絶体絶命 (ぴのこ)
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プロローグ

ある無免許医師による手術がきっかけとなり
数奇な運命にもてあそばれる人物の人生を
変えようとする研究者達の物語。



ある嵐の夜、黒塗りのクラウンが

町はずれの古い木造平屋の前で止まった。

 

恰幅の良いスーツ姿の男がアタッシュケースを手に

平屋のドアを乱暴に開ける。

 

「これが約束の金だ。すぐにでも手術を願いたい。」

 

手術用マスクで顔を覆い、白衣をまとっている男は、

無言でアタッシュケースを受け取ると徐に開いて中身を確認した。

 

「いいだろう。すぐに手術開始だ。患者を診療台に運んでくれ」

 

BJこと間黒男(はざまくろお)は、男から約束の金を受け取ると手術室に向かった。

 

診療台に乗せられたのは、中川未来、中川コンツェルンの令嬢だ。

まだ18歳という若さで、交通事故に遭い内臓破裂、意識不明の重体の状態で

搬送されてきた。

 

すぐに内臓のほとんどを移植しなければ、命は助からない。

今現在あるのは、数時間前に亡くなった喰種(グール)の内臓のみだ。

 

当然、喰種の内臓を移植してまえば、未来は半グールとなってしまう。

しかもDNAの型は不一致であるため、一時的に命はとりとめても

数年以内に息絶えてしまう可能性は90%。

 

生き延びる条件は、生きた人間の内臓を移植すること。

一旦喰種の内臓を移植して、息を吹き返したとしても

数年以内に再手術を行わなければ、生命の保証はない。

 

その条件をのんだ上での手術決行。未来の父親である中川重蔵は

大金を渡し、BJに未来の手術を依頼した。

 

手術は成功。未来は意識を取り戻し、一見普通のヒトと

なんらかわりない人間として生まれ変わる。

 

しかしながら、移植されたのは喰種の内臓だ。

未来はグールとして生きることが不本意であり、

人間は決して食さないと、決意を固めるのであるが、

 

生きた人間の生の内臓を移植しなければ

いつかは息絶えてしまう危険性が極めて高い。

 

移植せずに延命するには、人間の内臓を食していかねばならないのであるが

それだけは絶対したくないと、かたくなに人間内臓の晩餐を拒む未来だった。

 

ピアニストとしてデビューしたばかりの未来は、演奏途中に発作を起こしてしまう。

発作を治めるために、生きた鶏をもってくるよう、マネージャーに命ずる。

人目につかない楽屋で生きた鶏をむさぼり食う未来だったが、

 

それをある人物が目撃してしまう。オーケストラのバイオリン奏者である

間酷仁(はざまこうじん)とその友人が、譜面を取りに楽屋に入ったときに

そのおぞましい様子を見てしまったのである。

 

しかしながら、酷仁とその友人は未来を気遣う。未来に近づき親切に言葉をかけるのであるが

未来は酷仁達の好意を素直に受け取ることができない。

 

なぜなら、意思に反して酷仁らを欲してしまいそうだったからだ。

それでも、彼らは怯むことなく未来に近づく。

 

その理由は、酷仁はBJの息子であり、

BJ亡きあと、未来への臓器移植をBJからゆだねられていた。

 

間酷仁はオーケストラに所属していたが

大学時代、医師免許を取得していたのだった。それはBJの意志を継ぐために。

 

手術そのものは、BJの特訓を受け技術力をつけていたが、

問題は『生きた人間の内臓』これをどうやって入手するかだ。

 

BJはすでに中川未来の父である中川重蔵氏から

大金を受け取っていた。その金が、酷仁の進学費用に

当てられた。酷仁は優秀な成績で、医学部入学を果たす。

 

中川から大金を受け取る条件として、未来を必ず延命させること。

そうでなければ、酷仁の内臓を提供すると誓約書に記されていた。

 

では、間酷仁の内臓を使う場合、誰が移植手術を行うのか?

