の状況は回避出来ました。

 フィールドコンディションが最悪なので、戦車の足回りが弱い黒森峰には若干不利なフィールドになってますけど、多少の不利は乗り越える物である――ですよねみほさん?」

 

 

 

うん、その通りだよ小梅さん。

多少の不利を乗り越えて、流れを掴む事が出来ないんじゃ一流とは言えないからね――寧ろ、このフィールドを利用してこそだと思うんだよね私としては。

 

 

 

「不利なフィールドをも利用するって、相変わらずぶっ飛んでるわねみほ?――だけど、私は好きよ、貴女のそう言う所って。」

 

「隻腕の軍神に死角なし!ですね、みほさん。――この戦いを制して、前人未到の10連覇を成し遂げましょう!私達の手で!!」

 

「うん、勿論その心算だよ。」

 

対戦相手のプラウダは、黒森峰に次ぐナンバー2と称されてる高校だから簡単に勝てる相手じゃないと思うけど、だからと言って負ける気もないよ――此処まで来たなら、世紀の大記録を達成したいからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer93

『決勝戦前に色々あるみたいです♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、試合の準備が出来てるとは言え、決勝戦が始まるまではあと1時間半ほどはあるから、適当に会場を見て回ろうか、エリカさん、小梅さん――ただ待つのも退屈だし。

 

 

 

「賛成ね其れは。

 こう言っちゃなんだけど、試合の準備が終わると暇だからね……試合開始までの会場巡りは、結構暇潰しになるのよ。後、試合前にリラックス出来る数少ない時間だし。」

 

「ですねぇ。

 天気が晴れてくれたおかげで屋台も一杯出てますし――と言うか、決勝戦は準決勝までと比べて人が多いので、アンツィオは確実に屋台を出してるでしょうから試合前の腹ごしらえも出来るでしょうし。」

 

「だね……って言うか本当にアンツィオは屋台出してるみたいだよ?戦車型の屋台が見えるから。」

 

そして、その屋台の前に作られた長蛇の列もね。

これはまた何時も以上に繁盛してるねペパロニさん?結構儲かってる?

 

 

 

「よぉ、みほ!其れに銀髪と天パ――じゃなくてエリカと小梅も!

 見ての通り大繁盛だぜ!黒森峰が10連覇を達成するのか、それともプラウダが其れを阻止するのかって、色々と話題の決勝戦だから観客も多くて、既に売り上げは準決勝の時の倍だぜ倍!

 まぁ、新メニューを追加したのも大きいかもだけどさ。」

 

「新メニュー?」

 

鉄板ナポリタン以外の新たなメニューって事だよね?

確かペパロニさんはパスタ――スパゲッティの専門だった筈だからそっち系のメニューだと思うんだけど……

 

 

 

「1回戦でみほ用に作った『鉄板ナポリタンパニーニサンド』を正式メニューにしたら、片手で食べる事が出来るってのが受けて大当たりしたんだよ~~!

 んで、さらに追加メニューとして『ピリ辛鉄板ナポリタンアラビアータ風』と、其れのパニーニサンドも出したらこっちも飛ぶように売れてさ~♪

 マジで笑いが止まらねぇ感じだって!――んで、ご注文は?」

 

 

 

へ?ご注文って言われても、私達ちゃんと並んでないんだけど?

 

 

 

「あぁ、大丈夫だって。

 本日は『決勝戦出場校の選手優先』でやってるし、ちゃんと札も出してるからな。」

 

「『アンツィオ高校の屋台は、本日は決勝戦出場校の選手優先で営業していますのでご了承ください』……確かに立て札立ってるわね。」

 

「此れだけデカデカと書かれてたら見落とす事は無いと思いますからね……」

 

 

 

ちゃんと事前に手は打ってたって訳か……まぁ、多分安斎さん改め、アンチョビさんが考えた事なんだろうけど。

でも、そう言う事なら遠慮なく注文させて貰おうかな?私はピリ辛鉄板ナポリタンのパニーニサンドをお願い♪あ、サイズはLサイズでね?

 

 

 

「私は安定の鉄板ナポリタンを麺盛り肉盛りオニダク(麺大盛り肉と玉葱大目の意)で。」

 

「私はピリ辛鉄板ナポリタンの麺盛りタマダブ(麺大盛り卵2個の意)で。」

 

「はいよ~~!

 オーダー、ピリ辛サンドL1、鉄板大盛り肉盛りオニダク1、ピリ辛大盛りタマダブ1。」

 

「Conferma d'ordine!(了解!)

 

 

 

で、私達のオーダーを聞いたペパロニさんは、屋台のスタッフと一緒に流れるような手つきで、瞬く間にオーダーの品を完成。――時間にして凡そ5分……ゆで時間の短いパスタを使ってるとは言え此れは見事だよ。

 

 

 

「へい、おまち!」

 

「此れはまた、何とも美味しそうな匂いだね?食欲をそそられるよ。」

 

「美味そうなんじゃなくて実際美味いんだっての。」

 

「うん、其れは分かってるよ。――其れで、お代は?」

 

「え~っと、その3つだと……鉄板ナポリタンが400円で、ピリ辛が500円で、ピリ辛サンドが450円だから……1350円だな。」

 

 

 

其れじゃあ2000円で。

あぁ、お釣りは要らないよ?……試合前にこんな美味しい物を食べさせて貰ったお礼料として受け取ってくれると嬉しいかな?

 

 

 

「リアルで『釣りは要らねぇ』のセリフを聞くとは思わなかったぜコンチクショウーー!!つーかみほ、お前マジで下手な野郎よりも男前過ぎ!

 差額650円を普通に寄付するって、ドンだけだお前!!」

 

「釣りは要らないか……一度で良いから言ってみたいわ。出来れば高級バーで飲んだ後にでも。」

 

「確かに言ってみたいですけど、其処で高級バーって言う発想が出てくるあたりがエリカさんらしいと言うか何と言うか――エリカさんて、そう言う店が滅茶苦茶似合いそうな人ではありますけど。」

 

 

 

カウンター席に座って、1人スコッチのロックを飲むエリカさん……何だろう、物凄く絵になる気がする。

お酒は、二十歳になってからだけど、想像しただけで可成り絵になってたから、本物のエリカさんが同じ事をやったら、88mm砲以上の破壊力があるように思えるよ……

 

兎に角、決勝戦は全力を出して行くから応援してねペパロニさん。

 

 

 

「おうよ!

 尤もお前が隊長を務めてる遊撃隊が居る限り、黒森峰が負ける事はねぇって思えるからな!勝って来いよみほ!!」

 

「勿論勝ってくるよペパロニさん!」

 

「屋台を運営しながらもオーロラビジョンから目を離さない事ね?――目を離したその隙に、試合が決まったって言う事も有るかもだし。

 私達黒森峰が、前人未到の10連覇を達成する瞬間を、その目に焼き付けておきなさいペパロニ!」

 

「おぉっと、気合十分だな?

 だが、其れ位の気合が無いとな!――魅せてもらうぜ、お前達の戦車道をな♪」

 

「うん、魅せてあげるよ、私達の戦車道をね。」

 

先ずはペパロニさんの屋台で腹ごしらえ、と同時にペパロニさんからのエールを貰って、やる気と気合がかなり充実してるのは間違い無いよ。

試合に於いて、やる気と気合がドレだけあるかって言うのは大事になって来るからね。

 

なんて事を考えながら会場をぶらついてたら……

 

 

 

「試合前に屋台巡りとは、余裕ねみほ?……尤も、常に自然体でいる事が、貴女の強さの秘訣なのかも知れないけど。」

 

「応援に来ましたわよみほさん!プラウダなんて、けっちょんけちょんにしちまってやってくださいですわ!!」

 

「ナオミさんにローズヒップさん!」

 

まさかのナオミさんとローズヒップさんとエンカウント!

若しかして、聖グロとサンダースも決勝戦を観戦に来てたりするの?

 

 

 

「もっちろんでごぜーますわみほさん!みほさんの大活躍を見逃す訳にはいかねーんですのよ!!」

 

「嘗ての戦友が、高校戦車道史に残る伝説を作る瞬間は、是非とも会場で生で見たいものね。――楽しみにしてるわよ、みほ。

 勿論、エリカと小梅もね。」

 

「はい、任せて下さい♪」

 

「えへへ、楽しみにしててね!」

 

って、エリカさんは?

大抵の場合、エリカさんが真っ先に反応する筈なんだけど……あ、成程エリカさんにはエリカさんのお客さんが来てたんだ――エリカさんのお姉さん、聖グロリアーナの隊長であるアールグレイさんが。

 

 

 

「いよいよ此処まで来たわね、エリカ?」

 

「えぇ、仲間と共にね。」

 

「仲間と共に……か。成長したわねエリカ。

 戦車道を始めたばかりの頃の貴女は、自分の力だけで勝っていると思っている部分があったけど……まほと出会って其れが変わった。

 そして、みほさんと出会い、貴女は仲間と共に戦う事を覚え、遂にはこの大会で私を越えた……だから、私に見せて頂戴。可愛い妹が、戦車道史に残る偉業を達成するその瞬間を。」

 

「了解。約束するわ姉さん――真紅の優勝旗を、必ず黒森峰に齎してみせる。皆と一緒に。」

 

「えぇ、楽しみにしているわ。」

 

 

 

あはは……まさか、他校の隊長さんにまで期待されるとは思っていなかったけど、だけどそう言う事なら余計に頑張らないとだよ!――期待を裏切るのは、一番嫌いな事だしね。

……尚、ちょっと聞こえて来た会話から、アールグレイさんがダージリンさんの煽り耐性の低さを克服するために、色々な精神修業を半ば強制的にさせてるらしいけど大丈夫かなぁ?

……座禅1時間は兎も角、『大抵の人がムカつく語録耐久1時間』ってダージリンさん的には拷問に近いんじゃ……そしてなぜだろう、此の荒行を熟したダージリンさんが、途轍もなく人の神経を逆撫でする人になる予感がするのは……うん、気にしたら負けだね。

 

兎に角、勝って来るから期待しててね、ナオミさん、ローズヒップさん!

 

 

 

「期待してますわよみほさん!プラウダなんて軽くひねって、逆シベリア送りですのよ~~~!!」

 

「ま、貴女達が負けるとは思わないけど、昨日の豪雨でフィールドコンディションはお世辞にも良いとは言えないし、川も可成り増水してる筈だから、其処は気を付けなさい。」

 

「Ja.了解です。」

 

確かに昨日の大雨で土のフィールドは可成りぬかるんでるだろうし、川面増水してるだろうからね――特に、川には要注意かな?お正月に引いたお御籤にも『水難の相あり』って書いてあったし。

場合によっては川沿いを通る事になるかも知れないから、最大級の警戒をしておいた方が良いかも知れないね。

 

ナオミさんとローズヒップさんのエールを受けた後には、知波単の西さんがエリカさんを激励に来てたね。

確か西さんは、中学時代に安斎さんから愛和学院の新隊長に任命されて、去年の中学大会の準決勝でエリカさん率いる黒森峰と激戦を演じた程の戦車乗り――ライバルの激励に来るのは当然かな。

……何故か、私の方にまで突貫して来たけど。……一昨年の決勝戦では戦ってる訳だから、覚えていてくれたのかもね。

 

さて、両校の整列までもう少しあるけど……

 

 

 

「西住殿!逸見殿!赤星殿~~~~!!」

 

 

 

ん、この声は……と言うか私達をそういう風に呼ぶのは――

 

「「秋山さん!?」」

 

「秋山!?」

 

「いやぁ、試合前にお会いできてよかったです!

 不肖、秋山優花里、黒森峰の三連超新星の活躍をその目に焼き付ける為に馳せ参じました!」

 

 

 

其れはまたお疲れ様と言うかご苦労様と言うか、茨城からだと結構遠いと思うんだけど、大変だったんじゃないの秋山さん?――少なくとも陸路で来るなら5時台の特急に乗らないと無理だよね?

 

 

 

「無理です。なので茨城空港から空路で来たでありますよ!

 いやぁ、学園艦が大洗に1週間停泊すると言うのはとても運が良かったとしか言いようがありません!そのお陰で、こうして戦車道の歴史に残る伝説が生まれる瞬間に立ち会う事が出来るのですから!」

 

「興奮するのは良いけど、まだ私達が勝つと決まった訳じゃないわよ秋山?」

 

「何を仰いますか逸見殿!

 西住殿率いる遊撃隊を有する黒森峰が負ける確率など、年末ジャンボで前後賞合わせての一等当選するよりも低確率です!

 基本的には奇策搦め手上等でも、攻めるべき場面では正統な西住流で攻め立てる隻腕の軍神に、西住流以上の苛烈で攻撃的な戦車道で相手を食い破る銀の狂狼、敵味方問わず戦況の綻びをつぶさに見つけ出す慧眼の蒼隼!

 此れだけの戦車乗りが揃って居るんです!負ける筈がありません!」

 

「……みほは兎も角、私と小梅の二つ名が何か進化してない?……てか、狂狼ってなに?」

 

「蒼穹隼から、慧眼の蒼隼……厨二力はどっちが上なのか悩む所ですね此れは……」

 

 

 

エリカさんは、狂犬よりも苛烈で攻撃的って事で『狂狼』。小梅さんは、勘の良さから『慧眼』の名を冠する事になったんだと思うよ?――だとしても、私の『隻腕の軍神』以上の厨二力は無いと思うけどね~~……まぁ、この二つ名は嫌いじゃないから良いけど。

 

 

 

「因みに隊長の西住まほ殿は『冷徹にして冷酷な黒将軍』と言われてます。」

 

「「「上には上がいた!?」」」

 

 

ま、まさかお姉ちゃんにそんな二つ名がついてるとはね……まぁ、戦車に乗ってる時のお姉ちゃんは、確かにちょっと見にはクールで冷たい印象を受けるし、表情もあまり変わらないからそう思われても仕方ないのかも知れないけどさ。

 

 

 

「序に、遊撃隊の直下殿と狭山殿には、『THE履帯子』や『帰って来た初代タイガーマスク』と言う二つ名が……」

 

「「「安定のネタ、ありがとうございます!」」」

 

 

まぁ、直下さんは履帯が切れるし、狭山さんは名前が名前だから仕方ないのかも知れないけどね……。

だけど秋山さん、態々茨城から応援に来てくれたんなら、その思いには応えるよ――私と、エリカさんと、小梅さんのファンだって言う貴女に最高の試合をプレゼントするから。

 

 

 

「マジでありますか西住殿!!」

 

「マジだよ秋山さん?……其れに、西住流は嘘は吐かないがモットーだから。

 試合中のブラフやハッタリはOKだけど、それ以外での嘘や虚言は御法度だからね……最後まで見て行ってね秋山さん?」

 

「は、はいであります!!」

 

 

 

「……秋山は落ちたわね?」

 

「はい、落ちました――まぁ、私とエリカさんが言えた義理じゃありませんけど。」

 

「ホント、みほってば天然の人誑しだわ……だからこそ、私も惹かれたのかも知れないけどね……」

 

 

 

え~~と、何の話をしてるのか分からないけど、そろそろ整列の時間だから行くよ、エリカさん、小梅さん。

整列に遅れたら、其れこそ黒森峰の恥さらしになっちゃうし、何よりもプラウダの人達に無礼極まりないからね?――戦車道の二大流派の一本の娘として生まれて、戦車道をやってる以上、礼を失する事は出来ないと思うからさ。

 

武道は礼に始まり礼に終わる、これが基本だからね!

 

因みに、この後で、応援に来てくれてた梓ちゃんとクロエちゃんとも会ってエールを貰ったから、これは絶対に負ける事は出来ないよ!!

10連覇の偉業、果たさないとだね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――みほ達が会場をぶらついていたのと同刻

 

 

 

Side:まほ

 

 

整列まではまだ時間があるので、凛と天城さんを誘って会場内をぶらついていたのだが、安斎が切り盛りしてるアンツィオの屋台を見つける事が出来たのは運が良かったな?

丁度試合前の腹ごしらえをしたいと思っていたので、安斎お勧めの『牛筋カレーピザ』を注文したんだが、これが中々に――と言うか極上レベルに美味だった。

此れまでピザと言えば冷凍品かデリバリーで頼んだ物しか食べた事が無かったのだが、安斎のピザを食べた今では、今まで食べて来た物はピザの名を冠した別物にしか思えんぞ本気で!

クリスピーとクラフトの中間とも言える、パリパリとふわふわの両方を併せ持つ独特の生地に、スパイスの利いた牛筋カレーをたっぷりと塗り、更にゴーダ、エダム、チェダー、モッツァレラの4種のチーズをトッピングして深い味わいとコクを演出するとは……見事だ安斎!

 

 

 

「そうだろそうだろ!お前はカレーが好きだって聞いてたから、カレー好きのお前に満足して貰えるようなピザを作ってみたって訳だ!!

 試行錯誤を繰り返したが、気に入ってくれたのなら何よりだ。」

 

「まほだけじゃなくて、私と天城さんもびっくりよ――こんなに美味しいピザ食べたのは生まれて初めてだわ安斎。」

 

「これを食べたら、冗談抜きに市販のピザは食べられなくなるわ。」

 

 

 

そして私だけじゃなく、凛と天城さんも高評価だからな――こう言っては何だが、そのピザを調理済みの冷凍品にして全国販売したらどうだ?

ネット販売すれば間違いなくバカ売れだと思うぞ私は?

 

 

 

「む、その考えはなかったな?……確かにアンツィオが誇る『食』をネットで全国展開販売すれば、資金が潤うかもしれん――此れは、真面目に検討する必要があるか。

 んん!其れはまぁ其れとして、決勝戦は絶対に勝てよ西住?お前は、私がずっと目標にして来た戦車乗りなんだ、私以外には負けてくれるなよ?」

 

「ふ、言われるまでもないさ安斎。」

 

そもそもにしてお前は私を誰だと思っている?

現黒森峰の隊長にして、西住流の正統後継者である『西住まほ』だぞ?――今の日本で私を倒す事が出来る戦車乗りが居るとしたら、お前とみほ位のものさ。

だが、お前は2回戦で倒したし、そもそもみほは黒森峰だから、最早今大会に私を止められる相手など居ない――プラウダの準決勝までの試合をビデオで見たが、戦車の性能に助けられてる部分も見られたからね。

尤も、その中でも格段に良い動きをしていたT-34/76と命中率100%とも言える撃破をしていたIS-2は警戒しておくべきだろうがな。

 

尤も、其れでも負けんよ。

剛の私と、柔のみほが揃ったその時に、真の西住流が発動し、発動した真の西住流の前に敵は無い――お母様と菊代さんが本気を出したその時は、誰も勝てなかったらしいからね。

 

 

 

「良い気合いだな西住!ならやっちまえ!総帥アンチョビが許可する!!」

 

「アンツィオの総帥殿の許可が出たのならば、其れには応えなばな。」

 

ふふ、最高のエールだな安斎、もといアンチョビ。

最高のライバルにして友からのエールと言うのは思った以上に力になるみたいだしな――最早余程の事がない限り、我等黒森峰が負ける事は有り得ん。

私の首を狩る心算でいたのだろうが、生憎と私の首をやる心算は毛頭ないのでな……逆に貴様等の首を貰うぞプラウダ。

 

私とみほの織り成す『真の西住流』の前に、潔く燃え尽きるが良い!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

決勝戦は両校の整列時間になり、審判の前には黒森峰とプラウダの隊長と副隊長が並ぶのだが、今回は少し何時もと様子が違った。

黒森峰サイドには隊長であるまほと、副隊長の凛だけでなく、遊撃隊の隊長であるみほと、遊撃隊の副隊長であるエリカの姿があり、一方のプラウダの方は、隊長であるメドヴェージョワと副隊長のカチューシャだけでなく、長身の副隊長補佐のノンナが居たのだから、何時もと様子が違うのは当然だろう。(ノンナに関しては、超低身長のカチューシャを肩車する為に来た可能性が否定できないが。)

 

 

「黒森峰の隊長、西住まほだ。今日は良い試合にしよう――折角の決勝戦だからな。」

 

「Конечно,она будет Maho.(勿論その心算よまほ。)最高の試合にしましょう。」

 

 

 

「ふぅん?

 噂の遊撃隊長がドレだけなのかと思ったけど、隊長に比べたら覇気が小さいわね?そんなんじゃカチューシャに勝つ事は出来ないわ!!」

 

「へぇ言ってくれるじゃない?……だけど此れを見てもそんな事が言えるかしらね?……みほ!!」

 

「軍神招来!てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「んな!?な、何横の覇気は!?」

 

 

「これぞみほさんの本気です。本日は『上杉謙信』がインストールされました。」

 

「加えて『宮本武蔵』もインストールされてね?」

 

「トドメに『スサノオ』がインストールされたっポイ……うん、負ける気がしない。」

 

 

三者三様と言うか何と言うか、試合前の礼に出て来た夫々の間で、色々なやり取りが成されていたのは間違いない様だ……みほ達の方が、少々カオスになったのは否めないが。

 

だが、これで両校とも闘争心がマックスになったのは間違いないだろう。

 

 

 

「此れより第62回全国高校戦車道大会の決勝戦、黒森峰女学園対プラウダ高校の試合を開始する。お互いに、礼!」

 

「「「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」」」

 

 

挨拶の後には20分のブリーフィングタイムが設けられているが、挨拶をしたその瞬間から試合は始まっていると言っても過言ではない。

つまり、挨拶と同時に第62回全国高校戦車道大会の決勝戦は始まっているのである。

 

 

「西住流は勝利のみを求める流派ではないが……今日は勝ちに行くぞみほ?」

 

「うん私もその心算だよお姉ちゃん。」

 

 

そして最後のブリーフィングに向かうみほとまほは互いに拳を合わせて決勝戦での勝利を誓う。――みほとまほ、西住姉妹が揃った黒森峰であれば、其れは決して不可能な事では無いのだから。

 

 

――決勝戦の試合開始まで、あと20分…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer94『第62回高校戦車道大会決勝です』

決勝戦……魂を燃やすよ!Byみほ     言われずとも、命燃やすわ!Byエリカ     炎が、貴女を呼んでます!By小梅


Side:まほ

 

 

決勝戦前の最後のブリーフィングだが、これと言って作戦の変更はない――本隊が敵部隊に正面から戦いを挑み、みほ率いる遊撃隊が、その側面を食い破る戦術は、王道にして有効だからな。

 

何よりも相手がプラウダと言うのが大きい。

プラウダは現在の高校戦車道に於いては、黒森峰に次ぐナンバー2と称される強豪校だが、其れだけにみほが得意とする搦め手には弱い筈だからな――とは言え、前日までの大雨で地盤はぬかるみ、川は増水して居る事が考えられるので、各員状況判断を怠らないように。

 

 

 

「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」

 

 

 

うん、良い返事だ――が、如何したみほ、何やら難しい顔をしているが――否、難しい顔をしてるのは、みほだけでなく、エリカと小梅もか?

如何した、何かあったのか?

 

 

 

「何かあったと言えばあると答えるのが妥当でしょうか隊長……取り敢えず、これを見て下さい。」

 

「……此れは、天気図か?」

 

「はい、少し気になったのでネットで調べてみたら、如何やら此の決勝戦の会場の周辺は大気の状態が不安定で、今は晴れていても、行き成りの豪雨とかがあるみたいなんです。」

 

 

 

何だと?……だが、其れは確かに無視できん情報だ――場合によっては、試合其の物が中止になる事態になるかも知れないからね。

 

しかし、其れは運営が『試合続行は不可能』と判断した場合の事だからな……とは言え、一時的な試合中断位は視野に入れておいた方が良いだろうし、突然の豪雨があった場合は足場は更に悪くなるから、其れも念頭に置いておかねばな。

 

だが、何が起きても負ける気は毛頭ないぞプラウダ?私とみほが揃った黒森峰に敵は無いと、其の身をもって知るが良い。

いや、私とみほだけではない……天城さんに凛、エリカに小梅と今年の黒森峰は、正に最強と言える布陣が揃っているのだからな。

 

見せてやる。そして魅せてやるぞ……真の西住流と、最強の黒森峰と言うモノを――!

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer94

『第62回高校戦車道大会決勝です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

20分間のブリーフィングを終え、黒森峰とプラウダは、互いにスタート地点に戦車を配備し、何時試合が始まっても良い様にスタンバイが出来ている。

黒森峰が絶対王者に相応しい冷徹なオーラを纏ってるとしたら、プラウダは冷たくとも熱いオーラを纏っていると言うべき状態だ。

其れこそ、試合開始が告げられたら、その瞬間にドンパチが始まりそうな雰囲気ではあるが、先ずは試合開始前に両校のオーダーを見て行く事にしよう。

 

 

・黒森峰女学園

ティーガーⅠ×7(212号車は隊長車)

パンターG型×10(217号車は遊撃隊隊長車兼フラッグ車)

ヤークトパンター×3(704車は遊撃隊車輌)

 

 

・プラウダ高校

T-34/76×9

T-34/85×9

KV-2×1

IS-2×1

 

 

 

両校ともバランスの取れた布陣ではあるが、黒森峰が本当の意味でのバランスの良さを考えた布陣であるのに対して、プラウダはバランスを保ちながらも、一撃必殺の火器を投入し、火力面を強化した編成であるようだ。

 

一見すれば『総じて戦えば五分』と言える布陣だが、プラウダの隊長であるメドヴェージョワは、黒森峰の布陣に疑問を感じていた。

 

 

「(重戦車が半分以下しかない?其れも、安定性のあるティーガーⅠのみとは……去年は、ヤークトティーガーやエレファント、ティーガーⅡなんかを使って居たと言うのに。

  いや、そもそもにして今年の黒森峰は、例年よりも全ての試合で重戦車よりも、むしろ中戦車をメインにしていた……?)」

 

 

メドヴェージョワが思っているように、これまでの黒森峰と言えば、圧倒的な火力を持ってして、相手を真正面から叩き潰す、所謂『蹂躙戦術』と言うべき戦い方が特徴だったのだが、今年の黒森峰は蹂躙戦術は形を潜め、中戦車を中心し、更には『遊撃隊』を用いた、此れまでとは明らかに異なる試合をして来たのだ。

 

とは言え、それらの戦術はあくまでも試験運用レベルであり、決勝は此れまで通り火力重視の編成で勝ちに来ると思っていたのだが、メドヴェージョワの予想に反し、黒森峰は決勝も中戦車であるパンターと、駆逐戦車であるヤークトパンターが部隊の半分以上を占めている布陣である――つまり、決勝でも黒森峰は、今大会の準決勝までと同じ戦術で戦うと言う事だ。

 

 

「(まさか、決勝戦をも試験運用の場にする心算なのか!?――何たる侮辱……その傲慢、叩きのめしてくれよう!!)」

 

 

其れに思い至ったメドヴェージョワは、『侮辱された』と内心で激怒するが、其れは間違いだ――試験運用などは、大会前に行った2つの練習試合で終わっており、其の2試合を持ってこの布陣の有用性は立証されている……つまり、黒森峰の新戦術は、大会前には実用レベルとなっていたのである。

 

そんな隊長とは別に、副隊長であるカチューシャは、警戒すべきは隊長の西住まほよりも、寧ろその妹の西住みほであると考えていた。

否、挨拶をするまでは姉と比べて覇気が無いと思っていたが、先程浴びせられた強烈な覇気はまほを上回っていると感じ、その瞬間に『西住みほ』はカチューシャの中で最大限に警戒すべき相手となったのだ。

 

 

「西住みほ……警戒しておいた方が良いわねノンナ?」

 

「そうですねカチューシャ。

 彼女は恐らくですが、西住流を極めているだけでなく、その対となる流派である島田流をも修めている可能性すらあります……何れにしても彼女が最大の脅威であると言う事実は変わらないでしょう。

 ――尤も、彼女と共に居た銀髪の子と、くせ毛の子も相当でしょうが……」

 

「あぁ、あの2人ね?……確かにあの2人も要警戒だわね。」

 

 

加えてカチューシャの側近であるノンナは、みほと一緒に居たエリカと小梅も相当な物だと思っていた――みほの覇気を間近で受けて、全然平気な顔をしていたのだから、そう思うのも当然と言えるが。

何れにしても、プラウダの副隊長とその側近は、黒森峰の遊撃隊を最大の脅威と見做したのは間違い無いだろう。

 

 

 

 

プラウダ陣営がそんな事を思ってる一方で、黒森峰陣営はと言うと……

 

 

「凛、フラッグ車を見つけたら迷わず叩け、私の権限に於いて許可する。と言うか命令する。」

 

「OKまほ、貴女の望み通りプラウダのフラッグ車を見つけた場合は、私が其れを狩るわ……そしてその首を献上するって約束しようじゃない。」

 

「其れは楽しみだな。」

 

 

 

「CPG設定完了。ニュートラルリンケージ、イオン濃度正常。メタ運動野パラメータ更新。

 原子炉臨界、パワーフロー正常、全システムオールグリーン……パンターG型、システム起動!」

 

「みほ、何時から貴女のパンターはストライクフリーダムになったのかしらね?」

 

「いやぁ、ちょっと言ってみたくなって……この長ゼリフを早口で言っちゃう保志総一朗さんは素晴らしいと思うんだけど如何だろう?」

 

「その意見に関しては諸手を挙げて賛成だわ。キラ・ヤマトは保志さんの中でも1、2を争う最高キャラだしね。」

 

「良いですよね、ストライクフリーダム。」

 

 

プラウダ陣営とは違い、可成りリラックスしていた。

これもまたこれまでの黒森峰では考えられない光景だが、まほが黒森峰の改革を打ち出してから、黒森峰は此れまでのガチガチの組織から

脱却し、隊員同士が肩肘張らずに付き合える部隊となっていたのだ。(尤も、そうなった事の最大の功労者がみほであるのは言うまでも無いだろうが……)

 

そして其れは、部隊全体のレベルアップにも繋がっていた。

隊員同士がフランクに付き合えるようになった事で、部隊から不必要な緊張がなくなり、試合での連携が此れまで以上に円滑かつ、強力になったのだ。

つまり、今の黒森峰は絶対無敵にして最強と言えるのだが、そこにみほ率いる遊撃隊が加わるのだから、負けろと言うのが寧ろ無茶振りだと言えるレベルだ。

 

 

 

「さてと、そろそろだな……行くぞみほ、凛!」

 

「了解です隊長!」

 

「折角の決勝戦ですもの、派手に行こうじゃない?……勝つのは私達だけどね。」

 

 

 

其の内に試合開始時間が迫り、全員が戦車に乗り込む。――と同時に、試合開始前の独特の緊張感が会場全体に広がる。

 

 

 

『其れでは、試合開始!』

 

 

「Panzer Vor!!」

 

「Танки аванс!(戦車前進!)」

 

 

そして試合開始が告げられると同時に、黒森峰とプラウダは戦車隊を発進させる。――此処に、今年最強を決める戦いの火蓋が切って落とされたのである。

 

 

 

「其れじゃあ行くよエリカさん、小梅さん、理子さん、サトルさん!!」

 

「了解!プラウダの奴等に一泡吹かせてやろうじゃない!!」

 

「行きましょうみほさん……プラウダに遊撃隊の強さを知らしめてあげましょう!!」

 

「今宵のヤークトパンターは血に飢えてる……白旗上げたい奴からかかってこいやゴルアァ!!」

 

「炎が、お前を呼んでるぜ……楽しませて貰うわよプラウダ!!」

 

 

そしてそれ以上に遊撃隊のテンションはオーバーヒート寸前にまで高まっている――其れを使いこなしているみほもまた相当なのだろうが、何にしても、決勝戦もまた遊撃隊がキーパーソンになるのは間違い無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

予想はしてたけど、実際に試合が始まってフィールドに出てみると、思った以上にコンディションが良くないなぁ?

草原のフィールドは未だしも、荒野のフィールドは泥濘が凄くて、土と言うよりも泥のフィールドだよ此れ……去年までの黒森峰の重戦車編成だったら間違いなく立ち往生して動けなくなってただろうね。

エリカさん、ティーガーⅠは大丈夫?

 

 

 

「えぇ、可成り泥濘が酷いけど、ティーガーⅠの馬力ならなんとか行けるわ――魔改造してないティーガーⅡや、ポルシェティーガーだったら目も当てられない状況になってたでしょうけどね。

 で、今回は如何動く心算なのかしら?」

 

「ん~~~……フィールドコンディションが何時も通りだったら、プラウダの背後から奇襲、または林で待ち伏せしてからの電撃戦で行く心算だったんだけど、この状態の悪さだと其れは難しいからね?

 だから、出来るだけ早い段階で市街地戦に持ち込もうと思ってる。

 市街地は舗装されてるから昨日の雨は関係ないし、市街地戦は私の十八番だからね。」

 

「と言う事は、私達がすべき事は、プラウダの注意を遊撃隊に引きつけながら市街地へと誘導する事ですね?

 プラウダの皆さん、本日の天気は晴れ時々雨、所によって雨以外の色んな物が降って来るのでご注意ください……冗談抜きで、有り得ない物が降って来ますからね、みほさんの市街地戦は。」

 

「信号機、道路標示は序の口で、街灯や電信柱は常套手段、挙げ句の果てには歩道橋が落っこちてくっからねぇみほの場合。」

 

 

 

使える物は何でも使えがモットーですので♪

まぁ、先ずは市街地戦に持って行くためにも、プラウダと接触して軽く戦車戦を行わないと――ん?

 

「な~~~~~んか、見えるよ?

 アレは……T-34!!76が3輌と、85が2輌!」

 

「なんですって!?

 まさかプラウダも遊撃隊と言うか、別動隊を!?……って、当然よね。

 今大会の黒森峰の試合を見てれば、遊撃隊を相手にする為の別動隊を編成してもおかしくないわ……サンダースもそうだった訳だしね?」

 

「オール1年で構成された遊撃隊が其処まで警戒されるとは、これも偏にみほの活躍のおかげかもね?

 んで、向こうから出てきてくれた訳だけど、どーすんの西住遊撃隊隊長?」

 

「そんなのは決まってるよ理子さん、態々向こうから出てきてくれたんだよ?

 それなら、最大限のおもてなしをして上げないと失礼にあたるからね……取り敢えず全機殲滅!但し、撤退を始めた場合には、深追い厳禁

 の方向でね。」

 

「了解しましたみほさん!」

 

 

 

其れじゃあエリカさん、理子さん、プラウダの別動隊の皆さんに挨拶代わりの1発をお願いできるかな?

私がやっても良いんだけど、やっぱり此処は、ドイツが誇るアハト・アハトを搭載したティーガーⅠとヤークトパンターの一撃の方がインパクトが大きいし、相手が驚くと思うから。

 

 

 

「試合開始直後の一発が、ジャブじゃなくて渾身の右ストレートって、相変わらず貴女は、戦車道に限って常識が通用しないわねみほ?

 だけど、だからこそ貴女の戦車道は面白いのよ――観客として観戦しても、敵として戦っても、味方として共に戦ってもね。

 取り敢えず派手にブチかましてやるわ!準備は良い、直下!!」

 

「おうよ!ブチかますぞ、逸見!!」

 

 

「「Feuer!!(撃て)」」

 

 

 

――ドガァァァァァァァン!!

 

 

 

うん、お見事。

撃破とは行かなかったけど、今の一撃は完全にプラウダの別動隊の虚を突く事が出来たからね……とは言っても、足場の悪さから何時もみたいな大立ち回りは出来ないけど。

 

だけど、其れなら其れで戦い様はあるんだよ?

 

 

 

「こんの、よくもやってくれたな?報復してやるべ!!」

 

「んだ、報復だ!!!」

 

 

 

……プラウダの人達がロシア語じゃなくて、青森弁丸出しだったのには驚いたけど、真正面から挑んでくるのはお勧めできないかなぁ?

此れまでの黒森峰なら、其れに対して律義にやり合ってたのかも知れないけど、生憎と私は黒森峰の伝統の外に居る存在だから、真正面から突っ込んでくる相手に真っ向勝負をする心算は毛頭ないんだよ――遊撃隊とは、勝利を部隊に引き込む存在であって、決して相手を倒す為の組織じゃないからね。

 

そんな訳なので、小梅さん、サトルさん、私と一緒に敵部隊の足元を攻撃しますよ?

 

 

 

「足元……ですか?本体じゃなくて?」

 

「足元で。

 そっちの方が効果が大きいから――此のぬかるんだ泥のフィールドではね。」

 

「まぁ、みほがそう言うならそうなんでしょうね……ぶっ放すわ!!」

 

 

 

――ドガァァァァァァァァン!!×3

 

 

 

アハト・アハトと比べればパンチ力に欠けるかも知れないけど、パンターの超長砲身から放たれる75㎜は、中戦車では最強クラスの攻撃力を誇る一撃だよ。

そんな物が泥のフィールドに着弾したらどうなるか……

 

 

 

「なんだぁ!?行き成り地面が消えたべ~~!!」

 

「お、落とし穴!?」

 

 

 

トラップ発動『落とし穴』ってね♪

緩んだ地盤は脆くて吹き飛ばしやすい上に、泥の落とし穴に嵌ったら最後、如何に戦車であっても抜け出すのは難しい……其れこそ、聖グロのチャーチルであっても無理だからね?

 

さて、覚悟は良いですかプラウダの別動隊の皆さん?

 

 

 

「オラ達動けないんで見逃してくれたりは……」

 

「うん、其れ無理♪だって私は、貴女達に白旗を上げて貰いたいんだもん♪」

 

「アンタ何処の朝倉涼子だべーーーー!!」

 

「うん、元ネタが分かる事に驚きだよ。」

 

でも、見逃す事が出来ないのは本音かな?

此処で見逃したら、何らかの方法で落とし穴から脱出する可能性が無いとは言えないし、車輌数を減らしておけば後々で黒森峰に有利に働く事は言うまでも無いからね。

だから、悪いけど貴女達は此処でゲームオーバーだよ。

 

「エリカさん、小梅さん、理子さん、サトルさん……やっちゃってください!!」

 

「了解!まぁ、私達に挑んだ事を後悔しなさい?」

 

「せめて副隊長が居たら、結果は違ったかもしれませんが……本隊の戦力を重視して、別動隊にエース級を入れなかったのが、敗因ですね。

 もう少し楽しみたかったですけど、これで終わりです!」

 

「まぁ、みほに挑んだ時点でお前等の運命は決定されてたんだけどな?……取り敢えず、御愁傷様だとだけ言っとくよ。」

 

「此れで終わりよ……遊撃隊を潰そうって言う戦術は悪くないけど、みほ率いる遊撃隊を潰す事はまず無理だと、其の身をもって知れ!!」

 

 

 

――バガァァァァァァァァァァァアァァァァァァン!!

 

――キュポン×5

 

 

 

『プラウダ、T-34/76、5号車、6号車、7号車、T-34/85、4号車、9号車行動不能!!』

 

 

 

よし、此れで先ずは先手を取れた!

其れも只先手を取っただけじゃなく、プラウダの別動隊の5輌を撃破出来たって言うのは可成り大きいと思う――5輌のビハインドを背負ったプラウダは、もう別動隊を出す事は出来ないからね。

 

別動隊に5輌を割り当てたって事は、その別動隊が撃破されたプラウダの残存車輌は15輌――其処から更に5輌の別動隊を編成するのは、自殺行為に等しいからね。

と言うか、数の絶対数で劣る状態でお姉ちゃんに挑んだ所で返り討ちにされるのは火を見るよりも明らかだからね?……だから、此処からはプラウダ本体の誘導をメインにしようか?

別動隊が向かってきた方向から、プラウダの部隊が今どこに居るのかの大体の予測は出来るしね。

 

 

 

「その予想が大体当たるってんだから、本気で凄いわみほは。」

 

「まぁ、子供の頃から勘は良かったからね。」

 

其れが今、戦車道で生かされてるんだから、本当に人生何があるか分からないよ……資質や経験って、色々大事なんだって実感するね。

 

 

 

――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……バリバリバリィ!!

 

 

 

って、プラウダの別動隊を撃破したと同時に発生した巨大な積乱雲……しかも、此れは只の積乱雲じゃなくて、間違いなく大雨をを齎す雨雲だよね此れは!!?

此処で豪雨とか冗談じゃないよ!!――何とか降らないで欲しいんだけど……と言うか降らないで下さい!!

 

 

 

 

なんて言う、私の願いも虚しく…

 

 

 

――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

 

 

 

積乱雲はドンドン増えて行って、そして一気に――ダムが決壊したんじゃないかと思う位の猛烈な雨が!!――此れは完全に、傘やら雨合羽で防げるレベルの雨じゃないよ!!

文字通りのゲリラ豪雨……此れじゃあ、試合は出来ないんだけど――どうなってるの隊長!!

 

 

 

『みほか……此の豪雨の中での試合続行は不可能なので、プラウダの隊長に打診して、雨が収まるまでは停戦状態と言う事にさせて貰ったよ……此の雨は冗談抜きですさまじい………こんな豪雨の中で試合をする事は出来ないからな。』

 

「ですよね。」

 

出来ればすぐに止んで欲しい所だけど、そう都合よくは行かないよねこれは絶対に?――1時間以内で上がってくれれば御の字、30分以内で止めば奇跡って言えるレベルだからね?

如何にか止んでくれる事を願うだけだよ。

 

何よりも、これ以上足場が悪くなったら不利どころの話じゃないからね?

 

 

 

「戦車の中から、大雨にアンニュイな表情を浮かべる美少女……此れは行けると思わないか京子ーーーー!!」

 

「絶対行けるわよ八神ぃぃぃぃ!!!」

 

 

 

……何やら碌でもない事を口に出してた京子さんと伊織さんは、お母さんの超必殺技である『西住流鉄拳』で黙らせたけど……私達の願いも虚しく、此の雨は最終的に1時間半降り続く事となった。

 

そして、私を始めとして、黒森峰の――若しかしたらプラウダの生徒ですら予測していなかったんじゃないかな?

 

 

 

 

此の試合で、後に『高校戦車道史上最悪の事故』と称される事になる事が起こるなんて言う事はね――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer95『This is The Final Battleです!』

仲間の命も、勝利も、私は両方手にする!Byみほ     両方を手にしてこそよね!Byエリカ     一方だけでは満足できませんから!By小梅


Side:みほ

 

 

決勝戦の試合中に、突然降り出した雨は豪雨となって会場を襲い、現在試合は中断中。

試合が中断して彼是30分ほど経つけど、雨が止む気配は一向に無い……少し勢いが弱まって来てるみたいだけど、最悪の場合は試合が中止になって、後日再試合って事になるかも知れないね?

 

私としては安全な状況で試合をしたいから、此処で試合が強制的に終わりになっても良いんだけど、連盟が試合中止を決定する可能性っていうのは、可成り低いと思うんだよね。

 

 

 

「あ~~……その可能性は否定できないわみほ……正直、連盟の危機意識ってどうなってるのか疑いたくなる事があるわ。」

 

「確か一昨年でしたっけ?

 サンダースとプラウダの試合で、猛吹雪が発生したにもかかわらず、連盟は試合続行を決めましたからね……此の豪雨で試合が中止になるって言うのは期待できないと思いますよみほさん?」

 

「だよねぇ……」

 

其れなら其れで、1分でも早く雨が止んでほしいモノだよ……豪雨の中での試合なんて言うのは良いモノじゃないし、何よりも気が滅入って仕方ないからね。

 

 

 

「でも、晴れたら一気に攻勢をかけてプラウダを倒す心算なんでしょみほ?」

 

「勿論、言われずともその心算だよエリカさん?……プラウダの横っ腹を食い破って一気に攻め立てる!!」

 

「顔に似合わず、過激ですねぇみほさん?……まぁ、私もエリカさんも其れに惹かれた訳ですから何も言えませんが……なら、試合が再開されたら、一気に行きましょう、みほさん!!」

 

 

 

うん!!

まぁ、其れは此の雨が無事に上がってくれたらの話だけどね。

 

――だけどこの大雨と、お御籤の『水難の相』……何か、嫌な予感がするなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer95

『This is The Final Battleです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、雨が降り始めてから1時間……漸く雨が上がって青空が見えて来たよ。

雨が降ってる間も、運営本部から『試合中止』のアナウンスが流れなかったから、試合は続行なんだろうけど……隊長、停戦状態は解除されたんでしょうか?

 

 

 

『みほか?あぁ、今し方、停戦状態は解除された。

 つまり此処から試合再開だ……今のゲリラ豪雨でフィールドは更に黒森峰に不利になったが、だからと言って負けて良い理由にはならん。

 勝利を捥ぎ取りに行く。遊撃隊の働きに期待するぞ?』

 

「了解しました隊長。その期待には応えて見せます。」

 

確かに今の大雨でフィールド状態は、悪いを通り越して最悪って言える状態……私達が今いる場所は、岩と草原のフィールドだから兎も角として、本隊が進行してるのは、予定通りなら荒野だから可成りぬかるんでる筈だからね?

これは、1秒でも早くプラウダの本隊を強襲して、市街地に誘導しないとヤバいかも。

 

 

 

「みほの言う通りかもしれないわね~?

 プラウダの別動隊をパーフェクト勝利して、車輌数では有利になったとは言え、フィールドアドバンテージはプラウダの方にある訳だからな?

 逆に市街地戦に持ち込めばフィールドアドバンテージは黒森峰――って言うかみほに有るからね?」

 

「何言ってんのよ直下?

 フィールドアドバンテージがみほに有るですって?……違うわ、市街地はみほが有利なんじゃなくて、みほのフィールドなのよ!!」

 

「恐らく、市街地戦オンリーで試合をしたら、大学生や、下手したら社会人チームや海外のプロでも、みほさんに勝つ事は出来ないんじゃ……」

 

「えぇ?流石に其れは言い過ぎだよ小梅さん!?」

 

「いいえ、これは小梅が正しいわね。

 市街地戦でのみほは、ハッキリ言って『隻腕の狂戦士』って言っても過言じゃないし。……ぶっちゃけ、市街地戦で繰り出されるであろう戦術をドレだけ予測しても、その予測の斜め上を普通に選択してくる相手に如何しろってのよ!!」

 

「いや、そう言われても困るよエリカさん?」

 

まぁ、車長専任免許を取る為に勉強してた時に、お姉ちゃんから『市街地戦を行う場合は、戦車での攻防だけでなく、フィールドの全てを利用して戦え』って教わったし。

西住流らしからぬ教えだとは思ったけど、西住流だけで戦車専任免許を取る事は出来ないから、其れを考えての事だったんだと思うけどね?

 

……尤も、『剛の戦車道』である西住流よりも、戦略と策略を巡らせて、搦め手上等な戦車道が肌に合ってたみたいだけど。

 

 

 

「……搦め手上等の戦車道が肌に合ってるのは兎も角、それでいて正統的な西住流も出来るみほに隙は無いと思う人挙手。」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「はーーーーい!」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

……直下さんの質問に対して、私以外の遊撃隊の全員が手を挙げてるって如何言う事?

私なんてまだまだだと思うんだけどなぁ……まだ、自分の戦車道を本当の意味で見つける事は出来てないし――私の戦い方は、ソコソコ形になって来たとは思うけどね。

 

だけど、皆が『隙が無い』って言ってくれるなら其れに応えないとだよ!!

ふふ、否が応でも市街地戦に付き合って貰うよプラウダ?

……折角の決勝なんだから楽しもう?――そもそも、戦車道は楽しまないと損だからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

突然のゲリラ豪雨で中断された決勝戦だが、雨が止むと同時に試合は再開――尚、現在の天気は、先程までの豪雨が嘘のような晴天だ。

序でに、如何でも良い事だが此の試合を観戦していた西住しほは、あの雨の中でも傘を差さずにモニターを睨みつけており、其れを見かねた菊代と島田千代が傘を差し出していたりした。

 

其れは其れとして、試合が再開された訳だが、プラウダの隊長のメドヴェージョワの心中は穏やかではなかった。

 

 

「(馬鹿な、別動隊として編成した5輌が、黒森峰の遊撃隊と遭遇し、何も出来ずにパーフェクト撃破されただと!?只の1輌も道連れにする事すら出来ずに――!!

  黒森峰の遊撃隊は、其処までの練度に達していると言うのか?……そう言えば遊撃隊の隊長は西住みほ――隻腕の軍神!!)

 く……此の部隊運用は試験的な物だと思い込んでいたが、既に試験運用は終わっていたと言う訳か……そして、西住まほは、己の妹が隊長を務めている遊撃隊に絶対の信頼を寄せていると言う事か……!!」

 

 

黒森峰の部隊に風穴を開ける心算で編成した別動隊が、みほ率いる遊撃隊によって、一方的に蹂躙されたのだから当然かもしれないが、だからこそメドヴェージョワは己の失策に気付いた。

黒森峰の部隊が、試験運用ではなく、既に完成された部隊であった事を見抜けなかった事を――まぁ、此れまでとは全く異なるドクトリンが僅か3ヶ月ちょっとで機能していると言うのは、普通なら有り得ない事なので仕方ないかも知れないが。

 

 

「(だが、遊撃隊を野放しにするのは危険だな……とは言え、更に5輌出すのは下策か。

  此処で5輌出してしまったら、5輌のビハインドを背負った状態で、黒森峰の本隊とやり合わねばならないからな……ならば、信頼できる同志を向かわせるか……西住みほを撃破出来れば良いのだしね。)

 カチューシャ、これよりノンナと共に別行動をとりなさい!……黒森峰の遊撃隊の撃破を命じます――遊撃隊の全車輌を倒せずとも、西住みほを撃破する事が出来ればその時点で勝ちが確定します……やれますね、カチューシャ、ノンナ?」

 

「了解!行くわよノンナ!」

 

「はい、カチューシャ。」

 

 

其れでもメドヴェージョワは、遊撃隊を真っ先に撃破すべきだと判断し、副隊長であるカチューシャのT-34/76と、ノンナのIS-2に別行動を命じて、遊撃隊の撃破を――可能ならばみほの撃破を厳命する。

 

その命を受けたカチューシャとノンナも、其れを快諾し遊撃隊を撃破する為に別動を開始。――ゲリラ豪雨が終わったら終わったで、試合は大きく動こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、みほ率いる黒森峰の遊撃隊は、プラウダの本隊を強襲する為のルートを探っていたのだが……

 

 

「此れは、ちょっと危ないかな?」

 

「昨日までの雨と、さっきのゲリラ豪雨で川が完全に濁流と化してるわね此れは……ぶっちゃけ、落ちたら只じゃ済まないわよ絶対に。」

 

「下手したら……いえ、下手しなくても人生のエンディングまっしぐらでしょうね落ちたら……」

 

 

最短コースとして想定していた場所は、すぐ傍を流れる川が昨日の雨と、先刻のゲリラ豪雨で増水し、陸のギリギリまで濁流が迫っていたのである――氾濫はしていないので通る事は可能だろうが、若しも川に落ちてしまったら、只では済まないだろう。

 

故にみほは迷う。

強襲するには此処を通るのが最善だが、若しも何かあった場合は取り返しのつかない事になりかねないのだから。

 

 

「危険は回避できるならするにした事は無いっしょ?

 みほ、確か2番目として想定してたルートがあったわよね?ちょっとそっちの状況を見てくるわ。」

 

「理子さん……うん、おねがい。」

 

「アイサー!」

 

 

だから此処は安全策を採る事にした。

想定していた最短ルートが使えそうにない場合、2番目に距離の短いルートを使う事にしていたのだ……とは言え、其方のルートの状況が今し方のゲリラ豪雨でどうなってるか分からない為に、直下が偵察に出た訳なのだが。

 

 

「それにしても、此処まで増水してるとは……さっきのゲリラ豪雨と言い、貴女のお御籤の『水難の相』って当たってんじゃないの?」

 

「言わないでエリカさん、私もちょっとそう思ってるから。」

 

「水難じゃなくて『吸い難』だったら、格闘ゲームで投げハメ喰らいそうですけどね~~~?

 所でみほさん、第2ルートの方が使えなかったらどうするんですか?」

 

「……その場合は、仕方ないから細心の注意を払って此処を進むしかないよ小梅さん。

 此処と、第2ルート以外だと大回りになって、プラウダを強襲するのは難しいし、よしんば強襲出来たとしても、プラウダが黒森峰の本隊と近付き過ぎるから、本隊から引き剥がして市街地に誘導するのが難しくなるからね。」

 

 

だが、その第2ルートが使用不能だった場合は、このルートを危険を冒してでも進むしかないのも事実だ。

みほとしては危険を冒したくはないが、遊撃隊としての任を果たせずに試合が終わってしまったら絶対に後悔するし、自分の策が使えなかったのでは面白くない。

何よりも、此の試合で勝てば黒森峰は前人未到の10連覇の偉業を達成し、その偉業を達成した黒森峰の隊長であるまほの戦歴に大きな華を添える事が出来るのだ――大好きな姉の為にも、みほはこの試合絶対に勝ちたいと思っているのだ。

 

そして、直下が状況確認に出てから凡そ5分後……直下のヤークトパンターが戻って来た。

車長である直下は、キューポラから身を乗り出し、頭の上で大きくバツ印を作って見せている。

 

 

「ダメだみほ、第2ルートはさっきのゲリラ豪雨でぐっちゃぐちゃになってる上に、倒木が多くてとてもじゃないが通る事は出来ないっぽい!

 戦車砲でフッ飛ばせば入り口は確保できるだろうけど、その先はどうなってるか分からないから、こっちのルートは止めた方が良いと思う。」

 

「理子さん……確かに、ルート上に倒木があったら、其れをどかす為に砲弾を消費する事になるし、その分だけ時間がかかるからね。

 ふぅ……仕方ない、少し危険だけど、川沿いの最短ルートを行く事にするよ!」

 

 

つまり第2ルートは使用不可能。

其れを聞いたみほは、危険を承知で川沿いの最短ルートを進む事を決断し、指示を出して行く。

 

 

「万が一にもプラウダからの攻撃を受けた時の為に、攻撃力と防御力の高いティーガーⅠとヤークトパンターが先行し、其の後を私達のパンターが追走する形で行こうと思うんだけど如何かな?」

 

「良いんじゃない?

 ルート的に後ろから狙われる確率は略ゼロなんだから、前面の攻防力を強化しておくのは悪くないと思うわ……もしも目の前に現れた時には、その喉笛喰いちぎってやるわ!」

 

「……相変わらずだな逸見は?……そんなんだから『狂犬』って言われんだよオメーは……」

 

「あはは……まぁ、其れだからこそ頼りになるんだけどね?

 で、其れに続く形で3輌目は私、4輌目は小梅さん、そして殿はサトルさんにお願いしても良いかな?」

 

「はい、お任せくださいみほさん!」

 

「殿か……大役だけど、務めさせて貰うわみほ!」

 

 

みほが己を中央に配置したのは、其方の方が指示を出す上で好都合だったからだろう。

指揮官が部隊の中央に居れば、司令官からの指示を、略タイムラグ無しで伝える事が出来るのだから――万が一にも通信機が使えなくなった場合をも、みほは想定していたのだろう。

 

ともあれ隊列が編成され、遊撃隊は濁流の側を通っての進軍を開始!!

重戦車が楽々通れるだけの道幅はあるとは言え、すぐ傍には落ちたら人生エンディングの濁流が轟々と音を立てて流れているのだから、気を抜く事は出来ない……尤も、其れでも一糸乱れぬ見事な縦列で進んで行くのは、流石黒森峰と言う所だが。

 

 

「此れなら、何とか無事に目的地に着けそうね……」

 

「だと良いんだが、な~~んか嫌な予感がするんだよな?……其れこそ、履帯が切れる以上の嫌な予感が……」

 

 

順調に進みながらも、しかし嫌な予感と言うのは消えないモノだ。

口にしたのは直下だが、直下だけでなくみほも、エリカも、小梅も、そして狭山もこの嫌な予感は感じていた――此のまますんなり行くとは思えないと言う、漠然とした嫌な予感が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、無情にもその嫌な予感は的中する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「前方に敵影!……T-34/76とIS-2!!」

 

「まさか……読まれていた!?」

 

 

もう少しでゴールと言う所で、眼前にT-34/76とIS-2が――プラウダの副隊長であるカチューシャと、その腹心であるノンナが現れたのだ。

みほは戦術を読まれたのかと思ったが、そうではない。

カチューシャがショートカットをしようとしてこのルートを選択した結果、偶々黒森峰側からのゴール地点直前でエンカウントしただけなのだ。

 

が、エンカウントした以上は戦闘は避けられない。

 

 

「見つけたわよ西住みほ!!けっちょんけちょんにしてあげるから覚悟なさい!!」

 

「生憎と、けっちょんけちょんにされる訳には行かないので、逆にボッコボコにさせて貰いますカチューシャさん!

 其れこそ、ボコがドン引きする位にボッコボコに!!」

 

 

避けられないのならば戦うしかない。

車輌数はみほ陣営が5で、カチューシャ陣営が2で、みほが有利だが、フィールドアドバンテージで言うのならば、みほ達よりも高い場所に陣取っているカチューシャ達の方が有利――付け加えるなら、縦列を崩す事の出来ないみほ達よりも、ある程度の自由が利くカチューシャ達の方が有利なのは火を見るよりも明らかだろう。

 

 

「ノンナ、徹底的に西住みほを狙いなさい!

 アレがフラッグ車なんだから、アレを倒せば私達の勝ちよ!!」

 

「分かっていますよカチューシャ……まぁ、簡単に撃破出来る相手ではありませんが。」

 

 

だが、そうであっても遊撃隊は撃破されていない。

前後の移動しか出来ないが、其れを最大件に駆使し、カチューシャとノンナの猛攻を躱していたのだ。

 

 

「エリカさん、理子さん、ブチかまして!!」

 

「了解!絶対王者を舐めるんじゃないわよプラウダ!!」

 

「序にコイツも持って行け!!」

 

 

そして、躱すだけでなく、反撃も行うのだからトンデモないだろう。

 

だが、何度目かの攻防の際に、其れは唐突に起きた。

 

 

「いい加減に、落ちて下さい!!」

 

「そっちこそ、大人しくくたばりなさいよ!」

 

 

ノンナのIS-2が放った砲撃と、エリカのティーガーⅠが放った砲撃は、夫々狭山のパンターの足元と、ノンナのIS-2の足元に着弾し……

 

 

 

――ドッガァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

弩派手に足場を崩す!!

其れだけならば如何と言う事は無いが、足場を崩されたパンターとIS-2は、磁石に引き寄せられるように濁流に向かって滑って行き……そして、落ちた。

 

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

 

この濁流に落ちれば、最悪の場合は命を落としかねなない。

そんな濁流に、黒森峰の戦車とプラウダの戦車が落ちた……此れは、戦車道の大会における最大にして最悪レベルの事故と言えるだろう。

 

その事故に、皆が唖然とする中でみほの判断は早かった。

 

 

「エリカさん、緊急用の照明弾を!」

 

「みほ!?……了解!!照明弾……てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

連盟から搭載を義務付けられている緊急用の照明弾の発射をエリカに命じ、エリカも即座にティーガーⅠの主砲を射角限界まで上げてから緊急用の照明弾を発射!

 

次の瞬間には、上空に緊急事態を知らせる赤色の証明が続けざまに3つ光り、緊急事態が発生した事を会場全体に伝達する。

 

 

 

『緊急事態発生!緊急事態発生!両校は、直ちに戦闘行為を停止してください。

 繰り返します!緊急事態発生!緊急事態発生!両校は、直ちに戦闘行為を停止してください。』

 

 

その直後に運営からのアナウンスが入り、決勝戦は再び中断。

 

だが、みほは其れでは終わらなかった。

パンツァージャケットを脱ぎ捨ててタンクトップとスパッツだけの状態になると、パンターを降りて川岸に近寄って行ったのだ。

 

 

「ちょ!貴女、何をする心算なのみほ!?」

 

「狭山さん達を助けに行く!

 特殊なカーボンで砲撃は防げても、浸水までは防げないし、連盟の救助を待ってたんじゃ助からないから!!」

 

 

当然エリカは何事かと問うが、みほから返って来たのは、ぐうの音も出ない位の正論だった。

確かに競技用の戦車は特殊なカーボンコーティングが施され、実弾を喰らっても死に至る事は無いが、しかし特殊なカーボンでも隙間からの浸水をシャットアウトする事は出来ない……其れを考えると、連盟の救助を待っていたら、滑落した戦車の乗員の命は無い。

だからこそみほは、彼女達を助ける為に濁流に飛び込もうとしていたのだ。

 

 

「~~!!

 ったく馬鹿なんだから!!小梅、直下、私とみほに続け!!残りの隊員は、私達の命綱が流されないように握って居なさい!!」

 

 

無論それを黙って見て居られるエリカではなく、己もタンクトップとスパッツだけになると、小梅と直下に続くように言い、命綱を腰に巻いて、みほと共に濁流にダイブ!!

そして、小梅と直下も其れに続いて濁流にダイブ!

 

 

 

 

 

 

当然、この光景は会場のオーロラビジョンにも映し出され、観客達は空前の救出劇に、声を揃えて声援を送る――其れこそ、己の身を顧みずに、濁流に飛び込んで仲間を救出に向かう乙女達への祈りを込めてだ。

 

 

「西住先輩!!」

 

「西住殿!逸見殿!!赤星殿ぉ!!!」

 

 

そんな中でも澤梓と、秋山優花里の声は特に大きい。

みほに心酔している梓と、みほとエリカと小梅の大ファンである優花里の声は自然と大きくなり、他の観客の声をも上回る程だ……

 

 

「みほ……」

 

「お嬢様……」

 

 

無論、観戦しているしほと菊代もまたみほ達の身を案じている……が、過剰な心配をしないのは、みほを信じてる証なのだろう――そうであっても、しほの肩は僅かに震えているが。

 

 

 

 

 

 

 

そんな心配をよそに、みほ達は滑落したパンターの乗員達を全員救助する事に成功していた。

少し水を飲んだ者は居たが、全員意識はハッキリしており、危険はない様だ。

 

だが、其れで終わりではない。

 

 

「まだ、プラウダの人達が残ってる!!助けなきゃ!!」

 

「まぁ、そう来るわよね!!」

 

 

狭山のチームを助け出したみほは、続いて川に落ちたIS-2の乗員達を救助すべく再び濁流に飛び込み、エリカ、小梅、直下も其れに続く。

その結果として、落ちたIS-2の乗員も無傷で救出する事が出来た。(この時、ノンナが『何故敵を助けるのですか?』とみほに言って来たが、みほは『命の価値に敵も味方もない……其れに戦車道は戦争じゃないから』と返して、ノンナを黙らせた。)

 

その結果、滑落した戦車の乗員は全員無事だった。

だが、これだけの事故が起こったにもかかわらず、運営は試合中止を選択せずに、試合続行を宣言して来た――戦車道は1試合ごとに可成りの金がかかるので仕方ないのかも知れないが。

 

 

「試合続行ですって?……上等じゃない、勝ちに行くわよみほ!!」

 

「言われずとも其の心算だよエリカさん……お姉ちゃんだけじゃなく、撃破判定になったサトルさん達の為にも勝たないとだからね!!」

 

「勝利を我が手に……一気に行きましょう!!」

 

「言っとくが、此処からの私達はちょ~っと強いぜ?覚悟するんだな!!」

 

 

だが、試合続行の報が遊撃隊に火を点けた!!

 

 

……其処からの試合は、言ってしまえば一方的だった。

遊撃隊は残ったカチューシャを撃破すると同時に、プラウダの本隊を強襲し、其のまま市街地戦へとシフトし、徹底的に市街地戦でのトリックを駆使してプラウダを翻弄しイライラを高めて行く――イライラは冷静な判断を奪うので効果的と言えるだろう。

 

そのイライラを感じていたメドヴェージョワは、単騎でまほに挑んだのだが……

 

 

「中々に出来ると思ってたが……この程度だったか……」

 

「此れで終わりです!!」

 

 

簡単にあしらわれた上で、その背後にはみほが回り込んでいる……此れはもうチェックメイトだろう。

 

 

「如何やら、私達の勝ちのようだな?……私とみほが組んだ以上は敵は無い。

 精々、私達の戦いを目に焼き付けて散るが良い……うてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「此れでお終いです!!いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

――ドゴォォォォォォォォォォォォン!!

 

――バッガァァァァァァァァァァァァン!!

 

――キュポン!!

 

 

 

その攻撃は苛烈にして最強!

柔と剛の戦車道が入り混じった攻撃を避ける事は出来ず、ティーガーⅠとパンターの砲撃を受けて撃沈――同時に、この瞬間に黒森峰の10連覇が達成されたのだった。

 

 

『プラウダ、フラッグ車行動不能!

 黒森峰女学園の勝利です!!』

 

 

瞬間、アナウンスが黒森峰の10連覇を伝え、観客も其れに同調するかのように馬鹿騒ぎだ!――そう、黒森峰は前人未到の大記録を打ち立てたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

はぁ、はぁ……水難の相って言うのが戦車の濁流への滑落だったって言うのは予想外だったけど、サトルさん達だけじゃなく、プラウダの人達も助け出す事が出来て良かったよ。

 

しかもその上で勝つ事が出来たんだから、最高の勝利だよ!!お姉ちゃんに10連覇の偉業をプレゼントする事が出来たしね。

 

 

 

「何言ってんのよみほ!今大会のMVPは間違い無く貴女よ!!」

 

「うむ、エリカの言う通りだな。

 みほが――みほ率いる遊撃隊が居なかったら、10連覇を達成する事は出来なかったかも知れないからな?……良くやってくれた、みほ。」

 

「私は、私のすべき事をしただけだよお姉ちゃん。」

 

今大会は黒森峰が前人未到の10連覇を達成する形で幕を下りた――だけど、この優勝こそが終わりの始まりだったなんて事は、きっと誰にも予想できなかった筈だよ。

 

 

まさか勝利上等主義のお婆ちゃんが、難癖付けてくるとは思わなかったからね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer96『大会が終わった其の後で……』

何やら不穏な空気を感じるね?Byみほ      嫌な空気だわ……此れはByエリカ     悪意の片鱗ですね此れは……By小梅


Side:みほ

 

 

予想外のハプニングは有ったけど、結果だけを言うなら黒森峰は前人未到の大記録である大会10連覇を達成する事が出来た――プロ野球の世界でも連覇は読売巨人軍の9連覇が最高だから、黒森峰は其れを超えたって事になるよね?

 

 

 

「間違いなく超えたでしょうよ?

 と言うか、古今東西ありとあらゆるスポーツの歴史を紐解いても、10連覇を成し遂げた奴なんていない――つまり、史上初めて黒森峰が大会10連覇を成し遂げたのよみほ。」

 

「史上初って、其れは凄いね?」

 

「そしてその立役者は間違いなくみほさんですよ?

 みほさんが率いる遊撃隊が存在してなかったら、きっと黒森峰が10連覇を達成する事は出来なかったと思いますから。」

 

「其れは流石に言いすぎじゃないな、小梅さん?」

 

お姉ちゃんの戦車乗りとしての能力は抜群に高いし、副隊長に任命された近坂先輩の車長としての能力は計り知れないからね?――特に近坂先輩は、中学大会で全試合フィニッシャーの記録を持ってる強者だから、きっと私が居なくても10連覇を達成してた筈だよ。

 

 

 

「こう言っちゃなんだけど、其れは無いと思うわみほ。

 もしも貴女が居なかったら、アタシ達は狭山の戦車が濁流に呑み込まれた事に動揺して、何も出来なかったと思う――そして、結果として狭山達を死なせてたかも知れないわ。

 仲間と勝利の両方を手にする事が出来たのは、貴女のおかげなのよみほ。」

 

「エリカさんの言う通りですよみほさん!

 みほさんは狭山さん達を助け、その上で勝利したんです!!だからもっと、誇って良いんですよ!!」

 

「なはは……確かにそうかも知れないね。」

 

己の行動を誇るか……事と次第によっては、お祖母ちゃんが最も嫌いな言葉かもしれないけど、だからと言って、私は私の生き方を変える心算は更々ないけどね。

 

取り敢えず、優勝記念の胴上げは、とってもいい気分だったよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer96

『大会が終わった其の後で……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ってな訳で週が明けて月曜日なんだけど……可成り周囲から注目されてる気がするよ……まぁ、前人未到の10連覇を達成したって言う事で盛り上がってるのかも知れないけどね。

 

其れを肯定するかのように、今週の戦車道関連の雑誌の多くが、黒森峰の10連覇を取り上げてたけど、第62回大会の決勝戦への意見は、思った以上だったよ。

 

雑誌だって、今週の目玉記事は大きく3つに分けられてるからね?

 

1つ目は、黒森峰の10連覇達成を賞賛する記事。

2つ目は、あの状況下でも試合を続行させた連盟の危機管理能力の低さを糾弾する記事。

3つ目は、私達の救助活動に焦点を当てた記事。

 

 

私的には黒森峰が前人未到の10連覇を達成する記事が最も多いと思ってたんだけど、実際にはあの救助活動をピックアップした記事が、どのメディアでも圧倒的に多いのには驚いたよ。

中には、カラー写真を使って、一面をあの件に使ってた新聞もあった位だしね……タンクトップとスパッツだけの姿が、全国紙に載ったって言うのは可成り恥ずかしいと言うか、複雑な気分だけど。

 

 

 

「まぁ、其れは私と小梅も同じよね……直下だけは、未だ肩から下が川の中に浸かってる状態だから、その姿を晒さずに済んだけどね。

 カメラマン的には真っ先にみほを撮りたかったからこの瞬間でシャッターを切ったんでしょうけど。」

 

「運が良いのか悪いのか、直下さんはちょっとだけ遅れてましたからねぇ……お蔭でインナーオンリーの姿を晒さずに済んだのは羨ましい限りですよ本当に。」

 

「ある意味では運が良いって言えるよね理子さんは……」

 

と言うか、普通全国紙にインナーオンリーの女子高生の写真を使うかな?

タンクトップとスパッツ(ホットパンツVer)は、黒森峰の戦車隊の隊員全員が下着の上から着用してるインナーだからギリギリセーフって判断したのかも知れないけど、此れは流石にちょっとアレだよね……

 

 

 

「……ネットでもこの新聞は話題になってるみたいよ?

 『スポーツ放置の一面はヤバい!』『記事は劇的な救出劇の事で、一面写真も救助の決定的な瞬間なのに、インナー姿の西住妹と逸見と赤星が可成りエロい。直下のも見たかった!』『全国紙に載せる写真か?だが、ありがとうございました!』とかその他色々とね。」

 

「其れって、色々と如何なんだろうエリカさん?」

 

「エロいって……心外と言うか何と言うか……まぁ、少々刺激的な格好だったかもしれないのは否定しませんけど。」

 

 

 

刺激的なのは間違い無いよね確かに……だけど小梅さん、こう言ったら身も蓋も無いけど、私とエリカさんと小梅さんの中で、一番エロいのは小梅さんだよ?

性格とかじゃなくてね。

 

 

 

「えぇ、何でですか!?」

 

「いや、下着は基本黒でしょ小梅は?

 其れだけでも充分エロっぽいってのに、下は紐パンが半分で、残り半分はオーバーニーソックスとセットのガーターベルトじゃないの!!

 正にアニメやマンガに於ける『性格は大人しいけど、脱ぐと誰よりもエロい女子』の条件満たしてるじゃないのよ!!」

 

「加えて小梅さんはスタイルも良いから、何て言うかこう、色っぽさも凄いんだよね?」

 

「其れを言ったらみほさんとエリカさんの方がスタイル良いじゃないですか~~!」

 

 

 

まぁ、スタイルが良いって言うのは否定しないかな?

今年の身体測定の時のスリーサイズは、上から82・56・84だったから――エリカさんは?

 

 

 

「上から83・57・84ね……其れで小梅は?」

 

「う、上から84・57・85です……」

 

 

 

……誰が、小梅さんよりもスタイルが良いって?

聞いてみたら、小梅さんが一番スタイル良いよ!って言うか、私達3人の中で一番胸も大きいし!!……同じ位だと思ってたのに、2cmも差があったなんてね……

 

 

 

「自分でも驚いてます。

 だけどみほさん、エリカさん……聞いた話では、直下さんは上から85・58・85らしいですよ?」

 

「「何、そのモデル体型!?」」

 

 

まさかの伏兵は理子さんだった!?……そう言えば理子さんは、小梅さんの黒の上を行く紫だったっけか。

だけど、お姉ちゃんと近坂先輩は更にその上を行くからね?……お姉ちゃんは上から86・55・84で、近坂先輩は上から88・59・87って言うダイナマイトボディだからね。

 

 

 

「こんな事を聞くのはアレかも知れないけど、因みに師範は?」

 

「お母さんは上から89・59・89だよ。因みに菊代さんは上から91・60・90だった筈。」

 

「師範と菊代さんもハンパないですね……」

 

 

 

尤も、そのプロポーションを維持するのは簡単な事じゃないみたいだけどね。

事実、お母さんと菊代さんは、今でも毎日『西住流フィジカルトレーニング:お試し版』を続けてるみたいだから――あの素晴らしいプロポーションは、日々のハードトレーニングで培われてるんだよきっと。

 

まぁ、其れは其れとして、今日は大会後の休養日って事で一日フリーだから結構暇なんだよね……本日はどう過ごそうか、エリカさん、小梅さん?何かプランはあるかな?

 

 

 

「ん~~……プランって言われると難しいわね?

 此れが陸なら映画とかウィンドウショッピングとか有ったんだけど、黒森峰の学園艦じゃちょっと難しいわよね?……こんな事を言ったら罰が当たるかもしれないけど、黒森峰の学園艦は娯楽施設に乏しいもの。」

 

「あ~~……其れは確かに。」

 

「剛健質実は良いですけど、もう少し娯楽施設が欲しいですよ。

 ゲームセンターは無理だとしても、カラオケボックス位は欲しいですよね?……思いっきり歌ってストレス発散って言うのは気持ちが良い物ですから。」

 

「確かに其の通りだね小梅さん。」

 

だけど、黒森峰の学園艦にそんな施設はないから、今日は部屋でのんびり過ごす事になるのかな?

其れも悪くは無いけど、たまには女子高生らしく思い切りはっちゃけて楽しみたい気分があるのは否めないよ……此れは、真剣に生徒会と学園側に交渉してみる必要があるかも知れないね。

 

其れじゃあ今日は、部屋でボードゲームでも……

 

 

 

――バババババババババババババババババ!!

 

 

 

って、思ってた所に、ヘリの爆音!?

一体何事かと思って外を見てみたら、一機のヘリが学園艦に着艦する所だったけど、あのヘリは黒森峰の物じゃない――アレはロシアと言うかソ連のヘリだし、機体にはプラウダの校章が刻印されていたからね。

 

だとしたらプラウダの生徒が来たのは間違い無いけど、一体何が目的で黒森峰にやって来たんだろう?

まさかとは思うけど、あの試合のお礼参りじゃないよね?

 

 

 

「流石に其れは無いでしょ?

 確かに試合は黒森峰が勝ったけど、それ以上にプラウダのIS-2の乗員はみほ率いる遊撃隊によって救われたんだから、感謝こそされ恨まれる理由はないわよ。」

 

「だよね?だとしたら、如何してプラウダのヘリが黒森峰に来たんだろう?」

 

これは、お姉ちゃんに事情を聴いた方が良いかも知れないね。

 

 

 

――ピンポンパンポ~ン

 

 

『緊急呼び出し。

 機甲科1年の西住みほ、逸見エリカ、赤星小梅、直下理子の4名は、至急隊長室に集合せよ。

 繰り返す。機甲科1年の西住みほ、逸見エリカ、赤星小梅、直下理子の4名は、至急隊長室に集合せよ。』

 

 

 

と思ってた矢先に、お姉ちゃんからの隊長室への呼び出しが!それも、この間の救出劇で川に飛び込んだ私達4人に対して。

しかも、至急って言ってるから、これは速攻で行った方が良いよね?

 

「エリカさん、小梅さん。」

 

「はい、速攻で隊長室に。ですね?」

 

「直下の奴ももう向かってるだろうから、適当にだべりながら、でも急いで行く事にしましょうか。」

 

「そうだね。適当にお喋りするだけでも楽しいから♪」

 

と言う訳で、寮の部屋を出て本館の隊長室へレッツゴー!

其れと、隊長室への呼び出しだと戦車道関係の事かもしれないし、さっき着艦したプラウダのヘリの事も当然あるだろうから、私服から制服に着替えるのも忘れなかったけど。

 

寮の玄関で理子さんと合流し、そのまま少し早歩きで本館へ。走って息が上がった状態って言うのは、礼儀がなってないからね。

機甲科の生徒は休みとは言っても、今日は平日だから普通科の生徒は授業がある訳で、本館に到着してからは、何故か休み時間中の普通科の人達が遠巻きにスマホで写真撮ってたり……まぁ、原因は決勝戦での事なんだろうけどね。

なんて言うか、これは少し凱旋帰国した有名スポーツ選手の気分が分かるかも……

 

 

 

「マッタクだな~~。これで新聞部辺りがインタビューとかして来たら、マジでその状態だし。」

 

「てか、写真撮るなら写真撮るで、『写真良いですか?』位は言いなさいよ……もしも、今撮ったと思われる写真がSNSにアップされてたら、肖像権の使用料払って貰おうかしら?」

 

「まぁまぁ、悪意がある訳じゃないから良いじゃないですかエリカさん?

 もしも、写真が売りに出されてたその時は、犯人を特定して確りお仕置きしてあげれば良いだけですし……みほさんの写真が校内で売買されるような事態になったら、黒森峰で一番怖い人が黙ってないでしょうし。」

 

「うん、お姉ちゃんは間違いなく黙ってないよ。」

 

速攻で回収して、売買してた人にお母さん仕込みのキッツイお仕置きを喰らわせると思うから。――子供の頃、悪戯した後に喰らった『88mm砲弾2本背負っての廊下の雑巾がけ10往復』はキツかったなぁ。

で、写真を回収して終わりなんだろうけど、回収した写真がどうなるかは分からないんだよね……まぁ、然るべき処理をしてるから大丈夫だとは思うんだけど。

 

そんな事をしてる間に、隊長室前に到着。

 

 

――コンコンッ

 

 

 

「西住みほ以下4名、呼び出しに応じ来ました。」

 

「ご苦労様、入ってくれ。」

 

「「「「失礼します。」」」」

 

 

ノックをして、お姉ちゃんから入室を促されて中に。

うん、隊長室の机の横には大会の優勝旗が、棚には10個目の優勝杯が飾られてて、改めて10連覇を達成したんだって実感出来るね。

 

室内に居たのはお姉ちゃんと近坂先輩、それと……

 

「プラウダのメドヴェージョワ隊長と、カチューシャ副隊長?其れにノンナさんも……

 お姉……隊長、如何してプラウダの隊長さん達が黒森峰に居るんでしょうか?」

 

「まぁ、彼女達がお前達4人を呼び出した理由だな。」

 

 

 

理由……って言うと、やっぱり決勝戦に関する事だよねぇ?

取り敢えず、敵意みたいなものは感じないからお礼参りの類ではないみたい――と言うか、そんなモノだったら、お姉ちゃんが黒森峰の隊長として追い返してる筈だからね。

 

えっと、私達4人に何か……

 

 

 

「西住みほ、逸見エリカ、赤星小梅、直下理子……先の決勝戦での川への滑落事故の際、同志ノンナを始め、IS-2のクルー全員を助けてくれた事に、改めて礼を言う。

 試合後は慌ただしく、閉会式も有ったので碌に礼を言う事も出来なかったが、心の底から感謝する……ありがとう。」

 

「ちょ、そんな礼だなんて!私達は当然の事をしただけですから!!」

 

「みほの言う通りですよメドヴェージョワ隊長。

 私達はやるべき事をやっただけ……如何に決勝戦の相手だろうと、命の危機を助けない理由はない――でしょう?」

 

「だとしてもお礼を言わせて。

 ノンナが落ちた時、カチューシャは頭が真っ白になって何も出来なかった……でも、貴女達は直ぐに行動を開始して、自分達の仲間だけじゃなく、ノンナ達の事も助けてくれた……感謝しても、しきれないのよ。」

 

 

 

要件は、如何やら決勝戦のあの事故の時に、ノンナさん達を助けた事に対するお礼を言いに来たって事みたいだね?

お礼なんていいのに……でも、態々黒森峰までお礼を言いに来てくれたのは、正直言って嬉しいかな?――少なくとも、私のした事は間違いじゃなかったって思う事が出来るから。

 

「ならば、その感謝は有り難く受け取っておきます、メドヴェージョワ隊長、カチューシャ副隊長。」

 

「みほさん、逸見さん、赤星さん、直下さん、私からも改めてお礼を言わせてください。

 貴女達が助けてくれなければ、私を含めIS-2に乗っていた者達は、濁流に呑み込まれ、戦車を棺にしていた事でしょう……正に貴女達は、命の恩人と言える存在です――Спасибо.(ありがとう。)」

 

 

 

ノンナさんも……いえ、本当に助ける事が出来て良かったです。

所でノンナさん以外のIS-2の搭乗員の人達は来てないんですか?――まさか、実はあの事故で大怪我を負って入院とかしてるんじゃないですよね!?

 

 

 

「そうじゃないわ……単純にノンナ以外の4人は風邪でダウンしたのよ。

 マッタク、身体を冷やさないようにしておけって言ったのに、普段寒い所に居るもんだから平気だって油断して、案の定ノンナ以外は全員39℃の高熱出して寝込んでるんだから笑えないわよ。」

 

「39度って高いよなぁ……大丈夫なんですか、その人達?」

 

「風邪をこじらせて肺炎とかには……」

 

「あぁ、其れについては大丈夫だ。

 4人ともちゃんと医者にかからせたし、薬も貰って、隊長命令で『絶対安静』を言い渡してあるからね。序に、看病の為に保険科の生徒数人に看病を依頼してあるから問題ない。」

 

「なら安心しました。」

 

もしも大怪我で入院とかだったら、下手すれば戦車道の選手生命に係わりますからね。

なら、プラウダに帰ったら風邪でダウンした人達にも伝えておいてください。『西住みほ、逸見エリカ、赤星小梅、直下理子の4人は、貴女達が無事でよかったと言っていた』と。

 

 

 

「分かった、伝えておこう。

 其れと、これはホンの少しだが、感謝の品と言う所だ……受け取ってくれ。」

 

「プラウダ特製のロシアケーキよ!スッゴク美味しいんだから、食べて驚きなさい!!」

 

 

 

えぇ!?感謝の言葉だけじゃなくて、お礼の品って……此れは如何したらいいの!?

私だけじゃなくて、エリカさん達まで困ってるんだけど……如何すべきでしょうか西住隊長?

 

 

 

「お前も西住だがな。……お前は如何すべきと思う?」

 

「質問に質問で返さないで欲しいかなぁと、遊撃隊の隊長としては思うのですが如何でしょう?」

 

「そう来たか……ならば、お母様が同じような状況に置かれたらどうするかを考えれば良いさ。」

 

 

 

お母さんが?

お母さんだったら……うん、受け取るだろうね。但し、只受け取るだけじゃなくて、相手の闘志に火を点ける様な事を言うんだろうけど。

と言う事は――

 

「分かりました、有り難く頂きます。後で、エリカさん達と一緒に紅茶でも淹れて楽しませて貰う事にします。

 ――でも、礼の品も有難いですけど、私としては其れよりも、もう一度貴女達と戦車道で戦いたい……可能ならばフィールドも天気も最高の状態で。

 そして、その試合での勝利を、真の礼とさせて欲しいです。」

 

「おぉっと、言うじゃないみほ?

 確かに、フィールドコンディションも天気も万全の状態で、貴女達に勝つ事こそが最高の礼になるわね?」

 

「機会があれば、また試合をしたいです。」

 

「ま、次にやっても勝つのはアタシ等だけどさ。」

 

 

 

お母さん風に返してみたら、エリカさん達も乗って来てくれたね。

其れを聞いたメドヴェージョワ隊長は不敵な笑みを浮かべ、カチューシャ副隊長はちょっとほっぺを膨らまして、ノンナさんは薄く笑ってる。

私達の意図には、多分気付いてるんだろうね。

 

 

 

「Понимаю.(成程。)万全の状況で私達に勝ってこそ、君達は真の勝者となる……確かに、最高の礼になるだろう。

 だが、その時は此方とて華を持たせはしないから覚悟しておく事だ……君達に勝ってこそ、礼と言えるのだからね。」

 

「助けられたお礼は、貴女達を倒す事で返す事が出来るようです……その機会が訪れる事を待っています。」

 

「大会では負けたけど、次に戦う時はカチューシャ達が勝つんだから、覚悟してなさい!!

 でもって、カチューシャ達がアンタ達を倒すまで絶対に誰にも負けるんじゃないわよ!最強の黒森峰を倒さないと意味ないんだからね!!」

 

 

 

はい、言われずとも其の心算ですよカチューシャ副隊長。

何時になるかは分からないですけど、次の試合の時も、全力で戦いましょう!――そして、その時が来るまで私達は誰にも負けないって約束します!!

 

 

 

「……普通なら傲慢だと言う所だが、君なら其れを成してしまうのだろうね。

 まほ、良い妹と隊員達を持ったね……彼女達が居れば、来年以降の黒森峰も安泰だろう?」

 

「自慢の妹と、隊員達なのでね。……お前こそ、カチューシャにノンナと、隊員には恵まれているだろう?――今年は黒森峰が勝ったが、来年の大会がどうなるかは分からんよ。

 来年は、ダージリンにケイ、ミカにカチューシャが各校の隊長となるのだからね。」

 

「ふ……確かに、其れを考えるとどうなるかは分からんか……私は其れを見届ける事は出来んがな。

 ともあれ、私達の目的は果たしたので、そろそろお暇させて貰うとしよう――休みの日だと言うのに、手間を取らせたね。

 出来れば私が在学中にもう一度戦いたいものだよ――ではな、До свидания!(また会おう!)」

 

「ミホーシャ、エリーシャ、ウメーシャ、リコーシャ!次にやる時は、カチューシャ達が勝つからね!!」

 

 

「言ってなさい。次も勝つのは私達黒森峰よ!

 なんて言っても、私達の隊長と遊撃隊隊長は、天下無敵の西住流なんだから!」

 

「……天下無敵と聞いて、何故かムキムキマッチョな亀仙人を思い出してしまいました……」

 

「何故それを思い出したし……」

 

 

 

なはは……小梅さんは意外と竜玉的漫画大好きだからね……だけど、次に戦う時があっても私達は負けませんよ?

黒森峰の隊長はお姉ちゃんで、副隊長は近坂先輩、そして遊撃隊の隊長が私で、遊撃隊には黒森峰の1年生の精鋭達が集まってる訳ですからね。

 

次の機会があったらその時は、最高の試合をしましょう!

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

プラウダの隊長さん達が黒森峰を訪れてから早3日。

休日が明けた翌日から、機甲科では厳しい訓練が再開されたけど、この訓練が無いと物足りないって感じてる辺り、私も可成り西住流の戦車道に浸かってるんだろうね。其れもどっぷりと。

 

まぁ、このハードな訓練を乗り切ってる1軍のスタメンは流石だと思うけどね?

 

 

 

「此の位の訓練を乗り切る事が出来ないんじゃ、黒森峰のスタメンは務まらないって事でしょ?……って言うか、西住流フィジカルトレーニングを熟した身としては、この訓練で根を上げる事は無いわよマジで。」

 

「中学の時に初めて体験した時には、冗談抜きで死ぬかと思いましたから……」

 

「まぁ、アレは確かにハードトレーニングを超えてるからね……」

 

尤も、其れを熟しちゃったエリカさんと小梅さんは大したモノだと思うけどね。

 

其れは其れとして、訓練後の更衣室で着替えてる最中なんだけど……やっぱり小梅さんは凄いと思う。――黒のブラとパンティーに、今日はガーターベルト装備ですよエリカさん?

 

 

 

「この度小梅にCEY(コントロール・エロ・ユニット)の称号を贈るわ。」

 

「そんな称号は要りません!!」

 

 

 

うん、私もいらない。

――時に、エリカさんも小梅さんも気付いてるよね?

 

 

 

「……はい、気付いてます――此れだけのどす黒い気配を駄々洩れにしてるとは、ちょっと驚きですけど。」

 

「出てきたら如何なの?アンタ達が居る事は分かってるわよ先輩のお姉さま方。」

 

「何か用ですか?」

 

私達の問いに答える形で、更衣室の外から来るわ来るわ、3年生の生徒が1人、2人、3人……総合で12人も――一体何の用でしょうか?

大体予想はつきますが……

 

 

 

「西住妹……1年のくせに調子に乗るなよお前!

 西住だからって姉妹揃ってデカい顔しやがって……加えてあの決勝戦、客受けする事して目立ちやがって……気に入らないんだよ!!」

 

「先輩が如何思おうかと勝手ですけど……気に入らないなら、如何するんです?」

 

「決まってんだろ……テメェを2度と戦車に乗れない様にしてやる!!序に腰巾着の逸見と赤星もな!!」

 

 

 

……やっぱりそうか。

上級生達の中には、1年生であるにも拘らず新設された遊撃隊の隊長を務めてる私に、良くない感情を持ってる人達が居るって言うのは、薄々感じてたけど、まさか大会が終わってから因縁をつけてくるとはね……

 

 

 

「腰巾着とは言ってくれるわね先輩……だけど、3年になってもレギュラーになれなかった先輩と、遊撃隊としてスタメンになってる私達じゃ、どっちが上かは言うまでもないわよね?」

 

「大した実力もないのに、みほさんを敵視するのはお門違いも甚だしいですよ……」

 

 

 

エリカさんと小梅さんの言う通りだよ。

少なくとも、私達は先輩に因縁つけられる理由はあっても、其れに付き合う義理はないから――まぁ、其れで済むとは思わないけどさ。

 

「エリカさん、小梅さん……やっちゃってください。」

 

「「Jawohl!(了解!)」」

 

 

 

だから、此処は少し強引だけど力で黙らさせて貰うよ!!

強引な手段だとは思うけど文句は言わせないよ先輩?――だって、最初に喧嘩を吹っ掛けて来たのは貴女達の方なんだから!!

隻腕の軍神は、刃を向けた相手には容赦しない……其れが例え同じ黒森峰の生徒であってもね。

 

取り敢えず覚悟は良いかな?私達は出来てる。――悪いけど、返り討ちにさせて貰うから覚悟しておいてね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer97『終焉を告げる鐘の音、です!』

団体さんが現れたみたいだね……Byみほ      雑魚共が群れてまぁ……Byエリカ     速攻で倒すが吉ですねBy小梅


Side:みほ

 

 

まさか、更衣室で着替え中に先輩達に因縁をつけられるとは思ってなかったよ……平和的な解決が出来る雰囲気じゃないから、事を構えるしかないんだろうけど、ちょっと待ってもらっていいかな?

 

 

 

「何?怖気付いたの?」

 

「そうじゃなくて、せめて着替える時間くらいくれませんか?

 流石に下着姿で喧嘩は出来ないので。」

 

今の私達の姿を言うなら、私がブラとパンツ、エリカさんが上はブラで下はスカート、小梅さんは下はパンツで上は制服のシャツって言う、可成り刺激的な格好だからね?

この格好で乱闘とかは冗談じゃありませんので――って言うか、絶対嫌だから……ねぇ、エリカさん、小梅さん?

 

 

 

「この格好で乱闘とか、どんな罰ゲームよ其れ――取り敢えず、シャツは着たいわね。」

 

「私も、スカート穿きたいです……」

 

「……確かに、その姿のアンタ達と戦うのは気が引けるわね?……なら、さっさと着替えなさい。

 取り敢えず、着替える間は大人しくしておいてあげるから。」

 

 

 

……其れは其れは、意外ですね?

てっきり、私達に着替える猶予を与えた上で不意打ちを仕掛けてくると思ったんですけど、如何やら、最低限の武士道はあるみたいですね?

 

 

 

「敵であっても、相手の臨戦態勢が整うまでは攻撃してはいけないってのがお約束でしょ?」

 

「成程、確かにそうかも知れませんね。」

 

特撮ヒーローものは、変身が終わるまで攻撃しないのがお約束だからね?……だけど、そのお約束から行くと、貴女達に待ってるのは、敗北の未来一択だよ。

 

何時の時代だって、悪が栄えた試しはないんだからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer97

『終焉を告げる鐘の音、です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてと、そんな訳で着替え終わった訳だけど……其処から睨み合いが続いて互いに動く事が出来なくなってた――下手に動けば、此方の情報を相手に与える事になるから、動く事が出来なかったんだけど……

 

 

 

「ま~ったく、アホみたいに固まっちゃって……そんなにみほの事が怖いのかしら先輩?」

 

 

 

此処でエリカさんが先輩達を挑発!

獰猛な笑みを浮かべながら腕を組み、鋭い眼光で先輩達を射貫くその姿は、正に銀狼……今にも相手を噛み殺さんばかりの迫力があるからね――うん、先輩達も圧倒されてる。

 

 

 

「くぬ……腰巾着の分際で調子に乗るなよ逸見!」

 

「はぁ?調子に乗ってるって誰が?

 私は、ただ事実を正確に口にしただけよ、調子に乗ってる訳じゃないわ――寧ろ、貴女達の方が調子に乗ってるんじゃないかしら、先輩?

 私や小梅がみほの腰巾着だって言うなら、先輩方は何?頭数だけ揃えて、襲い掛かる雑魚敵の集団かしら?と言うか、小梅も言ってた事だけど、大した実力もないのにみほを敵視するってどんな神経してるのか聞きたいモノね?

 あぁ、その程度の神経だから3年経ってもレギュラーに昇格出来なくて2軍のままって事か!あ、2軍じゃなくて最下層の3軍でしたっけか?

 其れだけ芽が出なくとも、整備科とかに鞍替えしなかった根性だけは認めても……あぁ、鞍替えした所で根性が腐ってるから、戦車の整備が真面に出来る筈ないわね。

 ぶっちゃけて言うと、先輩達に引退勧告を突きつけなかった隊長や副隊長の優しさに吃驚よ。――私だったら、速攻でリストラしてるわ。

 兎に角、やるってんなら来なさいよ?こっちはとっくに着替え終わってるんだから……Bitte kommen Sie?(かかって来なさい?)」

 

 

 

辛うじて、調子に乗るなとは言ったけど、其れに対してエリカさんが10倍近いカウンター……流石、相手を罵倒&挑発をさせたら黒森峰一だって噂されるだけあるよ。

腰に手を当てて、左の人差し指をちょいちょいって動かすって言う、分かり易い挑発行動までしてるからねぇ……絶対に今のエリカさんは、先輩達に向かって、見下すような笑みを浮かべてるよね……

 

となるとまず間違いなく……

 

 

 

「良い気になるなよ逸見ぃ!!」

 

 

 

――バキィ!!

 

 

 

其れにキレた先輩がエリカさんに一発!

まぁ、ボクササイズで鍛えてるエリカさんからしたら蠅が止まるような遅いパンチだったから、点と軸を巧くずらして殆どダメージは受けてないと思うけど……小梅さん、撮った?

 

 

 

「はい、バッチリと。

 其れから、先輩達が因縁つけて来た時の会話もちゃんと録音して、私達の部屋のノートパソコンにマルチ送信しときました――遊撃隊の皆にもマルチ送信できますけど、如何します?」

 

「ん~~、其れは良いかな?下手に係わらせる事も無いからね……でも、これでどうなろうとも其方が先に手を出した動かぬ証拠が手に入りましたよ先輩?」

 

「あんな安っぽい挑発に乗るなんて、単細胞も良い所ね?

 まぁ、そのお陰でこっちには大義名分が出来たけど……そっちが先に手を出して来たから、身を守る為に戦った『正当防衛』が成り立つって訳よ!――今の一撃、3倍にして返してやるわ!!」

 

 

 

言うが早いか、私達は3年生軍団に突撃!

数の上では1:4の戦力比だけど、場所が更衣室って言う限られた空間だと、数の差はあんまり関係ないんだよね?……限られた空間だと、一度に襲い掛かる事の出来る人数も限られてくるから。

 

「シャラー!!」

 

「どりゃぁぁぁぁぁあぁ!!」

 

「其処です!!」

 

 

 

先ずは、私の一足飛びからの空中前蹴り、エリカさんの踏み込みからの右ストレート、小梅さんのダッシュからの手刀→サマーソルトキックのコンボが決まり、先ずは3人をKO!

って言うか小梅さんが使った技って何?明らかに『シャキィィン!』って、手刀じゃない音がしたよね!?……KOされた先輩の制服が鋭利な刃物で斬られたみたいになってるし!

私は西住流護身術&西住流格闘術で、エリカさんはボクシングだけど、小梅さんの戦闘スタイルは一体……?

 

 

 

「ハイデルン流暗殺術です。」

 

「「暗殺術!?」」

 

「ちょっと待て赤星!暗殺術って、お前アタシ等を殺す気か!!」

 

「大丈夫です、明るい所では死なないのが暗殺術だって教官が言ってましたから。」

 

 

 

何だろう、絶対に間違ってる筈なのに、妙に納得しちゃうのは……確かに暗殺って言うのは『暗い所で殺す』って書くから、明るい所では死なないのかも知れない――訳はないよね。

まさかの暗殺術には驚いたけど、逆に言うなら私達の中では最も実戦的な戦闘スタイルって言う事が出来るかも知れないかな。

其れに、実戦向きの戦闘スタイルは頼りになるからね?――小梅さん、殺さない程度に思い切りやっちゃってくれる?

 

 

 

「其れは、命令ですか?」

 

「うん、遊撃隊隊長として命令します。」

 

「なら、応えるまでです!」

 

 

 

其処からは正に大乱闘って言うのが相応しい状態だね。

私が西住流護身術と西住流格闘術で先輩を叩き伏せれば、小梅さんは得意の暗殺術で次々と先輩達の意識を刈り取っていくし、エリカさんに至っては、ジャブ×2→一度後ろを振り向いてジャブ→ジャブ×2のコンボ……所謂『パンチ嵌め』で先輩に反撃の隙を与えずに撃破してたからね?

 

「エリカさんて、コー○ィー好き?」

 

「個人的にはガ○の方が好きだけど、私のスタイル的には○ーディーの方が合ってるわね。……ちなみにみほの推しキャラは?」

 

「其れは勿論ハ○ー市長だよエリカさん。」

 

なので、○ガー市長に敬意を込めて、向かって来た先輩をボディブローで怯ませて、そのまま掴んで連続ヘッドバッドからのドロップキック!

この一撃で先輩は気絶したんだけど、ドロップキックを放った後の隙を突かれて羽交い絞めにされちゃったか……普通に考えるなら、絶対絶命のピンチだけど、私を舐めないで欲しいかな?

 

 

 

――ゴスゥ!!

 

 

 

「んな、バックヘッドバットで、羽交い絞めにしてた奴をKOしたですって!?」

 

「はい、そうさせて貰いました……そして、其れだけじゃありません――どぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「羽交い絞めにしてた奴を、腰と背筋の力だけで投げて来た!?」

 

 

 

生憎と、私の身体は西住流フィジカルトレーニングのおかげで、地球人類最強レベルにまで引き上げられてるので、これ位は余裕ですよ?

もっと言うならエリカさんと小梅さんも同じ事が出来るだろうからね。

 

でも、これで残るは貴女を含めて僅か5人……まだ続けますか?――続けると言うのなら付き合いますけど……

 

 

 

 

 

 

「ほう?此れは、私のあずかり知らない所で、こんな事が起っていたとはな?

 矢張り隊長と言うのは、機甲科の生徒全員が帰るまで残って居なくてはならないらしい……」

 

「お姉ちゃん!?」

 

「「隊長!?」」

 

 

「西住姉……!」

 

「嫌なタイミングで現れたわね……!!」

 

「……別にいいじゃない?こいつもちょっと〆てやれば!!」

 

 

 

此処でお姉ちゃん登場!

先輩達は吃驚してたけど、その内の1人が、お姉ちゃんにまで殴りかかろうと!……まぁ、お姉ちゃんなら全然大丈夫だろうけど。

 

 

 

――ガッ!ギリィィィ!!

 

 

 

「ぐぎゃあ!折れる、折れる!!」

 

「3軍の隊員による、隊長への暴行未遂……其れだけでも重罪だが、遊撃隊の隊長と隊員に対する集団暴行とはな?

 マッタク持って呆れてモノが言えん――何故お前達のような連中が黒森峰の機甲科に居るのか、不思議でならないよ。」

 

 

 

突き出された拳を軽々と受け止めて、そのまま体を反転させて腕を逆に極めて見せたからね?……尤も折ってない辺り、可成り手加減をしてるんだろうけど。

だけど、この光景を見た残りの先輩は一様に顔が青ざめてるね?今のお姉ちゃんの動きは、マッタク隙が無い上に、目にも留まらぬ早業だったから、当然と言えば当然だけど。

それ以前に、こんな所を隊長に見つかったって言うのが大きいのかもね。

 

「取り敢えず、助かったよお姉ちゃん。ありがとう。」

 

「何、大した怪我が無いようで良かったよ。エリカと小梅もな。」

 

「まぁ、この程度の相手に大怪我はしませんよ隊長。」

 

「私もみほさんもエリカさんも、軟な鍛え方はしてませんから♪」

 

「だろうな。

 さてと、大体予想は付くが、どうしてこんな事になったのか説明して貰えるか?……隊長室に連行して、凛と天城さんも交えての事情聴取をするとは言え、取り敢えず概要だけは知っておきたいのでね。」

 

 

 

まぁ、お姉ちゃんの考えてる通りだと思うよ?

私とエリカさんと小梅さんが着替えてる所に、この先輩達が現れて、因縁つけられて乱闘になった。因みに先に手を出したのは先輩達だよ。

エリカさんが殴られたからね。

 

 

 

「エリカの頬が少し赤くなってるのはそのせいか……良く分かった。

 因縁と言うのも、大方1年生でありながら、新設された遊撃隊の隊長を任され、そして黒森峰の10連覇の立役者とも言うべきみほが気に入らない。いつも一緒に居るエリカと小梅もと言った所か。

 ……マッタク持って、呆れてモノが言えんな此れは……みほに戦車道で喧嘩を売るなら未だしも、集団暴行と言う手段を取るとは……黒森峰の生徒として、恥を知れ馬鹿者が!!」

 

「ヒィ!!」

 

 

 

……お姉ちゃんの纏う空気の温度が5度くらい下がったね此れは。

腕を極められてる先輩は完全に涙目になってるし……今更ながらに、馬鹿な事をしたのを後悔してるのかもね?時既に遅しだけど。

それで、如何するのお姉ちゃん?

 

 

 

「全員隊長室に連行する。そこで事情聴取をした上で処分を下す。

 但しみほ、エリカ、小梅、正当防衛とは言え、割とシャレにならない怪我をしている奴等も居るから、お前達も無罪放免と言う訳には行かん。

 ……と言うか、明らかに鋭利な刃物で斬られたような傷のあるそいつは一体誰がやったんだ。」

 

「「小梅(さん)です。因みに、其れは手刀でやりました!」」

 

「小梅……お前、一体何をしたんだ?」

 

「暗殺術使いました♪」

 

「殺す気か?」

 

「みほさんに殺さない程度にって言われてますので大丈夫です――何より、明るい所では死なないのが暗殺術ですから♪」

 

「そうか、明るい所では死なないのか……ならば安心だな。」

 

 

 

……エリカさん、お姉ちゃんは小梅さんのトンでも理論に納得しちゃったんだけど、其れで良いのかな?こう言っちゃなんだけど、あのトンデモ理論で納得するって言うのに、可成りの不安を覚えるんだけど……

なんて言うか、お母さんも納得する気がするんだよね此れ。

 

 

 

「確かに師範も納得しそうねぇ……まぁ、実害は無いから良いでしょ。

 取り敢えず、コイツ等を隊長室に連行しましょ?……流石に4人で12人を連行するのは厳しいから、直下達に応援を要請した方が良いと思うけれどね。」

 

「確かにそうだね。」

 

1人ずつ運んでたら、その間に目を覚まして逃亡する人が居るかも知れないから。

なので、理子さん達を呼んで、先輩達を隊長室に強制連行――理子さんとサトルさんが、思い切り先輩達に対して悪態ついてたのは、可成り怒ってたからなんだろうね。

 

 

で、そのまま隊長室で事情聴取が行われ、その結果、喧嘩を吹っ掛けて来た先輩達は1ヶ月の謹慎及び、機甲科から普通科への転属になり、私とエリカさんと小梅さんは1週間の謹慎が言い渡された。

私達への処分は、相手を怪我させた事と、無罪放免にすると『妹を贔屓してる』って思われるからだろうね。

 

それにしても、今回の件は、何だか嫌な予感がするんだよね……本当に先輩達の嫉妬から来る乱行って事だけなら兎も角として、如何にもその裏側に何かある気がしてならないよ。

 

其れが、私の杞憂であると良いんだけどね……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

ふぅ……マッタク、馬鹿共のせいで余計な時間を使う事になってしまった――凛と天城さんも、付き合って貰って悪かったね。

 

 

 

「まぁ、これも副隊長の仕事だから気にしないでまほ。」

 

「最高学年の生徒として、付き合わない訳には行かないしね。」

 

「本当に感謝するよ、2人のおかげで事情聴取が円滑に進んだからな……正直、私1人では3倍では済まない時間がかかっていた筈だよ。」

 

「3倍って……其処までは無いと思うけど、役に立てたのなら光栄ね。

 時にまほ、みほ達の処分は兎も角として、あの馬鹿共への処分が少し軽くない?――みほ達に喧嘩を売っただけじゃなくて、その内の1人は、貴女に殴りかかって来たんでしょう?

 隊長への暴行未遂……其れだけでも、退学にする充分な理由になるでしょう、黒森峰なら?」

 

 

 

其れは其の通りなんだが……よくよく考えてみると、今回の一件は彼女達が自分達の意思で行ったとは考え辛いんだ。

もしも、本当にみほ達の事が気に入らないのなら、大会前に行動を起こして、みほ達を出場できないようにするのが一番の筈だ。――にも拘らず、大会が終わったこのタイミングで因縁をつけると言うのは少しばかり解せん。

其れに、問題行動を起こせば内心に影響し、進学や就職で不利になるのは火を見るよりも明らかだろう?……にも拘らず、今回の凶行を起こした事を考えると、誰かに入れ知恵されたのかも知れん。

 

 

 

「そそのかされたって事?」

 

「有体に言えばな。」

 

尤も、其れが誰なのかは分からん――黒に近い灰色なのはOG会だがな。

アイツ等は、結果を出しているにも関わらず、みほの戦車道が『黒森峰の王道に反する』と言う下らん理由で認めようとはしなかったからね。

つまり、アンチみほのOG会が、西住に対して良い感情を持ってない連中を焚きつけた可能性はゼロじゃない。

其れを考えて、退学には待ったをかけたんだ。

 

もしも誰かに入れ知恵されたのならば、真に罰すべきは入れ知恵した奴だしね……尤も、彼女達はもう二度と戦車道に係わる事は出来ないだろうと思うがな。

高校で芽の出なかった戦車乗りを欲しがる大学は居ないだろうし、社会人のチームでは言うに及ばずだ。

結局、彼女達は自らの手で己の未来を潰しただけだったって言う事だ……一応緘口令は敷いたが、人の口に戸は立てられんから、噂話として、今回の件が学園に広まるのは間違いないしな。

 

 

 

「温情処置と思ってたら、実は思いっきり容赦がなかったわね?」

 

「容赦する筈がないだろう凛?

 アイツ等はみほに手を出した……その事実だけでも、ティーガーⅠの88mmの的にしたいくらいなんだ――其れを、この程度で済ませてやったのだから、感謝して欲しい物だ。」

 

「流石まほ、みほちゃんの事となると容赦ないわ~~♪」

 

 

 

其れは、褒め言葉と受け取っておきますよ天城さん。

みほの為なら、私は悪魔にだってなれるからね……しかし、今回の一件で最も黒に近いのはOG会だから、徹底的に調べ上げる必要がありそうだな?

連中はシラを切るかも知れないが、シラを切る事が出来ない位に証拠を集めれば其れでカタが付くからね。

 

 

それにしても、其れとは別にどうにも胸騒ぎがするな?

今度の土曜日は熊本港に寄港する事になってるから、みほと共に実家への帰省を考えてるんだが……如何にも其処で何かが起きる気がしてならん。

 

如何か、此の胸騒ぎが杞憂である事を祈るだけだ……此の胸騒ぎが現実となったその時は、絶対に良くない事が起るだろうからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

1週間の謹慎が明けたと思ったら、今日は熊本港への寄港日!久しぶりの陸だね!!

とは言っても、私とお姉ちゃんはお母さんに優勝の報告があるから、実家の方に行く事になってるんだけど……エリカさんと小梅さんは如何するのかな?

 

 

 

「そうねぇ、特に予定もないし……もしも良ければ師範への優勝の報告に、同行させて貰ってもいいかしらみほ?」

 

「実は、私もそう言おうと思ってました。

 やっぱりみほさんが率いた遊撃隊の隊員として、優勝の報告は行いたいですからね♪」

 

 

 

おっと、まさかの同行願い?

だけど、全然OKだよ、エリカさん、小梅さん。――むしろ、私と姉ちゃんだけで行くよりもエリカさんと小梅さんが来てくれた方が、お母さんも喜ぶと思うしね。

 

 

 

「師範に喜んでもらえるとは光栄じゃない?なら、遠慮なく御一緒させて貰うわ。」

 

「失礼にならないように、お土産を持って行くべきでしょうか?……此処は矢張り長崎カステラが安定ですね。」

 

 

 

……小梅さん、そんなに気を遣わなくて良いからね?お母さんはあんまりそう言うのを気にしないから。

まぁ、お母さんは意外と甘いモノが好きだから、カステラをお土産に持ってったら喜ぶのは間違い無いと思う――其れを表に出すか如何かは別にしてね。

 

 

 

「まぁ、師範が喜ぶ姿ってのは想像出来ないわ。」

 

「教え子が勝っても、表情を崩さずに拍手で終わりそうですかねぇ……」

 

「其れが、西住流の師範だからね。」

 

其れは兎も角、お母さんは褒めてくれるよね?――黒森峰の10連覇を達成した訳だしね……濁流に飛び込んだ事に関しては叱られるかも知れないけどね。

 

だからお母さんは大丈夫だろうけど、問題はお婆ちゃんだよ……一体何を言ってくるか分からないからね。

 

 

 

「そう言えば、家元……もとい、頭の固い梅干しババアが居たわね……」

 

「あの人は何を言ってくるのか分かりませんから、最大限に警戒しておきましょう……出来れば、何も起きて欲しくないんですけどね……」

 

「何も起きなければ最高だけど、そうは行かないだろうからね。」

 

 

 

 

 

結果だけを言うなら、何も起きないなんて言う事は無かった。

お母さんへの優勝報告を行ってる最中に、お婆ちゃんが乱入して、色々とあの試合について難癖をつけてくれたからね……だけど同時に確信した――おばあちゃんの言う西住流は、叩き潰すべきだってね……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer98『家元が破滅の一手を打ちました、です』

今回で98話……原作には何時辿り着くのかな?Byみほ      知らないわね……作者に聞け、作者に!Byエリカ     ……応答がありません、只の屍の様ですBy小梅


Side:みほ

 

 

と言う訳で、学園艦は無事に熊本港に入港して、生徒達も思い思いに陸に上がって行ってるみたいだね?――中には陸に上がらないで、学園艦に残ってる人も居るみたいだけど。

 

私とエリカさんと小梅さんは、身支度を整えて下船。

此のまま、私の実家に向かう予定なんだけど……

 

「まぁ、当然隊長であるお姉ちゃんと、副隊長である近坂先輩も居るよね?」

 

「普通に考えて、隊長が報告に行かないとか有り得ないもの。」

 

「御一緒させて頂きます、隊長。副隊長♪」

 

「あぁ、一緒に行こうか?私と凛だけでなく、遊撃隊の3人も一緒と言うのは、お母様も喜ぶだろうしね。」

 

「その可能性はあるわね。

 ……で、アレが迎えなんでしょうけど、なんでオスプレイ!?普通は、車じゃないの!?西住流の事だから、戦車でのお迎え位は予想してたけど、アレは流石に予想外よ!!」

 

 

 

あはは……まぁ、迎えに来てくれたのが菊代さんだからね?

中学時代は、あれで学校に通ってたから、私は驚かないけど、やっぱり慣れてないと驚くよねぇ……港に居る人の注目集めまくりだし。

でも、陸路で行くよりもずっと早いし、意外と快適だから♪

 

 

 

「ま、空の散歩ってのも悪くないわね?」

 

「でしょ、エリカさん?」

 

其れじゃあ、西住本家に向かって、ぱんつぁ~ふぉ~~~♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer98

『家元が破滅の一手を打ちました、です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菊代さんの操縦するオスプレイで移動する事、10分弱で実家に到着!

機内では、久しぶりに菊代さんと沢山話す事が出来て楽しかったなぁ~~――川に飛び込んだ事に関しては、『仲間を助ける為とは言え、あまり危険な事はなさらないで下さい。』って、やんわりとお説教されちゃったけどね。

でも『危険を顧みずに、仲間を助けた行動は立派でした』って言ってくれたから、あの行動は決して間違いじゃなかったんだって自信がついたよ――エリカさんと小梅さんもね。

 

実家に到着したと言っても、オスプレイの発着場は母屋から少し離れた所になるから、其処からはちょっとだけ歩く事になるんだけどね。

 

 

 

「ねぇみほ、私の見間違いじゃ無ければ、さっきラーテの姿が見えたんだけど……西住流ってあんなトンでも兵器まで持ってる訳?」

 

「使う事は無いんだけどね。

 って言うか、アレは殆どお父さんの趣味なんだよ……『ドイツ戦車と関係が深い西住流なら、大戦期のドイツ戦車は揃えるべきだ』って言ってたから。」

 

「設計図しか存在しない戦車を造ってしまうのには驚きだったな?

 尤も、置き場所に困ると言う事で、お母様から『造り過ぎないように』と釘を刺されてるみたいだがね……」

 

「正直言って、何処に突っ込みを入れれば良いのか分からないわ此れ……」

 

「突っ込み所満載ですからねぇ……」

 

「奥様も、旦那様の趣味には、少々頭が痛いようですから♪」

 

 

 

其れでも『止めろ』って言わない辺り、頭が痛くても、お父さんの趣味を否定する気はないんだろうねお母さんも。

さてと、そんな事を話してる間に母屋の正門前に到着~~!……今更だけど、何で西住の本家って家の造りは和装なのに、正門は造りは洋装なんだろう?

今の建物は戦後に再建したモノらしいから、当時の家元であるひいお婆ちゃんの趣味だったのかも知れないね。

 

其れは何れお母さんに聞いてみるとして、お姉ちゃん久しぶりにアレやろうか?

 

 

「アレか?……偶にはいいかも知れないな。」

 

「それじゃあ、せーの!」

 

 

「「ただいまーーーーーー!!」」

 

 

「はい、おかえりなさいませ。まほお嬢様、みほお嬢様。」

 

 

 

お姉ちゃんと一緒に、お腹の底から『ただいま』を叫ぶ!そして、菊代さんが其れに応えてくれる……うん、とっても久しぶりな感じだよ。

って、アレ?エリカさんも小梅さんも近坂先輩も、なんでそんな唖然と――あ、若しかして、私だけじゃなくてお姉ちゃんがこんな事するなんて思わなかった?

 

 

 

「ぶっちゃけて言うならその通りよみほ!貴女なら兎も角、隊長まで一緒になってやるとは思わなかったわ!!」

 

「ふふ、予想外だったかエリカ?

 だが、子供の頃は遊んで帰って来るとこうして正門で2人で大声で『ただいま』と言って、菊代さんが其れに返してくれていたんだ。」

 

「そうそう。

 それで、書斎か大広間に居るお母さんにまでちゃんと聞こえてたら100点満点、整備中のお父さんに聞こえてたら10000点だったんだ。」

 

「意外と、子供の頃は子供らしい事してたのねまほも。」

 

「ちょっと想像出来ませんけどね?」

 

「みほお嬢様は大きくなっても快活なままですが、まほお嬢様は大きくなられるにつれて雰囲気が落ち着き、若い頃の奥様に似て来てられます……今のまほお嬢様から、快活な子供時代を想像するのは、少し難しいかも知れませんね。」

 

 

 

……菊代さん、其れって暗に私の事『子供っぽい』って言ってる?

むぅ~~……確かにお姉ちゃんと比べれば子供っぽいかも知れないけど、此れでもちゃんと成長してるんだよ?……ボコのヌイグルミ集めが止められない辺りが子供っぽいのかも知れないけどさ……

 

 

 

「いえいえ、そんな事は申しておりませんよ?

 まほお嬢様も、みほお嬢様も、何方も夫々に違った魅力があって素敵であると言っているのです――其れに、昔も今も、菊代はお嬢様達をお慕い申し上げております。」

 

「むぅ~~……その言い方はずるいよ、菊代さん!」

 

「ふふ、今も昔も、菊代さんには勝てないさ。

 其れよりも、そろそろ広間に行こうか?私とみほの声は、お母様に聞こえていた筈だ……となれば、何時来るのかと首を長くして待っているだろうからね。」

 

 

 

お母さんが首を長くして待ってる……首の長いお母さん――『妖怪・ろくろ首戦車貞子』参上!!

 

 

 

「「「「「「ぶっ!」」」」」」

 

「あ、予想外に大ヒット。」

 

な~~~んて、下らない事はこの辺までにして、大広間にだね。

自分の家にも関わらず、あの大広間に行くのは緊張するんだよね~……きっと、あの大広間で西住流の色々と大事な事が行われて来たのを子供の頃から見てるからなんだろうな~……さて、行こうか!

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

程なく大広間に到着した私達は、上座に座るお母さんに対面する形で下座に座る。勿論全員が正座をしてね。

 

 

 

「西住流師範へ報告。

 我等黒森峰女子学園は、第62回全国高校戦車道大会を制し、大会10連覇を達成した事を、此処に報告いたします。」

 

「前人未到の大記録、実に見事でした。

 今大会、全ての試合に於いて王者らしい堂々とした戦いぶりであったのは勿論の事、新設した遊撃隊も良く働いてくれましたね。

 新設の遊撃隊を用いてのこの結果は見事と称しますが、この結果に満足する事無く、更に精進する様に。」

 

 

 

先ずは形式的な報告から。

結果に満足する事無く更に精進せよって言うのは、日頃からお母さんが言っていた事だね――結果に満足して、精進を怠ったら、それ以上の成長は望めないから、結果に満足したらダメなんだよね。

 

尤もそれは、この場に居る全員が分かって居る事だから、声を揃えて返事をしたけど。

 

で、お母さんは其れに満足そうに頷くと、表情を崩した……此処からは『西住流師範』じゃなくて『西住しほ』としてって言う所だね。

 

 

 

「堅苦しい報告と応えになってしまいましたが、此度の偉業は本当に素晴らしい物でした。

 まほは隊長としてよくやってくれましたが、其れも貴女と言う副官が有ってこその事……近坂さん、副隊長としてまほの事をよく支えてくれました……貴女ほどの副官が居なかったら、此処までの結果を残す事は難しかったかも知れません。」

 

「そんな、恐縮です師範。

 私はただ、友としてまほの事を支えただけで、偶々其れが良い結果に繋がっただけで……この結果は、まほが隊長だったからこそです。」

 

「戦車道にまぐれなし、あるのは実力のみです。

 偶々ではありません、貴女にはまほの副官足り得る確かな実力があったのですよ、近坂さん。」

 

「……その言葉、身に余る光栄です……此れからの励みとさせていただきます!」

 

 

 

先ずは近坂先輩を大きく評価したね――確かに近坂先輩の副隊長としての働きは見事だったし、お姉ちゃんはお姉ちゃんで、副隊長である近坂先輩の事を信頼していたから。

中には、私が副隊長だったらって言う人も居るみたいだけど、私じゃなくて近坂先輩だからお姉ちゃんの副官が務まった――妹じゃなくて、お姉ちゃんが、自ら選んだ近坂先輩だからこそね。

 

 

 

「そして、新設された遊撃隊……貴女達の存在失くして、黒森峰の10連覇は語れないでしょう。

 黒森峰が王道として貫いて来た戦車道の弱点を補う戦術は、黒森峰のOG会からしたら、否定したい物かもしれませんが、遊撃隊の戦術的サポートが無かったら、黒森峰は最悪の場合、1回戦の聖グロ戦で敗退していたかもしれません。

 そういう意味では、遊撃隊こそが今大会の一番の功労者であると言えるのかもしれませんね。」

 

 

 

続いては、私達遊撃隊に対しての賛辞……少しくすぐったいけど、こうして褒められるって言うのはやっぱり良い気分だよ!

エリカさんと小梅さんも、褒めれられた事は満更でもないみたいだし――此れなら、遊撃隊の車長全員を連れて来ても良かったかもしれないよ……後2人位増えても、キャパシティーは全然余裕だし。

 

 

 

「何よりも決勝戦でのハプニングの際の行動は見事でした。

 即座に試合を中止させ、危険を顧みずに濁流に飛び込み、仲間だけでなくプラウダの生徒達をも救出した……アレは、本当に素晴らしかった……だけでなく、あの行動は戦車道を守る行動でした。」

 

「「「「「戦車道を守る?」」」」」

 

 

お母さん、其れって如何言う事?

 

 

 

「もしもあの事故で死者が出ていたら、戦車道は危険なスポーツと見なされ、廃止が検討されていたかもしれません……そうなれば、来年の大会はおろか、誘致を目指している世界大会をも中止せざるを得ない状況になっていたかも知れないのです。

 ですが、貴女達が水没した戦車の搭乗員全員を救助した事で死者はゼロで、戦車道そのものが危険と見なされる事は有りませんでした。」

 

「あ~~……うん、そう言う事か。」

 

「確かに死者が出てたら、戦車道そのものが取り潰されてたかも知れませんね……」

 

 

 

だから、戦車道を守ったって言う事か……私としても、大好きな戦車道を守る事が出来たんなら光栄だよ♪

 

 

 

「本当に見事でした……見事でしたが――幾ら仲間を助ける為とは言え、濁流と化した川に飛び込むのは幾ら何でも無謀が過ぎます。

 今回は大事には至りませんでしたが、最悪の場合は飛び込んだ己が濁流に呑まれて、命を落としていたかもしれないと言う事を肝に銘じておきなさい。

 特にみほ――まさか、2度も娘の『死』を予感するとは思わなかったわよ?

 若しも川に飛び込んだ貴女が戻って来なかったらと言う事は、嫌でも考えてしまうのよ……貴女が左腕を失った時に、病院で二度と目を覚まさないんじゃないかと思った時の様に。

 エリカさんと小梅さんの御家族だって、同じように思ったかもしれないわ……仲間を助けた行動は素晴らしいし、あの濁流に飛び込んだ勇気も評価するけれど、もっと自分を大事になさい?……此れは母としての願いであり、西住流師範としての命令です。」

 

「……はい。分かりました……」

 

「ミイラ取りがミイラになったら、本末転倒ですからね……」

 

「お父さんやお母さんよりも、姉さんにめっちゃ叱られたわね私も……今度会ったら、暫く抱き枕にされるわねきっと。」

 

 

 

アールグレイさん。(汗)……愛されてるねぇ、エリカさん。私もだけど。

でも、自分を大事にするのは分かったけど、其れでも私は、仲間が危機に陥ったら、また自分の身を顧みずに助けに行くと思う。理屈とか、そう言うんじゃなくて、仲間を助けて皆で勝つのが、私の戦車道だから。

 

 

 

 

 

 

「ふん、何ともなまっチョロい戦車道じゃな、みほや。」

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「!!!」」」」」」」

 

 

この声は、お婆ちゃん!……何の用かなお婆ちゃん?

私達は、『西住流の師範』に優勝と10連覇達成の報告に来たんであって、『西住流の家元』に用が有った訳じゃないんだけど……って言うか呼んでもいないのに来るって……

 

 

 

「ふぇっふぇっふぇ……師範には報告して、その上に居る家元に報告なしとは寂しいのう?」

 

「そんな事思ってないよね?

 其れよりも、私の戦車道がなまっチョロいって如何言う事かな?……私は、真剣に戦車道をやって来たのに、其れをなまっチョロいって言われたら、流石に頭にくるんだけど……」

 

「みほの戦車道がなまっチョロく見えるんなら、耄碌してるんじゃありませんか家元?

 ……文字通りフィールドの全てを使って、会場の天気を『晴れ時々砲弾のち信号機、所によって電柱または歩道橋でしょう』ってな感じにする戦い方に、一分のなまっチョロさもありませんけどねぇ?」

 

「みほさんの戦車道がなまっチョロいんでしたら、仲間割れしてるBC自由や、吶喊馬鹿の知波単とかどうなるって言うんですか?」

 

 

 

エリカさんと小梅さんからの援護射撃!

近坂先輩は、お姉ちゃんが目配せをして黙って貰ったみたい……お姉ちゃんは、何時も通り表面上はお婆ちゃんの言う事に従う姿勢を見せて、近坂先輩も其れに倣わせえた訳か。

まぁ、此処で副隊長が家元に噛み付いたとなったら大問題になるだろうからね。

 

 

 

「BC自由や知波単なんぞ、取るに足らぬ有象無象よ。

 ワシが言っとるのはみほ、仲間を救うと言うその軟弱な姿勢よ……戦場で散るは、戦士の誉れじゃろう?其れを助けるなど、アホらしいとしか言いようがないわい!」

 

「……お婆ちゃん、馬鹿なの?

 そんな旧態依然の、戦前の精神論を、21世紀に入った平成の世に持ち出さないでくれる?」

 

其れに『戦場で散るは、戦士の誉れ』って、本気でそう思ってるの?

どんな事だって命あっての物種で、死んだら何も残らない……誉も誇りも、あの世に持って行く事は出来ないんだから――と言うか、そんな考えは、生き延びた者達の勝手な押し付けだよ。

何よりも、戦車道は『礼節』、『道』を教える『武道』であり、ルールのある『スポーツ』であって、只相手を殲滅すれば良い『戦争』じゃない。

そのスポーツの世界で、仲間を見殺しにして得た勝利に、一体何の価値があるって言うの?

もしも、私達がサトルさん達を見殺しにして勝った所で、そんな勝利に意味は無い……勝利と引き換えに、仲間の命を犠牲にしたって言う後悔の念が残るだけな上に、メディアからも『仲間を見殺しにして得た、暗い勝利』って叩かれてたと思う。

其れなのに、仲間を助けるのが悪いって言うの!?

 

 

 

「……滑落したパンターの乗員を助けたのは、百歩譲って良いとしよう。

 じゃが、滑落したIS-2の乗員まで助けるとは如何言う心算じゃ?プラウダは敵じゃろう!敵を助ける道理などないわい!!」

 

「プラウダが敵?何言ってるの?

 確かに決勝戦で戦う事になったけど、プラウダは敵じゃなくてライバル――戦車道を通じて互いを高める好敵手であり、私達と同じ、戦車道をやってる『仲間』だよ。だから助けた。」

 

「命の価値に敵も味方もない……IS-2の砲手に言ったみほさんの一言は、正に至言ですね。」

 

「加えて、この間はプラウダの隊長さんが直々にお礼を言いに来てくれたってのに……プラウダの隊員を助けた事を否定するって、一体如何言う脳みそしてるのか疑いたくなるわ。

 梅干しみたいにしわくちゃになってる顔面と違って、脳味噌はつるっつるのゆで卵何ですかねぇ家元は?」

 

「……口を慎めよ小娘が……」

 

 

 

更に其処から、プラウダの乗員を助けた事を否定して来たけど、其処は私の考えをぶつけて、更に小梅さんが援護してくれて、エリカさんが必殺の毒舌口撃!

普通なら西住流の家元に、此処まで言う事なんて出来ないかも知れないけど、エリカさんは全く気にしてない……此れは、相当に怒ってる証だね……まぁ、私も怒ってるけどね。

 

口を慎めって、その言葉はそっくりそのまま返すよお婆ちゃん!

命は一つしかないんだよ?其れを救って何が悪いの?――仮に、私達が救助活動を行った事で負けたのなら兎も角として、勝利と仲間の命の両方を手にしたのに批判される言われはないんだけど?

 

 

 

「黙れみほ!

 西住流は勝利が全てじゃ!犠牲失くして勝利は無い……勝つ為に必要な犠牲ならば、非情になって斬り捨てい!!」

 

「断るよ!其れに、滑落した戦車の乗員は、勝つ為に必要な犠牲なんかじゃない……犠牲になったら取り返しのつかない人達だった!!」

 

そんな事も分からず、只勝利を求め、勝利が人の命よりも重いのが西住流だって言うのなら……私はお婆ちゃんの言う西住流を否定する!

人の命を軽んじてる様な流派なんて、こっちから願い下げだよ!!

其れでも、勝利を第一に考えろって言うなら、私は西住流じゃなくて良い!!

 

 

 

「そうね、私も否定するわ。

 と言うか、みほの戦車道を否定した家元をね……みほが居てくれたからこそ、私は強くなれた――そのみほを否定する様な家元様を肯定する事なんて出来ないモノね。」

 

「私もエリカさんと同じ意見です。

 勝利の為に、仲間の命をコストにすると言うのなら……其れが西住流であり、黒森峰の戦車道に求められるモノだと言うのなら、私も家元の言う戦車道を肯定する事は出来ません。」

 

 

 

エリカさんと小梅さんも……!!

私にとっては嬉しい援護だけど、お婆ちゃんからしたら面白くないだろうね……おでこに青筋が浮いてるし。

 

 

 

「小娘共が吠えおったなぁ!?

 其処まで言うなら良いじゃろう……西住流の家元として、ワシはお前を西住流から破門するぞみほ!!

 そして、逸見エリカ、赤星小梅、貴様等も破門じゃ!!黒森峰に進学した時点で、お主らは西住流の門下生として登録されておるが、今この時を持って、お前達3名を破門する!!」

 

「破門?……上等だよ!!」

 

「アンタみたいな旧態依然の梅干しババアが家元やってる流派なんて、こっちから願い下げだわ……師範が家元だったら、ドレだけ良かったかって思うわねマジで。」

 

「いっその事、師範が家元になれるように、嘆願書でも集めましょうか?

 今の黒森峰の生徒は、中学時代の合宿で、師範の指導力を目の当たりにしてますから、集めようと思えば、可成り集まりますよね?」

 

 

 

お婆ちゃんの言う『西住流』には、子供の頃から疑問を持ってたけど、まさか此処まで勝利に固執してるとは思わなかったよ……!!

私とエリカさんと小梅さんは言うまでもなく、お姉ちゃんにお母さんに菊代さん、果ては近坂先輩まで『何言ってんのお前?』って顔をしてるからね。

 

 

 

「みほだけでなく、逸見エリカと赤星小梅も破門ですか……その言葉、取り返しがつきませんよお母様?」

 

「取り返しがつかないじゃと?だからなんじゃと言うんじゃしほよ!」

 

「黒森峰は西住流を色濃く反映している学園であり、機甲科の生徒は黒森峰に在籍した瞬間に、西住流の門弟として登録される。

 ならば、西住流を破門になった者は、学園に居る事は出来ない……みほと、エリカさんと、小梅さんは、破門された以上、黒森峰を出て、他の学校に転校するしかないでしょう?」

 

「……!!」

 

 

 

転校……成程、そう来たか。

確かに西住流を破門された以上、黒森峰に居る事は出来ないからね。

私は其れでも良いけど、エリカさんと小梅さんは、其れでも良いの?――特にエリカさんは、お姉ちゃんに憧れて黒森峰に来たって言うのに西住流を破門された上で転校だなんて……

 

 

 

「確かに私はまほさんに憧れて黒森峰に来たけど、私の戦車道の始まりは貴女なのよみほ。

 私の戦車道の始まりである貴女が居ない黒森峰なんて意味は無い……まほさんへの憧れとは違う――私は、貴女と一緒に戦車道をやりたかったのよみほ。

 貴女が黒森峰を去るなら、私も去るわ!!」

 

「私もですみほさん。

 中学の大会で貴女と戦ってから、私はずっとみほさんを目標にしてきました……そして、貴女を目指していたからこそ今の私があるんです。

 みほさんが、黒森峰から去るなら、私も去ります!!」

 

「エリカさん、小梅さん……」

 

其処まで私の事を……うん、正直に言って嬉しい。

そして、私が其処までの影響を与えていた事に驚きだよ……

 

 

 

「その友情、美しきなり!

 西住流家元の命により、西住みほ、逸見エリカ、赤星小梅の3名は西住流を破門となり黒森峰から転校と言う事で――尤も、今から転校の手続きをしても色々面倒なので、今年度一杯は黒森峰で過ごす事になりますが、来年度からは別の学校に転校になりますね?

 其れで、宜しいですねお母様?……否、西住流家元殿?」

 

「……く……まぁ良いじゃろう。

 勝利の為に命を犠牲に出来ぬ軟弱者など、西住流には要らぬ……来年度は、何処へたりとも好きに行くと良いわ!!」

 

 

 

言われなくてもその心算だよ!!

何処に行くかはこれから決めるけど、行った先でも私は戦車道を続けて、そしてお婆ちゃんの言う『西住流』を真っ向から否定してあげるよ!

私は、お婆ちゃんの言う『西住流』を叩き潰す!!

 

 

 

「吼えたなみほ!……軟弱者が、やれるならやってみるが良い!!」

 

「やってあげるよ……見せてやる、西住の……否、私の戦車道を!!」

 

「目ん玉かっぽじって、よく見なさい!!」

 

「エリカさん、目玉をかっぽじったら見れませんよ……」

 

 

 

私が軟弱者だって言うなら其れでも良いけど、人の命を軽く見る事は絶対に認められない!!

その考え方は、絶対的に間違っているって、私が――私達が証明する!!……そして、お婆ちゃんの言う西住流は、私達が終わらせるよ!

例え破門されたとしても、隻腕の軍神の軍刀は錆びつかないし、孤高の銀狼の爪牙は鈍らず、慧眼の隼の目は濁らない……私とエリカさんと小梅さんを破門した事を、後悔すると良いよ!

 

今、この瞬間から、私達は黒森峰の敵になったって言っても過言じゃないんだからね……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

最後の最後に悪態をついて、お婆様は部屋から出て行ってしまったか……場の空気を悪くする事に関しては天才的だなあの人は。

 

大会の結果を報告に行けば、お婆様が介入してくるのは予想していたが、まさかみほとエリカと小梅に破門を言い渡すとは思わなかったな。

尤も、この間の暴行事件を考えれば十分予想できた事ではあるか……更衣室で、みほとエリカと小梅に因縁をつけて暴力沙汰を起こした連中は、OG会からの指示で乱行に及んだ事は調べがついている。

そして、OG会をそそのかしたのがお婆様であると言う事もね。

 

 

 

「まほ、其れは本当なの?」

 

「はい、本当ですお母様。」

 

黒森峰の諜報部隊だけでは心許ないので、聖グロの『GI16』に協力して貰いましたが、お陰で有力な情報を得る事が出来ました……恐らくですが、お婆様は暴力沙汰でみほの心を折り、その上で己の言う西住流を会得させ、みほを己の手駒にする心算だったのかも知れません。

尤も、其れは上手くいかず、みほ達を黒森峰から追放すると言う鬼札を切って来た……己の思い通りにならないのならば斬り捨てる――お婆様らしいやりかたですよ。

 

私の予想通り、OG会の暴走があったとは言え、其れを誘発したのはお婆様だと言うのは、幾ら何でも笑えないからな。――まったく、お婆様の思考は到底理解の範囲を超えている。

 

だが、其れを選択したのは家元であるお婆様だ……ならば、その選択を後悔させてやるまでだ。

私とお母さまが中から、みほが外から貴女の言う『西住流』を破壊する……精々覚悟しておけ、貴女の時代は既に終わっているのだから、そろそろ退場して頂くぞ、西住かほ……!!

 

 

 

「まほ……貴女には負担ばかり掛けるわ……ごめんなさいね。」

 

「気にしないで下さいお母様……此れもまた、私の務めですから。」

 

みほを、大切な後輩を守る為ならば、私は蛇蝎の如く忌み嫌われようとも、覇道を突き進むだけです……そして、その覇道の先に待っているのは、間違いなくみほであり、エリカであり、小梅でしょう。

 

転校は来年に入ってからと言う事だが、転校先の学校を探すのは始めなくてはならないか――何にせよ、転校先でも負けるなよみほ!!

私は、何時だってお前の勝利を願ってるんだからな……

 

 

 

「うん、勿論だよお姉ちゃん。転校先でも、私の戦車道を続けるから。」

 

 

 

 

しかし、みほとエリカと小梅が黒森峰を去るって言うのは、大きな戦力ダウンなんてモンじゃないな――尤も、お婆様が難癖付けて来た時点で、予想はしてたがな……

 

「エリカ、小梅……」

 

転校先に編入するのは4月からとは言え年度末までは黒森峰に在籍してる訳だからね、ならばせめて最後の思い出を作って来い……みほの事をよろしく頼む……!!

 

 

 

「「了解!」」

 

「ふふ、良い返事ですね……これからも己を高めなさい!!」

 

「「はい!!」」

 

 

 

言われずともその心算ですよお母様。

我等に負けは無い……其れは此れから始まる、お婆様との戦いでも同じです。――みほとエリカと小梅を破門した愚行、其れをその身で知って頂かねばなりませんから。

 

 

だが……みほは覚悟していたが、まさかエリカと小梅までもが黒森峰を去ることになるとはな……

 

此れで黒森峰は最大の爪牙を失う事になるか……来年度以降の大会に不安を覚えるのは仕方ないのかも知れん――それ程までに、みほとエリカと小梅の存在は大きかったのだろうな……正に失って初めて気づくと言う奴だ。

 

だが、悲観ばかりではい……みほ達が追放された事で、西住流の改革に打って出る事が出来るし、私もようやく本性を現す事が出来る。

 

精々覚悟しておくがいいさ西住流家元殿……貴女の言う『西住流』は、私達の『西住流』が真っ向から否定するからな………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer99『みほとエリカと小梅の向かう先は?です』

何とか100話で大洗に行けそうだよ?Byみほ      でも100話で原作に入る訳じゃないのよね?Byエリカ     ですね……ぶっちゃけ作者が死にかけてますBy小梅


Side:みほ

 

 

『人の口の戸は建てられない』とはよく言った物で、週が明けて3日が経つ頃には、黒森峰の機甲科には、今年度が終わると同時に私と、エリカさんと、小梅さんが黒森峰から去るって言う事が知れ渡っていた。

お姉ちゃんや近坂先輩が言いふらすとは思えないし、私達も何も言わなかったんだけど……若しかしたら、ちょっとした会話の彼是から、知られたのかもね。

 

 

 

「何で、みほ達が黒森峰から去らなきゃならないんだよ!!そんなの納得できないっての!!

 みほは仲間の命を助けた上で勝利を手にしたのに、其れを破門にするって――!!てか、みほだけを破門するだけじゃなくて、逸見と赤星まで破門するとか、何考えてんだ、あの梅干しババアは!?

 ちょっくら、家元にヤークトパンターの88㎜をブチかましてくるわ。」

 

「うわ~~!其れは流石に駄目だよ理子さん!!

 幾ら西住流の家でもヤークトパンターの88㎜を喰らったら只じゃ済まないから!――尤もお母さんと菊代さんは、無事かもしれないけど。」

 

でも、其れは駄目だよ!

怒りに身を任せて暴力を振るったら、其れはお婆ちゃんと同じになっちゃうからね……私達は、お婆ちゃんの西住流を否定する為に黒森峰から去るんだよ。

 

そして、だからこそ、貴女には此処に残って欲しいんだよ理子さん。

私達が去った後で、隊長を支える事が出来るのは理子さんだけだからね……お姉ちゃんの事、お願いね?

 

 

 

「分かった……だけど、お前達が何処に行こうと私達は仲間だ!其れだけは変わらないからな、みほ、逸見、赤星!!」

 

「はい、忘れませんよ理子さん!」

 

「忘れたくても、貴女を忘れるのは難しいわよ直下。」

 

 

 

うん、絶対に忘れないよ理子さん!――貴女もまた、遊撃隊の大事な仲間だったんだからね。

……こんな事やっといてなんだけど、私もエリカさんも小梅さんも、今年一杯は黒森峰に在籍してるんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer99

『みほとエリカと小梅の向かう先は?です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梓

 

 

第62回全国高校戦車道大会は、ハプニングがあったけど、最終的には西住先輩率いる遊撃隊が其の力を発揮して、プラウダのフラッグ車を撃破して、10連覇を達成!

表彰台で、真紅の優勝旗を手にする西住先輩と、姉隊長はスッゴクカッコ良かった。

 

で、その先輩達に少しでも近づくために、夏休みは西住流の本家で黒森峰との合同合宿!!

私は今年で都合3度目の参加なんだけど、そうであってもマダマダ学ぶ事は多いから、戦車道って言うのは奥が深いんだって実感出来る。

 

 

 

「ホント、学べば学ぶほど深いわぁ。

 こう言っちゃなんだけど、ドイツは戦車道の強豪国なんて言われてるけど、日本も相当にレベルが高い……って言うか、私が暴れまくってたドイツのジュニアリーグなんて、お遊びの延長だったんじゃないかって思えるわ、日本の大会に出た今では。」

 

「そうかなぁ?ツェスカは強いと思うよ?

 今年の大会では、僅差とはいえ勝つ事が出来なかったし。」

 

「其れがオカシイのよ!

 私はグルントシューレ(小学校)の頃から戦車道やってるのに、ハウプトシューレ(中学校)から始めたアズサが略互角になってるなんて事は普通は有り得ないわよ!?」

 

「いや、そう言われても困るんだけど……」

 

マッタクの素人で、変なクセが付いてなかったからスポンジが水を吸収する様にドンドン色んな事を覚える事が出来たのかも知れないし、自分でも気付いてなかったけど、思った以上に私は戦車道が肌に合ってたらしくて……何より私の場合、師匠が普通じゃございませんので。

 

 

 

「其れを言われると何とも……アズサのレーラァ(師匠)は妹隊長だったわね。

 確かに、あの人から教わったんならアズサの急成長も頷けるわ……今のアズサなら、黒森峰の高等部に入学しても、行き成りレギュラーになれるんじゃない?」

 

「ん~~……其れは如何だろう?

 今年の黒森峰の中等部の3年生にはツェスカ以外にも強い人は居たし、持ち上がり以外の受験組でも結構優秀な人は居るから、私が即レギュラーって言う事も無いと思うけど……」

 

特に今年の準決勝で戦った学校の隊長の『辺古美甘(へこみかん)』さんとか、可成り強かったし。

時にツェスカは進路は如何するの?中学は今年で卒業だけど、帰国しちゃうのかな?

 

 

 

「こっちに来た時は、中学卒業までの留学予定だったんだけど、気が変わったから手続きして日本国籍取ってこっちにいる事にしたわ。」

 

「え?そうなの!?」

 

「そうよ。そして、私にそうさせたのは貴女よアズサ。

 今年の大会では勝つ事が出来たけど、練習試合とかでの戦績を合わせれば、大会で勝って漸く星が並んだって言う所でしょ?……貴女と戦車道を続けたいと思ったのよ。

 チームメイトか、其れともライバルであるかは抜きにしてね。」

 

 

 

其れは、嬉しい事を言ってくれるねツェスカ?……私としても、ツェスカがドイツに帰らないのは嬉しいよ?

日本に居るなら、高校でも戦車道が一緒に出来るから!――でも、そうなると高校はやっぱり持ち上がりで黒森峰に?

 

 

 

「そうなるわね。

 正直言って楽しみなのよ、天下の西住姉妹が揃ってて、逸見先輩と赤星先輩もいる黒森峰で戦うのが……まほ隊長の攻撃的な戦車道に妹隊長の奇策・搦め手上等な戦術が加わったら、其れはもう最強でしょう?」

 

「最強だよ!今年の大会だって、姉隊長の剛の戦車道と、西住先輩の柔の戦車道が見事に噛み合ったからこその結果だから!!」

 

「そうなのよ!――って言うかアズサ、そう思ってるって事は、さっきはレギュラーなんてとか言ってたけど本当は……」

 

 

 

うん、私は黒森峰を受験しようと思ってる。と言うか、黒森峰からスカウトも来てるんだ。

私が去年までは西住先輩の副官だったのは結構知られてたみたいなんだよ?……まぁ、其れだけじゃ何て言う事は無いんだけど、今年の大会で負けたとは言え、西住先輩同様に黒森峰を追い詰めたって言うのがスカウトの決定打になったみたいなの。

何よりも、黒森峰に行けば、また西住先輩と戦車道が出来るし、今度はツェスカと一緒に戦う事が出来るしね。

 

 

 

「ふむ、ツェスカだけでなく、澤も黒森峰にか……此れは、来年の黒森峰も安泰だな?」

 

「まほ……じゃなくて、西住隊長!!」

 

「姉隊長!!」

 

い、いらしてたんですか?一体何時から……

 

 

 

「澤の『戦車道は奥が深い~~』あたりからだな。」

 

「ほとんど最初から!?」

 

「今まで黙って聞いていたんですか!?……趣味悪いですよ西住隊長?」

 

「いや、余りにも熱く語っているので話しかける機会を逸してしまってな。

 そう言えばツェスカ、副隊長が探していたぞ?……戻った方が良いんじゃないのか?」

 

「へ?

 あぁ、そう言えばミーティングをするって言ってたっけ!ごめんアズサ、私戻るわ!!」

 

 

 

は~い、ミーティング確りねツェスカ隊長。

……なんて言うか、ツェスカもすっかり隊長職が板についたと言うか、此れは互いに来年度の新隊長を選ぶのに苦労するかも――それで?

 

 

 

「ん?」

 

「いや、そんな不思議そうな顔されても困るんですが、私に何か用が有ったんですよね姉隊長?

 だから、ツェスカをこの場から引き剥がしたんですよね?」

 

「……正解だ。中々の鋭さだ。」

 

 

 

私の師匠は貴女の妹君ですよ?

あの人が師匠なら、否が応でも感覚的な事は――特に相手の思考を予測する事に関しては鋭くなりますって。……と言うか、其処が鋭くならないと、校内模擬戦で西住先輩に何も出来ずに倒されちゃいますので。

尤も、西住先輩は、こっちが予想した事を普通に超えてくるんですけどね……

 

 

 

「其れがみほだからな。

 さてと、お前への要件だが澤……お前は黒森峰に来ない方が良い――否、来るべきではないと言うのが正しいか?」

 

「え?」

 

黒森峰に来るべきじゃないってどういう事ですか?

黒森峰からスカウトが来てるし、私は黒森峰で、また西住先輩と戦車道をやりたいのに……何か、私に黒森峰では受け入れられない欠点があったんですか?

 

 

 

「そうじゃない。お前の戦車長としての能力は私も買っている。

 だが、それ以上にお前がみほの事を慕っている事も知っている……だからこそ、お前は黒森峰に来るべきじゃない――来年度の黒森峰には、みほとエリカと小梅は居ないからね。」

 

「へ?」

 

西住先輩と、逸見さんと赤星さんが居ないってどういう事ですか姉隊長!?

あの3人は、遊撃隊の柱であり、黒森峰の10連覇に貢献した人達ですよね!?――普通に考えれば、来年も西住先輩と逸見さんと赤星さんが中心になって行くって思ってたのに……何で――!!

 

 

 

「此れはオフレコで頼みたいんだが……予てより、危惧していたお婆様とみほとの対立が、大会でのみほ達の救出行動を機に表面化し、その末に、みほとエリカと小梅は、西住流を破門されるに至ったんだ。

 西住流を破門された生徒が、黒森峰で戦車道を続けるのは難しい……と言うか無理だ。

 なのでみほ、エリカ、小梅の3人は、来年度からは別の学校に通う事になるんだ。――寄港日にも関わらず、みほが実家に戻って来てないのは、そのせいだな。」

 

「そんな……って言うか家元は馬鹿ですか!?

 西住先輩達を破門にするだなんて……あの3人が居なくなったら黒森峰の戦力ダウンは避ける事が出来ないって思う筈ですけど………」

 

「思わなかったのだろうな。

 マッタク持って愚かとしか言いようがないが……此れでみほを西住流と言う名の檻から解き放つ事が出来たと思えば悪い事でもないさ。

 だが、エリカと小梅も一緒に行くとは言え、やはり心配はある――転校先に戦車道がなかった場合、一から戦車道チームを立ち上げる必要もあるからね。」

 

 

 

確かに、姉として心配するのは分かります――戦車道チームを一から立ち上げるとなったら、可成りな事になると思いますし。

しかし何と言うか、ヤッパリ家元は駄目ですね色々と?正直言って、しほ小母様が家元になった方が良いと思います。

 

 

 

「私もそう思う……まぁ、みほ達の転校は、改革の狼煙なのだけどね。

 ――澤、みほの為にお前の進路を変えて欲しいと言ったら、お前は怒るだろうか?――黒森峰には進学せずにみほ達の助けになってくれと言ったらお前は……」

 

「それが、私は黒森峰に行かない方が良いって言う事ですか?」

 

「……その通りだ。

 自分でも、可成りとんでもない事を言っている自覚はあるし、お前に『みほの為に犠牲になれ』と言うに等しい事を言っているのも分かっている!……だが、其れでも私は、みほの戦車道が間違いではなかったと言う事を証明したい。

 その為にも、みほにはお前の力が必要なんだ澤……私の我儘で悪いが、みほにお前の力を貸してやってくれないか?」

 

 

 

……分かりました。

そう言う事なら、不肖・澤梓、喜んで姉隊長の『お願い』を聞きます!――私は、西住隊長達の編入先の学校を受験します。

其処に戦車道があるかどうかは分かりませんが、無いんだったら新たに作れば良いだけの事ですしね……時に、西住先輩達の転校先って言うのは分かりますか、姉隊長?

 

 

 

「其れは未だだ、お母様が色々と考えているしね。

 だが、みほ達の転校先が決まったら、真っ先に君に伝えよう梓……早い方が色々と説得も楽だしね――お前の様な子が、みほの後継者で良かったよ梓。

 みほを……妹を、宜しく頼む。」

 

「その任、有り難く拝任致します。」

 

まさか、西住先輩と、逸見さんと赤星さんが西住流を破門にされ、来年度からは黒森峰じゃない別の学園艦で暮らす事になってたとは予想外にも程があるけど、姉隊長のおかげで内情が知れたのは良かった。

若しもそうじゃなかったら、西住先輩の居ない黒森峰に入学して、虚しい日々を送るだけになったかも知れないモノ。

 

でも、これでツェスカとは高校でも一緒のチームでは戦えない事になっちゃったか……西住先輩達の転校先が決まったら、黒森峰には行かない事を伝えて、謝らないとね。

 

果てさて、西住先輩達は何処に転校するのか――取り敢えず、転校先の学校が最強になるのは間違いない気がする。

 

あ!あとオフレコって言われてたけど、クロエにだけは話しておかないと。クロエってば『高校は梓と同じ学校に行くヨ。』って言ってたからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

「其れで奥様、みほお嬢様達の転校先は何処になさるおつもりでしょうか?

 此度の件は黒森峰以外の学校には伝わっていませんので、みほお嬢様達に他校からの勧誘が来る可能性は極めて低い訳ですが……」

 

「そうでしょうね……尤も、諜報能力に長けた聖グロリアーナは『黒森峰と西住流で何か問題が起きた』位は把握してるでしょうけれど。」

 

まほが、みほ達が襲撃された事件を秘密裏に調べて貰った事からも、黒森峰に不穏な空気が渦巻いている事は把握しているでしょうしね。

ホントに、腹が立つくらい諜報能力に長けていますからね、あそこは……試合に勝ったとはいえ、現役時代に学園艦に入り込まれて何度煮え湯を飲まされた事か……今思い出しても腹が立つわ、ちよきちめ。

 

 

 

「聖グロリアーナの伝説的ノーブルネームである『アールグレイ』、その初代が千代様でしたからねぇ……そのノーブルネームを受け継いだ逸見エリカさんのお姉さまの実力は相当なのでしょうね。

 で、転校先は如何なさるのですか?」

 

「それなんだけど、みほ達を戦車道がある学校に行かせる気は無いの。

 何故と思うでしょうけど、戦車道のある学校は、夫々の学校でドクトリンの基本があるから、其処に転校させたら、結局はみほをその学校の型に嵌める事になるわ。」

 

今年はまほが遊撃隊を組織した事で、黒森峰内部でもある程度自由に出来ていたけれど、それでも中学時代のみほと比べれば可成り窮屈そうだったのは否定できなかったでしょう?

だからいっその事、戦車道のない学校に転校させて、其処で一から戦車道チームを作らせようかと思っているのよ。

 

 

 

「成程、悪い案ではないと思いますが、如何にみほお嬢様でも一から戦車道チームを創るのは無理があるのではないでしょうか?

 中学の時の様に、超弱小校を立て直すならば兎も角として……」

 

「えぇ、無理でしょうね。

 でも、過去に戦車道を行っていたけど、今は廃止している学校だったらどうかしら菊代?」

 

「過去に戦車道を?……!!

 奥様、まさかみほお嬢様をあそこに転校させる心算なのですか!?」

 

 

 

そのまさかよ。

彼女の性格的に、戦車道が廃止になるからと言って全ての戦車を処分したとは考え辛いでしょう?何らかの裏技を使って、隊長車をはじめとした何輌かは残されている筈だわ。

なので、其れを確認するために電話をね……操作が一々面倒になって来たから、そろそろスマホに変えようかしらね。

 

 

 

――ドォン!ドォォン!ドォォォン!!

 

 

 

呼び出し音が戦車の砲撃音って……まぁ、彼女らしいと言えば彼女らしいわね。

 

 

 

『もしもし、秋山ですが……』

 

「秋山……そう言えば、今の貴女は『秋山』だったわね?」

 

『んん?その声……若しかしてしほちゃん!?久しぶりね~~~!!』

 

 

 

えぇ、久しぶりね好子。

元気そうで安心したけど、昔と比べて随分と丸くなったみたいね?『大洗の荒熊』の異名で恐れられてた頃からは想像も出来ないわよ?

 

 

 

『その名前は止めてよ、結構黒歴史なんだから其れ。まぁ、貴女や千代ちゃんと全力で戦った思い出でもあるけれどね。

 其れで、如何したの今日は?貴女から連絡を寄越すなんて珍しいじゃない?』

 

「聞きたい事があってね。

 大洗女子学園は、貴女が隊長を務めた代を最後に戦車道が廃止になったのだけれど、当時使って居た戦車は如何したのかしら?」

 

『戦車?確か20輌の内11輌は売り払ったけど、隊長車であるⅣ号を含めて9輌は学園艦に至る所に隠して、紛失届の書類を捏造した記憶があるわ。

 でも、なんでそんな事を聞くのかしら?』

 

 

 

来年度、そっちに娘1人とその友人2人を行かせるからよ。

新たな地で戦車道を始める為にも、今の大洗にドレだけの戦車が残っているのか知りたかったの。

 

 

 

『えぇ!?娘って……どっち?』

 

「みほよ。其れと、逸見エリカさんと……赤星小梅さんよ。」

 

『みほちゃんの方だったか~~……って、逸見エリカと赤星小梅ぇ!?

 其れマジなのしほちゃん?……ウチの娘、その3人の大ファンだから大洗に来る事を知ったらテンション爆上がり間違いなしなんだけど。』

 

 

 

『本気』と書いて『マジ』よ好子。

何時かそうなるとは思っていたけど、お母様とみほの対立が決定的になって、みほと逸見さんと赤星さんはお母様から西住流を破門になった

のよ。

西住流を破門になった以上、黒森峰には居られないからね……だから、大洗に転校させる事にしたの。

戦車道の名門校に転校と言う選択肢もなくは無いのだけど、其れではみほの戦車道をするのは少し難しいから、いっその事戦車道がない所に転校させて、一から戦車道チームを立ち上げさせようと思ってね。

そう言う意味では、過去に戦車道を行っていた大洗は最適だったのよ。

 

 

 

『あっちゃ~~……かほ小母さまは遂にやっちゃったか~~。

 何時かはとんでもない事になる事にとは思ってたけど、まさかみほちゃん達を破門にするとはね……あのババア、マジで殺すか?』

 

「……口調が昔に戻ってるわよ好子。」

 

『あらあら、あはは……でも、そう言う事なら了解したわしほちゃん。

 娘にもそれとなく話をしておく。あの子ったら、戦車と戦車道が大好きだから、きっとみほちゃん達の事を手助けしてくれると思うからね。』

 

 

 

そう……恩に着るわ好子。

今度機会が有ったら、千代も呼んで一度会いましょう?最後に会ったのは、みほが生まれた時だからもう16年でしょう?

 

 

 

『そうね、其れも良いかも知れないわ――だけどまぁ、何か面倒な事になってるみたいだが、無理はするなよしほ?みほちゃん達の事以外でも、必要な事があれば言えよ?

 ガチで遣り合った奴の頼みを断る程、薄情じゃないからなオレは。』

 

「だから口調が戻ってるわよ好子。」

 

でも、だからこそ頼りになるわ好子。――みほ達の事を、それとなくサポートしてあげて。

 

 

 

『其れは、私じゃなくて優花里――私の娘の役目。

 私達は既に一線を退いた身……表舞台は次代に任せて、裏方に回るでしょ?』

 

「ふ……そうだったわね。」

 

だけど此れで大洗には戦車が残されてる事が分かったから、みほ達の転校先としては充分ね?

こんな事を言ったらアレだけど、黒森峰が10連覇を達成した事で、その立役者である遊撃隊のトップ3である『西住みほ』『逸見エリカ』『赤星

小梅』のネームバリューは相当だから、戦車道を復活させれば、そのネームバリューに飛びつく子だって少なくない筈。

経験者は望めなくとも、其れが逆にみほにとっては武器となる――未経験者であるからこそ、みほの戦術をストレートに受け入れる事が出来ると言えるもの。

 

ふふ、此れは面白い事になりそうだわ。

20年前、準決勝で千代率いる聖グロリアーナを打ち破り、決勝で私が率いる黒森峰をあと一歩まで追い詰めた大洗が、みほ達によって蘇るのだからね。

そして、みほの戦友であるアイスブルーのパンターと漆黒のティーガーⅡも大洗に行く事になるから、大洗の戦車も強化される事になるわ。

 

嘗ての強敵が、今度は改革の力強い味方になるか……貴女達ならきっと、お母様の西住流を食い破る事が出来るわ、みほ、エリカさん、小梅さん。

 

貴女達の力が西住流を変えてくれる事を願って居るわ――そして願わくば、お母様の心を折ってくれる事をね。

お母様の西住流は、もうこの世には不要なものだから、完全に否定した上で排除しなくてはならないのだから……そして、その上で新たな西住流を確立しなくてはだからね。

 

お母様……貴女の時代はもう終わりです。そろそろ退場して頂きますよ――!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

黒森峰での残りの時間はあっという間に過ぎ、気が付けば3学期の修了式も終わって、私とエリカさんと小梅さんは、今日を持って黒森峰から……熊本から去る事になる。

 

短い間だったけど、此の1年の思い出はきっと忘れないよ――って言うか、忘れろって言われて忘れるのが難しいからね。

 

 

 

「大会での10連覇は言うまでも無いけど、学園祭も盛り上がったからね……私とみほと小梅のディアンドル姿が大人気だったって言うのは、流石に思う所があるけどね。」

 

「あはは……まぁ大人気だったんだから良いとしましょうよエリカさん?

 学園祭も大盛況でしたけど、修学旅行も楽しかったですよ?行先は北海道で……まさか富良野の『ハイジ牧場』でセントバーナードに押し倒される事になるとは思いませんでしたけど。」

 

「あはは……まぁ、其れもまた良い思い出だよ。」

 

黒森峰の思い出が多いのは良い事だしね。

 

お母さんが転校先に選んだ『大洗女子学園』の寄港日と同じになるように、このカーフェリーは大洗港に到着するみたい……まぁ、戦車の運び込みが楽で良いけどね。

……ロンメルとアンドリューが普通に乗れた事に関しては、最早何も言わないけど。

 

さて、そろそろ出港だね?

 

 

 

「そうね……さらば黒森峰ね。」

 

「Good Bye……今度は戦車道の試合で会いましょう。」

 

 

 

此れで熊本ともお別れだね……バイバイ。

って、アレは――

 

 

 

「全員整列!西住みほ遊撃隊長、逸見エリカ遊撃隊員、赤星小梅遊撃隊員に敬礼!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「Ja!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

理子さん!!其れに、遊撃隊の皆!!

理子さんの号令の下に全員が整列して、ドイツ式の敬礼を……ありがとう、最高の見送りだよ理子さん!!ありがとう……ありがとう……!

 

 

 

「みほ、逸見、赤星……たとえ学校が違っても、私達は仲間だ――其れだけは絶対に変わらないからな!!」

 

「うん、分かってるよ理子さん!!」

 

「私達が仲間である事は変わらないわ……!」

 

「直下さん達も、息災で!!」

 

「おうよ!!じゃあな……ダチ公!!」

 

 

 

うん、それじゃあね。

今度会う時は敵同士かも知れないけど、貴女達との思い出は決して忘れないって誓うよ――西住流を破門されて、黒森峰から去る事になっても、黒森峰での1年は嘘じゃないからね。

今度は、大会で会おうね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:???

 

 

いんや~~、まさかウチが統廃合の対象になってるとはね~?……アンコウの養殖なんて言う超レアな事をやってるんだから見逃してくれても良い気がするんだけど、其れだけじゃパンチ力が足りなかったか。

まぁ、其れなら其れで戦車道を持ち出した訳だけど、此れは結構行けたかもね?今の会話は文書こそ交わしてないけど、会話内容はボイスレコーダーに録音したからね。

 

 

 

「其れは流石ですが、しかし戦車道の大会で優勝すると言うのは可成り難易度が高いかと……」

 

「んな事は分かってるよかーしま。」

 

だけど、アタシは負け戦をする心算は毛頭ないんだよねぇ?……戦をする以上は勝たないとだからね。

其れに、戦車道の復活だって伊達や酔狂で言った訳じゃないんだ――小山、確か来年度から、大洗に編入してくる生徒がいたよな?

 

 

 

「そうですね?

 えぇっと、『西住みほ』さんと、『逸見エリカ』さんと、『赤星小梅』さんですね。」

 

「その3人か!!」

 

如何やら未だツキは私達を見放した訳じゃないみたいだねぇ?

隻腕の軍神と、孤高の銀狼、そして慧眼の隼がウチに来てくれるなら、未だ望みはある……悪いけど君達の力を貸してもらうよ西住ちゃん、逸見ちゃん、赤星ちゃん?

 

大洗を救うためにも、君達の力は絶対に必要になるからね――其の力、大洗の為に使って貰うよ?例え、どんな手段を使っても絶対にね!

働いて貰うよ……大洗の為にも全力で!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 



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Panzer100『大洗に到着。新たな伝説の序章です』

祝100話!何とか大洗に行けました!Byみほ      そして、ギリギリ原作1話に入ったわね……Byエリカ    可成り無理矢理ですけどね…By小梅


Side:みほ

 

 

熊本を出発して14時間……現在は明け方の5時。

起きるにはまだまだ全然早いけど、私は起きてフェリーの甲板に来てた――何故って、この時間なら、船旅をしてる人の特権とも言える絶景が見れるからね。

 

 

 

「世界の誰よりも早く朝日を拝む事が出来るのは、確かに船旅の特権だわね。」

 

「海上に居る人よりも早く朝日を拝める人はいませんからね♪」

 

「エリカさん、小梅さん!」

 

来てたんだ?……てっきりまだ寝てるって思ったんだけど――って言うか、私が部屋を出る時には確実に眠ってたよね!?……若しかして寝た振りをしてたの?分かり易く言うなら狸寝入り!!

 

 

 

「違うわよ!私も小梅もロンメルとアンドリューに起こされたのよ……」

 

「まるで『みほさんが甲板に向かったから、お前等も行け』って言ってるみたいでした。」

 

 

 

……ロンメルとアンドリューは、いい仕事をしてくれると言うか何と言うか……だけどまぁ、甲板からの朝日をエリカさんと小梅さんと一緒に拝む事が出来たのは最高だったよ!

身も蓋もないかも知れないけど、これだけ最高な事があったのなら、大洗でもきっといいことがあると思う!!

 

 

 

「でしょうね……大洗でも暴れるわよみほ!!」

 

「私達の力を、見せてあげましょう!!」

 

「勿論、その心算だよエリカさん、小梅さん!!」

 

新たな地で、私は私の戦車道を始める……そして、私の戦車道がお婆ちゃんの西住流を真っ向から撃ち砕いて、本当の戦車道って言うモノを示して見せる!

その為にもまずは、大洗女子学園に戦車道をする為の場所を作らないとだね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer100

『大洗に到着。新たな伝説の序章です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:優花里

 

 

はぁ~~……新年度までは学園艦も大洗に寄港しているのでありますが些か暇ですねぇ……自慢ではありませんが、親しい友人も居ないので、友達と連れたって何処かに繰り出す事も出来ません……我ながら寂しいモノです。

何か面白い事でもないですかねぇ?

 

まぁ、そんな物が簡単に見つかれば、私が暇を持て余す事は無いのですが……こう、目の前に戦車でもバーンと現れてくれれば一気に気分が盛り上がるんでありますがねぇ。

 

そんな事を考えながらリゾートアウトレット(現 大洗シーサイドステーション)を散策して、その途中で入港して来たフェリーを眺めている真最中……本当に暇ですねぇ。

 

「おや?あのさんふらわあは、北海道からではなく熊本からのでありますか?珍しいでありますねぇ?」

 

さんふらわあと言えば北海道の苫小牧港からの便が殆どで、熊本から大洗への便は定期就航ではなく、大型連休や長期休暇の限定便だったと記憶していますが――あぁ、今は春休みですから、運航していてもオカシクはない訳ですか。

 

春休みを長期休暇とは呼ばないと思いますが。

 

 

それにしても熊本からですか……黒森峰の本拠地ですねぇ。西住殿と、逸見殿と、赤星殿は元気にやっているでしょうか?

大会の決勝戦以来会って居ませんし、そもそも連絡先も知りませんからねぇ……決勝戦の会場で連絡先を交換しておけばよかったです。

 

まぁ、そんな事を言ってもしょうがないのですが、目の前のさんふらわあからは乗客と、カーフェリーならではの積み荷として車も続々と降りてきていますね?

マイカーと一緒に旅先に行けると言うのがカーフェリーの売りでありますからなぁ……って、何か出てきましたよ?

明らかに車と違うアレは……戦車!!それも、アイスブルーのパンターG型と、漆黒のティーガーⅡだったのですから!!――まさか中学時代の西住殿の相棒が現れるとは思ってなかったであります!!

 

何故これが大洗に!?

いえ、これが此処に来たと言う事は、若しかして西住殿も……

 

 

 

「はい、到着!お疲れ様でしたエリカさん、小梅さん。ロンメルとアンドリューもお疲れ様。」

 

「無事に着きましたね~~……まさか、また大洗に来る事になるとは思いませんでした。」

 

「ホントよね……人生、何があるか分からないモノだわ。」

 

『ガウゥゥゥ……』

 

『♪』

 

 

 

って、アイスブルーのパンターのキューポラから西住殿が現れ、操縦席からは赤星殿――だけでなく、漆黒のティーガーⅡの操縦席からは逸見殿まで!?

……ティーガーⅡのキューポラから頭を出してた虎と、砲塔に座ってた九尾の狐には突っ込み不要なんでありましょうが。

 

しかし、どうして御三方が大洗に?しかも戦車まで持って来て……?

まさかとは思いますが、戦車道の彼是を噂してるネット掲示板でまことしやかに囁かれていた『西住流のお家騒動』『黒森峰の内乱』は、実は只の噂話ではなかったのでしょうか?

 

火のない所に煙は立たぬと言いますが、如何やらネットの噂は、まったくのデマと言う訳では無さそうでありますね……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

無事に大洗に到着して、戦車もフェリーから降ろした訳なんだけど……此れから如何しようか?

大洗の学園艦は大洗港に停泊してるし、編入手続きも終わってるから直ぐに出も学園艦に入る事は出来るんだけど……今は春休み期間中だから、学園艦に入ってもあんまり面白くないんだよねぇ?……学園艦の中は、殆ど人が居ないからね。

 

 

 

「そうなのよねぇ……こう言っちゃなんだけど長期休みの学園艦って、ある意味では幽霊船よね?」

 

「エリカさん、其れを言ったらお終いです。」

 

 

 

小梅さんの言う通り、其れを言ったらお終いなんだけど、長期休みの時って船舶科の生徒を除いて、殆どが学園艦を離れちゃうから幽霊船って言うのもあながち間違いじゃないかも知れないよ。

尤も、こんなに大きな幽霊船が現れたら、船乗りさん達はビックリ仰天だろうけどね。

 

 

さてと、取り敢えずは戦車をアウトレットの駐車場に止めて適当に散策するとしようか?結構見て回る物が有りそうだからね。

 

 

 

「西住殿!逸見殿!赤星殿!!」

 

 

 

そう思って移動しようとした矢先に聞こえて来た、私達を呼ぶ声……貴女は、秋山優花里さん!

久しぶりだね、元気してた?

 

 

 

「決勝戦の会場で会って以来ですね?」

 

「調子は如何?って、聞くまでも無さそうね。」

 

「はい!バリバリ元気でありますよ!ついさっきまで、暇でしたが。

 西住殿と逸見殿と赤星殿も元気そうで安心しました!――しかし、隻腕の軍神と、銀の狂狼、慧眼の隼が勢揃いした所に、戦車まで揃うと非常に絵になるでありますねぇ?

 お世辞抜きで『月間戦車道』の表紙や巻頭グラビアを飾れると思います。」

 

「雑誌のグラビアって……エリカさんや小梅さんは兎も角、私は如何だろう?

 幾ら私が戦車道での有名選手だとは言っても、私の場合こんな身体だから、色々と編集の方からNGが出るんじゃないかと思うんだ?」

 

「何を仰いますか!『隻腕の軍神』は、今や戦車道界隈に於ける超有名人にして黒森峰の大記録の立役者であります!

 其れに、片腕である事をものともせずに試合に臨む西住殿の姿は、多くの障碍者やパラアスリートに勇気と希望を与えているのです!そんな方が雑誌の表紙を飾る企画にNGが出る筈がありません!

 西住殿と逸見殿と赤星殿が表紙を飾れば、全国売上100万部は堅いであります!!――付け加えるなら、御三方が旧ドイツ軍の軍服姿で、西住殿がマントでも羽織ってれば尚良いですねぇ♪」

 

「……旧ドイツ軍て、ナチスドイツよね?」

 

「寧ろ、そっちの方がNG入るんじゃないのかしら……」

 

 

 

あはは……うん、間違いなくそっちにNGが入るだろうね。

所で秋山さん……サインには『優花里さんへ』って書いたから、優花里さんの方が良いかな?

 

 

 

「あ、はい!其方でお願いします!」

 

 

 

其れじゃあ優花里さん、優花里さんはこんな所で何してたの?

いや、今は春休みの期間だから学園艦が大洗に停泊してるのは分かるんだけど、優花里さんが此処に居るのはちょっと意外かな?

アウトレットって戦車関係のお店も無かったみたいだし……

 

 

 

「折角停泊しているのですから学園艦の中にばかりいるのも勿体ないと思って出かけてみたんですが、物の見事に暇を持て余してしまいまして、ぼんやりと海を見ていたらこのフェリーが入港して来たと言う訳です。

 其れで、熊本からとは珍しいと思って見ていたら、中から戦車が現れ、西住殿達が戦車から出て来たので慌ててやって来たのであります。

 いやぁ、今日は暇な一日から一転して、最高の日になったでありますよぉ!!」

 

「私等と戦車に会っただけで、此処までテンションを上げる事が出来る秋山に、ある意味で尊敬の念を抱くわ……」

 

「根っからの戦車と戦車道好きなんですねぇ……」

 

「純粋に戦車と戦車道が好きみたいだから、私としては嬉しいけど♪」

 

「はい!私、秋山優花里は戦車と戦車道が大好きなのであります!!

 で、時に御三方は何故大洗に?前に来た時は、戦車のパーツ補給兼、休暇と言う事でしたが、今回はフェリーで、しかも西住殿の中学時代の相棒とも言える戦車まで一緒に……」

 

 

 

あ~~……うん、やっぱりそれは気になるよねぇ?

あんまり軽々しく言って良い物でもないけど、優花里さんとは4月から同じ学校の生徒になる訳だし、言っちゃっても良いかな?

エリカさんと小梅さんは如何思う――

 

 

 

「答えは簡単よ秋山、4月から私とみほと小梅は大洗女子学園の生徒になるからよ。」

 

「って、エリカさん!?」

 

「みほさんが言うよりも早く、殆ど脊髄反射でぶっちゃけましたねぇ……」

 

 

 

これは流石に予想外だよ!?まさか、エリカさんがストレートにぶっちゃけるとは思ってなかったもん!!

でもまぁ、そう言う事なんだよ優花里さん。

私とエリカさんと小梅さんの3人は、4月から大洗女子学園に編入して、其処の生徒になるの。その為に、熊本からフェリーで大洗までやって来たんだよ。

 

 

 

「マジでありますか!?でも何故大洗に?

 西住殿が率いる遊撃隊は、今は黒森峰の戦車隊には必要不可欠な存在の筈です。その遊撃隊の要とも言える御三方が黒森峰から大洗にと言うのは、些か理解が出来ません。」

 

「……私達3人は、西住流を破門になったからだよ。」

 

「!!」

 

 

 

優花里さんは決勝戦を見てたんだから、あの救出劇の事は知ってるよね?

大会の結果を報告に行った場で、私のお婆ちゃん――西住流の家元が、あの救出劇を真っ向から否定したんだよ。しかも、あろう事か、プラウダの選手は見殺しにするべきだったとまで言ってね。

 

 

 

「な、何でありますか其れは!!

 西住殿達のあの時の行動は、濁流に飛び込んだと言う危険行為を咎めるなら未だしも、水没した戦車の乗員全員を救出した事は賞賛されるべき物であって否定されるべき物ではない筈です!!」

 

「マッタク持ってアンタの言う通りよ秋山。

 でも、家元は勝利は人の命よりも重いって考えててね……其れに遂にみほがプッツン行った訳よ。私と小梅もだけどね。」

 

「みほさんの戦車道を否定する事は、私とエリカさんの戦車道の否定と同じですからね……思い切り家元の考えを否定し、その結果3人仲良く西住流を破門されたと言う訳です。」

 

 

 

そして西住流を破門された以上、西住流と深い繋がりのある黒森峰に居る事は出来ない……だから、私達は大洗に来たんだよ。

 

 

 

「成程……ネットで、まことしやかに囁かれていた噂は本当だったと言う訳ですか……」

 

「「「ネットでの噂?」」」

 

「はい。戦車道に関する話をする非公式掲示板なんですが、其処に秋頃から『履帯切れ子』と言う方が『西住家のお家騒動』『黒森峰内乱』というタイトルでスレッドを立ててまして、其処で西住殿達が西住流を破門になり、黒森峰から去ると言う噂が囁かれていたんですよ。

 私も、只のネットの噂だと思っていたのですが、今の話を聞いてそれが単なる噂ではなく、事実であると認識しました……」

 

 

 

ネットでそんな噂が……って言うか『履帯切れ子』って如何考えても理子さんだよね?

まさか、理子さんがネットでリークしてたとは思わなかったよ……まぁ、其れだけ私達が黒森峰を去るって言う事が受け入れがたかったのかも知れないけどね。

 

まぁ、そう言う訳で私達は大洗に来たんだけど、戦車道を辞めた訳じゃない。戦車道を辞めたんなら、戦車を持ってくる必要はないからね。

私達は、大洗女子学園で戦車道をやる為に、此処に来たんだよ優花里さん。

 

 

 

「マジでありますか!?

 アレ?でも大洗女子学園は20年前に戦車道を廃止した筈でありますよ?――今は戦車道は行っていない普通の女子校ですが……」

 

「無いのなら、新しくつくればいいだけの事だよ。

 要件を満たせば、新たに『戦車道部』って言うのを設立する事は可能だからね。」

 

「言われてみれば確かに!!

 あの、その時は是非とも、私にもお手伝いをさせて下さい!戦車道は素人でも、戦車の知識に関しては、誰にも負けない自信がありますから、何かの役に立てると思います!!」

 

 

 

其れは頼もしいね?

その時はお願いするよ優花里さん。

 

 

 

「西住殿にお願いされました!!!いやっほうーーー!最高だぜぇ!!!」

 

「秋山、アンタテンション上がり過ぎ。」

 

「みほさんのお願いを聞いて、テンションが振り切れちゃったみたいですね此れは……」

 

 

 

あはは……其れはまた何とも。

と言うか、私は其処まで凄い人間じゃない心算なんだけど、戦車道ファンの人からしたらそうじゃないのかも知れないね?――その辺をよく考えて行動しないとだよ。

 

でも此れで、取り敢えず戦車道部を設立するための人員を1人は確保できたね――後は、編入後にドレだけ確保できるかだよ。

大洗で戦車道を続ける事が出来なければ、お婆ちゃんの西住流を否定する事は出来ないし、何よりも私の戦車道をする事が出来ないから。

 

編入手続きが終わったら、その辺の事を考えて行かないとだね。

 

 

 

余談だけど、学園艦で編入手続きを終えた後は、優花里さんの案内で大洗の町を見て回ったよ。

優花里さんがおすすめだって言うお好み焼き屋さん『道』で食べたオリジナルお好み焼き『トマトとアボカドのお好み焼き』は誇張抜きで、頬っぺたが落ちるんじゃないかって思う位に美味しかったです!!

 

あと、大洗の商店街の皆さんに、ロンメルとアンドリューが大層可愛がられてたね。

 

 

 

「狐がロンメル殿で、虎がアンドリュー殿……何とも凄い名前でありますね?」

 

「砂漠の狐と砂漠の虎だから♪」

 

取り敢えず大洗での1日目は、思いがけず充実した日になったと同時に、大洗での最初の思い出になったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

みほ達が居なくなってしまうと、何とも寂しい物が有るな……思えば、みほとエリカと小梅は1年生達の中心人物だったから、その3人が黒森峰から去ってしまったら、寂しくなるのは当たり前か。

 

 

 

「えぇ、マッタク持ってその通りだわまほ――家元は一体何を考えてるのか、本気で疑いたいわ。

 こんな事を言ったらアレだけど、一度頭を切開して脳味噌調べた方が良いんじゃない?」

 

「出来ればそうしたいが、中々そうも行かないだろうな。

 そして、何を考えているのかと聞かれれば、お婆様は勝利しか考えていない――其れこそ勝利を得る為なら、それ以外の全てを斬り捨てろと思って居るさ……其れが、結果としてみほ達を黒森峰から去らせたのだから笑えないがね。」

 

「はぁ……改めて聞いても、呆れてため息しか出ないわ。

 本気で師範を家元にした方が良いんじゃないのかしら西住流は?」

 

 

 

私もそう思う。

だが、そう言う意味ではお婆様がみほ達を破門したのは好都合だった――みほ達が敵になる事で、中と外からお婆様の西住流を否定する事が出来るからな。

 

 

 

「中と外から?……まほ、貴女何を考えてるの?」

 

「何をか……凛、私は来年度の大会ではお婆様の言う西住流を、悪意たっぷりに再現して、世間にお婆様の考え方の是非を問おうと思ってるんだ。

 分かり易く言うなら、私はみほの為に王者である事を捨て、ヒールに徹する心算だ。」

 

「ヒールに!?」

 

「勝利のみを目的とした、勝利の渇望者となり、戦車道における礼節などは蹴り捨てる……そして、その上で相手を殲滅して絶対的な勝利を手にする……戦車女子としては、あるまじき行為を徹底する――恐らくメディアからの非難は免れないだろうな。

 ――私と共に闇に堕ちて欲しいと言ったら、お前は如何する凛?」

 

「……貴女が其れを望むなら、私は其れに付き合うわまほ。

 貴女がやろうとしてる事は、みほの正しさを証明するために『悪』になると言う事でしょう?――だったら、私も乗らせて貰うわ。

 みほが居なかったら、私は明光大で潰れてたし、ヒーローが存在する為には、ヒーローが倒すべきヒールが絶対に必要になるでしょう?

 英雄が英雄になる為に、絶対悪として生み出された『アンリマユ』の様にね。

 貴女がみほの為に、歪んだ西住流を否定する為に悪に堕ちると言うなら、私も其れに付き合うわよまほ――貴女を公私に渡って支えるのが、私の役目だからね。」

 

 

 

そうか……ありがとう凛。

本当に私は良い友人を持った――恐らく共に闇に堕ちてくれる者などそうそう居ないだろうからね。

だが、おかげで私は来年度は本気で悪に徹する事が出来る……お婆様の言う西住流を徹底的に体現して相手を叩きのめし、礼節の欠片もない戦い方を世論に問うてやる!!

 

そして証明してやるんだ、みほの戦車道は間違ってなく、間違っていたのはお婆様の唱える西住流だと言う事を!!

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「軍神招来……みほだけかと思ってたけど、まほも出来るとは、流石は姉妹って所かしら?」

 

「まぁ、姉妹だからね。」

 

何にしても、此処からがスタート地点だ……お婆様の言う西住流が終わりを告げる為のな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

『や~ってやる、や~ってやる、や~ってやるぜ!!』

 

 

 

ん~~……もう朝?

って言うか目覚まし時計が鳴ってるって、若しかして寝過ごしちゃった!?……て、そんな筈ないか、もう黒森峰じゃないんだからね。

 

 

 

「そう言う事よみほ。」

 

「もうすぐ朝ごはんできるので、顔を洗ってきちゃって下さい。」

 

「エリカさん、小梅さん……うん、了解です。」

 

大洗に来てから早1週間が経って、大洗女子学園の学園艦の事も可成り把握出来たよ……黒森峰の学園艦と比べたら小型とは言え、此れだけの規模の物を把握するって言うのは簡単じゃなかったけどね。

 

で、顔を洗った後は、準備を整えて学校に行くのみ!

とは言っても今日は始業式だけだから特に何もないよ――何やら注目されてるのは虎と狐が一緒に居るからだろうけどロンメルとアンドリューが一緒に登校するのは、黒森峰の頃からのお約束だから今更辞める気もないよ。

 

 

 

「ふふ、それでこそ西住先輩ですね♪」

 

「どんな時でもブレないな隊長は……久しぶりに会ったけど、元気そうで安心したヨ。」

 

 

 

この声は、梓ちゃんにクロエちゃん!?

2人ともどうして大洗に?――梓ちゃんは、てっきり黒森峰に行くと思ってたのに。

 

 

 

「その心算だったんですけど、姉隊長から西住先輩が黒森峰を去るって言う事を聞いて、受験先を変更したんです。

 黒森峰で先輩と一緒に戦車道をしたかったんですけど、先輩がいない黒森峰では其れは難しいので、思い切って先輩の編入先と同じ学校に進学する事にしたんです!!」

 

「私もアズサに誘われてね……隊長と一緒にまた戦車道が出来るのは、嬉しい事だヨ。」

 

 

 

そうだったんだ……マッタクお姉ちゃんったら。――でもありがとうだよ。

エリカさんと小梅さんに加えて、梓ちゃんとクロエちゃんも居るなら、最低限の戦力は確保できるし、優花里さんを入れれば新しい部を設立する為の条件である『部員5人以上』はクリアできるからね。(新しい部活の設立条件は大洗女子学園のホームページで調べた。)

 

 

 

「如何やら私達にとっては追い風が吹いてるみたいねみほ――此れならきっと、色々と巧く行くはずよ。」

 

「うん、私もそう思うよエリカさん。」

 

「では、景気づけに一発行きましょうかみほさん?――新たな門出としても、悪くないでしょう?」

 

 

 

うん、そうだね小梅さん。

其れじゃあ行こうか……Panzer――

 

 

 

「「「「Vor!!!」」」」

 

 

 

新たな地、大洗で私は私の戦車道を貫く……そして、お婆ちゃんの西住流を真っ向から否定して粉砕する!!

私とエリカさんと小梅さんを、西住流から破門したって言うのは、西住流にとっての最大の敵を生み出す事だって言う事を、骨の髄まで知ると良いよ――悪いけど、自分が属してた流派であっても手心を加える心算は無いから。

 

精々後悔して貰おうかな?……隻腕の軍神と、その仲間を破門した己の愚行を!!!――勝利のみを追い求める戦車道こそが邪道だって言う事を、証明してあげる!

 

 

そして見せてあげるよ、本当の西住の戦車道を!!――西住みほの戦車道を!!

 

 

――轟!!

 

 

 

「軍神招来来たーーー!!!」

 

「此れはもう絶対勝利確定ですね!!」

 

「因みに今回の軍神は何かなアズサ?」

 

「大戦期の軍神として名高い『西住小太郎』だね。」

 

 

 

あはは……其れは曾お爺ちゃんだよ梓ちゃん。――まさか、近代史の軍神をこの身に宿してるとは思わなかったけど、其れ程の軍神を宿してるなら、誰が相手であっても負けはないって言えるよ!!

 

其れは黒森峰が相手であってもね――大洗で戦車道を復活させた暁に、私の反撃が始まる……お婆ちゃんへの反撃がね。

だから、覚悟しておくと良いよ。――私は、私達は持てる力の全てを持ってして、お婆ちゃんの西住流を徹底的に否定してあげるからさ!!

 

 

歪んだ流派を、これ以上続けさせる訳には行かないからね!!

 

お婆ちゃんの西住流は、此処で終わりだよ!!――私達が終わらせるから、其れは絶対!……終わりが訪れるその時を、大人しく待っていやがれだよ!!

 

私達の反抗、其の身で受けて貰う心算だから、その時を楽しみにしておいてね、お婆ちゃん――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer101『大洗女子学園で戦車道始めます!』

本当の意味で原作入りました!Byみほ      原作大洗キャラもやっと登場ね?Byエリカ     此処からが本番ですね!By小梅


Side:みほ

 

 

大洗女子学園の新学期が始まって数日。

私とエリカさんと小梅さんの3人と、アンドリューとロンメルが一緒に登校する光景は、僅か数日で大洗の学園艦の名物になったみたいだね?

まぁ、現役女子高生が虎と狐を引き連れて、更に隻腕とも来れば否が応でも注目されるからね。

 

アンドリューとロンメルに至っては、初日こそ風紀委員の『園みどり子』さんに注意されたけど、その後は大洗女子学園の門番を務めたらって話が持ち上がった結果、ロンメルとアンドリューは見事に学園の門番に就任。

ドレだけ雨が降っても、私が『帰るよ』って言うまでは、校門前でじっと座ってるんだから、その姿は正に大洗の門番だね。

 

 

 

「こう言っちゃなんだけど、みほ程の美少女が大虎と九尾の狐を引き連れて歩いてれば嫌でも注目されるし、学校でも噂になるってモンでしょう?寧ろ噂にならない方がおかしいしね。

 其れに誰かに危害を加えたなら兎も角、大人しく校門の前で門番やってくれてる子達を、無碍に追い払う事も出来ないわよ。」

 

「流石に風紀委員の方々が、『警備員』って入った首掛け式の名札を作ってくれたのは予想外でしたけどね。」

 

「アハハ、其れだけアンドリューとロンメルが受け入れて貰えたっていうのは嬉しい事だけどね♪」

 

さてと、そろそろ学校に着くね。――うん、今日も今日とて風紀委員による厳しいチェックが行われてるみたい。

エリカさんも初日は髪の色を指摘されてたけど、エリカさんの髪は染めてるんじゃなくて地毛だから、其れを説明したら納得して貰えたみたい。

……生徒の中には『それ本当に地毛か?』って突っ込みを入れたくなる人が居るのは、この際スルーするけどね。

 

おはようございます。今日もお疲れ様です。

 

 

 

「おはよう、西住さん、逸見さん、赤星さん。

 アンドリューさんとロンメルさんも、今日も宜しく頼むわね。」

 

『ガウ。』

 

『♪』

 

 

 

で、此処でアンドリューとロンメルは風紀委員の人達から名札を首に掛けて貰って門番と言うか警備員のお仕事開始。

其れじゃあお仕事頑張って。また放課後にね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer101

『大洗女子学園で戦車道始めます!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で無事登校。

因みに私達のクラスは、私とエリカさんが普通科A組で、小梅さんは普通科C組で優花里さんと同じクラス――ペパロニさんが居たら間違い無『モジャモジャへアーズ』とか呼んでるだろうなぁ。

 

梓ちゃんとクロエちゃんは同じクラスで、何人か友達も出来てるみたい。

 

で、私とエリカさんはと言うと……実は、まだ同じクラスのお友達が居ません。小梅さんと優花里さんは友達だけどクラス別だからね。

別に虐められてるとかそう言う事は無いし、クラスの皆は何かと気に掛けてくれるんだけど、中々友達にはなれないんだよねぇ……ヤッパリ片腕って言うのが影響してるのかなぁ?

 

 

 

「其れはあまり関係ないわね貴女の場合。

 貴女の場合はね『凄すぎて』、周囲が躊躇っちゃうのよ。」

 

「へ?凄すぎてって、どういう事?」

 

「先ずは言うまでもなくロンメルとアンドリューでしょ?何処の世界探しても、虎と狐を引き連れて登校する女子高生なんて先ず居ないし、しかも其の2匹は、完全に貴女に懐いているでしょう?

 この時点で既に相当ぶっ飛んでる訳だけど、加えて凄いのは体育の時間よ!

 今やってるのって体育館はマット運動、校庭は鉄棒だけど、貴女片腕とは思えない凄ワザ連発したでしょう?

 其れで殆ど超人扱いされてるのよ多分。」

 

 

 

あ~~……ロンメルとアンドリューは確かに。其れと体育の時間も。

マット運動では片手倒立に片手バック中、鉄棒では片手逆上がりからの連続片手前回りとか披露しちゃったからねぇ……うん、これは確かにちょっと声を掛け辛くなるかも。

 

 

 

「で、私も貴女ほどじゃないけど体育で前方宙返りとか大車輪とかやっちゃた上に、此の顔のせいでとっかかり辛いみたいなのよね。」

 

「へ?エリカさん美人だと思うけど?」

 

「まぁ、姉さんと一緒に『美人姉妹』って言われてたから容姿に自信はあるわ――じゃなくて、自分で言うのも何だけど姉さんと違って、私って割と目付きがキツイじゃない?

 如何にもそのせいで『怖い人』って思われてるみたいなのよね。」

 

「え~~、怖いかなぁ?寧ろ、私の生活のフォローとかしてくれてるから『優しい人』だって分かりそうなモノだけど……」

 

其れに目付きで言ったらお姉ちゃんやお母さんの方が鋭いし、近坂先輩なんて更に鋭い上に切れ長だから、目付きが鋭い=怖い説を採用したら、近坂先輩は黒森峰で一番怖そうな人になっちゃうんだけど?

寧ろエリカさんの場合は、体育の時間に体育館の隅っこに有ったレスリング部が片付け忘れたと思われる人型のヘビーバックを殴り飛ばして倉庫にぶっこんだのが原因かと……

 

 

 

「あ~~~……アレは確かにやり過ぎたわうん。

 と言うか、私だってまさか殴ったら倉庫まで打っ飛ぶとは思ってなかったのよ?ボクササイズで鍛えてた事に加えて、西住流フィジカルのお蔭で相当に攻撃力が上がってたみたいね。

 其れはまぁ置いておくとして、そろそろ戦車道部設立の申請をした方が良いんじゃないかしら?

 大洗での学校生活にも慣れて来たし、これ以上設立が遅れると全国大会には間に合わなくなるわよ?」

 

「うん、分かってるよエリカさん。今日の放課後に生徒会室に行く心算だったから。」

 

「そう、なら大丈夫ね。

 其れじゃあ話はここまでにして、食堂に行きましょう?きっと小梅に秋山、澤と武藤も居ると思うから。」

 

「うん、そうだね。」

 

っと、ペンを落としちゃった。授業が終わったまま、教科書とかしまってなかったっけ……此れは失敗失敗。

起きてペンを拾って机に……

 

 

 

――ドガシャァァァァァァン!!

 

 

 

「あれ?」

 

「貴女ねぇ……ちゃんと机の下から出てから身体起こしなさいよ!

 まさか、起きようとして机を引っ繰り返すとは思わなかったわ……黒森峰の頃から思ってたけど、貴女って色々と凄いくせに、戦車に乗ってないと色々ドジな所があるわよね?」

 

 

 

ん~~……其れは否定できないかなぁ?

だけどねエリカさん、『戦車に乗ってない時はポンコツになる』って言うのもまた、ある意味で西住の血なんだよ?――お姉ちゃんは戦車に乗ってる時は頼りになる指揮官だけど、実は最近のトレンドには疎い所があるし、お母さんに至っては家事がほとんど壊滅してるからね?

ぶっちゃけて言うと、菊代さんが居なかったら西住家は崩壊してるから。

 

 

 

「何そのとっても要らない遺伝子……そんな不良品遺伝子は捨てちゃいなさい!!」

 

「遺伝子は捨てられない!『エイズよりも恐ろしいDNA』、これはけだし名言だと思う!!」

 

「否定できないわねぇ其れは流石に!!」

 

「尚、本日のお昼ご飯はシーフードカレーと、シラスかき揚げうどんで行こうかと思ってます!!」

 

「えぇい、其れはぶっちゃけ如何でも良いわ!好きな物を頼めばいいでしょうに!!」

 

「エリカさんは日替わりハンバーグ定食だよね?今日は確か、チーズインデミハンバーグだった筈だよ。」

 

「其れは良い事を聞いたわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ヘイ彼女達、一緒にお昼でも如何?」

 

 

 

 

 

 

 

と、こんな感じでエリカさんとのやり取りをしてた所にかかって来た声……彼女達って、私達の事かな?

振り向いた先に居たのは、明るい茶髪の女の子と、黒髪黒目の如何にも『大和撫子』って言った出で立ちの女の子……えっと、私達に何か用かな?

 

 

 

「アラアラ、沙織さん、西住さんと逸見さんは困っていますよ?」

 

「あ、ごめ~ん!えっと、私達は。」

 

 

 

武部沙織さん、6月22日生まれ、血液型O型。

五十鈴華さん、12月26日生まれ、血液型B型、だよね?

 

 

 

「えぇ!知ってたの?」

 

「クラスメイトの名前と誕生日は全部記憶してるよ?血液型も大体の人は覚えてるかな。」

 

「いえ、名前と誕生日だけでも一クラス全員分を覚えていると言うのは驚愕に値しますよ……西住さんは、記憶力がよろしいのですね。」

 

「みほの記憶力はマジで凄いわよ?

 黒森峰――私とみほが前にいた学校では、100人以上居た機甲科の生徒全員の名前とクラス番号を完璧に記憶してたからねみほは。

 正直言って、脳味噌の中の海馬体がどうなってるのか知りたいわ。」

 

 

 

左腕を失ってから車長専任免許を取得する為に覚える事は膨大だったから、否が応でも記憶力は良くならざるを得ないんだよエリカさん。

と言うか、やろうと思えば大洗女子学園の生徒全員どころか、教職員の名前と生年月日を完璧に記憶する事だって出来るからね。

 

 

 

「本当に!?凄いね西住さん!!

 体育の時間で超人っぽいと思ってたけど、記憶力に関しても超人レベルだよ其れ!其れだけの記憶力があればテストだって楽勝じゃん!」

 

「確かに歴史とか、暗記系の科目は大得意かな?」

 

基本的にどの科目でもそれなりの点数は取れるからね……但し、古文と美術は壊滅してるけど。去年の美術でデッサンの授業の時にエリカさんから『其れ何?』って言われたくらいだからねぇ。

 

ところで武部さんと五十鈴さんの要件は何かな?私とエリカさんに用が有ったんだよね?

 

 

 

「だから、一緒にお昼でも如何かなって。

 西住さんと逸見さんてなんか凄い人だと思ってたんだけど、逆にお友達になれたら楽しいなぁって思って。」

 

「其れと、先程のお二人のやり取りを見ていたら、意外と付き合い易い人達なのではないかと思いましたので。」

 

「お友達……そう言う事なら、全然OKだよ。私もエリカさん以外のお友達を作らなきゃって思ってたし。」

 

「その言い方は誤解を招くわよみほ。

 C組にだって、友達は2人居るでしょ?」

 

 

 

A組ではって言う事だよエリカさん。

では、改めまして武部沙織さん、五十鈴華さん、黒森峰女学園から転校して来た西住みほです、宜しくお願いします♪

 

 

 

「同じく逸見エリカよ。宜しく頼むわね、武部、五十鈴。」

 

「おぉ、行き成り呼び捨てとは、やるねぇ逸見さん!!」

 

「あはは……エリカさんは、基本的に同輩以下には敬称付けないから。」

 

でも、期せずして友達が出来たのは嬉しい誤算だったかな?

其れじゃあ、食堂に向かってレッツゴー!(本当はぱんつぁー・ふぉーって言いたかったけど、其れだと武部さんと五十鈴さんには何の事か分からないだろうから、今回は自重する方向でね。)

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

で、食堂でのお昼ご飯は、小梅さんと優花里さん、其れと梓ちゃんとクロエちゃんを加えてソコソコの大所帯で摂る事になった。

其処で武部さんと五十鈴さん――もとい、沙織さんと華さん(友達なんだから名前で呼んでって沙織さんから言われた)を小梅さん達に紹介して、其処からは沙織さんのコミュニケーション能力のおかげで一気に仲が深まった感じだね。

 

 

 

「え~~?それじゃあ、澤ちゃんてみぽりんの事を追って大洗女子学園に進学先を変更したんだ?」

 

「はい。幾ら強豪校であっても、西住先輩の居ない学校じゃ、意味がありませんでしたから。」

 

「すっごいね~~!愛されてんじゃん、みぽりん!!」

 

「あはは……自分で言うのも何だけど、梓ちゃんの事は可成り個人的に鍛え上げたからねぇ。」

 

尚、この間に沙織さんから、私には『みぽりん』、エリカさんには『エリリン』、小梅さんには『うめりん』、優花里さんには『ゆかりん』っていうあだ名がつけられた模様。

此れまであだ名で呼ばれた事なんて無いから、ちょっと新鮮だったよ。『隻腕の軍神』は、あだ名とはちょっと違うしね。

 

それにしても梓ちゃんは結構やるね?

沙織さんからの『どうして大洗に来たの?』っていう質問に対して、戦車道の彼是とか、私達が西住流を破門になったとかは話さずに、私達が黒森峰から大洗に転校するって言う事を聞いたって言う事を言ってたからね。

 

……優花里さんが、なんかうずうずしてたけど、何とか堪えてくれたみたいで良かったよ――戦車道部を設立するにしても、西住流の『お家騒動』はあまり知られない方が良いからね。

 

「それにしても、華さんて見た目によらず結構食べるんだね?カレーとうどんのセットメニューを頼んだ私が言えた義理じゃないけど。」

 

「いや、華のはみほの比じゃないでしょ?

 ご飯大盛り、とんかつ2枚に加えて、其処にラーメンが加わって、更に小鉢を全制覇って明らかにオカシイでしょそれ!!」

 

「そうでしょうか?私的は此れ位は普通なのですが……」

 

「ま、まぁ其れで何か害があるみたいじゃないので大丈夫だとは思いますけど……」

 

 

 

まさかの華さんのメガ盛りとも言うべきメニューに驚きだね。

まぁ、『痩せの大食い』って言う言葉もあるくらいだから、華さんは『燃える』体質なのかも知れないね。そういう体質の人って、人よりも可成りエネルギーを摂取するからね。

 

 

 

そんなこんなで楽しいランチのひと時を過ごして、クラスに戻る所だったんだけど……

 

 

 

「やあやあ、西住ちゃん、逸見ちゃん、赤星ちゃん、探してたよ~~♪」

 

 

 

食堂を出た所で、小柄でツインテールの人と、おっとりとした見た目の人と、何のために掛けてるのか分からないモノクルを付けた人の三人組に声を掛けられた。

えっと、貴女達は?

 

 

 

「アタシ達は、この学園の生徒会だよ。

 でもって、アタシが生徒会長の角谷杏ってモンさ。取り敢えず宜しくね~~?」

 

「生徒会長さんですか?此方こそ、宜しくお願いします。

 丁度良かった、今日の放課後に生徒会室に伺おうと思ってたんです!」

 

「へ、そうだったの?でもまたなんで?」

 

 

 

実は、新しい部活を設立しようと考えてまして、その為の書類を提出して認可して貰うために伺おうと思ってたんです。

部員は私を含めて6人を確保してます。場合によってはもっと増えるかも知れませんが、新しい部を設立するための条件は満たしてますから、承認して頂けますよね?

 

 

 

「新しい部活だと!そんな事をしている暇は……!」

 

 

「はい、ストップかーしま。

 新しい部ねぇ?一体何の部活を作る心算なんだい西住ちゃんは?」

 

「戦車道です。」

 

私とエリカさんと小梅さんは、去年までは戦車道の絶対王者である黒森峰に居ましたけど、今年は大洗にやって来ました。

其れは偏に、黒森峰では戦車道が出来なくなったからですけど、だからと言って戦車道を辞めた訳じゃないんです――勿論、大洗女子学園に戦車道が無いのは知っていましたが、無ければ作れば良いだけの事ですから。

実家の方から戦車も2台持って来てますしね。

 

 

 

「戦車道……成程ねぇ?コイツは互いに渡りに船だった訳だ。」

 

「渡りに船ですって?……どういう事かしら会長さん?」

 

「詳しい事は午後のオリエンテーリングで発表するんだけど、実を言うとウチも今年から必修選択科目として戦車道を復活させるんだよねぇ。

 だけど、今の大洗に戦車道の経験者はいない……そんな時に、今年からの編入者に西住ちゃん達が居る事を知って、これはツキが回って来たと思って、西住ちゃん達には是が非でも戦車道を履修して貰う心算で居たんだよ。

 最悪の場合は、脅迫まがいの事をする事も考えてたけど、戦車道部を設立する心算だったんなら其れも必要なさそうだ。

 だって、必修選択科目で戦車道があるなら、態々部活動として新設する事は無いし、君達も必修選択科目は戦車道を選ぶでしょ絶対?」

 

 

 

まぁ、其れは確かに否定できませんね?

だけど、今年から復活だなんて何かあったんですか?――態々戦車道を復活させなきゃならない何かが?

 

 

 

「ん~~~……まぁ、大した事じゃないさ。

 アタシも小山もかーしまも、今年で卒業だから、最後に何か派手にバーンとやっておきたいんだよ――戦車道界隈では無名の学校が全国制覇とかしたら、痛快極まりないとも思ったしね。」

 

「成程、その気持ちはよく分かります。」

 

私も中学時代は、万年1回戦負けだった明光大で全国制覇をする事を目指していて、最終的には其れを成し遂げましたから。

無名の弱小校が、大物食いを連発して大会を制覇したとなれば、確かに痛快極まりません――特に決勝戦で、絶対王者黒森峰を下したとなったら正に愉快痛快の極みです。

 

でも会長さん、経験者は私とエリカさんと小梅さんだけじゃなく、私の後に居る1年生の梓ちゃんとクロエちゃんも経験者です。

特に梓ちゃんは、私が直々に鍛えた戦車長ですから、その能力はお墨付きですよ。

クロエちゃんの操縦士としての腕前も、高校でも通じるどころか、並の操縦士を圧倒するだけのモノがありますから。

 

 

 

「おおう、隻腕の軍神の弟子が居るとは思わなかったよ。

 でも、其れを聞いて安心したよ西住ちゃん――アタシ等と一緒に、極めようぜい、戦車の頂点!」

 

「言われずともその心算ですよ、会長さん。」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「んな、みぽりんからオーラが!!髪も逆立って……みぽりんて、まさかのスーパーサイヤ人!?」

 

「いえ、金髪碧眼ではないので違うと思いますよ沙織さん。」

 

「……此れは軍神招来――隻腕の軍神こと、西住みほがその闘気を解放した場合にのみ発動する力……軍神の如き英霊の魂をオーラとして纏う、一種の強化状態よ。」

 

「尚、本日の英霊は虎退治で知られる『加藤清正』のようですね。

 虎を従えてるみほさんには、ある意味で最もピッタリの英霊かも知れませんね。」

 

 

 

確かに其れはピッタリかもだね小梅さん。

 

でも、まさか大洗が今年から戦車道を復活させる事になってたとは思わなかったよ。

お陰で、戦車道部を設立する必要は無くなったけど、私とエリカさんと小梅さん、そして梓ちゃんとクロエちゃん以外の経験者が居ないって言う現実は変わらないんだから、その辺をちゃんと考えて色々とやって行かないとだね。

 

戦車道にドレだけの人が集まるのか、其れはオリエンテーリングでの生徒会のプレゼンテーションが全てだから、其処でドレだけの人に戦車道に興味を持ってもらえるかだね。

 

其処は会長さんの腕の見せ所だろうね。

 

午後のオリエンテーリング、楽しみにしてますよ、会長さん♪

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

そんな訳で放課後のオリエンテーリング……必須選択科目に対する説明が主だったけど、生徒会が用意したと思われるビデオを使っての戦車道の紹介はハッキリ言ってちょっと異常だわ。

 

ビデオの内容はよくある戦車道の宣伝映像だったけど、問題は戦車道履修者だけに用意された優遇を通り越した、明らかにやり過ぎと言うしかない特典の数々。

 

単位の上乗せは兎も角、年間遅刻を200日まで認めるって、明らかに異常よね?――まぁ、其れだけの特典を付けてでも戦車道の履修者が欲しいんでしょうけど、其れにしたってこの好待遇は普通に考えて有り得ないわ。

 

 

 

「うん、其れは思ったよエリカさん。」

 

「何が何でも戦車道履修者を確保しようと言う魂胆が見え見えですからね。」

 

「正直な事を言うなら、あの会長さんに問い質したい所だけど、あの手の輩は本音を中々語らないって相場が決まってるから、問い質すだけ徒労でしょうね。」

 

尤も、何時かはその意図を話して貰う――最悪の場合は話させるけどね。

 

何にしても、これで大洗でも戦車道を続ける事が出来るわね?――見せてやりましょうみほ、私達の戦車道って言うモノを!!

 

 

 

「勿論、その心算だよエリカさん!!」

 

「大会に出る以上は優勝一択よ!!誰が相手であろうとも蹴散らすだけよ!!」

 

其れが例え、嘗ての隊長だったまほさんでもあってもね。――何よりも、私達は、西住かほの提唱する西住流を否定する為に大洗に来たと言っても過言じゃないらね。

 

其れは其れとして、優花里だけじゃなく、沙織と華が戦車道に興味を持ってくれたのは予想外だったけど、仲間が増える事に関しては問題ないから、逆に良かったのかも知れないわ。

 

 

何にしても、此処からが始まりなのは間違い――だからこそ、私達は勝って勝って勝ちまくってやるわ!それこそ、黒森峰が警戒する位に!

 

 

予想外の展開で戦車道に復帰する事になったけど、ある意味で此れは私の願望が叶ったとも言えるわ――みほと一緒に戦車道を続けたい……それが私の願いだからね。

 

 

大洗女子学園、思った以上に楽しい事があるみたいね?……これは楽しみになって来たわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 




キャラクター補足





・秋山優花里

くせっ毛が特徴的な、戦車マニアの女の子。
去年の全国大会準決勝前に大洗を訪れていたみほ達を尾行していた(?)のが縁で、今年 から大洗女子学園の生徒となったみほ達の最初の友人となる。
戦車マニアであるだけでなく、戦車道も好きで、みほ、エリカ、小梅の事は中学時代から注目しており、此の3人が黒森峰に揃った時は『最強が揃った』とも思っていた。
誰が相手でも『ですます調』で話すが、其れだけでなく『であります』と軍人調になったり、相 手の名前に『殿』と付けて話すなど、話し方は結構特徴的。


・五十鈴華

黒目黒髪と言う、生粋の大和撫子な外見の少女。
同じクラスに転校して来たみほとエリカに沙織と共に声を掛け、同じクラスでは最初の友人となる。
五十鈴流と言う華道の家元の娘で、非常におっとりとした生粋のお嬢様だが、実は芯が強く肝が座っており、非常にしっかりとした自分の考えを持っている。
反面、やや世間知らずでズレた所があり、テレビや雑誌等で知ったと思われる言葉をそのまま使ってしまう事もしばしば……
また見た目に似合わず、可成りの大食いさんで、学食メニューは『大盛り』が基本。


・武部沙織

みほとエリカのクラスメイトで、華と共にA組では彼女達の最初の友人となった女の子。
愛読書が結婚情報誌と言う程、結婚願望や恋愛願望が強いが、これまで彼氏が出来た事は只の一度もなく、事ある毎に華からの強烈な突込みを喰らっている。
とても積極的で、明るく社交性もある上に、よく気が付き面倒見も良い、ある意味ではパーフェクトとも言える女の子。
尚、視力はあまり良くなく、外出時はコンタクトレンズを使用し、プライベートでは赤のアンダーリムの眼鏡を使用している。


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Panzer102『大洗女子学園で戦車探します!!』

保有戦車はⅣ号一台…Byみほ      舐めてる?Byエリカ     舐めてる訳じゃないと思いますBy小梅


Side:みほ

 

 

マッタク持って予想外だったけど、大洗女子学園が今年から戦車道を復活させるって言うのは、私達にとっては嬉しい誤算だったかな?

戦車道部を立ち上げる心算でいたけど、選択必修科目で戦車道を復活させるなら新たに部を設立する必要はないし、選択必修科目なら、新設の部活よりも人は集まるかも知れないからね。

 

 

 

「希望を言うなら、最低でも準決勝を戦うための15輌分の戦車と、その分の人員を確保したい所だわ。

 同学年では優花里と華と沙織が確定して、1年は澤が幾らか心当たりがあるみたいだけど、だからと言って15チームを確保できるかってのは分からないでしょう?」

 

「そもそもにして15輌も戦車が有るか分かりませんからねぇ。」

 

 

 

其れは其れだよ。

もしも戦力が足りないなら、足りない分は戦術と腕で補う事も出来るからね――ぶっちゃけて言うなら、大洗の所有戦車が何で何輌であっても私は、全国大会で黒森峰を下して頂点に立つ!

それ以外は有り得ないからね!!

 

 

 

「大きく出たわねみほ?……だけど、其れ位の気概が無いと全国制覇は出来ないわ!」

 

「私達の力で、大洗を勝利に導きましょうみほさん。」

 

 

 

うん、その心算だよ小梅さん!

大洗女子学園の戦車隊は、未知数の力を持って全国大会に殴り込みをかける!!――何とも言えない感じで、ワクワクして来たよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer102

『大洗女子学園で戦車探します!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言う訳で放課後――つまりは戦車道の時間。放課後でお仕事が終わってるのでロンメルとアンドリューも一緒に参加。

集まったメンバーは、私達を含めて30人……こう言っちゃなんだけど、アレだけ派手な勧誘活動をしたにしては少ないとしか言いようがない。

まぁ、その辺は私達の活躍次第では、追加の参加者が現れるかも知れないから、現時点での人数は、あまり大した事では無いのかも知れないけどね。

 

で、倉庫前に集まった多戦車道の履修者……私達と生徒会以外は初めて会う人達だけど……なんて言うか個性的な人達が多いような気が。

まず一番に目を引くのは、コスプレをしてるとしか思えない集団。

眼鏡にスカーフに六文銭の鉢巻にドイツの軍帽……歴史女子の究極形って言う所かな彼女達は?

 

続いて目を引くのは、バレーボールのユニフォームを着た一団……バレー部なのに戦車道をやるのかな?二足の草鞋は難しいんじゃないかと思うんだけど、やる気があるなら大丈夫だろうね。

 

でも一番目を引くのは、長身に赤目と銀髪で大凡高校生とは思えないプロポーションの美女!あの人は本当に高校生なのかな!?

 

 

 

「まぁ、此処に居るんだから高校生でしょ。制服着てるし。

 だけど、今のはあくまで貴女の主観……この中で一番注目を浴びてるのは、間違いなく貴女と澤よ?」

 

「へ?そうなのエリカさん?」

 

「そんなに注目されてるんですか、私と西住先輩って?」

 

「貴女達、其れはボケなの其れとも素なの!?

 みほが注目されてる理由は何時も通りだけど、澤は澤で、そんなみほと普通に話してるからよ!おっと、私達は同学年だからノーカンよ?

 此れだけ注目の的となってる2年生と親しげに話す1年生……注目されて然りでしょう?」

 

 

 

成程、確かにちょっと納得。

クロエちゃんも私には話しかけてくるけど、梓ちゃんほどじゃないからね?――まぁ、注目されようがされまいが、その辺は別にあんまり意識してないけどね。戦車道とは直接関係ないし。

 

 

 

「西住さん、逸見さん、赤星さん!バレー部に入ってくれませんか!!」

 

「「「是非!!」」」

 

「うわぁ!い、行き成りなんですか!?」

 

「唐突にも程があるわよ、アンタ達!!」

 

「部活の勧誘って、其れを此処でやるのは如何かと思うんだけど……」

 

「其処は根性で何とかなります!!」

 

「「「何その超脳筋理論!?」」」

 

 

思わず突っ込みを入れる位のトンでも理論だよ其れ!?知波単学園にだって、これ程の脳筋は存在してないんじゃないかって思う位にね。

でも、なんで私達に声を掛けて来たのかなぁ?

 

 

 

「西住さん達の身体能力がトンデモナイからに尽きます!

 聞いた話によると、西住さんは片腕でウルトラC級の技を繰り出し、逸見さんはレスリング部のヘビーバックを殴り飛ばし、赤星さんは跳び箱10段を軽々クリアしたとか!

 其れだけの身体能力があるなら、必ずバレーボールでも力になってくれる筈です!だから、是非ともバレー部に!!」

 

 

 

成程、そう言う事か~~……でも、ごめんなさい、無理です。

私は戦車道に集中したいし、其れはエリカさんと小梅さんも一緒だからね?……其れに、こんな事を自分で言うのはアレだけど、私みたいな身体障碍者が高校の体育総体には出れないと思うんだ。戦車道には『車長専任免許』があるから、私でも参加できるけどね。

 

「其れに、バレー部なら如何して戦車道を?」

 

「バレー部は人数不足で廃部になったので、其れを復活させるために、戦車道で活躍してバレー部に部員を!!」

 

「いや、其れ意味ないでしょ?

 幾らバレー部が戦車道で活躍したって、集まるのはバレー部の部員じゃなくて、戦車道の履修者だと思うわよ普通に考えて?」

 

「なんだって~~!?其れは考えてなかった!!」

 

 

 

いや、其れ位は普通分かると思うんだけどね?

だけど、履修した以上は、戦車道を真剣にやって欲しいなぁ?――バレーボールとは違うけど、戦車道には戦車道の面白さがあるからね。

折角履修したんだから、戦車道の事を深く知って欲しいんだよね、経験者としては。

 

 

 

「言われてみれば、確かにそうかも。

 私達は確かにバレー部だけど、今は戦車道履修者……なら、今は戦車道に真剣に打ち込む事こそが、スポーツマンとしてのあるべき姿!

 よーし、根性で戦車道を頑張るぞー!!」

 

「「「はい、キャプテン!!」」」

 

 

 

あはは……取り敢えず、バレー部の皆さんは大丈夫そうだね。

 

 

 

「諸君、良く集まってくれた!今此処に、大洗女子学園戦車隊の復活を宣言する!!」

 

 

 

っと、此処で生徒会のモノクル……河島桃さんが皆の前に出て、大洗女子学園の戦車隊の復活を宣言。と言う事は、此処で大洗が保有する戦車が発表されるのかな?

私物として持ち込んだパンターとティーガーⅡは有るけど、大洗がどんな戦車を保有してたかは、幾ら何がドレだけでも構わないとは言っても把握しておく事に越した事は無いからね。

 

 

 

「其れで保有戦車は何ですか!?パンターですか!ティーガーですか!!?」

 

「速攻で喰い付いたわね優花里は……」

 

「優花里さんらしいと言うか……でも実際問題、保有戦車は大事ですね?幾らみほさんが車長として優秀とは言っても、保有戦車が余りにも低性能では、カバーし切れないかも知れませんからねぇ?」

 

「ん~~っとね、今の所ある戦車は此れかな?」

 

 

 

――ギィィィィィ……

 

 

 

倉庫のシャッターが上がって現れたのは、Ⅳ号戦車D型――なんだけど、何て言うか物凄く錆びついてるなぁ?

大洗が戦車道をやってたのは20年以上前の事だから、その時から人知れず放置されてたのなら仕方ないかも知れないけど、この保存状態は流石に有り得ないよ……お父さんが居たら、整備士魂に火が点いたかもだよ。

 

 

 

「うわ、ボロボロじゃん!!」

 

「ワビサビがあって宜しいんじゃないでしょうか?」

 

「此れは鉄さび!!」

 

 

 

うん、巧い事を言うね沙織さん。

でも確かにボロボロだけど……エンジンは生きてるから少し直してあげれば起動するし、転輪も動くから履帯を付けてあげれば大丈夫。

うん、これなら行けます!

 

 

 

「おぉ、其れは良かった!

 此れがダメだったら、西住ちゃんが持って来た2輌だけだったからね~~。」

 

「其れでも、これで漸く3輌です。

 他に戦車は無いんでしょうか?……流石に3輌だけって言うのはキツイと言うか、幾らなんでも其れで全国制覇は、ぶっちゃけ無理です。」

 

「其れは重々承知してるよ西住ちゃん。

 あくまでも倉庫に残ってたのが其れだけって事で、如何やら学園艦のあっちこっちに戦車が隠されてるみたいなんだよねぇ?――ってな訳で、先ずは学園艦の何処かに存在してる戦車の捜索から始めようと思うんだけど、如何だい?」

 

 

 

『如何だい?』って言われても、戦車が足りない以上は探すしかないですよ会長さん。

ドレだけの戦車が何処に隠されてるかは分かりませんけど、可能な限り探し出して戦力を整えないと、全国制覇なんて夢のまた夢所か、弱者の思い描いた根拠のない絵空事になっちゃいますからね。

 

 

 

「でも、戦車を探す前に隊長と副隊長を決めませんかみほさん?

 幾ら戦車を見つけても、戦車隊を指揮する隊長と、隊長を補佐する副隊長が決まって無いんじゃ、戦車隊としての形を成してませんから。」

 

「其れは、確かに小梅さんの言う通りかも。

 戦車を探す前に、隊長と副隊長を決めた方が良いかも知れませんね、会長さん?」

 

「一理あるね~~?でもさ、そう言う事ならヤッパリ西住ちゃんが隊長でしょ?」

 

「へ?私ですか?」

 

「ちょ、会長がやるのではないのですか!?」

 

「いやいやかーしま、西住ちゃん達が戦車道を如何してもやらない、やらなかったらこの学校から追放されるって言ってもやらないって言うなら、そん時はアタシがやる心算だったけど、西住ちゃん達戦車道取ってくれたから、アタシがやる意味ねーでしょ?

 って言うか、西住ちゃん以外に隊長は居ないっしょ?何たって、戦車道界隈ではその名を知らぬ人は居ないって言われる『隻腕の軍神』だよ?天下の西住流だよ?黒森峰10連覇の立役者だよ?

 此れだけの実力のある戦車乗りを有してるのに、その人を隊長にしないだなんて、大洗の常識を疑われちゃうってモンさ。」

 

 

 

あの、あんまり持ち上げられても困るんですけど会長さん?其れに、会長さんの意見だけじゃなく皆の意見も聞いてみないと――

 

 

 

「みほが隊長なのに異存なし。って言うか、隊長はみほ以外ないわ。会長さんも言ってたけどね。」

 

「私もみほさんですね?

 中学では1年生の頃から隊長を務めていたんですから、戦車道経験者の中でも隊長経験は抜群に多いですから。」

 

「矢張り隊長は西住殿です!

 逸見殿や赤星殿も捨て難いのですが、矢張り西住殿は隊長を務めてこそです!!」

 

「私も西住先輩が隊長を務めるのが良いと思います。

 殆ど素人の集団とも言える大洗の戦車道を纏め上げる事が出来るのは西住先輩以外には居ませんから!」

 

「私も西住先輩にだナ。

 先輩の隊長としての腕前は超一流だからネ?本気で全国制覇を目指すなら、西住先輩以外の隊長は有り得ないヨ。」

 

「うむ、私も西住さんに一票だ。

 幼馴染の子が戦車道をやっているんだが、中学の全国大会の準決勝と去年の高校大会の2回戦で完敗したと言っていたからな。」

 

 

 

って、エリカさんと小梅さんと優花里さんと梓ちゃんとクロエちゃんが私を推薦して、更に赤いマフラーを巻いた歴女チームの人も私を推薦して来たって本気で!?

私が隊長で良いの!?

 

 

 

「西住ちゃんで良いんじゃなくて、西住ちゃんが良いんだよ。

 西住ちゃん、大洗女子学園戦車隊の隊長、引き受けてくれないかな?」

 

「……分かりました。誠心誠意、隊長を務めさせていただきます!」

 

まぁ、確かに私の場合、誰かの下に付いて戦うよりも、自分で指揮を出した方が戦いやすいからね――其れを知ってるから、お姉ちゃんも黒森峰で遊撃隊を組織した訳だし。

其れで、隊長は私が勤めるとして副隊長は……此処はやっぱりエリカさんかな?

 

 

 

「私?そうね、貴女に副隊長として任命されるのは光栄なんだけど、私は澤を推すわ。」

 

「えぇ!?私ですか!?」

 

「あ、確かに其れはアリですねエリカさん♪

 澤さんなら、この中の誰よりもみほさんと一緒に戦ってますし、中学時代は隊長のみほさんの下で副隊長を務めていたんだから適任だと思います。って言うか、これ以上の適任は居ませんよ。」

 

 

 

梓ちゃんが副隊長……成程、其れは確かにやり易いかも。

こう言ったら何だけど、私の型のない戦術を体系化して明光大の戦車道の基本戦術にしちゃったのは、脱帽ものだからね?……何だか中学の頃を思い出しちゃうけど、梓ちゃん、副隊長をお願いできるかな?

 

 

 

「――はい!精一杯頑張ります!!」

 

「此れで無事に隊長と副隊長が決まった訳だけど、戦車道経験者の皆には、雰囲気が出るから階級でも与えとこうかね?

 隊長の西住ちゃんは一佐、副隊長の澤ちゃんは三佐、逸見ちゃんと赤星ちゃんは一尉で、武藤ちゃんは二尉って所だね~~♪」

 

 

 

っと、此処で更に階級ですか会長さん?

私と梓ちゃんが佐官で、エリカさんと小梅さんとクロエちゃんが尉官ですか……まぁ、私と梓ちゃんの役職を考えたら妥当な所ですけど、そうなると、未経験者の皆さんはどうなるんでしょうか?

 

 

 

「ん~~?其れはアタシも含めて、全員二等兵で!宜しくお願いしまっす隊長!!」

 

「はい、任されました!」

 

まさか二等兵とは……でも、自分をそういう位置に置く事が出来る会長さんは凄い人かも知れないね?人は誰しも自分を誰かの下に置こうとは思わない生き物だからね。

 

では、そう言う事で改めて戦車を探しましょう!

 

 

 

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

と言う訳で戦車探し開始。

全員でグダグダ動くのもアレだから、チーム分けをして、手分けをして探す事にね。

因みにチーム分けは――

 

 

・Aチーム:私、優花里さん、沙織さん、華さん

・Bチーム:エリカさん、リイン・E・八神さん、坂口桂里奈ちゃん、宇津木由紀ちゃん、高安美里ちゃん

・Cチーム:小梅さん、根津茜さん、大野あやちゃん、桧山直子ちゃん、小沢よし江ちゃん

・Dチーム:梓ちゃん、クロエちゃん、山郷あゆみちゃん、丸山紗希ちゃん

・Eチーム:バレー部の皆さん

・Fチーム:歴女の皆さん

 

 

こう言ったチーム分け。生徒会の皆さんは報告待ちの裏方さんで、戦車の運搬なんかは自動車整備部に頼んでるみたいだね。

 

だけど、この広い学園から戦車を探し出すって言うのは容易じゃないよ……せめて何処にあるのか位の目星がついてるなら未だしも、情報ゼロの状態から見つけるなんて、九牛の一毛だよ。

と言うか沙織さん、駐車場に戦車は無いと思うよ?

 

 

 

「だって戦車だって車じゃん!止めてあるかもしれないでしょ?」

 

「2~3日前なら兎も角、20年も駐車場に放置されてたら、普通に撤去されると思うんだけど……優花里さんと華さんは如何思う?」

 

「まぁ、間違いなく撤去されると思うであります。」

 

「誰も乗らない戦車が置いてあっては邪魔でしょうから……駐車場にはないのではないでしょうか?」

 

「が~~ん!でも、其れじゃあみぽりんは何処にあると思うの?」

 

「少なくとも人目に付かない所じゃないかと思うよ?」

 

大洗は20年前に戦車道を廃止してるって事だけど、そうなった場合は学校の資金稼ぎの為に多くの戦車は売られちゃったんじゃないかって思うんだけど、当時の戦車道履修者の中にはどうしても売りに出したくない戦車を何処かに隠した人達が居たと思うんだ。

そうなると、人目に付かない所にこそ戦車があるんじゃないかな?

 

 

 

「あ~~!それです西住殿!!

 お母さんが言ってました!大洗の戦車隊は、20年前に廃止になる時に、何輌かの戦車を学園艦の色んな所に隠したって!!其の内の1

 輌は、確か山の方に隠したとか……」

 

「お手柄だよ優花里さん!!」

 

まさか、そんな事を知ってたとはね!

山の方って言うなら、一カ所しかないから探す場所は限られてくる――優花里さん、この功績を評価して、貴女を二等兵から一等陸士に昇級します!

 

 

 

「西住殿から、昇級を直接言い渡されるとは、感激ですぅ~~~~!!」

 

「大袈裟だなぁ、優花里さんは。」

 

だけど、冗談抜きで此れは有り難い情報だよ。

 

 

 

 

そんな訳で、大洗の学園艦で唯一の小山にやって来たんだけど、小山とは言っても範囲はとっても広いから、此処から1輌の戦車を探すって言うのは至難の業だね。

取り敢えず雑草が鬱陶しいから、ロンメル『火炎放射』!!

 

 

 

『♪』

 

 

 

――ゴォォォォォォォォォォォォォ!!

 

 

 

「よし、これで大分探しやすくなったね。」

 

「戦車探す為に、山を焼き払わないで下さい!!」

 

 

 

でも、これで大分視界がクリアになったでしょ優花里さん?

……まぁ、焼き払った範囲に戦車が無いのは、言うまでもない事だけどね……いっその事、山を丸ごと燃やしちゃった方が早いかな?山を殲滅しちゃえば、楽だよね?

 

 

 

「ゆかりん、みぽりんの背後に、黒い胴着を着た褐色肌で赤い髪の毛を逆立てた赤目のオジサンが見えるんだけど!?」

 

「拳を極めし者ならぬ、戦車を極めし者ですねぇ今の西住殿は……ぶっちゃけ勝てる気がしません。」

 

 

 

うふふ、結構マジだからね。

ん?如何かした華さん?鼻をヒクヒクさせて……

 

 

 

「いえ、植物と燃えカスの匂いに交じって、鉄と油の匂いが……此方からです。」

 

「えぇ、分かるの!?私は何も感じなかったけど………」

 

「華道をやっているからでしょうか、少々匂いには敏感みたいです――私だけかもしれませんが。」

 

 

 

うん、間違いなく華さんだけだと思う――世界広しと言えど、決して大きくは無いけど面積としては広大な山の中で鉄と油の匂いを嗅ぎ分けられる人なんていないと思うからね。

 

で、その華さんの嗅覚を頼りにして辿り着いた先には、驚く事に本当に戦車があった!

38(t)戦車B/C型……お世辞にも強力とは言えない戦車だけど、軽戦車って言う事を考えたら悪くないスペックだし、機動力もソコソコあるから、戦局をかきまわす事は出来るだろうしね。

 

取り敢えず、これで1輌は確保だけど、他のチームがどんな戦車を探し出したのかが問題だね――戦車道では、保有戦車が其のまま戦力に直結するから、どんな戦車が有るかによって、戦術を考えないとだからね。

果たして、どんな戦車が見つかったのか、だね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

で、戦車探索も終わって、その結果は……

 

 

・Aチーム発見戦車:38(t)戦車B/C型

・Bチーム発見戦車:巡航戦車クルセイダーMk.Ⅱ

・Cチーム発見戦車:なし

・Dチーム発見戦車:Ⅲ号戦車J型

・Eチーム発見戦車:なし

・Fチーム発見戦車:Ⅲ号突撃砲F型

 

 

 

6チーム中4チームが見つけられたなら、結構いい結果だね。

私が持って来たパンターとティーガーⅡ、保管されてたⅣ号D型を入れて全部で7輌……今の人数を考えたら妥当な車輌数だけど、問題はどのチームがどの戦車に乗るかだよね?

 

 

 

「西住ちゃんは、持って来たどっちかの戦車に乗るっしょ?んで、空いたどっちかにも経験者が――っつーか、信頼できる性能の戦車には経験者が乗るべきっしょ?

 そっちの方が性能を十分に発揮できるし。」

 

「其れは確かに。――私は、パンターに乗ります。中学校の頃からの相棒ですから。

 なので、ティーガーⅡは任せて良いかなエリカさん?って言うか、エリカさん以外に、ティーガーⅡの性能を引き出す事は出来ないから。」

 

「嬉しい事を言ってくれるじゃないのみほ?

 良いわ、漆黒の虎の王は、私が貰う……圧倒的な攻撃力で、どんな敵でも食い破ってやるわ!!」

 

 

 

うん、頼りにしてるよエリカさん。

そして、Ⅳ号はCチームが、Ⅲ号にはDチームが――良いよね、小梅さん、梓ちゃん?

 

 

 

「お任せ下さいみほさん!Ⅳ号戦車、有り難く拝領します!」

 

「Ⅲ号戦車は、任せて下さい西住隊長!」

 

 

 

うん、任せたよ。

で、最終的に決まった大洗のオーダーは……

 

 

・Aチーム:パンターG型

・Bチーム:ティーガーⅡ

・Cチーム:Ⅳ号戦車D型

・Dチーム:Ⅲ号戦車J型

・Eチーム:クルセイダー巡航戦車Mk.Ⅱ

・Fチーム:Ⅲ号突撃砲F型

・Gチーム(生徒会):38(t)戦車B/C型

 

 

 

と、こう言う感じになった。

特別強力って訳じゃないけど、割かし高い性能を持ってるⅢ号とⅣ号、そしてⅢ突が見つかったのは僥倖だね――特にⅢ突は破壊力抜群の長砲身のF型だからね。

取り敢えず、これだけの戦力があるなら充分かな?クルセイダーと38(t)が不安材料だけど、其れは戦術と腕でカバーできる範囲だからね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

その後は、戦車を洗車した後に解散。

私とエリカさんは洗車の必要がなかったから、他のチームを手伝ったんだけど、何て言うか皆洗車でも楽しそうで安心したよ……黒森峰の頃は、こんな事は感じなかったからね。

 

で、今は皆で下校中で、優花里さんの提案で戦車ショップにやって来たんだけど……思った以上に専門的な物が置かれていたので驚いてる真っ最中だよ!!

 

よくこんな所知ってたね優花里さん!?

 

 

 

「常連ですので♪」

 

「常連なんだ!?」

 

其れは其れで予想外だけど、確かにこの店は、戦車道マニアには垂涎の場所であると言っても過言じゃないからね――戦車道に必須とも言われるアイテムが揃ってるからね。

 

確かに、私でも興味をそそられるものはあるけど――

 

 

 

『其れでは西住まほさんにインタビューをしたいと思います。勝利の秘訣とは、ずばり何ですか?』

 

『諦めない事、そして逃げない事ですね。』

 

 

 

備え付けられてた、モニターにお姉ちゃんが映ったその瞬間に私は意識が思いっきり飛んだよ――まさかお姉ちゃんがテレビ出演をするなんて事は夢にも思ってなかったからね。

 

 

 

「でも、負ける気はないんでしょう?」

 

「言われるまでもなく、負ける気はないよエリカさん!!!」

 

始まる前から負ける事を考えていたら勝負にすらならないからね……例えお姉ちゃんが相手であっても、戦う事になった以上は、全力を持って戦って、そして勝つだけだからね!!

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「この闘気……申し分ないわ。任せたわよ、みほ!!」

 

「私の魂、貴女に預けます!」

 

「お願いします、西住殿ぉぉぉ!!」

 

 

 

了解!!

私は負けない――勝って、黒森峰を下して、お婆ちゃんの言う西住流を徹底的に否定した上でぶっ壊す予定だったからね!!私は、其れを実行するだけだよ!!

 

誰が何と言おうと、私は貴女の戦車道を認めないよお婆ちゃん!

 

勝利の為に仲間を斬り捨てろって言うのは如何したって容認できないから、古い西住流は此処で終わりだよ――そして、あの世の淵で、見てると良いよ、大洗が全国制覇するその瞬間をね!

 

 

お婆ちゃんの西住流は、此処で絶対に終わらせる!!――隻腕の軍神こと、西住みほが!!

己が信じて来た物が、目の前で崩れ去るその姿を、精々目に焼き付けておくと良いよ、お婆ちゃん――大会で貴女が目にした勝者こそが最強だって言うなら、私達は其れを越えるだけだからね。

 

だから、その為にもまずは、大洗女子学園の戦車隊を、大会で十分戦えるレベルにまで鍛え上げないとだね!

 

うん、楽しみになってきたよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer103『教官参上!行き成り戦車動かします!』

行き成り実戦形式……ですかBy小梅      炎が、アンタを呼んでるわ!Byエリカ     なら燃え尽きちゃいな……潔くね!Byみほ


Side:みほ

 

 

如何も皆さんおはようございます、西住みほです。

行き成りですが、現在私は目が覚めた直後にも関わらず、身動きが取れない状態となっています――一体何があったのかと思うかもしれませんが、簡単に、五七五で言うなら、『朝起きて 右と左に 戦友が』って言う所です。

 

最大限ぶっちゃけて言うと、エリカさんと小梅さんに抱き枕にされてます!!

いや、私の部屋は三段ベッドを入れるスペースが無いって言う事でトリプルベッドを入れて、寝る時はいつも3人一緒のベッドだったけど、抱き枕にされるって言うのは流石に初めてだよ!?

 

 

 

「んん……みほぉ……」

 

「みほさんぁん……」

 

「はうぁ!!」

 

ヤバい、これはヤバい!!なんて言うか可成りヤバい、主に私の精神的に!!

右腕にエリカさんの柔らかい物が押し当てられ、左の脇下には小梅さんの柔らかい物がぁぁーーー!!ふわふわでプルプルな物がぁぁぁ!!

この状況を打開するには……アンドリュー、渾身の一発をお願い!!

 

 

 

『ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』

 

 

 

「「!!?」」

 

「……目が覚めた、エリカさん、小梅さん?」

 

「バッチリ目が覚めたわ……って、この格好は若しかして……」

 

「私とエリカさん、みほさんを抱き枕にしてましたか?」

 

 

 

うん、バッチリとね。

私としては驚いたけど嫌ではなかったからとやかく言う心算は無いけど……せめて胸を押し当てるのだけは止めてほしいかな?幾ら女の子同士とは言え、流石に照れるからね……

 

 

「「……Jawohl.(了解。)」」

 

「お願いするよ本気で……」

 

其れじゃあこの話は此処までとして、朝ごはんを食べて学校に行こうか?

生徒会の話では、今日から実践的な訓練を始めるって言う事だったし、教官って言う人を呼んでるって事だったからね――果たして、どんな人が教官としてやって来るのか、ちょっと楽しみではあるかな♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer103

『教官参上!行き成り戦車動かします!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリカさんと小梅さんを起こしてから朝ごはん。

アンドリューの咆哮で目を覚ましたとは言え、目覚めたのは6時だから朝ごはんを作る時間は充分にあったから、今日も今日とて良い朝御飯が摂れたのは間違い無いね。

 

因みに本日の朝食メニューは、ふっくら炊きあがった白飯に白菜の浅漬け、アジの干物と納豆、そしてワカメと豆腐となめこの味噌汁って言う純和風なメニューだった。

香ばしいトーストも悪くないけど、やっぱり日本人的には朝は御飯と納豆と味噌汁だよね♪

 

と言うか『焼き魚』『納豆』『味噌汁』の白飯三種の神器を嫌いな人を、私は日本人として認めない!認められる筈がない!有り得ないから!

 

 

 

「其れ、通学途中の女子高生が言う事でもないと思うわよみほ?

 まぁ、貴女の意見にはおおむね賛成するけどね……納豆は好みが分かれるから兎も角として、焼き魚と味噌汁が嫌いだなんて言う輩は速攻で日本国籍を捨てなさいって感じだわ。」

 

「焼き魚と味噌汁は日本人のソウルフードですからね……其れが嫌いだなんて言う人は、日本人と名乗る資格すらありませんよ!!」

 

 

 

マッタクだよ!

日本は瑞穂の国って言われる位なんだから、もっとお米食べないと!

そうだ、戦車道履修者の人達にも出来るだけ主食はお米にするように言っておかないとだよ!どんな競技でも、一流アスリートって呼ばれる人達の多くは米食べてるからね!(此れは事実だよ。)

 

 

 

「言われてみれば、黒森峰の頃の主食もパンや麺よりも御飯の方が多かった気がしますねぇ?」

 

「基本的に、御飯て言うのはパンや麺と比べると腹持ちが格段に良いんだけど、そうであるにも拘らずパンや麺と違って油とか卵なんかを加えてないから、同じおかずの場合は、主食が御飯の方が総カロリー数は低くなるんだよね。」

 

「米は太るからとか言って食べないくせに、遥かにカロリーの高いケーキなんかは平気で食べる奴等に米の素晴らしさを小一時間ほど語ってやりたいわね。」

 

「うん、其れは私もそう思うよエリカさん。」

 

取り敢えず戦車道履修者には、米食を基本にするように――って、アレ?前方に何か見える……大洗の制服着てるから、大洗の生徒だと思うけど、なんかフラフラしてる?

ちょ、大丈夫!?

 

 

 

「つらい……何故朝は来るのだろう……」

 

「フラフラの割に、妙に哲学的な事を言うわね……」

 

「地球は回っているからだ!って言っても、其れで済む話じゃないんでしょうねぇ、きっと。」

 

「朝など来なければいいのに……」

 

「其れは無理だと思うよ?時が止まらない限りは。」

 

「分かってはいるが、毎日毎日そう思わざるを得ない……」

 

 

 

……この異常なまでのフラフラ感は、間違いなく極度の低血圧だよね?

確かに低血圧だと、朝は可成りきついらしいからね~~……戦車道の訓練を始める前のお姉ちゃんも低血圧で、毎朝起きるのに苦労してたからね?……だからと言って、お姉ちゃんごと布団を引っ繰り返す菊代さんも如何かと思うけど。――尤も、『此れが嫌なら御自分で起きられるようになって下さい、まほお嬢様♪』の一言のおかげで、お姉ちゃんは低血圧を克服したんだけど。

 

其れはまぁ今は良いとして、幾ら何でも放っておけないよね此れは?って言うか、このペースで行ったら遅刻所か1限目に間に合うかすら怪しいからね……よし、エリカさん、小梅さん、その人をアンドリューの背中に乗せて!

此れより『とらとら作戦』を開始します!

 

 

 

「了解よ隊長!」

 

「よいしょっと……落とされないように、捕まっていてくださいね?」

 

「なんだ?何が始まるんだ……?」

 

「ふっふっふ……其れは此れから分かるんだよ。」

 

捕まっててとは言っても、この状態の人に其れを求めるのは酷だから、私もアンドリューの背中に乗って落ちないようにサポートをね。片腕でも、人一人落ちないようにする位なら難しくはないし。

 

では、準備が出来たので……アンドリュー、学校に向かって猛ダッシュ!!

 

 

 

『ガオォォォォン!!!』

 

 

 

「うわぁ!?何だ!?速い、速いぞ!!?」

 

「虎はネコ科最大の動物で、パワーは有るけど動きは遅いって思われがちだけど、処がどっこい、獲物に飛びかかる際の最大瞬間速度は40kmにも達するんだよ♪

 普通の虎は、其れを長時間維持する事は出来ないけど、私のアンドリューは、特殊な訓練を経て、其の力を連続10分間持続できるようになってるから、10分間だけは乗用車に乗ってるのと同じだよ。」

 

「ホント凄いわよねアンドリューって。」

 

「其れを飼いならしてるみほさんも相当ですけれどね?」

 

『♪』

 

 

 

其れは否定しないけど、ロンメルの妖術で身体強化をした上でアンドリューと生身で並走してるエリカさんと小梅さんも大概だよね?って言うか、漫画の猛ダッシュみたいな土煙がリアルに上がってるからね。

 

でも、これなら遅刻する事だけは無いかな?

 

良し、校門が見えた!アンドリュー、ラストスパート!!

 

 

 

『ガァァァァァァァァァ!!!』

 

「はい、到着。」

 

「ゴールイン!」

 

「フィニッシュです♪」

 

 

「アンドリューさんに乗って登校とは、今日は一段と派手な登校ね西住さん。……アンドリューさんの猛ダッシュについて来た逸見さんと赤星さんも、朝からお疲れ様だわ。

 だけど、アンドリューさんの背に乗ってるのは……冷泉さん!今日はギリギリ間に合ったけど、貴女ドレだけ遅刻してるのよ!

 少しは定時登校って言う事が出来ないの!?」

 

「無理を言うな……朝は起きるだけでも辛いんだ……うぅ、眠い……」

 

「もう!!

 西住さん達も、これから冷泉さんを見ても甘やかしたら駄目よ!」

 

 

 

あはは……この人、遅刻常習犯だったんね……まぁ、超低血圧なら仕方ないのかも知れないけど、其れだけ遅刻してるって言う事は、学園艦で一人暮らしなのかな?

家族が一緒なら、遅刻する程寝てるなんて事は無い筈だしね。……まぁ、深くは聞かないけどさ。

 

 

 

「そど子め……」

 

「何よ!?」

 

「何でもない。

 済まない、助かったぞ……この借りは必ず返すぞ……」

 

 

 

借りは返すって、義理堅い人なんだね冷泉さんは。(風紀委員の人(そど子さん?)がそう呼んでたから、冷泉って言うのは間違い無い筈。)

何にせよ、無事に登校できたから、今日も一日頑張らないとね!

 

アンドリューとロンメルも、お仕事頑張ってね?

 

 

 

『ガウ。』

 

『♪』

 

 

 

其れじゃあ今日も、張り切って行こうか!!

戦車道の時間は勿論楽しみだけど、それ以外の科目も疎かには出来ないからね……今日も一日頑張るぞーーー!!!

 

 

 

「「おーーー!!」」

 

「おー……」

 

 

 

あ、まだ居たんだ冷泉さん……此処まで気合の入ってない『おー』を聞いたのは、人生で初めてかもしれないよ――可成りのレア体験だね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

と、言う訳でやって来ました戦車道の時間!!

その前に今日あった事をザックリと話すと、英語の時間はエリカさん無双でした。古文では小梅さんと華さんが無双で、体育では私が片手一本指倒立を披露して拍手喝采浴びました!

そして、今日のお昼ご飯も華さんは安定の大盛りでした!……大盛りのカレーラスに、とんかつ定食とから揚げ定食のおかずだけを組み合わせるとは、グレイトすぎるよ流石にね。

まぁ、美味しそうに残さず食べきったから、私がとやかく言う事でもないけどさ。

 

「時に、今日来る教官って言うのは誰なんだろうね?」

 

「さてね?……其れよりもみほ、貴女その格好は一体何なのよ?」

 

 

 

此れ?此れはねぇ、中学校の時に部活勧誘で使った衣装なんだけど、結構気に入ってるから仕立て直して貰って、其れで大洗女子学園の戦車道が復活する記念の日だから、良い機会だから着て来たんだよ。結構似合ってるでしょ?

 

 

 

「はい、とっても良く似合ってます!!」

 

「ありがとう小梅さん。

 本当は帽子もあるんだけど、其れは中学校の時に梓ちゃんにあげちゃったからね。」

 

「あの帽子は今でも大事にしてます、西住隊長!」

 

「其れは、嬉しいかな♪」

 

ヤッパリあげたモノを大切にして貰てるって言うのは、あげた側としても甲斐があったって言うモノだからね。

 

 

 

「いやはやしかし、此れは相当にインパクトがあるぞ隊長?

 此れでサングラスでも掛ければ、相手の戦意が喪失するのは間違い無いんじゃないか?」

 

「いや、戦意喪失までは行かないでしょ松本?

 確かに迫力は有るけど、このみほを見て戦意を喪失するような柔な精神力じゃ、戦車乗りなんてやってられないわよ。」

 

「むぅ……そう言うモノか?それと、私の事はエルヴィンと呼んでくれ逸見さん!ソウルネームを名乗っている相手を本名で呼ぶのはNGだ。」

 

「ソウルネームって……姉さんのアールグレイみたいな物かしら?」

 

「多分そうだと思うよ?」

 

プラウダや聖グロの生徒が本名とは違う名を名乗って選手登録してるみたいに、エルヴィンさん達もソウルネームで通してるんだよきっと。

そう言う事なら、ソウルネームで呼ぶのがマナーだね。

 

 

 

「……そう言えば、ダージリンも田尻凜って呼んだらブチ切れてたわね。」

 

「アレはエリカさんが散々ぱら挑発しまくったからだと思うけどね。」

 

さてと、そろそろ始まる時間だけど、件の教官は何処かな?

学園艦に来るんだから、恐らくは飛行機かヘリで来るんだろうけど、少なくとも授業中には見かけてないから、此れから来るって言う事なのかなぁ?……教官が遅刻って言うのは無いと思うけど。

 

 

 

「も~~、まだかな~~?焦らすなんて大人のテクニックだよ!」

 

「あはは……やる気満々だね沙織さんは。」

 

昨日会長さんから『イケメンの教官が来る』って言う事を聞いて、凄くテンションが上がってたからね?……でも、沙織さんには悪いけど、戦車道の教官である以上は、来る人は絶対に女性だからね?

イケメンて言う事だから、美人なのは間違い無いけど――って言うか、戦車道関係者って美人さん多くないかな?お母さん然り、お姉ちゃん然り、各校の隊長は言うに及ばずだからね?

……沙織さん、戦車道をやってると美人になれるかもしれないよ。

 

 

 

「みぽりん其れホント!?そしたらモテモテになっちゃうよ!やだも~~~!」

 

「沙織さん、落ち着いて?」

 

「あはは……予想以上に効果覿面だったね。」

 

 

 

――ゴォォォォォォォォォォォォォ!!

 

 

 

っと、この音は……飛行機。しかも只の飛行機じゃなくて輸送機だよね?

其れが学園艦の上空に現れて、駐車場のギリギリまで降下して来て、ハッチから何かがパラシュートを開いて飛び出して来た……って、アレって戦車だよね!?

 

 

 

「自衛隊のC-2改輸送機に、陸上自衛隊の最新戦車である10式です!!」

 

「流石、詳しいね優花里さん?」

 

 

 

――グシャ!

 

 

 

って、駐車場のに止めてある車の上に着地して、車1台をスクラップにしちゃったよ……大丈夫なのかなアレって?……弁償は自衛隊がしてくれるのかも知れないけど……

 

 

 

「あっちゃ~~……あれ学園長の車だわ~~……」

 

「ポ、ポテチ……」

 

 

 

其れって可成りヤバいですよね会長さん。あと意味が分かりません河嶋先輩。

だけど、此れだけのことを平然とやってのける様な女性自衛官って……まさかとは思うけどあの人かな?そうだとしたら去年の決勝戦以来になるかな?あの人は、大会の審判長も務めてるからね。

 

 

 

「初めまして諸君!私がこの度、大洗女子学園の戦車道の教官として招かれた蝶野亜美よ!!」

 

「お、女の人?だ、騙された……」

 

 

 

沙織さん、そんなあからさまにガッカリしなくても……其れに騙してはいないと思うよ?イケメンなのは間違いない訳だしね。

其れよりも、お久しぶりです蝶野さん。去年の全国大会の決勝戦ぶりですね?

 

 

 

「あらみほちゃん!其れにエリカちゃんと小梅ちゃんも!よくよく見れば、みほちゃんの一番弟子の梓ちゃんまで居るじゃないの?

 師範から転校したって言う事は聞いてたけど、まさか大洗に来てたとはね?……此れは、思った以上に楽しい事になりそうだわ――みほちゃんてば鍛え甲斐があるし、ざっと見ただけでも結構素質のある子が居るみたいだしね。」

 

「はい、今回も宜しくお願いします蝶野教官!!」

 

「あの教官!戦車道やってるとモテるって本当ですか!?」

 

「ん?そうねぇ……モテるかどうかは分からないけど、狙った獲物を逃した事は無いわ!撃破率は120%よ!!」

 

 

 

沙織さん、此処で其れを聞く?そして蝶野教官、其れって好みの男性を落としたって意味じゃない上に、戦車道での撃破率でもなく、飲み比べを挑んで来た相手を酔い潰した確立ですよね?

殆どザルに近いお母さんですら負けたって言うんだから、相当な蟒蛇だよ……お母さんが『亜美は瓶ごとがデフォ』って言うのも、案外吹かしじゃないのかも知れないね。

 

時に蝶野教官、今日は何をやるんですか?

 

 

 

「そうねぇ?

 細かい事は面倒だし、大会までの事を考えたらゆっくりと基礎固めをしてる時間なんて無いから、行き成りだとは思うけど、実戦形式の試合をやって、その中で身体で色々覚えて貰いましょうか?」

 

「ちょ、其れは幾ら何でも無茶苦茶じゃない!?

 私やみほみたいな経験者なら兎も角、戦車に初めて乗る素人軍団に、行き成り戦車動かせって言っても無理があると思うわよ!?」

 

 

 

うん、マッタク持ってその通りなんだけど、蝶野教官には其れは言うだけ無駄だよ。

私も車長専任免許を取る為に指導して貰った事があるけど、結構無茶振りな課題を出して来たからね――でも、無茶振りと思える課題でも、其れはクリアできるモノだったから、行き成りの実戦でも多分何とかなるんだと思う。

 

 

 

「大丈夫よ!戦車なんて、バーンと動かしてドーンと撃てばいいんだから!!」

 

「アハハ……アバウトっすね教官?」

 

「会長に、其れは言われたくないと思いますよ?」

 

 

 

そしてこのアバウトさだから……だけど、過去に指導して貰った経験から、大体言わんとしてる事が分かっちゃう自分にちょっと複雑な感じ。

だけど、実戦形式って言うのは悪くないかも――習うよりも慣れろって言う言葉があるように、実際に体験した方が早く身に付くって言う事は確かにあるからね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

と言う訳で、くじ引きで決めたスタート位置に戦車を配置して、後は試合開始の合図を待つだけ。……訓練とは言え、実戦形式は燃えるね!

約2年ぶりの実戦だけど、頼りにしてるよ相棒!

 

 

 

「まさか西住殿と一緒に、このアイスブルーのパンターに乗る日が来るとは夢にも思っていませんでした!

 其れで、それぞれの役割は如何しましょうか?コマンダーは勿論西住殿ですよね?」

 

「そうだね。って言うか、私は其れしか出来ないからね。」

 

となると、残るポジションは操縦士、装填士、砲手の3つ……さて、どう分配したモノかな?

華さんは華道をやってるって言う事だったから、きっと集中力には物凄い物が有ると思うから、砲手が良いと思うんだけど……優花里さんと沙織さんは如何しようかな?

ちょいと失礼。

 

 

 

「西住殿!?」

 

「ちょ、みぽりん!行き成り腕握って如何したの!?」

 

「ん~~……太さはあんまり変わらないけど、優花里さんの方が沙織さんよりも筋肉があるし、鍛えてるみたいだね。」

 

「ふえ?わ、分かるのでありますか!?……実は、何時か戦車に乗る事が出来たらと思って、基礎的な筋トレだけはしていたんですよぉ。」

 

 

 

そうだったんだ……なら、優花里さんは力仕事の装填士、沙織さんは操縦士をお願いするよ。

 

 

 

「了解であります西住殿!!」

 

「巧く出来るかどうか分からないけど、やってみるよみぽりん!」

 

「私が砲手……頑張りますわ、みほさん。」

 

「うん、その意気だよ!それじゃあ行こうか!Panzer Vor!!」

 

「え、パンツのアホ!?」

 

 

 

――ドンガラガッシャーン!!

 

 

 

さ、沙織さん其れは無いよ……そう聞こえるかもしれないけど。

私だけじゃなくて優花里さんもひっくり返ったって言う事は、優花里さんは意味を分かってたみたいだけど……沙織さん、パンツアホじゃなくてPanzer Vor。戦車前進って意味だよ。

 

 

 

「あ、そうだったんだ!それじゃあ、張り切って行くよ!!」

 

 

 

――ドルゥゥン!!

 

 

 

動いた!……まさか、此の子に認められるとは、皆戦車乗りとしての秘めた才能があるのかもね。

 

 

 

「ひゃっほー!最高だぜぇぇ!!!!」

 

「そしてまさかのパンツァーハイ!?……優花里さん、気持ちは分かるけど、少し落ち着いてね?――でも、今のテンションは試合ではプラスに働くと思うから、そのテンションをコントロールできるようにしておくと良いよ。」

 

「はい!精進します西住殿!!」

 

 

 

さてと、其れじゃあ行くとしようかな?

バトルロイヤル形式の模擬戦は、私の十八番だからね……未経験者の皆に、味わって貰おうかな――隻腕の軍神の実力と、経験者と未経験者の差って言うモノをね。

その差を知って初めて、頑張ろうっていう気持ちになる事が出来るからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

まさかのバトルロイヤル形式の実戦となったけど……此れは、普通に考えたらみほのチームが勝つのは間違い無いでしょうね。

幾らみほ以外が素人だとは言っても、みほはその素人を短時間で自分の戦車道に最適化してしまう能力がある……つまるところ、バトルロイヤルに於いては真っ先に撃破しなくちゃならない相手だわ。

 

そういう訳だから、みほを撃破するまでは共闘する事にしない小梅、澤?

 

 

 

「其れが上策ですね……。

 みほさんだったら、何れか1輌でも撃破したら、其処で能力を見極めて、雲隠れした後に、最適化をしてしまうでしょうから、先ずは最優先で撃破しないと勝てませんよ。」

 

「其れでも、確実に勝てるかどうかは分かりませんけどね……」

 

 

 

其れがみほだからね。先ずは、みほ達のパンターを探し出して――

 

 

 

『38(t)行動不能!』

 

 

 

って思ってた矢先に生徒会チームが撃破されたですって!?

歴女チームとバレー部が撃破した可能性が無くは無いけど、試合が始まった直後の撃破って言う事を考えると、38(t)を撃破したのは間違いなくみほ達のパンター!

 

素人集団を率いて、行き成り試合初の撃破を成し遂げるとは、流石みほだわ……坂口、全力で行くからその心算でいなさい!無茶な要求でもやって貰うわよ!!

 

 

 

「あ、あいーーーー!!」

 

 

 

眠れる本能が覚醒した軍神を相手にするには、こっちも持てる能力の全てを注ぎ込んだ以上の力を発揮しないと、勝つのは難しいからね!

負けないわよみほ!!

 

 

 

――パリィィィン!!

 

 

 

「逸見、瞳からハイライトが消えたって……」

 

「ふ、発動したのよ八神……私とみほだけが至った『超集中状態』をね。」

 

こうなった以上、貴女が超集中状態にならない限り負けは無いわ……楽しませて貰うわよみほ!!

 

 

 

――尚、この直後、何時の間にか小梅と澤も『超集中状態』と会得していた事が判明して、ちょっとがっくり来たけど、大洗女子学園の現状を考えるなら、小梅と澤が此れに覚醒したのは喜ぶべき事よね。

 

取り敢えず、討たせて貰うわよみほ!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

『生徒会に騙されたから、真っ先に生徒会を撃破する!』って言う沙織さんの意見を採用して、先ずは生徒会の38(t)を撃破する事に成功。

まぁ、ファースト撃破は私も考えていた事だから、相手は誰でも良かったんだけど、此れで皆のレベルがドレ位かを把握する事は出来た。

後は、如何カスタマイズするかなんだけど……

 

 

 

「ちょ、5輌で1輌を狙うなんて反則だよ~~!!」

 

「いえ、バトルロイヤルなので反則ではないのでしょうか?」

 

 

 

そんな事を考える暇もないまま、ただいま絶賛他チームからの集中砲火を浴びてます!!

エリカさんと小梅さんと梓ちゃんが手を組む事は予想してたけど、まさか歴女チームとバレー部チームが共闘するとは思ってなかったよ……奇しくも、その結果私達は5輌の戦車を相手にする事になった訳だからね。

黒森峰の時のチームだったら、此処から無双できるんだけど、其れを優花里さん達に求めるのは酷だから……此処は、西住みほの必殺技を使って切り抜ける!!

 

喰らえスモークボンバー!!

 

 

 

――ブッシュゥゥゥゥゥゥ!!

 

 

 

「此れは発煙筒!!…視界潰し、貴女の得意技だったわねみほ……」

 

「其れを的確に使ってくるとは、お見事です……」

 

「閃光弾を使ってない辺りに、未だ手加減を感じますけれど……閃光弾まで使われたらどうしようもないですからね。」

 

 

 

そう言う事だよ。

そんな訳で、私達は此処から戦略的撤退をします!!あ~ばよ、トッつぁん!!

 

 

 

「待ちなさいみほ!!」

 

「待てと言われて待つバカは居ないよエリカさん!!また後でね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

と言う訳で私達を狙う一団から逃げ切って、今は小規模の林が続く草原を走ってる真最中なんだけど、まさかバレー部チームや歴女チームまでが私達を集中的に狙ってくる事なんて言う事は予想してなかったよ。

経験者を真っ先に潰してくるだろうとは思ってたけどさ。

 

 

 

「西住殿は別格でありますからなぁ……逸見殿達も、西住殿を警戒したのでしょうね……」

 

「やっぱりそうだよねぇ……」

 

だけど、そう言う事なら相手になるよ……売られた喧嘩は買ったうえで勝つのが西住流だからね!!――次に会ったその時が決着の時だと言っても過言じゃないよ!!

体勢を立て直したら此方から攻める――って、な~んか見えるぞ?……アレは人?沙織さんストップ!!

 

 

 

「り、了解!!」

 

 

 

緊急停止したから轢く事はなかったけど、結構ギリギリだった……ブレーキのタイミングが、コンマ5秒遅かったら、間違いなく轢き殺してたと思うよ此れは!!

大丈夫だった!?

 

 

 

「ん?あぁ、大丈夫だ……また会ったな西住さん。」

 

「ほえ、冷泉さん?」

 

人影の正体は、今朝アンドリューに乗せて登校させた生徒……冷泉さんだった――まさか、こんな所で再会するとは思ってなかったよ。

 

或いは、此の再会は運命だったのかも知れないね――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer104『大洗バトルロイヤル!激戦です!!』

バトルロイヤル……燃えるね!Byみほ      えぇ、ガンガン燃えてくるわ!Byエリカ     正にバーニングですね!By小梅


Side:みほ

 

 

蝶野教官の指示の下始まった模擬戦、その最中に人を発見するとは思ってなかったよ……戦車道の演習が有るって事を知らなかったのかも知れないけど、こんな所で寝てたら風邪ひくよ冷泉さん?

 

 

 

「あ~~!こんな所で何してるのよ麻子!!――さては、また授業をサボったわね?おばあに怒られても知らないよ?」

 

「沙織さん、冷泉さんと知り合いなの?」

 

「知り合いも何も幼馴染だよ~~!

 もう、学年主席のくせにほぼ毎日遅刻で、授業もサボってばっかりなんだから!此のままだと本気で留年するからね?」

 

「沙織か……サボったとは人聞きが悪いな?其れに、留年しそうになっても追試を合格すれば大丈夫だろう。

 そもそもにして既に理解している範囲をもう一度講義されるのは時間の無駄でしかない――そう言う訳で自主休校だ。異論は認めない。」

 

 

 

うん、其れは良いとしても、いや、良くないけど、此処は戦車道の演習場になってるから、生身で寝てるのは危ないよ?今回は急ブレーキが間に合ったから良かったけど、下手したら轢かれてモザイク状態になっちゃうから。

しかも、今は模擬戦の最中だから、生身で歩き回るのも危ないから、今は戦車の中に入って。車内なら取り敢えず安全だから。

 

 

 

「轢かれてミンチや、砲弾で木っ端微塵は嫌だな……分かった、戦車に守って貰う事にする。」

 

「其れについてはお任せあれ♪」

 

パンターの車内は結構広いし、元々パンターは5人乗りだから、冷泉さんが増えた所で大したデメリットにはならないからね――寧ろ現状での問題は、私達が他のチームから集中狙いされてるって事だよね。

 

徒党を組んでくる相手を真っ向から突破するのは難しいけど、其処は腕と戦術で何とかなる。って言うかするのが車長の役目だからね。

取り敢えず大洗の皆に『隻腕の軍神』の二つ名は伊達じゃないって事を、其の身で感じて貰おうかな♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer104

『大洗バトルロイヤル!激戦です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬戦が始まってすぐに、皆がドレ位のレベルなのかを見る為に、生徒会チームの38(t)を撃破した訳だけど、其れが逆に、多分エリカさんに危機感を持たせたんだろうねぇ……去年の黒森峰でのバトルロイヤルでも、まず1輌撃破して皆のレベルを見極めて、其れを私の中で最適化させた後での大暴れだったからね。

その時の経験が、私達を真っ先に倒すっていう選択に至った訳か……だけど甘いよエリカさん、煙幕張って逃げる間に、私の中でのカスタマイズは終了したからね。

 

だけど、本番は此処から――沙織さん、この先の雑木林に向かって。多少遅くても構わないから、寄り道しないように向かってくれれば構わないからね。

 

 

 

「雑木林って、何をする心算なのみぽりん?」

 

「こう言っては失礼ですが、なんか物凄くトンデモない事考えてませんか西住殿?」

 

「トンデモないなんてまさか……この上なくトンデモないけど、絶対に勝てる方法を考えてるだけだから大丈夫だよ?」

 

「あら、其れは素晴らしいですねみほさん♪」

 

「いや、その反応オカシイよ華!?」

 

 

 

うん、その突っ込みは正しいと思うよ沙織さん。

黒森峰でも、今みたいな事を言った私には絶句するか、速攻で突っ込みを入れてくるかだったのに、まさか納得するとは、若しかしたら華さんは、エリカさん以上に度胸があるのかも。――時に、其処で何をしてるのかな冷泉さんは?

 

 

 

「戦車の操縦マニュアルだ……暇だったので読んでみたが、中々に面白いな此れは?

 車の操縦の仕方とはまるで違う……もっと複雑だが、そんな難しい事を沙織が任されている事に驚きだ――と言うか、よく戦車の操縦なんて出来たな沙織?」

 

「みぽりんが懇切丁寧に教えてくれたからね。……其れでも、結構一杯一杯だけど!」

 

 

 

其れはまぁ、仕方ないよ沙織さん――操縦士って言うのは戦車の要とも言えるポジションで、戦車道に於いては操縦士は、他のポジションにコンバートするなと言われる位だからね。

其れだけ戦車の操縦って言うのは、試合に於いて大事なんだよ。

 

 

 

「うわ、凄い重役じゃん私!!

 うぅ、凄いプレッシャーを感じるけど、戦車をカッコ良く操縦出来たら、きっと男子にモテモテだよね!!よし、頑張るぞ~~!!目標は戦車でドリフトだよ!!」

 

「……上手くなりたい理由が少々不純だけど、上手くなりたいっていう気持ちは大事だから、其れを忘れないでね沙織さん?」

 

「勿論、分かってるよみぽりん!このバトルロイヤル、絶対勝とうね?」

 

「西住殿の大洗の初陣が黒星など有り得ません――必ず勝ちましょう!勝って西住殿の、隻腕の軍神の力を大洗に轟かせましょう!!!」

 

「ふふ、行きましょう、みほさん?」

 

「なんかよく分からんが、取り敢えず頑張れ。」

 

 

 

取り敢えず、先ずはこのバトルロイヤルを勝ち抜かないとだよね?

倒すべき相手は5輌……しかもその内3輌は、エリカさん、小梅さん、梓ちゃんが車長を務めてる車輌――此れだけでも強敵となり得るんだけど、梓ちゃんのⅢ号の操縦士はクロエちゃんだから、機動力は全チーム一だから、一番警戒すべき相手かも知れないよ。

 

 

 

「確かに操縦士が経験者と言うのは、この上ないアドバンテージであります。

 戦車に於いて、車長と操縦士が阿吽の呼吸と言うのは、絶対のアドバンテージであります!戦車道では、車長と操縦士を、野球のバッテリーに見立てて、操縦士を車長の女房役とも言いますからね?

 そういう意味では、澤殿のⅢ号は、確かに脅威かも知れません。」

 

「加えてエリカさんのティーガーⅡは最強クラスの重戦車だし、小梅さんのⅣ号だって、決して強力な戦車じゃないけど、信頼できるスペックだから、強敵になり得るのは此の3チームだね。」

 

歴女チームのⅢ突は破壊力のある75mm長砲身搭載型のⅢ突だけど、其れでもパンターの装甲を抜くには、パンターの有効射程間合いに入らざるを得ないし、バレー部チームのクルセイダーMK.Ⅱでは何処に当ててもパンターを撃破する事は出来ないからね。

 

だから、先ずは歴女チームとバレー部チームを潰す――異論はないよね?

 

 

 

「無いよみぽりん!それじゃあ、改めて宣言しちゃって!!もう聞き間違えないから!!!」

 

「沙織さん……其れじゃあ行くよ、Panzer Vor!!」

 

「「「了解!!」」」

 

「りょ~かい……」

 

 

 

寝ぼけ眼で掛け声に参加する冷泉さんは律儀なのか、何なのか……其れは如何か分からないけど――何にしても、模擬戦は此処からが本番って言う所だからガンガン行くよ!

さぁ、私を楽しませてよ、エリカさん、小梅さん、梓ちゃん!!

 

だけど手加減なんてしないから、その心算でいてね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:杏

 

 

いっや~~……まさか真っ先に撃破されるとは思わなかったよ……此れは完全に西住ちゃんの術中に嵌ったね~~……バトルロイヤルが始まってちょっと経ったら、まさかのエンカウントをして、其のまま撃破されちゃったからね~~……どっちも砲手は素人なのに、か~しまがゼロ距離で外すって言う事を考えると、西住ちゃんの方にアドバンテージは有った訳だ。

 

だけど、速攻で撃破されたとは言え、西住ちゃんの強さは良く分かったよ。

この分だと同期の逸見ちゃんや赤星ちゃんも相当の実力者だろうし、西住ちゃんの弟子だって言う澤ちゃんも可成りやるだろうね……全国大会制覇ってのも、案外行けるかも知れないよ此れなら。

 

 

 

「クソ、西住め!真っ先に我等を撃破するとは許せん!!報復してやる!!」

 

「桃ちゃん、其れ無理だと思うよ?」

 

「見事に撃破されちったからね~~……か~しま、悔しいのは分かるけど、これが今のアタシ等と西住ちゃんの力の差だから諦めろ~。」

 

「かいちょ~~~!?」

 

 

 

こうなるとこのバトルロイヤルは、経験者が潰し合う展開になるだろうけど、戦車の性能ってのを考えたら最後は西住ちゃんと逸見ちゃんの一騎打ちかね~~?確か、パンターとティーガーⅡって、最強クラスの戦車だった筈だし。

果てさて、どうなる事やら分からないけど、真っ先に負けちまった身としては、後は高みの見物を決め込ませて貰うとしようかね~~♪

 

小山とか~しまもよく見とけよ?戦車道のトップ選手が指揮する戦車ってのがドンだけ凄いモンなのかって事をさ。

 

 

 

「ぐ……分かりました会長。」

 

「西住さんの力は、理解しましたが逸見さんや赤星さん、澤ちゃんの力も確り見ておかなくてはなりませんからね。」

 

 

 

このバトルロイヤルを制するのは一体誰なんだろうね~~?……ま、アタシの予想では最後に勝つのは西住ちゃんだと思うけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

演習場ではまだ試合は続いていたが、生徒会チームの38(t)が撃破されて以降は、撃破のアナウンスは入っていない――当然だ、エリカと小梅と梓は手を組んでみほ達を倒そうと目論んでおり、歴女チームとバレー部チームも同盟協定を結んで経験者を撃破する事を決め、1輌で動いているパンターをターゲットにしているのだから。

そしてそのパンターは、煙幕を張って逃走したため、2つのチームはパンターを探す事から始めなくてはならないのだ。

 

 

「くそう、マッタク見つからないとは……隊長殿は雲隠れの達人か?

 パンターは車高が低い訳でもないから、隠れていても探し出すのは難しくない筈だが……キャプテン、其方は見つかっただろうか?」

 

「いんや、影も形も見当たらないって……でも、根性で探し出す!!」

 

 

歴女チームとバレー部チームも懸命の捜索を行っていたが、未だにみほ達のパンターを見つけ出す事は出来ないでいた――如何にか見つけ出して、撃破したい所だ。

クルセイダーMk.Ⅱではパンターを撃破する事は出来ないが、長砲身のⅢ突F型ならパンターの側面を抜く事が出来るのだから。

 

 

「一体何処に……」

 

 

 

――バガァァァァァァァン!!

 

――キュポン!!

 

 

 

『クルセイダーMk.Ⅱ行動不能。』

 

「なに!?」

 

「く……バックアタックを喰らってしまった……!」

 

 

此処には居ないのかと考え、捜索場所を変えようかと思った矢先に、クルセイダーMk.Ⅱが文字通り吹っ飛んで白旗判定となり戦線を離脱。

突然の事に、Ⅲ突の車長であるエルヴィンは驚くが、其処で見つけてしまった……此方に砲身を向けているアイスブルーのパンターを。

 

そう、相手を探していたのはみほ達も同じだったのだ。

先程煙幕を張って逃走したのは、5輌も一気に相手をするのは難しいと考えての事であり、あの煙幕で2つのチームを分断出来たと考えたみほは、先ずは経験者の居ない歴女チームとバレー部チームを探し、そして見つけて先制パンチをブチかましたのである。

 

 

「さぁ、鋼鉄の豹の爪牙の餌食になる覚悟はできたかな?」

 

「く……撃て!撃って撃って、隊長殿を撃破しろ!!」

 

 

其れに驚いた歴女チームは、次々と砲撃を放つが、悲しいかな砲手もまた素人である為に、あらぬ方向に飛んで行ったり、正面装甲を掠めるだけに留まったりと、クリーンヒットが望めない。

そもそもにして、Ⅲ突の主砲では余程近付かない限りパンターの正面装甲を抜く事は出来ない……傾斜装甲の11mmは、実質的には130mmに相当する堅さがあるのだから。

 

 

「此処が貴女のデッドライン……華さん!!」

 

「ブチかまします!!」

 

 

――ドゴォォォン!!!

 

――キュポン!!

 

 

『Ⅲ号突撃砲、行動不能!』

 

 

「く……無念……流石は隊長殿、隻腕の軍神の名は伊達ではないと言う事か……其の力、存分に味わわせて貰った。

 だが、残るは我等よりも遥かに強敵……御武運を。」

 

 

結果、歴女チームはパンターを撃破する事は出来ずに、逆に主砲を真正面から喰らって白旗判定になり戦闘不能に。――其れでも、みほの力を認め、武運を祈ると言うのは歴女たる所だろうか。

 

 

「貴女達も悪くなかった……砲手の腕をもっと上げれば、エース級の活躍が出来る筈だから、この敗北を糧にして、精進してくれると嬉しいかな?――Ⅲ突は、色々と頼りになるからね。」

 

「了解した!頑張れよ門ざ!!」

 

「その呼び方は止めろエルヴィン!!」

 

 

此れでみほのパンターは歴女チームとバレー部チームが手を組んだ一団を撃破し、残るはエリカ率いるティーガーⅡと、小梅率いるⅣ号D型と、梓率いるⅢ号J型だが、此の3輌に関しては今のように巧く行くとは考えられないだろう。

 

エリカと小梅は黒森峰時代にみほの下で遊撃隊として活躍していた上に、ライバルとして戦った経験もあり、梓に至ってはみほの一番弟子という事で、みほの戦術の全てを受け継いでいるために、みほがどう行動するかと言う事はある意味で筒抜けなのである。

 

 

「やっぱり、此処に居たねエリカさん、小梅さん、梓ちゃん……」

 

「まぁね……貴女ならⅢ突とクルセイダーを先に処理してから私達を倒しに来るだろうと考えてたから、敢えてパンターの捜索はせずに、この場所で待たせて貰ったわ。

 貴女が私達を相手にするなら、此処以外のフィールドは考えられなかったからね。」

 

 

其れを示すかのように、エリカ、小梅、梓のチームは、少しばかり障害物が点在している開けた荒野でみほチームを待ってたのだ――そして其れは当たり、みほはこの場にやって来たのだ。

 

だが、みほもエリカ達は此処に居ると言う事は予想していたのだろう……そうでなくてはこうも落ち着いては居られないだろうから。

 

 

暫し、静かな空気が流れ……

 

 

「行きます!!」

 

「行くわよ!!」

 

「全力で!!」

 

「全速で!!」

 

 

4輌の戦車が一気に動き出す!!

構図としては3vs1であり、戦車の総合性能と数を考えればみほのチームが絶対不利なのだが、そんな物を引っ繰り返すのがみほなのだ。

先ずは砲撃と同時にⅣ号に接近すると、擦れ違い様に横っ腹に砲撃をブチかまして速攻で撃破!!

 

 

 

「そんな!?」

 

「Ⅳ号の側面装甲は、パンターの主砲の前では紙に等しいんだよ小梅さん。」

 

「くぅぅぅ……まさか一太刀を浴びせる事も出来ないとは……完敗です、みほさん。」

 

 

 

正に瞬殺だが、これは小梅の戦車のスペックがパンターよりも低かったからこその事であり、決して小梅が車長としてみほに劣っていた訳ではない……性能差が明暗を分けたのだ。

 

そして其れは、梓のⅢ号も同じだ。

Ⅲ号戦車J型は、特出すべき能力がない代わりにクセが無くて使い易いため、少なくない社会人のチームでも使用されているが、パンターとのスペック差は埋めようがないのだ。

 

 

「梓ちゃん、頑張ったけど此処までだね。」

 

「西住隊長……Ⅲ号でパンターを撃破するのは無理でしたか……」

 

 

流れる様な動きでⅢ号を撃破し、残るはエリカのティーガーⅡのみだ。

此のままの勢いでパンターがティーガーⅡを押し切るのかと、誰もがそう思った矢先に、パンターにアクシデントが発生した。

 

 

 

「く……慣れない事して腕が攣った~~!!此れじゃあ、操縦なんて出来ないよ~~!!」

 

 

此の土壇場で、操縦士である沙織の腕が痙攣をおこし、操縦不能になってしまったのだ。――此れは何とも有り難くない事態としか言いようがないだろう。動けない戦車は只の的でしかないのだから。

此のままではティーガーⅡに狙い撃ちされる――その危機を救ったのは、誰であろう、意外にもフィールドで保護した冷泉麻子だった。

 

 

 

「沙織が操縦できないのなら、私が操縦する。」

 

「操縦するって、分かるの冷泉さん?」

 

「マニュアルを見て覚えた。」

 

「流石麻子、学園主席は伊達じゃないね。」

 

 

 

驚く事に、麻子はマニュアルをざっと見ただけで戦車の操縦を理解し、更には操縦するとまで言ってのけたのだ。

普通ならば、みほとてこんなトンデモナイ申し出は断る所だが、麻子の自信満々その物の物言いから、ブラフや強がりではないと判断し……

 

 

 

「分かった、其れじゃあお願いするよ冷泉さん!!」

 

「オウよ、任せとけ。」

 

 

 

操縦権を沙織から麻子に変更し、エリカとのタイマン勝負に入る。――みほ対エリカの一騎打ちは、2年前の中学大会の決勝戦以来だ。

なので、自然と互いに熱が入る。

 

 

 

「ケリをつけようか、エリカさん?」

 

「アンタの敗北を持ってね。」

 

 

 

言うが早いが互いに砲撃を放つと同時に動き、攻撃と回避を同時に行う……こんな事が出来るだけでもパンターの砲手である華と、臨時とは言え操縦士を任された麻子、ティーガーⅡの砲手であるリインと、操縦士である桂里奈の力は中々の物と言えるだろう。

 

 

「冷泉さん、そのまま直進して、擦れ違い様に左にフェイントを入れて!!」

 

「りょーかいだ。」

 

 

「坂口、右に曲がると見せかけて直進!出来るわね?」

 

「あいーーー!!!」

 

 

互いに一歩も退かない、押しも押されぬ好勝負!

もしもこの場に戦車道ファンの観客が居たら、此の試合をの動画をY○U TUB○にアップして相当数の再生数を誇ったであろうと思える位の好勝負なのだ。

それこそ、みほとエリカの直接対決と言う事では、一昨年の中学大会の決勝戦にも引けを取らないレベルなのである。

 

互いにクリーンヒットを許さない消耗戦……このまま行けば泥仕合の末のドローだが、みほもエリカもそんな事は望んでいない――目指してるのは、完全勝利なのだから。

 

 

「これが最後の攻防……行くよ、エリカさん!!」

 

「受けて立つ!!来なさい、みほ!!」

 

 

そして、此処でみほは最後の攻防を宣言して突撃し、エリカも其れに応えるかのように突撃する――此のまま至近距離での一撃で決める気かと思った瞬間に……

 

 

「喰らえ、スパークフラッシュ!!」

 

「んな!?」

 

 

みほが閃光弾を炸裂させ、エリカ達の視界を奪う!!

煙幕と同じ位にみほの戦術の中で重要な役割を持つ、伝家の宝刀である閃光弾が、此処で炸裂したのだ――が、其れを真面に喰らったエリカは堪ったモノではない。

完全に視界が奪われたとあっては、状況を把握する事が出来ないのだから。

そして、車長が行動不能になったと言うのは戦車としては致命的だ。

 

 

「此れで終わりだよ……華さん、トドメの一撃を!!」

 

「一発必中!!」

 

 

――バガァァァァァァァァァン!!

 

――キュポン!!

 

 

『ティーガーⅡ、行動不能。

 残存車輌、パンターG型……勝者、Aチーム!!』

 

 

その隙を逃さず、パンターはティーガーⅡの弱点である後部を至近距離から抜いて白旗判定を上げさせる――この瞬間、バトルロイヤルの勝者はみほ率いるAチームとなったのだった。

 

 

 

「ベリーナイス!皆、よくやったわ!!

 中でもパンターの活躍はピカ一だったわね!!皆も精進する様にね!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

模擬戦後の講評でも、亜美は特に難しい事は言わずに、みほを褒めた上で、暗にあのレベルを目指せと言った所で講評は終わり、そのまま本日の戦車道は終了となった。

だが、少なくともこの模擬戦でみほの力を示す事が出来たのは間違い無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

ふ~~……勝った後のお風呂って言うのは格別だね~~……なんて言うかこう……試合の疲れが吹っ飛ぶ感じだよ。

何にしても今日はお疲れ様でした、沙織さん、華さん、優花里さん――そして、途中参加の冷泉さん。皆さんの力が無かったら、きっと負けてたと思うからね。

 

 

 

「何を仰いますか西住殿!!

 西住殿がコマンダーであったからこそ、私達は勝つ事が出来たんです!!!私達も頑張りましたが、勝てたのは其れを纏め上げる事が出来る西住殿が居たからであります!!」

 

「そうそう、みぽりんはもっと自分に自信を持つべきだよ!みぽりんは、色々と凄いんだからさ!!!」

 

 

 

何が如何凄いのかはまた後で聞くとして、今日の模擬戦は如何だったかな?私としては、夫々に見合ったポジショニングをした心算なんだけど……色々と大丈夫だった?

 

 

 

「大丈夫です西住殿!筋トレは毎日しているので、装填速度には自信がありますよ?」

 

「私も……砲撃の痺れる感じは、とても素晴らしいです、アクティブな事が出来そうです。」

 

「私は通信士が良いなぁ……メール打つのは得意だしね。」

 

 

 

うん、悪くないみたいだね――沙織さんのメール早打ち能力を使えば、傍受されない通信も可能だからね……となると残るは操縦士か。

私としては、マニュアルを一度読んだだけで完璧に理解した麻子さんをにお願いしたいなぁ?

アレだけの操縦技術って言うのは、聖グロのローズヒップさんに匹敵するからね――其の力、貸して貰えないかな?

 

 

 

「……普通ならめんどいで跳ねのけるんだが、西住さんは恩が有るからな……良いだろう、操縦は私に任せてくれ。

 多少無理な要求でも必ず達成するから安心しろだ。」

 

「冷泉さん……ありがとう。」

 

「礼は要らない……借りを返しただけだからな。」

 

 

 

其れでもだよ。

でも此れで5人の乗員を確保できたから、パンターは全ての能力を解放する事が出来る――まるで申し合わせたかのような出会いだけど、そのお陰で戦力が強化されたのは間違い無いからね。

 

これからも頑張っていきましょう!!

 

 

 

「勿論だよ、みぽりん!!」

 

「頑張りましょう、みほさん。」

 

「全力全壊ですよ西住殿!!」

 

「がんばるぞ。お~~~。」

 

 

 

此れで私の車輌のメンバーは決まった――後は、日々のトレーニングでどれだけ伸びるか……其処は、夫々の努力次第だけど、大洗の皆は間違い無く伸びる。

きっと、全国大会の頃には、強豪校とも互角に戦う事が出来るようになってる筈だよ、絶対にね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer105『西住流フィジカルトレーニング+αです』

鍛える以上は徹底的にだね!Byみほ      とことんまでやるわよ!Byエリカ     これを熟してこその戦車乗りですからね。By小梅


Side:梓

 

 

模擬戦は西住隊長が制したけど、その圧倒的な活躍に触発されたのか、戦車道履修者の皆がやる気を出してくれたのは嬉しい事だと思える……思えるんだけど、これ如何言う状況!?

使ってる戦車が発見当時のままだったから塗り直すって言うのは分かるけど、これはやり過ぎじゃないの!?

 

バレー部チームが車体に大きく『根性』って書いてるのは未だしも、古代ローマと幕末と戦国時代とドイツ軍なカラーで塗られたⅢ突と、ショッキングピンクに塗られたⅣ号……此れだけでも相当なインパクトだけど、一番は生徒会です!

戦車を金色に塗るとか如何言う神経してるんですか!!言っては悪いかも知れませんけど、馬鹿なんですか!?

試合でこんなに目立つ色をしてたら狙って撃破してくださいって言ってる様なモノですよ!!

 

 

 

「いやぁ~、やっぱり派手な方が良いじゃん?」

 

「戦車道に於いて其れは絶対にダメです!!」

 

って、優希とあやは何をしようとしてるの!?

 

 

 

「何って、隊長の戦車も塗り直してあげようと思って~~?」

 

「逸見先輩の戦車も、黒じゃ地味だし?」

 

 

 

……其れは絶対にダメ!

アイスブルーのパンターも、漆黒のティーガーⅡも、中学の時から西住隊長が乗ってた愛機だから、勝手に塗り直すのは絶対にダメだよ!

優希もあやも、『こっちの方が良いから』って自分の大切な物を勝手に塗り直されたら良い気分はしないでしょ?だからダメ、絶対にね。

って言うか、これは副隊長命令。

 

 

 

「「其れじゃあ諦めるしかないか~~。」」

 

 

 

西住隊長、逸見先輩、お二人の戦車が珍妙な色に塗られるのは阻止しました……アイスブルーのパンターと漆黒のティーガーⅡであるからこそ、迫力がある訳だしね。

尚、私の乗るⅢ号戦車J型は、クロエの提案もあって、私のパーソナルカラーであるパールホワイトに塗り直された……うん、悪くない。

しかしまぁ、明日西住隊長達が此れを見たらどう思うかなぁ?……取り敢えず、秋山先輩と逸見先輩は絶句するよね間違い無く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer105

『西住流フィジカルトレーニング+αです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

今日も今日とて平和な一日を過ごし、必修選択科目である戦車道をやりに行ったら……とんでもない物が目に飛び込んで来たよ!!

私のパンターとエリカさんのティーガーⅡは何もないし、梓ちゃんのⅢ号がパールホワイトなのは良いとして、車体にデカデカと『根性』って書いてるバレー部チームのクルセイダーに、ショッキングピンクに塗られた小梅さんのⅣ号、時代が色々入り交ざっちゃったⅢ突に、『アンタ一体何処のスペシャル機ですか?』って位に金ぴかになってる38(t)……うん、こんな戦車を見るのは初めてだよ。

 

 

 

「あぁ!Ⅲ突が、Ⅳ号が、クルセイダーが、38(t)が!!

 こんな、こんなのは幾ら何でも酷過ぎますぅ!!直ぐに元に戻しましょう西住殿ぉ!!」

 

「戦車をこんなにカラフルにするとか一体何を考えてるのよ、特に生徒会チーム!!

 車体全部をミラー加工の金色で覆うとか、馬鹿なの!?アホなの!?速攻で敵に見つかってそのまま死ぬの!?……若しかしてアンタ等戦車道舐めてる?」

 

 

 

あはは……気持ちは分かるけどエリカさんと優花里さんも落ち着いて。

これは仕方ないよ、大洗の戦車道履修者は殆どが初心者なんだから、戦車の塗装の塗り直しだって正しく出来る筈がないって言うか、勝手が分からないから自分の好きなように塗っちゃったんじゃないのかな?

 

 

 

「其の通りです西住隊長……気が付いた時には手遅れでした。

 ぶっちゃけて言うと、自チームの戦車と、パンターとティーガーⅡが珍妙な色にならなかっただけまだ救いがあったんじゃないかって思ってます……」

 

「あはは……良いよ梓ちゃん、そんなに気にしなくても。

 其れにまぁ、見ようによっては物凄く面白いから、これは此れでアリかな~って、ちょっぴり思ってる私が居るのも事実だしね……それにしてもショッキングピンクのⅣ号って言うのも凄いね、小梅さん?」

 

「え?突っ込むとこそこですかみほさん!?生徒会の戦車は突っ込みなしですか!?」

 

 

 

いやぁ、アレも凄いとは思うけど、実を言うと実家の倉庫って言うか、お父さんの趣味の為のガレージには、ゴールドのパンターG型、シルバーのⅣ号H型、ブロンズのⅢ号J型があるから。

お父さん曰く『ドイツ中戦車のトップ3を競技会のメダル色で作った』って言う事みたいだけどね。

 

 

 

「……其れ、師範に見つかって大丈夫だった訳?って言うか、其れって材料費凄くない?」

 

「勿論表面鍍金だけどね。

 お母さんは『何を作ってるんですか常夫さん!』って言ってたけど、最終的には『作るのは構いませんが程々に』って言ってたっけかな?」

 

「流石、ラーテとかモンスターを趣味で作ってしまって、其れを容認されるだけの事は有りますね……」

 

「西住殿の実家にはラーテやモンスターまであるのですか!機会があったら、是非とも伺わせてください!!」

 

 

 

小梅さん納得しちゃった。

そして優花里さんは予想通り喰い付いて来たねぇ?――まぁ、設計しか残ってない幻の戦車の実機が存在してるなんて言うのは、戦車マニアからしたら垂涎の事だからね……まぁ、其れは其の内ね。

 

そんな訳で、この面白いカラーリングの戦車は良いとして、歴女さんチームは、戦車に立てた幟だけは直ぐに降ろしてくれるかな?

 

 

 

「む……お気に召さないか隊長?」

 

「ううん、其れ自体は別に悪いと思わないし、デザイン的にも良いとは思うよカエサルさん。だけど、戦車道の試合では邪魔になるからね。」

 

「でも、カッコいいぞ?」

 

「……エルヴィンさん、Ⅲ突の最大の武器は?」

 

「低い車高による待ち伏せ戦法の強さだろう……あ、だからか。」

 

「そう言う事だから、直ぐに外してね?」

 

「了解した隊長。

 戦車の持つ利点を潰してしまう様な装飾は、流石にやり過ぎだからな――しかしこの幟、市街地では逆に店の幟に紛れさせてⅢ突を隠すのに使えるかも知れん……なんかの役に立つかもしれないから車体後方に括りつけておくか。」

 

 

 

……まぁ、確かに市街地戦ならそう言う使い方が出来るかも知れないなぁ?こういう自由な発想って言うのは意外と馬鹿に出来ないしね。

さてと、其れじゃあ今日の戦車道の訓練を始めるとしようかな。

 

戦車の操縦技術その他は、座学なんてすっ飛ばして実技の繰り返しで身体に覚え込ませるとして、先ずは戦車道を行うのに必要な基礎体力の向上をしないとだから、先ずは徹底的に体力を強化するから。

 

 

 

「ちょっと待ってみほ、貴女まさか……アレをやる気なの!?」

 

「西住隊長、アレを素人にやらせたら、間違いなく死者が出ますよ!?正直言って、中学の頃の仮入部で、あれをやり熟した私自身が、ちょっと信じられませんので!!」

 

 

 

アハハ、大丈夫だよエリカさん、梓ちゃん。

流石に行き成りのフルモードじゃなくて、初心者用の『超体験版』でやるから――最低でも、これを余裕で熟せるようにならなきゃ、戦車道で活躍する事なんて出来ないしね。

 

「そう言う訳ですので、本日は基礎体力の向上を目指して、フィジカルトレーニングを行います。因みに拒否権は無いし、生徒会の皆さんにもちゃんと参加して貰いますから。

 この間の洗車の時みたいに『監視員』の名目でのサボりは認めないのでその心算で。」

 

「な、我々もやるのか西住!?」

 

「河嶋先輩、何か問題でも?」

 

「ひぃぃぃぃ!?な、何でもないぞ西住!!やる、やればいいんだな!!」

 

 

 

はい、その通りです。

初めてなのできつい部分があるかも知れませんが、今回やるのは初心者用の『超お試し版』なので、時間がかかっても良いので必ず全行程を終了してください。

 

其れでは、これより西住流フィジカルトレーニングの『超お試し版』を始めます!!

 

 

 

「超お試し版でも不安が残るわ……取り敢えず、頑張って生き残りなさい。――私から言えるのは此れ位ね。」

 

「……でもなぜか、バレー部チームだけは全員無事に終える気がしてなりませんよ私は……」

 

 

 

うん、其れは私も思ったよ小梅さん。

バレー部チームは、典型的な体育会系の脳筋だけど、其れだけにバイタリティは他の生徒の数倍はあるだろうから、幾ら西住流フィジカルトレーニングとは言え、超体験版なら軽々と熟しちゃうかもしれないね。

 

 

 

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・・・

 

 

 

と言う訳で、西住流フィジカルトレーニング超お試し版を行った訳なんだけど……

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「⊂((。。⊂))」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

「「「「根性ーーーー!!!」」」」

 

 

 

殆どの戦車道履修者が地面に這いつくばってるね?

平気なのは私を含めた経験者と、沙織さんを除いたAチームの面々に、バレー部チームと、エリカさんのチームの砲手であるリインさん。

バレー部チームは、気合と根性で付いて来るかも知れないとは思ってたけど、華さんと麻子さん、其れとリインさんが難なく超お試し版とは言え西住流フィジカルトレーニング熟したって言うのは予想外だったよ。

優花里さんは鍛えてるって言ってたから、超お試し版なら熟すとは思ってたけど、他の人達も実は鍛えてたのかな?

 

 

 

「私は特に……若しかしたら、いつも食べてるゴハンがそのまま体力やら何やらに変換されてるのかも知れません♪」

 

「私の場合は、まぁやって出来ない事は無かった。運動はやらないだけで出来ない訳じゃないしな。」

 

「私の場合は……まぁ、存在その物が色々と反則で公式チートだからな?」

 

 

 

華さんと麻子さんは、まぁ天然の身体能力の高さが有るって事なんだろうけど、リインさんはちょっと意味不明かな?……存在其の物が反則で公式チートって、それって突然変異的に生まれた超身体能力の高い人って言う事なのかなぁ?……其れもちょっと違う気がするけど。

取り敢えず、経験者以外にも、超体験版とは言え西住流フィジカルトレーニングを熟した人が全部で8人も居たのは結構な収穫だったんじゃないかと思うんだけど、副隊長としては如何思う梓ちゃん?

 

 

 

「ふぇ?そ、そうですね……正直言って、経験者以外は全滅すると思ってたので、これはちょっと予想外です。

 でも、超お試し版で死屍累々じゃ話になりませんので、明日はステップアップして通常サイズのお試し版をやって貰って、身体を慣れさせるのが一番だと思います西住隊長。

 全国大会までの期間を考えると、体力強化と同時に実戦経験も積まないといけませんから、練習試合もしておきたいですし……まぁ、中学の時の私も、隊長の指導の下で大会までに力を付ける事が出来ましたから、多分何とかなりますよ。」

 

「そっか、そうだよね?

 そもそも西住流フィジカルトレーニングは、物凄くハードだけど、ぬるめのお風呂にゆっくり入って、6時間以上の睡眠を確りと取れば、翌日には筋肉痛もなく疲労が取れて、目に見えて体力が向上してるって言うスーパーフィジカルトレーニングだから、ちゃんと休養を取れば、短期間で身体能力を向上させる事は難しくないしね。」

 

と、言う訳で此れから皆で学園艦の中心部にあるスーパー銭湯『御老公の湯』に行きましょう。

あそこには、普通の温泉の他に、薬湯やジャグジーもあるので疲れた身体を休めるのにはピッタリだし、宴会場もあるので其処を使って、戦車隊の親睦を深めるのも良いと思うから。

 

 

 

「其れは良いけど、へばった連中が其処まで移動出来るとは思えないんだけど、其れは如何するのよみほ?」

 

「其れに関しては心配無用だよエリカさん。ロンメル『催眠術』!」

 

『コーン♪』

 

 

 

と、こんな感じでロンメルの催眠術で纏めて移動させれば問題ないから。

ロンメルの催眠術が効かない人は、アンドリューの背中に乗っけて移動させれば無問題でしょ?アンドリューの体格なら、5~6人は余裕で乗せる事が出来るからね。

 

 

 

「貴女のお供は本当に優秀ね……九尾のロンメルは兎も角として、アンドリューの知能指数を一度測ってみたいわ。下手したら人間よりも頭良いんじゃないのかしら?」

 

「其れは否定できませんよエリカさん?アンドリューは、間違いなく人の言う事を理解してますからね。」

 

『ガウ。』

 

 

 

アンドリューは出来た子だからね。

お母さんが昔飼ってた猛獣も頭の良い子だったし、きっと西住の家の娘が飼う動物は頭が良くなるんだよ。お姉ちゃんが飼ってる柴犬のフントも可成り知能が高いからね。

 

 

 

「流石は西住流ですぅ!!」

 

「良く分からんが凄いんだな西住さんは。」

 

 

 

ある意味で、これも戦車道なのかもね。――取り敢えずスーパー銭湯に向かってぱんつぁ~ふぉ~~♪

 

 

 

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・・・

 

 

 

と言う訳で、スーパー銭湯『御老公の湯』にやって来た訳だけど……

 

 

 

「あ~~生き返る~~!此れなら、直ぐにでも動く事が出来そうだよ~~!!此れじゃあ、私ってば強い女子になっちゃう?やだも~~♪」

 

「さっきまでの疲れが嘘のようだ……隊長のトレーニングは、休養と合わせる事で効果が出るように合理的に作られているのだな。」

 

「此れなら明日も動く事が出来るぜよ~~。」

 

「あいあいあい~~~~!!」

 

 

 

皆回復早くないかな?

いや、回復が早いって言うのは良い事だし、これだけの回復力があるなら、もう少しハードにしても大丈夫だと思うんだけど……若しかしなくても、戦車道履修者の皆は潜在的な能力って言うのは高いのかなぁ?

でも、其れは其れで嬉しい誤算だね――潜在的な能力が高ければ、鍛えれば鍛えるだけ強くなるのは間違いないしね。

 

 

 

「その考えは間違いじゃないわみほ。

 潜在能力がある奴は、鍛えれば鍛えるだけ強くなる――澤が良い例でしょう?……尤も、ドレだけ潜在能力があっても、其れを開花させてやる奴が居ないと宝の持ち腐れだけどね。

 だから、そう言う意味では貴女が此処に来たのは運命だったのかも知れないわ……隻腕の軍神に鍛えられれば、大洗の子達は、その潜在能力を開花させるでしょうからね。

 欲を言うなら、実戦経験を積ませる意味でもどっか戦車道のある学校と練習試合をしたい所だけど、全国大会が近づいてる時期じゃ、練習試合を受けてくれるような酔狂な高校は無いわよね……」

 

「うん、其れは可成り厳しいと思うよエリカさん。」

 

大会前に練習試合をするって言う事は、手の内を曝す事になりかねないから何処も敬遠するんだよね……黒森峰ですら、大会前の練習試合は、相手が1回戦負け常連の学校でもない限りは受けなかったからね――安斎さん改め、アンチョビさんが隊長を務めてるアンツィオ高校とは、そんな事は関係なしに練習試合をしてたけど。

 

だけど大会前に実戦経験を積ませておいた方が良いって言うのは事実だから、最低でも2回くらいは練習試合を行っておきたい所だね?

アンツィオ、サンダース、聖グロリアーナには知り合いが居るから、其処からの伝手で練習試合を申し込む事が出来るかも知れないけど、OKが貰えるかどうかは分からない。

幾ら大洗が戦車道では無名だと言っても、だからこそ新参校にデータを取られるのを嫌がるかも知れないからね……其れを考えると、大会前の練習試合は望み薄かなぁ……

 

 

 

「其れについては大丈夫だよ西住ちゃん。」

 

「会長さん?大丈夫って、何処かと練習試合を組んだんですか?」

 

「大正解!超ハード訓練をする事になったから伝え忘れちゃったんだけど、色んな所に練習試合の打診をした結果、大会前に2回の練習試合を組む事が出来たよ。

 ちょ~~っと、足りないかも知れないけど、大会前って事を考えれば上出来っしょ?」

 

 

 

大会までの期間を考えれば、寧ろベストです会長さん。

1試合じゃ少ないですけど、3試合だと多すぎる……大会までの期間を考えれば2試合が実戦経験を積むにはベストな数ですから。

其れで、相手は何処なんですか?

 

 

 

「1試合目が聖グロで、2試合目がマジノ……相手としては申し分ないっしょ?」

 

「!!!」

 

聖グロとマジノ……!申し分ない所か、練習試合としては最高の相手ですよ会長さん。

聖グロは今年はダージリンさんが隊長に就任して、アールグレイさんが残して行った戦い方を更に進化させてるだろうし、マジノはエクレールさんが新たな隊長になったって聞いたから、きっとマジノの伝統を引っ繰り返した新たなドクトリンを開発してる筈だからね。

 

この2つの練習試合を経験すれば、勝ち負けは兎も角として、皆にはいい経験になると思いますから。

 

 

 

「マジノは兎も角として、聖グロ戦は、またあの紅茶格言を思いっきり挑発してやろうかしら?――指揮官が冷静さを失えば、チームは勝手に瓦解して、倒しやすくなるしね。

 まぁ、姉さんの事だからダージリンのメンタルも鍛えてるんだろうけど。」

 

「でも、やる以上は勝ちに行く、そうですよね西住隊長!!」

 

 

 

うん、勿論やる以上は勝ちに行くよ。

戦車道は楽しくが基本だけど、やっぱり勝ってこそ楽しさが倍増するからね?……特に、未経験者にとっては勝利の美酒って言うのは何よりも甘美な味がするから、初戦で勝つ事が出来れば、戦車道が楽しくなる筈だよ。

 

 

 

「なら、初戦の聖グロ戦は必ず勝たないとですねみほさん?」

 

「うん、勝ちにくよ小梅さん。」

 

まぁ、聖グロは高校4強の一角だから、引き分けに持ち込む事が出来れば御の字って言う所だけど、聖グロ程の強豪と引き分けに持ち込む事が出来れば、其れは間違い無く皆の自信になるから、最低でも引き分けが絶対条件だね。

 

 

 

其れで、お風呂の後、宴会場で練習試合の件が皆に告げられて、そしてなぜか河嶋先輩が作戦を提案して来たけど、その策は私を始めとした経験者によって不採用になった。

確かに囮を出して、相手をキルゾーンに誘導しての一斉掃射って言うのは悪くない手だけど、其れは最低でも装填士と砲手の実力が平均水準に達してる場合に限る――未経験者の多い大洗じゃ、その戦術は自ら首を絞める事になりかねないからね。

 

河嶋先輩は自分の考えた作戦に異を唱えられたのが不服だったのかお冠だったけど、経験者である車長4人が徹底的に論破して、この作には穴と不確定要素が多過ぎるって指摘してあげたら、すごすごと引き下がった……己の無力さを痛感したのかな?

 

何にしても、練習試合の聖グロ戦、楽しみになって来たよ――久しぶりにローズヒップさんに会えるかもしれないからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ダージリン

 

 

聖グロリアーナは申し込まれた試合は断らないとは言っても、名もなき学校からの練習試合まで受ける事はしなかったので、大洗女子学園からの練習試合の申し込みも、適当な理由を付けて蹴る心算で居たのだけど……練習試合を申し込んで来た相手から、大洗女子学園の隊長の名を聞いた瞬間に、そんな考えは吹き飛んだわ。

 

 

だって、大洗女子学園で隊長を務めているのは、あの西住みほさん……あの、アールグレイ様が、まほさん以上の戦車乗りだと評した彼女だったのですもの。

で、あるのならば断わる理由は有りませんので練習試合を受ける事にしましたわ。

 

 

 

「楽しそうですねダージリン?大洗女子学園と言う名もなき学校との練習試合が、其処まで楽しみなのですか?」

 

「楽しみ……其れは否定しないわアッサム。

 なんせ、大会前にみほさんが率いる戦車隊と戦う事が出来るのだからね……此れを楽しみと言わずして、何が楽しみなのか問いたい位よ此れは……」

 

場合によっては貴女にも出て貰う事になるかも知れないから、準備は怠らない様にねローズヒップ?

 

 

 

「了解ですのよダージリン様!!

 それにしても、みほさんの居る学校との練習試合……燃えて来ましたわ!リミッター外しちゃいますのよ!!」

 

「ふふ、その様子だと大丈夫そうね。」

 

去年の全国大会では、1回戦で苦汁を舐めさせられましたけど、今度はそうは行きませんわ……隻腕の軍神の名を持つ、最強の戦車乗りである西住みほさん。

 

無敗である貴女の戦績に、初の黒星を付けてさし上げますから、楽しみにしておきなさい……聖グロの底力、貴女達に教えてさし上げるわ!

 

そして、其れを教えた上で敗北の味を味わわせてあげるわ……楽しみにしているわよみほさん、エリカさん、小梅さん……そして、みほさんの一番弟子である梓さん。

 

貴女達を倒して、トーナメントを勝ち抜いて、そして、今年こそ決勝の舞台で黒森峰を破って栄光をその手に掴ませて貰いますわ!

その前哨戦である大洗との練習試合は、絶対に落とす事が出来ませんが――軍神の実力、今一度見せて頂きますわ、みほさん!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 




キャラクター補足


・リイン・E・八神

フルネームは『リイン・アインス・八神』。普通科D組に所属するドイツ人ハーフの女の子。
大凡高校生とは思えない程のモデル体型で、スタイルの良さは大洗女子学園の中では間違いなくダントツのトップ。
普段はおっとりとした性格だが、勝負事となると一転してクールで隙のない性格となり、其れは戦車道に於いても十二分に発揮されている。
尚、『空を飛んでるのを見た』、『手からビームを出してた』等の謎な噂が多い子でもある。


・桧山直子

丸い眼鏡と赤いカチューシャが特徴的な女の子。
見た目はおっとりしているが、デジタル技術にやたらと強く、指が分身してるんじゃないかと思う位のスピードでのキータッチが出来たりする。
また、眼鏡着用のくせに動体視力が良く、曰く『踏み切り待ちをしている際に、通過する電車の中の人が何をしてるか分かる。』との事……其れが本当なら、可成り凄いが真相は不明。


・高安美里

何時もヘアピンを付けている女の子で、梓とは同じクラスに所属している。
梓から『クラスで一番のしっかり者』と評される位に真面目な性格だが、それ故にストレスを溜める事も多いのか、時としてとんでもなくブラックな発言が飛び出す事も有る。
梓からみほの事を聞いた時には『そんなに凄いのかな?』と思っていたが、校内バトルロイヤルでその凄さを身を持って知ると共に、そのみほと互角に渡り合ったエリカの凄さも知り、戦車道の奥深さを知る。
梓とは仲の良い友達関係だが、戦車道に於いては、全国区の選手であった梓に少し憧れに近い感情も抱いている。


・小沢よし恵

新聞部に所属している女の子。スクエアタイプの眼鏡と、頭の左後ろに纏められた髪が印象的。
好奇心と行動力の塊といえる人物で、戦車道を選択したのも『若しかしたら物凄いスクープを入手出来るかもしれない。』と言う理由から。
放送部所属の2年生『王大河』とは仲が良く、よく互いに取材で入手した情報を交換している。




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Panzer106『試合の相手は聖グロ?上等です!!』

練習試合の相手は聖グロ……申し分ないね?Byみほ      上等じゃない?フルボッコにしてやるわ!Byエリカ     やる以上は徹底的にですからね♪By小梅


Side:みほ

 

 

聖グロとの練習試合はいよいよ明日に迫って来たね?

此の何日かで皆の基礎体力が底上げされたのは間違い無いと思うんだけど、如何思うかな澤副隊長?

 

 

 

「間違いなく底上げされたと思います西住隊長。

 初日では死に掛けてたあゆみや武部先輩辺りも、息も絶え絶えとは言え、体験版を終えても死屍累々じゃなくなりましたし、超体験版をクリアした皆さんは、更に体力が付いてるのは間違いありませんし。」

 

「って言うか、体験版とは言え、僅か数日で此れを熟せるようになるとか、ちょっとオカシイんじゃないのコイツ等……私と小梅だって慣れるのには相当かかったわよ!?

 私等がやったのは行き成りフルバージョンであったとは言え、体験版でも相当でしょ此れは!」

 

「あはは……大洗は、私達の予想をはるかに超えた、掘り出し物の巣窟だったのかも知れませんねぇ?

 フィジカルアップは勿論ですが、戦車の動かし方も、大分スムーズになって来ましたし、砲撃も大体命中率が50%を超えてますから。」

 

 

 

あ、其れは言い得て妙だね小梅さん。

でも其れは其れで、嬉しい誤算だったって言えるんじゃないかな?――20年前に戦車道が廃止されて、戦車道の事なんか碌に知らない素人しか居ないと思ってたら、戦車道は素人でも、可成りの資質を持った人達が此れだけ居た訳だからね。

 

其れに、体力だけでなく戦車の事だって、教えれば教えただけモノになっていくんだから、これ程鍛え甲斐のある人達って言うのは、そうそういる物じゃないからね……此れなら、大会までには可成りの物になるかも知れないよ?

 

 

 

「まぁ、貴女がそう言うならそうなんだろうから、其処は安心してるわみほ。――で、何か用ですか会長さん?」

 

「いやぁ、そろそろ練習試合が近付いてっから、作戦なんかを聞きたいな~って思ってさ。

 か~しまの立案した作戦を、西住ちゃん達が真っ向からダメ出ししたのは良いんだけど、その代替案が出てないってのは、戦う側としては、ちょ~~~~っと、不安なんだよね?

 だから、作戦会議でもしないかね~~?」

 

「あ、そう言う事ですか。」

 

大丈夫です、今日はこの後で聖グロ戦の作戦を発表する心算でしたから――安心してください、車長経験者4人で、毎日頭付き合わせて考えに考え抜いた作戦を用意してますから♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer106

『試合の相手は聖グロ?上等です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言う訳でフィジカルトレーニングを終えてから、温泉で汗を流した後で作戦会議――御老公の湯の宴会場で作戦会議って言うのも如何かと思うけど、会長さんが急遽貸し切りにしてくれたから問題はなさそうだね。

 

 

 

「其れで西住、どんな作戦を考えて来たんだ?

 ……私の立案した作戦を真っ向から否定してくれたのだから、さぞかし素晴らしい作戦なのだろうな?勝てるんだろうな、その作戦なら?」

 

「河嶋先輩、二等兵の分際で、一佐に、其れも隊長にそんな口を利くのは如何かと思うわよ?

 黒森峰だったら、不敬罪で即刻除隊されてるわ……戦車道に於いては、学年は関係ない――いえ、戦車道のみならず、あらゆる競技に於いて、優先されるのは実力でしょう?

 其れを理解しないで、上級生と言うだけで偉そうに振る舞うと、しっぺ返しじゃ済まない痛手を被るわよ、河嶋先輩。」

 

「ひぃ!?」

 

「か~しま~~……チキンハートのくせに、生徒会役員だからってだけで、尊大な態度取るのそろそろ止めような~~?

 こう言ったらアレだけど、西住ちゃん達にはそんなもん、全く意味為さねーからね……つーか、今のアタシ等は二等兵なんだから、隊長の言う事に異を唱える権利は有してねーからな?」

 

「会長ぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 

 

あはは……うん、そう言う事だから河嶋先輩は大人しくしていてください。

さて、其れで作戦ですが、先ずは私のAチームと、エリカさんのBチームで聖グロの部隊を強襲して、意識を此方に向かせた上で大洗の市街地まで誘導し、其処から市街地戦を仕掛けます。

戦車の総合性能は五分五分ですが、練度の面では聖グロの方が絶対的に上なので、此方は地の利を生かして行こうと思います。

大洗の事なら、皆さんの方が遥かに詳しいと思いますから、この作戦なら結構行けるんじゃないかと思いますが、如何でしょうか?

 

 

 

「良いんじゃな~い?

 ってかさ、西住ちゃん、隊長なんだから口調は普段通りで良いよ~~?アタシ等は3年つっても、階級は最下級の二等兵じゃん?大佐相当の人が、二等兵なんかに丁寧語で話したりしないっしょ?」

 

「……其れも、そうですね?

 なら、作戦の基本は此れで行こうと思うけど、如何思う?」

 

「うむ……地の利を生かした戦い方、悪くない――否、今の我々の力を考えた場合これ以上の作戦はない。

 歴史を紐解いても、戦力では劣っている軍勢が、地の利を最大に生かした結果、大軍を打ち負かしたと言う例は少なくないからな……私はこの作戦が現状では最もベターだと思うぞ西住隊長?」

 

「こっちのフィールドに引き込んでしまえば、後は根性で何とかなります!!」

 

「磯部、アンタ其れ人として何かが間違ってるわよ?――まぁ、その気概は大事だとは思うけど。」

 

 

 

あはは……磯部さんは、其れが取り柄だからね。

其れで、作戦に関して何か質問はあるかな?と言うか、有って然りだと思うから遠慮なくどんどん質問してくれて構わないよ?

 

 

 

「では、Fチーム車長のエルヴィンだが、何故敵部隊を強襲するのが、隊長と逸見なのだ?パンターは兎も角、ティーガーⅡは機動力に難のある重戦車だろう?

 其処は、機動力のある副隊長のⅢ号か、赤星のⅣ号、或いはEチームのクルセイダーを同行させるべきだと思うのだが……」

 

「うん、エルヴィンさんがそう思うのは当然だと思うけど、これにはちゃんと訳があるんだよ。」

 

まず、エリカさんのティーガーⅡは、レギュレーションギリギリの魔改造がされてるから、ティーガーⅡなのに最高時速が40km出るんだ――足が速くて攻守力も最強クラスなら、同伴させるには一番頼りになるからね。

そして最大の理由は此れ――エリカさん、お願い。

 

 

 

「そんな鈍足戦車で機動力勝負ぅ?流石、4強の隊長さんは言う事が違うわねぇ?」

 

「「「うわっ、スゲェムカつく。」」」

 

「流石はエリカさん、あからさまにムカつく挑発をさせたら天下一品ですね?……正直言ってちょっと殴りたくなりました。」

 

「敵だったら、間違いなく一発かましてますね。」

 

 

 

と、エリカさんの此の挑発力で、聖グロを――主に隊長を徹底的に挑発して市街地まで誘導する為にね?……まぁ、去年の大会で散々虚仮にされたから、ダージリンさんがメンタル面を鍛えてる可能性は大きいけど、其れでも挑発に乗せる位の事は出来る筈だから。

 

そして指揮官が冷静さを失えば、部隊の統率も崩れるから、市街地戦もやり易くなるしね。

 

 

 

「心理戦も視野に入れての布陣だった訳か~~?

 いやはや、隻腕の軍神の武勇は聞いてたけど、戦車戦での物理的なやり取りだけじゃなく、心理戦の方にも長けてるとは、猛将と知将の両方だね西住ちゃんは?

 ――で、勝率は?」

 

「大洗の現状の実力を考えると、良く見積もって五分って言う所かな?

 ギリギリでも勝てれば御の字、引き分けに持ち込む事が出来たら大健闘って言っても良い感じだから。」

 

「だよねぇ……でもさ、初戦は白星で飾りたいから、頑張って行こうじゃん?

 そうだねぇ、勝てたら豪華賞品プレゼントとか如何よ?」

 

「ちなみにその賞品は?」

 

「干し芋3日分!!」

 

 

 

……気持ちだけ受け取っておきます会長さん。

因みに、勝ったら賞品て言う事は、負けたら罰ゲームって事だよね……負ける気は無いけど、参考までに教えて頂けますか、会長さん?

 

 

 

「そうだねぇ?……丁度試合の日は、大洗でイベントがあるから、そのイベント会場で『あんこう踊り』でもやるとしようかねぇ?」

 

 

 

あんこう踊り?……何だかよく分からないけど、罰ゲームに選ばれる位だから、相当にアレな踊りだっていうのは想像できるけど、エルヴィンさんと磯部さんの顔が青くなってる事を考えると、よっぽどなんだろうなぁ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

と言う訳で、今度の聖グロ戦、負けたらあんこう踊りだって。これは会長の決定事項だから、変える事は出来ないみたい……

 

 

 

「あんこう踊りって、そんなの絶対やだーー!!

 若しも動画撮影されてて、其れがネットにアップされたら一生お嫁に行けなくなっちゃうよ~~!!――絶対勝とうよみぽりん、エリリン、梅りん!!勝てば罰ゲームは無いんだから!!」

 

「沙織さんが此処まで必死になるって、其処まで酷いのかな『あんこう踊り』って言うのは?」

 

「其れなんだけど、私も気になったからネットで調べてみたんだけど、これは確かに相当だわ。

 ぶっちゃけ、これを踊ってる動画がネットにアップされたら、ある意味で人生ピリオドって言えるんじゃない?……此れを見れば、私が言ってる事が理解出来る筈よ。」

 

 

 

其処まで?

取り敢えずエリカさんのスマホから送られて来た動画ファイルを確認して――って、これがあんこう踊り!?

ピンクの全身タイツにあんこうを模した帽子を被って、一心不乱に踊りまくる……此れは、確かに動画に撮られてたら、一生モノの恥になるって言うのは理解出来るかも。

 

衣装が普通の浴衣なら未だしも、身体の線がバッチリ出る全身タイツでのアノ動きは、セクハラ以外の何者でもないよ――此れは、是が非でも勝たないとね。

 

時に麻子さん、練習試合当日は可成りの早起きになるけど大丈夫かな?

 

 

 

「……西住流フィジカルトレーニングのおかげで、大分朝起きられるようにはなったが、其れでも早起きは苦手だ……当日は家まで起こしに来てくれるとありがたい。」

 

「いや、其れ私が日常的にやってるからね麻子?」

 

「うん、沙織には感謝してる。」

 

 

 

あはは……やっぱりまだ早朝起きは辛いんだ――でも、それならそれで、バッチリと目が覚める方法で起こしてあげるから、心配しないで。

何よりも、麻子さんが居ないと隊長車は動けないからね。

 

 

 

「うん、分かってる……西住さんが其の力を発揮出来るように、私は私の役割を果たすだけだ。

 しかし、戦車道と言うか、西住流フィジカルトレーニングとやらに低血圧改善の効果があるとはな……医者が知ったら、驚く事間違いないんじゃないか……?」

 

「うん、驚くと思う。まさかの効果と、世界中何処を探しても有り得ないようなハードトレーニングの内容に。」

 

今更だけど、アレを考案したのは一体誰なのか……?

出来たのは多分最近の事なんだろうけど、曾お祖母ちゃんやお祖母ちゃんが考えたとは思えないし、それ以前になると近代体育の科学的トレーニングの要素の説明が付かないから……あ、考えたのお母さんだ此れ。そして多分、菊代さんも開発に一役買ってるね。

うん、お母さんと菊代さんはとんでもない物を生み出してくれたね本当に――まぁ、そのお陰で大洗の皆は僅か数日で大幅にフィジカルアップ出来たんだから、有効性については疑いようもないけど。

 

さてと、其れじゃあ私達は帰るけど、アンドリューは今晩は麻子さんの所に泊ってね?

 

 

 

『ガウ。』

 

「……何だ、虎は残るのか?」

 

「うん、明日の目覚まし其の一としてね。

 後、麻子さんは1人暮らしだから、防犯上の事も考えてのボディガード。……まぁ、学園艦に不審者が侵入する事は先ず無いけど、犯罪者って言うのは何時何処に現れるか分からないから。」

 

「そうか、其れは有り難いが……コイツには何か?生肉でもやった方が良いのか……生憎冷蔵庫には未調理でも食べられるチーズと魚肉ソーセージ位しかないぞ?」

 

 

 

お構いなく。

此処に来るまでにちゃんとご飯は食べさせてきたし、アンドリューは好き嫌いしない良い子だから、基本的に何でも食べるからね。

 

 

 

「そうか。ならボディガード料と、目覚まし料と言う事で後で魚肉ソーセージを与えておこう……足りないだろうがな。」

 

『グルル……』

 

 

 

あはは……『お気遣いどうも』だって。

其れじゃあ麻子さん、また明日!

 

 

 

「あぁ、また明日な。」

 

「麻子、アンドリューちゃんに迷惑かけたらダメだからね?アンドリューちゃんも、麻子の事を甘やかさないでね?」

 

「沙織……うるさい。」

 

『ウガ?』

 

 

 

ふふ、沙織さんと麻子さんは、何でもストレートに言い合える間柄なんだね――普通は幼馴染だからこそ遠慮とかしちゃう部分が出て来そうなモノだけど、全然そうじゃないって言うのは普通に凄いかも。

――って、私とエリカさんと小梅さんも何でもストレートに言い合える間柄だったね。……つまり、戦車道の選手は仲間内に隠し事はしないでストレートな物言いで付き合えって言う事だね♪

 

 

 

「……大体あってるかしらね?」

 

「多分正解かと……」

 

「自分としては至言であると思います!!」

 

「今の一言は、対人関係における大事な事では無いのでしょうか?」

 

 

 

優花里さんも華さんも大袈裟だよ。まぁ、隠し事なしで付き合う事が出来るのが一番だって言うのは間違い無いと思うけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――と、言う訳で翌朝。只今AM5:30。

現在麻子さん以外のAチーム(操縦はエリカさんがしてくれてる。)とCチーム、そしてDチームは戦車に乗って麻子さんの家に向かってぱんつぁ~ふぉ~~!

 

と言うか梓ちゃんは何で此処に?

 

 

 

「副隊長として、矢張り隊長のお手伝いをすべきかなぁと思いまして、来ちゃいました。」

 

「其れは何とも、有り難いよ梓ちゃん。

 如何に中戦車とは言え、戦車3輌の空砲が鳴り響けば、幾ら麻子さんでも目を覚ますと思うからね――そう言う意味では、戦力の追加って言う事で良い判断だったよ梓ちゃん♪」

 

「中学時代、伊達に西住隊長の副官やってませんよ♪」

 

 

 

だよね?

さてと、麻子さん宅に到着……既にアンドリューがあの手この手で起こしにかかってるかもしれないけど――

 

 

 

『ゴワァァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

 

 

……あの大音量の咆哮が出たって事は、麻子さんはまだ寝てると思うから、全車撃ち方用意!!

 

 

 

「空砲弾、装填完了であります!」

 

「隊長、準備OKです。」

 

「此方も何時でも行けますよ、みほさん?」

 

「うん、其れでは……フォイア!」

 

 

 

――ドン!ドンッ!!ドォォォォォン!!

 

 

 

「砲撃?」

 

「なんだなんだ?」

 

 

 

あ……関係ない人まで起こしちゃった。

朝早くからすみません、空砲です!

 

 

 

「パンターは新顔だけど、Ⅲ号とⅣ号が動いてるのは久しぶりに見たねぇ?そう言えば、戦車道を復活させたんだってねぇ?

 戦車道は乙女の嗜みって言われる乙女武術だ……鉄と火薬と油の臭いってのは、最初は慣れないけど、慣れてしまえば香りに変わるモンだから、青春を戦車道に捧げるのも悪くないモンだよ。」

 

「そうだ、試合やるんだろ?頑張れよ!!」

 

 

 

これは、予想外の応援?

はい、皆さんの応援に応えられるように頑張ります!!――時に、麻子さんは起きたのかな?

 

 

 

「う~~……何とか起きたぞ西住さん。

 流石に虎の至近距離での大音量『ほえる』と、戦車の空砲3連発は効いた……今のを録音した目覚まし時計を作ったら、爆発的大ヒットは間違いないと思うぞ?……近隣住民に迷惑だがな。」

 

 

 

うん、起きたみたいだね?とは言っても、未だパジャマのままで、半分アンドリューによりかかった状態ではあるけど。

でも、試合に向けてシャキッとして貰わないとだから、先ずは制服に着替えないと……ロンメル、神通力で麻子さんを着替えさせてあげて?

 

 

 

『コ~~ン♪』

 

「おぉ、一瞬で服が切り替わったぞ……」

 

 

 

フフフ、九尾の妖狐を舐めはいけないよ麻子さん。

さてと、これで服は良いから後は目を完全に覚まさないとだね?――先ずは歯を磨いて、そして冷水で顔を洗って、其れが終わったら此れを一気に飲み干して。確実に目が覚めるから。

 

 

 

「なんだこれは?変な臭いはしないが……取り敢えず目が覚めると言うのならば――

 ――!?むぐ、これは一体何だ西住さん!?飲んだ瞬間に目が覚めたと言うか、身体の底から力が漲って来るみたいだぞ?」

 

「リポビタンDにガラナとマタタビの粉末を混ぜて牛乳で割った特製ドリンク。

 お母さんが疲れた時によく飲んでたから、目覚めの一杯としても効果があるんじゃないかって思ったけど、効果があるどころか物凄く効いたみたいだね。」

 

これなら今日の試合、操縦の方は安心しても良いかな?

 

 

 

「任せておけ西住さん。

 今の私は、きっと最強だ……どんな無茶な指示でもちゃんとこなすから安心して命令してくれ……そして勝とう。……あんこう踊りをしてるのをおばあに見られたら何を言われるか分からないしな。」

 

 

 

……やっぱり麻子さんもあんこう踊りは避けたいんだね。

 

 

 

――ピンポンパンポーン!

 

 

『当学園艦は、これより大洗港に入港します。戦車道履修者の皆さんは、戦車を降ろす準備をしてください。

 繰り返します。当学園艦は、これより大洗港に入港します。戦車道履修者の皆さんは、戦車を降ろす準備をしてください。』

 

 

 

っと、如何やら大洗に着いたみたいだね?

着いたみたいだけど、大洗の学園艦のすぐ横には、更に巨大な学園艦が!――聖グロリアーナ女学院……もう入港してたんだね?って、甲板に誰か……アレは、ダージリンさん?

 

 

 

「………」(ニコリ)

 

 

 

ダージリンさんも私に気付いたみたいで、無言で笑顔を向けて来たか……きっと私の顔も笑ってただろうから、ダージリンさんにも分かってた筈だよね――だとしたら、この練習試合は只じゃ終わらない。

戦車道に於いて、互いに認めた相手と無言で笑顔を交すのは、『本気でやろう』の合図だからね。――手加減なしだよ、ダージリンさん!

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「みぽりんが本気を出したーー!!」

 

「今日は『諸葛亮孔明』と『呂布奉先』……策士と鬼神が宿ったなら負けは無いわね。」

 

 

 

うん、勿論負ける心算は無いよ?

経験の差から言えば引き分ける事が出来れば御の字だけど、だからと言って勝利の可能性がない訳じゃない――特に経験者が搭乗してる戦車は性能面では勝ってるからね。

 

絶対に勝ちに行くよ、皆!!

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「おーーーー!」」」」」」」」」」」」

 

「お~~~~………」

 

『グオォォォォォォォォォォォン!!』

 

『コーン♪』

 

 

 

うん、やる気は充分だね!

 

そして、陸に上がってみれば他のチームの皆もやる気は充分みたい――歴女チームのエルヴィンさんが、『隊長ならば其れらしい服装でなくてはな。』って、ドイツ軍の軍服一式を持って来たのは驚いたけどね。

 

でも、それ以上に驚いたのは、この練習試合で大洗の町が、まるでお祭りみたいに盛り上がってる事だよ。

学園艦が停泊した港のすぐそばにあるアウトレットには出店が幾つも出店してる上に、駐車道には観戦用の特設スタンドとパブリックビューイングまで設置されてるからね……此れは、事前に会長さんが大洗の商工会かなんかに練習試合の情報をリークしたかな?

そうじゃなかったら、これだけの物を当日に準備する事は出来ないからね。

 

だけど、これだけの人が見てる前で無様な試合は出来ないね……此れだけの人が、大洗の戦車道の復活を見に来てくれたんだから……!

大洗での初陣、私の戦車道で勝利を捥ぎ取って見せるよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

練習試合の予定時刻となり、両校の隊長と副隊長――大洗はみほと梓、聖グロはダージリンとアッサム――が大洗郊外の試合会場にて対峙していた。

 

 

「去年の全国大会以来ねみほさん?」

 

「えぇ、お久しぶりですダージリンさん。」

 

「貴女とエリカさん、そして小梅さんが黒森峰から去った事は聖グロ諜報部の調べで分かっていましたが、まさか20年も前に戦車道を廃止した学校に転校しているとは思いませんでしたわ。

 本来ならば、無名の弱小校からの練習試合などは突っぱねる所なのですけれど、貴女が隊長をやっていると言うのを聞いて気が変わりましたわ……楽しませてくれますわよねみほさん?」

 

「其れは、お約束しますよダージリンさん。」

 

 

そして、対峙した隊長同士は、既に静かに、しかし激しく火花を散らしていた。――何方も闘気は既にマキシマムオーバーと言う所だろう。

 

 

「それにしても、個性的な戦車ですわね?」

 

「カッコイイでしょ?特にゴールドの38(t)は?」

 

「金は確かに高貴な色ですけれど、其れを戦車に使われると悪趣味ですわ……尤もアイスブルーのパンター、ディープブラックのティーガーⅡに、スノーホワイトのⅢ号は良いカラーリングとは思いますわ。」

 

「その3輌のカラーリングを褒めてもらえるのは光栄で……「みほさーーん!!!」……ローズヒップさん!?」

 

 

だが、此処でみほに向かってローズヒップが突撃!

吹き飛ばされずに、僅かに後ろに飛んで衝撃を逃がしながら確りとロースヒップを受け止めたみほは流石と言うべきだろう――如何に衝撃を逃がしたとはいえ、ローズヒップの突進を止めて平然としてるみほが凄すぎだが。

 

 

「去年の大会ぶりでごぜーますわねみほさん!!今日の練習試合、勝たせて貰いますのよ!!」

 

「ふふ、相変わらずローズヒップさんは元気だね。

 だけど、今日の試合……勝つのは私達だよ――ルールは殲滅戦だけど、負ける気は更々無いからね……だから、ローズヒップさんも全力で来てくれると嬉しいかな?」

 

「モチのロンでございますわ!最初っから全力全壊ですのよ!!」

 

 

だが、其れでもみほとローズヒップは旧知の仲であり、中学時代の戦友と言う事も有って会話に花が咲く――それでも、自然と戦車道の試合の話になるのは、彼女達が真の戦車乙女だからだろう。

 

 

 

「其れでは、これより大洗女子学園対聖グロリアーナ女学院の試合を始める。互いに、礼!!」

 

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

 

「よろしくお願いしますですわ!!」

 

 

そして此処で試合開始の時間となり、審判長である蝶野亜美が試合開始を告げ、みほと梓、そしてダージリンとアッサム、ローズヒップは互いに礼をし、夫々の陣地へと戻って行くが……

 

 

「So unschlagbar Darjeeling.(負けませんよ、ダージリンさん。)」

 

「Even I don't lose, Miho.(私だって負けませんわ、みほさん。)」

 

 

みほとダージリンは、互いにだけ聞こえる音量で呟き、絶対に負けないと言う意思を示す――練習試合とは言え、此の試合は無名の弱小校と強豪の戦いと言うモノでは終わらないだろう。

 

 

「ダージリンさん……楽しい試合にしようか!!」

 

 

「此の試合、楽しませて貰いますわ、みほさん!!」

 

 

両校の隊長が、全力でこの試合を楽しむ気でいるのだから。

 

何れにしてもこの瞬間に、大洗女子学園にとっては20年ぶりとなる戦車道の試合が始まったのだった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer107『練習試合でも手加減不要です!』

地の利は此方に有るけど、練度は向こうが上か……Byみほ      総じて戦えば五分五分さね?Byエリカ     みほさんは、其れを普通に砕きそうですが……By小梅


Side:みほ

 

 

聖グロとの練習試合もいよいよ開幕だね。

試合前の挨拶を終えて、今は試合前の最後のブリーフィングって言う所だね――作戦は、この前話した通り、市街地戦での包囲撃破を主軸にして行くけど、本番前に質問はあるかな?

 

 

 

「はいは~い。

 包囲撃破って事だったけど、単体で遭遇しちゃった場合は如何すればいいの?Ⅲ号とⅣ号なら、聖グロの戦車とも遣り合えるかも知れないけど、アタシ等の38(t)とバレー部のクルセイダーMk.Ⅱじゃ、聖グロの戦車と遣り合う事は出来ねーと思うよ?」

 

 

 

うん、正に会長さんの言う通り――だから、単騎で聖グロの戦車とエンカウントしたその時には、先ずは生き残る事を第一に考えて『逃げの一手』を使ってね?

逃げの一手を駆使して、物陰に身を潜めていれば、其の内チャンスがやって来るかもだからね。

 

 

 

「相手の出方によって戦況を見極めると言う事ですか――流石です、西住殿!!」

 

「あはは……驚き過ぎだよ優花里さん?――其れに此れ位の事は当たり前のタクティクスだから、興味があるなら、覚えてみても良いかも知れない事だけどね。」

 

「だが、聖グロは言うなれば重装甲のチャーチルと、防御の高いマチルダをメインにしたカウンター型の学校だ……下手に攻め込んだら手痛いカウンターの餌食になってしまうぞ!?」

 

 

 

其れは分かってますから、大丈夫です河嶋先輩。

カウンターが得意な相手だって言うのなら、カウンターをさせなければ良いだけの事だから、何にしても、市街地に引き込む事は絶対だね?

期待してるよエリカさん?

 

 

 

「任せなさい――あの紅茶格言を、マジギレさせてやるわ!!」

 

「まぁ、やり過ぎない様にね?」

 

そう言えば、ローズヒップさんがいるって事はクルセイダーも出て来る筈だから、カウンターだけじゃなくて、機動力による撹乱にも注意をして置いた方が良いかも知れないなぁ……ローズヒップさんも去年の大会の時より強くなってるだろうし。

 

さて、そろそろ試合開始の時間だね――大洗の皆さんに、見て貰うとしようかな、私の戦車道をね――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer107

『練習試合でも手加減不要です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

20年ぶりに戦車道を再開した大洗女子学園と、今の高校戦車道界隈では4強の一角とされる聖グロの練習試合は、練習試合であるにも関わらず、特設会場となっている大洗シーサイドステーション(旧リゾートアウトレット)の駐車スペースには多くの人々が集まっていた。

20年ぶりに大洗が戦車道に復帰すると言うだけで感激した人も居たのだろう。

 

 

……其れは其れとして、試合が始まる前に両校のオーダーを見て行く事にしよう。

 

 

大洗女子学園

 

・パンターG型×1(隊長車)

・Ⅲ号戦車J型×1(副隊長車)

・Ⅳ号戦車D型×1

・ティーガーⅡ×1

・Ⅲ号突撃砲F型×1

・巡航戦車クルセイダーMk.Ⅱ×1

・38(t)戦車B/C型×1

 

 

聖グロリアーナ女学院

 

・チャーチル歩兵戦車Mk.Ⅶ×1(隊長車)

・マチルダⅡ歩兵戦車Mk.Ⅲ/Ⅳ×4

・巡航戦車クルセイダーMk.Ⅲ×2

 

 

 

聖グロのオーダーは、一見すると防御主体の構成に見えるが、足の速いクルセイダーが2輌いる事を考えると、防御主体でありながらも機動力で相手を撹乱する事を考えているのかも知れないと予想出来る。

逆に大洗は一見するとドイツ戦車で纏められているように見えるが、クルセイダーはイギリス戦車であり、38(t)は大戦期のドイツ軍で使用されていたとは言え、製造元はチェコであり、使用戦車には統一性が無く、其れだけに何をしてくるかが全く分からないのだ。

 

尤も、みほの戦車道はそもそもにして『何が起きるか分からない』のが基本なので、使用戦車から戦術を読もうと言うのがそもそもにして困難な事ではあるのだが――逆に言えば、だからこそ戦うのがワクワクすると言えるのである。

 

 

其れとは別に、観戦会場となっている『大洗シーサイドステーション』も賑わいを見せている。

特設スタンドは人で埋まり、駐車場にもレジャーシートを敷いて観戦している人達が多数集まり、また『此れを期に戦車道で町興しが出来るかも!』と考えた商店街の人達が出店を出している事で、会場はちょっとしたお祭り騒ぎ状態だ。

 

 

「さてさて、ご覧ください皆様!

 20年ぶりに戦車道を復活させた大洗女子学園の初戦となる一戦には、練習試合であるにも拘らず、これだけの人が集まって来ています!

 此れは、凄い試合が期待できるかもしれません!何より、我が大洗の隊長は、戦車道ではその名を知らぬ者は居ないと言われている『隻 腕の軍神』こと、西住みほさんなのですから!

 因みに此の試合の実況は、大洗女子学園放送部2年の私、王大河でお送りします!」

 

 

更に大洗女子学園の放送部が此の試合を撮影して、Y○u Tubeやニ○ニコ動画に生配信をしての『ネット生放送』を行って、会場に居ない戦車道ファンに対しても此の試合を発信している――其れだけの事をするだけ、大洗は戦車道に力を入れているのだろう。

 

 

 

『其れでは、大洗女子学園vs聖グロリアーナ女学院、試合開始!!』

 

「Panzer Vor!!」

 

「Tank starting.」

 

 

そんな興奮が渦巻く中で試合開始!

聖グロがチャーチルを要とした扇型の陣形で進行するのに対し、大洗はパンターとティーガーⅡ以外の戦車は、試合開始と同時に散開して市街地に入り、市街地戦の準備を整える。

 

完全に市街地以外では戦う気が無いと言う事だろう――尤も市街地戦を行えるかどうかは、みほとエリカにかかっているのだが。

 

 

「エリカさん、行ける?」

 

「任せなさいみほ。

 姉さんがダージリンのメンタルを鍛えてたとしても、私は其れを越えて見せるわ。」

 

「そっか……ちなみにそれってドレ位のレベル?」

 

「私だったら問答無用で砲撃をブチかまして肉片に変えてるレベルかしらね?……取り敢えず、自分でやって自分でムカついたレベルだと言っておくわよみほ。」

 

「あは、其れなら期待出来そうだね♪」

 

 

そのみほとエリカは、緊張などどこ吹く風――寧ろ『緊張って何?新しい食べ物か?』と言わんばかりの自然体であって、緊張なんて言う物とは無縁の状態であり、そして車長がリラックスしているのならば、搭乗員もリラックス出来るモノであり、AチームとBチームのクルーは、緊張から開放され、ごく自然にリラックスした状態となっていた。

 

隻腕の軍神と、孤高の銀狼のやり取りは、味方の緊張を解す効果もあった様だ。――そして、その緊張が解けた所で聖グロの部隊が見えて来た……奇襲は成功したのだ。

 

 

だが、本番は此処からだ!

 

 

「華さん、チャーチルの足元を狙って!」

 

「了解しましたみほさん。」

 

 

「アイン、パンターの砲撃が炸裂したら、同じ場所にぶち込んで!!」

 

「任せておけ……私の射撃の腕前は針の穴をも通すからな!!」

 

 

 

先制攻撃(と言うには、余りにも強烈な攻撃だが……)をブチかまし、聖グロの部隊の意識を強制的に此方に向かわせる――尤も、みほ達と向き合ったダージリンの顔には驚愕が浮かんでいたのだから、ダージリンとしても、この展開は予想外だったのだろう。

 

 

 

「ティーガーⅡは兎も角としてパンターが直々に来るとは……幾らなんでも無謀だと思いますわよみほさん?」

 

「は!みほの辞書に無謀なんて字は無いわよ紅茶格言――もといダージリン副隊長?……あぁ、元でしたね。」

 

 

其処から舌戦に持ち込む心算なのだろう。

『歩く罵詈雑言製造機』の異名を持つ(本人は全否定)エリカは早速ダージリンに対して、嫌味たっぷりな一言をぶつける――更に鼻で笑う様な仕草もしている辺り芸が細かい。

 

 

「ごめんなさいねダージリン……私の中では聖グロの隊長って姉さんだから、ぶっちゃけアンタを隊長として見る事が出来ないのよね?」

 

「其れは仕方ありませんわ、アールグレイ様は偉大なお方でしたもの。

 ご存知?聖グロリアーナに於いて『アールグレイ』を名乗った隊長は、貴女のお姉さまを含めて2人しか居なくてよ?」

 

「あ、そうなの?因みにもう1人のアールグレイって誰?」

 

「島田流の家元と聞いてますわ。」

 

「……そんなビッグネームと同じ名前を名乗ってたとは、姉さんグレイト。」

 

 

だが、此の程度ではまだダージリンは余裕を保っているらしく、冷静に対処して来る――が、これはほんのジャブ。

逸見エリカと言う少女は此処からが本領発揮なのだ。

 

 

「でも、其れってつまり貴女はアールグレイの名を継ぐに値しないって事よね?

 そもそも貴女って、姉さんが卒業した事で繰り上がり昇格した隊長さんよね?……正直言って貴女が、姉さんより上とは思えないし?」

 

「誰が繰り上がり昇格ですかエリカさん?」

 

「お前ーーーm9(^Д^)!」

 

「……相変わらず安っぽい挑発ですわね……去年の私ならばいざ知らず、今年の私はこの程度の挑発には乗りませんわ。」

 

 

エリカの挑発に対し、ダージリンは努めて冷静に対応するが蟀谷の辺りに青筋が浮いてる辺り、可成りブチ切れてるのは間違い無いだろう。

だが、其れでもエリカの口撃は止まらない。

 

 

「精神修業をして来たって訳?……やるわね田尻さん?」

 

「ダージリンですわ!!!」

 

 

此れがトリガーとなり、聖グロの部隊は、みほとエリカに対しての攻撃を開始!

 

2対7と言うのは可成り不利な数字だが、ダージリンの怒りのボルテージを燃え上がらせるのが目的とばかりに、エリカは挑発を繰り返す。

それも、只挑発を繰り返すだけでなく、表情をガラりと変えての演出も忘れない。

更には攻撃を避けるでもなく、態とティーガーⅡの車体で受けている――これ以上の挑発は無いだろう……『お前達の戦車じゃあ、私達の戦車は倒せない』と言ったような物なのだから。

 

因みにみほは、パンターの機動力を武器に聖グロの攻撃を避けまくり、その上で敢えて決定打にならない攻撃を加えている――此れも立派な挑発と言えるだろう。

只、みほはエリカと違って口に出しての挑発をしていないだけだ。

 

 

「はい、残念でした。次頑張んなさい~~♪」

 

「馬鹿にしてますの貴女は私を!!」

 

「馬鹿になんかしてないわ……虚仮にしてるだけよ!!」

 

「なお悪いですわ!!!」

 

「まぁ、まぁ、そんなに怒るなよ田尻ん?」

 

「誰のせいだと思ってますの?……良いでしょう、お望み通りにぶっ殺して差し上げますわ。」

 

 

火に油所か、火にガソリンをぶっ掛けた末にエリカは聖グロの本隊から離脱し、同時にみほも離脱して市街地へと向かう。

その間も、エリカは挑発を忘れる事無く、みほと共に的確に市街地まで誘導して行き――

 

 

「其れじゃあまた後で会いましょう?アディオース!」

 

「ダージリンさん、ローズヒップさん、またね~~~♪」

 

 

――ボウン!!

 

 

海岸線の道路に有る大鳥居の前まで来た所で、みほの十八番のスモークボンバーが炸裂!しかも、今回は何時もの白煙ではなく、より視界を潰す効果の大きい黒煙バージョンだ。

 

此れには聖グロの部隊も強制停止を余儀なくされる――よく知った試合会場ならばまだしも、土地勘のない大洗で視界が確保できない状態で動くのは自殺行為でしかないのだから。

完全にしてやられた形だが、聖グロに取って唯一幸運だったのは、此処は道路のすぐ傍が海岸である為に海風が良く吹き、そのお陰で黒煙が晴れるのが早かったのだ。……其れでも完全に視界を取り戻すには確り2分掛かってしまったが。

 

 

「完全にしてやられましたねダージリン。

 アールグレイ様が大分精神修業をさせていたようですが、未だ沸点が低いのは完全には治って居なかったと言う訳ですね?」

 

「手厳しいわねアッサム……まぁ、完全に乗せられてしまった以上、言い訳は出来ないけれど。

 だけどねぇアッサム、分かっていたとしても、貴女も一度エリカさんの挑発を真っ向から受けてごらんなさい?『挑発乗るべからず、怒ったら負け』と分かっていても、腹が立つのだから。

 アールグレイ様も人を乗せるのが巧かったけれど、エリカさんは別の意味で人を乗せるのが巧いみたいだから。」

 

「……成程、矢張り姉妹と言う事ですか。」

 

 

エリカの挑発に乗せられた挙げ句に、みほの土俵である市街地戦を行う事を余儀なくされた事に対して、アッサムは容赦なく苦言を呈するものの、ダージリンは其れを素直に受け止め、それどころかエリカの挑発の腕前を評価(?)する。

如何やら、強制的にみほの土俵に上げられる事になった事で、逆にダージリンは冷静さを取り戻したようだ――最後の最後まで冷静さを失っていた去年の大会から考えれば、大きな進歩だろう。

 

 

「さてと、完全に乗せられてしまいましたが、こうなった以上は相手の土俵で戦う以外の選択肢はありませんわね?

 市街地戦はみほさんの十八番……隊員の練度では此方が上とは言え、地の利は相手に有る事と戦車の性能差を考えると、あちらの方が僅かながら有利と言う訳ね?

 隊員の練度の低さは工夫で補う……実にみほさんらしい戦い方だわ。――ホント、まほさんとは違うのね。」

 

 

そして冷静になったからこそ、ダージリンは状況を判断し、僅かに不利な条件ではあるが、市街地戦を行わない限り試合にはならないと考えていた。――此処で待ちに徹していても、みほ達が仕掛けてくるとは思えなかったからだ。

 

 

「聖グロリアーナの戦車道は、騎士道精神を忘れずに、常に優雅にあるべきですが、挑まれた勝負は受けて立つのが礼儀……良いでしょう、貴女のダンスのお誘い、受けさせていただきますわみほさん。」

 

故に、ダージリンは市街地――恐らくは大洗の部隊が潜んでいるであろう商店街へと向けて進軍を開始。

冷静さを取り戻したダージリンの瞳には剣呑な光が宿っていたが、その顔に浮かぶのは優雅な笑み……淑女の皮を被った獅子が、その牙を光らせていると思わせる表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、聖グロの部隊を目的地まで誘導する事に成功したみほは、商店街で一旦エリカと分かれ、商店街を進みながら指示を出して行く。

 

 

「聖グロの誘導には成功したけど、本番は此処からだから各員気を抜かないで。

 地の利では此方が有利だけど、練度では聖グロの方が上だから、交戦状態になって撃破が難しいと分かったら、無理に撃破しようとはせずに、その場を離脱して一番近くにいる仲間との合流を最優先にしてね?」

 

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 

如何に地の利があるとは言え、練度では圧倒的に負けている事を考えれば、交戦状態で大洗が聖グロを撃破出来る確率は可成り低い事を考え、無理に撃破する事はせずに、生き残る事を優先する様に伝えていく。

 

副隊長である梓をはじめ、経験者であるエリカと小梅はみほの意図を理解しただろう。バレー部チームと歴女チームも、みほの意図は理解せずとも無理に撃破はしない事と言うのは理解した筈だ。

 

 

「其れじゃあ、これより『かくれんぼ作戦』を開始するよ!」

 

 

みほの号令の下、各チームは商店街の様々な場所に身を潜めて聖グロの部隊が現れるのを待ち構える――ある意味で大洗は、聖グロを相手に、掟破りの『逆カウンター戦法』を仕掛ける形をとったのだ。

尤もこれも地の利があればこその戦術だが、だからこそ最大の効果が発揮できるとみほは考えていた。

 

大洗女子学園の生徒にとって、大洗の町中は庭みたいなものだと言っても過言ではなく、そうであるのならば何処に身を潜めれば良いのかなど、言われなくとも理解しているのだ。

 

実際にⅢ号は町営駐車道のブロック塀に身を隠し、Ⅳ号は蕎麦屋『大進』の店舗の陰に潜み、Ⅲ突はのぼりを立てて薬局の一部に擬態し、クルセイダーはコインパーキングに陣取っているのだから。

 

身を潜めていないのはみほのパンターと、エリカのティーガーⅡだが、此の2輌は商店街に入って来た聖グロの部隊とやり合う目的で商店街内を走っているので問題は無い。

 

寧ろ問題なのは――

 

 

「ねぇ、桃ちゃん、隠れてた方がよくないかな?」

 

「何を言う!此処で待ち構えて、聖グロの部隊を一網打尽にしてくれる!!――聖グロの首は、この河島桃が取る!!」

 

「お~~……気合入ってんなぁ、か~しま~~?」

 

 

生徒会の38(t)だ。

何処に身を隠すでもなく、堂々と商店街の道路のど真ん中に佇んでいるのは、幾ら何でも無策と言うか、無謀極まりないとしか言い様がないだろう……と言うか、この時点で可成り命令違反なのは否めないのだが。

 

そして最悪な事に、この38(t)の前に、進行して来た聖グロの部隊はその姿を現したのだ。

狭い道路を通ってきたせいで、聖グロの部隊は縦に長くなっている――つまり先頭車両を頭にした縦列陣形を取って此処までやってきたのだろう。

 

 

「縦列陣形で来るとは愚かな……頭から叩き落してやる!!」

 

 

其れを見た桃は、装填しては撃ち、装填しては撃ちの攻撃を繰り返して聖グロの部隊を攻撃するが、悲しいかな、ドレだけ撃っても掠りもしないのだ……桃の砲手としての才能は無いとしか言いようがないだろう。

 

 

「撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て!!」

 

 

其れでもめげずに攻撃を続けるのは立派かも知れないが、下手な鉄砲数うちゃ当たる的な砲撃を喰らう程、聖グロの隊員は能無しじゃない。

見事な回避動作で攻撃を避け、1輌も撃破される事なく、商店街に突入!

 

だが、其れでも依然として桃は攻撃を繰り返すが、聖グロの戦車を壊す以上に商店街を破壊しているようだ。

 

 

「桃ちゃん、此処は逃げた方がよくない?」

 

「逃げるだと?そんな事が出来る筈ないだろ!私達は此処で、ファースト撃破をしなければならないんだ――だから絶対に退かん!!!」

 

 

それでも尚、桃は当たらない砲撃を繰り返し行い、しかし掠りもしないまま聖グロの部隊の侵入を許してしまったのだ――

 

 

「隊長が最強でも、隊員が素人だと付け入る隙もあるモノですわね?――ローズヒップ!!!」

 

「お任せありですわダージリン様ーー!!」

 

 

そんな桃に対してダージリンは嘲笑とも取れる笑みを向けると次の瞬間にはローズヒップを呼び、呼ばれたローズヒップは、駐車道に停めてあった車を滑走路にして飛び出し、38(t)の上に落下!!

みほ直伝の『戦車プレス』を、行き成り仕掛けて来たのだ。

 

38(t)は、決して優秀な攻防力を備えている訳では無いが、大戦初期に作られた軽戦車と言う事を考えれば破格の性能を持っている――のだが、だからと言って上から降って来た戦車の圧力に耐えられるかと言われればそれは否。

 

 

――ドゴン!

 

――パシュン!!

 

 

『38(t)行動不能。』

 

 

落下速度まで加わったクルセイダーの戦車プレスに耐える事は出来ずに38(t)は撃破されて白旗が上がる――無鉄砲に撃ちまくっておきながら1輌も撃破出来ずに、逆に撃破されるとは、情けない事この上ないだろう。

 

 

「あ~~……コイツはやられたねぇ?此れは、試合後に西住ちゃんからお叱りを受けるのは確実かな~~?

 取り敢えず、か~しまは厳しく叱られた挙げ句に降格は間違いねーわ。」

 

「其れは貴女もです、会長!」

 

「あ、やっぱし?」

 

「当然です!

 桃ちゃんの事は当然として、会長の事もみほさんには報告させて貰いますから――相応の罰は覚悟しておいて下さい。って言うかしろ。」

 

「こやま~~、キャラ変わってるぞ?

 だけど此れは確かに良くなかったかもな~~……撃破が難しい状況だったにもかかわらず、味方との合流はせずに無茶な攻撃をした挙げ句にこの結果だからね~~……降格は免れねーな此れは。」

 

 

何にしても、ファーストアタックを取ったのは聖グロだと言う事実は覆す事は出来ない故に、聖グロに最初にボードアドバンテージを与えてしまったのは確実だろう。

 

そして、これが事実上の試合開始のゴングでもあったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

エリカさんの挑発のおかげで聖グロの部隊を市街地戦に引き込む事が出来た訳なんだけど、その状況下で、まさか先に此方の戦車が撃破されるとは思わなかったよ。

生徒会の38(t)が撃破されちゃったみたいだからね。

 

でも、私の言った事を遵守していれば撃破される事は無かった筈だから、これは勝手な独断専行をしたと見て間違い無いかもだよ――試合が終わったら、生徒会チームには事情聴取を行う必要があるかも知れないね。

 

尤も1輌のビハインドなら直ぐに取り戻せるから何とかなるんだけど――そっちの状況はどうなってるかな梓ちゃん?

 

 

 

『こっちは依然問題なしです西住隊長。

 ですが、Ⅲ号の性能では聖グロの部隊を全て相手にする事は出来ないので、これより赤星先輩と合流した上で、聖グロの部隊との交戦を開始する心算です。』

 

 

 

ふむふむ、梓ちゃんはちゃんと状況が見えてるみたいだね?――確りと作戦を考えてるんだから見事なモノだよ。

38(t)を行き成り失う事になっちゃったけど、1輌程度のビハインドなんて物は、私の中ではないに等しい物だから、此処から大暴れさせて貰うからその心算でいてね?

 

今一度貴女には味わってもらうよダージリンさん、隻腕の軍神の力の一端と言う物を――勝たせて貰うからね、此の試合は!!

 

 

 

「おぉ、燃えてるねみぽりん!!」

 

「エンジンが唸っている……西住さんの闘気は、戦車にも伝染すると言うのか?……普通に凄いな其れは。」

 

 

 

ふふ、大袈裟だよ沙織さん麻子さん。

とは言っても、此の試合が大洗の初めての対外試合になる訳だから、きっといい経験になるよ――そういう意味では、此の聖グロとの練習試合は、結果はどうあれ得るモノが多いと思うな。

 

さてと、気合を再注入して行こうか――私の戦車道はまだ完成してはいないけど、此の試合では今の私の全力を見せてあげるよ。

其れでも、刺激的な試合にする事だけは、もう決定事項だしね。

 

 

聖グロとの練習試合、本番は此処からだよね!!――絶対に負けないから……最低でも引き分けには持ち込ませる!!

生徒会の38(t)みたいに先走った事をする戦車が他にも居たら、其れすら難しいかも知れないけど、今のところその心配はなさそうだしね。

 

だからこそ楽しくなって来た――滾って来たよ、西住の血に流れる、戦車乗りとしての本能が!!……まさか、私の眠れる本能を覚醒させるとは思ってなかったよダージリンさん!

 

だけど、眠れる本能が覚醒した以上、私に負けは無いから、本能を解き放たれた軍神の力を、その目に焼き付けて貰うよ、ダージリンさん!

 

大洗の戦車道は、此処からが本領発揮だからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer108『激闘!聖グロリアーナ戦です!』

私の魂の炎が燃えてくるね、これは!Byみほ      その炎を具現化できれば『大蛇薙』位出来んじゃない?Byエリカ     多分やろうと思えば、出来るでしょうねBy小梅


Side:みほ

 

 

得意の市街地戦に持ち込んでおきながら、其れでもファースト撃破を許す事になるなんて言う事は考えてなかったけど、1輌程度のビハインドは直ぐに取り戻して見せるよ。

何よりも、やられっぱなしって言うのは性に合わないからね。

 

 

 

「みぽりん、若干目がマジになってるけど大丈夫?」

 

「……ん、大丈夫だよ――初撃破は許したけど、逆にお蔭で思考がクリアーになって来たからね。」

 

こんな言い方をしたら、色々とアレなのかも知れないけど、私は不利な状況でこそ力が発揮できるタイプだから、これ位の差は速攻でひっくり返して、此方が優勢な状況に持って行くよ!

そして、その上で聖グロを越える――無名の学校が4強の一画を倒したって言うのは、大きな話題になるだろうからね!

行くよ、エリカさん!!

 

 

 

『はぁ……アンタがそのテンションの時ってのは、大概とんでもない事を考えてる時なのよねみほ……まぁ良いわ、貴女の言うように無名校が強豪校に勝つって言うのが不可能じゃないって事を、聖グロの連中に教えてやりましょ!!

 其れじゃ、ここらで一発仕掛けるとしましょうか?大洗最強の戦車が、固まらずにバラバラの方向から仕掛けてくるってのは、聖グロへのプレッシャーになると思うし。』

 

「うん、そうだね。其れで行こう。」

 

パンターとティーガーⅡなら、聖グロの全ての戦車の攻撃に耐える事が出来るから、後部か側面への近距離攻撃さえ受けなければ、撃破される事は先ず無いし、逆に此方の攻撃は徹甲芯弾を使えば何処に当てても撃破出来るからね。

加えて梓ちゃんと小梅さんがコンビを組んで聖グロの本隊に仕掛けるみたいだし、歴女チームとバレー部チームも、商店街に潜んで機を伺ってるみたいだからね。

 

先ずはパンター、ティーガーⅡ、Ⅲ号、Ⅳ号で聖グロの部隊を商店街でバラバラにして、チーム戦術を執らせないようにする!

そうして分断した上で、タイマンか1対2の勝負に持ち込めば、練度の差があっても撃破する確率はチーム戦を行うよりも高くなるからね。

其れじゃあ、かくれんぼ作戦改め『鬼ごっこ作戦』開始!

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer108

『激闘!聖グロリアーナ戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

生徒会チームの38(t)を撃破し、先手を取った聖グロだが、以降はこの商店街――大洗永町商店会内で、大洗女子学園の戦車を発見する事が出来ずにいた。

此処が大洗女子学園の地元だという事を考えれば、アウェーである聖グロのメンバーには土地勘が無いので、地元民だからこそ知っている隠れ家的な場所に潜んでいると言う事になるのだろうが、其れでも此れだけ見つける事が出来ないというのは、少々不気味であった。

 

 

「……如何やら、先程の38(t)が特別練度が低かっただけで、他の戦車はそうでもないようですわね――先程の言葉は撤回した方が良さそうですわ。

 それとデータ主義の貴女としては、データのない相手と戦うと言うのはやり辛いのではなくてアッサム?」

 

「えぇ、実際やり辛い物ですよダージリン。

 西住みほさん、逸見エリカさん、赤星小梅さん、澤梓さん、クロエ・C・武藤さんのデータはあるとは言え、此の5人に関しては去年のデータ等はまるで当てになりませんからね。」

 

「梓さんも、去年戦った時とは別人みたいでした……まさか、大洗の副隊長になってるとは思いませんでしたが……」

 

「……そう言えば、貴女は去年の中学全国大会で、澤さんと戦っていたわねペコ。」

 

 

『隊長が優秀であっても、隊員が三流では話にならない』と、先の38(t)との交戦で思ったダージリンだったが、38(t)撃破のアナウンスを聞いても、焦って攻めてくる事が無かった大洗女子学園に対し、その評価を改めつつ、同じ戦車に登場する砲手のアッサムと、装填士のオレンジペコと大洗女子学園について意見を交わす。

尚、オレンジペコは、去年の中学全国大会の準決勝で梓が戦った学校の隊長を務めてた『辺古蜜柑』である。

 

一応此の3人は、大洗女子学園の戦車道経験者とは試合経験はあるのだが、その時のデータなどはハッキリ言って役に立つものではない。

みほは言うに及ばず、エリカと小梅と梓とクロエも、一般的な戦車乗りの成長レベルとはかけ離れたレベルアップをしてるので、過去のデータ等は、マッタク持って意味を成さないのだ。

此れは聖グロ一のデータ主義であるアッサムからしたら、何とも有り難くない事だ――己の集積したデータが、全く役に立たないのだから。

 

だが、そんなアッサムとは逆に、ダージリンはこの状況に心が躍っていた。

38(t)には失望したが、其の後の大洗女子学園の沈黙には『何か』を感じてならないからだ……隻腕の軍神である、みほが仕掛けたであろう『何か』が。

 

 

「次の一手は、如何来ますのかしらみほさん?」

 

 

ダージリンは期待を胸に抱き、聖グロの部隊が少し開けた大通りに出た所で其れは起きた。

 

 

――ズドン!バゴン!!

 

――キュポン!

 

 

『聖グロリアーナ、クルセイダー行動不能!』

 

「んな、バニラ!?」

 

 

部隊全てが大通りに出た所で砲撃が炸裂し、クルセイダーが1輌撃破されたのだ。

 

 

「2度目の奇襲……相手は何処にいますの?」

 

「敵は……いましたダージリン様、10時の方向にⅢ号とⅣ号!!」

 

 

その砲撃を行ったのは、梓率いるⅢ号と、小梅率いるⅣ号だ。

何方の戦車も、主砲のパンチ力はあまり高くは無いが、其れでも戦車乗りの間で『紙装甲』と揶揄される程に装甲が薄いクルセイダーの側面を抜く事位は雑作もない。

 

何よりも、梓と小梅は搭乗員から大洗の町の大体の姿を聞きながら戦車を動かし、同時に『自分が聖グロの隊長だったら、ファーストアタック後に誰ともエンカウントしなかったら如何するか?』を考えて聖グロが現れるであろう場所を予測し、其処で待ち伏せておいて今の一撃をぶちかましたのだ。

 

 

「小梅さん、梓さん……おやりになりますわね……!」

 

 

初撃以上にインパクトのある『2回目の奇襲』で、車輌数をイーブンに持ち込まれた事に対し、ダージリンは小梅と梓を賞賛すると同時に、『大洗女子学園は、素人集団ではなく強敵である』と認識するに至った。

まぁ、其れもある意味で当然だろう――7輌の内4輌には経験者が乗ってるとは言え、それらは全て車長のみ(Ⅲ号だけは操縦士も。)と言う事を考えると、戦車の操作が巧く行かずに、ともすれば自滅するのではないかと思っていたのだから。

 

だが、実際にはすぐさま1輌のビハインドをなかった事にしてしまったのだ――4強のプライドとして、無名の弱小校に撃破されると言うのは論外だろろうが、ダージリンはそんな事は思っていない。

 

寧ろ、みほが――否、黒森峰で鳴らした遊撃隊のトップ3と、軍神を継ぐ者が居る大洗女子学園を相手に、簡単に勝つ事が出来ると思ってた事が、己の慢心だと思っていた。

 

少し考えれば分かる事だった――『隻腕の軍神』、『孤高の銀狼』、『慧眼の隼』、そして『軍神を継ぐ者』が居るチームが、只の素人集団等では無いと言う事が。

 

 

「みほさんだけに目を奪われて本質を見抜けなかった……成程、これでは私がアールグレイ様から、その名を譲り受ける事が出来なかったと言うのも分かりますわ。

 アールグレイ様なら、きっとこんな事にはならなかったでしょうから。

 ですが、やられてばかりと言うのは聖グロとて容認する事は出来ませんわ……此処からは、手段を選ばすに勝ちに行きますわよ!」

 

「あの、騎士道精神は?」

 

「何か問題でも?」

 

「いえ、御座いません。」

 

 

オレンジペコの突っ込みも、一言で黙らせると、ダージリンは部隊をシーサイドステーション前の大通りに移動させて、体勢を立て直そうとするが、そうは問屋が卸さないのがみほだ。

 

 

「目標捕捉……華さん、やっちゃってください。」

 

「一発必中……行きます!」

 

 

「アイン……ブチかませ。」

 

「了解だ。リイン・E・八神……目標を狙い撃つ!!」

 

 

聖グロの部隊がシーサイドステーション前の大通りに出て来た所に、カウンター気味に一撃をぶっ放す!それも、みほ率いるパンターだけではなく、エリカ率いるティーガーⅡもだ。

尤も、みほもエリカも撃破目的で攻撃した訳じゃないので、聖グロの部隊は健在だが、其れでも聖グロに対して、精神的なプレッシャーを掛ける事には成功したと言っていいだろう。

 

聖グロの戦車は、クルセイダー以外は堅牢な装甲を備えているモノの、最強中戦車であるパンターと、『取り敢えず動ける機能を有してる重戦車』では間違いなく最強の攻撃力を備えてるティーガーⅡの攻撃を真面に受けたら一溜りもないが、聖グロの部隊は健在。

 

みほもエリカも『ギリギリ有効打にならない攻撃』をして、態と撃破せずに自分達の存在を聖グロに認識させたのだ。

 

 

一見すれば只の挑発的な物に思えるかもしれないが、其の効果は実はとても大きいものだった。

 

 

「く……完全に囲まれてしまいましたわね?

 こうなってしまった以上、固まって動くのは不利であるのは間違い無いですわ……仕方ありません、聖グロの戦い方とは大きくかけ離れてしまいますが、負けない為にはこうするより他に方法も手段もありませんわね……!

 各員散開――街中に逃げ込み、夫々の判断で行動する様に。……ですが、敵戦車を見つけたその時は、相手がパンターかティーガーⅡでない場合は、此方から攻めて叩きのめしてさし上げなさい。」

 

 

この状況で戦うのは不利と見たダージリンは、此処で部隊を散開して、大洗の町中に部隊を広く浅く展開していく――だが、此れこそがみほの狙っていた状況だとは、ダージリンであっても思っていなかっただろう。

 

 

「ふふ、乗って来たねダージリンさん……本番は此処からだよ!」

 

 

そして、自分の作戦が決まった事に、みほは笑みを浮かべると、『此処からが本番』を宣言!

大洗女子学園vs聖グロリアーナ女学院の練習試合は、互いに1輌を失った此処からが本当の意味での試合開始と言っても過言では無いだろう――此処からが、全力全壊である。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、パンターとティーガーⅡとⅢ号とⅣ号の集中砲火から逃れる為に散開した聖グロの部隊だが……土地勘のない大洗での単独行動と言うのは可成りの難易度の高さだったのだろう。

 

 

「え~っと、ここ何処?」

 

 

中には完全に迷ってる者すらいた……『事前にマップをグーグルアースで調べて来いよ!』と思わなくもないが、相手が無名の新参校だったと言う事も有り、下調べなどはマッタクしていなかったのである。

聖グロは高校戦車道4強の一角と言う事を考えれば、隊員が無名の大洗女子学園を『格下』と見て、試合会場の事を碌に調べていないのも仕方ないのかも知れないが、其れは余裕ではなく慢心と言えるだろう。

 

 

――ズドン!

 

――パシュン!!

 

 

「へ?」

 

『聖グロリアーナ、マチルダ行動不能。』

 

 

其れを示すかのように、道に迷っていたマチルダⅡは行き成り横っ腹に砲撃を喰らってしまい、敢え無く行動不能に。

見れば、すぐ傍の薬局の幟の間から硝煙が立ち昇っている……歴女チーム率いるⅢ突が、車体にあの弩派手な幟を装着して、薬局の幟の中に紛れて身を隠していたのだ。

Ⅲ突の車高の低さと、大洗の町を巧く使った、見事なカモフラージュ戦法だったと言えるだろう。

 

 

「我々の作戦勝ちだ。次行ってみよー!」

 

「うむ、矢張りⅢ突の低い車体はこう言う市街地戦に於いては力を発揮してくれるものだな。」

 

 

対外試合での初撃破をしたと言う事も有り、歴女チームは意気揚々と次の獲物を狩る為に場所を移動し始めたが、しかしそう簡単に何度も狩る事が出来る程、聖グロリアーナと言う学校は生易しくない。

 

 

「馬鹿め、姿が丸見えだ!」

 

 

――ドォン!

 

――パシュン!!

 

 

「のわぁ!何故バレた!?」

 

「しまった、幟を仕舞い忘れたぜよ~~!」

 

『大洗女子学園、Ⅲ突行動不能。』

 

 

ルクリリ率いるマチルダⅡに、今度は自分達が横っ腹をぶち抜かれて行動不能に。

初撃破に浮かれ、幟を仕舞い忘れたまま移動してしまっていたせいで、Ⅲ突の低い車高と言う利点を完全に潰してしまい、幟が移動している所をルクリリに見つかってしまったと言う訳だ。

 

初心者故のケアレスミスで撃破されてしまったが、其れでもマチルダⅡを1輌撃破したと言うのは悪くない結果だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で此方は、少しばかり開けた道路――に面した『かねふくめんたいパーク』の駐車場では、梓のⅢ号と小梅のⅣ号が、マチルダⅡとクルセイダー(ローズヒップ機)のコンビと戦車戦を展開していた。

遮蔽物が何もない、見通しの良い広い駐車場での戦車戦は、搦め手が使えないので純粋な力量差ではローズヒップ達の方が有利に思えるが、マチルダとクルセイダーの主砲では、Ⅳ号の装甲は抜けてもⅢ号の正面装甲を抜く事は出来ない為、決着が付いていないのだ。

 

 

「今のは危なかったけど、今ので撃破出来なかったと言うのはローズヒップさんにとっては結構来るかも……だとしたら、少し動きが激しくなるかも知れませんね?

 ローズヒップさんは熱くなると、車長の任を忘れて操縦に集中するみたいですし。」

 

「でも、其処に付け入る隙がある、そう言う事ですよね赤星先輩。」

 

「はい、その通りです澤さん。流石は副隊長、よくお分かりですね?」

 

「此れ位は予測できないと、西住隊長の副官は務まりませんから。」

 

 

そして其れは同時に、梓と小梅の連携が見事である事に他ならない。

防御面では回避のⅣ号と、防御のⅢ号と言う形を取り、攻撃面では何方も小回りが利く戦車性能を生かしてのヒット&アウェイを繰り返し、徹底してクルセイダーを狙っていたのだ。

これは単純に、クルセイダー、其れもローズヒップが搭乗しているモノを野放しにしておくと危険だと判断したからであるが、其れが逆にローズヒップ側からしたら得意の機動力を封じられているにも等しい事であり、ローズヒップは可成りのストレスを貯めてしまっていたのだ。

 

 

「もう辛抱なりませんわ!リミッター外しちゃいますわよ!!」

 

 

此処で我慢の限界が訪れ、ローズヒップはクルセイダーのリミッターを解除すると、その凄まじい機動力で動き回りながら、同時に装填士への連続装填と、砲手への連続砲撃を命じ、クルセイダーを『動く機関砲』と化す。

 

其の効果はすさまじく、Ⅲ号とⅣ号は次々と色んな方向から飛んでくる砲弾に当たらないようにする為に右へ左へせわしなく動き回る。

其れでも、操縦士が経験者のクロエであるⅢ号は見事な回避をして見せるが、操縦士が初心者の根津であるⅣ号は、全てを回避する事が出来ずに、クリーンヒットはしないモノの少しずつ被弾してしまう。

 

一発一発は大した事なくても、ダメージだって塵も積もれば山となるであり、此のままでは何れ撃破されるのは間違い無いだろう。

 

 

「此のままでは……根津さん、マチルダに向かって突撃してください!」

 

「はいぃ!?」

 

「良いから早く!」

 

「イ、イエッサー!!」

 

 

そう考えた小梅は、回避するのを止め、マチルダⅡに向かって突撃!その間もクルセイダーからの攻撃は止まらず、更にマチルダⅡから攻撃も飛んでくるのだが、それらをギリギリ撃破されないレベルで受けながら突撃し、遂にマチルダⅡに肉薄!!

 

 

「貴女、まさか……!」

 

「此れは、勝利の為の敗北です――!」

 

 

そして同時にⅣ号とマチルダⅡの主砲が火を噴き、互いに相手の装甲をぶち抜く!!

 

 

――キュポン!

 

――シュポン!

 

 

『聖グロリアーナ、マチルダ、大洗女子学園、Ⅳ号、共に行動不能!』

 

 

その結果は壮絶な相討ち――小梅は、相討ちに持ち込む事でマチルダを撃破し、梓が相手にする相手をクルセイダーのみに絞ったのだ。

もしも搭乗員が経験者であったのならば、もっと別の手段が取れたのだろうが、経験不足の初心者ばかりでは、この状況に於いてⅣ号が無駄死にしない為にはこれ以外の方法が無かったのである。

 

だが、此の小梅の決死の行動が、梓の闘志に火を点けた。

 

 

「赤星先輩……貴女の犠牲は無駄にはしません!」

 

 

瞳からハイライトが消え、瞳孔が極端に収縮した『超集中状態』になると、ローズヒップの変態軌道とも言えるクルセイダーの動きに対応して攻撃を加え、その足元を徹底的に崩しにかかる。

 

如何にローズヒップの操縦技術が神懸ってるとは言え、徹底的に足元を狙われてしまったら回避の比率が大きくなって『攻めの超高速機動』は鳴りを潜めざるを得ない。

そして、攻めの超高速機動が鳴りを潜めたのなら、其れは梓にとって絶好のチャンスだ。

 

 

「此れでも喰らえ!!」

 

「へ?」

 

 

――カッ!!

 

 

砲撃を行いながらクルセイダーに突進すると、擦れ違い様に閃光弾を炸裂させ、一瞬でローズヒップの視界を奪う――だけでなく、自身は確りとサングラスで防御しているのだから大したモノだろう。

 

 

「此れは……目が眩んで何も見えませんわ~~~!!」

 

 

だが、真面に喰らってしまったローズヒップは一時的に視界を失い、周囲を目視する事が出来なくなってしまった――故に、状況を把握する事が出来ず、決定的な隙を曝し出してしまう。

無論、其れは梓の狙い通りなのだが、其れでも此処までうまく嵌る辺りは、流石は『軍神を継ぐ者』と言った所だろう。みほの一番弟子である梓には、確りと『西住みほ流』が受け継がれているのだ。

 

 

「これで決まりです!あゆみ、ブチかまして!!」

 

「ほいさぁ!此れでも喰らえ!!」

 

 

――ズドォォォォォォン!!

 

――キュポン!

 

 

『聖グロリアーナ、クルセイダー行動不能。』

 

 

動けなくなった戦車は只の的と言うかのように、ローズヒップのクルセイダーに対して容赦ない砲撃をブチかまして撃破完了!!

梓は見事に副隊長の任を果たし、難敵であるローズヒップのクルセイダーを撃破したのだ……この練習試合に於いて、この功績は決して小さく無いだろう。

梓の戦績は、事実上聖グロの機動力を完全に捥ぎ取ったのだから。

 

 

「よし、此のまま西住隊長と合流して一気に攻勢に回ろう。逸見先輩も健在だから、私達が力を合わせれば聖グロに勝つ事は可能だから。

 クロエ、大洗駅前まで行ってくれる?」

 

「了解だよ梓。」

 

 

更には戦況を見極めて、みほ達との合流を考えるが、此処で誰もが予想だにしなかった事態が起きた。

 

 

――ヒュー……ドッスーン!!

 

――キュポン!!

 

 

「……はい?」

 

『大洗女子学園、Ⅲ号行動不能。』

 

 

ローズヒップの無差別攻撃でダメージを受けていためんたいパークのマスコットキャラクターの像が根元からポッキリと折れ、其れが梓のⅢ号に向かって降って来たのだ。

あまりにも突然の事で梓も対処しきれずに直撃を受け、結果として主砲と装甲をぶち抜かれて、Ⅲ号は行動不能になってしまったのだ。

 

 

だが、これで大洗女子学園も、聖グロリアーナ女学院も残る戦車は3輌となった事で、此の試合も佳境に入って来たと言えるだろう。――そして、此処からが練習試合の最終幕だ。

 

役者は充分に揃っている……故に、その幕が、今上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

Ⅲ突はマチルダを撃破するも、幟を仕舞い忘れていた事で撃破され、梓ちゃんと小梅さんは、激しい戦車戦の末に相手を撃破したけど、小梅さんは特攻で相討ちし、梓ちゃんは予想外の落下物で撃破判定を喰らっちゃったから、残存車輌数では互角だね。

 

私達の残存車輌はパンターとティーガーⅡとクルセイダーMk.Ⅱで、聖グロはダージリンさんのチャーチルにマチルダが2輌……攻撃力と機動力では私達が勝ってるけど、防御の堅牢さでは聖グロの方が上か。

総じて戦えば五分五分って言いたい所だけど、練度の差を見ると良くて五分って言う所だから安心はできないかな?……だけど、この状況を『楽しい』って思ってる私が居るのも事実だからね。

 

 

 

「みぽりんてば本当に楽しそうだよね?」

 

「マッタクであります!――して西住隊長、我々は何をすればいいのでしょうか?」

 

 

 

今は何も……此処は待ちに徹するのが一番だね――下手に動いて撃破されたなんて言うのは、其れだけで笑い話にもならない事態だからね……でも、試合が動いたら一気に決めにかかるからその心算で居てくれるかな?

 

 

 

「OK、了解したよみぽりん。」

 

「了解いたしましたみほさん。」

 

「了解であります西住殿~~!」

 

「お~~、任せとけ。」

 

 

 

うん、その意気があれば大丈夫だね♪とっても頼もしいよ!

 

 

さてと、互いに残り3輌って言う事は燃えてくる展開だね?――この練習試合のクライマックスと言っても過言じゃないと思うね。

なら、そのクライマックスを最高に盛り上げた上でフィナーレに持って行かないと締まらないからね……最高のパフォーマンスを、最高の戦車道をやらせて貰うよ。

エリカさん、磯辺さん、行きますよ――勝ちましょう!!!

 

 

 

『了解よみほ……聖グロに目に物見せてやりましょう?』

 

『ガンガン行きます!根性で押し切ります!!』

 

 

 

あはは……磯辺さんは相変わらずの根性論だね?

でも、其れは案外馬鹿に出来ない事だから、若しかしたらバレー部チームが何かしてくれる気がしなくもないね――ふふ、楽しくなって来た♪

 

さぁダージリンさん、決着をつけましょう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer109『聖グロ戦終結!その壮絶な幕引き!』

ちょっとダージリンさん撃破して来るね~~♪Byみほ      アレって、ちょっとで済むの?Byエリカ     済まないでしょうねぇ……滅殺確定でしょBy小梅


Side:みほ

 

 

Ⅲ突がマチルダを待ち伏せ作戦で撃破した後に、別のマチルダに撃破されて白旗判定。

梓ちゃんと小梅さんは、めんたいパークの駐車場で、壮絶な戦車戦を演じた挙げ句に、双方白旗判定の痛み分けで、大洗も聖グロも、残る戦力は3輌か……大洗の練度を考えると、聖グロ相手に此処まで出来たのは大したモノだよ。

 

だけど、本番は此処からだから気を抜く事は出来ないね。

 

 

 

「うんうん、気を抜かずに行こうみぽりん!

 相手はすっごく強いみたいだけど、其れでも負けるのは絶対嫌!是が非でも勝とうよみぽりん!っていうか、あんこう踊りは絶対嫌!!」

 

「沙織、其れは幾ら何でも無茶振りだぞ~~。まぁ、私もあんこう踊りは勘弁願いたいがな。」

 

 

 

うん、アレは私も絶対に嫌だから絶対に勝とう。

アレを踊ってる姿がネットにでもアップされたら完全に黒歴史……下手をしたら戦車道の試合で他校の人にネタにされるかもしれないもん!

……更に怖いのは、お母さんと菊代さん辺りは大笑いして、其れをネタに飲みそうなんだよねぇ……うん、容易に想像できるよ。

 

其れは其れとして、言われるまでもなく私は勝つ心算だよ沙織さん。

大洗の皆は、言葉は悪いけど、戦車道に関しては素人其の物だから、一方的にやられるんじゃないかって思ってたんだけど、蓋を開ければ、そうは行かずに残存車輌は同じになってたからね。

 

でも、其れだけに難しいのは此処からだよ――僅かな判断ミスがそのまま結果に繋がるって言うのは、こういう状況の時が多いモノだから。

 

まぁ、其れは杞憂かな?少なくともパンターの皆は緊張してると言うよりは試合を楽しんでるみたいだし……初試合で試合を楽しむ事が出来るって言うのは、実際凄い事だもん。

練習試合とは言え聖グロとの試合は、大洗の皆にとっては全てがプラスになるかもね。

 

 

試合はそろそろクライマックスって言う所だね?最高のフィナーレを飾らせて貰おうかな♪

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer109

『聖グロ戦終結!その壮絶な幕引き!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

数の上では3対3のイーブンと言う結果になったが、隊員の練度その他から見れば、聖グロの方が絶対的に有利なのは間違いないだろう。

だがしかし、そんな常識を宇宙の彼方のブラックホールにまで蹴り飛ばしてしまうのが大洗女子学園だと言えるだろう。

普通に考えれば如何に経験者が5人居るとは言え、その内4人は指揮官であり、実際に戦車を動かした経験があるのはⅢ号のクロエ1人だけで、後は全くの素人と言う布陣……如何考えてもまともに戦車を動かす事が出来る筈がない。

 

にも拘らず、試合は互いに4輌ずつを撃破しての残り3輌と言う状況――戦術と戦略は練度の差を埋めると言う事を、大洗女子学園は聖グロ相手に証明して見せたと言ってもいいだろう。

加えて大洗女子学園の地元である大洗町での練習試合と言う、フィールドアドバンテージがあるのは言うまでもない。

 

少なくとも、20年ぶりに復活した大洗女子学園の戦車道の試合を見に来た大洗町民にとっては、期せずして好試合を観戦する結果となった訳だが、実際に試合をしている選手――特に聖グロの生徒にとって、この展開は恐らく予想していなかった事だろう。

 

 

「まさか4輌もやられるとは……此れは、試合後に大洗女子学園のデータを大幅に修正しなければなりません。

 試合前のデータで言えば、現時点での試合展開は、此方の損失車輌は2輌以下で、大洗の車輌は残り2輌となっていた筈なのに……貴女も予想外だったのではないですか、ダージリン?」

 

「そうね、如何にみほさんが隊長を務め、その一番弟子である澤さんと女房役の武藤さん、黒森峰の遊撃隊でみほさんの片腕と懐刀として活躍していたエリカさんと小梅さんが要るとは言え、後は素人……無傷とは行かずとも、もう少し此方が有利に進められると思っていたわ。

 恐らくは、未だ始めて1ヶ月も経っていないと言うのに、如何に此方が侮ってたとは言え此処までやるとは……みほさん達の指導が見事だっただけでなく、大洗の隊員は素質があったと言う事ですわね。」

 

 

其れは隊長であるダージリンと、副隊長であるアッサムの会話からも見て取れる。

みほ達の実力を肌で感じた事のあるダージリンですら、此処まで喰らい付かれるとは思って居なかったのだから、聖グロ全体が受けた衝撃は相当な物――この状況に驚いてないのは、恐らくは聖グロではローズヒップ位のモノだろう。

 

 

「加えて、大洗の残り3輌の中にキングタイガー(ティーガーⅡ)が居ると言うのが厄介ね……スペック上では、此方の残存車輌でキングタイガーの砲撃に耐えられる戦車は居ない上に、キングタイガーの装甲を抜ける戦車も居ない。

 加えてキングタイガーの車長はエリカさん……此れは、少々此方に旗色が悪いかしらね。」

 

 

そして残存車輌の事を考えると、実は不利なのは自分達の方だとダージリンは考えていた。

チャーチルとマチルダでは、ティーガーⅡの装甲を抜けないのに、ティーガーⅡの攻撃に耐える事が出来ないのだから……そして何よりも、ティーガーⅡに乗っているのがエリカだと言う事も大きい。

大洗でのエリカは特別な役職に就いてない一般隊員だが、逆に部隊指揮に一切関わらない立場である事が、エリカの持ち味である攻撃性を最大に引き出す事が出来る――エリカ自身もそう考えているので、梓を副隊長に推したのだから。

 

そんな鋭い爪牙をギラつかせている猛虎が健在である以上、慎重にならざるを得ない――下手をしたら、銀狼が駆る黒き猛虎の爪牙に因って聖グロの部隊は壊滅しかねないのだ。

 

 

「けれど、この状況を楽しんでいる辺り、私も戦車道に魅入られているのかも知れませんわね……ならばもっともっと楽しむと致しましょうか。

 全速前進、こんな素敵なパーティに招待してくれたホストに、最高のお礼をしに行きますわよ。」

 

 

だが、其れでもダージリンは優雅にカップの紅茶を一飲みすると、戦車を進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリカさん、今どの辺に居る?私の方はあと500でバレー部さん達が潜んでる駐車場に到着するけど。」

 

『こっちも、大体其れ位よみほ。

 にしても、立体駐車場を利用するなんて、磯辺も中々考えたわね……巧く行けば此処で2輌撃破出来るわよ。』

 

「最低でも1輌は撃破出来るかな?

 でも、2輌撃破が出来なかった時は、後は任せて良いかなエリカさん?」

 

『えぇ、任せてくれていいわみほ……銀狼と黒虎の爪牙で、聖グロの喉笛を引き千切ってやるわ!』

 

 

一方の大洗女子学園は、みほとエリカが市街地の一画にある民間運営の立体駐車場を目指して進行していた――と言うのも、バレー部チームの車長である磯辺典子から、『最初に陣取っていたコインパーキングから、立体駐車場に移動する』との連絡を受け、其方に向かって居たのだ。

 

 

 

 

 

そして、その立体駐車場には、聖グロのマチルダが2輌差し掛かっていた。

何の変哲もない立体駐車場故に、普通なら素通りしてしまいそうなものだが、縦列して進んでいたマチルダⅡの1輌目の車長のルクリリは此の駐車道には何かあると考えたらしく、2輌目を道路に待機させて駐車場に入っていく。

 

 

――ヴィーン

 

 

其れと同時に入庫の為の扉が上がっていく。

 

 

「分かり易い手だな!」

 

 

せり上がっていく鉄扉の向こうに潜んでいると考えたのだろう。

鉄扉が上がり切ると同時に、ルクリリは砲撃命令を下すが、上がり切った鉄扉の向こうには何もない……あったとしても、ゲート真正面に駐車していた乗用車であり、戦車の姿は何処にもないのだ。

 

ルクリリの読みは外れた訳だが、ならばバレー部チーム率いるクルセイダーは一体何処に?

 

 

――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

その答えは、出庫用の昇降機!

バレー部チームのクルセイダーは、入庫すると同時に駐車道内を疾走して出口まで行き、出庫の為の昇降機の上で待機していたのである。

 

そしてその効果は抜群!

完全にマチルダの後を取る事に成功したのだから。

 

 

「しまった、後か!!」

 

「喰らえバックアタック!!」

 

 

――ドッガァァァァァァァァァァン!!

 

 

そして炸裂する至近距離での砲撃!

可成り見事な作戦から放たれた一撃は会心の一撃と言えるだろうが、しかし此処に居るのはルクリリのマチルダだけではなく、道路で待機していたマチルダも居る訳で。

 

 

「ならば、貴女方はサイドアタックを喰らいなさいな。」

 

「へ?」

 

 

――ズドォォォォン!!

 

――キュポン!

 

 

 

『大洗女子学園、クルセイダー行動不能!』

 

 

その待機していたマチルダに側面を撃ち抜かれて敢え無く白旗判定に――加えて悪い事に、ルクリリのマチルダは後部装甲が多少凹んだモノの白旗判定にはなっておらず、生き延びていた。

此れで車輌数では聖グロが1輌だけ有利になったが――

 

 

「撃破したからと言って即油断……馬鹿は死ななきゃ治らない。」

 

「隙ありだよ!!」

 

 

――ズドォォォン!!

 

――キュポン!!

 

 

『聖グロリアーナ、マチルダ行動不能!』

 

 

そこを狙ったかのようにみほのパンターとエリカのティーガーⅡの砲撃が炸裂し、ティーガーⅡの砲撃が道路脇で待機していたマチルダを撃破!

みほのパンターもルクリリのマチルダを撃破する事は出来なかったものの、砲塔の装甲を大きく凹ませて強度を格段にダウンさせる事は成功させていた。

 

 

「……ルクリリさんの事は任せるよエリカさん。」

 

「OK、任されたわみほ――貴女はあの紅茶格言の首を取って来なさい!」

 

「うん、勿論その心算だよ!」

 

 

此処でみほは、ルクリリの相手をエリカに一任すると、パンターを反転させて市街地を進んで行く――ダージリンとの決着をつける心算なのだろう。

 

となると、エリカの役目はルクリリ車を撃破した上で生き残る事なのだが……

 

 

「折角1輌撃破したって言うのに、即座に其れを巻き返されたらザマ無いわねルクリリ?

 アンタってば中学の時から詰めが甘い所があったけど……其れはあんまり克服されてないみたいね?――まぁ、短所を直すよりも長所を伸ばせって事なのかも知れないけど、アンタに伸ばすべき長所なんてあったっけか?」

 

「逸見……あんまり舐めてると痛い目見るぞ?」

 

「痛い目?

 是非とも遭わせて貰いたいわねぇ……まぁ、アンタじゃ無理でしょうけどね……中学時代に2回戦でみほに完封負け喰らってる訳だし?」

 

「完封じゃないわ!2輌撃破してるわ!」

 

「ハン、そんなの殆ど完封負けでしょ?

 野球だって何本ヒット打った所で、0点に抑えられたら完封負けなのよ!って言うか、アンタの戦術全部みほに見破られてたんだから、ヤッパリ完封じゃないのよ?

 よくもまぁ、アンタみたいのが聖グロでレギュラー獲得できたモンだと感心するわね……」

 

 

此処でもエリカ節が炸裂して、ルクリリの怒りのボルテージを上げて行く。

何を隠そうルクリリは、中学3年の時に全国大会でみほ率いる明光大付属中学校と戦い、略略何も出来ずに負けているのである。

 

 

「まぁ、所詮は試合内容端折られて、しかもオチじゃなくてタイトル前のアバンでキンクリされたアンタの実力なんて高が知れてるか?

 今更こんな事言うまでもなかったわね――因みに、こんだけ私に色々言わせてるけど、作者はダージリンやルクリリが嫌いな訳じゃないので悪しからず!!」

 

「えぇい、言ってる意味が分からん!!」

 

「気にしたら負けよ、瑠玖李理(ルクリリ)。」

 

「妙な漢字で書くな!誰だ其れ!!」

 

「お前ー!m9(^Д^)」

 

「うおわぁ、自分がやられるとめっちゃムカつく!ダージリン様がキレるのも納得したわぁ!!……逸見、お前絶対にぶちのめす!!」

 

「ティーガーⅡの砲撃に耐えられない装甲と、ティーガーⅡの装甲を抜けない主砲の戦車でタイマン勝負ぅ?」

 

 

其処から炸裂するエリカ節の数々。

此処でエリカのティーガーⅡが急発進し、ルクリリのマチルダⅡも其れに続いて急発進し、戦車を使ってのカーチェイスならぬタンクチェイスが勃発!!

決して広いとは言えない商店街の道路を突き進みながら、互いに砲撃を行っていく――が、行間射撃である為に決定打には至らない。

 

 

「その程度の豆鉄砲でティーガーⅡの装甲を抜けると思ってんの?

 私の戦車を撃破したいならブラックプリンスかトータスでも持ってくんのね!――まぁ、アンタ等の所じゃ無能なOG会の無意味な派閥争いのせいで無理でしょうけど。」

 

「あぁ、其れには同意見!OG会のババア共は余計な口出しするなっての!マジでムカつくわ、あのクソババア!」

 

「クソババアだなんて下品よルクリリ……大便お婆様と言いなさい。」

 

「そっちの方が言われた側としちゃダメージデカくないか?」

 

「でしょうね……同じ要領でクソ喰らえって言ったら、本気でダメージでっかいわぁ……ところでルクリリ。」

 

「なによ逸見?」

 

「バーカ。」

 

「うおぉぉぉぉぉ、シンプルにムカつく!!」

 

 

が、エリカの方は敢えて決定打にならない砲撃を行っていただけであり、これも一種の挑発だ――『やろうと思えばお前なんて何時でも倒す事が出来る』と。

そんな攻防を続けながら、ティーガーⅡは少し長めのストレートに入ると、其処で速度を上げ、同時に追ってくるマチルダに挑発弾ではない一撃の照準を合わせる。

 

 

「坂口、そのまま進みなさい!アイン、行けるわね!?」

 

「あいー!!」

 

「ふ、任せろ……この一撃でアイツ等を仕留める!Das ist entschieden!(これで決まりだ!)」

 

 

――ズドォォォォォン!!

 

――キュポン!

 

 

『聖グロリアーナ、マチルダ走行不能!』

 

 

放たれた一撃は吸い込まれるようにルクリリのマチルダⅡに向かって行き、そのまま正面装甲をぶち抜いて白旗判定に!……撃破直後にキューポラからルクリリが煤塗れの顔を出してなんか文句を言っていたが、其れはまぁ当然の事だろう。

ともあれ、これで聖グロの残存車輌はチャーチルのみなので、みほとエリカが健在である大洗が絶対有利と言える状況になったのだが……

 

 

「よし!此れで残るはダージリンだけね?……って、坂口!もう良いわ止まりなさい!これ以上進んだら――!!」

 

「あいーーーーーーー!?」

 

 

此処で操縦士の桂里奈が痛恨の操縦ミス!

本来ならば減速しなければいけないカーブで、誤って加速してしまい、カーブを曲がり切れずにコーナーにある旅館にダイレクトアタック!!

 

虎の王と呼ばれる重戦車が突っ込んだ旅館は物の見事に崩壊!――可成りの被害ではあるが、保証は連盟の方でしてくれるから問題は無いのである。

 

 

「よっしゃー!此れで建て替えられる!」

 

「運が良かったな、マッタク。」

 

 

実際に観客である、この旅館の主人は、事実上無料でリニューアルできると言う事に歓喜の声を上げていたのだから。

 

だが、其れだけの事があっただけに、誰も気付いてはいなかった――ティーガーⅡの撃破アナウンスが流れていないと言う事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

エリカがルクリリを撃破した頃、みほは大通りの交差点でダージリンと対峙していた。――大洗女子学園の隊長である隻腕の軍神こと西住みほと、聖グロリアーナの隊長であるダージリンが、互いの戦車のキューポラから上半身を乗り出して睨み合ってる様は実に迫力がある。

尚、この練習試合、みほとエリカと小梅は黒森峰から持って来たパンツァージャケットから黒森峰の校章を取り除いた状態の物を纏って居るだが、此処でみほは上着を脱ぎ、肩に上着を引っ掻ける形で羽織り、上着がまるで外套の様に見えている。

 

 

「流石ですわねみほさん……正直、無名校が此処までやるとは思っていませんでしたわ。」

 

「うん、私も此処まで出来るとは思っていませんでしたダージリンさん――如何やら大洗女子学園は、私が思っていた以上に戦車道の才能に恵まれた人が多かったみたいです。」

 

「其れは何とも……本来なら埋もれていた人材が、みほさんと出会った事で開花したと言う事かしら?

 戦車道の発展の事を考えるならば、戦車道の神様が貴女を大洗に転校させたのかも知れないわ……今の貴女は、黒森峰に居た頃よりも生き生きしていますもの。

 ねぇ、みほさん、戦車道は楽しいかしら?」

 

「はい、とっても!!」

 

「其れは、素晴らしいわ――其れが聞けて安心したわみほさん……決着をつけましょう!!」

 

「望む所です!!」

 

 

今のみほは、正に『軍神』その物だが、ダージリンもそのオーラに怯む事無く、『決着をつけよう』と提案する。

そして、其れを拒むみほではない――売られた勝負は買うのがみほであり、そもそもにして西住流に撤退の文字は無いのだから、この状況で売られたタイマン勝負は断る理由が無い。

 

とは言えこのタイマン勝負は派手な戦車戦ではなく、一撃必殺のタンクジョスト!

 

 

「行くよ!」

 

「行きますわ!!」

 

 

みほとダージリンの掛け声とともに、パンターとチャーチルは発進!

互いに真正面からのぶつかり合い――になる直前で、パンターが急旋回してチャーチルの側面に回り込み、其れを追う形でチャーチルの砲塔が回転し、パンターが停車すると同時に、両者の主砲が火を噴く!!

 

 

――ズガァァァァァァァァァァァァァン!!

 

――キュポン!

 

――シュポン!

 

 

『大洗女子学園、パンター行動不能。

 聖グロリアーナ、チャーチル行動不能!!』

 

 

 

結果は相討ち!

ダージリンは装甲で覆いようのないターレットリングを狙い、みほもまたターレットリングを狙ったのだが、其処で練度の差が出てしまい、チャーチルのターレットリングから僅かに外れてしまったのだ。

 

が、これならば撃破されたのはパンターのみとなるだろう。

だが実際には、チャーチルも白旗判定になっていた……ならばチャーチルを撃破したのは誰なのか?

 

 

「ギリギリ間に合ったわね……」

 

「あい~~……」

 

 

其れを行ったのはエリカだ。

旅館に突っ込んで爆破炎上した事でティーガーⅡは沈黙したかたと思われていたが、大ダメージを受けても白旗判定には至らず、ギリギリの状態ではあるがみほのもとに駆け付け、チャーチルを撃破して見せたのだ。

 

 

「とは言え、可成り無茶したし、此処までね。」

 

 

――キュポン!

 

 

『大洗女子学園、ティーガーⅡ行動不能!』

 

 

だが、その無茶が祟って、チャーチルを撃破すると同時にティーガーⅡからも白旗が上がる……ダメージレベルが限界超え、撃破判定されてしまったのだ。

 

 

『大洗女子学園、残存車輌0!

 聖グロリアーナ、残存車輌0!――よって此の試合、引き分け!!』

 

 

結果、試合は引き分け。

初陣を勝利で飾る事は出来なかったが、4強の一角である聖グロリアーナを相手に壮絶な痛み分けの末の引き分けならば、結果としては上々だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

ふぅ……終わればドローか……大洗の練度を考えると、引き分けに持ち込めただけでも僥倖って言えるわ――普通なら完封されて負けてる所だけど、そうはならなかったからね。

だけど、大洗の控室は若干――と言うか相当な殺気に満ちれるわ。

まぁ、原因は言わずもがな河嶋先輩なんだけどね。

 

 

 

「勝てなかったからあんこう踊りと言うのは未だしも――何であそこで無理に撃破をしようとしたんですか河嶋先輩?……私言いましたよね?

 無理な撃破は狙うなって……なのになんで、無駄玉を使った上に1輌も撃破出来ずに負けるとか、戦車道舐めてます?」

 

 

 

みほ……此れは相当にヤバいわね。

 

 

 

「い、いや西住、私達は自分のすべき事をしようとしただけであって……」

 

「その結果が無駄玉撃って撃破ゼロじゃ笑えません……と言う訳で河嶋先輩はギルティ――そして小山先輩、会長さんは何をしてたのでしょうか?」

 

「干し芋喰らってサボってました。」

 

「会長、ギルティ。」

 

「あはは、やっぱりか……」

 

「以降、川嶋先輩は装填士に専念、会長さんは砲手を務めるように。

 此れは、お願いしてるんじゃなくて隊長命令です。いいですね?」

 

「ちょ、西住?其れは、幾ら何でも……」

 

「アタシが砲手って……行けるかねぇ?」

 

「い・い・で・す・ね?」

 

「「はい!!」」

 

 

 

で、そのみほの裁きにより河嶋先輩と会長には罰が下され、共に二等兵以下よりも階級が下の三等兵へ降格となり、河嶋先輩は装填士専任になり、会長さんは砲手へ強制コンバート。ま、当然よね。

 

そして試合で良い働きをした私と小梅と澤は昇進して、私と小梅が三佐、澤が二佐。

勿論みほも昇進して、一佐から准将に昇格――隻腕の軍神の二つ名にふさわしい階級になったわね。

 

 

 

んで、結局あんこう踊りはやる事になったんだけど、みほの参加だけは阻止したわ……片腕のみほにとって、ピンクの全身タイツを纏ってアレを踊るのは晒し物になる以外の何者でもないからね。

 

後、出港前にみほがダージリンからティーセットを送られた事も追記しておくわ――聖グロがティーセットを送るのは、好敵手だと認めた証だって姉さんから聞いていたからね。

聖グロにライバル判定された以上、大洗女子学園が無名の弱小校って言う事は有り得ないわ――目指すは全国大会優勝!!

その栄光をこの手で捥ぎ取ってやるわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

みほ達が転校した大洗女子学園が20年ぶりに戦車道を復活させると聞いてもしやと思ったが、まさかこの短時間で聖グロと遣り合い、結果として引き分けとは思いもよらない結果だったよみほ。

まぁ、この結果はある意味で上出来なんだが――

 

 

 

『あ、ああん、あん!あ、ああん、あん!』

 

 

 

ネットにアップされたこの動画は一体……ピンクの全身タイツを身に纏って一心不乱に踊るエリカと小梅は全く想像出来ん……まぁ、何であんな事になったのはかは気なるが、其れは追及しないのが吉だな。

 

しかし、素人集団を率いて聖グロと引き分けるのは至難の業――大洗女子学園、若しかしたら今大会の台風の目になるかも知れないな。

 

尤も、大会は荒れれば荒れる程面白くなるものだけれどね――今年の大会も、楽しみになって来た……大会で戦う事になったその時は、私も手加減しないで行くからな!!

大会で会える日を、楽しみにしているぞ、みほ、エリカ、小梅、澤、武藤!!――最高の試合を、戦車道の素晴らしさと言うモノを見せつけてやるとしようじゃないか。

 

 

どんな組み合わせになるかは分からないが、今年の全国大会は例年を遥かに上回る激闘が繰り広げられるのは間違い無い――私の予想を上回る事があるかも知れないけどね。

 

何にせよ、聖グロ相手に痛み分けにで持ち込む事が出来た大洗女子学園は要注意だ――彼女達は、今年の大会を大きく掻き乱してくれるだろうからね。

 

今年の全国大会は、面白い事になりそうだな――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer110『束の間の休息~次はマジノ戦です~』

110話まで来たぞーーー!Byみほ      良く続くわね此れも……Byエリカ     此処まで続いたのは、作者の愛ですねぇ♪By小梅


Side:みほ

 

 

聖グロとの練習試合は、引き分けって言う結果だったけど、4強の一角である聖グロと引き分けたって言うのは、ある意味で最高の結果だと言えるかもしれないね?

勝ってたら有頂天になって、以降の試合で思わぬミスをするかもしれないし、逆に負けたら負けたで意気消沈して、本来の実力を発揮出来なくなってたかもだから。

 

 

 

「諸手を挙げて賛成!とは行かないけど、確かにその可能性が無くは無いから、ドローゲームって言う結果は、大洗の連中に自信と課題の両方を知らせるいい結果だったのかも知れないわね。」

 

「ですね。

 何にしても、聖グロとの練習試合で得たモノは大きいと思います――と言うか、そうじゃないとあんこう踊りをやった私とエリカさんが悲しすぎますから!!」

 

「梅りん、エリリン、君達は頑張った!!

 大洗町の群集の視線にさらされながらも、よくぞあんこう踊りを踊り切った!!羞恥に耐えてよく頑張った!感動した!!」

 

 

 

其れはちょっと大げさじゃないかな沙織さん?……まぁ、エリカさんも小梅さんも良くやったと思うけどね。

でも、あの踊りは極限状態に陥った場合に、チームの士気を高める事に使えるかも知れないね?……片腕じゃあ、出来ない振りつけが幾つかあるけど、其処は工夫で補う事も出来るだろうからね。

 

百芸は身を助けるって言うから、取り敢えず覚えていても損は無いだろうと思うし。

 

 

 

「みほ……貴女本気?」

 

「本気と書いてマジだよエリカさん。」

 

何よりも、あれを隊長が覚えてないって言うのはよくないしね……全身全霊を持ってして、あんこう踊りをマスターして、何時何処でも踊れるようにしておかないとね!!

 

 

 

「みほ、其れだけは止めて!お願いだから!!」

 

「エリカさん……だが断る!!」

 

私の勘が、あんこう踊りをマスターしろって言ってる以上、其れを会得するのは絶対だし、これは間違い無く戦車道でも必要になるからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer110

『束の間の休息~次はマジノ戦です~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、何時も通り登校した訳なんだけど、正門付近が何やら賑わってるね?――一体何があったんだろう?

 

 

 

「号外!号外!

 20年ぶりに戦車道を復活させた我が大洗女子学園が、高校戦車道の4強の一角である聖グロリアーナ女学院を相手に回して、押し気味の引き分けで初陣を飾ったよ~~!

 しかも、我が校の戦車隊は、全国大会への出場も決めている――これはジャイアントキリングが期待出来るかもーーー!!」

 

 

 

「……如何やら、聖グロとの練習試合の結果を、号外って言う形で配布してるみたいね……結果は引き分けだったけど、強豪校と引き分けたって言うのは、新聞部的には報道する価値があった訳か。」

 

「勝利以上の価値がある引き分けでしたからね。――まぁ、小沢さんは新聞部でもあるので、絶対に記事にしたかったのかも知れません。」

 

 

 

そう言えば、彼女はⅣ号の通信士だったね。――と言う事は、試合に参加した選手としての、生の感想が其のまま記事になってるのかな?

『百聞は一見に如かず』って言うように、実際に試合に出てた選手の感想って言うのは、試合を観戦してた観客の感想よりも説得力があるからね?……其れを考えると、新聞部は戦車道に関しては最高の記者を手に入れたって言えるね。

 

「取り敢えず、その号外1部貰えるかな?」

 

「あ!此れは西住隊長!はい、どうぞ!

 いやぁ、小沢の奴から試合の事を聞いたんですけど、次から次へと話が飛び出してくるんで、其れを纏めて今日の号外に間に合わせるのが大変でした♪

 今年の大洗は戦車道に力を入れてるみたいだから、全国大会でも活躍を期待してますよ!」

 

「うん、ありがとう。期待に応えられるように頑張るよ。」

 

さてさて、号外には如何書かれてるのかな?

 

 

 

『大洗女子学園が20年ぶりに戦車道を復活させたのは既にご存知かと思うが、大洗女子学園戦車隊(以下大洗)は、その初陣として高校戦車道の4強の一角である聖グロリアーナ女学院(以下聖グロ)との練習試合を行った。

 普通に考えれば、今年から復活させ、更には戦車道経験者が5人しかいない戦車隊では聖グロに勝つ事はおろか、1輌も撃破出来ないのではないかと思っていたのだが、結果は違った。

 序盤に生徒会チームの間抜けな独断専行によるファーストアタックこそ喰らったモノの、以降は大洗の市街地を利用しての市街地戦を徹底し、練度の差を知恵と工夫とフィールドアドバンテージで補って、試合を動かし、最終的には引き分けにまで持ち込む事が出来た。

 引き分けと言う結果だけを見れば大した事が無いかも知れないが、現在の大洗の戦力を考えれば、聖グロ相手に引き分けたのは大金星と言っても良いだろう。

 また、聖グロの隊長であるダージリン女史が、試合後に我が校の隊長である西住みほ隊長に『好敵手の証』であるティーセットを渡したと言う事からも、少なくとも大洗は聖グロに認められたと言っても言い過ぎではない筈だ。

 4強の一角である聖グロから好敵手認定された、我が校の戦車隊の活躍を、期待せざるを得ないだろう。』

 

 

 

ふむふむ、これは中々よく書けてると思うなぁ?

よし恵ちゃんへのインタビューを元にして記事を書いてるから試合の臨場感が伝わって来るし、文章の所々によし恵ちゃんが言ったんだろうと思われる言葉が見受けられて、其れが更にリアリティを増してるからね。

 

 

 

「生徒会の間抜けな独断専行……此れは否定できないでありますなぁ……」

 

「寧ろ否定不可能よ優花里。

 アレが無かったら、こっちが残存車輌1で勝ってたかもしれないんだからね――まぁ、そうなったらそうなったで、会長さんとポンコツモノクルが増長してたかもしれないから、アレで良かったのかも知れないけど。」

 

「うんうん、其れに関しては同感だよエリリン!

 自分達が生き残ったとなったら、会長は兎も角、河嶋先輩は絶対に増長してみぽりんに対して偉そうな態度を取ってたと思うからね?そう言う意味では、アレで良かったんだよ!

 結果として、あの2人はみぽりんに逆らう事が出来なくなった訳なんだから。」

 

「だな。

 隊長モードの西住さんに逆らおうものなら……想像しただけで恐ろしい事になりそうだからな?……お前のご主人は、何かと凄い人みたいだからな、アンドリュー。」

 

『ガウ♪』

 

 

 

あはは……生徒会チームには容赦ないね皆?

まぁ、確かに命令無視の独断専行の挙げ句に撃破されたって言うのは、普通なら即二軍落ちは間違い無い所業だからね――副隊長である梓ちゃんも、『会長と河嶋先輩をリストラしましょう!代わりの人材探しましょう!』って言う位だったから。

でも、代わりの人材が見つかる可能性は可成り低いから、会長さんと河嶋先輩には続投して貰ってるけどね。

 

……時に麻子さん、随分とアンドリューと仲良くなったんだね?

 

 

 

「練習試合前に一緒に寝た時にな。

 コイツ、私が安心して眠れるように態々布団の横に身体を横たえて来たんだ……普通なら信じられん事だぞ、虎がそんな事をするなんて。

 しかも其れだけじゃなく、私が不安にならないように前足で私を抱きしめて来たんだ……幾ら何でも驚いたぞあれは。」

 

「あはは……アンドリューは特別賢い虎だから。

 黄色ではない、黄金の毛並みの虎は伊達じゃないんだよ麻子さん。」

 

「そうか、そう言われると納得だ。」

 

 

 

因みに、ロンメルの毛並みは純白じゃなくて白銀ね。

其れじゃあ、ロンメルとアンドリューは此処までだね?今日もお仕事頑張ってね?――其れと、今日の晩御飯は2人の日頃の頑張りを評価して、2人の大好物の『骨付き鳥肉と里芋のミルクシチュー』だから期待しててくれて良いよ♪

 

 

 

『ガウゥ♪」

 

『こーん♪』

 

 

 

「……アンドリューは、これでもかって言う位に尻尾をピンと立たせて、ロンメルは9本の尻尾がぶっちぎれんばかりに振ってるわ――あの子達にとって、そのメニューは相当に嬉しかったみたいね。」

 

「なら、腕によりをかけて作らないとですね♪」

 

 

 

うん、そうだね小梅さん。

でも、其れは其れとして、先ずは今日の学校を確りバッチリ過ごしましょう!それじゃ、行くよ~~?ぱんつぁーふぉーー!

 

 

 

「「「「「「Jawohl.」」」」」」

 

 

 

今日も、楽しい一日を始めようかな♪

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

激戦の練習試合があったからと言って、次の日の授業がなくなる訳じゃなく、今日も今日とて退屈な午前中を過ごす事になったわ。――学校ごとのカリキュラムがあるから、授業の進み具合は違うって言うのは知ってたけど、英語の授業は黒森峰でとっくにやった範囲だから復習してる感じよマッタク。

 

まぁ、そのせいで私に授業の事で色々聞いてくる奴が居るけど、頼られるってのは悪い気分じゃないから、懇切丁寧に教えてるけどね。

 

そんなこんなで午前中の授業を終えて、今はみほのチームの面々+私と小梅って言う面子で食堂でランチの真最中。

因みにメニューは、みほがアクアバーガー(サメ肉のナゲットを挟んだハンバーガー)とポテトのセット、私がハンバーグハヤシライス、小梅がつくね親子丼、優花里がから揚げ定食、麻子はハムカツサンドで沙織がカレーライスと納豆、そして華がご飯大盛りの生姜焼き定食に大盛りラーメンのセット……今更だけど、華の胃袋がどうなってるか知りたいわね。

 

 

 

「気にするだけ徒労だよエリリン。華の胃袋はブラックホールだから♪」

 

「にしたって食い過ぎでしょ……体育会系の男子だって此処まで食べないでしょうに――それでいて、全く太らないって言うんだから理不尽な身体してるわよね。」

 

「どうにも燃費の悪い身体のようでして♪」

 

 

 

燃費が悪いって、実は意外と筋肉量が多いのかしら華は?

でも、その理屈で言ったら私やみほ、もっと言うなら小梅に澤に武藤だって大食いじゃないと説明が付かないわよね?……考えるの止めときましょう。別に華の大食いで誰かが迷惑を被る訳じゃないからね。

 

 

 

「ねぇ沙織さん、なんでカレーなのに納豆なの?納豆ってご飯にかけて食べるのが普通だよね?」

 

「其れは、私も気になってました。」

 

「え?此れはね、こうやって食べるんだよ。」

 

「「「!!?」」」

 

 

って、ちょっと待ちなさい沙織!

アンタ今何をした!?納豆を混ぜて糸引かせてからカレーにぶっ掛けるって、何その暴挙!?普通そんな事する!?アンタ頭大丈夫!!?

 

 

 

「あ~~……やっぱり馴染みないよね?

 驚くかもしれないけど、これぞ茨城のソウルフード『納豆カレー』だよ!意外に思うかもしれないけど、此れ結構いけるんだよ?」

 

「マジで!?」

 

「大マジでありますよ逸見殿。

 カレーのC○C○壱も、茨城の店舗では納豆カレーを普通に販売していますから。私も、陸に上がった時とかに偶に食べますからね。

 もっと言うのであれば、レトルトにもなっていて道の駅やお土産屋さんでも売っています。シーサイドステーションの『まいわい市場』でも販売しているであります!」

 

「ほ、本当に茨城のソウルフードなんだ……」

 

「だからと言って、学校の学食で態々別途に納豆を注文して自作するのは沙織位だがな。」

 

 

 

沙織、アンタ其処までして納豆カレーを食いたい訳?

 

 

 

「だって美味しいんだもん!エリリンだって一度食べたら絶対ハマるからね!納豆にカレーのスパイシーさが最高なんだから!」

 

「でありますなぁ。

 因みに、納豆カレー以外にも茨城にはご当地カレーがあってレトルトにもなってるんですよ。鉾田のメロンカレーに、土浦のレンコンカレー、茨城町の涸沼しじみカレー、笠間の栗カレー、北茨城のあんこうカレー、そして我が大洗はサメカレーです!」

 

「大洗のインパクトがハンパないね、エリカさん、小梅さん。」

 

「ですね……サメカレーって……」

 

「まぁ、今みほが食べてるのもサメ肉だけどね。」

 

そう言えば大洗アクアワールドは、サメの飼育数と飼育種類が日本一だって事だったけど、其れを考えると大洗では漁の際に、サメが網に掛かる事が多いのかも知れないわね。

その全部を水族館で飼育する訳には行かないから、こうやって何らかの形で加工して市場に出してる訳か。

 

所で華、貴女が頼んだのって醤油ラーメンじゃなかったかしら?私には、今貴女が食べてるのって味噌ラーメンに見えるんだけど?

 

 

 

「足りなかったのでおかわりしちゃいました♪」

 

「胃袋が甘いぜ!お留守だぜ!!がら空きだぜ!!!」

 

「しかもおかわりまで大盛りって……凄いね華さん!?」

 

「華さんを連れて行ったら、絶対に食べ放題は元を取れる気がします……」

 

「食べ放題で元を取るって、ドンだけでありますか五十鈴殿!?」

 

「お~~!今日は絶好調だね華♪」

 

「沙織……うるさい。」

 

 

 

華の大食いは誰かに迷惑を掛けないって言ったけど前言撤回!

華の大食いは間違い無く厨房に多大なる迷惑をかけてるわ!否、其れが稼ぎになってる訳だから迷惑じゃないのかも知れないけど、華のせいで忙しさが増すのは間違い無いわ絶対!

貴女、チャレンジメニューがある店に行ったら其れ頼みなさいよ?そうじゃないと次々と追加注文が入って厨房が大変だから!

 

 

 

「あ、エリリン其れ無理。

 華ってば1年生の時に学園艦はおろか、大洗の町でも軒並みチャレンジメニュー制覇しちゃってるから挑戦不可なんだよ。――まぁ、その代わりにチャレンジメニューをアレンジした華用の『華さん盛り』が実装されてるけど。」

 

「特別メニューが存在してるとは恐れ入ったわ……」

 

華は大人しそうなイメージだったけど、色々と規格外が揃ってる大洗の中でも特に凄いのかも知れないわね?

そして、そんなのがみほの指揮する戦車の砲手……うん、これは間違い無く全国大会までに華は命中率100%で撃破率80%オーバーって言う、サンダースのナオミやプラウダのノンナに匹敵する砲手になるわ。

 

 

 

「すみません、ラーメンおかわりお願いします。今度はトンコツで。」

 

 

 

……だけど、そろそろその辺にしときなさいよ?

貴女が一人で学食を食い尽くしたとか、本気で洒落にならないからね。――結局華は、この日学食のラーメンをフルコンプリートして見せてくれたわ……本気で驚いたわね此れは。

 

まぁ、其れは其れとして、午後の授業も頑張りますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

午後の授業も無事に終わり、今日も戦車道の時間――なんだけど、これは一体如何したんだろう?

私のパンターとエリカさんのティーガーⅡ、梓ちゃんのⅢ号以外は可成り個性的なカラーになってた筈なんだけど、今は其れを塗り直してる最中?――ねぇ、如何して戦車を塗り直してるの梓ちゃん?

 

 

 

「西住隊長。

 如何やら、聖グロ戦を経て心境の変化があったみたいです――夫々好きな色に塗ってましたけど、其れじゃあダメだって思ったみたいで。

 聖グロ戦が引き分けだったって言うのも大きいかも知れないですね……試合其の物は楽しめたみたいですけど、やっぱり勝ちたかったみたいですので。」

 

「そっか。うん、そうだよね。」

 

楽しむが第一だけど、試合である以上は勝ちたいって思うのが当然だからね――まぁ、だからと言って勝利至上主義になったらダメだけど。

其れが、戦車を塗り直すきっかけになった訳か……でも、塗り直しのカラーは良い感じかな?

Ⅳ号はジャーマングレー、Ⅲ突はニュートラルグレー、クルセイダーはオリーブグリーン、38(t)はミッドナイトブルーと、戦車らしいカラーリングになってるからね。

 

 

 

「なら良かったよ西住ちゃん。

 やっぱり金ぴかってのは駄目だわ~~。光ってれば砲弾を弾けるかもって思ったけど、色だけじゃ駄目だねヤッパリ。」

 

「当然ですよ会長さん。」

 

時に河嶋先輩は如何してます?

号外で生徒会が叩かれてたので、若しかしたらよし恵ちゃんに詰め寄ってるんじゃないかって思ってたんですけど……姿が見えませんね?

 

 

 

「あぁ、か~しまだったらアタシが黙らせた。

 西住ちゃんの言う通り、小沢ちゃんに掴みかからんばかりの勢いだったんだけど、『下手な因縁つけたら西住ちゃんに言いつけるぞ?』って言ったら、顔青くしてガクブルだったからね~~?

 聖グロ戦後の西住ちゃんが余程怖かったと見えるよか~しまは。……か~しまも悪い奴じゃないんだけど、自分に自信が無いのか、自分を偉そうに見せようとするところがあるから、ちょっと困りモノだよね。」

 

「其れは確かにそうですね。」

 

自分に自信が無いから虚勢を張って自分を凄く見せようとするか……悲しいですよね、そんなのって。

河嶋先輩は砲手は駄目でも、砲手と装填士を兼任して状態でも結構な速さでの装填が出来てたみたいだから、装填士に専念して成果を出して自信をつけて貰いたいかな。

 

 

 

「まぁ、それはか~しま次第さね。

 其れでさ西住ちゃん、もとい隊長殿。三等兵の立場でありながら差し出がましいとは思いますが、夫々のチームに『チーム名』ってモノを付けるのは如何でしょう?

 AチームとかBチームとかで言うよりも、分かり易くて愛着がわくと思うんですけどねぇ?」

 

「チーム名……確かに。」

 

此れまで戦車道をやって来て、Aチームとか簡単な名前で呼んでたけど、明確なチーム名を決めておくって言うのは確かに良いかも知れないね……会長さんの言うように愛着がわくかもしれないから。

 

でも、いざチーム名って言われると悩むなぁ?ドイツ語の数字は分かり辛いし、だからと言って凝り過ぎると其れは其れで意味不明になっちゃうし、さて如何した物か――って、梓ちゃんのⅢ号に描かれてる其れは何?ピンクのウサギさん?

 

 

 

「あぁ、これですか?

 あやのストラップコレクションの1つをモデルにして、戦車のエンブレムにしてみたんです。Ⅲ突も、カエサルさんのラインのスタンプをエンブレムにしてるみたいですから、良いかなって。」

 

「Ⅲ号がウサギで、Ⅲ突がカバ……よし、それで行こう!」

 

「へ?何がよみほ?」

 

 

 

チーム名だよエリカさん!大洗の戦車隊のコールネームは動物で行こう!

Ⅲ号はウサギで、Ⅲ突はカバ、38(t)は何となくカメっぽいからカメで、クルセイダーは整地での移動力が高いから、水面での移動能力の高いアヒルだね。

残るは、私のパンターとエリカさんのティーガーⅡ、小梅さんのⅣ号だけど……さて如何しようかな?

ティーガーⅡとⅣ号は、エリカさんと小梅さんの二つ名から『オオカミチーム』と『ハヤブサチーム』でも良いかも知れないけど、其れだとちょっと安直な気がするからね……もう少し捻って――よし、ティーガーⅡはライガー、Ⅳ号はオオワシで行こう!

 

 

 

「ライガー……ライオンと虎のハイブリットの名を与えられるとは、その名に恥じないように頑張らないとね。」

 

「私はオオワシですか……名前負けしないようにしないとですね――で、みほさん達は?」

 

「私達のチームは……ずばり『あんこうチーム』!

 あんこうは生シラスと並ぶ大洗の特産品みたいだから、其れをチーム名にしない手は無いし、ネームインパクトも可成り高いと思うから♪」

 

「確かに、そいつはインパクトハンパねーよ西住ちゃん。」

 

 

 

でしょう、会長さん?なので、全車車体に夫々のチーム名となった動物のエンブレムを入れておいてね?

恐らく、戦車に動物のエンブレムを入れてるなんて言うのは大洗だけだろうから、可成りのインパクトを与える事が出来る筈――お姉ちゃんあたりが見たら、ショックで目を丸くするかもしれないからね。

 

其れに、次の練習試合の相手であるマジノにだってインパクトを与えて先制パンチをかませる可能性が高くなるだろうし、そうなったら此方に流れを持って来るのも楽になるだろうからね。

 

 

 

「マジノ戦は、勝つ心算ねみほ?」

 

「当然、勝ちに行くよエリカさん。」

 

聖グロと引き分けた事で、課題が浮き彫りになったとは言え、恐らくその課題はマジノとの練習試合までには可成り消化されて己の力になってるだろうから、今度は行けると思う。

何よりも、マジノに勝つ事が出来れば、皆の自信になると思うからね――悪いけど、練習試合は勝たせて貰うよエクレールさん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エクレール

 

 

其れは私のセリフですわみほさん――って、私は一体何を言っているのやら……如何やら、大洗との練習試合が近づいていて、無意識の内に昂っているのかも知れませんわ。

まさか、みほさんの幻聴を聞くとは思わなかったもの。――其れだけ、私がみほさんが率いる大洗女子学園との練習試合を楽しみにしていると言う事ですわね。

 

去年の黒森峰との練習試合が終わった後で受けたみほさんの助言がなかったら、マジノを変える事は出来ませんでした……本当に、みほさんには感謝感激雨霰ですわ。

 

ですが、如何に恩義があろうとも、試合で手加減する理由は何処にもありませんから、生まれ変わったマジノの力を、其の身をもって体感して頂きますわみほさん。

 

 

全国大会の前哨戦とも取れる、此度の練習試合……何としても、勝利して大会への弾みをつけたい所ですわ。

 

マジノは古豪ではなく、強豪であると言う事を、此の試合で勝って証明してみせる……戦場で会うその時を、楽しみにしていますわ、西住みほさん――私が認めた最強の戦車乗りよ!!

 

 

 

「燃えるのは構わないですけど、燃え過ぎて試合前に燃え尽きないで下さいよ?」

 

「其処ら辺は考えてやってるから大丈夫よ。」

 

 

ですが、今度の練習試合の相手の大洗女子学園は、あの聖グロリアーナと引き分けた程の相手――一筋縄では行かない方々が相手と言うのは、此方にしても楽しみですもの。

練習試合、堪能させて頂くとするわ。

 

期待してますわよみほさん――貴女の力は、きっと大洗のように決まった戦車道の型が無い場所でこそ其の真価を発揮するモノだと思っていますから。

黒森峰の遊撃隊の時とは違う、貴女の真の力、見せて頂きますわよ?

 

 

そして、其れと同時に、新生マジノ女学園の実力、たっぷりと大洗女子学園に皆様に堪能していただきますわ――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer111『練習試合第2戦!開幕マジノ戦です!』

練習試合第2戦……今度は勝つよ!Byみほ      当然!そう来なくっちゃね!Byエリカ     勝ちの経験って言うのは大事ですしねBy小梅


Side:みほ

 

 

マジノ女学院との練習試合が迫る中、何をしているのかと言うと……

 

 

 

「西住隊長は、B83、W54、H84……羨ましい位のプロポーションですね。」

 

「あはは……」

 

パンツァージャケットを作る為の身体測定。

身長と、スリーサイズのデータが必要だって言う事で計ってたんだけど、これは計っておいて正解だったかも……お尻は、変わって無いけど、胸囲は去年よりも1cmだけ大きくなって、ウェストは2cm縮んだからね。

エリカさんと小梅さんは如何だった?

 

 

 

「私と小梅も微妙に育ってたわね……胸は1cm大きくなって、ウェストは1cmだけ細くなったわ。」

 

「胸が……2cmも大きくなってました。」

 

 

 

つまり、小梅さんはバスト86……お姉ちゃんと同格になるとは侮れないね――大人しそうな顔しておきながら、実は可成りのダイナマイトボディだからね小梅さんは。

 

 

 

「も~~!みぽりんもえりりんも梅りんもプロポーション良すぎ!

 私なんて、上から82、60、84だよ?太ってる訳じゃないんだろうけど、ちょっとぽっちゃり体型だよね此れ……此れじゃあ男の子にはモテないよ~~~!!」

 

「大丈夫ですよ沙織さん。世の中には少しぽっちゃりしてる女性の方が好みの男性も居るようですから。」

 

 

 

華さん、其れってあんまりフォローになってない気がするかな?寧ろある意味ではトドメを刺してる気がするからね……実際に沙織さんが猛抗議してる訳だし。

 

でも、其れは其れとして、大洗女子学園のパンツァージャケットがどんなデザインの物になるのかは楽しみだね。これは、完成が待ちきれないって感じだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer111

『練習試合第2戦!開幕マジノ戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体測定から3日後、大洗女子学園戦車隊のパンツァージャケットが完成!

此れだけの人数のパンツァージャケットを3日で完成させる為には、相当な突貫作業をしたはずだから、若しかしたら徹夜での作業も有ったのかも知れないね……被服科の皆さんには心から感謝だね。後で、何か差し入れを持って行こうっと。

 

其れは其れとして完成したパンツァージャケットはシンプルながらも良いデザインだね?

スカートはホワイトのプリーツスカートで、インナーはライトグリーンのタンクトップ。そして、一番重要な上着は襟付きの濃紺の物――折り返した襟がホワイトって言うのもお洒落だね。

可成り完成度の高いパンツァージャケットだけど、一番の特徴は、ジャケットの背の部分に夫々のチームエンブレムが刺繍されてる事だね。

 

 

 

「まぁ、特徴と言えば特徴よね。

 恐らくパンツァージャケットの背に、夫々の戦車のエンブレムを刺繍してる学校なんて無いわ――精々入れるとしても校章を入れるのが普通でしょうから。

 ……そう言う意味では隊長がピンクのあんこうを、副隊長が目が完全にヤバいピンクのウサギを背負ってるって言うのは、他校の生徒に与えるインパクトがハンパじゃないわ。」

 

「アハハ、其れは言えてるかも。

 背中にこんな刺繍入れてる人なんて他には居ないだろうからね?――此の背中の刺繍も、大洗の特徴って言う事だね。」

 

時に私のパンツァージャケット、ボタンじゃなくてチャックなのは片腕でも着やすい様にって言う心遣いだろうけど、なんで左の袖がオミットされてないんだろう?

通す腕が無いんだから、袖は無くても良いと思うんだけど……

 

 

 

「あぁ、それ?

 被服科の子が言うには『隻腕キャラにこそちゃんと袖付きの服を用意すべき。無い方の腕の袖が風になびくのが最高にカッコいいから!』って事だったよ~~。」

 

「その被服科の人は分かってますね?

 キューポラから上半身を出して、左の袖を風になびかせながら指示を出すみほさんは最高にカッコいいですから!」

 

 

 

……そんな理由で!?

って言うか、小梅さんも乗ってるって言うか、そう思ってたの!?

 

 

 

「私だけじゃなくて、多くの戦車乗りが同じ事を思ってますよ?

 特に、中学時代に打ち立てた数々の武勇から『隻腕の軍神』の名は有名ですし、その二つ名が付くに至ったのも、実は左の袖をなびかせながら戦車に乗るみほさんがカッコ良かったから付いたモノですから。」

 

「西住殿と言えば、左の袖をなびかせて戦車に乗っているモノでありますからねぇ?

 矢張り特注品であっても、左の袖は必要でありますよ。――王のマントではありませんが、風になびく何かと言うのは一種のカリスマ性を感じさせるアイテムでもありますからね。」

 

「ジャケットの上着を肩に引っ掛けた『闇遊戯モード』じゃダメなのかな……?」

 

「アレは本気モードを越えた、超本気モードだから中々見られるモンじゃないからダメなんじゃない?

 小梅に便乗する訳じゃないけど、袖をなびかせながら戦うみほって、カッコイイだけじゃなくて相手には結構なプレッシャーを与えるのよ?

 私も、中学大会の決勝戦で貴女と戦った時には、左の袖を風になびかせた隻腕の軍神の姿に、思わず圧倒されかけたからね――もし、合宿を行ってなかったら、完全に呑まれて一方的に負けてたわ。」

 

 

 

成程、そう言う事なら納得したよエリカさん。

さてと、其れじゃあパンツァージャケットが出来て、試着が終わった所でマジノ女学院との練習試合の作戦会議を始めるとしようか?

 

 

 

「作戦会議など必要か西住?

 我々は聖グロと引き分けた――つまり、実力的には4強クラスと言う事が出来る訳で、この所2回戦負けのマジノが相手ならば負けはしないと思うのだが……」

 

「其れは素人考えだよ河嶋先輩。」

 

確かにマジノは、ここ最近は2回戦負けが続いてて、すっかり『古豪』のイメージが定着しちゃってるけど、今年のマジノは去年までとは違うチームになってる筈だから、去年までと同じと思うと痛い目を見るのは間違い無い。

そもそもにして聖グロと引き分けたって言う事で、慢心してたら勝つモノも勝てないからね?――其れと、河嶋先輩は自身の階級が三等兵で聖グロ戦でのA級戦犯だと言う事を忘れないで下さいね?

今回は大目に見ますけど、最下級の三等兵が、准将に意見するなどもってのほか……河嶋先輩、次は無いからね?

 

 

 

「り、了解であります隊長殿!!」

 

「懲りねーなかーしま……でもさ西住ちゃん、何だって今年のマジノは此れまでとは違うって言えんのかな?」

 

「其れは、私がマジノの改革を進言したからだよ会長さん。」

 

去年黒森峰でマジノと練習試合を行った際に、エクレールさんて言う人にマジノの改革を進言したんだ――其れに対して、エクレールさんは何か感じる物が有ったらしくて、マジノを改革するって言ってたからね。

エクレールさんは私と同じ2年生だけど、改革を成し遂げる為にも3年生の隊長候補を押し退けて隊長になった可能性は可成り高い――略確実って言っても良いレベルだよ。

そうなると、戦術その物を根幹から変えて来てる可能性は低くない……ううん、確実に変えて来てる筈だから、マジノの戦い方を、マジノ伝統の強襲浸透戦術だと思って挑んだら返り討ちに遭うと思うんだ。

 

 

 

「ありゃりゃ……西住ちゃんの進言で改革が成されたとしたなら、其れは確かに此れまで通りとは行かねーだろうね?

 って事は、ある意味で聖グロとの練習試合以上にハードなモノになんのかな?……まぁ、経験を積む事が出来るって言う事を考えると、楽じゃない相手の方がありがたいけどさ。」

 

「楽な相手じゃ、レベルアップは望めないからね……で、マジノとは如何戦う心算なのみほ?」

 

 

 

今年のマジノは強いだろうからね。

練習試合の会場は、聖グロ戦と同様に大洗だけど、今回は市街地戦を行わずに、高台に居ある草原や岩場のエリアをメインに戦う心算だよ。

市街地戦での戦い方は、聖グロ戦で大体掴めたと思うから、今度は市街地戦以外の戦い方って言うのも身に付けておかないと、試合会場がランダムで決まる全国大会で戦う事は出来ないからね。

まぁ、試合の流れで市街地を通る事は有るかも知れないけど、今回は其処での戦闘を行う心算は無いから。

 

 

 

「西住隊長、その意見には同感ですが、どうせなら偵察隊を出してみては如何でしょうか?

 草原や岩場のフィールドでは、いかに素早く相手を発見するのが大事になりますから、偵察と言うのは全国大会でも重要になって来ると思うんです。」

 

「ふむ……其れは確かにそうだね梓ちゃん?

 ナイス意見だよ梓ちゃん。確かに偵察を訓練しておけば、此方に有利な情報を一方的に得る事が出来るかも知れない訳だからね――試験運用も兼ねて、マジノ戦で使ってみるのは良いかもだよ。」

 

エクレールさんがマジノを改革できたと仮定するなら、マジノは此れまでとは全く別の戦術を執ってくる可能性が高いから、事前に偵察を出してマジノの動きを探るのは大事になって来るしね。

 

 

 

「見知った相手でも、戦術がガラリと変われば初見の相手と変わりないと言う訳だな。

 とは言え、戦車を全て入れ替えると言うのは金銭面で不可能だろうから使ってくる戦車はあまり変わらない筈――西住隊長、マジノ女学院は、どのような戦車を使って居るのだろうか?」

 

「去年の黒森峰との練習試合では、ルノーR35と其れのSA38搭載型、ソミュアS35、ルノーシャールB1bisだったよエルヴィンさん。」

 

「フランス戦車か……ふむ。

 西住隊長、戦車道の公式ルールでは戦車の改造はドレ位許されているのだろう?――例えば我が校で言うのなら、我等のⅢ突を現在のF型からG型への改造する事は許可されているのか?」

 

 

 

其れは問題ないよエルヴィンさん。

実際に私が通ってた中学では、Ⅲ突をG型に、Ⅲ号をL型に改造してたからね。でも、其れが如何したの?

 

 

 

「いや、そう言う改造が認められているのならば、ルノーB1をARL-44に改造してある可能性があると思ってな?

 ルノーB1ならばまだしも、ARL-44ともなると火力と装甲厚は可成りの物があるから、如何に此方にティーガーⅡがあるとは言え、撃破するのは容易ではないと思ってな。」

 

「ARL-44……ルノーB1をベースに開発された戦車だから、ルノーB1bis改(ARL-44仕様)って感じに改造されてる可能性は確かに捨てきれないね。」

 

もしもその改造が施されてるとしたら、此方の戦車でARL-44の正面装甲を抜けるのはパンターとティーガーⅡだけ――逆にARL-44の主砲なら、大洗の戦車は全て倒す事が出来るから……うん、その改造がされてる事を前提に作戦を考えた方が良いね。

 

基本は偵察を出してマジノの動きを探りつつ、自然の地形を生かして戦う。そして可能なら、市街地戦を経由する事無く勝ちたい所だね。

市街地戦は私の十八番だけど、其れに慣れすぎると市街地戦以外での戦い方が出来なくなっちゃうから、今回は出来るだけ市街地を使わない方向でね。

 

 

 

「ねぇ小梅、市街地戦を封印した程度でみほが如何にかなると思う?」

 

「思いませんよエリカさん。

 みほさんだったら市街地戦でなくとも相手の度肝を抜く戦いをしますって――例えば、キューポラから車長が身を乗り出してる戦車に対して、機銃でスズメバチの巣をキューポラ内に落とすとか、砲撃で岩場崩して頭上から岩石降らせるとか……」

 

「何を言ってるのかな小梅さん……そんなのは森林地帯や岩場で戦う時には普通の事だよ?」

 

自然のフィールドは、其れを最大限に生かしてこそだからね。

まぁ、今度の練習試合は全国大会を見据えての『フラッグ戦』ルールだから、相手を全滅させる必要はないし、其処ら辺を考えて戦う心算だから、そんなにトンでも戦術は出ないと思うけど。

 

 

 

「みぽりんってば、可愛い顔してても、戦車道では容赦ないって言うか、結構えぐいよね?

 この間の……みぽりんが車長で、エリリンが砲手で、うめリンが装填士を務めたティーガーⅡからの砲撃を避ける回避訓練なんて、ちょっとトラウマだから――最後まで避け切った麻子と梓ちゃんのⅢ号はホント凄いと思う。」

 

「まぁ、ギリギリだったがな。」

 

「私としては、マニュアルを一読しただけであそこまでの操縦が出来る麻子さんに驚きだヨ。」

 

「みほさんは、戦車に乗っている時の軍神状態では、普段とは少し異なるのでしょう。

 時にみほさん、フラッグ戦とは何でしょうか?この前の聖グロとの殲滅戦とは違うのですか?」

 

 

 

あぁ、そう言えば言ってなかったね華さん。

殲滅戦は、その名の通り相手チームの戦車を全滅させないとダメなんだけど、フラッグ戦は双方のチームに『フラッグ車』っていう旗車を設定しておいて、そのフラッグ車を撃破した時点で、撃破したチームの勝利になる試合形式の事だよ。

使用戦車や隊員の練度で結果がほぼ決まっちゃう殲滅戦と比べて、一発逆転のジャイアントキリングが起こる事が少なくなくて、試合形式としては殲滅戦よりも人気がある試合形式だね。

 

 

 

「と言う事は、今度は聖グロ戦よりも勝率が上がって居るんですね隊長!」

 

「うん、そう思ってくれて良いよ磯部さん。

 こう言ったらアレだけど、フラッグ戦なら練度の差だって関係ない――相手のフラッグ車を倒せばその時点で勝ちだから、殲滅戦よりも勝率は可成り高い……何よりも、私は何方かと言えばフラッグ戦の方が得意だからね。」

 

「よっしゃー!なら今度こそ初勝利目指して、根性で頑張るぞーーー!!」

 

「「「はい、キャプテン!」」」

 

 

「……あいっ変わらず暑苦しいわねアヒルチームは?まぁ、その根性が戦車道でも確り役に立ってるみたいだから煩い事は言わないけど。

 其れでみほ、フラッグ車はドレにするの?」

 

 

 

其れがアヒルチームの良い所だから♪

で、フラッグ車だけど其れはティーガーⅡにしようと思ってるんだ――マジノがARL-44を使って来たとしても、ARL-44以外のフランス戦車じゃティーガーⅡの正面装甲を抜く事は出来ないからね。

頼めるかな、エリカさん?

 

 

 

「Jawohl Kapitan.(了解よ隊長。)そもそもにして、貴女のお願いを私が断ると思ってるの?

 貴女の事は信頼してるから、多少の無茶は言ってくれて構わないわ……Was wir sehen, etwas sagen so Comrades?(私達って、そう言うモノでしょ、戦友?)」

 

「So war es jedenfalls……(其れは、確かに其の通りだったね。)」

 

「み、みぽりんとエリリンが英語を話してる!?」

 

「沙織、これは英語じゃなくてドイツ語だ――まぁ、これ程までに流暢なドイツ語が話せるのには驚いたがな。」

 

 

 

あはは……黒森峰は、ドイツ語が必修外国語だったから普通に身に付いちゃうんだよ。

其れからエリカさんはドイツ系のクォーターだからドイツ語は得意なんだ♪――黒森峰に居た頃は、私も小梅さんも、ドイツ語の授業では随分とエリカさんにお世話になったからね。

 

「まぁ、其れは今は良いとして、次のマジノ戦は全国大会基準のフラッグ戦だから、此処で勝って全国大会での弾みをつけて行こう!

 大洗女子学園は無名の弱小校じゃなく、未開にして未完の才能に溢れている戦車道の魔窟だから、マジノ女学院相手でも負けない!寧ろ勝つ!――私達は強い!!」

 

「私達は強い……!」

 

「なんと言う、力強い一言ぜよ!――隊長、私達の命、貴女に預けるぜよ!!」

 

「流石はみほさん、人心掌握術は見事なモノですねぇ……」

 

「ある意味で、人を惹きつけるカリスマ性って言うモノに関しては、みほはまほさんよりも上かも知れないわ――実際に、私を初めとして、小梅も澤も武藤も、みほを追いかけて大洗に来た訳だからね。」

 

「其れが西住隊長なんです!」

 

 

 

人心掌握術って、そんな心算は無くて、私は思った事を口にしてるだけなんだけどね……でも、其れでチームが纏まるって言うのなら、決して悪い事じゃないとは思うけど。

何にしても、マジノ戦は勝利で終えたいモノだけど、多分簡単には行かない――生まれ変わったマジノを、見せてもらうよエクレールさん。

 

 

 

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・・・

 

 

 

で、あっという間に練習試合当日。

今回も前回同様、学園艦が大洗港に停泊する訳なんだけど……うん、マジノの学園艦は全国大会出場校の中では小さい方ではあるけど、大洗の学園艦よりはずっと大きいね。

 

まぁ、先に聖グロの学園艦を目にしてた事で、大きさに驚く人はあんまり居なかったけど。

 

接岸して、大洗の地に降り立った訳だけど、観客性に指定されてる大洗シーサイドステーションには、この前の聖グロ戦以上に人が集まってるんじゃないかな?

如何に地元とは言え、高々練習試合に此れだけの人が集まるなんて、普通は考えられないけど……其れだけ、戦車道に興味を持ってくれてるって言う事なのかな?だとしたら嬉しい限りだね♪

 

 

 

「この間の聖グロ戦での引き分けって結果も大きいかも知れません。

 20年ぶりに戦車道を復活させた無名校が、現在の高校戦車道4強の一角と引き分けたって言う事実は、大洗の人達が戦車道に興味を持つには充分な事ですから。」

 

「成程、分かり易いね梓ちゃん。」

 

でも、そう言う事なら、今度こそ大洗を応援してくれてる皆さんに『勝利』をプレゼントしないとだね!!

 

 

 

――轟!!

 

 

『我こそ、拳を極めし者……!』

 

 

 

「軍神招来キター!って、ちょっと待て其れは軍神か!?何だって豪鬼をインストールしてんのよ!!」

 

「我こそ戦車を極めし者……うぬらが無力さ、其の身をもって知るが良い……滅殺!!」

 

「みほさんが、殺意の波動に目覚めたーーー!?」

 

 

 

……冗談だよエリカさん、小梅さん。

殺意の波動に目覚めたら冷静な判断をする事は出来ないからね……まぁ、ルールが殲滅戦の場合には、滅殺の感情は頼りになるかも知れないけどね。

 

所で、客席の端に、アンツィオの物と思われる屋台が見えるのは気のせいかな?

 

 

 

「いや、気のせいじゃないわみほ……ペパロニの奴が精を出して大洗の人達に『鉄板ナポリタン』を振る舞ってるわね。」

 

「ペパロニさん……」

 

アンツィオの財政難は知ってたけど、まさか大洗の練習試合の会場まで出てくるとは思ってなかったよ――実際に前回の聖グロ戦では居なかった訳だしね……此れは、ダージリンさんが各校に大洗の隊長が私である事をリークしたのかも知れないね。

 

 

 

「あの紅茶隊長なら、大洗の戦力を伏せた状態で貴女が大洗の隊長である事をリークしてもおかしくないわね。

 そうだとしたら、中学時代の貴女の仲間が駆けつけない理由は無いし、アンツィオにとっては願ってもない資金稼ぎの場が出来た訳なんだから、其れを利用しない手は無いわ。」

 

「確かにそうだね。」

 

これは、益々この練習試合は負ける事が出来ないよ――ペパロニさんの前で無様な試合は出来ないし、観客席にはナオミさんとローズヒップさんの姿があったから、絶対に負けたくない!!

 

「絶対に勝つよ、此の試合!」

 

「勿論!そう来なくっちゃね!」

 

「私達の力を、マジノに見せつけてあげましょうみほさん!!」

 

 

 

うん、マジノ女学院には大洗女子学園の底力を味わってもらうとしようかな……戦車道を復活させた大洗女子学園と、改革を行ったマジノ女学院のどちらが強いのか、ハッキリさせようか!!

 

全国大会前の最後のリハーサルとも言える練習試合、今度こそ勝って弾みをつけないとだね!

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

大洗女子学園、マジノ女学院共に、学園から戦車を降ろす作業は終わり、大洗の隊長であるみほと、マジノの隊長であるエクレールは、試合開始を宣言する中央フィールドで睨み合っている。

何方も目付きが鋭い方ではないが、みほには『隻腕の軍神』の意圧力があり、反対にエクレールにはマジノの改革に成功した自信が満ち溢れている――其れが本来の顔つきよりも鋭い印象を与えているようだ。

 

両校のオーダーは

 

 

大洗女子学園

 

・パンターG型×1(隊長車)

・ティーガーⅡ×1(フラッグ車)

・Ⅳ号戦車D型×1

・Ⅲ号戦車J型×1(副隊長車)

・巡航戦車クルセイダーMkⅡ×1

・Ⅲ号突撃砲F型×1

・38(t)戦車B/C型×1

 

 

 

マジノ女学院

 

 

・ルノーR35 SA38搭載型×5

・ソミュアS35×4

・SECRET×1(フラッグ車)

 

 

 

この様な布陣。

マジノ女学院のオーダーはシークレットを除けば此れまでと大差ないモノであるが、だからこそ態々シークレットを設定して来た事が生きてくるとも言える。

尚、車輌数が同数で無いのは、フラッグ戦である事と『大会と同じルールで』と言う事を大洗がマジノに提案したためであり、其れを受け入れたマジノが、全国大会1、2回戦での使用車輌数である10輌を揃えたからだ。

 

 

 

「シークレット……如何やらARL-44は持ち出してくるみたいだね。」

 

 

だが、其れを見たみほは『最高の獲物を見つけた』と言わんばかりに、瞳が輝き、マジノの隊長であるエクレールを見据える。――そして、エクレールも其れを受けてスイッチが入ったらしいが……心の奥底に眠っていた闘気を解放する!!

 

 

 

――ゴォォォォォォォォォォォォォォォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!

 

 

 

そして、その闘気は周囲の物を吹き飛ばす位に強力で強烈!!

 

 

 

「行きますわみほさん……!!」

 

「受けて立つよエクレールさん!!」

 

 

 

試合前の気組みの時点から可成り激しい物となっているようだが、一流の戦車乗りにとってこの程度の事は試合開始前の簡単な挨拶でしかない――マジノ女学院との練習試合は、此処からが本番だ。

 

隊長同士が試合前の握手を交わし、其れと同時に後ろに控えている隊員達の闘気も一気に膨れ上がり、まるで試合開始の号令を催促しているかのようだ。

 

 

「其れでは、これより大洗女子学園と、マジノ女学院の練習試合を始める!お互いに、礼!」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

 

其れを見た審判長の、蝶野亜美は満足そうに微笑むと、此処で試合開始の号令を下し、互いに試合前の礼を行う。

後に『大洗大決戦』と呼ばれる事になる、この練習試合は、今此処で幕を開けたのだった。――だがしかし、みほとエクレールが全力を持ってして戦う練習試合が凡戦で終わる事だけは絶対にないだろう。

 

ある意味で、この練習試合は大洗にとっても、マジノにとっても最高にして、最強の練習試合だと言えるだろう。

そして、其の空気が観客席にも伝わり、試合開始の号令と共に観客席も大きく盛り上がる――特に、みほの中学時代の戦友であるナオミ、ローズヒップ、ペパロニの三人は特にだ。(モニターにクギ付けになりながらも的確に鉄板ナポリタンを作ってるペパロニが凄すぎるが。)

 

 

何れにしても大洗の練習試合の火蓋は切って落とされた――何方が勝ってもおかしくないこの試合……結果は神のみぞ知ると言うと言う所なのかも知れない。

 

 

何にしても、大洗女子学園と、マジノ女学院の練習試合は、只では済まないだろう――そう思わせるだけの物が、大洗女子学園には定着して居るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 




エクレール

・2年生ながら、マジノ女学院の戦車隊の隊長を務めている人物。
 マジノの伝統を越える事を目指していたが、1年時に其れの限界を知り、マジノの改革に乗り出す。――改革の一手を授けてくれたみほには感謝してもし切れない気持ちを持っている。


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Panzer112『此れがマジの激闘マジノ戦です!!』

今回のタイトル……洒落?Byみほ      に見えるけど、多分違うByエリカ     作者に、こんな高度な洒落が出来る筈がありませんから♪By小梅      お前等なぁ……泣くぞ!!By作者


Side:みほ

 

 

マジノ女学院との練習試合が始まった訳だけど……間違いなくエクレールさんは去年の練習試合の時よりも格段に強くなってるみたいだね。

纏ってるオーラが去年とはまるで別物だし、何よりも直感的にオーラが強くなった事を感じ取ったから。

 

あれ程のオーラを放てるとは、『エクレール』――稲妻の名に恥じない選手になったみたいだね。

でも私達は其れを越える――新生マジノを、復活した大洗が倒したって言うのは大金星だし、勝てば部隊の士気も上がるからね……エクレールさんには、去年以上に私の戦車道を味わって貰おうかな?

 

 

 

「貴女、其れ死刑宣告よみほ。」

 

「みほさんの戦車道は色々と凄い上に、時々えげつないですからねぇ……試合後にエクレールさんが廃人と化してない事を祈るばかりです。」

 

「……エリカさん小梅さん、其れは言い過ぎだと思う。」

 

まぁ、元より勝つ心算でいたから、勝利だけは絶対にこの手で掴み取ってあげるけどね――何よりも勝利の経験で得られたものは、後の全国大会でも役に立つだろうからね。

 

 

 

「勝利の経験は、勝つための方法を会得する事にもなる訳よね。

 さて、ARL-44の運用を始めたと思われるマジノは去年よりも遥かに強化されてるのは間違い無いわ。

 去年の黒森峰での練習試合のようには行かないと思うんだけど、如何する?」

 

「其れに関しては、大丈夫だよエリカさん。」

 

マジノが戦術を変えて来たって言うなら、私達は其れに対応して最適な戦術を使えば良いだけだし、私の頭の中には古今東西の戦術が記憶されてるから、マジノがどんな戦術を執って来ても、対応するのは難しくないからね。

 

何にしても、この練習試合では初勝利を決めて全国大会へ向けて弾みを付けておきたいからね――初勝利目指して、Panzer Vor!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer112

『此れがマジの激闘マジノ戦です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

「Panzer Vor!!」

 

「Tank Forward!」

 

 

大洗女子学園と、マジノ女学院の練習試合が始まり、みほとエクレールは、部隊に指示を出して互いに進軍して行く――マジノが美しい隊列を披露しているのに対し、大洗はまだぎこちなさを残しながらも、今年から戦車道を始めたとは思えない程の隊列を披露していると言うのは普通に凄い事だろう。

 

マジノの部隊は、スタート地点から隊列を組んだまま進んで行くのに対して、大洗は途中からあんこうチームとライガーチームとオオワシチーム、ウサギチームとアヒルチーム、カバチームとカメチームの3つの小隊に分かれて散開すると言う戦術を執って来た。

 

一見すると可成り偏ったチーム編成に見えるが、試合形式がフラッグ戦であると言う事を考えれば、フラッグ車であるティーガーⅡの護衛に信頼出来る戦力を割り振るのは道理である故、みほのパンターと小梅のⅣ号がエリカのティーガーⅡのお供になったのだ。

特にマジノは、ティーガーⅡの装甲をも貫く主砲を持ったARL-44を運用している可能性が高い以上、フラッグ車の護衛もまた強力である方が良いのである。

 

 

「其れでみほ、マジノが改革を行ってARL-44を使って来たとして、如何言う戦術を執って来るって貴女は予測してるの?」

 

「今までのマジノは、フラッグ車を護衛で囲って、攻撃して来た相手から倒して行くカウンター型の戦術だったんだけど、其れを根本から変えたとなると、考えるのは機動力で相手を翻弄した上で、ARL-44の火力で吹き飛ばす――言わば、『高機動殲滅型』とも言う戦術かな。」

 

「マジノが使ってる戦車は、カタログスペック上は全て40kmの速度が出る訳ですらか、確かにその戦術は運用可能ですね。」

 

 

其れだけ、マジノの――もっと言うならエクレールの隊長としての手腕を警戒していると言う事なのだが、警戒する事とは別に、みほとエリカと小梅の三人に緊張は無い。

緊張するどころか、マジノが新たにどんな戦術を執って来るかを話し合う位の余裕があるようだ。

 

 

「み、みぽりんもエリリンもうめりんも、少し落ち着き過ぎじゃない!?

 相手は、可成り強いんだよね?……なのに、なんでそんなに余裕なの!?――あ、若しかして経験者の余裕って奴なのかな!?」

 

「まぁ、ある意味ではそう言えるかな沙織さん。――其れに、相手が誰であっても此れ位の余裕は持ってないと、勝てる試合も勝てないよ。」

 

「……みぽりん、マジカッコいいわ。――でも、みぽりんがそう言うなら、そうなんだよね!」

 

「沙織、気付くのが遅い。」

 

 

其れに驚いた沙織に対してもみほは余裕の笑みを浮かべて対応し、其の効果があったのか、沙織の緊張も吹き飛び、同時にみほに対しての信頼が湧いたようだ。――麻子の突っ込みが容赦ないのは何時もの事だが。

 

 

 

『西住隊長、此方偵察隊の澤です。

 隊長の予想通り、マジノはスタート地点からやや東寄りに南下して、一直線に大洗の部隊を目指してきています。』

 

 

其れと同時に、偵察に出ていた梓から通信が入る。

3チームに分かれた内の、ウサギチームとアヒルチームは偵察部隊としてマジノの動向を探りに出ていたのだ――梓はみほから、チーム分けをした際に、『如何動くかは、梓ちゃんが自分で考えてくれていいから』と言われた事も有り、自ら偵察に向かったのだ。

同時に梓が、其れを選択したのは自身の搭乗戦車が小回りの利くⅢ号であり、一緒に組んでるアヒルチームの戦車は快速が売りのクルセイダーだったと言うのも大きい。

此の2輌ならば、例え見つかったとしても、Ⅲ号は持ち前のフットワークの軽さで相手の攻撃を避ける事が出来るし、クルセイダーはその足で逃げきる事が出来るからだ。

 

 

「偵察ご苦労様、梓ちゃん。

 此方に向かってきていると言う事は、進軍して来てるって事か……梓ちゃん、其処からマジノのシークレット車輌って見えるかな。」

 

 

そんな梓に労いの言葉を掛けつつ、みほは今停車してる地点からマジノのシークレット車輌が確認出来ないかを問う。

十中八九ARL-44だとは思うが、其れはあくまでの予想でしかない――もしも、仮に予測が外れていた場合には、戦術の練り直しが必要に成る為、シークレットの確認は大事なのだ。

 

 

『え~っと……はい、見えます。

 掲示板には表示されていなかったシークレット車輌は……フランス戦車最強のARL-44です!!』

 

「やっぱり、ARL-44だったね――!!」

 

 

そして、その結果、マジノのシークレット車輌はARL-44だった事が明らかになり、其れと同時にみほは頭を超高速回転させて戦術を構築して行く。

 

 

「(ARL-44がフラッグだと、パンターでも相当に近づかないと決定打を与えるのは難しい……となると、ティーガーⅡはフラッグ車でありながら、マジノのフラッグ車を撃破する役割も担って貰わないとだね。

  となると、重要になるのは如何にして、フラッグ車であるARL-44をキルポイントまで誘導出来るかにかかってる訳か……なら!!)」

 ウサギチームとアヒルチームは、此処で攻撃を加えた後に全力で離脱して。そして、カメさんとカバさんはウサギさんとアヒルさんを追っている戦車をピンポイントで駆逐して。

 全部が巧く行くとは思えないけど……1輌撃破出来れば及第点、2輌撃破したら上出来だから、あまり気を張らずにやって!」

 

 

頭の中では色々考えていても、その思考時間は現実の時間では1分にも満たないと言うのだから不思議なものだが、マジノと如何戦うかの戦術を構築し終えたみほは、各チームに指示を出して行く――その姿は、正に隻腕の軍神と言って過言ではない程のオーラを放出している。

 

 

『了解しました西住隊長。

 時に西住隊長、攻撃を加えた後に全力で離脱しろとの事でしたが……別に倒してしまっても問題ありませんよね?』

 

「倒せるなら、そっちの方が有り難いよ梓ちゃん。」

 

 

そして、この師弟コンビ容赦がない。

そもそもにして離脱しろとの命令に対して、『倒せるなら倒して良いよね』と言う弟子も弟子だが、『倒せるなら倒しちゃって』と言ってしまう師匠も師匠である。

 

 

「あんな事を言うなんて……澤は間違い無く貴女の弟子よみほ。」

 

「だろうね。梓ちゃんには、私の全てを教えたんだから。」

 

「澤さんが成長したら、トンデモない戦車乗りになるでしょうねぇ……」

 

 

だが、これで大洗の対マジノ戦術はほぼ決まったと言ってもいいだろう。――そして、みほが読み違いをしない限り、大洗が負ける事はない。

冗談にもならないが、マジノはマジで強敵からのラブレターを受け取ったと言う事になる訳だ。

 

 

「ふふ、其れじゃあ行こうかエリカさん、小梅さん!!」

 

「其れを待っていました、みほさん!」

 

「――マジノの連中に見せてやろうじゃない?隻腕の軍神、孤高の銀狼、慧眼の隼が揃ったら、負けは無いって言う事をね!!」

 

 

其れは其れとしても、みほとエリカと小梅の闘気はマックス120%まで引き上げられ、戦車長としての威厳や迫力も強化されている――此れならば初勝利はかなり現実的と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗がチーム分けをして散開したのに対して、マジノはフラッグ車であるARL-44を、ルノーやソミュアが護衛するかのように取り囲む布陣を敷いており、機動力を重視しながらも、相手チームからの強襲に対しての防御も考えた形となっている。

 

これこそがエクレールが考えた『マジノの伝統を大切にしながらも、新たな戦術を取り入れた戦い方』だ。

フラッグ車、或いは隊長車を他の戦車が護衛するのはマジノの此れまでの戦い方と同じだが、今までのマジノはその布陣を敷いたら動かずに待ち、相手が攻撃して来た所をカウンターと言うモノだったが、エクレールはその布陣のまま進軍する事で、部隊全体を『移動要塞』として運用する事を基本戦術にしたのである。

 

 

「未知の相手と戦う時は、偵察を出すのが定石。

 みほさんは私達がARL-44を使う事を看破している様でしたが、去年までのマジノを知っているだけに偵察は出して来る筈ですわ――特にシークレット車輌が何であるのかを確定させるためにも。

 ブルスペードとダイヤブルは前方を注意なさって。ブルクラブとハートブルは後方を、スペードクィーンとクラブクィーンは両翼を警戒しつつ散開してくださいますか?」

 

 

が、エクレールは此処で部隊を散開させてきた。

移動要塞としての部隊運用は、あくまでも『基本』であり、エクレールのマジノ新戦術の真骨頂は、みほが予想したように戦車の機動力を生かした機動戦――だが、其れは電撃戦とは違い、機動力をメインにしたヒット&アウェイを行い、攻撃後は即移動要塞に戻ると言う、攻防一体の戦術だ。

 

エクレールが隊長になってから(隊長の座は、去年の終わりに前隊長に一騎打ちの勝負を挑んで捥ぎ取った)の新戦術であり、マジノの生徒の中には、伝統的な戦術を変えようとするエクレールに対しての批判を口にする者も少なくなかったので、最初は難儀したモノの、練習試合で此れまでよりも良い戦績を残した事で、段々と受け入れられてきたのだ――とは言え、流石にまだ練度は充分とは言えず、ちょっとしたミスが出るのは仕方ないが。

 

だが、集団行動をしていた状態から、行き成り部隊を展開すると言うのは相手からしたら可成り虚を突かれた事になる為、変な言い方ではあるが、先出のカウンターとも言うべき攻撃が可能になるのだ。

 

 

 

「こっちに攻めて来たね~~……しゃーない、突っ込むぞ小山~~。」

 

「偶然か?……否、完全に読んでいた訳でなくとも、ある程度の当たりは付けていたと言う事か……!!」

 

 

今回其れを喰らってしまったのは、カバチームとカメチームの小隊。

本隊、偵察部隊とは別に、奇襲部隊として動いていたこの小隊は草むらに潜んでマジノを強襲する心算だったのだが、いざ攻撃と思った所で相手の方から向かって来たと言うのは、正に先出のカウンターだ。

 

 

「小山、Ⅲ突の前に出て。

 Ⅲ突と38(t)の主砲なら、Ⅲ突の方が絶対的に強いから、敵さんはⅢ突を狙って来る筈だから、アタシ等がⅢ突の盾になるぞ。――火力不足の大洗にとって、Ⅲ突は失う事の出来ない戦車だからな~~。」

 

「了解です会長。」

 

 

が、カメチームの杏はさして驚かず、Ⅲ突の前に出るように指示を出して戦車を進めていく。

そしてその状態で、進軍しながら攻撃を続ける――砲撃の間隔が極端に短いのは、装填士専任を命じられた桃が大ハッスルしている結果だろう……このペースで装填し続けたら、即ガス欠だろうが。

更に杏の正確な砲撃によって、砲撃其の物はソミュアとルソーに命中しているのだが、悲しいかな38(t)の主砲では、ソミュアとルノーの装甲を抜く事が出来ず、マッタク持って効果が無いのだ。

 

だが、そんな事は杏だって分かっている――そう、これは囮なのだ。

 

 

「さぁて、充分引き付けたからね……頼むよカバさん!」

 

「了解した!撃て、もんざ!!」

 

「その呼び方は止めろ!!」

 

 

――ズドン!ズドン!!

 

――パシュ!パシュン!!

 

 

 

『マジノ女学院、ソミュア、ルノー、行動不能。』

 

ソミュアとルノーが充分に近づいて来た所でⅢ突の主砲が火を噴き、ソミュアとルノーを吹き飛ばして白旗判定に!

この間の聖グロ戦ではファースト撃破を相手に献上してしまったカメチームだが、今回は大洗のファースト撃破に貢献したのだから、前回の事は此れで帳消しとしても良い位だ――自分の車輌の砲撃では相手の戦車を撃破出来ない事を見抜いた杏の、見事な頭脳プレーである。

 

此のまま一気に――

 

 

 

――ズドン!!

 

――パシュン!!

 

 

 

『大洗女子学園、38(t)行動不能。』

 

 

と思った所で、ARL-44からの砲撃が38(t)を吹き飛ばして一撃で撃破!!

如何やらエクレールは進撃を続けながらも、周囲に気を配っていた事で、ソミュアとルノーが大洗の部隊と交戦状態になった事は知っていたらしく、ソミュアとルノーが撃破されたその瞬間に38(t)を攻撃し、一撃で白旗判定にしたのだ。

 

 

「大丈夫か、会長!」

 

「いっやぁ、やられちったねぇ……アタシ等は大丈夫だから、エルヴィンちゃん達は西住ちゃんや澤ちゃんのサポートに回ってくれっかね?

 Ⅲ突の出番はまだあるだろうからさ――頼んだよ?」

 

「……了解した!!」

 

 

数の上では依然として大洗の方が2輌不利な状態だが、フラッグ戦に於いては、極論を言うなら数の差などと言うモノは大した問題ではないのだ――だからこそ、相手のフラッグ車を撃破可能な車輌を残すのは道理だ。

杏はARL-44からの砲撃を自ら受ける事でⅢ突を守り、損害を最小限に留めたのである……流石は生徒会長と言った所だろう。

 

ファーストコンタクトは大洗が若干有利な展開となったが、未だ序盤故に試合が如何転ぶかは予測がつかない状態だと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、偵察に出ていたウサギチームとアヒルチームもまた、マジノのソミュアとルノーを相手に戦車戦を繰り広げていた――偵察を終えたので、本隊と合流しようとしていた所で、運悪くマジノの部隊に見つかってしまったのだ。

Ⅲ号とクルセイダーは優秀な戦車であるが、Ⅲ号J型の42口径50mmとクルセイダーMk.Ⅱの40口径50mmでは、ソミュアとルノーを撃破するのは難しいが、相手の主砲は此方を抜けるとなれば可成り分が悪い。

普通に考えればジリ貧の戦いになるのだが……

 

 

「当たらなければ、装甲は必要ない!」

 

「……其れは、何処の執務官の思考かナ梓?」

 

「根性で避けろーー!レシーブできないボールは避けて、次のチャンスを見出すんだ!!」

 

「はい、キャプテン!!」

 

 

ウサギチームも、アヒルチームも、変態的としか言いようがない機動で、ソミュアとルノーの砲撃を避ける!避ける!!避けまくる!!!

ウサギチームのクロエは経験者だから兎も角として、アヒルチームの忍は今年から始めたばかりの素人……であるにも拘らず此れだけの動きが出来るあたり、みほの回避訓練は可成りの効果があるのだろう。

 

 

とは言えⅢ号とクルセイダーでは決定打に欠くので、撃破はされなくとも撃破は出来ない状況なのだが、梓は此れは此れで良いと思ってた。

 

 

「(此れでソミュアとルノーは1輌ずつ私達にクギ付けに出来るから、隊長の元に向かうのは6輌……対して隊長達のチームは3輌だから、少しだけ不利だけど、3輌差なら西住隊長達には大した問題じゃないからきっと勝つ筈。)

 この2輌は、此処で押さえます!――行きます!!」

 

「任せろ副隊長!!根性でブッ飛ばす!!」

 

 

そしてここで、『勝てなくとも負けない戦い』を選択し、勝利はみほに託した――が、其れで梓の大立ち回りが終わる訳でなく、アヒルチームのクルセイダーと共にマジノの部隊を掻き乱しての戦車戦を開始!

 

 

「貴女達は此処で終わりだよ……西住隊長と戦いたいなら、先ずは隊長の一番弟子である私を倒す必要があるからね。

 西住隊長にはまだまだ敵わないけど、其れでも貴女達に後れを取るようなことはしない……隊長から教わった戦い方の全てを持って貴女達を倒します!!!」

 

「そう来なくっちゃネ!……行くよ梓!!」

 

 

其れはすさまじく、幾ら岩場であるとは言え信じられない程の土煙が梓の発した闘気によって発生する――此れもまた戦車乗りの凄さなのかも知れない。

 

何にしても、此方の戦闘もまた決着には時間がかかるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

梓達が奮闘していた頃、進軍していたエクレールは、山岳地帯の開けたフィールドでみほ達と邂逅していた。

みほもエクレールもキューポラから身を乗り出していて、互いにその身から発せられる戦車乗りの闘気は相当な物だが、其れを更に増幅させているのはみほとエクレールの服装と態度だ。

 

エクレールは不敵な笑みを浮かべて胸の下で腕を組んでいるのに対し、みほはパンツァージャケットの上着のジッパーを半分くらいまで下ろした上で右腕を袖から抜いて開いたジッパー部から出して、ジャケットを左肩に引っ掛けた状態となる。(分かり辛い人は、遠山の金さんの桜吹雪のシーンをイメージしてくださいませ。)

 

 

「機動力勝負に加えてARL-44……マジノの改革には成功したんだねエクレールさん?」

 

「えぇ、かなり難儀しましたが改革は出来ました……如何ですかみほさん?」

 

「うん、良いね、最高だよエクレールさん。

 こんな事を言ったら去年のマジノの隊長さんに失礼かもしれないけど、エクレールさんとの試合はドキドキワクワクで興奮が止まらないよ。

 ――でも、此処からは小細工なしだよ。決着を付けようか、エクレールさん。」

 

「望む所です……尤も、貴女の敗北を持ってしてですが。」

 

 

互いの覇気がぶつかった気組は、其れだけで地面を抉りそうな勢いだが、この程度の事は戦車乗りにとっては当たり前の事であり、一々驚く事では無いのだ。

 

 

「行きますよ、エクレールさん?」

 

「受けて立ちますわ、みほさん!」

 

 

そしてそこからは全力全壊の戦車戦が開始される。

ARL-44はティーガーⅡかパンターでなければ撃破出来ないが、ソミュアとルノーではⅣ号しか撃破出来ない――つまり数の差はあまり問題ではなく性能面を考慮すれば、略五分五分と言った所だろう。

実際に、ソミュアとルノーは決定打を欠いて大洗のフラッグ車であるティーガーⅡを撃破出来ないが、大洗もまたARL-44の重装甲に攻撃を阻まれて決定打を与える事が出来ない。

 

其れは互いに隙が無いと言う事なのだが、此のまま隙が無ければドローゲームと言う展開もあり得るだろう――

 

 

「加勢するぞ隊長!!」

 

「エルヴィンさん!!無事だったんだね!!」

 

「我等は、そう簡単にやられる程柔ではないぜよ!」

 

 

だが、此処でⅢ突が合流!

これはみほにとっては嬉しい誤算だ――みほの予測では、Ⅲ突は38(t)と共に撃破されている筈だったのだが、其れが健在な状態で戦闘に乱入して来ると言うのは予測していなかったのだから。

 

が、其れはエクレールとて同じだ。

まさかこの局面でⅢ突が出てくるとは思っていなかったエクレールにとって、これは予想外以外の何者でもなく、其れによって一瞬だけ思考が止まってしまった。

 

其れはほんの一瞬だが、しかし試合中であるのならば其れは確実な隙となる。

 

 

「Es ist jetzt Erika!(今だよ、エリカさん!)」

 

「Es wurde gefunden...... schießen Ein!(分かってる……撃て、アイン!)」

 

「Jawohl Erika!(任せろエリカ!)」

 

 

そしてその隙を逃さず、エリカのティーガーⅡの超長砲身88mmが火を噴き、ARL-44の装甲を容赦なく貫く!

 

 

 

――キュポン!

 

 

 

『マジノ女学院、フラッグ車行動不能!――大洗女子学園の、勝利です!』

 

 

その結果ARL-44は白旗判定となって試合終了!

大洗女子学園は初勝利を掴んだ訳だが、梓率いる偵察部隊は激闘の末に両者戦闘不能になり、決戦の舞台でも小梅のⅣ号がルノーと相討ちになって白旗となっており、正に互角の戦いだった事が伺えるだろう。

 

試合時間こそ聖グロ戦よりも短かったが、試合内容では此方の方が濃かった事が人々の印象に残ったせいか、大洗女学園vsマジノ女学院の練習試合は、大洗を舞台にした戦車道のベストバウトと評価されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

ふぅ……な、何とか勝てた。

最後の攻防、カバさんチームが来てくれてなかったら結構ヤバかったかもだよ……新生マジノの力、堪能させて貰ったよエクレールさん。

 

 

 

「貴女にそう言って貰えるとは光栄ですわみほさん……尤も、勝てなかった悔しさはありますが――ですが、とても楽しい試合でしたわ。」

 

 

――チュ

 

 

「んな!?」

 

「ビズだよ~~!」

 

 

 

って、まさかほっぺにキスされるとは思ってなかったよ!?……優花里さんは威嚇しない、エリカさんは指鳴らさない、沙織さんは変なスイッチをオンにしない!

これは挨拶みたいなモノだからね?――すみませんエクレールさん、大洗は賑やかな物で……

 

 

 

「フフフ、構いませんわみほさん。今回は負けましたが、次は勝たせて頂きます

 全国大会で再び相見える事を願って居ますわ……Rendez-vous a nouveau Miho.(また会いましょう、みほさん。)」

 

「Ich freue mich auf den nachsten Kampf Frau Eclair. (次の戦いを楽しみにしてるよ、エクレールさん。)」

 

試合後の握手をして、試合は終了。

勝てた事は嬉しかったけど、それ以上にエクレールさんが強くなってた事が嬉しかったかな?……やっぱりライバルは強い方が良いからね。

 

で、これから如何しようか?試合後は自由時間って事だったけど……アウトレットでウィンドウショッピングでもしようか?

 

 

 

「おぉ、ナイスアイディアだねみぽりん!ウィンドウショッピングの後はクレープでブレイクタイムだね!

 アウトレットに出店してる屋台のクレープは絶品なんだから、一度は食べておかないと損だよ!エリリンと、うめりんも一緒に行こうよ!」

 

 

 

あはは……テンション高いなぁ沙織さんは。

これも初勝利の影響なのかも知れないから、悪い事じゃないけどね……まぁ、そのプランは魅力的だから、其れで行こう!偶には女子高生らしく、ウィンドウショッピングって言うのも悪くないからね。

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢?」

 

「あら、新三郎?」

 

 

 

 

 

 

 

と思ってた矢先に角刈りの男の人に声を掛けられた――華さんが。

華さんは知り合いみたいだけど、この人は一体誰なんだろう……何となくだけど、これは試合後に一波乱ありそうな気配だよ……まさか、こんな事になるとは思っても居なかったからね。

 

何にせよ、少し面倒な事が起こるかも知れないね、これは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer113『五十鈴家の彼是――新たな門出です』

家元の娘って大変だよね……お母さんの苦労が良く分かるよByみほ      アナタが言うと説得力あるわね……Byエリカ      お家騒動の渦中にありますからねみほさんはBy小梅


Side:みほ

 

 

マジノ女学園との練習試合は、激闘の末に勝つ事が出来た。

其れ自体はマッタク問題は無いね――大洗の皆は試合の楽しさと、何にも代え難い『勝利の美酒』の味を知る事が出来た訳だから。勝った経験の有無って言うのは、試合でも大きく作用して来るから、全国大会前に1勝出来たのは僥倖だったよ。

 

だけど、その試合直後に現れた角刈りのお兄さん……華さんの知り合いみたいだけど、なんか厄介事の予感がしてならないんだよねぇ……

 

 

 

「華、誰そのイケメンさん!!私知らないよ!?」

 

「五十鈴家に奉公している新三郎です。以前に家に来た時は、丁度暇を出している時だったので、知らないのも仕方ありませんよ沙織さん。」

 

「新三郎と言います。皆さんはお嬢のご友人で?」

 

「えぇ、その通りよ新三郎。」

 

 

 

沙織さん食いつき過ぎだよ……確かにこの人は『漢らしいイケメン』って言う感じだけど、反応良すぎじゃないかな?

沙織さんてば、ドレだけ恋人が欲しいんだろう?……其の内、陸に上がった時に悪いナンパとかに引っ掛かるんじゃないかって、ちょっと心配になって来たんだけど……

 

 

 

「心配するだけ無駄だぞ西住さん。

 沙織は口ではあぁ言ってるが、実際に異性との交際は出来ないと思っている――口では色々言っているが、大洗女子学園は読んで字の如く女子校だから、異性との出会いなど皆無だからな。

 仮に陸に上がった時にナンパされても、照れながらはっきり断るタイプだ沙織は……と言うか、沙織が誰かと付き合ったら、私の面倒を見てくれる奴が居なくなるから困る。」

 

「麻子さん、その理由は如何かと思うよ?」

 

「だけど、私は微妙に納得したわ。」

 

「沙織さんは、お母さんキャラですからね~~……其れも典型的な。」

 

 

 

エリカさん、小梅さん……まぁ、確かに言えてるかも知れないけどね。

それにしても華さんの実家で奉公してるって言う新三郎さんが此処に居るって言う事は、華さんの親族が此処に居る確率は決して低くないだろうから、絶対に何かあるだろうね、これは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer113

『五十鈴家の彼是――新たな門出です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、新三郎さんに挨拶をした後に、適当な雑談をして、流れで華さんの実家に行く事になって、あんこうチーム+エリカさんと小梅さん、偶然通りかかった梓ちゃんを加えての計8名は新三郎さんの引く人力車に乗って、大洗の街中を疾走中!

8人も乗った人力車を、これだけのスピードで引く事が出来るだなんて、新三郎さんのパワーとスタミナは相当なんだね?……見た目は若干細身に見えるけど、実は脱いだら凄いのかも知れないね此れは。

 

 

 

「新三郎は、アレで可成り力がありますからね……やろうと思えば、片手で中身の入ったビールケースを2箱は軽く持てると思いますよ?」

 

「イケメンな上に力も有るって、新三郎さんパーフェクトじゃない!?」

 

 

 

うん、確かにそこだけを聞くとパーフェクトかもしれないけど、西住のスーパー家政婦である菊代さんには敵わないと思うよ?

パワーだけなら新三郎さんの方が上だろうけど、菊代さんは現役時代は凄腕の戦車乗りだったし、西住の家政婦になっても仕事は完璧に熟す上に、門下生の指導まで行うからね……しかも美人だし。

 

 

 

「みほ、菊代さんは比較対象にしちゃダメじゃない?あのスーパー家政婦に勝てる人なんて、多分この世に居ないわ。」

 

「みぽりんの家って家政婦さんが居るの?

 確か会長さんが、天下の西住流とかなんとか言ってたけど、みぽりんの家って戦車道の道場かなんか経営してるのかな?」

 

「アレ、そう言えば言ってなかったけ沙織さん?

 そうだよ、私の実家は戦車道の一大流派『西住流』の宗家で、お母さんが師範を務めてるんだ。――自慢じゃないけど、実家は熊本では有名だし、周りは田園風景だけど家其の物は結構大きいからね?

 ……と言うか、敷地内に普通に戦車の練習場があるし。其れも、規模だけなら大洗の練習場よりも大きいのが。」

 

「えぇ!?凄いじゃん其れ!みぽりんってお嬢様だったんだ!!」

 

 

 

お嬢様って言うのとは違うと思うよ沙織さん?って言うか、私は多分お嬢様とは最も縁遠いと思うから――まぁ菊代さんは私の事を『みほお嬢様』って呼ぶけど、其れって家政婦としての呼び方だしね。

 

「それ以前に沙織さん、お嬢様って言うのは、子供の頃に姉妹で遊びに行くのに戦車とか使わないから。」

 

「あ、遊びに行くのに戦車って……」

 

「事実よ沙織。

 子供2人で戦車に乗ってるのを見たのが、私と西住姉妹のファーストコンタクトだしね……まさか、其処から強引に戦車に乗せられて、其れが切っ掛けで戦車道をやるようになるとは夢にも思ってなかったけれど。」

 

「いやぁ、フリフリゴスロリ衣装のエリカさん可愛かったなぁ~~。」

 

「なんだ、逸見さんはゴスロリ趣味か?」

 

「昔の話よ。今はそれ程でもないわ……まぁ、嫌いじゃないけど。」

 

 

 

だよね。

今のエリカさんは、子供の頃みたいなコテコテのゴスロリファッションはやらないけど、ゴスロリのパーツをさり気なく自然に私服に取り入れるタイプだからね。……しかも其れがとっても良く似合ってるから何とも言えないんだよ。

 

時に優花里さん、何か静かだけど如何したの?考え事?

 

 

 

「いえ……つかぬ事をお聞きしますが、西住殿の言う菊代さんとは、若しかして『井手上菊代』殿でありましょうか?」

 

「へ?そうだけど、其れが如何かした?」

 

「やっぱりでありますか!

 如何したもこうしたも、井手上菊代殿と言えば、西住殿の母上である西住しほ殿の現役時代に、常に副官として活躍していた超凄腕の戦車乗りであります!

 当時は、黒森峰の『鬼の副長』として恐れられていた方であります!」

 

 

 

鬼の副長って、新選組の土方歳三じゃないんだから……でも、そんな異名が付くほど菊代さんは凄い戦車乗りだったんだ――まぁ、あのお母さんが副官に選んだんだから、相当の実力者なのは間違いないか。

そして、現役時代は副官としてお母さんを支え、引退後は家政婦としてお母さんを支えてる菊代さんには頭が下がるよ本当に……菊代さんも熊本の女の例外に漏れずにお酒好きだから、今度大洗の地酒でも送っておこうっと。

 

所で華さん、華さんの実家って大洗にあるの?――私の記憶が確かなら、華さんは水戸市の出身だったよね?

 

 

 

「えぇ、確かに生まれは水戸なのですが、私が小学生の頃に水戸の実家を大洗に移しまして、以降は其処で華道教室も開いているんです。

 母が言うには、『水戸は花を生けるには少し賑やかすぎる』との事でしたが……大洗に移ってからの方が五十鈴流華道の門を叩く方が多くなったので、大洗に移ったのは良かったのかも知れません。」

 

「成程、確かにその可能性は捨てきれないね。」

 

西住流も、九州が生まれなのは間違い無いけど、本拠地が熊本になったのって明治年鑑に入ってからだって聞いたからね……そう考えると生まれた地と現在の実家の場所が違うって言うのはそれほど珍しい事じゃないのかも知れないなぁ。

それにしても五十鈴流か……華さんも私と同じで、一つの流派の娘だったんだ。

 

 

 

で、大洗シーサイドステーションを出発してから人力車で移動する事30分……何やら立派なお屋敷に到着。

戦車の練習場の分だけ家の方が敷地面積は大きいけど、母屋の大きさから言ったら略互角――若しかしたら、こっちの方が若干大きいかも知れないよ……此処が華さんの御実家……大きいね?

 

 

 

「大きいのだけが取り柄ですよみほさん。

 此れだけの大規模な屋敷では、新三郎を始めとした使用人が居なかったら、維持管理もままなりませんから……貴方のおかげで五十鈴家は綺麗で居られる、ありがとう新三郎。」

 

「自分には勿体ねぇお言葉ですお嬢。

 自分は、お嬢の役に立てるなら、どんな事でもしやす。其れが、自分の覚悟っすから!」

 

「ふふ、貴方は何時も其ればかりね新三郎。」

 

 

 

新三郎さんは、五十鈴家と言うよりは華さんに心を寄せてるみたいだね?――でも、逆に言うと其れって、華さんがどんな状況に陥っても新三郎さんだけは絶対に味方になってくれるって言う事だろうから、其れは頼もしい感じだよ。

 

 

 

「其れでは、皆さんどうぞ。」

 

「「「「「「「お邪魔しますーーー!!」」」」」」」

 

「お帰りなさいませ華お嬢様、新三郎から連絡は受けております故、奥で奥様がお待ちですよ。」

 

「分かりました、下がりなさい。」

 

「御意に。」

 

 

 

うわぁ、一言で使用人と思われる女の人を下がらせるとは凄いね華さん……私やお姉ちゃんとは違って、華さんは本物のお嬢様なんだね?

其れも、一般的なお嬢様のイメージである、金髪蒼眼縦ロールとは違う黒髪ストレート黒目の純大和撫子な和風お嬢様って言う可成りの希少種だったんだ……ちょっと驚きだよ。

 

 

 

「其れでは皆さん、此方に。」

 

「床は檜張りで、壁には漆喰……豪華だね此れは。」

 

全室和室なのも凄いけど、欄間とかに施された彫刻もスッゴク細かくて、其れを見るだけでも五十鈴家がドレだけ凄い家なのかって事が嫌でも分かるよ……おまけにチラッと見えた床の間の花瓶は、小信楽の名品だったからね。

 

そんなこんなで華さんに案内されて辿り着いた、一番奥の間――『百合の間』……この扉の先に華さんのお母さんが居る訳だね。

 

 

 

「お母様、五十鈴華、ただいま戻りました。」

 

「……入りなさい。」

 

 

 

襖を開けて現れたのは、綺麗な畳張りの和室と、その和室の上座に正座している黒目黒髪で和服を着た女の人――この人が、華さんのお母さんだね。

そして、五十鈴流の家元って言った所かな……同じ家元でも、お婆ちゃんとは随分と雰囲気が違う感じだなぁ……

 

 

 

「お久しぶりですね華、息災なようで何よりです。」

 

「はい、日々健やかに過ごしています、お母様。」

 

「そう、其れは何よりね。

 沙織さんとは久しぶりに会うけれど、他の方々も華のお友達かしら?」

 

「はい。今年から出来た新たな友人です。」

 

 

「初めまして、西住みほです。」

 

「お久しぶりです、百合叔母様♪」

 

「秋山優花里であります!」

 

「赤星小梅です、宜しくお願いします。」

 

「初めまして。逸見エリカと言います。」

 

「……冷泉麻子……」

 

「冷泉先輩、もう少しちゃんと挨拶した方が良いと思います!あ、私は澤梓です!私だけ1年生です!」

 

「初めまして皆さん、華の母である五十鈴百合と言います。五十鈴流華道の家元を務めているわ。どうぞ宜しくね。」

 

 

 

「(家元としてのオーラはあるモノの、威圧的な感じは一切なく、上に立って人を教える立場を理解してる……同じ家元なのに、どうして私の御祖母ちゃんと此処まで違うんだろう?)」

 

「(戦車道と華道の違い……って訳じゃないわよね?

  大学選抜のメンバー候補になった姉さんから聞いた話だけど、大学戦車道の総元締めである島田流の家元は上品な貴婦人だって言ってたし……人間性の違いじゃない?)」

 

「(その可能性は大ですねエリカさん。

  と言うか、あの家元から如何して師範のような娘が生まれたのかすごく不思議です……ぶっちゃけ、西住流を存続させるために、師範と養子縁組したって言われても信じる位に似てませんから。)」

 

 

 

華さんのお母さん――百合さんの挨拶を聞いて、思わず小声でこんな会話をしちゃった私とエリカさんと小梅さんは絶対に悪くない。

だって、本当に家元って言う立場にありながら、御祖母ちゃんとは全然違うんだもん……此のまま御祖母ちゃんが家元を続けてたら、本気で西住流の名は地に堕ちるって確信しちゃった位だよマッタク。

 

 

 

「ふふ、皆良い人そうね?――其れで、この方達とは部活か何かの仲間なのかしら?

 同学年だけならば同じクラスと言う事も有り得るけれど、学年の違う澤さんが居る事を考えると、部活動か同好会の様なモノでの仲間と言う感じでないと、少し無理があると思うのだけれど……」

 

「お母様の仰る通りです……みほさん達は、必修選択科目である戦車道の仲間です。」

 

「戦車道ですって!?」

 

 

 

華さん、思い切りぶっちゃけたね?

其れを聞いて百合さんが驚いてるけど、まぁ其れは当然かな――華道の家元の娘が、畑違いの戦車道なんてやってるって知ったら驚いて然り……お母さんだって、私が戦車道じゃなくて仙道とか忍道の道に進んだら驚くだろうし。

 

「戦車道を御存知なんですか?」

 

「えぇまぁ……高校の頃の友人が、当時の大洗女子学園で戦車道の隊長を務めていましたから。

 その戦車道は20年前に廃止になった筈だけど……今年から復活したと言う噂は本当だったのね――そして、華は其の戦車道を行っているのですか……」

 

「はい。私が指揮する隊長車の砲手として、何時もお世話になっています。」

 

「そう……華、貴女は五十鈴流の娘です。にも拘らず、戦車道を選んだ理由は何です?」

 

 

 

……厄介事の予感的中かな此れは?

華道の家元の娘が戦車道をやってるとなれば、当然家元は其れが何故かを問うよね……華さんは、如何するんだろう?

 

 

 

「確かに戦車道と華道はマッタクの別物であり、私からしたら畑違いも甚だしいでしょう。

 ですが、実を言うと私は、最近自分の生ける花に疑問を感じてしまっていたのです……確かに、綺麗に美しく纏まっていますが、ですが其れだけで、花本来が持つ『美しい花を咲かせる力強さ』をマッタク感じる事が出来ないのです。」

 

「スランプと言う事かしら?」

 

「そう、であるのかも知れません。

 そんな折に、私は戦車道と出会い、主砲を放った瞬間に今まで感じた事のない感覚を覚えました――そして、同時に此の感覚を華道に生かす事が出来れば、私の作品は花の美しさと強さの両面を表現できる物になるのではないかと、そう考え戦車道の道を邁進する事を決めたのです、お母様。」

 

「自分の殻を破る為に敢えてと言う訳ですか。

 ……その向上心は評価しましょう――ですが、戦車道は他のスポーツと違い危険性は可成り高い事は分かっているでしょう?……こんな事は言いたくはないけれど、西住さんの左腕が無いのも、戦車道のせいでは無いの?」

 

 

 

あ、其れは違います。

私の左腕は、小学生の時に交通事故で失ったモノですから、戦車道は無関係です――そもそもにして、砲弾位は余裕で避けられないと、キューポラから身を乗り出して指揮なんて出来ませんから♪

 

 

 

「みほさんなら、避けるだけじゃなくて砲弾素手で止めそうですよね?」

 

「いや、やろうと思えば殴り返せるんじゃない?」

 

「軍神オーラがATフィールドの如く砲弾を無効化する可能性が否定できない気が……」

 

「いや、流石に其れは無理だからね?

 と、言う訳で私の左腕が無い事に戦車道は全く関係ないのでご安心ください――そもそもにして砲手が車外に出る事は有りませんから、特殊なカーボンで保護されてる車内にいる限り危険はありませんよ。」

 

「ならばいいけれど……ですが華、母としては貴女の向上心は喜ばしい事ですが、五十鈴流の家元としては認める事が出来ません。

 五十鈴流家元の娘が、何の相談も無しに戦車道に手を出し、そして其れをお咎めなしとしてしまったら五十鈴流の門下生に示しが付きませんから……よって華、今この時より、貴女が戦車道で見つけた華道の可能性を私に示すその時まで、五十鈴の敷居を跨ぐ事を禁じます。」

 

「……元より、其れは覚悟していました。」

 

 

 

って、其れって事実上の勘当勧告だよね!?

家元としては示しがつかないって言う事だけど、勘当って言うのは相当だよ……だって其れは破門よりも重い処分だから――家元として示しが付かないとは言え、幾ら何でも此れは……!!

 

 

 

「ですが華、貴女ならば必ずや己の殻を破り、私とは違う新たな五十鈴流の花を見せてくれると私は信じています……だから、精進なさい?」

 

「はい、お母様。」

 

 

 

と思ってたら、百合さんは華さんの可能性を信じてたんだ……そう言えば『母としては喜ばしい』って言ってたっけ――百合さんとしても、断腸の思いだったって言う事かな此れは……

 

 

 

「そして、皆さん、娘を……華を宜しくお願いします。」

 

「「「「「「「はい……!!」」」」」」」

 

 

華さんが五十鈴流を勘当されるって言うのは、其れだけを見れば厄介事の極みだったけど、だけど其れは只の厄介事じゃなくて、五十鈴流の家元が、娘の成長を信じての愛のある勘当……言うなれば『愛のムチ』って言うモノだった訳か。

だからこそ、華さんも前を向いていける訳か……華さんからも、百合さんの期待に応えようって言う思いが感じられるからね。……此れが愛のある勘当と、愛のない破門の差かな……私もエリカさんも小梅さんも、御祖母ちゃんの期待に応える気は毛頭ないからね。

 

まぁ、華さんと私達とじゃ、そもそもの理由が違うから仕方ないのかも知れないけど……ホントに御祖母ちゃんは救いようがないよ――いっその事、お母さんが一騎打ち挑んで実力で家元の地位を奪っても良いって思えるもん。

 

 

 

「まぁ、其れをやったら間違いなく師範が勝つでしょうね……常夫さんが魔改造した黄金のティーガーⅠが家元のティーガーⅠを撃滅する未来しか見えないわ。」

 

「うん、間違いなくお母さんが勝つと思う。」

 

なんて事を言いながら、百合さんに一礼して私達は五十鈴家を後にした――大洗港までは、来た時と同様に新三郎さんの人力車だけどね。

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ、お嬢~~~~!!」

 

「泣いては駄目よ新三郎……此れは、五十鈴華の新たな門出なのだから。」

 

 

 

その道中、新三郎さんが号泣しながら人力車を引いてたのは凄い光景だったと思う……と言うか、号泣してる方が引く力が強かったのか、五十鈴家から大洗港までは行きの半分の15分で到着したからね――新三郎さんハンパないよ。

 

 

 

「あ~~!先輩達帰って来た~~!!」

 

「何処行ってたんですか~~?」

 

 

 

で、大洗港で待ってたのは、戦車道履修者の1年生達――私達を待っててくれたのかな?

だとしたら待たせてゴメンね?ちょっと華さんの実家に行って来たんだ。其れで、遅れちゃった。

 

 

 

「そうだったんですか~~?」

 

「うん、ゴメンね待たせたみたいで。」

 

「其れは大丈夫です西住隊長、私達が好きで待ってただけですから――梓もお疲れ様。」

 

「うん、ありがとうあゆみ。待たせてゴメンね。」

 

 

 

所で、皆は何で此処で待ってたのかな?

此処じゃなくて、学園艦の甲板で待ってる事だって出来たと思うんだけど……何か特別な理由があったのかな?

 

 

 

「あい~~!実はマジノの隊長さんから、これを預かってたんです!」

 

「マジノ特製のフランス菓子の詰め合わせらしいんですけど、是非とも隊長さんに渡してくれって……だから、どうしても少しでも早く渡したくて此処で待ってたんです。」

 

「マジノからの……!」

 

聖グロが紅茶のセットを好敵手に送るように、マジノは好敵手と認めた相手にフランス菓子を送る習慣がある……つまり、大洗はエクレールさんからライバル認定されたって事だよね?

 

古豪から、強豪へとランクアップしたマジノからライバル認定された大洗の実力は生半可な物じゃないって、自信を持って言う事が出来るよ!

 

 

 

「聖グロとマジノ、全国大会常連組の内2校にライバル認定されたんなら、大洗の実力は間違い無く低くない――否、大洗は強い!でしょ?」

 

「大会まではまだもう少しだけ時間がありますから、大洗の実力は大会までに更に伸びると思いますからね?」

 

「そして、大会の試合でのレベルアップも考えられますから、決勝まで駒を進める事が出来れば、黒森峰を倒す事だって夢じゃありません!!

 と言うか、西住隊長なら、きっとそれを出来る筈です!」

 

 

 

うん、勿論それをやる心算だよ梓ちゃん。

何よりも私とエリカさんと小梅さんは、黒森峰の戦い方をよく知ってるし、私は誰よりもお姉ちゃんと近坂先輩の戦い方を知ってるから、戦術的アドバンテージは此方に有るからね。

 

まぁ、其れも先ずは1回戦を勝たないとなんだけどさ。

 

でも、私達は誰が相手でも負ける心算は毛頭ない――だから、てっぺんだけを目指して行くよ!!

マジノ戦での勝利を足掛かりに、目指せ全国制覇!!

 

「Panzer Vor!!」

 

「「「「「「「「「「Jawohl!」」」」」」」」」」

 

 

 

これで、大会前にすべき事は全てやった――後は大会を勝ち抜くだけ……だけど、大洗と戦う学校は覚悟を決めておいた方良いかな?

無名の弱小校と侮ってたら、大洗の大波に呑まれるからね……まぁ、誰が相手でも大洗の大波はその全てを飲み込むモノなのかも知れないけどね。

 

先ずは1週間後の対戦抽選会――出来るだけそこで良い番号を引かないとだね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

其れから1週間後、遂に高校戦車道全国大会の抽選会の日がやって来た――今年の抽選会場は日本武道館だね?

あの甲子園の抽選会も行われる此の場所で、戦車道の大会の組み合わせ抽選が行われるって言うのは、其れだけ戦車道が盛り上がってる証だから悪い気はしないからね。

 

この抽選会場には、戦車乗り独特の闘気が此れでもかって言う位に蔓延してるけど、これ位の闘気は秘めてないと話にならないから、寧ろ此の闘気には心地よさすら感じるからね。

 

そして抽選会に集まったのは、いずれ劣らぬ強敵ばかり……どこもかしこも一筋縄でいく相手じゃないけど、だからこそ燃えてくるよ!!

 

 

 

「貴女なら、そう言うと思ったわみほ――なら極めてやりましょう、戦車の頂点!!」

 

「元より、その心算だよエリカさん!!!」

 

何よりも、無名の弱小校が、常勝不敗の黒森峰を倒したとなれば絶対に話題になるからね――この大会、絶対に制して見せるよ!!

 

隻腕の軍神の力、見せてあげる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

キャラクター補足

 

 

 

・五十鈴百合

 

五十鈴華の母親で、五十鈴流華道の家元。

華同様の美しい黒髪と黒目の持ち主で、この上なく和服が似合う生粋の日本美人。――華の母親ではあるが、華の様な凄まじい食欲の持ち主ではない。

 

 

・新三郎

 

五十鈴家に奉公している使用人。

細身でありながら其の力はすさまじく、女子高生が8人乗った人力車を軽々と引く位のモノ。

幼少の頃から華を知ってるせいか、五十鈴家よりも華に思い入れが強い様子。

 

 

 

 

 




キャラクター補足



・五十鈴百合

五十鈴華の母親で、五十鈴流華道の家元。
華同様の美しい黒髪と黒目の持ち主で、この上なく和服が似合う生粋の日本美人。――華の母親ではあるが、華の様な凄まじい食欲の持ち主ではない。


・新三郎

五十鈴家に奉公している使用人。
細身でありながら其の力はすさまじく、女子高生が8人乗った人力車を軽々と引く位のモノ。
幼少の頃から華を知ってるせいか、五十鈴家よりも華に思い入れが強い様子。





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Panzer114『第63回戦車道高校大会抽選会です』

抽選会……其れは隊長のドロー力が問われる場Byみほ      間違ってはいないけど、正解とも言い難いわそれは……Byエリカ      テストなら△って言う所ですね♪By小梅


Side:みほ

 

 

第63回戦車道全国高校大会の抽選会場である日本武道館は、戦車乗り特有の闘気で満ち溢れてる……やっぱり、抽選会独特の雰囲気って言うのは堪らない感じだよ。戦車乗りとしての本能が刺激される気分だね。

本当なら戦車隊全員で抽選会に来たかったんだけど、会長さんが『マジノには勝てたけど、大会はこんなもんじゃないだろうからアタシ等は練習してるよ。』って言って抽選会に参加してるのは、私とエリカさんと小梅さんと梓ちゃんとクロエちゃん。

そして戦車の知識が有るって言う事で、マジノ戦後に作戦参謀に昇格した優花里さんとエルヴィンさんの計7人……間違いなく一番参加人数の少ない学校だろうね。

 

 

 

「いやはや、始めて来たが此れは凄いな?

 まるで此れから世界大戦が始まるんじゃないかと言う位の熱気だな……君もそう思うだろ秋山?」

 

「同感でありますエルヴィン殿!まさか、これ程の戦車乗りの闘気を間近で感じる事が出来るとは思っても居ませんでしたから、其れを味わえただけでも感動でありますよ!!」

 

「優花里……貴女、今のセリフだけを聞くと大分危ない奴みたいに聞こえるから注意しなさいよ?」

 

「善処するであります逸見殿!!」

 

 

 

とは言え、人数の少なさで周りの学校に圧倒されるなんて言う事も無く、大洗の面々は至って平常運転。

経験者なら兎も角として、今年から始めたばかりの優花里さんとエルヴィンさんが平常運転って言うのは凄い事だね?メンタル面で言うなら、経験者5人に次ぐ強さだって言えるよ。……其処に同率で華さんも加わるけどね。

 

 

 

「確かに華さんのメンタルの強さは凄いですよね?」

 

「愛のある処分とは言え、実の母親からの勘当を喰らっても、ショックを受ける事は無かったですから……で、その事をチームの皆に話したら、あゆみが五十鈴先輩をロックオンしちゃったんですけど如何しましょう西住隊長?」

 

「いっそ、華さんに吶喊させれば良いんじゃないかな?」

 

冗談じゃなくて本気でね。

華さんもあゆみちゃんも砲手だからお互いに学ぶ事も多いだろうし、華さんの『アノ』集中力をあゆみちゃんが身に付けたら、其れは大洗にとっても有難い事だからね。

 

これは、ポジションごとのディスカッションも、練習の中で行った方が良いかも知れないね――うん、本格的に考えてみよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer114

『第63回戦車道高校大会抽選会です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抽選会場に集まってる学校は全部で16校――どこもかしこも強いのは間違い無いけど、その中でも特に強烈な闘気を放ってるのはサンダースとプラウダとアンツィオ。

其れとは少し変わって、強いけど流れる水の様な静かな闘気を纏ってるのが聖グロで、風の様に流れる闘気を放ってるのがマジノだね。

ヤッパリ強豪、古豪チームが注目を集めてる訳なんだけど、その中で私達が注目されてるのって……

 

 

 

「まぁ、間違いなく貴女とお供2匹のせいでしょうね。」

 

『ガウ♪』

 

『キュ~♪』

 

「だよねやっぱり。」

 

隻腕って言うだけでも注目されるのに、虎と狐を引き連れてたら注目もされるのは当たり前だよね……去年の抽選会場の東京ドームは、中に入れて貰えなくて外で待たせてたから、虎と狐を見た人はいても其れが私のお供だとは思わなかっただろうし。

 

其れは其れとして、此れだけのチームが集まってるにも拘らず、会場には本来居るべきの学校の姿がない――黒森峰の戦車隊が、未だ会場入りしてないんだよね。

まぁ、未だ抽選開始までは時間があるし、お姉ちゃんが隊長である以上は遅刻なんて言う事は絶対に無いと思うんだけど……まさか事故とかがあった訳じゃないよね!?

 

 

 

「其れは杞憂よみほ。噂をすれば何とやら……黒森峰のお出ましよ。」

 

「成程、王者は遅れて現れる、ですか。」

 

 

 

王者は遅れて現れる……名言だね小梅さん。

でも、お姉ちゃんを先頭にして黒森峰が会場入りした瞬間に、会場の空気は張り詰めたモノになったのは間違い無い――黒を基調とした揃いのパンツァージャケットを纏っての一糸乱れぬ行進には、圧倒的な迫力があるからね。

黒森峰の両隣であるヴァイキング水産高校や、BC自由学園は恐慌状態だよ――BC自由に至っては、三白眼の褐色肌の人と、ブロンドヘアーの人が『王者の隣とは光栄なのか不幸なのか……』『此れが王者のオーラ……素晴らしい』とか、意味の分からない事を呟いてたからね。

……可成りは距離が離れてる大洗の面々にまで聞こえるボリュームで言った事を呟いたとは言えないのかも知れないけど――何方かと言うと静かな絶叫って言った方が近いかな?

 

 

 

「其れは分かりませんが……しかし、他校の生徒として黒森峰を見ると、一体どれだけ異様な集団なのかが良く分かりますよみほさん。

 大凡女子高生とは思えない程の厳しい表情に、まるで軍隊であるかのような厳粛な雰囲気……中身は普通の女子高生だって言う事を知ってる私でも、思わず唾を飲みましたよ。」

 

「私は中学の頃は黒森峰は対戦相手だったから慣れてるけど、中等部と高等部では雰囲気が可也違うのは間違いないと思う……特にお姉ちゃんと近坂先輩は中学の時とはまるで別人だよ。

 去年はそんなに感じなかったけど、仲間から対戦相手に変わっただけで随分とハッキリと感じるようになるモノだね……」

 

ホント、小梅さんの言うように私だってホンの一瞬だけど黒森峰の雰囲気に呑まれそうになったからね?……でも、いくらお姉ちゃんが率いる黒森峰であっても、私も大洗の皆も呑み込まれないよ!

 

 

 

「呑み込まれる訳ないでしょみほ。雰囲気に呑まれてるようじゃ、試合で良い動きをする事なんて出来ないし、ましてや勝つ事なんて出来やしないわよ。」

 

「寧ろ、私達で他校を呑み込んでやりましょう、西住隊長!」

 

 

 

逆に私達で他校を呑み込むか……其れも良いね梓ちゃん。――大会が始まる前から、大洗女子学園に注目の的を集めるって意味でも悪くないと思うしね。

 

 

 

 

 

 

と言う訳で始まった抽選会。

各校の隊長が壇上に上がって、箱の中からクジを引いて行って1回戦の組み合わせが決まる訳だけど、クジを引く順番は、去年の優勝校がトップで引いて、次に準優勝校、ベスト4は2校同時に引く事が決まってて、残りの学校は運営側がクジとかアミダなんかでランダムに引く順番を決めてるみたい……まぁ、黒森峰に居た頃に直下さんから聞いた情報だから、ベスト4以外のクジ引き順に関しては可成り怪しいモノであるのは否定できないけどね。

 

そのベスト4の1回戦は見事にバラバラになったね?

王者黒森峰は13番、準優勝のプラウダは3番、ベスト4の1校であるサンダースは7番、もう1校のベスト4の青師団は10番と言う結果になって、準決勝まではぶつからない形になったね。

其れからクジ引きは続いて行き、聖グロは9番で青師団との1回戦、アンツィオが6番でマジノが5番……アンツィオvsマジノは若しかしたら結構良い試合になるかも知れないね。

 

 

 

『続いて、県立大洗女子学園。』

 

「はい!」

 

そしていよいよ大洗の番。

抽選箱は壇上の中央に位置してるから、其処に行くまでには如何したって裂の真ん中に居るお姉ちゃんの前を通る事になる訳で……自然と視線を向ける事になっちゃったのは仕方ないよね。

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

お姉ちゃんも私の視線に気付いて視線を向けて来たから、暫し見つめ合う事になっちゃったんだけど、此れには会場がどよめいて、マスコミからはカメラのフラッシュが凄い事に……まぁ、当然と言えば当然かな?

戦車道界隈に於いて『西住』の名は有名だし、黒森峰の前人未到の10連覇の偉業達成の立役者って言われてる西住姉妹が、全く異なる学校の隊長として抽選会に参加して、しかも壇上で視線を交わしたとなれば、其れだけで可成り記事になるだろうからね。

 

でも、だからと言って私もお姉ちゃんも何を如何する訳じゃない――軽く笑って其れでお終い。戦車乗りには其れでも充分だから。

其れでは気を取り直してクジを引かせて貰います……大洗の今のレベルを考えれば、1回戦は知波単かポンプル辺りがベターなんだけど、強豪と当たるなら其れは其れで大歓迎だよ。

 

果たして私達の初戦の相手は何処になるのか……戦車道の神様は如何応えるかな?――ドロー!!

 

 

 

『県立大洗女子学園、8番。』

 

 

 

引いたクジの結果は8番……って言う事は、1回戦は7番を引いたサンダースとって言う事になるね?――今の大洗にとっては練習試合で戦った聖グロやマジノ以上の強敵だけど、相手にとって不足は無い、寧ろ大歓迎だよ!

1回戦が無名の大洗だって言う事で喜んでたのは今年入学したサンダースの新入生かな?……少なくとも、2年生以上の生徒は私が大洗の隊長だって言う事を知って息を飲んでたみたいだからね。

尤も壇上に居る隊長のケイさんと、中学時代の戦友であるナオミさんだけは、私と戦える事を楽しみにしてたみたいだけど。

 

そして全ての抽選が終わった結果、組み合わせは、

 

 

・大会1日目

 

・ヴァイキング水産高校vsコアラの森学園

・サンダース大学付属高校vs大洗女子学園

・聖グロリアーナ女学院vs青師団高校

・BC自由学園vs継続高校

 

 

・大会2日目

 

・プラウダ高校vsポンプル高校

・マジノ女学院vsアンツィオ高校

・ヨーグルト学園vsワッフル学院

・黒森峰女学園vs知波単学園

 

 

 

って言う結果に――少なくとも黒森峰とプラウダと聖グロが1回戦を落とす事は無さそうだね。

去年の4強がばらけた上に、黒森峰とプラウダ以外の1回戦はどんな結果になるか分からない試合ばかりだから、此れは割と良い感じの組み合わせになったと思うよ。

 

で、組み合わせが決まったらそれぞれ1回戦を戦う学校の隊長同士が握手をする訳なんだけど、此れがまたマスコミのシャッターの凄い事。

全国紙では黒森峰が凄いんだろうけど、地方のローカル紙は地元校をピックアップするモノだから、明日の茨城新聞の一面には、私とケイさんが握手をしてる写真が掲載されるんだろうなぁ……ちょっと恥ずかしいかも。ケイさんってば握手するだけじゃなく、空いた左手で肩を抱き寄せて来たからね?

アメリカンな校風のサンダースらしいと言えばらしいけど、流石にちょっと照れたよアレは……お姉ちゃんが微妙に殺気を放ってたのは無視するとしてね。

 

其れで、抽選が終わった後は今度は選手宣誓を行う人を決めるんだけど、此れは『選手宣誓を行いたい隊長は、挙手してください』って言うアナウンスが流れた後で希望者が挙手して、其の後で抽選を行う形で決定される。

挙手したのは私と、ケイさん、アンチョビさん、エクレールさん、西さん、ノンナさんの計6名……ノンナさんは絶対にカチューシャさんの代理だよね?組み合わせ抽選もノンナさんだったし。

カチューシャさん具合でも悪いのかな?

 

 

 

「いえ、カチューシャは今日の抽選会が楽しみで眠れなくなってしまい、夜遅くまで起きていた結果出発の時間になっても、其れこそ布団を引っぺがそうが、寮内のスピーカーボリュームを最大にしてモーニングコールしても、フライパンを金槌でガンガン叩いても目を覚ましてはくれなかったので、副隊長である私がカチューシャの代理で抽選会に参加したのです。」

 

「そうだったんですか……取り敢えず病気じゃなくて良かったです。」

 

楽しみで眠れないって、カチューシャさん小学生じゃないんだから……いや、小学生と見間違えるくらいに小さいけど。

兎も角、此の6名でクジを引いて決定される訳で……全員がクジを引いて、その結果は――今回は、私の引きの強さが勝ったみたいだね?

 

 

 

「流石は軍神みほだわ、見事選手宣誓の権利を勝ち取るとはExcellent!」

 

「西住妹の選手宣誓……隻腕の軍神の宣誓となったら、こりゃ盛り上がるぞ!」

 

「ふふ、素敵な選手宣誓を期待していますわ、みほさん。」

 

「西住みほ殿が、何ゆえ大洗女子学園と言う場所で隊長をしているのか、些か謎でありますが、此れは楽しみであります!」

 

「カチューシャに伝えたら喜びそうなモノですが、みほさんの選手宣誓を楽しみにして今回と同じ状態になって、開会式に不参加と言うのは幾らなんでも笑えませんので当日まで伏せておいた方が良さそうですね。」

 

「……其れが良いと思いますノンナさん。」

 

で、私が選手宣誓をする事が決まった事で、またフラッシュが……明日の茨城新聞の一面は私とケイさんのツーショット付きの大洗の1回戦決定か、其れとも選手宣誓は大洗の隊長のどっちになるのやら。

其の一団の中によし恵ちゃんの姿があったのを確認すると、明日の学園新聞の内容は決定だけどね――会長さん、よし恵ちゃんも会場入りさせるならそう言って下さいよ……彼女は、カメラマンとしてって言う事なのかも知れないけどさ。

 

 

 

「1回戦はサンダース、のっけから強敵とってのは如何にも貴女らしい引きだわみほ――BC自由学園とかコアラの森と当たるよりもキツイのは間違いないけど、だからこそ此の1回戦を突破できれば皆の自信になるわね!」

 

「其れもですけど、選手宣誓の権利まで勝ち取るなんて、凄いです!インパクトのある選手宣誓を期待してます西住隊長!」

 

「エリカさん、梓ちゃん……うん、試合も選手宣誓も全力で頑張るよ!!」

 

其れで、此れで抽選会は終わりなんだけど此れから如何しようか?

学園艦に戻るにしても、東京湾から大洗の学園艦への連絡船が出るのって18時だからあと5時間後……凄く時間が余ってるんだけど、折角だから東京観光でもしちゃおうか?

抽選会参加者は公欠扱いだから、此れもある意味で特権だしね。

 

 

 

「ウム、其れは名案だな隊長。東京見物と言うのも良い物だ。」

 

「ならスカイツリー行ってみたいです!!」

 

「秋葉原行ってみたいネ。二次元文化の聖地と言うのを見てみたいヨ。」

 

「明治神宮で必勝祈願でもして行きましょうか?」

 

「いや、其処は陸軍名将の乃木大将が祀られてる乃木神社の方がよくないかしら小梅?」

 

「戦車道は陸戦ですから、其方の方が合ってるでありますよ逸見殿――まぁ、乃木将軍の時代に戦車は有りませんでしたが。」

 

 

 

あは、皆ノリノリだね?

其れじゃあ東京観光に向かって、パンツァ~……

 

 

「「「「「「「フォーーー!!」」」」」」」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

と言う訳で東京観光をした訳だけど、結構色んなところに行けたね?

先ずはクロエちゃんの希望の秋葉原に行ったら、駅を降りてすぐにメイドさんと遭遇して、アニメと漫画の専門店では初音ミクに会って、カードショップでは遊戯王の歴代主人公(DM~5D's)に扮したレイヤーさんと写真を撮った序に、生デュエルを見せて貰って、コスプレの完成度が高いだけじゃなくて、プレイングもまるでアニメを見てる様な素晴らしさに吃驚したよ……特に闇遊戯の人は、何であのデッキを回せたのか謎だね。

 

其れからスカイツリーの展望台に上ったら、まさかの雲が下に有るって言うレアな光景を見る事が出来た。此れは運が良かったね――展望台から地上までノンストップのエレベーターで行ったら耳の奥が痛くなったけど……まさか、飛行機に乗らずにアレを経験するとは思わなかったよ。

 

乃木神社では必勝祈願のお参りをして、皆でお御籤を引いて、その結果は私と梓ちゃんが大吉、エリカさんと小梅さんと優花里さんが中吉、そしてエルヴィンさんとクロエちゃんが吉って言う結果。

皆いい結果だったけど、私の大吉の細かい運勢は、『勝負事・苦戦しても勝てる。恐れず大胆に行くべし』って出てたから、何とも良い感じがするね此れは。

 

で、一通りの観光を終えた私達は、戦車喫茶『ルクレール』で休憩中。

優花里さんが教えてくれた戦車をテーマにした喫茶店なんだけど、ウェイトレスさんが軍服を着用してたり、店内は戦車関連のポスターが幾つも張られている上に、呼び鈴はFIAT2000戦車……徹底ぶりが半端ないよ。

しかも、ケーキは戦車型で、其れをドラゴンワゴンの模型が運んでくるんだから、完全なる戦車マニアの為の喫茶店だね。

 

時に優花里さん、上野駅前のヤマシロ屋で戦車のプラモデル沢山買ってたみたいだけど……

 

 

 

「此れは趣味なんですよ~~。

 折角なので、大洗の戦車隊の戦車を揃えてみようと思いまして……折角なので製作用と保存用を買った次第であります!!」

 

「あ、そうなんだ……」

 

「君は本当に戦車が好きだな秋山……まぁ、私もドイツ戦車が大好きだから人の事は言えないかも知れないが。

 まぁ、其れは良いとして、1回戦の相手であるサンダース大学付属高校と言うのはどんな学校なんだ隊長?名前から察するに、アメリカ戦車を使ってくるのだとは思うが。」

 

 

 

此処でエルヴィンさんが、大会の事に話題を転換して来たか……うん、確かに作戦会議は大事だからね。

サンダース大学付属高校は、戦車道を行ってる学校の中では保有戦車数が一番多い裕福な学園だよ――学園艦のサイズも、大洗の2.5倍って言うマンモス校だからね。

そして、エルヴィンさんの予想通りアメリカの戦車を使ってくる学校だよ――M4シャーマンをメインに、ファイアフライも織り交ぜた部隊編成って言うのが特徴かな。

 

戦車の性能的には最強中戦車って言われるパンターと、最強重戦車の呼び名も高いティーガーⅡがあって、高性能中戦車のⅢ号とⅣ号、足の速いクルセイダーに待ち伏せ最強のⅢ突がある大洗の方が有利なんだけど、ファイアフライには中学の時に、私の車輌で砲手を務めてたナオミさんが乗ってるから油断はできないかな?

ナオミさんの超正確な砲撃は、的確に敵戦車のウィークポイントを狙ってくるからね。

 

とは言え、サンダースが1回戦からファイアフライを導入して来るかどうか不確定――ケイさんの性格を考えれば、導入してくる可能性は高いけど、こればかりは当日までは分からないからね。

せめて、事前に出てくる車輌が分かれば良いんだけど……

 

 

 

「ふむ、そう言う事ならサンダースを偵察して見ては如何だ?試合前の偵察はルールで認められているからな。」

 

「偵察でありますか、其れも手でありますな?」

 

「でも、バレたら捕まって拘束される……費用対効果を考えたら、あんまりお勧めは出来ないわよ?……学校によっては、トンデモない扱いされる事も少なくないからね。」

 

「因みに、黒森峰は捕らえたスパイは如何してたんですか赤星先輩?」

 

「通称『アウシュヴィッツ収容所』に強制連行して、試合当日まで独房の中です――まぁ、これも一種のロールプレイの範疇なので、独房でもシャワーとトイレは有りますし、ちゃんと食事も支給されるんですけどね。」

 

「まぁ、三食ソーセージとジャガイモってのはキツイと思うけどね。私だったら3日で音を上げるわマジで。」

 

「うん、其れはドイツ人でもキツイ。」

 

 

 

だよね……其れで、何ナチュラルに混じってるのかなお姉ちゃんと直下さんは?

 

 

 

「「「「「「え゛?」」」」」」

 

「なんだ気付いてたのかみほ?」

 

「思いっきり溶け込んでだけど、気付かない筈ないでしょお姉ちゃん?其れに直下さん。

 滅茶苦茶ナチュラルに混ざってくれてたから凄く馴染んでたのは事実だけど、誰も気付かなかったらどうする心算だったのか一言。」

 

「そのまま気付かれるまで普通に混じっていただけだが?」

 

「……直下さん、お姉ちゃんは戦車以外では時々ポンコツな所があるからその辺をサポートして欲しいんだけど、頼めるかな?」

 

「あ~~うん、了解。時に必勝祈願でお賽銭備えて柏手打たせて貰っても良いでしょうか隻腕の軍神殿!」

 

「うん、其れは止めてね直下さん。」

 

で、なんでこんな所に居るのお姉ちゃん?

 

 

 

「なに、偶然私達も此処に来たんだが、みほ達が居たのでちょっとな。 

 其れは其れとして、如何やら大洗でも戦車道を続ける事が出来た様だが、中々良い仲間に出会えたようだなみほ?……その天然パーマの子と、ドイツの軍帽を被ってる子は中々やりそうだからな。」

 

「秋山優花里さんとエルヴィンさん――あぁ、エルヴィンって言うのはソウルネームで本名は松本里子さんだけど、2人とも戦車に詳しいから中々頼りになるんだ。」

 

もっと言っておくと、優花里さんは私のパンターの装填士で、エルヴィンさんは他の戦車の車長だよ――どんな戦車に乗ってるかは、今は秘密にしておくけどね。

 

 

 

「まぁ、そうだろうな。

 順当に勝ち上がって行けば、お前達と当たるのは決勝戦だ……だから、其処まで勝ち上がって来いみほ。――其処で雌雄を決しよう。」

 

「勿論、言われなくてもその心算だよ。」

 

尤も、1回戦がサンダースだからそう簡単には行かないと思うけどね――そうでしょ、ケイさん?

 

 

 

「ふっふ~ん?気付いてたのねみほ?」

 

「ケイさん程の戦車乗りのオーラは、ドレだけ巧く隠しても同じ戦車乗りには分かりますから。」

 

「成程ね。

 でも、私が危惧してるのはサンダースが大洗に勝てるのかって言う事よりも、黒森峰が1回戦を突破できるかって事なのよね……みほだけじゃなく、エリカと小梅まで失った黒森峰は、可成り戦力が下がってるみたいだし?」

 

「……何が言いたい、ケイ?」

 

「言わないと分からないまほ?……みほ率いる遊撃隊のない黒森峰なんて恐れる相手じゃないって言ってるのよ。Did you understand?」

 

「貴様……!」

 

 

 

は~いスト~ップ!!

ケイさんはお姉ちゃんを挑発しないで下さい!そしてお姉ちゃんも其れに乗らないで!――私の事が出て来たから激昂するのは分からないでも無いけど、黒森峰の隊長が他校の隊長の挑発に乗ったとか笑えないから!!

 

 

 

「く……確かにそうだな。

 まったく、お前はダージリンの次に敵に回したくないよケイ……お前やダージリンの前では、冷徹な黒森峰の隊長で居るのに多大なエネルギーが必要になるからな。」

 

「貴女は気真面目過ぎるのよまほ……だから、私やダージリンのからかい対象になるのよ――少しは肩肘張らずにいても良いんじゃない?」

 

「……善処するよ。」

 

 

 

と思ったら、此れは如何やらちょっとしたコミュニケーションだったみたいだね……お姉ちゃんが誰かにからかわれてるって言う光景はちょっと新鮮だったかも。

まぁ、其れには安心したけど、だけど試合は全力で行きますよケイさん?

 

「今大会は大洗のジャイアントキリングの連発にする心算ですから……サンダースにはその最初の犠牲者になって貰いますからその心算で。

 覚悟は良いですね?」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「うわお!相変わらずみほの闘気は凄いわね?……OK、楽しみにしてるわ大洗との1回戦を!」

 

「はい、私も楽しみにしていますよケイさん!」

 

最高の試合にしましょうケイさん――其れこそ、戦車道の歴史に残る位の試合をね!

でも、最高の試合をするのは当然ですけど、此れだけは言わせて貰いますケイさん……勝つのは私達大洗女子学園です!――黒森峰の遊撃隊で車長を務めていた私とエリカさんと小梅さん、私の一番弟子である梓ちゃんとその右腕のクロエちゃん、そして素人でありながら聖グロと引き分け、マジノに勝った大洗の面子が力を合わせれば、どんな相手にだって勝てるって信じてますから。

 

 

 

「Great!其れ位の気概が無いと面白くないわ……1回戦、楽しませて貰うわみほ。」

 

「その期待には応えますよケイさん。」

 

「みほとケイの戦い……瞬きすら許さんかもな。」

 

 

 

そんな試合にする心算だからねお姉ちゃん。――ふふ、此れは最高の1回戦になりそうだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言う事があった後で、東京湾に移動して連絡船で大洗に戻った訳なんだけど……次の日に、マッタク持って予想外の事が起こってくれたね。

まさか、優花里さんが学校を欠席するなんて事は、全然考えても居なかった事だったよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer115『試合前の偵察は、合法だから無問題です』

優花里さんを『ゆかりスネーク』と呼んでも良い気がして来た……Byみほ      其れは止めた方が良いと思うわ……Byエリカ      いざと言う時は段ボールに身を隠せばOKです!By小梅


Side:みほ

 

 

優花里さんが欠席してから今日で三日目……流石に心配になって来たよ此れは?

優花里さんが欠席したって言うのは予想もしてなかった事だけど、欠席の理由は何か聞かされてない小梅さん?――こんな事を言うのは少しアレなんだけど、優花里さんが体調不良で学校を休むとは思えないんだよね?

日々トレーニングはしてるみたいだから身体は丈夫だろうし、何よりも大好きな戦車と毎日触れ合えるって言うのは、優花里さんからしてみたら夢の様な事だし……なんて言うか欠席する理由が見当たらないんだよ……。

 

 

 

「私も詳しい事は知らないんです。

 只、担任の先生が言うには、優花里さんは会長さんに『少しの間欠席します』って届を出してるみたいで……何の為にそんな事をしたのか謎すぎますよ。」

 

「其れは確かに謎だね……」

 

態々会長さんに届けを出して欠席するとか、一体優花里さんは何をしようとしてるんだろう――エリカさんは分かる?

 

 

 

「……私の予想ではあるけど、若しかしたら優花里はサンダースの偵察に行ったのかも知れないわ――サンダースがどんな布陣で来るのかが分かれば貴女も作戦が立てやすいでしょうからね。

 優花里は、貴女の為に思い切った行動に出たのかも知れないわよ?」

 

 

 

偵察!

確かに試合前の偵察はルールで認められてるけど若しもバレて捕まった時には、当該校との試合までは拘束されるリスクも有るのに……!

しかも、諜報活動の経験があるなら兎も角、優花里さんは多分そう言う事はした事が無いだろうからバレる可能性は可成り高い――私の為にやってくれた事だろうから叱責とかをする心算は無いけど。

 

取り敢えず今日の放課後に優花里さんの家に行ってみる事にしよう――其処で分かる事があるかも知れないからね。

 

 

 

「OK、了解よほ!」

 

「任せて下さいみほさん!」

 

 

 

何となく、こういう返事を聞くと遊撃隊の事を思い出しちゃうのは、うん、仕方ないよね。

兎に角、優花里さんが居ないとスッゴク困る事になるから、取り敢えず優花里さんの家に行って情報収集をしないとだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer115

『試合前の偵察は、合法だから無問題です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言う訳でやって来ました優花里さんの実家……元々の予定は、私とエリカさんと小梅さんと梓ちゃんで来る心算だったんだけど、『チームメイトだから!』って言う沙織さんの強烈な押しに負けて、あんこうチームの面々も一緒に優花里さんの実家に。

会長さんが書いてくれた優花里さんの家までの地図を辿って到着したのは秋山理髪店――優花里さんの家って床屋さんだったんだ……少し意外だったかも。

アレだけの戦車マニアだから、てっきりその関係の仕事をしてるのかと勝手に思ってたから。

 

 

 

「隊長、幾ら何でも流石に其れは短絡過ぎるんじゃないでしょうか……と、言いつつ私もちょっとだけそうなんじゃないかと思ってましたけど。」

 

「そんな安直なと言う思いを持ちつつ、その可能性を捨てきれなかった私が居るわ。」

 

「……私も優花里さん自身から実家が床屋だと言う事を聞くまで、戦車関連の仕事をしているのかと思っていました。」

 

「……経験者は申し合わせたかのように秋山さんの実家の仕事を勝手に想像していたのか……」

 

「流石に其れはちょっとあり得ないよみぽりん達……」

 

「仲が宜しいのですね皆さん♪」

 

「華、其れ多分違うよ!?否、仲が良いのは間違ってないけどさ!?」

 

「沙織さん、毎度突っ込み役お疲れ様です♪」

 

まぁ、お店の前で公開コントやってても仕方ないし、中に入るとしようか?――すみません、おじゃましま~す!

 

 

 

「いらっしゃい!」

 

 

 

扉を開けて中に入ったら、出迎えてくれたのはパンチパーマに髭と眼鏡のおじさん……この人が優花里さんのお父さんなのかな?

えっと、初めまして西住みほです。学校では優花里さんにお世話になってます♪

 

 

 

「同じく逸見エリカです。」

 

「赤星小梅です。優花里さんとは同じクラスで親しくさせて貰ってます。」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ!?ゆ、優花里の友達だってぇ!?」

 

 

 

って、未だ全員の自己紹介が終わってないのに、何だかスッゴク驚いてるんだけど大丈夫かな?……と言うか、今の絶叫は絶対に近所迷惑レベルの大きさだったよね?

優花里さんの友達が家に来たのが、そんなに驚く事なのかなぁ……?

 

 

 

「アラアラ、如何したのお父さん、そんなに大声出して?」

 

「大声出してって、大声も出すぞ母さん!

 あの優花里の友達だって言う人達がやって来たんだぞ!それも7人も!!小学校、中学校と真面な友達がいなくて、高校に入ってからも親しい友人なんて出来なかった優花里が、今年は7人も友達を作ったなんて、これが驚かずにいられるか?」

 

 

 

で、店の奥から現れたのは何か優しそうな女の人……多分優花里さんのお母さんだよね?

クセ毛な所が似てるし、目元なんかは二重瞼であるところも含めてそっくりだもん。

……そして驚くべき事にスッゴク若いよね見た目が?多分お母さんと同じ位だと思うんだけど、可成り若い!お母さんだって歳の割に若く見えるけど、この人はそれ以上だよ!

 

 

 

「其れは驚くべき事だけど、友達が出来たんだから喜ばしい事でしょ?少し落ち着きましょお父さん?」

 

「此れが落ち着いていられるか!

 優花里の友達だって言うのだけでも驚きなのに、其れが揃いも揃って美少女と来てるんだぞ母さん!あんな戦車オンリーで女の子っぽさに欠けてる優花里に、こんな女の子らしい友達が出来るだなんて!!」

 

「良い事じゃない♪だからもう落ち着いてね?」

 

「あぁ!えっといつも優花里と仲良くしてくださってありがとうございますと言うか何と言うか、不肖の娘をお願いしますと言うかですねぇ……」

 

 

 

「……ゆかりんのお父さん、盛大にバグってる?」

 

「此れはバグってると言うよりもパニクッってるって言った方が正しいんじゃないかと思うわ沙織。」

 

「いや、言語機能がバグってると言う意味では、沙織の言う事も間違いじゃないぞ逸見さん。」

 

 

 

うん、これは盛大にバグってパニクッてるね?……って言うか、言っちゃ悪いけど優花里さんて去年までボッチだったんだ――否、私とエリカさんと小梅さんとは去年の準決勝前に出会ってるからボッチではないのかもしれないけど、地元での友達はいなかったんだ……

 

其れは兎も角としてそろそろ落ち着きませんか優花里さんのお父さん?

 

 

 

「いや、しかしだね……」

 

「……少し落ち着けって言ってんだろ淳五郎!!」

 

 

 

――ダァン!!

 

 

 

「ひぃ!?」

 

「「「「「「「!!!?」」」」」」」

 

 

優花里さんのお母さんの口調が変わった!?――ううん、口調だけじゃなくて雰囲気その物が変わった……この雰囲気は、間違いようもないよ、戦車乗りの雰囲気だ!それも、お母さんや島田の小母様レベルの人だけが纏える『真の戦車乗り』の覇気!!

優花里さんのお母さんは、凄腕の戦車乙女だったって言うの?……此れは流石に予想外だったよ。

 

 

 

「ったく、テメェは昔っからヤクザみたいな風体なクセに変な所で弱気だな淳五郎?

 其れで良くもまぁ、当時大洗一のヤンキーで、大洗の荒熊と渾名されてたオレに交際申し入れたもんだぜ……ったく、少しはオレに告って来た時の度胸を常時持ったら如何なんだ?」

 

「かかか母さん、口調が昔に戻ってるぞ?」

 

「あん?あ、あらあらあはは……恥ずかしい所を見せちゃったわね?……今のは優花里には口外しないでね?」

 

「はぁ、まぁ其れは良いですけど……改めまして、初めまして。西住みほです。」

 

「えぇ、知ってるわよみほちゃん。……其れと、貴女とは初めましてじゃないわよ?」

 

 

 

ほえ?どこかでお会いしましたっけか?

一度会った人の事は忘れない自信があるんですけど、すみません覚えてません……何処で会いましたっけか?

 

 

 

「フフフ、覚えていないのも無理はないわよみほちゃん。

 私が貴女に会ったのは貴女が生まれた時だからね?そうそう、まだ1歳だったまほちゃんとも会ってるわよ♪」

 

「私が生まれた時に?……其れじゃあ覚えてないよですね流石に。」

 

でも、赤ん坊の頃の私達に会ってるって言う事は、其れってつまりお母さんの知り合いだって言う事ですよね?そうじゃないと、どうして会った事があるのか分かりませんし。

あの、さっきの覇気からも感じましたけど、若しかして昔は戦車乙女だったりしますか?

 

 

 

 

「正解。戦車道を廃止する前の大洗の最後の隊長を務めていたのが私、秋山好子よ――当時は旧姓である『佐久間』だったけれどね。」

 

「佐久間好子……あ~~!思い出した!

 お母さんが前に言ってた現役時代に島田のおばさま以外で唯一苦しめられた戦車乗り!!……まさかそんな人が優花里さんのお母さんだったとは、驚きです!!」

 

「懐かしいわね~~……もしもしほちゃんと千代ちゃんが結婚するからって現役引退しなかったら、2人と一緒にプロの道に進んでたかも知れないわね。

 だけど、あの2人の居ない世界で戦っても面白くなさそうだと思って私も止めちゃったのよ――ちょうど私も、この人とそろそろ結婚しようかと思ってた頃だから、丁度良かったのかもしれないけど。」

 

 

 

友でありライバルである存在が居なくなった戦車道に未練はない、ですね。

え~っと、まぁ、其れは良いとして。あの、優花里さんが何処に行ったか御存じありませんか?大会の組み合わせ抽選会の後から学校に来てなくて……会長さんに少し欠席するって言う届を出してるみたいなんですけど……

 

 

 

「あらヤダ、あの子ったら貴女達には何も言わずに行っちゃったの!?

 困った子ねマッタク……てっきりチームの皆にも話してるのかと思ったわ。――あの子は、優花里はサンダースの学園艦に試合前の偵察に行ったの。

 『試合に勝つには、まず情報であります!』なんて言って、コンビニの連絡船に乗り込んで行っちゃったんだけど……仲間を心配させたらダメじゃないの。

 はぁ……取り敢えず上がって待ってて?優花里の部屋に案内するわ。

 偵察に出かけたのが三日前だから、恐らく今日には帰って来ると思うから。」

 

「ちょっと待って、なんで言い切れるのかしら好子さん?」

 

「貴女は逸見エリカちゃんだったわね?

 簡単な事よ?この時期の大洗とサンダースは、略同じ海域を航行してるから丸1日あれば学園艦間の船での移動は可能なの――其れを踏まえると、昨日サンダースに到着して、その日の内に偵察をして帰路についたとすれば今日中には大洗の学園艦に戻って来れると言う事になるもの。」

 

「確かに、日数的にはピッタリですね。――でも何故か、秋山先輩だと普通の方法で帰還しないんじゃないかって思っちゃいます。」

 

「うん、其れは私も思ったよ梓ちゃん……」

 

何となく、本当に何となくなんだけど。

普通にコンビニの連絡船で帰って来るのは偵察がバレなかった場合であって、若しも偵察がバレた場合には其の方法は使えない事になる訳だから、他の帰還方法を考えておかないと簡単に捕まっちゃうだろうしね。

 

取り敢えず、優花里さんの部屋で待つ事にしようかな。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

で、案内された優花里さんの部屋は、何と言うか一言で言うなら『凄い』ね色々と!?

部屋中に戦車関係のポスターやらが張られて、本棚には戦車関係の本がびっしりで、棚には戦車のプラモデルが沢山あって、戦車道の試合のDVDに……あ、私とエリカさんと小梅さんが書いたサインが額に入れて飾られてる。

完全に戦車に囲まれた生活をしてるんだね優花里さんは……ある意味で、ボコに囲まれて生活してる私の上を行ってるかも……

 

 

 

「優花里には、私が選手だった事は話してないんだけど、小さい頃から戦車道の試合とか、戦車の博物館なんかに連れて行ってたせいでスッカリ戦車の虜になっちゃったみたいでね。

 そのせいで小学校と中学校では話の合う友達がいなかったんだけど、今年から大洗が戦車道を復活させて、そしてみほちゃん達が大洗に来てくれた事で、あの子もとっても生き生きとしているわ。」

 

「あはは……其れなら其れで良かったです。」

 

「戦車道の時間の時のゆかりんって、とっても生き生きしてて楽しそうだしね♪」

 

 

 

しかもただ戦車が好きなだけじゃなくて、装填士としての能力も可成り高いからね?

優花里さんの装填スピードは、ペパロニさん――私の中学の頃のチームメイトに勝るとも劣らないレベルだし、戦車に対する豊富な知識も、大洗の戦車隊には無くてはならないモノだよ。

 

 

 

――ドン!!

 

 

 

「「「「「「「「!!?」」」」」」」」

 

 

なに、今の音は!?

略真上から……屋根の上に何か落ちて来た?……空は晴れてるから雹って事は無いよね?……と言うかこんな大きな音がする雹が降って着たら普通に屋根陥没するし。

鳥が落ちて来たって訳でもないだろうけど……だとしたら一体何が落ちて来たんだろう?

 

 

 

――ガチャリ

 

 

 

「アレ?西住殿達にお母さん……私の部屋で何をしているのでありますか?」

 

 

 

って考えてたら、窓から優花里さんが入って来た!?

サンダースの制服に身を包んで、脇には畳んだパラシュートを抱えた優花里さんが!……えっと、その格好は若しかして空から戻ってきましたって言う所なのかな?

 

 

 

「その通りであります西住殿!

 不肖秋山優花里、1回戦のサンダース戦に勝利するために、サンダースの学園艦に偵察に行き、ただいま無事に帰還したであります!!」

 

「ご苦労様でした秋山優花里作戦参謀官。

 ですが、ルールで偵察行為は認められているとは言え、其れは相応の危険がある行為なので、偵察を行うのであれば私か他の戦車道履修者に一報を入れてからにしてください。」

 

「みほちゃんの言う通りよ優花里?

 勝つ為の情報収集は確かに大切な事だけど、貴女みほちゃん達に何も言わずに偵察に行ったでしょう?……チームの為に行動するのは良い事だと思うけれど、仲間に心配をかけるのはダメよ優花里?」

 

「そ、其れは申し訳ありませんでした西住殿!

 何分、早く情報を得る事が出来れば作戦も立てやすいと思い、連絡を怠ってしまいました!……次からはちゃんと連絡して、許可を取ってから偵察に行く事にします!!」

 

「まぁ、其れは当然の事として、アンタ空から帰って来たって一体如何言う事よ?何だって、そんな事になった訳……?」

 

「あぁ、其れはですね、若しも偵察がバレた際に逃げる事が出来るように準備をしていたのでありますよ逸見殿。

 最初は西住殿のご実家に協力を申し出たのですが、『世間的にみほを破門しているのに表立って協力するのは難しい』としほ殿に言われてしまいまして……その代わりに島田流に協力を取り付けて頂き、其処から聖グロへと話が回って行き、脱出用ヘリを回して貰ったのです♪」

 

 

 

優花里さん何してるの!?そして更に何をしてるのお母さん!?トドメに輪をかけて何してるんですか島田の小母様!!

まさか、優花里さんの脱出経路が、西住、島田、聖グロの三つが動いた結果の事だとは思わなかったよ!!……ハァ、取り敢えずお母さんと島田の小母様にはお礼として大洗の名産でも送っておかないと。

聖グロには、隊長のダージリンさんにはお茶菓子でも送っておこうかな……大洗名物のあんこう焼きとかみつだんごは紅茶のお茶菓子になるかどうか分からないけど。

 

でも、其れだけ大掛かりな事をした成果は有ったんだよね優花里さん?

 

 

 

「はい!ばっちりであります西住殿!

 このメモリーカードに私が偵察して入手したサンダースの全てが詰まっていますので、どうぞ試合に役立てて下さい!!――其れが、作戦立案に一役買ったと言うのならば、作戦参謀官としてこれ以上ない喜びでありますから!!」

 

「うん、確りと使わせて貰うよこのデータ!」

 

優花里さんが身体を張って得たデータを無駄にする事は、隊長として、そして友達としてする事は出来ないからね!

早速このデータを持ち帰って作戦を立てないとだよ――梓ちゃん、エリカさん、小梅さん……作戦会議の準備は充分かな?今夜はぶっちぎるからね?

 

 

 

「「「Roger ist der Kapitän!(了解しました、隊長!)」」」

 

「Gute Antwort?(良い返事だね?)」

 

「みぽりん達がまたドイツ語話してる~~!!

 って言うかみぽりんとエリリンとうめリンは、黒森峰でドイツ語習ってたから兎も角として、なんで澤ちゃんまでそんなに流暢なドイツ語を話す事が出来るの~~!?」

 

「すみません武部先輩、私は親友兼ライバルがドイツ人なモノで。」

 

「何それカッコ良すぎじゃん!!」

 

「……煩いぞ沙織。」

 

「沙織さん、落ち着いて?」

 

 

 

アハハ……まぁ、ツェスカちゃんは粋なドイツ人だから、日本語が出来るとは言っても、こっちもいくらかのドイツ語が話せないとちゃんとしたコミュニケーションを取るのは難しいから、ドイツ語の習得は必須だったのかもね?

兎に角、此れから作戦会議だよ!!

 

 

 

「其れも良いけど、そろそろいい時間だし、折角だから晩御飯を食べて行きなさいな?」

 

「えぇ、良いんですか好子小母様!」

 

「構わないわよ?大勢で食べた方が美味しいし、優花里も其れで良いわよね?」

 

「はい!異論無しであります!!!」

 

 

 

そう言う事なら御呼ばれしようかな?

エリカさん達も其れで良いよね?――此れもまた、チームの親睦を深めるって事になると思うし、好子さんから昔の事を色々聞く事が出来るかも知れないから♪

……優花里さんに、好子さんが実は戦車乙女だったって言う事を話したらびっくりするだろうけどね♪

 

 

 

「貴女が其れで良いなら文句は無いけど、私としても此れは結構楽しめそうな気がするから拒否する理由は無いわ。小梅も良いわよね?」

 

 

「はい、勿論です♪……ですよね副隊長?」

 

「当然です!!――異論、ありませんよね?」

 

「私は大丈夫だ~~。」

 

「OK、OK!こう言うのって仲間っぽいよね!」

 

「私も大丈夫です……チームの親睦を深める、良い事だと思いますから。」

 

 

 

うん、全会一致となったので御呼ばれします!

 

 

 

 

 

で、その日の秋山家の晩御飯は、私達が一緒だったからかもしれないけど、焼き肉や焼きそば、お好み焼きと言った鉄板焼きのメニュー。

優花里さんが教えてくれた大洗名物の『たらし焼き』は、大洗版のもんじゃ焼きって感じでとっても美味しかったよ……だけど華さん、幾ら何でも焼肉と焼きそばを重ねて焼いたオリジナルの広島焼きは如何かと思うよ?……焼き上がっての厚さが7cmって言うのは、幾ら広島焼きだって言っても常軌を逸してるからね!?

……其れをペロリと平らげた華さんには驚きだったけどさ。

 

そして予想通り、好子さんが実は昔の大洗で戦車隊の隊長を務めてたって言う事を知った優花里さんは、取っても驚いてたね♪

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

その後、寮に帰って、優花里さんの渡してくれたデータを見ながら梓ちゃんとエリカさんと小梅さんと作戦を立てて、サンダース戦での戦い方は略決まった感じだね。

優花里さんのデータは、優花里さんが録画したビデオの映像だったけど、其れだけに生の声って言うのが伝わって来てとても良かったんだけど、ナオミさんに気付かれて、名を名乗れって言われて『オッドボール三等軍曹』を名乗るのは如何なんだろう?

オッドボールって、言うなれば男性に対しての蔑視的な言葉だから、女子高生が口にするモノじゃないと思うんだよねぇ……ケイさんみたいな人だと、其れをそのままガチの渾名にする可能性だってある訳だしね。

 

 

 

で、作戦を決めた後は会長さんが『1回戦は南の島だね?海で遊びたいかーー!!』って言ったのがトリガーになって、試合前に海で遊ぶ事になって、寄港した際にシーサイドステーションで水着を買って、(私は自分の分を買い忘れちゃったんだけど、優花里さんがバッチリ買っててくれて助かったよ。)そしてビーチで海水浴!

 

試合前に遊んでていいのかとも思ったけど、これが逆に皆の緊張を解きほぐしてくれたみたいで、肩肘が張らない状態で、本番を迎える事が出来たからね。

 

 

そしてその本番!

開会式と1回戦第1試合は同じ日に行われるから、開会式も今日なんだよね。

色んな話が続いて、そして遂に私の選手宣誓の時が来たね――うん、バッチリ決めてくるよ!!

 

 

 

『選手宣誓。大洗女子学園、西住みほ。』

 

「はい!

 宣誓!我々、選手一同は、戦車乙女としてタンクシップに則り、正々堂々と戦い、勝者の栄光を讃え、敗者の奮闘を賞賛し、そして全員が一丸となって戦い、この中の誰かが黒森峰の11連覇を阻止すると言う事を誓います!!」

 

 

 

「此れはまた、おやりになりますわねみほさん?」

 

「あっはっは!OK最高よみほ!この選手宣誓は、間違いなく歴史に残るわ!!!」

 

「クックック、コイツは傑作だな!妹からじかに喧嘩を売られてしまったぞ西住?」

 

「……相手が妹であっても、全力で戦う、其れだけだよ安斎。」

 

「言うじゃないミホーシャ……其れでこそ私の同志として相応しいわ!!」

 

 

 

この選手宣誓には会場も騒然となったね――だってこれは、誰がどう見ても、西住の妹が、西住の姉に正面切って喧嘩を売ったとしか思えない感じだからね。

 

でも、今言った事は決して伊達や酔狂じゃない……この中の誰かが――ううん、大洗が黒森峰の一強時代に幕を下ろす……だから、私達は必ず1回戦を突破する!!

 

 

 

「言ってくれるじゃないみほ?……勝てると思ってるのかしら、私達に?」

 

「Ja!(勿論!)」

 

勝てると思ってるんじゃなくて勝つんだよケイさん!……堪能してもらうよ、私の戦車道って言うモノを!――全力全壊のフルパワーでね!!

 

さぁ、始めようか!最高の試合って言うモノをさ――♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 




キャラクター補足



・秋山好子

優花里の母で、秋山理髪店の実質的な経営者。(登記上の経営者は夫の淳五郎。)
実は若い頃は生粋の戦車乗りで、戦車道が廃止になる前の大洗女子学園で、戦車隊の隊長を務めていた事も有り、当時はしほや千代と並んで5本指に入る程の名選手だった。
現在は柔和な性格だが、戦車に乗っていた頃は可成り過激な性格で、今でも時々当時の性格が表に出る事がある。(その際は一人称が『オレ』になると言うおまけつき。)



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Panzer116『1回戦開幕!まさかの応援団です!』

まさかこの人が来るとは思わなかったよ?Byみほ      作者はプロレス好きだから、私は予想していたわByエリカ      黒のカリスマは、有名ですしね~By小梅


Side:みほ

 

 

私の選手宣誓が何かと話題になった開会式が終わって、其のまま大会1日目の試合がスタートして、その第1試合であるヴァイキング水産高校とコアラの森学園の試合は、中々見応えがあるね?

 

高火力で攻めるヴァイキングに対して、機動力で翻弄するコアラの森……此れは、どっらが勝ってもおかしくない試合――実力が拮抗してるからこその接戦だしね?

この組み合わせは、観戦する側からしたら好試合を展開してくれる良組み合わせだったんだね?――否、これだけの接戦だと、試合をしてる選手たちも楽しいモノだけどね。

 

開幕戦から手に汗握る試合展開になってるって言うのは、大会としても最高かも知れないよ♪

 

 

で、行き成りの好試合が行われてる事はとても良い事だと思うんだけど、お客さんが去年よりも多くないかな?

私の記憶が確かなら、去年の大会1回戦を会場で観戦してたのは、今年の半分程度だったからね?

まぁ、その原因はプラウダ以外の4強がトーナメントの片側に偏っちゃったからなんだけど……今年は4強が適当にばらけたのが原因で、なにお客さんが多いのかな?其れとも他の理由があるのかな?

 

 

 

「一番の原因は、週刊戦車道の最新刊の記事ね。で、貴女の選手宣誓がネットに流れてるみたいだから、これからもっと増えるわよ客は。」

 

「私の選手宣誓が速攻でネットに上がったのは良いとして、週刊戦車道には何が書かれてたのエリカさん?」

 

「其れは、自分で確かめた方が良いと思うわよみほ。」

 

「確かにそうですね。」

 

で、受け取った雑誌を手にして、其れらしい記事を探したんだけど……見つけた記事は、何て言うかとっても凄まじかったかな?……エリカさんと小梅さんと梓ちゃんも一応評価されてるとは言え、この内容はちょっと……

 

なんか、可成り煽られてる気がしなくもない記事だから、これは1回戦負けは恥ずかしいかな――ってな事を考えてる間に試合は終了!!

勝者はヴァイキング水産高校だった……最高に良い試合だったから、次は私達がこれ以上の試合をしないとだね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer116

『1回戦開幕!まさかの応援団です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、件の週刊戦車道に載ってたのがどんな記事かと言うと……

 

 

 

『西住みほが、全国大会の抽選会に県立大洗女子学園の隊長として出場!

 全く無名の大洗は、1回戦は強豪サンダースとの対戦になったが、これは大番狂わせが起きる組み合わせかも知れないと言えるだろう。

 大洗女子の隊長は、あの西住みほだが、会場には同じ大洗の隊員として、逸見エリカと赤星小梅、中学時代は西住みほの片腕として活躍した澤梓の姿があったからだ。

 ――黒森峰の10連覇に貢献した隻腕の軍神が率いていた遊撃隊のナンバー2とナンバー3に加え、軍神の一番弟子が居る大洗の実力は未知数であり、如何に無名とは言え侮る事は出来ないと言えるのである。

 また、トーナメントの組み合わせも、大洗が勝ち進んで行った場合は準決勝でプラウダとの戦いになるのは必至……因縁の相手――と言うのは少し違うかもしれないが、去年の決勝戦の事を考えると、何とも注目の試合となるのは間違い無い。

 そして一番の注目は、黒森峰の11連覇を止めるのかどうかと言っても決して過言ではないだろう――果たして無名の大洗が、初出場で優勝の栄光を手にするのか、それとも、絶対王者黒森峰が11連覇を成し遂げるのか?

 何れにしても今大会は、大洗女子学園が一番の注目であり、台風の目か、ダークホース的な存在になるのではないかと考えている。』

 

 

こんな記事……なんとまぁ、よく書いたものだね此れは?

可成り好き勝手に書いてるって言うか、私の事を持ち上げ過ぎと言うか……何だか『西住みほが居るから、大洗は凄いぞ!』と言ってるような書き方は如何かなぁ?

一応エリカさんと小梅さんと梓ちゃんについても書いてはいるけど、其れも私ありきみたいな書き方だし――何よりも、私達以外の大洗の選手の事に一切触れてないって事は、この記事書いた人は聖グロやマジノとの練習試合は見に来てないって事だよね?

あの試合を見たら、大洗の皆の凄さが分かるのに……って言うか、大会直前号で此れだけの事を書くなら、先ずは無名の大洗が練習試合とは言え、4強の一角である聖グロと引き分け、古豪って言われてたマジノに勝ったって言うのを記事にすべきだと思うんだけど如何かな?

 

 

 

「ガッデメファッキン!マッタク持ってその通りだぜ!

 此れを書いた奴は、大洗の事をマルで分かっちゃいねぇんだオラァ!確かに、西住隊長はスゲェ戦車乗りだがな、逸見も赤星も澤もスゲェし他の大洗の生徒だって、今年から始めたのが信じられねぇくらいの奴等ばっかりだろうが!

 其れなのに、何だこの記事は!其の事がマルで書かれてねぇ!知ったかぶりで、記事書いてんじゃねぇぞオラ!!」

 

「やっぱりそう思うよね!……って言うか誰ですか?」

 

私の言った事に同意してくれたからと思ったけど、明らかに今の声は男の人だった……後ろから聞こえたから、振り返って――

 

 

 

「グァッデーム!!」

 

 

 

其処に居たのは、グラサンを掛けて、髭を生やして、黒いズボンに黒いシャツに黒いコートって言う全身を黒尽くめにした何だか怖そうなオジサン……えっと、どっかのマフィアの人かな?

 

 

 

「何と!このお方は大洗観光大使を務めていらっしゃる、プロレスラーの蝶野正洋さんでありますよぉ!

 人呼んで黒のカリスマ!まさか、試合会場に足を運んでくれてたとは感激であります!――しかも今の言い方だと、練習試合も観戦して下さってたんですよね……嬉しい事でありますよ!」

 

 

 

こ、この人が大洗の観光大使!?

言っちゃ悪いけど普通にヤクザにしか見えないって言うか……プロレスラーって言ってたけど、絶対にヒールだよねこの人?――しかも『蝶野』って、まさか蝶野亜美教官となんか関係が?

 

 

 

「蝶野亜美?……あぁ、従兄妹だ。」

 

「嘘でしょ!?」

 

「あ、でもちょっと納得できるかもですよエリカさん!」

 

「あのぶっ飛びっぷりは、確かに黒のカリスマの打っ飛びっぷりに通じるところが無いとは言えませんからね?」

 

「まさか、従兄妹だったとは驚きと言うか何と言うか……」

 

でも、驚いてるのは茨城出身じゃない私とエリカさんと小梅さんだけで、茨城出身の皆は驚いてないみたい――クロエちゃんも驚いてないみたいだけど、梓ちゃんから聞いてたのかも知れないね。

 

其れで、蝶野さん……えっと、若しかして応援に来てくれたんですか?

 

 

 

「その通りだぜ西住隊長!

 大洗観光大使として、戦車道の全国大会に出場する大洗女子学園の応援をしないって言う選択肢はねぇからな!全力で応援するだけだ!

 其れにな、この会場に居る奴等の殆どは、サンダースが勝つって思って居やがるから、そいつ等の予想をぶっ壊してやってくれ!!

 サンダースが勝つとか寝言言ってんじゃねぇぞ!大洗だけ見てりゃいいんだオラァ!!」

 

「あはは……でも、確かに大洗が負けるって思ってる人達には、その考えが間違いだったって言う事を教えてあげないとですよね?」

 

サンダースは聖グロ以上の強敵だから、簡単に勝てる相手じゃないけど、サンダース1の撃墜王であるナオミさんの事なら、私はケイさんよりも知ってる自信があるし、ケイさんならどんな戦い方をしてくるか大体の予想は付くから、フラッグ戦なら充分勝てる可能性はあるからね。

 

任せて下さい蝶野さん、大洗がジャイアントキリングブチかまして、会場を湧かせて見せますよ!!

 

 

 

「よく言ったぜ、そう来なくっちゃな!!

 サンダースのフラッグ車に、7.5cm砲の喧嘩キックをブチかましてやれ!!」

 

「その心算です――若しかしたら、8.8cm砲の喧嘩キックになるかも知れませんけどね。」

 

「それならそれで問題ねぇ!

 おーし!それじゃあ最後に景気づけに何時ものヤツ行こうじゃねぇか!号令頼むぜ、西住隊長!!」

 

 

 

何時ものヤツって……アレだよね?

戦車乗りには欠かす事の出来ない号令……其れじゃあ行くよ?1回戦突破を目指して、パンツァー……

 

 

 

「「「「「「「「「「フォー!!」」」」」」」」」」(チーム全員+黒のカリスマなので鍵カッコ省略で。)

 

 

 

まさかの人との出会いだったけど、其れが逆に気合が入ったよ――大洗観光大使が観戦してくれてる試合で、無様な試合は出来ないし、何よりも、大洗から応援に来てくれてる人達の期待には応えないとだからね。

 

でも、其れは其れとして、客席にnwoならぬ、ons(O-arai New Senshado)の旗を掲げた一団にはちょっと驚いたよ――率いてたのが蝶野さんだったから余計にね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

客席付近で、思わぬ人との出会いがあったけど、其れは其れとして大洗の面々は試合会場に入って、試合前の最後のブリーフィングを終えた所だね……1回戦のフィールドは、アップダウンのある草原に林が点在してる地形だから、地の利を得辛い――そのせいでブリーフィングが少し長引いたけど、結果的には作戦が出来上がったから良かったけどね。

 

それで、何か用かなナオミさん、アリサさん?

 

 

 

「何って、試合前に大洗の皆を招待しろと、ケイの通達でな。

 試合前にサンダースのオープンパーティと言うか、バーベキューパーティを楽しんで欲しいと言う事みたいだ……ある意味では、アンツィオ以上の事をしてる気がするけど。」

 

「そうなんだ……じゃあ有難く御呼ばれしようかな?サンダースの皆さんと親睦を深めるいい機会だし。

 で、アリサさんは何で小梅さんの事をあんなに睨み付けてるの?……こう言っちゃなんだけど、少し怖い。」

 

「あぁ、アレな?……去年の準決勝で、小梅に散々挑発されまくった挙げ句に、直下に撃破されたから個人的な恨みがあるらしい。」

 

「逆恨みも良い所だと思うなぁ其れは……」

 

挑発は、されて乗っかる方が悪いと言うか何と言うか、それ以前に小梅さんの挑発に乗せられるって、エリカさんの思いっきり人の神経逆撫でする挑発喰らったらどうなるんだろう?

……検証の為に、試合でやってみても良いかもね。

 

 

 

「何やら企んでるみたいだけど、下手にアリサを煽るのだけは止めてくれよ?

 アイツは、一度火が点くと中々鎮火しない上に、暫くそれが尾を引いて中々に面倒だからな……最終的には、ケイが一喝してなんとかするんだけどさ。」

 

「いやはや、其れは本当に面倒くさいねぇ……」

 

「まぁ、作戦参謀としての能力は高いから、其れを買われて今はサンダースの副隊長なんだが……もう少し精神修業をしないとかもだ。

 そして同じチームになって思った。中々の作戦立案能力を持ってるのに、何だって中学の頃までは、どっちかと言えばアウトなグレーゾーンを普通に使う奴だったのかと……」

 

「其れはアレよナオミ、安易な勝ちを求めた結果ってやつよ。」

 

「身も蓋もないが、何となくそう言われると納得だなエリカ。」

 

 

 

安易な勝ちを求めるあまり、勝つ方法を選ばないか……まるで、お婆ちゃんの言う『西住流』みたいだね其れは?――勝利を得る為に、手段を選ばなくなったら、其れはもう競技じゃなくて戦争だからね。

私も閃光弾とか発煙筒での視界潰しはやるけど、閃光弾や発煙筒はルールで、非常時の時の連絡手段として搭載が義務付けられてるモノだから、其れを試合に使うのは全然問題ない事だもん。

ルールでは禁止されてないけど認められても居ない物を使うって言うのは、幾らなんでも無しだし、まして勝利>人命になったらお終いだからね……まぁ、其れは其れとして、去年の大会では中学の時みたいな事をしなかったから、アリサさんも気付いてくれたのかな?

 

だとしたら、中学の時に思いっきり叩き潰した甲斐があったってモノだよ。

 

 

 

「あの試合と、去年の試合で、アリサはすっかりお前がトラウマになってるみたいだ。

 同時にリベンジも誓ってるみたいだけどな……何度、寝言で『西住妹ぶっ倒す』って言ってた事か。」

 

「うわぁ……なんだかとっても愛されてるね私?」

 

「みぽりん、其れちょっと違うんじゃない!?」

 

 

 

あはは……まぁそう思うかもしれないけど、この場合の『愛されてる』って言うのは、戦車乗りの間で使われるちょっとしたスラングと言うか、言葉ズバリの意味じゃないんだよ沙織さん。

『愛されてる』って言うのは、一方的にライバル視されてる、最優先撃破対象にされてるって言った感じの時に使うモノなの。

其れってつまりは強敵として見られてるって事だから、戦車乗りにとって『愛されてる』のはある意味で光栄な事であり、一種のステータスでもあるんだよ。

 

「因みに、中学時代に私を最も愛してたのはエリカさん。

 小梅さんからも大分愛されてたけど、エリカさんの愛の方が激しかった……まぁ、私もエリカさんと小梅さんの事を愛してたけどね?」

 

「な、なんか言葉面だけを聞くといけない世界を想像しちゃいそうだよみぽりん……」

 

 

 

……戦車道は女子の世界だから、百合カップルは珍しくないんだけど、其れは言わない方が良いよね絶対に。

と言うか、お姉ちゃんも近坂先輩か安斎さんと良い感じっぽいのは否定出来ないし……かく言う私も、最近エリカさんや小梅さんとの関係が友情を越え始めた気がするしね。

 

まぁ、そんな雑談をしてる間にサンダースの陣営に到着……したと同時に鼻腔をくすぐる良い匂い。

炭火で焼かれた肉の脂が溶けて、そして炭火で焦げる此の匂いは、豚や鶏では出せない香ばしさ……此れは、牛のサーロインかカルビを焼いてる匂いだね!

 

 

 

「正解!カルビの串焼きと、サーロインステーキはバーベキューには欠かせないでしょ?」

 

「あ、ケイさん!この度は、御招待いただきありがとうございます。」

 

「気にしない気にしない!

 試合前の英気を養うのは大事な事だし、やっぱり最高のコンディションの相手と戦いたいじゃない?――そう言った理由から、私が隊長になってから、こうして試合前に相手チームをサンダース恒例の『試合前バーベキューパーティ』に誘う事にしたのよ。

 相手チームにも元気になって貰って、更に親睦を深めた上で試合が出来たら最高でしょ?」

 

「そうですね……確かに、一理あるかも知れません。」

 

「Yes!みほなら分かってくれると思ったわ!」

 

 

 

そうですか……其れは良いとして、なんで抱き付いてるんですかケイさん?

そして、更にどうしてケイさんごと私をハグしてるのかなナオミさん?……此れもアメリカ風のサンダース的スキンシップって言う所なのかなぁ?

 

 

 

「「ミホニウムの補給。」よ。」

 

「何、その新種の謎元素……」

 

そう言えばお姉ちゃんも時々『ミホニウムが足りない』とか訳の分からない事言って、私をハグして来たけど、其れと似たような物なのかなぁ?

其れで、ミホニウムとやらは補充出来ましたか?

 

 

 

「確りと補充させて貰ったわ。」

 

「私もね♪――其れじゃあ、思い切り楽しんで行ってね?

 其れから、オッドボール、またいつでも遊びに来てね?ウチは何時でもオープンだから!」

 

 

 

で、私から離れたケイさんは、楽しんで行ってと言うと、今度は優花里さんに向かって何時でも遊びに来てねって……偵察行為をした相手に向かってこんな事を言うのは、多分ケイさんだけだろうね。

心が広いと言うか何と言うか……ホントに、ケイさんはサンダースの隊長としてこれ以上ない人なのかも知れないよ。――そう言われて、優花里さんも驚きながらも満更じゃなかったみたいだし。

 

 

 

「大洗の人だね?特上のサーロインがあるんだけど如何?」

 

「あら、其れでは500をレアでお願いします。」

 

「ご、500って行くねぇ?……OK、その豪快さ気に入った!最高に美味しいステーキをご馳走するよ!!」

 

 

 

そして、ケイさんに言われるまでもなく、大洗の面々はバーベキューパーティを満喫してると言うか……華さん、幾らタダだからって特上サーロインを500gって言うのは食べ過ぎ――じゃなくて、華さん的には普通だったね。

500gをペロリと平らげただけじゃなく、付け合わせの炭火焼きのジャガイモや玉ねぎも完食して、更におかわりまで要求するんだから、本気で華さんの胃袋はブラックホールだよ。

 

まぁ、かく言う私もカルビ串とジャンボフランクフルトと炭焼きステーキサンドを完食して、アメリカンサイズのコーラを一滴残らず飲み干した訳だから華さんの事は言えないんだけどね。

 

だけど、試合前の此れで、大洗の皆の英気が養われたのは間違い無いかな?……此れなら、最高のパフォーマンスを発揮出来る筈だよ。

お招きいただいておいてこんな事を言うのは如何かと思うけど、今の大洗は可成り強いですから、例え相手がサンダースであっても負ける気がしません――ジャイアントキリングをさせて貰います、ケイさん!

 

 

 

「いい覇気じゃないみほ?やっぱりそう来なくっちゃね!

 其れに、ジャイアントキリングなんて簡単にはさせないわよ?……戦車道は楽しむのが最優先だけど、でもやっぱり勝ちたいからね――私のサンダースの力、見せてあげるわみほ。」

 

「ふ、去年の隊長とは違う戦い、楽しみにしてますよケイさん。」

 

でも、其れでも私達は勝つのは私達『大洗女子学園』だよケイさん――練習試合で聖グロと引き分け、マジノに勝った、大洗女子学園の力はサンダースにも負けないレベルだからね。

 

第1試合のヴァイキングvsコアラの森をも上回る試合にしましょう、ケイさん!って言うか、其れ位の試合じゃないと満足できませんからね!!

 

 

 

「勿論よ、みほ!戦車道の歴史に残るような試合にしましょう――ExcitingなGameで、私をEcstasyさせてくれるわよね?」

 

「其れは勿論……約束しますよケイさん。」

 

「OK!」

 

 

 

行き成りサンダースって言うのは、大洗女子からしたらキツイ相手なのかも知れないけど、だからこそ勝った時に得られる自信って言うのは練習試合でマジノに勝った時の比じゃないと思うからね。

 

そういう意味でも、此の1回戦は絶対に譲れない戦いだよ――勝たせて貰いますから、覚悟してくださいねケイさん!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

試合前の一時を過ごした大洗だったが、試合開始の30分前には自陣営に戻って最後の作戦会議を行い、そして試合前の挨拶に来ていた。

大洗は隊長のみほと副隊長の梓、サンダースは隊長のケイと、副隊長のナオミとアリサ――如何やら、サンダースでは副隊長2人制を採用しているようだ――が審判団の前で整列している。

 

 

「此れより、大洗女子学園とサンダース大学付属高等学校の試合を始める。お互いに、礼!」

 

「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」

 

 

先ずは、試合前の礼。――全ての武道がそうであるように、戦車道もまた礼に始まり礼に終わるモノであり、一部の戦車道評論家は、試合前後の礼の姿を見るだけで、ドレだけ強いのかが分かると言う位に礼は大事な物なのだ。

 

 

「貴女と大会の1回戦で当たるのは勿体ない気もするけど、ある意味では最高の1回戦とも言えるから、改めて本気で行かせて貰うわみほ。」

 

「本気で来てください――手加減をされたなんて言うのは、興醒めですからね?」

 

「OK!全力全開で行くわ!!」

 

 

そして、あいさつの後は、両校の隊長が握手を交わして、簡単に2~3口を交わす――此れもまた、戦車道だからこその光景なのかも知れないのだろう。

 

 

尚、両校の戦車編成は……

 

 

・大洗女子学園

 

パンターG型×1(隊長車)

ティーガーⅡ×1

Ⅳ号戦車D型×1(フラッグ車)

Ⅲ号戦車J型×1(副隊長車)

Ⅲ号突撃砲F型×1

クルセイダーMk.Ⅱ×1

38(t)戦車B/C型×1

 

 

 

・サンダース大学付属高等学校

 

M4シャーマン75mm砲搭載型×8(うち1輌は隊長車)

M4シャーマン76mm砲搭載型×1(副隊長車兼フラッグ車)

シャーマン・ファイアフライ×1(副隊長車)

 

 

 

と、この様な編成。

大洗は戦車の絶対数が不足しているので、新たな戦車が見つからない限りはこの編成だろうが、サンダースは手堅い編成をして来た感じだ。

75mm砲搭載型のシャーマンは、もっともクセが無く扱い易い上に、シャーマンの中では攻守速のバランスがとれており、特に正面装甲に関しては76mm砲搭載型が64mmなのに対し、75mm砲搭載型は76mmと12mmも分厚い上に、装甲の傾斜格が76mm砲搭載型よりも鈍角である為に事実上の装甲厚は90mm超えている。

大洗の戦車で90mm超の装甲を貫通できるのは、パンターとティーガーⅡとⅢ突だけなので、其れを考えると、手堅く来たケイの選択は、間違いではなかったと言えるだろう。

 

加えて数の上でもサンダースの方が有利となれば、誰もがサンダースの勝利を確信するだろう。

 

だが、そう思わない者達も当然いる訳で――

 

 

 

「ケイさん、手堅く来ましたわね?……ですが、その位の事は、みほさんならば軽く超えてきますわよ?」

 

「そうですわね……みほさんならば、不利な状況でも覆す筈ですわ――そうでしょう、聖グロリアーナ隊長ダージリン様?」

 

「えぇ、その通りよ。マジノ学園隊長エクレールさん。」

 

 

 

大会前の練習試合で、大洗と戦った聖グロの隊長であるダージリンと、マジノの隊長であるエクレールはサンダースが絶対的に勝つとは思って居なかった。

直にみほの凄さを体感した2人にとっては、みほならば勝ってしまうだろうと言う考えがあったからだ。

 

そして、そう思っているのは此の2人だけではない。

 

 

 

「優花里ー、頑張れよーーー!!」

 

「みほちゃん達も応援してるわよ~~!!」

 

「お嬢様、菊代はお嬢様が勝利すると確信しています。御武運を……」

 

「やっちゃいなさいミホーシャ!

 私の同志として、1回戦で負けるなんて言う事は許さないわ!サンダースなんて、けっちょんけちょんにしてやりなさい!!」

 

「誤解なき用に言っておきますと、米ロの関係とは違い、サンダースとプラウダの関係は悪くありませんので悪しからず。」

 

「ノンナ、何の事?」

 

「さて、何でしょうか?自分でも謎です。――妙な電波を受信したのかも知れません。」

 

 

 

大洗からやって来た応援団だけでなく、試合を観戦してる他校からも大洗を応援する声が飛び交っている――特に、みほとエリカと小梅によって隊員の命を救われたプラウダは大洗を応援する声が大きい様だ。

加えて、にわか戦車道ファンは、ジャイアントキリングを期待して大洗の応援に回っているので、会場全体としては大洗を応援する声の方が少しだけ多くなっているのだ。

 

 

 

「グァッデーム!大洗の戦い、よく見とけオラ!」

 

「試合の美味しい所、全部大洗が頂きます!Year!」

 

 

 

……黒のカリスマが盟友である天才レスラーを引き連れて結成した大洗応援団は、取り敢えず可成りの迫力を醸し出していたが、その迫力のせいで、周囲に人が居なくなっていた。

 

ともあれ会場の熱気は最高潮に達し、今か今かと試合開始の合図を待っている状態だ。

 

 

 

『其れでは、1回戦第2試合、大洗女子学園対サンダース大学付属高等学校、試合開始!!』

 

 

 

「Panzer Vor!」

 

 

「Go A head!!」

 

 

 

そしてここで試合開始!

後に『伝説の序章』と称される事になる試合の火蓋が、斬って落とされた瞬間だった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 




キャラクター補足


・蝶野正洋

言わずと知れた『黒のカリスマ』。プロレスラーにして大洗観光大使で、戦車道の大ファン。
陸上自衛隊の自衛官である蝶野亜美の従兄妹。
実はみほの大ファンで、機会があったらサインを貰う心算だったのだが、1回戦では其の機を逃してしまい、サインゲットは出来ていない。
盟友のレスラー仲間を次々と戦車道ファンに引き入れており、黒の大洗応援軍団『ons』(大洗ニュー戦車道)は応援団の一大勢力となっている模様。
『有象無象蹴散らそう、大洗だけ見てりゃいいんだ!』との事である。


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Panzer117『One round of incandescenceです』

まさかの搦め手……やってくれるね?Byみほ      まぁ反則ではないけど……なら、其れを越えてやろうじゃない?Byエリカ      隻腕の軍神の真の搦め手、ですねBy小梅


Side:みほ

 

 

いよいよ試合開始だね?

サンダースは4強の一角だし、過去には黒森峰と決勝を争った事も有る猛者だから、戦車の性能的には此方が有利だと言っても油断は禁物だよね――M4だけなら未だしも、ファイアフライが出てきてる事を考えると、ティーガーⅡ以外の戦車はファイアフライの餌食になる可能性があるからね。

ファイアフライの砲手がナオミさんだって言う事を考えると、余計にね。

 

 

 

「確かにナオミがファイアフライの砲手だって言うのは驚異よね。

 何と言っても、中学時代は隻腕の軍神の片腕だった訳だし……もっと言うなら、ナオミの砲手としての実力は、サンダースに入学してから更に向上してるからね――正直言って、ナオミが砲手のファイアフライは高校戦車道界最強レベルじゃないかって思うわよみほ。」

 

「ナオミさんの砲手の腕前を考えると、必中のファイアフライって事になるからね。」

 

つまりはサンダース最強の戦力な訳で、ナオミさんのファイアフライは真っ先に撃破しておきたい所だよ――だから、ファイアフライの方を任せても良いかなエリカさん?

ティーガーⅡならファイアフライが相手でも装甲を抜かれる事は先ず無いし、ティーガーⅡの超長砲身88mmならファイアフライを撃破するには充分な攻撃力だからね。

 

 

 

「OK、任されたわみほ。

 黒森峰の狂犬改め、大洗の狂犬の牙で、ファイアフライの喉笛を喰いちぎってやるわ!――狂犬の牙は、狙った獲物を喰い殺すまで止まる事は無いわ!」

 

 

 

あはは……去年の大会でもサンダースとは戦ったけど、あの時のエリカさんは遊撃隊の一員として参加してたせいか何処かセーブしてた感じがしたんだけど、今はセーブする必要がなくなったから、エリカさん本来の凶暴性を発揮してくれちゃって構わないよ!

 

 

 

「鎖は外されたって訳ね?なら、貴女の望み通りに思い切り暴れてやろうじゃない!!」

 

「……こんなエリカさんは、黒森峰の時は見た事ないです。

 規律の厳しい黒森峰の戦車道は、みほさんにとってだけでなく、エリカさんにとってもある種の枷だったのかもしれないですね。」

 

「その可能性、微妙に否定できないかもね小梅さん。」

 

でも、だとしたら今のエリカさんは、自分でも気付いてない潜在能力が解放された状態とも言えるから、中学の時に決勝戦で私と戦った時と同じ状態になってるかもね?

これは、サンダースにとっては有り難くない事かもしれないけど♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer117

『One round of incandescenceです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

ついに始まった大洗女子学園とサンダース大学付属高校の試合。

布陣としては、大洗が隊長車を要とした扇型の陣形を展開しているのに対し、サンダースは陣形らしい陣形は取らずに、各所に戦車が点在していると言う布陣だ。

決して大洗を舐めた布陣ではなく、寧ろ大洗を警戒しているからこその布陣であるのだこれは。

 

現在のサンダースの隊長であるケイと副隊長であるアリサは、みほと試合相手として戦った経験があり、もう一人の副隊長であるナオミに至っては、仲間としても相手としても戦った事がある為にみほの凄さと言うモノをサンダースでは誰よりも知っている――故に形らしい形を取らずに迎え撃った方が良いと判断したのだ。

 

 

「ティーガーⅡ……エリカが単身でファイアフライを狙ってくる可能性があるって、其れって信じて良いのアリサ?」

 

『あら、最大公約数的な考え方だけど確率としては80はあるって自信を持って言えるわよ?

 だって考えても見なさいよ?幾ら大洗に、元黒森峰遊撃隊の3人が居て、西住みほの一番弟子が居るとは言っても、他は素人みたいなモンでしょ?――まぁ、聖グロと引き分け、マジノに勝った訳だから舐めると痛い目を見るけど。

 だけど、此方に対して有利な戦車はパンターとティーガーⅡとⅢ突だけ――Ⅳ号がF2以上の仕様だったら兎も角としてね。

 だとしたら一番の脅威となるであろうファイアフライを真っ先に撃破しようとするのは当然で、攻守力では有利なティーガーⅡがその任を務めるのは当然の事よ――単身でって言うのは……アレよ、車長の性格的によ。』

 

「最後の最後で一気に胡散臭くなったな……だがまぁ、お前の勘は当たるからなアリサ――取り敢えず見つかる前に下がっておくよ。」

 

 

そんな中で、ナオミはアリサから『大洗はファイアフライを真っ先に狙ってくる』と言う事を聞き、現在陣取っている場所から後方へと下がる事にしたようだ。

アリサの言う事は確かに当たっている――実際に大洗の本隊からは、エリカ率いるティーガーⅡが離脱し獲物を求めて狩りを始めていたのだから。……見事な読みと言う他は無いだろう。

 

 

 

「エリカさん、多分ファイアフライが居るのは其処から更に北東に進んだD50地点――若しかしたらもっと先になるかも知れないけど、ナオミさんは10時の方向からの砲撃を最も得意としていたから略間違い無いと思う。」

 

『了解したわみほ……逃がさないわよナオミ!!』

 

 

だが、それ以上に驚くべきはみほだ。

ナオミと3年間共に戦ってきた経験からファイアフライが陣取っているであろう場所を予測してエリカに伝え、その方向はドンピシャズバリでファイアフライが先程まで陣取って居た場所だったのだから。

加えて言うなら、『もっと先になる』と言うのも、結果としてファイアフライが後ろに下がった事で現実となっているのだからお世辞抜きに凄まじく素晴らしいとしか言いようがないだろう。

 

 

 

 

「何かを感じ取って後ろに下がったファイアフライと、的確にそのファイアフライへの進路を進むティーガーⅡ……先ずは互いに読み合いと言うところかしらねエクレールさん?」

 

「その可能性は否定できませんわダージリン様。

 いえ、ですが如何やら読みの深さはサンダースの方が上?ファイアフライが突然進路を変えて全く別の方向へ前進し始めたようですわね?」

 

「そうね。

 でも、こんな言葉を御存知かしら?『鋭すぎる勘は、イカサマの証である』。」

 

「そのものズバリではありませんが、似たような物を聞いた事は有りますわダージリン様……ですが、其れが試合と何か関係がありますの?」

 

「其れは、見て居れば分かりますわエクレールさん。」

 

 

 

 

客席の一角では、大会前に大洗と戦った聖グロリアーナとマジノの隊長による、試合の簡単な分析も行われているようだが、モニターに映し出されている両校の戦車の動きから、ダージリンは何かを感じたらしく、思わせぶりな事を言うと再び紅茶を片手に両校の戦車の動きが映し出されているモニターへと目を向ける。

 

そのモニター上では、的確にサンダースの戦車を狙って動いている大洗と、其れを有り得ない程の動きで躱しているサンダースの戦車の動きが映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:アリサ

 

 

クックック……此処まで巧く行くとは思わなかったわね?

大洗、そして西住みほ、アンタ達の動きは手に取るように分かるわ――でも、アンタ達からしたら其れが不気味な筈よね?だって、尽く自分の考えが読まれてるって事になる訳だから。

 

っと、新たな情報が……成程、副隊長が状況を打開するためにクルセイダーをお供に偵察に出たと――此方アリサ、如何やら大洗はⅢ号とクルセイダーが偵察に出たみたいですよ?

 

 

 

『Ⅲ号って副隊長車よね?――其れってつまりはみほの右腕……みほなら左腕って言うのが正しいのかも知れないけど、みほが一番信頼してる子でしょ?

 そんな子が自ら偵察に出るかしら?』

 

「だからこそですよ隊長。

 西住みほは自分の仲間に絶対の信頼を置いている隊長です――そして、それは自分が手塩にかけて育てた弟子に対してはより一層です。

 なら、彼女が副隊長である澤梓に偵察を任せたとしてもオカシイ事は有りません。」

 

『成程ね……だけど、何だって其処まで詳しく分かるのかしら?』

 

「女の勘です。」

 

『ん~~~……OK、アリサがそう言うなら間違いないでしょうね。貴女の勘は当たるからね♪――今日は特に冴えわたってるみたいだし♪』

 

 

 

そりゃ冴えわたってますよ隊長――比喩じゃなくて、今のアタシには物理的に大洗の事は丸分かりなんですから。

 

 

 

「通信傍受……ルールブックでは禁止されてないけど、其れってどうなんですか副隊長?」

 

「問題ないわ。

 ドローンで空撮って言うのはNGだろうけど、通信傍受の気球は大戦期にも使われていた物だから45年ルールには抵触しないし、ルールブックに記載されていない以上、少なくとも今年の大会では合法よ――まぁ、来年からは規制が入るかも知れないけどね。」

 

隊長の言う『フェアプレイ』の精神には反するのかも知れないけど、西住みほに勝つには此れ位の事をしないとダメなのよ!――何よりも、どんな手を使っても勝てばいいって思ってたアタシを変えてくれた隊長に優勝をプレゼントしたいのよ!

隊長に、ケイに最高の勝利をプレゼントできるなら、アタシは蛇蝎の如く忌み嫌われようとも、どんな事だってしてやるわ!!

 

 

 

「すっごい覚悟だね~?……其れじゃあアリサ、一言どうぞ。」

 

「只の戦車道には興味ありません!この中に、宇宙人、未来人、超能力者の戦車乗りが居たらアタシの所に来なさい、以上!――って、何言わせんのよ!!」

 

「涼宮団長乙。」

 

「竜玉改のデンデ、らき☆すたのこなたも可。」

 

「流石は平野ボイス。」

 

 

 

訳の分からない事言ってんじゃないわよ!!

兎に角これで、情報アドヴァンテージに関してはこっちが圧倒的に有利なんだから、其れを最大限に活用して勝ちを捥ぎ取るわよ!――必ず優勝の栄光をケイに、隊長に渡すんだから!!

 

 

 

「隻腕の軍神なら、通信傍受に気付くんじゃないかと言う件について。」

 

「まぁ、気付くんじゃないかぁ?……ぶっちゃけ、あの人がサンダースに来てくれたら良かったと思ってるアタシが居る。」

 

 

 

通信傍受に気付くかどうかは兎も角として、アイツがサンダースに来てくれてたらって言うのには諸手を挙げて賛成ね――隻腕の軍神の異名を持つ西住みほがサンダースに来てたら、サンダースの戦車道はより厚みのあるモノになってただろうから。

 

でも、西住みほはサンダースを選ばずに黒森峰に行って、そんでもって今年は無名の大洗の隊長ですって!?……舐めんじゃないわ!!

アタシを圧倒的に倒した隻腕の軍神が、無名の弱小校の隊長だなんて絶対に許さない――だから、弱小校の隊長じゃないって言う事を、この試合で証明して見せなさい。

 

まぁ、其れは其れとしても勝ちは譲らないけどね!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

……オカシイ。幾ら何でも此れはオカシイ。

私の予測地点に居る筈のサンダースの戦車が1輌もないなんて言うのは幾ら何でもオカシイよ!――此処に居た痕跡を、マッタク残さないで撤収したって言うのは、幾ら何でも有り得ないからね?

 

其れが1回2回なら兎も角、連続8回ともなれば相手がイカサマをしてるんじゃないかって考えてもおかしくないよ……まぁ、ケイさんはイカサマなんてする人じゃないから、他の隊員の誰かが何かやったんだろうけどさ。

 

でも、此処まで読まれてるって言うのは何かカラクリがある筈だよ――何処かにカラクリが……

 

 

 

「カラクリとは言いましても一体全体……西住殿の考えを完璧にトレースしていないと無理なこの状況――見晴らしの良い高台や、高層ビルでもあれば、複数の隊員を其処に配置する事で此方の動きを逐一把握する事は可能だと思いますが……」

 

「周囲にその様な場所は有りません……若しかして、先程のパーティの時に盗聴器でも服に仕掛けられてしまったのでしょうか?」

 

「!!」

 

盗聴器……まさか!!

 

 

 

――アレだ!空に浮かぶバルーン……通信傍受機が打ち上げてある!それなら!

 

「一度作戦を練り直すから、全員一度車外に出て。」

 

「へ?何で作戦練り直すのに外に出なきゃならないのみぽりん?」

 

「狭い車内で考えるよりも、外のフレッシュな空気吸った方が頭がクリアになるからだよ沙織さん。」

 

「ふむ……西住さんには西住さんの考えがあるのだろう。何よりも、私達は平隊員に過ぎないのだから、隊長の命令は聞かねばだしな。」

 

 

 

其れが基本ではあるけど、皆の意見も取り入れられる物が有ったらバンバン取り入れていくから遠慮しないで意見を言ってね♪

 

さて、これで全員外に出たね?――外に出た本当の目的だけど、上をご覧あれ。

 

 

 

「なんか浮かんでいるな?」

 

「アレは、気球……でしょうか?」

 

「あの気球は、阻塞気球!

 大戦期に低空飛行をする戦闘機への対策として使われていた気球ですが、あのワイヤーに取り付けられているのは無線通信を傍受する機器でありますよ!」

 

「えぇ、其れってこっちの作戦を盗み聞ぎしてたって事じゃん!幾らお金があるからって、こんな物使ってくるなんてズルいよ!

 作戦が筒抜けだなんて、そんなの答え見ながらテストやってる様なモノだよ!そんなの反則だよ~~!抗議しようよみぽりん!!」

 

「抗議は無駄だと思うよ沙織さん。多分厳重注意はされるかもしれないけど、反則負けには至らないと思う。」

 

「その可能性が高いでありますね……ルールブックにも通信傍受が違反であるとは書かれていません――まぁ、合法だとも書いてない、所謂グレーゾーンではありますが。」

 

 

 

明確にルールで定義されてないグレーゾーンはルールの抜け穴だから、其れを使うのは勿論悪い事じゃないし、今回使ってる気球と無線傍受機は大戦期に実際に使用されてた物だから、45年ルールにも違反はしてない――ギリギリではあるけど、規制されてない今大会中に限っては合法って事だよ。

 

でも、ケイさんがこんな事を命令するとは思えないから、やったのはアリサさんだね?

まぁ、同じグレーゾーンでも中学の時のドローン空撮よりは遥かにマシかなぁ?……少なくとも最新機器を使わず、45年ルールの範囲内での無線傍受機を使用してる訳だから。

 

 

 

「でも、如何するのみぽりん?作戦が全部筒抜けじゃ、幾ら何でも不利なんてもんじゃないよ?」

 

「普通に考えればそうだろうけど、其処は逆の発想だよ沙織さん――そして、状況の打開には、沙織さんの十八番である高速メール打ちが鍵になるんだよ。」

 

「へ?私の高速メール打ちが?でも何で?」

 

 

 

それは『      』て『        』から。

だから沙織さんには『        』で皆に伝えて欲しいんだ――他の誰でもない、沙織さんにしか出来ない事だから、少し大変かも知れないけど、お願いできるかな?

 

 

 

「他の誰でもない、私にしか出来ない事だなんて……やだも~、みぽりん其れって殺し文句だよ!

 そんな風に言われたら断れないじゃん!って言うか、断る気なんてなかったけどさ!――って言うか、今のみぽりんカッコ良すぎ!男の人だけじゃなくて、これじゃあ同性でも惚れちゃうかもだよ!!

 若しかして、前の学校では結構ラブレター貰ってたりして~~~!!」

 

「貰ってたよ?女子校だったから、全部女の子からだったけど。」

 

「や~だも~~!モテモテじゃんみぽりん!」

 

「沙織、煩い。」

「沙織さん、落ち着いて。」

 

 

 

……取り敢えず頼んだよ沙織さん。

 

さてと、此方の手の内が尽く読まれていたカラクリは暴いたから、此処からは反撃と行かせて貰おうかな?

隻腕の軍神を搦め手で混乱させたのは大したモノだったけど、ネタが割れてしまえばもう脅威じゃない……だから、今度は私の十八番を、搦め手の真骨頂と言うモノを見せてあげるよアリサさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

「通信傍受……よもやフェアプレイを掲げるサンダースが、この様な事をしてくるとは思いませんでしたわ……」

 

「そうね。

 でも、ケイがあの様な事を指示するとは思えないから、恐らくは隊員の誰かが独断で行ったのでしょうけれど。」

 

 

みほが通信傍受を見破ったその頃、観客席ではエクレールもまた通信傍受に気付き、先程ダージリンが言った『鋭すぎる勘は、イカサマの証である』と言う言葉の意味を理解していた。

 

観客席から全体を見ていたからと言う事も有るだろうが、この会場内で誰よりも早く通信傍受に気付いていたのだダージリンは。

この視野の広さが彼女の最大の武器であると言える訳だが、通信傍受があると知って尚、ダージリンは大洗が敗北する事は無いだろうと考えていた。

 

 

「こんなジョークを知ってる?

 アメリカ大統領が自慢したそうよ、『我が国にはなんでもある』って。

 そしたら外国の記者が質問したんですって。『地獄のホットラインもですか?』って。」

 

「地獄のホットライン……中々にブラックなジョークですわダージリン様。」

 

「此れが分かるとは、中々博識ねエクレールさん。」

 

 

勿論エクレールもまた、通信傍受程度でみほ率いる大洗が負けるとは微塵も思っていない――むしろ、みほならば其れすら利用してしまうのではないかと思っている。

 

少なくとも英国淑女と仏蘭西貴女はそう考えていたのだが――

 

 

「グァッデーム!

 通信傍受だぁ!舐めた事してんじゃねぇぞオラァ!ガッデメラサンダース!!

 手加減なんざ必要ねぇ!やっちまえみぽりん!サンダースも通信傍受も蹴散らしちまえ!大洗とみぽりんだけ見てりゃいいんだオラァ!!」

 

 

何時の間にかダージリンとエクレールが観戦していた場所に移動して来ていたonsの総帥の怒りが爆発し、何故かこの場に有った長テーブルをケンカキックで粉砕していた。

 

 

「……絶好調ですわね黒のカリスマ。

 こんな格言を知っている?『俺はテメーのその甲高い声と黄色いパンツが気に入らねぇんだオラ!』」

 

「其れは格言ではなくて、あの黒いカリスマが、現文部科学大臣の馳浩氏が現役レスラーだった頃に言った一言でしょう……」

 

「……正解。」

 

 

此れには流石のダージリンも驚いたらしく、思わず意味不明な事を言ってしまったが、直ぐに落ち着きを取り戻してモニターに目を向ける。

 

そのモニターには、今までとは全く異なり、大洗の動きに対応してるとは言えないサンダースの戦車の動きが映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、実際に試合を行っている現場では……

 

 

『こちらウサギチーム。敵戦車発見できませんでした。』

 

『了解。其れじゃあウサギチームとアヒルチームは一度本隊に合流して。

 ライガーチームはファイアフライ発見できた?』

 

『まだよみほ……ったく、何処に隠れてるのやらだわ!』

 

『なら、ライガーはそのままファイアフライを探していて――でも、1輌だとアレだから、此方からカメチームを送るよ。車輌が増えれば探しやすくなると思うしね。』

 

『その心遣い、痛み入るわみほ。』

 

『此れ位はね。

 其れじゃあ此れより本隊は、ポイントD38に移動して陣形を立て直すから、迅速に行動して。』

 

 

 

「フッフッフ……アンタ等の行動は全てお見通しよ!」

 

 

相変わらずアリサの通信傍受が行われており、傍受した通信をアリサがケイに伝えて、大洗を倒す為の最善の一手を打っていく――今この時も、傍受した通信から、大洗の本隊が移動する場所を掴み、其れをケイに伝えていたのだから。

 

だが――

 

 

『ねぇアリサ、言われた場所に来たんだけど、大洗の戦車なんて何処にもいないんだけど?』

 

「へ?」

 

 

通信先のケイから聞かされたのは、件の場所に大洗の戦車は居ないとの事だった。

到着していないのかとも思えるだろうが、サンダースの本隊は大洗の本隊よりも件の地点から離れた場所に居たため、大洗の本隊よりも先に到着すると言うのは普通は有り得ないのだ。

 

この事態にアリサは思わず間抜けな声を出してしまったが、其れは仕方ないだろう。

通信傍受によって大洗の動向を完全に把握していた筈なのに、其れが外れたのだから、驚くなと言うのが無理がある――が、アリサを驚かせるのは此れだけではなかった。

 

 

「みーつけた……こんな所に居たんですね、アリサさん?」

 

「見つけた!根性で倒すぞ!!」

 

「「「はい、キャプテン!!」」」

 

 

「はぁ!Ⅲ号とクルセイダー!?」

 

 

藪の中に隠れていた所を、突如梓率いるⅢ号と、典子率いるクルセイダーが強襲して来たのだ――通信傍受では言っていなかった事が行われたのである。

 

 

「な、何で!?どうして……アンタ達はポイントD38に移動したんじゃなかったの!?なのに、如何してここに居るのよ!!」

 

 

其れに驚いて緊急離脱したアリサだが、なぜここがバレたのか、そしてどうして通信傍受に引っ掛からなかったのかが分からなかった……否、分かりたくなかったと言った方が正しいのかも知れない。

分かってしまったら、自分の中の悪い予感が的中してしまうから。

 

 

だが――

 

 

『サンダース副隊長の一人、アリサ……貴様聞いているな!』

 

「んな!?」

 

 

その悪い予感を的中させるかのように、傍受している無線からはみほの無情な一言が放たれた――アリサの策は、完全に看破されて通信傍受を利用して居る事が告げられたのである。

 

通信傍受に気付いたみほは、傍受されている事を逆手にとって、偽の作戦を無線で伝え、本当の作戦はスマホのラインを使って沙織に伝え、其れを受けた沙織が高速メール打ちで『命令書』を作成し、一斉メール送信で他のチームに伝えていたのだ。

 

正に逆転の発想!通信が駄々洩れなら、其れを利用してしまえと言う、普通なら思い付いても実行はしないであろう作戦を、みほは迷わず選択した――相手の搦め手を利用した、更なる搦め手をやってのけたのだ。

 

 

「さて、本番は此処からだよ……これで漸く条件が対等だからね――でも、対等な条件なら負けないよ!!」

 

 

そして、其れは同時に試合が動いた事を意味していた。

此れまで肩透かしを食らっていた大洗が、本格的に攻勢に出たのだから……そして、其れはつまり、大洗が反撃に出た事の証明でもある。

 

 

「此処からは大洗のターン……そして、二度とサンダースのターンは来ないよ!」

 

 

白熱する大洗vsサンダース……通信傍受が意味をなさなくなった此処からが本番であると言っても過言ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer118『白熱しまくりの1回戦です!』

白熱した戦いだったね♪Byみほ      此れこそ戦車道よね!Byエリカ      ですねBy小梅


Side:エリカ

 

 

去年は真面に試合に臨んで来たけど、今年はやらかしてくれたわねアリサは――まぁ、ドローンでの空撮と比べれば、通信傍受は可愛いレベルではあるけどね。

 

だけど、みほが其れを許すかと言ったら其れは否だわ。

 

その証拠に、通信傍受を逆手に取っての戦術を仕掛けた訳だからね――通信傍受を逆利用して嘘情報を流すとか、本気で敵にだけは回したくないわねみほは。

普通だったら、思い付いても実行には移さないレベルの事を、一切戸惑わずに選択して実行しちゃうんだから。

 

でも、その決断のおかげで漸くこっちに流れが傾いてくれたわね?

通信傍受のせいで散々っぱら踊らされた訳だから、今度はこっちがアンタ達をキリキリ舞いさせてあげるわよ!

 

「坂口、全速前進!戦局が動いたけど、私達がファイアフライの撃破を優先するのは変わらない!

 フラッグ車は本隊が仕留めるだろうから、私達はサンダースの最大の牙を折って勝利をより確実な物とする!異論はないわね?」

 

「あいー!!」

 

「其れじゃあ、その旨隊長に知らせておきますね~~、スマホで。」

 

「では、蛍狩りと洒落込むか。」

 

「あの、なんで蛍狩りなんですか八神先輩?」

 

「そう言えば何でだ?」

 

 

 

いや、知らないで言ってたのアイン!?あのねぇ、ファイアフライってのは蛍の事だからよ。

何で戦車にって思うかもしれないけど、蛍は欧米で『獰猛な肉食昆虫』って認識があるから、その辺の理由から戦車の名称に用いたって訳。

まぁ、幾ら獰猛な肉食昆虫でも、猛獣である虎の敵じゃないけどね!

 

 

 

「虎が蛍を捕らえるのって難しいんじゃ……」

 

「ちょろちょろ逃げ回られちゃうかも~~?」

 

「あいーーー!」

 

 

 

不吉で余計な事言ってんじゃないわよ1年組!兎に角、行くわよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer118

『白熱しまくりの1回戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梓

 

 

西住隊長が嘘情報を流してくれたおかげで、サンダースの部隊を此方の思惑通りに動かして、フラッグ車を孤立させる事に成功したし、そのフラッグ車を発見する事も出来た。

後は本隊の前にフラッグ車を引き摺り出すだけ……攻撃開始!

 

 

 

「了解したぞ副隊長!よーし、根性入れて行くぞーーー!!」

 

「「「おーーーー!!!」」」

 

 

「何なのよアンタ等、暑苦しいわね!!」

 

 

 

……其れは、何と言うかちょっとだけ同意しますけど其れがアヒルチームですので。

取り敢えずあゆみ、決定打にならない所に適当に打ち込んで。クロエは着弾と同時に全速バック!私達の事を、アリサさんに『追いかけさせる』よ!

 

 

 

「了解!っても、果たして巧く当たるかな?」

 

「巧く当てる必要は無いヨあゆみ。何処でも良いから当てれば良いんダ――仮に撃破してしまったら、其れは其れで一切問題ないしネ。」

 

「そう言う事だから、緊張しないで。……撃て!!」

 

「えぇい、当たれぇ!!」

 

 

 

――ゴン!!

 

 

 

当たったのは、シャーマンの正面……やっぱりⅢ号の主砲じゃ抜けないね。

でも此れで良い!クロエ緊急離脱!アヒルチームも離脱してください!この場でのこれ以上の戦闘は、一切意味を成しませんので、西住隊長の指示通りに!

 

 

 

「了解!そんじゃ、逃げるぞーーー!!」

 

「アリサさん、アディオース!!」

 

「ちょっ、待てこら!逃がす訳ないでしょうが!!」

 

 

 

良し、追って来た!

後は西住隊長が率いる本隊の前まで誘導するだけ――其処まで行けば、略勝利が確定するから、残る不安要素はファイアフライだけになるけど、其れはきっと逸見先輩が討ち取ってくれるだろうからきっと大丈夫。

大洗のジャイアントキリング、絶対に達成してみせる!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

通信傍受を逆手に取られ、Ⅲ号とクルセイダーの奇襲を受けたアリサは、その場から離脱した2輌を追って全速前進していたのだが、中々追い付く事が出来ないでいた。

クルセイダーがリミッターを解除していない状態ならば、機動力では略互角なのだが、其れでも追い付く事が出来ないでいたのだ。

 

 

「そぉれ!此れでも喰らえ!」

 

 

その理由はクルセイダー――アヒルチームの車長である磯辺典子だ。

何と典子は、バレーボールのサーブ宜しく、車内に緊急用の信号として積む事がルールで許可されている発煙筒をシャーマンに向かって打ち込んで、視界を塞いでいたのだ。

 

視界が真っ白な煙で覆われてしまっては、下手に進む事は出来ないし、攻撃する事だって不可能だ――機銃で攻撃するなら兎も角、主砲を放つのは、無駄弾を撃つ事になりかねないのだから。

 

 

「煙幕とか、本気でウザいわね……機銃で煙幕晴らしなさい!」

 

「え~~?機銃で攻撃とかカッコ悪くない?」

 

「んな事言ってる場合じゃないでしょうが!!」

 

 

アリサの乗るシャーマンの車内では、少々コント染みたやり取りが行われていたのだが、既にアリサ車は完全包囲の罠に嵌っていた――否、梓達を追いかけた時点で罠に掛かっていたのだ。

 

 

「来た来た……全車、突撃ーーー!!」

 

「「「了解!!」」」

 

 

開けた平原に梓達とアリサ車が現れた所で、待機してた本隊が、みほの号令で突撃開始!

パンター、Ⅳ号、Ⅲ突、38(t)の4輌による挟み撃ちとも言える攻撃が、サンダースのフラッグ車であるアリサのシャーマンに炸裂したのだ。

 

 

「嘘!待ち構えられてた!?」

 

『Hey!ちょっと、どうなってるのアリサ?』

 

「只今大洗の部隊に攻撃されてます!若干ピンチです!!!」

 

『はぁ!?何だってそんな事になってるのよ?』

 

「つ、通信傍受がバレたみたいです……」

 

『……このおバカ!戦車道は常にフェアプレイって言ってるでしょ!!――マッタク持って余計な事してくれて……まぁ、其れを見破ったみほは本気で凄いと思うけどね。』

 

 

この事態を異常だと感じたケイの問いかけに対して、アリサはアッサリと通信傍受を告白……アッサリと言ってしまう位に、精神的なダメージを負っていたと言う事なのだろう――尤もアッサリと言ってしまった事で、ケイの怒りに触れた様だが。

 

 

『怒られてやんの!やーい、バーカ!』

 

「この声はエリカ!アンタ、馬鹿にしてんの!!」

 

『馬鹿にしてるですって……舐めて虚仮にしてんのよ。

 まぁ、アンタが姑息な手段を使うのは今に始まった事じゃないけど、其れもみほの前では全く意味無いのよね……って言うか、通信傍受で勝てると思ってるとか、アンタみほを舐めてんの?

 アンタ如きの猿知恵でみほが如何にかされる訳ないでしょ?アンタとみほとのレベルの差を知りなさい、そばかすツインテール。』

 

「むっきー!殺す!殺し切る!!」

 

『ティーガーにカモられたM4で私を殺し切るぅ?流石はサンダースの副隊長……あぁ、『元』でしたね。』

 

「元じゃなくて現よ!!」

 

 

其処に通信傍受を利用したエリカの挑発が入り、アリサは完全に乱心状態!

エリカの言ってる事は冷静になれば其処まで激昂する事でもないのだが、エリカの物言いと態度で、怒りのボルテージをMAXにするには充分だったらしく、アリサは其方に気を取られてしまっている。

 

此のまま行けば大洗の勝利が確定するが、そうは行かないのが大会だ。

 

 

「マッタクアリサは……此のままじゃ負けるから増援をだけど、どちらも被害がない事を考えると、大洗は最初から3輌のビハインドが有るのと同じ訳だから――OK、4輌は私と一緒に来て。

 ファイアフライは、独自に動いてくれていいわ。」

 

 

此処でサンダースの隊長であるケイはアリサを助ける為に本隊を動かすが、あくまで動くは己を含めて5輌――独自に動いているファイアフライと、絶賛ピンチのフラッグ車を合わせての合計7輌と、大洗の戦車数に合わせての戦いを命令したのだ。

 

勝利を第一に考えるのならば、このケイの選択は悪手だろうが、ケイは元より勝利よりも如何に試合を楽しめたかに重きを置く人物であり、勝敗は二の次な上に、何よりもフェアプレイを信条にしている――故に、車輌数で劣る相手には、同じ車輌数で戦うと言う選択をした所で不思議は無いのだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

程なくして盤面は『Ⅲ号とクルセイダーを追うシャーマン』、『そのシャーマンを追う大洗の本隊』、『更にその大洗の本隊を追うサンダースの本隊』、『獲物を求めてフロントラインを目指すファイアフライと、其れを阻止しようとするティーガーⅡ』と言う4つに分けられた――大洗とサンダースの追いかけっこは同じフィールドで戦っている訳なのだが……ファイアフライとティーガーⅡは、追いかけっこが行われている場所から、少しだけ離れた場所で会敵しての戦闘となっていた。

 

 

「退け、エリカ!道を開けろ!!」

 

「そう言って、アンタなら道を開けるかしらナオミ?」

 

 

追いかけっこが行われている場所はそう遠くないので、ナオミとしては即時本隊に合流しようとしていたのだが、合流直前にエリカとエンカウントしてしまったのだ――合流したいナオミと、ファイアフライ撃破が目的のエリカが鉢合わせになって戦闘にならない方がオカシイ。

 

カタログスペック上は、互いの戦車の攻撃力は略互角で、防御力はティーガーⅡが、機動力ではファイアフライの方が上である為、総じて戦えば五分なのだが、大洗のティーガーⅡ――明光大時代の活躍から密かに『シュバルツティーガー(黒い虎)』と呼ばれている――は、レギュレーションギリギリの魔改造が施されている為、機動力までもがファイアフライと互角になっている為、エリカの方が絶対的に有利なのだ。

 

 

「矢張り敵に回すと厄介だなそいつは……最強の攻防力を持ってるティーガーⅡに機動力までついたら、其れはもう最強じゃないか。」

 

「そう言う割に、的確にこっちの弱点を狙いながら致命傷を避けるアンタも相当だと思うけどねナオミ!」

 

「中学時代の相棒だ、そいつの事はお前よりもよく知ってるよエリカ。」

 

 

であるにも拘らずエリカが一方的に押し切る事が出来なかったのは、ナオミが中学時代に此のティーガーⅡに乗っていたからだ。

何度も共に激戦を勝ち抜いて来たからこそ知っている黒いティーガーⅡの特性――其れを熟知しているナオミが、砲手でありながらも指示を出して互角の戦いを演じていたのだ。

 

だが、エリカとて並の戦車乗りではない。

実力至上主義の黒森峰で、中等部とは言え隊長を務めたその実力は確かな物であり、現在の大洗では実力的にはナンバー2の戦車乗りなのだ――故に、搭乗戦車の事を相手の方が知っているからと言って不利にはならない。

 

 

「確かに中学時代、此の子は貴女の相棒だったんでしょうけど、今は私のPartner(相棒)……いえ、Comrades(戦友)よ?

 なら私は、私のやり方でこの子を活躍させるだけ――何よりも、此の子の事は貴女の方がよく知ってるかもしれないけど、ティーガー全般に関してなら、黒森峰に居た私の方が遥かに詳しいのよ!

 坂口、思い切り突っ込みなさい!!」

 

「あい~~!了解~~!!」

 

 

何よりも、エリカにはナオミにはない内に秘めた野獣の凶暴性がある。

本来ならば、車長であるエリカは常に冷静でなくてはならないのだが、エリカに限っては理性も冷静さも吹っ飛ばしてしまった方が遥かにパフォーマンスが向上するのだ。

 

その切り替えをマニュアルで出来るエリカは大したモノなのだが、その凶暴性を解放した瞬間に、ティーガーⅡはその名の通り『虎』となった。

其れも、圧倒的な力を持った黒い虎に。

 

 

「真正面から突撃とか本気かエリカ!」

 

 

凶暴性が解き放たれたからこそ行われた正面特攻に、ナオミは驚くが、直ぐに操縦士に指示を出して回避するが、ティーガーⅡは其れに超反応するかのように軌道を修正してまた突撃して来る。

明らかに超熟練者でしか出来ない動きだが、ティーガーⅡの操縦士である桂利奈はエリカの闘気に中てられたせいでアドレナリンが可成り出ているらしく、その影響で普段では出来ないような操縦テクニックを披露しているのだ。

 

バックしながら撃つファイアフライと、其れを避けながら突撃して砲撃を行うティーガーⅡの攻防は、見ている側からしたら手に汗握る好勝負だが、其れを行っている選手にとってはコンマ1秒たりとも気を抜く事が出来ない戦いであり、其れはつまり先に神経が参った方が撃破されると言う事でもあるのだ。

 

野獣と化したエリカと、スナイパーのナオミのこうした攻防は暫く続いたのだが……

 

 

「アイン、ファイアフライの後方1mの所に撃って!」

 

「了解した。撃ち貫く!」

 

 

何度目かの突撃と同時に、ティーガーⅡがファイアフライの後方の地面を砲撃し、その地面を抉り取る――正にファイアフライのバックのルートであった場所を!

此れが前進方向への攻撃ならば緊急停止も出来ただろうが、後方バックでは中々そうは行かない上に、ファイアフライの車長はキューポラから身を乗り出さないタイプだったので後方への着弾の確認が遅れてしまった。

 

 

 

――ガクン!!

 

 

 

「しまった!!」

 

 

結果、其れが致命傷となり、ファイアフライはティーガーⅡが作ったクレーターに嵌って身動きできなくなってしまったのだ。

度重なる突撃は、ファイアフライのバックのタイミングとスピードをエリカが計る為に行っていたのである。……野獣の凶暴性に加えて、こう言う観察眼まで備えていると言うのは恐るべきモノだろう。

 

 

「最初からこれを狙ってたのねエリカ……やられたわ。」

 

「銀の狂犬は、只相手を噛み殺すだけじゃない。確実に噛み殺す為の策を練る頭脳も有るって事よナオミ。

 みほクラスの戦車乗りが車長だったら分からないけど、本来は砲手である貴女が、限定的とは言え車長の代わりを務めたのが敗因――砲手が其れに集中できなくなれば攻撃力はガク落ちだからね。」

 

「その子の事はサンダースでは一番知ってるからと思っての行動が裏目に出たか……見事だよエリカ。」

 

 

――ズドン!!

 

――パシュン!

 

 

『サンダース、ファイアフライ行動不能!』

 

 

直後、ティーガーⅡの超長砲身88mmが火を噴き、ファイアフライを撃破。

これにより、サンダースは最強の戦車を失い、戦局は一気に大洗有利に傾いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

エリカとナオミが激戦を繰り広げていた頃、大洗とサンダースの追いかけっこもまた白熱していた。

サンダースのフラッグ車であるアリサ車は、後方の大洗の攻撃を避けつつもⅢ号とクルセイダーへの攻撃を仕掛け、アリサ車を追う大洗の本隊は後方から迫って来るサンダースの本隊を攻撃しつつアリサ車を狙い、サンダースの本隊は大洗の本隊への攻撃を徹底。

 

大洗の本隊にフラッグ車であるⅣ号が居る事を考えると、状況は五分だがフラッグ車が1輌でいるサンダースの方が僅かに不利だと言える。

 

 

が、両校の隊長にとってはそんな物は些細な問題、無問題!

 

 

「Wao!やっぱり貴女との試合はExcellentねみほ!最高のEcstasyを感じちゃうわ!」

 

「其れは光栄ですケイさん。私もとっても楽しいですから!」

 

「OK、OK!そう来なくっちゃね!

 でも、楽しいからこそ勝って終わりにしたいわよね?――楽しんだ上で勝つ事が出来たら、其れはもう最高だもの♪」

 

「其れについては諸手を挙げて賛成です――諸手を上げる事できませんけど。」

 

「あ~っはっは!ナイスジョーク!」

 

 

みほもケイも、『戦車道は楽しむ物』との認識を持っている故に、試合の行方を決める追いかけっけこの最中でも此の状況を楽しんでいるのだから相当だろう。

 

 

『大洗、38(t)行動不能!サンダース、シャーマン行動不能!』

 

 

その激戦の中で、互いに仲間が撃破されて行くが、数に変わりはなく決定打を欠く戦いとなっていた。

このまま行けば泥試合になる所だが――此処で大きく試合が動いた。

 

 

『サンダース、ファイアフライ行動不能!』

 

 

エリカのティーガーⅡと戦闘を行っていたファイアフライが撃破されたのだ。

 

 

「ナオミがやられた!?」

 

「よし、やってくれたねエリカさん!」

 

 

そして其れを合図に試合は大きく動く。

 

 

「磯辺先輩、今です!」

 

「了解だ副隊長!」

 

 

まず、アリサ車に追われていたⅢ号とクルセイダーが急ブレーキを掛けてアリサ車に追い抜かさせると、其れと入れ替わる形でみほのアイスブルーのパンターと、フラッグ車である小梅のⅣ号が前に出てアリサ車を捉える。

 

このスピードスイッチにサンダースは虚を突かれて対処が一瞬遅れてしまう――そもそもにして、フラッグ車同士の一騎打ちでもない限り、フラッグ車が前に出る事ないのだから、驚くのも無理は無いが。

 

だがしかし、たかが一瞬、されど一瞬。

超一流の戦車乗りにとっては、敵戦車の動きが確実に1秒止まったと言うのはこの上ない好機なのだ。

 

 

「合わせて小梅さん!」

 

「ブチかましましょうみほさん!」

 

 

一瞬動きの止まったアリサ車を挟み撃ちにする形でみほのパンターと小梅のⅣ号が主砲を放ち、

 

 

「此れで終わりね……敗北をその身に刻み込みなさい!」

 

 

更にファイアフライを撃破したティーガーⅡが高台から現れて必殺の88mm砲をブチかます!!

アリサ車に三方からの攻撃を避ける術はない。

 

 

「そ、そんな!私達が1回戦負けだなんて……何でよ、タカシーーーー!!!」

 

 

――ズドォォォォォォン!!

 

――バガァァァァァァァン!!

 

――滅びのブァーストストリィィィィム!!

 

 

……一部妙な砲撃音が混じったが、パンターとⅣ号とティーガーⅡの砲撃はアリサ車に吸い込まれるように向かって行き、そして着弾!!

 

 

――キュポン!!

 

 

『サンダース、フラッグ車行動不能!大洗女子学園の勝利です!!』

 

 

その結果、サンダースのフラッグ車は行動不能となって試合終了。

無名の大洗女子学園が、4強の一角とされている強豪サンダースを打ち破ると言うジャイアントキリングを成し遂げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

ふぅ……勝てた。

通信傍受に気付く事が出来なかったら危なかったけど、其れに気付けたお陰で通信傍受を逆利用できたから勝つ事が出来た――エリカさんがファイアフライを撃破してくれた事も大きな勝因だね。

 

 

 

「Hi!みほ、中々に刺激的な試合だったわ!

 其れとゴメンね、通信傍受とかして……此れについては言い訳のしようもないわ。」

 

「あ、気にしないで下さい――私も偵察とかしちゃったし。」

 

「ノンノン、偵察はルールブックでOKとされてるけど、通信傍受はOKでもNGでもないから、合法でもあって非合法――つまりはグレーゾーンだから其れと比べたらダメよ。

 ザッツ戦車道!フェアプレイが基本でしょ?」

 

 

 

ケイさん……マッタク持ってその通りですね。

こっちの車輌数に合わせてくれたのも、ケイさんのフェアプレイ精神の現れって言う所だと思うし。――でも其れを踏まえると、通信傍受なんて事をしたアリサさんはどうなるんだろう?

 

 

 

「アリサ……後で反省会ね?」

 

「死刑宣告!?」

 

「ま、受け入れるんだな。」

 

 

 

……如何やら、反省会とやらが待ってるみたいだね。

通信傍受は自業自得だから同情はしないけど、この反省会を期に、隊長に勝利をプレゼントする場合でも手段を選ぶ必要があるって言う事を学ぶと良いよアリサさん。

其れを学ぶ事が出来たら、貴女はきっと最強クラスの戦車乗りになるだろうからね。

 

其れは其れとして、楽しませて貰いました――最高の試合を、ありがとうございますケイさん!

 

 

 

「其れはこっちのセリフよみほ――2回戦も頑張って。

 私達の優勝の悲願、貴女に託すわ。」

 

「その思い、受け取りました。必ず優勝して見せます!!」

 

「OK Great!貴女達の活躍を期待してるわ!」

 

 

 

なら、その期待には応えるだけです!――必ず、今大会で大洗を優勝に導いてみせますから!

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

その後は、両校とも撤収作業なんだけど、その作業の最中にメールを受信した麻子さんの様子がおかしい……麻子さん、何かあったの?

 

 

 

「おばあが、倒れた。」

 

「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

お婆さんが!?

其れは直ぐに病院に行かないと!――でも、此処からじゃ陸路じゃ間に合わないし、海路でも間に合わないよ!?……って、靴と靴下脱いでなにしてるの麻子さん!?

 

 

 

「泳いでいく!」

 

「ちょ、其れは無理だよ麻子!!」

 

「放せ沙織。私はおばあの元に行かなきゃならないんだ!」

 

 

 

ま、まさか泳いでいくと言うとは予想外だよ麻子さん。

でも、其れだけ麻子さんにとってお婆さんは大切な存在なんだよね?――なら、何としてもお婆さんが入院した病院に連れて行きたいけど、この状況じゃ其れは難しいモノだよ。

 

 

 

「なら、私達のヘリを使ってくれ。」

 

「お姉ちゃん!?」

 

此処でまさかのお姉ちゃんの援軍!

パイロットは近坂先輩だから不安は無い……程なくして、ヘリに麻子さんと沙織さんが乗り込んで、一路麻子さんのお婆さんが入院した病院に向かってマッシグラ――あのスピードなら間に合うだろうね。

 

えっと、ありがとうお姉ちゃん。

 

 

 

「気にするなみほ、これも戦車道だ。」

 

「うん、そう言われると何も言えないよお姉ちゃん。」

 

でも、そのお陰で麻子さんをお婆さんの元に向かわせる事が出来たから良かったよ――明日はいよいよ黒森峰の1回戦だから、絶対勝ってよお姉ちゃん?

 

 

 

「無論その心算だ――決勝の舞台で待っているぞみほ。」

 

「望む所だよお姉ちゃん!」

 

大洗も黒森峰も、戦うためには決勝戦まで駒を進める以外の選択肢は無いからね――必ず勝ち残ってよお姉ちゃん!

 

 

 

「勿論だ……遊撃隊が無くとも黒森峰は健在だと言う事を示してやるさ。」

 

「確かに。遊撃隊がなくなって弱くなったとか言われたらアレだもんね。」

 

でも、先ずは麻子さんのお婆さんの状況確認が最優先だね――麻子さんと沙織さんが先行したけど、私達も行った方が良いだろうと思うし。

撤収作業が終わり次第、私達も本州へ移動するから、此処でお別れだね。

 

 

 

「そうだな……決勝戦まで来るのは決して楽な道のりではないと思うが、お前なら出来ると信じている――必ず勝ち上がって来い。」

 

 

お姉ちゃん……うん、約束するよ!

私達は必ず勝ってお姉ちゃん達と戦うって!!――決勝戦で合いまみえる時を楽しみにしてるよ、お姉ちゃん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer119『緊急事態~Emer gencyです~』

麻子さんの過去が……重いByみほ      其れはまぁ仕方ないでしょ?Byエリカ      争えない公式設定ですからねBy小梅


Side:みほ

 

 

撤収作業を終えた私達は、学園艦に戻ってから会長さんが手配しておいてくれた航空科のヘリで麻子さんが向かった病院までやって来た。

……って言うか大洗には船舶科だけじゃなくて航空科もあったとは驚きだよ。普段は一体どんな時に使われるのかとっても気になる所なんだけど、学園艦の施設じゃ如何にもならない重病人とかが出た場合に、本土への搬送をしたりするのかも知れないね。

 

まぁ、今回は航空科の皆のおかげで助かったのは確かかな?

試合会場から陸路で行ってたら、新幹線で上野まで行って、其処から常陸号で水戸まで行って、更に其処からバスで水戸医療センターまでだったからね……本当に助かりました、航空科の皆さん。

 

 

 

「医療センターにヘリポートがあったからこそですが、我々としてもお役に立てて光栄です西住隊長。」

 

「ほへ?何で、私の事を西住隊長って……」

 

「我が大洗の戦車道チームの隊長だからですよ。

 其れと、先程会長が『西住隊長達を水戸医療センターまで運んであげて』って言ってましたので、我々も西住隊長とお呼びした方がいいかと思いまして。」

 

 

「あはは……そうだったんですか。」

 

普段は私の事、『西住ちゃん』って呼んでるけど、他の人に言う時は『西住隊長』になるんだ……公私を分けてるって事なのか、其れとも大洗の戦車隊を印象付けたいのか――若しかしたら両方かもね。

 

それにしても、まさか普通のヘリじゃなくて輸送用の大型ヘリを飛ばす事になるとは思わなかったよ。(そもそもにして何でこんなのが有ったんだろう?)

当初はあんこうチームだけで行く予定だったんだけど、他のチームの皆も麻子さんの事が心配だったみたいで『一緒に行く』って言って、あまり大人数で押しかけるのは悪いからって事で、カメさんチーム以外のチームの車長が代表して一緒に行く事になったからね。

其れでも合計8人+ロンメルとアンドリューだから充分多いんだけどね。

 

「其れじゃあ私達は病室の方に行きます。

 帰りは、電車で大洗まで戻るので迎えは不要です――学園艦は確か今日は夜には大洗に停泊する予定だった筈ですから。」

 

「了解しました。

 もし、電車のダイヤが乱れて大洗に戻る事が出来なさそうな場合は連絡してください。直ぐにお迎えに上がりますので。」

 

「はい、その時はお願いします。」

 

航空科の人達とは此処でお別れ。――別れ際にはお互いに敬礼をしてね。

 

後は病室に向かうだけ。――入口のすぐそばにローソンがあったから帰りに寄ってみようかな?確か、ローソンにも『コンビニ制服ボコ』があった筈だからね。

 

で、予想はしてた事だけどやっぱりアンドリューとロンメルは中には入れなかったか……しょうがない、帰って来るまで大人しく待っててね?

 

 

 

『ガウ。』

 

『キューン。』

 

 

 

うんうん、良い返事だね。――それじゃ、行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer119

『緊急事態~Emer gencyです~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

受付で麻子さんのお婆さん、『冷泉久子』さんの病室の番号を聞いてそのまま真っ直ぐそこに。(麻子さんのお婆さんの名前は、沙織さんにメールで教えて貰った。)

病室番号は305……って、ナースステーションの真正面だこれ。

 

取り敢えず入る前にはノックなんだけど……

 

 

 

「此れ位は全然大した事ないから、アンタはさっさと学校に戻りな!」

 

 

 

「……何やら病室内から怒号が聞こえるのは気のせいかなエリカさん?」

 

「気のせいじゃないわみほ。私にも聞こえたから――って言うか、今のは絶対麻子のお祖母様の声よね?

 倒れて緊急搬送されたにしては元気過ぎない!?」

 

「実は元気で、その元気に身体の方が追い付かなくてオーバーフローを起こしただけだったりなのかも知れませんね此れは……」

 

 

 

梓ちゃん、其れが微妙に否定できないっぽい。

えーと、取り敢えず失礼します。

 

 

 

「あ、みぽりん達も来たんだ?……って、随分と大所帯じゃない?」

 

「あはは……あんこうチームだけで来る心算だったんだけど、色々有った結果、カメさんチーム以外の車長が各チームの代表として一緒にね。

 倒れて緊急搬送されたって言うから心配だったけど、お婆さんは元気そうでよかったね麻子さん。」

 

「おうよ。おばあが元気で安心した。」

 

「ちょっと倒れた位で大袈裟なんだよマッタク。

 それで、アンタ達は何モンだい?麻子の知り合いかい?」

 

 

 

えっと、大洗女子学園の戦車隊の隊長を務めている西住みほです。

麻子さんは私の乗っている戦車の操縦士で、何時も頼りにさせて貰ってます。――一緒に居る皆は、戦車道の仲間です。

 

 

 

「西住?……そうかい、戦車道の。

 だけど、こんな所で油打ってる暇があるなら、戦車に油注しときな!麻子から聞いた話だと、1回戦は突破したらしいけど、大会はまだまだ続くんだろう?

 私の見舞いをしてる暇があるなら、戦車を動かしな!」

 

「……皆、おばあが心配で来てくれた。」

 

「私の心配じゃなくて、アンタの心配だよ!礼の一つでも言ったら如何なんだい!!」

 

「ありがとう。」

 

「もっと、心を込めて言う事が出来ないのかアンタは!」

 

 

 

……な、なんか凄い人だなぁ麻子さんのお婆さんは?大凡倒れて緊急搬送された人とは思えない位の元気さだよ!……西住の名に少し反応したのが気になるけど、如何やら人間的には良い人みたいだね。

でも、取り敢えず元気そうで安心しました。

 

 

 

「隊長の言う通りだな……もしも貴女にもしものことが有ったら、隊長のパンターを動かす人が居なくなってしまうからな――最悪の事態を避ける事が出来て良かったな。」

 

「お婆さん、根性で退院しましょう!」

 

「磯辺先輩、其れは無茶ぶり過ぎです!!」

 

「……マッタク騒がしい子達だね?

 よくもまぁ、こんだけ愛想のない子に、これだけの仲間が出来たもんだよ――ホラ、私はもう大丈夫だって分かっただろう?あんまり大人数で居ると他の患者さんの迷惑になっちゃうから早くお帰り。」

 

「個室で他の患者に迷惑も何もないと思うが……そもそも最近の病室の防音性は可成り高い……」

 

「そう言う事を言ってんじゃないよ!言葉じりだけで判断するんじゃないよマッタク!

 ……そうだ、隊長さんは少し残って貰って良いかい?ちょいと個人的に話したい事があるんだよ。」

 

「へ?ま、まぁ其れは構いませんけど……えっと、其れじゃあ少し話してから行くから、皆は先に行っててくれるかな?」

 

何なら外のローソンで待っててくれて良いし……個人的なお願いをするならば、出来れば1人1個コンビニ制服ボコが入った商品を買ってくれるとありがたいかなぁなんて。

コンビニ制服ボコのレアバージョンは、残るはローソンのだけだから是非ともフルコンしたいしね!

 

 

 

「貴女ね……まぁ良いわ、考えといてあげる。

 其れと、院内に入る事が出来なかったロンメルとアンドリューに何かご褒美買ってあげても良いわよね?あの子達なら、間違い無く良い子で待ってると思うし。」

 

「良いよ。寧ろ全然OK。」

 

「なら、ロンメルにはいなり寿司、アンドリューにはなんこつ入りつくね棒でも買ってあげるわ。」

 

 

 

ロンメルは兎も角、アンドリューは其れじゃあ絶対に足りないと思うけど、食べ過ぎると晩御飯が食べられなくなるから其れ位が丁度いいかも知れないね。

 

 

……さてと、皆行きましたけど、話しって何でしょうか?

 

 

 

「アンタ、西住って名乗ったね?……西住ってのは、あの『戦車道の西住』かい?」

 

「はい、その西住です……私の名前と言うか、西住の名に少し反応したので知ってるのかと思いましたが、矢張り知っていたんですね?」

 

「あぁ、よーく知ってるよ。

 って事は、アンタはあの西住かほの孫だね?」

 

 

 

……その通りです。非常に不本意ではありますけど。

こう言ったらアレですけど、あの人が私のお祖母ちゃんだなんて信じられません!否、お母さんのお母さんだって言うのすら信じられません!

お父さんが入り婿って事ですけど、実はお父さんの方がお祖母ちゃんの実子で、お母さんを跡取りの為に嫁に貰ったって言われたとしても信じるレベルですから!!――否、お父さんとお祖母ちゃんだって似てないですけどね?

 

そもそもにして、勝利>人命って言う考え方がおかしい事この上ないんですよお祖母ちゃんは!

味方を助けるのは兎も角として、相手を助けるのは西住流に反するって馬鹿なの!?スポーツの世界で非常事態が起こった時には敵も味方もないって言うのに、其れを全く分かってないんだからあの人は!!

 

其れだけじゃなく、自分の意にそぐわない私とエリカさんと小梅さんを破門して黒森峰から追放するとか、頭がおかしいとしか思えません!!

 

って、ちょっと熱くなり過ぎました。ごめんなさい。

 

 

 

「いんや、問題ない、アンタの言った事からアイツが今どうしてるのかよく分かったからね。

 アレから50年近く経ってるってのにアイツは未だそんな事を言ってるのかい……まったく呆れたモンだよ、私が言った事はマッタク全然伝わってなかったって事かい――こりゃあ、本気でしほちゃんが西住流を継承する時が来たのかも知れないね?」

 

「その時が来たのは間違いありません。」

 

お母さんとお姉ちゃんはそれぞれ独自に動いていますし、私はそもそもお祖母ちゃんの言う西住流を否定する為に大洗に来た訳ですからね。

私は勝ちます、お祖母ちゃんの言う西住流に。

 

 

 

「頼もしいねぇ?……あの馬鹿の目を覚ましてやっておくれ。」

 

「はい、約束します!!!」

 

「……良い目だ。

 優しい光の中に、絶対に退かない強さがある――アンタみたいな子が、麻子の友達だってんなら私も安心ってもんだ……麻子の事、よろしく頼むよ、隊長さん?」

 

「了解です!……と言うか、若しかして昔は戦車女子だったんですか?」

 

「いんや、私は観戦者の方だよ。

 ある時当時のかほの試合を見て、相当に頭に来たのを覚えてるんだよ……戦争が終わって11年も経ってたってのに、敵を磨り潰し、味方を酷使するような戦い方をしててね……思わず試合後に会場の外で喰って掛かっちまったのさ。」

 

 

 

あのお婆ちゃんに喰って掛かるとは、若しかしなくても麻子さんのお婆さんは可成りの胆力の持ち主なんだろうね……そして、意外な縁に吃驚だよ。

でも、ちょっと意外な話が聞けて貴重な体験でした――ゆっくり養生して下さい。

 

 

 

「あんまり年寄り扱いしなさんな。明日には退院して、アンタ達の2回戦を直接会場まで行って応援してやるさ。

 ……まぁ、なんだ。麻子はあんな風に不愛想な子だけど、悪い子じゃない……仲良くしてやっておくれ。」

 

「はい。……其れじゃあ、失礼します。」

 

激しい性格みたいだけど、その実は麻子さんの事を大事に思ってるって事なんだろうなぁ……比べちゃイケナイって言うのは分かってるんだけど、娘や孫ですら自分の言う西住流の為の歯車と考えてるかほお祖母ちゃんとは大違いだよ。

 

アレ?そう言えば何で麻子さんだけだったんだろう?麻子さんのお父さんとお母さんだって来てても良い筈なのに……仕事にしたって、家族が倒れたのに駆けつけないって言うのはちょっと考えられないんだけど――ま、余り気にしない方が良いかな。

 

さてと、皆お待たせ。

 

 

 

「お、来たねみぽりん。麻子のおばあと何話してたの?」

 

「特別な事じゃないよ――隊長なんだから麻子さんの事をしっかり見ててくれって。あと、大会頑張れって。退院したら会場まで来るって。

 って、麻子さん寝ちゃったの?」

 

「うん、気が張ってたみたいで、無事を確認して病室を出た途端に其れが切れたみたい――エリリンが運んでくれたから助かったよ。」

 

「まぁ、これ位は大した事ないわ。

 でもねぇ沙織、麻子はたいして重い子じゃないでしょう!戦車乗りなら、これ位簡単に運ぶ事が出来なくて如何するのよ!!」

 

「え~~?でも私、通信士だし……」

 

「通信士だからこそですよ沙織さん。

 不測の事態で、他のポジションが機能しなくなった時には、通信士の人がそのポジションを埋める場合は少なくないので、本職の装填士程ではなくとも、ある程度の力は付けておいた方が良いですよ?」

 

 

 

其れは、小梅さんの言う通りだね。――短期間で力を付ける『西住流フィジカルトレーニング筋力特化メニュー』やってみる?

 

 

 

「やだ!そんなのやったら絶対次の日動けなくなっちゃうから!!」

 

「あはは、冗談だよ沙織さん。今のは考案したお母さん自身が『此れは駄目だ』って言って廃案にしたレベルの物だから。」

 

「……因みにトレーニングメニューは?」

 

「腕立て、腹筋、100kgのベンチプレスを各500回1セットを3セットやった後に、重さ300kgのローラーを引いて200mトラックを10周――した後で三本指倒立10分間。」

 

「みぽりん、其れ普通に死人が出ると思う。」

 

「うん、だから廃案になったんだよ。」

 

アレは人がやって良い物じゃないからね……っと、丁度いい所で水戸駅行きのバスが来たから乗ろうか?――今更だけど、器用に口で整理券を取るアンドリューとロンメルって凄いよね。

 

人数が多いから後部の長シートに座ってと……取り敢えず、麻子さんのお婆さん無事でよかったね?

麻子さんがあんなに取り乱すとは思わなかったから。――お婆ちゃん子なんだね麻子さんって。

 

 

 

「其れもあるかも知れないけど、麻子のお父さんとお母さんは事故で亡くなってるんだよ……だからおばあは、麻子にとって唯一の家族なの。

 親と喧嘩してる最中に親を亡くした麻子は、永遠に仲直りする事が出来なくなって……一時期は完全に塞ぎ込んでた事も有ったんだよ。

 その後悔があるから、麻子は親しい人を喪う事が何よりも怖くなっちゃった――だから、何時もはクールな麻子があそこまで取り乱しちゃったんだよ……って、麻子でもないのに喋りすぎちゃった。

 今のはオフレコでお願いね?」

 

「うむ、了解だ武部さん。エルヴィン・ロンメルの名に誓って、カエサル達にも決して話さないと約束しよう。」

 

「私も、絶対に他言にはしませんよ武部先輩。」

 

「軽々しく喋って良い事じゃないですしね……チームの皆さんには、麻子さんが自分で話さない限りは言わない方が良いでしょう。」

 

「根性で絶対に喋りません!!」

 

「いや磯部、其れはちょっとおかしいわ。」

 

 

 

典子さんはこんな時でもブレないね。

でも、まさか麻子さんがそんな重い過去を背負ってるとは思わなかったよ……そして其れは私とお祖母ちゃんにだって起こり得る事だって言える――だとしたら尚の事、お祖母ちゃんには考えを改めて貰わないとだよ。

あんな考えのまま、分かり合う事が出来ずに何て言うのは悲しすぎるからね。

 

 

其れからバスに30分ほど揺られた後に水戸駅に到着し、其処から大洗鹿島線を使って10分程で大洗に到着して、そのまま大洗埠頭に停泊してた学園艦に帰還。

 

学園艦は此のまま停泊してるらしいから、明日の1回戦2日目を見に行く事は出来るだろうね――まぁ、その時はまた航空科の皆さんに手を貸して貰う事になるだろうけど。

 

明日の2日目に登場する黒森峰とプラウダ――まぁ、順当に勝つだろうね間違いなく。

 

 

 

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・・・

 

 

 

で、翌日。

1回戦2日目を見に来た訳なんだけど、予想通りプラウダと黒森峰は圧勝したけど、その試合内容には大きな差があった。

プラウダはT-34をメインにした部隊にKV-2とIS-2を組み込んだ編成で、KV-2の高火力でプレッシャーを与えつつ、T-34の機動力を最大限に生かして相手のフラッグ車の護衛を叩きつつ、IS-2でフラッグ車を撃ち抜くって言う見事な戦術を披露したのに対して、黒森峰は圧倒的な攻防力を持つ重戦車の部隊で、相手の知波単を文字通り磨り潰す戦い――フラッグ戦なのに、知波単の部隊を全滅させるって言う、大凡『王者』とは言えないような、暴力的な戦いだったからね。

 

でもそれ以上に気になったのは、お姉ちゃんの試合後の態度だよ。

相手を見下すような侮蔑の眼差しと、嘲笑を浮かべた口元――本当にお姉ちゃんなのか疑う位の態度だよ。

お姉ちゃんは誰よりも『武』と『礼節』を重んじる人だから、あんな事をするとは思えない……お祖母ちゃんの言う西住流を表面上は体現してた時でも、あんな事はしなかったのに……あれじゃあ、お祖母ちゃんの言う西住流其のままだよ。

 

 

 

「まほさんは、若しかしたら自らヒールになる事で、家元の言う西住流の在り方を世に問おうとしてるのかも知れないわ――如何にあの石頭な家元でも、世論が『ノー』を突きつけたら流石に無視はできないでしょうしね。」

 

「その為に、自らヒールに……凄いねお姉ちゃんは。」

 

でも、確かにお祖母ちゃんの言う西住流に世論と言う大ナタを振り下ろすのは良い方法かもしれないよ――その為に、お姉ちゃんが『悪役』として見られるのはちょっと嫌だけどね。

 

其れがお姉ちゃんの覚悟なら、私も其れに応えないとだね……お姉ちゃんが自らヒールになるなら、私はそのヒールを倒す為のヒーローにならないとだよ。

 

 

『堕ちた王者』と化した黒森峰を、戦車道を復活させて1年目の大洗が倒したとなれば注目度はハンパないし、お姉ちゃんがお祖母ちゃんの言う西住流を徹底してれば、其れへの批判は絶対に出てくるだろうからね――若しかしたら、お姉ちゃんも其れを望んでたのかもだよ。

 

 

 

 

で、1回戦の全日程が終わった翌日に発売された『週刊戦車道』の記事は、予想通りと言うか何と言うか、大洗女子学園の1回戦突破と黒森峰の異常とも言える殲滅攻撃がメインだったみたい。

 

 

 

『第63回全国高校戦車道大会は、1回戦から波乱が待ち受けていた――今年20年ぶりに戦車道を復活させた大洗女子学園が、サンダース大学付属高校と1回戦から戦う事になったのだ。

 誰もがサンダースの勝利を疑わなかっただろうが、大洗には黒森峰の遊撃隊で活躍してた西住みほ、逸見エリカ、赤星小梅に加え、西住みほの一番弟子である澤梓も居る――其れを知った瞬間、大洗の1回戦突破は私の中では確定した情報になった……そして、実際に勝ったのだから大洗女子学園の底力は相当な物なのだろう。

 逆に、何ともつまらなかったのは黒森峰の試合だ――圧倒的な火力に物を言わせた蹂躙戦術が悪いとは言わないが、だからと言ってフラッグ戦であるにも拘らず相手部隊を全滅させるこの攻撃は、只のオーバーキルに過ぎない。

 王者の誇りをドブに捨て、勝利を追い求める黒森峰には黒い影が見える――筆者としては、西住姉妹が笑顔で戦う決勝戦を所望する。』

 

 

 

戦車道の雑誌に、此処まで書かれたら黒森峰のあの戦術は世間に『マイナス』と認識されるのは間違い無いだろうね――だって、あの戦術は見てても面白くない上に、観客の怒りを買うには充分なモノだから。

 

 

 

「あの戦い方を戦車道と呼ぶ事は出来ないわ……まほさんも、さぞかし心苦しいでしょうね――己が極めんとする道とは全く違う事をする事になった訳だからね。」

 

「うん、私もそう思うよエリカさん。」

 

お姉ちゃんは、お祖母ちゃんの言う西住流に世間の『ノー』を突き付ける為にヒールになった訳だからね――でも、だからこそお祖母ちゃんの事は絶対に許せない!!

 

純粋に戦車道が好きなお姉ちゃんに、戦車道に反する事をさせてるんだからね……黒森峰と決勝で当たったその時は、人の命を数で数えてるお祖母ちゃんの西住流こそが間違ってるって証明してやるだけだよ!!

 

 

 

「ふ、そう来なくっちゃね!

 2回戦も準決勝も突破して、私達が目指すのは優勝のみ――気合入れて行くわよアンタ達!!」

 

「気合と根性で頑張ります!!」

 

「いや、其れは何処の赤毛の三つ編みお姉ちゃんの理論なの典子さん!!」

 

でもまぁ、其れが最善の一手をって言う事は少なくないから、一概に馬鹿には出来ないんだけどね――って言うか、そんな感じで動いて貰った方がアヒルさんチームは最高のパフォーマンスを発揮するかもだし。

 

何にしても、大会はまだまだ続くから1回戦を突破した位で浮かれてる事は出来ないよ――寧ろここからが本番だって言えるからね。

 

 

 

でも、まさか2回戦の相手がアンツィオになるとは思わなかったよ――アンツィオには失礼かもしれないけど、幾ら安斎さんが隊長を務めてるとは言え、マジノに勝てるとは思ってなかったからね。

 

でも、だからこそ楽しみだよ……私達と互角の勝負をした末に僅差で敗れたマジノに、アンツィオが勝つとは思っていなかったからね……此れは、如何にも楽しい2回戦になりそうだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ペパロニ

 

 

いやぁ、まさかマジノに勝てるとは思わなかったぜ……ドゥーチェの指揮が見事だったのは疑いようもないが、運の要素が全く無かったかと言われたら其れまでなんだけど、古豪って呼ばれてるマジノに勝ったってのは箔が付くぜ!!

 

しかも古豪を破った次の試合はみほの大洗との試合じゃねぇか!!……コイツは否が応でも燃えるってもんだ!!

 

 

 

「ペパロニさん、どうかしました?」

 

「あぁ、別に何でもねぇよ古城――次の2回戦が楽しみになって来ただけだ……相手は何と言っても隻腕の軍神が率いる最強の戦車部隊だからな……其れを倒したら愉快痛快だろ?」

 

「其れは確かにそうかも知れませんね。」

 

 

 

ぶっちゃけた事を言うなら、勢いに乗って優勝したい所だが……多分無理だよなぁ――本気になったみほには、まほ姐さんですら敵わないかもだが、だからと言って絶対に負けないぜみほ!!

 

歴史に残るような2回戦を演じてやろうぜ!!――2回戦、楽しみにしてるからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 




キャラクター補足



・冷泉久子

麻子のお婆さん。
やや血圧が高めなことを除けば実年齢よりも10歳は若く見えるスーパーお婆ちゃん!――御年70を超えた今でも、日に3kmは歩いていると言う猛者。
口調はやや粗いが、其れは全て麻子を思っての事――沙織以外の仲間が戦車道を通じて出来た事は嬉しく思っている。
入院は、一時的に休む場所を提供しただけに過ぎないのかも知れない。





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Panzer120『次のアンツィオ戦に向けての準備です』

120話まで来ました♪Byみほ      よくもまぁ続くモノだわ……Byエリカ      ふふ、マダマダこれからですよエリカさんBy小梅


Side:みほ

 

 

2回戦の相手はアンツィオ高校だね?

恐らくは今大会で唯一大洗よりも戦車の性能が圧倒的に低い学校だけど油断は禁物だよ――圧倒的に劣る戦力で、私達と互角以上に遣り合ったマジノを下した訳だから。

格下だって慢心して挑んだら痛い目を見るのは間違いない……何よりもアンツィオの隊長は、あの安斎さんだからね。

 

 

 

「そうね……中学時代のまほさんに唯一土を付けた相手が隊長を務めてるってんなら確かに油断はできないわね――貧弱な戦力で、新生マジノを倒したって言う事は、貧弱な戦力を補うだけの戦術があったって事でしょうからね。」

 

「でも、その安斎さんに、みほさんは中学の頃に勝ってるんですよね?」

 

「えぇ、そうなの?だったら2回戦は余裕じゃん!!」

 

 

 

あはは……確かに中学の頃に安斎さんには勝ってるけど、だからと言ってまた勝てるかと言われたら其れは否だよ沙織さん。

私も成長してるけど、安斎さんだって中学の頃よりも成長してるだろうし、アンツィオには私の中学時代の戦友であるペパロニさんが居るから簡単に勝つ事は出来ないよ。

 

何よりも、安斎さんは私とよく似たタイプで、真正面から押すよりも策を巡らして勝つのを得意としてるから、2回戦は読み合いになるだろうし。

 

 

 

「でも、負ける気はないんでしょみほ?」

 

「うん、無いよエリカさん。」

 

試合を楽しむのは当然だけど、其れと同じ位に『絶対に勝つ』って気を持ってなかったら勝利を掴む事なんて出来ないからね――尤も、其れは相手も同じだから、最後は気持ちの大きい方が勝つのかも知れないけどね。

 

取り敢えず、2回戦に向けての準備をしないとだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer120

『次のアンツィオ戦に向けての準備です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で2回戦に向けての準備をしたい所なんだけど、取り敢えずもう少し戦車が欲しい所だよね正直な事を言うなら。

2回戦までは10輌だから、7両編成でも行けるけど、準決勝では15輌、決勝戦では20輌になるから7輌だけじゃ正直キツイ物が有るからね。

会長さん、大洗の学園艦にはもう戦車はないんですか?

 

 

 

「そう来ると思って、既に調べといたよ西住ちゃん。

 取り敢えずあと3輌はあるっぽいね?――しかもその内の1輌はアハト・アハトを搭載してるみたいだから、見つけられたら可成りの戦力になると思うんだよ。」

 

「アハト・アハト……其れは素晴らしいですね、大好きです。」

 

まさか、ティーガーの主砲と同じ88mmを搭載してる戦車があるとは思わなかったよ……確かに其れを見つける事が出来れば、大洗の戦力は大きく底上げされるから何としてでも見つけ出したい所だね。

その3輌は、何処にあるか分かりますか会長さん?

 

 

 

「いんや、詳しい場所は分かってないんだ。大雑把な場所は特定してあるけどね。

 3つの内2つは学園艦の生活地区の何処かに、もう1輌は学園艦の地下に有るって事だった――アタシで調べる事が出来たのは此処までだよ西住ちゃん。」

 

「いえ、充分です。」

 

大体の場所が分かれば、後は其処を虱潰しに探して行けばいいだけですから。

時に其れは良いとして……

 

 

 

「河嶋先輩、この記事のインタビューでの一言は、一体如何言う心算で言ったのか聞かせて貰っていいかしら?」

 

「みほさんと澤さんの見事な連携と、エリカさんのファイアフライ撃破があっての勝利だと言うのに、此の言い草は如何な

 ものかと……その辺をキッチリと聞かせて頂けないでしょうか?」

 

「ヒィィィィィィィ!?」

 

 

 

何だって、河嶋先輩はエリカさんと小梅さんに詰め寄られてるんでしょうか?

エリカさんも小梅さんも、尋常じゃない位の怒りのオーラが目視できるレベルです……エリカさんは少々沸点が低い所もあるけど、小梅さんは滅多に怒らないって言うのに、何をしたんですか河嶋先輩は?

 

 

 

「其れについては此れを見てくれば分かると思うよ西住ちゃんや。」

 

「学園新聞ですよね此れ?……ふむふむ、大洗の1回戦突破を大々的に報じてますね?

 多少私の事を持ち上げ過ぎな気がしなくもありませんが、試合の内容についても可成り詳細に書かれていますから結構いい感じだと思いますね?……よし恵ちゃんが戦車隊に居るかも知れませんけど。」

 

「まぁ、記事に関しては良いんだけど、か~しまへのインタビューが載ってるっしょ?――如何やら逸見ちゃんと赤星ちゃんは其れにブチ切れたみたいなんだよね~?

 ま、当然だと思うけど。」

 

 

 

河嶋先輩へのインタビュー?

え~と、ドレドレ……あった、これだ。

 

 

『新聞部及び放送部としては、隊長である西住みほさんと、副隊長である澤梓さんにインタビューをしたかったのだが、河嶋桃さんが『インタビューなら私にしろ。』と言って来たのでインタビューをしてみた。

 取り敢えず無難に『勝因は?』と聞いた所『西住の作戦は所詮戦術レベル、真の功労者は我が生徒会』との答えが返って来たが、ハッキリ言って『何言ってんだお前?』としか言いようがない。

 確かに生徒会が搭乗する38(t)は驚異的な連続砲撃を行ってはいたモノの、サンダースの戦車を撃破するには至らずに、逆に撃破されているのだから『真の功労者』とは言えないと思うのだが……取り敢えず、このインタビューは時間の無駄であった。』

 

 

 

……成程、よ~く分かりました。

これは確かにエリカさんと小梅さんが切れても仕方ないと思いますよ会長さん――って言うか、河嶋先輩は学ばないんですか?……戦車道に於いては生徒会とかそんなのは全く関係ないって言うのに、生徒会である事を主張するって……

 

 

 

「まぁ、私もそう思うけど、か~しまは大洗の生徒会である事に滅茶苦茶誇りを持ってるから、如何にも其れが所々で出ちゃうみたいだわ。

 つっても、流石に今回のその発言は私としてもど~かと思うから、ちょっとばかり庇いきれないかもだけどね?」

 

「そう言いつつも、楽しんでますね会長さん?」

 

「あ、バレた?」

 

「バレバレですって。」

 

「まぁ、私が言えた義理じゃないけど、か~しまは此れまで生徒会だって言う事で結構強硬的にやって来た所があるから、ここら辺で生徒会の権力が通じない相手も居るって事を覚えるべきだと思うんだよね――そうじゃないと、社会に出てから苦労するだろうからさ。」

 

 

 

其れは確かに。――時に会長さん、この記事梓ちゃんには……

 

 

 

「見せてないよ――ってか、1年生には新聞その物を配布しないようにしたし。

 既に刷り上がったモノを発行停止にするのはアレだけど、これが澤ちゃんの目に入ったら間違いなくか~しまは殺されるでしょ?……澤ちゃんは心の底から西住ちゃんに心酔してっからね?

 敬愛する先輩がこき下ろされたと知ったら、ぶっちゃけ中パン→竜巻斬空脚→追い打ち剛昇龍拳→中パン拾いキャンセル瞬獄殺の即死コンボかますんでない?」

 

「其処は個人的には百合折り→立B→夢弾き→強鬼焼き2段目スーパーキャンセル八稚女→彩花のコンボをお勧めします。」

 

「おぉ、魅せるね西住ちゃん?」

 

「ただ勝つだけでは面白くありませんので♪」

 

取り敢えずその辺にしておいてあげてエリカさん、小梅さん。

2人にとってはとっても許せない事だったのかもしれないけど、私は気にしてないから――そもそも、周囲の評価なんて言うモノは、私の為した事に対して自然とつくモノだから、河嶋先輩の言ってる事は大した問題じゃないって。

 

其れよりも、今大切なのは2回戦へ向けての戦力増強でしょ?

 

 

 

「其れもそうね……ち、命拾いしたわね河嶋先輩。」

 

「今回は見逃しますが、次は有りません……今度又みほさんを扱き下ろすような事言ったその時は、覚悟しておいてくださいね――そんな事があったら、徹底的に潰しますから。」

 

「はいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」

 

 

 

河嶋先輩ビビり過ぎだよ……まぁ、エリカさんと小梅さんの闘気に当てられて平気なのは私とお姉ちゃんを含めて極僅かだと思うから仕方ないのかも知れないけど。

 

まぁ、其れは兎も角、未だ戦車が有るって言うなら其れを探す事が最優先だね――出来るだけ戦力を整えたいって言うのは本音だし。

隠された戦車の探索に向かうとしようか?

 

 

 

「異論無しよみほ――なら、私と小梅は地上を手伝うから、貴女は澤と一緒に学園艦の内部をお願いするわ。

 此れだけの大きい船だから見つけるのは容易な事じゃないけど、見つける事が出来れば大洗にとってはこの上ないプラスになるでしょう?なら、絶対に新たな戦車を見つけ出さないとだわ。」

 

「OK……気をつけてねエリカさん、小梅さん。」

 

「みほさんも、如何かお気をつけて。」

 

 

 

うん、ありがとう。

其れじゃあ、新たな戦車を探しに行こうか?行くよ……パンツァー――

 

 

 

「「フォー!!」」

 

 

 

どんな戦車があるのかは分からないけど、大洗の戦力アップになるのは間違い無いから、絶対に探し出さないとだね!!

って、時に会長さん、戦車見つけても乗る人が圧倒的に足りないんですけど、其れは如何するんですか?

 

 

 

「あ~~、其れについては大丈夫。

 こっちで適当に探しとくから安心してくれて良いよ~~……一応、当てはあるしね。」

 

「はぁ、其れなら良いんですけど……」

 

一体誰を連れてくる心算なのやら……期待半分、不安半分って言った所だね此れは。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

そんなこんなで新たな戦車を探してる訳だけど……まさか、こんな場所に戦車があるとは思わなかったわ――まさか、校庭の体育倉庫の床下に隠されてるとか予想外にも程があるでしょ此れは!!

 

って言うかなに、当時の生徒達は戦車を隠す為に人力で体育倉庫の床ぶち抜いて穴掘って、戦車埋めて新たに床を張り直したって事?

ドンだけの情熱なのよ其れは……まぁ、其れだけ戦車が大事だったって事なのかも知れないけどね。

 

 

 

「嘗ての大洗は、戦車道で有名だった様ですから――優花里さんのお母さんも現役時代は西住師範や島田流家元とやり合ったそうですし。」

 

「もしも戦車道が今まで続いてたら、黒森峰の一強時代は訪れてなかったかも知れないわね。」

 

当時の戦力を物語る証拠として残されてる戦車は特別強力って訳じゃないけど、結構汎用性のある戦車が多いから、これなら戦術次第でどんな相手とも互角以上に戦う事が出来る――ある意味ではみほにピッタリの戦車達なのかも知れないわね。

で、今回発見したのは『ルノーR35』か……悪くない戦車だけど、改造キット買ってSA38搭載型にした上で、3人乗りに改造したい所ね。

 

 

 

「其方の方が主砲も強力になりますからね――まぁ、現時点では搭乗員が居ないからアレなんですけど。」

 

「其処は会長が何とかするって言ってるから大丈夫でしょ?

 あの会長、掴み所がないし胡散臭い所もあるけど、やる事はやる人だし、全国制覇って言う目標は割と本気みたいだから戦車3両分の乗員は確保するでしょ確実に。」

 

「まぁ、其れは確かに。

 でも、どうして戦車道だったんでしょうか?態々廃止になってたものを復活させるよりは、既存の部活に所属して全国制覇を目指す方が、遥かに面倒くさくないと思うんですが……」

 

 

 

さぁ、其れは知らないわ――仮に何でそうしなかったのかを聞いた所ではぐらかされるのがオチだしね……生憎と、腹の探り合いは得意じゃないし。

まぁ、何か切っ掛けがあれば話すでしょ。

取り敢えず、此れを運び出さないとなんだけど……此れを運び出すとなったら体育倉庫破壊してクレーンで釣り上げなきゃ無理なんじゃない?

 

 

 

「そうですねぇ?……ん?こんな所にスイッチが……スイッチは取り敢えず押してみるモノですね♪」

 

「いや、小梅アンタ其れちょっと間違ってない?」

 

「其処にスイッチがあるのならば押してみるのが人の本能の正しい反応です!と言う訳で、ポチッとな。」

 

 

 

小梅、貴女絶対小学校の時に非常ベルのボタン押した悪戯したわね……マッタク大人しそうな見た目しておきながら色々ととんでもないわ。

でもまぁ、今回ばかりは貴女の判断が正しかったみたいよ?

 

 

 

――ゴゴゴゴゴ……ガシャン!

 

 

 

ボタンを押したら床がせり上がって来てルノーR35が地上に出て来たからね。

此れなら運び出すのも楽だわ――取り敢えずエンジンに燃料入れれば動かせる訳だし。自動車部に連絡して、ガソリン持って来て貰いましょ。

 

 

 

「いえ、必要ないかも知れませんよエリカさん?

 戦車の後部に2リットルのガソリン缶に入ったガソリンが2本ありましたから――4リットルあれば、取り敢えず倉庫から外に出る事は出来ますから、外に出た所で自動車部のレッカーを呼んだ方が良いと思います。」

 

「……大洗の先輩方は、中々に準備が宜しいみたいね。」

 

まぁ、其れだけ戦車道を愛して、何時の日か復活する事を信じて戦車を隠しておいてくれたんでしょうね。

なら私達は其れに応える義務があるわ……此処までの大仕掛けをしてまで戦車を隠し通してくれた大なる先人に報いるためには、全国制覇しかないからね。

 

 

 

「ふふ♪」

 

「……何よ小梅?」

 

「いえ、エリカさんもすっかり大洗の生徒なんだなぁって。

 見ず知らずの大洗の先輩達が残してくれた戦車道が復活した時の為の備えに報いろうだなんて……ちょっと、意外でした。」

 

「あら、貴女は違うのかしら小梅?」

 

「いえ、同じ気持ちですよエリカさん――必ず優勝しましょう!」

 

「えぇ、勿論よ!!」

 

そして、其れは只優勝するだけじゃないわ――黒森峰を、家元の言う西住流を端的に再現してるまほさんを倒して優勝してこそ意味があるのだからね。

今年の黒森峰を倒せば、其れは家元の言う西住流の否定にも繋がるからね……勝利は命よりも重いって信じて疑わない家元もとい、あの皺くちゃババアに間違いを付けてやれるわ!

 

 

 

「皺くちゃババア、梅干しババア、顔面罅割れババア、さぁどれにしましょうか?」

 

「其処は個人の感性で。」

 

「では、顔面罅割れババアで行きましょう。」

 

「容赦ないわね小梅……」

 

ま、何にしても今年の大会は大洗が台風の目になって大暴れさせて貰うわ――2回戦も準決勝も、誰が相手でもハリケーンの如く全て潰してやるから覚悟しておくのね!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

ウサギさんチームとアンドレとロンメルと一緒に学園の地下に有るって言う戦車を探しに来た訳なんだけど、何時の間にか皆と逸れて只今梓ちゃんと2人で学園艦の奥底までやって来た訳なんだけど……

 

「見るからに治安の悪そうな場所に来ちゃったね此れは……」

 

「壁に落書き上等な上に、明らかに堅気じゃない人達が居ますからね……一昔前のアメリカのハーレムですか此処は。

 って言うか、こんな場所を放置してていいんでしょうか?」

 

 

 

ダメだとは思うけど、恐らくここは学園の風紀委員の手が届かないアンダーグラウンドなんだろうね……取り敢えず梓ちゃんは私から離れないで――こういうアウトロー地区では何があるか分からないから。

 

まぁ、こんな場所に居るアウトローはお母さんと比べたら全然怖くないから恐れる事は無いんだけどね。――本気で怒ったお母さんは、ブチ切れたアルバトリオンよりも怖いから。

 

 

 

「モンハンの古龍種すら凌駕するって、ドンだけですか師範?」

 

「其れが西住流師範だとしか言えないよ梓ちゃん。」

 

「……激しく納得です。」

 

 

 

まぁ、取り敢えず先ずは地上に出ないとなんだけど……マッタク道が分からないからね?――此処に居る人達に聞いても良いんだけど真面に話が通じるとは思えないからなぁ……さて、如何したモンだろう?

RPGとかなら、情報を得られる酒場がある所なんだけど……

 

 

 

「西住隊長、酒場あるみたいです。」

 

「へ?」

 

「あそこ、『バーどん底』って。」

 

「あ、ホントだ。」

 

情報を得るには酒場が一番。

なら入店だね!こんにちわーー!!

 

 

 

「お客さんかい?客なら、先ずは何か頼みな。」

 

「其れじゃあノンアルコールの黒。あとは、其れに合うスモーク系のおつまみを少々。」

 

「あの、西住隊長?」

 

 

 

ふふ、こう言う場所では下手に動くよりも場の雰囲気に合わせるのが一番なんだよ梓ちゃん――そうすれば、私達が態々動かなくてもこっちにアクションを起こす人が居るモノだからね。

 

 

 

「ノンアルコールの黒を頼むとは中々に渋いねお嬢ちゃん?まるで、キャプテンジャック・スパロウみたいだ。

 まぁ、ジャック・スパロウに会った事はないんだけどね。」

 

 

 

いや、会うのが無理だと思いますよ?ジャック・スパロウさんは架空の人物ですから。

でも、これはビンゴかな――此の褐色肌の人は只者じゃないみたいだからね……此処の常連さんですか?

 

 

 

「あぁ、常連さ。

 アタシは人呼んで竜巻のお銀――アンタ達は見た所地上の子達みたいだが、何だってこんな所に来てるんだい?」

 

「其れはですね、今年から大洗女子学園は戦車道を復活させたんですけど、戦車数が圧倒的に足りないので其れを探していたら、何時の間にやらこんな所までやって来てしまったと言う訳です――そして、如何やったら地上に出れるのかが分からなくて途方に暮れております。」

 

「あっちゃー、迷い込んじまった類か……偶にそう言う奴が居るんだが、よく無事だったなアンタ等?

 こう言っちゃなんだが、此処の治安は決して良くない……下手したらひん剥かれてた所だ―ー無事で何よりだよ。」

 

 

 

確かに怖そうな人達は居ましたけど、そんなのは私の闘気で退けましたから――隻腕の軍神の闘気は、阿修羅すら凌駕する(エリカさん談)ので、チンピラ程度は相手になりません。

 

 

 

「ハッハッハ!そりゃあいい!

 この船底のどん底のアウトローすらビビらせるとはね……気に入った、名前を聞いておこうか?」

 

「大洗戦車隊隊長、西住みほです。」

 

「同じく大洗戦車隊副隊長の澤梓です。」

 

「西住みほと澤梓か……覚えとくよ。

 取り敢えず船底の連中にはアタシから話をしておくから、此れからは気軽に訪れてくんな――何時でも歓迎するからね。」

 

 

 

機会があればそうさせて貰いますよお銀さん。

――時に、地上に戻るには如何すればいいのでしょうか?

 

 

 

「其れは……ムラカミ、西住さん達を地上へのエレベーターがある場所まで案内してくれるか?」

 

「親分の言う事なら喜んで。」

 

 

 

って、此処でやたらとガタイの良い人が……えっと、案内お願いできますか?

 

 

 

「任せときな!親分の命令だからって訳じゃないが、アンタ等を無事に地上に送り返してやるから安心しな!――もしも船底のアウトロー共が来たとしても、返り討ちにしてやるからよ!」

 

「アハハ……其れは頼もしいです。」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

で、ムラカミさんの案内で地上に戻る事が出来た訳だけど、私と梓ちゃんが地下で迷ってる間に、ウサギさんチームは新たな戦車を発見してたみたいだね?

車体の損傷が激しくて何の戦車なのか特定する事は出来ないけど、直ぐ近くにアハト・アハトがあったって言う事を考えると可成りの火力を搭載してた戦車なのは間違いなかな?

 

エリカさんと小梅さんがルノーR35を見つけ出して、ウサギさんチームが正体不明の高火力戦車を見つけたってのは大きい事だね――次の2回戦には間に合わないだろうけど、大洗の新たな戦力になるのは間違いない事だからね!

 

あとは、試合当日までにやれる事をやっておくだけだね――勝たせて貰うよ、安斎さん、そしてペパロニさん!!

 

生憎と、こんな所で立ち止まってる事は出来ないからね……2回戦も、全力で行かせて貰う!!――いえ、全試合全力で行きます!!――勝つにしても負けるにしても大事なのは全力を賭す事だからね!

 

安斎さん率いるアンツィオとの一戦が、俄然楽しみになって来た――2回戦も、楽しませて貰うとしようかな?

 

 

何にしても、2回戦も突破は絶対だね!――3年ぶりの再会ですけど、遠慮なく行かせて貰いますよ安斎さん……お姉ちゃんを倒した事のある貴女に出し惜しみは出来ませんからね。

 

「ふふふ……試合前から漲って来たよ此れは!」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「軍神招来キタコレ!!」

 

「此れは来たーー!あと10年は戦える!!」

 

 

 

……え~と、なんで私が気合を入れると歓声が上がるのか今一謎なんだけど、私の闘気が滾ったのは間違いないよ――次の相手は、あの知将『安斎千代美』なんだからね。

戦車の性能では大洗が上だけど、安斎さんならきっと其れを覆すだけの戦術がある筈だから、油断はできない相手なのは確かだよ。

 

だからこそ面白い――最高にして最強の戦車戦を見せる事が私達の使命だからね!!!2回戦、出し惜しみなしで戦いましょう安斎さん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer121『そろそろアンツィオ戦が差し迫ってます』

そろそろアンツィオ戦だねByみほ      あそこはノリと勢いだけは凄いからねぇByエリカ      波に乗ると怖い相手ですねBy小梅


Side:アンチョビ

 

 

2回戦の相手は大洗女子学園……今年から参戦して来た新参校だが、隊長があの西住妹だと言う事を考えると油断は出来ん――西住妹だけでなく、澤梓に逸見エリカ、赤星小梅まで居る訳だからな。

此の4人は、現在の高校戦車道の車長でも10本指に入るくらいの実力者だから、新参校だって舐めてかかったら、手痛い竹箆返しを喰らってしまうだろうからな……此処は気を引き締めて行かないとだ!!

 

だが、我がアンツィオのノリと勢いは相当な物が有る!!――其れを駆使して我等は、あのマジノ学園を破ったのだからな!!

 

恐らくは大洗も、我等のノリと勢いは最大級に警戒している事だろう。

 

 

 

「其れって、強いって思われてるって事ですか?」

 

「スゲーじゃん、アタシ等。」

 

 

 

だが、同時に『所詮はノリと勢いだけ、波に乗れなければ総崩れ』とも考えてるかもしれない――西住妹に限って其れは無いだろうが、並の相手ならそう考えるだろうさ。

 

 

 

「はぁ?其れってバカにしてるって事ですか!?」

 

「カチコミブチかましましょう!!」

 

 

「ノリと勢いは大事だが、取り敢えず落ち着きやがれ馬鹿共!!

 直接言われた訳じゃねぇ――ドゥーチェによる、冷静な分析の結果だ。……要は比喩ってやつだな。――なに、アタシ等には大洗も知らない秘密兵器があるから、何とかなる絶対に!!」

 

 

 

うむ、見事だペパロニ。

一喝した後に、諭すと言うのは難しい物なんだが……其れを平然とやってしまう辺りがペパロニなんだろうな――何にしても優勝するには、此処で止まって居る事は出来ないからな。

絶対にトーナメントを勝ち抜き、頂点を極めてやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer121

『そろそろアンツィオ戦が差し迫ってます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

さてと、次はいよいよ2回戦――相手は、中学時代にお姉ちゃんを倒して全国制覇を成し遂げた『安斎千代美さん』が率いてるアンツィオ高校。

圧倒的に劣る戦力でありながらマジノを倒したって言うのは、低い戦力を補って有り余る作戦があったって言う事だから、単純な戦車の性能差だけで考えてたら足元を掬われかねないね。

 

 

 

「加えてあそこはノリと勢いはハンパねーからね?序盤で調子に乗られると、結構面倒っぽいんじゃないのかい西住ちゃん?」

 

「実際に調子に乗ると厄介かも知れませんね?

 マジノ戦も、CV-33の機動力を使ってマジノの部隊を撹乱しつつフラッグ車の護衛を手薄にした所をセモヴェンテが背後からドカン!ですから。

 何よりも隊長の安斎さんは部隊全体を波に乗せるのが物凄く上手い人で、試合の流れを自軍に傾ける能力に長けていますからね――ペパロニさんなんかとはとっても相性がいいかもですから、一度波に乗ると可成りの強敵と化す可能性があります。」

 

此方の唯一のアドバンテージは戦車の性能だけだと思っていた方が良いかも知れません……安斎さんは、中学時代のお姉ちゃんに唯一黒星を与えた人として、有名ですから――尤も、今の安斎さんと中学時代の安斎さんを同一人物と思う人は少ないでしょうけど。

 

 

 

「現黒森峰の隊長に勝っているだと……!?き、聞いてないぞそんな事!!」

 

「でしょうねぇ?生徒会の皆さんには今初めて言いましたから。」

 

「でもでも、その安斎さんに中学時代のみぽりんは勝ってるんだよね?

 アレ?って事は、みぽりんのお姉さんに勝った安斎さんを倒したみぽりんが実は最強って事になるじゃん!此れは、全国制覇も夢じゃない!」

 

「……沙織、アンタのその脳天が時々とっても羨ましくなるわ。何なのよ、その単純すぎる理論は……」

 

「ふわぁ~~あ……其れが沙織だからな。」

 

「あら、でもこういう楽観的な所は、勝負事には時に必要な事になるのではないでしょうか?」

 

 

「おぉ、そう言う考えもあるか!確かに其れならば全国制覇も可能と言うモノだ!

 四肢の一部が欠損している武人は、数々の武勇を持つ名将と言うが、西住もその御多分には漏れなかったと言う訳か……此れは勝てる!」

 

「こっちはこっちで沙織さんの言った事聞いて無駄に期待してるし……と言うか、態度がコロコロ変わりますね河嶋先輩は……」

 

 

 

あはは……前向きだって言う事にしておこうよエリカさん、小梅さん。『西住まほに勝った事がある相手じゃ勝てない』って思っちゃうよりは遥かに良い訳なんだから。

其れよりも、2回戦のアンツィオがどんな感じで来るのかを考えて、こっちも作戦を考えないとだよ。

私は基本的には、1回戦と同様に機動力で此方を撹乱しつつフラッグ車の護衛を手薄にするか、フラッグ車を孤立させてくると思うんだけど、副隊長は如何考えるかな梓ちゃん?

 

 

 

「基本的はそうだと思います。

 こんな事を言ったら失礼ですが、アンツィオの保有戦力を考えれば其れを基本にした戦術バリエーションを増やす以外に勝利の道筋は無いと思いますので。」

 

「ま、そうなるわよね。

 でもみほ、今年のアンツィオは去年よりも可成り『勝ち』に来てる感じがするわ、マジノ戦の映像を見る限りではね。」

 

「其れを考えると、若しかしたら秘密兵器的な何かを隠してる可能性は充分にありますが――アンツィオが大会に出てくるようになったのは去年からで、去年は瞬殺しちゃいましたから殆どデータがないんですよねぇ……」

 

「去年は遊撃隊でアンツィオの部隊を掻き乱して、その上でお姉ちゃんと遣り合ってたフラッグ車を理子さんがドカンだったからね。」

 

でも、情報が足りないって言うなら、情報を持って来ればいいだけの事でしょ?

1回戦の時とは違って、今度は私が直々に隊長命令として行って貰ったからきっといい仕事してくれるだろうし、時間的な事を考えればソロソロ戻って来るだろうからね。

 

 

 

「そう言えば、最近姿が見えなかったわね優花里の奴……」

 

「行っちゃいましたか、アンツィオに……まぁ、アンツィオと知波単は最も安全に試合前の偵察が出来ると言われてますから捕まる事は無いと思いますけど。」

 

「サンダースから逃げ切った優花里さんなら大丈夫だよ。」

 

 

 

――コンコン!

 

 

 

其れに、噂をすれば影だったみたいだしね。はい、どうぞ。

 

 

 

「西住殿!不肖、秋山優花里ただいま戻りました!!」

 

「お疲れ様、優花里さん。どうだった?」

 

「バッチリであります西住殿!」

 

 

 

自信満々に差し出された8Gのメモリーカード……此れにアンツィオの事がバッチリ収まってるって言う事だね?

――お疲れ様、優花里さん。早速このデータを見させて貰う事にするよ。若しかしたら、物凄い極秘情報があるかも知れないし、巧く行けばどんな作戦で来るのかを知る事が出来るかも知れないから。

 

 

 

「内容に関しては、ちゃんと編集してありますのでご安心を!

 未編集だったこの間のサンダースとは違って、今回は帰りの連絡船の中でじっくり編集出来たので、渾身の作品になっているであります!」

 

「其れは、期待大だね。」

 

其れじゃあ早速メモリーカードをエリカさんのタブレットにスロットインして再生っと。――うん、今回の映像はタイトルからして気合の入った編集がされてるみたいだね。

サンダースの時と同様に、アンツィオへの転校生を装っての諜報活動って所かな此れは。

 

 

 

『何やら賑やかですが、何かのイベントですか?』

 

『いや、何時もの光景だよ。うちって貧乏だから、屋台とか出して少しでも資金稼いでるんだよね。』

 

 

 

――ドンガラガッシャーン!!

 

 

 

で、予想以上の貧乏っぷりに思わずその場にいた全員がズッコケちゃったよ……資金集めの為に屋台出して、生徒が其れを買うって……他校に出張屋台でも出した方が儲かるんじゃないかな?

多分サンダース辺りに屋台出したら、アンツィオで売ってる倍の値段で売っても買う人は多いと思うんだよね。

 

 

 

「サンダースの連中なら3倍でも買うわよ……サンダースの学食は、量がアメリカンサイズなだけじゃなくて、味もアメリカンらしいから。」

 

「大きいだけで、大味って事だね……なら、アンツィオの絶品屋台は大繁盛間違いなしだね。」

 

で、映像は進んで優花里さんが戦車の看板の屋台に行ってみると、その屋台を切り盛りしてたのは何とペパロニさん!

得意の鉄板ナポリタンを手早く作って……うぅ、映像見てたら食べたくなってきた――今度、個人的にアンツィオに遊びに行って食べて来ようかなぁ?アレは病み付きになる味なんだよね。

 

 

 

「其れは分かるであります西住殿!こう言っては何ですが、お母さんのナポリタンよりも美味しいナポリタンは初めて食べました!

 あの味と量で300円は安すぎますって!アレだったら1000円超える値段でも人は頼みますよ!!」

 

「おぉ、分かってるね優花里さん!」

 

映像の中でも鉄板ナポリタンを堪能してるみたいだし。

で、鉄板ナポリタンを食べつつ、雑談の中から結構重要な事を聞きだしてくれたみたいだね?――ペパロニさんの無警戒がちょっと心配なんだけど、重戦車を手に入れた、か。

レギュレーションで使う事の出来るイタリアの重戦車だとP-40……セモヴェンテ以上の火力を誇る、大戦期のイタリアの最強戦車を買ったって言うなら、火力面で大きく強化されたのは間違いないと考えた方が良いかな。

 

P-40の資料は持ってないなぁ……優花里さんは持ってる?

 

 

 

「はい、持っています。

 但し、日本語に訳されたモノではなく、全部イタリア語とラテン語で記された資料ですが……」

 

「……何で、そんな物持ってるの?」

 

「ネットオークションで、誰も買う人が居なかったので1000円で落札しました。」

 

 

 

誰がそんな物を出品したのか気になるところではあるけど、資料が有るって言うのは有り難い事だよ――イタリア語とラテン語は訳しながら読んで行けば良いだけだしね。

其れに、歴女チームのエルヴィンさんは、欧州の近代史に長けてるから、若しかしたらP-40の事だってよく知ってるかもしれないし。

明日辺りにでも、歴女チームの家に行って聞いてみる事にするよ。

 

 

 

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と言う訳で翌日。生徒名簿で調べた学園艦の住所をネット検索して詳細を調べて、そして割り出された歴女チームの女子寮――と言うよりもシェアハウスって言った方が正しいかな此れは。

 

「ネームプレートもソウルネームなんだ。」

 

「もんざとおりょうは兎も角、エルヴィンはドイツ語で、カエサルはイタリア語で書いてる辺りに、並々ならぬ拘りって言うモノを感じてしまうわね。」

 

「まぁ、実際に拘ってるでしょうからねぇ。」

 

 

 

取り敢えず大勢で押しかけてもなんだから、私とエリカさんと小梅さんだけで歴女チームの家に。

梓ちゃんには別件で、練習用のある物を戦車ショップに取りに行って貰ってるから別行動で――まさか相談したら、大洗の戦車ショップに既に届けてあるとは、お母さん流石過ぎだよ。

 

取り敢えず、ピンポーンっとな。

 

 

 

「はーい、待ってたよ隊長!逸見と赤星も、御苦労さん。」

 

 

 

出迎えてくれたのはエルヴィンさんとおりょうさんと左衛門佐さん。――アレ、カエサルさんは?

 

 

 

「カエサルは、庭で装填の練習をしていた筈だが……おーい、カエサル!西住隊長達来たぞーーーー!!」

 

 

「あぁ、分かった直ぐに行く!」

 

 

 

装填の練習してたんだ。うん、学校以外でも自主トレーニングしてるって言うのはとっても感心だね!

日々の努力に勝るものなし、努力は才能を凌駕するとはよく言うモノだからね――まぁ、だからと言ってやりすぎって言うのは良くないけど、その辺はちゃんと分ってるだろうから大丈夫だろうけどね。

 

 

で、居間に案内されて早速P‐40の詳細をなんだけど……カエサルさん、普通にイタリア語とラテン語の資料を読んで訳してくれてるし――伊和辞典を使わずに訳す事が出来るなんて凄いと思うよ?

 

 

 

「イタリア語、ラテン語は読めて常識だろう?

 それにしてもアンツィオか……幼馴染の子がアンツィオに居るんだけど、まさか戦う事になるとは思わなかったな。」

 

「はぁ?初耳ぜよそれは。」

 

「何でもっと早く言わなかったんだ?其の子から色々聞けたかもしれないのに。友達なら、聞きやすいだろ。」

 

「友達だからこそ、正々堂々と戦いたいと思うんだよ私は。」

 

 

 

其れは一理あるねカエサルさん。

所で、アンツィオに居る幼馴染の人ってどんな人なの?――アンツィオに行く位だから、物凄い豪傑女子高生だったりとかじゃないとは思うんだけど……

 

 

 

「ん?多分西住隊長は知ってると思うぞ?

 湖城雛菊って言う子なんだけど、中学時代に隊長と戦った事があると言っていたからな。」

 

「あ、雛菊さん!」

 

あの人か~~!

大人しそうな見た目だったけど、火力上等の超攻撃的戦術で攻めて来たあの人か~~!……見た目と反して、中身は意外とイケイケな人っぽかったから、アンツィオに行ってても不思議じゃないかな。

人の縁は、何処で繋がってるか分からないね。

 

 

 

「まぁ、幼馴染で友達だからって、勝負は真剣勝負だよ。

 ラインでも2回戦は全力で戦おうって約束したからな――今度の試合では、ライバルって所かな?」

 

「じゃあ、坂本龍馬と武市半平太。」

 

「ロンメルとモントゴメリー。」

 

「武田信玄と上杉謙信。」

 

「ミハエル・ヴィットマンとジョー・エイキンス。」

 

「うんうん、うんうん。確かに。」

 

「「「それだぁ!」」って、誰ぜよ?」

 

「いや、知らないのに言うんじゃないわよアンタ……」

 

「エルヴィンさんは、流石に分かってるみたいですけどね♪」

 

 

 

うんうん、近代欧州の歴史に詳しいエルヴィンさんは流石に分かってるね。それと、其処はまぁ、ノリって奴だよエリカさん。

ともあれカエサルさんのおかげでP‐40のスペックも大体分かったから此れで対策もしやすくなったかな――後は、仮想敵を相手に実践訓練あるのみだね。

 

 

 

「お役に立てたのなら幸いだよ西住隊長――次の2回戦も、サクッと突破して頂点まで上り詰めようじゃないか。」

 

「勿論、その心算ですよ――2回戦に向けてパンツァー……」

 

「「「「「「フォー!!」」」」」」

 

 

 

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で、翌日――無事に受領できたみたいだね梓ちゃん?

 

 

 

「はい、無事に――でも、戦車の引き取りなら事前にそうだって言って下さいよ西住隊長。

 クロエと一緒に行ったから大丈夫でしたけど、1人で行ってたら大変でしたよ……車長としては西住隊長に鍛えられましたけど、車長以外は多少装填が出来る位でからっきしなんですから。」

 

「アハハ、ごめんごめん。」

 

梓ちゃんに取って来て貰ったのは、実家から送って貰ったⅡ号戦車。

戦車砲がない軽戦車って言う構造は、アンツィオのCV-33の仮想敵としては理想だから、急遽送って貰ったんだよね――P‐40の攻守のスペックはⅣ号と同レベルだから、Ⅱ号とⅣ号の組み合わせで仮想アンツィオフラッグ車部隊を作る事が出来るから。

 

取り敢えずパンターとティーガーⅡとⅢ突なら、P‐40の射程外からでも正面装甲を抜く事が出来るから、あんこう、ライガー、カバは1500mの距離から相手に当てる練習だね。

 

 

 

「1500って……具体的にドレくらいなんだ?」

 

「其れは実際に見て貰う方が早いかな?小梅さん、お願い。」

 

「了解しました。」

 

 

 

で、小梅さんのⅣ号は見る見るうちに此処から離れて遥か遠くに……『何処まで行くんだ?』って声も聞こえるけど、何処までと言われたらあそこまでだね。

起伏があるから走行距離は1500mよりもあるけど、直線距離では大体あれが1500m先の相手だね。

 

 

 

「ちっちゃ!!」

 

「アレに当てるのは、流石に停車しないと無理ですねぇ……」

 

「お、赤星がキューポラから出て来たぞ?」

 

「この距離で見えるって、アンタどんな視力してんのよアイン……視力5とか言わないわよね?」

 

 

 

……えっと、だから停車状態でアレに当たるように頑張って。

でも、砲撃すると此方の位置をばらす事にもなるので、攻撃後は速やかに移動して、次の攻撃は別の場所から行う事、其れだけは徹底する様にしてね。

 

 

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

其れじゃあ練習開始で。

 

さてと、其れで会長さん、戦車の搭乗員の方は何とかなりますか――ルノーR35を3人乗りに改造するんだとしたら、更に人員が必要になってくるんじゃないかと思うんですが。

 

 

 

「其れに関知れは大丈夫だよ西住ちゃん。

 風紀委員3人をこっちに引き込んだし、自動車部の面々も例の88mm搭載型を修理したら自分達が乗るって言ってたからね。――因みに88mm搭載型は、可成りマニアックな車輌みたいだよ。」

 

「88mm搭載のマニアックな車輌って聞くと一抹の不安が残りますね……」

 

88mm搭載の戦車と言えばティーガーⅠとティーガーⅡが代表格だから、その2輌だったら『マニアック』なんて言い方はしないだろうから、多分違う筈。

となると消去法で、ある戦車が思い当たるんだけど……まさかね。

確かにスペックはティーガーⅠと同等クラスだけど、ハッキリ言って失敗兵器としか言いようがないアレを使用していたとは思えない――もしも使ってたとしたら、其れはとっても凄い事だよ……其れだけ、大洗は人材も優秀だったって言う事なのかも知れないけどね。

 

でも、これで2輌分の人員は確保出来たから、残るは戦車1台と、其れの搭乗員だね。

 

 

 

「其れから、もう一個朗報があってね。

 生徒から『戦車のパーツっぽい物が有る』って知らせがあって、取りに行ってみたら、なんとⅣ号用の75mm長砲身だったんだよ!」

 

「Ⅳ号用の長砲身75mmですか……口径は?」

 

「えっと、確か43口径だったかな?」

 

「となると、F2の砲身ですね。」

 

Ⅳ号を強化できるパーツが見つかるとは、嬉しい誤算って言えばいいのかな?

アンツィオ戦には間に合わないだろうけど、準決勝までにはⅣ号をF2に換装する事は可能だろうから火力の底上げが出来る――プラウダや黒森峰と戦う事を考えたら、少しでも火力は上げておきたい所だからね。

まぁ、その前に目の前の2回戦を突破しないとだけど。

 

 

 

「まぁ、大丈夫っしょ?……にしても、アタシが乗ってねーから仕方ないとは言え、カメの砲撃は全然Ⅱ号に当たらないね……」

 

「あそこまでのノーコンは、逆に才能なんじゃないかって思いますね。」

 

そんなこんなで練習をして、練習が終わった後は沙織さんの提案で、沙織さんの部屋でイタリアンな晩御飯。

3種のスパゲッティにラザニア、そしてカルパッチョ……皆で一緒に作ったって言うのもあるかも知れないけど、何て言うか格別の美味しさって言う感じがするね♪

 

 

 

「本当に美味しいであります!将来武部殿と結婚する男性は、最高のお嫁さんをゲットできるかもしれませんよ!!」

 

「やだも~、変な事言わないでよゆかりん!」

 

 

 

あはは……でも、確かにそうかも知れないね。

沙織さんは家事能力のスペックが可成り高いから、きっといいお嫁さんになれるかもだよ――まぁ、前提条件として先ずは恋人を作るところからなんだけど……誰かいい人いないの?

 

 

 

「居ればとっくに付き合ってるって……」

 

「だよね。」

 

まぁ、其れは兎も角、この食事で英気を養えたのは間違いないから沙織さんに感謝だね――次の2回戦、アンツィオ戦最高のコンディションで挑む事が出来そうだよ!!

 

次の2回戦も突破して、一気に頂点を目指す心算だからね!!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・・・・

 

・・・

 

 

 

 

そんなわけで試合当日!

雲一つない正に快晴って所だよ!天候にも恵まれて絶好の戦車道日和だね!!――この2回戦も必ず突破させて貰うよ!!

良い試合にしましょうね安斎さん!!!

 

 

 

「安斎じゃなくてアンチョビ。

 でもまぁ、最高の試合ってのには同感だ西住妹――ともに1回戦突破が難しいと言われていた学校同士であるにも拘らず、下馬評を引っ繰り返して2回戦に進んだ身だ……故に観客は何方が駒を進めるのかが気になるからな――その期待に応える試合をしようじゃないか!!」

 

「勿論、その心算です――でも、其れは其れとして、勝たせて貰いますよアンチョビさん?」

 

「ふん、其れは此方のセリフだ西住妹。

 勝つのは我等アンツィオだ!――我等の底力、其の身をもって知るが良い!アンツィオは弱くない!否強い!!――勝たせて貰うから、その心算で居ろよ!!」

 

 

 

其れは無理です、勝つのは私達ですから。

 

 

まぁ、簡単に勝てるだなんて事は微塵も思ってないけど、だからこそ白熱した試合になるって言うのが否定できないから、これは予想以上に激しい試合になるかもだね。

 

正直、どっちが勝つなんてのは言えないのかも知れないけど、だからこそ言わせて貰います……アンチョビさん、炎がお前を呼んでるぜ!!!

 

 

 

「ならば燃え尽きるが良い……潔くな。」

 

「行きます!!」

 

まさか、乗ってくれるとは思わなかったけど、少なくとも観客には『因縁の対決』っぽい物を印象付ける事が出来たかもだね――やっぱり、試合って言うのは盛り上げてナンボだからね。

 

其れじゃあ大会2回戦、始めるとしようか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 




キャラクター補足



・アンチョビ

本名安斎千代美。中学の頃のまほに唯一黒星を付けた戦車乗り。
正面から攻めるよりも、策を巡らせた戦い方を得意とし、格上の相手とも互角の試合をする事が出来る。
アンツィオ高校にスカウトされて戦車道の立て直しを行い、僅か1年で全国大会に出場できるレベルにまでチームを強化した。
尚、中学時代とはガラリと印象が変わってしまった為に、彼女が西住まほを倒した安斎千代美だと言う事を知るアンツィオ生徒は現状一人も存在していない……(其れで良いのかアンツィオ高校。)



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Panzer122『如何やらアンツィオ戦が始まったようです』

アンツィオ戦が始まったよ♪Byみほ      相手にとって不足は無いわ……全力で行くわよ!Byエリカ      大洗の底力、見せてやりましょう!By小梅


Side:カエサル

 

 

アンツィオ高校との2回戦……いよいよ試合開始と言う所だな。

ひなちゃんは何処かな?試合前に挨拶しておきたいんだけど……副隊長だって言ってたから試合には出る筈だけど――

 

 

 

「あ、たかちゃん!!」

 

「ひなちゃん!!やっと見つけた!」

 

姿が見えないから、今日の試合には出ないのかと思っちゃった……若しかして副隊長だから試合前のお仕事か何かあった?――2年生で副隊長だなんて凄いじゃん!!

 

 

 

「アンツィオの副隊長は、私の他にもう1人居るんだけどね。」

 

「へ、ひなちゃん以外にも副隊長が居るの?」

 

 

 

 

「いよーみほ、久しぶりだな!!」

 

「ヤッホー、久しぶりだねペパロニさん♪」

 

 

 

 

「今、大洗の隊長である西住さんに抱き付いた人がそう。

 中学時代は西住さんと同じ戦車に乗ってて、装填士として可成り活躍した人なの――聞いた話では、西住さんが中学で戦車道をする事が出来たのは、ペパロニさんが部員を集めたからだって聞いたわ。」

 

「そうなんだ……」

 

「で、たかちゃんはどの戦車に乗ってるの?」

 

「秘密ーー♪」

 

「だよね♪」

 

 

 

って、なんか視線を感じるぞ?……うおい、お前ら何をニヤニヤしてる!

 

 

 

「いやぁ、意外な一面を見てしまったと思ってな……」

 

「たーかちゃん♪」

 

「ひゅーひゅーぜよ。」

 

 

 

カエサルだ!!

クソ、迂闊だったな……まさか見られていたとは、此れはしばらくの間、此れをネタにからかわれる事を覚悟しておかねばだ――でも、其れは兎も角として、勝たせて貰うからねひなちゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer122

『如何やらアンツィオ戦が始まったようです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

ペパロニさんに飛び付かれたのには驚いたけど、まぁアレ位なら受け止められる事が出来るから無問題――なんだけど、其れを見たアンチョビさんは驚いてたみたいだけど、なんでだろう?

 

 

 

「いや、普通驚くだろ!?

 私だって思い切りペパロニに飛び付かれたらよろけるか、下手すりゃ倒れるのに、なんでお前は平然と受け止める事が出来るんだ!?

 其れも、言っちゃ悪いが右腕一本で!」

 

「右腕一本になったその日から、左腕が無くても何とかなるように鍛えて来ましたので此れ位は出来るようになってしまいました。

 左腕のないバランスの悪い身体ですが、其処は右のハサミだけが異常に発達したシオマネキみたいなモノだと思って下さい。」

 

「お前、その認識で良いのか!?」

 

「片腕だからと差別されるのは嫌ですけど、だからと言って其れを特別視されるのもあまり好きではありませんので。

 あ、でも『隻腕の軍神』の二つ名は、最初は『え~?』って思いましたけど、最近は結構気に入ってるので、その名前で呼ばれるのは嫌じゃないですよ?」

 

「はぁ……中学で初めて戦った時から、お前は間違い無く大物だと思っていたが、如何やらそれは間違いじゃなかった様だな――まぁ、其れ位でなくては面白くはないからな!

 中学時代と、去年のリベンジを果たさせて貰うぞ西住妹――否、みほ!!」

 

「アンチョビさん……はい、受けて立ちます!!」

 

時にアンチョビさん、ペパロニさんは、アンチョビさんが安斎千代美だって事に気付いてますか?……こう言ったらアレですけど恐らく、否絶対に気付いて無いですよね?

 

 

 

「あぁ、気付いてない。

 と言うか、多分雛菊以外は気付いてる奴いないぞ……まぁ、ドゥーチェとしての私と、安斎千代美ではあまりにも違うから仕方ないのかもな。」

 

「ギャップが大きいですからね――って、雛菊さんはロールプレイ用の名前ないんですか?」

 

「2年になった今も、なんかシックリくるモノが浮かばないそうなんだ……私がアンチョビで、青子がペパロニだからこの2つと合わさると美味しいリングィーネなんてどうかなと思ったんだが、駄目だったみたいだ。」

 

 

 

リングィーネ……スパゲッティの一種ですね。――うん、確かにアンチョビとペパロニのリングィーネはとっても美味しそう。……今度沙織さんにお願いして作って貰おうっと。

 

取り敢えず、試合前の挨拶――の前にオーロラビジョンに両校のオーダーが表示されてるね。

 

 

 

・大洗女子学園

 

パンターG型×1(隊長車)

Ⅲ号戦車J型×1(副隊長車)

Ⅳ号戦車D型×1(フラッグ車)

ティーガーⅡ×1

Ⅲ号突撃砲F型×1

クルセイダーMk.Ⅱ×1

38(t)B/C型×1

 

 

・アンツィオ高校

 

P-40×1(隊長車兼フラッグ車)

セモヴェンテ×3(うち1輌は副隊長車)

CV-33×6

 

 

 

ウチは現状であの7輌しかないから変えようがないんだけど、アンツィオは優花里さんが偵察して手に入れてくれた情報通り、P-40を投入してセモヴェンテを1輌削って来たか――CV-33を削らなかったのはあくまで機動力を確保したいからかな。

 

其れでも戦車の質では私達の方が上だけど、策は戦力を越えるってのはアンチョビさんが1回戦で示してくれたから油断は出来ない……P-40なしでマジノを撃破した訳なんだから、P-40が出てくるこの試合は、決して楽な物じゃない筈。

其れでも、負ける気は全く無いけどね。

 

 

 

「ふむ……意外だなみほ?――てっきり、圧倒的な攻防力を誇るティーガーⅡをフラッグにして、鉄板の陣営を敷いて来るんじゃないかって思ってたんだけどⅣ号がフラッグとは、少々意表を突かれたぞ?」

 

「確かにアンツィオの火力を考えたらティーガーⅡがフラッグ鉄板なんですけど、其れじゃあエリカさんの能力を生かせないじゃないですか?」

 

フラッグは他の戦車以上に撃破されない様に動く必要がある訳ですが、其れって逆に言うと思い切り全力全開で暴れまわる事は出来ないって言う事にもなりますよね?……制限がある状態では、エリカさんの真価は発揮できません。

逸見エリカと言う、私が知る限り尤も凶暴な戦車乗りは、通常の指揮系統に組み込むよりも、最低限の命令にだけ従うようにした上で自由に動いて貰った方が強いんです。

 

孤高の銀狼が操る黒い虎は、只管に戦場の敵を狩る方が絵になりますからね。

ですが、フラッグ車であるⅣ号の小梅さんも侮らない方が良ですよ?――小梅さんはエリカさん程の苛烈さは無い代わりに、物凄く観察眼が鋭くて、私が見落としてしまったモノにも気付きますので。

勿論、副隊長の梓ちゃんも舐めたらだめです。

 

 

 

「澤梓に関しては、中学から始めたって言うのに3年前の大会で此方の部隊を見事に足止めしてくれたから、今では相当な戦車乗りになっているだろう?……舐めたりはせんよ。

 しかしまぁ、アレだな?まほの奴はエリカと小梅を『巧く使っていた』が、エリカと小梅を『最大に生かしている』のはお前の方だなみほ。

 今年のお前は、明光大に居た頃のお前に近い――黒森峰の遊撃隊も強かったが、大洗はそれ以上だと思ってる。楽しい試合にしような!」

 

「はい、勿論です!!」

 

 

 

「其れでは此れより、大洗女子学園とアンツィオ高校の試合を始める。お互いに、礼!!」

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

そんなこんなで、試合前の礼も終わって、いよいよ試合開始――無名の大洗と、弱小と言われてきたアンツィオ……誰もが1回戦敗退だと予想していたモノ同士の2回戦、観客が度肝を抜かれる様な試合をして盛り上げて行かないとだね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

『其れでは、試合開始!!』

 

 

「Panzer Vor!!」

 

「Avanti!!」

 

 

遂に始まった大洗女子学園vsアンツィオ高校の2回戦――下馬評を引っ繰り返して2回戦にコマを進めたダークホース同士の試合には、多くの観客が詰めかけている。

 

観客だけでなく、戦車道雑誌の取材陣も多数来ている事から、このダークホース同士の対決が如何に話題性があるかが分かると言うモノだ。

 

 

そんな大洗vsアンツィオの試合会場は岩場と森で構成されたフィールド――広い岩場で派手に戦車戦を行うもよし、森に身を隠しての待ち伏せやゲリラ戦を行うも良しと言う、毛色の違う2つの戦い方が可能になるフィールドだ。

 

スタート地点はアンツィオが森に近く、大洗は森から少し離れた場所と言った感じであり、森に攻め入る大洗と、森で待ち受けるアンツィオと言った形になりそうだ。

 

 

「フッフッフ、如何やらフィールドは少しだけ我々に有利になっているようだな?

 森が近いのならば即座にあの作戦を使う事が可能になるからな――各員、此れより『マカロニ作戦』を開始する!即準備にかかれ!!」

 

『『『『『『『『Comprensione!』』』』』』』』

 

 

アンツィオの方は、早速地の利を生かして、アンチョビの号令の下に作戦を開始。

6輌のCV-33が車体に何かを乗せて発進し、2輌のセモヴェンテも揃って移動を開始――如何やら、完全に森の中で大洗を迎え撃つ布陣であるようだ。

 

 

「しかしまぁ、よくもこんな作戦考え付くっすねドゥーチェ?まぁ、視界の悪い森の中だからこその作戦っすけど。

 取り敢えずアレっすね、試合結果に関わらず、美術科の連中には今度礼をしないとっすよね~~……予備も入れて全部で9枚ってのは結構大変だったみたいっすからね……」

 

「そうだな……だが、どうせなら勝って礼をしたいモノだ。

 しかし相手は、みほだからなぁ……正直通じるかどうかはフィフティー・フィフティーと言った所か。」

 

「みほっすからねぇ?

 でも、ドゥーチェの思考を完全にトレースするのは流石のみほでも無理じゃないっすか?……ぶっちゃけ、世界中何処を探しても、今回の作戦はウチ等が世界初披露だと思うんで。」

 

「まぁ、其れはそうなんだがな……」

 

 

やや不安はあるようだが、如何やらアンツィオが行う作戦は、戦車道史上未だ嘗て誰も見た事のない作戦であるらしい――そんな作戦を思いつくのは、中学時代に『猛将の西住、知将の安斎』と言われたアンチョビと言った所だろう。

 

 

『ドゥーチェ、設置完了しました。』

 

「うむ、分かった。

 では、森全体を包囲する陣形を取れ!逃げ場のない森で包囲して大洗を一気に叩く――我等アンツィオの底力を見せつけてやるとしよう!」

 

『『『『『『『Duce di riconoscimento!』』』』』』』』

 

「よし、行くぞ雛菊!」

 

「了解しましたドゥーチェ。」

 

 

程なく準備が完了した報告を聞いたアンチョビは、雛菊が車長兼装填士を務めているセモヴェンテと共に移動を開始――知将、アンチョビの策が大洗に、その牙を剥こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の大洗は、Ⅲ号とクルセイダー以外の5輌が森から少し入った所にある、少し開けた場所で待機していた――森の中でアンツィオが何かしらの策を仕掛けてくるのではないかと考えたみほは、森の中でも小回りの利くⅢ号と、抜群の快足を誇るクルセイダーを偵察に出してたのだ。

 

そして、ただ待つだけでなく、フラッグ車であるⅣ号を他の戦車で囲んで防御する陣形を取っている辺りは抜け目がないと言っていいだろう。

 

 

「おい西住、なぜ偵察など出す必要がある?

 相手はノリと勢いだけが武器のアンツィオだぞ?此処は一気に戦車の性能差を以て畳み掛けるのが上策ではないのか!?」

 

「そう思うのは素人考えだよ河嶋さん。

 この間も言ったけど、アンチョビさんは中学時代に、当時中学最強と言われていたお姉ちゃんを――西住まほを倒した只唯一の戦車乗りだから、戦車の性能差は余り当てにならない。

 それどころか、下手に突っ込んだらカウンターを喰らって、其れこそアンツィオを波に乗せかねないからね。」

 

 

そんな中で、桃は一気に攻めるべきだと言うが、みほは其れは悪手だと言って諫める。

桃の言う通り、戦車のスペックでは圧倒的に有利なのだから一気に攻めるべきだと言うのも悪くない選択なのだが、小学校に上がった時から戦車に乗り、左腕を失ってからは車長専任免許を取得する為に古今東西ありとあらゆる戦車の知識を頭に叩き込み、幾多の戦いを潜り抜けて来たみほは、歴戦の戦車乗りのみが持つ勘で、攻め急ぐのは最大の悪手であると感じ取っていたのだ。

 

 

「期を待ち、機を見て、気を持って戦う――戦いの基本よ河嶋先輩?

 と言うか、三等兵風情が将官の隊長に向かって意見するなんて、身の程を知りなさい――そんな身の程を弁えない無礼、黒森峰なら即刻収容所送りになってる所よ?」

 

「不敬罪も追加されて、最低でも10日の収容所暮らしは免れませんね絶対に。」

 

「ひぃぃぃぃぃ!?」

 

「……か~しま、いい加減学べよお前……」

 

 

更に、エリカと小梅から追撃を喰らった桃はすっかり委縮してしまった様だ……如何やら、今まで生徒会の権力を盾にして強硬的に色々な事をを進めて来た時のクセが抜けないらしい。

 

兎も角、今は偵察からの報告を待つのが一番なのだ。

 

 

「時に西住隊長、なぜ我々を偵察に出さなかったんだ?

 Ⅲ突は知っての通り車高が極端に低いから待ち伏せだけでなく偵察にも向いている――特に、茂みの中に隠れてしまえばCV-33に発見される事だけは絶対にないぞ?」

 

「其れは私も考えたけど、大洗にとって貴重な火力であるⅢ突を偵察に出したら戦術が狭まっちゃうと思ってね――カバさんチームの皆には偵察をするよりも、その火力を持ってして暴れ回って欲しい所だからね。」

 

「そう言う事なら、任せるぜよ!!」

 

「左衛門佐を名乗った誇りにかけて、隊長の期待に応えてやる――任されたぞ隊長!」

 

「ふふ、期待してるよ♪」

 

 

其れでも、こんな雑談が出来るのは心に余裕がある証拠だろう。――まぁ、会話の内容に関しては此の試合の事ではあるのだが、この程度のやり取りで仲間の闘争心に火を点けるみほは、奇しくも試合前にアンチョビが言った『最大に生かしている』と言う事が出来る戦車長であり隊長なのだろう。

 

 

『ウサギよりあんこうへ。

 東C地点にて、CV-33を3輌、セモヴェンテを2輌発見しました――此方には、未だ気づいていないようですが、今すぐ動く気配も一切感じる事が出来ません。』

 

「流石は梓ちゃん、仕事が早いね。」

 

 

そして、此処で偵察に出掛けて行った梓からの連絡を受ける――其処からみほが自分ならどうするかと考えて導いた答えは、アンツィオが森の中に潜んでのゲリラ戦を展開しようとしてるのではないかと言う事だ。

 

森林を使ったゲリラ戦はみほも得意としているが、ゲリラ戦を仕掛ける事は有ってもゲリラ戦を仕掛けられた事は未だ嘗て1度もない故に、自分がゲリラ戦に遭遇した場合は少し考える時間が必要になって来るのだ。

 

 

「東C地点にカルロヴェローチェが3輌とセモヴェンテを2輌か……此方を包囲してから攻め立て、フラッグを孤立させた上でドカンって言う感じかな此れは?

 如何やらアンチョビさんは、確実に私達を倒しに来てるみたいだね……なら、其れには応えないとだよ!!

 アヒルチームからの報告があり次第、此方からも攻める――アンツィオ相手に防御重視は悪手以外の何者でもないからね!!」

 

 

だが、此の僅かな時間でみほの頭の中ではアンツィオの戦い方がシミュレートされ、今打てる最高の一手を考える――其れが導き出したのがアヒルチームからの報告を待つと言う事だった。

 

情報戦と言うのは馬鹿に出来るモノではなく、戦車道では更にその傾向が強い故に、情報と言うモノは可成り有効な物なのである。

みほも此れまでの経験から其れ知っているからこそ、梓からの報告だけでなくアヒルチームからの報告を待ったのだ――或は、2つの報告から相手の狙いをより正確に割り出そうとして居るのかも知れない――尤も、現状の状態ではもう少し時間が必要だが……

 

 

 

『隊長、此方アヒル!

 南C地区にてアンツィオの戦車を発見!――CV-33が3輌、セモヴェンテ2輌です!』

 

「お疲れ様です。」

 

 

程なくバレー部もまた、アンツィオの戦車を発見する。――が、此処でみほとエリカと小梅は今の報告を聞いて、即座に『オカシイ』と感じた。

恐らくこの場においては、此の3人以外には感じてない事かも知れないが、戦車道に長く携わって来たからこそ、ウサギチームとアヒルチームの報告から即座に違和感を感じたのだろう。

 

 

「うん?

 東地区に5輌で、南地区にも5輌?……しかもP-40は居なかった訳だから数が合わないよね?――そもそもにして、セモヴェンテは3輌の筈なのに、今の報告を聞く限りでは4輌のセモヴェンテが存在してる事になるし、其処にP-40を加えたらレギュレーション違反の11輌になっちゃう……どういう事なんだろう?」

 

「若しかして直前に増やしたとか?

 ……否、無理よね。試合に出る戦車の絶対数が、規定数未満の場合は相手の同意があれば試合直前に追加する事も出来るけど、アンツィオは10輌出てるし、私達同意してないし、そもそも聞いてないし。」

 

「審判団の目を欺いて、試合前に戦車に偽装工作をしてフィールドに隠していたとか……そんなのは、明らかに違反ですけど……」

 

「アンチョビさんに限って其れは無いと思うんだけど、でも調べてみる価値はあるかも知れないね――梓ちゃん、典子さん、カルロヴェローチェとCV-33に向かって機銃を撃ってくれるかな?

 それで、きっと謎が解けると思うから――行けるよね2人も!!

 

『了解です!!』

 

『根性で頑張ります!!』

 

 

その僅かな違和感を感じ取ったみほは、梓と典子に機銃での攻撃を命令し、2人は其れを忠実に行い、待ち伏せしているCV-33とセモヴェンテに向かって機銃を発射!

機銃では、CV-33もセモヴェンテも撃破する事は出来ないが――

 

 

 

――ババババババババババババババババ!!

 

――バリン!バリン!!バリン!!!

 

 

 

「板?」

 

「書き割り?」

 

「偽物だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

機銃を喰らったアンツィオの戦車は瞬く間に蜂の巣となって倒れ、後に残ったのは物言わぬ板切れと化した、戦車の張りぼてのみ。

戦車は簡単に砕け散りはしない。ウサギチームとアヒルチームが発見した戦車は、攻撃されたら木っ端微塵となるベニヤ板で作られていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

東C地区と南C地区のカルロヴェローチェとセモヴェンテは偽物だったか――如何やらアンツィオは、私が罠にかかった所を一網打尽にする心算だったみたいだね。

だけど、絡繰が分かれば恐れる物は何もないから、此処からは此方から攻めに回るのが上策だね。

 

「此処から一気に攻勢に打って出る!!

 坂東武者の心意気があるモノは私に続けぇ!!」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「本日の軍神招来は、源義経であったようでありますねぇ?まるで一の谷の逆落とし前の号令の様でした……取り敢えず、試合はまだ始まったばかりであります――必ず勝ちましょう西住殿!!」

 

「勿論、そのつもりだよ優花里さん。」

 

私が目指してるのは全国制覇只それだからね――だから此の2回戦も必ず勝って見せる!勿論この先に待っているであろう強者達も、此の試合を見てるだろうから手加減は厳密!!

 

だけど、私を此処まで燃えさせたのは貴女が初めてだよアンチョビさん――なら、そのお礼はたっぷりとしないとだね!!

 

 

ふふ、此処からが本当のアンツィオ戦って言う所かな?……なら、私も一切の手加減をしないでやらせて貰う!!――只、其れだけだよ!!

もう私のハートは、限界までバーニングしてるからもう誰にも止める事は出来ない!!

 

さぁ、会場の皆さんにも楽しんで貰おうとしようか?――ダークホース同士が織りなす、戦車道って言うモノをね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer123『此れが本当のアンツィオ戦です』

さぁて、ガンガン行くよ!!Byみほ        最高の戦車道を見せてやるわ!Byエリカ     銀狼と、ハヤブサの攻撃、受けきれますか?!By小梅


Side:みほ

 

 

まさかデコイを、其れも書き割りの物を使った罠を仕掛けてくるとは思わなかったよ――私が此れまで頭に叩き込んだ、ありとあらゆるの戦車道の戦術でも、書き割りのデコイを利用した物は存在しなかったからね……デコイの数が完璧に合ってたら少しヤバかったかもしれないよ。

 

 

 

「流石の貴方でも、未知の戦術を相手にした場合には勝つ事が難しくなると言う事かしら?……難しいだけで、最終的には勝つんだろうけどね。

 だけどみほ、仕掛けを見破った今、私が此処で待機してる必要はないわよね?っと言うか、暴れてナンボでしょう!!」

 

「うん、今度はこっちから攻める番だよエリカさん。」

 

アンチョビさんの事だから、デコイを見破っても第二第三の矢があるかも知れないけど、受けに回ったら流れを持って行かれるから、此処からはこっちから仕掛ける!

 

「ウサギとアヒルは、そのまま偵察を行いつつ、会敵したらそのまま交戦を開始。カルロベローチェの挑発には乗らない様に注意して。

 但し、フラッグ車を発見した場合には、無理に交戦せずに必ず連絡を入れるように。――頼んだよ!」

 

『了解です、西住隊長。』

 

『根性で、頑張ります!!』

 

 

 

此方は部隊をあんこう、オオワシ、カバのチームと、ライガーとカメのチームに分けて行動して行くよ。

単独行動のウサギとアヒル、そしてチームプレイの私達って言う異なる戦い方でアンツィオにプレッシャーをかけて調子付かせないようにしたいから、くれぐれも無理して撃破されましたなんて言う事にならない様に。

 

 

 

「了解だ!……って、なんで全員で私を見るんだ!!」

 

「……だって、生徒会が一番それやりそうだし。CV-33を舐めてかかって返り討ちに遭う可能性が否定できないんだけど?」

 

「うむ、逸見の言う事は否定出来ん。」

 

「すみません、私も否定できないです。」

 

 

 

ホントに、深追いして撃破されたとかは止めてよカメさんチーム……若干不安が拭えないから。

それにしても、本物の戦車と見分けがつかない程の書き割りを作るとか、アンツィオの美術レベルは相当高い気がするよ――兎に角、此処からが本当のアンツィオ戦だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer123

『此れが本当のアンツィオ戦です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

アンツィオの書き割りを破壊したウサギチームは、みほの命令通り偵察を続けながら森の中を進んでいた――アヒルチームも偵察を続けているが、其方は梓の提案で森の外を偵察中である。

 

 

「アレは……セモヴェンテとカルロベローチェが1輌ずつ?」

 

「ふむ、樹木の生え方のおかげで、如何やら此方には気付いていないようだヨ?」

 

 

そうして森を偵察中、梓はセモヴェンテとCV-33のコンビを発見。

クロエの言うように、向こうからは此方が死角になっているらしくウサギチームのⅢ号に気付いた様子はない――となれば奇襲の一発で最低でもCV-33は撃破出来るだろう。

 

 

「でもさ、また偽物かもしんないよね?」

 

「!!」

 

 

だが、あゆみの放った何気ない一言が、戦車乗りとしての梓の勘が即座に反応した。

確かにあゆみの言うように、偽物である可能性も充分にある――そもそも、アンツィオが先程破壊した書き割り以外の張りぼてを用意していないと言う事は誰にも断言する事は出来ないのだから。

 

 

「(確かにあゆみの言う通りだけど、此処は如何するのがベターだろう?もしも偽物だったら、弾を無駄にする事になるけど、偽物かどうか確かめようとして機銃を撃って本物だったら1対2の状況で戦う事になる……あのデコイがあったからこその二択――アンチョビさんの狙いが、此方の選択肢を増やす事にあったんだとしたら、あのデコイは充分その役割を果たしたって言えるかな?

  さて、無駄弾を撃つか、其れとも1対2か……)

 クロエ、仮にあの2輌を同時に相手にする事になった場合、相手の攻撃はドレだけ避ける事が出来る?」

 

「そうだナ……Ⅲ号はティーガーⅠよりも小回りが利くから、セモヴェンテの砲撃なら全弾回避も不可能じゃないヨ。

 CV-33の機銃ではⅢ号の装甲を抜く事は出来ないから、実質避ける攻撃は1輌分だからね。」

 

 

即座に頭の中で思考を纏め、その上でクロエに回避の自信の程を聞き、再び考える。

クロエの操縦技術の高さは、中学時代の3年間、同じ戦車に乗っていたから良く分かっており、その腕前ならばセモヴェンテの攻撃を全て回避すると言うのも決してビッグマウスではないと思っているのだ。

 

 

「(クロエの操縦技術があれば全弾回避も可能……そうなればそれだけ相手に無駄弾を撃たせる事が出来る――なら此処で打つ一手は!)

 あゆみ、CV-33に照準!」

 

「了解!……照準セット完了!」

 

「……撃て!!」

 

 

その思考の果てに梓が導いた答えは、機銃で確認するのではなく、主砲を一発ブチかます方だった。

機銃を撃とうが、主砲をかまそうが、相手が本物であったら其処から交戦状態になるのは間違いない。――ならば、機銃で確認して1対2になるよりも、セモヴェンテとのタイマンの方が遥かに楽だ。

加えて、クロエの回避能力ならばセモヴェンテに弾薬の過消費を起こさせる事が出来ると考え、デコイであった場合の1:0交換よりも、本物であった場合の1:1交換+αを選択させたのだ。

 

 

――ドガァァァァァァァン!!

 

――キュポン!!

 

 

『アンツィオ高校、CV-33行動不能。』

 

 

そして、その選択は大当たり!

Ⅲ号の砲弾は、見事にCV-33にヒットして吹き飛ばし、撃破の証である白旗判定を上げさせる――つまり、この場に居たアンツィオの戦車は、デコイではなく本物だったと言う訳だ。

 

 

「んな!?一体何処から!!」

 

「あそこだ、あの木の向こう!!大洗のⅢ号だ!!」

 

 

行き成りCV-33が撃破された事に驚いたのはセモヴェンテの搭乗員達だ――無理もない、デコイに気を取られている筈の大洗を此れから強襲する所を逆に奇襲を喰らってしまったのだから。

 

だが、其れは逆に言うとⅢ号の存在を認識したと言う事でもある。

セモヴェンテの砲手がスコープで見た先には、確かにⅢ号が存在していた――だからこそ、確信する、マカロニ作戦は失敗したのだと。

完全に出鼻を挫かれた形だが、其処で凹まないのがアンツィオの戦車乗りだ。

 

 

「ドゥーチェの策を見破るとは、流石は隻腕の軍神が率いる大洗……だけどな、アンツィオは負けねぇぞ!!」

 

「そう来ないと面白くありません……かかって来な!」

 

 

即座にⅢ号に向かって突撃!

其れに応えるように、梓は挑発的に手招きすると、手招きした手をサムズダウンして煽った後に、その場を急速離脱!――隻腕の軍神の一番弟子は、中々に挑発も巧かった様だ。

 

ともあれ、此れが本当のファーストコンタクト――そして、此れが合図となって試合は動き始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「CV-33がやられたとは……此れは、マカロニ作戦は見事に見破られたようだな?」

 

「まぁ、みほっすからね……早い段階で見破るんじゃねぇかとは思ってたっすけど。」

 

「だよな。」

 

 

CV-33撃破の報を聞いたアンチョビは、即座にマカロニ作戦が見破られた事を看破していた――だがしかし、アンチョビに焦りの色はないどころか、その顔に浮かんでいるのは強者と戦える事の喜びを感じている笑みだ。

 

 

「いやはやマッタク持ってみほは凄い奴だな?

 マカロニ作戦をいとも簡単に見破って、更に此方の戦車を撃破して来るとは――虎の勇猛さと、女豹の狡猾さを併せ持った強さは、健在どころか、より磨きがかかっている様だ。

 此れも、今年から戦車道を復活させた大洗に所属しているからも知れん……決められた型のない自由な戦車道こそがみほの強さだからな。

 ならば、此処で待っている必要は最早ない!私達も動くぞ、雛菊!パニーニ!!」

 

「了解しましたドゥーチェ。」

 

「任せておいてくださいドゥーチェ!」

 

 

自分達の作戦を看破し、攻勢に出て来た大洗に対して『待ち』は悪手と考え、セモヴェンテとCV-33をお供に引き連れアンチョビも出陣!

一見するとP-40、セモヴェンテ、CV-33のチームと言うのは貧弱に見えるが、CV-33が一緒に居るからこそ、機動力で相手を掻き乱した所へのP-40とセモヴェンテの高火力が効果的に決まるのである――正に、対戦車戦性能皆無の豆戦車も使い様と言う所だ。

 

アンチョビは、そのまま森の中を突き進み、少し開けた場所に出た。

本来ならば此処で一度停車し、他の隊員から現在の状況を聞く所なのだが――

 

 

「え?」

 

「あれ?」

 

 

此処でバッタリ、みほ率いる小隊とエンカウント!

みほも此処で一度エリカや梓と連絡を取ろうと思っていたらしく、完全に偶然ではあるが同じ場所に到着してしまったのである。……まぁ、こんな偶然もまた戦車道の面白さなのかも知れないが。

 

 

「あ……ある~日、森の中。」

 

「戦車に、出会~~った。」

 

「生い茂る森の道~~。」

 

「戦車に出会~~~った~~~~♪」

 

 

で、エンカウントした隊長同士は何を思ったのか、プロなんじゃないかと思う様な歌声を披露し……まるで示し合わせたかのような見事な歌声がスピーカーから流れた瞬間、観客席がドッと沸いた。

観客的にも、此れはアリだったのだろうが、大事なのは歌声ではなく、此処でエンカウントしたと言う事であり……

 

 

「敵フラッグ発見!Offener Kampf!!」

 

「まさか、こんな形で会敵するとはな……上等だ!Combattimento aperto!!」

 

 

其処から一気にオープンコンバット!!

みほとアンチョビの指示の下、互いに的確な砲撃と、超絶技巧の操縦で木が生い茂った森の中とは思えないような、激しい戦車戦を展開して行く――まぁ、この攻防のせいで森の木が戦車砲で圧し折られて、攻撃の度に見通しが良くなってはいるのだが。

 

だがしかし、こう言った場所での戦いはみほもアンチョビも大得意。

直接相手のフラッグ車を狙うだけでなく、敢えて砲撃で木を倒して相手のフラッグ車の上に倒そうとしたり、機銃で杉の実を弾けさせて花粉の雨を振らせたりと、奇策裏技上等の戦車道が展開されて行く。

 

 

「みほ、お前幾ら何でも、蜂の巣を落とすとか酷くないか!?危うくキューポラの中に入る所だったぞ!殺す気か!!」

 

「刺されたくらいじゃ死にませんよ?」

 

「アホたれ、私に限っては確実に死ぬんだよ!!」

 

「……若しかして、アナフィラキシー?」

 

「その通り!!」

 

「其れは……てへ♪」

 

「誤魔化すな!!」

 

 

会話だけを聞くと、何ともアレだが、中学時代に最強と称されたまほを倒したアンチョビと、そのアンチョビを倒したみほの戦いは、中学の頃の戦いよりも白熱している様だ。

 

 

「ん?あのマークは……たかちゃん?」

 

 

そんな中、セモヴェンテの車長兼装填士の雛菊は、大洗のⅢ突のパーソナルマークを見て、そのマークが幼馴染がSNSのスタンプとして使っていたモノだと気付き、Ⅲ突に幼馴染のたかちゃんが乗っていると確信する。

 

 

「ドゥーチェ、長砲身75mmは私に任せて下さい。」

 

「雛菊?……分かった、任せたぞ!!」

 

 

なので、Ⅲ突の相手を自ら引き受けて交戦を開始!

幼馴染だからこそ、真っ向勝負で勝ちたいと言う所なのだろう。

 

 

「隊長、我等はセモヴェンテの相手をする!――其方は任せた!!」

 

「エルヴィンさん……御武運を!」

 

「任せろ!

 隻腕の軍神の祝福を受けた、我等大洗に負けはない!!」

 

 

そして、Ⅲ突もまたセモヴェンテとの一騎打ちを決め、突撃砲同士の戦いの火蓋が切って落とされる!――互いに回転砲塔を持たないが故に、この戦いは装填の速さと、操縦技術の高さが勝負を分ける事になるだろう。

 

 

「後は絶対に晒さない筈……でも側面なら!!!」

 

 

「Ⅲ突の主砲なら、何処に当てても撃破出来る!!」

 

 

幼馴染同士のバトルは、とても激しい物になる可能性がバリバリだった――尤も、その熱気はスクリーンを通して観客に通じたらしく、セモヴェンテとⅢ突のバトルが始まった瞬間、観客は大盛り上がりだったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、森の外を偵察していたアヒルチームは……

 

 

「こんな所で会うとは奇遇ね磯辺……此処からは、力を合わせて行きましょうか?」

 

「OK逸見!根性メガマックスーーーーー!!!」

 

 

エリカ率いる小隊と合流していた。

エリカも典子も合流を狙っていた訳では無いのだが、そうであってもこうして合流して戦力を増強してしまう辺り、みほの部隊編成は的確だったと言わざるを得ない――其れこそ、この合流すらも見越していたのではないかと思う程だ。

 

だが、大洗最速のクルセイダーと、大洗最強火力のティーガーⅡが合流したら、此れは相手にとってはとても怖い組み合わせだろう――特にアンツィオにして見れば、足で撹乱してデカい一発をブチかますと言う自分達の戦闘スタイルを奪われたに等しいのだから。

 

 

「根性メガマックスって、正直意味が分からないけど……だけど、その意気やよしよ!!

 ちょろちょろ煩い、アンツィオのネズミを一匹残らず駆除してやるわ!!――磯辺、気合と根性の貯蔵は充分かしら?」

 

「充分も充分!寧ろ、溢れ出して飽和状態!!」

 

「なら問題ないわね――ブチかますわ!!」

 

 

そして実際にこの組み合わせの強さは凄まじく、クルセイダーがアンツィオのCV-33以上の機動力を持ってして相手の動きを制限し、足が鈍くなった所に、ティーガーⅡの88mmが炸裂し、CV-33を次から次へと駆逐していく――如何に機動力が武器のCV-33であっても、その機動力を殺されてしまってはどうにもならない。

銀狼の駆る黒虎の爪牙の餌食になるだけだった。

 

だが――

 

 

――バゴォォォン!!

 

――キュポン!!

 

 

『38(t)行動不能。』

 

 

弾き飛ばされたCV-33がぶち当たって白旗判定となったカメチームは、何とも言えない位に間抜けであったとしか言いようがないだろう……まぁエリカは最初から生徒会は当てにしてなかったのだが……

 

だが、其れでも数の上では優位に立つ事が出来たのだから、この戦闘は決して無駄ではなかっただろう。

 

 

「あ、此処までっポイ――根性でも駄目だったか。」

 

 

――ブシュゥゥゥ……

 

――キュポン!

 

 

『クルセイダー、行動不能。』

 

 

だが、戦闘中にリミッターを解除したクルセイダーが、此処でエンジンに限界が訪れて白旗判定――リミッター解除の影響ゆえの白旗判定なので撃破された訳では無いのだから大したモノだが。

 

何にしても、大洗もアンツィオも互いに戦車が撃破され、試合は一気にクライマックスの様相を呈して来た――其れだけは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

会場の各地で激しい戦車戦が展開される中、みほとアンチョビの戦いもまた、白熱していた――其れこそ、中学時代の決勝戦での激突以上だと行っても過言ではない。

何方も一歩も退かない、観客の目をひきつけてやまない戦車戦――其れこそ、2回戦であるにも拘らず年間ベストバウトにノミネートされてもオカシクない試合が展開されているのだ。

 

 

「ククク……はっはっは!!!

 楽しい、楽しいなぁみほ!!やはり戦車道と言うのはこうでなくてはいかんよ!――心の底から試合を楽しみ、そしてその上で勝ってこその戦車道だ!

 お前は、其れをよく分かっているみたいだなみほ!!」

 

「戦車道は楽しく、此れは基本ですよアンチョビさん。

 でも、楽しんだ上で勝てれば其れは最高ですよね――だから、勝たせて貰います!!!」

 

「楽しんだ上で勝つか――確かに其れは最高だな!!」

 

 

パンターの砲撃をP-40が躱してⅣ号に攻撃すれば、Ⅳ号は其れを躱してCV-33にカウンターを叩き込むが、CV-33は持ち前の機動力で其れを回避して戦車プレス!!

 

だが、其れはパンターによって阻止され、CV-33は白旗判定だ。

 

 

「相討ちか……流石だねひなちゃん。」

 

「流石はたかちゃん……一筋縄ではいかなかったね――勝てると思ったんだけどなぁ。」

 

 

同時にタイマンを行っていたⅢ突とセモヴェンテは仲良く相討ちになってターンエンド――だが、此の展開はアンツィオにとっては嬉しくない事この上ない……火力で圧倒的に劣る結果となったのだから。

 

 

そして――

 

 

 

「此れで終わりだよ!!」

 

「此れでバトル終了です!!!」

 

「さぁて、覚悟は出来てる?私は出来てる!!」

 

 

Ⅳ号と、この場に駆けつけたⅢ号とみほのパンターが、アンチョビのP-40をロックオン!!――此れはもう逃げ場は何処にもないだろう。

 

 

「一気に殲滅する!!――撃てぇ!!」

 

 

 

――ドッガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!

 

 

――キュポン!

 

 

『アンツィオ高校、フラッグ車行動不能――大洗女子学園の、勝利です!』

 

 

如何にイタリア最強の重戦車であっても、ドイツが誇る高性能中戦車であるⅢ号、Ⅳ号、パンターによる十字砲撃を喰らっては堪ったモノではない――実際にP-40は白旗判定になってしまったのだから。

 

ともあれ、白熱の2回戦を制し、大洗女子学園は次のステージへと駒を進める事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

ふぅ……何とか勝つ事が出来た――でも、今回の勝利は、アンチョビさんがアンツィオを選んだからこそのモノだと思う……もしも戦車道に必要な彼是が金で買えるとなったらアンチョビさんはアンツィオに行ってなかっただろうからね。

 

でも、だからこそアンチョビさんは其の力を発揮できたんだと思う――型に捕らわれない戦車道は、アンチョビさんもだからね。

 

 

 

「いや~、負けた負けた!相変わらずお前は凄いなみほ!!――楽しませて貰ったぞ、此の試合。」

 

「アンチョビさん………はい、私も楽しめました!!」

 

次の機会があったらその時は、最高の試合をしましょう!――時に、アンツィオの皆さんは何をしてるんでしょうかアンチョビさん?

机をセッティングしてテーブルクロスまで用意して……あの、何が始まるんでしょうか?

 

 

 

「我等アンツィオは、食には糸目をつけん。

 試合後のもてなしこそ、アンツィオの本領だ――心行くまで楽しんで行ってくれ。」

 

「あはは……噂に聞いた試合後の晩餐会、まさか自分が参加するとは思わなかったですアンチョビさん?」

 

「なんだ、初体験か?なら、思い切り楽しめ――こういうイベントは楽しんだ奴の勝ちだからな。」

 

 

 

ですよね♪

勿論、思い切り楽しませて貰います――其れに、ノリのいい音楽がなってるから、踊らないのは損だしね。

 

「Wurden Sie bitte tanzen, Erika??(一曲踊って頂けますかエリカ?)」

 

「Wenn das dein Wunsch ist, lass es mir Miho. (みほ、其れが貴女の望みなら仰せのままに。)」

 

 

 

片膝をついて、仰々しく私に礼をしてくれたエリカさんの手を取って、そのままイタリアのノリの音楽に合わせてステップとビートを刻んでダンスの大披露!!

負けても、こんな事が出来るなんて、アンツィオは心底試合を楽しんでる……そう言う事だね。

 

 

 

「まぁ、そう言う事だ――今回は負けてしまったが、次にやる時は私達が勝つ!!覚えておけよみほ!!!」

 

「勿論、再戦を楽しみにしていますよアンチョビさん……でも、今回は私の勝ちです――次はまた、誰もが魅了されるような、そんな戦車道をしたいモノですね。」

 

「だな――次の準決勝、必ず勝てよ!!」

 

「はい、勿論です!!」

 

準決勝の相手は間違い無くプラウダだから、その辺は考えて作戦を立てて行かないとなんだけど……今日この時は、アンツィオの持て成しを最大に楽しむべきだよね!

 

 

其れじゃあ、宴会もぱんつぁーふぉー!!!

 

 

 

「「「「「「「「「「「合点だい!!」」」」」」」」」」

 

 

 

取り敢えず、此の2回戦は、良い試合だったと思う――互いに全力を出す事が出来たんだからね。

そして、この戦いに誓うよ――必ず優勝するってね!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:雛菊

 

 

負けちゃったか……たかちゃんとも相討ちだったからね――まさか、此れだけの僅かな期間で此処まで強くなったって言うのは少し信じられないわ……一体、どんな事をしたのたかちゃん?

 

 

 

「特に何も――しいて言うなら西住隊長の命令通りに練習しただけって感じかな?――でも、楽しかったよひなちゃん。」

 

「其れは私もだよたかちゃん――西住隊長の策はハンパないわね……」

 

「たかちゃんじゃない――私は、カエサルだ!!!」

 

 

 

たかちゃん!……そっか――なら、私は『カルパッチョ』ね。

次の相手は強豪プラウダだろうけど、みほさん率いる大洗女子学園なら、きっと互角に渡り合う事が出来る筈――次に会うその時を、楽しみに待ってるよ、たかちゃん。

 

次の準決勝も、頑張ってね――貴女達の勝利を、願ってるわ大洗女子学園!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 




キャラクター補足



・カルパッチョ

本名『湖城雛菊』。中学の頃にみほと戦った事のある戦車乗りで、中学卒業後はアンツィオに進学した。
アンツィオの生徒としては、珍しく落ち着きのある性格で、突っ走る事の多い戦車隊隊員の良いストッパーにもなっている。
ペパロニと共に副隊長を務め、動のペパロニと静のカルパッチョでアンチョビをサポートする。
大洗女子学園のカエサルこと『鈴木貴子』とは、小学校からの幼馴染で、互いに『たかちゃん』『ひなちゃん』と呼び合う仲。


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Panzer124『次は準決勝、プラウダ戦です』

次はいよいよ準決勝だね?Byみほ        相手はプラウダ……不足は無いわ!Byエリカ     全力全壊ですね♪By小梅


Side:しほ

 

 

如何やらみほは、2回戦も突破したようですね?

殆ど素人集団と言っても過言ではない大洗女子学園を率いて、ベスト4に進出するとは、其れだけでも大したモノだと評価するに値すると言うモノでしょうね……私に同じ事をしろと言われたら、多分無理でしょうからね。

 

その事実だけでもみほの類稀なる才能が見て取れる訳ですが……

 

 

 

「くぁーーー!!みほめ、黒森峰を去ったにもかかわらず他校で戦車道を続けているとは……何と言う事か!!

 しほ、お前はこの事を知っておったのかーーー!!」

 

 

 

お母様は、如何にも其れを認めたくないようですね?

知っていたかどうかと聞かれれば、当然ながら知っていましたよお母様――みほが、大洗に転校しても戦車道を続ける事位は分かっていましたし、そもそも西住流を破門された程度の事で、あの子が戦車道を辞めるとは到底思っていません。

 

あの子は、心の底から戦車道が好きなのですからね。

 

 

 

「西住流を破門されながら戦車道を続けるとは、何たる恥さらしか!!」

 

「お言葉ですがお母様、みほは最早西住流を破門されたのですから、何処で何をしようと勝手ではありませんか?

 そもそも、みほは西住流を名乗ってはいませんし、試合に関しても勝っているのですから、此方がわざわざ出向いてとやかく言う必要は無いのではないかと思いますが?」

 

「ふん、破門されたとは言え、西住の女が辺境の地で、無名の一団を率いているなどと言う事が既に恥の極みよ――次の準決勝で敗北したら、

 その時は破門どころか勘当を言い渡してやるわい!」

 

 

 

何と言うか、最早この人が本当に私の母親であるのかすら疑いたくなってくるわ……みほを破門するだけでなく、準決勝で敗れたら勘当を言い渡すだなんてね。

ですがお母様、その機会は永遠に訪れないと思いますよ?……みほは、必ずや準決勝も突破するでしょうからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer124

『次は準決勝、プラウダ戦です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

アンツィオとの2回戦を制して、次はいよいよ準決勝――相手は、去年の準優勝校であるプラウダだから、此れまで以上に気を引き締めて行かないとだよ。

絶対王者と言われた黒森峰でも一筋縄ではいかなかった相手だから、キッチリと作戦を立てて挑まないと瞬殺される可能性があるしね。

 

 

 

「準決勝の相手は去年の準優勝校のプラウダでありますね!

 西住殿と逸見殿と赤星殿にとっては、ある意味で因縁の相手とも言うべきライバル校!此れは、戦車道ファン垂涎の一戦でありますよ!

 事実、準決勝の組み合わせに関しては、2回戦の結果と合わせて週刊戦車道の最新号に載っていますし。」

 

「え?そうなの優花里さん?」

 

「はい、お読みになられますか?」

 

「うん、ちょっと見せてもらっていいかな。」

 

ドレドレ……

 

 

 

『第63回戦車道全国高校生大会、ベスト4が出揃う。

 第63回戦車道高校生大会も2回戦が終了してベスト4が出揃った。

 準決勝にコマを進めたベスト4は、10連覇中の絶対王者『黒森峰女学院』、ベスト4の常連で、過去には準優勝の経験もある『聖グロリアーナ女学院』、去年の準優勝校で、ここ数年は黒森峰の対抗馬となっている『プラウダ高校』、そして初出場の無名校ながら、1回戦でサンダースを、2回戦でアンツィオを倒して準決勝までコマを進めた今大会のダークホース『大洗女子学園』。

 この4校の中で注目すべきは、矢張り大洗女子学園だろう。

 去年の黒森峰で遊撃隊で活躍していた西住みほ、逸見エリカ、赤星小梅が大洗に『移籍』していただけでなく、中学戦車道で『軍神を継ぐ者』として名を馳せた澤梓を有し、更には今年から戦車道を復活させたとは思えない程の隊員のレベルの高さ……正にダークホースと言うに相応しい大洗が、去年の準優勝校であるプラウダと激突すると言うのは注目せざるを得ない。

 ミーハーな事を言わせて貰うのならば、プラウダは西住みほ、逸見エリカ、赤星小梅の3人が大洗に移籍する切っ掛けとなった相手とも言えなくもないので、ある種の『因縁の対決』であると言えるだろう。

 隻腕の軍神率いる大洗が、地吹雪のカチューシャ率いるプラウダに対してどのように戦うのか、試合が始まる前から楽しみである。』

 

 

 

成程、こう来たかぁ?

なんて言うか、週刊戦車道のライターさんは、記事を書くのが巧いと言うか、読者の興味を誘導する事に長けてるって感じがするかな――こう言う風に書かれたら、嫌でも『大洗vsプラウダ』に興味を持っちゃうからね。

 

 

 

「うわぁ、注目されてるじゃん私達……だけど、なんで次の相手がみぽりん達の因縁の相手になるの?」

 

「みほさんとエリカさんと小梅さんは、去年は黒森峰の生徒だったのですから当然去年の大会の決勝戦でプラウダとは戦ったのでしょうけれど其れだけで、因縁の相手と言うのは……」

 

 

 

あはは……やっぱり其処は気になるよね?――もう、話しちゃってもいいよねエリカさん、小梅さん?

 

 

 

「そうね、良いんじゃない?」

 

「もう、隠す事でもありませんからね。」

 

「なら、全部話すとしようかな。」

 

去年の大会の決勝は黒森峰とプラウダで、どちらも一歩も退かない一進一退の攻防だったんだけど、試合中に黒森峰の戦車とプラウダの戦車が川に滑落しちゃったんだ――前日の大雨で増水した激流の川にね。

幾ら戦車道に使われる戦車が特殊なカーボンで安全を確保してるとは言っても、其れはあくまでも砲撃や外的な衝撃に対してだけで、キューポラやハッチの隙間からの浸水までは防げない……だから、滑落した戦車の乗員は溺死しちゃう可能性があったんだ。

 

私とエリカさんと小梅さんと理子さん――あ、理子さんは黒森峰の時の友達ね。兎も角、私達4人は命綱を付けた上で川に飛び込んで、濁流に呑み込まれた戦車の乗員を助けたんだよ。

黒森峰の生徒だけじゃなくて、プラウダの生徒もね。

 

 

 

「だ、濁流に飛び込むって、幾ら命綱を付けてるとは言え度胸がハンパないよみぽりん!エリリンとうめリンもだけど!!」

 

「まぁ、人命に関わる事態だったから、度胸が如何のじゃなかったのかも知れないがな……だが、凄いな西住さん達は。」

 

「私は会場で見ていましたが、あの救出劇には本当に心を打たれました。

 黒森峰の生徒だけでなく、プラウダの生徒まで助けたその様は、『同じ戦車道を邁進する者同士、試合相手である前に友である』と言う事をひしひしと感じたでありますよ!!」

 

「お三方とも、とても素晴らしい事をなさったのですね……心より尊敬します。」

 

「成程、確かに其れは凄い事だが……だが、其れでは因縁の相手とは言えない気がするのだが……」

 

 

 

流石はエルヴィンさん、鋭いね?