 

その場合、長い間BJの助手をつとめていた間妃乃子(はざまぴのこ)が執刀医となる。

 

妃乃子はBJ没後、酷仁と共に医学部に進んだ。

酷仁はBJの養子となっていたが、後に妃乃子と所帯を持つことになる。

 

酷仁と妃乃子、2人の医学部の同期には金木研がいた。金木もまた酷仁と共に

オーケストラでバイオリンパートを担当していた。

間夫婦は、金木の協力を得、喰種の遺伝子解明と代用食物発明の研究に、日々勤しんでいた。

 

代用食物の研究が成功するのが先か、未来の命の灯が

消える日が近づくのが先か・・・

 

運命は3人にゆだねられていた。

 

 




大変人気のある東京喰種の二次創作に挑戦してしまいました・・・
駄作にて、喰種ファンの皆さん、ごめんなさい。

実際はBJ色の方が強くなるかもしれませんが、モチーフが喰種ということで
原作を喰種と設定させていただきました。

二次創作は初めてでして、続かないかも・・・( ;∀;)


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苦悩の医学生達

お越しいただきましてありがとうございます。
本日は、未来の術後の経緯にて。




※ランダム更新ですが進めてみたいと思います・・・


間黒男が中川未来の執刀にあたった術後

一旦は回復の兆しを見せた。

 

ところが、血をみると血圧が上昇し、目が血走り

呼吸が荒くなるという症状が現れた。

 

鎮静剤を打とうとしたとき、不覚にもBJは暴れる未来に噛まれてしまう。

その傷が原因となり、BJは破傷風にかかり危篤状態に陥る。

 

かすかな意識の中で、養子として迎えた酷仁が必死の看病を続ける。

 

「先生!おとうさん!しっかりしてください!あなたがいなければ

未来さんも助からないのです!」

 

「酷仁よ。おまえも知ってのとおり、数年以内に

未来を助けることができなければ、おまえの内臓を提供することに

なってしまう。しかしながら、その前に人間の生きた内臓を移植すれば

未来は助かる。

 

私はもう長くない。私の内臓を使いなさい。」

 

「お父さん!よしてください!お父さんは助かります!どうか気をしっかりもって・・・」

 

「酷仁よ。私はもともと命はなかったも同然であったが、本間医師によって

助けられたのだ。これまでの人生はおまけのようなものだ。だから、この内臓を

未来につかうことで、私も再度生きることができる。未来の中で生き続ける」

 

「てんてー!あたい、こんなに成長したんだよ!大学も受かったんだよ!

あたいを置いて逝ってしまうなんてゆるさないから!」

 

「姫乃子。よくがんばったな・・・勉強しはじめると高熱で倒れていたのに

金木君が提供してくれた血清のおかげで、おまえの症状は大分緩和されていった。

これからは、金木君や酷仁と力を合わせてがんばりなさい。」

 

「てんてーーー!!!!」

「お父さん!」

 

窓の木漏れ日が病室に降り注いぐ春の日、BJは静かに

息を引き取った。

 

中川未来の手術は直ちに開始された。執刀医は間酷仁。

助手には金木と姫乃子がついた。

 

8時間にも及ぶ手術が終わると、執刀医チームは

手術室から出るとすばやく着替え、食事へと向かった。

 

「疲れただろ。金木。助かったよ」

 

「酷仁君の方が疲れたでしょう。執刀医なんだから。

僕もあんな長いオペは初めてだったから、君の体力を心配していたよ」

 

「僕は、父の特訓のおかげで、長時間オペ自体はなんでもなかったけど

父の臓器を移植するという事実が、精神的にきつかったかな・・・」

 

「大丈夫よ!酷仁は優秀だから!君のおかげで、あたいも勉強

できるようになったんだから。」

 

「姫乃子さんも疲れたでしょう?ときどき倒れそうになっていたけど

踏ん張っていたよね?」

 

「姫乃子は、いつも無理するからなあ。『あたい大丈夫!』っていいながら

ぶっ倒れたこともあったしな」

 

「その話は言わないで!あたい自身も体が不完全だったんだから・・・

でも、今は大丈夫。金木君が開発してくれた新薬のおかげで

今はすっかり一般の人以上に丈夫になったんだから!」

 

「それはよかった!ぼくの研究が姫乃子さんに役だってくれてうれしいよ。

これでBJ先生にも恩返しができる。君たちには話していなかったかもしれないけど

先生は僕の奨学金を返還してくださったんだ。

 

その代わりにと、研究していた新薬を提供したんだよ。」

 

「僕たちは知っていたよ。な?姫乃子?」

 

「うん。むしろ、あたい達がお願いしたんだから!金木君は

研究熱心だし優秀だから、バックアップしてあげて!って」

 