そう、此れだけだったら私とプラウダの間に因縁なんて無いよ――でも、私達の行動に異を唱える人が居て、その人が私とエリカさんと小梅さんを西住流から破門しんだ……もしもあの試合であんな事が無かったらって考えれば、プラウダが因縁の相手だって言うのも、あながち間違いじゃないんだよ。

 

 

 

「はぁ?

 何処の誰かは知らないけど、濁流に飛び込んで人命救助をしたみぽりん達の行動に異を唱えるって、何考えてんのその人!!

 しかも破門って、一体ドンだけの権力を持ってるの、その人!!」

 

「そう問われたら、その人物は現西住流家元であり、私のお祖母ちゃんだと答える事になるよ沙織さん。」

 

「「「「「「「「「「は!?」」」」」」」」」

 

「……皆さん、鳩が豆鉄砲喰らった様な顔してますね?」

 

「まぁ、事情を知らなければそうなるのも仕方ないんじゃない?

 普通に考えて、濁流に飛び込む危険性を叱るなら兎も角、人命救助を否定して、孫娘を破門するなんて信じられないでしょうからね。」

 

 

 

まぁ、そう言う訳で、私とエリカさんと小梅さんはお祖母ちゃんに破門を言い渡されて大洗に来たの。――梓ちゃんは私を追って、クロエちゃんは梓ちゃんに誘われてね。

濁流に飛び込んだ危険性を叱られるなら兎も角、仲間の命を助けたのを否定されるのは絶対に認められないし、同じチームの仲間なら兎も角、相手校の選手は見捨てるべきだなんて言うのは絶対に間違ってるから。

私は、お祖母ちゃんの言う西住流を真っ向から否定して、私の戦車道をやる為に大洗に来たって言う事なんだ。

 

「まぁ、この辺の事情はマスコミ関係の人も知らない事で、精々ネットのアングラな掲示板でまことしやかに噂されていた程度なんだけどね。

 だから、週刊戦車道的には私達3人を黒森峰から『追放』された事にして、その原因の一端と言えなくもないプラウダとの『因縁』って事を記事として書いたんだと思う。」

 

「そんな事情があったんだ……でも、其れならみぽりん絶対に負けられないじゃん!

 こうなったら何が何でも優勝して、みぽりん達は間違ってなかったんだって言う事を、みぽりんのお祖母ちゃんに見せつけてやらないと気が済まないよ!

 相手が去年の準優勝校だからって怯む事なくガンガン行って絶対に勝とうよ!!」

 

「武部さんの言う通りだ隊長!

 スポーツマンたるもの、敵味方双方に危機的状況が訪れた時には敵味方問わずに助けてこそ!敵は見捨てろなんて言うのは、スポーツマンシップに反する事だからな!」

 

「戦場であるのならば、敵は斬り捨てねばなるまいが、試合であるのならば死者を出してはならん……隊長達の行動は、何一つ間違ってない。

 エルヴィン・ロンメルの名を名乗る者として、そう断言するぞ!」

 

 

 

皆……ありがとう。

其れじゃあ気を取り直して準決勝の作戦会議なんだけど、プラウダは何故か学園艦が年中雪に覆われてる場所な上に、もしも捕まったらノンナさんに何をされるか分からないから、今回は優花里さんの偵察はなし。

とは言え、去年も戦った相手だから使ってくる戦車と編成は大体の見当が付くけどね。――だから問題は、此方の車輌数。

準決勝では使える戦車は15台に増えるから、プラウダの戦力は現時点で大洗の2倍以上……フラッグ戦なら引っくり返せない差じゃないけど、欲を言うならせめてもう1台は欲しい所だよ。

 

88mm搭載型のレストアはまだ終わってないから兎も角として、ルノーR35だけでも出したい所ではあるね。

 

 

 

「其れについては問題ないよ西住ちゃん!新しいメンバー連れて来たからさ♪」

 

「会長さん!

 新たな戦車道履修者を連れて来てくれたんですか!!」

 

「おうともさ!

 作戦とかその他諸々は西住ちゃん達に丸投げしてっけど、アタシはアタシに出来る事をキッチリやってる心算だよん?――じゃ、入って来て。」

 

「「「失礼します。」」」

 

 

 

渡りに船と言うかの如くに、会長さんが新たな戦車道履修者を連れて来てくれたみたい――何となく、生徒会長の権限を使って、有無を言わせずに連れてきた感がしなくもないんだけどね。

で、現れたのは同じような背格好のおかっぱ頭の3人組……何処かで見た事があるような……?

 

 

 

「アンタ達、風紀委員じゃない!!」

 

「あ~~!思い出した、そど子さん!!」

 

「げ、そど子か……」

 

「そど子って呼ばないで!私は園みどり子!!

 ――会長さんに頼まれて、私達風紀委員3人は此れより戦車道チームに所属する事になったから宜しく頼むわね。……冷泉さん、戦車道でもボケっとしてたら許さないわよ!」

 

「煩いぞそど子……」

 

「そど子じゃないわよ!!」

 

 

 

アハハ……まさか風紀委員を連れてくるとは予想外でしたよ会長さん。

でも、此れでルノーR35の人員も確保できたので、プラウダとの戦力差は『2倍以上』から『2倍近く』に下方修正されました――準決勝まで、あまり時間は有りませんが、風紀委員の皆さんもキッチリ鍛えますので♪

 

 

 

「まぁ、西住ちゃんなら短期間でも最低限のレベルまでは鍛えられるっしょ?

 ずぶの素人の集団を、ベスト4まで連れてきたその実力は計り知れないって思ってるからねアタシは――んで、風紀委員のチーム名は?」

 

「『カモチーム』で如何でしょう?

 ルノーR35のシルエットって、真横から見ると水面を泳ぐカモに見えなくもないですから……アヒルかなとも思ったんですけど、既にアヒルチームはあるので、こっちは『カモ』って言う事で。」

 

「カモチームか~~?ま、良いんじゃないの?

 涸沼のカモを使った鴨鍋は、大洗のアンコウ鍋と並ぶ茨城の冬の味覚だから親しみやすい感じもすっからね~~♪」

 

 

 

なら、風紀委員の皆さんが搭乗するルノーR35はカモチームで。

準決勝までの時間は余りないけど、私も出来る限りの方法で皆さんを鍛えるから、試合では思い切り暴れちゃって下さいね?

 

 

 

「任せておいて西住隊長!

 風紀委員の名に懸けて、試合でも校則違反者はバシバシ取り締まってやるわ!!」

 

「アハハ……其れはちょっと試合とは関係ないかな?」

 

でも、その意気があれば案外行けるかも知れないね?――意志の力は、時として予想もしない力を発揮する事があるって言うのは、私が実際に体験した事でもあるからね。

此れは、次のプラウダ戦も大物食いが出来るかも知れないよ。

 

 

 

「ふ……滾ってるみたいねみほ。――隊長、闘気の貯蔵は充分か?」

 

「モチのロンだよエリカさん!!」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「試合前からの軍神招来……プラウダの永久凍土をも溶かす程の熱量ですね此れは?流石は隻腕の軍神です。」

 

「褒め言葉と受け取ておくよ小梅さん。」

 

何よりも、去年の覇者を争ったプラウダとの再戦な上に、今年はカチューシャさんが隊長を務めてる訳だからね……其れで、闘気が滾らないって言うのは戦車乗りとして有り得ないからね。

 

 

 

「アッハッハ、頼もしいねぇ西住ちゃん!

 そんな西住ちゃんにお願いがあるんだけど、今夜逸見ちゃんと赤星ちゃんと澤ちゃんを連れてアタシの寮の部屋に来てくれっかね?

 ちょ~~っと、話したい事があるんだよ。」

 

「ほえ?私は構いませんけど、エリカさんと小梅さんと梓ちゃんは?」

 

「私と小梅は大丈夫よ――ってか、同じ部屋なんだから大丈夫に決まってるでしょうに。」

 

「アハハ……そうだったね。

 其れで、梓ちゃんの方は如何かな?」

 

「私も大丈夫です隊長。――そもそも、隊長が呼ばれているのに副隊長が参加しないなんて言う選択肢は最初っから存在していませんから。」

 

 

 

と言う事は全員参加OKって事だね。

なので、御呼ばれした全員で行けると思いますよ会長さん。

 

 

 

「そうかい、そいつは良かった。

 取り敢えず、御馳走用意して待ってるよ――アタシの知る限りの最高の一品を用意しとくから、其処は期待してくれて良いよ。」

 

「其れは、何とも楽しみですね♪」

 

会長さんの一品は楽しみだけど、準決勝を前にして話したい事が有るって言うのは、何かあると勘繰っちゃうかな?――私の考えすぎかも知れないけど、こう言う呼び出しがあった時って言うのはまず間違いなく重要な事柄が有るって相場が決まってるからね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

と言う訳で、学校が終わった後で一度寮に戻って、其れから会長さんの家――正確には寮部屋にやって来た訳なんだけど、まさか雪がチラホラと舞ってるは思わなかったよ。

って言うか、夏場に雪って、大洗の学園艦は一体何処を航行してるのやらだよ!!

 

 

 

「まぁ、次の相手はプラウダだから、寒冷地に慣れる訓練って言う事で。

 取り敢えず、今日は良く来てくれたね西住ちゃん、逸見ちゃん、赤星ちゃん、澤ちゃん――来てくれた事に感謝してるよ。」

 

「此方こそ、お呼びに預かり光栄です。

 其れで会長さん、話したい事って言うのは……」

 

「あ~~……まぁ、其れは食事でもしながら話そうか?

 大洗の学園艦は現在南半球を航行中だから、冬の真っただ中に居る訳なんだよ……だから、アンコウ鍋で温まりながら話をしようじゃない。」

 

「はぁ、まぁそう言う事なら。」

 

夏場に鍋なんてとは思ったけど、冬の南半球を航行してるなら全然ありだからね。

それにしてもいい匂いですね?このアンコウ鍋は会長さんのお手製なんですか?

 

 

 

「うん、アタシのお手製だよ。

 アンコウ鍋ってのは味噌仕立てが基本なんだけど、その味噌に一工夫が必要でね……味噌に湯通ししたあん肝を合わせて練り込む事で味に深みが増すんだよ。

 加えてアンコウは身だけじゃなくて、皮も何もかもが美味しいから正に無駄にするところがないんだ――そんな訳で、ご賞味あれ!」

 

「頂きます♪」

 

良い具合に煮立って来た所で、器に注いでもらって、其れで一口……何だけど、此れは予想外の美味しさだよ!!

アンコウのぷりっとした身に、あん肝を合わせたコクのある味噌スープが馴染み、アクセントに加えられた鷹の爪が全体の味をキリっと引き締めてる……此れは最高の味わいだと言っても過言じゃないよ!

 

 

 

「確かに、此れは美味しいわ。」

 

「凄く美味しいです……熊本のもつ鍋にも負けない美味しさです。」

 

「こんなに美味しい鍋は初めて食べました!……やりますね、会長さん。」

 

 

 

うん、梓ちゃんの言うように、こんなに美味しい鍋を食べたのは初めてです――でも、此れを食べさせるために私達を集めた訳じゃないんですよね会長さん?

 

 

 

「まぁね。

 アタシは君達にお礼をしたかったんだ――君達が居たからこそ、アタシ達は此処まで登って来る事が出来た訳だからね……本当に、君達には感謝してるんだよ。

 目標の優勝まではあと2勝……やって出来ない事は無いから、優勝を狙う以外にはないっしょ?」

 

「はい、勿論その通りです!」

 

「頼もしいね……次のプラウダもバッチリ任せたよ隊長!」

 

「お任せ下さい!」

 

っと言う訳で、会長さんの接待を受けつつ会長さんの部屋から出て来た訳だけど……今回の呼び出しは、何か意味があるんじゃないかって言う予想は外れたかな――マッタクって何もないって言う訳では無いだろうけどね。

 

何にしても次のプラウダ戦も勝って、決勝戦にコマを進めないとだから――限界を突破した力を発揮する必要があるのかも知れないね。

 

プラウダ戦、楽しみになって来たよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

『聖グロリアーナ、フラッグ車行動不能。

 黒森峰女学院の、勝利です。』

 

 

 

ふぅ……此れで準決勝も突破して、残るは決勝戦だけなのだが……思った以上に聖グロに苦戦させられたな?――よもや、此処まで均衡するとは思っていなかった。

ダージリン、お前は一体どんな戦術を考えていたんだ?

 

 

 

「其れは秘密ですわまほさん。

 其れに、私が如何なる策を弄したとしても貴女は其れを『力』で越えてしまうでしょう?――尤も、此度の試合では、貴女らしさを微塵も感じる事は出来なかったわ。

 圧倒的な戦力を持ちながら、フラッグ車のみならず、全ての戦車を行動不能に追い込むなんて、フラッグ戦では必要ない事では無くて?」

 

「お前に其処まで思わせる事が出来たのならば、僥倖だよダージリン。」

 

お前がそう思ったと言う事は、此の試合を見ていたすべての人間がそう思ったと言う事だからね――きっと、誰もが『不必要な殲滅試合』だと思って、黒森峰の戦い方に疑問を持つ筈さ。

尤も、1回戦からそうなるような戦いをして来た訳だがな。

 

 

 

「まほさん……貴女は一体何をしようとしているのかしら?

 態々観客まで敵に回す様な戦い方をして、貴女は一体何を得ようとしているの――否、何を失くさんとしているのかしら?」

 

「ふ……其れは秘密だダージリン。」

 

まぁ、其れも此れも大洗が決勝戦までコマを進める事が出来なければ、全てが水の泡だけれどな。

だが、恐らくその心配は杞憂と言う奴に過ぎん――きっとみほ達ならば、破竹の勢いのある大洗ならば、プラウダが相手であっても最終的には勝利をその手に掴むだろうからね。

 

 

一足先に、決勝戦の舞台で待っているぞ、大洗女子学園の諸君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラクター補足


園みどり子

・ルノーR35の発見により、新たな隊員が必要になった事で生徒会長の杏が連れて来た大洗女子学園の風紀委員長。通称『そど子』。
生真面目で厳しい性格をしており、遅刻常習犯の麻子には何かと突っかかる事が多いが、根っから嫌いと言う訳では無いようである。
他人から『そど子』と呼ばれるのは嫌がるモノの、自ら名乗る分には構わないらしい。謎である。
搭乗戦車は本来2人乗りの物を3人乗りに改造してあるため、車長兼装填士を務める事になった。



後藤モヨ子

・ルノーR35の発見により、新たな隊員が必要になった事で生徒会長の杏が連れて来た大洗女子学園の風紀委員。通称『ゴモヨ』。
やや長めのおかっぱ頭が特徴で、我慢強い性格をしている。搭乗戦車では、操縦士を務める。
容姿がよく似ており、声も同じだがそど子のクローンではない。……と、思う。多分。きっと。



金春希美

・ルノーR35の発見により、新たな隊員が必要になった事で生徒会長の杏が連れて来た大洗女子学園の風紀委員。通称『パゾ美』。
短めのおかっぱ頭と、二重瞼のタレ目が特徴。
搭乗戦車は本来2人乗りだった物を3人乗りに改造している為、兼任なしで砲手を務める。
容姿がよく似ており、声も同じだがそど子のクローンではない。……と、思う。多分。きっと


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Panzer125『プラウダ戦開幕!~全力全壊です!~』

地吹雪のカチューシャと、ブリザードのノンナ……相手にとって不足なしだねByみほ        不足は無いわByエリカ      すべてをぶつけて行きましょう!By小梅


Side:みほ

 

 

いよいよ準決勝の日が迫って来たけど、やるべき事は全てやったから後は試合で結果を出すだけだね――豪雪地帯の試合は、誰がどう見てもプラウダ有利だけど、負ける心算は毛頭ないもん。

 

 

 

「その意気や良しって感じね。

 隊長のやる気が充分なら、これまで以上のジャイアントキリングも可能になるって感じだわ――特に、大洗の連中はアンツィオ以上にノリと勢いがあるからね。」

 

「みほさんと言う存在が、其れを最大限に生かしていると言った感じですから。」

 

「私だけじゃなく、副隊長の梓ちゃんもだよ。

 其れから、エリカさんと小梅さんもね。」

 

ともあれ、去年の準優勝校を破って決勝に駒を進めるとなれば、其れは皆にとって凄く自信になると思うから思い切りぶつかって行く心算だよ。

勿論、プラウダ絶対有利のフィールドだから色々作戦は考えてるけどね。

 

 

 

「まぁ、当然よね。

 其れとは別に……みほ、小梅、この間の生徒会からの呼び出し、ちょっと気にならない?」

 

「……はい、気になると言えば気になりますね?」

 

「何か重要な話があるのかと思ったけど、そうじゃなかったからね?――準決勝まで駒を進めた事に対する労いって事だと思うんだけど……」

 

「私もそう思ったけど、よくよく考えてみると其れもおかしな話じゃない?

 優勝したなら兎も角、準決勝前にって言うのは色々とタイミング的にもオカシイ……本当は、とても重要な事を話そうと思ったんだけど、切り出す事が出来なかったんじゃないかって思うのよ。」

 

「成程……確かに。」

 

でも、だとしたら一体何を話す心算だったんだろう?

……若しかして、大会の全国制覇に関する事だったりするのかな?――だとしたら、隠し事がある中で戦うってのはあまり気分が良くないよ。

 

 

 

「でしょう?だから、一計を案じてみない?――生徒会の連中が、何を隠しているのか話して貰うためにもね。」

 

「そうだね、ちょっとやってみようか。」

 

場合によっては、可成りのピンチを招く事になるかも知れないけど、其れを踏まえて作戦を立てて行けば何とかなるだろうしね――此の準決勝は、ちょっと荒れるかもだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer125

『プラウダ戦開幕!~全力全壊です!~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてと、準決勝の会場に到着した訳だけど……うん、予想以上に雪が積もってる。

見事なまでの白銀の雪景色だね此れは……冬服用のPコートを持ってくるように言ったのは間違いじゃなかったみたい。此れがあるだけでも結構寒さを凌げるからね。

 

 

 

「あの西住隊長、夏場に雪って、此処は本当に日本なんでしょうか?」

 

「一応、地図上及び国際的な領海線では日本領になってる場所だよ――ただし、日本本土からは遥かに南に位置してる場所だけどね。」

 

「な、なんでそんな場所が日本の領土になってるんですか!?」

 

 

 

さぁ、詳しい事は分からないけど、昔お母さんに聞いた話だと、この島は元々何処の国の物でもない雪深い孤島だったんだけど、20年位前にこの島の領有権を如何するかって話になって、何処でどうなったのか『面倒だから領有権欲しい国による戦車道の試合で決める』って事になったらしくて、その結果日本が勝利して手に入れたんだって。

 

 

 

「ねぇみほ、若しかしなくてもその時の日本の代表って……」

 

「明言はしてなかったけど、多分お母さんと島田の小母様だと思う――後は、若しかしたら優花里さんのお母さんも居たかもしれないね。」

 

まぁ、兎も角そんな訳で6月に雪とか、明らかに北半球の人間にケンカ売ってる様な天気だけど、此処は間違いなく日本だから。そう思えなくても日本だから。日本の領土だから日本だからね?

ご理解して頂けたかな梓ちゃん?其れから他の皆も。

 

 

 

「う~~、此処が日本なのは良く分かったけど、流石にジャケットにコートだけでは寒いぜよ……どてらも持って来るべきだったか……」

 

「甘いぞおりょうさん!此の位の寒さは気合と根性で何とかなる!!」

 

「そんなの貴女だけよ磯部さん!この寒さ、校則違反レベルだわ……」

 

「そど子、意味が分からん。」

 

 

 

あはは……日本領だとは理解できても、確かにこの寒さは異常だからね?

スマホの天気アプリだと、此処は本日終日雪で、最高気温がマイナス10℃だからね……滅多に雪が降らない茨城の人にはキツイかもだよ。

まぁ、熊本だって雪は降っても此処まで寒くなる事は滅多にないけどさ。

取り敢えず使い捨てカイロを沢山用意して来たから其れを使うとして、優花里さん、会長さん、頼んでおいた物は?

 

 

 

「バッチリであります西住殿!

 野営セットに、温かいメニューのレーションを各種用意しているであります!仮に長期戦になった時でも、バッチリと暖を取る事が出来る準備は出来ていますよ!」

 

「こっちもさー、頼まれてたものは用意したよ?

 だけど西住ちゃん、焚き火用の薪は兎も角、此のハバネロソースとかは一体何に使う心算なんだい?」

 

「万が一の事態が起きた場合に、寒さによる昏睡に陥った人に其れ飲ませれば気付けになるかと思いまして。」

 

「否、気付けになるどころか辛さで気絶するんじゃないの?」

 

 

 

其れは大丈夫だよエリカさん、此のハバネロソースはあくまでも刺激的なボロネーゼソースを作る為の物だから、どこぞの激辛店の激辛メニューみたいに食べさせる心算が毛頭ない悪意のある辛さじゃないから。

 

其れと、そろそろ雑談もお終いの時間みたいだよ?――プラウダの隊長さんと副隊長さんがやって来たみたいだからね。

 

 

 

「ハァイ、お久しぶりねミホーシャ?エリーシャと、ウメーシャもお久しぶり。元気そうで安心したわ。」

 

「黒森峰から移籍しても、健在のようで安心しました。」

 

「はい、お久しぶりですカチューシャさん、ノンナさん。」

 

「そっちこそ元気そうで安心したわよカチューシャ――ノンナも、息災みたいね?」

 

「去年の大会以来ですね……また、こうして戦う事になるとは思っていませんでした。」

 

 

 

カチューシャさんとノンナが、態々大洗の陣営までやって来るとは思わなかったけど、こうして再会できたのは素直に嬉しいかな?――去年、黒森峰にお礼を言いに来て以降は会う事がなかったからね。

 

 

 

「マッタクもう、抽選会場で貴女を見た時には驚いたわよミホーシャ?

 ダージリンからミホーシャ達が戦車道のない学校に転校したらしいって事は聞いてたけど、まさかそこで戦車道を新たに始めるとは思ってなかったわ。

 しかも、殆ど素人同然の連中を率いて準決勝までやって来るとは、流石はミホーシャね?」

 

「ふふ、お褒めに預かり光栄です、カチューシャ隊長閣下。」

 

「ちょっとやめてよミホーシャ。隻腕の軍神に畏まれたらこっちが委縮しちゃうわ……そうね、私達は仲間なんだからもっとフランクに行きましょ。」

 

 

 

分かりましたカチューシャさん。

確かに、そっちの方が私達らしいですし、変に気を使わなくて済みますからね……まぁ、世の中には、気を使うのが馬鹿臭いって輩が何でか存在しちゃってるんですけどね。

 

 

 

「ホントにね……ってそんな事は如何でも良いのよ。

 ミホーシャ、此処まで勝ち上がって来た貴女の実力は本物だけど、カチューシャは副隊長の子も気に入ったわ――あの子、貴女の戦車道をなぞって居ながら、其処に独自のアレンジを加えて自分の物にしてるじゃない?

 あの子レベルの副官なら、ノンナと同レベルと認めてあげても良いわね。」

 

「だってさ、梓ちゃん。」

 

「この身に余る高評価ですね。」

 

 

 

ふふ、流石はカチューシャさん、梓ちゃんの力を見抜いて来たか。

だけどカチューシャさん、梓ちゃんは車長のレベルに限って言えばノンナさんを越えてます――車長と砲手を比べるのは間違ってるかもしれませんが、車長と砲手では、どちらが副隊長に向いているのかは言うに及ばずです。

 

何よりも梓ちゃんは、私が認めた弟子であり、『軍神を継ぐ者』って言われてますから警戒しておく事をお勧めします――私の才能による所が大きかった明光大の戦車道を体系化して明光大の基本戦術としたのは梓ちゃんだからね。

 

 

 

「矢張り只者じゃなかったわね?

 1回戦と2回戦でも活躍してたから、何者かと思ったけど、まさかミホーシャの弟子だとは思わなかったわ……ミホーシャの一番弟子の力が如何程か、見せて貰うわよミホーシャの弟子!」

 

「ご期待には応えて見せますよカチューシャさん――そして、西住隊長の弟子と言うだけでなく、私と言う戦車乗りの事を覚えて貰いますから!」

 

「フフ、良い副官を持ったわねミホーシャ?

 だけど、だからと言って私達プラウダに勝てるかと言うのは、また話が別よ――殆ど素人みたいな集団を纏め上げて準決勝まで来た手腕は見事と言えるけど、カチューシャはサンダースみたいに車輌数を合わせたり、アンツィオみたいに甘くはないわよ!」

 

「勿論、百も承知ですよカチューシャさん。」

 

『地吹雪のカチューシャ』――格下が相手であっても一切手加減をせずに戦い、時には勝利の可能性を完全に奪った上で降伏勧告を行う恐怖の隊長……お互いに手の内を曝したくないから黒森峰との練習試合こそ行ってないモノの、去年の隊長就任後からBC自由学園、ヴァイキング水産高校、知波単学園、アンツィオ高校の4校と練習試合を行い、全てアウェーでの試合であったにも拘らず全勝。

カチューシャさん率いるプラウダが、これまでで一番の強敵であるとは認識していますよ。

 

 

 

「へぇ?其処まで分かっていても、緊張も何もしてないだなんて、流石に隻腕の軍神は違うわね?」

 

「事前情報で驚いていたら勝負になりませんから。

 因みに、今言った事は可能な限り各校の隊長さんに聞いたモノですけど……アンチョビさんが、試合後の宴会でカチューシャさんの食べっぷりとノンナさんの世話焼きぶりが凄かったって……」

 

「だーーー!なに言ってんのよアンチョビの奴!!」

 

「ペパロニさんが、鉄板ナポリタンの味付けをケチャップ多めのお子様用にしてやったら喜んだとかなんとか……」

 

「アイツ等……今度会ったらしゅくせーしてやるわ!!」

 

 

 

アハハ……まぁ、其れだけカチューシャさんの残した印象が大きかったって言う事にしておきませんか?印象に残らない相手だったら、一々何を如何してたかなんて覚えてないですから。

つまり、其れだけ印象に残る人だったんですよカチューシャさんは。

 

 

 

「むぅ……なんか納得いかないけど、取り敢えずそう言う事にしておくわ。

 ――さてと、そろそろ時間ねミホーシャ。去年の借り、キッチリと返させて貰うから覚悟しとくのね!!」

 

「なら、敢えて言いましょう……『借りを倍にしてあげます』と。」

 

「言うじゃない?」

 

「試合前の舌戦もまた戦車道ですから♪」

 

「そうね……良い試合にしましょう、ミホーシャ!」

 

「はい、勿論ですカチューシャさん。」

 

ガッチリと握手をしてから、カチューシャさんとノンナさんは自分の陣営に戻って行ったか……2人とも、去年よりも確実に強くなってるのが良く分かった――一手間違ったら、速攻で負けちゃうだろうね此れは。

多分、単純に勝率を計算するなら大洗が勝つ確率は10%あれば良い方なんだろうけど、勝率が0でなければ充分だよ――勝率なんて、所詮確率に過ぎないんだから。

勝てば100%、負ければ0%なんだから――だったら、勝つ為に工夫を凝らせば良いだけだからね!!

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「うわお、みぽりんの半径1m以内の雪が解けた。」

 

「軍神招来の熱量で雪溶かすんじゃないわよ……ってか、其れがあれば少なくともアンタの車輌内が寒くなる事は無いんじゃないの?」

 

 

 

如何だろう?其れは分からないよ、エリカさん。

ともあれ、兎に角そろそろ試合開始だから皆準備をして――此の準決勝は、これまで以上に厳しい戦いになると思うから、全員気を抜かない様にね!!

 

 

 

「「「「「「「了解!!」」」」」」」

 

 

 

良し、其れじゃあ始めようか!!――運命の準決勝を!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

一面の白銀の世界で準決勝を戦う大洗とプラウダの隊長と副隊長――みほと梓、カチューシャとノンナは審判長を務める蝶野亜美の前で再び対峙している。

先程と違う所と言えば、みほが防寒用のPコートを肩掛けにしている事位だろう。

 

 

「其れが噂に聞いた軍神モードねミホーシャ……流石に迫力があるわ。」

 

「そう言って貰えると光栄ですよカチューシャさん。」

 

 

みほとカチューシャは軽く言葉を交わすと、改めて背筋を伸ばす。

 

 

「其れでは、これより大洗女子学園と、プラウダ高校の試合を始める。お互いに、礼!」

 

 

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

 

 

互いに試合前の挨拶をし、夫々の陣営へと戻っていく――ちなみに全く持って如何でも良い事かもしれないが、この極寒の試合会場で、何時も

通りに自衛隊の制服だけであった蝶野亜美は色々と凄いのかも知れない。

 

 

「あら~?寒いのなんて、酒飲んでればどうとでもなるわよ?

 そうね?一升瓶10本くらい空けて来れば、身体が良い具合に火照って、この程度の寒さなんて感じないモノよ。」

 

 

さいですか。ってか、地の文と会話せんで下さい――そもそもにして、一升瓶を10本空けて素面って、色々おかしい事この上ないですから。

……其れは兎も角として、先ずは両校のオーダーを見てみよう。

 

 

・大洗女子学園

 

パンターG型×1(隊長車)

Ⅲ号戦車J型×1(副隊長車兼フラッグ車)

ティーガーⅡ×1

Ⅳ号戦車D型改(F2仕様)

Ⅲ号突撃砲F型×1

クルセイダーMk.Ⅱ×1

38(t)B/C型×1

ルノーR35×1

 

 

 

・プラウダ高校

 

T-34/76×6

T-34/84×7

IS-2×1

KV-2×1

 

 

 

まず目につくのは、大洗のⅣ号が改造を施して長砲身のF2仕様になっている事だろう。

此れは偶然見つかった長砲身の75mmがⅣ号の物だったから可能になった改造だった――のだが、回転砲塔を改造するだけでなく、足回りとエンジンまで改造して、機動力も本来のF2と同じにしてしまう辺り、大洗女子学園の自動車整備部の技術力の高さが伺えると言うモノだろう。

それ以外では、新たにルノーR35が加わった以外に変わりはないが、小梅の乗るⅣ号が信頼できる火力を手にしたのは大きいと言っていい。

 

とは言え、プラウダは信頼性の高い中戦車であるT-34を合計で13輌も揃え、更には超火力を誇るIS-2とKV-2をも持って来てるので、数の上だけでなく、火力でも圧倒的に大洗を上回っている――真面にぶつかれば大洗に勝利はないだろう。

 

だが、普通に考えれば無名の大洗に此処までの布陣を引く必要はない――其れこそ、中戦車オンリーの布陣であってもう十分な筈だろう。

にも拘らず、超火力を誇る戦車を2輌投入して来たと言う事は、信頼できる中戦車だけでなく一撃必殺の攻撃力を持った重戦車が必要だからとカチューシャが考えたからだ。

 

其れだけ、みほを――否、みほが率いる大洗を警戒していたと言う事だろう。

 

カチューシャは、小柄で子供っぽい性格をしている事から誤解されがちだが、指揮官としての能力は相当に高い。

その能力が、みほ率いる大洗に対しては一切の油断をするな、中戦車だけでなく一撃必殺の破壊力を持つ重戦車も参加させろと言う結論に至って、このオーダーとなったのだ。

 

 

 

「カチューシャさん、手堅く来ましたね……でも、そう簡単にはやられませんよ。」

 

 

 

「ルノーR35は2回戦には居なかったわよね?

 と言う事は、準決勝の土壇場で加えて来たって言う事ね?……其れじゃあ、データの取りようもないわ――このタイミングで新車両を投入して来るとは、やってくれるじゃないミホーシャ!!」

 

 

 

電光掲示板に映し出されたオーダーを見ながら、みほ不敵な笑みを浮かべ、カチューシャは闘気を滾らせる。そして――

 

 

 

「其れでは、試合開始!!」

 

 

 

「Panzer Vor!!」

 

「「「「「「「Jawohl!!」」」」」」」

 

 

 

「Запуск танка!(戦車前進!)」

 

「「「「「「「「「「「「「「понимание!!(了解!!)」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

遂に戦いの火蓋が切って落とされた!

優勝候補であるプラウダに、今大会のダークホースである大洗が挑むと言う構図は非常に盛り上がるものであったらしく、観客席の戦車道関係の雑誌記者は、スクープを逃さんとして何時でもシャッターが切れるように準備をしている。

 

 

 

「ガッデーム!!

 プラウダがナンボのモンだ!!去年の準優勝校だか何だか知らねぇが、そんな事は如何でも良い!テメェ等は黙って大洗だけ見てりゃ良いんだオラァ!!」

 

 

 

そして、黒のカリスマ率いる大洗応援団『ons』の応援もあり、会場の盛り上がりは試合開始直後でもあるのに最高潮に達しようとしていた。

元黒森峰の遊撃隊を有する大洗とプラウダの、ある意味での因縁の対決が、此処に幕を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

さて、いよいよ始まったわねみほの準決勝が。

既にまほは準決勝を制して決勝まで駒を進めているから、是非ともみほにも決勝戦へと駒を進めて欲しいものだわ――決勝戦が西住流の娘達の一騎打ちともなれば話題性は可成りなモノがあるでしょうからね。

 

戦力差を言うならプラウダが圧倒的に有利だけど、みほには戦力差を覆してしまう『戦略』があるから、戦車の数と性能差で勝敗を占う事は出来ないでしょうね……みほの前では2倍程度の戦力差は有ってない様なモノだもの――フラッグ戦であるのならば尚の事ね。

 

 

 

「ふん、こんな試合、見る前から勝負は決まっておるわ。

 運よく、準決勝まで駒を進めてきたようじゃが、其の強運も此処までよ――プラウダの圧倒的な実力の前では、無名の大洗などハナクソに過ぎんじゃろうて……此の試合の勝者はプラウダよ。」

 

「そう思うのでしたら、お母様も随分と耄碌したようですね?」

 

「なんじゃと?」

 

 

 

みほ率いる大洗が運よく勝ち進んで来たとは笑止千万!

戦車道にまぐれなし!あるのは実力のみ!!――確かに運の要素が絡まった事は否定しませんが、その運を手繰り寄せるのもまた実力!!

この圧倒的に不利な状況であっても、私は断言します……此の試合、勝つのはみほだと。

 

 

 

『ウガ!!』

 

『キュイーン♪』

 

 

 

試合が始まったから客席に来たのだろうけど、よく来たわねアンドリューにロンメル……折角だから此処で一緒に準決勝を観戦するとしましょうか――みほが略恒例となっていた『黒森峰vsプラウダ』の構図を壊す事になるかも知れないですからね。

 

何はともあれ、頑張れみほ。

貴女だったら、きっとプラウダを撃破して決勝にコマを進めると信じてるわ――だから、貴女は最後まで貴女らしさを貫いた戦車道をしなさい。

 

そして、お母様もこの戦いでみほの底知れぬ可能性を知るべきです。――あの子は、西住流の型に収まりきらない無限の可能性がある……それを西住流の枠組みで抑えよう等、無理な話でしょう?

 

 

 

「ふん、そんなモノは詭弁に過ぎん。

 この試合で其れが明らかになろう――みほの戦車道は、所詮自己満足の欺瞞に満ち、西住流とは到底相容れないモノであったと言う事が。」

 

「所詮自己満足の欺瞞は、果たして誰の事なのやら。」

 

その目の曇りは早々晴れるモノでは無いのでしょうが……此処まで来ると受勲レベルと言っても過言ではありませんね――この人は、何処で戦車道の道を誤ってしまったのか……其れは、あまり考えない方が良いかも知れないわね。

 

ともあれ、準決勝で負けてしまって元も子もないから全力で行きなさいみほ――貴女が、貴女の仲間達が力を合わせれば、プラウダが相手であっても、必ず勝てると信じているわ……隻腕の軍神、その名は伊達では無いのだから。

 

そして、お母様に、真の戦車道が如何言うモノを教えてあげて頂戴――西住の枠に収まりきらない貴女こそが今の高校戦車道界隈ではナンバー1だと私は思っているわ。

まほをも越えた其の力、じっくりと拝ませて貰うわ。

 

 

 

「因みに、録画用のDVDは可成りの数を用意しましたので、撮り逃しは有りませんよ奥様。」

 

「流石は菊代、抜かりがないわね。」

 

「お褒めに預かり、恐悦至極です奥様。」

 

 

 

本当に貴女は優秀ね菊代――さて、見届けさせて貰うわみほ、貴女が率いる大洗が、去年の準優勝校を相手にして勝ったとなれば世間の注目を浴びるでしょうから、貴女の実力を世に知らしめる事も出来るからね。――何にせよ此の準決勝は、只の試合で終わるとは思えないわね

 

さて、どんな試合になるのか、其れを見届けさせて貰います――其れが、私の西住流師範としての責務でしょうから……ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer126『演出された窮地と暴露された真実です』

砲弾の弾頭を氷に変えたらどうなるかな?Byみほ        威力は変わらず、相手への安全性が高まるんじゃない?Byエリカ      着弾したら氷結とか面白そうですねBy小梅


Side:まほ

 

 

遂に大洗の、みほの準決勝が始まったな。

相手は去年の準優勝校であるプラウダ――普通に考えれば、今年から戦車道を復活させた無名の大洗に勝ち目はないと考える所だが、みほとエリカと小梅、そして澤が大洗に居る以上はその限りではないな。

 

確かに大洗は、今年から戦車道を復活させ、隊員の殆どが素人であるのは間違いないだろうが、だからこそみほの能力を最大限に発揮する事が出来る――みほには決まった型がない戦車道こそが最も向いているからな。

 

黒森峰の様な決められたドクトリンが無い大洗ならば、みほの好きなようにする事が出来る――つまり、大洗の戦車隊はみほが作り上げたモノであり、そのレベルは相当な物と見て間違いないだろう。

 

戦車の性能差があったとは言え、2回戦では、あの安斎が率いるアンツィオを退けた訳だからな。

 

みほが率いる大洗ならば、プラウダが相手であっても勝ってしまうかも知れないな――自由な戦車道が出来る環境になった事でエリカと小梅も黒森峰に居た頃よりも生き生きとしているからな。

 

 

 

「大洗8に対して、プラウダ15……戦力差はハッキリしておるな。

 大洗の戦車で、プラウダの戦車に対抗できるのは、パンターとティーガーⅡ、長砲身化したⅣ号とⅢ突……部隊の半分しか存在してないのでは、プラウダの精鋭に勝つ事など奇跡みたいなもんじゃ。」

 

「其れは、やって見なくては分かりませんよお祖母様。」

 

みほは、不利な状況でこそ圧倒的な力を発揮する戦車乗りです。

そして、此の準決勝はプラウダが絶対有利なフィールドで行われるのです――この圧倒的に不利な状況こそがみほの真価が発揮される場面だと言えるでしょう。

 

只、これだけは確実に言えますよお祖母様――西住みほと、その仲間達をあまり侮るべきではありませんよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer126

『演出された窮地と暴露された真実です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

さてと、見渡す限りの銀世界って言うのは美しいけど寒いねヤッパリ。

準決勝の相手はプラウダだから、地の利は相手に有るのは間違いないね――となると、如何するべきかって話になって来るんだけど、さて此処はどうするのが良いかな?

 

「私としては慎重に攻めるのがベターだと思うんだけど、皆は如何思う?」

 

「否、此処は一気に相手を攻め立てるのが上策だろう隊長?

 恐らくだが、プラウダの連中だって大洗が奇襲を仕掛けてくるとは思ってはいまい――向こうの隊長は此方を侮ってなかったので何とも言えないが、奇襲は有効だと思うぞ?」

 

 

 

奇襲……成程、戦術としては悪くないかもね。

だけど、この雪の中での奇襲はリスクも伴う――雪のせいで視界が悪いし、猛吹雪でホワイトアウトが起きるレベルだった場合は、戦車を確認する事すら出来ないからね。

 

でも、雪が小降りの今なら真正面からぶつかるって言うのはアリかも知れないね?

 

 

 

「ちょ、貴女本気で言ってるのみほ!?」

 

「至って本気だよエリカさん。」

 

で、エリカさんが待ったを掛けてくるけど、実はこれはちょっとしたお芝居――すんなり決まるよりも、少し議論が合ってから決めた方が説得力がある事は珍しくないからね。

で、そう言うのを仕掛ける役目は小梅さんよりもエリカさんの方が向いてるからって事でなんだけど……でもエリカさん、『貴女に食って掛かるから』って言うのはちょっと違うんじゃないかな。

 

 

 

「貴女ねぇ、こう言うフィールドは行き成り天気が変わるなんて事よくある事でしょ?

 今は小降りでも、電撃戦仕掛けようとして発進した瞬間に吹雪にでもなったらどうすんのよ!立ち往生した所をプラウダに包囲されてゲームセットよ?」

 

「確かにその可能性が無くは無いけど、今スマホで天気図を確認したら、雪雲はこれ以上の発達はしないみたいだし、風も弱い状態が続いてるから吹雪になる可能性は低いんだよ。

 だったら、奇襲からの電撃戦で仕留めるのは悪くないと思うんだ――其れに、皆やる気に満ち満ちてるみたいだから、其れを発揮して貰えば何とかなると思わない?」

 

「……確かに、其れは言えてるかもしれないけど……

 アンツィオじゃないけど、ノリと勢いに任せるってのは案外馬鹿に出来ないモノがあるわ――もしもアンツィオに強力な戦車が有ったら黒森峰と並ぶ強豪校になってた可能性は否定できないしね。」

 

 

 

隊長はあの安斎さんだからね。

中学時代にお姉ちゃんを破った安斎さんが強力な戦力を手に入れたら、多分最強なのは間違いないと思うよ。

 

 

 

「中学時代に戦力があった安斎隊長を倒してる貴女が言っても説得力が無いわよみほ。

 でも、猛吹雪になる可能性が極めて低いなら、奇襲からの電撃戦って言うのも悪い手じゃないわね――寧ろプラウダを速攻で破ったとなれば大洗への注目はもっと集まるって事になる訳か。」

 

「そう言う事だよエリカさん。」

 

「OK、なら仕掛けましょう――プラウダの連中に、大洗の底力がどれ程の物か見せてやろうじゃない?」

 

 

 

と言う訳で、事前の打ち合わせ通り、最終的には私の意見が通る事にね。

でもエリカさん、犬歯を覗かせてニヒルに笑うのはちょっと反則だと思うよ?……エリカさんてば極上の美人さんだから、そんな顔をしたら不特定多数の人を魅了しちゃうからね。

 

 

 

「其れは、貴女も魅了しちゃったのかしらみほ?」

 

「アハハ、私はとっくに魅了されちゃってるよ?戦車乗りとしてのエリカさんにだけどね。」

 

「あら、其れは光栄だわ。」

 

 

 

まぁ、もしも今のが客席のオーロラビジョンに映ってたら、観客の何人かは魅了されて、ファンレターやラブレターが急増するかもしれないけど。

それはさておき、此処はノリと勢いに任せて奇襲からの電撃戦を仕掛けようと思う――皆も其れで良いかな?

 

 

 

「「「「「「「いいとも~~~!!」」」」」」」

 

 

 

あはは、バッチリな返しだね。梓ちゃんも、副隊長としてノリノリだし。

なら、その意気のまま一気に行くとしようか?――改めまして、Panzer Vor!!

 

 

 

「「「「「「「Jawohl!!」」」」」」」

 

 

 

でも、此れは偽りの作戦に他ならないから、確実にプラウダに看破されて手痛い反撃を喰らう事になるだろうね――まぁ、其処までが織り込み済みだからさして問題にはならないんだけどさ。

 

でも、此れ等の仕込は全て、生徒会が私達に隠していることを暴露させるための事だから、その為には徹底的に窮地を演出しないとだよ。

絶対的な窮地に陥ったその時に、人は隠し切れない本音を口にするものだからね――だから、教えて貰いますよ会長さん、貴女達が私達に隠して居る事をね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

準決勝第2試合となる大洗vsプラウダの試合が遂に始まった。

雪が降りしきる極寒の中でも観客席は超満員札止め状態!秋山夫妻と、五十鈴家の使用人である新三郎――だけでなく、五十鈴流華道の家元の五十鈴百合も観戦に来ている事から、この一戦の注目の高さが伺えると言うモノだろう。

何よりも、西住流の家元である西住かほ、西住流師範の西住しほ、黒森峰女学園隊長の西住まほが観戦に来ていると言う事が、戦車道関係のマスコミ陣の注目を引いていた。

 

 

その準決勝で、先に動いたのは大洗だった。

特に部隊を分散させるでもなく、プラウダの陣営に向かって行く――戦車道を僅かでも齧った者ならば、其れが電撃戦の布石である事を理解しただろう。

 

 

 

其れは兎も角として、行き成りの雪上戦では当然不具合も発生する。

大洗の新チームであるカモチームが雪の中で立ち往生して動けなくなってしまったのだ――履帯が雪に止められた訳では無いので、単純にゴモヨが操縦に慣れていないだけなのだろう。

 

だが、そのピンチを救ったのは意外にも麻子だった。

パンターの車長であり隊長でもあるみほに『直ぐ戻る』とだけ伝えると、そのままカモチームのルノーR35に飛び乗り、半ば強引に操縦席を奪い、実地訓練で戦車の性能と操作を叩き込んだのである。

 

これによりカモチームの動きはスムーズになり、此れならば戦力として申し分ないレベルだ。(僅かなレクチャーで覚えたゴモヨも凄いが。)

 

カモチームがスムーズに動けるようになった後は、雪の進軍何とやらの如く、グングン雪原を進んで、プラウダ陣営の方に近付いて行く。当然周囲を警戒しながらだ。

 

 

「西住隊長、前方に戦車発見!プラウダの戦車と思われます!」

 

「アレは……T-34/76!

 プラウダの主戦力の戦車――思った以上に進軍して来てたみたいだね?」

 

 

そんな中、アヒルチームの典子が前方にプラウダの戦車を発見し、みほも其れを確認。――主戦力の中戦車が、思った以上に進軍して来た事に驚く振りをしながら指示を出して行く。

 

 

「此処まで進軍して来てた事は予想外だったけど、逆に言うならフラッグ車も上がって来てる可能性が高い。

 此のまま先制攻撃を行って、一気に流れを掴むよ!(……アレは囮、此方をおびき寄せる為の罠だよね。)」

 

「了解したわみほ!(まぁ、如何考えてもキルゾーンへの誘導役よねアレは。)」

 

「何時でも行けます!(カチューシャさんも引っ掛かるとは思ってないでしょうけど、実際に引っ掛かったらどんな反応をするのでしょうか?)」

 

「西住隊長、行きましょう!(西住隊長から話は聞いたけど、まさか本当にこんな事になるなんて……本当に凄い事考えるなぁ西住隊長は。)」

 

 

車長を務めている経験者4人は、夫々の思いを抱きながらも攻勢に出る旨を口にし、他のメンバーにも其れを伝染させていく――経験者が言うのだから大丈夫だと言う、少々乱暴ではあるが安心感を与える為に。

 

 

「其れじゃあ、攻撃開始!!絶対に逃がさないように!!」

 

 

そしてみほの号令によって攻撃開始!

8輌の戦車の主砲が一斉に火を噴き、砲弾の雨がプラウダの戦車を襲う!――が、T-34/76は見事な雪上ターンを決めると、反撃する訳でもなくその場から離脱してしまう。

 

 

「逃がすか!!」

 

「追うぜよ!!」

 

 

勿論それを今の大洗がみすみす逃す筈がない。

アヒルチームとカバチームが我先にと飛び出したのを皮切りに、カメチームとカモチームも其れに続く。(カモチームではそど子が『敵前逃亡は校則違反に値するわ!』とか訳の分からない事を言っていたが。)

 

 

「(……取り敢えず、第一段階は成功かしらね?)」

 

「(そうだね、問題は此処からだけど。――取り敢えず、打ち合わせ通りにお願いするね、梓ちゃん、小梅さん。)」

 

「(お任せ下さい西住隊長。)」

 

「(到着したら、スマホに連絡を入れますから。)」

 

 

残された経験者達は、チームメンバーに悟られないようにハンドサインのみでやり取りすると、みほとエリカは追撃を行った仲間達を追い、梓と小梅は其れとは別の方向に進んで行った。

 

 

「みぽりん、オオワシとウサギが離れて行っちゃったけど良いの?」

 

「良いんだよ沙織さん、此れもまた作戦の内だから。」

 

「どんな作戦でありますか、西住殿!!」

 

「其れは、実際に見てのお楽しみかな。」

 

 

無論それを不思議に思う沙織達だが、其処は流石のみほと言うか何と言うか、隊長とであると言う事と経験者であると言う事を存分に使って、巧い具合にはぐらかし、先に進んで行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

先行したカバ、アヒル、カメ、カモの4チームは、逃げるT-34/76を中々仕留められずにいた。

誤解無き様に言っておくが、決して彼女達の腕が悪い訳では無い――言うなれば戦車の性能差、もっと言うならフィールドの条件があまりにもプラウダに有利である事が仕留められない原因だった。

 

そもそもプラウダの戦車は大戦期のソ連の物を使用しており、当然寒冷地での、特に雪上では無類の強さを発揮する戦車ばかりなのだ。

履帯もまた、雪上走行に対応したモノを使っているので、雪上の機動力に関しても大洗の戦車とは比べ物に成らない程に高いのである。(一応大洗もドイツ製の戦車に限っては雪上用の履帯に履き替えてはいるが。)

 

 

「ちょこまかと……佐々木、思い切りスパイクを叩き込んでやれ!!」

 

「了解ですキャプテン!!」

 

「いい加減往生するぜよ!!」

 

「いや~、中々当たんねーなー?かーしまじゃなくても、此れはきついかもな~。」

 

「か、会長~~!?」

 

 

この追いかけっこはまだ続くかと思われた矢先だった。

 

 

――ドゴォォォォン!!

 

 

「「「「!!!!」」」」

 

 

突如、大洗の部隊の前に砲弾が着弾!

砲弾は手前に落ち、其れに伴い急停車した事で撃破はされなかったが、此れには追撃を行っていた全員の背中に冷や汗が流れた。何故か?

其れは、その砲撃は追っていた戦車が放ったモノではなく、全く別の戦車が放ったモノだったからだ。

 

そして見渡してみれば、何時の間にか周囲にはKV-2とIS-2を除くプラウダの全車輌が自分達を取り囲んでいた――この状況に、漸く自分達が致命的なミスをしてしまったと気が付いたのだ。

 

 

「しまった……誘われていたのか!!」

 

「サーブ権を奪われたどころか行き成りの逆マッチポイント!!」

 

 

だが、気が付いたとしても時既に遅し。

如何考えてもこの状況を脱出するのは不可能――唯一の救いは、今この場にフラッグ車がいないと言う事か。

 

 

「如何やら、ミホーシャ達のチームは中々出来るみたいだけど、素人オンリーのチームは所詮は素人だったみたいね?

 まさか、あんな見え見えの罠にかかってくれるとは思わなかったわ――まぁ、流石にミホーシャの弟子が乗るフラッグ車は来なかったみたいだけどね。」

 

「何ぃ!

 此れは西住の指示だぞ!一気に攻めると、逃がすなと!!」

 

「ミホーシャが?有り得ないわね。

 そもそもその『一気に攻める』って言うのは本当にミホーシャが提案した事なのかしら?」

 

 

T-34/76のキューポラを開けて現れたカチューシャは、フラッグ車が居ない事に内心舌打ちをしつつも、この状況に陥ったのは所詮は素人だと言って揺さぶりをかけ、桃の反論に関しても其れを潰すかのように言い放つ。

 

だが、言われた大洗の面々は全員が『そう言えば』と言う顔になる。

みほは『如何行こうか?』とは聞いたが、最初から『一気に攻める』とは言っていなかった――あくまでも自分達が提案した案を採用しただけに過ぎないのだ……と言う事は、この状況は己が作り出してしまった状況であるのだ。

最終的に決断したのはみほとは言え、提案したのは自分達……もしもあの時提案しなければ、誰もがそう思ってしまうのは仕方ないだろう。

 

 

「何よりも、ミホーシャ達が此処に居ないのが良い証拠よ。

 きっとミホーシャ達は途中で嫌な予感がして追撃を思い留まったんだわ――逃がすなって言うのを言葉通り取った貴女達の負けなのよ。」

 

「「「「………!!」」」」

 

 

グゥの音も出ないとはこの事だろう。

基本的にみほの指示は大雑把なモノであるが、其れは『大筋はこうだけど、後は好きなようにやってくれていい』との表れであり、実際にサンダース戦も、アンツィオ戦も夫々が自分で考えて行動して来た。

其れなのに、今回はみほの言うがままに行動し、そして窮地に陥っている――今更ながらに準決勝まで駒を進めた事で浮かれていた事を自覚させられてしまったのだ。

 

4対13では分が悪い所の騒ぎではない。全チームが撃破される事を覚悟したが――

 

 

「そうはさせないよ!」

 

「やっぱり、キルゾーンへの誘導が目的だったのね……罠だと思って少し考えたのは正解だったわ!」

 

 

其処にみほのアイスブルーのパンターと、エリカの漆黒のティーガーⅡが駆けつけプラウダの戦車を攻撃!

今まさに袋の鼠を狩らんとしていたプラウダにとって、この攻撃は完全な奇襲となり、ホンの一瞬ではあるが隙が出来る――そして、その僅かな隙は、みほとエリカにとっては充分な時間だ。

 

 

「一度体勢を立て直すから付いて来て!丁度澤ちゃんと小梅さんから連絡があったから!」

 

「殿は私が勤めるわ!全員みほに続きなさい!!」

 

 

号令をかけ、其のまま一気に雪原を驀進してプラウダの作ったキルゾーンを突破する!

無論プラウダも追ってくるが、其処は最強の攻撃力と防御力を誇るティーガーⅡが殿を務める事で追撃を弾き飛ばし、逆に超長砲身の88mm砲を持ってしてプラウダの一団に一撃を喰らわす。

撃破出来なくとも、追撃の手を一時止めるには充分だ。

 

程なく大洗の部隊は、廃墟に到着。

その入り口では小梅と梓が待機しており、ペンライトで部隊を廃墟の中へと誘導して、モノの数分で全車輌が廃墟の中にログイン完了。

 

 

だが、その数分後にはプラウダの部隊がその廃墟を取り囲む形となり、戦局は一気に大洗絶体絶命の盤面となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:カチューシャ

 

 

完全にやったと思ったのに、あそこから仲間を助けてキルゾーンから脱出するとは、流石ねミホーシャとエリーシャは。

だけど、私の罠に気付いたのなら、如何して追撃して来た連中を止めなかったのかしらミホーシャは?……勿論、アイツ等がミホーシャの静止を聞かずに特攻してきた可能性が無くは無いけど、ちょっと解せないわ。

 

そして今の状況……廃墟に逃げ込んだミホーシャ達をカチューシャ達が取り囲んでいるけど、如何やらウメーシャとミホーシャの弟子は、先に此処に来ていたらしいけど、如何して?

 

まるで『この状況になると予想してた』みたいじゃないのよ!!

 

 

 

「そうであるのかも知れませんよカチューシャ。」

 

「でも、だとしたらどうしてそんな事をする必要があるのよノンナ?」

 

「此の試合、言っては何ですが、観客が望んでいるのは大洗のジャイアントキリングであると言って間違いないでしょう。

 黒森峰が決勝の椅子を勝ち取った現状では、最早全国大会のお決まりとなったプラウダvs黒森峰の組み合わせではない決勝戦を見たいと言うのもあるかも知れません。

 ですが、みほさんはただ勝つだけでなく、中学の頃から観客の印象に残る試合をしてきましたので、此の試合も印象に残る試合にしようとしているのかも知れませんね。」

 

「どれってどゆ事?」

 

「分かり易く言うのならば『軍神の戦車道はエンターテイメントでなくてはならない!ピンチを演出し、鮮やかに逆転勝利をする!』と言った所でしょうか?」

 

 

 

何処の絶対王者の考えよ其れは?

でも、若しもミホーシャがこの窮地すら作戦として考えてたのだとしたら、正直恐ろしいとしか言いようがないわ……其れはつまり、私達はミホーシャの思惑通りに動いたって事なんだから。

 

でも、仮にそうだとしてもこの状況を覆すのは難しいわ!

取り敢えずは降伏勧告をしてみようかしら?――ミホーシャが其れを受け入れるとは思えないけど、受け入れないなら受け入れないで、この状況を如何やって打破するのか見てみたいしね。

 

猶予時間は3時間もあれば充分かしら?――さて、この窮地をどう切り抜けるか、見せて貰うわよミホーシャ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

一応これで、作戦の第二段階は成功って所かな?

全車廃墟に乗り込んで、プラウダの追撃を振り切ったからね――尤も、建物の外は多分包囲されてるからピンチであるのは変わらないけどね。

 

加えてプラウダからの3時間の猶予付きの降伏勧告まで来て、一気にチームの士気は最低レベルにまで低下したかな。

 

 

 

「西住隊長……隊長の機転のおかげで、フラッグ車は無事ですけど、この状況ではもう勝つのは難しくないでしょうか?

 プラウダの戦力は此方の倍近く……しかも周囲を包囲されていてはとても勝ち目はありません――包囲網の中にはプラウダのフラッグ車はないみたいですから、逆転の一手も難しいかと……」

 

「うん、確かに此れは可成り厳しいね。」

 

更にそこに、梓ちゃんと共に追撃を掛ける――隊長と副隊長が諦めモードになったら、略ゲームオーバーだからね。

 

 

 

「流石の隻腕の軍神でも、この状況をひっくり返すのは簡単じゃないわ――降伏するのも一つの手だと思うわよみほ?

 少なくとも素人集団を率いてのベスト4って言うのは、誰の目から見ても快挙以外の何モノでもないわ……其れに相手は、去年の準優勝校であるプラウダなんだから、降伏しても恥じゃないわ。」

 

「そうですよね……今年負けちゃったらなら、また来年頑張れば良いだけですし。」

 

 

 

エリカさんと小梅さんも良い感じに言ってくれるね。

確かにこの戦力でベスト4って言うのは世間的に見れば大健闘した方だと思うし、今年は駄目だったけどまた来年って言う希望が持てるから、此処で降伏しても良いかなって気はしてくるよ。

 

 

 

「ダメだ、降伏など有り得ん!!」

 

 

 

でも、此処で河嶋先輩が降伏は駄目だって言って来たね?

その気持ちは分からなくもありませんが、何故ダメなんですか?――高校最後の思い出に、戦車道の全国大会で優勝して名を上げたいって言う気持ちは分からなくもないですけど、ハッキリ言って状況は絶体絶命です。

此処は、素直に降伏して来年に繋げるべきだと思いますが?

 

 

 

「ダメだ、其れじゃあダメなんだ!!

 此処で降伏したら来年などない――この大会で優勝できなかったら、大洗女子学園は、廃校になってしまうんだぞ!!!」

 

「「「「!!!」」」」

 

「廃校ですって!?」

 

「此れは、流石に予想外でしたよ!?」

 

「廃校だなんて、此れはまさかの展開ですね……」

 

 

 

うん、まさかこの展開は予想してなかった。

生徒会が何か隠してる事は予想してたけど、その隠し事がまさかこれ程の物だったとはね――学園艦が廃校になるって言うのは、只学校が無くなるって事じゃなくて、学園艦で暮らしていた全ての人の生活の場がなくなるって言う事だから、事は可成り重大だよ。

 

だけど逆に燃えて来たよ――私が優勝しなきゃならない理由が増えたからね。

 

でも、先ずは聞かせて貰えますか会長さん、如何して大洗が廃校の対象になってしまったのか、その辺を出来るだけ詳しく。

 

 

 

「OK、勿論だよ。

 本当は最後の最後まで隠しておきたかったんだけど、こうなった以上はこれ以上隠す事は出来ねーからね……包み隠さず話させて貰うよ。」

 

「お願いします。」

 

果たしてどんな経緯で大洗は廃校の対象になったのか――そして、其れを回避する術が如何して戦車道の全国大会優勝なのか、包み隠さず聞かせて貰いますよ会長さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 




キャラクター補足


・カチューシャ

プラウダ高校の戦車隊の隊長。
小学生かと思ってしまう位に小柄だが、此れでも立派な高校3年生――身長に関してはコンプレックス在り。
態度は不遜にして尊大な部分があるモノの、根は素直で仲間思い、相手の実力を認める度量もあったりと、隊長としての器量は充分備えている。
自分が認めた相手の事を『○○ーシャ』と言うあだ名で呼ぶが、現在その呼び方をされているのはみほとエリカと小梅のみ。


・ノンナ

プラウダ高校の戦車隊の副隊長。
隊長であるカチューシャとは反対に大柄な体格で、性格的にも大らかで、基本的に誰が相手であっても敬語で話す。
この性格的に正反対な2人だからこそ巧く行っている部分があり、ノンナの突っ込みにカチューシャが噛みつくのもお互いに信頼しているからこそ。
また車長としてだけでなく、砲手としての腕も可成り高く、サンダースのナオミと共にトップ砲手の1人として数えられている。


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Panzer127『軍神の戦車道はエンターテイメントです』

炎が、お前を呼んでるぜ!Byみほ        なら燃え尽きろ……潔くなByエリカ      KOF屈指の試合前デモですね♪By小梅


――数カ月前

 

 

Side:杏

 

 

大洗女子学園が廃校になるって、其れはマジなのかなお役人さん?

 

 

 

「えぇ本気です。

 学園艦はそもそもにして莫大な経費が掛かるので、特に実績のない学園艦を存続させる理由は有りません――まぁ、廃艦にした事で生じると思われる事には全力で対処させていただきますが。」

 

「実績が無いからと来たか。アンコウの養殖とか実現してんだけど?」

 

「学園艦の中だけで、一般には流通していませんし、特許も取っていないでしょう?」

 

「其れを言われちゃ参っちゃうんだけどねぇ……

 だけどさ、その言い方だと、何か皆が認める実績を――其れこそスポーツの高校大会で全国制覇でもすれば廃校を免れる事が出来るって事だよね?

 流石に全国制覇をした学園を廃校にはしないよね?」

 

「其れは……まぁ、文科省の最高責任者との話し合いにになりますが、全国制覇の実績があれば或いは……」

 

 

 

言ったね?

だったらアタシ等は戦車道での頂点を目指す事にするよ!――黒森峰一強状態の今の高校戦車道界隈で、無名の大洗がジャイアントキリング連発して優勝でもしたら、爽快感がハンパないからなね!!

 

 

 

「そう来ましたか……ヤレヤレ、貴女方の様な人は初めてだ。

 此れまでは廃校を言い渡したら泣き崩れるか、呪詛に近い恨み言を言ってくるかの何方かでしたが、真っ向から廃校撤回の条件を示して来たのは君達が初めてです……良いでしょう、その条件を飲みましょう。

 戦車道の世界大会誘致を目指している国としても、戦車道が盛り上がる事は大事ですからね。

 無名校がジャイアントキリングを連発して優勝したと言う事になれば、戦車道は一気に人気が高まり、世界大会の誘致も容易になるでしょう。

 利害の一致ですが、その提案を受け入れましょう――貴女達が優勝できたのならば、廃校は全面的に撤回します。」

 

「口約束じゃ不安だから、今のはバッチリボイスレコーダーに録音させて貰ったからね。」

 

普通に考えたら、素人集団の大洗が勝つのは難しいかもだけど、来年度からの編入生には、絶対王者である黒森峰で活躍した三人がいる。

未だツキは落ちてない……徹底的に足掻かせて貰うかんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer127

『軍神の戦車道はエンターテイメントです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

そんな事が……戦車道の大会で優勝すれば廃校を免れる事が出来ると言う事ですか――其れなら、確かに優勝以外は有り得ませんけど、何で最初に言ってくれなかったんですか?

 

 

 

「西住ちゃん達に、余計なプレッシャーやら何やらを掛けたくなかったんだ。

 この事を最初に告げてたら、若しも負けて廃校になっちゃった場合、西住ちゃん達が『自分のせいだ』って、己を責めちゃうんじゃないかって思ってさ……西住ちゃん達に、重責を背負わせたくなかったんだ。

 アタシが不真面目だったのも同じだよ――アタシが不真面目にやってれば、負けた時の批判はアタシに集中すっからね。」

 

「会長さん、其処まで考えてたんですか……」

 

でも、そう言う事情があるなら最初に言って欲しかったです。

確かに廃校が懸かった大会ってなれば凄いプレッシャーなのは否定しませんけど、其れは絶対に負けられない大会って事ですから、優勝する為の戦術を幾らでも考えますよ?

 

 

 

「西住ちゃん……そうかもね。

 結局秘密にしてたせいで、西住ちゃん達の本領を発揮出来なくして、そしてこの大ピンチだ……マッタク持って、自分の愚かさが嫌になるよ。」

 

「はい、ストップ!

 勝手に自己嫌悪に陥るのは自由だけど、まだ負けたと決まった訳じゃないわ――確かに状況は最悪だけど、降伏まで3時間の猶予があるんだから、まだまだやりようはある筈よ!!」

 

「その通りだよエリカさん。」

 

状況は確かに最悪だけど、だけど負けた訳じゃないから此処から逆転するのは出来ない事じゃない。

って言うか、ぶっちゃけるとこの窮地もまた私の作戦の内――この状況は、私が演出した結果であり、全て計算の内だと言ったら如何ですか?

この状況を含め、全てが織り込み済みの事だったとしら?

 

 

 

「……はい?如何言う事だい西住ちゃん?」

 

「だから、こうなるのも作戦の内だったんですよ。

 準決勝の前に、私とエリカさんと小梅さんと梓ちゃんを呼んでアンコウ鍋をご馳走してくれましたよね?――労いって事でしたけど、準決勝前に其れを行うって言うのはとっても不自然なんです。優勝した後なら兎も角として。

 だから、何か重大な話があったけど、何らかの事情があって話せなかったんじゃないかと思って、準決勝で一芝居打って、話そうとしていた事を話さざるを得ない状況に持って行こうと思ったんですよ。」

 

「そう言う事。

 此れはみほとアタシと小梅と澤で考えた事なんだけどね?」

 

「な、何だと~~!?

 態と窮地に陥ったって言うのか西住~~!!負けたら終わりなんだぞ!それなのに、こんなピンチな状況を態と招いて!!大洗が廃校になったらお前達のせいだぞ!!」

 

「アンタは相変わらず単細胞ね河嶋先輩……貴女みほの言う事聞いてなかったの?

 このピンチですらみほの作戦の内――つまり、みほはプラウダの陣形や作戦を読み切った上で、敢えて其れに乗る形でピンチを演出したの。

 分かる?全てはみほの掌の上での出来事に過ぎないのよ?――なら、此処から逆転勝利が出来ない筈ないでしょう?」

 

 

 

あはは……其れはちょっと言い過ぎかもだけど、この状況は織り込み済みだし、カチューシャさんだったら降伏勧告を行ってから回答まで猶予を与えるのも予想してたよ。

……流石に3時間もの猶予が与えられるとは思わなかったけどね。

 

其れよりも、話してくれてありがとうございました会長さん。

此れで、私とエリカさんと小梅さんと梓ちゃんだけでなく、『大洗女子学園』に優勝を目指す理由が出来ました――私も優勝を目指していましたけど、其れはあくまで個人的な物に過ぎません。

でも、優勝しなければ廃校って言う事が分かれば、チーム一丸となって優勝を目指す事が出来ます。

 

勿論此れまでだって優勝を目指してたのは変わりませんが、廃校の危機ともなれば情熱と本気度がマッタク持って段違いになります――そう言う意味では、大洗女子学園は、此処に来て漸く本当のチームになれたのかもしれません。

 

 

 

「西住ちゃん……ハハ、流石は隻腕の軍神だ……こりゃ、敵わねーわ。」

 

「お褒めに預かり光栄です会長さん。

 兎に角、3時間もあるんですから、この危機的状況を巻き返す為に作戦を立てましょう――此処までは作戦通りですが、此処から先は正直出たとこ勝負だったので。」

 

まぁ、プラウダがこの廃墟を包囲してるのは間違いないと思うんだけど、如何言う陣形で包囲してるかは知りたい所だね?――斥候をお願いしても良いかな優花里さん?

 

 

 

「お任せ下さい西住殿!

 不肖、秋山優花里、その任務を必ずや達成してみせるであります!!」

 

「ならば、私もグデーリアンに同行しても構わないだろうか?

 フットワークの軽さから言うなら、隠密行動は一人の方が良いのかもしれないが、より情報を多く得るには二人の方が良いだろう?」

 

 

 

エルヴィンさん!……うん、其れは確かに一理あるかも。

特に、此れだけの雪の中だと隠密行動中に不測の事態が起きる可能性があるから、そうなった時の為にもツーマンセルで行った方が遭難する可能性も下がるからね。

 

 

 

「みぽりん、遭難って……」

 

「この雪だと、否定出来ないと思わない沙織さん?」

 

「其れはまぁ、否定できないけど。」

 

 

 

でしょう?

でも、優花里さんとエルヴィンさんだけに偵察をお願いするって言うのも大変だよね?……もう一組、ツーマンセルで偵察に出したい所だね?

 

 

 

「なら、私に任せてくれ西住さん。

 相方にはそど子を連れて行く。」

 

「ちょ、冷泉さん!?」

 

「私もそど子も、視力は両目とも2.0以上だから多少視界が悪くても相手の陣形とどの戦車が何処にいるか位は分かる……だから、偵察の半分は、私とそど子に任せて貰いたい。」

 

 

 

麻子さん……分かった、お願いするよ。

 

さてと、最悪のピンチを演出する事には成功したから、此処からやるべきは如何に鮮やかに逆転勝利を収めるかだね――回答猶予である3時間後、其れが本当の準決勝の始まりの時だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

大洗の部隊は廃墟に逃げ込んだが、周囲はプラウダの部隊に囲まれている……素人目に見ても、大洗が絶体絶命のピンチであり、プラウダの力を考えれば、盤面はチェックメイトと言う所だろうが、みほが相手であるのならばその限りではないな。

此れはあくまでも予想だが、みほは態とこの状況を作ったのではないだろうか?――無名の大洗が、強豪プラウダを相手に、ピンチからの逆転勝利と言うのは相当なインパクトを残すだろうからね。

 

 

 

「此の試合、最早見る価値も無いわ。

 3時間の猶予があるとは言え、質でも数でも劣る大洗がプラウダに勝つ可能性は精々1%よ……分かり切った結果など見る必要はない。」

 

「お祖母様、試合はまだ終わっていませんよ。」

 

「なに?」

 

 

 

みほは、みほ達はまだ諦めていません。

いえ、諦めるどころか、3時間もの猶予があるのならば、みほはこの窮地を脱して、勝利を収める作戦を考え付く事でしょう――みほは戦車道に関しては私以上の天才なのですから。

 

 

 

「大洗はこの状況を覆すと、そう言いたのかまほよ?」

 

「如何にも。

 そして必ずや、我等黒森峰の前に11連覇を阻止する相手として立ち塞がるでしょう。」

 

「……其れはお前もか、しほ。」

 

「その通りですお母様。

 ですが、最後まで試合を見届けず、勝手に結果を決めつけて去ろうとするとは、西住流家元も耄碌してしまったようですね?――まぁ、西住流と黒森峰にとって次代を担う存在であったみほと、逸見エリカさんと、赤星小梅さんを『追放』し、そのせいで澤梓さんとツェスカさんのダブルルーキーを黒森峰の手中に収める事が出来なかったのですから、耄碌したと言われても仕方ありませんが。」

 

 

 

お母様、容赦有りませんね?……まぁ、その意見には全面的に、諸手を挙げて賛成しますけれど。

 

「――兎に角、まだ試合は終わって無いのですから、此処で席を立つのはマナー違反ですお祖母様。

 一度観客席に腰を下ろしたら、試合が終わるその時まで見届けるのが観客のマナーですから。

 何よりも、大洗が敗北したらみほに直接勘当を言い渡すのでしょう?で、あるのならば尚の事この場から去るべきではないと愚考する次第ですが、如何でしょうか?」

 

「ふむ、其れもそうじゃな。

 じゃが、ワシがみほに勘当を言い渡すのは略決まったようなもんじゃ。――仮に、この状況を逆転したとしても、決勝戦ではお前が相手になるのだからどのみち勘当は避けられぬ。

 特にまほ、今年のお前は何時になくワシの言う西住流を徹底しておるようじゃからの……圧倒的に蹂躙してやると良いわ。」

 

「……善処します。」

 

ヤレヤレ、お祖母様は今年の黒森峰が戦車道関連の雑誌で叩かれているのを知らないと見える――恐らく、新聞でも記事は碌に読まず、試合結果だけを見ていたのだろうね。

みほが大洗で戦車道を続けていると言うのを知ったのも、偶々新聞にみほの顔写真が『大洗女子学園の隊長』として載ったからに過ぎなさそうだ……ダメだこの家元、さっさと何とかしないと。

いや、其れももうすぐ何とかなるか。……大洗が決勝まで駒を進めれば、全てが整うからね。

 

時にお母様、何を飲んでおられるのでしょうか?

 

 

 

「あぁこれ?ホカホカ温かい甘酒よ。寒冷地での試合観戦になるからって、菊代が気を利かせて持って来てくれたのよ。」

 

「まほお嬢様も如何です?

 其れとも、コーヒーか紅茶の方がよろしいでしょうか?あ、緑茶とほうじ茶、ウーロン茶にお汁粉も用意してありますよ――まぁ、お汁粉は缶の物と同じように餡子だけですが。」

 

「では、お汁粉を頂けますか?

 最も身体を温める効果がある温かい飲み物は、お汁粉だとN○Kのあ○イ○でやっていましたので。」

 

「畏まりました。」

 

 

 

何と言うか、菊代さんの準備の良さには脱帽してしまうよ。

私もダウンを来て、カイロを持ってきてはいるが、温かい飲み物までは考えなかったからな――まぁ、3時間超の長丁場になると言う事を予想していなかったと言う事も有るけれどね。

 

私達以外の観客の皆さんはさぞかし寒い思いをしているだろうと思ったが……

 

 

 

「アンツィオ特製の熱々ミネストローネは如何っすか~?

 唐辛子とニンニクを使ったホットな味で身体の芯からポッカポカ間違いなし!1つ400円だよ~~♪」

 

 

 

アンツィオの生徒である辛唐青子――今はペパロニだったか?彼女がアンツィオホットメニューを売り歩いてるみたいだから大丈夫そうだ。

資金集めの為とは言えご苦労様だが、其れが観客にとっても喜ばれる事なのだから、アンツィオの資金集めは地味ではあるが尤も平和的かつ合理的なのかも知れないな。

 

さてと、其れよりも試合は此処から如何動くかだ。

去年の決勝戦で、カチューシャもノンナもみほ達の強さを知っているから、3時間の猶予を与えはしたものの1mmの油断もないだろう。……否、それどころか、降伏勧告を蹴って反撃して来る事まで予想している筈だ。

 

となると、大洗が突破しやすい場所を態と一カ所だけ作っておくと言うトラップを仕掛けている可能性も充分にある――もしも私が同じ状況に陥ったとしたら、完全にチェックメイトだろうな。

 

だがみほなら……そして、みほと切磋琢磨して強くなったエリカと小梅、みほから直々に戦車道を叩き込まれた澤が居る大洗ならばこの状況を切り抜ける事だろう。

如何に経験者の指導があったとは言え、其れだけで準決勝に駒を進める事が出来る程、戦車道は甘いものではない――にも拘らず、ここまで駒を進めて来たと言う事は、大洗は戦車道に関して稀有な才能の持ち主を多数有していたと言う事だろう。

そうでなくては、只の素人が此処まで成長するとも思えないしな。

 

全てが決まるのは今から3時間後……この窮地をどう切り抜けるのか、見せて貰うぞみほ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

3時間も猶予があるから、優花里さん達に偵察に出て貰って、残ったメンバーは此れまでの戦闘で被弾した部分とか、切れかけた履帯の修理って所だね。

もしもの事を考えて用意して貰った焚き火用の薪と、温かいレーションのおかげで暖を取る事は出来てるけど……流石に士気が下がって来てるのは仕方ないか……まぁ、其れも何とかしないとだけどね。

 

 

 

「武運拙く討ち死にすれば。」

 

「義理に絡めた恤兵真綿。」

 

「「そろーりそろりと首絞めかかる、どうせ生かして還さぬ心算!――ただいま偵察から戻りました~~!!」」

 

「こっちも戻ったぞ~~……」

 

「ちょっと、もうちょっとシャキッとしなさいよ冷泉さん!!」

 

「無理だそど子……」

 

 

 

っと、偵察部隊が戻って来たみたいだね?

お疲れ様、優花里さん、エルヴィンさん、麻子さん、そど子さん。――プラウダの布陣はどんな感じでだったかな?

 

 

 

「この建物を取り囲むようにT-34が包囲しているであります。

 ただ、一カ所だけ――この建物の北西側だけ手薄な部分ありましたので、突破するのであれば其処からが最適だと思ったのですが……」

 

「秋山さんとスマホで連絡を取り合ってた事が功を奏した。

 その『抜け穴』の先にはKV-2とIS-2が待ち構えている……プラウダが態々用意してくれた『非常口』を利用したら、即ゲームオーバーだ。」

 

「流石はカチューシャさん、此方が降伏勧告を蹴った場合も想定してましたか……」

 

でも、其れが分かれば充分かな。

相手の布陣が分かれば作戦は如何様にも立てられるし、カチューシャさんの裏をかく事だって出来るから、優花里さん達の功績は可成り大きいと思う。

まぁ、優花里さんとエルヴィンさんが『雪の進軍』を原詩で歌って帰って来るとは思わなかったけど。

 

 

 

「雪の進軍は原詩の方が絶対良いでありますよ!

 『生きては帰らぬ心算』よりも、『生かして還さぬ心算』の方が重みがあります、重みが!!」

 

「うん、其れは否定しない。」

 

軍歌って、色々と歌詞が変えられてるモノが多いからね。

でも、個人的には雪の進軍も良いけど、『水師営の会見』が好きかな?戦車道をやってる身としては、陸軍大将乃木希典閣下を謳ったアレは絶対に外す事は出来ないもん!

 

その乃木閣下を素人目線で扱き下ろして『乃木愚将論』を世に広めた司馬遼太郎はA級戦犯間違いなしだよ。

 

 

 

「西住殿、髪が金髪になりかけているであります。」

 

「おっと、平常心平常心っと。」

 

偵察で得られた状況を考えると、此れは完全に絶体絶命って感じだね?

プラウダの包囲は隙が無く、唯一手薄な場所を突破すれば、その先にはソ連製最強の重戦車であるKV-2とIS-2が待ち構えてる訳だからね。

流石のティーガーⅡもKV-2の砲撃に耐える事は出来ないし、ノンナさんがIS-2の砲手として乗り込んでいたとしたら最悪極まりない――ノンナさんの砲手としての腕前は、ナオミさんに勝るとも劣らないからね。

 

 

 

「じ、状況は最悪だ~~!もう我々はお終いだ~~!!

 此のまま、敗北を受け入れるしかないのか……この状況からの逆転など、奇跡でしかない――此れが、大洗の末路か……最早、廃校までノンストップか……」

 

 

 

って、勝手に諦めないで下さい河嶋先輩!

諦めてしまっては全てが終わりです!!――諦めないで、最後まで足掻けば道は開けるんです!!だから、絶望的状況であっても絶対に諦めたらダメなんです!!

 

 

 

「こんな絶望的状況で、しかもプラウダに絶対有利な状況で諦めるなだと?

 誰が如何考えたって、我々には敗北しか残されてないじゃないか!!……最早、廃校を免れる事は出来ん……大洗女子学園は、此処で終焉を迎える事になるのだ……」

 

「確かに、幾ら西住隊長達が凄くても、この状況はヤバいよね……」

 

「もう、降伏するしかないのかな……」

 

 

 

さ、最悪だよ此れ。

河嶋先輩の諦め発言から、一気に諦めムードが広がって士気はダダ下がり……此れじゃあ、勝てるモノも勝てなくなっちゃう!――ホントに河嶋先輩は余計な事をしてくれたよ!!

 

如何にかして、下がった士気を盛り返さないとだけど、如何やって……此処は、イチかバチか、此れにかけてみるしかないかな。

 

「アアアン アン アアアン アン

 アアアン アアアン アン アン アン

 あの子 会いたや あの海越えて

 あたまの灯は 愛の証

 燃やして 焦がして ゆーらゆら

 燃やして 焦がして ゆーらゆら

 こっち来て アンアン

 逃げないで アンアン

 波に揺られて アンアンアン。」

 

「みほ!?」

 

「西住隊長!?」

 

 

 

皆、歌って!

私が踊るから、歌って!――雰囲気が暗くなっちゃった今こそ、明るくしなくちゃダメだから!その為なら、私は何だってするから!だから、私は踊るから皆は歌って!

 

 

 

「みぽりん……そう言う事なら私だって踊っちゃうよ!

 動画サイトにアップされたら人生オワタのあんこう踊りだけど、みぽりんがやるなら私もやるから、皆は盛大に歌ってよ!」

 

「沙織、アンタ美味しいとこ持って行くわね~?

 貴女達がやるなら私だってやるわ……恥ずかしいのは否定しないけど、隊長がやるってのに隊員がやらないってのは如何かと思うしね。」

 

「御一緒します、西住隊長。」

 

「私も一緒に踊りますよみほさん。」

 

 

 

沙織さん、エリカさん、梓ちゃん、小梅さん……うん、一緒に踊ろう!!

 

 

 

「我々も一緒に踊るぞ!いや、踊るだけでなく歌え!!」

 

「根性で歌え!そして踊れ~~!!

 西住隊長の心意気を無駄にするなーー!此処は一致団結して踊って歌うのが正解だ!!――力の限り踊れーー!!」

 

「「「はい、キャプテン!!」」」

 

 

 

そして、其れはチーム全体に伝わって、何時の間にやらあんこう踊りの大合唱と全員での踊りに発展して来た――だけど、そのお陰で下がっていた士気も元に戻って来たみたいだね。

 

 

 

「「「「「「「「あした 会いましょ あの浜近く

         あなたの灯は 恋の光

         誘って 焦らして ぴっかぴか

         誘って 焦らして ぴっかぴか

         愛して アンアン

         泣かさないで アンアン

         いやいいわよ アンアンアン――アハハハハハハハハ!!」」」」」」」」

 

 

 

一通り踊り終えた皆の顔に浮かんでるのは笑顔――下がりまくった士気は、今や完全に試合が始まった頃に戻った……否、それ以上になったのかも知れないね。

 

猶予の3時間まではもうそろそろだけど、私は絶対に降伏なんてしない――この状況を逆転して、大洗を決勝戦にまで連れて行くからね。

 

多分、観客の大多数は大洗は此処で終わりだと思ってるだろうけど、残念だけど其の予想は大外れだよ……私達は、此処から逆転して勝つんだからね。

 

 

 

「そう来なくっちゃね――さぁ、命令して頂戴みほ。

 貴女の命令、必ずや遂行して見せるわ。」

 

「エリカさん……うん、信じてる。」

 

大洗女子学園は、プラウダの降伏勧告を蹴って、あくまでも徹底抗戦する事を選択するよ――降伏してしまったら其れまでだけど、抗えば光明が見えてくる事も有るからね。

 

其れに優花里さん達の偵察のおかげで、プラウダの陣形は略理解できたから、作戦を立てるのだってそれほど苦労はないよ――寧ろ、素性の分からない相手の方が厄介だからね。

 

確かに盤面だけを見るなら、チェックメイトって所だろうけど、王手の抜け道は必ずあるから、其処を突かせて貰うよカチューシャさん。

 

 

 

――轟!!!

 

 

 

「此れは、軍神招来!」

 

「いえ、只の軍神招来じゃないわ……金色のオーラに金色に輝く髪、翡翠の瞳――みほは軍神をも越えた『スーパー軍神』に覚醒したのよ!」

 

「エリカさん、私は何処の戦闘民族なのかな?」

 

「そう錯覚する位に凄いのよ今の貴女は……此れは、此処からの逆転劇は略確定したと言っても過言じゃないわねみほ?」

 

「勿論、逆転する心算だからねエリカさん。」

 

 

 

だから、カチューシャさんに伝えて下さい、プラウダの伝令さん。

大洗は絶対に降伏はしない――最後の最後まで戦い抜くと。……そして、フラッグ車を仕留めて勝利するってね。

 

 

 

「了解したべ……けんども、絶体絶命でねかこれは?

 こんな状態でも戦う事を選択したアンタ達には、ちょぴり感心しちまうべよ。」

 

「ふふ、生憎と私達は諦めが悪い上に、往生際も悪いモノですから。」

 

だから、徹底的に足掻かせて貰うよ!!

そして、此処からが準決勝の本当の戦いになる――だけど、此処からが私達の本領でもあるから、油断はしない事ですよカチューシャさん?

見せてあげます、『西住みほ』の戦車道をね――!!

 

此処からが本番――カチューシャさん……戦車砲が、お前を呼んでるぜ!!此処からは、本気の全力全壊で行かせて貰いますよ!!

隻腕の軍神……その二つ名は伊達じゃないって、其の身に刻み込んでもらいます!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 



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Panzer128『ピンチを演出し、華麗に勝利!です』

絶対的に相手に有利なフィールド……Byみほ        貴方にとって、其れ位はOKよねByエリカ      此処だけ聞くとブラック企業ですよねBy小梅


Side:みほ

 

 

さてと、此処からの逆転劇を此れから行う訳なんだけど、優花里さん達の偵察の結果得られた情報を基に考えると、勝つ可能性は限りなく低いと考えるのが普通だろうね。

此方は周囲を囲まれて、カチューシャさんが意図的に用意している『地獄の非常口』に突っ込むしかない状況だからね――単純に戦局を見るなら、大洗絶体絶命って所だろうね。

 

だけど、私達はまだ負けてないんだから、やるだけの事をするだけだよ。

 

「優花里さん、この廃墟の裏手の方にはちょっとした林が存在してるんだけど、その林の中や向こうにもプラウダの部隊は展開されてたかな?」

 

「いえ、廃墟の裏手には戦車を展開していないであります。」

 

 

 

そっか……と言う事はプラウダの意表を突く事にしようかな?

カチューシャさんが私が考えるであろう戦術を想定していたとしても、完璧に私をトレースするのは多分無理だから、必ずどこかで綻びが出来る筈だから、其処に付け入る隙が出てくるからね。

 

 

 

「ねぇみほ、貴女なんかトンデモナイ事考えてない?

 正直貴女がその顔……お転婆娘が物凄く愉快なイタズラを思いついた時みたいな笑顔をしてる時って、大抵トンデモナイ作戦を思いついた時なんだけど……」

 

「トンデモナイだなんて心外だよエリカさん。

 この状況を引っくり返せる妙案を思いついただけだよ?……まぁ、失敗したら其れまでの大博打である事は間違いないんだけどね。」

 

「伸るか反るかって、やっぱりトンデモナイじゃないの!」

 

 

 

だって、普通のやり方じゃこの状況をひっくり返す事は略不可能なんだもん。

だったら、誰も思いつかないような作戦で行くしかないでしょ?――何よりも、プラウダみたいな強豪が相手だからこそ通じる策だと思うからね此の大博打は。

 

さて、其れじゃ反撃と行こうかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer128

『ピンチを演出し、華麗に勝利!です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

降伏勧告から、猶予の3時間が経ち、カチューシャが改めて大洗に答えを聞きに行かせた隊員から聞いた報告は『降伏はしないとの事』で、あくまでも最後まで戦うと言う事だった。

 

 

「降伏はしないのね?

 まぁ、ミホーシャ達が降伏なんて選択する筈がないとは思ってたからあんまり驚かないけど、あの廃墟はプラウダの精鋭達が包囲しているわ。

 如何にミホーシャ達であってもこの包囲網を抜けるのは不可能よ!――たった、一カ所を除いてね。」

 

「待ち伏せの重戦車を配置した『地獄への非常口』ですね。

 あからさまな罠であるのは火を見るより明らかですが、その罠に飛び込まねば包囲されて終わり……もしも仮に偵察を出してこの事を知ったとしたら、並の戦車乗りならばその時点で降伏を選択したでしょうね。」

 

「でも、ミホーシャ達は選ばなかった。

 偵察を出していないのか、其れとも偵察を出してこの陣形を知っても尚、其れを上回る戦術を思いつく事が出来たのか……何れにしても此処からが本番よノンナ。」

 

「了解ですカチューシャ。」

 

 

みほが、大洗が降伏しないであろう事はカチューシャも予想していた事だった――去年の決勝戦でのアクシデントの時も、諦める事なく全員救助をやってのけた、みほとエリカと小梅が絶対的不利な状況であったからと言って諦めるとは到底思えなかったからだ。

しかし、そうであるのならば一見完璧に見えるこの包囲網をいとも簡単に突破してくる可能性は決してゼロではない……故に、大洗が潜伏している廃墟に神経を集中してし過ぎる事は無いのである。

 

廃墟の入り口は一つなので、如何やったって其処から出てくるより方法はないのだが、降伏はしないとの回答から数分が経った頃――

 

 

 

――ドゴォォォォォン!!

 

――ドガァァァァァン!!

 

――ドバガッァァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

行き成り、廃墟の出入り口からプラウダの部隊目掛けて連続で砲撃が放たれた!

此れは、廃墟から飛び出してくると考えていたプラウダの隊員にとっては完全なる奇襲であり、カチューシャとノンナですら一瞬呆気に取られてしまったくらいだ。

 

いや、其れもまた仕方ないだろう。

大洗の部隊が逃げ込んだ廃墟は、一応屋根はあるモノの、壁はボロボロ、ガラスは割れたり罅が入ってたりと、所謂『幽霊屋敷』の様な建物であり、強度など聞くだけ無駄だ。

そんなオンボロ屋敷の中で連続で戦車砲などぶっ放したら、その衝撃と音で廃墟が崩れかねない。下手をすれば自滅の一手となるのである。

 

 

「ミホーシャ、一体如何言う心算?

 そんな事をしたら、廃墟が崩れて最悪自滅よ?……でも、やるって言うなら相手になってあげるわ!」

 

 

だが、其れでもカチューシャは『撃って来るなら相手になってやる』と言わんばかりに、包囲している部隊に攻撃を命令!

大洗の戦車が出て来ない限りは廃墟を攻撃する事になり、そうなれば廃墟は崩れ去るだろうが、戦車内部に居ればオンボロ廃墟の瓦礫の下敷きになっても死ぬ事は無い。

その代わり完全に身動きが取れなくなって、瓦礫の当たり方によっては白旗判定も上がるだろうし、仮に上がらなかった場合は、其れこそ瓦礫ごとフラッグ車を吹き飛ばしてやれば良いだけの事なのだ。

この状態が続くだけ、勝利は自分達に引き寄せられる――カチューシャはそう判断したのだ。

 

当然プラウダの隊員達は、カチューシャの命令を忠実に熟して行く。

カチューシャの『大洗の戦車が1輌も出て来ない状態で廃墟が潰れれば、カチューシャ達の勝ちよ!』との言葉に鼓舞されたと言うのもあるだろう――形は小さくとも、カチューシャはプラウダの隊長として絶対的な信頼を寄せられているのである。

 

 

「小さいは余計よ!!」

 

「カチューシャ?誰と話しているのですか?」

 

「作者と言う名の神よ!……って、何言ってるの私!?」

 

 

地の文に突っ込むと碌な事にならないと言う教訓であった。

其れは兎も角、この攻防が続く中で、カチューシャとノンナが感じたのは強烈な違和感――廃墟に立て籠もって攻撃していると言う事とはマッタク異なる違和感……即ち、大洗の攻撃がマッタク持ってプラウダの車輌に掠りもしていないと言う事だった。

素人集団なんだから命中率は期待できないと言えばそれまでだが、あんこうチームの五十鈴華、ウサギチームの山郷あゆみ、ライガーチームのリイン・E・八神、アヒルチームの佐々木あけび、カバチームの左衛門佐と大洗の戦車隊の砲手は素人であるにも関わらず、玄人顔負けの腕前の砲手が揃っている――1、2回戦を見て、カチューシャもノンナも其れを知っているからこそ、一発も掠りもしないと言うのが信じられないのである。

 

 

「ノンナ、此れって流石にオカシイわよね?」

 

「えぇ、オカシイですよカチューシャ。」

 

「なら、如何言う事か確かめるわ!

 全車撃ち方止め!此れより、大洗が潜伏している廃墟を調べに行くわ!」

 

 

感じてしまった強烈な違和感。

其れを確かめるべく廃墟に向かったカチューシャ達だったが、其処で見たのはマッタク持って予想外の――完全にしてやられた光景だった。

 

 

「な、何よ此れぇ!?」

 

「此れは、完全にしてやられましたね。」

 

 

カチューシャ達が廃墟で目撃したモノ、其れは大音量で戦車砲の砲撃音を無限再生しているポータブルCDプレイヤー(コンパクトデジタルスピーカー付き)と、自動点火で連続発射出来るようになっているマグネシウムリボンを巻きつけた閃光弾と、音に合わせてフラッシュするLED照明と、入り口とは反対側の壁に開けられた大きな穴、そして砲撃によって無理矢理薙ぎ倒された林の木々だった。

 

そう、此れまでの大洗の攻撃は全てがフェイクだったのだ。

最初の数発は本物だったが、其れはあくまで裏壁をぶち破る音と林の木が倒れる音を察知されない為のカムフラージュであり、裏壁をぶち抜いた其の後は、此のトリックをセットして、プラウダが偽の相手と戦っている間に、まんまと廃墟の裏手の林を通って包囲網を抜けていたのである。

 

カチューシャとて廃墟の裏手の林の存在は知っていたが、廃墟の裏壁をぶち抜いて、林の中を突っ切るなどと言う事は想像もしていなかった事であり、完全に予想外だった――故に、其方に戦車を配置してなかったのが完全に裏目に出てしまっていた。

 

 

「廃墟の裏手だけじゃなく、林の一部を戦車砲で吹き飛ばして強引に道を作って包囲網を突破するってドンだけよミホーシャ!?

 って言うか、林を破壊するって良いの此れ!?」

 

「まぁ、戦車道の試合で発生した破壊に対する保証は連盟の方が行ってくれるので問題ないのでしょう……と言うか、みほさんの場合は其れを分かった上で意図的に破壊を行っているような気もしますが。」

 

 

このみほの戦術に驚くが、驚いてばかりはいられない――この包囲網を抜けたと言う事は、大洗の部隊は全戦力を持ってしてプラウダのフラッグ車を探すだろうから、即大洗を追撃しなくてはならないのだ。

 

 

「流石はミホーシャ、普通じゃ考えない事をやってくれるわね?

 だけど、此方が優勢なのは未だ変わらないわ――ノンナ、貴女は直ぐにIS-2に乗り換えて。大洗の連中にプラウダの力を思い知らせてやるのよ!!」

 

「了解しました、カチューシャ。」

 

 

カチューシャは即座に命令を下すと、予想外の方法で包囲網を抜けた大洗の追跡を開始――みほの考えた大博打は、取り敢えず大成功であったと言っても差し支えないだろう。

プラウダを完全に出し抜き、まんまと包囲網から逃げおおせたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

プラウダが大洗の追跡を始めた頃、大洗の部隊は雪原をひた走っていた。

圧倒的不利な状況で勝つには、ターゲットをフラッグ車1輌に限定し、其れを的確に撃破する以外の方法はない――が、優花里とエルヴィンの偵察で分かったプラウダの包囲網の中にフラッグ車は存在していなかった。

 

ならば、どこか別の場所に潜んでいると考えるのは当然の事だろう。

 

 

「西住隊長、プラウダのフラッグ車は何処に潜んでるんでしょうか?

 この広大な雪原の中から、戦車1輌を探し出すなんて不可能に近いんじゃないかと思います……加えてプラウダの戦車は雪原仕様のホワイトですから、スノーステルス状態ですし。」

 

「何とか包囲網を抜けたけど、あのトリックで稼げる時間はそう多くは無いわ……直に追撃されるでしょうね。

 私と小梅に足止めをしろって言うならするけど、IS-2とKV-2が出て来たら、長時間の足止めは自信無いわよ?」

 

「そうなんだよねぇ……」

 

 

だが、梓の言うように、此のだだっ広い雪原の中から白い戦車1輌を探し出すなんて言うのは、正に『九牛の一毛』!

しかも、プラウダが追撃して来る事を考えるとフラッグ車の捜索に時間を掛ける事も出来ない――包囲網を抜けたとは言え、大洗が不利な状況は変わっていないのだ。

 

 

「フラッグ車、一体何処に……?」

 

 

一刻も早くフラッグ車を発見したいのだろう。みほは少しでも視界を広げようと、キューポラの上に立ち周囲を観察する。

揺れる戦車の上に微動だにしないで立って居られるのも凄いが、キリっと前を見据えた表情で、ジャケットの左袖をたなびかせながらキューポラの上にシャンとたったその姿は正に軍神の威風を感じさせる。(軍神モードで肩に掛けていたジャケットの上着は3時間の間に、寒かったのでちゃんと着直した。)

 

タイミング良くこの姿が観客席のオーロラヴィジョンに映し出され、観客が沸いたのは当然の事であっただろう。

菊代と、試合を見に来ていたダージリンとケイ、資金稼ぎに来ていたアンツィオの面々はデジカメやスマホで写真を撮っていた位である。

尚、このみほの姿は後に『軍神立ち』と呼ばれ、その姿を収めた写真が戦車道ファンの間で高額取引されるようになるのだが、其れはまた別の話である。

 

 

兎も角、フラッグ車を見付けられないままプラウダに追い付かれては、今度こそ勝機は無くなってしまうだろう。

 

 

「此処は、ちょっと大胆に行ってみるしかないかな?うん、そうしよう。

 此れから部隊を2つに分けるよ。――あんこうチームとカバさんチームは此のままフラッグ車の捜索&撃破を担当するから、残りは全てプラウダの部隊を引き付けてくれるかな?」

 

 

だからみほは、此処で包囲網を抜けたとき以上の大胆な戦術に打って出た。

パンターとⅢ突のみでプラウダのフラッグ車を探す代わりに、大洗のフラッグ車であるⅢ号までをも囮にしてプラウダの部隊を捜索組から引き剥がそうと言うのだ。

みほ達がプラウダのフラッグ車を発見して撃破するのが早いか、其れともプラウダの部隊が大洗に追い付いてフラッグ車を撃破するのが先かと言う、正に綱渡り勝負なのだが……

 

 

「了解しました西住隊長!我ら全員、気合と根性でプラウダの注意を引き付けます!!」

 

「やるかやられるかのギリギリの勝負……良いじゃない、そう言うのは嫌いじゃないわよみほ?

 其れに引き付けるだけじゃなくて、必要なら喰い散らかしちゃっても構わないんでしょ?……この黒虎は、そろそろ空腹も限界みたいだしね。」

 

「フラッグすらも囮にする……相変わらず大胆な戦術を考えますねみほさん?」

 

「でも、確かに其れならプラウダの部隊を『敵フラッグ車の居る部隊』に集中させる事が出来ますから、プラウダのフラッグ車捜索組は、自分の仕事に専念出来ますね。

 了解しました西住隊長、プラウダの部隊は此方で引き付けますので、プラウダのフラッグの方をお願いします。」

 

 

既に大ピンチを一度脱出して、テンションが上がっている今の大洗にとってこの程度の事は大した事ではない。

アヒルチームの典子が口火を切ると、そのノリを広げるかのようにエリカと小梅と梓が続き、『勝つためにはこの方法が最もベターである』と言う雰囲気を蔓延させ、其れがテンションの上がっている隊員達に伝わって、『綱渡り勝負がナンボのモンじゃい!』と言った感じになったのだ。

 

大洗の隊員はノリがいい、若しかしたらアンツィオの隊員以上に。

そして、戦車道未経験者が殆どであるが故に、言い方は悪いが『経験者がやるって言うならやってやらぁ!』的な所もあり、綱渡り勝負であっても恐怖する事は無いのだ。

 

 

「うん、任せたよ!!」

 

「西住隊長も御武運を!」

 

 

無論此の部隊分けは戦力分配だってちゃんと行われている。

プラウダを引き付ける部隊にエリカと小梅と梓を残したのだから――みほと梓が互いにサムズアップしたのを合図に、大洗の部隊は2輌と6輌の2つに分かれてプラウダとの最終決戦のスイッチを押したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

其れから数分後、遂にプラウダの部隊は大洗の部隊に追い付き、攻撃を開始。

数も、フィールドも有利となればフラッグ車を仕留めるのは難しくない――筈だったのだが、此れが中々如何して思ったようにいかないモノだ。

 

 

「もう、なんで当たらないのよ!!」

 

「当たらないんじゃなくて、全部避けられてるべやな此れ……」

 

 

そう、プラウダの砲手達の狙いは完璧なのだが、その正確な砲撃を大洗の部隊は尽く躱しているのだ――みほの鬼の回避訓練によって会得した超回避能力は、準決勝でも発揮されたのだ。

 

 

「避けられると言うのならば、避ける先を予想して撃てばいい、其れだけです。」

 

 

だがしかし、プラウダには現在の高校戦車道に於いてトップ3に数えられる砲撃手であるノンナが居る。

百戦錬磨の彼女にとって、敵戦車の逃げる先を予測して撃つなどと言う事は朝飯前なのである。

 

 

 

――バガァァァァァァァン!!

 

――キュポン!

 

 

 

『大洗女子学園、ルノーR-35、行動不能!』

 

 

その針の穴をも抜く砲撃がカモチームに炸裂し、白旗判定に!――まぁ、砲撃を回避した先に新たな砲撃が飛んできては、避けろと言うのが無理なので此れは仕方ないのだが。

だが、此の撃破に誰よりも反応した者がいた……言うまでもない、エリカだ。

 

 

「IS-2での此の正確な砲撃……ノンナね?

 確かに貴女の腕なら、こっちの戦車を悉く撃ち抜いてくれるんでしょうけど、生憎と易々と其れをさせる気は無いのよね――澤、小梅、ちょっとIS-2に喧嘩売って来るわ。」

 

 

黒森峰時代は自ら『狂犬』を名乗っていた程に、エリカは気性が激しい。

短気ではないが、目の前に強い相手、もしくは倒すべき敵が現れた時にはその牙を剥く事を躊躇しない部分がある――其れが、今回はノンナが砲手となったIS-2に向かっただけの事なのだ。

 

 

「へ?逸見先輩!?」

 

「あぁなったエリカさんはみほさんでも止められませんから言うだけ無駄ですよ澤さん。

 そして、自称『狂犬』となったエリカさんは、狙った獲物は必ず倒します――例え相討ちになろうとも。

 それに、IS-2がティーガーⅡに集中してくれるなら二大火力の片方を封じる事が出来る訳ですからフラッグ車の生存率も上がりますからね。」

 

「そう言う事よ。

 私達はIS-2を倒しに行ってくるから、アンタ達は死ぬ気でフラッグ車を護りなさい?って言うか、フラッグ車の盾となれ!フラッグ戦はフラッグ車が生き残っている状態で相手のフラッグ車を撃破すれば其れで勝ち!

 極端な事を言うなら、他は全滅しても相手のフラッグ車を撃破した時に、自軍のフラッグ車が生存してればいのよ。

 兎に角、IS-2を撃破したらKV-2も滅殺してくるから、みほ達がプラウダのフラッグを撃破するその時まで、フラッグ車を死守しなさい!!」

 

 

大洗の部隊に指示を出しつつ、エリカの顔に浮かぶのは肉食獣の如き壮絶な笑み。

その笑みは、エリカの整った容姿と相まって、『危険な美しさ』を演出している――更に目からハイライトが消え、瞳孔が極端に収縮した『超集中状態』こと『種割れ状態』(命名:みほ)になっているのだから、今のエリカならばIS-2が相手でも負けはしないだろう。

 

 

「逸見先輩……分かりました、お願いします!!」

 

「任せときなさい副隊長……プラウダの喉笛を、狂犬の牙で喰いちぎってやるわ!!」

 

 

そのまま、言うが早いかエリカはノンナの乗るIS-2に向かって突撃!!

 

 

「真正面から向かってくるとは、正気ですか逸見さん……!!」

 

「正気よ、少なくとも私の中ではね!

 って言うか、私みたいな『狂犬』に正気を尋ねるのは意味が無いわよノンナ――『狂犬』は、自分が狂ってるとは思ってないんだからね!」

 

「そう来ましたか……良いでしょう、相手になります逸見エリカさん!」

 

 

其れを皮切りに、ドイツとソ連が夫々誇る最強の重戦車による一騎打ちが勃発!!――白い雪のフィールド上で始まった黒き虎の王と白き重騎士の戦いは、貨客を大いに盛り上げる事になったのだった。

 

 

「ノンナ、片付けてやるわ。」

 

「やってみなさい、狂犬風情が。」

 

 

大洗の狂犬こと逸見エリカと、プラウダの副隊長であり『ブリザードのノンナ』の二つ名を持つノンナの戦いは、のっけから手加減なしの戦車戦となって行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、みほの部隊はプラウダのフラッグ車が隠れている場所に、大体の当たりを付けてその周辺を捜索していた――只捜索するだけでなく、再び優花里とエルヴィンを偵察に出しての詳細捜索を行っているのだ。

 

直ぐには見つからなかったが、其処で優花里が機転を利かして、一際高い『火の見櫓』の様な物に上ったのが予期せぬ好機となった。

 

 

『西住殿、プラウダのフラッグ車を発見したであります!!』

 

『二時の方向の民家の裏手……成程、考えたな。あそこならば隠れるのに適しているからな。』

 

「了解したよ優花里さん、エルヴィンさん!」

 

 

優花里とエルヴィンがプラウダのフラッグ車を発見したのだ。

フラッグ車が見つかってしまえばしめたモノだ――後は其れを撃破すればいいのだから。

とは言え、其れは決して簡単な事ではない――パンターは装填手である優花里が偵察に出て行ってしまったために、パンターの攻撃は機銃だけとなってるのだ……主砲が撃てないのでは高いスペックを生かす事は出来ないのだ。

つまりは、Ⅲ突に全てが掛かって来るのである。

 

 

「そこを右に……うん、良い感じ。

 華さん、機銃で相手の戦車を誘導する事って出来るかな?」

 

「……出来るかどうかは分かりませんが、やってみましょう――」

 

 

だが、機銃は決定打にならなくとも牽制に使う事は出来る――其れこそ、敵フラッグをキルゾーンに誘導する位の事は可能なのである。

華の巧みな機銃捌きによって、進路を誘導されたプラウダのフラッグ車は、民家の脇を右折した所で……

 

 

「今だ、もんざ!!」

 

「えぇい、もんざと呼ぶな!!」

 

「左衛門佐さん、やっちゃってください!!」

 

「……隊長命令とあれば仕方なかろう――左衛門佐、敵フラッグ車を狙い撃つ!!」

 

 

戦車の下からⅢ突の砲撃が炸裂!!

何とカバチームは、みほ率いるあんこうチームがプラウダのフラッグ車を追い回している間にⅢ突を隠せるだけの穴を掘り、Ⅲ突を雪で埋めた上で待っていたのだ、プラウダのフラッグが目の前に現れるのを。

 

そして訪れた好機を逃さずⅢ突に主砲の発射を命令!!!

其れは寸分違わずにT-34/86の下部装甲を貫通し、

 

 

 

――キュポン!

 

 

 

『プラウダ高校、フラッグ車行動不能――大洗女子学園の、勝利です!!』

 

 

「「「「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」」」」」

 

 

響き渡るのは観客の声援――ここ数年で、マンネリ化して来ていた『黒森峰vsプラウダ』の決勝戦に風穴を開けたと言うのも大きいかも知れないだろう。

何れにしても、大洗女子学園は、去年の準優勝校であるプラウダを討ち破って決勝戦へと駒を進めたのだった。

 

 

 

「はぁ……負けちゃったわね――でも、私達に勝ったのなら絶対に優勝しなさいよミホーシャ!!」

 

「其れは、勿論削心算ですよ。」

 

 

だがしかし、戦車道は礼に始まって礼に終わるが基本だから、試合が終われば互いの健闘を称えるのがマナーなのだ。――みほとカチューシャも其れを知っているからこその会話をしながら、笑みを浮かべているのだから。

此の準決勝は、大洗にとっても得るモノは大きかっただろう――少なくとも、決勝戦で黒森峰と相対しても気圧される事だけは無くなる筈だ。

 

 

「次はいよいよだね……その首、取らせて貰うよお姉ちゃん。」

 

 

みほは闘気を解放し、ジャケットの上着を脱ぎ棄てて観客席に向かってサムズダウン!!

其れを見た観客席のまほもまた、首を掻っ切る動作からサムズダウンを行い、みほを挑発する――この挑発の応酬は姉妹でしか分からない意味があるのだ。

 

みほとまほは、互いに不敵な笑みを浮かべると、そのまま会場からフェードアウト!

だが、何れにしてもこの姉妹が本気を出した以上、決勝戦が荒れるのは間違いないだろう――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

ギリギリではあるが、大洗が勝利したと言うのは正確ではないな……恐らくはみほは此処まで織り込み済みだったのだろうからね。

殆ど素人の集団を率いてプラウダを倒すとは流石だ……

 

 

 

「ふん、今回はたまたま運が良かっただけじゃ!――何時もこうなるとは思えぬわ!!」

 

「左様ですか。」

 

まぁ貴女が人を見極められるようになるとは誰一人思っていませんから今更ですがね……ですが、今回の勝利はみほが仲間達と共に掴んだ栄冠であり、勝利です。

其れは誰にも真似出来るモノではないでしょう?

 

まぁ、在籍中は貴女の言う戦車道を邁進する心算ですが、いい加減貴女のその古い考え方には辟易してたのでな……今大会を持ってして、私は貴女の戦車道をみほと共に粉砕する。

此れで最終章の幕を上げる準備が出来た――後は、本番あるのみだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer129『次はいよいよ決勝戦です!』

次はいよいよ決勝戦だね……Byみほ        なら、決勝戦に向けて準備しないとね?Byエリカ       準備も大事ですが、試合前のゲン担ぎも忘れずにですね♪By小梅


Side:みほ

 

 

プラウダを下して決勝戦へと駒を進める事が出来たけれど、此処までの工程は、言うなれば準備段階に過ぎないんだよね……決勝戦の舞台こそが本番であって、更に其処で勝ってこそだからね。

元々優勝を目標にしていたけど、優勝できなかったら大洗女子学園は無くなっちゃう訳だから、ルールの範囲で許されてる事は全部使ってでも優勝を捥ぎ取りに行かないと。

 

 

 

「気合充分ねみほ?

 でも相手はまほさん率いる黒森峰……私達が抜けたとは言え精鋭揃いの絶対王者。しかも戦力差は倍以上と来ているわ……普通に考えたら、勝つのは可成り厳しいわよね?」

 

「恐らく、下馬評では黒森峰絶対有利って言われているでしょうし……」

 

「まぁ、普通に考えれば大洗の奇跡の快進撃は此処までかって思うんだろうけど……エリカさん、小梅さん、私にそんな『普通』通じると思う?」

 

「「全然思わない。」」

 

 

 

でしょ?

そもそもにして相手は黒森峰であり、其れを纏め上げてる隊長はお姉ちゃんだから、ハッキリ言わせて貰うなら手の内は分かり切ってる訳だから、幾らでも対抗策は考えられるからね。

何よりも今年の黒森峰はお祖母ちゃんの、『西住かほ』の西住流で戦ってる――私にとって、これ程戦いやすい相手は存在しないんだよ。

 

 

 

「ふ、其れもそうね?

 まほさんが『正統』な西住流で戦っているのなら強敵だけれど、歪み切った西住流で戦っているのなら、多分その実力は半分程度しか発揮出来ない筈だもの……至高の名刀も、刃毀れしていては怖くないって事よね。」

 

「ですね。

 では、優勝するためにも決勝戦までの間に出来る事を全てやっておかないとですね。」

 

「うん、勿論だよ♪」

 

自動車部に任せていた88mm搭載型戦車のレストアもそろそろ終わるって言ってたし、生徒会によると最低でもあと1輌は戦車が存在してるっ言う事だったから、其れも見付けておきたい所だしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer129

『次はいよいよ決勝戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で今日も今日とて元気に登校して、校門前でアンドリューとロンメルが『学園警備』のお仕事に就くのも最早御馴染の光景だね。但し、アンドリューだけは、私達よりも先に家を出て麻子さんを迎えに行ってる訳だけど。

 

そして、此れも戦車道の試合の後のお約束になってる新聞部の号外配り――今更だけど、学園の生徒や先生達だけじゃなく、普通に道行く人も貰って行くって言うのは凄い事だよね。

 

 

 

「良いんじゃない?其れだけ、20年ぶりに復活した戦車道に興味が有るって事でしょうしね。

 其れに記事の内容も、まぁ大洗の新聞部だから多少贔屓目に書いてはいるけど試合内容の脚色はないし、独自の見解も入れての解説がなされてるからレベル高いし。

 まぁ、新聞部の部員が戦車隊に居る訳だから、どんな雑誌や新聞よりも大洗の試合に関してはリアリティがあるでしょうね。」

 

「其れは確かに言えてるかも。

 すみません、私達にも1部ずつ号外頂けますか?」

 

「はいよ~~!って、西住隊長じゃない!

 いやぁ、今回の号外は隊長のおかげで過去最高の発行部数になってるわ!200部あれば足りるかなぁと思ってたんだけど、直ぐに無くなっちゃって、急遽800枚増刷したんだけど、其れも全部なくなりそうな勢いだからね?

 毎回毎回小沢の奴がリアルな試合展開を語ってくれたり、試合中に撮影してくれた写真のおかげで良い物が作れてるけど、今回は此れまで以上の会心の出来だよ!」

 

「そ、そうなんだ……でも、私のおかげって?」

 

「そいつは見てのお楽しみって事で!決勝戦も期待してっからね!ここまで来たら優勝でしょ!!」

 

「勿論、その心算だよ♪」

 

さてさて号外の内容だけど……えっと、ババーンと見出しに『大洗女子学園、去年の準優勝校を撃破!』ってのは良いんだけど、何で此れまたババーンと一面に私がキューポラの上に立ってる写真が掲載されてるんだろう?

しかも写真の横には矢印して『軍神立ちで周囲の状況を確認する西住隊長』って……あの、軍神立ちって何?

そもそも此れって、プラウダのフラッグ車が何処にいるのか確かめる為に視界を広げようとしてやったモノであって、試合には直接的な関係ってないよね?

 

 

 

「まぁ、新聞や号外の一面写真には、もっとも絵になるモノを使うと言う事だと思いますよみほさん?

 小沢さんが、車内の小窓から写真を撮っていたのは知っていましたけど、まさか此処まで良いショットを撮ってるとは思いませんでした――正直な事を言わせて貰いますと、このみほさんは同性でも惚れ惚れする程にカッコいいですよ?」

 

「まほさんは確実にこの写真を欲しがるでしょうね?

 ……若しかしたらアンツィオのペパロニ辺りが、資金集めの一環としてまほさんに自分が撮った写真を売りつけてるかもしれないわ。」

 

「まさか、其れは流石にないと思う……って言うか思いたい。」

 

私の事を大切に思ってくれるのは嬉しいんだけど、私が関係するとお姉ちゃんって時々暴走する事があるから、キッパリと『ない』って言えない部分があるんだよねぇ……まぁ、愛されてる証だと思うんだけど。

それはさておき、号外はなんて書いてあるかな?

 

 

 

『大洗女子学園決勝戦へ進出!――西住みほ隊長率いる、我が大洗女子学園は、準決勝で去年の優勝校であるプラウダ高校と激突!

 黒森峰から転校して来た西住隊長、並びに逸見エリカ隊員、赤星小梅隊員にとっては因縁浅からぬ相手ではないかと考えていたのだが、試合前の挨拶ではそんなものは全く感じさせなく、寧ろ互いに認め合うライバルのようであった。

 さて試合の方は、序盤は西住隊長にしては珍しく相手の策に引っ掛かってしまい、窮地に陥った上で降伏勧告までされてしまったが、西住隊長は諦める事なく、プラウダが回答期限として与えた3時間の猶予の間に偵察を行って反撃の準備をすると、3時間後には降伏はしないとプラウダの使者に伝えて反撃を開始。

 音と光のトリックを使ってプラウダの目を欺くと、立て籠もった廃墟の壁を破壊してプラウダの包囲網を抜け、其処から部隊を2つに分けて行動し、自らⅢ突をお供に連れてフラッグ車を捜索。

 もう片方の部隊は、フラッグ車であるⅢ号戦車を囮にする形でプラウダの本隊を引き付け、壮絶な戦車戦を展開!

 プラウダの副隊長であるノンナ氏が砲手を務めるIS-2にルノーR35が撃破されてしまったが、そのIS-2に逸見エリカ隊員のティーガーⅡが仕掛け、最強クラスの重戦車によるタイマン勝負が勃発!

 そうしている間に西住隊長はフラッグ車を発見し、其れを機銃で牽制しながらキルゾーンへと誘導し、最後は雪の中に姿を隠したⅢ突の一撃でゲームセット。

 最強級重戦車の一騎打ちは決着が付かずであったが、試合内容は実に見事な逆転劇であったと言えよう。

 だが、真に驚くべきは、序盤の相手の策に引っ掛かったのも、窮地に陥ったのも全て西住隊長と澤副隊長、そして逸見エリカ隊員と赤星小梅隊員で考えた作戦だと言う事だろう。

 まさか、自らピンチを演出し、その上で華麗な逆転勝利を収めてしまうとは、軍神とその弟子、そして軍神の片腕と懐刀の底はマッタク持って計り知れないと、改めて感じた次第であった……

 兎に角、此れで我が大洗女子学園は決勝戦に進出!この勢いのまま、絶対王者黒森峰を倒して、是非とも優勝して欲しい所である。』

 

 

 

うんうん、中々よく書けてるね?

廃校に関しての事がマッタク書かれてないのは、会長さんが戦車道履修者に緘口令を敷いたからだろうね……確かに、負けたら廃校になるなんて事が知られたら、学園艦中が大パニックになっちゃうのは想像に難くないもん。

だからこそ、絶対に優勝しないとだよね。

 

何よりも、無名の大洗女子学園が絶対王者の黒森峰を下して優勝したなんて事になれば痛快な事この上ないし、今年の黒森峰を私達が倒せば、お祖母ちゃんの西住流にハッキリと『ノー』を突き付ける事が出来るからね――ふふ、此れはちょっと漲ってきたかな?

 

 

 

「軍神招来とまでは行かなくても、闘気を揺らめかせておいて『ちょっと』な訳?」

 

「うん、『ちょっと』だよエリカさん。

 私が闘気を全開にしたら、どこぞの龍玉的漫画みたいに地面にクレーターが出来るかもだからね?」

 

「……何だか最近、みほさんが人間辞め始めてる気がします……」

 

 

 

うん、其れは若干否定できないかな?

まぁ、左腕を失った時から、右腕一本でも生活できるように色々と無茶なトレーニングとかして来たから、身体能力に関しては完全に人間辞めてるレベルだと思うしね。

尤も、西住流フィジカルトレーニングを普通に出来るようになってる時点で、大洗の戦車隊員は大分人間辞めてる部類だと思うけど如何かな?

 

 

 

「あ~~~……其れは確かに。」

 

「否定、出来ないわね。

 と言うか、黒森峰の連中だって体験版を完全に熟すのに2カ月ほど掛かるって言うのに、大洗の連中なんて約1ヶ月ちょいで完全版に移行してるのよね……そもそもバレー部の連中は最初から普通にやってたし。

 今更だけど、大洗は化け物の巣窟な訳!?」

 

「言い得て妙だね、さもありなん。」

 

でも、だからこそ此処まで来る事が出来たのも事実だよ。

練度の面で言うなら、マダマダ黒森峰の方が上なのは間違いないけど、その差は戦術と工夫で補う事が可能だし、こう言ったら何だけど大洗と黒森峰では背負ってるモノが違うから、優勝への執念はこっちの方が上だと思うから私達は負けないよ。

結局の所勝負事って、突き詰めて行けばより勝利に対して貪欲だった方が勝つ訳だからね、大概の場合は。――勿論、其れで楽しむ事を忘れちゃったら本末転倒だけどさ。

兎に角、決勝戦までに出来る事はまだまだあるから、其れを全て消化して行かないと。――先ずは、今日の昼休み、何処かにあるであろう戦車の捜索からだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

授業はサクサク進んで昼休み。早速みほ、小梅と共に戦車の捜索。沙織と華には、倉庫の方に行って貰って戦車の整備状況とかを確認してもらってるわ。

で、本日のランチは戦車を探さなきゃならないから、歩きながらでも食べられる簡単なモノね。……歩きながら食べるな?行儀が悪い?知ったこっちゃないわね。

因みにメニューは私が生ハムとトマトを挟んだバゲットサンド、小梅が○マザキのコッペパン2種(小倉&ホイップとピーナッツ)、そしてみほはコロッケ、焼きそば、ソーセージの総菜パン三種の神器を1つに纏めた戦車型の総菜パン、その名も『ガルパン(実在)』……いや、此れすっごいボリュームだわ。

 

「にしても、流石に簡単には見つからないわね戦車……幾ら学園艦の中ではあまり大きくないサイズとは言え、1つの町の中から戦車1輌を探し出すなんてのは『九牛の一毛』ってやつよね。」

 

「でも、学園艦の何処かにあるのは間違いないんですから此処は根気良く行きましょう?」

 

「小梅さんの言う通りだよエリカさん。急いては事を仕損じる、だよ?」

 

 

 

其れは分かってるんだけどね。

だけどみほ、仮に戦車を見付けたとして、搭乗員が居なきゃ意味ないわよね?……88mm搭載型は自動車部が乗るって事になってるから良いとして、若しも新たに戦車が見つかったら誰を乗せるのよ?

 

 

 

「確かに隊員の数が足りてないね……どんな戦車が見つかるかは分からないけど、最低でも3人は確保したい所だよね?」

 

「アテは?」

 

「ない♪」

 

 

 

全然駄目じゃないのよ其れ!!

戦車が見つかったってねぇ、其れを動かせる人間が居なきゃどうにもならないのよ?あの会長が、風紀委員の連中みたいに強引に連れて来るなら未だしも、隊員のアテがないんじゃ戦車見つけてもどうしようもないじゃないのよ!!!

 

 

 

「あの~~……西住さん。」

 

 

 

ん、誰?

私達に声を掛けて来たのは金髪ロングヘアーでビン底眼鏡を掛けて、頭に猫耳のヘアバンドを付けた生徒……見るからに怪しいわねコイツ?

 

 

 

「あ、猫田さん。」

 

「って、知り合いなのみほ!?」

 

「ううん、私が一方的に知ってるだけだよ。って言うかクラスメイトなんだけどエリカさん……」

 

 

 

マジで?……これ程の強烈なキャラなら忘れる筈がないんだけど、そもそも今の今まで気付かなかったって言う事は、強烈な個性が翳む程に影が薄いか、極度のコミュ障だったかのどちらかでしょうね。

 

 

 

「えぇとね西住さん、今からでも戦車道を履修する事って可能かな?

 可能なら僕も戦車道をやりたいんだけど……」

 

「本当に!?其れは大歓迎だよ猫田さん!!――あ~~……だけど今の状況だと猫田さんが乗れる戦車はないかな?

 新たな戦車を探してる最中だけど未だ見つかってないし、見つかったら見つかったで、猫田さん以外に最低でも2人の隊員が必要になる訳だからね。」

 

「隊員に関しては大丈夫。

 僕の知り合い2人を誘ってるから――其れと戦車だけど、僕何処に有るか知ってるにゃ。」

 

「「「!!!」」」

 

 

猫田、其れ本当?本当ならその場所に案内してくれないかしら?――急かすみたいで悪いけど、私等も決勝前に出来る事は全てやっておきたいのよ。優勝する為にもね。

 

 

 

「うん、勿論。其れじゃあ付いて来て。」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

で、猫田に案内されて到着した場所には確かに戦車が有った訳なんだけど、其れがまさかフランス戦車のソミュアS35だったとはね……今更だけどホントに大洗の保有戦車は統一感がないわね?

20年前の整備班には同情しちゃうと同時に感心するわマジで。

兎も角戦車は見つかった訳だけど、猫田貴女を含め、貴女が誘った人って戦車を動かした経験は?

 

 

 

「何時も動かしてるよ?……ゲームでだけど。」

 

「……西住隊長、物凄く不安になって来たので、決勝戦までの時間を使って猫田達を鍛えてやって下さい。」

 

「ゲームと実際の戦車は、マッタク持て全然違うのでお願いします西住隊長。」

 

「うん、任せておいてエリカさん、小梅さん。」

 

 

 

まさか猫田がゲーマーだとは思わなかったわ……もっと言うなら戦車を使ったオンラインゲームをプレイしていたとはね。

でも、ゲームで動かすのと実機を動かすのは全然違うから、其処から直して行くしかないでしょうね……まぁ、みほなら決勝戦までに何とかしてしまうでしょうけどね。

 

何にしても此れで新たな戦力を確保する事が出来たわ。

沙織にメールしたら、Ⅳ号がH型仕様になって、38tがヘッツァー仕様になったみたいだから戦力の底上げは確実に出来たのは間違い無いでしょうね……其れでも黒森峰とのスペック上の戦力を埋めるには至らないんだけど、其処は戦術と腕よねみほ?

 

 

 

「だね。

 大洗は此処まで、戦力差は戦術で補えるって言う事を証明して来た――なら、決勝戦でも其れを証明するだけだよ。」

 

「まぁ、当然よね。」

 

って言うか、其れを成し遂げてこそ家元の『西住流』を真っ向から否定する事に繋がる訳だからね……まぁ、家元は精々後悔すると良いわ。

己の歪んだ思想に捕らわれて、みほと言う才能を勝手な理屈で西住から追い出してしまった事を――そして、追い出された異端児が、流れ着いた先で戦車道を続け、西住に牙を剥いた事をね。

 

んで、その後猫田の知り合いってのと会った訳なんだけど……一言で言わせて貰うなら『濃い』。此れに尽きたわね。

『ぴよたん』って呼ばれてたのはそばかす少女って感じだったけど、『ももがー』は何と言うか凄かったわ――って言うか髪色は兎も角として、改造制服と桃の眼帯で良くもまぁ此れまで風紀委員に取り締まられなかったものだと感心するわね。

 

取り敢えずこの3人と自動車部を加えた面子が、決勝戦の最終メンバーになるのは間違い無い訳だから、決勝戦までの期間にキッチリと鍛えてやらないとだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

さて、授業は全て終わって戦車道の時間。

新加入である猫田さん達を皆に紹介してから訓練と思ってたんだけど、訓練の前に自動車部の人達からレストアが終わった88mm搭載型を見て欲しいって言われたから、訓練の指示はエリカさんと小梅さんに任せて、私と梓ちゃんとあんこうチームの面々は88mm搭載型を見に来たんだけど……

 

「此れは、流石に予想外だったよね梓ちゃん?」

 

「はい、予想外でした。

 と言うか、まさか此れをマジで使ってる所があるとは思いませんでした――まぁ、欠点に目を瞑れば、ティーガーⅠと同等の攻守力を持ってる訳ですけれど、その欠点が致命的ですからねぇ……」

 

「ポルシェティーガー!まさか生で見る事が出来るだなんて感激ですぅ!!」

 

「ゆかりんトリップしてるし……だけどみぽりん、この戦車って何か駄目なの?

 見た所装甲はバリバリ厚そうだし、主砲だって長砲身の88mmなんでしょ?絶対強力じゃん!」

 

 

 

あはは……確かに攻撃力と防御力が高いのは間違い無いよ沙織さん。

梓ちゃんも言ってたけど攻防力だけなら、最強の重戦車として名高いティーガーⅠと同じな訳だからね――だけど、ポルシェティーガーは開発された当時としては最先端すぎる技術を使ってたせいで問題も多かったんだよ。

まず足回りなんだけど、平地や固い地面ならマッタク持って問題ないんだけど泥濘に嵌ると車体が重い事も有って抜け出せなくなる。

そして致命的なのがエンジンかな?

当時としては最新鋭のハイブリットエンジンを搭載してたんだけど、技術的な問題点を解決する時間が無かったために画期的エンジンだったが故の欠陥が……ぶっちゃけて言うとガソリンエンジンで発電してモーターを駆動する機構に問題があって、エンジンが火を噴いたり、モーターが焼け付く事が多かったんだよね。

 

 

 

「アラアラ、あまり戦車とは呼びたく無い戦車ですねぇ?」

 

「ですが、アハトアハトは魅力です!」

 

「そうだね。アハトアハトは素晴らしいね。大好きだ。」

 

普通に考えれば欠陥機なんだけど、ポルシェティーガーだからこそ抜けられるルールの抜け穴があるって点を考えると、ある意味で此れは掘り出しモノだったかもしれないね。

自動車部の皆さんも、其れには気が付きましたよね?

 

 

 

「「「「勿論!」」」」

 

「良い笑顔でのサムズアップをどうもありがとうございます。」

 

その抜け穴に気付いたって言う事は『モーターが焼け付く欠点』は略なくなったと考えて良いかも知れないね――取り敢えず、約束通りこの戦車には皆さんに乗って貰いますのでよろしくお願いします。

 

 

 

「OK、任せて西住隊長。

 って言うか優勝するしかないっしょ?優勝しないと、大洗無くなっちゃうわけだしね?」

 

「あれ、その話知ってたんですかスズキさん?って言うか、自動車部の皆さん全員知ってる?」

 

「会長から聞かされたよ……マッタク、文科省相手に弩デカいギャンブルしかけたもんだよウチの会長はさ。

 だけど、此れまでの大洗の戦いっぷりを見てると、若しかしたら優勝出来るんじゃないかなって思ってるのも事実なんだ――決勝の相手は絶対王者って事らしいけど、私等なら勝てるかもでしょ西住隊長?」

 

「勝てるかもじゃなくて、勝つんですよ中嶋さん。」

 

『勝てるかも』と『勝つ』じゃあ、気持ちの持ちようが大きく変わりますから『勝つ』気で行きましょう!

そもそも私はハナッから優勝だけを見据えていたんです――対黒森峰の作戦は既に考えてありますから絶対に勝って、優勝して、大洗を廃校から救いましょう!

 

 

 

「「「「了解!!」」」」

 

「流石は西住隊長、ここ一番のカリスマ振りは健在ですね。」

 

「みぽりん、マジ凄い……」

 

「西住殿のカリスマは、時に敵をも魅了し味方に付けてしまう魔性の魅力を持ち合わせており、その魅力に取りつかれたら最後、二度と抜け出す事は出来ないのであります――そうなってしまった内の一人が私、秋山優花里でありまして……」

 

「おい、戻って来い秋山さん。」

 

「アラアラ、みほさんのカリスマ性は強力ですね♪」

 

 

 

自分では自覚が無いんだけどね。

でも、これで2チームが追加されて大洗の保有戦車は10輌!決勝戦に使用出来る車輌数の半分は確保出来た訳だから、悪くはないかな。

倍の戦力差位なら、充分引っくり返せる数字だからね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

其れからあっと言う間に時は過ぎ、いよいよ明日が決勝戦かぁ……新チームのアリクイ(ソミュアS35チーム)とレオポン(ポルシェティーガーチーム)の訓練は、アリクイの方が大変だったね。

一応基本の動かし方は出来るようになったけど、黒森峰を相手にするにはちょっときついレベル……と考えるのが普通だけど、基本を覚えたばかりだからこそ予想外の動きをする可能性もあるから、其れが黒森峰の虚を突く事になるかもなんだよね。

反対にレオポンの方は略問題なかったんだけど、ポルシェティーガーで戦車ドリフトは流石に無理だと思うんだツチヤさん――まぁ、戦車ドリフトは使えるようになれば強力なスキルだけどね。

 

因みにこの間に、アクアワールド大洗水族館の企画展示室で華さんの華道の個展が開かれたんだけど、まさか戦車型の花器を使っての豪快さと華麗さを併せ持つ作品を作り出すとは思わなかったよ。

この作品を見て、華さんのお母さんの百合さんも納得したらしく、華さんの勘当は無事に取り下げられたみたいだったしね。

 

さて、決勝前夜は月並みだけどカツを食べて勝負に勝つって事でカツパーティ。

あんこうとライガーとオオワシが揃ったから大所帯になっちゃって、寮の屋上でやる事になっちゃったけどね。

 

「トンカツじゃなくてシュニッツェルな所にエリカさんの並々ならぬ拘りを感じる件について。」

 

「トンカツも良いけど、仔牛のカツレツの方が高級感あるでしょ?――実際に、沙織なんかはシュニッツェルって言う料理名だけで目を輝かせてた訳だし。」

 

「成程ね。」

 

其れじゃあ、明日の勝利の為に!今日はカツを食べてゲン担ぎ!

其れでは、いただきます!!

 

 

「「「「「「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

と言う訳で始まった、カツパーティ。

その途中で他のチームの車長からメールが届いたんだけど……成程、考える事はみんな一緒だったみたいだね?

ウサギチームはカツサンド、カバチームはカツ丼、カモチームは串カツ、アリクイチームはハムカツパン、レオポンチームはカツカレー、極めつけはカメチームの戦車カツ――形は違えど、カツを食べて勝負に勝つをやってた訳だから。

ある意味でチーム一丸……ふふ、決勝戦前日に良い感じに纏まったのは嬉しい事だね♪――後は明日の決勝で、黒森峰を倒すだけだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

いよいよ明日が決勝か。

みほ率いる大洗が、お祖母様の言う西住流を体現している私が率いる黒森峰を下してこそ、私達の目的は成る――とは言え、手心を加えては何の意味も無いから、やるからには全力でやる心算だがな。

だが、ドレだけ全力を……否、死力を尽くしてもみほに勝つ事は出来ないだろうな私は。

 

 

 

「貴女がそんな事を言うなんて珍しいわねまほ?――と言うか、貴方の口から『勝てない』なんて言葉が飛び出すとは思わなかったわ。」

 

「ふ、そう言ってくれるな凛、弱気になってる訳じゃない、単純にデータを見た上での事を言ってるんだ。

 去年の私とお前の校内紅白戦の戦績は覚えているか?」

 

「覚えてるわ。20戦10勝10敗でしょう?」

 

「その通りだ。」

 

だがな凛、私とお前の合計20敗は、そのままみほ、エリカ、小梅に対する20敗になるんだ。

私の10勝とお前の10勝、その何方も勝った試合にはみほとエリカと小梅のチームを有していた……その3人が率いるチームを有していた方が勝利していたんだ。

つまり、去年の校内紅白戦に於いて、私もお前も只の一度もあの3人に勝つ事は出来なかったと言う訳さ。

更に大洗には、此の3人だけでなく、みほの一番弟子である澤も居る……隊全体の練度で言うなら黒森峰の方が上かも知れないが、プラウダをも下した大洗の力は正直底が見えん。

正直な事を言わせて貰うなら、戦車道を始めてから初めて私は対戦相手に恐怖を抱いているよ……底の知れない相手が、これ程までに恐ろしいとは思わなかったよ。

 

 

 

「まほ……大丈夫?」

 

「まぁ、大丈夫さ――幸か不幸か、西住流に撤退は無いとの教えのおかげで何とか立ち向かう事が出来そうだからね。」

 

確かに対戦相手に恐怖を抱いたのは初めてだが、だからこそワクワクして来ると言うのもまた事実だしね……何よりも、己の死力を尽くしたとしても勝てるかどうか分からない相手なんて最高だと思わないか?

そもそもにして、私はみほよりも1年早く戦車道の訓練を始めたのに、その1年のアドバンテージをみほはたった1週間で追い付いてしまった。

私が強くなれたのは、みほに追い抜かれまいと必死になっていたからさ――だが、みほは私の努力を簡単に乗り越えてピッタリと後について来たからな……みほこそが本当の天才だよ。

 

その真の天才を相手に、人より多少出来る程度の凡人が何処まで抗う事が出来るのか……あぁ、とても楽しみだよ。

 

何れにしても、明日が全てだ――お祖母様、貴女の言う西住流は明日を持って終わりを告げます。私とみほで終わらせます!!

そして、思い知らせてさし上げますよ、貴女の言う西住流が、如何に戦車道に於いて歪み切って間違っていたのかと言う事をね……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 




キャラクター補足



・中嶋悟子
大洗女子学園の戦車の整備を一手に引き受けている自動車部の部長。
柔らかい笑顔が特徴的な、優しいお姉さんタイプの外見だが、その外見からは想像も出来ない様な
高い技術力の持ち主で、彼女率いる自動車部の存在なくして大洗女子学園の戦車隊は語れない。
アンツィオ戦前に発見された88mm砲搭載型をフルレストアする代わりに、自分達が乗ると言った事から、決勝戦直前で戦車道を履修し新たなメンバーに。
フルレストアされたポルシェティーガーには、間違いなく何らかの魔改造がされていると思われる。


・スズキ
大洗女子学園の戦車の整備を一手に引き受けている自動車部の部員。
色黒でくせっ毛、更に背も高い。恐らくは、大洗女子学園一の色黒で、同じ色黒のホシノからも『スズキの色黒さは日本人離れしている。てか冬でも黒い。』と言われている。
自動車部に所属しているが、将来の夢はプロの戦車道チームを持つ事らしい。


・ホシノ
大洗女子学園の戦車の整備を一手に引き受けている自動車部の部員。
運転が上手で、「大洗一速い女」と呼ばれているが、戦車道では砲手を担当している。
スズキ程ではないが色黒で、何時もツナギの上半身を脱いで腰の部分で結んでいる。


・ツチヤ
大洗女子学園の戦車の整備を一手に引き受けている自動車部の部員。
そばかすと、ニパっとした笑顔が特徴で、ほのぼのとした印象を受けるが、ドリフトには並々ならぬ拘りを見せる。(17歳の為無免許だが、私有地である大洗女子学園艦内の道で運転するのは違反ではない。)
金曜日のドリンクバーが大好きな事から「ドリキン」とも呼ばれている。


・ねこにゃー
本名は「猫田」。みほとエリカと同じクラスだが、エリカには全くその存在を認知されていなかった。
常に猫背で、ビン底眼鏡に猫耳カチューシャ、ぼさぼさのロングヘアと見た目は怪しさ大爆発。
しかし、眼鏡を外すと物凄い美人。要するに『残念な美人』である。


・ももがー
ねこにゃー、ぴよたんとはオンライン戦車ゲームの仲間。
もう突っ込むのも面倒なくらいの派手なファッションで、此れまで風紀委員に摘発されなかったのが不思議でならない。
「~なり。」「~ぞな。」と言った口調で話す事も有る。


・ぴよたん
そばかすと頬にかかるほつれ髪が特徴的な少女。
ねこにゃー、ももがーとはオンライン戦車ゲームの仲間だったが、リアルで顔を合わせるのはチーム結成時が初めてだった。
付き合いの良い性格で、戦車道を履修したのもねこにゃーやももがーに誘われたから。
「~だっちゃ。」「~ずら。」と言う口調で話す事も有る。



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Panzer130『決勝戦会場に逆巻く闘気です!』

130話まで来たみたいだね?Byみほ        ったく、続くわね?Byエリカ       下手したら決勝戦だけで140話まで行くかもですねBy小梅


Side:みほ

 

 

さてと、いよいよ決勝戦当日だね?――今更聞く事ない事かもしれないけど、敢えて聞かせて貰うよ……エリカさん、小梅さん、気合とやる気の貯蔵は充分かな?

 

 

 

「衛宮乙。

 まぁ、貴女に言われるまでもなく、気合とやる気は充実しているわ……此の決勝戦を制すれば大洗は廃校にならずに済むし、家元の言う西住流を全否定できるのだからね。」

 

「私とエリカさんだけでも此れだけの気合とやる気に満ちてるんです……大洗の皆さんはもっと凄いかも知れませんよ?特にバレー部は。」

 

「うん、其れは否定できないね小梅さん。」

 

バレー部は気合と根性があればどんな事も出来るって思ってる節があるからね……まぁ、あながち間違いとは言えないんだけどさ。

だけど、皆の気合とやる気が充実してるなら、相手がお姉ちゃん率いる黒森峰であっても勝つ事が出来る筈だよ――うぅん、勝てるよ絶対に!

 

 

 

「言いきったわねみほ……世界広しと言えど、まほさんに勝つと断言できるのは貴女位だと思うわよみほ?」

 

「あはは……其れはまぁ、否定しないよ。」

 

って言うか、大抵の人はお姉ちゃんの名前を聞いた途端に委縮しちゃってるからね……『西住』の名に屈するようじゃお姉ちゃんの相手にはならないよ。

でも、私には其れは無いからね……戦車の数と性能差は兎も角として、私はお姉ちゃんに対する恐れはない――まぁ、尊敬はしてるけどね。

私の為にも、大洗の為にも此の試合は絶対負けられないから勝たせて貰うよお姉ちゃん!!

私達も気合を入れよう!!『み』!!

 

 

 

「『エ』!」

 

「『こ』!」

 

 

 

ファイ!オォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

 

 

決勝戦、私の持てる全てをぶつけて行くから、その心算でいてねお姉ちゃん――おばあちゃんの言う西住流、其れを完全に破壊してあげるからね!!

そして見せてあげるよお祖母ちゃん……隻腕の軍神が率いる大洗の力と言うモノを――私達の戦車道で、お祖母ちゃんの戦車道を叩き潰してあげるよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer130

『決勝戦会場に逆巻く闘気です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

到着した決勝戦の会場は、戦車道垂涎の聖地、富士の裾野だね……去年の会場が最悪のコンディションだっただけに、このフィールドはやろうと思えば市街地戦に引き込む事も出来るから、そうなれば数の利を潰す事が出来るかもだね。

 

まぁ、そう簡単に行く相手じゃないとは思うけどね。

 

 

 

「Heyみほ、応援に来たわよ!!」

 

「遂に決勝戦ね……必ず勝ちなさい。貴女達なら黒森峰に勝つ事が出来るって信じているわ。」

 

 

 

っと、ケイさんとナオミさん!!来てくれたんだ!!

 

 

 

「当然でしょう?嘗ての戦友の晴れの舞台に、エールを送らないなんて事を私がすると思うか?」

 

「あはは……応援メール位は入るかと思ってたんだけど、まさか直接とは思わなかったんだよナオミさん――しかも、ケイさんまで一緒に来るんだから、ちょっと驚いたよ。」

 

「Great!みほを驚かす事が出来たならSurprise成功ね♪

 とにかく応援してるから頑張ってね!私達だけじゃなく、応援団としてサンダースのチアリーダー部も連れて来てるから、目一杯応援させて貰うわよ♪」

 

 

 

サンダースのチア部って確かチアダンスの全国大会でも常に上位に食い込んでる強豪ですよね?

そんなチームが私達の応援に来てくれるだなんて、身に余る光栄ですケイさん!――その応援に応えられる試合を見せるって約束します!!

 

 

 

「OK!Excitingな試合を期待してるわよみほ♪」

 

「黒森峰の牙城、貴女達なら崩せると信じているわ。」

 

「えぇ、崩してやるから目ん玉かっぽじて見ときなさいよナオミ。」

 

 

 

エリカさん、目玉をかっぽじったら見る事は出来ないと思うんだけど……まぁ、『目をかっぽじって見よ』ってのは某アクションゲームのチュートリアルで若本ボイスの師匠が言った事なんだけどね。

 

 

 

「武人街は最高のクソゲーって評価もあるぜみほ?」

 

「ペパロニさん?其れに、カルパッチョさんも!来てくれたんだ?」

 

「おうよ、此の決勝戦は見逃す事は出来ねぇし、何よりも絶対王者黒森峰vs隻腕の軍神率いるダークホース大洗の決勝って事で、客席は超満員札止め状態だから、アンツィオとしても稼ぎ時だしな!!」

 

「ペパロニさん……まぁ、否定はしませんが。

 其れは其れとして、私達アンツィオ一同は、大洗の勝利を願って居ます……必ず勝って下さい――大洗が優勝したとなれば、アンツィオの皆にとっても良い刺激になると思いますので。」

 

「其れは確かにかもだね。」

 

無名の大洗が、絶対王者黒森峰を倒して優勝したなんて事になれば、其れは逆に言うなら戦い方次第では弱小校でも強豪校に勝てる可能性を示した事になる訳だからね。

いや、アンツィオが弱いって訳じゃないけど、戦車の性能差は知恵と工夫で補えるという事で……

 

 

 

「わーってるって。

 取り敢えず腹が減ってちゃ戦は出来ねぇからな、此れでも食って力付けとけよ?」

 

「ペパロニさん……うん、ありがとう!!」

 

ペパロニさんがくれたのは、大洗の戦車隊全員分の鉄板ナポリタンのパニーニサンド!此れを食べたら、皆の能力は3倍になるかもだよね♪

 

 

 

「否定できないわね……で、一般隊員が3倍なら、貴女は何倍になって戦車力はドレ位になる訳?」

 

「10倍以上の6000万です。――まぁ、其れでもまだ半分程度だけどね。」

 

「つまりみほさんの最大戦車力は1億2000万……フリーザ様の100%フルパワー状態と同じだとは驚きました。

 若しかしたら、何時の日かみほさんが宇宙を支配する日が来るのかも知れませんねぇ……まぁ、そうなれば地球は安泰かもですけれど。」

 

「小梅さん……私にそんな野望は無いからね?」

 

「うふふ、モノの例えですよみほさん♪」

 

 

 

ぐ……小梅さんて、大人しそうな顔してる割に、要所要所で結構ぶっこんでくるから実は油断が出来ないんだよねぇ……まぁ、其れもまた小梅さんの魅力なのかも知れないけどね。

 

 

 

「ハイ、ミホーシャ!応援に来たわよ♪」

 

「私達を下しての決勝戦出場、おめでとうございます。優勝まではあと1勝ですね。」

 

「カチューシャさん!其れにノンナさんも!!」

 

来てくれたんですか?……感激です!!

 

 

 

「来るのは当然よミホーシャ。

 貴女は既に私の同志なんだから、応援しないなんて選択肢は有り得ないでしょ?――兎に角、決勝戦も必ず勝ちなさいよ?こんな言い方をするのは如何かと思うけど、黒森峰なんてケッチョンケチョンにしてやりなさい!!」

 

「あはは……まぁ、頑張ります。」

 

実際に黒森峰をフルボッコにする心算ではありましたから――まぁ、黒森峰と言うよりもお祖母ちゃんの言う西住流をフルボッコにして再起不能にする心算だったんですけどね。

見ていて下さいカチューシャさん、ノンナさん……戦車道の歴史が変わるその瞬間を!

 

 

 

「歴史が変わるとは大きく出たわね?……なら、楽しみにしてるわミホーシャ!エリーシャ達も頑張るのよ!!」

 

「その瞬間を見届けさせていただきます。

 必ずや優勝してください。月並みですが、我等プラウダを下した大洗には、是非とも優勝していただかなくては、我々としても立つ瀬がありませんので……」

 

「勿論です。ねぇ、みほさん?」

 

「うん、元より優勝しか見据えてませんでしたから♪」

 

「言うじゃない?

 まぁ、それでこそミホーシャよね!それじゃあ私達は、そろそろ行くわね!Увидимся позже!(またね!)」

 

 

 

あはは……行っちゃった。

奇しくも、戦った順番で試合前のエールを貰う事になっちゃったね?偶然とは言え、ちょっと縁起がいいかも知れないよ此れは――でも、確実に来そうな人はまだ来て……

 

 

 

「みほさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

「噂をしたら影だったみたいよみほ?」

 

「相変わらず聖グロ生っぽくないと言いますか……」

 

「まぁ、ローズヒップさんだからね。身も蓋も無いけど。」

 

はい、土煙が後ろに発生する程の猛ダッシュは自分自身も周りの人にも危険だから、人が集まる場所では自重しましょう、ね!!

 

 

 

――ガッ!!

 

 

 

「す、進めねぇですわ……」

 

「ローズヒップのリミッター解除捨て身タックル、推定衝撃500kgを右腕一本で止めるとは、おやりになりますわねみほさん?」

 

「ダージリン様、失礼ですが彼女は聖グロ生らしくないのでは?……OG会が煩いのではありませんか?」

 

「エクレールさん、こんな言葉をご存知?『伝統とは守るモノではなく創るモノである。』」

 

「良く存じていますよ。私も、その思いを胸にマジノの改革を行ったのですから。」

 

 

 

ローズヒップさんの後からやって来たのは聖グロの隊長であるダージリンさんと、マジノの隊長であるエクレールさん――大会で戦った皆の後で現れたのは練習試合で戦った人達だったね。

お久しぶりです、ダージリンさん、エクレールさん。其れと、ローズヒップさんも。

 

 

 

「お久しぶりでごぜーますわ、みほさん!それからエリカさんと小梅さんも!!」

 

「ローズヒップ……あんた、いい加減その珍妙なお嬢様語は何とかならない訳?……もうちょっと教育した方が良いんじゃない田尻隊長?」

 

「逸見さん……まだ言いますの?」

 

「あは、ゴメンゴメン。

 姉さんから『ダージリンをからかうと面白い』って聞いてたから、ついね?」

 

「アールグレイ様ーーーーーーー!!!!!」

 

 

 

何と言うか、エリカさんとダージリンさんは相変わらずだねぇ?

って言うかエリカさんのお姉さんであるアールグレイさんもダージリンさんをからかってとは……もしかして、生真面目な人をからかいたくなるのは逸見の遺伝子なのかも知れないね。

 

「エリカさん、その辺で。

 ダージリンさん、エクレールさん、ローズヒップさん……来てくれたんですか?」

 

「もっちろんでごぜーますわ!嘗ての戦友として、そして今のライバルとして決勝戦前にエールを送らないなんて不義理はまかり通りませんでございますわ!!」

 

「ローズヒップさん……いえ、此れはもう突っ込むだけ無駄と言うモノですね。

 みほさん、私を初め、マジノ学園は大洗女子学園を応援しています――悔いの残らない試合に、いえ、必ずや優勝してください。」

 

「エクレールさん……はい、勿論です。」

 

「ふふ、私も其れを願っているのよみほさん。

 でも、貴女はとても不思議な人ね?――貴女と戦った人達は、例外なく貴女の味方になってしまった……そうね、貴女の独創的な戦車道に魅了されたと言えばいいのかしら?

 尤も、かく言う私もその一人な訳だけれど。

 貴女と戦った全ての人が、貴女が率いる大洗女子学園の勝利を願って居るわ――唯一貴女の所に来なかった、アンツィオの隊長が如何思って居るかは分からないけれど。」

 

 

 

アンチョビさんは仕方ないですよ……だって、ずっとお姉ちゃんと切磋琢磨して来たライバルにして親友なんですから。

中学と高校で1回ずつ戦った私よりも、己の戦車道の絶対的ライバルだったお姉ちゃんの方に気が向くのは当然だと思います――と言うか、この状況だと、アンチョビさんが居ないとお姉ちゃんは……

 

 

 

「これは失礼……少々配慮に欠けた発言だったわね。

 まぁ、私が何を言いたいのかと言うと、私達は大洗の味方だと言う事よ……みほさん、先程エクレールさんにも言った事だけれど、『伝統とは守るモノではなく創るモノである』わ。

 元より、伝統とは時代に合わせて変化していくモノ……旧来の陋習に捕らわれていては、何時かは朽ちてしまうモノなのだから。

 だからきっと、今日この日に、戦車道の新たな伝統が生まれるのではないかと思っているのよ私は……貴女達なら、其れが出来ると言う確信もあるのだけれどね。」

 

「ダージリン様、其れは少々プレッシャーを掛けているのでは?」

 

「うぅん、大丈夫だよエクレールさん。

 此れ位の事はプレッシャーにもならない……寧ろ、私の闘気と言う名の炎にガソリンを、寧ろニトロを打ち込んだようなものだからね!!」

 

「いや、其れ爆発するわよみほ!」

 

「爆発して更に燃え上がる……つまりそう言う事ですね!」

 

「うん、そう言う事だよ小梅さん。」

 

お礼を言いますダージリンさん。

ダージリンさんの言葉で、私の闘気はマックスを越えたメガマックス状態になりましたので、こうなった以上は誰が相手であっても負ける気がしません――ぶっちゃけ、お母さんが相手でも10回やったら10回とも私が勝つ勢いですから。

 

 

 

「西住流師範に対して勝率100%……其れは、凄いわね――そんな貴女にこの言葉を送るわ。

 『強者だから勝つのではない、勝った者が強者なのだ。』……ふふ、記憶には残っているのだけれど、誰の言葉かは忘れてしまったわ。」

 

 

 

ふふ、確かに言い得て妙な言葉ですね。

強いから勝つんじゃなくて、勝ったから強いんだ、か――ある意味で、大洗を端的に表した言葉かも知れないね此れは?

誰もが無名の弱小校だと思ってた筈だけど、蓋を開けてみれば格上の相手にジャイアントキリングを連発して決勝戦まで駒を進めて、これから絶対王者の黒森峰相手に挑もうとしてるんだから。

『大洗って強かったんだ』って思ってる人はきっと少なくない筈だからね。

 

 

 

「ガッデーム!大洗は強いに決まってんだろオラァ!!

 アイアム、蝶野!黒森峰だぁ?寝言言ってんじゃねぇ、大洗だけ見てりゃいいんだ!!ガッデメファッキンオラァ!!」

 

 

 

って、行き成りですね黒いカリスマ!?

えっと、聞くまでも無いと思うんですけど、応援に来てくれたんですよね?

 

 

 

「その通りだぜみぽりん!

 onsの面子だけじゃなく、レスラー仲間に知り合いの芸能人と、大洗町長と茨城県知事まで総動員してやったぜ!

 此処まで来たんだ、パンツァークライマックスを制して、極めようぜ、戦車の頂点!!」

 

「あはは……凄い大所帯ですね?

 でも、言われるまでもなく極める心算ですよ、戦車の頂点をね――そして、私達大洗女子学園が終わらせるんです、黒森峰一強状態の高校戦車道の現状を!!」

 

「オッシャー!!よく言ったぜ!其れでこそだ!!

 1回戦の時は、みぽりんに戦車道における何時ものやつをやって貰ったが、今回は俺達がプロレス流の何時ものやつをやらせて貰うぜ!

 行くぜ!1、2、3!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「だーーーーーーーーーーー!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

此れは、物凄い迫力だね?

うん、此れだけのパワーを貰ったら絶対に負けないね!――私達が受け取ったパワーは、大洗の皆に伝える事も出来るからね。

 

この会場のどこかで見ているであろうお祖母ちゃん……お祖母ちゃんの言う西住流は今日終わる――今大会、お祖母ちゃんの提唱する西住流を徹底して来たお姉ちゃんを、黒森峰を私達が倒す事で終わらせる。

 

己の考えが、ドレだけ戦車道にとってマイナスな事だったのかをその目に焼き付けると良いよ……大洗が黒森峰に勝つっていう事でね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:アンチョビ

 

 

はぁ、今年の黒森峰の戦い方から予想はしていたが、マッタク持って欠片程の応援も無いみたいだな西住?……こんな事を言ったらアレかも知れないが、今年のお前は完全に悪役だな?

 

 

 

「そうなるように戦ったからな。」

 

「やっぱり狙ってたのか。

 だが、今年は一体どうしたんだ西住?今年のお前は、何と言うかお前らしくない――圧倒的な火力で殲滅するのはお前の得意なやり方ではあるけど、今年の其れはちょっとやり過ぎだ……何だって、態々嫌われるような事をしてるんだ?

 フラッグ戦に於いて、明らかに格下の相手に対しての全機殲滅は批判の対象になる事位、お前だって分かっているだろう?」

 

「あぁ、分かっている。

 だが、今年に限っては此れで良いんだ――私が悪役になる事で……お祖母様の提唱する西住流を悪役に仕立て上げる事で、私とみほとお母様は世論を味方に付ける事が出来るからな。」

 

 

 

んん?如何言う事だ西住?

 

 

 

「お祖母様の提唱する西住流は、『勝利は命よりも重い』と考えている……其れにハッキリとノーを突きつける為にも、私は悪役になる必要があったのさ。

 私がヒールになって決勝戦まで駒を進め、みほがベビーフェイスで決勝戦まで駒を進めて来れば、恐らくは多くの観戦者が、20年ぶりの出場ながら決勝まで来た大洗を応援する筈だ。

 そんな状況で、悪しき西住流を体現した黒森峰が大洗に屈したとなればどうなるだろうだろうな安斎?」

 

「悪しき西住流は叩かれ、その正当性を言う事は出来なくなる……か?」

 

「正解だ。」

 

 

 

と言う事は何か?お前は、お前の婆ちゃんの言う西住流を否定する為に敢えてヒールになる道を選んだって言うのか!?……よくもまぁ、そんな茨の道を選べたな西住!!?

私では絶対に無理だぞオイ!!

 

 

 

「みほの為だ。

 あの子は私を遥かに凌ぐ才能がある……其れが、お祖母様の言う歪んだ西住流のせいで埋もれてしまうと言うのは、戦車道に於いて大きな損失なのでな……みほを守る為なら、私は悪魔にだってなるさ。」

 

「西住……!!」

 

其れがお前の覚悟か……本気で良いお姉ちゃんだなお前!!――あぁ、もう涙が出て来たじゃないか!!……お前の覚悟は良く分かったよ西住!!

だが、絶対に後悔しない様に戦えよ?

 

 

 

「あぁ、勿論だ。

 ……お前が来てくれて嬉しかったよ安斎。」

 

「ふ、水臭い事を言うな、友ならば当然だろう?」

 

「ふふ、お前はそう言う奴だったな。」

 

 

 

漸く思い出したのか?――そうだよ、私は友を放っておける性質じゃないんだ!

例え嫌われようとも、ダチ公が悩んでたり困ったりしてる時は徹底的に関わって、解決の糸口を見つけようとするのが私のやり方だからな!!

 

頑張れよ、西住!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

決勝戦前の最後のミーティングも終わって、後は試合が始まるのを待つだけだね――黒森峰がやって来るであろう作戦は全て考えた上でこっちの作戦を考えたから、如何仕掛けて来たとしても対処は出来る……って言うか、対処出来なかったら速攻で負けだからね。

 

 

 

「いやー、いよいよだねぇ?

 勝っても負けても此れがラスト……そんな訳で、試合前に隊長から一言もらえっかね?――西住ちゃん、頼むよ♪」

 

「会長さん……」

 

まさか、こう来ましたか……って言うか、此れは暗に『試合前に士気を上げろ』って言う事だよね――普通に考えれば無茶振り以外の何物でもなんだけど、此れは私の得意分野だよ!!

 

ふぅ……私達は、漸く此処まで辿り着きました。

決勝戦の相手は絶対王者の黒森峰ですが、私達だって1回戦でサンダース、2回戦でアンツィオ、準決勝でプラウダを倒して決勝戦まで駒を進めて来たんですから、実力で黒森峰に劣っているという事は無いと思っています。

 

だから、勝とう!勝って大洗を護ろう!!――全力で廃校を阻止だよ!!

 

 

 

「勿論です、西住隊長!!」

 

「廃校なんて、気合と根性でなかった事にする!!」

 

「いや、其れは無理だと思うわ磯辺……その気概は大事だと思うけどね。」

 

「大洗を廃校にはさせん……そうだろう西住隊長!!」

 

 

 

うん、優勝して絶対に廃校を阻止する!

そして、お祖母ちゃんの言う西住流を真っ向から否定する――って、こっちは完全に私の私的な目的なんだけどね。……だけど、利害は一致してるから、問題は無い。

 

私の戦車道が、お祖母ちゃんの西住流を粉砕する!!

 

 

 

「おぉ、気合十分だね西住ちゃん?……そんじゃ、何時もの行ってみようか?アレは士気が上がるからね♪」

 

「何時ものですか……了解です会長さん。」

 

其れじゃあ行くよ?泣いても笑っても此れが最後!

でも、どうせなら勝って終わらせたいから、勝って優勝を捥ぎ取ろう?――大丈夫、私達なら出来るから!!

大会制覇!優勝に向かってPanzer……

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「Vor!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

うん、気合は充実!!……此れは、負ける気がしないね!!

そして、覚悟は出来てるかなお祖母ちゃん?――歪んだ西住流が終焉を迎える覚悟が!!……尤も覚悟があろうとなかろうと、お祖母ちゃんの言う西住流は此処で叩き潰すけどね!

 

此の決勝戦は大洗の存亡を掛けたモノであると同時に、お祖母ちゃんの西住流の終わりの始まりだよ……歪んだ流派の終焉を、精々その目に焼き付けると良いよ!

 

お祖母ちゃん……私の戦車道が、貴女の戦車道を深淵の闇に叩き落してあげるから、楽しみにしているんだね!!

 

そして見せてあげるよ……西住みほの戦車道を――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer131『決勝開幕!ラストバトル其の一です!』

決勝戦、血が沸くね!Byみほ        拳も滾って来たわ!Byエリカ       では、大暴れと行きましょう♪By小梅


Side:みほ

 

 

いざ決勝戦!!

試合前の挨拶って言う事で、梓ちゃんと一緒に来た訳なんだけど……お姉ちゃんの目には、思わず身を固くしちゃったよ――だって、私の前に現れたお姉ちゃんは、底の見えない暗く濁った眼をしていたんだから。

 

お婆ちゃんの言う西住流を続けて来た事で疲れちゃったのかな?

 

「試合前にこんな事言うのは如何かと思うけど、大丈夫お姉ちゃん?」

 

「大丈夫だ、問題ない。

 其れよりもみほ、いよいよ此処まで来た……私は手心を加える心算は全く無いのでな……お前の、お前達の持てる力の全てを持って私達に挑んで来い。

 今年の黒森峰は、お前達の数倍は強いからな。」

 

 

 

うん、お姉ちゃんも良い感じに乗ってるみたいだね。

って事は、その濁った眼も演技なのかも知れないね――其れだけの演技が出来るお姉ちゃんに驚きだよ。『搦め手は苦手だ』なんて言ってたけど、中々どうして、出来るみたいだよ。

並の戦車乗りじゃ、あの眼に圧倒されてたかもだよ――私と梓ちゃんには効果が無かったみたいだけどね。

 

まぁ、何にしても此れがファイナルだから、勝たせて貰うよお姉ちゃん……否、黒森峰女学園隊長、西住まほ!!

 

 

 

「ふ、そう来なくては面白くない……お前の戦車道の真髄、見せて貰うぞみほ!」

 

「言われるまでもないよ……これ以上、御託は要らないよ!」

 

「だろうな、始めるしよう。」

 

「其れでは、これより第63回戦車道全国高校生大会決勝戦、大洗女子学園vs黒森峰女学院の試合を始める!お互いに、礼!」

 

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

 

 

さてと、ここから泣いても笑っても最後の試合が始まった――目指すは優勝だけだから、黒森峰の連覇は此処で終わりになる!って言うか此処で終わらせるからね!!

ファイナルバトル、思い切りやらせて貰うよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer132

『決勝開幕!ラストバトル其の一です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

ついに始まった決勝戦。

絶対王者である黒森峰に、今大会のダークホースである大洗が挑むと言う構図はとても分かり易く、言ってしまえば観客が最も見たい展開だったのは間違い無いだろう。

 

 

取り敢えず先ずは、両校のオーダーから見て行く事にしよう

 

 

・大洗女子学園

 

パンターG型×1(フラッグ車兼、隊長車)

Ⅲ号戦車J型改(L型仕様)×1

ティーガーⅡ×1

Ⅳ号戦車D型改(H型仕様)×1

Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)×1

クルセイダーMk.Ⅱ×1

38(t)改(ヘッツァー仕様)×1

ルノーR35改(R40型仕様)×1

ソミュアS35×1

ポルシェティーガー×1

 

 

 

・黒森峰女学院

 

ティーガーⅠ×5(内212号車は隊長車兼フラッグ車、222号車は副隊長車)

ティーガーⅡ×3

パンターG型×2

ヤークトパンター×2

Ⅳ号駆逐戦車/70(V)×2

Ⅲ号戦車J型×3

ヤークトティーガー×1

エレファント×1

???×1

 

 

 

と、この様なオーダーだが、大洗の戦車構成で驚かされるのは、新たに追加されたソミュアS35とポルシェティーガーは兎も角、準決勝までに使用していた戦車は、パンターとティーガーⅡとクルセイダーを除いて全てが強化改造されていると言う事だろう。

38(t)をヘッツァーに改造するのと違い、他の戦車は主砲の入れ替えや、シュルツェンの搭載だけだから出来たのだろうが、Ⅲ号とⅣ号とⅢ突を所謂最終形態にまで強化したのは見事と言えるだろう。

尤もこの改造は、H型仕様になったⅣ号と、ヘッツァー仕様になった38(t)を見たみほが『他の戦車も改造できないかなぁ?』と呟いたのが、自動車部の面々の耳に入り、やる気に火を点けてしまった結果なのだが……取り敢えず戦力が強化された状態で決勝に臨む事が出来た訳だ。

 

 

一方の黒森峰は、今大会徹底して来た『圧倒的な火力で相手を殲滅する』を究極的に突き詰めた構成であり、みほ、エリカ、小梅が在籍して居た頃とは全く異なる戦車構成となっていた。

みほ達が居た頃は、重戦車も当然使ってはいたが、主力は機動力のある中戦車だった。

其れが今年は、機動力など知らぬとばかりに兎に角高火力の重戦車をメインにしての殲滅撃滅極滅戦術を繰り返し、決勝戦ではヤークトパンターとエレファントと言う化け物まで投入して来たのだから、火力殲滅上等此処に極まれりだ。

もっと言うのならば、両校に一車種だけ認められている『シークレット権』を使って隠している戦車がある辺り、更なる化け物を用意していると考えて間違い無いだろう。

 

だがしかし、この構成は余りにも酷いとしか言いようがない。

準決勝までは車輌数は同数だったが、大洗の戦車数は黒森峰の半分しかない――にも拘らず、言い方は悪いが『数の暴力でのリンチ』としか思えない構成に観客席では……

 

 

「ガッデーム!!アイアム、チョーノ!!

 黒森峰ぇ!テメェ等にゃ、プライドってモンがねぇのかオラ!チャンピオンってのはな、相手の持てる力を全て受けて、その上で勝つ義務が有るって事を知らねぇのかアー!?

 圧倒的な火力で相手に何もさせずに一方的に殲滅する試合なんざ、見てる方だってつまらねぇ!エー、オイ、ガッデメラ!!」

 

 

黒のカリスマが盛大にブチ切れていた。

nOsのメンバーであるレスラー仲間にケンカキックをブチかまして、STFで絞め上げる程にブチ切れていた。(其れでもレスラー仲間を狙ってるのを見る限り、未だ理性は残っていたのかも知れないが……)

 

 

だが、其れもまた当然かも知れないだろう。

今年の黒森峰は、1回戦から『礼節など犬に食わせてしまえ』と言わんばかりの戦い方をして来た上に、決勝で(客観的に見れば)格下の相手に対しての滅殺上等な戦車構成となれば非難が出るのは然りだ。

黒のカリスマ以外の観客も、この黒森峰の戦車構成には物申したい者は居るだろう。

 

 

しかし、黒森峰の戦車構成に怒りを感じているのはあくまでも大洗を応援する観客だけの話。

 

 

「重戦車をメインにした火力重視のチーム構成のある意味での究極形だね?」

 

「そうね。

 問題はこのシークレットだけど……まほさんは何を使ってくる心算かしら?」

 

「お姉ちゃんは、多分私が最終的には市街地戦に持ち込むだろう事は予想してる筈だから、そうなると、市街地の何処かに此のシークレットが――多分マウスが配置されてると考えた方が良いだろうね。」

 

「マウス……アレを持ち出してきますか。」

 

「最強の化け物ネズミ……姉隊長は、其れだけ西住先輩を警戒してるって事ですね。」

 

「私だけじゃなく、エリカさんと小梅さん、そして副隊長の梓ちゃんもだけどね。」

 

 

実際に戦う大洗の隊長をはじめとした経験者組は、黒森峰の戦車構成からシークレットが何であるかまで予想していた――大凡、絶対王者に挑むダークホースと言う感じではないが、其れだけリラックスしている証拠かもしれない。

そして、この戦力差を見ても尚、隊長が恐れをなしていないと言うのは、他の隊員にとってはこの上なく頼りになるものだろう――実際に、経験者以外のメンバーも、絶対王者に此れから挑むと言うのに、緊張はまるで感じられないのだから。

 

或いはこの適度な余裕は、準決勝でみほ達経験者が『自らピンチを演出して、其処から逆転勝ちする』と言う事をやってのけたからなのかもしれない――あの状況から逆転できたのだから、どんな逆境でも跳ね返せると、良い意味で開き直っているのだろう。

 

 

――クイクイ……

 

 

「ん?如何したの紗希?」

 

「……頑張る。」

 

「紗希……そうだね、頑張ろう!!」

 

 

そして滅多に喋らない丸山紗希の一言で、大洗女子学園の闘気は一気にオーバードライブゲージを満タンにし、スーパーコンボレベルゲージをレベル3にし、クラフトポイントを200にする。

何だか意味不明かもしれないが、其れ程に闘気が漲ったと言う事だ。

 

そんな事をしている内に、両校ともスタート位置に戦車の配置が完了!

 

 

「其れでは、第63回戦車道全国高校生大会決勝戦、黒森峰女学院対大洗女子学園、試合開始!!」

 

 

「Panzer Vor!!」

 

 

「Panzer Marsch!!」

 

 

 

試合開始と同時にみほは『Panzer Vor』、まほは『Panzer Marsch』と、言葉は違うが、何方も『戦車前進』の意味を持つ掛け声で戦車を進軍させていく。

大洗にとっては廃校阻止のため、黒森峰にとっては11連覇のため、みほにとっては祖母の戦車道を否定し、己の戦車道を示す為、まほにとってはみほの戦車道の正しさと祖母の西住流の間違いを示す為の戦いの幕が今此処に上がった。

 

 

「さぁ、始めようかお姉ちゃん!」

 

 

進軍を始めた戦車で、みほはキューポラから身を乗り出し、パンツァージャケットの上着を肩に引っ掛けた状態の『軍神モード』となり……

 

 

「見せてみろ。そして魅せてみろみほ、お前の戦車道を。」

 

まほもまたキューポラから身を乗り出し、黒森峰のジャケットの特徴とも言える略帽を頭から外して握り潰す。

如何やら此の決勝戦は、夫々の思惑以外に、『史上最大の姉妹喧嘩』の要素も織り込まれているらしかった。(喧嘩と言うのは少し違うかもしれないが……)

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

さて、漸く試合が始まりましたか……数の上では黒森峰の方が圧倒的に有利でしょう。そして、勿論練度でも。

普通に考えれば、半分の戦力で、しかも隊員の殆どが素人なのだから黒森峰の勝利は絶対と言う所なのでしょうね――此れが一回戦であったのならば。

大洗は名立たる強豪を撃ち破って決勝戦まで駒を進めて来たのだから、決して侮れる相手ではないわ……寧ろ、最も警戒すべき相手であると言えるわね。

みほ達経験者がどんな訓練をしたのかは分からないけれど、其れでも此れだけ短期間に一流とまでは行かなくとも、一流と互角に戦える一流半になったと言う事は、大洗にはダイヤモンドの原石が眠って居たと言う事なのだから。

 

 

 

「そしてそのダイヤモンドは、試合の度に研磨されて輝きを増すだけでなく、試合の最中にも輝きを増すのですから、戦う側としては驚異ですよ奥様……彼女が隊長を務めていた二十年前の大洗とは違った怖さがありますよ、みほお嬢様の大洗は。」

 

「えぇ、その通りね菊代。」

 

此れまでの試合を見ると、みほは一見搦め手や奇策を駆使して戦っているように見えるけど、いざ試合を決める時になると敵フラッグ車を確実に撃破する為に私が教えた西住流を使って居るからね。

一回戦で使った高速スイッチも私が教えた『敵フラッグ車を孤立させる方法』をみほなりにアレンジしたモノだった訳だし。

加えて、幼い頃からまほの戦車道を見て来たみほは、恐らく母親である私以上にまほの戦車道を知っている上に、黒森峰のドクトリンも理解しているでしょうから情報アドバンテージは大洗にあると見て間違い無いわ。

加えて今年のまほは、お母様の『西住流』を否定すべく、その戦い方を徹底している……あの戦い方ではみほに勝つ事は難しいわね。

 

 

 

「ふぇっふぇっふぇ……ようやく始まったのう、しほや。

 戦力差は歴然な上に、練度に於いても黒森峰の方が遥かに上である状態で、更に黒森峰の指揮官は何れは西住流の後継者となるまほ。

 如何考えても大洗の勝利は望めぬなぁ?」

 

「……其れは如何でしょうか?

 みほにとって車輌数の差などはハッキリ言って問題ではありません――まさか、あの子が10歳の時に、たった1輌で門下生の操る5輌の戦車を瞬く間に撃破したのをお忘れですかお母様?」

 

「所詮は、子供相手に油断した大人の甘さがあってこそじゃ。

 その甘さが無いまほの前では、みほの一切は通じんじゃろうて……大洗の強運も此処までよ。」

 

 

 

成程、そう来ますか。

ならばお母様、一つ勝負をしませんか?

 

 

 

「ほう、勝負じゃと?ワシに何を挑むかしほよ。」

 

「簡単な事です。

 此の試合、何方が勝つか賭けませんか?――もしもお母さまが勝ったのならば、お母様の西住流こそが正道であると言う事を信じ、私はそれを門下生に伝えて行く事を約束しましょう。」

 

「其れは良い事じゃが……億に一つも有り得ぬが、ワシに何を賭けさせる心算じゃ?」

 

「私が勝ったら、その時は家元の地位を私に明け渡して貰います。」

 

「何じゃと!?」

 

 

 

驚く事でもないでしょう?

島田流はとっくに先代が隠居して、千代が新たな家元となっているのですから――にも拘らず、西住流は未だに皺だらけの老人が家元を務めていると言うのは、些か威厳がありませんからね。

あぁ、これはあくまでも私からの個人的な誘いなので断っても構いませんが……西住流の家元ともあろう御方が、逃げたりはしませんよね?

 

 

 

「良いじゃろう……大洗が黒森峰を下したその時は、家元の座はお前にくれてやろうしほ!

 じゃが、黒森峰が勝ったその時は、お前はワシが死ぬその時までワシに従って貰う!そして、みほに勘当を言い渡し二度と西住の敷居は跨がせんからな!!」

 

「どうぞご自由に。」

 

その様な事態にはならないでしょうからね。

 

さて、オーロラビジョンに映し出されている両校の進路は、大洗は草原をひた走ってその先にある高台を目指しているみたいで、黒森峰は大洗の道中に有る林を目指しているみたいね?

これは、黒森峰は電撃戦を仕掛ける心算のようね……大洗を真っ向から火力で圧倒すると思ったのだけれど、そんなのはみほなら読んでいると考えたのかも知れないわね。

 

この作戦が果たしてどんな効果を生むのか、とても楽しみではあるわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

しほの読み通り、大洗の部隊は高台を目指していた。

数で劣る以上、少しでもアドバンテージを得たいと思うのは当然の事であり、上から攻撃出来る稜線を狙うのはセオリー通りと言えるだろう。

尤も、みほの場合はそのセオリー通りにプラスαが有るから定石通りには行かないのだが。

 

 

「此処まで来ても黒森峰は仕掛けて来ない……大艦巨砲主義での殲滅は、決勝戦では使ってこないのかな?」

 

「あの戦車構成を見る限りでは、其れは考え辛いですが……」

 

 

だがみほは、黒森峰が仕掛けて来ないのが気になっていた。

其れは副隊長の梓も同様で、大洗が進撃すれば必ず黒森峰は真っ向から受けて立った上で圧倒的な火力で殲滅してくると予想していたにも係わらず、此処まで出黒森峰の戦車は1輌たりとも現れていないのだ……其れを不審に思っても仕方ないだろう。

 

 

「(こちらを警戒してるのかな?其れとも、足の遅い重戦車で固めたからもたついてる?……どちらにしても、攻撃が来ないのなら好機だね。)

 此のまま全速前進!稜線を取るよ!!」

 

「先ずは有利な状況をね?そんじゃあ、行きますか!!」

 

 

其れでもまずはフィールドアドバンテージを得ようと、稜線を目指して進撃し、途中にある林の前に差し掛かったところで其れは起きた。

 

 

 

――ドォン!ドォン!ドォン!!

 

――ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!

 

 

 

「「「「!!!」」」」

 

 

突如林の中から戦車砲と機銃が飛んで来たのだ。其れも無警戒だった横っ腹から!!

幸いにして大洗の左翼側に居たのは最強クラスの防御力を誇るティーガーⅡとポルシェティーガーだったために撃破される事は無かったが、これは完全に大洗側からしたら完全に奇襲だった。

 

 

「(まさかの電撃戦!!……やられたなぁ、此処はお姉ちゃんに読み負けたみたいだね?……だけど、これでやられる私じゃないよ!!)

 応戦!但し、砲弾を消費したくないので機銃で対応して!隙を見て発煙筒を!!」

 

「閃光弾でもOKです!先ずは此処を離脱する事を考えて下さい!」

 

 

其れでも慌てず、みほと梓は部隊に指示を出して行く――此処は流石の師弟の連携と言った所だろう。

だが、其れでも倍の戦力差があるのでは、隙を見て発煙筒や閃光弾を放つ機会は中々訪れず、此のままでは大洗がジリ貧になるのは確実だろう。

 

 

「妹様……せめて私の手で!!」

 

 

そんな中で嘗ての遊撃隊の一員だった狭山サトルはみほのパンターに狙いを定める――他の誰かに討たれるくらいなら、己の手でと言う事なのだろう。

その照準は、アイスブルーのパンターの弱点である後部装甲に合っている……故に、後は砲手に『撃て』と命じれば其れでゲームセットだ。

 

 

だが、ここで大洗にも、黒森峰にも予想だにしない事態が起こった。

 

 

「えぇっと、こんな時は如何すれば良いぞな~~?」

 

 

決勝戦からチームに加わったアリクイチームのももがーが操作を誤って急発進し、そのまま林の中の黒森峰の部隊に突撃!特攻!捨て身タックル!!何とも、実に見事である。

いかにみほに鍛えられたとは言え、其れは最低限のレベルだった故に、緊迫した状況で操作を誤ってしまったのだろう。

 

だが、此の操作ミスは思わぬ効果を齎してくれた。

 

 

 

『大洗女子学園、ソミュアS35行動不能。黒森峰女学院、パンター行動不能!』

 

 

 

突撃によってソミュアS35は撃破判定になってしまったが、その突撃によってパンターを道連れにしていたのだ。

運が良いと言えば其れまでなのかも知れないが、その運を手繰り寄せたのは間違い無くみほ達の――否、大洗の廃校阻止の目標が此の強運を引き寄せたのだ。

 

そして、これにより黒森峰の部隊には刹那の瞬間ではあるが虚を突かれ動きが止まってしまった――其れは精々1秒程度の時間だが、みほからしたら、戦場で確実に相手の動きが1秒止まると言うのは好機でしかない。

 

 

「(猫田さん……貴女達の犠牲は無駄にはしないよ!!)

 『ピカピカモクモク作戦』開始!先ずはこの場から離脱するよ!!」

 

「了解よみほ!!喰らいなさい!!」

 

 

その隙を突いて、全車から発煙筒と閃光弾が投げ込まれ、直後に林から昼間でも明るく見える閃光が溢れ出し、同時に白煙がモクモクと上がる……撃破判定は無いので、黒森峰の部隊は無事なのだろぐうが、この視覚的ディスアドバンテージを喰らったら直ぐには動けないだろう。

 

 

「裏をかいた心算だったんだが、其れにすら対処するか……とは言えこの煙幕では追えんな――煙幕が晴れ次第、大洗を追撃する!!」

 

「「「「「「「「「「Ja!!」」」」」」」」」」

 

 

アリクイチームが撃破されたが、相手のパンターも巻き込んだのだから実質上はイーブンと見て良いだろう――そもそも車輌差があるのだから1:1交換ではイーブンではないかと思うだろうが、その後の事を考えればイーブンと見ても問題は無い。

 

アリクイチームの特攻のおかげで、大洗はあの状況を脱する事が出来たのだから。

 

如何やら此の決勝戦は、戦車道の歴史に名を残すような試合になるのは略間違い無いだろう――何はともあれ、第63回戦車道全国高校生大会決勝は、ここからが本番だと見て間違い無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

まさかあれだけの重戦車を揃えた上で電撃戦を仕掛けてくるとは思わなかったよ……此れは、完全に私が読み負けた結果だね。

だけど、アリクイさんチームのおかげで、私が望む盤面まで持って行く事が出来そうだね……ふふ、悪いけどお姉ちゃんには徹底的に付き合っって貰うから其の心算で居てね?

 

決勝戦は、ここからが始まりなんだから!

私の持てる全てを投入するから、全部受けて貰うよお姉ちゃん!!――うぅん、お姉ちゃんだけじゃなくて絶対王者黒森峰女学院!!

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「軍神招来……来ましたねみほさん!!」

 

「インストールしたのは上杉謙信……あぁ、これは負けないわね。」

 

「元より勝つ心算だったけどね。」

 

兎に角多くのお客さんが望んでるのは、大洗の大物食いだと思ってるから、其れには応えない訳には行かないから……其れを成し遂げるだけだよ!!

もう10年間も王者の椅子に座ってたんだから、そろそろその椅子を受け渡して貰うよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer123『絶対完全無欠の戦士を撃滅せよ!です。』

黒森峰……徹底的に叩き潰す!Byみほ        そうよね……そう来なくちゃだわ!Byエリカ       悪役に落ちた王者にはお仕置きですねBy小梅


Side:まほ

 

 

OG会が強烈に推して来た、火力重視の部隊編成での電撃戦は、みほの裏をかく事が出来たみたいだが、ソミュアが此方に突っ込んで来た事で、逆に此方が虚を突かれる形になってしまったか。

あの突撃が計算されたモノであるとは考え難いが、偶然なのだとしたら、計算されたもの以上に恐ろしい――大洗が、此方の奇襲をやり過ごす事は天運によって決まっていたという事も出来るのだからな。

 

 

 

「此れは、完全にやられたわねまほ……みほは裏の裏も読んでたみたいだわ。」

 

「みほが読んでいたのか、それとも天運がみほに味方したのか、其れは分からないが、此方の奇襲が大した効果を上げる事が出来なかったと言うのは間違いないだろう。

 圧倒的に有利な戦力で電撃戦を仕掛けたにもかかわらず、結果は1:1交換だったのだからね。」

 

「1:1交換だと大洗が不利だけど、ソミュア1輌で他の9輌を逃がす事が出来たと考えれば十分すぎる効果だわ。

 そして、逃げたって事は今度はみほの方から仕掛けてくるわよね――みほは、きっと今回も無限に作戦を考えてるんでしょうね。」

 

 

 

あぁ、みほは強いだけでなく、次から次へと、奇想天外な作戦を思いつくからな……しかもその思い付いた作戦が、軒並み相手に刺さる作戦なのだから相手にとっては嫌な事この上ない。

 

閃光は対策としてサングラスを持って来ていたから辛うじて防げたが、こうも周りがスモークで覆われてしまっては追撃のしようもない。

此処はスモークが収まるまでは大人しくしているのが上策だ――或は此れすらもみほの思惑の範囲内なのかも知れないがな。

 

 

 

「その可能性、少し否定できないわ――みほは、中学の頃から兎に角搦め手が得意だったからね……貴女の妹は、相当に強いわ。」

 

「其れがみほだからな。」

 

ともあれ、煙幕が晴れたら行動を開始する!――さぁ、次はどんな一手を見せてくれるんだみほ?折角の決勝戦なんだ、お互いに出し惜しみはなしで行こうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer132

『絶対完全無欠の戦士を撃滅せよ!です。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

電撃戦を仕掛けて来た黒森峰に対し、大洗は(操作ミスが原因だが)アリクイチームが敵部隊に突撃をブチかまして相討ちだが1輌を撃破。

1:1交換ではあるが、この突撃によって黒森峰の攻撃の手が一瞬緩んだのは、大洗にとっては幸運だっただろう。その隙を突いて煙幕を張って次の行動に移る事が出来たのだから。

 

 

「いやぁ、しかし何時も以上に派手に煙幕張ったわねぇ?

 何この煙の量、旬のサンマを50匹一度に焼いたって此処までの煙は発生しないわよ?この分じゃ、強烈な風が吹かない限り、視界が回復するまでに最低でも5分はかかるんじゃない?」

 

「煙幕だけでなく閃光弾も喰らわせたから、もっとかかるかもしれませんよ?」

 

「お姉ちゃんだったら、閃光対策として全員にサングラスの携帯を命じてる可能性があるから、煙幕だけの効果時間を考慮して行動した方が良いかも知れないね。」

 

 

黒森峰の奇襲をやり過ごした大洗は、そのまま最初の目的地である稜線を取る為に斜面を登り始めていた。

みほの予定では、稜線を取りに行く途中で黒森峰と真正面からエンカウントし、其処で煙幕と閃光を喰らわせ、無傷の状態で稜線を取る心算だったのだが、まさかの電撃戦を仕掛けられた事で予定が僅かに狂ってしまった――こんな序盤でアリクイチームが脱落する予定ではなかったのだから。

 

 

「(大洗の1輌損失は、単純に考えて黒森峰の2輌損失に等しい――となると、この稜線での攻防で最低でも3輌は撃破しないと後々が厳しくなってくるかな。)

 カモさんチームは、大洗の部隊の一部を隠すように煙幕を継続、カメさんチームとアヒルさんチームは稜線の中腹まで登ったら作戦の為の準備をして。」

 

「了解よ西住隊長!」

 

「気合と根性で頑張ります!!」

 

「いやぁ、こんな大胆な作戦を思いつくなんて流石は西住ちゃんだね~?アタシが黒森峰の隊長だったら、即刻降参してるわ。」

 

「褒め言葉として受け取っておきますよ会長さん。」

 

 

だが、予定外の事態が起きても、みほは慌てる事なく着々と作戦を進めていく。

数で劣る大洗が稜線を取ってフィールドアドバンテージを得んとするのは、数や実力で劣るチームの常套手段とも言える作戦だが、如何やらみほはプラスαの一手を考えているらしい。

 

 

「西住隊長、煙幕が晴れ始めました……此処からですね本番は。」

 

「そうだね梓ちゃん……仕切り直しである稜線での戦いこそが本番だよ。」

 

 

大洗の部隊が稜線を上っている間に黒森峰の部隊を包んでいた煙幕は晴れはじめ、其処に僅かに風が吹いた事で煙幕が完全に晴れる。

だが、煙幕が晴れたその時、大洗の部隊は既に稜線の7割を登っていた所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

煙幕が晴れ、『さぁ追撃だ!』と言う所で黒森峰の部隊が見たのは、既に大洗が稜線の7割まで登っている光景だったのだが、それには隊員だけでなくまほですら驚きを隠せない様子だった。

煙幕が晴れるまでの間に、ある程度稜線を登ってしまう事は予想していたが、まさか此処まで早いとは思わなかった――と言うか、これ程のスピードで登るのを予測しろと言うのが無理なのだ。

 

何故ならば、大洗の部隊には足回りに難のあるポルシェティーガーと、重量級で足の遅いティーガーⅡが存在しているのだから。

 

 

「もうあんな所まで登ってる!?」

 

「しかも未だに煙幕撒き散らして!!……舐めるなよ大洗!!」

 

 

隊員達が色々言ってる中で、まほは静かに考えていた。

 

 

「(大洗のティーガーⅡは、レギュレーションギリギリの魔改造が施された戦車だから、本来の防御力を下げる代わりに車重を軽くしてエンジンと履帯への負担を軽くしているから、エンジンの出力を調整してスピードよりも馬力が出るようにしてやれば稜線を素早く登れるのも納得出来るが、ポルシェティーガーではそれは出来ない筈だが……否、ポルシェティーガーだからか!!)」

 

 

大洗のティーガーⅡは、みほが中学時代に手に入れ、その後魔改造が施された戦車であり、そのスペックは防御力こそオリジナルのティーガーⅡには劣るモノの、総合能力――特に機動力に関してはオリジナルのカタログスペックを上回っているのだ。

其れを考えれば、エンジンの出力を調整して、機動力でなく馬力に重点を置けば稜線を素早く登る事は可能なのだ。

だが、ポルシェティーガーはそうではない――と考えた所で、まほはポルシェティーガーだからこそ出来る裏技に気が付いたようだ。

 

 

「やられたな……確かにポルシェティーガーではあの稜線を素早く登る事は出来ないが、其れはあくまでも全てが実際のスペックに順じたモノであった場合に限られる。

 大洗のポルシェティーガーは、大戦期に使われていたモーターに魔改造を施し最大限までトルクチューンして馬力を上げ、ギア比の方は機動力を重視した設定にしていあるらしい。」

 

「へ?」

 

「うそ!?」

 

「其れってレギュレーション違反じゃないんですか!?」

 

 

まほが言った可能性について、声が上がるが、まほは其れを手を挙げて制すると、何故そんな事が出来たのかの説明を始める――部隊を稜線に向かわせた状態で。

 

 

「確かに大会にはレギュレーションが存在し、所謂『45年ルール』がある訳だが、実はこれには落とし穴とも言うべき抜け道が存在してる。

 エンジンは確かに当時のモノに限定しているんだが、モーターとギア比に関しては一切の制限がない――此れは、ポルシェティーガーなんて戦車を使う所はないだろうとタカを括っていた連盟の失態でもあるが、モーターの規制がない以上、ポルシェティーガーのモーターに如何なる改造を施してもルール違反と言う事は出来ない……少なくとも今大会中はな。

 ギア比についても同様だ――レギュレーションでは、ギア比については一切触れていないから、ギア比を本来のスペックとは違うモノに変えたところで、今大会中は其れを違法とする事は出来ない。」

 

「ま、マジっすか?」

 

 

其れを聞いた黒森峰の隊員全員が『勝つ為ならマジの意味で手段を選ばねぇ!』と思ったのも仕方ないだろう――ルールで禁止されてないグレーゾーンを堂々と使って来たのだから。

だが、此のグレーゾーン利用はみほが決めた事ではあるが、だからと言って勝つ為に形振り構わなかった訳ではない……改造するのはあくまでも戦車だけであり、偵察その他は全てルールの範囲内で行っていたのだから。

みほが嫌うルールのグレーゾーンは、偵察などの隠密行動に於いて、見つかるリスクを軽減するため、或いは絶対に見つからない空からの偵察のためにドローンなんかを投入するのを嫌うのである。

逆に言えば、グレーゾーンの戦車位はウェルカムと言っても良いだろう。――そもそもにして西住流と並ぶ戦車道の一大流派である島田流が流派の象徴としているセンチュリオンは、同じ戦車であっても試作機名称か、正式採用名称かでルール違反か否かが変わる可成りグレーゾーンの戦車なのだから。

 

何にしても今大会中に限ってはオーバースペックのポルシェティーガーは全然合法な訳だが、同時に其れは黒森峰にとって驚異となる戦車が大洗に存在している事にもなる。

ポルシェティーガーは色々と問題の多い戦車ではあったが、攻防力に限って言えば黒森峰の象徴とも言えるティーガーⅠと同格なのだ。

そんな戦車が機動力と馬力の両方を手に入れたら、其れはもう最強間違いなしとも言えるのだから。

 

 

「何れにしても、あそこまで登られてしまった以上、稜線はくれてやるしかない――が、数は此方の方が有利だ。

 数の差で押し、大洗を稜線から撤退させる!」

 

「「「「「「「「「「Jawohl!(了解!)」」」」」」」」」」

 

 

其れでも黒森峰に退くという選択肢はない。

普通ならば稜線を取られた以上、相手の土俵に乗るような事はせず、稜線に陣取った相手に別動隊を組織して奇襲をかけたり、敢えて退く事で稜線から引き剥がしたりするだろう。

だが、まほはそんな事はせずに真っ向から稜線に陣取った大洗に向かうように指示。……余りにも無謀な指示であるのは間違いないが。

普段のまほでも退くという選択はしないが、其れでも部隊を散開させて四方から取り囲むような布陣で稜線上の相手を逃がさないようにするのだが、今回は本気で真正面から向かっていく――其れこそが祖母の提言する西住流の戦い方だと理解しているからだ。

西住かほの言う『西住流』は、兎に角勝利第一主義であり、退く事を許さずに前に出て、圧倒的な火力で相手を蹂躙する事を是としている。

だから、稜線を取った相手に対しても真正面から挑む事しかしないのだ……故に、今年の黒森峰は一部の戦車道ファンから『突撃馬鹿の知波単以上の突撃馬鹿』と言う評価を下されていたりするのだ。

 

 

「やっぱり真正面から……まぁ、御祖母ちゃんの『西住流』ならそう来るよね。

 全車、撃ち方用意!……Schießen!!(撃て!!)」

 

「その命令を待ってたわみほ!Ich werde es aufgeben und mich darum kümmern!(纏めて薙ぎ払ってやるわ!)」

 

「最終形態となったⅣ号の力、たっぷりと見せてさし上げます!」

 

「L型になったⅢ号を舐めないで下さい!」

 

「有利な状況下で攻撃するって言うのはどんな気分かしらエルヴィンさん?」

 

「其れを聞くかそど子先輩?だが、聞かれたなら答えよう!最高にハイってやつだ!!」

 

「そど子じゃないわよ!!」

 

「そんじゃまぁ、ポルシェティーガーの主砲を喰らって貰おうかな♪」

 

 

そんな黒森峰に対し、稜線を取った大洗は、みほの号令の下に砲撃を開始!

同時に黒森峰の部隊に砲撃が矢継ぎ早に突き刺さる――機関銃と言うのは言い過ぎかも知れないが、絶え間ない砲撃が襲い掛かって来たのだ。

此れもまたみほの作戦だ。

如何に稜線を取ったと言えども、黒森峰相手にセオリーの戦術では通じないと考え、稜線を取った後の砲撃を、全ての戦車が微妙にタイミングをずらして撃つ事にしたのだ。

織田信長の火縄銃3段撃ちではないが、攻撃タイミングをずらす事で、砲弾装填→照準セット→砲撃の一連の流れで生じる攻撃の隙間を可能な限りゼロにしてしまったのだ。

更に、次弾が装填されるまでの間は機銃での攻撃もしているのだから、大洗の攻撃は戦車ガトリングと言っても過言ではないだろう。

 

そして、みほの作戦は其れだけに留まらない。

 

 

「じゃんじゃじゃーん!お邪魔するよ黒森峰の諸君♪」

 

「気合と根性でぶちかます!!根性最強ーーー!!」

 

 

「ヘッツァーとクルセイダー!?」

 

「この野郎、何処から湧いた!!」

 

 

黒森峰の部隊の両翼からカメチームのヘッツァーと、アヒルチームのクルセイダーが躍り出て、虚を突かれた黒森峰の部隊を強襲し、クルセイダーはパンターの、ヘッツァーはヤークトパンターの履帯を一刀両断!

中学時代のみほが得意としていた伝家の宝刀『履帯切り』を喰らわせたのだ。

 

 

「あ~~!また、履帯が……!」

 

 

しかも履帯を切られたヤークトパンターは、履帯を切られる事に定評のある(やな定評だな……)直下の車輌だったのだ……此れはぼやきたくもなるだろう。

 

 

 

――ピン

 

 

 

「ん、メール?……エリカから?試合中に何よ?」

 

 

そんな直下のスマホに試合中であるにも関わらず、エリカからのメールが入る。

何事かと思って直下もメールを開くが……

 

 

 

『履帯(笑)』

 

 

 

其処に書かれていたのは人の神経を逆撫でするには充分なモノだった――下手に絵文字を使わずに、シンプルな文面であるのが逆に見る者をムカつかせる事この上ない。

 

 

「エリカーーー!誰が履帯だ誰が!!」

 

 

無論、これには直下もキレる。まぁ、当然だろうが。

だがしかし、これだけで終わらないのがエリカだ。

 

 

 

――ピン!

 

 

 

「またエリカから?今度は何よ?」

 

 

再び受信したエリカからのメールを直下は開くが……

 

 

 

『誰が履帯(笑)ですかって?お前ーー!m9(^Д^)』

 

「ぶっ殺す!!!」

 

 

其処に書かれていたのは更にムカつく一文。

しかも今度は絵文字を使う事で逆に相手の神経を煽っているのだから見事だ……と言うか、人をイラつかせる事に関しては、逸見エリカと言う少女の右に出る者は居ないだろう。

 

其れは兎も角、ヘッツァーとクルセイダーの乱入は、黒森峰の部隊を混乱させるには充分だった。と言うか、部隊内をちょろちょろと動き回る戦車は鬱陶しいが、同士討ちのリスクもあるから攻撃する事も出来ない故に放置するしかなかったのだ。

其れが指揮系統の混乱を齎したのは、笑えない事ではあるが。

 

だが逆に指揮系統の混乱は大洗にとって好機でしかない。

攻撃の手が止まった戦車は、所詮的でしかないのだから。

 

 

 

――ドガァァァァァン!!×3

 

――キュポン!×3

 

 

 

『黒森峰女学院、パンター2輌、ヤークトパンター1輌、行動不能!』

 

 

その隙に、大洗の戦車ガトリングでパンター2輌とヤークトパンター1輌を撃破!

攻守速のバランスが良いパンターと、ティーガー並みの火力とパンターの機動力を有しているヤークトパンターを撃破出来たのは大きいだろう。

元々数の差があるので3輌撃破した所で黒森峰が圧倒的に有利なのだが、高性能の戦車を3輌撃破出来たと言うのは戦果としては充分だと言えるだろう――機動力の高い車輌を撃破してしまえば黒森峰は攻守力が高いだけの鈍亀でしかないのだから。

 

 

「(パンター2輌にヤークトパンターを1輌……取り敢えず此れだけ撃破出来れば充分かな?これ以上は、数の差のせいでこっちが不利になる

  からね。)

 全軍に通達。これより私達は作戦の第2段階に移行する――全車、『ブラックアウト』作戦を開始!」

 

 

そしてみほは、稜線での攻防は此処までだと考え、次なる作戦を発動!

その瞬間に、大洗の部隊から発煙筒が投げられたのだが、何と発煙筒から湧き上がったのは通常の白煙ではなく、より視界を遮る『黒煙』だった!……如何やら、大洗は発煙筒にも魔改造を施していたらしい。

 

 

「今度は黒煙だと!?……みほ!!」

 

「あーばよ、父つぁん!!」

 

 

完全に視界を失った黒森峰を尻目に、大洗の部隊は稜線を難なく離脱して、次の目的地である市街地へと向かう――そう、みほが最も得意とする市街地戦の舞台へとだ。

黒森峰の視界を完全に奪った以上、略確実に黒森峰よりも先に市街地に到着できるのは間違いないだろう。

 

 

「其れじゃあ、レオポンさんチーム、やっちゃって!」

 

「合点だい!」

 

 

更に、市街地へと通じる橋の一つを、ポルシェティーガーを使って落とすという抜かりの無さ!――おまけに落とした橋の手前には黄色のヘルメットを装備したみほとエリカと小梅が揃って頭を下げている『工事中』の看板を立てているのだから芸が細かい事この上ないだろう。

 

尚、此処まで到達した黒森峰の部隊は迂回路を探す羽目になったのだが、工事中の立て看板はまほがキッチリと確保したらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

アリクイさんチームが序盤でリタイアするって言うアクシデントはあったけど、アリクイさんチームの特攻のおかげで黒森峰が仕掛けて来た電撃戦をやり過ごす事が出来た訳だから、アリクイさんチームはある意味でMVPだね。

 

まさかの電撃戦に虚を突かれたけど、ここからは私のターンだよ!

この川を渡った先に、市街地がある訳だからね……川の深さは精々30cmほどだから、戦車だったら問題なく通る事が出来る――此処を突っ切って行くのが最短ルートだしね。

 

「上流からクルセイダー、Ⅲ号、ルノー、Ⅳ号、Ⅲ突、パンター、ポルシェティーガー、ティーガーⅡの並びで川を渡って行きます!」

 

「重い車輌を川下に配置する事で他の戦車が流される事を防ぐのね?……よくもまぁ、そんな事を思いつくって感心するわみほ。」

 

 

 

ふ、褒め言葉と受け取っておくよエリカさん。

古今東西あらゆる戦車道の作戦を知ってる私にとって、誰も思いつかないような作戦を考えるのなんて言うのは造作もない事なんだよ――あらゆる戦術を知っているからこそ、色んなアイディアが浮かんでくるしね。

そもそもにして、奇想天外な作戦を考えるのは、ある意味で私の趣味とも言えるしね。

 

何にしても、この川を無事に渡り切れるか如何かがこの戦いの結果を左右するのは間違いないだろうから、やるべき事全てやっておかねばならないだろうね。

 

其れじゃあ、行こうか!!改めて……Panzer Vor!!

 

 

 

「「「「「「Jawohl!」」」」」」」

 

 

 

うん、良い返事だね♪

其れでは此れより、市街地戦を行うために、市街地に向かって渡河を遂行する!市街地で黒森峰を迎え撃つよ!!

 

 

さて、川を渡り切れば私の十八番のフィールドまで一直線な訳なんだけど、何やら嫌な予感を拭う事が出来ないんだよね……具体的に言うなら、『水』に関する何かが起きる気がしてならないよ。

『水難の相』が出てた時に、去年の滑落事故が起きた訳だしね……この渡河は、是非とも何もなく終わって欲しいものだよ――今度こそ最悪レベルの事態が起きるであろう可能性は誰にも否定できないからね。

 

だけど、此処を渡らない限り市街地に到達する事は出来ないから、危険を承知で行かなきゃだね――そして市街地に入ったその時が、この戦いの本番だよ!

さて、行くとしようか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer133『エンジントラブル?其れを超えます。です。』

渡河……簡単な事じゃないよねByみほ        でも、貴女なら出来るでしょう?Byエリカ       隻腕の軍神の加護がありますからねBy小梅


Side:エリカ

 

 

みほの策が巧く嵌って、黒森峰を引き剥がす事が出来た訳だけど、市街地に向かうにはこの川を渡らないとならないのよね……100m程下流にある橋を渡っても良いんだけど、其れだと市街地に入るのに遠回りになるから使えないわ。

取り敢えず川の深さ的に水没する事だけは無いでしょうけど、結構流れが強いわね……どうやって渡る心算なのみほ?

 

 

 

「上流から軽い戦車順に並んで渡るのがベターかな?

 下流に重い戦車を配置しておけば、早々簡単に流される事は無いと思うし、上流の戦車がガードになる事で、足の遅い重戦車でもスムーズに川を渡れると思うしね。」

 

「モータースポーツで言う所のスリップストリームの応用って訳ね?」

 

「確かにその方法なら、可成り安全に川を渡る事が出来ると思います♪」

 

「えへへ。でしょ?」

 

 

 

えぇ、間違いなく此れなら川を渡る事が出来ると思うわ――予想外のアクシデントが起こらない限りはね。

尤も、アクシデントが起こった所で、みほなら最善の一手を選択して何とかしちゃうんでしょうけれど……今更言う事でもないけど、ホントにみほってば凄い戦車乗りだわ。

みほ自身は『まだまだお姉ちゃんには及ばない』って言ってたけど、私に言わせれば貴女はとっくにまほさんを超えてるんじゃないかと思うわ。

だからこそ、此の試合は負ける気が全くしないわ!

 

まほさんが率いる黒森峰は確かに最強かも知れないけれど、まほさんを超えたみほが率いる大洗は黒森峰を凌駕してるって胸を張って言う事が出来るからね。

一部では大洗は『危険な素人集団』とも言われてるみたいだけど、危険な素人集団だからこそエリート集団の常識は一切通じない――黒森峰の鉄壁の牙城は今日崩れる……ふふ、戦車道戦国時代の幕を私達の手で開けるとしましょうか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer133

『エンジントラブル?其れを超えます。です。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

黒森峰の奇襲を受けた大洗だが、その後はみほの指示の下で大勢を立て直して稜線での攻防を行い、黒森峰の戦車を3輌狩った所で稜線を離れ、一路市街地へと向かっていた――市街地戦ならば、みほの能力を十全に生かせるからだ。

だが、その前に立ち塞がる関門――其れが目の前の川だ。

浅い川なので水没する危険は無いが、だが流れが其れなりに速いので渡る際には注意が必要になるだろう。

そういう意味では、みほが提言した、『上流の方から軽い戦車順に並んで渡る』と言うのは、実に理に適った作戦だったと言える――実際に、上流方面に重量の軽い戦車を並べる事で川に流されるリスクを減らし、同時に其れが重戦車への水流を軽減し、足の重い重戦車の水面移動をサポートする事になっているのだ。

 

因みに隊列は上流から

 

 

Ⅲ号戦車J型改(L型仕様)

ルノーR35改(R40仕様)

38(t)改(ヘッツァー仕様)

クルセイダーMk.Ⅱ

Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)

Ⅳ号戦車D型改(H型仕様)

パンターG型

ポルシェティーガー

ティーガーⅡ

 

 

と言う編成だ。

よくよく見れば、最も軽いルノーR35改(以降R40と表記)ではなくⅢ号が最上流に配置されているようだが、これは『重すぎず軽すぎず』の絶妙な重量を持っていた事に依る配置だろう。

Ⅲ号戦車の重量は凡そ21tで、パンターの半分以下だが、其れでも最軽量のルノーR40よりも9t近く重量がある――加えてⅢ号は取り立てて強力な戦車ではないが、攻守速のバランスが高い水準で纏められている戦車であり、大戦期の『T‐34ショック』が起きるまでは『傑作中戦車』の名を欲しいままにしていた名機なのだ。

そのバランスの良さから、みほはⅢ号を最上流に配置したのだ――信頼できる性能と適度な重量がある戦車を最上流に配置すれば、最高の水除けになると考えたのだろう。

勿論それだけでなく、其処には副隊長である梓へのみほの絶対の信頼があったからこそ任せる事が出来た訳だが。

 

 

「其れにしても凄いね戦車って……こんな急な流れの川も渡る事が出来ちゃうんだ?」

 

「フッフッフ、これ位は戦車ならば朝飯前でありますよ武部殿!

 技術的な難が有ったので計画倒れに終わりましたが、大戦期には水陸両用の戦車の開発も行われていたくらいですから。」

 

「其れってマジなのゆかりん!?

 だとしたら戦車凄いじゃん!特撮映画とかだと速攻で踏み潰されて退場しちゃうやられ兵器なのに、実際にはめっちゃ強いじゃん!!

 みぽりん、これは戦車を低く見てる特撮映画スタッフに物申すべきだよ!!」

 

「うん、その気持ちはよく分かるよ沙織さん……私も子供の頃ゴ○ラ映画を見るたびに、戦車が速攻で踏み潰されるのを見て良い気分じゃなかったし――って言うか、戦車の扱いの悪さにお母さんが抗議に乗り出そうとしたくらいだからね。

 だけど、中学時代に私が弱小校だった明光大を優勝させた事と、去年の黒森峰のV10達成で、戦車道は盛り上がりを見せてるから、更に盛り上がれば戦車への見方も変わる筈だよ。

 だから、更に戦車道を盛り上げる為にもこの戦いには勝たないとね♪」

 

「ふむ……確かに絶対王者の名を欲しいままにしている黒森峰を、殆ど素人の集まりである大洗が下して優勝したら戦車道が大いに盛り上がるのは間違いないだろうな。」

 

「ポッと出の新参校が優勝したとなれば、其れはとても痛快極まりないですものね。」

 

 

その渡河の最中でも、あんこうチームの面々は緊張せずに、何時も通りのノリで会話をしている。――此れは、ある意味で凄い事であると言えるだろう。

可成りの集中力が必要となる渡河の最中であっても、普段の調子を崩さないというのは、其れだけ精神に余裕があると言う事なのだから。

そして、其れはあんこうチームだけでなく他のチームも同様だ。

ライガーチームではエリカが檄を飛ばして仲間達の気を引き締め、オオワシチームでは小梅が川と言う事から去年の救出劇を語って仲間の士気を高め、ウサギチームでは梓が『此処を渡り切れれば必ず勝てるから』と掛け声をかけて仲間の力を引き出しているのだ。

此れならば無事に川を渡る事が出来るだろう――観客席の大洗ファンもそう思った矢先に、其れは起きた。

 

 

 

――ブブ……ブブブ……ブスン

 

 

 

「へ?」

 

「エンジンが止まった……トラブルが起きたみたいだネ。」

 

 

あと20m程で対岸に到達するという所で、副隊長車であるⅢ号が突然のエンスト!

20年以上も放置されていた戦車をレストアして使っているのだから、不具合は起きて然りなのだが、このタイミングでのエンストと言うのは、あまりにもバッドタイミングが過ぎるだろう。

 

 

「Ⅲ号が……梓ちゃん!!」

 

『こちらは大丈夫です!自分達で何とかしますので、西住隊長達は行って下さい!!』

 

 

みほは咄嗟にⅢ号と通信を行うが、梓から返って来たのは『自分達を置いていけ』と言う趣旨の物だった――其れは間違いではないだろう。

後から黒森峰が追ってきている状況ならば、エンストした戦車は見捨てるのが上策だ……動けなくなった1輌にかまけていてフラッグ車が撃破されたなど、冗談にもならないのだから。

 

無論、みほも其れは理解している。

黒森峰に勝つ事を優先するのならⅢ号は此処に捨ておくべきだと――だが、其れをしてしまったら自分が否定する祖母の西住流と同じになってしまう……故にみほは悩むのだ。

去年の事故の時は、人命の危機があったから試合を止める事も出来たが、今回の事は試合を中断させるには理由が弱いと言うのも有るのかもしれない――この川で立ち往生した所で人命の危機があるとは言い難いからだ。

勝利を目指して見捨てるか、其れとも勝率を下げてでも助けるか……普段のみほならば迷わず後者を選ぶ所だが、大洗の廃校と己の戦車道の正しさを証明する為には勝たねばならない状況にあっては、迷いが生じるのも当然だろう。

 

 

「……行ってあげなよ、みぽりん。ううん、行くべきだよ。」

 

「沙織さん?」

 

「みぽりんは、助けたいんだよねウサギチームを。

 だったら、そう思った通りに行動するのが一番じゃないかって思うんだ。――って言うか、此処で見捨てるとかみぽりんらしくないと思うから。

 だから、ウサギチームを助けてあげてきて?」

 

「沙織さん……うん、そうだよね!!」

 

 

だが、ここでみほの背中を押したのは沙織だった。

通信士と言う事で目立った活躍が見られない沙織だが、これまで精神的な面でみほを支えて来たのは間違いなく彼女だ――そもそも、転校して来たみほ達にクラスの生徒で最初に声を掛けたのは沙織なのだ。

其処からあれよあれよという間にみほ達が戦車道を行う事になったと考えるなら、ある意味で沙織こそが大洗の戦車道を復活させた立役者と言えなくもないだろう。

 

その沙織の後押しを受けて、みほも迷いを断ち切りⅢ号の救援に向かう事を決意し、腰に命綱を巻き、手に牽引用のワイヤーを持ってパンターの外装甲の上に立つ。

此れから、戦車間を渡ってⅢ号まで行こうというのだ。――勿論それは無謀な一手であるのは間違い無いが、しかしみほの目に最早迷いはない……それどころか『仲間を救った上で勝つ』と言う思い、否、信念が宿っているかのようにすら見える。

 

いずれにせよ、隻腕の軍神は己の道を突き進む一手を選んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗が川でもたついていた頃、黒森峰の部隊は漸く大洗に追い付こうとしていた――まほの双眼鏡は大洗を捉えていたので、精々後数分もあれば大洗に追い付く事が出来るだろう。

 

程なく、黒森峰の部隊は大洗が渡河している場所を見下ろす高台に到着したのだが……

 

 

「みほが戦車を飛び移っている?……エンジントラブルでも起きたか?」

 

 

其処でまほが目にしたのは、最上流のⅢ号に向かって、戦車間の八艘飛びを披露しているみほだ――其れだけで、まほはみほが何をせんとしているのか理解した……みほは仲間を助けようとしているのだと。

 

其の事にまほは安堵の表情を浮かべつつも……

 

 

「全車砲撃用意。」

 

「へ?本気ですか隊長!?」

 

「単なる威嚇だ……だが、絶対に当てるなよ?――撃て!!」

 

 

攻撃命令を下す!!!

『絶対に当てるな』と言っている辺り、此処で大洗を撃破する心算は無いのだろうが、この局面を単純に画面で見たら最悪な事この上ないだろう……戦車間を八艘飛びしているみほに対して攻撃してるとしか思えないのだ――如何にまほが『絶対に当てるな』と言った所でだ。

 

 

そして、実際にこの光景を見た観客席からは即座に罵声が上がった。

 

 

「キタねぇぞ黒森峰!!仲間を助けようとしてる相手を攻撃するなんて、武士の情けって言葉を知らねぇのか!!」

 

「其れでも王者か!!恥を知れ!!」

 

「どんな形でも勝てばいいのだってか?そんな物が黒森峰で西住流だってんなら、王道名乗るの止めちまえ!お前等は王道じゃなくて外道の方が合ってるぜ!!」

 

 

彼方此方から上がる、黒森峰に対してのブーイングと非難の声……戦車道と言う競技の特異性から、競技を行っている選手に観客の声が届く事は先ず無いが、もしも客席の声が聞こえていたら、黒森峰の隊員達は思い切り顔を歪めていただろう。

それ程までに客席からの『黒森峰バッシング』は凄いのだ。

 

 

「ガッデメファッキン黒森峰!!アイアムチョーノ!!

 オイコラ、ふざけた事してんじゃねぇぞアー!!テメェ等、戦車道ってモンを何だと思ってやがんだ馬鹿野郎!!ヒールをやるにしても、ヒールにはヒールの守らなきゃならねぇ一線があんだぞオー!!!

 ヒールとして点数つけるなら100点満点中の10点だオイ!テメェ等はヒールじゃなくて外道だオラァ!分かってんのかガッデーム!!」

 

 

其れは勿論、大洗応援隊『nOs』を率いる黒のカリスマも同様だ。

両校のオーダーを見た時以上にブチ切れ、もしも此処が観客席でなかったら、手当たり次第にケンカキックを叩き込んだ後に、STFで絞め上げている所だろう。……既にパイプ椅子を手にしている辺り、場外乱闘が始まる可能性が捨てきれないが。

 

観客席がこれ程紛糾するまでに黒森峰の行為は問題だったのだ――当たり前だ、戦車外に人が出ている所に攻撃しているのだから。

まほの『絶対に当てるな』と言う命令を知らない観客からしたら、戦車間を八艘飛びしているみほに、何時砲弾が当たるか気が気でない訳であって、其れが結果として黒森峰に対してのバッシングになっているのだ。

 

が、この光景に誰よりも衝撃を受けた人物がいた。

 

 

「しほ……まほは一体何をやっておる?」

 

 

其れは誰であろう、他でもない西住流家元の西住かほだ――此れまでの勝利絶対至上主義を掲げていた不遜な老婆ではなく、オーロラビジョンに映し出されている光景に衝撃を受けているようだ。

 

 

「何って……お母様の仰る西住流を、極めて正しく行っているのでしょう?」

 

「何じゃと……?」

 

「何を驚いているのです?

 お母様は勝利は命よりも重いと考えているのでしょう?ならば、相手チームの人間が戦車外に出ている所に攻撃したとてマッタク問題はない筈では?――特に相手の隊長が戦車外に居るのであれば。」

 

「馬鹿者!戦車に乗っている相手ならば、特殊カーボンが護ってくれるから手加減も容赦も必要ないわい!

 じゃが、生身の相手では……仮に人に当たらずとも、戦車に当たればその衝撃でみほが落ちるかも知れん……そうなったら!!」

 

「そうなったら、大洗は指揮官を失い、黒森峰に勝利が舞い込む事になるでしょうね。」

 

 

その姿を見たしほは、かほからの問いかけに『まほは貴女の言う西住流を正確に体現しているだけだ』と告げ、寧ろ何処に問題があるのかと言わんばかりの態度で接する。

しほとて、かほの『勝利至上主義』が『戦車道に於ける戦車の安全性』が前提になって居る事は知っている。(尤も、特殊カーボンで、砲弾が装甲を貫通しない安全性しか見ていないのだが。)

だからこそ、相手の事まで心配するみほの事を『甘い』と断じ、みほの戦車道を『邪道』としていたのだ――が、生身の人間が戦車の外に出ている状況での攻撃に、一気に血が冷めたらしかった。

 

 

「そして、黒森峰が勝利すれば、賭けはお母様の勝ちとなり、お母様の言う西住流を――勝利の為ならば、自他問わず命すらコストにする流派を広める事が出来るのですから、もっと喜んでも良いのでは?」

 

「違う……ワシが言って来たのは、こんな事では……」

 

「いいえ、こんな事なのですよお母様。

 その証拠に、お母様は去年、水没したプラウダの生徒を助けたみほ達の行為を非難しました……其れはつまり、勝利の為ならば相手の命がどうなろうと構わないという事でしょう?

 あぁ、特殊なカーボンがと言うのは聞きませんよ?……戦車内への浸水は、特殊なカーボンで防げるモノでは無いのですから。」

 

「!!」

 

 

更にしほから、これまで声高に主張して来た西住流の間違いを真っ向から指摘された上で、更に暗に否定された事にショックを受け、かほはその場に膝をついてしまう。

如何やら、真に人の命が危険に晒されている状況を自らの目で見た事で、漸くかほは己の過ちに気付き、気付かされたのだろう――今まで自分が何を言って来たのかを理解したかほは、完全に家元としてのプライドが砕かれてしまったようだった。

 

 

「まぁ、みほに砲弾が当たる事は無いでしょうけど……あの子ってば、どこぞの英雄みたいに『矢避けの加護』を受けてるんじゃないかって錯覚する位に砲弾を避けるのよね。

 キューポラから身を乗り出してる時だって、あの子に砲弾が当たった事ってないし……回避と運の値が255なのは間違いないわね。」

 

「いえ奥様、更に見切りと幸運の重ね掛けで運と回避は260まで上昇しています。」

 

「あらそうなの?なら、みほに黒森峰の攻撃が当たる事は絶対にないわね。」

 

 

しほと菊代の会話は兎も角、この一件でかほの考えは粉砕されたと見て間違いないだろう――まほが、これを見越して攻撃命令を下したのかは分からないが、もしそうだったのだとすれば目論見は成功したという事だ。

 

だが、そうだとしても観客席からの怒号は止まらない。

其れはつまり、かほが提言し、まほが体現した西住流が世間から『ノー』を突き付けられたという事でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席でそんな事が起きてるとは露知らず、みほは戦車間を八艘飛びで渡って、遂にⅢ号に到達。……助走なしで、最大3m超の距離を跳躍したみほの身体能力は恐るべきだが、其れこそ今更だろう。

 

 

「西住隊長?」

 

「梓ちゃん、助けに来たよ!」

 

 

だが、Ⅲ号に到着したみほを、梓は驚いた顔で見ていた。

当然だ。梓は自分達を捨て置いて行けとみほに言った――無論、エンスト程度ならば何とか出来ると思っていたし、置いて行かれても黒森峰の戦車を数台は道連れにする心算で居たのだから。

 

 

「隊長、如何して!!」

 

「如何してって……此れが私の戦車道だからだよ梓ちゃん♪」

 

「隊長……そっか、そうですよね。其れが西住隊長の戦車道ですから!!」

 

 

だが其れも、みほの一言で納得の表情に変わる。

此れが私の戦車道――其れはつまり、『チーム皆で勝つんだ、其れが私だから』と言う事に他ならない。ならば、一番弟子としては師の思いを無下に出来る筈はない。

 

すぐさま他のクルーを戦車上に呼び出すと、みほが持って来たワイヤーを引っ張り車体に巻き付けて固定して行く。こうしてしまえば、残る8輌の戦車で対岸まで引っ張る事が出来るのだ。

更にエンジンが動かなくとも、Ⅲ号は攻撃は可能なので黒森峰に対して応戦する事も出来る。

 

 

「これで良し……エンジントラブルはアクシデントだったけど、でもエンジンが死んだとは考え辛いから、必ず復活するから諦めないで。

 諦めなければ、必ず道は開けるって言うしね。」

 

「分かってます。

 と言うか、エンストが原因で撃破されたとか洒落にもなりませんから……大丈夫です、必ず復活しますから信じていてください西住隊長!」

 

「うん、信じてるよ梓ちゃん。」

 

 

牽引の準備が整うと、みほと梓は拳を一度軽く合わせる――だけでなく、みほは梓の頬に『頑張って。期待しているよ』の意を込めて軽いキスを落とした後に、再び八艘飛びでパンターへと戻って行った。

 

 

「西住隊長……此れは絶対に此処で終わる事は出来ないよ!!」

 

 

みほとしては軽い挨拶の心算だったのだが、其れが梓のやる気を爆増させる事になったのだから、隻腕の軍神恐るべきである。

そして、その甲斐あってか――

 

 

 

――ドルゥゥゥン!!

 

 

 

「動いた!!」

 

「此れなら行けるネ……梓!!」

 

「全速前進!砲塔を後ろに回して黒森峰に応戦!!当たらなくても良いから、此方が対岸に渡り切るまでの間、相手の攻撃の手を緩めて!」

 

「アイサー!了解したよ副隊長!!」

 

 

エンジンが復活し、Ⅲ号は戦線に復帰!

紗希の装填速度と、あゆみの射撃がこの上なくかみ合って黒森峰の部隊に損害は与えられなくとも、攻撃の手を緩める事に一役買う活躍をしたのは間違いない。

 

 

「其れじゃあ、次は市街地で会おうね、黒森峰の皆さん!」

 

「でも、市街地に来るなら覚悟を決めて来なさい――市街地戦こそが、みほの本領発揮なんだからね。」

 

 

程なく、川を渡り切った大洗の面々は、そのまま全速力で対岸から離脱し、一路市街地に!

其れを追う黒森峰だが、火力重視の重戦車メインの構成が仇となって、思いのほか川を渡るのに手間取ってしまい、手早く大洗を追撃する事は出来なかった――つまり、大洗に市街地戦での準備の時間を与えてしまったのだ。みほが最も得意とする市街地戦の準備をさせる時間を。

……この事実は、黒森峰からしたら悪夢でしかないのかもしれない――と言うか悪夢其の物と言えるだろう。

 

何れにしても、これから始まる市街地戦に於いては、己の常識は通用しないと言う事を再確認すると共に、市街地戦でみほ率いる大洗と戦うと言う事が何を意味するのかを心の留めておかねばだ。――如何に王者とは言え、軍神の庭に入ったら、只では済まないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

ふぅ、Ⅲ号がエンストするトラブルはあったけど、其れは何とかなったから大した問題じゃなかったかよ――寧ろ、問題があるとしたら、この市街地の何処かにマウスが潜んでる可能性が有るって言う事だよ。

攻守力は最強だけど、鈍足の超大型のネズミを使うとすれば此処だから。

 

 

 

「みほ、如何やら貴女の予想は当たったみたいよ――来たわよ、奴が!!」

 

「やっぱり市街地に配置されてたか……」

 

現存する大戦期の戦車では間違いなく最強の主砲と、分厚い装甲を備えた、最強にして最悪の戦車――其れが此処で遂に解禁されたか。

 

「マウス……!」

 

コイツだけは、其れこそどんな手を使ってでも撃破しないとだよ……!!マウスを生き残らせてしまったら、こっちの計画は失敗してしまうから。

だから、必ず撃破しなくちゃだね!

 

 

 

「まぁ、行けるんじゃない?

 こっちには私のティーガーⅡに貴女のパンター……ネズミの天敵であるネコ科の大型肉食獣である虎と豹が居る訳だし。」

 

「ネズミは猫に狩られるモノって?巧い事言うねエリカさん♪」

 

「なら、食物連鎖の掟に従って、狩るとしましょうか――史上最大級のネズミを。」

 

 

 

勿論だよ小梅さん。

マウスが相手である以上、無傷で撃破って言うのは難しいかも知れないけど、市街地である以上は必ず撃破する事は出来る――使える策が無限大になる市街地戦なら、裏技・搦め手上等だしね。

隻腕の軍神の真骨頂、少しだけ味わって貰おうかな♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer134『超モンスター重戦車マウスです!』

パンツァーマルシュ、アイムマウス!Byみほ        100t超のクラッシュ!Byエリカ       Panzergreift anBy小梅      グァッデーム!By黒のカリスマ


Side:みほ

 

 

渡河を無事に終えて、市街地に入った私達を待っていたのは、史上最強の攻撃力と防御力を備えた、カタログスペックで言うなら間違いなく大戦期最強の超重戦車『マウス』。

マウスの極厚装甲は、大洗の戦車じゃ、其れこそティーガーⅡやポルシェティーガーの主砲でも貫くのは不可能なレベルだって言うのに、マウスの主砲なら大洗の戦車を簡単に撃破する事が出来るって言うんだから、分が悪い所の騒ぎじゃないかな此れは。

 

だけど、マウスを残しておいたら其れこそ大洗の勝率は0になるかも知れないから、確実に此処で撃破しないとだよね。

でも、本当にマウスを持ち出してくるなんて……並の戦車乗りだったら、圧倒的な攻守力に戦意を削がれちゃう処だよ。ルールで使用が許可されてる戦車の中で、真っ向からマウスを撃破出来るのは、同じマウスかヤークトティーガー位だからね。

 

 

 

「まったくマウスまで持ち出してくるとか、幾ら何でも過剰戦力じゃないの黒森峰は――無名の大洗を相手にするにしてはやり過ぎよ。」

 

「まぁ、其れだけ黒森峰はみほさんを脅威に感じてるのかも知れません――まぁ、マウスを投入した所でみほさんが如何にかなるとも思えませんけど。」

 

「赤星先輩、みほさんは誰が相手でも絶対に怯みませんよ。」

 

「其れはもう、存じ上げていますよ澤さん。」

 

 

 

だけど、最強レベルの兵器が出て来たとしても、私達のチームは、大洗は怯まない!――あらゆる手段を持ってして、狩らせて貰うよマウス。

黒森峰の本隊が市街地に入ってくるまでには必ず撃破して見せる。

マウスは、必ず此処で仕留めるよ!!――幸いにして、此処は市街地だから、私の切れる手札は無限にあるって言っても過言じゃないから!

 

 

 

「確かに、市街地戦での西住隊長は無双ですからね。――そのノウハウを全開させれば、マウスとて恐れる相手ではないって事ですね。」

 

「そう言う事だよ。」

 

さて、その巨躯は迫力があるけど、決勝戦の舞台には邪魔になるから、早々に退場して貰うとしようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer134

『超モンスター重戦車マウスです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

無事に渡河した大洗だが、進んだ先の市街地には、トンデモない相手が獲物を求めて佇んでいた――そう、最強の超重戦車と言われる『マウス』だ。

エンジンが弱いせいで極めて鈍足だが、128mmの主砲と、200mmオーバーの装甲を備えているなら『動く砲台』としても優秀と言えるだろう。

足が遅いと言う唯一の弱点があるモノの、マウスは黒森峰にとって『虎の子』とも言える戦車だ――故にシークレット登録し、別行動を執らせて市街地に潜ませていたのだ。

この辺りはまほが『みほは必ず市街地戦を仕掛けてくる』と予想しからだろう。

 

大洗最大のティーガーⅡが小さく見えてしまう程の巨躯は、見る者を圧倒する迫力があり、この最強重戦車の登場には観客席もざわつきを見せている。

 

 

「マウスだと?グァッデーム!!オイ天山、お前も何か言ってやれ!!」

 

「冗談じゃねぇぞ、何とかしろよオイ!!」

 

 

……ごく一部は、過剰戦力とも言える黒森峰の編成に、更に怒りを募らせていたが。

 

だがしかし、大洗の面々は怯まない。怯まない所か――

 

 

――ダン!!

 

 

みほはキューポラの上に右足を踏み載せ、立てた膝に肘を乗せ鋭い眼光でマウスを睨み付け、梓もまたキューポラの上に立ちパンツァージャケットの上着を右手で持って肩に引っ掛けている。

 

 

「乙女と戦車の二つの道が、捩じって交わる戦車道!!」

 

「仲間を信じて強敵を砕く!硝煙の中で勝利を掴む!!」

 

「私を!」

 

「私達を!!」

 

「「誰だと思っていやがる!!!」」

 

 

突然のみほと梓の啖呵切り!!

其れを合図に始まる大洗の部隊の一斉攻撃!!微妙に発射間隔をずらして行われる攻撃は、稜線での攻防で見せた戦車砲でのマシンガン攻撃だ。

並の戦車なら、其れこそ重戦車であっても速攻で撃破されてしまうであろう波状攻撃だが、しかしマウスには全く通じない――大洗の攻撃力トップ2であるティーガーⅡの超長砲身88mmと、ポルシェティーガーの長砲身88mmですらマウスの240mmにも及ぶ正面装甲は貫けない。

 

 

――ドガン!!

 

――キュポン!!

 

 

 

『大洗女子学園、ルノーR35走行不能。』

 

 

逆にマウスの一撃はルノーR35改(R40仕様)を軽々と撃破し、其のまま続けてⅢ突をも撃破してしまう――此処で2輌失ったと言うのは大洗にとっては痛手だろうと思われるが、みほとて無傷でマウスを撃破出来るとは思っていない。

寧ろ、最悪の場合はマウス撃破時にフラッグ車以外に、ティーガーⅡ、ポルシェティーガー、何れかの戦車1輌の計4輌が残っていれば良いとすら考えていたのだから、2輌撃破される事位は織り込み済みなのだ。

 

 

「はっはー!思い知ったか!!」

 

 

だが、此処で状況を優位と見たのか、マウスに随伴していたⅢ号がマウスの前に出てくる。――大方、マウスと共に居る状況ならば一気に押し切れると判断し、戦果を上げるべく出て来たのだろうが、其れは悪手だ。

 

考えても見て欲しい、ルノーとⅢ突は撃破されたとは言え大洗の部隊はマシンガンの如き攻撃を行っていたのだ――其処に不用意に飛び込んだら果たしてどうなるかは想像に難くないのではないだろうか。

 

 

「飛んで火に入る夏の虫。馬鹿は死んでも治らない。華さん……やっちゃって下さい。」

 

「了解ですみほさん♪」

 

 

みほの号令の下に放たれたパンターの砲弾が、不用意に出て来たⅢ号を粉砕、玉砕、大喝采!!同時に、このⅢ号の撃破は黒森峰の機動力を狩りつくしたのと同じだった。

このⅢ号が撃破された事で、黒森峰に残っている機動力のある戦車は直下のヤークトパンターのみとなったのだから。

そのヤークトパンターも直下が乗っている以上、何処かで履帯が切れる事が略確定しているので大した脅威ではない――軍神の加護がないと、直下はその高い能力を生かし切れないのだから。

 

 

だが、Ⅲ号を撃破したとは言えマウスは未だ健在なのだから状況が好転したとは言い難いだろう。

 

 

「カモさんチーム、カバさんチーム、大丈夫?」

 

『こちらカモ、そど子以下3名無事よ!!』

 

『こちらカバ。此方も全員無事だ――尤も煤塗れだけどね。……隊長、後は頼んだ。』

 

「うん、任せておいて。」

 

 

だが、安全確認をした仲間からの声を聞いてみほの闘気は更に猛る――其れこそ、其の背後に毘沙門天を幻視してしまう位には。

そしてその瞬間、みほの中で何かが弾ける感覚が起ると同時に、瞳孔が極端に収縮した『超集中状態』へと移行する――其れはみほだけでなく、エリカと小梅と梓もだ。

みほ達は既にこの力に覚醒していたが、マウスと言う難敵を前にして梓もまた覚醒を果たしたようだ。

 

 

「隊長、此処はマウスを中心地に!!」

 

「私も其れが良いと思うわ――欲を言うなら、道中で電柱を倒すとかして、其れでの撃破も狙い所よね?

 ある程度の搦め手を使わないとマウスを撃破するのは容易じゃないでしょうからね――さて、最強の巨大ネズミをどうやって仕留めましょうかね、みほ?」

 

「中心街……そのもっとも開けた部分までマウスを誘導する。

 機動力に関しては此方の方が圧倒的に上だから、砲撃を続けながら後退!ジグザグに走って、マウスに的を絞らせないで!!」

 

「了解ですみほさん!」

 

 

同時に砲撃を適度に続けながら後退を開始し、マウスを目的地まで誘導する。

そして、マウスには後退を始めた大洗を見逃す等と言う選択肢は存在しない――圧倒的な力の差と言うモノを見せつける為に投入されたモンスター重戦車の使命は、あくまでも大洗の部隊を全滅させる事なのだから。

 

その巨体故に足は遅いモノの、主砲の射程は2000m超なので、多少大洗の部隊に距離を開けられた所で、撃破に至る一撃を放つ事は可能なのだ。

尤も、数の差がある上にジグザグに走っている大洗が相手では、そう簡単に撃破出来るモノでもないだろうが。

 

 

一方後退を始めた大洗は、絶妙なフォーメーションをもってマウスの攻撃を回避していた。

あくまでも牽制攻撃を行うのは最後尾に位置する3輌のみに限定し、更にその最後尾を入れ替える事で攻撃の間隔をずらし、入れ替えの際の不規則な動きでマウスに的を絞らせない。

当然、フラッグ車であるパンターだけは最後尾に回る事なく先頭を走っているのだが。

 

だが、此の後退である意味もっとも凄い事をやってのけているのはカメチームのヘッツァーだろう。

回転砲塔を持たないヘッツァーは、本来ならばパンターと共に先頭を走っているべきなのだが、何とカメチームは後ろ向きで走りながら攻撃を行い、尚且つ皆と同じ速度で後退すると言うスゴ技をやってのけていたのだ。

普通なら先ず出来る事ではないが、操縦士の柚子は自身のスマホをスピーカーモードにし、先頭を行くパンターのみほからナビして貰う事で、後が見えないながらも略完璧な操縦をしていたのだ。

 

しかし、この状態では他の戦車との入れ替わりは無理なので、ヘッツァーだけは最後尾を交代せずに、絶えず攻撃を続けている。――続けているのだが、ヘッツァーの装填士と砲手って誰だったっけ?

 

 

「装填完了!」

 

「はいよー♪」

 

 

言うまでもなく装填士は桃で、砲手は会長こと杏だ。

桃はマウスと言う規格外のモンスター重戦車の登場にすっかり動転し、『1秒でも早く倒さねば』と言う思いから凄まじい速度で次弾装填を繰り返し、杏もまた装填された瞬間に撃ち、的確にマウスに命中させていく。

並の重戦車が相手だったら此れで撃破も出来ただろうが、マウスが相手ではヘッツァーの75mm砲は決定打にはなり得ないのが現実。最大限ぶっちゃけて言うなら、ヘッツァーの攻撃は無駄弾消費にも等しいのである。

 

 

「よっしゃ命中!

 にしても堅いねマウスは。かーしま、次弾装填。」

 

「か、会長!」

 

「如何したかーしま?」

 

「砲弾がなくなりました~~~!!」(泣き)

 

「なんだってーーー!?」

 

 

そして、ヘッツァーは此処で弾切れに!!

此れから中心街でマウスを迎え撃とうと言う場面でのまさかの大失態!!中心街でのみほの策が発動する前に撃破されるのは仕方ないにしても、弾切れで戦う事が出来なくなる等冗談にもならない。

桃の装填速度は大洗一と言えるレベルだが、それが今回は仇になったと言う形だろう。……無論、装填された端からぶっ放していた杏にも責任はあるのだが。

 

 

『あはは……ゴメン西住ちゃん、弾切れになっちゃった♪』

 

「……何してるんですか会長さん。」

 

 

『弾切れ』の報告を聞いたみほは、これでもかと言う位の呆れ顔をして溜め息を吐くが、其れもまた仕方ないだろう――みほとしては、マウス撃破後は、ヘッツァーにⅢ突に変わっての待ち伏せ作戦をお願いしようと思っていたのだから。

だがしかし、起きてしまった事は仕方ない。責めるのは簡単だが、其れをしたって事態は何も解決しないのだから、この状態で如何するかを考える方が重要だと言えるだろう。

 

 

『お詫びと言っちゃなんだけど、弾切れになっちまったアタシ等に出来る事なら何でも言ってよ?

 弾切れなんて馬鹿な事をやっちゃったんだから、多少の無茶は覚悟の上――土下座しろってんならアタシがするし、脱げと言うなら小山が脱ぐし、クソを食えと言うならかーしまが食うから。』

 

『会長!?』

 

『か、かいちょ~~~!?』

 

「其れって、結局自分が物理的にダメージ喰らう事は絶対にしないって言う事ですよね……?」

 

 

そんな中で杏から提案された内容に、みほは突っ込みを入れつつも、『多少の無茶は覚悟の上』だと言うのを聞き、即座に新たな作戦を構築して行く。

弾切れになった以上、ヘッツァーを戦力として考える事は出来ない――Ⅳ号D型改とパンターの砲弾も75mmだが、規格が違うので、譲渡して代用するのは不可能。

ならば如何するか……

 

 

「会長さん、大洗とカメチームを天秤にかけた場合、会長さんは何方を取りますか?」

 

『んなモン決まってるじゃん……大洗だよ。

 大洗を守る為なら、アタシはどんな汚れ役でも引き受けるし、捨て駒にもなる――マウス撃破の代償がアタシ等で済むなら、迷わないで其の一手を選べ西住ちゃん!

 此れは勝利の為なんて言う小さな犠牲じゃない。大洗の学園艦を、あそこに暮らす人達を守る為の重要なコストだよ!』

 

「会長さん……ごめんなさい。そして、ありがとうございます。」

 

 

己の考えに戸惑ったみほだったが、杏自らの後押しを受け、考え付いた策の決行を決断し大洗の部隊はマウスを撃破する為の狩場である市街地中心街に到着したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗に大幅に遅れる形で中心街に到着したマウスだが、其処に大洗の戦車は1輌たりとて視界に入らない――普通に考えるなら、何処かに潜んでいるのだろうが、マウスの車長である『根津美野里』は、みほの凄さを知っているが故にただ隠れているだけではないと考えていた。

 

 

「みほめ、何処に潜んでる?」

 

 

目標は全車殲滅だが、そうでなくともフラッグ車を撃破すればそれで片が付くので、美野里もまたフラッグ車であるパンターを最優先に探しているのだ。

だが――

 

 

「何処を見てるんですか根津さん?」

 

「みほを警戒するのはよく分かるけど、私達の事を疎かにするってのは頂けないわね?」

 

「逸見!赤星!!!」

 

 

その隙を突く形でライガーチームとオオワシチームがマウスを両サイドから強襲し、車体を幅寄せして肉薄して回転砲塔の動きを略封殺!!

両脇を固められたマウスの砲塔は最低限の回転しか出来なくなり、略真正面からの攻撃しか出来なくなってしまった――其れだけなら、未だ何とかなるのだが……

 

 

「ネズミの最大の武器は牙!!」

 

「なら、先ずは其れを砕くのみです!!」

 

 

――バガン!!

 

――ズドン!!

 

 

「な!マウスの主砲が!!」

 

 

此処で、両脇を固めたティーガーⅡとⅣ号戦車D型改が主砲を放って、マウスの128mm砲を撃滅!!如何に強力な主砲であるとは言え、其の主砲其の物が破壊されたのではマウスとて堪ったモノではない。

唯一の救いがあるとするなら、主砲を潰される前に放った一撃が、ヘッツァーを引っ繰り返したと言う事だろう――撃破認定のアナウンスが流れてないので白旗は上がって無いが事実上の戦闘不能なのだから。

 

だが、白旗判定になっていないのならば戦車を動かす事は出来る。

 

 

「今だよ、西住ちゃん!澤ちゃん!!小山、全力でアクセル踏み込め!!」

 

「了解です!!」

 

 

逆さまになったヘッツァーは履帯を高速で回転させる。

そして、そのヘッツァーに向かって梓のⅢ号と、みほのパンターが縦列走行で向かって行き、ヘッツァーに乗り上げるとそのまま加速して大ジャンプ!!

そしてそのままマウスにダイビング・パンツァー・プレス!!

まずは梓のⅢ号が既に使用不能となったマウスの砲身を根元から叩き折り、続いてみほのパンターが回転砲塔を押し潰してターンエンド。

 

 

――キュポン!

 

 

『黒森峰女学院、マウス行動不能!』

 

 

如何にマウスと言えども、落下速度も加わった中戦車2輌のダイレクトアタックに耐える事は出来ずに白旗判定に――最大のネズミであっても女豹の狡猾さと虎の勇猛さを併せ持つ軍神が率いる大洗には通じなかったようだ。

 

 

――キュポン!

 

 

『大洗女子学園、ヘッツァー行動不能。』

 

 

だが、此処でヘッツァーも白旗判定に。

マウスの砲撃で引っ繰り返された上に、自らをカタパルトとしてヘッツァーよりも5t以上重いⅢ号と、3倍近く重いパンターを『射出』した事で車体が限界を迎え、白旗判定になってしまったのだ。

 

 

「会長さん……」

 

「なぁに、此れもアタシ等の役目だから気にすんな!――其れに、マウスを撃破したからと言って終わりじゃないんだ……アタシ等は此処でリタイアだけど、アタシ達の思いは君に託すよ西住ちゃん!」

 

「会長さん……はい、確かに受け取りました!!」

 

「任せなさい会長さん。アンタ達の犠牲、無駄にはしないわ。」

 

 

白旗判定になったカメチームだが、其れもまた『己の役割』だと言い、みほに全てを託す――否、みほだけでなく、生き残った全てのチームがカメチームの遺志を(死んではいないが)受け継ぐ。

 

 

「此れより最後の作戦を開始します!Jedes Mitglied verbreitet sich!!(各員散開!!)」

 

「「「「「Jawohl.(了解。)」」」」」

 

 

黒森峰の本隊が市街地に到着するよりも前にマウスを撃破した大洗の部隊は、此れから市街地に入って来るであろう黒森峰の部隊を迎え撃つ為に散開し、その時に備える。

そして、この瞬間、市街地は黒森峰を喰らう為の狩場となったと言っても過言ではなかった。

 

 

残存車輌

 

大洗:6

 

黒森峰:14

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

みほ達ならばマウスをぶつけた所で如何にかしてしまうんではないかと思っていたが、まさか本当に撃破してしまうとは驚きを隠せないな?

同じ戦力で、私に同じ事をしろと言われたら多分無理だ……西住流の型に収まらないみほと、そのみほの戦い方を受け継いだ澤、そしてみほのライバルにして盟友であるエリカと小梅、そして戦車道の常識に囚われない大洗だったからこそ、機動力以外は全てが劣る戦力であってもマウスを撃破出来たのだろうな。

 

しかも、此処までの撃破数を見れば、大洗が6輌なのに対して、此方は相討ちを含めて4輌と言う体たらく……絶対王者が聞いて呆れるが、此の試合を観戦している人達には、お祖母様の言う西住流が如何に脆いかと言う事を印象付ける事は出来たか。

 

ともあれ、この市街地が決勝戦のファイナルステージになるのは間違いないだろうな――みほが、己が最も得意とする市街地戦で仕掛けて来ないと言う事は有り得ないからな。

 

 

 

「まほ……この市街地戦は……」

 

「みなまで言うな凛、分かっているさ。」

 

最善の策を言うならば、私達は市街地の外でみほが痺れを切らして出てくるまで待つべきだろうさ。――だが、みほは中々に忍耐強いから折れるのを待つのは略不可能だろうな。

ならば、此方から攻め入るしかあるまい?

 

 

 

「其れは、確かにそうだけど……はぁ、みほ相手に市街地戦とか、本気で悪夢だわ此れ。」

 

「心中察するぞ凛。」

 

「まほ、貴女の妹、本気で恐ろしいわ。」

 

 

 

あぁ、私だって恐ろしいよ――みほの戦い方は何時だって予想が付かないから、西住流の『王道』がマッタクもって通用しないのだからな。

だから、市街地戦でみほが何か仕掛けてくる事は予想出来ても、具体的にどんな事を仕掛けてくるのかは予想もつかん……が、逆に其れを楽しみにしている私が居るのも事実だ。

 

黒森峰の隊長&お祖母様の西住流の体現者としてはみほは何とも戦いたくない相手だが、西住まほとしてはこれ程本気で戦いたいと思った相手は安斎と、お前以来だ凛。

 

武神が軍神に何処まで喰らいつけるのか……私の死力を尽くして挑ませて貰うぞみほ。そして、澤、エリカ、小梅!!

私を、私達を、黒森峰を超えて見せろ――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 




キャラクター補足


・根津美野里

マウスの車長を務める黒森峰機甲科の2年生。
まったくの偶然だが、名前を『ネズミ乗り』と読める事から、マウスの車長はある意味でピッタリなのかも知れない。
黒森峰時代のみほ、エリカ、小梅とは其れなりに交友があり、親友ではないにしろ『ダチ公』とは言えるだけの間柄であった。


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Panzer135『白熱しまくってる決勝戦です!』

此処からが本番……任せて良いかな?Byみほ        はい、お任せください!By梓


Side:みほ

 

 

マウスを撃破する為に、ルノーR35改とⅢ突とヘッツァーを失う事になった訳だけど、Ⅲ号とⅣ号、其れにティーガーⅡとポルシェティーガーが生き残ってくれたって言うのは大きいね。

クルセイダーも生き残っているから、此れなら此処からの市街地戦は、大洗が主導権を握る事が出来ると思う。

 

お姉ちゃんだって、私が市街地戦を最も得意としてる事は知ってるから、慎重になって来ると思うんだけど、その慎重さに付け入る隙が出てくるかも知れないしね。

何にしても、この市街地戦で徹底的に黒森峰をやっつけるよ!

 

 

 

「言われるまでもないわ……黒森峰を決勝の舞台で叩きのめして、分からせてやろうじゃない――あの脳ミソの固いクソババアに、『アンタの西住流じゃ天下は取れなかった。』って言う事を!

 

「あ、其れ良いですねエリカさん♪」

 

「西住隊長だけでなく、逸見先輩と赤星先輩まで追放した時点で、黒森峰の栄光は終わったって、そう感じました。」

 

 

 

梓ちゃん……確かにそう言えるかもしれないけど、其れもまた、私達が決勝で負けたら其処で終わりだから、持てる力の全てを持ってして絶対王者を、ううん、お祖母ちゃんの『西住流』を倒す!!!

 

 

 

「燃えてるわねみほ……では、一言どうぞ。」

 

「王者だから勝つんじゃない、勝った者が王者なんだよ!!」

 

「其れはまた至言ですねぇ♪」

 

 

 

ある意味此れって、物凄く真理を言い当てた言葉だと思うんだよ。

王者になった者が常に勝つとは限らないし、あらゆる競技に於いて言える事だけど、『絶対王者』の存在程面白くない物ってない――だから、その絶対王者を引きずり下ろす存在は絶対に必要になる。

そしてその役目を任されたのは大洗だから、キッチリ役目を果たして見せるよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer135

『白熱しまくってる決勝戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

大洗は3輌もの犠牲を出しながらも、超重戦車だけでなく『自走要塞』とも呼ばれるマウスを撃破する事に成功!

圧倒的に火力と防御力に劣る戦車の集団でマウスを撃破したのは、快挙以外の何物でもない――例えそれが、砲撃による撃破ではなく、戦車で押し潰しての撃破だったとしてもだ。

 

この大洗の快挙に、試合が決した訳でもないのに観客席からは大歓声が上がり、一気に会場が湧きたつ!!

 

 

「Wunderbar!(最高だぜ!)

 みぽりんと梓ちゃんの師弟パンツァーダブルインパクトでマウスを撃破するとは、中々『魅せる』試合をしてくれるじゃねぇか!此れだから、戦車道の試合は、一度知っちまったら止められねぇんだよな!

 オイ、黒森峰!勝利至上主義のテメェ等に、こんだけ観客を沸かせる試合が出来んのか!答えてみろや、ガッデム!!

 行けよ大洗!そろそろ決めてやろうぜ、戦車の頂点!!」

 

 

大洗応援団『nOs』総帥の黒のカリスマは何時も通りだが……

 

 

「ハッハッハー!やるじゃねぇかみほちゃん!

 良いぜぇ、それでこそ20年前にしほやちよきち相手に大立ち回りを繰り広げた大洗の戦車道を継ぐに相応しいってもんだぜ!!

 相手が絶対王者だろうが何だろうが関係ねぇ……最後までテメェの戦車道貫いて、頭の堅ぇ西住の化石ババアに思い知らせてやんな!!

 オラァ!テメェ等もっと声出せ声!!気合が足りねぇぞ、気合が!!正洋、テメェも総帥としてもっと気合い入れろや!!」

 

「おうよ、此処からが本番だぜ好子さん!!

 有象無象、蹴散らすぜ!大洗だけ見てりゃいいんだオラァ!!」

 

 

何時の間にか其処に優花里の母である秋山好子が加わり、タダでさえ目立つ集団の注目度を更に上げていた――まぁ、ピンクのエプロンを身に付けた妙齢の女性が、一昔前のスケ番の様な言葉遣いで応援し、あまつさえ多数の現役レスラーで構成されている応援団に檄を飛ばしているのだから当然だが。

 

会場は最早黒森峰にとっては完全にアウェーの空気になったと言っても過言ではないだろう。

 

 

「(さてと、先程の川での攻防でお母様の心には楔が打ち込まれた――後は貴女が率いる大洗が、お母様の『西住流』を体現している黒森峰を倒せば全てに決着が付くわ。

  みほ、貴女の才能は西住流の枠の中には収まらない――その卓越した才能から生まれた貴女の戦車道で、お母様の西住流にトドメを刺して上げなさい!!)

 頑張れ、みほ。」

 

 

そんな観客席でしほが呟いた一言には、途轍もない思いが込められた事に気付いた者は居なかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の市街地。

大洗の部隊は散開し、黒森峰の部隊が市街地に入って来るのを今かと待っていたのだが、残存車輌が大洗6、黒森峰14と言う事を考えた場合、部隊を散開させるのは悪手に思える。

各個撃破が出来れば問題ないが、散開した所を複数の戦車に狙われてしまっては一気に部隊が壊滅しかねないからだ――まぁ、1:2.3333333333333333333333333333333……(無限小数)程度の戦力差はみほの前ではあってないような物なのだが。

 

無論、誰よりもそれを知っている、まほは過剰警戒と言っても良い位に、警戒度をマックスにして市街地に足を踏み入れていた……まほは、みほの市街地戦での強さは知っているが、其れはあくまでも模擬戦で体験したに過ぎない事であり、こうしてガチンコ試合でみほと市街地戦をやり合うのは初めてなのだ。

ならば慎重になっても仕方ないのだが――

 

 

 

――ドゴォォォォン!!!

 

――バガァァァン!!

 

 

――キュポン×2

 

 

 

『黒森峰ヤークトパンター、ティーガーⅡ行動不能。』

 

 

其処に砲撃が撃ち込まれティーガーⅡと、直下が車長を務める、黒森峰の最後の機動力であったヤークトパンターが白旗判定に!!

『一体何処から?』――まほがそう思って周囲を見渡すと、其れは直ぐに見つかった。

 

 

「ポルシェティーガーは兎も角として、Ⅲ号だと!?」

 

 

まほが見つけたのは、民家の屋根に陣取ったⅢ号とポルシェティーガーだ。――みほ率いる大洗の部隊ならば、戦車を民家の屋根に登らせる位は難しくないだろう。戦車の重量に耐えられる部材で屋根へのスロープを作ってやれば出来なくは無いのだから。

だからと言って、其れを実戦で使う者が居るかと問われれば即答できない訳なのだが――だが、問題は其処ではない。

Ⅲ号とポルシェティーガーのポジショニングを考えるなら、ヤークトパンターを撃破したのがポルシェティーガーで、ティーガーⅡを撃破したのがⅢ号と言う事になるだろう――ポルシェティーガーもⅢ号も、完全に黒森峰の横っ腹に噛みつく形になったのだから、奇襲した両サイドの戦車を撃破したのは其処で待ち構えていた戦車以外には有り得ない。

だが、それ以上にⅢ号の火力でティーガーⅡを撃破したのが有り得ない事だ――ティーガーⅡは機動力こそ皆無だが、攻防力に於いては実戦投入されたドイツ戦車の中で最強と言われいるのだ。

そのティーガーⅡがⅢ号に撃破されたと言うのは到底信じられるものではないだろうが、現実にティーガーⅡはⅢ号に撃破されているのだから認めるしかないだろう。

 

 

「く……エンジン部分の装甲を狙われたか!!

 最も装甲が薄いあの場所なら、Ⅲ号の、それもL型仕様の主砲ならティーガーⅡのエンジン部の装甲を破壊――にまでは至らなくとも装甲を損傷させてエンジンを動作不良に陥らせる事は出来る……考えたなみほ――!!

 或いはこれもまた挑発なのかも知れんが……良いだろう、お前の策に乗ってやる!

 部隊散開!!大洗の部隊を各個撃破せよ!!」

 

 

そう、梓の駈るⅢ号はL型仕様に改造された事で強化された主砲で、ティーガーⅡの最大の弱点であるエンジン部の上面装甲を撃ち抜いてみせたのだ……寸分の狂いもなくその部分だけを正確に。

此れは偏に砲手であるあゆみの功績と言えるであろう。最初の頃は動かない的に当てるのも一苦労だった彼女が、今やこれ程の超精密砲撃を行えるようになっていると言うのは称賛に値する。

 

だがそれ以上に恐ろしいのはこの攻撃を遂行した梓だろう。

梓はみほから『黒森峰の横っ腹に風穴を開けて』とは言われたが、具体的な方法は指示されておらず、精々ポルシェティーガーと一緒に行けとの指示があった程度である。

つまり、Ⅲ号でティーガーⅡを攻撃する事を決めたのは梓なのだ――無論レオポンのナカジマは、ティーガーⅡは自分達に任せて欲しいと言ったのだが、梓が『Ⅲ号でティーガーⅡを撃破したら相手も観客もビビりますよね?』と言った事でⅢ号でティーガーⅡを攻撃する事が決定。

他校だったら、絶対に反対されて承認されない事であっても、戦車道のセオリーが通じない大洗ではこんな無茶も『相手も観客もビビる……それ良いじゃん!』ってなノリでOKされてしまうだ。

そして其れで実際にティーガーⅡを撃破してしまうのだから恐ろしい――尤も、其れだけ梓が副隊長として信頼されていて、更にその梓はあゆみの砲手の腕を信じていたからこそ出来た事なのだが。

 

取り敢えず試合開始直後の電撃戦の礼と言わんばかりの、市街地での奇襲が成功した訳だが、其れで終わらないのが大洗だ。

既にポルシェティーガーは、キューポラから顔を出したナカジマがアッカンベーをしながらポルシェティーガーにあるまじき速度で黒森峰の部隊から離れているが、梓は未だその場に。

其のままでは只の的だが……

 

 

「黒森峰……掛かって来な!」

 

 

左手で手招きするとそのまま手首を返してサムズダウン!と同時に急発進し、屋根に上る為に作ったスロープの傾斜を利用して急加速を付けて一気に黒森峰の部隊から離脱!

普通ならあまりにも稚拙な挑発だが、最初の電撃戦以外、全て大洗に良いようにされ、更に今もまた奇襲で2輌を失うと言う失態を演じてしまった黒森峰の生徒の中には、今の挑発で爆発した者も決して少数ではなく、まほが散開を指示した事も相まって、ティーガーⅠ、エレファント、ヤークトティーガーの計3輌が離脱したⅢ号を追いかけて行く。

 

 

「奇襲とはやってくれるわね……だけど、部隊を散開させるって本気なのまほ?」

 

「あぁ、本気だ。分かっているさ、みほの土俵である市街地戦で部隊を散開させる危険性が如何程かと言うのはな。

 だが、此れまで圧倒的な勝利しか経験した事のない隊員達の間には、圧勝できない事への苛立ちが募っているからな……そんな状態の部隊が固まって動いて居たら、其れこそみほの思う壺だ。

 だったら、此処は激高した他員は敢えて好きに動かせてやった方が被害は少ない……何よりも、フラッグ車を討った方が勝ちなのだ、ならば冷静な思考が残ってる者だけでフラッグ車だけを狙った方が勝率は上がる。」

 

「まほ……貴女、自分の目的よりもみほに勝ちたいって思ってない?」

 

「目的を達成する事と、勝ちたいと言う事の何方が上とは言えん。

 目的を果たすには大洗の勝利は絶対だが、だからと言って手加減したのでは意味がない――だったら本気で、勝つ気で行かねばならないと思っているだけだ。」

 

「貴女……やっぱり色んな意味で凄いわ。」

 

 

そんな状況を見てもまほは焦らず、自分達はフラッグ車にだけ集中する旨を副隊長の凛に伝え、敢えてポルシェティーガーもⅢ号も追わずにみほの乗るフラッグ車を探して、市街地を進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梓

 

 

安い挑発だったけど、ティーガーⅠとエレファント、ヤークトティーガーを誘えたって言うのは大きいかな?

3輌ともⅢ号よりずっと強力な戦車だけど、入り組んでる市街地では機動力のあるⅢ号の方が戦車の性能を十全に発揮出来るから決して勝てない相手じゃない。

取り敢えず、最初にティーガーⅠに退場して貰おうかな?

 

「あゆみ……リバースカードオープン。」

 

「はいよー!トラップ発動『落とし穴』!!」

 

 

 

――ドッガァァァァァァァァン!!!

 

 

 

「んな、地面をブッ飛ばすだってぇ!?」

 

 

 

――ドスン!!

 

――キュポン!

 

 

 

『黒森峰、ティーガーⅠ行動不能。』

 

 

 

大型スクランブル交差点を過ぎた所で、地面を吹き飛ばしてクレーターを作って、其処にティーガーⅠを落としてターンエンド!

Ⅲ号の主砲なら、本来ならティーガーⅠを落とすだけの大穴は作れないけど、この交差点は地盤が弱い場所をアスファルトで固めた場所だから、アスファルトを砕く事が出来れば、後は衝撃でなし崩し的に地盤沈下を誘発できる――其れを利用しての、落とし穴だよ。

尤も、大型の交差点だっただけに後続車両を道連れには出来なかったけどね。

 

残ったのは巨象と大虎……だったらまずは巨象から撃破する!クロエ、右の路地に入って。

その路地は、エレファントは通れるけどヤークトティーガーはギリギリ通る事が出来ない筈だから、エレファントを孤立させる事が出来るから。

 

 

 

「了解だヨ梓。

 だが、路地に入った後は如何するんダ?」

 

「機動力を生かして最初のコーナーを右折、その次も右折、更に右折して、また右折!!」

 

「成程、そう言う事カ!」

 

 

 

流石はクロエ、分かってくれたみたいだね?中学で3年間組んでたのは伊達じゃないね。

そう、最速最短で路地を回れば、結果としてエレファントの背後を取る事が出来る――そして、背後を取られたエレファントに出来る事は何一つない!

この狭い路地じゃ車体を旋回する事は出来ないし、逃げようにもそんな鈍足じゃⅢ号から逃げる事は出来ないから!

あゆみ!!

 

 

 

「ほいさぁ!!」

 

 

 

――ガイィィン!

 

 

 

「って、堅ってぇ!!」

 

「装甲の薄い後部へのゼロ距離砲撃すら決定打にならないだなんて……エレファントはやっぱり堅いね。」

 

Ⅲ号じゃL型仕様でも撃破するのは容易じゃないか……でも、必ずどこかに弱点がある筈だから――

 

 

 

――クイクイ

 

 

 

「って、如何したの紗希?」

 

「……薬莢捨てる所。」

 

「!!」

 

其れは見逃してたよ!GJ紗希!!

あゆみ、後部の薬きょう排出口に照準!……Lass uns schießen!(ブチかませ!)

 

 

 

「OK, Vizekapitan!(了解、副隊長!)」

 

 

 

――ズドォォォォォォォン!!

 

 

――キュポン!!

 

 

 

『黒森峰、エレファント行動不能!』

 

 

 

良し、エレファント撃破!!

残るはヤークトティーガー……回転砲塔こそないけど、攻撃力はマウスと同等で、回転砲塔を得られなかった代わりに得た防御力はマウスをも上回る化け物自走砲――そんなのを絶対に西住隊長の所には向かわせられないから、此処で倒さなきゃ!!

クロエ、今度は左側の路地に入って!そしてヤークトティーガーが追って来たら『突っ込んで』!!

 

 

 

「本気か?……梓はもっと大人しいと思ってたんだが、如何やら思った以上に師匠の影響を受けているようだネ?」

 

「其れは最高の褒め言葉だよクロエ。」

 

本当に頼りになるったらないよ。

私の言う事を正確に理解したクロエは、路地に入って来たヤークトティーガーに突撃して、見事に砲身の下に潜り込んだわけだからね――しかも、この時Ⅲ号の主砲はヤークトティーガーの正面を捉えていたからね。

尤も、如何にL型仕様のⅢ号であってもヤークトティーガーの装甲を抜く事は出来ないけど、だけどこうなってしまえば撃破される事も無い!!

 

だから、其れを利用してヤークトティーガーを誘導する!1年舐めんな!!

 

 

 

「1年舐めんなーー!ぶっ殺せーー!!」

 

「ぶっ殺してやるゾ黒森峰!!」

 

 

 

付かず離れずを維持していても、馬力の関係でヤークトティーガーに次第に押されてしまうけど、其れもまた作戦の内――クロエ、路地を抜けたら全速後退!!

 

 

 

「了解ダ!

 行くぜ、クリアマインド!!!」

 

「クロエ、其れはちょっと違う気がする。」

 

でも、予想通りに路地を抜けた瞬間に急加速したのを見て、ヤークトティーガーも出力を最大限まで上げて私達を追い、そして凶器の128mm砲を放って来た。

其れは回避出来ないから、私達は此処でリタイア確実だけど、私達を追うために加速してたヤークトティーガーも止まる事は出来ずに、柵をぶち破って用水路に真っ逆さま!!

 

 

 

――バガァァァァアン!

 

――ドスゥゥゥゥン!!

 

――キュポン×2

 

 

 

『大洗女子学園、Ⅲ号。黒森峰女学院、ヤークトティーガー。走行不能。』

 

 

 

程なく、ヤークトティーガーとⅢ号の撃破判定がアナウンスされ、私は此処で退場か――だけど、私は信じています西住隊長!貴女なら、必ず大洗を勝利に導く事が出来るって!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

市街地での奇襲は成功して、黒森峰をばらけさせる事が出来たのは良い成果だよ――黒森峰は確かに強いけど、其処に最大の弱点があるって言っても過言じゃない。

勝利を優先する連中にとっての各個撃破なんて言うのは、其れこそいい的でしかない――此方を撃破しに来た所をあらゆる手段を使ってカウンターしてやれば其れで終いだからね。

 

実際に梓ちゃんは、Ⅲ号でティーガーⅡとティーガーⅠ、エレファント、そして相討ちではあるけどヤークトティーガーを撃破して見せた訳なんだから♪――尤も梓ちゃんじゃなかったらこれ程の戦果を挙げる事は出来なかっただろうけどね。

其れは其れとして、アヒルチームも煙幕を巧く使って黒森峰の部隊を引っ掻き回してくれてるから大分混乱させる事が出来てるのも良い感じ。

何時までも引っ掻き回し続ける事は出来ないだろうけど、隊長の指揮系統から外れた黒森峰の隊員は意外と脆いから、限界まで粘る事は出来ると思うからね――尤も、クルセイダーの装甲じゃ黒森峰の重戦車の砲撃一発喰らったら即撃破ではあるんだけど。

 

でも此れでお姉ちゃんを誘導しやすくなったのは事実だね――なら、レオポンとライガーは私に付いて来て!そしてオオワシは例の場所に!

此れから最後の作戦を発動するから!!

 

 

 

「あの切り札を遂に切るのねみほ?」

 

「今こそ切り札を切る時だからね!!」

 

「OK!了解だよ隊長!!」

 

「お任せ下さいみほさん!」

 

 

 

Ⅲ号を失ったのは個人的に痛手だったけど、ティーガーⅡ、ポルシェティーガー、Ⅳ号があれば黒森峰を倒す布陣は完成してるって言っても過言じゃないから、此の4輌が残ったのは有り難かったよ。

 

さぁ、決勝戦もそろそろ大詰めだね?――西住流なら乗らざるを得ない最終決戦の地に、案内させて貰うよ、お姉ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer136『決着!最強の姉妹喧嘩です!!』

此れが最終決戦!Byみほ        受けて立とう!Byまほ


Side:みほ

 

 

奇襲で2輌、そして梓ちゃんの奮闘で3輌と、計5輌の戦車を撃破出来たのは大きいね――特に梓ちゃんがエレファントを撃破し、ヤークトティーガーを道連れ撃破したのは最早勲章モノだね。

 

 

 

「受勲だけでなく昇格もであります!Ⅲ号でドイツの名立たる重戦車を4輌も撃破したのは快挙でありますよ西住殿!

 澤殿の獅子奮迅の活躍もあり、今や流れは完全に大洗の物であります!此のまま一気に押し切ってしまいましょう!!それが一番です!」

 

「そうかも知れないけど、焦りは禁物だよ優花里さん。」

 

確かにこのまま勢いでって言うのは悪くないけど、只勢いに乗っただけじゃ足元を掬われちゃうから、勢いに乗る前に地盤を固めないとだよ。

特に相手は絶対王者の黒森峰だから何が起きても不思議じゃないからね。

 

 

 

『大洗女子学園、クルセイダー走行不能。』

 

 

 

言ってる傍からクルセイダーが撃破された訳だし。

まぁ、クルセイダーの紙装甲を考えたら、高火力のドイツ戦車を相手に今まで良く生き残っていたと賞賛するに値するよ――えっと、皆さん無事かな?

 

 

 

『大丈夫です隊長!此れ位は気合と根性で何とかりますから!!』

 

「あ、そのテンションがあるなら大丈夫だね。」

 

此処でクルセイダーが離脱したけど、磯辺さんの事だから煙幕で視界を潰しつつ、誘導してたんだろうね……私達に目が向かないように。

ふふ、此処まで御膳立てされて勝てなかったら嘘だよね。

 

此れで準備は全て整ったから、後は役者を舞台に上げるのみ!――其の舞台で、お祖母ちゃんの戦車道を討ち砕くだけだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer136

『決着!最強の姉妹喧嘩です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

決勝戦もいよいよ佳境に入って来た。

大洗の残存車輌はパンター、Ⅳ号、ティーガーⅡ、ポルシェティーガーの計4輌――其れに対して、黒森峰は未だに10輌以上の戦車が残っている状態だ。

フラッグ車を先に倒した方が勝ちとは言え、単純に数の事だけを言うなら黒森峰の方が遥かに上なのだから黒森峰有利は変わらない筈だが、既に撃破された大洗の戦車の隊員は、略全員が大洗の勝利を信じて疑っていなかった。

 

 

「かいちょ~~!残存戦力は倍以上!勝てるのでしょうか!?」

 

「大丈夫だってか~しま。西住ちゃんを信じなよ。」

 

 

……略全員が大洗の勝利を信じて疑っていなかった――まぁ、桃の場合は基本ヘタレである事が原因で、僅かでも不利な状況だと必要以上に不安になってしまうのだろうが。

 

 

「大丈夫だ河嶋先輩。隊長殿は必ずや黒森峰の首を取る。

 作戦参謀としてグデーリアンと共に決勝戦の作戦会議に参加したのだが、西住隊長は黒森峰に勝つ為に30通りもの作戦を考えてていただけでなく、私やグデーリアンの意見も聞いて更にその作戦を発展させてしまったのだからな。

 そしてこの状況もまた、隊長が考えた作戦の1つの流れに過ぎない……残存戦車すら、隊長の望み通りの物が残っているのだからね。

 尤も、副隊長のⅢ号が重戦車を4輌も撃破すると言うのは、予想していなかっただろうけれど。」

 

「この状況すら西住ちゃんのシナリオの範疇内ってことかい?……隻腕の軍神殿の予測眼はハンパないねぇ?」

 

 

其れでも、エルヴィンの放った一言には、大洗の勝利を更に確実にすると思わせる物が有った――決勝戦用に30通りの作戦を考え、更にエルヴィンと優花里の提案を受け入れて作戦を発展させ、今の状況すらその作戦の範囲内でしかないと言うのだから。

 

 

「西住隊長は必ず勝ちます……こう言う大舞台で西住隊長が負けた事は一度もありませんから。」

 

「梓……確かに!

 そんじゃあアタシ達は、隊長が勝つ為に全力で応援しよう!!せーの!フレー!フレー!!お・お・あ・ら・い!!!」

 

 

更に、副隊長である梓が『絶対に勝つ』と言った事で、一気に熱は伝わり、あゆみの号令で大洗の戦車隊からは割れんばかりの大洗へのエールが贈られる。

 

そして其れは観客席へと伝染し、大洗の大コールが巻き起こる!!

元々、今大会は黒森峰がヒールへと転じた事も有り、黒森峰の試合は総じて対戦校へのエールが多かったのだが、此の決勝戦はその比ではない。

無名の大洗が黒森峰相手に互角以上に戦っていると言うのもあるだろうが、其れ以上に観客の心情的には高校戦車道の歴史が変わる瞬間を、黒森峰が築いた絶対王政を打ち破るのを見たいと言う思いが強いのだろう。

 

そしてそうなればこの人達が黙っている筈がない。

 

 

「ヨッシャア!最高だぜ!!

 黒森峰相手に此処までとは、魅せてくれるぜみぽりん!!否、みぽりんだけじゃなく、Ⅲ号で重戦車を4輌も撃破した澤ちゃんも最高だぜ!

 此処からがラストバトルだ!黒森峰のフラッグ車に、パンターの75mm砲のケンカキックだオラァ!!」

 

「はっはっは!良いねぇ、コイツは最高だ!

 コイツは正に20年前の、大洗の戦車道が廃止になる前の最後の大会の再現だぜ!!

 あの時は僅差で大洗が負けちまったが、今度は大洗が勝たせて貰うぜぇ?……やっちまえやみほちゃん!!」

 

 

客席では黒のカリスマこと蝶野正洋と、優花里の母である秋山好子が『悪役全開』のエールをもって大洗を全力応援!!

そして其れにつられるように会場の大洗コールは過熱して行く――この瞬間、会場は黒森峰にとっては完全なアウェーの空気になったのは間違いないだろう。

 

同時に其れは、みほの戦車道は観客すら味方に付けると言う、西住かほの戦車道では絶対に出来なかった事をやってのけた証明でもあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

客席が盛り上がっていた頃、試合のフィールドでも動きがあった。

大洗のフラッグ車を探していたまほの前に、何の前触れもなくみほの駈るパンターが躍り出て、更にはキューポラに腰掛けたみほが、挑発的な笑みを浮かべながら親指で首を掻っ切る動作をした後にサムズダウンした後に急発進!

あからさまな挑発ではあるのだが、隻腕の軍神がやると異様に様になっているのだから性質が悪い。

 

 

「みほ……良いだろう、お前の策に乗ってやる!!」

 

 

もっとも其れでもまほは冷静な思考を失わず、パンターを追撃するのだが……此処で又しても邪魔が入った。

 

 

「おぉっと、急発進は危ないわよ?」

 

「出会い頭の衝突事故もあるから注意しないと。」

 

 

まほのティーガーⅠがみほのパンターの撃破を目して追撃を開始すると同時に、其れを追いかけようとした黒森峰の部隊の前に砲撃が撃ち込まれて動きを止められてしまったのだ。

其れにより生じたまほ車と黒森峰の部隊の間にエリカのティーガーⅡとナカジマのポルシェティーガーが前に躍り出て分断に成功する。

しかもティーガーⅡとポルシェティーガーが並走する事で黒森峰の部隊が前に出るのを防いでいるのだ。

 

只それだけならば後ろから攻撃してしまえば良いとも思うだろうが、そんな事はエリカもナカジマも分かっている。分かっているので……

 

 

「ホイっとな♪」

 

「近坂先輩、少し此処で大人しくしてて下さい。」

 

 

――ボウン!!

 

 

「此処で煙幕ですって!?」

 

 

伝家の宝刀、目暗ましの発煙筒発動!!

広い草原や荒野ならば兎も角、路地で仕切られた市街地で此れをやられたら堪ったモノではない――通れる道が限られている為、視界が悪い状態で動けば、最悪建物に突っ込んで白旗なんて事にもなりかねないからだ。

故に、草原や荒野で喰らった時以上に足止めを余儀なくされ、結果として部隊はまほ車と完全に分断されてしまったのである。

 

こうして始まった追いかけっこだが、みほを追うまほ、そのまほを追うエリカとナカジマは一切の攻撃を行っていなかった。

まほは、この状況で攻撃してもみほならば全て回避し無駄弾を撃つ事になると思っており、エリカとナカジマは攻撃が避けられてみほを誤爆する事を避ける為に、敢えて攻撃をしていないのだ。

 

 

「(さてと、何時までも追いかけっこと言う訳では無いだろうが、一体何処へ私を連れて行く心算だ?何処に連れて行くにせよ、追いかけっこが始まってそろそろ3分……煙幕も晴れて黒森峰の部隊も動き出す頃だ。

  そろそろ目的地に到着しないと追い付かれて状況は逆に不利になるぞ?)」

 

 

だが、何時までも追いかけっこをしていられる訳では無い。

追いかけっこ開始から既に3分が経ち、発煙筒の煙も晴れ始め、黒森峰の部隊も追撃を開始している……此のまま追いかけっこを続けていれば、目的地で黒森峰の部隊がまほに合流して一気に形勢が逆転しかねないのだから。

 

 

「(みほの狙いは恐らくまほとの一騎打ちでしょうけれど、この市街地の何処で其れを行う気かしら?――其れと、Ⅳ号は一体何処に?)」

 

 

客席のしほが見守る中、みほが動きを見せた。パンターを廃校と思われる建物の中へと進めたのだ。

当然まほも其れを追って中に入るが……

 

 

「其れじゃあ此れで――」

 

「――蓋は出来たわね。」

 

 

その入り口をポルシェティーガーとティーガーⅡ、2輌の重戦車で塞いでしまう。もっと分かり易く言うなら、ポルシェティーガーが入り口に後から斜めに突っ込み、入り口からはみ出た部分にティーガーⅡが後面を接する形で停車しているのだ。――当然、回転砲塔の動きには妨げが出ない形でだ。

此れで廃校の中庭にはみほのパンターとまほのティーガーⅠの2輌のみが残された――何れこの場に到着するであろう黒森峰の部隊が、ポルシェティーガーとティーガーⅡを撃破するまでの間は、完全な一騎打ちの舞台が出来上がったのだ。

 

 

「さぁ、此処が私達の決戦の場だよお姉ちゃん。」

 

「四方をコンクリートの壁に囲まれた廃校の中庭……入り口はポルシェティーガーとティーガーⅡが塞いでいるから外から入る事も、中から出る事も出来ない――成程、ケージマッチと言う訳か。

 だが、悪くない。数で劣る大洗が確実に黒森峰を倒すには、フラッグ車との一騎打ちが最善の策であり、その一騎打ちを行えるのはお前かエリカしかいない。小梅や澤は、指揮官としては優秀だが一騎打ちの様な戦いには向いていないからね。

 この状況もお前の作戦の範囲内なのだろうが、西住流に撤退の文字はない――此処で決着をつけるしかないな。」

 

「うん、決着を付けよう。行くよ、お姉ちゃん!」

 

「受けて立つ!来い、みほ!!」

 

 

そして、此のコンクリートの檻の中で史上最大の姉妹対決の火蓋が切って落とされた!

鋼鉄の蒼い豹と、鋼鉄の黄土の虎が唸りを上げ、主砲から挨拶代わりの咆哮を放ち、そのまま激しい戦車戦に突入!!

攻防力ではまほのティーガーⅠの方が有利だが、機動力に関してはみほのパンターの方が遥かに上回る――何よりも、限られた空間での戦闘である為、互いに『真面に直撃すれば一撃必殺』の状況だ。

完全に一瞬の判断が勝負を分ける戦いであると言えるだろう。

 

何れにしても此れが最終決戦になるのは間違いない――退屈な追いかけっこを見せられていた観客も、このシチュエーションに一気にヒート0状態だったのがヒート100になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

みほとまほが廃校の中庭で激闘を繰り広げて居る頃、廃校の外には黒森峰の部隊が到着していた……してはいたが、廃校の中に入る事までは出来なかった。――ティーガーⅡとポルシェティーガー、2輌の大虎が入り口を完全に塞いでいたからだ。

 

 

「煙幕で目暗ましをしたのは、確実にみほとまほの一騎打ちを完成させる為だった訳か……やってくれたわね逸見!!」

 

「褒め言葉と受け取っておくわ近坂先輩。

 さぁどうする?まほさんを助けに行くには私達を倒すしかないわ……まぁ、私達は動けないから的も同然だけど、私達だって黙ってやられてやる心算は毛頭ないわ。

 そうね――私達が白旗判定になる頃には、そっちも全滅してる、文字通りの道連れにしてやるわ。」

 

 

其れに凛は歯噛みしてエリカを睨みつけるが、エリカはそんなのは何処吹く風とばかりに受け流し、反対に飢えた肉食獣を思わせる獰猛な笑みを浮かべて威嚇と挑発を行う。

その壮絶とも言える笑みに、凛以外の黒森峰の隊員は気圧されてしまった――エリカが黒森峰に居た頃には見せた事のない凶暴性に、本能的な危機を感じたのだろう。

 

その凶暴性は元々エリカの中に有ったモノだが、黒森峰へと進学し、厳しい規律の中で生活して行く内に其れは次第に形を潜めて行った。

だが、みほと出会い、更に去年1年はみほ率いる遊撃隊の一員として戦って来た事で、再びその凶暴性が表に出てき始めていた――そして、大洗に転校し、黒森峰の規律から解放され、みほの自由な戦車道を完全な状態で体験する事で、遂に形を秘めていた凶暴性が完全に復活したのである。

 

 

「そうそう、エリカの言う通りだね……2匹の鋼鉄の虎に食い殺されたい奴だけかかって来ると良いよ。」

 

 

そして、その凶暴性は伝染するらしく、ポルシェティーガーの車長であるナカジマも、普段の温厚な彼女からは想像も出来ないような壮絶な笑みを浮かべて手招きする。……モンキーレンチを手にしてる辺りが実に自動車部っぽいが。

 

 

「吠えるわね……上等よ!

 全車一斉砲撃!!ティーガーⅡとポルシェティーガーを撃破せよ!!」

 

「「「「「「「「Jawohl!!(了解!!)」」」」」」」」

 

 

「此処が踏ん張りどころ!!ナカジマ先輩『欠陥兵器』の根性を見せるわよ!!」

 

「OK!絶対に隊長の所には行かせないからね!!」

 

 

大洗の火力と防御力トップ2と黒森峰の重戦車軍団との戦いも此処に開幕!

大洗のティーガーⅡとポルシェティーガーは動く事が出来ないから的も同然なのだが、只の的にはならずに最強の88mm砲で黒森峰の部隊を攻撃!

 

 

――キュポン!!

 

 

『黒森峰、ティーガーⅠ3号車、ティーガーⅠ5号車、行動不能。』

 

 

その攻撃は的確に弱点を狙っており、ティーガーⅠを2輌沈黙させる――如何やら、廃校の外での戦いも、中庭での戦い以上に目を離せないモノになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、中庭での戦いは、何方も退かない一進一退の攻防が続いていた。

まほのティーガーはパンターの機動力に決定打を与える事が出来ず、みほのパンターは攻撃を当てる事は出来るモノの、全てティーガーⅠが『食事の角度』を取って弾く為決定打を与える事が出来ないでいるのだ。

此のまま互いに決定打を欠いた状態が続けば、有利になるのは黒森峰だ――普通に考えれば、攻撃してくるとは言え動かぬ的と化したティーガーⅡとポルシェティーガーを撃破出来るのだから。

 

つまり、戦いが長引けば長引くほど大洗が不利になるのだが、そうであるにも拘らず、みほの顔には笑みが浮かんでいた――それも、只の笑みではなく、勝利を確信した笑みが。

 

 

「此れより最後の作戦を開始する!『ドラマティックバトル』開始!!小梅さん!!!」

 

「その命令を待っていましたよみほさん!!」

 

「な!小梅だと!?」

 

 

みほが最後の作戦の開始を宣言すると同時に、廃校の一部が爆ぜ、中から小梅のⅣ号が姿を現す――そう、小梅率いるオオワシチームはウサギチームが驚異の重戦車四重殺を成し遂げた後、いち早くこの場に到着し、今の今まで建物の中で息を潜めていたのだ。

重戦車であるティーガーⅡやポルシェティーガーでは出来なかった重要な役目――中戦車のⅣ号だからこそ出来た出来たトリックプレイだ。

現実に、Ⅳ号の登場はまほの予想の範囲外であったのだから、其の効果は絶大だろう。

 

そして、此れこそがみほの作戦の全容だ。

まほを一騎打ちに誘い込み、その実は1対2の状況を作り出して確実に相手を撃破する……正に、一騎打ちを挑まれたら絶対に逃げないまほの性格を見事に利用した作戦と言えるだろう。

 

 

「クソ……まさかⅣ号が潜んでいたとはな――いや、そもそもにして私も今の今までⅣ号の存在を忘れていた……いや、忘れさせられていた。

 此れが、お前の力かみほ……!」

 

 

何にせよ、此れで此れまでの決定打を欠いた状況は打開された――同時に其れは軍神の力が完全開放された事を意味する。

 

 

「小梅さん、左サイドを!」

 

「了解ですみほさん!」

 

 

みほが的確な指示を出し、小梅は其れに正確に応え、ティーガーⅠに着実なダメージを与えて行く――無論ティーガーⅠも反撃するが、パンターとⅣ号D型改の機動力を同時に捉えるのは難しく決定打を与える事が出来ない。

反面、パンターとⅣ号からは結構な攻撃を貰っており、如何に食事の角度で防御するとは言ってもダメージの蓄積は見逃せない物が有るだろう――既にティーガーⅠの正面装甲は結構ボコボコになっているのだから。

 

そして――

 

 

「行くよ、小梅さん。」

 

「了解ですみほさん。」

 

 

ティーガーⅠの前にパンターとⅣ号が縦列し、次の瞬間に猛ダッシュ!!

当然まほはパンターを撃破せんと砲撃を命じるが、其れは避けられ、更に両翼に分かれる形で戦車ドリフトを行い、ティーガーⅠの後部を取ろうとする。

無茶な軌道で、履帯が切れ、転輪も吹っ飛ぶがそんな物は関係ない。

 

 

「此れで……!!!」

 

「終わりです!!」

 

 

ティーガーⅠの後部を捉えたパンターとⅣ号は、同時に主砲を発射!!

略ゼロ距離から放たれた超長砲身75mmと長砲身75mmはティーガーⅠの弱点を的確に捉え……

 

 

――バガァァァァァァァァン!!!

 

 

――キュポン!

 

 

 

『黒森峰、フラッグ車行動不能。よって此の試合、大洗女子学園の勝利です!!』

 

 

まほのティーガーⅠを、フラッグ車を白旗判定に!!

同時に其れは大洗が決勝戦を制した事を意味する――今この瞬間に、戦車道の歴史は塗り替えられたのだ。

 

 

 

「オラァ!此れが大洗の底力だ!見たかオイ!

 みぽりんの前では黒森峰ですら有象無象に過ぎねぇ……大洗だけ見てりゃいいんだオラァ!!」

 

「よくやったぜみほちゃん!!

 其れでこそ大洗の戦車道を継ぐ者だぜ……隻腕の軍神の名は、大洗の代名詞になるかもな!!」

 

 

……其れに興奮している黒のカリスマと好子ママは取り敢えず放置するとして、大洗女子学園が史上初となる快挙を成し遂げたのは間違いない事であり、その事実に会場は大いに沸いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

みほもまほも実に立派な戦いぶりだったわ――でも、最後はみほが勝ち己の道を示したか……みほの才能は大洗に転校した事で開花したのかも知れないわね。

 

まぁ、何れにしてもみほは己の道を示し、その上でお母様の言う西住流を打ち破りました――其れでも、未だみほを認めませんか?

 

 

 

「いや……こうして結果を突き付けられては認めぬ事は出来ぬ……それ以前に、この戦いでワシの考えが如何に歪んでいたかという事を実感させられた。

 しほよ、ワシは家元の座から身を引く……じゃから、お前が新たな西住流の家元となり、新たな時代を引っ張って行け――尤も、お前が提案した賭けに負けた時点で、ワシは家元ではなくなったのだからね。」

 

「お母様……新家元の名、謹んで継がせて頂きます。」

 

お母様はみほを認め、そして私を新たな家元に指名したか……如何やら、この一戦を観戦した事で、『最強不敗』を掲げて来た自分の考えが如何に的外れだったのかと知ったといった所なのかも知れないわ。

 

何にしても、みほもまほも良くやったわ……何方も西住流の名に恥じない立派な戦いだったわよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

勝てた……勝った!!

此れで大洗の廃校は無くなったし、私の戦車道を示す事が出来た……本当に、最高の決勝戦だったよ。

 

 

 

「負けたよみほ。完敗だ。

 西住流とは大分違うが……」

 

「そうかな?」

 

「そうだよ。

 だが、其れがお前の戦車道なのだろうな……他の誰にも真似できないお前だけの戦車道――存分に堪能させて貰ったよみほ。お世辞抜きで、実に見事だった。」

 

「お姉ちゃん……見つけたよ、私の戦車道!!」

 

「ふ……そうだな。

 あのまま黒森峰に居たのではお前の才能は埋もれていただろう……だが、大洗に来た事でその才能が存分に発揮されたのだろうな。

 おめでとうみほ、お前がナンバーワンだ。」

 

 

 

アハハ、お姉ちゃんにそう言われると照れちゃうよ。

 

 

そして閉会式。

王者の証である真紅の優勝旗を授与された訳だけど、流石に右腕一本では重い……!!

 

 

「おっと!」

 

「ったく世話が焼けるわね?」

 

 

んだけど、よろめいた所でエリカさんと沙織さんがサポートしてくれて、優勝旗を落とさずに済んだよ――何にしても、私達が一番になったんだから、其れを誇らないとだよ!!

 

「私が!」

 

「「私達が!!」」

 

 

「「「今大会の覇者だ!!」」」

 

 

でもって、私とエリカさんと沙織さんが優勝旗を持って掲げた姿はマスコミの皆さんに写真を撮られまくって週刊戦車道の表紙を飾る事になっちゃちゃうんだけど……ゴシップネタで話題になるよりは遥かに良いかな。

 

何にしても、今年の王者は大洗!!其れについては、誰にも文句は言わせないからね――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer137『凱旋!大洗の祝賀パレードです♪』

檄戦後の息抜きかな?Byみほ        ま、堪能しようじゃないByエリカ


Side:みほ

 

 

全国大会を制し、フェリーで大洗に戻って来た訳なんだけど、えっと、なんか凄く歓迎されてる?

入港した時から歓声が沸き上がってたし、『祝!大洗女子学園全国大会優勝!』の横断幕も掲げられてたし、戦車に乗って下船したら、大洗高校吹奏楽部の演奏と、町民の皆さんの紙吹雪で出迎えられたからね……此れはちょっと予想してなかったよ。

 

 

 

「まぁ、ある意味で当然っちゃ当然だわね。

 20年前は黒森峰とも遣り合う強豪だったとは言え、今の大洗は無名の弱小校に過ぎない――その弱小校が、並み居る強豪を倒して決勝まで駒を進めて、そして絶対王者を倒して新たな王者となったんだから、地元が盛り上がるのも当然でしょう?」

 

「まして、その優勝校の凱旋となれば余計にですよ。」

 

 

 

えっと、そう言うモノなのかな?

黒森峰が10連覇を達成した時に、熊本は此処まで盛り上がってはいなかったと思うんだけど……

 

 

 

「黒森峰なら勝って当然って思ってた部分があるからでしょうね――常勝不敗は、応援する側も感覚が麻痺して来るって事かも知れないわ。

 だけど、大洗の優勝は高校戦車道に於ける一大事件だから、此処まで盛り上がるんじゃない?」

 

「そう言うモノなのかな?」

 

「そう言うモノよ。

 其れと、貴女は覚悟しておきなさいよみほ?――無名の弱小校を行き成り全国王者にしたって事で、NHK茨城局だけじゃなく、各地のテレビ局が取材に来るでしょうからね。」

 

 

 

ふぇぇ!?しゅ、取材って、そんなの困るよ!!カメラの前で喋るのは得意じゃないし……下手したら空気が死んじゃうよ!!

 

 

 

「ならば、私が一緒に取材を受けますよ西住隊長。隊長と副隊長のコンビなら、取材陣も喜ぶでしょうから。」

 

「梓ちゃん……うん、助かるよ。」

 

まさか、此処まで歓迎されるとは思ってなかったから少し驚いちゃったけど、この盛り上がりも私達が大会を制した証だって思えば、少し誇らしい気分になるかな。

……因みに、この盛り上がりの原因は会長さんだったみたい――大洗町長さんに『凱旋パレードやるからよろしく』って言ったって……それならそれで先に知らせて欲しかったよ。『サプライズ』って事なのかも知れないけどね。

でも、そう言う事なら、先ずは凱旋パレードをしっかりやらないとだよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer137

『凱旋!大洗の祝賀パレードです♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェリーを降りて、そのまま戦車に乗って凱旋パレードに――大洗の商店街は決して大きくないのに、道路の両脇はパレードを見に来た人達で埋め尽くされてるみたいだね。

大洗の地元の人達だけじゃなく、茨城県の各地から人が来てるんじゃないかって言う位に人が来てるよ……中には新聞でしか見た事のない県知事さんや、茨城出身のお相撲さんなんかも居た気がする。

そして、勿論……

 

 

「オラァ!最高だぜ!!

 パンツァークライマックスのヘビー級王者の凱旋だ!有象無象、蹴散らすぜ!大洗だけ見てりゃいいんだ!!グアァッデーム!!」

 

 

 

うん、いるよね黒のカリスマさんは。

なんて言うか絶好調?って言うか、その黒地に銀で『nOs』って入ったTシャツは若しかしなくても御自身のブランドであるアリストトリストで作ったモノなのかな?

 

 

 

「多分そうなんじゃないの?

 って言うか、祝ってんだかキレてんだか分からないわねあの人……まぁ、そう言うキャラで売ってるんでしょうけど。」

 

「あはは……まぁ、そうかもね。

 でも、あのTシャツのデザインは結構良いから……すみませーん、そのTシャツ大洗女子学園の戦車隊の隊員分送って貰って良いですか?

 代金は……熊本の西住流にツケといて下さーい!!」

 

「おう、任せとけみぽりん!!

 だけどなぁ、金取るなんてケチな事は言わねぇ!全員分無料で提供させて貰うぜ!もってけドロボーだオラァ!!!」

 

 

 

む、無料でとは太っ腹だね?……流石、自らカリスマを名乗るだけあって器の大きさはハンパなモノじゃないって事だね。なら、有り難く頂戴しておきますね♪

でも、本当に色んな人が来てるなぁ?明光大付属中の制服を着た子達――私と梓ちゃんの後輩の子達も居るし、新聞社のカメラマンと思しき人達が夢中でシャッター切ってるし。

 

 

 

「此方大洗の森花子です。

 ご覧くださいこの盛り上がり!大洗女子学園の戦車道全国制覇を祝って、凱旋パレードが行われてる大洗永町商店街は、毎年恒例のあんこう祭りの時以上に盛り上がっています!

 パレードは大洗アクアワールドまでが予定されているので、私は此処で先回りして、アクアワールドで大洗の隊長さんに突撃インタビューをしようと思ってます♪

 凱旋パレードと、隊長へのインタビューを生放送でお届けするので楽しみにしていて下さいね~~」

 

 

 

エリカさんが言ってたようにテレビ局の人達も来てるみたいだからね。

なんか、生放送してたみたいだけど、此れはインタビューは回避不能かなぁ?――パレードのゴールである大洗アクアワールドにはさっきの女性リポーターが居るだろうしね。

だけど今は凱旋パレードを堪能しないとね。――因みに、私のパンターには梓ちゃんとエリカさんと小梅さんが乗ってるんだよ……流石に中には入れないから、外に立ってる訳だけど。

でも、其れが逆に良かったのかもしれないね?

小梅さんはニコニコ笑顔で群集に手を振って、エリカさんは挑発的な笑みを浮かべて腕組みして、副隊長の梓ちゃんは優勝旗を左手で支えながら笑顔で手を振って沿道の人達にしっかりアピールしているからね。

 

 

 

「西住隊長も、一緒に如何ですか?優勝校の指揮官が、キューポラから上半身だけって言うのは少ししまらないと思いますから♪」

 

「そうだね……じゃあ、こんなのは如何かな?」

 

パンツァージャケットの上着を肩に引っ掛けてキューポラの上に仁王立ち。そして追加の軍神将来!!

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「「「「「リアル軍神立ちキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」」」」」

 

「「「「「しかも軍神モード\(^_^)/」」」」」

 

 

 

「ねぇ小梅、キューポラの上に立っただけで、此れだけの歓声浴びる戦車乗りって他に居るかしら?」

 

「私の知る限りではみほさん以外居ませんねぇ?

 まほさんがやったら似合いそうではありますけど、まほさんの場合歓声が上がると言うよりは、見てる側が平伏しそうな感じなんですよね。」

 

「姉隊長だと微妙に否定が出来ません……」

 

 

 

平伏するって、お姉ちゃん独裁者じゃないんだから其れは無いと思うなぁ?

寧ろ相手が平伏しちゃうのはお母さんがやった場合じゃないかな?……自分の母親にこう言う言い方するのは如何かと思うけど、『戦車乗り』の時のお母さんの眼光の鋭さは現役を退いて指導者に回った今でも健在で、菊代さんから聞いた話だと現役時代はその眼光だけで相手の戦意を喪失させた事があるらしいからね。

戦車乗りですら震え上がらせるんだから、一般人だったらまず間違いなく平伏すると思う……黒のカリスマさんは平気だろうけど。

 

それにしても本当に人が多いなぁ?

そんな大勢の人達の中でも、一際大きな歓声を送ってくれてるのは明光大付属中の子達だね。思い切り手を振って、手作りと思われる『祝・優勝』の旗も掲げて力の限りね。

 

 

 

「「「「「西住先輩、澤先輩、武藤先輩、優勝おめでとうございます!!」」」」」

 

「えへへ、ありがとう皆~~~!」

 

「ありがとう!クロエにも伝えとくね~~!!」

 

 

 

ふふ、良い子達だね?

特に一番大きな声を出してた新藤歩美ちゃん……中学時代の私に、入学早々喧嘩を売って来た元気のいい子、あの子が今の明光大の隊長なんだね梓ちゃん。

 

 

 

「はい。

 新隊長を誰にするかと考えた時、彼女以外考えられませんでした――そして、その選択は間違ってなかったと思います。

 今年の中学の大会では、準決勝で僅差ながら黒森峰を下しそのまま優勝してしまいましたから。――全然マッタクどうでも良い事ですが、ウサギチームの砲手も『あゆみ』なので名前で呼ぶと少々分かり辛いです。」

 

「あはは……其れはまぁ仕方ないと思おうよ。」

 

でも其れを聞いて安心した――全国大会の事ばっかり考えてて、中学大会の方に気を回してる余裕はなかったから、どうなったのか全然知らなかったからね。

それにしても、今年は中学、高校ともに黒森峰は優勝を逃した訳か……どちらの大会でも優勝を逃すなんて事は、少なくとも10年間は無かった事だから、此れは黒森峰の上層部にとっては見過ごせない事かも知れないね。

此れを期に、黒森峰の体制そのものが変わってくれる事を期待したい所だね……その為には『重戦車至上主義』なOG会を刷新する必要があるだろうけど。

まぁ、今のOG会には天城さんが居るから、何処かで変革はするだろうと思うけどね。

 

さてと、パレードも遂にゴールの大洗アクアワールドに到着!

 

 

 

「西住隊長!NHK水戸放送局の森花子です。インタビュー宜しいでしょうか?」

 

「はい、勿論OKです……ただ、私だけだと少し緊張してしまうので、副隊長である澤梓も一緒にで構いませんか?」

 

「勿論です!

 寧ろ、隊長だけでなくその片腕である副隊長にもインタビュー出来るだなんて願ってもない事ですよ!!」

 

 

 

なら、お互いにWin-Winですね♪

其れじゃあ、遠慮せずにインタビューして下さい……但し、捏造は無しですよ?

 

 

 

「分かってますって。って言うか此れ生放送なので捏造しようがありませんので。

 ではまず、改めまして全国大会優勝おめでとうございます!

 20年ぶりの戦車道復活と言う事で、言うなれば世間の認識は『ぽっと出の弱小校』で、実際にその通りだったと思うのですが、そうであるにも関わらずこうして優勝できた、其れは何故でしょうか?」

 

「そうですね、先ずは大洗女子学園には戦車道におけるダイヤの原石がゴロゴロ転がっていたと言う事が大きいと思います。

 戦車道を復活させなければ、絶対に埋もれていたであろう稀有な才能――其れを発掘できたのが第一の要因であるのは間違い無いと思いますね。

 集まったのが本当にずぶの素人だったらこうは行かなかったと思います。」

 

「加えて、その才能を開花させた西住隊長の存在も大きいです。

 私とクロエ、逸見先輩と赤星先輩も戦車道経験者ですが、西住隊長が居なかったら大洗で発掘した才能を120%開花させる事は出来なかったと思いますから。」

 

 

 

ん~~~……其れは如何だろうね?

皆素質はあった訳だから、私が居なくてもいずれその才能を開花させたとは思うよ――河嶋先輩に関してはどうなったか知らないけど。

って言うか、私的には地獄の『西住流フィジカルトレーニング』を僅か数カ月で出来るように皆に驚きかな?……黒森峰の生徒ですら半年じゃ熟せるようにはならないって言うのに、其れを僅か数カ月で熟しちゃうんだから、感心通り越して呆れちゃうレベルだよ。

 

 

 

「西住流フィジカルトレーニングについては少し怖いので聞くのは止めにして……ですが、まさか絶対王者である黒森峰まで下すとは思っていませんでした。

 其れも半分の戦車数で――ズバリ、黒森峰に勝てた最大の要因は何だったのでしょう?」

 

「一言で言えば、黒森峰の隊長が私のお姉ちゃん……西住まほだったと言う事に尽きます。」

 

私は子供の頃からお姉ちゃんの戦車道を見て来たから、お母さんを除けば誰よりも『西住まほの戦車道』を知っています。

そして今大会、お姉ちゃんはどんな時でも攻めを重視する『西住流』を正確に行っていたので、其処に付け入る隙がありました――そして、其れ以上に、マウスとエレファント、そしてヤークトティーガーを撃破出来たのが大きいですね。

此の3輌が生き残って居たら恐らく大洗女子学園は負けていたでしょう――そう言う意味では、マウスを撃破する為にカタパルトとなって撃沈したカメチームと、性能差で劣るⅢ号でエレファントを撃破し、ヤークトティーガーを道連れにしたウサギチームは今大会の殊勲賞だといっても過言ではないと思っています。

 

ううん、此の2輌だけじゃなく、きっとドレか1輌が欠けても私達は優勝できませんでした。

序盤の電撃戦はアリクイチームが居なければアレで決着が付いていたでしょうし、稜線での攻防はカメチームとアヒルチームの存在失くしては語れませんし、黒森峰の追撃を振り切る為に、橋落としを行ったレオポンだってMVPモノです。

何よりも、最終決戦の地で入り口をとおせんぼうしたライガーチームとレオポン、そして最後の作戦に参加したオオワシチームは受勲モノです。

この勝利は、皆で掴み取った勝利なんです!!

 

 

 

「真の意味でチーム一丸となって掴み取った勝利!此れは良いコメントを頂きました!!

 此れは生放送だけじゃもったいないので、6時10分からの『いば6』でもノーカットで放送しますね!!――其れで西住隊長、澤副隊長、一つお願いいいでしょうか?」

 

「お願い、ですか?」

 

「内容によりますが……」

 

「えっとですね、茨城局のお昼のコーナーは『いばッチャオ』って言って、最後に『チャオ』で〆るのがお約束なんですよ――なので、一緒にやって貰えませんか?」

 

 

 

其れ位なら構いませんよ。梓ちゃんも良いよね?

 

 

 

「はい、勿論です♪」

 

「ありがとうございます!

 では、以上現場から森花子がお送りしました!それでは皆さん、良い午後をお過ごしください。せーの……」

 

「「「チャオ♪」」」

 

 

決まったね♪

私は右手をサムズアップ、梓ちゃんはウィンクしてのVサイン、花子さんはマイク片手にカメラに手を振ってと夫々ポーズも決まってたからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

まぁ、予想はしていたが矢張りOG会からの呼び出しが有ったか……今年は中等部でも優勝を逃したから、可成りピリピリ来てるのだろうね。

 

 

 

「西住まほ、此度の敗北を如何考えている?」

 

「此度の敗北は、必然であったのではないかと、そう考えております。」

 

「まぁ、確かに必然と言えば必然だったわね。」

 

「隊長、副隊長揃って敗北が必然と言うとは如何言う事だ!!」

 

 

 

知れた事……貴女達は私の妹を、西住みほを甘く見ていた――否、みほだけではない。みほと共に黒森峰を去ったエリカと小梅も過小評価していただろう?

加えて大洗の副隊長である澤の事はエリカ達以上に軽視していたな?……だが、貴様等が軽視していた者達の活躍によって大洗は全国大会を制するに至った。

 

 

 

「まほの言う通り、逸見と赤星を軽視したのは大きいわ。

 私もまほも、去年の校内紅白戦で、あの3人は1度も勝つ事は出来なかった……私とまほの戦績が互角だったから誰も気にしてない事だけれど、私もまほも自分のチームが負けた試合は、必ず相手チームにあの3人が居た。

 その事実に気付かなかったOG会の無能こそ責められるべきじゃないかしらね?」

 

 

 

マッタク持って凛の言う通りだよ。

決勝戦での敗北を上げるとしたら、大洗を軽視し火力重視の編成を強硬に推し進めた貴様等OG会と、歪んだ西住流を提唱しているお祖母様が居たからだ。

パンターやⅢ号をメインにした機動力を生かした部隊編成だったのならば、こうはならなかったかも知れないな。――何にしても、黒森峰の敗北の一番の原因は貴様等OG会にあると知れ。

そして、その上で私を罰すると言うのならば好きにしろ――尤も、私だって大人しく罰せられる心算は無いがな。

だから言ってやろう……貴様等、天城さんを除いて、今すぐ其処を去れ……まぁ、去らないと言うのならばティーガーⅠの88mmを叩き込むだけだけどな。

 

 

 

「そうね、OG会もそろそろ面子を一新する時かも知れないわ。」

 

「な、天城!!貴様、反旗を翻す気か!!」

 

「その通り。

 元々、みほちゃんが黒森峰を追放になった時点で、OG会の一員になったその時は、何れクーデターを起こしてOG会を改革する心算で居たからね。

 既に、私の息のかかった者達によって、部屋の外は包囲されていて逃げ場はないわ……潮時よ。」

 

「見事だな、天城さん。」

 

さて、如何する?

私を追及して追い詰め、己の手駒にする心算だったんだろうが、当てが外れた以上は、もう如何する事も出来まい――貴様等は今此処でOG会から去るのだからな。

だが、此れだけは言っておくぞOG会。

貴様等が私や、黒森峰を下した大洗を如何思うかは自由だが、みほに、大洗に手を出したその時は命の覚悟をしておけ……私の持てる力の全てをもってして、貴様等を滅してやるからな。

此れは決して脅しじゃない……私は妹を守る為なら、何処までも非情になれるのでね。

 

 

 

「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

「まほの睨みは効果抜群ね?天城さん以外のOG会メンバーが完全に沈黙したわよ?」

 

「お母様直伝の睨みだ。大抵の奴は耐える事は出来んよ。」

 

何よりも、みほは大洗で自分の戦車道を見つけたのだから、其れを無粋な横槍で壊す事だけは絶対に避けなくてはならない事だからな。

西住流とは決定的に違うが、お前が見つけた戦車道、大事にしろよみほ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

大洗アクアワールドで取材を受けまくったから流石に疲れちゃったけど、会長さんが予約してくれてた『大洗シーサイドホテル』の温泉のお陰で疲れは略略解消されたからね。

 

でもって今は、これまた会長さんが貸し切りにしてくれた宴会場で宴会中!

流石に未成年だからお酒はなしだけど、それ以外の料理は、地元産の魚のお造りに天婦羅と豪華絢爛この上ないね♪

 

で、宴会と言えばカラオケが付き物なんだけど、何て言うか皆が皆プロなんじゃないかって思う位に巧い!特にエリカさんは普通に歌手デビュー出来るってくらいに巧かった!!

しかも日本語の歌詞をドイツ語で歌って98点なんだから流石としか言いようがないね。

 

 

 

「嬉しい事を言ってくれるじゃない?……でも、此処で貴方のターンよみほ。私上回る得点を叩き出して見せなさい♪」

 

「其れ、微妙に無茶振りよエリカさん。」

 

でも振られた以上は応えるが礼儀だから、楽しませて貰おうかな――曲目は『Tag der Glücks-Seele gegen Seele-』で!

 

 

 

「OK!それじゃあ行っちゃってみほ!!」

 

「勿論だよエリカさん!!其れじゃあ行くよ!!」

 

Oh, ich werde die Angst vor dem Bodenlosen bringen.

Oh, der böse Geist kommt auf

Weissagung des Schicksals, das nicht besiegt werden kann.

Mit dieser Hand werde ich über mich hinausgehen.

Sammle deine Gedanken und fliege in die Dunkelheit.

 

Blut verhungertes Tier lächelt.

Die Seele des Kriegers wird heiß

Ich mag die Erde ohne niemanden.

Ich möchte nicht den Stern sehen, den ich nicht sehen kann.

Ich kann dich nur besiegen.

Ich werde das Lachen aufhalten.

 

Selbst wenn Sie jetzt oben sind, wird morgen die Welt morgen wachsen, wenn es morgen ist.

Mit dieser Hand werde ich über mich hinausgehen.

Sammle deine Gedanken und fliege in die Dunkelheit.

 

 

 

ドイツ語の歌詞だから皆には少し分かり辛かったかもしれないけど、此れは思った以上の高得点だったね――自分で言うのもなんだけど、結構良い感じだったと思うんだけどどうかな?

 

 

 

「文句のつけようがないわね――って言うか、此れにいちゃもん付けるってんなら、これ以上のかくし芸を持って来いって感じだわ。」

 

「ふふ、ありがとう。」

 

この後は各自好き勝手に歌いまくったんんだけど、祝勝会は滞りなく終わったね。――ふふ、此れもまた、全国制覇の醍醐味だって言えるかも知れないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer138『大会後のホッとした一時です♪』

期末考査の結果は如何だった?Byみほ        5教科合計450点Byエリカ     同じくBy小梅     1教科平均90点……凄過ぎるよ!By沙織


Side:みほ

 

 

どうも皆さん、大洗女子学園戦車隊隊長の西住みほです。

絶対王者と称されていた黒森峰を下して全国制覇を成し遂げた私は……一応、覚悟していた事ではあるんだけど、現在戦車道雑誌の取材に絶賛対応中!!

エリカさんと小梅さん、そして梓ちゃんが一緒に取材に応じてくれてるから何とかなってるけど、一人だったら絶対に途中でバタンキューだよ。

 

 

 

「西住隊長、我々戦車道関係の取材陣としては、失礼ですが大洗が黒森峰を下すとは思っていませんでした。

 正に大金星を超えた超金星……圧倒的に劣る戦力で黒森峰に勝てたのは何故ですか?」

 

「其れは、私が誰よりも……黒森峰の隊長よりも、西住流の師範よりも『西住流』を知っていた事と、大洗の皆が己の限界を超える力を発揮してくれたと言う事に尽きます。」

 

序盤の黒森峰の電撃戦も、アリクイさんチームが居なかったらあそこでフラッグ車を仕留められていたでしょう――ですが、アリクイさんチームの身を挺した防御でフラッグ車は無事でした。

 

そして、その後も同じです。

市街地でのマウスには驚かされましたが、そのマウスもカメさんチームがヘッツァーをカタパルトにしてくれた事で、必殺の戦車プレスが決まって撃破に至った訳ですからね。

 

そして、それ以上に最後の最終決戦ではライガーのティーガーⅡと、レオポンのポルシェティーガーが入り口を塞いでくれたおかげで、私の作戦通りに持って行く事が出来ました――勿論、伏兵として小梅さんって言う切り札を切るタイミングも含めてね。

 

 

 

「赤星小梅選手こそが切り札だったと?」

 

「はい、実際に切り札でしたから。」

 

こう言ったら失礼かもしれないけれど、あそこで現れたのがエリカさんや梓ちゃんだった、多分負けてた――お姉ちゃんですら、無意識の内に『西住みほのパートナー』から除外してた小梅さんだったからこそ勝つ事が出来たんだと思います。

そう言う意味では、今大会のMVPは間違いなく小梅さんでしたよ。

 

 

 

「お褒めに預かり光栄ですみほさん。エリカさん、副隊長……勝った。」

 

「ドヤ顔やめい。殴りたくなるわ小梅。」

 

「ジョークでやったとしても、殴りたくなる笑顔は初めて見ましたよ……」

 

「あははは……」

 

軽口的なやり取りなんだけど、此れもまた雑誌記者さんには美味しいネタになるかもだね。

取り敢えずインタビューは無事に終了し、その後は私、梓ちゃん、エリカさん、小梅さんの4人で大洗の隊長車と同じカラーリングのパンターの模型をバックに表紙の写真と、巻頭グラビアを撮影して取材は終了……なんて言うか、戦車道の試合以上に疲れた気分だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer138

『大会後のホッとした一時です♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで気付けばそろそろ夏休み、週刊戦車道の『第63回戦車道高校生大会特集号』は何て言うか凄いボリュームだね?

見た感じだけでも、何時もの誌面の倍はあるんじゃないかな?此れもう週刊誌じゃなくて、月刊ジャン○並の分厚さだよね?

 

 

 

「其れは仕方ないでありますよ西住殿。

 隻腕の軍神が率いる無名の弱小校が、西住流の次期後継者と言われている姉住殿率いる絶対王者たる黒森峰を、終始圧倒した上で完全勝利をしたのですから!

 此れは、戦車道ファンならば興奮しない方がオカシイであります!!」

 

「みぽりんってば、すっかり全国区の有名人だよね?――そんな人と一緒に居られるなんて、此れは完全にあんこうチームは勝ち組だよ!」

 

「沙織、煩い。」

 

「麻子の言う通りよ沙織。

 興奮するのは分からない事じゃないけど、少しセーブしなさい……そうじゃないと、只の軽薄女に見えるわよ?」

 

「うわ、エリリン辛辣!

 でもさ、此れは興奮せずにはいられないよ!だってこの雑誌、表紙はみぽりんとエリリンと梅りんと梓ちゃんな上に、巻頭グラビアもみぽりん達なんだよ!?

 基本はみぽりんとのツーショットで、みぽりんと梓ちゃんはみぽりんが回転砲塔に背を預けて、梓ちゃんがキューポラに腰かけた状態で何か話してる感じ、みぽりんと梅りんは、戦車をバックに梅りんがバインダーとペンを持って、みぽりんが神妙な面持ちで其れに対応してる『試合前の作戦会議風』なのに、みぽりんとエリリンのツーショットは、ジャケットの上着を脱いだみぽりんをエリリンが後ろから抱きしめて、無い方の腕に口付けてるって言うアダルティーな雰囲気なんだから興奮するでしょ!!」

 

「「興奮の一番の理由は其処かい!!」」

 

 

うん、ジャストタイミングで突っ込んだ私とエリカさんは絶対に悪くない。いや、沙織さんの言う事も分からないじゃないけどね?

梓ちゃんと小梅さんとのツーショットは、戦車道の練習後や戦車道の試合前にはあるシチュエーションではあるんだけど、エリカさんとのツーショットだけは戦車道の彼是関係ないからね。

って言うか、採用された写真が其れで良かったかな?

エリカさんとのツーショット写真は梓ちゃんや小梅さんとの3倍近い写真が撮られてて、その中には結構アレなモノもあったからね――『無い方の腕のジャケットの袖に腕を絡ませるエリカさん』は未だ良い方で、凄いのなると『ジャケットの上着をはだけさせた私に、ジャケットの上着をはだけさせたエリカさんがしな垂れかかってる』のとか、『引き裂かれた黒森峰の校旗を持ってる私と、鍵十字に引き裂かれた黒森峰のジャケットを口に咥えたエリカさん』とか、『黒のカリスマ風な衣装を身に纏って、漆黒のパンターの前でサムズダウンする私と中指を立てるエリカさん』とか、凄まじい『闇』を感じさせるものが多かったからね……撮影中、エリカさんがキレかけたのは仕方ないと思うんだ、うん。

そんな中で、闇成分皆無のこの写真を選んだ辺り、編集部の人は未だ理性が残ってたのかも知れないね――触れてるように見えるけど、実際にはエリカさんの唇は肩には触れてなかった訳だしね。

 

「其れよりも、記事の内容は如何かな?頑張ってインタビューに応えてみたんだけど……」

 

「其れはもう、バッチリでありますよ西住殿!

 西住殿だけでなく、逸見殿に赤星殿、澤副隊長殿の話まで確りと収録されているであります!!独占インタビューは、全10ページに亘る大特集でありますよ!!」

 

 

 

そ、そうなんだ。

取材内容は覚えてるし、私達が如何答えたかも覚えてるからインタビューのページ其の物は見なくても良いんだけどインタビューページの最後に添えられた文章には目が行ったね。

 

 

 

『以上が大洗女子学園の隊長西住みほと副隊長澤梓、そして黒森峰時代に西住みほの副長であった逸見エリカと、片腕であった赤星小梅へのインタビューの全文である。

 彼女達へのインタビューを通して、小生は戦車道の奥深さを改めて痛感させられた――戦車の性能差も、練度ですらも真なる天才の前には何の意味もなさないと言う事を感じたからだ。

 西住みほと言う稀代の天才に加え、その教えを受け継いだ澤梓、そのライバルであり親友でもある逸見エリカと赤星小梅の存在が、大洗に埋もれていた才能を発掘し研磨したからこそ、この超金星に繋がったのだろう。

 改めて、大洗女子学園の潜在能力の高さと、其れを引き出した『隻腕の軍神』こと、西住みほには頭が下がる思いである。

 一般には『大洗の奇跡』とも言われている今大会の結果だが、小生は、この結果は『奇跡』ではなく、西住みほが逸見エリカと赤星小梅を引き連れて大洗に転校してきたその時に『確定』していたのではないと愚考する次第だ。

 『隻腕の軍神』の戦車道は、我等の予測を遥かに上回っていたのだから……』

 

 

 

あはは……少しばかり煽り過ぎかなと思ったけど、確かにその可能性は否定できないよ――まさか、大洗に此処まで戦車道の才能がある人が居るとは思わなかったからね。

でも、そのお陰で黒森峰を倒して全国制覇が出来たんだから良かったと思ってるよ――此れで大洗の廃校は撤回された事になる訳だから。

 

 

 

「だね……本当に君達はよくやってくれたよ西住ちゃん……大洗を守ってくれてありがとね。」

 

「会長さん……そんな、頭をあげてください。

 学園艦を守る事が出来たのは私一人だけの力じゃありません――大洗の皆の力があったからこそだと思うんです……実際問題として皆の力が無かったら、黒森峰を倒す事は出来なかったと思いますから。」

 

「其れでも、だよ――君には感謝の言葉しかないんだ西住ちゃん。

 てかね、ぶっちゃけて言うと西住ちゃん達が戦車道の部活を作ろうと考えてくれててマジ助かったんだよね~?お蔭さんで、戦車道を履修してくれるって確信できたからさ。

 今だから白状するけど、もしも戦車道を取ってくれなかった場合は、どんな手を使ってでも戦車道に引き摺り込む心算だったからね?」

 

「ちょっと会長、貴女何する心算だった訳?」

 

「まぁ、分かり易い手だよ逸見ちゃん――『戦車道を取ってくれないなら学園に居られなくする。でも転校手続きは行わせない』って脅しにかかる心算だった。」

 

「学園に居られないのに転校できない……高校卒業の単位を得る事が出来なくなる、と言う訳ですね?」

 

「正解だよ赤星ちゃん……其れ位の事をしてでも、優勝しなくちゃならなかったからね。」

 

「そうだったんですか……まぁ、単純な廃校じゃなくて、学園艦の廃艦となれば生徒達だけでなく学園艦で暮らしている全ての人が住む場所を失う訳ですから、其れ位必死になるのも仕方ないですよ。」

 

ですが会長さん、其れやってたら生徒会の皆さんは、間違いなく今頃病院のベットの上でしたよ?

エリカさんの拳が炸裂して、アンドリューが噛みついて、ロンメルが燃やした所に小梅さんの暗殺術が……

 

 

 

「いや~、そいつは怖いね?って言うか暗殺術使えんの赤星ちゃん!?」

 

「黒森峰機甲科、西住みほ遊撃隊に所属していた生徒は、全員が他校から来た偵察部隊を秘密裏に捕縛する為に『西住流裏戦車道』とも言える『西住流暗殺術』を身に付けているんです。

 私は、その中でも特に優れた才能を持っていたらしくて、ターゲットに気付かれずに無力化する程度は訳のない事なんですよ会長さん。」

 

「西住流暗殺術……そんな物が存在してただなんて驚きであります!!」

 

 

 

驚きでしょ優花里さん?

まぁ、全部嘘なんだけどね♪

 

 

 

――ドンガラガッッチョンチョン!!

 

――急所に当たった~~!効果は抜群だ~~~!!

 

 

 

元黒森峰組と麻子さん以外、皆見事にずっこけたね。

しかも示したようにバッチリのタイミングで――うん、素人コントコンテストとかに出たら、ずっこけぶりだけは1番になれるかも知れないよ。ネタによっては上位も狙えるかもだよ♪

でも、そんなにずっこける様な事だったかなぁ?

 

 

 

「みぽりん、今の流れで其れは無いよ!

 梅りんがあまりにも真剣に言うから本当に西住流暗殺術って言うのがあると思っちゃったんだよ!?」

 

「もし存在していたら、御教授願いたいと思っていたのですが、残念です。」

 

「いや、何を教わろうとしてるの華!?」

 

「沙織、少し落ち着け。西住さん流のゲルマンジョークと言う奴だろう。

 なぜゲルマンかと言えば、西住流はドイツ戦車を使う流派だと秋山さんから聞いてな……アメリカンジョークと言うのはオカシイと思った。」

 

 

 

成程、そう来ましたか麻子さん。

でも、暗殺術云々はジョークとしても、黒森峰機甲科の生徒が戦車道を行ってるどの学校よりも偵察者を捕らえる事に長けてるのは間違いないと思う。

少なくとも残ってる記録では、黒森峰に偵察に行った他校の生徒が、黒森峰との試合が終わる前に戻って来た事はお母さんが隊長だった頃に1度だけあっただけみたいだからね。

 

 

 

「あの、西住殿……その黒森峰から生還した生徒と言うのは若しかして……」

 

「うん、優花里さんのお母さんが隊長を務めてた頃の大洗の生徒。って言うかぶっちゃけ当時の隊長。」

 

「だ~~~!やっぱりでありますか!!

 今更ながらに、自分の母親が何者だったのか分からなくなって来たでありますよ~~!元ヤンキーで戦車隊の隊長だったとか、衝撃的にも程があるであります!!

 ……尤も、そのお陰で最近はお母さんとの会話が弾むのでありますが。」

 

「あはは……其れなら其れで良かったって言う事にしようか。」

 

まぁ、優花里さんもサンダースやアンツィオに潜入して無事に戻って来たんだから、確実にお母さんの血を継いでるとは思うけどね。

準決勝ではエルヴィンさんと一緒にプラウダの偵察を行ってくれたおかげで作戦の大筋が決まった様なモノだからね――この功績だけでも優花里さんとエルヴィンさんは一尉に昇格させても良いかもだよ。

其れを踏まえたら、副隊長の梓ちゃんは重戦車キラーとしての功績で一佐、エリカさんとナカジマさんは三佐、試合を決める切り札となってくれた小梅さんは二佐に昇格だね♪

 

 

 

「其れなら、西住ちゃんは准将から中将に昇格だね♪

 いや、いっその事『将軍』を名乗っても良いんじゃないかな?『大洗の隻腕将軍』って凄く強そうじゃん?」

 

「あは、其れも良いですね会長さん♪」

 

『隻腕の軍神』に続く二つ名『大洗の隻腕将軍』も良い感じですよ。――ふっふっふ、隻腕の軍神だけじゃなく、大洗の隻腕将軍の名も全国に轟かせないとだね。

 

 

 

「其れについては心配いらないよ西住ちゃん……西住ちゃんへの取材は、マダマダ依頼が来てっからね~~~♪

 まぁ、其処で確りバッチリ大洗の隻腕将軍をアピールしちゃってよ♪」

 

「あはは……が、頑張ります。」

 

ヤッパリマダマダ取材のスケジュールはあるんだね……あんまり得意じゃないんだけど、戦車道に於ける前人未到の大記録を打ち立てた学校の隊長として、此れは甘んじて受け入れるしかないかな?

其れに、考えようによっては私の戦車道をアピールする大きな機会だから、これを機に私の戦車道を多くの人に知って貰えると思えば取材も悪い物じゃないからね。

 

でもまさか、略毎日放課後に取材を受ける事になるとは思わなかったけどね……取材を受けてる間、代わりに練習の指揮をしてくれた梓ちゃんには、今度寄港した時にお好み焼き屋『道』さんにでも連れて行ってあげないとだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:???

 

 

ふぅ……マッタクもってこんな事になるとは思っていませんでした。

大洗女子学園がまさかの優勝をしてしまうとは……此れまで廃艦を告げられた学園艦の生徒は、その事実に絶望するか、或いは悲しみに暮れるか、もしくは逆上すると言うのが常でしたが、彼女――角谷杏はそのドレでもなく、『廃艦回避』の一手を此方に突き付けて来た。

『大した実績が無いって理由で廃艦にするって言うなら、実績を残したら廃艦にするな』と言う条件を――其れが、戦車道の全国大会優勝だった訳ですが、まさかそれを成し遂げてしまうとは。

此れで、大洗女子学園を廃校にする理由は無くなりました――あの時の会話はボイスレコーダーに録音されていますから、『そんな事は言ってない』とは言えませんからね。

 

 

と、言う事で事が済めばドレだけ楽だった事か。

 

「馳大臣、大洗の廃校は戦車道の全国優勝でなくなったのではありませんか?」

 

「辻君、確かに其の通りだ、そうなる筈だった。

 だが、其れを認めたくない者が文科省内部に存在している――分かり易く言うなら、学園艦の解体業者と癒着している文科省の職員が居るんだ……そういう連中が、大洗の廃艦を推し進めている。

 君の言うボイスレコーダーの内容にしても『考えた結果大洗は廃校になると決定された』と言う事でゴリ押しする心算だろう……君らしくもないが、確約書を作っておくべきだったね。」

 

 

 

其れは、そう言われてしまうと何も言う事は出来ません――ですが大臣、この様な事態を野放しにして良いのですか!?

大洗女子学園の全国制覇は、戦車道界隈に大きな風を吹かせ、我が国の戦車道人気はかつてない程に高まっています!――で、あるにも関わらず、優勝校を廃校にしたとなれば世間からのバッシングは免れませんし、戦車道の世界大会開催に関してもマイナスのイメージになってしまいますよ!!

 

 

 

「俺もそう思っているけど、業者と癒着してる局員の連中のバックには、俺の前任者の文科省大臣が居る……あのタヌキがバックに居る以上此方が何をしても無駄だろう。

 其れこそ、関係職員をジャイアントスウィングで50回ぶん回して投げたとしてもね。」

 

「裏投げと、ノーザンライトスープレックスは?」

 

「其れでも良いんだけど、タッグの時は俺が決めるよりもムトちゃんがムーンサルトで決める事が多かったからなぁ……俺個人としては鎌固めかリバースSTFが決め技だけどね。」

 

 

 

現役時代は意外と芸達者でしたからね大臣は。

ではなくて、この事態を如何されるのですか大臣!!一歩間違えば、戦車道の世界大会開催も危ぶまれる事態ですよ此れは!!

 

 

 

「いま俺達に出来る事は何もないよ辻君。

 だが、必ずや機はやって来る――機を待ち、期を見て、気をもって戦う……戦いの基本だ。

 大洗女子学園を廃校にしない一手は必ず存在する筈だ――だから、今はその期が来るのを待つのが最善の策だ……尤も出来る限りの手を打っておくに越した事は無いけれどね。

 俺は現役時代の人脈を生かして色々とやってみるよ……蝶野やムトちゃんも協力してくれるかもしれないからな。

 君は君の方で動いてくれ辻君――出来れば、解体業者と癒着局員、そして俺の前任者との関係を洗い出してくれると助かる。」

 

「了解しました大臣。」

 

ヤレヤレ、大洗女子学園の優勝で、全てがスッキリと治まると思ったのですが、如何にもそうは行かないらしい――ですが、大人の汚い事情によって、死力を尽くして戦った少女達の思いが踏みにじられる事など有ってはならない。

恐らくは、夏休み中に廃艦の手続きは済んでしまうでしょうが、其れすらもなかった事にする一手を用意しようではありませんか。

文科省局長・辻連太、力を尽くさせて頂きましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

彼是取材を受けた日々が続いて、気が付いたら夏休み!

戦車隊の皆の成績は、戦車道履修特典で大幅に上乗せされてるから、通信簿は揃いも揃ってオール5!……なんだけど、私とエリカさんと小梅さんと梓ちゃんは、全ての教科が『5+』って言う謎の評価だったからね。

 

で、今日は寄港日――って言うか、夏休みの間は学園艦は大洗に停泊してるんだけどね。

 

さて、其れじゃあお出掛けしようか梓ちゃん?

 

 

 

「あ、あの私で良いんですか西住隊長?

 その、逸見先輩や赤星先輩を差し置いてって言うのは微妙に気が引けるんですけど……」

 

「其れについては心配ないよ梓ちゃん。

 エリカさんも小梅さんも納得してくれたからね――って言うか寧ろ『隊長としては副隊長の活躍を労うのは普通でしょ』って言われちゃったからね。」

 

だから、今日は目一杯楽しもう梓ちゃん♪

 

 

 

「は、はい!宜しくお願いします西住隊長!!」

 

「はい、ブー!

 今日は戦車道じゃ無いんだから隊長はなしの方向で行こうか梓ちゃん?」

 

「へ?……あの、その……分かりました西住隊長――じゃなくて、みほさん。」

 

 

 

うん、それで良いよ♪

其れじゃあ、夏休み初日のお出掛けを始めるとしようか?アンドリューとロンメルも一緒にね。

いっくよ~~?ぱんつぁ~ふぉ~~~♪

 

 

 

「Ich verstehe, Captain Nishizumi!(了解しました、西住隊長!)」

 

「だから隊長じゃないってば。」

 

まぁ、この後のお出掛けは梓ちゃんと思い切り楽しんだよ――ウィンドウショッピングに、ボーリングにゲームセンターにカラオケ、挙げ句の果てには水戸駅前のデパ地下と南町の地下にあるアニメイ○とまで回ったからね。

……そのア○メイトで『MGフリーダムガンダムVer2.0』の他、タ○ヤ製の戦車のプラモデルを何個か買った私も大概かな――しかも、買った戦車は全部大洗女子学園保有の戦車だからね。

そしてそれらを全て大洗女子学園のカラーで作ろうと思ってるとか、私も大分大概だね。

 

 

 

「良いんじゃないですかみほさん?

 私だってⅢ号とティーガーⅠのプラモデル買って、私のパーソナルカラーであるパールホワイトに塗装しようと思ってましたから。」

 

「あ、そうなんだ?」

 

「そうなんです。

 お互いに完成したら、ジオラマ作って撮影とか如何でしょう?

 ジオラマを作る事は出来なくても、大洗シーサイドステーションに新たにオープンした『ガルパンギャラリー』には大型のジオラマがあるとの事ですから、其処を使えば大迫力の写真が撮れると思いますので。」

 

 

 

ふふ、其れは良いね梓ちゃん?

大迫力のジオラマって言うのは心が躍るよ……なら、夏休み中に買ったプラモデルを完成させないとね♪

 

 

 

 

 

で、十数日後に私と梓ちゃんはシーサイドステーションのガルパンギャラリーを訪れた訳なんだけど……ジオラマ云々以前に完全に甘く見てたよこの場所を。

大洗女子学園の全生徒がプリントされたマグカップ位はあると思ってたけど、パンツァージャケットのインナーと上着、スカートがセット品として売られてるとは思わなかったよ!しかも、ジャケットの背には夫々のチームのエンブレム入りだしね!!

まぁ、其れだけ大洗女子学年の全国制覇は衝撃的だったって気う事なのかも知れないけどさ。

 

でも、なんだろう……私の勘が、此のまま平静に夏休みが終わる事は無いって告げてる……私は自分の勘を信じてるけど、夏休み中に一体何が起きるって言うんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、私は夏休み中に起こる事は、マッタクもって予測出来ていなかった――まさか、あんな事になるなんて思っても居なかったからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer139『エキシビションの彼是です』

西さんとミカさんは良いキャラだと思わない?Byみほ        まぁ、良いキャラよね?Byエリカ     作者も好きらしいですよ?By小梅


Side:辻

 

 

クソ……私が出来る限りの手は尽くしたが、矢張り大洗の廃校を止める事は出来ないか……馳大臣の言うように、ボイスレコーダーの音声ですら、『口約束は約束ではない』と一蹴されてしまった――民法上は、口約束でも契約が成立すると言うのに!!!

それ程までに、貴方の前任者の力は大きいのですか!!!

 

 

 

「あぁ、大きいな。

 彼を如何にか出来る権力者が居るとしたら、其れは総理以外には居ないだろう……奴は、本物の化け物だ。」

 

「馳大臣……ならば内部告発をしましょう!そうすれば!!」

 

「止めておけ辻君……そんなものは簡単に握りつぶされ、下手をすれば俺達は更迭だ――そうなってしまったら、大洗女子学園を廃校から救う手段は永遠に失われてしまう。

 気持ちは分かるが今は耐える時だ……必ず此方にチャンスはやって来る筈だ。

 俺が現役の時でもそうだった……敗北ギリギリの所で勝利のチャンスが舞い込んで来た物だからね――だからきっとこの件でも、敗北ギリギリの所でチャンスが舞い込んで来る筈だ。

 いや、大洗女子学園の彼女達ならば、そのチャンスを必ず手繰り寄せる筈だ――特に隊長の西住みほさんは、ムトちゃんと同じ天才タイプだから、チャンスをつかむのが上手い筈だ。

 彼女達を信じて、今は耐えよう辻君……反撃の時は必ず来る――その時に、必殺技を叩き込んでやろうじゃないか。」

 

「馳大臣……」

 

分かりました。

最終的に勝利する為の、一時的な敗北だと言うのならば、其れは甘んじて受け入れましょう。――ですが、此れは勝利の為の敗北です……大洗女子学園は絶対に廃校にさせません。

何よりも、私には彼女達との約束を反故にする理由が何処にもありませんからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer139

『エキシビションの彼是です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

夏休み中にエキシビション……其れをやるんですか会長さん?――確かに、私達が全国制覇したって言う事で、大洗の町も戦車道も空前の盛り上がりを見せて居るから、其処でエキシビションって言うのは良い案だと思いますけど。

 

 

 

「勝敗は兎も角、盛り上がる事は間違いねーと思うんだわ――勿論最終決定権は西住ちゃんにあるから、西住ちゃんがダメだって言うならキャンセルしようかと思ってるけどさ。」

 

「いえ、エキシビションの話は進めて下さい――全国大会優勝校が、地元をホストとして行うエキシビションって言うのは話題性がありますから戦車道ファンならば放っておかないと思いますので。

 其れと、大洗の市街地やゴルフパークをフィールドにすればかなり大規模な試合が出来ると思いますし、人が沢山来てくれれば商店街だって客席で出店を出して儲けが出ると思いますから。」

 

其れから、戦車道関連の雑誌の人達も来るでしょうし、NHK茨城放送局は鉄板ですね。

後は出来るだけ盛り上げたいから、蝶野さんにも連絡とってみますね。

 

 

 

「蝶野教官に?」

 

「違うよエリカさん。教官じゃなくて、黒のカリスマの方。

 決勝戦が終わった後に、電話番号とアドレスとラインのID交換したんだよ。」

 

「恐らくですが、黒のカリスマと電話番号やらを交換している女子高生は、世界広しと言えど西住殿くらいでありましょうなぁ……」

 

「うん、其れは否定できないかもだよ優花里さん。」

 

さてと、『今度大洗で、戦車道のエキシビションマッチを行うので、是非見に来てください。From隻腕の軍神』っと。

 

 

 

――ダダダダダララララ、ダダダダダダラララ、ダダダダダダラララ、ダッダッダッダ!(クラッシュ:蝶野正洋の入場テーマ)

 

 

 

「みほ、アナタなんで其れを着信にしてんのよ?」

 

「え?此れなら、蝶野さんからの着信だって分かるでしょ?」

 

早速メールの返事が来たみたいだね。

え~と……『エキシビションだって?最高だぜ!武藤さんや天山も連れて応援に行くから頑張ってくれ!Panzer Vor!I'm Cho-no!!大洗だけ見てりゃいいんだオラァ!』だってさ。

 

 

 

「若干意味が分からないわね……」

 

「応援してくれてるんだと言う事は分かりますけれど、ね。」

 

「いんやぁ、凄い人から期待されちゃったねぇ?

 こりゃあ情けない試合をしたら、気合注入のビンタをされちゃいそうだから頑張らねーとだわ――あ、負けた時はか~しまが代表して蝶野ビンタを喰らうから安心して良いよ西住ちゃん。」

 

「か、会長~~~!?」

 

 

 

会長さんは冗談なのかマジなのか、河嶋先輩を生贄にする事が多いような気がするなぁ?……なら、河嶋先輩を生贄に上級モンスターでも召喚しちゃおうか?

個人的には、ヤッパリ『デーモンの召喚』を推したいかな。

 

 

 

「其れなら、効果付きのスカル・デーモンの方がよくない?」

 

「サイコ・ショッカーも捨てがたいですよエリカさん?」

 

「逸見先輩も赤星先輩も甘いですよ……生贄1体で出せるモンスターなら、皆大好きブラック・マジシャン・ガールが最優先です!!」

 

「「「「其れだ!!」」」」

 

 

 

アハハ、相変わらずのノリの良さだね?うん、ノリの良さに関してはアンツィオにだって負けてないって、胸を張って言う事が出来るよ。

何よりも、このノリの良さが大洗の強さの一端であるのは間違い無いからね。

ところで会長さん、エキシビションを行うのは良いんですけれど、相手は決まってるんですか?

 

 

 

「フッフッフ、よくぞ聞いてくれたよ西住ちゃん!

 聞いて驚くなかれ!今回のエキシビションの相手は、聖グロとプラウダの連合軍だよ!ダージリンもカチューシャも、即答してくれたからね♪」

 

「聖グロとプラウダの連合軍ですか……強敵ですね。」

 

ダージリンさんは広い目で戦局を見極める能力に長けているし、カチューシャさんは味方の士気を高めて流れを引き寄せる力がある上に、副官のノンナさんはナオミさんとトップを争う腕前の砲手でもあるから、聖グロとプラウダの連合軍は黒森峰を上回るかもだよ。

普通に考えたら、可成り厳しい戦いになると思うんだけど、大洗が単騎で迎え撃つ訳じゃないですよね、会長さん?

 

 

 

「勿論だよ。

 大洗も他校との連合軍で迎え撃つ心算――だけど、優勝校って言う事で、連合を組む事が出来る学校は、2回戦落ちまでのチームに限られるけどね。」

 

「其処で縛りプレイを入れてきますか。」

 

でも、2回戦までって言うと……事実上、サンダース、アンツィオ、知波単、継続、マジノの5校に絞られるかな?

本音を言うなら全部と連携したい所だけど、相手が2校連合なのに、こっちが6校連合って言うのはアンフェアだから、せめて3校連合にとどめないとだよね。

となると組む相手は……知波単と継続かな?

サンダースやアンツィオ、マジノでも良いんだけど、強豪の一角であるサンダースと組むのは面白くないし、アンツィオはP40とセモヴェンテの修理が終わってないだろうから無理、マジノは何故かBC自由の内部抗争鎮圧に乗り出したからそもそも無理だからね。

消去法みたいになっちゃったけど、知波単と継続と組んだら面白い事も出来そうだし、此の2校でお願いします。

 

 

 

「知波単と継続……其れで良いんだね、西住ちゃん?」

 

「はい、問題ありません。」

 

知波単は『突撃だけの猪武者』とか言われてますけど、突撃のタイミングさえ間違えなければ、猪突猛進の猛攻で勝利を捥ぎ取る事が出来ると思います。実際過去には全国制覇一歩手前まで行ったことが有る訳ですし。

継続は多種多様な戦車を用いたトリッキーな戦術が特徴のチームで、大洗に似たタイプだから相性も良いと思いますので。

何より、今年の継続の隊長は……っと、此れは秘密にしておきましょう。知ってしまったら、面白くもなんともありませんからね。

 

 

 

「そう言われると気になるじゃんか西住ちゃん。

 継続の隊長さんってのは、特別な人なのかな~~?意地悪しないで教えてよ西住ちゃーん。継続の隊長さんって何者なの~~?」

 

「其れは、言えません。言われる事を、あの人は望んで居ないから。」

 

でも、今の継続の隊長を一言で言うなら『風のように掴み所の無い人』って言う感じですかね?あの人は、本当に飄々としていて掴み所がありませんからね。

加えて、戦車乗りとしては私に近いタイプです……真正面からぶつかるよりも、策を弄して格上の相手を喰う感じですからね――そんな彼女なら、連合を組む価値はあると思いますから。

 

 

 

「確かに、継続のあの人がみほと組んだら凄い事になりそうだわ……聖グロ・プラウダ連合はてんやわんやの天手古舞かもしれないわよ?」

 

「其処にエリカさんの挑発を発動すると?」

 

「間違いなくカチューシャとダージリンがブチ切れて指揮系統が崩壊するわね。」

 

「何だろう、此れまでのエリリンの挑発を考えると全く持って否定できないのが怖い。

 って言うか、何であんなあからさまな挑発に引っ掛かるかなぁダージリンさんも?英国淑女なら、どんな時でもエレガントに振る舞わないと駄目だと思うんだけど?」

 

「其れは無理だよ沙織さん……だって本物の英国淑女じゃなくて、あくまでロールプレイだから。」

 

そもそもにして、ダージリンさんは常に冷静に戦局を見る事が出来るからこそ、エリカさんの挑発が効くんだよ――冷静に見ている事で、正確に『自分が馬鹿にされている事』を感じ取ってしまうからね。

まぁ、何時までもやられっぱなしのダージリンさんじゃないだろうから、流石に何度も同じ手は喰らわないように訓練はしてるだろうけど。

何れにしても、このエキシビションは全国大会の決勝戦以上の試合になるだろうから、気合を入れて行かないとだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ダージリン

 

 

カチューシャ、其方にも大洗女子学園からエキシビションマッチの話は来ているわね?――我が、聖グロリアーナと貴女のプラウダが連合を組んで、大洗と戦うと言う話が。

 

 

 

「勿論来てるわダージリン。

 勝手に貴女の所と組む事にされたのはちょ~~っと、気に入らないけど、ミホーシャ達と戦えるって言うのなら、組む相手は何処でも構わないわ!去年と今年のリベンジをするチャンスだしね。

 でも、幾らミホーシャが凄くても、10vs20のフラッグ戦で、カチューシャ達の方は連合軍……明らかに大洗が不利じゃない?」

 

「あら、相手は大洗だけじゃないわ。

 大洗は大洗で、他校との連合軍を組むそうよ?だから、数の上では20vs20の連合軍同士の試合と言う事になるわね。」

 

「え?ちょっと、聞いてないわよノンナ!!」

 

「ちゃんと申し上げましたよカチューシャ。」

 

 

 

カチューシャとノンナさんのやり取りは何時もの事ですわね……恐らく、みほさんと試合が出来ると言う事を聞いて舞い上がったカチューシャは、大洗も連合を組むと言う話は聞いてなかったのでしょう。

せっかちと言うか、子供っぽいと言うか……尤も、其れがカチューシャの魅力なのですけれど。

 

ですが、大洗が何処と連合を組むのかは些か興味がありますわね?

黒森峰と大洗が組んだら、其れはもう最強クラスの連合でしょうけれど、隊長であるまほさんは兎も角、黒森峰と言う学園が自分達を下した大洗と組む事は良しとしないでしょうから、黒森峰との連合は有り得ませんわ。

そもそもにして、みほさんが『強豪』と言われる所と連合を組むとは思えませんから、組むとしたら『名はあるけど、大会での成績は今一』な所と見るのが妥当かしらね?

そうなると候補は、アンツィオ、継続、知波単、BC自由辺りかしら?マジノは……其れにカテゴリーしたら、隊長さんが胃痛を起こすかもしれないから除外した方が良さそうね。

 

一体どんな連合軍で来るのか、楽しみにしてるわよみほさん。

 

時にカチューシャ、エリカさんの挑発にだけは乗らない様にね?……冷静でいようとしても、彼女の挑発は分かり易い上に、シンプルでムカつく事この上ないから。

認めたくないけれど、流石はアールグレイ様の妹君と言った所だわ。

 

 

 

「ふん、私がエリーシャの挑発に乗ると思ってるのダージリン?」

 

「カチューシャ。」

 

「何よ?」

 

「チビ。」

 

「だ~れがチビですって!!!しゅくせーするわよ、ダージリン!!」

 

 

 

つまり、この程度で怒っては駄目なのよカチューシャ。

エリカさんの挑発は、この比じゃないわ……寧ろこっちが冷静で居れば居る程効果が高くなっていく『逆上値反比例型』とも言うべき、恐ろしい挑発なのよ。

更に、逆上したらしたで、今度は『逆上値比例型挑発』に変わるのだから恐ろしい事この上ないわ。

何よりも驚異なのは、みほさんはエリカさんの挑発を自分の戦車道の戦術の一つとして成立させてしまっている事よ……エリカさんの挑発は、隻腕の軍神が絶妙なタイミングで切って来るの。

 

 

 

「そ、其れはおっかないわね……ミホーシャにかかると、挑発ですら切れる札の1枚になると言う訳ね?」

 

「そう言う事よカチューシャ。」

 

そんなみほさんが、連合によって大洗以外の戦力を得たら、其れは何処と連合を組んでも最強の連合軍となるのは間違いないですわ。

ですが、そんな強敵と戦う事が確定しているエキシビションを心待ちにしている私が居るのもまた事実……マッタク、本当に罪作りな方ですわ。

私は貴女の戦車道に、これ程までに魅了されてしまったのですから……ふふふ、このエキシビションで、私を魅了した代価を払って頂きますわよ、隻腕の軍神さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ミカ

 

 

ふむふむ、知波単と一緒に大洗と連合を組んで、聖グロとプラウダの連合と戦うエキシビションマッチか……開催地が、大洗である事も考慮すると、とても興味を惹かれるお誘いだね。

とは言え、たった1試合の為に協力する刹那主義には賛同できないけれど。

 

 

 

「其れじゃあ参加しないの?」

 

「そうは言ってないよアキ。

 刹那主義には賛同できないけれど、みほさん達と久しぶりに親睦を深めるのも悪くない――何よりも、戦車道の世界に吹いた、大洗と言う新たな風に乗るのも悪くはないからね。」

 

「なら、素直に参加するって言いなよ?

 ミカってば、本当に素直じゃないって言うか、天邪鬼って言うか……少しは、捻くれた言い方しないで、素直に言った方が良いと思うよ?」

 

 

 

其れは、私らしくないんじゃないかな?

まぁ、アキが素直な私を望むなら、そうする事が出来なくもないけど……アキ、君は私が『覇王断空拳』で相手戦車を白旗判定にするのを期待してるのかな?

其れとも、不思議な日記帳で人の心を読むのがお望みかい?

 

 

 

「してないし望んでない!って言うか、中の人ネタは駄目!!」

 

「朝起きて 右も左も 能登麻美子。」

 

「何それ怖すぎる!!」

 

「ふふ、冗談だよアキ。」

 

「ミカが言うと、冗談に聞こえないから性質が悪いんだよなぁ……」

 

 

 

其れは手厳しいねミッコ。

だけど、みほさんと共に戦いたいって言うのは本心だよ――彼女は西住流の家に生まれながら、西住流とは対極に位置する戦車道を体現しただけでなく、其れをもってして、西住流を体現したとも言える黒森峰を打倒して見せたのだからね。

西住の名を持ちながら、西住流の対極に位置する戦車道を行うみほさん……ふふ、魅力を感じるなと言うのが無理な話さ。――と言うか、私ですら魅力を感じたのだから、愛里寿やお母様がみほさんの戦車道に触れたら、完全に虜になってしまうだろうね。

 

人伝に聞いた話だと、愛里寿とみほさんは、どうやら同じ趣味を持っているみたいだからね。

『ボコられグマのボコ』の一体何処に魅力があるのか、私には理解しかねるけど、みほさんと愛里寿と言う天才が魅かれるのだから、凡人には理解出来ない魅力が有るんだろうね、うん。

 

ともあれ、君が私達と知波単を加えた連合チームをどう使うかが楽しみだよみほさん。

ふふ、精々私を巧く使って、私も知り得なかった私を教えてくれる事を期待しているよ――大洗女子学園を見る限り、貴女は人の潜在能力を引き出す力があるみたいだからね。

 

そう言えば、大洗と言えば生シラス丼が有名だったね?――折角だし、試合が終わったら食べて行こうか?

 

 

 

「生シラス丼……凄く美味しそう!!!必ず食べて帰ろうねミカ!!」

 

「生シラス丼の為にも絶対に勝つ!!」

 

 

 

いやミッコ、勝ったらとは言ってないからね?負けても引き分けでも食べて行こうよ、名物なんだから。

って、私が突っ込みに回ると言うのは可成り珍しい事じゃないのかな?……ふ、此れもまた、大洗と言う新たな風が吹いた事の証かも知れないね……うん、自分でも訳が分からないな。

 

だが、なんだろう……何か嫌な予感がするね?――大洗女子学園に破滅の魔の手が迫っているような……杞憂であればいいのだけれどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

そんなこんなでやって来ましたエキシビションマッチ当日!!

客席になってる、大洗シーサイドステーションと、その隣にある大洗マリンタワーの駐車場には、溢れんばかりの人、人、人!!マリンタワーの展望台から観戦してる人も含めると、全国大会の決勝戦超えてるよね此れ!?

 

 

 

「ネット情報によれば、このエキシビションの観戦者は現時点で13万人……全国大会の時の、およそ2倍であります。」

 

「加えて、このエキシビションは、NHK茨城放送局が動画生放送配信をしてるらしいから、テレビやネットでの観戦者を含めたら、確実に100万超えるわよみほ。」

 

「其れはまた、凄い事になってるね?」

 

そんな事になってるなら、情けない試合をする事は出来ないよ……来てくれた人達の期待を裏切っちゃダメだからね。

其れに何より……

 

 

 

「オラァ!大洗、知波単、継続……この連合を、よく見とけオラァ!!」

 

「此の試合の美味しい所、全部大洗連合が頂きます……Year!!」

 

 

 

今日も今日とて、『oNs』の皆さんが絶好調だからね。

だから、勝とう。最大限に戦車道を楽しんだ上で勝とう!――楽しんだ上で勝つのが、私の戦車道の根底にある事だからね。

 

 

 

「楽しんで勝つでありますか!……了解しました西住隊長!我等知波単、此の試合を全力で楽しむ事にさせて頂きます!!」

 

「楽しんだ上で勝つ……其れは最も大切な事だね。

 誰もが其れを分かっているのに、何時の間にか勝利だけを求めて忘れてしまう其れを、今でもちゃんと持っている貴女は凄いよみほさん。

 ふふ、其れが貴女の強さなのかも知れないけれどね――だから、私達にも見せてくれるかな、貴女の戦車道の世界と言うモノを。」

 

「勿論ですよ、ミカさん。」

 

でも、私の戦車道は、ミカさん達によって更に広がる事になるので、私としても嬉しい限りです。――特に、ミカさんとは、中学で戦った時に、何時かは一緒のチームで戦いたいって思ってましたから。

 

 

 

「そうなのかい?……なら、君が黒森峰を離れると知った時、スカウトをしていればよかったかな?

 そうすれば、若しかしたら継続が全国制覇していたかもしれないからね……全国制覇に意味があるとは思えないけど、その肩書があるとないとでは、次世代の人員を集めるのに差が出るからね。」

 

「現実的ですねぇミカさん。」

 

でも、スカウトされなかったからこそ、このチームが実現しているんです。

だから、今はこのチームで最高の勝利を得る事を考えましょう――地元開催のエキシビションで、大洗連合が負けたなんて言うのは洒落にもなりませんから!!

 

 

 

「勿論、勝ちに行くわよみほ!!」

 

「必ず勝ちましょう、みほさん!!」

 

「急ごしらえの連合ですが、西住隊長なら、この連合を纏め上げる事が出来るって信じてます――どうしても無理だと思ったその時は、遠慮しないで、私を頼って下さい。

 副隊長って言うのは、そんな時の為に存在しているんですから。」

 

 

 

エリカさん、小梅さん、梓ちゃん……うん、行こう!!

相手は聖グロとプラウダの強豪連合だけど、私達だって大洗と知波単と継続の連合で負ける心算は毛頭ない――普通に考えれば、分の悪い戦いなんだろうけど、そんなのは関係ないよ!!

私の戦車道をもってして、このエキシビションを制してみせる――だから、行こうか!!

 

「Panzer Vor!!」

 

「「「「「「「「「Jawohl!!」」」」」」」」」」(鍵カッコ省略)

 

 

 

相手が聖グロとプラウダの連合軍でも絶対に負けないから!!――見せてあげる、そして魅せてあげるよ、大洗連合の無限の可能性を!!

このエキシビションは、若しかしなくても戦車道の歴史に名を刻む試合になるだろうね……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer140『エキシビションは序盤から白熱です』

140話まで来たよ!Byみほ        140話で劇場版、キリが良いわねByエリカ     其れでは行きましょう!By小梅


Side:みほ

 

 

皆さん、1週間ぶりです。初めましての人は、初めまして。県立大洗女子学園戦車隊隊長の西住みほです。

初めての人でも分かるように、本編が始まる前に、『ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~』を少しおさらいしておきましょう。

私は小学生の時に事故で左腕を失いましたけど、其れでも戦車道の道を諦められなくて、車長専任免許を取得して、毎年1回戦負けの明光大付属中学校に進学し、其処で掛け替えのない仲間達と出会い、大会でも2回優勝して、その後はお姉ちゃんが隊長を務める黒森峰女学院の高等部に進みました。

そこで、エリカさんと小梅さんと共に遊撃隊を結成し、黒森峰の10連覇を達したんですが、決勝戦で起きた『戦車滑落事故』での対応でお婆ちゃんと対立して、私とエリカさんと小梅さんは、大洗女子学園に転校する事になったんだ。

 

 

 

「今だから言うけど、貴女が家元に噛みついた時は正直背筋が凍ったわ……まぁ、アレが結果としてはよかった訳だけどね。」

 

「でも、大洗でも戦車道が出来て良かったですよ。」

 

「エリカさん、小梅さん。」

 

そして、エリカさんと小梅さんと一緒にやって来た大洗で、私達は戦車道を始めようと思ってたんだけど、生徒会の皆さんが選択必修科目に戦車道を入れてくれたおかげで、新たな部を設立する必要は無くなったんだよね。

しかも、中学時代の後輩である梓ちゃんまで大洗に来てるとは思わなかったから。

 

 

 

「私の戦車道の師匠は西住隊長です――高校でも、一緒に戦いたいって思ったんです。」

 

「梓ちゃん……其れは師匠冥利に尽きるかな♪」

 

そんなこんなで全国大会に出場し、強敵を相手に色んな事を経験しながら、遂には決勝で黒森峰女学院を倒して、私の戦車道を世間に知らしめる事が出来た。

まぁ、其れもみんなの力があったからこそだけどね――えっと、こんな感じで良いのかな?

 

 

 

「良いんじゃない?」

 

「ばっちりですよみほさん。」

 

「えへへ、其れなら良かった♪」

 

其れでは、此れより本編が始まるので、最後までお楽しみください。ぱんつぁ~……ふぉ~~♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer140

『エキシビションは序盤から白熱です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

戦車砲の怒号が飛び交うのは、大洗にあるゴルフクラブのコース……普段は、ゴルフを楽しむ会員で賑わっている此の場所は、今日に限っては、戦車がフィールドに配置されていた。

 

そう、本日は大洗女子学園生徒会長の角谷杏が企画した『大洗がホストのエキシビション』の当日なのである。

既に試合は始まっているが、先ずは両校のオーダーを見て行く事にしよう。

 

 

大洗・知波単・継続連合

 

・パンターG型×1(フラッグ車兼、隊長車)

・Ⅲ号戦車J型改(L型仕様)×1

・ティーガーⅡ×1

・Ⅳ号戦車D型改(H型仕様)×1

・Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)×1

・クルセイダーMk.Ⅱ×1

・38(t)改(ヘッツァー仕様)×1

・ルノーR35改(R40型仕様)×1

・ソミュアS35×1

・ポルシェティーガー×1

・九七式中戦車(57mm砲搭載型)×4(内1輌は西絹代車)

・九七式中戦車(新砲塔搭載型)×3

・九五式軽戦車×1

・BT-42突撃砲×1

・T-34/84(フィンランド仕様)×1

 

 

聖グロリアーナ・プラウダ連合

 

・チャーチル歩兵戦車Mk.Ⅶ×1(隊長車兼フラッグ車)

・マチルダⅡ歩兵戦車Mk.Ⅲ/Ⅳ×5

・巡航戦車クルセイダーMk.Ⅲ×4

・T-34/76×3(内1輌はカチューシャ車)

・T-34/84×5

・IS-2×1

・KV-2×1

 

 

大洗・知波単・継続連合が、大洗の全車輌に知波単の戦車8輌と継続の戦車2輌を加えた構成であるのに対して、聖グロリアーナ・プラウダ連合は、両校の戦車が半分ずつと言う構成だ。

此れは、大隊長を務めるみほとダージリンの考え方の違いからくるものだ――要するに、みほは安定性よりも連合軍だからこそ生まれる、一種の化学反応を期待してチームを編成し、逆にダージリンは強豪同士が組む事ゆえに安定感を求めたと言う所だ、

 

だが、此のチーム構成は、先ずはみほのやり方に軍配が上がる結果となった。

大洗・知波単・継続連合vs聖グロリアーナ・プラウダ連合のエキシビションは、序盤はみほのペースで試合が進んで居た――真正面からの力押しを苦手とする聖グロに対して、知波単の突破力をけしかけてこのゴルフ場に誘導し、其処からはミカに頼んで聖グロ・プラウダ連合のフラッグ車をバンカーに閉じ込める事に成功していたのだから。

つまり、現状では大洗連合が圧倒的に有利なのだが……

 

 

「あら、茶柱が立ったわ。

 こんな言葉を知っている?『茶柱が立った日には、素敵な客人が訪れて来る』。」

 

「もう来ているみたいですよ……此の来客が素敵かどうかは分かりませんが。」

 

 

フラッグ車であるチャーチルの車長であり、聖グロリアーナ・プラウダ連合の大隊長であるダージリンは余裕綽々――決して楽観している訳では無く、攻め込まれている、この状況ですら楽しんでいるようだ。

 

 

「ふふ、此れを素敵な客人と言わずに、何が素敵な客人かしらペコ?

 単純な戦車の性能で言うのであれば知波単も継続も、我が聖グロリアーナや、今日の友であるプラウダには遠く及ばないモノの、その2校を纏め上げているのが、みほさん率いる大洗であると言う事を忘れてはいけないわよ。

 戦車の性能差なんて言うモノは、みほさんの前では何の意味もなさないのよ……黒森峰が保有する、最強の超重戦車『マウス』すらも、みほさん率いる大洗は撃破してしまったのだから。」

 

「……そう言えば、副隊長のⅢ号も性能差を引っ繰り返して、ティーガーⅠ、ティーガーⅡ、エレファント、相討ちではありましたがヤークトティーガーと、黒森峰が誇る重戦車を4輌も撃破しているんですよね。

 みほさんの一番弟子と言うのは伊達ではないと言う事ですね……彼女も要注意です。」

 

「そうね。

 みほさんも凄いけれど、副隊長の澤さんもまた凄い戦車乗りであるのは間違いないわ――でも、あれで中学から始めたと言うのだから、澤さんもまた天才であるのは間違いないわ。

 みほさんが『隻腕の軍神』ならば、澤さんは『軍神を継ぐ者』と言った所かしらね。」

 

 

ダージリンがこの状況を楽しんでいたのは、相手がみほ率いる連合軍だったからだ。

知波単も継続も、単体での戦力で言えば聖グロリアーナにもプラウダにも遠く及ばない(継続はプラウダから鹵獲した戦車が有るが、レギュレーション違反にならない様『フィンランド仕様』になっている為、オリジナルと比べると性能が落ちる)が、その2校に大洗が加わって、大隊長がみほだと言うのならば話は別――全国大会の2回戦以外は不利な戦いを強いられながら、其れを跳ね返して全国制覇を成し遂げたみほが率いる連合軍は、戦車のカタログスペック以上の力を発揮して、自分達を追い詰めていたのだから。

 

 

「馬鹿な、私のデータでは、火力では此方が15%、防御力では20%有利な筈なのに……!」

 

「ふふ、みほさんの前ではデータの予測値などまるでアテにならないわよアッサム。」

 

 

そんな状況で、己のデータを覆された事に驚くアッサムだが、データは絶対ではないのだから、この現状はデータでは予測出来なかったのは当然と言えば当然だ――そもそもにして、みほ相手にデータなんて言うモノはマッタク持って役に立たないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、現在有利な状況立っている大洗・知波単・継続連合だが、決して攻め急ぐ事は無かった――此れは当然みほの判断だ。

有利な状況に浮かれて攻め急いでしまったら、必ずどこかでミスが出て勝利を逃してしまうと言う事を知っているから……だからこそ、この場面では、じっくりと攻めながら包囲網を狭めて行くのが上策なのだ。

みほにしては珍しい手堅い戦術だが、みほとて常に奇策や搦め手を使う訳では無い――勝利が目前に迫っている状況であるのならば、其れをより確実にする為に手堅い戦術を選ぶ事も出来るのであり、その柔軟さこそがみほの武器なのだ。

 

 

「序盤の知波単を使った作戦が上手く嵌ったわねみほ?

 プラウダの部隊も分断してあるから、聖グロの救援に来るにしてももう少し時間が掛かるでしょうから手堅く行くのが良策……だけど、包囲網が完全に出来る前に決めちゃっても良いのよね?」

 

「エリカさん、もう少し分かり易く。」

 

「みほ、包囲網を狭めろとの事だったけど、此のまま倒してしまっても構わないのだろう?」

 

「アーチャー乙。」

 

 

そして、大隊長と大洗の狂犬は何かやってた……全国大会と違い『必ず勝たなくてはならない試合』ではない為、可成りリラックスしている様子が窺える。

端から見れば、阿呆極まりないやり取りを試合中にしているのだから、この軍神と狂犬ノリノリである。

だが、ノリノリであっても不真面目ではなく、聖グロリアーナ・プラウダ連合(以降、聖グロ・プラウダ連合と表記)のフラッグ車を仕留める為に包囲の輪を縮め、少しずつだが確実にプレッシャーを掛けて行く――如何にチャーチルが堅牢な戦車であるとは言え、近距離からパンターとティーガーⅡの砲撃を喰らったら一溜りもない訳だから、此のプレッシャーの掛け方はダージリンにとっても嫌なモノであるだろう。

 

そしてもう一つ、この場で大洗・知波単・継続連合(以降、大洗連合と表記)にとって有利なのは、この場に居る聖グロの戦車では大洗連合のフラッグ車であるパンターは至近距離からの砲撃を当てない限りは撃破する事が出来ないと言う事だ。

要するに、大洗連合の最強2輌は何処から撃っても聖グロ・プラウダ連合のフラッグ車を撃破出来るが、聖グロ・プラウダ連合は大洗連合のフラッグ車を撃破するには、最低でもプラウダ保有のT-34/84が必要なのだから、この時点で可成り差が有るだろう。

 

尤も、戦車の総合性能で言えば聖グロ・プラウダ連合の方が上だろう……大洗連合は、継続保有の戦車は兎も角、知波単保有の日本製戦車はハッキリ言って超低性能と言わざるを得ないのだから。

其れでも、状況を有利に持って行ってしまう辺り、みほの隊長としての能力の高さが窺えるだろう。無論、知波単の隊長である絹代と、継続の隊長であるミカの働きも無視はできないが。

 

 

「ミカさん、プラウダの方は如何なっていますか?」

 

『ふふ、良い感じに分断できたけれど、矢張り戦車の性能差があるせいで抑えきるのは難しいかな?

 撃破はされなくとも、其方に向かってしまうのは確実だと思うよ――と言うか、プラウダの隊長が『戦車を返せ』だの何だのと、やたらと私達に敵対心を顕わにしてるからね?』

 

「継続はプラウダから戦車鹵獲しまくってますからねぇ……」

 

『撃破した相手の戦車を鹵獲するのはルール違反じゃないんだけれどねぇ?……まぁ、彼女達の戦車の幾つかは、私達の所に来る運命だったんじゃないかな。』

 

「相変わらずですねぇミカさん。

 ですが、そう言う事なら分かりました――プラウダの援軍が到着する前にフラッグ車を撃破します。」

 

『なら、此方もプラウダが其方に向かうのを出来るだけ遅らせるように頑張ってみるよ。

 しかし、此の試合には参加してよかったよみほさん――君の指揮下で戦うと言うのは、こんなにも心地いいモノだったんだね?……益々戦車が好きになってしまいそうだ。

 其れは兎も角、君に限っては有り得ないだろうが勝負を焦らない様にね?』

 

「分かっていますよミカさん。」

 

 

此処で別動隊のミカと連絡を取り、状況を確認する。

余談だが、この別動隊には大洗の副隊長である梓もいるのだが、みほは敢えて梓を別動隊の指揮官にはせずに、ミカを指揮官にしていたのだ。此れは、ミカの実力を考慮しての事でもあると同時に、梓のさらなる成長を望みミカの戦い方を学ばせる意図があった。

 

其れは兎も角として、状況を確認したみほは、プラウダの部隊が此方に到着するまでの間が勝負と考え、一気に作戦を新たに構築して行く。

包囲の仕方、フラッグ車の護衛の倒し方、フラッグ車を確実に撃破する方法――それらを、頭の中に叩き込んだ何百と言う戦術を組み合わせて作り上げていく。

世界広しと言えど、みほにしか出来ない方法で、勝利へのロードを作り上げる……そして、其れは成った。

 

 

「此処で一気に攻め込むよ――包囲網を狭めるスピードを上げる。

 行くよ、Panzer Vor!!」

 

「「「Jawohl!!」」」

 

 

自ら構築した勝利への道。其れを成す為に、みほが号令をかけると同時に、ティーガーⅡ、Ⅳ号、ヘッツァーが速度を上げる。

逆にみほのパンターは停車――フラッグ車ゆえに、万が一にも撃破される危険性を減らす為に殿を務める事にしたのだ……が、この場に居る

知波単の面々はマッタク持って動こうとはしない。

一見すると、命令を無視しているようにも見えるが……

 

 

「西住隊長、『ぱんつぁーふぉー』とは、一体如何言う意味なのでしょうか?」

 

「えっと、『戦車前進』って言う意味だよ西さん。」

 

「了解であります!戦車前進!!」

 

 

実はただ単純に、みほの号令の意味が分かってないだけだった。

その証拠に、絹代が改めて号令を掛けたら、知波単の面々は次々に『戦車前進』を口にして進軍を始めたのだから――如何やら、連合軍を組んだの場合には事前に号令の意味を伝えておく必要があるらしい。

 

だが、其れでも包囲網は着々と聖グロ・プラウダ連合へとプレッシャーをかけて行く……ただ包囲網を狭めるだけでなく、攻撃もしているのだから、圧力はハンパないだろう。

このまま順調に行けばフラッグ車を撃破出来る――みほがそう考えた時、みほですら予想して居なかった事態が起きた。

 

 

 

――ドゴォォォォォォン!!

 

――キュポン!

 

 

『マチルダⅡ、走行不能。』

 

 

何と、知波単保有の九七式が、聖グロのマチルダを撃破した――撃破してしまったのだ。

此れは当然ながら、完全なラッキーパンチの類であり、普通ならば日本戦車がイギリス戦車を正面から撃破する等と言う事は有り得ないのだが、偶々マチルダⅡの最大のウィークポイントにヘッツァーと九七式の砲撃が同時に炸裂し、撃破に至ったのだ。

最大限にぶっちゃけて言うなら、マチルダⅡを撃破したのはヘッツァーと言う事になるのだが、九七式に搭乗するクルーは自分達が聖グロの戦車を撃破したと思うだろう。

 

 

「おぉ!聖グロの戦車を撃破したぞ!!