「そうだったのか・・・ますますおしりを向けて寝ることができないな。

間家の方向に。それと、気になったことがあるんだけど」

 

「ん?なにか問題があったのかい?」

 

「酷仁君のオペ中に、BJ先生の臓器がおかしな反応を示していたんだよ。」

 

「「え???」」

 

「もしかしたら、BJ先生が大やけどを負ったときの手術中に

なにかあったのかもしれない。たしかBJ先生のオペを行ったのは

本間先生だったよね?」

 

「ああ、そうだよ。本間先生が養父を助けたんだ」

 

「・・・あくまで憶測に過ぎないが、もしかしたらBJ先生の

臓器は人工臓器かもしれない」

 

「え!!!まさか・・・どうみても人間の内臓だと疑わなかったが・・・」

 

「ぼくも最初はそう思ったんだが、サルかなにかの臓器を使って

人工臓器を作ったのではないかと思ったんだよ。ライトの光があたったときに

一部、黒っぽいオレンジ色に見えたのが、不可解だったんだ」

 

「臓器同士を繋ぐのが精一杯でそこまで気がまわらなかった・・・」

 

「当然だよ。酷仁君は、臓器設置に集中していたし、ほんの一瞬で

僕は反対側から見ていたから、君からは見えなかったと思う」

 

「あたいも気が付かなかった・・・でも、さすが金木君だね」

 

「もしかしたら、未来さんになにか異変が起きるかもしれない。

こまめに接触をとって、様子を聞く必要がある。もちろん

彼女が正直に答えてくれれば、対処も楽なんだが。」

 

「未来さんはかなり警戒しているからね。彼女のお父さんのことも

快く思っていないようだし・・・ピアニストの夢は叶ったけれど

グールとして生きることを強いられた事実を知ったあとは、かなり

荒れてたらしいよ。でも、金木の音楽家としての才能はすばらしいと

絶賛していたんだって」

 

「え?まさか・・酷仁君、それ誰からきいたの?」

 

「中川重蔵氏だよ。だから、これからもよろしくって」

 

「あのたぬき親父・・・適当なこと言ってんじゃないかな。

僕が未来さんに近づこうとしても、未来さんはいつもそっけないんだよ」

 

「はっはーーーん。未来ちゃん、金木君を意識してるんだよ!

だから、つんつん!なんだと思うよ。女の感だわのよ!」

 

「そ、そうかな・・・。とにかくめげないで、接触を試みてみるよ。

彼女のことも助けたいし、酷仁の内蔵提供、なんてことには

なってほしくないからね。」

 

「はっはっは!大丈夫だよ!そんなことになったら、姫乃子に

殺されちゃうからね!」

 

「殺したら意味ないじゃん!てか、なに言ってんの!わけわかんないぞ!

酷仁!!とにかく、あたいら優秀な医療チームの研究成果は、

インターナショナルメディカルジャーナルに載っちゃう程すごいんだから

不可能はない!金木君がいる限り、我々は不滅ですっ」

 

「ははは。自信がついたよ。未来さんにはぜひ定期検診を

受けてもらうように、また、細かい症状なんかも報告してもらえるよう

努力する。」

 

「2人が付き合えばいちばん話しはやいんだけどねっ」

 

「姫乃子さんやめてくれよ。そんな邪な考えで近づいたら、未来さんますます

不信感募らせちゃうじゃないか。」

 

「へ?邪なの?未来さんの事、好きじゃないの?金木君?」

 

「なっ・・・・・」

 

「はい、決まり。自分の顔を鏡でみてごらん!おさるの

おしりみたいな色になってるよ!」

 

「姫乃子、そんなにからかうなって。とにかくこれから

僕たちにはいろいろやることがあるんだから」

 

「はいはい。いとしのダーリン。わかりました!」

 

術後の緊張を解きほぐすかのように、軽口まじりの談笑をしてから

3人は帰途についた。

 

 

 




中川未来は事故後、一旦喰種の臓器を移植された。
後にBJの臓器と交換されたように思われていたが、
脳に流れる血液には、喰種の血液成分が残っていたため
未来は完全な人間ではなかったのだ。

金木が未来に接触していくうちに、その謎が明かされていく。



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恋の予感

リハーサル室から澄んだピアノの音色が響く
金木はゆっくりとリハ室のドアを開ける


リハーサル室前で、美しいピアノの旋律が聞こえてきた。

金木は一瞬立ち止まり、その音色に聞き入る。

 