 隊長、今こそ突撃の時では?否、突撃以外に何が有りましょうか!!」

 

「え?」

 

「突撃こそが、我が知波単の誇り!!いざ、全力で突撃!!」

 

「あ、オイ!ちょっと待て!!」

 

「行くわよぉ!おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「東雲ぇ!!!!」

 

 

その勢いに乗って、絹代が止めるのも聞かずに、知波単の面々は全力吶喊!!魂の突撃を敢行するが――

 

 

――ドガァァァァァン!!

 

 

――キュポン!

 

 

『九七式、走行不能。』

 

 

そんな単純な突撃が通じる筈もなく、敢え無く白旗判定に――そして、其れは同時にみほが構築した勝利への道が瓦解したと言う事でもあるだろう……みほの構築した戦術では、チャーチルの逃げ場を完全になくした上でティーガーⅡで決める心算だったのだが、知波単の九七式が複数撃破されてしまった事で、包囲網に穴が出来てしまったのだから。

 

 

「熱々のスコーンは、勝手に割れてくれた様ね……あとは、美味しく頂くとしましょうか。」

 

 

そして、此れが好機とばかりにチャーチルのダージリンは笑みを浮かべ、此れまで身を隠していたバンカーからグリーンに上がり、大洗連合の前にその姿を現す。

その姿は、逆境を跳ね返した騎士の如く雄々しい……防戦一方だった英国ナイトが、攻勢に転じた瞬間であった。

 

 

「ふふ、本番は此れからですわよみほさん?」

 

「――!此れは、白い手袋……上等、受けて立つよダージリンさん!」

 

 

そして、珍しくキューポラから身を乗り出したダージリンは、みほに向かって白い手袋を投げつける――イギリスの古式ゆかしい決闘の申し込みをして見せたのだ。

其れを受けたみほもまた、獲物を狙う肉食獣を思わせる笑みを浮かべ、其れに応える。――否、みほだけではない。

 

 

「私達に決闘を申し込むとは良い度胸じゃない?――受けてやるわよダージリン!」

 

「決闘を申し込んだ以上、簡単に撃破されないで下さいよ?」

 

 

大洗の狂犬の異名を持つエリカは獰猛な犬狼を思わせる獰猛な笑みを浮かべ、慧眼の隼の二つ名を持つ小梅は獲物を狙う猛禽を思わせる凄惨な笑みを浮かべていたのだ。

嘗て、黒森峰の遊撃隊で其の力を最大に発揮した3人が、ここでその力を解放したのである――更に!!

 

 

「此処からが本番……全力で行くよ!ハァァァァァァァァ!!!」

 

 

――ドガァァァァァァァァン!!!

 

 

此処でみほが闘気を全開にしての軍神招来!!

知波単が、絹代の制止も聞かずに行った間抜けな突撃のせいで、大洗連合絶対有利だった状況は瓦解してしまったが、同時に此のエキシビションは此処からが本番なのだろう。

 

 

「軍神招来……そう来なくては面白くありませんわ……行きますわよみほさん!!」

 

「受けて立ちますダージリンさん……私の戦車道、受け止めて貰いますよ?」

 

 

動のみほと、静のダージリン――異なる2つの闘気がぶつかり合ってスパークしている……そう錯覚させる程の闘気のぶつかり合いが、この場では発生していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ミカ

 

 

ふふふ、こんな事を言うのも如何かと思うけれど、こんなに戦車道を楽しいと思ったのは初めてかも知れないね――みほさんと戦った時も凄く楽しかったけれど、みほさんと同じチームで戦うのが此れほど楽しいとは予想外だったかな。

そして、私の予想通り、今日の私は何時も以上に力を発揮する事が出来ている……みほさんによって、私の潜在能力が引き出されている感じがするよ。

 

私で此れなのだから、愛里寿がみほさんと組んだその日には凄い事になりそうだね。

 

 

 

「ミカさん、ゴルフクラブでの包囲網は瓦解したみたいです……隊長は一時撤退して、市街地戦に持ち込んで立て直すみたいなんですが……」

 

「みほさんが仕損じるとは意外だね?……此れは、知波単の一部が独断専行をしたかな?

 でも、市街地戦に持ち込むって言うのなら、プラウダの部隊を此方に引きつけなければだ――此のままでは、みほさん達はプラウダの部隊と鉢合わせる事になるからね。

 だから、プラウダの部隊を更に分断して、みほさん達の逃げ道を確保する……出来るかい、澤さん?」

 

「出来るかどうかは問題じゃありません……問題なのは、やるかやらないかです!!」

 

「ふ、そう来たか。

 如何やら、そよ風と思っていた子が、暴風へと成長したみたいだ……だが、やるかやらないかと言うのは至言だ――ならば、バッチリとやってやるだけだね。」

 

市街地戦はみほさんの十八番だから、ゴルフクラブでの作戦が瓦解したのは、ある意味で良かったかもしれないね?

隻腕の軍神の真骨頂とも言える市街地戦をしないで試合が終わるなんて言うのは、味気ない事この上ないし、観客席にいる黒い人が認めるとは思えないからね。

 

此処からがみほさんの戦車道の本領発揮だ――アキ、ミッコ……適当に本気を出すとしよう。

 

 

 

「其処で適当って言うのがミカだよね。」

 

「普通は、全力で本気を出せって言う所だよな。」

 

「其処には、突っ込まないでいてくれると助かるかなミッコ。」

 

此れが私のキャラクターな訳だしね……今やすっかり地になってしまったけどさ。

まぁ、そんなのは如何でも良い事だけど、市街地戦となればみほさんは無敵だから、聖グロとプラウダの連合軍を相手に如何戦うか、楽しみで仕方ない感じだ。

だが、君が負けるビジョンだけは描く事が出来ないよみほさん――まぁ、当然かな……君は誰が相手であっても『負けない』戦車乗りだからね。

 

だから、此の試合は絶対に勝とうじゃないか――と言うか、勝とうみほさん。此の試合に勝つ事が出来れば、大洗には『西住みほ』と言う天下無敵の軍神が居ると言う事を、世に知らしめる事が出来るのだからね。

さぁ、行くとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer141『全力全壊!究極、至極、生命力!』

えっと、このタイトルは?Byみほ        みほ、突っ込んだら負けよ?Byエリカ     でもつっこまずにはいられませんよねBy小梅


Side:みほ

 

 

包囲網は瓦解しちゃったか……なら、此の場所にこれ以上留まってる理由はないから、一旦退いて市街地戦に持ち込むのが上策って所だね?

市街地戦は私の十八番だから、市街地戦に持ち込めば、負ける事だけはないからね。

そんな訳で、一時撤退~~!

 

 

 

「な!敵に背を見せるのでありますか西住隊長!!」

 

「西さん、此れは最後に勝つための戦略的撤退ってやつだよ。

 確かに敵に背を見せるのはよくないかもだけど、最終的な勝利を見据えるなら、一時の撤退は戦術の一つとして考えておかないと駄目なんだよ――退くべきところで下手に攻めても、勝つ事なんて出来ないからね。」

 

「勝利の為の撤退……成程、考えてみる価値はありそうです。」

 

 

 

考えた方が良いと思うな。

戦いってのは、何時でも押せ押せで行けるモノじゃないから、場合によっては出ては退き、退いては出るって言う戦い方も必要なんだよ――そう言う戦い方は、相手をイラつかせて冷静な判断を失わせるからね。

其れじゃあ、そう言う事なんで此処はお暇させて貰いますねダージリンさん。

 

 

 

「な!決闘を受けておきながら逃げますのみほさん?」

 

「逃げるんじゃなくて戦略的撤退です。

 其れに、ここでの決着は無理みたいなので、私の十八番である市街地の方で待ってますよダージリンさん……と言う訳で、アディオース!!」

 

 

 

――ボウン!!

 

 

 

此処で、伝家の宝刀煙幕攻撃!

此れで、ダージリンさん達の視界を潰す事が出来たから、余裕で市街地に入る事が出来るかな?――余裕で入れるかどうかは、梓ちゃんとミカさん次第だけど、あの2人ならプラウダの部隊を押さえつける事が出来るだろうから、心配ないよね。

 

ふふ、市街地戦に入ってからが本番だから覚悟してくださいねダージリンさん、カチューシャさん……私の市街地戦は、一切の戦車道のマニュアルが通じない世界ですから♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer141

『全力全壊!究極、至極、生命力!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

ゴルフパークでの包囲網は知波単の無謀な突撃によって瓦解してしまったが、みほはすぐに戦術を組み直して、聖グロ・プラウダ連合を、己が最も得意とする市街地戦に誘導する事にした。

 

その下準備として煙幕で視界を奪った上でゴルフパークからの離脱を試みたのだが……

 

 

「敵に背を見せるだなんて出来ないであります!

 果敢に戦って散って行った先輩達の為にも、この福田、撤退など出来ないであります!!」

 

 

絹代以外で唯一生き残った知波単の福田が、この場からの撤退を頑として了承しなかったのだ……今年知波単に入学し、徹底的に知波単魂を叩き込まれた故に、撤退は有り得なかったのだろう。

 

 

「煩いわね!此れは命令なの!命令は守る為にあるのよ!!」

 

「そうだよ。

 其れに不利な状況で遣り合う事も無いじゃん?態勢整えてからやり返せば良いんじゃない?」

 

「攻め込まれた時は根性で耐えて、チャンスが来たら反撃!!此れ、スポーツの基本だよ!!」

 

「しかし!!」

 

「くどいぞ福田!

 此れは西住大隊長殿の命令だ!今は、知波単の隊長である私ですら、西住大隊長の部下に過ぎんのだ!お前の我儘が通ると思うな!!」

 

 

カモチームのそど子とレオポンチームのナカジマ、アヒルチームの典子が言っても聞かない福田に対し、彼女の上官である絹代が一喝!

――絹代も、一度は『撤退と言うのは……』と考えたが、みほの話を聞いて己の考えを改めていたのだ。

そして、この絹代に一喝されてしまっては福田とて従うしかない……旧日本軍をモチーフにしている知波単学園は、基本的に上級生が絶対の存在であり、下級生は其れに逆らう事が出来ないのだから。

 

そんな学校で、何故2年生の絹代が隊長を務めているのかと言うと、誰が相手でも試合開始と同時に突撃を敢行していた前隊長の無能ぶりに絹代が業を煮やし、同じ志を持った者達とクーデターを起こし、内戦とも言える戦車戦で前隊長を打ち負かして追放したからだったりするのだ。

みほ、エリカ、小梅、そしてアンツィオのカルパッチョの陰に隠れて目立たない存在だったが、絹代は中学時代エリカと全国大会準決勝で戦った実力者であり、その実力を買われて知波単にスカウトされたのである。

 

其れは兎も角、絹代に一喝された福田は、渋々と撤退を始め、此れで大洗連合は本格的にゴルフパークからの撤退が出来る訳だ。

当然、ただ撤退する訳ではい。

 

 

「エリカさん、ナカジマさん……やっちゃってください。」

 

「了解よみほ。」

 

「任せて西住隊長♪」

 

 

みほの命令を受けたエリカとナカジマは、道路脇の樹木に向かって戦車砲を発射し、道路を樹木で塞いで塞いで通れなくしてしまう――ダージリンの乗るチャーチルならば乗り越える事が出来るだろうが、マチルダで積み重なった樹木を乗り越えるのは難しいので、大洗連合を追撃するには、此の樹木を戦車砲で吹き飛ばす必要があるのだ。

追手の追撃を遅らせるだけでなく、残弾をも消費させる戦術は、流石はみほと言った所だろう。

みほは、西住流も修めているので真っ向勝負でも滅法強いのだが、その真髄は奇策・裏技上等の『アウトサイド戦術』であり、一部の戦車道評論家は、『中学、高校、大学を通じて、搦め手を使わせたら西住みほの右に出る者は居ない』と評価しているくらいなのだ。

 

序に言っておくと、樹木を倒す前に、一本目の樹木が倒れる地点のちょっと前にデフォルメされたみほが黄色いヘルメットを被って頭を下げている『工事中に付き迂回願います』の看板を設置すると言う芸の細かさも見せていた。

 

因みにこの看板を見たダージリンは、『みほさん、おやりになりますわね。』と呟いてたが、手にしたティーカップの取っ手には罅が入ってので、内心は結構キレていたのかも知れなかった。

此処にエリカが、火にガソリンをぶっ掛ける行為となる挑発を行ったらどうなっていたのか……ダージリンファンを敵には回したくないので考えないようにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、聖グロ部隊の救援に駆けつけようとしていたプラウダの部隊はゴルフパークに向かう途中で完全に足止めを喰らう形になっていた。

原因は言うまでもなく大洗連合の別動隊の隊長であるミカと、大洗連合副隊長の梓だ。

ミカは自己流にアレンジした島田流の戦い方で、梓はみほ譲りの搦め手上等な戦術で、基本戦力では上回るプラウダの部隊を天手古舞させていたのだ。

こんな言い方をしたらアレだが、裏西住流の一番弟子と、亜流の島田流は思いのほか相性が良かった様だ。

 

 

「ふふ、思った以上にやるね澤さん?

 流石はみほさんが見出しただけの事は有ると言った所かな……偉大なる者は、偉大なる者を知る――みほさんは、直感的に君の中の才能を感じたのかもしれないね。」

 

「かも知れません……西住隊長と出会わなかったら、今の私はいませんでしたから。

 でも、ミカさんも凄いと思いますよ?圧倒的に劣る戦力で、こうしてプラウダの部隊と戦えてる訳ですから。」

 

「ふふ、西住流が『力』の戦車道なら、島田流は『技』の戦車道と言えるから、格上相手であっても互角以上に立ち回るのは難しい事じゃないのさ……まぁ、私の島田流は亜流だから、妹ならもっと巧くやるだろうけれどね。」

 

 

交わされる会話からも、相性の良さが窺えるが、実はこの時ミカは、梓の持つ力に驚かされていた――自分と一緒に戦う中で、梓はミカの戦車道を吸収し、其れを自分の中で、これまでに得たみほの戦い方と融合して昇華させていったのだから。

元より、みほの感覚によって成り立っていた明光大の戦車道の戦術を、独自の理論でもってマニュアル化してしまった梓にとって、ミカの戦車道を吸収するなど造作もなかったのだろう。

 

みほの狙い通り、梓はミカから色々と吸収して成長しているのだが……此処で足止めを喰らったカチューシャが黙っている筈がない!!

あるかどうかも怪しい堪忍袋の緒はブチ切れ寸前なのだから。

 

 

「ムッキー!!道を開けなさいよ!!!先に進めないじゃない!!

 って言うか、継続のアンタ!盗んだ戦車返しなさいよ!!それは、私達プラウダの戦車よ!!!」

 

 

と言うか、とっくにブチ切れていたようだ。

其れも、足止めを喰らわされた事よりも、継続がプラウダから鹵獲した戦車を『フィンランド仕様』にして堂々と使用して居る事に対してだ。(戦車の鹵獲はルール上認められているので、継続がした事はマッタク問題は無いのだが……)

 

 

「盗んだとは人聞きが悪いね?

 壊れた戦車が落ちていたから、拝借させて貰っただけさ……あのまま朽ちさせてしまうのは勿体なかったからね。」

 

「ミカさん、そう言うモノを見つけたら拝借するより前に警察に届け出るべきだと思います。」

 

「警察への通報、其れに意味があるとは思えない。」

 

「其れを怠って、持ち主不明の物品を勝手に持って行った場合、普通に盗難ですからね?勝手に人の物を持って行っては、だめゼッタイ!!」

 

「だめゼッタイ……薬物撲滅運動のポスターを思い出すね。」

 

「違いますからね?」

 

「其れは残念。」

 

 

そして始まるミカと梓のコントのような会話。

決して狙ってやってる訳では無く、自由奔放で掴み所のない性格のミカと、真面目で確りとした性格の梓が会話をすると、自然とこうなってしまうらしいのだ。

が、其れを見せられたカチューシャは一気に怒りのボルテージが上がっていく。当然だ、見てる側からしたら完全に馬鹿にされているとしか思えない光景なのだから。

 

 

「貴女達、カチューシャを馬鹿にしてるの!?

 良い度胸じゃない!!しゅくせーしてやるから、覚悟なさい!!」

 

 

そして怒り爆発!然る後に攻撃開始!!

ダージリンから『逸見エリカの挑発には注意』と言われていたカチューシャは、エリカからの挑発には何が有っても我慢する様に心掛けていたのだが、自校の戦車を鹵獲しまくっている継続の隊長と相対し、更には(ミカと梓にその気はなかったのだが)予想していなかった相手からの挑発を受けて、甲子園男児の髪の毛ほどしかない怒りの導火線に火が点き、一気に爆発してしまったらしかった。

 

 

「地吹雪のカチューシャが怒ったら、此方も只では済まないから、そろそろここから離脱しよう梓さん。

 恐らくだけれど、みほさんならばダージリンを『文字通り』煙に撒いて、市街地へと入っただろうから、此処での此れ以上の足止めは意味がないからね。」

 

「そうですね……なら、私達も市街地へ向かいましょうミカさん。

 市街地戦は、西住隊長の、そして隊長の教えを受けた私の最も得意とするフィールドですから、其処でなら私達が負ける事は有りません!」

 

「頼もしいね?流石はみほさんの一番弟子……否、其れは元々君が持っていたモノなのかな?

 だが、軍神の力が最大限に発揮される市街地戦に参加しない事には何の意味もない……寧ろ、参加しなかったら私は戦車乗りとして一生後悔する事になるかも知れないから、その提案を受け入れよう。」

 

 

しかし、その怒りの攻撃に馬鹿正直に付き合う事は無いのだ。少なくとも足止めをしていたミカと梓にとっては。

ミカは嘗て戦った好敵手として、そして梓は一番弟子として、みほならば此れ位の時間を稼げばダージリン達を撒いて市街地に入っているだろうと予測し、此れ以上の足止めは無意味と判断してその場を速攻で離脱する。

 

 

「んな!逃がすもんですか!!追うわよノンナ、クラーラ!!」

 

「了解ですカチューシャ。」

 

「Я понимаю, товарищ Катюша.(了解しました、カチューシャ。)」

 

「日本語で喋りなさいよクラーラ!!」

 

「Я буду хорошо относиться.(善処します。)」

 

 

となれば、当然カチューシャ達も其れを追う事になるのだが、梓達を追うと言う事は、自らみほのフィールドとも言える市街地に足を踏み入れると言う事に他ならず、無意識の内にカチューシャは軍神の庭に誘導されているのだ。

しかも、大洗の市街地ともなれば、大洗女子学園の面々からしたら庭みたいな物なので、フィールドアドバンテージも大洗連合にある――ゴルフパークでの決着は免れたとは言え、聖グロ・プラウダ連合からしたら、結果としてより悪い状況を選ばされたと言えるだろう。

フィールドアドバンテージの無い場所で、みほを相手に市街地戦を行う事になったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

ミカと梓が市街地へ向かったころ、ダージリンの部隊は漸く市街地へ入ろうとしていた。

煙幕による視界遮断はある程度の対策をしていたので、煙幕が完全に晴れる前に進軍する事が出来たのだが、エリカとナカジマによって倒された樹木の撤去に手間取って、市街地への到着が遅れていたのだ……如何に戦車砲をもってしても、積み重ねられた樹木を粉砕するのは容易な事ではなかったのだ。

 

 

「みほさんが得意とする市街地戦……何が起きるか分かりませんから、最大限に警戒しても、警戒のし過ぎと言う事は無いわね。」

 

「確かに、警戒は必要かと思いますダージリン様。

 私のデータでは、西住みほさんが市街地戦を仕掛けて来た場合の、我が軍の勝率は一気に8%にまで下がってしまいますので。」

 

「勝率一割未満とは……流石はみほさんと、言うべきなのかしらね。」

 

 

みほを相手に市街地戦を行うのは圧倒的に不利と分かっていながらも、ダージリンの顔には笑みが浮かんでいた。

試合である以上、勝ちたいと言う思いは当然あるが、それ以上にダージリンの心の中では、知波単と継続とチームを組んだ大洗が、みほが何をして来るのか楽しみで仕方なかった。

練習試合の時は、素人の集団であったにもかかわらず己と引き分けた大洗ならば、全国制覇を成し遂げた今は、素人集団の集まりではなく、一流校と言っても過言ではないと、ダージリンは本気でそう思っていたのだ。

 

だから、どんな戦術を見せるのかと期待してた所で、其れは突如目の前に現れた。

 

 

「随分遅かったわねダージリン……怖気付いて逃げたのかと思ったわ。」

 

「現れましたわね逸見エリカさん……」

 

 

ダージリン達の行く手に現れたのは、エリカの駆る漆黒のティーガーⅡ。

大洗最強の攻防力を誇る戦車だが、其れが只現れただけでなく、車長であるエリカが完全に戦車の外に出て、回転砲塔に背を預けて腕を組んだ状態で現れたのだ。

しかも、その瞳に宿るのはあからさまな挑発の光……そして、獲物を食い殺さんとする、獰猛な肉食獣の光――逸見エリカと言う戦車女子が秘めている、凶暴な『獣』の光がダージリンの瞳を貫く。

 

 

「!!……おやりになりますわね?」

 

 

其れにダージリンは、一瞬たじろぐも、決して屈せずにエリカを睨み返す――エリカが敵と見なしたら、相手が誰であろうと咬み殺す『狂犬』なら、ダージリンは、常に理性的に動く事の出来る『狩人』なのだ……故に、何方も退く事は無いのだ。

 

 

「悪いけどダージリン、市街地戦になった以上、アンタ等に勝利はないわ……何たって、市街地戦はみほの十八番である上に、あのまほさんでさえ、市街地戦ではみほには勝てなかった。

 まほさんに1度も勝った事がないアンタが、みほに勝てると思ってる訳?

 だとしたらお笑いねダージリン……アンタはみほに勝つ事は絶対に出来ないわよ――例え、プラウダと手を組んだとしてもね。

 って言うか、アンタは姉さんの域にはまだ達してないんでしょ?なら、みほに勝つ事は出来ないわ。姉さんのレベルに達して初めて、みほと互角に戦う事が出来る訳だからね。

 ……姉さんに聖グロを任されたんだから、もっと頑張りなさいよ田尻。」

 

「ダージリンですわ!!」

 

 

だがしかし、逸見エリカと言う少女の武器は、圧倒的な凶暴性だけではなく、相手の神経を逆撫でする事の巧さにある――其れこそ、相手の神経を逆撫でさせたら右に出る者は居なんじゃないかと言う位に、エリカの挑発は強烈なのだ。

感心してしまう位に、相手の神経を逆撫でするワードが次から次へと現れ、行きつく島もなく、相手の堪忍袋の緒を粉砕!玉砕!!大喝采!!

して、冷静な思考を奪い去ってしまうのだから恐ろしい。

 

 

「アラアラ、少し落ち着きなさいよ?Slow down baby?

 って言っても無理よね……スッカリ怒ってるみたいだからねダージリン?」

 

「怒ってはいませんわ。」

 

「いや、怒ってるじゃんよ?額に青筋浮いてるわよ?」

 

「気のせいですわ。」

 

「気のせいねぇ?……まぁ、そう言う事にしておいてあげるわ。

 其れよりもダージリン、私、貴女に言いたい事が有ったのを忘れていたわ……この場で言っちゃってもいいかしら?」

 

「構いませんわ。」

 

「なら言わせて貰うわダージリン……アンタ、弱いでしょ?」

 

 

此処でもエリカはダージリンを会話で誘導し、最後の最後で、シンプルながらも破壊力抜群の核爆弾を投下!!――どこぞの『蟲野郎』に対して某王様が放ったセリフのオマージュではあるが、此のドストレートな物言いはダージリンには突き刺さった。

ダージリンと言う戦車乗りは、中学時代から聖グロに所属し、中学を首席で卒業し、高校では1年生ながら隊長補佐を任されたエリートである。

にも拘らず、エリカに面と向かって『弱い』と言われた内心穏やかではない――と言うか、今のエリカの発言は、此れまでのダージリンが歩んで来た道を全否定するモノに他ならないのだから。

 

 

「エリカさん、その発言、許せませんわ。」

 

「はっ!事実を言って何が悪いのか教えて欲しいわね?」

 

 

其れに対して怒るダージリンを尻目に、エリカは煽る。煽る、煽れば、煽る時と言わんばかりに、ダージリンを煽りまくって、ダージリンから冷静な判断力を奪っていく。

冷静な判断力が奪われたダージリンは、エリカでも撃破出来る相手だが、エリカは敢えて撃破はせずに、みほの待つ市街地へとダージリン達を誘導して行ったのだ――執拗な挑発は、此れへの布石だったのだ。

 

此れにて、聖グロ・プラウダ連合は、己の意思とは関係なしに、みほのフィールドに駆り出されてしまったのだ――隻腕の軍神の力は恐るべきモノであると言っても過言ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

如何やら、作戦は成功して、聖グロとプラウダの連合軍を市街地に集める事が出来たよ……市街地戦に持ち込めば、私が負ける事はないから

ね……最悪でも引き分けには持って行けるよ。

だけど、私はお姉ちゃんやエリカさん以上に、『負けたくない』と言う気持ちが強いから、勝たせて貰いますよダージリンさん――そして、今一度その身に刻み込んでもらいます……隻腕の軍神の戦車道を!!

 

隻腕の軍神、西住みほ……本気で行きます――なので、覚悟しておいて下さい、ダージリンさん、カチューシャさん!!

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「おぉ、軍神招来来たーー!」

 

「しかも今度憑依したのはお市の方っぽい!!此れは勝てるっしょ!!」

 

 

 

……其れは分からないけど、私の力が強くなったのは事実だから、其の力をもってして勝たせて貰うよダージリンさん、カチューシャさん!

そして、見せてあげるよ、西住みほの戦車道を!!

 

故に、此処からは私のターンです……覚悟しておいてください――隻腕の軍神の戦車道は、まだまだこんな物じゃありませんからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer142『エキシビジョンでも、盛り上がれ!です』

エキシビションとは言え、燃えてくるね?Byみほ        そうね、燃えてくるわByエリカ     正にバーニングソウルですねBy小梅


Side:みほ

 

 

市街地に入って、既に準備は万端だね。

必要な個所に戦力は配置したし、色んな仕掛けの仕込も万全だからね……あとは、エリカさんとミカさん&梓ちゃんがダージリンさんとカチューシャさんをこっちに誘導してくれればOKだよ。

 

 

 

「西住隊長の真髄は市街地戦だとお聞きしていましたが、まさかゴルフ場の撤退からの僅かな時間で、これ程までの仕込をしてしまうとは思ってませんでした。

 此れは、相手からしたら堪ったモノではないでありましょうなぁ?」

 

「だと思うけど、此れが私の十八番である市街地戦のやり方だから。」

 

戦車道はフィールドすらも武器にする事が出来る競技だから、市街地戦って言うのは市街地じゃない場所での戦闘と比べても戦術の幅が半端なく広くなるんだよ。

戦車道に於いては、フィールドのあらゆる物を利用するのは合法だから、相手戦車の上に信号機落とそうが、歩道橋落とそうが反則ではないからね……勿論、電柱クラッシャーだって合法だからね。

 

しかも、今回の市街地戦は大洗の市街地で行われるから、地の利も私達の方にある――ダージリンさんもカチューシャさんも強敵であるのは間違いないけど、大洗での市街地戦を行う以上、私が負ける事は絶対にないって言いきらせて貰うよ。

 

 

 

「勝利宣言とは、真に大胆不敵!その強気の態度、流石は隻腕の軍神殿だと敬意を表します!!」

 

「ふふ、戦車道は弱気になったら負けだから、どんな時でも強気で居るのが吉なんだよ――例えそれが、絶望的な状況であったとしてもね。」

 

「確かに、その気概は大事ですね……其れも学ばせて頂きます!!」

 

 

 

アハハ……まぁ、西さんにとって何か参考になる事が有るのなら良かったよ――西さんは、隊長としての能力は高いけど、知波単の改革には苦労してるみたいだからね。

其れは其れとして、私の十八番の市街地戦の開幕……対戦相手だけじゃなくて、試合を観戦してる皆さんにも楽しんでもらおうかな♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer142

『エキシビジョンでも、盛り上がれ!です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

市街地に入ったみほは、部隊を細分化して市街地のあちこちに配置し、あらゆる状況に対応出来る様にしていた――と言うよりも、その布陣に聖グロ・プラウダ連合を誘い込むのが狙いだと言うのが正しいだろう。

 

ミカと梓の方は偶然にもそうなってしまったが、エリカの方は完全にこの布陣に誘い込む事が目的で、ダージリンを執拗に挑発していたのだ。

 

 

「エリカさん、ミカさん、梓ちゃん、首尾は如何?」

 

『バッチリよみほ。紅茶格言は、そっちに向かったわ。』

 

『偶然とはいえ、此方も首尾はばっちりです――カチューシャさんは西住隊長の方に向かいましたから。』

 

『私と梓さんは普通に話をしていただけなのだけれど、どうにも彼女には其れがお気に召さなかったらしくてね……地吹雪のカチューシャの二つ名の通り、正に荒れ狂う猛吹雪となってしまったようだ。』

 

『……原因は、継続がプラウダの戦車を鹵獲しまくってる事にあると思いますけれどね……』

 

「あはは……うん、上手く行ってるって事で良いかな。

 でもミカさん、鹵獲はルール上OKですけど、そんなに戦力に困ってるなら実家を頼っても良いんじゃないですか?千代小母様なら、戦車の1台や2台位普通に用意してくれると思いますよ?」

 

『考えなかった訳じゃないんだけど、何か其れは違う様な気がしてね?継続らしくないって言えばいいのかな。

 なんて言うか、島田の力を借りて強くなるって言うのは違う気がしてね……まぁ、修理に必要な部品位は都合して貰う事は有るけどね。』

 

「あぁ、其れは何となく分かります。」

 

 

そして、報告がてらに交わされる雑談。……普通に考えたら、『アンタ等試合中に何してんの?』と言いたくなる光景ではあるが、あんこうチームの面々は勿論、梓のウサギチーム、エリカのライガーチーム、そしてミカの戦車の搭乗員からすら非難の声は上がっていない。

其れは、大洗の面々は此れがみほの自然体なのだと理解しているからであり、ミカの戦車の搭乗員であるアキとミッコも、此れがミカだと理解しているからだ。

大事な場面では気を引き締めるが、しかしながら基本は自然体で事に当たる……本人達は無自覚だろうが、みほとミカは『感覚派』が最終的に到達する境地に至りかけているのだ。

 

因みに小梅はみほとは対極の徹底した理論派で、エリカは理論も直感も関係ない本能派であり、みほの一番弟子の梓は究極の感性を持った理論派と言った所だ。

これ程までに個性的な者が集まっている集団を纏め上げるのは普通なら難しいが、其れを難なくこなしてしまうのは、みほに生まれながらに備わっているカリスマ性が成せる業なのだろう。

 

 

 

 

 

――閑話休題(其れは兎も角)

 

 

 

 

 

ゴルフ場での包囲網は瓦解したが、其処からすぐに市街地戦で戦うと思考をシフトしたみほは、ミカ達と雑談をしながらも、エリカ達からの報告を聞いて、後ドレくらいでダージリンとカチューシャの部隊が此方に来るかを予測していた。

計算ではなく、予測なのが感覚派のみほらしいが、その予測はち密な計算結果と合致し、時には上回る事も有ると言うのだから恐ろしい事この上ない。

 

 

「エリカさん達が誘導に成功したって事は、此方に真っ直ぐに向かってきてる訳で……チャーチルとT-34の最高速度を考えれば、会敵するのは最速であと1分――「見つけましたわよみほさん!!」「見つけたわよミホーシャ!!」「見つけましたわみほさん!」――なかったね。」

 

 

だが、そのみほの予測を超えてダージリンとカチューシャ、そしておまけにローズヒップ率いるクルセイダー部隊が現れ、俺参上状態。

みほとて、ダージリンとカチューシャが、予想よりも早く到達するであろう事は考えていたが、此処でローズヒップの部隊が来るとは予想していなかった事だ。

 

 

「ローズヒップさん……来ましたね?」

 

「ようやく見つけましたわよみほさん!さぁ、尋常に勝負しやがれですわ!!」

 

「何か微妙に発音がおかしい気がする……」

 

 

聖グロの隊長であるダージリン、副官であるアッサムや、斬り込み隊長であるルクリリ、1年生ながらもダージリンの補佐を務めているオレンジペコと言った面々に埋もれてしまってはいるが、中学時代に3年間みほの戦車の操縦士を務めていたローズヒップの能力は、超高校級であるだけでなく、ローズヒップもみほと同じ感覚派である為に、直感的に大洗の市街地ならばみほは今何処に居るのかを予測したのだろう。多分。

 

マッタク予想していなかったローズヒップの参戦……並の指揮官ならば、この予想外の事態に困惑し、冷静な思考が出来なくなってしまうモノであるのだが――

 

 

「練習試合以来だねローズヒップさん……面白い、やろうじゃない。」

 

「お覚悟しやがりなさいませ!!」

 

 

己の予想を超えて現れたローズヒップに対し、みほは瞳に剣呑な光を宿すと共に、口元には不敵な笑みを浮かべる――同時に其れは、軍神招来以上に隻腕の軍神の闘気が燃え盛った証でもある。

こうなってしまった以上、最早誰もみほを止める事など出来ない。闘気全開の隻腕の軍神はノンストップなのだ。

 

 

「ナカジマさん、猛烈なダッシュを!磯辺さん、強烈なスパイクをお願いします!」

 

「りょうかーい!ホシノ、ぶっ放せぇ!」

 

「ほいさぁ!!」

 

「根性のスパイクを叩き込め佐々木!」

 

「了解ですキャプテン!!」

 

 

すぐさま物陰に隠れていたレオポンチームとアヒルチームに指示を出し、聖グロ・プラウダ連合を横っ腹から強襲させる――とは言え、此れは撃破目的ではなく、伏兵の存在を知らせるモノであり、ポルシェティーガーとクルセイダーの砲撃は掠める程度である。

が、そうであってもみほを目指していた者達からしたら堪ったモノではないだろう。完全に意識の外からの攻撃だったのだから。

 

 

「オ~ッホッホ!みほさんならば伏兵を忍ばせている事位、余裕のよっちゃんイカで予想してましたわ!

 自慢じゃねーですけど、中学3年間みほさんと同じ戦車に乗ってた私は、聖グロでは誰よりもみほさんの事を知ってらっしゃるんですわよ!!」

 

「ローズヒップさん、色々と言葉遣いがオカシイよ?」

 

 

だが、聖グロ・プラウダ連合の中で誰よりもみほの事を知っているローズヒップには、この位の奇襲は暖簾に腕押し、糠に釘だったらしく、怯む事もせずにみほの一団に向かってクルセイダーの自慢のスピードをもって全力前進!!

此のままみほと戦車戦を行う心算なのだろう。

 

 

「ふふ良いよ。楽しもうか。

 カモさんチームとオオワシチームは私と一緒に来て下さい。

 西さんと福田さんは、レオポンチームとアヒルチームに合流して相手部隊の分断をお願いします。」

 

「了解よ、西住隊長!」

 

「お任せ下さいみほさん。」

 

「了解であります大隊長殿!行くぞ福田!」

 

「は、はいであります!!」

 

「梓ちゃんは私と合流、エリカさんとミカさんは分断した相手部隊を各個撃破してください。」

 

『了解、直ぐに其方に向かいます!』

 

『了解したわみほ。……フフフ、狂犬の牙はまだまだ血を吸い足りないから丁度良いわ。』

 

『新たな風が吹いて来たね……なら、その風に乗るとしよう。』

 

「残る皆さんには特に指示は出さないから……自分が思うままに思い切りやっちゃってください。」

 

『『『『了解!!』』』』

 

 

其れを見たみほは、その場からの移動を開始すると同時に各車両に指示を飛ばして行くが、驚くべきは最後の『残りは好きにやれ』と言う命令だろう。

余りにもアバウトである上に、下手をすれば好き勝手に動かせた事で戦局を悪くしかねない指示なのだが、みほが指揮する大洗連合に限っては、此の指示でも全く問題ないのだ。

 

そもそもにして、大洗の戦車道に決まった型は無く、みほが出す必要最低限の指示をベースに夫々のチームが夫々の動きで戦うのが基本であるため、『自由にやれ』と言うのは最高の指示だと言えるのだ。

同時に、此の連合軍も試合前の合同練習などはしていないので、細かい指示を出して連携を取ろうと言うのが難しい故、夫々の流儀でやってくれた方が都合が良いのだ。……ただし、知波単の無謀な突撃による粉砕!玉砕!!大喝采!!!は言語道断だが。

 

 

「逃がしませんであらせられます事よみほさん!!」

 

「持てる最高の戦術で掛かって来てローズヒップさん……私の戦車道が、其れを粉砕するから。」

 

 

追ってくるローズヒップに対し、みほはパンツァージャケットの上着を脱ぐと、其れを肩に引っ掛けて『軍神モード』となる。……走行で受ける風圧で上着が飛ばないのかとかは突っ込んではいけない。

 

兎も角、此処に市街地戦は本格的な幕開けを見せたのだった。

 

 

「ねぇ、アッサム……」

 

「何でしょうダージリン?」

 

「貴女、時々ローズヒップの事をトンデモない大者だと思う事は無いかしら?」

 

「……其れは気のせいだと思いますよダージリン。」

 

 

聖グロ・プラウダ連合のフラッグ車内ではこんな会話が繰り広げられていたらしいが、まぁ、其れはこの際如何でも良い事だろう。多分、絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、みほの作戦は功を奏し、聖グロ・プラウダ連合はみほの思惑通りに分断されてしまっていた――レオポン、アヒル、西、福田のチームを、ルクリリが数台のマチルダを引き連れて追撃してしまったのだ。

ルクリリは決して弱くはないのだが、少々短気で敵の挑発に乗り易いと言う弱点がある……其処を見事に突かれてしまったと言う所だろう。

まぁ、其れは致し方ない事なのかも知れないが、この状況は楽観視出来るモノではないと言えるだろう。

 

 

「あーもう!!完全にミホーシャのペースじゃない!!

 って言うか、私とダージリンが組んだ連合が、戦力的は劣るミホーシャ達に遅れを取るって如何言う事よ!!しかも、優勝校である大洗以外は格下の筈なのに!!」

 

「此れがみほさんの強さのなのでしょうね。」

 

 

戦力的に見れば、格下の相手に苦戦を強いられていると言うのは、プライドの高いカチューシャからしたら屈辱以外の何物でもない――全国大会で自分達を下した大洗の実力は認めていても、知波単と継続は練習試合では一度も負けた事のない格下だったのだから。

だが、そんなカチューシャとは対照的に、ダージリンは冷静な思考を取り戻し、みほが指揮官であるからこそ大洗連合は此処まで見事な戦いが出来ているのだと感じていた。

一見すると、戦力では大洗連合は劣っているようにも思えるが、実は大洗連合には隊長車であるパンターを始めとして、魔改造が施されたティーガーⅡ、L型仕様のⅢ号、H型仕様のⅣ号、レギュレーションの穴を抜けた魔改造ポルシェティーガーと色々とヤッベー戦車が揃っている上に、継続の戦車はプラウダから鹵獲した戦車がメインなので性能の方は折り紙付き――不安要素は、知波単の日本製戦車だけだと言えるのだ。

つまり、総合的に見て戦車の性能的には互角なのだ。

 

 

「しゅくせいーしてやるわ!!行くわよ!!」

 

「待ちなさい、カチューシャ。」

 

 

完全にしてやられた状況に激高したカチューシャが飛び出そうとするが、ダージリンは其れを制する――冷静な思考を取り戻したダージリンは、此処で追撃するのは悪手であると判断したのだ。

此処で追撃したら、其れこそみほの思うつぼであると。

 

 

「ダージリン、何で止めるのよ!!」

 

「此処で追撃したらみほさんの思うつぼよカチューシャ。

 恐らくは……いいえ、みほさんならば確実に此処で私達が追撃する事を予測している筈ですわ――だから、此処は追撃せずに私達は私達で動く事にしましょうカチューシャ。

 何よりも、みほさんの思い通りになってしまうと言うのは、些か癪ですもの。」

 

「其れは、確かにそうね?――良いわ、貴女の提案に乗ってあげるわよダージリン!」

 

「ふふ、感謝するわカチューシャ。」

 

 

冷静な思考を取り戻したダージリンは、みほの思惑の裏を掻くべく行動を開始――月間戦車道のインタビューにて、まほが自身のライバルトップ3の中で、第2位に上げたダージリンの実力はハンパなモノではないのだ。(因みに1位はアンチョビであり、みほは意識的に除外したらしい。)

 

このダージリンの選択が凶と出るか吉と出るか……其れは未だ分からないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

ダージリンとカチューシャが独自に動く事を決めたのと同じ頃、分断された部隊は大洗連合の搦め手上等な、裏技全開の戦車道にキリキリ舞いさせられていた……信号機や歩道橋が落ちてくる事は予想していたとは言え、砲撃禁止区域である大洗シーサイドステーションの中央エスカレーターを戦車の重量をもってして落としてくるとは予想外極まりないだろう。

と言うか、そもそもにしてシーサイドステーションの2階廊下を戦車が通る事自体にかな~り無理があるのだが、其れは突っ込んだら負けだ。

 

で、そのエスカレーターと戦車の下敷きになったマチルダは当然のごとく白旗判定に!――エスカレーターだけならばまだしも、更に戦車も一緒に降って来たとなれば耐える事は不可能だ。

 

 

「見事でありますアヒル殿!!」

 

「まだまだ、もっともっと行くよ!!」

 

「了解であります、アヒル殿!!」

 

「アヒル殿って、なんか嫌だなぁ……」

 

 

クルセイダーでマチルダを撃破したアヒルチームは、知波単の福田を連れて次なるターゲットに向かう……取り敢えず、『アヒル殿』と言う呼称はあまりお気に召さなかった様だ。

 

 

 

そして同じ頃……

 

 

 

「立体駐車場?……馬鹿め、二度も騙されるか!!――って、空!?」

 

「言った傍からまた油断、馬鹿は死ななきゃ治らない……牙突零式ぃ!!」

 

「君達には、この風に乗る資格はなかった様だね……だからもう、此処で眠って良いよ。ふふ、いい夢を見るんだね。」

 

 

商店街の市街地では、立体駐車場のトリックに嵌ったルクリリが、エリカとミカによって撃破されていた――誤解なきように言っておくが、作者は決してルクリリが嫌いな訳では無い。

寧ろキャラとしては大好きな類なのだが、こうも不遇な扱いが多いのは、単純に『弄り易いから』と言う他はない……ルクリリよ、君に罪はない。

恨むなら、作者を恨め。

 

 

「オノレ作者!!ぶっ殺してやるわ!!」

 

『だが断る!聖なるバリア-ミラーフォース!!』

 

「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

何かやってたっぽいが、此処は全力で無視しよう――と言うか突っ込めば突っ込んだだけ面倒な事になりそうだから。

だが、其れは其れとして、ローズヒップとは別の意味で聖グロの斬り込み隊長であるルクリリを此処で撃破出来たのは大きいだろう――尖兵である斬り込み隊長を撃破出来れば、其れだけでもアドバンテージを得る事が出来るのだから。

 

 

「ふ、無様ねルクリリ……アンタは其処でくたばってなさい。」

 

「狂犬の牙は恐ろしいね……流石はみほさんの左腕と称されるだけの事は有る――見事だったよ逸見さん。」

 

「褒めても何もでないわよミカ。」

 

 

そしてルクリリを撃破したエリカとミカは、軽口を交わしながらも擦れ違い様にハイタッチを交わす――其れこそ、長年の友であったかの如くに。

同時に、エリカの顔には狂犬の笑みが浮かび、ミカの顔には風のままに生きる吟遊詩人の笑みが浮かんでいた。

 

 

「失礼、狂犬に賛美の言葉は意味をなさなかったね……なら逸見さん、残る相手を全て狩りつくすってのは如何かな?」

 

「良いじゃないミカ……其の提案、乗らせて貰うわ!!!」

 

 

更に其処から、ミカの提案によって、エリカのリミッターが解除され、エリカの中の凶暴性が完全開放された……こうなった以上、聖グロ・プラウダ連合は只では済まないだろう。

軍神の力が最大限に発揮される市街地戦で、状況は大洗連合有利と言える状態になって来たらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

さてと、商店街前までやって来たけど、此処まで一緒に来てくれた事に礼を言うよローズヒップさん……此の商店街こそが、私の力を最大限に発揮出来るフィールドだからね。

恐らくはダージリンさんとカチューシャさん達が合流する事になるかもだけど、そうなった所で、場所が大洗である以上は、私に負けはないよ。

まぁ、無傷で勝つのは無理だろうけど、味方が何輌か撃破される事を織り込んでおけば、撃破される事ですら作戦の範囲内だって言う事になるから、幾らでも修正がきくからね。

 

「商店街から、アクアワールドまでで決着を付ける……全力で行くよ!!」

 

「任せて下さい西住隊長!!」

 

「お任せ下さいみほさん♪」

 

「了解したわ、西住隊長!」

 

 

 

梓ちゃん、小梅さん、そど子さん……良い返事をありがとう。

何にしても、商店街の入り口からアクアワールド本館までの間が勝負なのは間違いない――なら、その僅かな間に持てる力の全てを出し切って勝ちを掴むだけだよ。

絶対に負けられない戦いって言う訳じゃないけど、勝負をする以上はやっぱり勝ちたいからね!

 

此の試合、勝たせて貰いますよダージリンさん!カチューシャさん!!――隻腕の軍神の力、其の身に刻み込んであげます!!

見せてあげるよ、西住みほの戦車道を!!

 

さぁ、お楽しみは此れからだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer143『エキシビジョンだからこそ燃えろ!です』

燃える心とは逆に、私の精神は穏やかだよByみほ        熱さとクールさを同居させたと言うの?Byエリカ     其れはつまり、クリアマインド……!By小梅


Side:エリカ

 

エキシビジョンも佳境に入ってきた感じだけど、其れは其れとして、此れは予想外の事だったわね。

 

 

 

「エリカさん、4時の方向に敵影だ。」

 

「上等、ぶちのめしてやるわ!!」

 

まさか、私とミカが此処まで相性がいいとは思わなかったわ――みほとは違うけれど、ミカもまた感覚派だから、私って言う戦車乗りをどう使えば良いのかを理解してるからね。

お蔭さんで、私は持ち前の凶暴性を如何なく発揮出来る訳なんだけどさ。

取り敢えず、アンタ達は沈んでなさい……T-34は確かに可成り強い中戦車だけど、みほの乗るパンターと比べたら、性能差は月と鼈だから、逆立ちしたってみほに勝つ事は出来ないわ。

 

 

 

「君の言う事は尤もだけれど、如何やら最大の敵が現れてしまったようだね。」

 

「如何やらその様ねミカ……受け入れたくないって言うのはこう言うのを言うのかも知れないわ。」

 

もうすぐ制圧できると思ってた私達の前に現れたのは、T-34/86と、IS-2……ソ連戦車って言う事はプラウダの生徒、それも副官のノンナと今回のエキシビジョンの直前にロシアから来たって言うクラーラとは、上等じゃない、相手にとって不足はないわ!!

寧ろ最高の部類ってやつよ!!

 

だけど、私達は其れを更に超えさせて貰うわ――たっぷり味わって貰おうじゃない、風来坊の奏でるカンテレの音色で凶暴さを増した狂犬の牙ってモノを!

 

まぁ、其れは其れとして、此のエキシビションは勝たせて貰うわ――軍神に敗北は似合わないもの。

ノンナとクラーラには、出て来て早々で悪いけど退場して貰うわ。精々、狂犬の牙に喉元を喰いちぎられないように注意するのね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer143

『エキシビジョンだからこそ燃えろ!です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

みほの十八番である市街地戦に持ち込んだ事で、知波単が無謀な特攻をした事で発生してしまったディスアドバンテージはゼロになったと言っても過言ではない状況となって来ていた。

市街地に入ってからは、大洗の戦車は1輌も撃破されていないにもかかわらず、聖グロ・プラウダ連合は既にマチルダ2輌、T-34が2輌撃破され、残存車輌数も略五分となり、益々試合展開から目が離せなくなったと言えるだろう。

 

そんな中、エリカとミカのチームは、大洗駅前でノンナとクラーラのプラウダコンビとの戦車戦に入っていた。

戦力的な事だけを言うのならば、ミカの乗るBT-42が本来戦車戦に向かない車輌である為にプラウダコンビの方に分があるように見えるが、車の性能差は工夫で補う事が出来ると言うのは、今年の大会でみほが此れでもかと証明した事でもあるので、戦力差は度外視した方が良いだろう。

 

 

「Тоска не простой партнер, верно?(此れは、簡単な相手ではありませんね?)」

 

「Это на самом деле сильный враг.(実際に強敵です。)

 Особенно Эсуми Эрика Внимание к Кларе.(特に逸見エリカには注意です、クラーラ。)

 Гунджин, Гинкаку, который, как говорят, является левой рукой запада

 Запада ... Потому что противник, которого считают врагом, всегда ест

 и убивает его.(軍神・西住みほの片腕たる銀狼は、敵とみなした相手を必ず食い殺しますから。)」

 

「Мой страх ужасен.(それは恐ろしい。)」

 

 

実際に其れを大会で味わったノンナは、クラーラに対しても注意するように言っていた……ただし、ノンナとクラーラはロシア語で会話してるので、他のプラウダ生徒にはチンプンカンプンなのだが。

ともあれ、指揮官の権限を持っていないエリカが驚異の存在である事は間違いない――中学時代には最高学年時に隊長を務めたエリカだが、その本領が発揮されたのは決勝戦でみほとのタイマンになった時……自分以外の全ての戦車が撃破され、最早指揮官でいる必要がなくなってからだったのだ。

持ち前の凶暴さを全開にしたエリカは、みほの弄する策と互角に渡り合い、引き分けにまで持ち込んでしまったのだ……みほの策と互角に渡りあってしまう凶暴性と言うのは確かに脅威でしかないのだ。

 

 

「エリカさん、如何やら彼女達はロシア語で意思疎通をしているみたいだね?……私達もやってみようか?」

 

「ドイツ語とフィンランド語で会話しようっての……冗談じゃないわ、お互いに何言ってるのか分からなくなるのがオチよ。」

 

「其れは、確かにそうかも知れないね……さてと、お喋りは此処までにしてプラウダの副官と、新規参戦したエース級を倒すとしようか?

 エリカさん、何かリクエストはあるかい?」

 

「そうね……なら、私の凶暴性を完全に開放してくれそうなやつを頼むわ。」

 

 

一方でエリカとミカも何かやってたが、ミカがカンテレを見せてリクエストを聞くと、エリカは己の凶暴性を完全開放してくれてとリクエスト――なんとも凄まじいリクエストだが、ミカは其れに微笑で応えると、カンテレの弦を指で弾き、即興の曲を演奏開始。

戦場には似つかわしくない軽快なリズムが鳴り響き……

 

 

「ミホォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

 

直後に逸見エリカ野生開放!

この瞬間に、逸見エリカは『ナツノソラセンシャノコドウニクルフエリカ』、通称『暴走エリカ』へとバージョンアップしたのだ――なんだか微妙に意味が分からないが、兎に角エリカは強くなったのだ。

 

 

「滅殺!」

 

 

オロチなのか、殺意の波動なのかハッキリしやがれだが、ミカのカンテレのリズムに触発されて凶暴性を解放したエリカは、先ずは高い攻撃力を誇るIS-2を標的に選び、戦車戦を仕掛ける。……如何やらミカは猛獣使いであった様だ。

攻撃力で言うのならばIS-2の方がティーガーⅡよりも上だが、IS-2はその装填の複雑さから次弾を撃つまでにやや時間がかかる弱点がある。

逆に、攻撃力では劣るが、ティーガーⅡの方は装填士の能力次第では連射に近い攻撃をする事が出来るので、何にしても勝負の決め手となるのは砲手と操縦士の腕前になるだろう。

経験と言う事で言うのならば、其れはIS-2の方に分があるだろうが、ティーガーⅡのクルーは、戦車に乗ってから僅か3ヶ月足らずであるにも関わらず、絶対王者黒森峰を打倒した大洗のメンバーなのだ――経験の差なんてモノすら簡単に飛び越えてしまう大洗の生徒に一般的な戦車道の常識なんぞ当て嵌まらないのだ。

 

 

「坂口ぃ、右に回避した後に、左にフェイント入れてから突っ込みなさい!!」

 

「あいあいあいーーー!!!」

 

 

そして何より、大洗の生徒は得てして波に乗るのが巧い――今だって、凶暴性が全開になったエリカのイケイケ戦術に乗っかる形で、桂利奈はティーガーⅡを動かし、IS-2と見事な戦車戦を行っているのだ。

しかも、その機動はみほが行った回避訓練で身に付けた『変態機動』を応用したモノであり、其れを完全に捉えるのは一流の砲手であっても困難だろう。

そもそもにしてこのティーガーⅡは東雲整備工場で魔改造が施されただけではなく、大洗に来てからは、本当に女子高生なのか疑わしくなる技術力を誇る自動車部によって更なる魔改造が施され、装甲厚をオリジナルと略同じにして鉄壁の防御力を取り戻しただけでなく、エンジンの出力と馬力を理論値の限界まで引き上げる事で機動力をも手にしている。

勿論、足回りだってルールで許されているギリギリまで強化しているので、エリカのティーガーⅡは名実ともに現在の戦車道で使用されている戦車の中では最強なのである。

 

だが、其れよりも凄いのはある意味でBT-42だ。

車長であるミカのカンテレ演奏は激しさを増し、カンテレを奏でているとは思えないリズムとビートを刻んで行く!……手にした其れは、本当にカンテレなのか疑わしくなってくる。

其れだけなら未だしも、戦車の軌道がカンテレのリズムに乗ってるとはどういう事なのか。操縦士のミッコに聞きたい、『お前何モンだ』と。

 

 

「此れが本当にカンテレなのか、そしてミッコが何者であるのか……其れを問う事に意味があるとは思えないね。」

 

「ミカ、何を言ってるの?」

 

「ふふ、風と会話していただけだよアキ。

 其れよりも、エリカさんが大立ち回りしているようだから、私達はクラーラさんの方を何とかしようか。」

 

 

地の文に突っ込みを入れると言う器用な事をしながらも、ミカはクラーラの駆るT-34/85と戦車戦の真最中なのだ――性能では圧倒的に劣っているにも拘らず、互角の勝負が出来ている辺り、ミカの実力の高さが伺える。

実家を飛び出した風来坊とは言え、戦車道の天下を西住流と二分にする島田流の娘、格上の性能の戦車であっても『勝てずとも負けない戦い』をするのは得意であるらしい。

 

 

「Звук кантеле тонко беспокоит тоска……(カンテレの音が、微妙に癇に障りますね……)」

 

 

ミカがクラーラ相手に互角の戦いを見せているもう1つの要因が、自らが奏でるカンテレの音だ。

エリカにとっては士気を高める音楽であったが、相手からすれば気になる音であり、そもそもにして『何だって試合中にカンテレ弾いてやがんだ』とイラっとさせるモノでもある――クラーラも無意識下でイラっと来ており、そのせいで本来の実力が発揮出来ていないのだ。

 

同時に、本来の実力を発揮出来ていないのはノンナも同様だった。

 

 

「何と言う凶暴性……正に、純粋な暴力の権化とも言うべき存在ですね此れは……」

 

 

常に冷静に、ともすれば冷酷に戦場を見ているノンナだが、そんな彼女だからこそ理性と言う枷を取り払って、己の闘争本能に身を任せて戦車を駆るエリカは驚異の存在だった。

相手が考えて行動するからこそ、ノンナの砲手としての勘はその考えを予測して如何避けるかを読んだ上で攻撃が出来る――だが其れは、逆に言うのなら理性的な思考をしていない相手に其れは通じないとも言える。

故に、ノンナはエリカを捉えきれていない――ブリザードのノンナであっても、野生の凶暴性を解放したエリカを凍らせる事は出来ないようだ。

 

 

「そろそろ決めるわよ!ブチかませアインス!!!」

 

「Jawohl,Erica!!(了解だ、エリカ!!)」

 

 

「此れで決めようか……Tulta!(撃て!)」

 

「任せて!」

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァァァン!!

 

――バガァァァァァァァァァァァァン!!

 

――キュポン×2

 

『聖グロ・プラウダ連合、IS-2、T-34/85、行動不能。』

 

 

そして、継続の風来坊と大洗の狂犬は、夫々の獲物を見事狩り取り取って見せた――ノンナとクラーラと言う、聖グロ・プラウダ連合の大戦力を此処で撃破出来たと言うのはとても大きい事だろう。

 

 

 

『大洗・継続・知波単連合、クルセイダー、九五式行動不能。』

 

 

 

しかし此処で、市街地に散らばっていた聖グロ・プラウダ連合の戦車の各個撃破を行っていた大洗のアヒルチームと、知波単の福田が撃破されたアナウンスが。

共に行動していた西とレオポンチームは無事なようだが、紙装甲のクルセイダーと、性能的に底辺の九五式では聖グロ・プラウダ連合の強力な戦車が相手では分が悪かったのだろう――寧ろ、性能差がありながらも砲撃禁止地区を利用して相手の戦車を撃破したのだから褒章ものと言えるだろう。

 

 

「ふふ、敵もさるもの引っ掻く者かな?……エリカさん、みほさん達と合流しよう。

 これ以上市街地で敵戦力を潰しても恐らくは無意味だ……フラッグ戦である以上、フラッグ車を仕留めなければ意味が無いからね。」

 

「其れはそうね……まぁ、これ以上此処に居る事も無いから良いでしょ?

 IS-2を撃破した以上、相手の残る最大戦力はKV-2のみ……其れだって、パンターかティーガーⅡの火力なら簡単に倒す事が出来るからね。

 やはり勝利はみほと一緒にじゃないとね……行くわよ!!」

 

 

其れを聞いたミカとエリカは、聖グロ・プラウダ連合のフラッグ車を仕留めるべく、みほと合流しようと動き出した――梓と小梅が居る時点で可成り戦力的には凄いみほの部隊に、エリカとミカの2人が追加されたら、其れはもう最強なのは間違いないだろう。

……そど子達は忘れた訳では無い、未だ実力的は及ばないので意図的に除外しただけだ。

ともあれ、此の2人がみほとの合流を決めた事で大洗の勝率が大きく上昇したのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、追いかけっこをしていたみほの部隊とローズヒップ率いるクルセイダー部隊は、スーパーマーケット『セイブセンセン』の前を通り抜け、其処から細い路地に入ってシーサイドステーションへと続く大通りに出たかと思うと、シーサイドステーション直前で左折して、『大洗永町商店街』の中を絶賛激走中であった。

 

 

「逃がさねーですわよみほさん!!

 もっとスピードを出しなさいませ!こんな事では、ダージリン様のおっこーちゃが冷めてしまいますわ!!」

 

 

「ローズヒップさんの珍妙なお嬢様言葉には、何て言うか突っ込んだら負けな気がするんだけど、其れについてどう思う梓ちゃん、小梅さん?」

 

「副隊長としては、突っ込むだけ徒労かなと。」

 

「黒森峰時代からの戦友としては、突っ込んだら負けかなと。」

 

「だよね。

 (追いかけて来てるのはローズヒップさんのクルセイダー部隊だけ……ダージリンさんとカチューシャさんは追いかけて来てない?……エリカさんに、アレだけ煽って貰ったから、逆上して私達を追いかけて来るモノだと思ったんだけど……)」

 

 

ローズヒップの珍妙なお嬢様語に適当な突込みを入れつつ、みほは追手にダージリンとカチューシャが居ない事を不審に思っていた――ダージリンもカチューシャも、挑発への耐性が高くない(ってか、カチューシャは多分高校戦車道界隈で最低レベル)ので、エリカの煽りで冷静さを失い、自分達を追いかけてくると思っていたのだが、そうではないのだ。

 

 

「(此れは、ダージリンさんが冷静さを取り戻して、私の作戦を読んだって事かもしれないね……だとしたら最高だよ。

  お姉ちゃんが自身のライバルとして2位に上げたダージリンさんが、その本来の力を発揮してくれたって言う事だからね……冷静さを失ってくれたままなら撃破は容易だったけど、本来の冷静な思考のダージリンさんを倒してこそ、此のエキシビションは盛り上がるからね。)

 麻子さん、最大スピードを出して。梓ちゃんと小梅さん、そど子さんはスリップストリームで付いて来て!」

 

「おうよ、任せろ西住さん。」

 

「了解しました西住隊長!」

 

「スリップストリームで……最大のクロスフィールをかましてあげましょうみほさん!」

 

「分かったわ西住隊長!風紀委員を舐めないでよね!!」

 

 

其れが何を意味するのかを考えた上で、みほは麻子と梓と小梅、そど子に指示を出し永町商店街を全速力で爆走!Ⅲ号とⅣ号、ルノーR35改は、速度を上げたパンターの後に並んで其の後に続く。

先頭車両を風の抵抗避けにしたスリップストリームは戦車であっても高い効果を生むらしい――結果として、此の4輌は一気に加速してクルセイダー部隊を引き剥がそうとする。

 

が、其れを良しとするローズヒップではない。

 

 

「お~っほっほ!!聖グロ一の俊足からは逃れられませんのよ!!」

 

 

全速全開でみほ達を追うが、其れこそがみほの狙いだったとは、中学3年間みほと同じチームだったローズヒップでも予想してなかっただろう。

 

 

「トラップ発動『全弾発射』!」

 

「此れで!!」

 

「貴女達の道は断絶されます!!」

 

 

旅館前のカーブを曲がり切る直前で、梓のⅢ号と小梅のⅣ号の主砲が火を噴き、追ってくるクルセイダー部隊に向かって、電信柱が粉砕!玉砕!!大喝采!!!

当然、降り注ぐ電柱を避けようと、クルセイダー部隊は回避を試みるが……

 

 

「おにょにょにょ~~~~~~!?」

 

 

高速移動をしていた戦車での高速回避は無理があったらしく、落下物は避けたモノの、コーナーを曲がり切れずに旅館にダイレクトアタックをブチかまし、旅館は崩落!!

聖グロとの練習試合の時に続いて、又してもこの旅館は戦車の突撃によって崩壊したのだ。

 

 

「いよっしゃー!!」

 

「またかよ。」

 

「お前ばかり、羨ましい。」

 

 

だがしかし、客席では旅館の店主と思われる男性が歓喜の声を上げ、その仲間が『羨ましい』とまで言う始末――ぶっちゃけて言うと、戦車道の試合で壊れたモノに関しては、戦車道連盟が100%保証してくれるので、戦車道で店が壊されるのは実質的に0円リフォームが出来るのと同義なので、店主としては戦車道様様なのである。

 

場内のアナウンスがない以上、クルセイダー部隊を壊滅させたとは言えないが、旅館1軒を崩落させた瓦礫から這い出るのは決して簡単な事では無いので、取り敢えずの時間は稼げたと考えて良いだろう。

少なくとも、みほが最終決戦地として選んだ『大洗水族館 大洗アクアワールド』に到着するまでは追ってくる事が出来ない筈だ。

この時点で、みほには勝利へのヴィジョンが構築されていたのだが……

 

 

『大洗・継続・知波単連合、ヘッツァー、Ⅲ突、行動不能!!』

 

 

此処でヘッツァーとⅢ突が白旗になったアナウンスが!!

Ⅲ突もヘッツァーも果敢に戦っていたのだが、回転砲塔がない事が仇となり、追いかけっこの末に後ろの回られて撃破されてしまった――Ⅲ突は、アンツィオのカルパッチョ直伝の『CV-33ターン』、通称『ナポリターン』(ナポリタンに非ず)を使ったが、その脇を抜けられて敢え無く撃破されてしまったのだ。

 

『いっやー、悪いね西住ちゃん、撃破されちゃったよ。』

 

『く、すまぬ西住隊長!!』

 

「気にしないで下さい会長さん、カエサルさん……御2人の仇は、必ず討ちますので。」

 

 

だが、そうであっても西住みほは怯みもせずに、怯むどころか戦車乗りとしての闘気をリミッター解除!!

タダでさえ凄まじい軍神の闘気が完全開放されたとなれば、最早この世に敵は居ないと言っても良いだろう――みほがこの状態になるのは、極稀ではあるが、こうなった以上はまほですら赤子の如くあしらわれてしまうのだから、其の力は追って知れだ。

 

 

「敢えて私の考えてた最終決戦の地で待っているとは、やってくれるよ――ふふ、ならばお望み通りに其処で決めてあげるとしようじゃない。

 ダージリンさん、カチューシャさん……覚悟して貰いますよ!」

 

 

その上で、ダージリン達は大洗アクアワールドに居ると予測して進軍開始!!――隻腕の軍神の直感は、超人的に冴えわたっていたと言う事を証明する事になるのだった。

金色の戦車力を纏ったみほは、ゴールに要るであろう相手を目指して邁進!!

その途中で、聖グロ・プラウダ連合の切り札とも言えるKV-2が海中から現れて砲撃するも、其れはマッタク持って見当違いの方向に飛んで行って、大洗シーサイドホテルの1フロアを撃滅!滅殺!!瞬獄殺!!

 

そして次弾装填の隙を突いて、パンターが肉薄して、ゼロ距離砲撃を行ってKV-2を撃滅!!

出オチと言われそうな扱いではあるが、KV-2の性能と、搭乗クルーのレベルを考えると、此れ位の扱いが妥当ではないのかと作者は考えているらしい……言っておくが、プラウダが嫌いな訳じゃないからね?

 

其れは兎も角として、みほ達は大洗のビーチ、ダージリン達はアクアワールドの駐車場と言う違いはあるが、最終決戦の地にて、両チームの隊長は、互いに睨み合い、冗談ではなく、視線が交錯する場所では電撃がスパークしている。

 

 

「ふふ、待っていましたわみほさん……さぁ、最高の輪舞を奏でましょう。」

 

「生憎だけど、ダンスは苦手だよ。」

 

 

みほもダージリンも、互いに不敵な笑みを浮かべ、其れをゴングに最終決戦開始!!――エキシビジョンは、大会の決勝戦以上の盛り上がりを見せていると言っても過言ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

此処で待っていたとは、ダージリンさんは私の策を読んでたって事か……前にお姉ちゃんが言ってた『みほは私に勝ち、私はダージリンに勝ち、ダージリンはみほに勝つ』の意味がやっと分かったよ。

ダージリンさんは広い視野を持つ故に、本来だったら私が弄した策は全て見通されてしまう――其れがそうならなかったのは、エリカさんの挑発で冷静な思考を奪われたからだよ。

つまり、今私の目の前にいるダージリンさんは、私の天敵も言うべき相手……であるにも拘らず、笑みが浮かんでくるのは、私が戦車乗りであるからかも知れないね。

だって、強くなった相手と戦いたいって思うのは当然の事だから……上等だよダージリンさん!!

 

 

 

「此処まで来ましたわねみほさん……ですが、勝てますか私達に?」

 

「勝てるかどうかじゃなくて勝つんだよ!!」

 

「至言ですわね……そんな貴方にこの言葉を送りましょう――『勝利を確信した時、そいつは既に敗北している』ってね。」

 

 

 

言ってくれるね?

だけど、最後に勝つのは私達だよ!

此処が最終決戦――覚悟して貰いますよダージリンさん、カチューシャさん!!!

 

そして、隻腕の軍神と、その仲間と弟子の実力、其の身でもってして味わってもらいます――魅せてやる、西住の戦車道を!!

 

 

 

「魅せて頂きますわよ、みほさん。」

 

「上等です、ダージリンさん!!」

 

エキシビジョン最後の攻防……負ける訳には行かないね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer144『エキシビジョンの果てに!です』

エキシビジョンでも全力で行くよ!Byみほ        全力全開!やってやるわ!!Byエリカ     魂を燃やして行きましょう!By小梅


Side:ダージリン

 

 

予想はしていましたが、流石におやりになりますわねみほさん……継続も知波単も、聖グロリアーナとプラウダからすれば格下の相手ですが、其の2校との連合軍で、聖グロリアーナとプラウダの連合軍を此処まで追い詰めるのですから、矢張り貴女の戦車道は最高ですわ。

貴女にしろまほさんにしろ、西住のお嬢さんは、私の心を昂らせるのがお上手みたいね。

でも、だからこそ、此れ位では満足できませんわ……この決戦の舞台で、もっと楽しませてくれるのでしょうみほさん?

 

 

 

「ダージリンさんが其れを望むなら、期待には応えますよ?」

 

「ふふ、意地悪な言い方ねみほさん?

 貴女ならば、私の望みなどとうに分かっているでしょうに……でも、折角だから此の舞台にピッタリのBGMを選んでくださるかしらみほさん?」

 

「BGMですか?

 ダージリンさんのイメージから言うなら優雅なヴァイオリンとかが似合うんでしょうけど、生憎と私にはそんなの似合わないので、此処はロックンロールを選ばせて頂きます!

 そもそもにして、ロックはイギリスが発祥の地なので、私達の決着の舞台に、これ程相応しいBGMは無いでしょう?」

 

「ふふ、其れもそうね。」

 

ロックはアメリカが本場だと思われているけれど、発祥其の物はイギリスだから、私とみほさんが決着をつける舞台に相応しいわ――ロックの様にハードなリズムの戦車道を楽しみましょう。

 

 

 

「ちょっとダージリン、ミホーシャ!ロックな戦車道って如何言う事!?カチューシャにも分かるように説明して!!」

 

「カチューシャさん。」

 

「カチューシャ。」

 

「「考えるんじゃない、感じるんだ。(のですわ。)」」

 

 

うふふ、決まりましたわねみほさん。

ですが、バッチリ決まったのは良いとして、エキシビションとは言え負ける気は毛頭ないので勝たせて頂きますわ……隻腕の軍神の首は、私が取らせて貰いますから覚悟するのね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer144

『エキシビジョンの果てに!です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

最終決戦地となった大洗アクアワールドで、大洗・継続・知波単連合と、聖グロ・プラウダ連合は静かに睨み合っていた……取り敢えず、今の状況を説明すると、大洗・継続・知波単連合はアクアワールドのすぐ近くの砂浜に陣取り、聖グロ・プラウダ連合はアクアワールドの駐車場に陣取っ

ていると言った感じだ。

其れだけを見るなら、フィールドアドバンテージは聖グロ・プラウダ連合に有るように思えるだろう――状況的には、稜線の上と下の関係に似ているのだから。

 

駐車場と砂浜の高低差は、稜線の上と下と比べれは月と鼈ではあるが、だからと言って高低差のある地形に於いては、上を取った方が有利であると言う事は変わらない。

 

 

「大分頑張ったみたいだけど、如何やら此処までの様ね?大人しく降参するなら許してあげるわよミホーシャ。」

 

「降参?……まさか、冗談でしょう?」

 

 

自分達の方が有利であると確信したカチューシャは、自信満々にみほに降伏勧告をするが、其れを受け入れるみほではない――そもそもにして大洗は全国大会の準決勝でプラウダを下しているのだから、其処からの降伏勧告など宇宙の彼方のブラックホールに蹴り飛ばしてしまえだ。

 

 

「冗談じゃないわ。大体どうやって砂浜からこっちに上がってくる心算?

 駐車場と砂浜の段差はバンカーなんかとは比べ物に成らない位あるのに、バンカーと違って角度が無いわ――ダージリンのチャーチルだってこの段差を超える事は不可能よ。

 迂回しようってんなら好きにすればいいけど、背中を見せた途端に撃破してあげるわ。」

 

 

其れでもカチューシャが強気なのは、今言ったように大洗の残存戦車では、此の段差を超えるのは不可能だからだ。

しかも、砂浜と駐車場の間には事故防止用の鉄柵が設けられている為、駐車場に上がる為には段差+鉄柵を越えねばならない訳で、カチューシャが強気になるのも当然と言えるだろう。

 

だが、其れはあくまで『普通に考えれば』という前提が付けばだの話だ。

使える物は何でも使う、奇策製造機、搦め手上等のみほがこの状況で『普通に考える』等と言う事をするだろうか?――答えは断じて否!!!

今もまた、カチューシャの強気な態度に口角を軽く上げると……

 

 

 

――ズドン!!

 

 

 

砂浜と駐車場の段差に向かって砲撃一発!!

如何に数100台と言う車の重量に耐えられるように転圧をかけた上でアスファルトで固め、更にコンクリートでガッチリコーティングした駐車場であっても、近距離からパンターの主砲を叩き込まれたら堪らない。

たちまちコンクリートもアスファルトも、序に仕切りの役割をしていた鉄柵も砕け散り、両チームを隔てていた段差の一部は、足場は悪くとも戦車ならば通る事の出来るスロープに早変わり。

『上がれないのならば、上がれるようにしてしまえば良い』という単純明快な理論ではあるが、普通は思いついても実行しないだろう……失敗した場合のリスクが大きいのだから。

だが、失敗のリスクを恐れずにその一手を選べるのがみほの強みであり、同時にその一手が選べるのは、失敗しても別の一手でリカバリーする自信があるからだ。

 

 

「ごめんなさいカチューシャさん、迂回しなくてもこっちに来る事が出来たみたいです♪」

 

「此れで、フィールドアドバンテージの差は無くなりましたね。」

 

 

みほのあんこうチームを先頭に、梓のウサギチーム、そど子のカモチーム、そして殿に小梅のオオワシチームと順番で即席スロープを上り、最終決戦場である、アクアワールドの駐車場にて両チームの戦車が向かい合う形となる。

みほ達が上がってくるまで攻撃しなかったのは余裕ではなく、ダージリンは騎士道精神を重んじて、カチューシャ及びその他の隊員は、相変わらずどころか、更にやる事がぶっ飛んで来ているみほに驚いていたからだ。

 

 

「まほさんの戦車道が、屈強な戦士が戦うパンクラチオンだとすれば、みほさんの戦車道は、さながら奇術やイリュージョンと言ったところかしら。

 ホント、見ていても、実際に戦っても退屈させてくれませんわね。」

 

 

ポツリと呟いたダージリンの一言がみほに聞こえていたかは不明だが、その一言が合図だったかのように、合計8輌の戦車は戦闘を開始!!

何方も、狙いは当然フラッグ車なので、自然とフラッグ車を撃破する為の動きになる――モノなのだが、ダージリンは敢えてフラッグ車を狙う行動をしないでいた。

手を抜いている訳では無い……フラッグ車を撃破しようと動いた所で、みほは必ずその一手を潰してくると考え、裏をかいて『フラッグ車以外の戦車』を狙ったのだ。

 

 

「フラッグ車じゃなくて、私達を狙って来た……?」

 

「先に私達を撃破して、フラッグ車を孤立させようって作戦ですか……!!ですが、私達だって簡単にはやられません!!」

 

 

両チームともフラッグ車を含む数量での戦車戦に於いて、フラッグ車を狙わないと言うのは不可解な事であり、生じた疑問によって雑念が生まれて、その結果撃破されてしまう事があるのだが、梓と小梅は間近でみほと言うトンデモない戦車乗りを見続けて来た事が幸いして、此れ位の事では疑問を持っても其れが戦いに影響する事は無かった。

 

 

「フラッグ戦なのにフラッグ車を狙わないなんて、そんなの校則違反よ!!」

 

 

だがしかし、今年から戦車道を始め、しかもデビューが準決勝と遅咲きだったカモチームはそうは行かなかった。

いや、此れがレオポンチームだったら、車長のナカジマが『フラッグ車を狙わないなんて余裕だね~~』とか言ってたのだろうが、カモチームの車長のそど子は良くも悪くも生真面目である為に、フラッグ戦なのにフラッグ車を狙わないと言う不可解な行動に納得が出来ず、お決まりのセリフと共にダージリンに突撃してしまったのだ。

相手がフラッグ車を狙ってこないのならば、こっちがフラッグ車を狙ってやると言う思いもあったのかもしれないが、其れはダージリンの思う壺。

 

 

 

――ドガン!!

 

――キュポン!!

 

 

 

『大洗・継続・知波単連合、ルノーR35、行動不能。』

 

 

チャーチルの砲撃を喰らい、カモチームは敢え無く白旗判定に。

此れで、大洗連合はこの場では1輌のビハインドになった訳だ。

 

 

「ミホーシャ、此れで数の上ではこっちが有利なったわね?」

 

「そうみたいですが、私は此処で撃破されたカモチームの効果を発動します。

 カモチームが撃破された時、相手チームのフラッグ車以外の戦車1輌を行動不能にします。」

 

「其れって何処のニュードリュア!?」

 

 

 

――ズガン!!

 

――キュポン!!

 

 

 

『聖グロリアーナ・プラウダ連合、マチルダ、行動不能。』

 

 

だが即座にみほは、自ら聖グロ・プラウダ連合のマチルダを撃破し、ビハインドをチャラにしてしまう――だけでなく、確りとネタをぶっこんでくるのは流石と言った所だろう。

しかし、1:1交換になった後も、ダージリンは徹底してフラッグ車を狙いには来なかった……みほが幾ら自分を狙うように仕向けてもだ。

 

 

「みぽりん、ダージリンさん全然乗ってこないけど、大丈夫?」

 

「やっぱり冷静な状態のダージリンさんは強敵だね……こうなるのが分かってたからこそ、エリカさんの挑発で冷静さを失って欲しかったんだけどね――冷静な時のダージリンさんには、私の策は通じないみたいだね。」

 

 

此れが冷静なダージリンの強みでもある。

戦場を広い視野で見る事の出来るダージリンは、誰よりも正確に戦局を捉える事が出来るので、状況を考えて『相手の策に付き合わない』事が出来るのだ。

相手の策を無視する、相手の策を潰すのとは違い、結果的にではなく意図的に相手の策に付き合わないと言うのは、実は簡単な様で難しい事なのだ……常に意図して策に付き合わないようにするには、常に冷静さを保った上で理性で感情をコントロールしなければならないのだから。

其れを完璧に出来るのは、現在の高校戦車道界隈ではダージリン位のモノだろう。

それ故に、ダージリンはカタログスペック以上の実力を出す事は出来ないので、正面切っての実力で自分を上回る相手には勝てないのだが、無数の策を使って戦うのが得意なみほみたいなタイプにとっては天敵となるのだ。

其れを分かっているみほだからこそ、去年の全国大会や、今年の練習試合ではエリカにダージリンを挑発させて冷静な思考を奪う事をしたのである。

自分の策に付き合ってくれないと言うのは、策を弄するみほにとっては可成りキツイ物なのだ――本来の西住流でねじ伏せれば良いとも思うだろうが、梓も小梅も西住流を修めている訳では無いので、其れもまた難しいのだ。

此のままでは、策を潰されたみほが何れ撃破されてしまうのは目に見えているが……

 

 

「如何やらフィナーレには間に合ったみたいね!!」

 

「此処からは、私達も参加させて貰うとするよ。」

 

 

此の土壇場でエリカとミカが合流!!

 

 

「エリカさん、ミカさん!!」

 

「思った以上に苦戦してるみたいねみほ?――それで、私は誰を喰い殺せばいいのかしら?」

 

「みほさん、オーダーは?」

 

「ダージリンさん以外の戦車を!!

 フラッグ車は、私達あんこうチームがタイマンで仕留めますので!!」

 

 

此処で現れたエリカとミカにすぐさま指示を出し、ダージリンのチャーチルと他の戦車との分断を試みる――そして、その上でダージリンとは1vs1のタンクジョストで決着をつけると決めた様だ。

1vs1のタイマンならば、策も、策に付き合わない事も意味をなさない……純粋なる実力勝負――己の策が通じないのならば、西住流をもってして、力でねじ伏せる事を、みほは選んだのだ。

 

 

「さてと、軍神殿のオーダーに応える為にも、君には更に狂化して貰おうかなエリカさん?」

 

「我、戦車道極!西住美保勝利絶対、敵撃滅!戦車道天下覇者大洗無敵……滅殺!!」

 

 

其れとは別に、新たに参戦したエリカは、同じく参戦したミカの奏でるカンテレの音――何かもう出てる音色から、其れは本当にカンテレなのかと疑いたくなるが――によって、更なる狂化が施され、『暴走エリカ』から『ゴッドエリカ』へとクラスチェンジしていた。

因みに何て言ってるのかは、書いた作者でも分からないので悪しからず。

 

やってる事は非常にバカバカしいが、凶暴性を完全開放したエリカと、捉えどころのない風の様な戦い方をするミカの相性は思った以上に良く、其れだけでなく梓と小梅とも相性が良いらしく、あっという間にダージリンをカチューシャ達と分断してしまう。

 

 

「逸見先輩、カチューシャさんを抑えて下さい!!」

 

「委細承知!天上天下唯我独尊、汝命奪取!!」

 

「何言ってんのか分からないわよエリーシャ!!」

 

 

そして、分断したカチューシャ達は、大洗連合の副隊長を務める梓によって、撃破されないまでも完全にその場から動く事が出来ない鳥籠状態となってしまった。

マダマダみほには及ばないが、軍神の一番弟子である梓は、ここぞと言う時には其の力を如何なく発揮してくれるのだ。

 

 

一方で、穏やかでないのはダージリンだ。

エリカが居なくなった事で冷静な思考を取り戻し、その上でみほとフラッグ車を含む集団を以ってして対峙し、みほの策に付き合わない事を徹底する事で、己の優位性を確保していたのに、たった2輌の戦車が参戦した事で其れが崩されてしまった。

その結果として、みほと1vs1のタンクジョストを行う事になった……なってしまったのだ。

 

 

「(此れは……みほさんではない――エリカさんこそが、私の最大の敵だった!!)」

 

 

思わず歯噛みする……己の最大の敵はみほではなく、エリカだった事を、此処で知ったのだ。

去年の全国大会も、今年の練習試合も、全てエリカがダージリンの事を封殺したからこそ、聖グロは勝利する事が出来なかったのだ……今回は挑発されている訳では無いが、エリカが参戦した事で己の優位性が失われたと言う事に関しては、此れまでと同じだったと言えるだろう。

 

 

「不利な状況に陥ったとしても、必ず其れを引っ繰り返してしまう……如何やら貴女は勝利の女神に溺愛されている様ね、みほさん?」

 

「ダージリンさん、こんな言葉を知っていますか?

 『強者である事に理由は必要ない。只強いからこそ強者なのだ。そして勝った者こそが強者なのだ』……至言だと思いませんか?」

 

「そうね、其れは至言であり真理ですわ。」

 

 

静かに言葉を交わすみほとダージリンだが、互いにその口元には笑みを湛えている……其れは、強者が強者と対峙した時にのみ現れる『戦いの笑み』とも言うべきモノ。

みほのパンターと、ダージリンのチャーチルが動いたその時が、エキシビジョンの決着の時だ。

 

 

因みにだが――

 

 

「真打参上ですのよ!!」

 

「逸見先輩、赤星先輩、ミカさん……やっちゃって下さい。」

 

「撃滅!!」

 

「撃破をギリギリ免れた戦車では、相手になりません。」

 

「君を撃破する事に意味があるとは思えないが、勝利の為にも此処は撃破しておくべきかな。」

 

 

旅館に突っ込んだモノの白旗判定となっていなかったローズヒップが飛び入りで参戦するも、既に満身創痍の戦車での参戦は無謀であり、参戦と同時に、ティーガーⅡ、Ⅳ号、BT-42の集中砲撃を受けて白旗判定に。

 

 

『聖グロ・プラウダ連合、クルセイダー、行動不能。』

 

「ちっくしょー!ですわ!!」

 

 

操縦士としてはトップクラスの実力のローズヒップだが、今回ばかりは相手が悪かった様だ……軍神の片腕では、軍神の本体に勝つ事は出来ないのだから。

 

 

「あはは……やられちめーましたわ。」

 

 

だが、撃破されたローズヒップの顔は晴れやかだ――みほ相手に全力を出せた事が嬉しかったのだろう……ともあれ、ローズヒップの参戦は、この状況を変えるには至らなかった。

となれば、みほとダージリンの一騎打ちにかかって来るのだが……

 

 

「麻子さん、行ける?」

 

「履帯と転輪が吹っ飛ぶから、二度目は無いが、やる事は可能だ西住さん。」

 

「其れで良いよ――華さん。」

 

「お任せ下さい……一発必中、必ず撃ち抜いてみせます。」

 

「OK……其れじゃあ行こうか!!」

 

 

そんな中でもみほは冷静に作戦を考えて、勝利への道筋を確立する――持ち前の超感覚によって、理論的にではなく本能で、勝利への道筋を選び取る。

だから、其処には負けは存在してない。

 

 

「行くよ、ダージリンさん!!」

 

「行きますわよみほさん!!」

 

 

パンターとチャーチルが、同時にエンジンを唸らせて真正面から突撃!!

そのまま正面衝突という所で、パンターが戦車ドリフトとも言うべき軌道を見せて、チャーチルの背後を強引に奪取!!――履帯と転輪は吹っ飛んだが、撃破判定にはなっていない以上、攻撃は可能だ。

 

 

「此れで終わりです!!見せてやる、西住の戦車道を!!!」

 

「負けない……貴女の首を取るのは、このダージリンですわ!!」

 

 

ダージリンも咄嗟に砲塔を動かし、みほのパンターと最後の戦いを敢行!!――共にゼロ距離砲撃を喰らったのだから只では済まないだろうけども……

 

 

「私の勝ちですね、ダージリンさん?」

 

「えぇ、私の負けですわみほさん。」

 

 

煙が晴れた其処には、キューポラの上に立って右手を掲げるみほと、キューポラから身を乗り出してうなだれるダージリンの姿があった――そして、其れこそがこのエキシビジョンの結果を現していた。

 

 

『聖グロリアーナ・プラウダ連合、フラッグ車、行動不能!

 よって、大洗・継続・知波単連合の勝利です!!』

 

 

結果は大洗連合の勝利!!

そのアナウンスを聞いた途端に盛り上がる観客!!

 

 

「Wunderbar!最高だぜ!!!

 此れが大洗の実力だ!!聖グロもプラウダも敵じゃねぇんだオラ!!みぽりんだけ見てりゃいいんだオラァ!I'm Chono!!」

 

「俺がプロレスリングマスターなら、君は戦車道マスターだなみほちゃん……見事だったぜ、Year!!」

 

 

その観客席で黒のカリスマと、その盟友であるプロレスリングマスターは絶好調だった。

 

 

「私達の、勝ちです!!」

 

 

そして、其れに応えるようにみほは右腕を掲げて勝利宣言をし、其れに更に観客は沸き、エキシビジョンマッチは、最高の形で幕を下ろしたのだった――因みに、このエキシビジョンマッチは後に高校戦車道ベストバウトにノミネートされ、2位にランクインするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

エキシビジョンに勝利出来てたのはよかったよ――継続と知波単との連合が此処まで巧い具合に嵌るとは思ってなかったけどね……でも、継続は兎も角、知波単は絶対に改革が必要だね……取り敢えず突撃の精神を何とかしないとだよ。

 

で、試合後の温泉を堪能して、学園艦に戻って来た訳なんだけど――

 

 

 

「Keep Out?此れ何?」

 

 

 

大洗女子学園の校門前には、立ち入り禁止を示す『Keep Out』が書かれた黄色のテープが――何時の間にこんな物を……一体誰が何の為にやったのかな?

悪戯にしても性質が悪い気がするんだけど……

 

 

 

「此れは此れは、勝手に入って貰っては困るよ君達。」

 

「勝手にって、私達は此処の生徒なんですけれど……」

 

「残念だが、君達はもう生徒ではないのだよ。」

 

 

 

生徒じゃないって如何言う事か説明願えますか?

と言うか、貴方は一体何者なんですか、白髪……否、銀髪でモノクルのおじさん?……何だか、物凄く偉そうな人だって言うのは分かるんですけれど、何方様ですか?

 

 

 

「ククク、其れは彼女から聞き給え。」

 

「生徒会長さんから?」

 

言うだけ言って、タクシーで逃げたか……自分の正体も明かさずに立ち去るとか非常識と言うか――それで会長さん、何があったんですか?

 

 

 

「……大洗女子学園は、今日この時をもって、廃校が決定された。」

 

「え?」

 

だけど、次に会長さんから発せられた一言で、私の思考は完全に停止してしまった――幾ら何でも、行き成り大洗の廃校が決定されたとなればショックを受けない方が異常だからね。

でも、廃校って……全国制覇を成し遂げたのにそんなのはアリなの?――否、其れは絶対に認められない!

なればこそ、私は戦う!!――戦って、戦って、戦い尽くした先に勝利を捥ぎ取る!!

 

 

 

――轟!!

 

 

 

文科省の連中が彼是やってくれたみたいだけど、其れは無意味――だけど、私達は負ける気は毛頭ないからね……文科省の野望は、纏めて粉砕してあげます!!

何よりも、大洗の廃校何て言う事は、絶対に認める事は出来ないからね――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer145『こんな事は、絶対に許せないです!』

こんな事って……怒っても良いよね、これ?Byみほ        精神を怒りのままに自由にしてやれ……もう手加減は必要ないわ!Byエリカ     此れが伝説の戦車乗り……スーパー戦車長!!By小梅


Side:みほ

 

 

エキシビジョンでの勝利に水を刺す形で告げられた『大洗女子学園廃校』の一報……此れには、私だけじゃなくて戦車隊の皆が愕然としてたけど、其れは当然の反応だよ。

優勝すれば、廃校は撤回になる……其れを信じて戦って来たのに、其れが反故にされたんだから。

だけど会長さん、優勝すれば廃校になるって言うのは確約されてたんじゃないんですか?……ボイスレコーダーで、その時の会話も記録されてるんですよね!?

 

 

 

「確かに記録されているけど、アレは辻局長個人がその場で決断した事であって、文科省の総意と言う訳ではないので無効だそうだ。

 無論、全国大会優勝と言う成績は加味して考えはしたが、1度の全国制覇ではマグレと言う可能性を捨てる事は出来ず、学園の実績として認める事は出来ないらしい。」

 

「……ふっざけんじゃないわよ!!

 何よ其れ!勝っても負けても、大洗は廃校になる事が決まってたって言うの?……だったら、私達の戦いは一体何だったの?……絶対王者である、黒森峰を下して手にした優勝は何だったのよ!!」

 

 

 

――バキィィィィ!!

 

 

 

うわぁ、エリカさんが怒り任せに殴った壁が割れたよ……結構頑丈な素材を使ってるにも拘らずね……じゃ、なくて、大洗の廃校は決まってしまった事なんですね、会長さん?

 

 

 

「スマナイ……西住ちゃん達の頑張りを無駄にする事になってしまったのは、本当に申し訳ないと思っている。

 私も考えが甘かった……会話の録音だけでなく、互いに記名捺印した書類を作っておくべきだった……其れが有れば、此処までの事にはならなかったかもしれないからね――本当にスマナイ。」

 

「会長さん……」

 

顔をあげてください。

確かにこんな事になってしまったのは、納得できませんけど、だからと言って此れで終わりとするのはまだ早いと思うんです――何を如何すれば良いかなんて全然分かりませんけど、足掻くだけ足掻いてみましょうよ?

悔いるのは、其れが終わってからです。

 

 

 

「西住ちゃん……確かに其の通りだね――足掻くだけ、足掻いてみるとしようじゃない!!」

 

「そうです。其れでこそ会長さんです!!」

 

如何やら、文科省のお偉いさんは、如何しても大洗を廃校にしたいみたいだけど、そうは問屋が卸さないよ――何よりも、隻腕の軍神と言われている私のホームタウンを奪われる訳には行かないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer145

『こんな事は、絶対に許せないです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取り敢えず、その日は其処で解散――戦車まで取り上げられるって言う話だったけど、アイスブルーのパンターと、漆黒のティーガーⅡは私が持ち込んだ私物だから接収はされないみたいだね。

だからと言って、大切な戦車を取り上げられるなんて言うのは、黙って見てられる物じゃないんだけどね。

 

でも、あの後会長さんから聞いた話の中に、どうにも腑に落ちない部分があるなぁ?……何で今年一杯での廃校が、8月31日付けでの廃校に前倒しされるんだろう?

夏休み終了と同時に廃校だなんて、夏休みも残り僅かになってる事を考えると、大洗女子学園の生徒の編入先を都合する期間が短すぎるだけじゃなく、編入先の学校の準備だって間に合わない筈だよ――幾つかにバラけさせるとは言え、其れでも結構な人数になる訳だから。

 

文科省の人なら、其れ位の事は分かってると思うんだけど、その辺についてエリカさんと小梅さんは如何思う?

 

 

 

「そうね……ブラックな事を言わせて貰うなら、文科省の役人かもっとお偉いさんが船の解体業者と癒着してる可能性があるわね。

 既に大洗の廃校は決定されていて、癒着業者に仕事を回す代わりに裏金を受け取ってるとかしてたら、何が何でも大洗は廃校にしなくちゃならないし、廃校の前倒しは、可成り大きく報じられる上に各所からのバッシングも受けるでしょうけど、世間様の目を其方に向けて、業者との癒着から目を逸らすのが目的かも知れないわね。」

 

「うわぁ、其れが本当だとしたら本当にブラックですねぇ?

 でも、そうだとしても文科省の大臣が其れを決めたとは思えません――文科省大臣の馳浩氏が政治家になったのは私達が生まれる前ですけれど、父に聞いた話だと政治家になってから只の一度も不祥事もスキャンダルもない人らしいので。

 父曰く『あれ程真面目に政治家をやってる人間は、他には居ない』との事ですから。」

 

「となると、さっきのモノクルのオジサンが大洗廃校の黒幕って見て間違いないかな。」

 

だとしたら、あの人は文科省大臣よりも上の権限を持ってる事になるんだけど、あんな人テレビで見た事ないから……恐らくだけど、既に表舞台からは退いたけど、未だに文科省に対して強い影響力を持つ人って所かな?

あの人のコネで文科省に入った人が結構いるとか、そんな感じの。

 

 

 

「あり得るわね……ったく、汚い大人の事情で人の居場所奪うんじゃないわよマッタク。

 みほ、貴女の中学時代の仲間であるアノ3人が大洗に居たら、間違いなくパンターで文科省に突撃かましてたんじゃない?……こう言っちゃなんだけど、あの3人と一緒だと、貴女も結構はっちゃけるだろうし。」

 

「あ~~~……うん、その可能性はスッゴク否定できない。」

 

今のあんこうチームも良いんだけど、やっぱり中学時代のチームはナオミさんとローズヒップさんが戦車道経験者だったって言う事も有って、可成りやり易かったのは事実だから。

って言うか、ナオミさんは兎も角ペパロニさんとローズヒップさんは間違い無く文科省にカチコミかけてたと思うな、うん。

 

でも、今は其れも出来ない……私達、どうなっちゃうんだろうね?

お婆ちゃんの西住流に『NO』を突き付けて黒森峰を飛び出して大洗に来て、其処で新しい仲間と、全く新しい戦車道を始めて自分の戦車道って言うモノを見つけたと思ったのに、其れを見つけた場所がなくなるなんて……

 

何よりも、大洗が廃校になったら、二度とあのメンバーでの戦車道は出来ないんだよね。

 

 

 

「……でしょうね。

 少なくとも私達3人は、古巣である黒森峰に戻される可能性が高い訳だし――まぁ、澤辺りは貴女の事を追って、無理をしてでも黒森峰に来るかも知れないけどね。」

 

「それ以外のメンバーは、きっと散り散りになってしまうと思います。」

 

「やっぱり、そうなるよね……」

 

折角、大洗の皆と戦車道を楽しむ事が出来たのに、其れがこんな形で終わっちゃうなんて言うのは、なんか嫌だな。――勿論、諦める心算はないけど、今の所何か策がある訳じゃないからね。

 

……ねぇ、エリカさん、小梅さん、学校に行ってみない?

 

 

 

「みほ?」

 

「みほさん?」

 

「もしかしたら、見納めになるかも知れないから、私達の第2の母校、ちゃんと見ておきたいんだ。」

 

「そうね……そう言うのもアリね。」

 

「幸いにして、荷物は纏め終わりましたから、行ってみましょうか?……尤も、夜の学校である以上、何か出るかも知れませんけれど。」

 

 

 

確かにそうかも知れないけど、怖い事を言わないでくれるとありがたいかな小梅さん。――だけど、私達の第2の母校である大洗女子学園の姿は、学園艦を去る前に見ておかないとだからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:優花里

 

 

はぁ、大洗が廃校になるとか、一体どんな悪夢でありますか……夢なら覚めて欲しい限りであります――と言うか、西住殿達と力を合わせて『絶対王者』である黒森峰を倒して優勝したのに、廃校になるだなんて納得できないでありますよぉ!!

とは言え、現状で私に出来る事など何もないのでありますがね。

 

 

 

「陸に戻ったらどうすればいいんだ?そもそも店は続けられるのか!?」

 

「大丈夫よ、お父さん。」

 

「何が大丈夫なんだ!

 今までは学園艦のお客さんが居たが、陸に戻って新たに店を開いたとしても、お客さんが来てくれる保証なんて無いんだぞ!!其れを考えたら大丈夫だなんて言えないだろう!!

 最悪の場合は、一家揃って路頭に迷う事になるんだぞ母さん!!」

 

「だから大丈夫だって。きっと何とかなるわよ。」

 

「そうは言っても母さん!!」

 

「大丈夫だっつってんだろうが!其れとも、テメェはオレの言う事が信じられねぇってのか淳五郎!!

 大体テメェは、秋山家の大黒柱だろうが!!その大黒柱がドッシリ構えてなかったら、巧く行くモンも巧く行かなくなるだろう、此の馬鹿野郎!

 其れにだ、大洗廃校の話は、遠からずしほや千代吉の耳にも入る……こんなフザケタ事を聞いて、あの2人が黙ってる筈がねぇんだ――絶対に、この状況を何とかしようと動く筈だ。

 何よりも、戦車道の競技者ってのは仲間意識ってのが強くてな?特に一度でも戦った事のある相手には、不思議な友情みてぇなモンを覚えるモンなんだ――今年の大洗は、練習試合を含めりゃ高校戦車道の有名所全てと何らかの関わりを持ってる。

 となれば、そいつ等が大洗廃校の事を知れば、ヤッパリ黙ってるとは思えねぇ――だから、絶対何とかなる!分かったか!!」

 

「よ、よく分かったけど、興奮すると昔の調子に戻るのは何とかならないのか母さん……」

 

「あ……コホン。

 分かってはいるんだけれど、気持ちが昂るとついね?……大洗の荒熊は、中々牙が抜けてくれないらしいわ。」

 

 

 

お母さんとお父さんは、ある意味で平常運転でありますなぁ?

まぁ、お母さんが昔は戦車乗りで、大洗の戦車道の隊長で、更に当時の大洗所か戦車道を通じて全国に名を轟かせていたスケ番だった事には人生16年目の大ショックでありましたが……其れだけに、お母さんの言う事には説得力があります。

確かにこの事を、しほ殿が知っていて黙っているとは思えませんし、西住殿は人柄でも戦車道でも人を惹き付ける方なので、西住殿と戦った、あるいは同じチームを組んだ事のある人ならば、やはり黙ってはいないでしょう。

現状で、私にできる事は何もないかも知れませんが、確かにお母さんの言うように、存外何とかなるかも知れないであります。

 

そもそもにして、あのやり手の角谷会長殿が、此のまま黙って引き下がるとは到底思えないでありますからな。

 

 

 

「兎に角、きっと何とかなるから大丈夫よお父さん。

 其れで優花里、貴女は行かなくてもいいの?」

 

「へ?行くって何処に?」

 

「学校よ。

 最終的にどうなるかは別として、学園艦からは明日で退去になるから、大洗女子学園とは今日でお別れと言う事になるから……見ておかなくても良いの?」

 

「其れは……」

 

そうでありますな。

最終的にどうなるかは分からないとは言え、最悪の事態になってしまった場合には、二度と大洗女子学園を訪れる事は出来なくなってしまう訳ですから、見納めに行ってもいいかも知れないであります。

お母さん、お父さん、ちょっと出かけて来る。

 

 

 

「はい、行ってらっしゃい優花里。」

 

「もう暗くなってるから気をつけて行くんだぞ。」

 

「うん!」

 

言うが早いか、駆け出していたであります。

もしかしたら、私の様に学園の見納めに来てる人が居るかも知れないと言う思いが、私にそうさせたのかもであります……兎に角、私にとって大切な思い出が沢山ある大洗女子学園の姿は、学園艦から去る前に確りと目に焼き付かせておかねばであります!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

最後の見納めと思って学校に来たんだけど……まさか、戦車道履修者の殆どが来てるとは思わなかったよ――優花里さんも来てるみたいだし、後は沙織さんと華さんと麻子さんが居れば、戦車道履修者が全員揃う事になるね。

 

 

 

「あ、みぽりん達もやっぱり来てたんだ!」

 

「こんばんは、皆さん。」

 

「如何やら、戦車道履修者が全員集まってるようだな……」

 

 

 

そんな事を思ってたら、沙織さんと華さんと麻子さんも参上。

流石にこの場に集まった人達は、制服じゃなくて私服だね?みんなそれぞれ個性があって良いと思うんだけど、アインさんの服装には、若干ツッコミ所があると思うのは私だけかなエリカさん、小梅さん?

 

 

 

「いや、アレは寧ろツッコミ待ちと言われても仕方ないんじゃない?」

 

「黒地に青紫のラインが入ったチャイナドレス風の衣装……アレが私服って、本気かとは思います。」

 

「だよね。」

 

まぁ、すっごく似合ってるからツッコムのは無粋なのかもだけどさ。

で、この場に集まった皆は、チームごとに分かれて、自分達の戦車とお別れをしてるみたいだね……廃校になるだけじゃなくて、戦車まで取り上げられるなんて、そんなのはあんまりだよ。

私のパンターと、エリカさんのティーガーⅡは西住家から持って来た『私物』だから接収は免れたけど、それ以外の戦車は文科省預かりになった上で、きっと売り捌かれちゃう……戦車は戦車乗りにとっての相棒、其れを奪われるなんて、幾ら何でも辛すぎるよ。

 

何とかして、接収を逃れる事は出来ないかな――

 

 

 

――ゴォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

 

 

 

って、何この轟音!?

只のジェット機の音じゃないよ此れは――もっと強力な馬力を持った、超大型の輸送飛行機のエンジンだよね?

 

 

 

「あーーー!

 アレは、サンダースのC-5M輸送機『スーパーギャラクシー』であります!!」

 

「流石、詳しいわね優花里。」

 

 

 

サンダースの大型輸送飛行機だったんだ。

でも、なんでそんな物が、大洗の学園艦に来るのかな?……まさか、学園艦の人達を纏めて何処かに輸送するって事ではないと思うんだけど、此れは一体如何言う事でしょうか会長さん?

 

 

 

「にしし、やられっぱなしってのは好きじゃないから、先ずはせめてもの意趣返しに戦車だけでも守ろうと思ってね。

 サンダースに、パンターとティーガーⅡ以外の戦車を、私等の移動先――あぁ、この場合は転校先じゃなくて当面の生活場所ね?其処が決まるまでの間、預かってもらう事にしたのさ。」

 

「そ、其れは良いアイディアですけど、文科省が黙ってるでしょうか?」

 

「其れに関しては大丈夫よみほさん――紛失届を作ったから。」

 

「失くしてしまった物であれば、幾ら何でも接収のしようがないからな。」

 

 

 

其れはまた、反則ギリギリの裏技ですねぇ?

まぁ、文科省の方から仕掛けて来た訳だから、此方も使える手段は全て使って出来る事をしなくちゃですから、この裏技も全然ありだと思いますよ――そもそもにして、正攻法でダメな場合は裏技を使うのは当然の事だと思いますから。

 

 

 

「OK、OK!其れは至言ねみほ!

 なんだかとんでもない事になっちゃったけど、取り敢えず、大洗の戦車はサンダースで預からせて貰うわ!!戦車すらなくなったら、本当に大洗はお終いになっちゃうからね。」

 

「ケイさん……ありがとうございます。」

 

「水臭い事は言いっこなしよみほ。

 其れに、デイジーの真似をする訳じゃないけど、こんな言葉を知ってる?『カウボーイは決して仲間を裏切らない。』ってね。――アメリカンな校風のサンダースは、絶対に仲間を裏切ったりしないわ。

 仲間の危機には力を貸すのが本物のカウボーイってモノだからね――あ、戦車道的にはカウガールかもだけど。」

 

「何よりも、貴女の戦車道が、此処で途切れるなんて言う事は見過ごせないのよ、みほ。」

 

 

 

ケイさんだけじゃなくナオミさんまで!!――よくよく見ればアリサさんも来てるみたいだね?

サンダースの隊長と副隊長が、来てくれるとは思ってなかったから、此れは驚きだよ――でも、ケイさん達になら安心して戦車を任せる事が出来ます……皆の事をお願いできますか?

 

 

 

「Tah's right!!(任せなさい!!)

 其れじゃあ、戦車を積み込んで!皆、Hurry up!!(急いで!!)」

 

「「「「「「「「Yes,Ma'am!!」」」」」」」」」」

 

 

 

アハハ、相変わらずのノリの良さだけど、そのお陰で滞る事なくパンターとティーガーⅡ以外の戦車をスーパーギャラクシーに搬入出来たね。

でも、幾らサンダーズ自慢の大型輸送機とは言え、8輌もの戦車を積んだ状態で真面に飛ぶ事が出来るのかな?……戦車の重量はまちまちとは言え、ポルシェティーガーが居るせいで最大積載重量は約173tだからね。

 

 

 

――ギュオォォォォォォォン……ゴォォォォォォォォ!!!

 

 

 

「やったぁ!!」

 

「凄く重そうだったけど、飛んだ!!飛び立ったぁ!!」

 

「此れで、戦車は守られたであります――学校を守る事は出来ませんでしたが、戦車を守る事は出来ました。」

 

 

 

無事にスーパーギャラクシーは飛び去ってくれた……約173tもの追加重量がありながらも、飛行が出来るって言う事は、あのスーパーギャラクシーのエンジンの馬力は相当にチューニングされてるのかもしれないね。

でも、戦車を守る事が出来たって言うのは僥倖だよ……戦車さえ無事なら、この状況を何とかできるかも知れないからね?と言うか、会長さんも其れを見越して戦車の紛失届を思いついたんだと思うからね。

 

そもそもにして、大洗が廃校になるなんて言うには絶対に認められないから、足掻けるだけ足掻かせて貰うよ――その先にどんな結末が待っていたとしても、何もしないで手をこまねいているよりは遥かにマシだからね。

 

何よりも、彼方達は私にケンカを売ったに等しい事をしたんだから其れなりの覚悟は出来てるんだよね?……なら、私にケンカを売った事を後悔すると良いよ。

隻腕の軍神は、敵対する相手には容赦しない――其れこそ、骨の髄まで粉砕するレベルだからね。……だから、彼方達の事は、西住みほの名に掛けて必ず叩きのめす!!

 

 

 

――轟!!

 

 

――バガァァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

「みぽりんの闘気で地面が割れた!?」

 

「此れが、限界を超えた怒りに到達した戦車乗りだけが到達できる境地……スーパー戦車長であります!!」

 

 

 

優花里さん、其れって何処の戦闘民族?

でもまぁ、其れを否定する気はないかな?……今の私なら、誰が相手になっても負ける気は無いからね……最上級にフザケタ事をしてくれたけど、私達は其れには絶対に屈しない!!

どんな手を使ってでも、大洗の廃校を撤回させてあげる!!――こんな結末は、絶対に認める事は出来ないからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:辻

 

 

可能性は可成り低いと思っていたのですが、探してみれば見つかりましたよ馳大臣!彼と、解体業者との癒着を確定する音声データと文書が!

 

 

 

「其れは本当か?

 よくやってくれた辻君……此れが有れば、最大の切り札は此方に有る事になるからね。――此れが世間に公表されれば、流石の彼も『知らぬ存ぜぬ』で通す事は出来まい。

 彼には、そろそろ本当に引退して欲しいと思っていたから、そう言う意味ではタイムリーだったよ此れは。――だが、此れを公開するのは暫し待つとしよう。

 そうだな、夏休みが残り10日になったら、其れを全国に一斉送付してくれ。」

 

「其れは……確かに、其方の方がベターでしょうね。」

 

世間は今、大洗女子学園の奇跡の優勝に沸いているから、其処に『大洗廃校』の劇物が飛び込んで来れば、何らかの混乱が起きるのは必至。

だからこそ、大洗廃校を知った戦車乙女達が何をするのか楽しみでならないのが本音ですね。

 

 

 

「楽しそうだな辻君?」

 

「此れは失敬。」

 

ですが、楽しそうだと言うのは間違いではありませんよ馳大臣……実際に私は、今この時を純粋に楽しんでいるのですから。

此度もまた、厄介事に巻き込まれた感じではあるけど、大洗女子学園の面々ならば、この状況すら跳ね返してしまうのではないかと思ってるのを否定できません――己の戦車道を確立した戦車乙女ならば、この状況をも跳ね返す事が出来ると信じていますからね。

 

其れだけの可能性を考えると、大洗の廃校は無かった事になるかも知れないと言うのは希望的観測とは言い難いです。

 

 

 

「成程な……なら、俺は蝶野とムトちゃんに連絡を取ってみる――西住しほさんと、あの2人が一緒に押しかければ、流石にあの爺さんも耐える事は出来ないだろうからね。」

 

「其方の方は、全面的にお任せしましょう。」

 

だから、決してあきらめないでくれたまえよ大洗女子学園の諸君――君達が諦めてしまったら、其れこそ全てが水の泡となってしまうのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer146『まさかの廃校、アンタ舐めてる?です』

廃校を決定した馬鹿に、瞬獄殺をかましたいByみほ        気持ちは分かるけど自重して。ぶっちゃけ私でも耐える自信がないけどねByエリカ


Side:みほ

 

 

会長さんの機転のおかげで、パンターとティーガーⅡ以外の戦車は、失くした事にしてサンダースに預かって貰える事にはなったんだけど、だからと言って、私達が学園艦から退去する事が変わった訳じゃない――明日には、大洗の学園艦を去らなきゃならなくなるんだよね。

なんて言うか、ほんの少しの時間だったけど、大洗の学園艦で経験した時間は濃密だったからか、やっぱり此処を去るって言うのは、もしかしたら、黒森峰から去る時よりも思うモノが有るかも……

 

 

「状況が違うのも大きいんじゃないでしょうか?

 黒森峰から去る時は、西住流を破門になったとは言え、出て行ったのは私達の意思でしたけれど、今回は私達の意思で学園艦を去る訳ではありませんから。

 戦車は何とか守れましたけど、だからと言って此のままでは……何か、大洗を救う手立てはないのでしょうか?」

 

「取り敢えず、今は待つのが上策でしょうね……今はまだ、逆転のカードを見つける事は出来ないけど、逆転のキーカードは必ず何処かにある筈だから、今は期を待つときよ。

 結局の所は、『諦めなければチャンスが来る』って事に帰結する訳なんだけど、逆転のキーカードは大体当たりが付いているんでしょう、みほ。」

 

「キーカード其の物じゃなくて、其れを持って来るであろう人はね。」

 

アノ会長さんが、大洗が廃校になるって言うのを、指を咥えて見てるとは思えないから。

そもそもにして、全国大会を制覇した学校を廃校にするっていう事が世間に知らされたら、『其れはおかしい』って世論は必ず巻き起こるだろうし、高戦連(高校戦車道連盟)黙ってないし、多分大洗の教官を務めてくれた蝶野さんだって黙ってる筈がない。

何よりも、大洗と戦った学校の皆が黙ってないよ――大洗が廃校になったら、冬に行われる優勝校の地元がホストになって開催される冬季大会や、来年の全国大会で大洗に雪辱戦をする事が出来なくなるんだし。

 

 

 

「聖グロ、マジノ、サンダース、アンツィオ、プラウダ、黒森峰――後は、エキシビションで組んだ知波単と継続も黙ってないでしょうね?」

 

「大洗の廃校撤廃を求める署名活動とかしちゃったりする可能性は有りますね……あくまでも可能性ですけれど。」

 

「あくまでも可能性だけど、仮にそんな状況が起きてくれたら僥倖以外の何物でもないよ。」

 

だから、あらゆる可能性を考慮して、総合的に考えた場合、私達はまだ此処で終わりじゃない――学園艦は奪われても、必ず取り戻す方法が有るって事なんだ。

だから、どんな方法であっても、大洗の廃校を撤廃させて学園艦を取り戻せるなら、その方法を選べばいいんだよ――選んだら、その方法を成功させるだけだから。

 

明日船を降りたら、暫くお別れになっちゃうけど私達は絶対に諦めない――必ず迎えに行くから、待っていてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer146

まさかの廃校、アンタ舐めてる?です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝――早朝から退艦作業は始まって、普段なら登校しているくらいの時間には、学園艦から大洗女子学園の生徒を含めた全ての住人が退去を完了してた。

此れで、一時的とは言えお別れなんだね……

 

 

 

「今まで住んでた所とお別れだなんて、こんなの彼氏と別れるよりも辛いよ!」

 

「沙織さん、別れた事有りましたっけ?」

 

「沙織には言うだけ無駄だぞ五十鈴さん。

 エア彼氏と破局した回数ならば既に3桁を越えているかもしれんがな。」

 

「ちょっと麻子!!」

 

「ったく、こんな時でも平常運転ね沙織は……貴女のそう言う所は、素直に尊敬に値すると言っておくわ――本気で大したモノだと思うわよ。」

 

「やだもー、エリリン褒めないでよ!!」

 

「武部殿、今の逸見殿の一言は、何方かと言うと嫌味や皮肉の類ではないかと……」

 

「……100%嫌味じゃないけどね。」

 

「おろ?意味深な発言でありますなぁ?」

 

 

 

でも、こんな時でも平常運転な沙織さんは、エリカさんの言う通り大したモノだと思うよ――多分無意識なんだろうけど、何時も通りに振る舞って見せる事で、場の空気が沈み切っちゃうのを防ごうとしてるんだから。

 

 

 

――ボォォォォォォォォォォ

 

 

 

だけど、学園艦の霧笛が鳴り響いて出港すると、流石に何時も通りとは行かないよね。

学園艦に向かって手を振る人、見納めとばかりにスマホのカメラでその姿を撮る人、涙が止まらなくなる人……色んな人が居たからね。

かく言う私も、自然と学園艦に向かって、ドイツ式の敬礼をしてたよ。

ううん、私だけじゃなくて黒森峰で同じ敬礼を習ったエリカさんと小梅さん、そして欧州史、特にドイツ史に詳しいエルヴィンさんもね。

 

 

 

「「「「「「「「「「元気でねーーーー!!」」」」」」」」」」

 

 

 

そして、梓ちゃんを除く1年生の子達は、港の縁ギリギリまで駆け寄って、大声で学園艦に向かって叫んでた……梓ちゃんだけがそうしなかったのは、戦車隊の副隊長として、1年生のリーダー的存在として、『自分まで感情的になったら、他の子が不安になる』って思ったからかな?

 

「梓ちゃん……我慢しなくても良いんだよ?」

 

「我慢をしてる訳じゃありませんよ西住隊長。

 勿論私だって思う所がなくはないですけど、私だって諦めてないんです――絶対に廃校を撤廃させて学園艦を取り戻す方法は有るって、そう信じてるので。」

 

「そっか、梓ちゃんもそうなんだね?」

 

「ふふ、弟子は師に似るんですよ?」

 

「そう来たかぁ……此れは一本取られたなぁ?」

 

でも、梓ちゃんもそう考えてるなら、ある意味で心強いよ――副隊長の思いが隊長と同じだって言うのは、隊長にとっては心強い事この上ない訳だからね。

 

そんなこんなで学園艦を見送った私達は、学園が用意したバスで移動って事になるんだけど、流石にパンターとティーガーⅡをバスに積み込むのは無理があるって言うか不可能だから、あんこうチームとライガーチームは戦車に乗り込んでバスの後をついてく事になるんだよね。

 

移動先は学科ごとに違うから、交差点でバスは夫々の方向に分かれて行く……なんて言うか、こう言うのも物悲しさを感じちゃうよ。

で、私達はローズヒップさんと追いかけっこをした道を通ってか……あ、KV-2の砲撃を受けたホテルは、早速工事が始まったみたいだね?連盟の迅速対応恐るべし。

 

 

 

「ホント、連盟の資金ってどうなってのか知りたいわ……本気で徳川の埋蔵金を発掘したんじゃないかと思うわね――序に言うと、其れとは別に油田か金山、炭鉱でも持ってんじゃないかしら?」

 

「エリカさん、其れは微妙に否定出来ないよ。」

 

「でしょ?

 そもそもにして、戦車道の試合で出た被害は連盟が一括して保証しますとか、ドンだけの資金が有るんだって話じゃない?……まぁ、其れは考えるだけ無駄かもしれないけれどね。

 時にみほ、これ食べる?」

 

「ほへ?」

 

エリカさんが投げて寄越したのはポテトチップ……如何したの此れ?

 

 

 

「アインが持って来てたのよ……何でも好物だから、沢山買い占めてたんですって。

 で、こっちでは移動中のおやつとして食べてるんだけど、全部食べ切るのは無理だからお裾分けよ――確か貴女、のり塩とフレンチビネガーとコンソメパンチが好きだったわよね?」

 

「うん、其れは好みだ、大好きだ。」

 

そして、私の好みを理解してくれていたエリカさん乙!此れ等のポテトチップはあんこうチームで美味しく頂く事にするよ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

其れから走る事数分、辿り着いたのは高台にある廃校になった小学校……木造の校舎って事は、創立は相当古かったと思われるなぁ?昭和初期?其れとも大正かな?

此れから編入先が決まるまでの間、此処が私達の暮らす場所になるって言う事か……

 

 

 

「転校先が決まるまでの間、私達は此処で共同生活を送る事になる。

 旧式の木造校舎なのでエアコンは無いが、せめてもの処置として最新型の扇風機を全室分用意したので、暑さは其れを使って凌いでほしい。

 食事に関しては家庭科室にある調理器具が全て使えるが、入浴に関しては、すまないが町の銭湯を利用してもらうしかない。

 銭湯の利用料金に関しては、地元のご厚意で入浴、飲み物、全て半額で提供してくれるとの事だ。」

 

「ま、多少の不便はあるかもしんないけど、少しの間だから辛抱してね~~。」

 

 

 

あはは……この一団に生徒会の皆さんが居たのは、ある意味で良かったかも。

こういう時には、河嶋先輩の冷静沈着な態度と、会長さんの何処か余裕のあるケセラセラな感じって言うのは頼りになるって言うか、此れからの事で不安になってる生徒にはプラスに働くよね。

 

 

 

「会長は兎も角、河嶋先輩に関しては、本来の性格知ってるだけに、なんか一杯一杯な感じを受けるのよねどうしても。

 まぁ、根っこの性格が頭に『ウルトラバカ』の付く生真面目なのは間違いないんでしょうけど。」

 

「うわぁ、エリリンってば容赦ないね……」

 

「自分狂犬ですので。手加減とか容赦とか知らないんで。

 手加減と容赦って何?食べると旨いの?其れとも、新しい怪人の名前だったりする訳?まぁ~~ったく、私の知らない言葉だと断言するわ!」

 

「エリリン、流石って言うか何て言うか。

 それにしても、こんな廃校になった小学校が当面の生活拠点って酷くない?別のクラスの子達は、小学校の宿泊学習で使った施設だって言ってたのに!

 こんな場所じゃ、ベッドもないじゃん!!」

 

 

 

まぁまぁ、沙織さん、此れも経験だよ?

確かに今までの生活と比べれば不便な事も有るかも知れないけど、そんな生活を経験すればこそ、普段何気なく使っていた物への有難さを感じる事が出来る訳だし、物が無ければ無いなりに工夫するようになるから、結果として自分のスキルアップに繋がるでしょ?

其れに何より……

 

 

 

「な、何より?」

 

「此の木造校舎は味が有る!このレトロな雰囲気とか凄く良くない?」

 

「そう来るとは予想外だったよみぽりん!!」

 

「流石は西住殿、目の付け所が違いますなぁ?」

 

「うふふ、みほさんはわびさびの浪漫が分かる方だったのですね……流石は、華道と並ぶ乙女道である戦車道の一大流派の娘さんと言った所でしょうか?」

 

 

 

其れが関係あるかは分からないけど、此の木造校舎の良さは分かる心算だよ華さん。

ある程度の修復はされてるんだろうけど、其れでも建設当初の姿はそのまま残されてると思うし、廃校になっても建物が残ってるのは、此の校舎が地元の人達にとって大切な物だったからだろうしね。

大洗の人達が大切に守って来た場所で、少しの間であっても生活する事が出来るなんて、光栄だとも思うし♪

 

 

 

「成程、そう言う考え方も有ったか……前向きだな、西住さん。」

 

「後ろ向きな事を考えたって何にもならないから、こんな時こそ前向きポジティブシンキングだよ麻子さん。」

 

それはさておき、生活場所が決まったなら、サンダースに連絡を入れて戦車を届けて貰わないと……昨日の今日で、戦車持って来いってのは流石に難しいかも知れないけど、取り敢えず場所だけは伝えておかないとね。

そんな訳で、スマホの電話帳からケイさんの番号をポチっとな。

 

 

 

――何時だってWelcome~~!掛かって来ても良いんだよ!

 

 

 

……何だろうこの呼び出し音?もしかしなくても、ケイさんが歌ってる?――まさかの拘り呼び出し音だけど、此れは結構良いなぁ?

私も自分で歌ったのを呼び出し音に設定して……ううん、止めた方が良いかもね。そんな事をしたら、私の歌声を聞く為だけに、お姉ちゃんが不要な電話をかけてきそうだから。

 

 

 

『Hello!如何したのみほ?』

 

「あ、ケイさん。

 実は、今日学園艦を退去して、編入先が決まるまでの生活場所までやって来たので、其処に戦車を届けて欲しいんですけれど、良いですか?」

 

『No problem.問題ないわ。

 其れじゃあ、住所を教えてくれる?グー○ルマップで調べてから行くから。』

 

「え~っと、茨城県東茨城郡大洗町○○××××です。」

 

『OK、了解したわ。

 だけど、サンダースの学園艦は太平洋を航行中だから、そっちに着くのは夕方になっちゃうんだけど、良いかしら?勿論、全速力で行くけど。』

 

「全然大丈夫です。

 其れに、無理を言って戦車を預かって貰ったんですから、贅沢な事は言えませんよ。」

 

『そう言える貴女って、普通に凄いと思うわみほ。

 其れじゃあ、出来るだけ早くそっちに行けるようにするから、待っててね?』

 

「はい!!」

 

サンダースの、正確に言うならケイさんに連絡を入れて、預かって貰った戦車を持って来てくれるように頼んだから、此れで戦車もまた私達の元にだね。

手元に戦車が有れば動かす事も出来るから、少なくとも戦車を動かす感覚を失う事は無いから――大洗の皆は、短期間に凄く上達したけど、其れだけに、戦車と離れる時間が長ければ、失われるのもまた早いからね。

時間にして半日強程度で、預けた戦車が戻って来るって言うのは僥倖以外の何物でもなかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

まさか、こんな木造校舎で暫く生活する事になるとは思わなかったけど、黒森峰で行われたサバイバル訓練と比べれば、遥かに良い環境での生活な訳だから贅沢を言う気はないわね。

沙織なんかは不満があったみたいだけど、みほの言った事を聞いて考えが変わったみたいだし。

まぁ、此れはちょっとしたキャンプみたいなものだって考えるのが良いかも知れないわ。――そう考えるのが最善なのかも知れないけど……

 

 

 

「食事の方は私にお任せ下さい!

 各種レーションを大量に持って来ているので、暫くは食べるには困らないであります!!」

 

「あ、あはは……」

 

「ゆかりん、スッゴク活き活きしてる。」

 

 

 

張り切ってるわね優花里?

まぁ、こう言う状況なら貴女のミリタリーサバイバル知識は大いに役に立つって言うのは間違い無いから、貴女が張り切るのはマッタク持ってOKなんだけど、私達が危機的状況に有るって言うのを忘れそうになるわね。

其れで優花里、今夜のメニューは何なの?

 

 

 

「そうでありますなぁ?

 ご飯は飯盒炊飯で炊いたお米で、おかずは野菜スープのレーションにソーセージを加えて、更にカレールーを加えたカレーであります!!

 矢張りこう言う状況でのメニューとしてカレーは外せませんので。」

 

「いや、それで良いよ優花里さん。

 カレーは単品で栄養のバランスが取れて上に、カレーのルーが有るなら後はご飯が有ればいくらでも行けるからね……だから、そのチョイスは最高だよ。其れがベスト!!」

 

「おぉ、西住殿に褒められるとは照れてしまうでありますぅ~~~。」

 

 

 

優花里……(汗)

まぁ、貴女にとって、みほは憧れの人だった訳だから、そんな人から褒められたら舞い上がっちゃうのは分からないじゃないけどね……私だってまほさんに褒められたら硬直しちゃうでしょうからね。

序に言うなら、みほにハグでもされたらカチンコチンだわ。

 

でも、こう言うのも悪くはないわね……大洗の廃校が決まって、編入先が決まるまでの生活場所だって言うのでなければね――ったく、マジでムカつくわ、あの銀髪モノクロ爺!!

みほが、私達が激闘の末に掴んだモノを無かった事にするとか、冗談じゃないわよ……校門であったその時に、ティーガーⅡの超長砲身88mmをブチかましてやりゃ良かったわ。

 

 

 

「エリカさん、生身の相手にティーガーⅡの88mmは駄目だよ?」

 

「分かってるわよみほ。其れを喰らわしたい位にムカついたって事よ。――貴女はムカつかなかった訳?」

 

「アハハ、馬鹿言っちゃいけないよエリカさん……滅茶苦茶ムカついたに決まってるでしょう?

 殺意の波動に目覚めて、オロチの暗黒パワーを取り込んで、更に秦の秘伝書の力も取り込んだ上で、八稚女→彩花のコンボを喰らわせたくなったから。」

 

「その衝動を、理性で押しとどめた貴女は凄いと思うわ……」

 

私だったら、その衝動のままに行動してたでしょうからね。

まぁ、其れは今は良いとして、待ちに待ったモノが来たみたいよ?……言った通り、夕方には到着したわ……流石はケイ、サンダースの隊長を務めるだけの事は有るわ。

 

スーパーギャラクシーの登場はこの場に集まった全員が感知する事になって、一同坂にかかった歩道橋に移動して……全員が移動し終わったところで、スーパーギャラクシーの後部ハッチが開いて、其処から大洗に戦車が次々とパラシュートに乗って投下されたわ。

何ともダイナミックな方法だけど、サンダースらしいと言えばサンダースらしいわね。

 

 

 

「あの、ありがとうございます!!」

 

『別に大した事じゃないわ……いずれ借りは返してもらうけどね。』

 

「借り?」

 

『その借りは、私達が貴女達に勝つ事で返させて貰うわ。

 だから、その為に貴女達の道を護りなさい……勝ち逃げは、絶対に許さないからね。』

 

「アリサさん……うん、約束するよ!!」

 

 

 

で、みほとアリサも通信で良い感じだったみたいだわ……って言うか、あのアリサがあんな事を言うとは思わなかったわ――勝つ為なら手段を選ばないアリサが成長したモノだわ。

だけど、此れで戦車も私達の元に戻って来たから、反逆の為の最低限の戦力は確保できたって事になるわ――戦車さえあれば、戦車乙女は何だって出来るんだからね。

この先に待ち受けてるのがどんな道なのかは分からないけど、みほなら……いいえ、違うわね――私達大洗女子学園なら、どんな道だって踏破出来ると信じてるからきっと何とかなるわ。

寧ろ大洗の廃校を決定した奴に教えてやろうじゃない……一体誰を敵に回してしまったのかと言う事をね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ダージリン

 

 

廃校撤廃を目指して、大洗女子学園が全国大会優勝を目指しているのは知っていましたし、大洗女子学園が見事に優勝を果たしたのも、紛れもない事実ですが……如何やら、その栄光に水を刺す事態が起きてしまったようですわね。

GI6からの情報で、大洗が廃校になると言う事が知らされたのですから……全国制覇を成し遂げたと言うのに廃校になる等と言う事は、大凡認められる物ではありませんわ――如何考えても、普通は有り得ない事なのですから。

此れは、少しばかり考える必要がありそうですわね……アッサム。

 

 

 

「御意に……3日で調べ上げます。」

 

「そう、頼りにしてますわ。」

 

今は先ず、情報を集める事が先決ですわね――確固たる情報が得られてから行動を起こすのが上策なのだから。

フフ、こんな言葉を知っている?『機を見て、期を待ち、奇をもって戦う』って……此れは今まさに私達に求められているモノですわ……だからこそ其れを胸に持って行動しなくてはですわ。

 

何れにしても待っていてねみほさん……どんな手を使っても、貴女が見つけた貴女の戦車道を、潰す様な事だけはさせないから。

 

 

――ふふ、此処までの事をしてしまうなんて、私はホントに心の底から貴女の戦車道の虜になってしまったのかも知れませんわね、みほさん。

何にしても、私は私の出来る事を精一杯するだけですわ……其れがきっと、何れ意味のあるモノになると信じてね。

 

聖グロリアーナの隊長・ダージリンとして、大洗の廃校は絶対に阻止して見せますわ――みほさんが漸く見つけた自分の戦車道、其れを汚い大人のせいでなかった事にされると言うのは我慢なりませんモノ。

貴女ともう一度戦うために、私は諦めませんわ――だからどうか貴女も諦める事だけはしないでねみほさん……ふふ、隻腕の軍神に『諦めるなっ』て言っても、『諦めないのは当然』って返ってくるのでしょうけれどね。

 

何にしても、今回の事は見過ごす事は出来ないから、私達は私達のやるべき事をするだけですわ……尤も如何転ぶかは、大洗の生徒会が、もっと正確に言うならみほさん次第ですけれどね。

 

ともあれ、大洗の危機は見過ごす事が出来ないから、当面は情報収集に時間を掛けた方が良いかも知れないわね――だけどみほさん、私は信じていますわよ……貴女は、必ず此処から再起するとね。

今は危機的状況かもしれないけれど、必ず再起の道は残されているから、だからすべての準備が整ったが整ったその時にはまた戦って貰いますわよ?

貴女が再起するその時を、楽しみに待っていますわみほさん――否、大洗女子学園の皆さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer147『サバイバル生活も住めば都です』

廃校を決めた馬鹿に容赦はない……Byみほ        なら、極限流奥義をブチかましましょう!Byエリカ


Side:ペパロニ

 

 

さてと、今日は週間戦車道の最新号の販売日ってな。

戦車女子としては、この雑誌は外せねぇんだが……おい、この表紙の見出しはマジか?何だよ、『大洗女子学園まさかの廃校決定』って!冗談にしたって性質が悪いぞ!

大洗女子学園が廃校になるかもってのは聞いてたけど、其れは全国制覇をした事で無しになったんじゃねぇのかよ!!

 

とりあえず記事を見てみっか……え~と?

 

 

 

『第63回戦車道全国高校会の覇者である大洗女子学園の廃校が、此度正式に決定された。

 もとより同校は、廃校――学園艦なので廃艦が正しいのかもしれないが、とにかくその対象にはなっていた……が、生徒会長の角谷杏は、戦車道の全国大会での優勝を条件に廃艦の撤廃を申し出ていたらしい。

 かくして大洗女子学園は、絶対王者黒森峰を下して全国制覇を成し遂げ、廃艦は回避できた――筈だったのだが、ここに来て文科省が大洗の廃艦を強行。

 角谷杏との約束も、廃艦を確約したモノではないと言う事でなかったことにしての廃艦を推し進めてしまった……果たして、こんな理不尽な事が許されるのだろうか?

 優勝すれば学園艦を守れると信じて戦ってきた少女達に対して、此の所業はあまりにも酷過ぎるのでは……否、酷過ぎるどころか大洗女子学園の戦車女子の奮闘を、真っ向から否定するものであり、筆者も憤りを隠せない。

 故に、己の首が飛ぶことも覚悟で、権力の横暴にペンの力で立ち向かわせて貰った……全国の戦車乙女達よ、これは決して許せる事ではない、戦車道の未来の為にも立ち上がってくれ。

 大洗女子学園を、助けてくれ!!』

 

 

 

んだとぉ!!ふっざけんじゃねぇぞごるあぁ!!

アンチョビ姐さん、ちょっと文科省にカチコミかけてきます!!

 

 

 

「どわぁぁぁぁ!気持ちはわかるが落ち着けペパロニ!!

 そんな事をしても何にもならん!むしろ大洗の立場を悪くするだけだぞ!!」

 

「でも!こんなフザケタ事を見過ごして良いんすかアンチョビ姐さん!!」

 

「いい訳ないだろう!!

 だが、軽率な事をすれば逆に大洗の廃校を取り消すのは難しくなってくるんだから、今は我慢する時だ――必ず反撃のチャンスはやってくるから、その時までは耐えるんだ――!!

 私達には、今は出来る事は無いが、聖グロのダージリンならば大洗を救うための一手を考えている筈だから、今は耐えて待つ時だペパロニ。

 だが、その時が来たら思い切り暴れろ……その時のために、力を蓄えておけ!!」

 

「姐さん……了解っす!!」

 

今は待つときか……そう言えばみほも、勝つ為には時に待つ事も必要だって言ってたから、今は勝利のために待つ時って事か――でも、その時が来たら思い切り大暴れさせて貰うぞ!!

其れは多分、サンダースのナオミや、聖グロのローズヒップも同じ思いだと思うからな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer147

『サバイバル生活も住めば都です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

廃校での生活が始まって数日。

毎朝の点呼はあるんだけど、風紀委員の人達はすっかりやさぐれて完全にやる気ってモノがなくなってるみたい……これまで風紀委員として、学園の風紀を守ってきただけに、学校がなくなったって言うのはショックが大きいみたいだよ。

 

でも、それ以外で何か変わった事があるかと聞かれれば、其れはそんなにないんだよね。

精々皆が私服か学校指定のジャージで過ごしてるか位で、特に変わった様子はない――分かりやすく言えば、学校での休み時間がそのまま行われてるって言う感じかな?

 

 

 

「まぁ、そんな感じよね?

 廃校が決定したって事でもっと悲観してる生徒が多いかと思ったけど、そんな感じでもないみたいだし……或いは、悲観してもどうしようもないって、ある意味で開き直ってるのかしら?」

 

「或いは何とかなると思ってるのかも知れませんよ逸見先輩。」

 

「何とかなる、か。」

 

其れは確かに言える事かも知れないね?

思えば、全国大会でも、下馬評的には絶対不利とされてた試合であっても、最終的には何とかなってきたし、其れは戦車道チームの皆だけじゃなく、校内新聞で大洗女子学園の生徒全員が知ってる事でもあるから、この状況でも『何とかなる』って考えちゃうのは仕方ないかもね。

尤も、私も何とかなるんじゃないかとは思ってるんだよ――今週の週刊戦車道では『大洗女子学園の廃校』を大きく伝えてくれてたから、戦車道ファンには、この理不尽な所業は伝わった筈。

勿論、高校戦車道の戦車乗り達の間にもね……聖グロだけは、これが出る前に大洗廃校の情報を掴んでるかも知れないけどさ。

 

 

 

「聖グロならば掴んでいたとしても不思議はありません。

 聖グロの諜報能力は高校戦車道でもトップであると称されている位ですからね……でも、其れは其れとして、この週刊戦車道の記事を見た、みほさんの中学時代の戦友は激怒してるんじゃないでしょうか?」

 

「吉良先輩はクールに流しそうですけど、野薔薇先輩と辛唐先輩は、怒り爆発で文科省に襲撃かけちゃうんじゃないでしょうか……って言うか絶対にやりますよね?」

 

 

 

其れは、否定できないのが悲しいけど、其処は二人が在籍してる所の隊長さんが確りしてるから大丈夫だと思うよ?

ダージリンさんは、常に英国淑女として凛と振る舞う事を身上としてるからローズヒップさんの突撃は止めるだろうし、アンチョビさんは、お姉ちゃん曰く『ノリは良いが、物凄く常識人』って事だから、暴走するペパロニさんの事は抑えてくれるだろうから。

尤も私としては、襲撃かましてくれても全然OKだけどね……私達の奮闘をなかった事にしようとする文科省なんて存在する価値はない、文科省死すべし!ドーモ、モンカショウサン、西住みほデス!!って感じだからね。

より正確に言うなら、あの偉そうな白髪モノクル滅殺すべしだけどさ……あの上から目線の物言いには、思い出しただけでも腹が立つ思いだからね――全く誰にむかって口をきいてたのやらだね。

 

 

 

「みほ、貴女は文科省の役人より偉い訳?」

 

「隻腕の軍神ですから。

 そもそもにして、文科省が全力で推し進めてる戦車道の世界大会の組織委員会の顧問を務めてるのってお母さんなんだよ?……その娘に向かってあの物言いって言うのはいい度胸だと思わない?

 あのおじさんのやった事は、西住流を敵に回したも同然なんだよ。――まぁ、私の前でアレだけふざけ腐ったことを言ってくれたあの人を許す気なんてミジンコの触覚ほどもありはしないけどね。」

 

「つまり、殆ど滅殺ってことですね、西住隊長?」

 

「流石は副隊長、理解が早くて助かるよ。」

 

だからと言って、何かをする訳じゃないけどね……今はまだ動く時でもないしね。

ところで梓ちゃん、ウサギチームの皆は何してるの?

 

 

 

「何をどう勘違いしたのか、サバイバル生活に入っちゃって……クロエは土器を作り始めちゃうし、あゆみと紗季はもっぱら釣り三昧ですよ。

 まぁ、釣果の方は結構いいので、釣れた魚は干物や燻製にしていますけれど。」

 

「いやはや、ウサギとは思えないくらいに逞しいでありますなぁ?

 いっその事、私の知る限りのサバイバル術を伝授してみましょうか?きっと、どんな環境でも生き抜けるようになるに違いないであります!」

 

「狩りをして生き抜くウサギって、それじゃあホントにエンブレムの通りの『首狩りウサギ』になっちゃうわよ優花里。」

 

 

 

あはは……梓ちゃん率いるウサギチームは、Ⅲ号の特徴とも言える軽快なフットワークを駆使して、大会で大活躍――特に決勝戦では、遥かに強力な重戦車を、相討ちを含めて4輌も撃破した事で『大洗の首狩りウサギ』が定着してるからね。

 

だけど、ウサギチームだけじゃなく、カモチームを除いた全てのチームが逞しいと言えるのかもしれないよ?

カバチームは『戦車将棋』で日々戦術の研究をしてるし、レオポンチームは今のレギュレーション内で、大洗の戦車を改造出来るギリギリのラインを考えてるみたいだし、アヒルチームは戦車を動かせない代わりに、本領であるバレーボールの練習で、アリクイチームは此れを機に体力を付けようと、西住流フィジカルトレーニングの中でも筋力をつけるためのウェイトトレーニングを自主的に行っているからね。

カメチームも、生徒会としての役目を果たしてるからね……ぶっちゃけて言わせて貰うと、河嶋先輩は廃校が決定した状況で、思い切り取り乱すと思ってたんだけど、そんな事も無くやるべき事をきっちりしてたからね。少し評価を改める必要があるかもだよ。

――って、そう言えば、ここ数日会長さんの姿を見てないような気がするんだけど、エリカさんは会長さんの事見かけた?

 

 

 

「言われてみれば、見てないわね……小梅は?」

 

「見てませんねぇ?澤さんは?」

 

「もなずく。」

 

「梓ちゃん、まさか『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』の鶴屋さんで返してくるとは思わなかったよ。――因みにアンコウチームの皆は会長さんは……」

 

「見てないよみぽりん。」

 

「そう言えばこの所お見受けしていませんね?……何所にいるのかも存じ上げていません。」

 

「言われてみれば、会長殿はここ最近見てないでありますねぇ?」

 

「知らん。」

 

 

 

この場に集まった8人もの人間が会長さんの姿を見てないって言うのは偶然じゃないから、会長さんは間違いなく此処には居ないって言う事になるんだけど、一体何所に行ったんだろう?

会長さんの事だから、ここからトンズラしてどっかに逃げたなんて事は無いだろうけど、だからこそ何所に行ったのかは気になるよ――誰よりも大洗女子学園を愛していた会長さんだから、何かをするにしても大洗の事を思ってだろうけどね。

 

若しかして、逆転のための一手を思いついて、その為に動いてるのかも――だとしたら頼もしい事この上ないよ……大洗の戦車道を復活させ、最悪の場合は、私とエリカさんと小梅さんを脅してでも戦車道に引き込む覚悟を決めてた会長さんが動いたとなれば、其れは間違いなく大きな一手となるだろうからね。

 

どんな手を思いついたのかは分からないけど、頑張ってください会長さん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:杏

 

 

全国大会を制したって言うのに、廃校にされたなんてのは堪ったモンじゃないから、文科省に直談判して、馳大臣の計らいで白髪モノクル――文科省に対して絶大な影響力を持ってるって言う(馳大臣から聞いた話だよ)、白神大五郎と会う事が出来た。

ったく、その余裕面が気に入らない事この上ない……nOsの総帥にケンカキックブチかましてほしいくらいだよ。

 

 

 

「おやおや、誰かと思えば廃校が決定した大洗女子学園の生徒会長様ではないか――一体何用かな?私も暇ではないのだがね?」

 

「大洗女子学園が、戦車道の全国大会で優勝すれば廃校は撤廃になる――文部科学省学園艦局長の辻康太氏は、そう確約してくれました。

 それなのに、此度の大洗女子学園の廃校決定は、明らかな約束の反故であると思うのですが?」

 

「そんな事か……確かに辻局長はそう言ったかもしれないが、所詮それは口約束に過ぎない。

 確固たる証拠となる書面が存在しない上、口約束は約束とは言えないでしょう?口約束など、後から如何とでも言う事が出来るのですから。」

 

「口約束も有効だと言うのは、民法第91条と97条で認められている筈ですが?」

 

「其れは、解釈によりけりでしょう?」

 

「そうですか……どうあっても、こちらの願いを聞き入れるつもりはないと言う事ですね?」

 

「人聞きの悪い事を言わないで貰いたいね……大洗女子学園の廃校は、協議の上で決定された事だから仕方ない。

 まぁ、私としても全国制覇を成し遂げた学校を廃校にすると言うのは心苦しい事この上ないのだが、政治的な判断と言う事で納得してくれると助かるのだがね。

 その代わりと言っては何だが、戦車道における君達の才能は惜しいので、編入先は戦車道を続ける事が出来る学校を宛がわせて貰うよ。」

 

「そのご厚意、感謝します。」

 

ったく、どの口が言うかこのタヌキオヤジが……大洗の学園艦で暮らす人の事なんてマルっきり考えてなかったくせに、よくもまぁ恥ずかしげもなくこんな事が言えたモンだって逆に感心するよ。

馳大臣、あのタヌキオヤジの事を現役時代の必殺技であるノーザンライトスープレックスで撃破できないですかね?

 

 

 

「俺としても、出来るならそうしたいよ……ノーザンライトスープレックスだけじゃなく、其処にムトちゃんのムーンサルトプレスを加えたい位だから。

 だけど角谷君、此れで終わりじゃない――アイツは、既に自分が勝ったと思ってるから付け入る隙は充分にある。

 俺の方も、辻君と協力して出来るだけの事をしてみるから、君も君で出来る事を全力でやるんだ――その上で、俺に出来る事があったら遠慮なく言ってくれ。

 俺の権限の範囲で出来る事なら、何でもするからね。」

 

 

 

馳大臣……なら、私と戦車道連盟の児玉会長との会談の場を設けてください――それとその場には、陸上自衛隊の蝶野亜美二佐も同席させて下さい。

出来ますか?

 

 

 

「陸自の二佐ともなると、防衛省の大臣に頼まないとだけど多分大丈夫だろう。

 防衛相の大臣も戦車道の大ファンだから、恐らく協力してくれる筈だ……だけど、君は何をする心算なんだ角谷君?」

 

「正攻法がだめなら、裏技を徹底的に使って、目的を果たすだけですよ馳大臣。」

 

西住ちゃんの受け売りかも知れないけど、裏技と搦め手は大洗が最も得意とする事だから、其れを駆使して、あの白髪モノクルを攻略してやる!

大洗女子学園は不死鳥だ、お前達がどんな策を巡らした所で絶対に殺す事は出来ないって事を、思い知らせてやるからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

廃校生活も今日で1週間目……戦車でコンビニに行くなんて、子供の頃を思い出すなぁ――あの頃は、戦車に乗ってお姉ちゃんと一緒に駄菓子屋まで繰り出してたからね。

 

 

 

「戦車でって、いくら何でもちょっと凄くないみぽりん?」

 

「そうかも知れないけど、私とお姉ちゃんにとっては、其れが普通だったんだよ沙織さん。

 そう言えば、エリカさんと初めて会ったのもその時だったよね――フリフリのゴスロリ衣装に身を包んだ女の子が怒鳴り込んで来たのには驚いたなぁ?」

 

「もしかして、その子って子供の頃のエリリン?

 エリリン、ゴスロリ趣味だったんだ……」

 

「同情するような目で見ないで沙織!!

 まぁ、確かに可愛い服は嫌いじゃないし、フリルの付いたゴシック系が好きなのも否定しないけど、私の子供の頃の服は、姉さんが選んだものだから決して私の趣味じゃないわ!

 あのガッチガチのゴスロリは、ある意味で黒歴史!ゴシック系は、コテコテよりもポイントで使うのが良いのよ!!」

 

 

 

黒歴史って……私としては可愛かったから全然OKなんだけどなぁ?――と言うか、ゴスロリエリカさんはとっても神だと思うんだけど如何だろう?

因みにエリカさん推しの作者的には『ゴスロリエリカ……ヒャッハー、上等だぜ!見せてやる、草薙の拳を!』って感じらしいよ?

 

 

 

「意味が分からないっての!!取り敢えず、作者はその色々と終ってるっぽい脳ミソを異界に捨ててきなさい!!

 じゃなくて、編入の書類には親の印鑑が必要になるから、私とみほと小梅は、一度九州に戻らないとよね……何時、戻りましょうか?」

 

 

 

そう言えばそうだったね……こう言ったのは早いに越した事は無いから、今日の事が終わったら、即九州に向かうとしようか?

茨城空港を利用すれば、2時間ちょっとで長崎に到着できるし、長崎から熊本へはそう遠くもないからね。

 

 

 

「西住殿のご実家ですか……是非ともお伺いしたい所であります!!!」

 

「あはは、其れはまた今度ね。」

 

って、ごめん止まって!

それで少しだけバックして!!

 

 

 

「なんだ?どうしたんだ西住さん?」

 

「ごめん冷泉さん……だけど、これを見過ごす事は出来なかったんだよ!!――まさか、大洗の地にボコファンの聖地とも言える場所が存在してるとは思わなかったからね。」

 

まさか、こんな所にボコミュージアムがあるとは思わなかったよ!

そして、其れを見つけてしまった以上、そこに行かないなんて言う手は無いから、行くべきだよ!!――そう言う訳で、麻子さんボコミュージアムに向かって下さい、全速力で。

 

 

 

「オウよ、任せろ西住さん。

 ボコの何が良いのかは私には分からないが、西住さんにとっては大切なモノなんだろう?……なら、私は操縦士とて車長の指示に従うだけだ。

 操縦士は、車長の女房役だからな。」

 

「麻子さん……うん、ありがとう。」

 

「別に礼を言われるほどの事じゃない。」

 

 

 

だとしても、言葉にしなくても、私の考えを推し量ってくれる麻子さんには感謝しかないよ――正直な事を言わせて貰うなら、ローズヒップさんにも引けを取らない最高の操縦士だと思うよ。

其れは其れとして、偶然見つけたボコの聖地は思い切り堪能しないとボコファンの名が廃れるから、徹底的に楽しんでボコの魅力をSNSで拡散しなきゃだから、思いっきり楽しまないとだよね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:亜美

 

 

大洗女子学園の廃校……これはおおよそ見過ごす事は出来ないわ――角谷杏さんから聞いた事だけれど、大洗は全国大会で優勝すれば廃校が撤廃されるはずだったのに、其れを反故にされたと言うのは無視できない事態だわ。

貴方もそう考えたからこそ来てくれたんでしょう、義兄さん?

 

 

 

「ガッデーム!!当たり前だろ亜美!!

 大洗女子学園が廃校になるなんてのはどう考えたって認める事が出来ねぇってモンだろファッキン!!――大体にして、全国制覇を成し遂げた学校を廃校にするとか、ふざけ腐るのも大概にしやがれってんだオラ!!!」

 

「相変わらず元気ね義兄さん……でも、だからこそ頼りになるわ。」

 

大洗女子学園の生徒会長である角谷杏さんが、ここで終わるとはどうしても思えないからね――寧ろ、終わるどころかこの状況を逆転する為の一手を考えてる可能性もあるから、私達が諦める事は出来ないわね。

諦めなければ、必ず道は開かれるって相場か決まってるし、道を切り開く事が出来れば後は其れを邁進するだけ……切り開いた道が、ドレだけ険しいモノであったとしても、大洗女子学園の皆ならきっと踏破する事が出来るでしょうしね。

と言うか、殆ど素人の寄せ集め集団とも言えるチームで、全国制覇を成し遂げちゃったんだから、あの子達に不可能な事なんてないんじゃないかって思っちゃってるんだけど、その辺は如何よ義兄さん?

 

 

 

「ガッデメラ、ファッキン、アーーー!!!」

 

「うんごめん、何言ってるのか全然分からない。」

 

だけど、これだけは言える――大洗の戦車道は、まだ死んでいないって言う事だけはね。

いえ、大洗の戦車道は絶対に死なないわ――どれだけ瀕死レベルの状態になっても、其処から這い上がる『不死鳥』の強さが大洗にはあるのだから。

 

そして、不死身の不死鳥に手を出した人間は、その身を不死鳥の炎で焼かれて死ぬと相場が決まってるから、貴方はもうお終いよ白神大五郎!

己の私腹を肥やすために大洗をコストにしたその代償、そろそろ払ってもらうわ。

私としても、みほちゃんのような天才を手放すって言うのは容認しがたいですからね……文科省の悪しき人事には真っ向からノーを突き付けてやるわ!!

 

 

 

「良いぞ亜美、その意気だオラァ!!

 大洗女子学園の廃校は絶対に認めねぇぞガッデム!!」

 

「その威勢の良さ、流石は伊達に黒のカリスマと呼ばれてないわね義兄さん。」

 

何にしても、大洗の廃校は認められないわ。

其れを撤廃する為なら、私は自衛隊を敵に回す事だって辞さないわ――教官を務めた学校が廃校になるのを、黙って見て居られるほど私は出きた人間じゃないからね。

時が満ちたその時は、思い切りブチかまさせて貰うわ!!――義兄さん、そちらの戦力は?

 

 

 

「武藤さんに、天山に小島……十分すぎんだろ?」

 

「OK、充分よ義兄さん。」

 

此れだけの力があれば、あのモノクルを黙らす事は出来るだろうけど、黙らせるだけじゃ足りないから、二度とふざけた事が出来ないように、徹底的にやる必要があるでしょうね。

とにかく、みほさんにケンカを売った愚行を、悔いるが良いわ――もっとも後悔した所で遅いかもだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer148『ボコミュージアムでの出会いです』

殺っ~てやる、殺っ~てやる、殺っ~てやるぜ!!Byみほ        歌詞がとてつもなく物騒な件について……Byエリカ      突っ込んだら負けです逸見先輩By梓


Side:ナオミ

 

 

大洗女子学園が廃校か……分かってたとは言え、こうして文章にされると流石に堪えるわね……大洗の会長さんの機転で、大洗の保有戦車を守る事は出来たけど、廃校は回避出来なったか訳だからね。

クソッタレ……廃校を決定したであろう文科省には、ファイアフライで突撃したい気分よ!!

 

 

 

――ドドドドドドドドドドドド!!

 

 

 

「ちょ、ナオミ!幾ら何でもラッシュ強すぎ!!これ以上は――!!」

 

「行くぜ……昇龍裂破!!!」

 

 

 

――ドゴォ!!バガァァン!!ドバガァァァァァァァァン!!!!

 

 

 

ふぅ、全力でのサンドバッグ打ちをやって少しは気分が晴れたよ……尤も、思い切り殴りまくったせいでサンドバックもボロボロになっているから、買い替えを提言するべきかもしれないね。

まぁ、此処までサンドバックを壊す事が出来るのは私だけだから、私の自腹って言う事になるのかもしれないけどな。

 

其れ位、大洗が廃校になるって言う事に私がムカついたってことかも知れないけど……でも、廃校が言い渡されたからと言って、其れでみほが諦めるとは思えないから、大洗の廃校は撤廃になる可能性は否定できないんだけどな。

 

 

 

「大洗の廃校が撤廃にね……その根拠は何なのよナオミ?」

 

「廃校の対象になったのが大洗だから、此れじゃ足りないかアリサ?」

 

「根拠にも何にもなってないけど、其れって微妙にアタシも納得出来るわ。

 ハッキリ言って、大洗って良い意味で常識が通じないバカの集団だから、この絶望的な状況でも最終的には何とかしちゃうんじゃないかって気がするのよね?」

 

「みほが隊長だからって訳でもないんだろうけど、大洗の連中は揃いも揃って諦めが悪そうだからな。」

 

だからこそ、紛失したって言う書類を作ってまで戦車を守ろうと画策して、更にはウチの学校まで使ってくれた訳だからね――話を聞いた途端に速攻でOKしたケイにも驚きだったけどさ。

まぁ、戦車がみほの元にあるって言うのなら、本当に何とかなるかもしれないわ……戦車があれば、隻腕の軍神は無敵だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer148

『ボコミュージアムでの出会いです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

大洗にこんな場所があるとは思ってなかったよ――ボコファンの聖地であるボコミュージアムが、まさか大洗になるとはね!……あぁ、もう本当に最高としか言えないよ!!

外観はボロボロで、お世辞にも流行ってるようには見えないけど、其れでもこうして存続してる事に価値があるって感じだもん!

 

 

 

『来やがったな野郎ども!!オイラが相手になってやるぜ!!』

 

「うわぁ、生ボコだ~~~!!」

 

「みほ、貴女本当にこの不気味なクマの事大好きよね……」

 

「大洗に来る時の荷物にも大量のヌイグルミがありましたからねぇ?

 ……此れはアレですかね?『天才は人とは異なる感性がある』ってやつなのでしょうか?」

 

「小梅さん、私は普通の感性を持ってると思うんだけどなぁ?確かにボコはあんまりポピュラーじゃないかも知れないけど、マイナーモノが好きな人ってのは少なくない訳だし。

 って言うか、私はそもそも天才でも何でもないからね?」

 

「いや、貴女は戦車道に関しては間違いなく天才でしょ?

 貴女が天才じゃなかったら、他の戦車乗りなんて軒並み凡才以下になっちゃうわよ……しかも貴女の場合、才能に努力がプラスされた最強クラスの天才だからね。」

 

 

 

そうなのかな?

車長専任免許を取得する為に物凄く頑張ったのは認めるけど、アレだけの努力をすれば戦車道が好きな人なら誰でも強くなれると思うんだけど違うのかな?

って言うか、天才って称されてたのってどっちかって言うとお姉ちゃんだった気が……

 

 

 

「まほさんも貴女もどっちも天才よ。この天才姉妹。

 天武の才に、師範代と菊代さんの指導が加わったら、其れは最強にもなるわ……姉妹対決はみほに軍配が上がったけど、西住姉妹が組んだら誰も勝てないってのは、高校戦車道での常識になってるわ。」

 

「あはは……去年は黒森峰でお姉ちゃんと一緒に大暴れしたからね。」

 

まぁ、其れは其れとして今はボコミュージアムを楽しまないと!

折角来たんだから、楽しまないと損だからね!

 

 

 

『うわ、ぐわぁ!!オウ、はう、グハァァ!!……や、やられたぁ!!だけど、次はこうは行かないからな!!』

 

「いや、何もしてないし。」

 

 

 

あはは、其れは言わないであげて沙織さん。今のはボコの基本的な流れをやったに過ぎないから。

それじゃあまずは入り口でチケットを……えっと、大人15枚で。

 

 

 

「大人が15枚……か、過去最高記録だぁ!!」

 

「そうなんですか?

 こんな場所があるなんて知らなかったから、初めてだったんですけど、此れからは来れる時には皆で来るようにしますね♪」

 

「ありがてぇ事を言ってくれるなぁ、お嬢ちゃんよぉ!!」

 

「皆でって……私達を巻き込まないでみほ。次に行くときは貴女だけで行きなさいよ。」

 

「不詳秋山優花里、西住殿が行くところならば、例え火の中水の中草の中森の中、土の中雲の中あの子のスカートの中でもお供します!」

 

「キャー!ってゆかりん流石に最後のは無し!」

 

 

 

こんなやり取りがあったけど、いざボコミュージアムへ!

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

『イッツ ア ボコワールド』『ボコーテッドマンション』『スペースボコンテン』とボコミュージアムの主要なアトラクションは楽しんだけど、其れ位で満足してたら、ボコファンを名乗る事は出来ない。その程度じゃ、満足できないぜって感じだからね。

ボコミュージアムの最大の目玉であるボコショーを見ないでボコミュージアムに行ったって言う事は出来ないからね……このボコショーで、私を満足させてくれよ?

 

 

 

「みほ、其れってどこの満足さんのセリフ?」

 

「満足さんは良いキャラだと思わない?取り敢えずハンドレスは革命的な戦術だったと思うの。」

 

「それについては否定するのは難しいですねぇ……」

 

 

 

――ガンとトリシューラが無制限だった時代は悪夢だったぜ……なんだよ手札3枚で攻撃力2700を3体相手にしろって。舐めとんのか、オー?

 

 

 

……今、なんか聞こえたような?うん、気のせいだと思って無視しておこう。って言うか、目の前のボコショーに集中、集中!!

 

 

 

『やいテメェ等、ぶつかっといて何もなしかこの野郎!!』

 

『なんだぁ?やろうってのか?』

 

『へッ!オイラを誰だと思ってやがる!ボッコボコにしてやるぜ!!うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!』

 

 

――スカ……

 

 

『なんだコイツ、口だけじゃねぇかよ!!』

 

『やっちまえ、やっちまえ!!』

 

『泣け!叫べ!そして死ね!』

 

『うわぁ、やめろ~~~~。』

 

 

ステージの上では、お約束通りにケンカを売ったボコが、ケンカを売った相手にボッコボコにされてるんだけど、だからと言って此処で終わりじゃないのがボコなんだよ!!

ボコ頑張れ~~~!!!

 

 

 

「ボコ頑張れ~~~!!!」

 

「!!!」

 

此れは、私以外にもボコを応援する人が居るとは驚きだね?

その人は、金と銀の中間色……明るめのアッシュブロンドの髪の女の子――子供の頃のエリカさんに負けず劣らずのゴシックファッションも特徴って言えるかもだね。

その腕にボコのヌイグルミを抱えてボコを応援するその様は、間違いなく私と同等かそれ以上のボコマニア……まさか、ボコの聖地で同志に巡り会う事になるとは――!!

 

 

 

「………?」

 

「………!」

 

その子も私に気付いたみたいで、私の事を見て来た事で視線が交錯し、その瞬間に私達の意思は通じた――自分達はボコメイトであると!!

ならば其処に言葉はいらない――己の中に眠るボコソウルを限界まで燃やしたバーニングボコソウルに昇華して、自分に出来る事をするだけ!

そう、ボコソウルを共鳴させたボコメイトがすべきもの、其れは……

 

 

「「ボコ、頑張れーーーー!!!!」」

 

「応援の強さが倍加した!?これってどう言う事なのエリリン!?」

 

「私が知るわけないでしょ沙織!!」

 

「やだもーーー!!」

 

 

 

ボコの全力応援!!

私達の応援でボコに力を!――そう、ボコは今まさに私達の力を欲してるんだ……分かり易く言えば『オラに元気を分けてくれ!』っていう状況なんだよ!

だから、ボコに私達のバーニングボコソウルを渡す!!受け取ってボコ!!

 

 

 

『うおぉぉぉぉ!皆の応援で、オイラにも力が漲ってきたぜぇ!!いくっぞ~~!喰らえ~~~!!』

 

 

 

――スカ

 

 

 

『なんだおら、結局口だけかこの野郎!!』

 

『オラオラオラ!舐めんじゃねぇぞこのクソクマ!!』

 

『ちょーしこいてんじゃねぇぞコラァ!!その命、貰ったあ!!』

 

『が、ぐはぁ!!や~め~ろ~~!!』

 

 

 

「……結局ボコボコにされるんだ?」

 

「其れがボコだから♪」

 

「それでもケンカを売るって……ある意味で不屈の闘志の持ち主って言えるのかしら?」

 

 

 

あは、其れは言い得て妙だよエリカさん。

どれだけボコボコにされてもめげずに立ち上がって、次に向かう!それがボコの魅力であり、その諦めない心は戦車道に於いても大事なモノだって言えるから、ボコから学ぶ点は多いんだよ!!

不屈の精神を学ばせるためにも、戦車道に係わる人はボコを見るべきだと思うんだよ!!

 

 

 

「西住殿、其れは流石に極論であると思うであります……」

 

「不屈の闘志は、確かに学ぶべきものであるかも知れませんが、何時も負けてばかりと言うのは如何なものかと思いますので……」

 

 

 

……確かに負けっぱなしって言うのはダメかもしれないけど、負けても諦めない姿勢だけは学ぶべきだと思うんだよね?――そう言う意味では、どれだけ負けても決して挫けずに戦車道を続けてるアンツィオのアンチョビさんは、ある意味で『真の戦車乗り』って言えるのかもしれないね。

 

 

 

『今日は負けちまったけど、次は勝って見せるから応援よろしくな~~~!!』

 

 

 

で、お決まりのセリフでボコショーは終了。

アニメとは違って、ステージだからこそのアドリブなんかもあって楽しかったかな♪

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

――みほ達がボコミュージアムに行っていたのと同刻:大洗女子学園戦車道履修者をメインとした一団の臨時生活場所の廃校

 

 

 

其処では、元風紀委員にして戦車隊カモさんチームの3人であるそど子とゴモヨとパゾ美が敷地内の一画に設けられた嘗てのウサギ小屋で盛大にやさぐれていた。

ドレくらいやさぐれているかと言うと、地元の農家から差し入れてもらったキュウリに味噌をつけてドカ食いするくらいにやさぐれていた。

特に風紀に煩かったそど子が、『風紀なんぞ知った事か』と言わんばかりにウサギ小屋で胡坐をかいてキュウリを貪る様は、異様にして異質以外の何者でもないだろう――実際に、このやさぐれたそど子達に近寄るモノは皆無に近かったのだから。

だが――

 

 

 

『ガウ……』

 

 

 

其れでも近づいてきたのは、みほの家族である大虎のアンドリューだ。

大洗女子学園の警備を任された身としては、風紀を一身に引き受けた風紀委員がやさぐれてしまったのは見過ごす事が出来ないのだろう。廃校の見回りを終えて、そど子達の元にやってきたのだ。

 

 

 

「アンドリュー……何しに来たの?もう貴方が警備すべき学校は無いのよ?」

 

 

 

そんなアンドリューに対し、そど子は辛辣とも言える対応をするが、アンドリューは何も言わずにウサギ小屋の前に座り、じぃっとそど子の事を見詰める。

飼われてるとは言え、本物のトラに真正面から睨み付けられるなど、怖い以外の何物でもないが、其れを受けたそど子は意外にも、微塵も臆さずにアンドリューの瞳を見つめていた。

 

 

 

――そうやってどれだけ見つめ合っていただろうか?

 

 

 

『ガウ……』

 

 

アンドリューが低く一鳴きすると踵を返してその場を後にする――余りにも唐突な展開だが、アンドリューと見つめあっていたそど子にだけは、アンドリューの意思が伝わたっていた。

 

 

「西住隊長は諦めてない……だから、諦めるな。ですって?」

 

 

虎の言葉など分かる筈がないが、そど子はアンドリューがそう言ったような気がしてならなかった――同時にそれは、今やさぐれてしまっている自分達への叱咤激励……『隊長が諦めてないのに、お前らは諦めちまうのか?』とも取れるモノだった。

 

 

「諦められる筈がないじゃない!!でも、だからと言ってどうしろってのよ!!!」

 

 

其れを受けてそど子は、やさぐれの裏にあった本心を吐露するが、其れが彼女の闘気と結びついて燃え上がるには少々時間が必要なのかも知れない。

だが、そど子の鎮火寸前だった闘気に僅かばかりのガソリンをぶっかけたアンドリューの功績は大きいだろう……この子は本当に只の虎なのか疑いたくなるモノだ。

其れを言ったら、ロンメルも……あれは抑々にして九尾だから除外だったなうん。

 

 

 

「アンドリュー、ご苦労様。」

 

『ガルゥ……』

 

 

 

其れは其れとして、一仕事終えたアンドリューは梓に撫でられてご満悦の様子……己の主の一番弟子に対しても、アンドリューは忠誠を誓っているらしい。

隻腕の軍神と軍神を継ぐ者に忠誠を誓った虎って、なにそれ怖い。

と言うか、虎だけじゃなくて九尾の狐まで居るんだよねぇ?……もう此の子達引き連れて、文科省にカチコミかけりゃ何とかなんじゃねぇかな?主にロンメルの幻術とかで。ダメですか?ダメですね。

 

 

 

「西住隊長は諦めてないから、私達が諦める事なんて有り得ない!アンドリュー、腑抜けになっちゃってる人達は、確りと活を入れていこう!」

 

『ガウゥゥ!!』

 

 

だが取り敢えず言える事は只一つ――『美少女と猛獣の組み合わせって良くないっすか?』と言う事だけである。美少女と猛獣の組み合わせは素晴らしい!異論は受け付けるが認めない!!古事記にだってそう記されているのだ!!

因みに此の理論は、遊戯王の憑依装着した霊使い5人にも言える事なので忘れないように!闇属性のは野郎なので除外する!!

 

 

「大洗の廃校は、絶対に認めない!!」

 

 

地の文でバカをやってる間にも梓は闘気を高め、其れを爆発させる――其れは、師匠であるみほの奥義である『軍神招来』に他ならない。

この土壇場で、梓は師匠の奥義に不完全とは言え至ったのだった。

其れは其れで目出度い事だが、出来れば地の文への突込みなんかが欲しかった次第である。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

ボコショーも楽しんで、残るはボコショップで買い物をするだけなんだけど……ここで大問題が発生だね?

ボコのストラップ型ヌイグルミの激レア品が残り1個だけっていう状況だからね……値段的には充分手が届く範囲ではあるけど、安易に此れに手を伸ばして良い物かと思うんだよ――だけど、残り1個は!!

 

 

 

「みぽりん、そう言う商法だからね?」

 

「其れは、そんな事は分かってるんだよ沙織さん!

 だけど、ボコファンとしては、此れは絶対に手に入れなければならない極レア品なんだよ、この『幽体離脱エンジェルボコ』は!!」

 

「……こんなこと言ったらアレだけど、幽体離脱って流石にヤバイんじゃないの其のクマ?

 ボコボコにされたのレベル越えて、普通に死ぬ寸前じゃないのよ!こんなになるまでボコボコにする方もする方だけど、こうなるまでケンカを売る方も売る方よ!バカなの、死ぬの?現在進行形で死に掛けてるけど!

 こんなの買うのは貴女くらいよ!さっき小梅も言ってたけど、天才は人とは異なる感性を持ってる訳!?――まさかとは思うけど、まほさんも変な趣味を持ってたりしないわよね?」

 

「其れはない。と思う……多分。」

 

「其処はハッキリと『ない。』って言いなさいよ……」

 

 

 

そう言われても、私だってお姉ちゃんの事なんでも知ってる訳じゃないからねぇ?

まぁ、兎に角この激レア品は買う方向で……

 

 

 

――ス……

 

 

 

と思った所で私以外の手が……貴女は、さっきボコを応援してた?

 

 

 

「………」

 

「え~っと……どうぞ。

 私はいつでも来れるから、此れは貴女が持って行って?」

 

「……」

 

 

 

そう言ったら、ヌイグルミを手に取った後、私の顔を一度だけ見て行っちゃった……一生懸命ボコの応援をしてたけど、実は少し恥ずかしがり屋だったりするのかな?

 

 

 

「何あの子?折角みぽりんが譲ってあげたのに!」

 

「あはは、きっと恥ずかしがり屋なんだよ沙織さん。」

 

でも、只の恥ずかしがり屋じゃない――私の戦車乗りとしての本能がそう告げてる……あの子は、間違いなく戦車道に係わってる実力者……其れも若しかしたらお姉ちゃんをも凌ぐ力の持ち主かも知れない。

フフ、機会があれば是非とも戦ってみたいものだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:???

 

 

偶然見つけて立ち寄った大洗のボコミュージアムで、私は劇的な出会いを果たした……私と同等かそれ以上のボコマニアの女子高生に。

ううん、其れだけだったらこんなに興奮はしないけど、その人は美佳姉様から聞いていた『西住みほ』その人だった――姉様から写真を送って貰っていたから間違いようもないし、何よりも左腕のない女子高生なんてそうそういるモノじゃないから。

お母さまから『後学のために』と、西住みほさんの試合のDVDを見るように言われ、今年の全国大会には全試合に足を運んだけれど……そこで私が目にしたのは、圧倒的に劣る戦力で格上の相手を次から次へと倒していく大洗の姿だった。

そして同時に理解した、隻腕の軍神の実力がどれ程であるのかを――正直な事を言うなら、殆ど素人の集団を全国大会で優勝させるなんて言うのは宝くじを当てるよりも低確率であるにも関わらず、みほさんは其れを成し遂げてしまったのだから。

だからきっと彼女は……

 

「今の日本で、最強の戦車乗り。」

 

そう言っても決して罰は当たらないと思う――だってお母様が『みほちゃんの戦車道って素敵だわぁ』って言っちゃう位だから……時々、お母様には島田流家元としての自覚を持ってほしいと思う事がある。

 

でも、私としては貴女と戦いたいよみほさん――流派も戦術も超越した貴女の戦車道に、私の島田流が何所まで通じるのか、其れを試したくて仕方ないよ。

 

美佳姉様が、島田以外で唯一認めた最強の戦車乗りの1人……西住みほさん――『隻腕の軍神』の実力、是非とも拝んでおきたいからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer149『反撃の火種は未だ消えず、です』

火種が消えなけば未来は続く!!Byみほ        私達の闘気が未来を切り開くわ!Byエリカ      未来は運命ではない……幾らでも変えられますから!By小梅


Side:杏

 

 

――高校戦車道連盟本部

 

 

高校戦車道を統括する場所に蝶野教官と赴いて、大洗の現状を訴えたんだけど……此れは、あんまり旗色が良いとは言えないかな?連盟の会長さんも、文科省の決定には思うところがあるみたいだけど、困り顔だからね。

 

「優勝すれば廃校は撤回される、そう信じて戦って来たのに、その道は最初から存在しなかった、そんな事は到底納得出来ません。

 確かに辻局長は確約はしてはいませんでしたが、『やってみなさい』と言いました……確約ではなくとも、此れは『全国優勝した学校を廃校にはしないよね?』と言う私の言葉に対しての答えとすれば『優勝出来れば廃校は撤回する』と取る事が出来ますし、辻局長もそう言う意味で言った

 と仰いました。

 で、あるにも関わらず、権力の横暴で廃校が推し進められるのを受け入れる事は出来ないんです。」

 

「確かに君の言う事は尤もだよ角谷君。

 全国制覇を成し遂げた学校を廃校にするなどバカげているとしか言いようがないが……だがしかし、文科省の決定とあっては私達連盟が抗議した所で大した効果は上がらないだろう。」

 

「ですが、此度の処置は、文科省が推奨している『スポーツを通じての青少年の健全育成』の理念に反するのは無いでしょうか?――全国制覇を成し遂げた学校が廃校になるなどと言う事になったら、その理念は真っ向から否定される事になります。」

 

「君の言う事は分かるがね蝶野君……文科省は世界大会の誘致に躍起になっていて取りつく島もないよ。」

 

 

 

世界大会の誘致があるから高校生には構ってられないと言う事ですか……非常に不愉快な事ではありますが、政治的な事を考えれば理解出来なくはありません。

時に会長さん、世界大会の組織委員の名誉顧問って誰でしたっけか?

 

 

 

「名誉顧問?確か、西住しほさん――此度新たに西住流の家元を襲名した方だった筈だが?」

 

「ほうほう……其れはまた――蝶野教官、此処は!」

 

「そうね、超信地旋回で行きましょう?」

 

「へ?えぇ?」

 

 

 

組織委員会の名誉顧問が別の誰かだったらゲームオーバーだったけど、西住ちゃんのお母さんが名誉顧問だってんなら手の打ちようはあるからね……言い方は悪いけど、其れを利用しない手はないよ。

天下の西住流が動いたとなれば、流石の文科省でも無視はできねーだろうからね。

恥も外聞も、裏技も反則技もあったもんか……大洗女子学園を守る為なら、悪魔にだって魂を売り渡す覚悟があるからねアタシは!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer149

『反撃の火種は未だ消えず、です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

それじゃあ、私とエリカさんと小梅さんは、一度九州に戻るけど、私達が不在の間は頼んだよ梓ちゃん?それから、アンドリューとロンメルもね。

 

 

 

「お任せください西住隊長。

 隊長が不在の間、ちゃんとこの場所を護って見せますよ――アンドリューとロンメルが一緒だから不安もありませんし。」

 

『ガルゥ。』

 

『キューイ♪』

「其れは頼もしいね。」

 

まぁ、梓ちゃんだけじゃなくアンコウとライガーとオオワシの車長以外のメンバーはこの場に残るし、他のチームのメンバーも基本的には此処に残る訳だから不安は無いけどね。

それじゃあ、ちょっと行ってくるよ。

 

 

 

「行ってらっしゃい、みぽりん!お土産宜しくぅ!」

 

「長崎カステラ、芥子レンコン、つけ揚げのどれが良いかな?」

 

「つけ揚げ?」

 

 

 

あぁ、関東の人には馴染みがない名前だったね。

『つけ揚げ』って言うのは、さつま揚げの事なんだけど、九州の方ではつけ揚げや天婦羅っ言うんだよ。

九州で天婦羅うどんって言えばさつま揚げが乗ってくるからね。

 

 

 

「へ~~、そうなんだ?方言って面白いね?」

 

「其れには同感……私も茨城の方言には驚いたからね――『ごじゃっぺ』って何って思ったし。なんとなく、意味が分からなくはないんだけどね。」

 

「『明日明後日』、『昨日のその明日』……茨城弁は難解だわ。」

 

「『しみじみ』も、本来とは違う意味で使いますからねぇ……『しみじみしないな』って言われて、最初は何の事かサッパリ分かりませんでした。」

 

 

 

方言って言うのはその地域の特徴があるのかもね……茨城では釜揚げにして干した白魚を『煮干し』って言ったりするからね。

それじゃあ、改めて行ってきます!

 

 

 

「「「「「「「「「「「行ってらっしゃい!!」」」」」」」」」」(鍵カッコ省略。)

 

「うわお、気付けばまさかの全員お見送りと来たよエリカさん。」

 

「ま、当然じゃない?

 貴女は誰が何と言おうと『大洗を救った救世主』である事は間違いないんだから――クソ馬鹿のせいで、其れがなかった事にされそうになってるんだけどね……」

 

「やっぱり文科省にマウスの128mm砲をぶち込んだ方がよくないですか?」

 

「小梅さん、大洗はマウス持ってないから。」

 

何とも盛大なお見送りになっちゃったけど、其れもまた私達が慕われてる証拠って言う事だから悪い気はしないね――そう言えば、実家に帰るのも大分久しぶりだなぁ?

去年の大会の後以来だから1年ぶりの実家か……ちょっと、緊張して来たね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

茨城空港から飛行機に乗って、熊本の空港に降り立って、空港で小梅とはお別れね。

私とみほは熊本が地元だけど、小梅は南阿蘇村が地元だから空港からバスで移動しないとだもの――まぁ、私とみほも熊本が地元だとは言っても住んでる地区が違うから駅までは一緒だったけど、其処からは別行動だからね。

 

そんなこんなで久しぶりに実家に戻ってきた訳なんだけど……嫌な予感がするわね此れは。

取り敢えず玄関の扉を開けて……

 

 

 

「エリちゃん久しぶり~~~~!!!」

 

「予想通りかい!!受けろ……」

 

 

 

――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

 

「いきなり超技溜めないで!?出会い頭に『百八拾弐式』をかますそうとするのはお姉ちゃんどうかと思うんだけど?」

 

「いや、此れ位かまさないと姉さんは止められないかなぁって。」

 

って言うか、私の事を好きでいてくれるのは良いんだけど、妹好きも程々にしなさいよ姉さん――聖グロの伝説的ノーブルネームである『アールグレイ』を継いだ人がシスコンだったとか、今の聖グロ生が引くかもしれないしね。

 

 

 

「エリちゃん、戦車道女子の姉はシスコン気味になるんだよ?

 私だけじゃなくて、黒森峰のまほに、継続のミカ……度合いの違いはあれどシスコン気味。そして、揃いも揃って姉より優秀な妹持ちよ。」

 

「自分でシスコンって言ってりゃ世話ないわよ姉さん。

 って言うか、姉より優秀な妹って、其れには私も含まれるわけ?……だとしたら、其れだけは無いわ――私はドレだけ頑張っても姉さんに勝つ事は出来ないわ。

 それは自分で分かってるモノ。」

 

子供の頃から、何をやっても姉さんに勝つ事は出来なかったからね……だからきっと、戦車道でも勝つ事は出来ないと思う――姉さんが天才ってのは否定しようがないけど、私は凡才だからね。

天才の姉さんには敵わないわ。……勿論、諦める心算は無いから日々頑張ってるけど、姉さんに勝つビジョンってのは全く見えないのよ。

 

 

 

「エリちゃん……」

 

「そんな顔をしないで姉さん。

 理性では勝てないってのは理解してるけど、だからと言って私の本能が屈したわけじゃないわ……私の中にある凶暴な本能は、何時か姉さんを喰らい尽くせって言ってるからね。」

 

「エリちゃん、ガチンコ肉食獣?」

 

「ま、否定はしないわ。」

 

って言うか、最近のみほは私を通常の指揮系統から除外して、自由に暴れさせる事が多くなったからか、本能の凶暴性が増してる気がするのよね……其れでありながら冷静な理性の部分も強くなってるんだから不思議だわ。

若しかしてみほは、私に本能の凶暴性と冷静な理性を同時に発動できるようにしようとしてるのかしら?……確かに戦い方そのものは本能任せの凶暴な物でも、状況を冷静な理性で的確に判断できれば、其れは最強かもだからね。

にしても姉さん、アールグレイの時とはまるで別人よね?

 

 

 

「アールグレイはあくまでも聖グロの隊長だから、何時でもそういう風に振る舞わないとだからね?

 あんまりにも疲れたから、1度だけダージリンの前でアールグレイの仮面を脱いで見せたら、鳩が豆鉄砲喰らったような顔してたわよ。」

 

「そりゃ、そうなるって。

 処で、父さんか母さん居る?転校の書類に保護者の印鑑が必要なんだけど……」

 

「ありゃ、バットタイミング。

 お父さんもお母さんも町内会の温泉旅行に出掛けちゃって、帰ってくるの3日後よ?」

 

 

 

ゲ、マジで?

参ったわね……印鑑を貰ったら直ぐに大洗に戻る予定だったからこっちに泊まる準備なんてしてないし、帰りもみほと小梅と駅で待ち合わせしてるから今日印鑑が欲しんだけど……

 

 

 

「……ねぇ、エリちゃん、必要なのは保護者の名前と印鑑なのよね?

 だったら……サラサラサラ。でもってお父さんの書斎から印鑑を拝借してポンっとね。これでも良い訳よね?」

 

「姉さん……いやまぁ、筆跡鑑定なんてしないだろうから此れでもOKだと思うけどさ。

 でもこれ、私でも言われないと姉さんが書いたんじゃないくて父さんが書いたって思う位にそっくりの字だわ……まさかとは思うけど、この特技を使って、大学での書類とか不正に提出してないわよね?」

 

「ちょ~っとだけやろうかと思った事は有るけど、ばれたら拙いからやってない♪」

 

「やったって言ってたら、今度こそ百八拾弐式かましてたわね。」

 

「其れは怖いわね。

 ……ねぇ、エリちゃん。エリちゃんは此のままで良いの?折角優勝したのに大洗は廃校になって、多分だけど仲間達とも散り散りになっちゃう。

 折角エリちゃんは自分を生かせる戦車道を見つけたのに、そんなの悲しすぎるわ……此れで良いの?」

 

「良くは無いわね。」

 

って言うか最悪よ……此れから大洗の戦車道を更にって時だったんだからね。あの糞モノクルには首相撲からの連続膝蹴りを叩き込んだ上で垂直落下式DDTを喰らわせて、三角締めで締め上げたいからね。

だけどね姉さん、私は――私達大洗女子学園は諦めてないわ。会長が何やら動いてるみたいだしね。

会長は喰えない人だけど、多分誰よりも大洗の事を大切に思ってるから、どんな手を使ってでも大洗の廃校を撤回――いいえ、撤廃させるために動いている筈だわ。

そして、誰も諦めてない以上は大洗の廃校は必ず撤廃にして見せる――この書類は、本当にダメだった場合の保険だけど、多分使う事はないと思うわ。

 

 

 

「だったら、思いっきりフザケタ文字で名前書いても問題なかったわね?」

 

「姉さん、なんでそうなるのよ……」

 

マッタク姉さんは相変わらずね?……でも、元気そうで安心したわ。

その後は、少しだけ時間に余裕があったから姉さんと一緒に軽くランチ……姉さんが行きつけだって言う博多とんこつラーメンの店に連れて行って貰ったけど、中々に美味しかったわ。

このラーメンのお礼に、今度姉さんを茨城に招待して、『茨城タンメン』を堪能してもらおうかしら?きっと、気に入ってくれると思うしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:小梅

 

 

書類の記名と捺印はこれで良し……ありがとうございますお母さん。

此れがあれば、最悪の事態に陥った時でも私は学校に通う事が出来ますから……転校したその先に戦車道があるかどうかは分かりませんけど。

 

 

 

「小梅……大変な事になってしまったわね?

 内向的だった貴女は、戦車道を始めた事で変わって友達も出来たと言うのに、全国制覇を成し遂げた母校が廃校になるだなんて……そんな事ってあんまりじゃないかと思うわ。」

 

「私もそう思いますよお母さん。

 でも、この決定に逆らう事は出来ないんです……逆らったら、学園艦に住む他の人達に迷惑が掛かりますから。」

 

……まぁ、だからと言って何もしないで手をこまねいてる訳じゃないんですけれどね――大洗は、会長さんが動いてるみたいだから、きっと廃校撤廃の為の一手があると思いますから。

そして、その一手を捥ぎ取れたなら、その一手をもってして逆チェックメイトをかけるだけの事ですから。

 

何よりも、私は『慧眼の隼』……隼は虚空より襲来して獲物を狩るハンターだから、私はハンターとして大洗の廃校撤廃と言う獲物を確実に狩ってモノにするだけですので。

 

 

 

「いい顔をするようになったわね小梅?

 内向的で、人に話しかける事すら怖がっていたのが嘘みたいだわ。」

 

「戦車道を始めた事で私は変われたんです……そう言う意味では、私に戦車道をやってみないかと言ってくれた事に感謝しています、お母さん。」

 

きっと戦車道をやってなかったら、私は内向的なままで友達も作る事が出来なかったと思いますから。

だからこそ、私は諦めない。諦めなければ道が開けると言うのを教えてくれたのもまた戦車道だったのだから――廃校撤廃の一手はきっとある。

今は、其れを信じるだけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

こうして実家に来るのは……去年の大会後に御祖母ちゃんから破門を言い渡された時以来だから1年ぶりか――果てさて、どうしたモノかな?

普通ならこの門を押し開けて中に入るところなんだけど、西住流を破門された身としては少しだけ戸惑っちゃうんだよね……まして、私の場合は師範の娘って言う立場だからね。

 

 

 

「みほ?」

 

「お姉ちゃん?」

 

なんて事を考えてたら犬の散歩に行ってたらしいお姉ちゃんとエンカウント。――で、そのまま一緒に西住家の門をくぐって中に入った訳なんだけど、私が入っても良かったのかな?

 

 

 

「此処はお前の家だ。何の問題もない。」

 

「其れはそうだけど、私は破門された身だし、何よりもお祖母ちゃんが……」

 

「ん?聞いていないのかみほ、お前とエリカと小梅の破門はお祖母様自らが撤回した。

 お祖母様はお前の戦車道を認め、己が提唱していた『西住流』が過ちであったと言う事に気づいて下さった……今のお祖母様を見たらきっと驚くと思うぞ?」

 

「へ?そうだったの!?」

 

まさか、お祖母ちゃんが私とエリカさんと小梅さんの破門を撤回するとは思ってなかったら、此れは衝撃的だったなぁ?……それ以上に、今のお祖母ちゃんを見たら驚くってどういう事?

 

 

 

 

「あぁ、こう言う事だ。」

 

「おや……帰ったのかいみほや?

 うんうん、元気そうで安心したわい……先の大会の決勝戦、実に見事じゃったぞ?……ワシのした事を許せとは言わぬが、お前の事を誇れる孫だと言うのは許してくれぬか?

 お前は自らの力をもってして己の正しさを証明し、ワシの間違いを指摘してくれたのじゃからな。」

 

 

 

……はい?

あの、お姉ちゃん、あの人誰?本当にお祖母ちゃん?おばあちゃんの皮を着た別の誰かじゃなくて!?って言うか、いくら何でもキャラ変わりすぎでしょアレは!!

ペパロニさん曰く『糞ババア』だったのが、今や完全な好々婆じゃんあれ!何有れ、別人28号!?

 

 

 

「うん、其れは私も思ったが、アレは紛れもなくお祖母様だ。

 大洗が黒森峰を破った――お前が私を倒した事でお祖母様の中にあった歪んだ西住流が砕け散ったらしく、私達が嫌っていたお祖母様も居なくなったようだ。

 今のお祖母様は、隠居して戦車道の試合を見る事が楽しみになっている老人だ……お前の戦車道が、戦車道の暗黒面に堕ちていたお祖母様を救ったんだよみほ。」

 

「其れは、ちょっと大袈裟かもだよ。」

 

でも、確かに今のお祖母ちゃんからは前みたいな嫌悪感は感じないから、こっちが本当のお祖母ちゃんだったのかもね。

……ただいま、お祖母ちゃん。これ、大洗のお土産。

 

 

 

「ふむ、熊本に次いで全国2位の生産量を誇るサツマイモを使った菓子に、大洗港で水揚げされた魚の干物か……後で美味しく頂かせて貰うとするわい。

 特に干物は、焼酎とよく合いそうじゃからの。」

 

「お祖母ちゃん、飲み過ぎはダメだよ?」

 

「お前さんは優しいのみほよ?

 じゃが、熊本女は酒が強くてナンボじゃ……熊本女は、飲み比べで男を潰してこそ一人前じゃて!!」

 

 

 

あはは……本当に別人になっちゃったね此れは?でも、今のお祖母ちゃんなら普通に孫として接する事が出来そうだよ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・・・・

 

・・・

 

 

 

本来の姿に戻ったお祖母ちゃんと会った後は、書斎に行ってお母さんに転校手続きの書類に署名と印鑑を貰って、後はトンボ帰りみたいに、お姉ちゃんの操縦するⅡ号戦車に揺られて駅まで。

お母さんは多くを語らずに『自分の道は、絶対に譲らぬように』と言ってたから、大洗がまだ諦めないで居るって言う事を感じてたのかな?――或るいは、好子おばさまから何か聞いてたのかもね。

でも、其れだけじゃなくて抱きしめられたのは少しビックリだったかなぁ?……抱きしめるのは、お母さんの最大級の愛情表現だったからね。

最後に抱きしめられたのは大分前だったから、少し驚いたよ――尤も、お母さんの『母の愛』を感じたからとっても幸せな気分だったけどさ。

 

 

 

「本当に駅まででいいのか?」

 

「うん、其れで充分だよお姉ちゃん。」

 

 

 

そんな事を考えてる間に駅に到着……エリカさんと小梅さんはまだ来てないみたいだね。

 

 

 

「みほ、私に出来る事は、何かないか?」

 

「ん~~……それじゃあ、アイス買ってくれるかな?」

 

「そ、そんな事で良いのか?」

 

「うん。あ、どのアイスにするかもお姉ちゃんに任せるから。」

 

「私が決めるのか、責任重大だな?

 だが、任されたのならば応えねばだ……そうだな、此れで良いか?」

 

 

 

お姉ちゃんが選んだのは棒付きの九州限定のアイス『シロクマミルクバー・トロピカルマンゴー』……私達が子供だった頃に、良く駄菓子屋さんで買ってた思い出の味。

此れを選ぶとは流石だねお姉ちゃん?

 

 

 

「これ以外のが思い付かなかったからな……それじゃあ、またなみほ。」

 

「うん、またねお姉ちゃん。」

 

さよならは言わないってね。

で、エリカさんと小梅さんが来るまでの間にお姉ちゃんが選んでくれたアイスを食べたんだけど……フフ、流石だねお姉ちゃん。

 

 

――【あたり】

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

みほが転校手続きの書類を持って来たので、親として記名と捺印をしたけれど……あの子の目を見て確信したわ――みほも大洗も廃校の決定を受け入れてはいないとね。

みほの目には、燃え盛る闘志が宿っていたわ……隻腕の軍神の二つ名に恥じない程の闘志がね――あの闘志は、現役時代の私や千代、好子をも軽く上回ってるわ。

だからこそ、あの子なら仲間と共に理不尽な決定に徹底的に抗うのが否定できない――と言うかやって然りですからね。

でも、高校生の身では出来る事に限界があるから、私が動く事が出来ればいいのだけれど……

 

 

 

――バリバリバリバリバリ……

 

 

 

如何やら、私が動くための一手がやってきたみたいね?

 

 

 

「奥様、蝶野様がお見えになりました。」

 

「分かっているわ……大広間に御通しして。」

 

「御意に。」

 

 

 

亜美が此処に来たと言う事は、私を利用して文科省の決定を覆そうと言う事ね?……ふ、其れが正解でありベストよ亜美。――相手が権力で大洗を廃校にしようと言うのなら、こちらも権力をもって対抗するのは当然の事だわ。

 

と思ってたんだけど、これはちょっと考えが甘かったかしら?

 

 

 

――グァッデェェェェェェェム!!

 

 

 

何でいるし黒のカリスマ。

亜美、こちらの方は……

 

 

 

「蝶野正洋、私の従兄妹です♪」

 

「従兄妹ぉ!?」

 

ちょ、初めて聞いたわよそんな事!!

まさか、亜美が黒のカリスマの従兄妹だったとはね……と言うか、改めて生で見ると迫力が凄いわね?……伊達にプロレスのヘビー級ヒールの頂点を極めただけの事は有るわ。

 

 

 

「いつも応援してます。此れはつまらないモノですが。」

 

「あら、ご丁寧にどうも。」

 

そして礼儀の方も出来ているみたいね?正に超一流と言う事ね。

其れは其れとして、貴女が此処に来たのは大洗女子学園の廃校に関してですね亜美?……教官を務めた大洗女子学園が廃校になる事を見過ごすことは出来ないもの。

 

 

 

「師範!」

 

「行ってくれんのかしほりん!!」

 

 

 

えぇ、乗り込むわよ文科省に。

西住流の新家元としても、みほの母としても此れは認めて良いモノではありませんから、文科省への徹底的な抗議をするとしましょう……尤も、その程度で私の怒りは収まりませんけどね。

文科省のお偉いさんには精々後悔して貰うわ――私利私欲のために西住流を、私を敵に回してしまった事を、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer150『逆転の一手は希望と共にです!』

遂に150話まで来たよ!Byみほ        マダマダ!目指すは200話よ!Byエリカ      目指せ200話、ですね♪By小梅


Side:しほ

 

 

――文部科学省本部

 

 

文科省に抗議する為に、文部科学省までやって来たわ――初めまして角谷杏さん、西住しほです。

 

 

 

「御足労頂いて申し訳ありません、西住流家元――本来ならば、もっと正式な手続きをする所だったのですが……」

 

「構いませんよ角谷さん。

 私は西住流の新たな家元ではありますが、堅苦しいのは好みではありませんから……其れに、娘の母校の危機と知って黙っていられる程、私は人間が出来ていないのでね。」

 

正直な事を言わせて貰うなら、抗議以前に文科省にラーテかP1500で突撃かましたい気分だからね……と言うか、みほの居場所を奪う輩なんて言うのは滅殺以外に有り得ないわ。

白髪モノクルに誰にケンカを売ったのか教えてあげましょう。

 

なんだけど、貴方は何をしてるの黒のカリスマ?

 

 

 

「大洗女子学園が廃校とはどういう事だえー!納得できる説明をしてみろ馳!!

 ふざけた事ぬかしたら只じゃ済まねぇぞオラァ!

 大体にして、現役の頃からテメェのその甲高い声と黄色いパンツが気に入らなかったんだ俺は!アイアム、チョーノ!!」

 

「あのな、アレは俺のレスラーとしてのキャラ付けなんだから理解してくれよ蝶野。

 其れに、大洗女子学園の廃校を決定したのは俺じゃないから。」

 

「ガッデーム!責任者出せオラァ!!」

 

 

 

如何やら相当にブチ切れてるみたいね?

でも、彼の迫力を使えば、かの白神大五郎を説き伏せる事は難しくないかも知れないわ――何にしても、みほが見つけた戦車の道を絶たせる訳には行かないから、私の持てる力の全てを懸けさせて貰うわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer150

『逆転の一手は希望と共にです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

応接室に案内された私達の前に座るのは、文科省の大物である白神大五郎――成程、中々のやり手のようだわ。……だからと言って退く気は毛頭ないのだけれどね。

 

「此度の大洗女子学園廃校決定の件は、事実なのでしょうか?」

 

「其れに関しては事実としか言いようがありませんな。」

 

 

 

左様ですか……ですが、全国制覇を成し遂げた学校を廃校にするのと言うのは如何なモノかと思いますね?

全国制覇を成し遂げた学校が廃校になってしまっては、来年の大会に参加した者達が目標を見失うのは必至である上に、世界大会の誘致を目指す日本にとってはマイナスのイメージにしかならないと思いますが、其れに関しては如何お考えですか?

其れについての明確な答えが頂けない以上、私が世界大会運営委員会の顧問を務めるのは、難しいと言わざるを得ません。

 

 

 

「仰ることは分かりますが、マグレで優勝した学校では……」

 

「ガッデム!!」

 

 

 

――バッキィィィン!!

 

 

 

大五郎が言い終える前に、黒のカリスマが机を拳で粉砕してターンエンド……プロレスラーのパワーは、ヘビー級ギリギリのウェイトでも馬鹿に出来ないわね?

まぁ、得意のケンカキックで大五郎の顔面を蹴り飛ばさなかった辺り、流石にこらえたのかも知れないけれど。

 

 

 

「戦車道に、マグレなんぞねぇ!あるのは実力だけだ、エー!!

 つまり、大洗女子学園の優勝は偶然じゃなくて必然だったんだオラァ!!分かってんのかガッデメファッキンアー!!」

 

「左様、戦車道にマグレなし。あるのは実力のみ。

 全てのスポーツがそうであるように、強者だから勝ったのではなく、勝った者が強者であるのは戦車道もまた同じ事……如何すれば認めて頂けますか?」

 

「そ、それはその……」

 

「其れは何だ?言ってみろオラァ!!」

 

「だ、大学選抜チームに勝利する事が出来たら、大洗女子学園の廃校は撤回――否、撤廃しましょう。」

 

 

 

言ったわね?……角谷さん、今です。

 

 

 

「其れじゃあ今此処で誓約書を書いていただけますか?口約束は約束ではないようですので。」

 

「ぐ……!!」

 

 

 

ふ、お見事です角谷さん。

『口約束は約束ではない』などとぬかす輩には、書面で作ったモノを残し、其処に記名捺印させるのが最も有効な手段なのですからね。――自ら記名して捺印した書面ならば法的な力も充分にあるのですから。

そして、この書類も事前に作成されていたとは思えない程の出来ですね?

内容としては……

 

 

 

27文科高第307号

申請者 氏名 角谷 杏 殿

 

申請のあった県立大洗女子学園の廃校撤回については、学園艦教育法(昭和57年法律第67号)第79条の4第7項の規定により次の条件をつけて許可します。

 

1 指定された戦車道試合において勝利した場合は、当該撤回の申し立てをすることができます。

2 上記1の試合において敗北した場合は、当該撤回の申し立てへの権利は失われたものとします。

3 上記1の試合については下記条件のもとで行われるとします。

 

文部科学大臣:馳浩

文部科学省学園艦局長:辻康太

文部科学省学特別顧問:

戦車道連盟理事長:児玉七郎

大学戦車道連盟理事長:

高校戦車道連盟理事長:西住しほ

大洗観光大使:蝶野正洋

 

 

1 試合の対戦者は大学戦車道連盟強化選手とする。

(試合対戦者)

2 試合場所は、上記1対戦者に指定の権利が与えられる。

(試合場所)

3 試合を行える期間は、この許可の決定から7日以内とする。

(試合の期間)

4 試合の規則、形態等については主催者たるものが定める権限を有する。

(試合の規則)

5 使用料は、免除とする。

(補給物資の負担)

6 試合許可を受けた者は、試合許可場所を常に善良なる管理者の注意をもって維持保存しなければならない。

(試合場所検査等)

7 試合に必要な資材、人員の確保は戦車道連盟がその責任を負うものとする。

(審判、試合会場の設営)

8 試合に関しての告知は、戦車道連盟がその組織を通じて行うこと。

 

 

 

充分過ぎるわね。

尤も、大学戦車道連盟理事に関しては千代に後で記名と捺印を貰わないとだけど、日本の戦車道の二大流派の双璧を巻き込むとは、角谷さんの本気具合が伺えると言うものです。

此の子もまた、みほとは質は違えど強い意志を宿しているのでしょうね。

 

 

 

「オラァ!さっさとサインしやがれ!!テメェみたいな小悪党に割いてる時間はねぇんだ!!」

 

「分かった、分かりましたよ!!」

 

 

 

黒のカリスマの迫力もあって、取り敢えず形で残る書面を創る事が出来たわ……後は、千代の了承を取り付けて記名と捺印を貰うだけなんだけど、其れも問題なく行くでしょうね。

千代は昔からみほの事を気に入ってたから、みほの危機に立ち上がらない筈はないモノ。

 

取り敢えず、第一関門はクリアしましたね角谷さん?

 

 

 

「はい、家元のおかげで何とか。

 まぁ、結果的にはまた西住ちゃんに……みほちゃんに負担を懸ける事になっちゃうんですけどね――本当にアタシは、みほちゃんに負担を背負わせてばかりで申し訳なくなります。」

 

「……其れは違いますよ角谷さん。

 此れはあの子が、みほが自ら選んだ道です――其処にある困難など分かっていた事でしょう。……でも、あの子は自分の手でその道を選んで結果を出した。

 其れも全ては、貴女が大洗女子学園の戦車道を復活させてくれたからこそです。

 みほは、大洗で自分の戦車道を完成させた――其れを考えれば、私は貴女に感謝こそすれ、負の感情を向ける理由がありません。」

 

「はは……そうですか――其れを聞いて、少しだけ救われました。

 西住ちゃん達の事を調べて、戦車道の経験者だと知って、その上で体よく利用してただけだったんじゃないかって思ってましたから――ですが家元の話を聞いて、吹っ切れました。」

 

「そうであるのならば良かったわ。」

 

「感謝します。

 今度、是非とも西住ちゃんに会いに大洗に来てください――大洗には美味しい物が一杯あるので、力の限りおもてなしさせて貰いますから。」

 

「……焼酎に合うモノってあるかしら?」

 

「シーサイドステーションのバーベキューのサザエのつぼ焼きや、ハマグリの網焼きなど如何でしょう?」

 

「OK、其れは最高だわ。」

 

取り敢えず、文科省の方は何とかなったわ――記名捺印した書類を、知らぬ存ぜぬとする事は出来ないのだから。

だから、後は千代次第……だけど、其れは実質クリアしたも同然よね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

そんなこんなで、島田家の応接室。

こうして会うのは、一昨年の中学大会以来ね千代?

 

 

 

「2年ぶりねしほちゃん。

 先ずは、家元就任おめでとうと言うべきかしら?」

 

「如何かしらね?まぁ、賭け事ではあったけれど、一応はお母様に勝っての家元就任だから、めでたいと言えばめでたいのかもしれないわ。

 まぁ、私の家元就任が如何のとかは、今は如何でも良いのよ。

 千代、貴女の所にも大洗女子学園の角谷杏さんから話は来ているわね?」

 

「えぇ、来ているわ。

 本当だったら私も文科省に行くべきだったのでしょうけれど、生憎と大学戦車道連盟の会議とぶつかってしまって行けなかったのよ――で、そっちの方はどうなったのかしら?」

 

 

 

取り敢えず『大学選抜チームと試合を行って、勝つ事が出来たら大洗女子学園の廃校は撤廃にする』と言う条件を引き出す事は出来たわ。

そして此れが、其れの証拠となる書類よ――後は此処に貴女の記名と捺印があれば書類は完成となるって訳よ。

 

 

 

「私に話が来る時点で、大学戦車道を巻き込む事は予想していたけれど、まさかこんな書類を作っていたとは驚きだわ。

 若しかして角谷さんは、白神が大学選抜との試合での勝利を条件に出してくる事を予想していたと言うのかしら?」

 

「いえ、何方かと言うと、その条件を出すように誘導したと言うのが正しいと思うわ。」

 

高校戦車道連盟理事の児玉さん、そして西住流家元の私、陸上自衛隊の二佐である亜美に……異様な威圧感を放っていた黒のカリスマも居た訳だから、無理難題を突き付ける訳には行かなかった――そんな事をすれば、確実に黒のカリスマが元祖ケンカキック→STFの必殺コンボを喰らわせてたでしょうからね。

だから白神は、無理難題にならない範囲での最大難易度のカードを切るしか道は無かった……そして其のカードこそが、大学選抜チームとの試合だった。

社会人のチームを相手に圧倒的な勝利を収める大学選抜チームは、現行の日本最強チームと言う事になるのだからね。

 

 

 

「状況を整えれば、自分の望む答えを引き出す事が出来るか……恐ろしい事を考えるモノだわマッタク。

 でも、そう言う事ならこの書類には喜んで記名捺印させて貰うわ――何よりも、みほちゃんの戦車道が潰えてしまうと言うのは、私の望む所じゃないもの。」

 

「千代、貴女昔からみほの戦車道好きよね……」

 

「だって、みほちゃんの戦車道って何が起きるか分からなくて毎回ワクワクドキドキよ?

 世間では忍者戦術って言われてる島田流をも上回るトリッキーで、裏技搦め手もルールで認められてる範囲なら上等な戦い方って凄いと思うのよ普通に。

 みほちゃんは楽しむ事を最優先にしているのだろうけど、その戦い方は誰よりも本気で勝ちを取りに行く戦い方なのよ。

 でも、それは勝利に固執しないで、己の戦い方を貫いた結果勝利していると言う理想の形でもあるわ……ある意味でみほちゃんは、あらゆるスポーツが目指すべき極地に最も近い位置にいるのかも知れないわね。」

 

 

 

其れは、確かに言えてるかも知れないわね。

勝利に固執せず、楽しむ事を第一に考えて結果として勝利する事が出来れば最高だもの――まぁ、みほの場合は『絶対に負けられない戦い』の場合は、徹底的に勝ちを取りに行く事も出来る訳だけどね。

 

そう言えば千代、今の大学選抜の隊長って確か……

 

 

 

「私の娘の愛里寿よ。

 世間的には、此の試合は島田流vs西住流の側面を備えてるって言う事にもなるわね。」

 

「そうなってしまうでしょうね……此の試合の事が明るみになればマスコミが放っておくはずがありませんモノ。」

 

「そうよね……でも、これは愛里寿にとっては良い機会かも知れないわ。

 あの子には後学の為にみほちゃんの試合のビデオを何回も見せたんだけど、何時の頃からか『この人と戦いたい』って言うようになったから。

 こんな形ではあるけれど、愛里寿の願いが叶うのは良かったわ。」

 

 

 

左様か。

だけど千代、大学選抜チームに話しを通して手心を加える様な事だけはしないでね?……全力の大学選抜チームに勝たなければ意味は無いのだから。

 

 

 

「分かってるわよしほちゃん。

 愛里寿にも『西住流の名が地に落ちるように叩きのめせ』って言っておくわ。」

 

「中々に過激な事を言うわね千代……でも、それで良いわ。

 みほは相手が強ければ強い程、底知れない力を発揮するからね……隻腕の軍神は、だからこそ不敗神話を築く事が出来たのよ。」

 

「そう言えば、中学2年から今まで、みほちゃんって公式戦では無敗なのよね。」

 

 

 

其の通り、中学2年から今までのみほの公式戦の戦績は15勝1分けと言う4年間の無敗神話を貫いてるわ……だからきっと、大学選抜チームが相手であっても負けはしないわ。

そしてこの試合は、貴女の娘にとってもプラスになるでしょう?

 

 

 

「そうね。

 愛里寿の才能は、長女の美佳が『島田流を継ぐのは私よりも愛里寿の方が相応しい』と言って家を出てしまったくらいだけど、マダマダ未熟な所があるから、みほさんとの試合は愛里寿にとってもいい経験になるわ。」

 

「でしょう?

 そして、大洗が勝てば貴女の娘は敗北を知る事が出来る……敗北を知らぬ者に成長は無いからね。」

 

みほだって中学1年の時に黒森峰に負けたからこそさらに成長する事が出来たのだから。

でもどっちが勝つにしても千代、試合後に私達がやる事はただ1つだけよね?

 

 

 

「うふふ、決まってるじゃないしほちゃん――試合が終わったその瞬間に……」

 

「家元合体キン肉バスターね。」

 

まぁ、其れは其れとして、私に出来る事は全てやったから、後は貴女が何とかしなさいみほ……貴女ならば、大洗廃校を撤廃する為の一手を必ず結実させると信じているわ。

隻腕の軍神の真髄、其れを白神に叩き付けてあげなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

熊本から無事に大洗に帰還!皆、ただいま~~!!!

 

 

 

「「「「「「「「「西住隊長、逸見さん、赤星さん、おかえりなさい!!」」」」」」」」」(鍵カッコ省略。)

 

「お見送りも全員だったけど、お出迎えも全員とは豪華じゃないの……貴女、相当に慕われてるわねみほ?」

 

「エリカさんと小梅さんの名前も言ってから、私だけじゃないと思うんだけど……」

 

「みほさんと比べたら、私とエリカさんはおまけですよおまけ。

 ビックリマンチョコで言う所のチョコレートです……アレのメインはシールですから。」

 

 

 

小梅さん、其れは言っちゃダメだって。

でも、エリカさんと小梅さんがおまけって言う事は無いと思うよ?――だって、決勝戦での殊勲賞はエリカさんのライガーチームと、小梅さんのオオワシチームだったんだから。

ライガーがレオポンと一緒に入り口を塞いでくれたから、オオワシが建物内に潜んでいたからこそ、お姉ちゃんに勝つ事が出来た訳だからね。

 

 

 

――ピンポンパンポーン

 

 

 

っと、此処で校内放送?一体何だろう?

 

 

 

『緊急連絡、角谷会長が帰還されました、戦車道履修者は至急講堂に集合してください。』

 

『オ~イオイオイ!!』

 

 

 

会長さんが戻って来た?

しかも、其れに合わせて講堂に集合とは、何かあるのは間違いないよね……で、小山先輩の後で聞こえる泣き声は一体――いや、言わなくとも予想は付くんですけどね?

 

 

 

『繰り返します。角谷会長が帰還されました、戦車道履修者は至急講堂に……って、泣き止もうよ桃ちゃん。』

 

 

 

矢張り河嶋先輩でしたか。

会長さんが居ない間は、気が張り詰めて本当に同一人物なのかって疑いたくなる位に業務を熟していたけど、会長さんが帰還した事で緊張が一気に解けちゃったとか、そう言う事なのかも知れないね。

だけど、会長さんが戻って来たって言う事は、きっとなにかがある筈――あの会長さんが、何日も留守にして何もないなんて言う事は有り得ない。

きっと見つけたんだ、大洗を廃校から救う道を!!

 

 

 

「その可能性は大きいわね?

 そして、その条件は戦車道関係で決めた可能性が高い――となると、黒森峰以上の相手と戦う事になる可能性があるんだけど……」

 

「問題ないよエリカさん。

 寧ろ黒森峰以上の存在が相手だって言うのなら上等だよ――高校戦車道最強の黒森峰をも上回る相手に勝利したとなれば、流石に文句の付け様は無いだろうからね。」

 

会長さんがどんな一手を持って来たのかは分からないけど、其れが誰かに勝てって言う条件なら、私は必ず其れを成し遂げて見せるよ。

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「此処で軍神招来……!!」

 

「隻腕の軍神の闘気に火が点いたみたいですね。」

 

 

 

何よりも、第2の故郷である大洗を奪われる訳には行かないからね……必ず取り戻して見せるよ、私達の大洗の学園艦を!!

そして、あの白髪モノクルには、其の身をもって味わって貰うよ――隻腕の軍神にケンカを売ったらどうなるのかと言うのをね……下らない謀略の果てに、私の中の眠れる本能を解放してしまった事を、精々後悔すると良いよ!!

こうなった以上、誰も私を止める事は出来ないからね――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 




キャラクター補足


・島田千代
島田流戦車道の家元で、大学戦車道連盟の理事長。
しほ、好子とは現役時代のライバルにして親友で、現在も交流が続いている。
高校時代は聖グロリアーナの隊長を務め、同校の伝説的ノーブルネーム『アールグレイ』を最初に名乗った人物。と言うか、千代が名乗ったからこそ伝説となったと言うべきか。
西住流の家元がしほに代替わりしたのを機に、流派の垣根を超えた交流を行って、戦車道其の物を、もっと盛んにして行きたいと考えている。
因みに島田流家元ながら、西住の次女であるみほの戦車道の大ファン。
『何が起きるか分からないから、見るたびにドキドキする』って、其れで良いのか島田流家元。



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Panzer151『水面下でも動いている様です』

ダージリンさん、色々とやってくれたみたいだね?Byみほ        やってくれたわね紅茶格言Byエリカ      さて、此処からどうなるのか楽しみです♪By小梅


Side:みほ

 

 

小山先輩の放送を聞いた戦車道履修者は全員が講堂に集まってた訳なんだけど……麻子さんは何をしてたの?なんか、来るのが少し遅かったけど、何かあった?

 

 

 

「そど子達を説得するのに思いのほか時間がかかった……まぁ、説得はし切れなかったから、半ば強引に引き摺って来たがな。」

 

「ウワォ、麻子さんグレイトォ。」

 

そど子さんだけじゃなくて、カモさんチームの3人を引き摺ってきたとは言え3人纏めて連れてくるって言うのは並大抵の事じゃない――麻子さんって、若しかしたら可成りの細マッチョなのかもね。

そうじゃなきゃこんな事が出来るとは思わないもん。……まさか、改造人間?

 

 

 

「生憎と、私は天然ものだぞ西住さん。」

 

「だよね。」

 

其れで、何があったんですか会長さん――戦車道履修者を講堂に集めたと言うのは、確実に何かありましたよね?

 

 

 

「相変わらず勘が鋭いね西住ちゃんは。

 コホン……諸君、試合が決まった!!」

 

「試合ですって?」

 

「相手は何処ですか?」

 

「相手は大学選抜チーム……此の試合に勝つ事が出来たら大洗の廃校は無くなる――念書もバッチリ取って来た!!」

 

 

 

試合!それも此の試合に勝ては、大荒の廃校は今度こそなくなる――会長さんは、その約束を取り付ける為に、ここ数日間留守にしてたんだ!

しかもあの念書には、お母さんと島田の小母様のサインと印鑑まである……お母さんと島田の小母様まで引っ張り出すとは、流石は会長さんと言うか何と言うか。

 

 

 

「会長、もう隠し事は無いな?」

 

「ない!此の試合に勝てば、大洗は本当に廃校ではなくなる!

 厳しい戦いなのは重々承知しているけど、此の試合が我々に残された最後のチャンスだ――だから、試合に勝って、皆で大洗に戻ろう!」

 

「会長さん……その通りですね。」

 

大学選抜チームが相手だって言うのは、黒森峰を相手のハードモードを超えたナイトメアモードかもだけど、負ける気は毛頭ないよ――相手が誰であろうとも、勝って大洗女子学園を取り戻すんだから。

会長さんが、お母さん達の力を借りてまで手に入れてくれた最後のチャンス、絶対に物にしないとだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer151

『水面下でも動いている様です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ダージリン

 

 

GI6の隊長、グリーンからの報告によれば、大洗女子学園は廃校撤廃を懸けて大学選抜チームと試合をする事が決まったようね?

しかも、戦車道連盟理事長、高校戦車道連盟理事長、大学戦車道連盟理事長、文部科学大臣、文部科学省学園艦局長、文部科学省特別顧問に、何故か大洗観光大使のサインと印鑑のある書類まであったとの事だから、此の試合に勝てば大洗の廃校は今度こそ撤廃になるでしょう。

立場のある人間の記名と捺印が此れだけある書類を作っておいて、『知らぬ存ぜぬ』はまかり通りませんモノ。

 

此れで大洗が勝利すれば何の問題も無いのだけれど、試合形式がどうなるかが問題ね?

大洗の保有車両は10輌なのに対して、大学選抜チームの保有戦車は試合に出すだけで30輌――フラッグ戦であるのならば、みほさんにとって3倍程度の戦力差は大した問題ではないのだけど、大洗の廃校を強行したい文科省特別顧問が3倍の戦力差での殲滅戦をねじ込む可能性は否定出来ないわ。

其れでも、みほさんならば極論を言うと『10対1を30回繰り返して』勝つくらいはしてしまうのかも知れないけれど、大洗が敗北する確率は可能な限り下げておきたい所ね?

 

「アッサム、黒森峰、サンダース、プラウダ、アンツィオ、マジノ、知波単、継続高校に暗号文を。大洗の助っ人に行きますわよ。」

 

「其れは構いませんが、大洗の生徒でなければ試合には参加できないと思いますよダージリン?」

 

「ふふ、其処は裏技よ。

 短期転校手続きをして、試合の間だけ大洗の生徒になってしまえば問題ないわ。戦車は、私物と言う事で持ち込んでしまえば問題はないし。」

 

「裏技どころか、反則ギリギリの超技ですねダージリン様。」

 

 

 

フフフ、こんな言葉を知っているペコ?

イギリス人は、恋と戦争では手段を選ばない。あらゆる事が、正当化されるのよ。

 

 

 

「あの、騎士道精神は?」

 

「何か問題でも?」

 

「いえ、ございません。」

 

「……何時もの漫才は其れ位に。

 其れで、各校への暗号は如何様に?」

 

 

 

そうね……『秋の日の ヴィオロンの ため息の ひたぶるに 身にしみて うら悲し 北の地にて飲み交わすべし』と送って頂戴。

最後の一文は、試合会場が北海道だと言う情報から考えた私の創作だけれど、それ以外はノルマンディーの上陸作戦でも暗号で使われた有名な詩の一文だから、只事ではないのは分かる筈だわ。

さて、今をもって黒森峰、サンダース、プラウダ、アンツィオ、マジノ、知波単、継続とのやり取りは、全て私の携帯でのメールか、各校の諜報部隊を使っての文書及び暗号通信のみとするわ――何処で私達の事が文科省特別顧問の耳に入るか分かりませんモノ。

 

あぁ、其れとアッサム、試合の助っ人とは別に、戦車道を行っている全ての学校に、『大洗女子学園が廃校撤廃を懸けて、大学選抜チームとの試合を行う』と言う情報をリークしてくれるかしら?

 

 

 

「はぁ、其れは構いませんが、其れに一体何の意味があるのですか?」

 

「試合会場の雰囲気と言うのは、思った以上に試合に影響する物よ。

 貴女だって、アウェーの会場で試合をするよりも、ホームゲームの方がやり易いでしょうアッサム?」

 

北海道の会場は大洗にとっても大学選抜にとってもホームゲームではないけれど、会場の雰囲気を大洗のホームに作り替える事は出来るわ。

大洗の学園艦で生活していた人達と、大洗女子学園の生徒全員が応援に来るのは略間違いないけれど、其処に高校の戦車乙女が応援に加わったら、会場は大洗を応援する人達で満員になって、大学選抜チームはやり辛くなるとは思わない?

 

 

 

「其れはまた何とも……分かりました、仰る通りに致します。

 ――時にダージリン、リークするのは大会に参加している学校だけで良いのですか?」

 

「その心算だったけれど、何かあるのアッサム?」

 

「いえ、大会には出場してないのですが、ベルウォール学園と言う所も戦車道を行っていまして、そこの戦車隊のマネージャーが、西住みほの幼馴染だったらしいのですのでどうしようかと。

 名前は『中須賀エミ』。ドイツ人とのハーフで、戦車道の腕前は可成りなそうですが……」

 

「みほさんの幼馴染……!」

 

其れは貴重な情報ね……ベルウォールにも情報をリークしてアッサム。

みほさんが奮闘している事を知った中須賀エミさんが何もしないとは思えないもの。

 

 

 

「使える物は徹底的にですね?

 其れでダージリン様、聖グロリアーナは誰が大洗に短期転校を?……ローズヒップさんのクルセイダーのメンバーは確定でしょうけれど。」

 

「ローズヒップは鉄板ね。

 後は私のチャーチルチームと、ルクリリのマチルダチームの計3輌のメンバーを短期転校のメンバーにするわ。其れが、バランス的にも良いし。」

 

「了解しました。」

 

 

 

ふふ、この事を知ったらローズヒップは間違い無く奮起するでしょうから、何時も以上の活躍が期待できるしね。

其れは其れとして、私達も助力しますから、大学選抜戦は必ず勝って下さいみほさん――貴女のような人が戦車道の表舞台から居なくなると言うのは、戦車道全体の損失でしかありませんから。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ケイ

 

 

Wao!聖グロからの暗号文がノルマンディーの上陸作戦でも使われたモノだったから重要だってのは分かったけど、其れが何なのかまでは分からなかったからダージリンにメールで聞いてみたら、大洗が廃校を懸けて大学選抜チームと試合をする事になったとはね。

フラッグ戦なら兎も角、殲滅戦になったら大洗が圧倒的に不利過ぎるから力を貸せって言うのなら文句はないわ――圧倒的な戦力差がある上での殲滅戦なんて、アンフェアにも程があるからね。

 

「そう言う訳で、私とナオミとアリサは夫々のチームメンバーと共に大洗への短期転校手続きをするから。――異論はないわよね?」

 

「ある訳がないだろうケイ?

 みほは私のダチ公だ……そのダチ公の助太刀をするのに何の理由が必要だ?ダチがピンチなら力を貸す、其れが本物のダチってもんだろ?」

 

「ナオミ、アンタ男前すぎ。

 そんなだから、女子のくせに男子を圧倒して女子からのラブレターをぶっちぎるのよ――だけど、私もナオミの意見には賛成です隊長。

 私と西住みほは友達でもなんでもありませんが、大洗女子学園が廃校になったらリベンジを果たす事が出来ません――なので、私も大洗に短期転校します!」

 

 

 

ま~ったく、素直じゃないんだからアリサは。

 

 

 

――まぁ、中の人がツンデレ元祖の『涼宮団長』と同じだから素直じゃないのは仕方ない。

 

 

 

……何か聞こえた気がするけど、きっと気のせいよねうん。

でも、大洗とのExcitingな試合が出来なくなるのは寂しいから、全力で助っ人に参加させて貰うわ――何よりも、大洗のExcellentな戦車道が消えてしまうのは寂しいからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:カチューシャ

 

 

大洗が廃校撤廃を懸けて大学選抜チームと試合をするですって?……ノンナ、助太刀に行くわよ!!

ミホーシャは、2年連続でプラウダを破った誇り高い戦車乗りであり、同時にカチューシャの同志でもあるわ!その同志が、戦うと言うのなら助っ人に行かない理由はないもの!!

 

 

 

「大洗を助太刀しても、我等プラウダに利があるとは思えませんが?」

 

「利害の問題じゃないのよノンナ!

 私達は行かなきゃいけないの!ミホーシャはカチューシャの同志よ?其の同志のピンチを無視したら、地吹雪のカチューシャの名が廃るわ!」

 

「利害を超えたモノですか……其れを聞いて安心しましたカチューシャ。

 貴女が利害のみを考えて行動していたら、非常に不本意ではありますが、ベアークローを装備してスクリュードライバーを側頭部にブチかましている所でした。」

 

 

 

ノンナ、貴女カチューシャをモンゴルマンにする心算!?

まぁ、ウォーズマンはロシア超人だし、カッコいいから好きだけど――じゃなくて、大洗の助っ人に行くのは決定事項だから異論は認めないわ!!

一番乗りで助っ人の名乗りを上げてやるんだから!!

T-34を2輌、IS-2を1輌、KV-2が1輌の編成で乗り込むわ――ミホーシャの戦車道がお先真っ暗なんて、笑い話にもならないモノね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:アンチョビ

 

 

聖グロからの暗号文によると、如何やら大洗女子学園が廃校を懸けて大学選抜チームと試合をする事になったらしいが、角谷の奴相当に無茶したな?

大学選抜チームとの試合を取り付けるなど、一介の高校生が出来る事じゃないぞマッタク……アンツィオが廃校になると聞いて、果たして私に同じ事が出来るかと聞かれたら、多分無理だろうなぁ――簡単に諦める心算は無いが、西住流と島田流を動かす事など出来そうにないからな。

しかし、その試合に大洗に短期転校した上で助っ人ととして参戦するとは、考えたなダージリンの奴――しかも、我がアンツィオに協力を要請するとは中々よく分かっている!

アンツィオは弱くない!否、強いのだからな!!

 

 

 

「いやあ、此れで堂々と文科省にカチコミかけられるっすね姐さん!」

 

「ペパロニ、大洗の助っ人に行くのであって、文科省に突撃かます訳じゃないからな?」

 

「其れ位の気合が入ってるって事っすよ!……後、此れ位の気合を入れないと、カルパッチョが怖くて……

 この前、『たかちゃんの居場所を奪った文科省には死あるのみ』とか言いながら、古い倉庫の床に魔法陣書いて、何かやってたんすよ!?

 今だってほら!!」

 

「たかちゃん、たかちゃん、たかちゃん、たかちゃん………」

 

 

 

うん、確かにアレは怖い。

おい、戻ってこいカルパッチョ。お前の言うたかちゃんが何者かは知らんが、そのたかちゃんとやらを助けに行くぞ。

 

 

 

「本当ですかドゥーチェ!!」

 

「一瞬で正気を取り戻したなぁ?

 まぁ、良い。本当だカルパッチョ――聖グロから暗号文が届き、大洗が廃校撤廃を懸けて大学選抜チームと試合をする事になり、我々は大洗に短期転校手続きをした上で、大洗の助っ人として参戦する事になった。

 割り当てられた車輌は1輌だから、私とお前とペパロニしか参戦出来ないが、愛しのたかちゃんを助ける事が出来るのならば本望だろう?」

 

「はい、勿論です!!」

 

「あの状態のカルパッチョを一発で元に戻すとか流石っすねぇ姐さん。

 でも、アタシ等3人が参戦するとなると、どの戦車使うんすか?」

 

 

 

其れはだな、CV-33を持って行こうと思ってる。

戦車戦能力は皆無だが、CV-33には他の戦車にはない機動力があるし、CV-33みたいな戦車が1輌位いた方が、みほの奴は其の力を発揮するってもんだ――お前は其れをよく分かってるだろうペパロニ?

 

 

 

「そうっすね。

 みほの真髄は『不利な手札でも、格上の相手と互角以上に渡り合う』っていう戦術の多彩さにあるっすからね……戦車戦能力皆無のCV-33でも、みほなら誰もが思いつかないような運用をする筈っすよ!」

 

「だよな。」

 

あぁ、今更ながらにみほが黒森峰から転校すると聞いた時に、熱烈なラブコールをしなかったことが悔やまれる――もしも、みほを含めたあの3人をアンツィオに引き込めていたら、アンツィオは更に強くなっていただろうに。

 

まぁ、過ぎた事を言っても仕方ないから、今は大学選抜戦に向けて意識を集中だ……正直な事を言うのなら、みほの指揮の下で戦うと言う事に、私はとてもワクワクしているからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エクレール

 

 

大洗に短期転校した上で、大学選抜チームとの試合に助っ人して参戦する……ダージリン様も、随分と大胆な『お茶会』を計画したモノですわ。

ですが、そのお茶会に参加しないと言う選択肢はありませんわね――フォンデュ、今すぐ同志を集って下さいますか?

 

 

 

「了解しましたエクレール様。

 して、どの戦車での参戦を?マジノの参戦枠は1輌ですが……」

 

「此処は一切の出し惜しみをしないで、我が校最強のARL‐44を出しますわ。」

 

ルールで許可されているフランス製の戦車の中では最高性能のARL‐44を参戦させない理由はありませんし、みほさんならばこの戦車に最高のパフォーマンスをさせてくれる筈ですもの。

何よりも、みほさんは私にマジノ変革のきっかけを与えてくれた恩人……その恩人の窮地に駆けつけないなどマジノの名折れですわ。

不肖エクレール、助太刀させて頂きますわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ミカ

 

 

聖グロからの暗号文より先に、お母様から『大洗女子学園が大学選抜チームと試合をする事になった』とは聞いていたけど、まさか聖グロから助っ人の要請があるとは思わなかった……マッタク持って風は気紛れだね。

まぁ、助っ人自体は問題ない――薄汚い大人の事情で、みほさんの戦車道が潰されてしまうのは、戦車道の未来にとって大きな損失だからね。

 

でも、それ以上に……

 

 

 

「お茶会、楽しそうだねミカ?」

 

「あぁ、そうだねアキ。」

 

「あり?珍しくミカが素直に同意してら……こりゃ、明日は槍が降るかもな。」

 

「ミッコ、其れはちょっと酷くないかな?」

 

いや、確かに普段から素直ではない物言いをしている事は認めるけれど。

でも楽しみなのは確かだよ……大学選抜チームの隊長を務めているのは愛里寿だからね――あの子の才能は私を遥かに凌駕しているから、私は島田の未来を愛里寿に託して家を出た訳だからね。

だからこそ、みほさんの下で愛里寿と戦うと言うのも悪くないと思ってしまうんだ……愛里寿とは、一度思い切り戦いたいと思ってたしね。

 

西住と島田、日本の戦車道の二大流派の『姉よりも優秀な妹』の戦いはどうなるのか、楽しみだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:絹代

 

 

むむ、聖グロのダージリン殿からの暗号文によれば、大洗女子学園が廃校撤廃を懸けて大学選抜チームと試合をする事になったので助っ人として参戦せよとの事……言われるまでもないでありますなぁ!

隻腕の軍神・西住みほ殿の戦車道が潰される等と言う事があって良い筈がありません!!

知波単学園戦車隊隊長・西絹代、不肖ながら助太刀させて頂きます!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

ダージリンの奴、中々に味な事をしてくれるじゃないか――大洗に短期転校手続きをした上で大学選抜チームの試合に助っ人して参戦する等と考えるとはな。

黒森峰の助っ人枠は4輌……私と凛のティーガーⅠは確定だが、後は有志を募る。その為に、この場に1軍全員を集めたのだからな。

 

「諸君、この度大洗女子学園が廃校撤廃を懸けて、大学選抜チームと試合をする事が決まった。

 そして、聖グロのダージリンより、その試合に大洗に短期転校手続きをした上で助っ人として参戦して欲しいとの打診があった――我等黒森峰に割り当てられた助っ人枠は4輌。

 うち2輌は、私と凛のティーガーⅠが確定しているので、残るは2輌――参加したい者は遠慮せずに申し出てくれ。」

 

「はい、私は行きます!妹様のピンチを黙って見てられないです!!」

 

 

 

先ずは狭山か……となると、パンターだな。

出来るだけ回転砲塔のある機体を揃えたい所だから、そう言う意味では最強中戦車のパンターの参戦は有り難い。

 

 

 

「はい、私も行きます!!」

 

「お前もか小島。」

 

「ちょ、小島って誰ですか!?私は直下です!!」

 

「おや?」

 

そう言えばお前は『直下理子』だったな……うん、名簿でもそうなっているが、なんで『小島エミ』何て名前が浮かんで来たのか――気にしたら負けと言う奴だろうな。

だが、直下が参戦してくれるのは有り難い――直下は、みほがエリカと小梅の次に信頼していた隊員……言うなれば隻腕の軍神が選んだトップ3の1人だからね。

 

 

 

「でも直下、アンタってヤークトパンターだから回転砲塔ないっしょ?」

 

「あ、そう言えばそうだった!!」

 

「仕方ないわね……アタシのパンター貸してあげるわ。」

 

「おぉ、恩にきる!!今度、学食のシュニッツェル奢ってやるよ!」

 

 

 

唯一の問題は、直下はヤークトパンターに乗っていた事だが、その問題もパンターの車長が機体を貸す事で解決出来た様だな。

そう言えば、お前は良いのかツェスカ?てっきり、澤の助っ人に名乗りを上げると思っていたが……

 

 

 

「そうしたいのは勿論ですけれど、人数に制限があるのなら、今回は妹隊長の助っ人に向かいたい先輩達を尊重しますよ。

 其れに、試合に出るだけが助っ人じゃありません……裏方でも出来る事は沢山あるので、今回は裏方に回らせて貰います。」

 

「試合に出るだけが助っ人ではない、か……確かに其の通りだな。」

 

それでは、此れより黒森峰は、試合会場に向かって進路をとる。

試合に参戦するメンバーは、確りと英気を養っておくように!!

 

 

 

「「「「「「「「「「Jawohl.(了解。)」」」」」」」」」」

 

 

 

今の黒森峰の学園艦の位置からならば、試合にはギリギリ間に合う筈だから、待っていろみほ――試合には、最高にして最強の助っ人が参戦するからな。

お前が見つけたお前の戦車道、其れを護るのもまた姉の務めだから、その務めを果たさせて貰うだけだ。――みほが見つけた、みほだけの戦車道、必ず護って見せる……私の、西住まほの名に懸けて絶対にな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer152『Es gibt nur Fortschrittです!』

相手は大学選抜……相手にとって不足は無いよ!Byみほ        見せてやろうじゃない、私達の戦車道を!Byエリカ      これが、西住みほの戦車道、ですねBy小梅


Side:みほ

 

 

会長さんが廃校撤廃の為に捥ぎ取って来たのは、大学選抜チームとの試合で勝利すると言う条件……決して簡単な事じゃないってのは、分かるけど、その試合に勝てれば大洗が戻って来るのなら、無理を通して道理を蹴り飛ばすだけだよ!

其れに、やる前から勝負を投げてたら話にならないからね。

 

 

 

「そうは言ってもみぽりん。相手はプロのチームに勝っちゃう上に、保有戦車もめっちゃ多いんだよ?……大学戦車道で使われてる戦車って30輌なんでしょ?

 ……ぶっちゃけ、3倍の戦力差とか――ゴメン、みぽりんなら何とかしちゃうよね其れ位。」

 

「な、なんとしちゃうはずがないだろう流石に!30対10での試合だぞ、常識で考えろ!!

 そんな、絶対に勝てるはずがない……西住、大人しく降参した方が良いと思うんだが……」

 

「河嶋先輩……其れ本気で言っています?」

 

「戦力差3倍だぞ3倍!

 黒森峰との試合よりも戦力差が大きい上に、相手はプロチームに勝つ大学選抜……実力は黒森峰よりもずっと上だろう!如何考えても勝てる要素が見当たらない!

 分かり切ってる負け戦をして廃校が覆らないとか、ハッキリ言って悲しいにも程があるぞ!!」

 

 

 

――バッチィィィィィィィン!!

 

 

 

「ぶぺ!何をするか西住ーーーー!!」

 

「試合をやる前から負ける事を考える人がありますか!!試合前に気持ちで負けてたら勝てる試合も勝てなくなっちゃうんです!!

 戦車道に限らず、どんな事だって諦めたその時に試合終了なんですよ?河嶋先輩は其れを分かって言ってるんですか?……もし、分かって言ってるんだとしたら、即刻この場から立ち去って下さい!!」

 

河嶋先輩の余りにも弱腰な態度に、思わず頭にきて平手打ちをかましちゃったけど、私は間違った事はしてないって、其れは自信を持って言えるよ。

高々3倍の戦力差にビビって降伏を提案するなんて言うのは言語道断です河嶋先輩!!

何よりも会長さんが身を粉にして作ってくれたチャンスを高々3倍程度の戦力差を理由に諦める事なんて私には絶対に出来ませんから!!

どんなに困難な道だって、戦車に進めない道はありません――戦車は溶岩の中だって進むんです!

 

 

 

「ま、今のは誰がどう見てもか~しまが悪いわな……」

 

「会長!?」

 

「いや、試合に向けてこれから頑張ろうって時に、やる前から諦めたか~しまが悪いだろ絶対。

 いいか、か~しま、試合におけるチームの士気ってのは大切なもんだぞ?今のお前の発言は、チームの士気を著しく低下させるモノでしかね~訳、分かる?

 今の西住ちゃんのビンタは其れに対する制裁であると同時に、情けないお前に対する闘魂注入って事だ。」

 

 

 

そして、お見事です会長。

後輩の私ならいざ知らず、同輩で、しかも生徒会の会長様に言われたら河嶋先輩は何も言えませんからね……取り敢えず、此れで話を先に進められそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer152

『Es gibt nur Fortschrittです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取り敢えず大学選抜チームは社会人のプロチームにも勝てる猛者の集まりだって事だけど、先ずは使用してる戦車が何であるのか、隊長、副隊長は誰なのか、隊員で要注意なのは誰なのかを調べないとだね。

優花里さん、猫田さん、如何かな?

 

 

 

「いやはや、猫田殿のパソコン捌きには感嘆の声しか出ないでありますよ西住殿!

 大学選抜チームの戦車のデータから、選手のデータまで驚くほどのスピードで調べ上げているでありますよ!」

 

「いやいや、秋山さんが居てくれたからこそだよ。

 僕1人じゃ、大学選抜チームの選手の名前とか分からなかったからね……取り敢えず、調べたデータをマルチ送信で皆の携帯やスマホに送るのにゃ。」

 

「うん、お願い。」

 

優花里さんの戦車知識と、猫田さんのデジタル知識と能力が合わされば、大学選抜チームのデータは苦労せずに得る事が出来るんじゃないかと思ったけど、ビンゴだったね。

即座に調べたデータがスマホに送られて来たんだけど……流石は大学選抜、良い戦車使ってるね?

 

 

 

「隊員が使ってるのは対ティーガー用に作られた重戦車のパーシングに、軽戦車としては破格の性能を持つチャーフィー、そして隊長車は45年ルールの中ではパンターをも凌ぐ総合的な性能では最強とも言われるセンチュリオンか。

 此れは、確かに今まで戦ったどんな相手よりも手強いわねみほ?」

 

「うん、先ずは戦車の性能が凄いからね……」

 

センチュリオンにパーシングにチャーフィー……いずれも劣らぬ強力な戦車だけど、今回の試合は此処に+αがあると考えといた方が良いかも知れないね?

大洗を廃校にしたい文科省のお偉いさんが、大学選抜チームに今のレギュレーションでは認められてない戦車を試合ギリギリのタイミングで認可するかも知れないけどね。

まぁ、今のレギュレーションで禁止されてるのって、ラーテとかモンスターとか、設計だけ存在して企画倒れになった機体が殆どだから、ソンなのが出て来た所で脅威にはなり得ないんだけど、問題は大学選抜チームのメンバーだよ寧ろ。

大学選抜チームを率いる隊長は……島田愛里寿――島田流の跡継ぎにして、飛び級で大学に進学し、更には大学選抜チームの隊長を務める猛者……良いね、逆にやる気が出て来るよ。

 

 

 

「みほさん、この方は前にボコミュージアムで会った方では?」

 

「そうだよ華さん。

 この子は島田愛里寿って言うみたい……戦車道島田流の子みたいだね。」

 

「島田流の……と言う事は、此の試合は間接的にですが、西住流対島田流の戦い――にはならないですよね?隊長は純粋な西住流とは言い難いですし。

 ぶっちゃけて言うと、西住流よりも島田流の方が合ってるレベルですので。」

 

 

 

反論したいけど、反論できないのがきついね梓ちゃん。

まぁ、確かに私の戦車道は大凡西住流とは呼べない位に、裏技搦め手上等だからね……真正面からの力押しよりも、色々策を巡らせて戦う方が楽しいから。

そう言う意味では私の戦車道は島田流に近いのかも知れないけど……

 

 

 

「貴女の戦車道と島田流の戦車道は似て非なる物よみほ。

 島田流は『忍者戦術』とまで呼ばれる程のトリッキーかつ効率的な戦術を得意としているけれど、其れはあくまでも個人の力がモノを言う戦車道であり、チームメンバーの力を加算・乗算して戦う貴女の戦車道とは根本的に異なるわ。

 島田流は『個』の戦車道、西住流は『全』の戦車道、そして貴女の戦車道は『個の力を最大限に引き出しつつも、集団としての機能も低下させない』って言うモノなのよ。」

 

「つまり、西住流と島田流を良いとこ取りして融合して、更に其れを自分流に昇華したと言う事でありますか!?」

 

「形としてはそうですけど、みほさんの場合は天然でそうなってしまったと言う所でしょうね……流石は戦車の申し子と言うべきでしょうか?」

 

 

 

戦車の申し子って、其処までかな?

でも、確かに自分のやりたい戦車道を突き詰めて行った結果、今の戦い方に辿り着いたんだよねぇ……若しかしたら、西住流と島田流の開祖も、己の理想を追求した結果、流派の根幹に至ったのかも知れないね。

 

 

 

「西住隊長、いっその事『西住みほ流戦車道』の流派立ち上げません?」

 

「私の戦車道って教えて教えられる物じゃないから、私の感覚による所が大きい戦術を体系化しちゃった梓ちゃんの『澤流戦車道』の方が良いんじゃないかな?」

 

「そんな、恐れ多い。」

 

「そうかな?結構行けるんじゃないかと思うんだけどね?」

 

今の明光大のドクトリンだって、根っこの部分は私の戦術だけど、其れを『明光大のドクトリン』として完成させたのは梓ちゃんだからね。

さて、隊長は試合が終わったらボコメイトになれるであろう愛里寿ちゃんな訳だけど、他に注目すべき選手は……やっぱり選抜に入ってたね、天城さんと、エリカさんのお姉さんであるアールグレイさん。

此の2人は愛里寿ちゃんと同レベルに要注意だね。

 

 

 

「みぽりん、この人達って強いの?」

 

「強いよ。

 天城さんはお姉ちゃんが黒森峰に入る前に隊長を務めてた人で、中等部、高等部では1年生の時から隊長を務めてて、お姉ちゃんが2年生になると同時に隊長職を明け渡したんだ。

 お姉ちゃんが2年生になるのを待ってたのは、『西住流の嫡子が1年から隊長を務めたら、周囲の風当たりが強いから』って言う理由だったらしいんだけど、お姉ちゃん曰く『もしも天城さんと私のスタートラインが同じだったら、きっと私は天城さんには敵わなかった』って言う位の実力者。」

 

「凄い方なんですねぇ……其れで、エリカさんのお姉様と言うのは?」

 

「先代の聖グロの隊長よ華。

 そして、聖グロでは現在までたった2人しか名乗る事を許されていないノーブルネーム『アールグレイ』を名乗った戦車乗りよ。

 でもって、もう1人の『アールグレイ』は、現在の島田流の家元様よ。」

 

「うっそーー!それってマジなのエリリン!!

 だとしたらエリリンのお姉さん凄いじゃん!島田流の総元締めと同格って事でしょ!?」

 

「……まぁ、そう言えなくもないわね。

 でも、アールグレイは聖グロ最強の隊長だけど、アールグレイの仮面を脱ぎ捨てた逸見カンナは、戦車道が強いシスコンでしかないわよ?」

 

 

 

……アールグレイさんもとい、カンナさんってシスコンなんだ。

お姉ちゃんもちょっとシスコン入ってる事を考えると、戦車女子の姉妹の姉はシスコンになるのかな?……もしもミカさんまでシスコンだったら、此の仮説は定説にしても良いかもだよ。

で、後注目すべきはパーシング率いる小隊を任されてる小隊長、アズミさん、メグミさん、ルミさんか……個々の能力で言えば天城さん達からは1枚落ちる感じだけど、此の3人が繰り出す三位一体の攻撃『バミューダアタック』は撃破率100%を誇る必殺技だから要注意だね。

 

 

 

「三位一体の攻撃……アタシャ『ジェットストリームアタック』が脳裏に浮かんだね。」

 

「会長さん、古すぎません?」

 

「種デスでも出て来たからそうでもないっしょ?」

 

「そう言われればそうでしたね。」

 

其れは兎も角、大学選抜の主要戦車と主力選手は分かったから、其れを基に戦術と作戦を考えて行こうかな――楽しむ事が一番大事な事だけど、今度の試合は全国大会の決勝以上に勝たないといけない試合だから、私の持てる力の全てを限界を超えて注ぎ込まないとだよ。

戦力差3倍の相手……となると、やっぱりフラッグ車を徹底的に狙って行くしかないだろうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:千代

 

 

さて、大洗女子学園の廃校撤廃をかけた試合が決まった訳ですが、何用ですか白神殿?

 

 

 

「いえ、此度は大洗女子学園の無茶な要求に応えて頂き感謝を……先生が了承してくださったお陰で、如何にか試合を行う事が出来そうです。

 いやはや、大洗女子学園の生徒会長から念書を突き付けられた時にはどうしようかと思いましたが、此れで何とか……」

 

 

 

心にもない事を。

私が署名捺印しなければあの念書は無効になったのだから、心底では余計な事をしてくれたと思っているくせに、マッタク持って白々しい事。

 

「まぁ、大洗女子学園の廃校には私も思う所がありましたので。

 マッタク、全国大会優勝校を廃校にするなど、一体何を考えているのですか白神殿?」

 

「先生、私とて何も考えずに大洗女子学園の廃校を進めている訳ではありません。

 彼女達には気の毒ですが、大洗女子学園の廃校は既に決まった事であり、辻局長の口約束で覆せる物ではなくなっていたのです――ですが彼女達は結果を示した。

 殆ど素人の集団が全国大会を制してしまうなど、誰も思っていなかった事でしょうが……其れを考えると、大洗女子学園の戦車隊の才能は惜しいモノです。

 なれば、廃校になってしまう彼女達の為に、せめて転校先でも戦車道が続けられる環境を用意してやるのが優しさと言うモノでしょう?

 何よりも、彼女達には無名の弱小校を優勝にまで導いた実績と、戦車道に関するノウハウがある――其れが、色々な学校に広まれば、結果として戦車道全体のレベルアップに繋がる事でしょう。」

 

「成程、一応は納得のいく理由です。

 ですが、彼女達が転校先で戦車道をやらないと言う可能性については考えなかったのですか?」

 

「え?」

 

 

 

『戦車道の全国大会で優勝すれば廃校は撤回される』、そう信じて戦って来たのに、この様な仕打ちを受けて、彼女達が戦車道を辞めてしまう可能性については考えなかったのですか?

栄光の記憶が一転して暗い記憶となったのならば、戦車道に見切りをつけてもおかしくないでしょう?

 

 

 

「その時は、無理やりにでも――!」

 

「そのような形でやらせた所で、良い結果が生まれる事はないでしょう。

 無理矢理にやらせては、必ず何処かで不満が爆発して結果を出さずに終わってしまうのは目に見えています。」

 

策を弄し過ぎましたね。

貴方がやろうとしている事は、間違いなく失敗するでしょう――大洗女子学園の相手として、私の娘の愛里寿が隊長を務める大学選抜チームを当てがったのは悪くない戦術ですが、其れで制圧できるほど大洗女子学園は、西住みほさんは甘くはありません事よ白神殿?

 

 

 

「ご、御冗談を。

 先生の御息女は、飛び級で大学まで行った天才児、隻腕の軍神などと呼ばれていても所詮は身体障碍者に過ぎない西住みほに劣るとは思えないのですがな?」

 

「そう思うのならば、一度その目を取り出して徹底的に洗ってきなさいな。

 確かに愛里寿は類稀な才能の持ち主、其れこそ10年に1人の逸材と言っても良いかも知れないけれど、西住みほさんの才能は、100年、否1000年に1人の逸材と言うレベルなの。

 今の愛里寿がみほさんに勝てる要素は何一つないわ。」

 

3倍の戦力差をもってして漸く互角と言った所かも知れないのだから。

其れを聞いた貴方は、更なる策を巡らせるのだろうけれど、その策は全て無意味に終わるわ――隻腕の軍神の覇気の前には、如何なる謀も一切意味をなさないのだから。

何よりも、みほちゃんは貴方如きが御せるような小さな器ではないのだからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

試合が決まったその日から、戦車をフェリーに積み込んで、試合会場の大洗までやって来て、明日は試合と言う所まで来たんだけど……

 

 

 

「せ、殲滅戦?」

 

「世界大会のルールは、殲滅戦で進めてるんだって。」

 

 

 

あの白髪モノクルと、戦車道連盟の会長が現れたと思ったら、今度の試合形式は殲滅戦ですって!?……いや、其れだけなら良いんだけど、殲滅戦って事は、大学選抜チームの戦車数は大洗の戦車数に合わせるのよね?

 

 

 

「いや、其れは無い。

 10対30の殲滅戦を行って貰う――此の試合をテストケースとして、世界大会の殲滅戦は数の少ない方に合わせる必要があるかどうかを検証する心算だからね。

 だが、私とて3倍の戦力差での殲滅戦が無茶でしかないと言うのは理解しているから、君達が試合を辞退すると言うのならば其れを止めはしないさ。

 だが、辞退をするのならば早めに申し込んでくれたまえよ?此方も大学選抜チームに連絡する都合があるのでね。」

 

 

 

白々しいわね此の野郎。

もっともらしい事言ってくれたけど、大洗を廃校にしたい意図が見え見えなのよこのクソモノクルが……河嶋先輩と言い、アンタと言い、モノクルには碌な奴が居ないわね?

 

 

 

「なにぃ!私をこんな奴と一緒にするな逸見!!」

 

「無理。私の中でアンタの評価最低クラスだから。」

 

「なぜだぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

考えれば分かるでしょうに……考えても分からないなら救いようが無いけどね。

だけど、マッタク持って馬鹿な真似をしたわね白髪モノクル……忠告しておくわ、大学選抜メンバーは何人かを入れ替えないといけなくなるだろうから、その準備だけはしておいた方が良いわよ。

 

 

 

「……どういう事かね?」

 

「アンタは、みほの――隻腕の軍神の逆鱗に触れたとだけ言っておくわ。」

 

「……一応、考えておきましょう。」

 

 

 

一応じゃなくてちゃんと考えておきなさい――今度の試合で、確実に何人かは戦車乗りとして再起できなくなるからね。……って、早々にタクシーに乗ってっちゃったから、多分最後のは聞こえてないわね。

 

 

 

「ねぇエリリン、今のって如何言う事?」

 

「沙織……此れは余り言いふらさないで欲しいんだけど、みほは黒森峰時代に10人の隊員を機甲科から追い出した事があるのよ。」

 

「うそ!?でも何で?」

 

 

 

まぁよくある話かもしれないけど、その日は校内の紅白戦で、みほ率いる紅組と3年生の先輩が率いる白組の対戦だったんだけど、結果だけ言うのならみほ率いる紅組の大勝利だったのよ。

其れだけなら何にも問題はなかったんだけど、白組の隊長は自分が達が負けたのはお前達のせいだって、隊長車の操縦士と砲手を務めていた1年生を虐めに等しいレベルで責めてたのよ――負けたのは己の実力不足なのにね。

 

でも、其れを見たみほは黙ってられなかった。

後輩を叱責する3年生を張り倒したと思ったら、その3年生が責めていた1年生のメンバーを庇い、その2人を自分の戦車に乗せた上での試合を申し込んだわけよ――1対10の殲滅戦をね。

 

 

 

「マジで!?結果は?」

 

「結果だけ言うのならみほの圧勝だったわ。

 罵倒されていた1年のメンバーの能力を最大限に発揮した結果、3年生のチームは何も出来ずに敗退し、負けた全員がみほとの実力差に自信を粉砕されて機甲科から去ったって言う事実があるのよ。」

 

「みぽりんマジパネェって!!」

 

 

 

其れが、西住みほなのよ沙織。

逆境であればあるほどに、みほは底知れぬ実力を発揮する戦車乗りだからね……寧ろ、殲滅戦だって言うのを聞いた事で、逆に闘気が迸っている感じだからね。

 

 

 

「10対30での殲滅戦……上等だよ、やってやろうじゃない!!」

 

 

 

――バガァァァァァァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

来たわね、軍神招来――とは違う!!

此れは、この闘気は軍神招来の其れを遥かに上回っているわ!……この闘気、如何やらみほは辿り着いたみたいね――戦車長を超えるスーパー戦車長をも越えたスーパー戦車長に!!

こうなった以上は、大洗に負けはないわね――だって、みほの怒りが遂に限界を超えたのだからね。

 

ま、覚悟しておきなさい大学選抜チームもとい、白神源一郎!

……覚醒したみほの前では、己は所詮塵芥に過ぎないと言う事を精々その身で味わうが良いわ――そして後悔しなさい、自分が一体誰に喧嘩を売ったのか、売ってしまったのかと言う事をね!

 

 

ううん、みほだけじゃない……私達に、大洗女子学園に喧嘩を売った事を後悔させてあげるわ――特に、私を、『狂犬』逸見エリカを敵に回した事を後悔させてやろうじゃない。

己の喉笛が、狂犬に喰いちぎられる事に恐怖するのね。

 

 

 

「エリカさん……試合では思い切り暴れちゃってください。」

 

「言われなくともその心算よみほ。」

 

そして、今この瞬間に私を縛る鎖は解き放たれた――其れはつまり、狂犬の牙が解き放たれたと言う事……覚悟しなさい大学選抜チーム、1匹残らず喰い殺してやるわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer153『土壇場の援軍は学園十色です』

此れは……此の援軍は!Byみほ        貴女の人徳故よみほByエリカ      此れだけの援軍、凄いですねBy小梅


Side:みほ

 

 

3倍の戦力差での殲滅戦って言うのは、流石に楽に戦う事は出来ないかな?

エリカさんは、私が黒森峰に居た頃の武勇伝を話してたけど、あの時は相手が私のチームを見くびっていたからこそ10倍の戦力差があっても勝つ事が出来たんだけど、大学選抜チームはあれよりも遥かに上の相手だから、3倍の戦力差って言うのは正直可成り厳しいって言えるかな?

尤も負ける気は無いけど、苦戦は必至かもね。

多分だけど、大学選抜は私達の戦い方を徹底的に研究してるだろうし、隊長の愛里寿ちゃんの実力は私と同等……或いは私より上かもだしね。

 

 

 

「不審者発見!此れより職務質問を開始する!――どったの西住ちゃん?眠れないの?」

 

「会長さん……はい、少し。」

 

「ま、其れもまた仕方ないか。

 また西住ちゃんに重荷を背負わせる事になっちゃったからね……何とか試合をこぎつけはしたけど、条件は可成り厳しいと思うんだ――君には苦労ばかり掛けてすまないね西住ちゃん。

 ゴメンね、其れとありがとうだ。」

 

 

 

顔をあげてください会長さん。

不利な戦いは今更です……その不利を覆すのが隊長の務めですから、私はその職務を果たす、只それだけです会長さん。

必ず勝って、大洗に戻りましょう会長さん!!

 

 

 

「あはは…発破かける心算が、逆に発破かけられてりゃ世話ねーなこりゃ。

 でも、君の言う通りだな西住ちゃん……必ず勝って、大洗に戻ろうじゃないか――勝とう、絶対に!!」

 

「勿論、勝つ心算ですよ会長さん。」

 

試合が始まる前から負けをイメージしてしまったら、その瞬間に負けが確定しちゃうからね――誰が相手でも、私は其れを倒す事をシミュレートして来たので負けのイメージは湧きませんけれどね。

何にせよ、実力のある相手との3倍以上の戦力差で殲滅戦って言うのは経験が無いけど、私は隊長としての務めを果たす、只それだけだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer153

『土壇場の援軍は学園十色です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、一夜明けて試合の日で、既に会場に来て、此れから試合前の挨拶だって言うのに……大学選抜を攻略する為の作戦が練り終わらないなんて言う事になるとは思わなかったよ。

あらゆる状況を想定して、幾つかの作戦を練って、其れを試合中に取捨選択、或いは融合させて戦うのが私流なんだけど、あらゆるフィールドの状況、大学選抜チームの戦車隊の構成、シークレット車輌の有無なんかを色々と含めたら、全国大会での黒森峰戦の時の数倍の作戦パターンが出来上がった上に、マダマダ思い付くって言うんだから此れはちょっと困ったかも。

 

「大学選抜がシークレットとしてシュトゥルムティーガーを使って来た場合は、此方の射程外からの長距離砲撃を受ける可能性があるから、その場合はパンチ力のあるティーガーⅡとポルシェティーガーで撃破に向かわせるのがベター。

 草原と高地のフィールドでは5輌位撃破したと想定した場合、遊園地に誘い込んでの疑似市街地戦……全てが巧く行ったとしても、恐らく最後は隊長車同士の戦いになるだろうから、何とかばれないように梓ちゃん、エリカさん、小梅さんのいずれかが生き残るようにして、2対1の状況に持ちこめれば勝てる。

 後はやっぱり数で劣る訳だからセオリー通りに稜線を取って、其処で数を減らすって事も考えた方が良いかも知れないかなぁ?

 私の戦い方は研究されてるだろうから、セオリー通りって言うのは逆に意表を突く事が出来るかも知れないし。」

 

「あの、西住隊長、一体何パターンの作戦を考えたんですか?」

 

「今のでちょうど200個目。

 多分あと50個は余裕で思いつくと思うよ梓ちゃん。」

 

「ドレだけですか其れ!?

 逆に言うなら、隊長が其れだけの作戦を思いつくほどに大学選抜チームは強力って言う事ですね?」

 

 

 

そうなるかな?

戦車の性能もそうだけど、先ずは隊長が良いし、天城さんとアールグレイさんが居る時点で相当だよ――調べてみたら、天城さんとアールグレイさんは、夫々の所属大学では1年生ながらエースになってるみたいだしね。

其処に所属大学が同じで連携に定評があるアズミさん、メグミさん、ルミさんの通称『バミューダ3姉妹』が居る事を考えると、此れまで戦ったドンなチームよりも強いのは間違いないよ。

 

 

 

「だからこそ、何通りもの作戦がと言う事なのでしょうけれど……そろそろ、挨拶の場所に着きますよ?」

 

「あ。」

 

作戦を考えるのに没頭してて全然気付かなかった。

だけど、此れで時間切れか……仕方ない、取り敢えず思い付いた作戦だけでやってみるしかなさそうだね――少しばかり不安はあるけど、其処は皆を信じて行くしかないか。

 

 

 

「其れでは西住隊長、挨拶前に何か一言お願いします。」

 

「時は来た。其れだけだ。」

 

「ぶふぅ!?」

 

「アレ、意外と嵌った?」

 

「ゆ、油断してた所に強烈なボディブローを喰らった気分です。

 まさか、伝説の破壊王ネタで来るとは思いませんでした……あの時、思わず吹き出してしまった蝶野さんは仕方ないと思います。」

 

「今のがモニターに映ってたら、客席の蝶野さんが思い出し笑いしてたかもね。」

 

今日も会場には蝶野さん率いる『nOs』の皆さんが来てたからねぇ……しかも今回は盟友の天才レスラーである武藤さんだけじゃなく、武藤さんの名タッグパートナーだった馳浩文部科学大臣に、馳大臣の親友の佐々木健介さんと、その奥さんである『鬼嫁』北斗晶さんの姿まであったからねぇ……随分と気合を入れてくれたみたいだから、其れには応えないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

全ての作戦を考え終わる前に試合前の挨拶となってしまったが、だからと言ってみほの顔に不安はなく、隣に立つ副隊長の梓の顔にもマッタク不安の色は見えない――隻腕の軍神と、軍神を継ぐ者は試合前の挨拶を控えて、最高の精神状態に至ったのだろう。

みほの瞳には灼熱の炎が、梓の瞳には冷たい炎が宿っている……軍神姉妹の闘気はマックス状態だと言う所だ――が、其れと対峙する大学選抜チームの隊長である愛里寿の瞳にも、雷光の闘気が宿っている。

この時点で、此の試合が激しい物になるのは目に見えているだろう。

 

先ずは両チームのオーダーを見て行くとしよう。

 

 

・大洗女子学園

 

パンターG型×1(隊長車)

Ⅲ号戦車J型改(副隊長車、L型仕様)×1

ティーガーⅡ×1

Ⅳ号戦車D型改(H型仕様)×1

Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)×1

クルセイダーMk.Ⅱ×1

38(t)改(ヘッツァー仕様)×1

ルノーR35改(R40型仕様)×1

ソミュアS35×1

ポルシェティーガー×1

 

 

・大学選抜チーム

 

A41センチュリオン×1(隊長車)

M26パーシング×24

M24チャーフィー×3

SECRET×2

 

 

戦車の性能で言うのならば大学選抜の方が上なのは間違いないが、更に其処にシークレット車輌が2輌と言う事を考えると、戦力の全てが明らかになっている大洗が絶対不利と言えるだろう。

だが、不利な状況であっても試合になったらそんな物は吹き飛ばしてなんぼだろう。

 

 

「其れでは、此れより大洗女子学園対大学選抜チームの試合を開始する。お互いに、礼!」

 

 

そして、審判団長の蝶野亜美が、試合前の礼をするように言った次の瞬間、其れは起きた。

 

 

 

「待ったーーーーー!!!」

 

 

 

物凄い大音量での『待った』の声と同時に黒森峰のティーガーⅠ2輌と、パンターG型2輌が試合会場に乱入!『Hear Comes new Challenger』ってな具合に大乱入。

そして、その戦車から現れたのは……

 

 

「大洗女子学園、西住まほ。」

 

「同じく、近坂凛。」

 

「以下18名、試合に参加する。短期転校の手続きは済ませて来た。」

 

 

黒森峰の隊長であるまほと、副隊長の凛だ。

短期転校と言う裏技中の裏技を使って大洗の生徒となり、試合開始の土壇場で助っ人に駆けつけたのだ。――しかもよく見れば、戦車に施された黒森峰の校章を消し、大洗女子学園の校章を上書きする徹底ぶりだ。

この予想外の事態に、誰よりも驚いたのは大洗女子学園を廃校にしたくて仕方ない、文科省特別顧問の白神だ。

 

 

「短期転校は兎も角、戦車まで持って来るのは違反ではないのか?」

 

「私物なんじゃないですか?私物を持って来ちゃだめってルールはないですよね?」

 

「卑怯だぞ!」

 

 

すぐさま、隣に座っていた児玉理事長に噛みつくが、児玉はそんな事には全く動じず、涼しい顔で対応する――戦車道連盟の理事長としても、大洗女子学園の廃校には思う所があるのだろう。

戦車まで持って来た事に、白神は『卑怯だ』と言うが……『卑怯だと?お前が言うなよお前がよ。』である。

 

 

「お姉ちゃん!来てくれたんだ……!」

 

「妹を助けない姉は居ないだろう?そして、私達だけじゃない。」

 

 

其れは兎も角、予想してなかった援軍に驚くみほだが、まほは自分達だけではないと言って視線を移す――と其処には……

 

 

「ハァイ!私達も転校して来たわ!!」

 

「助けに来たわよみほ。」

 

「此処からは味方だから、覚悟なさい大学選抜!」

 

 

2輌のシャーマンと、1輌のファイアフライ――サンダースからの援軍が!しかも、隊長のケイだけでなく、副隊長のナオミとアリサも一緒と言う豪華極まりないメンバーでの参戦だ。

 

 

「黒森峰とサンダースが!此れは何とかなるかも知れないであります!!」

 

 

高校戦車道4強の内の2校が援軍に来てくれた事に興奮する優花里だが、マダマダ援軍は此れだけではない。

 

 

「みほさーん!助っ人に来ちゃいましたわよ~~~!!!」

 

「此の制服も悪くないけれど、試合の時は何時ものタンクジャケットに着替えましょう。」

 

「なら、何で着たんですか?」

 

「皆、着てみたかったんだって。」

 

 

ローズヒップのクルセイダーを先頭に聖グロの助っ人部隊が現れれば――

 

 

「あぁ、もう遅れちゃったじゃない!!一番乗りしたかったのに!!」

 

「楽しみ過ぎて寝る事が出来なかったのが敗因ですねカチューシャ?」

 

「仕方ないじゃないノンナ!ミホーシャと同じチームで戦えるのよ?其れを楽しみに思わないで、何を楽しみにしろって言うのよ!!」

 

「みほさんと同じチームで戦える事が楽しみだと言う事に関しては否定しませんが、眠れなくなるほどではありませんね。」

 

「煩いわよノンナ!」

 

 

毎度お馴染みなやり取りをしながらプラウダの援軍が到着し、

 

 

 

「継続学園から転校して来ました。今日は宜しくお願いします。

 ……其れにしても珍しいね?ミカなら、助っ人に行くのをもう少し渋ると思ったんだけど?」

 

「助けるに値する相手なら、私は助っ人に向かうよアキ――みほさんの戦車道は、潰えさせるには惜しすぎる……否、日本戦車道における最大の損失だって言えるからね。

 其れを守る為に、私は風に流されて来たのさ。」

 

「随分と都合のいい風があったもんだな?ま、今回ばかりはミカに同意だけどな。」

 

 

継続のミカとアキとミッコが何時ものやり取りをしながら参戦し、この時点で大洗のチームの戦車は22輌まで増えたが、マダマダ援軍は終わらないのだ。

 

 

「は~っはっは!大洗の諸君!ノリと勢いとパスタの国から、ドゥーチェアンチョビの参戦だ、恐れ入れぇ!!」

 

「大洗のたかちゃん、助けに来たよ!」

 

「みほーーー!助けに来たぜ!!」

 

 

 

「ペパロニさん!」

 

「ひなちゃん!!」

 

 

続いて参戦して来たのはアンツィオだ。

戦力的には決して強くないが、サンダースや聖グロと違い、みほだけでなくカエサルとも交流のある生徒が居ると言うのは大きい――ならば、連携が巧い具合に繋げる事が出来るかも知れないからだ。

更に……

 

 

「助太刀に参りましたわみほさん!!マジノ学園戦車隊隊長エクレール……試合に参加させて頂きますわ!!」

 

 

マジノ学園のエクレールが、フランスの最強戦車であるARL-44と共に現れる。

パーシングをも上回るパンチ力を持つARL-44の参戦は実にありがたい事だろう。

 

 

「昨日の友は今日の盟友!知波単学園、鉄の獅子20輌到着いたしました!!」

 

「西さん、援軍は全部で20輌。貴女の所は3輌よ。」

 

「はっ!心得違いをしておりました!17輌はその場で待機!!」

 

 

加えて知波単学園から3輌が追加され、大洗女子学園の最終オーダーは――

 

 

パンターG型×3(アイスブルーカラーは隊長車)

Ⅲ号戦車J型改(副隊長車、L型仕様)×1

ティーガーⅡ×1

Ⅳ号戦車D型改(H型仕様)×1

Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)×1

クルセイダーMk.Ⅱ×1

38(t)改(ヘッツァー仕様)×1

ルノーR35改(R40型仕様)×1

ソミュアS35×1

ポルシェティーガー×1

ティーガーⅠ×2

チャーチル歩兵戦車Mk.Ⅶ×1

マチルダⅡ歩兵戦車Mk.Ⅲ/Ⅳ×1

クルセイダーMk.Ⅲ×1

M4シャーマン×2

シャーマン・ファイアフライ×1

T-34/76×1

T-34/85×1

IS-2×1

KV-2×1

BT-42突撃砲×1

CV-33型快速戦車×1

ARL-44×1

九七式中戦車×2

九五式軽戦車×1

 

となっていた。

何とも多国籍な戦車だが、援軍としては充分過ぎる――が、援軍は何も戦車だけではない。

 

 

「頑張れ大洗女子学園!!大会覇者の意地を見せてやれ~~~!!」

 

「貴女達が廃校になったら、優勝校を倒すって言う私達の目標がなくなっちゃうんだから、絶対に勝って!大人の汚い陰謀なんかに負けるな!」

 

「試合ではガチンコでやっても、試合が終われば戦車の仲間よ!

 今回は、敵も味方も関係ない!高校戦車道の誇りを守る意味でも、私達は貴女達を応援させて貰うわ!大洗ファイトーー!!」

 

「「「「「Go、Go大洗!!Go、Go大洗!!Go、Go、Let's Go Fight オーーーーーーーー!」」」」」

 

 

観客席では全国大会に出場した全ての学園が大洗の応援に駆け付け、更には全国大会で優勝する程の実力を持つ、サンダースのチア部が応援に参加し、大洗の応援を盛り上げる。

そしてそうなれば、この人が黙ってる筈がない訳で……

 

 

「ガッデーム!!アイアム、チョーノ!!

 オラァ、大洗の応援に此れだけの人が集まってくれたんだ、声出せ声!好子さん、アンタからも何か言ってくれ!」

 

「応援の迫力で、現役女子高生に負けてんじゃねぇぞ!テメェ等プロレスラーだろ!気合入れろ気合いをよ!!!」

 

 

黒いカリスマが吠えれば、なんでか参加してる好子さんもnOsの面子を鼓舞し、其の効果もあって一気に大洗の応援は熱を帯びて行く――戦いの場は北海道であるにも拘らず、フィールドの空気は完全に大洗のホームゲームと言う感じになって来たのだ。

ダージリンの狙いは大当たりだったと言う所だろう。

 

 

「皆……」

 

「其れとみほ、お前に手紙が届いていた。

 大洗が廃校になったせいで実家の方に届いたらしい。」

 

 

この応援にも感激するみほに、まほは1通の手紙を渡す。

その手紙を受け取ったみほは、封を開け、手紙の内容を読んで驚いた。

 

 

『みほへ。

 まほさんから、貴女が今とても大変な状況になっていると言う事を聞きました……本当なら、私も援軍として駆けつけたい、其れが出来ずとも客席で応援したいけれど、私が留学してる学園の学園艦は、遥か太平洋を航行中で、何方も出来そうにありません。

 だから、せめて手紙を送ります。 

 厳しい戦いだって言うのは分かり切ってるけど、貴女なら誰が相手だって勝てると、私は信じています――だって貴女は、殆ど素人の集団と言っても過言じゃない大洗女子学園を優勝させたんだもの。

 試合其の物はネット動画でしか見てないけど、あの試合は見事でした……アレが、貴女の戦車道なんですね?とても、みほらしいと思う。

 貴女が見つけた貴女の戦車道を貫けば、きっと勝てると思う――だから、頑張れみほ。

 試合会場からは遠く離れた場所からではあるけど、貴女の事を応援しているわ。

 

 遥か太平洋から信愛を込めて――中須賀エミ』

 

「エミちゃん?」

 

 

その手紙の差出人は、小学校の頃の友達である中須賀エミからだった。

時には衝突しながらも、戦車道を通じて親友となった、みほの一番最初の戦車道での親友が応援のメッセージをくれた事に、みほの感情は遂に決壊し、その瞳から歓喜の涙が零れる。

これ程までに自分達の事を応援してくれる人が居ると言う事に、感激しない方がおかしいだろう。

 

だが、其れでも空気を読まない奴と言うのは存在するものだ。

 

 

「試合前の助っ人は違反じゃないのか!!」

 

 

其れは言うまでもなく白神。

大洗を廃校にしたくて仕方ない者からすれば、此の援軍は認める事の出来ないモノだ。大洗を廃校にしたくて仕方ない者からすれば、此の援軍は認める事の出来ないモノだ。大事な事なので2度言いました。

 

 

「其れに異議を唱える事が出来るのは、相手チームの隊長だけです。」

 

 

審判長の蝶野亜美は、涼しい顔で其れを聞き流し、大学選抜チームの愛里寿に『如何するの?』と言わんばかりの視線を向ける――少しばかり挑発的な視線が混じってるのは、『島田流の跡継ぎが異を唱えたりしないでしょ?』と言った意味合いがあるのかも知れない。

 

 

「構いません。受けて立ちます。」

 

 

その視線を受けた愛里寿もまた、ひるむ事無く大洗の援軍を是とし、みほに右手を差し出す――試合前の握手と言う事だろう。

 

 

「貴女の事は姉様とお母さまから聞いてる……良い試合にしましょう、西住みほさん。」

 

「うん……最高の試合をしよう愛里寿ちゃん。」

 

 

涙を拭ったみほは、差し出された右手をガッチリと掴んで試合前の握手。

 

 

「其れでは改めて、此れより大洗女子学園と大学選抜チームによる試合を開始する!お互いに、礼!!」

 

「「「「よろしくお願いします!!!」」」」

 

 

そして、改めて蝶野亜美の号令をもって試合開始が告げられた。

大洗女子学園――否、高校選抜と言っても過言ではない大洗連合軍と大学選抜チームの試合の火蓋は、此処に斬って落とされたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

あはは……まさか、お姉ちゃんをはじめとして、此れだけの援軍が来てくれるとは思わなかったよ――でも、これで数は対等になったから、考えた作戦の幾つかは不要になったかな?

試合開始前のブリーフィングで、新たな作戦が出来るかも知れないけどね。

 

 

 

「西住殿!」

 

「如何したの優花里さん?何かあった?」

 

「はい!とても重要な事です!!」

 

「とても重要な事?何かあった?」

 

「あのですね西住殿……此の試合は、全国大会以上に勝たねばならない試合であります――なので、あんこうチームは、武部殿を残して全員パンターからは降りるであります!!」

 

「……はい?」

 

ちょ、ちょっと待ってよ優花里さん!

確かにこの試合は絶対に負ける事は出来ないけど、だからってなんで沙織さん以外のメンバーがパンターから降りるって言う事になるの!?

って言うかそんな事になったらパンターを動かす事が出来ないんだけど!?

 

 

 

「だから、パンターにはアタシ等が乗るぜみほ。」

 

「マッタク、行き成りパンターに乗ってくれって言うんだから驚いたわ。」

 

「久しぶりのパンターの操縦士、腕が鳴りますわ!!!」

 

「ペパロニさん、ナオミさん、ローズヒップさん!?」

 

優花里さん、まさか!!

 

 

 

「そのまさかであります。

 確かに我々大洗は、この短期間に目を見張る程の成長を遂げましたが、パンターの運用に関しては、僅か3ヶ月ちょいの我々よりも、中学で3年間も西住殿とパンターで戦っていたナオミ殿達の方が上だと思いましたので、パンターのクルーになってくれるようにお願いしたのです。

 其れに、中学戦車道の伝説となっているアイスブルーのパンターを完全復活させるのも良いと思いましたので。」

 

「でも、それで良いの優花里さん、華さん、麻子さん?」

 

「良いも悪いもないであります!大洗がなくなってしまっては駄目です!その為ならば、他のチームへのコンバートなど些細な事です!」

 

「ファイアフライは、中々に刺激的な砲撃が出来そうなので楽しみです。」

 

「クルセイダーは扱い辛そうだが、だからこそやりがいもあるってモンだ――私達の事は気にせず、西住さんは西住さんのやりたいようにやってくれ……そっちの方が私達もやり易いからな。」

 

 

 

麻子さん……そうだね。

だけどまさか、此の試合で中学時代の青パンターチームが再結成されるとは思わなかったよ――でも、アイスブルーのパンターに原初のメンバーが搭乗した以上は負けは絶対に有り得ない!!

行こう、ペパロニさん、ナオミさん、ローズヒップさん!!

 

 

 

「ペパロニじゃねぇ……今のアタシは青パンターの装填士の辛唐青子だ!!」

 

「同じく砲手の吉良ナオミよ。」

 

「操縦士の野薔薇つぼみです事よ!!」

 

「つぼみ、口調が戻ってねぇぞ?」

 

「お~っほっほ、2年も聖グロにいた事で、此の話し方がすっかり地になっちまってんですのよ青子さん!!」

 

 

 

アハハ、つぼみさんは何と言うか……でも、夫々のソウルネームじゃないって言うのなら、本当にあの頃のチームが再結成されたって事だね?

まさか、あのチームがこんな形で再結成されるとは思っても居なかったけど、この再結成のおかげで私の不安要素は全て消し飛んだ――この面子が揃ったら絶対に負けないって言えるからね。

期せずして再結成された伝説とも言われている青パンターチーム――其の力、久々に振るわせて貰うよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer154『いざ、大学選抜戦!本気で行きます!』

始めようか、大洗の未来を決める一戦を!Byみほ        大洗の未来、勝ち取って見せる!Byエリカ      必ず勝ち取りましょう!By小梅


Side:エリカ

 

 

まさか、此の土壇場で伝説の青パンターチームが再結成されるとは夢にも思ってなかったわ。

中学戦車道を席巻した伝説のチームが再結成された以上、私達が負ける要素は、1%もなくなったわ!――隻腕の軍神が最高のパフォーマンスを発揮出来る面子が再集結したのだからね!

 

 

 

「伝説の青パンターチーム……確かに凄い面子が揃ったって言うのは分かるんだけど、そんなに凄いのエリリン?」

 

「凄いなんてものじゃないわよ沙織。

 みほ、ナオミ、青子、つぼみが揃った青パンターチームは、中学時代に1年生の頃から隊長車を務め、公式試合で負けたのは1度だけ。

 其れも、1年の時に大会の準決勝で黒森峰の中等部を相手にして、最後の最後で倒れてきた木を避けようとしたから負けたって言う、完全に運が無かったとしか言いようがない理由での負け。

 アレが無かったら、多分黒森峰は負けてたわ。」

 

「うっそ、マジで!?」

 

「大マジよ。」

 

で、翌年の大会では準決勝で黒森峰を破った安斎さん率いる愛和学院を下して優勝し、その次の年は私が隊長を務めた黒森峰と引き分けてのダブル優勝。

西住本家で行われた明光大付属中と黒森峰中等部の合同合宿での模擬戦でも無敗……あの青パンターチームは、正真正銘の最強チームって訳よ。

 

 

 

「すご!っていうか、黒森峰を下した愛和学院も凄くない!?隊長の安斎さんって何者!?」

 

「今のアンツィオの隊長。」

 

「うっそーーーーー!?」

 

「ま、その反応が当然よね。」

 

ともあれ、あの青パンターチームは言い方は悪いけど規格外の化け物チームって訳――だから、通信士として残る貴女も頑張りなさいよ沙織?

あの面子が揃った状態のみほは、ハッキリ言って全国大会の時の倍は凄いから、尋常じゃない速さで指示が飛んでくると思うからその心算でいた方が良いわ。

 

 

 

「何時もの倍って本気で!?やだもーーーー!!」

 

「はい、名台詞頂きました~~。」

 

結成するのは2年ぶりで、それぞれが別の学校で個々の能力を磨いて来た事を考えると、嘗ての様な連携をとるのは難しいって考えるのが普通でしょうけど、あのチームに限っては其れは当て嵌まらない。

寧ろ、中学時代よりも遥かに凄い力を発揮してくれる、そう思えてならないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer155

『いざ、大学選抜戦!本気で行きます!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

予想外の援軍には驚いたけど、此れで車輌数の不利は無くなったから、作戦も立てやすくなったよ――こっちの戦車はモノの見事に統一感が無いけど、逆に夫々の個性を生かした戦術を執る事が出来るって事を考えれば、切れる手札は大学選抜チームよりも多いと言えるね。

 

そんな訳で試合前の作戦会議。

参加するのは私と梓ちゃんとエリカさんと小梅さん、其れから援軍に駆けつけてくれた各校の隊長さん達……改めて見てみると、戦車道ファン垂涎の豪華な面々だよね此れ。

 

 

 

「豪華極まりないと思います西住隊長。

 今年の高校戦車道大会に出場した学校の隊長陣は、戦車道ファンの間では『黄金世代』って言われている位言われてる位ですから。」

 

「黄金世代とは、随分だね?」

 

でも確かに其れは言えてるかも。

私は無名の大洗女子学園を優勝させたし、お姉ちゃんは常勝不敗の絶対王者黒森峰の隊長、ケイさんは相手がどんな姑息な手を使って来たとしても、あくまでフェアプレイを貫いた上で勝つし、ダージリンさんは相手の策に付き合う事無くスマートに勝利を収める隊長で、カチューシャさんは一見暴君に見えるけど、その実は誰よりも仲間の事を考えて、その仲間の為に勝利を手にしようとする勝利に貪欲な戦車乗りだし、エクレールさんは、伝統に固執してたマジノの改革を成功させて、マジノの新たな戦車道を切り開いた革命家、ミカさんはトリッキーな戦術で黒森峰とも互角に戦う事が出来るし、西さんは大会後にクーデターを起こしてまで知波単の改革に乗り出した傑者、アンチョビさんに至っては、お姉ちゃんが唯一己のライバルと認めた実力者であると同時に、壊滅状態だったアンツィオの戦車道を立て直した上に、今年の大会では改革直後のマジノを下したって言う凄腕隊長だからね……戦車道ファンが黄金世代って言うのも納得出来るよ。

 

でも、だからこそ、その黄金世代が集結したこのチームで大学選抜チームに負ける訳には行かないね!何よりも、大洗女子学園の命運は、私達にかかってるんだから!!

 

 

 

「そうだな、必ず勝たねばならない試合だ。

 だが、相手は社会人のプロチームですら倒してしまう大学選抜チーム……しかもその隊長は、島田流の後継ぎと来ている――確実に実力では向こうの方が上だが、如何戦う大隊長?」

 

「お姉ちゃん、大隊長って!?」

 

「大洗女子学園の戦車隊の隊長はお前だろうみほ。

 ならば、このチームの大隊長にして総司令官はお前だ。」

 

 

 

そ、其れは確かにそうなんだけど、このそうそうたるメンバーの大隊長って言われると、流石にちょっと緊張するかな?

でも、確かに大洗の隊長は私だから、短期転校って裏技を使って、助っ人に来てくれた皆が大洗女子学園の生徒になってる以上、私が大隊長を務めるのは道理だね。

なら、大隊長としての責務をキッチリ果たさないと!

 

では、まずチームの編成ですが、部隊を3つの中隊に分けます。

私とアヒルチームとカモチームとレオポンチームとアリクイチームに、ダージリンさん、ルクリリさん、麻子さんがつぼみさんの代わりに操縦するクルセイダー、アンチョビさん、ミカさんの第1中隊。

第1中隊の隊長は私が勤めますが、副隊長をお願いしても良いですかダージリンさん?

 

 

 

「其れは光栄だけれど、アンチョビさんやミカさんが副隊長でなくてもいいのかしら?」

 

「アンチョビさんとミカさんには、場合によっては別行動をお願いする事があるかも知れませんので、そうなった時には副隊長の務めを果たす事が出来なくなってしまいますから、其れを考えるとダージリンさんが副隊長として最適なんです。」

 

「成程ね……なら、そのラブコールには応えないと。副隊長の任、拝命させて頂きますわみほさん。」

 

「はい、頼りにしてます!」

 

続いて第2中隊は、ライガーチームととカバチームとカメチームに、お姉ちゃん、カチューシャさん、ノンナさん、クラーラさん、ニーナさん、直下さんと狭山さんの第2中隊。この中隊の隊長は、お願いして良いかなお姉ちゃん?

 

 

 

「その大任、謹んで承ろう大隊長殿。」

 

「ちょっと待ちなさいよ!なんでカチューシャが隊長じゃないの!」

 

「カチューシャさんには副隊長をお願いしたいんです。其れが、此の部隊のポイントでもあるので。」

 

『船頭多くして船山に上る』との言葉があるように、隊長が多くてもいい結果は生まれませんが、普段は隊長を務めている優秀な戦車乗りが副隊長となった時には、途轍もない力を発揮してくれるんじゃないかと思いまして……その役目を任せられるのはカチューシャさんしかいないと思ってカチューシャさんには副隊長になって貰いたかったんですよ。

 

 

 

「そう言う事なら仕方ないわね!

 同士であるミホーシャにそう言われたら断る事は出来ないわ!隊長じゃないって言うのはちょ~~~っと不満だけど、ミホーシャがそう言うのなら、副隊長で我慢してあげるわ!」

 

「……分かり易い程に単純ねカチューシャ隊長は……」

 

「こんな言葉を知っている?『本質を見極めた人はシンプルに考える』。」

 

「LINEの社長だった森川亮さんだね?……其れが絶対的に正しいとは思わないけれど、一つの正論であるとは評価できるかな。」

 

 

 

正しいとは思えないけど、正論として評価できるってどっちですかミカさん……取り敢えずカチューシャさんが納得してくれたみたいなので、第2中隊はOKと。

第3中隊はウサギチームとオオワシチームに近坂先輩、ケイさんとアリサさん、其れから華さんが乗り込んだファイアフライ、西さん、玉田さん、福田さん、エクレールさんで。

第3中隊の隊長はケイさんにお願いします。

 

 

 

「OK、任されたわみほ!其れで副隊長は?」

 

「逆に聞きますけど、ケイさん的には誰が副隊長だったら一番やり易いですかね?」

 

「其れは勿論アズサよ!

 リンもキヌヨもエクレールも、勿論優秀な戦車乗りではあるけれど、アナタの一番弟子であるアズサが私的には一番やり易いって思うのよね。

 貴女の副官として成果を上げたアズサなら、きっと最高の副隊長を務めてくれると思うし?」

 

「あの、私で良いんでしょうか?」

 

「ケイ殿は、貴女で良いんじゃなくて、貴女が良いと言ったのです澤殿。

 私でも、エクレール殿でもなく、自分の中隊の副隊長は澤殿が良いと仰ったのです!ならば、其れには応えるべきであるかと!」

 

「西さん……はい、そうですね!ケイさん、副隊長務めさせていただきます!」

 

「OK、Great!」

 

 

 

梓ちゃんの実力は疑いようもないけど、ケイさんが副隊長に任命する程だったとは――冗談抜きで、此れは嬉しい事だよ。ケイさん程の戦車乗りが、梓ちゃんを副隊長に選ぶって言うのは相当だからね。

 

 

 

「さて、これでチーム分けは完了した訳だが、各中隊の名称は如何する?」

 

「私が『タンポポ』、お姉ちゃんが『ひまわり』、ケイさんが『アサガオ』で如何でしょう?」

 

「花の名前、其れも特別可憐な花ではなく、誰もが知っている花の名前と言うのは分かり易くてよろしいのではないかしら?

 大洗のチーム名に通じる親しみ易さも、私達大洗連合軍にはピッタリだと思いますわ、みほさん。」

 

「Excellent!良いと思うわみほ!其れで行きましょう!皆も其れで良いわよね?」

 

「はい、異論はありません!」

 

「ちょ~~っと迫力がない気もするけど、複雑で覚えにくい名前を付けられるよりも遥かに良いわ!其れで行きましょう、ミホーシャ!」

 

「名前など、所詮は記号に過ぎないが、このセンスは悪くない。同意させて貰うよ。」

 

「おい、こう言う時くらいは普通に賛同するもんだぞミカ?あ、私は異存はないぞみほ!」

 

「分かり易く、かつ呼びやすい部隊名、良いと思いますわみほさん。」

 

「満場一致だな。」

 

「うん、其れじゃあ各部隊名は此れで。続いて作戦なんですが……」

 

手札が増えた事で取れる戦術の幅は大きく広がったし、大学選抜チームが島田流を基本のドクトリンだとした場合の戦術は99%出来上がってるんだけど、大学選抜チームの2輌のシークレットが不安要素なんだよね?

エリカさん、此の試合の直前に認可された新たな戦車って何が有るか分かったかな?

 

 

 

「ダメね、分からないわ。

 連盟の公式ホームページを調べてみたけど、『使用可能戦車一覧』の中に、Newマークの付いてる戦車は無かったわ――だけど、あの銀髪モノクルが大学選抜が有利になるように仕向けない筈がない。

 恐らくだけど、試合が決まった時点で何らかの強力な車輌を大学選抜側に引き渡しておいて、連盟のホームページの更新が間に合わない様な試合ギリギリのタイミングでその車輌を認可した可能性は高いわよ。

 戦車道に使える戦車の認可を行ってるのは、文科省なんだから、あのクソオヤジなら其れ位の腹芸は朝飯前だと思うし。」

 

「ヤッパリ分からないか……エリカさんのその仮説は、多分花丸の大正解なんだろうなぁ。」

 

机上の空論でしかないラーテやモンスターも、固定砲台として使って使えない事は無いから、細かい狙いを付ける事を度外視して、私達の部隊の上から砲弾が降るように攻撃すれば、其れはとても強力な攻撃手段になるからね。

流石にそんな物が2輌とは考えられないから、シークレットの1輌は真面に使える戦車だとは思うんだけど、相手の全戦力が明らかじゃないのならば、其れを明らかにするための作戦を立てた方が良いよね。

 

 

 

「態々シークレット車輌を用意して来るなんて、きっと自信がない証拠よ!

 そんな連中なんて恐れる事ないわ!3つの中隊で包囲して、3方向からの波状攻撃で一気にやっつけてやりましょ!」

 

「いいえカチューシャ、此処はひまわりとアサガオで両脇からプレッシャーをかけて、タンポポが中央から攻めるのが良いんじゃないかしら?

 3方向からの波状攻撃よりも、左右からの挟み撃ちの方が相手部隊を横に長く展開させられるから、結果として隊長車の前後の守りが手薄になってしまうと思うから。」

 

「此れだけの戦力が揃っているのですから、その戦力を最大限に生かして、全軍正面からの突撃が有効ではないかと!!」

 

「有効な訳ないだろ馬鹿!そんな事をしたら速攻で返り討ちに遭うぞ!

 此処は矢張り、シークレット車輌を明らかにするためにも、各中隊から小回りの利く戦車を選抜して、偵察用の小隊を結成するのが良いと思う。」

 

「其の案は悪くないぞ安斎。

 だが、此のチームでは偵察用小隊の存在を紛らわす事の出来る堅くて強い戦車がそれほど多くないのが難点だが……其処は戦術と腕か?」

 

「アンチョビだ!!

 オイ、ミカは如何考える?」

 

「作戦、其れは重要なモノかな?」

 

「「重要に決まってるでしょう!」だろうが!!」

 

 

 

ミカさんの毎度の物言いに、思わずアンチョビさんとシンクロ……レベル4のアンチョビさんに、レベル4の私をチューニングって言う感じのシンクロ召喚だったね。

あの、エクレールさんは何か提案とか有りますか?

 

 

 

「大艦巨砲主義。」

 

「エクレールさん、貴女が何を言いたいのか分からないよ。」

 

「冗談ですわみほさん。

 そうですね……相手が未知の戦力を保有している以上は、此方から無理に攻めるよりも、序盤は防衛線に徹して相手のシークレットが何であるかを明らかにし、明らかになったら其れの撃破を最優先にと言うのが良いと思いますわ。

 無論、その過程で何輌かの味方が撃破される事は考えなくてはなりませんが、其れは勝利の為の犠牲と考えましょう――余り、好きな言葉ではありませんが。」

 

「ボケ倒した後の、真面な意見にちょっとビックリです。」

 

だけど、出てきた作戦案はものの見事にバラバラで、正に混沌のChaosDimension……此れだけバラバラの意見が出る中で、特定の誰かの戦術を採用したら、絶対に反発が起きるから、私の作戦と擦り合わせをしつつ、巧く選ばないとだね。

 

 

 

――『CPG設定完了。

  ニューラルリンゲージ、イオン濃度正常、メタ運動野パラメーター更新、原子炉臨界パワーフロー正常、全システムオールグリーン。』

 

 

 

……はい?

 

 

 

「あ、ゴメン私のスマホだわ。」

 

「エリカさん、何で其れを着信にしたし。」

 

「着ボイスで見つけたからつい。保志ボイスだしね。」

 

 

 

理由が今一よく分からないけど、試合前のミーティングの時に電話を掛けてくるなんて、相手は一体誰?――このタイミングで電話をかけて来るなんて、少しどうかと思うんだけど?

 

 

 

「其れは仕方ないわみほ、相手は姉さんだわ此れ。」

 

「エリカさんのお姉さんって、アールグレイさん?」

 

「アールグレイ様からお電話ですの!?」

 

 

 

まさか、アールグレイさんから電話が来るとは……エリカさん、通話はハンドフリーでお願いできるかな?

そうすればアールグレイさんの声が、此の小屋にいる全員に聞こえるし、一体何を思って電話をかけて来たのか、その意図を掴む事が出来るだろうから。

 

 

 

「勿論その心算よ。

 マイクをスピーカーモードにして……はいはい、試合前のミーティングの時間に何の用なの姉さん?」

 

『ヤッホー、試合前でも元気そうで安心したわエリちゃん。

 いや~~、さっきの光景は驚いたわ――まさか、名のある高校が大洗の援軍に駆けつけるとは思ってなかったからね~~?此れも、みほちゃんの人徳のなせる業って所なのかしら?』

 

「さぁね……で、何の用?雑談をしに来たって訳じゃないんでしょ?」

 

『当然よ。

 とても大事な話があったから掛けたんだけど、エリちゃん今って通常通話モード?其れだったら、皆に聞こえるスピーカーモードにして貰える?』

 

「……姉さんからの着信があった時点で、スピーカーモード1択でしょう普通に。」

 

『アハハ、大学選抜のメンバーからの着信があったとなれば当然だよね其れ。

 って、事は私の声は大洗連合の皆に聞こえてる訳だ?お~い、聞こえてるかダージリン?今年の準決勝は惜しかったね……正直言うと、貴女がまほちゃん相手にあそこまで食い下がるとは思ってなかったわ。

 負けはしたけれど、聖グロの戦車道を最後まで貫いた見事な試合だったわよ。』

 

「あ、アールグレイ様!そのようなお言葉を頂けるとは、恐縮です。」

 

 

 

流石のダージリンさんも、先代隊長のアールグレイさんの前では畏まっちゃうんだね……聖グロ史上2人しか名乗った事のないノーブルネームであるアールグレイの1人の前では仕方ないのかもしれないけど。

其れでアールグレイさん、大事な話とは何でしょう?

 

 

 

『その声はみほちゃんね?お久しぶり。

 大事な話って言うのは、大学選抜が使ってるシークレットの1つについてよ。――1輌は超絶堅くて超絶強い重戦車なんだけど、それ以上にヤバイのがもう1輌の方なのよ。

 搬入の際にちらっと見えただけだから何であるのかまでは特定できなかったけど、アレは間違い無く普通に考えたら『戦車』には定義出来ない車輌だと思うわ。』

 

「戦車には定義出来ない車輌って…………一体何なの姉さん?」

 

『分からない。

 だけど、あれが明らかに戦車道に於けるぶっ壊れ性能である事は間違いない――だから、その超兵器が設置されているであろう場所をメールで送るわ。』

 

 

 

戦車には定義出来ない車輌……そんな物が認可されてるなら、確かに其れは言語道断!

戦車道に、戦車以外の車輌を持ち込むのはルール違反以外の何物でもないし、認可されてるからと言って其れを使って勝った所で、本当の意味で勝ったとは言えない――真っ先に撃破しないとだね。

 

 

 

『此れがその化け物の居る地点で間違い無いと思う。

 そいつを撃破しに来るなら、私達に連絡を入れて――此れを撃破する為に力を貸してあげるわ。』

 

「ちょ、そんな事して良いの姉さん!?」

 

『普通は駄目だけど、其方が来てくれれば偶然を装っての攻撃は可能になるわ。

 混戦の状況になれば、例え味方を誤射しても、混戦故のフレンドリーファイヤーだって言う事も出来るしね――天城も私の案に同意してくれてるから、その場所にいる化け物を倒すなら、必ず私か天城に連絡を入れなさい?良いわね?』

 

 

 

了解しましたアールグレイさん。

まさか、スマホを使って堂々の裏切り宣言をしてくるとは思わなかったけど、アールグレイさんのおかげでシークレットの1輌が可成りヤバい車輌だって言うのは分かったから、先ずは其れを如何にかするのを最優先にして作戦を立てるのがベターだよね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

そして考える事3分!此の試合での基本作戦は、此れで行こうと思うんだけど如何かな?

 

 

 

「Great!凄いはみほ、よくもまぁ、こんな大胆な作戦を思いつくモノだわ!隻腕の軍神の名は伊達じゃないわね――大学選抜チームのシークレットの詳細は明らかではないけど、この作戦なら、其れを明らかにする事が出来ると思うからね。」

 

「良い作戦だと思うぞみほ。寧ろ状況を考えれば、これ以上の策はないだろう。

 となると、後は作戦名だが、中々にパンチのある作戦なので、『スパイシービーフカレー作戦』で如何だろう。」

 

 

 

――ドンガラガッシャーン!!

 

 

 

「ん?如何したんだ皆揃って?」

 

「いや、お前のせいだろ西住!何をナチュラルにボケかましてるんだ!!」

 

「いや、ボケではなく本気だぞ安斎?」

 

「なお悪いわ!!」

 

「あはははは……此れがホントの天然ボケって言う奴なのかなぁ?」

 

作戦其の物は問題なかったみたいだけど、お姉ちゃんが提案した作戦名に私を含めた全員がずっこけた!って言うか、此れはずっこけても仕方ないと思うようん。

お姉ちゃんがこんなナチュラルにボケをかましてくるとはだれも思わなかっただろうからね。

えっと、他に案はあるかな?

 

 

 

「此処はボルシチ作戦でしょう!!」

 

「そうか?3つの中隊でやるんだ、3種のチーズピザ作戦だろう?」

 

「いいえ、此処はフレッシュトマトとシャキッとレタスとカリカリベーコンが美味しいBLTバーガー作戦よ!」

 

「ハンバーグとマッシュポテト作戦!」

 

「梅干し、塩鮭、昆布はおにぎりの三種の神器作戦!!」

 

 

 

再び発生したChaosDimension……まさか、エリカさんと小梅さんも参加するとは思わなかったけど、ドレも全部却下!只単純に、自分の好物を作戦名にしただけでしょう此れは!!

其れは流石に如何かと思うので、私から作戦名を発表します!!

本作戦は『ピンポイントボコボコ作戦』で行こうと思いますが、如何でしょう?

 

 

 

「大学選抜のヤバいのを真っ先に撃破する為の作戦――其れを体現したかのような作戦と作戦名……良いんじゃないかみほ?」

 

「良いんじゃない?作戦名通りにボッコボコにしてやろうじゃない!!」

 

「OK!この作戦名でKOね!!」

 

「良い作戦名だけれど、逆にボコボコにされないように気をつけないとね?」

 

「だから、なんでお前はそう言う事を言うかなぁ?」

 

「フフフ、ミカさんらしいと言えば其れまでですわね……其れは其れとして、その作戦名で宜しいかと思うわ。」

 

「私もダージリン様同様、異論はありませんわみほさん。」

 

「勝利の為に、先ずは一番の脅威をボコボコにして使い物にならなくする!故にこの作戦名が一番かと!!」

 

「其れじゃあ、満場一致で『ピンポイントボコボコ作戦』に決定で!」

 

さてこれで試合前にやるべき事は全てやった――後は試合で大学選抜チームに勝って、大洗女子学園を取り戻して、皆で学園艦に帰るだけ!

大学選抜チームに、何を渡したかは知らないけど、戦車に定義出来ない物を持ち出した時点で、貴方の負けだよ文科省の特別顧問さん――戦車道の真髄が何であるのか、其れを理解していないんだから。

此の試合で、戦車道が如何言うモノなのかを、確りとお勉強して貰おうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer155『vs大学選抜!究極の対決です!』

先ずは序盤戦……如何しようかなByみほ        初っ端から仕掛けるのも良いんじゃない?Byエリカ      大洗連合の底力見せてあげましょう!By小梅


Side:みほ

 

 

予想外のアールグレイさんからの情報のおかげで、大学選抜チームが戦車とは言えない様な、戦車道では違法としか言えない兵器を持ち出して来た――と言うか、略間違い無く文科省の白髪モノクルから押し付けられたものを使用してるから、其れが何かを明らかにする為の作戦を考えたんだけど、改めて見ると此れだとひまわりの負担が大きいかな?

 

 

 

「この程度の負担はマッタク持って問題ないから任せてくれみほ。

 相手は格上の大学選抜チーム、此れ位の負担は想定の範囲内だ……恐らく、私だけでなく此処に集まった皆が、多少の負担や無茶は想定の範囲だと思っているだろうさ。

 と言うか、そもそもにしてお前と一緒のチームで戦うのならば、一般的な戦車道の常識など宇宙の彼方のブラックホールに蹴り飛ばしてしまえだからね。

 みほの戦車道に、戦車道の常識は通用しないからな。」

 

「It's so!常識をぶち抜いた、エキサイティングが戦車道がみほの戦車道だからね!」

 

「みほさんの戦車道には、戦った相手を魅了する不思議な力があります――今や聖グロリアーナの9割が貴女のファンになってるわ、みほさん。」

 

「ファンになってるようじゃ甘いわダージリン!

 ミホーシャは、我等プラウダの同志なのよ!!」

 

「同志か……でも、ファンと同志の境は一体何処にあるんだろうね?」

 

「言うだけ無駄かもしれないけど、その斜に構えた姿勢は如何にかならないのかミカ?」

 

「私達は大洗の助っ人として駆けつけました――であるのならば、多少は無茶な命令でも遂行いたしますわみほさん。」

 

「皇国荒廃在日一戦!各員一層奮励努力!でありますな西住隊長!!」

 

「ちょっと違う気もするけど、大間違いではないね西さん。」

 

確かに今の大洗には後が無い――戦艦だったら後がない事を示す『ツェット旗』を上げてる所だけど、戦車ではそれが出来ないんだけど、態々伝えなくても、後が無いのは誰もが分かってる。

だから、後はドレだけ気合をもって戦えるかだよ……だから、改めてお願いします、皆さんの力を大洗に貸して下さい!!

 

 

 

「「「「「「「「異論無し!」」」」」」」」

 

「其れじゃあ行きますよ?大洗――」

 

「「「「「「「「ファイ、オー!!」」」」」」」」

 

 

 

円陣を組んで、気合入れ!そのお陰でコンディションはバッチリ!……高校戦車道の絆で生まれた大洗連合チーム、Panzer Vor!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer155

『vs大学選抜!究極の対決です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

土壇場での予想外の援軍と言うハプニングはあったモノの、大学選抜チームの隊長である島田愛里寿が、大洗の援軍を是とした事で事態はスムーズに進み、試合前のミーティングを経ていざ試合開始。

 

 

「此方タンポポ、其方はどのような状況ですか?」

 

『こちらひまわり。

 目標地点に敵影無し。これより予定通りに稜線を取りにかかる。』

 

「了解しました。

 ですが、相手は社会人のプロチームですら倒した実力者の集団ですので、くれぐれも気をつけて――兎に角『        』する事だけに集中して下さい。」

 

『了解した。』

 

 

此の試合で先に動いたのは大洗連合だった。

大隊長であるみほの作戦の下、まほ率いるひまわり中隊は試合開始時の初期フィールドである草原と林のフィールドを進み、小高い丘の麓に到着していた――この様な丘があるフィールドでは、稜線を取った方が絶対有利の定石に則り、先ずはこの稜線を抑えに来たのだ。

定石通りに行くと言うのはみほらしくないかも知れないが、ひまわり中隊を率いてるのがまほだと言うのを考えればある意味で最高の作戦であると言えるだろう。

みほが定石無視、常識不要の、悪い言い方をすれば滅茶苦茶な戦車道をするのに対して、まほは生粋の西住流であり、今年の大会では『悪役』に徹した事も有って褒められた戦い方ではなかったが、本来の戦い方は『生きる戦車道の教科書』とまで言われる程の見事な正当ドクトリンの集大成とも言えるモノだ。

つまり、ひまわり中隊には敢えて定石通りに動いて貰った方が、まほの力を最大限に発揮できるとみほは判断したのだろう。――尤も、みほが其れだけを考えている筈がない。

 

 

「アサガオの方はどうですか?」

 

『No problemよみほ。

 予定通り林の中に到着したけど……Wao、此れは予想外。こっちからは敵さんが丸見えだけど、この林の中に紛れてたら敵さんからは分からないわよ多分。』

 

 

ひまわり中隊とは別に、ケイ率いるアサガオ中隊を林の中に進軍させ、大学選抜の一つの中隊の横っ腹に配置する――大学選抜中隊長であるメグミ率いる中隊の横っ腹にだ。

メグミはサンダースの出身であり、1年生として入学して来たケイの才能に一早く気付き、サンダースの戦車道をケイに叩き込んだ人物であるが、其れだけにケイはメグミの戦い方を熟知している――ケイのアサガオ中隊が、メグミの中隊の横っ腹に付けたのは完全に偶然であるが、ケイにとっても期せずしての師弟対決となった構図は、或いはみほが隊長を務めていたから起こった事なのか。

何れにしても、この展開に燃えないケイではない。

 

 

『ねぇみほ、まほを援護する為に足止めをしろって事だったけど……別に倒しちゃっても構わないのよね?』

 

「アーチャー乙。ですが、倒してしまっても構いません。」

 

『なら、やらせて貰うわ!!』

 

 

キューポラから上半身を出すどころか、回転砲塔に腰かけると言う大胆なスタイルのケイだが、みほから『可能なら倒しても問題ない』と言われて俄然やる気に火が点いたらしく、普段はフレンドリーなその瞳に闘気の炎が宿る。

その性格から、フレンドリーで親しみやすいイメージのケイだが、その本質は勝敗よりもドレだけ心躍る戦車道が出来るかを重視する戦車乗りであると同時に、戦車道を楽しむ為ならば多少の無茶は辞さない豪傑でもあるのだ。――今年の大会で、アリサの無線傍受の代償に、大洗と同数の戦車で戦う事を決めたのがいい例だろう。

そんなケイにとって、師であるメグミとの対決は心躍る事この上ない……瞳に闘気の炎が宿るのは、必然だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、大学選抜チームの隊長である島田愛里寿は、大洗の部隊展開に疑問を抱いていた。

大学戦車道では普通に使用されているタブレット端末によって、大洗の部隊展開は丸分かりだったのだが、その部隊展開が林と草原に丘が存在するフィールドでの定石通りに稜線を取りに来た事が気になったのだ。

みほの試合を直接会場で見た事は無いが、愛里寿は母である千代から『後学の為に』と、みほの試合のVTRを幾つか見せられて居る。

それ等は中学時代、黒森峰時代、そして現在の大洗と様々ではあるが、試合のVTRを見た愛里寿のみほに対する印象は『定型が存在しない、型破りな戦車道を行う人』であった。

ルール違反は一切ないものの、落とし穴を作って相手戦車を其処に落としたり、相手の戦車をバンカーに誘導して動きを封じると言った、ある種の罠に嵌めるだけでなく、発煙筒や閃光弾を使っての目暗ましを使ったり、信号や歩道橋を砲撃して敵戦車の上に落とすのは得意技、相手の作戦を逆利用するのは上等で、戦車の偽装&隠れ兵の裏技も豊富で、挙げ句の果てには自身の車輌で相手の戦車を押し潰す反則ギリギリの技まで使うと言う、型破りな戦車乗りであるみほが、定石通りに稜線を取りに来たのだから気になるのは仕方ないだろう。

 

無論、みほは裏技上等の型破りな戦車道だけでなく、正統的な西住流戦車道も行えるので定石通りに来る可能性が無くは無いのだが、土壇場で駆け付けた援軍を加えたチームで、定石通りの戦術と言うのに愛里寿は違和感を感じるしかなかったのだ。

 

 

「此れが本当の狙いなのか、其れとも見せ技なのか……」

 

 

更に愛里寿を迷わせたのは、必要に応じて、正攻法だろうと裏技だろうと、何方も『見せ技』として使う場合があると言う事だった。

正攻法で行けば裏技で対処され、裏技を警戒すれば正攻法で来るのがみほなのだが、時には更に裏をかいて正攻法に正攻法で対処したり、裏技を警戒している相手に敢えて予想を超えた裏技を仕掛けたりと、みほの戦術は本当に読めないモノなのだ……だからこそ、愛里寿はみほの思惑を読み切る事が出来ないでいた。

 

 

『隊長、大洗は稜線を撮ろうとしている様ですが……』

 

「……構わない、取らせておけ。」

 

 

だからと言って、隊長として指示を出さない訳にはいかず、この定石通りの戦術は『見せ技』だと判断し、愛里寿は稜線を大洗に渡す事にした。

其れに稜線を取らせれば、白神から押し付けられた兵器を使う機会となる――本来ならば、戦車とも呼べない兵器を押し付けられたのはありがた迷惑であり、愛里寿としては使用したくないが、使わなかったら使わなかったで彼是煩いので、最低限の使用だけはしようと思っていたから、大洗が稜線を取りに来てくれたのは、ある意味では渡りに船と言えるのかも知れない。

 

 

「……あんなもの、動作不良起こして壊れればいいのに。」

 

 

……其れは其れとして、戦車とも呼べない物を押し付けられた愛里寿は、心底迷惑そうであった。

心の底から戦車道が好きであるからこそ、白神が押し付けて来たモノは到底受け入れられるものではなかったのだろう――マッタク持って、白神が何を大学選抜に渡したのかである。

 

 

「いっその事、誤爆を装って破壊するか?」

 

「隊長、其れ拙い。」

 

「……天城と逸見が其れをやりそうな件について。」

 

「あ、否定できない。」

 

 

取り敢えず、白神が押し付けた兵器は、碌な末路を迎えないであろう。

其れは其れとして、愛里寿の懸念はみほ以外にもある――言うまでもなく、みほの副官としてその名を馳せている梓だ。

戦車道を始めたのは中学からであるにも拘らず、1年目から明光大付属中の副隊長を務め、みほが黒森峰に在籍していた1年を除き、常にみほを支えて来た副官の存在は決して無視できるものではない――搭乗戦車こそⅢ号だが、全国大会の決勝戦では格上の重戦車を、相討ちを含めて4輌も撃破したと言うその実力は侮れない。

何よりも、みほの一番弟子であるのならば、みほの常識が通用しない戦車道を、そのまま継承している可能性がある……其れはつまり、殲滅戦であっても、みほの戦車を撃破すれば其れでお終いと言う訳では無いと言う事でもある。

仮にみほを撃破したとしても、梓がその指揮を完全に引き継ぐ事が出来るのだから。

其れとは別に、もう1つの懸念事項が――

 

 

「姉様……」

 

 

継続の隊長であるミカだ。

ミカは今は素性を隠して継続高校に所属しているが、実は島田千代の長女であり、愛里寿の姉である――家を出た事で後継者の資格は無くなっているモノの、その実力は幼い頃の愛里寿が憧れを抱いたほどであるのだ。

其のミカが敵として、しかもみほの傘下に居ると言うのは、愛里寿としては恐ろしい事この上なかった。

ミカは島田流を見事に体現してはいたが、それ以上に島田流の型を超えた自由な戦車道が得意だった――それ故に、西住流の次女でありながら、西住流を超えた戦車道を得意とするみほと組んだ場合に起こる化学反応がどれ程であるのか、それを予測する事が出来ないのだ。

普通ならば、土壇場での援軍など『急ごしらえのチーム』と言う所だが、みほの実力、梓の実力、ミカの実力とみほとミカが組んだ事で起きる科学反応を考えれば、土壇場の援軍によって、大洗の戦力は確実にスーパーサイヤ人もビックリのインフレを起こしたと言えるだろう。

 

 

「其れでも、私は勝つ。」

 

 

戦車の性能では圧倒的に勝ってはいるが、それ以外の要素では互角か負けている上に、自分を遥かに凌駕する戦車乗りであるみほが、大洗の隊長で、その副官はみほの一番弟子である梓で、挙げ句の果てには各校の隊長と精鋭が勢ぞろいし、その中には敬愛する姉のミカまで居ると言うのは愛里寿からしたら可成りの無理ゲーなのだが、其れでも愛里寿の瞳から闘志は消えない。

千代からVTRを見せられたその時から『何時かは戦ってみたい』と思っていたみほとの試合――其処にどんな思惑があろうとも、愛里寿にとっては待ちに待っていた相手なのだから、怯む事など有り得ない。

 

 

「私は私の戦いをするだけ……私の戦車道、受け取ってくれるよねみほさん。」

 

 

手にしたボコ人形を握り、愛里寿は誰にも聞こえない程度の声でつぶやく。

その呟きには、強者故に相手がいない渇きを満たして欲しいと言う願いも含まれていた様に感じる――何れにしても、此れより展開される戦車戦は、此れまで類を見ない物となるのは確実だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

よし、アサガオもひまわりも予定通りの位置に付いたね――其れじゃあ、ひまわりチーム稜線下の敵車輌に向かって攻撃しちゃってください!!

西住まほ大尉、砲撃を許可します。

 

 

 

『了解した。』

 

『こっちも了解したわみほ!』

 

『ターゲットロックオン……何時でも行けます!』

 

『はっ、雁首揃えてご苦労なこった――全部撃破してやるって!!』

 

『頼りになりますね小島さん♪』

 

『アタシは直下だ小梅ーーー!!誰が小島か誰が!!』

 

 

 

あはは……其れは言ったらダメですよ理子さん。

でも、小島って言うのは悪い名前じゃないんですよ?日本屈指のパワーファイターのプロレスラーの名前も『小島』ですから――本物のラリアートを極めるべく、単身アメリカテキサスに飛んで、ラリアートの元祖であるスタン・ハンセンに教えを請うた小島聡さんは真のプロだと思うね。

なので、小島繋がりで頑張ってください理子さん。

 

 

 

『行っちゃうぞバカヤロー!って、アタシは直下だから微塵も繋がりがねぇ!!』

 

「ですよね。」

 

ちょっとコントを展開したけど、此れまでの流れは大凡私の思い通りに来てるね――ひまわりが稜線を取って、アサガオが大学選抜チームの横っ腹に着けたからね。

定石通りに行くのなら、此処で待つのが上策なんだろうけど、私に定石は通じないよ!

お姉ちゃん、其処から大学選抜の車輌って確認できる?

 

 

 

『あぁ、可能だ。

 少しばかり豆粒だが……500m以内に、最低でもパーシングが7輌は居るな。』

 

「パーシングが7輌か……」

 

普通に戦ったら、ティーガーⅠでも苦戦する重戦車が7輌ってのはきついけど、決して勝てない相手ではないから、稜線を取った事でのアドバンテージを使えば負ける事は無いだろうね。

だけど、今回の試合はそうじゃない――文科省のお偉いさんが大学選抜チームに押し付けた兵器は、戦車道を根底から穢すモノだったから、其れは絶対に壊さないとだ。

その為にはまず、この丘でのトリックが成功するかにかかってると言っても過言じゃない。

 

「お姉ちゃん、敵戦車が攻撃してきたら、発煙筒でも閃光弾でも良いから、兎に角相手の視界を奪った上で、スモークを炊いてその場から離脱してね?」

 

『言われるまでもなくその心算だよみほ。』

 

「流石は姉妹、以心伝心だねお姉ちゃん?」

 

『只の以心伝心ではない……私は、お前の事を愛している――故に、此れだけの高速な意思疎通が可能になっているのだ。愛は素晴らしい。』

 

「お姉ちゃん、貴女が何を言ってるのか分からないよ。」

 

可成りヤバい発言をしてたのは間違い無いと思うんだけどね。

其れよりもお姉ちゃん、やって来たみたいだよ、狩るべき相手が。

 

 

 

『如何やらその様だな……マッタク持って、この私に牙を剥くとは良い度胸だ。

 ならば、その度胸に敬意を表して、私の――西住まほの戦車道をその身で味わって貰うとしようじゃないか……西住の最強の虎の名を持ってしてな!!

 大隊長、命令を頼む。』

 

「殺さない範囲で殺っちゃってください。」

 

『若干命令が物騒な気がしたが……』

 

「気のせいです。」

 

何にしても、此れで此方のフォーメーションは固まったから、後は愛里寿ちゃんがどう出て来るかだけど、愛里寿ちゃんがどんな戦術で来ても、私は其れを押し返して見せるよ。

何よりも此の試合は絶対に負けられない――なら、勝つ以外の選択肢は無いからね。

 

 

 

――轟!!!

 

 

 

「うわぁ、何!?パンターのエンジンが!!」

 

「こりゃあ、みほの闘気を受けた事と、久しぶりにアタシ等が乗り込んだ事で、パンターも本気になったみてぇだな?」

 

「其れなら、久々に最強の蒼豹で大暴れするか。」

 

「オ~ッホッホッホッホ!初っ端からリミッター外しちゃいます事よ!!」

 

 

 

嘗ての仲間が再び終結した事を、パンターも喜んでるみたいだね此れは……なら、久々に明光大チームが揃ったお祝いといて、あの頃以上の大暴れをしようかな?

此のメンバーなら、可也無茶な要求をしても応えてくれるだろうからね。

 

「皆、久しぶりだけどガンガン行くからね?」

 

「おうよ!そう来なくっちゃ張り合いがねぇって!!」

 

「突撃、急旋回、ドリフトなんでもござれですわ!沙織さんも、みほさんの指示を皆さんに的確に伝えちゃってくださいませ!」

 

「任せてよ!アマチュア無線2級は伊達じゃないからね!!」

 

「うん!頼りにしてるよ!!」

 

相手は島田流始まって以来の『天才』と言われている愛里寿ちゃんだけど、相手にとって不足は無い――世間が言う、私の天才と愛里寿ちゃんの天才のどちらが上か、其れを決めるのも悪くないかもね。

 

でも、其れは魅力的な企画ではあるけど、負けたら大洗は廃校になっちゃうから、絶対に勝たないといけない――だから、私は形振り構わずに行かせて貰うよ。

型に嵌まらない無形の戦車道こそが、私の持ち味だからね。

果たして、私に着いて来られるかな?……島田流率いる大学選抜チームの実力を、見せて貰うよ!!

 

先ずは、此の試合における邪魔者である、文科省が大学選抜に押し付けたレギュレーション違反としか言えないって言う謎の違法兵器に舞台から御退場いただこうかな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラクター補足


・島田愛里寿

島田流戦車道の次期後継者で、弱冠13歳でありながら飛び級で大学に進学し、大学選抜チームの隊長を務める天才少女。
内気で人見知りの為、普段は口数も少ないが、戦車に乗ると一変し、状況を的確に把握しながら次々と 最適の指示を出し、詰め将棋を解くかの如く相手チームを詰みに追い込む。
『後学の為に』と、母である千代からみほの試合のVTRを見せられており、型に嵌まらないみほの戦車道に衝撃を受け、何時かは戦ってみたいと思っていた。島田流始まって以来の才能の持ち主と言われているが、その才能故に姉であるミカが、自分の事を次期後継者に推した上で家を出た事には申し訳ないと思っている。(尤も、ミカ自身は愛里寿を理由にはしたが、本当は単純に島田流を継ぎたくなかっただけなので、愛里寿が申し訳ないと思う事は微塵も無いのだが……)
みほ同様、ボコられグマのボコが大好きで、ボコグッズのコレクションの数はみほより少ないが、レアグッズの数では勝っている。


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Panzer156『まさかの違法超兵器!?です』

此れを戦車として認可するとはね……Byみほ        戦車道を馬鹿にしてんの文科省名誉顧問は?Byエリカ      大凡、戦車とは言えませんね此れは……By小梅


Side:しほ

 

 

遂に試合が始まった訳だけれど、ちよきち、貴女なら大学選抜チームが使ってるシークレットが何であるのかは知ってるわよね?――だから、単刀直入に聞かせて貰うわ。

大学選抜チームの2輌のシークレットは何?

 

 

 

「本当に単刀直入ねしほちゃん……って言うか、気持ちは分かるけど、力入りすぎ。私の肩を握り砕く気?」

 

「その割にはまだまだ余裕そうに見えるのは私だけかしら千代?――まぁ、私も少し力入れ過ぎたかも知れないけれどね。――で、大学選抜のシークレットは一体何なの?」

 

「1輌は戦車なんだけど、もう1輌は○○○よ……こんな物を持ち込むとは、白神名誉顧問は余程大洗を廃校にしたくて仕方がないみたいね?」

 

「そう、考えるしかないでしょうね。」

 

よもや、戦車とも呼べないような兵器を、権力の力で認可してしまうと言うのは、腹立たしい事この上ないわ。

 

 

 

「気持ちは分かるけれど、みほちゃんはこの程度で如何になる戦車乗りではないでしょう――寧ろ、○○○ですら、みほちゃんの前では塵芥でしかないと思うわ。

 みほちゃんなら、白神の用意した悪魔兵器を必ず撃破する筈よ。」

 

「ちよきち……確かに指揮官がみほならば、其れは有り得るわね。」

 

大学選抜が○○○を使用している事には多少驚いたけれど、其れでみほが崩れるなどと言う事は有り得ない――だから、全力で応援させて貰うわみほ。

隻腕の軍神の力、存分に見せてあげなさい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer156

『まさかの違法超兵器!?です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

さてと、陣形は整ったね?後は大学選抜が如何出てくるかだけど、稜線を取った此の陣形は、普通ならこちらが有利になるから、簡単に攻め込む事は出来ないんだけど……

 

 

 

「大学選抜が使ってるであろう謎の超兵器を使えば、此の陣形は簡単に崩す事が出来るって訳ね?」

 

「うん、そう言う事。

 と言うか、此の陣形は大学選抜が使ってる『ソレ』が何であるのかを明らかにする為の陣形でもあるからね。」

 

撃破するにしても、『ソレ』が何であるのか、ハッキリとは分からなくてもある程度のアタリを付けておかないと、有効な対策を取る事は難しいし、何の考えも無しに突っ込んだら、其れこそ突入部隊が全滅なんて事になりかねないからね。

だから、先ずは此の陣形で『様子見』に徹する……其れが上策だよ。

 

 

 

「でもみぽりん、相手の超兵器で稜線のひまわり中隊が全滅させられる可能性って無いの?」

 

「多少の被害は覚悟する必要はあるけど、全滅だけは有り得ないよ沙織さん。

 勿論、被害ゼロって言うのが理想だけど、相手が何を使ってるか分からない以上、多少の被害は考えておかないとだから――でも、其れを考慮した上で、ひまわり中隊に稜線を取って貰った訳だから大丈夫だよ。」

 

其れに、稜線の下の林にはケイさん率いるアサガオ中隊が待機して必要な時の援護は出来るようにしてあるから、ひまわり中隊が稜線から撤退する時も、スムーズに行く筈だからね。

後は、試合の中で起きた色々な事に対して、その都度対処と修正をして行けばOK――欲を言うのなら、大学選抜の選手の一部でも良いから、コッチの事を『格下』と思っていて欲しい所だね。

 

 

 

「え~~?格下って思われるのってなんか嫌じゃない?」

 

「いや、みほの言ってる事は正しいわ沙織。

 相手がコッチの事を格下と思ってくれれば、其処に油断が生じて、何処かで致命的な隙が出来る事になるからね。――そして、アタシ等の大隊長殿は、その隙を見逃す程愚鈍じゃない。」

 

「要するに、アタシ達の事を格下に見た連中から、隻腕の軍神様の策の生贄になるって訳だ。」

 

「そして生贄が大量に出て、此方が格下だと思っていたのは大間違いだと気付いた時には、大学選抜チームは壊滅状態になっちまってる訳でごぜーますのよ沙織さん!

 まぁ、大前提として戦車道最強姉妹と名高いみほさんとまほさんが同じチームである以上、勝率は120%!更にダージリン様をはじめとした各校の隊長が加わって勝率は260%!そして、中学時代に無敵伝説を作り上げた私達青パンターチームが再結成した事で、最終的な勝率は380%にまで上昇して居ますですのよ!!!」

 

「つぼみん、微妙に意味が分からない……」

 

「あはは……まぁ、其れだけ私達は強いって事だよ沙織さん。」

 

さてと、陣形は整ったから、後は大学選抜が来るのを待つばかりなんだけど――

 

 

 

『此方ひまわり。大学選抜チームの戦車を目視した。これより攻撃を開始する。』

 

「お姉ちゃん。

 了解しました、手筈通りにお願いします。――頼りにしてるよ、お姉ちゃん。」

 

『了解した。……しかし、『頼りにしてるよ』か……その言葉だけで、あと10年は戦えるような気がする。』

 

『姉住ちゃーん、君は一体何を言ってんだーい?』

 

 

 

会長さん、私も同じ事を思いました。……まぁ、取り敢えず問題は無さそうだから良いかな。

其れじゃあ、オープンコンバット!何を持ち出して来たかは分からないけど、其れを持って来た意味は無かったって言う事を教えてあげようかな?

戦車道に、戦車でないモノを持ち込んだ事を、後悔して貰うよ白神文科相名誉顧問殿。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

陣形を整えた大洗連合に対し、大学選抜は稜線を取ったひまわり中隊に向けて1個中隊を送り込んで来たのだが、其れはみほが予想した通りの展開でもあった。

正体不明のシークレット兵器が、超長射程攻撃を可能にしているモノだと仮定した場合、稜線に陣取った部隊と言うのは格好の得物になるので、其れを踏まえた場合、高確率で稜線は取らせに来る筈とみほは読んでいた。

そして、稜線を取れば其処に釘付けにする為の部隊が来る事まで予想済みだ。

故に、既に手は打ってある。

 

 

「全員、相手戦車の位置は記憶したか?」

 

「当然よマホーシャ!」

 

「……よし、其れでは攻撃開始!」

 

 

まほが相手戦車の位置を記憶したかと問えば、カチューシャが代表する形で其れに応え、まほは其れに頷くと攻撃開始を命令!

そして、次の瞬間――

 

 

 

――ボウゥゥゥゥン!!

 

――カッ!!

 

 

 

「んな、スモークですって!?」

 

「其れだけじゃなくて閃光弾!?ぐあぁぁ、目が!目ガァァァァ!!!」

 

 

大洗十八番の『目暗まし』が炸裂!!

其れだけならば驚く事ではないだろうが、其れをやったのがまほ率いる中隊だったと言うのが大学選抜側からしたら衝撃的だった――西住まほと言えば、大学戦車道界隈でも知らない人は居ない位の有名人で、西住流其の物と言える剛健質実にして実直な戦車道を行う選手だ。

其れが、こんな裏技を使ってくるとは思っても居なかっただろう。

 

だが、そこがみほの狙いでもあった。

まほに定石に沿った行動をさせた上で、まほらしからぬ攻撃を展開する――そうすれば、大学選抜チームを混乱に陥らせる事が出来ると、そう考えたのだ。

稜線を取った方が有利と言う定石を踏まえつつ、その上で定石外の事を行うと言う、二律背反とも言えるモノを行う事で先制パンチを喰らわせたのである。

 

 

「各員砲撃準備。……撃てぇ!!!」

 

 

まさかのまほの目暗ましに動きを止めた大学選抜チームに対しての攻撃命令をまほは下す――スモークで相手が見えないんじゃないかと思うだろうが、相手の位置は目晦まし前に確認しているので問題ない。

目晦ましを喰らってしまった相手は真面に動く事が略々不可能なので、相手戦車の大体の位置さえ覚えておけば、後は記憶頼りの攻撃でも有効な攻撃になるのだ。

 

だが、まほが攻撃命令を下した瞬間に其れは起きた。

 

 

 

――ドッガァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

突如ひまわり中隊の上空から何かが飛来し、そして盛大に地面を穿った!――その威力は、爆撃の如し!

幸いにして部隊を適当にばらけさせていたため被害は無かったが、この攻撃で巻き上げられた大量の土砂が降り注ぎ、其れがひまわり中隊の動きを阻害する事になった。

 

 

 

――バガァァァァァァァン!!

 

 

 

さらに第2波が襲い掛かり、その衝撃で黒森峰から援軍で駆けつけたパンターが吹き飛ばされてしまう。

が、そのパンターの車長は遊撃隊で活躍した狭山だ。

 

 

「簡単に、やられるかっての!」

 

 

吹き飛ばされながらも、砲撃手に指示を出し、空中でチャーフィーをロックオンすると、そのまま砲撃を行って撃破!!先ずは、大洗連合が先手をとった形になった。

が、其れだけでは終わらない。

 

 

「喰らえ……隻腕の軍神直伝の雷光戦車落とし!またの名を『ダイビング戦車プレス』!!!」

 

「な、なんだってーーー!?」

 

 

狭山のパンターは、更に砲撃で強引に姿勢を変えると、そのまま自由落下してチャーフィーに戦車プレス一閃!――この捨て身の攻撃をした事で狭山のパンターは白旗判定になってしまったが、1:2交換になった事を考えれば、決して悪い結果ではなかっただろう。

 

 

勿論チャーフィー2輌が走行不能になったアナウンスが流れ、其れは大学選抜の隊長である愛里寿にも当然伝わったのだが、自軍の秘密兵器での攻撃の後にチャーフィー2輌が撃破されたと言うのは些か解せぬ事だろう。

 

 

「状況報告。」

 

『は、はひ……○○○の砲撃と言うか、爆撃で吹っ飛んだパンターが空中で姿勢立て直して攻撃を敢行して1輌を撃破し、その後特攻とも言える戦車プレスで相討ち撃破と言う事に。』

 

「……つまり、アレの攻撃で大洗の戦車は1輌しか撃破出来ず、逆に此方は2輌失ったと言う訳か。」

 

『そ、そう言う事になります……』

 

「ホントに役立たず。矢張り、頑として受け取るべきではなかったな。」

 

 

が、事の真相を聞いた愛里寿は、白神が押し付けてきた兵器を『役立たず』と斬り捨てた。

当然だ。戦車道と言う競技に於いては明らかな違法兵器である上に、戦車戦能力皆無、自力走行不能、細かい狙いは付けられないと欠点を上げればキリがない。

唯一の長所は、その圧倒的な攻撃力と射程だが、其れが仇となって味方に損害を出してはマッタク持って意味が無いのだから、愛里寿が役立たずと言うのも当然だ。

加えて、この兵器にはその圧倒的な攻撃力を断続的に使用出来る様に、使用されていた当時には存在しなかった、砲弾と薬莢の自動装填装置と薬莢の自動排出装置が搭載されている、『45年ルール』にバリバリ違反した兵器でもあるのだ……愛里寿からしたら、絶対に使いたくはなかったモノだろう。

 

 

「試合結果がどうであれ、白神特別顧問には試合後にお母様からキツイお仕置きを受けて貰う事にしようかな。」

 

 

哀れ白神、試合の結果がどうであれ、地獄を見るのは間違いないだろう。――完全に自業自得ではあるのだが、其れを踏まえた上で敢えて言おう……『合掌』と。

取り敢えず、白神は一度地獄に落ちれば良いだろう。冗談でなく本気でな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、此の爆撃の事を聞いたみほは、大学選抜のシークレットの1つが何であるのかを考えていた。

爆撃とも言えるだけの破壊力を持った主砲と、超長距離攻撃が可能になる戦車となると種類は限られてくるが、『戦車とは言えない』と言う事を考えると、正体を突き止めるのが困難になるのだ。

 

 

「爆撃並みの破壊力ってなると此れじゃない?ブルムグマ!」

 

「ブルムベアは確かに強力な戦車だけど、此処までの破壊力はねぇだろ?

 爆撃並みの破壊力が有るってなると、シュトゥルムティーガーの方が可能性として高くねぇ?380mmは数ある戦車の中でも最強クラスだぜ。」

 

「戦車ならそうでしょうけど、戦車とは言えないって言うのを考えるとその可能性も低いんじゃないかしら?

 文科省が無理矢理戦車として認可したって言う事を考えたら、『まぁ、戦車と呼ぶ事も出来なくないかな?可成り無理があるけど』って言う感じのモノを候補に入れるべきね。」

 

「戦車と言えない戦車と言えば、オープントップの車輌が思いつきますけれど、流石に競技の世界で其れはねーですわよね?」

 

 

明光大青パンターチーム+沙織改め、『超あんこうチーム』のメンバーも、大学選抜のシークレット1が何であるかを推測するが、中々答えには辿り着く事が出来ないのだが……

 

 

「つぼみさん、今なんて言った?」

 

「へ?オープントップの車輌と言いましたが、其れがどうか致しましてですわ?」

 

「オープントップ……其れだ!」

 

 

だがみほは、つぼみが言った何気ない一言で閃いたらしい――此の何気ない一言に気付き、其処から直感で真実に気付く能力も、みほの武器の1つと言えるだろう。

と言うか、究極の直感は最高の理論すら凌駕するのだから、ある意味でみほは最強の武器を搭載しているとも言える……『隻腕の軍神』、この二つ名は伊達では無いのである。

 

 

「オープントップの車輌は、選手の安全が確保できないって言う理由から使用が全面的に認められてないけど、あの兵器なら選手が直接搭乗する事は無いし、いざと言う場合にはその場から逃げてしまえば良いから、可成り強引だけど使う事が可能だよ!」

 

「オイオイ、其れってまさかアレか?」

 

「だとしたら、トンデモないモノを持ち出して来た物ね……文科省の特別顧問のモノクルは、悪知恵が良く働くモノね。」

 

「え?え?な、何なの其れ?」

 

「落ち着いてくださいませ沙織さん。

 大学選抜が持ち出して来た超兵器……其れは、敵の城砦を突破する為に作られた、戦車戦性能皆無の破壊兵器、カール自走臼砲ですわ。」

 

「600mmのコンクリート貫通弾を搭載した、化け物だよ。」

 

「うっそ~~!?何それ、殆ど反則じゃん!やだも~~!!」

 

 

オープントップ車輌と言うつぼみの一言から、みほが辿り着いた答え――其れは、敵の城砦を突破するために使われたと言う、カール自走臼砲。

自走能力は殆どないが、履帯と転輪を搭載して、形だけならば辛うじて戦車と言う事が出来なくもない超兵器だった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

カールによる爆撃とも言える攻撃が行われた直後、実質的には大学選抜側の被害が大きかったのだが、観客席では――

 

 

「ガッデーム!!アイアムチョーノ!!

 カール自走臼砲だぁ?ふざけてんのかオラァ!!あんなもん戦車と言えねぇだろうが!あー!!ガッデメラファッキン!!!

 おい天山、テメェも何か言ってやれ!!」

 

「冗談じゃねぇぞこら、何とかしろよオイ!!」

 

「みほちゃん!行っちゃえよバカヤロー!!」

 

「戦車じゃないモノを持ち出してくるとはトンデモナイな?

 だが、だからこそ燃えてくるってもんだ!みほちゃん、大洗連合の皆、君達の戦車道LOVEでカール自走臼砲なんて撃破してやれ!イヤー!」

 

 

nOsの面々が盛大に盛り上がっていた。

総帥である黒のカリスマ以外は戦車道には明るくないが、其れでもカール自走臼砲が明らかな違法兵器である事は理解したらしく、夫々が夫々の流儀で大洗連合に檄やらエールやらを飛ばして応援している。

巨漢外国人レスラーの降る『nOs』の応援旗も其れを後押ししているだろう。

 

 

「テメェ等気合が足りねぇぞ気合が!!もっと気合い入れろや!!プロレスラーだろテメェ等!!!」

 

「「「「「「「「「「うっす!!!」」」」」」」」」」

 

 

更には秋山好子が、嘗ての番長キャラでnOsのメンバーを煽る煽る!!

天下の西住流と島田流の間に割って入った、大洗の荒熊は、引退して尚健在であるようだ。

 

 

その一方で……

 

 

「ギリギリで認可したのは、此の為だったのですな?」

 

「ふ、言いがかりは止めて頂きたい――手続きに手間取ってしまい、ギリギリになってしまったのですよ。」

 

「しかし、オープントップの車輌を戦車と言うのは……」

 

「其れは、解釈に依るでしょう?」

 

 

戦車道連盟の理事長である児玉は、カールの認可について苦言を呈するも、白神はしれっと其れを受け流す――現状では大学選抜の方に被害が出た状況ではあるが、たった1輌のビハインドなど、カールの力をもってすれば容易に覆せると、そう思っているのだろう。

だが、数分の後に、己の考えは間違いであった事を白神は知る事になるのだが、今の彼にはそんな事は全く予期出来ていなかった。

自分が強引に認可させ、強引に大学選抜チームに使わせたカールが、隻腕の軍神の逆鱗に触れる事になるとは全く想像すらしていなかった。

そして、其の逆鱗がどれ程であるのかと言う事すら、白神は想像すらしていなかったのだ――其れがどれ程であったのかを知る時には、後悔先に立たずであったと言う事は、マッタク持って想像外すらしていなかっただろう。

 

何にしても、隻腕の軍神の逆鱗に触れた白神に、軍神の鉄槌が下される、其れだけは間違いないだろう。……まぁ、精々祈るが良いだろう。

 

祈った所で、助けてくれる神がいるかどうかは分からないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、試合会場では――

 

 

「全軍撤退。タンポポと合流する!」

 

「了解よマホーシャ!」

 

 

狭山のパンターが撃破されたのを機に、まほは稜線からの撤退を決め、即座に行動を開始するが――此処で、思わぬ敵が現れた。大学選抜のチームだ。

目晦ましで足止めをやったと思ったが、先に視界が回復した連中が、退路を塞ぐ形で現れたのだ。

普通ならば、何とも厄介な事ではあるが、大洗には彼女が居る事を忘れてはならない。

 

 

「おぉっと、マホの邪魔はさせないわ!」

 

「貴女達の相手は私達です!」

 

 

まほ達の撤退を妨害しようとした大学選抜チームの前に突如として現れたのは、ケイ率いるアサガオ中隊だ。――ケイの乗るM4シャーマンと、梓の乗るパールホワイトのⅢ号を先頭にアサガオ中隊が大学選抜の行く手を阻むように現れ、ひまわり中隊の撤退を援護する。

 

 

「ケイ……!!」

 

「お久しぶりね、メグミ隊長?」

 

 

其れだけでなく、ひまわり中隊を強襲した大学選抜チームの中隊長はメグミであり、アサガオ中隊の隊長はケイ――此の2人はサンダースの先輩後輩の関係であり、ケイの才能を見出して鍛え上げたのは他でもないメグミだ。

自分の前に現れたケイに驚くメグミとは対照的に、ケイの瞳に宿っているのは純粋な闘気だ……ケイは、此の試合で嘗ての師匠を超える気満々なのである。

 

 

「其処を退きなさいケイ……貴女じゃ私には勝てない。其れは貴方が一番よく知ってるわよね?」

 

「確かに貴女が隊長だった時代は1度も勝つ事が出来なかったけど、今の私はあの頃の私とは違う――中学時代に1度みほと戦い、高校で貴女に才能を見出して貰って鍛えられ、そしてもう1度みほと戦った事で、私は強くなれた。

 今の私なら、アナタを超える事が出来るわメグミ隊長!Come on!Get Serious!!(掛かってなさい!マジでやりましょう!!)」

 

 

其れを示すように、ケイはキューポラの上に立つと、メグミに向かって左手で手招きをした後に、不敵な笑みを浮かべて手招きした左手でサムズダウン!!

あからさまな挑発だが、其れがメグミに火を点けた。

 

 

「上等よ……相手になってあげるわケイ!!」

 

「Ha-ha!This is getting interesting!!(此れは、面白くなって来たわ!!)」

 

 

ひまわり中隊の撤退を援護するアサガオ中隊と、ひまわり中隊を撃破したいメグミ率いる大学選抜中隊の激突――其れは、期せずして起きた、サンダースの師弟対決でもあった。

 

只一つだけ言えるのは、あくまでも冷静さを保ったメグミと、エリカとは違う好戦的な笑みを浮かべたケイの戦いは、絶対に只では済まないだろう。

まして、ケイ率いるアサガオ中隊の副隊長は『軍神を継ぐ者』である梓なのだ――その戦いがタダで済むはずが無いのである。

 

序盤戦最大クラスの戦いが、ここに開幕したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer157『撃滅!制圧!瞬獄殺です!!』

撃滅と制圧は兎も角瞬獄殺?Byみほ        作者的に外せなかったみたいよ?Byエリカ      瞬獄殺はロマンですからねぇBy小梅


Side:みほ

 

 

カール自走臼砲とは、トンでもないモノを持ち出して来た物だけれど、正体が分かってしまえば幾らでも対処のしようはある――カールは、殺人的な攻撃力を有してはいるけど、装甲は一切搭載されてない紙の防御力の車輌だから、撃破するのは難しくないからね。

 

 

 

「そうは言ってもみぽりん、カールの攻撃能力は凄いよ?

 主砲の一撃を喰らったら、即撃破になっちゃうんだよ!!」

 

「うん、其れは分かってるよ沙織さん。」

 

だけどカールは、その強力さ故に小回りは効かないから、細かい狙いを付ける事は出来ない――だからこそ、此の部隊の出番なんだよ!!

 

「アンチョビさん、ミカさん、会長さん、磯辺さんの4チームで小隊を結成して、カールを撃破してください!!」

 

「任せろみほ!!」

 

「強風に乗ると言うのも悪くないね。」

 

『OK!派手に行こうぜ西住ちゃん!!』

 

「根性で、カールを撃破します!!行くぞお前等ぁ!!」

 

「「「はい、キャプテン!!」」」

 

 

 

CV33、BT-42、ヘッツァー、クルセイダーのフットワークの軽い4輌で編成した、その名も『ドングリ小隊』!最大攻撃力がヘッツァーの長砲身75㎜だから火力は心許ないけど、その分小回りが利くから、愚鈍なカールの相手としては申し分ない。

何よりも、アンチョビさんとミカさんが一緒に居るなら、確実に何かしてくれると思う――私の勘が、そう言ってるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer157

『撃滅!制圧!瞬獄殺です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とは言え、カメチームはひまわり中隊だから別途合流しないといけないんだけど……まぁ、その辺は会長さんが上手くやってくれるから、きっと大丈夫だね。

小山さんの操縦技術は、大洗の中でも麻子さん、クロエちゃんに次ぐレベルだし。――後は小隊長を任せたアンチョビさんが、どんな作戦を考えてくれるかだね。

 

 

 

「あの小隊をカールに向かわせるとは、相変わらず大胆な事をなさるわねみほさん?ですが、それでこそ隻腕の軍神。

 けれど、その一手が状況を大きく変える事を私を始め、このチームの皆さんが知っているわ――正に『状況とは私が作るモノ』ですわね?」

 

「ナポレオンの言葉でしたっけか?」

 

「流石はみほさん、知ってらしたのね?」

 

「ふふ、偶然ですよダージリンさん。

 だけど此の一手がカール撃破に至る事を、私は確信しています――あの編成なら、火力も装甲も大した事が無いと言う事で、例え相手チームに見つかったとしても放っておかれる可能性が可成り高いですから。

 其れに、カールは車体構成の鉄板があるだけで装甲はありませんから、CV33以外の戦車なら、何処に当てても撃破は出来るんです。

 なら、態々高火力の戦車を向かわせるよりも、カールを撃破出来る最低限の火力と高い機動力を持った戦車を集めて、優秀な指揮官を小隊長にした、シンプルな構成の方が良いんです。

 『シンプルとは、洗練の極み』ですよ。」

 

「レオナルド・ダヴィンチ……おやりになりますわねみほさん?」

 

 

 

此れ位は出来ないと、ダージリンさんに付き合う事は出来ませんから。

其れは兎も角、私達も動くとしようかな?――アサガオがひまわりの援護に入ったから、多少の被害はあってもひまわりの主力は撤退するだろうし、アサガオだってケイさんに近坂先輩、西さんにエクレールさん、そして梓ちゃんは絶対に生き残ってくれるだろうから、一度皆と合流して次の作戦の下準備をしないとだからね。

此処まではあくまでも大学選抜の力を見極める為の戦いに過ぎない……本当の戦いは、カールを撃破して、次のフィールドに移ってからだよ!

 

 

 

――バッ!!

 

 

 

「タンクジャケットの上着を肩に引っ掛けた『軍神モード』……生で見ると迫力がありますわね?――この状態のみほさんの相手をしなくてはならない大学選抜チームに同情しますわ。」

 

「ふふ、こうなった以上、私は無敵ですから♪」

 

とは言え、先ずはひまわり中隊が稜線から撤退して、アサガオ中隊もアシストを終えてその場から離脱しない事にはどうにもならない――でも、お姉ちゃんとケイさんなら大丈夫!

最強の黒森峰を率いる隊長と、4強の一角であるサンダースの隊長であるケイさんなら被害を最小限に止めてその場から離脱する筈だから。

加えて、あそこにはプラウダの助っ人が全て集中してるから戦力的は充分だからね。

 

でもまぁ、カール撃破は確定事項だから……お願いして良いですか、天城さん?

 

 

 

『その言葉を待ってたわよみほちゃん……カールには、此処で退場して貰うとしましょうか?』

 

『あんなものは、戦車道には必要ないからね。』

 

 

 

あはは……天城さんだけじゃなくて、アールグレイさんもやる気満々だね?――其れだけ、カールの存在は許せないって事なんだろうけどさ。

何にしても、カールにはご退場願うよ?戦車道に、貴方の居る場所は無いからね。

 

 

 

「敵をも味方にしてしまうとは、本気で恐ろしいですわねみほさん?」

 

「戦車道を穢す兵器を破壊するのに、敵も味方も無いと思いませんか?」

 

「仰る通りですわね。『恋と戦いに手段は択ばない』と言いますし。」

 

「戦車道と言う競技に、悪意をもって土足で上がり込んで来た無法者を退治するのに、手段を選ぶ必要なんて有りませんから。」

 

どんな方法で大学選抜にカールを押し付けたかは知らないけど、其れを押し付けて使わせた事が間違いだったと後悔すると良いよ、モノクル銀髪のおじさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

まほ率いるひまわり中隊の撤退を援護すべく、ケイ率いるアサガオ中隊が、大学選抜中隊の1つであるメグミ中隊の前に躍り出たが、其れは期せずして、サンダースの師弟対決と言う形になっていた。

現サンダースの隊長であるケイは、嘗てのサンダースの隊長であったメグミによってその才能を見出されてサンダースのエースに成長し、そして隊長になったのだから。

 

だが、今のケイとメグミにはそんな事は関係ない。

嘗ての師弟関係であっても、戦車道のフィールドで相対した以上は、倒すべき敵でしかない――故に、師弟関係などと言うモノは、ブラックホールの彼方に蹴り飛ばしてしまえだ。

 

戦車の性能的な事を言えば、チャーフィーとパーシングを有する大学選抜の方に分があるが、大洗連合には戦車の性能差を超える力がある。

 

 

「華、ぶちかまして!!」

 

『花を生ける時のように集中して……其処です!!』

 

 

 

――バガァァァァァァァァン!!!

 

――キュポン!!

 

 

『大学選抜チーム。パーシング、行動不能。』

 

 

其れを示すかのように、ナオミとトレードする形でファイアフライに乗り込んだ華が、ケイの号令と共に破壊力抜群の17ポンド砲を放ち、パーシング1輌を滅殺!抹殺!!瞬獄殺!!!

的確に、パーシングの最も薄い後部装甲を狙った辺り、華には砲手としての天賦の才が有ったと言う事なのだろう。

ファイアフライの車長ではなく、M4のケイが指示を出したのは、ナオミとは違う華の砲手としてのクセを見極めようとしたからか……兎に角、今のタイミングはばっちりであった。

 

 

「Yes!BerryGoodよ華!」

 

『パンターとはまた違った砲撃の快感……うふふ、ファイアフライにも惚れてしまいそうです。』

 

 

賞賛するケイに対し、華が聞きようによっては若干危険な事を言った気がしなくもないが、此れで大学選抜は3輌が撃破された事になる。

数の上では大洗連合が2輌の有利状態なのだが、どんな時にも想定外の事態と言うのは起こるモノであり――

 

 

「此れは好機!此処は突撃で一気に仕留めましょうぞ!!」

 

「突撃上等であります!!お供いたします玉田先輩!!」

 

「あ、ちょっと待てお前達!!」

 

 

此処で知波単の福田と玉田が、西の制止も聞かずに無謀にも突撃!!

確かに、好機である事に変わりは無いのかもしれないが、その考えは些か浅すぎるとしか言いようがないだろう――如何に数の上では有利になったとは言え、戦車の性能では大学選抜の方が上なのだから。

 

 

 

――ドッガァァァァァァッァァァン!!

 

 

――キュポン!

 

 

案の定、福田と玉田の戦車はアッサリと撃破され、此れで数の上では同数になってしまった……絹代の考えに賛同し、クーデターに参加した彼女達だが、身体に浸み込んだ『知波単突貫魂』は、そう簡単になくならないようだ。

兎に角これで、数の差は無くなった訳だが、その程度は大洗連合には如何と言う事はない。

そもそもにして、アサガオ中隊の副隊長は、みほの一番弟子である梓で、ひまわり中隊とアサガオ中隊には、黒森峰時代に、みほ率いる遊撃隊の隊員だったエリカと小梅と直下が居るのだから、此のままやられる事など有り得ない。

 

 

「この程度……私達を舐めるな!!」

 

「その首、貰いますよ?」

 

「西住みほ遊撃隊の名を、其の身に刻み込みやがれ!!」

 

 

期せずして再結成された黒森峰の遊撃隊の実力は凄まじく、夫々が所属する中隊を離れて3輌のチームを結成すると、ひまわりの撤退が円滑に進むように立ち回る。

大学選抜の戦車を撃破こそしていないが、ひまわり中隊の撤退を最優先にしたその立ち回りは見事の一言に尽きるだろう。

 

 

「アズサ、キヌヨ、機動力で撹乱して!リンとエクレールは必殺の火力でBuster!」

 

「了解ですケイさん!」

 

「了解しました!!」

 

「任せなさい。虎殺しと呼ばれる存在が虎に殺されるって言うのは、果たしてどんな気分なのかしら?」

 

「フランスが誇る最強の火力、其の身で味わってもらいますわ。」

 

 

更に、ケイの的確な指示により、アサガオ中隊は見事な立ち回りを見せ、ひまわり中隊の撤退を阻もうとする大学選抜の中隊を――メグミ率いる中隊を完全に抑え込んでいた。其れこそ、戦車の性能差など微塵にも感じさせない程にだ。

此れに驚いたのは、他でもないメグミだ。

メグミはケイの師匠とも言える戦車乗りであり、其れだけにケイの実力は誰よりも分かっている心算だった――故に、今のケイでは自分に勝つ事はまだ無理だと考えていた。(今年の大会で、ケイ率いるサンダースがみほ率いてるとは言え、素人集団でしかない大洗に1回戦で負けたと言うのがあるのかもしれないが。)

だが、蓋を開けてみれば如何だ?

知波単の戦車2輌を撃破したとは言え、メグミもファイアフライでパーシングを1輌撃破されて残存車輌数は同じになっただけでなく、現在進行形で状況は大洗連合が有利に進めている。

 

 

「ケイ……貴女、私の前では実力を隔してたの!?」

 

「ん~~、其れは違うかな?

 貴女に師事してた頃の私は、貴女の思う通りの戦車乗りだったと思うわうん――だけど、今年の大会でみほと戦った事で、自分で言うのも如何かと思うけど、私は私の最後の殻を破る事が出来た。多分そう言う事。」

 

 

ケイが実力を隠していたのかと疑うメグミだが、ケイは其れを否定し、逆に好戦的な笑みを浮かべてメグミを見やる……その笑みに込められたモノを言葉にするのならば『御託は要らんからはよ掛かってこいや』と言った所だろうか?

更にそれだけではなく、ケイはパンツァージャケットの上着を脱ぎ、其れを肩に引っ掛ける――そう、みほの『軍神モード』と同じ格好になったのである。……ただ、サンダースのパンツァージャケットはアンダーが黒のタンクトップなので、ケイのモデル顔負けのプロポーションがバッチリになってしまって、目のやりどころに困るのだが。

――色即是空、空即是色!試合に集中しよう。

 

アサガオ中隊のメンバーと、旧黒森峰遊撃隊の立ち回りで、ひまわり中隊は危なげなく撤退行動をとる事が出来ていた。

 

 

「姉住ちゃーん、西住ちゃんからの要請でカール撃破する事になったから、ちょ~っと行ってくるわ。無事撤退してね~~。」

 

「ふ、言われるまでもない。私を誰だと思っている?」

 

「そりゃもう言うまでもないっしょ?西住流の次期後継者にして、最強の一角である西住まほちゃん――通称『武神』!拍手打ってお賽銭供えたら戦車道で勝てるかね?」

 

「賽銭を供えるなら、最低でもCoCo壱で1杯食べられるだけが望ましいな。」

 

「つまりは最低でも500円か……高くね?」

 

「大洗の廃校と天秤にかければ充分に安いと思うが?」

 

「そりゃそうだ。コイツは一本取られたよ姉住ちゃん!――絶対にやられないでよ?此の試合に勝つには、西住ちゃんと姉住ちゃんが最後まで残ってないとなんだからさ。」

 

「言われるまでもなく分かっているさ。

 だからお前は安心してカールの撃破に向かえ角谷――中隊長命令だ、必ず帰還しろ。」

 

「命令と有ればやるしかないよね!!小山、フルスロットルで行くぞ!!」

 

「了解です!!」

 

 

そんな中で、まほと杏子は若干コントのようなやり取りをしつつも、カメチームがカール撃破の為にこの場を離脱し、タンポポ中隊から分かれたアヒルチーム、継続、アンツィオと合流せんとする。

普通ならば、ここでの離脱は困難を極めるモノだが、アサガオ中隊と旧黒森峰遊撃隊が見事な立ち回りを見せている事でカメチームは、苦労せずに此処から離脱してカール撃破に向かう事が出来た。

此のままなら、無事に撤退出来るだろうが……

 

 

 

――バガァァァァァァァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

「どりゃっせい!!?」

 

「直下!?」

 

「直下さん!!」

 

 

此処で再びカールからの爆撃が炸裂し、直下の乗るパンターが吹き飛ばされて行動不能に!――初撃では敵よりも味方を撃破する事になってしまったカールだが、ここではキッチリと役目を熟して残存車輌を大学選抜有利へと傾ける。

更にカールからの爆撃は続ぎ、その爆撃はカチューシャに向かうが……

 

 

 

「逃げて下さいカチューシャ!!」

 

「クラーラ!?って言うか、貴女日本語喋れたの!?」

 

 

突如クラーラのT-34がカチューシャのT-34に体当たりする形でカールの着弾点から押し出し、カチューシャを護る。

クラーラの捨て身の行動によってカチューシャは撃破されずに済んだが、カールの爆撃が直撃したクラーラのT-38は一撃で撃破判定に……直下に続いて、悪魔の犠牲者が出てしまったのだ。

 

 

「クラーラ……貴女の仇は必ず取るわ!!

 カーベタン、状況は如何?」

 

『いや~~、此れは可成りキッツいべカチューシャ隊長?

 アタシ等は、ここから離脱するのは無理っぽいから、せめて隊長の盾になるべさ……だから隊長は生き延びで、大洗の為に一仕事して欲しいっぺ。……気張ってくれ、隊長。』

 

「カーベタン?そんな!!」

 

 

クラーラの思いに報いるべく、お気に入りの火力戦車KV-2に状況を聞くが、如何やら状況は芳しくないらしい。――機動力の低さが仇となり、撤退が思うように行かないらしいのだ。

だが其処で諦めるような彼女達ではない――この程度で諦めていたら、プラウダで戦車道などやってられないのだ。

自分達の状況が芳しくないのならば、せめてカチューシャの撤退の後押しをすべく、KV-2が壁となって大学選抜チームの前に立ちはだかり、追撃をシャットダウンせんとする!機動力の低いKV-2が此の乱戦状況から無事に離脱するのは困難だと考えた末の決断と言えるだろう。

 

 

『此処から先に進みてぇなら、アタシ等の屍超えていけぇ!!』

 

『舐めんでねぇぞ!!』

 

 

完全に足を止めたKV-2は、巨大な車体を盾に、破壊力抜群の主砲を剣にして迫りくる大学選抜チームを攻撃!――当たらなくても良い、僅かばかりでも動きを止める事が出来れば良いとばかりに、限界を超えた速度で攻撃を行っている。

其れでも、動きを止めた戦車と言うのは相手からすれば完全な的だ。

 

 

――バガァァァァァァァン!!

 

――キュポン!!

 

 

『大洗女子学園。KV-2、行動不能。』

 

 

奮闘敵わず、KV-2は此処で退場――だが、カチューシャをはじめとしたひまわり中隊のメンバーを離脱させる為の時間を稼いだと考えれば、充分な仕事をしたと言えるだろう。

合理的な判断だったとは言え、自らを犠牲にして己を生かしたチームの判断に、カチューシャは目に涙を湛えていた。

一見すれば、只の暴君でしかないカチューシャだが、その実態は誰よりも隊員の事を思っている隊長なのだ――故に、味方が撃破された事に依る動揺は大きくなる。

 

 

「クラーラ、カーベたん……」

 

「泣くな。泣くのは試合が終わってからにしろ。」

 

「泣いてないわよマホーシャ!!クラーラ、カーベたん……必ず仇は取るわ!!」

 

「その意気や良しだ――行くぞカチューシャ!!」

 

「了解よマホーシャ!!行くわよノンナ!」

 

「何処までも御一緒します、カチューシャ。」

 

 

だが、動揺しようとも闘志は消えない。仲間の仇は必ず討つと誓い、勝利の為の撤退を続行。

其処に至るまでに、合計3輌の戦車を撃破された大洗の方が不利に見えるが、そうではない――3輌が撃破される隙にひまわり中隊はその場からの離脱に成功した。

ひまわり中隊を壊滅させたかったメグミと、ひまわり中隊を撤退させる事が目的だったケイ……この場での戦いの勝者が何方であったのかは、言うまでもないだろう。

 

 

「そんな、しまった!!」

 

「私達に集中し過ぎたわねメグミ隊長?~~アディオース!!」

 

 

更に、目的は果たしたとばかりにアサガオ中隊もその場を離脱してターンエンド。

カールの爆撃で2輌のビハインドを背負った形になったが、その程度のビハインドは隻腕の軍神の前にはあってないようなものだ――それだけに此の試合が荒れるのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

如何やらみほは、カールの撃破を最優先に考えたみたいね……まぁ、あんな戦車とも呼べない車輌は真っ先に撃破する以外の選択肢はないのだけれど、貴女ならば其れが出来ると信じてますよみほ。

文科省が無理矢理押し付けて来た違法兵器を完膚なきまでに破壊しなさいみほ――あんなモノを、戦車道の世界で認める訳には行かないのだから徹底的に破壊してあげないとね。

だけど、本当に馬鹿な事をしたモノね白神文部科学省名誉顧問殿?

貴方は『解釈の違い』とか言っていたけれど、カールは誰がどう見たって戦車ではないわ……規格外の攻撃力で圧倒する心算だったのでしょうけれど、あんなモノはみほの前では塵芥に等しいわ――覚悟は出来てるわね白神名誉顧問?

 

 

 

「何の覚悟かな?

 島田愛里寿率いる大学選抜が、大洗に負ける確率は1%未満――故に大学選抜に負けはない。」

 

「みほが勝つ確率が1%未満とは大きく出たわね?だけど、その程度の予想能力では、天気予報すら当たらないと思うわ。」

 

と言うかみほならば、下馬評を引っ繰り返す位はやるでしょうからね――だから、其れを踏まえると貴方は此処で終わりよ白神名誉顧問?

カールとはトンデモナイ物を持って来てくれたみたいだけれど、その程度で揺らぐほど、みほは柔じゃないわ――隻腕の軍神の実力を、其の身で味わい、そして後悔なさい――自分が、誰にケンカを売ってしまったのかをね。

取り敢えず――

 

 

 

「グァッデェェェェェェェェェェェェェム!!

 大学選抜チーム!テメェ等にゃプライドってもんがねぇのかオラァ!!戦車じゃねぇモン使って勝って、其れで満足か!如何なんだファッキン!」

 

「極悪兵器持ち出して勝った気になってるってのか?

 ハッ、だとしたらテメェ等大洗を、みほちゃんの戦車道が生んだ高校戦車道連合を舐め過ぎだぜ?

 高校戦車道黄金世代連合の力をその身に刻み込んで逝っちまいな!!」

 

 

 

試合後に黒い集団+好子にキッツイお仕置きされる事を覚悟しておくと良いわ。

勿論そのお仕置きには、私とちよきちも参加する心算だからその心算で。――戦車道を穢した罪は、とても重いのだからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 




キャラクター補足



・玉田

知波単学園の生徒で、絹代の考えに同調してクーデターを起こしたメンバーの1人。
『突撃だけでは駄目だ』とは思っているモノの、元々我慢強い性格ではない事と、みっちり仕込まれた突撃魂のせいで、ダメだとは分かっていても隙あらば突撃してしまうクセが抜けない事が悩み。
我慢強さと旧知波単魂を己の中から排除すべく禅修業を行っているらしいが、マダマダ道は長そうであるとの事。(尚、彼女の呼びかけに応じで禅修業をしている生徒は少なくないとか……)


・メグミ

大学選抜チーム中隊長、通称『バミューダ三姉妹』の1人。
ケイが入学した時のサンダースの隊長で、ケイの能力を見出し、将来隊長になる事を見越して鍛え挙げた人物でもある。
 2年生で中隊長を務めている辺り、相当な実力者であるのは間違い無いが、高校時代最後の大会では、当時1年生だったまほが率いる黒森峰に準決勝でフルボッコにされた経験がある。(まぁ、これは相手が悪過ぎたとしか言いようがない。)
 同じ中隊長のアズミとルミとは高校時代のライバルだが、同じ大学に進学したと言う事も有って、今はライバルと言うよりも親友と言った感じになっている。
酒が入ると、絡むようになる。(うわ、めんどくせぇ。)


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Panzer158『カールだと?ガッデムオラァ!です』

タイトルに黒い人の影が……Byみほ        まぁ、此れは仕方ないんじゃない?Byエリカ      作者はプロレス好きですからBy小梅


Side:アンチョビ

 

 

カール自走臼砲か……名前だけは聞いた事がるが、実物を目にするのは初めてだ――一体どんな代物なんだカールと言うのは?……お前はミリオタって言う事だったから知ってるんじゃないのか秋山?

 

 

 

「カール自走臼砲とは、敵の城砦を突破する事を目的に作られた兵器で、その主砲は600mmと言う化け物染みた破壊力を有した兵器なのであります!!――如何考えても戦車とは呼べない代物でもありますが。」

 

 

 

つまり、戦車道に於いては間違い無く場違いな違法兵器と言う訳か――否、そんな存在でもなければ、みほが真っ先に撃破しようとは思わないだろうからな……マッタクふざけたモノを持ち出して来たもんだな大学選抜は。

文科省から押し付けられたとは言え戦車乗りとしての誇りがあるのなら、試合で使うなよ……って言うか主砲が600mmって、CV-33の何倍だ!?

 

 

 

「75倍でありますね。」

 

「75倍だとぉ!?」

 

75倍って、スーパーサイヤ人超えてるじゃないな!!

スーパーサイヤ人でさえ50倍だったというのに、其れを上回る75倍とは……直撃したら一溜りもない所か、下手すりゃカーボンがあっても死ぬんじゃ無いのか其れ!?

冗談抜きで命懸けのミッションか……キッチリと作戦を立てないと此方が一撃で全滅してしまうだろうさ。

だがまぁ、やられてやる心算は毛頭ないから……私達の手でカールに引導を渡したやるとしようじゃないか――戦車道にあるまじき兵器であるカール自走臼砲を野放しには出来ないからな。

ドングリ小隊、Avanti!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer158

『カールだと?ガッデムオラァ!です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

林の出口に到達し、其処から先にある場所を観察してみれば……林の出口の岩場から橋で繋がった高台に陣を取った黒い巨大な兵器――アレがカール自走臼砲か。

弾頭と薬莢の装填、薬莢の排出が自動で行われているようだが……アレはアリなのか秋山?

 

 

 

「いえ、なしでありますよアンチョビ殿。

 カールは、本来ならばⅣ号戦車を改造した専用の砲弾運搬車で砲弾を運び、給弾にも専用のクレーンが必要な上、装填~発射は18名もの人員が人力で行うモノであります。

 当時はあの様な自動装填と薬莢排出機構は存在していませんから、仮にカールを認可したとしても、完全にレギュレーション違反であります!」

 

「明らかにレギュレーション違反の魔改造が施されている訳か……戦車道の根底から崩れてるじゃないか!」

 

まぁ、何が何でも大洗を廃校にしたい連中にとってはそんな事は如何でも良いんだろうな。

だからこそ、余計に腹が立つ!!

大事な試合に、こんな余計な横槍を入れてくれた事にな!!何が何でも、絶対に撃破してスクラップ……にするよりも大学選抜側に交渉して、戦利品として所有権譲渡して貰ってから売り払う方が良いか?

戦車としてはアウトでも、ミリオタの中には欲しがる奴も居るだろうし、そうすれば少しはアンツィオの資金が捻出出来るかも知れないからな。

 

 

 

「ドゥーチェ……?」

 

「いや、冗談だカルパッチョ。

 とにかくアレを撃破するには、お供のパーシングが邪魔だな?……パーシングを撃破せずとも、カールから引き剥がす必要が有る――」

 

『――こちらみほです、聞こえますかアンチョビさん?』

 

「っと、如何かしたかみほ?こっちは順調にカールを目視できる場所まで来たぞ?……今はどうやってあのデカブツを倒すかを考えている所だ。」

 

『其れなんですけど、カールの撃破には大学選抜チームの天城さんとアールグレイさんが協力してくれるって言ってたの覚えてます?』

 

 

 

あぁ、そう言えばそんな事言ってたなぁ逸見との電話で。

いや、だがあれは流石に冗談だろう?幾ら何でも、そんな事をしたら大学選抜をクビになるからな……アレは、まぁなんだ、私達の事を鼓舞する為のモノじゃないかと思うんだけれどな?

 

 

 

『いえ、マジです。』

 

「……は?」

 

『だから、マジです。本気と書いてマジです。って言うか、カール撃破に向かった事を伝えました。』

 

「E una bugia!?(嘘だろ!?)」

 

あの2人、本気だったのか!?

流石は西住が隊長になるまで黒森峰を率いていた天城春奈と、聖グロの伝説の隊長であるアールグレイ……やる事が大胆と言うか何と言うかだが、其れ程の戦車乗りが味方をしてくれるというのならば有り難い事だ。

 

 

 

『大マジです――だから、やっちゃってくださいアンチョビさん!』

 

「あぁ、任せておけ!予想外の援軍だが、此方にしては有り難い事この上ないからな!」

 

となれば、パーシングを引き剥がす役目が出来るのはお前しかいない……頼めるかミカ?

 

 

 

「その作戦に意味があるとは思えない……だが、君が作ろうとしている風に乗るのは悪くないよアンチョビさん。」

 

「……お前、少しは其の捻くれた性格は何とかならないのか?」

 

「ふふ、齢18ともなると今更性格を変える事など出来ないモノだよ。」

 

 

 

はぁ、何を如何やったら此処まで素直じゃない人間が出来上がるのか知りたいもんだが、ミカの実力は生半可なモンじゃない――もっと戦力に恵まれている学校に進学していたら、間違いなく黒森峰の最大の脅威となってただろうからな。

 

 

 

「ふふ、其れは君もだろうアンチョビさん?」

 

「さぁ、其れは如何だろうな?」

 

西住はアンツィオに進学した私の事もライバルであり友であるといってくれるけどな……まぁ、そんな事よりも今はカールの撃破が最優先だから全力で行くぞ?

大洗連合改め、高校選抜チームの底力を見せてやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

カール自走臼砲を撃破する為に編成された、アンチョビ率いるドングリ小隊だが、アンチョビの指揮の下、行き成り大学選抜の予想を超えた戦術を放って来た。

 

 

「やぁ、お邪魔するよ?」

 

 

突如現れた、継続のBT-42が高台の下から現れ、カールに向かって砲撃!!

尤も、その砲撃は牽制の為の一発である為、カールの側面に掠っただけで大した損傷を与える事は出来なかったのだが、其れでもこの奇襲は大学選抜側からしたら予想外だっただろう。

こんなに早くカールの存在がバレるとは思っていなった上に、カールを撃破しようとした相手チームの戦車が奇襲をかけて来たのだから。

 

 

「1輌でって、舐めるんじゃないわよ高校生風情が!!」

 

「返り討ちにしてやるわ!!」

 

 

だが、其れでも大学選抜のエリート意識から、単騎で奇襲をかけて来たBT-42を撃破せんと、カールの護衛に付いていたパーシング3輌が出撃して、カールは丸裸だ。

そして、其れを見逃すアンチョビではない!!

 

 

「行くぞ、全軍突撃!!」

 

 

パーシングが居なくなったのを見るや否や林の中から飛び出して一路カールに向けて全力前進の全力全開の全力全壊!!――ヘッツァー以外は火力が足りない?……其れが如何した!!