(なんだろう・・・この不思議な感覚は。

『ショパンの雨だれ』は聞き慣れていたはずだ。

どこか懐かしく切ない・・・奏者のすすり泣きが、心の叫びが

聞こえるようだ)

 

次第にその旋律に変化が起こってくることに気づく。

 

(アレンジだ・・・まるでジャズのような即興アレンジをしている・・・

クラッシックでは御法度であるオリジナルフレーズ投入・・・)

 

金木は思わず持っていたバイオリンを片手に

リハーサル室をゆっくり開ける。

 

水面に浮かぶ葉のように、金木は弦に弓を静かに重ね

こすり合わせる。

 

予想外の即興コラボに、ピアノ奏者は一瞬たじろぐが

音色の快感に惹かれ、そのまま演奏を続ける。

 

まるでずっと昔から知っていたような、そんな感覚が

金木を覆っていた。

 

やがて過去に愛した女性の面影を追っている自分に

気が付くのは時間の問題だった。

 

ピン・・・

 

演奏終了の合図を奏者達は無言で感じ取り、楽器から手を離す。

 

「金木さんね。素敵な旋律をありがとう。久々にすっきりしたわ」

 

「いえ・・・こちらこそ勝手なことをしてごめんなさい。未来さん。

あまりに素敵なアレンジだったので、思わず共演してみたくなりました」

 

「あなたもオリジナルを演奏なさるの?」

 

「え?・・・ああ・・・時折、自室では勝手にアレンジしたり

していますけど、マスターに叱られちゃうんで、極秘で演奏したり

しています。バレちゃったら『作曲班にまわれ!』って、

怒鳴られちゃいますからね・・・」

 

「ふっ、そうよね。ドラマ制作の作曲班に回されちゃうわよね。

でも、私はここがいいの。大きなホールでたくさんの人の鼓動を

その場で感じていたいから。臨場感あふれる緊張感がたまらないの」

 

「未来さんって、意外に情熱的なんですね」

 

「私が冷徹な女に見えて?」

 

「え?あ・・・冷徹・・・じゃないけど、クールかなって。」

 

「だいたい同じ意味じゃない?」

 

「ち、ちがいますよ!クールに、冷静に、淡々とされているっていうか

聡明な感じが伝わるんですよ」

 

「ものは言いようね。あなたこそ思ったより情緒的で

わたくしの心を揺さぶってくださったわ」

 

「そ、そうですか・・・それはよかった」

 

未来が微笑んだ時、一瞬心臓が止まりそうになり、鼓動が高鳴っていくのを押さえられず、動揺する金木だった。

 

「金木さん、これからもよかったらコラボってくださらない?」

 

予想外の未来の提案に、金木は躊躇するも喜んで即提案を受け入れた。

 

「僕でよければいつでも!」

 

「これが私の連絡先。家には地下に練習室があるから、いつでも

いらして。防音壁で覆われているから、どんな音を出しても大丈夫。

イラついたら、大声だしたって、平気なのよ!」

 

「未来さんも大声だすことがあるんですか?」

 

「あら?私がそんな暗い女に見えるのかしら?」

 

「いやいや、上品な方だから、大声とか出さないと思いまして・・・」

 

「出すわよ!大声どころか、壁に向かって罵詈雑言浴びせることもあるんだから」

 

「想像つかないなー」

 

「じゃ、今度お見せするわ!」

 

「ははは!楽しみにしていますよ。あ、これが僕の連絡先です。

未来さんも気が向いたらいつでも呼んでください。速攻演奏の

お供を致します」

 

「嬉しい!楽しみができたわ!いっしょに憂さ晴らししましょう!」

 

2人の絆ができあがった気がした。語らずとも分かり合える

音の共演。未来の奏でる不思議な旋律は、金木の感性を揺さぶり

ある人との思い出を思い起こさせるのであった。

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

研究室からの帰り道、酷仁と姫乃子は土手をとぼとぼ歩いていた。

 

「ねえ酷仁。未来ちゃんの移植だけどさ。最初の移植って

喰種だったんでしょ?どんな喰種だったか知ってる?」

 

「ああ、たしか同じ年ぐらいの女性だったな・・・」

 

「あたい、ちらっときいちゃったんだけど、芳村って人みたいなんだよ」

 