 

 

「カール自走臼砲……戦車道を穢すお前には此処で消えて貰うぞ!!」

 

 

黒いマントを翻し、鞭を片手にしたアンチョビからはみほとは異なる『策士』の闘気が溢れているのだ――この突撃が、只の突撃でない事だけはハッキリしているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

アンチョビが突撃を命じたのと同じ頃、カールが要る高台の下の荒野では、ミカ率いるBT-42と大学選抜のパーシング3輌の戦闘が幕を開けていた――戦車の性能で負けている上に、数も相手の方が多いとなれば、ミカが圧倒的に不利なのは言うまでもないだろう。

普通に考えれば、如何にミカが優秀な戦車乗りであっても一方的に塵殺されるだけなのだが――

 

 

「其れじゃあ、頼れる助っ人にご登場願おうかな?……Tupla etukateen kutsu(ダブルアドバンス召喚)――出番だよお2人さん?」

 

「其れを待ってたわ!」

 

「少しばかり暴れさせて貰うわ……付き合って貰うわよ?」

 

 

ミカの号令と共に現れたのは、天城春奈が車長を務めるパーシングと、アールグレイ改め、逸見カンナが車長を務めるパーシングだ――冗談ではなく、天城とアールグレイはガチでカール撃破を手伝う心算だったのだ。

 

が、此れに驚いたのはカールの指揮官だ――いやまぁ、味方が裏切ったというのなら驚いて然りだが。

 

 

「天城、逸見……裏切る心算なの!?」

 

「裏切る?違うわね、見限ったのよカール自走臼砲を……そして、其れを迷わず使う貴女達もね――もしも愛里寿がこの場に居たらカールでの攻撃は絶対にしなかったでしょうね。

 だけど、貴女達は迷わずにカールでの攻撃を行ったわ……其れこそが愛里寿に対する最大の裏切りだと気付かないのかしら?」

 

「おそらく島田隊長はカールの使用には反対だったでしょう……けど、文科省に押し付けられた以上は1回は使用しなければならないとは思っていたとは思うけれど、連続使用は考えてなかった筈だわ。

 にも拘らず、其れを連続で使った……強力な兵器を得た事で、其れを嬉々として使う貴女達に戦車に乗る資格はないわ……恥と知りなさい!」

 

 

裏切ったのかという言葉に返って来た天城とアールグレイの言葉に、カールの指揮官は思わず言葉を詰まらせる――天城とアールグレイの指摘は、自分でも自覚していなかったモノだったから。

だが、言われた事で自覚してしまった。普段は絶対に使う事が出来ない強力な兵器を使えるという事に浮かれ、此れが戦車と呼ぶ事が出来ない異端なモノだと言う事がすっぱりと頭から抜け、只その強い力を使う事に酔ってしまった。

まるで、子供が新しい玩具を与えられて、其れに夢中になってしまうように。

気付かされた己の愚行に苦虫を噛み締めたような顔になるカールの指揮官だが、だがだからと言ってチームからの離反者を放っておいて良いという訳でもない。

 

 

「其れはそうかも知れないけど……だけど、だからってチームを裏切るのを見過ごす事は出来ないわ。

 パーシング部隊、天城と逸見も撃破せよ!2輌失う事になるのは正直痛いけれど、その2人をそのままにしておいたらチームが瓦解する!!」

 

 

殆どヤケに近い状態でミカだけでなく天城とカンナの乗るパーシングも撃破する様に命令を下す――そして、命令を下された3輌のパーシングは、特に躊躇う事も無くミカ達に向かってくる……チームを離反したモノは、排除すべきと考えたのは指揮官だけでは無かったらしい。

 

 

「此れは此れは、中々に激しい風が吹き始めたみたいだ――なら、その風を乗りこなすのもまた一興かな?」

 

 

だがそんな事は正にどこ吹く風と言わんばかりのミカは、不敵な笑みを浮かべると同時に手にしたカンテレの弦を弾き、曲を紡ぎ始める――『試合中に何やってんだ、仕事しろ車長』と言いたくなるかもしれない光景だが、ミカがカンテレを弾き始めた瞬間にBT-42は猛発進し、大学選抜のパーシングに向かっていく。

それも、機動力はあるモノの機体バランスの悪さから真っすぐ走る事さえ困難と言われているBT-42とは思えない程の運動能力を発揮してだ。

此れはあまり知られていない事実だが、ミカは車長としての指示らしい指示を出す事は滅多になく、その場その場で思い付き的な指示を出す事が多いのだが、本気になったその時は、カンテレを弾き、そのメロディーを指示とする――其処だけ聞くと『なんのこっちゃ?』と思うだろうが、ミカと日常的に一緒に居るアキとミッコにとって、ミカのカンテレの音はとても聞き慣れたモノであると同時に、ミカがカンテレを奏でるのは、気分が乗っているからだと言う事を理解していた。

そして、戦車に乗ったミカの気分が乗っている状態になった時になった時にはどうすれば良いのかを理解している、其れだけの事だ――常に一緒に要る3人だからこそ可能な、無言の連携プレイ――其れが、ミカのカンテレの正体だった。

 

無論それに負けじと天城とカンナのパーシングも発進し、此処にカール自走臼砲を巡る戦いが幕を開けた訳だが――ミカは真の目的を果たす為の囮であるという事を忘れてはならない。

 

 

「今だぁ!全軍突撃ぃ!!」

 

「「了解!!」」

 

 

カールの護衛であるパーシングが全ていなくなった事を確認したアンチョビは、此処で全軍を進撃させ、カールを撃破する為に猛スピードで石造りの橋を激走!驀進!!アァクセルシンクロォォォォォォォォォ!!!

 

 

「しまった!!」

 

 

完全に虚を突かれた形となったカールの指揮官は慌てるが、だからと言ってカールの主砲で迎撃する事は出来なかった――CV-33の車長であるアンチョビが車体から上半身を出して指揮をしていたからだ。

戦車の中にいるのならば、特殊なカーボンによって守られている為、カールの砲撃が直撃しても、骨折くらいはするかも知れないが死ぬ事は無いだろう――だが、600mmの凶悪な砲弾が生身に直撃してしまったら?……言うまでもなく挽き肉になるだけだ。

その可能性が頭をよぎり、攻撃が出来なかった。

 

 

「させるあぁぁぁ!!」

 

 

 

――バガァァァァァン!!

 

 

 

だが此処で味方であるパーシングが橋を砲撃して破壊し、アンチョビ達の進撃を食い止める――が、その選択は間違いではないがこの状況ではある意味では悪手だろう。

 

 

「目の前の敵から目を逸らすとは、随分と余裕があるわね先輩?」

 

「天城!!」

 

 

橋を砲撃したパーシングの横っ腹に天城のパーシングが現れ、略ゼロ距離からの攻撃を敢行!!

重装甲のパーシングとは言え、同じく重火力を誇るパーシングの砲撃を略ゼロ距離から放たれたら一溜りもないだろう――だがしかし、只やられるという事も無く、天城の攻撃を受けたパーシングは、苦し紛れの一撃を放つ。

其れは、狙いも何もない、正に苦し紛れの最後っ屁だったのだが――

 

 

 

――ズガァァァァァァン!!!

 

 

 

何の運命か、神の悪戯か、その砲撃はBT-42の履帯に炸裂し、履帯を断裂してしまう――戦車にとって履帯とは行動する為の生命線其の物であり、其れを切られてしまった以上、撃破判定とはなって居なくともBT-42は戦力外なのだが……

 

 

「天下のクリスティ式舐めんなよぉ!!」

 

 

履帯を切られると同時に、ミッコは専用のハンドルを操縦桿にぶちこんでBT-42の走行を続行!――クリスティ式を採用しているBT-42は、履帯が無い方が機動力は高くなるのだ……ある意味で、戦車の概念超えてねぇか此れ?

まるで『履帯が外れてからが本番だオラァ!』と言わんばかりの機動で、BT-42はパーシングを翻弄する……相手をキリキリ舞いさせるミカの戦術は、正に忍者戦術の島田流と言えるだろう。

だが、ミカは島田の人間でありながら島田流の申し子ではない――みほが西住の人間でありながら西住流の申し子でないように。

 

 

「紅茶のお供に、スコーンは如何かなアールグレイさん?」

 

「そうね、美味しく頂戴させて貰うわ。」

 

 

自身にパーシングを集中させたミカは、クイックターンで軌道を変えると、其処から現れたのはカンナのパーシング……己を囮にしたトリックプレイを用いて2輌目のパーシングを撃滅!!

こうなっては、もう護衛だったパーシング部隊は略壊滅言っても良いだろう――残り1輌で、ミカ、天城、カンナの3人を相手しろと言うのは、幾ら何でも無理ゲーなのだから。

となれば、後はアンチョビ達がカールを如何撃破するかに掛かっているのだが……

 

 

「橋が寸断されたか……ならば、私達の足元を攻撃しろ磯辺!!って言うか引っくり返せ!!それが、勝利への布石だ、根性見せろ!!」

 

「了解しましたアンチョビ小隊長!!此れが根性ダァァ!!」

 

 

有ろう事か、アンチョビはアヒルチームに自らを攻撃――もっと正確に言うのならば、自分を引っ繰り返せと命じる。其れが勝利への布石となると言った上でだ。

アヒルチームは悪い言い方をすれば、スポコンの脳筋なので、勝利への布石と聞かされれば、その為の一手を打つ事に戸惑いはなく、アンチョビの命令に従ってCV-33の足元を攻撃し、此れによりCV-33は裏返しになってしまうが、其れこそがアンチョビの狙いだった。

 

 

「履帯回転!!飛べ角谷ぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「チョイサァァァァ!!!」

 

 

裏返しになったCV-33の履帯を回転させ、其処にヘッツァーを乗せて打ち出す――大洗女子学園が、全国大会の決勝で黒森峰の切り札であったマウスを撃破した時に使った戦車カタパルトをアンチョビは使ったのだ。

黒森峰戦ではカタパルト役になったヘッツァーが、今度はCV-33のカタパルトで射出されるというのは何とも奇妙なモノを感じなくもないが、射出されたヘッツァーの砲手は杏だ。そうそうしくじりはしないだろう。

 

 

「会長!お願いします!!」

 

「任せとけよ、か~しま!!」

 

 

そしてカタパルトで射出されたヘッツァーは、カールの主砲を攻撃し、その結果カールの砲身は誘爆を起こして破壊され、結果として――

 

 

――キュポン!

 

 

『大学選抜チーム、カール自走臼砲行動不能。』

 

 

凶悪兵器であるカールは白旗判定に――戦車道に持ち込まれた悪意は、戦車道を愛する者達の熱意によって沈んだ……そう言える展開だったと言えるだろう。

だが、だからと言って護衛のパーシングとの戦いが終わった訳では無いのだが、既に2輌を失い、1vs3となったパーシングに勝機は無かった。

考えても見て欲しい、まほが来るまで黒森峰の隊長を務め、大会でも優勝を捥ぎ取っていた天城と、聖グロで現島田流の家元以外で唯一アールグレイのノーブルネームを名乗ったカンナ、そして、実は島田流の長女でありみほが強敵と認めたミカの3人を相手にしたら、如何に大学選抜のエリートであっても勝機は薄い――というか勝率は0%だろう。

 

 

「さて、最後に何か言いたい事は有る?」

 

「なんでこんな事に……不幸だ!!」

 

「よく言ったわ……なら、此処で散れ。」

 

「君は風に乗れなかった様だね……サヨナラだ。」

 

 

慈悲などないと言わんばかりに、BT-42と2輌のパーシングの攻撃を受け、パーシング部隊は壊滅!正に粉砕、玉砕、大喝采!!どこぞの社長が高笑いしかねない事態になってたのだ。

更に――

 

 

「違法兵器は撃破出来たみたいよ天城?」

 

「そうね……ならば、私達は此処までだわ――本部に通達、現時点で私、天城春奈と逸見カンナは此の試合を棄権します。」

 

 

此処で天城が自身とカンナの棄権を申し入れたのだ――此の2人が棄権した所で大学選抜が即敗北と言う事にはならないのだが、此処での棄権は、大学選抜にとっての痛手に他ならないだろう。

天城とカンナの棄権によって大学選抜の損失は9輌に。

対して大洗の損失は6輌……その差は僅かに3輌だが、殲滅戦ルールに於ける3輌の差は決して小さくないので、状況は大洗有利に傾いたと言えるだろう。

 

因みに――

 

 

「逸見と天城が裏切った末に降参しました。」

 

「予想はしてたが矢張りか……だが此れで、もうカールを使わずに済むな。」

 

 

カールの関する報告を聞いた愛里寿は特段焦ったりという様子はなかった――愛里寿的にも、戦車道を穢す兵器が駆逐されたというのは喜ぶべきものなのだろう。

カールがなくなれば、純粋にみほと戦う事が出来るのだから。

 

 

「本番は此処から……そうだよね、みほさん、姉様。」

 

 

呟かれた一言は、誰も聞く事は無かったが、その一言には愛里寿の闘気が詰め込まれていた――隻腕の軍神と、島田の天才児が直接対決を行う事になったその時には、戦車道の歴史に名を残す激闘になるのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

さてと、状況はどうなってるかな沙織さん?

 

 

 

「んっとね、こっちの被害はパンター2輌、知波単の戦車2輌、T-34とKV-2の6輌が撃破されたけど、大学選抜はチャーフィー2輌とパーシング6輌……うち2輌は棄権だけど、カール1輌の合計9輌――数的には有利だよみぽりん!

 此れなら勝てるかも知れないよ!!」

 

「うん、其れは確かにそうかも知れないけど油断は禁物だよ。」

 

大学選抜の隊長は、ミカさんが島田流の後継者の地位を明け渡した程の天才である愛里寿ちゃんだから、数的な有利に立ったからって油断は出来ない……だから、此処からは各校の特色を生かしたチームワークで行きましょう!

 

 

 

「普通なら、『急ごしらえのチームでチームワーク?』って言う所なんだけど、貴女が指揮するチームに限っては其れは無いわ――寧ろ、流儀も何もかもが違うチームが揃ったこのチームこそが貴女の力を発揮出来るチームでしょうみほ?」

 

「エリカさん、其れはちょっとほめ過ぎじゃない?」

 

「そんな事は有りませんわみほさん……貴女は正に隻腕の軍神の二つ名に恥じない戦車乗りである事は、今や高校戦車道の常識――その名を知らないモノはモグリと言われていますのよ?」

 

 

 

うぇーい、思った以上に私の名前は有名だったみたいだね?――でも、そう言う事なら、其れに応えないとだよ……!!

 

 

 

――轟!!!

 

 

 

「これは……この闘気は!!」

 

「はは……みほが本気を出したみてぇだな!!」

 

「こうなった以上、みほさんの勝利は絶対ですわ!!」

 

「此れがみぽりんの本気の本気の更に本気!冗談抜きで空気が震えちゃってるよ!!」

 

 

 

腐った大人の思惑を焼き尽くす為に、私は私の中で眠っていたモノを――眠れる本能を解放する!!さぁ、試合は此処からが本番だよ大学選抜チーム……私の闘気を目覚めさてしまった事を、精々後悔すると良いよ。

隻腕の軍神の闘気は、眼前の敵を倒さない限り、治まる事は無いのだからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer159『此処からが本当の大学選抜戦です』

本番は此処から……気合は充分?Byみほ        誰に物を言ってるの?10年分の気合を貯蔵して来たわ!Byエリカ      戦闘力のインフレが始まったみたいですBy小梅


Side:みほ

 

 

カールを撃破した後に、一度全車輌が合流して、目指すは遊園地の跡地――あそこなら、疑似的にだけど私の得意な市街地戦を行う事が出来るから、私にとっては最高のフィールドだよ。

どんなフィールドでも負ける心算は無いけど、市街地戦こそが私の力を120%発揮できるフィールドだからね。

 

 

 

「何を言ってるんですか西住隊長?市街地戦で発揮される隊長の力は200%オーバーですよ?

 隊長の一番弟子である私が言うんだから間違いありません。

 下手したら、400%オーバーの可能性すらありますから!……結論として、隻腕の軍神は市街地戦無敗なんです!」

 

「うん、少し落ち着こうか梓ちゃん。」

 

でも、梓ちゃんが市街地線における私の力が最大で4倍を超えるて言ってくれたのは、ちょっと自信になったかな?……頼れる副隊長が、そう言ってくれたのなら、きっとそれは正しい事だろうからね。

そして、私は其れを正しい事とする義務が有るからね!!

 

 

 

「ま、そうなるわね。

 所でみほ、私は何時まで鎖に繋がれていればいいのかしら?」

 

 

 

そして、其れとは別にエリカさんの事も有ったね……お姉ちゃんのひまわり小隊に組み込んだエリカさんだけど、ソロソロ鎖に繋がれてるのは限界が来てるみたいだね?

だけどもう少しだけ我慢してくれるかな?――遊園地に着いたら、その鎖は外してあげるから。

 

 

 

「約束よみほ。」

 

「うん、約束だよ。」

 

って言うか、エリカさんの鎖を外さない選択肢は無いからね?

私達が目的地に到達したその瞬間に、銀狼の動きを制限していた鎖を取り払う――果たして、鎖から解き放たれたエリカさんを相手に大学選抜が何処までやれるか見せて貰うよ?

大洗の狂犬と化したエリカさんは、並の戦車乗りじゃ相手にならないからね。

取り敢えず今は遊園地に……愛里寿ちゃんも、あそこなら私の十八番の市街地戦が出来ると分かってるだろうけど、先に遊園地に入って、其処から動かなければ、否が応でも遊園地に来ざるを得ないからね。

 

 

 

「最初のフィールドで此方に致命的な損害を与える事が出来ずに、遊園地での市街地戦に持ち込まれた……プライドの高い大学選抜の隊員からしたら、相当に悔しい結果なのではないでしょうか?

 加えて、みほさんの事を知っているのならば市街地戦での強さも分かっている筈ですから。」

 

「プライドに傷が付いたのは確かだと思うよ小梅さん。

 加えて、カールを撃破する為に天城さんとアールグレイさんが反旗を翻した後に棄権したって言う事も、結構ショッキングだったと思うから、可成りメンタル面でのダメージは大きいと思う。」

 

尤も、愛里寿ちゃんは動揺してないと思うけどね。

何にしても、次のフィールドは私の最も得意な戦い方が出来る場所――大学選抜には、もう1輌正体不明のシークレットが存在してるけど、この際どんな戦車が出て来た所で敵じゃない……纏めて撃破するだけだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer159

『此処からが本当の大学選抜戦です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊園地跡地までは問題なく到着する事が出来たけれど、此処で大学選抜を迎え撃つ為には入り口での防衛線が重要になって来るかな?

中に入れるのが目的とは言え、何もしないで『ハイどうぞ』って言う訳には行かないからね……さて、部隊を如何分けたモノだろうね此れは?

ミカさん、何かアイディアはありませんか?

 

 

 

「私に意見を求める理由が分からないな?」

 

「いえ、分かってますよね普通に?

 最大限ぶっちゃけて言わせて貰うなら、愛里寿ちゃんだったらこの状況でどんな感じで来ると思いますか、愛里寿ちゃんのお姉さんである島田美佳さん?」

 

「へ?ミカさんって島田流の人なの!?」

 

「……私の正体を明かす事に意味があるとは思えない。」

 

 

 

継続高校隊長、通称『名無しのミカ』こと島田美佳さん……類稀なる力を持った戦車乗りで、中学時代には私率いる明光大と激戦を繰り広げた人。

戦車乗りとしての実力は確かで、恐らく黒森峰以外の学校だったら間違いなく何処でも隊長になれるだけの実力者なんだけど、性格は自由奔放な上に、言動は素直じゃない、ともすればひねくれ者と取られかねない位に特殊で、序に割と周囲を巻き込む困ったさん。

あと、そうは見えないかも知れないけど多分若干シスコンの気あり。

 

 

 

「みほさん、その辺で勘弁して貰えるかな?……と言うか、なんで私がシスコンだと思うんだい?」

 

「若干お姉ちゃんと同じニオイを感じました。」

 

「この場合、まほさんと同じと言うのを喜ぶべきなのか嘆くべきなのか悩むところだね……まぁ、今は其れに言及してる場合じゃないか。

 そうだねみほさん?あくまでも私の知ってる範囲の愛里寿ならば、恐らくだが裏の裏の裏で――南正門入り口から来ると見せかけて東西どちらかの通用門からと思わせておいての南正門入り口ルートで来る筈だよ。

 私が島田の家に居た頃に、何度も愛里寿に『裏の裏のそのまた裏』と言った戦術を見せているからね。

 只、此れはあくまでも可能性の話であり、私が家を出た後の愛里寿ならば私の予想を超えて来る可能性は充分にある――妹自慢じゃないけれど、あの子は間違い無く島田流始まって以来の天才だよ。」

 

「其れならば、みほもまた西住流始まって以来の天才だな。」

 

 

 

……お姉ちゃん、其処は張り合わなくて良いから。

でも、そうなると結局は出たとこ勝負って事になる訳か……仕方ない、元々市街地戦は局地戦闘になる訳だから、適当に散開して相手の出方に合わせて仕掛けて行く事にしましょう。

 

 

 

「其れなんだがみほ、私等に独立行動許してくれないか?」

 

「アンチョビさん?独立行動って、何をする心算ですか?」

 

「なに、遊園地って特殊な場所を最大限生かしてやろうと思ってな?

 CV-33でジェットコースターの最上部にまで登ってGPSの役目をしてやろうかと――大学選抜が、各車両の位置を把握できるGPS機能付きタブレットを使ってるのに、こっちには其れが無いって言うのは不公平だからな。」

 

「成程、そう言う事ですか。」

 

確かに高所から広範囲を見渡す事が出来れば、戦局も良く分かるから指示も出しやすいからね……分かりました、お願いしますアンチョビさん!!

 

 

 

「任せておけ!フィールドの全ての状況を詳細に報告してやる!」

 

「安斎のGPSか……これ以上に頼りになるGPSもあるまい。」

 

 

 

マッタクだね。

其れじゃあ、アンチョビさんからの報告を基に作戦を考えて行くとして……其れとは別に、エリカさん、戦闘が始まったら好きなようにやって良いよ。

銀の猟犬は、ソロソロその牙で血を吸いたい所でしょ?

 

 

 

「えぇ、勿論よ……その言葉を待っていたわみほ!

 だけど、首輪を外された猟犬は狂犬となって、敵や獲物と認識した相手には容赦なく襲い掛かって喰い殺す……隊長の島田愛里寿はみほに譲るけど、他の連中は軒並み喰い殺してやろうじゃない!!」

 

 

 

……瞳をぎらつかせ、犬歯をむき出しにした獰猛で凶暴な笑みを浮かべるエリカさんは凄く迫力があるねうん。――このエリカさんと相対したら並の戦車乗りなら敵前逃亡するかもだよ。

でも、こうなった以上、エリカさんは止まらない……例え履帯を切られても、相手を道連れにする位の事は平然とするだろうからね。

準備は出来た――後は、愛里寿ちゃんが如何出て来るかだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

カールが撃破され、大洗連合が遊園地跡地に向かっているという事は、直ぐに大学選抜の隊長である愛里寿にも伝わっていた。――本来ならば、態々みほの得意な市街地戦に付き合う必要は無いのだが、大洗連合が先行している今、遊園地跡地に入るのを止める事は出来ない。

カールが健在だったならば、阻止も出来ただろうが、撃破された今では其れも不可能だ……尤も、カールが健在であっても愛里寿はそんな命令は下さなかっただろうが。

 

 

「遊園地の跡地……疑似的に市街地戦が出来る場所、か。……此処は行くべきよね。」

 

 

此の報告を聞いた愛里寿は、暫し考えた後に遊園地跡地での戦いに、みほの策に敢えて乗る事にしたようだ。

此れは偏に、戦車乗りとしての血が騒いだとしか言いようがない――隻腕の軍神として名を馳せているみほの十八番である市街地戦……其れが如何程のモノかを直に見たくなったのだろう。

 

 

「全車輌遊園地跡地に向かえ。

 但し、真面に行っても向こうの思う壺だ。細工をするのを忘れるな。」

 

『了解!』

 

 

だが、だからと言って真っ向から挑むのは愚の骨頂!

愛里寿は裏門が本命だと思わせろとの命令を下し、部隊を動かして行く――この辺りの冷静さは、流石若干13歳で大学選抜チームの隊長になった島田流始まって以来の天才児と言った所だ。

愛里寿の実力は、今の日本で5本の指に入ると言っても過言ではない。

 

が、相手は隻腕の軍神――世界で5本の指に入ると噂されている戦車乗りである事を忘れてはいけない。

 

 

「こちらみほ。アンチョビさん、大学選抜の姿は確認できましたか?」

 

『え~とだな……おぉ、来たぞ!パーシング2輌を先頭に、派手に土煙あげながら東通用門の方に向かってるな?

 土煙の量からすると、恐らく戦力の殆どが東通用門の方に集められたと見て間違いない――と言う所だが、さっきのミカの話を考えると、あの派手な土煙は多分煙幕。ありゃ、陽動だな。』

 

「了解しましたアンチョビさん。

 お姉ちゃん、近坂さん、ダージリンさん、ノンナさんとカチューシャさんは東通用門に!ケイさん、西さん、エクレールさん、華さんは西側通用門に!

 エリカさんと小梅さんと梓ちゃんを除いた残りは、全て南正門入り口に!」

 

「みほ、本隊と別動隊の指揮系統は如何する?」

 

「私が大隊長と言うのは形の上では残しますが、最高指揮権を各校の隊長に分配します。

 今でこそチーム分けをしましたが、遊園地での戦闘が始まれば局地戦になって、今のチーム分けは意味をなさなくなるので、その時々のチームで好きなようにやって下さい。

 その際、隊長と同じチームになった場合には隊長の指示を最優先に!」

 

「大胆な作戦ですわねみほさん……ですが、その大胆さこそがみほさんの戦車道。

 それでいながら、臨機応変さも併せ持っているのだから、みほさんの戦車道は正に水……時には激流となって全てを飲み込み、時には静かに衝撃を吸収してしまう――捉えどころがありませんわ。」

 

 

アンチョビからの報告を受けたみほは、すぐさま部隊編成をして大学選抜チームの迎撃態勢を整える――そのスピードたるや、プロチームですら遥かに凌駕しているのだから恐ろしい。

そしてその指示とは別に……

 

 

「エリカさんは好きなようにして。……お腹が膨れるまで食べて良いよ。」

 

「ククク……其れは、最高の指示だわみほ。」

 

 

此処でエリカを完全に野に放つ。

こうなった以上、最早エリカの凶暴性を抑えるモノは何もなく、敵は噛み殺す!喰い殺す!!……銀の狂犬が完全開放されたというのは大学選抜にとっては悪夢でしかないだろう。

その悪夢を味わうのは此れからなのだが。

 

 

「梓ちゃんと小梅さんは高台の観覧車の方に向かってくれるかな?――私の勘が、其処に2人を向かわせるべきだって告げてるから。」

 

「西住隊長の勘がそう言うのなら、其れには従うが吉ですね……了解しました。」

 

「みほさんの直感はスーパーコンピューターの予測以上ですからね……了解しました、赤星小梅、澤梓副隊長と共に観覧車に向かいます。」

 

 

更にそれだけでなく、梓と小梅を直接的な戦闘には関係のない観覧車の丘に向かわせる――一見すると意味のない命令かも知れないが、梓も小梅も、みほの戦い方を知ってるから異を唱える様な無粋な真似はしない。

みほの事だから、必ず自分達を向かわせた意味があると、そう思っているからだ。

 

ともあれ此れで部隊配置は完了。

あとは大学選抜を待つばかりなのだが……

 

 

 

「へ?パーシングが3輌だけ!?」

 

 

南正面入り口で陣を構えていたみほの前に現れたのは、パーシングが3輌のみ!冗談ではなく、本気でパーシングが3輌しか現れなかった。

まだ、目視できる段階とは言え、此れは流石に予想外だろう――ミカの予想が正しければ、裏の裏の裏で南正面入り口から来ると言うのが正解なのだから。

だからこそ、嫌な予感がみほの中を駆け巡った。

 

 

「こちらみほ!お姉ちゃん、ケイさん、状況報告をお願いします!!」

 

『此方ケイ。西側通用門にパーシング2輌、チャーフィー1輌を確認したわ。』

 

『此方まほ……オイ、此れは何の冗談だ?

 南側通用門にはパーシングが13輌向かってきているぞ?』

 

 

即座に状況報告をした事で、その嫌な予感は確信に変わった――ミカの言った『裏の裏の裏』の上を行く『裏の裏の裏の裏』とも言うべき事を愛里寿はやったのだ。

みほがミカに助言を求めたのに対し、愛里寿は姉であるミカが大洗連合に居るのならばと考え、ミカの予想の上を行く作戦を立てたのである。

 

 

「やられた……ミカさんがこっちに居る事を逆手に取られた!

 でも、こうなっちゃったことは仕方ない!私とルクリリさんとアリサさん以外は、全て東側通用門に向かって下さい!!」

 

 

だが、其処はみほ。

すぐさま自分の部隊を再編成し、東側の通用門に援軍を送る――遊園地内に大学選抜チームが入って来ていない今ならば、援軍をスムーズに送る事が出来るのだから、この判断はベターだろう。

此れだけを見るのならば、みほとルクリリとアリサでパーシング3輌を迎え撃つ事になるのだが……果たしてみほが馬鹿正直に3輌のパーシングと遣り合ったりするだろうか?

 

 

「ルクリリさん、アリサさん……やっちゃってください。」

 

「了解!此れでも喰らえ!!」

 

「隻腕の軍神の恐ろしさ、其の身で味わいなさい。」

 

 

答えは否!断じて否!!

みほの命を受けたルクリリとアリサは、夫々発煙筒と閃光弾を投げ、スモークに閃光を混ぜた強烈な目暗ましを発生させる……若干反則かも知れないが、発煙筒も閃光弾も、緊急時の連絡手段として戦車に搭載する事が義務付けられているモノだから、其れを使った所で全然問題はない。

そもそもにして、難癖付けて来るのなら、違法改造カール使ってたお前等が言うなだ。

 

詰まるところ、自分とルクリリとアリサ以外を先に離脱させたのも、自分達が迎え撃つと思わせる為のみほの罠だったという事だ。

 

とは言え、最速で向かった所で遊園地内には様々な遊具や施設がある為、移動には時間がかかる――其れはつまり、東側通用門の部隊が劣勢になるのは避けられないという事だ。

 

 

「く……此のままでは全滅する――仕方ない、撤退するぞ!本隊と合流して体勢を立て直す!」

 

「仕方ありませんわね……今は其れが上策ですわ。」

 

 

実際に、東側通用門では5対13と言う圧倒的な戦力の前に、まほですら撤退を余儀なくされていた――西住流の理念には反する撤退とも思うだろうが、この場では西住流の理念よりも勝利を優先し、勝つための戦略的撤退を選んだという所だろう。

 

 

そして、西側通用門では……

 

 

 

「Welcome!今よ、キヌヨ、エクレール、ハナ!!」

 

「これぞ戦車の華!やらせて頂きます!!」

 

「優雅とは言い難い戦い方ですが、此れも勝利の為ならば受け入れますわ。」

 

「花を生ける時の様に集中して……撃ちます!!」

 

 

ケイ率いる部隊がゲリラ戦を展開して、パーシング2輌を撃破!!――惜しくもチャーフィーには、そのフットワークの良さから逃げられてしまったものの、此れで大洗と大学選抜チームの車輌差は8輌になり、俄然大洗が有利になったと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

だが、そう巧く行かないのが試合と言うモノだ。

東側通用門から撤退したまほ達は、みほ達と合流し、大学選抜と戦車戦を行っていたのだが、まほが撤退戦を行っていた事で受け身の戦いとなってしまい……

 

 

 

「あぁ、ダメだ!そっちはダメだ!!」

 

 

 

ジェットコースター上のアンチョビの叫びもむなしく、大洗連合の大半は、野外音楽堂付近で包囲される結果となってしまった――窪んだ地形に集結したエリカと小梅と梓を除く大洗の部隊と、其れを上から狙う大学選抜チーム。

状況だけ見れば最悪極まりないだろう。

 

 

「アラアラ如何やらここまでの様ね?」

 

「高校生相手に、心が痛むわ。」

 

「まぁ、此れが実力差と言う事だ。

 カールの撃破には驚かされたけれど、如何やら快進撃は終わりみたいだな?」

 

 

この状況に『勝ち』を確信し、大学選抜の中隊長であるアズミ、メグミ、ルミの3人は余裕の態度をとって見せるが、この状況下にあっても尚みほの目から闘志の炎は消えていない。

其れと同時に、みほの口元には僅かではあるが笑みが浮かんでた事には、誰も気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梓

 

 

西住隊長の命令で、私のウサギチームと赤星先輩のオオワシチームは観覧車のある高台までやって来たんだけど……此処に到着すると同時に、西住隊長達が大学選抜チームに包囲されて絶体絶命の大ピンチ状態になってるって、一体何が起きたの!?

あの包囲から抜け出るのは、如何に西住隊長でも難しいよ……此のままじゃ、西住隊長達がやられちゃいますよ赤星先輩!!

 

 

 

「其れは分かってます……でも、だからと言って何を如何すれば良いのか――何か作戦は無いんですか副隊長!!」

 

「此処で私に丸投げしますか普通!?」

 

「みほさんの後継者である梓さんと、一隊員に過ぎない私とでは格が違うんですよ格が!分かり易く言うなら、梓さんはブラック・マジシャンで、私はブラック・マジシャン・ガールなんです!!」

 

 

 

サラリと遊戯王のアイドルモンスターを持ってくのは流石だと思います赤星先輩!

だけど、現実問題としてこの状況を如何した物かな?――って何を見てるの紗希?蝶々とか蝶野は今はいらないからね?

 

 

 

「……観覧車。」

 

 

 

と思ったんだけど、紗希から返って来たのは予想外の『観覧車』……成程、運用が停止された観覧車を使う事自体は違法じゃないし、此れだけのモノを使うって言うのはインパクトも大きいからね。

赤星先輩!!

 

 

 

「了解しましたよ梓さん……やってしまいましょう!!」

 

「ですよね!!……此れより、ミフネ作戦を開始します!!」

 

作戦開始と同時に、Ⅲ号とⅣ号の主砲が火を噴いて、観覧車のゴンドラを支えている支柱を破壊し、其処からゴンドラを搭載した円盤が落下し、そのまま坂道を爆走!

リアルパンジャンドラムって言う所だけど、この一発は絶対に隊長達の窮地を救ってくれる――私はそう信じてるから。

何よりも、西住隊長が『追い込まれて撃破された』なんて事があって良い筈がないからね……西住隊長達を追い込んだ心算かも知れないけど、其れは、幻想だったって事を認識して貰いますよ?

 

追い込んでいたと思っていたのは貴女達の方で、実際に追い込んでいたのは私達なのですから――そして、此れがファイナルラウンドのゴングに他ならない。

ファイナルラウンド、勝たせて貰うから覚悟しておいてください……此の観覧車の一件で、西住隊長の鬼神が目を覚ますのは確定ですから。

 

だから、向かってくるものは最優先で排除する!!……其れが、私の仕事だからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer160『大学選抜!粉砕!玉砕!大喝采です!』

遂に160話まで来たよ!!Byみほ        でも、ここで終わりじゃないわ!Byエリカ      目指せ200話ですね♪By小梅


Side:みほ

 

 

野外音楽堂前で包囲されて、状況だけを見れば絶体絶命なのは間違いない――だけど、本当は絶体絶命じゃないんだよね此れは……だって、此の状況もまた、私の計算の上だったんだから。

まぁ、其れを悟られる訳には行かないから、表面上は焦っている演技をしてるけどね。

 

 

 

「さぁて、完全に包囲したから逃げ場はないわ……最後に言いたい事があるのなら聞いてあげるわよ?」

 

「これ以上は無意味だ、大人しく降伏しろ。」

 

「素直に負けを認めるのも、一流の証じゃない?」

 

 

 

でも、其の効果はあったみたいで、大学選抜の副長トリオ、通称バミューダ3姉妹は降伏勧告をして来たか……確かに、降伏って言うのも一つの手だとは思うけれど、私達は絶対に退かないから降伏はあり得ない。

 

其れに、未だ勝負は決まった訳じゃない――!!

 

 

 

「強がるのは良いけれど、追い詰められているのは事実……諦めて降伏しなさいな。」

 

「断ります――其れに気付かないんですか?大洗連合の残存車輌と、今此処に集結してる戦車では数が異なっている事に――さて、足りない戦車は、今どこで何をしてるんでしょうね?」

 

「え?……まさか!!」

 

 

 

そのまさかですよ。

梓ちゃんと小梅さんとエリカさんは、此処には居ない――つまり、自由な戦力として存在しています……そして、彼女達が選んだ一手が大洗の逆転の一手になると断言するよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer160

『大学選抜!粉砕!玉砕!大喝采です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処に居ない連中が、逆転の一手になる、ですって?」

 

「その通り!そして、その一手は既に打たれた!

 私は手札から『超巨大パンジャンドラム』を召喚!!」

 

「へ?」

 

 

――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

超巨大パンジャンドラム(観覧車):ATK3000

 

 

「「「なんだとぉぉぉぉ!?」」」

 

 

 

うん、まぁ此れには驚くよね普通に。

私の勘が、梓ちゃんと小梅さんを観覧車の丘に向かわせたけど、成程こう来るとは私の勘も結構冴えてた訳だ……にしても観覧車を転がすだなんて、随分思い切った作戦を思いついたものだよ。

 

 

 

「思い付いたのは間違い無く澤でしょうね。隻腕の軍神の一番弟子はやっぱり違うわ。」

 

「あ、其れって私も思ったよ!

 澤ちゃんて、見た目は生真面目な優等生って感じなのに、戦車に乗ると物凄くクレイジーって言うか大胆って言うか、予想もつかない事やるもん!

 きっとあの観覧車も、澤ちゃんの思い付きだよ!」

 

「あはは……まぁ、多分そうなんだろうね。」

 

丘の上から転がって来た観覧車は、ゴンドラを失いながらもその圧倒的な質量で大学選抜に襲い掛かり、更にナオミさんが砲撃で進行方向を調節してくれたおかげで、包囲網に穴が開いた。

だからと言って其処から馬鹿正直に逃げようとしたら的になるだけなんだけど……

 

 

 

「大学選抜、覚悟しなさい!!」

 

「お前、逸見の妹か!!」

 

 

 

此処でエリカさんが大学選抜の包囲網に対して攻撃を行ってくれた事で、一時的に指揮系統が混乱して動きが完全に乱れた――この絶好の好機を逃す手はない!

全車全速離脱!体勢を立て直します!!

 

 

 

「了解した。先ずは私が先行するので、皆は後に付いて来てくれ。」

 

「殿は私が務めますわ。チャーチルの装甲ならばパーシングの砲撃にもある程度耐える事が出来ますから。」

 

 

 

お姉ちゃんを先頭に、ダージリンさんを殿にしてその場から離脱。序に観覧車も並走する形でこの場から離脱。エリカさんは……

 

 

 

「ほらほらほら、虎殺しのパーシングが虎を相手に何をモタモタしてんのかしら?

 ティーガーを倒せるって言うのがパーシングの自慢なんでしょ?……其れとも、ティーガーⅠは倒せても、キングタイガー――虎の王の異名をティーガーⅡを倒す事は出来ないのかしら?

 まぁ、大学選抜に選ばれたって事で満足してる、小母さま方じゃ虎の王を倒す事なんて出来ないでしょうけどね。」

 

「な!もう一遍言ってみなさい!!」

 

「なぁに、聞こえなかったの?加齢性難聴が進行してるんじゃない?」

 

「逸見妹、其処を動くな!!」

 

「動くなと言われて動かない馬鹿が居ますかっての、アバヨとっつぁーん!!」

 

 

 

……毎度お馴染み毒舌八丁の挑発で煽った挙げ句に離脱。しかもその際に、御丁寧に白いハンカチを振ってるんだから、やられた側からしたら腹の立つ事この上ないよねうん。

でも、その挑発はナイスだよエリカさん……逆上して冷静な判断力を奪う事が出来れば、其れだけ此方が有利になるからね。

 

 

 

「相変わらず、挑発をさせたら天下一品ですわね彼女は。

 敵として相対した時には果てしなくムカつく事この上ありませんが、味方である時はとても頼もしく感じますわ……その辺は、流石アールグレイ様の妹と言った所ですわね。」

 

 

 

あはは……ダージリンさんはエリカさんの被害者だったねそう言えば。

だけど、此れで大学選抜の指揮系統は一時的に麻痺らせた――恐らくだけど、愛里寿ちゃんは細かな指示は出さないで、現場での指示は私達に降伏勧告をして来た3人がやってるって感じだったからね。

 

取り敢えず私が演出した窮地とは言え、無事に脱する事が出来たから、此処からは各々散開して局地戦を展開しましょう。――各個撃破を繰り返して愛里寿ちゃんを戦場に引き摺り出します!

 

 

 

「愛里寿を引き摺り出すか……其れが目的なら、各個撃破を繰り返す必要はないよみほさん。

 私が出張れば愛里寿を戦場に引き摺り出すのは容易い事だ……だから、その役目は私に任せて貰えないかな?」

 

「ミカさん……分かりました、お願いします。」

 

「ふふ、任されたよ。

 西住のスーパーセルと、島田のハリケーン……2つの激しい風がぶつかったらどうなるのか、とても楽しみだ。」

 

 

 

スーパーセルとハリケーンじゃ、そもそも比較にならないって言うのは言っちゃダメなんだろうねきっと。

其れは其れとして、流石に丘を転がって来た惰力で進んでいた観覧車はそろそろ限界みたいだね?……大洗連合の31輌目のシークレット、見事な活躍だったよ。

 

 

 

「あら、そろそろお疲れの様ね観覧車さん?」

 

「助かったよ観覧車先輩!!」

 

「かんちゃん、サンキュー!!」

 

 

 

皆がそれぞれ観覧車にお礼を言った所で、遂に惰力がなくなった観覧車は山型の建物にもたれかかるように倒れてターンエンド。――そして、ここからは私のターン。

行くよ、青子さん、ナオミさん、つぼみさん!!!それから沙織さん!!!

 

 

 

「おうよ!任せとけ!!」

 

「吉良ナオミ、どんな相手でも撃ち抜いてあげるわ。」

 

「お~っほっほ!!やってやりますことよ!!!」

 

「ちょっとみぽりん、私だけおまけっぽくない!?」

 

「其れは気のせいだよ沙織さん。」

 

此方を追い詰めたと思って余裕ぶっこいてくれたけど、その余裕はただの油断だったって言う事を知って貰おうかな?――何よりも、私の戦車道はまだまだこんな物じゃないからね。

 

 

 

「だよな。つー訳で、アタシは手札から魔法カード『軍神招来』を発動!みほの能力を3倍にするぜ!!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

「みぽりんの髪が青くなった!?あ、そんな訳ないか。でも、一瞬そう錯覚したよ!」

 

「ついに神を超えたか……流石だなみほ。」

 

「軍神を超えた軍神、正にゴッド軍神ですわ!!」

 

 

 

試合は此処からが本番だから、覚悟しておいた方が良いよ大学選抜――と言うか、高校生だからって見下すの止めないと私達に勝つ事は出来ないよ。

私達の事を侮ってる相手に負けてあげる程、私は優しくないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

観覧車の奇襲で(みほが演出したモノとは言え)窮地を脱出した大洗連合は適当に散開し、散開した先で適当にチームを組んでいた――それだけ聞くと、トンデモない事のように聞こえるのだがテキトウではなく、適当に……その場に適したチームを組んでいたのだ。

その中の1チームは、ダージリンを指揮官とした麻子のクルセイダーと、エクレールのARL-44のチームだ。

防御力のダージリン、攻撃力のエクレール、機動力の麻子が揃ったこのチームのバランスは最高レベルなのは間違いない……其れこそ、ルール違反の戦車が相手でない限りは略勝てるだろう。

 

そんなチームが差し掛かったのは西の通用門付近だ。――其処に、パーシング2輌(うち1輌はメグミ車)が現れた事で、一気に戦闘モードだ。

 

 

「パーシング……最強クラスの攻守の戦車だが、クルセイダーの足には付いて来られまい。

 撹乱して消耗させてやるとするか……適当な所で一発撃って撃破してくれエクレール。」

 

「お任せ下さい冷泉さん。

 1輌でも多く撃破すれば、その分だけ勝利に近付くと言うモノですもの――ダージリン様、サポートを宜しくお願いしますわ。」

 

「任されましたわエクレールさん。

 それにしても、みほさんと同じチームで戦うと言うのが此処まで楽しい物だとは思いませんでしたわ……だからこそ、みほさんの戦車道を潰えさせる事は出来ないのですわ。」

 

 

先程も言ったように、このチームは防御力のダージリン、攻撃力のエクレール、機動力の麻子とキッチリ役割が分かれており、パーシングを撃破出来るのはエクレールの乗るARL-44だけなのだが、なればこそキッチリ役割が分かれているのを生かすのは道理。

クルセイダーの操縦士だが、大洗でピカ一の頭脳を持つ麻子は、2輌のパーシングに対して即座に有効策を思いつき(この作戦立案能力は、みほと同じ戦車に乗っていたら身に付いたと言うのだから驚きだ。)、其れを実行に移そうとしていた。

要するに、クルセイダーの機動力でパーシングを撹乱し、其処をARL-44の主砲で撃破する。チャーチルは、ARL-44の護衛兼盾と言う所だろう。

 

その作戦を実行すべく、麻子はクルセイダーを発進させようとするが……

 

 

「?……麻子さん、お待ちになって。」

 

「何だ、如何したダージリン?」

 

 

寸での所でダージリンが待ったをかけ、麻子の出撃を止める。

当然出鼻を挫かれた形になった麻子は、何事かを問う――ダージリンが無意味に出撃を止めたとは思えなかったと言うのもあるだろう。

 

 

「如何やら、トンデモない隠れ兵が待ち伏せていたようですわ。」

 

 

そしてその答えは門の向こう側から現れた。

漆黒の装甲に身を包み、大口径の超長砲身を備え、4本の履帯を持った異形の戦車――大学選抜の2輌目のシークレット車輌である『T-28重戦車』が現れたのだ。

主砲の口径だけならばARL-44の方が上だが、砲身はT-28重戦車(以下T-28と表記)の方が長いので、射程と貫通力に関してはT-28の方が上であると言えるだろう。

更に防御面に関しても、正面装甲はマウスをも上回る305mm!防盾も292mmと言う化け物の様な防御力まで備えている。

唯一の弱点は重装甲による機動力の低さではあるが、当たれば大洗連合の全ての戦車を撃破可能な主砲は驚異だろう。

 

 

「此れはまた、倒し甲斐のあるデカブツだな?

 コイツを倒したら、ボーナスポイントでも貰えそうな感じだぞ。」

 

「では、確りと倒してボーナスポイントを得るとしましょう。」

 

「相手にとって、不足はありませんわね?」

 

 

だが、だからと言って怯まないのが大洗連合!分厚い装甲?超強力な主砲?其れが如何しただ。

戦車の性能と、隊員の練度だけでは決まらないと証明したのは、他でもない大洗女子学園だ――なればこそ、此処で退く等と言う選択肢は存在せず、T-28の撃破に作戦をシフトする。

圧倒的な火力を備えた敵戦車を生かしておく道理は無いのだから、此れは当然の選択だったと言えるだろう。

 

 

「麻子さん、改めてお願いしますわ。」

 

「おうよ、任せとけ。」

 

 

改めて麻子のクルセイダーが発進し、パーシング2輌とT-28に向かう。

当然相手は撃って来るが、天才的な操縦技術を持つ麻子が操るクルセイダーは砲撃の雨を避けて避けて避けまくる。その回避能力は能力カンストの255であると言っても過言ではないだろう。

 

 

「少しばかり、遊んでもらいますわ。」

 

 

同時に、ダージリンの目に彼女には似つかわしくない剣呑な光が宿る。

其れは、紅茶の園の淑女の中に眠っている戦車乗りとしての凶暴性が目を覚ました事を意味していた――この瞬間に、ダージリンは聖グロの淑女から、戦車乗りと言う獣に変異したのだ。大洗を勝利に導くために。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃――

 

 

「T-28だって。此れかな?」

 

「いや、ダージリンは重戦車って言ったからこっちじゃね?」

 

 

パンターの車内では、ダージリンから『T-28重戦車と遭遇した』との報告を受けて、沙織お手製の戦車図鑑で車輌の照合が行われていた。

沙織は真っ先に『T-28中戦車』を選ぶが、青子が『T-28重戦車』と言う事を考えて、別の車両を選択――そして、この場合は青子の方が大正解!

まぁ、この辺は知識の差によるものなので沙織は落ち込む必要はない。此れから頑張れ。

 

 

「重戦車の方!?

 確か重戦車の方って、すっごく強い主砲と滅茶苦茶固い装甲があるんじゃなかったっけか!?……みぽりん、流石にヤバくない?

 カールと比べたら全然かもしれないけど、T-28が生き残ったら絶対に厄介な事になっちゃうよ?」

 

 

そんな沙織ではあるが、戦車の基本スペックは頭に詰め込まれている様で、即座にT-28の脅威をみほに伝える――みほならば、その脅威は充分に知っているとは思っても、伝えずにはいられないのだろう、通信士として。

 

 

「そうだね、放っておいたら厄介な事になるね。」

 

 

だが、当のみほは口では『厄介な事になる』と言いながらも、ナオミから貰ったアロマシガレットを咥えて余裕綽々。――ない方の左袖を風に揺らしながら、アロマシガレットの紫煙を燻らせる軍神の姿は実に威厳に満ちていて素晴らしい。

 

 

「だったら!!」

 

「だけど、ダージリンさん達なら必ず撃破してくれる。私はそう信じてるよ沙織さん。」

 

 

当然沙織は『此れはヤバい相手だ』と言う思いからみほに『何とかしないと』と言うが、みほはシレっと『ダージリン達ならば必ず撃破する』と言い切る。

ダージリンとエクレールと麻子の力を信じていればこそ可能な、絶対の信頼だ――

 

 

「其れに、麻子さんが居るんだよ?あの大洗女子学園一の天才である麻子さんが居て、負けるとは思わないでしょ?」

 

「当然じゃん!麻子が居れば無敵だよ!

 麻子ってば、どんな事でも一度見れば覚えちゃうんだからほんとに天才なんだよ……だから麻子が居ればT-28だって撃破出来る筈だよ!!」

 

 

そして、その信頼を沙織にも訴え、更に麻子の優秀さを引け合いに出して、沙織を納得させた上で黙らせる――流石は隻腕の軍神、見事な手腕であると言わざるを得ない。

だが、其れとは別にみほにはみほの戦場がある。

観覧車の一撃で包囲網を脱出したみほは、生徒会のヘッツァーと共に生垣の迷路にやって来た――自分達を追って来た、ルミ率いるパーシング部隊と共にだ。

無論、此れは誘導であり、此処からが軍神の力の見せ所だ。

 

 

「会長さん、準備は良いですか?」

 

『OK西住ちゃん、何時でもやって貰って良いよ~~♪』

 

「では此れより、『迷宮フィールドゲートガーディアン作戦』を開始します!!」

 

 

作戦名に若干――否、大いに突っ込み所が満載ではあるが、此の生垣の迷路を利用したみほの作戦が発動!!

同時に此の迷路はみほの作戦の盤面と化し、みほの望むように試合展開がされると言う、迷い込んだ相手からしたら悪魔の様な迷宮でもある。

 

 

「さて、このトリックを見破れるかな?」

 

 

迷宮の主であるみほは、妖絶な笑みを浮かべて迷宮に迷い込んで来た獲物を睨みつける――隻腕の軍神にロックオンされたターゲットに残された道は白旗判定になる以外は無い。

隻腕の軍神が主たる迷宮での戦いが、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:愛里寿

 

 

観覧車を使って攻撃してくるなんて、本当にみほさんは何をしてくるか予想が出来ない……若しかしなくても、アズミとルミとメグミは、みほさん達を『追い詰めた』んじゃなくて『追い詰めさせられた』のかも知れない。

自らピンチを演出し、其れをチャンスに変える位の事はみほさんならやっても不思議じゃないモノ。

 

 

 

「そうだね、みほさんならば其れ位の事は平然とやってのけるさ……彼女は、私が知り得る中で最高の戦車乗りだからね。」

 

「!!!」

 

って、此れは、この声は……美佳姉様!!

 

 

 

「やぁ、久しぶりだね愛里寿?元気だったか……なんて言う事を聞くのは意味がないね?君が元気なのは見れば分かるからね。

 其れにしても、君が飛び級までして大学選抜の隊長になっているとは思わなかったかな?……流石は島田流始まって以来の天才と称されるだけの事はある。私も姉として鼻が高い。」

 

「姉様が居たから、だから私は此処までこれた。

 だからこそ聞きたい……姉様は如何して家を出てしまったの?姉様は、私の目標だったのにどうして?」

 

「其れは、君の方が私よりも上だったからだよ愛里寿。

 君の戦車道に於ける才能は私よりも上だ――そして、流派を存続させるためには、より能力のある者が流派を継ぐのが道理……君に劣る私が身を引くのは当然の事なんだよ。

 尤も、そのせいで君には重責を追わせてしまったけれどね……すまないね。」

 

「姉様……!!」

 

つまり姉様は、島田流を守るために家を出た、そう言う事だよね?……馬鹿、馬鹿だよ姉様!!

姉様の実力なら立派に島田流の跡取りが務まっていた、少なくとも私はそう思ってた……其れなのに、私に跡取りの権利を譲渡した上で島田の家から出てしまうなんてあんまりだ。

私もお母様もずっと心配してんだ……だから、少しだけ八つ当たりさせて貰う。

 

「姉様、覚悟は良い?」

 

「そんなに睨みつけないでくれ愛里寿……思わず委縮してしまいそうだ。」

 

「思ってもない事を言うのは、相変わらず得意なんだね?」

 

「まぁ、否定はしないかな。――だけど、私に勝てるかな愛里寿?」

 

「勝ちます、絶対に。」

 

「うん、良い返事だ……其れじゃあ始めるとしようか?史上最強の姉妹喧嘩を。」

 

 

 

受けて立つよ姉様。

姉様は強いけど、姉様が居なくなった後の3年で、私も強くなったから昔のように簡単にやられるなんて言う事は無い――だからこそ、姉様の作戦に乗らせて貰う。

そして、その上で敢えて言わせて貰う――勝つのは私達だってね。

 

美佳姉様、相手になって貰うよ!!

 

 

 

「此れは良い闘気だ……愛里寿、君の戦車道を見せて貰うよ?」

 

「たっぷりと味わって貰うよ姉様!!」

 

私の持てる力の全てをもって行かせて貰う――大凡、手加減とかが出来る相手じゃないからね!!全力で行く、只それだけだね!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer161『見せてやる大洗の戦車道を!です』

見せてやる、西住の戦車道を!Byみほ        歴史が違うんだよ!Byエリカ      アンタじゃ燃えねぇな?By小梅


Side:ミカ

 

 

愛里寿をみほさん達の前に引き出す為に、愛里寿の元に参上した訳だけれど、如何やら彼女は私が思っていた以上に成長しているみたいだね?

……マダマダ少女特有のあどけなさを残しながらも、その顔は一流の戦車乗りのモノだからね。

此れは、私も本気で行かないと即撃破と言う事になりかねないかな?……愛里寿の才能は、私を遥かに凌駕しているから、一瞬でも気を抜いたらその瞬間にお陀仏だ。

 

「アキ、ミッコ……彼女は此れまでの相手とは違う……私達の持てる力の全てを出し尽くす――そうしても勝てるかどうか分からない相手だから。」

 

「ミカがそう言うって事は、相当の相手なんだね?」

 

「上等!思い切りやってやるぜ!!」

 

 

 

ありがとうアキ、ミッコ……君達のおかげで、私は私の戦車道が出来るからね。

さぁ、勝負と行こうか愛里寿?……私が島田の家を出てから3年――その間に磨き上げた君の戦車道を見せてくれ。

 

 

 

「言われなくてもその心算……姉様、本気で行きます。」

 

「うん、本気でおいで愛里寿。」

 

君に全てを押し付けて家を出た無責任な姉のせめてもの償いとして、君の本気を全力で受け止めさせて貰うよ愛里寿……何よりも、君の全力を受け止めないと言う選択肢はないからね。

それにしても、君とこうして戦うのは何度目かな?

 

 

 

「覚えていません……でも、私の記憶が確かなら、私はただの一度も姉様に勝った事は無い――だから、此処で初勝利を挙げさせて貰います。」

 

「ふ、そう来なくてはね。」

 

風は、今此処に交わった……始めようか愛里寿、西住さん達とは違う、最大の姉妹喧嘩を。

 

 

 

「望む所です……ボコのようにボコボコにして上げます。」

 

「いや、全身包帯塗れにされるのは勘弁してほしいかな?」

 

と言うか如何にフィクションの世界とは言え、あの熊はあの満身創痍の状態で普通に生活できるのか不思議だよ。

戦車の性能的には其方が有利だが、戦車の性能では決まらないのが戦車道だ……私の仕事は君を倒す事ではないけれど、君が満足するだけの一曲を奏でさせて貰うとしようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer161

『見せてやる大洗の戦車道を!です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

ミカと愛里寿がエンカウントしていた時でも戦局は動くのだ……各地の戦局を見て行くと――

 

 

「建物は所詮見せかけだから形だけの張りぼて同然よ!崩れた所で戦車が白旗になる事は無いわ!だから思いっきり突っ込みなさい!!」

 

「了解ジェロニモ!!」

 

「誰がジェロニモよ!!」

 

 

まずはウェスタンゾーンで、レオポン+カチューシャ+ノンナのチームが、迫りくるパーシングを連続で撃破!!

戦車の性能的にはパーシングに劣るものの、其処はカチューシャの指示を受けたレオポンが映画のセットである建物に突っ込むと言う、超強引なショートカットでパーシングの前に出て奇襲染みた一発をかまして撃破すると、意表を突かれて動きを止めたもう1輌のパーシングを、ノンナのIS-2が的確に撃ち抜き撃破したのだ。

 

 

「流石はカッちゃん、ナイス作戦!」

 

「カッちゃんって、気安すぎるわよ!」

 

「カッちゃんですか……ふむ、そう言う呼び方もアリかも知れませんねカッちゃん?」

 

「ノンナも乗るんじゃないわよ!」

 

「ノンナも乗んなって?巧い、座布団2枚!!」

 

「要らないわよ!」

 

 

即興チームにも拘らず、このチームはノリが良い上に連携が巧く取れているのは凄い事だろう。

カチューシャとノンナの間には絶対の信頼と絆が有るので連携が見事なのは当然だが、其処に入り込んだレオポンがマッタク邪魔になっていないのは、偏に車長であるナカジマの人当たりの良さによるところが大きいだろう。

気さくで飾らず、フレンドリーかつ『優しいお姉さん』的な所が、動のカチューシャと静のノンナとベストマッチだったと言う事なのだろう。

まずはこのチームでパーシング2輌を撃破したが、ウェスタンゾーンは広く、このチームには属していない者も戦っていた。

 

 

「もんもーー!!」

 

 

それが、アリクイチーム。

パーシング相手に、性能で劣るソミュアS35で奮闘中だ。

全国大会の決勝戦では、戦車を動かす事にすら苦労していた彼女達だが、今では立派に戦車を動かせるようになり、格上の相手とも互角に戦えるようになっていた。

 

 

「ホイ。」

 

「ぞな!!」

 

 

その一端を担っているのが、廃校で生活している時に行った筋力トレーニングによるパワーの増加だ。

戦車道を始めた頃は全員ひ弱で、砲弾を持つ事すらままならなかった面々が、今では車内で砲弾をパスして渡すなんて芸当をやってのける程にまでパワーアップしているのだ。

にも拘らず、ムキムキメガマッチョにはならず、トレーニング前と変わらない体型を維持しているのだから、一体どんなトレーニングをしたのが是非とも教えて欲しい物である。

つーか教えて下さいマジで。主に筋力は付けたいけどムキムキにはなりたくない女性達に。

 

兎も角、此の筋力アップにより、砲弾の装填速度は大洗でもトップクラスとなった訳だが、其れだけでは済まず、装填士兼砲手のぴよたんは、装填→照準を合わせて砲撃のタイムラグを失くすために、細かい狙いを定める工程をカットしたのだ。

此れにより、正確に相手のウィークポイントを狙う事は出来なくなったが、逆に細かい狙いを付けない代わりに驚異的な連続攻撃が可能になったのである。

極端な事を言えば、アリクイチームのソミュアS35は、相手が1発撃つ間に2発撃つ事が可能なのであり、手数は2倍!

そしてその凄まじい攻撃を受けた相手は、最初の頃こそウィークポイントに当たってないから大丈夫とは思っても、時間が経つにつれて、此の連続攻撃を受け続けたら拙いと言う心理状況になって来る……そうなれば、焦りが出て指示や操作にミスが出てくるのは避けられない。

事実、アリクイチームと対峙しているパーシングも、徐々に動きが悪くなり、砲撃の間隔は広くなり、砲撃の正確さも下がってきているのだから。

 

 

「今だもも!!」

 

「行くのにゃ!」

 

「やったるっちゃ!!」

 

 

一瞬の隙をついてパーシングに肉薄すると、略ゼロ距離からの攻撃を行って、パーシングを撃破!!

性能では圧倒的に劣るソミュアS35が単騎でパーシングを撃破したと言うのは、戦車道史に残るであろう快挙であると言っても過言ではない。

兎に角これで、遊園地に入ってから大学選抜は立て続けに5輌撃破され残存車輌は16に。

対する大洗連合は遊園地に入ってからは1輌も撃破されずに残存車輌は24……殲滅戦ルールでの8輌差と言うのは決して小さくないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、T-28重戦車と言う化け物と出くわしたダージリン、エクレール、麻子のチームは……

 

 

「おい、本当にこっちで良いのか?」

 

「えぇ、その通りよ麻子さん。」

 

「この先にあるのはアーチ形の門……ダージリン様は何を考えているのやら。」

 

 

T-28重戦車と、パーシング2輌のチームをアーチ形の門がある場所まで誘導していた――攻守共にT-28重戦車には劣るこのチームだが、機動力だけは勝っている。

最も足の遅いチャーチルですら、T-28重戦車よりは速く動けるので、付かず離れずの距離を保ちながら誘導するのは難しくはない上に、麻子の操るクルセイダーがチョロチョロとちょっかいを出して挑発してくれるお陰で、より効果的に誘導出来たと言える。

そんな3輌は先ずはアーチ形の門を通り抜ける――割とギリギリの幅だったが、チャーチルとクルセイダー、ARL-44は問題なく通る事が出来た。

だが――

 

 

 

――ガコン!

 

 

 

T-28重戦車は、2連履帯のせいで幅が広いために通る事が出来ない。

召喚士は通す、ガードも通す、キマリは通さない!とばかりに、アーチ形門はT-28重戦車をシャットアウト。

幅広の履帯が仇となって通る事が出来ないと言うのは何とも間抜け極まりない……お供のパーシングが門を壊せば良いんじゃないかとも思うだろうが、下手に門を壊せばその瓦礫でT-28重戦車の砲身が使い物にならなくなるので其れは出来ないのだ。

 

此れこそがダージリンの狙いだ。

門を通る事が出来なければ、否応なしにT-28重戦車は後退せざるを得ない――パーシングは進撃してくるかもしれないが、T-28重戦車が後退してくれれば儲けものだ。

如何に防御力が高いとは言っても、其れは正面装甲に限ればの事……後面装甲は51mmと案外貧弱であり、この装甲厚ならばARL-44の主砲で確実に撃破可能なのである。

絶対に後ろを見せたくない戦車に、後を見せざるを得ない選択を迫ったダージリンは見事だろう。

 

 

 

――ガコン

 

 

 

だが此処で、T-28重戦車はワンタッチで外側の履帯をパージしてギリギリではあるがアーチ形門を通過して来た――確かにT-28重戦車は外側の履帯を外す事が出来たが、本来は外すのに2時間程かかるのだが、其れをワンタッチで行うと言うのは些か反則の様な気がするが、あくまでもこのワンタッチ機能は、当時の取り外し作業を簡易化し、更にパージ機構も45年ルールで認められている機材で取り付けたモノだから問題はマッタクないのだ。

となれば、ダージリンの読みは外れた事になるのだが……

 

 

「おい、何処を見ているデカブツ?お前の相手はこの私だ。」

 

 

アーチ型門を抜けた先にある橋で、クルセイダーの操縦士である麻子がキューポラから身を乗り出し、手招きして挑発。

其れだけならば如何と言う事は無いのだが、麻子の抑揚に乏しい話し方と、眠そうな顔で言われた挑発の一言は緊張感の欠片もない代わりに滅茶苦茶ムカつく事この上ない。

半分瞼が下りた奴から、抑揚のない声で『バーカ』と言われたのを想像してみると良い……めっちゃムカ付くでしょ?人によっちゃ殺意すら湧くでしょうに。

 

 

「何だ、来ないのかデカブツ?否、ウスノロの方が正しいか?

 其れとも、その主砲ならばどこに当てようとも倒せるクルセイダーに向かってこない所を見ると臆病者の方が適当か?……まぁ、所詮はパワーだけのウスノロ――どこかの野菜の戦士の『お前を殺すぞセル』でしかない奴が私達に勝てる筈がないか。

 よしんばここで私達を倒したとしても、お前達が西住さんに勝てる道理はないな。さっさと家に帰れ役立たず。」

 

 

更に煽る煽る。

如何やらこの天才少女はみほから作戦立案能力を吸収しただけでなく、『歩く毒舌製造機』『此れがホントの挑発伝説』『いやもうアイツの挑発は伝説じゃなくて神話だろマジで』等の異名を持つ、大洗一口の悪い女(但し挑発に限る)である逸見エリカから挑発技術まで吸収してしまったようである。天才ハンパねぇです。

 

その挑発への礼とばかりに、T-28重戦車は主砲を放つが、戦車内に戻った麻子の神懸かった操縦により、クルセイダーはその攻撃を華麗に回避し、T-28重戦車の誘導を始める。

移動を始めたクルセイダーを追うようにT-28重戦車は移動を始め、お供のパーシングは別行動を開始――門を抜けた先にクルセイダーしか居なかった事で、何かあると考えて別行動を選択したのだ。この辺の判断を行ったのは、パーシングの1輌に乗るメグミ……中隊長を務めて居るのは伊達ではないらしい。

 

さて、移動を開始したT-28重戦車だが、当然ながらクルセイダーの動きに付いて行く事は出来て居なかった。

T-28重戦車の最大速度は19kmと可成り鈍足なのに対し、クルセイダーはリミッターをかけた状態でもMAX44kmと倍以上の速度を誇るのだからそもそも付いて行ける筈がない。

だが其れでも、圧倒的な破壊力の主砲は射程も長いので、遥か先を行くクルセイダーを捉える事は出来るのだが、撃っても撃ってもその事如くが回避されてしまうのだ。其れこそ、回避と運の値が255でカンストしてるんじゃないかと言う位に。

そんな感じの追いかけっこが続き、麻子はT-28重戦車をニューベルング広場の橋に誘導したのだが、此れこそがT-28重戦車を撃破する為の1手だ。

 

 

「漸く来ましたわね……撃て。」

 

 

橋の下で、ほぼ垂直の状態で待機していたダージリンのチャーチルが橋を砲撃して崩し、T-28重戦車の最大の弱点である底面を顕わにする。

大凡優雅とはかけ離れた一撃ではあるが、その一撃の効果は重い。

 

 

「エクレールさん、今ですわ。」

 

「お任せ下さい、ダージリン様!」

 

 

その顕わになった弱点に対して、エクレールのARL-44の主砲が炸裂し、T-28重戦車は弱点を貫かれて白旗判定に!!2輌目のシークレットは、結局大洗連合の戦車を1輌も撃破出来ずに退場となってしまった……何しに出て来たんだお前?

 

目的を果たした麻子とエクレールはその場から離脱するが、無理な態勢を取っていたダージリンのチャーチルは、自ら砲撃した橋の瓦礫で身動きが取れなくなっており、離脱は出来なかった。

 

 

「作戦は成功しましたが、この状況での我々の生存率は……」

 

「ゼロ、でしょう?後はお任せしますわ、みほさん。」

 

 

其れを見逃すメグミではなく、身動きできないチャーチルをもう1輌のパーシングとの挟撃で撃破!

此れにより、大洗連合と大学選抜は1輌ずつ失う事になったのだが、1輌も撃破出来ずに撃破された戦車と、相手のシークレットである強力戦車を撃破する一手を担った末に撃破された戦車ではまったく違う。

ダージリンのチャーチルは、己のすべき事をした上で舞台から姿を消した――その散り様は、実に優雅であったと言うべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

なつかし横町では、カバチームとカモチームが、此の場所を生かした戦いを展開していた――その戦いとは……

 

 

「マスターアームオン!ファイア!!」

 

 

カモチームがパーシングを誘導し、書き割りを使って風景に同化したⅢ突が誘導されたパーシングを近距離から砲撃して撃破すると言うステルスカウンター作戦、通称『マカロニ作戦ツヴァイ』!

アンツィオが全国大会で使った『マカロニ作戦』のオマージュだが、其の効果は非常に高く、風景に同化したⅢ突は立て続けにパーシングを2輌撃破!長砲身75mmの破壊力をガッツリと見せつけたのだ。

 

 

「よーし、次行ってみよう!」

 

 

此れで、大洗連合と大学選抜の車輌数の差は10輌に達し、殲滅戦に於ける勝敗の目安となる2桁の車輌数の差が付いてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、戦車道には殲滅戦に於けるコールドゲームルールなどないので試合は続く。

このラーテ広場で戦いを繰り広げているのは……

 

 

「根性ーーーー!!!」

 

「いざ、果敢に攻めるべき!!」

 

「馬鹿め、その程度でやられるか!!」

 

 

アヒルチーム、絹代、ルクリリと言う脳筋チーム!

如何してコイツ等が組んでしまったのか?と思う所だが、脳筋を舐めてはいけない……脳筋が集った時に起こる化学反応は時としてノーベル賞級の科学者ですら想像出来ない効果を生み出すのだ。

そして、この脳筋チームはその稀なケースだったらしく……

 

 

「ハッ!易々と騙された気分は如何だ?……ブチかませ西、磯部!!」

 

「了解でありますルクリリ殿!!」

 

「喰らえ!西住隊長の最大奥義……戦車プレス!!!」

 

 

ルクリリのマチルダがパーシング2輌をキルゾーンに誘導した所で、絹代と典子が戦車プレスをパーシングに叩き込み、そのまま撃破!!

如何に攻守速を高いバランスで備えたパーシングと言えど、上から戦車が降って来ては堪ったモノではない……と言うか、そもそもにしてこんな非常識な攻撃を戦車は想定していないのだから、喰らったら撃破されるのは当然だろう。

此れで、大学選抜の残存車輌は残り11……かなり苦しくなって来ただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

更にボカージュ迷路では、あんこうチームとカメチームが、ルミ率いるパーシング部隊を相手にしていた。

あんこうが誘導し、待ち伏せ作戦に適したカメが奇襲を仕掛けると言う布陣だが、あんこうはただの誘導役に非ず――ヘッツァーの居る場所へ誘動しつつも、パーシングを巧みに誘い込み――

 

 

「撃て!」

 

「OK、吹き飛びな!」

 

 

即刻撃破!

更にそれだけではなく、もう1輌のパーシングも、見事に誘導して待ち伏せていたヘッツァーの前まで引き摺り出して、そのままヘッツァーの一撃で撃破だ。

その手並みは実に鮮やかだ――だが、鮮やかだからこそ疑問が残るのだ。

 

 

「何だこれは……天性の勘の良さじゃ済まないぞ?」

 

 

余りにも的確過ぎる対処に疑問を抱いたルミは、天性の勘の良さ以外の何かがあると思い、キューポラの上に立って周囲を見渡すが――

 

 

 

――ガァッデェェェム!テメェ如きが軍神立ちしてんじゃねぇぞオラァ!!

 

 

 

「!!!???」

 

 

突如襲って来た謎の殺気により、キューポラの中に身を収める事になった――実は、ルミがキューポラに立った映像は、客席に設置されたオーロラヴィジョンにも映し出されたのだが、其れにnOsの総帥である黒のカリスマがブチ切れていたのだ。

分かり易く言うのなら『あー!誰の許可得て軍神立ちしてんだオラ!軍神立ちが認められんのはみぽりんだけだろうが!まがい物が猿真似してんじゃねぇぞファッキン!』と言った所だ。

其れを喰らったら確かにキューポラ内に引っ込みたくもなるだろう――誰だって、黒のカリスマのSTFは喰らいたくないのだから。

因みに、此のピンポイントでの威嚇(?)がなかった場合、ルミの視線はジェットコースターへと向いていた事になり、其処でGPSを行っていたアンチョビ達を発見していたであろう――其れを考えると、黒のカリスマはnOsの総帥として見事なアシストをしたと言えるだろう。

だが、此れで残存車輌数は9輌……対する大洗連合は23輌――大学選抜は可成り厳しい状況となって来たと言えるだろう。……殲滅戦で15輌の差が付いたら逆転は絶対に不可能と言われている……その車輌数の差まであと1輌となってしまったのだから。

 

尚、ルミは……

 

 

「アンタ継続の隊長だったのよね?何であのイカレヘアバンドを隊長に任命した訳!?

 あんな人間として色々と問題ありそうな奴を隊長に任命するとか、アンタ脳ミソ湧いてんじゃないの、この眼鏡チビ!!」

 

「逸見妹、お前本当に口が悪いな!?

 仕方ないだろ、アイツ以外に適任が居なかったのよ当時は!って言うか眼鏡は兎も角、私はチビじゃない!お前の所の隊長と大差ないだろ!」

 

「他の2人と比べたら充分チビでしょ?あ、序に貧乳?」

 

「よし、殺す。」

 

 

この場に突如現れた、元祖毒舌製造機逸見エリカによって迷路ゾーンから強制的に離脱させられていた……黒のカリスマに威嚇されるわ、エリカに言いたい放題言われるわ、何と言うか色々と頑張ってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ミカ

 

 

うん、愛里寿は私が思っていた以上に成長しているみたいだね……互いに決定打を欠いているから未だに決着がついてないけれど、愛里寿の実力は、私が島田の家に居た頃よりもはるかに上昇しているのは間違いない。

レベル、トリック、タクティクス……その全てが、私が島田の家に居た頃とは比べ物にならないモノだ。君がドレだけ厳しい練習をして来たのか、想像も出来ないな此れは。

君が此処まで成長していたのは姉として嬉しい限りだよ愛里寿……君との戦いの時間はとても楽しい物だった――だけど、其れもそろそろ終わりみたいだ。

 

 

 

――ガコン!!

 

 

 

「んな、転輪が!!」

 

 

 

BT-42がクリスティ式を採用した履帯が無くても走れる戦車であるとは言え、転輪だけで動いて居たらいずれ限界が来る――転輪が吹っ飛んでしまうのは分かっていたよ。

そして、転輪が吹っ飛んだ戦車は派手にスピンした挙げ句に転がって勝手に白旗判定になるからね……今回は、私の負けみたいだよ愛里寿。

 

 

 

「姉様……」

 

「君は今この時、私を超えたんだ……其れを誇ると良い。

 だが、私に勝った事で慢心はしない事だ――みほさんは私の10倍強い……精々呑み込まれないように注意して行くと良い。」

 

「はい、御忠告感謝します姉様……」

 

 

 

此れで愛里寿が動くのは間違いない……だが、果たして愛里寿が動いて戦局を覆す事が出来るのかとても楽しみではあるね。

だが、其れよりも……

 

「大洗の皆さんの勝利を願っているよ。」

 

 

 

――ポロロン

 

 

 

大洗を率いる隻腕の軍神に、勝利を齎す旋律を……みほさん、君ならば理不尽な運命を覆す事が出来る――隻腕の軍神がドレだけの実力者であるのかを、示してあげてくれ。

みほさんの戦車道から学ぶ事は決して少なくないからね……この機会に愛里寿も学ぶと良いよ、みほさんの型に捕らわれない自由な戦車道ってて言うモノをね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 




キャラクター補足


・ルミ
大学選抜チーム中隊長、通称『バミューダ三姉妹』の1人。
ミカが入学した当時の継続の隊長を務めており、当時1年生ながら黒森峰の隊長を務めていたまほと戦い、其れなりに苦戦させた実力者……ではあるのだが、何故次期隊長に触覚付きのヘアバン ドを装着したイカレポンチを指名したのか、小一時間ほど問い詰めたい。お前何考えてんだ?
2年生で中隊長を務めている辺り、相当な実力者であるのは間違い無く、中隊長の中では最も落ち付きがあり、小柄ながらバミューダ三姉妹の長女的ポジション。
同じ中隊長のアズミとルミとは高校時代のライバルだが、同じ大学に進学したと言う事も有って、今はライバルと言うよりも親友と言った感じになっている。
バミューダ3姉妹の中では最も酒に強く……と言うかザルである為、潰れたアズミとメグミを連れ帰るのが彼女の役目。
現在の戦車道関係者の中では、唯一蝶野亜美と一緒に飲んでも潰れない人物……何それ怖い。



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Panzer162『乱戦!激戦!超大戦!!です』

此れは、面白くなって来たね?Byみほ        此れ位じゃないと面白くないわByエリカ      ふふ、燃える展開ですね♪By小梅


Side:みほ

 

 

フィールドにはミカさんのBT-42が撃破されたって言うアナウンスが流れたけど、ミカさんがタダでやられる筈がない……確実に何らかの楔を打ち込んでくれたと思うんだけど――

 

 

 

『やぁみほさん……恥ずかしながらやられてしまったよ。

 妹の成長は、姉としては喜ぶべき所なんだけれど、敵として考えた場合には厄介な事この上ないモノだよ。

 だけど、お陰で愛里寿を戦場に引きずり出す事が出来たよ……私達に出来るのは此処までだ――後は、君に全て任せるよみほさん。』

 

「ミカさん!」

 

撃破されたとは言え、愛里寿ちゃんを戦場に引き出す事が出来たのなら、其れだけで値千金の活躍ですよミカさん――愛里寿ちゃんが動いたって言う事は、大学選抜の総司令が戦線に出て来たって言う事だから、極論を言えば、その総司令を倒せば試合は決まるからね。

 

だけど相手は、若干13歳にして大学選抜の隊長を務める天才……一筋縄でいく相手じゃないし、チームの一番のトップが動いたって言う事は、劣勢に立たされてる大学選抜チームの士気高揚に繋がって、思わぬ反撃を喰らうかもだから、警戒してし過ぎる事は無いかな?

 

「沙織さん、全軍に通達。

 『眠れる獅子が目を覚ました、各員充分用心されたし』。これをそのまま伝えて。」

 

「此れって暗号文ってやつ?……やるジャンみぽりん!

 暗号文なんてスッゴクカッコイイから、此れをキッチリ伝えられたらモテること間違いなしだよ!!って言うか、暗号文ってミッションインポッシブルみたいでイケてるよね!!」

 

 

 

沙織さん、なんでそこでハイテンションになるんだろう?ちょっと謎だよ。

だけど、愛里寿ちゃんが動いた以上、今の車輌差の優位性は無いと思った方が良いかも知れないね――忍者戦術とまで言われる島田流の跡取りである愛里寿ちゃんなら、この差を容易に引っくり返してくるかもだからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer162

『乱戦!激戦!超大戦!!です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

愛里寿が動いた……この事実に、アズミ、メグミ、ルミの通称『バミューダ3姉妹』を含めた、大学選抜チームの残存戦力は、みほが予想した通りに士気が高揚していた。

 

 

「隊長が動いた!!」

 

「此れなら行ける!!」

 

「ようし、ここから巻き返すわよ!!」

 

 

此処までの試合展開を見る限り、大学選抜チームは完全にみほの策と、大洗連合の常識に捕らわれない自由な戦い方に翻弄されていたと言えるだろう。

試合序盤の稜線での攻防は、まほ率いるひまわり中隊の撤退を妨害する役目を担っていたメグミが、ケイ率いるアサガオ中隊に其れを邪魔され、カール攻防戦では、在ろう事かチーム内から離反者が出て、結果的にカールを撃破され、続く遊園地跡地では陽動作戦を成功させてキルゾーンに追い込んだかと思ったら、其れはみほの作戦の内で、何と観覧車を転がしてくると言うトンデモない裏技で陣形を崩された。

更に其処からは、各地で各個撃破が起り、T-28とチャーチルで1:1交換が出来たとは言え、他の場所では連続で撃破されてしまい、残存車輌は現在9輌。

対する大洗連合は22輌と、その差は13輌だ。

 

大学選抜チームの名誉の為に言っておくと、決して彼女達の実力が低い訳では無い――低い訳では無いのだが、過信と慢心がこんな状況を作り出してしまったのは間違いないだろう。

島田愛里寿を隊長に据えた大学選抜チームは、社会人のチームが相手であっても圧倒的に勝ってしまう程の力がある……だが、だからこそ此度の相手である大洗女子学園を甘く見ていた。

元より10対30の殲滅戦だとタカを括っていた部分があり、試合前に助っ人が駆けつけて車輌数が同じになった所で、社会人のチームに勝った自分達が、高校生のチームに負ける事など有り得ないと驕っていた。と同時に、明らかな格下を相手に隊長が出張るまでもないと、バミューダ3姉妹が愛里寿に変わってチームの指揮をしていたのも、この状況を作り出した一因だ。

 

メグミはサンダース、アズミはBC自由、ルミは継続で隊長を務めていた戦車乗りであり、大学選抜で中隊長を務めている事から、ぞの実力は半端なモノでは無いのだが、島田流始まって以来の天才と称される愛里寿と比べれば劣るのは否めない。

其れでも、相手が一流半程度のチームならば此の3人の指揮で勝つ事が出来たのだろうが、此度の相手である大洗連合の大隊長は、略素人の集団を率いて全国大会を制覇した、愛里寿をも上回る天才のみほだ――愛里寿未満の3人がそもそも敵う相手ではないのだ。

 

だが、ここで愛里寿が動いたと言う事は、事態が其れだけ切羽詰まっていると言う事だと同時に、愛里寿が指揮権を得たと言う事であり、バミューダ3姉妹は、指揮の任務から解放されたと言える――つまり、此の3人は此れまで全体指揮に割いていたリソースを、全て戦闘に割り当てる事が出来るようになったのだ。

 

 

「アズミ、メグミ、合流するよ。」

 

『OK!バミューダアタックかましてやりましょ!』

 

『随分と調子に乗ってくれたみたいだけど、快進撃も此処までよ!!』

 

 

ルミの呼びかけで、バミューダ3姉妹は一度合流する事にしたらしい。

が、ルミはエリカの挑発に乗せられて園内を走りまわされた事で、アズミとメグミとは結構距離が離れているので、合流するにはなつかし横丁と言う場所を通過しなくてはならない。

多数の建物があり、待ち伏せ作戦を展開するには持って来いの場所だ――事実、此の場所でカバチームは『マカロニ作戦ツヴァイ』を展開して、2輌のパーシングを撃破しているのだから。

 

当然ルミも、待ち伏せを警戒して進んで行くが……

 

 

「……其れは無い。」

 

 

――バゴォォォォォォォォォン!!!

 

 

目の前の建物を攻撃し、書き割りの陰に隠れていたⅢ突を撃破する。

 

 

「んな!?」

 

「何でバレたぜよ!?」

 

 

完全に背景に溶け込んでいた筈のⅢ突がなぜバレたのか……理由は簡単だが、単純に展開する書き割りを間違えてしまったのだ。

此の場所には、本来ならば昭和の匂いが満々の駄菓子屋の書き割りを置くべきなのだが、カバチームの面々は何を間違ったのか、此処にバリバリ都会テイストのハンバーガーショップの書き割りを置いてしまったのだ……そらバレるわな。

此れで大洗の残存車輌は残り21だが、車輌数の差は未だ12輌もあるから逆転は簡単ではないだろう――が、このⅢ突の撃破が大学選抜チームの反撃の狼煙になったのは間違い無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、各個撃破を続けて来た大洗連合は臨機応変にチーム編成を変え、西側のホテル・レストラン付近では、新たにアヒルチーム、ルクリリ、エクレール、ノンナ、西のチームが結成されていた。

パーシング2輌を撃破した脳筋チームに、クールなノンナと、頭脳明晰なエクレールが加わったこのチームは、大洗連合最強小隊と言えるのかも知れないだろう。

だがしかし、

 

 

「見つけた。」

 

「へ?」

 

 

此の部隊を愛里寿が強襲し、先ずは尤も装甲の薄いアヒルチームのクルセイダーを撃破すると、そのまま流れる様な動きで、西とルクリリを立て続けに撃破!!

嗚呼、悲しいかな、奇跡の化学反応を起こした脳筋チームであっても、島田流が生んだ天才には成す術なく一撃で戦闘不能に。

 

 

「ノンナさん!」

 

「はい、分かっていますエクレールさん。」

 

 

残ったエクレールとノンナは、即座にセンチュリオンに照準を合わせて攻撃を行う。

エクレールのARL-44とノンナのIS-2は最強クラスの攻撃力を備えた戦車であり、主砲の一撃はティーガーⅡの装甲ですら貫くほどの威力を誇る。

故に、大概の戦車は何処に当てても撃破出来る訳で、其れは愛里寿のセンチュリオンも例外では無いのだが……

 

 

「馬鹿な……」

 

「今のを躱しますの!?」

 

 

この最強クラスの攻撃を、愛里寿はセンチュリオンの機動力を最大限に発揮して避ける――如何に強力な攻撃であっても、当たらなければ如何と言う事は無い。

そして、この攻撃を躱した愛里寿は、擦れ違い様にARL-44を撃破し、更にそのままIS-2に肉薄して近距離攻撃を行い、撃破!

僅か1分ちょっとの間に、愛里寿は5輌の戦車を撃破して見せたのだった。

大洗の残存車輌は、此れで16だ。

 

 

 

が、大洗連合だって負けてはいない。

 

 

「ターゲットロックオン……」

 

「撃てぇぇぇ!!」

 

 

梓と小梅の、ミフネ作戦コンビが、GPSの役割を担っていたアンチョビ達に気付いて、ジェットコースターに入り込んで来たチャーフィーを撃滅!!!

隻腕の軍神の一番弟子と戦友舐めんなである。

 

 

「「大学選抜?ガッデム!!」」

 

 

そして、何時の間にか梓と小梅が黒のカリスマっぽい衣装になっていた事には突っ込んではいけない。寧ろ突っ込んだら負けと言うか、もれなく黒のカリスマのケンカキック→STFのコンボが待っているので突っ込み厳禁だ。

 

 

「へい、タクシー!」

 

「任されたわ!」

 

 

ともあれ、難を逃れたアンチョビは、カモチームをクッションにして地上に降りると、其のままカモチームと組んで行動を開始……此の試合は、マダマダ分からない感じだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は移って、トータスランド手前の街並みでは、ケイとアリサのM4シャーマンと、華が砲手として搭乗しているファイアフライが、バミューダ3姉妹と対峙する間もなく、出会ったその瞬間に戦闘開始のオープンコンバットだった。

戦車の性能だけで言うのならば、パーシングのバミューダ3姉妹に分があるが、戦車の性能差だけでは決まらないのが戦車道――もとい、みほ流戦車道だ。

 

 

「アリサ!!」

 

「アイアイ、マム!!」

 

 

ケイの指示を受けたアリサが閃光弾を炸裂させ、バミューダ3姉妹の視界を奪う……グレーゾーン上等のアリサにとって、ルールで許可されているモノを使っての裏技は持って来いだった。

 

 

「突っ込め華!!」

 

「了解ですケイさん。」

 

 

勿論、この閃光弾が炸裂する瞬間に、一行はサングラスを装備し目暗ましは回避している……使用したサングラスは、黒のカリスマのアリストトリストブランドだったのは、きっと偶然だろう。偶然な筈だ多分。

ともあれ、目暗ましからの一撃は必中なのだが……

 

 

「此れは……いない?」

 

 

ファイアフライが突撃した先には誰も居なかった――何処に行ったのか?

 

 

「大人しく消えなさい?」

 

「んな、何時の間に!!!」

 

 

答えは簡単、アリサのシャーマンを囲っていた――確かに閃光弾は炸裂したが、バミューダ3姉妹は咄嗟に目をつむって目暗ましを逃れていたのである。

そして、三位一体の攻撃であるバミューダアタックでアリサ車を撃破したのだ。

更にその勢いは止まらず……

 

 

「く……狙いが定まりません……!!」

 

 

今度は華のファイアフライを取り囲み、狙いを絞らせている間に3方向からの砲撃を行い、此れを撃破!!そのまま、ケイにも三位一体の攻撃を行うが、其処はサンダースの隊長を務めるケイ、簡単にはやられはしない。

 

 

「アリサと華が続けてやられるとは……だけど、一矢は報いらせて貰うわよメグミ隊長!」

 

「んな、本気なのケイ!?」

 

 

ケイはメグミ車にターゲットを絞ると、急発進して体当たりを敢行し、そのままゼロ距離攻撃!!

無論この攻撃を行っている間に、アズミとルミからの攻撃を後面に受け、白旗判定にはなってしまったモノの、メグミ車を撃破する事こそ出来なかったが、体当たりとゼロ距離攻撃で、正面装甲にある程度のダメージを与える事には成功した。

3方向から囲まれてしまっては、撃破されるのは確実な上、近距離攻撃であってもM4シャーマンの75mm砲ではパーシングの正面を抜く事は略不可能……故にケイは、自らと引き換えにメグミ車にウィークポイントを創る事にしたのだ。

完全に抜く事は出来ないとは言え、ゼロ距離攻撃ならばパーシングの正面装甲を凹ませるくらいの事は出来る。そして、凹んだ部分の強度は他よりも低くなるので、撃破が容易になるのだ。

 

 

「自らを犠牲にして、楔を打ち込んだって言うの?……撃破される事が確実だからって、こんな事をするなんて、正直クレイジーよケイ?」

 

「『戦車道は多少クレイジーな方が良い』、そう教えてくれたのはメグミ隊長よ?

 其れに、此れは犠牲じゃなくて、最後に勝つ為の必要経費……私が打ち込んだ楔は、必ず誰かが有効活用してくれる――それが、このチームなんだから!」

 

「寄せ集めのチームで何が……とは言わない方が良いわね。

 まったく、貴女がクレイジーとクレバーを同居させているとは思わなかったわケイ――だけど、隊長が動いた以上、私達が勝つ。」

 

「其れは如何かしら?

 みほはそっちの隊長を引き摺り出す事を考えていたから、此れはみほの望む展開となったと言えるわ――つまり、此処からがみほの本領発揮と言う事よ。

 隻腕の軍神と、その仲間達を甘く見てると痛い目見るんだから!」

 

 

楔を打ち込んだケイに対し、メグミは狂っていると言うが、言われたケイは何処吹く風――撃破されたと言うのにサバサバした表情で言外に『勝つのはみほだ』とのセリフを放ち、シャーマンの装甲の上に大の字に寝転がる。

ファイアフライと2輌のシャーマンを撃破したバミューダ3姉妹はその場から移動するが、戦車の上で大の字になったケイは空に向かってサムズアップし……

 

 

「楔は打ち込んだ……あとは任せたよ、皆。」

 

 

只、そう呟いた。大洗連合の勝利を信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

バミューダ3姉妹がサンダースからの援軍を全て撃破したのと同刻、愛里寿の無双は続いていた。

先ずは、戦車水切りと言う離れ業でパーシングを池近くまで誘い込んで、背後からの砲撃で池に落とすと言う見事な連携を見せたカモチームとCV-33を撃破したかと思えば、

 

 

「しまった、袋小路に追い込まれたか……万事休すだな。」

 

 

麻子の操るクルセイダーを袋小路に追い込んで撃破し、

 

 

「会長!!」

 

「こりゃ、相手が悪過ぎるだろ流石に……」

 

 

「ももが!?」

 

「にゃー!?」

 

「だっちゃ!?」

 

 

エジプト風遺跡前で、カメチームとアリクイチームを連続で撃破!!正に『愛里寿無双』!!無双シリーズの新作ではないので悪しからず!!

が、この場に居たのは此の2チームだけではなく、近坂凛が車長を務めるティーガーⅠも居る……まほが認めた数少ない戦車乗りである凛は、流石に簡単には撃破されず、互いに譲らぬ激しい戦車戦を展開したのだが……

 

 

「貴女はとても強かった……でも、これで終わり。」

 

「此れが、才能の差って言うモノなのかしらね……」

 

 

秀才の凛と天才の愛里寿――秀才と天才の間にある、埋められない絶対的な差が明暗を分け、凛のティーガーⅠは白旗判定に。

だが、マダマダ愛里寿は止まらない。

其処から観覧車付近まで移動すると、梓と小梅を相手に戦車戦を開始!

実力的には略同格ではあるが、だからこそ戦車の性能差と言うのは無慈悲なモノとなるのは否めない――みほ譲りの裏技を駆使して戦った梓と小梅だったが、Ⅲ号&Ⅳ号とセンチュリオンの間には超えられない戦車の性能差がある……その残酷なまでの性能差によって、Ⅲ号もⅣ号も撃破されてしまった。

尤も、みほの一番弟子である梓と、黒森峰の遊撃隊で活躍した小梅がタダでやられる訳もなく、愛里寿のセンチュリオンに楔を打ち込んでいた。その楔が何であるのかは、今は未だ分からないが。

 

この時点で、大学選抜の残存車輌は7、大洗連合の残存車輌は5と、車輌数は逆転したのだが……大洗連合には、この人が居るのを忘れてはならない。

 

 

「邪魔だ、どけ!!!」

 

 

そう、天下の黒森峰の現隊長である西住まほだ。

性能的には不利であるパーシングを相手に、『西住流』を行い、惑う事無く真正面から続けざまに3輌のパーシングを、粉砕!玉砕!大喝采!!

まほの実力は疑う事が出来ない物ではあるが、此の試合に於いては愛する妹の為の力が働き、その戦車力は通常時の300倍となっている訳であり、こうなったまほの前には戦車の性能差など些細な問題であるのだ。

まほの連続撃破により、残存車輌数は大洗が5、大学選抜が4と再び逆転したのだった。

 

 

『こちらみほ、聞こえるお姉ちゃん?』

 

「あぁ、聞こえてるよみほ。如何した?」

 

『大学選抜は、如何やら中隊長の3人のコンビネーションが結構刺さってるみたいだから、私達もコンビネーションで戦おう。』

 

「コンビネーションでか……その提案、乗らせて貰う!」

 

 

更に此処で、みほからコンビネーションの申し出があり、まほは其れを受領。――其れは、今この瞬間に、隻腕の軍神と冷徹なる武神の最強姉妹タッグが結成された事を意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わってコンコルド広場。

此処ではバミューダ3姉妹と、ライガー、レオポン、カチューシャのチームが戦闘を行っていた。

戦車の性能で言えばバミューダ3姉妹のパーシングの方が上であり、特に機動力に関しては絶対的に勝ってるのだ。

 

 

「のろまな亀さん、そんなんじゃ追い付けないわよ?」

 

 

ポルシェティーガーとティーガーⅡの足の遅さをルミは揶揄るが、大洗女子学園の自動車部を舐めて行けない。

 

 

「エンジンに規制はあっても、モーターにはないもんね!行け、音速の貴公子!!」

 

 

レオポンチームの操縦士であるツチヤが、今のレギュレーションでは規制されていないモーターの出力リミッターを解除し、ポルシェティーガーのカタログスペックを上回る速度でカッ飛び、其の後をスリップストリームでカチューシャとエリカが続く。

が、如何にモーターに規制がないとは言え、エンジンが45年ルールの物である以上、エンジンにかかる負荷は避けられず、リミッター解除したレオポンはエンジンが火を噴いて白旗判定に!

其処から、アズミ車がカチューシャ車を撃破したが……

 

 

「ウゴアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

「なんか吠えてる!?って言うか、逸見妹人間辞めてる!?」

 

「シャァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

己の野生を解放したエリカがメグミ車に襲い掛かり、ケイの打ち込んだ楔を的確に攻撃して撃破!!

そして、エリカは其のまま『役割は果たした』とばかりにその場を離脱――此れで、大洗連合と大学選抜の残存車輌は共に3となり、残った戦車は中央広場に集結。

 

そして、その場に集まったのは、愛里寿とルミとアズミ、そして――

 

 

「さぁて、喰い殺される覚悟は出来てるかしら?」

 

「此処が最終決戦の地か……不足は無いな。」

 

「此処がラストバトルの地……決着を付けようか、大学選抜――ううん、愛里寿ちゃん!」

 

 

『大洗の狂犬』逸見エリカ、『黒森峰の武神』西住まほ、そして『隻腕の軍神』の西住みほだ。

つまり、この場に残ったのは大洗連合の3強と、大学選抜チームの3強だと言う事――今此処に、大洗連合と大学選抜の試合は、最終章の幕をあげたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer163『推奨BGMは『クラッシュ』です!!』

みほ、何で此れを推奨したの?Byエリカ        黒のカリスマの入場テーマ曲カッコ良くない?Byみほ      其れは否定できませんけれど……By小梅


Side:愛里寿

 

 

互いに残った戦車は3輌……私の方は、私の他にアズミとルミが残ってくれたのは僥倖だった。もしも中隊長が残ってくれなかったら可成り厳しかったと思うから。

でも、其れでもこの戦いには勝てる可能性を見い出す事が出来ない。

何時だったかお母様が『戦車道最強は誰かと聞かれたら、其れは西住みほであると答える以外にない』と言っていたけれど、実際に試合で対峙してみて、其れは間違いじゃなかったと確信した。

 

一緒に居るまほさんやエリカさんが強いのは言うまでも無いけど、みほさんから感じるオーラは、まほさんやエリカさんとは格が違う――隻腕の軍神の名に恥じない程に強い。

此れがお母様が認めた、最強の戦車乗りの覇気……!!

 

 

 

「愛里寿ちゃん。」

 

「……みほさん?」

 

「此れが最終決戦、出し惜しみしないで思いっきりやろう?

 勝っても負けても恨みっこなし……最高の戦車道をしよう。――持てる力の全てを出して、限界までぶっ飛ばしてこれ以上は無いって言う位の戦車道の試合をしようね。」

 

 

 

キューポラの上に立って、肩にパンツァージャケットの上着を引っ掛けたみほさん……正直ってカッコ良すぎだと思う。

ティーガーⅠに乗る姉のまほさんも、略帽外してキューポラに仁王立ちして腕組んでるとか迫力あり過ぎ……こんな事を言ったらお母様に叱られるのは確実かもだけど、この姉妹には勝てる気がしない。

 

いや、西住姉妹だけなら何とかなるかも知れないけど……

 

 

 

「狂犬に食い殺されたい奴からかかって来なさい。」

 

 

 

其処に大洗の狂犬こと逸見エリカさんが追加されたら流石にキツイ。

大洗の狂犬は作戦とかは関係なく、敵とみなした相手は速攻で噛み殺す事で有名だから、絶対に油断する事は出来ない――油断した、その瞬間に噛み殺されたとか笑えないからね。

でも、『最高の戦車道をしよう』と言われたら、其れに応えないなんて事は出来ないから……私の持てる力の全てを出して、挑ませて貰います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer163

『推奨BGMは『クラッシュ』です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

中央広場に集結した大洗連合と大学選抜の残存車輌数は互いに3輌。

大隊長である愛里寿とと隊長であるアズミとルミが残った大学選抜に対し、大洗は大隊長であるみほと中隊長であるまほと隊長クラスではないモノの、大洗において最も攻撃的な戦い方を得意とするエリカと言う組み合わせだ。

単純に盤面だけを見るのならば、大隊長と中隊長が揃っている大学選抜が有利に見えるだろうが、実際はそうではない――確かに愛里寿は島田流始まって以来の天才と言われる程の天才的戦車乗りであり、アズミとルミも大学戦車道界隈では名が知られている実力者だが、大洗の残存戦力は、天下の西住姉妹と、中学2年から不敗記録を持つみほがその不敗記録の中で唯一勝てなかったエリカなのだ。

しかも此の3人、去年は黒森峰で一緒に戦って来た戦友同士でもあり、連携面で言うのならば毎年メンバーが変わる大学選抜チームよりも上なのである。

其れを加味した場合、果たして盤面が如何動くかは予想できず、間違いなく最終決戦となる此の中央広場での戦いは此れまで以上に盛り上がる事にあるのは間違いない。

 

 

「ディスイズファイナル、ファイナルバーロー!!

 最終決戦だオラァ!!目ん玉ひん剥いてよく見とけ、能無しの文科省特別顧問!!テメェがどんな策略ぶつけようとなぁ、みぽりん率いる大洗には通じねんだオイ!!

 みぽりんだけじゃねぇ、まほりんとエリリンも居るんだ、大洗が負ける確率なんぞ最初っから0%に決まってんだろ!

 大学選抜?ガッデム!!みぽりんと大洗連合だけ見てりゃいいんだ!アイアム、チョーノ!!」

 

 

そして盛り上がって来たとなれば、観客席の黒のカリスマが黙っている筈がない。変に発音が良いせいで、『バトル』が『バーロー』に聞こえたかもしれないが、其れは突っ込むだけ無駄である。

だって黒のカリスマだし。

nOsの面々も力の限り声援を送り、巨漢の外国人レスラーは巨大な応援旗を全力で振って応援する。因みにそんな彼の腕回りは58cm……女性モデルのウェストと同じである。普通に凄い。

 

 

「オラァ!負けんじゃねぇぞみほちゃん、まほちゃん、エリカちゃん!!

 文科省特別顧問のクソッタレな野望なんぞ噛み砕いてぶっ壊しちまえ!!オレが隊長務めてた頃よりも強い大洗を造ったみほちゃんだったら絶対出来るって、オレは信じてるぜ?

 淳五郎、テメェも声出せ声!見た目はその筋の人にしか見えねぇんだから大声の一つや二つ出せんだろ!オレに告って来た時のあのモノスゲェ気合を見せろ!!」

 

「か、母さん無茶を言わないでくれ!!」

 

 

序に好子さんも絶好調であった。今日もまた旦那は尻に敷かれているらしい……頑張ってくれ淳五郎さん。

其れは兎も角、好子の目は主婦の其れではなく、現役の戦車乗りのモノになっていた――大洗連合の奮闘が、引退した好子の中で眠っていた戦車乗りの本能を目覚めさせた……それ程までのモノだったのだ此の試合は。

 

 

「千代、此の試合……勝つのは私の娘達よ。」

 

「えぇ、それで良いわ……あの子に負けを教えてあげて?負けを知らなければ、あの子の更なる成長は望めないから。」

 

 

西住流と島田流の家元も望んでいるのは大洗連合の勝利であるようだった……が、其れを絶対に望んで居ないのは文科省の特別顧問である白神だろう。

当然だ、大洗が勝って廃校か完全撤廃になってしまったら、彼にしたら大損なのだから――何故大損なのかは、辻局長が調査中なので詳細を語る事は今現在出来ないが。

だが、白神特別顧問にはこの言葉を送ろう……『アンタ、喧嘩売る相手間違えたね。』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、最終決戦の場となった中央広場だが、3輌が真正面からぶつかり合う展開になるかと思っていたら、大学選抜側はアズミとルミが前に出て来て、愛里寿は其の後ろに。

如何やら、先ずはパーシング2輌で相手になるらしい――まぁ、戦車の性能的な事を言うのならば、パーシングは対ティーガー戦車として開発された戦車なので、大洗の残存車輌がパンター、ティーガーⅠ、ティーガーⅡと言う事を考えれば確かにパーシング2輌で撃滅する事は可能だろう。

 

だがしかし、戦車道は戦車の性能だけでは決まらないというのは、今年の大洗が示した事でもある――そして、其れはこの戦いでも同じだ。

 

 

「本日の天気は、晴れ時々模型のミサイルとなっていますのでご注意ください♪」

 

「んな!?遊具のミサイルを発射したですって!?」

 

「アトラクションとしての機能だったみたいで攻撃力は皆無だが、意表を突くには充分だったな……虎に狩られるというのはどんな気分だ虎殺し?」

 

 

みほが持ち前の戦車道の常識が通じない戦術で相手の虚を突き、まほが持ち前の剛健質実な西住流でもって虚を突かれた相手を撃破する抜群のコンビネーションが展開されていた。

みほの戦車道は西住流の対局に位置するものだが、だからこそ王道の西住流と交わった時には最大の力を発揮するのだ――現実に、技のみほと力のまほでアズミを撃破してしまったのだから。

 

此れで残存車輌は大洗が1輌有利になったが、其れでも愛里寿はみほ達の戦いを動かずに見ていた。と言うよりは観察していた。――よく観察する事で、対応しようとしているのだろう。

 

 

「(みほさんとまほさんのコンビネーションには隙がないだけじゃなく、ハンドサインすらなく視線を交わすだけで如何すれば良いかをお互いに理解してる……此のコンビネーションが相手じゃ、アズミとルミだと勝てないかな?)……アレ?」

 

 

だが、観察していたからこそ気付いた……大洗のチームに1輌足りない事に。

 

 

「高みの見物とは、大隊長様は違うわねぇ?余裕綽々ってやつ?」

 

「逸見エリカさん……!!!」

 

 

そしてその足りない1輌は、愛里寿のすぐ横に陣取っていた……乱戦のどさくさに紛れて、大学選抜の大隊長車に此処まで接近したエリカには驚く以外にないのだが、此れには愛里寿も完全に虚を突かれた形だ。

 

 

「暇そうにしてたから、少し遊び相手になってあげるわ……来いよガキンチョ。狂犬の牙に喰いちぎられる覚悟があるならね。」

 

「受けて立ちます……でも、貴女で私に勝てますか?」

 

「いや、勝てないんじゃない?良くて相討ちかしら?私はアンタとは最悪に相性悪いだろうし。

 ……だけど、狂犬は無駄死にはしないわ――勝てなくても、アンタの片腕位は喰い千切らせて貰うわよ?狂犬の牙ってのはね、何よりも強者の血を啜るのが好きなのよ。」

 

「上等、本気で行く。」

 

 

その瞬間にエリカvs愛里寿の戦車戦が勃発!

方やイギリス産の最強戦車で対するはドイツが誇る最強の重戦車だ……戦車の総合スペック的にはそれほど大きな差はないので、そう簡単に決着はつかないだろう。

 

だが――

 

 

「隊長、照準通りに弾が飛んで行きません!!」

 

「なんだと?」

 

 

此処でセンチュリオンに異常発生――主砲が狙った場所に届かなくなり、照準よりも僅かに右にズレるようなっていたのだ……試合前には何ともなかったのだが、此れこそが梓が打ち込んだ楔の正体だ。

Ⅲ号でセンチュリオンを撃破する事は出来ないが、だが楔を打ち込む事は出来る――梓のⅢ号の一撃は、センチュリオンの主砲を、目には見えないレベルで歪めていたのだ。

コンマ1ミリ単位の歪みだが、その歪みが戦車道では致命傷になりかねない―ー特に主砲が狙った位置に飛んで行かないのは最悪レベルであるとしか言いようがないだろう。

だって、此の誤差は砲撃手には相当負担が掛かるのだ――当然だ、照準よりも少しばかりズレた場所を攻撃目標にしなくてはならないのだから。

しかも、修正などすぐ出来る筈もない。と言うか、こんなアクシデントによる照準の修正などは、完全に停車した状態で動かない目標を相手にしなければ先ず無理であり、動き回って戦車戦を行っている最中に修正しろとか、殆ど無理ゲーなのだ。

更に悪い事に今の相手はエリカだ。『敵は噛み殺せ、喰い殺せ、ぶっ殺せ』上等のエリカだ……そんなエリカが、マシントラブルを起こしたセンチュリオンを黙って見過ごす筈もなく、ティーガーⅡの最強の攻撃力を持ってして襲い掛かって来る。

狙った場所に砲撃が飛んで行かないセンチュリオンで、ティーガーⅡの相手をするのは難しいだろう。

 

 

「……照準器の狙いを左に2cm修正。この距離の戦車戦なら、そうすれば当てたい場所に当てる事が出来る。」

 

「え?」

 

「良いから言う通りにして。」

 

「り、了解。」

 

 

そんな状況の中、愛里寿は砲手に照準器の狙いを修正させていた。

流石は天才と言うべきか、この戦車戦の最中に、狙いと実際の砲撃の軌道のずれがどれ程であるかを目で見て確認し、大体の当たりを付けて修正させたのだ。

此れが遠距離砲撃であったのならば、そんな簡単な物ではなかっただろうが、近距離攻撃が多くなる戦車戦であるのならば軌道の振れ幅は小さくなるので修正が出来たのだ……とは言っても愛里寿レベルの戦車乗りでなければ絶対に無理だが。

だが、その修正のおかげで、次の砲撃はティーガーⅡにヒット!実戦投入された戦車の中では抜群の装甲厚を誇るティーガーⅡ故に、撃破される事は無かったが。

 

 

「へぇ?

 砲弾があらぬ方向に飛んで行ったから、マシントラブルかと思ったけど、其れを即座に修正して来るなんて流石は島田流の天才少女だわ。

 って言うか、多分砲身が歪んでるんでしょうけど、其れ澤にやられたでしょ?」

 

「澤?」

 

「澤梓。Ⅲ号戦車の車長で、大洗の副隊長にしてみほの一番弟子。

 序に言うと、戦車道を始めたのは中学からなのに、ドイツで小学校の頃から戦車道やっててドイツのジュニアチームでトップ張ってた子とガチンコ勝負して負けない天才児。

 Ⅲ号とセンチュリオンじゃ勝負にならなかったでしょうけど、みほの一番弟子のあの子は確りと楔を打ち込んだみたいね。」

 

「あの白いⅢ号の人がみほさんの一番弟子……確かに、もしももっと性能の良い戦車に乗ってたら危なかったかもしれない。」

 

 

言葉を交わしながらも戦車戦は続く。

互いに相手の攻撃をギリギリで躱しているので決定打を打てては居ないが、徐々にだがエリカの方が有利な状況になって来た――当然だ、常に正面を向いているティーガーⅡに対し、センチュリオンは砲撃を確実に当てる為に僅かに斜めを向かなければならないのだから。

この僅かなずれは砲撃が掠った際に影響し、ホンの僅かでも側面を曝してしまうセンチュリオンの方が蓄積ダメージが如何しても大きくなってしまうのである。

此のまま続ければジリ貧になるのは愛里寿の方だが……

 

 

 

――バチィィン!!

 

 

 

「はぁ!?此処で履帯が切れたですってぇ!?」

 

 

何とここでティーガーⅡの履帯がバースト!

如何に魔改造が施されているとは言え、ティーガーⅡの足回りは最悪レベルに悪く、ギリギリ限界まで改善したとは言っても、遊園地に入ってからのエリカは敵を見つける為に園内を動き回り、見つけたら見つけたで撃破する為に追い回していたので履帯には結構な負荷が掛かっていたらしくて、それが愛里寿との戦車戦で限界を迎えてしまったのだ。

こうなっては只の的だが……

 

 

「坂口、気合で動かせ。履帯が無くても転輪が無事なら少しは動けるから、センチュリオンに向かって突撃しなさい。」

 

「あい?」

 

「犬死は性に合わないって言ってんのよ!どうせ死ぬなら刺し違えるわよ!!」

 

「あ、あいーーーー!!!」

 

「ヤレヤレ、狂犬に常識は通じないか……」

 

「何、なんか文句あるアイン?」

 

「いやマッタク……狂犬は狂犬らしく、最後まで怒り狂って果てるとしようか。」

 

 

何とそこから強引にエンジンを吹かし、センチュリオンに向かって突撃!日本が世界に誇っちゃいけない神風特攻!!

手負いの虎は恐ろしいと言うが、手負いの虎を狂犬が操ってる場合は更に恐ろしい!ドレだけ恐ろしいかと言うと、部屋の明かりを全て消してヘッドホン装着状態でバイオハザードをプレイするのと同じ位恐ろしい。実際可成り恐ろしい!!

 

 

「覚悟しなさい島田愛里寿!!その首貰ったぁ!!」

 

 

そしてまさかの突撃に、愛里寿は完全に虚を突かれ僅かに反応が遅れてしまった……其れは、1秒にも満たない時間ではあるが、その僅かな反応の遅れが戦車道では命取りになる。

此のままでは愛里寿はエリカと相討ちになるのは避けられないが――

 

 

「隊長はやらせないわ!!」

 

 

愛里寿の危機に、西住姉妹と戦車戦を行っていたルミが割って入って来た。

西住姉妹のコンビネーションに、継続の隊長時代に培ったトリックスターの能力を全開にして対抗していたが、愛里寿の危機を知るや否や、西住姉妹との戦いを放り出して駆けつけたのだ。……まぁ、ある意味では隊長を守った隊員の鑑と言えるだろう。

其の効果は抜群で、センチュリオンに特攻する筈だったティーガーⅡはパーシングによって進路を阻まれ、そのまま接触してセンチュリオンから遠ざかっていく。

 

 

「オイコラ、邪魔すんじゃないわよクソチビ!!」

 

「だから私はチビじゃない!!確かにアズミやメグミと比べたら背は低いけど、決してチビじゃないからな逸見妹!!」

 

「さんを付けろよデコスケ野郎!」

 

「何で年下をさん付けせにゃならんのだ!つーか私はデコでもない!!」

 

「眼鏡。」

 

「あ、其れは否定できないけど。」

 

「胸部装甲まな板(笑)。」

 

「よし、ぶっ殺す。」

 

 

……小学生かお前等は。

会話の内容は色々とアレだが、ティーガーⅡとパーシングは縺れながら進み、其のまま中央広場から外れ、ジェットコースターのレールの足にダイレクトアタック!

そしてその衝撃でジェットコースターのレールが壊れてティーガーⅡとパーシングに降り注ぎ、両車の装甲を粉砕!玉砕!!大喝采!!

 

 

『大洗女子学園ティーガーⅡ、大学選抜パーシング、共に行動不能。』

 

 

此処でティーガーⅡとパーシングはゲームオーバーとなり、残る車輌は大洗連合はみほのパンターとまほのティーガーⅠ、大学選抜は愛里寿のセンチュリオンだ。

残存車輌は、期せずして『西住流vs島田流』の構図となったのだった。

 

 

「時に逸見妹、落ちて来たジェットコースターのレールの一部、よくキャッチ出来たわね?」

 

「毎日西住流フィジカルトレーニングやってれば此れ位は余裕よ?……でも今回はちょっと失敗。もう少し早く反応してれば装甲抜かれなかったと思うから。」

 

「有り得ん……」

 

 

取り敢えず、西住流フィジカルトレーニングを普通に熟せるようになった暁には超人強度95万パワーを得る事が出来るらしかった。

まぁ、それはさておき西住姉妹vs愛里寿だ。

 

 

「此れも躱すか……やるね、愛里寿ちゃん?」

 

「今のは危なかった……流石ですねみほさん。そして、まほさんも。」

 

 

戦いは西住姉妹が優勢に進めていた。

2対1と言う状況もあるだろうが、柔と剛が合わさった西住姉妹のコンビネーションは正に絶対無敵と言えるものなのだから当然と言えば当然だ。

まほの力に対処しようとすればみほの技が其れを邪魔し、みほの技に対処しようとすればまほの力が其れを打ち破る――しかも、その連携を嗚咽マイクどころか、ハンドサインすら使わずに視線を交えるだけで行ってしまうのだから恐ろしい。

 

これは『幼い頃から一緒に戦車に乗っていたからだ』と言ってしまえばそうなのかも知れないが、そうだとしても姉妹で戦車道に勤しんでいる者達の中に此れだけの連携を行える者は存在しないだろう。

島田流の娘であるミカと愛里寿であっても不可能だ。

正に無敵!!

 

だが、この最強姉妹を相手にして、愛里寿の顔には笑みが浮かんでいた。

 

 

「(有り難い……偽物じゃない!!)……楽しいね、みほさん。まほさん。」

 

 

其れは歓喜の笑み。

愛里寿はその才能故に、今の今までミカよりも強い相手とは戦った事が無かったのだが、其のミカも此の試合で撃破してしまい、完全に自分よりも強い相手は失ってしまったのだが、そんな所に現れたミカをも凌駕するみほとまほ――此れに喜ばない筈がない。

 

 

「うん、楽しいね愛里寿ちゃん!だから、もっともっと楽しもう!!」

 

「戦車道は楽しまねば損だからな。」

 

「うん、もっと楽しみたい……もっと、貴女達とこの楽しい時間を共有したい!!」

 

 

砲撃が飛び交い、中央広場の施設が破壊され、一歩も譲らない戦車戦が展開され、正に会場のボルテージは最高潮!!ピンクのスーツを着た凄いリーゼントにオシャレな髭のMCが居ないのが残念でならない。彼が居たら、この興奮を余すことなく伝えてくれただろうに。

 

……失礼、少し暴走してしまった。

だが、其れ程にこの戦いは凄まじいのだ。其れこそ戦車道史に残る戦いであると言っても過言ではない――いや、西住流と島田流の直接対決である時点で戦車道史に残るのは確実と言えるが、其れを抜きにしても此の試合は凄い。

西住姉妹のコンビネーションに対処する愛里寿も流石だが、対処されたら対処されたで新たなコンビネーションを即座に組み立てる西住姉妹も大概であるいえるだろう。

柔と剛の融合……此れこそが、しほが目指していた西住流の完成形だったのかもしれない。

そして――

 

 

激しい戦車戦の末に、みほとまほ、愛里寿は互いに相手を正面から捉える展開になっていた。唯一の違いを上げるとすれば、みほとまほはみほを前にして前後に並んでいると言う事だろうか。

誰が言った訳でもないが、次が最後の攻防となるのは誰もが何となく察していた……其れを感じさせるだけの闘気が、ここには渦巻いている。

 

 

そんな中、みほは少しだけ後ろを向きまほに頷く――其れを受けたまほは、僅かに目を伏せた後に頷き、鋭い目でみほを見る。

其れを見たみほは満足そうに頷き、眼前の愛里寿を見やる。

 

 

「次が最後……行くよ、皆!!」

 

「お~~ほっほ、お任せですわみほさん!明光大一の俊足は伊達じゃありませんのよ!!」

 

「もう装填は完了してんぜ……行こうぜみほ!!」

 

「砲撃は任せなさい?センチュリオンの装甲、抜いてあげるわ。」

 

「行こう、みぽりん!!」

 

「うん、行くよ……此れが最後!『アルティメットボッコ作戦』開始!!」

 

「了解だ!!……行け、みほ!!」

 

 

次の瞬間、パンターが急発進すると同時にティーガーⅠが空砲を放ってパンターの急発進を加速させる。

 

 

「空砲!!」

 

 

空砲とは言え味方を撃つと言う過激さに驚くモノの、愛里寿はパンターを迎え撃つべく照準を定めるが、そう簡単に行くアイスブルーのパンターではない!!

 

 

「おんどりゃぁぁぁぁぁぁですわぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

此処でつぼみが戦車ドリフトを行い、センチュリオンの照準を外す。

しかしその代償は安くなく、パンターの履帯は切れ、転輪も弾け飛ぶが、其れでもパンターは止まらず遂にセンチュリオンの側面をロックオン!!

 

 

「吉良ナオミ、目標を狙い撃つ!!此れで、決めてやるわ!!」

 

「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「打っ飛べぇぇぇぇーーーー!!」

 

 

――バガァァァァァァァァァン!!

 

 

パンターとセンチュリオンの砲撃が同時に行われ……

 

 

――キュポン

 

 

『パンター、センチュリオン行動不能。』

 

 

パンターとセンチュリオンは共に白旗判定に。

パンターの一撃はセンチュリオンの側面を抜いたが、センチュリオンの一撃もまたクリティカルヒットしていたと言う事なのだろう。

 

 

『目視で残存車輌を確認中。

 ……確認終了。大学選抜チーム残存車輌0!大洗女子学園残存車輌1……よって此の試合、大洗女子学園の勝利です!!』

 

 

目視での残存車輌を確認した結果は、大洗連合が1輌生存で大学選抜は全滅……つまり、殲滅戦ルールで大洗は勝ったのだ!

絶対的に不利な状況だった状況は戦車が紡いだ絆が救い、そして試合ではその絆が最大の力を発揮して、格上の大学選抜を殲滅戦ルールで倒してしまった。

 

正に完勝――そう言っても差し支えない結果を、大洗連合は残したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer164『処刑BGMをご用意ください!です』

処刑用BGMと言えば?Byみほ        『クリティウスの牙』かしら?Byエリカ      『覚悟しろよ、この蟲野郎!』ですね♪By小梅


Side:みほ

 

 

愛里寿ちゃんが参戦したら一気に戦力が削られたのは驚いたけど、最後はお姉ちゃんとのコンビネーションで勝つ事が出来た――最後の作戦は二段構えだったから、あのコンビネーションが発動した瞬間に、私達大洗の勝ちは確定していた。

空砲での加速って言う過激な作戦で愛里寿ちゃんの冷静な思考を奪って、意識をパンターにだけ向けさせた所で、直前で戦車ドリフトを仕掛けてセンチュリオンの砲塔を回転させる。

そうすれば、私が撃破出来なくとも、無防備な側面を曝したセンチュリオンにお姉ちゃんのティーガーⅠの砲撃が炸裂する――『西住流は、常に隙を生じない2段構え』……小さい頃にお母さんから教わった事が役に立ったよ。

 

でも、私達が勝てたのは土壇場で助っ人に駆けつけてくれた皆のおかげ……ありがとうございました!!

 

 

 

「何言ってるのみほ、当然でしょ此れ位!ダージリンじゃないけど、こんな言葉を知ってる?カウボーイは決して仲間を裏切らないの!!」

 

「あら、ケイさんにお株を奪われてしまったわ。」

 

「お株を奪われた、其れは大事な事かな?」

 

「ミカ殿、其れは重大であるのではないかと思われます!!」

 

 

 

あはは……このノリも、高校戦車道の特徴かもね。

試合が終わって、皆と談笑するのも、戦車道の醍醐味なんだけど……

 

 

 

~~♪

 

 

 

其処に現れたのは、クマの玩具に跨った愛里寿ちゃん。えっと、如何かしたのかな?

 

 

 

「今日の試合、とっても楽しかった。此れは、私からのお礼と勲章。」

 

 

 

そう言って渡してくれたのは、ボコミュージアムで譲ってあげたレアボコ……でも良いの?此れ、欲しかったモノなんでしょ?

 

 

 

「良いの。とても楽しい戦車道が出来たから。……お母様の言った通り、貴女は最強にして最高の戦車乗りだった。

 そんな貴女だからこそ、此の子を貰ってあげて欲しい。」

 

「そっか……なら、有り難く頂くよ。大切にするね、ありがとう。」

 

まさか、最後の最後で、こんな事があるとは思わなかったけど、愛里寿ちゃんから貰ったレアボコは、私の最高の宝物だね……色々な事があった試合だったけど、私達が勝った事で大洗の廃校は完全撤廃になるし、愛里寿ちゃんとの絆も紡げたから、結果的には全てがプラスになったって言えるかな。

取り敢えず、大洗が廃校は撤回される……そう思っただけで、何だか一気に力が抜けちゃった感じだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer164

『処刑BGMをご用意ください!です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

激闘を制したのは大洗。まぁ、勝って貰わないと困るのだから、この結果には大いに満足しているわ――特に最後の決戦には、現役を退いたにも係わらず心が燃え上がったわね。

あれこそ正に真の戦車道にして、私が目指していた西住流の完成形だったのだから……思わず泣きそうになったわよ。

でも、其れは其れとしてとてもいい試合だったから、今度は何のしがらみもない状況で試合をしたいわね千代。

 

 

 

「えぇ、マッタク持って同意見よしほちゃん。

 で、其れは其れとして、あの白髪モノクルは如何しよっか?大洗廃校の張本人は、大洗が勝った事で口から魂が抜けかけてるけれど……」

 

「口から魂が抜けかけてるとは、相当ショックだったのでしょうけれど、だからと言ってコイツを許す筈がないでしょうに――大洗の一件だけでも業腹モノなのだから、キッチリ制裁させて貰うわ。」

 

そんな訳だから、やっちゃっていいわよ。

宜しくね、黒のカリスマ率いるnOsの皆さん。

 

 

 

「ガッデーーーーーーーーム!!!」

 

「調子くれてんじゃねぇぞオラァ!!」

 

 

 

――バッキィィィ!!!

 

 

 

「ブベラ!?」

 

 

 

あら、お仕置き開始の一発が総帥自らのケンカキックとは気前がいいわね?だけじゃなくて、なんで好子も一緒にケンカキックブチかましてるの?

まぁ、貴女の現役時代の性格を考えたら、白神顧問みたいな輩は絶対に許す事の出来ない最低下衆野郎な訳だから仕方ないのかも知れないしれないけど、黒のカリスマの元祖ケンカキックと、好子の本場のケンカキックは可成り効いたでしょうねうん。

でも此れでお仕置きが終わりではないわ。寧ろこれが始まりなのよ!

 

 

 

「「っしゃおらぁ!!」」

 

 

 

天コジ名タッグが、『天コジカッター』を極め、ダウンした所に、

 

 

 

「行っちゃうぞ!!」

 

「「「「「「「「「「馬鹿やろー!!」」」」」」」」」」

 

 

 

天コジのコジこと小島聡が名物必殺技である『行っちゃうぞエルボー』を敢行……お決まりである、小島の『行っちゃうぞ!』の後に観客が『馬鹿やろー』と叫ぶお約束もね。

更に追撃としてヒロ・斎藤のセントーンプレスが炸裂し、『顔面凶器』『極悪親父のポン刀人生』と言われるヤクザにしか見えない厳つい見てくれの後藤達俊が、現役時代の馳大臣を一時心停止にまで追い込んだ凶器のバックドロップ!

高角度の臍で投げるバックドロップは美しいわ。

 

 

 

「飛べない棚橋は、只のイケメンだ!」

 

 

 

謎のセリフと共にミサイルキックを放ったのは棚橋弘至……自分で自分をイケメンって言うって如何なの?……痴情のもつれから彼女に刺されても、自力で救急車呼んだ根性は凄いと思うけど。

 

 

 

「文科省だか何だか知らねぇけど、調子に乗んなよ?一番スゲェのは、プロレスと戦車道なんだよ!」

 

「ダーーーーー!!!!」

 

 

 

プロレス史上に残る名台詞のオマージュを言ってくれた中邑真輔と、雄たけびを上げたスコット・ノートンのツープラトンは、ノートンが超竜ボムで持ち上げた所に中邑が飛びついて三角締めを極めて、そしてそのまま超竜ボム出叩き付けるという荒業!凄いわ此れ。

 

「千代、此れだけのプロレスラーの必殺技、ツープラトンが生で拝めるとは凄く幸運だと思わない?」

 

「そうね、こんな機会は滅多にないモノ……でも、未だ肝心な人が出てないわ。」

 

「そう言えば、まだ彼は出てないわね?今のプロレスを語る上で外す事の出来ない天才が。」

 

彼の技は華麗にして強烈、そしてその一発で静まり返った会場をヒート100に出来るモノばかりだから期待してしまうわ。

そろそろ出番だと思うのだけれど……

 

 

 

――チョイチョイ……

 

 

 

「ふ、ふぇ?ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

肩を何者かにつつかれた白神顧問は振り返った次の瞬間に悲鳴を上げたけれど、まぁ振り返った先に居たら驚くわよね、グレート・ムタ。

何時の間に変身したのか分からないけど、素顔の方じゃなくてこっちで来るとは思ってなかったわ……きっと、こっちの方が良いと思ったのでしょうね。かの天龍源一郎が『武藤はアドリブの天才』と言っていたけど、筋書き通りの台本は彼には合わないという事なのでしょう。

正に型に捕らわれない天才……彼とみほは天才同士、良い友達になれるかもしれないわ。

 

 

 

――ブシュー!!

 

 

 

「ギャァァァァァァ!!!!」

 

 

 

なんて事を考えてる間に、ムタは得意の毒霧攻撃!あ、今回は赤なのね。

そして悶絶する白神に、閃光妖術(シャイニング・ウィザード)を叩き込むと、ノートンをコーナーポスト代わりにして必殺のムーンサルトプレス!!

うん、ムーンサルトを生で見れただけでも満足だわ。

さて、出番ですよ馳大臣。

 

 

 

「クソガキィィィ!!」

 

 

 

ダウンした白神の両足をロックすると、そのまま回転を開始し必殺のジャイアントスウィング!

同時に観客からの回転数のカウントが!……10回、20回まだ止まらずに、30回、40回!そして……

 

 

 

「「「「「「「「「「68!69!!70!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

何と、自己最多記録を更新する70回を達成!!50歳を過ぎて此れとは……国会議員になってもトレーニングは怠って無かったと言う事ね。

 

 

 

「おーし!此れでラストだ!やっちまってくれしほさん、千代さん!!」

 

「ついに出番ね千代……やるわよ!!」

 

「えぇ、やりましょう!!」

 

 

 

喰らいなさい、日本戦車道の双璧である西住流と島田流の奇跡のコンビネーション!一期一会無二入魂の家元合体ツープラトン!!

 

 

「「ダブルキン肉バスター!!」」

 

「ぺぎゃらっぱぁ!?」

 

 

私の右腕と千代の左腕で白神の首をロックして、私が左手で白神の右足を、千代が右手で白神の左足を掴んでジャンプし、そのまま着地!ツープラトンだからこそ出来る『返す事の出来ないキン肉バスター』、決まったわね。

さて、肉体的制裁は此れで終わったけれど、貴方への制裁は此れで終わりではないわよ白神顧問。

 

 

 

「馳大臣。」

 

「辻君、証拠が揃ったのか?」

 

「えぇ、これでもかと言う位に。マッタク持って呆れてしまいますよ。」

 

 

 

良いタイミングで来てくれたわね辻局長?では、彼に死刑宣告をして上げて。

 

 

 

「白神特別顧問、何故貴方が躍起になって大洗を廃校にしたいのか、其れが分かりましたよ……貴方は学園艦の解体業者と癒着し、学園艦の統廃合によって廃艦になった学園艦の解体を癒着業者に依頼し、仕事を回した見返りとして多額の金銭を渡されたり、高級クラブで接待を受けたりしていたみたいですね?

 今回の大洗の廃校取り消しをなかった事にして、更に廃校の前倒しをしたのは、既に大洗女子学園の学園艦の解体を斡旋していたから……呆れてモノが言えませんよ。

 貴方の事を快く思っていない文科省の職員に聞いたら、これでもかと言う位に黒い噂が出て来て、裏を取ってみたら全て事実だったので驚いています……この事実は、既に安倍首相に伝えてあります。

 首相は此れまで見た事も無い位に怒り心頭でしたよ……『純粋な少女たちの思いを私腹を肥やす為に踏みにじるとは何事か!』とね。

 序に、此の癒着は検察庁にもたれ込んでおいたので、数日中に貴方の家には特捜部のガサ入れが入ると思いますよ。」

 

「辻!貴様!!!」

 

「あぁ、其れと、貴方が独断で行ったルール改正に対して各国から非難が来ていましたっけ……『大会を盛り上げる為に国際ルールをフラッグ戦にしたというのに、其れを殲滅戦ルールに戻すとはどういう事だ』ってね。

 此れに関しては当然の事、フラッグ戦であるからこそ戦力で劣る国が勝つ事も出来るでしょうが、殲滅戦では結局強力な戦力を持っている国が勝つ事が試合が始まる前から見えてしまっている。そんな出来ゲーム的な大会など、誰も興味を持ちませんから。

 其れから仮にとは言え、カールを認可した事にも批判の声が上がっています……カールの認可は取り消しますし、ルールもフラッグ戦に戻しますが、勝手な事をした貴方はついさっき、与党野党の全会一致で議員資格の剥奪が決まりました。

 そして、議員でなくなれば普通に逮捕されますので、大人しく逮捕されて塀の中で己の愚行を悔いて下さい。」

 

「貴様、恩を仇で返す心算か!!

 お前が今局長と言うポストに居る事が出来るのは誰のおかげだと思っている!ワシが目を付けてやったからこそ、お前はその若さで局長になる事が出来たのだぞ!!」

 

「何を勘違いしているのか知りませんが、私が出世できたのは貴方のおかではなく馳大臣のおかげです。馳大臣は、若かった私の才能を買ってくれて良くしてくださいました。

 私を自分の手駒にしようとしていた貴方とは違うんですよ。と言うか、正直言って貴方はとても鬱陶しかったのでもう会いたくないですよ。

 まぁ、其れも今となっては如何でも良い事です、もう会う事も無いでしょうから……それでは、結果が決まっている裁判の後での塀の中での生活を満喫してください。」

 

「そんな……助けてはくれぬのか!!」

 

「助けませんよ。

 そもそも助けて貰えると思ってたんですか?……有り得ませんね。廃校宣告を受けてなお、其れに対して抗った大洗の皆に対して貴方が行ったのは許し難く残酷な事だ。

 『全国大会で優勝すれば廃校は無かった事にする』と約束した私が其れを許すと思っているのですか?……許す筈がないでしょう!!

 兎に角貴方は此れで終わりです……残りの人生、どん底で生きて下さい。」

 

「そんな、そんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

うん、実に見事な死刑宣告だったわ……あ~~、白神の奴、完全に口から魂が抜けてるわ。さらにショックのあまりに一気に髪の色が抜け落ちて白神の名にピッタリの白髪になっちゃったわね、御愁傷様。

でも、取り敢えずスッキリはしたわね?

 

 

 

「ホント、すっきりしたわ。

 あの人の余計な謀で実現した試合でなかったら、もっと楽しめたのだから……でも、其れは其れとして、私今回の試合で益々みほちゃんの事が気に入っちゃったわしほちゃん♪」

 

「島田流家元が、次女とは言え西住の娘を気に入るとか如何なのよちよきち?」

 

「え~~?良いじゃない~~?

 だって、本当に感動したのよ私……圧倒的に劣る戦力であるにも拘らず試合から逃げないって事だけでも大したモノだけれど、全国大会ではライバルとして戦った相手が大洗の為に駆けつけてくれた。

 でも其れだけだと数が同じになったに過ぎないのに、言い方は悪いけれど『寄せ集め』のチームを下手に纏める事はしないで、逆に夫々の『色』を尊重する事で予想外のコンビネーションが生まれ、加算ではなく乗算の戦力にしてしまった。

 そして最後の愛里寿との戦いのラストターン……アレは本当に見事な作戦だったわ。

 ティーガーⅠの空砲による加速と言う過激かつ予想外の行動に愛里寿の意識は完全にみほさんのパンターにだけ向いてしまい、戦車ドリフトを行ったパンターを追ってセンチュリオンの砲塔を回転させてしまった。

 結果としては相討ちだったけれど、あそこでセンチュリオンが撃破判定にならなかったとしても、その瞬間に無防備な側面を曝したセンチュリオンにはティーガーⅠの88mmが突き刺さって撃破していた。

 西住流の戦車道は、常に隙を生じない二段構え……現役の頃、しほちゃんが口癖のように言っていた事だったけど、アレは正に貴女の言う通りだったわ。」

 

 

 

私が言った事を覚えていたの?

 

 

 

「あ、其れは俺も覚えてんぞしほ!」

 

「好子?と言うか、言葉遣いが昔に戻ったままよ!?」

 

「良いじゃねぇか、余りの熱い試合展開に気持ちが現役時代に戻っちまったんだよ!つーか、久々に戦車に乗りたくなったぜ。

 其れよりも千代、お前みほちゃんが気に入ったからって何をする気だ?」

 

 

 

あぁ、そうね。私も其れが聞きたかったの。私が言った事を覚えていたとかは如何でも良いのよこの際。

 

 

 

「実はね、島田流が大洗女子学園のスポンサーになろうかなぁって 」

 

 

 

……はい?ちょっと千代、貴女『島田流が大洗女子学園のスポンサーになる』って言った?

御免なさい、ちょっと早めの加齢性の難聴が出て来たみたいだわ……耳鼻科に相談して補聴器を考えた方が良いかしら?

 

 

 

「安心しろしほ、俺にも同じように聞こえたから聞き違いじゃねぇ。」

 

「其処は聞き違いであってほしかったわ!!

 あのねぇ、何考えとんじゃいちよきち!島田流が西住の次女が隊長を務める大洗女子学園のスポンサーになるって、どげんこつか言うとね!」

 

「興奮すると九州弁が出るのは相変わらずなのね?

 まぁ、確かに驚くべき事であるとは理解してるけれど、ちゃんと理由はあるの。

 一番の理由は大洗女子学園の保有戦車よ。性能面もだけれど、パンターとティーガーⅡ以外の戦車は20年間整備されていなかったモノを修理して使っているのでしょう?

 20年間放置されていた戦車を動けるようにしたのは見事だけれど、ハッキリ言ってあの戦車でこの先も戦い続ける事は不可能――必ず近い内に無理が来て修理不能な状態になるのは明白。

 でもそうなったら大洗は戦車道を続ける事が出来なくなって、折角みほちゃんが見つけた道が途絶えてしまうでしょ?そんなの寂しいじゃない。

 だから、島田流が後ろ盾になろうかと思って。島田流がバックに付けば、新たな戦車を用意するのも容易だから。

 其れに、しほちゃんが大洗のバックに付いたら、『西住流の家元は自分の娘を贔屓してる』って思われるでしょ?西住流は黒森峰のスポンサーなのだから。」

 

「う……其れは確かに其の通りだわ。」

 

まほは今年で黒森峰を卒業するとは言え、僅かな期間であっても私が大洗の支援をしたら、娘を依怙贔屓していると思われてしまうでしょうから。

そう思われる位なら、マスコミに話題を提供する事になるとは言え、貴女が大洗女子学園の支援をするのが良いかも知れないわ……良いわ、大洗の事は貴女に任せるわ千代。

島田流がバックに居るとなれば、白神のような奴がまた現れたとしても、大洗女子学園を易々と廃校対象にはしないでしょうからね。

 

 

 

「うふ、ありがとうしほちゃん♪」

 

「……みほと、みほの仲間の為よ。」

 

「ったく、テメェは相変わらず素直じゃねぇなぁしほ?」

 

「煩いわよ好子!」

 

「ハッハッハ、怒るなよ!

 だけど、久々に20年前の戦車道3強の隊長が集まったんだ、今日は飲もうぜ?北海道は良い酒と良い肴があるから楽しもうぜ?」

 

「好子……そうね、今日はそうしましょう。」

 

20年ぶりの戦車の友情に花を咲かせるのも一興だわ。

それにしても、廃校はなしになったけれど、ある意味で此れからが大変かもしれないわよみほ?……ふふ、島田流が大洗のスポンサーになったと知ったらあの子は一体どんな顔をするのか。

其れは其れとして、お疲れ様みほ、まほ……大洗連合の皆さん。

『戦車道にマグレなし、あるのは実力のみ』――その言葉を体現したような見事な戦いでした。本当に、お疲れ様。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

試合が終わったら、アンチョビさんが連れて来てたアンツィオの隊員によって、あっという間に試合会場は宴会会場に早変わり……まぁ、祝勝会って言う事で良いかな此れは。

皆思い思いに楽しんでるみたい。愛里寿ちゃんも楽しんでる?

 

 

 

「うん、とっても楽しい。此れまでは試合が終われば其処までだったから、こんなのは初めて。

 でも、敵味方、勝者敗者関係なく楽しめるのは素晴らしいと思う……其れに料理も美味しい。特にこの鉄板ナポリタンは絶品。

 オリーブオイルは苦手だったんだけど、此のナポリタンはオリーブオイルをふんだんに使ってるのに、オリーブオイル特有の匂いがしなくて、とっても美味しかった。」

 

「其れは、一番搾りのエクストラヴァージンオイルじゃなくて二番絞り以降のピュアオイルだったからじゃないかな?

 ピュアオイルなら主張し過ぎないから、オリーブオイルが苦手な人でも食べる事が出来るから。」

 

「そうだったんだ、知らなかった。」

 

 

 

ふふ、アンツィオのイタリアンは美味しいから堪能すると良いよ。

其れで、楽しんでるお姉ちゃん?

 

 

 

「みほか……あぁ、楽しんでいるよ。安斎の料理は美味しくてつい食べ過ぎてしまうな……彼女と一緒に暮らしたら間違いなく太るだろうね。」

 

「そうかなぁ?普段のトレーニングがあるから案外変わらないかもよ?」

 

「かもな……みほ、今日の試合は楽しかったな……」

 

「お姉ちゃん……」

 

そうだね、とても楽しかった。

大洗の廃校撤回って言う条件が無かったらもっと楽しかったかもだけど、其れでもとても楽しかったよ。

 

 

 

「あぁ、本当に楽しかった。

 お前と久しぶりに一緒のチームで戦ったと言うもあるかも知れないし、お前が上官で私が部下と言うのもあったかもな……だからこそ、言いたい事があるんだ。

 みほ、エリカと小梅と一緒に黒森峰に戻ってこないか?」

 

「……え?」

 

「元々お前とエリカと小梅が破門になったのはお祖母様の独断であり、そのお祖母様も毒が抜け、お前達の破門は撤回されているし、黒森峰にはお前達を悪く言う奴は居ない。

 だから、戻ってこないか?」

 

「お姉ちゃん……」

 

ありがとう……だけど、其れは出来ないよ。

黒森峰の皆が私とエリカさんと小梅さんを悪く言ってないのは分かるけど、『今』の私達が居るべきは大洗なんだよお姉ちゃん――大洗女子学園が、今の私達の居場所なの。

だから、黒森峰には戻れない。

 

 

 

「そうか……予想していた答えではあるが、ハッキリ言われるとはな。

 だが、それで良い……お前は大洗と言う新たな地で見つけた自分だけの戦車道に邁進しろ――何時の日か、またこうして一緒に戦いたいな。」

 

「うん、何時の日か絶対に!約束だよ!!」

 

「あぁ、約束だ。」

 

 

 

――ギュ!

 

 

 

あわわ……まさか、ハグされるとは思ってなかったから驚いたけど、私も右腕だけだけどお姉ちゃんを思い切りハグした――アハハ、こんな事だけでも気持ちって伝わるんだね。

 

 

 

「お疲れ様みほ……お前は私の自慢の妹だ。」

 

「お姉ちゃんも、私の自慢のお姉ちゃんだよ。」

 

ありがとうお姉ちゃん、そして助っ人に駆けつけて来てくれた皆……皆のおかげで勝つ事が出来た――重ね重ね、本当にありがとう。

今は、それ以外は言えないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer165『2学期開幕!されど予想外です!』

短期転校の呪いかな?Byみほ        そんな呪いがある訳ないでしょ!Byエリカ      何だか都市伝説みたいですね……By小梅


Side:みほ

 

 

大学選抜チームとの試合に勝って、無事に取り戻せた大洗の学園艦……そして、取り戻した学園艦の寮で朝を迎える事が出来るって言うのは凄く良い事だよね♪

ヤッパリ廃校になった小学校で寝泊まりするよりも、こっちの方が落ち着けるからね。

 

 

 

「其れに関しては諸手を上げて賛成するけれど……退寮前よりも、ボコの数が増えてない?……って言うか、確実に増えてるわよね絶対に!!

 この『プラチナ天使ボコ』は前は無かったわよね!?何処から持って来たのよ!!」

 

「其れは、愛里寿ちゃんに貰ったんだよエリカさん。

 其れはユーフォ―キャッチャー限定のボコで、私も狙ってたんだけど中々取れなくてね……でも、愛里寿ちゃんが2つ持ってるって事だったからお願いして1つ譲って貰ったんだよ。」

 

「島田流の跡取りからの貰い物かい!!」

 

 

 

うん、その通り。

愛里寿ちゃんは、私に負けず劣らずのボコマニアだから、確実にボコメイトになれるって自負してるよ……ボコマニアは、同じボコマニアを感覚的に知る事が出来るからね。

うふふ、ボコメイト楽しみだなぁ♪やっぱり同じ趣味の人が居るって言うのは嬉しい事だし、LINEとかで夜通しボコについて語っちゃうかもだし♪

あ、そう言えばボコミュージアムにスポンサーがついて、改装工事に着手したって聞いたなぁ?……新装オープンしたら、愛里寿ちゃんを誘って心行くまでボコミュージアムを堪能しよう、そうしよう!!

 

 

 

「これは何を言っても聞きそうにないわね……小梅、馬耳東風って、こう言う時に使うんだったけか?」

 

「多分そうだと思いますよエリカさん。」

 

 

 

何にしても今日から2学期だから、気持ちを新たに学校生活を送ろうよ?……何よりも、取り戻した学園艦なんだから、私達が全力で過ごさないと学園艦に申し訳ないからね。

 

 

 

『ガウ。』

 

『キュ♪』

 

 

 

勿論、アンドリューとロンメルも一緒にね!

其れじゃあ行くよ?2学期に向かって、ぱんつぁ~・ふぉ~~!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer165

『2学期開幕!されど予想外です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてと、2学期が始まった訳なんだけど、実は何時もとは違う所があったりするんだよね?其れは何かって言うと……

 

 

 

「よっす!おはよーさん、みほ!エリカ!小梅!!」

 

「3人ともオハヨ。」

 

「おはようごぜーますわ!御三方!!」

 

「おはよう、ペパロニさん、ナオミさん、ローズヒップさん!」

 

「おはようございます、皆さん。」

 

「おはよう。まさか、こんな事になるとは予想外だったわ。」

 

 

 

あの大学選抜との試合の時に助っ人として来てくれた人達の内、3年生以外は2カ月間だけ大洗女子学園の生徒になってるって言う事。

何でこんな事になってるのかって言うと、大洗に加勢する為に『短期転校』って言う裏技を使ったのが原因であり、文科省特別顧問の最後の悪足掻きみたいなものなんだよね……聞いた話だと、nOsの皆さんに派手にシバかれた後で更に追撃として自分の汚職を暴かれた挙げ句にその情報を方々のメディアにリークされて『人生オワタ\(^o^)/』状態になったとか。

で、しょっ引かれる際に『大洗女子学園は短期転校手続きをした生徒に、ちゃんと短期転校の責務を果たさせろよ~~!』とか言ってたらしいね?

……無視してもよかったのかもしれないけど、一応法律で『短期転校手続きをした生徒は、やむを得ない事情がない場合を除き、転校先に2ヶ月以上半年未満在籍せねばならない』って規定されてるから無視は出来なかったんだよね。

一応3年生は進路の事があるから、『やむを得ない事情』に該当するって事で特例措置が取られたんだけど、2年生以下の生徒に関しては特に理由も無いから2カ月間は大洗の生徒として過ごす事になった訳。

ちょっと驚いたけど、中学校の時の仲間や、黒森峰時代の仲間と一緒に過ごせるのは嬉しいかな?何よりも、滞在期間が2ヶ月なら、2学期の2大イベントである体育祭と文化祭も一緒に楽しめるからね♪

 

 

 

「にしても、大学選抜戦の時も思ったけど、見慣れてないせいもあるでしょうけど、大洗女子学園の制服の貴女達には違和感を感じるわね?

 コスプレなら未だしも、下手するとそっち系の怪しい店の店員じゃない此れ?」

 

「其れはビッミョ~に否定できねーですわエリカさん。

 でも、私達はコスプレで済むかも知れねーですけれど、ダージリン様とアッサム様の大洗女子学園の制服姿は『アイコラ』とまで言われちまってんでございますわよ?」

 

「マジかよローズヒップ?てか、アイコラはヒデェだろ流石に……本人聞いたらブチ切れんだろ絶対。」

 

「ダージリン辺りは、蟀谷がピクつきそうだけど、一番ヤバいのはプラウダの隊長じゃない?

 戦車道の話題が集まる掲示板を見たんだけど、『ダボダボ袖のカチューシャ隊長萌~~!!』『セーラー服を着た合法ロリは最高だぜ』『セーラーカチューシャタンはぁはぁ……』ってコメントが大量に見受けられたわよ?」

 

「ナオミさん、取り敢えず通報しておきましょう。」

 

「あはは……通報以前に、カチューシャさんが其れを見たら、プラウダの諜報機関である『KBG』にID特定させた上で、KV-2で撃滅しちゃうんじゃないかなぁ?

 あ、ノンナさんもIS-2で出ちゃうかもね?」

 

「カチューシャは兎も角ノンナは如何かしら?

 寧ろ、そのスレッドに更にヤバい書き込みしそうじゃない?あの人のカチューシャ愛は、時々恐怖を感じる事があるし。」

 

「……かっな~り否定出来ねーですわ其れ。」

 

 

 

で、他愛もない馬鹿話をしながら登校するって言うのも良いよね――でも、こんな事が出来るのも大学選抜チームを破って、大洗女子学園の学園艦を取り戻す事が出来たからなんだよね。

本当に、あの時助っ人に駆けつけてくれた皆には感謝しかないよ。

 

 

 

「あ、西住隊長!先輩方!おはようございます!!」

 

「おはよう梓ちゃん♪」

 

そして、新学期初日も登校時に梓ちゃんとエンカウント――此れももう、毎日にお決まりになってたりするんだよね実は。

何時の頃からは覚えてないけど、梓ちゃんは私の登校ルートの1つであるパン屋さんの前で私を待ってるようになったんだよね……なんでも、私と一緒に登校したいからだとか……理由がストレートだけど、可愛かったからOKだよ。

 

「それと、おはよう。オレンジぺコちゃん♪」

 

「おはようございます、みほ様!!」

 

 

 

で、今日は短期転校で大洗の生徒になったオレンジペコちゃんも一緒なんだね。

こんな事を聞くのは如何かと思うけど、梓ちゃんツェスカちゃんが助っ人に来なかった事を残念に思ってたりする?

 

 

 

「其れは残念には思ってますけど、ツェスカは裏方に回ったらしいので、其処は理解して割り切ってますよ。

 寧ろ残念がってたのはツェスカの方ですよ?短期転校の彼是を知ったら『先輩を差し置いてでも援軍に名乗りを上げればよかった!』って昨日LINEで言ってましたから。」

 

「あはは……ツェスカちゃんは、すっかり梓ちゃんのライバル兼親友だね?」

 

「はい、ツェスカは私の一番の好敵手です!……ペコも、同じ位だけどね。」

 

「澤さん……光栄です。」

 

 

 

ふふ、梓ちゃんは梓ちゃんで『戦車の絆』を紡いでるみたいだね?感心、感心♪――って言うか、戦車の絆を紡げないようじゃ、戦車道の戦車乗りとしては二流三流だからね。

そんなこんなで学校に到着したんだけど……

 

 

 

「ちょっとクラーラさん!冷泉さんを甘やかさないで!!」

 

「Я не мог не заметить опоздание、поэтому я смог нести его?

 (遅刻は見過ごせないので担いできたのですが、駄目ですか?)」

 

「貴女日本語話せるんでしょう!だったら日本語で言ってくれない!?」

 

「遅刻は見過ごせないので担いできたのですが、駄目ですか?」

 

「最初っからそう言いなさいよ!!」

 

「煩いぞそど子……ふぁぁ~~……眠い……」

 

 

 

校門前ではお約束の一幕が……って言うか、クラーラさんの大洗での下宿先って麻子さんの所だったんだ――此れなら、少なくともクラーラさんが滞在してる2カ月間は麻子さんが遅刻する事は無さそうだね。

少しは沙織さんの苦労が……減らないか。結局朝ごはんは作りに行ってる訳だし、今はクラーラさんの分まで作ってるだろうから、寧ろ負担は増えちゃったかもね?

沙織さん、ファイトだよ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

そして無事に登校して始業式を終えた訳なんだけど、一度廃校になってたせいで、2学期の行事の準備が全く持って出来てないから、2学期初日は始業式の後にLHRを行って、体育祭の出場種目を決めなきゃならなくなってた。

もう一つ言っておくと、廃校だった間は戦車道の訓練が一切出来てなかったから、こっちも初日からいきなり練習開始。戦車道には秋の新人戦はないけど、高校戦車道には毎年全国大会優勝校がホストになっての冬季大会があるから、キッチリ訓練しないとね。

 

因みに、短期転校組のクラス割りは、ナオミさんとペパロニさんとローズヒップさん、理子さんとサトルさんが私と同じA組で、西さんとアリサさんは優花里さんと小梅さんと同じC組。

カルパッチョさんとエクレールさんはカバチームの皆と同じクラスでクラーラさんと玉田さんは麻子さんと同じクラスだね。

1年生の方は誰が誰と同じだったかは知らないけど、まぁ、良い感じにばらけてると思うようん。

 

それで、体育祭の出場種目なんだけど、2年生に割り当てられた種目は……

 

 

・200m走

・二人三脚

・借り物競争

・騎馬戦

・200mハードル走

・クラス対抗リレー

 

 

此の6つと、得点に関係ないエンターテイメント競技として、2年生には『シンクロダンス』が用意されてる……ポカリのCMとかで使用されてる、大人数が一糸乱れぬ動きでダンスを行うアレをやれとか、結構無茶振りだよね。

尚、1年生のエンタメ競技は『マーチングバンド』、3年生は『あんこう踊り』……会長さん、3年生全員に消せない黒歴史刻む心算ですか。

其れは兎も角、誰がどの競技に出るかだね?

特にクラス対抗リレーは最終種目で、1位には通常の倍の得点が入る花形種目だから、誰が出るのかは慎重に選ばないとだよ。

まぁ、リレー以外の出場種目は割とあっさり決まったかな?

まず私が出場するのは二人三脚、借り物競争、騎馬戦の3つ。騎馬戦にはナオミさんとペパロニさんとローズヒップさんも参加だから、蒼パンターチームが結成出来るね♪

エリカさんと小梅さんは、夫々200m走と200mハードルと騎馬戦にエントリー……此れでこのクラスの戦車道履修者戦車長は全員が騎馬戦に参戦だね?――やっぱり戦車乗りは血の気が多いから、騎馬戦みたいな戦闘色の強い競技には心が躍るんだろうね。

因みに華さんは沙織さんと一緒に二人三脚にエントリーして、他は200m走と借り物競争、沙織さんは二人三脚以外は200m走とハードルにエントリーだね。

 

で、決めるべきはクラス対抗リレーのメンバーだね。参加できるメンバーは8人……慎重に選ばないとだけど――

 

 

 

「私は出るわよ、クラス対抗リレー。」

 

「あ、僕も出るのにゃ。」

 

「クラス対抗リレーと聞いては、聖グロ一の俊足が黙ってはいられませんわ!出させて頂きますことよ~~~!!!」

 

「へっ、此れは出るしかねぇだろ!」

 

「そうね、出ない選択肢はないわ。」

 

「花形の競技、私も参加させて頂いても宜しいでしょうか?」

 

「あ、アタシも出るわ。他校の体育祭に参加するなんて事、滅多に経験できないだろうしさ。」

 

 

 

エリカさん、猫田さん、ローズヒップさん、ペパロニさん、ナオミさん、華さん、理子さんが次々とエントリーして、残るは枠は1名……となれば、やるしかないよね?

 

「私もクラス別対抗リレーに立候補します!」

 

『龍拳爆発!みほがやらねば誰がやる!』と言わんばかりの勢いで立候補したら、クラスから拍手喝采を浴びちゃったんだけど、其れだけじゃなく『待ってました西住隊長!』、『立候補しないなら推薦してたよ!』、『期待してるよ、隻腕の軍神殿!』との歓声まで上がるとはね……でも、こう言われるのは嫌な気分じゃないから、期待に応えられるように頑張らないとだね。

 

 

 

余談だけど、2年生のエンタメ競技であるシンクロダンスは、グラウンドの中央に小型のステージが設置されて、其処で踊る『センター』が3人存在するんだけど、そのセンターには2年生全員の満場一致をもって私とエリカさんと小梅さんが選ばれた……何でやねん。

だけど、選ばれた以上は全力でやらないとだから、ダンスの練習もバッチリしないとね――特に私の場合は左腕がない事で表現力が半減しちゃうから、余計に頑張らないとだからね。

でもだからこそ燃えてくるよ……片腕の私がセンターを務めるシンクロダンスで最高のパフォーマスを修める事が出来れば、其れは世の中の身体障碍者に勇気を与える事が出来ると思うからね!!

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

そして放課後は戦車道の訓練。

短期転校組は戦車が無いから見学――とはならないんだよね此れが。

3年生が乗っていた戦車は搭乗者と共に元の学校に戻ったけど、2年生以下が乗っていた戦車は、短期転校期間中は大洗にあるんだよね……これは戦車を『私物』として持ち込んだ事が大きいかな?

転校生の『私物』なら、短期転校期間が終わるまでは大洗で使えって事なんだろうね……少々無茶苦茶な気がしなくもないけど、お陰で普段とは違う訓練が出来て良かったよ。

何よりも、整備できる戦車の種類が増えた事に辟易するどころか、レオポンチームの皆は喜んでたからね……普通は、多国籍な戦車は整備の仕方が全部違うから敬遠されるんだけど、レオポンチームの皆には、そんな物は些細な事であって、単純に色んな戦車の整備を出来るって言うのが楽しくて仕方ないみたいだね。

 

因みに今日の訓練は実戦形式の模擬戦で、私率いる紅組と、会長さん率いる白組の戦い――チーム構成はくじ引きで決まったんだけど、私が梓ちゃんを引き当てた時点で勝負は決まってた……其れだけじゃなくて、エリカさんと小梅さんとナオミさんを同じチームに引き込んだからね。

ローズヒップさんとペパロニさんの陽動には多少戸惑ったけど、其処は西住流お得意の力押しで真正面から叩き伏せた所で、紅組が誇る超火力を叩き込んでターンエンド。

後は会長さんを包囲して、容赦ない砲撃を浴びせれば其れでゲームエンドだったからね……悪くない戦いでしたが、此の程度では私を倒す事なんて出来ませんよ会長さん?

 

 

 

「いやはや、マッタクだね~~~……うん、私の完敗だよ西住ちゃん!!――手も足も出なかったとはこの事だね?

 此処まで完璧に負けると、笑いしか出て来ねーわ此れ♪」

 

「だからって、豪快に笑わないで下さいよ……」

 

相変わらず、腹の底で何を考えてるのか分からない人だね……兎も角、今日の訓練は此れまでなんだけど、だからと言って終わりじゃないんだよね此れが……体育祭のある意味での目玉種目である『必修選択教科別リレー』が有るから、そのメンバーも決めないと。

これは得点に一切関係しない競技ではあるけれど、走者のインパクトが求められる競技だから、クラス対抗リレー以外にメンバーは慎重に選ばないとなんだけど……

 

 

 

「参加するのは西住ちゃんと逸見ちゃんとナオミちゃんとペパロニちゃんとローズヒップちゃん、其れから澤ちゃんとクロエちゃんとペコちゃんで参加して貰うから。因みにこれは決定事項だから覆らないので、その心算で宜しく~~!

 得点にはならないとは言っても、どうせなら1位になりたいじゃん?……だから、頼んだよ?」

 

「そう言われたら断る事は出来ませんね……任せて下さい会長さん!」

 

既に会長さんがオーダーを決めてたみたい――勝手に決めちゃって、ブーイングが出るかと思ったんだけど、意外にそんな事にはならずに満場一致で決まっちゃった。

何でも『此のメンバー以外には考えられない。』『身体能力もだけど、見た目も考えればこの選出には納得』だとか……其れで良いのかな?

だけど、選ばれた以上は本気で勝ちに行かないとだよ!得点に直結しないモノであってもやるからには全力全壊で挑むのが礼儀だからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

そう言えば、私の記憶が正しければ大洗女子学園は、体育祭の季節よね?……つまりは、みほの勇姿を拝める機会が近づいてるって言う事なのよね――直々に出向いて応援したい所だけど、さて如何した物かしら?

 

 

 

「奥様……大洗行きのヘリ、手配しました。」

 

「菊代……貴女は本当に素晴らしき副官だわ――こうも私の望んでいるモノを揃えてしまうのだからね……本当に、私が現役時代に最強を維持する事が出来たのは貴方のおかげよ菊代。」

 

「其れは、身に余る光栄です奥様。」

 

 

 

堅いわね……だけど、貴女への感謝の気持ちは本物よ菊代――貴女が居なかったら、私はきっとどこかで西住流の重圧に潰されていたかもしれないのだからね。

そして其れだけじゃなくて、貴女は障害者となってしまったみほに、私以上に親身に接してくれた……そのお陰で、みほは障害なんて物は大宇宙のブラックホールに蹴り飛ばす位の強い子に育ってくれた。……貴女には礼を言っても言いきれないわ菊代。

 

 

 

「私は、私に出来るアドバイスをしただけであって、みほお嬢様の成長は、みほお嬢様が努力した結果に過ぎません……私は、只の切っ掛けに過ぎません。」

 

「それでも、その切っ掛けを与えてくれたのは大きいわ。」

 

其れに、今回の大洗の事に関しても、私とは別に貴女も個人的に色々と動いて、大荒の廃校を撤回しようとしてくれてたのでしょう菊代?

……本当にありがとう――みほの母親として、礼を言わせて貰うわ。

 

 

 

「そんな大げさな……顔をあげてください奥様。

 此れは私がやりたいようにやった結果なのです……みほお嬢様がやっと見つけた自分だけの戦車道が、下らない理由で閉ざされてしまうのは戦車道の道に反しますし、私も見過ごす事が出来なかっただけですから。

 何よりも、みほお嬢様の戦車道が見れなくなってしまうのは、私としても残念でなりませんので……使用人の、ちょっとした御節介です。」

 

「菊代……貴女の『ちょっとした御節介』には、昔から助けられてばかりね。」

 

本当に、貴女のような人が現役時代から今まで一緒に居てくれた事には感謝しかないわ……使用人として仕えてくれている貴女が恥ずかしくない様な人間でいなくてはならないわね、私も。

取り敢えず、堅い話はここまでにして、大洗女子学園の体育祭を堪能させて貰うとしましょうか?ふふ、どんなサプライズが待っているのか楽しみにしているわよ、我が愛しき娘よ。

貴女が戦車道以外で、どんな活躍を見せてくれるのか、期待するなと言うのが無理な話ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer166『爆裂!爆熱!体育祭です!!』

推奨BGMは『爆勝宣言』かな?Byみほ        時は来た、それだけだ!Byエリカ      ぶぅ!?……此れは、黒のカリスマも噴き出しますよねぇ……By小梅


Side:みほ

 

 

2学期が始まって2回目の日曜日、今日は待ちに待った体育祭当日!――高々学校行事だろうって言う人も居るけど、体育祭って言うのは学校行事の中でも白熱するモノだから、盛り上がること間違いない!

特に今年の大洗は短期転校で在席してる人が居るから、その分だけ盛り上がるのは間違いなからね!!

 

 

 

「ま、確実に盛り上がるのは間違いないわね……白熱した体育祭になるのは間違い無いんじゃないかと思うわ――まぁ、貴女が参加する以上、只では終わらないでしょうみほ?」

 

「まぁ、只では終わらないかな……エリカさん、私は此の体育祭で新たな伝説を打ち立てる!!」

 

「して、その伝説とは?」

 

「騎馬戦で、単騎で相手チームの8割を撃滅する。」

 

「……何を馬鹿なって言う所だけど、貴女なら其れ位は出来ると思ってしまうから、アタシも可成り毒されてるみたいだわ……悪い意味じゃなくて良い方向にね。

 だけどみほ、貴女に敗北は似合わないわ……やるからには全力でやって優勝しましょう?優勝すれば、打ち上げ会も出来るからね。」

 

「因みに打ち上げの会場は?」

 

「県庁の近くに有る焼き肉屋のマルト。其処に団体で『国産和牛食べ放題コース』の予定ですって――太っ腹よね。」

 

「だね。」

 

少しばかり打ち上げの内容にグラっと来たけれど、確かにこんなご褒美があると知れば、全力を出すかもだからある意味で効果は抜群だったと言えるかもね。

ともあれ、何にしても体育祭で勝たない限りは、其れも無しになっちゃうから、此処はキッチリ勝たないとだね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer166

『爆裂!爆熱!体育祭です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそろそろ体育祭が始まる頃なんだけど、大洗の学園艦の上空には輸送用の大型ヘリが……此れは確実にお母さんが来たね。一般家庭であんなモノ持ってるなんて有り得ないから。

まず個人で所有出来るモノじゃないし、仮に出来たとしても維持管理がスッゴク大変だから……ってか、此れはお母さんだけじゃなくて菊代さんも一緒かな?お父さんは……黒森峰の『学期初めの戦車整備』に駆り出されてるから来てないだろうなぁ。

今年の体育祭は一家全員揃わずかぁ……ちょっと残念だけど、体育祭の様子は菊代さんがビデオに収めてくれるだろうから、お父さんとお姉ちゃんは其れを見れば良いよね。

 

で、西住家の輸送ヘリは、学園艦のヘリポートには移動せずに、校庭の遥か上空でホバリングすると……

 

 

 

「「ハッ!!!」」

 

 

 

其処からパラシュートが2つ降下!!間違いなくお母さんと菊代さんだ!!

インパクト充分な登場だとは思うんだけど、ヘリで学園艦まで飛んでくるのは兎も角、ちゃんとヘリポートに着陸してから歩くなりバスを使うなりして来てほしかったなぁ……蝶野教官にしろお母さんにしろ、戦車道に係わる大人の人って、普通に登場する事が出来ないのかなぁ?

 

 

 

「いやははは、西住ちゃんのお母さんは随分ぶっ飛んだ登場すんだね~~?……流石のアタシも驚いたさ。」

 

「会長さんを驚かせるとは、流石は西住流の家元ってところなんでしょうか……私としてはもっと普通に来てほしかったんですけどねぇ――如何にも戦車道に携わる大人は普通じゃないみたいです。」

 

まぁ、其れは良いとして会長さん……

 

 

 

「ガッデム。」

 

 

 

何で居るんですか黒のカリスマが!戦車道の試合ならいざ知らず、只の体育祭ですよ!なんで出張ってるんですか黒のカリスマが!しかも何故か茨城のご当地ヒーローの1人であるイバライガーブラックを連れて来てますし!!

 

 

 

「黒繋がりで連れて来たんじゃないかなぁ~~?……いやぁ、まさか来るとは思わないから、体育祭の日時を教えといたんだけど、本当に来ちゃうとは予想外だったって言うかね?

 取り敢えず、盛り上がるから良くね?」

 

「其れを言われたら何も言えませんって。」

 

 

 

兎も角黒のカリスマが見に来てた事と、お母さんと菊代さんがパラシュートで降下して来た事に依るちょっとした騒ぎは有ったけど、其れも無事に収める事が出来て良かったよ。(お母さんには『今度同じ事したら嫌いになっちゃうよ?』って言ったら効果抜群だった。)

 

さて、いよいよ体育祭が始まって先ずは入場行進なんだけど、其処から先ずはざわめきが起きてた……まぁ、当然だよね。

私達2‐Aが所属してる緑組の旗手は私が勤めてるんだけど、その私はアンドリューに跨って緑組の応援旗を左手一本で掲げてるんだから、見てる人に与えたインパクトは相当だろうね。

 

多大なインパクトを与えた入場行進が終わった後は開会式。

お決まりの国歌斉唱と国旗掲揚に続いて、校長先生の挨拶……長くならないと良いなぁ。

 

 

 

「本日はお日柄も良く、絶好の体育祭日和です。

 本来ならば、もっといろいろと言うべき事は有るのでしょうが、生徒諸君は其れを望んで居ないでしょうからそれらは全て割愛するとしましょう。

 私が言うべき事は只一つ、生徒諸君、体育祭を思い切り楽しんでください!以上を持ちまして、校長の挨拶と変えさせていただきます。」

 

 

 

と思ったら凄く短く終わっちゃった……校長先生GJです!

 

 

 

「良いぞ校長~~!!」

 

「よくやった~~!長話なしとか最高~~~!!」

 

 

 

他の生徒からも絶賛の声が上がってるからね……他校の校長先生も見習って欲しいモノだね――生徒は誰一人として校長先生の長話なんてモノを望んではいないんだから。

さてと、校長先生の挨拶が終わったら……

 

 

 

『選手宣誓!選手代表、西住みほ!澤梓!!』

 

「「はい!!」」

 

 

 

開会式の花形とも言える選手宣誓!

本来なら最高学年の生徒が行う所なんだけど、会長さんが『大洗を救った英雄と、その英雄の一番弟子がやった方が盛り上がるっしょ?』って言う理由で私と梓ちゃんが選手宣誓を行う事に。

因みに私と梓ちゃんは同じ緑組だったりするんだよね。

 

 

「「宣誓!!」」

 

「我々選手一同は、スポーツマンシップに則り!」

 

「そして戦車道履修者は、戦車道精神にも則り!」

 

「「正々堂々、全力で戦う事を誓います!!」」

 

「選手代表、西住みほ!」

 

「選手代表、澤梓!!」

 

 

 

そして、選手宣誓は大成功の大喝采!!――本来の選手宣誓にはない戦車道云々を加えたのが、結構よかったみたいだね?……客席で、お母さんも、『戦車道の精神は大事ね』と言わんばかりに頷いてたからね。

ともあれ、此れで体育祭は開催された……全力で楽しんだ上で、勝ちに行かないとだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

こうして始まった体育祭は、初っ端から盛り上がりを見せていた。

最初の競技は1年生の3人4脚だったのだが、この競技は梓、あゆみ、クロエのチームが他のチームを圧倒して1位を獲得したのだが、その走法が凄まじかったのだ、真ん中のクロエはあゆみと繋がれた足は常に上げ、梓と繋がれた足は動かす、そして梓はクロエと繋がれてない足を常に上げ、逆にあゆみはクロエと繋がれた足を上げっぱなしにし、地に付いた足だけで地面を蹴る『ぴょんぴょん走法』とも言うべき走法で爆走し、2位以下に圧倒的な大差を付けて1位を捥ぎ取ったのだから盛り上がるのも然りだろう。若干反則だとか言うのは無粋である。

尚、盛り上がったのは矢張りチームに梓が居たと言うのも大きいだろう――軍神を継ぐ者の名は、隻腕の軍神に次いで大洗では有名であり、その有名人がぶっちぎりで1位になったのだから。

 

とは言え、梓、あゆみ、クロエのチームが1位を捥ぎ取ったからと言って、緑組がいきなりトップに躍り出る訳では無い……後続の走者の結果によって得点は変わって来るのだから。

結果、全5チームが走り終わった時点での順位は、上から青、緑、赤、白、紫となったのだが、大きな点差にはならず、次以降の競技の結果次第では、順位が大きく入れ替わる事も有りうる状況だった。

 

さて、ここからは注目の競技をピックアップして見て行く事にしよう。

 

 

 

・2年生『二人三脚』

 

 

この競技もまた、3レースが終わった時点では甲乙付け難い得点差となっていたのだが、緑組は4レース目に強力なチームを投入していた。

そう、華と沙織の『親友コンビ』である。

一見すると身長差もある凸凹コンビに感じる2人だが、普段の会話のやり取りに於けるテンポの良さは沙織と麻子の『幼馴染コンビ』以上である為に、二人三脚で歩調を合わせるのは大して難しくなかったのだ。

 

 

「行くよ、華!」

 

「はい、参りましょう沙織さん。」

 

 

更に忘れてはいけないのが、此の2人は共に戦車道履修者であると言う事――もっと正確に言うのならば『西住流フィジカルトレーニング』を行ったスーパーJKの一員だと言う事だ。

その2人が手を組んだら……先ず一般生徒は勝てないだろう。

スタート直後から『スバァン』って効果音が聞こえそうな勢いで飛び出すと、そのまま2位以下を突き放してゴールイン!!これにより緑組が他の組を抜いて総合成績でも1位に。

だが、最終走者には最強すぎる3チームが揃っていた――緑組のみほ&ペパロニペア、青組の小梅&優花里ペア、赤組のカエサル&カルパッチョペアの3チームである。

全員が全員戦車道履修者である上に、みほとペパロニは中学時代からの親友だから息は合っているし、小梅と優花里は実は似たような髪型である事から親近感を覚えてとても仲が良いし、カエサルとカルパッチョは幼馴染な上、カルパッチョがたかちゃん(カエサル)が関係すると何かが色々と吹っ飛んでリミッター解除しちゃうので、此の3チームによるデッドヒートは避けられないのだ。

一応戦車道の人間として白組から玉田とクラーラのペアも参加しているのだが……

 

 

「Это будет великая битва.(此れは、凄い戦いになりそうです。)」

 

「何を言ってるのかさっぱり分からんであります!!」

 

 

意思疎通が真面に出来てない時点で、期待は出来ないだろう……と言うか、なんでこの2人を組ませてしまったのか些か謎である。……そして、まったくもって関係ないが、クラーラの中の人にガチのロシア人を採用したガルパンスタッフは矢張り頭おかしい(褒め言葉)のだろう。

 

其れは兎も角、二人三脚の最終レースは、スタート直後から緑、青、赤のデッドヒートが展開された!どのチームも滅茶苦茶速い!

其れこそ、二人三脚の競技記録なんて物が存在したのならば、最新記録が出るんじゃないかと言う位に速い!其れこそ此の3チームが横一線でゴールしてもおかしくない位のデッドヒート!!

だが隻腕の軍神にして、知将であるみほが参加している事を忘れるなかれ!!

 

 

「ペパロニさん、クリスマスに食べるターキーって何の肉?」

 

「え?アレって異常に成長しちまった鶏じゃねぇの?あぁ、鶏じゃなくてダチョウか!!」

 

「「「「「「「「なんですとーーーー!?」」」」」」」」

 

 

――ドンガラガッシャーン!!

 

 

みほの質問に対するペパロニの打っ飛んだ答えに、他の走者は揃ってずっこけた。それこそ見事なまでにずっこけた。ドリフのコントも顔負けな位に教科書に載せられるくらいに見事にずっこけた。クラーラが思わず日本語が出ちゃうくらいにずっこけた。

尚、ペパロニの答えは『ガチョウ』を『ダチョウ』と言い間違えただけである……其れでも不正解であるのには変わらないが。尚正答は七面鳥です。

で、他チームが全員ずっこけている間に、みほ&ペパロニペアは悠々とゴールイン!みほの頭脳プレーにより、緑組は連続1位を獲得して2位以下に少しだけ差を付ける事に成功していた。

 

その後も競技は続き、200m走ではエリカと華と沙織とローズヒップが、200mハードルでは矢張りエリカと沙織、そしてナオミとペパロニが良い結果を出して緑組は首位をキープしていた。

尤も他の競技では無双できないモノもあり、差は大きくはない……と言うか、緑組は3年生が完全に足を引っ張っている状況であると言える。

原因は言わずもがな、桃ちゃんである。

いや、彼女にやる気がない訳では無い……寧ろやる気だけを見るのならば誰よりもあるのだが、そのやる気が空回りしてしまい、大事な所でミスをしてしまい、最下位なのだ――此れも彼女の愛すべき魅力であると言われればそれまでであるのかもしれないが、其れで足を引っ張って居るのでは笑えないだろう。

 

 

 

・2年生『騎馬戦』

 

 

最早何も言うまい。

この競技に限っては緑組無双であったとしか言えないのだから……

 

 

「さぁ、次の相手は誰かな?隻腕の軍神を討ち取って名を挙げる人は誰?」

 

「狂犬に喰い殺されたい奴はかかって来なさい……狂犬の牙は、未だ血を吸い足りないわ!!」

 

 

みほとエリカ、此の2人は戦車道でなくとも軍神であり狂犬であったらしく、次から次へと相手の騎馬武者の鉢巻を奪い、時には騎馬ごと押し潰して撃破すると言う凄まじいまでの蹂躙劇を展開!

其れこそ、此の一面を切り取っただけで映画のアクションシーンとして使えそうなくらいの無双っぷりを披露してくれているのだから――みほに至っては、すれ違った瞬間に鉢巻を奪うと言う神技まで披露しているのだから驚きだ。……此の子本当に隻腕なのだろうか?

ともあれ、此の2チームの活躍により、騎馬戦は全試合緑組が圧勝!!これにより、緑組は更に得点を重ねる事になったのだった。

 

 

 

・2年生『借り物競争』

 

 

午前中最後の競技が此れだった。――正確に言うのならば、この後で学年別のエンタメ競技がある為最後ではないのだが、得点に直結する競技は此れが最後だと言えるだろう。

これにも各チームから戦車道の人間が参加してるのは、最早お約束と言えるだろう。

で、その借り物競争の第3走者は緑から直下、青からアリサ、赤からエクレール、白からクラーラが出場しているのだ。

 

 

――パァン!!

 

 

出発の合図と共に、全員がスタートし、先ずは真っ先にクラーラが借り物の紙をゲット!その借り物は『ドラゴンの○ん毛』……何で?と言うか誰だこんなモンを借り物したのは?

一応メ○カリに8万円で出品されている(マジです)が、簡単に借りられる物ではない……なので――

 

 

――キュキュキュ……さっさっさ

 

 

クラーラは何処からともなくサインペンを取り出すと、こっそりと借り物を改竄した……『西住みほ』に。

 

 

「Михо, пожалуйста, пойдем со мной.(みほさん、一緒に来て下さい。)」

 

「クラーラさん?うん、良いよ。」

 

 

そう言ってみほの手を取ろうとするクラーラだったが……

 

 

「させませんわよクラーラさん、みほさんは私達マジノが頂きますわ!」

 

「何を言ってるの?みほはサンダースが貰うわ……来年はサンダースが天下を取るんだから!!」

 

 

其処にエクレールとアリサも参戦!そしてこの2人の手にも、借り物が『西住みほ』に改竄された紙が……何だかいつかどこかで見た光景ではあるが、クラーラもエクレールもアリサも、みほをこのまま自分の学園艦まで持ち帰る気は満々であった。

まぁ、仕方ないだろう……みほを獲得する事が出来れば、大きく戦力を底上げする事が出来る――みほを引き抜く事が出来れば、エリカと小梅と梓と優花里を引き抜く事も出来るのだから。

だが、そんな悪だくみは成功しないのが世の常である。

 

 

「不正してんじゃねーわよごるあぁ!!」

 

 

みほを奪い合う一団に、直下がパンターで突撃してターンエンド……戦車にフッ飛ばされて無傷であるのは突っ込んではいけない。

 

 

「理子さん、其れ良いの?」

 

「仕方ないでしょ、書いてあったんだから!」

 

 

そう、理子の借り物は『戦車』だったのだ。

なので、格納庫まで行ってパンターを引っ張り出して来たのだ……其れで生身の人間に体当たりをブチかますのは如何かと思うが、戦車乗りは頑丈なので大丈夫だろう。

 

 

「兎に角審判、その3人は失格よ!!」

 

「悪質なので、各チーム所謂一つの減点5。」

 

 

そして不正を行ったチームには痛恨の減点5!

これにより順位は変動し、戦車道関係者が居なかった紫が繰り上がりで2位に浮上した。

 

で、最終走者のみほの番だが……

 

 

「こんなもん、どげんせんというね?」

 

 

借り物を見たみほは、思わず熊本弁が全開になってしまったが、其れもまた仕方ないのかもしれない――だって、みほがドローした紙には『黒(要カリスマ)』と書かれていたのだから。

誰が考えたのかは定かではないが、十中八九干し芋会長がぶっこんだと見て間違いないだろう。

このトンでも借り物にみほは一瞬困ったが、在る事を思い出し客席に!!

 

 

「蝶野さん、一緒に来て下さい!!」

 

「俺を御指名かみぽりん!なら、喜んでやらせて貰うぜ!!

 有象無象蹴散らすぜ!俺とみぽりんだけ見てりゃいいんだオラァ!!ガッデメファッキンガイズ!!!」

 

 

其処で応援してる黒のカリスマに声を掛け、そのまま借り物に……確かに彼以上に借り物の条件を満たせる人はいないだろうから、この選択は当然であったと言えるだろう。

で、黒のカリスマはみほをお姫様抱っこするとそのまま爆走して1位でゴールイン!!JKとプロレスラーの身体能力を考えると、可成りの反則技でしかないのだが、黒のカリスマはヒールだから反則技上等であるし、そもそもにして借り物がメインになってゴールしてはいけないと言う規定はないので、此れは合法であると言えるのだ。

ともあれ、此れで緑組は更に得点を重ねたのだった。

 

 

さて、此処からは得点に関係ないエンタメ競技だ。

その先陣を切ったのは3年生なのだが……100人以上の生徒が、ピンクのあんこうスーツを身に纏って行った『あんこう踊り』は観客の度肝ぶち抜く程のインパクトがあった。

正にゴッドハンドインパクトだった。

 

続く1年生のマーチングバンドは、梓が鼓笛隊長を務め、アニメソングをメインにした楽曲を演奏しながら行進を続ける……『名探偵コナンのメインテーマ』『となりのトトロの主題歌』『ラピュタのメインテーマ』と続き、校庭で部隊を展開すると軽快なトリオのリズムの後に日本では『友達賛歌』で知られるメロディーから『カチューシャ』のメドレーを披露し、繋ぎとしてトリオのリズムを挟んで『フニクリフニクラ』を奏で、再びトリオを挟んで『雪の進軍』を演奏し、最後に軽快な吹奏楽の演奏を行ってターンエンド。(参考BGM『学園十色』)

此れに会場は満場の拍手に包まれたが、エンタメ競技のトリを任された2年生のシンクロダンスは、その上を行っていた。

何故ならば、此のシンクロダンスのBGMに採用されたのは『決着R&D(98アレンジバージョン)』だったからだ!

サイバーでテクノでロックな曲調である上に、中盤から突然まったく曲調が変わる曲で一糸乱れぬシンクロダンスを披露してみせたのだから、拍手は粉砕!玉砕!!大喝采!!

特に、朝礼台で踊るみほとエリカと小梅の乗りはキレッキレで、其れこそ此の3人でダンスユニットっとしてデビューできるレベルだった。

 

 

『YearGoGo YearGoGo Be come Goーーーーー!!』

 

 

――バン!!

 

 

そして、一糸乱れぬ姿でフィニッシュ!

その見事な姿に観客席からは割れんばかりの拍手が沸き起こり、みほ達の演技を称賛する……得点には直結しないが、最高の喝采を貰ったのは2年生のシンクロダンスで間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

午前中の競技を終えて緑組はトップだけど、午後の競技の結果如何ではどうなるか分からないから、マダマダ油断は出来ないね――とは言え、エンタメ競技で会場を盛り上げる事が出来たから、午後の競技もテンションはマックスで行けそうだね。

 

で昼休み。

菊代さん、お弁当の内容は?

 

 

 

「みほお嬢様の為に特製の3段重を用意させて頂きました。

 1段目には、お嬢様の好物である塩こうじと紹興酒で下味をつけた鶏の唐揚げと、これまたお嬢様の大好物である明太ポテトサラダを詰めて、2段目には、菊代特製の『ボコおにぎり』を詰めました。具はサケのハラス焼きと辛子高菜と明太子です。」

 

「うん、其れだけでもGJだよ菊代さん。」

 

「ありがとうございます。

 そして3段目には……奥様の愛情たっぷりのダシ巻き卵焼きを詰めてみました。」

 

「その、菊代の料理と比べたら劣るかも知れないけど、せめて1品くらいは作らないと思っただけよ……見た目が良くないから恥ずかしいのだけれどね――でもやり甲斐は有ったわ。」

 

 

 

此の卵焼きはお母さんのなんだ……ふふ、其れはとっても嬉しいかな?

卵焼きは、お母さんが作れる唯一の料理だけど、だからこそ感慨深い物が有るんだよね……此の卵焼きは、子供の頃からの大好物だったからね。

此の卵焼きを食べれば、午後の種目もぶっちぎれるのは間違いないよ♪

 

 

 

――ズギャァァァァァァン!!

 

 

 

「実の娘である乙女がハートにズギュン……菊代、後は任せたわ……」

 

「奥様、気を確かに!と言うか、実の娘にハートブレイクされないで下さい!!って言うか、それで良いんですか西住流家元!!」

 

「娘の愛を感じる事が出来たから悔いなし……!!」

 

 

 

……何だか大変な事になってるみたいだけど、取り敢えずは午後の競技に集中だね――私の出場する種目は『必修科目対抗リレー』と、最終種目である『クラス対抗リレー』だけど、その何方でも勝ちたいからね。

午後も全力全壊で行くよ――お母さんと菊代さんの特製お弁当を食べた私の戦闘力は53億だから、誰にも止める事は出来ないからね!!

体育祭の優勝旗、ゲットさせて貰うよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer167『体育祭は粉砕!玉砕!大喝采です!』

体育祭でも、勝利は譲らない!Byみほ        違うわよみほ、勝利とは捥ぎ取るものよ!Byエリカ      覚醒!バーニングソウルですねBy小梅


Side:みほ

 

 

体育祭の昼休みはお弁当タイムなんだけど、菊代さんが作ってきてくれたお弁当は凄くレベルが高かったです!!――お母さんが作ってた卵焼きは最高得点だけど、菊代さんの『ボコおにぎり』は凄かったから!

写メ撮って愛里寿ちゃんに送った私は絶対に悪くない。其れ位に凄かったからね菊代さんのボコおにぎりは。

 

 

 

「そう言って貰えるのならば腕によりをかけたかけた甲斐がありました……どうぞ沢山召し上がって下さいませお嬢様。

 沢山用意しておきましたので。」

 

「うん、ありがとう菊代さん♪」

 

菊代さんってば本当に頼りになるって言うか、何があっても任せておけば安心できる所があるんだよね――現役時代はお母さんの副官を務めていただけの事は有るって事だね。

 

 

 

――ピン!

 

 

 

と、メール……愛里寿ちゃんからだ。

 

 

 

『とっても素敵なボコおにぎりだと思う。

 だけど、実は私も今日はボコメニューだったんだ……如何かな?』

 

 

 

愛里寿ちゃんから送られて来たメールに添付されてたのはボコおにぎりを超える最強のボコメニューであるボコバーグが!!

ナスで痣、薄切りのズッキーニで包帯を再現とか、再現率は99%って言う所かな?今度実家に帰った時に菊代さんに作って貰おうそうしよう。

さてと、美味しいお弁当を食べて充電完了!午後の競技も頑張って行こうかな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer167

『体育祭は粉砕!玉砕!大喝采です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

昼休みを挟んで始まった午後の部。

その最初を飾るのは、得点には一切関係ない『選択科目別リレー』である――その名の通り、選択必修科目別のリレーチームで競う競技だが、通常競技とは違い、この競技だけは参加学年に制限がない無差別競技なのである。

なので多くのチームは、元運動部の3年生に2年生の新部長なんかを加えた構成になっているのであるが、その中で異色なのは戦車道チームであり、多くの客から注目されている。

参加するのはみほ、エリカ、ナオミ、ペパロニ、ローズヒップ、梓、クロエ、オレンジペコと2年生と1年生で構成されている上に、メンバーの半分は大学選抜戦の時に助っ人に来てくれた短期転校生なのだから。

しかも、最終アンカーがみほなのはまぁ良いとして、その前が1年生の梓と言う走順なのだから注目されるのも当然と言えるだろう。

尤も戦車道チームが注目されている原因は其れだけではなく……

 

 

 

――ガッデム

 

 

 

何故かコスチュームが黒のカリスマだったからだ。

この選択科目別リレーは、体操服ではなく夫々の科目のユニフォームとも言うべき物で走るのがお約束となっており、例えば忍道ならば忍者装束で走ると言った感じなのだ。

ならば、戦車道チームはパンツァージャケットで走るのが普通だろう――尤もその場合は大洗、聖グロ、サンダース、アンツィオの4つのパンツァージャケットが並ぶ事になり、其れは其れで注目されただろうが、何故にそこで黒のカリスマなのか!?

此れが破滅的に似合ってないのならばネタでしかないのだが、全員似合ってるから困る!(みほとエリカのコスチュームはガルパンのスマホアプリの『黒のカリスマ』参照。)

ナオミなんかは背も高めなので、黒のレザーコートと黒のレザーパンツに黒のインナーの組み合わせが映えまくりである上に、グラサン掛けてポケットに手を突っ込んでガムを膨らませる姿が嵌りまくりである!――実際に何人かの女子はハートブレイクされているようだし。

 

だが、其れ以上に注目なのはみほと梓が略同じコスチュームであると言う事……違いはみほは帽子なしで梓は帽子ありだと言う事位だが、この師弟は衣装を揃えていたのだ。

序に言うと、観客は知らない事であるが梓が使っている帽子は、中学時代に部活勧誘をしていたみほが投げて偶然梓の頭に乗っかったモノであると同時に、みほあず師弟を繋げたモノだったりするのだ。

 

其れは兎も角、此の衣装で戦車道チームが与えたインパクトは相当だろう。

 

 

「オラァ!最高だぜ!!」

 

 

客席の本家黒のカリスマもご満悦みたいだから。……マッタク持って如何でも良い事かもしれないが、黒のカリスマ本編登場は無いのだろうか?

……少し話が逸れたが、戦車道チームが絶大なインパクトを与えた所で、競技は開始された。

 

 

――パァン!!

 

 

出発のピストルと共に、第1走者が走り出す!

戦車道チームの第1走者はナオミ……高めの身長の半分以上と言う長い足のストロークで、序盤から優位に立とうと言う作戦だが、その作戦は大当たりで、ナオミは他の走者をぶち抜いて第2走者のローズヒップにバトンタッチ!

実にスムーズなバトンタッチが出来たのは、中学時代は同じチームだった事も大きいかも知れない。

 

そのバトンを受け取ったローズヒップは……

 

 

「リミッター解除しちゃいますわよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

激走!爆走!!大暴走!!!

『聖グロ一の俊足』を名乗るのは伊達ではなく、土煙を巻き上げる激走を披露し、第3走者であるオレンジペコにバトンタッチ。

 

 

「任せましたわよ、次期隊長さん!!」

 

「何でそうなるんですか!?」

 

「私もルクリリさんも隊長ってガラじゃねーんですの!!」

 

「そんな無茶苦茶な……!」

 

 

なんかやり取りがあったみたいだが、バトンを受け取ったオレンジペコは可能な限りトラックのギリギリを走る無駄のない走りでトップをキープして第4走者であるクロエにバトンタッチ……他のチームとの差は僅かに詰められてしまったが、それほど気にする事でもないだろう。

そして、バトンを受け取ったクロエは……

 

 

――シャキィィィン!!

 

 

「「「「「「「「「T-1000かよ!!」」」」」」」」」」

 

 

思わず客席から突っ込みが起こる程の、見事な走りを披露!その動きは正にT-1000型ターミネーターの如し!ロバート・パトリックさん、あの走り方は素晴らしかったです。

失礼、少々暴走したが、その走りでかっ飛ばし、第5走者であるペパロニにバトンを回す。

 

 

「任せたゾ!」

 

「おうよ、任せな!!」

 

 

そのペパロニは、自慢の身体能力を生かして他のチームを引き剥がす……少々アホな事を補って有り余る物が有るのがペパロニの身体能力だ。

全国女子更生体力測定の2年生トップがみほで2位がペパロニだと言えば、その凄さが分かるだろう。

 

 

「ぶっちぎれエリカ!!」

 

「言われるまでもないわ!!」

 

 

そのペパロニからバトンを受け取ったエリカは、可成りの前傾姿勢で走り、勢いを増す……その姿は、正に獲物を追う肉食獣の如きだ……その顔には凶暴な笑みが浮かんでいる辺り、エリカもまた楽しんでいるのだろう。

だが、其れで終わらないのがエリカだ。

 

 

「ほらほら、何をしてるの?本気を出さないとアタシ達が勝っちゃうわよ?って言うか、アタシ達の勝ちよね、鈍亀さん?此れだけの差が付いたら逆転とか無理だし。

 悔しかったら逆転してみなさい、出来ればの話だけど。」

 

 

此処で伝家の宝刀である『逸見エリカの挑発術』が発動!!

エリカ自身は決して悪い性格をしている訳では無いし、少々キツメな所はあるモノの仲間思いであるのだが、反対に戦いの相手である者に対しては一切の加減など有りはしない……だから、挑発すると、徹底的になってしまうのだ。

更には、挑発的な笑みを浮かべて、2位以下のチームに向かって人差し指をクイクイさせて見せたのだから、他のチームからしたらメッチャムカつく事この上ない。

 

が、エリカはそんな物は何処吹く風とばかりに疾走し、第7走者の梓にバトンタッチだ。

 

 

「このバトン、必ずみほに届けなさいよ?」

 

「はい、勿論です!!」

 

 

エリカからバトンを受け取った梓はそのまま走り出すが……勝負の神様って言うのは少しばかり意地悪であったらしい。

 

 

――ガクン!!

 

 

「!!」

 

 

コーナーの途中で梓が小石に躓いたのだ。

此のままでは転倒は確実であり、転倒すれば最悪の場合一気に最下位へと転落しかねない最悪の状況だ……が、勝負の神様の意地悪も軍神の一番弟子には通じなかった様だ。

 

 

「とぉりゃぁぁあぁ!!」

 

 

何とそのまま転倒するかと思われていた梓は、咄嗟に前方回転受け身を取ると、砂だらけになりながらも腕の軽い擦り傷を負っただけという軽傷で立ち上がり其のまま走り始めた。

まさかの転倒回避からの走行だが、完全転倒ではなく受け身を取ったとは言え、その動作で生まれた時間のロスは小さくなく、起き上がって走り始めた時点で、同率の4位にまで後退してしまっていた。

 

其れでもそこは戦車道チームの副隊長!

持ち前の運動神経でもって、爆走し、バトンタッチの時には2位の選手と同率でアンカーにバトンを渡す事が出来た。

 

 

「西住隊長、後はお願いします!」

 

「転びそうになったのをこらえて、よく頑張ってくれたね梓ちゃん……あとは私に任せて!!」

 

 

梓からバトンを受け取ったみほは、梓に一度笑顔を向けると、次の瞬間に爆音と共にロケットスタートで飛び出して、同率2位で走り始めた仙道の生徒を置き去りにすると、トップを走る忍道の生徒を猛追!

トップを走る忍道の生徒はゴールまであと2m程となっており、みほはその後ろ1m程の所まで迫っているが、此のまま走っていたら負けるのは間違いないが……此処でみほが取った行動は凄まじい以外の何物でもなかったと言えるだろう。

 

 

「おぉぉりゃぁぁぁ!!!」

 

「むべ!?」

 

 

何とみほは全力疾走の勢いを利用してジャンプし、忍道の生徒の後頭部に手を添えてフライングでのフェースクラッシャー!!そして同時に突き出した足でゴールテープを切り見事1位でゴールイン!

だが、果たしてこれは良いのか?反則ではないのか?

 

 

「インパクトが凄かったから認めちゃう♪得点にも関係ないし♪」

 

 

其れで良いのか審判団。まぁ、得点に影響しないからこその判断であるのかもしれないが……と言うか客席の黒のカリスマは、みほのフェースクラッシャーに対して親指を立てるな。

プロレスラーの目から見ても見事なフェースクラッシャーだったのかも知れないが、取り敢えず褒めんな。

 

 

「あぁ?ファッキン!!!」

 

 

そして地の文に対してキレんな。意味が分からん。

取り敢えず選択科目別リレーは戦車道チームが圧巻にして驚きの方法で見事に優勝――尚、みほのフェースクラッシャーを喰らった生徒は、倒れるギリギリの所で『変わり身の術』を使っていて無事だった。……流石は忍道、恐るべし。

そんな忍道チームは2位であった。

 

 

 

――借り物リレー(1年)

 

 

競技は続いて、1年生による借り物リレー……まぁ、要するに借り物競争とリレーを融合させた競技であり、借り物が新たな借り物を手に入れるまでバトンの役割を果たすと思えば良い。

だが、借り物競争の要素を取り入れている為に時間がかかると言う事で、参加走者は通常のリレーの半分である4人だが。

因みに緑組の走者は、第1走者があゆみ、第2走者がオレンジペコ、第3走者がクロエでアンカーが梓であって、一見すると緑組が絶対有利なように見えるが、紅組にバレー部3人と福田が居るので一概にそうとは言えないだろう。

 

ともあれ競技はスタートしたのだが、予想通りと言うか何と言うか、2年生の借り物競争もそうだったが、この借り物リレーに於ける借り物もカオス具合がハンパなかった。

『親父のカツラ』、『生徒会長の干し芋』、『逸見エリカの髪の毛』なんてのは優しい方で、『ティーガーⅡの砲弾』、『Ⅳ号F型の砲身』、『学園艦のどっかにあると思われる戦車』と難度の高いモノもあり、挙げ句の果てには『熱い友情』、『おいデュエルしろよ』、『覇王翔哮拳』等、其れは借り物かと思う様な物まで!

……まぁ、こんなトンでもお題を何とかしてしまう辺り、大洗女子学園の生徒は矢張り普通では無いのだろう。

 

さて、レースの方は借り物によって差が付いたモノの、アンカーでトップに立ったのは緑組の梓と赤組の川西忍だ。

 

 

「忍……負けないよ?」

 

「私も負けないよ副隊長!」

 

両者一歩も譲らずに借り物が書かれた紙をゲットし……梓が固まった。

忍の借り物は『根性』だったので、彼女は迷う事なく2年生の応援席に走って行き、バレー部の部長である典子に一緒に来てくれるように頼む。

――確かに『根性』と言う借り物の条件は満たしていると言えるだろう。

 

さて、何故梓が固まってしまったのかと言うと……

 

 

『おぉっと、澤選手止まってしまった~~!

 此れは若しかして、最大のジョーカーである『この学園で一番好きな人』をドローしてしまったのか!!』

 

 

そう、梓が引いた借り物は『この学園で一番好きな人』と言う、公開処刑とも言えるブラックジョーカー!

って言うか女子校でこの借り物は如何なのよ?共学校なら、大いに盛り上がる所なのかも知れないが、女子校ではそれ程盛り上がるモノでもないと思うのだが……

 

 

『さぁ、戦車道チーム副隊長の好きな人は誰なのか!因みに、憧れの人は駄目だからね~~!!』

 

 

此処で実況が煽る!煽って煽りまくる、プロレス実況してた頃の古館かお前は。

だが、此れは梓にとっては厳しいだろう……憧れの人でもOKならば迷わずにみほを選んでいたのに、其れは駄目だと言われたら、憧れではない好意を持っている相手でなければならないのだから。

梓は暫し迷っていたが、意を決してトラックの反対側に移動すると……

 

 

「あゆみ、一緒に来て!」

 

「へ、アタシ!?」

 

 

第1走者だったあゆみを指名し、此れに観客からは黄色い声援が上がると同時に、意外だと言う声も上がる――大抵の人は梓ならみほを選ぶと思って居たからだ。

だが、そうはならずに梓が選んだのはあゆみだったのだから。

 

 

「えっと、マジでアタシ?西住隊長じゃなくて?」

 

「西住隊長は確かに好きだよ。尊敬もしてるし憧れてもいる……でも、憧れや尊敬なしで誰が好きなのかって聞かれたら、あゆみなの。

 ぶっちゃけて言わせて貰うと、初めて会った時から好きになっちゃったんだ……黒目黒髪の純日本風な見た目と頬のそばかすが可愛いなって。

 ……あゆみ、私じゃ駄目かな?」

 

「よろしくお願いします!!」

 

 

だが、此処に電撃カップル誕生!

軍神を継ぐ者は、戦車道における戦い方だけでなく、人たらしの才能も受け継いでいたらしかった……身長はあゆみの方が高いのに、あゆみが座ってたせいで梓が上からのぞき込む形だった構図もあゆみを落とす一因であったのだろう。

ともあれ、このアズあゆコンビがしのキャプコンビを猛追して略同時にゴールイン!!

余りにも際どいタイミングだったのでビデオ判定(高校の体育祭で使うモノか此れ?)を行った結果、胸の差で緑組が勝利!……梓、忍、典子と比べると育っていたあゆみのおかげで胸囲の勝利を収めた結果となった。

 

 

 

――綱引き(3年生)

 

 

3年生による綱引きだが……

 

 

「とりゃぁぁぁ!なり。」

 

 

――ズギャァァァァァァァァァン!!

 

 

此れはピヨたんを有する白組の独壇場だった……戦車の砲弾を投げ渡す事が出来る位のパワーを身に付けたピヨたんの超人強度は驚異の1000万パワーであり、並の女子高生が太刀打ちできる物ではない。

此の子は其の内『ハリケーンミキサー』を習得してしまうのではなかろうかと少し心配になってしまうが、まぁ多分大丈夫だろう。

尚、緑組の桃ちゃんは、思い切り引っ張られた時に堪える事が出来ずに引っ張られて、前の生徒に頭ぶつけてKOされると言う事をやってくれていた……この意味不明のポンコツ力、桃ちゃん呪われてないよね?

 

 

 

 

さて、午後の競技も順調に進み、残すは最後の種目である組別対抗リレー!

現在の得点では緑組がトップだが、2位以下との点差は僅差である為、此のリレーで1位を捥ぎ取ったチームが優勝すると言う分かり易い構図となっているのだ。

そんな最終競技のアンカーを務めるのは緑組がみほ、青組が小梅、白組がクラーラ、赤組が典子……完全にアンカーがガチであった。

確実にデッドヒートは確実だが、ここで各組の応援団が動き、自分の組を応援し始める。

其れは、大洗女子学園の体育祭のお決まりではあるのだが、この応援は緑組が多大なインパクトを与えていた。

 

 

「フレー!フレー!み・ど・り!!」

 

 

何故ならば、応援団長になった梓が、学ランを身に纏って額にハチマキと言う典型的な応援団長の格好で応援をしていたからだ。

ガタイの良い男子高校生が此れをやったのならば其れ程驚きはなかっただろうが、華の女子高生が此れをやったと言うのはインパクトが凄いのは間違いないだろう……実際に学ラン梓は注目の的だったから。

だが、其れは緑組にとっては最高のエールであったらしく、競技が始まると同時に第1走者のねこにゃーが飛び出し、トップに躍り出ると、其のまま緑組はトップを維持したままレースを進め、第7走者であるエリカにバトンタッチするが……此処で、青組が迫って来た――青組の第7走者は、優花里であったために、エリカに迫る事が出来たのだ。

 

 

「優花里……アタシに勝てると思ってるの?」

 

「ふっふっふ、勝てずとも負けない事は出来るでありますよ!」

 

「言うじゃない……上等!!」

 

 

そのままエリカと優花里はデッドヒートを続け、略同じタイミングでアンカーにバトンパス!!

そして緑組のアンカーであるみほと、青組のアンカーである小梅は、バトンを受け取ったと同時に急発進して、3位以下を突き放す……クラーラや典子ですら追い付けない程の速度で!

 

 

「流石ですね、みほさん……!!!」

 

「小梅さんもね……絶対に負けないから!!」

 

 

みほと小梅は何方も譲らないデッドヒートを展開し、その状態のまま略同時にゴールイン!!――当然何方が先だったのかのビデオ判定が行われたのだが、ビデオ判定でも完全に同着だったので、緑組と青組が同着1位と言う扱いになり、夫々に1位のボーナスを追加した倍得点が追加され、その結果として緑組の優勝が、ここに確定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

最後のリレーは可成り際どかったけど、結果的に優勝する事が出来て良かったよ――優勝出来たからこそ、祝勝会も出来る訳だからね。

祝勝会に参加してるのは緑組のメンバー+戦車道のメンバーなんだけど、必須科目リレーで戦車道チームが1位を捥ぎ取ったんだから、戦車道のメンバーが居ても別におかしい事ではないかな。

 

 

 

「そんじゃあ、人も集まった所だから始めるとすっかね~~?西住ちゃん、号令宜しく~~♪」

 

「其処で丸投げですか会長さん!!」

 

仕方ないなぁ……

こう言うのはあんまり得意じゃないんだけど、私達は体育祭を制したから、此れから祝勝会を始めます……全員、グラスを持って下さい。

それでは、大洗女子学園の益々の発展を願って、乾杯~~!!

 

 

 

「「「「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」」」」(鍵カッコ省略)

 

 

 

私の号令で始まった祝勝会は、とっても楽しかったよ――店の名物である『一本バラカルビ』を斬らずに焼いて、一本丸ごと持ってったエリカさんには驚いたけど、取り敢えず体育祭は大成功だったと言っても良いね。

次のイベントは文化祭……さて、何が待ち受けているかだね。

 

 

 

「みほ、其れ焼けてるから!」

 

「おぉっと、良い感じに焼けてるね。」

 

でも今は体育祭の打ち上げを楽しまないと損だよね――因みに、最高級のモチ豚カルビ(上)は、牛の上カルビよりも美味しかったです!

その脂身の多さ故に、油に火が点いてファイヤーしたけど、それ以外の点では本当に美味しいお肉だったらね……此れだけのお肉に巡り合えたって事を考えると、優勝できてよかっただね!

 

その後、祝勝会は大盛り上がりで、二次会でカラオケを行って、学園艦に戻ったのは日付が変わった頃だったけど、まぁ仕方ないよね?

其れだけ楽しむ事が出来たって事なんだからさ。

 

 

それはさておき次は文化祭か……此れは、私の伝家の宝刀を抜く事になるかも知れないかな?……幸いな事に、いるべきメンバーは揃って居るからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer168『次は文化祭に向かって全力です!』

私は手札から魔法カード『西住流揚げタコ』発動!Byみほ        それ、対抗手段が無いと見て間違いないわByエリカ      正に必殺技ですねBy小梅


Side:みほ

 

 

体育祭は無事に終わったけど、2学期のイベントはまだ続く――と言う訳で次なるイベントは、体育祭と同じ位に盛り上がる事が予想される文化祭だね!!

文化祭は体育祭以上のお祭りだから楽しまないと損損ってね。

 

 

 

「その意見には同意するわみほ……祭りは楽しんでナンボでしょう――なら、思い切り楽しんだ者の勝ちなのよ。」

 

「アハハ、其れは至言だけど。何だか文化祭は凄い事になると思うんだよね?

 こう言ったらアレだけど、大洗女子学園は今や全国で知らない人はいない位の有名学校になっちゃってる訳だし凄い数の人が来るんじゃないかと思うんだよね。」

 

「可成り来るとは思うけど、大洗の面子なら大丈夫じゃない?

 大洗女子学園に常識は通じないんだから、例年よりも多くの来場者が来ても大丈夫でしょ?――例年がドレ位来るか知らないけどね。」

 

 

 

エリカさん……確かに大洗の皆なら大丈夫だよね。

本気で大洗女子学園には大凡常識何て言うモノが通用しないからね……戦車道だけじゃなくて、その他についても色々と。って言うか、どうやってアンコウの養殖なんかに成功したのやら。しかもピンク色の。

アレってもう大洗の特産品にしても良いんじゃないかな?

 

 

 

「んなモン特産品にしたら、アライッペに続く第2のゆるキャラが誕生するわよ?多分戦車と融合させた感じで。」

 

「あ~~……うん、否定できないね。」

 

提灯の部分が戦車の主砲に変わったメカメカしいピンクのアンコウ……そして何かのイベントの時にその上に乗ってるアライッペとオオアライダーときっと加わるであろう黒のカリスマ。

何だろう、此の拭い去れないカオスっぷり……実現して欲しいようなして欲しくないような、微妙な気分だね此れは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer168

『次は文化祭に向かって全力です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園の文化祭は、クラスごとの出し物じゃなくて、部活や必修選択科目別に出し物をやるスタイルで、文化祭1週間前の今日は何処の部活や必修科目でも出し物を決める日になってる場合が多いみたいだね。

そして其れは勿論戦車道チームも同じで、放課後の練習の時間は、戦車道チームの出し物を決める会議の時間に早変わり!

 

 

 

「それじゃ~さ、うち等が何やるか、アイディアがある人は遠慮なく言ってね~~?」

 

「相当無理なモノじゃ無ければ出来るだけ実現の方向で行くから。とは言っても、最終的には多数決で決める事になるけれど。」

 

「なので、遠慮なく意見を言え。」

 

 

 

で、会議の進行役は生徒会の面々……本来なら隊長である私が進行役を務める所なんだろうけど『西住ちゃんは進行役よりも、アイディア出す方に回って貰いたいんだよね~~?』って言って進行役に。

確かに私も進行役よりは、アイディア出す方が得意だけどね。

それにしても戦車道チームの出し物かぁ……どんなモノが良いかな?

 

 

 

「戦車道チームと言う事で、戦車を使っての出し物が宜しいのではないでしょうか?

 例えば……戦車を使っての的当てゲームなどは如何でしょう?主砲を放った時の、あの感覚を体験出来たら、きっと感激出来ると思いますし。」

 

「そのアイディアは悪くないわねハナ。

 だけど、ウチみたいな大所帯のマンモス校で資金も潤沢にある学校なら兎も角、資金力が並の大洗で其れは難しくないかな?

 砲弾代で相当に金が掛かるし、其れを回収しようとしたら可成り高価な出し物になるのは間違いないわ……文化祭の出し物なんだから、料金設定は800円以内に抑えないとダメよ。」

 

「ナオミさん……そうですね、良いアイディアだと思ったので残念です。」

 

「ですが五十鈴殿、戦車を前面に持ち出すのは良いと思うであります!

 なので、私は大洗女子学園保有の戦車の展示会を提案するでありますよ~~!!この不肖秋山優花里が、来場者の皆さんに大洗保有戦車の魅力を全力でお伝えするであります!!」

 

「いや、其れ趣味に走ってるだけだからゆかりん。」

 

「ふむ、ならば同時にその戦車の歴史についても語る必要がありそうだ……そっちの方は私に任せてくれグデーリアン。」

 

「里子も乗らないで!?」

 

「里子ではない、エルヴィンと呼べ。」

 

 

 

で、アイディアが出て来た訳なんだけど、行き成りカオスだね此れは……戦車道チームのカラーを前面に押し出す意味で、戦車を使うのは悪くないとは思うけど、流石に其れは安直だよ。

もっと文化祭に適した出し物にしないと。

 

 

 

「それなら、戦車で戦うゲームの大会とか如何かな?僕達のパソコンを複数のパソコンとオンライン接続すれば出来ると思うのにゃ。」

 

「良いかも知れないが、其れだと1回が長くなるから集客は見込めないぞ……眠い。」

 

「こら、寝るな麻子!!」

 

「沙織、煩い……」

 

「ノンアルのビールをメインにしたビアガーデンとか如何かしら?

 スタッフ全員がディアンドル着て接客するとか、結構イケてるんじゃないかって思うんだけど……あ、ゴメンやっぱなし。ディアンドルなんて着てたら、変な親父のターゲットになっちゃうわ。」

 

「大丈夫じゃないですか?エリカさんなら、その変な親父を拳で撃退出来るでしょう?」

 

「当然よ小梅!私の右ストレートは車のフロントガラスを粉砕するわ!!」

 

 

 

そして止まらないカオス!止められないカオス!!誰も止めようとしないカオス!!

って言うか、車のフロントガラス粉砕するって、ドレだけのパンチ力なのエリカさん!!全盛期のエメリヤエンコ・ヒョードルも吃驚だよ!!霊長類最強JKなの!?

 

 

 

「いや、其れは貴女でしょみほ……何処の世界にミドルキック1tのJKが居るのよ?アンタの蹴り喰らったら大概の人間は間違い無く昇天間違いなしでしょうに。

 貴女、二代目破壊王を襲名しても良いんじゃない?」

 

「片腕では垂直落下DDTが出来ないから襲名は無理だね。」

 

「その重爆キックだけでも襲名できると思うけど?」

 

「其れだけじゃダメなんだよエリカさん……垂直落下があってこその破壊王だからね――垂直落下DDTのない橋本真也は只のデブでしかない!」

 

「微妙に否定できないわ其れは。」

 

 

 

って言うか誰がどう見ても150kgオーバーだったのに、オーバー300ポンドトーナメントに『俺そんなに重くないから』って言って出場しないのはどうかと思うし。

じゃなくて、戦車道チームの出し物でしょ大事なのは!!

カオス状態にはなるモノの、此れじゃあ決まらないよ……だから、ここは伝家の宝刀を抜く事にしようかな?幸いな事に、当時の明光大のメンバーは揃ってるからね。

ペパロニさん、ナオミさん、ローズヒップさん、梓ちゃん、クロエちゃん……アレを提案しちゃってもいいかな?

 

 

 

「アレって、中学時代のアレか?……良いんじゃねぇか?

 丁度あの時の面子は揃ってるし、大洗の戦車道チームでアレをやれば明光大の時よりも人を呼べること間違いなしだと思うぜ!!戦車道チームの出し物はアレで良いだろ!!」

 

「そうね……アレならバラエティにも富んでるし良いんじゃない?」

 

「そうですわねぇ?アレならば、お客様だってすっげー満足してくれる筈ですわ!!此れはもう、やるしかねーですわよみほさん!!」

 

「アレなら、確かに行けるかも知れません。

 そしてあれなら、コスチュームをディアンドルにしても問題ないと思いますから逸見先輩のアイディアも回収できます……流石は西住隊長、目を付けるところが違いますね!」

 

「西住隊長、確かに其れは良いアイディアだナ。」

 

「おやおや、何やら盛り上がってんね~~?

 旧明光大のメンバーが此れだけ言うって言う事は、明光大付属中の文化祭には何やら凄い出し物が有ったのかな~~?」

 

 

 

よくぞ聞いてくれました会長さん。仰る通り、明光大付属中の文化祭には、私が2年生の時から伝統になっている出し物があるんです。

其れは、戦車道部による『屋台村』!!

戦車道部の広い部活スペースを利用して、お祭りの定番屋台を幾つも其処に出して小規模なお祭り会場みたいな出し物で、今でも文化祭の一番人気の出し物なんですよ。

 

 

 

「ほうほう、そいつは凄いねぇ?」

 

「因みに発案者は、此のペパロニさんです。」

 

「単純に面白そうだからと思って提案したのが、まさか此処まで人気の出し物になるとはな~~~♪あん時の経験が、アンツィオの屋台でも生きてるってんだから世の中分からねぇわ。

 つーか、マジで屋台村で良くねぇ?チーム別に屋台を担当するとしても10個出来るし、アタシ達短期転校組を割り振ればスタッフも充分だろ?」

 

「ですわねぇ……と言うか過去のメンバーが集まっているのなら、今や明光大付属の戦車道部の隊長が引き継ぎ項目の1つとなってる『揚げタコ』の原初のレシピの再現が出来ますわ!!」

 

「『揚げタコ』……とても美味しそうな予感がします。」

 

「ふ……美味しいなんて言葉じゃ済ませられないわハナ。

 みほの焼く揚げタコは、正に揚げタコのキング・オブ・キングス……アレに比肩するタコ焼きは存在しないと言っても過言ではないわ!!」

 

「何と、西住隊長にはそのような特技もあったのか!!

 戦車が強いだけでなく、その様な特技まであるとは、天は隊長から左腕を奪う代わりに其れを補って有り余るギフトを与えたと言うのか……軍神の二つ名は伊達ではないな?

 うむ、名前からも西住隊長のソウルネームは、女子であっても『西住小次郎』がピッタリだと思うのだが如何だろう!!」

 

「「「それだ!!」」」

 

「揚げタコか~~?アレは美味しいよねうん。

 でも西住隊長が作るのってそんなに美味しいんだ……食べてみたいなぁ?」

 

「「「「「「「「「確かに!」」」」」」」」」」

 

 

 

屋台村の説明から、名物の揚げタコの話になって、ツチヤさんの一言から何だか一気に私の揚げタコを食べてみたいって言う空気になって来たんだけど、流石に今この場で作る事は出来ないよ?

材料も道具もない訳だし……

 

 

 

「材料と道具ならあるぞみほ?」

 

「ペパロニさん、何であるの!?」

 

「いやぁ、短期転校中に少しでも資金稼ぎしとこうと思って色々持って来てんだ。

 んで、鉄板ナポリタンだけじゃ飽きちまうだろうと思って、色んな料理できるようにと思ってタコ焼き用の鉄板と材料も持って来たんだ。勿論、あの特製ソースと辛子マヨネーズもな。」

 

「何と言う偶然……流石の私も吃驚だよ。」

 

でも、材料と道具が揃ってるなら皆の期待に応えないって言う手は無いよね?……ペパロニさん、手伝って。

ナオミさんとローズヒップさんも準備して。

 

 

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

サクサクと準備をして、いよいよ調理開始!

まずはタコ焼き用の鉄板を熱して、其処にたっぷりの油を注ぎ込む――大体丸みの2/3位までたっぷりとね。

で、油が充分に熱されたら其処に生地を流し込んで、素早くぶつ切りにしたタコと、微塵切りのネギと、揚げ玉を加える!でもって、表面がカリッとしたら引っくり返して反対側もカリッと揚げ焼きにする!

表面に軽く焦げ目がついたら箱に詰めて、特製ソースを塗って、これまた特製の辛子マヨネーズをかけて、鰹節をまぶして完成!!

さぁ、試食してみて!!

 

 

 

「「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」」

 

「さて、如何かな?」

 

「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」

 

「うわぁ、何これめっちゃ美味しいよみぽりん!!

 表面カリカリで中はジュワっととろける感じが堪らないんだけど!!更にその中心のタコの歯ごたえと、揚げ玉のサクサク感がアクセントになってるって言うか、こんなの食べさせたらどんな男の人もイチコロだよ!!」

 

「食感もさることながら、私はこのソースとマヨネーズの深い味わいに感激しました……此れは市販の物ではありませんよね?」

 

「お、其処に気付くとは鋭いじゃねぇかハナ!

 この特製ソースは、お好みソースにウスターソースと醤油とオイスターソースに、甜麺醤を少しだけ加えたもんなんだ。辛子マヨネーズも、単純にマヨに辛子を混ぜるんじゃなくて、和辛子、マスタード、粒マスタードをブレンドしてんだ。」

 

「成程!この深い味わいの秘密は其れでありますか!!

 して、この絶品揚げタコは、1箱6個入りでいくらなのでありますか?」

 

「400万リラな♪」

 

「何時の時代のレートでありますか其れは!!って、アンツィオに潜入した時に似たような事をした気がするであります!!!」

 

「あ、普通に400円で。そういや、そんな事やったな。」

 

「これで400円は安いであります!

 このレベルのタコ焼きならば、縁日ならば600円で売られているであります!!いや、この味ならば700円でも文句は言いません!!」

 

 

 

で、試食の結果は大好評だったみたいだね。

同ですか会長さん、この揚げタコは?

 

 

 

「うん、こりゃ参ったね西住ちゃん?18年間生きて来て、こんなに美味いタコ焼き食ったのは初めてだわ~~……余りに美味しくて一気に食べちゃったからね。

 美味しさが疾風怒濤のように駆け抜けて行ったってのは正にこの事だね。

 こりゃ、戦車隊の出し物は屋台村で決定だわ……他の出店がしょっぱくても、この揚げタコだけで集客は十分見込めるからね~~♪」

 

「会長~~!そんなに簡単に決めてしまって良いのですか!!」

 

「か~しま、西住ちゃんのタコ焼き貪りながら言っても説得力ないぞ~~?」

 

 

 

河島先輩は相変わらずだけど、会長さんがOKを出したなら戦車隊の出し物は『屋台村』で決定って言う事で良いのかな?……反対の人は居る?

 

 

 

「「「「「「「「「「いませ~~ん!!」」」」」」」」」」

 

「ま、このタコ焼き食って異論を唱える奴は居ないだろうね~~。

 となると、あんこうチームがタコ焼きの屋台をやるのは決定として、残りの9チームが何をやるかだね?……西住ちゃん、中学の時は屋台の内容はどうやって決めたの?」

 

「普通にアイディア出し合って、その中から挙手による選出で決めたんです。」

 

「そっかそっか……なら、先ずはアイディアを色々と募集しないとだね!!」

 

 

 

ですね。

で、其処から出るわ出るわ屋台の内容のアイディアが……定番の焼きそば、フランクフルト、綿あめ、今川焼、串焼き、ポップコーン、射的、金魚すくいに始まり、型抜きやお面屋、最強ポケモン・ミュウツーを倒せなんてものまで。

最終的に出店は、タコ焼き屋以外は焼きそば、串焼き、焼きイカ、綿あめ、ポップコーン、ヨーヨーすくい、お菓子のつかみ取り、射的、型抜きに決まったね。

担当はあんこうチーム+ペパロニさん、ナオミさん、ローズヒップさんがタコ焼きで、ライガーがお菓子のつかみ取り、オオワシが射的、カメが型抜きでアリクイがヨーヨーすくい、カモが綿あめ、レオポンがポップコーン、アヒルが焼きイカ、カバが串焼き、そして焼きそばがウサギの担当に。

 

うん、梓ちゃん率いるウサギチームが焼きそばの担当になったのは嬉しい誤算かな?

梓ちゃんが揚げタコと一緒に提供してたって言う焼きそばもまた明光大の名物になってるみたいだからね……その名物の焼きそば、期待してるよ梓ちゃん?

 

 

 

「お任せ下さい!!

 隊長の揚げタコに負けない位の人を集めて見せますから!!」

 

「其れは大きく出たけど、そう言うのは嫌いじゃないかな?……目標は大きく持った方が良いからね。」

 

此れで、戦車隊の出し物は決まったから、後は夫々が当日までに十分に準備をしておけばいいよね――屋台の売り上げは、そのまま部費や必修選択科目の資金になるんだからバッチリ稼がないとだからね。

 

其処からはとんとん拍子に話が進んで、各屋台には夫々のチームが搭乗する戦車を配置するとか、明光大の時にはやろうと考えもしなかったアイディアが次々と出て来て、屋台村の全容がほぼ完成状態になるとは思わなかったよ。

此れもまた、大洗の結束力の賜物なのかも知れないね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

で、文化祭の3日前、私は生徒会室に呼び出されていた……何だろう?呼び出されるような事はしてないと思うんだけど――まさか、ネットでボコグッズに散財してるのがバレた!?

いや、其れは無いよね……散財ってのは大袈裟だし、ネット上の事は一高校生が詳細まで調べる事は不可能――其れこそ、余程の腕前のハッカーじゃないと無理だから。

でもだとしたら、なんで私を呼び出したんだろう?

 

 

 

「お~~、来たね西住ちゃん!!」

 

「会長さん、何の用でしょうか?」

 

「んっとね~~、学園祭でこんな企画を用意してるんだけど、如何かなぁと思ってね。」

 

 

 

どんな企画ですか其れは?

取り敢えず資料に目を通して……会長さん、此れマジですか?冗談とかではなくて?本当にマジなんですか?其れこそ、『本気と書いてマジ』って言うレベルなんですけどこれ!!

本気で、やるんですか此れ?

 

 

 

「逆に聞くけど、此れをやらない手はないでしょ?」

 

「其れはそうかも知れませんけど、この相手は予想外ですって。」

 

学園祭でのエキシビジョンマッチは確かに有りだと思いますし私だって楽しみであるのは否定しませんけど……相手を見たら誰だって困惑したくなるんじゃないかと思うなぁ?其れこそお姉ちゃんであってもね。

会長さんが用意した私達の相手の隊長は、西住しほ――私のお母さんだったんだからね。

 

まさかお母さんと文化祭の大舞台で戦う事になるとは予想外も予想外だよ。

お母さんと試合をするなんて言うのは10年ぶりだからね……ホントに青天の霹靂って言う所だけど、折角の機会だからと思って思い切りやらせて貰おうかな?……会長さんだって意地悪で企画した訳じゃないだろうしね。

でも、やるとなった以上は全力で挑むのが礼儀だから、今の私の全てをお母さんにぶつける心算で挑む事にするよ――全力でやってこその戦車道だし。

そして私はこの戦いでお母さんを超える!!……超えて見せる!!――ふふふ、覚悟して貰うよお母さん。今度こそ勝って見せるから。

大洗女子学園に転校して初めての文化祭は、きっと凄い事になるのは間違いなさそうだね……ふふ、文化祭の当日がやって来るのが楽しみになっちゃったよ!!

相手がお母さんだからこそ一切の手加減は不要だね……隻腕の軍神、其の力を十分に味わって貰うからその心算で居てね!!

期せずして決まった、西住流親子対決。これは、凄い試合になること間違いなしだよ!!

 

 

 

「会長、文化祭のモニュメント出来ました!!」

 

「おぉっとコイツは良いタイミングだね?」

 

 

 

其処で美術部が乱入して、文化祭のモニュメントが完成した事を伝えて来たか――その勢いのまま正門前に移動して正門に飾り付けたモニュメンとを見て思わず吹き出しちゃったよ。

 

 

青パンターを前面に押し出して、その後ろでアタシが腕の無い左袖をものともしない笑顔って、此れは最高のモニュメントと言えるかもね。

ともあれ、文化祭を楽しまないとだよ。

お祭りってのは心の底から楽しんでだからね――だからこそ、全力で行かせて貰うよお母さん!!私は文化祭で貴女を超える、其れだけだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer169『文化祭ウォーPart1です!!』

文化祭は全力全壊!粉砕!玉砕!大喝采!Byみほ        いや、玉砕しちゃ駄目でしょ!Byエリカ      玉砕覚悟で行け、そう言う事ですね!By小梅


Side:みほ

 

 

天気は雲一つない晴天!うん、とっても気持ちがいいね!!

 

 

 

――パン!パン!!パン!!!

 

 

 

その青空の下に花火が鳴って、開幕しました文化祭!!

学園艦を大洗港に停泊させて、学園艦で暮らしてない人もターゲットにして、文化祭に呼び込むって言うのは良いアイディアかもだけど、其れだけの事したのなら、お客さんが満足しなかったら絶対にダメだからこの文化祭は盛り上げないととだよね!!って、何してるのペパロニさん?

 

 

 

「盛り上げんなら任しとけみほ!先ずは取り出したります、森喜朗元総理大臣。此処に小麦粉をまぶします!」

 

「更に卵を加えるわ。」

 

「そして、此れを180度の油でカラッと揚げます。」

 

「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「これがほんとの『森揚げる』ですわね♪」

 

 

 

いや、其れマッタク持って意味が全然違うから……って言うかそもそも何処から連れて来たのこの人!?それ以前に、何処から持って来たのこの人が一人は居るだけの巨大な天婦羅鍋!!

え~っと、生きてますか森元総理?私の声が聞こえますか~~?聞こえて居たら何か言って下さ~~い!!

 

 

 

「に、日本は神の国である!!」

 

「あ、大丈夫そうだね。」

 

まぁ、こう言う場合はまず間違いなくギャグ補正のおかげで死ぬ事は無いし、数分もしたら自分で衣破って出てくるだろうから放置しても問題はないかな?

衣が破けなかったその時は、ロンメルとアンドリューに衣だけ食べさせれば良いしね。

行き成りのハプニングは合ったけど、楽しい文化祭を始めようか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer169

『文化祭ウォーPart1です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、文化祭が始まった訳なんだけど、いやはや何と言うか凄い人の数だなぁ……会長さん、大洗女子学園の文化祭って毎年こんなに来場者があるモノなんですか?

 

 

 

「いんや、何時もはこの半分もないって。

 確実に戦車道大会での全国制覇と、廃校をかけた大学選抜戦に勝ったって言うのが大きな要因だと思うんだよね~~?大洗の人達だけじゃなくて、戦車道のある学校の生徒とか戦車道ファンも来てるだろうから、来場者数は過去最高を記録すること間違いねーわ。」

 

「アハハ、例年の倍以上と来ましたか……此れは流石に予想外です。」

 

「ある意味で『みほフィーバー』とも言える状態って訳ね……軍神の威光は戦車道以外でも力を発揮してるみたいね?」

 

「エリカさん、別に此れは私の力が巻き起こした訳じゃないと思うんだけど――全国制覇は皆の力で成し遂げたモノだし、大学選抜戦で最後まで残ってたのはお姉ちゃんだよ?」

 

「其れでも、その両方でフィニッシャーになったのは貴女でしょう?

 今や隻腕の軍神は、アライッペやオオアライダーを抜いて大洗の象徴となったと言っても過言じゃないと思うわ。

 ……貴女もそう思うでしょう優花里?」

 

「勿論でありますよ逸見殿!!

 西住殿無くして大洗女子学園の戦車道は語れません!!『隻腕の軍神』『大洗の救世主』!此れを知らないのはモグリでありますよ!!

 付け加えておきますと、西住殿の一番弟子にして大洗の副隊長である澤殿も『軍神を継ぐ者』『軍神の懐刀』として有名でありますよ。」

 

 

 

何と言うか其れはまた……若しかしても私って黒森峰時代よりも注目されてるのかな?……されてるだろうなぁ間違いなく。

考えてみれば常勝不敗の黒森峰の10連覇の立役者よりも、無名の弱小校でしかない大洗女子学園を全国制覇に導いたの方がインパクトは強烈だしね。

梓ちゃんも中学時代には黒森峰と死闘を演じた隊長として名を馳せてたし、今年の大会では性能で劣るⅢ号で格上の相手を撃破した――決勝戦では相討ちを含めて黒森峰の重戦車を撃破しまくったから有名になるのも頷けるよ。

 

と言う事は戦車道チームが開催している屋台村には可成りのお客さんが来る事が予想されるけど……何でサラッと居るんですかアンチョビさん!

 

 

 

「いやいや、ペパロニから文化祭で屋台村をやると聞いてな?屋台ならばと思って来てみたんだよ~~!

 アンツィオ名物鉄板ナポリタンを、振る舞わないと言う選択肢は無かったからな!!」

 

「成程……で、本当の理由は?」

 

「資金集めだーーー!!

 P40の修理代とか、燃料代やら弾代やらを少しでも稼がないとだからな……」

 

「資金不足は深刻ですねぇ……いっその事、アンツィオのグルメを全国にデリバリーしたり、冷凍品やレトルト品を作って売れば良いんじゃないでしょうか?

 アンツィオの食のレベルの高さは全国に知れ渡ってますから、やればきっと良い資金源になると思いますよ?」

 

「其れは考えた事も無かったな?……確かに其れならば資金獲得に一役買ってくれるかもしれん!ナイスアイディアに礼を言うぞみほ!!」

 

 

 

あはは……単なる思い付きなんだけどね。

さてと、其れじゃあ気合を入れて屋台村のオープンと行こうか!!大洗女子学園戦車隊屋台村……ぱんつぁ~~ふぉ~~~!!!

 

 

 

「「「「「「「「「「Jawohl.」」」」」」」」」

 

 

 

で、屋台村での衣装は法被に豆絞り――ではなく、エリカさんがビアガーデンを提案した時にコスチュームとして選んだディアンドル。

結構セクシーな感じの衣装だったから如何かなと持ったんだけど、沙織さんが『此れスッゴク可愛いじゃん!』って言った事で、セクシーさよりも可愛さに注目されて満場一致で此れに決定。

因みに私のだけは、通常のディアンドルだと左肩部分が落ちちゃうから、襟口は通常のディアンドルの半分程度の大きさ……だけど、胸元の深さだけは通常通りってある意味凄いよね。

 

そんなこんなで屋台村をオープンしたんだけど、まぁ来るわ来るわ、人の波が!!夏休み中の大洗アクアワールドにも負けないレベルだよ此れ。

ある程度行く屋台はバラけてるとは言え、私のタコ焼きと梓ちゃんの焼きそばがやっぱり強い感じかな!!

焼いても焼いても足りなくなる感じになるのは火を見るより明らかだよ……此れ、材料足りるかな?

 

 

 

「そう思って小麦粉50kg、卵100個、キャベツ50個、揚げ玉50kg、ゆでだこ50kg、まいわい市場に注文しといたぜみほ!!」

 

「ペパロニさんGJ!……食材の貯蔵は充分!!それならペース配分は気にする事ないね!!」

 

大洗シーサイドステーションのまいわい市場に食材の注文をしといてくれるとは、手際が良いなぁペパロニさんは♪

あ、沙織さん其れだと油が少ないよ?其れじゃあ只のタコ焼きになっちゃうから、もっとたっぷり入れないと揚げタコ特有の、外はカリッ!中はジュワ!な食感にならないよ?

 

 

 

「え~~?でも油使い過ぎるとカロリーが……」

 

「お言葉ですが武部殿、こう言った屋台の食べ物は……まぁ、アンツィオの屋台ならば兎も角、縁日なんかの屋台ではカロリーやら塩分を気にする事も無いかと。

 確かに健康に気を使うのは大事でありますが、こう言うお祭りの雰囲気ではそう言う事よりも、取り敢えず美味しい事が大事であります!!

 大体揚げタコの油分何てかわいい物です!夏祭りの定番とも言える原色バリバリのかき氷なんて身体に悪いなんてもんじゃありません!!」

 

「そうだぜ沙織~~!

 飯ってのは、先ずは旨い事が大前提!何よりも、オリーブオイルはけちけちしな~い!!」

 

「えぇ、此れってオリーブオイルなの!?めっちゃ高級品じゃん!!」

 

「いやいや、オリーブオイルつっても一番搾りのエクストラヴァージンじゃなくて、二番絞りのピュアオイルな。

 此れなら値段はサラダ油よりも寧ろ安い場合がある位だし、オリーブオイル特有の匂いも少ないから意外と料理を選ばねぇんだわ♪」

 

 

 

そうそう。大体にして、最後にはソースとマヨネーズって言う強烈な味を加える訳だからオリーブオイルの匂いなんて殆ど気にならなくなっちゃうからね――ペパロニさんの提案で、二番絞りのオリーブオイルを使ったのは正解だったよ。

兎に角、揚げタコは屋台村の目玉でもあるんだから、油の量なんて気にせずにたっぷり使わないとダメだよ沙織さん……健康思考は分かるんだけど、今日は学園祭だしね?

 

 

 

「ん~~~……分かった。学園祭は来てくれた人に楽しんでもらわないとだもんね!

 其れに、よく考えたら美味しい揚げタコ作る事が出来れば、其れが切っ掛けで素敵な彼が出来るかも知れないし~~~♪」

 

「……沙織、悪い癖が出てるぞ……」

 

「そう言って、彼氏が出来た事有りましたっけ?」

 

「大洗で過ごしてみて思ったけど、サオリの此れはアリサのタカシに通じる物が有るな……アリサとサオリは意外と仲良くなれるかもしれない。」

 

「沙織さん!殿方のハートを射止めるには手段を選んじゃいけねーですわ!

 ダージリン様が『イギリス人は恋と戦争では手段を選ばねー!』って仰っていやがりましたです事よ!!」

 

 

 

で、何時もの沙織さんのアレが発動して、毎度お馴染みの麻子さんと華さんの鋭い突っ込みに、ナオミさんの追加の突っ込み的な一言が入り、ローズヒップさんの応援してるんだかなんだかよく分からない一言が炸裂……と言うか、ローズヒップさんの言葉の乱れは聖グロで問題になってないのかな?アッサムさんとか煩そうだけど……

 

 

 

「アッサム様は『もう少し言葉遣いに気を付けなさい!』って言うんですけど、ダージリン様は『此れもローズヒップの個性ね』って言ってから、別分問題にはなってねーんですのよみほさん。」

 

「成程、ダージリンさんなら確かに言いそうだね、納得。」

 

こんな風に会話をしながらも、揚げタコを作る→箱に詰める→ソースとマヨネーズをトッピング→袋に入れてお客さんに渡して精算の流れが滞らずに進んでるのは、昔取った杵柄って言う所かな?

ヤッパリ中学3年間同じチームだったチームワークは1年ちょっと離れた程度じゃ錆びつかないモノなんだね♪

 

そう言えばこの前の体育祭の時にも応援に来てくれてたけど、文化祭にもあの人は来てるのかな?……全国大会の時も、大学選抜戦の時も来てたから、間違いなく来てると思うんだけど……

 

 

 

「アイム、チョーノ!!」

 

「うん、知ってます。」

 

やっぱり来てましたね黒のカリスマ。

今日は一人ですか?お友達の皆さんは一緒じゃないんですか?

 

 

 

「武藤さんも誘おうと思ったんだけど、福岡の方で飲酒運転撲滅キャンペーンで、福岡署の一日署長務めるとかで都合がつかなかったぜ!」

 

「あぁ、其れは残念ですねぇ……」

 

「本気で残念だぜ……武藤さんも残念がってたからな。

 そう言えば、武藤さんが今度大洗でエンタメプロレスの興業をやるとか言ってたな……もし都合が付いたら、見に行ってやってくれみぽりん!」

 

「はい、その時は是非。で、ご注文は?」

 

「揚げタコ2箱だオラァ!1つは俺の分、もう1つはカミさんの分!!」

 

 

 

了解です!

軽快に揚げタコ作って、ナオミさんが箱に詰めて、ペパロニさんがソースとマヨネーズをなんだけど……ペパロニさん、『一発お願い』しても良いかなぁ?

 

 

 

「任せな!!」

 

 

 

私の『お願い』を聞いたペパロニさんは、ソースを塗ったタコ焼きに、マヨネーズを細口で出して何かを書いていく……うん、此れは良いね!

お待たせしました蝶野さん。

 

 

 

「箱の外からでもいい匂いがしてくるぜ……他の出し物なんざ如何でも良い!みぽりん率いる屋台村だけ見てりゃいいんだオラ!!」

 

「アハハ、そう言わずに色んな所を見てみてくださいね?大洗女子学園は戦車道だけじゃありませんから。」

 

「是非ともそうさせて貰うぜ……Wunderbar!最高だぜ!!」

 

 

 

思い切り文化祭を楽しんでください、そしてペパロニさんが行ったマヨネーズの一発に驚いてください――ペパロニさんは、ソースを塗った揚げタコにマヨネーズで『T-2000!Cho-no!』って書いてたからね。箱を開けたら驚くこと間違いなしだよ。

さて、行列はまだまだ続いてるから頑張らないとね!それにしても、普通だったらこの行列に悲鳴を上げる所なんだろうけど、忙しさよりも楽しさの方を感じるのは、文化祭だからだけじゃないよね。

 

 

 

「おぉ、隊長さん!よくぞ学園艦を取り戻してくれたね~~~?

 私の家って、曾おじいちゃんの代から学園艦でパン屋やってたんだけど、廃校になったって聞いた時、4代続いて来たお店も私の代で終わりかって思っちゃったのよ~~。陸で新しくお店始めるにしても、場所も何もなかったから途方に暮れていたの。

 だから、学園艦を取り戻してくれた事は心の底から感謝してるのよ。」

 

「いえ、私達はやるべき事をやっただけですから。

 其れよりも、ひょっとしてパン屋さんって学校に行く途中にあるあのお店ですか?毎朝、良い匂いがしてますよね~~♪」

 

「そうそう、あの店なの。あ、お礼に何かリクエストのパンが有れば作ってあげるわよ?菓子パンでもキャラパンでもなんでもござれ!」

 

「其れじゃあボコパン……じゃなくて、アンドリューとロンメルのパンを。」

 

「アンドリューとロンメル?隊長さんのペットか何かかしら?」

 

「此の子達です。」

 

『ガウ。』

 

『♪』

 

「虎と真っ白な九尾の狐!?

 え、何これマジで飼ってるの?って言うか、虎ってペットとして飼って良いモノだったっけか?……あ、でも隊長さんなら此れ位のモノを飼っててもおかしくないわね?寧ろ納得!!」

 

「いやいやいや、其処は納得しちゃダメでしょお姉さん!!」

 

 

 

「いやぁ、お嬢さん達、よく学園艦を取り返してくれたの?

 ワシみたいな年寄りは、ここを終の棲家にする心算じゃったからの……此れから如何しようかと思っとったが、お嬢さん達が学園艦を取り戻してくれたおかげで、ジジイ仲間でまた碁や麻雀を楽しむ事が出来るわい。」

 

「お爺ちゃん、碁は兎も角麻雀みたいな遊びは程々にしないとダメだよ?」

 

「ホッホッホ、元気な子じゃなぁ?なに、金は賭けん只の遊びじゃて。良けりゃお前さんも一緒にやってみるかの?」

 

「如何しようみぽりん、ナンパされちゃったよ!!」

 

「スッゴク失礼な事を承知で言わせて貰うけど、其れをナンパだって思える沙織さんってある意味で物凄い天才なんじゃないかって思うよ。」

 

「やだもー、褒めないでよみぽりん♪」

 

 

 

とまぁ、こんな感じでお客さんに学園艦を取り戻した事を感謝されたりしてるからだよね……勿論、それ以外の雑談なんかも忙しさよりも楽しさを感じる要因だと思うけど。

それにしても、沙織さんの此れはマジなのか天然なのか計算された上での事なのか読み切る事が出来ない……戦車道なら相手の考えは大体読む事が出来るんだけど、こればっかりは無理っぽいね。

 

で、こんな事をしながらも屋台は滞る事なく回ってるって言うんだから凄いよね……私の焼きの技術は勿論だけど、沙織さんも料理が得意なだけあって、手際が良いし、箱詰め→トッピング→お客さんに渡して精算の流れが滅茶苦茶スムーズに出来てるからね。

尚、箱詰めは砲手、トッピングは装填士、清算は操縦士が務めるって言う奇跡のシンクロ現象が起きていたのはちょっと驚きだったよ。

 

さてと、そろそろ休憩時間も近くなって来たから、お願いねアンドリュー?

 

 

 

『ガウ。』

 

 

 

アンドリューの背中に、『揚げタコ焼きの屋台、あと30分で休憩時間』のプラカードをセットして歩きに行って貰う。こうすれば、私達の屋台がドレくらいで休憩になるのかお客さんに知らせる事が出来るからね。

屋台村は夫々の屋台が時間をずらして休憩時間を取る事で、屋台村全体が休憩しない様にしてるから、各屋台とも休憩時間の30分前には夫々の方法で休憩時間の事を知らせてるんだけど、虎にやらせるのは揚げタコ屋台だけだろうね。

 

 

 

「みほさん。」

 

「あれ、愛里寿ちゃん!いらっしゃい。」

 

休憩時間まであと少しとなった所で来店したのは、大学選抜チームの隊長の愛里寿ちゃん――私が此れまで戦った戦車乗りの中で、お母さんと菊代さんを除けば、5本の指に入る戦車乗りにして、数少ないボコメイト!!(これ重要)

まさか、来てるとは思わなかったよ。

 

 

 

「うん……あのね、私は飛び級で大学に行ったから、高校生活って言うモノを体験した事が無いの。

 其れで、高校生活って言うのを体験したいと思って、色んな高校を回って、何処の高校に編入しようか決めてる最中で、その候補の一つとして大洗女子学園にも来てみた。

 文化祭の最中だったのは偶然だったけど。」

 

「そうなんだ?なら、大洗女子学園の魅力を一杯知って貰わないとだね?

 もう少しで休憩時間だから、少し待っててくれるかな?一緒に文化祭を見て回ろう?」

 

「え、良いの?」

 

「勿論だよ♪

 愛里寿ちゃんが大洗に来てくれたら私も嬉しいし、愛里寿ちゃんと一緒のチームで戦うのはきっと楽しいと思うし……何よりも、ボコについて熱く語る事が出来るボコメイトの存在は大事だと思うから。」

 

「そうだね、ボコメイトは大事だね。」

 

「大事だよね!と言う訳でペパロニさん、お願いします。」

 

「如何言う訳かは全く持って分からねーが、任せとけ!!」

 

 

 

どう言う訳か分からずとも、私の意図を察して、揚げタコにマヨネーズでボコを描いちゃうペパロニさんはとっても凄いと思います。冗談抜きでぺパロニさんはフードアーティストが出来るかも知れないね。

で、如何かな愛里寿ちゃん?

 

 

 

「ボコだぁ!!完璧だよ!!」

 

「其れは良かったよ♪熱いから気をつけて食べてね。」

 

「うん!」

 

 

 

アハハ、可愛いなぁ愛里寿ちゃんは……私に妹が居たらあんな感じだったのかも知れないね――まぁ、もしもそんな事になってたら、私もお姉ちゃんに負けず劣らずのシスコンになってたかも知れないけど。

シスコンって言うとアレな感じがするかも知れないけど、私の為に今年の大会では敢えて悪役に徹してくれたお姉ちゃんには感謝しかないんだけどね――お姉ちゃんが悪役に徹してくれたおかげで、お祖母ちゃんの西住流にノーを突きつけて、更にはお祖母ちゃんの考えを改める事が出来た訳だからね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

そんな訳で休憩時間!待たせちゃったね愛里寿ちゃん。

 

 

 

「ううん、熱々のタコ焼きを堪能してたからそんなに待たなかった。外はカリッ!中はジュワ!な揚げタコ焼きはとっても美味しかった。

 食感もさることながら、ソースとマヨネーズの相性が最高だった……是非とも秘伝のレシピを教えて欲しい感じ。家政婦さんに作って貰うから。」

 

「良いよ。

 そう言えば、この前のボコバーグって家政婦さんが作ってくれたの?島田家の家政婦さんは可成りの凄腕なんだね?」

 

「うん、井手上華絵って言うんだ。」

 

 

 

……はい?井手上ですと?

愛里寿ちゃん、つかぬ事を聞くけど、その家政婦さんって姉妹がいたりしないかな?

 

 

 

「え、どうして分かったのみほさん?

 双子の姉が居るって言ってた……名前は確か、井手上菊代さんだったかな?」

 

「……その人、うちの家政婦さんです。」

 

「……マジで?」

 

「マジ。本気と書いてマジとルビを振る位のマジ。」

 

まさかの展開に私も愛里寿ちゃんも驚きを隠せませんでした……と言うか、双子の姉妹で夫々別の流派に仕えてるって如何なんだろう?普通に考えたら有り得ない事だよね?

 

 

 

「華絵さんは現役時代聖グロだったって。」

 

「成程、そう来たか。」

 

菊代さんはお母さんが率いる黒森峰の副官、華絵さんが当時の聖グロを率いていた島田の小母様の副官だったと考えれば、此れも納得出来るってモンだね。

ねぇ愛里寿ちゃん、華絵さんは何時も着物なの?

 

 

 

「うぅん、華絵さんは古風なメイド服だよ……勘違いしないように言っておくと、アニメとかで使われてる色々とアレなメイド服じゃなくて中世のイギリスなんかで使われてた由緒正しきメイド服だから。」

 

「うん、其れは疑ってないよ。」

 

姉は和装、妹は洋装って、双子でも好みは違うって事なんだろうね。

そんなこんなで、休憩時間は愛里寿ちゃんと文化祭を回る事になったんだけど、愛里寿ちゃんと一緒に回るのは私だけじゃなくて、ナオミさん、ペパロニさん、ローズヒップさんの『マブダチーズ』(命名沙織さん)。

私以外は他校の生徒な上に、私も今年からの新参者だけど、愛里寿ちゃんに大洗の魅力をたっぷりと知って貰わないとね!!

 

そう言えば愛里寿ちゃん、愛里寿ちゃんは一人で此処に来たの?

 

 

 

「うぅん、お母様と一緒。

 お母様はみほさんのファンだから、来ないって言う選択肢はそもそも存在しないし。」

 

「島田流の家元が、西住流の次女のファンって、其れ良いのか?」

 

 

 

ペパロニさん、ナイス突っ込みです……島田流の家元が西住流の次女のファンだなんて、そんな事が世に出回ったら其れこそゴシップ誌の良いネタになるのは間違いないね。

でも、島田の小母様も来てるんだ……何だろう、根拠は無いけど途轍もなく嫌な予感がする――理論じゃない、隻腕の軍神の本能が、警鐘を鳴らしてるから、この予感は略確実に現実になると思って間違いないよ。

 

 

そして、私のこの予感が、学園祭の『戦車道エキシビジョンマッチ』で現実になるなんてね……マッタク持って戦車道の神様ってのは途轍もないドSなのかも知れないよ。

尤も、現実になった予想に、笑みを浮かべて居た私が居たのもまた事実だけどね……予想外だったけど、相手にとって不足なしだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer170『文化祭ウォーPart2:エキシビションです』

170話の節目に、来たね此れ!Byみほ        良いじゃない、燃えて来たわ!Byエリカ      へへ、燃えたろ?ですね!By小梅


Side:みほ

 

 

明光大付属中の青パンターチームが、愛里寿ちゃんと学園祭を回った訳なんだけど、楽しめたかな愛里寿ちゃん?――頭にお面を引っ掻け、手は金魚掬いで貰った金魚の袋を持ってる辺り、聞くまでもないと思うけどね。

 

 

 

「うん、凄く楽しかった。……だけど、メインイベントは此れからだよねみほさん?」

 

「勿論、メインイベントは此れからだよ。」

 

午後の部に、お母さんとの対決が待ってる訳だからね。

 

 

でもって、遂にその時がやって来て、今年の学園祭のメインイベントである戦車道の試合の時間になったんだけど……お母さん、そのチームってありなの!?

って言うか、お母さんが来るのは知ってたけど、菊代さんと菊代さんにそっくりな人……多分島田家の家政婦の華絵さん、島田の小母様に果ては秋山の小母様まで参戦するとか聞いてないんですけど!予想外なんですけど!!

 

 

 

「でしょうね、言ってないから。

 なのでみほ、貴女が考え得る最強のチームを組んで来なさい……其れまでは待ってあげるから、貴女の最強チームを編成して私を越えてみせなさい……私に体感させてみなさい、隻腕の軍神の力を。」

 

「お母さん……可成りの無茶振りだけど、そう言われたら、やるしかないよね!!」

 

私の考える最高のチーム……数も同じにするとなると、隊長車であるパンターの搭乗員は旧明光大のメンバー+沙織さんの『真・あんこうチーム』だね――優花里さん達でも良いけど、青パンターの力を最大限に引き出せるのは、今の時点ではこのメンバーだろうからね。

後は、梓ちゃんのウサギチーム、エリカさんのライガーチーム、小梅さんのオオワシチームが確定なんだけど、其れだとあと1輌足りないか……さてどのチームを入れようか?

いっその事短期転校組だけで即興の1チームを作るのもありかな……

 

 

 

「ならみほさん、私がみほさんのチームで参加する。」

 

「愛里寿ちゃん!?」

 

だけどここでまさかの愛里寿ちゃんの参戦表明!……此れは、まさかの西住&島田の親子対決実現って感じになって来たね?

お客さんの中には、マスコミ関係と思われる人も居るみたいだし、此れは今度の週刊戦車道で特集記事組まれる事になっちゃうかもだよ――何にしても、先ずはこのエキシビジョンを盛り上げないとね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer170

『文化祭ウォーPart2:エキシビションです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛里寿ちゃん、私のチームに参加するって言う事だったけど本当に良いの?と言うか、そもそもにして戦車はドレに乗るの?小母さまのブラックプリンスは有るけど、愛里寿ちゃんのセンチュリオンは無いよね?

そもそも、搭乗員は如何するの?

 

 

 

「搭乗員は、全国大会の時のみほさんのチームの人達にお願いしたいと思ってるんだけど、ダメかな?」

 

「優花里さん、華さん、麻子さん、愛里寿ちゃんの乗る戦車のクルーになって貰っても良いかな?戦車って1人で動かす事は出来ないモノだからお願いしたいんだけど。」

 

「西住殿、決断が早すぎやしませんかねぇ!?」

 

「時には素早い決断も大切な物ですよ、優花里さん。」

 

「確かに迅速な判断は必要と言えば必要だな。」

 

 

 

即決即断だよ……何よりも、ボコメイトの頼みを断ると言う選択肢はそもそも存在してないし、愛里寿ちゃんと同じチームで戦う機会なんて早々あるモノじゃないからね。

でもメンバーは良いとして、肝心の戦車は……大洗にあるのに乗ってみる?

 

 

 

「大丈夫、手配してあるから……来た。」

 

「来たって……アレは、センチュリオン!!」

 

 

 

「隊長~~、言われたとおり持って来たわよ~~!」

 

「逸見、ご苦労様。」

 

 

 

でもって、そのセンチュリオンを運転して来たのは、エリカさんのお姉さんで、2代目アールグレイさん!!……期せずして、この場にアールグレイの初代と2代目が揃う事になるとは思ってなかったよ。

だけど、此れで愛里寿ちゃんの戦車も来たから、エキシビションのチーム構築は出来たね!!……って、エリカさん、アールグレイさんが如何かしたの?

 

 

 

「大学選抜チームの隊長に戦車を届けに来るとか、相変わらず予想外の事やってくれるわね姉さん?しかも、微妙に美味しい役割だし!!

 って言うか、何で聖グロの制服で来てるのよ!!」

 

「そんなの、逸見カンナよりもアールグレイの方が有名だからよエリちゃん。……まさか、初代のアールグレイが居るとは思わなかったけどね。」

 

「姉さん、分かってるとは思うけど島田流の家元に変な事しないでよ?」

 

 

 

……成程、実の姉だけにまさかの登場に反応せずにはいられなかったって言う訳か……だけどエリカさん、その反応もアールグレイさんは予想してたと思うよ?

姉って言うのは、大抵の場合妹の考えてる事は丸分かりって言うからね。

 

 

 

「まほさんが貴女の考えは分かり切ってない件について。」

 

「其れについては黙秘権を行使させてもううよ。」

 

って言うか、お姉ちゃんが私の考えを読み切れないのは仕方ないよ……私とお姉ちゃんは姉妹仲は兎も角として、敵として対峙した場合の相性はお姉ちゃんからしたら最悪だからね。

何時だったか、戦車道の雑誌でこんな記事が載ってた……『西住みほと西住まほ、そしてダージリンは絶妙な三すくみ状態である。力押しのまほは、多彩な戦術を仕掛けてくるみほに勝てないが、みほの多彩な戦術は広い視野を持つダージリンには通じず、カタログスペック以上の力を出す事の出来ないダージリンは自力で勝るまほには勝てない――西住みほが聖グロに負けなかったのは、ダージリンの天敵とも言える逸見エリカが居たからだ』ってね。これは、まさしく真実を捉えたモノだと思うよ。

まぁ、其れは其れとして、此れでチームは完成!!学園祭のエキシビションとは言え、全力全壊で行くよ!!

 

 

 

「ふん、言われるまでもないわみほ!現役を退いた小母様達に、現役の力を見せてやりましょう!!」

 

「西住隊長、私達の力を全部出し切りましょうね!!」

 

「みほさん……フルパワー上等ですよね♪」

 

「や~ってやる、や~ってやる、や~ってやるぜ!い~やな、アイツをボコボコに~~♪」

 

 

 

……愛里寿ちゃんGJ!!

私の考え得る最強のチームは出来上がったから、後はお母さんと戦うだけ……経験ではお母さんに分があるだろうけど、勢いなら私達の方に分が有るから、一概にどっちが有利と言う事は出来ないけど、負ける気がしないなぁ?

子供の頃はお母さんにも菊代さんにも勝つ事は出来なかったけど、今の私はあの頃の私とは違うからね……お母さん、貴女の娘が『軍神』と称される理由を、身体で感じ取ってね!

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

さてと、お待たせしたねお母さん。私のチーム、編成して来たよ……此れが、私の考えた最強のチームって言う奴だよ♪

 

 

 

「あら、5輌だけで良いの?貴女達が使える戦車を全て使っても構わないのに……」

 

「ケイさんの言葉を借りるなら、『戦車道でフェアプレイの精神を忘れることなかれ』って言う所かな?

 確かに戦車道史に於いてレジェンドとも言われてる20年前の黒森峰、聖グロ、大洗の隊長が勢揃いしたチームを相手にするなら、使える戦車を全部使った方が良いに決まってるけど、幾らフラッグ戦ルールでもそんなのはフェアじゃないでしょ?

 其れに、此れは学園祭のエキシビションなんだから、試合其の物は真剣勝負だとしても、徹底したガチンコのセメント勝負じゃ見てる方だって面白くないから、同数の車輌数で戦うのがベターなんだよお母さん。」

 

「成程、『魅せる』要素も必要と言う事ですね……確かに、世界大会でのオープニングデモンストレーションなんかでは、観客を魅了する事も必要となるでしょうから、真剣勝負でありながらも魅せる要素と言うモノも無視してはいけないと言う訳ですね。」

 

「その通り!」

 

流石はお母さん、理解が早くて助かるよ。

 

お母さんがこっちも5輌の理由を理解してくれて良かった……理解してくれなかったら、チーム組み直さないとだったからね。

其れは其れとして、エキシビションマッチが行われるのは、大洗の戦車道が始動した直後に蝶野教官の提案で行われた模擬戦をやった場所。

林有り、平原あり、岩場ありの、戦車道には持って来いの場所だよ。

流石にこの場に客席を設置する事は出来ないから、お客さんは学園が設置した特設パブリックビューイングでの観戦になるんだけどね。

 

「まぁ、魅せる事が大事とは言っても、私って負けず嫌いだから……勝たせて貰うよお母さん。」

 

「お母様……今日こそ勝たせて貰います。」

 

「ふ、その意気やよし!よく吠えたわみほ!ならば、貴女の持てる全ての力を持って私達に挑んで来なさい……その全てを受け止めましょう。」

 

「愛里寿……えぇ、全力で来なさいな。」

 

「みほちゃんも愛里寿ちゃんもやる気十分ね……なら、オレも気合い入れねぇとだ。

 オイコラ優花里ぃ!お前も此処に居るんだろ!!車長じゃないとは言え、この場に居るならお前もオレをぶっ倒す心算で試合に臨めよオラ!」

 

「ひぃぃぃ……言われなくてもその心算でありますが、昔に戻ったお母さんはおっかないでありますよぉ!

 こんな事言ったら色々とアレですが、何でお父さんはお母さんに惚れたのか、その辺を一度キッチリと聞かせて欲しいモノであります、マジで!」

 

「あぁ?……一目惚れだって言ったぜ?

 ヘタレな淳五郎には、当時バリバリのスケ番で戦車女子だったオレが輝いて見えたんだと……正直な事言うと、容姿だけで言うならマッタク好みじゃなかったんだが、大洗の荒熊と恐れられてたアタシに告って来た根性は大したモンだった――ってか、その根性にオレが惚れた。」

 

「なんか色々と普通じゃ無かったであります秋山家ーーー!!!」

 

 

 

……あはは、優花里さんは色々とショックを受けてたみたいだけど、愛の形は人それぞれなんだようん――取り敢えず、優花里さんのお父さんとお母さんは、仲が良いみたいだから問題ないと思うしね。

で、軽く挨拶をした後は夫々のスタート地点に向かってる訳なんだけど……如何したの愛里寿ちゃん、難しい顔して?

 

 

 

「みほさん、お母様はきっと私の考えは略読み切ってると思うし、みほさんのお母様だってみほさんの考えをある程度は読んでると思う……其れを踏まえると、私達の方が不利にならないかな。」

 

「うん、其れを踏まえれば普通は私達の方が不利になるよね。」

 

だけど、そんな事は予想済みだから、既に手を考えてあるんだよ愛里寿ちゃん。――こんなのは如何かな?此れなら、お母さん達を驚かす事が出来ると思うんだ。

そして、其れだけじゃなくて観客の人達も楽しめそうでしょ?

 

 

 

「此れは……うん、此れなら確かにお母様達の裏をかく事が出来るかも知れない。……こんな事を思いつくなんて、やっぱりみほさんは凄い。」

 

「普通に考えると此れも結構なトンデモ作戦だけど、みほが提案すると只のトンデモ作戦じゃなくなるのが凄いわマジで……でも、こう来なくちゃ面白くないわ。

 レジェンドに、現役の力を見せてやろうじゃないの!!」

 

「レジェンド戦車乗りを、現役世代が倒す……燃える展開ですね!」

 

「西住隊長、私達の戦車道で、レジェンドチームを驚かせてあげましょう!!」

 

「勿論その心算だよ!……さて皆、気合の貯蔵は充分かな?エキシビション、テンションMAXで盛り上げていくよ~~~!!!」

 

「「「「おーーーーーー!!!」」」」

 

 

さて、基本の作戦は立てたし、皆の気合も充分!

普通に考えれば、飛び入りの愛里寿ちゃんの存在は、チーム戦では不利になる所なんだろうけど、この間の大学選抜戦で私も愛里寿ちゃんもお互いの戦い方をある程度理解してるから、初めてチームを組んだにしても巧くやれるって確信があるから問題はない。

とは言え、相手は20年前に『三強』と言われてたチームの隊長達……現役を退いたとは言え、油断は出来ないね。

 

そう言えば、今更だけど車長以外のメンバーは如何したんだろう?……現役の頃のメンバーを全部集めるのは現実的に無理があると思うんだけど、お母さんと島田の小母様ならやりかねないなぁ……此れについては、深く考えないようにした方が良いね、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:しほ

 

 

角谷さんから話を貰った時は正直どうしようかと思っていたのだけれど、今のみほの実力を肌で感じる事の出来る良い機会だと思って話を受けて正解だったわ。

千代や好子、菊代も乗ってくれたしね……まさか、菊代の双子の妹が千代の所で家政婦やってるとは思わなかったけど。

 

 

 

「其れでしほちゃん、如何戦う心算なのかしら?」

 

「撃てば必中、守りは堅く、進む姿に乱れなし。前進あるのみ――と行きたい所だけれど、此れは西住流のチームではないからそうは行かないでしょう……と言うか、其れな作戦で行ったら間違いなく瞬殺されるわ。

 みほは、西住の人間でありながら西住流の天敵とも言える戦車乗りでもある……全国大会の決勝戦で、其れを証明してしまったからね。」

 

「実の娘が流派の天敵って、普通は笑えねぇが、お前は其れを誇らしく思ってんだろしほ?ったく、天敵とか何とか言いながら顔が笑ってるぜ。」

 

「……好子、其れは言わないで頂戴。」

 

みほは西住流の天敵であると同時に、まほと共に真の西住流を開拓する子でもあるのだから、誇らしく思うのは当然の事よ――まぁ、其れは今は置いておいて、作戦だけれど……好子、貴女の現役時代の得意戦術で行こうと思ってるわ。

みほに西住流は通じないし、愛里寿ちゃんが居る以上は島田流でも読まれてしまう……でも、実績は残しても流派に属していなかった貴女の戦い方ならみほに読み切られる事も無いでしょうから。

 

 

 

「マジで言ってんのかしほ?

 オレの得意なのって、要は見つけた戦車には取り敢えず喧嘩売れって言う、戦術も何もあったもんじゃねぇ不良の喧嘩殺法だぜ?……初見で1~2輌は撃破出来るかも知れないが、直ぐにみほちゃんなら見切っちまうんじゃねぇのか?」

 

「でしょうね。

 でも1、2回通じれば其れで充分よ……いえ、最悪の場合撃破出来なくても、みほに貴女の喧嘩殺法を認識させる事が出来れば上出来と言えるわ。

 そうすれば、あの子に此方の切れるカードの枚数を1枚多く認識させる事が出来る……戦車長にとって、相手のカードが多いと言うのは厄介な事でしかないモノ。」

 

「其れで、みほちゃんの思考能力を鈍らせようと言うのね?……西住流の家元とは思えない戦い方だけど、其れって良いのかしらしほちゃん?」

 

「老獪と言いなさい千代。

 若く勢いに満ちた相手と戦う場合には、正攻法だけでなく、相手よりも豊富な人生経験を生かした揺さぶりも必要になって来るのよ……特にみほみたいな相手にはね。」

 

「成程な……だがよ、オレ等『老獪』って歳でもねぇだろ。全員40前だぞ?」

 

 

 

娘と比べれば充分におばさんでしょう……来年まではギリギリ『青年』の範囲内だけど、再来年からは『中年』だと言う事を認識しなさい。と言うか好子、貴女口調が昔のままよ?

 

 

 

「あぁ?此れはなぁ、20年ぶりに戦車に乗ってテンション上がっちまって元に戻らなくなっちまったんだよ!!

 試合が終われば直るんだろうが、試合中は無理だな――だがよ、戦車に乗ってる時はこっちの方がお前等もやり易いんじゃねぇか?」

 

「其れは、まぁ否定はしないわ。」

 

「好子ちゃんは、そのイメージだもの。」

 

「好子様は、破天荒な方でいらっしゃいましたからねぇ……」

 

「あのまま戦車道を続けて居れば、さぞや名選手として名を馳せたでしょうに……勿体ないモノです。」

 

 

 

其れは言ったらダメよ菊代……私と千代が流派の為に結婚して現役を引退したのが好子が戦車道から身を退いた理由なのだから――本音を言うのであれば、私も千代ももっと好子と戦車道を続けたかったのだけれど、流派のしがらみが其れを許してはくれなかった。

だから、今日こうして貴女と同じチームで戦えるのが嬉しいのよ好子。

20年前、私を苦しめてくれた貴女の力、今度は味方として頼りにさせて貰うわ。

 

 

 

「そう来たか……良いぜ、期待に応えてやるよ。精々みほちゃんを驚かせてやろうじゃねぇか!」

 

「ふふ、期待してるわよ好子。」

 

そう言えば千代、貴女大洗のスポンサーになるとか言っていたけど、その話って角谷さんにはしてあるのかしら?

 

 

 

「まだよ……そうね、彼女達が生徒会に居る間には伝えようと思ってるわ。」

 

「貴女ね……まぁ、何時伝えるかは貴女の自由だけれど、其れは相当に重要な事だから早めに伝えておきなさいよ?その提案を受け入れるなら受け入れるで、大洗側でも色々とやらなくてはならない事も有るのだからね。」

 

「えぇ、分かってるわよしほちゃん♪」

 

 

 

……千代、貴女このエキシビションが終わったら角谷さんに伝える心算ね――本当にサプライズが好きなんだから。現役時代も、私や好子にサプライズでの色んな事をしてくれたわ。

このサプライズには、流石の角谷さんでもびっくり仰天してしまう事は想像に難くないけれど、島田流の援助が得られるとなれば大洗としては嬉しい事だろうから、大洗のバックに島田流が付くのは略確定と見ていいでしょう。

まぁ、あのクソモノクルを滅殺した以上、文科省が大洗に二度と手を出す事は無いでしょうけれどね……大洗を敵にしたらどうなるのかは、あの場に居た誰もが理解したでしょうから。

 

そして、大洗が安泰となったからこそ、私とみほ、千代と愛里寿ちゃん、好子と優花里さんの親子対決も実現出来たのだしね。

 

ふふ、みほと戦うのは、あの子が車長専任免許を取得する為に猛勉強してた時以来だから5年ぶりね……その5年の間に貴女が得たモノ、貴女の戦車道を、この身で体感させて貰うわみほ。

遠慮なんて言うモノは必要ないから、全力で掛かって来なさい……隻腕の軍神!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

作戦会議を終えた両チームは、夫々のスタート地点にスタンバイし、試合開始の合図を待っていた……両チームとも、溢れ出す戦車乗りとしての闘気が凄まじい……分かり易く言えば攻撃力4500と言った所だろうか?

え、攻撃力5000じゃないのかって?攻撃力5000はアニメ限定であり、原作世界では基本攻撃力の最大値は4500だ!突っ込みは無視する。

 

……失礼、少々暴走してしまったが、みほチームもしほチームも其れ位に闘気がメガマックスでありギガマックスのテラマックスなのだ。

 

試合に先駆けて、先ずは両チームのオーダーを見てみよう。先ずはみほ率いる現役チーム。

 

 

 

パンターG型×1(西住みほ車/フラッグ車)

Ⅲ号戦車J型改(L型仕様)×1(澤梓車)

ティーガーⅡ×1(逸見エリカ車)

Ⅳ号戦車D型改(H型仕様)×1(赤星小梅車)

A41 センチュリオン×1(島田愛里寿車)

 

 

 

1輌だけドイツ戦車ではないセンチュリオンが目立ってしまうが、大洗の戦車はそもそもにして統一感が無いのだから、其処に突っ込むのは野暮と言うモノだろう。

其れにこのオーダーは、攻守速のバランスが非常に良いのだ。

Ⅲ号以外の4輌の主砲はパンチ力充分だし、ティーガーⅡ以外の4輌は機動力も充分にあるし、パンター、ティーガーⅡ、センチュリオンの3輌は防御面でも高い能力を誇るので正に隙なし。

敢えて弱点を上げるとすれば、性能で劣るⅢ号だろうが、其れの車長を務めているのはみほの一番弟子である梓だと言う事を考えるとⅢ号が弱点にはなり得ないだろう。

全国大会で、格上の重戦車を相討ちを含めて多数撃破した事からも、梓のⅢ号はカタログスペックを上回っているのは間違ないのだから。

 

そんな現役チームに対してしほ率いるレジェンドチームのオーダーはと言うと……

 

 

 

ティーガーⅠ×1(西住しほ車/フラッグ車)

ブラックプリンス歩兵戦車×1(島田千代車)

Ⅳ号戦車H型×1(秋山好子車)

パンターG型×1(井手上菊代車)

チャーチル歩兵戦車Mk.Ⅶ×1(井手上華絵車)

 

 

 

みほ率いる現役チームと比べると機動力を犠牲にして、火力と防御力に振り分けた編成と言えるだろう――一応、パンターとⅣ号には機動力が期待出来るかも知れないが、それ以外は機動力は期待できないと言うのが正直なところだ。

だが、其れでも戦車乗りとしての覇気では負けてないのは、流石はレジェンドと言う所なのか……

 

 

 

『其れでは、此れより大洗女子学園文化祭の、戦車道エキシビションマッチを開催したいと思います!!……其れでは、試合開始ぃ!!』

 

 

 

「Panzer Vor!!!」

 

「Panzer marsch!!」

 

 

 

ともあれ此処に戦いの火蓋は切って落とされた!!

最初にして最後の、盛大な親子喧嘩の幕が切って落とされたのだ――其れも、一家族だけでなく三家族の間で!!

結果がどうあれ、このエキシビションマッチが戦車道の歴史に名を刻むのは略間違い無いと見て良いだろう――こうして、大洗女子学園の文化祭最大の目玉であるエキシビションが開幕!!

この親子喧嘩、只では済まないのは間違いないだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer171『文化祭ウォーPart3:The Tank Battleです』

さぁて、盛り上げて行こうか!Byみほ        テンションマックス!上等よ!Byエリカ      作戦はガンガン行こうぜ!ですね!By小梅


Side:みほ

 

 

文化祭でのエキシビションマッチで、20年前の最強チームと戦う事になるとは夢にも思ってなかったけど、私だって考え得る最強のチームを結成したから負ける心算は毛頭ない。

そもそもにして、ボコメイトにして島田流の後継者である愛里寿ちゃんが同じチームなら、最悪の場合でも引き分けには持って行ける……西住流と島田流は、相反する戦い方の流派だけど、其れだけに同じチームになってギアが噛み合ったその時は、どんな相手が現れたとしても問答無用で鎧袖一触しちゃうだけの力を発揮するだろうからね。

 

 

 

「いや、其れは西住と島田が組んだ場合じゃなくて、貴女と愛里寿が組んだ場合でしょうに……西住流と島田流始まって以来の天才と称される貴女達が手を組んだチームとか、今の現役世代からしたら悪夢みたいなチームだわ。」

 

「悪夢……と言う事は私がジェイソンで――」

 

「私がフレディかな?」

 

「違うわよ!!

 だ~~れが、エルム街の悪夢で13日の金曜日だって言った!!それから、ジェイソンギミックのヒールレスラーに物申す!ジェイソンはチェーンソーじゃなくて鉈よ鉈!!鉈で脳天カチ割って虐殺するのがジェイソンなのよ!!」

 

 

 

……うん、エリカさんも絶好調みたいだから大丈夫だね♪

 

 

 

「アレの何処に大丈夫な要素が有るんですの?ちょっと、説明願いてーですわ。」

 

「ローズヒップ、其れは聞いちゃダメだ。」

 

「突っ込み不要だ、良いな分かったな?」

 

「釈然としねーですが、了解です事よ!!」

 

 

 

で、納得しちゃったよローズヒップさん。

でも、落ち着くなぁこの空気……この緊張の中に何とも言えない緩さがあるのが青パンターの特徴だったからね――思えばあんこうチームも大体こんな感じなんだよね……青パンターチームの特徴なのかも。

兎に角、相手は現役を引退したとは言え、20年前の戦車道の世界で名前を挙げた伝説の戦車乗りだけど、恐れずガンガン行こうぜ!だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer171

『文化祭ウォーPart3:The Tank Battleです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

試合開始の火蓋が切って落とされた大洗女子学園の文化祭での戦車道エキシビションマッチ――文化祭での出し物的なショーではなく、本気の戦車道バトルと言う事で、正門前に設置されたパブリックビューイングは既に超満員札止め状態だ。

 

 

「アイム、チョーノ!!

 フレー!フレー!みぽりん!!ガッデーム!みぽりんだけ見てりゃいいんだオラァ!!」

 

 

そうなれば、黒のカリスマが黙っている筈もなく、渾身の応援でみほ率いる現役チームにエールを飛ばす……もちろんレジェンドチームの事も応援しているが、黒のカリスマの本命は現役チーム。

若い力が勝ってこそ、戦車道の発展に繋がると考えているのだろう……その考えは間違いではないが、他の観客に威圧感を与えないように。

いや、大洗の人達は此れ位では怯まないだろうけど、耐性の無い他校の生徒とか、町外の人達とかビビるかも知れないので。

 

 

兎に角、先ずは両リームの陣形を見てみよう。

みほ率いる現役チームは梓を先頭に、その後ろに愛里寿、殿にみほを据え、2両目のセンチュリオンの両翼をエリカと小梅が護衛となった十字の陣形に対し、しほ率いるレジェンドチームは、しほのティーガーⅠを中心に他の4輌が両翼を展開する一文字の陣形になっていた。

十字の陣形はどの方向からの攻撃にも対応出来る陣形であり、突破力は低いが攻守のバランスのいい陣形で一方の一文字の陣形は多方向からの攻撃には対応しずらいモノの、横一直線に並んでいる事から正面突破の能力が高い攻撃型の陣形だ……先ずは、戦車隊の陣形でみほとしほの差が如実に出たと言えるだろう。

 

正攻法、裏技、搦め手何でもござれのみほに対して、しほは西住流ではないにしろあくまでも『攻め』の戦車道で戦うと言う事なのだろう。

 

 

「しかしまぁ、何だなしほ?

 オレ等は全員みほちゃんの戦いを実際にこの目で見てるんだが、みほちゃんはオレ達の戦いって見た事ねぇ訳だから、普通に考えっと情報アドの有るオレ等の方が有利な筈なんだが……みほちゃん相手だと、そうは行かねぇよな?」

 

「そうね、貴女の言う通りよ好子。

 事前の情報の有無はみほが相手の場合には残念ながらアドバンテージにはなり得ない……あの子の戦い方には、其れこそ『お前本当に流派の娘か?』と思う位に一貫性が無いのだから。

 いやぁ、此れはオフレコで頼みたいのだけど、車長専任免許を取った後で、みほがありとあらゆる戦術で西住流の門下生を悉く撃破して行った光景はある意味で爽快だったわ。」

 

「みほちゃんって、昔からやんちゃな所があったけれど、左腕を失ってからは其れに拍車がかかったかも知れないわね……ホント凄い子ね。

 そんなみほちゃんが、娘の愛里寿と同じチームを組んだと言う事は……しほちゃん、答えをお願い。」

 

「みほチームの戦車力は……53億ね。」

 

 

……何その絶望的な戦車力。

いや、しほはみほと愛里寿が同じチームに居る事で生まれる天才同士の化学反応がドレ位であるのかを言いたいのだろう……天才同士が組むと、逆にいい結果が出ないとも言われるが、其れは同じタイプの天才が組んでしまった場合だ。

だが、みほが感性の天才であるのなら、愛里寿は理性の天才と、同じ天才でも全く逆のタイプであるが故に、其れが融合して発生する化学反応は未知数なのだ。

 

そして、その化学反応は早速その力を発揮してくれたようだ。

 

 

「奥様、前方にティーガーⅡ!!」

 

「何ですって菊代!?」

 

「更に左方にⅣ号です!」

 

「華絵、其れは間違い無いのね?」

 

 

レジェンドチームの虚を突くように、正面にはティーガーⅡ、そして左方にはⅣ号の姿が……十字の陣形を展開したみほだったが、先手必勝を狙って、狂犬と懐刀を向かわせたのだろう。

正に奇襲だ。

 

 

「待ち伏せや搦め手を考えていたら、まさかの奇襲とは……やってくれるわねみほ。

 好子はⅣ号を、千代はティーガーⅡに攻撃!!」

 

「「了解!!」」

 

 

この奇襲に少しばかり焦ったモノの、其処は流石の西住流家元、すぐさま思考を切り替えて、突如現れたティーガーⅡとⅣ号への攻撃を下し、其れを聞いた千代と好子は即座に攻撃!!

その砲撃は寸分違わず目標に向かい……

 

 

 

――バガァァァァァァァァァン!!

 

 

 

着弾と共に目標を粉々に打ち砕いた。そりゃもう、清々しい位に。言ってしまえば木っ端微塵。ぶっちゃけるなら粉砕!玉砕!!大喝采!!!

 

 

「「「「「……はい?」」」」」

 

 

この光景にはレジェンドチームの全員の思考が一瞬停止した。

それはそうだろう、如何に主砲が的確に命中したと言っても、戦車が一撃で粉々になる事など有り得ないのだから……だが、だからこそ気付く事が出来た。

 

 

「此れは、精巧な偽物!!」

 

 

其れが偽物だったと言う事に。

 

 

「流石はお母さん、御名答!!これぞ、アンチョビさんが考案した作戦を更に進化させた究極形……マカロニ作戦ドライ!!」

 

「みほ!!」

 

 

其れと同時に、茂みからみほが飛び出し、本当の奇襲をかける。

そう、ティーガーⅡとⅣ号は偽物だったのだ……本物そっくりに作っただけの張りぼて――アンチョビが考えたマカロニ作戦をみほなりに昇華させて、簡単に組み立てられるようにパーツ分けした部材を組み立てる事でよりリアルなデコイを使った作戦だったのだ。

つまり、此れは二重の奇襲……十字の陣形で進行しながら、適当な場所にデコイを設置して、そのデコイで奇襲を錯覚させ、そのデコイを撃破させたところで間髪入れずに本命の奇襲をかけると言う、並の戦車乗りでは考えもつかない方法で攻撃して来たのだみほは。

 

 

「えへへ~~、驚いてくれたお母さん?」

 

「えぇ、驚いたわみほ……驚きすぎて心臓が口から飛び出してしまうかと思ったわ。――でも、此れはまだ序の口でしょう?

 遠慮はいらないわみほ。貴女の持てる力の全てを、隻腕の軍神の力を、私に味わわせてくれないかしら……此の一手には驚かされたけど、此の程度では私の腹は膨れないわ。

 もっともっと、貴女の戦車道を御馳走してくれるかしら。」

 

「うん、言われずともその心算だよ。」

 

 

聞きようによっては、何とも物騒な母と娘の会話だが、戦車道の母と娘なら此れ位普通である。普通なのである。異論はあっても全力で無視だ。

と言うか、戦うとなった以上母と娘などはマッタク持って関係ないのだ。

 

 

「……Glaubst du, du kannst mich gewinnen?(……勝てると思うの、私に?)」

 

「Ich glaube nicht ich gewinne!(思ってるんじゃなく、勝つんだよ。)」

 

「Das kleine Mädchen wird mir sagen……(小娘が……言ってくれるわ。)」

 

「Bist du bereit?Ich bin fertig ... lass uns gehen!!(覚悟は出来てる?私は出来てる……行くよ!)」

 

 

で、ドイツ語で言葉を交わした後で速攻オープンコンバット!!何故ドイツ語なのかって?其れは西住流がドイツ戦車を使う流派だからであると同時に、作者が何となく『ドイツ語ってカッコ良くね?』と思っているからである。

其れは兎も角、みほの奇襲から始まった戦車戦はとても激しい物となっていた。

 

 

「ハッ!相手の方から出て来てくれるたぁ、探す手間が省けたぜ!!喧嘩しようぜ、優花里ぃぃぃぃ!!」

 

「ひぃぃぃぃ!お母さんが、お母さんでないでありますよぉ!!」

 

「アラアラ、優花里さん、落ち着いて。」

 

「母親がいつもと違うとなれば驚くのは仕方ない……私だって、お母様が豹変したら驚くと思う。」

 

 

『喧嘩上等!』とばかりに、好子のⅣ号が愛里寿のセンチュリオンに襲い掛かったかと思えば、みほはエリカと、小梅は梓とのツーマンセルで、それぞれ、しほ&菊代タッグ、千代&華絵タッグと戦車戦を展開する乱戦状態!

其れでありながらも、互いにクリーンヒットがないだけでなく流れ弾での被弾もない、戦車戦が展開されてから、まだ誰も脱落していないのだから驚きである……此れは完全にみほの技と、しほの力が拮抗していると言う事なのだろう。

現役高校生最強と、西住流家元の実力は略互角と言うのだから、見てる側――特に戦車道の知識がある者からしたら相当の衝撃だろう。

言うなればこれは、高校レスリングの全国チャンピオンが、オリンピックの金メダリストと互角の戦いを繰り広げているのに等しいのだから。

 

そんな状況で先に動いたのはみほの方だった。

 

 

「エリカさん!!」

 

「任せなさい……いい歳して、な~にムキになってんのよおばさん!ムキになると気にしてる小じわが更に増えちゃうわよ……言うだけ無駄かも知れないけれど。

 ま、あんまり無理はしない方が良いと思うわよ?……明日、腰痛で動けなくなっても困るでしょう?」

 

 

みほはエリカを召喚すると、其処からエリカの毒舌挑発が炸裂。

流石はエリカ、毒を吐かせたら天才的と言うか、腕組んでドヤ顔で言ってるのがまた腹が立つ事この上ない……もしも相手がダージリンだったらティーカップが粉々になっていただろう。

だがしかし!!

 

 

「ほう、言ってくれんじゃねぇか小娘がよぉ?

 確かにオレたちゃ現役を引退したがなぁ、戦車乗りの魂は生きてんだ……コイツはムキになってんじゃねぇ、久々に戦車に乗って戦車乗りの血って奴が滾ってるだけよ!!

 其れになぁ、現役を引退したとは言え、マダマダテメェみたいなケツの青いガキに負けるほど衰えちゃいねぇ!」

 

 

エリカの挑発に好子がまさかのカウンター挑発!

妙齢の女性に対する禁句である『おばさん』を放ったエリカに対し、『小娘』『ケツの青いガキ』と言う挑発ワードでカウンター!現役時代はスケ番隊長であった彼女だからこその返し技と言えるだろう。

 

 

「高校生に向かって小娘ですって?まぁ、其れは兎も角高校生になってまで蒙古斑が残ってる奴なんていないわよ。そんな事も分からない?

 其れとも、そんな事も分からなくなる位にボケちゃったのかしら?……優花里も可哀想ね、まさか母親が40前で若年性認知症になっちゃっただなんて……その歳で入れる介護施設ってあったかしら?」

 

「あ?誰が若年性認知症だボケ。ケツの青いガキじゃなきゃくちばしの黄色いハナタレか?

 つかよ、ガキが粋がらねぇ方が良いぜぇ?……嘗て大洗の荒熊と言われたオレはよぉ、敵と認識した相手は徹底的にブッ飛ばさねぇと気が済まねぇもんだからよ!!」

 

「あら、気が合うわね?

 大洗の銀狼もとい、軍神の狂犬は敵と見た相手は見境なく喰い殺さないと気が済まないのよ。」

 

 

其れに押される事なくエリカが更に挑発返しをし、更に好子が煽る……荒熊と狂犬のボルテージが上がってるのは間違い無く、そうなると完全に嫌な予感しかしない。

と言うか、何かエリカの背後に銀の犬狼のオーラ、好子の背後に3m位のバケモノ熊のオーラが見えるんですが……大丈夫か此れ?

 

 

「上等だオラァ!誰に喧嘩売ったか教えたるわ!!!」

 

「えぇ、懇切丁寧に教えて貰おうじゃないの!!」

 

 

ハイ、大丈夫じゃなかった。

好子はターゲットをセンチュリオンからエリカのティーガーⅡに変更し、そのせいでセンチュリオンはフリーになるが、みほも愛里寿も其れをそのままにはしない。

 

 

「小梅さん、スイッチ!!」

 

「了解ですみほさん!」

 

「今度は私と宜しく、澤さん。」

 

「此方こそ、宜しくね愛里寿さん。」

 

 

すぐさまツーマンセルを組み直し、みほは小梅と、愛里寿は梓とのタッグとなり……

 

 

「勝負です、島田の小母様!」

 

「西住しほさん、一手お願いします。」

 

 

夫々の母親ではなく、みほチームは千代&華絵に、愛里寿チームはしほ&菊代タッグに戦車戦を仕掛けたのだ。

 

 

「な、みほちゃんが私の相手!?」

 

「まさか、そんな一手を切って来るとは……やりますね!」

 

 

此れにはしほと千代も完全に虚を突かれてしまった……其れはそうだろう、チーム構成的にみほも愛里寿も己の母親との直接対決を選択するだろうと思っていたのだから。

と言うか、試合を観戦している観客だって、西住流と島田流の親子対決になるだろうと、なる筈だと思い込んでいた――其処に、みほと愛里寿は楔を打ち込めると判断したのだ。みほは直感的に、愛里寿は理論的に。

感性の天才と理性の天才の化学反応は、二大流派の家元をも出し抜くだけのモノだったのだ。

 

だが、だからと言って簡単にやられるしほと千代ではない。

二大流派の家元と言う事だけあって、この状況にも努めて冷静に指示を出して戦車戦を展開するのは流石だろう……が、千代チームは少しずつだが、確実に被弾する数が増えて来た。

理由は簡単、みほチームと千代チームでは機動力に圧倒的な差があるからだ。

チャーチルもブラックプリンスもパンターの最高速度56kmに及ばないのは当然だが、Ⅳ号D型改(H型仕様)の最高速度38kmと比較しても大幅に劣っていると言う鈍足戦車なのだ。

その分装甲が分厚い訳だが、何度も被弾して居れば何れはその装甲も限界が来るだろう……そう、只虚を突くだけが目的ではなく、機動力の差を持ってして千代チームを先に撃破すると言う意図が、この組み合わせには隠されていたのだ。

 

 

「アラアラ、此処まで追い詰められたのってしほちゃんや好子ちゃんと戦った時以来かしら?……実際に戦ってみて、改めてみほちゃんのファンになっちゃったわ私♪」

 

「島田の小母様、其れって島田流家元として如何なんですか?」

 

「みほちゃん、島田流の人間が西住の次女のファンになってはいけないと、一体誰が決めたのかしら?」

 

「なんだか、何処かで聞いた事のあるセリフですね。」

 

「かもね。

 でもね、私は本気で貴女の事を気に入ってるのよみほちゃん……そう、貴女の戦車道が続けられるように大洗のスポンサーになろうかと思う位にはね。」

 

「はい?」

 

 

で、その戦いの中で、千代が爆弾投下!いや、其れはこのタイミングで言う事か?みほが一瞬呆気にとられたのも仕方ないだろう。

 

 

「だから、私みほちゃんの事気に入ってるし、大洗の戦車道も気に入っちゃったからスポンサーになろうかなぁって♪

 島田流がバックについてるとなれば、もしまた白神みたいな馬鹿で阿呆であんぽんたんのロクデナシなこの蟲野郎が現れても大洗に簡単に手出しは出来ないでしょうから。」

 

「其れは非常に有り難いのですが、其れって表沙汰になった絶対に戦車道雑誌にネタとして盛大に使われますよ?『衝撃!島田流家元が、西住流の次女が隊長を務める大洗を援助』ってな具合に。」

 

「あら、其れも良いわね?

 そうなったら、一緒にワイドショーにでも出てみようかしらみほちゃん?」

 

「勘弁してください……寧ろ、そう言う輩は島田の権力で押さえつけて下さいよ……」

 

「善処するわ♪」

 

 

だが、だからと言って戦闘が滞るなんて事は無く、こんな会話をしながらも確りと戦闘は継続されているのだから、この人達の並列思考能力は我々では想像もつかないレベルであるのかも知れない。

ともあれ、此のまま戦闘を続ければみほチームが押し切れるわけだが、そうは簡単に問屋が卸さないのが勝負の世界だ。

 

 

「小梅、避けなさい!!」

 

「華絵、逃げろ!!」

 

「へ?」

 

「はい?」

 

 

何と此の土壇場で、戦車戦もとい、狂犬と荒熊の喰うか喰われるかの喧嘩を繰り広げていたエリカと好子がこの戦闘区域に突貫ぶちかまして、しめし合わせたかのように、エリカのティーガーⅡは華絵のチャーチルに、好子のⅣH型は小梅のⅣ号D型改(H型仕様)に向かっているのだ。

弩派手な喧嘩の最中に、此方に来てしまったのだが勢い余ってと言う所なのだろうが、行き成りの事に小梅も華絵も一瞬反応が遅れ、回避行動が僅かに遅れてしまった。

その結果……

 

 

 

――ドガシャァァァァァァァァァン!!

 

――キュポン!!×4

 

 

 

『みほチーム、ティーガーⅡ、Ⅳ号、行動不能。しほチーム、チャーチル、Ⅳ号、行動不能。』

 

 

見事に4輌纏めて白旗判定に!

まさかの試合の初撃破が4輌同時で、其れが被弾ではなく戦車の激突によるモノだと言うのは戦車道の歴史を紐解いても早々ある事ではないと言って良いだろう……と言うか、先ず有り得ない事だ。

 

 

「島田の小母様、一言でこの状況を言ってみてください。」

 

「ブラックホールにチェーンして、私とみほちゃんだけ除外されて難を逃れたと言った所かしら……ともあれ、本番は此処からね?」

 

「ですね……お母さんの前に、隻腕の軍神の力味わってもらいますよ島田の小母様!!」

 

 

現役チームとレジェンドチームは共に一気に2輌の戦車を失ったが、共にフラッグ車は健在である以上、試合はまだ終わってはいない。否、クライマックスは此れからだと言って良いだろう。

何故なら、みほの闘気が爆発したのだから。

 

 

「我は戦車を極めし者……うぬが無力さ、其の身をもって知るが良い。」

 

「ちょ、なんかみぽりんがオカシイよ!?」

 

「あ~~……殺意の戦車道に目覚めちまったかこりゃ?」

 

「そうみたいだけど大丈夫じゃない?

 みほなら、殺意の戦車道に目覚めても其の力を完全にコントロール出来るから暴走する事だけは無いわ……寧ろ、此れだけの力を自在に使う事が出来るのは頼りになるわよ。」

 

「……滅殺!!」

 

「……此れで暴走してないの?」

 

「お~~~っほっほ、問題ねーですわ沙織さん!

 殺意の戦車道に目覚めたみほさんは、此れ位が平常運転なので暴走なんかとはマッタク持って縁がねーんですのよ!寧ろ、此れくれーの方がつえーですのよみほさんは!!」

 

「そうなの!?……ちょっと怪しいけど、中学時代からの親友が言うのなら間違いないかもね。」

 

 

少しばかりみほが戦車道の暗黒面の力を発揮したようだが、みほは其れを使いこなせているので大丈夫だろう……少なくとも、理性を完全に飛ばしてしまった『暴走エリカ』よりは安心できる筈だ。

まぁ、みほの目を見る限り理性は残っているので大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:愛里寿

 

 

逸見の妹さんが秋山好子さんとの挑発合戦の末にタイマン状態になったのを見て、咄嗟にみほさんは小梅さんと組み、私は澤さんとのタッグを組む事を決めたんだけど……澤さんは大洗の副隊長と言うだけあって凄い人だった。

私が大学選抜の隊長と言う事で、指揮権を私に全て譲ってくれたけれど、澤さんは私の指示を100%……うぅん、それ以上に熟してくれる。

だからとてもやり易い……みほさんが、彼女を副隊長にした理由が良く分かった。

 

「澤さん……先ずはパンターを撃破する。

 そしてパンターを撃破したらみほさんと合流して、3対2の状況でお母様達に挑む……きっとみほさんも、その状況を最低条件として考えている筈だから。」

 

「なら、その最低条件は満たさないと弟子失格だね……OK、しほ小母様に一発かましてやろう愛里寿さん!」

 

「うん、勿論その心算。」

 

 

「二人とも良い目をしているわね……その意気やよし、思い切りかかって来なさい!西住流に逃げると言う選択肢は存在しないから、貴女達の本気に、私も本気で応えましょう。」

 

 

 

……そう来なくては面白くない。

ならば見て貰うとしようか、島田流の跡取りにして大学選抜の隊長、そしてみほさんのボコメイトの実力と言うモノを……ボコメイトはボコメイトの為ならば無限の力を発揮出来るからね。

 

 

 

「あはは……気合が充実だね。

 其れじゃあ、愛里寿さん……元気の出るやつ一発お願い!!」

 

「敵戦車を……撃破せよ。やってやる、やってやる、や~ってやるぜ!!」

 

「了解!!」

 

 

 

私の戦車道を、味わって貰う……そして、みほさんが合流したその時に、私達の勝利は略確定する――みほさんが率いるチームは、余程の相性の悪さがない限り負けるなんて言うのは想像も出来ないからね。

さてと、学園祭の出し物でもある戦いだから、魅せる要素も大事になる……なら、其れも考慮して劇的な幕切れになるように演出する必要があるね――まぁ、その辺は私の担当領域だから上手くやらないとだね。

何にしても、本気で行くから、甘く見てると痛い目を見る、其れだけだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer172『文化祭ウォーFinal:Panzer Strikeです』

戦車道とは燃えて然り!Byみほ        燃えろ!燃えまくれ!燃え尽きろ!!Byエリカ      戦車道の燃焼温度は3000度!By小梅


Side:みほ

 

 

文化祭のエキシビションは、エリカさんと好子小母さまが盛大に毒舌合戦を繰り広げた挙げ句に、小梅さんと華絵さんを巻き込んで爆破炎上の白旗判定になったけど、互いにフラッグ車は健在だからまだ勝負はついてない。

そして、私の相手は島田の小母様――愛里寿ちゃんの方はお母さんと対峙してるから島田の小母様は私が抑えないとだね――今更ですが島田の小母様、覚悟は宜しいですね?覚悟完了してますね?完了してなかったら今すぐ完了して下さい!

 

 

 

「勿論覚悟完了よみほちゃん……貴女の戦車道を、私の身体に刻み込んでくれるかしら?」

 

「島田流の家元的にはその発言は如何なモノかと思いますが、貴女が其れを望むのであれば、私の戦車道を貴女に刻み込みましょう――とは言っても、私の戦車道はとても激しいので戦車から振り落とされないように注意してくださいね?」

 

「ふふ、其れ位激しい戦車道を望んでいるわ……そうでなくてはみほちゃんの戦車道を受け止める事なんて出来ないモノ♪」

 

 

 

そう来ましたか……なら、その覚悟には全力で応えさせて貰いますよ島田の小母様!――ナオミさん、青子さん、つぼみさん、手加減無用のフルスロットルで行くよ!

 

 

 

「おうよ!上等だオラァ!ぶっ殺してやんぜ!!全力でカチコミ掛けんぞテメェ等!!」

 

「相手にとって不足なし……目標を狙い撃つ。そして、穿ち貫くわ!!」

 

「お~~っほっほ!初代アールグレイ様が相手でも容赦なんざしてやらね―事ですわ!!

 寧ろ、ぎったんぎったんの返り討ちにして、新世代の強さとか凄さとかその他諸々を分からせてやってやりますですのよ!」

 

「みぽりん、つぼみさんが何を言ってるのか若干分からない。誰か通訳して。」

 

 

 

其れは、気にしたら負けだよ沙織さん――つぼみさんはアレで良いんだから寧ろ突っ込んじゃ駄目……其れに、私には何を言わんとしてるのかってのが大体分かるから無問題だよ。

 

 

 

「……分かるの?」

 

「うん。」

 

「みぽりん、其れなんて超人!?」

 

 

 

……パーフェクト超人かな?

まぁ、それはさておき、島田流の家元とガチンコ対決する事なんて滅多にない事だから、今は此の試合を楽しまないとだね――何よりも、私の戦車道人生において、此れだけの試合が出来る事なんて滅多にない事だろうからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer172

『文化祭ウォーFinal:Panzer Strikeです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

エキシビションは、みほと愛里寿の策略が功を奏し、みほvs千代、愛里寿&梓vsしほ&菊代と言う番面になっていた――正に何方が勝ってもオカシクない状況だ。

そんな中でも特に目を引くのがみほと千代の戦いだろう。

現島田流の家元である千代と、素人同然の隊員を率いて全国制覇を成し遂げ、更には大学選抜すら退けた稀代の名将とも言われているみほの直接対決ともなれば興奮するなと言うのが無理と言うモノだ。

 

 

「ガッデーム!!

 みぽりんと千代さんの直接対決だぁ?――盛り上げてくれるじゃねぇか!!最高だぜ!!」

 

「いいぞ~~!やっちゃいなさいみほちゃん!」

 

 

その証拠に、観客席では黒のカリスマが上機嫌で応援中!!その迫力たるやハンパない……まぁ、其れだけ黒のカリスマが興奮する試合展開だと言う事なのだろう。

……その隣でノリノリで応援している二代目アールグレイこと逸見カンナには彼是言うのはきっと間違いなのだろう……間違いな筈だ、言った所でスルーされるのは目に見えているし……突っ込みが徒労に終わるのは避けたいのである。

 

 

さて、そのみほと千代の戦車戦だが……

 

 

「当たらないわね……流石は最高クラスの機動力を持つパンターだわ。」

 

「パンターの超長砲身75mmでも決定打を与えらえない……チャーチル以上の分厚い装甲は伊達じゃないね。」

 

 

砲撃を当てられない千代と、決定打を与えられないみほと言う図式になっていたのだが、此れは正に双方が乗る戦車の性能ゆえの事だと言えるだろう。

パンターは攻守速を高い水準で纏めた最強クラスの中戦車であり弱点の様な物は略存在せず、特に機動力に関しては同時期の中戦車と比較しても最速の時速56kmを誇る快速だ――其れをみほが指揮し、つぼみが操縦するとなれば大概の攻撃は回避可能!回避力255だ。

それ故にブラックプリンスの砲撃はパンターに掠りもしないのだ。

が、逆にブラックプリンスは機動力こそドンガメレベルだが、防御力に関してはチャーチルをも上回る分厚い装甲を有している事で正に堅牢!どれだけ堅いかと言えば、『守備力3000のモンスター5体並べて、その内の1体に結束3枚発動して守備力集中させたぞオラァ!』ってな感じだ。

その防御力は『耐えられる攻撃ならば避ける必要はない』と言う、どこぞの白い魔王の脳筋理論を思わせるレベルであるが、実際にブラックプリンスには、パンターの超長砲身75mmですら決定打になっていないのだから恐ろしいだろう。

 

 

「ちぃ、ヤッパリ固いわねブラックプリンスは……」

 

「エリカさんが健在だったら一発カチ食らわす事も出来たんだけど……」

 

 

撃破出来ない事に、ナオミも苛立つが其れも仕方ない――中学時代はみほ車の砲撃手として狙った獲物は100%撃破して来たナオミ的に命中しているのに倒せないと言うのはイラつく事この上ないだろう。如何に分厚い装甲でも何度も被弾してれば何れは撃破出来るとは言っても、時間が掛かればどうしてもイラつくのは仕方ない。

みほもみほで、エリカが健在ならばと考えてしまう辺りブラックプリンスには手を焼いていると言う事なのだろう――確かにエリカが健在であったのならば、ティーガーⅡの最強の超長砲身88mmでブラックプリンスの装甲を抜く事が出来たかも知れないのだから。……ドイツのアハトアハトは素晴らしいな大好きだ。

だがしかし、そのエリカは秋山好子と共に井手上華絵と小梅を巻き込んでデッドエンド(死んでないけど)してしまったのだから、無い物強請りは出来ないだろう――其れだけに、此のままでは持久戦になるのだが、そんな一手を選ばないのが隻腕の軍神だ。

 

 

「(真面に戦ってもブラックプリンスを抜くのは難しい……だったら!!)

 ナオミさん、1時の方向の地面を撃って!そしてつぼみさん、ナオミさんが撃ったらそっちに向かって猛ダッシュ!青子さんは何時でも次弾が撃てるように速攻で装填して!!」

 

「へ、如何したのみぽりん!?」

 

「みほ……ブラックプリンス攻略の糸口を見つけたのね?……了解したわ!」

 

「お任せあれですわみほさん!リミッター解除でやっちまいます事ですのよ~~!!ご覚悟なさいませブラックプリンス……ぶち殺して差し上げますわよ!!」

 

「つぼみが聖グロに行ったのはぜってー間違いだった気がするんだが、このキャラはこのキャラでおもしれーから問題ねーか♪」

 

「お~~ッホッホ、褒めても何も出ませんわよ青子さん!!」

 

「つぼみさん、此れ多分褒めてないから。」

 

 

即座に何かを思いついて隊員に指令を下して行く……沙織が若干突っ込みとして頑張っている気がしなくもないが、此のメンバーにはそもそも突っ込むのが徒労であり間違いなので沙織お疲れである。

まぁ、其れは其れとしてみほが思いついた以上、その作戦が普通である筈がない。

 

 

「吉良ナオミ、目標を狙い撃つわ!」

 

 

まずはナオミが言われたとおりの場所に砲撃を撃ち込んで土を巻き上げ一時的に大量の土煙が発生!

 

 

「此れもどうぞ!!」

 

 

更にみほがお得意の発煙筒スモークをブチかまし、土煙とスモークで千代の視界を完全にシャットアウト!裏技、搦め手はみほの得意技なのだ。

 

 

「完全に視界が塞がれた……!」

 

 

この戦術を知ってはいた千代だが、試合を観戦していて見るのと実際に喰らうのでは矢張り差が大きかったらしく、視界を塞がれた事で完全に指示が滞ってしまった。

だが、その思考停止は命取り!

 

 

――コン……

 

 

「え?」

 

「島田の小母様、取りましたよ。」

 

 

何かがブラックプリンスに当たった音がしたので、そちらを向くと、ブラックプリンスの回転砲塔と車体の隙間に主砲を押し当てたパンターと、キューポラから身を乗り出して不敵な笑みを浮かべるみほの姿が!

 

そう、みほのパンターはブラックプリンスの視界を奪うと同時に土煙とスモークの中を爆走し、ブラックプリンスに最接近したのだ――爆走する音で気付かれる可能性もあったが、直ぐ近くで愛里寿&梓組がしほ&菊代組と戦車戦を展開している事で発生する轟音がエンジン音をある程度掻き消してくれたお陰で気付かれずに接近出来たのだ。

 

 

「み、みほちゃん……!」

 

「島田の小母様……Go to Heaven!」

 

 

そしてそのまま砲塔と車体の隙間に主砲を発射!ゼロ距離発射!!

如何に分厚い装甲を誇るブラックプリンスとは言え、最も装甲の薄い場所をゼロ距離で攻撃されたら堪ったモノではない。と言うか、此の場所にゼロ距離からパンターの主砲ブチかまされたら殆どの戦車は一溜りもないだろう。……P1500モンスターの様な計画倒れの化け物戦車が相手の場合は分からないが。

ともあれ、的確に弱点を撃ち抜いたとなれば当然……

 

 

――キュポン!

 

 

『ブラックプリンス、行動不能!』

 

 

行動不能の白旗判定に!

隻腕の軍神と島田流家元の戦いは、隻腕の軍神に軍配が上がった様だ――まずは、一発目の世代交代成功と言った所だろう。

 

 

「ふぅ……負けちゃったか。――見事だったわみほちゃん。隻腕の軍神の力、堪能させて貰ったわ。」

 

「島田の小母様……私もとても楽しかったです。島田流の真髄、堪能させて頂きました。」

 

 

だが、負けた千代に悔しさは感じられない……悔しさよりも、新たな世代を担う者と全力の戦車道を出来た事に対しての満足感が大きいようにも感じられる程の清々しい表情だ。

みほの戦車道は、島田流の家元をも完全に魅了してしまうモノだったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

みほと千代が激戦を繰り広げて居たのと同じ頃、愛里寿&梓vsしほ&菊代の戦いも佳境に入っていた。

戦車の総合性能で言うのであればセンチュリオンとⅢ号の愛里寿チームとティーガーⅠとパンターのしほチームに総合的な性能差は存在しないので、此れはストレートに戦車乗りの能力が問われるのだが……

 

 

「澤さん、右に警戒して。」

 

「了解!……く、流石は家元、ハンパないわ!!」

 

「思った以上に喰らい付いて来るわね……流石はちよきちの愛娘とみほの愛弟子と言った所かしら?……と言うか、何で初めて組んだのにあんなに連携取れてるのかしら?」

 

「天才が組んだ事に依る一種の化学反応ではないですか奥様?」

 

 

愛里寿&梓組が若干押され気味ではあるモノの、略互角の展開となっていた。

だが、しほ&菊代組が若干優勢だったのは、タッグとしての年季があるからに過ぎない――ブランクがあるとは言え、しほと菊代は現役時代はずっと組んでいた名コンビであるのだから連携に隙が無いのだ。

其れに対し、愛里寿と梓はコンビを組むのが此れが初めててある為、連携にしても殆どその場のアドリブの付け焼刃なので、如何したって差が生じてしまうのだ……其れでも、喰らい付いている愛里寿と梓はハンパないのだろう。

菊代の言うように愛里寿は若干13歳で飛び級で大学入って大学選抜の隊長やっちゃうような稀代の天才児であるし、梓も戦車道を始めたのは中学からであるにも関わらず僅か1年で小学生の頃からの経験者をごぼう抜きにし、更にはみほの才能による所が大きかった明光大付属中のドクトリンをマニュアル化してしまった一種の天才なのだ――天才×天才の化学反応が、レジェンドとも言えるコンビに喰らいつく事が出来ていたのである。

 

とは言え、僅かとは言え差があるのであれば何れは其れが大きくなり、愛里寿&梓組が瓦解するのは目に見えているのだが――

 

 

「此のままじゃやられる……如何すれば。」

 

 

――クイ……

 

 

「紗希、如何したの?」

 

 

此処でウサギチームの寡黙な少女、丸山紗希が梓の袖を引っ張った!其れはつまり、何か言いたい事があると言う事!でもって、紗希ちゃんが何かを言う時は大抵状況を打開する何かがあった場合なのだ!

原作全12話、OVA12話、アンツィオ戦、劇場版、最終章2話分の計28話で合計セリフ3つを舐めんな!!

 

 

「……隊長。」

 

「え?」

 

 

そんな紗季が指さした先には……

 

 

「殺~ってやる!殺~ってやる!!殺~~~ってやるぜ!い~やなあいつをフ~ルボ~ッコ!!」

 

 

キューポラから身を乗り出すどころか、キューポラに右足を乗っけて、パンツァージャケットの上着を肩に引っ掛け、右腕を腕を組んだ形みたいにして、若干と言うか可成り物騒なアレンジを加えたボコのテーマを高らかに歌うみほの姿が!!

千代を撃破したみほは、その勢いのままこっちの戦車戦に参戦して来たのである!!つーか、みぽりんテンション高いなオイ!!!

 

 

「西住隊長!!」

 

「みほさん!!」

 

 

だがしかし、不利な状況にあった愛里寿&梓組にとってみほの加入は有り難い事だ――この状況であっても、みほが加わってくれれば数の上で優位に立てる上に、チームの年季の差を埋める事も出来るかも知れないのだから。

 

 

「愛里寿ちゃん、梓ちゃんお待たせ!」

 

「西住隊長、お待ちしてました!!」

 

「こっちに来たって言う事は、お母様を倒したって言う事だよね?……みほさん、凄い!!」

 

 

「みほ……ちよきちを倒すとは!って言うか、撃破判定聞いた菊代!?」

 

「すみません奥様、試合に夢中になっていて完全に聞き逃していました!」

 

 

みほの加入は愛里寿と梓にとっては朗報であるが、しほと菊代からしたら悪夢と言えるだろう――撃破判定アナウンスを聞き逃すのは試合に集中していたとは言え如何なモノかと思わなくもないが、みほが此方に来たと言うのは千代を撃破したと言う事に他ならないのだから。

そもそもにして現役JK戦車乗りが島田流の家元を下すとか、普通だったら有り得ない事なのだから、しほと菊代が驚くのも仕方ない――幾らなんでも、みほが千代を撃破するとは思ってなかったのだから。

しほも菊代も、何処かでまたスイッチが行われると思っていた――が、スイッチは行われずにみほが千代を撃破したのだ……此れは正に100メガショック!100ギガデストロイだ!!

 

 

「愛里寿ちゃん、梓ちゃん……一気にぶちかますよ!!」

 

「西住隊長……了解です!」

 

「みほさん……分かった!!」

 

 

そして、みほが加わりみほ&愛里寿&梓チームにメガシンカしたこのチームはガチで強い事この上ない――天才×天才の化学反応に、更に『超天才』が乗算で加わったのだからその化学反応は無限の可能性だ!!

こうなっては、しほと菊代のコンビの年季は最早通じないだろう……だって、みほには戦車道の常識なんてものは一切合切通じないのだから。

みほの前では経験の差も年季の違いも『何それ美味しいの?』状態になってしまうのだ……稀代の才能を持ったみほだが、左腕を失った時から続けていた努力によって研磨された才能は、常人では触れる事も出来ないレベルの力を有してしまったのだから。

なので――

 

 

「はい此処で必殺スモークフラッシュ!!」

 

「更にマジックカード『倒木の呪い』!!」

 

「続いてトラップカード『落とし穴』!!」

 

 

裏技搦め手上等のみほ流の戦車道が惜しむ事なく全開炸裂したのだが、此れはしほと菊代にとっては戦々恐々の戦い方だった――映像で見るのと実際に目にするのでは異なると言う事をしほと菊代は其の身をもって知る事になった訳である。

 

 

「く……対抗策が!!菊代!!」

 

「すみません奥様……対抗策、思いつきません!!」

 

 

みほ流の戦車道に嵌められたしほは何とかしようとするが、矢継ぎ早に炸裂される搦め手に対抗策が追い付かず、遂には菊代さんまで対抗策を講じる事が出来ずに落とし穴にはまってダウン!

白旗判定にこそなっていないが、戦線復帰はほぼ絶望的な状況だ。

 

 

「お母さん、此れで終わりだよ。」

 

「此れでお終いです、西住の小母様。」

 

「私達の勝ち、ですね?」

 

 

そして、その隙を見逃さずに、みほと愛里寿と梓はしほのティーガーⅠを完全包囲!!!――其れこそ、逃げ場はないレベルでの完全包囲だ。

次の瞬間――

 

 

――バガァァァァァァァァァン!!

 

 

――キュポン!

 

 

『ティーガーⅠ、フラッグ車行動不能!よって此の試合、大洗女子学園の勝利です!』

 

 

3つの主砲が火を噴いてレジェンドチームのフラッグ車であるティーガーⅠを粉砕!玉砕!!大喝采!!――同時に其れは、大洗女子学園がレジェンドを下して最強チームになった事の証でもあった。

 

 

「ガッデーム!良い試合だったぞオラァ!!」

 

 

……取り敢えず少し黙っててくれ観客の黒のカリスマよ。

だがしかし、彼が興奮するのも当然であるかもしれない――だってこの試合は年間ベストバウトにノミネートされてもおかしくない試合だったのだから。

 

 

「みほ……見事だったわ。」

 

「お母さん……今回は、私の勝ちだね!!」

 

 

試合が終われば後はもう仲間だ!みほもしほも仲間なのだ!!――そして何よりも、戦車乗りとして仲間と言うのを蔑ろにするのは絶対ダメであると言っておく!

ともあれ学園祭のエキシビションは、新生代がレジェンド世代を返り討ちにしたと言う事で話題になるのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

初日のエキシビションは大盛り上がりで幕を閉じ、文化祭も大盛況だったね!

さてと、楽しかった文化祭も2日目でそろそろお終いか……愛里寿ちゃん、楽しむ事できたかな?――ほんの少しでも大洗に触れて楽しんでくれたのなら、この学校にとっても嬉しい事だったよ。

 

 

 

「うん、とても楽しかったよ!」

 

「なら良かったよ愛里寿ちゃん……時に愛里寿ちゃん編入先は如何する心算なのかな?……大洗女子学園に来てみる?」

 

「其れも良いと思ったけど、みほさんとは共闘するよりも真正面から戦った方が面白いと思った……だから、私は大洗女子校には編入しないで別の場所を探す事にするよ。

 みほさんとは、一緒のチームで戦うよりも共に切磋琢磨するライバル関係で居たいから。」

 

「そっか、少し寂しいけど、そう言う事なら仕方ないね。」

 

 

 

だけど、愛里寿ちゃんに大洗女子学園に来るかって聞いたら答えはNoだった……でも、その理由がまた私と戦いたかっただからって言うのは驚きだったけれどね。

でも、そう言う事なら仕方ないよ――愛里寿ちゃん、また戦おうね?

 

 

 

「うん、約束。」

 

「約束だね……嘘ついたら、ボコ1000体飲ます!!」

 

「指切った!!」

 

 

 

愛里寿ちゃんとは約束の指切りをして、此れで丸く収まると思ったんだけど――

 

 

 

「そんな、島田愛里寿はウチに来てくれないのか!?――しかも原因は西住とライバル関係で居たいからだと!?

 ……ふざけるなぁぁ!そんな事で納得できるかぁ!!

 つまりは西住、お前が居るからこそ島田愛里寿は大洗には来てくれないと言う事になる――ならば、西住!お前が転校しろ!!!」

 

 

 

此処で、桃ちゃん先輩が盛大な一撃をかましてくれたね……愛里寿ちゃん欲しさに私に転校を促すとか、頭が悪いにも程があると思うんだけどマサカこんな事を言ってくるとは思わなかったよ。

まぁ、このセリフ自体は毎度御馴染の、『その場の勢いで後先考えずに口を突いて出た言葉』だろうから私は別に気にしないけど、私以外の人が聞いたら黙って無いんじゃないかな?特にエリカさんとか小梅さんとか梓ちゃんとか優花里さんとか黒のカリスマとか。

最早後悔しても後の祭りかもしれませんが、自分の言った事には責任を持った方が良いですよ河嶋先輩――大洗女子学園の新聞部は、可成りのパパラッチみたいだから、何処で聞き耳立ててるか分かったモノじゃないので……下手したら速攻で『文春砲』ならぬ『大洗砲』が放たれる可能性もあるしね。

 

傍から見たら、私に対してのパワハラにしか見えない此の行為がどんな結末を迎えるのか――何れにしても、只では済まないだろうね。……あとは野となれ山となでしこってところだけどさ。

 

 

だけど振替休日を終えて学校に行った私が目にしたのは、想像以上の光景だった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer173『桃ちゃんウォー!まさかの展開です!!』

な~~んか、面倒事の予感Byみほ        貴女が感じたのなら予感じゃなくて確定じゃない?Byエリカ      みほさんの勘は優れてますからねぇBy小梅


Side:みほ

 

 

文化祭の最終日に、桃ちゃん先輩のDQN発言があったとは言え文化祭は無事に終了して、振替休日はエリカさんと小梅さんと一緒に充実した日を送らせて貰ったよ。

あぁ、丸一日ボコランドだなんて、夢みたいだったね。

 

 

 

「夢は夢でも私と小梅にとっては悪夢だったわ。」

 

「目を瞑ると問答無用で包帯だらけのクマが現れるんです……ボコ怖い。」

 

 

 

え~~~?其れはなんだか納得いかないなぁ……ボコってこんなに可愛いのに、何でそれが分からないかなぁ?

 

 

 

「せからしか!!其れの良さが分かる人間なんて、世界広しと言えど貴女と島田愛里寿位のモノでしょうが!!貴女の特殊な趣味は万人受けするモノじゃないって事を先ずは自覚しないさい!!」

 

「ボコは可愛いよ?」

 

「だから、先ずはその認識から改めろって言ってんのよ私は!大丈夫、日本語通じてるわよね!?」

 

「うん、其れは問題ないよ。だけど、ボコが可愛いと言うのを訂正する心算はマッタク持ってないし、そもそもにしてボコの本当の魅力を分かっている人達だけがファンになれば良いだけだからね。」

 

「其れは、深いわね。」

 

 

 

ボコ道は奥が深いんだよエリカさん……だから、俄か知識で入って来たら確実に溺死するから気をつけてね?……ボコラーの沼は、底なし沼よりも圧倒的に深いからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer173

『桃ちゃんウォー!まさかの展開です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで学校に到着した訳なんだけど……なんか物々しいね?風紀委員の取り締まりが強化されたと言う事でもないみたいなんだけど……此れは一体どういうことなのかな?

 

 

 

「あ~~おはようございます西住殿!」

 

「おはよう優花里さん……えっと、なんか物々しい雰囲気なんだけど何かあったのかな?

 

「実は、つい先程聖グロ、サンダース、プラウダ、マジノ、アンツィオ、継続、黒森峰の隊長の方々が、西住家のオスプレイでやって来たのでありまますよぉ!!」

 

「ウチのオスプレイ……って事は、首謀者はお姉ちゃんだね?……でも、何だってイキナリ大洗にやって来たんだろう?」

 

「原因は、多分此れでありますよ西住殿。」

 

 

 

優花里さんが渡してくれたのは学園新聞の最新号――出来立てほやほやの新聞なんだけど、此れはまた凄い事になっちゃったね?

 

 

 

『生徒会広報・河嶋桃、大洗の救世主に大暴言!?』

 

 

 

新聞の見出しにデカデカと書かれてたのは、昨日の桃ちゃん先輩のあの発言の事だよね……やっぱり地獄耳の新聞部は、誰にも気付かれる事なく、あれを見てたって事か――大洗女子学園の新聞部恐るべし。部員は忍道の履修者かもね。

で、その記事の内容だけど……

 

 

 

『大洗女子学園生徒会の広報、河嶋桃が大洗女子学園を廃校の危機から救った救世主である西住みほ戦車隊隊長に耳を疑う暴言をブチかましてくれた。

 其れは学園祭最終日のフィナーレ近くになって起こった。

 当時西住隊長は、大洗を訪れていた島田愛里寿大学選抜隊隊長と学園祭を回っていた……と言うのも、島田愛里寿嬢は飛び級で大学に進学した事で高校生活と言うモノの経験がなく、色々な高校を見て回って何処に編入するかを考えている最中であり、西住隊長は島田愛里寿嬢に大洗女子学園をアピールしてスカウトしようとしていたのだろうと思う。

 前日のエキシビションマッチでは同じチームで戦ったと言う事も有り、それらの事を総合的に判断すれば島田愛里寿嬢が大洗女子学園に編入するのは確実だと思っていたのだが……ところがどっこいそうはならなかった。

 島田愛里寿嬢は西住隊長とライバル関係にある事を望み、敢えて大洗女子学園を候補から外したのだ……非常に残念な事ではあるが、西住隊長も、島田愛里寿嬢の気持ちを汲み、大洗女子学園への編入を強行はせず、2人の天才は好敵手として、また友として握手を交わした。

 其れで終わればよかったのだが、ここで生徒会広報の河嶋桃がやってくれたのだ。

 島田愛里寿嬢が大洗女子学園に来ないと分かるや否や、その原因が島田愛里寿嬢がライバルとして戦いたいと言った西住隊長に有ると短絡し、在ろう事か『西住、お前が転校しろ!』との大暴言発動!!

 隻腕の軍神こと西住みほと言えば、大洗の学園艦で暮らす者及び戦車道関係者であるのならばその名を知らぬ者は存在しない程の人物であると同時に大洗女子学園を救った救国の英雄とも言える存在だ。

 そんな彼女に対しての此の暴言は大凡許せる物ではない……聞いた話によれば、此れだけでなく『片腕の身体障害者よりも、島田愛里寿が隊長の方が良い!』と言う、障害者蔑視とも取れる発言をしたとも――何れにしても、河嶋桃の発言は人として許されるモノではない。

 生徒会会長である角谷杏氏は、河嶋桃に対して何らかの処分を下さねばならないだろう。

 尚、追記として我が大洗女子学園は、島田流家元の島田千代氏がスポンサーに付いてくれる事になったらしいのだが、それも島田流家元が西住隊長の戦車道に惚れ込んでいるからの事であり、西住隊長が大洗女子学園から去ったら、この話も無かった事になるだろう。

 果たして、河嶋桃は如何なる考えがあってあのような暴言を吐いたのか、その真意を聞かせて貰いたいモノである。』

 

 

 

うわぁ……文春砲も真っ青なゴシップ記事だね此れは。ご丁寧に、桃ちゃん先輩がDQN発言した瞬間の写真まで掲載してるし……一体何時の間に撮ったのやらだよ。

でも此れって、大洗の学園艦だけで配られてる新聞だよね?なのに何で各校の隊長が……

 

 

 

「私達が登校する前に到着している事を考えると、新聞部が各校隊長に直接タレこんだ可能性があるわね……大洗女子学園の生徒会と、戦車道で名の知られた学校の戦車隊隊長が一悶着となれば、其れは其れでネタになるし。

 恐らくだけど、短期転校で大洗に来てるエクレールと西にもタレコミが有ったと見るべきでしょうね。

 ……まぁ、其れは其れとして河嶋先輩、流石に此れは無いわね?

 『お前が転校しろ』は、まぁ毎度の後先考えないその場の感情から出た言葉だとしても、みほの身体の事を馬鹿にした発言は許せないわ……みほは好き好んで左腕を失った訳じゃないのに……あのクソモノクルが。」

 

「この発言は完全にアウトですよね……と言うか、世界中の身体障害者に喧嘩売ってるとしか思えませんよ此れ――同時に、パラアスリートと言う存在を完全否定してますよね。」

 

「あははは……西住隊長、河嶋先輩の事ちょっと滅殺してきますね。」

 

 

 

如何やら新聞部がタレコミした事で、各校の隊長陣が凸って来たみたいだね……大洗女子学園の新聞部は最早新聞部と言うよりも週刊誌の編集部になってるような気がする……取材の仕方も、そして記事の書き方も煽り方も!!本気でプロかと思うレベルだよ此れは!

で、何やらエリカさんと小梅さん、そして今し方やって来た梓ちゃんが殺意の波動に目覚めかけてるみたいだけど落ち着いて。

『片腕の~~』云々は、少なくとも私が直接言われた事じゃないから……私の居ない所で他の誰かに言った可能性が無くは無いけど、少なくとも私は直接言われてないから、そんなに怒らなくても大丈夫だよ?

 

 

 

「だとしても、コイツの発言は普通にないでしょ!

 その場の勢いで出た言葉だとして100歩譲ってやるとしても、だからと言って許せるかと言われればそれは絶対に否!!全国大会も大学選抜戦も、みほが居たからこそ勝てた。

 みほが居なかったら大洗は廃校になってたのよ?……にも拘らず、みほに感謝の言葉一つなくこんな暴言を吐くだなんて、河嶋先輩がドンナ神経してるのか疑うわ。」

 

「ですよねぇ?

 普通なら、学園艦の最高権力者である生徒会が、みほさんに菓子折りの一つでももってお礼に来て然りですからねぇ……あ、会長さんから段ボール箱で届いた干し芋がお礼だったんでしょうか?」

 

「となると、生徒会としての礼は、一応はしたと言う事ですね……では、この河嶋先輩の発言は、完全な個人的暴走の結果と言う事ですか……矢張り絶対許せないです西住隊長!

 河嶋先輩のやった事は、恩を仇で返すに等しい行為です!!」

 

 

 

……如何やら怒りは収まらないみたいだね……と言うか、若しかしなくても優花里さんも?

 

 

 

「当然であります西住殿!

 私だけでなく、武部殿、五十鈴殿、冷泉殿も大層立腹しておられました!特に、冷泉殿が『あのモノクルが……クズだな』と言ったのには、凄まじい悪寒を感じたであります!

 口数少ないクールキャラがガチでキレるとまっじでおっかねぇって事をこの身で体験したでありますよぉ!!」

 

「優花里さん……お疲れ様でした。」

 

桃ちゃん先輩のDQN発言が、まさか此処までの事態になるだなんて、言った本人でも予想すらしてなかったんだろうなぁ……そう言う私も、マッタク予想してなかったし。

此れは、若しかしたら今日は私は授業どころじゃないかもね。

 

 

 

――ピンポンパンポ~ン

 

 

 

『あ~~、テステステス、本日は晴天なり、所により血の雨が降る可能性あり。冗談抜きにマジで。

 ども~~、生徒会長の角谷杏でっす!

 行き成りだけど西住ちゃ~ん、登校してたら即刻生徒会室に来てくんねーかな?可能だったら逸見ちゃんと赤星ちゃんと澤ちゃんも。

 兎に角、えっれー事になってるから早急に頼むよ~~~。』

 

 

 

そう思ってた矢先に、会長さんから直々に生徒会室への呼び出しを受けたか……其れも、私だけじゃなくてエリカさんと小梅さん、そして梓ちゃんまでって言うのは相当な事だよ。

まぁ、呼び出しを受けた以上は行くしかない訳なんだけど――一緒に来てくれるかなエリカさん、小梅さん、梓ちゃん?

 

 

 

「ハッ、何を当然の事言ってのよみほ?言われずとも行くに決まってるじゃない!小梅と澤も勿論行くわよね?」

 

「勿論ですよエリカさん!」

 

「寧ろ行かないと言う選択肢が存在してませんから!」

 

「呼ばれてはいませんが、不肖秋山優花里、御一緒させて頂きます!!」

 

 

 

あはは……まぁ、優花里さんも一緒に来るよね此れは――でも、この状況は桃ちゃん先輩は絶対に想定してなかっただろうから、今頃相当アタフタしてるだろうなぁ。……自分で蒔いた種な訳だけどさ。

でもまぁ、先ずは生徒会室に向かってぱんつぁ~~・ふぉ~~~!!!

 

……それにしても、お姉ちゃんが聞いたら確かにブチ切れそうな内容ではあるけど、だからと言ってオスプレイ飛ばして各校の隊長まで連れて大洗に凸って来なくてもいいのに。

ホントお姉ちゃんって、私の事になるとすぐ熱くなっちゃうんだから。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

で、やってきた生徒会室なんだけど……うん、此れは確かに会長さんが言っていたように『えっれー事』になってるみたいだね?って言うか、完全なカオス空間って言うのかな?

お姉ちゃん達をはじめとする各校隊長陣が居るのは分かってたけど……

 

 

 

「河嶋桃先輩にお聞きしたい!

 先の全国大会、そして大学選抜戦に於いて我等を勝利に導いた西住隊長に対して『転校しろ』とは一体如何なる考えがあっての事か!!」

 

「圧倒的に劣る戦力で天下を取った隊長は、10倍の兵力差を覆して今川義元を討った織田信長の如し!」

 

「いやいや、大国ロシアを相手に旅順を制圧した乃木希典大将ぜよ!」

 

「西住隊長は戦車乗りだ、ここは矢張り大戦期のドイツの戦車乗りで、戦車138輌、対戦車砲132門を撃破したミハエル・ヴィットマンだろう!」

 

「「「それだ!!」」」

 

「其れもだけど、片腕云々って酷くない?西住隊長、好きで片腕になったんじゃないのに!」

 

「まぁ、隊長は片腕である事を気にしてはいないけれどナ……寧ろ隻腕である事が一種のステータスになってるヨ。」

 

「……死刑。」

 

「紗希、其れは物騒!」

 

「あい~~~!!」

 

「河嶋さん、大洗を救った西住隊長にこんな事言うなんて、校則違反も甚だしいわ!それ以前に、人としてのルールを逸脱してるわよ!!」

 

「そど子、其れは流石に強引だよ……?」

 

「良いのよパゾ美!こう言う人は、少し強引かつ無理矢理な理論でねじ伏せなきゃ分からないのよ!!」

 

「相当な力技……」

 

 

 

戦車隊のメンバーも集まって、桃ちゃん先輩を糾弾(?)中……って言うかエルヴィンさん、ヴィットマンって……其れを私のソウルネームとして定着させようとか考えてないよね?

まぁ、アレほどの戦車乗りに譬えられるのは誇らしいけれどね。

 

 

 

「いや、有れは其の、本心ではなくてだな、其の何と言うか……島田愛里寿が来てくれなかった事が残念でつい口が滑ってだな……」

 

 

 

で、針の筵状態の桃ちゃん先輩は完全涙目であたふたと説明してるみたいだけど……あれじゃあ誰も納得しないだろうなぁ。

 

 

 

「か、かいちょ~~!!」

 

「悪いか~しま、今回の事は流石にアタシでも擁護できねーわ。

 西住ちゃんが居なくなったら、島田流からの援助の話も無しになっちゃうからね……か~しま、自分の言った事には責任持てよ~~~?」

 

「かいちょ~~~~!!」

 

 

 

頼みの綱である所の会長さんも、如何やら今回は少しばかりお灸をすえる事にしたみたいだね。

戦車隊のメンバーだけじゃなくて、各校の隊長からの追及もある訳だし、可成り大変だろうなぁ此れは。

 

 

 

「河嶋桃、君が如何なる意図をもってみほに『転校しろ』と言ったのかは分からないが……みほに転校しろと言うのであれば、黒森峰に寄越してもらおう。みほだけでなく小梅とエリカと澤もな。

 元々みほと小梅とエリカの転校はお祖母様との確執が原因であり、澤もまた私が大洗に進学先を変更させたのであって、みほ達の転校がなければ黒森峰に来ていた人材だからな……みほが転校すると言うのであれば、その3人と共に黒森峰で引き取るべきだろう。」

 

「お待ちになってまほさん……確かに貴女の言う事は当然であるのかも知れませんが、みほさん達には此れを機に此れまで自分が経験したのとは異なる戦車道に触れて貰う方が今後の戦車道の発展に繋がるわ。

 だから、みほさん達は私達聖グロリアーナに来るのが良いと思うの……みほさんならば次期隊長として申し分ないし、澤さんとペコも互いに切磋琢磨して再来年度の隊長候補として成長するでしょうし。」

 

「おぉっと、抜け駆けはズルいわよデイジー!

 みほ達はサンダースに来るのが一番よ!サンダースなら、面倒な伝統とかそんな物は一切ないからみほの好きなように戦車道がやれるモノ!

 みほの戦車道はザッツフリーダム!自由な環境こそがみほ達の力は発揮されるわ!」

 

「その理論で言うのなら、ピッタリなのは我がアンツィオだろう!

 圧倒的に劣る戦力で強豪を薙ぎ倒したみほならば、アンツィオを全国大会で優勝させる事だって夢じゃない、いや出来る!何よりも、ウチのペパロニは中学時代、みほの一番の親友だったのだから、これ程いい環境もないだろう!」

 

「な~に言っちゃってるの?ミホーシャはプラウダに来るのが一番なのよ!

 来年はミホーシャが隊長、ミホーシャの弟子が副隊長になってプラウダは全国制覇を成し遂げるんだから!!」

 

「全国制覇……其れはそんなに大事な事かな?

 其れに、未だみほさんが大洗から居なくなると決まった訳では無い……まぁ、みほさんが転校すると言うのであれば、継続に向かって吹く風に乗って欲しいとは思うけれどね。」

 

「西住隊長には是非とも知波単に!と言うか、東雲の『おんどりゃぁぁぁぁ!!』を如何にかする術を是非ともご享受願いたいです!!」

 

「みほさん達は、マジノに来ていただこうかと思いますわ。

 マジノは現在改革の真っ最中ですが、みほさん程の人が居て下されば、改革半ばのマジノの改革を完遂してくれる筈ですし、何よりもみほさんと一緒に戦えるだなんて素敵過ぎますわ。」

 

「ふざけるなーー!西住は大洗の隊長だーーー!!」

 

「「「「「「「転校しろと言ったお前が言うな!!」」」」」」」

 

「マッタクだね。」

 

 

 

――ぽろろ~~~ん

 

 

 

って、何故か各校隊長が私を獲得する方向で話をしてるし。

本気なのか、其れとも桃ちゃん先輩を懲らしめる為の芝居なのかの判断が付きかねるのが困るなぁ……西さんとアンチョビさんは可成り本気っぽいしね。

 

 

 

「まるでみほ争奪ドラフト会議ね此れ。」

 

「一位指名するのは何処でしょう?」

 

「本命が黒森峰、次点がアンツィオ、大穴が知波単であると予想するであります。」

 

「って言うか、西住隊長が転校する事が前提になってますね此れ。」

 

「だね。私は転校するだなんて一言も言ってないのにね。」

 

其れよりも、状況が『えっれー事』になり過ぎてるせいで、誰一人として私達が生徒会室にやって来た事に気付いてないよね?気付いてたら何かしらの反応があると思うし。

しらの反応があると思うし。

此れは、先ずは皆の意識をこっちに向けさせないとだね……エリカさん、小梅さん!

 

 

 

「ハッ!!静まれぇ!!」

 

「静まれ、静まれぇ!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」(鍵カッコ省略)

 

 

 

OK、突然のエリカさんと小梅さんの大声に、お姉ちゃんまでもが驚いたみたいだね……このまま一気に畳み掛けちゃおうか!!

 

 

 

「此の紋所が目に入らぬかぁ!」

 

「此処におあす御方を何方と心得る!恐れ多くも隻腕の軍神、西住みほ殿にあらせられるぞ!」

 

「一同、軍神の御前である!頭が高い、控えおろう!!」

 

 

 

――ババーン!!

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「ははぁ~~~!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」(鍵カッコ省略)

 

 

 

はい、バッチリ決まったね。

茨城らしく、水戸黄門で登場してみましたけど、如何でしょうか会長さん?私的には、掴みはバッチリだったと思うのですけれど?

 

 

 

「OK、ナイスな登場だよ西住ちゃん!

 逸見ちゃんと赤星ちゃんの啖呵の切り方も、まるで本物の助さんと格さんみたいでベリーグッド!!いっその事、大洗女子学園のPR動画として『大洗黄門』とかやってみる?」

 

「其れも良いかも知れませんね。

 でも、其れよりも前に、この状況を何とかしないとです……戦車隊の隊員はこの新聞を見て来たとして、お姉ちゃん達は如何して大洗に?」

 

「うむ、昨晩私をはじめとした各校の隊長に大洗女子学園の新聞部を名乗る者から電話があって、この記事の内容を伝えられてな……もしも此れが本当であるのならば黙って居る事は出来ないので、全員で大洗に乗り込んで来たと言う訳だ。」

 

「みほは大洗を救った英雄でしょ?其れに対して、こんな無礼な発言をするなんて、絶対に許せないわ!!」

 

 

 

成程……だけど、お姉ちゃん達は私を――私だけじゃなくて、エリカさんと小梅さんと梓ちゃんも自分の所に引っ張って行こうとしてたよね?

何で文句を言いに来たんじゃなくて、私達を引き抜く話になっているのかな?

 

 

 

「正直に言うと、誰もが強引にみほ達を連れて行こうとしている訳じゃない。

 だが、本当にみほが転校する事になったら転校先が必要になるので、私をはじめとした各校が其れに名乗りを上げたに過ぎん……まぁ、みほが転校してきてくれればエリカと小梅と澤が付いて来ると言う漁夫の利を考えていたのも事実だがな。」

 

「うふふ、イギリス人は恋と戦争では手段を選びませんの。」

 

 

 

……やっぱり、私達を引き抜く気は有ったんだね……其れだけ、私達の事を評価してくれてるって思っておく事にするよ――だけど、今は其れよりも、桃ちゃん先輩だね。

桃ちゃん先輩、なんか大変な事になっちゃいましたねぇ?あの時の一言が、まさかこんな大事になるだなんて、私も予想外でしたよ。

 

 

 

「に、西住~~!!何とかしてくれ~~!私だけではどうにもならないんだ~~!!」

 

「どうにかしてくれと言われても、此れって桃ちゃん先輩が自分で蒔いた種ですよね?私に出来る事と言ったら、精々『片腕云々』に関する事が新聞部が盛った記事だって言う事だけなんですけど?

 桃ちゃん先輩が私に『転校しろ』って言ったのは紛れもない事実ですし、其れは否定しようがないですよね?……だったら桃ちゃん先輩は、その発言に対しての説明をしないとですよ。」

 

「んな、助けてはくれないのか!?」

 

「貴女ねぇ、こんな暴言を吐いておいて、何でみほが助けてくれるとか思う訳?厚顔無恥にも程があるわよ幾ら何でも……その面の皮、鉋で削っって薄くしてやろうかしら?」

 

「エリカさん、其れなら槍鉋の方が……」

 

「いっその事サバイバルナイフでザックリと……」

 

「此の電動グラインダーで如何でしょう?」

 

「「「「其れだぁぁぁ!!」」」」

 

 

 

あはは……皆容赦がないね?……だけど、私だって桃ちゃん先輩の『転校しろ』発言をマッタク気にしてない訳じゃないんですよ?……私は大洗で自分の戦車道を見つける事が出来たのに、『転校しろ』って言われるって、其れってある意味で大洗で見つけた私の戦車道を全否定してるのと同じなんですよ。

だから、貴女が然るべき事をしない限り、誰も貴女を許さないと思いますよ桃ちゃん先輩。

 

 

 

――轟!!!

 

 

 

「此れは……此れがみほの軍神招来か――間近で見ると凄まじいな?」

 

「まほがタイガーだとするなら、みほはドラゴンね……正に軍神だわ!Excellent!!」

 

「これ程の威圧感を醸し出すとは……おやりになりますわねみほさん。」

 

「西住も可成りの闘気を纏っているが、軍神招来したみほはそれ以上か!!……益々アンツィオに欲しくなったぞ!!」

 

「此れは、やっぱりミホーシャはプラウダに来るべきよ!永久凍土をも溶かしかねないこの闘気こそ、今プラウダに必要なモノだもの!!」

 

「その闘気が誰のものになるか、其れに大きな意味があるとは思えない。」

 

「ならば、みほさんは我が知波単に!!」

 

「いいえ、是非ともマジノに。」

 

 

 

毎度お馴染みの闘気を解放しての軍神招来も、各校の隊長には其れ程効果は無かったみたいだけど……桃ちゃん先輩には、効果抜群だったみたいだね?

 

 

 

「に、西住……私を如何する心算だ?」

 

「さて、如何しましょうかね?」

 

「に、西住~~!!?」

 

 

 

取り敢えず桃ちゃん先輩には、私に『転校しろ』って言った分の仕返しをさせて貰おうかな?……それほど気にしてないとは言え、流石に面と向かって『転校しろ』って言われたのはちょっとショックだったからね。

何よりも、其れに対しての謝罪もないのに、私に助けて貰おうとか思ってるのが普通に有り得ないですから……なので、本番は此処からですよ桃ちゃん先輩?

 

取り敢えず、御自分の発言には責任を持った方が良いと思いますよ?……でないと、火傷じゃ済まない痛手を被る事になりますからね――今回の事が、正にそれですから。

桃ちゃん先輩、お仕置きとしてはやりすぎかもしれないですけど、少しだけ痛い目を見て貰いますから覚悟しておいてくださいね?……流石に今回の事は、笑って許せるレベルをはるかに超えてしまったからね。

 

 

桃ちゃん先輩……覚悟を決めろ!!

 

 

 

「ひひゃぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

「悲鳴を上げた所でもう遅い……あの発言の真意、徹底的に糾弾する心算だから覚悟しておいて下さいね?

 ……私は、貴女の言った事を絶対に許しませんから……精々後悔すれば良いんじゃないですか?」

 

「そんなぁぁぁ!!」

 

 

 

泣いてもダメです!

貴女が相応の対応をしない限り、私は貴女の発言を絶対に許さない……だって、貴女のあの発言は、私達がやって来た事を全否定するに等しい事だったんですから。

取り敢えず、今は御自身の尻拭いをすべきだろうね……ま、精々頑張って下さい桃ちゃん先輩。――この場に貴女の味方は、誰一人として存在してないですけれどね。

先ずは、己の失言を後悔すると良いよ――其れすら出来ないようでは、前に進む事なんて絶対に不可能だからね……精々頑張ってくれとしか言い様がないよ。

 

 

 

「に、西住~~!!」

 

「全力で、知らね!!」

 

全ては自分が蒔いた種なので、責任を持って下さい桃ちゃん先輩――自分の言った事に責任を持つのは、大人としての最低限のマナーな訳ですからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer174『裁判!断罪!!罪と罰!!!です』

ガルパンで殺伐は駄目です!Byみほ        そうね、殺伐NGの世界よねByエリカ      平和な世界が一番ですねBy小梅


Side:みほ

 

 

さてと、新聞部が発行した学園新聞と各校隊長へのタレコミでトンデモない事態になっちゃった訳なんだけど……如何かしたかなエリカさん?何か探してるみたいだけど?

 

 

 

「いや、河嶋先輩が貴女に無礼を働いたって言うのなら、中学時代の青パンターチームが黙ってないと思ったんだけど、誰一人として居ないのが気になったのよ。」

 

「言われてみれば確かに……会長さん、ナオミさん達は来てないんですか?」

 

「あ~~……ナオミちゃんとペパロニちゃんとローズヒップちゃんは来てたようん――それこそ、速攻でか~しまの事を麻酔なしの整形手術しそうな勢いだったわ。

 あの迫力は、黒のカリスマすら凌駕してた……よくか~しまが失神しなかったもんだよ。」

 

「其れは其れで良いのだが、彼女達の怒りは相当だったのでな……ちょいとあるモノを持って来てくれるように頼んだんだ。」

 

 

 

あ~~……やっぱりブチ切れてたんだ。

特にペパロニさんは相当にプッツンしてるかもしれないなぁ……中学一年の時、私の事を『片腕』ってバカにしてた子に、問答無用でドロップキックかましたくらいだからね?

って言うか、何を持ってくるように頼んですかカエサルさん?

 

 

 

「其れは見てのお楽しみだ西住隊長……っと、如何やら戻って来たみたいだな?……首尾は如何だ?」

 

「任せなさいカエサル……持って来たわよ電気椅子!」

 

「ギロチンも装備完了ですわ!!」

 

「オラァ、持って来たぜ山崎竜二!!」

 

 

 

って、頼んだのは処刑道具!?

電気椅子やギロチンは兎も角、山崎はヤバいでしょ山崎は……って言うか、一体何処から持って来たんだろう、極悪魅惑のキレヤクザ?……桃ちゃん先輩を断罪する前に、先ずは此れの出所を、かも知れないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer174

『裁判!断罪!!罪と罰!!!です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、ペパロニさんに問うたところ、如何やら山崎はアンツィオ名物のノリと勢いで持って来たらしいね……まぁ、山崎竜二は作者の持ちキャラでもあるからゲスト出場は仕方ないのかも知れないけどさ。

因みにペパロニさん、あの山崎は何年性能?

 

 

 

「え~っと、確か97だな。」

 

「砂かけ蛇キャン砂かけの極悪ハメ!?……アレは凶悪過ぎだよ!って言うか、危険すぎるから返してきて!!」

 

「何だよ、ルガールなら良かったか?」

 

「自爆オチ野郎はもっとダメ!学園艦吹っ飛ばしかねないから!!」

 

「あ~~……そりゃ駄目だ。つー訳で、折角来て貰ったのに悪ぃけど帰ってくれだとよ。あとこれ、報酬の馬刺し引換券な。」

 

「此のアマチュアがぁぁ!100年はえぇんだよぉ!!」

 

 

 

――バビュゥン!!

 

 

 

行っちゃたよ山崎竜二……まさか出てくるとは驚きだったけど、ちょっと生で蛇ドリルが見たかった。14版のレベル3でも良いけどね……冷凍マグロは絶対にネタだよね。

 

まぁ、其れは其れとして、桃ちゃん先輩だね――桃ちゃん先輩、あの時『お前が転校しろ』って言ってくれましたけど、アレって一体如何言う考えがあっての事だったんでしょうか?

マッタク考えが無かったとか言いませんよね?

 

 

 

「それはその……島田愛里寿が我が校に来てくれれば、我が校の戦車道は更に盤石なモノになる――だが、お前が居たら島田愛里寿は大洗には来てくれない。

 そう思ったらつい口が……」

 

「はぁ?つい口がですってぇ?

 貴女ねぇ、そんな事が通用すると思ってんの?アンタのやった事って、大洗の為に尽力したみほの事を否定するのと同じ事なのよ!其れを自覚してるのかしら!!」

 

「それ以前に、西住隊長が愛里寿さんに勝ってるって事を完全に忘れてませんか其れ?」

 

「大学選抜の時は、みほさんと愛里寿ちゃんは相討ちだったので、河嶋先輩の中ではみほさんが勝ったと言う事になって無いのかも知れません。

 其れこそ、勝ったのは大洗であってみほさんではない位に思ってるのかも。」

 

「在り得るわね小梅。

 思い返してみればコイツはサンダース戦の後のインタビューを勝手に受けて『西住の作戦は所詮戦術レベル、真の功労者は我が生徒会。』とか言っちゃうような奴だからね?」

 

「……ほう?其れは本当かな河嶋桃?」

 

「河嶋先輩、そんな事言い腐ってやがったんですか?」

 

「ひぃぃぃぃぃ!?」

 

 

 

……はい、エリカさんの暴露で生徒会室の温度が2度下がった。そしてお姉ちゃんと梓ちゃんが殺意の波動に目覚めた。其れを見た会長さんは干し芋かじって、ミカさんはカンテレを奏でてる……あ、この二人に関しては平常運行か。

まぁまぁ、サンダース戦の後のアレは過去の事だからね?私は気にしてないし。

 

 

 

「アレ?でもあの時ってみほに免じてコイツを許したのよね?」

 

「そう言えばそうですねぇ?……で、次に同じような事やったら容赦しないとも言いましたっけ――と言う事は矢張り、もう問答無用で河嶋先輩を処刑して良いんじゃないですかみほさん!!」

 

「し、処刑ーーー!?何する心算だお前等!!」

 

「連続ジャーマンから餅つきパワーボムに繋いで、トドメにアルゼンチンバックブリーカーからのバーニングハンマー!!」

 

「此処は矢張り、裏拳×2→ボディブロー→肘打ち→回し蹴りのコンボからの、武神八双拳が良いと思います!」

 

「不肖秋山優花里、此処は戦車乗りらしくティーガーⅡで学園艦中を引きまわした後に、戦車用のペイント弾をぶちこむのがベターであるのではないかと愚考します。」

 

「グデーリアンよ、確かに其れも良いが……此処は矢張り西住隊長と澤副隊長による師弟合体NIKU→LAPだろう!!」

 

「「「それだ!!」」」

 

「或は、西住姉妹合体ダブルパワーバスターも可!」

 

「「「其れもアリだ!!」」」

 

 

 

でも、あの時はエリカさんと小梅さんが私に免じて許したって事と、二度目は無いって事が明らかになって、その影響で色んな処刑方法が出てくる事出てくる事。

其れからエルヴィンさん、流石に片腕でのキン肉バスターは無理だからダブルパワーバスターは兎も角、NIKU→LAPは諦めてくれると助かるよ。

 

 

 

「む……隊長は片腕である事を感じさせない程の身体能力があるから出来ると思ったのだが、流石の隊長でも出来ない事は有ったか……!」

 

「あはは……まぁ、私でも出来ない事は有るよ?」

 

「成程……超人的な身体能力を持っていても、隊長はまだ人間であったと言う事か……だが隊長、隊長が自ら裁きを下さずとも、隊長のお供達が河嶋先輩を許す気はサラサラないみたいだぞ?」

 

 

 

へ?其れって……

 

 

 

『ガルゥゥ……』※訳『オイコラ、クソモノクル、ご主人様に何上等かましてんや?いてこますぞゴルァァァ!』

 

『キュ……』※訳『良い根性してるわね貴女……焼き桃になってみる?』

 

「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

あ、アンドリューとロンメル……何時の間に。

って言うか、超ドアップで牙を剥いた虎の顔を見せられたら普通に失神なんだけど、意識を保ってられる辺り、桃ちゃん先輩はビビりのくせに実は意外と強心臓なのかな?……まぁ、其れは如何でも良いけど。

だけどまぁ、取り敢えずアンドリューとロンメルも落ち着いてね?桃ちゃん先輩には、まだ聞かなきゃならない事があるから。

 

 

 

『ガウ……』

 

『キュウ……』

 

「よしよし、良い子だね。」

 

「……隻腕の美少女が猛獣と戯れていると言うのはとても絵になると思わないかダージリン?」

 

「全力で同意しますわまほさん。」

 

「取り敢えず、スマホで撮ったから人数分焼き増ししとくわ。」

 

「よくやったケイ!!」

 

「焼き増し、其れは必要な事かな?」

 

「必要に決まってるでしょ!あ、でも要らないなら良いわよ?カチューシャが貰ってあげるから!!」

 

「……誰もいらないとは言ってない。」

 

「西住隊長と、そのお供達の写真……神棚に飾って祀らせて頂きます!!」

 

「此の1枚は、相当な芸術作品であるのは間違い無さそうですわ……此の焼き増しには、5000円を払っても高くはありませんわ。」

 

 

 

……何だか突っ込み要素が満載な事を言われたような気がしたけど、一々突っ込んでたらキリがないから、此処はボケ殺しの最強奥義である完全スルーを発動して完全に無視するよ。

 

 

 

「「「「「「「「無視された、私達のボケ計257文字!」」」」」」」」

 

 

 

付き合う義理と義務はあるかも知れないけど、今回に限っては全スルーで!異論は認めないから!!

さて、桃ちゃん先輩、『西住お前が転校しろ』と言うのがその場での勢いで出てしまったと言う事は認めましょう――桃ちゃん先輩はその時の気分で後先考えずの発言をして自爆するのは此れが初めてじゃないですし。

出も問題は其の後――もしも私が桃ちゃん先輩の言った事を真に受けて本当に転校しちゃったらどうする心算だったんですか?

 

 

 

「え……?」

 

「何を驚いた顔をしてるんですか?普通に有り得る事ですよね其れは。

 まぁ、私は其れを選びませんでしたけど、其れが選ばれたかも知れない未来があるんです……そうなった場合は如何したんでしょうか?」

 

「みほが転校したら、最低でも私と小梅と澤はみほに付いて行くでしょうね――澤が行くなら武藤も来るだろうけど。

 そんな事になったら大洗の戦車隊は総崩れになって再建不可能になるでしょうね……それこそ、戦車道が再び廃止になれば其れを理由に学園艦を解体しようとする奴が現れるかも知れないから、みほの損失は大洗の致命傷と同義よね。」

 

「!!!!」

 

「みほさんが本気で転校するなんて言う事は考えていなかったと言う訳ですか……マッタク持って笑えませんね?

 みほさんは究極レベルのお人好しな部分があるので、転校と言う選択肢はなかったみたいですが……もしもみほさんのメンタルが豆腐レベルだったら、転校していてもおかしくありませんし。」

 

「其れは其の……!!」

 

 

 

答える事は出来ませんよね?だって、感情に身を任せてその場出た言葉なんだから――だから、私が本当に転校するとは思ってなかったって高を括ってたんでしょう?

まぁ、実際には私は大洗を大好きになったので、転校なんて事は考えてないですけどね。

だけど、私が本当に転校しちゃったら大洗が被る損失は決して安い物じゃなかったと思うんです……其れでも、貴女はまだ『つい口を突いて出た』で済ます心算ですか?

と言うか、私が転校しなくとも此処までの大事になってしまった事の責任を如何取る心算なんですか?

 

 

 

「あの、その……」

 

「桃ちゃん先輩の言った事が火種となって、此処までの大火事になってしまったんです……大火事の原因を造った罪は、とても重いんです。

 放火の意思がなくとも、タバコのポイ捨てが原因で火災が発生した場合、捨てた本人が厳しく罰せられる事は現実にある訳ですからね?」

 

「みほの言う通りだな。

 君はこの事態を責任を持って終わらせなければならないし、何よりも己の不適切発言を撤回するなりなんなりする必要がある――特に『片腕云々』と言うのは『お前が転校しろ』以上の問題発言だからな。」

 

「待て待て~~!其れは本当に言ってないぞ!少なくとも私は言ってない!其れに関しては天地神明に誓って無いと言いきれる!

 と言うか、障害者蔑視発言をするような奴が居る生徒会が、学園艦のバリアフリー化の予算を確保する筈がないだろう!信じてくれ~~~!」

 

「と言ってますけれど、本当ですのみほさん?」

 

 

 

ん~~……此れに関しては少なくとも私本人は直接言われてませんよダージリンさん。もし言ってたのなら『西住お前が転校しろ!片腕の身体障害者よりも、島田愛里寿が隊長の方が良い!』って一息で言われてた筈ですから。

 

 

 

「みほさんの見てない所で陰口をたたいた可能性は無いのかな?」

 

「その可能性も、桃ちゃん先輩の性格を考えるとほぼ無いと思います。ねぇ、会長さん?」

 

「だね~~?

 か~~しまは沸点低くて感情に任せて地雷踏んだりKY発言をしたりするけど、一人になるか生徒会のメンバーだけになった途端に冷静になって『またやってもうた~~!』って感じになってるからね?

 西住ちゃんと別れた後で陰口を叩いた可能性は100%ないな。てか、沸騰しっぱなしが持続出来たら其れもうか~しまじゃねーし。」

 

「会長、擁護してくれているのか貶されているのか分かりません!!」

 

「いや~~、アタシはただ事実を述べているだけだから。擁護もしてねーし、貶してもいねーよ♪」

 

 

 

事実を正確に述べるのは大事だと思います。

なので、少なくとも『片腕云々』に関しては桃ちゃん先輩は言ってはいません……だけど、お姉ちゃん達は桃ちゃん先輩がこう言ったって聞いたんだよね?大洗女子学園の新聞部から。

 

 

 

「うむ、確かにそう聞いた。」

 

「聞いた瞬間に彼女の常識を疑いましたわ。」

 

「如何考えても有り得ない発言よ此れは?障害者差別は人種差別と同じ位許される事じゃないと思ってるわ!本場のアメリカだったら即刻社会問題に発展よ!!」

 

「白人至上主義者の居る国がそんな事を言っても説得力は皆無だと思うけどね?」

 

「ミカ、お前はいい加減空気を読むと言う事を覚えろ!其れともそれは何か、分かった上で態とやっているのか!?だとしたら質が悪いぞオイ!」

 

「私の言う事に突っ込みを入れる事に意味があるとは思わない。」

 

「「「いや、ある!!」」」

 

 

 

ミカさん……(汗)

でもまぁ、そう言う連絡が行ったんだよね?でも、ご覧の通り桃ちゃん先輩は障害者蔑視発言はマッタクしてないんだよ――こんな状況で、バレないように嘘を吐くなんて高等技術、桃ちゃん先輩が持ってる筈ないから。

と言うか、嘘を吐こうとしても支離滅裂な謎理論のオンパレードになって自爆するだけだし。

 

 

 

「そう言われると……確かに。」

 

「でもそうなると、この記事の一部は新聞部の捏造って言う事になるんじゃないですかみほさん?」

 

「河嶋先輩の一言が火種だったのは間違いないですけど、其れを燃え広がらせたのは新聞部って事ですか西住隊長?」

 

「その可能性もあるって事だよ梓ちゃん……なので、小山先輩!」

 

「任せて西住さん、新聞部の子達拉致って(連れて)来たわ♪」

 

 

 

小山先輩仕事早!そしてちょっと『連れて来た』が不穏な雰囲気!拉致は駄目です!絶対ダメです!

 

 

 

――その通り!さっさと拉致被害者全員返せや北朝鮮!イテコマスぞごるあぁ!!( ゚Д゚)

 

 

 

「……今の何?」

 

「エリカさん……無視しましょうか?無視しても問題ないだろうし。」

 

「そうね、無視するのが上策ね。」

 

 

 

なので、話を先に進めようか?

さて、新聞部の皆さんは何で小山先輩に連行されたのか分かりますね?――桃ちゃん先輩の失言を記事にするだけなら未だ許容するとして、言っても居ない事を『言った』と捏造して記事にして、更には其れがさも真実であるかのように短期転校を行った学校の戦車隊の隊長に伝えると言うのは如何かと思うんだけどなぁ?

 

 

 

「あの、其れは……こんな大事になるとは思わなかったんです。

 ちょっと捏造して煽って、面白いネタが出来れば良いな位の気だったんです……其れと、全国大会の時に河嶋さんに西住さんと澤さんへのインタビューを邪魔された事が有ったので、其れのちょっとした仕返しの心算で……」

 

「だとしても、捏造は駄目です。

 特に今回の捏造に当たる部分は、私と桃ちゃん先輩への名誉棄損にだってなりかねないんです――と言うか、桃ちゃん先輩に関しては完全に名誉棄損成立ですよ?

 言ってもいない事を言ったと書かれて不利益を被った訳ですから。」

 

「そうだよね……ごめんなさい!意趣返しとは言えやり過ぎました!!

 各校の隊長さん達も、迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした!!今日の夕方までに、捏造記事のお詫びの号外を発行します!!

 大変申し訳ありませんでした!!」

 

「「「「「申し訳ありませんでした!!」」」」」

 

 

 

捏造について軽く追及したら、思ったよりも素直に認めたね?――まぁ、こんな大事になるとは思ってなかったって言ってたから、起こってしまった事態に焦ってたのかも。

でも、これに懲りたら二度と記事の捏造はしないで下さいね?新聞の本質は、事実を人々に届ける事なんです。其れを努々忘れないで下さい。

 

 

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

「其れじゃあ、新聞部の皆さんは此れで良いです……と、新聞部の暴走だったみたいだよお姉ちゃん?」

 

「その暴走で、此れだけの事態を引き起こした彼女達の行動力にお姉ちゃんちょっと脱帽。その行動力は、黒森峰も見習うべきかもしれんな。」

 

「お姉ちゃん……貴女は何を言ってるのかな?」

 

「限りなく日本語だと思うのだが?」

 

「いや、そう言う事じゃないから。」

 

お姉ちゃんは真面目にボケるから時々対処に困るよ。

 

 

 

さて桃ちゃん先輩、新聞部の捏造記事はトンデモない事ですが、彼女達は自分の非を認めて謝罪しました。そして、障害者蔑視発言は捏造でしたけど『西住お前が転校しろ!』と言ったのは紛れもない事実です。

其れに関して、貴女は何を如何する心算なんですか?

 

 

 

「――!……すまなかった。

 カッとなったとは言え、流石に言い過ぎた西住……お前が居なかったら、大洗女子学園は廃校になっていただろう……大洗を守ってくれたお前に対して、言うべき事ではなかった。

 私の安い頭で良ければ幾らでも下げる!だから、大洗女子学園を見捨てる事だけはしないでくれ!この通りだ!!」

 

 

 

で、桃ちゃん先輩が選んだのは謝罪の言葉と、見事なまでのD・GE・ZA……其れこそ額を床に擦り付けすぎて擦り剝けるんじゃないかってレベルの、見てる方が感心する位の見事な土下座だね。

うん、ちゃんと謝って貰えれば私は良いんだけど……でも、其れじゃあきっと皆は納得しないと思うんですよ――だから、最低限の罰は受けて貰いますよ桃ちゃん先輩?

 

 

 

「ば、罰って何をする心算だ西住!?」

 

「あ、命をとるとかじゃないので安心して下さい。

 ……あ、蝶野教官ですか?西住みほです。あのですね……はい、はい。あ、近くに居るから直ぐ来れるんですか?――其れは物凄い偶然ですね?手間が省けましたが。

 其れじゃあ、お願いしますね。」

 

「みほ、蝶野教官に何を頼んだの?」

 

「ちょっと桃ちゃん先輩へのお仕置きに必要なモノを持って来て下さいって頼んだだけだよ。」

 

如何やら偶然にもその必要なモノは教官と一緒のヘリに乗ってたみたいで、更に偶然にも学園艦の近くを飛んでるらしいから、5分もあればこっちに到着するって。

 

 

 

 

 

 

 

 

――で、5分後。

やってきた桃ちゃん先輩のお仕置きマシーンは、此れだぁぁ!!!

 

 

 

「グアッデェェェェェェム!!!」

 

「「「「「「「「「「黒のカリスマキタコレーーー!!」」」」」」」」」」(鍵カッコ省略)

 

「河嶋ぁ!テメェみぽりんによくも暴言吐いてくれたなぁオイ!

 テメェはホントに碌な事しやしねぇ!砲手をやらせりゃノーコン!ピンチなれば狼狽えるだけで打開策を考えようともしねぇ!なのにみぽりんに暴言吐くとはどういう了見だオラァ!歯ぁ、食いしばれ!!」

 

 

 

――バッチーン!!

 

 

 

「ひでぶ!!」

 

「ガッデメファッキン!アイム、チョーノ!!」

 

 

 

はい、見事な『蝶野ビンタ』頂きました!……桃ちゃん先輩、生きてます?

 

 

 

「あ、あひる……」

 

「あ、大丈夫そうだね。」

 

「か~しまは無駄に頑丈だから、此れ位じゃ死なねーから心配いらねーって……か~しまの生命力は、黒光りするG並みだからな――その生命力と引き換えにしたかのようにメンタル豆腐だけど。」

 

 

 

ですね。

でもまぁ、此れで手打ちにしませんか?私への謝罪はしたし、蝶野ビンタ喰らって白目剥いて失神しちゃったので、桃ちゃん先輩への制裁も充分出来たと思うから。

 

 

 

「みほが其れで良いと言うのならば私は何も言わん――が、彼女が次にみほを傷つけるような事を言ったその時は容赦はしない。

 そう伝えておいてくれ。」

 

「うん、分かったよお姉ちゃん。」

 

「みほさんが此れで良いと言うのならば私は何も言いませんわ。」

 

「みほが手打ちにすると言った以上、私達が彼是言うのは無粋な事でしかないモノね……過ぎた怒りは、只の感情の暴走とも言うし、此の辺で終わりにするのがベターかもね。

 皆も其れで良いでしょ?」

 

 

 

そしてこのケイさんの発言に皆が異口同音に賛同して、今回の騒動は幕を閉じた――後でお姉ちゃんから聞いた話だけど、今回の事をお母さんに伝えるかどうかは可成り迷ったみたい。

最終的に伝えない事にしたみたいなんだけど、其れは正解だよ――お母さんに伝えたら、ティーガーⅠで大洗に突撃して来て桃ちゃん先輩を滅しただろうからね。

 

で、此の一件以来、桃ちゃん先輩の高圧的な態度は形を潜めて、生徒会のメンバーである事を盾に取った発言をする事は無くなって、それどころか後輩に必要なアドバイスをする良い先輩になったんだとか。

同時に今回の一件で大洗女子学園の結束は更に強くなったかな?――雨降って地固まるじゃないけど、終わりよければ全て良しだね。

 

 

 

「時に西住、一体如何やったら狙った的から最低でも30cmずれた場所に弾が飛んで行くのを修正できるのだ?」

 

「それは……前回に引き続き、知らね!!」

 

って言うか、桃ちゃん先輩に砲手の才能は全く無いので諦めて装填士に専念してください!!そっちの方がヘッツァーが活躍出来るので、マジでお願いします!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer175『戦車の探索と無限軌道杯の招待状』

招待状の差出人は『R』!Byみほ        いや、自爆オチ野郎は勘弁!Byエリカ      差出人『R』は不穏でしかないですねBy小梅


Side:みほ

 

 

桃ちゃん事変から半月が経って、短期転校組が自校に帰る時が来た……短い間だったけど、楽しかったよ青子さん、ナオミさん、つぼみさん!!

皆と高校生活を過ごす事が出来たのは、高校生活一番の思い出になるかもだよ。

 

 

 

「アタシ達と過ごした時間が高校生活の一番の思い出とか、けちな事言うなよみほ――高校生活の一番の思い出は何かって聞かれたら、大洗を率いて全国制覇2連覇を達成した事です位は言えっての。

 まぁ、全国制覇2連覇は簡単にはやらせねぇけどな!!」

 

「来年の大会では私達サンダースが大洗を倒すから覚悟なさいみほ。」

 

「大洗を倒すのは私たち聖グロですのよ~~!!必ずやみほさんの事をぶっ倒してやがりますわ!!!」

 

 

 

……つぼみさんの話し方は突っ込み不要なんだけど、私達の前に立ち塞がるって言うのなら嘗ての戦友でも容赦しないで倒させて貰うから悪く思わないでね?

試合である以上は、嘗ての戦友であっても手加減なんてしない――否、戦友だからこそ全力で行かせて貰うから!!

 

 

 

「おうよ、そう来なくっちゃな!!お前との全力の戦車道を楽しみにしてるぜみほ!!」

 

「みほさん!全力でやらせて頂きますことよーー!お~~っほっほっほっほ!!」

 

「私の仕事は敵車輌を撃ち抜く事……そして最大の獲物は貴女よみほ――戦場で見つけたら、狙い撃たせて貰うわ。」

 

 

 

ふ……そう来なくちゃ面白くないよ!

今度戦う事になったその時は、私も持てる力の全てを持ってして勝たせて貰うから――でも今は……あの時、助けに来てくれてありがとう。

その気持ちで一杯だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer175

『戦車の探索と無限軌道杯の招待状』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で短期転校組は夫々の学校に戻って行ったんだけど、だからと言って私達の日常に変化が有ったかと言われればそれは否――今日も今日とて……

 

 

 

『ガルゥゥゥゥゥ!!』(貴様、何をしに来た?)

 

「うわぁ、なんで虎!?虎が居るなんて聞いてないぞおぃぃぃぃ!!

 お、俺は只の戦車道マニアで、俺推しの戦車女子である五十鈴華さんに会いに来ただけだ!!あの清楚な大和撫子が砲手として敵戦車を打ち抜くとか痺れまっせーー!!

 俺は、この愛を華さんに直々に伝えるのだ~~!!」

 

『グロアァァァァァァァ!』(ご主人の親友に何さらそうとしとんじゃボゲェ!食い殺すぞゴルァ!)

 

「ちょ、止めて!食べないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

アンドリューが学園艦に侵入した不審者を組み伏せてました。

大学選抜戦が終わってから、私達戦車女子を目当てに学園艦に不法侵入してくる人が多くなった感じなんだよね……一体どうやって海の上の学園艦に侵入してるのやら。

優花里さんみたいにコンビニの定期便でも使って陸から来てるのなぁ?……まぁ、大抵の場合はアンドリューに『噛み砕く』を喰らわせられるか、ロンメルの『熱風』で燃やされてるけどね。

アンドリューとロンメルから逃れて目的の子に辿り着いたとしても、速攻で返り討ちに遭うから問題ないけど……猫田さんがワンハンドネックハンキングで撃退したのには驚いたけどね。

 

 

 

「いや、アナタがストーンコールドスタナーでKOしたのにも驚いたわよ?」

 

「そう言うエリカさんはフリッカージャブの高速連射でKOしてませんでした?って言うかアレって普通に蛇ドリルですよね今考えると……」

 

「そんな事言う小梅さんは、カウンターのシャイニングウィザードからフラッシュエルボーでKOしてたけどね♪」

 

そんな訳でお兄さん、学園艦に忍び込んで意中の戦車女子にストーカー紛いの事をしたらとっても怖い事になっちゃうから止めた方が良いよ?手遅れかも知れないけどね?

うん、生きてはいるけど身体中に歯型が付いて血だるま……普通にモザイクの見せられない状態だね此れは。

 

 

 

『ガウ?』(ご主人、如何する此れ?)

 

「ん~~~……取り敢えず学園から放り出しといて良いよ。

 海なら沈む事は無いし、運が良ければ助けて貰えるかもしれないしね――運が悪かったら血の匂いに誘われたサメに食べられてデッドエンドだけどね。」

 

 

『ガルゥゥ……』(了解した。)

 

「学園艦からの紐なしバンジーとか、結構容赦ないわねみほ?」

 

「エリカさん、人の迷惑とか考えないで自分の欲望の為に学園艦に侵入して来るストーカー紛いの人に容赦も手加減も必要ないと思わない?

 寧ろ、生かしておいてあげるだけ優しいと思うんだけどなぁ?」

 

「そうね、貴女の言ってる事は正しいわみほ。」

 

「全国大会で優勝して、大学選抜戦にも勝って大洗を守る事が出来たのは良かったですけど、その影響でこう言う迷惑な輩が増えてしまったと言うのは悲しい事ですね。」

 

 

 

マッタクだね。

真の戦車道ファンならこんな事は絶対にしないから、この人達は所詮は俄かって言う奴なんだろうけどね――其れこそ、戦車道ではポット出の無名校に過ぎなかった大洗女子学園の快進撃を見て、此れまでは興味もなかったのに盛り上がったって感じだろうね。

ほんとに、俄かファンは迷惑極まりないね。

 

 

 

――ドサァァァァァァァァァァ!!

 

 

 

そして、今日も今日とて下駄箱からは大量のラブレターやらファンレターが……私宛の手紙とかは専用の郵便箱に入れる事になってるって言うのに此れとは――若しかしてあっちに入りきらなくなってるから下駄箱に来るのかな?

って言うか、この量は明らかに下駄箱の許容量超えてる気がするんだけど?

 

 

 

「きゃ~~!今日もモテモテだねみぽりん!スッゴイラブレターの数じゃん!!

 みぽりんってば今や日本では知らない人が居ない位の有名人だからラブレターが来るのも当然かもしれないけど……こんなにラブレターが来てるんじゃみぽりんだって困るよね?

 だけど、其れでもみぽりんへのラブレターは尽きないんだから、やだもーー♪」

 

「あはは……朝から元気だね沙織さん。」

 

私の下駄箱から出て来た物を見て、沙織さんがちょっと暴走するのも何時もの事だね……だけど、敢えて言わせて貰うよ沙織さん。沙織さんは少しガッツキ過ぎ!

自分から攻めずに少しは受けに回った方が良いと思うよ?

沙織さんは顔は可愛いし、料理の腕は神レベルだからガッツかずに少し大人しくしてれば引く手数多じゃないかなぁ?――何よりも、沙織さんの笑顔はとっても可愛いからね。

 

 

 

――クイ……

 

 

 

「……~~~///」

 

「えっと、如何したの沙織さん?」

 

「みぽりん、付き合って。

 ゴメン、今のみぽりんめっちゃカッコ良かったから!それこそ、雑誌とかのモデルやってるイケメンよりもカッコ良かったから!だから、付き合ってくれない?

 女の子同士だけど、そんなのは些細な事だよね?って言うか、戦車女子的には同性恋愛は普通だってネットで読んだ事有るから!!」

 

 

 

ウワォ、そう来たかオイ。

まぁ、確かに戦車女子に同性恋愛があるのは否定しないよ?私が把握してる限りでも西さんとダージリンさん、ケイさんとエクレールさんが実は付き合ってるみたいだからね。

あと、不確定情報ではあるけどお姉ちゃんとアンチョビさんが実はっていう感じかな。……まぁ、アンチョビさんが未来のお姉ちゃんって言うのは悪いとは思わないけどね。寧ろウェルカムかも。

だけど沙織さん、其れでも私は敢えて言うよ……ごめんなさい!私は沙織さんの事を友達以上に見る事が出来ないから!!

 

 

 

「ガーン!みぽりんに振られたぁ!でもでも、私達は友達のままではいられるよね!?」

 

「其れは勿論だよ沙織さん。

 もしも沙織さんがあの時私とエリカさんに声を掛けてなかったら、今の大洗の戦車隊は無かったかもしれないからね……私達の友情は未来永劫変わる事は無いよ!」

 

「うわぁぁぁぁぁん!みぽりん大好き~~~!!」

 

「……朝から煩いぞ沙織……」

 

 

 

あ、麻子さんも来たんだ。おはよう!って、アンドリューも一緒だったんだ?

 

 

 

「フラフラ歩いてたら、背中に乗れと言わんばかりに私の前に座って来たのでな……有り難く乗せさせて貰った……此のふかふかの毛は、最高級の羽毛布団並みに気持ち良かった。」

 

『ガウ、ガルルル。』(さっきの馬鹿を海に捨てた後で見かけてな。此のままだと遅刻してそど子が煩そうだから連れて来た。)

 

「あはは……そうだったんだ。アンドリューもご苦労様だったね。」

 

「……みほ、気のせいかもしれないけど、なんだか最近アンドリューやロンメルが何て言ってるのか分かるような気がするのよね……私だけじゃないわよね?」

 

「うん、エリカさんだけじゃないと思うよ?私も分かるし。

 って言うか多分殆どの人が分かるようになったんだじゃないかなぁ?……主に泣き声や唸り声に大凡文字数が合ってない訳文が付いた事で。」

 

「あぁ、成程……其れならば納得ですね。」

 

「いやいや待て待て!!何を言ってるのよみほ!そして何を納得してるのよ小梅!正直意味が分からないんだけど!?」

 

 

 

細かい事を気にしちゃダメだよエリカさん。

ダージリンさんじゃないけどこんな言葉を知ってる?『くよくよすんな、グダグダ言うな。寝言は寝てから言え、戯言はラリってから言え。福寿草 六畳一間で 8000円。』って。

 

 

 

「いや、知らないし!特に最後の!」

 

「だろうね。最後のは今私が考えたモノだし。そもそも今のご時世六畳一間でも8000円じゃ借りれないと思うから。」

 

在ったら間違いなくブラック物件だろうしね。

それにしても、朝から何ともばかばかしいやり取りをしたモノだけど、此れが日常なんだよねぇ……改めて大学選抜戦に勝って大洗を奪還出来て良かったと思うよ。

 

時に、この大量のラブレター如何しようか?

 

 

 

「畜産科にでも回してやれば良いんじゃない?山羊が全部処理してくれるでしょう。」

 

「みほさんへのラブレターは読まずに山羊さんが食べてしまうと言う訳ですね……しかも、返事の手紙は書かれないままに。不憫ですね。」

 

 

 

ファンレターは兎も角ラブレターは面倒なだけだから仕方ないかな?

其れに、ファンレターはちゃんと戦車道で使う戦車倉庫前の特設郵便箱に投函されるのに対して、ラブレターはそのルールを無視して個人の下駄箱に直接投下されるから無視確定だよ。

ルールを守ったファンレターには返事を書くけど、ルール無視のラブレターに応える義理も義務もないしね。

 

 

 

「ハッキリしてるねみぽりん?だけど、そんなみぽりんに罵られたいって言う変態思考の持ち主がラブレターを出しているっていう噂もあるとか。」

 

「なにそれ、やだもーーー!」

 

「みぽりん、其れ私のセリフ!!」

 

 

 

取り敢えず、朝の平和な一時だったね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

今日は選択必修科目の無い日だから戦車道の練習はお休み。――とは言っても、皆戦車道が好きだから、もっと上手くなろうと自主練習してたりするんだよね。

私も自主練習に参加する心算だったんだけど……

 

「桃ちゃん先輩、此処は一体何処でしょう?」

 

「此処は学園艦のコントロールルームでな、学園艦内部のありとあらゆるモノを監視、詮索する事が可能になっているんだ。

 あぁ、勿論個人情報には触れていないがな。」

 

「はぁ……」

 

その途中で桃ちゃん先輩に『西住、少し付き合ってくれ』と言われて、学園艦のコントロールルームに……なんて言うか、SFアクション映画に出て来そうな場所ですね此処は?

複数のモニターにインカムを装着したオペレータ……此処ってアースラの内部じゃないですよね?

 

 

 

「断じて違う。」

 

「ですよねぇ……桃ちゃん先輩は夜天の主と中の人が同じなので若しかしたらと思ったんですけど。」

 

「何言うてんねん、そんな筈ないやろみほちゃん?」

 

「あ、でも桃ちゃん先輩の場合は声の感じ的に王様の方でしょうか?」

 

「何をぬかすかこの下郎!王である我を前にして頭が高いぞ西住!……って、何をやらせるか!!」

 

「いやぁ、案外ノリいいですね桃ちゃん先輩?」

 

ま、其れは置いといて。

私をこんな所に連れて来て一体何の用ですか桃ちゃん先輩?私を連れて来たって言う事は戦車道関連なんだろうとは思うんですけど……

 

 

 

「うむ、其れなんだがな……実はこれまでに見つけた8輌以外にも、大洗の学園艦には戦車が隠されている事が分かってな、現在その戦車を探している最中なのだ。」

 

「まだ隠された戦車が有ったんですか!で、其れを探していると。」

 

「如何に島田の援助があるとは言え、其れに頼ってばかりではいかんからな……我等が自分で出来る事は自分でせねばならないだろう。

 その上でお前に聞きたいのだ西住。」

 

「えっと、何をですか?」

 

「学園艦に隠された戦車の種類は既に分かっている――マークⅣと言う戦車だ。

 私は戦車の性能の事は良く分からないので教えて欲しい、マークⅣとはどんな戦車なのだ?」

 

「へ?マークⅣ戦車ですか?」

 

マークⅣって、第一次世界大戦の時に登場した世界初の戦車であるマークⅠの欠点を改良した戦車のご先祖様とも言える車輌だよね?物凄くレアである事は間違い無いけど、戦車道で使用できる戦車ではないと思うんだけど……本気で20年前の大洗はどんなチームだったのやらだね。

 

 

 

「如何した西住?」

 

「いえ……その、率直な事を言わせて貰うのであればマークⅣ戦車は見つけた所でマッタク持って戦力としては期待できないと思います。

 先ず戦車砲が搭載されていないので戦車戦の性能が皆無な上に、アンツィオの主力であるCV-33の様に機動力で掻き乱す事も不可能な上に操縦に4名も必要な時点でアウトです。

 ですが、非常に希少価値のある戦車であり、マニアの中には新たにF2仕様のⅣ号戦車が3台購入出来るだけの値で買い取ってくれる人も居るので、探して確保しても損は無いと思います。」

 

「F2仕様のⅣ号3輌に化けると考えれば探し出して損はないか。」

 

 

 

そうですね、損は無いです。

だけど、どうして今新しい戦車を?島田の小母様の援助に頼りきりにはなれないと言うのは立派な心掛けかと思いますけれど、だからって無理に新たな戦車を探す必要もないですよね?

 

 

 

「そうかも知れんが……今の内に学園艦に眠る戦車を全て探し出しておけば来年以降の負担は減るだろう?

 私達が生徒会の役員で居られる時間はもう長くは無いからな……今の内に出来る事は全てやっておこうと、そう思っただけだ――何よりも、此れ位の事をしなくては、お前に吐いた暴言に対する罪滅ぼしにならないからな。」

 

「桃ちゃん先輩……大分キャラ変わりましたね?」

 

「言うな……私なりに思う所があっただけだ。

 其れと、来年以降の事も有るが、今年復活する此れの為に、戦力は少しでも多い方が良いと思ったから、学園艦に眠る戦車を発掘しておいた方が良いと思っただけだ。」

 

 

 

此れは……『無限軌道杯』開催のチラシ!

戦車道人気が下火になってた事を理由に長らく中断されてた冬季の無限軌道杯が復活するんだ!……此れも、大洗女子学園の全国大会制覇って言う下剋上があったからかもしれない事だよね?

でも、そう言う事ならこの無限軌道杯に私達大洗女子学園が参加しないなんて言うのは有り得ないですよね桃ちゃん先輩?

 

 

 

「だろう西住?

 こう言っては何だが、今の戦車道の盛り上がりは大洗の全国制覇と大洗の――大洗連合と言う名の高校選抜チームが大学選抜チームに勝利した事に起因しているのは間違いあるまい?

 ならば、大洗がこの無限軌道杯を制すれば、更に戦車道の熱は燃え上がるだろう……そして、来年以降の大洗への入学者も増える筈だ!!

 何よりも入学者が増え、更に戦車道チームの人数が増えてくれれば大洗を廃校にしようなどと言う事は二度と出来ないだろうからな。」

 

「桃ちゃん先輩……其処まで大洗の事を考えていたとは脱帽です。

 でも、そう言う事ならばこの学園の何処かにあるマークⅣ戦車は絶対に探し出さないとです――戦力としてはマッタク期待出来なくとも、大洗の戦力を強化する為の資金源にはなりますから。」

 

なので、マークⅣ戦車の在り処が分かったら直ぐに教えてください――どんな場所でも取りに行きますから。

其れこそ、たとえ火の中水の中、土の中森の中、学園艦の最下層だって出向いて回収します!!大洗の戦車道の発展の為ならドンな危険な事だって何のそのだからね!!!

 

 

 

「よく言った西住!それこそ隊長の鑑だ!!」

 

「桃ちゃん先輩、ベジータ風に言って下さい。」

 

「西住……お前はまたそうやって私の上を行くのか。

 私とお前の何が違うのか考えた……最初は守るモノが有るからだと思った……守るモノがあるから其れを守る為に強くなれるのだと。

 だが、其れならば今の私も同じ事……だからこそ分かった――お前は純粋に戦車道を楽しんでいたんだな……だから、勝ち負けには拘らない。

 最後まで、お前は私にトドメを指す事だけはしなかった……ムカつくぜ、戦車道が好きな優しい戦車乗りだと?

 頑張れ西住、お前がナンバーワンだ!!って、だからやらせるな~~!!」

 

「いや本気でノリいいですね桃ちゃん先輩?桃ちゃん先輩となら最高の漫才コンビを結成できるような気がしてきました……コンビ組みます?」

 

「誰が組むかぁぁ!!」

 

 

 

其れは残念……桃ちゃん先輩となら結構イケてる漫才コンビが結成できると思ったんだけどなぁ。

でも、数年ぶりに復活する無限軌道杯は魅力だね……名立たる学校がエントリーして来るのは当然として、全国大会には出て来る事が無かった『隠れた強豪』が出てくる可能性もあるから、そう言う意味では全国大会よりも楽しい事になるかもだよ。

真の意味で群雄割拠になる無限軌道杯を制したとなれば、大洗の地位を確固とする事が出来るかもだよ――だけど、それ以上に隠れた強豪と戦う事が出来るかも知れないって言うのはとっても魅力だね。

無限軌道杯に向けての準備を進めないとだよね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:???

 

 

無限軌道杯……数年前に休止してた冬季大会が復活するとは、此れもみほ率いる大洗女子学園が全国大会で下克上をかまして、更には大学選抜を下した影響かしら?

でも、無限軌道杯が復活してくれるのなら有り難い事この上ないわ――全国大会と違って、無限軌道杯に出場する学校に制限はなかった筈だから事実上『戦車道を行っている学校』であればどこでも出場する事が出来るからね。

 

 

 

「どしたの?何か楽しそうだよ?」

 

「そりゃ楽しそうにもなるわよ。」

 

だって、無限軌道杯に出ればみほと戦う事が出来るかも知れないんだから――何よりも、6年前の約束を果たす良い機会だから、無限軌道杯には参加させて貰うわ。

待ってなさいみほ……無限軌道杯で会う事を楽しみにしてるわよ!

 

でも、其れは其れとして今は……

 

「アンタ達は……毎度毎度毎度……下らない事でケンカするんじゃないって言ってんでしょうが!!学習能力無いの!発達障害かオイィィィ!!」

 

「やべ、マネージャーがキレた!!」

 

「ぜ、全軍撤退!今すぐ此処から離脱しろぉ!!」

 

「逃がすかあ!!」

 

無意味なケンカをする馬鹿共を粛正ね……ったく、毎度毎度よくもまぁケンカのネタが有るって、逆に感心するわ……ある意味で、此れも脳筋であるからなのかもしれないけどね。

だけど、其れだけに戦車道でガッチリとギアが噛み合ったその時には無限の力を発揮出来るか――少しばかり違うかも知れないけどみほ率いる大洗もそんな感じだったわね。

 

だからこそあなたと戦いたいわみほ――貴女が見つけた貴女だけの戦車道、其れを見せて欲しいわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer176『無限軌道杯前の選挙です!』

無限軌道杯の前に生徒会役員会議!Byみほ        この時期に!?普通にあり得ないわByエリカ


Side:みほ

 

 

無限軌道杯への出場を決めて、学園艦の何処かに眠っているらしいマークⅣ戦車を探し出そうとしていた所だったんだけど……如何やら、中々そうは行かないみたいですね会長さん?

まぁ、時期的に仕方ないとは思いますけれど。

 

 

 

「いやぁ、ゴメンね西住ちゃん。

 本当ならマークⅣの探索をしてほしい所なんだけど、アタシ等生徒会もそろそろ代替わりの時期に来てっから、次の生徒会役員を決めとかないといけねーんだわ。」

 

「はい、其れは分かってます。

 でも、其れなら普通に生徒会役員に立候補した人達で選挙をすればいいだけですよね?――其れなのに、なんで私が呼ばれたんでしょう?」

 

「まぁ、普通なら立候補者が出て、演説ブチかまして選挙って所なんだけど……ぶっちゃけ今年の大洗に限定すれば、誰が立候補した所で、立候補してない西住ちゃんが得票率90%で生徒会長になる事が略確定なんだよね~~。」

 

 

 

会長さん其れ色々とオカシイです。

私が生徒会長に立候補したのなら兎も角、立候補もしてないのに得票率90%オーバーで生徒会長に就任するとか普通にあり得ませんから。って言うか、そんな選挙はそもそも無効です。

 

 

 

「だよね?

 って言うか、アタシとしても西住ちゃんを生徒会長にはしたくないんだよ~~?

 確かに西住ちゃんはカリスマ性もあるから生徒会長にはピッタリなのかも知れないけど、生徒会長と戦車隊の隊長の二足の草鞋は流石の西住ちゃんでもキッツいっしょ?……だから、次期生徒会役員は会長権限でアタシが決めようかと思ってんだよね。」

 

 

 

……何ですか其の凄まじい権限は?現会長が次期役員を任命するだなんて、全国的にも珍しい――って言うか大洗以外にはないかもだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer176

『無限軌道杯前の選挙です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさかの生徒会長権限に驚きましたけれど、そう言うって事は会長さんは次の生徒会役員にある程度の目星は付けてるって事ですよね?

そうじゃなかったら、こんな大胆な提案が出来る筈がありませんから――態々私を呼んで何をしようとしているのかは分かりませんが、取り敢えず会長さんのお眼鏡に叶った人達を教えて頂けますか?

 

 

 

「其れは勿論。かーしま、西住ちゃんにあのファイル渡してあげて。」

 

「はい。此れがそのファイルだ西住。

 会長が選出した生徒のパーソナルデータが詳細に記されているからよく読んでおいて欲しい……尤も、お前ならば1時間もあれば全部暗記してしまうのかもしれないがな。」

 

 

 

で、桃ちゃん先輩から渡されたのは其れなりの厚みのあるファイル……あの、このファイルに記された生徒数ってドレ位でしょうか?桃ちゃん先輩は1時間もあれば大丈夫だと言っていましたが、人数によっては其れよりかかるかも知れませんよ?

 

 

 

「そうだな……会長のお眼鏡に適う生徒を厳選したから大体50人と言った所か?」

 

「50人ですか……50人を1時間でか。」

 

「流石のお前でもきついか西住?」

 

「桃ちゃん先輩……何を勘違いしてるんですか?」

 

「ひょ!?」

 

 

 

自慢じゃありませんが、私は転校初日に自分のクラスの生徒の名前と生年月日を完全に記憶したんですよ?それどころか、黒森峰時代には百人以上居た戦車隊のメンバーの名前と生年月日を全部記憶していたんです。

其れも一軍のメンバーだけじゃなくて二軍のメンバーまでって言う本当の意味での全員ですよ?

そんな私にかかったら、50人程度の名前をはじめとした諸々のデータを記憶するなんて、青眼の究極竜でキノコマンを滅殺するよりも簡単な事ですよ?

1時間も必要ありません……50人なら30分もあれば余裕ですね。

其れに、多分ですけど会長さんが厳選した50人の中には戦車隊のメンバーも何人かいると思いますから、其れなら効率は更に上がりますし。

 

 

 

「おぉ、30分と来たか!流石は西住ちゃんだね~~♪」

 

「凄いですね、西住さん。」

 

「此れだけの量を30分で記憶するとは……西住、お前一体何者だ!?」

 

「隻腕の軍神で戦車を極めんとする者ですが何か?」

 

「矢張りそう来るか!!自信満々に言われると突っ込む事すら出来ない上に、お前は其れを言うに値する実績を残しているから何も言えんぞ!」

 

「えへ、褒めないで下さい♪」

 

あの一件以来、桃ちゃん先輩はノリが良くて弄り甲斐のある先輩って感じになってるかな?まぁ、今の方が前よりもずっと人受けが良いのは間違いないけどね。

まぁ、其れは兎も角、このファイルに目を通すのは良いとして、結局私って何の為に呼ばれたんでしょうか会長さん?

 

 

 

「いやぁ、アタシの独断で50人程次期生徒会のメンバーを選出した訳なんだけど、其処から三人選ぶとなると結構大変だから、最終的に決めるのはアタシでも、西住ちゃんには此処から更に人数を絞り込んで欲しいんだよね~~?……ダメ?」

 

「そんな重要な作業を私に任せても良いんですか?」

 

「いんや、西住ちゃんだからこそ任せられるんだよ~~。

 戦車隊の隊長として、人を見る目はアタシよりもあるんじゃないかと思ってるから、アタシの選んだ50余人の中から更に厳選して欲しいんだ。

 西住ちゃんのお墨付きがあれば、誰が就任しても何処からも文句は出ないだろうしね。」

 

「はぁ、そう言うモノなんですか……分かりました、重要な仕事ですが引き受けさせて貰います。」

 

只、このファイルは持って帰っても良いですか?

幾ら30分あれば覚えられるとは言っても、来年の大洗の舵取りを担う事になる生徒会のメンバー候補をこの場で選出する事は流石に難しいと思いますので。と言うか、放課後の残り時間的に無理です。

 

 

 

「いいよ~~。もとよりじっくり検討して貰う心算だったからね~~?まぁ、逸見ちゃんや赤星ちゃんと意見を擦り合わせて、誰が次の生徒会の役員に相応しいか選んでよ。

 西住ちゃんの意見は最大限に参考にさせて貰うからさ。」

 

「其れってつまり、ある意味で私に丸投げって事ですよね?」

 

「其れについては黙秘権行使の方向で~~。……だけどさ、此れだけは言っておくよ西住ちゃん――アタシは君が大洗を任せるに値すると思った人達をないがしろにする心算はない。

 だから、西住ちゃんの直感で選んで欲しいんだ――次の大洗を託せる人達をね。」

 

「……分かりました。」

 

取り敢えず、寮に戻ったらエリカさんと小梅さんと一緒に新生徒会の役員候補を選出しないとだね……簡単な事じゃないのは確実だけど、来年度の大洗の為にはやらなければならない事だから、やるしかないよ。

其れに、私一人だったら可成り大変で、会長さんに地獄の断頭台をブチかましてたかもしれないけど、エリカさんと小梅さんの協力があるなら、そこまで大変な仕事ではないと思うからね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

そして帰宅後、お風呂と晩御飯を終えて、エリカさんと小梅さんと一緒に来年度の生徒会役員候補を選定中!――因みに今夜の晩御飯は、秋が深まって寒くなって来たって言う事で、エリカさん特製のすき焼き鍋だった。

其れも只のすき焼きじゃなくて、割り下に豆板醤と麻辣スパイスを混ぜ込んだ『四川風牛すき鍋』!パンチの利いた辛さが食欲をソソル逸品だった上に〆のうどんが最高だったからね♪

 

で、誰か良い候補って居た?

 

 

 

「寧ろ良い候補しか居ないわよ……会長さんの人を見る目は大したモンだと思うけど、此処まで良い候補だらけだと逆に誰を選べば言いのか分からないって所ね?

 優秀な人材ばかりだと、枠数が決まってる役職を選ぶ時に苦労するって言うのは本当だったみたいだわ。」

 

「優秀な人材を50余人も厳選してくれたのは有難いですが、其処から生徒会役員3名を選出するとかある意味高難易度ミッションですよ。

 此れ、ちょっと深読みしちゃうような人だったら『此れは新手の嫌がらせか!?パワハラか!静かなパワハラなのか!?』って思っちゃうかも知れませんって。」

 

「エリカさんの言う事も、小梅さんの言う事も良く分かるなぁ……流石は会長さんが選んだ候補だけあって、戦車道チームのメンバー以外も生徒会役員を任せられそうな人達ばかりだもんね。」

 

しかも、必修選択科目から最低三人を選出してるんだから大したモノだと思う……だけど、忍道の人達のデータの顔写真は素顔のモノは無かったのかな?

服装は大洗の制服なのに、頭は忍者特有の頭巾?メンポ?で覆われてるとか不審者どころの騒ぎじゃないから。普通に通報されてるから。

って言うかその中の一人の頭装備には『忍殺』って入ってるけど其れは絶対ダメでしょ!?同じ選択科目の子達をスレイヤーして爆発四散のサヨナラさせる心算じゃないよね!?

……まぁ、忍道の成績は優秀で、アンドリューやロンメルと一緒に学園艦に入り込んだ不審者を排除してるって事だからこの格好はあくまでもネタなんだろうけどね――あと、彼女が排除した不審者がどうなったかは、きっと考えちゃいけない事なんだよねうん。

 

 

さてと、でもこのままじゃ埒が明かないから、そうだね……役職ごとに振り分けてみようか?

そうすれば誰がどの役職に向いてるのか分かるし、同時に会長さんが生徒会役員に向くかもと思った人の中から、実はどの役職にも向かない人を篩に掛ける事が出来るからね。

 

 

 

「良いですねみほさん、其れで行きましょう!」

 

「で、どうやってそれをやる心算?」

 

「書類を3つに分けて、私が生徒会長を、エリカさんが副会長を、小梅さんが広報を担当しよう。

 自分が担当となった書類の中から自分が担当してる役職に適性がありそうな人の書類はキープして、それ以外の書類は自分の右隣の人に回して行く事にしよう。

 こうすれば私達三人の誰もが選出しなかった人は除外出来るから人数は可成り絞り込めると思う。」

 

「Gute idee Miho!(いいアイディアねみほ!)

 確かにその方法なら人数を可成り絞り込む事が出来るわ……でも、其れでも夫々の役職を一人だけ選ぶのは可成り難しいんじゃないかって思うんだけど?」

 

「一人だけ選ぶ必要はないよエリカさん。

 私達は最大公約数を選べばいいんだよ、最後に選ぶのは会長さんだから――会長さんの事だから、自分が選ぶと言いつつ、私達が選んだ人達での選挙とかやりそうだけどね。」

 

「あはは……其れは確かに否定できませんねあの会長さんだと。」

 

 

 

文科省の局長と大臣を味方につけて、更には戦車道連盟の会長とお母さんと島田の小母様まで味方につけて大洗を救おうとするような女傑だからねぇ……若しかしなくても10年後には大洗町の町長、20年後には茨城県の県知事になってるんじゃないのかな会長さんは?

でも、兎に角この方法で頑張ろうか?ぱんつぁー・ふぉ~~~~!!

 

 

 

「「Jawohl.(了解。)」」

 

 

 

※以下、選別作業に於ける夫々の独り言

 

 

 

「会長、会長、惜しい会長未満、会長、会長、才能はあるけど見た目が問題外ゴリラ、会長、会長、人間外生物。あ、華さんは鉄板だよねやっぱ。」

 

「副会長候補、コイツも副会長候補ね?コイツは……副会長で収まる奴じゃないでしょ?って言うか副会長にしたら下克上起こしかねないし。

 副会長候補、副会長候補……女子プロ同好会の極悪ヒールは人気があってもダメでしょ此れ。……優花里は取り敢えずキープよね。」

 

「広報となると、人当たりの良い人の方が向いてますよね……となると、此の10人は先ず除外ですね――能力はありますけど見た目が広報として完全アウトですから。しかも其の内の一人は本当に女子高生ですか此れ?

 となると残り6人ですが……そうなると、この人とこの人と……あ、沙織さんは広報にはぴったりかもしれませんね。」

 

 

 

「エリカさんから回って来た人達……会長に向くのはこの人だけかな?」

 

「小梅から回って来た連中で副会長に向きそうなのは……二人ね。」

 

「みほさんから回ってきた書類で広報に向きそうなのは居ませんね?はい、エリカさん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

――同様のやり取りが完全に一周するまで続くから……そうだね『残響ノ鎮魂歌』でも聞きながら待ってて。(残響ノ鎮魂歌が分からなかったらグーグル先生を頼ってね♪)

 

 

 

 

 

 

 

 

で、作業開始から2時間……やぁぁぁぁっと作業終了!!時計を見れば午後11時!!随分頑張ってたんだね……でも、これで仕事は終わったからもう一度お風呂に入ってから寝ようか?流石にちょっと疲れたしね。

 

 

 

「そうね……そうしましょう。

 って言うか、面倒だから全員一緒に入っちゃいましょ……私等の部屋の浴室なら三人で入っても余裕でしょ?こう言う時は睡眠時間を確保する為に他の時間を削る方が良いからね。」

 

「流石はエリカさん、伊達にドイツのクォーターじゃありませんね?ドイツ人は徹底して無駄を省く人種だと聞いていましたが、その血は確りとエリカ

 さんに受け継がれてたと言う訳ですか。」

 

「そうみたいね!!この銀髪は伊達じゃないのよ!!」

 

 

 

あはは~~……ドイツ人の血筋が色濃く現れたエリカさんの銀髪は綺麗で大好きなんだよね。――其れに、顔立ちも整ってるからエリカさんには雑誌からモデルの依頼が来てもおかしくないと思うな。

それ以前にエリカさんなら、男性から引く手数多かも知れないけどね。

 

 

 

「何を言ってんのみほ?悪いけど私はその辺のチャラ男には興味ないわ……私が興味があるのは、只一人――貴女だけよみほ。」

 

「ふえぇぇ!?わ、私!?何で、どうしてそうなるの!?」

 

「貴女ねぇ……今だから言うけど、中学一年の時の明光大と黒森峰の合同合宿の時の打ち上げで、ペパロニの奴が略確信犯で紛れ込ませてたノンアルじゃない本物のビール間違って飲みほして酔っぱらって私のファーストキスを奪ってくれたのよ!?

 幾ら貴女が戦車道馬鹿でも、乙女のファーストキスの重要さが分からなくはないわよね?」

 

 

 

ふええぇ!?其れマジですか!?

 

 

 

「残念ですが大マジです。

 ガッチリとエリカさんの頭をホールドしての10秒間のキスは、見てる方が照れてしまう位に濃厚でした……百合スキーさんなら間違いなく昇天確定の光景でしたよアレは。」

 

 

 

……マジですか?――すみません、学園艦の先端からダイブしてきます。

 

 

 

「待て待て待て~~い!何でそうなるのよ!?」

 

「記憶がなくなるくらいに酔った状態でエリカさんの純潔を奪った愚物には此れ位の制裁をかました方が良いのではないかと思いまして……大丈夫だよエリカさん、下は海だから死ぬ事は無いと思うから。」

 

「だからって学園艦からひもなしバンジーを敢行するじゃないわよ!

 貴女なら死ぬ事だけは無いでしょうけど、学園から身を投げた生徒が居たなんて言うのは大洗にとって最悪のマイナス要素だから止めなさい。」

 

 

 

む……確かに其の通りだね。

だけど、酔ってたとは言え、エリカさんのファーストキスを奪った罪は重いから、私はその罪を償わないとだよね?……なら、私に出来る事は!!

 

「エリカさん……私と付き合って下さい!!」

 

エリカさんとお付き合いする事だね!!

冗談でも酔狂でもなく、私は真剣にエリカさんと付き合おうと思ったよ――何よりも、エリカさんは私の戦車道に真っ向から向かってきてくれた唯一無二の戦車乗りだからね。

エリカさん、私じゃ駄目かな?

 

 

 

「ダメだって言うと思ってるの?……私としては待ってたのよみほ、貴女が何時言ってくれるのかってね――だから、私の答えはイエスよみほ。

 貴女がダメな訳ないでしょう?私は貴女が良いのよ――ぶっちゃけて言うなら、中学1年の時に戦ったその時に、貴女に惚れたわ。

 あの時はまほさんに憧れていたけど、貴女との出会いは、それ以上の衝撃を私に齎してくれたからね。」

 

「其れは私もですみほさん。みほさんが居たからこそ、私もエリカさんも戦車道を続ける事が出来たんです。」

 

 

 

そうなんだ……でも、そう言って貰えるのは嬉しいかな?――私の存在がエリカさんと小梅さんを戦車道に留める事が出来たって言うのなら、悪い事ではなかったのかもね。

まぁ、この場でエリカさんと両想いだったって事を知る事になったのは予想外だったけど――だけど、私もエリカさんもお互いの事を好き合ってるんだから問題はないよね。

そもそも戦車女子に於ける百合カポーは普通だし。梓ちゃんとあゆみちゃんもラブラブだからね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

でもって三日後……結果的に言うなら、新生徒会のメンバーは、会長に華さん、副会長に優花里さん、広報に沙織さんが選出されて新生徒会のメンバーが決定。

会長さん、なんで此の三人だったのでしょうか?

 

 

 

「五十鈴ちゃんは清楚な大和撫子だけど、芯は強くて絶対に自分の信念を譲らない所があるから、西住ちゃんが選出してくれた候補の中で会長を任せられるのは五十鈴ちゃんだけだって直感したって言う所かな?

 秋山ちゃんと武部ちゃんも同じ理由かな?彼女達こそが新たな生徒会のメンバーに相応しい――だからこそ、私達は時代に安心してバトンを渡す事が出来るのさ。

 新生生徒会は、アタシ等以上の働きをしてくれるって信じてるんだよアタシは。」

 

「会長さん……」

 

次代の事を考えて、自ら身を退くその姿勢はとても評価出来て、そして尊いものだと思います――人は誰しも権力を手にすると、其れを手放す事が出来なくなってしまいますけど、其れを躊躇なく手放して次代に渡した会長さんの度量には敬意を称するレベルですよ。

 

 

 

「嬉しい事言ってくれんね西住ちゃん?その選出眼は大したモノだよ!

 君に大洗の次代の選出を任せたのは間違いじゃなかったみたいだね……お蔭で、アタシ等の時以上に生徒会は強化されるみたいだからね。」

 

「華さんが会長で、優花里さんが副会長、沙織さんが広報――この布陣に敵はないです!!来年度大洗は、安泰間違いないと思います!って言うか其れで間違いないよ。」

 

 

 

だよね……なら、後は最終決戦に向けてやれる事をやる――其れだけだからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:お銀

 

 

あれ以来、陸の隊長さんは来てないな……彼女ともう一度酒(ノンアルコール)を汲みかわしたいモノだ――だが、近い内に隊長さん達が訪ねて来そうな気がするんだよねぇ……あくまでも勘だけれど。

もしもそうなったその時は、ノンアルコールのラムで飲み明かそうじゃないか。君となら、最高の杯を交す事が出来そうだからね。

 

尤も、この時は、私達が戦車に乗る事になるなんて言う事はマッタク持って考えても居なかったのだけれど――此れもまた隊長さんのカリスマ性が引き起こした事なのかと思うと妙に納得してしまった私が居たよ。

 

 

西住みほ――大洗の救世主か……ククク、彼女に限ってはどん底へのアクセスはフリーパスにしておこう……そうれなば、西住みほが店に来る確率が高くなるし、彼女が来店してくれれば、其れだけで大盛り上がりだからね――何時来るかは未定だけど、それ程遠くない時期に来るんじゃないかと予想しているよ。

 

なんにせよ、また一緒に語らおうじゃないか、西住みほ。どん底に来る日を楽しみに待ってるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer177『無限軌道杯に向けての準備です』

マークⅣはマニアになら、プレミア価格で1億は堅いかな……Byみほ        オークションならもっと値を吊り上げられるかも知れないわねByエリカ      あの、あくどい商売は良くないと思いますBy小梅


Side:みほ

 

 

中学の時の彼是でエリカさんと付き合う事になった訳なんだけど、小梅さんは大丈夫?こんな事を言ったらアレかもしれないけど、三人部屋で私とエリカさんがカップルって言うのは小梅さんにはきつい事だと思うんだけど……

 

 

 

「そんな……私の事は気にしないで下さいみほさん――私はみほさんとエリカさんが幸せであるのならば其れで良いんです……だから、私の事は気にせず、思いっきりいちゃついてください。

 エリみほは鉄板なので。序に作者の好物ですから。」

 

 

 

――エリみほは正義だ!ガルパンの常識だ!古事記にだってそう記されている!!

 

 

 

……何か聞こえたけど無視の方向だね此れは。

 

 

 

「小梅……そうは行かないわよ?

 中学の三年次はみほに酒瓶を口に突っ込まれてKOされたけど……今だから言うけど、二年次には小梅もアタシと同じ方法でみほに酔い潰されんだからね?貴女もみほも覚えてないでしょうけど。」

 

「ふえぇ!?そうなんですかエリカさん!?」

 

 

 

マジですかエリカさん!?……と言う事は、私はエリカさんだけでなく小梅さんの初めても奪ってたって事だよね?……ゴメン、やっぱ学園艦の先端から紐なしバンジーやって来る。

お母さんには『西住みほはリバプールの風になった』とでも言っておいて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer177

『無限軌道杯に向けての準備です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リバプールの風になったって、獣神サンダー・ライガーの中の人かアンタは!!」

 

「紐なしバンジーは駄目ですみほさん!!」

 

 

 

後は学園艦からの紐なしバンジーを敢行すれば良いと思ってた所で、小梅さんに抱き付かれてしまいましたとさ……何でこうなるのかな?

と言うか、酔っぱらったとは言え、エリカさんと小梅さんのファーストを奪ってたとか、最低すぎるよ私……尤も、その罪滅ぼしの意味でエリカさんと付き合う事にした訳じゃないけどね。エリカさんの事が好きなのは本当だし。

だけど、此処で新たに小梅さんがエントリーするとは予想外だったよ!!!

 

 

 

「小梅……正直に言いなさい、貴女もみほの事が好きなんでしょ?」

 

「……はい、好きです。

 中学一年の時に戦った時から好きになってました……だけど、みほさんにはエリカさんみたいな人の方が相応しいと思ったんです――だから私は此の思いを胸の奥に秘めておく心算でした。

 それなのに、此処で暴露されたら意味がないじゃないですか!!!」

 

「そうだね、無意味だね~~……」

 

しかも小梅さんもエリカさん同様に私の事が好きだったとさ。……如何しろっての此れ!?

戦車女子的に百合カップルは珍しい事じゃないし、私だって小梅さんの事はエリカさんと同じ位好きだけど、だからと言って二股掛けるのは絶対にアウトでしょ!?

浮気や不倫はダメ絶対!!

 

 

 

「みほ、こんな言葉を知っている?『たった一人しか愛してはならないと誰が言った?』っての。」

 

「なんだかどっかで聞いたセリフ!?

 より詳しく言うなら、近坂先輩並みの眼鏡美人な無限の成層圏の二次創作のオリ主が、双子の弟になった原作主人公に言い放ったセリフ!!

 そして、毎度双方の作品に感想を送ってくれる皆様、この場を借りて厚く御礼申し上げます!!」

 

「みほさん、可成りメタいです。メタルスライムやメタル化よりもメタいです。

 それでその、私もみほさんが好きな訳でして……私では駄目でしょうか?」

 

 

 

上目使いで聞いて来る小梅さん……其れは反則だよ。

だけどエリカさんは良いの?私が小梅さんと付き合っても……

 

 

 

「別に全然かまわないわよ?こう言ったら何だけど、貴女って天然の人誑しだと思ってるから、私や小梅以外にも思いを寄せてる人が居るだろうって思ってるし。

 貴女が本気なら、何人と付き合おうと気にしないわ……ぶっちゃけて言うと、ペパロニなんかも貴女にそっちの感情持ってるかもだし。」

 

「そ、其れで良いのかな?って言うかペパロニさんも!?……と言う事は、ナオミさんやローズヒップさんも……」

 

「いえ、ナオミさんは五十鈴さんと、ローズヒップさんはルクリリさんみたいです。」

 

 

 

ローズヒップさんは兎も角、ナオミさんの相手が100メガショック!!って言うか何時の間にそんな関係になってたの!?全然マッタク気付かなかったんだけど!!

 

 

 

「実は全国大会の後からみたいよ?

 ナオミは2年生ながら3年のノンナと肩を並べる位の砲手だけど、華ってば今年から始めた砲手なのに、大会の要所要所で一発必中を連発して大洗の勝利に貢献したじゃない?

 その類稀なる才能にナオミが惚れ込んで、決勝戦の時に私達にエールを送りに来た時にコッソリ連絡先交換してたみたい……其処から、何度か電話で話してる内にお互いにって事みたいよ。因みに情報元は沙織。華本人から聞いたってんだから確実でしょ此れ。」

 

「沙織さんが言ってるだけなら兎も角、華さん本人が沙織さんに言ったって言うのなら其れはもう確定と見て良いね……これはアレかな、砲手として互いに惚れ込む所があっただけじゃなく、ナオミさんは華さんの純和風な大和撫子な容姿に、華さんはナオミさんのボーイッシュな見た目に惹かれたって言う事なのかな?」

 

「多分そうなんじゃないですかね?」

 

 

 

まさかのナオ華になってたとは驚きだけど、ナオミさんと華さんなら案外巧く行くんじゃないかな?ボーイッシュでざっくばらんなナオミさんと、おっとりしてるけど芯の強い華さんはお似合いだと思うからね。

 

でも其れは其れとして、私の事だよ今大事なのは!!

エリカさんと付き合う事になったけど、小梅さんにもエリカさんにやったのと同じ事をしてて、小梅さんも私の事を好きで、私も小梅さんの事は好きな訳で、そしてエリカさんは私が何人と付き合っても良いって言うんだよね?

 

 

 

「それで、みほさん……私と付き合って頂けますか?」

 

「答えは一つだよ小梅さん……こんな私で良ければお願いします!!」

 

「はい、此方こそ。」

 

 

 

西住みほ17歳、僅か9時間ちょっとの間に彼女が二人も出来ましたとさ……此れもアレかなぁ?英雄色を好むって言うのかなぁ……合ってる様な違う様な――まぁ、深くは考えないようにしよう。

 

その後、沙織さん達と合流したんだけど、私がエリカさんと小梅さんと付き合う事になったのを伝えたら、驚かれたけど祝福されちゃったよ。

優花里さんに至っては『エリみほは神、みほ梅は尊いであります!』とか言ってたからね……尚、華さんにナオミさんとの事を聞いたら、少し顔を赤くして『お付き合いさせて貰っています』って返って来たよ。

で、私とエリカさんと小梅さんが付き合う事になった沙織さんが『みぽりんまさかのハーレム!?やだもー!!』とか言ってたのは、まぁお約束って言えるかもね。

 

で、其れは何かなアンドリュー、ロンメル?

 

 

 

『ガウ、ガルルゥゥゥゥ。(不審者其の壱。沙織のストーカーだ。)』

 

『キュ、キュイーン。(こっちは不審者その弐です。こっちは優花里さんのストーカーですね。)』

 

「成程よく分かったよ……アンドリュー、ロンメル――パワー全開で破壊光線!!」

 

 

 

――ドッガァァァァン!!!

 

 

 

「みぽりん、ストーカーは撃滅一択だけど、破壊光線はちょっとやり過ぎじゃない?って言うか、アンドリューとロンメルって破壊光線使えるんだ。」

 

「破壊光線は1ターン動けなくなるデメリットはあるけど、其れを補って有り余る破壊力があるから覚えさせても損はないんだよ沙織さん。

 それと、学園艦に忍び込む迷惑DQNに掛ける情けは無いよ……生徒に被害が出てからじゃ遅いから、こう言った輩は捕まえたら速攻で処分するのが吉なんだよ。分かった?」

 

「言われてみればそうだよね……理解したよみぽりん♪」

 

 

 

分かってくれれば其れで良いよ沙織さん。

取り敢えず、今日も一日頑張って!

 

 

 

「「「「「行きまっしょい!」」」」」

 

「行くぞ~~。」

 

 

 

麻子さん、こう言う時は少しは合わせて欲しいよ……まぁ、此のマイペースさが麻子さんの魅力でもあるだろうけどね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

で、その日の昼休み、スマホのLINEで桃ちゃん先輩に呼び出されて、学園艦のコントロールルームに来たんですけど、何かあったんですか桃ちゃん先輩?

って言うか今日のランチはカツサンドですか、美味しそうですね。

 

 

 

「只のカツサンドではない。大洗アクアワールドとのコラボメニューであるシャークカツサンドだ。サメ肉のカツと特製のタルタルソースを挟んだサンドイッチは絶品だ。

 今度お前も食べてみると良い……ではなくてだなぁ、マークⅣの在り処が分かったんだ。」

 

「本当ですか桃ちゃん先輩!!」

 

「本当だ!マジだ!!本気と書いてマジと読むくらいにマジだ!!」

 

「此の短期間でマークⅣの在り処を断定するとは、流石ですね王様!!」

 

「ハッハッハ~~!我を誰と心得る!紫天の主たる、闇統べる王ぞ!我の手にかかれば此れ位の事など造作もないわ!って、やらせるなー!」

 

 

 

いやぁ、桃ちゃん先輩ノリがいいのでつい。

其れで桃ちゃん先輩、マークⅣは何処にあるんですか?場所が分かるのなら直ぐにでも取りに行きますけれど?

 

 

 

「お前ならばそう言うと思ったぞ西住……とは言え一人では大変だろうから何人が一緒に行くメンバーを選出してくれ。

 お前と、お前と一緒に行くメンバーは午後の授業は公欠扱いにしておくからな。」

 

「其れは助かります……して、マークⅣの在り処は如何に?」

 

「……この学園艦の最深部だ。」

 

 

 

学園艦の最深部!!

前に一度迷い込んじゃった事があるけど、あそこの治安はアメリカのスラム街も真っ青なレベルなんだよねぇ……流石にヤバ気なクスリをヤッてるような人は居なかったけど、時代遅れのスケ番的な人は居たからね……此れは、一緒に行くメンバーは慎重に選ばないとだよ。

 

取り敢えずエリカさんと小梅さんは鉄板、あんこうチームも各分野のスペシャリストが揃ってるから確定。何よりも、いざと言う場合には華さんの『新生徒会長』の雷名を使う事も出来るしね。

梓ちゃんは如何しようかな?……あゆみちゃんが心配するだろうから止めておいた方が良いかな?心配するだけなら未だしも、付いて来て危険な目にでも遭ったら梓ちゃんが『プチッ』と行くかも知れないし。

 

 

 

「西住、道案内が必要だろう?園を同行させるか?」

 

「いえ、大丈夫です桃ちゃん先輩。

 最深部には、前に戦車を探してた時に迷い込んじゃった事がありまして、その時のルートを確りと覚えてますから――其れよりもマークⅣは最深部のどの辺りにあるんでしょうか?」

 

「細かい場所までは分からないが、モニターに出ている学園艦の断面図の最深部部分で赤く光っているエリアにあるようだ……其処から先は、地道に探すしかないのだがな。

 三徹しても此処までが限界だった……許せ西住……」

 

 

 

はぁ!?三徹って大丈夫なんですか桃ちゃん先輩!?って言うか授業は受けられたんですか~~~!?

 

 

 

「授業は会長……もとい杏ちゃんが公欠扱いにしてくれたから問題ない。

 そして三徹出来たのは、リポビタン、タフマン、アスパラ、チオビタ、リアルゴールドにデカビタと言った各種エナジードリンクを摂取したおかげだ!

 これらのエナジードリンクのおかげで、今の私はどんな事でも出来る気がする!!」

 

「極度の疲労と眠気がエナジードリンクで強制的に覚醒状態にされた事で、なんかヤバい状態になってるぅぅぅ!?

 すみません桃ちゃん先輩、御自身の為に眠って下さい!って言うか強制的に眠らせます!!西住流格闘術奥義、飛びつきスイング式DDT!」

 

 

 

――ドガバァァァァァァン!!!

 

 

 

「もぺ。」

 

 

 

首に飛びつくという過激な行為に動きの止まった相手の首を極め、其処から大きく体を振ってその遠心力を最大限に生かして極めた首を脳天から地面に突き刺す一撃必殺の、垂直落下とは異なるDDTの究極形の一つ……桃ちゃん先輩、三徹はお疲れ様ですが、其れで身体を壊しては元も子もないので、暫し其処で眠っていて下さい。

 

 

 

「西住さん、三徹よりも今の技の方が身体を壊すと思うんだけど……」

 

「大丈夫です、本当に頭を打ち付けた訳じゃなく、その前段階の首を極めてた時に落としただけですから……一瞬で頸動脈を〆たので、苦しむ間もなく精神は夢の世界にGo to Heavenです。

 皆さんも徹夜してるようだったら即座に休んでください。」

 

「いえ、私達は交代制でやっていたので大丈夫です。」

 

 

 

つまり、桃ちゃん先輩だけが謎のやる気でハッスルしちゃったという訳だね……しょうがないなぁ。

マッタク、幾ら学園の為とは言え三徹とか桃ちゃん先輩張り切り過ぎだよ……ホント、あの一件以来別人になったみたいだね?――或いは、こっちの方が素だったのかもね?

あの高圧的かつ偉そうな態度は、生徒会役員であろうとして過度に自分を演出した結果だったのかな?……何にしてもマークⅣの探索、お疲れ様でしたので、今はゆっくり休んでください。

……まぁ、三徹なんて無茶な事をした訳だから、明後日の朝まで目覚めないかも知れないけどね。

 

さてと、其れじゃあエリカさん達を集めてマークⅣのある場所に向かおうとしようかな?

桃ちゃん先輩が割り出してくれたマークⅣのあるエリアは、あのバーがあるエリアだった筈だから、若しかしたら案外あっさり見つかるかもだね♪

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

此処に来るのも大分久しぶりだけど、相変わらず凄い場所だなぁ……最深部に居るのは船舶科の生徒だって事だけど、これは明らかに上に居るのとは違う存在が居るよねうん。

 

 

 

「みほ、此処は本当に大洗の学園艦の中なの?どっかのスラムに迷い込んだわけじゃないわよね!?」

 

「スラムの方がマシですよエリカさん……薄暗い照明だけでもアレなのに、壁どころか天井にまで及んだスプレーでの落書きに、散乱したガラスの破片に、明らかに何かで殴られたとしか思えない壁の凹み――治安悪い所の騒ぎじゃないですよ此れは!!」

 

「まるで警察も介入できないアンダーグラウンドだな此れは……此れはそど子でも取り締まれまい。」

 

「麻子、気にすべきは其処じゃない気がするんだけど、其れって私の気のせいなのかな?」

 

「いえ、武部殿の反応は当然だと思いますので気になさる事は無いかと……ですが冷泉殿の言う事も間違っているとは言えません。此の場所の雰囲気は、ハリウッドのギャング映画に出て来そうな地下組織の雰囲気にそっくりですからね?

 こんな場所では何が出るか分かったモノではありません……其れこそ、一歩間違ったら戦車の化身超人であるレオパルドンが出てくるかも知れません!!」

 

「あら、其れは面白そうですね?」

 

 

 

反応は夫々だけど、流石にレオパルドンは出て来ないと思うよ優花里さん。そして、其れを面白そうで片付ける華さんマジパないね……此のメンバーで来たのは間違いじゃなかったって確信をしたけどね。

取り敢えず私の先導で最深部まで来たんだけど、此処で前回は無かったモノ――有刺鉄線のバリケードが私達の行く手を阻んだか。……此れは上からの侵入者を防ぐモノなのかも知れないけど、今の私達にとっては凄く邪魔なモノでしかないよね?

優花里さん、ペンチとか持ってない。

 

 

 

「申し訳ありません西住殿、不詳秋山優花里、今日は持ち合わせていません……お役に立てずに面目ないです!!」

 

「うふふ、気にしないで下さい優花里さん……此処は、私にお任せを。」

 

 

 

優花里さんはペンチを持ってないって言う事だったけど、此処で華さんが……見たところ、有刺鉄線を斬る道具を持っている様には見えないけど。

 

 

 

――シャキィィィン!!

 

――バラリ……

 

 

 

「はい、これで先に進めますね♪」

 

「「「「「うっそだぁ!?」」」」」

 

「凄いな五十鈴さん。」

 

 

 

麻子さん、凄いとかじゃないから。華道で使うハサミで有刺鉄線を斬るとか普通にあり得ないどころか、今の華さんはハサミを一閃して有刺鉄線を斬ったよね!?

ハサミってそうやって使うモノじゃないから!!絶対に違うからね!!!

 

 

 

「みほさん……此れも五十鈴流華道の極意です。」

 

「成程、そう言われると納得だよ……西住流にも戦車道には直接関係ない極意が存在するからね。」

 

やっぱり道を伝える流派には、その道とは直接関係ない極意が存在する物なのかも知れないね。

で、そのまま最深部を進んで行ったんだけど……

 

 

 

「テメェ等、上の連中か?この最深部に一体何の用だ、あぁぁん?」

 

 

 

最深部のDQNとエンカウント!

ウェーブのかかった金髪ロングヘア―に、胸にサラシでロングスカート、そして羽織ってるのは特服って何時の時代のレディースの総長なの!?

其れは未だしも、目蓋の三連ピアスの坊主頭の女子とかJKとしてないでしょ!!……この連中、見た目がヤバすぎるけど、だからと言って私は退かないよ!

 

「貴女達に其れを言う必要はないよね?……悪いけど、貴女達の相手をしてる暇はないから、大人しく道を開けてくれるとありがたいんだけど?」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「んな、この闘気!!

 其れに、左腕のない茶髪のショートボブの生徒……テメェ、西住みほか!!」

 

「如何やら自己紹介はいらないみたいだね?……先に進ませて貰えるかな?勿論、私以外の皆も。」

 

「モ、勿論でさぁ……親分から、西住みほはフリーパスにしろとのお達しを受けてるんで、お友達もどうぞどうぞ……親分の決定にゃ逆らえないってのが最深部のルールなんでね。」

 

 

 

そうなんだ……なら、有り難く通させて貰いますね。

 

 

 

其れで私達がやって来たのは嘗て私が訪れた最深部に存在してるバー『どん底』……私の勘が、此処にマークⅣが有るって言ってたから、訪れる以外の選択肢は存在してなかったよ。

 

「お久しぶりですお銀さん。」

 

「おぉ西住隊長、久しぶりだね?一緒にいるのはお友達かい?――取り敢えずこっちに来て一緒に飲もうじゃないか。

 カトラス、隊長さんとお友達にノンアルの黒、其れからつまみにソーセージとか燻製を適当に見繕ってくれ。」

 

「すまないが、私は苦いの苦手だから、クリームソーダを頼む。」

 

 

 

此の場所でも、自分の欲求を通せる麻子さんは普通に大物だと思うなぁ……だけど、優花里さんと話さんと沙織さんも自分の飲みたいドリンクをオーダーした方が良いよ?

私とエリカさんと小梅さんは黒森峰のノンアルビールを日常的に飲んでたから慣れてるけど、初めての人にノンアルの黒は可成りキツイモノであるのは間違い無いからね。

 

 

 

「……すみません、私はオレンジジュースで。」

 

「私も、オレンジジュース……」

 

「では、私はノンアルコールの日本酒で♪」

 

「華、少し空気読んでよぉぉ!!」

 

 

 

あはは……華さんはいつ何時でも動じない、本物の女傑って感じだね――だけど確かに華さんは、ビールや洋酒じゃなくて日本酒が似合う感じではあるね。

 

 

 

「其れで隊長さん、態々こんな所に何の用が有るんだい?……私と飲みたくなったという訳じゃないだろう?」

 

「酷いですねお銀さん、私は何時かまた此処に来たいと思ってたのに……だけど、今回に限ってはお銀さんの言う事が正解です――私達は此処の付近にある戦車を探しに来たんです。」

 

「戦車って……陸の船かい?そんな物が此処にあるのかな?……と言うか、此処にあるのなら、前回隊長さんが来た時に気付いてるんじゃないのかい?」

 

 

 

其れはそうかも知れませんが、ここら辺にある戦車はマークⅣって言う、ファン垂涎の骨董品で、これを見つけ出して売れば、大洗の戦力を増強する事が出来るかも知れないんです。

だから絶対に見つけ出さないとなんです!!!

 

 

 

「ん?むむむ……西住殿、厨房の奥の有れ、マークⅣじゃないですか?」

 

「へ、ドレドレ……あれは、正にマークⅣ!!」

 

前に来た時には気付かなかったけど、厨房の奥にあるのはマークⅣ!!探し物がこうもアッサリと見つかるだなんて拍子抜けだけど、これで大洗の戦車道は強化されること間違いなしだね――マークⅣを売れば、Ⅳ号F2が3輌買えるだけのお金が集まる事になる訳だからね。

お銀さん、この戦車持って行っても良いですか?

 

 

 

「其れって戦車だったのか?……分からないから、燻製室として使っていたよ――まぁ、持って行くのは好きにすればいい……代わりの燻製室を用意してくれれば何も言う事は無いよ。」

 

「分かりました、代わりの燻製室は直ぐに用意させますので、マークⅣは貰い受けます!」

 

そんな訳でマークⅣを手に入れた訳なんだけど、状態は可成り良いし、機銃も動く……此れなら、オークションに出せばマニアが可成りの額で競り落してくれるだろうから、良い資金になりそうだよ。

問題は、マークⅣを売り払ったお金で補填したⅣ号F2に誰が乗るかて言う事になるんだよね……戦車が増えたところで、其れを動かす人が居なかったら何の意味もない事だからね。――さて、どうしたもんかな?

 

 

 

「戦車の乗り手が足りないのかい?――だったら、アタシ達が力を貸してやろうじゃないか……このどん底のメンバーが力を貸すよ西住隊長。」

 

「ふえぇぇえ!?マジですか!?」

 

「本気と書いてマジだ――アタシとカトラスにラムとフリントとムラカミが力を貸そうじゃないか……何よりも、私はアンタの事を気にってるからね?

 私達を巧く使ってくれよ西住隊長!!」

 

「お銀さん……」

 

その心遣い、確かに受け取りました……ならば私は其れに応えるだけの事――無限軌道杯、必ず制覇しないとだね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:???

 

 

ほら其処、装填遅いわよ!そんなんじゃ、その隙をみほに狙われて白旗判定よ!!自分の限界まで身体を動かしなさい――其れが出来ない位なら、みほに勝つ事は出来ないわよ!!

 

 

 

「張り切るのは良いんだが、みほってのはそんなに強敵なのか?」

 

「アンタね……新聞くらい読みなさいよ――戦車乗りとしてみほを知らないとか無いわ。

 みほのフルネームは西住みほ……天下の西住流の次女にして、黒森峰を10連覇に導き、その後で無名の大洗女子学園を全国大会で優勝に導き、その後行われた大学選抜チームとの試合でも勝利をもぎ取った生きる伝説よ!!」

 

「あんだとぉ!?みほってのはあの西住みほだったのか!!……こりゃたしかに、油断はできねぇな……」

 

 

 

みほを相手に油断したら其れはイコール敗北だからね――小学生の時のあの試合だって、倒木がなかったら、勝ってたのはまほさんじゃなくてみほだったんだから。

もう少し、あと少しで会えるわねみほ……無限軌道杯で戦う事になったその時は、持てる力の全てを出して戦いましょうみほ――きっと、其れこそが私と貴女の戦車道だと思うからね!!

 

無限軌道杯で会う事を楽しみにしているわみほ……私の永遠のカメラート――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer178『新たな仲間はサメチームです!』

出来るだけ高く売るには如何した物かな?Byみほ        サクラを使ってオークションの値を吊り上げる!Byエリカ      エリカさん、其れは普通に犯罪ですBy小梅


Side:みほ

 

 

マークⅣ戦車の探索の為に学園艦の最深部にまでやって来たんだけど、件のマークⅣはアッサリと見つかったから、本来は通常授業に戻るべきなんだろうけど……

 

 

 

「二番逸見エリカ!小梅とデュエットさせてらうわ!!そう言う訳だから来なさい小梅!!一緒に思いっきり歌おうじゃないの!!」

 

「そうですね……御一緒させていただきます!!」

 

 

 

私達は上には戻らずにバーどん底で暫しの休憩タイムって感じだね――本来なら午後の授業に戻るべきなんだろうけど、探索メンバーは公欠扱いになってるからこんな事をしててもマッタク問題なし。

マークⅣを見つけたって事は上にも連絡入れてあるしね。

 

 

 

「何かサボってるみたいでドキドキだよねぇこう言うのって。」

 

「そうか、沙織にとってはドキドキする事なんだな……私にとってはそんなにドキドキする事でもないが、そど子に何か言われる事がない分、こっちの方が平和だな。」

 

「麻子、其れ根本的に間違ってるから!『授業はサボるのがデフォルト』ってオカシイから!風紀委員のブラックリストに載ってるの自覚しなよ!」

 

「ハハハ、隊長さんのお友達は愉快な子達だねぇ?」

 

「個性的であるのは間違い無いと思いますお銀さん。」

 

大和撫子な砲手に、ミリオタ全開の装填士、マニュアルを一度読んだだけで戦車の操縦を完璧に熟しちゃう操縦士、相手を挑発して煽りに煽りまくってから食い殺す狂犬、大人しそうに見えて実は冷徹なまでの戦術眼を持つ隼……此れだけでも充分に個性的過ぎるからね。

 

 

 

「みぽりん、私は?」

 

「沙織さんは……こう、強烈な個性がある訳じゃないんだけど、アマチュア無線二級とコミュ力の高さを生かした通信士として信頼はしてるかな。」

 

「ぶ~~……私だけ無個性~~?」

 

「……如何してもって言うなら、婚活戦士ゼクシィ武部って言う称号を贈らない事も無いけど?」

 

「あ、其れはいらないかな。」

 

「だよね。」

 

尤も、悲しい事に一部の生徒の間では『ゼクシィ武部』だの『歩く婚活雑誌』だの言われてるらしいんだけど、沙織さんの為にも其れは伏せておいた方が良いだろうね。

と言うか、沙織さんもすっかり戦車女子なんだから同性で妥協しても良いんじゃない?後輩受けもいいから、一年生の子達なら案外いけるんじゃないかと思うんだけどなぁ……ま、その辺は沙織さん次第か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer178

『新たな仲間はサメチームです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな感じで小宴会は続いてるんだけど、そろそろ上からマークⅣを引き上げる為にレオポンチームの皆がやってくる頃かな?……学園艦の奥底から戦車を船上に出すなんて言うのは難しい事だと思うんだけど、レオポンチームの皆は断崖絶壁の洞窟の中に隠された戦車とかも回収して来たから、これ位の事は普通にやっちゃうはずだよ。

って言うか、そもそもにしてどうやって隠したんだって言う話なんだけどね。

 

 

 

「言われてみれば、こんなに大きな物を一体どうやってこんな場所まで運び込んだのか謎だねぇ?……如何考えたって通路を通って来たとは考えられないしねぇ?」

 

「分解して持って来たんすかね親分?」

 

「いやいやラム殿、其れならば此処で組み立てるよりも、分解して保存しておいた方が良いでありますよ?其方の方が、将来的に必要になった時に持ち運びも楽ですし。」

 

「此処に運び込まれた後で今の区画整理がされた可能性はあるんじゃない?

 大洗で見つかった戦車は、あくまでも表向きには『なくなった』事になってる訳だから、簡単には見つからないように色んな工夫をしたんじゃないかしら?」

 

「あ、其れ正解かも知れないねエリカさん。」

 

失くした事になってるから、簡単には見つからないように工夫を凝らしたって言うのなら、此処にマークⅣを運び込んだ上で新たに学園艦底の区画整理をした可能性は充分にあるからね。

……だとしても、断崖絶壁の洞窟にはどうやって隠したのか謎なんだけど……戦車一台釣り上げるには相当に強力なクレーンが最低2台は無いと無理なんだけど――まぁ、その辺は考えない方が良さそうかな?

当時の優花里さんのお母さんなら『テメェ等気合入れて隠せや!』とか言って、多少の無茶をしてでも大洗に残った戦車を隠したと思うしね。

 

 

 

「このどん底のスペースも、その時に出来た可能性が有るって訳か。

 ところで隊長さんは隻腕だけど、フック船長みたいに義手は付けないのかい?片腕が無いと何かと不便なんじゃないかと思うんだけどね?余計なお節介かも知れないが。」

 

「ん~~~……片腕でも生活できるように練習したから、不便さは感じないかなぁ?

 其れに私の場合、肩からすっぱり無くなっちゃってるから、義手を付けたところでそんなに役に立つとは思えないんだよねぇ?肘から上が残ってれば義手もあったかもですけど、左腕がマルッと無いんじゃ義手は逆に邪魔なだけだから。」

 

「成程、言われてみれば確かに其の通りだ……フック船長みたいな義手も良いかと思ったんだけどね。」

 

 

 

フック状の鉤爪が付いた義手よりも、刀とかマシンガンとかに変形するギミックアームの方が良いですねぇ?……某鋼な錬金術師さんが使ってる機械義肢的な物でもあればそれを装備したかも知れませんけど。

 

 

 

「オートメイルを御所望なら作ろうか西住さん?」

 

「いえ、大丈夫ですナカジマさん……って、何時の間に現れたんですかナカジマさん!!マッタク気配を感じませんでしたよ!?」

 

「ごめんごめん、ちょっと驚かそうと思ってさ……其れで、あの奥にあるのが件のマークⅣだよね?――此れは、ポルシェティーガーをサルベージした時よりも難易度が高そうだね。」

 

「やっぱりそうですか。」

 

そう言えば、此処に来る途中で危ない目に遭ったりしませんでしたか?大洗の学園艦の奥底の治安はアメリカのスラム並みなので、ちょっぴり心配だったんですけれど……

 

 

 

「確かにおっかなそうな人達に通せんぼされちゃったけど、『西住みほ隊長に呼ばれた』って言ったらアッサリと道を開けてくれたから何も問題はなかったかな?

 こんな学園艦の奥底でも名前が知れ渡ってるなんて、やっぱり凄いよ隊長は。」

 

「私的には、秋も深まって来たこの時期にあっても尚、ツナギの上を脱いで、上半身はタンクトップ一枚でいるホシノさんの方が凄いと思います。

 って言うか寒くないんですか?」

 

「いんや、寒くないけど?」

 

「隊長、ホシノは此れがデフォだから突っ込んだらダメっしょ?ホシノはツナギにタンクトップがトレードマークだしね。」

 

 

 

スズキさん、そう言われたら何も言えませんって。

まぁ、そんな事よりもどうやってマークⅣを運び出しましょうか?通路を通る事は出来ないので、このままだと分解して持って行くって事になるんですけど、其れも手間ですよね?

 

 

 

「うん、凄く手間だから、此処は学園艦の機能を最大限に使おうかと思ってる――学園艦に備わってるこの機能は、学園艦で暮らしてる人でも知らない人の方が圧倒的に多いんだけどね。」

 

「学園艦の機能、ですか?」

 

「まぁ、其れは聞くより見る方が早いってね!

 此方ナカジマ、マークⅣまで辿り着いたので、船上までのルートを解放されたし。」

 

 

 

百聞は一見に如かずですか……でも、確かに其の通りかも――ナカジマさんが何処かに連絡を入れた次の瞬間に、どん底の天井が割れて船上へと繋がる大きな穴が出来上がった訳だからね。

此れが学園艦の機能なんだ。

 

 

 

「大抵の学園艦には、大量の物資を船底に運び込むために船上から船底まで直通の穴があるんだよ、普段は閉じられてるけどね。

 だから、其れを利用すれば船底から大きなモノを運び出すのも難しくないんだよ――流石に、戦車を運び出したなんて言うのは大洗だけかも知れないけどさ。」

 

「間違いなく大洗だけですよナカジマさん。」

 

色々とあり得ない事だらけの大洗だったけど、大抵の学園艦に搭載されてる機能を戦車を運び出す事に使ったのも最初の学校になりそうだね此れは。

だけど、お陰様で面倒な事なくサルベージできるから、この機能は有り難かったよ。

マークⅣの四隅にフックを引っ掻けて、後は船上に設置された超強力ウィンチで引き揚げればサルベージ完了だからね……お騒がせしてすみませんお銀さん。

 

 

 

「そんな事言いなさんって。賑やかなのは好きだから問題ないさ。

 隊長さん達の事は何時でも此処に来られるようにしておくよ――いや、いっその事戦車やってる人達全員をフリーパスにしようか?隊長さんの仲間達なら、楽しい人が多そうだからね?……今来たツナギの人達みたいにね。」

 

「楽しいし、良い人ばかりだよお銀さん。

 どうせなら、私達と一緒に上に行きますか?戦車隊の皆と顔合わせをしておいた方が良いと思いますし。」

 

「お、其れは確かに其の通りだね?此れから一緒に戦う仲間の事を早めに知っておくに越した事は無いからね……お前達、上に上がるから準備しな!!」

 

「了解です親分!」

 

「ウッス!!」

 

「了解……♪」

 

「了解。」

 

 

 

で、マークⅣをサルベージする序に、お銀さん達も私達一緒に上に行って、戦車隊の皆に面通しする事に――新しい仲間の事は早めに伝えておいた方が良いし、これからには練習にも参加して貰わないとだしね。

華さん、お銀さん達の選択必修科目を戦車道にする事って出来ますよね?

 

 

 

「大丈夫ですみほさん。

 猫田さんも後から戦車道を選択していますから……うふふ、生徒会長としての最初の仕事になりますので確りと完遂させて頂きます。あと、新しい燻製器の方も予算から必要経費として出しておきますね。」

 

「華さん、頼りになるなぁ。」

 

杏さんはガンガン行くタイプの生徒会長だったけど、華さんの場合は押しは其処まで強くないけど、己の決めた事や信念には絶対に妥協しない静かな強さがある感じだね。

で、そんな静かなる生徒会長を支える副会長と広報は動の優花里さんと沙織さんな訳だから、バランスのいいチームだよね此れ。

 

取り敢えず、私達はそのまま船上へ移動。

どうやって移動したかって、全員でマークⅣと一緒に巨大クレーンでサルベージされました♪いやぁ戦車と一緒に吊り上げられる経験なんて滅多に出来るモノじゃないから楽しかったね。

動画も撮っておいたから、後でSNSにアップしてみようっと♪……此れは、間違いなくバズるだろうからね。

 

 

 

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で、船上に戻って、戦車隊の皆を集めてお銀さん達とご対面って事になったんだけど……

 

 

 

「おや、桃さんじゃないか?桃さんも戦車道をやってたのかい?」

 

「お、お前達なんで此処に!?」

 

 

 

如何やらお銀さん達と桃ちゃん先輩は知り合いだったみたい……って言うか、もう目覚めたんですか桃ちゃん先輩は――呆れた回復力だね。

其れは兎も角、マッタク接点なさそうなんだけど、如何言った経緯で知り合ったのか物凄く気になる所だよ此れは。

ま、まさか……桃ちゃん先輩は生徒会の広報に就任する前は、最深部の住人で、実はあのアウトロー軍団を纏め上げてた裏番長だった!?

そしてお銀さんはその頃のナンバー2で、桃ちゃん先輩が生徒会広報に就任した事で新たなリーダーになったとか、そう言う事だったりするんですかもしかして!?

 

 

 

「そんな訳があるかぁ!って言うか誰が裏番長か誰が!!」

 

「桃ちゃん先輩ですけれどそれが何か?

 そう言えば水戸市にあるカワシマ食品って言うキムチ製造会社が会社名が桃ちゃん先輩の名前と同じ事でコラボ商品を販売するらしいです。」

 

「うむ、『カワシマの桃ちゃんキムチ 桃ちゃんと言うなーー!』だな。1パック税込みで490円。カワシマ食品と大洗まいわい市場で販売予定だ!

 って、CMではないわーー!!」

 

「あっはっは、そうじゃないよ隊長さん。

 私等船底の連中は荒くれ者だらけのゴロツキ集団だろう?……そんな連中だから、学園艦の為にも居ない方が良いって思う大人達が私達を退学にしようとしたんだけど、桃さんは其れを止めてくれたのさ――『大洗の生徒に不要な人間など居ない!彼女達の様な人間が居たって良いじゃないか!こんな事が出来るのは高校生の今だけなんだから!』と言ってね。

 まぁ、私等にとって桃さんは恩人でもあるのさ。」

 

 

 

そうなんだ……やっぱり桃ちゃん先輩は、根は良い人だったんだ――其れが、生徒会広報として色々やって行く内にその権力に胡坐をかく様になっちゃったのかも。

権力は時として人を腐らせるって言うけど、桃ちゃん先輩はその悪い例になっちゃったのかもね――まぁ、今は面倒見とノリのいい先輩だけど。

 

 

 

「其れにしてもお前達が戦車道に係わる事になるとは思わなかったが……一体如何言う風の吹き回しだ?」

 

「何、隊長さんの人柄に惚れたのさ……この戦車を売って、その金で新たな戦車を買うって事みたいだけど今は人員が足りないらしいから、私等で良ければ力になろうと思ってね。

 それと、予想外ではあったけど桃さんが戦車道をやっているのなら、参加する事であの時の恩を返す事も出来るからね。」

 

「そうか……まぁ、新たな仲間として歓迎しよう。

 だが一つだけ聞かせてくれ、お前達は大洗が廃校になった時何処にいたんだ?私が知る限り、お前達船底のメンバーは只の一人も転校先が決まるまでの間過ごす場所に移動する為のバスに乗って無かった筈だが?」

 

「え?大洗は廃校になったのかい?」

 

 

 

――散り逝くは叢雲…咲き乱れるは桜花…今宵、散華する武士が為、せめてもの手向けをさせてもらおう!秘技!桜花残月!!

 

 

 

はい、お銀さん達を除いたこの場にいた全員がリシャール大佐の必殺技を喰らいました!

夏休みの頃の話なんですけど、文科省の特別顧問の白髪モノクルの謀略で、大洗女子学園は廃校に追い込まれたんだよお銀さん――杏さんがあらゆる手を使って漕ぎ付けた大学選抜チームとの試合に勝った事で廃校は完全撤廃されたけど、一度は廃校が決定して学園艦は解体が決定してたんだよ……まさか、その時もずっと船底に居たのかな?

 

 

 

「あぁ、廃校の事なんて全く知らなかったから、何時も通り過ごしてたよ。」

 

「解体業者がビックリ箱な状態だったこれ!!」

 

まさか廃校の事を知らずに船底で暮らしていたとは、大洗のアンダーグラウンド恐るべし……って言うか其れは解体業者の人達が船底に到達した時点でゲームオーバーじゃないかな?

あの荒くれ者達が、勝手に入って来た外部者を無事で済ますとは思えないし。

 

 

 

「……その可能性は否定できないわみほ――如何足掻いても問答無用のフルボッコになって、良くて長期入院、悪くて再起不能、最悪の場合は海の藻屑になるで間違いないわ。」

 

「其れを踏まえると、大洗女子学園を廃校にするって言うのはそもそも無理ゲーだったって言う事ですよね……」

 

「うん、結果論だけどそうなるね小梅さん。」

 

詰まるところ、あの白髪モノクルの謀略はどうあっても成功しなかった事になる訳だね……マッタク持って、呆れる事しか出来ないとはこの事かも知れないよ。

廃校にしたい学校の事を細部まで調べずに廃校を強行した訳だからね……ま、その結果として今現在かな~り厳しい事になってるみたいだから『m9(^Д^)プギャーWW』なんだけどさ。

って言うか、大洗を廃校にしようとした輩は滅殺一択!ぶっちゃけて言うのなら黒のカリスマに、ケンカキック→マンハッタンドロップ→STFの殺人コンボを入れて欲しかったからね。

 

ともあれ、私達大洗の戦車隊は貴女達を歓迎するよ!!無限軌道杯、頼りにさせて貰うからね?

 

 

 

「その期待に応えられるように頑張るよ隊長さん――大会までの期間、私達をみっちり鍛えておくれ。」

 

「無論、その心算だよ!!」

 

その後、お銀さん達のチームは『サメチーム』になったんだけど、これはとってもピッタリだと思ったね――船乗り然としておきながらもアウトローな感じのお銀さん達は、海の獰猛なハンターであるサメが良く似合うと思ったし。

大洗に誕生した11個目のチーム……頼りにさせて貰うよ!!

 

 

 

尚、マークⅣはオークションに掛けたら約3億で落札された……Ⅳ号F2を3輌買ってもまだ余裕があったから、パンターとティーガーⅠも購入で。

今年はもう出番がないかも知れないけど、来年以降の戦力を確保できたって言うのは嬉しい誤算だったね。

 

 

 

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そしてその夜――

 

 

 

『そうか、新たなチームが誕生したのか……大洗に新たなチームが誕生したというのは、無限軌道杯に参加する他校にとっては驚異以外の何者でもないだろうな。

 この事を知ったら、カチューシャ辺りは憤慨しそうだな?』

 

「ふふ、其れは言えてるかも。」

 

お姉ちゃんと電話。

大学選抜戦が終わって、二学期になったと同時にお姉ちゃんはドイツに留学しちゃったから、大学選抜戦の後でお姉ちゃんとは会ってないから、何と言うか久しぶりに声を聞いた気がするよ。

だけど、元気そうで安心した――ドイツでの暮らしは如何?巧く行ってる?

 

 

 

『戦車道における西住の名は海外にも知れ渡っているからプレッシャーもあるが、逆に私を気遣ってくれる人も居るから其れなりに巧くやってやっているよ。

 私自身も西住流から離れた事で見えて来たものも多いからな……お母様も、其れを見越して私を留学させたのだろう。』

 

「かもね。」

 

だけど、お母さんはお姉ちゃんにもっと戦車道の深さを知ってほしくて留学を薦めたんだと思う――お姉ちゃんは、私が知る中では最強の戦車乗りだから、もっと強くなって欲しいって私も思うから。

そして、その強くなったお姉ちゃんは私が倒すからその心算でいてね?

 

 

 

『言うじゃないかみほ……全国大会ではやられたが、次は負けないぞ?

 私にとってお前は妹であると同時に永遠のライバルであると思っているからね――次にやる時は私が勝つ。そして、無限軌道杯も黒森峰が優勝する。

 私の後任は直下だが、凜はギリギリまで副隊長として残るみたいだから、直下も隊長として成長する事だろう。

 組み合わせがどうなるかは分からないが、大洗を倒すのは黒森峰だ――だから、黒森峰が大洗を倒すその時まで、絶対に負けてくれるなよ。

 約束してくれるかみほ?』

 

「うん、約束するよお姉ちゃん。」

 

私が隊長を務めている限り、大洗は絶対に負けないって約束する――ううん、私の後を継ぐであろう梓ちゃんが隊長を務める事になっても大洗に負けはないよ。

――其れよりも、お姉ちゃんの方こそドイツで頑張ってね?――私が大洗を卒業するまでに、ドイツのメジャータイトルを一つは得てね?

 

 

 

『分かった。頑張ってみよう……約束だ。』

 

「うん、約束。」

 

そうして、私とお姉ちゃんは画面越しに指切りをして通信終了……自分でも結構無茶ぶった感がしなくもないけど、お姉ちゃんならきっと出来る筈だから信じてるよ。

 

……で、エリカさんと小梅さんは何で下着姿で迫って来てるのかな?

 

 

 

「何でって……私達って恋人同士になった訳でしょ?」

 

「なら、やっておく事はやっておいた方が良いと思いまして……みほさん、食べちゃってください。」

 

 

 

ウワォ、そう来たか!!って言うか小梅さん、表現が生々しいから!!――でも、そう言う事なら有り難く頂くとしようかな?戦車道には、『据え膳喰わぬは戦車乙女の恥』って言葉があるくらいだからね。

そんな訳だから、覚悟は良いかなエリカさん、小梅さん――西住の女は戦車道だけじゃなく、夜の戦車道も叩き込まれるから知識はバッチリだからね!!

後悔するなら、私の劣情に火を点けた己自身を後悔するんだね。――この日、私とエリカさんと小梅さんは、少女から女になったと言っておくよ。

 

 

 

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そんなこんなでやって来ました無限軌道杯のトーナメント抽選会!!

全国大会に出場したチームが全部参加してるのは当然として、全国大会では見なかった学校も参加してるのは見逃せない点だね――隠れた強豪が居る可能性がゼロじゃないからね。

だからこそ、1回戦で何処で当たるのかが楽しみでならないよ……尤も、何処と当たる事になるかは私のクジ運次第なんだけどさ。

 

だけど、此の抽選会で懐かしい人と再会する事になるとは思ってなかったよ――まさか、こんな所で再会する事になるとは夢にも思ってなかったからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer179『抽選会での再会?ガッデメオラ!です』

久しぶりだね、エミちゃんByみほ        えぇ、本当に――7年ぶりねみほ?会いたかったわByエミ


Side:みほ

 

 

さてと、やって来ました無限軌道杯の組み合わせ抽選会の会場に!!――会場は既にバーニングな闘気に包まれてたみたいだけど、私達が会場に降り立った事で、其れは更に盛り上がったかな?

抽選会であっても此れだけの報道陣が集まると言う事は、少なくとも戦車道は甲子園並みの地位になることが出来たのかもね。

 

 

 

「うわぁ、凄い人の数だねみぽりん?此れって全国大会の時よりも多いんじゃない?」

 

「うん、確実に多いと思うよ沙織さん。

 大洗の全国大会優勝で、此れまでは大会に出場してなかった学校も多数出場してるからね……全国大会以上の激戦になるのは間違い無いと思うよ。」

 

「ん?何で大洗の優勝が関係してくるの?」

 

「大洗女子学園、戦車道に関しては20年ぶりの大会出場で、ハッキリ言って無名校……其れが、サンダース、アンツィオ、プラウダを倒した上に、絶対王者黒森峰を倒して優勝した。

 その事実が、戦車道をやっていても大会には出てくる事の無かった、言い方は悪いけど戦車道底辺の学校の燻ってた闘志に火を点けたのよ。

 『無名の大洗が勝てたんなら、若しかしたら自分達も』ってね。」

 

「うわぉ、其れって私達って凄くない!?私達が、大会参加校を増やしたって言う事でしょ?」

 

「大会に出てくるのは良いが、ドイツもコイツも大洗が優勝できたのは西住さんが居たからだと言う事を忘れてないか?――強豪校でなければ出場を自粛するようなクソみたいな風習がなくなったのは歓迎するがな。

 だが、其れでも敢えて言おう……大洗がジャイアントキリングを連発して優勝できたのは西住さんのおかげだとな。」

 

 

 

麻子さん……確かに何時の頃からか戦車道の大会には『弱小校出場するべからず』みたいな風潮が出来ていたのは事実だから、大洗の優勝で其れがなくなったのなら、其れはとても嬉しい事だと思うな。

だけど、私のおかげって言うのは言いすぎじゃないかな?皆が居たからこそ勝てたんだよ――私一人じゃ何も出来なかったし。

 

 

 

「そうかも知れないがその逆も然りだ。如何に兵隊が優秀であったとしても、其れを指揮する指揮官が凡人では部隊は力を発揮出来ない。」

 

「深い言葉でありますね冷泉殿。

 『名将は落ちこぼれを英雄にし、愚将はエリートを犬死させる』とも言いますからね……西住殿ほどの名将が居たからこそ大洗は、その力を十全に発揮出来たという訳ですか!!」

 

「ありていに言えばそう言う事だ秋山さん。」

 

 

 

優花里さんまで……でも、そう言って貰えるのは照れ臭いけど嬉しいかな?頑張った甲斐もあるって思えるしね。

さてと、無限軌道杯の抽選会……初戦の相手は一体何処になるのかな――サンダースや黒森峰みたいな強豪か、其れとも新たに参戦して来た未知の相手か、或いは全国大会で当たらなかった相手か。

クジを引く前からワクワクが止まらないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer179

『抽選会での再会?ガッデメオラ!です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達が会場入りしたのを皮切りに、サンダース、聖グロ、アンツィオ、継続、マジノ、プラウダと高校戦車道の名立たる学校が会場入りして来た事で、先に会場入りしてた学校のざわめきは更に大きくなったね。

そして更に……

 

 

 

「来た、高校戦車道大会で前人未到の10連覇の大記録を達成した絶対強者黒森峰が!!」

 

 

「今年は大洗に負けたが、その実力に錆び付きはない高校戦車道の強さの象徴……纏う空気が違うわ。」

 

 

 

黒森峰の精鋭が会場入りした事で空気がまた変わった――お姉ちゃんが率いていた時とは違うけど、理子さんが率いてる黒森峰も充分に『絶対強者』のオーラを纏ってるからね。

お姉ちゃん、ドイツに行く前に相当に理子さんを鍛え上げたね?今の理子さんは、遊撃隊として私の下で戦ってた理子さんとは違う――黒森峰の隊長としての覇気を纏った戦車乗りになってる。

実力的にはエリカさんや小梅さんと同等――或は少しだけ勝ってるかも知れないよ。

 

「理子さん、一皮剥けた?」

 

「みほ……一皮向けたどころか少なく見積もっても5回は脱皮したよアタシ。

 隊長――まほさんと副隊長の指導ハンパないっての……自分で言うのもなんだけど、よくもまぁ夜逃げせずにアレに喰らい付いてったモノだよ。

 尤もそのお陰でアタシの実力は去年とは比べ物に成らない位にぶち上ってるから、元遊撃隊の部下だと思ってると痛い目見るわよ?」

 

「だろうね……理子さんの事は、お姉ちゃんと同レベルの心算で行かせて貰うよ。――其れでも敢えて言うよ、勝つのは私達だって。」

 

「そう言うと思った――だから、言わせて貰うわ……黒森峰の新たな伝説は此処から始まるってな!!」

 

 

 

ふ、言うようなったね理子さん……大会で戦うのを楽しみにしてるよ。出来れば決勝戦が良いな。

 

 

 

「其れには同感。アタシ等が戦うなら、ヤッパリ決勝戦が一番だろうからね――でもまぁ、組み合わせがどうなったとしても、1回戦でアタシ等と当たった場合以外は負けてくれるなよ?」

 

「その言葉、そのままそっくり帰すよ理子さん。」

 

 

 

――コツン

 

 

 

軽く拳を合わせて、理子さん率いる黒森峰の一団は指定された場所に……完全に隊長の風格を纏った理子さんは、若しかしたらこの大会で本当に黒森峰の新たな伝説を始めちゃうのかもしれないね。

……で、今の一場面はバッチリとマスコミ陣にシャッター切られてちゃってたから、スポーツ紙や各種戦車道雑誌に掲載されるのは間違いないかな?……ま、其れももう慣れたけどね。

 

 

其れで、始まった抽選会。

出場校は全国大会の凡そ倍に当たる31校!!奇数だからシード権があるんだけど、其れは其れとして数がほぼ倍になった事で試合数の数が1段階増えたね。1回戦、2回戦、3回戦、準決勝、決勝の5回戦か。

まぁ、其れだけ楽しい試合が出来るんだって思えば悪い事じゃないし、試合数が多ければ其れだけ大会の規模が大きくなって観戦に来る人も増えるだろうから、戦車道の更なるファン獲得に繋がるからね。

 

さて、壇上では次々とクジ引きが行われてる訳なんだけど、聖グロ、サンダース、プラウダ、黒森峰の所謂4強は良い具合にバラバラになったみたいだね――少なくとも3回戦までは当たらないようになってる訳だから。

で、いよいよ大洗の番!!さて、私達の1回戦の相手は何処になる――ドロー!!!

 

 

 

『大洗女子学園、12番。』

 

 

 

引き当てたのは12番――と言う事は対戦相手は、既に決まってる13番の相手、BC自由学園か。

マジノ学園の分校だけど、受験組とエスカレーター組が日々争っていて統率の取れてない学校だって言う噂があるんだけど、実際の所は良く分かってない部分があるんだよね。

抽選会に来た金髪の隊長さんを見る限り、校内がギスギスしてるイメージはないんだけど……

 

 

 

「何と言う事だ!夏の大会の覇者に当たってしまったではないか!!だから、くじ運のないマリー様ではなく、我ら受験組が抽選会に出るべきだったのだ!!」

 

「マリー様を悪く言う事は許さんぞ受験組が。

 そもそもにして、君達の様な下賤な輩が最良の一手を引き寄せることが出来ると思っているのか?だとしたらお笑いだ……君達凡人如きが、僕達生粋のエリートに勝てる道理は何処にもない。」

 

「ふ、凡人だって努力すればエリートに勝てるという事を知らないらしい……まぁ良い、私と君の何方が優秀であるかは、大会で明らかにさせて貰うとしよう。

 尤も、その時を待つまでもないかも知れないけどな。」

 

「その言葉、そっくりそのまま貴様に返してやる。」

 

 

 

……初戦の相手が大洗に決まったBC自由学園は大荒れに荒れてるね……主に、金髪の人と褐色肌の三白眼の人が派手に言い争ってる感じ。

恐らく彼女達は副隊長クラスなんだろうけど、其れが喧嘩してるって如何なのかな?……こんな状態で大丈夫かBC自由学園。

 

 

 

「どうかしらね~~?」

 

「うん、大分ダメっぽい。」

 

隊長が危機感なさすぎだよ……勝つ気があるのかすら怪しくなって来たよ此れ――まぁ、それら全てが演技である可能性もある訳だけどさ。

で、抽選は全て終わって、私達大洗は決勝戦まで黒森峰とは当たらない事になった……此れは、何が何でも決勝にコマを進めないとだね!!

 

其の後は選手宣誓の選考会が行われて、私、アリサさん、アンチョビさん、カチューシャさん、西さん、ダージリンさん、エクレールさん、BCの隊長さん、理子さんでのクジ引きの結果、選手宣誓の権利を勝ち取ったのは――私だ!!

 

 

 

「みほの選手宣誓なら異論はないな。きっと最高の宣誓をしてくれる筈だと思うからな!!」

 

「ふふ、なら、その期待には応えないとですねアンチョビさん。」

 

取り敢えず、全国大会の時を上回るインパクトのある宣誓をしないとだね。――その後、全国大会で名を馳せた学校の隊長が集まって適当に談笑してたんだけど、何時の間にか華さんの姿が見えなくなっちゃった……華さんは何処に?

 

 

 

 

「ハナ……来てたんだな。」

 

「えぇ、来ていました……お久しぶりですねナオミさん。」

 

「短期転校期間が終わって以来だから1ヶ月半と言ったところだな……だが、高々1ヵ月半とは言え貴女と会う事が出来なかったのは、正直寂しかったわ。」

 

「其れは、私もです。」

 

「そうなのかい?……だとしたら少し嬉しいな――時にハナ、この後の予定は?」

 

「特にありませんが……何か?」

 

「良かったら一緒に遊びに行かないか?もしもハナと会う事が出来た時の為に色々調べて来たんだ……ダメか?」

 

「そんな、ダメだなんて滅相もありません……喜んでお付き合いさせて頂きますナオミさん。」

 

「Year!!やったね!!!」

 

 

 

……ナオミさんとよろしくやってたみたいだね――ボーイッシュなナオミさんと大和撫子な華さんの組み合わせはガチで絵になるよね?異論はブラックホールまで蹴り飛ばす心算だからその方向でいてね。……此れは、ナオミさんと華さんが大人の階段を上る日が来たのかもだよ。

……取り敢えず、頑張って下さいとだけ言っておくよ。

 

抽選会が終わったそのあとは、スポーツ紙や各種マスコミのリクエストで夏の全国大会に出場した学校の現隊長が集まっての集合写真撮影。

其れ自体は別に良かったんだけど、そのお陰で今の各校の状況が分かったかな――2年生が隊長を務めてる大洗、マジノ、知波単は現隊長がそのまま持ち上がりで隊長だけど、黒森峰、サンダース、聖グロをはじめとした多くの高校は代替わりをして新隊長になったみたい。

其れでもまぁ、1年生が隊長になったのは聖グロだけだと思うよペコちゃん?

 

 

 

「みほ様~~~!なぜこんな事になってしまったのでしょうか?

 私ではなく、他にも隊長になれる人が居ると思いましたのに~~……と言うか、ダージリン様なら『面白そうだから』と言う理由でローズヒップ様やルクリリ様を隊長に任命すると思ってましたのに~~!!」

 

「私も其れはちょっとやるんじゃないかと思ったけど、ダージリンさんも大博打の大冒険はしたくなかったと見えるね――まぁ、ルクリリさんは兎も角として、ローズヒップさんが隊長になったらきっと部隊が大混乱だから。」

 

「其れは、何故でしょう?」

 

「ローズヒップさんの珍妙なお嬢様言葉で指示を出されて理解出来る人が、果たして聖グロに何人いるんだろうね?」

 

「……成程、そう言う事ですか。ローズヒップ様の言う事を完璧に理解出来るのはダージリン様とルクリリ様だけですから……」

 

 

 

ダージリンさんだけじゃなくてルクリリさんも理解出来るんだ……聖グロにおける異端児(?)同士、何か通じるものがあるのかもしれないね。

まぁ、其れは其れとして、隊長職に緊張する事無くあなたの好きにやってみれば良いんじゃないかなペコちゃん?ダージリンさんが貴女が隊長に相応しいって考えたのは伊達や酔狂なんかじゃなくて、貴女には其れに相応しい実力があったからだと思うから。

聖グロの伝統なんて考えずに、ペコちゃんの戦車道をやってみれば良いんじゃないかな?――OG会の方はダージリンさんが何とかしてくれると思うしね。

 

 

 

「みほ様……はい、頑張ってみます!!」

 

「うん、その意気だよ。」

 

こんな感じで多くの学校が代替わりをしてる中で、無限軌道杯でも3年生が隊長を務めてるのがプラウダとアンツィオ……アンツィオはペパロニさンとカルパッチョさんが居るから良いとしても、隊長も副隊長も3年生であるプラウダが新体制になってないのはちょっとヤバいのでは?

カチューシャさん、来年のプラウダは大丈夫なんですか?

 

 

 

「心配無用よミホーシャ。

 私もノンナも推薦で大学が決まってるから、ギリギリまで後輩達を指導してあげようと思っただけだから!このカチューシャの戦い方をキッチリと教えてあげないとね!!」

 

「あ、そう言う思惑があったんですか――で、アンチョビさんは?」

 

「私は最後の仕事として、この大会で隊長をペパロニかカルパッチョの何方にしようかと考えていてな。

 イケイケでアンツィオの校風にピッタリのペパロニか、其れともあくまでも冷静で物静かなカルパッチョかで悩んでいてな――尤も、隊長にならなかった方は副隊長になるんだがな。」

 

「成程。」

 

動のペパロニさんと静のカルパッチョさんのギアがガッチリと組み合ったその時は凄まじい力を発揮するだろうから、何方が隊長になるにしても来年のアンツィオは大会の台風の目になる可能性があるね。

ともあれ、夏の全国大会に出場した学校は新たな道を進んでるのは間違いない――ふふ、無限軌道杯でぶつかるのが楽しみになって来たね。

 

 

 

「久しぶりね、みほ。」

 

 

 

そんな感じで無限軌道杯に思いを馳せていたら、誰かに声を掛けられたんだけど……えっと、何か私に――

 

「って、エミちゃん!?」

 

「7年ぶりねみほ……って、ちょっと待って!?貴女、なんで左腕がなくなってる訳!?」

 

「あ、此れ?実は5年前に交通事故に遭って左腕が吹っ飛んじゃって……アレ、言ってなかったっけか?」

 

「聞いてないし、今初めて知ったわよ!!なんで言ってくれなかったのよ!!」

 

「左腕がなくなった後で右腕一本で生活する為&車長専任免許を取得する為に猛特訓&猛勉強してたので伝えるのを忘れてました!お詫びとして学園艦の先端から海に向かって紐なしバンジーやって来ます!!」

 

「いや、やらなくて良いわよ!!って言うか其れ普通に投身自殺だから!!」

 

「私の身体は実はPS装甲で覆われてるので物理攻撃は無効なんだよエミちゃん?」

 

「アンタ何処のガンダムだ!!!――はぁ、マッタク久しぶりに再会したと思ったらこうなるとはね……だけど本当に久しぶりねみほ、左腕がなくなってる事には驚いたけど、元気そうで安心した。」

 

「其れは私もだよエミちゃん。」

 

私に声を掛けて来たのは、7年ぶりの再会となる親友の中須賀エミちゃん――小学校の時にドイツに帰っちゃったんだけど、また日本に戻って来たんだね?

 

 

 

「えっと、何方様なのみほ?」

 

「あぁ、皆は知らなかったよね?――彼女は中須賀エミ。

 私の幼馴染で、私にとっては最も古い戦車道の友達って言う事になるのかな?――ドイツ仕込みの戦車道の知識は、可成りなモノがあるんだよ?

 其れこそ、ドイツ戦車に関しての知識に限定すれば優花里さん以上かもね。」

 

「ご紹介に預かった中須賀エミよ――大洗女子学園の皆さんと出会えて光栄だわ。

 お互い勝ち進めば、準決勝でぶつかる事になるから、その時は全力で戦いましょう――そう、全力を超えた死力を尽くしてね。」

 

「へぇ……言うじゃない中須賀エミ――その自信は大したモノだと言っておくけれど、戦車道はポッとでの学校が勝てるほど生易しいモノではないのは分かるわよね?

 大洗が優勝できたのは、みほが居たからこそ……果たして貴女の学校が準決勝まで駒を進められるかしら?」

 

 

 

おーい、此処で挑発しないでよエリカさん……いや、煽りたくなる気持ちは分からないでもないけどさ。

 

 

 

「言ってくれるわね……アンタ誰よ?」

 

「逸見エリカ。大洗女子学園の突撃隊長であり、『狂犬』と渾名される戦車乗りよ。覚えておくと良いわ。」

 

「逸見エリカ……よく覚えたわ――戦う事になったその時は、私が直々にアンタをぶっ倒してやるから覚悟なさい――本場ドイツ仕込みの戦車道を味合わせてあげるわ。

 まぁ、其れは其れとして、何時の日か貴女とこうして戦う事を願っていたわみほ――私達は必ず準決勝まで駒を進めるから、貴女も準決勝まで負けるんじゃないわよみほ!」

 

「ふふ、勿論だよ。」

 

理子さん率いる黒森峰との試合を見据えてはいたけど、まさかその前にエミちゃんとの試合があるとは思ってなかったからね――うん、全力で行こうか!!

7年ぶりに再会した幼馴染に、私の闘気は爆発だからね!!!

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「みほ、貴女何時から超サイヤ人になったの?」

 

「左腕を失った時からかな。」

 

兎に角、お互いに準決勝にまで駒を進めたその時は、全力で戦おうエミちゃん――私の持てる全てと、エミちゃんの持てる全てを出し尽くした、最高の洗車道をしよう!

約束してくれるかな?

 

 

 

「約束をしないとでも思ってるの?……寧ろ上等よ。戦う事になったその時は、死力を絞りつくして戦いましょうみほ。――きっと、その果てに私の戦車道があると思うからね。

 ……手加減なんかしたらぶっ飛ばすわよ?」

 

「手加減って何?新しい食べ物?其れって美味しいの?」

 

「そう来たか……なら、手心を加えられる心配はないわね。」

 

 

 

うん、手加減とかする気は全くないって言うか、手加減って言うのは全力で向かってきてくれる相手に対する最大の侮辱だと思うから、手加減だなんて無粋な事は出来ないからね。

やる以上は全力全壊、其れだけだよ!!

 

 

 

「其れが聞けて安心したわみほ……貴女と戦うその時を、楽しみにしてるわよ。」

 

「うん、私も楽しみにしてるよエミちゃん。」

 

 

 

――コツン

 

 

 

軽く拳を合わせて、エミちゃんとは別れたんだけど、まさか無限軌道杯にエミちゃんが参戦してるとは思わなかったからなり驚いたよ――でも、予想外だったとは言え、此の再会は嬉しいモノだったかな?

エミちゃんがドイツに帰ってからは、文通しか出来てなかったからね――ふふ、再会の記念に、私の戦車道をたっぷり堪能して貰うよエミちゃん♪

 

 

 

「軍神が赤ターゲットロックオン。」

 

「中須賀さん、御愁傷様です。」

 

「エリカさん、小梅さん不穏な事言わないでね?」

 

殺さないから。殺したら戦車道じゃなくなっちゃうからね!!

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

で、組み合わせ抽選会の翌日、私は大会での部隊編成に勤しんでいたんだけど……果てさて此れは如何した物かな?私としては、こっちの方が良いと思うんだけど、此ればかりは本人に聞かないとだから私の一存では決定できないよ。

 

 

 

「何かお悩みですか西住隊長?」

 

「梓ちゃん――まぁ、悩みと言えば悩みなんだけどさ……梓ちゃん、新たに購入したパンターに乗ってみる気はない?」

 

「ふぁ!?」

 

 

 

うん、そうなるよね?私もその反応は予想してたから。

だけど此れは伊達や酔狂じゃなくて、梓ちゃんの戦車乗りとしての能力を正当に評価した結果だって言うのかな?――Ⅲ号J型は、高水準なスペックの戦車ではあるけど最上ではない。だから、梓ちゃんの力を十全に生かす事が出来ないんだよ。

だけど、パンターのスペックなら梓ちゃんの力を十全に発揮出来ると思うからね――だから、パンターに変えてみないかな?

 

 

 

「西住隊長がそう仰るのであれば、ウサギチームはⅢ号からパンターへと搭乗戦車を変更させていただきます!!そして、隊長のご期待に応えられるように精進いたします!!!」

 

「うん、その意気だよ梓ちゃん。」

 

よし、ウサギチームがパンター担当になった事で、大洗の戦力は可成り底上げされたから、後は1回戦の相手であるBC自由学園のデータがあれば盤石ってね!!

そんな訳で、お願いして良いですか優花里さん?

 

 

 

「了解であります西住殿!!不詳秋山優花里、BC自由学園を丸裸にしてやります!!!」

 

「お願いね、優花里さん。」

 

なので、先ずは毎度おなじみの優花里さんの偵察と行こうかな――戦車道は試合が始まるよりも前に勝負は始まってる……其れを、教えて上げるよBC自由学園!!

隊長が戦車隊を纏められていないなどと言う事は言い訳にもならないけど、一つに纏まる事が出来ていない学校なんて恐れるに足らないからね。

 

何にしても、無限軌道杯――力の限り暴れさせて貰うからその心算でいた方が良いよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer180『ドキドキワクワクの潜入捜査です』

何だかんだで180話!Byみほ        確実に200話ペースだこれByエリカ      マダマダ終わりが見えませんねBy小梅


Side:みほ

 

 

無限軌道杯の1回戦の相手はBC自由学園――校内の内部分裂のせいで実力を発揮出来ない学校って言う事だったけど、其れだけを聞いて侮るのは素人だよ。BC自由はマジノの分校でもあるからね。

あのエクレールさんが隊長を務めるマジノの分校であるBC自由がやられ役の噛ませになるなんて事は考えられないから、優花里さんとエルヴィンさんを偵察に出した訳だけどね。

プラウダとの試合の時に、見事に偵察任務を熟してくれたあの二人なら、キッチリ任務を熟してくれると思うしね。

 

其れよりも、出場を決めてから言うのもなんですけど、3年生の皆さんは進路の方は大丈夫なんですか?

 

 

 

「其れに関しては心配無用だよ西住ちゃん!アタシも小山もか~しまも、揃って同じ公立の大学を受ける事になってるし、直前模試でアタシと小山とか~しまでトップ3を極めたから問題ね―でしょ?」

 

「其れは、確かに問題ありませんね。ぴよたんさんは?」

 

「私も問題ないだっちゃ♪志望校はA判定の安全牌なり。」

 

「ふふ、其れなら問題ありませんね。」

 

寧ろ問題は自動車部ですよ――大洗の戦車整備は、彼女達が居たからこそ可能な部分があったから、其れがゴソット抜けるとなったら、大洗の戦車道にとっては大きな痛手でしかないからね?

皆さんはもう進路は決まってるんですか?

 

 

 

「其れに関しては心配ないよ西住隊長?」

 

「……ナカジマさん?」

 

「私とスズキとホシノは、此処を卒業したら就職も進学もしないで、この学園艦で整備屋をやろうかと思ってるんだよ~~だから、卒業後も私等は学園艦に残るので、その辺宜しく~~!!」

 

「マジですか!?」

 

だけど、私の心配は何のそので、ナカジマさん達は自分の未来を見据えてたんだ――おかげで来年以降の整備の問題は一気に解決!最悪の場合は島田の小母様に整備士を都合して貰おうと思ってた位だったから、自動車部のこの決断には本気で感謝だよ。

 

ならば、その心遣いに応えるべく、無限軌道杯でもバッチリと結果を残して来年の大会に繋げるようにしないとだね!!

優花里さん、エルヴィンさん、お得意の潜入偵察で良い情報を持って来てくれることを期待してるよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer180

『ドキドキワクワクの潜入捜査です』

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:優花里

 

 

さて、私こと秋山優花里と相方のエルヴィン殿は、こうして無事にBC自由学園に忍び込む事が出来たであります。

毎度お馴染みのコンビニ定期船での潜入になりますが、本日は搬入店舗の関係でローソンの定期便でやって来たであります……因みにサンダースに潜入した時に使ったサークルKサンクスはファミマに吸収合併されてしまったので、アレはある意味で貴重だったでありますね。

 

 

 

「取り敢えず潜入完了だが、コンビニ定期便でこうも簡単に学園艦に侵入する事が出来るとは、些か不用心すぎると思わないかグデーリアン?」

 

「いえいえ、コンビニ定期便だからこそ簡単に入り込む事が出来るんでありますよエルヴィン殿。

 コンビニ定期便であれば、我々の様な現役女子高生が乗り込んでいても、店の制服さえ着ていればアルバイトか何かと思ってくれるので、怪しまれずに入り込む事が出来ると言う訳です。

 ですが、寧ろ大事なのは此処から……スパイの本質は、如何にしてその場に違和感なく溶け込む事が出来るか――我々は、たった今から『最近転校して来たBC自由学園の生徒』を演じる必要があるのです。」

 

「ふむ、『間者の真髄は、なり切る事』と左衛門佐も言っていたからな……しかしだ、コンビニの制服もそうだが、BC自由学園の制服など如何やって手に入れたのだ?」

 

 

 

コンビニの制服はネットのコスプレショップで見つけて、事前の潜入偵察の際に使えるだろうと思って、取り敢えずメジャーなセブン、ファミマ、ローソン、ミニストップの四社は揃えたであります。

各校の制服も、戦車道関連のグッズを扱うサイトなら、パンツァージャケットと一緒にレプリカ品が売られているのであります。

 

 

 

「ふ、深い世界だなグデーリアン?」

 

「最近漸く、我が大洗女子学園の制服とパンツァージャケットも追加されたであります。しかもパンツァージャケットは、通常のボタンタイプと、西住殿用のファスナータイプの二種類が実装であります!!

 エルヴィン殿も、黒森峰のパンツァージャケットでも買ってみては如何です?旧ドイツ軍の軍服をモチーフにしたジャケットは、きっとエルヴィン殿に似合うと思いますよ?」

 

「そうだな、少し前向きに検討して行こう……してグデーリアン、どのように偵察を行う?

 我々が転校生だと言っても、時期が時期だけに不自然なのは否めない――最悪の場合は其処で見破られてしまう危険性もあるのだが……」

 

 

 

フッフッフ、それならば心配ありませんよエルヴィン殿……もしもそうなった時には、その場を切り抜けるための嘘があればいいんです。

都合が良い事に、今は無限軌道杯の一回戦が迫っている時期なので、怪しまれたらこう言えばいいのですよ……『BC自由学園のOGにして、大学選抜チームの副隊長であるアズミさんから頼まれて、無限軌道杯で助太刀すべく短期転校して来た』とね。

 

 

 

「短期転校、その手が有ったかグデーリアン!

 嘗て大洗の危機を救ってくれた裏技を、今度は此方の作戦として使おうとは見事だ……西住隊長の懐刀と言われるだけの事はあるな。」

 

「そう言っても、西住殿に試合前の偵察を直接命じられたのって、此れが初めてなんですけどね。」

 

サンダースの時は独断でしたし、アンツィオの時は会長もとい、前会長からの勅命でしたからね。

 

取り敢えず適当な生徒に声を掛けて地道に聞き出していくとしましょう。西住殿に任務を任された以上、確りと結果を持って帰らねばなりませんからねぇ~~♪

出来れば戦車隊の隊員が良いのですが……BC自由学園の戦車隊のメンバーの顔は、抽選会の時に見た隊長殿と、言い争いをしていた金髪と色グロ三白眼しか覚えてないんですよねぇ?

 

 

 

「まぁ、戦車隊の隊員だったらラッキー程度に考えておく方が良いだろう……急いては事を仕損じると言うからな――そうだろう、優花里?」

 

「そうですね、里子さん。」

 

此処からは偵察モード――私とエルヴィン殿も、互いにソウルネームで呼び合うのを止め、本名で呼び合う事にしますね。

さてと何処かに生徒は……お、発見であります!早速話を聞く事にしましょう!!

 

 

 

「優花里、此処は私に任せてくれ。君は初対面の人と話すのはあまり得意ではないだろう?」

 

「……戦車関連の話ならば大丈夫ですが?」

 

「……其れは其れで何時間経っても終わりそうにない気がするのは私だけか?――と言うか、何時だったか優花里がウチに遊びに来た時、ドイツ戦車について一晩語り明かした様な……」

 

「そう言えばそんな事もありましたねぇ……」

 

私は戦車全般の知識がありますが、エルヴィン殿はドイツ戦車に限定すれば私よりも遥かに知識が豊富でありますからなぁ……まさか戦車知識で敗北する日が来るとは思わなかったであります。

バランス型の私では、ドイツ特化のエルヴィン殿には勝てないという事ですね。

 

 

 

「君達誰?見ない顔だけど……」

 

 

 

そんな事を考えていたら、先程目を付けた相手に逆に話しかけられてしまったでありますよぉぉぉぉぉ!?――此れ、若しかして若干ピンチだったりすのるのでしょうか?

 

 

 

「あぁ、スマナイ。私達は今し方此方にやって来た者でね。

 BC自由学園のOGであり、大学選抜チームの副隊長を務めているアズミさんのお願いで短期転校して来た松本里子と、桧山優花里だ。」

 

 

 

エルヴィン殿ナイスであります!!

さっき伝えた設定を、速攻で生かすとは……流石、日常的にロールプレイしている人間は違うでありますなぁ――しかも、自分は本名を名乗り、私の名前はさりげなく微改変する事で正体がバレるのを防いでいますからなぁ?

秋山優花里とエルヴィンならば名が知られていても、松本里子と桧山優花里ならば誰も知らないでありましょうからね。

 

 

 

「あぁ、そう言う事だったんだ……戦車隊なら向こうにいるけど、行くなら覚悟しといた方が良いよ――ウチの戦車隊って、中学からのエスカレーター組と、外部受験組の仲が悪くて可成りギスギスしてるからね。

 短期転校で来てくれた君達は、エスカレーター組からしたら外部受験組と同じような感じだから、きっと受けは悪いと思うから。」

 

「……噂には聞いていましたが、其処まで酷いモノなのですか?」

 

「酷いなんてもんじゃないって……毎日のように、重箱の隅をつつくような罵り合いが起ってるからね――一度、本校であるマジノに仲裁を依頼した事があったみたいだけど、余りの酷さにマジノの隊長が胃痛を起こして強制終了したみたいだからね。」

 

 

 

エクレール殿ーーーー!?

エクレール殿はプレッシャーに弱く、胃痛を起こし易い人ではありましたが、其れは大洗との練習試合でほぼ克服された筈であるのに、其れが起ってしまうとは、BCの内部抗争は深刻でありますなぁ……取り敢えず、教えてもらった場所まで行きましょう里子さん。

 

 

 

「だな……百聞は一見に如かず、人からの伝聞だけでは全てを知る事は出来ない。己の目で見たモノこそが信じるに値するものだからな!!」

 

「ですよね!!」

 

そんな訳で、教えてもらった場所まで全速力で行った訳でありますが……

 

 

 

「君達のように、敷かれたレールの上を安穏と走って来た者達では、苦難の道を進んだ末に此処に辿り着いた我等受験組の骨太の戦車道には到底及ばないのは火を見るよりも明らかだ。

 大会で無様を曝す前に大人しく戦車隊の全権を我等受験組に渡すべきではないのか?」

 

「ふん、如何にも下賤な受験組が言いそうな事で笑えるな?

 我等エスカレーター組は、敷かれたレールの上を安穏と走っていたのではない……選ばれたエリートとして、日々己を磨き続けて来た結果、今こうして存在しているのだ。

 雑草の努力を否定はしないが、雑草は所詮雑草、選び抜かれた高貴な薔薇には勝てぬと言う事をいい加減知りたまえ――君達受験組が幾ら頑張った所で、我ら生粋のエリートに勝てる道理はないのだからね。」

 

「無知も其処まで行くと見上げたものだな?

 落ちこぼれでも努力を続ければエリートを超える事が出来ると言う言葉を知らないと見える……君達と私達の対戦成績を知っているのか?

 今までに50回戦って、戦績は私の29勝21敗だ。」

 

「わずか八つの白星先行で粋がる気かな?……君達の得た八勝は、僕が参加していなかった時のモノだ。」

 

「負け惜しみか?見苦しいぞ押田君?」

 

「君こそ、少し調子に乗り過ぎじゃないかな安藤君?」

 

 

 

此れは、想像以上に仲が悪いでありますね受験組とエスカレーター組は……正に一触即発であります!!

下手をすれば、このまま乱闘に発展して隊員に怪我人が出かねないという状況であるのに、一体全体隊長殿は何をしているんでありますか!!

 

 

 

「……あそこで優雅に紅茶を飲んでいるぞ?」

 

 

 

――ドンガラガッシャーン!歴史が違うんだよ!楽には死ねんぞ!!調子こいてんじゃねぇぞオラァ!!裁くのは俺のスタンドだぁ!!!

 

 

 

思わず盛大にずっこけてしまったであります。

こんな事態に仲裁をしないって、其れでも隊長ですか!?西住殿だったら、片腕であるにも拘らず止めに入った筈であります……帰りましょう。

 

 

 

「え?帰るのか?」

 

「はい……西住殿がマジノの分校と言う事で警戒していましたが、この目で見て此処は噂以上の場所だと確信しました――内部分裂は噂ではなく真実だった以上に、隊長は其れを是正しようともしない無能者みたいですので。

 正直、今回ばかりは西住殿が過剰警戒したと思わざるを得ないであります……あ、此れって不敬罪に当たるんでしょうか?」

 

「いや、大丈夫だろう……西住隊長は確かに凄い人だが、しかし人間なのだから間違う事もあるさ……其れに、不仲が真実であったとするのならば、其れは其れで我等にとって朗報だ。

 その綻びを壊してやればBC自由学園は丸裸になる訳だからな。」

 

 

 

成程、確かに其の通りでありますな――如何転んでも、BC自由学園が隻腕の軍神に勝つ事は出来ないだろうと、今この場で確信したでありますよ……西住殿は、最強でありますからな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

Side:安藤

 

 

ふぅ……偵察に来ていた大洗の生徒は帰ってくれたか――隊長チームの秋山優花里と、Ⅲ突チームのリーダーであるエルヴィンが来るとはな。

取り敢えずマリー様の命令通りに彼女達の前で受験組とエスカレーター組の不仲を演出してみたが、此れで騙せたと思うか押田君?

 

 

 

「……偵察は騙せても、隻腕の軍神を騙す事は出来まいよ安藤君。

 ――西住みほ……彼女は、僕達が知っている戦車乗りとは同じカテゴリーに収める事が出来ない存在だからね?

 この程度の小細工は通じまい。」

 

「だよなぁ……押田君、こんな事を言ったら君は怒るかも知れないが……マリー様が隊長で大丈夫か?」

 

「ぶっちゃけて言おう安藤君……正直言って不安しかない。」

 

「ですよね。」

 

「寧ろ不安以外の何があると言うのだ!?

 確かにマリー様の車長としての能力の高さについては疑いようもないだろう――僕と君が組んでもマリー様には勝てないのだから!!

 だが、それ以外……作戦立案能力とか、危機管理能力とか、自己管理能力とか生活能力その他諸々が色々残念過ぎるだろう!!

 信じられるか安藤君、この間などあの人はホールケーキを一人で三つも平らげたんだぞ!?」

 

 

 

……改めて言葉にすると色々とヤバいよなマリー様。

学園OGのアズミさんが目をかけていたと言う理由で、代替わりの際に隊長に就任したのだが、車長としての能力は高くとも、チームを纏める能力に関しては今一つの様な気がするんだよなぁ?

こう言っては何だが、エスカレーター組のトップである押田君と、受験組のトップである私の方が夫々を巧く纏められているからね。

問題は、マリー様のあれが天然モノなのか、かの織田信長のように馬鹿を演じて周囲を試しているのか分からないと言う事だな……其れとは別に、一人でホールケーキ三つは別の意味で感心するけど。

 

「まぁ、うだうだ言っても仕方あるまいよ押田君。

 今回は、かの隻腕の軍神殿と戦えると言う事を光栄に思おうじゃないか――中学二年の頃から始まった彼女の無敗伝説は君も知っているだろう?戦車道に於いては生ける伝説となった彼女と戦う事が出来るなど、戦車乗りならばワクワクする事だしな。」

 

「君は前向きだな安藤君……だが、君の言う事は正しい。

 隻腕の軍神・西住みほ――彼女と戦った事があると言うのは、今や戦車道における一つのステータスとなっていると言っても過言ではないからな……時に安藤君、彼女の無敗伝説の中で、唯一引き分けた相手が居たと思ったが、誰だったかな?」

 

「中学三年の時の決勝戦だよな?

 え~~と、黒森峰中等部の隊長の逸見エリカじゃなかったか?」

 

「だよな?……して、今の大洗で『孤高の銀狼』『銀の狂犬』『挑発上等マッドドック』と渾名されているのも逸見エリカではなかったか?

 そして私の記憶が正しければ、大洗の副隊長である澤梓君は軍神の一番弟子であった筈だが?」

 

 

 

……言われてみれば確かに其の通りだな押田君。

更に言うと、去年の黒森峰のお家騒動の際に、一年のトップ3だった西住みほと逸見エリカと赤星小梅は大洗に行ったんだったね……そして、其れを追うように澤梓も大洗にだからな。

 

――戦う事が出来るのを光栄に思うのは兎も角として、此れ詰んでないか?

そもそもにして、二倍の戦力差を引っ繰り返してしまう大洗に勝てる相手など存在するのか?……此れは、黒森峰に代わって大洗が大会の連覇記録を作るのかもしれないな。

そして、大洗vs黒森峰は高校戦車道に於ける伝統の戦いになって行くのかもしれないな。

 

 

 

「安藤君、思案している所悪いがマリー様を止めるのを手伝ってはくれまいか?ホールケーキ五個目は流石に危険だ。」

 

「私としては、何処まで行けるのか見てみたい気もするんだが、流石にこれ以上は危険だな。」

 

と、言う事でこの後押田君とマリー様を全力で止めた……そして本気でこの人が隊長で大丈夫なのかと不安になった――無限軌道杯での采配次第では、隊長のリコールも考えた方が良いかも知れないな。割とマジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

さて、優花里さんとエルヴィンさんが偵察から戻って来て、その時のビデオを戦車道履修者の皆で見てるんだけど……此れは、酷い所の騒ぎじゃないよ。酷過ぎる。

 

 

 

「内部分裂が深刻と聞いてはいたが、よもや此処までとは……こんなまとまりのないチーム、西住の指揮の下に一致団結した我等大洗の敵ではないわ!!

 マジノの分校と言う事で少し警戒したが、この有様を見る限りでは実力の方は大した事はあるまい……一回戦は楽勝だ!!」

 

「ふ、自信満々だね桃さん?

 だけど私も同じ気持ちだよ……一つに纏まる事が出来ていない集団は、所詮烏合の衆に過ぎない連中だからね――全国制覇をした隊長さんからしたら取るに足らない相手なんじゃないのかな?」

 

「うん、この程度なら私の相手じゃない……そう思わせるのが、相手の狙いなんだろうね。」

 

「「「「「「「「「「……え?」」」」」」」」」」

 

 

 

私の言葉に、エリカさん、小梅さん、梓ちゃん、クロエちゃんを除いた全員が驚いたみたいだけど、この不仲を見せつける事こそがBC自由学園の狙いなんだよきっと。

偵察に来たメンバーが、学校の不仲のデータを持ち帰れば、普通は其処を突こうとして作戦を考えるから、逆に言うのなら、嘘のデータを渡してしまえば作戦その物を瓦解させる事が出来るんだよ。

事前の情報操作で相手を混乱させる……中々の一手だったよ。

 

 

 

「隊長さん、なんでそう言いきれるんだい?」

 

「簡単な事ですよお銀さん。

 ハッキリ言って、BCのエスカレーター組と受験組の対立は常軌を逸脱していると思うんです……如何に仲が悪かろうと、抽選会の様な場でイキナリ言い争いを始めるとか無いでしょう?」

 

と言うか、あんな場所で問題起こしたらそのまま退場で大会の出場停止もあったかも知れない訳だしね……そうならなかったのは、BCが事前に大会組織委員会に許可を取っていた事を意味してるんだよ。

だから、BCの内部分裂は自作自演の虚構に過ぎない……そして、私はその虚構に陥る間抜けじゃない……寧ろ、そっちがそう来るって言うならこっちも相応の対応をする、其れだけだからね。

 

だけどそれ以上に大事なのは試合のオーダー。

お銀さん達『サメチーム』が参戦してくれたおかげで、大洗の保有戦車は11輌になった訳だけど、大会の一回戦と二回戦は使用可能戦車数が十輌だから、一輌がオーバーしちゃうんだよね……サメチームには経験を積んで貰いたいから出場は確定として、他のメンバーは取り敢えずベンチって言うのがベターだろうね。

 

そんな訳で、一回戦はバックアップに回って貰えるかな猫田さん?

 

 

 

「任せるにゃ……全力で支援するよ。」

 

「任せる桃!!」

 

「安心して欲しいだっちゃ♪」

 

 

 

うん、良いノリだね。

だけど、そのノリは大事なモノだから忘れちゃダメだよ――ノリは、戦車道に於ける重要なファクターだからね。アンツィオじゃないけど、ノリと勢いは意外と馬鹿に出来ないからね。

 

何にしても、此れで準備は整ったから、後は試合で戦う其れだけだからね……無限軌道杯の最初の相手であるBC自由学園、私の戦車道がドレ程のモノであったかを教えてあげるよ!!

何よりも、この程度の裏技で私を攻略出来ると思ってるのは、普通にムカつくしね。

 

貴女には、隻腕の軍神の力が如何程だったのか、其れをその身で味わって貰うとするよ――BC自由学園戦車隊隊長マリー……余裕ぶっこいてた奴が慌てる様が目に浮かぶよ。

 

そして覚えておくと良いよ、無限軌道杯を制するのは、私達大洗女子学園だって言う事を!!

この大会も制覇して、大洗女子学園の戦車道の底力ってモノを、改めて世間に知らしめてあげるとしようかな……大洗女子学園を廃校にしようなんて考える輩が二度と現れないようにする為にもね。

 

取り敢えず一回戦……全力で行くよ皆!!大洗……

 

 

 

「「「「「「「「「ファイ、おーし!!」」」」」」」」」

 

 

 

私が率いる大洗に隙は無いからね……BC自由学園の人には悪いけど、勝つのは私達大洗だよ!……優勝旗は絶対に誰にも渡さないからね!

其れじゃあ、イザ行こうか無限軌道杯の一回戦にね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer181『無限軌道杯の一回戦開幕です』

いよいよ無限軌道杯開幕だね!Byみほ        目指すは優勝只一つよ!Byエリカ      寧ろそれ以外はないですから!By小梅


Side:みほ

 

 

一回戦の相手であるBC自由学園の対策は充分に出来たから、後は試合で勝つだけだね。――そして、今日は無限軌道杯の開会式及び、一回戦三試合が行われる日。

選手宣誓の権利を引き当てた訳だし、最高の宣誓をしないとだよ。

 

 

 

『続いて選手宣誓。選手代表、大洗女子学園、西住みほ。』

 

「はい!!」

 

そしてやって来た選手宣誓。

この日の為に考えに考えて来たからね……少なくとも夏の大会を超える選手宣誓だって言う事が出来るかな?――耳の穴かっぽじって良く聞くと良いよ!!

 

「宣誓!我々選手一同は、スポーツマンシップに則り、そして戦車乙女の誇りを胸に、全ての試合を全力全開で戦い抜く事を、自分の心と、自分が搭乗する戦車に誓います!!

 選手代表、西住みほ――無限軌道杯、盛り上げて行きましょう!!!」

 

「「「「「「「「「「おーーーーーーー!!!」」」」」」」」」」」

 

 

 

選手宣誓の最後で、盛り上げて行きましょうって言ったら、参加校の9割が賛同の歓声を上げてくれた……うんうん、大会って言うのは盛り上がってナンボだからね。

私達には、勝つ事よりも、如何に盛り上げられるかが重要なんだよ。

無敵の学校でも、盛り上げられなかったら意味はないからね。

 

 

 

「盛り上げるのは成功したんじゃないみほ?」

 

 

 

「グアァッデーム!!アイアム、チョーノ!!

 大洗だけ見てりゃいいんだオラァ!!」

 

 

 

だね、エリカさん。

黒のカリスマも絶好調みたいだから、一回戦は華麗に勝ってみせるよ――大洗の戦車道は、泥臭さが売りだけど、だからと言って華麗な戦いが出来ない訳でもないからね。

取り合えずBCには、西住流を私なりに昇華させた、西住みほ流戦車道を味わって貰おうかな?……あの程度の策で私を、大洗を如何にか出来ると思った事を、後悔させてやるから覚悟しておくと良いよ。

 

隻腕の軍神の力、ゲップが出る程御馳走してあげるからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer181

『無限軌道杯の一回戦開幕です』

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで大会2日目。

エミちゃんの所はシード権を獲得したみたいで試合は無かったんだけど、昨日の3試合で駒を進めたのは青師団と継続と知波単か……そして、今しがた終わった試合ではコアラの森と、ヴァイキング水産が2回戦にコマを進めたみたいだね……なら、私達が2回戦に進まない選択肢は存在しないから、必ずBC自由学園を倒す!!

異論はないね?

 

 

 

「ないわよみほ――精々アイツ等に教えてあげましょう……隻腕の軍神に、小細工は通用しないって事をね!」

 

「みほさんを、私達大洗を侮ったらどうなるのかと言う事を徹底的に理解させてあげましょう!」

 

「此れは私達の総意です西住隊長、試合前の小細工で此方を油断させようとした相手に、そもそもにしてその作戦自体が間違いだったと言う事を教えてあげましょう!」

 

「勿論その心算だよ梓ちゃん。」

 

試合は開始される前から戦いが始まってると言うから、そう言う意味では大洗の偵察を予測して一芝居打ったのはアリだと思うけど、其れならもっと巧くやるべきだったよ。

あんなバレバレの演技に騙されるのは、三流以下でしかないからね。――不仲であると誤認させるなら、派手に喧嘩をさせるよりも寧ろ静かにギスギスした空気を作った方が効果的だし。

取り敢えず、試合開始まであと一時間近くあるから、試合開始二十分前までは各自好きなように過ごしてね。二十分あれば試合前のブリーフィングは充分に出来るから。

 

 

 

「おっけ~~、そうさせて貰うよ西住ちゃん。」

 

「杏さんは私が言わなくても好きなように過ごしてますよね?」

 

「ん~~……まぁ、細かい事は言わない方向でいいんじゃな~~い?

 其れよりも干し芋食べる?滅多に手に入らない丸干しタイプの高級品だよ~~♪スライスされてる普通の干し芋と比べて、丸干しタイプは甘さが濃厚で格別の美味しさなんだよね~~。

 しかもこれ、そのまま食べてもめっちゃおいしいんだけど、表面を軽く炙ってやると格段に美味しくなるんだよ~~♪炙ったのを一個如何だい?」

 

「其処までお勧めなら頂きます……って、どうやって炙ったんですか?」

 

「か~しまが七輪で炙ってくれた~~。」

 

 

 

試合会場に何持って来てるんですか桃ちゃん先輩!?

って言うか七輪持って来るって、其れはどっちかって言うと桃ちゃん先輩じゃなくて優花里さんのキャラじゃないかと思うなぁ?……あ、優花里さんの場合は七輪じゃなくて小型コンロにガスボンベかもだけど。

 

 

 

「杏ちゃんがどうしてもと言うからな……だが、練炭を持って来たのは間違いだったな?此れでは明日の此の時間まで燃え続けているぞ?」

 

「其れでしたら、弱火にして煮込み料理などを作ってみては如何でしょうか我が主?

 秋山が持っているサバイバル食料を使わせてもらえば、試合終了後にカレーが出来ていると言う状態にする事は可能だと思うのですが……」

 

「せやな、そのアイディアは頂きやリインフォース!……って、何やらせるか八神~~~!!!」

 

「ふ、俺が怖いのか?」

 

「其れは八神違いだ!赤毛ストーカーではないわ!!」

 

「ククク……ハッハッハ……はぁ~っはっはっはっは!!!」

 

「情け容赦のない高笑いをするなぁ!!」

 

 

 

……いやぁ、ホントにノリいいなぁ桃ちゃん先輩は。其れを焚きつけたアインもだけど。――そして、アインの三段笑いが違和感バリバリだねうん。

 

 

 

「試合前でも随分余裕があるわねみほ?」

 

「エミちゃん!若しかして応援に来てくれたの?」

 

「まぁ、幼馴染の応援はして当然だと思うからね。

 しかし、こう言ったら何だけど、全国制覇したとは思えない程に緩い感じよね大洗って……試合前のこの光景を見ただけじゃ、とても全国制覇を成し遂げた学校には見えないわよ?」

 

「うん、私もそう思う。」

 

だけど、此れこそが大洗の強さの根幹なんだよエミちゃん。

確かに大洗の戦車隊のメンバーはその殆どが素人だったのは否定しないし出来ないけど、だからこそ戦車乗りの常識が一切通じない――だから余計な緊張をする事もないんだよ。

常に自然体で居られるからこそ試合で最高のパフォーマンスを発揮出来る――此れが大洗の強さの秘密だよ。

 

 

 

「成程ね……だけど、自校の強さの秘密をアッサリと開示しちゃって良いのかしら?」

 

「別に問題ないよエミちゃん……其れを知られた所で対処出来る物でもないしね――黒森峰じゃないけど、大洗は見られて困るモノは何一つないんだよ。

 敢えて見られて困るモノと言えば……学園艦の奥底の治安の悪さかな……大洗のヨハネスブルクは余り見せたいと言うか見せるモンじゃないって思うからね。」

 

「そう言われると逆に気になるけど……まぁ、取り敢えず頑張りなさいよみほ?私達と当たるまで負けるんじゃないわよ?」

 

 

 

エミちゃん……言われなくてもその心算だよ!――私達の目標は、あくまでも優勝だからね!!

其処までの道に立ち塞がる相手なら、誰であろうと倒して進むだけだからね……私達大洗の覇道を邪魔するのならば、容赦しないで叩き潰すだけだよ!!

 

 

 

「大きく出たなみほ?……だけど、お前達が優勝するには決勝で私が率いる黒森峰を倒さないと無理だ――私を含め、黒森峰の隊員は夏の大会での雪辱を果たさんと思っているからね。

 今度は、黒森峰が勝たせて貰うよみほ!!」

 

「理子さん……私に勝てると思ってるの?」

 

で、新たに現れたのは黒森峰の新隊長である理子さんと、来年度は副隊長になるであろうツェスカちゃん――理子さんとは軽口を交したけど、応援に来てくれたってのは分かるから、その激励は有り難く受け取っておくよ。

……って、思ってたら何時の間にかツェスカちゃんがエミちゃんに詰め寄ってる!?――何やら只ならぬ雰囲気だけど、あの二人には何か因縁めいたモノがあったりするのかな?

 

 

 

「中須賀エミ……良くも此処に来る事が出来たわね?……この、裏切り者!!」

 

 

 

ふぇ?裏切り者って言うのは穏やかじゃないねツェスカちゃん?……って言うかエミちゃんとツェスカちゃんってお知り合いだったりするの?そうじゃないと今のやり取りは無いと思うし。

 

 

 

「私がドイツに帰国してから所属してたチームに居たのがツェスカだったのよ――才能は結構あったから目を付けて訓練してたんだけど、そう言うのを面白く思わない奴がチーム内に居てね。

 混血のエースは認めないとばかりに、命令違反やら何やらを繰り返してくれたから、こっちから見限ってやっただけの事よ。」

 

「えぇ!?……って事は、アンタは自分勝手に去った訳じゃないっての?」

 

「そう言う事になるわね……あそこでは自分を磨く事が出来ないと思ったから見切りをつけたのよ――みほの隣に並ぶ事が出来るようにね。」

 

「そんな!なら、なんでそう言ってくれなかったのよ!!

 しかもチームを辞める前の最後の試合で、あんな無茶苦茶な指示を出して、試合後に命令違反をした連中を張り倒して、罵声浴びせて、挙げ句の果てに『命令も守れないクズが居るチームなんて最悪だわ』とか言って自分が悪者になるような事を!!」

 

「みほの、幼馴染の隣に並ぶ為に、更なる高みを目指す為にチームを辞める何て言った所で、私の事を認めてなかった奴等には『戦車道が嫌になって逃げる為の口実』としか映らないでしょ?

 だから、最後の最後で暴君の独裁者演じてから辞めてやったのよ――逃げたと言われるより、裏切ったと言われる方が万倍マシだわ。

 大体にして、貴女だって私があそこから去った一年後に黒森峰にスカウトされたって人伝に聞いたわよ?……あのチームを去ったってのはお互い様じゃない?」

 

「ぐ……其れは確かにそうかも知れない……序にチームを辞めて黒森峰に来た事も後悔してないわ。アズサって言うライバルにも会えたしね。

 って言うか、アンタ妹隊長の幼馴染だったの!?」

 

「……妹隊長?」

 

 

 

あはは……黒森峰の前の隊長ってお姉ちゃんだったから。

で、私もお姉ちゃんも西住でどっちも隊長だから、ツェスカちゃんは区別する意味で私の事を妹隊長って呼んでるの――因みにウチの副隊長の梓ちゃんはお姉ちゃんの事を『姉隊長』と呼び、隊長車の装填士である優花里さんはお姉ちゃんの事を『姉住殿』って呼んでるんだ。

 

 

 

「その呼び方で行くと貴女のお母さんの事は……」

 

「梓ちゃんは普通に家元だろうけど、優花里さんは『母住殿』か『ママ住殿』の可能性が否定出来ないかな?――いや、大穴で『母上殿』とかの可能性も否定出来ない。」

 

「大洗の面子は濃いわねぇ……で、質問の答えだけど私とみほは小学生の時からの幼馴染よ。

 私にとっては戦車が結んだ最初の友達ってやつよ……べったり仲良しって訳じゃなくて、どっちかって言うと喧嘩する事の方が多かったけど、だからこそ分かり合えた相手なのよ。」

 

「其れで、エミちゃんがドイツに帰る時に約束したんだ……自分の戦車道を見つけようって。

 そう言えば、抽選会の時には言えなかったけど、大学選抜戦の時、お手紙ありがとう……あの手紙には凄く勇気を貰ったから。」

 

「本当なら参戦したかったんだけど、ベルウォールの学園艦は太平洋の大海原を航海中で参戦は不可能だったからね……せめて手紙でもと思って送ったんだけど、其れが貴女の力になってくれたんなら良かったわ。

 何にしても、勝ちなさいよみほ?内部分裂が噂されてる学校なんて、速攻でやっつけてやりなさい!」

 

「勿論その心算だよ!!」

 

 

 

――ガシィ!!

 

 

 

エミちゃんと腕を合わせて勝利の誓いってね。

圧倒的に勝って来るよエミちゃん……そして、私の戦車道をその目に焼き付けて欲しいと同時に、私と戦うのをより楽しみにしてくれると嬉しいよ。

隻腕の軍神の戦車道は、戦車道の常識は通じないモノだからね。

 

 

 

「戦車道の常識が通じない戦車道……見せて貰おうじゃない――行ってこい、Comrades!!!(戦友!!!)」

 

「うん、行ってくるよEnger Freund!(親友!)」

 

 

 

「……直下隊長、私等空気になってません?」

 

「言うなツェスカ、私も思いっきりそう思ってっから……高校からのダチと、幼馴染じゃ勝負にならねぇとは思ってたけどさ……」

 

 

 

あぁ、忘れてた訳じゃないからいじけないでツェスカちゃん、小島さん!!

 

 

 

「誰が小島だ!私は直下だ!!」

 

「小島エミさんもとい、直下理子さん落ち着いて!!」

 

「小島エミって誰やねーん!!って言うか、下の名前がみほの幼馴染と被ってるだろガチで!!」

 

 

 

いや、ホントに誰なんだろうね?

兎に角、私とエミちゃんはそう言う訳で幼馴染だって言う事だよ――そろそろ試合開始二十分前になるから、皆は客席に戻った方が良いかな?

此れから大洗は試合前のブリーフィングを行う事になってるからね。

 

 

 

「試合前のブリーフィングは大事ね……そう言う事なら、お暇させて貰うわ……貴女が見つけた貴女だけの戦車道、楽しみにしてるわよみほ?」

 

「内部分裂を如何にも出来ないような、BCの無能隊長に隻腕の軍神の恐ろしさって奴を骨の髄まで叩き込んでやれ――みほらしい、予想外の戦車道を楽しみにしてるわ。」

 

「その期待には応えるよエミちゃん、理子さん。」

 

相手の裏の裏をかいた上で、更に予想外を叩き込む心算だからね。

 

 

 

で、エミちゃん達と別れた後のブリーフィングで私がぶち上げた作戦には、大洗の面々も大いに驚いてくれたけど『奇想天外な大洗の戦車道は知られてるから逆に行けるかも』って言う事で満場一致で可決!

 

そして遂に試合開始時間となり……

 

 

 

「隻腕の軍神こと、西住みほさんと戦えるとは光栄ですわ……今日は楽しませて頂きますわ。」

 

「BC自由学園隊長マリーさん……うん、大いに楽しんで行ってほしいかな?私の戦車道は、遊園地の絶叫系アトラクションよりも刺激的だから。」

 

「其れは楽しみですわ。」

 

 

 

試合前の整列で、マリーさんと少し言葉を交わす。

此れ位のやり取りは割りとよくある事だから、審判団も特に注意する事はないんだよね。――取り敢えず、隊長同士の試合前の遣り取りは終わりましたので、試合開始の宣言をお願いします蝶野教官。

 

 

 

「此れより、大洗女子学園とBC自由学園の試合を開始する。お互いに、礼!!」

 

「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」

 

 

私と梓ちゃん、マリーさんと二人の副隊長の声が響いて、私達の一回戦が開幕……全力全開ならぬ全力全壊で行くから、大洗の勝利は絶対だってね!!

 

 

 

「……みぽりんの髪が金髪になって伸びて、眉毛が無くなった気がする。」

 

「其れは気のせいでありますよ武部殿……って言うか其れは何処のスーパーサイヤ人3ですか。」

 

 

 

沙織さんは一体何を幻視したのか気になるけど、逆に言うならそんな物を幻視する位に私の闘気が凄まじかったって言う事だけど、未だ軍神招来は発動してないから、私の本気爆発はこの比じゃないからね。

だから、私に軍神招来を発動させてほしいモノだね、BC自由学園には。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

遂に始まった今年の全国覇者である大洗女子学園の無限軌道杯。

初戦の相手はマジノ女学院の分校であるBC自由学園――マジノと同様にフランスの戦車を使っているが、伝統には縛られない自由な戦車道を行っている学校だ。

――但し、エスカレーター組と受験組の対立が凄まじく、そのせいで連携が取れずに毎年一回戦敗退を続けている学校でもある。

 

其れだけを見ると全国覇者の大洗が勝つと思うだろうが、あらゆるスポーツがそうであるように、戦車道にも絶対は存在しない……と言うか、そもそもにして、大洗がジャイアントキリングを連発して戦車道に絶対は存在しないを証明した存在なのだと言う事を忘れてはなるまい。

そんな大洗がどんな戦い方を見せてくれるのか非常に楽しみではあるが、先ずは両校のオーダーを見て行くとしよう。

 

 

・大洗女子学園

 

パンターG型×2(アイスブルーカラーは隊長車兼フラッグ車、パールホワイトカラーは副隊長車)

ティーガーⅡ×1

Ⅳ号戦車D型改(H型仕様)×1

Ⅳ号戦車F2×1

Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)×1

クルセイダーMk.Ⅱ×1

38(t)改(ヘッツァー仕様)×1

ルノーR35改(R40型仕様)×1

ポルシェティーガー×1

 

 

・BC自由学園

 

ルノーFT×1(隊長車兼フラッグ車)

ソミュアS35×5

ARL44×4

 

 

 

相変わらず個性豊かな大洗女子学園に対し、BC自由学園はフランス戦車では堅実な性能の車輌を6輌揃え、其処に高火力のARL44を4輌組み込んだやや火力に重点を置いた編成と言えるだろう。

ハッキリ言ってしまうのならば、統一感のない大洗の編成と、フランス戦車に限定したBC自由の編成は総合力では略互角と言える――ならば、この試合の勝敗を分けるのは指揮官の差だと言えるだろう。

 

 

「行くよ皆……Panzer Vor!!(戦車前進!!)」

 

「「「「「「「「「「Jawohl!(了解!)」」」」」」」」」」

 

 

 

「其れでは参りましょう……Lancement de char.(戦車発進。)」

 

「「「「「「「「「「Entente!(了解!)」」」」」」」」」」

 

 

 

そして両校の隊長の号令で双方の戦車隊が発進して試合開始!!――隻腕の軍神こと西住みほにBC自由学園がどう挑むのかと言うのは試合前から話題になってだけに、無限軌道杯の1回戦最注目のカードであるのは間違いないだろう。

 

 

「ガッデメファッキン!!

 BC自由学園だ?寝言言ってんじゃねぇ!!

 大洗だけ見てりゃいいんだオラァ!!」

 

「隊員も濃けりゃ、ファンも濃いわね大洗……」

 

「お前もみぽりんの応援だろ嬢ちゃん!

 気合入れて行くぞ!!アイム、チョーノ!!」

 

「ちょ、巻き込まないでよ!!」

 

「やっちまえみほちゃん!!優花里ぃぃぃ、テメェも気張れよオラァァ!!」

 

「何か増えてる!?」

 

 

そして大洗の応援が凄いのも何時もの事だ……巻き込まれてしまった中須賀エミには若干の同情をしておこう――せめて黒のカリスマに毒されない事を願っているよ。

 

 

ともあれ此れで試合開始――と同時に、隻腕の軍神の更なる伝説の幕開けでもあった……そして、戦車道関係者は知る事になる、西住みほという戦車乗りが、本当の意味で底の見えない存在であったのだと言う事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer182『フランス戦車隊とガチバトルです!』

さぁて、本気で行きますか?Byみほ        貴女の本気……相手に同情するわByエリカ      軍神の本気は7000万パワーですからねBy小梅


Side:みほ

 

 

試合が始まって、今は敵陣に向かって前進中なんだけど、先ずは相手の動きを把握するのが先決だから、カバチームとレオポンチームの2チームは偵察に出て、BC自由学園の動きを見て貰っていいかな?

相手がどんな陣形を取ってるのかを把握するのは大事な事だと思うから。

 

 

 

「了解した西住隊長。

 我等カバチーム、Ⅲ突の車高の低さを最大限に利用して、敵の陣形を把握すると約束しようじゃないか――寧ろ、把握しなくては偵察を命じてくれた隊長の顔に泥を塗る事になるからな。」

 

「こっちも了解だよ西住隊長。

 Ⅲ突と違って、ポルシェティーガーは大きいから見つかり易いかもだけど、その時は主砲の破壊力と装甲厚を武器にすれば逃げ切る事も出来るからね……何よりも此の子には、ルールの穴を突いた切り札があるしさ。」

 

「ルールに抵触していないとは言え、トンデモない魔改造戦車よねこのポルシェティーガーって……此れを見た他校が改造ポルシェティーガーを使うようになったら、モーターに関する規制が出来るかも知れないわね。」

 

「アハハ、其れは確かにそうかもね。」

 

だけど、この魔改造ポルシェティーガーは、ナカジマさん達だからこそ出来たモノであって、他校が其れを真似するのは略無理だと思うかな?

そもそもにして、ポルシェティーガー自体が『失敗作の欠陥兵器』って認識されてるから、余程のモノ好きじゃない限りは実戦投入する事は無いと思うんだ――其れを考えると、モーターの規制をしたら、それって大洗をピンポイントで狙った規制改修って言われかねないから、モーターの規制は案外ないままかもしれないよ?

 

まぁ、其れは其れで大洗にとっては有り難い事だけどね。

 

 

さてと、其れじゃあカバチームとレオポンチームから連絡があるまで、私達は此処で待機しましょう――BC自由学園の作戦は既に割れているので、後は相手の陣形が分かれは其れで充分です。

なので、カバとレオポンから連絡が入り次第、此方から仕掛けます――相手の策を逆利用した作戦でね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer182

『フランス戦車隊とガチバトルです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

一回戦の注目カードの一つである大洗女子学園vsBC自由学園の試合で、まず先に動いたのはBC自由学園だった――と言うより、試合開始と同時に飛び出したと言っても良いだろう。

部隊を二つに分けて飛び出したその様は、一見すると大洗の部隊を二手に分かれて挟み撃ちにするように見えるだろうが、その実はエスカレーター組と受験組がバラバラに出撃しただけに過ぎないのである。

 

其の事に多くの観客は気付いてないが……

 

 

「……マリーったら、何をやってんのよマッタク……!!」

 

「アズミ、アンタの後輩大丈夫なの?」

 

「挟撃そのものは悪くないと思うけど、私等を倒した大洗に其れが通じるとは思えないわよ?

 其れも、チームワークが出来てないようじゃねぇ?」

 

「やめてメグミ、耳が痛いから。」

 

 

大学選抜副隊長のアズミ、ルミ、メグミはそうではなかった――特にBC自由学園のOGであるアズミは本気で頭を抱えそうな感じである……自分が在籍していた頃から日常的に発生していた異なる派閥の対立が今尚続いているのが分かってしまったのだから。

アズミが在籍していた頃は、合併前のBC学園と自由高校の生徒による、学校別の対立だったのだが、其れが沈静化したと思ったら、今度は受験組とエスカレーター組で争っていると言うのだから最早笑えないだろう。

 

 

「だけどアズミ、その不仲その物が作戦って可能性はないのか?

 不仲の対立を見せる事で相手を油断させて一気に叩くとか……そう言う戦い方って言うのもアリかも知れないぞ?――私も継続時代は色々な事やったからなぁ?」

 

「確かにその作戦はアリかも知れないけど……隊長すら倒した、あの西住みほにそんなせせこましい作戦が通じると思うルミ?」

 

「思わないね――まぁ、西住みほは確かにとんでもなく凄い奴だけど、彼女だけじゃなく、大洗のメンバーって色んな意味でぶっ飛んでる奴等ばっかりだから。

 特に……あの、イカれたポルシェティーガーとかさ?」

 

「あぁ~~……納得。

 普通あんな欠陥兵器を使おうとか思わないわ。――アズミ、貴女には悪いけど、貴女の後輩達多分負けると思うから、今夜はゴチになるわね。」

 

「うぅ……後輩贔屓でBCの勝利に賭けた自分を殴りたいわ~~。」

 

 

……そして、後輩の試合結果で何か賭けてたらしい。戦車道トトカルチョはあまり感心出来ないが、まぁ仲間内でのお遊びレベルなので其れ程咎めるモノでもないだろう。

 

 

「グァッデーム!!

 戦車道の試合で賭博染みた事してんじゃねぇぞガッデメファッキン!!」

 

「「「すみませんでしたぁ!!!」」」

 

 

尤も、戦車道と言うか大洗を全力で応援する黒のカリスマ的には見過ごせないモノだったらしく、通称バミューダ三姉妹を一喝!!……見た目はアレだが、黒のカリスマは実は意外と常識人なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席での彼是は兎も角として、試合フィールドはどうなっているかと言うと……

 

 

『此方カバチーム、ソミュアS35を5輌を確認――真っ直ぐ大洗の方に向かっている。

 隊長、Ⅲ突の隠密性を生かして、此処は奇襲を掛けては如何だろうか?出鼻を挫いてやれば、奴等のノリを挫いてやる事が出来ると思うぞ?』

 

「いえ、そのまま見つからないようにその場を移動して、ポイント○○にて待機してください。」

 

『了解した、隊長。』

 

 

 

『此方レオポン。

 ARL-44を4両確認~~。やっぱり隊長の方に向かってるみたいだよ……如何する、一発かまして注意をこっちに引き付けようか?』

 

「そうですね、一発だけ撃って即時その場を離脱してポイント××で○○チームと合流して待機してください。」

 

『了解~~。ツチヤ~~、逃げる時に5秒だけ使っていいから。』

 

『やった~~!!』

 

 

部隊が二つに分かれたBC自由学園に対して、大洗はⅢ突とポルシェティーガーを偵察に出してBC自由学園の動きを掴もうとしていたのだが、其の結果はある意味で予想通りだったと言えるだろう。

受験組のソミュアS35と、エスカレーター組のARL-44は完全に別行動――試合が始まっても尚、不仲を演出している布陣だったのだから。

マッタク持って何も知らなかったら、BC自由学園の不仲説から『試合で協力する事も出来ない位に対立が深いのか』と思うと同時に『協力する事の出来ない相手など怖くない』と思い、其処に油断と決定的な隙が生じるだろう。

 

 

だがしかし、みほには、大洗には既にこの不仲が演出された偽物であると言う事は割れている――ネタの割れた作戦に引っ掛かるのは只の馬鹿以外の何者でもないだろう。

なので、みほはBC自由学園が仕掛けて来た策を逆に利用しようと思ったのだ――だからこそ、先ずはBC自由学園がどう展開して来たか、其れを把握する必要があったのだ。

 

 

「不仲を演出する意味で受験組とエスカレーター組に分かれて攻めて来たってとこかしらね?……連中の狙いは、挟撃を仕掛ける事で、私達の動きを制限した上で、キルゾーンまで追い込むって事よねきっと。」

 

「うん、其の予想でまず間違いないと思うよエリカさん。」

 

 

そして得られた情報から相手の狙いが何であるのかを予測し、其れへの対策を考えるのが隊長の役目でもあるからだ――みほが何か言う前にエリカの口から出た予測は、みほと略一致していたらしいが。

ともあれ、相手の目的が分かれば対抗手段を講じるのは難しくはない――事実、みほはスマホのグーグルアースを使って、自分達の現在地とフィールド全体を空から見ているのだから。

 

そのフィールドを見ると、大洗が挟撃を回避するためのルートには、何時壊れないともわからない年代物の木製の橋があリ、此れを使わないと対岸に最短ルートで渡る事は出来ない。

普通に考えるのならば、格好の的になりかねない橋渡りは戦車道に於ける可成りの博打技なのだが、このフィールドを把握したみほの口元には笑みが浮かんでいた。

 

それも、普通の女子高生では絶対に浮かべる事の出来ない獰猛な笑みが――エリカも同じような顔をするだろうって?……エリカの場合は狂犬だから獰猛な笑みでも問題はないのだ。

 

 

「其れで、如何するのみぽりん?」

 

「私達はこのまま進んで行く予定だよ沙織さん。

 既に仕込みは出来てるから、後は向こうの策に掛かったと思わせる事が出来れば良い訳だしね……ふふふ、果たして策に掛かったのは何方だったのか、思い知らせてあげるよ。」

 

「……ゆかりん、みぽりんが若干怖い。」

 

「あははは……此れはもう完全に詰んだでありますなBC自由学園は。」

 

 

此の試合は、みほにとっては既に盤面が分かっている詰将棋のモノだと言えるだろう――もしもBC自由学園の実力が本当に未知数だったのならば未だしも、優花里とエルヴィンの試合前偵察によって露呈した『不仲』を演技と見抜いた時点で、みほは相手のやって来そうな事は大体分かったと言えるのだから。

ならば後は、盤面の駒を正しく動かして詰み上がりにすれば其れで終いなのだ。

 

 

「しかしまぁ、向こうの隊長もみほがこう来るとは思わないでしょうね……特に、全国大会と大学選抜戦での戦いを知ってるなら尚の事だわ。」

 

「だからこそ効果があるんだよエリカさん。

 そう言う訳だから、戦車戦になったら容赦なく喰い散らかして良いからねエリカさん♪」

 

「ふ、期待には応えるわよみほ……下らない策で私達大洗を倒せるとか思った連中に、狂犬の牙で後悔を刻み込んでやろうじゃないの?」

 

「そう言えば、狂犬とは言いますけれど、逸見先輩って犬に例えると何になるんですかね西住隊長?」

 

「梓ちゃん……そうだなぁ、ボクサー犬かな?趣味がボクササイズだしね。」

 

「巧い!シャレも聞いてるし、座布団一枚ですよみほさん♪」

 

「ありがとう、小梅さん♪」

 

 

大洗の面々が纏う雰囲気は一見すれば緩く見えるだろうが、戦車道通や一流の戦車乗りが見れば、今の大洗が纏っているのは緩い雰囲気などではなく、絶対強者のみが発する事の出来る闘気……否、一流の戦車乗りのみが放つ事の出来る裂帛の闘士、パンツァー・オーラである事が分かるだろう。

二十年ぶりに戦車道を復活させ、隊員は殆どが素人であったにも拘らず、僅か十ヶ月にも満たない期間で、此処まで急成長をした大洗は、矢張り規格外であったとしか言えないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、BC自由学園のマリーは自陣で優雅にティータイムの真っ最中だった……って、それで良いのか隊長よ?……聖グロリアーナのダージリンだって、大洗とのエキシビションの際にティータイムを楽しんでいたからアレだが、ダージリンの場合は余裕の表れと言うか、試合を面白くする為のモノであって、ガチでティータイムを楽しんでいる訳では無い。

 

 

「ん~~……此のモンブラン美味しいわね?もう一個下さるかしら?」

 

「は、はい!只今お持ちします。」

 

 

其れなのに、マリーは割とガチでティータイムだった。

不真面目とも思えるかもしれないが、こうなってしまっているのはある意味で仕方ないのかもしれない――何故ならば、今の所試合はマリーの思惑通りに動いているのだから。

先陣を切った押田と安藤からの通信で、大洗が偵察を出して来た事は既に分かっているし、ならばその偵察の情報から大洗が如何動くかは既に分かっている。

と言うか、そうなるように大洗に偽の情報を渡したのだ。

 

エスカレーター組と受験組の仲の悪さを敢えて見せつける事で油断させ、更に試合でもエスカレーター組と受験組をバラバラに動かす事で、どっちが戦果を上げるか競っているように偽装させると同時に、其れによって挟撃が発生するようにする。

そうすれば、その情報を得た大洗は必ず挟撃を回避しようとして前方の橋を渡って来る筈だと、そう考えたのだ。

 

まぁ、其れは間違いではないだろう――全国大会を見る限り、大洗は何時だって効率的な方法でフラッグ車を葬って来たのだから。

其れを考慮した場合、不利になる挟撃を回避した上でフラッグ車を狙うとなれば必然的にあの橋を渡らざるを得ない。

――そして、其の橋を渡ってる所を挟撃狙いだった部隊が攻撃し、橋を破壊した上でフラッグ車を撃破すれば大洗に勝つ事が出来る……マリーが立てた作戦は、そんな感じだろう。

 

 

「さてと、そろそろ現れる頃かしら?」

 

 

自分の思い通りに試合が進んでいると思ったマリーは望遠鏡で前方の橋を見ると、其処には丁度大洗の部隊が!――後は其の橋を渡り始めてくれれば、其れで終わりだ。

 

 

 

 

 

 

そう思ったのだが、橋を前に大洗の部隊は一向に橋を渡ろうとしない。

 

 

「橋を渡らない?……如何して?挟撃を回避してフラッグ車を狙うには、其の橋を通るしかないのに……?」

 

 

其れを不審に思ったマリーが再び望遠鏡で大洗の部隊を見ると……

 

 

「……!!」

 

 

――ビシィ!!

 

 

何と、望遠鏡の先に居たみほが、望遠鏡に向かって獰猛な笑みを浮かべて首を掻っ切る動作からのサムズダウンをして見せた――そして、其れを見たマリーはその瞬間に戦慄した。

自分の居場所が知られていた事もそうだが、サムズダウンしたみほが何を言っていたのか理解してしまったからだ。――あまりにも距離が離れて居たので声が聞こえた訳では無いが、みほの口の動きから何と言ったかは分かった……分かってしまったのだ。

 

 

「そんな……まさか、全て彼女には分かっていたと言うの!?」

 

 

そう、マリーが読み取ったみほの口の動きは『ぜ・ん・ぶ・わ・かっ・て・る・ぞ?』と言っていたのだ――つまり、みほには最初から作戦の全てが筒抜けだったのである。

だが、其れを後悔した所でもう遅い。

 

 

「さぁて……出番ですよお銀さん!!!」

 

「ヨーソロー!!行くぞお前等!!ついて来な、レオポン!!!」

 

「「「「了解、親分!!」」」」

 

「さぁて、其れじゃあ行こうか!!ホシノ、外さないでよ?」

 

「だ~れに物言ってんのナカジマ?……大洗一速い女改め、大洗一の砲手を甘く見るなって!!」

 

「大洗一は五十鈴さんじゃない?」

 

「……スズキ、其れは言わないでくれよ……」

 

 

「エルヴィンさん、やっちゃってください!!!」

 

「その言葉を待っていたぞ西住隊長!!

 我等カバチーム、此れより敵フラッグ車を撃滅する!!……グデーリアンと私は騙せても、西住隊長を騙す事は出来ないと言う事を身を持って教えてやる!!」

 

 

BC自由学園のフラッグ車であるルノーF1をサメチーム、レオポンチーム、カバチームが強襲!!――中でもサメチームはやる気とか闘気がギガMAXを突破しているが故に、みほから所定場所で待機し、その時が来たら好きなように暴れてくれて良いと言われていたのだ。

そして、今がその時なのだ。

 

 

「獲物は絶対に逃がさねぇ……徹底して追い詰めてぶっ倒す!!気合入れろよお前等!!!」

 

 

マリーを強襲したお銀は、そのイケイケの性格でドンドンマリーを押し込んで行く……其れこそ、逃げ場がない位にだ――こうなってしまっては、最早マリーは成す術がなく、撃破されるしかないだろう。

 

だが、其れはあくまでも普通であればの話だ。

 

 

「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「マリー様はやらせんぞ!!」

 

 

この危機的状況に押田ルカ率いる部隊と、安藤レナ率いる部隊が合流し、マリーを護った――其れはつまり、挟撃は敢行しないで、元来た道を戻って来たのだろう。

其れには、思わずみほも笑みを浮かべた。

 

 

「へぇ?此方を挟撃すると見せかけておいた上で実はフラッグ車の護衛の為に反転して来た訳か……悪くない判断だけど、少しばかり遅かったと言わざるを得ないよ?

 だって、フラッグ車を護る事になったら、橋を渡る私達を如何にかする事なんて無理だからね。」

 

 

この状況は、絶対的に大洗の方が有利になったのは間違いないだろう――先行していた押田ルカと安藤レナは、フラッグ車を護る為に戻ってしまった事で、橋を渡る大洗の部隊を攻撃する事が出来なくなってしまったのだから。

 

なので大洗の部隊は特に問題なく橋を渡り切る事が出来た……BC自由学園と言うか、マリーの思惑は完全に崩壊してしまったのである。

 

そんな訳で余裕で橋を渡り終えた面々は、其処から試合に参加して、此処からが本当の試合開始だと言えるだろう――開けた草原のフィールドでは、一切の小細工が通用しないのだから。

 

だが、此のフィールド状況でみほは冷静に指示を飛ばす――

 

 

「全軍に指示……敵戦力を一騎残らず殲滅せよ!!!」

 

「みぽりん、何て言うかもう戦国の第六天魔王みたいだよ。」

 

 

沙織からの若干の突っ込みがあったモノの、みほは指示を飛ばして盤面の駒を操作して行く――その姿は正に軍神にして、絶対無敵の超軍神と言えるだろう。

みほの背後に、蒼い目の白龍が見えたとしても、其れは決して幻覚ではないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

ふふ、思った以上に巧く行ったね?――敵の不仲を見せられた相手なら、対立している部隊が協力するなんて事はなく、何方がより戦果を上げるかで競ってバラバラに動くと思うだろうけど、その裏をかかせて貰ったよ。

貴女はあれで私達を騙せたと思ってるのかもしれないけど、私やエリカさん……一流の戦車乗りにからしたら、『此れで騙せると思ってんの?』、『アンタ舐めてる?』、『調子こいてんじゃねぇぞオラァ!!』ってな感じだからね。

 

「取り敢えずエリカさん……やっちゃってください。」

 

「了解……覚悟しなさいBC自由学園!!――アンタ等の事、纏めてステーキにしてやるわ!!!」

 

 

 

ふふ、絶好調だねエリカさん――まぁ、エリカさんが絶好調なら、皆のテンションも上がるから此れはとっても良い事だと思うけれど、敢えて言わせて貰います!!!エリカさん、素敵です!!!

 

 

 

「其れは嬉しいけど、時と場合を弁えなさいっての……戦車から飛び出して行き成り抱き付いて来るって流石に驚くからね?」

 

「ダメなの?……私はこんなにもエリカさんが好きなのに、ダメなの?」

 

「……ダメじゃないから、そんな捨てられた子犬のような目で私を見ないで……無視したら、罪悪感に未来永劫苛まれそうだから……じゃなくて!

 貴女ね、今はまだ試合中なのよ!!其れ位考えなさいよ!!

 って言うか、戦車から飛び出してくるって今更だけどどんな運動神経してんのよ貴女!!」

 

「こんなだけど?」

 

「そう言われたら、何も言えないでしょうに!ほら、さっさと自分の戦車に戻る!!」

 

「エリカさん……羨ましいです。」

 

「小梅ーーー!貴女も貴女で何言ってるのよマッタク!!兎に角、こう言うのは試合が終わってからにしなさいっての!!」

 

 

 

そうだね、そうする事にするよ。

だけど心配いらないよ――勝利の為の策は既になってるからね……私の戦車道の裏の裏のそのまた裏を味わって貰うとしようじゃない――此処からが本番だよBC自由学園の隊長のマリーさん?

 

私は此の試合で、私の中に眠る『西住流』を解放するからね。

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「此れは……この闘気は!!」

 

「凄いな此れは……西住流を超えた西住流……スーパー西住流か。」

 

 

 

スーパー西住流……そのネーミング貰いです麻子さん!

恐らくBC自由学園が得てる大洗のデータは、奇策裏技上等の戦い方しか記載されてないから、だからこそ正攻法で真正面から来られると対処する事が出来ないんだよ。

 

だから、たっぷりと味わって貰おうかなBC自由学園?……私の西住流をね!!

 

「全軍突撃!!一輌残らず粉砕せよ!!」

 

「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」

 

 

 

気合は既にギガマックス……となれば、勝敗を分けるのは指揮官の差だから、此処で負ける事だけは絶対に出来ない――寧ろ圧倒して倒してしあげるから、覚悟しておいてほしいかな。

 

私の戦車道はまだまだこんな物じゃないから……西住流と、私の戦車道を融合させた、誰も見た事のない戦車道を、お腹一杯が膨れるまで味わって貰うからね?

 

 

何にしても、此処からが本当の試合開始だから……全力で行く!!――そして、BC自由学園は後悔して学ぶと良いよ……所詮自分達の思い通りになる事なんてなかったと言う事ををね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer183『真っ向勝負が西住流です!!』

西住流の本質は真っ向勝負!Byみほ        でも、真っ向勝負と力押しは違うわByエリカ      真の真っ向勝負、見せてあげます!By小梅


Side:エミ

 

 

挟撃を仕掛けて来たBC自由学園に対して、大洗は偵察を出して、その上で本隊は進軍した訳だけど、最短ルートである橋を渡る所で、別動隊がBC自由の隊長を強襲して虚を突いたけど、BC自由の副隊長ズが駆けつけた事で瞬殺は免れたか。

でも、そのお陰でみほ率いる大洗の本隊は安全に橋を渡る事が出来た訳だ――BC自由の挟撃は見せ技で、その真の狙いは橋を渡ってる大洗を狙い撃ちにする事だったみたいだからね。

 

だけど、その程度の戦術がみほに通じるかってのよ――七年前のあの日……まほさんと戦った時だって、あの時木が倒れて来なかったらみほが勝ってた筈だし、何よりも今年の全国大会でみほはまほさんに勝ってる訳だしね。

歴代の西住流の中でも最強と称されるまほさんを倒したみほには、下手な小細工は通じないどころかむしろ悪手だわ。

 

でも、其れは其れとして、全面対決となった状況ではあるけど話に聞いてた大洗の戦い方とは違うわね?……大洗と言うかみほは、奇策搦め手上等な戦い方を得意としてるって事だったけど、今の所は全くそんな物は感じないわ。

それどころか、大洗はBC自由学園に対して真っ向勝負を行ってる?……其れも、一切の搦め手を使わないで――此れは、この戦い方はあらゆる策をも呑み込んで蹂躙する、力の西住流!?

 

いえ、みほだって西住の人間なんだから西住流を修めていても何らオカシクは無いけど、まさか真っ向からの戦車戦を行うとは思わなかったわ。

此れは、裏技や搦め手を警戒していたBC自由には刺さるでしょうね……裏技や搦め手への対策はしてたとしても、小細工なしの真っ向勝負への対策は出来てなかったでしょうから。

 

マッタク、本当に貴女は予想外の事をやってくれるわみほ……でも、だからこそ貴女と戦う事がワクワクして来るのよ――頑張れみほ!!

 

 

 

「オラァ!最高だぜ!!

 BC自由学園、セコイ策を考えて来たみたいだが、そんなもんが大洗に通用すると思ってんじゃねぇぞ!ガッデメファッキン!大洗だけ見てりゃ良いんだ!!」

 

「やっちまえみほちゃん!!大洗舐めんじゃねぇぞコラァ!!」

 

 

 

……其れは其れとして、この人達を何とかしてよ……大洗の応援は良いんだけど、色々と濃いと言うか、激し過ぎてちょっと怖いから……大洗の試合を見に来る人達も、ある意味で大変よねマジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer183

『真っ向勝負が西住流です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

フィールドは遮蔽物の一切ない草原だから、戦場がどうなってるかを把握するのは簡単だね――取り敢えずは、副隊長ズが隊長車が撃破されないように守りながら戦ってる感じだね。

でも、守りを固めた所で、私達の攻撃の手は緩まないよ――圧倒的な戦力で相手を真正面から叩き潰すのが西住流の真骨頂だし、私達を甘く見たBC自由学園にはいい薬になるかもだしね。

 

 

 

「でも、隊長は兎も角として副隊長達はソコソコ出来るんじゃないかしら?こっちの奇襲に気付いて隊長を守るために戻って来た訳だし、所謂受験組とエスカレーター組も役割分担は出来てるみたいだしね。

 堅牢なソミュアが防御を、圧倒的な火力を持つARL-44が攻撃を……オーソドックスな役割分担だけど、其れだけに信頼性が高い戦い方よね。」

 

「そうだねエリカさん……オーソドックスで正攻法だけど、だからこそ西住流はその真価を発揮するのを忘れちゃダメだよ。

 西住流の本質は、どんな相手であっても正攻法で叩きのめす事にあるからね――正攻法を正攻法で凌駕する……やられた方からしたら圧倒的な実力差を見せつけられる訳だから、悔しい事この上ないと思うな。」

 

「正攻法を前に敢えて正攻法で対応するとは……裏技搦め手で来ると思っていた相手には予想外の事でしょうね?……相手の隊長さん、予想外過ぎて思考回路ショートしたりしてませんかねぇ?」

 

 

 

幾らなんでも其れは無いと思うよ小梅さん?

確かに戦術レベルは甘かったかもしれないけど、仮にも隊長を務めてる訳だから、予想外の事が起こった程度で回線パンクしてたら使い物にならない事この上ないし……本気で使い物にならなくて、副隊長二人が頑張ってる可能性も捨てきれないけどね。

 

まぁ、何にしても奇襲がなった事で勢いは私達にあるから、このまま一気に押し切るよ!

一輌一殺を目標に、BC自由学園を殲滅せよ!仲違いしている様を見せる事で、私達が油断して付け入る隙が出来ると、大洗の実力を見誤ったBC自由学園の隊長に、目に物見せてあげようか!!

 

 

 

「「「「「「「「「Jawohl!」」」」」」」」

 

 

 

うん、良い返事!

取り敢えずエリカさんと梓ちゃんは向こうの副隊長達を何とかしてくれるかな?あの二輌が隊長車に張り付いてると、隊長車――フラッグ車を撃破するのは簡単じゃないからね。

 

 

 

「任せなさいみほ!アイツ等をフラッグ車から引き剥がす位、造作もない事よ!」

 

「何とかしろって言う事は、別に倒しちゃってもいいんですよね西住隊長?……私の新たな相棒になった此の子が、敵戦車を撃破したいみたいでうずうずしてるんですよ。」

 

「梓ちゃん……戦車の気持ちが分かるようになれば一流の戦車乗りとして合格だよ。」

 

「ちょっと待って、戦車の気持ちとか分かるモノなのみぽりん!?」

 

 

 

普通は分からないよ沙織さん。

だけどね、車長を務める戦車乗りの中には時として自分が乗ってる戦車の気持ちみたいなものを感じ取る事の出来る人が居るんだよ――私だってこの子の気持ちが何となく分かるしね。

大学選抜戦の時に、嘗ての青パンターチームが揃った時は嬉しそうだったし。

 

 

 

「そう言えばあの時は何時もより調子が良かったような……其れって何、実は戦車って精霊がついてたりするの?其れって何処の遊戯王!?」

 

「カードの精霊ならぬ戦車の精霊か~~……案外良いかもね。」

 

まぁ、精霊は兎も角として、機械でもまるで意思を持ってるんじゃないかって思う事ってあるから、付喪神じゃないけど物に魂が宿る事って、あながち嘘でもないのかも知れないよ。

 

さて、お喋りはここまでだね。

BC自由学園の副隊長ズはエリカさんと梓ちゃんに任せるとして、小梅さんは私と一緒に来てくれるかな?――最後に更なる予想外を相手に味わって貰いたいからさ。

 

 

 

「みほさん……了解しました。御一緒させて頂きます。」

 

「うん、其れじゃあ行こう。」

 

この局面に持って行くために貴女達の策に乗ってあげたんだから、今度は――ううん、此処からはずっと大洗のターンだよBC自由学園!試合が終わるまで、私達の猛攻は止まらないよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

予想外の奇襲からの電撃的戦車戦になった事で、BC自由学園の隊長であるマリーは完全に混乱してしまっていた――まぁ、無理もないだろう。

自分の策が全部見破られていた上に、更には最も警戒していた奇策や搦め手を一切使わずに真っ向勝負を大洗が仕掛けて来たとなれば、戸惑うのも仕方ない――全国大会でも大学選抜戦でも、大洗は『正攻法って何?食えるの美味しいの?』と言わんばかりの戦術を展開していたのだから。

目潰しや落とし穴は当たり前、進路妨害で橋を落とすのは得意技、戦車じゃないモノを攻撃して上から何かを降らせるなんてのは得意中の得意な大洗が、そんなモノを一切使ってこないとなると、奇策や裏技を想定して立てていた作戦やら何やらはマッタク持って無駄になるのだ……詰る所、大洗が正攻法で攻めて来た時点で、BC自由学園の勝利の可能性は露ほどもなくなったのだ。

 

 

「く……押田君、もっとアグレッシブに攻撃するんだ!そうでなくては大洗には通じないぞ!!」

 

「分かっているよ安藤君……君の方こそマリー様をお守りしろ!こちらは相手を攻撃するので精一杯だからな。」

 

 

其れでも、未だにフラッグ車が撃破されていないのは、安藤レナと押田ルカの二大副隊長がマリーの乗るフラッグ車をキッチリと役割分担をして護衛していたからだ。

受験組トップの安藤と、エスカレーター組トップの押田の実力はBC自由学園では五本指に入る程なのだ――そんな二人が護衛を務めているので有れば、フラッグ車の撃破は容易な事ではないだろう。

 

 

 

 

あくまでも普通ならば。

 

 

 

「其れで澤、貴女はどっちをやる?」

 

「ARL-44を叩きます――スペックを見るなら逸見先輩のティーガーⅡの方が重戦車対決になるから良いんでしょうけれど、中戦車が重戦車を倒すって言うのも燃えますよね?

 なので、ARL-44は任せてください!」

 

「そう言えば全国大会の決勝でも重戦車撃破しまくってたわね貴女達は……しかも、パンターよりも性能の劣るⅢ号で――そしてついた二つ名が『重戦車キラー』ですものね。

 そんな貴女達が最高性能の中戦車であるパンターに乗ったのなら、ARL-44でも相手にはならないか……OK、そっちは任せたわ副隊長!!」

 

「ソミュアはお願いします逸見先輩!」

 

生憎と大洗は普通じゃない。普通である筈がない。素人集団が全国制覇して、学園艦の底の底が無法地帯と化している大洗が普通だと思っているのか?

兎に角大洗に『普通』なんてモノは一切合切通用しないのだ。

厄介な副隊長である押田と安藤には、大洗の副隊長である梓と、狂犬エリカのタッグで迫る!

 

 

「オイコラ其処のガングロ三白眼!隊長車の護衛ご苦労様ねぇ?

 だけど、ソミュアの防御力程度でこのティーガーⅡの凶悪な超長砲身88mmに耐えられるかしら?……アンタ如きの防御力なんぞ、此の虎の王の前ではハナクソ同然よ!!」

 

「んな!?」

 

 

で、先ずは先制攻撃としてエリカが安藤に向かって罵倒一発!

此方に突撃して来たかと思ったら、行き成り面と向かってこんな事を言われた安藤が驚き絶句してしまったのも仕方ないと言えるだろう――が、エリカのターンは此処からだ。

 

 

「って言うか、アンタも大変よねガングロ三白眼?

 あんな見え見えの姑息な作戦しか思いつかないような三流が隊長じゃ、副隊長の苦労が目に浮かぶようだわ……まぁ、隊長が三流の場合、副隊長は優秀であるか、其れとも三流以下の雑魚のどっちかなんだけどね?

 アンタの場合は、こっちの奇襲に気付いて咄嗟に隊長を守った訳だから前者なんでしょうけど、全軍を向かわせたのは悪手だったわね?何輌か残して、橋を渡る大洗の本隊を攻撃していたら、此方に損害を出す事も出来たかもだったのに。

 そんな事にも気が回ならない程、焦ってたって事は……ゴメン、アンタ達の隊長マジでヤバくない?リコールしなさいよその隊長マジで!

 そんなのが隊長のままとか、アンタ達馬鹿なの!?ってうか馬鹿よね!?馬鹿で間違いないわ、此の大馬鹿者が!馬鹿で御免なさいって謝りなさい!今すぐ此処で、ハイ土下座!!」

 

 

いやはや何と言うか、今日も今日とて絶好調である。

ダージリンなんかにかました分かり易い挑発とはまた違うが、適当にBC自由学園の作戦をダメ出しながら、隊長の事を盛大にディスるセリフの数々にはいっそ感心する程だ。

 

 

「他校の生徒である君にそんな事を言われる筋合いはない!

 其れとマリー様は、戦車長としての能力は高いのだぞ!!」

 

「アホか!戦車長の能力が高いだけで隊長が務まるかっての!良い?隊長ってのはね、自分の能力に蓋をしてでもチーム全体とフィールド全体を見る能力がないと務まらないのよ!

 自分の能力に蓋をしないで隊長が務まってるのは、其れこそ大学選抜戦で助っ人に駆けつけてくれた連中位……って、アレェ?結構多いわ!

 って事は此れはアレね、アンタの所の隊長の方が希少種だったって訳ね……ごめんごめん、希少種は逆に大事にしないとね。」

 

 

無論安藤は反論するも、其れを軽快にエリカは切り返し、更に今度はめっちゃムカつく反応までする始末……ホシノが『大洗一速い女』ならば、エリカは『大洗一口の悪い女(敵限定)』である。

相手の神経を逆撫でする事に関してエリカの右に出る者は大洗には……否、全国探したってそうそう居ないんじゃなかろうかマジで?

 

 

「この、我々を愚弄するのもいい加減にしろこの銀髪!口が悪いにも程があるぞ!」

 

「銀髪?……へぇ、アンタにはこの髪が銀に見えるの?カラーの割合的に、ホワイト50%、グレー45%、イエロー5%のこの髪が銀だってのね?

 漫画の白黒画面で描かれたらトーンが張られる事は先ず無い白抜きになるであろうこの髪が銀だと言うのね?言っちゃうのね?

 色を付けてみて銀じゃなかったらどうする?アッシュブロンドや、只の金髪だったら責任が取れる訳?取れないわよね?

 だったら私の髪は銀じゃない!あぁ、銀じゃないとも!はい、銀じゃなくなった!決定、けってーい!!」

 

「……ぎ、銀じゃないかも知れない。」

 

 

更に何やらよく意味の分からない事まで言っていたが、言いくるめられる安藤は如何なのだろうか?

尚、色々と意見は有るだろうが、逸見エリカの髪色は銀であると主張したい所である。って言うか、今まで散々銀髪って言って来たんだから、今更『実は銀髪じゃありません』とか言われても困るのだ。

 

さて、何やら舌戦が展開されてはいたが、其れは全てエリカの思い通りだ。

 

 

「其れよりも、今の自分が何処に居るか見て見なさい?」

 

「へ?あぁ、マリー様!?」

 

 

エリカの罵倒と言うか挑発と言うか、そう言ったモノに反応していた事で、安藤は知らない内に護衛対象であるフラッグ車から引き剥がされてしまっていた。

そして其れを見たエリカの顔が凶暴に歪む――其れはさながら得物を食い殺す狼の如しだ。

 

 

「虎は機を見て一気に得物を力で仕留めるけど、狼は獲物を策に嵌めて仕留める狡猾さを持っているのよ――今の大洗は虎の集団だけれど、其の中に一匹だけ紛れ込んでいた狼には、気付かなかったみたいね?

 坂口、アイン!」

 

「あい~~~~!!」

 

「吹き飛べ!!」

 

 

次の瞬間、ティーガーⅡはソミュアに対して突撃し、強烈な体当たりを喰らわすと同時に、ゼロ距離からの砲撃をブチかましてソミュアを一撃で白旗判定にしてしまった。

ある意味で裏の裏の更に裏――力の西住流の裏に潜んでいた、狡猾な狼によってBC自由学園の副隊長の一人は倒されてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

エリカによって安藤がフラッグ車から引き剥がされていた頃、もう一人の副隊長である押田もまた苦戦を強いられていた――自分に向かって来た大洗の副隊長、澤梓にだ。

攻撃力ならば押田のARL-44の方が圧倒的に勝るが、機動力に関してはパンターの方が遥かに上であり、押田はARL-44の攻撃力を存分に発揮する事が出来ないで居たのである。

正直な事を言うのならば、このパンターをARL-44一輌で相手にするのは可成りきついものがあるのだ――だって、撃っても当たらないのだから。

 

 

「く……此れが隻腕の軍神の副官の力か!!」

 

 

押田は一人歯噛みする……大洗の副隊長がみほの一番弟子であると言う話は人伝にではあるが聞いていたから勿論警戒していた。だが、実際に戦ってみると、人伝に聞いたのとは全く違う相手だった。

ただみほの一番弟子だと言うだけではなく、梓自身がみほから習った事を自らの中で昇華させて自分のモノにしている――そうとしか思えない程に梓の戦い方は見事だったのだ。

パンターの有効射程は維持しつつ、此方の攻撃を回避出来る距離も保ち、そして絶妙なタイミングの砲撃でプレッシャーを掛けて来るのだから。

 

 

「そろそろかな……クロエ、お願い!」

 

「任されたヨ!」

 

 

そんな攻防を繰り返した後に、梓は頃合いを見てパンターを急発進させARL-44に突撃する。そう、其れこそ一切のフェイントとか入れずに一直線にだ。

 

 

「馬鹿な、特攻だと!?……だが、其れならばお望み通り玉砕させてあげよう!」

 

 

その一手に押田は驚くが、此れは逆に好機と、梓のパンターを撃破すべく、砲手にギリギリまで引き付けてから撃つように命じ、そして遂にその距離にパンターが入ったのだが……

 

 

 

――ギュルリ……

 

 

 

「んな!?此処で、戦車ドリフトだと!?」

 

 

撃とうと思った直前でパンターが戦車ドリフトで照準から外れたのだ――普通に考えれば戦車ドリフトは一試合一回の限定技だが、其れはあくまでも地面が土や砂利、コンクリートと言った硬い場合の話だ。

地面が柔らかい草で覆われている草原ならば、土やコンクリートよりも履帯と転輪にかかる負担は大きく軽減されるので、戦車ドリフトは一回限りの限定技ではなくなるのである。

 

此れによってARL-44は目標であるパンターを見失ったのだが、照準の先にはパンターとは別の戦車が居た……其れは、大洗が世界に誇る世紀の最強欠陥兵器ポルシェティーガー!

だが、その欠陥兵器は大洗の自動車部によって究極的に魔改造され、弱点の殆どを改善されてティーガーⅠと同等のスペックを存分に発揮出来る戦車になっているのだ。

 

 

「副隊長お見事!ブチかませホシノォ!!」

 

「此れでも喰らえ!!!」

 

 

そしてパンターの戦車ドリフトは只の回避に非ず!あの戦車ドリフトは、ポルシェティーガーへのスイッチの合図でもあったのだ――梓は自分達のすぐ後ろで戦っていたポルシェティーガーに気付き、車長のナカジマに対して、押田に気付かれないようにバックハンドでスイッチのサインを送っていたのだ……マジで凄い事この上ない。

 

そしてナカジマもその作戦に乗り、結果作戦は大成功し、ポルシェティーガーの放った砲撃は、ARL-44の主砲に突き刺さって爆破炎上し、其のままARL-44を白旗判定に!

此れでBC自由学園は副隊長二人を失った訳だが、其れだけでは終わらず、戦車ドリフトを行ったパンターは、ドリフト先で安藤の代わりにフラッグ車のカバーに入ったソミュアを撃破!

 

其処からはもう一方的だった。

フラッグ車のカバーに入った戦車は悉くパンターとポルシェティーガーに撃破され、何とか大洗の戦車を撃破しようと挑んだ戦車は返り討ちにされ、BC自由学園の残存戦車は遂にフラッグ車のみ――一切の奇策や搦め手を使わない真っ向勝負で大洗はBC自由学園を追い詰めたのである。

……フラッグ戦だからフラッグ車を倒せば勝ちとは言え、一輌で十輌を相手にしろとか幾ら何でも無理ゲーが過ぎる。

ドレだけ無理ゲーかと言われれば、手札0枚で原作効果の三幻神三体を倒せと言う位に無理ゲーである。

 

 

「自分の策が完全に読まれていた気分は如何かなマリーさん?」

 

「最悪極まりませんわね……全ては貴女の掌で踊らされていただけだったとは……自分が滑稽で成りませんわ――ですが、此れはフラッグ戦。

 今目の前に要る貴女を倒せば、残存車輌に関係なく私達の勝ち――覚悟なさいませ、西住みほ!!」

 

 

其れでも、目の前に現れたみほに対して果敢にマリーは戦いを挑む――そうだ、フラッグ戦であるのならば、フラッグ車を撃破した方が勝ちなのだから無理ゲーであってもその一撃に全てを込めるのは間違いではないだろう。

何よりも今日の大洗は搦め手や奇策を一切使わずに真っ向勝負を挑んで来た……ならば、最後に残ったフラッグ車が仕掛ければフラッグ車で対応して来る筈と思っての一手だった。

 

 

だが――

 

 

「小梅さん……やっちゃってください。」

 

「お任せ下さいみほさん!!」

 

 

その直後、パンターの後から小梅が車長を務めるⅣ号D型(H型仕様)が飛び出し、其のままマリーが乗るフラッグ車の真上に!!マリーにバレないようにパンターの後方に立てかけられた鉄板をスロープ代わりにして駆け上がり、其のまま一気に飛び出したのである!

 

そして、飛び出した戦車が意味するのは、西住みほ流戦車道の奥義『戦車プレス』!!!

如何に堅牢な戦車であっても、ヒットすれば略間違いなく白旗判定にしてしまう一撃必殺の一撃が炸裂し、BC自由学園のフラッグ車は哀れ見るも無残な状態に……マリーは咄嗟にキューポラ内に飛び込んだので無事だったが、見事なまでに顔面煤だらけになってしまっていた。

 

 

 

『BC自由学園、フラッグ車行動不能!大洗女子学園の、勝利です!!!』

 

 

 

ともあれ、勝ったのは大洗女子学園。

相手の策を読み切った上で其れを利用して奇襲を仕掛け、奇策を警戒していた相手の裏を掻いて真っ向勝負を仕掛け、最後の最後で其れ迄の真っ向勝負を利用した裏技で決着!

正に正統的な力の西住流と、みほによって新たに作られた技の西住流を合わせた複合戦術による完全勝利であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

よ~~~し!一回戦突破!!しかも、パーフェクト勝利だよ!!――試合を決めた最後の戦車プレスは、高さ、角度共に申し分なかったよ小梅さん!!ホントに理想的な戦車プレスだった!!

 

 

 

「そ、そうですか?そう言われると照れちゃいますよ。」

 

「照れなくて良いよ!本当の事だから!!」

 

「わひゃぁ!?な、何をしてるんですかみほさん!?」

 

 

 

なにって……小梅さんの頭をモフモフしてるんだよ?優花里さんほどじゃないけど、小梅さんも天パだからねぇ……小梅さん、貴女の髪、モフモフしているな。

この何とも言えないモフモフ具合が、もうクセになりそうだよ。

 

 

 

「いえ、あのそうではなくてですね、私の髪をモフるのは構わないんですけれど、そんな風に抱きしめられると、何と言いますかみほさんの胸が顔に当たってですね?///」

 

「へ?如何かした?」

 

「いえ、な、何でもありません!!」

 

 

「うわぉ、みぽりん大胆……!」

 

「小梅殿、何て羨ましい!!その役目、是非不肖秋山優花里に譲っていただきたいものです!西住殿にモフられるだなんて、何と言う!!!」

 

「優花里、アンタ血の涙流してるけど大丈夫なの?」

 

「血の涙の一リットルや二リットル、平気であります!!」

 

「いや、其れ普通に死ぬから。」

 

 

 

沙織さん達が何か言ってるけど、小梅さんが何でもないって言うのなら、このままモフっていても良いんだよね?……此のままモフるのも良いかもだけど、アンドリューに寄りかかって、ロンメルを膝の上に乗せた上で小梅さんをモフったら、モフモフ×3で更に凄い事になるかも!!

よし、そうと決まれば直ぐに帰って実行だね!!

 

 

 

「……少し宜しいかしら西住みほさん?」

 

「何でしょうか、マリーさん?」

 

此のまま撤収しようと思ってた所で、話しかけて来たのはBC自由学園の隊長のマリーさん……一体何の用なのかな?

 

 

 

「貴女は何故私達の仲違いが演技であると言う事が分かったの?エスカレーター組も受験組も迫真の演技だった――少なくとも偵察に来た方々は騙せていた筈なのに何故?」

 

「そうですね……言うなればやり過ぎたと言う所でしょうか?」

 

「やり過ぎた?」

 

 

 

そうです、やり過ぎたんです。

抽選会場でのやり取りから、優花里さんとエルヴィンさんが潜入時に撮った映像、そして今日の試合の序盤の動き……全てがあからさま過ぎたんですよ。

言うなれば、受験組とエスカレーター組の対立を演出し過ぎました――双方の対立を効果的に演出するなら、これ見よがしにいがみ合うだけではなく、無言での牽制みたいな、静かな対立も入れないと嘘くさくなるんですよ。

 

 

 

「成程……演出過多だったと言う訳ですわね……其処まで見通されていたのならば、私達の負けは当然の結果と言う訳ね――ならば、素直に受け入れましょう敗北を。

 そして、頑張ってね西住みほさん並びに大洗女子学園の皆さん――勝者を称えるのは敗者に残された数少ない権利ですので、其れを存分に使わせて貰いますわ。」

 

「マリーさん……」

 

隊長としては今一だったけど、スポーツマンとしては中々だねマリーさんは。

ともあれ、一回戦は完全勝利!!――そして、次の試合に勝ったのはポンプル高校……つまり、大洗の二回戦の相手って言う訳だね。

 

で、あっという間に一回戦の全ての試合は終了し、二回戦にコマを進めたのはシードのベルウォール、青師団、知波単、継続、コアラの森、ヴァイキング、大洗、ポンプル、マジノ、聖グロ、アンツィオ、黒森峰、プラウダ、ヨーグルト、ワッフル、サンダースか……なんて言うか、残るべくして残ったって感じかな此れは?

シードであるべルウォール以外の新参校が全滅しちゃったのは残念だけど、どの試合も紙一重だったから、今回の事で諦めずに、来年の全国大会にも是非出てきてほしいモノだよ。

 

色んな学校が参加してくれることが、戦車道の発展にも繋がって行くと思うからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer184『無限軌道杯の二回戦っぽいです』

二回戦(笑)Byみほ        二回戦(笑)ってByエリカ      二回戦(笑)ですからねぇ?By小梅


Side:みほ

 

 

無限軌道杯の一回戦は、大洗は一輌の損害も出す事なく、逆にBC自由学園の戦車は全滅させて、文字通りのパーフェクト勝利の完全完璧勝利ってやつだね!!

無限軌道杯制覇に向けて、幸先のいいスタートを切る事が出来たから、この勢いに乗って一気に優勝を掻っ攫っちゃおうかって思ってるんだけど如何かなぁ?意見が有れば遠慮なく言ってくれていいよ?

 

 

 

「勢いに乗るのは悪くない。寧ろ、我等大洗は勢いに乗ってこそだ――ノリと勢いがガッチリと噛み合った時の大洗は、ノリと勢いが売りのアンツィオですら凌駕するから、此のままイケイケで行くのが良いと思うぞ隊長!!」

 

「エルヴィン先輩、其れは確かに良いかも知れませんし、大洗流と言えるかもしれませんが、私達のブロックは、知波単と継続以外の学校は実力が未知数ですから、先ずは事前に調べるのが良いと思います。

 相手の戦力や戦術が分かれば、作戦も立てやすいですし。」

 

「おぉ、流石は副隊長、言う事に説得力があるな?……隊長が頼りにする副官……宛ら、真田幸村に仕えた十勇士の猿飛佐助だな。」

 

「いやいや、坂本龍馬が勝海舟の護衛に付けた岡田以蔵ぜよ。」

 

「名もなき王に最も忠誠を誓っていたと言われる神官マハードだろう?」

 

「「「それだ!!」」」

 

 

 

カバチームのノリは何時も通りで、見てて安心できるねうん。

まぁ、エルヴィンさんの意見も、梓ちゃんの意見も尤もだから、また偵察をお願いするかもしれないけど、その時は宜しく頼むよ優花里さん?

 

 

 

「はうぁ!?……お、お任せください西住殿!!西住殿の命とあらば、この秋山優花里、例え極寒の北極海を渡ってでも相手校に潜入して必要な情報を持って帰ってくるであります!!」

 

「あはは……その気合いはとっても良い事だと思うよ。」

 

「お褒めに預かり光栄であります!……と、タン塩良い感じに焼けてるでありますよっと。どうぞ西住殿。」

 

「ありがとう優花里さん♪」

 

で、大洗の戦車隊のメンバーは、只今試合会場の近くに有った食べ放題の焼肉屋さんで祝勝会の真最中!一人頭二千円で、此れだけのお肉が食べられるなら文句はないね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer184

『無限軌道杯の二回戦っぽいです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時にエリカさん、其のサーロインはさっき網に乗せたばっかりじゃなかったけか?まだ焼けてないと思うんだけど?

 

 

 

「甘いわねみほ、此処のサーロインは国産じゃないオージービーフだけど、質は可成り良いモノを使ってるわ……そして、質の良い肉はレアステーキが美味しんだけど、此れ位の質なら、表面を炙ったくらいの『超レア』が一番美味しいのよ。」

 

「超レアって……エリリン、其れ表面以外は真っ赤なんだけど……殆ど生肉じゃん!!」

 

「沙織さん、ナイス突っ込みだね。」

 

如何に質が良くて、炙った程度で食べられるとは言え、せめて表面は全部に焼き色付けようよエリカさん?流石に赤い所が見えるお肉って言うのはちょっと見てて危険な気がするから。

牛刺しとかユッケはまた別物として、焼き肉やステーキはね?良い感じのレアとミディアムレアの赤さも別だけどね。

 

 

 

「みほや沙織の言う事も分かるけど、超レアって本気で美味しいのよ?

 赤い所にちゃんと焼き色付けてみたから、騙されたと思って食べて見なさいよ?……そもそもにして、黒森峰にはタルタルステーキがあったんだから、超レアステーキなんて大した事ないでしょうに。」

 

「言われてみればそうだったねぇ?……其れじゃ、一切れ頂くよエリカさん。」

 

「はい、どうぞ。」

 

「あ~~ん♪……うん、此れは中々美味しいね?

 表面は香ばしいんだけど、中はレアステーキ以上にジューシー……此れは何だろう、ステーキって言うよりもローストビーフ?否、牛のタタキ?

 アレだね、タレや塩コショウよりもわさび醤油がよく合う感じ。」

 

「わさび醤油も良いけど、塩ワサビやニンニク醤油、変わった所では辛子醤油もオツなモンよ。」

 

 

 

ちょっとドキドキの超レアステーキだったけど、一度食べてみると此れはハマるかも知れない味だね?……と言うか、此れを細かく切ったのが炙りユッケなんじゃないかな?

昨今、通常のユッケは提供出来ないから、表面を炙る事で『生肉じゃないです』って言ってる店が多いらしいからね。

 

 

 

「みほさん、塩のトロハラミが良い感じに焼けてますよ?はい、どうぞ♪」

 

「ありがとう小梅さん。……って、何でお肉を挟んだ箸を私に向けてるのかな?」

 

「え?だって、さっきエリカさんに超レアステーキ食べさせて貰ってましたよね?だから、今度は私がみほさんに『あ~ん』してあげようかなって思ったんですけど、ダメでした?」

 

「あ~~……成程、そう言う事か。」

 

ものスッゴク自然な流れで気付かなかったけど、確かに私はさっきエリカさんに『あ~ん』されてたんだね……無自覚とは言え、皆の前で何をしてるんだって思うなぁ……普通ならね!

だけど私はそんな事は微塵にも思わないよ?だって、私はエリカさんと小梅さんの事が大好きだから、此れ位の事は恥ずかしい事でもなんでもないからね♪

 

そんな訳だから、いただきます小梅さん。あ~~ん。

 

 

 

「はい、どうぞ♪」

 

「ん~~、トロハラミは美味しいね~~♪カルビにも負けない脂乗りなのに、値段はカルビよりもリーズナブルって言うのもポイント高いよね!!」

 

「華~~、みぽりんとエリリンとうめリンが赤面シチュエーションをこうもばっさりやってくれてるんだけど、此れって如何なの!?ありなの!!?」

 

「あらあら、今度ナオミさんと一緒にお出掛けする機会が有ったらやってみましょうか?」

 

「そう言えば華も同類だった~~!!やだも~~~!!」

 

 

 

沙織さん、戦車道は乙女武術で、基本的に男子禁制な世界だから、ノーマルよりも圧倒的に百合カップルの方が多いんだよ――そして、実を言うと、沙織さんみたいな人ほど後天的に百合カップルになる確率が高いから。

其れに、沙織さんは実は分かってるんじゃないのかな?自分が実は男性じゃなくて、誰が一番好きなのかって言う事を……

 

 

 

「んな!?みみみ、みぽりん!!麻子は只の幼馴染で!!」

 

「私、麻子さんだなんて一言も言ってないけど?……そうなんだ、沙織さんは麻子さんが……成程、幼馴染って言うのはノーマルだけじゃなくて百合カップルでも定番だった訳だね。」

 

「……なんだ、私が如何かしたか西住さん?」

 

「うにゃ~~~~!?何でもない!何でもないよ麻子!!」

 

「私は西住さんに聞いたのに何で沙織が答えるんだ?それと顔赤いぞ、大丈夫か?焼き肉を食べ過ぎて熱が出たなど間抜けすぎて笑い話にもならないから気を付けろよ。」

 

「焼き肉って食べ過ぎると熱出るの!?」

 

「さぁな、知らん。」

 

 

 

ふふ、沙織さんと麻子さんの微妙な距離感だね……なんて言うか、ある意味で尊いよ♪

因みに、焼き肉其の物で熱が出る事は無いけど、卓上に用意されてるトウガラシや下ろしにんにくなんかを摂取し過ぎると、身体が過剰に反応して熱っぽくなる事が要注意。

特にタレには既にニンニクが入ってる場合が多いから、追加でニンニクを加えるのは止めた方が良いからね?――以上、隻腕の軍神の焼き肉講座でした!!

 

 

 

「良く分かったであります西住殿!……時に此れは、如何したモノでしょうか?」

 

「優花里さん、何それ?」

 

「国産の鳥モツを頼んだのですけど、ハツが一緒だったのは良いとして、此のレバーは全然カットされてないでありますよねぇ?……此れはアレでしょうか、このまま焼いてワイルドにかぶりつけと、そう言う事でしょうか!!」

 

『ガウ、ガルルゥ!』(そうだ、其のまま行け!かぶりつけ!!)

 

『きゅ~~♪』(レバーは半生が一番だよ♪)

 

 

 

アンドリューとロンメルも言ってるから、そのままがぶっとどうぞ優花里さん!

其れからレバーは焼き過ぎると食感が悪くなるから、半生位が良いよ?……特にここのホルモン系は塩だれじゃなくて、塩で提供できる程に鮮度が良いからね。

鮮度の良いホルモンこそレアが一番だよ。

 

 

 

「そうね、其れは正しいわ……だけど今更だけど、アンドリューとロンメルは良く入店出来たわねぇ?」

 

「アンドリューとロンメルの分もちゃんとお金払うって言ったら普通に入れてくれたよ?……まぁ、アレじゃないかな?この光景をSNSで拡散すれば店の売り上げアップに繋がるとか、そう考えたんだと思うよ?」

 

「『虎と狐も食べにくる焼き肉屋』って?……確かに話題にはなりそうだけど、そもそも虎と狐を連れてくる奴なんて貴女以外には居ないわよ。」

 

「居たら居たで驚きだけどね。」

 

さてと、まだ時間はあるから追加注文――ロンメルとアンドリュー用に、上ミノ、トロホルモン、シマチョウ、トロハラミをタレも塩も無しで十人前と、私用に、一本バラカルビと上トンカルビとコリコリを塩で、後牛筋の煮込み。

注文確定、ポチッとな。

 

 

 

「最近のお店って、タブレットで注文できるところもあって便利だよねぇ~~?……ところでみぽりん、コリコリってなに?」

 

「牛の大動脈。」

 

「……美味しいの?」

 

「コリコリしてるんだって。」

 

「まんまじゃん!」

 

 

 

ほんとだよね~?

ミノは加工前が藁で作った蓑に似てるからだし、ハチノスも見た目が蜂の巣に似てるからだし、センマイは紙を千枚重ねた様に見えるからって理由だから、結構見た目其のままだよねホルモン系って。

因みにカルビは韓国語で『骨の間の肉』の意味らしいよ。

 

 

 

「そうなんだ~~?意外と普通に使ってるけど知らない事って多いんだね?……この蘊蓄を披露したら、男の人も意外とコロッと来たりしちゃうのかな!?

 うぅ~~ん……モテる為には雑学も必要だね!!」

 

「沙織さんは麻子さんが……」

 

「だから違うってば!!」

 

 

 

違うのかなぁ?沙織さんと麻子さん、結構お似合いだと思うんだけど。……まぁ、沙織さんの場合は恋人って言うよりも麻子さんの『お母さん要素』が強い感じがしなくもないけど。

って言うか、沙織さんは同世代よりも後輩にモテてる気がするんだよねぇ……モテてるって言うよりも、沙織さんが面倒見が良いから懐かれて感じだけど――アレ、沙織さんは若しかして麻子さんだけじゃなくて、大洗女子学園のお母さん的存在だったりするかも。

 

 

 

「いや~~、相変わらず西住ちゃんの周りは賑やかだね~~?楽しんでっかい西住ちゃん?」

 

「かいちょ……杏さん、勿論楽しんでますよ。そして、一本バラカルビはとても美味しいです。」

 

「西住ちゃんや、其れはハサミでカットして食べる物であって、決して一本を丸かじりするもんじゃねーと思うんだけどその辺如何よ?」

 

「確かにカットするのが正しいのかも知れませんけど、だからと言って丸かじりはNGとも書いてないですよね?……其れに、此れを丸ごと行く事位は大した事ないですって……アレに比べれば。」

 

 

 

 

「リイン・E・八神、ワイルド骨付きカルビ、行きます!!」

 

「骨を鷲掴みして行ったーーー!!!」

 

 

 

 

 

「ワイルド骨付きカルビって、アレ普通に原始肉っしょ?何であんなモンが置いてあんだろうねこの店は……まさか、遺伝子操作で作られたバイオビーフとか使ってないよね?」

 

「其れは無いと思います。若干自信ないですけど。」

 

「其処は店を信じっかね。

 さてと……一回戦は余裕で勝てたけど、二回戦は如何だい西住ちゃん?相手は全国大会でプラウダとも戦ったポンプルだけど、勝てっかね?」

 

 

 

素人的な事を言うのなら、ポンプルに勝ったプラウダに大洗は勝ってるんだから負ける筈がないと言う所ですけど、試合と言うのはどんな時だって何時何処で何が起きるか分かりませんから、絶対に勝てるとは言えません。

其れに時期的にポンプルだって代変わりしてる筈ですから、全国大会でプラウダと戦った時と同じだと思ってたら、逆にこっちが足元を掬われる事になりかねませんから。

 

 

 

「油断禁物ってやつだよね?……だけど、口ではそう言いつつも西住ちゃんは、既にポンプル攻略の一手を考えていると私は思ってんだけど?」

 

「流石は元会長、鋭い洞察力です。」

 

相手を攻略するにはまず相手の事を知らないとなので、優花里さんにはポンプルに偵察に行って貰って情報を可能な限り持ってきてもらいます。

更に、全国大会や今大会の一回戦の試合のVTRを何度も見て、ポンプルの事を丸裸にした上でありとあらゆる事態を想定した作戦を構築して、目指せ完全勝利です!!

 

 

 

「一回戦に続いて二回戦も完全勝利ね~~?……良いじゃん、がっつり完全勝利してやろうぜ西住ちゃん!!」

 

「ふふふ、私が完全勝利を目指すと言った以上、其れは絶対ですよ杏さん。」

 

因みに二回戦までは使用車輌は十輌なので、今度はカメチームにスタメンから外れて貰いますのでその心算で。

 

 

 

「オーケー、オーケー!そんじゃアタシと小山とかーしまは、客席で応援に回らせて貰うよ――時に黒のカリスマが来たらどうしたモンかね?」

 

「その時は、一緒に応援して大いに会場を盛り上げちゃってください。

 何なら、黒いあんこうスーツを着てあんこう踊りをしてくれてもマッタク持って問題ありませんから。寧ろそれはそれで盛り上がると思いますし。」

 

「黒いあんこうスーツでのあんこう踊り……意外とイケるかもね?卒業前の強烈な思い出作りとしてやってみる価値はあっかもね?……小山、かーしま、そう言う訳だからその心算で!!」

 

「「あ、杏ちゃん!!?」」

 

 

 

あはは……小山先輩と桃ちゃん先輩は覚悟を決めた方が良いかもね?杏さんは、やるって言ったら絶対にやる人だから――尤も、だからこそお母さんを巻き込んで、文科省に突撃するなんて事が出来たんだと思うから、此れは杏さんの才能だよね。

取り敢えず黒いあんこうスーツ、楽しみにしてまっせ杏さん。

 

 

 

「おうよ、任せときな西住ちゃん。」

 

「客席で黒のカリスマに会ったその時は、隻腕の軍神が宜しく言ってましたと伝えておいてください。」

 

「おう、了解だっぜ♪」

 

 

 

 

「ねぇ小梅、みほと角谷先輩がガチで手を組んだら最強だと思うのって私だけなのかしら?」

 

「いえ、エリカさんだけじゃないと思います。私もちょっと思いましたから。――隻腕の軍神と、謀略の知将が本気で手を組んだら誰も勝てません。

 そう、例え相手が呂布だろうと、戸愚呂弟100%だろうと、悪魔将軍だろうと!」

 

 

 

……小梅さん、言わんとする事は分かるけど、呂布以外は人外って如何なの?其れから、悪魔将軍は流石に無理かなぁ……完璧超人始祖編では主役のキン肉マンに変わって、ラスボスである超人閻魔ことザ・マンを倒して、今の所最強の超人になった訳だからね。

流石の私と杏さんでも、将軍様には勝てないって。

 

 

 

「軍神が将軍に勝てない……解せないわ。」

 

「其処は深く考えない方が良いと思うよエリカさん。」

 

考えたら負けだと思わなくもないしね。

取り敢えず、一回戦突破の祝勝会は、大盛り上がりだった!――〆のメニューとして頼んだ、『スタミナカルビラーメン』は、ニンニクと唐辛子を使ったパンチのある味がとても美味しかったよ。

ロンメルとアンドリューも、〆の牛刺しには満足してたからね♪

 

 

 

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其れから一週間後の大会二回戦!

二回戦最初の試合は、エミちゃんがいるベルウォールと、青師団の試合だったんだけど、此れはベルウォールが序盤から徹底してフラッグ車のみを狙った一点集中攻撃で勝利を捥ぎ取ったね。

エミちゃんはベルウォールのマネージャーって事だったけど、試合を見た限りだと指示を出してたのはエミちゃんだったから、事実上の隊長はエミちゃんと見て良いだろうね。

隊員の練度だけを見るなら、大洗よりも低そうだけど、其処はエミちゃんの見事な采配と、隊員のノリと士気で見事にカバーされてる……粗削りだし、弱点も多数見つけたけど、型に嵌ったその時は恐ろしく強い感じだねベルウォールは。

タイプとしては、大洗に近いタイプかもね。

 

で、ハッキリ言って無名校のベルウォールの勝利で幕を開けた二回戦。

継続vs知波単は、何と知波単の勝利!知波単も継続も全国大会の時とそれ程メンバーが変わった訳じゃないんだけど、継続はミカさんが抜けたのが大きかったみたいだね?新隊長のアキさんも頑張ったけど、隊長としては一日の長がある西さんの方が上だったね――まぁ、東雲さんが、今日も元気に『おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!』って特攻したのが意外に刺さったのもあるけどね。

 

コアラの森とヴァイキングの試合は、互いに一歩も引かない泥仕合になったけど、最後はヴァイキングの隊長がユーカリの葉を投げてコアラの森の隊長の気を逸らすと言う頭脳プレー(?)で、一瞬の隙を作ってフラッグ車を撃破し、ヴァイキングの勝利。

……コアラの森の隊長が本物のコアラだったのに驚きだったけどね……そもそもにして、コアラって動物園とか一部の例外を除いて輸入しちゃダメだった筈だけど……そんな事言ったら私のアンドリューも同じようなモノだから、細かい事は気にしちゃダメだね。

 

そして次はいよいよ大洗とポンプルの試合。

 

 

 

「にっしずみちゃ~~ん!頑張れよ~~!!大洗ファイト~~!!」

 

「まさか本当にこんな物を用意するとは……えぇい、こうなればヤケだ!試合会場の恥はかき捨てだ!!思い切りやってやるわ!!」

 

「うふ、やる気満々だね王様?」

 

「誰がやる気満々か!闇滑る王たる我に、この様な衣装を着せるなど無礼千万極まりないわ!……今は黙して従ってやるが、事が済んだら闇の力で八つ裂きにしてやるから覚悟せい!って、いい加減やらせるなぁ!!」

 

「オラァ!今日は俺だけじゃねぇぞ!武藤さんも一緒だオラァ!!」

 

「何が起きるか分からない大洗の試合、頭の先から尻尾の先まで堪能させて貰います……Year!!」

 

「おっしゃ~~!バッチリ決めてくれよみほちゃん!優花里も根性入れて行けよ!!」

 

 

 

観客席は今日も今日とて大盛り上がり……黒のカリスマは絶好調だね。

 

 

 

 

で――

 

 

 

『ポンプル高校、フラッグ車行動不能。大洗女子学園の、勝利です!!』

 

 

 

「そ、そんな……まさか我々がこんな目に遭うなど、こんな事は何かの間違いだ~~~!!!」

 

「二回戦の宿命ですから諦めて下さい。」

 

「アンツィオ戦はやってただろう!!!」

 

「OVA化されてるから仕方ありません。」

 

「激しく納得いかないわーーーーー!!!」

 

 

 

納得いかなくても納得してくださいとしか言いようがないかな此れは……とりあえず二回戦も突破……次の相手はヴァイキングだね。

で、後半ブロックの二回戦、マジノと聖グロの試合は、これまた番狂わせでマジノの勝利!……ペコちゃんも頑張ったんだけど、隊長としての経験の差でエクレールさんには及ばなかったか。

奇しくも継続と知波単の試合と同様に、隊長の経験の差が明暗を分けたって所だね。

アンツィオと黒森峰は黒森峰が勝ったけど、アンツィオが予想以上に食い下がって、見ごたえのある試合だったね――まるでアンチョビさんが、理子さんに稽古をつけてるみたいだった。

『西住に鍛えられたと言うのなら、私を倒してこそその成果と言える!』って感じ……アンチョビさんは、最大のライバルで親友で恋人のお姉ちゃんが後釜に選んだ理子さんに、最後の脱皮をさせたのかもね。

プラウダとサンダースは特に危なげなく勝ち進んで、三回戦で米露対決――うん、其れだけで可成り盛り上がりそうだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エミ

 

 

ふぅ……徹底的にフラッグ車だけを狙った事で、勝つ事が出来たわね?……ったく、うちの馬鹿共はあぁ言う作戦だと面白い位に力を発揮するのよね――型に嵌れば強いとはよく言ったもんだわ。

だけど、次の相手である知波単には此れは恐らく通用しないでしょうね……一見すると突撃しかない脳筋馬鹿の集団に見える知波単だけれども、隊長の西は意外と広い視野を持ってるみたいで、指揮能力も高い。

そして、機が満ちた所で一気呵成に攻める事で一回戦と二回戦を突破した……私達が知波単に勝つには、西に此方の動きを読ませない事が絶対だわ。

実は可成り厄介な相手とぶつかったっぽいけど、必ず倒して準決勝にコマを進めてやろうじゃない!――何よりも、こんな所で躓いてたら、みほと戦う事は絶対に出来ないモノ!!

先に三回戦を突破して、準決勝の舞台で待たせて貰う事にするわよみほ。――だから、貴女も必ず勝ち上って来なさい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer185『無限軌道杯、運命の三回戦です!』

エミちゃん、ファイトー!Byみほ        みほの幼馴染なら、気張りなさい!Byエリカ      ベルウォール、侮れませんねBy小梅


Side:みほ

 

 

無限軌道杯もいよいよ三回戦――そして、会場は今日も大入り札止めの満員御礼だから、連盟としては嬉しい悲鳴だろうね。

勿論無限軌道杯が盛り上がってるのは、全国制覇を成し遂げた大洗が今大会でも快進撃を続けてるから……じゃなくて、今大会からエントリーしてきた新参校の中で三回戦まで駒を進めて来たエミちゃん率いるベルウォールの存在が大きいね。

 

 

 

「ま、其れは間違いないでしょうけど、其れも元を糺せば大洗の全国制覇が有ればこそでしょ?

 無名校だった大洗がジャイアントキリングを連発して全国大会を成し遂げたからこそ、新参校の躍進に注目が集まるってモノよ――若しかしたらまた凄いジャイアントキリングが起こるんじゃないかってね。」

 

「一回戦はシードだったとは言え、二回戦では全国大会常連の青師団を下した訳ですから、ベルウォールは一気に今大会の注目株であります。

 加えて、指揮官である中須賀エミ殿が西住殿の幼馴染だったと言うのも大きな要因でありますなぁ?……隻腕の軍神の幼馴染ともなれば、どうしたって注目されるでありますからね?」

 

「そう言うモノなのかな?」

 

「そう言うもんなのよ……だけど、此の三回戦はベルウォールの真価が問われる試合と言えるかもしれないわね?

 西が隊長になった知波単は、只の突撃馬鹿じゃなくなって、突撃を効果的に使用する超攻撃的戦車道を持ち味にした学校になってるから、簡単に勝つ事は出来ない相手だもの。」

 

 

 

確かに、其れは言えてるかもしれないね。

一回戦と二回戦の西さんの采配は見事だったからね……全国大会までの知波単だったら楽勝出来たかもしれないけど、今の知波単が相手じゃそうは行かないと思うからね。

 

 

 

「なら、アタシ達ベルウォールが新生知波単を真っ向勝負で打ち破ってやるわよみほ。」

 

「……エミちゃん、もう来てたんだ――って、当然だね。……三回戦、頑張ってね?」

 

「えぇ、言われるまでもないわよ――先に、準決勝で待ってるわよみほ。」

 

 

 

ふふ、了解だよエミちゃん。

私達大洗は必ず準決勝にコマを進めるから、エミちゃんも必ず勝ってよ?――エミちゃんと戦車道で戦うの、とっても楽しみだからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer185

『無限軌道杯、運命の三回戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エミ

 

 

いよいよ三回戦か……此の試合に勝てば、準決勝で大洗と、みほと戦う事が出来るんだから、気合を入れておかないとだわ……って言ってる傍からなにをしとんじゃアンタ等は~~!!

試合前に堂々とスマホのゲームで遊んでんじゃないわよ!!

そんなんで知波単を倒せると思ってんの!?――確かに戦車の性能では安定のドイツ戦車を有してるアタシ等の方が有利かも知れないけど、知波単の主力はアタシ等の戦車よりも足が速いから、油断してたらあっと言う間に陣形を崩されて突撃喰らって負けるわよ!!

ベスト8程度で満足できないでしょアンタ達は!!

 

 

 

「お~~、何時にも増してやる気満々だなぁマネージャー?気合充実ってか?

 まぁ、気合が入ってんのはいいけど、気を張り過ぎずに行こうぜぇ?――其れに、試合前の緊張感に欠けんのは今更だろウチの場合はよ。」

 

「其れに、スマホのゲームだって只のゲームじゃなくて戦車のゲームだから、ある意味で試合前のトレーニングとも言える訳だし。」

 

「過度な緊張は良くないけど、アンタ達の場合はリラックスし過ぎだってのよ!

 ガチガチに緊張しろとは言わないけど、弛緩と緊張のバランスを保ちなさいって言ってるのアタシは!アンタら全員緩み過ぎ!スパナで脳味噌のボルト締め直すわよ!?」

 

「おぉっと、そりゃおっかねぇ。

 でもまぁ確かにベスト8ぐらいじゃ満足できねぇから、更に上に行くためにもちっとばかし気合い入れとすっか……んでマネージャー、今回は如何戦うんだ?」

 

 

 

……雰囲気が変わったわね?漸く戦闘モードって所かしら。――その切り替えが出来るなら、最初っからそっちにスイッチ入れなさいっての。

三回戦第一試合のフィールドは、岩場と小高い丘が点在する草原、それから小さな林で構成されてるから、アタシ等にも知波単にも地の利みたいなモノはないと言えるわ。

だから今回は、戦車の性能差を生かして行こうと思ってるのよ――機動力では知波単に分があるけど、主力の攻撃力と防御力ではアタシ等に分があるからね。

 

 

 

「ちょい待ち~~。主力は兎も角、殆んど偵察用になってるⅡ号じゃ日本戦車倒せないと思うんだけど?」

 

「分かってるわよ。Ⅱ号にはⅡ号の役目をちゃんと考えてあるわ。」

 

「もう一個質問!地の利は互いに無いって言ってたけど、岩場とか林って知波単に地の利があるんじゃないの?

 一回戦と二回戦では、そう言った場所を利用したゲリラ戦も展開して、相手の陣形崩してた気がするんだけど、その辺如何よマネージャー?」

 

 

 

確かに知波単は、必殺の突撃の外に、林や物陰を利用したゲリラ戦も得意としてるみたいだから、そこだけを見るなら僅かばかり知波単に地の利があるように見えるわ。

だからアタシ達は其れを逆に利用する。

 

 

 

「あぁん?逆利用って、如何すんだよ?」

 

「知波単がゲリラ戦を仕掛けて来たら、戦車は一切無視してゲリラ戦のフィールドその物を破壊する。」

 

「「「「「「「「「「はい?」」」」」」」」」」

 

「エミちゃん、何を言ってるのかちょっと分からない。」

 

 

 

ちょっと揃いも揃って、瞳まで何を鳩が豆鉄砲喰らったような顔してんのよ?

西絹代が隊長になった知波単は只の突撃馬鹿じゃなくて、突撃を切り札とする為に必要ならゲリラ戦だろうと、落とし穴みたいなトラップだろうと迷わずに使うチームなのよ?

その裏技の中でも最も得意と見えるゲリラ戦を封じるのは、兵法上別におかしい事じゃないと思うんだけど?

 

 

 

「いや、そうかも知れねぇがフィールドその物を破壊ってのは流石によぉ……」

 

「大丈夫よ。

 ウチの主力である、ティーガーⅠ、ヤークトパンター、エレファント、T-44の火力なら林をゲリラ戦が出来なくなる位に破壊する事は出来るから。」

 

「だとしても、普通やるか其れを。」

 

「みほなら、大洗の隊長なら迷わずやるわよ。」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

「みほちゃんなら……そう言えばそうかも。」

 

 

 

無限軌道杯の出場に合わせて、出場校の中でも全国大会に出てた学校は、今年の大会の試合を全部DVDレンタルして見たのよ――特に、大洗の試合は何度もね。

何と言うか、大洗の戦い方はゲリラ戦が可愛く見える程の無茶苦茶ぶりよ?

発煙筒や閃光弾での目潰しに始まり、フィールド破壊からの落下物による撃破狙い、履帯切りに戦車ボディプレス、そして逸見エリカのマジでムカつく挑発の数々。

そんな大洗なら、相手がゲリラ戦を仕掛けて来たら、其れに馬鹿正直には付き合わずに、ゲリラ戦のフィールドその物を破壊する筈よ――そして、その一手はとても有効でしょ?

なら、其れを出来る火力があるならやらない手はないでしょう、違う?

 

 

 

「確かに其れは良いかも知れないわ……だけど、其れでは大洗のパクリではないの?」

 

「パクリじゃないわオマージュよ。

 其れに、そもそもアタシ等は主力四輌以外は、お世辞にも戦車戦では役に立つとは言えないⅡ号なんだから、使える物は何でも使うわよ?

 其れが例え大洗の二番煎じだと言われてもね――其れに、ゲリラ戦でのフィールド破壊は一回しか行わないつもりだから、徹底する大洗と同じじゃないわよ。」

 

「え、なんで一回だけなのエミちゃん?」

 

 

 

なんでって、流石に何度も出来る程砲弾に余裕がある訳じゃないからよ瞳――だけど、一度でもフィールド破壊が成功すれば其れで良いわ。

そうすれば、知波単に『ゲリラ戦は使えない』と思わせる事が出来るから、相手の手札を一枚潰す事が出来る訳よ。……勿論、其れで知波単を攻略出来るとは思わないけど。

 

だけどやるからには勝つだけでしょ?……って言うか絶対勝つわよ!勝ったら準決勝で大洗と戦えるんだから!!!

 

 

 

「おぉ……熱いじゃねぇのマネージャー?……けどよ、うち等が勝っても大洗が負けちまったら意味なくね?」

 

「は、何言ってるの大洗は次も勝つわよ間違いなく。

 って言うか、みほが負けるとかぶっちゃけ想像つかないのよね――もしもみほを倒せる戦車乗りが存在してるのだとしたら、其れはアタシよ。」

 

「なんだかよく分からねーけど、すげー自信だな?」

 

 

 

此れ位の自信を持ってなきゃ、今のみほの横に並び立つ事すら出来ないと思うだけよ。

でも、冗談抜きで今のみほを倒せる戦車乗りって存在するのかしら?……こんな事言ったらアレだけど、全国大会で高校戦車道界四強の内の三つ――サンダース、プラウダ、黒森峰を倒して全国制覇を達成した学校なんて未だかつてないわよね?

其れも殆ど素人みたいなチームで……ホントにみほのやった事は、四強が覇権を争ってる戦国戦車道に突如殴り込みをかけて、下克上で天下をとった事になるのよね――此れは宛ら、既存の戦の概念を叩き壊して天下布武を築いた織田信長の如しね。

 

兎に角、此処で負けたらみほと戦う事は出来ないから絶対に勝つわ――アンタ達の力、限界まで出して貰うから覚悟しなさいよ?

 

 

 

「ハッ、誰に物言ってんだマネージャー?限界まで引き出すだなぁ?……寝言言ってんじゃねぇ、限界以上を引き出して貰おうじゃねぇかオイ!」

 

「そうね、限界まででは楽しめないわ。」

 

「リミットオーバー、上等だヨ!!」

 

「「ガンと来なさいよメスゴリラ!!」」

 

 

 

此れは、言うまでもなかったわね……マッタク持って火が点いたコイツ等は頼りになるったらないわ――なら、無名の新参校が、西新隊長の下で生まれ変わった知波単を倒して、快進撃を続けようじゃない。

ベルウォール以外の新参校が全滅した中で、ベルウォールがベスト4にまで上り詰めたなんて言うのは、さぞかし痛快だと思うわ。

 

そして、客席で見ていなさいみほ――アタシ達ベルウォールが、先に準決勝に駒を進めるその様をね。

 

 

 

――ピン!

 

 

 

ん、メール?誰から……ってみほ?

 

 

 

『From:みほ

 

 現場の中須賀エミ一等陸佐、手加減なしでやっちゃってください。多少やり過ぎても、知波単の隊員は頑丈だから大丈夫だから。』

 

 

 

みほ……マッタク、試合前にやってくれるじゃない?……ちょっと冗談入ってるけど、みほが応援してくれてるのは分かるから、試合前の良い気付けになったわ。

ありがとうみほ、絶対に勝って来るわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

無限軌道杯の第三回戦の第一試合であるベルウォール学園と、知波単学園の試合が開始の時間となり、両校の生徒は整列し、そして両校の隊長と副隊長が前に出て挨拶――なのだが、知波単は隊長の西と、副隊長の玉田が出て来てるのに対して、ベルウォールはマネージャーであるところのエミと瞳が出て来ていた。

本来ならば隊長の山守が出るべき所なのだが、『キャプテンは俺だが、隊長は実質マネージャーだろ?』と言う謎理論で押し切られて、エミと瞳がこうして出ているのである――まぁ、其れはある意味で如何でも良い事かもしれないが。

 

 

「お初お目にかかります中須賀エミ殿。知波単学園戦車隊隊長の西絹代です!以後お見知りおきを!!」

 

「初めまして西絹代隊長。ベルウォール学園戦車隊隊長……マネージャー?……取り敢えず戦車隊を指揮してる中須賀エミよ。今日は宜しくね。」

 

 

先ずは試合前の軽い挨拶から。

持ち前の熱い性格を前面に出した絹代と、あくまでも冷静かつクールなエミと言う対照的な挨拶だったが、夫々にきちんと礼を尽くした挨拶だったと言えるだろう――戦車道もまた武術故、礼に始まり礼に終わるモノなのだ。

 

 

「聞いた話によると、中須賀殿は西住みほ殿の幼馴染であり、最高の友にしてライバルであったと聞き及んでおります!

 加えて、ドイツではトップレベルの選手であったにも拘らず、更に己を高める為に敢えて日本の無名校に留学し、その学校の戦車道の立て直しをして無限軌道杯に参加したとか。

 いやはや、その手腕には脱帽です!!」

 

「な~~んか、色々尾ヒレがついてるわね其れ……まぁ、大間違いでもないけど。

 だけど西隊長、其れを言うなら貴女もじゃない?アタシが知ってる限りだと、全国大会で黒森峰に負けた後、仲間を集めてクーデターを起こし、当時の隊長を更迭して、新たな隊長になったんでしょ?

 そして其処から知波単の改革に乗り出して、只の突撃馬鹿の集団から、突撃を効果的に使う超攻撃的戦車道チームに変えたって言うのは凄い事だと思うわよ?」

 

「いやはや、お恥ずかしい話ですが、其れも此れも全ては大洗と継続と組んでのエキシビジョンと、大学選抜戦を経験したからの事で……アレを経験していなかったら、こうはならなかったでしょうなぁ。」

 

「……みほと一緒に戦った経験があればこそ、か。

 でも、その経験を活かす事が出来たと言うのは貴女の力でしょう?

 ……半年も掛からずにチームを改革したその腕、見せて貰うわ西隊長――お互いに全力を出して、最高の試合にしましょう。」

 

「はい、勿論であります!!」

 

 

少し言葉を交わし、そしてその後に互いに全力を尽くす事の証としてガッチリと握手!

尚、エミと絹代が握手した瞬間に、観客席からは大歓声が上がっていた――黒目黒髪の純日本風な美少女である絹代と、ドイツ系の特徴である赤毛と、ドイツ人と日本人のいいとこ取りをしたようなハーフ美少女のエミの握手シーンはとても絵になるモノだったからである。

 

 

「あの子がみぽりんのお友達か?……良いねぇ、一流の戦車乗りのオーラをバリバリ感じるじゃねぇか!

 最高の戦車道見せてみろオラ!!」

 

「エミちゃんと絹代さんの試合は、きっと見応えがある物になるだろうから、よそ見厳禁ですよ蝶野さん♪

 よそ見してたら、その瞬間に試合終了!ってな事になりかねませんから……よそ見厳禁、瞬き厳禁、目ん玉かっぽじってみよ!ってやつです。」

 

「何が起きるか分からねぇ……武藤さんの試合と同じって事だな!

 上等だオラ!ベルウォール、知波単、テメェ等の全力を出して最高の試合をやってみろ!アイム、チョーノ!グァッデム!!!」

 

「今日も絶好調ですね♪」

 

「いや、貴女も普通に馴染んでんじゃないわよみほ……」

 

「此れは、大洗のパンツァージャケットが黒くなって、胸元にT-2000又はnWoって入る日もそう遠くはないかも知れないですねぇ……まぁ、其れは其れでカッコイイですけど。」

 

 

その観客席では、三回戦第二試合の大洗の応援のためにやって来ていた黒のカリスマと、大洗の隻腕の軍神が何やらやってたが、特に何か害がある訳では無さそうなので大丈夫だろう。

尚、隻腕の軍神と黒のカリスマのツーショットは、SNSで大いに話題になり、アップされた画像には百万『いいね』が付いたらしい。

 

 

 

そんな事が観客席で起こっていても、試合は始まる。

審判長である蝶野亜美は、ガッチリと握手を交わすエミと絹代を満足そうに見ると、軽く頷いてから右手を上げ――

 

 

「其れでは、此れより無限軌道杯三回戦第一試合、ベルウォール学園対知波単学園の試合を開始する。互いに、礼!!」

 

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

 

 

試合開始を宣言!

四つある準決勝の椅子を巡る最初の試合の火蓋が、今此処に斬って落とされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

では、試合開始を前に、先ずは両校のオーダーを見て行くとしよう。

 

 

 

・ベルウォール学園

 

ティーガーⅠ×1(隊長車兼フラッグ車)

ヤークトパンター×1

エレファント×1

T-44×1

Ⅱ号戦車F型×4

 

 

 

・知波単学園

 

九七式中戦車57mm砲搭載型×1(隊長車兼フラッグ車)

九七式中戦車(新砲塔)×4

九五式軽戦車×3

 

 

 

ベルウォール、知波単共に八輌と言う編成だ。

三回戦と準決勝は十五輌の使用が認められているにも拘らず何故に両校とも八輌なのか?……ベルウォールの場合は、財政面でギリギリ八輌しか用意出来なかったのだが、知波単は試合当日にベルウォールの戦車数を知った絹代の命令で参加車輌を八輌まで削ったのだ。

 

 

 

別にベルウォールに情けを掛けた訳では無く、戦車の絶対数で劣る相手に使用可能な数まで戦車を使うと言うのは礼を失する上に、武士道にも反するとして、絹代が決断したのだ。

あくまでも同じ条件で勝たねば、真の勝利とは言えない……恐らくはそんな感じだろう。――或いは、大学選抜戦で、大洗が十対三十での殲滅戦と言う理不尽を突きつけられた事から、物量での圧倒は恥ずべきものと考えたのかも知れない。

 

刀を戦車に変えたサムライガールは、何処までもまっすぐで、あくまでも対等な条件で勝ってこそ真の勝利であると考えたのだ。

 

 

「アタシ等に合わせて八両編成か……普通なら舐められたって思う所なんだろうけど、貴女の心意気、確りと受け取ったわ西隊長――なら、アタシ達は其れに応える為にも、貴女達に勝つわ!!」

 

 

その知波単のオーダーを見たエミも、絹代の真意を読み取り、その顔に笑みが浮かぶ――エミの顔に笑みが浮かぶ、ダジャレではないので御了承下さい。

だが、そのエミの顔を見たベルウォールの面々は戦慄した……幼馴染の瞳もだ。

 

何故ならば、エミが浮かべた笑顔は、未だ嘗て瞳を含めたベルウォールの面々が見た事がない程の凶暴性を内包したエミだったから――其れは文字通り、『目の前の獲物を食い殺す』ことだけを考えた肉食獣のなのだ。

 

 

「何つー顔しやがんだよマッタク……そんな顔見せられちまったら、気張るしかねぇじゃねぇかオイ!

 ――上等だぜ、ベルウォール魂燃やして行くぞテメェ等!!底辺校の底力を見せつけてやるとしようぜ!!――だから、遠慮すんじゃねぇぞマネージャー!

 ドンドン注文しやがれ!!」

 

「勿論その心算よ……鐘の壁が知波単を食い殺してやるわ……行くわよ、Panzer Vor!!(戦車前進!!)」

 

 

だが、其れで怯むベルウォールではなく、キャプテンの山守が気勢を上げると同時に、エミは部隊を出撃させる――そして、全くの偶然ではあるのだが、この時絹代もまた自軍を進撃させていた。

そうなれば、最初の遭遇戦は避けられないだろう――詰る所、ベルウォールと知波単は此のまま行けば物の数分後には、遭遇戦を行う事になるのは避けられないのだから。

 

 

「相手が誰であろうとも、アタシは勝ってみほと戦う……邪魔する奴は、容赦しないで叩きのめしてやるわ!!覚悟しなさい知波単学園!!」

 

 

 

「中須賀エミ殿……一筋縄ではいかない御様子……ならば私もまた、勝つための秘策を使うべきでしょう――貴女の戦車道を、堪能させて貰います!!

 全軍、遭遇戦に備えよ!」

 

 

だが、そんなモノは想定内だと言わんばかりに、エミも絹代も部隊を進軍させていく――両校とも、先ずは遭遇戦で互いの力量を計る心算の様である……まぁ、妥当な所だろう。

ドイツの冷たい蒼炎と、日本の燃え盛る紅蓮の戦車道が、今激突しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

エミちゃんも絹代さんも、先ずは真っ向からぶつかって、其処から自分の得意な分野に持ち込むって言う魂胆なのかな?――そうでなければ、馬鹿正直に真正面から仕掛けるなんて事は無いと思うからね。

恐らく最初の遭遇戦は互いに見せ技――その後の展開に繋ぐためのね。

 

 

 

「ふぅん?……其れでみほ、貴女はどっちを応援するの?――苦境を乗り越えて此処まで来た中須賀か、其れか知波単の改革に成功した西か。

 隻腕の軍神は、準決勝でどっちと戦いたい?」

 

「むぅ、その質問は意地悪だよエリカさん。」

 

そんなの選べるわけないよ――エミちゃんも絹代さんも、一流の戦車乗りなんだから、甲乙を付ける事なんで出来ないよエリカさん――まぁ、敢えて言うならエミちゃんかな?

この大会での戦いを逃したら、次は何時戦う事が出来るか分からないからね。

 

――うん、私は深層心理でエミちゃんが勝つ事を願ってるんだね……なら、此の想いを全力でぶつけて応援するだけだよ!……だから、絶対に勝ってよエミちゃん!!

私達も絶対に勝って準決勝にコマ進めるから――だから、先に準決勝の舞台で待っててね!

 

 

 

「軍神の応援入ったわよ。」

 

「ベルウォールの勝率が四十%上昇し、中須賀エミさんの戦車力が七十%アップしましたね間違いなく。」

 

「……私の応援はステータスアップの魔法か何かかなエリカさん、小梅さん?」

 

「あながち間違ってるとも言えないと思います西住隊長!」

 

「梓ちゃん、貴女もか!」

 

 

 

まぁ、私の応援で力になるって言うのは嬉しい事だけど、ステータスアップとはまた違う気がするんだけどねぇ……取り敢えず、新星であるベルウォールと新生知波単の試合、楽しませて貰うよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer186『鈴壁vs知波単学園!大激戦です』

此れは、この戦車道は西住の血が滾るよ……Byみほ        みほの血の封印が解かれた!?Byエリカ      殺意の波動の目覚めと血の封印の解除、どっちが上なのでしょうか?By小梅     ……蝶野By紗希     ガッデム!By黒のカリスマ@蝶野正洋


Side:みほ

 

 

エミちゃん率いるベルウォールと、西さん率いる知波単の試合が始まった訳だけど、此れってある意味で今大会最注目の試合なんじゃないかな?

今迄無名であり、シードだったとは言え三回戦まで駒を進めて来たベルウォールと、西さんの下で生まれ変わった新生知波単の試合って言うのは、戦車道ファン……特に玄人の人にはそそられる試合だと思うんだ。

 

 

 

「でしょうね。

 目の肥えた玄人ほど、此の試合を面白いと感じると思うわよみほ――かくいう私も、此の試合がどうなるのか、楽しみで仕方ないわ……貴女の幼馴染って言う子が、如何戦うかも興味あるしね。」

 

「ふふ、エミちゃんは強いよエリカさん。其れだけは確実に言えるよ。」

 

「其れについては疑ってないわ――貧弱な戦力でありながら、三回戦まで駒を進めて来た彼女の戦車乗りとしての能力は本物以外の何者でもないからね。

 もしも彼女が貴女と同じチームになったら、誰も勝てる人はいなくなるでしょうね。」

 

 

 

其れはちょっと言い過ぎかもしれないけど、確かにエミちゃんと同じチームだったら、誰も敵じゃない気がする――既に今の大洗は最強モード状態だけど、其処にエミちゃんが加わったら、正に鬼に金棒だからね。

 

 

 

「鬼に金棒?違うだろみぽりん!グレート・ムタにハルク・ホーガンだろ!!」

 

「其れは其れで違う気がします蝶野さん。でも、そのタッグは確かに強そうです。」

 

「みぽりんが生まれる前に、実は一度だけ実現してんだオラ!スゲェだろ!」

 

 

 

アハハ、黒のカリスマは今日も今日とて絶好調ですね♪

……それはさておき、果たしてどんな試合になるのか――オーロラビジョンに映し出されたベルウォールと知波単の動きを見る限りでは、先ず遭遇戦となるみたいだけど、其れでは終わらない気がする。

エミちゃんも西さんも、きっと可成りの戦術を用意しているだろうからね。――此れは若しかしたら、此の試合は無限軌道杯のベストバウトにノミネートされるかもしれないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer186

『鈴壁vs知波単学園!大激戦です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エミ

 

 

知波単との試合が始まった訳だけど、最初は間違い無く遭遇戦になるでしょうね……知波単の新たな戦術であるゲリラ戦をする為には、アタシ達のスタート地点に近い方にある林か岩場に行くしかない訳だから、その途中で確実に遭遇する事になるだろうし。

この遭遇戦でフラッグ車を撃破出来るとは思わないけど、最低一輌、可能なら三輌位は撃破しておきたい所だわ……ゲリラ戦を展開されたら、フィールド破壊をするにしても、こっちだって無傷では済まないと思うからね。

 

 

 

「エミちゃん、知波単の戦車はまだ見えない?」

 

「まだよ瞳。だけど全軍に通達、何時でも攻撃が出来るように準備だけはしておきなさい。」

 

「おうよ、了解したぜマネージャー。」

 

「「任せろメスゴリラ!!」」

 

 

 

あの双子は……いい加減人の事メスゴリラって呼ぶの止めなさいよ?

ったく、一度本気で絞め上げてやろうかしら……自慢じゃないけど、アタシのアイアンクローは効くわよ?アタシの握力は五十八kgだし。

 

 

 

「ドイツハーフのエミちゃんがアイアンクロー……ピッタリだね♪アイアンクローの考案者はドイツ系のアメリカ人だった筈だから。」

 

「そうらしいわね?アタシは良く分からないけど。」

 

そんな事よりも、先ずは遭遇戦で一発かますわ。

隊員の練度は知波単の方が上だけど、主力四輌に限って言えば、戦車性能はこっちの方が上だから、遭遇したら挨拶代わりに主力の火力をブチ込む。

無論その程度で知波単の連中が怯むとは思えないけど、最初の流れをこっちに引き寄せる事が出来るからね。

 

『突撃馬鹿』とまで言われていた知波単を、僅か数カ月で改革した『猛将』西絹代――お手並み拝見させて貰うわよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

試合が始まって数分後、エミの読み通りに、知波単が林に差し掛かる手前でベルウォールと知波単の部隊は遭遇した――遭遇したのならば如何するか?

 

 

「先手必勝、ブチかましなさい!!」

 

「見敵必殺!的を絞らせないようにしながら応戦しろ!」

 

 

答えは至極簡単、戦うだけだ。

主力四輌の火力で攻撃して来たベルウォールに対し、知波単は部隊を散開させ、的を絞らせないようにして応戦する――戦車道の教科書の様な火力vs機動力の展開だと言えるだろう。

だが、あくまでも其れは遭遇戦の最初の攻防に過ぎない――本番は最初の一撃のその後だ。

 

 

「Ⅱ号部隊、機動力で知波単を攪乱させなさい。撃破する必要はないから、兎に角掻き乱して。」

 

「「分かったぞメスゴリラ!」」

 

「アンタ等、次にアタシの事をメスゴリラって呼んだら、チョップで首切り落とすわよ?」

 

「「ベルリンの赤い雨!?」」

 

 

エミは知波単の部隊が散開したのを見るや否や、Ⅱ号部隊に機動力で知波単を攪乱する事を命じる――双子と何やらあったみたいだが、其れはこの際些細な事なので無視しておこう。

エミの命を受けたⅡ号部隊は知波単の部隊を攪乱しようと、機動力に物を言わせた挑発染みた攻撃を開始――Ⅱ号戦車の豆鉄砲では日本戦車の紙装甲も抜けないのだが、やられた方からしたらムカつく事この上ない。

 

考えてみて欲しい、大したダメージにならないとは言え、エアガンやガス銃ではない玩具のピストルでBB弾を何発もぶつけられたら、痛くはないけどだんだんムカついては来ないだろうか?

少なくとも作者はムカつく。大体二十発を超えたあたりでブチキレて、やった相手にウェスタンラリアットをブチかまして、ダウンした所をラーメンマン先生のキャメルクラッチで絞め上げる――又は強制的に立たせた上で、ストーンコールドスタナーの刑に処す。

 

 

 

……失礼、話題が其れたが、ダメージにならずともちょこちょこした攻撃と言うのは非常に神経を逆撫でするモノだ――其れこそ、今までの知波単だったら、即座に激高してⅡ号を撃破しようとしていただろう。

 

 

「Ⅱ号の攻撃ならば決定打にはならない!履帯を切られないように注意しながら、ティーガー達の方に集中しろ。」

 

 

だが、今の知波単は嘗ての知波単とは一線を画す存在だ――隊長の絹代が、Ⅱ号の役割を看破し、挑発に付き合う必要は無いと言い、全軍にエミ率いる主力に集中するように言う。

知波単の隊長と言う肩書だけで、不当に低い評価を受ける事の多かった絹代だが、隊長としての能力はケイやダージリンと比較しても引けを取らないレベルであり、戦車道評論家の中には、絹代が黒森峰以外の三強に進学していたら、黒森峰の一強時代は大洗が出てくる前に終焉してたと言う者もいる位だ。

そして、同時に西が大洗に進学していたら、みほとのコンビがえげつない事になっていたと言う声もある――えげつないコンビとは一体如何いう事なのか少々問い詰めたいが、絹代の戦車乗りとしての能力はそれ程までに高いと言う事なのだろう。

 

 

「挑発には付き合わないって?猛将と渾名されてる割に、意外とクールなのね西隊長?」

 

「指揮官が熱くなって冷静さを欠いてしまっては、部隊が総崩れになってしまいますからなぁ……私も精神修業をして、冷静な精神を手に入れた次第であります!!」

 

「成程ね……其れは、何とも倒し甲斐があるわ!」

 

 

Ⅱ号の挑発を完全無視してベルウォールの主力に戦力を向けて来た絹代に対し、しかしエミは焦る事はなく迎撃態勢に入る――所有戦車八輌の内、四輌は戦車戦性能皆無のⅡ号である事を考えると、ベルウォールの戦力はティーガーⅠ、ヤークトパンター、エレファント、T-44の四輌で、対する知波単の戦力は八輌全てが一応の戦車戦性能を有する戦車であり単純な戦力差は二倍と言える。

だが、知波単の戦力は性能面では決して優秀とは言えない日本戦車である事を考えれば、ドイツ戦車三両とソビエト戦車一輌と言うベルウォールの主力との戦力比は此れで互角と言った所だ。

 

 

「こっちの火力なら何処に当てても撃破出来る!細かい狙いはいらないから、兎に角命中させる事を最優先にしなさい……三発以上外したらペナル茶の刑が待ってるからその心算で!!」

 

「マネージャー、其れ下手すりゃ死人が出るぞ!?」

 

「回避された場合はカウント外!なお十発以上外した奴は言峰麻婆とリンディ茶の刑に処すわ!!」

 

「ヤッベー、ペナルティに殺意しか感じねぇ!!」

 

 

……中須賀エミと言う戦車乗りは、みほの幼馴染と言う事もあるのか、中々に容赦がなかった、敵にも味方にも。

だが、エミの指示は最も的確と言えるだろう――ティーガーⅠを筆頭に、ベルウォールの主力四輌の主砲は全てが長砲身88mm以上の高火力なのだから、最大装甲厚が25mmの日本戦車ならば何処に当てても撃破は確定なのだから、細かい狙いを付ける事は敢えて放棄し、取り敢えず当てる事を最優先にと言うのは効率面でも間違いではないのだ。

 

だが、無論絹代とてそんな事は分かり切っている。

 

 

「エミ殿……先ずは此れにてゴメン!!」

 

 

 

――バガァァァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

ベルウォールの主力が攻撃しようとしたその瞬間に、主砲で地面に攻撃――と同時に、着弾点から黒煙が上がり、ベルウォールの視界を完全にシャットアウトしてしまった。

一見すると大洗お得意の発煙筒を使った目潰しに似ているが、発煙筒の煙が白なのに対し、此方は真っ黒であり、明らかに別物だ――と言うか、戦車砲が地面に当たった瞬間に黒煙が上がってる時点で別物以外の何者でもない。

 

 

「ケホッ……此れは、まさか黒煙弾!?」

 

 

そう、知波単が使ったのは黒煙弾。黒炎弾ではなく黒煙弾。

基本的は榴弾なのだが、通常の榴弾とは違い内部に黒色火薬が詰められており、着弾と同時に炸裂した瞬間に黒色火薬が爆発して大量の黒煙を発生させると言う戦車砲だ。

目くらましに使える砲弾ではあるが、白煙よりも煙が濃い黒煙では味方の視界も殺してしまうと言う理由から殆ど使われる事の無かった砲弾であるが、絹代は敢えてそれを使用して来た――殆ど使われる事が無かったからこそ対策されにくいと考えたのだ。

 

実際にその効果は抜群で、黒煙が晴れるまでのおよそ十分間、ベルウォールはその場から動く事が出来なかったのだから。

そしてその間に知波単の部隊はまんまとこの場を離脱してゲリラ戦を展開出来る林に……第一ラウンドは互いに損害はなかったモノの、自軍が得意とする戦い方に持ち込む事に成功した知波単に軍配が上がった形だろう。

 

 

「アイツ等、やってくれるじゃない……上等よ、叩き潰してやるわ!!」

 

「お~~……マネージャーがキレた。こりゃ知波単死んだな。」

 

 

黒煙が晴れた頃には、ベルウォールの面々は見事なまでに煤塗れになっていた……まぁ、黒色火薬の黒煙に十分近く晒されれば煤塗れは回避出来ないからね。

だが、煤塗れになりながらもエミの顔に浮かんでいるのは猛獣の笑みだ――如何やら、この遭遇戦がエミの中に眠る野生の本能を完全に解放してしまったようだ。

 

 

「全軍進撃!目標は少し戻った所にある林……知波単のゲリラ戦に付き合ってやろうじゃないの!」

 

「まぁ、そう来るよな……了解した、行くぜマネージャー!!」

 

 

先手は取られたが、だからと言って何方に流れが傾いたと言う事でもないのであれば、今度は自分達がやる番だと言わんばかりにベルウォールの部隊は知波単が向かったであろう林に向けて進軍!

ゲリラ戦を仕掛けてくるのは間違い無いだろうが、ゲリラ戦に適当に付き合った上で其れを潰す――其れがエミの作戦だった。

 

 

「Ⅱ号部隊先行して!機動力を駆使して林内部の状況を調べて来て。」

 

「「アイサー!!」」

 

 

更に小回りの利くⅡ号部隊を先行させて林の内部の状況を調べさせる――林の内部がどうなってるかが分かれば、其処から如何戦うかを考える事が出来るから、此れは当然の命令と言えるだろう。

 

 

『知波単の部隊は、林の中に固まってる感じがするんだけど、迷彩柄のせいで正確な数が分からない……取り敢えず最低でも四輌はいると思うんだけど……て、のわぁ!?』

 

「ちょ、如何したの!?」

 

 

だが、その偵察の最中にまさかの悲鳴。

エミも何事かと確認しようとするが、一体何が起きたのかは場内のアナウンスが教えてくれた。

 

 

『ベルウォール、Ⅱ号戦車一号車、二号車、走行不能!』

 

 

そう、偵察に出ていたⅡ号は知波単の攻撃で撃破されてしまったのだ――だが、林の中に固まってた筈なのに、何故Ⅱ号が撃破されてしまったのか?

其れこそが、知波単のゲリラ戦の真骨頂だからだ。

 

 

「撃破されたって、如何言う事?知波単の部隊は林に集まってるんでしょ!?」

 

『そう見えたけど、後から攻撃された~~!流石に此れは避けられないって!!』

 

「後ろからですって?」

 

 

同時に其れは、エミに一種の驚愕を与えていた――其れはそうだろう、正確では無いとは言え、林の中心に略集まってると聞いた次の瞬間に偵察のⅡ号が背後からの一撃で撃破されたのだから。

だが、同時に其れはエミにある事実を知らしめる事でもあった。

 

 

「知波単は部隊を二つに分けていた……そして、一方の部隊は林に潜んで、迷彩柄をもってして相手の偵察に正確な数を教えないようにして、本隊とは別の部隊が茂みに隠れてた訳か――成程、車体の小さな日本戦車の特性を十二分に活かして来たか、やるわね西!

 ゲリラ戦を展開するなら此れ位はやってくれないとね――だけど、こっちだってアンタ達のゲリラ戦に本気で付き合ってやる道理はマッタクない!

 ……だから、ゲリラ戦のフィールドを破壊させて貰うわよ!!」

 

 

そう、知波単は部隊を二つに分け、片方を林に、もう片方を林のちょうど反対側にある茂みに隠して居たのだ――相手が林に入って来なくともゲリラ戦を仕掛ける事が可能な二段構えは、絹代が只の猛将ではなく知将の面がある事を伺わせてくれるものと言えよう。

 

Ⅱ号は戦車戦では全く戦力として期待出来ないが、小型で小回りが利く分偵察や攪乱には持って来いの戦車でもあるので、其れを二輌失ったと言うのは決して安いモノではない。

だが、そのお陰で知波単の現在の布陣が分かったのならば、Ⅱ号は充分にその役目を果たしたと言えるだろう――故に、エミは撃破されてしまったⅡ号が齎してくれた知波単の情報を最大限に利用するだけである。

 

 

「エレファントとT-44とヤークトパンターは林を集中攻撃!フィールドごとフッ飛ばしなさい!

 アタシ達は茂みの中に潜んでる奴等をぶっ倒す!日本戦車は鋼鉄の獅子とも言うらしいけど、ドイツ戦車は獅子すら凌駕する体躯を誇る虎の名を冠してるのよ!

 獅子と虎、本当に強いのはどっちかを教えてやるわ!」

 

 

なので即座にエミは自分が乗るティーガーⅠ以外の主力に林の撃滅を厳命し、自身は茂みに隠れてる知波単の別動隊に単騎で突撃!其れこそ知波単のお株を奪うレベルでの突撃だ。

此れにはⅡ号を撃破した知波単の別動隊の面々も驚きを隠せない。

 

 

「ひぃぃぃ!?赤毛の鬼が突撃してきたでありますぅ!如何しますか細見殿ぉ~~!!」

 

「狼狽えるな福田!……と言いたいが、アレは確かにとっても怖い!

 西隊長は仰った……最後に勝つ為に退くのは撤退ではなく『勝利の為の前進である』と――ならば今は最後の勝利に向かって進むとき!!」

 

 

福田が涙目になるのは仕方ない。

だって想像してみ?赤毛のツインテールが犬歯剥き出しにして獰猛な笑みを浮かべながら、ティーガーⅠのキューポラから身を上半身を出して突撃して来たら怖いでしょ?少なくとも、並の戦車乗りだったら其れを見た時点で敵前逃亡する可能性は高いと思う。因みに、作者も逃げる。

 

だが其れでも細見は冷静さを保って、無理に応戦せずにこの場からは撤退する事を選択した――此れもまた、嘗ての『突撃馬鹿』だった頃では絶対にあり得ない事だっただろう。

『勇猛果敢に前進こそが戦車道』の知波単に於いて、撤退は『敵に背を見せた臆病者の証』として忌み嫌われてきたモノだったから――が、大学選抜戦を経験した絹代は、『勝利の為には時には退く事も大事』と知り、其れを戦術に取り込む事にしたのだ。

無論それは簡単な事ではなかったが、此処でも絹代は知波単の気質を最大限に利用した――戦略的撤退を勝利の為の前進の一種と言って、隊員達に必要ならば退く事を教えたのだ……この人マジで知波単以外の学校に進学してたら黒森峰の脅威になってたんと違うだろうか?

兎に角その甲斐あって、知波単の面々は状況次第では退く事を覚えたのである。

 

 

さて、別動隊の方はエミの迫力に圧されてこの場から撤退したが、林に潜んでいた絹代率いる本隊はと言うと……

 

 

「なんと、林その物を攻撃してくるとは……流石はみほ殿の幼馴染、やって来る事のスケールが大きいでありますなぁ?

 とは言え、このままではジリ貧故、全軍反転!林を抜けて荒野のフィールドに出る!急げ、遅れたら倒木の下敷きになるぞ!!」

 

 

林が攻撃されていると見るや否や、即座に撤退開始!その判断力も見事です絹代隊長。

だが、如何に素早く撤退しようとも、入り組んだ林の中を進むのは簡単ではなく……

 

 

 

――ドガァァァァァン!

 

――キュポン!

 

 

『知波単学園、九七式中戦車、九五式軽戦車、行動不能。』

 

 

新砲塔搭載型の九七式中戦車と、フットワークの良い九五式軽戦車が倒木のダイレクトアタックを喰らってライフポイントがゼロになって退場となった……フィールド破壊恐るべしだ。

エミは『戦車は無視してフィールド破壊を行う』と言っていたが、それはフィールド破壊を行えば戦車を狙わずとも自然と何輌かは撃破出来ると思ったからだろう。

何にしても、此れで残存車輌数は同じになった訳だが、この展開に観客は大盛り上がり!

新規参戦校の中で唯一、三回戦まで駒を進めたベルウォールと、万年一回戦負けの汚名を返上した知波単の試合が盛り上がらない筈ないのだから、此れはある意味で当然の事だと言えるだろう。

 

 

「Wunderbar!最高だぜ!

 まさか大洗の試合以外でこんなに暑い戦車道が見れるとはな……隻腕の軍神は幼馴染もハンパねぇえなみぽりん!面白くなって来たぜ!!」

 

「ふふ、本番はこれからですよ蝶野さん?」

 

「んだと?グァッデム!

 出し惜しみしてんじゃねぇぞオラ!持てる力の全部を出し切ってみろ!それが戦車道ってモンだろ!アイム、チョーノ!ガッデメファッキン!!」

 

 

そして観客席は今日も今日とて絶好調だった。物凄く絶好調だった。カウンターのケンカキックからSTFのコンボを流れる様に極めちゃう位に絶好調だった。

其の手に大洗謹製の日本酒、蝶野亜美教官がプリントされたラベルが目を引く『撃破率120%』が握られていた事は突っ込んではいけないだろうきっと。

 

 

さてさて、観客席での盛り上がりは他所に試合は進む。

試合開始直後の遭遇戦では知波単が黒煙弾でベルウォールの視界を奪った上で、林に逃げ込み、第2ラウンドでは茂みに隠れた別動部隊を使ってのゲリラ戦でベルウォールのⅡ号を二輌撃破するも、ベルウォールはカース・オブ・ドラゴンと燃え盛る大地のコンボ攻撃もビックリのフィールド破壊を行い、倒木によって知波単の九七式と九五式を撃破し、両校とも残存車輌は六輌と言う状況。

そして次なる第3ラウンドの舞台は岩場だ。

隠れる場所の多い岩場は、知波単がゲリラ戦を展開出来るフィールドでもあるが、ベルウォールの部隊が居たのはそう言った物陰となる岩が多い場所ではなく、戦車を隠すことが出来ない程度の大きさの岩しかない、比較的開けた場所だった。

 

 

「ねぇ、此処は流石に目立ち過ぎじゃないかなエミちゃん?」

 

「いえ、此れで良いのよ瞳。これならすぐに知波単はアタシ達を『見つけて』くれるから。

 フィールド破壊を喰らった以上、ゲリラ戦は仕掛けて来ないでしょうし、仮にゲリラ戦を仕掛けようにも、アタシ達が此処に留まってる限りはゲリラ戦なんて仕掛けようもないから、此処で待っていれば相手の方から姿を見せてくれるわよ。」

 

「つまり、俺等は餌……差し詰めミミズか?」

 

「ゴカイじゃないの?」

 

「私としてはイソメが良いんじゃないかと……」

 

「餌ってのは間違ってないけど、なんで揃いも揃って虫系なのよ……」

 

 

エミが此処で部隊を止めていたのは、そうすれば知波単の方から攻めて来てくれると思ったからからだ――ベルウォールの主力戦車の性能は知波単の戦車の性能を遥かに上回っているから、その性能差をもってして確実に勝利する為にこの場で待つ作戦に出たのだ。

 

 

一方で……

 

 

「むぅ……此処に来てから既に三十分は経つが、一向に動く気配はなしか――此方に攻めて来たら巨岩落としで撃破する心算だったが、来てくれぬのでは其れも無理と言うモノ――さて、如何したモノか?」

 

 

遠方からベルウォールの部隊を視察していた絹代は思わず溜め息を吐いた。

林でのゲリラ戦はフィールド破壊で突破されてしまったが、この岩場ではそのフィールド破壊を逆に利用したゲリラ戦を展開しようと思っていたのだが、ベルウォールの部隊は開けた場所に留まったまま一向に動こうとしないからだ。

このままでは埒が明かないから、そうであるのならば自ら攻め込んだ方が良いのでは?とも考えるが、絹代には気になる点があった。

 

 

「其れにベルウォールの部隊、エレファントと残りの二輌のⅡ号が居ないのは如何なる事か?」

 

 

其れは開けた場所に居るベルウォールの戦車が、ティーガーⅠ、ヤークトパンター、T-44の三輌だけだと言う点である……残るエレファントと二輌のⅡ号の姿が無いのだ。

移動中にマシントラブルが発生したとも考えられるが、そうであるのならば審判団から『走行不能』のアナウンスが入るはずなので、其れがない事を考えるとマシントラブルで走行不能になった可能性は先ず無い。

だからこそ絹代は考える、此れは罠ではないかと。

 

 

「(普通に考えれば此れは私達を誘い込むための罠……下手に突っ込めば挟撃される可能性が高い――だが、逆に言うのならば挟撃を喰らってもⅡ号は無視できるレベルなので、実質的な脅威はエレファントのみ。

  しかもエレファントはその巨体故に動きは愚鈍……なれば、此方の機動力を駆使すればフラッグ車への零距離攻撃を敢行する事も可能か。)

 ……諸君、如何やらベルウォールの皆さんは、私達の事を待っているらしい――ならば我々は其れに応えようではないか!

 此れより、ベルウォールの部隊に向けて進軍する!そして、彼女達との距離が百mまで縮まったら、全力で突撃せよ!!」

 

 

だが其れでも、エレファントの機動性の低さを考慮すれば、機動力で分のある自分達ならば挟撃されても背後からの攻撃を回避出来ると判断した絹代は部隊を進撃させる事を選択!

そして数分後には、ベルウォールの待つ開けた場所へを到着し……

 

 

「来たわね絹代……ケリを付けましょうか?」

 

「そうですね、決着と行きましょう……貴女の敗北をもって!」

 

 

其処から一気に戦車戦が展開!!

攻撃力で勝るベルウォールは細かい狙いを付ける事を捨て、兎に角当たれば良いとの感覚で砲撃を行い、逆に知波単はその機動力をもってして砲撃を回避しながらベルウォールの部隊との距離を縮めていく。

此処までは、知波単の回避力の方が上で、遂に距離は百mを切り……

 

 

「今だ、突貫!!」

 

 

絹代の号令で全軍突撃!!

戦車戦に於いては至近距離である百mからの突撃は、例えそれを行ったのが低性能の日本戦車であったとしても効果は充分にあり、知波単はこの方法で一回戦と二回戦を制して来たのだ。

 

 

「……其れを待っていたわ。」

 

 

其れを見たエミの顔には笑みが浮かんでいた――そう、エミは此れを待っていたのだ。

 

 

「機は満ちたわ!ブチかませ!!」

 

「「アイサー!!」」

 

 

――ブオン!

 

――ドガシャァァァァァァン!!!

 

――……キュポン!

 

 

『知波単学園、九七式中戦車三号車、二号車、行動不能!』

 

 

エミの号令と共に知波単の九七式の上に何かが降り注ぎ、其のまま押し潰して撃破判定に――一体何が降って来たのか?

其れは、残った二輌のⅡ号戦車だ。

その車体の小ささを活かして岩の陰に身を潜めていたⅡ号がエミの号令と共に飛び出し、岩をジャンプ台にして飛び上がり、大洗の十八番である戦車プレスを敢行したのだ。

尤も、Ⅱ号戦車の戦車プレスでは破壊力が微妙なのだが、装甲厚が紙の日本戦車には其れでも充分な攻撃だったらしい。

 

更に――

 

 

「巨像に踏み潰されたい奴からかかって来なさい?」

 

 

此処でエレファントが参戦!

此れもまたエミの作戦だ――知波単が突撃を行うまでエレファントを温存しておいたのだ……一度突撃を敢行した知波単は極端に回避率が下がる事を見越して。

確かに知波単の日本戦車は機動力に長けるが、だがしかし、突撃をしてる最中に放たれた攻撃を咄嗟に回避出来るかと問われれば其れは殆ど無理と言わざるを得ない――だって、真っ直ぐ前進してる状態からのクイックターンは戦車では略不可能だからだ。

よしんばドリフトで回避しても、戦車ドリフトを行えば履帯は切れて転輪が吹っ飛ぶので、回避したとしても白旗判定待ったなしだ。……其処まで見越してエミはエレファントをギリギリまで温存していたのだ。

 

 

「矢張りこれは罠でありましたか……ですが、勝利は譲りません――エミ殿、いざ尋常に勝負!!」

 

「絹代、その勝負受けて立つわ!!」

 

 

結果として追い込まれた形となった知波単は、此処で絹代がエミに仕掛け、フラッグ車でのタンクジョストに切って出た――フラッグ車同士の一騎打ちならばティーガーⅠの弱点を抜けば勝てると考えたのだろう。

そしてエミも、其れに応えてティーガーⅠを進撃させ、絹代の九七式に向かう。

 

両者が激突する瞬間に、絹代の九七式は戦車ドリフトを行い、エミのティーガーⅠの背後を取ろうとするが、其れはエミも読んでいたので砲塔を回転させて、九七式を追う。

 

 

「「撃て!!」」

 

 

同時に主砲が火を噴き、辺りには白煙が立ち込めるが……

 

――キュポン!!

 

 

『知波単学園、フラッグ車行動不能!ベルウォール学園の勝利です!!』

 

白煙が晴れた先で白旗を上げていたのは絹代の九七式。

ティーガーⅠの砲撃も、九七式の砲撃も夫々相手に突き刺さっていたのだが、九七式の砲撃は、僅かにティーガーⅠの弱点から外れて居た為にティーガーⅠを撃破出来なかったのだ。

そして、反対にティーガーⅠの砲撃は九七式の装甲を抜いていたのである……もしもティーガーⅠの弱点を正確に撃ち抜いていたら、勝ったのは知波単だったかもしれないが、今回はベルウォールに勝利の女神が味方する結果となった。

だが、その結果に対し会場からは割れんばかりの拍手喝采が!――ベルウォールの勝利を賞賛し、知波単の健闘を労う拍手が鳴り響いてた。

 

 

「はは……負けた身であっても、この万感の拍手は心に沁みますなぁ……」

 

「其れはそうよ――此の拍手は、アタシ達ベルウォールにだけじゃなくて、貴女達知波単にも向けられてるんだから――其れだけ、アタシ達の試合は良い試合だったって事よ。

 ……ありがとう絹代、とても楽しかったわ。」

 

「いえ、礼を言うのは此方でありますエミ殿……此の西絹代、とても素晴らしい経験をさせて頂きました!機会があれば、何れまた。」

 

「そうね……約束よ――でも、次もアタシ達が勝つわ。」

 

「ふふふ、そうは行きません――今度は私達が勝って借りを返させて頂きます!」

 

 

そんな中で、両校のリーダーであるエミと絹代は再戦を誓ってガッチリと握手を交わす――その瞬間に、また観客席から歓声と拍手が湧いたのは当然の事だっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エミ

 

 

ふぅ、三回戦を突破したから次はいよいよ準決勝ね。

準決勝はみほ率いる大洗であってほしいんだけど……

 

 

『ヴァイキング水産高、フラッグ車行動不能!大洗女子学園の勝利です!』

 

 

アタシの心配が馬鹿馬鹿しくなるレベルで大洗の圧勝……試合開始から四輌のビハインドがある状態であっても、其れをものともせずに勝っちゃう大洗は流石としか言いようがないわね。

で、大洗以外はプラウダと黒森峰が順当に準決勝に進んだか。

 

だけど、其れもまた今のアタシには如何でも良い事ね――だって、次の準決勝でみほと戦う事が出来るんだから!!

 

「準決勝進出おめでとうみほ――次はアタシ達とね?悪いけど、勝利は譲らないわ。」

 

「勝利は譲るモノじゃなくて捥ぎ取るモノだよエミちゃん――だから、エミちゃんの考え付く最強の戦術で掛かって来てくれるかな?……私達大洗が、其れを粉砕するからね。」

 

「言うじゃないみほ……なら、望み通りアタシの思い付く最高の戦術で、貴女を叩き飲めてやるわ!」

 

「言うねエミちゃん……でも、其れ位じゃないと面白くない――全力を出して、最高の試合をしようね?」

 

「そんな事言われるまでもないわ――アタシ達で最高の戦車道をやりましょうみほ!」

 

 

 

――コツン!

 

 

 

試合が終わって引き上げて来たみほと言葉を交わした後に、拳を合わせて全力で試合する事の誓いってね――次の準決勝、楽しみにしてるわ!

隻腕の軍神の戦車道、堪能させて貰うわよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer187『準決勝!幼馴染同士の激突です!』

エミちゃん……遂に此処まで来たね!Byみほ        血の封印を解かれたみほ、勝てる気がしないByエリカ      勝率は0%ですね♪By小梅


Side:みほ

 

 

ベルウォールと知波単の試合はベルウォールが制し、そして大洗もヴァイキングを下した事で、準決勝の第一試合は、エミちゃん率いるベルウォールと、私が率いる大洗の対決になった訳か。

ふふ、エミちゃんとガチンコで戦うのは初めてだからとってもワクワクして来るよ――何よりも、大洗以上の貧弱な戦力でベスト4にまで駒を進めて来たって言うのは、普通に脅威だからね。

 

 

 

「確かに貴女の言う通りだわみほ。

 ベルウォールの主力にはティーガーⅠ、ヤークトパンター、エレファント、T-44て言う一線級の戦車が揃ってるけど、それ以外は自爆特攻の戦車プレス以外では決定打を持たないⅡ号でしょ?

 そんな貧弱なチームであるにも関わらず、此処まで来たのは驚異でしかないわ……次の準決勝、どうやって戦う心算かしら?其れを聞かせてもらっても良いかしら?」

 

「勿論だよエリカさん。」

 

エミちゃんは私にとっては一番古い友人で、そして一番古いタンクメイトだから、エミちゃんのやって来そうな事は大体分かる――って言いたい所だけど、事実上戦力になるのは四輌って言うチームで準決勝までやって来たエミちゃんの実力は計り知れないからね?

だから私も出し惜しみなんて一切しないよ?

幸いと言うかなんて言うか、準決勝のフィールドには市街地があるから其れを最大限利用して行こうかなって思ってるから――市街地戦は、私の十八番だから其れを使わない手はないし!

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「麻子、今のみぽりんの戦車力は?」

 

「ドレだけ低く見積もっても、最低7000万はかたいだろうな。」

 

「其れって、みぽりん最強って事?」

 

「並の戦車乗りの戦車力が大体12万あれば強いと言われているから、数字の上では間違い無く最強だ。

 因みに逸見さんが狂犬モードで最低6500万、赤星さんと副隊長が最低でも5000万と言った所だな。

 沙織は……たったの5か。ゴミめ。」

 

「麻子、ひっどい!?」

 

 

 

麻子さん、通信士はどうしても影が薄くなるからと言っても幾ら何でも戦車力5は酷過ぎると思うよ?

其れに、試合での活躍は余りなくても、沙織さんは試合以外の部分で色々頑張ってるし、後輩からの受けもいいし、面倒見も良いんだから、それをプラスαしたら……

 

 

 

「其れでも純粋な戦車力は変化しないだろう?」

 

「そうだね。女子力、先輩力、コミュ力は間違い無く夫々が最低でも1000万超えてるかもしれないけど、純粋な戦車力は変わらなかったね。」

 

「みぽりん、其れは褒めてるのか落としてるのか分からない!って言うか、麻子の影響受けちゃダメ!!」

 

 

 

アハハ、冗談だよ沙織さん。

沙織さんの事は通信士として、そしてチームのメンタル面でのよりどころとして頼りにしてるから、今度の準決勝でも何時も通りお願いするよ。

 

 

 

「任せてよみぽりん!!私、頑張るから!!」

 

「……沙織、チョロ過ぎるぞ。悪い男に引っ掛からないか心配だ。」

 

 

 

準決勝前でも、何時もの遣り取りが出来るのが大洗女子学園の良い所であり最大の強みだね。

さぁ、私達は既に最高のコンディションを完成させているよエミちゃん……エミちゃん達の方は如何?最高の状態に仕上げて来てくれる事を願ってるよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer187

『準決勝!幼馴染同士の激突です!』

 

 

 

 

 

 

 

Side:エミ

 

 

三回戦で知波単を辛くも撃破して、次はいよいよ準決勝……みほ率いる大洗との一戦。アタシにとっては待ちに待った試合なんだけど――

 

「行き成りだけど、現状勝つためのプランが一切浮かばないわ!!」

 

「マジか?知波単戦の時みたいに良いアイディアが出ねぇのかよマネージャー?」

 

「出てたら悩まないわよ!」

 

って言うか、知波単の場合はやって来る事が大体予想が出来たから其れに対しての一手を考える事が出来たけど、大洗が相手の場合其れは無理なのよ。

だって、大洗の戦い方には特定の型が、こうだって言う勝ちパターンが存在しないんだもの。

全国大会に限って言うのなら、奇策搦め手裏技上等な戦術で相手を攪乱して、相手が気が付いた時にはフラッグ車撃破待ったなしな戦い方だったみたいだけど、大学選抜戦の映像を見る限りでは、寄せ集めとも言えるチームを、敢えて纏める事はせずに夫々のやり方に任せる事で最大のパフォーマンスを発揮させるって言うトンでも技やってたし、今大会の一回戦では奇策も搦め手も一切ない正攻法で勝ったでしょ?

一体全体みほが、大洗が何をしてくるのか一切予想が付かないから、アイディアも浮かばない――加えて、準決勝のフィールドに市街地があるって言うのも大きいわ。

みほの中学時代からの試合の映像を全部見てみたんだけど、市街地戦におけるみほの強さは、それ以外のフィールドの時よりも数倍になってる上に使ってくる戦術のエゲツなさも可成りのモノなのよ。

 

 

 

「うん、アレはエゲツ無いねエミちゃん……下手すればトラウマになるよ。」

 

「一緒に見た貴女には分かるわよね瞳……」

 

「オイオイ、そんなにやべぇのか?」

 

 

 

ヤバいどころじゃなくて、ヤッベーすら通り越したハイパーデンジャラスナイトメアエクストラヘルモードだわアレは。

市街地を利用した待ち伏せは当たり前、死角の多さを利用したトリックプレイ――追いかけていた戦車が十字路を右に曲がったから自分も右に曲がったら突然後ろから攻撃されるなんて事もあるみたい。

更には頭上注意ね。

みほとの市街地戦では、上から信号機、積み上げられてたコンテナ、歩道橋、戦車といろんなモノが降って来るからね。

 

 

 

「真豪鬼?」

 

「『愚か者めい!』って違うわよ!確かにアレも上から降ってくる技持ってるけど!

 真豪鬼じゃなくて信号機だから。殺意の波動に目覚めて、鬼の様な厳つい顔と鍛え上げられた身体と使い込まれた紫の胴着が特徴な最強の隠しキャラじゃないから。」

 

じゃなくて、兎に角準決勝はみほの方が圧倒的に有利なのよ。

フィールドだけじゃなくて、保有戦車にしてもね――アタシ達の保有戦車が八輌なのに対して、大洗の保有戦車の最大数は全国大会の時点で十輌……無限軌道杯では新たなチームが参戦してた事を考えると、多分十一輌。

しかも、大洗の保有戦車は最強の中戦車と名高いパンターが二輌、実戦投入された戦車の中では間違いなく最強と言われるティーガーⅡ、中戦車としてはパンターには劣るけど、幾多の改造を行う事で性能を向上させて行ったⅣ号のF2とH型、低い車高と破壊力抜群の主砲を備えたⅢ突って言う一線級の戦車があるでしょ?

この他にもそれなりの性能を備えた戦車があるわ……何よりも驚くべきは、史上最強の欠陥戦車と言われているポルシェティーガーを実戦投入してるって事だわ。

それも、レギュレーションには抵触しないレベルで魔改造を施した上でね……まさか、ポルシェティーガーが戦場で戦う姿を拝めるとは思わなかったわよ。

 

まぁ、ぶっちゃけ何が言いたいのかって言うと……

 

「アタシ等と大洗の戦力差がハンパない!!」

 

「あんだよ、たった三輌じゃねぇか?」

 

「数だけ見てんじゃないわよこのバカちんが!!大洗の保有戦車と、ベルウォールの保有戦車じゃ質に差があるのよ!

 確かに数だけで言えばたった三輌の差だけど、こっちは八輌中四輌が戦車戦性能皆無のⅡ号でしょ!……つまり実質的な大洗との戦力差ってのは七輌なのよ!!」

 

「「「「「「「「「「なんだってーー!?」」」」」」」」」」

 

 

 

幾ら何でも此れは流石に無理ゲーでしょ?

みほとは本気で戦いたいし、アタシだって全力を尽くしたいけど、此れじゃあ其れも望めない――アタシの持てる力を全て注ぎ込んでもみほに、大洗には及ばない。

そうなれば、その先に待ってるのは無様な敗北……其れだけは絶対に嫌!

そんな事になったらみほに失望される!……みほに失望されたら、其れこそアタシは自分の道を見失っちゃうわ……だって、みほとの約束があったからこそ、アタシは此処まで来れたんだから。

でも、このままじゃ――

 

 

 

「……成程、やる気はあるようですが戦車が足りないと言う事ですか……今回は、貴女の勘が当たりましたねお母様?」

 

「カッカッカ、ワシを甘く見るでないわしほ。

 みほの戦車道が黒森峰を打ち倒した事で、ワシの中に巣食っていた戦車道の暗黒面はすっかり霧散したおかげで勘も現役時代より冴えておるわい。

 加えて最近元気での?このエネルギーを発散しようとフィットネスクラブに通ったらこの通りよ!見よ、このボディ!!」

 

「齢七十を超えて、其の肉体美には敬意を表しますよお母様。」

 

 

 

と悩んでた所で現れたのは、西住しほさんと……性格最悪の婆さんか。――しほさんは兎も角、何しに来たのかしらお婆さん?

ってか、何なのよその老人にあるまじき肉体は……シニアボディビルダーにでもなる心算なの?……ってか、何だか前に会った時とは随分と雰囲気が違う気もするけど……改めて何の御用でしょうか?

 

 

 

「此れは此れは大分嫌われたの?……まぁ、其れも仕方なかろうな。お前さんの知るワシは、性格最悪のババアだったろうからのう。

 じゃが、今は警戒せずとも良い――みほが大洗を率いて黒森峰を打倒したその時に、ワシの中にあった戦車道の闇は浄化されたからの――今では、家督を娘に譲ったババアじゃて。」

 

「え……誰?」

 

「エミさん、その反応は正しいわ。私だって、今のお母さまは『誰だお前?』と言う感じなのですから。」

 

 

 

ですよね。ってか、あの婆さんの闇を浄化するとか、アンタ凄すぎるわよみほ……今の婆さんからは、好々爺ならぬ好々媼のオーラ全開じゃない。

この婆さんなら嫌いじゃないわね。

それで、今日はどのような用件で此処に来たんですかしほさん?

 

 

 

「そうね……其れは、口で説明するよりも見て貰った方が早いわ――宜しいですかお母様?」

 

「オウとも。やってしまえしほ。」

 

 

 

しほさんが真面になったっぽい婆様に了解を求めて、其れが了承された次の瞬間には、戦車を釣り下げた自衛隊のバートルが上空に現れた!?

其れも七機も!

あの、此れは一体如何言う事でしょうかしほさん?

 

 

 

「此れ等の戦車は、西住流の訓練で使われていたモノですが、新たに買い替えるにあたって下取りに出そうと思っていたモノです。

 ですが、可成り使い込まれた戦車なので下取りに出した所で二束三文……寧ろ手間賃の方が掛かる始末です――なので、貴女達さえ良ければ、此の七輌の戦車を全て譲ろうかと思ったのだけど、如何かしら?」

 

「へ、マジですか!?」

 

「本当に良いんですか!?」

 

「マジかオイ!!」

 

 

 

まさか、中古品とは言え戦車を譲ってくれるとは思わなかったわ!

しかもバートルが運んできた戦車は、ティーガーⅠが二輌、パンターG型とⅢ突F型が一輌ずつ、そしてⅢ号L型が三輌……ドレも信頼できる戦車ばっかり!

此の七輌を加えれば、準決勝で使える最大車輌数の十五輌になる!此れなら、みほと互角に戦う事も出来る――否、ダメね。

戦車だけ増えても乗組員が居なきゃどうにもならないわ――此れからメンバーかき集めたって、試合までに戦車を動かせるようにはならないわ。

 

「しほさん、戦車は有り難いんですけど、ウチには隊員がもう居ないんで、宝の持ち腐れになっちゃうんですけど……」

 

「まぁ、そうでしょうね。

 ですが、隊員が足りないと言うのならば増やせば良いだけの事でしょう?――生憎と、持って来たのは戦車だけではないの。」

 

「そう言う事!アタシ等も混ぜて貰えないかな、ベルウォールの皆さん!」

 

「かの有名な隻腕の軍神と戦う事が出来る!こんな機会滅多にないんだから、私達も一緒に参加させてよ!!」

 

「新参校で唯一勝ち進んでるベルウォールに、私達も力を貸したいって気持ちがあるからね。」

 

 

 

しほさんが言った次の瞬間、今度はバートルから人が下りて来た……って、貴女達は全員、ウチ等と同じく無限軌道杯から参加した新参校の戦車乗り達じゃない!

ちょっと、貴女達も参加するって如何言う事!?

 

 

 

「彼女達は、今日付でベルウォールに短期転校したと言う事になっています。

 娘自慢ではないけれど、みほは戦車乗りにとっては憧れの存在であると同時に、一度は戦ってみたい相手であると言えるでしょう――彼女達もみほと戦える事を夢見て大会に参加したようですしね。

 ですが、全員が惜しくも一回戦で敗れてしまい、みほと戦う事は叶いませんでした――な、の、で!ベルウォールを除く新参校十四校から夫々二人ずつベルウォールに短期転校して貰い、一時的な隊員になって貰ったのですよ。」

 

「はぁ!?短期転校で!?」

 

いやまぁ、其れなら確かにベルウォールの隊員として参加できるし、こっちとしても譲って貰った戦車を使う事が出来るから有り難いんだけど、何でこんな事をしてくれたんですかしほさん?

 

 

 

「みほの親友である貴女には、全力でみほと戦ってほしかったからですよエミさん。

 黒森峰を、まほを倒し、大学選抜を、島田愛里寿さんを倒したみほは、今や日本で最強の戦車乗りと言っても良いでしょう――親バカかもしれませんが、今のみほと互角に戦う事の出来る戦車乗りなんて片手の指で足りる程しか居ないでしょう。

 そして、其の中の一人が貴女ですエミさん。

 事実上、四輌で準決勝まで勝ち進んできたと言うのは、一回戦がシードだったと言う事を考えても賞賛に値します――ですが、その戦力ではみほとは十全に戦う事は出来ないでしょう?

 貴女には持てる力の全てをもってしてみほと戦って欲しいし、みほもまた全力の貴女と戦う事を望んでいるでしょうから、少しお節介をさせて貰いました。

 何よりも、みほと互角に戦えるであろう実力を秘めている貴女が、戦車の数と言うモノで負けてしまうのは勿体ないと思ったのですよ。」

 

「しほさん……」

 

「何よりも、貴女にはみほとの試合で後悔を残して欲しくなかったのです――みほにとって、初めての戦車での友人である貴女にはね。」

 

 

 

しほさん……その心遣いに感謝します!

此れならアタシはみほをがっかりさせないで済みます……みほと思い切り戦う事が出来ます!……本当にありがとうございます!!

 

 

 

「カッカッカ、礼など要らんわい。

 詰る所、ワシもしほもみほとお前さんのガチンコ勝負が見たかっただけじゃからな……そうさな、礼と言うのならば言葉よりも、みほとの好勝負を見せてくれる事の方が礼じゃわい。

 中須賀エミよ、お前さんとみほの試合、楽しみにしておるぞ。」

 

「……お母様、最後の最後で美味しい所を持って行かないで下さい。

 だけど、お母様の言うように貴女とみほの試合を楽しみにしていますよエミさん――最高の戦車道を見せてくれる事を期待していますよ。」

 

「はい!その期待に応えられるように全力を尽くします!!」

 

何よりも、此処まで御膳立てされた以上は、やるしかない!ってか、やらなかった嘘でしょ!!

なら、早速やるべき事をやるわよ!

短期転校組をどの戦車に振り分けるのかを決めなきゃならないし、作戦も確り練らないとだからね……思わぬ事が起きたけど、そのお陰で貴女とは最高の試合が出来そうよみほ!

試合では、ぶつけ合いましょう――アタシと貴女の戦車道をね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

さてと、遂にやって来ました準決勝の日が!

今日も今日とて観客席は超満員札止め状態……ジャイアントキリングを連発して全国制覇を成し遂げた大洗と、新参校の中で唯一勝ち残ってここまで来たベルウォールの試合は注目だろうからね。

こう言ったら何だけど、準決勝のもう一試合の黒森峰vsプラウダよりも、こっちの方が盛り上がるかもだよ。

 

 

 

「Wunderbar!最高だぜ!盛り上がってるじゃねぇかオラ!

 みぽりんが幼馴染とのガチンコ勝負だ!盛り上がらねぇとか有り得ねぇだろ!俺達も全力で応援して盛り上げるぞ!大洗の試合だけ見てりゃ良いんだ!アイムチョーノ!!」

 

 

 

そして、観客席では今日も蝶野さんが絶好調みたいだね……って言うか、何だか試合の度にnOsのメンバーが増えてるような気がするのは私の気のせいなのかな?

 

 

 

「いえ、貴女の気のせいじゃないわみほ。確実に増えてるわよ?

 初期のメンバーに加えてプロレスラーを中心に増え続けてるわ……今回は、新たに『日本一怖い親父』と言われてる天龍源一郎が加わってる。

 それから、『ドラゴン』こと藤波辰爾、『革命戦士』長州力の姿も見えるわね。」

 

「これで、龍が如くに登場した、悪徳不動産『武藤不動産』の社長の武藤敬司さん、武藤不動産と手を組んで暗躍するマフィア『カラーズ』の総帥である蝶野正洋さん、『地上げ三銃士』である長州力さん、藤波辰爾さん、天龍源一郎さんが揃いましたね♪」

 

 

 

小梅さん詳しいね?

そう言えば、小梅さんの持ち物の中に龍が如くのソフトがあったっけか……実は結構やり込んでたりするのかな?

 

 

 

「其れはもうやり込んでますよ!主人公のモデルが、TOKIOの長瀬智也さんなのもポイント高しですし……義理人情溢れる任侠ヤクザは最高だと思いませんかみほさん!」

 

「うん、其れはちょっと分かる気がする。」

 

小梅さんがヤクザモノ好きだったのは意外だったけどね。

まぁ、其れは其れとして、此れだけ会場が試合前から盛り上がってるなら、その盛り上がりに応えるだけの試合をしないとだね――だから、最高の試合をしようかエミちゃん!

 

 

 

「えぇ、最高の試合を、戦車道をしましょうみほ。」

 

「うん、私達の戦車道で会場を熱くしよう。」

 

小梅さんとの会話を終えて、梓ちゃんと共にやって来た試合前の挨拶の場で、エミちゃんと軽く遣り取り――なんだけど、エミちゃん、戦車の数が増えてない?

其れと隊員の数も……

 

 

 

「此れはしほさんがやってくれた事よ。

 アタシが貴女と存分に戦う事が出来るようにって、西住流でお役御免になった戦車を七輌も譲ってくれたのよ――更には、一回戦で敗退した新参校から二人ずつ選出してベルウォールに短期転校なんて事までやってくれたわ。」

 

「……お母さん、色々と突っ込み所が多い事をやってくれたみたいだね。」

 

でも、やってくれた事自体は感謝かな?

戦力が充実してるなら、エミちゃんも全力を出し切る事が出来るだろうから、私も其れに対して全力で迎え撃つ事が出来るからね……何よりも、お母さんが此処まで御膳立てしてくれたんだから、その期待には応えないとだよ!

 

「エミちゃん……私の戦車道が、貴女を叩きのめす!」

 

「みほ……アタシの戦車道で、貴女を焼き尽くすわ!」

 

 

「西住隊長と中須賀さんの視線がぶつかって火花放電が起きてる!?」

 

「みほちゃんもエミちゃんも少し落ち着いて!!」

 

 

 

おっと、気持ちが昂り過ぎたみたいだね……瞳ちゃんと梓ちゃんにも少し怖い思いをさせたみたいだから、其処は反省だけど、私もエミちゃんも試合の事を考えると、戦車乗りの闘気を抑える事が出来ないんだよ。

此れはもう、戦車乗りの本能って言うモノかも知れないね。

 

 

 

「其れは分かります。私もツェスカと対峙したら、自分の闘気が抑えられませんから!!」

 

「其れが分かれば一流の仲間入りだね。」

 

そして其れこそが、ライバルと戦う事に歓喜してる証でもあるからね――

 

 

 

「其れでは、此れより無限軌道杯準決勝第一試合、ベルウォール学園vs大洗女子学園の試合を始める!お互いに、礼!」

 

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

 

 

 

そして、此処で蝶野教官の号令で試合開始!!

六年ぶりの再会が、戦車道の大会だったって言うのは、何処か運命を感じるモノがあるけど、再会の喜びも全部戦車道に込めて戦おうかエミちゃん!言葉では伝えきれないお互いの六年間を、戦車で伝えよう!

 

だから、初っ端から全力で行く――私の六年間、受け止めて貰うよエミちゃん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer188『幼馴染対決に手加減は不要です』

……………・!!Byみほ        血の封印を解かれただけじゃなく、殺意の波動に目覚めたわね……Byエリカ      正にゴッド・みほですねBy小梅


Side:しほ

 

 

無限軌道杯の準決勝第一試合――みほ率いる大洗女子学園と、エミさん率いるベルウォール学園が激突する時が遂にやって来たと言う訳ね。

ベルウォールの戦力は底上げしておいたから、みほでも簡単に勝つ事は出来ないでしょうね――何よりも、エミさんの実力は、ドイツで相当に鍛えられたみたいで、みほに勝るとも劣らない感じだもの。

 

 

 

「だからこそ、戦車の性能差と戦車数で負けるのをよしとしなかった訳か……実に貴女らしいと思うわよしほ。」

 

「褒め言葉と受け取っておくわ千代――だけど、貴女だって同じ立場だったらそうしたのではないかしら?――戦車道をやっている母親にとっては自分の娘には常に全力を出してほしいと思うのは当然でしょう?」

 

「其れに関しては否定しないわ……私だって同じ立場ならそうするもの――それに、しほが選んだ短期転校のメンバーは全員が無限軌道杯から参加した新参校のメンバー。

 其れが意味するのはつまり、ベルウォールを含めた無限軌道杯から参加した新参校の強化も目指してるのよね?」

 

 

 

……其れは否定しないわ。

ベルウォール以外の新規参加校は全て一回戦で負けてしまったけど、短期転校の裏技を使えばみほと戦う機会を得る事が出来る訳だから、そうすれば各校とも確実にレベルアップする筈よ。

みほの力は、最早全国レベルを超えているし、あの子の戦車道は実際に戦った相手に言葉では言い表せない『何か』を与えるのだからね。

 

 

 

「この親バカが!って言いたい所だけど、否定する要素がないのが悲しいわ――何にしても、此の試合は目が離せないわね?」

 

「えぇ、目が離せないわ――目を離したら、その目玉抉るわよ千代。」

 

「何てバイオレンス!!!」

 

 

 

まぁ、冗談だけどね――其れは其れとして、みほとエミさん、貴女達の戦車道を、見せて貰うわ……楽しみにしてるわね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer188

『幼馴染対決に手加減は不要です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

準決勝の第一試合である大洗女子学園vsベルウォール学園の、ある意味で玄人好みの此の試合だが、先ずは両校のオーダーを見てみよう。

 

 

・大洗女子学園

 

パンターG型×2(アイスブルーカラーは隊長車兼フラッグ車、パールホワイトカラーは副隊長車)

ティーガーⅡ×1

Ⅳ号戦車D型改(H型仕様)×1

Ⅳ号戦車F2×1

Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)×1

クルセイダーMk.Ⅱ×1

38(t)改(ヘッツァー仕様)×1

ルノーR35改(R40型仕様)×1

ソミュアS35×1

ポルシェティーガー×1

 

 

 

・ベルウォール学園

 

ティーガーⅠ×3(中須賀エミ車は隊長車兼フラッグ車)

ヤークトパンター×1

エレファント×1

T-44×1

Ⅱ号戦車F型×4

パンターG型×1

Ⅲ号突撃砲F型×1

Ⅲ号戦車L型×3

 

 

 

大洗は現在投入できる全戦力である一四輌ではなく十一輌だが、此れは単純に残るⅣ号F2二輌と、梓がパンターに乗り換えた事で空枠となったⅢ号戦車J型改(L型仕様)の乗組員が見つからなかったからだ。

学園艦の無法地帯を仕切るお銀率いるサメチームの急遽参戦はあったが、それ以外の搭乗員は見つからなかったのだ――まぁ、見つかったとしても僅かな期間で実戦レベルで使える戦車乗りにしろと言うのは可成り無理であるが故に仕方ないのだ。戦車道復活から一ヶ月足らずで聖グロと引き分けた大洗にだって無理な事はあるのだ。

 

対するベルウォールは、しほの援助と短期転校での搭乗員確保により、準決勝で使える最大車輌数に迫る十四輌と言う構成であり、真面な戦車戦性能を有しないⅡ号以外は高性能な戦車が揃っていると言えるだろう。

特に傑作重戦車と言われているティーガーⅠが三輌もあり、中戦車の最高傑作と言われてるパンターが一輌、ドイツがパンターを開発する要因になったT-34を発展させたT-44は格別だ。

無論、回転砲塔こそないが機動力と攻撃力を備えたヤークトパンター、動きは重いが最強クラスの攻撃力と防御力を誇るエレファント、待ち伏せ最強のⅢ突、特化した能力は無いが攻守速をバランス良く備えたⅢ号、そして戦車戦性能は皆無でも、車体の小ささと機動力の高さで偵察なら任せろのⅡ号と戦力バランスは可成り良いと言えるだろう。

 

そして、この両チームと言うか、ベルウォールのオーダーには、多くの観客が驚いていた――まぁ、其れも仕方ないだろう、三回戦までは実質四輌と言う状況で戦っていたのだから。

それが、大洗との試合で行き成り倍近い戦力を、其れも只の数合わせではなく実際に戦力になる戦車を投入して来たとなれば驚くなと言うのが無理と言えるだろう。

 

同時に観客の中には、ベルウォールに対してある疑念を持つ者も少なからず居た――其れはつまり、『本当は此れだけの戦力を持っていたのに、此れまでは其れを投入してこなかった……ベルウォールは三回戦までは全力を出していなかったのでは?』と言うモノだ。

実際にはベルウォールはギリギリでカツカツな状態だったのだが、其れが準決勝で行き成り戦力が潤沢になっていた事で、そう言った誤解が生まれていたのだ。

そして、其れは同時に『ベルウォールは準決勝まで勝ち進んだけど、軍神率いる大洗には何も出来ずに負けるだろう』と言う下馬評にも変化を齎していた――ベルウォールが実力を隠してたと勘違いした連中によって、エミの能力が勝手に上方修正されて、『実はみほと同レベル』になった事が原因で、略略『大洗の勝利100%』だったのが、『勝率は五分』と言うまでになっていたのだ。

 

 

「お母さん、本当に粋な事をしてくれたよ……お母さんがベルウォールを援助してくれたおかげでエミちゃんは其の力の全てを出す事が出来る。私も本気でエミちゃんと戦えるからね。」

 

「そうよね……貴女の幼馴染である中須賀エミ、是非ともその血の色を見てみたい相手だったけど、其れも全力が出せてないんじゃ意味がないからね――家元はGJだったとしか言えないわ。」

 

 

だが、其れは大洗にとっては喜ぶべき物だったようだ――何せ、隊長であるみほは女子高生とは思えない位の妖艶な笑みを浮かべており、大洗の狂犬ことエリカもまた犬歯を剥き出しにして獰猛を通り越して凶暴な笑みを浮かべているのだから。

時に、好戦的な笑みを浮かべてる女子って良くないですか?作者的にはとっても良いと思います。だって、カッコいいし――って、そんな事は如何でも良い。ソーセージロールのソーセージがウィンナーではなく魚肉ソーセージだったのと同じ位如何でもいい。

まぁ、それ程までに大洗の面々の戦車闘気はのっけからパワーマックスだと言う事だ。

 

 

「此の試合、昂るね。」

 

「そうですね、西住隊長。」

 

 

更に此処でみほと梓がパンツァージャケットの上着を肩掛けにした通称『軍神モード』になり、其れと同時に会場のボルテージは戦車戦が始まっても居ないのに最高レベルだ。

まぁ、隻腕の軍神であるみほと、軍神の一番弟子であり、軍神を継ぐ者とまで言われている梓が同時に『軍神モード』に入ったとなれば盛り上がるのも仕方ないだろう。寧ろ盛り上がって然りだ。

 

 

 

「アイアム・チョーノ!みぽりんと梓ちゃんの軍神モードとか誰得だ!?言うまでもねぇ俺得だ!!」

 

 

 

観客席の黒のカリスマも、若干と言うか盛大に暴走しているみたいだからね――何だろう、何時の日か大洗のパンツァージャケットの上着が漆黒に染め上げられて、胸元に銀で『nOs』と刻印されている気がする。

……其れは其れとして、互いに進軍していた大洗とベルウォールは先ずは草原フィールドでエンカウントしていた――準決勝第一試合のフィールドは、小さな林と小高い丘のある草原と、市街地で構成されているのだが、試合開始時の陣地の関係で、如何やったって草原でのエンカウントを避ける事は出来ないのである。

なので、このエンカウントはみほもエミも予想の範囲だったのだが――

 

 

――ダン!!

 

 

ベルウォールの部隊と相対したその瞬間に、みほがキューポラの縁に右足を叩きつけて立膝状態になって、その膝に右の肘を乗せて顔を伏せる。

『その状態でキューポラに立膝とか、スカートの中身見えんじゃね?』と思った奴は、速攻で瞬獄殺かましに行くのでその心算で。

 

其れだけでも充分に絵になるのだが、副隊長の梓もまた、みほと同じ事を左右反転させた状態でやってくれていた――隻腕の軍神と、軍神を継ぐ者によるパフォーマンスは此処からが本番だ。

 

 

「バカで勝手で笑われようと、意地が大事な戦車道。」

 

「墓穴掘っても掘り続け、突き抜けちまえば私の勝ち……お前等私を――」

 

「いや、私達大洗女子学園を!」

 

「「一体誰だと思って居やがる!!」」

 

 

はい、決まった。文句の付けようがない程に決まった――『誰って、大洗女子学園だろ?』と言う回答すら粉砕!玉砕!!大喝采!!!してしまう位に決まった!異論は受け付けない。って言うか、異論なんぞ異界送りする。

兎に角、ベルウォールとエンカウントした大洗の闘気はのっけからギガマックスなのだが……だからとってベルウォールだって負けてはいない。

 

 

「隻腕の軍神と、その一番弟子か……上等、やってやるわ!!!」

 

 

エミも負けじと、トレードマークであるツインテールを解くと同時に闘気を解き放ち、その影響で赤い髪が逆立っているようにも見える――エミもまたみほとの戦いに己の全力を、或いはそれ以上の何かを注ぎ込むのだろう。

 

 

 

其れは其れとして、ファーストコンタクトのフィールドは草原だったが、最初の天運はベルウォールに味方したようだ――なぜなならば、戦車戦を有利にしてくれる稜線は、大洗よりもより近い場所に居たベルウォールが得る事が出来たのだから。

尤も、『最悪稜線はみほにくれてやる』と思っていたエミからしたら肩透かしを食らった気分かもしれないが、稜線を取った方が有利と言う事を考えるのであれば此れは最高に良い状況であると言えるだろう。

 

 

「みほは敢えて稜線を取らせたのかしら?……普通なら舐めやがってって思う所なんだけど、みほの場合は舐めプとかじゃなく、これも作戦の内なのが怖いのよね。

 全国大会の黒森峰戦に、夏の大学選抜戦、そのどっちでもまずは稜線を取ってからだった訳だし……だけど、地形的有利を得たなら其れを活かさない手はないわ。

 全軍、攻撃開始ぃ!!」

 

 

簡単に稜線を取れた事をエミが警戒するのも当然だ――もしもみほが『敢えて稜線を取らせた』のならば、其れは間違い無くみほの作戦に嵌められたと言う事になるのだから。

だがしかし、エミにとっては其れもまた上等と言う所なのだろう。警戒しつつも、地形的有利を得る事が出来たのならば、其れは活かすべきだと、即攻撃を開始!

稜線上から大洗の部隊に向かって戦車砲の雨が降り注ぐが――

 

 

「全軍散開!そして包囲!!」

 

 

みほの号令一発、大洗の部隊は散開してベルウォールの稜線上からの攻撃を回避し、其のまま稜線をグルッと囲むようにして包囲する陣形を取り始めた。

其れも、只取り囲むだけではなく稜線を登りながらだ。

エミが警戒した通り、みほは敢えて稜線を取らせたのだ――稜線上と言う狭い場所にベルウォールの部隊を閉じ込める為に。

 

 

「ヤッパリ作戦だったわねみほ……アタシ達を稜線上に釘付けにした上で包囲してって事か――だけど、そう簡単には行かないわ!

 悪いけど、掟破りの逆軍神戦術と行かせて貰うわ……出番よⅡ号部隊!!」

 

「任せろメスゴ……マネージャー!!」

 

「ま~たメスゴリラって言おうとしたわね?……ハンブルグの黒い霧を喰らいたいのかしら?」

 

「遠慮しとくぞ!行くぞ、ヤロー共!!」

 

「「「おーーーー!!」」」

 

 

包囲されたとなれば、普通はピンチなのだが、エミは慌てる事なくⅡ号部隊を稜線上から出撃させる――何だか少々アレなやり取りがあったが特に問題はなくⅡ号部隊は出撃。

 

 

「はいはい、アタシ等登場~~!!」

 

「履帯を切りに来ました~~!!」

 

 

Ⅱ号部隊はそのまま包囲して来る大洗の部隊に突撃!

勿論十一輌全ての戦車にではなく、パンターやティーガーⅡ、ポルシェティーガーと言う火力のある戦車を狙ってだ――軽戦車で尚且つ戦車戦性能皆無のⅡ号で、最強の中戦車と言われるパンター、高性能ながら残念な部分がある為『最強の失敗兵器』と言われるティーガーⅡやポルシェティーガーに挑むのは無謀を通り越して只の阿呆なのだが、撃破が目的ではなく、狙いが履帯であると言うのならば話は別だ。

ドイツ戦車は元々足回りがあまり強くはない。

パンターは兎も角として、ティーガーⅡとポルシェティーガーの足回りの弱さは致命傷レベルであり、レギュレーションギリギリの改造を施して居るとは言え、その弱点を完全に克服できている訳ではない。……まぁ、大洗のティーガーⅡとポルシェティーガーは、本当にレギュレーションの限界とも言えるレベルで改造が施され、更にはルールで認められている部材によってルールに違反しない範囲での補強もされているのだが。

其れでも大洗の戦車の主力であるパンターとティーガーⅡ、ポルシェティーガーの履帯を切る事が出来れば包囲網の完成を防ぐ事が出来る。

何よりも包囲網の完成を防ぐ事が出来れば、その僅かな綻びから稜線を降りる事が可能になるのだから。

そして此れは、全国大会の決勝戦で大洗が黒森峰に対してやった事のオマージュでもある――エミの言っていた『逆軍神戦術』とはそう言う意味だったのだ。

 

 

「誰の履帯を切りに来たですって?……舐めんじゃないわよ小童が!!」

 

 

だが、だからと言って大人しく履帯を切らせてやる奴は何処にもいない。

そう簡単に履帯が切れるのは黒森峰の直下だけだろう……まぁ、彼女もまほと凛による『五回は脱皮した』程の猛訓練を受けた事と、黒森峰の新隊長に就任した事で獲得した『隊長補正』で『履帯の呪い』を封じ込めているのだが。

兎に角、簡単に履帯を切らせる心算は無く、寧ろあからさまな履帯切りに、エリカのティーガーⅡの砲撃がカウンター気味に炸裂してⅡ号を文字通り吹っ飛ばす!

ウィークポイントは外れていたために撃破には至らなかったが、弩派手に吹き飛ばされたⅡ号の搭乗員はさぞ驚いた事だろう。

 

 

「状況不利と見て、履帯切りで状況を好転させようとした訳か……私のお株を奪うだなんて、やってくれるねエミちゃん――けど、そう来なくちゃ!

 全軍に通達……『ブラックモクモク作戦』開始!!」

 

 

みほもまた自分を狙って来たⅡ号を履帯を切らせないようにあしらいながら、次の作戦の開始を指示。

作戦開始の通信を受けた大洗の部隊は、全戦車の車長がキューポラから身を乗り出して、其処から大洗お得意のスモークボムを投擲し稜線付近を一気に煙で覆い尽くす。

しかも今回のスモークボムは、何時も使われる白煙ではなく黒煙が発生する代物だ――スモークボム……発煙筒の煙は白が基本だが、日差しが強い場合には白煙では分かり辛いと言う理由から、より目立つ黒煙を発生させる物も少量ではあるが存在するのだ。

本来ならば其れを購入するのは難しいのだが、そこは地元茨城県との結びつきが強い大洗女子学園――新生徒会長である五十鈴華が、みほからの頼みを受けて、地元の花火会社に頼んで『黒い煙の出る発煙筒』を此の試合の為に百本ほど作って貰ったのだ。

尚、この発煙筒の代金は大洗女子学園の予算からではなく、五十鈴家からの援助金で支払ったと言うのだから驚きだ……矢張りお嬢様が居ると色々と有り難い事があるようだ。

 

尤も、此れを喰らったベルウォールの方は堪ったモノではない……大洗の目潰しは有名だから警戒していたとは言え、まさかの黒煙弾では対処も難しい。

白煙以上に視界が潰される黒煙に覆われた中で下手に動くのは致命傷であるからだ。

無論黒煙に包まれてしまっては大洗だって攻撃する事が出来ないのだが、逆に言うのならばこの場所から離脱するには充分な時間が稼げると言えるだろう。

序に言うなら、このカウンターの目潰しでⅡ号部隊の思惑を潰せたのも大きい。

 

 

で、大洗の黒煙弾が放たれてからたっぷり二十分かかって、漸く稜線の黒煙は晴れたのだが、黒色火薬の煙に包まれたベルウォールの面々は、戦車内に居た者は兎も角、キューポラから身体を出していた者は、見事なまでに煤塗れだ。

其れは当然エミもであり、三回戦の知波単戦に続いて撃破されても居ないのに煤塗れになってしまった、やーだー。……そう言えば『灰塗れ』はシンデレラだけど、煤塗れだと如何なるのか?……灰と煤って似たようなモノだから、此れもまたシンデレラか。

戦車に乗るシンデレラ……何だろう、勝てる気がしない。

そんでもって、黒煙が晴れた時には大洗の部隊は完全に稜線から居なくなっていた……まぁ、二十分もあれば離脱には充分だからね。

 

 

「ふふ……ふふふふふ……アハハハハハハハハハハ!!!」

 

 

状況だけを見るならば完全に大洗にしてやられたと言う所なのだが、其れでもエミはこの状況を見るや否や、腹を抱えて笑い出した……その姿に親友の瞳が『エミちゃんが壊れた!?』と言う位に。

あまりに笑い過ぎてその目には涙まで浮かべる始末だ。

 

 

「ちょ、大丈夫エミちゃん!?」

 

「大丈夫じゃないわ瞳……ふざけんじゃないわよ、笑わせろっての!

 何よ此れ?此れがみほの見つけた戦車道?映像を見て、トンでもないモノだってのは理解してた心算だったけど、実際にこの身で受けてみるとその理解がドレだけ甘かったかを認識させられたわ!

 敢えて稜線を取らせて包囲しようとして来たから、機動力に定評のあるⅡ号を使って履帯切り――掟破りの一発を喰らわせようとしたら黒煙弾のカウンターとか、そこまで読み切れるかっての!

 トンデモないけど、其れ以上に面白すぎるじゃないの此れ……相手の作戦を喰らって笑ったなんてのは初めてよ!――改めて、西住みほと試合をしていると実感させて貰ったわ!」

 

 

一しきり笑ってからエミは目元の涙を拭うが、その顔に浮かんでいたのは『強者と戦える事に歓喜する笑み』だ――闘争心全開の獰猛な笑みとも違う、心の底から戦いを楽しむ者が浮かべる笑みだ。

もっと言うのならば、エミはみほが初っ端から全力で来てくれた事が嬉しくてならなかったのだ……まぁ、幼馴染みが全力で来てくれた事を喜ばない人は居ないだろうが。

 

まぁ、何にしても大洗の部隊はもう此処に居ない以上は、探さねばならないのだが――

 

 

「おーいマネージャー、こんな物が地面に突き刺してあったよ?」

 

「此れって看板?え~と……『エミちゃんへ。市街地で待ってるよ。――西住みほ』……成程、そう来たか。」

 

 

Ⅱ号部隊の一人が持って来た看板によって、探す必要は無くなってた――だってその看板にはみほからエミに向けてのメッセージが記されていたのだから。

普通に考えれば、此れは罠と思うだろうが、市街地戦を最も得意としているみほが『市街地で待ってる』と言った以上、此れが罠である可能性は0だと言えるだろう。

何故ならばみほは己の市街地戦の強さに絶対の自信を持っているからだ――そんなみほが、市街地戦を囮にする事など先ず有り得ないのだ。

エミも其れは理解しているので、此れが罠であるとは思わなかったが、逆に言うのならば市街地に突入すると言うのはみほの掌の上で戦うのも同じであるのもまた事実であり、普通ならば如何すべきか悩むだろう。

 

 

「上等、市街地戦を望むって言うのならば其れに応えてやろうじゃないのよみほ……悪いけど、アタシ等だって戦力が貧弱だったから、ある物は全部使う市街地戦は貴女ほど得意じゃなくとも苦手じゃないわ。

 全軍前進、このまま市街地に向かうわよ!!」

 

 

しかしながらエミは、迷わずに部隊を市街地に向けて進軍!行軍!!大撃軍!!

市街地戦はみほの十八番だと言っても、其れが如何した……逆に其れを喰らって倒してやると言う気持ちなのだろうエミは――だから、普通なら絶対にしないであろう選択肢を選んだのだ。

 

とは言っても其処は流石の軍神みほ。

簡単には市街地に辿り着けないように、市街地への道中に様々な細工を施して居た――倒木での通せん坊は序の口で、戦車砲で拵えた大口径のクレーターに破壊された橋。

しかもそれらの場所全てに、デフォルメされたみほがヘルメットを被ってお辞儀をしているイラストが描かれた『工事中につきご迷惑をおかけします』の看板が置かれている辺り芸が細かいとしか言いようがない。

 

 

「こんな物まで……芸が細かいわねみほ。――時に瞳、アンタもこの看板要る?」

 

「記念に一枚貰っておこうかな?」

 

「普通のヘルメットバージョンと、大洗女子学園カラーヘルメットバージョンと、ボコヘルメットバージョンのどれがいい?」

 

「其れは勿論、ボコヘルメットバージョンで♪」

 

 

その看板は、エミがガッチリと回収し、大洗女子学園カラーヘルメットバージョンをエミが、ボコヘルメットバージョンを瞳が夫々持って行く事にしたしたようだ……何やってんだい君達は。

尚、残ったノーマルヘルメットバージョンは『資金稼ぎ』と称して、ベルウォールが後日ネットオークションに出品した結果、マニアによる購入合戦が発生し、最終的には落札額が、ステンレス製の『カオス・ソルジャー』をも上回る『十二億八千万』の値を付けた、アメリカのマニアが手にして、ベルウォールには多額の資金が舞い込む事になったのだが、其れはまた別の話。

 

第一ラウンドの稜線での攻防は、大洗の判定勝ちと言った所だが、互いに撃破数がゼロである事を考えれば何方が有利だと言う事は出来ないけれど、舞台が市街地へと移った第二ラウンドこそが本番だと言えるだろう。

 

 

「ウォーミングアップは出来たから、本番は此処からよねみほ……軍神との市街地戦は本来なら避けるべき何でしょうけど、貴女との市街地戦を楽しみたいと思ってるアタシが居るのも事実なのよね。

 だから、堪能させて貰うわよみほ――隻腕の軍神の市街地戦をね!!」

 

 

エミもまた、ツインテールを解いて赤い髪を風になびかせながら市街地の入り口に部隊を纏める――此処から先の市街地は、何処で何が起こるか分からないパンデモウムだから進軍は慎重にならざるを得ないが、兎も角決戦の舞台は出来上がった事は間違い無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

私達の包囲作戦に対して、まさかⅡ号を使っての履帯切りをやって来るとは思わなかったよエミちゃん――おかげで、黒煙弾を使って市街地に向かう事をせざるを得なかったからね。

私としては、敢えて稜線を取らせて、逆に包囲して追い詰めようと思ってたんだけど、その思惑はエミちゃんによって見事に看破された……エリカさん以外で私の思惑を読んだのはエミちゃんだけだよ。

 

ふふ、嬉しいなぁ……エミちゃんの強さは偽物じゃなくて本物みたいだからね。

 

其れじゃあ次は根気比べと行こうかエミちゃん?

私が市街地戦を得意としてる事はエミちゃんだって分かってるだろうから、そうおいそれと市街地に入って来るとは思えないけど、私達が討って出ない限りは、エミちゃん達の方から市街地に入ってこない限りは試合は成立しない。

さっきの掟破りの意趣返しじゃないけど、今度は私達がベルウォールに対して『待ち』を行わせて貰うよ――互いに我慢比べで、我慢が出来なかった方が負けるゲーム。

 

私もエミちゃんも我慢強い方だから、お互いに先に動くって事はないかもだけど――先に動かないって言うのなら、先に動かせば良いだけの事なんだよね。

 

既に市街地の外には狂犬を放ってるから一カ所に留まってると危険だよエミちゃん――血に飢えた狂犬は敵とみなした者は問答無用で喰い殺すって言うからね。

 

エリカさんに襲われる前に市街地に入るのが上策だと思うよ……首輪の外れたエリカさんは、私でも苦戦は免れない位のバーサーカーだから、敵と見たら速攻で撃滅しようとするだろうからね。

タイムリミットは三分……三分が経ってもエミちゃん達がその場を動かなかったら、エリカさんが強制的に市街地にベルウォールを叩き込む準備も出来ているからね。

エミちゃん、私達の戦いは此処からが本番――隻腕の軍神の本領を、見せてあげるよ!!此れが、、私の戦車道だからね!!

 

 

 

「みぽりんの戦車道?最高に決まってんだろオラ!!

 文句があるなら言えやガッデム!!俺が直々に相手になるぞファッキン!!!」

 

「確かに最高だな……みほちゃん、君の戦車道愛は、俺の『プロレスLove』に匹敵するものを感じたぜ……戦車道の美味しい所、全部もってけ。」

 

 

 

あはは……うん、観客席がなんか凄い事になってるけど……私達は私達の試合をするだけ。

エミちゃん、ドイツで得た其の力、堪能させて貰ったど、私はまだ満足できないから、もっともっと満足させてよ?―エミちゃんとの戦うのを楽しみにしていたから……此処からは、隻腕の軍神の真骨頂で行かせてもらうから!

勝っても負けても言いっこなし!!――市街地戦は私の十八番だけど、だからと言って一方的な戦いにはならないだろうからね――市街地で待ってるよエミちゃん!!――持てる力の全てをぶつけあおう……其れが、私達の望みでもあるんだからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer189『市街地戦はマジでViolenceです!』

エミちゃんとの真剣勝負……良いねByみほ        幼馴染同士で真剣勝負……良い響きだわByエリカ      本当に良い響きですねBy小梅


Side:エリカ

 

 

序盤戦は互いに策を披露しながらも損害はゼロだったけど、ベルウォールの視界を潰した上で市街地に行く事が出来たって事を考えれば、初手は私達大洗が取ったと言えるでしょうね。

市街地戦はみほの十八番……其れこそ、今の日本国内で、否世界中を探しても市街地戦でみほと遣り合える戦車乗りなんて片手で数えて足りる程しか居ないんじゃないかと思うわ。

寧ろ、みほと遣り合えたら其れは本気でエイリアンの可能性が否定出来ないわよ――みほを相手にしての市街地戦は本気で何が起きるか分からないからね?

上から何が降って来るんじゃないかと警戒してれば落とし穴が待ってるし、地面に何か仕掛けられてるんじゃないかと思ったら上から何か降って来るって言う鬼難易度だからね。

 

ベルウォールの指揮官である中須賀エミは、その辺も分かってるだろうから大洗の部隊が市街地に居ると分かってても攻め込む事が出来ないんでしょうね。

でも、其れは間違いじゃないわ……自ら罠に飛び込むなんてのは自殺行為でしかないのだからね。

 

だけど、アタシは根競べをさせる心算なんて毛頭ないのよ……悪いけど、アンタ達には強制的に市街地に行って貰うとするから、覚悟しなさい。

 

 

 

「エリカの笑みは正に狂犬だな。お前に噛みつかれたら、腕の一本は持って行かれるかもな。」

 

「アイン、何なら試してみる?」

 

「遠慮してく。腕を喰いちぎられると言うのは相当に痛いだろうからな。」

 

 

 

痛い所じゃスマナイと思うわアイン――下手したらショック死するって。

だけど、此処からは大洗の狂犬と言われているアタシが相手になってやるわ――まぁ市街地に追い込むのがアタシの役目だけど、撃破するなとは言われてないから、思い切りやらせて貰うわよ?

狂犬の牙から逃れる事は出来ないと、其の身を持って知るが良いわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer189

『市街地戦はマジでViolenceです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

大洗の部隊が到着したのに遅れる事二十分、ベルウォールの部隊は市街地前まで来ていたのだが、其処から一気呵成に攻めると言う事はなく、只只管に街の前で止まっていた。

だが、其れもまた仕方ないだろう――大洗、と言うかみほが最大の力を発揮するのは市街地戦であると言う事は日本の戦車道関係者なら誰でも知って居る事であり、エミもまた大洗との試合を前に何度もみほの試合の映像を見た事で、みほの市街地戦での強さと言うモノを理解しているから先に進めないでいるのだ。

 

 

「今度はアタシが待ちを喰らうとはね……さて、如何したモノか。」

 

 

市街地で待つ大洗と、市街地の入り口で進撃できないでいるベルウォール……状況的にはフラッグ車を餌にして知波単を待っていたベルウォールと其れに乗るかどうか迷っていた知波単と似ているのだ。

違うのは今度はベルウォールの方が如何するかの判断を迫られていると言う所だろう。

 

エミとしてはみほが痺れを切らして市街地から出てくる事に期待したいのだが、其れは期待できないだろう――自らアドバンテージを手放す様な真似はする筈がないのだから。

 

 

「大洗の隊長は市街地戦がガチ強いんだろ?マジで如何すんだマネージャー?市街地に入ったらオレ等が勝つの難しくね?」

 

「市街地に入らなくても、元々アタシ等の勝率は五十%も無いわよ……後五分、後五分だけ待って大洗が市街地から出て来なかったらこっちから市街地に入って仕掛ける。

 その準備はしておきなさい!」

 

 

とは言え、このまま此処で止まっている訳もいかず、エミは『五分後に市街地に突入する』と言うと同時に、その時の為に気を引き締める……五分後にはみほのフィールドである市街地に突入するのだから当然だ。

だがしかし、みほが果たして五分間の猶予を与えるだろうか?

みほは戦車道に於いては相手が誰であっても決して容赦はしないし手加減もしない。中学時代の戦友だった者が居る聖グロ、サンダーズ、アンツィオにも、実の姉が居る黒森峰にも、年下の愛里寿率いる大学選抜にも一切の容赦はなかった。

つまり、幼馴染みのエミに対しても手加減なんてモノはない訳で……

 

 

「入り口で井戸端会議とは余裕ね、ベルウォール!!」

 

「んな、逸見エリカ!?」

 

 

此処でエリカがベルウォールの部隊を強襲!

市街地に入ってすぐにみほから『エミちゃんは市街地に入るのを躊躇う筈だから、市街地に入らざるを得なくしてほしい』と言われて、ベルウォールを市街地に強制突入させるために動いていたのだ。

 

まぁ、此れだけならば別に問題はない。自分の土俵に相手を強制的に引きずり出すのは当然の事なのだから……だがみほがエリカに言ったのはベルウォールを市街地に強制的に突入させろと言う事だけではない。

 

『方法は問わないよ。エリカさんの好きにして。』なんて事を言ったのだ。――普通に考えればアバウト極まりない指示とも言えない事なのだが、此れがエリカにとってはリミッター解除のパスワードだった。

『好きにして』と言う事は、つまりベルウォールを市街地に強制突入させる事が出来れば後は如何なっても構わないとも取れる訳で、そんな事を言われたエリカは……

 

 

「ほらほらほら、止まってると撃っちゃうわよ?撃破しちゃうわよ!!」

 

「『撃っちゃうわよ?』って言いながら既に撃ってるじゃないのアンタ!!」

 

 

普段は自分の凶暴性を抑える為に自らかけていたリミッターが完全解除されて、『大洗の狂犬』の二つ名に恥じない凶暴性を惜しみなく全開にしてベルウォールの部隊に襲い掛かる。――エリカの二つ名は『孤高の銀狼』じゃないのかって?

銀狼ってのは確かにカッコいいけど、エリカには狂犬の方が合ってるでしょ?寧ろ、敵と認識したら相手が誰であろうとも噛み殺そうとするなんてのは狂犬でしかない。

其れは、下手をしたら格上の相手に無謀に挑んで返り討ちにされる危険性もあるが、普段は理性で抑えている凶暴性を解放したエリカは正に血に飢えた野獣其の物である為、格上の相手であっても喰い殺す、最低でも刺し違える――中学時代に、最強と言われていたみほと引き分けたのがその証拠だ。

だからこそ、ティーガーⅡ一輌での強襲であっても充分に効果はあるのだ。

 

 

「ほらほらほらぁ、足を止めてたら速攻で撃破するわよ?あぁ、反撃しても良いのよ……出来るならね?アタシに盾突くってんなら喜んで相手になってあげるわ。

 お望み通り、狂犬の牙で引き裂いてやるわ。」

 

 

だって、その状態のエリカの顔に浮かんでいるのは本能的に恐怖を覚える凶暴な表情なのだから……言うなれば『本当にコイツ人間か?』と思いたくなる程の顔なのだ今のエリカは。

 

 

「アハハハハ!!そらそらそら!やっちゃうわよ?やっちゃうわよ?やっちゃうわ……キョォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

「ちょっ、遂に人語を失った!?」

 

「ふぅ…ごがぁぁぁぁぁぁ……ウガァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

そして、狂暴性がマックスを超えた結果エリカの凶暴性が暴走した結果、エリカは『ホウゲキノオトノナカセンシャノチニクルフエリカ』こと『暴走エリカ』にランクアップ!

若干意味が分からないかも知れないが、今のエリカは可成りヤバい状態なのは間違い無いだろう。

 

 

「ちぃ……全員市街地に!市街地に入ったら散開!……遭遇戦で大洗を撃破して行くわよ!!」

 

 

このエリカのヤバさを悟ったエミは、全軍に市街地に突入するように命じると共に、市街地に入ったら散開するように命じる――市街地戦では大洗に分があるが、だからと言って戦う方法がない訳ではない。

部隊を散開させ、大洗の戦車とエンカウントしたら撃破すると言う各個撃破ならば、充分に渡り合えると考えたエミの見事な采配だ。

 

かくしてベルウォールの部隊は市街地に入ったのだが……

 

 

「クハァァァ……ガァァァァァァ!!」

 

「坂口、エリカが『連中を追え』だとさ。」

 

「あ、あいーーーー!!」

 

 

エリカ率いるティーガーⅡも其れを追うように市街地に――エリカは未だに暴走中なので、アインが通訳を務めていたがな……だがしかし暴走エリカの言葉が分かるアインは一体何者なのか――其れは聞いたら負けなんだろうな。

ともあれ、市外地に突入したベルウォールを追う形で市街地に入ったティーガーⅡは間違い無く最強となっていると言えるだろう。だってエリカが暴走しているのだから。

ぶっちゃけ狂犬のエリカと遣り合えるのはみほだけだろう。

ともあれ、市街地に強制的に突撃させられたベルウォールが一気にアドバンテージを失ったのは間違い無いだろう――何度も言うが、みほの十八番は市街地戦だ。

その市街戦になった時点でエミの勝率はガクンと下がったのだが……だからと言って、悲観するエミではない。

 

 

「あくまでも市街地戦で決着って事?……良いわ、貴女が其れを望むのなら、トコトンそれに付き合ってやろうじゃない!!」

 

 

寧ろ『市街地戦上等』と言わんばかりの表情で市街地に飛び込んで行ったのだった……隻腕の軍神の幼馴染もまた、戦車道の常識が一切通じなない戦車乗りだったようだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・

 

 

 

そんな訳で市街地戦が始まり、ベルウォールの部隊は十五輌の内、Ⅱ号を除く十一輌を五つの極小隊に分け、更にⅡ号は一輌ずつバラバラに動くと言う作戦をとった。

Ⅱ号はそのフットワークの軽さを活かして偵察を務め、残りの五つの極小隊は遭遇戦で大洗と戦う布陣なのだが、此れは単純に遭遇戦で戦うと言うだけでなく、部隊を小分けにする事で一撃で全滅するのを避けたとも言えるのだ。

だが、だからと言って安心は出来ない。市街地である以上、アドバンテージは圧倒的に大洗にあるのだから――それだけに、エミとしてはファースト撃破はベルウォールが取りたいと考えていた。

先に相手戦車を撃破する事が出来れば、多少は流れを此方に引き寄せる事が出来る可能性があるからだ。

だから、エミはⅢ突とⅢ号と一緒に街中をくまなく探しているのだが……

 

 

「居ないわね……其れは兎も角、目の前の此れはめっちゃ怪しいわねぇ?って言うか、怪しい以外の何物でもないわ!如何考えたって大洗がやったわよね此れ!!」

 

 

エミの目の前に現れたのは、横断歩道にデカデカと吊るされた『ようこそベルウォール学園御一行様』の横断幕!しかも、可成り凝ったフォントを使っている上にベルウォールの校章やエミの似顔絵まで書かれていると言う手の込みよう。

エミが思わず突っ込んだのも仕方ないだろう……まぁ、みほの考える事を理解出来る人がドレだけ居るのかは分からないから、大概の人は突っ込むしか無いのだと思うが。

 

だが、此れで怯むエミではない。

 

 

「あっけにとられたアタシ達を撃破する心算だったんだろうけど、そうは行かないわよみほ……歩道橋の階段に向かって攻撃!」

 

 

 

――バガァァァァァァァァン!!

 

 

 

歩道橋の階段に向かって攻撃を指示し、砲手が言われたとおりに攻撃すると、着弾直前に何かが粉々に砕け散って、その砕けた何かの先には大洗のⅢ突が!

そう、Ⅲ突は背景を書き込んだ書割に身を隠して、ベルウォールの部隊が歩道橋を通過しようとしたら其処に不意打ちをかましてやる心算だったのだ――が、其れをやる前にエミに見破られてしまい、逆に先制攻撃を喰らってしまったのだ。

Ⅲ突は低い車高と高い攻撃力を有する突撃砲だが、防御力が特別高い訳では無い……なので、書割と言う遮蔽物があったとしても、ティーガーⅠの長砲身八十八mmを喰らったら一溜りもない。

 

 

 

――キュポン!

 

 

 

『大洗女子学園、Ⅲ号突撃砲行動不能!』

 

「な、何でバレたぜよ!!」

 

「って言うか私等の出番此処で終わりかぁ!?」

 

「納得がいかーん!!」

 

「私達は噛ませ犬じゃないぞ~~~!!!」

 

 

 

こうしてⅢ突は敢え無く白旗判定に……歴女諸君が何か言ってたが、其れに関しては御愁傷様としか言いようがない――君達は犠牲になったのだよ、エミの凄さを伝える為にね。

如何してエミが此のカラクリに気付けたのかと言えば、其れは大学選抜戦の映像を見ていた事も大きいが、エミは書割と実際の歩道橋の階段のホンの僅かなずれを見抜いていたのだ。

其れは本当に僅かなモノであり、普通ならば見逃してしまいそうなものだが、みほの市街地戦のヤバさを映像で見て実感したエミは、警戒感マックスだった事で気付く事が出来たのだ。

だが、此れでファースト撃破はベルウォールが取った――なので流れは少しばかりベルウォールにも向いたか――

 

 

 

『ベルウォール学園、Ⅱ号一号車、二号車、三号車、四号車、行動不能!』

 

 

 

と思った所で、何とベルウォールのⅡ号が立て続けに連続で撃破されたとのアナウンスが!

Ⅲ突を撃破した直後にⅡ号が全滅した事で、此れで残存車輌数は大洗が十、ベルウォールが十一……試合開始時には四輌だった差が一気に一輌差になってしまったのだ。

 

 

「んな、一体何が起きたの?状況説明!」

 

『いや~~、偵察してたら行き成り横からドカーンって……立体駐車場のリフト倉庫の中からブチかまして来たみたいだね。』

 

『行き成り上から信号機が降って来たよ!』

 

『マンホールの上を通ったら地面が突然陥没して撃破判定に!』

 

『ティーガーⅡに狙われちゃいました……怖い、狂犬怖い。』

 

「なんじゃそりゃ……取り敢えず逸見エリカに狙われたのは御愁傷様だったわね。」

 

 

毎度お馴染みなトンでも戦術でⅡ号を撃破したのは流石の大洗だ――Ⅱ号の撃破は、つまりベルウォールの偵察手段を封殺したと言える……偵察が出来なくなると言うのは、市街地戦に於いては可成りの痛手になるのだから。

だから、其れを踏まえればエミからしたら非常に良くない状況なのだが……

 

 

「ふふふ……ははははは……あ~っはっはっはっは!そうよみほ、そう来なくちゃ面白くないわ!

 隻腕の軍神の真骨頂は市街地戦なんだから、アタシ等の偵察部隊を全滅させるくらいは雑作も無いわよね?……最高よ、燃えて来たわ!!」

 

 

この状況もエミの闘争心を燃え上がらせるには充分だった。

数のアドバンテージが無くなった?市街地戦だからアドバンテージは大洗にある?って言うか隻腕の軍神と当たった時点で終わりじゃね?其れ以前にあの軍神マジで勝てる気がしねぇんですけど――其れが如何した?

ベルウォールと大洗に大きな差があるのは間違いない……大洗の部隊は大半が今年から戦車道を始めた初心者だが、みほ達経験者の指導と訓錬があった事で、その腕前は僅か半年で熟練者の其れに匹敵している。

逆にベルウォールは戦車道そのものは存在していたモノの殆ど幽霊状態であったために隊員の練度は極めて低いと言わざるを得ない……それをこの短期間で戦えるレベルにしたエミには脱帽しかないのだが、何れにしても大洗がベルウォールよりも格上なのは確かだろう。

だが、相手が格上だからと言って諦めるエミではないのだ。――いや、エミだからこそ諦めない。

だってエミは幼少期に、みほが格上であるまほに挑んだ姿を見ていたから……あの時のみほは絶対に諦めなかった、其れをエミは知ってるからこそ諦めると言う選択肢はそもそも存在しないのである。

 

 

「フラッグ車であるアイスブルーのパンターを、みほを探すわよ……みほ以外は全部無視する。良いわね?」

 

「エミちゃん……分かった。みほちゃんとの直接対決で決めるんだね?」

 

「それ以外に何があるって言うのよ瞳――其れに、みほだって市街地戦に誘導していてもアタシとの直接対決を望んでいる筈だわ……分かるのよアタシには……アタシもみほも、六年間もこの時を待っていたんだからね。」

 

 

そしてエミが選択したのはみほとの直接対決だ。

フラッグ車同士の一騎打ちならば、数の差なんてマッタク持って関係ない文字通りのデッド・オア・アライブ――その戦いを制した方が勝者となる至極分かり易いバトルだ。

 

 

 

『大洗女子学園、クルセイダー行動不能!』

 

『ベルウォール学園、Ⅲ号二号車行動不能!』

 

『大洗女子学園、ソミュアS35行動不能!』

 

『ベルウォール学園、Ⅲ号四号車行動不能!』

 

『大洗女子学園、ルノーR35行動不能!』

 

『ベルウォール学園、エレファント行動不能!』

 

 

 

そして其処からは一進一退の撃破合戦だ。

大洗が一輌撃破すればベルウォールがお返しとばかりに一輌撃破すると言う『やられたらやり返せ』なガチンコの殴り合いな消耗戦と言っても過言ではない激しい戦車戦だ。

大洗が歩道橋を破壊してその瓦礫でベルウォールの戦車を撃破すれば、ベルウォールも負けずに掟破りの戦車プレスで大洗の戦車を撃破するというカオスな試合展開になっているのだ……カオス・ソルジャーもビックリなカオス具合だ。

だが、だからこそフラッグ車同士の一騎打ちは観客からしたら燃える展開だろう。

 

 

 

「フラッグ車同士の一騎打ちだ?やるじゃねぇかベルウォール!そう来なくちゃ面白くないぜ!!武藤さんもなんか言ってやれ!!」

 

「戦車道はプロレスと同様に最高のエンターテイメントだ……だから、真剣勝負の中にエンターテイメントを忘れちゃダメだぜ。

 だから、フラッグ車同士の一騎打ちに打って出た君は最高のエンターティナーだぜ中須賀エミちゃん!――其れを受けたみほちゃんもだけどな!

 此の試合、まだまだ分からないぜ……Year!!

 みほちゃん、エミちゃん、君達の戦車道Loveを見せてくれ!」

 

 

 

そして、観客席では黒のカリスマと、その盟友である天才が絶好調だった。

因みに作者は、膝の手術が原因で、天才のムーンサルトプレスが二度と見れなくなってしまったのが残念でならない……武藤さん、俺は貴方のムーンサルトを生涯忘れないぜ。

 

失礼、話題が逸れたな。

市街地では各地で激しい戦闘が行われ、大洗もベルウォールも互いに戦力を磨り潰す様な戦いが繰り広げられている――其れだけ実力が拮抗していると言う事なのだろうが……

 

 

 

「みほ……漸く見つけたわ。」

 

「エミちゃん……やっと来てくれたね。」

 

 

 

そんな中で、みほとエミは遂に邂逅した。

互いにその目に宿るのは闘気……眼前の敵を倒せと言う、極めて原始的で攻撃的な純粋な闘気だ――そうなってしまう程にみほとエミの闘気は練り上げられているのだろう。

ともあれ、フラッグ車同士の一騎打ちならばこれ以上分かり易いものは無いだろう――勝った方が勝者になるのだから。

 

 

「全力で行くわみほ……決着を付けましょう!」

 

「望むところだよエミちゃん……此の試合、勝利は譲らない!」

 

「勝利とは譲り受けるモノじゃない……自らの手で捥ぎ取るモノよ!!」

 

「だったら、その勝利は私が捥ぎ取る!!」

 

「ほざけ、簡単には捥ぎ取らせないわよ!!」

 

 

みほもエミも互いに闘気をマックスブレイク状態にして対峙し、そしてその闘気を遠慮なくぶつけ合わせている――其れだけに、此の試合は只では済まないだろう。

隻腕の軍神と、軍神の幼馴染とのガチンコ対決が今まさに幕を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer190『限界を超えろ!死力を尽くせ!です』

本気を超えた死力を尽くす!Byみほ        死力を尽くした文字道理の死闘ってか!Byエリカ      見ている方も血が踊りますね!By小梅


Side:みほ

 

 

互いに戦力の削り合いみたいな試合展開になってたけど、双方戦力の半分を失った所でエミちゃんは私の前に現れた。現れてくれた。――ならば言葉はもう必要ない。

想いは、戦車でぶつけ合うだけだからね!

 

「優花里さん、装填速度をもう少しだけ早くして!」

 

「了解であります西住殿!不肖秋山優花里、西住殿の為ならば、ジーパンとTシャツだけでエベレストを踏破する事も出来ると思うであります!!

 火事場のクソ力でありますよ!!」

 

 

 

あはは、そう来たか……沙織さん、他の戦車との通信は?

 

 

 

「感度良好問題なし!作戦を各車に伝えるなら任せてよみぽりん……アマチュア無線二級は伊達じゃないから♪」

 

「うん、頼りにしてると沙織さん――華さんは、如何ですか?」

 

「うふふ、一切問題ありませんよみほさん。

 今の私ならば、相手が誰であっても撃ち抜く事が出来る気がしますわ……必中は約束しますので、遠慮せずに命令してくださいみほさん。その命には応えて見せますから。」

 

「頼もしいね華さん。

 麻子さんの方は如何ですか?此処からは可也無茶な操縦を要求する事になると思うんだけど大丈夫ですか?」

 

「問題ない……だから、貴女の思う様に命令してくれ西住さん……西住さんが望むなら私はドレだけの無茶でもやってやる。その心算だからな。」

 

 

 

なら、その時は頼りにさせて貰うよ麻子さん。

さて、決着を付けようかエミちゃん?――私の戦車道をその身で感じて貰うから覚悟してね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer190

『限界を超えろ!死力を尽くせ!です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

市街地の公園で睨み合うのは大洗の隊長車にしてフラッグ車の車長にして大洗の隊長である西住みほと、新参校乍らシード権を獲得して準決勝まで駒を進めて来たベルウォールの隊長兼マネージャーでフラッグ車の車長である中須賀エミ。

無限軌道杯で再会した幼馴染が準決勝と言う大舞台でぶつかると言うのは、戦車道ファンでなくともかなり燃える展開だろう――加えて今の状況は互いにフラッグ車でありながら護衛も居ないタイマンの状況、此れから始まるのはフラッグ車同士の殴り合いなのだから。

普通ならば観客席は大盛り上がりなのだが……

 

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

 

客席はシン……っと静まり返っていた。何故か?

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

みほもエミも互いに睨み合ったまま動かないからだ。

みほは肩に引っ掛けたパンツァージャケットを風に靡かせながら、エミは腕組みをして顔だけをみほに向けながら互いに相手を見ている……『気組み』と言われるモノに近い状態だが、みほとエミの其れは武術の達人が行う其れのレベルに近いと言える。

互いに無言で見合ってるだけなのに、其処から溢れ出す闘気は凄まじいモノがあり、其れはモニター越しであっても観客に伝わる程なのだ。

此れが漫画やアニメだったら、みほの戦車から青の、エミの戦車から赤の闘気が発生して、其れがぶつかって火花放電やら何やらが起きていると言った状況だろう。

 

時間にしたら五分も経ってないだろうが、観客には既に何十分も経過したと錯覚する者も居るかも知れない。

永遠に続くかと思われた睨み合いだが……

 

 

「合図だぜみぽりん、エミちゃん……ガッデメファッキン!」

 

 

――タララタララダンダンダラララ、ダララダララダンダンダララー!(推奨BGM:クラッシュ。蝶野正洋入場テーマ。)

 

 

黒のカリスマの一喝と共に、会場全体に大音量で黒のカリスマの入場テーマが鳴り響き、其れと同時にみほとエミも動く!

試合会場と客席は可成り離れている為、みほとエミに黒のカリスマの合図と、入場テーマが聞こえたとは思えないが、聞こえずとも分かったのだろう……一流は一流を知ると言うが、つまりはそう言う事なのだろう。(如何言う事だ?)(考えるんじゃない感じるんだ。)

 

こうして睨み合いから一転して始まって戦車戦、動いたのは同時だったが先に撃ったのはエミだ。

ティーガーⅠの性能は最高クラスであり、レギュレーションで許可されてる重戦車の中ではパーシングに次ぐ高性能な重戦車であり、パーシングを使用する学校のない高校戦車道界隈では最強の重戦車と言えるだろう。

火力や防御力はティーガーⅠよりも優秀な重戦車はあるが、パーシングを除いてはそれらの重戦車には利点を完全に潰してしまうレベルの欠点もあるので、総合力でティーガーⅠは勝るのだ。

そして、ティーガーⅠの火力は長砲身の88mmと屈指の破壊力を誇るため、パンターが相手ならば何処に当てても撃破する事は可能であり、だからこそエミは先に撃って出たのだ。

ティーガーⅠならばパンターの何処に当てても撃破出来るのに対して、パンターは最強の中戦車とは言え、ティーガーⅠの装甲を抜くにはティーガーⅠの有効射程圏の内側に入らなければならない……攻防力に関してはエミの方に絶対的なアドバンテージがあるのだ。

 

 

「……不意打ちの心算だったのに、其れを避けるって、フラッグ車の操縦士は相当な手練れみたいね。」

 

 

だが、その砲撃をみほのパンターは紙一重で躱す。

攻防力ではティーガーⅠの方が上だが、機動力に関しては最高時速でパンターの方がティーガーⅠを17kmも上回っている上に、大洗のパンターは、レギュレーションに違反しないギリギリの範囲で自動車部による魔改造が施されている為、カタログスペック上の最高速度である55kmよりも速い最高速度65kmを誇る。

加えて其れを操るのはマニュアルを一度見ただけで操縦を覚えてしまうと言う稀代の天才である麻子だ――全国大会決勝戦で、まほの乗るティーガーⅠの猛攻を掻い潜った麻子からしたら、不意打ちだとしても『見える』砲撃ならば避けるのは容易いのである。

加えて驚くべきは今の回避に関して、みほは麻子に具体的な事は言っていない……『麻子さん。』『おうよ。』此れだけだ――此れで通じてしまうみほと麻子の信頼関係たるや物凄いモノがあると思う。

普段はあまり絡む事のないみほと麻子だが、車長と操縦士としての信頼関係はバッチリと出来ているのだ、其れも最高と言えるレベルで!

余り普段関わる事のないみほと麻子の間になぜこれほどの信頼関係が出来ているのかと問われれば、其れは沙織の功績だと答える事になるだろう――友人思いで、若干世話焼きな沙織は麻子に少しでも戦車道に馴染んで貰おうと、二人きりの時はみほが如何に凄いかを麻子に聞かせ逆にみほには『実は麻子って~~』と言った感じで麻子の凄い所を聞かせていたのだ。

其れは傍から見れば友達から聞かされた情報に過ぎないが、みほからすれば麻子は沙織の言った通りの凄い人であり、麻子からすればみほは沙織の言っていた通りの凄い人だったのだ。

共通の友人から聞かされた事が真実だったが故に、其処には絡む事が少なくとも強固な信頼関係が生まれたのだ……沙織さん、アンタGJだわマジで。戦車道での活躍に恵まれてなくても、縁の下の力持ちだよ。

 

 

「良くもまぁ、当てる心算で放った砲撃を悉く躱してくれるわねみほ?貴女のパンターの操縦士、大学から指名入るんじゃないの?もしかして、無名だけど、中学時代から鳴らしてた奴なのかしら?」

 

「ところがギッチョン、聞いて驚け今年からなんだよエミちゃん!」

 

「は?今年から始めてそのレベルって、ドンだけの天才よそいつ!ぶっちゃけ普通に有り得ないわ!」

 

「麻子さんは一度マニュアル読んだだけで戦車の操縦を覚えちゃう天才なんだよエミちゃん♪因みに、成績は勿論トップで、沙織さんに聞いた話によれば、定期考査は去年から中間考査は500点満点、期末考査は900点満点でトップ街道を独走してるんだって。」

 

「はぁ!?有り得ないでしょ普通に其れ!」

 

「うん、其れは私も思った。

 そして麻子さんだけじゃなく、大洗の面々は黒森峰組と梓ちゃんとクロエちゃん以外は今年から戦車道を始めたにも関わらずこのレベル……大洗は原石が掘れば幾らでも出て来る最高の採掘場だったみたい。」

 

「その原石は、貴女と言う研磨機によってダイヤモンドになった訳か……ったく、本気で規格外だわみほって――ベルウォールも大洗と似たような状況と言えるけど、アタシはベルウォールの連中を其処までのレベルには出来なかったからね。

 だけど、其れでもアタシはアタシに付いて来てくれる馬鹿共を頼りにしてるのよね……そして、アイツ等もアタシを頼りにしてくれてるから、だったら其れに応えるしかないじゃない?」

 

「うん、その意見には諸手を上げて賛成だよ。」

 

 

公園内での攻防は続き、みほとエミは戦闘中でありながらも言葉を交わしているが、互いに浮かべているのは笑顔――みほもエミも、楽しくて仕方ないのだ、この時が。

みほは中学時代はエリカと小梅と言うライバルが居たが、高校になってからはそのライバルが同じチームになった事でライバルが不在の状態になってしまっていた――ダージリンもケイもアンチョビもカチューシャも、そしてまほも強敵だったが、何れも三年生なので来年度は居ないのだ。

そして同学年の戦車道履修者でみほに匹敵する者はエリカと小梅以外には存在しない――まほと凛にガッツリ鍛えられた直下の実力は未知数なので除外するが。

だが、だからこそ戦力面で劣っているにも拘らず自分と互角に遣り合ってるエミとの戦いが面白かったのだみほは。

そしてエミも、ドイツでは混血である事を理由に実力を正当に評価されずに嫌がらせを受け、其れに嫌気がさして留学した先のベルウォールは壊滅的な状況であり、何とか戦車道を復活させたモノの、練習試合の相手は聖グロのパチモンだった。

三回戦の知波単戦は楽しめたが、完全に満足するには足らなかった……だから、死力を尽くしても勝てるかどうか分からないみほとの戦いは深層心理で楽しさを感じていたのだ。

 

 

「エミちゃん、私達の戦いに公園は狭すぎるから、広い場所に移動しようと思うんだけど如何かな?」

 

「……受けるわみほ。どうせなら広い場所で決着を付けたいと思ってたからね。」

 

 

攻めるエミと避けるみほの攻防が続いた結果、公園は哀れにも廃墟になってしまいましたとさ……ブランコが吹っ飛び、滑り台は中腹から上が吹っ飛ばされ、鉄棒は屑鉄と化し、築山は完全崩壊と言う見るも無残な状態に。

そして、此れ等の損害の弁償は全て連盟の方でやってくれると言うのだから驚きだ。

 

そんなグラウンドゼロを起こしたみほとエミは、この市街地で最も広い場所――駅前のバスターミナルのある広場を目指して戦車を進めて行った。

……駅前広場にはホテルやらコンビニ、ファーストフード店に待機しているバス数台、そして映画館やゲームセンターが入ったビル、駅の出入り口からホテルや各種ビル、駅前の各道路の歩道まで広がっている超大型の歩道橋が存在しているのを考えると、連盟が弁償すべき金額はトンデモ無い事になるのは間違い無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

みほとエミのフラッグ車同士の一騎打ちが行われている以外にも、各所で激しい戦車戦が繰り広げられており、状況は正に一進一退だ。

隊員の質で言うのならば大洗の方が上だが、ベルウォールの隊員は大洗の隊員以上の粘りと根性があるらしく、その粘りと根性を持ってして互角の戦いをしていた。まぁ、短期転校で他校の戦車道の生徒が居ると言うのも大きいだろうが。

 

兎に角、撃破して撃破されてを繰り返した結果、両校の残存車輌は大洗が四、ベルウォールが五となっていた。

大洗がギリギリの数になるのは何時もの事だが、ギリギリの戦いを強いられたのは常に格上の相手であり、格下の相手にギリギリの戦いを強いられた事はない。アンツィオにしろBC自由にしろ、格下の相手は圧倒して来たのだ。

にも拘らず、本来格下である筈のベルウォールに此処まで追い込まれていると言う現実に、ベルウォールの快進撃も此処までだと勝手に決め付けていた、所謂『ニワカ』ファンの意識は強制的に変えられていた。

全国制覇の大洗を相手に此処まで互角に戦う事が出来ていると言う現実をみて、『もしかしたら今大会最大の番狂わせが起きるかも?』と思い始めているのだ。

 

因みに大洗の残存車輌だが、みほのフラッグ車以外では副隊長の梓、そしてエリカと小梅……ある意味で残るべくして残ったと言えるだろう。

対するベルウォールで残ったのはエミのフラッグ車、パンター、T-44、ヤークトパンター、Ⅲ号だ。

三輌あったティーガーⅠで生き残ってるのはエミのフラッグ車のみなのは、一輌は『大洗の首狩りウサギ』『重戦車キラー』の異名を持つ、梓率いるウサギチームが、みほ張りの裏技を連発した挙げ句に撃破し、もう一輌はレオポンチームと戦っていたのだが、レオポンの操縦士のツチヤが無茶な動きを連発した事が原因で履帯とエンジンが限界を迎え、追いかけられている最中で履帯が切れ、エンジンが火を噴いて撃破判定に。

其れだけならば只の自滅で終わったのだが、追いかけっこをしていたため、最高速度を出していたベルウォールのティーガーⅠは急停止出来ず、自滅してしまったポルシェティーガーに豪快に突っ込んで此方も撃破判定に!

こんだけ凄い衝突をしても、搭乗員は煤だらけになっただけでかすり傷一つ負ってないと言うのだから、特殊なカーボン恐るべし。

 

さて、現状では……

 

 

「T-44、絶対に此処で足止めする!西住隊長の所には行かせない!

 クロエ、直進してから右旋回!あゆみ、右旋回直後に道路の案内板のポールを撃って案内板を落として!」

 

「任されたヨ梓!」

 

「アレって実は結構大きいんだよね?上から落としちゃって大丈夫なのかな?」

 

「戦車の装甲はアレがぶち当たった位じゃ屁とも感じないから大丈夫!!」

 

「ん、そう言う事なら了解。……けどさぁ梓、幾ら試合中で気分が高揚してるって言っても、言葉は選ぼうよ?JKが屁とか言うのはNGっしょ絶対。」

 

「……肛門から排出される腸内部に溜まったガス程も感じないって言えばいいのかな?」

 

「ゴメン、アタシが悪かった。そっちの方が生々しかったわ。」

 

 

ウサギチームがT-44をみほの下へ行かせまいと足止め。

エンカウントした当初は撃破する心算だったのだが、粘りと根性によって裏技を仕掛けても撃破されないT-44に対して、梓は撃破ではなく足止めを選択したのだ。

此れにより自分はみほの援軍に行く事は出来なくなるが、自分が行けなくても小梅とエリカの何方かが必ず向かってくれる――そう考えての上での選択だった。

 

 

 

「Ⅳ号H型とⅢ号だと、実はそこまで大きな性能差は無いんですよね……お互いに、相手の装甲を抜くだけの火力がある訳ですから。」

 

 

一方で小梅はⅢ号を相手にしていた。

Ⅳ号H型とⅢ号L型だと、一見するとⅣ号H型の方が性能が上に見えるかもしれないが、Ⅲ号L型もⅣ号同様に大戦期の最後まで戦い抜いた優秀な中戦車であり、機動力に関してはⅣ号H型よりも上回っている。

故に、総合すれば略五分であるが為に、小梅も攻めあぐねていた。

確実に性能が下であるのならば蹂躙出来た、確実に性能が上であるのならば裏技搦め手上等の『みほ流』で狩る事が出来る――だがしかし、性能が略五分となると話は別だ。

五分であるのならば蹂躙するのは難しいし、裏技搦め手でハメるのは格ゲーのハメ殺しみたいで何となく気分が悪い……性能が上の相手ならば小梅は容赦なくハメ殺しを選択するが、略同性能の相手に対してはハメ技は使わないのだ。

同性能の相手は、実力で上回ってこそと、そう言う考えがあるのだろう。

 

 

「ふふふ、だけど楽しいですねぇ……戦車道と言うのは矢張りこうでないと面白くありません――さぁ、もっともっと私を楽しませて下さい。

 隼と言うのは、獲物が手強ければ手強い程、其の闘争心が高まって行くものですから。」

 

 

温厚そうな見た目の小梅だが、其処は流石の戦車乗り。

みほの軍神の笑みや、エリカの凶暴な笑みとは違う、ある種の冷酷さすら感じさせる笑みを浮かべてⅢ号との戦闘を継続する……光を失った瞳がマジで怖すぎるんだが、そんな小梅がモニターに映し出された瞬間に謎の雄叫びを上げた野郎共が居たそうだ――この変態共め。

だが、梓がT-44を、小梅がⅢ号L型を相手にしていると言う事は、エリカが残るパンターとヤークトパンターの何方かを相手にしているのならば、一輌はフリーになる筈なのだが……

 

 

 

「ウゥゥゥ……ガフオォォォ……ミホォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

「ヒィ!狂犬が、狂犬が来てるぅ!!」

 

「止まるな、止まったら冗談抜きで、殺られるぞ!!」

 

「フゥ、フゥ……ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

何とパンターもヤークトパンターも暴走エリカのティーガーⅡに追い回されていた。って言うか、キューポラの上に立って雄叫びを上げるエリカが普通に怖い。なんか口から煙出てるし。

最終的に口から血の霧を吐いたり、手から青い炎を出したりしないか可成り心配だ……作者の趣味が趣味なだけに。(暴走庵と暴走レオナはゲームバランス度外視してるだろ絶対に。)

 

 

「グガァ……ウブゴガァァァァァァァァ!!!」

 

「坂口、絶対に逃がすなだとさ……私が砲撃で相手の動きを制限してバラバラに出来ないようにするから、お前は全力で相手を追え。」

 

「あいーー!……アイン先輩は、何で今の逸見先輩の言葉が理解出来るんですかーー!!」

 

「何故だろうかと聞かれると説明に困るな?

 アニメの遊戯王DMで、アテムがサラッとラーのテキストを解読して唱えていたのと同じようなモノだと思ってくれ……何だか分かってしまうんだ。」

 

「あいーーー!!」

 

 

……取り敢えず暴走エリカに狙いを定められた以上、パンターもヤークトパンターも生き残る事は不可能だろう――だって、暴走エリカには、みほでも簡単に勝つ事は出来ないのだから。

取り敢えず言える事は、枷のなくなった野獣ほど怖いモノは無いと言う事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、場面は変わって駅前の広場……みほとエミが決着の場所として選んだ場所では既に激しい戦車戦が始まっていた――この場に到着すると同時に互いに仕掛けたのだ。

砲撃の轟音が鳴り響くが、互いに決定打は許さず、フィールドをこれでもかと言う位に利用して相手を撃破しようとする。

エミが待機中のバスを砲撃でフッ飛ばしてみほに飛ばせば、みほは其れを躱すと同時に歩道橋の一部を砲撃で崩してエミの上から瓦礫を降らせ、その瓦礫の雨によってエミを撃破せんとする。

だが、エミは其れをギリギリで回避すると、今度は地面を吹き飛ばしてみほ動きを止めようとするが、地面に着弾する直前で麻子が天才的な操縦をもってしてそれを回避!!

其処から反撃の一撃を放つも、其れはティーガーⅠの装甲に弾かれる……正に手に汗握る勝負となっていたのだ。

一瞬の気の緩みが敗北を齎す……正にそう言った試合をみほとエミは展開しているのである。

 

 

「まさか、これ程の試合が行われるとは……既に引退したのにまさか、血が騒ぐ事になるとはね……!」

 

「みほちゃんもエミちゃんもハンパないわね……!!」

 

 

その試合展開は西住流と島田流の家元が思わず滾ってしまうレベルなのだ。

其れだけの一騎打ちをみほとエミは演じているのだが、互いの顔に浮かぶのは矢張り笑顔だ――みほもエミも、六年ぶりの再会となる幼馴染みとの全力の戦車道を楽しんでいるのである。

 

 

「楽しい、本気で楽しいわねみほ……戦車道が此処まで楽しかったって、恥ずかしながら今の今まで知らなかったわ。」

 

「そうなの?其れって不幸だよエミちゃん――この楽しさを知らないと、戦車道の楽しさは半減だからね。」

 

「其れは、貴女との戦いで実感したわ……だけど、アタシは貴女に勝って優勝するわみほ――お互いに結構ギリギリだから次が最後の攻防になるわ――私も全力で行くから貴女も全力で来なさいみほ!」

 

「其れは、言われるまでも無い事だよエミちゃん!!」

 

 

だが、楽しい時間には何時か必ず終わりが来る――みほとエミにもその時が迫ってた……故に、互いに今度の攻防で全てが決まると言う事を理解していた。

だからこそ全力のその先の死力を振り絞る。

 

暫しの静寂の後……

 

 

「行くよ!!」

 

 

みほのパンターがエミのティーガーⅠに突撃!

 

 

「麻子さん!」

 

「おうよ。」

 

 

して、ティーガーⅠの真正面に来た途端に戦車ドリフトで側面に、そして後部を取らんとする――その無茶な動きで履帯が切れて転輪が吹っ飛ぶが、パンターは止まらない。

 

 

「戦車ドリフト……其れは読んでたわみほ!」

 

 

だがエミもまた、パンターの動きに合わせてティーガーⅠの砲塔を動かしてパンターを捉え――

 

 

 

――バガァァァァァァァァァァァァン!!!

 

 

――キュポン!!

 

 

『ベルウォール学園、フラッグ車行動不能!大洗女子学園の勝利です!!』

 

 

 

一発の砲撃音がしたと思った次の瞬間に、エミのティーガーⅠから白旗が上がって撃破判定となって、大洗の勝利で試合終了となった。

だが、パンターもティーガーⅠも砲撃は行ってない……ならば、ティーガーⅠを撃破したのは誰なのか?

 

 

「エリカさん、来てくれるって信じてたよ。」

 

「パンターとヤークトパンターを撃破するのに手間取ったから、ギリギリだったけどね。」

 

「逸見エリカ……!!」

 

 

そう、エミのティーガーⅠを撃破したのはエリカのティーガーⅡだったのだ。

暴走状態でパンターとヤークトパンターを撃破したエリカは、其のまま駅前広場に直行して、みほとエミが相討ちになるギリギリのタイミングで到着してエミを撃破して見せたのだ。

暴走状態が何時の間にか解除されてるのは、試合が終わったと同時に暴走状態も解除されたと言う事なのだろう。多分、きっと。

 

 

 

「フラッグ車での一騎打ちだと思ってたら最後の最後でこんな事が待ってるとは……完敗だわみほ。――だけど、次は負けないからね?」

 

「うん、何時でもやろうエミちゃん……だけど、次も勝つのは私だよ!」

 

「言うじゃないの……この!!」

 

「痛い、痛いよエミちゃん!」

 

 

 

そして、試合が終われば戦車道の友だ。

次も勝つと言ったみほに対して、エミはヘッドロックを掛けて額を拳でグリグリするが、エミも本気ではなく、みほも痛がる振りをしているだけ――要するに幼馴染みの戯れだ。

 

 

 

「ほらほら、ギブアップしなさいみほ?」

 

「誰が……西住流にギブアップはないんだよ!必殺、臍で投げるバックドロップ!」

 

「……ヘッドロックをバックドロップで返してくるとはやるわねみほ……だけど、負けないわ!喰らえ本場のジャーマンスープレックス!!」

 

 

そして其れは何時の間にかプロレスごっこに発展!

キレッキレのプロレス技に、客席の黒のカリスマと天才は大いに興奮していたらしいが、何はともあれ、みほvsエミの幼馴染対決はみほに軍配が上がったのだった。

そして、其れと同時に負けはしたものの、大洗と互角以上の試合をしたベルウォールの実力は大きく評価されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

ふぅ……なんとか勝つ事が出来た――もしもエリカさんが駆けつけてくれなかったら、負けてたのは私達の方だったかもしれないからね――エミちゃんは、本当に強くなってた。其れが嬉しいよ。

 

 

 

「不審者発見、此れより職務質問を開始するわ。」

 

「エミちゃん……」

 

「ったく、何を黄昏てんのよみほ?決勝戦に不安でもあるの?」

 

「ううん、そんなんじゃないよエミちゃん……改めて、戦車道って楽しいなって、そう思ってただけだけだから。」

 

「ふぅん?……ま、そう思ってるだけならアタシが何か言える事はないけど……決勝戦、頑張りなさいよ?アタシ達を倒したんだから、必ず優勝しなさいよみほ?」

 

「其れは、勿論――」

 

 

 

――チュ……

 

 

 

行き成り現れたエミちゃんの『必ず優勝しろ』って言うのに答えようとしたら、エミちゃんにキスされました……えっと、エミちゃん?

 

 

 

「祝福のキスの先渡しよ……言っとくけど、此れファーストキスだから。」

 

「マジっすか。」

 

女の子の大事なモノの一つである『ファーストキス』を貰った以上、私に敗北は許されないね……負けたら其れこそ地獄行き間違いないからね。

 

 

そんな私の決勝の相手は黒森峰――出場校の中で只一つだけ三年生が残ったプラウダだったけど、カチューシャさんをも倒すとか、理子さんは私の想像を遥かに超えて強くなってるみたいだよ。

でも、だからこそ燃えて来る……理子さん、お姉ちゃんと近坂先輩に鍛えられた其の力、見せて貰うよ――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer191『無限軌道杯の決勝戦です!』

決勝戦……血が騒ぐよByみほ        西住の血が滾ってるみたいね?Byエリカ      暴走は、してないみたいですねBy小梅


Side:みほ

 

 

遂にやって来た無限軌道杯の決勝戦!

相手は夏の大会と同じく、私とエリカさんと小梅さんの古巣である黒森峰……相手にとって不足は無い所か、お釣りが出る位だよ。――一強時代は終わったとは言え、黒森峰の強さは健在……寧ろ、お祖母ちゃんとOG会からの干渉が無くなった分、今の方が強いかもだしね。

何よりも新隊長の理子さんは、お姉ちゃんと近坂先輩に徹底的に鍛えられて五回は脱皮したとの事だから、私の知ってる理子さんとは別人だと思うからね……正直、カチューシャさんに勝つとは思わなかったし。

 

 

 

「でも、だからこそ楽しみなんでしょうみほ?

 直下の奴、ハッキリ言って去年とはまるで別人だからね……加えてアイツはみほ率いる遊撃隊だった訳だからみほの手の内は知ってる事になるのだから……簡単には行きそうにないわ。」

 

「簡単に行きそうにないなら寧ろ上等だよエリカさん。

 逆に私の手の内を知ってる理子さんが如何出て来るか楽しみで仕方ない、そんな感じだからね。」

 

だから、戦車乗りとしての闘気が抑えられない……ちょっとでも気を抜いたら、その瞬間に闘気が爆発して軍神招来の超サイヤ人になっちゃうかもだからね。……ふふふ、西住の血が滾るね。

 

 

其れは其れとして、会場は既に超満員札止め状態――全国大会決勝戦の再現とも言える対戦カードな訳だから戦車道ファンが此の試合を見逃す筈がないから、此れはある意味で当然の事かもだね。

なら、折角集まって来てくれた人達の為にも最高の試合をしないとだよ!

 

 

 

「言われるまでも無いわみほ……戦車道の真髄ってモノを、オーディエンスに見せてやりましょう?」

 

「そして其れを見せた上で勝ちましょうみほさん……無限軌道杯も、優勝するのは大洗ですよ。」

 

「最高の戦車道をやった上で勝ちましょう西住隊長!」

 

 

 

うん、勿論その心算だよ。

最高にして至高の戦車道、其れこそが私の目指してる戦車道だからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer191

『無限軌道杯の決勝戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決勝戦が始まるまでまだ時間があるから、適当に屋台巡りをしてたんだけど……やっぱり出店してたんだねペパロニさん?

 

 

 

「まぁな。ってか出店しない理由がねぇからな。

 此れだけの人が集まる場所に屋台を出せば結構儲かるからな……鉄板ナポリタンなんざ、通常価格の三倍の九百円で売っても飛ぶ様に売れてっから可成り儲かってるってもんよ。」

 

「逞しいね♪

 其れじゃあ、試合前の腹ごしらえとして鉄板ナポリタンのパニーニサンド、と行きたい所だけど新作のメニューって何かある?」

 

「あるぜ?

 鉄板ナポリタンのウィンナーをチョリソーに、ケチャップをチリソースにした『炎の鉄板ナポリタン』だ!ホットな辛さが堪らねぇ旨さってな!!」

 

「じゃあ、其れのパニーニサンドで。其れからチョコレートのジェラート。」

 

「私もみほと同じのを頼むわ……但しペパロニ、私のは辛さ三倍で頼むわ。」

 

「エリカ、お前意外とチャレンジャーだなオイ……口から火ぃ噴いても責任取らねぇからな?」

 

「分かってるわよ。自己責任で頼むわけだし。」

 

 

 

辛口のメニューを辛さ三倍で頼むとは、若干狂気の沙汰と言えなくもない……ラーメンチェーン店の山岡家の『ウルトラ激辛ラーメン』に更に豆板醤とラー油と一味唐辛子を加える程じゃないにしてクレイジーだよ。

何だって、辛さ三倍なのかなエリカさん?

 

 

 

「試合前に気合入れとこうかなと思って。」

 

「其れだったら、辛さ増しよりも、ニンニクトッピングの方がパワーが出ると思うんだけど?」

 

「其れはそうなんだけど、ほらニンニクは臭うから、車内が地獄絵図になっちゃうなぁって……坂口とか遠慮なく『ニンニク臭ーい!』っていいそうじゃない?」

 

「あぁ、確かに……エチケットを守ったからこその激辛と言う訳だね。」

 

エリカさんは妙な所でそう言うのを気にする部分があるなんだよね。

そう言えばペパロニさん、アンツィオの新隊長ってペパロニさんだって噂を聞いたんだけど其れって本当?私はてっきりカルパッチョさんが新隊長になると思ってたんだけど……

 

 

 

「あぁ、其れは本当なんだよ。

 アタシもさ、隊長はカルパッチョの方が良いんじゃないかって姐さんに行ったんだけど、姐さん曰く『確かに他の学校ならば隊長はカルパッチョの方が合っているだろう。だが、アンツィオに限って言うのならばお前以外に次の隊長は居ない!』って事みてぇなんだよ。

 隊長なんてアタシのガラじゃないかも知れないけど姐さんに任されたんだ、立派にドゥーチェとしてアンツィオを引っ張って行って見せるぜ?カルパッチョも副隊長として力を貸してくれるからな!」

 

「確かに、ノリと勢いが売りのアンツィオなら、静のカルパッチョさんよりも、ガッツリ動でイケイケのペパロニさんの方が隊長として向いてるのかも。

 アンチョビさんは、其処ら辺を考えた結果、ペパロニさんを新隊長に任命したんだろうね。」

 

「私としては、結構大胆な事をしたと思うわ……此れが吉と出るか、其れとも凶と出るか、夏の大会が楽しみね。」

 

「へっ、姐さんが決めたんだ、吉と出るに決まってんだろ?其れに、自慢じゃないが、アタシは今年の正月の初詣で、地元の有名所の神社全部参拝して、引いたおみくじは全部大吉だったんだ!

 こんな超強運を備えたアタシが、そう簡単にやられるかってんだ!」

 

 

 

……お正月のおみくじは大吉が普段よりも多く入ってるって事は言わない方が良いかな?

お正月のおみくじの割合は、大体大吉が50%と言う、引けば半分の確率で大吉だからね……寧ろお正月のおみくじ的には、割合で5%以下の凶を連続で引く方が強運と言えるかもなんだよねぇ。

取り敢えず、気合は入ってるみたいだから其れに水を注すのは無粋だね。

 

注文の品を受け取って(ジェラートはエリカさんが自分の分と私の分を持ってくれてる。)更に適当に会場内の屋台巡り……たこ焼き、牛串、フランクフルトにチーズハットクと美味しそうなモノがずらりと。

戦車道の試合の前じゃなかったら全部コンプリートしたい感じだね。

 

 

 

「私達は無理でも、貴女のチームの砲手はフルコンするんじゃない?」

 

「華さんだと其れが否定できないね。」

 

 

 

 

「この店のメニューを全て一つずつお願いします。」

 

「ちょ、其れマジなの華!?」

 

「本気と書いてマジです沙織さん……因みに、此れは未だあくまでも前菜の一部に過ぎません――メインディッシュの前の準備運動ですから♪」

 

「うっそ、この量で!?普通に有り得ない、やだもーーー!!」

 

 

 

 

「……華ってば、何であれで全然太らない訳?」

 

「恐ろしく燃費の悪い身体なんじゃないかな?きっと華さんは、あれ位のカロリーを摂取しないと生きて行く事が困難な人種なんだよ……そう、痩せの大食いの究極形が華さん!