「え?・・・芳村って・・・・もしかして・・・」

 

「酷仁も知ってるよね?金木君の元カノ」

 

「うん・・・」

 

「金木君は自らの改造というより、その彼女のために新薬を開発していたんだよ」

 

「結局、願い叶わず、彼女はこの世からいなくなって

しまった・・・それから、金木は数週間一睡もせず、研究に没頭していたらしい」

 

「悲しすぎるよね・・・愛する人を失うって」

 

「どれ程のものか、計り知れないよ・・・」

 

「酷仁、ちゅーして」

 

「え゛???今?ここで?」

 

「そう、今すぐ」

 

目をつぶり唇を突き出す妃乃子

 

「人に見られたら恥ずかしいじゃないか・・・」

 

「ふーふだからいいのっ」

 

ぶらさがるように、妃乃子は酷仁の首に手をまわした。

 

「ぜったい離れないから。ずっと酷仁の傍にいる。

死ぬまで生きるから!!」

 

背伸びしたまま、ぎゅっと酷仁を抱きしめる妃乃子

 

「なに言ってんだよ・・・おまえは・・・

死ぬまで生きるのあたりまえだろ」

 

照れ隠しにそんなことをつぶやきながら

酷仁も妃乃子をなにがなんでも守り抜こうと思っていた。

 

 




無意識のうちに未来に惹かれていく金木
その理由が明らかになる日はそう遠くなかった


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小康状態

金木と未来の距離が近づく


酷仁と金木は現在大学サークルのオーケストラに所属しているが

この楽団はクオリティが高く、団員の何人かはヨーロッパのオケから

お呼びがかり移籍する者も少なくない。

 

彼らはセミプロというよりは、ほぼプロの実力を持つ。

中川未来は既にプロのピアニストとして活動していたが

姉妹大学出身であることから、酷仁と金木が所属する大学主催の演奏会で

セッションをすることが度々あった。

 

また、ゲスト奏者として招かれることもあり

未来と酷仁そして金木は何度か壇上で顔を合わせていた。

 

はじめは妃乃子もサークルへの入団を希望したが

肺活量が少なかったことから、楽器演奏をすると酸欠で倒れてしまったため

ミキシングなどの裏方を手伝っていた。

 

妃乃子は人には聞こえない音、つまりイルカ並の周波数を

キャッチできる特殊な能力があったため

ミキシング技術も一流で

この楽団では欠かせない人員の一人となっていた。

 

脂汗を流しながらミキシング操作に没頭する妃乃子の姿に

酷仁は心惹かれていった。

 

BJも生前は彼らのコンサートによく足を運んでいた。

そこでBJは酷仁の妃乃子への熱い思いに気が付き、2人の仲を取り持った。

 

妃乃子は以前、自称BJの妻と宣言していたように

BJを心から慕っていたが、酷仁と医学部の研究室でも

共にに実験を繰り返すうちに、次第に酷仁に惹かれるようになっていった。

 

その頃金木には、大切な想い人がいた。

芳村愛支(エト)、喰種として苦悩しながら生きる

悲劇の主だった。

 

金木はどうにかして、愛支を救いたかった。

同大学の文学部国文科に所属し、いくつかの随筆がコンクールで入選する程

文才に優れ、鋭い感性の持ち主である愛支を、普通の人間同様に

生きられるよう、日々研究を重ねていた。

 

ー喰種として苦悩せずに生きる方法ー

 

金木が考案した代替え食糧の研究、

喰種の生物学的遺伝子操作を行う新薬の開発等

それらの研究は米国医学誌に載る程のものであったが

実際の喰種での臨床結果が出せなかったため

ノーベル医学賞を受賞するまでには至らなかった。

 

数々の研究成果を愛支の肉体で試みるが

あと一歩というところで、愛支は喰種を追跡していた

捜査官に一撃をくらい、命を落としてしまう。

 

愛支の脳死判定が行われたその時に、中川未来が事故で

搬送されてきた。一刻を争うその時、BJの元に

愛支と未来が送られてきたのであった。

 

 

------

中川未来は時間をもてあましていた。

練習などしなくても、目を閉じればすぐにメロディが頭に浮かび

荒れ狂う嵐のようなほとばしる情熱が、体中で煮えたぎる感触を

常日頃からどうコントロールしてよいか、考えあぐねていた。

 