 きっと華さんだったらかのギャル曽根と大食い対決をしても勝てなくても負けない事が出来ると思う!」

 

「何その羨ましい体質!女だけど女の敵ね!」

 

「女だけど女の敵……聞きようによっては次々と女の子を攻略しまくってる百合女子に聞こえなくもないかな……と言う事は、エリカさんと小梅さんを攻略しちゃった私って女の敵?」

 

「そうは言ってないわよ?」

 

「中学時代に男女問わずラブレター貰ってたんだけど、其の中の女の子を全部攻略しちゃったら?」

 

「其れは普通に女の敵ね。」

 

 

 

うん、若干その基準が分からない。

 

 

 

「はぁ……試合前に何を漫才やってるのよみほ。其れと逸見エリカ。」

 

「其れは言わないお約束。此れが大洗だから。」

 

 

 

っと、エミちゃんと愛里寿ちゃん!応援に来てくれたの?

 

 

 

「うん、応援に来たよみほさん……決勝戦も頑張って。」

 

「アタシ達に勝ったんだから必ず勝ちなさいよみほ……優勝校に負けたって事なら、うちのバカ共も納得するだろうからね……尤も、貴女と戦えたって事だけでも、アイツ等は結構満足してるかもだけどね。」

 

 

 

あはは、そう言って貰えると嬉しいよエミちゃん。其れと、決勝戦も全力で行く心算だよ愛里寿ちゃん、エミちゃん!

時にエミちゃん、一緒に居るのは誰?其のニット帽を被った子とは初めて会うと思うんだけど……

 

 

 

「此の子は白鳥渚――アタシのティーガーⅠの砲手。――そして、貴女に負けず劣らずのボコマニアよ。」

 

 

 

――キュピーン!

 

 

 

『ボコマニア』……其れを聞いた瞬間に、私と愛里寿ちゃんの目は光って、一気に渚さんとの距離を詰めてた――ふふ、数少ないボコメイトなんだから此れは仕方ないよね。

 

「ボコ!」

 

「ボコボコ!!」

 

「ボッコボッコ!!!」

 

 

 

――パァン!!

 

 

 

そしてそのままハイタッチ……略確実に私達以外には一体何が起きたか理解出来ないだろうけど、ボコマニアにはボコマニアだけに通じるインスピレーションって言うモノがあるんだよ。

正に『考えるんじゃない、感じるんだ。』ってね!!

 

 

 

「中須賀、貴女今の理解出来る?」

 

「無理に決まってんでしょ逸見。ってか、あれで通じるボコマニア恐るべし……あの不気味なクマの何が良いのやらだわ。」

 

「む……ボコはドレだけボコボコにされてもめげずに諦めずに相手に挑み続けるのが凄い所なんだよエミちゃん!

 折れない心は正に不屈の闘志其の物……此れは戦車乗りには一番大事な事でしょ?ボコと戦車道には斬っても斬れない関係があるんだよ!」

 

「そ、其れにボコの魅力はアニメでも絶対に同じ姿では登場しない所にあるんです。

 包帯の巻かれてる場所とか、痣の位置とか、絆創膏の場所とか、松葉杖が有ったり無かったり、腕を三角巾で吊ってたり吊ってなかったり……毎回違うって言うのは凄いと思いません?」

 

「ボコは存在してるだけで価値がある。

 其れに姉様は言った……『若しかしたらボコには戦車道の大事なモノが詰まってるのかもしれないね』と。」

 

「「適当な事ぬかしてんじゃねーわよ、継続のチューリップハット!!」」

 

 

 

はい、ボコマニアによるボコの魅力の説明のラストを飾ってくれた愛里寿ちゃんの一言に、エリカさんとエミちゃんが盛大に突っ込んでくれました♪

って言うかエミちゃん、ミカさんがアリスちゃんのお姉さんだって知ってたんだ?

 

 

 

「偶然なんだけどね。

 前に喫茶店に入った時に、大学選抜の選手と思しき人達が話してるのを聞いちゃったのよ……『継続の隊長は、隊長のお姉さんらしい』ってね。

 正直根も葉もない噂だと思ってたんだけど、此の子が言った事で確信が持てたわ……そんな特徴的なモノの言い方をするのは継続の前隊長のミカだけでしょうに。」

 

「其れは確かにそうだね。」

 

ミカさんは本当に自由気侭で捉え所のない人だけど、謎めいた言い方で確信を突くような事を言うからね……隊長職をアキさんに譲った今は、気侭に何処かでカンテレを奏でてるんだろうなぁ。

 

 

 

「何処のスナフキンだっての……ま、其れは其れとして、絶対に勝ちなさいよみほ?最低でも、勝てずとも負けるんじゃないわよ?」

 

「其れは勿論♪……エミちゃんの祝福のキスに誓うよ。」

 

「ちょ、アンタ此処で其れを言う!?」

 

「え?駄目だった?」

 

「祝福のキスですって?……どういう事か聞かせて貰えるかしらみほ?」

 

「そうですねぇ、お聞かせ願えますかみほさん。」

 

 

 

エリカさん、小梅さん……如何って言われてもねぇ?

準決勝の後で、黄昏てたらエミちゃんに話し掛けられて、『必ず優勝しなさい』って言われたから、其れに答えようと思ったら、答える前にエミちゃんキスされまして。ちゃんと唇に。

『祝福のキスの前渡し』で、更にファーストキスだったみたいなんだ。……えっと、其れでエリカさん、小梅さん、なんでエミちゃんに詰め寄ってるのかなぁ?

 

 

 

「やるわね中須賀エミ……まさか私も小梅も居ない所でみほの唇を奪うとは……だけどねぇ、私と小梅はみほの彼女な訳よ?」

 

「立場的にエミさんのした事に若干思う所があるのですが……如何してエミさんはみほさんにキスを?頬にしたのならば友愛の表現ですけど、唇ではそうは言えませんよね?

 ぶっちゃけて聞きますが、みほさんの事好きですよね?Loveの方向で。」

 

「みほの彼女って、若干突っ込みたい所はあるけど――えっと、だったら何だって言うのよ?」

 

「ハッキリ言いなさい……貴女、みほの事好きでしょ?」

 

「す、好きに決まってんでしょうが!

 えぇ、最初はハッキリ言って好きじゃなかったわよ!姉の戦車突き落とした西住まほの妹だった訳だから!デモねぇ、事の真相聞いて、其れで一緒に戦車乗って、喧嘩もしたけど仲良くなって……トドメはアレよ、アタシがドイツに帰るって決まって空港に向かってた時、戦車で電車に並走して来て『またね』って言って来た時よ!

 何よアレ!普通に反則でしょ!同性だって惚れるでしょ!えぇ、アタシはみほの事が好きよ!何、此れで満足!?」

 

「「満足した。そして喜べ、軍神ハーレム一名追加。」」

 

 

 

うわーお、何時の間にかエミちゃんまで知らない内に攻略してたみたいだよ私……其れを考えると、私ってば実は結構無自覚に戦車女子攻略してたりするのかな?

ナオミさんには華さんが居るからないとしても、ローズヒップさんとペパロニさんは現在フリーっぽいから無いとは言い切れない部分があるよね?そして多分だけど優花里さんも……アレ、此れ結構ヤバくね?

 

 

 

「みほ、『英雄色を好む』って言葉があるから悩むだけ無駄よ!」

 

「其れを言ったら身も蓋もないねエリカさん。」

 

確かに英雄色を好むとは言うけど、女性に其れを当てはめる場合は所謂『逆ハー』であって『百合ハー』ではないと思うんだけど、其れは突っ込んだら負けなんだろうね。

さてと、そろそろ時間だから私達は行くね……応援よろしくね?

 

 

 

「任せなさい!」

 

「全力で応援するから。」

 

「大洗を応援だぁ?当たり前だろ!

 大洗と黒森峰、黄金カードじゃねぇか!つべこべ言わずにこの一戦を目に焼き付けろ!大洗と、その対戦相手だけ見てりゃいいんだオラァ!!

 ガッデメファッキン!アイム、チョーノ!」

 

 

 

そして今日も絶好調だね『oNs』の皆さんは♪

其れじゃあ、全力の応援に応えられるような、最高の戦車道をしてみせるよ――相手は、一皮所か五皮は剥けた理子さん率いる黒森峰だからね。

 

お姉ちゃんと近坂先輩に鍛えられた其の力、見せて貰うよ理子さん!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

決勝戦開始の時刻となり、両校の隊長であるみほと理子は、試合開始の挨拶の為に審判団の前まで来ていた――みほも理子も、夫々の副隊長を従えてだ。

 

 

「まぁ、貴女なら必ず勝ち進んでくると思ってたわみほ……此処まで来たらもう言葉は要らないわよね?持てる力の全てを出し切ろうじゃない!!」

 

「無論、言われなくともその心算だよ理子さん!」

 

「ツェスカ……負けないよ?うぅん、私が勝つ。」

 

「梓……Ⅲ号からパンターになったんだったけか?……ぶっちゃけて言うと、Ⅲ号じゃ貴女には窮屈だと思ってたから、パンターに乗り換えてくれたのは嬉しい誤算よ?

 此れで、貴女の力は十全に発揮されると思うからね!」

 

 

みほは理子と、梓はツェスカとがっちりと握手を交す……が、其れだけで既に両者の闘気がぶつかり合って若干の火花放電が発生しているのは戦車乗り的には普通の事なのだろう。

審判長の蝶野亜美も何も言わないのだから。

 

 

「其れでは、此れより無限軌道杯決勝戦、大洗女子学園対黒森峰女子学園の試合を始める!お互いに、礼!」

 

 

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

 

 

その蝶野亜美の号令で持って、互いに試合前の挨拶を済まし、夫々の陣営へと戻って行く――その間も夫々の闘気は収まる事はなく、特にみほと梓の周りには溢れ出た闘気が火花放電を発生しているような錯覚さえ起こしそうな位だ。

……それって何処の超サイヤ人2?

 

 

其れは兎も角、先ずは両校のオーダーを見て行く事にしよう。

 

 

・大洗女子学園

 

パンターG型×2(アイスブルーカラーは隊長車兼フラッグ車、パールホワイトカラーは副隊長車)

ティーガーⅡ×1

Ⅳ号戦車D型改(H型仕様)×1

Ⅳ号戦車F2×1

Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)×1

クルセイダーMk.Ⅱ×1

38(t)改(ヘッツァー仕様)×1

ルノーR35改(R40型仕様)×1

ソミュアS35×1

ポルシェティーガー×1

 

 

先ずは大洗女子学園。

此方は準決勝と同じオーダーだ――新しく購入したⅣ号F2がサメチームの一輌のみなのは、短期間で他の戦車にコンバートするのは無理があるとみほが判断したからだろう。

梓の場合は中学時代に何度かパンターに乗っていた事もあるのでコンバートも出来たが、他のメンバーは今の戦車に慣れ切っているので、下手にコンバートするとパフォーマンスが低下する恐れがあるのだ。

ともあれ、大洗は現行出せるMAXの十一輌編成。

 

其れに対して……

 

 

・黒森峰女学園

 

ティーガーⅠ×4(212号車は隊長車兼フラッグ車)

パンターG型×7

ヤークトパンター×4

Ⅲ号戦車J型×5

 

 

 

黒森峰はルールで使える二十輌を揃えて来たが、その顔触れは準決勝までとは大分異なる様子だ。

準決勝のプラウダ戦までは、此れまでの様に重戦車中心で『圧倒的な火力をもって相手を制圧する』と言う、黒森峰の伝統に沿ったオーダーであったのに対し、決勝戦のオーダーは火力は其れなりに抑えた上で機動力を重視したモノとなっていた。

 

 

「黒森峰が重戦車を四輌しか使わないだと?」

 

「全国大会では火力を重視した事が裏目に出たから、その反省を活かしたのか?……いや、其れなら一回戦からそう言った編成にした筈だな?」

 

 

此れ的は明らかに違う黒森峰の編成に、観客席からはざわめきが聞こえてくる。

其れも、此れまでの黒森峰の戦いを見れば仕方ないだろう――代替わりしたとは言え、新隊長の理子もまた『撃てば必中、守りは堅く、進む姿は乱れなし』の西住流が根幹にある黒森峰の戦術を体現してたのだから。

そうであるにも関わらず、決勝戦で突然の編成変更となれば驚くなと言うのが無理だ。

 

 

「へぇ……此れは、対大洗用の特別編成って所かな?」

 

「でしょうね……直下の奴、ギリギリまで切り札を隠してるとはやってくれるじゃない?」

 

「直下さんも私やエリカさんと同様に、去年はみほさん率いる遊撃隊でしたから、今の黒森峰では誰よりもみほさんの事を知ってると言えますから。

 大艦巨砲主義とは少し違いますが、火力重視で来てくれたら楽だったんですけど、中々どうして簡単には行かないみたいですね?」

 

 

だがしかし、みほ達大洗の経験者の面々はこの編成こそが理子の対大洗の切り札であると気付いていた……如何に強力な火力であっても大洗には其れが通じないのは全国大会で証明されている。

それどころか性能としては明らかに格下のⅢ号に重戦車が悉く撃破されると言う事態まで起きている――其れを考えれば、大洗相手に火力重視と言うのは自殺行為であると考えるのは当然だろう。

 

勿論理子もそう考えた……そして考えたからこそこの編成は決勝戦まで温存していたのだ――全てはみほに、大洗に勝つ為にだ。

 

 

「VIP扱いしてくれるって言うのなら、其れには応えないとだね理子さん?

 ……だけど貴女の戦車乗りとしての能力を正当に評価した上で敢えて言わせて貰うよ……機動力で大洗に挑もうだなんて烏滸がましいにも程があるんじゃないかな?

 奇策が通じるのは、あくまでも相手が凡百な場合に限られる――隻腕の軍神と言われる私に奇策は愚の骨頂!

 ……尤も、その先の策まで用意してあるって言うのならその限りじゃないけどね。」

 

 

其れに対し、みほは他者に見えない様に俯いた状態で軽く笑みを浮かべると、ガバッと顔を上げニヒルな笑みが浮かんだ顔を顕わにする……観客席のオーロラヴィジョンにはこの顔が大アップで映し出された事で黄色い悲鳴が上がったらしい。

ともあれ、黒森峰のオーダーはみほの闘気を更に燃え上がらせるには充分だったようだ――現にみほの瞳は琥珀色に輝いて、瞳孔が極端に小さくなった超集中状態にあるのだから。

 

 

「ふぅ……すぅ……うん、バッチリ!

 其れじゃあ行くよ皆!夏の全国大会に続いて、冬の無限軌道杯も制して、真紅の優勝旗を大洗に持ち帰って、全国制覇はマグレだなんて誰にも

 言わせないようにするよ!

 各員、己の魂を戦車に繋げぇ!戦車と自分は一心同体!人馬一体ならぬ、人車一体!……無限軌道杯も私達が勝つ!Panzer Vor!」

 

「「「「「「「「「「Jawohl!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

「相手はみほ……簡単な相手じゃないけど、勝って見せる……行くわよ、Panzer Marsch!」

 

「「「「「「「「「「Jawohl!」」」」」」」」」」

 

 

 

そしてみほも理子もほぼ同時に出撃命令を下し、此処に無限軌道杯の決勝戦の戦いの火蓋が切られた――大洗が夏冬の連覇を成すのか、其れとも黒森峰が夏の雪辱を冬で果たすのか?

何れにしても、決勝戦は準決勝の大洗vsベルウォール戦以上なものになるのは間違いないと見て良いだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer192『開始と同時にクライマックス?です』

こう来たか……やるね、理子さん?Byみほ        直下の奴……やるわねマジでByエリカ      相手にとって不足なし、ですねBy小梅


Side:みほ

 

 

無限軌道杯の決勝戦、相手は理子さん率いる黒森峰――なんだけど、此の決勝戦の黒森峰のオーダーは火力重視の物から一転して、火力はソコソコで機動力を重視して来たみたいだね?

準決勝のプラウダ戦まで、今までの黒森峰スタイルだったから、此れはちょっと驚かされたよ――理子さんは、私達と戦う為に、切り札を此処まで温存していたって言う事で、其れは同時に切り札を温存してもプラウダを、カチューシャさんを制する事が出来るだけの力を理子さんは持っている事になるからね。

 

カチューシャさんに勝てる戦車乗りなんてザラに居ないと思ってる私にとって、理子さんがプラウダを下したって言うのは結構衝撃的な事なんだよ。

カチューシャさんを倒すって言う事は、お姉ちゃんと同レベルにあるって言う事になるからね――否、お姉ちゃんと近坂先輩の指導を受けて、五回の脱皮を経験した理子さんは、お姉ちゃんをも上回ってる可能性もあるか。

 

「理子さんは、侮れない相手だね。」

 

「えぇ、アイツは侮れないわ――去年よりも格段にレベルアップしてるのは間違いないみたいだし、何よりも今の黒森峰では、直下は貴女の戦い方って言うモノを誰よりも知っているでしょう?

 手の内がバレている相手程やりにくいモノは無いわよ?」

 

 

 

うん、普通に考えれば理子さんの方にアドバンテージがあるのかも知れないけど、手の内が知られてるって言っても其れは去年までの事でしょ?

最新のモノでも大学選抜戦の物までで、無限軌道杯で曝した手札はまだ拡散されてないから、理子さんも私が何をしてくるか、ある程度予想は出来ても確定には至らない。

その隙を突く。

 

 

 

「本来ならば見逃しそうな隙をですか……案外、其れは行けるかもしませんが――直下さんの履帯を切った方が早くないですかね?」

 

「小梅さん、その意見には賛同するけど、今の理子さんには『隊長補正』が入ってるから、履帯を斬るのは略不可能だよ――隊長補正で、理子さんのティーガーⅠの履帯は絶対に切れない様になってるから!」

 

「隊長補正?」

 

「うん、深くに気にしちゃダメだよエリカさん♪」

 

まぁ、理子さん率いる黒森峰は一筋縄でいく相手じゃないってのは間違いないけど、其れだけに燃えて来る――まさにバーニングソウルだね!

新生黒森峰が如何程か、見せて貰うよ理子さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer192

『開始と同時にクライマックス?です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

無限軌道杯の決勝戦は、夏の全国大会と同様に大洗女子学園vs黒森峰女学園――ぽっと出の無名校が、絶対王者を打ち破ったと言う事で、実際に戦ったのは、僅か一試合だったにもかかわらず、『黄金カード』『ドル箱カード』と称されているカードだ。

大洗の隊長は夏に引き続きみほの大洗に対し、黒森峰は代替わりをて直下理子が新たな隊長になっていると言うのも大きいかも知れない。

無限軌道杯が始まった当初、みほ率いる大洗が決勝に残るのは誰も疑ってなかったが、代替わりをして、隊長がまほから理子にバトンタッチされた黒森峰の前評判は決して高いとは言えなかった。

 

誤解なきように言っておくと、理子は決して弱くない――現在の高校戦車道の名選手ランキングを作ったら、まず間違いなくトップ10にはランクインするだろう。

だが、そうであっても前隊長であるまほの存在が余りにも大きく、結果として理子はまほと比べて劣ると判断されてしまったのだ。

加えて、理子は一部から『繰り上がり隊長』と言う不名誉な呼ばれ方もしている――みほ、エリカ、小梅の三人が大洗に行ってしまったから、理子が隊長を務める事になった。もしもその三人が黒森峰に残っていたら、新体制はみほが隊長で、エリカと小梅が副隊長で、理子は隊長職に掠りもしなかっただろうと。

余りにも失礼過ぎる評価だが、其れ自体は理子自身も少なからず思って居る事なので、さして気にしていなかった。

いや、気にしていない所か……

 

 

「だからこそ、美味しいんだよねぇ此の状況。」

 

 

ティーガーⅠのキューポラから上半身を出しながら、理子は薄く笑みを浮かべていた。

前隊長のまほに劣ると言う評価は元より分っていた事だし、みほ達が居たら自分が隊長になる事など絶対に無かった事も分かり切っている――だからこそ、面白いのだ。

前評判を覆し、カチューシャ率いるプラウダを準決勝で下して決勝戦まで駒を進めて来た……その決勝で、みほ率いる大洗相手に互角以上の戦いをして、更に勝ったとなればどれ程痛快だろうか?

『胸を借りる』等と言う格上に対して挑む姿勢ではなく、理子は『五回も脱皮した自分はみほと同等!』との思いで此の試合に臨んでいるのである。

 

 

「だ~れも、私がみほに勝てるとは思ってない……そんな中で私がみほをぶっ倒したらどうなるよ?――考えるだけでワクワクじゃん。

 其れじゃあ、作戦開始!――先ずは、こっちから仕掛けさせて貰うよ、みほ!」

 

 

笑みをより深くし、理子は部隊全体に命令を下す。――その姿は、黒森峰の隊長に相応しい、堂々とした物であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の大洗は、試合開始と同時に部隊を五つに分けて散開させていた。

基本は二輌ずつ、みほの部隊のみ三輌編成の極小隊に分けてだ――その編成はみほの指示ではなく、『二輌で組んで』と言われて自然に出来たモノだと言うのだから驚く他ない。

加えて、みほ、エリカ、小梅、梓の経験者がモノの見事にバラけてるってんだから、大洗の面々の直感はハンパないだろう。

因みに、みほの部隊に居るのは、お銀率いるサメチームと典子率いるアヒルチーム……全くの偶然ではあるが、機動力に定評のある戦車が集まった一団になっていた。

 

 

「ふむ、相手の数は倍近いと言うのに部隊をバラけさせたのは何でだい隊長さん?

 もしも相手も部隊をバラけさせていたとしたら、総数で此方の方が不利になるだろう?此処は部隊を纏めておくべきじゃなかったのかい?」

 

「お銀さんの言う事も一理あるけど、此れは理子さんのレベルを測る為の一手って所かな?

 今までの黒森峰だったら、足並みを揃えて進軍するのが常套手段だったから、逆に小分けにした部隊から包囲されると思わぬ苦境に陥る事があった――其れを理子さんがどう克服したのかを先ずは見ようと思ってね。

 お姉ちゃんと近坂先輩の地獄のトレーニングを生き抜いて、五回も脱皮したって言う理子さんだったら、此れまでとは違う黒森峰の動かし方をして来るんじゃないかって期待もあるし。」

 

「隊長ー、もしもあんまし変わってなかったらどうするんですか?」

 

「典子さん、そんなの決まってるじゃないですか……軍神の名の下に、『滅殺♪』するだけですよ?」

 

「……隊長さんの背後に、拳を極めた者の幻影が見えた。」

 

「しかも胴着は暗い紫色で髪は白……神・豪鬼だね。」

 

 

そして何かやってた。

其れは兎も角、みほが部隊を散開させたのは、先ずは理子が如何出てくるかを確かめる為のモノだったようだ――此れまでの黒森峰ならば弱点を突かれたような形となる布陣に対し、どう対処して来るのかが楽しみなようだ。

尤も、期待を裏切るようであるのならば、全力で叩き潰す気満々な辺りが若干恐ろしいモノではあるのだが。

 

 

 

『大洗女子学園、ソミュアS35行動不能。』

 

「「「え?」」」

 

 

 

だが、だからこそ突然響いた、撃破放送に目が点になってしまった。

アリクイチームのソミュアS35が撃破されたと言うのだ。

 

 

「行き成り!?――猫田さん、大丈夫!?」

 

『西住隊長……やられてしまったのにゃ~~――黒森峰の部隊が見えたから攻撃しようと思ったら、上から岩が降って来たのにゃ……副隊長はなんとか逃げおおせたけど、僕達は此処までにゃ。

 何の役にも立てなくて済まないのにゃ……』

 

「ううん、無事なだけで充分だよ――それに、今のを聞いて理子さんが何を仕掛けて来たのか、大体分かったからね。」

 

 

すぐさま通信を開き、ねこにゃーこと猫田に無事かどうかを確認すれば、如何やら無事であり、タッグを組んでいた梓も撃破されずに離脱したとの事だったが、其れ以上にみほが気になったのは『上から岩が降って来た』と言う事だ。

いや、この場合岩ではなく、他の何かが降って来てもみほは気になっただろう――何故ならば、『上から何かを降らせる』のは自身の常套手段であるのだから。

『奇策上等』『裏技大歓迎』のみほの常套手段を、『王道』を行く所の黒森峰が使って来たのだ。

恐らくは誰も予想していなかった事態に、客席がざわめいたのは至極当然の事だろう。

 

 

「黒森峰が搦め手を使った?――王道を捨てたってのか、大洗に勝つ為に!」

 

「だけど、此れは悪くない一手だと思うわ――普段自分がやってる事をやり返されるって言うのは心理的ダメージが大きいと思うからね。」

 

「ガッデーム!知ったかぶってんじゃねぇぞ俄か共が!

 アレはなぁ、去年みぽりん率いる遊撃隊に居た直下だからこそ出来る事なんだよ!エリリンとうめリンを除けば、誰よりもみぽりんの戦いを見て来た直下だからこそ出来る事なんだオラァ!分かったかファッキン!」

 

 

そして黒のカリスマは絶好調だった。――黒のカリスマと握手して、写真を撮る事が出来たのは、作者の一生の思い出ですマジで。――今更ながらに、ケンカキック喰らってる状態かSTF掛けて貰ってる状態の写真を撮って貰えばよかったかもだぜマジで。

其れは其れとして、黒のカリスマの言って居る事は間違いではない――直下が掟破りの逆みほ流を出来たのは、今の黒森峰では誰よりも『西住みほ』の戦車道を知っていたからだ。

 

『中学時代二年間一緒だった凛の方が知ってんじゃね?』と思うかもしれないが、凜は同じチームではあったが常に一緒だった訳では無いのだ。

それに引き換え、去年の理子は遊撃隊のメンバーとして常にみほと共に行動していたから、そう言う意味では凛以上にみほの戦い方と言うモノを熟知していたのだ。

だからこその逆みほ流なのである。

 

 

「あらあら、まさかの搦め手ねしほちゃん……王道を自負する黒森峰的に、此れってありなのかしら?」

 

「貴女の言わんとしてる事は分かるわちよきち――だけど逆に問うけど、『王道』って何?」

 

「え?……え~っと、言われてみれば、王道の定義ってないわね?」

 

「圧倒的な火力と整然とした部隊運用で黒森峰は勝ち続けていたから、何時しかそれが王道と呼ばれるようになったけど、もしも勝ち続けて居たのが、みほの様に搦め手や裏技を駆使する所だったら其れが『王道』と呼ばれていた可能性は充分にあるでしょう?

 『王道』なんて言うのは、所詮競技者以外の誰かが言った事であり、何の意味もない事なのよ。」

 

「成程……王道に決まった型はない、か――言われてみれば、現役時代の好子ちゃんは『茨城の王道』って言われたけど、私達から見たら破天荒そのモノだったからね。」

 

「そう言う事よちよきち。」

 

 

そして試合を観戦していた西住流と島田流の家元は、『王道』についての彼是を語っていた――『勝ち続けた者の戦い方が王道となる』とは、何とも深い言葉だろう。

要するに、王道に定義はない――故に、夏の大会で十一連覇を逃し、絶対王者でなくなった黒森峰が搦め手や裏技を使ったとしてもマッタク問題はないのである。

つーか、言わせて貰うのならば、本気で勝ちたいのなら『伝統云々』とかの戯言をぬかすOG会は即刻居なくなれである――伝統は確かに大事な物かも知れないが、伝統で勝てれば苦労しないのだ。

伝統だけでは勝てないから、新しいやり方を取り入れるのである――其れが分からないパープリンはさっさと隠居しやがれだ。

 

まぁ、何が言いたいのかと言うと、今の黒森峰は火力至上の制圧部隊ではなく、搦め手や裏技も使える柔軟なチームであると言う事――搦め手や裏技を得意とする大洗にとって、これ程やり辛い相手は無いだろう。

自分達の得意技を、相手が使って来るのだから。

 

 

「成程、そう来たか……クククク……ハハハハハ……ハァ~ッハッハッハッハ!!」

 

 

其れでもみほは怯む事なく、キューポラの上に立って、どこぞの赤毛野郎の如く、見事な三段笑いを披露していた――隻腕の軍神は、どんなポーズも様になるから不思議である。

 

 

「私相手に搦め手や裏技で来るとはやってくれるね理子さん……うん、此れは本気で予想外だった。

 部隊を分けるだろうとは思ってたけど、まさか私の十八番である上からの落下物を使って来るとはね……此れは完全に火が点いちゃったかな?」

 

 

――轟!!

 

 

如何やら理子の奇策はみほの琴線に触れたらしく、みほは即時に軍神招来&スーパーみほ状態に。

この状態のみほを引き出した理子は、ハンパないと言えるだろう。――だが、同時に此れはみほが全力の先の全力を出した状態に他ならない。

 

 

「梓ちゃん、私と合流するのには最短でドレ位掛かる?私達が居るのは○×地点だけど。」

 

『私達が居るのが□○地点なので、最短ルートを行けば大体三~四分って言う所だと思います。』

 

「OK、其れじゃあ最速で合流してくれるかな?待ってるから♪」

 

『了解です!』

 

 

すぐさま副隊長の梓に合流するように指示を出す……大洗の隊長&副隊長コンビとか何だか凄く強い気がする。ってか絶対に強い。

全国大会や大学選抜戦、無限軌道杯でも此処まではみほと梓がコンビを組んだ事はない――隊長と副隊長と言う立場だけに、固まっているよりもバラけた方がより広く戦局を見る事が出来ると考えていたからだ。

だが、此処でまさかの師弟コンビ結成!理子の『逆みほ流』は、みほに師弟コンビ結成を決意させる程のモノだったらしい。

無論それで終わりではない。

 

 

「お銀さんと典子さんは、コンビを組んだまま進軍して。」

 

「了解!サービスエース決められたお返しに、バッチリ殺人スパイクかましてやりますよ、根性で!!」

 

「やられっぱなしってのは船乗りの性には合わないからねぇ?やられた分はキッチリやり返してやるさ。

 だから、隊長さん……敵戦車を見つけたら――」

 

「やっちゃって下さい。見敵必殺、サーチ・アンド・デストロイです。」

 

 

サメチームとアヒルチームには此れより別行動を指示すると共に、『敵戦車を見つけたら取り敢えず攻撃しろ』と言うトンデモナイ命令を下す――否、大洗の面々にとって、この程度は全然トンデモナイ命令には入らないだろう。

だって、必要なら歩道橋ぶっ壊したり、橋を落としたり、落とし穴作ったりしちゃうんだよ?そんなトンでも戦術を普通にやっちゃう大洗の面々にとってサーチ・アンド・デストロイをやれなど、余裕のよっちゃんイカなのである。

 

 

「見敵必殺、吶喊上等!根性ーーーーーーー!!」

 

「ヤレヤレ、彼女達は暑苦しいねぇ……でもまぁ、あぁ言うノリは嫌いじゃないよ?彼女達に負けない様に、私達もどん底魂を見せるとしようかね!」

 

 

命令を受けたアヒルチームとサメチームは即発進して黒森峰の部隊を探し始める……何と言うか、結果はどうあれ、彼女達に発見されてしまった黒森峰の戦車乗り達に、一抹の同情を禁じ得ない。

 

其れを確認したみほは車内に身を沈めると、スマホを取り出して誰かにLINEメッセージを送る。その内容は……

 

 

みほ@ボコ:やってくれたね理子さん?まさか、私の十八番をやって来るとは思わなかったよ。

 

 

である。

送った相手は理子――試合中にLINEとかして大丈夫かと思うだろうが、車内の様子はオーロラヴィジョンには映らないのでマッタク持って問題ないのだ。

其れ以前に、車内までオーロラヴィジョンに映っていたら、作戦とか話してるのが丸聞こえで、試合に出れなくて会場で応援している相手チームの選手に其れを試合メンバーに伝えられてしまうから、車内の映像だけは絶対に無いのだ。

 

で、このメッセージには直ぐに返信が来た。

以下、LINEでのみほと理子のやり取りである。

 

 

履帯子:そりゃ此れ位やらないとみほには通じないっしょ?――如何よ、自分の十八番を喰らった気分ってのは?

 

みほ@ボコ:最高にハイってやつだ!――ってのは冗談だけど、流石に予想外だったから少し驚いた。

 

履帯子:なら僥倖ってね。みほに火力は通じないし、単純な機動力勝負でも通じないから、搦め手を使わせて貰ったわ。

 

みほ@ボコ:大胆な選択をしたと思うけど、それって黒森峰のOG会的には大丈夫なのかな?

 

履帯子:勝てば官軍って言葉知ってる?

 

みほ@ボコ:いや、ぶっちゃけすぎでしょ其れ……

 

履帯子:だって事実だし。――其れよりもみほ、このままで終わりじゃないでしょ?ってか、態々LINE送って来たのは、何か提案があるからでしょ?

 

みほ@ボコ:ふふふ、流石に分かるよね?

      其れじゃあ、単刀直入に言うよ理子さん――決勝戦の会場は全国大会と同じだから、市街地が存在してる……市街地戦で決着を付けるって言うのは如何かな?勿論、受けるかどうかは理子さんに任せるけど。

 

履帯子:市街地戦ねぇ……普通ならみほの土俵に上がるってのは拒否したい所なんだけど、此処は敢えて乗らせて貰うわよみほ――市街地ならだって切れる手札が増える訳だからね。

 

みほ@ボコ:其れじゃあ決まりだね♪――そうだ、折角だから競争しない?

 

履帯子:競争?

 

みほ@ボコ:そう。どっちが先に市街地に辿り着けるか競争……先に市街地に入った方が有利になるのは、理子さんも分かるよね?

 

履帯子:そう言う事か……上等、機動力重視の編成舐めんなよ!

 

みほ@ボコ:機動力だけで先に辿り着けると思ったら大間違いだよ。

 

 

 

以上である。

何とまぁ、LINEの遣り取りで市街地戦での決着を決めてしまったよこの隊長達は――しかも其れだけじゃなくて、市街地までのタイムアタック競争までやるとか、ドンだけフリーダムだ?フリーダム通り越してストライクフリーダムか?

裏技搦め手上等の大洗と、裏技搦め手を使う事に躊躇が無くなった黒森峰の市街地戦とか普通にトンデモナイ事になる予感しかしない――連盟よ資金の貯蔵は充分か?間違いなく、戦車道史に残るであろう被害が出るのは間違い無いからな。

 

 

「全軍市街地に向かって下さい!黒森峰よりも一輌でも早く!」

 

『『『『『『『『Jawohl!』』』』』』』』』

 

 

「全軍市街地に!大洗に後れを取るんじゃないわよ!」

 

『『『『『『『『『『『『『『『Jawohl!!』』』』』』』』』』』』』』』』』』』

 

 

みほも理子も部隊全体に指示を出し、大洗と黒森峰は市街地目指して夫々進軍――その最中で遭遇したら、其れは間違い無く戦闘状態になるだろうが、其れは其れだ。

ともあれ無限軌道杯の決勝戦は、市街地戦での決着を付ける事になった――果たしてどんな試合になるのか、マッタク予想できない展開になって来た事だけは間違い無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

まさか、私の十八番を逆に使って来るとは、やってくれるよ理子さん……しかも、其れだけじゃなくて市街地戦での決着まで受け入れてくれるとは思わなかったからね。

うん、五回脱皮したって言うのは間違いないみたいだよ――今の理子さんは、私が率いてた遊撃隊に居た頃の理子さんじゃなくて、新生黒森峰を率いる隊長だよ。

此れは市街地戦でも簡単には行かないかも知れないね?

 

 

 

「そうかも知れませんけど、西住隊長は簡単に行かない事を望んでるんですよね?」

 

「梓ちゃん……正解。

 簡単に行く試合程ツマラナイ物はないからね……簡単に行かない試合程面白いし燃えて来るモノだよ――理子さんは、私がそう思えるレベルに到達した訳だから、全力で楽しませて貰うよ。

 そう言う訳だから、市街地戦、頼りにしてるよ梓ちゃん♪」

 

「如何言う訳なのか若干分からないんですけど、頼りにしてくれるのであれば、其れには応えるだけですよ西住隊長――軍神を継ぐ者の力、存分にお目に掛けますよ。」

 

 

 

あは、其れは頼もしいね梓ちゃん♪

其れじゃあ決戦の地である市街地に向かおうか――私相手に市街地戦を選んだのは中々の奇策だったけど、果たしてその奇策は本当に私に通じるモノだったのか、確かめさせて貰うよ理子さん、そして黒森峰!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer193『市街地までのデッドヒート!です』

此れは、まさかだねByみほ        マジで水難の相出てないわよね?Byエリカ      出てない、と思いたいですBy小梅


Side:みほ

 

 

市街地戦での決着を要求したら、理子さんは其れを受け入れてくれたから、絶賛市街地に向かって驀進中なんだけど、市街地に向かう道中が如何考えても平穏無事に済むとは思えないんだよね?

いや、『競走』を提案したのは私だから、どの口が言うのかって事になるんだけどさ。

なんて言うか、市街地に入る前に、双方に其れなりの被害が出る気がしてならないんだけど、梓ちゃんは如何思う?遠慮は要らないから、直球ド真んなかのストレートでどうぞ!

 

 

 

「市街地に入る前のドンパチもまた、楽しいモノだと思いませんか西住隊長?

 市街地での決着とは言いましたけど、市街地に向かう道中で戦うなとは誰も言ってませんよね?其れってつまり、道中にエンカウントした場合、倒せるなら倒しちゃって良いって事ですよね?」

 

「うん、本気で直球な答えをありがとう梓ちゃん。」

 

梓ちゃんの言う通り、決着は市街地でとは言ったけど、その道中で戦うなとは言ってない――つまり、市街地に到着するまでのタンクチェイスもまた戦車戦の一部って事だよ。

理子さんも其れは分かってる筈だから、市街地に着くまでの間に、双方に其れなりの被害が出るのは間違い無いだろうね。

 

 

 

「理想としては、市街地に着いた時点で此方の被害は0で、黒森峰の戦車は五輌位は撃破しておきたい所なんですけど……そう巧くは行きませんよね多分?」

 

「だね。

 市街地と違って、其処までのルートは林に平原、小川と色々な場所があるから、大洗が得意なフィールド、黒森峰が得意なフィールドが入り混じってる訳だからね。」

 

勿論、市街地に着くのを優先して戦闘を避けるって言う選択肢もある訳だし、ある意味では市街地戦よりも、相手とエンカウントした場合の駆け引きが大事になって来るのかも知れないよ。

何れにしても、先に市街地に入った方がアドバンテージを取る事が出来るのは間違いない――特に、隊長車が先に市街地に入った方がね。

 

其れじゃあまずは、市街地までのタンクチェイスを全力で楽しむとしようかな♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer193

『市街地までのデッドヒート!です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

『市街地に向かえ』との命令を受けた大洗と黒森峰の部隊は、一路市街地に向けて驀進中。

双方とも部隊がバラけているので、普通ならば部隊を一度纏めてから市街地を目指すモノだろうが、大洗も黒森峰も部隊を纏める事はせずに、バラけたままの状態で市街地に向かっている。

となればどうなるか?

 

 

「あ。」

 

「え?」

 

「あらら。」

 

「此れは此れは。」

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

「「大洗女子学園!!」」

 

「黒森峰!まさかの時間差攻撃だってぇ!?」

 

「部長さん、其れはちょっと違うんじゃあないのかな?」

 

 

はい、道中で見事にエンカウント。

大洗のアヒル・サメコンビがエンカウントしたのは、ティーガーⅠとⅢ号の、火力と機動力のコンビ――機動力型の大洗のアヒル・サメコンビと比べると、黒森峰のコンビの方がバランスは良いだろう。

Ⅲ号ならば、クルセイダーとⅣ号F2で撃破するのは難しくないが、ティーガーⅠを倒すのは可成りキツイのに対し、ティーガーⅠならば何処に当ててもクルセイダーとⅣ号F2は撃破出来るのだ。

普通に考えるなら大洗サイドは交戦を控えて市街地まで機動力を生かして逃げるのが最善の策だろう。否、如何にぶっ飛んだ戦車乗りが多い大洗であっても、此の状況ではそうする筈だ。多分。

 

だが、今此処に居るのは熱血スポコンバレーボールバカのアヒルチームと、大洗のヨハネスブルク何て言われてる無法地帯を仕切ってるお銀率いるバーどん底のサメチーム。

早い話が、常識を根性で蹴り飛ばす脳筋と、そもそも一般常識なんぞハナッから通じないアウトローのコンビなのだ……と言う事は当然――

 

 

「此処で会ったが百年目!根性で倒すぞ!!」

 

「「「はい、キャプテン!!」」」

 

「乗ってるのは陸の船である戦車だけど、アタシ等どん底の面子は、言ってみれば海賊みたいなもんだからね……敵と出会っちまったら逃げる事なんて出来ないのさ。

 準備は良いか、お前等!!」

 

「「「「勿論です、親分!!」」」」

 

 

逃げるなんて言う選択肢はなく交戦開始!

普通ならば相容れない熱血スポコンと、アウトローなのだが、アヒルチームとサメチームは何だか良い具合に波長が合ったらしく、見事なまでにタッグとして成立しているらしい……水と油が混ざって妙な化学反応でも起こしたのだろうか?

 

 

「うそ!?普通向かってくる此れ!?」

 

「自爆特攻……じゃないわね此れ!コイツ等、本気でアタシ達を倒そうとしてるわよ!!」

 

 

明らかに攻撃力と防御力で劣っているのだから、此処は機動力を武器に市外地まで逃げる――市街地までの追いかけっこになるだろうと予想していた黒森峰の面々は当然驚かされる。

夏の大会で大洗の非常識さは身に染みていた筈なのだが、地の利も何もあったモンじゃない平原で、性能で劣る戦車で馬鹿正直に戦車戦を仕掛けてくるとは幾ら何でも予想しろってのが無理である。初手から、コズミック・ブレイザー、シューティング・クェーサー、スターダスト・シフルを予想しろってのと同じ位無理だ。

 

 

「みほの弟子の梓って子は、全国大会でⅢ号で相討ちを含めてこっちの重戦車を次々と撃破してくれたから、油断は禁物ね……上等、やるってんなら相手になってやるわ!」

 

「黒森峰舐めんな!アンタ等の首を隊長への土産にしてやるわ!」

 

「威勢がいいね?まるで甲斐の虎と言われた武田信玄みたいだ……まぁ、武田信玄に会った事は無いんだけどね。」

 

「必殺の殺人スパイクを喰らわせてやる!!」

 

 

ともあれ、此の四輌は戦車戦を展開!――要するに、この様に移動中に戦闘状態になってしまう事があるのだ。

そして、同じような事は各地で起きているのである。……とは言っても、全てが戦車戦に発展している訳では無いのだが。

 

 

「あり?市街地に着く前に会っちゃったか~~?それじゃあ、どっちが市街地に先に着くか勝負だ!!」

 

「我等の機動力に付いて来れるかな?」

 

「んな、Ⅲ突は兎も角として、P虎のくせに何よあの加速!有り得ないでしょ普通に!!」

 

「エンジンは規制があるけど、モーターには一切の規制がないから、可能な限りモーターを魔改造して馬力と速度を極限まで強化してみました!!」

 

「はぁ!?其れって反則じゃないの!?」

 

「いや、確かに今のレギュレーションではモーターに関する規定は一切ないから、可成りギリギリのグレーゾーンではあるけどモーターの改造は合法って事になるわ。

 来年の大会では規制が入るかもだけど、少なくともレギュレーションの改定が行われない限りは合法……ルールの穴を見事に突いた訳か。」

 

 

カバチームとレオポンのタッグは戦車戦は避けて、市街地までの純粋な『競走』に打って出ていた……普通なら足回りに不安材料しかないポルシェティーガーで機動力勝負と言うのは愚の骨頂だが、大洗のポルシェティーガーはエンジンや足回りがレギュレーションギリギリまで強化されているだけでなく、規制のないモーターは文字通りの魔改造を施されているのだ。その回転数は一秒間に一万回転だって言うんだから驚きだ。

大学選抜戦では魔改造したモーターが火を噴いてしまったが、今回はモーターが焼け付ない様に更なる改造を施してあるのだ……此れは如何考えても大洗のポルシェティーガーは高校戦車道界隈で最強の戦車であると言えるだろう。

最強と名高い重戦車であるティーガーⅠと同等の火力と防御力を有してる上に機動力まであるとかドンだけ無敵だこの野郎。

まぁ、何にしても大洗のポルシェティーガーとⅢ突は黒森峰の部隊と交戦する事無く一路市街地にだ――その後を黒森峰の部隊が追って来てるが追い付かれる事は先ず無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

各地で激しいタンクチェイスが繰り広げられている中、小梅率いるオオワシチームと、そど子もとい、園緑子率いるカモチームは小川に差し掛かっていた。

市街地に入るにはこの小川を超えなくてはならないのだ。

此のタッグは、少し前まで黒森峰の部隊と交戦しており、其処から隙を突いて離脱して市街地を目指していた事もあり、追撃の事を考えると、出来るだけこの小川を早急に渡りたい所だろう。

 

 

「そど子さんは川上を進んで下さい。私達が川下を行けば、仮に流された場合でも車体で受け止める事が出来ますので。」

 

「そど子って言うんじゃないわよ!っとにもう冷泉さんのせいですっかり定着しちゃったじゃないのよ……まぁ、良いわ。その方法が安全そうね。」

 

 

進行方法を決め、オオワシチームとカモチームは川越を開始。

それ程深い川ではないので、戦車ならば渡り切るのは難しくないだろう――足回りの性能にもよるが、戦車はもっと足場の悪い場所でも進む事が出来るのだから。

 

そんな訳で順調に川を渡っていたオオワシチームとカモチームだったが……

 

 

 

――ガクン!!

 

 

「「「!!?」」」

 

「そど子さん!?」

 

 

突然、カモチームのルノーR35が体勢を崩して傾いてしまった。一体何が起きたのか?

 

 

「まさか、川底の窪み……!」

 

 

そう、ルノーR35は川底の窪みに片側の履帯と転輪を取られてしまい、体勢を崩してしまったのだ。

川底の窪みなんて見れば分かるんじゃないかと思うだろうが、空気中と水中では光の屈折率が違う為、水が無ければ分かるであろう窪みも、水があるだけで可成り分かり辛くなる上に、仮に窪みがあると分かっても、実際よりも浅く見える為に、『大丈夫だろう』と思ってしまうと言う、天然のトラッ

プなのである。正にトラップカード『落とし穴』だ。

 

とは言っても、此れだけならば特に問題はない。

ルノーR35は決して強力な戦車ではないが、この程度の窪みからならば自力で這い上がれる位の馬力は有しているので、ちゃんと操縦すれば窪みから脱出可能なのだが、如何やら神様ってのはトンデモナイ弩S野郎だったようである。

 

 

「何やってるのよゴモヨ!此れ位なら出られるでしょ!?」

 

「さっきからやってるけど無理だよそど子!此れ、履帯が外れたっぽい。」

 

 

何と此処で履帯が外れると言うアクシデントが発生!

履帯のアクシデントと言えば理子の専売特許(?)のイメージがあるが、彼女は隊長になった事で、『履帯の呪い』を弾き飛ばしてしまった……その呪いがカモチームに降り注いだとか笑えないだろう。

と言うか、去年の全国大会決勝、今年の全国大会決勝、そしてこの無限軌道杯の決勝と続け様に水難事故に遭うってドンだけの確率なのだろう?

まさかとは思うが、みほのいる戦車隊には軍神の加護と一緒に水難の相、否、水難の呪いも掛かって居るとでも言うのか?だとしたら物凄く要らないモノじゃないだろうかそのバッドステータス?大洗磯前神社でお祓いして貰った方がいのではなかろうか?

 

 

「そど子さん、大丈夫ですか!?」

 

「窪みに嵌っただけじゃなくて、履帯が外れたみたいね……小梅さん、私達の事は良いから、貴女は市街地に向かいなさい!西住隊長には貴女の力は絶対に必要になるんだから!」

 

「そんな……出来ませんよそんな事!

 只のエンストじゃないんです!そんな状態で、もしもひっくり返ったりでもしたら大惨事です!何よりも、仲間を見捨てる事は出来ません!」

 

 

そうは言っても、履帯が外れている状態では此の窪みから脱出するのは難しい――継続のBT-42の様に、天下のクリスティ式が搭載されているのならば未だしも、ルノーR35に其の機構はない。

此のままでは黒森峰の部隊に追い付かれるのは必至故に、そど子は小梅に自分達を置いて先に行けと言うのだが、其れは小梅からしたら到底受け入れられるモノではない。

と言うか、西住みほ流戦車道に於いて、『ピンチの仲間を見捨てる』等と言う選択肢はそもそもあり得ない。否、仲間だけではなく、本気でヤバい状況であるのならば対戦相手であっても助けるのがみほ流だ。

だからこそ昨年の決勝戦での大救出劇があったのだから。

 

だがしかし、此の状況を好転させる手段がないのは確かだ――一応ワイヤーで引っ張るという手もあるのだが、如何にルノーR35が10tに満たない戦車とは言え、Ⅳ号H型一輌で牽引するのは無理があるだろう。

 

 

 

「小梅達見つけた!もう川を渡ってたのか!」

 

 

小梅が如何しようか思案している内に、黒森峰の部隊が、川を目視出来る所までやって来ていた。

黒森峰からすれば此れはチャンスでもある――川越中は機動力が鈍り、反撃こそ出来ても回避行動を執るのは可成り難しくなるからだ。

なので、早速攻撃しようとしたのだが……

 

 

「待って下さい根津先輩、なんか様子が変ですよ?……ルノー、傾いてません?」

 

「何ですって?……マジだ。まさか、天然のトラップに嵌ったのか!?」

 

 

パンターの車長が、ティーガーⅠの車長である根津美野里に様子がおかしい事を伝え、根津もまた其れを双眼鏡で確認する。如何でも良いが、今回はマウスじゃないんだな根津美野里よ。

 

 

「いや、其れだけなら自力で何とか脱出できる筈……まさか、足元のトラブルか!?」

 

「えぇ、其れって拙くないですか!?履帯に異常が有ったら、自力で出られない所か、最悪の場合ひっくり返って大惨事ですよ!!」

 

「あぁ、ッタク何でみほが居るチームは水難に遭うかなぁ?……仕方ない、此処で攻撃して撃破ってのは後味が悪い上に、試合後に黒のカリスマから地獄のフィニッシュコンボ喰らわされるかもだから助けるわよ。」

 

「い、良いんですか、そんな事して。」

 

「みほなら、大洗の隊長ならそうするわ。これも、戦車道ってね。」

 

 

双眼鏡で状況を見ていた根津は、ルノーR35の足回りにトラブルが発生したと見抜き、最悪の状況になってしまう前に救出する事を決め現場に直行する……みほの戦車道の精神は、黒森峰にも確りと残っていたようだ。

 

 

「小梅~~~~!大丈夫か~~!!!」

 

「根津さん!?」

 

「ワイヤー投げるから、ルノーに巻き付けて!ティーガーとパンターとⅣ号で牽引すりゃ、ルノーを引き上げて対岸まで連れて行けるっしょ?」

 

「へ?」

 

「だから、ルノーを引き上げるのを手伝ってやるって言ってんの!

 動けない相手を攻撃して撃破しても、そんなの寝たきりの相手を一方的に殴るのと同じじゃん?……卑怯な勝者にはなりたくないのよ、私達は。」

 

「根津さん……分かりました、お願いします!」

 

 

追い付いてきた根津の行き成りの提案に戸惑う小梅だが、その理由を聞き納得。

『卑怯な勝者にはなりたくない』と言うのは勿論本音だろうが、其れ以上に此の状況を見過ごす事が出来なかったのだろうと、小梅は結論付けたのかも知れない。

黒森峰時代に交流が多かった訳では無いが、同じく一軍として共に戦って来ただけに、根津もまたみほの戦車道には触れていたのだから。

 

 

「ちょっと貴女達!相手を助けるなんて校則違反よ!」

 

「はいはい、そんなブラック校則は即撤廃しちゃおうね。

 このまま転覆したら、アンタ等間違いなく溺死だから、悪いけど手を出させて貰うから。戦車道の試合で死人が出たとか冗談じゃないしね。」

 

 

そど子のお決まりの名言(?)にも軽~く返し、ルノーR35には、夫々Ⅳ号H型、パンター、ティーガーⅠに繋がるワイヤーが巻き付けられた。

 

 

「其れじゃあ行きますよ……エンジン全開!!」

 

「ティーガーの馬力を見せてやる!」

 

「最強中戦車の底力を、その目に焼き付けろぉぉぉ!!!」

 

 

そして次の瞬間、三輌の戦車が一気にエンジンを全開にしてルノーR35を引っ張る!

足場が不安定な水中であっても、そんな事は関係なしにエンジンを噴かして窪みに嵌ったルノーR35を引っ張る!引き上げる!サルベージする!

 

その甲斐あってか、ルノーR35は少しずつ動き始めて……遂に窪みから脱出!

だが、其れで終わりではなく、其のまま対岸まで牽引して行く――ピンチの状況の大洗を攻撃した全国大会とは正反対の光景だろう此れは。

根津達のこの行動はオーロラヴィジョンにも映し出され、其れを見た観客からは惜しみない拍手が送られたのは言うまでもないだろう。

 

 

「Wunderbar!最高だぜ!!

 本気でヤバい時には敵味方なく力を貸す、此れが本当の戦車道ってやつだ!此れがあるから、一度知っちまうと辞められねぇんだ戦車道ファンってやつはよぉ!」

 

「君達の戦車道LOVE……心に響いたぜ。」

 

 

観客から惜しみない拍手が送られたのは言うまでもないだろう……相変わらず絶好調っすね黒のカリスマ&ジーニアスは。

まぁ、何はともあれ窪みから脱出したルノーR35は無事に対岸に到着し、この救出劇に関わったメンバーは、思わず戦車から降りて一息だ……如何に試合中と言えども、此の状況を乗り切ったのならば一息吐きたくもなるだろう。

 

 

「な、何とかなりました……ありがとうございます根津さん。」

 

「良いって事よ……其れよりも、外れた履帯、川に置きっぱなしにしちゃったけど如何すんのアレ?流石に回収できないでしょアレは?」

 

「アレを取りに戻ったら、其れこそ人的被害が出ますって……後で連盟の方で回収して貰うしかないですよ――そう言う訳ですので、そど子さん、非常に申し訳ないのですが、カモチームは此処で脱落です!!」

 

「履帯がないんじゃ動きようもないモノね……悔しいけど納得してあげるわ。

 だけど小梅さん、絶対に負けるんじゃないわよ!全国大会に続いて、無限軌道杯も大洗が制してやるんだから!」

 

「勿論、その心算ですよ。」

 

 

だが、外れた履帯が川の中に取り残されてしまったカモチームは此処で脱落。

此れで大洗は二輌の損失となったのだが……

 

 

『黒森峰、Ⅲ号四輌、ヤークトパンター二輌、行動不能!!』

 

 

此処で黒森峰の戦車が立て続けに合計六輌撃破のアナウンスが入る……此れで、残存車輌は大洗が九輌、黒森峰が十四輌と言う状態になった訳だ。

その差は僅かに五輌――試合開始時の九輌と比べれば差は小さくなったと言えるだろう。

 

 

「げ、一気に六輌ってマジか?相変わらず、ハンパないなみほは!!」

 

「其れがみほさんですからね……理子さんもレベルアップしたのは間違いないみたいですが、其れでもみほさんに勝つのは簡単な事じゃありませんよ根津さん。

 助けてくれた事には礼を言いますが、其れと試合は別問題です……市街地では覚悟して下さいね?」

 

「上等、此処から市街地までは何もしないでおいてげるわ小梅……市街地戦はみほの専売特許じゃないって言う事を、たっぷりとその身で味わうと良いわ。」

 

「其れは、とても楽しみです。」

 

 

小梅と根津の間に火花が散っているように見えるのはきっと気のせいではないだろう。そして、カモチームとパンターが若干空気なってるのもきっと気のせいではない筈だ。

小梅も根津も、市街地までの道中は互いに攻撃する気はないようだが、市街地に入ったら即リミッターを解除する気満々だ……此れは、市街地戦が大荒れになるのは間違いなさそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

カモチームがアクシデントで行動不能になって大洗の残存車輌は九輌、対する黒森峰は十四輌……五輌程度の差なら、私にとっては無いも同然って所だね。

全国大会では倍の戦力差を引っ繰り返した訳だし。

 

 

 

「撃破した六輌の内、五輌は私と西住隊長で撃破してますけどね。」

 

「軍神師弟に敵はないって事で如何かな梓ちゃん?」

 

「はい、異論はありません。」

 

 

 

だよね……いやはや、梓ちゃんとのタッグが此処まで噛み合うとは思ってなかった――如何に師弟関係とは言え、まさかハンドサインだけで私の意図を汲み取るとはね。

そんな事が出来るのはお姉ちゃん位だと思ってたから吃驚だよ。

でも、だからこそ頼りになるものなんだよね――梓ちゃん、市街地でも頼りにしてるからね?

 

 

 

「はい、お任せください西住隊長!粉骨砕身、全力で頑張りますから!!」

 

「うん、その意気だよ♪」

 

さてと、そろそろ市街地に到着するね……私達が先だったのか、其れとも理子さんの方が先だったのか、其れは分からないけど、市街地に入ったらエリカさんに連絡を入れないとだね。

 

あ~~、もしもしエリカさん?

 

 

 

『なによみほ、なんか用?』

 

「エリカさん、もう市街地入りましたか?」

 

『今から入る所だけど、其れが如何かしたの?』

 

「うん。エリカさん……市街地に入ったら、好きにして。」

 

『好きにしてって、貴女その意味分かってるんでしょうね?私が好きにしたらとんでもない事になるわよ?其れでも良いの?』

 

「全然OKです。寧ろそれを望んでるので。」

 

『分かったわ……市街地に入ったら好きなようにさせて貰うわ……狂犬の牙の恐ろしさ、もう一度黒森峰に味わわせてやるわよ!!』

 

 

 

うん、是非ともそうしちゃってねエリカさん♪

此れでエリカさんを繋ぎ止めてる鎖は切った……市街地に入ったエリカさんは敵とみなした相手を容赦なく喰い殺す狂犬になったから、黒森峰の皆さんは注意されたし、だね。

 

何れにしても此処からがメインイベント――私の十八番である市街地戦、たっぷりと御馳走してあげるから、楽しみにしててね黒森峰!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer194『市街地戦は全力全開!寧ろ全壊です』

エリカさんが暴走しましたByみほ        ガァァァァァアァァァァァアァッァァァ?Byエリカ      人の言葉、通じますよね?By小梅


Side:アイン

 

 

市街地までのタンクチェイスを熟して、市街地の入り口まで来た訳だが……エリカ、本当にこのまま市街地入って良いんだな?本当に良いんだな?

 

 

 

「問題ないわアイン。このまま市街地に入りましょう。

 何より、みほは『市街地に入ったら好きにして』って言ったからね……なら、その言葉に甘えて好きにさせて貰おうじゃないの!市街地に入ったその瞬間に、アタシのリミッターは破壊されるわ!!」

 

「其れが若干怖いんだがな……」

 

まぁ、そう言う事ならば市街地に入るからな?……もう知らないっと。

 

 

 

「ゴフアァ!!」

 

「吐血!?大丈夫ですか逸見先輩!!」

 

 

 

いや、此れ血じゃなくて食紅で作った血糊だ……薄いゴム袋に入れていた血糊を噛み切ったと言った感じだが、エリカよ態々吐血を表現して、暴走を演出しなくても良いと思うのだが……

 

 

 

「ぐぅぅぅおあぁぁぁぁぁぁ……ミホォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

「言うだけ無駄だろうな。」

 

暴走エリカ、正式名称『ショウエンノナカセンシャノチニクルフエリカ』となったエリカは、普段理性で抑え付けている凶暴性が解放されて、本能のままに敵とみなした相手に襲い掛かるからね。

黒森峰の諸君、悪い事は言わないから私達とエンカウントしたら即逃げる事をお勧めするぞ……今のエリカを倒す事が出来るのは、みほと澤、それから小梅位だろうからね。

 

 

 

「うぅぅ……がぁぁぁぁぁ……」

 

「中心街に向かって真っすぐ……あいーーー!!」

 

 

 

……そして、何時の間に暴走エリカ語が分かるようになったんだ坂口は?準決勝の時は理解出来てなかったと思うのだが……まぁ、私が通訳する必要が無くなったから、指示が円滑に行われるようになったと言う点では良い事か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer194

『市街地戦は全力全開!寧ろ全壊です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

市街地までの道中、大洗のカモチームが川の中で脱輪すると言うハプニングがあったモノの、黒森峰の部隊の協力もあって、其のハプニングを乗り越え、動ける戦車は全部市街地に到着。

この時点で大洗の残存車輌は九、黒森峰の残存車輌は十四だ。

数の上では黒森峰が五輌有利だが、場所がみほが最も得意としている市街地での戦闘である事を考えると、五輌の差は無いと思った方が良いだろう。

加えて、市街地戦では遭遇戦やゲリラ戦がメインとなるため、如何したってみほ率いる大洗にアドバンテージがあるように思える――全国大会の展開を見れば確かに其の通りだろう。

だが、今回は全国大会の時とは決定的に違う所がある――大洗も黒森峰も部隊がバラバラの状態で市街地に入って居ると言う事だ。

 

つまり、互いに相手の動きを完全に把握する事は不可能であり、市街地の何処で誰とエンカウントするのか分からないのである。

 

 

「場所はみほの土俵の市街地、遭遇戦ゲリラ戦上等、おまけに上から何が降って来るか分からないか……だけどさぁ、裏を返すとそれらの戦術って私等も使えるって事なんだよねぇ。」

 

 

そんな状況であっても、黒森峰の新隊長である理子は別に焦っていなかった。

みほ率いる遊撃隊に居たから、みほの戦術は全て知っている――等と言う訳では無く、余裕をかましている訳でもない。単純に、『みほが使って来る戦術を、自分達だって使えば良い』と考えているだけだ。

 

まほと凛の猛特訓を経て隊長になった理子が先ず行ったのは、伝統と言う名の害悪の除去だった。

伝統は大事だが、後生大事に其れだけを守っていたら廃れるのは確実……ある意味で黒森峰よりも伝統を重んじる聖グロリアーナですら、アールグレイやダージリンと言った隊長が改革を行い、伝統だけではない学校へと作り替えたのだから。

だから理子も其れに倣った。

他を圧倒する火力で正面から相手を叩きのめす、悪く言えば猪武者でしかなかった黒森峰の戦車隊の隊員に、徹底的に火力重視の戦い方の脆さと、搦め手や裏技の有効性を叩き込んだ。

みほの遊撃隊に居た理子にとって、搦め手や裏技を隊員に披露するのは難しくなく、また隊員達には『大洗にリベンジしたい』との思いが非常に強かったので、思いの外改革は巧く行った。

尤も、予想通りにダイヤモンドの如く無駄に頭の固いOG会が『伝統を蔑ろにするな』と言って来たが、其処は五回も脱皮した理子、『伝統は伝統で大事だけど勝てなきゃ意味ないでしょ?黒森峰が十連覇出来たのは西住姉妹が居たからで、みほが居なくなった黒森峰は、伝統守って素人集団に負けたじゃないですか?其れに、自分はみほと比べたら可成り劣るんで、伝統的な戦い方だけじゃ勝てないんですよ。何よりも、力一辺倒のゴリ押しよりも、技も使えた方が王者らしいでしょ?って言っても、分からないか。でも私は此れで結果を出すので、彼是言わないで下さいよ、過去の栄光に縋り付いてるお姉様方。』と言って黙らせた。

OG会のメンバーは顔を真っ赤にしていたが、力一辺倒でなくなった黒森峰は、『元王者』を倒して名を上げようと挑んで来た戦車道では無名校を次々と返り討ちにしていたから、文句を言う事は出来なかった。

 

 

「そう言えば、みほと全力で戦うのって初めてじゃん?

 去年は遊撃隊だったから、紅白戦でも常に一緒だったし、全国大会の時はヘッツァーに邪魔されて碌に戦えなかったからなぁ……あは、此れって凄い役得じゃね?

 みほとの全力バトルが無限軌道杯の決勝とか美味しすぎるっしょ?……どっちが勝っても恨みっこなし!死力を尽くすわ!」

 

 

 

――履帯子:市街地に入ったわみほ……手加減なしよ。

 

――みほ@ボコ:勿論手加減なしですよ理子さん……砲撃が、お前を呼んでるぜ。

 

――履帯子:なら砕け散れ、潔くな。

 

 

 

で、みほと理子はLINEで何かやってた。

このやり取りに関して、ユーザーネーム『カリカリ小梅』と『マウ子と呼ぶな!』が突っ込みを入れたかどうかは定かではない……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、両校とも部隊はバラバラの状態で市街地に入ったと言ったが、其れには例外も存在する。

 

 

「こんのぉ、ちょこまかとぉ!!」

 

「何でこの距離で当たらない……ううん、回避出来るのよ!!」

 

「根性の逆リベロだ!絶対に当たるな!」

 

「直進してから面舵一杯!東郷ターンで意表を突くよ!」

 

 

其れが大洗のアヒル・サメタッグvs黒森峰のティーガーⅠだった。

市街地までの道のりでエンカウントした両者は、其のまま戦車戦を展開しながら市街地までやって来たのだ……その過程で、ティーガーⅠと一緒にいたⅢ号が撃破されたのはある意味で仕方ないと言えよう。

Ⅲ号は優秀な中戦車だが、火力ではⅣ号F2に劣るし、機動力ではクルセイダーには敵わない……故に、スポコンとアウトローがケミストリーしてなんかヤバい事になってるアヒル・サメタッグの予想不可能の連携の前に撃破されてしまったのだ。

 

だが、Ⅲ号は撃破されてもティーガーⅠはクルセイダーとⅣ号F2の二輌を相手にして市街地に突入したのは、流石最強の重戦車と言った所だ。

Ⅳ号F2とクルセイダーの火力ではティーガーⅠの装甲を抜けなかったと言うの大きいだろうが、謎の化学反応を起こしたアヒル・サメタッグにやられなかったのは見事と言えよう。

 

 

「調子に乗るなよ、紙装甲の雑魚共がぁ!!」

 

 

だが、市街地に入ったその瞬間に、ティーガーⅠの動きが変わった。

此れまでは弱点である後面を曝さない様にして来たのだが、ここに来て一転、バックで急加速してクルセイダーに向かって来たのだ。

 

 

「んな、バックアタック!?」

 

「違うわよ……これぞ、黒森峰流戦車ヒップアタック!重戦車のケツ爆弾でぶっとべ!!」

 

 

まさかの行動に、アヒルチームは対処が遅れ、ティーガーⅠのヒップアタックを諸に喰らい、更にそのままコンビニに押し込まれてしまう――クルセイダーは機動力には定評がある物の、機動力を優先した結果、装甲は紙だ。

そのクルセイダーが攻守で最強と言われるティーガーⅠのヒップアタックを喰らって、更にコンビニに押し込まれたらどうなるか等、考えるまでもないだろう。

 

 

『大洗女子学園、クルセイダー走行不能。』

 

 

見事に白旗判定となりアヒルチームは此処で脱落だ……根性だけではどうにもならない事もあるらしかった。――尤も、神羅万象全て、根性でなんとかなったら堪ったモノではないのだけれど。

だが、アヒルチームは脱落しても、サメチームは未だ健在である事を忘れてはならない。

 

 

「部長さん、アンタの根性はアタシ等が引き継ぐ……気合入れろよお前等、部長さん達の弔い合戦だ!!」

 

「「「「はい、親分!!」」」」

 

 

船乗りの結束は鉄より硬く、仲間との絆は鋼の如し……アヒルチームの脱落は、義理人情に厚いサメチームに完全に火を点ける結果となったみたいだ。

 

 

「知り合って間もないとは言え、彼女達はアタシ等の仲間なんでね……その仇は討たせて貰うよ?」

 

「やってみなさいよ、出来るモノならね。」

 

 

取り敢えず、この戦いがまだ続くのは間違いない……其れこそ、何方かが白旗判定になるか、試合終了のアナウンスが入るまで終わらないかも知れない。

陸上のハンターである虎と、海のハンターであるサメの対決は、まだ決着が付きそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サメと虎の戦いは兎も角として、市街地各地では、熾烈な戦いが繰り広げられていた。

 

 

「其れじゃあ、先程の続きと行きましょうか根津さん?」

 

「おうともよ!だけど小梅、こっちは二輌な上、性能では圧倒的に上だよ?

 数と性能だけじゃ決まらないってのは夏の大会でよ~~~~く分かってるし、市街地戦である事を考えれば尚の事なんだけど……其れでも流石に大戦期に最強の名を欲しいままにした中戦車と重戦車のコンビ相手はきついっしょ?幾らⅣ号の最終型であるH型とは言っても。」

 

 

川越えのハプニングを協力して乗り越えた一団は、市街地に入ったその瞬間に戦車戦を開始!

小梅のⅣ号H型は、中戦車としては高い性能を持っているが、根津率いるタッグは、ティーガーⅠとパンターと言う正に最強の組み合わせである事を考えると、根津の言う様に分が悪いのは間違い無いだろう。

裏技搦め手上等な市街地戦であっても、既に互いの姿が見えている上に、戦車の性能差があり、更に数の差まで在るとなると少々厳しいモノがあると言えよう。

 

 

「そうですね、確かにこのままでは厳しいかも知れません。そもそも、一輌ではビル破壊して上から瓦礫降らせるのも難しいですからねぇ……Ⅳ号の火力では、ティーガーⅠとパンターを一撃で仕留める落とし穴を作るのも難しいですし。」

 

「いや、地面抉るのは兎も角、ビルの破壊は流石に拙くね?」

 

「大丈夫ですよ、戦車道で出た物的被害は全部連盟の方で何とかしてくれますから……其れに、試合会場になった市街地にある企業には、『重要書類やデータは試合当日までに社内から撤去しておく事』が通知されてますからね。」

 

「だからって、普通に壊すのは如何よ?」

 

「……自腹を切る必要がないって思うと、遠慮なく攻撃出来ると思いませんか根津さん?」

 

「怖!笑顔が怖!

 ちょ、アンタそんなキャラだっけ小梅!?アンタもう少し控えめで大人しいキャラじゃなかったっけか?まさか闇落ち!?ブラック小梅な訳!!?」

 

「相方がみほさんとエリカさんですよ?大人しいだけじゃやってられませんって♪」

 

「うわぉ、理由がメッチャ納得したよアタシ!?」

 

 

小梅の思考が少々物騒ではあるが、『ルールに反しない範囲で使える物は何でも使え』のみほ流にどっぷり浸かると自然とこうなってしまうのかも知れない……其れはつまり、大洗の戦車隊のメンバーは全員がこう言った思考形態に……うん、怖いので深く考えるのは止めておいた方が良さそうだ。

尚、こんな会話をしながらも戦車戦は展開されてると言うのだから驚きだ。何よりも、砲撃音が飛び交う中で会話が成立している事に驚きだ。

 

 

「話は戻しますけど根津さん、確かにⅣ号H型でティーガーⅠとパンターを相手にするのはきついモノがあります……でも、其れならこっちもティーガーⅠに匹敵する戦車を呼べばその限りじゃないですよね?」

 

「ティーガーⅠに匹敵する戦車だって?」

 

「はい。

 呼ばせて頂きましたよ、大洗全国制覇の隠れMVPにして、史上最強の欠陥兵器を――待っていましたよ、ナカジマさん!!」

 

「呼ばれて飛び出てアイアイサー!音速の貴公子、今参上!!」

 

「んな、ポルシェティーガーだと!?」

 

 

市街地ではあっても不利な状況にあった小梅が呼び出したのは、ナカジマ率いるレオポンチームのポルシェティーガーだった。

小梅は市街地に着くと同時に、レオポンチームに通信を入れて援軍を要請していたのだ――其れを悟られない様に、此処まで戦って来た小梅は見事であると言えよう。

此れには根津も驚かされたが、此れで数は同じになり、性能差も可成り小さくなった――否、大洗のポルシェティーガーの魔改造度合いを考えると互角になったと言っても過言ではないだろう。

規制のないモーターを極限まで魔改造した結果、ごく短時間であれば重戦車にあるまじき最高速度70kmオーバーも可能ってドンだけのクソチート戦車だ此れ?

しかも、現状では大洗以外にポルシェティーガーを使う学校がないから、レギュレーションで放置される可能性も高いってんだから恐ろしい事この上無いだろう。

 

 

「此れで数の上では互角になりました……本番は此処からですよ根津さん?」

 

「上等……みほの片腕であるアンタを倒して、流れをこっちにひき寄せさせて貰うわ!」

 

「ふふ、私を倒してもエリカさんと澤さんが居る事をお忘れなく。」

 

 

ポルシェティーガーが参戦した事で数は互角になった計四輌は、そこから更に激しい戦車戦を展開!

ティーガーⅠがⅣ号を狙えばポルシェティーガーが『食事の角度』で割って入り、逆にポルシェティーガーがティーガーⅠの後を取ればパンターが攻撃を仕掛けてポルシェティーガーの攻撃をキャンセルし、そのパンターをⅣ号が後方から攻撃するが、パンターは其れをギリギリで回避する。

歩道橋を破壊して上から降らせば、其れを何とか回避し、逆に上から信号機を落としてくる……純粋な戦車戦も、搦め手裏技上等な戦いも、一切の手加減なしで行われているのだ。

此方の決着は、もう暫くかかるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

その他の場所では……

 

 

「マスターアームズオン!ファイヤ!!」

 

 

――ズガァァァァァァン!!

 

 

『黒森峰、ヤークトパンター、行動不能!』

 

 

カバチームのⅢ突が、大学選抜戦でも使った『マカロニ作戦ツヴァイ』を使って相手戦車を撃破したり……

 

 

「いや~~……まさか、五輌も相手にする事になるとはね……ぶっちゃけ此の状況で生き残るのは絶望的だから、せめて全員道連れにしてやっかね?

 小山、敵部隊に突撃!かーしまは可能な限り砲弾外にばら撒け!!」

 

「了解です!」

 

「わ、分かった杏ちゃん!」

 

 

――バッガァァァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

『大洗女子学園、ヘッツァー、黒森峰女学院、ティーガーⅠ二輌、ヤークトパンター、パンター二輌行動不能。』

 

 

元生徒会のカメチームのヘッツァーが、自爆特攻にも等しい方法で、黒森峰の戦車五輌を道連れにして白旗判定……此れで大洗の残存車輌は八となり、黒森峰の残存車輌もまた八となった。

此れで数の上では互角になったが、試合形式はフラッグ戦なので、数の差は大した問題ではないだろう――如何に残存車輌が在っても、フラッグ車が撃破されれば其処で終わりなのがフラッグ戦なのだから。

詰る所、何方が先に相手のフラッグ車を撃破するのか?其れがフラッグ戦では重要な事になって来るのだ。

そして、そのフラッグ車は、大洗、黒森峰共に、駅前のターミナルにその姿を現していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

駅前のターミナルで、私と理子さんはエンカウントしてた……私は決着を付けるには此処が一番の場所だと思って来たんだけど、理子さんも此処に来るとは思わなかったかよ?

何で、此処に来たの?

 

 

 

「何となく、かな?

 みほなら、きっとこの場所に来るんじゃないかなって、漠然とした予感はあったけどね……だから、マジでみほが此処に現れた事に驚いてんだ。

 正に驚天動地ってね。」

 

「因みにどれくらい驚いてます?」

 

「ドローしたらエクゾディアが完成した位かな?」

 

「其れは驚きですねぇ。」

 

でも、その驚きはまだ足りないよ理子さん……私達が此処で会ってしまった以上、全力バトルは避けられないからね――私には梓ちゃんが、理子さんにはツェスカちゃんが居るから状況は五分。

フラッグ戦は、フラッグ車を撃破した方が勝つ……そのルールの中で、フラッグ車同士がエンカウントしたって言うのは最高に燃える展開だよね?

だって、私達の戦いが、其のまま勝敗に直結するんだから。

 

 

 

「そうね、言われてみりゃ燃えてくるわ……だけど、アタシはアンタに勝ちを譲る心算は無いわよみほ?」

 

「譲ってくれなくて結構だよ理子さん……勝利って言うのは捥ぎ取るものだからね!」

 

「言うじゃないの……だけど、簡単に捥ぎ取れるとは思わないでよね!」

 

「勿論そんな事は思ってないですよ!」

 

理子さんの実力は誰よりも知ってるって自負してるから、簡単に勝てるとは思わない――お姉ちゃんと近坂先輩の訓練を受けて五回は脱皮したって言う理子さんなら尚更ね。

だからこそ燃えてくるよ!

この戦いが勝敗に直結するなら余計にね……覚悟は良いですね理子さん?

 

 

 

「上等だ、かかって来いよみほ……アタシは此処でアンタを超えるわ!」

 

「良く吠えた!その意気やよし!!」

 

其れじゃあ始めようか理子さん……無限軌道杯の決勝戦に相応しい、スリリングでエキサイティングでデンジャラスな戦車道を!!――ふふ、客席が総立ちになるのが容易に想像出来るね此れは♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer195『無限軌道杯の決着と、新たな、です』

さぁ、決着と行こうか!Byみほ        グゥゥオォオ……ガァァァByエリカ      取り敢えず落ち着きましょうエリカさんBy小梅


No Side

 

 

みほ・梓タッグと、理子・ツェスカタッグの、大洗の隊長副隊長コンビと、黒森峰の隊長副隊長コンビが駅前のターミナルでエンカウントした頃、我等が逸見エリカ嬢は……

 

 

「ふぅ……ぐふぅ……がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「あいーー!!」

 

 

獲物を求めて市街地を彷徨っていた……桂利奈ちゃんは何で暴走エリカの言ってる事が分かるのかとかは、突っ込んではいけないのだろう。考えるんじゃない、感じるんだとかそんな所だろう。

と言うか、今のエリカは可成りヤバい……目の部分は陰になってるのに目は赤く輝いてる上に、口からは煙みたいのが吐かれているのだから。

暴走エリカに理性は無く、あるのは敵とみなした相手を喰い殺す闘争本能だけだ。

 

 

「逸見?」

 

「……?」

 

 

そして、其処に黒森峰の戦車が現れた……現れてしまった。

黒森峰は暴走エリカにとっては倒すべき相手でしかないのだが、その相手が目の前に現れたらどうなる?……答えは多分聞くまでも無いだろう。

 

 

「ミツケタ……」

 

「え?」

 

「クククク……ミツケタワヨ、クロモリミネ……ギョアァァァ……ニシズミリュウーーーーーーーー!!」

 

 

答えは簡単、其れを追いかけまわすに決まってんだろ。

 

 

「逸見が切れてるーーー!?此れヤバくね!?」

 

「ヤバいですね……なので私的には、この場から即逃げたいです。」

 

「OK、逃げよう!あの逸見はマジでヤバい!!」

 

「グゥゥゥオォォォォォォォ……!」

 

 

黒森峰の諸君、その気持ちは良く分かる。と言うか、この状態のエリカと出会ったら大抵の人間は逃げる事を選択する――このエリカと出会っても逃げないのは西住姉妹と小梅、梓位のモノだろう多分。愛里寿?多分大泣きするんじゃないかな。

しかしだ、逃げる逃げないは別として、逃げる事は略不可能だ――何故かって?だって黒森峰の諸君は、エンカウントした際に合わせてしまったのだから。エリカと、目を。

……逃げられる訳ないじゃん?

 

 

「ゲキハゲキハゲキハゲキハゲキハゲキハゲキハゲキハゲキハゲキハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

「いやぁぁ、なんか吠えてるぅぅぅぅ!?」

 

「なんかもう逸見人間辞めてねぇ!?」

 

 

辛うじて人間だとは思う。取り敢えず生物学上は……今は理性が働いてないだけで。

取り敢えずなんだ、暴走エリカにロックオンされてしまった黒森峰の諸君、君達が撃破されてハンバーグの材料にされない事を、心の底から祈っていよう。祈るだけならタダだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer195

『無限軌道杯の決着と、新たな、です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駅前のターミナルでは、今まさにフラッグ車同士の決戦の火蓋が切られようとしていたのだが……

 

 

「……エリカさんが黒森峰の戦車を襲ってるような気がする。」

 

「ウチの連中が逸見に襲われてる気がする。」

 

 

みほも理子も、エリカの暴走を感じ取っていたらしい……因みにエリカが暴れまくってるのは、駅前ターミナルから直線距離で一kmの地点であるのだが、其れだけ離れていても暴走具合が分かるって、暴走エリカハンパねぇだろマジで。

 

 

「みほ、ウチの子達大丈夫かね?」

 

「大丈夫だと思うよ?エリカさんは暴走しても、敵戦車を撃破したらそれ以上の事はしないと思うから。……多分、きっと。」

 

「いや、其処は絶対って言って欲しいんだけど!?」

 

 

暴走エリカは危険である。暴走エリカは危険である。大事な事なので二度言いました。

 

 

「ったく、逸見の暴走はウチの子達に任せるとして……行くわよみほ?」

 

「受けて立つよ理子さん。」

 

 

暴走エリカの黒森峰ハンティングは兎も角として、駅前ターミナルでは、遂にフラッグ車同士の戦車戦が開始!

しかもこれは、フラッグ車同士の一騎打ちではなく、互いに副隊長を従えていると言うのがポイントだろう――一騎打ちならば、目の前の相手にだけ集中すれば良いが、今回は副隊長車の動向にも気を配らなくてはならないのだから。

更に副隊長である梓とツェスカもまた、同世代では特出した力を持っている戦車長なので、本気で一瞬の気の緩みが窮地を招きかねないのだ。

 

 

――ドォォォォォォォォォォン!!

 

 

砲撃音と共に四輌の戦車は駅前のターミナルを所狭しと動き、夫々が相手のフラッグ車を撃破せんと隙を伺いながら、或いは隙を作る為に攻撃を開始する。

大洗の蒼と白の鋼鉄の豹二匹に対し、黒森峰はサンドイエローの鋼鉄の虎二匹……機動力で勝る大洗と、攻撃力で勝る黒森峰と言う図式は、全国大会と同様と言えよう。

 

 

「喰らえ、タクシーバズーカ!」

 

「主砲の爆風でタクシーを飛ばしてくるとは、やってくれるね理子さん……ならお返しだよ、信号機ナパーム!」

 

 

違う所があるとすれば、其れは黒森峰が力押しの真っ向勝負ではなく、裏技と言うべき戦法を使っている事だろう。

砲撃の爆風でタクシーをフッ飛ばして攻撃したり、地面を攻撃して落とし穴を作ったりと、此れまでの黒森峰では考えられない様な戦い方をしているのだ。

大洗に続いて黒森峰までこんな事をやり始めたら、連盟としては新たな頭痛の種でしかないのだが、その戦い方をしているからこそ、黒森峰と言うか、理子はみほと互角に渡り合う事が出来ているのだ。

もしも、黒森峰の伝統を重んじていたら、理子はみほに瞬殺されていただろうから。

 

 

「信号機……しかも歩行者用じゃなくて車用の方かい!ホント容赦ないわね……って言うか、信号機って近くで見るとデカ!普段は高い所にある

 から、こんなにデカいとか思わなかったわ!」

 

「他にも実は大きかったのは、道路の案内板だね。」

 

「行き先が書いてあるアレな。……取り敢えず案内板爆弾。」

 

「ふ、甘いよ!」

 

 

 

――ガイィィィィィン!!

 

 

 

で、戦いは続き、理子は歩道橋に掛けてある道路の案内板をみほの上に落としたのだが、あろう事かみほは落ちて来た案内板を素手で殴り飛ばしてKO!

道路の案内版は薄く見えるが、実は三~四mmほどの厚みのある金属板であり、其れが上から降って来たと言うのは本来ならば可成り恐ろしい事なのだが、身体能力が色々ぶっ飛んでるみほにとっては大した事ではなかった様だ。

右腕一本しかないハンデとか、マッタク問題ではないらしい。……この子本当に一級身体障碍者なん?

 

 

「オイコラ、殴り飛ばすのは兎も角として、私に向かって殴り返すなっての!

 戦車に当たるなら兎も角、私に当たったら大怪我すんじゃんよ!アンタと違って、こっちはチートな肉体もってないんだから其処を考えなさいよ。」

 

「西住流フィジカルトレーニングを熟せる時点で、その身体能力はチートレベルだよ理子さん。」

 

「うっわ~、微妙に否定出来ねぇ其れ!」

 

 

さりとて試合は続く。何方かのフラッグ車が撃破されるまで続く。続くったら続くのだ。

 

 

さて、みほと理子が全力バトルを繰り広げている一方で、梓とツェスカもまた激しい戦車戦を展開していた。

お互いにライバルと認め合ってるだけに、負けたくないと言う意思が働いて、その結果として激しい戦車戦になっているのだが、同時に、『速攻でケリを付けて、隊長のサポートに』と言う思惑もある。

だからこそ、互いに相手の次の一手を予測し、読み合いのような展開になっているのだ。

 

 

「ツェスカ……やっぱり強いね。」

 

「梓もね……ドイツでも、貴女ほどの戦車乗りは滅多に居なかったわよ?」

 

「其れは、何とも光栄な評価だよ……!」

 

 

ティーガーⅠが攻撃すれば、パンターは其れを回避し、パンターが攻撃すれば、ティーガーⅠは『食事の角度』でその攻撃を弾く……互いに決定打に欠ける戦いだと言えるだろう。

虎の牙は豹を捉える事が出来ず、豹の牙では弱点を狙わない限り虎の皮膚は引き裂けない……つまりこのままの状態が続いても、無駄に砲弾を消費するだけだ。

 

ならば如何するか?

 

 

「歩道橋スプラッシュ!」

 

「なんの、電柱ギロチン!!」

 

 

正攻法で決着が付かないのならば、裏技や搦め手を使うしか無かろう。

梓は元より、ツェスカだって理子が隊長になってからは本格的に搦め手や裏技を身に付けているのだ。まぁ、中学時代に明光大付属中との合同合宿をやっていたからこそ、短期間で身に付いたとも言えるのだが。

だが何にしても師が師なら弟子も弟子である……梓とツェスカも裏技を使い始めた事で、その裏技による隊長へのアシストも発生しており、その結果として、駅前のターミナルは元より、其処に停車してあったバスやタクシー、駅ビル、付近のコンビニをはじめとした様々な店舗が略全壊し、完全に廃墟と化していた。果たして修繕にドレだけの費用が掛かるのか分かったモノではない。

化粧品店とかジュエリーショップとか、売り物にならなくなった商品の弁済だけで一体幾らになると言うのか……其れでも、何とかしちゃう戦車道連盟の資金力はマジ凄いとしか言いようがないんですがな。

 

だが、何が恐ろしいって、駅前を略廃墟にしておきながら、まだ決着が付かないと言う事だろう……みほ・梓タッグと、理子・ツェスカタッグが如何にレベルが拮抗しているかの証と言えよう。

 

 

「理子さん。」

 

「何よみほ?」

 

「場所替えましょう。裏技に使えそうな物なくなっちゃいました。」

 

「いやぁ、確かに其の通りなのかも知れないけどさ、さっすがに此れ以上ぶっ壊すのは不味くない?ナンボ連盟が保証してくれるつっても、意図的に街を壊すってのは、人として如何かと思うわけよ?」

 

「……今更じゃない?」

 

「其れ、やり過ぎて完全に感覚がマヒしてる奴の反応じゃね?ヤバくない色々と?」

 

「大丈夫だよ理子さん、アドレナリンが通常の二十倍くらい出て、パンツァーハイを起こしてるだけだから♪戦車乗りなら、此れ位普通だよね♪」

 

「明らかに過剰分泌でしょ其れ!!」

 

 

――ドガァァァァン!!

 

 

保々略更地になってしまったので、みほは場所の変更を提案するが、理子は其れを拒否し、其のまま駅前ターミナルでの戦闘を再開――まぁ、みほはあぁ言ったモノの、裏技や搦め手はフィールドにある物を利用するだけではないのだから、移動しようとしまいと、実はあんまり関係なかったりするのだけれど。

とは言え、完全に拮抗している此の状況を打開するには、互いに完全に相手の意表を突く一手が必要だと、そう考えているのは確実だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

「マスターアーム、オン!ファイア!」

 

 

――バガァァァン!!

 

――キュポン!

 

 

『黒森峰、ヤークトパンター、行動不能。』

 

 

駅前ターミナルで激戦が行われている頃、カバチームのⅢ突は、マカロニ作戦ツヴァイを使い、又しても黒森峰の戦車を撃破していた。此れで黒森峰の残存車輌は七となり、大洗の残存車輌数と同じとなった。

 

 

「マカロニ作戦ツヴァイ、大学選抜戦では書き割りを置き間違えて見破られてしまったが、間違えさえしなければ此処までガッチリハマるとはな。」

 

「此れも、全てはまるで本物の様に描き込まれたこの書き割りがあってこそ。美術部の皆には感謝ぜよ。」

 

 

こうも見事に作戦がハマったのは、大洗の美術部が総力を挙げて完成させた書き割りがあったからに他ならない……職人芸としか思えない綿密さで描き込まれた書き割りの風景は、3Dポリゴンモデルもビックリのリアルさがあり、完全に背景に同化する事が可能になっているのだから。

如何やら大洗は、戦車道に限らず、一芸に秀でた者達が集う場所であるようだ。

 

 

「よし、此のまま次の場所に……って、ちょっと待てあれは何だ?」

 

「アレって?……黒森峰の戦車……を、エリカが追ってるんじゃないか!?」

 

 

その作戦を使って、新たな場所で所謂『待ち』を行おうとしていたカバチームに突如飛び込んで来たのは、猛スピードで此方に向かって来る黒森峰の戦車……を追いかけてるエリカのティーガーⅡ。

余りにも予想外の事に、目が点になってしまったのは致し方ないだろう。

 

 

「グゥゥゥゥオォォォォォォォォォォォォォ……ゲキハァァァァァァァァァァァァァ!」

 

「ひぎゃぁぁあ!?めっちゃこえぇぇ!!!」

 

「止まるな!止まったらやられるぞ!!」

 

 

だが、追われている黒森峰の生徒は完全に恐慌状態だ。

『反撃すりゃいいだろ?』とも思うだろうが、今のエリカは完全なる野獣故に、一撃で撃破出来れば良いが、撃破出来なかった場合は手負いになった事で更に凶暴さが増す可能性があるから下手に攻撃出来ないのである。

だって、今のエリカが更に狂暴になったら怖い所の騒ぎじゃないからね。

 

 

「……通り過ぎちゃったけど、如何するアレ?」

 

「追うか。なんか面白そうだし……行くぞおりょう!」

 

「了解ぜよ!」

 

 

暴走エリカに追われる黒森峰の戦車を見たカバチームは、その追いかけっこに参加する事を決め、エリカたちの後を追い始める。

普通に考えれば、マカロニ作戦ツヴァイを使った手堅い待ちを行った方が黒森峰の戦車を確実に撃破出来るのだろうが、堅実さよりも面白そうな事があれば、其方に興味をそそられてしまうのが大洗なのだ。

其れは、本来なら悪手とも言えるのだが、大洗に限っては自分の興味を優先した方が巧く行くと言うのだから不思議なモノだ……此れもまた、戦車道に於ける変な癖が付いていなかったからかも知れない。

 

何れにしても、残存車輌は同数となったが、夫々の戦いが白熱している上に、カバチームがエリカに付いた事で、此れ以上の撃破が出るか如何かは全く分からなくなった。

矢張り、決着はみほと理子が付けるしかなさそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

そのみほと理子も、梓とツェスカもそろそろ限界が近付いて来ていた……まぁ、互いに死力を尽くした全力バトルを展開していたら限界も来ると言うモノだ。と言うか、並の戦車乗りだったらとっくに限界を迎えてぶっ倒れていただろう。

にも拘らず健在なのは、精神が肉体を凌駕しているからだろうか?

 

 

「理子さん、次で決着を付けようか?」

 

「だな、そうしようかみほ。」

 

 

だが限界であると言う事は自分自身が分かっているのだろう……だからこそ、次での決着を宣言する。

 

 

「梓ちゃん、余計な事はしないでね?」

 

「……了解しました、西住隊長。」

 

「ツェスカ、手出しは無用よ。」

 

「了解……」

 

 

互いに副隊長に命令を下し、最後の攻防となるタンクジョストに備える。

真正面からぶつかればティーガーⅠが圧倒的に有利だが、みほには此処一番でのタンクドリフトがあるので油断が出来ない――大学選抜戦でもタンクドリフトからの一撃が決定打になったのだから。

 

 

「麻子さん。」

 

「おうよ。」

 

 

みほの合図とともに麻子はパンターのエンジンを全開にしてティーガーⅠに猛突進!

だが、此れが囮である事は理子とて分かっている……本命は此処からの戦車ドリフトであると。だからこそ、理子はギリギリまで迎撃行動は取らずにパンターが何方に動くのかを見極めようとする。

 

 

――クン……

 

 

「向かって右……右旋回!!」

 

 

そして、パンターが僅かに右にずれたその瞬間に砲塔を右に向けて回転開始!

タンクドリフトはフェイントを入れる事が出来ない為、移動を始めたら間違いなくその方向に動くから、初動を見落とさなければ先読みを出来ない事は無いのだ。

そして、先読みをすれば先に動く事が出来る――みほが後方を攻撃する前に、ティーガーⅠの主砲はパンターを撃ち抜く。

きっと誰もがそう思っただろうが……

 

 

――ズガァァァァァァァン!!

 

――キュポン!

 

 

『黒森峰、フラッグ車行動不能!大洗女子学園の、勝利です!』

 

 

突如響いた砲撃音と同時に理子のティーガーⅠは白旗判定となりゲームセット。

だが、みほのパンターは攻撃をしていない……ならば一体誰が理子のティーガーⅠを攻撃したのか?

 

 

「余計な事はしないで、必要な事をやってみました。」

 

 

其れは梓のパンターだ。

梓は理子のティーガーⅠがみほのパンターを狙って砲塔を回転させ完全に後方を向いたその瞬間に、無防備な砲塔の後面に一発ブチかましたのである。

そして、此れはみほと理子が副隊長に出した命令の差でもあった。

みほは『余計な事はするな』と言ったのに対し、理子は『手出し無用』言った……此れは似ている様で、実は全く異なる。

理子の『手出し無用』は、文字通り一切の手出しをするなと言う事になるのだが、みほの『余計な事をするな』と言うのは、逆を言うのならば『必要な事ならやってよし』と言う事でもあるのだ。

だから、梓は其れに倣って、『必要な事』をやったに過ぎないのである。

 

 

「最後の最後でかよ……ったく、詰めが甘かったね私も。もっと言葉を選ばないとだったわ。」

 

「そうだね。だけど、理子さんがツェスカちゃんに私と同じ指示を出してたら、勝負は分からなかったかも知れないよ?……今回は、ホンの少しだけ私に運が味方した、きっとそう言う事なんだよきっと。」

 

「随分と分厚い、ホンの少しだわ。……だけど、来年の全国大会では負けないわよみほ?この雪辱は千倍にして返してやるんだから。」

 

「ふふ、楽しみにしてるよ理子さん。」

 

 

本当に、本当に僅かの差で大洗が勝利し、夏冬の連覇を達成したのだが、みほをギリギリまで苦戦させた理子の評価もまた上がったのは間違い無いだろう。

 

 

「おい、逸見、試合終わったから!!」

 

「ギョ?……そう、終わったのね。」

 

「戻るのはっや!!」

 

 

因みに、暴走エリカは試合が終わった途端に元に戻ったらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エミ

 

 

無限軌道杯を制したのは、みほ率いる大洗だったけど、直下とか言うのが新たに隊長になった黒森峰も可成り強かった……其れこそ、切っ掛け一つで結果は変わってたかもだわ。

まぁ、今回は勝利の女神は大洗に微笑んだ訳だけど。

其れは其れとして、アタシは此れから如何しようかしら?

留学期間は一年だから、三学期が終わればアタシはドイツに帰る事になるけど、ベルウォールの戦車隊はもう充分に成長したから、此れ以上アタシが教えてやる事は無いのよね。

 

だからベルウォールから離れる事に対しての不安はないけど、だけどこのままドイツに帰ったら、アタシはきっと後悔する気がするわ。

だって、みほとは全力で戦ったけど、みほと同じチームでは戦ってないのだからね……小学校の時のアレは別としてね――そうよ、アタシはみほと一緒のチームで戦いたい。

 

だったらやる事は一つだわ。

スマホで実家にに連絡……あ、ママ?うん、無限軌道杯は終わった……優勝は大洗女子学園、みほが居る学校だよ。

うん、うん……それでさ、少しお願いがあるんだけど聞いてくれるかな?……アタシは三月いっぱいでベルウォールを去るんだけど、其のままドイツに戻る気もしないんだ……うん、みほが居るから。

だからもう一年留学しても良いかな?――今度は、大洗女子学園にね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer196『大洗戦車隊にまさかの危機です!』

おうふ、まさかこう来るとはねByみほ        普通に考えれば、二十年放置されたのが動く方がおかしいのよByエリカ      此れもある意味で奇跡ですねBy小梅


Side:みほ

 

 

『祝!大洗女子学園、無限軌道杯制覇!!』――そんな横断幕が、大洗駅の広場には掲げられていた。

夏の全国大会に続いて、冬の無限軌道杯も制して、夏冬の二冠王を達成した私達、大洗女子学園戦車隊は、大洗の町で優勝パレード中だったりするんだよね。

夏冬の連覇は、地元大洗にとっては凄い大ニュースだったみたい……まぁ、戦車道的には無名の学校が夏冬の連覇をしたとなったら話題となる上に、その影響で大洗を訪れる人が増えるかもだからね。

私達の活躍が、大洗の活性化に繋がってるのなら、其れは其れで嬉しい事なんだけど……

 

「沙織さん、私の気のせいでなければ、商店街の各店舗に、戦車女子のスタンドポップがあるみたいなんだけど?」

 

「大洗を戦車道の町として盛り上げようって言う市民プロジェクトの一環みたいだよみぽりん。

 商店街の各店舗の店長の推し戦車女子のスタンドポップを店頭に配置してるんだって……因みに、聖グロの戦車が二度も突っ込んで壊れた旅館のスタンドポップはダージリンさんみたいだよ。」※此れはマジです

 

「此れもプロジェクトの一環だったんだ。」

 

スタンドポップが大洗女子学園の生徒オンリーじゃないのは、大洗女子学園を応援するのとは別に、贔屓にしてる戦車女子が居るからだったんだ。

……お母さんのスタンドポップを置いてた接骨院は如何かと思うけど。

 

 

 

「其れだけじゃなくて、戦車道とコラボしたメニューを出す口物屋もあるみたいだよ?

 シーサイドステーションのクックファンでは『戦車カツ』って言うのがあるみたいだし、商店街の蕎麦屋の大進さんには『華さん盛り』(何方も実在)だよ。

 他にもマリンタワーのカフェではサンダース監修のチーズバーガーや、聖グロ監修のアフォガートが食べられるんだって!あ、喫茶ブロンズで、アンツィオ名物『鉄板ナポリタン』提供してるって!(此れもマジです)」

 

「結構色々展開されてるんだね。」

 

だけど、華さん盛りには物申したいかな?

ワンプレートに茶碗二杯分のご飯の山に、とんかつ二枚と千切りキャベツに、戦車の形に切ったカボチャの煮物が付いてるのは良いけど、この程度じゃ華さんの胃袋は満足できないよ?

華さんの胃袋を満足させるなら、ご飯は四杯分、とんかつは五枚は必要になる筈……多分だけど、華さんだったらファミレスのメニューを完全制覇出来るんじゃないかって思うよ。

 

 

 

「実はナオミさんから、『美味しそうに食べる華を見てると、こっちまで幸せになって来る』って言われまして。」

 

「うわっ、何その惚気!も~~~、なんで私には相手が居ないのよ~~!!」

 

「沙織さん諦めて。流派を存続させる必要のある家元でない限り、戦車女子は基本百合になるから、男性との恋愛は望めそうにないから。」

 

「やだも~~~!!」

 

 

 

なんてね、戦車女子に百合が多いのは事実だけど、ノーマルも普通にあるからね。

沙織さんは女子力高いし、人当たりも良いから男性にはモテると思うんだけど、受け身なのが問題なのかも知れないね……自分から行けば、案外良い相手が見つかるんじゃないかな?

多分だけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer196

『大洗戦車隊にまさかの危機です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凱旋パレードを終え、私達は学園艦に帰還……いやはや、商店街のおもてなしですっかりお腹一杯だよ。

焼き鳥に串カツ、あんこうの唐揚げ、みつだんご、アライッペの釜飯弁当(ミニ)、干し芋クレープ、転輪焼き、そして極めつけは、焼きそば・コロッケ・ソーセージの『調理パン三種の神器』を一つに纏めて戦車を再現した究極の調理パン、その名も『ガルパン』!大洗の名物をたらふく食べたって感じだね~~。

 

「アンドリューとロンメルも満足した?」

 

『ガウ。』

 

『キュ♪』

 

「満足してるみたいね?

 ってか、此の子達の為に調味料未使用のメニュー用意してるって、大洗の商店街、ちょっと準備良すぎじゃないの?アンドリューとロンメルが来なかったら無駄になるってのに。」

 

「戦車道の試合は兎も角、プライベートのみほさんがアンドリューとロンメルと一緒に居るのは雑誌でも紹介されていますから、来て当然と思ったんじゃないでしょうか?

 もし来なかったら、その時は用意したモノに味付けて売ればいいだけの事ですし。」

 

 

 

私が戦車道の試合以外の時はアンドリューとロンメルを連れてるのは最早お馴染みだからね……まぁ、学園艦でのアンドリューとロンメルは、風紀委員公認の警備員だから、昼休み位しか一緒に居られないんだけどね。

其れとアンドリューに関しては、最近は私と一緒よりも……

 

 

 

「うん、何時触ってもお前の毛並みはフワフワだな。」

 

『ウガ。』

 

 

 

麻子さんと一緒に居る感じがする。

と言うか、最早アンドリューが麻子さんを背負って学校にやって来るのはお馴染みになってると言うか何と言うか……低血圧でフラフラ歩いてる麻子さんの事をアンドリューは放っておけないんだろうなぁ。

私に対しては忠誠を誓ってる感じのアンドリューだけど、麻子さんに対しては『危なっかしくて放っておけない妹分』って思いがあるのかもね。

 

 

 

「いやはや、何時見ても本物の虎と言うのは迫力があるねぇ?

 ネコ科最大の猛獣を飼いならしてるとは、隊長さんはビーストテイマーみたいだね……本物のビーストテイマーに会った事は無いんだけど。」

 

「お銀さん。」

 

今回はありがとうございました。正直な所、新しい戦車を買っても乗り手が居なかったから困ってたんです。

だけど、お銀さん達が力を貸してくれたおかげで其れを活かす事が出来ました……何よりも、大会でも活躍してくれましたからね?決勝戦では性能で勝るティーガーⅠを相手に、試合終了のアナウンスが流れるまで戦い続けたって聞いてます。

無限軌道杯の制覇は、お銀さん達の協力が無かったら成し遂げられなかったも知れません。

 

 

 

「そう言って貰えると私等も力を貸した甲斐があったってモンさ。

 でも、其れも今日で終わりだ……大会が終わったなら、私達が此れ以上戦車に関わる必要もないし、私等みたいなアウトローが何時までも戦車隊に居るってのは如何かと思うからね。」

 

「お銀さん……」

 

「そんな顔しなさんな隊長さん。此れで永遠にさよならって訳じゃないんだからさ。

 もしも私等の力が必要な時は、何時でも言っておくれ。その時は、また力を貸すからね――船乗りってのは、仲間を見捨てないもんなのさ。」

 

「お銀さん……分かりました、その時が来たらまた頼りにさせて貰います。」

 

「おうとも、どんどん頼っておくれよ。

 それと、戦車隊の皆はどん底をフリーパスにしておくから、何時でも訪れておくれよ?ノンアルコールのドリンクと、特製の燻製を用意して待ってるからね。」

 

 

 

其れは素敵な提案だね。

どん底のノンアルのビールと燻製ソーセージの美味しさは黒森峰のノンアルビールとソーセージに勝るとも劣らないレベルだからね?……かねふくの明太を練り込んだオリジナルのチョリソーとか有る分だけどん底の方が若干上かもだよ。

だけどお銀さん、ドリンクは兎も角、おつまみの燻製に関しては一言物申したい!

確かにどん底の燻製ソーセージやハムは最高レベルに美味しいけど、大洗は港町なんだから、スモークサーモンを始めとした海鮮の燻製も有った方が良いと思います!

定番のスモークサーモンだけじゃなく、ハマグリやホタテ、如何言う訳か全国でも珍しい位に網にかかるサメの燻製とか行けるんじゃないかと。

其れから、外せないのは茨城名産のあんこう!あんこうの燻製は勿論だけど、あん肝の燻製とかめっちゃ美味しそうじゃないですか?燻製あん肝の本わさ添えとか美味しそうじゃありません?

 

 

 

「海鮮の燻製か……其れは盲点だったね?

 其れにあん肝の燻製って言うのは確かに美味しそうだ。……うん、良いアイディアを貰ったよ隊長さん。此れは、前向きに検討してみる必要がありそうだね。」

 

「何か役に立ったのなら嬉しいよお銀さん。……其れじゃあ、また会う時まで。」

 

「あぁ、またね。……貴女と一緒に戦えた事は、私にとって一生の誇りになるよ。――じゃあね、隻腕の軍神さん。」

 

 

 

お銀さん達とは此処でお別れか……元々、無限軌道杯の間だけのスポット参戦だったから、大会が終わればお別れだって言うは分かってた事だったんだけど、やっぱりお別れするのは寂しいね。

 

 

 

「でも、今生の別れって訳じゃないし、会いに行こうと思えば何時でも会いに行けるんだから、其処まで寂しくはない。でしょ?」

 

「うん、そうだねエリカさん。」

 

無限軌道杯が終わったから、今は此処でバイバイだけど、一度繋がった人と人の縁って言うのは簡単に切れるモノじゃないから、きっとまたお銀さん達と一緒に戦う時が来るのかも知れないね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・・・・

 

・・・

 

 

 

そして週明けの月曜日、予想はしてたけど大洗女子学園の校門には『祝!大洗女子学園無限軌道杯制覇!』の横断幕が……新生徒会長である華さんが指示したとは考え辛いから、杏さんが何かやったんだろうなぁ此れは。

 

 

 

「あぁ、あの腹黒ツインテールならやりかねないわね。」

 

「こう言っては何ですが、角谷さんの腹の内は真っ黒ですからね……冗談抜きで割とマジで。」

 

「エリカさん、小梅さん容赦がないね?……まぁ、確かに否定は出来ないけどさ。」

 

杏さん自体は悪い人じゃないんだろうけど、目的の為には手段を択ばない所があるっぽいからね……多分だけど、私が戦車道を選ばなかったら、可成りの強硬手段を使って来た可能性があるからね。

あの人は、出来れば敵に回したくないよ。

 

 

 

「あ、おはようございます西住殿、逸見殿、赤星殿!!」

 

「相変わらず早いわね優花里?」

 

「今日は何時にも増してですね?何かあったんですか?」

 

 

 

此処で優花里さんが乱入。小梅さんの言う様に、何かあったのかな?

 

 

 

「ふっふっふ、其れは此れですよ西住殿!

 不肖秋山優花里、週刊戦車道と月間戦車道は定期購読しているであります!――ではなくて、此れは週刊戦車道の最新号で、無限軌道杯を特集しているのでありますが、決勝戦に関しての記事が目に留まったので。」

 

「決勝戦の記事が?」

 

其れは確かに気になるね?……無限軌道杯の決勝は、マスコミにはどう映ったのかな?

 

 

 

『無限軌道杯の決勝戦は、夏の全国大会に続いて大洗女子学園と、黒森峰女学園の戦いになった。

 全国大会は姉vs妹の構図だったが、無限軌道杯はそうではなく、大洗女子学園の隊長である西住みほと、黒森峰女学園の新隊長として就任した直下理子の激突となった。

 直下は、みほが黒森峰時代に率いていた遊撃隊のメンバーであり、大会出場者の中では誰よりもみほの事を知っているから、我々の予想をずっと超えた事をしてくれると期待していた。

 そして、その期待に彼女は見事に応えてくれた――逆みほ流に始まり、みほと互角に戦ったその実力は疑いようもない。

 試合には惜しくも敗れたモノの、直下理子は、今や西住みほに勝るとも劣らない戦車乗りになっていると言っても過言ではないだろう。

 そしてこの試合は、『不断の努力を続けていれば、誰とでも互角に戦えるレベルになれる』と言う事実を多くの戦車乗りに実感させたモノではないかと思う次第であり、それによって戦車道がより一層の発展を遂げてくれるのではないかと期待している。

 同時に、試合中に川で動けなくなった大洗の戦車を、黒森峰が手を貸して救出した場面は、決勝戦最大の名場面であったと思う……此れこそが戦車道に最も必要な精神であると、筆者は痛感した次第だ。

 最後に、大洗女子学園の諸君、夏冬連覇おめでとう。君達の実力は本物だ!』

 

 

 

此れは、中々に良い記事だね?

確かに理子さんは私の予想を超えて来てくれたからね……きっと、夏の大会ではあの戦い方に更に磨きが掛かってる筈だから、私も負けてられないよ。――ううん、理子さんだけじゃなく、無限軌道杯に出場した全ての学校がレベルアップして来るだろうからね。

其れとこの記者さんは、毎度思うけどちゃんと見るべき所を見てるよね?

並の記者だったら私と理子さんの戦い、理子さんの予想を上回る奮闘ばかりを書き立てそうなところだけど、黒森峰の皆がそど子さん達を救出するのを手伝ってくれた事までちゃんと書いてるからね。

アレはちゃんと世間に伝えるべき事だと思うから、こうして記事にしてくれたのは嬉しいよ。

 

 

 

「良く書かれてるじゃないの?記事の内容は問題ないわね。」

 

「え、他に何か問題がありましたかエリカさん?」

 

「いや、ありまくりでしょう小梅!

 何で表紙がみほと直下じゃなくて、暴走状態の私が黒森峰の戦車追い回してる写真なのよ!こんな写真普通雑誌の表紙に使わないでしょ!」

 

「逸見殿……インパクトだけは絶大でありますよ?SNSでも話題沸騰でありますから。」

 

「インパクト狙い過ぎでしょ其れ!?」

 

 

 

暴走エリカさんは迫力あるからねぇ……優花里さんの言う通り、SNSでも凄い感じだよ?

ツイートとかメッセージが……

 

 

 

『暴走エリカまじこえぇ。此れは普通に逃げる。』

『口元に血付いてひん?逸見ってオロチだったん?』

『此れ、暴走エリカって言うよりも、殺意の波動に目覚めたエリカじゃね?』

『追い回された黒森峰の隊員には同情を禁じ得ない……下手なトラウマが植え付けられてなきゃいいけど。』

『自ら暴走したのか、それとも隊長命令なのか、問題はそこだ。』

『口から煙出てね?大丈夫か此れ……逸見なら大丈夫か。』

『ハンバーグを奢ってやるから落ち着いてくれ。』

『止めろ馬鹿、そんな事したら更に狂暴になっちまうだろうが!』

『狂暴?暴走?生温い事言ってんじゃねぇ!まだまだエリリンの本気はこんなモンじゃねぇんだ、ガッデム!!』

 

 

 

こんな感じになってるよエリカさん。

 

 

 

「若干炎上してない此れ!?って言うか、最後の絶対黒のカリスマでしょ!!」

 

「間違いなくそうだと思う。」

 

でも、エリカさんには悪いけど此れだけ話題になってるなら、週刊戦車道の今週号は飛ぶように売れるかも知れないね?そうなったらその時は、出版社から幾らかエリカさんに礼金が出るかも知れないね。否、分からないけど。

さてと、其れじゃあ今日も一日頑張ろうか?

アンドリュー、ロンメル、学園艦の見回りお願いね!

 

 

 

『ガルルルゥ!』

 

『キューン!!』

 

 

 

うん、この二匹が居れば学園艦の治安はバッチリだね。

……因みに、授業中に何発かアンドリューの物と思われる『破壊光線』が見えたんだけど、一体何があったのやら……まぁ、破壊光線が炸裂した以上、良からぬ輩は間違いなく退治されただろうけどね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

そんなこんなで、何時もと変わらぬ学園生活を送って、戦車道の時間なんだけど……

 

「戦車がもう限界ってどういう事ですかナカジマさん?」

 

「隊長が持って来たパンターとティーガーⅡ、其れから新しく買ったパンターとF2、其れから私達がフルレストアしたポルシェティーガー以外は限界なんだよ西住隊長。

 そもそも、ウチの戦車って二十年前から何の手入れもされずに放置されてた訳でしょ?ポルシェティーガーは略作り直したから良いとして、他の戦車は直せるとこを直して使ってたから、そろそろ騙しが効かなくなったみたいなんだ。

 無限軌道杯でベルウォールと黒森峰とガンガン遣り合ったのも大きいかもね……ポルシェティーガー並の魔改造を施せば、未だ行けるかもしれないけど、其れを全車にやったら、多分新しいのと買い替えるよりもお金かかるかもだからね。」

 

 

 

まさかの、戦車が限界!

まぁ、二十年前に放置されてた、ある意味で骨董品とも言える戦車だったから、普通に考えれば今まで何の不具合もなく動いてた事の方が奇跡に近いからね。

だけど、此れはちょっとじゃなくて大いに困ったなぁ?

私が持って来たパンターとティーガーⅡ、新しく購入したパンターとF2、そして魔改造されたポルシェティーガー以外がダメとなると、大洗が所持してる戦車は七輌にまで激減する訳だからね?

それじゃあ、準決勝で使える十五輌の半分にもならないよ……フラッグ戦なら数の差を覆す事が出来るとは言え、準決勝では倍以上、決勝戦では凡そ三倍とか幾ら私でもきつ過ぎるから!三倍の戦力差を引っくり返せとか幾ら何でも無茶振りだからね!?

 

 

 

「三倍の戦力差の殲滅戦に挑もうとしていた件について。」

 

「エリカさん、其れは言っちゃダメ♪」

 

でも、現実問題として此れは困ったね?

ナカジマさんが言うには、ポルシェティーガー並の魔改造をすればまだ使えるって事だったけど、其れをする位なら新しい戦車を買った方が安いとの事だったからね。

だとすれば、新たな戦車を購入した方がいいんだけど、マッタク同じ戦車を揃えたにしても、戦車を七輌購入するとなったら、最低でも億単位のお金が必要になる……華さん、来年度の予算で新しい戦車を買う事は出来ますか?

 

 

 

「率直に言いますみほさん……無理です。戦車を七輌も購入したら、予算の90%が吹き飛んでしまいます。」

 

「ですよね。」

 

大洗女子学園の財政では、ダメになった戦車を全部買い替えるのは不可能……地元からの寄付を使っても、七輌もの戦車を購入するのは現実的じゃないからね。

黒森峰なら、西住流がバックについてるから多少は融通が利くんだろうけど、大洗の場合はそうも行かないからね。……ん?本当にそうかな?

 

 

 

「戦車が使えないとか冗談じゃないですよ西住隊長!

 多分ですけど、来年度の大洗には戦車道をやってる子達が其れなりに来ると思うんです……となれば、戦車道の履修者が増えるのは必至です。

 なのに戦車が無いなんてのは洒落にもなりませんよ。」

 

「うん、其れは確かに洒落にならないね梓ちゃん。」

 

確かにこのまま新たな戦車が購入出来ないって言うのなら可成りヤバい状況だけど、考えてみれば私達にはこの状況を打開出来る切り札が存在してた事をすっかり忘れてたよ。

 

 

 

「此の状況を打開出来る切り札ですって?其れって何なのよみほ?」

 

「いやだなぁ、何を言ってるのエリカさん?其れはエリカさんだって知ってる筈だよ?」

 

黒森峰のバックには西住流があるように、大洗のバックにも物凄いビッグネームがある事を忘れちゃった?……否、私もついさっきまで忘れてたから偉そうな事は言えないけどさ。

黒森峰に西住流があるように、大洗には島田流がある……なので、事が事だけに頼らせて頂きますよ千代小母様。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:千代

 

 

世界大会のチームは如何したモノかしら?

しほりんとも相談してるのだけどなかなか決まらないのよね……私としてはみほちゃんを隊長に、愛里寿を副隊長にしたチームを推したいのだけれど、世界大会に出場出来るのは社会人以上のプロチームの選手に限られるから、此れは没なのよね残念ながら。

そんじょそこ等のプロチームよりも、高校選抜に愛里寿を加えたチームの方が遥かに強いのに、ルールのせいで其れが出来ないと言うのは残念でならないわ。

 

 

 

――冷たい部屋に揺れ動く感情、今この場所で、応えて欲しい

 

 

 

っと、着信だわ。

相手は……みほちゃん?珍しいわね、みほちゃんから連絡があるなんて。何かあったのかしら?――はい、もしもし島田千代です。

 

 

 

『お久しぶりです千代小母様、西住みほです。』

 

「ふふ、本当にお久しぶりねみほちゃん?如何したの?何かあった?」

 

『実は――』

 

 

 

…………成程、そう言う事か。

そう言う事なら任せて頂戴みほちゃん。限界が来た戦車に代わる戦車を此方で見繕ってみるわ――同じものを揃える事は出来ないと思うけど、みほちゃんのお眼鏡に叶う戦車を見繕っておくわ。

 

 

 

『ありがとうございます千代小母様!』

 

「ふふ、此れ位はスポンサーとして当然の事よみほちゃん。」

 

さてと、其れじゃあ早速大洗に送る戦車を買わないとね――大洗のメイン戦車はドイツ製だったから、これを機に全ての戦車をドイツ製に変えても良いかも知れないわね。

尤も其れだと黒森峰の二番煎じになるから、やっぱり出来るだけ多国籍戦車にした方が大洗らしいか……その上で性能面でもある程度信頼出来るモノとなると中々難しいけれど、だからこそやりがいがあると言うモノね。

新たな戦車を得た大洗がどんなチームになるのか、楽しみで仕方ないわね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer197『引退する戦車に最後の誉れをです』

此れまでお疲れ様でしたByみほ        後はゆっくり暮らしなさいByエリカ      本当に、お疲れ様でしたBy小梅


Side:みほ

 

 

私が持って来たパンターとティーガーⅡ、そして新たに購入した戦車以外は限界が来て現役引退を自動車部のナカジマさんから通告されたから、大洗の戦力低下を避ける為に千代小母様を頼ったんだけど、其れは正解だったね。

千代小母様は、『同じ戦車を揃える事は難しい』とは言ってたけど、限界が来た戦車と同じ台数を補填できないとは言ってなかったもん。

 

 

 

「うぅむ……お役御免になった戦車の変わりがあるのは喜ばしい事でありますが、島田流の家元が西住流の娘が通う学校の支援をして問題は無いのでしょうか?

 こう言っては何ですが、この事実が表に出たらゴシップ好きの週刊誌が何を書き立てるか分かったモノじゃありませんよ?」

 

「何かって、例えば?」

 

「例えば……『西住流からの離反!?西住みほが島田流家元と結託か!?』とか、『島田流家元、大洗支援で西住みほを懐柔か!?』と言ったところでありましょうか?」

 

「三流の週刊誌が書きそうなネタね其れ。

 まぁ、大丈夫じゃないの?戦車の輸送は島田家の輸送機を使って直接学園艦までやってくるみたいだし、大洗の学園艦は現在太平洋のど真ん中を航行中な訳だから、こんな所まで張り付いて来る週刊誌の記者は居ないでしょ流石に。」

 

 

 

うん、其れは私もそう思うよエリカさん。……まぁ、居たら居たで其れは逆に感心するかもしれないけど。

それにしても、千代小母様は一体どんな戦車を持って来てくれるんだろう?高性能な戦車が来れば、其れは其れで有難いけど、高性能なだけじゃ面白くないからね……やっぱり、何処か個性がないと。

 

 

 

「個人的には、7TP双砲塔型が欲しいでありますねぇ?」

 

「私、パーシングが良い!」

 

「優花里さん、沙織さん、其れ自分が好きな戦車だよね?まぁ、希望を言うだけならタダだから良いけど。」

 

けどパーシングは確かに魅力的かな?機動力は信頼できるし、その上でパンチ力もあるって言う戦車だからね……って言うか、あの性能で重戦車とか若干反則な気がしなくもないよ。

さてと、新しい戦車は何が来るのかはさておき、引退する戦車達を最後に確りと綺麗にしてあげないとだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer197

『引退する戦車に最後の誉れをです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で、本日の戦車道の時間は引退する戦車達の最後の洗車!一緒に戦った相棒を、ピッカピカにして送り出してあげないと、戦車乗りとして失格だしね!

 

 

 

「勿論だ!と言いたい所だが、使用不能になった戦車は如何なってしまうのだ西住隊長?」

 

「大洗町の町長さんが引き取ってくれる事になってるよエルヴィンさん。

 シーサイドステーションの建物の1階部分を『大洗女子学園戦車道記念館』にして、其処に展示する予定で、見るだけじゃなくて実際に触れられるようにもするみたい。」

 

「記念館に展示か。ならば、尚の事気合を入れて磨き上げねばだな!!」

 

 

 

そうだね、気合を入れて磨き上げてやって。この子達はもう戦う事は出来ないけれど、大洗女子学園の戦車道の歴史の始まりを伝える事が出来る貴重な戦車だから、後世にまで伝えていく必要があると思うからね。

……何ですけど、小山先輩、貴女は一体何を考えているんですか?正気ですか?

 

 

 

「え?水作業で濡れるから水着の方が良いかなと思ったんだけど、ダメだったかしら?」

 

「夏だったら何も問題ありませんが……今何月だと思ってるんですか!?

 2月ですよ2月!真冬ですよ!?しかも、現在大洗の学園艦は太平洋の北側、北海道よりも更に北を航行してるんですよ!?そんな極寒の地で水着とか正気ですか!死にますよマジで!!」

 

「心頭滅却すれば火もまた涼し……ならばその逆も然り、心頭滅却すれば氷もまた温かしよ。」

 

「何ですか其の超理論は!?」

 

否、確かに寒中水泳とか寒中滝行ってモノがあるから、小山先輩の言ってる事も分からなくはないんだけど、だからって態々真冬に水着姿を披露しなくても良いと思うんだけどなぁ?

小山先輩は自分のスタイルの良さを見せびらかしたいタイプでもないからね……若しかして、4月の時の洗車の時に水着でやったせいで、『洗車をする時は水着』って考えになっちゃったのかも知れないかな?……だとしたら思い込みって怖すぎるよ。

 

 

 

「ま~ま~、小山はグラマラス体型だから人より若干脂肪が多いから寒さに強いんだよきっと西住ちゃん。」

 

「その言い方は如何かと思いますよ会長さん?」

 

「西住ちゃ~ん、アタシはもう会長じゃないよ?今の会長は五十鈴ちゃんでしょ?」

 

「あ、そうでしたね杏さん。」

 

如何にも杏さんの事は気を抜くと『会長さん』って呼んじゃう事が多いんだよねぇ……其れだけこの人が大洗女子学園の生徒会長としての印象が強いって事なんだろうけど。

 

 

 

「まぁ、別にいいんだけどさ……西住ちゃん、かーしまなんとかならねーかね?」

 

「桃ちゃん先輩ですか?」

 

何か問題でも……

 

 

 

「ヘッツァー、お前とお別れだなんて悲しすぎるぅ!

 私達が引退して卒業するからって、お前まで引退する事もないのに~~!お前は来年も新たな乗り手の下で頑張ってくれると信じていたのに、此処で引退だなんて絶対に嫌だ~~!」

 

 

 

ありましたね。

視線の先にはヘッツァーの前で、比喩ではなくマジで滝の様な涙を流しながら号泣する桃ちゃん先輩の姿が……あの涙の量は滝を通り越して大瀑布だよ。

あんなに涙を流したら身体の水分が枯渇しちゃんじゃないかな?

……取り敢えず、落ち着いて下さい桃ちゃん先輩!西住流戦車道裏技参百弐拾四式・瓦兜割り!(ぶっちゃけ力任せの空手チョップ)

 

 

 

――ズビシィィィィィィ!!

 

 

 

「いったー!何をするか西住ーーーー!!!」

 

「泣いてばかりの桃ちゃん先輩に気合注入の西住流戦車道裏技をかましただけです!

 愛機の引退を悲しむ気持ちは分かりますが、だからと言って泣いてもその事実を変える事は出来ません……ならば、桃ちゃん先輩がすべき事は、泣く事じゃなくて、ヘッツァーが安心して記念館に行けるように、笑顔で洗車して送り出してやる事じゃないでしょうか?」

 

「其れは分かっている!分かってはいるんだが……頭では理解していても感情が付いて行かんのだ!だから、ちょっと気が緩むと涙腺が……」

 

 

 

――ダバ~~~~~~!

 

 

 

緩んだからって、こんなに出るかな涙が?って言うか、この涙の量は明らかに人体が失ったらヤバいレベルの水分量を越えてる気がするけど、何で桃ちゃん先輩は大丈夫なんだろう?

まさかとは思うけど、桃ちゃん先輩は人間じゃなくて、実は闇の書の残滓のマテリアルの王だったりして……!!

 

 

 

「王よ、何を泣いている?今は泣いてる暇などないだろう……王として、自分の臣下をどうやって送り出してやるか、其れをすべきではないのか?」

 

「誰が泣いておるか!減らず口は許さんぞ!

 闇統べる王たる我が、大義を果たし、役目を終えた臣下を無碍に扱う筈がなかろう……我は王として、こ奴が次なる世界で生きる事を手助けしてやるだけの事よ!……って、やらせるな西住、八神!!」

 

「ふん、くたばり損なったか。」

 

「テメェの都合で生きちゃいねぇよ。」

 

「其れは違う八神だ!そして西住、お前はそもそも掠ってすらいないだろう!!いや、古くから続く家だと言う点では合っているのかも知れんが。」

 

 

 

うん、掠ってすらいないけど……涙は止まったみたいですね桃ちゃん先輩?これで、泣かずにヘッツァーの洗車をする事が出来ますね?

 

 

 

「む……言われてみれば自然と涙が止まっているな――今回もまた、お前にしてやられたか西住。……私が気付かないうちに私の事を正常な状態にしてしまうとは見事だ。

 だが、お陰でヘッツァーを磨いてやる事が出来る……私達生徒会と共に戦車道に携わったヘッツァーは、私にとっても誇りだからな。」

 

「その誇りは、大事ですよ桃ちゃん先輩。」

 

戦車乗りにとって、戦車は相棒であると如何に、己の誇りとも言えるからね――其れを口に出来ると言うのは、桃ちゃん先輩も立派な戦車乗りだね。

砲手としては華さんやナオミさんが別の意味で驚くレベルでしたけど、装填士としての能力は優花里さんにも引けを取らないレベルだったから、装填士としてはスカウト来てもおかしくないかもだよ。

 

其れでは皆さん、夫々の戦車を洗車してくださーい!!

 

 

 

「みほ、貴女此処でダジャレかます?」

 

「え?ダジャレなんて言ってないよエリカさん?」

 

「天然か!戦車と洗車をかけたしょうもないダジャレだったかと思ったじゃないのよ!此れはアレなの?

 軍神流の天然ボケなの!?思ってみればまほさんもナチュラルにボケる事があったから、まさかの西住の血統とかじゃ言わないわよねぇ!?」

 

「西住の血統じゃなくて、此れはお父さんの方の遺伝だと思う……お父さんも良くナチュラルにボケてお母さんの頭の上をトンボとかカラスが飛んでる事が結構あったし。

 まぁ、其れを『常夫さんったらお茶目さん』で済ましちゃうあたり、お母さんは心の底からお父さんを愛してるんだと実感したけど。」

 

「……こう言ったら何ですけど、当時は戦車道の暗黒面に堕ちてたと思われるお祖母様が良く結婚承諾しましたね?」

 

「梓ちゃん……流派を継続させる為には、自分が選んだ相手と無理矢理見合い結婚させるよりも、娘が惚れた相手と結婚させた方が絶対に巧く行くモノなんだよ。

 闇落ちしてたお祖母ちゃんも、流石に其れは忘れなかったみたいだね。」

 

「流派を存続させるって難しいんですね……でも、その理論で行くと、現状相手が同性である五十鈴先輩は如何なってしまうのでしょうか?」

 

 

 

其れは華さんにしか分からないけど、流派の跡取りが出来なかった場合は、養子を取って跡取りにって言う事は結構ある事みたいだから、手がない訳じゃないんだよ。

尤も、家や流派を途絶えさせない為に養子を取った事で、本来の血筋は失われてるって事も少なくないけどね……其れを踏まえると、西住も島田も本来の西住と島田の血筋が今まで続いてるのかは怪しいモノがあるかも知れないよ。

そして、西住ではお姉ちゃんの代で其れが起こるかも知れないからねぇ……お姉ちゃんはアンチョビさんと色々アレみたいだから。……私としては、アンチョビさんがお義姉ちゃんになるのは一向にかまわないけどね?

 

 

って、其れは今は関係ないか。

あんこう、ウサギ、ライガー、レオポンは戦車が健在だけど、折角だから皆と一緒に洗車だね。その為にジャージに着替えて来た訳だから……私達も皆に負けない位に戦車をピッカピカにするよ!

 

 

 

「勿論であります西住殿!

 不肖秋山優花里、戦車ショップで戦車用の塗料と戦車用の車体ワックスを揃えてきたであります!此れで、パンターはピッカピカ間違いなしでありますよ!」

 

「流石は優花里さん、準備が良いね?」

 

「いえいえ、此れ位は当然の事であります!序に、店にあった私のスタンドポップにサインを頼まれたのでしてきました!」

 

「OK、グッジョブ優花里さん。」

 

「うわぉ!西住殿に褒められたであります!!」

 

 

 

そう言う細かい事が人の心を掴むモノだからね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

そんなこんなで、たっぷり一時間を使って洗車完了!

ウサギチームは今使ってるパンターだけじゃなく、以前の使用戦車のⅢ号も洗車したみたいだね……まぁ、Ⅲ号の方が長く使ってたからね。

汚れを落とすだけなら兎も角、塗装の剥げた部分を塗り直したり、ワックスをかけたり、中の掃除まですると結構時間が掛かるものだね……でも、其の甲斐あって、戦車は全部ピッカピカ!

現役継続の戦車は勿論だけど、現役を引退する戦車は其れ以上……夫々のチームが引退する愛機に感謝を込めて洗車した結果かな?

私達も勿論、日頃の感謝を込めて洗車したけど、引退組は込められた感謝がより大きかったんだろうね……特に、今年で大洗女子学園を卒業する三年生が居るチームは尚の事ね。

 

 

 

「今までよくやってくれた。マカロニ作戦ツヴァイで多くの戦車を撃破した事、我々は絶対に忘れないぞ。」

 

「お前と一緒に戦ったことは一生忘れない!お前は戦車隊の一員だったと同時に、五人目のバレー部員だからなクルセイダー!」

 

「貴女の魂は、パンターに受け継がれてるから後はゆっくり休んでね?……長い間、お疲れ様でした。」

 

「D型から、F2、そしてH型と形を変えて戦い抜いたその姿は、大戦期のⅣ号其の物でした……貴女と共に戦えた事を、一戦車乗りとして光栄に思います。」

 

「僕達は忘れないのにゃ!君と一緒に戦ったことを絶対に!!」

 

「此処で引退なんて言うのは校則違反!って言いたい所だけど、貴女は此処まで充分頑張ったのよね……貴女の事は風紀委員の永世名誉委員に任命しておくわ!」

 

「廃校阻止の為に、無理矢理起こして悪かったね?……この学校はもう大丈夫だから、今度こそゆっくり休んでよ?お疲れさん。」

 

 

 

そして、夫々の戦車に最後のお別れの挨拶だね。

此れで一生会えなくなる訳じゃないけど、二度と一緒に戦う事は出来ない訳だから、此のお別れはちゃんとしておかないとだね……現役を退く戦友に対して労いの言葉をかけてやるのは当然の事だと言えるから。

 

でも、しんみりしてるだけじゃないよ!

 

「其れじゃあ、最後に記念撮影しましょう!

 夫々のチームと戦車で一枚ずつ!それから全員集まって一枚!此れも、良い記念になりますから!」

 

「記念撮影……グッドアイディアです、西住隊長!」

 

 

 

でしょ?

写真に残しておけば、学園艦に資料として残す事も出来るからね。

 

と言う訳で、先ずは夫々のチーム毎に撮影して、其の後は全員&全車集合しての集合写真を撮って記念撮影は終了!――その時に、戦車のエンジンが動いた事で、まだ動くんじゃないかって言われたけど、自動車部の皆さんが、『エンジンも履帯も動くだけなら大丈夫だけど、試合での過激な動きには耐えられない』って言ったら納得して貰って良かった。

でも、試合での過激な動きって、其れって間違いなく私の戦術が原因だよね?……戦車プレスとか、戦車カタパルトとか結構無茶な事やってたからなぁ……だけど、私は其れを辞めるつもりはない!だって其れが私流だから!

奇策、搦め手、裏技上等!ルールで認められてる範囲の物を使っての奇策、搦め手、裏技は寧ろ使わない方がおかしいと思うからね!!

 

 

 

「開き直ったわねぇ……まぁ、其れで勝っちゃうんだから誰も文句は言えないけど。軍神様は、何でもアリね。」

 

「軍神だから何でもアリなんじゃないよエリカさん……何でもアリだから軍神なんだよ。」

 

「普通なら『なに言ってんだお前?』レベルの事なんだけど、貴女が言うと妙な説得力があるから不思議だわ……或いは、此れがカリスマって物なのかも知れないわね。」

 

 

 

カリスマかぁ……確かにそうかも知れないね。

私以上のカリスマは居ないかもだよ……『カリ』ーライスには『ス』ライスビーフと『マ』ッシュルームをトッピングするし、髪を『カ』ットする時は『リ』容師さんに『スマ』イルでお願いするし、そもそも今暮らしてる学生寮は『カリスマ』居だからね!

 

 

 

「みほ、其れカリスマと違うわ。」

 

「なら、肉の芽植え付けましょうか?」

 

「Wryyyyyyyyyyyyyyyyyy!!って、DIO様かい!其れはカリスマじゃなくて洗脳でしょうが!ヤバい事言ってんじゃないわよ!!」

 

 

 

カリスマ性え人を惹きつけるのと洗脳は紙一重だと思う今日この頃……そして、此れは強ち間違ってない気がするんだよねぇ……此れ以上はちょっと怖いから考えないようにしておこう。

 

 

 

其れで記念撮影が終わった後は、『お別れ会』って形の宴会が開催されて大いに盛り上がった――デリバリーのピザやらフライドチキンやらのスナックとジュースでどんちゃん騒ぎをして、カラオケで盛り上がって……結局、完全下校時刻を過ぎて夜の帳が降りるまでお別れ会は続いたね。

だけど、お別れ会の主役である戦車達が満足そうに見えたのは決して見間違いじゃないと思うよ……彼等は、若しかしたら大洗女子学園が廃校になるかも知れないって事を知って、最後の力を振り絞ってくれたのかも知れないね。

 

本当にお疲れ様でした……此れからは、ゆっくり休んでね。

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:千代

 

 

ふぅ……此れで何とか大洗が失う戦車と同数の戦車を確保する事が出来たわ……全部が全部同じとは行かなかったけれど、数だけは揃ってるから此れでみほちゃんのお願いに応える事は出来るわね。

果たしてみほちゃんは気に入ってくれるかしら?

 

 

 

「其れは心配ないと思うよ?」

 

 

 

――ポロロ~~ン

 

 

 

「美佳?貴女何時の間に……」

 

「何時の間に、其れは此処で大切な事かな?

 其れと、私は風に呼ばれてやって来ただけだよ母上……其れよりも、母上が用意した戦車なら西住さんは気に入ってくれる筈さ……他ならぬ母上が選んだ戦車なのだからね。」

 

 

 

そう……そう言って貰えると嬉しいわ。

其れよりも美佳、貴女はもう継続の隊長でないのだから時間は大丈夫よね?

 

 

 

「大丈夫だけど、其れが如何かしたかな?」

 

「良ければ愛里寿も交えて一緒に食事でも如何かしら?愛里寿も貴女に会いたがっているから。」

 

「愛里寿が?……そう言われたら断れないじゃないか……私も家族団欒と言うのは悪くないと思っていたからね……偶には、こう言うのも悪くないと思うよ。」

 

 

 

私としては偶にと言わず、帰ってきて欲しいモノなのだけど、其れを美佳に求めるのは無理って物よね……美佳は何者にも縛られずに自由に生きて行く方が良いと思うもの。

取り敢えず、そんな訳で今夜は久しぶりの家族団欒が出来たわ……愛里寿が美佳に懐くさまは見ていて心が温まったわ。

 

 

 

そして数日後、私が選んだ戦車が大洗の学園艦に運ばれる日がやって来た……みほちゃんは果たして気に入ってくれるのかしら?

いえ、心配するだけ無駄かも知れないわ……だってみほちゃんの要求に応えられるだけの戦車を用意したのだからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer198『此れが大洗の新生戦車隊です!』

引退した戦車の代わりが来たよ!Byみほ        さて、どんな戦車が来たのかね?Byエリカ      其れはとっても楽しみですねBy小梅


Side:みほ

 

 

引退した戦車達は、無事に大洗シーサイドステーションに設けられた『大洗女子学園戦車道記念館』に運び込まれて、引退後の隠居生活を始めたみたいだけど、此れは静かな隠居生活は難しいかな?

SNSには連日のように記念館を訪れた人達の写真がアップされて、其れが更に人を呼んで、大洗女子学園戦車道記念館は連日超満員になってるらしいからね。

『戦車には自由に触れてOK』っていう事もあってか、戦車に乗っての写真が多いのも訪れる人が多い要因だとは思うけど、決定打なのは間違いなく高レベルのレイヤーさんの存在だと思うな。

夫々の戦車の搭乗員のコスプレをした人達の投稿写真は『いいね』の数が半端ないからね……小梅さんのコスプレをした人とⅣ号の写真は1時間で1万いいねされてるとか凄すぎるよ。

で、この記念館が出来てから大洗を訪れる人の数は大幅に増えて、町の財政は潤いまくってるって事だから、其れは普通に喜ばしい事だよね♪

 

さて、本日は千代小母様が引退した戦車に代わる戦車を持って来てくれる事になってるんだけど、一体どんな戦車を持って来てくれるのか、楽しみで仕方ないよ。

全部同じ物は揃えられないって事だったけど、Ⅲ突かヘッツァーは有って欲しいかな?回転砲塔こそないけど、低い車高を活かした待ち伏せ戦術は大洗の十八番の一つだからね。

 

 

 

「そうね、Ⅲ突とヘッツァーは欲しいわね。

 後は、大洗の戦術を支える機動力のある戦車が欲しいわ……パンチ力は強力でなくても、Ⅲ号やⅣ号F2級の機動力のある戦車があれば最高。」

 

「引退したフランス戦車2台の代わりが、ARL-44だったら素晴らしいですね。」

 

 

 

うん、其れは素晴らしいね小梅さん。

だけを千代小母様は、きっと大洗にとって最も必要な戦車を見繕ってくれると思うんだ――小母様は、私と大洗の事を大層気に入ってるらしいから。

だから、此れだけの支援をしてくれるわけだしね。

 

 

 

「だな~……かーしま、お前あの時の発言は、ガチで大洗の危機を誘発してたっぽいぞ~~?」

 

「其れは言わないで杏ちゃん~~!!」

 

 

 

『西住お前が転校しろ!』ですね……まぁ、私はもう気にしてないので、桃ちゃん先輩も気にしないで、そして杏さんも傷口に唐辛子味噌塗りこまないでね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer198

『此れが大洗の新生戦車隊です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてと、そろそろ約束の時間なんだけど、千代小母様はまだ来ない……時間ギリギリって事はしない人なんだけど、何かあったのかなぁ?……否、何かあったら必ず連絡を入れて来る筈だから、何か問題が起きたとは考え辛いんだけど――

 

 

 

「西住殿!アレを!!」

 

「優花里さん?」

 

って、学園艦に向かって超巨大な飛行機が降下して来てる?此れは、学園艦に着艦する心算なんだろうけど、あれは一体?なんだか見た覚えがある気がするんだけど……優花里さん、分かる?

 

 

 

「アレはサンダースのC-5M輸送機、ギャラクシーであります!!大洗が文科省の謀略で廃校なった時に、大洗の戦車を一時的に運んでくれた輸送機であります!!」

 

「あぁ、あの時の。」

 

思えば、此れが無かったら、大洗の戦車は文科省に接収されていたかもしれないんだよね……ホント、サンダースには感謝しかないよ。ギャラクシーで来てくれたからこそ、大洗の戦車を護る事が出来たんだから。

だけど、なんでサンダースのギャラクシーが大洗の学園艦に?サンダースとは何も予定が入ってない筈だけど……華さん、生徒会の方に何か連絡とか来てないかな?

 

 

 

「いえ、何も。

 今日の予定は、島田流の家元がいらっしゃるだけだったと記憶してますが……」

 

「そうだよねぇ?ケイさんがサプライズで遊びに来たとか……でも、其れなら普通の飛行機で来ればいいだけだし……ま、まさか!!」

 

 

 

――ズズゥゥゥゥゥン……!

 

――ウィ~~~~ン

 

 

 

「ふぅ、遅れて申し訳ないわねみほさん。そして大洗女子学園戦車隊の皆さん。」

 

「こんにちわ、みほさん。」

 

「千代小母様!それに愛里寿ちゃんも!!」

 

「如何して島田流の家元がサンダースの輸送機で来る訳?戦車を運ぶにしても、別の輸送機があったと思うんだけど……其れこそ、OG権限で聖グロの輸送機使えば良いと思うんだけど。」

 

 

 

千代小母様が乗ってたとは……しかも愛里寿ちゃんも一緒に。ミカさん……は、一緒じゃないんだ。ちょっと残念。何となくだけど、継続の戦車隊を次に任せたミカさんは、其れこそ風の向くままに放浪してる気がする。カンテレを奏でながら。

それにしても千代小母様、如何してサンダースのギャラクシーで来たんですか?エリカさんの言う様に、OG権限で聖グロに輸送を依頼した方が面倒が無かったと思うんですけど。

 

 

 

「其れはね、マスコミ対策よみほさん。

 私が20年前の聖グロでアールグレイを名乗っていたのは当時の戦車道関係者なら誰でも知ってるし、今の戦車道の報道に関わってる人達だって其れ位の事は調べてる筈でしょう?

 最初は島田の輸送機を使う予定だったのだけど、もしも其れが激写されたら三流週刊誌に何を書かれるか分からないからNGで聖グロの輸送機の場合も私がアールグレイだった事から島田がみほさんのいる大洗を支援してると推測されるからダメ。

 だけど、島田とは一切関係ないサンダースのギャラクシーなら、もし着艦する所を写真に撮られても『サンダースが大洗の学園艦で練習試合をする為にやって来た』位にしか思わないでしょう?」

 

「成程、そう言う事でしたか。」

 

私が卒業した後なら兎も角、私が在学中に『島田流が大洗を支援している』って言う事は可能な限り秘密にしておきたい所だからね……学園艦に住んでる人と、大洗町の人は大体知ってる事なんだけど、其れに関しては町長命令で緘口令が敷かれてるから多分大丈夫だと思うけどね。

まぁ、こんな太平洋のど真ん中まで取材に来るマスコミ何て先ず居ないと思いますけど……費用対効果がどうやっても見合いませんから。

 

 

 

「念には念を入れてと言う事よみほさん。」

 

「石橋を叩いて渡るじゃないですけど、確かに其れは言えてますね……其れで、愛里寿ちゃんは何で一緒に?」

 

「みほさんに会いたくなったから……じゃ、駄目?」

 

 

 

……何この可愛い生き物?

エリカさん、小梅さん、此れはもう愛里寿ちゃんお持ち帰りしちゃって良いよね?お持ち帰りしてボコの着ぐるみパジャマ着せて一晩中愛でちゃっても問題はないよね?って言うか命を懸けても愛でねばならん!戦車女子として!隻腕の軍神として!!

 

 

 

「ダメに決まってんでしょうがぁ!

 みほが島田流の次期後継者をお持ち帰りしたとか、其れこそメッチャスキャンダルになる以外の何物でもないでしょうが!と言うか、お持ち帰りして愛でるって、何をする心算よみほ!」

 

「愛里寿ちゃんを少女から女にするとか如何でしょう?」

 

「いや、真顔で何言ってんの貴女?」

 

「……みほさんなら、良いよ?」

 

「アンタも何言ってんの島田流次期後継者。」

 

 

 

うん、今日も今日とてエリカさんの突っ込みは冴えわたるね……だけどねエリカさん、何処から取り出したのか突っ込むのは野暮だから突っ込まないけど、そのどこぞの鉄槌の騎士もビックリな巨大なハンマーはしまって欲しいかな?

流石の私も其れでぶん殴られたら一撃でお釈迦様とご対面する事になっちゃうから。

 

 

 

「いや、貴女なら此れ位は滅殺剛昇龍で迎撃できるでしょ?」

 

「殺意の波動には目覚めてないから、昇龍裂破か神龍拳だね。」

 

さてと、悪ふざけは此処までにして――千代小母様、一体どんな戦車を持って来てくださったんですか?

 

 

 

「取り敢えず、Ⅲ突とヘッツァーは同じ物を揃える事が出来たけれど、他は同じ物が見つからなかったから、私の独断と偏見で5輌を選ばせて貰ったわ。気に入ってくれるといいんだけど……」

 

 

 

 

千代小母様がそう言うと同時にギャラクシーから戦車が降ろされて来たんだけど……此れは、また何とも個性的な戦車ですね?

大洗が得意とする待ち伏せで力を発揮するⅢ突とヘッツァーがあるのは嬉しい事ですけど、それ以外の5輌は、チャーフィー軽戦車、四式中戦車、コメット巡航戦車、VK3002DB、ARL-44か。

チャーフィー、コメット、ARL-44は性能的に信頼できる戦車ですけど、VK3002DBと四式中戦車とは中々にマニアックな戦車をチョイスしましたね千代小母様?

四式は知波単が採用してるかもですけど、VK3002DBを使ってる学校は先ず無いと思いますよ?

 

 

 

「だからこそよ……どの学校も使ってない戦車を使っているからこそのインパクトと言うモノがあるでしょう?

 そもそもにして、大洗は他の学校の何処も採用してないポルシェティーガーを実戦投入してる唯一の学校だから、此の試作機を投入しても良いかなと思ってね。

 みほさんなら、此れを完璧に使いこなす事が出来ると思ったし。」

 

「そう来ましたか……なら、その期待には応えるだけの事ですよ。」

 

新しい戦車、有り難く頂戴します。

所で千代小母様、愛里寿ちゃん、この後は時間ありますか?時間があるなら学園艦を回りませんか?大洗の学園艦を見学してみませんか?

 

 

 

「其れは魅力的ね……お願いするわみほさん。愛里寿も良いわよね?」

 

「うん、異論はないですお母様。」

 

 

 

其れじゃあ決定だね♪

其処からは島田親子と一緒に大洗の学園艦を回ったんだけど、お好み焼き喫茶『道』さんの学園艦出張所は特に気に入ってくれたみたいでよかったよ――お好み焼きじゃないけど、大洗名物のたらし焼き(大洗流もんじゃ焼き)は満足してくれたみたいだしね。

プラスαで、ブリアンの学園艦出張所で買ったガルパンも気に入ってくれたようで何よりだよ……愛里寿ちゃんが、ブリアン出張店の店長に、『ボコパン』を要求したのには驚いたけどね。

 

「そう言えば愛里寿ちゃん、何処の高校に編入するか決めた?」

 

「その話なんだけど、色んな高校を見て回って満足しちゃったから、引き続き大学に残る事にした。と言うか、メグミとアズミとルミに泣いて大学に残る様に説得されたのが大きい。

 そして同時に思ったから、あの三人は私が居ないとダメなんだなって。」

 

「うわぁ……其れはある意味キッツいねぇ。」

 

アズミさん、ルミさん、メグミさん、成人したいい大人が年齢的には中学生の愛里寿ちゃん相手に何やってるんですか?と言うか、ドンだけ愛里寿ちゃんラブですか?ラブよりもLove?(。・ω・。)ノ♡って顔文字付けちゃう感じなんですか?

好きなのは別にいいと思いますけど、其処は加減を覚えないと……何時の日か愛里寿ちゃんに捨てられますよ?

 

 

 

「ん?」

 

「如何したの愛里寿ちゃん?」

 

「メグミとアズミとルミが盛大に恐怖を感じたような気がする……何故だろう?」

 

さて、何故だろうね?

その後、千代小母様は華さんが用意してくれた旅館に泊まり、愛里寿ちゃんは私とエリカさんと小梅さんの部屋に泊る事になって、エリカさんが作った目玉焼き付きハンバーグにご満悦だった。……まぁ、エリカさんはハンバーグには妥協しないで徹底的に拘って作るから、ファミレスとかは目じゃないレベルだからね。

そして、お風呂の後はボコのDVDを心行くまで楽しんだ。勿論愛里寿ちゃんにはボコの着ぐるみパジャマを着て貰って。

なお、この日見たボコが喰らった攻撃は、全部でRush333Hitって感じだった……アレだけタコ殴りにされても死なずにまた頑張るボコ……あぁ、ボコはやっぱり良いなぁ。

 

 

「「うふふふふ♪」」(うっとり)

 

「……エリカさん、みほさんと愛里寿さんが怖いので何とかしてください。」

 

「いや、無理に決まってんでしょ小梅?この状態の二人を何とか出来る訳ないじゃない。

 何だって日本の戦車道の二大流派の娘が仲良く同じ趣味なのよ?……もしもこれでまほさんまでボコ好きだったら笑えない状況になってたんじゃないの?」

 

「其れはとっても怖い事になった様な気がします。」

 

 

 

エリカさんと小梅さんが何か言ってるけど、し~らないっと♪

ボコの魅力は分かる人にだけ分ければ良いんだから――ふふ、機会があればベルウォールの渚さんも呼んで、私と愛里寿ちゃんと渚さんの三人でボコ女子会とかやってみたい感じだね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

千代小母様から大洗に新たな戦車が送られた翌日には、どの戦車をどのチームに振り分けるかを決める事に。

Ⅲ突とヘッツァーは、そのままカバチームとカメチームが使うとして、残り五輌を如何するか……戦車は五輌だけど、残るは四チームだから、其れを考えてだね。

うん、チャーフィーは小梅さんのオオワシチームだね。

軽戦車としては破格の性能を誇るチャーフィーなら、Ⅳ号よりも小梅さんの能力を活かせると思うから、お願いしても良いかな?

 

 

 

「勿論ですみほさん。チャーフィー、有り難く拝領します。」

 

「うん、任せるよ。」

 

続いてARL-44。

フランスの戦車だから、アリクイかカモに任せる事になるんだけど、此処はアリクイだね。ARL-44は強力だけど、その分戦車砲弾がハンパなく重いから、パワーのあるアリクイじゃないとその運用は難しいからね。

 

 

 

「了解!任せるのにゃ!」

 

「ちょっと西住隊長!それじゃあ私達カモチームはどうなるの?」

 

「カモチームは、コメットをお願いします。

 コメットは機動力に優れた戦車ですが、その分操縦に高いスキルが必要になるので、ゴモヨさんの操縦の腕前に此の子を託します。」

 

「成程ね……なら、頑張りなさいよゴモヨ!」

 

「う、うん。頑張るよそど子。」

 

 

 

決まりだね。……それにしてもそど子さん、麻子さんにそど子って呼ばれるのは嫌がるのに、風紀委員の仲間にそど子って呼ばれるのは良いんだ?

若しかして、そど子って言う呼び名は、風紀委員の中でだけ許された特別な呼び名だったりするのかな?……だったら、そど子さんの麻子さんに対しての対応も納得だけど、逆に風紀委員内にどんな規則があるのか気になる感じだね。

 

……気を取り直して最後にアヒルチームだけど、VK3002DBをお願いして良いかな?

千代小母様が持って来てくれた戦車の中では唯一の試作戦車だけど、だからこそその可能性は未知数……そして、その未知数の可能性を100%引き出せるのはアヒルチームしか居ないと思うんだよね?

持ち前の気合と根性で、何とか出来るよね磯部キャプテン。

 

 

 

「勿論だよ西住隊長!

 我らバレー部は、気合と根性があれば大概の事は何とか出来る!だから、気合と根性でその試作戦車も性能を限界まで引き出して見せようじゃないか!

 気合と根性があれば何でもできる!気合と根性があれば、廃校だって阻止できる!そうだな!?」

 

「「「はい、キャプテン!!」」」

 

「バレー部ファイトー!行くぞぉぉぉ!1!2!!3!!!」

 

「「「「ダーーーーーー!!」」」」

 

 

 

何故アントニオ猪木?いや、別に良いんだけどね……そう言えば物まね芸人のアントキノ猪木さんは茨城出身だったっけか。

さて、此れで戦車の分配は完了だね。四式戦車は来年度入ってくるであろう新人さん達に使って貰う事になるけど――其れじゃあ、先ずは夫々の新しい戦車を動かしてみようか!!

 

 

 

「良いね~~?早速動かした方がいいかもだからね。

 時に西住ちゃん、其れとは別にちょ~~~っとお願いがあるんだけど聞いてくれっかい?」

 

「お願いって何ですか杏さん?聞くかどうかは、内容によりますけど……『大洗から北海道まで泳いで往復して来い』とか言う、無茶振りを通り越して拷問としか思えないお願いなら全力で拒否しますから。」

 

「いや、民法のバラエティだって其処までの罰ゲームはやらねーでしょ?やったらやったで絶対に訴えられること間違いねーし。

 アタシのお願いってのはさ、アタシ達三年の壮行試合、所謂『追い出し試合』をやってくれねーかなって事。

 アタシ等三年は、あと少しで学園艦とさようならする事になるから、最後に盛大な思い出って奴が欲しいもんなんだよ――全国大会優勝、大学選抜戦勝利、無限軌道杯制覇も勿論盛大な思い出なんだけど、其れをも上回る思い出が欲しいんだ。

 ぶっちゃけて言うと、西住ちゃんとのガチバトルの思い出が欲しい。校内模擬戦は何度もやってけど、その時は西住ちゃん全力じゃなかったっしょ?

 アタシとしては、学園艦を去る前に本気の西住ちゃんと勝負したいんだわ……ダメかな?」

 

 

 

杏さん、そう来ましたか……ダメな筈ないじゃないですか。

其れが望みだと言うのならば、私は其れに応えるだけです――でも、本気の私と勝負したいと言うのならば、覚悟は出来てると見て良いんですよね杏さん?

ガチでやるなら、本気の本気で一切の手加減なしで勝ちに行きますからその心算で居て下さいね?隻腕の軍神の真の力、たっぷりと味わわせてあげますので、覚悟していて下さい。

 

 

 

「もっちろん覚悟はとっくに決めてるさ!

 一切の手加減がなくなった西住ちゃんとのガチバトル、楽しみにしてるからね!」

 

「はい、私も楽しみにしてますよ杏さん。」

 

三年生との壮行試合を行う事になるとは思ってなかったけど、やる以上は全力で戦わないとだね――三年生が居るチームとなると、カメ、カモ、アリクイ、レオポンか。

割と火力のある構成だね……だったら在校生チームはあんこう、オオワシ、アヒル、カバの構成で行くのがベストだよ。

壮行試合、楽しませてあげますよ杏さん。

 

 

 

「うん、期待してるよ西住ちゃん。」

 

「期待していてください杏さん。」

 

生涯忘れる事のない戦車道の試合にしてあげますからね――最高の追い出し試合にしてあげます。だから目一杯楽しんで下さい、隻腕の軍神の戦車道ってモノをね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

西住流の次期後継者としての力を付けるべく、ドイツに短期留学して己の力を磨こうと思ったのだが……この程度ではハッキリ言って私の相手としては役者不足も良い所だ。

ドイツの戦車道は世界的に見ても高水準だと聞いていたので期待したのだが、正直な事を言うと拍子抜けとしか言いようがない……こんな温い環境で、よくツェスカの様な人材が育ったのだと感心するよ。

戦車乗りとしての見聞を広めるためにドイツに留学したが、此れならば日本に残って、凛と共に黒森峰のOGをやっていた方が良かったかもだ……其れなら、後進の指導も出来たからね。

 

何よりも辛いのはみほと連絡が取れない事だ。

留学前ならば頻繁に連絡を取る事が出来たが、日本とドイツでは国際通話になるから頻繁に連絡を取る事も出来ないからね……国際電話の料金ってのは高いのも大きいな。

はぁ……本格的にミホニウムが不足してきた感じだ。

 

 

 

――電話だよ。電話だよ。

 

 

 

っと、スマホに着信が。誰だろうか?……もしもし。

 

 

 

『もしもし……お姉ちゃん?』

 

「みほ?あぁ、私だ。お前の姉である西住まほだ。」

 

如何したんだこんな時間に?

 

 

 

『特に理由は無いんだけど、お姉ちゃんと話をしたくなっちゃって……若しかして、迷惑だったかな?』

 

「何言ってるんだ、迷惑な筈が無いだろう?」

 

寧ろ愛する妹と話が出来ると言うのは、今の私にとっては最大級のご褒美以外の何物でもないさ……みほの声を聴いただけでも、其れだけで後百年は戦える感じだからね。

その後、みほとは沢山喋って英気を養う事が出来た……此れで、また暫くは頑張れそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer199『全力全壊追い出し試合です!』

全力全壊っていい言葉だよね?Byみほ        全力で全て壊して如何すんのよ?Byエリカ      其の後に新たな何かを創造するんじゃないでしょうか?By小梅


Side:みほ

 

 

新たな戦車を迎えて、そしてやって来た杏さんからのお願いである三年生の壮行試合、所謂『追い出し試合』の日が!――連盟の公式試合じゃないので、試合で街を破壊しても保証はないから、大洗の町中は勿論、学園艦の町中も試合会場からは除外。

会場は大洗女子学園の戦車道の練習で使われるフィールドのみ……戦車道を再開した直後に行った模擬戦と同じフィールドだね。

市街地戦は出来ないけど、林とか隠れる場所は多いから私の戦車道をやるには充分なフィールドって言えるかな?真っ向からぶつかるよりも、裏技と搦め手上等なのが私の戦車道だからね。使えるモノは親でも使えが座右の銘――って訳じゃないけどさ。

まぁ、追い出し試合も全力でやるだけなんだけど……

 

「小梅さん、なんで追い出し試合に観客が居るんですかね?」

 

「大洗の学園艦の住人は、戦車道の試合に敏感だって事でしょうか?」

 

「うん、其れっぽい理由だね。だけどさ……」

 

 

「ガッデーム!アイム、チョーノ!

 追い出し試合だぁ?やる事やってんじゃねぇか!最高の思い出を作ってやれよみぽりん!戦車道、知っちまうと辞められねぇんだよファッキン!!」

 

 

 

何でいるし黒のカリスマ。最近寄港してなかった筈なのに。

 

 

 

「黒地に白で『nWo』って入ったアパッチが飛んできて。」

 

「ちょっと待ってどっから持って来た其れ?」

 

明らかに一個人が所有出来るモノじゃないよね其れ?オスプレイ所有してる西住はだったら何なんだって話なんだけど、こう言ったら何だけど、西住流は財力も凄いから、あれ位は余裕で用意出来ます。

だけど、アパッチって……うん、深く考えないでおこう。何となく考えたら負けな気がするしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer199

『全力全壊追い出し試合です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で予想外の盛り上がりを見せてる追い出し試合な訳ですけど、やる以上は手加減なしの全力で行きますよ杏さん――杏さん達は、黒森峰と同格の相手と思って戦わせて貰います。

 

 

 

「うわぉ、ハードルメッチャあげて来たねぇ西住ちゃん?

 黒森峰と同格扱いで戦うって事は、軍神全開……否、アタシも其れが望みではあるんだけど、ぶっちゃけ無理ゲーじゃね?本気出した西住ちゃんと互角に戦えるのって、同学年では逸見ちゃんと赤星ちゃん、あとベルウォールの中須賀ちゃん?年上だと姉住ちゃんでしょ?姉住ちゃん以外だと、逸見ちゃんのお姉ちゃんでワンチャン。

 年下では島田ちゃん。澤ちゃんと黒森峰のツェスカちゃんが頑張ってワンチャン?」

 

「まぁ、確かに其れ位でしょうねぇ……エリカさんのお姉さん以外、一度は全員倒してますけど。」

 

「あ、更に難易度が上がった。

 まぁ、西住ちゃんは今や日本でも五本指に入る戦車乗りだからねぇ……今回は横綱に挑む平幕の気持ちで、『当たって砕けろ』の精神で挑ませて貰うよ!」

 

「その意気やよしです。……時に『当たって砕けろ』ってちょっと酷い言葉ですよね?当たるだけでも結構痛いのに、砕けろって……つまり死ねと?」

 

「いや、そう言う事じゃないと思うよ多分。」

 

 

 

考えてみると『?』な事って多いですよね?カップ焼きそばとか、1mmも焼いてないですし、豆腐は腐ってない。どっちかと言うとあの字で『なっとう』と読ませる方が正解だと思います。

其れから親切。親切っちゃダメ絶対。其れから実在する虫の名前『トゲアリトゲナシトゲトゲ』……最早意味が分からない。

後突っ込みを入れるべきは大洗アクアワールドかな?『日本一のサメの種類が豊富で、サメの飼育数も日本一』を売りにしてるのに、なんでマスコットがイルカ?サメじゃダメなの?

シュモクザメモデルの『ハンマーシャー君』とか良くないですか?後はサカタザメモデルの『サカタ君』とか。

 

 

 

「サカタ君めっちゃクラスに居そう。って言うか、小学校の時に居た気がする。

 と言うかさ、割とナチュラルにボケかましてくれるよね西住ちゃん?」

 

「何を言ってるんですか杏さん……ナチュラルじゃなくて全部計算の上です。」

 

「逆に怖!」

 

 

 

此れ位はナチュラルに見えるように出来ないと、車長で隊長なんて務まらないんですよ杏さん。戦車乗りって言うのは往々にして一癖も二癖もある人達ばかりなんですから。

其の中でも大洗は特にですからね……いやぁ、此処まで個性的な隊員が揃ってる戦車隊は世界的に見ても珍しいと思いますから。

 

 

 

「あ~~……其れは否定出来ないわ。マジで個性的過ぎっからねうちは。」

 

「でも、だからこそそれを活かす戦術を立てるのがとっても楽しいんですけどね――さて、お喋りはここまでにしましょうか杏さん?高校生活の最後で最高の思い出を作ってあげますよ。」

 

「西住ちゃんとガチバトルできるって時点で、最高の思い出なんだけど、其れを上回る思い出にしてくれっかな?」

 

「勿論です!」

 

此れまでの校内模擬戦は皆の練度を見るのが目的だったから、私が本気を出した事は無かったけど、此の追い出し試合は杏さんが本気でやって欲しいって言うんだから、其れに応えないとね。

 

 

 

「其れでは僭越ながら、此の試合の審判は、放送部の王大河が務めさせて頂きます!

 此れより、大洗女子学園三年生壮行試合を始めます!お互いに、礼!」

 

「「「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」」」

 

 

そして此の追い出し試合は、私にとっても今年度最後の試合になる訳だから、バッチリしっかりやらせて貰う……さぁ、最高の戦車道をやりましょうか三年生の皆さん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

何だか妙な盛り上がりを見せている追い出し試合、改め壮行試合だが、先ずは両リームのオーダーを見て行こう

 

 

在校生チーム

 

・パンターG型×1

・チャーフィー軽戦車×1

・Ⅲ号突撃砲G型×1

・VK3002DB×1

 

 

 

卒業生チーム

 

・ヘッツァー×1

・ARL-44×1

・コメット巡航戦車×1

・ポルシェティーガー×1

 

 

 

この壮行試合は、島田から貰い受けた戦車の性能テストも兼ねているのでこんな構成。……其れを兼ねてなかったら、在校生チームの戦車がパンター二輌、ティーガーⅡ一輌、チャーフィー一輌と言うガチすぎる構成になっていただろう。ぶっちゃけ勝てんわ其れ。

隻腕の軍神、軍神を継ぐ者、大洗の狂犬、慧眼の隼……大洗戦車道四天王が揃ってるって、其れもう絶対に無理ゲーですよね?アースZeroのコンボの後で連続マスク・チェンジの猛攻を耐えろってくらい無理ですよねマジで?つーか、マスク・チェンジ系は何で全部速攻魔法にしたのか……TFSPで十代君と組むと、自分のターンが来る前に相手のライフが0とか普通にあるんですけどねぇ?ホントHEROの連撃怖いわぁ。

 

其れは兎も角、壮行試合の試合形式は四対四の殲滅戦だ。

四輌でフラッグ戦やっても面白くないし、試合に使えるフィールドも公式戦と比べれば可成り狭くなるので、いっそ殲滅戦にした方が盛り上がるとみほも杏も考えた結果である。

 

そして試合が始まった訳だが、みほ率いる在校生チームは開始場所からまだ動いていなかった。

 

 

「ヘッツァー、ARL-44、ポルシェティーガー……火力は卒業生チームの方が上。

 其れに対して私達は機動力で勝る訳だけど、公式戦の試合会場と違って、学園艦の演習場所だと複雑な地形は先ず無いから機動力がモノを言う場面は多くない上に、隠れられる場所も限られてるからⅢ突の待ち伏せもやり辛いか。」

 

「こう言う開けたフィールドでは、火力のある方が有利ですからね。」

 

 

如何やらこのフィールドで如何戦うかを考えていたようだ。

此れが普段の練習の模擬戦だったら、相手の練度を見る為の動きをするのだが、今日の試合はそうではない。ガチなのだ。本気と書いてガチとルビ振るくらいガチなのだ。……時に本気にガチってルビを最初に振った人って誰なん?

ガチであるのならば相手の練度を見る為ではなく、勝つ為の作戦を練らねばならない――其れも只勝つ為ではなく、お互いに心底楽しんだ上で勝つ作戦をだ。

 

みほは何時だって『楽しんで勝つ』ことを信条にして戦車道に臨んでいた。それが結果として相手を驚かせつつも楽しませる事になり、観客にはハラハラでドキドキワクワクな試合を見せる事になっているのだ。

そんなみほが校内の壮行試合とは言え、ガチでと言われた以上手加減とかするだろうか?……否!断じて否!!

ガチを望む相手に手加減するとか、もうそんなのは軍神ではない!『壮行試合なんだから卒業生チームに花を持たせてやれ。』とか知った事ではない。てか、ガチを望む相手に花持たせるとかの方が普通に失礼だろうマジで。

 

 

「仕方ない、フィールド利用は期待できないから、開けたフィールドでも使える裏技を駆使して行くとしようか……其れで悪いけど、カバチームには此れを適当に色んな所に刺して来て欲しいんだけど良いかな?」

 

 

取り敢えず如何戦うのかが決まったのか、みほはカバチームに何かを渡す。

 

 

「西住隊長、何処から持って来たんだこんな物?」

 

「あぁ、本物じゃなくて演劇部から何かに使えるかと思って貰って来たの。

 新しいの作って使わなくなったからって快く譲ってくれたよ――まぁ、本当なら市街地戦で使った方が効果はあるんだけど、こう言うフィールドの方が意表は突けるしね。」

 

「世界広しと言えど、こんな物を戦車道に使おうと思うのはみほさんだけだと思いますよ。」

 

 

一体みほは何を渡したのか?其れは今後明らかになるだろう。

 

 

「其れじゃあカバチームは其れを設置する為に別行動。オオワシとアヒルは一緒に来て。」

 

「うむ、此方は任せろ西住隊長!」

 

「其れじゃあ行きましょうかみほさん!」

 

「根性で頑張ります!」

 

 

そして漸く在校生チームは進軍開始。……時にアヒルチームよ、そろそろ根性万能論は卒業した方がいいんでない?社会に出たら根性だけでは如何にもならない事もあるんだからね?

……否、此の子達なら案外根性で何とかしちゃうのかも知れないけどね?限界突破した根性は全てを超越する――うん、普通に訳分かんねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の杏率いる卒業生チームは、林などの場所を極力避けて移動をしていた。

――まぁ、当然と言えば当然だろう。みほの得意な戦術は全国大会と大学選抜戦、そして無限軌道杯で此れでもかと言うくらい見て来たのだから。

みほの得意な戦術は真っ向勝負よりも、待ち伏せや奇襲と言った相手の虚を突く物が圧倒的に多い――で、あるのならば其れを仕掛けられる可能性が高い場所を避けるのは至極当然の事だ。

 

 

「(つっても、西住ちゃんが何も仕込んでこない筈はないんだよな~~……其れを楽しみにしてるアタシも大概だけどね~~。)」

 

 

其れでも杏は『何かある筈』だと警戒はしている――が、其れ以上にみほが何をしてくるかが楽しみでならないらしい。

角谷杏と言う少女は、頭もキレて腹の中では何を考えてるのか分からない人物だが、その実態は単純に楽しい事最優先の快楽主義者だ――勿論人の道に外れる様な事だけはしないが。

だからこそ、警戒以上に楽しみなのだ、みほが何をしてくるのかが。

 

だが――

 

 

「え、何有れ?」

 

 

ある程度進んで、だだっ広い平原に出た杏は、目の前に光景に思わず目が点になった。何でかって?

其れは――

 

 

 

 

制限速度四〇kmの標識が立っていたからだ。

しかも其れだけではなく、其処から先にも――

 

 

 

 

 

 

 

 

と言った制限速度の標識があちこちに刺さっているのだ。しかも、割と短い間隔で……速度制限細かいなぁマジで。

此れがみほが持って来たものの正体、演劇部が大道具として使っていた道路標識だ――本来ならば、市街地で本物の道路標識に紛れ込ませる事で真価を発揮するのだが、其れを敢えてこのフィールドで使って来たのだ……いや、逆にこっちの方が効果はあるかも知れない。

だって何もない平原に行き成り速度表示の標識とか出て来たら普通に驚くからね?

 

 

「何だってこんな物が……まさか!!」

 

「そのまさかですよ杏さん。」

 

 

この標識の数々に驚いた杏だが、その意味を理解したと同時にみほ率いる在校生チームが強襲!

開けたフィールドだから、普通ならば接近する在校生チームに気付く事が出来たのだろうが、突然現れた道路標識に目を奪われて、意識がそっちに向いてしまい接近する在校生チームに気付く事が出来なかったのだ。

人は意外なモノを目にすると、大抵の場合其方に意識を奪われてしまい、他への注意が散漫になってしまう――みほの作戦は、人の特性と言うモノを見事に利用したモノだと言えるだろう。

 

 

「西住ちゃん……こう来るとは思わなかったよ?流石は隻腕の軍神、予想の斜め上を行ってくれるねぇ?

 何かしてくるんじゃないかとは思ったけど、こう来るとは予想外だったよ!――ってか、道路標識とか一体どっから持って来たのかメッチャ気になるんだけど?」

 

「演劇部にお願いして、大道具を無料で貰っただけです。」

 

「……此れを大道具として使うって、ウチの演劇部は何をしようとしてたのか逆に気になる。」

 

「昔々ある所におじいさんとおばあさんが山奥の小屋で……フフ。」

 

「その切り方もメッチャ気になるんだけど!?おじいさんとおばあさん、山奥の小屋で何してたの!?」

 

「デュエル!」

 

「はぁ!?どんなおじいさんとおばあさん!?」

 

「六十年後の不動遊星と十六夜アキです。」

 

「八十近いのに元気だなぁ。って言うか其れ昔々じゃなくて、可成り先の未来の話!」

 

 

そしてそのまま戦車戦に入った訳だが、みほと杏のこの余裕と言うかユルさは、校内壮行試合故の事だろう……真剣勝負とは言っても、大会や練習試合とは違って、身内での勝負ではユルくなってしまうのは致し方ないのかも知れない。

だが、空気はユルくとも戦車戦はガチンコだ。

卒業生チームは高い火力を生かし、防御力も信頼できるポルシェティーガーとARL-44を前面に押し出して攻撃し、逆に在校生チームは高い機動力を生かしてのヒット&アウェイを繰り返す。

攻撃を弾く卒業生チームと、攻撃を回避する在校生チームと言った感じで、互いに決定打を欠く展開となっている……此のまま続けば千日手の泥試合になるのは予想に難くないが――

 

 

「トラップ発動、落とし穴!」

 

 

此処で卒業生チームが仕掛けた。

ポルシェティーガーとARL-44の主砲でⅢ突の足元を砲撃し、即席の落とし穴を作ってⅢ突を其処に落っことす!正に予想外のタイミングでの落とし穴は完全にトラップだっただろう。……仕込んでないで即席作成の落とし穴をトラップと言って良いのか分からないが。

なんにしても、落とし穴に嵌まったⅢ突はひっくり返って白旗判定!

 

撃破アナウンス?そんなモノはない!

放送部が実況する程度だろう。

 

 

「此処で落とし穴だとぉ!?やってくれるじゃねぇかオイ!

 まさか、みぽりん相手に先手を取るとは思わなかったぜ……やるじゃねぇか角谷元会長さんよぉ!此れだから戦車道ってのは、一度知っちまうと止められねぇんだ!

 予想外の事が起きるから戦車道ってのは面白いんだ!マッタク予想が出来ねぇってのは、武藤さんのプロレスと同じだぜ!

 だが、予想出来ないからこそ観客ってのはワクワクドキドキするってんだ!分かってんのかオラァ!予定調和の試合なんざ誰も望んでねぇんだ!

 此れこそが戦車道!グァッデム!アイム、チョーノ!」

 

 

と思ってたら黒のカリスマがノリノリだった……放送部の実況よりも盛り上がり方が熱いのは、黒のカリスマの戦車道&大洗愛故か……そう言えば大洗の御当地レスラーのオーアライダーとの試合の話は如何なったのだろうか?是非とも実現して貰いたい物である。実現したら、特設リングサイドの最前列席を買って見に行きますので新型コロナが落ち着いたらマジでお願いします。

 

そんな訳で(どんな訳だ?)、卒業生チームが先に撃破をした訳だが、Ⅲ突が撃破された位で如何にかなる在校生チームではない……だって、在校生チームを率いてるのはみほだし。隻腕の軍神だし。

 

 

「小梅さん、磯辺キャプテン……リミッター解除!」

 

「その言葉を待っていましたみほさん!」

 

「リミッター解除……根性MAX!!」

 

 

そして予想通りに此処でみほがリミッター解除!

誤解なきように言っておくと、此れまで本気を出していなかった訳でなく、此処までも本気だったが此れからは本気と言うリミッターすらも解除したマジのMAXパワーと言う事だ。分かり易く言うなら潜在能力の解放か、火事場のクソ力の発動だ。……アヒルチームの根性MAXが微妙に怖い感じがするのは読者の諸君も分かるだろう。

小梅のチャーフィーは性能的に信頼できる超高性能の軽戦車だが、アヒルの新戦車であるVK3002DBは、あの傑作戦車であるパンターと略同性能のスペックを持った戦車だが、試作機が一輌しか存在しない幻の戦車でありその性能は正に未知数なのだ……千代さんは一体何処から此のエクストラシークレットレアを遥かに上回る極レア戦車を見つけて来たのか非常に気になる所だ。

だが、その未知数の性能にアヒルチームのスポコンが加わったらどうなるか?

 

 

「ブチかませ佐々木!!」

 

「はい、キャプテン!!」

 

 

答えは、計り知れない無限の可能性だ。

VK3002DBの主砲はパンチ力のある超長砲身の75mmであり、此れはパンターの主砲と同等の破壊力がある――ポルシェティーガーやARL-44が相手では大ダメージは期待出来ないが、コメットならば容易に正面を抜く事が出来るのだ。

加えてアヒルチームの砲手であるあけびは、大洗女子学園では華に次ぐ腕前の砲手……コメットに的確に命中させる事など朝飯前だろう。――その才能がバレーボールで発揮されたら、彼女のスパイクはブロック不可だと思われる。冗談抜きでマジで。

その砲撃を喰らったコメットはそのまま白旗判定となり戦線離脱……そど子、特に活躍もしないで退場だ。悪く思うな。

 

 

「納得いかないわ!こんなの校則違反よ!」

 

 

知らんがな。そもそも私大洗女子学園の生徒じゃねぇし。其れ以前に作者男だし。

だが、此れで数は互角になったが、其れで終わりではない!!

 

 

「小梅さん、磯辺キャプテン……やっちゃってください!」

 

「OKです!!」

 

「いっくぞ~~!ねっけーつ!!」

 

 

みほの命を受けた小梅と典子は、白旗判定になったⅢ突の落とし穴から見えている部分とコメットを踏み台にして飛び上がり、小梅はポルシェティーガーに、典子はARL-44に、みほ流の超奥義である戦車プレスをぶちかます!

如何に防御力に定評のあるポルシェティーガーとARL-44でも上から戦車が降って来たら一溜りも無いだろう……と言うか、普通にスクラップになるのは間違いない。

なので、ポルシェティーガーとARL-44は此処で白旗判定になったのだが、戦車プレスを行ったチャーフィーとVK3002DBも乗っかった戦車から降りる事が出来なくなってしまったので、決着はパンターとヘッツァーの一騎打ちに委ねられた。

パンターが勝てばそのまま在校生チームの勝ちであり、ヘッツァーが勝ったら戦車の上で身動きが取れなくなってるチャーフィーとVK3002DBを撃破して試合終了だ。

 

 

「いやはや、こうなるとはね……隻腕の軍神の戦車道、堪能させて貰ったよ西住ちゃん。君が味方で良かったって、心の底から実感してるよ。」

 

「其れは、最大の褒め言葉ですよ杏さん。」

 

「うん、最大の褒め言葉さ……君が居なかったら大洗女子学園は無くなってかも――否、確実になくなってだろうからね……改めてありがとう、西住ちゃん。大洗を護る事が出来たのは君のおかげだよ。」

 

「私は私に出来る事をしただけです……大洗女子学園は、皆で守ったんです。私の力じゃありません……そして、その皆の中には杏さんも当然含まれてますから。」

 

 

「だったら嬉しいね……だけど、だからこそもう思い残す事はない――最後に君との一騎打ちを持ってして、高校生活最後にして最高の思い出にさせて貰うよ!」

 

「なら、最高の思い出にさせてあげます!」

 

 

そして最後に選んだのはタンクジョスト!

互いに同時に発進すると、猛スピードで相手に向かって突進する――主砲の破壊力は略互角だが、回転砲塔のあるパンターと回転砲塔の無いヘッツァーでは、パンターの方が有利に見える。

 

 

「小山!!」

 

「任せて下さい杏!」

 

 

だがしかし、ヘッツァーの操縦士であるゆずは、大洗女子学園でもトップクラスの操縦士であるので多少の無茶操縦には対応する事が出来る――今だって、杏の命を受けてパンターの横っ腹を狙う様に移動したのだから。

此れならばパンターの横っ腹に一発叩き込む事も出来るだろう。

 

そうなればいかにパンターと言えども白旗待ったなしだが、パンターの操縦士って誰だっけ?

 

 

「麻子さん、お願いします。」

 

「おうよ。任せとけ西住さん。」

 

 

そう、パンターの操縦士は大洗女子学園きっての大天才、低血圧で朝に弱くて遅刻日数がカンストしてる推定IQは多分二百は鉄板と思われる麻子だ――みほとの此の短いやり取りで全部分かってる麻子だ。

つまり、操縦士としての腕前は柚子を遥かに凌駕しているのである――なので、横っ腹を取ったヘッツァーの横を滑る形での戦車ドリフトを行ってヘッツァーの背後を取る。

回転砲塔のないヘッツァーにとって、背後を取られると言うのは死刑宣告と言えるだろう。

 

 

「華さん、ヘッツァーの後面にダイレクトアタックです!!」

 

「一発必中……!」

 

 

今や高校戦車道に於いて、五本指に入る砲手である華が乾坤一擲の一発を放って、ヘッツァーの後部装甲をぶち抜く!

2000m先の89mm装甲を抜く事の出来るパンターの主砲を近距離から、其れも僅か8mmしかない後部に叩き込まれてはとても耐える事など出来はしない。

ド派手にフッ飛ばされた挙げ句に白旗判定となり勝負あり。

車長の判断力と、操縦士の神懸かった操縦、そして砲手の集中の一発が勝負を決めたのだ。……時に、華×ナオミの砲手カップルって良くないですか?良いですよね?ボーイッシュなナオミと純大和撫子な華の組み合わせって萌えません?華×ナオミもっと増えないかなぁ。と言う個人的希望。

……取り敢えず試合自体は、大凡の予想通り在校生チームの勝利だったが、卒業生チームも落とし穴でⅢ突を撃破して見せたのだから、みほ相手に一矢報いたのは大きいだろう。

 

 

「いや~~、やっぱ西住ちゃんには勝てね~わ。だけど、たっぷり堪能させて貰ったよ、西住ちゃんの戦車道。」

 

「杏さん……良い思い出になりましたか?」

 

「そりゃ当然だよ。高校生活で、全国制覇、大学選抜戦勝利と同じ位の最高の思い出になったさ!此れでもう、高校生活で思い残す事はないね!」

 

「其れは良かったです。」

 

 

こうして大洗女子学園戦車隊の壮行試合は終了。

余談だが、この壮行試合はNHK水戸放送局の夕方の番組でダイジェスト放送され、大反響があったのだとか何だとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

校内の壮行試合とは思えない位に盛り上がったあの試合から数日、遂に卒業式の日がやって来て、杏さん達三年生は大洗女子学園を卒業し、これから新たな道を歩んで行く。

自動車部の人達みたいに、一部の人は学園艦に残るみたいだけど、多くは学園艦を降りて陸の大学に進学するみたいだね……元生徒会の三人も陸の大学に進学したからね。

 

卒業式自体は何の問題もなく終わったんだけど、卒業生退場の時になって遂に限界が来たのか、桃ちゃん先輩が今までに見た事もない位に大号泣して大変だったなぁ……他にも泣いてる人は居たけど、桃ちゃん先輩以上の人は居なかったから。……あんなに泣いて体内の水分が無くならないのが謎だよ。

 

そして今、在校生が作る最後の花道を通って、卒業生達は校門を潜って本当に卒業するんだけど、此処で最後のサプライズ!

 

「全車主砲装填!Fire!(撃て!)」

 

「「「「「「「「「「Jawohl!(了解!)」」」」」」」」」」

 

 

 

 

――ドドーン!!

 

 

 

 

待機させていた戦車で特製のカラースモーク弾とくす玉弾を発射して、空にカラフルなスモークを描くと同時に、紙吹雪を舞散らして花道を彩ってみたよ……戦車にはこう言う使い方もあるだってね♪

 

 

 

「いやはや、最後の最後でやってくれんね西住ちゃん?最高の門出の演出じゃないか……隻腕の軍神は、エンタメも得意なのかな?」

 

「戦車道はガチンコ勝負であると同時にエンターテイメントなんですよ杏さん――本気の勝負は期せずしてエンターテイメントになるのが戦車道って言うものなんです。

 こんなスポーツは、他にありませんよ?」

 

「うっわ~~、納得だわ。

 どんなスポーツでもガチすぎると面白くないし、だからと言ってエンタメ過ぎっと嘘くさくなっからね?――だけど戦車道は、ガチで在ればガチであるだけエンタメ性が増す訳か。」

 

 

 

ふふ、そう言う事です。

改めて、卒業おめでとうございます。大学でも頑張って下さいね?

 

 

 

「言われなくてもその心算さ……改めて本当にありがとう西住ちゃん。

 君達のおかげでアタシ達は大洗女子学園の生徒として卒業する事が出来たからね……本気で感謝だよ。――西住ちゃんと逸見ちゃんと赤星ちゃんが戦車道部を立ち上げようとしてた事に感謝だよ。お蔭で洗濯必修科目で戦車道を選ぶ事を強要しないで済んだからね。

 最悪の場合は、脅してでも戦車道を取らせる心算だったんだわ~~……尤も、其れやってたら間違いなくゲームオーバーだっただろうけどさ。」

 

「そうですね、そんな事されてたら、私はエリカさんと小梅さんと梓ちゃんとクロエちゃんを引き連れて聖グロかサンダースかアンツィオに再転校してたと思いますからね。」

 

「だよね。

 でも、そうならなかったから大洗女子学園は守られた……西住ちゃん、最後に握手してくれっかな?」

 

「其れ位なら喜んで。」

 

杏さんが出した右手に私の右手を重ねて確りと握手を交わす……その後で、柚子さんや桃ちゃん先輩とも握手を交わす事になったけどね。

 

 

卒業おめでとうございます!新たな道を、夫々確り踏みしめて行って下さいね!!

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エミ

 

 

編入手続きは此れでお終いね……此れで、私も晴れて四月からは大洗女子学園の生徒になる訳か――高校最後の一年は、貴女と一緒に戦車道に勤しませて貰うわみほ。

無限軌道杯で貴女とは心行くまで戦ったから、今度は同じチームで戦わせて貰うわよ?――貴女との同じチームで戦う戦車道、想像しただけでワクワクして来たわ。

 

 

……時にこう言う時って、『遂にやって来たわに』とかボケた方が良いのかしら?

 

 

 

『其れ私のネタだから!』

 

 

 

!!?今のは何?逸見の声が聞こえた気が……多分気のせいね。――何にしても、高校生活最後の一年、全力で楽しませて貰うわよ、みほ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer200『最高学年の一年の幕開けです』

遂に200話まで来たよ!Byみほ        来たわね此れ!Byエリカ       ガルパン二次では結構な話数ですねBy小梅


Side:みほ

 

 

う、うぅん……もう朝か。

今日から新学期――私の高校生活の最後の一年が始まった訳か……どんな一年になるのかはまだ分からないけど、充実した一年にしたいって言うのは偽らざる本音かな。

特に戦車道では悔いを残さないようにしたいね。

 

と、目覚めて決意を固めたけど動く事が出来ません……まぁ、右腕でエリカさんに腕枕して、左半身は小梅さんに抱き枕にされてたら動ける筈が無いよね――まぁ、私は左腕無いから私の左側になった人は腕枕なしだから抱き付くしかないのかも知れないけどさ。

 

とは言え、此のままの状態で居る事は出来ないからエリカさんと小梅さんを起こさないと……アンドリュー、最大パワーでの『吠える』!

 

 

 

『ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』

 

 

 

う~ん、此れは凄いね?

これはもう『吠える』じゃなくて『ハイパーボイス』かな?ガラスがビリビリ揺れるだけじゃなくて、ちょっと罅入ったし……ガラス屋さんに修理を依頼すると高いから、透明のシリコンボンドで補修しておこうかな。

 

 

 

「うわぁ!何事!?」

 

「敵襲ですか!?」

 

 

 

だけど、取り敢えずエリカさんと小梅さんには効果抜群だったかな?今の一撃で確りと目が覚めたみたいだからね――おはようエリカさん、小梅さん。

良い夢は見れた?

 

 

 

「はい♪みほさんと一緒に、今年の大会も制覇する夢でした。」

 

「良い夢と言えば良い夢だったのかしら?

 貴女に『良い働きをしてくれたご褒美です』って、東京ドームみたいな巨大なハンバーグをご馳走して貰ったわ。」

 

 

 

……小梅さんの夢は兎も角、エリカさんの夢は何それ?私がご褒美を与えたのは兎も角として、其れが東京ドーム並みのハンバーグって、何処から突っ込みを入れれば良いのか分からないよ。

ハンバーグの大きさか、其れだけのハンバーグを作るのに必要な材料にか、そもそもにしてそれを用意しちゃう夢の中の私なのか……多分、全部だよねきっと。

でも其れは私への期待の表れとも言える夢だから、その期待には応えないとだね……何にしても、高校生活最後の一年、最高のモノにしないとね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer200

『最高学年の一年の幕開けです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新学年の始業式が終わって、各生徒は夫々のクラスに行ったのだけど、今年は沙織さん、華さん、優花里さん、麻子さん、エリカさん、小梅さんが同じクラスだね。

あんこうチームが全員同じクラスって言うのは、学園長が何かしたのかも知れないけど。

 

 

 

「その可能性は高いと思いますよ西住殿。

 学園長殿は、戦車道で夏冬の連覇を達成した事を大洗女子学園のブランドにしたいみたいですからねぇ……であるのならば、隊長チームの面々を同じクラスにするのは当然であります。

 同じクラスであれば、交流が盛んになってチームワークの向上も図れますから。」

 

「成程、言われてみれば確かにだね。」

 

エリカさんと小梅さんが同じクラスなのも、私に近い存在だからだろうね――もしも梓ちゃんが同じ学年だったら、梓ちゃんも同じクラスだったかも知れないね。

ところでエリカさん、口の其れは何?未成年の喫煙は駄目だよ?

 

 

 

「此れはタバコじゃなくてシガレットチョコ。タバコ模様の紙で包んである棒状のチョコレートよ。

 最近はめっきり見なくなった絶滅危惧種の駄菓子だから、珍しくて買っちゃったのよね……貴女も食べる?形は兎も角、味は普通のチョコレートだけど。」

 

「じゃあ一本貰おうかな。」

 

「どうぞ。貴女達も食べる?……って、華の場合は一本じゃ全然足りないだろうから一箱あげるわ。」

 

「あら、ありがとうございますエリカさん。」

 

 

 

華さんの場合は一箱どころかワンカートンでも行ける気がするけどね?

にしても此のシガレットチョコ、チョコだけじゃなくて箱も本物のタバコそっくりに作ってあるんだ……白と赤のツートンカラーに『Marlchoco』の文字、更にその下には『チョコレートの摂り過ぎは糖尿病や高血圧を発症するリスクを高めますが、ココアポリフェノールは身体に良いので、摂取量を守って美味しく召し上がって下さい』って、タバコの注意書きの様な何かまで……其れ、書く必要あったのかな?

そしてエリカさんが華さんにシガレットチョコを箱ごと渡す光景は、ぱっと見『一般生徒が生徒会長にタバコを渡してる』って言う、トンデモナイ事なんだよねぇ……まぁ、スキャンダルとしてすっぱ抜こうとしても、箱の文字からタバコじゃない事が分かるから、捏造しない限りは記事に出来ないんだけど。

其れに、去年の『桃ちゃん先輩事件』で、新聞部もやらかしちゃった部分が有るから、捏造なんて馬鹿な事をする筈が無いからね。

 

 

 

「そう言えば西住殿、駄菓子と言えば、『高校戦車道グミ』と言う食玩は御存知ですか?」

 

「優花里さん、何それ?」

 

「その名の通り、去年の全国大会に出場した学校の戦車のミニチュアと、各校の有名選手のブロマイドカードが付いてるグミで、グミも戦車の形をしているのであります!

 そして、我が大洗は全国大会に出場した十輌全てがミニチュアになっているのであります!因みに戦車のミニチュアは何が入ってるか分かるようになっているのですが、選手のブロマイドカードは誰が出るかは分からないのです

 ですが、選手のブロマイドカードは全て箔押しのキラ仕様との事でありますが、更にシークレットとしてホログラム仕様の物モノ、人物以外のカード全体にプリズム加工がされたモノがあるらしいのです。」

 

「其れは、シークレットレアとホログラフィックレアだね。」

 

「サンプル画像では、プラウダ戦でキューポラの上に立った西住殿が存在している事は確認しました。因みに姉住殿は、大学選抜戦で助っ人に来た時の大洗の制服姿でした。」

 

「私は兎も角、お姉ちゃんは何で其れをチョイスしたし。」

 

まぁ、ブロマイドカードは一選手一種って言う訳じゃないだろうから、他にもあるのかも知れないし、二人以上が一緒のモノもあるかもだからね――アンツィオ戦後の宴会の一幕もカードになってるのかも。

 

 

 

「私個人としては合成写真で、毒舌罵詈雑言を尽くすエリカさんと、其れにプルプル怒りマックスなダージリンさんのカードが欲しいですね?其れと、みほさんと梓さんが相手チームに啖呵切った時のものですね。」

 

「あぁ、あれかぁ……如何だろう、カードになるかな?」

 

「今や大注目の大洗女子学園戦車隊の隊長と副隊長コンビならカードになっても良いと思う……寧ろ、すべきだろ。」

 

「私のカードってあるのかな?」

 

「通信士は戦車の外に出る事が余りないので難しいのではないでしょうか?試合前や試合後の一幕に期待したいですわ。」

 

「中には、撃破後の煤塗れになった姿の選手のモノもあるみたいです。」

 

「其れ、微妙じゃない?」

 

「一部のマニアには垂涎の品らしいでありますよ。

 それと、此のブロマイドカードにはちょっと謎があるのです……黒森峰の直下殿のカードには、何故か『直下理子』となっているモノと『小島エミ』となっているモノが存在しているのであります。

 直下理子と小島エミ、全くカスリもしないこの名前が如何して同じ人物に充てられてしまったのか、ちょっとしたミステリーでありますよ。」

 

 

 

あはは……其れは何となく突っ込んじゃいけない気がするなぁ?と言うか突っ込んだら負け――まさか、最終章第二話で名前が公開されるなんて事は誰も予想してなかった事だからね――って、何を言ってるんだろう?久々に、妙な電波を受信したみたいだね。

其れからは、暫く雑談に興じてたんだけど……

 

 

 

「はい、其れじゃあホームルームを始めるから全員席について。」

 

 

 

担任の先生が教室に入って来た事で殆どの生徒が自分の席に戻って行ったんだけど……何故か私を含めたあんこうチームの面々は『ハレハレゆかい』のダンスのフィニッシュポーズを決めてたとさ。

前もって打ち合わせた訳でもないのに、此の以心伝心は見事なチームワークだね!

 

 

 

「西住さん、何をしてるのかしら?」

 

「先生、作者と言う名の神の悪戯によってこんな事をやっちゃいました……なので、作者と言う名の神に一発かましておきます――アンドリュー、破壊光線フルパワー!」

 

『ガァァァァアァァァ!!』

 

 

 

――ちょ、待って其れ洒落にならない……あ~~れ~~!!!

 

 

――ドガァァァァァン!!

 

 

 

ち、キタねぇ花火だぜ。

さて、色々脱線しましたがホームルームを始めて下さい先生。

 

 

 

「そうね、其れじゃあホームルームを始めるわよ。」

 

「「「「「「「「「普通に流した!?この先生只者じゃねぇ!!」」」」」」」」」」

 

 

 

うん、この流れを普通に流すのは只者じゃないね……尤も、色々とぶっ飛んでる生徒が多い大洗女子学園で先生を務めるのは絶対に無理だと思うから、先生の方も多少ぶっ飛んでないとだよ。

 

 

 

「其れじゃあまずは自己紹介……と行きたい所だけど、其れよりも先に転校生を紹介しておきましょうか?……転校生?留学生の方が正しい?

 まぁ、新しい仲間と言う意味ではどっちでも良いわ。入って来なさい。」

 

 

 

で、如何やらこのクラスには転校生と言うか留学生が来るみたいだけど、先生に言われて入ってきた生徒を見て、私は思わず目を疑ったよ。

だって、教室に入って来たのは、赤い髪をツインテールにした、少し鋭い目つきの赤眼が特徴的な女の子……

 

 

 

「ドイツから留学して来た中須賀エミです。

 去年の無限軌道杯ではベルウォールで隊長兼マネージャーを務めていたけれど、ベルウォールの留学期間が終わったので、改めて大洗女子学園に留学して来ました。一年間、宜しくお願いします。」

 

 

 

エミちゃんだったんだから。

ベルウォールでの留学期間が終わって、新たに大洗に留学して来たって言うのはまぁ良いとして、大洗に留学して来るとは予想してなかったよエミちゃん?私を驚かせるだなんて、やってくれるね?

 

 

 

「貴女とは無限軌道杯で思いっきりやり合ったから、ライバルとしては一応満足出来たわ――でも、だからこそ今度は貴女と仲間として戦いたいと思ったのよ。

 アタシが大洗に来た理由は只一つ……高校生活最後の一年を、貴女と一緒に過ごすためよ。」

 

「其れは光栄だよエミちゃん。

 そして、エミちゃんが来てくれたのは有り難いよ……お銀さん達は無限軌道杯が終わった後は、学園の奥底に戻っちゃったから正直手が足りなくなってたからね。」

 

「タイムリーだった訳か、アタシの大洗留学は……まぁ、何にしても此れから一年は同じチームの仲間になるんだから、宜しくねみほ!」

 

「うん、此方こそだよエミちゃん!」

 

 

 

――ガシィィィィ!

 

 

 

私とエミちゃんはハイタッチを交わすと同時に、ガッチリと手を握り合って戦車が紡いだ絆を確認する……うん、私達が小学生の時に紡がれた絆は今もまだ健在だって言う事がこの握手から伝わって来たよ。

……真の戦車乗り同士に言葉は必要ないっていうのは良く言ったモノだと思うね。――でも、此れで取り敢えずティーガーⅠの車長は確保出来たってところかな?

エミちゃんはベルウォールでもティーガーⅠに乗ってたから、扱いはお手の物だと思うからね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・・・・

 

・・・

 

 

 

そんな訳で放課後――と言っても始業式が終わった後はホームルームだけの半日授業だから放課後もへったくれも無いんだけど、戦車隊のメンバーは、生徒会以外の全員が格納庫に集まってた。

とは言っても、今日は練習をする訳じゃない……であるのにも関わらず集まって貰ったのは、とても需要な事があったから――その重大な事とは!

 

「今年度の戦車道履修者をどうやって増やすか!!」

 

此れに尽きるよ。

夏の全国大会と冬の無限軌道杯を制した事で、大洗女子学園の名は全国規模になったとは言え、黒森峰やサンダースと比べたらネームバリューはお世辞にも高いとは言えない――元黒森峰遊撃隊のメンバーと梓ちゃんが居る事で其れなりとは言っても、マダマダベスト4常連校には及ばないからね。

新入生の中に、中学時代に戦車道をやっていた子がドレ位居るのかは、華さん達生徒会が調べてくれてるけど、戦車道をやってた子が何人居ようとも、保有戦車を全台動かす為には、F2三輌の乗員で最低十二名、ティーガーⅠの乗員に四名、ヘッツァーとポルシェティーガーに最低三名、コメットとARL-44に二名の計二十六名が必要になる。

其れだけの人数をどうやって確保するか……生徒会のメンバーが戦車道履修者だから、去年みたいなオリエンテーリングをやろうと思えばやれる筈だし、特典だって用意出来るかもだけど、今年は廃校問題とかはないから其処までやる必要は無い。

其れに、特典目当てで戦車道を選択されても本当の意味で続くとは思えない……ぶっちゃけて言うと、戦車道の楽しさを知る前に基礎トレーニングでギブアップする事間違いないし。

 

 

 

「参考までに聞いておくけど、基礎トレーニングって何をする心算?」

 

「西住流フィジカルトレーニングお試し版。」

 

「西住流フィジカルトレーニング?何それ?」

 

「そう言えば貴女は知らないのよねエミ?

 西住流フィジカルトレーニングって言うのはねぇ……一度でも体験したら地獄が生温く思える程のめっちゃキッツイトレーニングよ!ビリー隊長でも逃げ出すレベルのね!

 流石にお試し版は其処までキツクは無いとは言え、其れでもやったらその日は確実にKOされてベッドに直行する事間違いなしだわ……ぶっちゃけて言うと、今此処に居るメンツは良くギブアップしなかったと思うわよ?」

 

「どんなトレーニングよ其れ……って言うか、西住流ってのは戦車道の選手を育てるだけじゃなくて超人の育成も行ってるって言うの?」

 

 

 

超人の育成を行ってるんじゃなくて、西住流の門下生は厳しい練習に耐えきると結果として超人になると言うか……そして、大洗に於いては超人じゃなくて、超人以上の変人(褒め言葉)が大量発生する事になった訳です。

 

 

 

「……アタシも此れからはそのトレーニングをやる事になる訳よね……はぁ、付いて行けるかどうか不安しかないわ。」

 

「エミちゃんだったら大丈夫だと思うよ?

 戦車道はずっと続けてたから基礎体力は充分にあると思うし、必要な筋肉もちゃんと付いてるみたいだからね――其れも、剛性がありながら、柔軟性は失ってない『太くないけど強い筋肉』だから、西住流フィジカルトレーニングだって熟せるはずだよ。」

 

「何で、制服の上から其処まで分かるのよ!?」

 

「制服で隠れてない部分、首周りや足を見れば其れだけで充分だよ……アスリートらしい良い筋肉をしてるのが分かるからね。」

 

「その観察眼が若干恐ろしいわ。」

 

 

 

此れもまた、車長専任免許を取得する為に会得したモノなんだよねぇ――車長って言うのは、観察眼に優れてないと務まらないモノ……観察眼に優れてないと、相手の思惑を看破する事も出来ないしね。

直感と観察眼が優れてないと、車長は務まらないよ絶対に。

 

で、本題なんだけどどうやって今年の戦車道履修者を集めようか?

 

 

 

「隊長、此処は矢張り夏冬連覇と言うのを強調するのが一番ではないかな?

 多くの部活がそうであるように、全国大会出場や、○○大会優勝と言うのは大きな宣伝効果があると思うのだ――戦車道は部活ではないが、同じ事が出来ない訳ではないだろう?」

 

「エルヴィン先輩の案は、私も良いと思います西住隊長。

 夏冬連続の全国制覇、此れを利用しない手はないと思うんです――其れこそ、ドドーンと横断幕を掲げても良いんじゃないかと思いますよ?」

 

 

 

先ずはエルヴィンさんが案を出して、其れにあゆみちゃんが乗っかる形になったね?……確かに夏の全国大会と、冬の無限軌道杯を制したって言うのは大きな宣伝効果はあるだろうね。

だけど、其れだけじゃまだ弱い気がするかなぁ?何か、もう一押し欲しい感じかな。

 

 

 

「其れじゃあ、中学校の時みたいに戦車を実際に走らせて派手に宣伝するって言うのは如何でしょうか?

 私が今戦車道をやってるのも、あの時の西住隊長に憧れたからですし……切っ掛けは憧れであっても、本人の努力次第では強くなれるって言うのは私が証明してますから、あの方法で人を集めるのは悪くないと思います。」

 

「うん、其れはアリかも知れないね梓ちゃん。」

 

実際にあの時は梓ちゃんをはじめ、結構な人数が集まってくれたからね……よし、それで行こう!

其れに夏冬連続の全国制覇を加えれば強烈なインパクトを与える事が出来ると思うからね――となると、其れをやるのはアンコウとライガーとウサギかな?

全員が『黒のカリスマ』の衣装で決めればインパクトは更に増すだろうからね――他に、何か意見はあるかな?

 

 

 

「西住隊長の戦車には、一緒にアンドリューとロンメルも乗せてやればもっとインパクトが増すと思う!」

 

「どうせなら、全員がアリストトリストブランドのグラサン着用って言うのは如何かな?黒のカリスマに拘るなら徹底的に拘るべきだと思うんだよ♪」

 

「隊長が軍神立ちを披露するのも良くない?アレはマジでカッコいいから、憧れる人は絶対に出るって!」

 

「隊長と副隊長が例の啖呵を切るのもアリじゃない?アレって結構カッコ良かったし、インパクトも絶大だから、絶対に戦車道に興味を持つ人が出ると思うんだよね。」

 

 

 

うん、良い意見が出たね……よし、全部採用しよう。

憧れで戦車道を始める人は居るだろうけど、其れでも戦車道を履修する事で得られる特典目当てで戦車道を始めるよりは良いと思うからね……とは言っても、特典目当てだった麻子さんは例外中の例外だけどね。

そうと決まればその為の準備だね!

先ずは服飾科に頼んで黒のカリスマな衣装を作って貰って、アリストトリストのネットショップからサングラスを人数分購入して、梓ちゃんと啖呵の切り方も練習しないとだから。

やる事は多いけど、だからこそやりがいがあるってモノだね!

 

 

でもってその後、華さん達から今年の新入生のデータを貰ったんだけど……意外と戦車道の経験者が多かった事に驚きだった――そして、その大半が明光大の生徒だったんだから更に驚きだよ。

こんな事を言ったらアレだけど、隻腕の軍神と、軍神の一番弟子のネームバリューは、明光大の戦車乗り達には黒森峰とかよりも絶大だったのかも知れないね。

此れは、案外最低限の人数はあっさり集まるかも知れないかな?――戦車道の経験者は略間違いなく戦車道を履修してくれるだろうからね。

 

さて、どんな子が来てくれるのか、楽しみだよ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・・・・

 

・・・

 

 

 

で、夜なんだけど……エミちゃん、何で私の部屋に居るし。って言うか、エリカさんと小梅さんは何処に?

 

 

 

「えっと、アタシの寮部屋が此処だって聞いたんだけど……若しかして違った?」

 

「違ったも何も、今はじめてそれ聞いた――まぁ、此の部屋は四人部屋だから、エミちゃんが増えた所で定員丁度だから問題はないけど……エリカさんと小梅さんが居ないのは如何して?」

 

「其れは……あの二人は今夜は外泊するんだって……その……『女になって来い』って言われちゃったのよねアタシ。」

 

 

 

エリカさん、小梅さん……アンタ等なんばしよっと!?

『女になって来い』ってつまりそう言う事ったい結論に至ったのかね!?成してそないな事になったと……どげんこつ事か問い詰めたか!――って思わず熊本弁が出ちゃったよ!

えっと、でも其れはつまりそう言う事なんだよね?……その、エミちゃんは良いの?初めて、なんだよね?

 

 

 

「初めてだからよ……アタシの初めてはみほが良い。アタシを、貴女のモノにしてくれる?」

 

「そんな風に言われたら断れないよエミちゃん……だったら、遠慮なく頂きます。」

 

夜の戦車道、ぱんつぁ~~、ふぉ~~~!……なんてね。

取り敢えず、その後の事は各自脳内補完なり、脳内妄想で補う様に!此れは絶対命令だからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer201『来たれ戦車道へ!全力勧誘です!』

其れじゃあ、戦車道を大々的に宣伝しようか!Byみほ        全力全壊?Byエリカ       全力全壊!ハナクソわっしょい!By小梅      なんだお前Byエミ


Side:みほ

 

 

カーテンの隙間から入り込んだ日差しで私は目を覚ました……ふと横を見れば、髪を解いて一糸纏わぬ姿のエミちゃんが――アハハ、昨日の夜はエミちゃんとこれでもかっていう感じだったんだよね。主導権は私にあったけどね。

でも、このままって訳にも行かないから……

 

「おはようエミちゃん。朝だよ。」

 

そう言って、エミちゃんに声を掛けたんだけど……

 

 

 

「み、みほ?」

 

「そうだけど、如何かしたエミちゃん?」

 

「ご、ゴメン……昨日の事が蘇って来て、真面に顔、見る事が出来そうにないわ。」

 

 

 

そう言って、顔を覆ってしまったエミちゃん……すいません、めっちゃ可愛いんですけど!!私の理性がリミッター解除されてたら、朝っぱらからもう一発になってたのは否定出来ないかもだよ。

 

其れは其れとして、改めておはようエミちゃん。

 

 

 

「……おはよう、みほ。何て言うか、妙な感じだわ……まさか初日からこんな事になるだなんて予想外にも程があるでしょうに――あの二人には、礼を言うべきなのか、それとも『何て事を言ってくれたのか』と言うべきなのか迷うわね。」

 

「其れは、此れからあったエリカさんと小梅さんの態度次第かな?」

 

「如何言う事よ?其れと話してないで、服着ない?あと、汚れちゃったシーツとか如何すんの此れ?」

 

「其れは纏めて洗濯機に突っ込んで乾燥までかければOK。ベッドも、ジャ○ネットで買った布団乾燥機を使えば問題ないから。

 で、エリカさんと小梅さんの態度次第って言うのは、二人が何時も通りだったら私達も普通で良いけど、所謂『昨晩はお楽しみでしたねぇ?』ッポイ事を言って来たり、そんな態度だった時は無言で殴っても良いと思う。」

 

「アタシは兎も角、貴女に殴られたら逸見と赤星は死んじゃうんじゃないの?貴女絶対仮面ライダー並みの戦闘力あるでしょ?」

 

「いやいや、流石の私でも生身で戦車を持ち上げるのは無理だと思う。」

 

「其れが出来たら、其れだけで一生食っていけると思うわ。」

 

「ビックリ人間としてね。」

 

取り敢えず着替えて、後始末をしてから、目玉焼きトースト(食パンにバターを塗って、パンの縁をマヨネーズで囲ってその中に卵を割り入れて焼いたモノ)とコーヒーの朝食を済ませて登校。

その途中であったエリカさんと小梅さんは『昨日はお楽しみでしたね』って感じだったので、西住流格闘術禁じ手『88mm砲正拳突き』をかましておいたよ……自分達で焚き付けておいて其れは如何かと思ったからね。

でも、此れを喰らってダメージパターンが絆創膏だけとは私並みに頑丈だなぁ……ま、西住流フィジカルトレーニングを熟せるんだから、当然と言えば当然だったね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer201

『来たれ戦車道へ!全力勧誘です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始業式の翌日は入学式なんだけど、実はその入学式で私には華さんから重要任務を与えられてるんだよね……其れはズバリ『新入生への祝辞』!

華さんがやると思ってたら、『みほさんの方が私よりも有名ですし、大洗女子学園の顔とも言えますのでよろしくお願いします』だからね……まぁ、私もやる以上はキッチリやるけどさ。

尤も、やる以上は祝辞のテンプレに則っただけのモノにする心算はないから、華さんから話を貰ったその時から私なりの祝辞を考えてたけどね。

まぁ、其れは其れとしてエリカさん、アレは何?

 

 

 

「其れを私に聞く?ってか、私が聞きたいくらいなんだけど……小梅、説明してくれる?」

 

「私に聞かないで下さいよエリカさん!!……すみません、お任せしますエミさん。」

 

「ちょ、其処で新参者のアタシに振る普通!?キラーパスどころじゃなくで、完全に殺人パスでしょうが此れ!!って言うか、本気で何なのアレは!」

 

「多分だけど、新入生歓迎のパフォーマンスかな?」

 

私に言えるのは此れだけだよ。

私達の目の前で繰り広げられていたのは……

 

 

 

「大洗女子学園に入学、おめでとうございま~~す!!」

 

「ボールに、ピカチュウのヌイグルミ、黒のカリスマのサングラスにパンターの超合金模型……何時もよりも大目に回しております!」

 

 

 

袴姿の優花里さんとエルヴィンさんが、大道芸の『唐傘回し』をやってる光景。……袴姿でも、ドイツ軍の軍帽だけは脱がないエルヴィンさんには拘りを強く感じるけど、その組み合わせは流石にシュールだと思う。

だけど、その見事な芸が注目されてるのは事実だし、新入生と思しき生徒も眼を奪われてるからね――此れも、華さんが考えた事なのかな?

そうだとしたら、華さんは杏さん以上に色々とぶっ飛んだ思考の持ち主なのかも……杏さんだって、入学式当日にこんなパフォーマンスをさせたりしなかったからね。……尤も去年は廃校問題があったから、そんな事に気を回してる場合じゃなかったのかも知れないけどね。

 

取り敢えず新入生にインパクトを与える事は出来たと思うから、今度は入学式で私が更なるインパクトを与えてあげようかな?其れこそ、ゴッドハンドインパクトや、ビックバンインパクト級のインパクトをね。

 

 

 

「みほ、貴女はこの世の全てを吹き飛ばす心算かしら?」

 

「大丈夫だよエリカさん、ゴッドハンドインパクトを発動する為のコストはないし、私は強化系の能力者でもないから拳一つで全てを吹き飛ばす事は出来ないから。」

 

「去年のスポーツテストの握力ドレ位だったっけか?」

 

「握力計の針が吹っ飛んだけど?」

 

「うん、その時点でもう貴女は普通のJKじゃないわね。取り敢えず人の事を掴む時には注意しなさいよ?貴女が本気で手首とか掴もうモノなら、掴まれた方の手首は粉々になるだろうから。」

 

「うん、気を付けるよ。」

 

拳打の破壊力は、体重×スピード×握力らしいから、握力計の針が吹き飛ぶだけの握力がある私の拳打は其れだけで凶器――否、凶器をも超越した兵器かもだね。

まぁ、その拳打を喰らって絆創膏ダメージで済んでるエリカさんと小梅さんも充分人辞めてると思うけどさ……西住流フィジカルトレーニング恐るべしってところだね。

 

「お疲れ様優花里さん。序に此れも回してくれるかな?」

 

「西住殿!此れは……ボコ殿のヌイグルミ!?……此れは絶対に落とせないであります!

 この秋山優花里、全ての新入生の為にも、そして此れを差し出してくれた西住殿の為にも、命に代えてもこの唐傘回しは最後までやり遂げるであります!やらねばなりません!西住殿の部下として!」

 

「おぉ、その意気だグデーリアン!こうなったら何処までも行け!」

 

「お任せ下さいエルヴィン殿!」

 

 

 

私がボコのヌイグルミを投げ入れたら、其れも見事に回す優花里さんは、大道芸人として生きていく事も出来るかもしれないね――尤も、あの超高速の唐傘回しは、装填士としてのトレーニングで鍛え上げられた腕力があっての事だと思うけど。

其れだけのパワーとスピードがある筋肉を持ってるのに優花里さんは所謂『筋肉モリモリ』じゃないのが不思議だよ……其れは、猫田さん達にも言える事だけどね。

だけど、腕や脚は太くなってないけど、戦車女子は全員が軒並み腹筋が割れてるんだよね……なんで?

 

 

 

――ゴメンみぽりん……俺、スタイルが良いのに腹筋が割れてる女子にこの上ない魅力を感じるんだ。

 

 

 

作者の趣味だったんだ……まぁ、其れが無くともエリカさんは腹筋バッキバキのシックスパック女子だと思う。其れからナオミさんも。エリカさんとナオミさんは腹筋割れてても似合うと思うしね。

取り敢えず、戦車女子は腹筋が割れてる細マッチョと言う事で良いかな?良いよね、異論は無視するから。

 

 

 

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・・・

 

 

 

で、入学式。

特に何か問題が起こる起こる事はなく、私の祝辞の番だね……アンドリュー、ロンメル一緒に来てくれるかな?祝辞を述べる生徒が、虎と狐を引き連れて来たって言うのはインパクト大だし、ロンメルは九尾だからね。

其れからエリカさんと小梅さんとエミちゃんも。

 

 

 

「アンドリュー達は分かるけど、私達は何で?」

 

「隻腕の軍神が虎と九尾の狐の他に、超絶美少女を引き連れて壇上に上がるって言うのは其れだけで物凄いインパクトがあると思わないかな?」

 

「超絶美少女って、私や小梅、そして中須賀位の美少女は其れなりに居るんじゃない?」

 

 

 

確かにそうかも知れないけど、戦車女子の中でもエリカさんと小梅さんとエミちゃんはトップクラスなんだよ……特にエリカさんは、『まほお姉ちゃんじゃ味わえないゾクゾク感を感じる』、『みぽりんの片腕はマジパネェ』、『ワニって言ってくれ』って言われてるからね。

 

 

 

「其れって、喜んでいいの?」

 

「喜んでいいんじゃないかな?良く分からないけどね。」

 

其れよりも、新入生への祝辞だけど、予想通り私達が壇上に上がったら新入生達からのざわめきが聞こえて来たね?

明光大付属出身の子は、私やエリカさんの事は知ってても、それ以外の中学出身の子は、私やエリカさんの事は知っててもアンドリューとロンメルの事は知らないだろうから、驚くよねぇ――恐らく世界中の何処を探しても、虎と九尾のキツネを飼ってるJKは私だけだと思うし。

 

取り敢えず掴みはOKだね――其れじゃあ……皆さん、先ずは大洗女子学園への入学、おめでとうございます。

大洗女子学園戦車隊隊長の西住みほです。一緒に居るのは同じく戦車隊の逸見エリカ、赤星小梅、中須賀エミ、其れから私のお供にして大洗女子学園警備員のアンドリューとロンメルです。

本日は皆さんの入学を祝福するかのような快晴となり、桜の花も正に花盛り――入学式まで桜の花が持つように、学園艦を気温が低めの海域を航行させてくれた船舶科の皆さんには頭が下がる思いですね。

この大洗女子学園で、皆さんが夫々目標を持って生活し、その目標を達成出来るように心から応援しています――さて、本来こう言った挨拶と言うのは長々とするモノではないのですが、この学園艦で過ごすにあたり、新入生に一つだけ注意をしておく事があります。

この学園艦の地下層は、地下二階よりも下には行かないようにして下さい……どうしても地下三階以上に行きたい場合は、必ず生徒会の許可を貰った上で、最低一人は戦車隊の人間と一緒に行くようにして下さい。

大洗の地下三階以下は『大洗のヨハネスブルグ』と呼ばれる程の無法地帯のアンダーグラウンド……ウッカリ迷い込んで、アウトロー達の餌食になる生徒が後を絶たないとの事ですので、お忘れなく!

私もウッカリ迷い込んだ事で、左腕を切り落とされましたので!

 

 

 

「「「「「「「「「え!?」」」」」」」」」」

 

「今のはジョークです!」

 

「ジョークならジョークらしいテンションで言いなさいよ!何をマジ顔で言ってんのよ!」

 

「てか、新入生に恐怖を植え付けるんじゃないわよ!それ以前に大洗の地下はドンだけ治安悪いのよ!ベルウォールの荒れっぷりも吃驚レベル?」

 

「どん底のメンバーが最後の良心と言った感じですけれど、彼女達が卒業したら、本気で無法地帯になりますよあそこ。」

 

「其れについては大丈夫だよ小梅さん。お銀さん達、卒業してもあそこに残るみたいだから。

 どん底は結構繁盛してるし、ノンアルドリンクや燻製の類をネットで販売してみたら結構注文があって儲かってるんだって。だから、店はあのまま続けてくみたいだよ。」

 

「あぁ、其れなら安心ですね。」

 

 

 

そう言う事なので注意して下さい。良いですね?

 

 

 

「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」

 

「うん、とってもいい返事だね。以上を持ちまして、お祝いの言葉に代えさせて頂きます。」

 

「うわ、殆ど力技で〆たわ……確かにこんな挨拶は他にはないでしょうね。」

 

「でもだからこそインパクトは有った筈だよ。」

 

此れだけのインパクトを残せば、少なくとも戦車隊の隊長の事は覚えて貰えただろうし、同時に戦車隊の事も確りと頭に刻まれただろうからね……こレがドレだけの着火剤になるか楽しみだよ。

起爆剤になるのは、明日以降の戦車道への勧誘だけどね。

 

 

 

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・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

入学式終了後、私は華さんに生徒会室に呼ばれて来たんだけど……

 

「戦車道を必修選択科目から外して、部活動にするの?」

 

其処で告げられたのは、戦車道を必修選択科目から外して、部活動にすると言うモノ――現在の戦車道履修者は自動的に戦車道部の部員になるって言う事だけど、どうして部活動に?

 

 

 

「必修選択科目ですと、履修者の上限が決まって居ると言うのが一つであるのと、授業よりも部活動の方が肩肘張らずに出来るのではないかと思ったからですわみほさん。

 それと、部活動の方が新入部員の勧誘も行い易いのではないかと思いましたので。」

 

「其れは確かに一理あるかな。」

 

必修選択科目じゃなくて部活なら、より思い切り勧誘が出来るからね――選択必修科目だと宣伝しか出来ないけど、部活なら入部を促す事をしても一切問題はないもん。

でも、部活動にするって言う事は、勧誘は手加減しないでやって良いって事だよね華さん?

 

 

 

「はい、その通りですわ。

 私も黒のカリスマの衣装を着て一緒に戦車道部を大々的に宣伝しますので、戦車道部の新入部員を沢山獲得しましょうみほさん。選手層が厚いに越した事はありませんから。」

 

「だね。二軍とまでは行かなくとも、保有戦車を動かす為に必要な最低人数+十人は確保しておきたい所だからね。」

 

明日から行われる部活動の新入部員獲得の為のオリエンテーリング及び宣伝活動は、気合を入れて行かないとだね……大洗の戦車道の為にも!

 

 

 

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・・・・・・・・・・・・

 

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・・・

 

 

 

そして翌日。

大洗女子学園の学園艦の路上は、あんこうチームのパンター、ウサギチームのパンター、ライガーチームのティーガーⅡ、オオワシチームのチャーフィーが驀進してた。

あんこうチームのパンターにはアンドリューとロンメルが後部に座ってる――そして、この戦車の一団からは黒のカリスマの入場テーマ曲である『クラッシュ』が流れてるから、思わず目を向けたくなるのは仕方ないよね。

そして目を向けたが最後、目を離せなくなる筈――黒のカリスマな衣装の私と梓ちゃんがキューポラで『ダブル軍神立ち』を披露してる上に、小梅さんが『祝!大洗女子学園全国制覇』の横断幕を振り、エリカさんが『祝!大洗女子学園無限軌道杯制覇』の横断幕を振ってる訳だからね。

 

更に、その後からⅢ突が付いて来て、Ⅲ突の上からエミちゃんが戦車道部のビラを撒きまくってるのも結構印象が大きいかな?大量に撒かれたビラを拾って見てみる新入生は少なくないだろうからね。

そろそろここ等で梓ちゃんとの啖呵を……と思ったけど、その前に景気付けとして、空に向かってアンドリューは破壊光線!ロンメルは大文字!!

 

 

 

『キュオォォォォォォォォン!』

 

『ガァァァァァァァァ!!』

 

 

 

――バッガァァァァン!!

 

 

 

おぉ、先ずはロンメルが大文字で空に炎で『大』の文字を描いて、アンドリューが其れを破壊光線で粉々に吹き飛ばすとは、中々良い演出だったと思うよ?……アンドリューとロンメルの賢さを改めて実感したね。

だけど、此れで前振りは充分!行くよ梓ちゃん!

 

 

 

「はい!思い切りいきましょう西住隊長!」

 

 

 

――ダン!!

 

 

 

ダブル軍神立ちから一転して大腿部から下をキューポラに落とした上で、私は右足を、梓ちゃんは左足をキューポラの縁に叩きつけ、私は右膝に右肘を付けた前傾姿勢を取り、梓ちゃんは腕組みを。

黒のカリスマ衣装のミニスカートでそんな格好をしたらスカートの中が見えるんじゃないかって?心配ご無用、ギリギリ見えないから。暗黒空間になってるからね。

其れじゃあ行きますか!

 

「乙女と戦車の二つの道が、捻じって交わる戦車道!」

 

「砲弾打って打ち続け、撃破しちまえば私の勝ち……私を!」

 

「私達を!!」

 

「「一体誰だと思ってやがる!!」」

 

 

 

――バッガーン!!

 

 

 

うん、良いタイミングの空砲だね華さん♪この啖呵に華を添えてくれたよ。――なら、もう一押しだね。

 

「大洗女子学園戦車隊隊長、西住みほ!」

 

「大洗女子学園戦車隊副隊長、澤梓!」

 

「「通りすがりの戦車乗りだ、覚えておけ!!」」

 

 

うん、バッチリ決まったね!

華さんのアドリブの空砲のおかげでインパクトは更に大きくなったし、仮面ライダーディケイドオマージュのセリフも新入生の印象には残っただろうからね……ふふふ、どんな子が戦車道に来てくれるのか楽しみだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梓

 

 

あのパフォーマンスが功を奏したのか、戦車道部の新入部員は五十人って言う大所帯になってた……この新入部員の数は、数ある部活の中でもブッチギリトップだった。

殆どは明光大付属の出身者だったけど、それ以外のメンバーも半分位は居る感じかな?――其れで如何するんですか西住隊長?一応、入部テストをしますか?

 

 

 

「うぅん、このまま全員入部させようと思う。

 入部テストで篩に掛けるよりも、全員入部させた上で、日々の訓練で篩に掛けた方が本当の意味での良い選手が残ると思うんだ……特に、ミーハーな新入部員は其処でリタイアすると思うからね。」

 

「ミーハーな新入部員、ですか……」

 

「うん。分かり易く言うと『戦車道をやってれば男子にモテる』とか思ってる人かな。」

 

「みぽりん、サクッと私の事ディスってる?」

 

「いやだなぁ、そんな事ないよ沙織さん。

 確かに沙織さんが戦車道を始めたのは、異性にもてたいって言う事だったかもしれないけど、沙織さんの通信士としての能力は最早あんこうチームには無くてはならないモノになってるから、ディスるだなんてトンデモナイ。

 其れに、沙織さんは女子力めっちゃ高いから、普通にモテると思うよ?……其れなのに彼氏が出来ないのなら、其れはもう男の人の見る目が無いとしか言えないよ。

 ぶっちゃけ、私が男だったら沙織さんに惚れてるかもだよ?」

 

「其れは認められないな西住さん……沙織は私のモノだ。」

 

「うん、分かってるよ麻子さん。沙織さんのパートナーは麻子さん以外に考えられないって。」

 

「そうか。なら安心だな。」

 

「安心って何が!?其れと麻子が私のパートナーって如何言う事!?」

 

 

 

アハハ……見事にカオスディメンションですね此れ……沙織先輩×麻子先輩はある意味で鉄板だと思うので余計な口出しはしないけどね。――だけど、此処から大洗の新たな戦車道が始まるんだ。

明光大付属出身の子達は兎も角として、それ以外の出身で戦車道部への入部を決めた子達は覚悟しておいてね?――今日は歓迎会で終わっちゃったけど、普段の訓練の厳しさはハンパなモノじゃないから。

あの訓練を生き抜いて、最終的にドレだけの部員が残るのか、ある意味で見物かな――まぁ、明光大付属の出身は略全員が残ると思うけどね。

その、明光大付属出身者じゃない子も、何人かは『戦車乗り特有のオーラ』を纏ってる子が居たから、鍛えれば間違いなくモノになる筈……中々、癖が強い子も居るみたいだから退屈はしそうにないかな。

取り敢えず、大洗女子学年戦車隊は間違いなくパワーアップしたと、そう言う事が出来ると思う。

 

 

 

「澤隊長!」

 

「歩美……来てたんだ。」

 

「はい!!澤隊長が居る学校を選びました!」

 

「其れは、先輩冥利に尽くけど、今の私は隊長じゃなくて副隊長で、隊長は西住隊長だから、其れは忘れないでね?」

 

「はい!注意します!!」

 

 

 

相変わらず元気一杯だね歩美は……って、この呼び方だと、あゆみと被るから、呼び方も考えないとなんだけど、少なくとも大洗にとっては貴重な戦力が確保出来たと言っても良いかな。

大洗女子学園の新生戦車隊、此処に起動――今年も、目標は全国制覇一択だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer202『歓迎会と地獄のトレーニングです』

西住流フィジカルトレーニングお試し版は?Byみほ        素人は普通に死ぬByエリカ       正に地獄のトレーニング!By小梅     この内容普通にヤバいわねByエミ


Side:みほ

 

新入部員は、まさかの五十人と言う大所帯……此れなら、補欠要因も充分に確保出来たって思うのが普通なんだろうけど、そうはならないのが戦車道なんだよねぇ。

私は全員入部させるけど、だからと言って五十人のうち何人が残るかは分からないからね――明光大付属中学校出身の子達は全員が残ると思うけど、それ以外の中学からやって来た子達は、果たしてどれだけ残る事が出来るからね。

 

 

 

「優秀な人材を残すための振るい落としは必要だと思うけど、みぽりんはどんな振るいに掛ける心算なの?」

 

「あは、其れは簡単だよ沙織さん――新入部員全員に『西住流フィジカルトレーニング・お試し版』を体験して貰おうと思ってるんだよ。」

 

「え゛、あれをやらせるのぉ!?

 ちょ、考え直そうよみぽりん!戦車道の経験がある子でもあんなのやったらタダじゃ済まないって!って言うか、私達が去年生き残れたのだって奇跡だと思ってるんだけど!!」

 

「大丈夫だよ沙織さん、新入部員の大半は中学時代の私の後輩だから西住流フィジカルトレーニングのフルバージョンが出来るようになってるからお試し版でへこたれる事はないと思うから。

 そうじゃない子も、戦車道をやってた子なら多分お試し版なら付いて来られるだろうし、戦車道をやった事が無い子でも多分大丈夫じゃないかな?」

 

「その心は?」

 

「大洗女子学園に入学してくる子が普通である筈が無い。」

 

「何それ!?

 って言いたい所だけど否定出来ない上に物凄く説得力があるよ~~!やだも~~~!!」

 

 

 

もうホントに大洗女子学園は有り得ないかなぁ?

私とエリカさんと小梅さんと梓ちゃん、クロエちゃん以外は去年から戦車道を始めたのに、ドラゴンボールのフリーザ編からの戦闘力のインフレも吃驚な急成長を遂げて、今や全員が高校戦車道屈指の選手になっちゃってるからねぇ。

特にあんこうチームのメンバーはヤバい。其の中でも麻子さんと華さんは可成りヤバい……麻子さんの操縦技術は私の無茶振りに全部応えてくれるし、華さんの砲手としての腕前はサンダースのナオミさんと並んで高校戦車道の2トップとまで言われてるからね。(去年まではノンナさんを加えた3トップだったけど、ノンナさん卒業しちゃったから。)

だから、そんな大洗女子学園に入学してくる子なら、きっとあの『地獄みたいなトレーニング』にだって耐えられる筈だよ♪

 

 

 

「みほ、貴女ってそのトレーニングを何時からやってた訳?」

 

「エミちゃんと出会った頃には既にやってたけど?」

 

「地獄みたいなトレーニングを小学生の時から!?……そう言えば、スポーツテストでもあり得ない記録連発してたわね――こんな事言ったらアレかも知れないけど、貴女が本気を出したら短距離で世界記録出せるんじゃない?」

 

「そうだね、パラ陸上の世界記録は行けるかも。」

 

「そっちだけじゃなくて、普通の陸上の方でも。ボルトにも勝てるんじゃないの?」

 

「ウサイン・ボルトのニックネームは、サンダー・ボルト……ノーコストの相手フィールド壊滅魔法は物騒だよね。」

 

「そっちのサンダー・ボルトじゃないと思うけどね。」

 

まぁ、振るい落としはやるけど、先ずは新入部員の歓迎会だね。初日で行き成り地獄を見せるのも如何かと思うからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer202

『歓迎会と地獄のトレーニングです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道部の初日、私の前には新たに入部した五十人の新入生の姿が――その多くは明光大付属中学出身の私の後輩だけど、明光大付属中学以外の子達も少なくない。

中学の全国大会に出場してた子も居るみたい――恐らくだけど、黒森峰やサンダースからの推薦を蹴って大洗に来た子も居るかもだね。

あのド派手な部活勧誘で興味を持った未経験者も居るみたいだけど、その子達だって鍛えればきっとモノになるダイヤの原石だと思うから、研磨した結果がどうなるか楽しみだよ。

先ずは部長兼隊長としての挨拶で、パンツァージャケット姿なんだけど、何時ものパンツァージャケットじゃないんだよね此れが。

グリーンのインナーはワインレッドで、濃紺の上着は黒になって、襟も黒くなって赤いラインはシルバーに。

スカートは白からグレーになって、上着の背中のあんこうマークにはラメ加工が施された上に、メタリックシルバーで『T-OARAI』の文字が入った新バージョン。

て言っても、此れが標準になる訳じゃなくて、全国大会とか特別な時のみに着るモノみたいだね……色とデザインに黒のカリスマの影響がバッリバリなのは否めないけどね。『T-OARAI』は如何考えても『T-2000』のオマージュだから。

 

「皆さん、ようこそ大洗女子学園の戦車隊へ!大洗女子学園戦車隊隊長の西住みほです。

 まさか、此れだけの人数が集まってくれるとは思ってなかったので素直に驚いています……此れまで戦車道をやってた人、戦車道は初めてだって言う人、何方も居ると思いますが、先ず最初に言っておきたい事は、私は余程の事情が無い限り、勝つ為の戦車道はしません。」

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

 

 

イキナリの爆弾投下に明光大出身者以外は驚いてるけど、其れは当然かな?――だって彼女達は此れまで『勝つ為の戦車道』をやって来た筈だからね。

だから、戦車道に『勝利』以外の価値を見出せなくなってる……それじゃあ、戦車道の本当の楽しさは分からないのにね。

戦車道未経験者の子も、『勝つ以外に何が有るんだろう』って感じだけど、其れも仕方ないのかな……非常に嘆かわしい事だけど、戦車道だけじゃなく、今のスポーツ界には『勝ってなんぼ』って風潮があるからね。

だけど、只勝つ事に意味は無いんだよ。

 

「全国制覇、無限軌道杯制覇、話は前後するけど他校の協力があったとは言え大学選抜に勝った私がこんな事を言うのは意外と思うだろうけど、私は生まれてこの方、只の一度も勝つ為の戦車道をした事はありません。

 だって、只勝利のみを求めてしまったら、其れは戦争と変わりないからね……私の戦車道、其れは仲間達と共に心底楽しむ事が出来るモノです。

 そして、本気で楽しんで戦車道に臨めば、勝利と言う結果は自ずと付いて来るモノなんです――勝利至上主義なんてクソ喰らえですよ。」

 

「で、でも西住隊長、試合に出るにはやっぱり勝ちたいですよ?」

 

 

 

うん、其の気持ちは分かるし、勝ちたいと思うのは大事だと思うよ?

だけど、勝利のみを追い求めたらどうなるか……一昨年の高校戦車道全国大会の決勝戦を見てた子なら知ってるよね?

 

 

 

「其れって、西住隊長と逸見先輩と赤星先輩が、濁流に滑落した戦車の乗員を助けたって言うアレですよね?――あの決勝戦の後に西住隊長達は大洗に転校してるんですよね?

 ネットとかの噂では、西住流との軋轢があったのかとか言われてますけど……」

 

「其れは大体合ってる。

 当時は戦車道の暗黒面に堕ちてたお祖母ちゃんと真っ向から対立しちゃったんだよ――黒森峰は十連覇を達成したけど、当時のお祖母ちゃんは、私達がプラウダの生徒も助けたのが気に入らなかったみたいだからね。

 『敵に情けは不要』って事だったけど、戦場なら未だしも、スポーツの世界では其れは間違いだと思うんだよ……確かに試合中は敵かも知れないけど、試合が終われば志を同じにする友なんだから、其れを見殺しにするのは絶対に間違ってる。

 そんな私の考えと当時のお祖母ちゃんの考えが真っ向から衝突した結果、私とエリカさんと小梅さんは黒森峰を去る事を選択したんだよ。

 勝利のみを追い求めた先にあるのは、人としての大切なものを失う道だけだから、皆にはその道を歩ませたくないんだよ――だからこそ、私の戦車道は勝利を第一にしない。

 勝つ事よりも楽しむ事を重視します。

 『絶対に勝て!』って言われるよりも、『試合を楽しめ』って言われる方が、言われた側からしても楽でしょ?」

 

「「「「「「「「「「確かに。」」」」」」」」」」

 

 

 

だから、先ずは楽しむ事を第一にね。楽しんだ上で、勝つ事が出来たら、其れはもう最高だと思うから――楽しい戦車道を、やって行こうね!

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「軍神招来、キタコレ。」

 

「今回の英雄は……お市の方ですね。」

 

「戦国一の美女を宿すとは、流石ねみほ。」

 

 

 

あはは……まさか、お市の方を宿すとは思ってなかったよ――まぁ、其れは兎も角今日は歓迎会を楽しんでほしいかな?歓迎会の御持て成しとしてアンツィオから本格イタリアンをデリバリーしたからね。

ペパロニさんから『どうやったら資金集めが出来るか』って相談されたから、『アンツィオの料理はミシュラン三ツ星レベルだから、デリバリーとかインスタント品を作って売ったらどうかな』って言ったんだけど、デリバリーを即時実装するとは流石だよペパロニさん――中学時代に、私の隻腕を馬鹿にした輩にドロップキックをブチかまして、更に戦車道部の新入部員を集めて来ただけの事はあるね。

其の中には、今や高校戦車道界隈でトップクラスの選手と言われてるナオミさんとローズヒップさんが居るんだから、ペパロニさんの人を見る目って言うのは確かなモノがあるんだろうね。

其れは其れとして、この熱々ほかほかの鉄板ナポリタンやアンチョビが乗ったマルゲリータピザを前に食欲を抑える事が出来るだろうか?……ぶっちゃけ無理です!

食欲中枢へのダイレクトアタックに抗う術はないからね……だから、思い切り楽しんじゃってくれるかな?

 

 

 

「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」

 

「良い返事は大好きだよ♪」

 

其処からは、大盛り上がりの歓迎会。

歓迎会の空気に乗せられたのか、明光大付属中出身じゃない子も私や梓ちゃんに結構話し掛けて来てくれたし、エリカさんとエミちゃんのドイツ系混血コンビは若干日本人離れした容姿から早くも人気が出てるみたい……尤も、二人とも私のだからあげないけどね?

小梅さんと優花里さんの天然くせ毛コンビは、なんか親しみ易いみたいでそっちにも割と新入生が……優花里さんが魂の戦車講義をしてるのは良いとして、其れに確り喰い付いて行けてる子が居る事に驚きだよ。

 

 

 

「そして、この大洗女子学園は、VK3002DBを有しているのでありますよ!」

 

「あの激レアを通り越したアルティメット爆レア戦車を!?試作車輛が一輌しか存在しない戦車があるとは、大洗女子学園マジパネェっす!!」

 

 

 

ま、楽しそうだから良いって事にしておこうか。

別の場所では、沙織さんが新入生に『恋愛のイロハ』を言ってるけど、其処に麻子さんと華さんの容赦が一切ない突っ込みが炸裂してるのは、ある意味で大洗女子学園の名物かな?

と言うか、男性と付き合った事が無いのに次々と男性との交際に必要な彼是が出てくる沙織さんってある意味で凄いと思う……一体ドレだけ其の手の雑誌を読み漁ったのかだよ。

 

「梓ちゃん、鉄板ナポリタンをパニーニ挟んでくれるかな?」

 

「パニーニも良いかも知れませんけど、デザート用に取り寄せたクレープ生地で包んだらどうでしょう?結構イケるんじゃないかと思うんですけれど。」

 

「其れは確かにイケるかもしれないね?ちょっと変わったタコスみたいな感じで。……梓ちゃん、やっちゃって。」

 

「了解です西住隊長!」

 

 

 

ってな訳で、鉄板ナポリタンのクレープ包みが出来上がった訳なんだけど、此れが予想以上に美味しかった!

ほんのり甘いクレープ生地に、鉄板ナポリタンのしょっぱさがベストマッチだったからね!……此れは、是非ともペパロニさんに伝えて、新たなメニューとして加えて貰わないとだよ!

 

それで、私の所に集まった皆は私に聞きたい事があるんじゃないのかな?まぁ、大体予想は付くけど。

 

 

 

「はい……あの、西住隊長は如何して左腕を失くしちゃったんですか?もしかして戦車道で……」

 

「いや、違うよ。

 此れは単純に交通事故でね……十二歳の時に、猛スピードで突っ込んで来た車と接触して、その時にね。

 まぁ、不幸中の幸いって言うか、車は左腕に直撃したから腕を失うだけで済んだんだよ……もしも胴体に直撃してたら、私は今此処に居なかった筈だからね。」

 

警察の現場検証では、あの車の速度は80kmを超えてたみたいだからね……本当に左腕一本で済んだのは奇跡としか言いようがないかもだよ。

 

 

 

「そうだったんですか……でも、どうしてそんな身体になっても戦車道を続けたんですか?片腕じゃ、戦車道で出来る事は限られてますよね?」

 

「其れは戦車道が好きだったから。

 大好きな戦車道を続ける為に、車長専任免許も取ったからね……其れに何より、左腕を失った程度で大好きな戦車道を辞めるなんて絶対に嫌だったから。」

 

寧ろ、隻腕だからって負けて堪るかって思ってたからね……私が戦車道を続けてる理由なんて、割と単純なモノなんだよ。

だけど、単純な理由って言うのは意外と強いモノだから、皆も自分が如何して戦車道をやろうと思ったのか、その原初の思いだけは絶対に忘れないでね?其れを忘れちゃったら、何の意味もないからさ。

 

 

 

「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

 

 

 

うん、良い返事だね。

その後も歓迎会は続いて、誰かが持ち込んだカラオケマシンでカラオケ大会が始まって、エミちゃんが歌った『エアーマンが倒せない』の替え歌の『西住みほが倒せない』が意外な程に盛り上がった。

『戦車プレスが何回やっても避けれない。』『策を色々講じてみたけど西住相手じゃ意味がない』とか、可成りの言われようだったけど大体事実だから否定出来ないのが悲しいね。

歓迎会の最後は、私の音頭の三本締めでお開きだった。

 

 

 

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・・・

 

 

 

で、翌日の放課後は……予想通りの死屍累々状態。

新入部員全員に『西住流フィジカルトレーニング・お試し版』をやらせてみたら、明光大付属中出身者以外は、モノの見事に完全KOされちゃったね?其れでも、一人の脱落者も出なかったのは、流石の大洗女子学園って感じだけど――本気で変人(褒め言葉)が集まってくるみたいだね大洗女子学園には。

でも、だからこそ確信した……この子達は鍛えれば可成りなレベルになるってね。戦車道未経験者ですら、お試し版とは言えやり切った訳だからね。

フッフッフ、此れは鍛え甲斐があるから、徹底的に鍛えて研磨するよ?ダイヤにルビーにサファイアに、宝石の原石がどっさりあるんだから、磨かないって言う選択肢はないからね。

 

 

 

「其れに関しては賛成ね……だけど、どうやって磨き上げる心算なのみほ?」

 

「取り敢えず一週間は経験者には戦車を使っての訓練をして貰って、未経験者には基礎を徹底的に叩き込む心算だよ……まぁ、習うより慣れろって部分があるのは否めない事になると思うけどね。」

 

「いえ、それで良いと思うわ……戦車道は、習うよりも慣れろな部分があるのは否めないもの――だけど何で一週間なの?一週間後に何をする心算なのか、是非とも教えて欲しいわね?」

 

 

 

一週間後に何をするかって?……そんなの決まってるじゃないですかエリカさん、練習試合だよ。

それも、隊長車と副隊長車以外の戦車に乗るのは、全員新入部員で、明光大付属中出身じゃない子達にしてね。

 

 

 

「はぁ!?正気なの貴女!?

 明光大付属中出身者で固めるなら未だしも、他校の出身者や今年から始めた素人で固めるとか、幾ら何でも無謀が過ぎるんじゃないの?

 貴女が負けるなんて言うのは想像も出来ないけど、兆に一つ貴女が負けたら、試合に出た連中は自信を喪失するんじゃないの?……自分達が足を引っ張ってしまったって。」

 

「かもね……でも逆に言うなら勝てば自信に繋がるって思わない?」

 

「其れは確かにそうかも知れないけど、その自信を持たせるにはソコソコ力のある所に勝たないとでしょ?そんな相手に当てがあるの?」

 

 

 

其れがあるんだよ。

新学期が始まってそれほど時間を置かずに戦車道の全国大会は開催されるから、大抵の学校はこの時期の練習試合は敬遠する傾向にあるんだけど、どんな時期でも練習試合を必ず受けてくれる学校が一つだけあるんだよね此れが。

 

 

 

「ちょっと待ってみほ、其れってまさか……!」

 

「そのまさかだよエリカさん。」

 

新生大洗女子学園戦車隊の最初の相手は去年も練習試合を行った聖グロリアーナ女学院――去年戦った学校で、唯一私が勝つ事が出来なかった相手だよ。

プラウダと組んだエキシビジョンは勝ったけど、聖グロとの練習試合は引き分けだったから、今度こそ勝ちたいって思うのは仕方ないよ……其れこそ、思い切り楽しんだ上で勝ちたい相手だからね。

 

 

 

「貴女に目を付けられた聖グロの隊長に同情するわ。」

 

「同情するなら金をくれ!」

 

「ネタが古いわ!」

 

 

 

凡そ三十年前のネタだからね。

まぁ、其れは兎も角として、ダージリンさんが直々に指名した新隊長のオレンジペコさん、其の力をタップリと拝ませて貰うとしようかな?……あのダージリンさんが隊長に選ぶって言うのは、相当にオレンジペコさんを買ってる証拠だだろうからね。

楽しませて貰うよ、オレンジペコさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:オレンジペコ

 

 

大洗女子学園から練習試合の申し込みがあったので、其れは受託して練習試合は決まったのですが……私なんかがみほ様の相手を務める事が出来るのか、些か不安ですね。

みほ様は、ダージリン様が『生涯唯一にして最大のライバル』と言ったほどの相手……正直、私で勝てるとは思えません。

 

 

 

「お~っほっほ!みほさんに勝とうだなんて、思い上がりも甚だしいですわよオレンジペコさん!みほさんに勝つ事が出来る戦車乗りなんて、最大限ぶっちゃけると存在してないですわ!

 まほさんがワンチャンっていうとこでしょうけど、最低でもまほさんレベルの実力が無ければみほさんに勝つのは不可能ですわよマジで!!」

 

 

 

ローズヒップ様、相変わらずアホ全開ですけれど、言ってる事は何となく分かります……みほさんに勝ちたいのならば、常識の殻を破れと言う事でしょうね。

ならば、其れを成すだけです――私と言う殻を破るのは、みほさん率いる大洗女子学園との練習試合の時になりそうですね……ですが、申し込まれた以上は受けるのが聖グロの流儀。

私の聖グロリアーナの力、見て貰いますよ……西住みほさん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer203『いざ、聖グロとの練習試合です!』

相手にとって不足はない……炎が、お前を呼んでるぜ!Byみほ        なら燃え尽きろ、潔くなByエリカ       何故に京vs庵?By小梅     作者の趣味よ。突っ込んだら負けよByエミ


Side:みほ

 

 

新学期が始まって五日間が経った訳だけど、この期間に退部者が居なかった言うのは喜ばしい事だよ――あのハードなトレーニングを体験したら大抵の場合、其処で心がポッキリ逝って戦車道そのものを辞めちゃう子も居るからね。

だからこそ、全員が残ってくれた事に驚くと同時に、今年の一年生は生半可な気持ちで戦車道を選んだのではないんじゃないかって確信した――だったら、徹底的に鍛える以外の選択肢は存在しないよ!

 

 

 

「鉄は熱い内に打て、ですわね?」

 

「その通りだよ華さん。」

 

鉄は熱い内に打って鍛えて、より強い鋼になる事が出来るんだから……そして、熱い内に打つの最終段階が、明後日の聖グロとの練習試合だよ!

隊長車と副隊長車以外は、全員明光大付属出身者以外の子達――にする予定だったんだけど、エミちゃんとの連携も実戦で試したい所だから、エミちゃんのチームも追加だね。

尤も、エミちゃんのチームは車長のエミちゃん以外は一年生で、しかも明光大付属出身じゃない子達で構成されてる上に、戦車道は全くやった事ない子達まで居るから、条件は他のチームとあんまり変わらないんだけど。

 

さてと、其れじゃあ麻子さん回避行動はお終いにしようか?ジャスト十分経ったからね。

 

 

 

「おうよ。此処からは攻撃にだな。

 で、何かリクエストは有るか西住さん?私に出来る事なら遠慮せずに言ってくれ。」

 

「そうだなぁ……出来るだけ皆が吃驚する様な走りを見せてくれるかな?」

 

「みぽりん、其れザックリしすぎ。」

 

「分かった、任せろ。」

 

「って、今ので分かるの麻子!?」

 

「逆に聞くが、何で分からないんだ沙織?」

 

「いや、今ので分かれって言うのがそもそも無理だと思うから!あんなザックリとした要求で分かれとか、長年連れ添った夫婦だって無理だよぉ!?

 って、そうなるとみぽりんと麻子の関係は長年連れ添った夫婦よりも深い関係だって言う事なの!?」

 

 

 

其れは、違うと思うよ沙織さん。

私と麻子さんは、戦車道に於ける車長と操縦士の関係の究極形に近い物なんだよ――車長からの細かい指示がなくとも、最低限の指示で車長の意を理解して戦車を操縦するって言うね。

今のところ、私とそれが出来る操縦士はローズヒップさんと麻子さんだけ……しかもローズヒップさんとは中学時代三年間一緒だったから出来た事を、麻子さんは半年足らずでやってくれた訳だから驚きだよ。

何よりも麻子さんは、常に冷静でいてくれるから私としても指示を出しやすいしね――そんな麻子さんが操るパンターから逃げきる事が出来るかな?

大洗最強のあんこうチームの実力、その身で味わって貰うよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer203

『いざ、聖グロとの練習試合です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤバい、十分経った!」

 

「げ、其れって隊長が攻撃を始めるって事だよね!?」

 

 

 

さて、今何をやってるかと言うと、校内紅白戦――なんだけど、普通の紅白戦じゃなく、白組は今年入った一年生全員vs紅組はあんこうチームの超変則マッチだよ。

新入部員は五十人だから、相手チームの数は十輌以上……ぶっちゃけ、あんこうチーム以外の戦車が略敵になってる状態――普通なら、その数の差であっと言う間にボコられてる所かも知れないね。ボコは好きだけどボコられるのは好きじゃないよ。

しかも、試合開始から十分間はあんこうチームは攻撃しないって言う縛りまで付けたからね……一年生の方からしたら、舐められてると思うかも知れないけど、明光大付属出身の子達は、そのハンデに納得してたみたいだよ。

 

此の十分間はあんこうチームを一方的に攻撃出来る代わりに、無暗に攻撃してるだけじゃ砲弾の残数を無駄に消費するだけになる……つまり、確実に倒す為の連携を取らなくてはならない。

麻子さんの操縦技術が有れば攻撃を避ける事は雑作もないから出来るハンデだけど、だからこそ生半可な攻撃は掠りもしない――そうなれば、自然と連携を取るようになるんだけど、上手く連携を取る為には冷静さも持ち合わせてないと無理。

ドレだけ攻撃しても其れが悉く躱されれば焦りも生まれるからね……明光大付属出身の子や、戦車道経験者の子は何とか冷静さを保つ事が出来てたみたいだけど、未経験者の子はやっぱり焦りが出たね。

そして、その焦りはあんこうチームが攻勢に出た事で更に大きくなる……故に、撃破するのは容易い。

 

 

 

「んな、スラローム走行!?戦車であんな事出来るの!?」

 

「自衛隊の10式なら出来るけど、パンターでやるとか……そう言えば、去年の決勝戦でドリフトしてたぁ!!」

 

 

 

うーん、履帯が切れる戦車ドリフトじゃなくて、スラローム走行をやってくれるとは、流石麻子さんは分かってるね……此の過激な動きで判断力が鈍った相手は的でしかない。

華さんの正確な砲撃と、優花里さんの高速装填によって次々と一年生達を撃破し、攻勢に出てから僅か五分で白組は残り五輌となり、其処から三分で白組は全滅――此れが、戦車道の一流クラスの実力だよ、分かったかな?

 

 

 

「「「「「「「「「「軍神マジパネェ……」」」」」」」」」」

 

「文字通り、隻腕の軍神の恐ろしさを身を持って味わったみたいね……だけど、今のはあくまでも校内紅白戦だから、みほの真骨頂を味わったとは言えないわ。

 貴女の本領は市街地戦ですもの……市街地で紅白戦やった方が良かったんじゃない?」

 

「其れは私も考えたんだけど、校内の紅白戦じゃ連携の保証もないから、私の十八番は使えないでしょ?――まぁ、大洗のスポンサーである島田家に頼めば何とかなるかもだけど、あんまり島田の小母様を頼るのも如何かと思うからね。」

 

「成程ね……だけど、此の紅白戦は良かったと思うわよ?

 貴女と言う、高校戦車道の頂点に居る存在と戦った経験があれば、この先何処が相手だろうと恐れる事はないでしょうからね――って言うか、この紅白戦の真の目的は其れだったんでしょ?」

 

「あはは、正解だよエリカさん。」

 

去年も強敵揃いだったけど、無限軌道杯から出場校が増えた事で、今年の全国大会は去年以上の群雄割拠状態になるだろうからね――無限軌道杯の決勝で私と互角にやり合った理子さん率いる黒森峰、アンチョビさんが直々に隊長に指名したペパロニさん率いるアンツィオ、元々切れる頭脳を

もったアリサさんが隊長になったサンダース、突撃馬鹿を卒業して突撃を切り札にした西さんの知波単、改革半ばながら着実に伝統の上に新しいモノを積んでいるエクレールさんのマジノ、カチューシャさんが築いたものを継承し、更に昇華させようといてるクラーラさん率いるプラウダに加えて、未だに実力が未知数の新参校もいるからね。

全国大会では、どんな強者に当たるとも限らないから、ここらで戦車道の一流がどれ程なのかを肌で知って貰う必要があったんだよ――自分が最強だって己惚れる気はないけど、其れでも私が高校戦車道で全国で五本指に入る隊長だって言う自信はあるからね。

そんな私との戦いを経験すれば、誰が相手でも恐れる事はないと思うから……そして、そうなれば明後日の練習試合でも緊張する事はなくなるからね。

 

 

 

「まさか、二十分も立たずに全滅だなんて……西住隊長は噂以上だった。」

 

「あはは……マジで凄いだろ西住隊長は――だけど、アレでマダマダ本気は出してないんだよ?西住隊長が本気になったら、十分が経過してから三分で私等全滅してっからね。」

 

「カップラーメン一個分の調理時間とか、本気でハンパねぇわ!!」

 

「其れが西住隊長だからな。」

 

 

 

あはは、なんか言われ放題だけど、そう思ってくれたのなら此の紅白戦をやった甲斐はあるかな?こんな事を言ったらアレだけど、私以上に打っ飛んだ事をやる戦車乗りは多分居ないだろうから、私との戦いを経験すれば大概の戦術には驚かなくなるからね。

其れじゃあ、今日は此処まで!お疲れ様でした!!

 

 

 

「「「「「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」」」」」

 

 

 

これで今日の練習は終わりなんだけど、梓ちゃんはこの後ちょと付き合ってくれるかな?明後日の練習試合の作戦とかを打合せしたいから。

 

 

 

「はい、分かりました。」

 

「そう言う訳だから、今日は先に晩御飯済ませちゃってねエリカさん、小梅さん、エミちゃん……私と梓ちゃんの作戦会議は、何時終わるか分からないから。」

 

「あゆみ達もそうしてくれるかな?下手したら帰りは午前様かもしれないからね。」

 

「はぁ……まぁ、貴女と澤が作戦会議をすればそうなるでしょうから、貴女の言う通りにさせて貰うけど、貫徹だけは止めなさいよ?作戦会議でオールナイトして明日は睡眠学習とか笑えないから。」

 

「梓……不倫は駄目だよ?」

 

「あゆみ、言う事は其れなの!?」

 

 

 

あゆみちゃん、不倫って其れはないから安心して良いよ?

確かに梓ちゃんの事は好きだけど、其れは私の事を慕ってくれる後輩として好きなだけで、エリカさん達に向ける好きとはベクトルが異なるモノだからね――其れに、梓ちゃんはあゆみちゃんを裏切るような事はしないって……まぁ、不倫や浮気じゃなくて、ツェスカちゃんが加わって梓ちゃんハーレムが出来る可能性は否定出来ないんだけど、梓ちゃんならきっと大丈夫だろうね。梓ちゃんは根が真面目だから、自分に恋愛方面で向けられる行為に不誠実な対応はしないだろうからね。

 

で、その後は梓ちゃんとカラオケボックスで作戦会議――二十四時間営業のカラオケボックスで、ドリンクバー付きのフリータイムなら何時間入り浸っても文句は言われないし、適当にメニューを頼めばお腹も満たされるからね。

だけど、この作戦会議はとても有意義なモノだったよ――梓ちゃんが中学時代にペコさんと戦ったことが有るって言うから戦術は分かったし、ダージリンさんの戦車道を継承してるのなら、ペコさんがどんな事をしてくるかは大体予想が出来たからね。

時に梓ちゃん、大皿で頼んだ唐揚げに、誰に何も言わずにレモンを掛けるのは如何思う?

 

 

 

「『からあげに勝手にレモンをかけるエルフの剣士を滅びの爆裂疾風弾で抹殺する青眼の白龍』ですね。」

 

「つまり絶対に許さないって事だね。」

 

そんな感じで、作戦会議だけじゃなくて確りとカラオケボックスも堪能しましたとさ。

梓ちゃんは歌も巧かった……KOKIAの『たった1つの想い』なんて全国ランキングトップの一位だったからね。

 

 

 

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そんな訳でやって来ました聖グロとの練習試合!

練習試合は去年同様に大洗の町中で行われるので、大洗港には大洗の学園艦と聖グロの学園艦が停泊してるんだけど、やっぱりこうして並んで停泊すると聖グロの学園艦の大きさには圧倒されるなぁ。

尤も、最大級の学園艦であるサンダースは此れよりも大きんだけどね。

パブリックビューイングが設置された、大洗シーサイドステーションの駐車場の特別応援席は既に大入りになってるのを見ると、練習試合だとしても大洗の人達にとっては大きなイベントなんだね。

 

 

 

「グァッデーム!アイム、チョーノ!練習試合だからって気を抜くんじゃねぇぞ!

 オイコラ、船長さん、アンタも分かってんだろうなぁ!」

 

「船乗りは仲間を決して裏切らないモノなんだよ黒のカリスマさん……隊長さん、絶対に負けるんじゃないよ!大洗のヨハネスブルグと言われるアウトロー全員がアンタの味方さ!」

 

「大洗のアウトローだぁ?気に入ったぜ!お前等も今日からnOsの一員だ!ガッデメファッキン!」

 

 

 

そして観客席では黒のカリスマとお銀さんが謎の意気投合をして、大洗最強の応援団が誕生したみたいだね……アウトローの化学反応は、少しばかり恐ろしいものがあったのかもだね。

まぁ、其れは其れとして今回は練習試合を受けてくれてありがとうペコさん。

 

 

 

「ダージリン様風に言うのならば、『聖グロリアーナは、如何なる戦いも受けて立つ』と言った所でしょうか?……如何なる戦いでも受けて立つとは、誰が相手であろうとも、戦う以外の道はないと言う事でもありますから。

 ですが、私は簡単に負ける心算はありませんわみほさん……勝てないまでも、貴女をキリキリ舞いさせる事位はする心算です。」

 

「へぇ……其れは楽しみだねペコさん。」

 

もしもペコさんがダージリンさんの戦い方を完全に継承してるならどんな事をしてくるかは大体予想は出来るけど、ダージリンさんが持ってた『戦局を含めた試合全体を把握する目』まで受け継いでるとしたら厄介かな?

実は、私とダージリンさんは本来なら相性は最悪……お姉ちゃん曰く、『戦車一輌で一騎討をした場合、私はダージリンには勝つがみほには負ける。

みほは私には勝つがダージリンには負ける。そしてダージリンはみほには勝つが私に負ける……相性と言う奴だな。』って事らしいから。

力押しのお姉ちゃんでは策を巡らす私には勝てず、広い視野を持つダージリンさんには私の策は読まれて通じず、カタログスペックよりも高い力を発揮出来ないダージリンさんでは地力で勝るお姉ちゃんには勝てない……確かに、去年の練習試合もエリカさんが居なかったら負けてたからね。

エリカさんがダージリンさんを徹底的に挑発して冷静さを失わせて、長所を潰してくれたから負けなかった。

でも、今日の練習試合にエリカさんは参加しないから、あの『めっちゃあからさまで分かり易いのに、ムカつく事この上ない挑発』は使えないし、ペコさんはダージリンさんよりも煽り耐性高そうだから、そもそも挑発で逆上する事もなさそうだしね。

 

尤も此れは不確定要素だけど、もしも私の予想が当たってたとしたら、物凄く楽しめるのは間違い無いだろうね……互いに悔いのない試合にしようねペコさん。

 

 

 

「はい、お互いに全力を尽くしましょう。」

 

「うん、全力を超えたフルパワーでね。」

 

 

「其れでは此れより、大洗女子学園対聖グロリアーナの練習試合を始める。お互いに、礼!」

 

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

 

 

何にしても試合開始……大洗の新人達がドレだけ聖グロに対して食い下がれるか楽しみだよ。

時にローズヒップさんは如何したんだろう?てっきり挨拶前に私に突撃して来るんじゃないかと思って、アイアンクローの準備をしてたのにね?

 

 

 

「みほ様にご迷惑をかける事が予測出来ましたので、首輪付けてクルセイダーに繋いでおきました。」

 

「犬かな?」

 

「ダージリン様でも躾けきれなかった犬は、私の手には余りますね……果たして卒業までリードを握っている事が出来るのか激しく不安です。」

 

 

 

其れに関しては頑張ってとしか言えないかなうん。

けど、首輪付けてクルセイダーに繋ぎ止めとくとか、ペコさんはおとなしそうな見た目とは裏腹に意外と過激だね……否、あのダージリンさんが目を掛けていたのなら此れ位の過激さはある意味で当然かもかな?

ダージリンさんが直々に隊長に指名したって言う貴女の戦車道、見せて貰うよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

さて、試合が始まる前に先ずは両校のオーダーから見て行こう。

 

 

大洗女子学園

 

・パンターG型×2(アイスブルーは隊長車、パールホワイトは副隊長車)

・ティーガーⅠ×1

・Ⅳ号戦車F2×3

 

 

 

聖グロリアーナ

 

・チャーチル歩兵戦車Mk.Ⅶ×1(隊長車)

・マチルダⅡ歩兵戦車Mk.Ⅲ/Ⅳ×4

・巡航戦車クルセイダーMk.Ⅲ×1

 

 

 

大洗は『大戦期の最高傑作』と称される中戦車と重戦車に、信頼出来る性能のⅣ号F2が三輌の編成に対し、聖グロは『足は遅いが堅い』が売りであると同時に聖グロの隊長車として受け継がれてきたチャーチルにこれまた『足は遅いが砲撃の初速は早い』マチルダを加え、其処に『足の速さ』が売りのクルセイダーを加えた一長一短の編成と言った感じだ。

尤も聖グロの部隊編成は、ダージリンが隊長だった頃の其れと変わってはいないのだが……其れだけを見て、オレンジペコがダージリンのやり方をなぞっていると考えるのは早計と言うモノだろう。

この練習試合の舞台は大洗の町中であり、地の利は如何考えたって大洗女子学園にある……にも拘らず、去年の練習試合と略同じオーダーを組んで来たのには何か意味があるのだろう。

 

 

「(みほ様と戦った相手は、必ずや新たな『何か』を手にしている……ダージリン様もみほ様と戦った事で更なる高みに至れたと仰ってましたしから。

  ならば、私もまた戦車乗りの新たな高みに至る為にもみほ様との戦いは必至だった……そして、こうしてその機会が訪れたのだから、全力で戦って自分の殻を破らねばです。――行きますよ、みほ様!)

 相手は、今や世界で五本指に入ると言われている隻腕の軍神ですので、くれぐれも油断しませんように……聖グロリアーナの底力を、隻腕の軍神に見せつけて差し上げましょう――Tank advance!(戦車前進!)」

 

「「「「「I understand Captain!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「(ペコさん、思った以上に良い目をしてたね?――二年生で隊長になった重責に押し潰されちゃうじゃないかって危惧してたけど、如何やら杞憂だったみたいだよ。

  勝つ事は出来なくともとか言ってたけど、その瞳には勝つ気満々の炎が宿ってたからね……だけど、そう来なくちゃ面白くない。試合前から『勝てない』と本気で思ってる相手とは戦っても面白くないからね。

  ペコさんは口ではあぁ言ってたけど、その心の奥では私に勝つ気でいる……うん、最高だね!)

 ルールは六対六の殲滅戦……つまり全滅させた方の勝ち!去年の練習試合は引き分けだったから、今年は絶対に勝つよ!

 だけど、勝つ事が目的になって楽しむ事を忘れちゃダメだからね?戦車道をとことん楽しんで、その上で勝てたら最高と思うように――楽しむ事を忘れて勝利に固執したら、其れはもう競技じゃなくて只の戦争だからね。

 競技の本質は、先ずは其れを楽しむ事、其れを忘れないように!」

 

「「「「はい!」」」」

 

「言われずとも、分かってるわよみほ……楽しめない勝利に意味はない、でしょ?」

 

「そうだよエミちゃん……だから、最高に楽しい試合にしようね?Panzer Vor!(戦車前進!)」

 

「「「「「Jawohl!(了解!)」」」」」

 

 

 

夫々の想いを胸に、練習試合開始!

ドイツメインの多国籍軍な大洗に対し、バリバリのイギリス軍な聖グロがどんな戦いを見せるのか……そして、圧倒的に大洗女子学園にアドバンテージがあるフィールドでオレンジペコ率いる聖グロは如何立ち回るのか?

 

今年度最初となる戦車道の戦いの幕が上がったのだった――

 

 

 

「ガッデーム!新生大洗だけ見てりゃいいんだオラァ!オイ、アンタも何か言ってやれ船長さん!!」

 

「西住隊長は、最高にして最強……そうだね、言うなれば覚醒した武藤遊戯って所かな?――まぁ、武藤遊戯に会った事はないんだけどね。」

 

「よっしゃー、最高だぜ!!」

 

 

 

そして観客性も大盛り上がりだった。

黒のカリスマ率いるnOsの面々に、お銀率いる学園艦のアウトロー軍団が加わった応援団は見た目のインパクトがハンパなった――そして、其処に二十年前の大洗を率いていた好子さんが加わったのは当然と言えば当然だろう。

応援のインパクトだけなら大洗はブッチギリの全国トップなのは間違いない――だが、応援のインパクトだけでないのが大洗だ。

この練習試合がタダで終わる事はないだろう……と言うか、タダで終わる筈が無いだろう。だって、みほが大洗の町中で市街地戦を行うのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer204『燃えて燃えまくる練習試合です』

ペコさん…そう来なくちゃ面白くないよ!Byみほ        火が点いたわね、軍神に!Byエリカ       此れは燃えますね!By小梅     完全燃焼上等ね!Byエミ


Side:オレンジペコ

 

 

みほ様率いる大洗女子学園との練習試合……柄にもなく心が熱くなっているのが自分でも分かります――地の利は大洗女子学園にある上に、みほ様には、隊長としての経験値、切れるカードの数、咄嗟の閃きとドレを取っても今の私では敵いません。

ですが、そんなみほ様と戦ってこそ、私は私を超えられる――其れに、卒業されたアッサム様に頼んで計算して頂いた勝率は、たったの0.01%と言う、一万回に一回しか勝てないと言う結果でしたけれど、勝てない訳ではないのです。ヴぃ

ならば、其の一回をこの練習試合で引き寄せてみようと思っても誰も悪いとは言わないでしょう……と言うか、勝てないまでも引き分けて、私が隊長である事が気に入らない『二軍』の先輩方を黙らせたいと思っているのも事実ですが。

『ダージリン様に媚を売った』、『ダージリン様に推薦されたから調子に乗ってる』、『紅茶格言の腰巾着』等々、まぁ、随分と好き勝手な事を仰られてるみたいですからね……そんな事ばかりやってるから、三年間レギュラーになれなかったのではないかと愚考しますが。

あの手の輩は、口で言うよりも実際に実力を見せつけるのが一番だと、ダージリン様も仰られていましたので、其れに倣うとしましょう。

 

 

 

「それにしても、今回の大洗は随分と大人しい編成で来たな?

 私は、今回もてっきり尖った性能の戦車で固めた変態編成で来ると思ったんだけど……此れは、また騙されたか?」

 

「お~~~~っほっほ!みほさんがやっちまう事を、所詮は凡人である私達が見切る事なんて、ぜってーに不可能でございますわよルクリリさん!

 みほさんは常識には非常識を、非常識には常識をぶつけて勝利をぶんどって行きやがる、ヴィクトリーハンターであらせられます事よ?勝利の女神が勝利を与えようとした相手から、勝利を盗むのだって大得意なのですわ!」

 

「お前、中学時代の戦友に対して言い過ぎじゃないか?」

 

「此れでも抑えている方ですのよ?

 みほさんの凄さとトンデモなさを本にしようとしたら、ラノベ十冊分くらいは、余裕のよっちゃんいか(おつまみイカなんこつ)ってとこですわ!因みにKAD○KAWA発行で、定価は税込みで一冊四百八十円と言った感じでごぜーましょうか?」

 

「……戦術参考書としても使えるって事を考えると、ワンコインで買えるのは破格のバリュープライスだな。」

 

 

 

ルクリリ様とローズヒップ様は、何時でも平常運転なのである意味頼りになりますが、この方達を通常の指揮系統に組み込むのはもう諦めて、いっその事、好きにやって貰おうと考えてる私が居るのが否定出来ないですね……どうせなら、試してみましょうか其れ?意外とイケるかも知れませんし、みほさんも流石に聖グロリアーナがそんな戦術を執るとは思わない筈ですから、虚を突く事が出来るかもしれません。

 

ですが、其れとは別に、ルクリリ様が仰っていた大洗のオーダーは確かに気になりますね……隊長車と、無限軌道杯から副隊長車になったパンターが居るのは当然として、それ以外はティーガーⅠとⅣ号F2と言う手堅いオーダーは、みほ様と言うか大洗らしからぬ編成です。

勿論去年の大洗のオーダーは、二十年前に戦車道が廃止された際に売れ残った戦車に、みほ様が持ち込んだパンターとティーガーⅡをねじ込んだ故のちぐはぐ編成だった事は理解していますが、無限軌道杯でも使用車輌は増えたモノの、其れは変わらなかった。

ですが、今回は手堅い編成な上に、全てドイツ戦車で統一されている……もしや、ティーガーⅠとⅣ号F2の乗組員は、今年入った一年生なのではないでしょうか?

 

……普通に考えれば有り得ない事ですが、みほ様ならば充分に有り得る。

今年入ったばかりの一年生、其れも戦車道の経験が浅い人達に実際の試合を経験させる意図があったのだとしたら、あのオーダーも一応は納得が出来ますね……最強の重戦車と名高いティーガーⅠと、Ⅲ号戦車と同様に、尖った性能がない代わりに全ての性能が高水準のⅣ号F2を選んだのは納得出来ます――特にⅣ号F2は防御力は高くありませんが、高い攻撃力と其れなりに高い機動力を備えた、Ⅳ号戦車のバリエーションの中では『マークⅣスペシャル』として恐れられた戦車ですから、経験の低い人でもそれなりに扱えますから。

ですが、そうであるのならば、みほ様が得意とするトンでも戦術は使い辛いのではないでしょうか?……去年の大学選抜戦の際に実際に知る事になったのですが、みほ様の常識破れの戦術は、戦車道経験者でも『無茶振りすんなコラ( ゚Д゚)!』と言いたくなりましたから。

其れを今年入った、其れも戦車道経験の浅い人が出来るとは思えません……が、みほ様だとそんな私の考えすら覆してしまうのでしょうね――ダージリン様ではありませんが、下手な考え休むに似たりと言う言葉もありますから、彼是考えるよりも、先ずはぶつかってみましょう。細かい事は、全部其の後でです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer204

『燃えて燃えまくる練習試合です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

ペコさん率いる聖グロとの練習試合……いやぁ、実に楽しみだねぇ?

地の利は勿論、戦車の火力、隊長としての経験値も大洗の方にあるんだけど、隊長車と副隊長車以外の戦車の搭乗員の練度は、ティーガーⅠの車長のエミちゃんを除いて聖グロの方が上――その利点をペコさんが如何生かすかが楽しみだよ。……まぁ、自分達が勝ってる点がある事に気付けるか如何かが大前提だけど。

 

 

 

「ペコならきっと気付きますよ西住隊長。」

 

「梓ちゃん、その心は?」

 

「ペコの師匠はダージリンさんだからです。あの紅茶格言がペコに隊長の座だけを渡したとか絶対に有り得ません――最悪の場合、周囲に格言や諺を言い散らかすと言う、傍迷惑でともすればブッ飛ばしたくなる特技を伝授しているかもしれません。」

 

「……根拠はマッタクないけど、なんだか凄く納得――ペコさんが『こんな格言を知ってる?』って言いだすのは、中々の悪夢な気がするよ、うん。」

 

「ペコがそんな事言ったら、私とツェスカのクロスボンバーで正気に戻すので安心してください。」

 

「マスク狩り?」

 

「其れとも、家元合体奥義のダブルキン肉バスターが良いでしょうか?……否、此処は人気のツープラトンであるNIKU→LAPを選択すべきですか?」

 

 

 

其れは作者が大好きな技だからねぇ……『夫々の必殺技を合体させたツープラトンはキン肉マン史上初』って感激してたし、二世の最終奥義の『マッスルキングダム』にはガチ感動だったからね。

 

 

 

――そして、新章ではキン肉マンとアタル兄さんの『リアルマッスルブラザーズ』見たいっすマジで。後、キン肉マンとスーパーフェニックスの主人公とラスボスのタッグも見たいです!

 

 

 

うん、なんか聞こえたけど其れは無視して……エミちゃん、首尾は如何かな?

 

 

 

『上々よみほ。

 Ⅳ号は商店街の各地に配置して、アタシは海岸前の大鳥居下でスタンバイ完了……高校戦車道界で四強の一角とされる聖グロ相手に如何戦うのか、お手並み拝見させて貰うわ。』

 

「ふ、ならその期待には応えるよ!」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

「軍神招来か……しかも今回宿したのは自らを毘沙門天と称した『上杉謙信』とは――本気だな西住さん。」

 

「ふふ、私は何時だって本気だよ麻子さん……まぁ、幾ら上杉謙信を宿したとは言っても陣羽織とかを着こもうとは思わないし、あの頭巾みたいなのを被ったりはしないから。」

 

「惜しむらくは、武田信玄のポジションになる相手が居ない事だな。西住さんに勝てる戦車乗りなど世界中探しても居るかどうかだろう?……居るとしたら、其れは恐らく西住さんの戦闘パターンを全て叩き込んで、リアルタイムで学習するAIを搭載したサイボーグか何かだろうな。」

 

「未来から来た殺人サイボーグかな其れは。」

 

「みぽりんも麻子のなんの話?」

 

 

 

何だろうね?

取り敢えず、部隊の配置は完了……去年とは違って、キルゾーンに誘い込む事はせずに最初から市街地戦を仕掛けてみたけど、果たしてペコさんは如何出てくるかな?

ダージリンさんと同様の広い視野を持ってるならこの仕掛けには乗って来ない筈だけど、ダージリンさんの広い視野にはカタログスペックより上の力を出す事は出来ないって言う弱点もある。

だけどダージリンさんの戦い方を間近で見て来たペコさんならその弱点は分かってるからきっとそれを克服しようとする筈……だから、乗ってくる確率が高い――まぁ、乗ってこなかった乗って来なかったで別の戦法に切り替えるだけだから無問題だけど。

 

 

 

「西住殿の頭の中には一体何通りの戦術が存在しているのでありましょうか?」

 

「古今東西ありとあらゆる戦術を頭に叩き込んだし、更に其処からの発展戦術に、私が考えた戦術が有るから……多分だけど、最低でも六千通りは下らないと思う。

 下手したら一万超えてるかも。」

 

「みぽりんって、歩く戦術指南書!?」

 

 

 

ん~~、其れは否定出来ないかな沙織さん。……数ある私の二つ名の中には、『歩く戦術指南書』って言うのもあるみたいだからね。――でも、私は隻腕の軍神だよ。

これこそが私を最も的確に言ってるからね……そして、軍神と称される以上は負ける事は出来ないよ。勝利に固執する心算はないけど、楽しむ事が大前提だとしても、負けるよりも勝った方が楽しさは倍増するのは否定出来ないからね。

もしも勝てない時は引き分けに持ち込めれば其れで良し――黒森峰と言うか、戦車道の暗黒面に堕ちてた時のお祖母ちゃんは勝つ事こそが常勝不敗だと思ってたみたいだけど、真の常勝不敗って言うのは勝ちは当たり前だけど負けない事が大前提だから、実力で勝る相手にも勝てないまでも引き分けに持ち込む事が出来るのが真の常勝不敗なんだよね。

地上最強の鉄人と言われたルー・テーズも驚異の不敗伝説を持ってるけど、その不敗の中には引き分けも多いからね……何よりも王者に必要とされてるのは『勝つ事』じゃなくて『負けない事』だからね。

『負けなければ良い』って思えば、『絶対に勝つ』よりも、大分気が楽なんだよねぇ……勝てなくても負けなければ良いんだから。――だから、練習試合は物凄く気が楽だね。

だって、練習試合は絶対に勝たなければイケないモノではない――ぶっちゃけて言えば、今回の練習試合に関して言えば、負けてもマッタク問題はないからね。

勝つか引き分けなら、強豪相手に頑張れたって事で戦車道をより楽しく思うだろうし、負けたら負けたで、全力を尽くした楽しさを感じつつ、負ける悔しさを知る事も出来るから、その悔しさを二度と味わわない様に精進するだろうからね。

ぶっちゃけ、この練習試合その物が、結果に関わらず新人達の成長を促すモノなんだよ。大洗にとっては、メリットだらけ――

 

 

 

『に、西住隊長!』

 

 

 

っと、此処で通信が――通信相手はⅣ号の子だね?如何したの?

 

 

 

『聖グロのクルセイダーと、マチルダ一輌がこっちに向かって爆走して来てるんです!特にクルセイダーのキューポラから身を乗り出した、赤毛の車長がハンパなく怖いっす!』

 

「……は?」

 

クルセイダーはローズヒップさんだろうけど、それ以外にマチルダが一輌……って、まさかルクリリさん!?

聖グロでは異端と言えるローズヒップさんとルクリリさんだけど、聖グロの伝統的な、芸術とも言える隊列を離れて独断行動って言うのは何とも大胆な事をしてくれたモノだね?

試合後にOG会からのお説教があるんじゃないのかな――って言うか、ペコさんが独断専行を許すかな?

普通に考えたら、隊長命令を無視した独断専行は、聖グロだからこそ考え辛いんだけど……クルセイダーの実戦投入に踏み切ったダージリンさんの弟子であるペコさんだったら容認する可能性も――ないか。

ダージリンさんは聖グロの改革を行ってはいたけど、命令無視の独断専行は許さなかった――去年のエキシビションマッチの時だって、クルセイダー部隊はダージリンさんの指示の下に別行動をしていた訳だからね。

と言う事は若しかして……今のローズヒップさんとルクリリさんは、私がエリカさんに言う『好きにして』状態なのかも!独断専行はアウトでも、隊長から『好きにして』と言われたのなら命令違反ではないから、グレーゾーンのギリギリセーフだからね。

ペコさん、あの二人の手綱を握るのは難しいだろうとは思ってたけど、『手綱を握り切れないなら放しちゃえ』と来るとは予想外だったよ……私に予想外をやって来るとは、想像以上に成長してるみたいだね。

 

ふふふ……此れだよ。こう言った事があるから戦車道は面白いんだよね!――良いよペコさん、その大胆な采配に応えさせて貰うよ!

 

「落ち着いて。

 無理に撃破しようとはせずに商店街の中を兎に角逃げ回って下さい――如何にクルセイダーが機動力に優れているとは言え、其れはあくまでも直線コースに限っての事です。

 路地も狭く、曲がり角も多い商店街ではその利点を生かす事は出来ない上に、地の利は此方にあります……確か貴女は大洗出身でしたよね?」

 

『は、はい!生まれも育ちも大洗です!』

 

「なら、商店街の地形は頭に入っているでしょう?

 兎に角今は逃げの一手に専念しつつ、立体駐車場前に待機しているⅣ号の所まで誘導して下さい――運が良ければクルセイダーはその道中で自滅する可能性がありますから。」

 

『自滅?』

 

「ローズヒップさんはスピード狂だから。」

 

『あ~~……』

 

 

 

『速さに命を懸けてる』ローズヒップさんは、大洗永町商店街の起伏が激しくて曲がりくねった道に対応しきれずに何処かの店に突っ込んで白旗判定になる可能性は充分にあるからね。

 

「沙織さん、立体駐車場で待機してるⅣ号と通信を開いて、○○○○○せよって伝えて。」

 

「了解だよみぽりん!確かに其れは、有効かもしれないからね!」

 

 

 

まさかの奇襲には驚いたけど、本番は此処からだよペコさん……新生大洗女子学園の底力、ゲップが出る位味わって貰うからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

通常の指揮系統から外されたローズヒップとルクリリの強襲を受けた大洗だが、其処は流石の軍神と言うべきか、即思考を切り替えて最善の策を選択して、強襲部隊に対応する――この柔軟さも大洗の強みと言えるだろう。

 

 

「オ~~ッホッホ、逃がしませんわよ!!」

 

 

だがしかし、みほの予想に反して、ローズヒップのクルセイダーは、『路地を曲がるのなんざめんどうきわまりねーですわ!』と言わんばかりに、主砲で曲がり角にある家やら店舗を主砲で破壊しながら可能な限り直線的に進んで行く……ナンボ連盟が直してくれるとは言え、其れは如何なのよ?

いや、中学時代にみほと一緒だったからこそ出来る事なのかも知れないけどね?……隻腕の軍神はトンデモナイ操縦士を誕生させましたってか!

何にせよ、こんな力業と使われたら、みほが言った自滅は期待できないと思うだろうが……甘いぜ!

 

 

 

――ガコン……

 

 

「ほわぁぁ!?な、何でごぜーますの!?」

 

 

強引な前進を続けていたクルセイダーの進撃が突如止まってしまったのだ……此れにはローズヒップも何事かと思いキューポラから身を乗り出して状況を確認すると、何と履帯が切れていた。

クルセイダーは機動力はある物の、決して足回りが強い訳ではない――此れまでの強引な進軍で履帯が遂に限界を迎えてしまったのだろう。奇しくもみほの読み通りになったのだ。

そして其れだけではない。

 

 

「スピードを重視する者はスピードに泣く……みほの言った通りだったわね!」

 

「貴女は!!」

 

「みほの最古の戦車仲間の中須賀エミよ……その名を頭に刻みつけておきなさい!悪いけど、貴女は此処で退場よ!撃て!!」

 

 

大鳥居下で待機してたエミのティーガーⅠが動けなくなったクルセイダーを強襲し、必殺のアハトアハトを叩き込む――みほは、エミにも指示を出して商店街に向かわせていたのだ。

何で、此の場所が分かったのか疑問に思うだろうが、逃げるⅣ号と通信を開いて今何処に居るかを確認していたのである――其れが功を奏してこの状況を作り出したのだ。

 

クルセイダーは機動力は高いが、防御力に関しては紙なので、ティーガーⅠのアハトアハトの牙を、其れも近距離から突き立てられたら堪ったモノではない。

砲撃を喰らったクルセイダーはド派手にブッ飛ばされ、二転三転した末に白旗判定となり、戦闘不能に――普通だったら、鞭打ち確定の状態でありながら、クルセイダーの搭乗員は煤塗れになってるだけで済んでいるのだから、特殊カーボンの防御力ハンパないわマジで。

 

まぁ、何にしても先手を取ったのは大洗だ。

如何に練習試合とは言え、先手を取る事が出来たのは大きいだろう――みほの戦車道は先手を取ってこそその真価を発揮する事が出来ると言っても過言ではないのだから。

と言っても、後手に回っても何とかしちゃうんだからハンパないわ……大学選抜戦も、先手は取られてもその後で確りリカバーしてたからな。

 

そして、其れに続き……

 

 

「また立体駐車場か……馬鹿め、そう何度も同じ手に引っ掛かるか!前はフェイク、後もフェイク、今度はサイドもフェイク……なら今度一周して、前が本命だな!」

 

 

立体駐車場では、ルクリリが此れまでの事を振り返って、本命は正面と考え、シャッターが上がり始めた正面の出庫口に狙いを定め、シャッターが上がり切ったらその瞬間に撃破できる態勢を作っていたのだ。

 

 

「うん、大当たり♪」」

 

「はぁ!?何でお前が其処に居る西住みほぉぉぉぉ!?」

 

「其れは企業秘密です。」

 

 

確かにルクリリの予想は当たり、正面の出庫口から戦車は現れた――但し、彼女が予想したⅣ号ではなく、今や戦車道界隈で伝説となっている『アイスブルーのパンター』だったが。

そして其れだけではなく、後部の昇降台からはⅣ号がせり上がって来ていた――完全なる挟み撃ち……此れこそがみほの狙いだったのだ。如何にルクリリと言えど、三度同じ手には引っ掛からないだろうと考え、その末に此れまでルクリリが体験した事を全部ぶっこむと言うトンデモナイ作戦をやったのである!

 

 

「華さん!」

 

「任せて下さいみほさん……花を生ける時のように集中して――行きます!」

 

 

結果として、ルクリリは完全にみほの策に嵌ったのだ――そして、策に嵌ったが最後、逃げる術はない……マチルダの正面に、パンターの超長砲身75mmが炸裂して、ルクリリも此処でゲームオーバー!……コンティニューする時は百円入れてね!

 

兎も角此れで残存車輌は大洗が有利になったのだが、そう簡単に行かないのが聖グロだ――

 

 

 

『大洗女子学園、Ⅳ号F2、一号車、三号車、行動不能!』

 

 

 

クルセイダーとマチルダが倒された直後に、今度は大洗のⅣ号が連続撃破されてしまい、数ではイーブンだと言えるだろう――オレンジペコはローズヒップとルクリリに好き勝手させておきながらも、確りと進軍して商店街に潜むⅣ号を密かに喰い散らかして見せたのだ。

 

だが、こんな事を見せられて、みほが黙っているだろうか?――否!断じて否だ!!

 

 

「ローズヒップさんとルクリリさんに好きにやらせて、此方の動揺を誘いながら、その裏で本隊が打って出て来るとは……完全にやられたなぁ?だけどやられっぱなしって言うのは好きじゃないから、今度は私の方から仕掛けるから覚悟してねペコさん!」

 

 

 

――轟!

 

 

 

「西住殿オーラが青くなって、オーラも青くなってであります!」

 

「混乱してるぞ秋山さん。若干意味が分からん。

 だが西住さんは、遂にスーパーサイヤ人ブルーに至ったみたいだな――西住さんは軍神なのだから、此れ位の事は必ず出来ると思ってたぞ。

 流石だな西住さん。」

 

「大した事じゃないよ……でも、出し抜かれたのは悔しいから、其れは倍返しだよ!」

 

 

 

如何やら練習試合は、此処からが本番であるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer205『Burning Tank Fighting!です!』

へへ、燃えたろ?Byみほ        アンタじゃ燃えないわByエリカ       私達の、勝ちです!By小梅


Side:みほ

 

 

大洗も二輌撃破、聖グロも二輌撃破、結果として残存車輌は五分だけど……先ずはしてやられた感があるね此れは?――ローズヒップさんとルクリリさんに気を取られた事でペコさん率いる本隊への注意が疎かになっていたってのは否めないからね……此れは大いに反省だね。

だけど、私の注意を疎かにさせたペコさんは凄いね……ローズヒップさんとルクリリさんを生贄にして、大洗の戦車を二輌も狩ったんだから――此れだけでも、ペコさんにとっては大きなステータスになるだろうね。

でも、此れで満足して貰ったら困るんだよね……梓ちゃん、一発かまそうか?

 

 

 

『そうですね、一発行きましょう!』

 

 

 

通信で梓ちゃんに問いかければ、如何やらノリノリみたいだね……其れじゃあ行くよ!

 

 

 

――ダン!

 

 

 

キューポラに右足を踏み乗せ、右手は天を指さし私は言う!!――乙女と戦車と二つの道が、捻じって交わる戦車道!

 

 

 

『鉄のニオイで己を磨く、油のニオイで敵を砕く!』

 

「お前等私を!」

 

『私達を!』

 

「『一体誰だと思っていやがる!!』」

 

 

 

――ドッガーーン!!

 

 

 

「よっしゃー!最高だぜ!みぽりん、梓ちゃん!全力で行け!」

 

 

 

大成功!客席の黒のカリスマにも好評だったからね――ふふ、本番は此処からだよペコさん?ダージリンさんの戦術を受け継ぎつつも、其れに独自のアレンジを加えたペコさんだけの戦車道を見せて貰おうか?

ダージリンさんの後継者で終わるか、其れとも聖グロの歴史に名を残す隊長になるのか……どっちになるのかの分かれ道がこの練習試合になるのかも知れないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer205

『Burning Tank Fighting!です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

ローズヒップとルクリリを撃破して先手を取ったのは大洗だが、その直後に聖グロもオレンジペコ率いる本隊がⅣ号F2を二輌撃破して、残存車輌は両校とも四輌と言う状況だ。

だが、残存車輌数だけならば同じだが、戦車スペック的に有利なのは大洗の方だろう。

パンターもティーガーⅠもⅣ号F2も攻撃力、機動力共に聖グロの残存車輌であるチャーチルとマチルダを大きく上回っているだけでなく、チャーチルとマチルダの主砲ではⅣ号F2は撃破出来てもパンターとティーガーⅠの撃破は略不可能と言う状況なのだから。

まぁ、撃破するだけなら戦車砲で撃破しなければならないと言うルールがある訳ではないので、やりようによっては撃破は可能だ――と言うか、みほは真面な戦車戦で相手を撃破する事の方が少ないからな。

『戦車道の裏技』とか言う本を出したら爆発的に売れる様な気がしてならない。

 

 

「西住ちゃんの作戦も見事だけど、ローズヒップちゃんも大分無茶な事すんね~~?……手綱握っとくの楽じゃなかったっしょダージリンも。」

 

「もう、ダージリンではないわよ杏。

 そうね、楽ではなかったけれど其れまでの聖グロには居なかった存在だから楽しくはあったわ……何よりも、彼女を聖グロに招いたのは私なのですから。」

 

「成程ね……にしても、西住ちゃんの戦い方は兎も角、西住ちゃん相手に囮作戦を成功させるだなんて、中々優秀な後継者みたいだね?」

 

「ふふ、ペコは手塩にかけて育てましたもの……みほさんが相手でもおいそれとやられなくてよ?」

 

 

序盤戦の攻防を見ながら、特設観客席で元大洗女子学園生徒会長の角谷杏と、元聖グロリアーナの隊長ダージリンこと大後琳(たいしりりん)はこの練習試合は話していた。

母校の練習試合があると聞いて、観戦に訪れたのである――杏の片手には干し芋の袋、琳の片手にはペットボトルになったとは言え紅茶が存在しているのは御愛嬌か。

 

 

「成程ねぇ~?だけど、西住ちゃんに勝つのは難しいんじゃないかぁ?

 世に言う『大洗の奇跡』で、西住ちゃんの実力と名前は一気に有名になったし、五十鈴ちゃんに聞いた話だと西住ちゃんと澤ちゃんの母校の中学から戦車道の選手が大分入って来たらしいし、それ以外の新入隊員も有望な新人だったって話だからね……Ⅳ号F2に乗ってるのが新人達であったとしても、西住ちゃんの指揮下だと化け物になるかもだよ?……アタシだって、その化け物の一匹だしね?」

 

「説得力があるわね……確かに、殆ど素人集団であった大洗を僅か一年で強豪校へと育て上げてしまったみほさんならば、今年入って来た新人を短期間で『試合に使えるレベル』にしてしまう事は可能だと思うわ。

 でも、だからこそⅣ号F2の乗員が全員新人であるとするのならばペコが付け入る隙があるのよ……試合に使えるレベルの新人では、みほさんの常識何て言うモノはゲームから除外すると言わんばかりのトンでも戦術を実践する事は略不可能。

 信号機落としや、歩道橋雪崩は兎も角として、常軌を逸した軌道からの一撃や、伝家の宝刀戦車プレスが出来るとは思えない……たった其れだけの事でも、ペコには充分なプラス要素になるわ。」

 

「こりゃまた大きく出たね?

 なら、一丁賭けない?この練習試合、どっちが勝つか――アタシは勿論、大洗が勝つに賭けるよ。序に、誰も予想しなかった形で勝つってのも追加しとくよ。」

 

「其れも一興ね……ならば私は当然聖グロの勝利に賭けるわ。チップは如何するの?」

 

「きらきらクレープの干し芋クレープか、ブリアンさんのガルパン、お好み喫茶道さんのたらし焼き、めんたいパークのジャンボ明太おにぎりの何れかでどうよ?」

 

「妥当な所ね。」

 

 

杏も琳も、母校が勝つと譲らず、ちょっとした戦車道トトカルチョが始まっていた。

 

 

「どっちが勝つだぁ?大洗の勝利一択に決まってんだろオラァ!みぽりんが負けるだぁ?寝言言ってんじゃねぇぞガッデメラ!最高だぜ、戦車道!!」

 

「いやぁ、相変わらず元気だねぇ黒のカリスマ……干し芋食う?」

 

「貰っとくぜ、ありがとよ!」

 

 

で、黒のカリスマも参戦してた……無限軌道杯の時は、バミューダ三姉妹のトトカルチョを咎めてたと思ったのだが、その時の気分で咎めるか乗るのか変わるのだろう――プロレスには臨機応変さが必要なのさ。

にしても、nOsの面子は今日は特に豪華だなぁ?nWoの始祖である『超人』ハルク・ホーガンをはじとした元祖nWoのメンバーにTEAM2000のメンバーにガキ使いでお馴染みの芸人に、各種スポーツ界から著名な人が集結してるからねぇ……この黒い応援団が何処まで成長するのか、ちょっと見ものではある気がするね。

 

 

さて、そんな観客席での一幕は兎も角として、大洗市街地での戦いは今もまだ継続中だ。

先ずは互いに二輌ずつ撃破した事で、五分の戦果と言った所だが、オレンジペコからしたら一度きりの戦術を使った末のⅣ号F2二輌撃破だったので結構ギリギリ感が強かった――戦果としては悪くないが、欲を言うのならばこの囮作戦でみほのパンターを撃破したかったと言うのが本心だろう。

殲滅戦なので相手チームを全滅させる必要があるのだが、其れだけに隊長の撃破と言うのは大きいのだ――隊長が撃破されてしまえば司令塔がなくなってチームの指揮系統はズタズタになるのだから。

みほさえ倒してしまえば、大洗は総崩れ――副隊長の梓も可成り強いが、其れでもみほと比べたら、あくまでもみほと比べたらまだ御しやすい相手であるだろうしね。……つっても、梓だってみほの才能によるところが大きな戦術をマニュアル化して明光大付属中の基本ドクトリンにしちゃった化け物なんだけどな!みほの一番弟子舐めんな!でもって、梓ちゃん主人公のスピンオフは何時の日か出来るのか?期待してます!!

 

 

「(さて、如何しましょうか……一番良いのは、此方は此れ以上撃破されずにみほ様のパンターを撃破する事ですけれど、其れは現実的に不可能であると言わざるを得ない――下手したら、みほ様のパンターを撃破する為に此方の残存戦力を磨り潰す事になりかねませんからね。

  だからと言って、聖グロの伝統戦術ではみほ様には届かない……であるのならば、伝統など宇宙の彼方のブラックホールに投げ飛ばして、型破りな戦いをしつつ、みほ様の誘いには乗らないのが最上策ですね。)

 全軍反転!大洗駅の前に移動してみほ様達を迎え撃ちます!」

 

「し、正気ですか隊長!?

 駅前は開けていながらも西住様が得意とする戦術が取り易い場所なのですわよ!?――そんな場所に部隊を移動するなど自殺行為ですわ!!」

 

「自殺行為ですか……確かにそうですが、だからこそ効果があるんです。

 きっとみほ様は此れまでの経験で、『自分が有利になる場所に誘い込む阿呆は居ないだろう』と無意識に思っている筈――そして、其れが正しければ、此れはみほ様に予想外を突き付ける事が出来ます。

 如何に隻腕の軍神であっても、完全な予想外を突きつけられれば必ず隙が出来る筈――その隙を突けば、勝つ事は難しくないんです。」

 

 

オレンジペコの下した命令に異を唱える隊員も、独自の理論をぶつける事で強制沈黙させる――因みに今意見して来たのは三年生なのだが、其れを黙らせるとは、見事である。

ダージリンが後継者に選んだのも納得と言うモノだ。――ダージリンはオレンジペコが隊長の器だと見抜いていたのだろう。マジで見事な眼力です。

そんな訳で、聖グロの部隊は大洗駅前で大洗の部隊を待ち受ける事に――頼むから、駅前に掲揚された全国大会優勝時の『祝!大洗女子学園全国制覇』の横断幕と、無限軌道杯制覇時の『祝!大洗女子学園無限軌道杯優勝』の横断幕は壊さないでね?此ればかりは代えが無いし作り直しも出来ないから。

 

直ぐに此処には来ないだろうと思い、オレンジペコはチャーチルのキューポラに腰かけてロイヤルミルクティーを楽しんでいたのだが――聖グロがこの場所に来てから五分後に其れは現れた。

アイスブルーのパンターを先頭に、パールホワイトのパンターに、デザートイエローのティーガーⅠ、ジャーマングレーのⅣ号F2……大洗の部隊だ。

其れだけならば特に問題ないが、キューポラから身を乗り出した車長が凄かった!新人オンリーのⅣ号F2を除き、みほも梓もエミも、何時着替えたのか、衣装が『黒のカリスマ』になって、みほはグラサンを襟の喉元に引っ掛け、梓はグラサンを首掛けにし、エミはグラサンを額掛けにし、更にみほはキューポラに右膝を立て、其れに右肘を置いて体勢で、梓はキューポラに両肘を引っ掻け、エミは腕を組んでのメンチギリ……うん、迫力がマジパナイな此れ。並の戦車乗りだったら、此れを見ただけで戦意喪失の敵前逃亡間違いねぇわマジで。

 

 

「随分と大胆な事をしたねペコさん……まさか、本気で私に勝つ心算なのかな?」

 

「その心算ですが、何か問題ありますか?」

 

「ううん、無いよ――本気で私に勝つ心算だなんて、エリカさんと小梅さんとエミちゃん以来だから私も燃えて来るしね。……けど、私に勝つには、まだ実力不足だよ。

 ローズヒップさんとルクリリさんを囮にしてⅣ号F2を二輌撃破したのは見事だったけど、その次が無かったらね。」

 

「だからこそこの作戦です――敢えてみほ様の土俵に上がらせて頂きます!」

 

「上等!此れまで私の策に乗って来た人は幾らでも居たけど、自ら私の土俵に乗って来た人は居なかったからね……ダージリンさんの後継者ってだけじゃないのを、見せて貰おうか?」

 

「言われるまでもありません!」

 

 

だがオレンジペコは怯まずに戦車戦を開始!たった一年とは言え、あの紅茶格言に事あるごとに格言や諺を聞かされて鍛えられたメンタルはハンパなモノではないのだ。頑丈さで言うのなら、ダイヤモンドすら凌駕するかもしれない。

とは言え、戦車スペックで劣る以上、先ずは確実に撃破出来る戦車から撃破して行くと言うのは当然の流れだろう――なのでオレンジペコは部隊を分散させ大洗の部隊の分断を狙う。

分断してしまえば新人が乗っているであろうⅣ号F2を孤立させる事が可能になり、そうなれば撃破するのは容易であるのだから。

 

 

「成程……悪くないけど、そうは問屋が卸さないよ?エミちゃん、梓ちゃん!」

 

「合点承知よ!」

 

「お任せ下さい西住隊長!」

 

 

だが、聖グロの部隊が散開したのを見たみほは、其れに付き合わず、Ⅳ号F2をティーガーⅠとパンター二輌で囲うように陣形を変え、聖グロの攻撃から新人達を護る形に。

殲滅戦では一輌の損失がそのままディスアドバンテージに繋がるので、撃破されないようにするのが大事なのだ――まぁ、Ⅳ号F2の新人達も護られるだけじゃなく、護られながらも攻撃をしているのだから悪くないと言えるだろう。

同時にこの陣形は大洗にとって有利とも言える――先程も言ったがチャーチルとマチルダの主砲ではパンターとティーガーⅠを撃破するのは、それこそゼロ距離攻撃でも行わなければ不可能なのだから。

だが逆に大洗の戦車は、マチルダならば何処に当てても撃破出来ると言う状況な上、二輌のパンターの砲手は高校戦車界トップ2砲手の一人である華と、砲手としての才能の蓋を開けたあゆみと言う命中率がハンパない連中なのだ。

此の状況を維持されたらジリ貧になるのは聖グロの方だろう。

 

だが――

 

 

「戦車戦で勝てないのならば、それ以外の方法を使うまで――行きますよみほ様!」

 

 

此処で何を思ったのか、オレンジペコが叫んだ瞬間二輌のマチルダが大洗に向かって突撃し……駅前に停めてあった乗用車をジャンプ台替わりにして大ジャンプ!

そして、其のまま二輌のマチルダはⅣ号F2とティーガーⅠに降り注ぎ……

 

 

――ガッシャーン!……キュポン!×2

 

 

『大洗女子学園、Ⅳ号F2、ティーガーⅠ行動不能。』

 

 

ティーガーⅠとⅣ号F2を撃破!

まさかの掟破りの逆戦車プレス!軍神の必殺技を逆に仕掛けるとは、オレンジペコの強心臓たるや見上げたモノであると言えるだろう……此れは如何みても完全にみほに喧嘩を売ったとしか言えないのだから。

 

 

「ご自分の必殺技を喰らった感想は如何でしょうか?……取り敢えず、私達はここ等で失礼しますね。」

 

 

マッタク予想外の事態に虚を突かれたみほ達を他所に、オレンジペコは戦車プレスを行ったマチルダを部隊に戻すと、そのまま市街地の方に去ってしまった。

大洗にしてみれば、完全にしてやられた感じだろう――特にみほにとって、自分の必殺技で二輌もやられたと言うのは屈辱以外の何物でもない筈である。

 

 

「フフフフフ……アハハハハハ……ア~ッハッハッハッハ!!やってくれるよペコさん!まさか私に戦車プレスを使って来るとは思わなかった!

 良いね、最高だよ!こうもあからさまに私に喧嘩を売って来た戦車乗りはエリカさん以来かな……だったらその喧嘩は買うよ――売値の倍額で!

 やられたらやり返す!倍返しだ!」

 

「半沢直樹か?」

 

「我は戦車を極めし者……うぬらが無力さ、その身を持って知るが良い!」

 

「殺意の波動にも目覚めたか……超サイヤ人ブルーに軍神招来に殺意の波動――西住さんのマックス戦車力は通常時の4000万倍はあるな。」

 

「麻子、其れってドレ位?」

 

「マックス状態の西住さんだったら、フリーザをデコピンで粉砕できる。」

 

「みぽりん、人間だよね?」

 

「いや、軍神だろう?」

 

「なにそれ、やだもー!」

 

 

はい、名言頂きました!原作中では一度も言ってないけどね。

取り敢えずみほと梓のパンターは市街地に向かった聖グロの部隊を追って市街地に――逆戦車プレスで完全に火が点いたみほはマジで手が付けられない戦車乗りだから、聖グロの部隊にとって本番はこれからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合は大詰めを迎えていた。

駅前よりも使えるギミックが多い市街地では、みほと梓は鎖の切れた猛獣の如き大暴れを披露して聖グロを追い詰めて行った――信号機落としや歩道橋落としだけでなく、商店街でデッドヒートを行って、急カーブにある旅館に突っ込ませると言った手段を駆使して次々とマチルダを撃破していったのである……軍神と軍神の一番弟子ハンパないわマジで。

そして遂に残存車輌は大洗は二輌のパンター、聖グロはチャーチルのみと言う状況なった。

 

 

「(あそこから逆転されるとは流石はみほ様……ですが、此の状況で勝つには、先ずはみほ様を倒す――梓さんも強敵ですが、みほ様と比べればまだ勝負になりますからね。

  勝負は一瞬ですね。)」

 

 

状況は不利となったオレンジペコは先ずはみほの撃破に集中する事にした――副隊長の梓も強敵であるのは間違いないが、其れでもみほと比べれば差があるし、自分が勝てない相手ではないのだからこの選択は悪手ではないだろう。

大学選抜戦の再現よろしく、パールホワイトのパンターが空砲を放ち、アイスブルーのパンターが其れを受けて急発進してチャーチルに向かい、正面ギリギリで急旋回の戦車ドリフトを行ってチャーチルの側面を取ろうとするが、オレンジペコはその動きに付いて行き、砲塔を回転させてパンターを追い、パンターが停止した所でターレットリングに主砲をブチかます――如何にパンターが優秀な戦車であったとしても、弱いターレットリングを狙われたら堪ったモノではなく……

 

 

『大洗女子学園、パンターG型行動不能。』

 

 

アイスブルーのパンターは白旗判定なってしまうが、パンターはもう一輌居る事を忘れてはならない!アイスブルーのパンターが白旗判定になった瞬間にパールホワイトのパンターはチャーチルに突撃して主砲を無防備な回転砲塔の後面に向けると、必殺の超長砲身75mmを叩き込む!

如何に防御力に優れるチャーチルであっても、弱点である後面に近距離から75mm砲弾をブチかまされたら堪ったモノではない……

 

 

『聖グロリアーナ、チャーチル行動不能!

 大洗女子学園残存車輌一、聖グロリアーナ残存車輌ゼロ――大洗女子学園の勝利です!』

 

 

その結果、チャーチルは撃破判定となり大洗女子学園の勝利となった。

 

 

「ふぅ……結構追い詰められたかな?見事だったよペコさん。」

 

「西住隊長に此処まで食い下がるとは思わなかったよペコ――凄いじゃん?」

 

 

だがその直後で、オレンジペコも観客も驚く展開が待っていた――アイスブルのパンターから梓が、パールホワイトのパンターからみほが降りて来ただから。

 

 

「みほ様!?梓さん!?――此れは一体?」

 

「私のチームと西住隊長のチームを丸ッと入れ替えたんだよペコ――隊長車であるアイスブルーのパンターを撃破させる事で生じる隙を確実に突く為にね。」

 

「バレるかもしれなかったけど、結果的には巧く行ったね。」

 

 

何とみほと梓は市街地に向かう前に丸ッと戦車を入れ替えていたのだ――そして、オレンジペコはまんまと其れに乗せられたのだ……アイスブルーのパンターを撃破した事で生じる隙を作り出されて居たのだ。

 

 

「みほ様……まさか、最後の最後でこんなトリックがあったとは、完敗ですね。」

 

「そうだね……だけど、此の試合は楽しむ事が出来た――何よりも、ペコさんの成長を見る事が出来たからね。――それに、うちの新人達にとってもいい経験だったからね。

 結果は私達の勝ちだったけど、ペコさんも強くなったでしょ?」

 

「はい、其れは実感しました……全国大会で当たったその時は今度は勝たせて頂きますよみほさん。」

 

「ふ、其れは楽しみにしてるよ。」

 

 

結果は大洗の勝ちだったが、みほを追い詰めたオレンジペコの名も世に知らしめる事が出来ただろう――もっと言うのであれば、隻腕の軍神のみほと此処まで戦う事が出来たのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

練習試合は勝つ事が出来たけど、ペコさんが予想以上に成長してて少し驚いたよ――今のペコさんは間違いなくダージリンさんを超えてるって言って過言じゃないね。

此れは、今年の全国大会は中々面白い事になるかもだよ。

ふふ、今年の大会は去年以上に荒れるのは間違いないね…・・・・荒れれば荒れるだけ面白いから、とことんまで荒れると良いよ。――荒れに荒れた方が見てる側としても興奮するからね。

 

練習試合が終わったばかりだけど、もう全国大会を考えてる私が居る――結局は、私も戦車に魅せられてもうやめられなくなったって事なんだろうね多分。

 

でもって、練習試合後は此れまで以上のトレーニングを行って、フィジカル面を大幅に強化してあげた――此れなら、何時試合に出ても問題ないからね。

そして、怒涛の日々が過ぎて――遂に全国大会の抽選の日がやって来た。……果たして一回戦の相手はどこなのか?楽しみだよ!

最後の高校戦車道、悔いを残さないように戦う……全力でね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer206『抽選会と午後のAfterTimeです』

戦車クレープに干し芋クレープ、みつだんごに転輪焼き……大洗はスウィーツも豊富だね?Byみほ        唐揚げに串カツ、そしてガルパンとスナックも結構あるわByエリカ       生シラス丼、味のタタキ丼にマグロほげほげ丼と海鮮も捨てられませんBy小梅


Side:みほ

 

 

第六十四回戦車道高校生大会の組み合わせ抽選会当日――今年の出場校は、無限軌道杯の時から更に一校増えた三十二校!此れまで『暗黙のルール』とやらで出場を見合わせて来た学校が、大洗が全国制覇した事で出て来た此の大会は、此れまでの全国大会とは規模も質もマッタク異なるモノになるのは間違いないよ。

その抽選会場に、今年は戦車隊全員が参加してる……去年は最低限の人数で参加したけど、全国大会と無限軌道杯を制覇した大洗が隊員全員を連れて来ないって言うのは締まらないからね。

 

「それにしても、なんでたかが組み合わせ抽選会で両国国技館を貸し切るかなぁ?」

 

「日本武道館は、既に高野連が甲子園の抽選会場で抑えていますから仕方ありませんよ西住殿。」

 

 

 

そう言う事じゃなくで、抽選会だけなら何処かの市民体育館でも良かったんじゃないかって事だよ優花里さん。……国技館には茨城出身の横綱である稀勢の里関の優勝写真があるから良いけどね。

日馬富士の特攻による怪我が無かったら絶対に最強横綱になってただろうと思うと、日馬富士許すまじ。アレは絶対に故意の一撃だしね。

 

まぁ、其れは其れとして、私達が会場入りしたら俄かに会場がざわめいてるね?

 

 

 

「来たわよ、あれが大洗女子学園……!」

 

「先頭に居る制服の左袖を風になびかせているのが隊長の西住みほ……隻腕の軍神の風格がハンパないわマジで――並の戦車乗りだったらあの覇気に押し潰されてるでしょうね。」

 

「西住みほもヤバいけど、副隊長の澤梓だって充分にヤバいって。……軍神にはまだ及ばないけど、その潜在能力は未だ開き切ってな感じ――潜在能力が解放されたら軍神を超えるかもだ。」

 

「逸見エリカと赤星小梅もヤバいっしょ?軍神の片腕たる孤高の銀狼と、軍神の懐刀の慧眼の隼……脅威でしかないわ。」

 

「つか、あの赤毛のツインテールって無限軌道杯の時、ベルウォールを指揮してなかったけか?……まさか、あの試合で軍神に惹かれて大洗に転校したって言うのか!?

 敵校の戦力まで奪い取るとは、隻腕の軍神恐るべし。」

 

 

 

……なんか、言いたい放題言われてるなぁ?

エリカさんと小梅さんと梓ちゃんは兎も角、エミちゃんはそうじゃないから。私が奪い取った訳じゃないからね?――まぁ、突っ込み所はあるけど、大洗が注目されてるって言うのは嬉しいかな?

だったら、その注目には応えるだけ――誰が相手でも、勝ってみせるよ大洗はね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer206

『抽選会と午後のAfterTimeです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、全ての出場校が揃ったので、各校の隊長は壇上に上がって組み合わせを決めるくじ引きにだね――相撲の本場所の時に、土俵がある場所に抽選の舞台が作られてるのは意外だったけど。

ところで理子さん、最近調子はどう?

 

 

 

「ん~~、すこぶる快調よみほ。

 機甲科の新入生は、エスカレーターも外部受験組も中々粒揃いで鍛え甲斐もあるし、近坂先輩が時々指導に来てくれるしね……まぁ、近坂先輩が一部の新入生から熱烈なラブコールを受けてるのはアレだけどな。」

 

「あぁ……近坂先輩って只美人ってだけじゃなく、所謂『イケメン女子』だから、其れも致し方ないかも。やろうと思えば宝塚の男役とかバリバリ行けるんじゃないかと思うよ。」

 

「マジでな。

 まぁ、そんな感じで黒森峰は絶好調ってとこだけど、大洗は如何なのよ?聞いた噂じゃ、聖グロとの練習試合でティーガーⅠとⅣ号F2を使ったって。

 使用戦車増やしたの?」

 

 

 

ん~~~……其れについてはノーコメントだけど、聖グロとの練習試合で其の二種類を使用したのは間違いないよ?だけど、使用戦車が増えたとして、ティーガーⅠとⅣ号F2以外にどんな戦車が増えたかは秘密♪

試合で初めて知る方がワクワクするでしょ?

 

 

 

「其れはまぁ同意するけど……貴女の言うワクワクって、やられる方からしたらドキドキハラハラなんだけどね――って言うか、味方でもドキドキハラハラする事があるってのに、その気分を敵として味わうとかマジで恐怖だから。

 最悪の場合、今年の大会では大洗との試合が決定した瞬間に棄権する学校が出てもオカシクないんじゃないかと、ガチで思ってんだわ私。」

 

 

 

理子さん、其れは流石に言い過ぎじゃない?

確かに私の戦車道は、戦車道の常識なんて『超天元突破グレンラガン』の大きさと同じ距離(推定千五百億光年)まで蹴り飛ばしてるかも知れないけど、相手の戦意を喪失させる程のモノじゃないと思うんだけどなぁ?

其れに、基本搦め手上等とは言え、正統な戦車道だってやる訳だし、其れに私の搦め手が潤沢に使えるのって市街地な訳だから、市街地以外の場所だったら其処まで脅威じゃないでしょ?

 

 

 

「林に潜んでる敵の待ち伏せ部隊を炙り出す為に林を吹き飛ばす、岩場では砲撃で岩山崩して落石攻撃、茂みが多い場所だったら戦車を茂みに偽装して待ち伏せ撃破、一見搦め手が使えそうにない見晴らしの良い荒野に、何時の間にか設置されてた落とし穴etc…etc……」

 

「……えへ♪」

 

「笑って誤魔化すなっての……普通ならトラウマモンで、戦車道を止めちゃう奴が出て来そうな事だってのに、そうならないのはみほの戦車道には何かを感じるからなんだろうなぁ。

 戦った奴じゃないと分からない何かが――かく言う私も隊員として全国大会、隊長として無限軌道杯でみほと戦って、何かを得たからね……其れが何なのかって聞かれるとちょっと答えに困るんだけどさ。

 だけどまぁ、よくよく考えたら、大洗と戦う事になったから棄権する様な軟な連中だったらそもそもこの場所に来てないか……寧ろ、大洗と戦えるとなったら狂喜乱舞するクレイジーな連中だけよね此処に居るのは。」

 

「だね。」

 

そして、理子さんもそのクレイジーな連中の一人だから。

今年の全国大会出場校は、去年の二倍になってるから去年の出場校――特にベスト8はバラけてくれると面白い感じかな?……逆に去年の出場校が一回戦から潰し合う展開になっても其れは其れで面白いんだけどね。

でも、此れまでの抽選を見てると、聖グロ、サンダース、プラウダは良い感じにバラけてくれてるから、去年の出場校の潰し合いになるって言う展開はなさそうかな?

其れでも全部ばらけるって事はないだろうから、何校かは一回戦から鉢合わせになるんだろうけどね。

 

 

 

『続いて、大洗女子学園。』

 

 

 

ってな事を考えてる内に私の番が来たね……さて、私達の初戦の相手は既に抽選を終えた学校か、其れとも此れから抽選を行う学校なのか――ドロー!

私が引いたのは……

 

 

 

『大洗女子学園、一番です。』

 

 

 

一番!大会の開幕戦を飾る試合……此れはある意味で最高の順番を引き当てたね?――其れに、二番は既に決まってたからね。今年の大洗の初戦の相手は――

 

 

 

「西住隊長、初戦から戦う事が出来るとは光栄であります!胸を借りるつもりで、ドドンと行かせて頂きます!」

 

「胸を借りるつもりだなんて言わないで、私を必殺の突撃で倒す心算で来てほしいな西さん……私の首を掻っ切って見せてよ。」

 

西さん率いる知波単学園。

無限軌道杯では三回戦でエミちゃん率いるベルウォールと熱戦を展開した勢いのあるチームだね……実際に西さんが知波単の意識改革を行った結果、知波単は好機を的確に判断してからの突撃の波状攻撃で一気に相手をねじ伏せるチームになってるからね。

勿論其れは殲滅戦では使えない戦術だけど、フラッグ戦が基準の高校戦車道の大会では充分に強力な戦術だよ――突撃でフラッグ車だけを狙ってしまえば、波状攻撃でフラッグ車を撃破出来る確率は高いからね。

しかも直近の練習試合の成績は五連勝中だって言うから楽しみだよ……『突撃のヴァルキリー』の実力、見せて貰うよ西さん。

 

 

 

「突撃のヴァルキリーでありますか?」

 

「今、私が考えただけど如何かな?結構イケてると思うんだけど。」

 

「西住隊長考案でありますか?なれば、その二つ名は有り難く頂戴させて頂きます!隻腕の軍神の西住隊長から頂いた二つ名とは……西絹代、此の二つ名を知波単の隊長の称号に致します!!」

 

 

 

あはは……思った以上に好感触だったね。って言うか知波単の隊長の称号って相当だね?まぁ、西さんが其れで良いって言うのなら私がとやかく言う事はないけど、問題は知波単がどう判断するかだろうね。

さてと、そんなこんなで抽選会は続いて、全ての組み合わせが決定。

理子さん率いる黒森峰は八番だから、当たるのは三回戦だね……出来れば決勝戦で戦いたかったけど、此ればっかりは運次第だからどうしようもないから仕方ないか。

となると、決勝戦の相手はプラウダが筆頭で次点がサンダース、大穴で継続とアンツィオ、そして無限軌道杯から参加した学校か――今年の全国大会から参戦して来た学校は二回戦で黒森峰と当たるから除外ね。

 

で、一回戦の組み合わせ抽選会が終わったら、今度は選手宣誓を行う選手を決める抽選――希望する選手が挙手して、挙手した選手がクジ引きをして『当たり』を引いた選手が宣誓を行う事になるシステムだね。

因みに、今年から選手宣誓は二人制になるとの事だったから、当たりは二つになる訳か。

希望したのは、私の他に黒森峰の理子さん、サンダースのアリサさん、アンツィオのペパロニさん、聖グロのペコさん、知波単の西さんの六人――そして抽選をして、全員一斉に引いたクジをオープン!

その結果は……当たりは私と――

 

 

 

「アタシが当たりか!」

 

 

 

ペパロニさんだね。

 

 

 

『選手宣誓は、大洗女子学園の西住みほ隊長とアンツィオ高校のペパロニ隊長に決まりました。』

 

 

 

去年の全国大会に続いて今年も選手宣誓をゲット!しかも初の二人制の相方はペパロニさん!――此れは去年以上にインパクトのある選手宣誓をペパロニさんと考えないとだね!

……そう、私達の選手宣誓だけで会場を呑み込むレベルのモノをね。

 

 

 

「みほと一緒に選手宣誓か……いいねぇ!最高の奴をブチかましてやろうじゃねぇか!」

 

「勿論、その心算だよペパロニさん♪」

 

インパクト抜群の選手宣誓をしようね!

……インパクトって言う事を考えたら、黒のカリスマにアドバイスを――貰わない方が良いかな今回は。あの人にアドバイスを貰えば確かにインパクトがある物が出来上がるかも知れないけど、放送事故レベルの文言が飛び出しかねないからね。

流石に選手宣誓のラストで『ガッデーム!』とか言ったら、盛大にお叱りを受けるだろうから……千代小母様は笑ってそうだけど。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

そんな訳で全国大会の抽選会が終わって、私とエリカさんと小梅さんとエミちゃんと梓ちゃんは、戦車喫茶『ルクレール』で午後のブレイクタイムだね。

全員で来れたら良かったんだけど、流石に大洗の戦車隊全員で押し寄せたらルクレールが満杯になっちゃうから、人数を絞る事になった訳で……こっちに来れなかったメンバーは、華さん率いる『新生徒会』による東京観光をしてるんだろうね。

 

 

 

「だろうな。」

 

「だろうね……で、何で麻子さんは此処に居るのかな?てっきり東京観光の方に行ったと思ってたんだけど?」

 

「気にするな西住さん……東京観光をするよりも、こっちに来た方が面白そうだと思っただけだ――其れと、こっちに来れば沙織の彼是に突っ込む事も無いだろう?

 偶には沙織への突っ込みを五十鈴さんに全部押し付けても罰は当たらない筈だ。

 それと、私もルクレールのケーキが食べたかった。」

 

 

 

麻子さんケーキ好きだもんね。

皆、注文は決まったかな?呼び出しベル押しても良い?

 

 

 

「良いわよ、もう決まったし。」

 

「私も大丈夫です。」

 

「私も良いわ。」

 

「バッチリ決まりました。」

 

「私も決まったぞ。」

 

 

 

其れじゃあポチッとね……今更だけど、呼び出しベルの音が戦車砲を発射した時の音って大分個性的だよね?音量は調節してあるとは言え、知らない人が聞いたら何事かと思うだろうね。

で、私達の注文はと言うと……

 

 

 

私:カフェラテとイチゴのタルト

エリカさん:エスプレッソとベーグドチーズケーキ

小梅さん:ルクレールオリジナルブレンドコーヒー通称戦車コーヒーとモンブラン

エミちゃん:ミルクティーとガトーショコラ

梓ちゃん:抹茶ラテと黒糖きな粉シフォンケーキ

麻子さん:MAXカフェオレとマウスケーキ

 

 

 

……麻子さん大分攻めたね此れ?

マウスケーキって、メニューに『ホールケーキ約二個分』って書いてあったのに其れを頼むとは……沙織さんだったら『カロリーがー!』とか言って卒倒しちゃうかもだよ。

大丈夫?食べきれる?

 

 

 

「此れ位ならばマッタク問題ない。

 中学校の時の話になるが、沙織が誕生祝にケーキを焼いてくれたんだが、店で売っているケーキの倍はあるホールケーキを殆ど私一人で平らげた事があるからな。

 五十鈴さんの様になんでもと言う訳ではないが、ケーキを始めとした甘い物限定で、私は底なしになるらしい……そして、ドレだけ食べても太らないから、時折沙織に理不尽な文句を言われる事がある。」

 

「あ~~~……でも、其れはちょっとだけ沙織の気持ちが分からないでもないわ。」

 

「甘い物限定のやせの大食いとか、確かに羨ましいわよね……沙織はちょっとぽっちゃり系だし。」

 

「エミちゃん、其れ絶対に本人に言っちゃダメだからね?」

 

沙織さんは体質的に太り易いんだろうなぁ……そして痩せにくい上に筋肉も付き辛い。

西住流フィジカルトレーニングを熟せるようになってるんだから身体能力は間違いなく上がってるけど筋肉量はそこまで増えてないのかな?脂肪よりも筋肉の方が多くなれば『燃える身体』になるから体型はスリムになる筈なんだけどなぁ――まぁ、筋肉増えると身体がシャープになるけど、逆に体重は増えるんだけどね。

 

 

 

「あり、お前等もここに来てたのかみほ。」

 

「奇遇ですね、西住隊長と大洗の皆さん。」

 

 

 

っと、この声はペパロニさんとカルパッチョさん!二人も此処に立ち寄ったんだ?

 

 

 

「折角東京に来たんだから、抽選が終わってハイ終了ってのも味気ないからな。

 つっても、アタシとしては両国に来たんだからちゃんこ鍋の店に入りたかったんだけど、カルパッチョに『其れは女子高生が二人で入る店じゃない』って言われちまってなぁ?

 ちゃんこ鍋から新しいメニューのアイディアが浮かぶんじゃないかと思ってただけに残念だった。」

 

「確かにちゃんこ鍋は美味しそうですが、断じて女子高生が二人で入る店じゃありませんよペパロニさん……其れに、此処で新しいスウィーツのメニューを考えても良いじゃないですか。」

 

「……其れもそうだな。」

 

「でしょう?……時に西住隊長、たかちゃんは元気ですか?」

 

「へ?たかちゃんって……カエサル――鈴木貴子さんかな?

 元気ですよ。カバチームのリーダーとして頑張ってるから。」

 

「あれ?たかちゃんは装填士だった気が……」

 

 

 

戦車道では装填士だけど、カバチーム……と言うか歴女チームのリーダーはカエサルさんだよ。――否、カエサルさんが中心人物で、リーダーはエルヴィンさんの方が正確かな?

……取り敢えず元気にやってるから安心して!

 

 

 

「なら良かったです……うふふ、元気なら今度デートに誘って、それから……」

 

「あの、カルパッチョさん?」

 

「あ~~~、気にすんなみほ。

 カルパッチョは、普段は落ち着いてて頼りになるんだけど、『たかちゃん』が絡むと途端にポンコツになっちまうんだ……こうなったら最後、アタシがチョップかましても戻って来ねぇからな。」

 

「なんと!」

 

大抵の調子の悪い物を……其れこそ戦車のエンジンの調子ですら直しちゃう、ペパロニさんの『斜め四十五度の空手チョップ』が通じないとは、たかちゃん妄想に入ったカルパッチョさん恐るべし!恋する乙女は正に無敵って事だね!

 

 

 

「しかしまぁ、エリカと小梅、其れからそっちの赤毛ツインテール……中須賀エミだっけか?みほからLINEで聞いたんだけど、みほと付き合ってるんだってな?

 マッタク持って羨ましいモンだなぁ……」

 

「羨ましいって、なんでよ?」

 

「何でって、そんなもんアタシもみほが好きだからに決まってんだろぉ!」

 

 

 

あるぇ?なんか話が変な方向に進んでる気が……って言うかペパロニさん私の事好きだったの!?全然気付かなったけど、何時からなの!?

 

 

 

「んなモン、初めて会った時からに決まってんだろ!

 左腕が無いのをモノともしないで、しかも『私は、私が在籍中にこの学校を、全国中学校戦車道の大会で優勝させる為に来たんだよ。』って幾ら何でもカッコ良すぎるだろ!

 ぶっちゃけあの一言でハートブレイクされてたんだけど、みほの覇道を邪魔しねぇようにと思っててさぁ……そうしてる内に中学卒業しちまって、何時の間にかみほには三人も恋人が出来てた訳だからなぁ?アタシの入り込む隙間、もうねぇだろ?」

 

「いや、あるわ。」

 

「ありますね。」

 

「そうね、あるわね。」

 

 

 

そしてエリカさん、小梅さん、エミちゃん、あるって何が!?

 

 

 

「ペパロニ、アンタは今でもみほの事は好きなの?」

 

「好きに決まってんだろぉ!今年の選手宣誓をみほと一緒にやれると知った時のアタシの喜びがどれ程か、お前に分かるかエリカ!大好きなみほと一緒に選手宣誓が出来る……此れだけでもアタシは満足だっての!」

 

「甘いですよペパロニさん!それで満足しては駄目です!更なる満足をです!

 ペパロニさんの思いが本物だと言うのは良く分かりました……なので、私達は貴女を『軍神ハーレム』に迎え入れたいと思います!」

 

 

 

わぁ、エリカさんも小梅さんも何言ってるの?って言うか『軍神ハーレム』って……否、若干否定できない部分があるのは認めるよ?現状で三人も彼女が居る状態だから。

でも、だからと言って……

 

 

 

「へ?良いのか……だったら、義理は通さねぇとな。

 みほ、中学時代の頃からお前の事が好きだった!アタシは馬鹿だし、色々ガサツな所もあるけど、アタシと付き合ってくれないか?」

 

 

 

あはは……まさかの告白キタコレ。

だけど、自分の思いを打ち明けてくれたペパロニさんには真摯に応えないとだよね……私もペパロニさんの事は好きだし、中学時代には随分助けて貰ったし、大学選抜戦の時にも助けられたし、何よりも中学時代は一緒に居て楽しかったしね。――私で良ければお願いします。

 

 

 

「いぃよっしゃーーー!!!六年越しで叶ったぜ、アタシの恋!!」

 

「其れは良かったな。其れを祝してもう一つマウスケーキを頼むか。さっきはチョコレートで頼んだから、今度はモンブランで。」

 

「麻子さん、其れ自分が食べたいだけだよね?」

 

「まぁ、便乗したのは否定しない。」

 

 

 

ぶれないね麻子さんは……マッタク持って予想外にペパロニさんとも恋人関係になったか――此れは何て言うか、戦車道をやるとモテモテになるって言うのは嘘じゃないのかも知れないね?……但し同性限定だけど。

梓ちゃんも、既にあゆみちゃんって言う恋人が居るけど、最低でもあと一人増える可能性があるからその心算で居た方が良いよ?

 

 

 

「へ?もう一人って誰ですか?」

 

「黒森峰のツェスカちゃん。」

 

ライバル心が高じて恋心に発展するとか戦車道では珍しくないからね……って言うか、間違いなくツェスカちゃんは梓ちゃんに恋愛感情があるよ?只のライバルってだけで、日本国籍取ってまで黒森峰に残留するとは思えないからね。

 

 

 

「ツェスカが……でも、私にはあゆみが居るし……」

 

「悩める梓ちゃんにこの言葉を送るよ……『たった一人しか愛してはいけないと、一体誰が決めた?』ってね。」

 

「!!……西住隊長、私は今天啓を得ました!」

 

 

 

其れは良かったよ。

さて、注文の品も来たし、午後のブレイクタイムを――

 

 

 

「気紛れに寄ってみたが、よもや天下の大洗女子学園と、一度波に乗ると恐るべき強さを発揮するアンツィオが仲良く談笑中とはな……ドレだけの猛者かと思ったが、如何やら大した事は無さそうだな?」

 

 

 

楽しもうと思った矢先に割り込んで来たのは、黒い制服に身を包んだ長い銀髪で左目に眼帯をした女の子……チンクか其れともラウラかって感じだけど、何方様かな?

 

 

 

「そうだな、名乗っておこう。

 我が名はゼロ!ゼロを超える者はゼロでしかない……故に私を超える者は私以外には有り得ない――そして、大洗女子学園が三回戦で当たる私立インフィニティストライカーズ学園の戦車隊の隊長だ。」

 

 

 

なんかもう色々と突っ込み所が満載なんだけど……三回戦で私達と当たるって事は二回戦で黒森峰と当たるって事だよ?――前人未到の十連覇を成し遂げた黒森峰に勝てると思ってるのかな?

 

 

 

「黒森峰の十連覇は貴様が居たからこその事――事実貴様が抜けた黒森峰は十一連覇を逃し、無限軌道杯でも優勝は出来なかった。

 地に落ちた名門など恐れるに足らぬわ。」

 

「なら、その認識は甘いと言わざるを得ないね。」

 

去年の黒森峰が十一連覇を逃したのは隊長がお姉ちゃんだったから……誰よりもお姉ちゃんの事を知ってる私が大洗の隊長だったから勝つ事が出来たんだよ。

そして、無限軌道杯も理子さんは私と互角以上に渡り合って見せた――其れを見ても、黒森峰を地に落ちた名門と言うのなら、見る目がないね。

貴女では理子さんには勝てないよ……絶対にね。

 

 

 

「ふ、ならば見ているが良い……我等が落ちた名門を粉砕する、その様をな!!」

 

 

 

言いたい事だけ言って出て行っちゃったよ……って言うか、店に入ったのならせめてテイクアウトでも何か注文するのが礼儀だと思うんだけど、私達に因縁をつける事が目的だったみたいだから、そんな事は考えてないんだろうね。

だけど、あの態度はムカつくなぁ?……あんな奴に黒森峰が負けるとは思わないけど、勝負に絶対はないから、万が一にも黒森峰が負けた時は、私達大洗女子学園が連中を撃滅するよ。

新参校は大歓迎だけど、礼節がなってない学校は願い下げだからね!

万が一にも黒森峰を下して三回戦まで駒を進めてきたその時には、戦車道の真髄をその身に叩き込んであげるから覚悟しておくんだね――嘗ての母校を馬鹿にされて黙ってられる程、私は人間で来てないからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer207『開幕!第64回戦車道全国大会です』

遂に始まったね……!Byみほ        見せてやろうじゃない大洗の戦車道を!Byエリカ       此れが私達の戦車道!ですねBy小梅


Side:みほ

 

 

あふ……もう朝か。

此処は大洗の学園艦の寮じゃなくて、アンツィオの学園艦の寮のペパロニさんの部屋――どんな選手宣誓にしようか意見をすり合わせてる内に良い時間になっちゃったからそのまま泊ったんだっけか。

まぁ、深夜までペパロニさんとの『打ち合わせ』(意味深)は続いたんだけどね。

 

 

 

「ん、んあ~~……良く寝たぁ。」

 

「おはよう、ペパロニさん。」

 

「おう、おはようさんみほ……なはは、盛大にやっちまったみたいだなアタシ等?……此れ、逸見と赤星と中須賀に殺されたりしないよなアタシ?死ぬのは嫌だぜ?」

 

「其れは大丈夫だと思うよ?」

 

エリカさんも小梅さんもエミちゃんも、ペパロニさんが参戦するのを駄目だと言わなかったどころか、むしろどうぞだったからね……って言うか、ダメだったらそもそも私はここに来てないよペパロニさん。

 

 

 

「言われてみりゃ其れもそうだな……取り敢えず朝飯にするか?

 つっても大したモンないから、パニーニにトマトとパンチェッタ(イタリアの生ベーコン)チーズ挟んだサンドイッチでかまわねぇか?其れから、インスタントのスープで。」

 

「うん、充分だよ。」

 

「ワリィな、何時もだったら食材もっとあるんだけど、昨日の夜で結構使っちまったからさ。ご利用は計画的にだったなマジで。」

 

「何か昔そんなCMあったよね?」

 

「サラ金のCMだよな!」

 

「……否定出来ないけど、言い方。」

 

「間違ってね―ならいーだろ別に♪」

 

 

 

ペパロニさんの此のノリは中学の頃から全然変わってない所か、高校生になって更にパワーアップしてるような?……此れは、間違いなくアンツィオに進学したのが影響してるだろうね。

ノリと勢いが売りのアンツィオに於いてはペパロニさんみたいな人はチームの中心人物になるだろうし、そうなれば結果を出そうと更にガンガン行く様になって元々の『イケイケキャラ』が更に強烈になるのは想像に難くないからね――でも、そうなってもペパロニさんは暑苦しい感じはしないのが不思議だよ。……アンツィオに入る前からこんなだったからかも知れないね。

まぁ、其れは其れとして、ペパロニさんとの最高の選手宣誓は出来たから、後は此れを開会式でブチかますだけだね――私とペパロニさんのタッグで満天下の度肝を抜いてあげるよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer207

『開幕!第64回戦車道全国大会です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてやって来ました第六十四回戦車道高校生大会の開会式!

出場校三十二校が戦車で会場入りする様は圧巻の一言だね?特に黒森峰は、重戦車が多いから迫力がハンパない……って言うか、開会式にマウス持って来るってのは大盤振る舞い過ぎじゃないかな理子さん。

 

 

 

「いや、アレは一種の心理戦じゃないかしら?

 開会式の時点で敢えて最大の戦力を見せておく事で相手の戦意を喪失させるのが狙いなのかも知れないわ……そう、プロレスラーが試合前に東京都の分厚い電話帳を破いてみせたり、満員のバス五台を引き摺ってファンを驚かせるように、ね。」

 

「エリカさん、其れは少し深読みし過ぎではないでしょうか?」

 

「理子さんは確かに優秀な戦車乗りだけど、其処まで深くは考えてないと思うよ?精々、『開会式はマウスも出して派手に行っとくか』位だと思うな。」

 

「……言われてみれば其れもそうね。深読みし過ぎたわ、忘れて頂戴。」

 

「って言われても、自信満々に語るエリカさんをバッチリ動画に撮っちゃったんだけど……Twitterにアップしちゃダメかな?」

 

「ダメに決まってんでしょうが!って言うかなに撮ってるのよ貴女!

 消しなさい!今すぐその動画を消しなさい!消さないって言うのならスマホごとボクササイズで鍛えたこの拳の『ゴッドハンドクラッシャー』で粉砕!玉砕!!大喝采!!!するわよ!」

 

 

 

わー、エリカさんの背後に『パンチのラッシュが必殺技で時を止めるのが切り札』なスタンドが見えた気がする。……『オラオラ』か『無駄無駄』かは分からなかったけど。

序に、オベリスクとドレッド・ルートとラビエルは、何で三幻神、三邪神、三幻魔の中で唯一攻撃方法が物理なんだろうね?ゴッドハンドクラッシャーもフィアーズノックダウンも天界蹂躙拳もパンチ……ブレスとかで吹き飛ばすよりも、殴り倒した方が絵面的に強そうだからかな?知らないけど。

……ん?

 

 

 

「…………」(ニヤリ)

 

 

 

アレは……あの眼帯は、抽選会日にルクレールで挑発して来た新参校の子――乗ってる戦車はブラックプリンス、中々良い戦車を持ってるみたいだね?……戦車が良くても乗り手が二流だったら宝の持ち腐れだけど。

バッチリと私に向かって中指立ててくれたから、私もサムズダウンでお返し……だけじゃなくエリカさんは首掻っ切り、小梅さんは裏ピース(イギリスではクタバレの意)、梓ちゃんは親指と人差し指で丸を作る所謂『OKサイン』(フランスではお前は無価値の意)――エリカさんは分かるとしても、小梅さんと梓ちゃんは分かり辛いかな?一般的じゃないからね。

因みに勝ち進めば二回戦で彼女と当たる事になる理子さんは特に何もせずに、ティーガーⅠのキューポラから上半身を出して腕組み……『貴様等眼中にない』と言わんばかりの堂々たる態度、立派に黒森峰の隊長さんだね。その姿を見たら、きっとお姉ちゃんは喜ぶだろうなぁ。

 

……よし、写真撮ってお姉ちゃんに送ろう。『黒森峰新隊長の勇士』ってね。

 

 

で、全校入場した後は、お決まりの国歌斉唱と日の丸の掲揚があって、去年の優勝校である大洗からの優勝旗の返還(流石に右腕一本じゃ持てなかったんんだけど、沙織さんがサポートしてくれた。)を行って、いよいよだね。

 

 

 

『選手宣誓。大洗女子学園隊長西住みほ、アンツィオ高校隊長ペパロニ。』

 

「「はい!」」

 

 

選手宣誓の時が来たよ!

名前を呼ばれた私とペパロニさんは返事をした後、前に出てから同じスピードでマイクの前まで歩いて行き、マイクの前まで来ると、軽く拳を合わせてから右腕を高らかに上げる。

 

 

「「宣誓!!」」

 

「我々戦車乙女一同は!」

 

「戦車道精神に則り、全ての試合で全力を尽くし!」

 

「持てる力の全てを……そう、必要ならば信号機落としや歩道橋クラッシュと言った使って!」

 

「落とし穴上等!マカロニ作戦最高!正攻法に限らない搦め手上等な戦術だって思い切り使って!!」

 

「「全力全壊で戦車道を行う事を誓います!!」」

 

 

決まったぁ!

大抵の選手宣誓では『正々堂々戦う事を誓います』って言うんだろうけど、私とペパロニさんが考えた選手宣誓にその文言はない――確かに野球やバスケットボールには明確なルールがあるから其れを違反するのは大問題だけど、戦車道はレギュレーションの所謂『四十五年ルール』さえ守ればあとは自由だから実はルールが可也緩いから、意外と試合は無法地帯なんだよね。

だからこそ正々堂々って言う文言は外して全力全壊だよ――戦車の性能で劣る学校は正面からのぶつかり合いを避けて搦め手を使う事になる訳だし、其れは大洗もだからね。

『搦め手は卑怯だ』って言う人もいるから正々堂々とは言わなかったけど、全力全壊なら問題ない――全力全壊は、持てる力の全てを注ぎ込んで戦うって言う意味だからね。

甲子園やインターハイではまず聞く事が出来ない選手宣誓は、如何だったかな?

 

 

 

「誰が相手でも全力を賭して戦う、其れが西住流の真髄!貴女は其れを分かっていますねみほ。」

 

「良い選手宣誓だったわよみほちゃん、ペパロニさん。持てる力の全てを使った全力全壊、其れが戦車道の醍醐味ですもの♪」

 

 

 

って、お母さんに千代小母様!?何で此処に――って、そう言えばお母さんは高校戦車道の、千代小母様は大学戦車道のお偉いさんだから開会式の会場に居てもオカシクナイか。

……いや、其れでも千代小母様が居るのは若干驚きだけど。

 

 

 

「私、みほちゃんのファンだから。」

 

 

 

わぁ、盛大にぶっちゃけた。そんでもってさらりと人の心を読まないで欲しいかな?……お母さんは実直で、千代小母様は自由人って言う感じだったけど、其れは間違いないみたいだね?

そして千代小母様の血は間違いなく美佳さんに継がれていると確信した――まぁ、お母さんと千代小母さんの一言があって、私とペパロニさんによる選手宣誓は満場の拍手に包まれから大成功だね。

 

 

 

「だな……お前と当たるのは決勝か。――必ず勝てよみほ。」

 

「其れはこっちのセリフだよペパロニさん……私と戦う為には四回勝たなきゃだからね?……新生アインツィオが何処まで来れるか楽しみにしてるから、失望だけはさせないでね?」

 

「へっ、失望だけはさせないぜ?」

 

 

 

ペパロニさんの自信に満ちた表情を見る限り、アンツィオは去年よりも可成り強くなったのかも知れないね……料理のデリバリーで得たお金を使えば戦力の底上げも出来た筈だからね。

そして、其れを指揮するのがペパロニさんだって言うのなら、決勝まで駒を進めるのは不可能じゃないよ……なら、先に決勝戦の椅子は大洗が貰うよ!

 

 

 

「そう来なくっちゃよ!決勝戦で当たったその時は……」

 

「手加減不要の全力全壊だね!!」

 

「あたぼーよ!」

 

 

 

今年の大会の決勝が大洗vsアンツィオになったその時は、連盟は保証宜しく……私とペパロニさんが本気で戦車道を戦ったら、ちょっとした市街地は更地になっちゃうからね。

まぁ、其れはあくまでももしもの事だから……今は一回戦に集中だよね。

突撃を切り札にしつつ、旧日本軍が得意としたゲリラ戦術も取り入れた知波単は楽な相手じゃないから、私も気を抜かずに全力で行かないとだね。

だけど負けないよ?

『隻腕の軍神』と、『突撃のヴァルキリー』……どっちが強いのか、勝負だよ西さん!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

開会式が終われば、いよいよ一回戦の第一試合の始まりだ。

去年の夏と冬を制した大洗と、隊長が代替わりした後に急激に力を増して来た知波単の組み合わせは、戦車道通ならばある意味で垂涎の試合であると言えるだろう。

其れを示すように観客席も超満員札止めの満員御礼状態で――

 

 

「アーイムチョーノ!大洗だけ見てればいいんだオラ!

 今年もやって来たぜこの季節が!パンツァークライマックス!戦車の頂点、決めてやろうじゃねぇか!!ガッデメラ、ファッキンガイズ!!」

 

 

当然居ますよねこの人も……本業のプロレスの興行にすら遅刻するってのに、なんで戦車道の応援は時間道理に来るんですかねぇ?謎ですねぇ?

大洗のイベントに参加する日じゃなくても来るのも大分謎だけど、其れだけ大洗愛が本物って事なんだろう。そう思っておくとしようマジで。

まぁ、今日も今日とて黒のカリスマ率いるnOsの皆さんは元気一杯みたいなので観客席は賑やかであるのだが、当然この人達だけではなく……

 

 

「やってやんな隊長さん!大洗の底力は、南極のニンゲンだって倒せる事を教えてやんな!南極のニンゲン見た事ないんだけどね。」

 

「知波単がなんぼのもんじゃい!大洗舐めんじゃねぇ!いてこますぞごるぁ!」

 

「大洗爆音連合大凶天中殺三代目総長ソドム美奈子、この命を掛けて大洗の勝利の為にエールを送らせて頂きます!」

 

 

どん底のメンバーを始めとした『大洗のヨハネスブルグ』の面々も来ている訳で、大洗の応援団は何だがヤンキー塗れの底辺校の応援団並のガラの悪さになっている。

nOsは中心メンバーがプロレスラーなので強面が多いのは仕方ないが、大洗のヨハネスブルグは何て言うか『アンタ本当にJKですか?』って言いたくなるのが居るのが何とも……ピアスや派手な染髪は未だしも、モヒカンとか口ピンってJKがやる事じゃないようん。

それからね、超ロングスカートで胸にサラシ撒いてその上に特服って一体何時の時代のスケ番なのかな其れは?何か色々間違てるから其れ。

もう完全なアウトロー集団になっている大洗の応援団を率いるのは勿論黒のカリスマ!――ではなく!!

 

 

「全力で行けよみほちゃん!優花里も気張って行け!

 オレの前でみっともねえ試合しやがったら只じゃおかねぇからな!フラッグ戦だが、知波単の戦車全部ぶっ倒す位の気概で行けや!!

 オラァ、正洋テメェレスラーだろ!もっとドスの利いた声で応援しねぇか!」

 

「ガッデーム!!」

 

 

秋山理髪店の美人奥様である好子さん……普段は温厚で優しいママさんなのに、どうにも戦車道となると昔の血が騒いで『大洗の荒熊』と恐れられていた頃の性格に戻ってしまうらしい。

て言うか、立場は黒のカリスマより上ですか、そうですか……どうしてこうなった。

因みに誤解なきように言っておくと、普通の大洗の応援に来ていた方々は、此のアウトロー集団とは離れた場所で飲み物やスナック片手に普通に応援しているのでご安心ください。

 

 

 

 

「いやはや、大洗の応援団は凄いでありますね西住隊長?」

 

「うんまぁ、何時もの事だから♪」

 

 

ところ変わって此方は試合会場。――普通、試合会場から観客席は見えないのだが、姿は見えずとも声は聞こえる位に大洗アウトロー応援団の声量があると言う事なのだろう……どんな大声だよ其れ。

そしてそんな事態でも、割と対応が普通なみほと絹代がある意味で凄いね……戦車乙女は滅多な事では驚かないと言う事なのだろう。

 

 

「其れよりも西さん、此の試合楽しませてよ?突撃だけじゃなくなった知波単の底力、私が吟味してあげるから。」

 

「其れは光栄でありますなぁ?ならば我々は、大洗に勝つ事で其れに応えましょう。」

 

 

試合前の挨拶なのだが、既にみほと絹代の闘気はMAX!ドラゴンボール的な表現ならば、互いに高めた気がぶつかり合って火花放電が起きてると言った所だろう。

其れでもしっかりと試合前の握手をしたあたり、戦車乙女の礼は欠かさないと言う事なのだろう……『道』と付いている以上、礼節は疎かにしてはならないのだ。

 

 

「其れでは、此れより大洗女子学園対知波単学園の試合を始める!お互いに、礼!」

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

 

そして審判長、蝶野亜美の号令で試合開始!

出は先ず、試合前に両校のオーダーを見て行く事にしよう。

 

 

・大洗女子学園

 

パンターG型×2(パールホワイトカラーリングはフラッグ車)

ティーガーⅠ×1

ティーガーⅡ×1

チャーフィー軽戦車×1

Ⅲ号突撃砲G型×1

コメット巡航戦車×1

ヘッツァー駆逐戦車×1

Ⅳ号戦車F2×2

 

 

 

・知波単学園

 

九七式中戦車57mm砲搭載型×3(一輌は隊長車兼フラッグ車)

九七式中戦車(新砲塔)×4

九五式軽戦車×3

 

 

 

日本戦車で統一された知波単に対し、大洗が国際色豊かなのは何時もの事だ――と言うか、使用戦車が此処まで多種多様な学校など大洗以外には存在してないだろう。

戦車の車種だけでなく、国籍も違うとなれば整備面での負担がハンパなモノではないのだから……其れを毎度毎度完璧に整備しちゃう大洗の整備班ってマジで如何なってるんですかね?現役のスズキを除く、元大洗自動車部の面々の整備の腕前は『蟹みたいな髪型のイケメン決闘者』、『幼馴染が鋼の錬金術師な機械鎧技師』、『初めて見た新型ガンダムの整備もお手の物なオヤッさん』に匹敵しているのかも知れない。

まぁ、其れは其れとして一見すると大洗のオーダーは攻守速のバランスが取れているように見えるが、実はかなり大胆なオーダーだ。

と言うのも、フラッグ車はみほのパンターではなく梓のパンターなのだ――此れまでフラッグ戦では、一貫してみほ率いるあんこうチームがフラッグ車を務めていたのだが、今回は初めて梓率いるウサギチームにその役目を任せたのだ。

此れはみほが梓の事を信頼しているからこその事だが、其れ以上に驚くべき事は、ヘッツァーとⅣ号F2を投入して来た事だろう――ヘッツァーもⅣ号F2も、搭乗員は今年から戦車道を始めた子がいる戦車なのだから。

勿論、明光大付属出身者を始めとした経験者と組ませているが、マダマダ素人の域を出ていない選手を試合に出すと言うのは大胆と言えるだろう。

如何に先の聖グロとの練習試合で経験を積ませたと言ってもだ。

 

だが、そう思うのは所詮は凡人の考えと言うモノなのだろう……みほは真の天才であり、その思惑は到底凡人たる我々には理解できる筈が無いのだから。

とは言え、此の大胆なオーダーは対戦相手である知波単には結構な効果はあっただろう――大胆極まりないオーダーと言うのは、対戦相手にしてみれば、如何転ぶか分からない博打でしかないのだから。

もしも失敗してくれたら自分達が勝つが、うまくギアが噛み合ったその時は自分達が負ける……正にデッド・オア・アライブ!生きるか死ぬか!勝つか負けるか!天国か地獄か!高町なのはか篠ノ之束か……最後はどっちも地獄だな。

 

 

「此の大胆なオーダー……燃えてまいりました西住隊長!」

 

 

だが、隊長の絹代は如何やら大洗のオーダーに闘気が燃え上がったらしく、やる気元気がメガマックス!元気って変換しようとすると筆頭返還で元姫って変換するのはなんでだ?

取り敢えず、怯まなかった以上、知波単が簡単に負ける事はないだろう。

 

 

で、此の試合のフィールドだが、平坦な草原の所々に小規模の雑木林が点在するフィールドになっている……大洗からしたら真骨頂である搦め手が使い辛いが、知波単からしたら新たな戦術のゲリラ戦がやり易いフィールドである為、地の利は知波単にあると言えるだろう。

……尤も、そんな事はみほも分かり切っているので、何か対策はしているだろうが。

 

 

「其れじゃあ行くよ!Panzer Vor!!(戦車前進!!)」

 

「「「「「「「「「Jawohl!!(了解!!)」」」」」」」」」

 

 

 

「全軍出撃!」

 

「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」

 

 

 

そんな訳で試合が始まった訳だが、知波単は部隊を分散させて小規模な雑木林に潜ませて早速ゲリラ戦の用意だ……機を見ての突撃が新生知波単の必殺技ではあるが、此のゲリラ戦もまた新生知波単の必殺技なのだ。

実際に、去年の無限軌道杯ではゲリラ戦で相手の戦力を減らした上で、機を見ての突撃で勝利を収めていたのだ――今やゲリラ戦は、突撃と同じ位に、或いは突撃以上に知波単に必要な戦術になっているのだ。……まぁ、何処から襲って来るか分からないゲリラ戦と言うのは、相手にするとガチで厄介だからね。

 

其れに対し、大洗は部隊を分散させる事はせずに、隊長車を先頭に『鶴翼の陣形』で進軍して行く――鶴翼の陣形は両脇の守りが厚くなるので、中央にフラッグ車を配置すればゲリラ戦を仕掛けられたとしてもフラッグ車が行き成り撃破される事はない。

みほらしくない堅実な一手だが、其れは逆に言えばみほもまた知波単のゲリラ戦が厄介だと思っている証だ……みほが警戒するって、絹代のゲリラ戦術はドンだけなのか。

知波単の改革を本気で考えていた絹代の実力は、実は相当なモノだったと言う事なのだろう。

 

 

「(雑木林の前まで来たけど……さて、如何来るか?)」

 

 

ゲリラ戦を予想していたみほは、知波単の部隊が潜んでいるだろう雑木林の前まで来ていた――しかも此処は両脇を雑木林に挟まれている危険極まりない場所だ。

もしも両翼の雑木林からゲリラ戦を仕掛けられたら、如何に左右からの攻めに強い鶴翼の陣形であっても総崩れになる可能性はゼロではないにも拘らず此処に来たのはみほから絹代へのメッセージなのだろう。

『私達をゲリラ戦で倒せるのならばやってみろ』……大体そんな所だと思う――戦車乙女は礼節は重んじる反面、試合中の挑発に関しては一切の手加減はしない。……そうじゃなかったら、エリカが『歩く毒舌マシーン』になる筈が無いのだから。

 

そして、其れに応えるように両脇から攻撃が開始された!知波単の新たな必殺技のゲリラ戦が始まったのだ!

並の戦車乗りならば此れに驚いて、ビビッて戦意を大きく削られてしまうだろうが……隻腕の軍師であるみほ――否、みほだけでなく戦車道の常識ってモンが一切通じない大洗の面々が戦意を削られる事などない!

 

 

「やっぱり来たねゲリラ戦……各員散開!知波単に的を絞らせるな!」

 

「少し凶暴なだけの犬風情が虎に挑むとは愚かな……キングタイガーの異名を持つティーガーⅡと、大戦期最強の重戦車と名高いティーガーⅠに喧嘩を売った事、後悔させるわよ中須賀!」

 

「気が合うわね逸見……アタシも同じ事を思ってたわ!」

 

「慧眼の隼、その二つ名の由来を教えて差し上げます。」

 

 

知波単の奇襲を受けた大洗は戦意を削られるどころか、寧ろ戦意が燃え上がってバーニングソウル!実に美味しそうなレアステーキが焼けそうなほどの火加減だ。――因みに作者はステーキはレアが好みなのだが、読者諸君はどんな焼き方が好みなのだろうか?ちょっと教えて欲しい。

 

 

「今回のフラッグ車は私達兎チーム……なら、絶対に撃破される訳には行かない!全力で行くよ!!」

 

 

――轟!!

 

 

「此れは、西住隊長の軍神招来!!…遂に梓も其処に至ったんだね!!――宿した英霊は……エミヤって、あるぇ?」

 

 

でもって、此処で梓が覚醒し、みほの軍神招来を会得するに至ったが、宿した英霊は何か色々と突っ込み所があったみたいだ……何だってアーチャー宿しちゃったのさ。

まぁ、其れは其れとして、ゲリラ戦を仕掛けて来た知波単に対し、大洗は部隊を散開する事で応戦した事で、いきなり派手な戦車戦が展開される事になったが、此れは未だジャブの応酬に過ぎない。

だが、今年の大会は一回戦の第一試合から燃える展開になったのは間違い無いだろう。

 

 

「頑張れみほ、貴女がナンバーワンよ!」

 

 

……その試合を見ながら、西住流家元は、どこぞの戦闘民族の王子みたいな事を言っていた。――まぁ、みほがナンバーワンだってのは否定しないけどな。

だからこそ、そのナンバーワンに絹代が何処まで喰らい付けるのかが楽しみなのだ此の試合は。

どうなるのか楽しみだが、先ずはじっくりと試合を楽しむとしよう――隻腕の軍神と突撃のヴァルキリーの激突は、まだ始まったばかりなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer208『隻腕の軍神vs突撃の戦乙女です』

……………!Byみほ        ……………!!Byエリカ       みほさんもエリカさんも、怖いから無言で闘気高めないで下さいBy小梅


Side:みほ

 

 

開始直後のゲリラ戦……此れは予想の範疇だったから問題なく対応出来るけど、この試合のフィールドの特徴を考えたら地の利は知波単に有利と言うのは否定出来ないね――ゲリラ戦を展開できる場所が多いからね。

突撃だけじゃなく、突撃を最大に活かすためにゲリラ戦を磨いたって言うのは正直に評価できる事だよ西さん――此れまでの石頭の知波単の隊長だったら、きっと思いつく事すらなかっただろうからね。

……と言うか、旧日本軍ロールプレイな学校なのに、此れまでゲリラ戦を誰もやった事が無いって言うのは如何なんだろう?突撃よりも、寧ろ森林地帯のゲリラ戦こそ旧日本軍の得意技だったって言うのにね。

 

 

 

「大戦末期の神風特攻のイメージではないかと思うのですが、如何でしょうか西住隊長?」

 

「梓ちゃん、其れ絶対に真似しちゃダメなヤツだと思う。……ニュードリュアやボマー・ドラゴンでの自爆特攻は有効な戦術だし、命懸けじゃないゲームだからOKだけど。」

 

それにしても、この短期間で会得したにも関わらず、知波単のゲリラ戦はレベルが高いね?

此方をある程度攻撃したら雑木林に隠れて移動し、此方の背後や横っ腹からまた仕掛けてくる……大洗の被弾率の低さは全国でもトップクラスだから撃破されずに済んでるけど、此れが並の学校だったらとっくに何輌か撃破されてるだろうね。

或いは知波単の所有戦車がスペックの低い日本戦車じゃなくて、シャーマンクラスの性能のある戦車だったとしたら……待ち伏せに最適なⅢ突やヤークトパンターがあったらと考えるとちょっと恐ろしい気がする。

 

 

 

「やってくれるじゃないの西の奴……このゲリラ戦、可成りのレベルよ?

 アイツ、なんで知波単なんかに行った訳?正直、大学選抜戦の後から本格的に改革に乗り出したにしても、この短期間で此処までレベルアップさせるとかハンパないわ……推薦枠でもっと良い学校有ったんじゃないの!?」

 

「知波単の学園長に泣き落としされた可能性があるんじゃない?西ってそう言うのに弱そうだし。」

 

 

 

う~~ん、其れは若干否定できないかもしれないかなエミちゃん。

でも、西さんが知波単に行ってくれたおかげで楽しい試合が出来る訳だから、結果オーライ――とは言え、此のままゲリラ戦を続けさせたら試合の流れを持っていかれるかも知れないから、この辺で一手打たせてもらうよ。

エリカさん、久々にお願いするよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer208

『隻腕の軍神vs突撃の戦乙女です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

試合の序盤は知波単がゲリラ戦を仕掛ける事で流れを引き寄せようとしていた――撃破こそされていないモノの、ゲリラ戦に対して散開して対処した大洗は、知波単のゲリラ戦のレベルの高さに少しばかり苦戦を強いられていたのだ。

此のままでは流れは完全に知波単に持っていかれてしまうだろう。

 

 

「エリカさん、大学選抜戦以来だけどお願いできるかな?」

 

「了解よみほ。久々に腕が鳴るわ!」

 

 

此処でみほはエリカに何かを『お願い』したのだが、一体何をお願いしたのだろうか?大学選抜戦以来となると可成り久々になる訳なのだが……

 

 

「ふぅん……結構やるじゃないの知波単――ついこの間まで突撃しか能のなかった三流学校とは思えないわ。このゲリラ戦、見事と言ってあげるわ。

 だけどねぇ、ゲリラ戦ってのは格下が格上を倒す為の戦術とも言えるのよね?……つまり、アンタ達はゲリラ戦を行う事で自ら『自分達は大洗よりも下だ』って認めてるって事分かってる?」

 

 

其れはこの挑発だった……確かに随分久しぶりだ此れ。最近はリミッター解除による狂犬化が多かったからね。

いやはや、久しぶりに発動した挑発だけど、あの冷静なダージリンをブチ切れさせただけあって言葉だけじゃなくて態度もムカつく事この上ないわマジで……右の口角だけ少し上げて、腕を組み、見下した様な目で見る――うわぁ、普通に殴りてぇわ。

 

 

「弱虫毛虫挟んで捨てろとはよく言ったモノだわ。

 あ、弱虫だったら突撃なんて出来ないか……実力で劣る突撃馬鹿が正しかったわね、間違えて悪かったわ、謝るわ、メンゴメンゴ、ゴメンネー。」

 

 

でもって煽る煽る。マッタク謝罪の気持ちが入ってない謝罪の言葉がマジでムカつくってもんだろう……其れこそ、露骨な挑発と分かっててもムカつくのを抑えるのは土台無理ってもんだ。

そして、そんな露骨な挑発を受けた知波単が黙っていられる筈もなく……

 

 

「逸見ーー!そこを動くな!!」

 

「キングタイガーぶっ殺す!!」

 

 

雑木林から飛び出して来た!

飛び出して来た全員が額に青筋を浮かべている辺り、完全にブチ切れているのだろう……エリカの挑発恐るべし!何処ぞの世界の青髪の生徒会長と組んだら恐るべき挑発部隊が出来上がる事だろう。――と、副管理人のネタをぶっこんでみる。ピクやハーメルンの住人には若干分からんかもしれないがな。

 

 

「動くなと言われて動かない馬鹿が居る訳ないでしょ?其れと殺せるもんなら殺してみなさいよ?

 この漆黒のティーガーⅡは結構な魔改造がされてるから、そんじょそこ等の戦車じゃ……其れこそ低スペックな日本戦車程度は相手にならないわよ冗談抜きで。

 でも、私はアンタラと真面に遣り合うつもりはないから、ここは行かせてもらうわ!アディオース!」

 

「便乗してアタシも離脱するわ。アバヨ、とっつぁーん!」

 

 

っと、此処でエリカとエミがこの場から離脱し、ゲリラ戦を行っていた知波単の部隊は其れを追って行ってしまった……去り際に、エリカはハンカチを振っていたが、エミも何処から取り出したのか手持ちの旗を振っていたのが、知波単を余計にムカつかせたのだろう。

 

 

「……自分で言っといてなんだけど、挑発中のエリカさんは味方ながらに殴りたくなる時があると思わない小梅さん?」

 

「殴りたくなるそのドヤ顔って所でしょうか?――まぁ、エリカさんはボクササイズで鍛えているのでそうそう殴る事は出来ないと思いますけれど。

 其れで、ここから如何するんですかみほさん?」

 

「私と梓ちゃん以外は二輌一組になって散開して索敵して。

 知波単の部隊とエンカウントしたその時は、無理に撃破せずにその場から離脱して――ただし、フラッグ車とエンカウントした時には他のチームに通信を入れてフラッグ車を狙う様に。

 フラッグ戦はフラッグ車を倒せばそこで終わりだからね。」

 

「フラッグ車を見つけたその時は、倒してしまっても良いと言う事ですねみほさん?」

 

「うん、其の通りだよ小梅さん。」

 

 

でもって、このエリカの挑発もまたみほの作戦だったのだから驚きだ――エミが参加したのは独断のアドリブだったのだが、結果として知波単のゲリラ部隊を全て引き出して本隊から遠ざける事に成功したのだから良い働きだっただろう。

にしても、若干違うが、小梅のセリフはアーチャーのアレのオマージュだ……汎用性高いなあのセリフはマジで。

 

でもって、みほの命令を受けた大洗の面々は、即座にツーマンセルの組み合わせを作って散開し、索敵行動を開始!……小梅率いるチャーフィーとエルヴィン率いるⅢ突のコンビが若干恐ろしい感じだ。

 

 

「其れじゃあ梓ちゃん、準備しようか?」

 

「そうですね。此れはきっと、西さんには効果抜群だと思いますので。」

 

 

ツーマンセルの組み合わせが散開したのを見届けたみほと梓は何かやるらしい……何をやるのかは分からないが、この軍神師弟がやる事が普通である筈がない。

寧ろこの二人が戦車道の常識に則った事をしたら、雨や雪を通り越して戦車砲弾が降り注ぐってもんよ!

天性の才能で次々と突拍子もない戦術を生み出すみほと、其れをマニュアル化してしまった梓……いやもう本気で、コイツ等色々ヤッベーわ。

ぶっちゃけ、みほ以上に実は梓の方がヤバい……みほの才能によるところが大きかった明光大付属中の戦車道をマニュアル化しちまったんだから。

みほが『直観の天才』ならば、梓は『理論の天才』なのかも知れない――最高の直感と最高の理論は同じ結果に到達すると言われるが、みほと梓はまさにそんな感じなのだろう。――って言うかそうじゃなかったらみほの戦術をマニュアル化する事とか出来ねぇし!

 

まぁ、何にしても軍神師弟が仕掛ける一手がこの試合の切り札になるのは間違い無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ゲリラ戦で先手はとったが撃破数は0……矢張り、そう簡単には勝たせて頂けませんか西住隊長)」

 

 

先手を取ったにも関わらず大洗の戦車を撃破出来ていないと言う報告を受けた此の状況、先代までの知波単の隊長ならば、痺れを切らして突撃命令下して自滅していただろう。

だが、現隊長の絹代は至って冷静だった――相手は自分よりも格上なだけでなく、無限軌道杯で自分を下したエミまで新隊員として加えているのだから元より自分の思い通りに試合が展開するとは思ってないのだ。

 

 

「(しかし、逸見殿の挑発に乗ってゲリラ戦が出来る場所から離れてしまうとは何たる愚策……突撃癖は何とか直す事が出来たが、もっと我慢の精神を身に付けさせる必要がありそうだな此れは。

  それはさておき、さて如何したモノか……逸見殿と中須賀殿以外の大洗の面々の動きが分からない――斥候を出して戦況を確認すべきか?)」

 

 

エリカの挑発に乗ってしまった部隊に少々頭を痛めつつ、此処から如何するかを考える……兎に角みほ率いる大洗は、何処で何を仕出かしてくれるか全く分からない上、最近は副隊長の梓もみほに匹敵するレベルになっているため、次の一手は徹底的に吟味して打たねばならないのだ――軍神師弟、マジで恐るべし。

 

 

『西隊長、此方細見。

 現在雑木林に潜伏中なのだが、大洗の戦車を発見。アレは……Ⅳ号F2が二輌だな。』

 

『此方玉田、大洗の戦車を発見。ヘッツァーとコメットだ。』

 

 

そんな中、細見と玉田から大洗の戦車を発見したとの通信が入った――場所は違えど、どちらも発見した戦車は二輌の様だ。

 

 

「(二輌?……もしや西住隊長は、二輌一組に部隊を細分化している?……となれば、其の二輌を的確に潰していけば此方が有利になるが――否、そう簡単に行く相手ではない。

  寧ろ部隊を細分化しているのならば、フラッグ車の護衛も少なくなっている筈だから、フラッグ車が現れた所にゲリラ戦を仕掛けて足止めをし、その間に部隊を集結させてからの突撃で仕留めるのが上策!)