そんなとき、想定外のセッションを体験し、

日々の沸々としたいらだちを一掃させてくれる存在をみつけたことに

大きな喜びを感じていた。

 

未来は携帯を手に取ると、アドレス帳を開き、画面をスライドさせた。

 

「金木さん?中川です。」

 

研究室にこもっていた金木は、あわててスマフォを手に取る

 

「あ、未来さんですね!金木です。早速のご連絡ありがとうございます!」

 

「もう、待ちきれなくて連絡しちゃいました。もしかして

お仕事中でした?」

 

「いや、仕事というか、自分の趣味のような研究ですから

お気になさらずに」

 

「あたくしね、新しいセッションを思いついたの。

私のピアノとあなたのバイオリン、そして、間奏では

フルートを入れてみたいの。如何かしら?」

 

「そういえば、未来さんってフルートも演奏なさるんですよね?

オーケストラとのセッションではピアノだけですが、

ソロコンサートのときは、フルートも演奏されると伺いました。

 

ぜひ聞いてみたい!」

 

「ふふっ、無料では披露しないのよ。あたくしのコンサートは

高いんだから。でも、あなたとのセッション料ですから、タダで

お聴かせするわ」

 

「そうですか!それはありがたい。では、ご都合の方は?」

 

「今からでも!」

 

「え?今から・・・・ですか?」

 

「あら、お忙しいかしら?」

 

「え、いや・・・無問題です!!!すぐに車とばして

伺います。確か、六区でしたよね?大きなお屋敷だから

すぐにわかりますね」

 

「もし、迷ったら連絡くださいな。あたくし、迎えにあがります」

 

「いやいや、未来さんにお迎えにきていただくなんて。

僕は大丈夫ですから!」

 

「それなら、お待ちしていますわ。ファンの方からいただいた

フィナンシェとお紅茶がありますから、ご用意してお待ちしていますね」

 

「はいっ!ありがとうございます!」

 

金木は、高まる胸の鼓動を懸命に沈めようとしながら、

赤いポルシェに大急ぎで乗り込み、未来の家へと向かった。

 

未来は、急に襲ってきた獣食らいへの衝動が治まり、

金木とのセッション予定で気持ちがそれたため、

抗うつ剤なしで、落ちつくことができた。

 

 




金木は、談笑した中で、未来に現れる症状を既に分析していた。
笑顔で話しているものの、時折のぞかせるチックが彼女の神経系統に
異常が現れているのが見て取れた。

一日も早く、彼女の苦悩を取り除くべく
金木は密かに研究を重ねていた。


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BJ秘話

BJにはかつて愛した女がいた


皓仁は久々の休日で、倉庫の整理をしていた。

妃乃子も台所や風呂場の掃除を終えてから、皓仁の手伝いに向かった。

 

「あれ?これお義父さんのだよね?」

 

「うん。間黒男の人生史だよ。うぷぷの話も書いてあるよ」

 

「?」

 

「ね、買い物いってご飯たべてから、ゆっくり読んだら?」

 

「え?」

 

「なかなか面白いことが書いてあるよー」

 

「おまえ、読んだの?」

 

「あったりまえだのくらっかーだわのよ!

間妃乃子は間黒男について、知らないことはない!」

 

「ずいぶんと深い愛情で支えてあげてたんだなぁ~」

 

「そーだよ。あんな仏頂面な男でも、艶っぽい話の

ひとつやふたつあるんだからね!」

 

「艶っぽい・・・なんだか今すぐ読みたくなってきたな」

 

「だから!ご飯たべてからね!」

 

「はい・・・・じゃ、トストコに買い出しに行って

それからタタロニアにでも行って、スパニッシュ料理にしますか?」

 

「わ~い。でも、皓仁、飲みたいでしょ?あたい運転するよ?」

 

「え?いいよ・・・途中で失神でもされたら困るからね」

 

「もう、大丈夫だったら!金木名助手のおかげで、あたいは

一般人以上に丈夫になったんだから!」

 

「いいよ。僕の大事な奥さんに、緊張を強いるようなことは

できないからね。家にもどってから、ゆっくり飲むよ。

ワイン片手にBJ史をゆっくり堪能しようじゃないか」

 

「じゃ、トストコで、おつまみも買おうね。

あたいは、冷凍フルーツいっぱい買うんだ。

ゼリー作ってあげるね」

 