 此方に気付いて居ないのならばそのまま無視しろ。だが、フラッグ車が現れたその時は、其れを報告した上でゲリラ戦を行いその場に足止めをするように。その間に他の部隊を呼び寄せて一気にケリを付ける!」

 

『『了解!!』』

 

 

其処から大洗がどんな作戦を取ったのか予想した絹代は、細見と玉田に指示を飛ばすと、自身もまた雑木林に身を潜めてフラッグ車が目の前に現れるのを待つ。

無限軌道杯でベルウォールにやられた『待ち』を形を変えて今度は絹代が使う……有効と思った戦術は取り敢えず取り入れてみると言う柔軟さと言うのも絹代の武器なのだろう。――まぁ、そうじゃなかったら突撃馬鹿の知波単の改革なんぞ出来なかっただろうけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ゲリラ戦部隊の一つを盛大に挑発したエリカと、其れに便乗したエミのコンビはと言うと……

 

 

「ハッハー!如何したの?此れだけやっても掠り傷一つ付けられない訳?

 所詮は貧弱な旧日本軍が使ってた骨董品じゃ、最強の重戦車であるティーガーⅠとティーガーⅡには掠り傷一つ付ける事も出来ないみたいね?

 まぁ、旧日本軍が使ってた戦車なんて、戦闘力五程度の雑魚だから仕方ないけどぉ?

 あ、怒った?怒っちゃった?短期は損気よ、カルシウム足りてないんじゃない?牛乳飲みなさい……って、そんな上等な物がある訳ないか。だったら煮干し食っとけ煮干し。」

 

「逸見、流石に牛乳くらいはあるでしょ?」

 

「甘いわよエミ、戦時中の日本において牛乳は貴重品だから、全部軍に回されて国民の口に入る事はなかったのよ――乳製品であるヨーグルトやチーズなんかもね。」

 

「だったら尚の事、旧日本軍ロールプレイの知波単には牛乳があるんじゃない?」

 

「知波単みたいな経済的に苦しい学校が、学園艦の住人を賄う事が出来るだけの牛乳を確保出来る乳牛を飼育出来ると思う?」

 

「あ~~……其れは無理だわ。極貧流、哀れ。」

 

 

バッチリと挑発してました。

エリカの挑発にエミが突っ込みを入れながらも、其れにエリカが反論し、エミが其れに納得すると言う手の込んだ漫才的な挑発をして煽りまくっているのだからマジでムカつく事この上ない。本気で殴りたいわ。

勿論挑発された知波単の部隊は果敢に攻撃を仕掛けるも、火力が低い日本戦車では最強クラスの性能を誇るティーガーⅠとティーガーⅡの装甲を抜く事は出来ない……そして、其れが更に知波単の部隊をイラつかせるのだ。

 

 

「さて、そろそろね……行くわよエミ!」

 

「そうね……やるわよ逸見!」

 

 

だが此処で煽りまくっていたエリカとエミが戦車を反転させて知波単の部隊に向かって突撃していった――其れは完全なカウンターであり、知波単の部隊は対応する事が出来なかった。

まぁ、散々自分達を煽りながらも攻撃してこなかった相手が突如攻勢に出たとなったら、虚を突かれて対応が遅れるのは当然なのだから。

 

 

 

――ドゴン!!

 

――パシュン!!

 

 

 

『知波単学園、九五式二輌、行動不能!』

 

 

 

ティーガーⅠとティーガーⅡの88mmが炸裂し、知波単は二輌の九五式が白旗判定となり、先ずは大洗が先手の撃破を成し遂げた――如何に勇敢な犬狼でも、猛虎の爪牙には成す術がなかったようだ。

だが……

 

 

「みほ達と合流するわよ!……って、動かない?」

 

「此れは、履帯をやられた!!」

 

 

知波単の部隊はタダではやられず、撃破される直前に放った砲撃で、ティーガーⅠとティーガーⅡの履帯を切る事に成功していた――白旗判定にはならなかったが、この二輌の履帯を切ったと言うのは大きいだろう。

ティーガーⅠもティーガーⅡも、その大きさから履帯も可成りの重さがあるので修理には時間が掛かるから、一時的とは言え大洗最強の火力封じが出来たのだから。

 

 

「転んでも只では起きないか……そう来なくちゃ面白くないわ!エミ、速攻で履帯を直してみほ達と合流するわよ!」

 

「言われるまでもないわ逸見……アタシ達を手負いの虎にした事を後悔させてやるわ!」

 

 

だが、其れを喰らった『ドイツ系クォーターガチンココンビ』は獰猛な笑みを浮かべながら履帯の修理に取り掛かっていた……いや、美人が怒ると怖いって言うけど、正にその通りだわ。

獰猛な笑みを浮かべたエリカとエミの口元には若干『牙』みたいな物が見えた気がしたが、其れは多分気のせいだろう。……気のせいだと思いたい。

何にしても最強の虎と虎の王が再び行動出来るようになったら、知波単の部隊は只では済まないだろう――虎は、己に牙を向けた相手を絶対に許さないのだから。

 

 

「「その首洗って待ってろ西絹代――!!」」

 

 

銀髪と赤毛、のドイツ系クォーターガチンココンビは知波単の隊長である絹代を次のターゲットに決め、其の闘気を高めて行ったのだった……どうにもドイツの血が入ると、喧嘩っ早くなるみたいだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:絹代

 

 

九五式を二輌失ったのは痛手だが、ただ撃破されただけでなく、逸見殿と中須賀殿の戦車の履帯を切る事が出来たのならば上出来だ――ドイツ戦車は攻撃力と防御力は信頼出来るが、足回りが不安要素だからな。

一時的ではあるが、大洗の最大の火力を封じる事が出来たのは大きい――なれば、この好機を逃さずに大洗のフラッグ車を叩かねば!!

 

 

『此方玉田!コメットとヘッツァーに、フラッグ車の白いパンターが合流した!』

 

『此方細見、Ⅳ号F2二輌にフラッグ車が合流したぞ。』

 

 

そう思った矢先に入って来たのは玉田と細見からの通信なのだが、何方にもフラッグ車が合流したとは一体如何言う事だ?――フラッグ車は試合ごとに一輌と定められているのだから、二輌のフラッグ車が存在する事はない。と言うかそんな事になったらフラッグ戦の在り方が問われてしまうだろうからな。

 

と言う事は何方かはフラッグ車に偽装した西住殿の青いパンターか!

だが、どうやってそれを見極めるか……キューポラから身体を出してくれれば一目瞭然なのだが、其れでは偽装の意味がなくなるから、其れは期待出来ないだろう。

よもや、こんな偽装工作を行ってくるとは思いませんでしたが、同時に西住隊長の底の知れなさを実感させて頂きました――ならば、私も全力を尽くして応えるのみ!

何方が本当のフラッグ車かは分かりませんが、面倒なので両方撃破する事にします――それが巧く行けば、私達の勝利に一歩近付けるのだから。

西住隊長、貴女の策、力ずくで突破させて頂きます!!

 

真なる知波単魂、其れを存分に味わって貰いますよ西住隊長――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

此れが今回の私達の切り札――『フラッグ車の偽装』だけど、果たして西さんは何方が本物か見極める事が出来るかな?……まぁ、見極めた所で如何にか出来るモノじゃないんだけどね此れは。

当たったら当たったで、梓ちゃんに倒されるし、外れたらその時は私に倒される――どっちに転んだ所で倒される一択なんだからね。

 

 

 

「どっちに転んでも敗北しかない二択を用意するとは中々に鬼畜だな西住さん?」

 

「鬼畜だなんて酷いな麻子さん……私は最高に楽しんで勝つ事が出来る作戦を実行してるだけだよ?――まぁ、逆に言うなら、楽しむ事が出来ればどんな戦術も迷わずに選択するけどね。」

 

「……訂正しよう、西住さんは鬼畜じゃなくて外道だな。いい意味でだが。」

 

 

 

麻子さん、良い意味での外道って如何言う事?若干分からないんだけど……麻子さんは天才タイプだから、天才独特の表現ってやつなのかもしれないね。

だけど何にしても、この策を超えて私達を倒せるかな西さん?――突撃のヴァルキリーの真髄を、見せて貰うよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer209『次代の軍神vs突撃のヴァルキリーです』

……来たぁ!!By梓        覚醒したね梓ちゃん!Byみほ       推奨BGMは『運命の日~魂vs魂~』ね!Byエリカ


Side:梓

 

 

西住隊長と一緒に考えたフラッグ車の偽装工作作戦……これ自体はきっと巧く行くって信じてる――こう言ったら失礼だけど、知波単の人達は良くも悪くも真っすぐだから、こう言った偽装工作には騙されやすいし、何方が本物かで悩む筈だから。

それでも西さんだったら、動物的な勘でどっちを追うのか決めると思うけど、本物のフラッグ車に当たる確率は半分……つまり、西住隊長と戦う確率も半分。

そして言ったらなんだけど、西住隊長が西さんと戦った場合の勝率は100%だから、西さんの勘による選択は結構ギャンブルかも。

 

 

 

「西隊長じゃ西住隊長には勝てないって事?」

 

「あゆみ、逆に聞くけど西住隊長に勝てる人ってドレだけ居ると思う?」

 

「……そう言われると、いねーわ。

 黒森峰の隊長だったまほお姉ちゃんを倒した上に、大学選抜までぶっ倒した西住隊長に勝てる人なんて世界中を探したってザラに居ないっしょ?」

 

「うん、早々居ないと思うよ。」

 

恐らく唯一対抗出来るのは逸見先輩だと思う……中学二年から続く西住隊長の不敗伝説の中で、唯一の引き分けが、中三の時の大会の決勝戦での逸見先輩だったから。

 

 

 

「こうしてみると西住隊長、マジハンパねぇ~~……まぁ、西さんが西住隊長の方に行っちゃったら略試合終了だけど、こっちに来たらどうするの?」

 

「如何するって、其れは勿論倒すに決まってるよ。

 ……って言うか、私達が撃破されたら、フラッグ車に選んでくれた西住隊長の顔に泥を塗る事になるから絶対に負ける事なんて出来ないしね!!」

 

それと、もっと自分勝手な事を言わせて貰うなら、私が西さんを倒してこの試合を決めたい。

西住隊長の弟子である私だけど、何時までも師匠の陰に隠れている事は出来ないし、来年は私が隊長になるんだから、少しは存在感を示したいって言うのもあるから。

と言うか、私の事を『軍神の弟子』としか見てない人達に、『澤梓』って言う戦車乗りを確りと刻み付けてやりたいって気持ちもあるしね。

西住隊長の一番弟子である事は私の誇りだけれど、だけど其れだけじゃないって言う事を、この試合で証明して見せる、絶対に!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer209

『次代の軍神vs突撃のヴァルキリーです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

エリカの挑発と、其れに便乗したエミの挑発波状攻撃、『挑発伝説』を受けた知波単のゲリラ部隊は倒されたモノの、エリカのティーガーⅡとエミのティーガーⅠの履帯を切って一時的に行動不能にする功績を上げた。

高性能な重戦車であるティーガーⅠとティーガーⅡだが、重戦車故に履帯は重く、一度切られると修理するのは可成りの重労働なのだ……それでも旧レオポンチームだったら瞬く間に直してしまうのかも知れないが。

両チームとも一進一退の攻防の中、先にフラッグ車を発見したのは知波単だったのだが、何と此処で大洗にフラッグ車が分裂!

此れには絹代も驚かされたが、『どちらが本物か分からないのであれば両方倒せば良い!』と考えて隊員に指示を出し、自身は玉田が発見した方のフラッグ車へとやって来ていた。

 

 

「フラッグ車の護衛はⅣ号F2が二輌……うぅむ、此れだけ見ると此方は偽物の可能性が高い――西住隊長がフラッグ車の護衛に強力な戦車を使うとは思えんからな。

 寧ろ、強力な戦力は敵フラッグ車に向かわせるだろう。」

 

 

だが、フラッグ車の護衛がⅣ号F2二輌と言うのが絹代に『こっちは外れだったか?』と思わせていた。

Ⅳ号F2は優秀な中戦車ではあるが、だからと言って特別強力と言う訳ではない……ドイツ戦車の性能で言えば、Ⅲ号J型にモッサリと毛が生えた位の性能と言うのが正直なところなのだが、其れをフラッグ車の護衛にしていると言うのがいかにも『みほらしさ』を感じさせたのだ。

みほの戦車道は、戦車道のセオリーなんて物は全く通じない――なので、フラッグ戦ではフラッグ車の護衛には攻守力が高い戦車を付けるのが普通なのだが、みほならば強力な戦車を護衛に回すよりも、敵フラッグ車を狩るために回すだろうと絹代は考えたのだ。

 

 

「細見、そちらのフラッグ車の護衛は?」

 

『此方のフラッグ車の護衛はヘッツァーとコメットよ隊長。』

 

「ヘッツァーとコメット……うぅむ、ますます分からん!」

 

 

其れを確実な物とする為に、もう一輌のフラッグ車を発見した細見に護衛の戦車の種類を聞くが、その回答はヘッツァーとコメットだった……ヘッツァーは低い車体と強力な主砲が持ち味の戦車だが、以前の乗組員は全員が三年生だったため、今は今年入った新人達が乗っているから練度は低く、新カモチームのコメットも、搭乗員の半分が新人である事を考えると、決して強力な護衛とは言えないだろう……故に絹代は余計に迷う事になった。

さて、なんで知波単が大洗の戦車事情を知ってるのか気になったかも知れないが、絹代は試合前に大洗に偵察を出して情報収集を行っていたのである――其れは知波単らしくないって?

そう思うだろうが、旧日本軍の斥候の能力は高く、結構敵国の重要機密なんかを持ち帰ってたらしいのよ――だけど、其れを活かす事が出来なくて日本は戦争に負けたのさ……尤も、資金が潤沢にあればそれを十全に活かして日本は大国アメリカを下してたかも知れない。

要するに、日本は戦争に負けたんじゃなくて貧乏に負けたのさ!……おのれ貧乏神め、滅殺してくれるわ!

 

……っと脱線したが、絹代は大洗の現状を知っているからこそ更に迷う結果になったのだ。

護衛だけでは何方が本物かを判別する事が出来ないのだから……だからと言って、このまま何方が本物かで悩んでいる訳にも行かない――なので絹代は、此処で決断した。

 

 

「玉田、細見、撃破する必要は無いから一発だけ当てろ!それで、何方が本物のフラッグ車か分かるはずだ!」

 

 

絹代の決断は、『撃破しなくていいからとにかく一発当てろ』と言うモノ。

撃破できなくとも一発当てれば、偽物のフラッグ車は表面のパールホワイトが剥がれて、中からアイスブルーが姿を現すだろうと考えたのだ……確かに、此れは悪い手ではない。

撃破は出来なくとも、何方が本物のフラッグ車なのかが分かれば、偽のフラッグ車の方に居る部隊にはそちらの足止めをさせ、残存戦力の全てを本物のフラッグ車に向かわせる事が出来るのだから。

 

 

「了解!」

 

『了解!!』

 

 

その命を受けた玉田と細見は、主砲を発射!

物陰からの不意打ちの一発は、如何に隻腕の軍神と軍神を継ぐ者であるとは言え回避は不能だ……全く予期してなかった攻撃を避けろってのが大分無茶振りだからね。

 

 

 

――カキーン!!

 

 

 

でもって、その攻撃は見事にヒットしたのだが、パンター自慢の傾斜装甲に弾かれてしまいダメージは0!

だが、ダメージは0でも……

 

 

 

――カラーン

 

 

 

細見が攻撃した方のパンターからは何かが剥がれ落ちた……其れは、白く塗られた厚さ2mmほどの鉄板――そして其れが剥がれ落ちた所からはアイスブルーの装甲が!

細見が発見したフラッグ車ブラフだったと言う事だ。

みほは、自身のパンターを厚さ2mmのパールホワイトカラーリングが施された鉄板で覆っていたのだ。

其れで覆うのは結構な重労働に思うだろうが、梓と共にこの作戦を考えた直後に、みほは大洗の板金加工会社に依頼して、『ワンタッチで着脱出来る外装』を特注していたのだ。

ワンタッチとは言え、大きな鉄板だから楽ではないのだが、其処はウサギチームとの共同作業で即終わらせる事が出来た。

此れが段ボールとかでの偽装だったら速攻でばれたかも知れないが、装甲と同じ金属で作られた鎧装であった上に、2mm程度の厚みの増加は、試合中は分かり辛いので、完全に偽フラッグ車になれたのだ。

 

 

『此方は偽物です!』

 

「なんと!……と言う事は……!」

 

「そうですよ西さん……こっちが本物のフラッグ車です!」

 

 

何方が本物のフラッグ車かが判明すると同時に、梓はキューポラの蓋を開けて上半身を出す――だけじゃなく、キューポラの縁に右足を乗っけて腕組をして登場!

尚、普通ならスカートの中が見えそうだが、其処は絶対領域の暗黒空間なので絶対に見えぬぁい!乙女のスカートは鉄壁のガード力を誇るので、走行中の戦車の上であっても、風になびく事はあっても翻る事だけは絶対に無いのだ!

 

 

「澤、梓殿……!」

 

「貴女の相手は西住隊長じゃなくて私です……フラッグ車同士の戦車戦、楽しみましょう!」

 

「いやはやそう来ましたか……ですが、其れは私も望むところですので、存分に楽しみましょう!――軍神を継ぐ者と言われている澤殿の力、存分に見せて頂きます!」

 

「其れじゃあ、ゲップが出るほどご馳走してあげますよ。」

 

 

でもって、梓と絹代は戦車戦を開始!

数の上では三対三と互角だが、戦車の性能では大洗に分があるが、知波単にはゲリラ戦と突撃があるから油断は出来ない――実際に今も、ヒット&アウェイで、ちょくちょくとダメージを与えているのだから。

だからと言って、其れが決定打にはならないだろう。……日本戦車がドイツ戦車を倒すには、可成り接近しての一撃を最も装甲の薄い場所に当てない限り、ほぼ不可能なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、細見によって偽フラッグ車である事を暴かれたみほはと言うと……

 

 

「滅殺……!」

 

「つ、強い……此れが隻腕の軍神……!」

 

 

細見達の部隊を全滅させてた……流石に無傷とは行かず、まだ経験の浅い新カメチームと新人が新たに加わったカモチームは撃破されてしまったモノの此れで残存車輌数は大洗が八なのに対して知波単は四と大分有利になっただろう。

尤も、フラッグ戦はフラッグ車を撃破した方の勝ちであり、残存車輌数はあまり関係ない事は、去年大洗が証明しているが。

何にしても細見の部隊を壊滅させたのならば、梓の加勢に行けるだろう。

 

 

「さて、私が倒す分は倒したから、此処からは梓ちゃんがキッチリと決着を付けてね。」

 

 

だが、みほは敢えて其れをせずに、あくまでも梓に決着を付けさせる心算で居るらしい……此れもまた、来年を見越しての事なのだろう。

みほは当然、自分の後任に梓を指名する心算だが、隊長になれば大会でフラッグ車を担当する機会は多くなり、必然的にフラッグ車同士の戦いも多くなってくるから、今年の内にその経験を積ませようと言う事なのだろう。

 

 

「みぽりん、私達は梓ちゃんの方に行かないの?」

 

「ギリギリまでは、ね。

 師匠としては、弟子がどうやって西さんを攻略するのかを見たい所だし、次期隊長のお披露目って言うのもやっておきたい気分なんだよ沙織さん。」

 

「其れは何となく分かるが、澤は大丈夫なのか西住さん?」

 

「麻子さん、梓ちゃんの師匠は私だよ?」

 

「……物凄く説得力があるな其れは。」

 

 

ホント、謎の説得力がありますねぇ此れは。

梓の師匠はみほ、其れだけで何かもう色々と納得しちゃう部分があるわ……この試合の会場が市街地だったら、梓は師匠譲りのトンでも攻撃を連発してるだろうからね。

 

 

「『軍神を継ぐ者』と『突撃のヴァルキリー』……話題性は十分だね。」

 

 

みほは不敵な笑みを浮かべてそう呟くと、キューポラから出て砲塔に腰掛けて空を仰ぎ見ると右腕を高く掲げて拳を握る……其れはまるで、勝利した時のガッツポーズの様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、梓と絹代の方はと言うと……

 

 

「く、F2が二輌とも……!」

 

「護衛は倒した!これより本丸を狙うぞ!」

 

「了解!!」

 

 

フラッグ車の護衛に就いていたⅣ号F2が二輌とも撃破され、フラッグ車単体の状況に梓は追い込まれていた……『このまま戦っても不利だ』と感じた絹代は、まず護衛であるⅣ号F2を処理する事にしたのだ。

もしもパンターの護衛に就いていたのがチャーフィーとⅢ突だったらこうはならなかったかも知れないが、矢張り新人だらけのⅣ号F2では経験の差が出てしまい、僅かな隙を突かれて撃破されてしまったのだ。

そんな訳で、状況は一対四と可成り不利なのだが、だからと言って梓に焦りはなかった。

確かに今の状況は不利極まりないだろうが、みほと共に考えたフラッグ車の偽装作戦が発動したその時から既に『バレた時の仕込み』は済んでいるのだから。

Ⅳ号F2が撃破された事に苦い表情を浮かべたのだって勿論演技だ……こう言う細かい小技も、確りとみほから盗んでるんだから大したモンだわマジでね。

 

 

「覚悟めされよ梓殿!いざ、突撃!!」

 

「突撃……今、突撃って言いましたね?」

 

 

此処で絹代は試合を決めるべく知波単必殺の突撃を敢行するが、『突撃』の命令を聞いた梓は、口元にニヒルな笑みを浮かべ絹代を見やる……まるで、『其れを待っていた』と言わんばかりに。

 

 

「其れを待っていたんです!

 トラップ発動、『掟破りの逆必殺技』!!出番ですよ、赤星先輩、エルヴィン先輩!!」

 

「待ちくたびれましたよ澤さん!」

 

「待ちくたびれて首が長くなってろくろ首になる寸前だったぞ。」

 

 

その梓が叫んだ次の瞬間、雑木林から飛び出して来たのは小梅率いるオオワシチームとエルヴィン率いるカバチームだ――そう、此れこそが偽装作戦がバレた時の為の仕込みだ。

梓側に、挑発部隊のティーガーⅠとティーガーⅡ、偽装工作用のみほの部隊以外の残存戦力を集中させておき、其の内チャーフィーとⅢ突を雑木林に隠して居たのだ、ゲリラ戦の戦力として。

 

 

「な、ゲリラ戦だと!?」

 

「ご自分の得意技を使われるのはどんな気分ですか西さん?」

 

 

其れをやられた絹代からしたら何とも言えない気分だろう……自分達が新たな戦術として取り入れたゲリラ戦を逆に仕掛けられたのだから。

だが、それ以上に此処までの仕込みがされている事に絹代は驚いていた……自軍のゲリラ戦部隊を挑発で釣り上げた上で撃破し、続いてフラッグ車の偽装を行い、其れがバレて護衛を撃破して追い詰めたと思ったらゲリラ戦からの加勢と、一体何手先まで読んでいたと言うのだろうかと。

 

 

「正直に驚きましたよ梓殿……流石は西住隊長の弟子――と言うのは、失礼でありますな?……西住殿の弟子であるのは変えようのない事実ではありますが、この試合は梓殿の戦車道を感じましたので。

 『軍神を継ぐ者』ではなく、『白豹の貴公子』でありますな。」

 

「白豹の貴公子……良いですね西さん、其の異名気に入りました。」

 

 

其処からは激しい戦車戦が展開される。

火力の低い日本戦車では、パンター、Ⅲ突、チャーフィーに対して決定打を与える事は出来ないが、知波単もまた驚異の回避能力を駆使して直撃を避けている……一回戦の第一試合から、熱の入った好勝負が展開されていると言えるだろう。

 

そんな好勝負が展開されてるとなれば……

 

 

「いい勝負してるじゃねぇか澤ちゃんも、西ちゃんもよぉ?……こんな試合を見せられて燃えるなってのが嘘だろ!!

 オラァ、気合い入れろテメェ等!澤ちゃんにオレ達の気合いを全部届けんぞ!!声出せ正洋ぉ!!!」

 

「グァッデーム!アーイム、チョーノ!有象無象、蹴散らすぜ、大洗だけ見てりゃいいんだオラァ!」

 

 

この人達が黙ってる筈がない!

嘗ての『大洗の荒熊』と化した好子さん率いるアウトロー感全開の『大洗総合応援団』の応援にも熱が入るってもんさ!――その熱量は、熱狂的な阪神タイガースのファンにだって負けない!

阪神ファンが道頓堀にダイブするなら、大洗ファンは那珂川にダイブするぜ!

 

其れは兎も角、フラッグ車同士の戦いは拮抗していたのだが……

 

 

「面白そうな事になってるじゃない?私達も混ぜてくれないかしら澤?」

 

「こんな面白そうな事に参加するなとは言わないわよね?」

 

「逸見先輩、中須賀さん!」

 

 

此処でエリカとエミが参戦!

ティーガーⅠとティーガーⅡの履帯は重いので修復に時間が掛かったが、無事に修理を終えてこの戦場に馳せ参じたのだ――尚、梓がエミを『中須賀さん』と呼ぶのは、年上ではあるが大洗の『先輩』ではないからである。

何にしても、此処で最強の虎と虎の王の参戦は梓にとって大きなアドバンテージだろう。

数の上で有利になっただけなく、大洗の火力トップ3の内の二輌が来てくれたのだから――同時に其れは、絹代にとっての死刑宣告に他ならないだろう……此の状況で最強クラスの重戦車が二輌も参戦して来たと言うのは最悪な事態でしかないのだから。

 

 

「チェックメイトです西さん。」

 

「梓殿……!」

 

 

そして、激しい戦闘の末に梓のパンターに肉薄され、横っ腹に砲身を突き付けられた絹代は、其処で己の敗北を知った……こうなってしまっては、如何足掻いても、撃破は免れないのだから。

 

 

「あゆみ、撃って!」

 

「あいさー!ってね!」

 

 

略ゼロ距離から放たれた、パンターの超長砲身75mmは、いとも簡単に絹代の九七式中戦車の装甲をぶち抜き、更に車体を大きく吹っ飛ばす!

そうなれば当然……

 

 

――キュポン!

 

 

『知波単学園、フラッグ車行動不能!大洗女子学園の、勝利です!』

 

 

フラッグ車は撃破判定となり、試合終了!

 

 

「いぃやったーーーー!!!」

 

 

そして、『大洗勝利』のアナウンスを聞いた梓は、右の拳を天に向かって突き出すガッツポーズ!――奇しくもそれは、みほが行った『未来へのガッツポーズ』と同じだった。

やっぱり師匠と弟子は似るのかも知れないね。

でもって、負けはしたものの絹代の顔に悔しさは無かった……負けたが己の全力を出したから悔しさよりも、充実感が勝ってたのだろう。

 

その後の試合後の挨拶では、梓と絹代が握手を交わして本当の試合終了となったのだが、この時の写真が週刊戦車道の『第六十四回戦車道高校生大会特集』のトップを飾る事になるとは思ってなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

私達が一回戦を突破してから一週間が経ち、一回戦は此れで全試合が終わった訳だね――黒森峰、サンダース、聖グロ、プラウダが一回戦を突破したのは当然として、アンツィオとマジノも一回戦突破だね。

逆に継続とBC自由は一回戦敗退か……まぁ、此れは仕方ないかな?継続はミカさんが隊長だからもってた部分があるし、BC自由のマリーさんは詰めが甘い部分があるからね。

だけど、それ以上に驚いたのが『私立インフィニット・ストライカー学園』が一回戦を突破した事だよ……口先だけだと思ったら、其れなりの実力はあったみたいだね。

ただ気になるのは、あの隊長、喫茶店で会った時には無かった右腕の包帯だね?怪我でもしたのかな?

 

 

 

「怪我じゃないですよ西住隊長……彼女は、右腕に何か宿してしまったんです。――きっと炎殺黒龍波を。」

 

「其れは、大分拗らせちゃってるね。」

 

まさかの中二病か……其れは兎も角として、二回戦の相手は理子さん率いる黒森峰だから、残念だけど其処で貴女の大会はお終いだよ――理子さんは、今や近坂先輩に匹敵する戦車乗りになってるからね。

喫茶店では大口を叩いてくれたけど、貴女では王道を越える事は出来ないよ……精々足掻くと良いよ、嘗ての絶対王者を相手に回してね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer210『此れは二回戦のお約束です!!』

二回戦のお約束です♪Byみほ       お約束って、否定できないのが悲しいわねByエリカ


Side:みほ

 

 

一回戦は無事に突破出来たね。

私は敢えて手出しをしなかったけど、見事に梓ちゃんは私に頼る事なく西さんを倒して勝利をその手に掴んだ……うん、此れなら来年の隊長を任せる事に申し分はないね。

梓ちゃんはもう、私の弟子って言うだけじゃなくなった訳だからね。

 

 

 

「澤は強いわよみほ……だけど、あの子は自分で自分の力に蓋をしちゃってる――心の何処かで貴女には敵わないって、自分の限界を決めてしまってる部分がある気がするわ。」

 

「でも、其れは仕方ない事なのかも知れません……こう言ったらアレですけど、現状でみほさんに勝てる戦車乗りなんて、世界中探しても居るか如何かって感じですからね。

 戦車道を始めた時から、そんなみほさんの直ぐ傍に居た事で、みほさんに追い付こうと努力はしても、超える事は出来ないと潜在的に思っていてもオカシクはありませんから。」

 

「其れは、ちょっと良くないね……」

 

『弟子は師の影を踏まず』とは言うけど、師匠側から言わせて貰うのなら、弟子が自分を越える事程嬉しい事はないんだけどな……だって、其れを繰り返していけば、世代が代わるたびに質が高くなっていく事になる訳なんだから。

其れに戦車乗りとしての実力で言うなら、梓ちゃんは中学時代の私なんてとっくに超えてるんだけどねぇ……今の梓ちゃんと同じ性能の戦車で戦ったら、私も本気で行かないと勝てないかもしれないレベルだよ。

梓ちゃんの蓋を何とか開ける事が出来ればいいんだけど、此ればっかりは私でも如何にも出来ないから……って言うか、自分で蓋をしてる状態で西さんに勝つ事が出来たんなら、蓋が開いたら梓ちゃんって私よりも強いんじゃないのかな?

 

 

 

「いや蓋が開いて、アンタと互角ってとこでしょうね。」

 

「エミちゃん、その心は?」

 

「漫研の生徒が描いてた薄い本なんだけど、戦車に乗ったアンタはドラゴンボールのピッコロと互角に戦ってた……澤がピッコロ以上とは思えないから、蓋が開いてアンタと互角。」

 

「根拠よりも、その薄い本の内容が気になるなぁ~~。」

 

って言うか、戦車でピッコロさんと互角に戦えるのかな?魔貫光殺砲一発で撃破されるような気がするんだけど……其処はアレかな?軍神のオーラ的な何かでガードするのかな?

今度漫研に行って、読ませて貰う事にしようっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer210

『此れは二回戦のお約束です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

週明けの月曜日、実は本日が一回戦後初の登校……何だって金曜日なんて中途半端な日に開会式と一回戦を行ったのか若干謎が残るね?土日の方が見に来れる人が多いと思うんだけど、その辺は連盟とか大人の事情が絡んでくるんだろうね。

今日は四人揃って寝坊しちゃって朝ごはんを作ってる時間が無かったから、途中にあるパン屋さんでパンを買って、ちょっと行儀悪いけど食べながら登校中。私はツナマヨトースト、エリカさんは目玉焼きトースト、小梅さんはコッペパンサンド(ピーナッツバター)、エミちゃんはソーセージロールね。

 

 

 

「偶にはこう言うのも悪くないわね。この時間帯だと焼き立てパンが味わえるし。」

 

「焼きたてほかほかのパンにピーナッツバターがじんわり溶けて、格別の美味しさですよ此れは。」

 

「パンも美味しいけど、総菜パンに入ってる総菜もあの店の手作りなのよね?其れって、此れのソーセージも手作りしてるって事でしょ?……本場のドイツのソーセージにはない美味しさがあるとか驚きよ?」

 

「其れは多分、この店のソーセージは味付けに塩の代わりに味噌を使ってるからじゃないかな?」

 

「塩の代わりに味噌ですってぇ!?」

 

 

 

豚肉と味噌は相性がいいから、味噌で味付けした豚ミンチを材料にたソーセージは絶対に美味しいと思う……そして其れと合わせるのは米粉のパンだから小麦粉のパンよりもマッチしてる筈だからね。

外国から入って来た食材も日本風にアレンジしてしまう日本人の器用さは脱帽物だと思う……インドからイギリスを経由して日本に入って来たカレーなんて、日本で爆発的に種類が増えて、カレーの種類だけで言うのなら本場のインドを遥かに凌駕してる状態だからね。

 

 

 

「拘ってるのよねあの店って……って、あれてアンドリューじゃないのみほ?」

 

「うん、アンドリューだね。そもそも学園艦にアンドリュー以外の虎が居る筈ないし。……居たら居たで問題だからね。」

 

今日は麻子さんは一緒じゃないのかな?何時もは麻子さんの事を背中に乗っけて学校まで運んでるんだけど……おはようアンドリュー、今日は麻子さんは一緒じゃないの?

若しかして、沙織さんが起こして先に連れてっちゃった?

 

 

 

『ガウ?』

 

「うわぁ……こう来たか。」

 

「此れは、予想外だったよ。」

 

今日は麻子さんは沙織さんと一緒にアンドリューより先に行っちゃったのかと思ったけど、振り返ったアンドリューの口にはシーツで包まれた麻子さんの姿が……制服には着替えてるみたいだけど、どうしてこうなったし。

 

 

 

『ガウ、ガウガウ、ウガ、ガウ。(寝る前に制服には着替えてたみたいだが、どうやっても起きない上に、ロンメルは別行動だったので背中に乗せる事が出来なかったので、シーツに包んで、包んだシーツの両端を咥えて運ぶ以外の方法が無かった。)』

 

「そっか~、ご苦労様♪」

 

「……逸見、みほは何で虎の言ってることが分かる訳?」

 

「隻腕の軍神だからよ。」

 

「何の説明にもなってない筈なのに、それで納得しちゃった自分が居る事に驚きだわ……そうよね、みほだったらもう何でもアリよね。」

 

 

 

何か酷い言われような気がするけど、割と本気で私は何でもありな部分があるのが否定できないから、反論出来ないのが何ともね……体育のソフトボールで、右腕一本で学園艦の外まで運ぶ場外ホームラン放っちゃったからね。

それ以外にもバスケで片手スリーポイント、マット運動で片手連続バック宙とパラアスリート級の事を普通にやってるからねぇ……戦車道でプロリーグに行けなかったらパラアスリートを目指すのも一つの選択肢かも知れないね。

 

そんな感じで登校して、学校に到着したんだけど、なぜか校門前に車体全てを……それこそ転輪までも真っ黒に塗装したマウスが。……カラーリング的に、若しかして。

 

 

 

「ガッデム。」

 

「やっぱり。」

 

何処でこのマウスを手に入れたんですかって言うのには突っ込みませんけど、如何したんですか黒のカリスマさん?……風紀委員の人達が取り締まってないのを見る限り、学園側に許可はもらってるんでしょうけど。

 

 

 

「今日はな、戦車隊の皆にプレゼントを持って来たんだ!」

 

「プレゼント、ですか?」

 

「俺のアリストトリストブランドで作ったパンツァージャケットだ!今の大洗のデザインはそのままに、色を紺から黒にして、背中には夫々のエンブレムの他に、銀で『nOs』を箔押ししたぜ!

 更に胸にはアリストトリストのブランドマーク、両肩には大洗のマスコットのアライッペを刺繍で入れてみた、如何だオラ!」

 

 

 

此れは、とてもいいですね?

ですが、一つだけ注文があります……nOsの文字とアリストトリストのブランドマーク、そしてアライッペの刺繍はメタリックなので、各チームのエンブレムもメタリックにして欲しいです。そっちの方がより映えますから。

 

 

 

「エンブレムもメタリックにか……其れは盲点だったぜ!早速持ち帰って、作り直してくるぜ!エンブレムの修正だけなら楽だからな――修正版、期待しててくれよ!

 其れから、二回戦も絶対に勝てよみぽりん!有象無象蹴散らすぜ、大洗だけ見てりゃいいんだ!ガッデメファッキン!」

 

 

 

あはは、相変わらずテンションが高いなぁ……って言うか、学園艦は海上を移動してる筈なのに、どうやって乗り込んで来たんだろう?

あの真っ黒のマウスと言い、若しかしてお母さんに協力を依頼したとかだったりするのかな?……もしそうだとしたら、あの真っ黒なマウスも、どうして学園艦に居るのか全部説明がつくからね。

取り敢えず、校門前で予想外の事があったけど無事に登校完了。今日も一日頑張らないとだね!……因みに麻子さんは、あの状態のままアンドリューが教室まで連れて行った。

ホントにご苦労様だよアンドリュー、ご褒美に今夜のご飯は常陸牛のサーロインを1kgだね。

 

 

 

「あ、お早うございます西住殿、逸見殿、赤星殿、中須賀殿~~!」

 

「おはよう優花里さん。」

 

「おはよ、優花里。」

 

「おはようございます優花里さん。

 

「おはよ秋山。」

 

「週刊戦車道の最新刊、買っておいたんですが読みますか?」

 

 

 

教室に入ると優花里さんが週刊戦車道の最新号をもってやって来た……毎週月曜日に発売の週刊戦車道を発売日にゲットするとは、流石は優花里さんって所かな。

さて、今週号の表紙は……梓ちゃんと西さんが試合後の握手をしている場面だね。

しかも特集の見出しが『高校戦車道界に新たな息吹か?大洗の二代目軍神爆誕!』と来てるからね……此れは表紙のインパクトだけで結構な部数が行ったはずだよ。

特集の内容は、フラッグ車を務めた梓ちゃんの戦い方による専門家の評価と、記事の担当者さんの梓ちゃんに対する評価がメインだったんだけど、これが中々面白かった。

専門家の大半が梓ちゃんの才能を認めつつも、『それでもまだ西住みほには及ばない』って評価したのに対し、記事の担当者さんは、『澤梓は、戦車乗りとしての力は西住みほに比肩するレベル』だって評価してたからね。……専門家みたいな目が肥えてる人ほど、梓ちゃんの潜在能力には気付けないって事なのかも知れないね。

 

 

 

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・・・

 

 

 

時間は進んで、放課後の戦車道の時間……今日は二回戦に向けてのミーティングがメインになるけどね。

二回戦の相手は、今年から参戦して来た新参校の一つである『私立フリーダム学園』……中学の時に戦った『私立ジャスティス学園』の姉妹校の高校かな此れは?

まぁ、取り敢えず新参校だけに何もデータがないから、土日を利用して優花里さんとエルヴィンさんに偵察を頼んだんだけど、首尾は?

 

 

 

「バッチリであります西住殿!昼休みに情報処理室で編集もしてきましたので、今回の動画は会心の出来でありますよ!」

 

「偵察は無限軌道杯のBC自由学園以来だが……慣れると中々面白いものだな?グデーリアンが斥候としての能力が高いおかげで、私も素性バレしないで偵察できるからな。」

 

「エルヴィン殿は旧ドイツ軍の軍帽がトレードマークである上に本名は知らない人が多いですから、軍帽を脱いで本名で呼ぶだけでカムフラージュになりますからね。

 そして私も、装填士と言うポジション柄、名前は知られてても顔はそれほど知られていませんから、エルヴィン殿が『グデーリアン』と呼んでくれれば正体がバレる事はありませんので、偵察は容易でありました……此方がデータの入ったUSBメモリになります。」

 

「そう、巧く行ったみたいだね?お疲れさまでした。」

 

早速PCと映写機をケーブルで繋いで、優花里さんが持って来たUSBメモリを起動して、ファイル名『私立フリーダム』を選択して実行……程なくして画像再生ソフトが起動し、その映像が映写機からプロジェクターに映し出されたね。

先ずはタイトル。『潜入!此れが私立フリーダム学園だ!』……相変わらず凝ってるなぁ?

昼休みの短時間で編集したとは思えないタイトル画面だね?優花里さんとエルヴィンさんって、映像関係の方の才能も有るのかも知れないね。

 

 

 

『はい、どうも!私は今、次の対戦相手である私立フリーダム学園の偵察に来ています。潜入は何時もの様に、コンビニの定期船で。

 今回は、無限軌道杯のBC自由学園の時以来となる、松本殿と一緒であります!松本殿、撮影の方はお任せしますよ?』

 

『おう、任せておけグデーリアン。』

 

『其れでは早速、適当な生徒さんに話を聞きに行こうと思うのですが、本日は制服ではなく私服で訪れております。

 実は、私立フリーダム学園は制服はなく、生徒は私服登校である事を潜入前にネットで調べておいたのです……道理で、専門サイトで制服を探しても見つからなかったはずであります。

 では、改めまして……あ、すみませ~ん。私達、最近転校して来たんですけど、この学校の戦車隊ってどんな感じなのですか?』

 

『ウチの戦車隊?あぁ、そう言えば今年は全国大会出てるんだっけか?一回戦は突破したらしいけど、二回戦の相手があの大洗女子学園って、ツイてないよねぇ?

 ぽっと出のウチの戦車隊が隻腕の軍神に勝てる筈ないじゃん……運も実力の内って言うけど、ウチの学校は運が無かった訳よ。』

 

『あの、試合前から諦めるのは如何なモノかと……其れから、戦車隊の事を知りたいのですが?』

 

『あぁ、ごめんごめん。

 ウチの戦車隊ねぇ……一言で言えば、学校名と同じ位にフリーダムって感じかな?使ってる戦車は多国籍だし、ユニフォームも無くて戦車隊員の証であるドッグタグを首から下げてるだけなんだよ。

 隊長は、ちょっと不思議な人で、何て言うのかな……物腰は柔らかいんだけど一本芯が通ってて、でも何処か諦観したような感じがするかな?』

 

 

 

続いては偵察パートなんだけど、いやフリーダム学園の隊長さんってほんとにどんな人なの?物腰柔らかくて一本芯が通ってるまでは分かるとして、何処か諦観したような感じがあるって、何か諦めてる感じがするって事なのかな?

一七~八で諦観してるって、一体何があったのか物凄く気になるね。

其れは兎も角、映像は変わって、今度は格納庫の中かな?

 

 

 

『此れは此れは、確かに話に聞いた通り、見事に国籍がバラバラの戦車でありますねぇ?

 トータスにホイペット、私の好きな7TP双砲塔型に、激レアのパンターF型まで……うぅむ、戦車の多国籍さでは、大洗といい勝負であります!』

 

『まるで戦車の博物館だな。』

 

 

 

使用戦車は大洗同様、多国籍で統一されてないか……戦車の総合性能で言うのなら、大洗の方が少しだけ上って感じだね。

そして最後は、戦車隊のミーティング……戦車隊の人数は決勝戦の二十輌をギリギリ動かせる程度だったみたいで、流石に其処に紛れ込むのは無理があるから、物陰から隠し撮りしたみたいなんだけど、フリーダム学園の隊長さんは、ホントに謎だらけだった。

名前は『大和綺羅』……濃い目の茶髪をショートカットにした中性的な子で、確かに物腰は柔らかくて、芯の通った性格をしてるみたいだったけど、何処か諦観してるって言うのは、こう言う事か。

 

 

 

『一回戦は勝つ事が出来たけど、二回戦が大洗女子学園とは、僕達も運が無いよね……でも、運が無かった事を幾ら嘆いた所で現実が変わる訳じゃない。

 

 勝てる相手じゃないけど、やれるだけやってみようか。』

 

 

 

言ってる事自体は悪い事じゃないんだけど、言い方。

そんな言い方じゃ、士気が下がっちゃうって……せめて西さんみたいに『相手は格上なれど、勝負に絶対はない!』位の事を言えば良いと思うんだけどなぁ?此れじゃあ、諦観してるって思われても仕方ないね。

 

 

 

『以上、現場からお送りしました。

 偵察は、リポーター担当の私、グデーリアンこと秋山優花里と。』

 

『撮影担当、松本里子ことエルヴィンでお送りしました。』

 

 

 

此れにて、映像は終了と……エルヴィンさんの名乗りは逆だと思うんだけど、普段はソウルネームで過ごしてるから間違いでもないのかな?アンチョビさんはアンツィオ時代に『安西』って呼ばれるのを嫌がってたから、ロールプレイ中はソウルネームが本名って事なんだろうね。

さて、相手の事が分かった所で、どんな作戦て行くべきか……梓ちゃん、二回戦の会場ってどんな場所だったっけか?

 

 

 

「荒野と岩場、其れから中規模の林が点在してますね……去年のアンツィオ戦に近い感じです。」

 

「去年のアンツィオ戦と似たような会場か……となると、戦車に求められるのは何よりも機動力だね。」

 

となると、Ⅳ号F2は全車出撃で、オオワシチームとアヒルチームとカモチームも確定だね。――逆に待ち伏せ作戦が使えるフィールドじゃないからカバチームとカメチームは今回は出番なしで。

後は梓ちゃんのウサギチームと、エミちゃんのタイゴンチーム、ツチヤさんのレオポンチーム、四式中戦車のペンギンチームだね。

 

 

 

「ちょっと待ってください西住隊長!西住隊長のあんこうチームが入ってないですよ!?」

 

「うん、入ってないよ。

 でもこれは間違いじゃない……次の二回戦は、梓ちゃんが指揮を執って戦うんだよ。――来年は……より正確に言うなら、今度の無限軌道杯からは梓ちゃんが大洗を率いて行く事になるんだから、その予行練習だよ。」

 

「それは……でも、私じゃ西住隊長みたいには出来ませんよ!」

 

 

 

私みたいにやる必要はないよ……何よりも、一回戦で梓ちゃんは私の弟子ってだけじゃない事を証明したでしょ?……私とは違う、梓ちゃんにしか出来ない戦車道をやれば良いんだよ。

『西住みほ流じゃない、梓ちゃんだけの戦車道を見つけるんだ』って、此れお姉ちゃんの受け売りね。

 

 

 

「私だけの戦車道……ですか。」

 

「そう、梓ちゃんだけの戦車道……多分、梓ちゃんはもう無意識に其れが分かってる筈だよ。切っ掛けが無くて、其れに気付けてないだけから。」

 

そもそもにして、私の感覚によるところが大きい戦車道を、マニュアル化しちゃった時点で梓ちゃんはドレだけ天才なのかって話だかね……個人の感覚をマニュアル化するとか簡単に出来る事じゃないからね。

でも、其れだけの力が、私の存在によって蓋をされてるって言うのなら、私と言う重石を取り除いてやれば其の蓋は容易に開ける筈……私が二回戦に出ないのは、梓ちゃんの蓋を開けると同時に、梓ちゃんに私が居なくても大丈夫だって言う自信を付けさせる為ってね。

 

 

 

「みほさんの考えは分かりますけど、そうなると副隊長代理が必要ですよね?誰を其れに指名する心算なんですか?」

 

「……梓ちゃん、二回戦では小梅さんが副隊長代理を務めるから、好きなだけ扱き使ってあげて。……大丈夫、小梅さんだったら可成りな無茶振りにも応えてくれると思うから。」

 

「さらりと私を生贄にした上にハードルを上げないで下さいよみほさん!私が大抵の無茶振りに応えちゃうのは否定しませんけど!」

 

「私は小梅さんを生贄に捧げ、来い『デーモンの召喚』!」

 

「コスト一で召喚できる上級モンスターでは最強クラスのモンスターの生贄になった事に喜べばいいのか悲しめばいいのか……」

 

 

 

喜んで良いんじゃないかな?

少なくとも作者的には『レベル6通常モンスター最強はデーモンの召喚であり、フロストザウルスなんぞ知らん!』って感じらしいからね……まぁ、デーモンの召喚は主人公の強力モンスターだから気持ちは分かるけどね。

まぁ、其れは其れとして私は梓ちゃんの力を信じてるから、次の二回戦を梓ちゃんに全部任せたいんだ……受けて貰えるかな?

 

 

 

「西住隊長……分かりました。

 そこまで言われて応えないのは弟子として師への不義理でしかありませんから、次の二回戦、西住隊長なしで必ず勝って見せます!どうせなら、勝ち方にも注文を付けてください!」

 

「おぉっと、そう来たか……なら、パーフェクト勝利で!」

 

「了解しました……パーフェクト勝利、達成して見せます!!」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

『キョォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!』

 

 

 

此れは、此処で軍神招来とは、見事だよ梓ちゃん……だけど、宿した英霊は此れはバーサーカーが妥当だと思うんだけど、私知ってるバーサーカーじゃないよね此れ?

そもそも此れはバーサーカーじゃなくて暴走庵……あぁ、ある意味でバーサーカーか。

なんにせよ次の二回戦、如何なるか楽しみだね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

そしてやって来た二回戦。

フリーダム学園のフラッグ車を、オオワシとタイゴンが焙り出して追い詰め、追い込んだ先には梓ちゃんのパンターが……チェックメイトだね此れは。

誰が如何考えても、此処からの逆転は有り得ない――精々フラッグ車の同士討ちが関の山だけど、そうなった所で大洗は一輌も撃破されてないから判定勝ちが出来るからね。

 

 

 

「此れで終わらせる!あゆみ!!」

 

「アイサー!喰らえや……覇王翔哮拳!!!」

 

 

 

――バッガーン!……キュポン!

 

 

 

『私立フリーダム学園、フラッグ車行動不能!大洗女子学園の、勝利です!』

 

 

 

最後は梓ちゃんの一撃が炸裂して、フリーダム学園のフラッグ車を撃破して、パーフェクト勝利を達成……キューポラから身を乗り出して、右拳を掲げてガッツポーズする梓ちゃんが印象的だったね。

だけど、此れで三回戦進出が決まったから、次の相手は黒森峰か……そう思ってスマホで他の二回戦の試合結果を公式サイトで確認したんだけど、其処には到底信じられない試合結果があった。

 

 

 

○私立インフィニット・ストライク学園×黒森峰女学院●

 

 

 

其れは、理子さん率いる黒森峰が、あの中二病率いるインフィニット・ストライク学園に負けたと言う結果……インフィニット・ストライク学園が予想外のダークホースの可能性もあるけど、理子さんの実力はとっても高いし、近坂先輩が鍛えたのなら大抵の相手には負けないだけの実力はあるから、其れは考え辛い。

……となると、考えたくはないけどインフィニット・ストライク学園が何らかの裏工作をした可能性が否定出来ないか――此れは、調べてみる必要があるかもね。

 

 

 

「こんな事って……西住隊長、私はツェスカに何か言ってやった方が良いんでしょうか?」

 

「……今は放っておくのが正解だよ。自分の実力を出す事も出来ずに、悔しくて泣いている時には、誰に何も言って欲しくないだろうからね。」

 

「西住隊長……そうですね。逆の立場だったら、私も。」

 

 

 

うん、其れが分かるだけで十分だよ……多くの場合は、励まそうとして逆に傷を広げてる場合があるからね。

まぁ、其れは其れとしてインフィニット・ストライク学園が一体何をしたのかを知らないとだね……取り敢えず理子さんとは週末に会う約束を取り付けておくべきだよね?

黒森峰に何があったのか、其処からインフィニット・ストライク学園が何をしたのかを知る事が出来るかも知れないからね。――私の予想道理だったら大凡笑えない事になるんだけどさ。

黒森峰に勝ったのは実力なのか、それともギリギリの反則技を使ったからなのか、其れを見極める……もしも、人の道に反するような事をして黒森峰に勝ったと言うのならば覚悟しておくと良いよ。

――人の道を外れる事をしていたその時は、二度と戦車に乗れなくなる位に地獄に叩き落してやるからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer211『騙し騙されの裏の攻防です!』

外道が……ちょっと滅殺してくるByみほ       近所を散歩して来るのテンションで言わないでよ……Byエリカ


Side:みほ

 

 

二回戦の全日程が終わった後、私は黒森峰の学園艦が熊本に寄港する日を選んで理子さんと会う約束を取り付けて、今は待ち合わせ場所のカフェでカフェラテを堪能中。

……ネットでの評価が高い店だったけど、実際に来てみるとネットの評価以上だね?ラテアートも、私のリクエストに見事に応えてくれたからね?ボコと、パンターのラテアートは最早芸術品だから。

 

 

 

「ゴメン、待たせちゃったみほ?」

 

「ううん、私もついさっき来た所だよ。」

 

っと、理子さん到着か。

実を言うと早く着きすぎちゃって、三十分以上待ってたとは言えないから、此処はデートの常套句を使って誤魔化すのが吉だね……私が待っていたって言えば、理子さんは恐縮するだろうしね。

 

 

 

「そう言う事にしておくわ……其れでみほ、今日はどんな用事?」

 

「この間の二回戦についてだよ。」

 

実力的な事を言うのなら、理子さん率いる黒森峰が彼女達に負けるってのは考え辛いんだよね……勿論、フラッグ車へのラッキーパンチが巧い具合に決まった可能性は無くはないけど、確率としては可成り低い。

それらを総合的に考えると、黒森峰が実力で負けたとは到底考えられないんだよ。

 

 

 

「みほには全てお見通しか……なら、隠す必要もないか。

 確かに実力で言えば、私達の方がインフィニット・ストライク学園よりも上だったんだけど……裏技でやられた。『見られて困るモノはないから、相手校のスパイは放っておけ』ってのが裏目に出たよ。

 試合前日に、主力の戦車が軒並み壊されたんだよ……そうして無事だったのはⅢ号と一部の回転砲塔のない駆逐戦車だけだった。……如何に黒森峰でも主力戦車を失っちまったら戦えねぇっての。」

 

「そんな事が……でも、其れは運営に訴えれば不正で向こうが失格になるんじゃないの?」

 

「そうなんだけど、カメラの映像に映ってた連中は黒森峰の制服を着てた上に顔はサングラスやマスクで隠してあったから、インフィニット・ストライク学園の生徒だって確証がねーんだわ。

 状況証拠では連中が限りなくクロに近いけど、連中がやったって言う物的証拠は何もないから、それじゃあ訴える事も出来ないし、仮に訴えても証拠不十分で処分は下されないって。」

 

 

 

卑怯な裏技使うだけじゃなくて、自分たちがやったって言う確実な物的証拠は残さない……残る証拠は、確証の無い状況証拠だけって、悪知恵は働くみたいだね?

 

 

 

「そうなんだよ。だから貴女も注意した方が良いよみほ……アイツ等は、どんな手で学園艦に入り込んで何をしでかすか分からないから。」

 

「うん、忠告痛み入るよ。」

 

まぁ、大洗に何かしに来たら来たで、あのアウトローの巣窟と化してる学園艦の最下層に誘導して、この世の終わりレベルの恐ろしい体験をさせてあげるだけだけど。

それにしても、試合前の妨害工作はルールで明確に禁止されてるって言うのに、それを足が付かないようにして行うなんて絶対に許せない……あの中二病隊長率いる戦車隊の連中に戦車に乗る資格はないよ。

次の三回戦でインフィニット・ストライク学園は徹底的に叩き潰す……そう、二度と戦車に乗る気が起きない程に徹底的にね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer211

『騙し騙されの裏の攻防です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三回戦前の寄港日、大会以外で陸に上がるのは久しぶりだったから、あんこうチーム+エリカさん、小梅さん、エミちゃんで大洗巡りをする事にしたんだけど、行く先々で『大会頑張れよ~!』、『応援してるからね~!』、『軍神のお姉ちゃん、今度も優勝してね』って言葉を掛けられるのは、嬉しいと同時に、『今年も優勝しよう!』って言う気をより高めてくれるね。

 

 

 

「う~~……みぽりんもエリリンもうめりんも人気ある~~。エミりんも今年からのメンバーなのに人気あるみたいだし、華も麻子も人気じゃん!

 なんで私に対する個人的な応援はないの~~!」

 

「まぁまぁ、仕方ありませんよ武部殿。

 装填士や通信士と言うのは、戦車においては目立たない縁の下の力持ちでありますから、花形ポジションの車長、砲手、操縦士と比べると、如何してもファンが付き辛いのでありますよ。」

 

「……ゆかりん、直近一ヶ月のファンレターの数は?」

 

「百通くらいでしょうか?」

 

「其れでも三桁行ってるじゃん~~!」

 

 

 

因みに直近一ヶ月の私へのファンレターは千通を超えてたりするんだけど――逆に考えるんだよ沙織さん、沙織さんにファンレターをくれた人こそ、真に沙織さんの見えない活躍を知ってる本物のファンなんだって。

こう言ったらなんだけど、花形ポジションのファンは、ミーハーなニワカも少なくないんだけど、縁の下の力持ちのファンは、戦車道玄人のファンが多いって言えるからね。

そして、そう言う玄人ファンの中には、沙織さん好みのハンサムなイケメンや、渋くてダンディーなおじ様も居たりするんだから。

 

 

 

「マジ?」

 

「大マジだよ。

 其れと、他の誰も分かって無くても、私は沙織さんがあんこうチームだけじゃなく、大洗の戦車隊に無くてはならない人材だって分かってるから。

 確かに派手な活躍はないかも知れないけど、沙織さんが居なかったら私の命令を円滑に他の戦車に伝える事は出来ないだろうし、何よりも此処一番での沙織さんの皆を鼓舞するセリフは、もうなくてはならないモノだからね。」

 

「みぽりんの優しさが身に沁みるぅ……みぽりんが女の子じゃなかったら絶対に惚れてたって。」

 

 

 

あはは……本当に沙織さんは彼氏が欲しくて仕方ないんだなぁ。

沙織さんは普通に顔は良いと思うし、気遣いも出来るから、男性から見たら結構優良物件だと思うんだけど如何して彼氏が出来ないのか不思議だよね……まさか、麻子さんの生霊が沙織さんに近付こうとしてる男性を追い払ってるとか、流石に其れはないか。

 

そんなこんなで久々の大洗を楽しんだ。

アクアワールドではイルカショーで全員が『水も滴るイイ女』になって、マリンタワーの展望台で絶景を堪能して、海の科学館で科学の不思議を楽しんで、ランチにはシーサイドステーションのバーベキュー屋の野外バーベキューセットに舌鼓……クーラーボックスにノンアルのビールを持って来たのは大正解だったね。

名物の岩ガキの網焼きとノンアルビールの相性は本気で最高過ぎたよ。

ランチ後はかねふくの明太パークで出来立て明太子を試食して、フードコーナーで明太ソフトクリーム(実在、意外と美味しい)を食べて、お土産を買って、スタッフさんにサインをお願いされたから、色紙に全員でサインをした。……将来的に、私達が戦車道のプロリーグに行ったらあの色紙は絶対にプレミアが付くだろうね。

そして最後に、シーサイドステーションに戻ってショッピングをして寄港日を終えた……シーサイドステーションの『戦車道ミュージアム』には、戦車道関連のグッズだけじゃなく、戦車のプラモデルや大洗+有名校のパンツァージャケットのレプリカに、果てはダージリンさんの格言が刺繍されたミニタオルや、お母さんの写真がプリントされて『戦車道にマグレなし』って入ったマグカップだとか、コアなファンが買いそうな物まであって驚いたよ。

 

そんな訳で学園艦に戻って来たんだけど……パゾ美さん、首尾は如何ですか?

 

 

 

「学園艦に戻る集団に紛れて、三~五人ほど大洗の生徒じゃない人物を確認しました……西住隊長の言う様に、中に入れましたけど、本当に良かったんですか?」

 

「うん、此れで良いんだよ。」

 

戦車道の風上に置けない連中には、まずは己の愚行を思い知らせる必要があるからね。――インフィニット・ストライク学園からの工作員が来たのは間違いないから、作戦は次の段階にだね。

スマホで、王大河さんに連絡してっと。

 

「大河さんですか?……賊が忍び込んだようなので、例の一件をお願いできますか?」

 

『任せておいてよ西住隊長!放送部の全力をもって、『あの噂』を学園艦全土に広めて上げるよ――確りと賊の耳に入るようにね。』

 

 

 

うん、お願い。

今回ばかりは、賊の耳に入るようにする為なら、尾鰭だけじゃなく、背鰭に胸鰭と色々付けちゃってくれても全然問題ないから……ぶっちゃけると、もう好きにしてって感じだからね。

そして、美味しい餌をぶら下げればネズミは必ずそれに喰らい付いて来る……だから其処を捕える。

黒森峰を卑怯な手で下したその報いは倍にして受けて貰う――まずはその先駆けとして、侵入者には少しばかり痛い目に遭って貰うよ、ホンの少しばかりね。

 

 

 

「貴女の少しばかりってドレくらいよ……ま、来ちゃった連中は運が無かったと思うしかないでしょうね。」

 

「西住流の拷問術……相手に同情するわ。」

 

 

 

エリカさん、エミちゃん、外道相手に情け容赦は必要なしだよ。――何よりも、戦車道を穢した輩を笑って許せる程、私は人間出来てないから、インフィニット・ストライク学園は徹底的に潰してあげるよ。

卑怯な方法で全国制覇をする心算だったんだろうけど、私達と当たったのが運の尽きだったね……次の試合、私は軍神じゃなくて鬼神となる。

隻腕となった手負いの鬼は、近頃大人気の『鬼滅の刃』の『鬼殺隊』の隊員でも倒せない位に狂暴だから、敵と見なした相手の息の根が完全に止まるまで攻撃は終わらない……そう、フラッグ戦であっても相手を全滅させるまでは終わらないよ。……骨の欠片も残らない位に、喰らい尽くすから!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

大洗の学園艦にまんまと侵入する事に成功したインフィニット・ストライク学園の生徒は、裏工作をする機会を窺っていたのだが、中々その機会が来ない事に若干の焦りを覚えていた。

放課後の部活以外には戦車庫に近付く人間はいないのだが、戦車庫には常に十人以上の警備員が居る上に、夜中も交代制で警備を行っているので戦車庫に近付く事が出来なかったのだ。

 

だが、だからこそ、ふと耳に入って来た噂は、ある意味で朗報だった。

大洗女子学園の生徒と思しき生徒は『次の対戦相手って、試合前にヤバい事して来る所だったらしくて、西住隊長は全部の戦車を学園艦で最も深い場所に隠して、戦車庫には張りぼてのレプリカを置いたんだって』。と言っていた。

そして、この生徒以外にも同じような事を言っていた生徒が複数いた事で、インフィニット・ストライク学園からやって来た工作員は、其れを真実だと思い、戦車庫への侵入を中止し、一路学園艦の最深部を目指し始めた――其れが最大の罠とも知らずにだ。

 

 

「え……なに此のアンダーグラウンド?」

 

 

なので、学園艦の最下層に到達した彼女達は絶句した……大洗の学園艦の最下層は、アメリカのスラムなんぞ生温い程のアウトロー感がバリバリだったのだから。

壁には一面、スプレーペンキで描かれた落書きがあり、其処に住む住人は、ドレッドヘアーにボトムズはジーパンでトップスはブラオンリーで木刀装備した姉ちゃんや、ロングヘアーにウェーブをかけて、ロングスカートに胸にはサラシを巻いて特服よろしいロングコートを纏った姉御、黒いセーラー服にヨーヨーを装備したスケバン刑事と言うアウトロー女子なのだ。

 

 

「あぁん?見ねぇ顔だなテメェ等……何処から湧いてきやがった?」

 

「ふぇ!?あ、あの……私達、戦車隊の者でして……」

 

「戦車隊の?……オイ、コイツの顔リストにあるか?」

 

「ちょい待ち……ねぇな。昨日付で情報を更新してるから間違いねぇよ。」

 

「って事は……成程テメェ等、スパイだな?」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

 

でもって、あっさりバレた。

バレた以上は逃げるしかないのだが、今来た道はアウトロー連中に通せん坊されているので別ルートで逃げるしかないだろう……尤も、逃げた所で更に逃げ場がなくなるんだけどね。

と言うか、命懸けで逃げろよ?大洗のヨハネスブルグに居る皆さんは、基本手加減とか全然出来ないからね。

 

 

「に、逃げろー!」

 

「言われずとも!!」

 

「逃がすんじゃねぇぞテメェ等!」

 

 

そして始まった命懸けの鬼ごっこ!

逃げるインフィニット・ストライク学園の生徒を、大洗のヨハネスブルグの皆さんが全力で追いかける……そして、その人数はドンドン増えて行くだけでなく、全員が全員その手に凶器を持ってるんだから恐ろしい事この上ない。

バット(木製、金属、釘付き)、角材、鉄パイプと言った基本(?)の凶器から、チェーンにビール瓶、パイプ椅子に長机とプロレスで使われそうな凶器、果ては、ハンマーに鉈にチェーンソー……いや、鉈とチェーンソーはヤバいでしょ流石に?

って言うか、鉈持ってるのとチェーンソー持ってるのは顔にホッケーマスクって、ジェイソンかい!十三日のフライデーか!

 

 

「ヤバいってあれ!捕まったら最低でも絶対に腕の一本は差し出す事になるんじゃないの!?」

 

「つーか、なんでこんなにヤバい事になってんだよ大洗の学園艦の地下は!治安悪いどころの騒ぎじゃないって!

 マジでこんな所に戦車隠したのか!?」

 

「其れなんだけど……若しかしたらアタシら騙されたんじゃない?アタシらの事はとっくにバレてて、あの噂はアタシ等の事を捕まえる為に態と流した偽の噂だったとか……」

 

「ダニィ!?」

 

 

旧劇場版ブロリーの時のベジータかな。

取り敢えず、逃げる中で自分達が罠に掛かったと言う事に気が付いたみたいだが、気付いた所でもう遅い!隻腕の軍神が仕掛けた罠に掛かったら、もう逃れる事は出来ないのだ。

 

 

「居たぞ、逃がすな!」

 

「大洗に喧嘩売るたぁ、良い度胸じゃねぇか?買ったぜ其の喧嘩!」

 

 

次から次へと追手が増え、更に様々な方向から現れるため、インフィニット・ストライク学園の生徒は其れから逃れる為に、新たな追手が現れる度に方向転換を余儀なくされてしまう。

だが、彼女達は知らない……一見、無造作に現れているように見える追手達は、彼女達を『ある場所』へと誘導していると言う事に。

 

 

「こ、このままじゃ流石に逃げ切れない……あそこだ、あの店みたいな所に逃げ込んでやり過ごしましょう!アタシ達の素性を隠して事情を説明すれば匿ってくれると思うし!」

 

「てか、それ以外の選択肢がねぇわよ!」

 

 

走り回っていい加減疲れて来た彼女達は、目の前に現れた店、『バーどん底』に逃げ込み、追手をやり過ごそうと思い、なだれ込むように店内へ!!

息も絶え絶えに店内に入った彼女達だったが、顔を上げ、店内を見た瞬間に絶望した。

 

 

「ようこそ、バーどん底へ。インフィニット・ストライク学園のスパイさん。」

 

 

何故なら其処には、カウンター席で燻製を肴にノンアルビールを飲んでいるみほの姿があったのだから。

此処で漸く、誘導されていた事を知り、彼女達は慌てて店から出ようとするが、店の入り口にはムラカミが仁王立ちしており、最早逃げる事は不可能。

大洗女子学園一の巨躯を誇り、パワーだけならばエリカをも上回るムラカミの威圧感もあって、彼女達は完全に戦意を喪失してしまった。

 

でも、戦意が喪失したからなんだと言うのか?そんな事はみほには全く関係ない事だ。

 

 

「隊長さん、そいつ等が例の下手人かい?

 無限軌道杯に助っ人で出ただけだから戦車道の事はまだ良く分からないけど、卑怯な事して勝ったって言うのは頂けないねぇ?……卑怯な手を使って勝つとは、まるでインセクター羽蛾みたいだ。まぁ、インセクター羽蛾に会った事はないんだけど。」

 

「コイツ等が、舐めた事し腐ってくれた学園のスパイかみほちゃん……黒森峰に上等かましただけでも業腹モンなんだが、大洗にまで上等かまそうとするとは良い度胸じゃねぇかテメェ等?

 その度胸に敬意を表して、嘗て大洗の荒熊と恐れられたこの秋山好子様が直々にワルの恐ろしさってモンをその身に叩き込んでやるから有り難く思えよメスガキ共!」

 

 

更にこの場にはみほとムラカミだけでなく、どん底及び大洗のヨハネスブルグを統治する親分であるお銀と、二十年前に大洗女子学園戦車隊の隊長として、当時の黒森峰の隊長であるしほ、同じく聖グロの隊長にして初代アールグレイだった千代と鎬を削った、伝説のヤンキー隊長、『大洗の荒熊』こと秋山好子までいるのだ。

隻腕の軍神のみほ、竜巻のお銀、大洗の荒熊の好子……人呼んで『大洗の三恐』と言われる三人に睨まれたスパイ達に、最早成す術は一切残されていなかった。

 

 

「其れじゃあ、少しばかりO・HA・NA・SHIしようか?」

 

 

其れだけ言うと、みほは瓶の中のノンアルビールを飲み干し、そのまま瓶を粉砕!玉砕!!大喝采!!!……落としても滅多に割れる事のないビール瓶を粉砕するとか、ドンだけの握力なのか?

まぁ、流石に皮膚は鋼鉄ではなかったらしく、握り砕いた瓶の破片で負傷して血が流れているのだが、それが逆にスパイ達に恐怖を与えていた。

笑ってない笑顔で、右拳から血を滴らせてるみほは、確かにめっちゃ怖いからね……あ、みほの背後に神・豪鬼さんが見えた。

 

 

「覚悟は出来てるかな?まぁ、どん底のおもてなしを楽しんでおくれ。」

 

「なぁに、命まではとらねぇから安心しな……尤も、死んだ方が遥かにマシだったと思う程の地獄を、此れからテメェ等は味わう事になるんだけどよ!」

 

 

でもってお銀さんの背後にゴッド・ルガールが、好子さんの背後に本気を出したMr・カラテが見えた……うん、如何考えてもスパイ連中は終わったな。

格ゲーでも強ボスとして知られる存在を宿した『大洗の三恐』から行われる尋問と言う名の拷問は、筆舌にし難いモノだろうからね――そして、この日は学園の奥底から、悲鳴や呻き声が絶えず聞こえていたらしい。

普通はどん底の声は地上に流れ出る事はないのだが、この時の悲鳴と呻き声は地上にも漏れていたらしく、此れが新たな学園艦の怪談に加わる事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

スパイ達がどうなったかも知らないインフィニット・ストライク学園の戦車隊の隊長は、スパイ達の帰還を今か今かと待っていた……彼女達が帰還してくれれば、もう自分達の勝利は確定したようなものだ。

大洗の保有戦車は二十輌に満たないのだから、それら全てを壊してしまえば棄権せざるを得ない……そうなれば、優勝にまた一歩近づくのだから。

 

 

「さて、巧く行ったかな?」

 

 

全て巧く事が運べは、優勝できなくとも、黒森峰と大洗に勝った実績が手に入るのだから、インフィニット・ストライク学園の隊長からしたら、スパイ達からの報告は待ち遠しいモノだろう。

 

だが――

 

 

「隊長、大変です!!」

 

「何だ、何事だ?」

 

「さ、先程大洗女子学園から荷物が届いたのですが……その中身は、身体の彼方此方に痣を作って、全身の関節を外された斥候達だったんです!」

 

「なんだと!?」

 

 

部下からの報告を聞いて彼女は驚愕した。

そして、実際に送られてきたモノを見て戦慄した……ボッコボコにのされ、全身の関節を外されてグニャグニャになったスパイの一人の背中には、ナイフで、『戦車道を穢した者に、鬼神が裁きを下す』と彫られていたのだから。

恐るべき拷問……西住流拷問術は、一切の容赦がなかったらしい――掘り込まれた一文は焼き固められ、一生消える事のないモノになって居るのだからね。

 

 

「此れは……まさかスパイが全滅とは……流石は西住みほと言った所か――敵とみなした相手には一切の手加減をしないとは聞いていたが、よもや此処までとはな。

 だが、その冷酷さは嫌いじゃないぞ?……敵に対して容赦はするなと言うのは私も思って居る事だからね。」

 

 

其れでも、驚愕はしても戦意喪失にならなかった辺り、彼女も大分ぶっ飛んでいるのだろう――まぁ、黒森峰に対して上等かました時点で可成りぶっ飛んでるんだけどね。

だがしかし、今度は相手が悪かった……この一件で、次の試合でみほは軍神から鬼神になる事が確定した訳だからね――次の三回戦は、誰がどう見てもインフィニット・ストライク学園が勝利する事はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

そんな訳でやって来たよ三回戦……今日の大洗は何時ものパンツァージャケットじゃなく、蝶野さんがデザインしてくれたロゴ入りの黒いパンツァージャケットだよ。

スカートも何時もの白じゃなくて今日は赤……黒と赤、黒森峰のカラーリングだけど、この試合は黒森峰の敵討ちの意味もあるから、このカラーコーディネートは間違ってない筈だよ。

 

 

 

「えぇ、間違ってないわよみほ。赤と黒の取り合わせは、カラーコーディネートの王道とも言えるしね――真紅眼の黒竜が、其れを物語ってるわ。」

 

「言われてみればそうだったねエリカさん。」

 

まぁ、其れは其れとして、戦車道を穢したインフィニット・ストライク学園は完膚なきまでに叩きのめす――フラッグ戦だけど、フラッグ車以外の全ての戦車を撃破して勝利するよ。

戦車乗りの風上にも置けない腐れ外道には、決定的な敗北叩き込んでやらないとだからね……さぁ、覚悟は良いかな?隻腕の鬼神の戦車道は、決して戦車道を穢した相手を許さないよ。

己の愚行で、『隻腕の鬼神』を目覚めさせた事を、精々後悔すると良いよ――尤も、後悔したところで、『後悔先に立たず』なんだけどさ。

 

 

 

――轟!!……ピィン!

 

 

 

「激し闘気の爆発の後に訪れた静寂……西住さんは、遂に『身勝手の極意』の境地に至ったみたいだな。」

 

「身勝手の極意?」

 

「確か、あらゆる攻撃に対して、頭が判断するよりも先に身体が勝手に反応して防御する、究極の反射神経だった筈でありますが……其れは神の技なのですが、それを会得したとは凄いであります西住殿!!」

 

 

 

私も隻腕の軍神だから、一応は神だからね。

其れは其れとして、此れは今までになかった感覚だね……闘気は漲ってるのに、頭は驚くほどにクリアーで、冷静に物事を見極める事が出来てる訳だからね。

でも、だからこそ負ける気がマッタク起きない……試合に出て来たって事は、私からのメッセージを無視した訳だから、お望み通りにぐうの音も出ない位に徹底的に叩き込まれる覚悟は出来てるんだよね。

 

 

良いよ、望み通りにしてあげる――隻腕の鬼神の戦車道、その身を持って味わうと良いよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer212『覚悟しろよ、この腐れ外道!です』

覚悟しろよ、この蟲野郎!Byみほ       小梅、処刑用BGM準備OK?Byエリカ     『クリティウスの牙』スタンバイOKですBy小梅


Side:ペパロニ

 

 

二回戦も無事に突破して、今度は三回戦だから、大洗の応援兼出稼ぎに来たんだが……其処でまさか、こんな物を見る事になるとは思わなかったぜ流石にな。

だって、今日の大洗の連中のパンツァージャケットは、何時ものグリーンのインナーに濃紺の上着と白のミニスカートじゃなくて、赤いインナーに黒い上着と赤いミニスカート……ジャケットの形こそ同じだけど、此のカラーリングは二回戦でインフィニット・ストライクに負けた黒森峰のパンツァージャケットと同じカラーリングじゃねぇかよ!

此れだけ見ると、黒森峰の敵討ちかと思うんだが……多分それだけじゃ済まねぇだろうな――みほを筆頭に、大洗の連中からは闘気と怒気が入り混じったスゲェ物を感じるからな……何をしたかは知らねぇが、如何やらアイツ等はみほの逆鱗に触れちまったみたいだ。

御愁傷様だぜマジでな。

 

 

 

「ペパロニさん、みほさんは怒るとそんなに怖いの?」

 

「怖いなんてもんじゃねぇんだよカルパッチョ。

 みほがガチギレしたその時はな、三幻神も、三邪神も、三幻魔も、挙げ句の果てにはホルアクティまでもが逃げ出すレベルだって言われてんだぜ?

 其れだけで、キレたみほがドンだけヤバいか分かんだろ?」

 

「みほさんだけは、絶対に怒らせてはなりませんね……」

 

 

 

そう、みほは絶対にキレさせちゃならねぇんだわ。

だけど、インフィニット・ストライク学園は、新参校だけに其れを知らずにみほの逆鱗に触れちまったんだろうなぁ……だが、みほの逆鱗に触れるってのは、ルール違反をしたって事なんだろうな。

みほは、自分が無茶苦茶な戦術を使うせいか、ルールで許されてる範囲のアウトサイド戦術には寛容だけど、ルールで認められてない違反行為は絶対に許さねぇからな……中学の時には、アリサの裏技をぶっ壊したし。

まぁ、ルール違反をしてまで勝とうなんてのは、戦車乗りの風上にも置けねぇから、徹底的にやっちまってくれみほ――そして教えてやれ、テメェ等が一体誰に上等働いちまったのかって事をな!

 

 

 

「そうね、確りと教えてやりなさいみほ……中学の頃、アタシを恐怖に陥れた時以上の事をしてね。」

 

「ん?いたのかアリサ……鉄板ナポリタン喰う?」

 

「いただくわ。大盛りでよろしく。で、支払いだけど細かいの無いから諭吉さんでよろしく。釣りは取っときなさい。」

 

 

 

鉄板ナポリタンは大盛りで七百円だから、一万円の支払いで釣りはいらないとなると、九千三百円の儲け……アリサ、今後ともアンツィオの屋台を懇意にしてくれると助かるぜ。

 

 

 

「バカ言ってんじゃないわよ、毎回こんな事してたらアタシがすっからかんになるっての……其れよりも、始まるみたいよ試合。」

 

「だな。」

 

観客席のオーロラヴィジョンにみほと梓、インフィニット・ストライク学園の隊長と副隊長のが映し出されてるから、此れから試合開始の宣言と、試合前の挨拶って所だろうな。

何にしても、負けるなよみほ!アタシ等が応援してるからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer212

『覚悟しろよ、この腐れ外道!です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

任せておいてペパロニさん!私達は絶対に負けないから!!

 

 

 

「みほ、貴女何言ってるの?ペパロニって……いやまぁ、アイツの事だから今日も屋台出してはいるんでしょうけど、仮にそうだとして、貴女に声援を送ったって、此処までは聞こえないわよね?

 試合会場と客席がドレだけ離れてると思ってるのよ?」

 

「え、普通に聞こえたけど?」

 

「……嘘よね?」

 

「マジだけど?」

 

「……はぁ!?一体どんな聴覚してるのよ貴女!有り得ないわ普通に!耳に収音マイク装着したって、客席の声を此処で聞くって不可能でしょ!?

 貴女は何?十本刀の宇水並の聴覚があるって訳?心眼持ちなの貴女!?」

 

「ううん、多分誰の声でも聞こえる訳じゃないと思う。私が聞こえたのはペパロニさんの声だったから……多分、私と『禁則事項』しちゃた人の声なら聞こえるんじゃないかって思う!」

 

「大声で堂々と何言ってるのよ貴女は!!……ったくもう。

 取り敢えず、貴女は澤と一緒に試合前の挨拶に行ってきなさい――本当なら、腐れ外道相手に挨拶なんてしたくないでしょうけど、試合前の挨拶はやらないとだからね。」

 

 

 

そうなんだよねぇ……戦車道を穢した外道との挨拶なんて真っ平御免だけど、試合前の挨拶をすっぽかす事は出来ないし、そんな事をしたら其れこそ礼を欠く行為だから、如何に嫌な相手であっても挨拶はしないとだよ。

行くよ、梓ちゃん。

 

 

 

「はい!行きましょう、西住隊長!」

 

 

 

ふふ、良い返事だね。……そして、顔は笑ってるけど、その笑顔の下には凄まじい怒りの炎が燃えてるね梓ちゃんも。……ライバルであり親友であるツェスカちゃんが汚い策略で蹴落とされたんだから、当然と言えば当然だけどね。

その怒りは、試合で思い切り発散して貰うよ。

 

さてと、試合前の挨拶の場所、審判団の前まで来たんだけど……インフィニット・ストライク学園の隊長は、眼帯と右腕の包帯に加えて、今度は新たにカラコン入れて来たよ此れ。

何だろう、強い力を抑える為に眼帯をして、右腕に何かが封印され、眼帯をしてない方の目は新たな力でも宿したのかな?此処まで拗らせると、世界的な精神科の権威でも治療は出来ないだろうね。

 

「どうも……この間の贈り物は満足してくれたかな?」

 

「いやはや、よもやあんな物が送られてくるとはな……だが、アレを見て私は余計に燃えて来たぞ西住みほ……我が謀略を真正面から潰した貴様には、眼帯によって力を抑えている邪眼を解放し、右腕に封印した鬼を解放して挑むしかあるまい!」

 

 

 

酷いね此れは……こんなふざけた奴に黒森峰が謀略で潰されたかと思うと腹立たしくて仕方ないよ。

あのスパイ達は、全身の関節の着脱を繰り返して、全身に脱臼癖を付けてあげたけど、コイツは其れじゃあ済まさない……戦車を見るだけで恐怖する位の絶対的な敗北を叩き込んでやるから。

 

「持てる力の全てを出して挑んでくると良い……私の、私達大洗の戦車道が、其れを跡形もなく粉砕するよ!」

 

「戦車道を穢した報い、受けて貰います!」

 

「そう来なくては……むむ?西住みほ、貴様も右手に何かを封印しているのか!?」

 

 

 

……は?って、そう言えばこの間ノンアルの瓶を握り砕いて盛大に掌を切っちゃったから、包帯を巻いてたんだっけ……私のは普通に怪我なのに、まさか中二仲間と思われるとは。

 

「此れ、普通に怪我しただけだから。主に貴女が送り込んでくれたスパイのせいで。貴女の中二病と一緒にしないでくれるかな?不愉快だよ。」

 

「ふ、照れるな。人は誰しも、秘密にしたい力を己に宿しているモノだ……私が宿した力と、お前に宿った力の何方が強いか、勝負だ!」

 

 

 

駄目だコイツ、話が通じない……此れ以上はグダグダになりそうなので、蝶野教官、試合開始の号令をお願いします。

 

 

 

「其れでは、此れより大洗女子学園対インフィニット・ストライク学園の試合を開始する!お互いに、礼!」

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

 

試合前の挨拶も終わり、此れで最低限の礼は果たしたから、試合では好きにやらせて貰う――最低最悪のルール違反を犯した外道に、礼を重んじる戦車道をする必要は無いからね。

私自身が否定した戦車道の暗黒面、其れを貴女達には味わって貰うよ……裏西住流とも言うべき、最強にして最恐の戦車道をね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

大洗女子学園vsインフィニット・ストライク学園の試合が始まった訳だが、先ずは例によって両校のオーダーから見て行く事にしよう。

 

 

・大洗女子学園

 

パンターG型×2(アイスブルーカラーリングは隊長車兼フラッグ車)

ティーガーⅠ×1

ティーガーⅡ×1

ポルシェティーガー×1

VK3002BD×1

ARL-44×1

Ⅲ号突撃砲G型×1

ヘッツァー×1

M24チャーフィー×1

 

 

 

・インフィニット・ストライク学園

 

T-28重戦車×1(フラッグ車)

ティーガーⅠ×3

IS-2×3

シャーマンファイアフライ×3

 

 

 

インフィニット・ストライク学園のオーダーは、一・二回戦と同じだが、大洗は此れまでとは大分異なる編成だ――と言うのも、此れまでの大洗は火力よりも機動力を重視した編成だったのだが、今回は大洗が所有する高火力を全てぶち込んで来たのだ。

一番火力の低いチャーフィーですら、軽戦車では破格の75mm砲を搭載してる訳だからね。

尤も火力だけ見るのであればインフィニット・ストライク学園の方が上なのだが……と言うか、此れだけの重火力があるなら、小細工しなくても黒森峰と渡り合えたんじゃないだろうか?……其れなのにクッソ汚い裏工作するとか、余程自信が無かったのかと言いたくなる。

 

それはさておき、此の試合のフィールドは凹凸のない平坦な平原の所々に小規模の林が点在していると言う、何方かと言うと正面から力で押して行くタイプに向いたシンプルなフィールドであり、策を弄するみほには使い辛いフィールドだろう。

 

 

「(ふ、この開けたフィールドならば、西住みほもお得意のトリックは使えまい……真正面からの戦いになれば、火力で勝る私達に理がある。

  裏工作は失敗したが、如何やらまだ運は私達にあるみたいだな……地の利を生かして勝利してくれる!)」

 

 

インフィニット・ストライク学園の隊長も、そう考え、地の利は自分達にあると思って居るみたいだ……まぁ、地の利程度で勝てるってんなら、みほが軍神と呼ばれる事なんて無かったんだけどね。

地の利が無くとも、相手の方が強くとも、最終的にそれらの相手に勝ったからこその軍神だって事を忘れてはならない。

何よりも、インフィニット・ストライク学園の戦車隊はみほに、大洗女子学園に対して盛大に喧嘩を売ったと言う事を自覚すべきだろう――尤も、自覚していたら、試合前の挨拶を平然と済ます事など出来ないだろうが。

 

 

 

――ドゴン!

 

 

――キュポン!

 

 

 

『インフィニット・ストライク学園、ファイアフライ一号車行動不能!』

 

 

 

そして、其れは突然起こった――進軍していたインフィニット・ストライク学園のシャーマンファイアフライが撃破されてしまったのだ。

 

 

「敵襲!?ど、何処だ!?」

 

「左からです隊長!左方向にⅢ突、ポルシェティーガー、ARL-44を確認!」

 

「み、右方向にも大洗の戦車を確認!ヘッツァー、ティーガーⅠ、ティーガーⅡです!!」

 

「し、正面からも来ました!パンター二輌とVK3002DB、其れからチャーフィーです!!」

 

「ぬぁんだとぅぉぉ!?」

 

 

完全な奇襲による先制撃破をされただけでも精神的なダメージが結構大きい物だが、続いて入って来た報告は更に最悪極まりなかった……だって、インフィニット・ストライク学園の部隊は、大洗の部隊に三方向から囲まれている状況になっているのだから。

 

 

「バカな……西住みほは策を弄して戦うタイプだった筈!こうした開けたフィールドでも、真正面から遣り合うよりも、裏技とも言える技巧を凝らして戦って来た筈なのに、何故真正面から来る!」

 

 

此れには中二隊長も混乱してしまう。

高校の全国大会に出るのは初めてであっても、みほの武勇は知っていたし、どんな戦い方を得意としているのかも知っていた……だからこそ、『開けたフィールドならばトリックが使い辛いので此方に地の利がある』と考えたのだ。

にも拘らず、みほは、大洗は策を弄さずに包囲からの打ち合いを仕掛けて来たのだから驚くのも無理はないだろう――だが、みほ自身は多種多様な策を使ってトリッキーな戦術を繰り出すのが得意ではあるが、彼女もまた『西住』である事を忘れてはならない。

あまり使う事が無いから忘れられがちだが、みほだってやろうと思えば正面からの力押しで相手を制圧する、『力の戦車道』の象徴である『西住流』を使う事が出来るのだ。

ただ、西住流をやるには強力な火力が必要になるので、火力不足だった明光大付属中や、去年の大洗女子学園では使わなかっただけの事で、火力が充実した今年の大洗ならば西住流は可能なのだ――今回、火力重視の編成にしたのは此の為だった訳だ。

 

 

「「…………」」

 

 

そんな大洗の隊長・副隊長コンビは、パンツァージャケットの上着を肩に引っ掛けた『軍神モード』でキューポラの上に仁王立ち……所謂『軍神立ち』をしてインフィニット・ストライク学園の部隊を睨みつけている。

みほは右手を腰に当て、梓は腕組しているのが何とも様になっている――のだが、この軍神師弟がタダの軍神立ちで終わる訳がない。

 

 

「乙女の血潮が滾る戦車を、穢す輩に容赦なし!」

 

「外道に外法をブチ当てて、粉砕!玉砕!!大喝采!!!」

 

「今宵は祭りだ、血祭だ!」

 

「フラッグ戦など、知らぬ存ぜぬ、興味なし!」

 

「「テメェ等、一匹残らず喰い殺せ!!」」

 

 

――轟!!

 

 

『我こそ、拳を極めし者……!』

 

『勝利など容易い!!』

 

 

其処から啖呵を切ると同時に軍神招来!!……って、今回は師弟揃ってなんか変なモン憑依させてるみたいだな?神・豪鬼とゴッド・ルガールって、其れもう英霊ですらないわ。強いけどね?

まぁ、其れは其れとして、『一匹残らず喰い殺せ』なんて命令を下されたら大洗の部隊はどうなるか?

 

 

「其れを待ってたわみほ……ぐぅ、はぁ、はぁ……ウオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

「西住隊長、その命令を待っていたぞ!」

 

「戦車道を穢した外道に、情け容赦は必要ないわね!」

 

「覚悟して貰いますよ、インフィニット・ストライク学園!!」

 

 

そんなもん、やる気満々になるに決まってる……エリカに至っては、野生解放の暴走状態になってるからね――口から煙が出てるけど大丈夫か此の子?暴走は計画的にね。

元々大洗の面子はノリが良く、一度波に乗るとその勢いのまま一気に戦局を押し切る事が出来たのだが、其れとは別に全員が潜在的に好戦的な部分があるらしく、基本的に『喧嘩上等』なのだ。……茨城県民、割と喧嘩っ早いし。

なので、『一匹残さず喰い殺せ』なんて言われたら、そりゃやる気にもなるってもんだ。

 

だから、其処からは一方的な展開だった。

大洗は戦術も何もなく、インフィニット・ストライク学園を攻め立て、反撃の暇も与えずに次から次へと撃破して行く――本来なら、フラッグ車だけを撃破すればいい試合で、大洗はフラッグ車以外の戦車も容赦なく撃破しているのだ。

 

 

「裏西住流、存分に味わって貰うよ!」

 

「戦車道の暗黒面、其れをその身で知って下さい!」

 

 

その戦い方は、去年みほが其の手で否定した、嘗てのかほが推奨していた西住流其の物――敵は徹底的に殲滅せよと言う戦い方だった。

みほは、今でもそんな戦車道は間違ってると考えているが、しかし戦車道を穢した外道を叩き潰すには最も適した一手であると思っていた――外道には外法を……戦車道を穢した外道には、戦車道での外法をぶつけて潰すべきだとみほは判断したのだ。軍神からクラスチェンジした鬼神は恐ろしい。

 

そして、十分が経った頃には、インフィニット・ストライク学園の残存車輌はフラッグ車だけになっていた。

其れに対し、大洗は多少は攻撃を喰らったものの撃破された車両は無く、十輌全てが健在と言う絶望的状況だ……現にインフィニット・ストライク学園の隊長の顔は真っ青になっているのだから。

如何にフラッグ戦とはいえ、此処からの逆転など不可能なのだから――そして同時に、インフィニット・ストライク学園の隊長は、此処に来て漸くみほの真の恐ろしさに気付いたのだだった。

 

 

「戦車道を穢す卑怯な行為をした報いを、今受けて貰うよ?」

 

「ツェスカの仇……思い知れ!!」

 

「ちょ、ま……降さn…………」

 

 

インフィニット・ストライク学園の隊長が全部言う前に、大洗の戦車から全包囲からの一斉砲撃を喰らい、その言葉は爆音に掻き消されてしまった。

でもって、T-28重戦車は全身の装甲がメッチャ厚いので簡単に抜く事は出来ないが、ありとあらゆる方向からひっきりなしに攻撃されてはその限りではない。

残ったフラッグ車に対してのいじめとも取れる攻撃は、しかし白旗が上がるまで終わる事はなく、隊長車であるT-28重戦車の乗組員は、ただ一方的に攻撃される恐怖に晒されていた。

特殊なカーボンのおかげで死ぬ事は無いとは言え、反撃する事も許されず、一方的に攻撃される事態が続けば恐怖もするさ……幾ら死なないとは言え、竹刀で長時間ぶっ叩かれたら恐怖するだろ?其れと同じさ。

 

 

「此れで……」

 

「終わりだ!」

 

 

そんな一方的な攻撃を受けて装甲がボッコボコになったT-28重戦車に向け、みほと梓はトドメとなるであろう一撃を叩き込む!

重戦車の主砲には劣るものの、パンターに搭載された超長砲身の75mmは破壊力抜群の戦車砲であり、破損したT-28重戦車の装甲を抜く事位は朝飯前なのだ。

なので、アイスブルーとパールホワイトの豹から放たれた鋼鉄の牙は、T-28重戦車に深々と突き刺さり、遂に特殊なカーボンを貫通して白旗判定!

 

 

 

『インフィニット・ストライク学園、フラッグ車、行動不能!大洗女子学園の勝利です!!』

 

 

 

「私達の、勝ちだ!」

 

「アンタじゃ燃えねぇな。」

 

 

此れにてゲームセット!

腐れ外道を見事に成敗したした試合だったが、試合後にインフィニット・ストライク学園の隊長は、綺麗な銀髪が艶のない白髪になり『大洗怖い』と繰り返すようになってしまったらしい。……まぁキレたみほはマジで怖いからね。

 

 

 

「ガァッデェェム!良いぞみほちゃん!外道相手に容赦はねぇ!此れで満足だ!」

 

「喧嘩売る相手間違えたなオイ?ま、喧嘩売る相手を間違えたテメェを精々恨むんだな……大洗に上等かました時点で、テメェ等は負けてたんだ。」

 

 

でもって、客席では毎度同じの黒のカリスマ率いる一団が絶好調だった。

そしてこの試合は、『西住みほは華麗でトリッキーな戦車道が得意だが、相手を一方的に塵殺する喧嘩殺法的戦車でも鬼の様に強い』と言う事をキッチリと見せつける結果になり、同時にライバル校達に『みほ流』か『裏西住流』の二択を迫る事が可能になった試合だったとも言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

インフィニット・ストライク学園にはパーフェクト勝ちしたから、仇は取ったよ理子さん。――其れで、首尾は如何かなペコさん?

 

 

 

『上々ですみほ様。

 GI6も苦労しましたが、インフィニット・ストライク学園の不正の証拠をバッチリ押さえましたので、此れがあればもう言い逃れは出来ません。

 戦車道を穢した外道は、永遠に戦車道の世界から消えて頂きましょう。』

 

「うん、そうだね。」

 

試合とは別に、ペコさんにインフィニット・ストライク学園の調査をお願いしておいたのは正解だったね――聖グロの諜報部『GI6』の諜報能力は高校戦車道界隈では右に出る者は居ないって言わてるからね。

そうしたら、黒森峰戦だけでなく、一回戦も不正をして勝った事が明らかになったから、それらのデータを纏めて戦車道連盟に提出して、その結果、インフィニット・ストライク学園は全国大会及び無限軌道杯への無期限出場停止が言い渡され、事実上の戦車道からの追放が決定した。――可成り厳しい決定だとは思うけど、此れも因果応報だよ。

 

 

 

「そうですね、戦車道を穢した輩に容赦はない、徹底的に叩き潰せですよね西住隊長?」

 

「うん、戦車道を穢した輩は滅殺だよ。」

 

去年の大学選抜戦の後でも、カールを許可し、八対三十って言う理不尽な殲滅戦を提案して来た白神とか言う腐れ外道は最終的にお母さんと千代おば様のツープラトンで撃破された訳だからね。

 

まぁ、取り敢えず此れで三回戦は突破して、でもってその勢いのまま準決勝も突破しちゃった……三回戦でマジノを倒した新参校との試合だったけど其処は戦車道の年季の違いを持ってして圧倒した。

マジノが勝てなかったのは、戦車の性能差だろうね……フランス戦車とアメリカ戦車じゃ、アメリカ戦車の方が性能上だからね。

 

だから残るは決勝戦なんだけど……決勝戦の相手は、まさかの大穴だった――きっと誰も予想してなかったんじゃないかな?アンツィオが決勝戦に駒を進めて来るなんて事はね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer213『決勝戦前の一幕・嵐の前の静けさです』

決勝戦前のワンクッションだねByみほ       日常回はほっこりするわねByエリカ     そして、この小休止が戦闘回を盛り上げるんですBy小梅


Side:みほ

 

 

今年の全国大会もいよいよ決勝戦――相手はまさかのアンツィオ高校だったけど、ペパロニさんだったら若しかしたらと思ってた部分が無きにしも非ずだから、此れは最高の決勝戦になるかもね。

其れは其れとして、今年の大会は大洗の三回戦が、試合後に大注目されたみたいだね……試合後に、私に直接取材を申し入れて来た雑誌の記者さんも居たくらいだからね。

で、その記者さんの記事が雑誌に載ってたんだけど……

 

 

 

『この日行われた大洗女子学園とインフィニット・ストライク学園(以下IS学園)の試合は、今迄の西住みほの試合を知る私達にとって異色とも言える試合運びであった。

 まず今回の試合に投入された戦車は今までの大洗と違い、まるで黒森峰を再現するかのような火力を重視した車両群なのはまだいい。 

 一方のIS学園も車両編成は大洗と似たり寄ったりな所があるのでその辺の違和感は特に感じなかった。

 

 しかし、私が違和感を感じたのはその試合運びである。

 

 本来の大洗の試合運びは「出来るだけ早くフラッグ車を撃破する」形なの対して、今回の試合ではまるでIS学園に対する死刑宣告のような西住みほと澤梓の「軍神師弟コンビ」の啖呵斬りの後の大洗の猛攻は昨年彼女が真っ向から否定した前回の大会の黒森峰の試合を再現するかのような殲滅ぶりである。

 おまけにIS学園のフラッグ車は生半可の砲撃ではびくともしない装甲が仇になって、袋叩きの如き集中砲撃の末に撃破されたのだった。

 

 いつもの彼女の試合とは明らかに違う試合運びに明確な違和感を覚えた私は試合終了後の西住みほに直撃取材を申し込んで話を聞くことにした。

 

 「へ? 黒森峰の敵討ち?」

 

 私は最初に西住みほの話を聞いて思わず声が出てしまった。

 確かに今回の大洗の服装は色遣いが黒森峰を彷彿とさせるから強ち間違いとは言えないが、それでもあの試合運びの理由とは考えにくいので其処の所を追及したところ、

 

 「IS学園が破壊工作を行った…」

 

 この話を西住みほから聞いた瞬間、IS学園と対峙した黒森峰の事情が180度変わって見える。

 何しろ黒森峰がIS学園と対峙した際はあの学校では二線級である三号戦車を始めとした車両群なので、

 

 「黒森峰IS学園舐めすぎ」

 「何舐めプをやってんだ!」

 「黒森峰の悪ふざけにも程がある!」

 

 と言った意見が続出したのだが、西住みほの話を聞いた後だと話の性格が変わってくる。

 つまり、あの時の黒森峰は「あれしか試合に出せなかった」訳だから、勝てる試合も勝てなくなって当然だと言えた。

 と、なると、大洗にも破壊工作の危機が訪れるわけだが、試合当日の車両群を見るに潜入工作員を返り討ちにしたことは想像に難くない。

 そうなると何処からその話を聞いたのかを尋ねてみると、

 

 「黒森峰の直下隊長からお話を伺いました」

 

 との返事だったので、破壊工作の被害者から事情を聴いて潜入工作員に罠を仕掛けて返り討ちにしたのは当然の帰結と言えた。

 

 「それと、IS学園に関しましては聖グロリアーナに情報収集を依頼しています」

 

 私の取材終了直前に西住みほがこの話をしてきたので、IS学園がどのような末路を辿るのかが気になりつつも今回の取材は終了したいと思う。

 

 

 

 追伸:結局IS学園はこれまでの不正行為が聖グロの手で明らかにされ、後日戦車道連盟に取材をした結果、IS学園の公式試合無期限出場停止処分が下されたそうだ。

 

 

 

 

                          月刊戦車道ジャーナル 井東彰彦』

 

 

 

事の顛末までキッチリと書かれていたね……無期限での公式試合出場停止処分を喰らったインフィニット・ストライク学園だけど、此処まで盛大に雑誌にすっぱ抜かれたら、最低でも五年間は公式試合には出れないだろうね。

真面目にやってた子には気の毒だと思うけど、全ては隊長のアホさ加減が導いた因果応報……罪に対する罰を、確り受け入れると良いよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer213

『決勝戦前の一幕・嵐の前の静けさです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、言う訳で決勝戦の相手はアンツィオになった訳だけど、ぶっちゃけ決勝まで駒を進めて来るとは思ってなかったから、マッタク持って新生アンツィオの情報がありません!

幾ら何でもCV-33がメインの構成で決勝戦まで駒を進める事は出来ないと思うから、新たな戦車を購入したって見るのが妥当だよね――アンツィオはペパロニさんに代替わりしてから、アンツィオグルメの通販を行ってるみたいで、戦車道の資金もガッツリ確保してるみたいだから、新たな戦車を買う事は出来るだろうからね。

こんな事になるんだったら、試合に出ない人達にアンツィオの試合を見に行って貰うんだったと思っても、後の祭りの後悔先に立たず……せめて、試合の映像でもあれば良いんだけど、優花里さんアンツィオ戦の放送録画してない?

 

 

 

「申し訳ありません西住殿、基本的に大洗の試合しか録画していないのでありますよ~~……私が使ってるDVDレコーダーは、同じ時間の複数録画は出来ませんので。」

 

「そっかぁ、其れじゃあ仕方ないよね。」

 

「だったら、偵察を出せば良いんじゃないのみほ?」

 

 

 

其れは確かに其の通りなんだけど、偵察要員である優花里さんは既にアンツィオのメンバーには顔が割れてるから偵察は難しいと思うんだ?かと言って一年生に任せるのはちょっと不安だからね。

 

 

 

「だったら、偵察じゃなくて、堂々と遊びに来たって事にしてサラッと戦車見せて貰えば良いんじゃないの?

 こう言ったら何だけど、ペパロニは良い奴だけど適当にアホだから、優花里が『遊びに来ました~!』とか言えば、『お~、よく来たな~!』とか言って歓迎してくれそうじゃない?」

 

「確かにそうかも知れないけど……ペパロニさんを舐めちゃいけないよエリカさん。

 ペパロニさんは中学時代、テスト範囲を丸暗記する事で赤点を回避するって言うトンデモナイ裏技を使ってるから、理解力は低くても暗記力はメッチャ高い上に、論理的思考は苦手でも勘は鋭いから、堂々と遊びに行っても此方の思惑に感付かれる可能性があるんだよ。

 其れに、只の適当なアホなら、安斎さんが自分の後釜に選ぶはずがないでしょ?――お姉ちゃんのライバルにして恋人である安斎さんが、アンツィオを任せたって事は、ペパロニさんの真の力を見抜いてたって訳だからね。」

 

「……言われてみれば確かにそうね。

 考えてみれば、ペパロニは中学時代は三年間貴女と同じチームだったのよね……其れがタダの適当なアホな筈がなかったわ――少しばかり短絡しちゃったわ。」

 

 

 

まぁ、普段のペパロニさんを見てれば短絡しても仕方ないとは思うけどね……意識してる訳じゃないんだろうけど、ペパロニさんは普段の行動が自然と真の実力を隠す事になってるんだよねぇ。ナチュラルなカムフラージュは普通に凄いと思う。

でも、其れは其れとして、如何にかして新生アンツィオの戦力だけでも知りたい所よ……ペパロニさんがどんな戦術を繰り出してくるのかがマッタク分からないからね。

 

 

 

「ならば、私に任せて貰えませんか西住隊長?」

 

「梓ちゃん?任せてって、何か策があるのかな?」

 

「はい、あるんです。」

 

 

 

――パチン!

 

 

 

「「「「「お呼びで!」」」」」

 

 

 

って、梓ちゃんが指を鳴らした瞬間に、天井から五人の忍者――くノ一が下りて来たよ!?それも、五人全員の忍び装束の色が違う、忍者戦隊とも言える集団が!

あの、梓ちゃんこの人達は?

 

 

 

「私のクラスで忍道を選択してる子達で、必要な時には大会の時に対戦相手の偵察をお願いしてあるんです。

 偵察任務は忍者の基本ですし、彼女達は忍道履修者の中でもトップクラスの実力者なので、必ずアンツィオから有益な情報を持ち帰って来てくれる筈です。」

 

「あはは……成程、次代の偵察部隊は既に出来てる訳か。」

 

確かに忍道履修者を偵察隊にするってのは良い手だね?忍者なら偵察くらいはお手の物だろうからさ――もっと言うなら、戦車道履修者を偵察にって言うのはバレるリスクが高いけど、忍道履修者ならバレる可能性は可成り低いからね。

梓ちゃんは梓ちゃんで、きちんと自分が隊長になった時の事を考えているみたいで安心したよ――それじゃあ、彼女達にお願いしても良いかな?

 

 

 

「了解です。

 其れでは、アンツィオ高校に潜入し、現在のアンツィオがどんな戦車を保有しているのかを調べて来てください。仕事の報酬は、ブリアンさんの大人気メニューである『ガルパン』の無料券です。

 仕事の内容次第では、報酬の上乗せも考えますよ。」

 

「承知した!必ずやアンツィオの保有戦車を明らかにして見せよう!」

 

 

 

うん、お見事だよ梓ちゃん。

仕事の報酬を知らせるだけでなく、仕事次第では報酬の上乗せもあるって聞けば、より良い仕事をしてくれるだろうからね……梓ちゃんは、私よりも人を使うのが巧いのかもしれないよ。そもそもにして、私には去年、戦車道履修者以外の知り合いなんて居なかったからね。

ふふ、その時点で梓ちゃんは私を超えてるって言えるかもしれないよ……そんな梓ちゃんが偵察をお願いした忍道の子達なら、きっと有益な情報を持って来てくれるだろうしね。

果たして、アンツィオはどんな戦車を新たに加えたんだろうか……そして、ペパロニさんはどんな指揮をしたのかだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ペパロニ

 

 

自分で言うのもなんだけど、まさかアタシ達が決勝戦に駒を進める事になるとは思わなかったぜ――しかも決勝の相手がみほ率いる大洗とか、マジで最高過ぎるだろ此れ。

戦車道の神様って奴が、アタシに幸運を齎してくれたのかもだぜ。――みほとは、マジのガチンコをやってみたいと思ってたからな。手加減なしだぜ?

にしても、今大会の決勝戦は予想外に組み合わせだっただけに、雑誌でも色々言われてんだよな……週刊戦車道では――

 

 

 

『今年の戦車道全国高校生大会は大いに荒れた。

 インフィニット・ストライク学園が不正を働いて、高校戦車道から事実上の追放処分になったのは記憶に新しいが、其れ以上に今年の決勝戦がまさか の組み合わせだった!

 大洗女子学園が決勝にコマを進めて来る事は多くの人が予想しただろうが、まさかまさかのアンツィオが決勝戦にコマを進めて来る事を予想した人は居なかっただろう。

 だが、だからこそ今年の決勝戦は盛り上がる事は間違い無いだろうと思う――考えてもみて欲しい、初出場だった去年の全国大会から、無限軌道杯、そして今年の全国大会と三大会連続で決勝戦にコマを進めて来た大洗と、此れまでは一回戦負けの常連で、去年の全国大会で漸く二回戦に進出したアンツィオが優勝を争う展開と言うのは非常に燃えて来ないだろうか?

 加えて大洗もアンツィオも、火力よりも機動力や地の利を生かした戦車道を得意としているので、互いに様々な策を凝らした技の戦車道が楽しめるのではないかとも考えている。

 何よりも大洗の隊長である西住みほと、アンツィオの新隊長であるペパロニは、同じ中学の出身で、中学時代は三年間同じ戦車に乗っていた戦友でもあるのだ……嘗ての戦友同士が互いに隊長と言う立場で決勝戦で激突するとは、まるでマンガの様な展開ではないか。

 黒森峰が二回戦でインフィニット・ストライク学園の不正によって姿を消した時点で、今年の決勝は大洗対サンダースorプラウダだと予想していたのだが、此れは良い意味で予想を裏切られたと言えるだろう。

 何れにしても、今年の決勝戦は去年以上に目が離せないモノになりそうだ。』

 

 

 

こんな事を書かれてるからなぁ……だ~いぶ期待されてんな此れ?試合前からハードル上げられっとキッツイモンがあるとか、普通なら考えんだろうけど、アタシ等アンツィオの生徒にゃそんなの関係ねぇ!

期待されてるってんなら、その期待に応えてやるのがノリと勢いのアンツィオ流だからな!

恐らく下馬評じゃ大洗絶対有利って感じなんだろうけど、アタシは中学の頃、三年間みほと同じ戦車に乗ってたからみほがやって来そうな事はソコソコ予想出来るからそう簡単にはやられねぇし、逆にみほはアタシがどんな事してくるかは予想が付かねぇ筈だから下馬評通りにはさせねぇよ!

流石のみほも、装填士から車長にコンバートされたアタシのやる事なんざ予想できねぇだろうしな。

 

 

 

「ペパロニさんの思考形態からバレる可能性ってないのかしら?」

 

「カルパッチョ、其れは言わねぇでくれると助かるんだがなぁ?自分でも理解してっけど、アタシは単純だから其れを知ってるみほだったら、予想しちゃうんじゃないかって思ってて、其れを考えないようにしてんだからよ。」

 

「あら、ごめんなさい♪

 でも、流石のみほさんも今のアンツィオの保有戦力が分からなかったら、ペパロニさんの思考形態から作戦を完全に予想するのは難しいと思うわ。」

 

「だと良いんだがなぁ……」

 

きっとみほは偵察も出してくるだろうけど、去年来た優花里は顔が割れてるから寄越さないだろうし、そもそも大洗の連中は今年入った一年以外は全員顔が割れてるから偵察には出さねぇ筈だ……となると、マッタク戦車道と関係ない奴か、聖グロに偵察を依頼する可能性があるんだが、そうなったら絶対に分からねぇ、普通に偵察に対しては詰んでんな。

ま、徹底的に戦車を隠してやれば其れで何とかなるかもだけどな。

其れよりもカルパッチョ、何だか機嫌よくないかお前?

 

 

 

「うふふ、だってたかちゃんに会えるんだもの、機嫌だってよくなるわよ?ペパロニさんにもこの気持ちは分かるでしょ?」

 

「そりゃまぁ、分かるっちゃ分るか?アタシも開会式以来だからなみほと会うのは。」

 

「私なんて無限軌道杯の開会式以来だから、もう色々とアレで……うふふふふ、たかちゃん、たかちゃん、たかちゃん、たかちゃん、たかちゃん……!

 勝っても負けてもたかちゃんを……うふふふふ、マッテテネたかちゃん……!」

 

 

 

カルパッチョー!?

ヤッベーよ、『たかちゃん欠乏症』の末期症状じゃねぇかこれ!

ジェラート、アマレット、パネトーネ!至急カルパッチョを『たかちゃん欠乏症末期症状治療室』に連行しろ!抵抗して暴れるようだったら、多少手荒な事しても構わねぇから!

 

 

 

「ペパロニ姐さん!ウチの学校でカルパッチョ姐さんに腕力で勝てる生徒は居ないっす!」

 

「ぶっちゃけ三人で抑え込めとか無茶振りですよぉ!」

 

「振りほどかれないようにするのが精一杯ですって!」

 

 

 

……そう言えば、カルパッチョって小学生の時から装填士やってて、中学時代は一時的に車長もやってたけど、装填士としてのトレーニングは欠かした事ないって言ってたから、腕力だけならアンツィオ最強なんだよな。

総合的なパワーなら西住流フィジカルトレーニングで鍛えたアタシの方が上なんだろうけど、腕力だけはカルパッチョには勝てねぇからな……腕相撲も彼是二十連敗中だからな。

結局、リコッタ、ロビオラ、ボローニャも動員する事でカルパッチョを『たかちゃん欠乏症末期症状治療室』に連行する事が出来た……部屋一面にたかちゃんこと、Ⅲ突の装填士であるカエサルの写真が貼りつけられた部屋とか、アタシからしたら結構怖いんだが、カルパッチョ的には全然OKだってんだからちょっと怖いっての……微妙にヤンデレ入ってねぇかカルパッチョの奴?

相思相愛なんだろうけど、カルパッチョに愛されちまったカエサルにはちょ~っとばかし同情しちまうぜ……カルパッチョとデートしようものなら、カルパッチョ以外の女子と言葉を交わしただけでメッチャ睨まれそうだからな――其れを考えると、ハーレム状態ではあるけど、アタシの相手がみほで良かったぜマジで。

軍神ハーレムではあるけど、みほは独占欲はないからな。

 

何にしても、決勝戦は最高の戦車道をしようぜみほ!

 

 

 

――ピン!

 

 

 

ん?LINEの通知か?

 

 

 

『そうですね、最高の戦車道をしましょうペパロニさん!』

 

 

 

え?何このタイミング抜群のメッセージ……まるで、見ていたような――でも、偵察らしき奴の姿は見えねぇよな?……でも一応聞いとくか。『このタイミングでメッセージとか、みほ、お前見ているな?』っと。

 

 

 

『見てないよ?』

 

『嘘つけ、タイミング良すぎるわ。』

 

『見てないけど、聞こえた。』

 

『何が?』

 

『ペパロニさんの心の声が。』

 

『……嘘だろ?』

 

『マジだよ?バッチリ聞こえたから。』

 

 

 

以上、LINEでの遣り取りなんだが、みほの言う事を信じるのならちょっと怖いぜ此れは……みほにはアタシの考えが筒抜けって事になっちまうからな。

まぁ、みほが言うには『戦車道の作戦までは分からない』って事だったけど、可成り距離があるにもかかわらずアタシの考えてる事が分かっちまうとか、本気でみほは人間なのか怪しくなって来たぜ――ま、みほが人間であろうとなかろうとアタシのダチである事は変わらねぇがな。

 

『聞こえてたんなら、此れ以上は何も言わねぇ……手加減なしの全力だぜみほ?手加減なんかしたら、絶交だからな?』

 

『言われるまでもないよペパロニさん……私達の戦車道は全力全壊が基本だからね――そして、全力全壊を超えた果てに真の戦車道があるってモノだから!

 私の本気、受け止めて貰うよペパロニさん!』

 

『ドンと来いや!みほの戦車道、全部受け止めてやるぜ!その代わり、アタシの戦車道も全部受け止めて貰うからな!』

 

『勿論、その心算だよ!』

 

 

 

LINEでのやり取りは此れにて終了……あとは決勝戦を全力で戦うだけだってな!――アンチョビ姐さんから受け継いだドゥーチェの名に懸けて、アタシが勝たせて貰うぜみほ!

アンツィオを優勝させる事が出来なかったら、ドゥーチェの証であるこのマントと鞭をアタシに託してくれたアンチョビ姐さんに申し訳ねぇからな!

 

そう言えば、なんか忍者っぽ奴等を所々で見かけたって話があって、大洗の偵察じゃないかって言われてたんだが、其れは流石にないだろ?偵察だからって忍者とかベタ過ぎるっての。多分見間違いだから、気にするなって言っておいたぜ――にしても忍者か……もし本物だったら、サインが欲しいぜ。マジもんの忍者とか爆レアだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

梓ちゃんの命でアンツィオの偵察に出てた忍者戦隊が帰還したんだけど、此れは中々の情報を持って来てくれたね?ペパロニさんの作戦自体は分からなかったけど、今のアンツィオの保有戦力はある程度分かったからね。

CV-33とセモヴェンテ、P-40意外に新たに中戦車を何輌か集めたみたいだね……決して強力な戦車じゃないけど、だけど此れが有ると無いじゃ、取れる戦術の幅が段違いだからね。

少なくとも今年のアインツィオは、去年までの貧弱な戦力じゃないから、簡単には行かないだろうね……うん、燃えて来たよ!

 

 

 

「燃えるのは良いんだけど、今日の食卓は何でイタリアンなのかしら?」

 

「決勝の相手がアンツィオなので、イタリアンで纏めつつ、『敵に勝つ』のゲン担ぎのカツも用意してみたんだよ――此のカツは、仔牛肉を使って衣のパン粉に粉チーズなんかを混ぜたミラノ風カツレツだからね!」

 

「成程、考え尽くされたメニューだった訳か。」

 

「そう、考えられてるんだよエミちゃん。」

 

ゲン担ぎの『カツ』は大洗の決勝戦前のお約束になってるから、きっと私達以外の人達もカツを食べてる筈だよ――ついさっき、沙織さんから『今日の晩御飯は特製カツ丼♪』って写真付きのメッセージが来てたからね。……沙織さんのカツ丼は確かに美味しそうだったけど、華さんのモノと思われる丼は普通におかしいよねアレ?どう見ても丼のサイズが通常の倍ある上に、カツが二枚だったから!

其れを沙織さんにメールで突っ込んだら……

 

 

 

『華が本気を出したら、クックファンのマウスカツ(約八人前)も一人で平らげちゃうから』

 

 

 

って返事が来たから、此れ以上は何も言えないよ……華さんの胃袋は一体どうなってるのやらだよ――華さんは痩せの大食いってやつなのかも知れないね。……燃える体質ってのは、世の女性の憧れの的だよマッタク。

 

そんなこんなで遂にやって来ました全国大会決勝戦!!――大注目の一戦だけに、観客は超満員札止め状態みたいだね……なら、その観客の期待には応えないとだから、責任重大だね此れは。

だけど、私とペパロニさんの戦いが平凡なモノになる事はないから、その期待には応えて見せるよ……そして酔いしれると良いよ、私とペパロニさんの共演によって描き出される、戦車道の芸術にね!!

……見せてやる、西住の、大洗の戦車道を!……歴史が違うんだよ!

 

 

 

「……草薙京ですか?」

 

「ゴメン梓ちゃん、ちょっとやってみたかったんだ。」

 

ちょっと締まらなかったけど、私の持てる力の全てを此の決勝戦に注ぎこむよ――此の試合を、私の高校戦車道の集大成にする心算でね……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 



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Panzer214『第64回戦車道全国大会決勝戦です!』

いよいよ決勝戦だね……気合入れてくよ!Byみほ       アンツィオ、気合の貯蔵は充分か?Byエリカ     手加減なしの全力全壊ですね!By小梅


Side:みほ

 

 

第六十四回戦車道高校生――通称『戦車道全国大会』の決勝戦当日……此れは思った以上に人が来てるみたいだね?去年の決勝戦以上にお客さんが多い気がするんだけど、私の気のせいかな?

 

 

 

「みほさんの気のせいではありませんよ。

 実際に今年の決勝戦の観客動員数は現時点で去年の1.25倍になってるみたいですから、試合が始まるまでには最低でも1.75倍になってるんじゃないでしょうか……其れだけ、注目されてるんですよ、此の試合は。」

 

「ま、注目するなってのがそもそも無理な相談でしょ此れは?

 絶対王者である黒森峰を倒し、更には国内最強とも謳われてる大学選抜戦を制して無限軌道杯でも優勝した、最強とも言える大洗に、決勝戦に初めて進出したアンツィオが挑むのだから、注目されるのは当然でしょう?」

 

 

 

うん、其れは確かに其の通りだね。

しかも今年の決勝戦は、私とペパロニさんの戦い……中学時代の戦友同士が雌雄を決する戦いでもあるから、戦車道通からしたら楽しみな試合だろうし、最近戦車道ファンになった人でも私とペパロニさんの過去を知ればより楽しみになるだろうからね。

かく言う私も、ペパロニさんとは一度ガチンコで勝負してみたいと思ってたから、決勝戦が楽しみで仕方ないかな……装填士からコンバートされた車長がどんな風に部隊を動かすのかとても楽しみだよ。

 

 

 

「嘗ての戦友と戦う事に躊躇は無いの……なんて、聞くだけ野暮よね?」

 

「うん、躊躇なんて無いよエミちゃん。そして其れはきっとペパロニさんも同じだと思う。

 親友で恋人で嘗ての戦友であったとしても、試合で砲を交える以上は手加減、手心一切不要だからね……寧ろ、本気を出さなかったらそっちの方が激おこ案件だから。」

 

「でしょうね。

 なら、大洗の本気の本気を持ってアンツィオと戦ってやりましょう?――今日も今日とて、大洗の応援団は凄い事になってるみたいだから生半可な試合を修める事なんて出来ないからね。」

 

 

 

生半可な試合を修める事が出来ないのは当然の事だけど、確かに今日の大洗の応援団は何時も以上に凄い事になってるから、改めてそう思いたくもなるかな?

お銀さん率いるどん底のメンバーに、黒のカリスマ率いるnOsの皆さん、好子さん率いる大洗永町商店街の皆さんに、『nWo』に似た『oMt』のロゴが入った黒いジージャンを着た一団が居るからね……『Ooarai Moriageru Tai(大洗盛り上げる隊)』で『oMt』か、成程。

そして、其れだけじゃなくてアライッペを始めとした茨城県のゆるキャラに加えて、私の故郷の熊本の大人気ゆるキャラのくまモンまで応援に来てくれててるから、此れは生半可な試合は絶対に出来ないね。

私の高校生活最後の大会……優勝して、有終の美を飾りたい所だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer214

『第64回戦車道全国大会決勝戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で、試合開始前まで適当に会場を回って、応援に来てくれた各校の人達と話をして時間を潰す心算だったんだけど……

 

 

 

「はいよ!新作メニューの『アンチョビとペパロニのハンディピザ』一丁上がり!五百万リラな!」

 

 

 

アンツィオが出してた屋台で新作メニューを買ってましたとさ。

いや、美味しそうな匂いと新作メニューって言うのに誘われて買っちゃった私が言うのもなんだけど、試合前に何してるのペパロニさん!?隊長が試合前にこんな事してて大丈夫なの!?

 

 

 

「いや~~、試合会場での屋台ってのがお馴染みになってるから、此れをやらねぇと気が落ち着かねぇんだよ?勿論、試合中は戦車隊に所属してねぇ生徒に任せるけどさ。

 寧ろ、アタシとしては此れをやった方が思考が落ち着くって言うかなんて言うかな……」

 

「完全にルーティーンになってるんだね……取り敢えず、此れお代の五百円ね。」

 

資金集めの為にやってた屋台営業が試合前のルーティーンになってるとか普通に驚きだよ……試合前のルーティーンを持ってる戦車乗りは結構居ると思うけど、屋台営業がルーティーンになってる人は多分ペパロニさんだけだろうね。……ペパロニさんは激レアだね。

まぁ、其れは其れとして、新作のハンディピザの味は――うん、此れは美味しい!

薄いピザ生地に敢えてトマトソースを塗らない事でチーズの濃厚さが際立たされてるだけじゃなく、その濃厚さをアンチョビが更に押し上げていながら、ペパロニの爽やかな辛さで味全体を引き締めてるからね……赤唐辛子のホットな辛さじゃこの美味しさは無理。爽やかな辛さのペパロニだからこそ出来た美味しさだね此れは。

 

 

 

「だろ?アンチョビとペパロニって相性最高だと思ってたんだよ。

 だから、パスタの方にも新メニューとして『アンチョビとペパロニのペペロンチーノ』を追加したんだ。」

 

「ちょっと待って、其のネーミングはおかしいわよペパロニ?……ペペロンチーノってイタリア語で赤唐辛子って事でしょ?青唐辛子であるペパロニを使ってるなら、其れはもうペペロンチーノじゃないでしょ?」

 

「固い事言うなよエリカ。

 良いじゃねぇか、ワインってのは本来『葡萄酒』を指す言葉なのに、『サクランボのワイン』とか『イチゴのワイン』なんてモンがあるんだから、ペパロニ使ったペペロンチーノもアリだろ?

 少なくとも、『大豆でつくったビーフジャーキー』程は矛盾はしてねぇ!少なくともこっちは唐辛子は使ってるからな!」

 

 

 

確かに。『大豆でつくったビーフジャーキー』よりは矛盾してないね。大豆を使ってるなら『ソイジャーキー』ってする所だからね。

其れは兎も角、御馳走様ペパロニさん、美味しかったよ。

 

 

 

「そりゃ良かったぜ。

 ……決勝戦、最高の試合をしようなみほ。戦車道史に語り継がれるような試合を、アタシとお前でやってやろうじゃねぇか!決勝戦ってのは派手なほうが盛り上がるからよ!」

 

「言われるまでもないよペパロニさん……持てる力を120%出して、最高にして最強の戦車道をしよう。」

 

「オウよ!」

 

 

 

――カツン!

 

 

 

ペパロニさんが突き出して来た左の拳に、私の右の拳を軽くぶつけて、そして其れだけで、もう私もペパロニさんも闘気は爆裂マックス状態だよ――真の戦車乗り同士の闘気が触れ合ったら、其れだけで互いの闘気を刺激してより闘気が燃え上がるものだからね。

決勝戦、楽しみにしてるよペパロニさん!

 

 

 

「みほ……アタシの戦車の闘気がお前を呼んでるぜ。」

 

「……なら燃え尽きろ、潔くな。」

 

そして、此処でネタを振って来るとは思わなかった。しかも微妙にアレンジ入ってるし。――98の京vs庵の試合前デモは今でもライバルの掛け合いとして有名だけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

大洗女子学園vsアンツィオ高校……今年の全国大会の決勝戦がこの組み合わせになるとは、恐らく玄人な戦車道ファンにも予想外のモノだっただ筈だ。

黒森峰が二回戦で敗退した時点で大洗が決勝戦にコマを進める事は予想していただろうが、決勝戦の相手はプラウダかサンダースの何方かだろうと言う意見が大半だったのだから……まぁ、僅かながら大穴のアンツィオを予想した人は居たけどね。戦車道totoでもあったら、アンツィオ決勝進出に賭けた人は大金を手にしてたかもだね。

正に完全に予想外の組み合わせだが、其れだけに観客席は超満員札止めの満員御礼状態だ。

 

 

「グァッデーム!!アイム、チョーノ!

 大洗とアンツィオの決勝戦……最高だぜ!パンツァークライマックス!戦車の頂点を決めようじゃねぇか!!みぽりんだけ見てりゃいいんだオラァ!」

 

 

そして今日も今日とて、黒のカリスマは元気で絶好調でした!……現役JK戦車乗りに没頭してて、ドイツ人のカミさんにどやされてないか心配だよ。ホンの少しだけな。

大洗の応援団は黒のカリスマを筆頭に大盛り上がりだが、アンツィオの応援団だって負けてはいない!

イタリア国旗を意識した衣装を纏った応援団がアンツィオの学園旗を振って応援しているし、プロレスラーのミラノコレクションATがアンツィオの応援に来てくれてるからね……まさかのミラコレ、透明犬は健在みたいだな。

まぁ、両校とも凄い応援団が居るのだが……

 

 

「「「「「ゴーゴー大洗!ゴーゴー大洗!ゴーゴー、レッツゴー、ファイト、オー!」」」」」

 

「「「「「レッツゴーアンツィオ!ファイト、アンツィオ!レッツゴー、アンツィオ、ファイト、ゴー!」」」」」

 

 

其れ以上に目を引くのが、サンダースのチアリーダー部によるノーサイドの応援だろう。

チアダンスの全国大会で連続優勝しているサンダースのチア部のノーサイドの応援と言うのは会場を盛り上げてくれるからね……アリサとナオミがチアガールとして参加してるのもインパクトがあるからな。

アリサは兎も角、ボーイッシュなイメージながら高身長でプロポーション抜群のナオミのチアガール姿とか結構破壊力がありますな。

 

 

「応援の熱が凄いね……」

 

「だな……なら、アタシ達はその熱に応えねぇとだな!」

 

「そうだね!」

 

 

「其れでは此れより、第六十四回戦車道全国高校生大会の決勝戦、大洗女子学園対アンツィオ高校の試合を開始する!お互いに、礼!」

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

 

まぁ、応援が豪華なのは兎も角として、試合前の隊長と副隊長コンビによる挨拶が終わっていざ決勝戦開始――決勝戦のフィールドは去年と同じ富士の演習場だが、フィールドの広さは去年と同じなので市街地戦も可能なフィールドだ。

市街地戦が出来るのならばみほが絶対有利に見えるが、ペパロニは中学時代にみほの戦い方を誰よりも間近で見ていただけじゃなく、大学選抜戦の時には久しぶりにみほと同じ戦車に乗って、みほの成長を感じていたから、対みほ戦術くらいはあるのだろうと考えると、市街地戦が出来るからと言って『みほ絶対有利』とは言えないだろう。

 

どんな試合展開になるかは兎も角として、先ずは両校のオーダーを見て行こう。

 

 

・大洗女子学園

 

パンターG型×2(アイスブルカラーは隊長車兼フラッグ車)

ティーガーⅠ×1

ティーガーⅡ×1

チャーフィー軽戦車×1

ポルシェティーガー×1

ヘッツァー×1

Ⅲ号突撃砲G型×1

四式中戦車×1

コメット巡航戦車×1

VK3002DB×1

ARL-44×1

Ⅳ号戦車F2×3

 

 

 

・アンツィオ高校

 

P-40×1(隊長車兼フラッグ車)

M11/39×2

M13/40×2

M14/41×1

M15/42×2

M16/43 サハリアノ×1

M41型セモヴェンテ×2

CV-33型快速戦車×9

 

 

 

毎度大洗は一校多国籍軍状態だが、対するアンツィオは去年までの貧弱な戦力が嘘のような布陣だ――決して強力とは言えないが、ソコソコの性能の中戦車を揃えて来たようだ。

特にサハリアノなんて、試作車輌が一輌しか存在してない極レア戦車をよく見つけて来たモノである……よくよく見れば主砲は設計のみ存在してた70mm砲が搭載されてるし、相当な大枚を叩いた事だろう。――其れが出来るだけ、アンツィオの出張屋台やデリバリーは大当たりの大繁盛と言う事なのだろうけどね。

ともあれ、此れだけの戦車があれば火力もソコソコなので、CV-33での攪乱やマカロニ作戦がより効果的に使えるだろう――実際に今年のアンツィオは攪乱とマカロニ作戦の合わせ技で勝ち進んで来た事が其れを証明しているだろう。

 

そして、挨拶から試合開始までの間の最後のミーティングなのだが……

 

 

「梓ちゃん、アンツィオは如何出てくると思うかな?」

 

「そうですね……私だったら絶対に市街地戦は避けて、試合開始直後の平原と林と高台のフィールドで勝負を掛けますけど、ペパロニさんはそうじゃないと思います。

 カルロヴェローチェでの攪乱を行いつつ、市街地に誘導して来るんじゃないかと、そう思います。」

 

「ふむ、其れはなんでかな?」

 

「市街地の方が小回りの利くカルロヴェローチェの性能を活かせますし、マカロニ作戦及びマカロニ作戦ツヴァイは市街地の方がその真価を発揮すると思うからです。

 特に景色に溶け込むマカロニ作戦ツヴァイは市街地の方が絶対的にやり易い筈ですから。だから、きっと市街地戦に誘導して来ると思うんです。」

 

「良い推測だよ梓ちゃん、私も殆ど同じ考えだったしね。

 其処まで推測してるなら、普通は市街地戦への誘導には乗らない所だけど……」

 

「市街地戦は西住隊長の十八番でもあるから、態々誘導してくれるなら、其れに乗るですよね?」

 

「大正解!市街地戦を挑んでくれると言うのなら、其れは逆に好都合だからね……隻腕の軍神の市街地戦トリックを十二分に味わって貰うまでだよ!

 そう言う訳で、決戦のフィールドは市街地!私の戦車道の真骨頂である市街地戦で決着を付けるよ!」

 

「「「「「「「「「「おーーーー!!!!」」」」」」」」」(鍵カッコ省略)

 

 

 

 

 

 

 

「良いかお前等、戦車を揃えたとは言え、戦車の性能ではアタシ等は大洗に負けてるから真正面から遣り合うのは得策じゃねぇ所か普通に悪手だ。

 だから、アタシ等は機動力と策を武器にして戦うぜ……つっても、アタシの策なんざみほは御見通しなんだろうけどさ――でも、其れを利用するんだ!

 試合開始から、あからさまな事をこれでもかって位にやってやるんだ。あからさま過ぎる事をやられりゃ、みほだって少しは混乱する筈だ……でもって市街地戦に持ち込んでフラッグ車を撃破する!

 市街地戦はみほの十八番だが、逆に言うなら市街地戦を仕掛ける為にフラッグ車の護衛が手薄になるとも言えるからな……決戦の地は市街地だ!

 気合入れろよテメェ等!今年の全国大会はアンツィオが制覇するんだからな!!」

 

「「「「「「「「「「ドゥーチェ!ドゥーチェ!!」」」」」」」」」

 

 

奇しくも大洗もアンツィオも決戦の地は市街地としていた……戦友だけに、お互いに考えてる事はある程度分かると言った所なのかも知れない――其れとは別に、アンチョビから受け継いだ隊長服と鞭が中々似合ってるねペパロニは。

 

そんな感じで最後のミーティングも無事に終わり……

 

 

 

『第六十四回戦車高全国高校生大会決勝戦、大洗女子学園対アンツィオ高校、試合開始!』

 

 

「Panzer Vor!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「Jawohl!」」」」」」」」」」」」」」

 

 

「Avanti!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「Ricevuto!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

いざ試合開始!!

大洗もアンツィオも気合は充分であり、戦車力も充実しているので戦車道史に残る好勝負を超えた名勝負が展開される事を期待してならない……そうなった場合、連盟が経済的な大ダメージを受ける事が確定なんだけどね。――みほとペパロニがガチで市街地戦をやったら、市街地にドンだけの被害が出るのか全く分からないから。……下手したら市街地が更地になりかねないからな。

 

 

「アイン、何時でもSLB撃てる準備しときなさいよ?」

 

「あぁ、任せておいてくれエリカ。」

 

 

エリカとリインは冗談でも、ヤバい事言わんといてね?SLBはマジで都市を更地にする所が、其の技名の如く星すら破壊しかねないから。って言うか破壊するから冗談抜きで。

此れは今年の全国大会決勝戦は、去年よりもスッゲェ事になるかも知れないね……此れはもう、ワクワクするしかないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

ギリギリではあったが、何とか決勝戦までに帰国する事が出来たか……会場に着いたら丁度試合が始まる所だったとは、ある意味では良いタイミングだったのかもしれないな。

それにしても今年の決勝戦は大洗対アンツィオか……みほからトーナメントの組み合わせを聞いた時には、決勝の相手はプラウダかサンダースだろうと予想していたのだが、見事に予想が外れてしまった訳か。

お前が後任に指名した隊長は、優秀みたいだな安斎?

 

 

 

「ペパロニは適当にアホだが、直観力は誰よりも優れているからな……直観力に長けているペパロニを隊長にして、その補佐に論理的思考が出来るカルパッチョを据えればきっと次の代のアンツィオは大化けすると信じてたからな。

 其れに、ペパロニは適当にアホだが、一本気で後輩の面倒見が良いって言うアンツィオの隊長にこの上なく適した奴なんだよ。」

 

「お前が見込んだ奴ならば大丈夫だろう……思えばあの子は、戦車道の暗黒面に堕ちていた頃のお婆様にも怯まずに、言い返したくらいだからな。

 ……イタリア語で『さっさとクタバレ、クソババア』だったかな。」

 

「怖いもの知らずだなオイ。」

 

 

 

私もそう思うよ……私とみほとお母様、そして菊代さんは耐性があったから兎も角として、普通ならあの時のお祖母様の闇のオーラを喰らったら一撃スタンするだろうからね。

にも拘らず、ペパロニは其れをものともせずに言い返していたからね……あの子は心臓に毛が生えてるのかもしれないな。

 

 

 

「ペパロニの心臓は、毛どころか、コケやキノコが生えてるかも知れんぞ西住……去年のハロウィンイベントでペパロニを驚かせてやろうと思って、大スケールのドッキリを仕掛けてやったんだが、アイツは全く驚かなかったどころか事あるごとに爆笑してたからな。

 ……冗談抜きで、恐怖って感情が備わってないんじゃないかと疑ったよ。」

 

「……其れは、そう思うのが普通だと思うぞ安斎。」

 

マッタク、あの子はドレだけ心臓が強いのか……だが、其れだけの強心臓であるのならば、みほの奇想天外な作戦に一々驚く事はない可能性があるから、みほとしてはやり辛い相手かも知れないな。

だが、其れでもみほは負けない……みほは、私をも越える最強の戦車乗りだからな。

 

 

 

「いいや、勝つのはアンツィオだ。

 妹思いのお前には悪いが、此の試合でペパロニは自分の殻を破って其の力を発揮させる――そうなれば、如何にみほであっても勝つのは無理だと思うぞ?ペパロニには、私の持てる力の全てを渡したからな。」

 

「だからなんだ?どんな作戦を立てようとも、みほは二~三分もあればその作戦に対応する事が出来るからな――悪いが、今年の全国大会も制覇するのは大洗だ。身内贔屓を抜きにしてな。」

 

みほを倒せる奴が要るとしたら、其れはエリカと澤だろうな――逆に言うのなら、その二人以外ではみほを倒す事は出来ないと言う事になるからな。

特に澤の潜在能力は可成り高い――その潜在能力が完全覚醒した時は、みほすら上回るかも知れん……マッタク、みほは良い逸材を自分の後釜に見つけたモノだよ。

 

何にしても、此れがお前の高校生活最後の大会だから、悔いが無いようにやれよみほ。そしてペパロニもな――じっくりと魅せて貰うぞ、お前達の戦車道と言うモノをな。

時に、何か用か?

 

 

 

「ガッデム。

 まほお姉ちゃん、応援のお供に大洗名物の『転輪焼き』と、『ガルパン』、デザートに『戦車クレープ』は如何だ?結構行けるぜ!ガッデメファッキン!」

 

「あぁ、其れは有り難く貰っておくよ黒のカリスマさん。」

 

「アイム、チョーノ!」

 

「其れは知ってる。」

 

予想外の黒のカリスマからの差し入れがあったが、この差し入れのおかげで更に応援にも熱が入るってモノだな――頑張れよみほ、お前は必ず戦車道の未来を牽引して行く存在になるだろうからな。

――だから、見せて貰うぞお前が見つけたお前だけの戦車道を……お前だけの戦車道、みほだけの戦車道をね!!

 

大洗女子学園vsアンツィオ高校……恐らくは戦車道史に歴史を残す事になるであろう此の試合……ふふ、そんな場所に居合わせたと言うのは正にラッキーだったよ。

観客として楽しませて貰うぞ、此の決勝戦をね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer215『決勝戦序盤戦はまさかの展開です』

ペパロニさん……手加減なしだよ?Byみほ       言われるまでもねぇ、全力で行くぜみほ!Byペパロニ


Side:しほ

 

 

遂に始まった第六十四回戦車道高校生大会の決勝戦――みほ率いる大洗が決勝戦にコマを進めると言う事は、黒森峰が二回戦で敗退した時点でほぼ確定していたと言えるけど、その大洗の相手がアンツィオになるとは誰も予想していなかったでしょうね。私だって予想してなかったわ。

でも、だからこそ思ってしまう――此の決勝戦は六十四年の戦車道全国大会の歴史に残る大勝負になると。ともすれば、戦車道の常識すらガラリと変える程の試合になると。

みほ率いる大洗と、安斎さんの意志を継いだペパロニさんが率いるアンツィオによる決勝戦……いえ、此れは恐らく大洗とアンツィオの全てをぶつけ合う全面戦争と言っても過言ではないわ。

現役を引退した身でも此れには――

 

 

 

「ワクワクしてるんでしょ、しほちゃん?」

 

「ワクワクする、其れが正解だぜしほ」

 

「千代に好子、人の思考を読まないでもらえるかしら?……確かにワクワクしてるのは間違いないけれどね?

 と言うか、此の決勝戦の組み合わせにワクワクしない人など居る筈がないでしょう……いえ、大洗とアンツィオの組み合わせでなくとも、アンツィオが決勝戦にコマを進めたと言うだけでワクワクする人が多いのではないかしら?」

 

「そりゃまぁ、そうだろうな……なんたってアンツィオは、去年の全国大会までは……」

 

「第一回大会から六十二年連続の一回戦敗退ですものねぇ……」

 

 

 

そう、アンツィオは戦車道全国高校生大会が初めて開催された年から毎年大会に出場しているモノの、去年一回戦を突破するまでは毎年一回戦負けだった超弱小校で、一部では『最弱伝説』とまで言われていたわ……因みに六十二年連続一回戦負けと言うのは、戦車道は勿論だけれど、他のスポーツでも例のないワースト記録で、その連敗記録はギネスにも認定されてると言う不名誉っぷりよ。

そんな、最弱と言われていたアンツィオが決勝戦にコマを進めて来たと言うだけでもワクワクすると言うモノでしょう……しかも、決勝戦の相手は化け物揃いの大洗なのだから、ワクワクも倍増と言うモノだわ。

 

「取り敢えず此の試合は……」

 

「稜線崩れて……」

 

「森焼き消えて……」

 

「「「市街地マルっと吹っ飛ばす~~♪」」」

 

「ガッデム!!」

 

 

 

……良いノリでの参加ありがとう、黒のカリスマ。

其れは兎も角、此の試合は若しかしたら大番狂わせがあるかも知れないわね?……ペパロニさんが、みほの最大の天敵に気付いていればだけれど。

 

 

 

「みほちゃんの天敵だぁ?そんなの居るのかよ?」

 

「……分かった、ピーマンね!みほちゃん、昔からピーマンが大嫌いで、菊代ちゃんが『何とか食べさせようと苦労してる』って言ってたし。」

 

「千代、貴女は時々とってもナチュラルにボケるわよね……何で戦車道の試合でピーマンが天敵になるのよ……」

 

「?」

 

 

 

いや、其処で『何でだろう?』って言う顔をしないで頂戴、聞きたいのは私の方なのだから。……此の決勝戦は大番狂わせがあるかも知れない程度に考えておいてくれればいいわ。

みほの最大の天敵と言うのもあくまでも私の考えであり、若しかしたらみほは其れすらも越えてしまうかも知らないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer215

『決勝戦序盤戦はまさかの展開です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

スタート地点は去年と同じだったから、先ずは草原のフィールド……去年は此処を移動中に黒森峰から電撃戦を仕掛けられたんだよね――アンツィオの戦力的に電撃戦を仕掛けて来る可能性は低いけど、警戒するに越した事はないね。

ペパロニさんが隊長としてどんな戦術を繰り出すのか全く持って分からないから、此方から攻めるよりは先ずは攻めさせた方が上策なんだけど、其れでピンチになったなんてのは笑い話にもならないし、余りにも間抜けすぎるもん。

 

 

 

「みほ、決着は市街地でって言ってたけど、このまま真っ直ぐ市街地に向かう訳?」

 

「それが出来ればベストなんだけど、たぶん其れは難しいと思うよエリカさん。

 ペパロニさんも市街地戦を狙ってる筈だから、出来れば先に市街地に入りたい筈……だとしたら、先ずはこの草原のフィールドで私達を攪乱して来ると思うんだよね。」

 

「攪乱部隊で私達を足止めして、そして先に市街地に入って市街地戦の準備に取り掛かる……そう言う事ですね?」

 

 

 

小梅さん正解!

だから私達は攪乱されずに、攪乱部隊が現れたら其れを速攻で撃破するのが最善策って事になるんだよ――

 

 

 

「西住隊長、前方約100m先に、敵戦車確認――CV-33……カルロヴェローチェ五輌です!!」

 

「仕掛けて来たか……!梓ちゃん、カルロヴェローチェ以外の戦車は?」

 

「居ません。カルロヴェローチェだけです!」

 

 

 

予想通り私達を攪乱する為と思われる部隊が現れてくれたけど、戦車戦性能皆無のカルロヴェローチェだけって言うのは解せないなぁ?……クリティカルヒットしない限りは何度でも蘇るカルロヴェローチェとは言え、其れだけの編成って言うのは余りにも貧弱だよ。

其れに、大洗には華さんを筆頭にリインさん、左衛門佐さん、あゆみちゃん、あけびちゃんって言う一線級の砲手が居るからクリティカルヒットをブチかます事位は訳ない事だからね……でも、そんな事はペパロニさんだって分かってる筈。

一体何を狙ってるの?

 

 

 

「来たな大洗!此れでも喰らえ!!」

 

「掟破りの、逆視界抹殺!!」

 

 

 

――ブシューーーーーーーーー!!

 

 

 

アンツィオの攪乱部隊とエンカウントして、いざ戦車戦と思ったら、出会い頭に発煙筒!?……く、此れは予想外だったなぁ――いや、元々は私の十八番の戦術だけど、最近は使ってなかったからスッカリ忘れてたよ。

だけど、此れを使って来るとは流石はペパロニさんだね……『戦車の性能で劣るなら、戦車の性能以外の物をルールで許されている範囲で、最大限しろ』って言う私の言葉、忘れてなかったんだ。

だけど、スモークでの目潰しは私には……私と梓ちゃんには通じないよ!!

 

「梓ちゃん!!」

 

「はい!!」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

闘気をマックス解放すれば、スモーク程度は簡単に消し飛ばせるからね!大洗の視界抹殺を狙うなら、発煙筒じゃなくて閃光弾を用意するべきだったね……闘気で煙は消し飛ばせても、閃光は消せないんだから。

 

 

 

「そもそも普通は、闘気で煙幕を吹き飛ばしたりしないから。其れが出来るの多分貴女と澤だけだから。」

 

「エリカさん、其れは突っ込みなしの方向で♪」

 

さて、攪乱部隊は何処に――

 

 

 

「みほ、アンツィオの連中稜線に部隊を展開してるわ!!」

 

「エミちゃん、何ですとぉ!?」

 

攪乱部隊を探すよりも前に、エミちゃんがアンツィオの部隊が稜線を取ってるのを確認してくれたけど――此れは、この展開は、去年の大洗対黒森峰と同じ展開?

違うのは奇襲を受けた私達がスモークの目潰しで黒森峰の視界を奪ってる間に稜線を取ったのに対し、今回は大洗が目潰しを喰らってアンツィオが稜線って言う点か……巧く私を引っ掻けたねペパロニさん!

となると次に狙ってるのは稜線での攻防と見せかけた、カルロヴェローチェによる履帯切りかな?……ペパロニさんが去年の大洗の戦術を其のままぶつけて来るならそうなるだろうね。

取り敢えず、稜線下に到着したけど……優花里さん、拡声器プリーズ。

 

 

 

「はい、どうぞ西住殿。」

 

「ありがとう。

 さてと……『ペパロニィ!去年の私がやった事をそのまま私にぶつけてくるとは良い度胸してるじゃないか……今のは正式に私への宣戦布告だって認定した!

 望み通り、隻腕の軍神の本気を見せてやる……覚悟しな!!』」

 

私がそう言ってやれば、ペパロニさんもキューポラから身を乗り出して――

 

 

 

『望む所だ!本気で来いよ本気でよぉ!

 軍神様の本気をぶっ潰してこそ、アンツィオにも拍が付くってモンだからなぁ!……本気で来いやみほ!本気じゃないと、アタシは倒せないぜ!!』

 

 

 

って、返してくれた……本気じゃないと倒せないとは大きく出たねペパロニさん?

なら、お望み通り本気で行かせて貰うよ――もちろん最初から本気ではあったけど、その本気レベルを解放して、本気300%で行く事にするよ!!!

 

 

 

「そうですね……全力全壊で行きましょう西住隊長!!」

 

「梓ちゃん……行くよ!」

 

「はい!」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

でもって梓ちゃんと一緒にダブル軍神招来!

私が宿した今回の英霊は、戦国の革命児にして、主人公にもラスボスになれる戦国武将の織田信長だけど、梓ちゃんが宿したのは……

 

 

 

『この剣は、士郎、貴方の為に。』

 

 

 

セイバーだった。

いやまぁ、確かにアーサー王ことアルトリア・ペンドラゴンは英霊なんだけど、なんかちょっと違くない?って言うか、其れを宿したって言うのは誰が如何考えても勝利フラグだよね?だって必殺技が『約束された勝利の剣』なんだから。

 

 

 

「なんで、Fateのサーヴァントが多いんでしょうね?セイバーやアーチャーなら兎も角、キャスターとか宿した日には割と死亡フラグですよ?」

 

「バーサーカーとかも結構ヤバいかもね……」

 

「……バーサーカーの場合、確率で逸見先輩の生霊が憑依する気がします。」

 

「いや、宿る訳ないでしょそんなの!生霊って何よ生霊って!」

 

「「何となく?」」

 

「師弟揃って首傾げるな!……揃ってやられると可愛いのがムカつくわ!!」

 

「可愛いは正義!!」

 

「可愛ければ大体許される!!」

 

「だまらっしゃい、此の大ボケ師弟!

 其れで如何するのみほ?アンツィオが去年の大洗の再現をしてくるんだとしたら、アタシとツチヤとエミは確実に狙われるわよ?重戦車の中でもティーガー系の履帯は特に重い上に、ポルシェティーガーの履帯はエレファントと同系だから更に重い……切られたら修復に時間が掛かるわよ?」

 

「うん、其れは分かってる。」

 

実際に去年は其れで黒森峰の追撃を遅らせる事に成功した訳だからね。

でも、自分がやった戦術だからその対処の仕方も分かる――恐らく、戦車道関係者の多くは、多分お母さんでさえ、『西住みほの最大の敵は西住みほである。』と考えてる……私の戦車道は戦車道の常識から外れてる部分がとても多い反面、自分が同じ事をされる事に慣れてないから、それが唯一にして絶対の弱点だって思うんだろうけど、其れは甘いよ?

確かに自分がやった戦術をそのままやられるって言うのは驚くけれど、だからと言って其れに対処出来ないなんて事はない。だって自分で考えた戦術なんだから、対処の仕方も分かってるし、何よりも去年の黒森峰戦での戦術なんて既に過去のモノ……今の私にはもう通じないんだよ!

履帯切りを喰らうのは止まってるからなんだから、常に動いていれば履帯切りをされる確率は可成り低くなる――カルロヴェローチェみたいな豆戦車で走行中の中戦車や重戦車の履帯を切るなんて言うのは、自ら轢かれに行くようなものだからね。

なので、多少命中率は下がるけど行間射撃を行って相手に的を絞らせないで!動きながら包囲して、プレッシャーを掛けて行くよ!

 

 

 

「「「「「「「「「Jawohl!!(了解!!)」」」」」」」」」」

 

 

 

ペパロニさんが去年の決勝戦での大洗の戦い方をなぞってるなら、私達は去年の黒森峰とは逆の事をやれば良いだけの事……常に動き回って的を絞らせなければ履帯切りには遭わないからね。

此方は行間射撃、向こうは動いてる相手への攻撃って事でお互いにクリティカルヒットは望めないけど、動き回りながら包囲を狭めてる分だけ此方がプレッシャーを掛ける事が出来る……稜線を取るって言うのは戦車道の基本の一手だけど、こうしてプレッシャーを掛けられると弱い面もあるんだよ。

稜線を取るって言うのは、逆に言うなら自分達が動ける場所が狭くなるって事でもあるからね。

さて、このまま行くとジリ貧だけど、如何するペパロニさん?

 

 

 

「流石はみほ、やっぱり簡単に対処して来やがったか……だが、コイツは如何だ!!」

 

 

 

ん?大分間合いが詰まって来た所でペパロニさんが胸元から何か取り出した?……って、アレはまさか!!皆、目をつむって――!!

 

 

 

「喰らえ、電刃波動拳!!」

 

 

 

――カッ!!

 

 

 

私が言いきるより先にペパロニさんが手にしたモノ――スタングレネードが炸裂して強烈な閃光が私達の視界を真っ白に染め上げた……さっきの発煙筒に続いて今度はスタングレネード、閃光弾とは完全にお株を奪われた格好だね此れは。

そして完全にペパロニさんにしてやられたね……ペパロニさんは読んでたんだ、『去年の決勝戦の大洗の戦い方を真似れば、必ず其れに対する尤も有効な手を使って来る』って。

 

ペパロニさんは、一見するとノリのいいお馬鹿さんにしか見えにけど、実は『理解力が低いだけで記憶力はメッチャいい』んだよね……丸暗記でテストを突破しちゃうくらいなんだから。

そんなペパロニさんだったら、私が中学時代に使った戦術だけじゃなく、今年の準決勝までに使った全ての戦術を事細かに覚えてる可能性があるって事を考えると、此れは結構やり辛いかも……さて、如何したモノかな?

 

 

 

「悩む事なんてありませんよ西住隊長。」

 

「梓ちゃん?」

 

「西住隊長の使った戦術の全てを覚えてるって言うのは確かに脅威だとは思います……今みたいに、其れを模倣する事で其れに対する有効策を使わせた上でのカウンターって言う事も出来ますから。

 でも、だから何ですか?相手が此方の戦術を全て知ってると言うのなら、相手の知らない戦術を繰り出せば良いんです!いえ、既に知られてる戦術であっても、西住隊長の戦術は多岐に渡るんですから、其れは組み合わせ次第で無限の手札になります――ペパロニさんも知らない組み合わせを使えば良いんですよ!

 其れに――」

 

「其れに?」

 

「私の存在を忘れないで下さい!

 西住隊長の一番弟子として教えを受けた私は、多分ペパロニさん以上に西住隊長の事を知ってると思いますから、ペパロニさんの上を行く事もきっと出来ると思います――だから、遠慮せずにどんどん無茶振って下さい!」

 

「そうね、澤の言う通りだわ……目眩ませしたって事は、恐らくアンツィオは此処を捨てて市街地に向かってる筈だから、貴女が言ったように市街地戦で決着を付ける事になるでしょうから、遠慮せずに私達に命令しなさい。

 そして、アンツィオに思い知らせてやろうじゃない……私達大洗に市街地戦を挑むのが、ドレだけの愚の骨頂なのかって言う事をね?――貴女が望むなら、狂犬の牙は何時でもアンツィオの喉笛を喰い千切ってやるわ。」

 

 

 

……そう来たか。

そうだね、梓ちゃんは私が直接鍛えたんだからペパロニさん以上に私を知ってるから、ペパロニさんの上を行けるかも知れないね……そして、エリカさんの言う様に遠慮は要らないかもだね。

まさか、初手で此れだけの事をされるとは思わなかったけど、其れだけに何で安斎さんがペパロニさんをアンツィオの隊長に任命したのか分かったよ。

カルパッチョさんにはないこの大胆さを安斎さんは買ったんだ……普通、対戦相手がやった事をマルっとぶつけるなんて事をする人は居ないだろうからね――私だって、其れはやった事が無いからね。

 

うん、ペパロニさんは此れまで私が戦った事が無いタイプの戦車乗りだ……だからこそ、ワクワクが止まらないよ!!

スタングレネードで奪われた視界も戻って来たし、アンツィオを追撃するよ!どんなルートを通ったとしても、市街地に入るにはあの川を越えなければならないから、其処までの最短ルートは分かってるしね。

 

 

 

と思ってたんだけど、川への最短ルートにある橋は見事に落とされてて、其処にはデフォルメされてるペパロニさんがヘルメット被って頭を下げたイラストが描かれた『工事中につき迂回願います』の看板があった……自分がやる分には兎も角、此れはやられるとムカつく事この上ないねマジで。

と言いつつ、この看板は確りと回収したけどね。

 

 

そして迂回して川に到達したんだけど……アンツィオの部隊が川の中腹で止まってる?下流に行くに従って重量のある戦車を配置するのは当たり前だから良いとして、如何して其処で止まってるんだろう?……まさか!!

 

 

 

「みほさん……若しかして、アンツィオの戦車に何か不具合が起きたんじゃ?」

 

「その可能性は可成り高そうだよ小梅さん……!!」

 

一昨年は味方が激流に落ちて、去年はウサギチームが川で立ち往生で、今年は相手チームが川で立ち往生って、形は違えど何だか高校生になってから毎年のように『水難の相』に見舞われて気がしてならないなぁ?……本気で大洗磯前神社でお祓いして貰った方が良いかも知れないね。

 

 

 

「其れでみほ、アタシ達は如何するの?」

 

「如何するって、そんなの決まってるよエミちゃん。」

 

此れが戦争なら好機と見て殲滅する所だけど、戦車道はスポーツであって戦争じゃない――だったら、私のやる事は一つだけだよ。……人によっては『甘い』って言うのかもしれないけど、言いたければ言えば良いよ。

誰が何と言おうと、此れが私の戦車道だからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:ペパロニ

 

 

クッソ、上手くみほを出し抜いたってのに、まさか川越でトラブルに見舞われるとはな……なんぼアタシが去年の大洗の決勝戦を真似たからって、此処まで真似なくても良いっての!

スタングレネードの効果を考えても、此処でもたついてたら大洗に追い付かれちまう……そうなったら、みほより先に市街地に入る事は出来ねぇ!!

みほの事だから、この状態のアタシ達に攻撃をする事はねぇだろうが、攻撃しないだけで追い抜いてく可能性はあるからな……みほはNice Girlだけど決してお人好しじゃねぇ……試合では、一切容赦なしだからな。

 

なんて事を考えてる端から大洗が追い付いて来やがった……こりゃ最悪だな?――此処でアタシ等は大洗に追い抜かれて、先に市街地に入られちまう訳か……クソ、そうなったら勝率は勝率は20%以下だ!

カルパッチョの見立てだと、アタシ達が先に市街地に入った時ですら勝率は50%だったんだから、大洗が先に市街地に入ったら勝率は更に低くなるのは当然だ――ったく、戦車道の神様は何処までもみほが好きみてぇだな、クソッタレが!!

 

そう悪態をついてたら、大洗に動きが……なんだ、アイスブルーのパンターと漆黒のティーガーⅡだけがこっちに向かって来た?

 

 

 

「ペパロニさん、動けなくなった戦車はどれ?」

 

「ワイヤーを持って来たから、トラブルが起きた戦車は私とみほで牽引するわ。陸に上がれば応急処置も出来るでしょ?」

 

「!!!」

 

って、お前等まさか……アタシ達を助けに来たのかよ!?……馬鹿じゃねえのかオイ!?

こんな事しないで、立ち往生してるアタシ等を集中砲火すれば勝利は確実だったってのに、勝機を逃してまで助けに来るとか、普通は絶対に有り得ねぇ事だぜマジで!!

 

 

 

「動けなくなってる相手を攻撃して勝っても、そんなのは全然嬉しくないよ――其れに、困ってる人を見捨てる事が出来る程冷めた人間じゃない心算だからね私は。」

 

「ま、私としては見殺しにても良いんだけど、みほが『助ける』って言うから助けただけだから勘違いするんじゃないわよ?狂犬は危険だけど、飼い主の命令には従う、つまりはそう言う事だからね。」

 

 

 

エリカ、ツンデレ乙だな。

しっかしこりゃ、完全に借り一だな……仕方ねぇ、この借りはアタシ達が勝つ事で返させて貰うぜ――アンツィオの全国制覇は去年の大洗の全国制覇レベルの快挙だろうからな。

負けないぜみほ!!

 

 

 

「その言葉、そっくり返すよペパロニさん……私だって負けない。ううん、勝つよ絶対に。負けないんじゃなくて勝つ、其れが私と貴女の差だよ。」

 

「なら、その差も越えてやるぜ……勝つのはアタシ等アンツィオだからな!!」

 

「……なら燃え尽きろ、潔くな。」

 

 

 

そう来たか……悪いが、燃え尽きる心算はねぇから、市街地では覚悟しとけよ?

アンチョビ姐さんから受け継いだ戦術をアタシなりに昇華した新生アンツィオの真骨頂ってモノをたっぷりと御馳走してやるからな……タップリと喰える様にスカートのベルトは緩めとけよ?

アンツィオのフルコースは、中々食べきれるモンじゃねぇからな――途中で食い倒れだけはしないでくれよ?……ま、お前にはそんな心配は無用かもしれないけどな、みほ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer216『市街地戦は乙女の憧れです』

燃える!燃える!!燃え滾る!!Byみほ       スゲェ闘気だな……圧倒されたぜ!!Byペパロニ


Side:まほ

 

 

先ずはアンツィオが、掟破りの逆みほ流を炸裂させたか……戦車を撃破するには至らなかったが、みほの出鼻を挫いたと言う意味では大いに評価して良いだろう。――私ですらみほの出鼻を挫く事は出来ないからな。

其れが出来たのも、今のアンツィオの隊長が、中学時代のみほの最初の友達であり、三年間同じ戦車に乗っていたペパロニだからだろうな……もしもペパロニではなくカルパッチョが隊長だったら、こうは行かなかっただろう。

 

「安斎、お前が選んだ隊長は当たりだったみたいだな。」

 

「ペパロニは理論を司る左脳は殆ど働いてないが、直感を司る右脳は常に全開稼働しているような奴だからな……アンツィオの隊長として、アイツ以上に適した奴はいないさ。」

 

 

 

お前以上にアンツィオの隊長に相応しいと言う訳か……まぁ、お前の場合はアンツィオの立て直しが最優先だったから、試合では本来の力を発揮出来なかっただけで、お前も充分にアンツィオの隊長に相応しいと思うぞ安斎。

 

 

 

「お前にそう言って貰えると嬉しいよ西住……お前にそう言って貰えるだけで、私は自分がやって来た事が無駄ではなかったと胸を張る事が出来る。」

 

「お前がやって来た事が間違いな筈が無かろう――万年一回戦敗退だったアンツィオを初戦突破させたのは、紛れもないお前の成果だからな。」

 

そのお前が次の隊長に選んだペパロニは、よりアンツィオらしいと言う話だが……まさか、アンツィオの部隊が川で立ち往生するとは思わなかったぞ?

だが、其れ以上に追い付いた大洗の部隊からみほとエリカが出て、救助活動をするとは本気で予想外だった――一昨年の決勝戦の時の様に、人命にかかわる事態でもないのに救助をするとはね。

 

 

 

「甘いと思うか西住?」

 

「いや、此れが正解だろ安斎。」

 

戦車道は戦争ではなくスポーツだ。

相手のミスにつけ込むのは良いが、相手に発生したトラブルをチャンスと捉えては駄目だよ――危険なトラブルが起きたその時はノーサイドで対応するのが、スポーツマンシップと言うモノだからな。

 

立ち往生した戦車はパンターとティーガーⅡに牽引されて無事に対岸に到達出来たようだが、如何やら致命的なトラブルが起きた訳ではないらしく、暫くするとエンジンが掛かったみたいだな。

……勝利至上主義の恩知らずならば、対岸に到達した瞬間にみほのパンターを不意打ちするのだろうが、ペパロニと言うのは義理堅い奴だから、そんな姑息な真似はしないだろう――と言うか、そんな礼儀知らずの集団では決勝戦にコマを進める事など出来んからな。

 

さて、此処から試合が如何動くのか……見せて貰うぞ、お前達の戦車道を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer216

『市街地戦は乙女の憧れです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

無事に川を渡り切って、エンストした戦車も無事に再起動したね……『何度普通にエンジン掛けようとしても掛からなかったから、適当な場所にチョップかましたらエンジンが掛かった』って、昭和時代の家電製品じゃないんだから。

さて、此処から如何するペパロニさん?

 

 

 

「如何するって、何を?」

 

「今、こっち側に居るのは私とエリカさんだけで、そっちは全車揃ってる――やろうと思えば、フラッグ車を撃破出来る絶好のチャンスなんだけど、如何するのかなぁって。」

 

「お前、分かって言ってるだろ?

 助けて貰ったってのにそんな恩知らずな事出来るかっての……てか、そんな腐れ外道な真似したら、次にお前に合わせる顔がねぇだろうが。……何よりもそんな事したら、アタシは冗談抜きでエリカと小梅とエミにぶっ殺されちまうって。」

 

「人聞きの悪い事言うんじゃないわよ、殺しはしないわ……『いっそ殺してくれ』って言う位の拷問をしてあげるけどね♪」

 

「いや、そっちの方がおっかねぇし!!」

 

 

 

あははは……程々にねエリカさん。

勿論ペパロニさんがそんな事をする筈がないと思ってるけど、何て言うかこう、場の雰囲気的に聞いておくべきかなぁって。ペパロニさんが『見損なうなよ?』って返してくれたらなお良かったんだけどね。

 

「ならペパロニさん達は先に行って。私達は攻撃しないから。」

 

「は?いや、何言ってんだみほ?」

 

「二十五分……閃光弾を喰らってから、大洗が此処に到達するまでの時間だけど、同じ時間を私は此処で待機するから先に行ってよ。トラブルさえ無ければとっくに市街地に着いてた筈だから、トラブルのせいで狂った予定を元に戻さないと。

 何よりも、市街地で先に待っているアンツィオとの市街地戦でプランを練り直した所だから、アンツィオには先に市街地に入ってて貰わないと困るんだよ……またプランを練り直すのも楽じゃないからね。」

 

「言うじゃねぇかみほ……良いぜ、その挑発に乗ってやらぁ!

 だが、アタシ達を先に市街地に入れた事を後悔させてやるぜ――この日の為に、アタシ等は市街地戦を徹底的に磨いて来たんだからな?市街地戦は、みほの専売特許じゃねぇって事を教えてやんぜ!

 行くぞお前等!隻腕の軍神様を市街地戦で満足させてやろうじゃねぇか!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「Ricevuto!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

行っちゃった。

直ぐに姿は見えなくなっちゃったね……其れじゃあ、隊長車以外は全車進軍開始!!

 

 

 

「はぁ!?ちょっと待ちなさいよみほ!貴女さっきペパロニに『同じ時間を私は此処で待機する』って言ってたじゃない!其れなのに進軍するっての?」

 

「へ?いや、だから隊長車以外が進軍するんだよ?

 私は此処で二十五分間待機するとは言ったけど、私以外も待機するとは一言も言ってないもん。」

 

「へ、屁理屈極まりないわね其れ……なんて言っても、貴女に言わせれば『屁理屈だって理屈は理屈』って事になるんでしょうけど。ったく、我が隊長ながら、本気で恐ろしいわ貴女って。」

 

 

 

言葉もまた兵法ってね。

だけどペパロニさんは、きっと私が言った事を正しく理解してるだろうから、私以外の大洗の戦車が直ぐに追って来るって事は予想の範囲内である筈だよ……兎に角ペパロニさんは勘が良いから。

取り敢えずエリカさん、市街地に入ったらアンツィオの部隊が自分から姿を現すように適当に煽ってくれるかな?其れで相手が出て来たら、其処からは煮るなり焼くなり好きにしていいよ。

 

 

 

「ペパロニって、青唐辛子だけじゃなくて、青唐辛子入りのドライソーセージ……サラミの意味でもあるのよね?――だったら、煮るよりも焼いて食べた方が旨そうだわ。

 ペパロニのピザって最高に美味しいからね。」

 

「イタリアピザのクリスピーなサクサク生地にトロットロのチーズと青唐辛子のパンチの利いたペパロニの組み合わせはある意味で反則だと思います。」

 

「ピザはフワフワのクラフト生地より、サクサクのクリスピーの方が好きだわ私は。」

 

 

 

おぉっと、大洗の部隊も川を渡り切ったみたいだね。

其れじゃあ、さっきも言ったようにこのまま市街地に向かって――私は二十五分間は此処で待機してるけど、市街地に入ったら基本的に好きな様にやってくれて良いよ。

だけど、其れだと司令塔不在になるから、私が市街地に入るその時まで、部隊の指揮の全権を梓ちゃんに譲渡する……やってくれるよね梓ちゃん?

 

 

 

「はい、勿論です!

 寧ろ、西住隊長が動くその前に試合を決める心算で部隊の指揮をさせて頂きます――軍神を継ぐ者ではなく、大洗の首狩りウサギとして!!」

 

「そう言えば、そんな物騒な二つ名もあったんだよね梓ちゃんには。」

 

だけどまぁ、去年の決勝戦で、Ⅲ号で重戦車を次々と撃破したその様は、兎が大型の肉食獣を次々と倒して行ったと言っても過言じゃないから、軍神を継ぐ者よりも梓ちゃんには相応しい二つ名かもしれないね。

獰猛な肉食獣をも葬る首狩りウサギ……若しかしたらアンツィオは、私以上の怪物の相手をする事になるのかもしれないよ――まだ開花しきってない梓ちゃんの中に眠る潜在能力は、私をも凌駕するモノが有るだろうからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梓

 

 

西住隊長が動き出すまで全権を譲渡されたから、その責任は果たさないと――寧ろ、西住隊長が動き出したら、大洗優勝のアナウンスが流れる様にしたい感じかな?出来れば、だけどね。

 

 

 

「西住隊長に一杯食わせただけでも、アンツィオの新隊長ハンパないからね~~?……ぶっちゃけ、梓としては勝てそうなの?」

 

「正直言って、『分からない』かな。

 中学時代は同じ学校だったけど、中学時代の辛唐先輩……ペパロニさんは、装填士だったから車長で隊長の今とは全然違うから、ハッキリ言って未知の相手なんだよあゆ。」

 

「そ~なんだ。ってか、あゆ?」

 

「あゆみだから『あゆ』。

 今年の一年生に、中学時代の後輩の『歩美』が居るから区別する意味で――其れに、愛称で呼んだ方が恋人っぽいかなって。」

 

「あ~~……確かに名前被ってたっけか。

 でもそうなると、一年生の中に、彼女の方を私と区別する意味で『あゆ』って呼んでる子が居ると思うんだけど、その辺に関しては如何よ?下手すっとめっちゃ混乱しそうじゃない?」

 

「……その辺は、もう周りに慣れてもらうしかないような気がする。」

 

いっその事、秋山先輩みたいに『西住殿』、『姉住殿』、『母住殿』ってな感じの呼び分けが出来ると便利なんだけど、此ればっかりはもう如何しようもないからね……もうぶっちゃけて『私のあゆみ』とか――否、此れはないよね。

 

さてと、無事に市街地に突入したから部隊は散開したんだけど、三輌のF2は私と一緒に行動させてる――明光大出身の子達なら兎も角、そうじゃない子達は市街地戦にはまだ慣れてないから、一緒に行動した方がフォローも出来るし、市街地での戦い方を実戦で教えてあげられるから。即興だから少し荒いけど作戦も考えたし。

散開したメンバーは夫々が好きなようにやって、西住隊長が戦線復帰するまではその結果は私に入って来るから、其れへの指示もしながらって言うのは大変だけど、次期隊長なら此れ位の事は出来ないとだよ。

其れじゃあ始めようか!

 

「Panzer greift an!(戦車、攻撃!)」

 

「「「God damm!」」」

 

 

 

……何で?

あ、黒のカリスマが歌った『超重戦車王者マウス』か……確かに、『Panzer greift an!God damm!』って絶叫してたか。――カリスマの影響力って言うのはホントに凄いモノがあるって実感するよ。

西住隊長も、そのカリスマ性で人を惹き付けるしね――私も、そうなれるように頑張らないと!

その為にも、先ずは西住隊長が戦線復帰するまでに勝負を決める心算で行って、最大の戦果を上げないとだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

みほのあんこうチームが居ないとは言え、大洗もアンツィオも、互いに決戦の地とした市街地に到達した――舞台が決戦の地になった以上、激闘は当然として、大洗と今年のアンツィオの市街地戦だと、『戦車道って何だっけ?』ってな感じの試合にしかならない予感がヒシヒシとしてくる。

大洗もアンツィオも、真正面からのガンガン遣り合うよりも、策を駆使して戦うのが得意な、『裏技・搦め手上等!』な学校なのだ……そんな連中が市街地戦でぶつかるとか、如何考えても普通の戦車道の試合になる筈がないのだから。

 

『上から何かが降って来た』、『突如地面が陥没した』、『民家の中から戦車がこんにちわ』位の事は普通に起きると思っておいた方が良いだろう。

 

そんな激闘が予想される市街地は未だに静寂に包まれているのだが、此れは絶対に『嵐の前の静けさ』だろう。って言うかそれ以外にはあり得ない。

 

 

その市街地で一際開けたバスターミナルに梓率いる小隊はその姿を現した。

 

 

「…………」

 

 

パンターを中心に、三輌のⅣ号F2が三方向を向いた――少し分かり辛いかも知れないが、三ツ矢サイダーのマークみたいな陣形を取っている。

現在指揮権を全権譲渡されている梓は、キューポラから身を乗り出し、しかし特に指示を出す訳でもなく、腕を組んでじっと目を閉じている……素人目には、隙だらけに見えるだろうが、玄人や戦車道経験者が見たら隙だらけどころか、一分の隙すら見て取れないだろう。

今の梓は、静かながらも戦車乗り特有の闘気を燃やしている状態……氷の鎧でマグマを包んだと言うのか、燃え盛る闘気を氷の理性で制御してる状態――正に『冷たい炎が世界の全てを包み込む』と言った感じだ。

 

 

「Angriff beginnen……!(攻撃開始……!)」

 

「「「Jawohl!(了解!)」」」

 

 

その梓が、『カッ!』っと目を開いたと同時にパンターと三輌のⅣ号F2は砲撃を開始。

だが、目視出来る範囲にアンツィオの部隊は居ない……だとすれば此れは完全に只の無駄弾撃ちなのだが、みほの一番弟子である梓がそんな無駄な攻撃をする筈がない。

放たれた砲撃はバスターミナル周辺の楽器屋やスポーツ用品店の建物にジャストヒットし、一撃で建物を木っ端微塵に!どこぞの某社長が、『これぞ、強靭!無敵!!最強!!!粉砕!玉砕!!大喝采!!!』とか大はしゃぎそうな位に見事に木っ端微塵にしたのだ。……建物だけじゃなく、商品の補償までとなると、戦車道連盟は一体どれだけの額を払う事になるのか分かったモンじゃないが、補償は全部連盟がやってくれるのだから、選手はトコトン全力で行くべきなのだ。

 

 

「く……まさか、隠れてる事がバレてた!?」

 

「軍神を継ぐ者は伊達じゃねぇって事か……上等、お前を倒してドゥーチェへの献上品にしてやる!」

 

 

でもって、木っ端微塵になった店の中からは、アンツィオのM11/39、M13/40、M14/41が一輌ずつ現れた……元よりM14/41は一輌しか居ないのだけれど、今年からアンツィオが使い始めた中戦車が三輌も現れてくれたのだ。

此れは梓にとっても嬉しい事だった――バスターミナル周辺の建物にアンツィオの戦車が潜んでいる事は予想していたが、其れが今年から追加された中戦車だとは予想していなかったからだ。

CV-33なら、店舗クラッシャーで撃破出来たかもだが、中戦車ともなればそんな軟な性能ではないので、瓦礫雪崩にも耐える事が出来たのだろう。

 

 

「今年からの中戦車……此れは逆に好都合かな?此処で狩れば、其れだけ戦力を削れる訳だからね――クロエ、あゆ……リミッター解除で行くよ。

 大洗の首狩りウサギは、今宵アンツィオの首を掻っ切るから!」

 

「了解だヨ梓!無茶振り上等だネ!!」

 

「一発必中、百発百中!五十鈴先輩直伝の、五十鈴流砲撃術を見せてやるって!!」

 

 

だが、其れが逆に梓に闘気に火を点けた様だ――その闘気は操縦してあるクロエと、砲手であるあゆみにも飛び火したみたいだ……って言うか、五十鈴流砲撃術ってなんぞ?

まさかとは思うけど、百合ママって実はJK時代は戦車隊に所属してたとか?……若干あり得ないとは言い切れない気がするな此れは?戦車道を始めた華を勘当したのも、自分が戦車道の大変さを知ってるから、その苦労をさせたくなかったから戦車道を認めない事を言ったとすれば、一応の筋は通るからね――まぁ、その勘当はもう取り消されたからアレだけど。

其れは其れとして、大洗ナンバー2の操縦士であるクロエと、大洗ナンバー2の砲手であるあゆみのリミッターが解除された以上、パールホワイトパンターはその力を十全以上に発揮するだろう。――ナンバー2砲手は、ティーガーⅡのリインじゃないのかって?今のあゆみは其れすら凌駕してんだよ!

公式チートすら凌駕するあゆみは、ある意味最強かもしれない――あくまでも戦車道に限ればの話だけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

バスターミナルで戦闘が開始されたの皮切りに市街地の各地で激しい戦闘が展開されるようなった――だが、其れは決して一方的なモノではなく、互いに一歩も退かない文字通りの激闘になっていた。

大洗が歩道橋クラッシャーをブチかませば、アンツィオはマカロニ作戦ツヴァイを使って確実に大洗の戦車を撃破する。

 

そんな激闘の中で、偶々エンカウントしたⅢ突と、カルパッチョが乗るセモヴェンテも激闘を繰り広げていた――Ⅲ突の装填士のカエサルと、セモヴェンテの装填士のカルパッチョは幼馴染だが、だからこそ『負けたくない』と言うライバル心が燃え、互いに回転砲塔が無いのに、『ナポリターン』を駆使しての戦車戦を展開しているのだ。此れは燃えるね。

 

 

「今年は私が勝つぞひなちゃん!!」

 

「今年は私が勝つよたかちゃん!!」

 

 

砲撃だけでなく、戦車同士の体当たりもしながらⅢ突とセモヴェンテはお互いに削り合いのような攻防を繰り返す……この後の事なんぞは一切考えてないマジのガチンコ勝負って奴だ!

此れには観客席の観客達も大いに盛り上がった。

 

 

「ガッデーム!!最高だぜ!!」

 

「ふふ、最高の戦車道だわ――そうは思わないかしら千代、好子?」

 

「聞くまでもねぇだろしほ?……此れ以上の戦車道は、早々お目に掛かれるモンじゃねぇよ。」

 

「此の試合を録画したメモリーカードは、バックアップを大量に作って、永久保存しておくべきでしょうね――此れはきっと、戦車道の発展に欠かせない資料になると思うもの。」

 

 

黒のカリスマは相変わらずだが、しほ達の言ってる事は間違ってはいないだろう。此れだけの試合の記録を後世に伝えないなんて事は有り得ないってモンだからね。

 

其れとは別に、みほから直々に命を賜ったエリカは如何してるかと言うと――

 

 

「ハッ!その程度の機関銃でティーガーⅡを撃破出来ると思ってるわけぇ?だとしたら頭の中がお花畑過ぎるんじゃない?

 雨だれ石をも穿つとは言うけど、そんな豆鉄砲じゃ、ティーガーⅡの装甲に傷をつける事なんて不可能よ――あぁ、アンタ等はそんな事も分からないお馬鹿さんだったわね。」

 

 

持ち前の挑発スキルを駆使して、隠れているアンツィオの部隊を炙り出そうとしていた――普通なら、こんなあからさまな挑発に乗る奴は皆無なのだけれど、アンツィオはノリと勢いが優先なので、挑発されたら其れに応えるのが上等なもんだから、挑発と言うケンカを売られたら買う以外の選択肢は存在しないのだ。

 

 

「誰がお馬鹿さんだって?」

 

「お前ーーm9(^Д^)!!」

 

「ぶっ殺す!!」

 

「あんまり強い言葉を使うんじゃないわ、弱く見えるわよ?」

 

 

流石は『大洗一口の悪い女』と言われるエリカ、挑発させたら右に出る者なしだわ――BLEACHの愛染のセリフのオマージュまでしてるってのが、本気でムカつく事この上ないわ。……こう言った挑発も出来るだけじゃなく、理性をフッ飛ばして闘争本能だけを全開にする事も出来るってんだから、エリカもある意味でチートなのかも知れんな、冗談抜きで。

 

トまぁ、そんな感じで市街地戦が行われ、大洗もアンツィオも残存戦車は共に十輌となっていた……此処まで減るまでに、幾つものビルと歩道橋と信号が破壊され、道路には数えきれないほどのクレーターが存在してるんだけどね!!……マッタクどんだけの裏技を駆使して戦ったら、市街地が廃墟同然になるのか知りてぇですわマジで!!

だが、此れでもまだ互いに本気ではない――だって、この場には隻腕の軍神こと、みほが居ないのだからね。

みほが戦線復帰したその時が、この戦いの決着だと言ってもきっと言い過ぎではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

――カチ、コチ……

 

 

 

よし、此れできっかり二十五分……私達も市街地に向かうよ!!

 

 

 

「了解であります西住殿!!」

 

「こうなったら、絶対に優勝しようねみぽりん!」

 

「どんな敵でも、撃破して見せますよみほさん。」

 

「多少の無茶は任せろ……私はきっと、西住さん専属の操縦士になる為に生まれて来たのだろうからな。」

 

 

 

麻子さん、其れは如何かと思うけど、若干否定出来ないのが辛いかな?……とは言っても、作戦は大筋で上手く行ってるから、私達も祭りに参加しようじゃない♪

戦車道が織りなす、唯一無二の祭りにね!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer217『決着を付けようぜ八神!です!』

決着を付けようか、ペパロニさんByみほ       お前の敗北を持ってな!!Byペパロニ


Side:しほ

 

 

『二十五分間は私は動ない』と言った上で、アンツィオを追撃するとは流石だわみほ……二十五分間は、貴女は動かなくとも、大洗の他の部隊は動か無いとは言ってないから嘘は言ってないからね。

言葉もまた兵法――西住流の裏技も、みほはキッチリ会得しているみたいだわ……本当にあの子は、西住流始まって以来の天才であるのは間違いないでしょうね。

そしてその稀代の天才は、努力も怠らなかった……けれど、アンツィオはそんなみほが率いている大洗と互角の戦いをしている――安斎さんの後を継いだペパロニさんもまた相当な実力者ね。

みほが市街地に入ったらまた試合の展開も変わるのかも知れないけれど、みほが市街地に入った事を知ったら、ペパロニさんは他は一切無視して、みほを倒す為に残存戦力を集中するでしょう――其れが、みほを撃破する為に最も効率的な方法でもあるから。

 

 

 

「アンツィオがそんな作戦を使って来る事位、みほちゃんなら分かってると思うけど……?」

 

「えぇ、分かっているでしょうね。

 でも、分かっていても、あの子の場合は自分が集中攻撃された場合の対処が他の戦車乗りとは異なるのよ――勿論、私や貴女達ともね。」

 

「あん?そりゃどう言うこったしほ?」

 

「其れじゃあ問題よ好子。

 貴女だったら自分が相手に集中攻撃された場合、どう対処するかしら?」

 

「如何って……そりゃお前、味方に支援を要請した上で、何とか巻いて態勢建て直すに決まってんだろ?つーか、それ以外の方法って普通無いぜ?」

 

 

 

そう、其れが普通の対処の仕方。

だけどあの子は、みほは自分が集中攻撃された場合でも自力で何とか出来てしまうだけの実力がある――事実あの子は、一対十と言う状況でも勝利して見せた事があるのだから。

でも、其れは逆に言うと戦車を酷使する事を意味しているわ。

ドイツ戦車同士で模擬戦を行う事が多い西住流や黒森峰ならば、機動力戦になる事は多くはないから、其処まで戦車の足回りに負荷は掛からないけれど、機動力重視のアンツィオ相手に其れをやったら、最悪途中で履帯が悲鳴を上げてしまうわ。……ペパロニさんの狙いは其れ。

そして、此れがみほの最大の弱点ね――あの子は危機的状況に遭った場合、仲間を頼る事はしても、自分の安全を考えずに目の前の相手を倒す事が出来てしまう。自分の身を守らない事が出来てしまう。だから、集中攻撃されても自分で群がる相手を撃破する事を選択してしまう幼くして死の恐怖を体感してしまった事で、みほの恐怖心は極端なまでに麻痺してしまっているからね……『身を守らない事が出来る』と言う、生き物として最悪の欠陥――ペパロニさんが其処を突いて大洗を倒すのか、みほがその弱点を理解した上で対処するのか、勝負の分かれ目は其処ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer217

『決着を付けようぜ八神!です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

市街地に無事に到着した訳なんだけど……此れは此れは、梓ちゃん達は中々派手に暴れたみたいだねぇ?家屋は殆どが半壊状態になってるし、ガードレールはひん曲がり、歩道橋は階段だけしか残ってなくて、交差点には真・豪鬼――じゃなくて信号機が散乱してるからね……いやはや、私が居なくても、派手にやらかしたね皆。

 

 

 

「まるでゴーストタウンだな。……連盟が一体どれだけの諭吉さんをリリースするのか分かったモノじゃないぞこの有様は?

 と言うか、常々疑問だったんだが、戦車道の試合で破壊された一切合切は戦車道連盟が保証してくれるって、連盟は一体どれだけの財力を持っているんだ?」

 

「冷泉殿、其れは聞いてはいけない事であります。

 一説には戦車道連盟は『アラブに油田を持ってる』、『金やダイヤモンドなんかが採掘できる鉱山を幾つも所有してる』、『海底の奥底にあるレアメタル や、液化天然ガスを採掘して売買してる』、『大人気の戦車女子のブロマイドやグッズを高値で販売してる』と言った噂がありますが、真相は謎のままであり、下手に真相を暴こうとするとベーリング海峡の蟹漁船に乗る事になるとかならないとか。」

 

「ゆかりん、其れヤバいって。連盟の闇が深いよ?」

 

「あらあら沙織さん、その程度の闇、五十鈴家の闇と比べれば大した事ありませんよ?」

 

「え?ちょっと華、五十鈴家の闇って……」

 

「私が学園艦の最深部に張られていた有刺鉄線を華道用の鋏を使って一瞬でバラバラにしたのを覚えているでしょう?……アレは、五十鈴家に代々受け継がれてきた暗殺術を応用したモノなんです。

 実は五十鈴家は戦国時代から時の権力者に使えて来た暗殺を家業とする一族でして、太平の世となった江戸時代に素性を隠す為に華道を始めたと言われているんです。

 ですから、私にも暗殺者としての血が流れている訳で……」

 

「嘘!?思った以上に闇が深い!!」

 

「まぁ、全部嘘なんですけれど。」

 

「嘘って、やだもー!!」

 

 

 

あはは……華さん、其れは流石にない――とは言い切れないよね?

あの鋏での一閃は一朝一夕で出来るモノではないから、きっと幼少の頃から仕込まれて来た筈……五十鈴家が実は暗殺を家業としていたって言うのはマッタクの嘘ではない気がする。って言うか、下手したら歴史の裏で西住家や島田家とも事を構えてた可能性もあるかもね。

 

 

 

「うふふ、さて如何でしょう?……其れよりもみほさん、此れから如何しましょうか?」

 

「そうだね……先ずは適当に市街地を回って、アンツィオの戦車を見つけたら速攻でオープンコンバット。交戦中の所にエンカウントしたら、問答無用で乱入って所かな。」

 

「フラッグ車は探さないのか?」

 

 

 

麻子さん、確かにフラッグ戦である以上フラッグ車を探し出して撃破するのが一番効率が良いんだけど、市街地でフラッグ車を探すって言うのは簡単な事じゃないんだよ。

去年の黒森峰と言うか、戦車道の暗黒面に堕ちた西住流だったら相手のフラッグ車を思う様に誘導する事も楽なんだけど、ペパロニさんは『論理を蹴り飛ばして感性で行動する人』だから余計にね。

論理をすっ飛ばして感性で行動する人って言うのは、次の一手が全く読めないから、此方の思い通りに誘導するのは難しい上に、当たりを付けて探し出すってのも可成り難易度が高いから、ペパロニさんの方からやって来てくれる状況を作るのが最善なんだよ。

私が大暴れしてるって事を知ったら、ペパロニさんは必ずやって来るだろうからね……いや、ペパロニさんだったら必ず来るよ――ペパロニさんは、こう言ったらなんだけど『火事と喧嘩は江戸の華』を地で行く部分があるからね。

 

 

 

「ペパロニ殿は割と喧嘩っ早いとの噂もありますからね……っと、行き成り来たみたいでありますよ西住殿!!」

 

「だね。」

 

 

 

市街地に入った私達あんこうチームの前に現れたのは、カルロヴェローチェの集団……機動力を生かして私達を攪乱し、あわよくば履帯を切ろうって事なんだろうけど、戦車戦性能皆無の豆戦車で、大戦期最強の中戦車と謳われたパンターに挑むなど、愚の骨頂!笑止千万!!身の程を知れい!!

 

「麻子さん、華さん、優花里さん……行くよ!」

 

「おうよ。」

 

「お任せ下さい。」

 

「了解であります西住殿!」

 

「みぽりん、私は?」

 

「他のチームと連絡を取って、状況を確認して。」

 

「ん、了解!」

 

 

 

其処からは電光石火の攻撃開始!

麻子さんの超人的な操縦と、華さんの正確な砲撃と、優花里さんの高速装填で、私達に群がって来たカルロヴェローチェの一団を一撃必殺!速攻滅殺!!粉砕、玉砕、大喝采!!

 

 

 

 

――カキーン!

 

 

 

                       

 

 

 

 

 

「西住殿の背に『戦』の文字が輝いているであります!」

 

「戦車の瞬獄殺、完成だな。」

 

 

 

戦車道の瞬獄殺って……まぁ否定出来ないけどさ。

でも、此れでカルロヴェローチェは全て撃破した……だけど、大洗の方も被害は甚大みたいだね――現状で生き残ってるのは私と梓ちゃん、エリカさんと小梅さんとエミちゃんか。

其れに対してアンツィオはペパロニさん以外にも生き残ってる戦車がいて、残存車輌は大洗よりも上だね……戦車の性能を加味すれば、略五分って言えるかもだけど、残存車輌の全てをフラッグ車に向ける事が出来るだけアンツィオが有利って感じかな。

だけど、私は此の試合でまだ切り札を切ってないっていう事を忘れちゃいけない――そして今こそ、その切り札を切る時!エリカさん、此処からはエリカさんのやりたいようにやって!

 

 

 

『その言葉を待っていたわみほ……ぐおあぁぁぁぁぁぁぁ……キョォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』

 

 

 

はい、安定の暴走状態っと。

……今更だけど、自分の意志で暴走できるエリカさんって可成り凄いよね?だって其れは、理性と本能を完全に自分でコントロール出来てるって事になる訳だからね。

さて、本番は此処からだよペパロニさん――この戦い、勝利は譲らないよ、絶対に!!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

みほが市街地に到達したのと同時に試合は動いた。

CV-33の集団攻撃を皮切りに、アンツィオは徹底してみほ率いるあんこうチームを狙って来たのだ――其れこそ、あんこうチーム以外には眼中にないと言わんばかりの勢いでだ。

普通なら、集中攻撃をされた事で焦る場面だが――

 

 

「甘い!温い!!雑魚めがぁぁぁ!!」

 

 

次から次へと現れるアンツィオの戦車を、みほは来る端から撃破して行く――その結果、アンツィオの残存車輌は減って行き、遂に残存車輌は一桁になってしまったが、其れでもアンツィオは執拗にあんこうチームを狙って来る。

 

 

「あぁ、もう本当にしつこいなぁ……麻子さん!華さん!!」

 

「おうよ。」

 

「一発必中……!!」

 

 

だが、そんな相手も麻子の超人的操縦テクニックと、華の針の穴をも抜くレベルの正確な砲撃で次々と撃破して行く――正にあんこうチーム無双と言った所だ。

いや、実際にあんこうチーム無双だろう。

大洗女子学園のあんこうチームは世界的に見ても最強のチームであり、あんこうチームを凌駕できるのはみほが中学時代の時の伝説の青パンターチームだけとすら言われているのだからね……このあんこうチームを凌駕する旧青パンターチームがチートな気がするけどな。

 

さて、徹底的にあんこうチームを狙っているとは言うが他のチームだって放っておいて良いと言う訳ではない――寧ろ暴走エリカとか放っておいたら速攻でペパロニを叩きのめしに行っているだろう。

だが、今現在その様な状態にはなっていない。何故か?

 

 

「「「デコイだらけでどれが本物か分からない!!」」」

 

「ギョォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 

其れはアンツィオがあんこうチームへの集中攻撃を始める前に、市街地のいたる所に配置した大量のデコイのせいだった。

去年の試合でも使われたマカロニ作戦だが、今年のデコイは只の書き割りだけでなく、立体的に組み立てられたモノもあるので攻撃するまで本物か偽物かマッタク区別が付かないのである――だから、梓達は思う様に動く事が出来ていないのだ。

偽物か本物かの二択を常に迫られる上に、デコイとのエンカウントは割と頻繁に起こって居るので精神的にも大分キッツいモノがあるのだ……まぁ、暴走してるエリカだけは、デコイか本物かなんぞ関係なく『目の前に現れた敵戦車は取り敢えずブッ飛ばす』感覚で攻撃してるので精神的ストレスなんぞマッタクないだろうけどね。

 

 

「此れじゃあ埒が明かない……こうなったらイチかバチか!

 此れからエンカウントしたアンツィオの戦車は全部無視して西住隊長と合流しようと思います。赤星先輩と中須賀さんは如何しますか?」

 

『そうですね……確かにこのままでは埒が明きませんから私とエミさんもみほさんとの合流をしようと思います。良いですよねエミさん?』

 

『そうね……取り敢えず、沙織に今何処に居るのか聞いてみるわ。』

 

 

だが此処で梓が大胆な決断をした――此れからエンカウントするアンツィオの戦車はみほと交戦中以外のモノは全てデコイだと斬り捨てて無視してみほと合流する事を選んだのだ。

其れを聞いた小梅とエミも同意し、エミが沙織に通信で今何処に居るのかを聞き出してその場所へと全速力で向かう――エリカは暴走状態で真面にコミュニケーションが取れる状態ではないので除外した。……桂利奈は何で暴走エリカの言ってる事が出来るのか今更ながらに謎過ぎるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

次から次へと『増殖するG』の如く現れたアンツィオの戦車と戦車戦を行っていたあんこうチームだが、連戦に次ぐ連戦を行ってもマダマダ元気一杯だった……いや、多分身体は疲れてるんだろうけど、脳が疲労を感知してないんだろうね此れは。

パンツァーハイで、アドレナリンが大量に分泌された状態なのだろう――精神が肉体を凌駕してれば、ドレだけ身体が疲れてたとしても脳が其れを感じなければ疲れたとは思わないからね……パンツァーハイ、色々やべぇな。

 

そんなあんこうチームの周りには、白旗判定になったアンツィオの戦車が大量に……たった一輌で群がってくるアンツィオの戦車を全て返り討ちにしたのである。軍神やっぱりハンパない。

 

 

「流石だなみほ、集中攻撃すりゃ撃破出来ると思ったんだけどそう簡単には行かねぇか?」

 

「ペパロニさん……数の暴力で私を倒す事は出来ないよ?

 其れに、私に全ての戦力を割り振ったのは間違いだったね――アンツィオは残るはペパロニさんだけ。そして対して大洗はあんこうチームを含めて残り五輌。

 しかもエリカさん以外は此方に向かって来てる――まぁ、此れだけ派手に市街地壊しちゃったから此処に到着するには時間が掛かるかも知れないけど、状況的に有利なのは私達の方だよ。」

 

「確かにな――だが、逆に言うなら援軍が到着する前にお前を倒せばアタシ等の勝ちって事だ。援軍が到着するまで、タイマン勝負と行こうぜみほ!」

 

「望むところだよペパロニさん!」

 

 

其処にペパロニが現れ、少し言葉を交わした後にフラッグ車同士のタイマン勝負開始!

P40は重戦車と言われているが、その性能はⅣ号F2に近くスペックは中堅クラスの中戦車レベルであり、スペックではパンターには遠く及ばないが、其処は戦い方ってモンだ。

そもそもにして、みほもペパロニも正攻法の戦い方なんぞ、知らぬ、存ぜぬ、省みぬ!!最後が違う気もするが、普通の戦車道の戦い方なんぞしないのだ。

だから、タイマン勝負が始まってからは、歩道橋が粉砕され、信号機が落ち、コンビニは爆破炎上し、高層ビルのガラスが全て割れ、ビジネスホテルが1フロア戦車砲で貫通して、バスターミナルのバスが全車廃車になると言うトンでもバトルが繰り広げられているのだ。……此れ、全部弁償したら一体ドレだけの額になるのか想像したくねぇ。国家予算並みになるんじゃないかと思うねマジで。

 

だが、此れだけ無茶苦茶な戦いをしてると言う事は、戦車に掛かる負担もハンパない訳で……

 

 

 

――バチン!!

 

 

 

「な、履帯が!!」

 

 

此処でパンターの履帯が切れた。

しほが予想した通り、機動力重視のアンツィオの戦車と連戦を行ったパンターは、履帯に掛かる負荷が限界を超えてしまったのだ。

 

 

「……如何やら、アタシの勝ちみたいだなみほ?

 巧く行くかどうかは半々の確率だったんだが、アタシは賭けに勝ったぜ――みほ、お前が『自分の身を守る事が出来ない』ってのを利用させて貰ったぜ?」

 

「自分の身を守る事が出来ない?私が?」

 

「なんだよ気付いてなかったのか?

 お前は、普通の人間だったら反射的に防御するような攻撃を受けても、その攻撃を防御しないで攻撃する事が出来る――生き物だったら本能的に備わってる自己防衛をやらねぇ事が出来るんだ。

 でもって、其れは戦車道でも発揮されててな……さっきみたいな集中攻撃を喰らっても、お前は仲間と合流するよりも敵を撃破する事を優先できるんだよ。

 普通なら仲間と合流して態勢を立て直すのが上策であってもな――ま、お前の実力がハンパないから出来る事でもあるんだが、だが其れって逆に言えば、戦車への負担は度外視してるって事にもならぁ。

 だからアタシは、徹底的にお前のパンターに負担を掛けるようにしたんだ……援軍が到着する前に履帯が切れちまう様にな。」

 

「……ペパロニさん、そんな高度な考えが出来たんだ!?」

 

「馬鹿でも脳味噌フル回転させりゃ、此れ位の事は考えられんだよ!」

 

 

此れはあんこうチームにとっては最大のピンチだろう。

完全なクリスティ式が採用されている戦車ならば履帯が切れても走行する事が可能だが、そうでない戦車は履帯が切れたら走行する事は出来ない――白旗が上がってないのでまだ戦う事は出来るが、砲塔が動くだけの的と化したパンターでは、自由に動けるP40に撃破されるのは時間の問題だろう。

 

 

「此れで終わりにするぜみほ。」

 

 

ペパロニはパンターの後方に移動し、最も装甲の薄い車体後面に狙いを合わせる。

みほもパンターの砲塔を回転させて狙いを合わようとするが、回転砲塔の動きよりも戦車の動きの方が速いので後手に回ってしまう……みほの不敗神話も遂に終わる時が来た――誰もがそう思っただろう。

だが、この局面においてもみほは口元に笑みを浮かべていた――敗北寸前で苦し紛れの笑みを浮かべている訳ではない純粋な笑みが。

 

 

「決着にはまだ早いわよペパロニィ!!」

 

「んな、エリカ!?」

 

 

何と、このギリギリのタイミングでエリカのティーガーⅡがパンターとP40の間に割って入り、P40の砲撃を弾いてみせたのだ――さっすがティーガーⅡの装甲厚はハンパない。

だが、エリカは暴走状態だった筈だが、今は理性を取り戻している……どういう事だ此れ?

 

 

「お前……暴走したって聞いてたのに!!」

 

「えぇ、暴走してたわよ――但し、あくまでも表面上だけね。」

 

「此れが真の切り札――エリカさんには本当に暴走して貰ったんじゃなく、暴走したふりをして貰ったんだよ。

 暴走したエリカさんは凶暴で強いけど、理性が吹っ飛んでるから正常な思考は出来ない――だから、マカロニ作戦を行えば簡単に無力化出来るって考えると思ってね。

 そしてこの作戦を知るのは私とエリカさんだけ……大洗の他のメンバーですら知らなかった、正に極秘作戦だよ。」

 

「つまり。私は暴走するふりをしながら最初っから此処を目指してたって訳よ――最後に勝つ為にね!」

 

「そんな……みほ、お前まさか!!」

 

「うん、知ってたよ私の異常性なんてとっくにね。

 そして其れが最大の弱点であるって事も――其処をペパロニさんが突いて来るんじゃないかって事もね。だから私は其れを逆に利用した、させて貰った。

 全ては、此処に集約させる為の試合展開だったんだよ――序盤のアレには驚かされたけどね。

 何にしても此れで終わり!エリカさん!!」

 

「喰らえや、おんどりゃぁぁぁぁ!!」

 

 

 

――ズガァァァァァァァァァン!!

 

 

――キュポン!!

 

 

 

『アンツィオ高校、フラッグ車戦闘不能!大洗女子学園の、勝利です!』

 

 

 

割って入ったティーガーⅡの超長砲身88mmがP40に炸裂し、P40は一撃で白旗判定に……如何に傾斜装甲を採用したとは言え、50mmの厚さではティーガーⅡの砲撃に耐える事は出来なかったのだ。

 

 

「クッソー、負けちまったか……勝てると思ったんだけど、お前はアタシの予想を遥かに超えてたって訳かみほ。」

 

「そう言う事だよペパロニさん……だけど、とっても楽しい試合が出来た。

 ともすれば、去年の決勝戦以上に楽しかったよ……高校最後の大会で此れだけの楽しい試合が出来た事に感謝だよペパロニさん。」

 

 

決着が付いた其の後は、みほもペパロニも戦車を降りて、互いの健闘を称える握手を交わしたのだが、更にみほは楽しい試合が出来た礼にと、ペパロニの頬にキスしやがりましたよ!?

頬へのキスは親愛の証とは言っても、其れは観客席のオーロラヴィジョンにもバッチリ映し出されたからね?

 

 

「おぉっと、中々やるなみほちゃん?」

 

「しほちゃん、私にもほっぺにチューして?」

 

「千代、其れ本気で言ってるなら殴るわよ?」

 

 

でもって、客席が若干カオスになったのはある意味で当然だったと言えるだろう――黒のカリスマが背後で蝶野ビンタを芸人にかましていたのはきっと見間違いではないだろうけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

閉会式も無事に終わり、大洗が真紅の優勝旗を手にした訳なんだけど、アンツィオが決勝の相手だった以上は、此れで終わりじゃないよね?

 

 

 

「閉会式は終わったが、アンツィオの戦車道はまだ終わってねぇ!試合後のパーティは欠かせねぇから!」

 

「だよね♪」

 

其処からはあっと言う間に大宴会が開催され、大洗とアンツィオだけじゃなく、決勝戦を観戦に来てた各校のメンバーや黒のカリスマ率いる応援団をも巻き込んだ大宴会になって多いに楽しめたよ。

 

「取り敢えず、最高の決勝戦をありがとうペパロニさん。」

 

「其れは言いっこなしだぜみほ?アタシも楽しめたからな……最高の試合が出来た事に乾杯ってな。」

 

「そうだね。」

 

私とペパロニさんんはワイングラス(中身はブドウジュース)で乾杯して、そして目一杯この宴会を楽しんだ――ペパロニさんが考えた、あん肝を混ぜたトマトソースを塗ってチーズとアンチョビを散らしたピザは最高だったよ。

で、この宴会で盛り上がった私は、其のままエリカさん、小梅さん、エミちゃん、ペパロニさんと夜の戦車道を行う事になりましたとさ……此れもある意味で良い経験だったのかもね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer218『戦車道の夏の風物詩決定です』

今年も来たみたいだね大学選抜戦Byみほ       上等、返り討ちにしてやらぁ!Byペパロニ      高校戦車道を舐めるんじゃないわByアリサ


Side:みほ

 

 

高校生活最後の大会も、無事に優勝する事が出来たんだけど、全国大会を二連覇したって言う事で、大洗の町は大盛り上がりだね?大洗の戦車隊の凱旋パレードに多くの人が集まってるだけじゃなく、NHK水戸のアナウンサーとか、ゆるキャラのアライッペとかも来てるからね。

いや、アライッペだけじゃなくて茨城県中のゆるキャラが集まってないかな?みとちゃんにひぬ丸君、ほこマル、かみすココ君、あんちゃんとこうちゃん……うん、間違いなく全集合だね。

其れだけじゃなく、大洗の御当地レスラーのオーアライダー、茨城県の御当地ヒーローのイバライガーが、初代、R、ブラック、イバライガール、キッズライダー、なりきりヒーローのイモライガーのオールスターで勢揃い……敵対する悪の組織『ジャアク』の幹部のダマクラカスンと下っ端戦闘員の青い人まで居るのは突っ込んじゃいけないよね。

大型のモニターには、茨城県の公式Vtuberの『茨ひより』が映し出されてる……頭の上のピンクのあんこうに何だか親近感。

 

 

 

「ガッデム。」

 

 

 

そして、当然の様にいる黒のカリスマ。……黒いマウスとか、もう私は突っ込まない!多分だけど、お母さんが譲ったんだろうしね。

因みパレードの衣装は三回戦で使った『大洗女子学園戦車隊パンツァージャケットブラックバージョン』――優花里さんによると、あの黒バージョンは戦車道ファンの間で秘かに人気が高いんだとか。

尤も、ネットで検索してみたら『黒いパンツァージャケットの軍神は正にラスボス。』、『エリカ嬢の冷たい視線と黒いジャケットにゾクゾクした。』、『赤星の黒に秘められた凶暴性を感じた。』、『黒ジャケの澤梓は戦車道の闇を喰らった感じがした。』、『つーか、黒い大洗女子学園とかマジ誰も勝てないだろ』ってな感じだったんだけどね。

 

でも、確かに此れは此れで良い感じだから、こっちも積極的に使っていっても良いかも知れないね。

 

 

 

「其れでは、早速大洗女子学園戦車隊隊長の西住みほさんにインタビューをしたいと思います。改めまして、優勝おめでとうございます。」

 

「ありがとうございます。」

 

水族館方面に向かう道路の交差点にある大鳥居前で戦車を降りたところで、NHK水戸のアナウンサーからのインタビュー。此処でインタビューをするって事は事前に聞いてたから問題なく答える事が出来たよ……生放送であっても、テレビは事前の打ち合わせが大事なんだって知ったよ。

そして、インタビューが終わった後はシーサイドステーションに移動して、広場でトークイベントを行い、其の後は雑誌の取材と、中々に濃い一日だった。

 

因みに其の日の夜は、海岸沿いにある『かき屋』で、旬の岩ガキを思い切り堪能した!生は勿論、七輪で焼いたカキも絶品だったから、ついつい沢山食べちゃったけど、流石に華さんの生と焼き合わせて七十個には及ばないよ。

 

 

 

「その気になれば百個でも行けますけれど、食べ過ぎは良くないので腹八分目にしておきました♪」

 

「うん、華さんの腹八分目は大分オカシイね。」

 

此れだけ食べても全く太らない華さんって一体如何なってるんだろう?……いや、西住流フィジカルトレーニングを熟せる華さんなら、摂取カロリーを完全に消費する事も出来るか。

なお、このかき屋でのカキパーティには卒業生である会長さんもとい、杏さんををはじめとした旧生徒会のメンバーも参加して、大いに盛り上がった。

桃ちゃん先輩が、大学で装填士として頭角を表して大学選抜の候補になってるって言うのには少し、驚いたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer218

『戦車道の夏の風物詩決定です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、全国大会が終わったら私達三年生には何が待ってるのかと言えば、其れは進路の選択!!

就職か進学か、分かれるとは思うんだけど、戦車隊の三年生は大学の戦車道強豪校や、社会人チームからのスカウトが可成りの数来てるんだよね?

かく言う私も、四つの大学と、五つの社会人チームからスカウトが来てるからね……皆は如何かな?

 

 

 

「私の所には、島田愛里寿の大学から、島田愛里寿直々のスカウトが来ている……西住さんは私を巧く使ってくれたが、島田愛里寿は西住さんとは別の形で私を巧く使ってくれそうだから、行っても良いと思っている。」

 

「だから、私も麻子と同じとこに行く心算。

 地味だけど、通信士としての評価は結構貰ってたみたいだし、何よりも私が居なかったら麻子が生きていけるとは思わないから!!」

 

「む~~……私だって、自分の事は自分で出来るぞ沙織?」

 

「そう言う事は、先ずは自力で起きられるようになってから言いなさいっての!其れから自炊も!!」

 

「煩いな、お前は私のオカンか?」

 

「麻子の為なら、私は麻子のお母さんになる事も厭わない!!」

 

 

 

アハハ……麻子さんと沙織さんは安定の関係だね?――軽口を言い合いながらも、お互いに歯に衣をかぶせない本音を言い合える関係って言うのはとても貴重だよね。

取り敢えず、麻子さんと沙織さんは同じ大学に進む、と。華さんと優花里さんは?

 

 

 

「私は、サンダース大学の螢さんから、熱烈なラブコールを頂いているので、其方に行ってみようかと思っているんです……サンダース大学なら、ナオミさんとも一緒になれるかも知れませんし。」

 

「私は、大学も西住殿について行くであります!!」

 

 

 

華さんはサンダース大学だけど、優花里さんは其れで良いの?

私が選んだ進路は、実はトンでもないモノかも知れないのに、其れでも付いて来るって言うのかな?……こんな事を言ったらアレだけど、私と一緒に地獄まで来る覚悟を決めてたりしないよね?

 

 

 

「何をおっしゃいますか西住殿!

 不肖、秋山優花里、西住殿が行く所は、たとえ火の中水の中、草野中森の中、あの子のスカートの中!何処までだって憑いて行くであります!!」

 

「きゃー!ってね。」

 

其れはまた何ともアレだけど、ついて行くの字がオカシイよ?私に憑依する事になるからねその字だと。

だけど、其処まで私に付いてこようとするとか……若しかして、優花里さんって私の事好きなの?LikeじゃなくてLoveの方向で……戦車道女子って、百合道に目覚めてる人が多いから驚く事じゃないけどね?

私に至っては、百合ハーレム構築してるから……エリカさんに小梅さん、そしてエミちゃんにペパロニさん美女を侍らせてるからね?――英雄色を好むってのは間違いではなかったんだようん。

 

 

 

「そうだと言ったら、西住殿は如何なさるんでしょうか?」

 

「問答無用でWelcomeだね。」

 

私は来る者拒まずだから、私に好意を持ってる人だったら大歓迎だよ……勿論優花里さん、貴女もね。――優花里さんにはエリカさん、小梅さん、エミちゃん、ペパロニさんにはない魅力が優花里さんにはあるからね。

其れに、優花里さんは容姿も極上レベルだと思うし。

 

 

 

「へ?あの、西住殿?」

 

 

 

人差し指で顎をクイっと持ち上げてあげたら盛大にパニくったね……其れじゃあ、トドメを刺させて貰おうかな?

 

「其処まで私の事を思ってくれているのならば難しい事は言わない……優花里、君も私のモノになれ。」

 

 

 

――チュ……

 

 

 

「へ?はい?……あの、その、西住殿~~~!!!」

 

 

 

トドメの一撃として、キスしてあげたら、優花里さんは処理能力の限界を超えたみたいで、見事なまでにフリーズしちゃったね?頭から煙が出てるってのは、脳回線がショートしたかな?

 

 

 

「ゆかりんはみぽりんにマジ惚れだったから、みぽりんにそんな事されたらショートもするって!」

 

 

 

え~~~?エリカさんと小梅さんとエミちゃんとペパロニさんは平気だったんだけどなぁ……或は此れも、戦車道に関わっていた日数が影響してるのかも知れないね?

優花里さんの装填士としての能力はとても高いけど、エリカさん達に比べたら戦車道の競技者として戦車に乗った日数は全然低いからね……私の一撃でショートしたのも、其れが関係してるのかも知れないよ。

 

 

 

「西住殿に……うへへ、我が人生に一片の悔いなしであります……!!」

 

「そう、其れは何よりだね。」

 

何にしても優花里さんも攻略しちゃったよ……梓ちゃんにはあゆみちゃんが居るから攻略出来ないけど、其れが無かったら梓ちゃんも攻略してた気がしてならないよ――お母さんも現役時代は千代小母様と中々にアレだったらしいから、女性に対しての天然ジゴロになるのもまた、西住の遺伝子なのかも知れないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

で、新たに優花里さんが加わったのは良いとして、夏休みに入ったあくる日の事、私は戦車道連盟の本部に呼び出されていた――ううん、この場に集まったのは、黒森峰の理子さん、サンダースの隊長のアリサさん、聖グロの隊長のペコちゃん、アンツィオの隊長のペパロニさん、プラウダの隊長のクラーラさん、マジノの隊長のエクレールさん、知波単の隊長の西さんと、名だたる学校の隊長が……私達を集めて、一体何の用なんだろう?

 

 

 

「さてね?でも、アタシ達を集めたって事は何か大きな事が起こるんじゃないかと思ってるわ。」

 

「アリサ殿、その理由は?」

 

「女の勘よ。」

 

「……お前、また通信傍受用の気球でも上げてんのか?」

 

「んな訳ないでしょうが~~~!!!

 去年の大会後の『反省会』で、キッチリみっちり絞られて流石に懲りたわよもう!!中学時代のみほも怖かったけど、あの時のケイ先輩も怖かったんだから……普段のフレンドリーで陽気なのがウソだと思えるくらいに!!」

 

「そう言われると、反省会で何があったのかメッチャ気になるのは人の性って奴なのか……」

 

「理子様、其れは仕方ないと思います。」

 

「絶対怖いって言うのは分かっていても聞きたくなるモノですわよね、こう言うのって。」

 

「Я не могу это отрицать……(否定出来ませんね……)」

 

「クラーラ殿、日本語でお願いいたします!!」

 

 

 

あはは、何だかんだで各校隊長は割と仲が良いんだよね?アリサさんの『女の勘』は、安定のネタだけど、其れ以上にソロソロ『タカシ』が誰なのか知りたいなぁ?

結局『タカシ』って如何言う人なの?

 

 

 

「タカシの事はもう良いのよ!アタシは新しい出会いを見つけるのよ!!」

 

「……もういっその事、戦車女子らしく百合カポーに走ってしまっては?大丈夫、アリサさん容姿は悪くないし、その勝気な性格も戦車女子にはバッチ来いだから!」

 いだから!」

 

「何でそうなるのよ!!」

 

「私がそうだから!

 そして、つい最近軍神ハーレムに五人目が追加されて着々と増えて行ってます!取り敢えず直近の目標は愛里寿ちゃんも加える事!!」

 

「軍神ハーレムってなんじゃーい!節操なしかアンタ!!」

 

「節操なしとは失礼な、私が好意を持ってる人よりも、私に好意を持ってくれてる人を優先してるから節操なしじゃないよ?

 何よりも、私の嫁たちは皆仲いいから問題ない!!」

 

「因みにアタシが四人目だ!」

 

「西住流マジハンパねぇ!!」

 

 

 

いやまぁ、西住流の歴史を紐解いてもこんな事してるのは私だけじゃないかな?

お母さんは現役時代は島田の小母様とアレだったけど、今はお父さんと一緒になってるし、お姉ちゃんは安斎さん一筋だからね……此れは、戦車で国会に乗り込んで『同性婚』と『多重婚』を認めさせるしかないよね♪

 

 

 

「止めれ、アンタが言うと冗談に聞こえないわ。」

 

「うん、だって割と本気だから。」

 

「なお悪いわ!!」

 

 

 

う~ん、今日もアリサさんの突っ込みが冴えるなぁ?……と言うか、この面子だと突っ込み役になれるのがアリサさんとペコちゃんしか居ないか♪エクレールさんとクラーラさんは突っ込み体質じゃないしね。

 

 

 

「いやぁ、待たせて済まないね。」

 

「お待たせしましたね、皆さん。」

 

「少し、遅くなった。ゴメン。」

 

 

 

っと、此処で戦車道連盟の児玉理事長と、島田の小母様と愛里寿ちゃんが参上。

理事長だけじゃなくて、島田の小母様と愛里寿ちゃんは予想外だったなぁ?……と言うか、島田の小母様と愛里寿ちゃんも来たって事は、大学戦車道も関係する話なのかな?

 

 

 

「突然集まって貰って悪かったね。」

 

「いえ……其れよりも、私達を集めて一体どんな要件なのでしょうか?」

 

「其れは、私から説明するわ。

 本日皆さんに集まって貰ったのは、実は今年も大学選抜チームと高校戦車道のオールスターチームの試合を行おうかと思っているからなの。」

 

「「「「「「「「え?」」」」」」」」

 

 

で、島田の小母様が言った事に、私達は全員同じ反応をせざるを得なかった。

大学選抜チームとの試合って、去年の大洗女子学園の廃校を撤廃させる為に行われたアレですか?

 

 

 

「えぇ、その通り。勿論今回は廃校問題は関係ないし、ルールも殲滅戦じゃなくてフラッグ戦だけれどね。

 実を言うと、去年の大洗連合vs大学選抜チームの試合は可成りの盛り上がりを見せて、戦車道ファンの間から『大学戦車道と高校戦車道の試合を今年も見たい』って言う意見が多数上ってるのよ。

 去年の試合を撮影した動画は、本日現在で再生数が二百万回突破している位でね……其れだけ人気があるのなら、戦車道をもっとより多く知って貰う為にも、『大学選抜vs高校選抜』の試合を、戦車道に於ける夏の『オールスターゲーム』にしてしまおうって事なのよ。」

 

 

 

去年の試合が盛り上がったから、いっその事戦車道に於ける夏の風物詩にしてしまえと、つまりそう言う事ですね?……私は良いと思いますよ?

此の試合は、普段は絶対に戦う事のない高校戦車道と大学戦車道の貴重な交流の場にもなりますし、お互いに良い刺激になると思いますから……特に、去年の試合は大学選抜側からしたら予想外の事が連発されたと思いますし。

 

 

 

「本当に予想外だった。

 天城と逸見がカール撃破を手伝ったのは兎も角、遊園地での観覧車攻撃、ポルシェティーガーのスリップストリーム、みほさんとまほさんによる二段構えの連携攻撃、全てが予想外だった。」

 

「でも、楽しかったでしょ愛里寿ちゃん?」

 

「うん、楽しかった。

 楽しかったから、今年もまた高校戦車道との試合がしたい……もう一度、みほさんと戦いたい。」

 

「そう言う事ならいーんじゃねぇの?

 アタシは馬鹿だから細かい事は分からねぇが、アタシ等高校戦車道のメンツが、大学選抜とドンパチやる事で戦車道全体が盛り上がるってんなら、迷う事はねぇガンガン行こうぜ?」

 

「そうね、アタシも異論はないわ。

 今年は去年みたいに簡単にはやられないわよ!!」

 

「Это личное дело, но в прошлом году я постараюсь.(個人的な事になりますが、去年の雪辱を果たさせていただきます。)」

 せていただきます。)」

 

「大学選抜戦大いに結構!いやぁ、楽しみでありますなぁ!!」

 

「試合自体は良いんですけれど、試合前にダージリン様に久々に格言を聞かされそうな気がするのがちょっと気が重いです。」

 

「ペコさん……ファイトですわ。」

 

「大学選抜戦……上等じゃないの?高校戦車道の底力を見せてやるわ!」

 

 

 

でもって、この提案には私以外の隊長陣もやる気マックス!

大学選抜と戦う機会なんて滅多にあるものじゃないし、今年の大学選抜には黒森峰、聖グロ、サンダース、アンツィオ、プラウダの前隊長が選ばれるから、その後任を担ってる隊長からしたらやる気も出るってモンだよね――前隊長に現隊長である自分をぶつける事が出来る訳だからね。

と、言う訳ですので、私達はマッタク持って異論はありません。寧ろウェルカムです!!

 

 

 

「そうか、其れは良かった。

 大学選抜vs高校オールスターの試合は戦車道連盟としても目玉試合になるから是非とも実現させたかったからね……文科省の馳大臣と辻局長も全面的に協力してくれてるんだよ。」

 

「そうなんですか?」

 

お母さんか聞いた話だけど、去年の大学選抜戦後に大洗を廃校に追い込んだ白神に豪快なジャイアントスウィングをブチかました馳大臣も一枚噛んでるなら尚の事、此の試合は実現させないとだよ。

白神をぶちのめしてくれたお礼もあるし、馳大臣は大洗女子学園公式応援団長の黒のカリスマと現役時代のレスラー仲間だからね。

何よりも、戦車道の発展に繋がるかも知れない試合だから、そもそも断る理由が何処にも無いよ……私も、久しぶりの愛里寿ちゃんと戦車道が出来るのが楽しみだからね。

 

 

 

――轟!!

 

『我こそ、第六天魔王、織田上総之介信長なり!』

 

 

 

そう、思わず軍神招来して、戦国の覇者とも言える織田信長を憑依させるくらいにね……歴史にもしもはないけど、織田信長が本能寺の変で死なずに天下を統一してたら、日本は今とは全く異なる国になってただろうなぁと思う今日この頃。

其れは兎も角、やるからには手加減なしだよ愛里寿ちゃん?

 

 

 

「勿論、やるからには全力で行かせて貰うよみほさん。」

 

「うん、そう来なくちゃね♪」

 

愛里寿ちゃんと握手を交わして、大学選抜vs高校オールスターの試合は無事に決まったよ……尤も、此処に集まった隊長陣で、各校がドレだけの戦車を出すのか、大隊長は誰で、中隊長は如何すのかってのを決めなくちゃならないんだけどね。

でも、其れを考えるのもまた楽しい事だから決して苦じゃないよ――流石に今日は無理だから、後日日程を決めて改めてって言う形にはなるけどね。

 

予想外ではあったけど、今年も大学選抜との試合が出来るとはある意味で最高だよ――全国大会の決勝戦を、私の高校戦車道の集大成にする心算だったんだけど、其れ以上の舞台が用意された訳だからね。

だったんだけど、其れ以上の舞台が用意された訳だからね。

此の試合を持って、西住みほの高校戦車道の集大成とし、私の高校生活での戦車道の引退試合とする……だから、私が高校の三年間で得た物を全て此の試合で出し尽くすよ。

西住流も、西住みほ流も、何もかも全部!――私の、私達の高校戦車道の集大成を受け止めて貰うから、その心算で居てね。

 

 

 

で、この会合が終わった後は愛里寿ちゃんとデートした。

大洗に戻ってから、リニューアルしたボコミュージアムを堪能した後に大洗アクアワールドを楽しみ、かねふくの明太パークで工場見学をして出来たての明太子を味見して、明太子を丸々三本使用したジャンボおにぎりを味わい、シーサイドステーションのクレープ屋で名物の干し芋クレープに舌鼓を打ち、ギャラリーに展示されてる『超プラモデル1/1ガンダムメカ』に驚いたよ。

 

そして、デートもそろそろ終わりなんだけど……

 

 

 

「みほさん……私、みほさんの事が好き!私と付き合って下さい!」

 

 

 

此処で愛里寿ちゃんから告白されましたとさ……まさかの展開だったけど、私としては断る理由がないから全然OKだよ?私も愛里寿ちゃんの事は好きだしね。

と言うか、唯一のボコメイトは大事にしないとだからね。

愛里寿ちゃん、ボコは!!

 

 

 

「負け続けても最強!」

 

「ボコは!」

 

「最高のボコられグマ!」

 

「ボコは!」

 

「愛すべき存在!」

 

「そう、その通り!

 そんなボコを心の底から愛する我等は……」

 

「ボコラーズ!其れ即ち、ボコの真の魅力を知る者達也!!」

 

 

 

OK、最高だよ。

取り敢えず直近の目標は達成できたけど、其れは其れとして大学選抜との試合は楽しみで仕方ないよ――過去最強とも言われてる今年の大学選抜との試合だから、此方も最強のメンバーで行かないとだよ。

そして、最強のメンバーとなればペパロニさん、ナオミさん、ローズヒップさんは必須だね――この大学選抜戦は、去年と同様にアイスブルーのパンターには、伝説の青パンターチームが乗り込まないとだと思うから。

 

一年ぶりの結成になるけど、其れでもあのチームに衰えはないから、私も思い切り出来るよ――今のあんこうチームも最高だけど、私にとっての最強メンバーは、中学時代のメンバーだからね。

一年ぶりに大暴れしようか?青パンターも、全国大会では少し物足りなかったみたいだからね。

 

 

 

因みに愛里寿ちゃんの事をLINEでエリカさん達に伝えたら、アッサリとOKしてくれた……『アンタが何れ愛里寿を連れ込むのは予想してた』ってのは少しアレだけどね。

って言うか、予想してたって……ボコメイトゆえに予想されちゃったのかもだよ……コアな趣味を共有できる唯一の仲間だからね。――何にせよ、大学選抜との試合に向けて、メンバーを選んで行かないとだよ。

 

 

……取り敢えず、梓ちゃんは確定だね。梓ちゃんが居なかったら、大洗女子学園の戦車隊は機能してなかったかもだからね――ホントに凄いよ梓ちゃんは。

貴女以上の副隊長は存在しないかも知れないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer219『戦車道のAll Star Gameです!』

大学選抜戦、燃えてくるね!Byみほ       完全燃焼上等だぜ!Byペパロニ      その炎で焼き尽くしてやろうじゃないの!Byアリサ


Side:みほ

 

 

今年も大学選抜との試合が組まれたので、高校側はチーム編成なんかを決める為に、主要校の隊長と集まって緊急会議――副隊長が参加してるとことしてないとこがあるのは、夫々の事情って事かな。……聖グロの場合、副隊長まで不在になるとローズヒップさんとルクリリさんを抑えておける人が居ないって言う、割と洒落にならない理由なのかもしれないけどね。

 

会議の会場は、大洗にあるお好み焼き屋の『道』さん……戦車道のブームに乗っかって、店名の頭に『戦車』をくっつけたお茶目なお店だね。

 

 

 

「ぶっちゃけ、今年の大学選抜は去年とは比べ物にならない位に強敵よ。

 ケイ前隊長をはじめとした四強の隊長が居る上に、あの西住まほが生涯唯一のライバルとして認めた安西千代美も居る訳だからね……其れこそ、戦車道のゴールデンチームと言っても過言じゃないわ。」

 

「アリサ様、其れは間違いないと思います。

 戦車道関連の雑誌でも、今年の大学選抜チームは『過去最強』と言われていますからね。」

 

「だが、其れをぶっ倒すってのが美味しいんだよなぁ。

 今年の大学選抜が過去最強なら、今年の高校連合は戦車道史上最強だぜ?みほと同世代であるアタシ等が頭張ってんだからな!!」

 

 

 

ふふ、言うねペパロニさん?……だけど、其れは間違ってないよ。

今年の大学選抜が過去最強なら、今年の高校連合は戦車道史上最強だよ――私をはじめとして、隊長陣にはペパロニさん、理子さん、アリサさん、西さん、エクレールさん、クラーラさん、アキさん、ペコちゃんと一流所が揃ってるだけじゃなく、各校の副隊長も一線レベルだからね――中でも、梓ちゃんとツェスカちゃんは頭一つ抜きん出てる感じだしね。

そして何よりも、この大学選抜戦では、天下無敵の『青パンターチーム』が復活するからね……一年ぶりの結成だ、精々派手に楽しもうか?

 

 

 

「精々?最大にの間違いだろみほ?」

 

「そうだね、最大に楽しもうか。」

 

「Guaracha!そう来ないとな!」

 

 

 

高校と大学のオールスターゲームってのは、ある意味で戦車道のお祭りみたいなものだから、最大に盛り上げて、そして思いっきり楽しまないと損ってモノだからね。

ふふ、楽しませてもらうよ愛里寿ちゃん、お姉ちゃん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer219

『戦車道のAll Star Gameです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で、会議は結構スムーズに進んだね――所々でお好み焼き談議が挟まれたけど、それが却って会議にプラスになってた訳だから、此処を会議場所に選んだのは正解だったかな。

 

 

 

「それにしても、今更かもしれないけど、アンタよく片手でお好み焼き返せるわね?ヘラ一つで引っくり返すのって難しくないの?」

 

「そこは慣れだよアリサさん。

 右腕一本になって早六年、其れだけ経てば右腕一本でも大概の事は熟せるようになるモノだって。球技だってやろうと思えば片腕でも割と出来る訳だし。」

 

「其れはそうかもしれないけど、流石に片腕じゃドッジボールは無理でしょ?」

 

「地元のクラブチームに所属してる子の球を片手でキャッチできますけど何か?」

 

「剛速球を片手でキャッチするとか、アンタはHunter×Hunterのレイザーか!?アンタが投げたボール喰らったら死ぬの!?脳みそ出ちゃうの!?」

 

「流石にそこまでは行かないよ?……ただし、脳みその代わりに潰されたヒキガエルみたいな声が出ちゃうかも知れないけど♪」

 

「風の噂では、西住隊長の球を喰らった生徒は、『一瞬意識が吹っ飛んだ。』、『なんで自分が場外になったのか記憶が無い。』、『戦車に攻撃されたと錯覚した。』、『綺麗なお花畑のある河原の向こうで死んだお爺ちゃんが手を振ってた。』とか言ってるとかなんとか……」

 

「約一名死に掛けてんじゃないのよ~~~~!!」

 

「アリサ殿、少し落ち着かれては如何でしょう?」

 

「確かに衝撃的な内容とは思いますが、あまり大きな声で叫ぶと言うのははしたないと思いますし、お店にも迷惑になりますわ。ねぇ、ペコさん?」

 

「そうですね、エクレール様。」

 

 

 

まぁ、私は色々と人間辞めてる部分があるのは事実ですので。

其れは其れとして、今日集まったメンバーは全員出るとして、それ以外のメンバーは如何しようか?去年は大洗の廃校が懸かってたから、大洗の戦車は全部出たけど、今年はそうじゃないからバランスよくチームを組みたいよね?

 

 

 

「だな。

 取り敢えずみほと梓は確定として、大洗は他に誰を連れてくる心算なんだ?」

 

「火力面でエリカさんとエミちゃん、機動力面で小梅さん、絡め手その他要因で歴女の皆さんかな。」

 

「と言う事は確定は六輌って事か。

 そうなると黒森峰からは私のティーガーⅠとツェスカのパンターは確定だから、火力もあって待ち伏せ作戦も出来るヤークトパンターとラングを二輌ずつ持ってく事にするわ。」

 

「でしたら私の所は、私のチャーチルとローズヒップ様のクルセイダー、ルクリリ様のマチルダの三輌で。

 ローズヒップ様はみほ様のチームに行ってしまわれますが、麻子様の操縦技術ならばクルセイダーも十分に生かせると思いますし。」

 

「ウチはシャーマン三輌とファイアフライ一輌を持ってくわ。

 ナオミはみほと同じチームになっちゃうけど、去年と同様に代わりに華が来てくれるだろうからファイアフライの力も存分に発揮出来ると思うしね。」

 

「プラウダはT-34/76とIS-2を一輌ずつ、そしてT-34/85を二輌出しましょう。」

 

「ならアンツィオはP-40一輌とカルロヴェローチェを二輌だな。

 カルロヴェローチェは戦車戦能力は皆無だけど、相手部隊を撹乱するには持って来いだしな。」

 

「では、我が知波単は私と玉田が参加させて頂きます!」

 

「となるとマジノは私のARL-44と言う事になりますわね?」

 

「継続は私のBT-42ですね。」

 

 

 

でも、そのチーム分けもアッサリと決まっちゃった……夫々が、自分の戦車隊が保有してる戦車の特性を理解しているからこそ、高校オールスターに最適な戦車を選ぶ事が出来た訳だね。

……まぁ、私が居なかったらペパロニさんはカルロヴェローチェを選びはしなかっただろうけど。

 

「チーム編成は此れで良いね。

 其れじゃあ最後に、高校オールスターの隊長だけど……」

 

「其れはみほ以外に居ないっしょ?」

 

「寧ろみほ様以外に誰がやれと?」

 

「Пожалуйста, Михо.(お願いします、みほさん。)」

 

「隊長はみほでしょ?ってか、他に居ないし。」

 

「みほ一択だな。」

 

「それ以外の選択肢が存在するのでしょうか?」

 

「しないでしょうね。」

 

「そう言う訳なので、よろしくお願いしますみほさん。」

 

「ですよねー。」

 

自惚れてる訳じゃないけど、私が隊長に選ばれるって事は予想はしてたんだよね……ぶっちゃけ、此処に居るメンバーで私に勝った人は居ない訳だしね。

でも、選ばれた以上は確りとその務めは果たすよ?……って言うか、そもそもにして皆が選んだ戦力って私が隊長になる事が前提だったからね。

そうなると次は副隊長だけど、其れは隊長権限で決めさせてもらうよ――高校オールスターチームの副隊長は、梓ちゃん、君に決めた!

 

 

 

「アニポケのサトシですか?」

 

「ちょっと真似してみたけど、梓ちゃんは私にとってはサトシの最強ポケであるリザードンに等しいから、副隊長を任せるに相応しいんだよ――受けてくれるよね?」

 

「はい!謹んで副隊長を拝命させて頂きます……!」

 

 

 

うん、良い返事だね。

一切の迷いが無いその眼光はとっても良いよ……闘気も充実してるみたいだからね――しかもその闘気は、今の私に匹敵するレベルと来たからね。

私の不敗伝説を終わらせる戦車乗りは、もしかしたら梓ちゃんかも知れないね。

 

此れで、隊長と副隊長も決まった訳だけど、会議はまだ終わりじゃないんだよね此れが。

お好み焼きを追加注文するのは当然として、今度はサイドメニューの鶏の唐揚げやイカの唐揚げなんかも注文だね……道さんはお好み焼き以外のサイドメニューも充実してるのが特徴だよ。

その追加メニューが運ばれて来た中での最後の議題は、ずばり『ユニフォーム』!

大学選抜チームにはお揃いのユニフォームがあるのに、高校オールスターには其れが無い……各校が夫々のパンツァージャケットでってのも悪くないけど、高校オールスターチームを謳っている以上はチームユニフォームが欲しいよね?

だけど、だからと言ってそう簡単に用意出来る物でもないし……

 

 

 

「ガッデーム!そう言う事なら俺に任せとけみぽりん!」

 

「なんか出たー!?」

 

何処に居たんですか黒のカリスマさん……って言うか、俺に任せとけって如何言う事ですか?

 

 

 

「アリストトリストブランドで、高校オールスターのユニフォームを作ってやるぜ!

 俺のカミさんはデザイナーだから、ユニフォームの一つや二つデザインするくらいは朝飯前だぜ!俺の入場コスチュームや試合のコスチュームのデザインもカミさんのアイディアだからな!」

 

「そう言う事ですか。」

 

黒のカリスマさんの奥さんはドイツでは有名なデザイナーで、アリストトリストブランドの商品の多くは奥さんが手掛けてるって事を考えると、高校オールスターチームのユニフォームをお願いしても良いかもだね。

きっと、いい感じのユニフォームになると思うからね……お願いします。

 

 

 

「任せとけ!最高のユニフォームを作ってやるぜ!!

 大学選抜との試合、楽しみにしてるぜ!!」

 

「楽しみにしていて下さい。

 私の戦車道は、武藤さんのプロレスと同様に『一瞬たりとも目が離せない』モノですから……武藤さんの正統派なプロレスだけじゃなく、グレート・ムタ張りの裏技も満載ですからね。」

 

「だからこそ、最高だぜ!」

 

 

 

取り敢えず、ユニフォームの方は何とかなりそうだね。

アリストトリストブランドのユニフォームって言うのは、間違いなくダークなモノになるんだろうけど、大学選抜が正統派なら、高校オールスターは搦め手上等のヒールって感じだからアリストトリストブランドはピッタリだよ。

 

まさかの黒のカリスマとのエンカウントだったけど、高校オールスターのユニフォームが決まったって事を考えると良かったよね――序に、その場にいた全員がサインを貰えたからね。

サイン入りのパンツァージャケットのインナーは、一生モノだよ。

 

そんな訳で会議は無事に終わったんだけど、各校の隊長が一堂に会する機会は滅多にないって言う事で、大洗アクアワールドに行って日本最大級のサメの展示を楽しみ、かねふくの明太パークで工場見学をして、そして最後にカラオケのBig Echoでカラオケを楽しんだ――皆とっても上手かったけど、アリサさんの『God knows...』は全国ランキングぶっちぎりの九十九点だったからね。……流石です涼宮団長。

 

 

 

「誰が涼宮団長か!」

 

「お前だお前。」

 

 

 

アリサさんと涼宮団長は中の人が同じだからね……と、メタ発言をしてみると。

でもそれ以上に、私と梓ちゃんのマクロスFのオープニングの『ライオン』のデュエットは、評価限界を超えた∞だったのには驚いたね……梓ちゃんは私のハーレム要員じゃないけど、私と梓ちゃんの関係は、友情や愛情なんかを遥かに超越した関係なのかもしれないね。

 

 

 

「其れってつまり、とっても純粋な関係って事ですか。」

 

「だね。

 分かり易く言うなら、涼宮ハルヒシリーズのキョンと長門の関係に近いかも。」

 

「成程、納得です。キョンと長門の間には、友情とか愛情をも超越した、純粋な信頼関係を感じますから。――そして、私と西住隊長がそう言う関係であると言うのは、私にとってはとても嬉しい事ですよ。

 ある意味では、逸見先輩よりも上の関係って言えますからね。」

 

 

 

其れは、確かにそうかもしれないね……友情も愛情も超越した関係って言うのは、ある意味で無敵で最強だからね。

 

そんなこんなで良い時間になったので、今日は皆で大洗で一泊する事に。

宿泊先は、最早大洗では知らない人は居ないであろう、聖グロに突撃されるのが当たり前みたいになっちゃった例の旅館……旅館のご主人は、何か思う所があるのか、店先に大後さんもといダージリンさんのスタンドポップが置かれてるのがちょっとアレだね。

 

 

そして、試合当日までは何度か合同練習をするって言うのが普通なんだろうけど、私達は一切其れは行わずに夫々の学校での練習に留めておく事にした……チームとしての練度では如何やったって大学選抜には敵わないし、だからと言って短期間で付焼刃的なチーム練習をしても成果は望めないしね。

だったら拙い連携をするよりも、大隊長である私が指示を出す事はあっても、基本は夫々が夫々の裁量で動く『大洗流』の方が本来の力を発揮出来るだろうし、私もそっちの方がやり易いからね。……去年の大学選抜戦も、遊園地に入った後の大洗流の方が戦果は良かったし。

 

そんなこんなで時は過ぎ、あっと言う間に試合の日がやって来た!

 

試合会場は、去年と同様に北の大地の北海道!

広大な土地がある北海道は、まさに戦車道の試合会場として打って付けだよ!丘陵地もある平原と林、そしてその自然の中に造られたレジャー施設と、大体の戦車道要素も抑えてあるしね。

 

「……で、やっぱりアンツィオは皆で来たんだ?」

 

「そりゃあな?こんだけの大舞台で屋台出さねぇとか有り得ねぇし。」

 

 

 

その会場で屋台を展開してるアンツィオ勢はぶれないよねぇ……なんて事を言いながら、私も私で確りと『アンチョビとペパロニのハンディピザ』を食べてたりするんだけど。

うん、濃厚なチーズとアンチョビのコクをペパロニの爽やかな辛さが纏めてて良い感じだね。トマトソースを塗ってない辺りにイタリア風に拘ってる感じを受けるよ。

 

 

 

「やっぱそこは拘らねぇとな……にしても、華の奴は相変わらずスゲェな?いや、アタシ等としては屋台の儲けに貢献して貰ってるから有り難いけど。」

 

「華さんの胃袋はブラックホールだからね。」

 

さっきから屋台を梯子してるからねぇ……此れは会場の屋台のフルコンプリートもあり得るかも知れないね。

 

さてと、試合前の腹ごしらえはこの辺にして、そろそろユニフォームに着替えて試合の準備をしないとだね。

黒のカリスマ監修のアリストトリストブランドの高校オールスターのユニフォームが出来上がったのは試合当日の三日前だったんだけど、此れが中々良いデザインだった。

インナーは白地に黒の十字模様が入ったシャツで、上着は黒のジージャンタイプで右胸と背中に『hAs』と『high school Allstar senshadoh』が銀の糸で刺繍され、スカートは黒地に斜めに赤いラインの入ったミニスカートで、黒のハイソックスと黒のブーツのセット……オプションでサングラスも有ったのが印象的だったね。

ナオミさんのサングラスは似合い過ぎだよ。

 

 

 

「華、如何かな?」

 

「とてもよくお似合いですわナオミさん。素敵です。」

 

 

 

華さん的にも良かったみたいだしね。

 

 

 

 

 

でもって、遂に試合開始の時間になり、試合前の挨拶だね。

高校オールスター、大学選抜共に隊長と副隊長が挨拶の場に出てくる訳だけど……

 

「愛里寿ちゃんが隊長なのは当然として、副隊長はお姉ちゃんだったんだ……」

 

「ドイツに留学して実力を高めたまほさんが隊長の方が良いかと思ったんだけど、『大学戦車道では私は若輩者だから、隊長は島田の方が良い』って言われてこうなった。

 けど、まほさんの実力は本物だから、私が隊長権限で副隊長に指名したの。」

 

「私としては安斎を推したかったのだが、隊長に直々に指名されたのを蹴っては隊長の顔に泥を塗る事になるし、彼女から指名されたと言うのは実力を買われての事だと思ったから副隊長を拝命したんだ。」

 

 

 

そうだったんだ。――お姉ちゃんはずっと『隊長』のイメージだったから、誰かの下で戦うって言うのはちょっと新鮮……って、去年の大学選抜戦の時は私の下についてたんだっけか。あまりにナチュラル過ぎて忘れてたよ。

 

ん?でもお姉ちゃんが副隊長って事は、中隊長の一人って事なんだろうけど、去年の中隊長の三人はどうなったんだろう?少なくとも一人は中隊長から外された事になるよね?

 

 

 

「アズミとルミとメグミは全員中隊長から外して一般隊員に降格した。

 去年の試合、私が動くまでのあの三人の体たらくは目に余るものがあったから……あの三人に変わって、今年の中隊長はまほさん、安斎さん、蛍さんに務めて貰う事にした。」

 

「まさかの大規模人事案件だった!」

 

まるッと中隊長を入れ替えてくるとは予想外だったよ……しかも、新たな中隊長はお姉ちゃんと安斎さんと蛍さんと来たからね?……此れは、可成りの強敵だね今年の大学選抜は。

だけど、負ける心算はない――高校オールスターは私が大隊長で梓ちゃんが副隊長兼中隊長、更にアリサさんと西さんを中隊長にしてるからね。

梓ちゃんは私の一番弟子だから私の戦車道を誰よりも受け継いでるし、アリサさんの緻密で計算しつくされた戦術と、西さんの『機を得たらガンガン行こうぜ』な戦車道は相性バッチリだと思うからね。

だから、今年も勝たせて貰うよ愛里寿ちゃん。

 

 

 

「同じ相手に二度負けるのは好きじゃないから、今年は私達が勝たせて貰うよみほさん……!」

 

「其れは同感だ……同じ相手に二度負けるなど、西住流の汚点になり兼ねんからな――大事な妹とは言え勝負では手加減なしだ。私持てる力の全てを持って、みほ…お前を倒す。」

 

「ふふ、そう来なくっちゃ!なら私も、私達も!!」

 

「全力で、貴女達を倒します!!」

 

 

 

――轟!!

 

 

 

私も梓ちゃんも闘気が高まって、ダブル軍神招来!!その闘気で、地面が抉れちゃったのは仕方ないよね♪――と言うか、闘気の爆発でクレーターが出来なかったのが不思議だよ。

 

 

 

『独眼の龍は天を目指す。』

 

『心の臓、止めてくれる!』

 

 

 

で、私が宿したのは伊達政宗だったんだけど、梓ちゃんが宿したのは殺意の波動に目覚めたリュウ……うん、どう考えても英雄じゃないよね其れは。どちかって言うと、闇落ちした主人公だからね其れは。

其れを宿しちゃう辺り、梓ちゃんは『ダークヒーロー』の素質があるのかもね……まぁ、私もどっちかと言えばダークヒーロー系だから、その弟子の梓ちゃんもダーク寄りになるのはある意味では当然か。

 

 

 

「其れでは、此れより大学選抜チーム対高校選抜チームの試合を開始する!お互いに、礼!!」

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

 

 

そして、審判長である蝶野教官の号令で試合前の挨拶。

挨拶は大事だ、戦車乙女の礼儀だからね……でも、挨拶が終われば後はもう戦うだけだから、私達高校戦車道の全てをもってして大学選抜チームを倒すよ。

『同じ相手に二度は負けない』って言ってたけど、愛里寿ちゃんにもお姉ちゃんにも悪いけど、同じ相手に二度負けて貰おうかな?

今年の大学選抜が過去最強なら、今年の高校オールスターは戦車道史最強と言っても過言じゃないからね……タップリと味わって貰うよ、今年の高校戦車道の底力って言うモノをね。

 

 

 

「そんじゃ、行こうぜみほ?」

 

「遠慮しないで命令しなさい?貴女の命令なら、どんな相手でも狙い撃つわ。」

 

「お~っほっほ!やってやりますのよ!!ダージリン様におっこーちゃをこぼして差し上げますわ!」

 

 

 

そして何よりも、最強って言われた伝説の青パンターチームが再々結成された訳だからね。――だから、覚悟してね愛里寿ちゃん、お姉ちゃん?二人には、もう一度私の戦車道をゲップが出るレベルで味わって貰うから。

 

其れじゃあ始めようか……戦車道の夏の一大イベントをね!!

 

「Panzer Vor!!!」

 

「「「「「「「了解!!!!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer220『序盤戦からガッデメファッキンです』

遂に220話です!Byみほ       此処までよく続いたな?Byペパロニ      読者様に感謝よねByアリサ


Side:しほ

 

 

今年は去年とは違って、変な思惑が全くない純粋な高校選抜と大学選抜の試合ね……この試合は双方にとって刺激になるのは間違い無い事でしょうね――高校選抜は大学選抜の高度な戦術に触れる事が出来て、大学選抜は高校選抜の型に嵌らない自由な戦術に触れられる数少ない機会ですからね。

戦車道の発展を考えれば、とても有意義な試合よね。

 

 

 

「確かに戦車道の未来を鑑みれば有意義な試合だけど……しほちゃんとしてはちょっと複雑なんじゃないの?」

 

「如何言う事かしらちよ吉?」

 

「大学選抜の副隊長はまほちゃんで、高校選抜の隊長はみほちゃんでしょ?……西住流の家元としては、どっちを応援すればいいのか悩むんじゃないかなって♪」

 

 

 

……言われてみれば確かにそうだったわね?

去年の全国大会の決勝戦は大洗の廃校阻止と、戦車道の暗黒面に堕ちていたお母様の戦車道を全否定すると言う目標があったから自然とみほの事を応援していたけれど、今年のこの試合はそう言った柵がない純粋な戦車道の試合なのよね?

……愛する娘達が敵味方に分かれて戦うって言うのは、純粋に親の立場からすると確かに何方を応援すれば良いのか悩むわ……

 

 

 

「そんな奥様に、意見を具申したいのですが宜しいでしょうか?」

 

「何かしら菊代?」

 

「月並みですが、どちらか一方を応援出来ないのであればどちらも応援してしまえば宜しいのではないでしょうか?

 小学校の時の運動会を思い出して下さい。みほお嬢様とまほお嬢様はいつも同じ組だった訳ではなく、紅組と白組に分かれてしまった事もありましたが、奥様も旦那様もどちらか一方ではなく両方応援していたではありませんか。」

 

「……言われてみればそれもそうね。」

 

菊代の言う様に、小学校の運動会の時と同じと思えば良いのよね……こんな簡単な事にも気付かないだなんて、みほとまほが戦車道で何の柵もなく戦うと言う事に少し動揺したみたいだわ。――みほとまほが戦車道で戦う時は、模擬戦を除いて必ず何かしらの因縁やら何やらがあったモノね。

 

逆に言うなら今回はそんなモノが一切ない純粋な戦車道の勝負……しかも力のまほと策のみほなら、みほの方が有利だけれど、まほが居る大学選抜を率いるのはみほに引けを取らない天才の愛里寿さんなのだから、きっと凄い試合になるでしょうね。

 

「千代、貴女の娘がまほをどう使うか、楽しみにさせて貰うわ。」

 

「ドイツへの留学で一皮剥けたまほちゃんを愛里寿がどう使うか……いえ、まほちゃんだけじゃなく、各校で去年まで隊長を張っていた彼女達をどう使うのか、私も楽しみで仕方ないわ。」

 

「やっぱりそうよね。」

 

尤も其れ以上に、去年と比べて200%の強化が施された大学選抜を相手にみほ率いる高校選抜が如何戦うかが楽しみでもあるわ――取り敢えず此の試合はちゃんと録画して、記録用、観賞用、保存用とディスクを作らないとよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer220

『序盤戦からガッデメファッキンです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:愛里寿

 

 

試合前の挨拶……みほさんの気迫は凄かったけど、梓さんの気迫も其れに負けず劣らず凄かった。アレは『軍神を継ぐ者』なんてレベルじゃなく、彼女の意識次第ではみほさんすら超えるかも知れないレベルだった。

今年の大学選抜は去年よりも可成り強くなってると思うけど、高校選抜は改めて選抜になった事で、大洗メインだった去年とは違って矢張り強化されてると言えるから油断は禁物。

 

そんな訳で、試合前の最後の作戦会議な訳だけど……

 

「姉様、なんでサラリと居るの?」

 

「風に流されてやって来ただけさ。

 よもや今年も、こんなに良い風が吹くとは思っていなかった……大学選抜チームの一員に選ばれた事に意味はないと思っていたけれど、如何やら其れは私の早とちりだったみたいだ。」

 

 

 

至極普通に美佳姉様が其処に居た。

高校卒業後はどこかの大学に進学して戦車道を続けていると言う事までは分かっていたし、美佳姉様の実力なら問題ないと思って、私が推薦してチームの一員になってはいたけど、これまで練習に参加した事はなかったのに何故か今は居た。

世界広しと言えど、大学選抜チームに選ばれた事を『意味はない』と言えるのは美佳姉様だけだと思う……でも、私の推薦を『意味はない』って言われるのはちょっとショック……

 

 

 

「私を選んだのは愛里寿だったのかい?……何で其れをもっと早く教えてくれなかったのかな?

 有象無象が私を選んだのならば意味はないが、愛里寿が選んでくれたのならば意味があると言うモノだろう?」

 

「……美佳姉様の連絡先知らないんだけど?」

 

「……大変申し訳ございませんでした。」

 

 

 

ホント自由人だよね美佳姉様って。

さてと、美佳姉様がサラッと居る事に関しては良いとして、作戦会議を始めようか?――まず、今回の試合、高校選抜……みほさんはどんな戦術で来ると思う、まほさん?

 

 

 

「行き成り私に振るのか?……まぁ、この中では私が一番みほの事を知っているから当然と言えば当然か。

 そうだな……フィールドは丘陵地もある平原と林、そしてその近くに有る市街地と言う事を考えると、みほはほぼ間違いなく市街地戦に持ち込もうとするだろう。戦車道において己の得意なフィールドを使わない手はないからな。」

 

「市街地戦でのみほ……ってかみほ率いる部隊は鬼神の如き強さを発揮するからなぁ?

 普通に考えたら市街地に入れないのがベストなんだが……」

 

「市街地戦を封じたからって、其れでみほに勝てるかって言われたら其れはノーなのよね。

 裏技、搦め手、常識破り上等なみほだけど、実は正統派の戦車道でもめっちゃ強いから、正統派の西住流で押し切られちゃう可能性が高いわ。」

 

「そうとも言えないわよ蛍?

 確かにみほさんは一見すると隙が無いように見えるけれど、真正面からのぶつかり合いになればまほさんに分があるわ……つまり、市街地戦をさせずに、平原での撃ち合いに持ち込めば此方が有利よ。」

 

 

 

……まほさんに意見を求めただけで、他の中隊長や隊員からの意見が次々と出てくる。此れは去年の大学選抜になかった事だね。

私が島田流の跡継ぎだって事も影響してたのだろうけど、アズミもルミもメグミも中隊長なのに基本的にイエスマンで私の作戦に異を唱える事は無かった……彼女達は悪くない戦車乗りだけど、其れじゃダメだからね。

 

 

 

「「「~~~~!!!」」」

 

 

 

アズミとルミとメグミは其れが相当に堪えたのか、歯ぎしりをして今年の中隊長達を見てる――特にメグミはサンダースの後輩である蛍さんに抜かされた事になる上に、私に言外に『お前は後輩に劣る』って言われた訳だから余計だろうね。

 

 

 

「蛍……何でアンタが中隊長に……!!」

 

「あらあら、中隊長をアンタなんて言っちゃダメでしょメグミさん?蛍中隊長って呼ばなきゃ。」

 

「逸見……うがー!!」

 

 

 

逸見も煽ってやるな。……時にメグミが血涙流してたように見えたけど見間違いだよね?……本当に血涙流してたら速攻で救急車案件だからね。

まぁ、其れは其れとして、みほさん率いる高校選抜相手に作戦を練るのは、下手な考え休むに似たりに等しいか……だったら、私達はみほさんが仕掛けて来た事にその場その場で対応するのが上策。

後手後手に回る事にはなるけど、全てを的確に対応出来ればみほさんにも焦りが生まれて付け入る隙が生まれる筈だから。

 

 

 

「みほの仕掛けに完璧に対応するか……中々のハードモードだな。」

 

「でも、其れを楽しいと思っているのではないかしらまほさん?」

 

「否定はしないよ琳。」

 

「ホント、みほとの戦車道ってエキサイティングなのよね!……一度でもみほと戦ったら、もう普通の戦車道じゃ満足出来ないのよ――満足出来ない所か、長らくみほと戦わないと禁断症状が現れるのよ!!」

 

「禁断症状って麻薬じゃないの!!」

 

「みほの戦車道は麻薬の様な戦車道なのよ!!」

 

 

 

つまり、中毒性があるって事だね……分かる。

私が大洗を編入先に選ばなかったのも、みほさんと戦う機会が減るからだから……あの刺激的な試合を一度でも体験すると、もう二度と普通の戦車道では満足出来ないんだよね。

私自身、去年の試合の後で満足出来た試合は片手の指で足りる程だから……だから、今日の試合は満足させてほしいな。――みほさん、私を満足させてね?

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

試合前の挨拶を終え、試合前の最後の作戦会議も終わり、いよいよ試合開始だ。

先ずは礼によって両チームのオーダーを見ていこう。

 

 

・高校選抜チーム

 

パンターG型×3(アイスブルーカラーは隊長車兼フラッグ車)

ティーガーⅠ×2

ティーガーⅡ×1

M24チャーフィー軽戦車×1

Ⅲ号突撃砲G型×1

ヤークトパンター××2

Ⅳ号駆逐戦車(ラング)×2

チャーチル歩兵戦車Mk.Ⅶ×1

マチルダ歩兵戦車Mk.Ⅳ×1

巡航戦車クルセイダーMk.Ⅲ×1

M4シャーマン×3

シャーマンファイアフライ×1

T-34/76×1

T-34/85×2

IS-2×1

P-40×1

CV-33×2

九七式中戦車57mm砲搭載型×1

九七式中戦車(新砲塔)×1

ARL-44×1

BT-42突撃砲×1

 

 

 

・大学選抜チーム

 

巡航戦車A41センチュリオン×1(フラッグ車)

M26パーシング重戦車×24

M24チャーフィー軽戦車×4

T28重戦車×1

 

 

 

バラエティ豊かな高校選抜に対し、大学選抜は高性能の戦車で纏めて来た感じだ……カールって反則兵器が無い分だけ去年より大人しい感じの大学選抜だが、逆に言うなら純粋な戦車で纏められた事でその本来の力を発揮できるのかもしれない。

逆に高校選抜は戦車のバラエティが豊富なのが強みとも言えるだろう――戦車の性能がバラバラであると言うのは一見すると弱点に見えるけれど、みほに限ってはそうではない。

そのバラバラの個性を生かしてしまうのがみほなのだ。――普通なら分離するであろう強烈な個性を纏め上げてしまうってのは普通に凄いわ。

 

 

そんな訳で試合は始まったのだが……

 

 

「みほが仕掛けてこないだと?」

 

「このままじゃ、私達が稜線を取っちまうぞ?」

 

 

大学選抜チームが稜線を取ろうとしても、高校選抜は仕掛けてこなかった……市街地戦に全てを懸けて前半戦は捨てるにしても、此れは余りにも杜撰な対応と言わざるを得ないだろう。

アッサリと稜線を取らせるなど、愚の骨頂でしかないのだから。

 

 

「今だ、突撃!!」

 

「「行くぜ、オイ!!」」

 

 

だが、もうすぐ稜線を取れると言う所で、絹代の九七式と二輌のカルロヴェローチェが大学選抜に奇襲攻撃を仕掛けて来た!――車体が小さい事を利用して茂みに身を潜めていたのだ。

稜線を取ろうとしていた大学選抜からしたら、マッタク無警戒だった横っ腹からの攻撃と言うのは度肝を抜かれた事だろう。

尤も、九七式にはゼロ距離攻撃をされなければ撃破される事はないし、カルロヴェローチェに至ってはそもそも戦車戦性能皆無なので脅威ではないのだが……

 

 

「マスターアーム、オン!ファイア!!」

 

「トラップカード、全弾発射ぁ!!!」

 

 

別の茂みからも砲撃が!

Ⅲ突、ヤークトパンター、ラングの『待ち伏せ上等突撃砲&駆逐戦車チーム』が攻撃して来たのだ。

 

 

「此れは……九七式とCV-33の突撃は本命から目を逸らす為の囮。

 となると、みほさんの狙いは此処で先ずは此方の戦力を僅かでも削る事にある筈――なら、各員散開!待ち伏せ部隊に的を絞らせるな。そして、最低でもツーマンセルで行動するように。」

 

 

其れでも愛里寿は慌てる事なく指示を出し、大学選抜チームは五~六つの小隊に分かれて高校選抜の待ち伏せ隊に的を絞らせないようにすると言う作戦に打って出た。

確かに集団で固まって居たら動きが重くなって良い的と化してしまうのだから最善の策を取ったと言えるだろう。

 

 

「威勢よく仕掛けて来てくれたが、先ずは隠れているネズミには消えて貰うとしようか?」

 

 

そんな中で、まほはチャーフィー二輌を引き連れたチームを作り、砲撃が放たれた茂みに向かって攻撃を開始。

元々重戦車の圧倒的な火力で相手を制圧するのが得意なまほだったが、大学選抜チームではティーガーⅠをも上回る火力を誇るパーシングに乗っている事でその長所がより生かされるようになっているのだ。

そのまほ率いる小隊の攻撃で、茂みはあっと言う間に消し炭と化したのだが、其処に戦車の姿はない――待ち伏せが得意なⅢ突、ラング、ヤークトパンターは、茂みに隠れて逃げるのも得意だったようだ。

 

 

「ち、逃げ足の速い……だがまぁ、此方は一輌も失わなかったのは幸いか。

 稜線を取らせると見せかけておきながら、稜線を取れるギリギリのところで仕掛けてくるとは、相変わらずみほの策はえげつない……無意識に気が緩む所を的確に狙って来るとは、我が妹ながら恐ろしいな。」

 

 

ファーストコンタクトは互いに被害なしだったが、何方に分があったかは火を見るより明らかだろう――大学選抜からしたら、稜線を目前にして出鼻を挫かれる形となったのだから。

一応対処は出来て被害はなかったが、逆に高校選抜に被害を与える事が出来なかったので的確な対処が出来たとも言い辛い……囮の九七式とカルロヴェローチェを仕留め損ねたのも痛手と言えよう。

 

 

「九七式とCV-33を撃破出来なかったのは痛い。

 恐らくみほさんは九七式とCV-33には最初から戦車戦での戦果は期待してない……九七式とCV-33に期待しているのは、此方をドレだけ掻き乱してくれるか――私の予想が当たってるなら、九七式とCV-33は市街地に入る前に何としても撃破しないと厄介な事になる。

 去年も、CV-33は一輌も撃破しなかったとは言え、アレのGPSやらで此方は被害を被ったから……戦車戦性能皆無の戦車も、みほさんの手に掛かれば決戦兵器になるから恐ろしい。」

 

 

愛里寿の言う様に、此れがみほの怖さだ。

日本戦車やイタリア戦車は性能が極めて低いため、知波単やアンツィオの様な学校でなければ先ず使う事が無い戦車なのだが、みほはそんな戦車にすら活用法を見出し、最善の運用をしてしまうのである――そう、カードの想像主であるペガサスが見向きもしなかったクリボーを見事に使い熟してしまう闇遊戯の様に。

そして其れは同時に、戦車の種類が多ければ多いほどみほが切れる手札の数が多い事も意味している――戦車の統一性がまるでない高校選抜のチーム編成こそがみほの力を最大に発揮出来ると言えるのだ。

 

 

「でも、だからこそ楽しい。

 忍者戦術と言われる島田流をも上回る奇策と妙策を次から次へと繰り出してくるみほさんの戦車道はワクワクが止まらない……螢が言った様に一度でもみほさんと戦ったら、もう普通の戦車道じゃ満足出来ない。

 だから、私を満足させてよみほさん……!」

 

 

でもって、愛里寿はみほの戦車道の中毒者になってしまっており、どこぞの無手札の鬼神みたいな事を言っていた……其れだけみほの戦車道ってのはトンデモないモノだと思っておこう。

とは言え試合はまだ始まったばかりであるので、此処からどんな試合展開になるのかだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

取り敢えず、最初の奇襲は巧く行ったみたいだね……目的は大学選抜に被害を与える事じゃなくて、大学選抜チームを細分化させる事にあった訳だしね――小隊レベルに細分化してくれた方が私としてはやり易いからね。

細分化すれば、其れだけ誘導も容易になるし、フラッグ車を市街地に誘い易くなる……私の事をよく知ってるお姉ちゃんが不確定要素ではあるけど、仮にお姉ちゃんが気付いたとしても、その時には市街地戦は既に開始されてるだろうから問題なしだよ。

 

尤も、お姉ちゃんと愛里寿ちゃんが組んだらどんな化学反応が起きるか分からないから、其処は警戒しないとだけど。

それと、私の作戦を広い視野で見通しちゃう大後さんには早めに退場して欲しい所だから、此処はエリカさんに頼もうかな?

 

「エリカさん、大後さんを最優先に探して、そんでもって思い切りやっちゃってもらって良いかな?盛大に挑発しちゃって構わないから♪」

 

『了解したわみほ……田尻はからかってやるとマジな反応してくれるからからかい甲斐があるったらないわ。

 『大洗一口の悪い女』の名に懸けて、盛大に挑発して田尻を撃破してやろうじゃない――盛大に毒吐くのも全国大会以来だから腕が鳴るわ。

 どうやって挑発してやろうかしら?……ククク、楽しみにしてなさいよ田尻!』

 

 

 

田尻じゃなくて大後だよって言うのは無粋なんだろうね。

そして、通信先のエリカさんはきっと物凄く悪い顔をしてるんだろうなぁ……それこそ『現役JKがしちゃいけない顔』になってる可能性が極めて高い気がするよ。

でも、だからこそ頼もしいかな?

エリカさんは悪役上等なキャラだし、そもそもにして高校選抜は私を筆頭にダークヒーロー系が揃ってるから、悪い顔ってのもある意味では全然アリって言えるからね。

 

 

 

『とりま、田尻殺してくるわ。』

 

「気合が入ってるのは良いけど、殺しは駄目だよエリカさん。」

 

『分かってるって。其れ位の気概で行くって事よ。』

 

「……なら、逆に頼もしいね。」

 

何にしても最終決戦地は市街地だから、其処で待たせて貰うよ愛里寿ちゃん、お姉ちゃん――大学選抜最強である愛里寿ちゃんとお姉ちゃんのタッグを、私と梓ちゃんのタッグで撃破する……其れが目標だからね。

さて、私達も準備をしようか梓ちゃん?

 

 

 

「はい!

 愛里寿さんとまほさんに一泡吹かせてやりましょう!!」

 

「うん、その意気やよしだよ♪」

 

今年の大学選抜は去年の倍は強い……しかも、去年愛里寿ちゃんを倒すのに一役買ってくれたお姉ちゃんは大学選抜に居る――戦力で言うなら、去年なんて目じゃないレベルだよ。

でも、だからと言って勝負を諦めるなんて選択肢は有り得ないんだよね……だって、戦車道は戦いきってこそ楽しいんだから!

その楽しさを最大に味わう為に、私は策を尽くす――この大学選抜との試合が、私の高校生活最後の戦車道になるだろうから思い切り楽しませて貰う心算だから覚悟しておいてね愛里寿ちゃん、お姉ちゃん。

私の持てる力の全てを以って、勝ちに行くから、手加減なしだよ!!

 

 

 

「手加減不要……そうですよね!」

 

「戦車道に手加減はあり得ないから!!」

 

戦う以上は全力を尽くすだけだからね。

そしてゲップが出る位御馳走してあげるよ……私が率いる高校選抜の戦車道って言うモノを、目一杯ね!!――さぁ、戦車力の貯蔵は充分か?思い切り行くから覚悟しててね?

隻腕の軍神は、狙った獲物は絶対に逃さないから、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer221『高校選抜vs大学選抜です!!』

いよいよ試合開始……此れは緊張するよByみほ       緊張したのか?Byペパロニ      大凡そうは見えないのよねByアリサ


Side:まほ

 

稜線を取るギリギリのタイミングで仕掛けてくるとはな……流石はみほだ、此方が『稜線を取れる』と無意識に気を緩めた所を狙って来るとはこの上なく効果的で、そしてえげつないからな。

並の戦車乗りならば、其れだけでマインドクラッシュされていただろうさ。

 

 

 

「マインドクラッシュって……だがまぁ、確かにみほは相手の心をバッキバキに折るような戦術を繰り出してくるからなぁ?

 私も中学時代、フラッグ車の一騎討ちかと思ってたら土壇場で近坂の奴がド派手に登場して、『此処で伏兵とかアリかマジで!?』と、軽く絶望した記憶があるぞ。」

 

「私も去年の決勝戦、フラッグ車の一騎討ちに誘い込まれたと思っていたら土壇場で小梅が現れたからな……みほと戦う時には本当に一瞬たりとも気が抜けん。

 みほの戦車道は『有り得ないと言う事が有り得ない』と言う感じだからな。」

 

「本当に、アイツと戦っていると戦車道の常識ってのを疑いたくなるぞ。」

 

 

 

うん、その気持ちは良く分かるよ安斎。一体何処の誰が、空から戦車が降って来るのを想像出来るのか……姉の贔屓目抜きで見ても、みほに勝てる戦車乗りなど、世界規模で探しても両手の指で数えられる程度しか居ないだろう。

ルールを殲滅戦に限定した場合、その人数はさらに減るだろう……残念ながら、私も私だけだったらみほには負けるからな。

 

 

 

「だよなぁ……今年の大学選抜は黄金世代とか言われてるけど、島田姉以外は去年全員みほに負けてるんだよなぁ……だが、だからこそ此の試合は勝ちたいけどな!

 単体では勝てなかったけど、力を合わせればきっと勝てる!いや、勝つ!!」

 

「そうだな。負けっぱなしと言うのは良い気分ではないからな。」

 

私も安斎も、琳(ダージリン)も蛍(ケイ)も加地(カチューシャ)も、私達の隊長である愛里寿ですらみほには負けているが、逆に言うと今年の大学選抜はみほとの試合経験を持つ者が去年とは違って在籍して居ると言う事にもなる。

みほのやり方を知っているのと知らないのでは大きな差があるからな……尤も、知っていてもみほは突拍子もない事をしてくるから油断は出来んがな。

本気で、みほに勝てる戦車乗りはそう多くはない……みほに勝てる戦車乗りが居るとしたらエリカと、そして誰よりもみほの戦車道を間近で見続け、其の全てを受け継いだ澤位のモノだろうな。

特に澤は、己にしている蓋を開ける事が出来たら、手が付けられない戦車乗りになるかも知れないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer221

『高校選抜vs大学選抜です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

試合開始直後の稜線での攻防は、互いに被害はなかったとは言え、高校選抜側に軍配が上がったと言えるだろう――大学選抜側の作戦を崩し、そして部隊をバラけさせる事に成功したのだから。

部隊を細分化すると言うのは、フレキシブルな動きが出来るようになる反面、各個撃破されやすいとも言える諸刃の剣なのだから。

 

そして其れだけではなく、高校選抜の奇襲攻撃は、大学選抜側に常に奇襲の可能性がある事を擦り込む効果もあった――試合開始直後のフィールドならば兎も角、此の擦り込みは市街地戦に入った時に大きな効果を発揮するのだが。

だが、そうであっても常に奇襲を意識すると言うのは精神的にキツイモノが有るだろう……常に気を張って無ければならないのだから。

 

 

「く……やってくれたわね……!」

 

「西住みほ、やっぱりトンデモないわアイツ……!」

 

「去年は、序盤戦は甘かったけど、今年は最初からアクセル全開って感じね……こりゃ、マリーじゃ勝てない訳だわ。」

 

 

そんな中、アズミ、ルミ、メグミの『バミューダ三姉妹』は揃って行動していた。

此の三人は揃ってこそ其の力を発揮出来るので、このチームで行動すると言うのは何もオカシイ事ではないのだが、ハッキリ言って今年の三人は焦っていた。

去年は中隊長を務めていた彼女達だが、今年は中隊長から平隊員に降格になったのだから……特にメグミは、高校時代の後輩である蛍に中隊長の座を奪われたのだから余計に思う所があるだろう。

何よりも彼女達がショックだったのが、今年の中隊長も去年同様に愛里寿が選んだと言う事だった――去年は島田流の次期頭首に直々に選ばれたと言う事に歓喜した彼女達だが、今年は一転して島田流次期頭首から、『お前達中隊長クビ』って言われたのと同じだからね、今年も中隊長に選ばれなかったと言う事は。……まぁ、大学選抜に選ばれただけまだマシなのかも知れないが。

 

 

「メグミ、ルミ、必ず戦果を上げるわよ?隊長に、私達の有能さを見せてやりましょ!」

 

「勿論よアズミ……此のままで終われるもんですか!」

 

「フラッグ車は、必ず私達の手で討ち取ってやる……!」

 

 

だからこそ燃えていた。

去年の大洗女子学園連合vs大学選抜の試合では、遊園地に入ってからは観覧車攻撃やCV-33GPSに苦汁を舐めさせられまったりと、完全にみほにしてやられていたのだから、リベンジに燃えるのは当然と言えよう。

でもって、リベンジ果たして愛里寿に評価して貰おうって思惑もあるのだろう。……寧ろ、そっちが本命かもしれん。

 

 

「アンタ達がみほを討ち取るですって?寝言は寝てから言いなさいってのよ。」

 

「そして、戯言はラリってから言えってな。」

 

「西住隊長を舐めんでねぇ!」

 

「「「!!!」」」

 

 

だが、そんな彼女達の前に、突如エミと直下のティーガーⅠ二輌と、IS-2の重戦車チームが現れた――IS-2には、去年までのKV-2の乗員であるニーナとアリーナが乗っているようだ。

 

 

「そんな、何時の間に!?」

 

「小規模の茂みしかなかった筈なのに……って、まさか!!」

 

「はい、そのまさかよ!

 戦車に表面に糊を塗ったブルーシート被せて、糊が塗ってある面に小枝やら葉っぱやらをはっ付けて小規模の茂みに見せかけたって訳……トリックプレイってのは、市街地以外でも出来るのよ!」

 

 

バミューダ三姉妹からしたら突然現れた様に感じた三輌は、実は完全に景色に溶け込んでその存在をカモフラージュしていたのだ……其れは宛ら、擬態して獲物を狩る肉食昆虫の如しだ。

だからこそ、効果は大きいだろう。擬態に騙されて捕食者に近付いてしまった獲物に、生き残る術はないのだから。

 

 

「狩らせて貰うわ、アンタ達の魂ごとね。」

 

 

エミがどこぞのナンバーズハンターのようなセリフを吐いた瞬間に戦車戦開始!

戦車の性能で言うのならば、パーシングはティーガーを撃破する為に作られた重戦車なので、ティーガーⅠ相手に有利に戦えるのだが、IS-2相手だと有利とは言えない。

IS-2もパーシング同様にティーガーを撃破する為に作られた戦車なので、火力と防御力はティーガーⅠを上回っているのだ――砲弾が特殊故に発射間隔が長く、搭載出来る砲弾の最大数が少ないと言う欠点はあれど、スペックだけを見れば可成りの化け物戦車なのである。

ぶっちゃけて言うと、IS-2の火力ならば、戦車戦になればパーシングの何処に当てても撃破出来るのだ。

 

 

「ほらほら如何したの?みほを撃破するんでしょ?アタシ等を倒せないようじゃ、みほを撃破するなんて土台無理な話よ?」

 

「遠慮しないで来なよ、お得意のアレを、バミューダアタックをさ!」

 

「クソ……コイツ等……!!」

 

「高校生の分際で、此処まで!!」

 

「ヤバいのは西住みほだけじゃないって事ね……!」

 

 

そしてバミューダ三姉妹は完全に手玉に取られていた。

完全に虚を突かれたと言うのもあるが、エミ達の連携が余りにも見事だったのだ――エミと直下は常に動き回って的を絞らせないようにし、IS-2が当たれば必殺となる砲撃を叩き込んでくるのだ。

エミと直下はIS-2の欠点である、『発射間隔が長い』と言うのを、自分達が攪乱する事で補っているのだ。

そして、ただIS-2の欠点を補うだけでなく攻撃だって行っている――此れだけの連携を、事前の打ち合わせなしにやってのけてしまうのだから、恐ろしい事この上ないだろう。

 

 

「喰らえ、太陽拳!!」

 

 

更に此処で、エミが閃光弾を炸裂させて大洗女子学園と言うか、みほ流の伝家の宝刀『視界抹殺』を発動!!

直下とIS-2のクルーは、エミが閃光弾を手にした瞬間にアリストトリストブランドのサングラスを装着したので大丈夫だったが、バミューダ三姉妹は閃光を遮る事が出来ずにスタン!

 

 

「く……此れは!!」

 

「目が、目がぁぁぁ!!」

 

 

……何かどこぞの大佐みたいな事を言っているが、視界が効かなくなってしまっては戦車を動かす事は出来ない――車長だけじゃなく、操縦士も視界を奪われてる訳だからね。

目を瞑って、車の運転しろとかマジで無理ゲー以外の何物でもないから。

だから、如何したって足を止める事に成り、そして動かなくなった戦車と言うのは最早只の的でしかない。

 

 

「虎殺しが虎に殺されるってのも、傑作ね?」

 

「大戦期における傑作重戦車の座は、やっぱ渡せねーんだわ。」

 

「コイツで、終いだべ!!」

 

 

動きを止めた三輌のパーシングに対して、ティーガーⅠの88mm砲、IS-2の122mm砲が炸裂し、装甲をぶち抜いて、粉砕!玉砕!!大喝采!!!

如何に分厚い装甲を誇るパーシングであっても、至近距離から此れだけの火力を叩き込まれたら堪ったモノではないのだ。

 

 

――キュポン!!

 

 

『大学選抜、パーシング三輌、行動不能!!』

 

 

なので見事に白旗判定。

名誉挽回をしようと意気込んでいたバミューダ三姉妹は、名誉挽回をする所か大学選抜側初の被害となってしまったのだった……何とも、哀れ極まりない結果となってしまった訳だ。

 

 

「こんな馬鹿な……私達が負けるだなんて……!」

 

「現実を受け入れなさい?アタシ達の方がアンタ達よりも強かった、只それだけの事よ。」

 

「「「グッハァ!!」」」

 

 

そんなバミューダ三姉妹に対し、エミは『死体蹴り』とも言える追撃をブチかます……いやまぁ、確かに其の通りなんだけど、この一撃はバミューダ三姉妹にはキッツイだろう。……アズミもルミもメグミも盛大に血を吐いてキューポラに倒れ伏しちゃった訳だからな。

 

 

「中須賀、アンタ容赦ないな?」

 

「アンタだったら容赦した直下?」

 

「いや、する筈ないじゃん。」

 

 

取り敢えず、エミも直下も相手には容赦しない方向らしい――みほの幼馴染のエミと、みほ率いる遊撃隊の一員だった直下が、相手に対して容赦するなんて事は有り得ないわな。

何にしても、稜線での攻防に続き、戦車の撃破に於いても高校選抜が先手を取った形になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、だからと言ってやられっぱなしの大学選抜ではない。

 

 

「安斎、其方を頼む!」

 

「任せとけ西住!!」

 

 

まほと千代美のタッグは、エンカウントしたアリサ・ルクリリ・エクレールのチームと交戦を開始し、車輌数では劣っているにも係わらず、戦車戦を有利に進めていた。

ドイツへの留学で実力を底上げして来たまほと、そのまほが『生涯唯一の好敵手にしてパートナー』と認めた千代美のタッグは、大学戦車道界隈で『最強タッグ』との呼び名も高い……重戦車の圧倒的な火力で制圧するのを得意とするまほがパーシングに乗り、機動力で相手を攻めるのを得意としている千代美がチャーフィーに乗ってると言うのも、此のタッグを更に強力にしていると言えるだろう。

 

 

「だぁぁぁぁ!何だってこんな所で西住まほとエンカウントするのよぉ!今日のアタシの星座占いって第三位だったのに!!」

 

「ゴメン、此れ多分アタシのせいだ。今日のアタシの運勢、最下位!」

 

「序に私は下から二番目ですわ。」

 

「アンタ等のせいかい!!」

 

 

この大学最強タッグを前に、アリサ達は被弾しない様にするのが精一杯だった……と言うか、M4シャーマンとマチルダ歩兵戦車ではパーシングの装甲を抜く事が出来ないのだ。

一応アリサの乗っている76mm砲搭載型ならば、徹甲芯弾を使えば正面装甲を抜く事が出来るが、徹甲芯弾は『威力が高すぎて特殊なカーボンすら貫通する恐れがある』との事から、戦車道では使用が禁止されているのでやっぱ無理なのである。

ARL-44の90mm砲ならばパーシングも撃破可能だが、『重戦車を扱わせたら右に出る者は居ない』とまで言われているまほと真面に戦車戦を行おうとは思わないのが普通だ。

『だったらチャーフィー狙えば?』とも思うだろうが、チャーフィーはこの中ではダントツに機動力がずば抜けている為、シャーマン、マチルダ、ARL-44ではその動きに付いて行く事が出来ないのだ。

……そんな圧倒的に不利な状況であるにも拘らず、此の状況に陥ってしまったのをルクリリとエクレールの『本日の星座占い』の結果のせいにしちゃってる辺り、まだ余裕があるようにも見えるが。

 

 

「あ~~、もう如何しろってのよ!

 考えなさいアリサ……みほに中隊長に抜擢された以上、無様は曝せないわ――勝てないまでも、負けない策を……勝てなくても負けない――よし。

 西住まほ!安斎千代美!」

 

「「?」」

 

 

とは言え、此のまま戦車戦を続けたら何時かは消耗させられた挙げ句に磨り潰されてしまうと考えたアリサは、何を思ったのかキューポラから身を乗りだし、更には何の為に積んでたのか分からないが拡声器を取り出し……

 

 

「同性とは言え、相手が居るからっていい気になるんじゃないわよ!!

 アタシだって!アタシだって絶対に良い人見つけてやるんだから!サンダースは日本最大級のマンモス校で生徒も多いんだから、必ず卒業までに相手を見つけてやるわ!!」

 

 

果てしなく戦車道とはマッタク関係ない事を絶叫してくれた。

マッタク関係ない事ではあるが、行き成りこんな事を絶叫されたまほと千代美は完全に虚を突かれ攻撃の手が止まってしまった……マッタク関係ない事だからこそ呆気に取られてしまった訳だ。

 

 

「隙あり!喰らえ!!」

 

 

――ボウン!!

 

 

その隙を逃さず、アリサは発煙筒を投げるとその煙に紛れてルクリリ、エクレールと共に戦線を離脱――マッタク持って凄まじい自爆技とも言える一手で窮地を脱したのだ。

隊長、車長としての能力は前隊長のケイには劣るアリサだが、土壇場での閃きとなりふりの構わなさはケイ以上であり、『負けない戦い』をさせたら、もしかしたら高校戦車道でもトップクラスなのかも知れない。

 

 

「逃げられたか……実力は私達の方が上だが、巧さに関しては彼女の方が上だったみたいだな?」

 

「マッタクだな……見事にしてやられたが――」

 

 

『高校選抜、M4シャーマン二輌、九七式中戦車新砲塔型、行動不能。』

 

 

「他の連中が成果を上げてくれたみたいだな……加地と野島かな?」

 

「かもな……アイツ等は卒業しても相変わらずの名コンビだからな。」

 

 

如何やら別の場所では他の大学選抜メンバーが、アリサ以外のM4シャーマンと玉田の九七式を撃破したらしかった――此れで残存車輌数はタイとなったが、試合形式がフラッグ戦である以上、残存車輌数と言うのは余り意味をなさない。

ぶっちゃけて言うのならば、フラッグ戦は残っているのがフラッグ車一輌であってもそのフラッグ車で相手のフラッグ車を撃破してしまえば勝ちになると言う一発逆転が有り得る試合形式なので、大切なのは残存車輌数よりも如何にしてフラッグ車を撃破するかなのだ。

因みにだが、戦車道ファンの間ではフラッグ戦は殲滅戦よりも圧倒的に人気の試合形式だったりする――殲滅戦は、戦車の性能で略勝負が決まってしまうのに対して、フラッグ戦は戦車の性能だけでは決まらない所があるからな。意外なジャイアントキリングが起こりうるフラッグ戦の方がファンとしてもドキドキなのだろう。

 

 

「とは言え、フラッグ車を叩かねば勝つ事は出来ん……安斎、市街地に向かうぞ。」

 

「市街地って……みほ相手に市街地戦をする心算かお前?」

 

「みほを市街地から引き摺り出す事は出来るだろうが、其れをやろうとしたらみほを引き摺り出すまでに此方が甚大な被害を被る可能性がある……ならば、戦力が充分にある状態で市街地に乗り込む方が遥かに上策だ。」

 

「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』って事か……みほが相手だと、虎穴に入ったらゴジラが出たって事になりそうなんだけど如何よ?」

 

「甘いぞ安斎……出て来たのはゴジラではなく、百体を超えるゴールデンフリーザ様だ。」

 

「何その絶望!?」

 

 

絶望通り越して悪夢だ其れは。崖の上に現れた百体を超えるメタルクウラ以上の絶望と悪夢だろ其れは……まぁ、確かに市街地でのみほはフリーザ様も真っ青なラスボスと化すけどな。

そしてそのラスボスのお供には梓とエリカと小梅とエミの中から二人がランダムに選ばれて現れるだろうからね……隻腕の軍神は本気でハンパないと言わざるを得ないだろう。

 

 

「隊長、此れより私と安斎は市街地に向かう。フラッグ車を撃破する。」

 

『了解した。

 では、私も市街地に向かう……私もみほさんと戦いたいから。』

 

 

まほが愛里寿に市街地に向かう旨を伝えると、愛里寿もまた市街地に向かうと来た……愛里寿からしたらみほと戦える絶好の機会なのだから、逃す手はなかった訳だ。

そして同時に其れは『大学最強チーム』が市街地にて結成される事を意味していた。

大学選抜チームの隊長である愛里寿と副隊長兼中隊長のまほと、中隊長の千代美が一つになったチームなのだから――若しかしたら、此処にもう一人の中隊長である蛍も加わるかもだ。

 

序盤のフィールドでは互いに三輌を失ったが、しかし本番は市街地だ。

市街地戦となればみほが率いる高校選抜が圧倒的に有利だが、だからと言って大学選抜だってそう簡単にはやられはしないだろう――通常の市街地であれば、去年の遊園地の様な奇抜な作戦は流石にないだろうからね。

 

 

『此方アリサ、市街地への誘導は取り敢えず完了したわ。』

 

『此方西絹代!西住隊長、市街地への誘導、完了いたしました!』

 

「アリサさん、西さん、お疲れ様……さて、本番は此処からだね。」

 

「そうですね、西住隊長……高校戦車道の底力、見せてやりましょう!!!」

 

「頼りにしてるわよ、妹隊長……!!」

 

 

だがしかし、アリサと絹代から市街地への誘導が完了したとの報告を受けたみほはその顔に笑みを浮かべていた……其れも、JKが浮かべてはいけない『ダークな笑み』をだ。

市街地戦になればみほが十全に其の力を発揮出来るのだから、大学選抜チームを市街地に誘導できたと聞けば、そんな笑みを浮かべてしまうのも仕方ないのかも知れないがな。

だが、そんなみほのチームは可成りガチだった。

みほと梓の師弟タッグに、黒森峰の次期隊長であるツェスカが加わっているのだ――詰る所、大戦期最強の中戦車と言われたパンターが此処に三輌も揃ったと言う訳である。

攻守速を高い水準で纏めたパンターは、中戦車の中だけでなく、戦車道で許可されている戦車の中でもトップクラスの性能を備えた戦車と言えるだけでなく、其れに乗っているのは隻腕の軍神であるみほと、そのみほの一番弟子の梓と、その梓のライバルであるツェスカなのだ――此れは間違いなく高校選抜最強チームと言えるだろう。

まぁ、大学選抜が市街地に入ったと同時に高校選抜も市街地入りしたので、本番は正に此れからなのだろう。

 

 

因みに……

 

 

 

「田尻!今日こそここでアンタをぶっ倒すわ!!」

 

「エリカさん……そうは行きませんわ。逆に返り討ちにして差し上げましょう。」

 

「やってみな……アンタにゃ無理だと思うけどね田尻。」

 

「誰が田尻ですの誰が!!田尻ではなく。大後ですわ!!」

 

「誰がって……お前ー!m9(^Д^)」

 

「こらこら、其れは言い過ぎだよエリカ?……ダージリンはからかい甲斐があるから、気持ちは分からなくもないけどね。……ダージリンってば、良い反応をしてくれるからからかい甲斐があるのよね。」

 

「アールグレイ様!?貴女どっちの味方ですの!?」

 

「難しい質問ね其れは……アンタをからかう事に関しては、取り敢えず私はアンタの敵だーー!!」

 

「自信満々に言わないで下さいまし!!」

 

 

エリカチームと琳チームの間でこんなやり取りが成されていたとかなんとか――取り敢えず分かった事は、逸見姉妹はダージリンを弄り倒さぜずにはいられないって事だろうね。恐るべし逸見の遺伝子である。

其れでも琳は撃破される事なく市街地に到達したのだから大したモノと言えば大したモノだろう――尤も、辿り着いた市街地では、地獄すら生温いレベルの市街地戦が発動するのは確定事項だけどね。

 

 

「さて、其れじゃあ私達も動こうか梓ちゃん、ツェスカちゃん?」

 

「そうですね、動きましょう。」

 

「この動きに、どう対応して来るかね。」

 

 

そんな中でみほは梓とツェスカを連れて市街地に繰り出す――しかも見晴らしの良い駅前にだ。一切視界を遮るモノが一切ない場所と言うのは一見不利に見えるかも知れないが、みほが此処を選んだのならば此処が決戦の地になる事だけは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer222『試合はバーニングソウルです!』

燃えるぞ、この私の魂が!!Byみほ       魂だけじゃなく全身燃えてんぞ?Byペパロニ      大丈夫なの其れ?Byアリサ


Side:しほ

 

 

高校選抜も大学選抜も互いに三輌を失う事になった訳だけれど、大学選抜を市街地に誘導する事が出来た以上、みほが圧倒的に有利になったと言うのは間違いないでしょう。

みほの最大の強みは市街地でこそ発揮されるモノですからね……正直な事を言うと、みほと市街地戦で戦ったら、私も勝つ自信が無いわ。と言うか略間違いなく完封されるんじゃないかしら?

何よりも恐ろしいのは、みほはあの市街地での戦い方を、略独学で編み出したって事なのよね……我が娘ながらマジでハンパないわ。

 

 

 

「でも其れがみほちゃんの魅力である件について。」

 

「其れは否定しないわちよきち。」

 

「ガッデメファッキン!それがみぽりんの魅力だろ!

 みぽりんの戦車道は一流のレスラーがやるプロレスみてぇに観客を引き付けるんだ!みぽりんこそ最強だぜ!アイム、チョーノ!!ガッデム!!!」

 

「みほちゃんの戦車道ってのは本気で先が読めねぇからな?ありゃ、対戦相手からしたら歩く絶望だろマジで?」

 

 

 

絶好調ね黒のカリスマは。其れと好子、其れ若干洒落になってないわ。

みほの市街地戦は初見殺しなのは当然だけれど、一度経験した者であっても次に何をしてくるか予想が出来ない――と言うか、予想させない怖さがあるのよ。

初見でも絶望、二度目以降でも絶望を与えて来るのがあの子の市街地戦なのよね。

まほは愛里寿さんに提案して市街地に向かったようだけれど、其れすらもきっとみほの想定通りなのではないかしら?――市街地戦を選択させられた時点で大学選抜側の勝率は大きく下がったと言えますからね。

大学選抜側に勝機があるとすれば、如何にみほの予想外に対応して、逆にみほに予想外を突き付けられるか……みほを孤立させた状態で、まほと愛里寿さんと安斎さんで仕掛ければ勝てるかも知れないわ。

 

……如何にも高校選抜の方に肩入れしてしまうのは、私が高校戦車道連盟の顧問を務めているからなのかしらね?――或いは、大学戦車道連盟の理事長であるちよきちへの対抗心か。

現役を引退したとは言え、ライバルへの対抗心と言うのは存外消えないモノなのかも知れないわね。

 

 

 

「ところでしほちゃん……私は娘の愛里寿と、お気に入りのみほちゃんのどっちを応援すれば良いのかしら?」

 

「メッチャ今更ねちよきち……其処はまぁ、貴女の好きな様にすれば良いんじゃないかしら?……貴女の場合、何方かだけを応援したら確実に愛里寿さんから嫌われそうだけど。」

 

「そうなのよねぇ……愛里寿だけを応援したら『どうしてみほさんは応援しなかったの?』って言われるだろうし、みほさんだけを応援したら『なんで私の事は応援してくれなかったの?』って言わるでしょうしねぇ……」

 

「こりゃもう、どっちも応援するかどっちも応援しないかしかねぇだろ?」

 

「其の二者一択なら、両方応援する以外の選択肢は無いわね。」

 

 

 

其れが賢明ね。

さて、舞台は市街地に……一体みほは、高校選抜はどんな戦い方をしてくるのかとても楽しみだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer222

『試合はバーニングソウルです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

高校選抜の巧みな誘導で市街地に誘い込まれた大学選抜の面々だが、市街地に入った途端に高校選抜の戦車が見えなくなった事に何とも言えない不気味さを感じていた。

戦車道の試合の為に住人が居なくなった市街地は元々ゴーストタウンの様な不気味さがあるのだが、そんなモノは戦車乗りならば慣れている……筈なのに不気味さを拭えないでいた。――そう、まるでホラー映画の静まり返ったシーンを見ているかのような不気味さを。

或いはその不気味さは、去年の遊園地での戦闘も影響しているのかも知れない。稜線での攻防では優位に立った大学選抜だったが、遊園地では尽く大洗連合にしてやられたのだから。

 

 

「みほとの市街地戦……間違いなくExcitingな戦いになるわね!楽しみだわ!!」

 

 

「ミホーシャ……今度は負けないわよ!!」

 

「今度は勝って、みほさんを私達の大学に誘うんですよね?」

 

「当然よ!私とミホーシャが組めばもう最強なんだから!!」

 

 

 

「お前の全力を見せて貰うぞみほ……!!」

 

「市街地戦ってのはある意味で地雷だったかもだが、楽しもうじゃないか!」

 

「みほさん……楽しい戦車道をやろう。」

 

 

だがしかし、高校時代にみほとの試合経験のある者と、みほと直接戦った経験のある愛里寿だけは、不気味さよりもみほと――みほ率いる高校選抜との市街地戦を楽しみにしているようだ。

此れがみほの戦車道の特徴と言えるだろう。

みほと直接戦わなかった者に対しては不気味さと恐怖を覚えさせるのに対し、みほと直接戦った者には期待と楽しさを覚えさせるのだ……まぁ、みほと直接戦った事があるモノでも、軽く絶望を感じちゃったりするのがみほの市街地戦ではあるんだけどね。

 

 

「Hey!hey!hey!Come on babes!!(如何した如何した!来いよオラ!!)ビビってんかしら、田尻!!」

 

「誰がビビってるですって?」

 

「いや、アンタでしょ?」

 

「アールグレイ様、もういっその事私を誤射して撃破してくれません事!?」

 

「良く言った田尻!許可が出たからやっちゃえ姉さん。」

 

「いやいやいや、此処はもうちょっとダージリンをからかってからにしましょうよエリカ?ダージリンってはからかえばからかう程ムキになって可愛いんだから……久々に、たっぷりと虐めてあげるわダージリン。」

 

「やば、姉さんのSスイッチ入っちゃった……田尻、御愁傷様。」

 

「田尻ではありませんわ!と言うか、Sスイッチって何ですの!?」

 

「まんまよ。

 姉さんって隠れ弩Sなのよ……普段は隠してるんだけど、一度Sスイッチが入ったらロックオンしたターゲットが泣くまで徹底的に虐め倒すのよね。こう言ったら何だけど、覚悟を決めなさいダージリン。」

 

「何ですの其れは~~~!?」

 

 

そんな中で異質な戦闘になっていたのが、エリカが率いる小隊と、琳とカンナの小隊の戦いだった。

エリカとカンナの逸見姉妹は琳をからかう事を楽しんでいた(カンナは大学選抜なのだから其れに参加するのは如何かと思うのだが。)のだが、その最中にカンナの『Sスイッチ』とやらが入ってしまったらしく、味方でありながらも琳を徹底的に虐め倒す事にしたらしい。

流石に同士討ちは無いだろうが、精神的に虐められるってのは可成りキツイだろう。

 

 

「うふふ……た~っぷりと虐めてあげるわ……」

 

 

……カンナの言う『虐め』にはなんか別の意味がある様な気がしてならないけどね。――彼女がアールグレイを名乗っていた時の聖グロの隊長室からは、しばしばダージリンの艶めかしい声が聞こえて来たとかそんな噂があるとかないとか。

場は正に混沌として来た訳だが……

 

 

『待たせたねエリカさん……暴れて良いよ!!!』

 

「みほ!その言葉を待っていたわ!!」

 

 

此処でエリカにみほからの通信が入り、『暴れて良い』との許可が出た。

エリカは普段はみほの片腕として冷静な判断が出来るように自分を律して戦車道を行っているが、其れは逆に言うとエリカの最大の強みである闘争心を理性で抑えている状態であり、エリカの力を完全に発揮出来てはいない。

だがしかし、その理性はみほの許可があれは解除される……理性と言うリミッターが解除され、エリカの闘争本能が解放されるのだ。

 

 

「グオォォォォォォォ……ミホォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

「「!!?」」

 

 

その結果が齎すのはエリカの暴走。

この状態になったエリカは、敵と認識した相手を徹底的に追い続ける狂戦士だ……そして、エリカの敵は大学選抜チームだ。なので――

 

 

「ショォォォォォアァァァァァァ!!!」

 

 

琳とカンナが同時にターゲットになる訳だ。

 

 

「エリカが暴走した!?やば!!」

 

「ヤバい所ではありませんわ!!」

 

「ガァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

流石にエリカの暴走はヤバいと思ったのか、カンナは琳を虐めるのを止めてエリカに向き合い、大後もまたエリカに向き合い迎撃戦とするが、相手はエリカだけではないと言う事を忘れてはならない。

 

 

「五十鈴華……目標を狙い打ちます!」

 

「パンターと比べれば大分じゃじゃ馬だが、慣れれば可愛いもんだな。」

 

 

――ズガン!!

 

――バッガァァァン!!!

 

 

琳のチャーフィーに華が砲手を務めるファイアフライの砲撃が炸裂し、カンナのパーシングに麻子が操るクルセイダーの戦車プレスが炸裂!!

 

 

――キュポン!

 

 

『大学選抜、チャーフィー、パーシング、行動不能!』

 

「何ですってぇ?」

 

「うっそーん?」

 

 

「五十鈴華、目標を撃破しましたわ。」

 

「西住さんの戦車道に常識は通じない……逸見さんの暴走に驚いた時点でお前達は負けていたんだ。」

 

「ウゥゥゥゥゥゥ……ギョアァァァァァァァ……!!」

 

 

そして撃破!!

エリカの暴走に驚いた琳とカンナを華と麻子が撃破するとは誰も思わなかっただろう……げに恐ろしきは、みほが華と麻子に直接的な指示を送ってないと言う事だ――つまり、華も麻子も己の直感で此処に来たと言う訳だ。

基本的に『自分達の判断で動く』のが大洗流とは言え、其れで此れだけの連携が自然に出来てしまうと言うのは驚異だ……大洗の戦車道が一部のファンの間で『変態的戦車道』と称されているのも何となく納得である。

 

 

「テェキハァ……ドコ、ダァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

かくして、琳とカンナが撃破された事で、暴走エリカは更なる敵を求めて市街地を彷徨う事になった訳だが、此れだけでも大学選抜側からしたら脅威で有ると言えるだろう――だって、エンカウントしちゃったら問答無用で襲われる訳だから。

 

 

「逸見さんは行ってしまったが、私達は如何しようか五十鈴さん?」

 

「そうですねぇ……此処で会ったのも何かの縁ですから暫くは一緒に行動しませんか麻子さん?」

 

「ん、了解だ。」

 

 

麻子と華は、暫し一緒に行動する事にしたらしい。

麻子の操縦技術で相手を攪乱し、其処に一発必中の華の砲撃が炸裂するって言うのはコンビとしては可成り強力だろう。

 

だが――

 

 

「ファイアフライにクルセイダーじゃない!良い獲物を見つけたわ!!」

 

「機動力のあるクルセイダーと、火力のファイアフライ……確かに撃破しておいた方が良い相手ですね。」

 

 

いざ動こうとした所に現れたのは二輌のパーシング。

優子(カチューシャ)と奈緒(ノンナ)、嘗ての『地吹雪・ブリザードコンビ』が偶々此処を通りかかり、ファイアフライとクルセイダーを発見したのだ。予想外のエンカウントもまた市街地戦の醍醐味であると言えるだろう。

 

 

「カチューシャさんとノンナさん……お久しぶりですわ。お元気ですか?」

 

「相変わらずの凸凹コンビは健在みたいだな……?」

 

「ってマコーシャ!誰が凸凹コンビよ!誰が小さいですって!?此れでも伸びたんだからね!1cmだけど!!」

 

「誰もそこまで言っていませんよ優子。」

 

 

その予想外のエンカウントでも通常営業な華と麻子は、精神的に相当図太いと言うか強いのは間違い無いだろう……西住流フィジカルトレーニングを熟せるようになれば、精神的にもめっちゃ強くなるのだろうが。

だが、奈緒が優子にお馴染みの突っ込みを入れている間にクルセイダーとファイアフライは急発進!

 

 

「ちょっと!逃げるんじゃないわよ!!」

 

「車長、『だが、断る。』と伝えてくれ。」

 

「『だが、断る。』だそうですわよ~~?」

 

「ファイアフライは兎も角、クルセイダーはパーシングを撃破出来ないのに、攻撃を喰らったら一撃KOですから当然と言えば当然だわな。」

 

「ムキー!!絶対に撃破してやるんだから!!」

 

「優子、少し落ち着いて下さい。ムキになったら負けますよ。」

 

「分かってるわよ!!」

 

 

パーシング二輌が相手は確かに分が悪いので、此処は一旦退くと言うのも立派な戦術だろう――真正面から撃ち合っても勝てない相手であるのならば、真面に撃ち合うのは避け、地の利を生かした戦い方をした方が良いに決まってるのだから。

尤も、優子も簡単に逃がす心算は無いので即座に追いかけっこが始まった訳だが。

 

 

「其れでは、また後で。」

 

「あぁ、後で。必ずね。」

 

 

十字路に差し掛かった所で、クルセイダーとファイアフライの車長は簡単に言葉を交わすと、クルセイダーは直進し、ファイアフライは右折して二手に分かれた。二手に分かれて優子と奈緒に『分散か片方に集中か』の二択を迫ったのだ。

 

 

「二択を迫られましたね。如何しますか優子?」

 

「クルセイダーは紙装甲だからこの際放っておきましょ。パンチ力のあるファイアフライを集中的に叩くわよ!」

 

 

二択を迫られた優子は、ファイアフライに集中する事を決め、右折したのだが……右折した道は直後にY字路が現れ、先に曲がったファイアフライの姿は既にない――Y字路の何方かに向かったのは間違いないが、何方に行ったのかは分からないだろう。

『嵌められた』……優子は完全にそう思った。ファイアフライが右折する事自体が罠だったのだ。『ファイアフライを先に叩くべき』と考えてる事を読み、それを逆手に取った訳だ。

実に見事なトリックプレイで、ファイアフライとクルセイダーは、地吹雪・ブリザードコンビを撒いてみせたのだった。

 

 

「えぇい、ムカつくわね!他の獲物を探しに行くわよ!!」

 

「つまり八つ当たりの相手を探しに行くんですね?」

 

「煩いわね!!」

 

 

……大学生になっても、この二人は相変わらずのようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

市街地戦では各所で激戦が繰り広げられ、高校選抜が何方かと言うと有利な展開だ。

大洗の面々がみほ直伝の裏技搦め手その他諸々を使えば、他の高校選抜のメンバーも其れを駆使して大学選抜を次々と撃破している――其れでも未だに『黄金世代』が撃破されてないのはある意味で凄い事ではあるが。

 

尤も、そのお陰で市街地はトンデモナイ有様になっている……駅前の歩道橋は崩壊し、バスが横転してタクシーがひっくり返り、電柱は折れて信号機と道路の案内版は落ち、大型百貨店は1フロアが丸々ぶち抜かれているのだ。

幾ら連盟が保証してくれるとは言え、一体どれだけの金が吹っ飛ぶのか想像も出来ない……冗談抜きで国家予算並みの金が羽を生やして飛んで行くのかも知れない。

 

 

それはさておき、大学選抜側もやられてばかりではない。

 

 

「巧く隠れた心算だろうが……バレバレだ。」

 

「その作戦を考えたのは私だぞ?通じる筈が無いだろう。」

 

「其処に隠れてるのは分かっていた。」

 

 

まほ、千代美、愛里寿が組んだ小隊は、『マカロニ作戦ツヴァイ』を展開していたⅢ突、ヤークトパンター、ラングの『待ち伏せ部隊』を見事に撃破して高校選抜の戦力を削る事に成功していた。

 

 

「如何してバレたし!今回は間違わなかった筈なのに!!」

 

「確かに間違ってなかったが……如何に精巧に描き込もうとも、違和感を完全に消し去る事は出来ん。」

 

「この書き割り、描き込んだんじゃなくて、写真の解像度を限界まで引き上げてから引き延ばした物で、普通は違和感を感じない筈ぜよ?」

 

「……此れが西住流だ。」

 

「島田流は此れ位は普通。」

 

 

何やらトンデモない事をしたみたいだが、まほも愛里寿も其れを『西住流だから』、『島田流』だからで片付けてしまった……二大流派の跡取りがそれで良いのかとも思わなくもないが、何となく納得できる部分があるのが否めないのがアレである。

 

そして、此処だけでなく、黄金世代の活躍は他の場所でも行われており、残存車輌数は高校選抜が二十.大学選抜が十五となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

大学選抜を半分撃破したとは言え、此方も十輌も撃破されちゃったか……流石に黄金世代が居る大学選抜チームは一筋縄では行かないね?私達も美佳さんを撃破する事が出来たけど、中学で戦った時よりもずっと強くなってたからね。

でも、だからこそワクワクするよ。

 

 

「西住隊長、CV-33より伝令。大学選抜のフラッグ車を見つけたとの事です。」

 

「場所はポイント○○……如何する妹隊長?」

 

「そんなの決まってるよ。」

 

其処に向かって愛里寿ちゃんとのフラッグ車戦を行う。

一発逆転のあるフラッグ戦だけど、観客が最も見たいのはフラッグ車同士の戦いだからね……負けが許されない全国大会なら未だしも、高校選抜と大学選抜の試合はある意味でエンターテイメント試合とも言えるから、魅せる事も大事だからね。

 

「行くよ、梓ちゃん!ツェスカちゃん!!」

 

「了解です!」

 

「Jawohl!」

 

 

 

此の試合もいよいよ佳境に入って来たね?――クライマックスは、此れからだけどさ。

お姉ちゃん、愛里寿ちゃん……私の高校生活の集大成である戦車道をぶつけて行くから、覚悟してね?これでもかって言う位に、私の戦車道を味わって貰うから……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer223『燃えたろ?寧ろ燃えるべき!です!』

此れが私の戦車道の集大成!Byみほ       見せてやろうぜ、アタシ等の戦車道を!Byペパロニ      全力で行くわよByナオミ


Side:みほ

 

 

この試合もいよいよ佳境に入って来たね?

高校選抜も大学選抜も、互いに損失を出しながらも主力部隊は略健在だからね――それだけに、大後さんとエリカさんのお姉さんを撃破出来たのは可成り大きな戦果だよ。

特に大後さんは私の戦車道とは相性最悪の天敵とも言える存在だしね。

 

 

 

「妹隊長だったら、相性最悪の天敵であっても別に問題なく倒しちゃうんじゃないかと思う件について如何よ梓?」

 

「其れは……御免ツェスカ、若干じゃなくて大幅に否定出来ない。

 こう言ったらなんだけど、西住隊長の戦車道の前には相性とかそんなモノは一切意味がないから……ぶっちゃけて言うと、相性の悪さなんて言うモノは、宇宙の彼方まで蹴り飛ばしてるから。

 無理を通して道理を蹴っ飛ばすのが西住隊長の戦車道だから。」

 

「何それ怖い。そして、其れを否定出来ないのが更に怖い。」

 

「なんだか言いたい放題言われてるけど、私自身否定出来ないのが何とも……お姉ちゃんが居なくて、私が西住流の後継者だったら絶対に叱られてると思うし。」

 ると思うし。」

 

でも、私以上に凄いのって梓ちゃんだよ?

こう言ったらなんだけど、私の勘とか、思い付きが大部分を占めてる私の戦車道をマニュアル化して、明光大付属中戦車道の基本にした訳だし……多分だけど、個人の才能によるところが大きい戦い方をマニュアル化したのって梓ちゃんが世界で初めてなんじゃないかな?

 

 

 

「何よ其れ……師匠が化け物なら弟子も化け物って事?」

 

「其れを考えると、中学三年の時の全国大会でその化け物である私を倒したツェスカもまた化け物って事になるのかな?」

 

「つまり、今此処には戦車道に於ける化け物が三匹も集まってるって事ね……は~いどうも、化け物三女です。」

 

「化け物次女です。」

 

「化け物長女です♪」

 

「「「三人揃って、化け物シスターズでーす。」」」

 

 

はい、バッチリ決まったね♪

と、悪ふざけは此処までにしてと……何処で愛里寿ちゃんと戦おうかな?去年の遊園地と違ってフィールドの広さは市街地の方が上だけど、観覧車みたいな大掛かりな攻撃は出来ないからね?

そもそも、市街地の何処でエンカウントするかも分からないし、エンカウントした場所で出来る戦術を取るのがベターかな。……出来れば駅前での戦いに持ち込みたい所だけど。

 

でもその前に、最後の仕込みを終わらせておこうかな。――市街地戦で、市街地にある施設を使っちゃいけないって言う規定は無い訳だしね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer223

『燃えたろ?寧ろ燃えるべき!です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

市街地戦が始まり、互いに損失を出した高校選抜と大学選抜だが、フラッグ戦である以上、フラッグ車が無事であるのならば残存車輌数は究極的にはあまり関係が無いだろう。フラッグ車を仕留めれば残存車輌が一輌でも勝ちになるのだから。

だがしかし、其れはあくまでも究極的に言えばの話であり、フラッグ戦であっても残存車輌が多い方が有利であるのは間違いない。

 

 

「一手お願い出来ますか、蛍先輩?」

 

「Wao、アリサ!久しぶりね~~?OK、相手になってあげるわ!」

 

 

なのでエンカウントしたら余程の不利な相性でない限りはオープンコンバットなのだ。

市街地の中央郵便局前で戦闘を始めたのはアリサ率いる小隊と、蛍率いる小隊と言う、サンダースの新旧隊長同士。申し合わせたかの様なバトル展開だ。

高校時代の蛍に一度も勝った事が無いアリサとしては、今の自分の力をぶつける絶好の機会を得たと言えるだろう。――そして、其れ以上に自分を中隊長に任命してくれたみほに、見える形で戦果を残したいと言う思いもあるのかも知れない。

 

 

「今のアタシはサンダースの隊長じゃなくて、高校選抜の中隊長……サンダースの流儀を守る必要はない!行くわよ!」

 

「Come on!」

 

 

誤解が無いように言っておくと、アリサが蛍に勝てなかったのは、決してアリサが蛍よりも劣っているからではない……サンダースの基本である、『シャーマン部隊で制圧』と言う戦車道では蛍の方がアリサよりも上だっただけであり、サンダースのドクトリンを度外視して戦った場合はどちらに軍配が上がったか分からないだろう。

其れにそもそもアリサは、正面切って戦うよりも、良くも悪くも策を弄して戦う方が得意な訳で、そう言った意味では『ルールに違反しなければ何でもあり』なみほの戦車道の方が肌に合っていると言えるのだ。

そんなアリサが、何でもありの市街地戦を行ったらどうなるか?

 

 

「ちょ、ちょっとアリサ攻撃がHard過ぎないかしら!?Excitingだけど!!」

 

「なら良いじゃないですか?どんどん行きますよ、どっせーい!!」

 

 

其れは、水を得た魚の如く大暴れだ。

中央郵便局付近と言うのはスクランブル交差点があるのだが、その交差点は後から整備されたものであり、横断歩道が作られる前までは移動に使われていた大きな歩道橋があるのだ。

横断歩道が出来た今も、信号待ちをしたくない人が使っているのだが、横断歩道があるのならば其れを市街地戦に利用しない手はない。

アリサ率いる小隊は、歩道橋に備え付けられている車用の信号機や道路の案内板を落として攻撃し、マンホールを砲撃でぶっ壊して地面にクレーターを作ったり、路駐してある車を弾き飛ばして蛍の戦車にダイレクトアタックさせたりと正にやりたい放題し放題。

 

 

「今はサンダースの隊長である必要は無いから、アリサ本来の力が発揮されてるとでも言うの?……まさか、あの子が此処までみほの戦車道とバッチリ相性が良かったとは予想外だったわね。」

 

 

リミッターが解除されたアリサに蛍は思わず身震いした……サンダースの隊員、サンダースの隊長である事がアリサの真の実力に蓋をしていたのだと言う事に気付いてしまったからだ。

良くも悪くも勝利に貪欲なアリサこそ、何でもありの『みほ流』が合っていたのだ。

 

 

「そう言えば蛍先輩は、ダージリンと付き合ってるんですよね?」

 

「え?えぇ……琳とは付き合ってるけど、其れが如何かしたの?」

 

「チクショー!なんでアタシには相手が居ないのよ!如何してタカシはアタシに振り向いてくれないのよ!アタシのどこがダメだって言うのよ~~!!」

 

「……ハイ?」

 

「隙ありぃぃぃぃ!!」

 

「しまった!!」

 

 

更に此処で、自虐ネタを曝して蛍を呆気に取らせると、その隙を突いてみほ流奥義の一つである『歩道橋落とし』を使って、蛍の小隊の上に歩道橋をそのまま叩き落す!

キューポラの中に入れば特殊カーボンが守ってくれるだろうが、如何にパーシングと言えども巨大なコンクリートと鉄の塊が上から降って来たら堪ったモノではない……特に上面は戦車の弱点の一つでもあるのだから。

 

 

――ドゴォォォォォォォン!!

 

――キュポン!

 

 

『大学選抜、パーシング三輌、行動不能!』

 

 

歩道橋の瓦礫に埋まった蛍の小隊は白旗判定になり完全壊滅!

己の心の傷を自ら抉る自爆技を持ってして蛍を撃破したアリサは天晴と言えよう……果たして己の傷を曝す事の出来る人間がどれ程居るのか考えれば、アリサのした事は称賛に値するってモンだ。

 

 

「はぁ……いっそタカシは諦めて、みほが勧めてくれたように、同性に可能性を求めた方が良いのかしら?……最近割とガチで、其れもアリかって思うようになって来てるし。」

 

「もしそうであるのなら、私などは如何でしょうアリサさん?」

 

「へ?クラーラ?え、アンタ何言ってるの?」

 

「同性もアリと言うのならば、アリサさんの相手に立候補しようかと思いまして。

 こう言っては何ですが、ロシアのレズビアンやバイの女性は気の強い女性を好むんです……そして私もその御多分に漏れず、気の強い女性が好みなんですよ。……アリサさんは気が強くて可愛いので、私好みですし。」

 

「……真に幸せになりたいのなら、自分が好きな人よりも、自分を好きな人と一緒になりなさいって言葉があったわね……クラーラ、アタシで良いの?」

 

「アリサさんが良いんです。」

 

 

んで、なんか新たなカップルが誕生したっぽかった。――アリサはノーマルだと思ってたが、矢張り戦車道女子の御多聞に漏れず、最終的には百合の道に進んだらしい。

だがそれは其れとして試合は続く訳で……

 

 

『高校選抜、ARL-44、チャーチル、マチルダ、行動不能。』

 

 

高校選抜側も、エクレール、オレンジペコ、ルクリリが撃破されてしまったようだ。

試合展開はまさにどちらも退かない一進一退ならぬ一進一進!!やられたらやり返すの撃滅上等の市街地戦!砲撃音が響く度に、信号機が落ちて電柱が圧し折れ、コンビニが粉砕!玉砕!!大喝采!!!

高層ビルなんかは速攻で瓦礫の山に早変わり!9.11の同時多発テロも真っ青なビル崩壊を見せているのだ。――みほ流の市街地戦は矢張り恐ろしい事この上ない。

 

 

「グァッデーム!

 此れがみぽりんの戦車道だ!よく見とけオラ!大学選抜?高校選抜だけ見てりゃいいんだ!ファッキン!!」

 

「魅せ方って言うのを良く分かってるよね。みほちゃんが女子レスラーだったら、俺はスカウトしてたかもしれないな。」

 

 

観客席では黒のカリスマが絶好調で、その親友の天才がこんな事を言ってとか……この二人に認められるとか、本気でみほは凄いと言わざるを得ないだろうな。

 

 

「引退した身なのに、あの子の戦車道を見ると戦車乗りとしての血が騒ぐわ……貴女達もそうでしょう、千代、好子?」

 

「そうね……血が騒ぐわ。」

 

「俺もマジで血が騒ぐぜ……また、学園祭のイベントで戦う事が出来ると良いな。」

 

 

そして、しほと千代と好子もまたみほの戦車道に戦車乗りとしての血が騒いでいた……引退した者の血を騒がせる時点で、みほの戦車道の質の高さが分かるってモンだ。――引退した戦車乗りの血を再び騒がせる事の出来る戦車乗りなど、世界中を探しても稀だからね。

 

 

「でも、其れもそろそろ終わりの様ね。」

 

 

そう言ってしほが目を向けたオーロラヴィジョンには、みほ率いるパンター軍団と、愛里寿率いる小隊が駅前でエンカウントした映像が映し出されてるのだが、映し出された映像に観客は息をのんだ。

何故ならば映像に映っていたパンターは、全てがアイスブルーのカラーリングになって、フラッグ車である事を示すフラッグを立てていたのだから。

そして此れこそがみほの切り札だ。

みほは、『市街地戦で市街地の施設を利用するのは反則ではない』と言うのを利用し、市街地にあった車の塗装工場を使い、梓とツェスカのパンターも自機と同じアイスブルーに塗り替え、更にフラッグ車の証の旗を立ててフラッグ車の偽物を作ったのだ。

フラッグ車の分裂による、敵部隊の混乱を狙ったのである。――隻腕の軍神の戦術はどこまでも深いみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

そんな、三輌のフラッグ車と対峙した愛里寿とまほと千代美の小隊だが……

 

 

「みほさんが分裂した?……相手にとって不足はない。」

 

「みほが三人で嬉しさ三倍だな。」

 

「西住、大学の奴が其れを聞いたら色々アレだから私以外の人の前で絶対に言うなよ?」

 

 

以外と冷静さを保っていた……まほの発言が若干危険ではあるが。

此の三人はみほの戦いを既に経験しているので、『フラッグ車の増殖』位ではもう驚かないのだろう。――確かにみほの此れまでの戦い方を考えればフラッグ車が増えた程度で一々驚いていては身が持たないのかも知れない。

とは言え、本物のフラッグ車を撃破出来る確率は三分の一……普通に考えたら有り得ない事と言えるだろう。普通はフラッグ車は一発で見分けが付くモノなのだから。

 

 

「なんだ、あんまり驚いてくれないみたいだね?つまらないなぁ……」

 

「流石に此れまでトンデモ戦術やり過ぎましたかね?」

 

「最早感覚がマヒしてるって事?ドンだけよ其れ……」

 

 

だが、何と三輌のパンターのキューポラが開き、其処から車長であるみほと梓とツェスカが姿を現した。

 

 

「「「え?」」」

 

 

此れにはまほも千代美も愛里寿も驚く。

せっかくフラッグ車を偽装したと言うのに、車長が姿を現したらどれがフラッグ車なのか一発で分かってしまうからだ――だが、だからこそ考えてしまうのだ、『何かあるのではないか?』と。

 

 

「みほ……フラッグ車の偽装をしておきながら車長が姿を見せるとは、一体如何言う心算だ?

 お前が姿を見せてしまったら、本物のフラッグ車がドレであるのか教えているのと同じだろう?」

 

「そうだね……だけど、私が乗ってるパンターは本当にフラッグ車なのかな?」

 

「……!」

 

「みほさん……まさか!?」

 

「そう言う事か……!」

 

 

そして、実際に姿を見せたのもみほの作戦だったらしい。

外見の偽装によって、『搭乗員が分かれば』と無意識に思わせた所で姿を現し、相手が『フラッグ車はドレか分かった』と思ったところで、『私が乗ってるのがフラッグ車とは限らない』との揺さぶりをかける。

外見の偽装が『表の三択』を迫るモノであるとすれば、己の姿を晒すのは『裏の三択』と言えるだろう……同じ性能の戦車だからこそ可能だった表裏の三択は、迫られた方からしたら可成りきついモノが有るだろう。

同じ戦車だけに、搭乗員がマルっと入れ替わっても何ら問題が無いのだから。

 

 

「でも此れも、お姉ちゃん達を惑わすための嘘かもね?」

 

 

更にみほは揺さぶる。

まほも千代美も愛里寿も、戦車道ならば一流だが、こう言った心理戦はあまり得意ではない――戦車道での心理戦は兎も角、こう言ったギャンブル的な駆け引きは得意ではないから余計に刺さる感じだ。

 

 

「確かにそうかも知れない……でも、其れなら全部倒せば良いだけ。全部倒せば確実にフラッグ車を撃破できるから。」

 

「ふふ、そう来るか愛里寿ちゃん……そう言うのは嫌いじゃないよ。

 其れじゃあ始めようか?鉄と油と火薬に塗れたパーティを!!」

 

 

だが、愛里寿は『どれが本物か分からないなら全部倒せば良い』との結論に至り、そしてみほのセリフを合図に戦闘開始!!

場所はみほが望んだ駅前と言う事もあり、最初から手加減なし!

普通の戦車戦なんぞ行われる筈もなく、信号機が落とされ、駅のバスターミナルに停まっているバスが吹っ飛び、駅ビルのガラスが砕け散る……裏技使い放題である。

去年の観覧車の様な大仕掛けこそ無いとは言え、絶えず戦車砲以外の攻撃にも気を回さねばならないと言うのは、如何にみほと戦った事が有るとは言ってもキツイモノが有るだろう。

 

 

「其処!!」

 

「どわあ!お前何処から現れた!?」

 

 

其れに加えて厄介なのが梓だった。

みほとツェスカが頭上からの落下物攻撃を行う隙を埋めるかのように戦車戦を仕掛け、別方向からのプレッシャーを与えて来るのだ――それも、ベストなタイミングでだ。

しかも狙って来るのはフラッグ車であるセンチュリオンではなく、まほのパーシングか千代美のチャーフィー……フラッグ車の護衛を減らそうとしてくるのである。

其れがかえってまほと千代美の精神を削る事になっているのだ。――意識外からの攻撃を何度も喰らえば精神的に辛いからね。

 

 

「トラップ発動!『残骸爆破』!!」

 

「へ?どわぁぁぁぁぁあぁ!!」

 

「安斎!!」

 

 

――キュポン!

 

 

『大学選抜、チャーフィー行動不能。』

 

 

此処で遂に千代美が脱落!

みほとツェスカの落下物攻撃を回避しようとしたところに、梓が此れまでの戦闘で発生した瓦礫に砲撃してその欠片を飛ばして動きを止め、其処に見事に歩道橋だったコンクリートの塊が直撃したと言う訳だ……目の前にコンクリートの塊が落ちて来た千代美が絶叫したのは仕方あるまい。

 

 

「(直接的ではないとは言え安斎を撃破するとは……此れは、澤の蓋が開き始めたか?)」

 

 

千代美が撃破されたのを見たまほは、其れをアシストした梓の蓋が開き始めたのを感じずにはいられなかった……みほの弟子で、みほの凄さを誰よりも知っている梓だからこそ無意識にしてしまった己の才能の蓋をだ。

その蓋が開き始めたと言うのはつまり、みほ以上の戦車乗りが誕生するかもしれないと言う事であり、此の状況ではあまり喜べるものではないだろう。

 

 

「なかなか面白い事になってるじゃない!私も混ぜなさいミホーシャ!」

 

「仲間外れは少し酷いですよ?」

 

 

千代美が撃破され、大学選抜が不利になったかと思った瞬間、其処に優子と奈緒が現れ戦闘に加わる。数の上では、此れで大学選抜にアドバンテージが出来たと言えるだろう。

だが――

 

 

「ガァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

此処で高校選抜の切り札とも言える暴走エリカが大乱入!!白目を剥いて口から煙が出てるとかマジ怖いわ!!てか、口から煙って本当に人間ですか?……実はオロチの血が混じってたとか言わないだろうな?若干心配だ。

まぁ、其れは兎も角として、暴走エリカが加わった事で数も互角……なのだが、暴走エリカの参戦は大学選抜側にとってはとても有り難くないことだっただろう。

 

 

「ウガァ……ガオォォォォォォォ!!」

 

「ちょっとエリーシャ!アンタ人じゃなくなってるわよ!?」

 

 

暴走エリカは敵とみなした相手には問答無用で襲い掛かるのだ……ある意味で、『大洗の狂犬』の本領発揮とも言えるが、襲われた側からしたら冗談ではないのだ。

しかも今は、みほによる『市街地を更地にする』と言わんばかりの攻撃が行わているのだ……其処に暴走エリカの攻撃が加わったマジで半端ないだろう――暴走エリカだけでなく、半覚醒状態の梓も居るのだから尚更だろう。

 

……みほと言えば、駅前のコンビニを粉砕した際に、爆風に飛ばされたサンドイッチをキャッチして食べる余裕すら見せてるのだが。

マッタク持って常識外れ、戦車道の概念すら破壊しかねない戦いだが……

 

 

「楽しい……やっぱりみほさんとの戦車道はとっても楽しい!」

 

「なら、良かったよ愛里寿ちゃん!」

 

 

愛里寿はこの戦いを心の底から楽しんでいた。

島田流の後継者として戦車道の英才教育を受け、その才能をめきめきと伸ばしてきた愛里寿だが、それ故に飛び級で進学した大学でも満足出来る相手は居なかった……去年中隊長を務めていたバミューダ三姉妹も、愛里寿にはコテンパンにされてたりするのだ。

そんな中で去年みほに出会い、そして己の人生で初めての敗北を知った……其れが愛里寿にとっての刺激になり、みほとの再戦を望ませたのだ。

だからこそ楽しいと、そう思ったのだろう。

 

みほがバスを吹き飛ばせば愛里寿は其れを躱して反撃し、みほは其れを食事の角度で弾いて決定打を与えさせない……正に手に汗握る試合とは此の事だろう。

 

 

「うぅぅ……キシャァァァァァァァァァァァ!!」

 

「ちょっと!何とかしなさいよマホーシャ!エリーシャは貴女の後輩でしょ!?」

 

「そう言われても、暴走したエリカは私ではどうしようもないぞ?恐らくだが私の声も聞こえては居まい。」

 

 

……暴走エリカが優子を追いかけてるのが何ともアレだがな。

そんな中でもみほと愛里寿の攻防は続き……

 

 

「行くよ、蕾さん!」

 

「了解ですわみほさん!いっきますわよー!!」

 

 

此処でみほのパンターが愛里寿のセンチュリオンに向かって突撃――すると見せかけて戦車ドリフトを行い、センチュリオンの後方を取ろうとする。

だが、愛里寿は此れは一度見た戦術なので冷静に砲塔を回転させてみほのパンターに狙いを定めるのだが……愛里寿は見てしまった。みほの口元に笑みが浮かんでいるのを。

 

 

「此れで終わりだよ!!エミちゃん!小梅さん!梓ちゃん!」

 

「「トラップ発動、『隠れ兵』!!」」

 

「マジック発動、『デス・メテオ』!!」

 

 

次の瞬間、駅前の弁当屋とモスバーガーがぶっ飛んで中からエミのティーガーⅠと小梅のチャーフィーが現れてセンチュリオンに向かって砲撃を行い、梓のパンターが伝家の宝刀戦車プレスを敢行!!

まさかまさかの三重奏攻撃を避ける事は愛里寿も出来ず、攻撃はクリーンヒット!!

如何に最強のセンチュリオンとは言え、最強重戦車と名高いティーガーⅠの砲撃と、破格のスペックと言われる軽戦車であるチャーフィーの砲撃だけでなく、パンターの戦車プレスを喰らったらタダでは済まない……って言うか普通にゲームオーバーだ。

 

 

――キュポン!!

 

 

『大学選抜、フラッグ車行動不能!よって、高校選抜チームの勝利です!!』

 

 

センチュリオンは行動不能になり、フラッグ車の撃破により、高校選抜の勝利で試合は終了だ。

 

 

「……最後の最後で試合を決めたのは澤だったか……此れは、面白くなりそうだな。」

 

 

そんな中で、まほは実質的に試合を決めた戦車プレスを行った梓に注目していた……最後の一撃で、『蓋は開いた』と確信したのかも知れないな。

何にしても、今年の試合もまた高校選抜が大学選抜を倒すと言う結果になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

ふぅ……勝てたね。

フラッグ車を偽装して、そして梓ちゃんとは搭乗員をマルっと入れ替えたんだけど、其れが最後の最後で功を奏したね……愛里寿ちゃんは私がフラッグ車だと思ったみたいだったけど、実は梓ちゃんがフラッグ車だった――だからこそ、最後の戦車プレスが巧く行った訳だからね。

 

 

 

「みほさん……私の負けだね。完敗だった……でも、とても楽しかった。」

 

「楽しかったなら良かったよ愛里寿ちゃん……でも、本当に楽しいのは此れからだよ?」

 

「え?」

 

「ペパロニさん。」

 

「おうよ!テメェ等、準備は良いか!!」

 

「「「「「「「「「おーーーー!!!」」」」」」」」」

 

 

 

アンツィオ勢が来てる以上、試合後の宴は外せないからね♪

さぁ、此処からは試合後のパーティだから思い切り楽しもう?――試合ではガンガンやっても、試合が終われば仲間って言うのが戦車道だからね。

 

 

 

「話には聞いてたけど此れが……」

 

「アンツィオ流のもてなしだ。楽しんでくれよ隊長?」

 

「ん、分かった。」

 

 

 

安斎さんの後押しもあって、愛里寿ちゃんも試合後の宴を心行くまで楽しむ事にしたみたいだね?良い事だよ。

そして、その後の宴はとても盛り上がった。

アンツィオの料理が美味しいのは今更だけど、大学選抜の人達用に用意してたワインを、バミューダ三姉妹ががぶ飲みして酔っぱらって、酔いの勢いで色んな宴会芸を披露してくれたからね。

まぁ、其れとは別にサンダースが持って来てくれたカラオケマシンでのカラオケも盛り上がった……特に私とお姉ちゃんがデュエットした『奇跡の地球』は拍手喝采だったからね。って言うか、お姉ちゃんの桑田佳祐パートが再現度が凄かった。

 

でも、此れで私の高校生活最後の戦車道は終わったね……勝てて良かったよ。こう言うのを有終の美って言うんだろうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer224『引き継ぎ前の本気の戦車道です!』

本気で行きますよ西住隊長!By梓       本気で来て、梓ちゃん!Byみほ


Side:みほ

 

 

大学選抜戦が終わった夏休みのある日の事、私は梓ちゃんに『一緒に出掛けませんか?』って言うLINEメッセージを貰って、一緒に大洗の町に繰り出してた。

私も梓ちゃんも恋人が居る身ではあるけど、此れは師弟のお出掛けだから浮気じゃないよ?師匠として、弟子のお願いを無碍にする訳には行かないしね……まぁ、当日現れたジーパンにタンクトップ+袖なしの短ベストって言う、ワイルドボーイッシュなコーディネートの梓ちゃんは凄く可愛かったけど。

体育祭の時に学ランで応援団やった事もあったし、梓ちゃんは意外と男装とかボーイッシュなファッションが似合うのかも知れないね。

 

取り敢えず午前中は大洗アクアワールドと海の科学館を楽しんで、今はランチタイムだね。

今日のランチタイムはシーサイドステーション内にある鮮魚料理の店『お魚天国』で摂る事にした。今の時期限定の生シラス丼や、岩ガキの網焼きなんかが食べられるしね。

私が頼んだは生シラス丼定食で、梓ちゃんが頼んだのはその日の仕入れで内容が変わる日替わり丼定食……今日はアジのタタキ丼だったみたい。

其れからシェアメニューとして、浜焼きの岩ガキとサザエとハマグリを注文。……この場にお母さんが居たら、間違いなく焼酎か日本酒を頼んでるんだろうなぁ。

 

「其れで梓ちゃん、今日は私に何か用があったんじゃないの?只のお出掛けじゃないよね。」

 

「……やっぱり分かっちゃいますか?」

 

「まぁ、何となくだけどね。――で、何かあったの?」

 

「西住隊長は、この間の大学選抜戦を最後に高校戦車道からは引退してしまうんですよね?」

 

「うん、そうだよ。

 高校三年間でやりたい事は全部出来たし、三度の全国大会優勝も経験出来たからね……後は梓ちゃんに隊長職を引き継いだら、私は受験の準備だよ。」

 

「西住隊長なら、戦車道を行ってる大学から引く手数多だと思いますから、受験勉強必要なさそうですけれどね。」

 

 

 

アハハ……其れは若干否定出来ないんだよねぇ?

未だ夏休みの段階なのに、華さんの話だと、私とエリカさんと小梅さんとエミちゃんには既に六校からもスカウトが来てるらしいからね……しかも未だ増える可能性はあるって言ってたからね。

 

 

 

「やっぱり凄いですね西住隊長。

 ……そんな西住隊長が、隊長である内に、一度私と勝負してください!!」

 

「勝負って、私と梓ちゃんが?戦車道で?」

 

「はい!!」

 

 

 

此れは予想外の展開になったね?後輩でありながら私に正面切って勝負を挑んで来たのは中学時代の歩美ちゃん以来だよ。

でも、此れは少し……ううん、凄く嬉しい事かな。

梓ちゃんは常に副隊長として私を支えてくれたけど、逆に言うならドレだけ活躍しても『大洗のナンバー2』って評価が覆る事は無かった……でも、梓ちゃんは自ら『ナンバー2』の殻を破ろうとしてる訳だからね。――如何やら、この間の大学選抜戦の後でお姉ちゃんが『澤の蓋が開き始めた』って言ってたのは間違いないみたい。

 

分かった、その勝負は受けるよ梓ちゃん。

大学選抜戦で、私の高校の戦車道は集大成かと思ったけど、引退前に愛弟子を相手にした延長戦って言うのも良いモノだと思うからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer224

『引き継ぎ前の本気の戦車道です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梓ちゃんからまさかの勝負を申し込まれたけど、その勝負を受けると言った後は普通にお出掛けを続行し、午後はクルージングで釣りを楽しんだ――んだけど、まさかの入れ食い状態でめちゃめちゃ釣れたから、何匹かは市場で買い取って貰って、残ったのはお造りにして貰って持ち帰る事にした。アラもアラ汁に出来るから持って帰ったけどね。

釣り人のおじさんによると、『此れだけの入れ食いは滅多にない』って事だったから、運が良かったんだろうなぁ。

 

「と、言う訳で本日の晩御飯は豪華お刺身の盛り合わせと、お魚のアラ汁です。」

 

「アジにヒラメにサヨリに真鯛、カツオにキハダマグロにキンメダイ……スーパーで此れだけの刺身を買ったらトンデモナイ値段になりそうよね。」

 

「全部天然モノですから、余裕で五桁行きますね。」

 

「其れを無料でなんだから豪華で贅沢極まりないわよね。」

 

 

 

ホントだよね。まぁ、まさかこんなに釣れるとは思ってなかったんだけどさ。

だけど、本音を言うならクロマグロとか、カジキマグロを釣り上げたかったんだよねぇ……出来れば2m以上ある大物を、一本釣りでドバー!!ってね。

 

 

 

「いやいやいや、流石のみほでも右腕一本で百kgオーバーのマグロを釣り上げるのは無理……って言いきる事が出来ないのよね貴女の場合。」

 

「みほさんは右腕一本にも拘らず、ベンチプレスは女子高生最高の百五十kgですからねぇ……」

 

「背筋だって四百kgあるでしょみほは?因みに嘗て『霊長類最強』と言われたアマレスのアレクサンダー・カレリンの背筋が六百kgね……アンタ冗談抜きで『霊長類ヒト化最強』で良いんじゃない?」

 

「アハハ、冗談を言っちゃいけないよエミちゃん……私なんて、吉田沙保里と伊調馨に比べたらまだまだだから。」

 

「みほ、其れは比較対象がオカシイ。

 その二人はアレだから、『地球に振って来た隕石を止める』とか、『そもそも隕石の方が避ける』だとか言われてるから。若しかしたら人間じゃなくて超人だから。」

 

「其れもパーフェクト超人ね。」

 

「お二人とも超人強度は最低でも6500万パワーはあるでしょうねぇ。」

 

 

 

マンモスマン以上とかドンだけなんですかねぇ。

と、前振りは此処までにしておいて、みんなに伝えなきゃならない事が有るんだよ――実は本日、梓ちゃんから戦車道での勝負を申し込まれました。

 

 

 

「澤が?」

 

「やりますね澤さん、下克上ですか。」

 

「小梅、其れは多分違う……一番弟子が、己の成長を確かめるべく師匠に挑むって感じじゃないの?」

 

 

 

うん、確かにそう言った面もあるんだけど、其れ以上に梓ちゃんは自分で自分の殻を破ろうとしてるんだと思う――ただ勝負を申し込んで来るだけじゃなくて、私の方のチームも指定して来たからね。

 

 

 

「へぇ、誰を指定して来たのかしら?」

 

「ライガー、オオワシ、タイゴンの三チームだよ。」

 

「みほさん其れは……」

 

「みほ率いるあんこうを加えた大洗の四強チームじゃない!……澤の奴、敢えて最強チームを相手にしようって言うの?」

 

 

 

如何やらそうみたいだよ。

相手が凡百な戦車乗りだったら『自惚れるな』って言う所なんだけど、梓ちゃんの実力は他校の同世代の中でも抜きん出てるから、自惚れだとは言えない……もしも、梓ちゃんが私と同じ歳から戦車道を始めていたら、私を超えてるかも知れない位の逸材だからね。

そんな梓ちゃんが敢えて最強チームを相手に戦いたいって言うんだから、私達は其れに応える義務があると思わない?

 

 

 

「そうね……応えてやろうじゃないの!引退前に、大洗の狂犬の牙を味わわせてやるわ!」

 

「慧眼の隼の力もその身で体験して頂きましょう。」

 

「そう言えば、アタシにはなんか二つ名ってないの?」

 

「中須賀、アンタは……ネットで『中須賀エミ』で検索したら、『リトルアーミー』ですって。」

 

「どういう事?」

 

 

 

どういう事だろうねぇ?私にも分からないな。

まぁ、其れは兎も角として、大洗の四強を敢えて相手に回したって言うのは何か意味があるんだよね梓ちゃん?……一体どんな意図でこのチームを指定したのか、其れは試合で教えて貰う事にするよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梓

 

 

夏休みも残り数日となり、二学期になれば私に隊長職を引き継いで西住隊長は引退しちゃう……でも、その引き継ぎの前の夏休み最後の部活の日こそが、私と西住隊長の勝負の日だ。

隊長は私がお願いした通り、ライガー、オオワシ、タイゴンとチームを組んでくれた――それに対する私のチームは、私率いるウサギの他に、歴女先輩のカバとⅣ号F2が二輌の編成。

火力では圧倒的に劣るけど、機動力と隠密能力では私達の方が上って言う編成だね。

 

 

 

「中々に良い編成だね?……私のチームを指定して来たのは、四強を相手にするだけじゃなくて敢えて指定する事で自チームを決める際に、私達に対して、有利な戦力を選べるようにした訳か。

 確かに私のチームは火力は高いけど機動力に関してはパンターとチャーフィーは兎も角ティーガーⅠとティーガーⅡは機動力に関しては死んでるとしか言えないからね……ティーガーⅡはギリギリの魔改造を施してるけど、それでも機動力はパンターには遠く及ばないから。」

 

「勝負は試合が始まる前から始まってる、ですよ。」

 

「あはは、此れは一本取られたなぁ。」

 

 

 

此れも、隊長から教わった事ですけどね♪

取り敢えず、西住隊長の機動力はある程度削る事が出来たし、試合場所も学園の演習場だから市街地戦みたいなトンデモ戦術は其れ程使えない筈だから大分戦闘力は削れたと思うけど、其れでも油断は禁物だよね。

西住隊長は市街地戦が最も得意としておきながら、苦手はフィールドは一つもない……西住流に、我流で鍛え上げた裏技と搦め手を混ぜ合わせた戦術があるからこその強み。――最近は大洗のスポンサーである島田流の家元から、島田流も教わってるみたいだから正に隙なしになってるし。

でも、だからこそ私はこの人に、西住隊長に勝ちたい。

自惚れる訳じゃないけど、同世代の中でも私は可成り強い方だと思ってるし、戦車道関連の雑誌とかでも割と高い評価は貰ってる……だけど其れ等の多くは『西住みほの一番弟子』としての評価であって、『澤梓』への評価は少ない――西住隊長には憧れてるし、隊長の一番弟子である事は私の誇りだけど、何時までも『西住みほの一番弟子』って評価じゃダメだと思う。

『師の影を踏まず』って言葉があるけど、弟子が師を超える事が出来なかったら、代を重ねるごとにドンドン師の教えは劣化してっちゃうから、弟子が師に出来る最高の恩返しって、師を超える事だと思うから。

だから隊長――

 

「勝たせて貰います、西住隊長!!」

 

 

――轟!!

 

『さぁ、見るが良い。我がぁ力!』

 

 

 

「そう来なくっちゃ梓ちゃん!」

 

――轟!!

 

『兄様に負けていられない……!』

 

 

 

私も西住隊長も軍神招来!!

西住隊長の本日の英霊は、あの織田信長の妹であり、信長が『男であればさぞ良い武将になったであろう』と評した『お市』――『戦国三大美女』の一人であり、『戦国一の美女』と言われた人を宿すとは流石ですね。

 

 

 

「そう言う梓ちゃんは、伝説の『若本ルガール』だね?歴代ルガールの中でも(色んな意味で)最強にして最恐と名高いのを宿すとは……」

 

「強いのは良いんですけど、どうして私は毎度毎度歴史上や神話・伝説上の英霊じゃなくて、二次元のキャラが宿っちゃうんでしょうか?」

 

「其れは、私に聞かれてもなぁ……取り敢えず、ジェノサイドカッターだけはやめてね?アレはマジで皆のトラウマ技だから……ぶっちゃけ超必喰らうよりも怖いから。」

 

「すみません西住隊長、やろうと思っても出来ません。」

 

軍神招来で私が宿しちゃうモノは謎のままだけど、強いのを宿したって言うのなら其れは其れで良いし、ラスボスを宿したってのは頼もしい事この上ないから、其れに相応しくガンガン行くだけ!!

私の全てを西住隊長にぶつけるんだ!

 

 

 

「其れでは此れより、西住みほチーム対澤梓チームの試合を始める!お互いに、礼!!」

 

「「宜しくお願いします!!」」

 

 

試合前の挨拶と握手を済ませて、いざ試合開始!!

隊長職を引き継ぐ前に今の私を見てください西住隊長……そして、貴女を超える事で貴女への卒業のプレゼントとさせて頂きます!!

 

 

 

「梓、若本ルガール宿してるけど、負けそうになったからって自爆しないでよ?」

 

「あゆ、流石に其れは無い。」

 

そもそも、戦車道で自爆で道連れって如何やれって言うのよ……フラッグ戦ならフラッグ車を道連れにしての引き分けはアリかも知れないけど、今回は殲滅戦だから隊長車を道連れにしても意味ないからね。

さて、始めようか?戦車道史上最高の師弟喧嘩ってやつを!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

おうとも、やらいでか!!師弟喧嘩上等!!熊本女は気が強いけんね!!喧嘩やったら幾らでも買ってやるったい!!

 

 

 

「みほ、貴女イキナリ何言ってるの?其れと熊本弁出てるわよ?」

 

「え?え~と、何となくだけど梓ちゃんに師弟喧嘩を申し込まれたような気がして、其れは受けなきゃいけないだろうと思ったら、ついつい普段は抑えてる熊本弁が出ちゃって驚きビックリこの上ないよ。」

 

或は、其れだけ梓ちゃんの闘気が凄くて私を反応させたのか……だとしたら大したモノだとしか言いようがないかな?――互いに試合開始位置にあって私に己の闘気を感じさせた戦車乗りはそうそう居なかったからね。

此れは、間違いなく梓ちゃんは私に近付きつつある……それどころか超えつつあるのかも知れないよ。――私を超えると言うのなら、其れは其れで悪い事じゃない。

だって其れは、今度は私に新たな目標を持たせてくれる事になる訳だからね。

 

さて、先ずは視界が開けた平原だけど、辺りに戦車の気配はない……まぁ、これだけ視界の利く平原で戦車の気配がしたら速攻で戦車戦スタンバイなんだけどさ。

流石に真正面から攻めては来ないか……となると、この先ある小規模な林から仕掛けて来る可能性は大きいかな?あそこを通る時には要注意――

 

 

――ドガァァァァァァン!!

 

――キュポン!!

 

 

『西住みほチーム、チャーフィー行動不能!!』

 

 

と思ってたら、小梅さんが撃破された!?

そんな、周囲に戦車の気配は感じなかったのに一体何処から……学園の演習場の地形とマップを思い出せ――そうすれば何処から撃って来たのか分かる筈。

チャーフィーは側面を抜かれて撃破されたから林から撃って来た訳じゃない……此の場所で私に気付かれずに側面を狙える場所は、約1000m離れた高台だね。

確かにパンターの主砲なら、1000m離れた場所から徹甲榴弾で111mmの装甲を抜く事が出来るけど、其れはあくまでも砲撃士の針の穴を抜く程の超正確な砲撃があればの話であって、並の砲撃士じゃ到底出来る事なじゃない――って、そう言えば梓ちゃんのパンターの砲撃士のあゆみちゃんは華さんから砲撃のイロハを叩き込まれてたんだっけか……なら、この距離でチャーフィーを撃破するのも朝飯前って事だね。

 

「ククク……ハハハハハ……ハ~ッハッハッハッハ!!!

 まさか、私が先手を取られるとは思ってなかったよ!……でも、だからこそ最高だよ!私を相手に先手を取ったのは、去年の愛里寿ちゃん以来じゃないかな?……つまり、今の梓ちゃんは最低でも去年の愛里寿ちゃんと同レベルって事だよね?」

 

「まぁ、単純に考えるとそうなるでしょうね。」

 

「去年の大学選抜の隊長と同レベルって、中々にトンデモないんじゃないのアンタの一番弟子って?トンデモないって言うか、若しかしたらヤバい?」

 

「そうだね、ヤバいかもしれないよ。」

 

だけど、戦車道の相手って言うのはヤバいほどドキドキとワクワクが増してくるものだから、梓ちゃんが『ヤバい相手』だって言うのなら、寧ろウェルカムなんだよね……相手が強ければ強いほど燃えるのが真の戦車乗りだって私は思ってるからね。

でも、やられっぱなしって言うのは好きじゃないから、やられた分はやり返さないとね……そう、倍返しで!!寧ろ十倍返しで!!

 

 

 

「十倍返しって、半沢直樹かっての。」

 

「二十倍の方がよかった?」

 

「いや、界王拳じゃないんだから……」

 

 

 

二十倍界王拳はマジで限界突破って感じがして好きだけどね。

それと、超サイヤ人は沢山いるけど、界王拳は悟空だけが使えるから特別な感じがするし、独特の赤いオーラも特別って感じがするし、超サイヤ人と界王拳の重ね掛けは主人公だからこそ許された禁断の強化だと思うしね。

まぁ、其れは其れとして、如何やら梓ちゃんは私の予想以上の成長をしてるみたいだね?――そうじゃなかったら、中戦車で完全なアウトレイジからの攻撃なんて事は思いつかないだろうと思うから。

実際に私も、このアウトレイジからの攻撃は、完全に選択肢から排除してたからね……その隙を突く見事な攻撃だったよ。

 

だけど、私だって簡単に負けてあげる心算はない――寧ろ今の一撃が私の闘気に火を点けたからね……エリカさん、リミッター解除!!

 

 

 

「その言葉を……マッテイタワヨミホォォォォォォォォ!!……キシャァァァァアァァァァァァァァァァ!!!」

 

「暴走したか……今更だけど、此れ大丈夫なのみほ?」

 

「大丈夫だよエミちゃん。」

 

「口から煙出てるんだけど……」

 

「あぁ、其れは……只のメルトダウンだから大丈夫だよ♪」

 

「いや、其れ全然大丈夫じゃないから!炉心溶融とか大問題だからね!?」

 

 

 

あはは、メルトダウンは流石に冗談だけど、暴走状態のエリカさんは闘気が飽和状態になって、飽和状態になった闘気が口から煙になって溢れ出てって言うのは嘘じゃないよ。

逆に言うなら暴走エリカさんは、私以上の闘気全開状態だから、味方なら頼もしい事この上ない――でも、エリカさんを暴走させると言う選択をさせるに至った梓ちゃんも敵としては可成りのレベルであると言わざるを得ないね。

 

予想外に起こった延長戦だけど、此れは思った以上に楽しめそうだね……引退を目前にしての試合でのっけからのこの刺激――ふふ、楽しませて貰うよ梓ちゃん。貴女の戦車道をね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 



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Panzer Final『私達の戦車道は終わらない!です!』

私達の戦車道は終わらないよByみほ       戦車道に、終わりはないからねByエリカ


Side:みほ

 

 

まさか、行き成りの超遠距離砲撃で小梅さんを失うとは思わなかったけど、逆に言うなら梓ちゃんは私の予想を超える事をして来てくれたって事……だからこそ、エリカさんのリミッターを解除した訳だし。

リミッターが解除されて理性を失って、闘争本能が剥き出しになったエリカさんはきっとお姉ちゃんでも勝てない……大学選抜戦の時も、暴走エリカさんの事は持て余してしてたみたいだしね。

その暴走エリカさんを相手に如何出るか、見させてもらうよ梓ちゃん。

 

 

 

「く……まさか何も出来ずに撃破されるだなんて……すみません、みほさん。」

 

「ううん、気にしないで小梅さん……戦車道の試合は、次の一手が予測できない事もあるからこんな事もあるって――それに小梅さんがやられてしまったのは、隊長の私に責任があると思うから。」

 

と言うか、私の責任だよ。

私は無意識の内に、梓ちゃんの事を私より下に見て、あの超遠距離砲撃は無いだろうって選択肢から除外してたからね……マッタク、無意識とは言えども、相手を侮るとは戦車乗りにあるまじき行為だったよ。

 

――だからもう、私は無意識の慢心もしない。梓ちゃんのおかげで、最後の驕りも消え去ったからね。

此処からは、梓ちゃんは私の弟子じゃなくて、愛里寿ちゃんクラスの強敵だと思って行かせてもらうよ……ふふ、まさか予想外の延長戦だったけど、此れは提案してくれた梓ちゃんに感謝かな?

若しかしたらこの延長戦は、大学選抜戦よりもワクワクする戦車道になるかもだよ。

 

 

 

「ワクワクは良いんだけど、如何するのよ、此の戦車道のケダモノは?」

 

「アガァ……グガァァァァ……ヴォォォォォォォォ……」

 

「あ~……エリカさん。」

 

「ギョ?」

 

「お腹一杯になるまで食べて来て良いよ♪」

 

「シャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

 

……行っちゃった。

自分で暴走させておいてなんだけど、暴走エリカさんに追いかけられる梓ちゃんチームの面々には同情せざるを得ないね……多分だけど、暴走エリカさんに追いかけられたら怖い事この上ないだろうからね。

って言うか、多分私だって逃げだすと思うから。……追いかけられたその時は、取り敢えず全力で逃げてとしか言いようがないねアレは♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer Final

『私達の戦車道は終わらない!です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

超長距離砲撃で早々に小梅を失ったみほチームだが、やられてばかりではない。

小梅が撃破されるや否や、みほはエリカを暴走エリカに暗黒進化させ、そしてその闘争本能の赴くままに暴れさせ始めたのだ……何時もならば試合の中盤以降に切る切り札を序盤で切らせた梓も大したモノだが。

 

そんな暴走エリカは……

 

 

「グゥゥゥゥゥオォォォォォォォォォォォォォォォ……!!」

 

「いやー、来たー!!」

 

「ちょ、口から煙出てるんですけど!逸見先輩、私等の言ってる事聞こえてます!?」

 

「ガァァァァァァッァァァァァァァァァァァァ!!」

 

「ダメだ、絶対聞こえてねー!!」

 

 

絶賛梓チームのⅣ号F2二輌を追いかけていた。

Ⅳ号F2を担当しているのは一年生であり、梓からの指示で二輌で行動していたのだが、其処で運悪く暴走エリカにエンカウントしてしまった訳だが、此れはもう運が悪かったと言うレベルではないだろう。

一年生とは言え、此のⅣ号F2に乗ってるのは明光大付属中出身の生徒であり、みほのトンデモ戦車道に生で触れた世代なのだが、暴走エリカと戦えってのは可成り厳しいモノがあると言えよう。

暴走エリカは、まほですらヤバいと思うレベルの相手である上に、そもそもティーガーⅡとⅣ号F2ではスペックの差が大きく、Ⅳ号F2は近距離から側面を抜かなければティーガーⅡを撃破出来ないのに対して、ティーガーⅡはⅣ号F2の何処を攻撃しても撃破出来るのだから。

加えて、エリカと彼女達の間には戦車乗りとしての実力に大きな差があるのも否めない――一年生達も充分に強いのだが、エリカには黒森峰で培ったエリートの実力と、大洗で培った雑草の逞しさが見事に融合しており、マジで激強戦車乗りなのだ。

そして今は暴走状態となり、其の力が完全開放されている……暴走して理性が飛んでるなら逆に倒しやすくなるんじゃないかと思うところだが、逸見エリカと言う少女に秘められた凶暴性は飢えた獣の其れであり、その凶暴性が完全開放された暴走状態と言うのは逆に『狩る者』として滅茶苦茶強くなってる訳である――まぁ、そうじゃなかったらみほもエリカを暴走させたりしないだろう。

 

 

「ガウ……ウゴバァァァァァァァァァ!!!」

 

「あいあいあいあいーーー!!」

 

「目標を、狙い撃つ!!」

 

 

――ドガン!

 

――バガン!!

 

 

――キュポン!!×2

 

 

 

『梓チーム、Ⅳ号F2二輌、行動不能!!』

 

 

 

その暴走エリカの速攻により、二輌のⅣ号F2を撃破して小梅が撃破された借りを返す……一輌の損失に対して、二輌の損失を与えたのだからキッチリ倍返しだ。――其れは其れとして、桂利奈とリインはどうしてこの暴走エリカの言ってる事が理解出来るのか謎だが。

 

 

「桂利奈とリイン先輩は~、如何して暴走したエリカ先輩の言ってる事が分かるの~~?」

 

「な、なんとなく!!」

 

「考えるんじゃない、感じるんだ。」

 

 

理解してんじゃなくて、感覚で暴走エリカの言わんとしてる事を感じ取っていたみたいだ……其れは其れである意味スゲェな。

取り敢えず此れで数の上ではみほチームの方が有利になったと言えるだろう。殲滅戦では、残存車輌の多い方が有利になるのだから。

 

 

「ウガ?……ガァァァァァァァァ!!」

 

 

更なる獲物を探していたエリカは、何と今度は梓を発見した。

チームの隊長である梓を撃破すれば、其れはもう勝ったも当然と言えるだろう――歴女のⅢ突も強力ではあるが、隊長が居なくなってしまったら脅威ではないのだから。

 

 

「矢張り見つけてくれましたね逸見先輩……西住隊長が逸見先輩を暴走させ、暴走した逸見先輩がⅣ号F2を撃破する所までは予想してました。」

 

 

だが、襲われた梓の方は至って冷静であり、寧ろ口元に笑みを浮かべていた。

 

 

――グン!!

 

 

「ギョワ!?」

 

 

そして、梓に向かって突撃していたエリカのティーガーⅡは、突如として地面が陥没して其処に嵌って身動きが取れなくなってしまった――しかし、何故イキナリ地面が陥没したのか?

 

 

「トラップ発動、『落とし穴』!

 戦車一台を丸々落とす落とし穴を掘るのは骨が折れますけど、動きを制限する程度の落とし穴なら、パンターの主砲数発と、スコップを使えば掘る事は難しくない……掘った穴にはブルーシートを掛けて、上から土と枯草を乗せてやればカムフラージュも完璧ですから。」

 

 

其れは梓が仕掛けたトラップだった。

そう、エリカは梓を見つけたのではなく、梓の方からエリカに見つかりに来たのだ、このトラップに確実に嵌める為に。

 

 

「暴走していない逸見先輩だったら此れ位のトラップは見抜けたでしょうけれど、暴走して理性を失った状態では見抜く事は出来ませんでしたか――逸見先輩を暴走させる事が出来て良かったです。」

 

 

落とし穴に嵌って動けなくなったティーガーⅡに、パンターの主砲が炸裂し、小梅に続いてエリカも撃破!!――嘗て黒森峰で遊撃部隊の三強だったエリカと小梅を撃破するとは、梓は大学選抜戦を経てトンデモないバケモノに覚醒しかけているのかも知れない。

 

 

「く……私がやられるとはね――やるじゃないのよ澤。」

 

「何時までも西住隊長の弟子ではいられないので。」

 

「そうよね……何時までも弟子ではいられないわよね。

 師を越えるのは弟子にとっての最高の恩返しあり、弟子が師を越えるのは師にとっての最高の喜びでもあるって言うからね――最高の恩返しと最高の喜びをみほにくれてやりなさい。」

 

「言われずともその心算です。」

 

 

撃破された事で暴走状態が解除されたエリカは、梓に檄を飛ばし、梓も其れに答えてサムズアップする。――その堂々たる姿は、みほが去った後の大洗を引き継ぐに相応しいモノだった。

そして――

 

 

「暴走エリカさんを撃破するとは……流石だね梓ちゃん?此れは愛里寿ちゃん以上かもだよ。」

 

「其れはとても高評価ですけど、暴走逸見先輩は激強キャラですが無敵キャラではないので撃破する事は出来ますよ……でも、攻略法は秘密です。」

 

「え~?教えてくれないの?」

 

「暴走逸見先輩は……気合いで何とか……」

 

「まさかの攻略匙投げ。」

 

 

みほチームと梓チームは、演習場を飛び出して、大洗の学園艦の市街地で対峙していた……どうしてそうなったと言いたい所だが、みほと梓の戦いは演習場の中で収まるものではなかったのだろう。

或は市街地戦を行って何ぼって事なのかもしれないが、こうなった以上学園艦の市街地は壊滅待ったなしだろう……隻腕の軍神と、軍神を継ぐ者によるガチバトルで市街地が無事とか有り得ないからな。

一応住民には、両チーム市街地に向かった瞬間に避難警報が発令され、安全な場所まで避難しているのだが……避難先でみほと梓の戦いを観戦し始めたのは流石と言えるだろう。

 

 

「行きますよ西住隊長!」

 

「本気で来て梓ちゃん!」

 

 

そして其処からは『戦車戦って何だっけ?』と言わざるを得ないバトルが勃発!!

信号機が、歩道橋が砲撃で落とされるのは当たり前で、砲撃で店舗が瓦解するのはお約束!そして、砲撃で吹っ飛んだパン屋のパンをみほも梓もキャッチして食べたのもお約束であり、キャッチしたパンがコロッケ、焼きそば、ソーセージの『総菜パンの三種の神器』を全て搭載した究極の総菜パンである『ガルパン』だったのもお約束と言えよう。

 

 

「やるね梓ちゃん……まさか、大学選抜戦以上に楽しめるとは思ってなかったよ!」

 

「そう言って貰えるなら有難いです……西住隊長を越える事こそが、将来の夢すらなかった私に初めて心からやりたい物を授けてくれた西住隊長への恩返しですので。」

 恩返しですので。」

 

「ふふ、言うね?」

 

 

学園艦での市街地戦は苛烈を極め、歴女のⅢ突がエミのティーガーⅠを戦車プレスで撃破したかと思えば、みほのパンターが無防備になったⅢ突を撃破し、遂に残るはみほと梓のパンターのみ……現隊長と次期隊長の一騎打ちになった訳だ。

 

 

「「…………」」

 

 

師として、弟子として互いに手の内は知り尽くしている……否、梓の戦車道の基礎を作ったのがみほである事を考えれば、みほの方が梓の手の内をより知っていると言う事になるだろう。

だが、そんな事はもう関係ないとばかりに青のパンターと白のパンターはエンジンを唸らせ、互いに相手を倒さんと履帯を回し、砲塔を回し、砲弾を吐き出す。

互いに直接戦車を狙う事もあれば、落下物や既に落下した瓦礫をも使って決定打を与えようとする……その戦いは、大凡校内での部内試合のレベルではなく、宛ら全国大会レベルの真剣勝負だ。

 

 

「麻子さん!」

 

「おうよ。」

 

 

「クロエ!!」

 

「任されたヨ!」

 

 

此処でみほも梓も勝負を仕掛け、互いに相手に向かって突進し、そして衝突する直前で急旋回の戦車ドリフト!!

ドリフトのタイミングは略同じ……履帯は切れ、転輪は外れ、同時に砲塔が回転して互いに相手から狙いを外さない――そして……

 

 

「華さん!」

 

「あゆ!!」

 

 

「「撃て!!」」

 

 

おそらく最後になるであろう攻撃が炸裂!

タイミングはみほの方が僅かに早かったが……

 

 

――ズガァァァァァァァァァァァン!!

 

――キュポン!!

 

 

『みほチーム、パンター行動不能!梓チームの、勝利です!!』

 

 

最後の最後で撃ち勝ったのは梓の方だった。

戦車ドリフトで出来た地面の跡を見ると、みほのパンターよりも僅かに梓のパンターの方が大きく動いていた……この僅かな差により、梓の方が少しだけ弱点をより正確に抜く事が出来たと言う訳だ。

 

 

「お見事……!

 略同じタイミングだと思ったけど、梓ちゃんの方が少しだけ、本当に少しだけ遅くドリフトに入っていたんだね――そして、同時にドリフト中も速度を落とさなかった結果私よりも大きく動く事が出来た訳か。

 うん、完敗だよ。私を越えたね、梓ちゃん。」

 

「西住隊長……師匠越え、果たさせて頂きました!」

 

「うん、それで良いよ。――でも、今度は私がチャレンジャーとして挑ませてもらうから、その時は私が勝つよ?」

 

「望む所です!」

 

 

試合が終わり、みほと梓はガッチリと握手をして、何れ再戦する事を約束……と同時に、梓チームの面々が集まって梓を胴上げし、みほチームの面々も集まってみほの最後の大勝負を労っていた。

こうして、みほの高校生活における戦車道の延長戦は、みほにも、そして梓にとっても忘れられないモノとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

梓ちゃんが私を越えた延長戦の後は、本当にあっと言う間に時が過ぎて行った。

梓ちゃんに隊長職を引き継いで引退した後は、スカウトが来てる大学から何処を選ぶかを決め、卒業旅行で沖縄に行って、文化祭と体育祭を楽しんだ後は、クリスマスとお正月を皆と過ごしてあっと言う間に三学期になって、無限軌道杯では梓ちゃん率いる新生大洗が、決勝戦でツェスカちゃん率いる新生黒森峰と激闘を演じた末に優勝を果たした。

私を越えて己の蓋を完全に開けた梓ちゃんの戦車道のスケールは私以上で、今回の無限軌道杯での活躍で、彼女を『軍神を継ぐ者』や『西住みほの一番弟子』と呼ぶ者は居なくなるだろうね。

 

そして無限軌道杯が終わればあっと言う間に卒業式……まさか卒業式でエリカさんがガン泣きするとは思わなかったよ。

卒業式が終わった後は学園艦を降りる為の準備をして、大学に通う為に借りたアパートにお引越し――私とエリカさんと小梅さんとエミちゃん、そして優花里さんは、エリカさんのお姉さんのカンナさんが隊長を務める大学に進む事になった。……優花里さんには其処からはスカウトが来てなかったから死ぬ気で受験勉強したみたいだけど。

華さんはナオミさんと同じ大学に行くって事だったけど、何処の大学に行くのかは教えてくれなかった……ナオミさんと同じだとサンダース大だと思うけどね。

麻子さんは愛里寿ちゃんに誘われて、『西住さんと同レベルの天才がドレだけ私を使えるのか興味がある』と言って愛里寿ちゃんの居る大学に進学して、沙織さんは『麻子は私が面倒見てあげないとダメだから!』って、同じ大学に進学したみたい。

 

で、遂に今日は入学の日なんだけど……

 

 

 

「よう、待ってたぜみほ!」

 

「少しばかり遅いですわよみほさん?」

 

「でも、待ってた甲斐はあったわ。」

 

「ふふ、大学でも宜しくお願いしますねみほさん。」

 

 

 

校門の前には青子さん、つぼみさん、ナオミさんと華さんの姿が!!

皆も此の大学だったんだ!特にナオミさんはサンダース大に進むと思ってたから予想外だったよ!!

 

 

 

「貴女が此処を選んだ後だったんでしょうけど、私達にも此処からスカウトが来たのよ……『西住みほがウチに来る』って言う情報を持ってね。」

 

「高校ではバラバラになっちまったが、大学ではまたこのメンバーで大暴れするのも悪くねぇだろ?」

 

「私達のチームで、大学戦車道に大旋風をぶちかましてやりますのよ!!」

 

「つぼみさん、高校三年間ですっかりそれが地になっちゃったみたいだね……でも、このメンバーで大学戦車道で大暴れって言うのも悪くない、寧ろ最高だよ!!」

 

「私等も忘れんじゃないわよ?」

 

「大学戦車道に新たな旋風……ワクワクしますね!」

 

「良いじゃない……此れは、一年目から大学選抜狙ってみる?」

 

「其れもアリでありますね中須賀殿!」

 

 

 

ふふふ、其れも良いね?――何だったら、私は一年生であるにも関わらず大学選抜の隊長に任命されるのを目指してみようかな?大学選抜チームに選ばれるだけじゃなく、その隊長を務める方が、高校選抜との試合の時にインパクトが有るだろうし、高校選抜の隊長になるであろう梓ちゃんと同等の立場で戦えるからね。

ふふ、大学生活もとっても楽しめそうだよ。

 

 

 

「「「「「「「みほ!!」」」」」」」

 

「「みほさん!」」

 

「西住殿!!」

 

「うん、行こう!!」

 

未来に向かって……Panzer Vor!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 THE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~

 

原作:ガールズ&パンツァー

 

STAFF

 

 

 

企画・原案:吉良飛鳥

 

 

 

ストーリー構成:吉良飛鳥&kou

 

 

 

文章更生:kou

 

 

 

Specialthanks:読んでくださった読者の方々。

 

 

 

Thank you For Reading

 

 

 

Presented By 吉良飛鳥

 

 

 

 




後書き座談会



吉良「取り敢えずまぁ、終わったわな……プロローグ含め、全226話か――問答無用に過去最長だったわな。」

みほ「ホントですよね……まぁ、原作突入前で100話使っちゃったのが大きいと思いますけど。」

吉良「其れはマジ否定出来ねぇわ……ぶっちゃけ、中学時代があそこまで長くなるとは思ってなかったんだ俺だって。
   本当だったら50話前後で原作に入る心算だったのに、まさかまさかの100話だからな……まぁ、原作前は書いてて楽しかったけどね。」

みほ「ところで、如何して私は隻腕になっちゃったんでしょうか?」

吉良「原作のプラウダ戦での軍神立ちを見て、『みほが隻腕で無い方の腕の袖が風になびいてるのってカッコ良くね』て思ったからだな。
   今思うと可成りのトンデモ設定なんだけど、でもだからこそ俺なりのガルパンワールドが展開出来たんじゃないかって思ってるよ。」

みほ「そうだったんだ……それで、ガルパンは此れで終わりなのかな?」

吉良「連載開始当初は、梓ちゃんの物語も考えてたんだけど、隻腕の軍神で色々とやっちゃったから、ぶっちゃけこれ以上の戦車道を書く自信がないから、ひとまずは此れで終わりだね。
   新たなアイディアが浮かんだら書く事もあるかも知れないけどさ。」

みほ「そうなんだ……少し寂しいけど、其れじゃあ仕方ないね。
   それじゃあ最後に……最後まで読んでくださいました皆様、最後までお付き合い頂きありがとうございました!」

吉良「此処まで続けられたのも読者の皆様あってこそです!本当にありがとうございました!」




座談会終了


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