「はいはい。楽しみにしてるよ。じゃ、行こうか」

 

皓仁と妃乃子は郊外にある外国資本のマーケットに向かった。

 

「ねえ、皓仁、この冷凍食料とかさ、たくさん買って

金木君に持っていこうよ?」

 

「あ、そうだな・・・研究に役立ちそうだ」

 

「いつ研究室いくの?」

 

「連休が終わったら行く予定だよ」

 

「じゃ、そんときまで冷凍倉庫に入れとくね」

 

「そうしてくれ」

 

「冷凍ブルーベリーはあたいたちのね。これで

ブルーベリーパイつくるんだ」

 

「お、いいね~。ワインと合いそうだ」

 

「いっぱいつくって、金木んにも渡そうぞ」

 

「かねきん!いいね。それ。あ、そういえば、金木ん、

未来さんと仲良くしてるらしいよ」

 

「え?そうなの?」

 

「うん。連絡取り合ってるみたい。なんでもセッションがどーとか・・・」

 

「へぇ~。あの気むずかしい未来ちゃんが心開いてんだ?」

 

「そうらしいよ。だから、妃乃子のパイも喜んでくれると思う」

 

「そっか!がんばって作るよ!」

 

2人は和気藹々と買い物をし、トストコを後にした。

タタロニアで軽く食事を済ませ、自宅に戻った。

 

「ふぁ~。いっぱい買っちゃった。年会費払ってるから

元とらなくちゃって、カゴに入れたけど、買いすぎかもぉ~」

 

「まあ、研究用冷凍庫と家庭用冷凍庫の二つに十分入りきるし

問題ないよ」

 

「じゃ、皓仁、詰め込みお願いしていい?あたいは

ワインとおつまみの用意してるから」

 

「いいよ。こっちは任せて」

 

「じゃ、できたら呼ぶね」

 

皓仁は金木に渡す食料と自分の分を分け、研究用の

冷凍庫に詰め込んだ。

 

「皓仁、用意できたよ~」

 

皓仁は、倉庫でみつけたBJ史を持って、リビングに向かった。

 

「お、おつまみ!オードブルだね。おいしそう!あと、これなに?

ジャガイモかな?」

 

「うん。ジャガイモとベーコンのローズマリー炒めだよ。

ワインとよく合うよ」

 

「よっしゃー。乾杯だ。妃乃子はアルコールなしサングリアでいいか?」

 

「皓仁特性のアルコールなしサングリアだね?赤ワインの代わりに

ブドウジュースとフルーツたくさん入れたドリンクか・・・

皓仁、バーテンダーにもなれそうだ!」

 

「ははは!妃乃子専属のバーテンダーってことで」

 

「☆乾杯☆」

 

皓仁はグラスに注がれた赤ワインを口に含むと

手に持っていたBJ史のページをめくった。

 

「・・・・・・・え?BJ先生の好きだった人って・・・

神代理世????神代って・・・・・喰種じゃないの?」

 

「そうらよ。喰種だよ。せんせーに依頼があったんだよ。

理世を手術してほしいって」

 

「本人が?」

 

「そう。人間にしてくださいって。」

 

「そうだったのか・・・」

 

「でも、せんせーは断ったんだよね。無理だって」

 

「不可能を可能にする男なのに、即行断ったの?」

 

「うん・・・それも神の定めだって。喰種の存在は

なにか意味のあることだろうって」

 

「BJ先生らいしな・・・」

 

「それで、何度も理世がせんせーを尋ねてくるんだけど

せんせーはだめ、の一点張り。そしたら、理世は

『私を薬殺してください』って言ったの」

 

「え!?それでBJ先生はどうしたの?」

 

「いくら闇医者でもそれはできない。死にたかったら自分で

始末しなさいって言ったの。そしたら、理世は

『先生の役に立ちたいの。私の体を使って、喰種の研究をして

ほしいんです。なぜこの世に喰種が生まれたのかを先生に

解明してほしいんです』って

 

せんせーはめずらしく、動揺してたみたい。

自らの肉体を提供するなんて、そんな人いなかったから・・・」

 

「そうか・・・それで、BJ先生は理世の体を使って

研究をすることになるんだね。もちろん生きたままで」

 

「うん。血液採取したり、レントゲンとったり、髪の毛や爪を採取してDNA研究したり」

 

「だから、金木んにも肩入れしたんだね。彼の研究テーマと同じだったから」

 

「そう。あたいはせんせーのお嫁さんになるって決めてたけど

理世にはかなわないって思った。」

 

「そんなことがあったんだね・・・」

 

「うん。だから今回も金木んに、研究材料を提供して

がんばってもらおーと思ってる。せんせーからも頼まれて、通帳預かってるんだ。

皓仁の分と金木んの分の研究費用」

 

「BJ先生って、亡くなっても存在感大きいよな」

 

「せんせーは死んでないよ!未来ちゃんの中で生きているんだし!」

 

「そっか・・・・彼は不滅だね。ぼくらもがんばらなくちゃ」

 

「うん。研究成功したら、赤ちゃんつくるからね!」

 

「なっ・・・なにを言ってんだよ、妃乃子は!

ノンアルコールサングリアで酔っぱらったのか!?」

 

「へへへ・・・・アルコール入ってるんだゾ。秘密で入れちゃった・・・・」

 

「おいっ!そんなことしたら、倒れちゃ・・・・あ!妃乃子!!!」

 

バッターンと、妃乃子はソファから転げ落ちた。

気を失った妃乃子を寝室に運び、皓仁は点滴を打った。

 

「やれやれ・・・人並みになりたい気持ちが旺盛なのはいいが

無理だけはしないでくれよ・・・」

 

皓仁は妃乃子の頭をなでながら、ブランケットをそっと掛けた。

 

「明日、金木に連絡してみるか」

 

皓仁は、未来についての情報も確認するつもりでいた。

 

 

 

 




妃乃子、アルコールはだめですよ~。倒れちゃいますよっ
でも、きっと皓仁といっしょにお酒飲みたかったんでしょうね!

連休ですもんね?


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モノクロームレクイエム

再び金木と未来のセッションが始まる・・・


妃乃子の焼いたパイを密閉容器に入れ

金木に届ける準備を整える晧仁。

 

今日は休日だが、金木は研究室にきている筈だ。

晧仁は車のエンジンをかけ、研究室へと向かった。

 

研究室では、金木が一心不乱に作業に取り組んでいた。

 

「金木、これ妃乃子から。未来さんとお前にって」

 

「・・・・・・」

 

「おいっ、か・ね・きっ!かねきん!」

 

「・・・えっ?あ!晧仁君!」

 

「ったく。お前は熱中すると周りが見えなくなるからな・・・

これ、妃乃子が作ったブルーベリーパイ。未来さんと一緒に

食べてって」

 

「うわー!ありがたい!!!僕チェリーパイとか

だいっすきなんですよーーー!うれしいな~」

 

「あえて自慢するけどな、妃乃子のパイは絶品だぜ。

よだれたらすなよ」

 

「ってか、未来さんとこ持っていくまでに我慢できなさそー

もう、すでに香ってくる・・・ぜったい旨い匂いだ・・・」

 

「未来さんとうまくいってるんだな?」

 

「え?あ・・・まあ・・・ちょっとしたことからセッションすることになって

それからは、未来さんの方から積極的になって、会ってくれるようになったんだ」

 

「ほぉ・・・・セッションねぇ・・・」

 

「な、なんだよ。オケのだぞ!」

 

「わかってるよ。オレ何も言ってねぇぞ」

 

「晧仁君、なんかこうへんな視線で見てるからさ・・・」

 

「いや、金木んも、意外に情熱的なんだなって思ってたんだよん」

 

「そ、そんなことないよ」

 

「いやなに、うちの、とーさんもさあれでいて情熱的だったんだよな」

 

「え?BJ先生が?」

 

「そう・・・『かくかくしかじか』・・・・だったんだよ」

 

「そうだったんだ・・・てことは利世さんとBJ先生って

顔見知りだったんだね・・・」

 

「おまえ、利世のこと知ってるの?」

 

「そりゃあ、研究内容が内容だけに、あらゆる喰種に関する情報は

入手しているつもりだよ」

 

「ふうん・・・じゃ、芳村愛支の内臓が未来ちゃんに移植されたってことも

知ってるわけ?」

 

「え!?・・・・・」

 

「だろうな。移植に関してはマル秘条項だから、BJとオレ、そして

妃乃子しか知らないことだ。」

 

 

 

 

未来の家へ向かう途中

晧仁から聞かされた話を思い起こしていた金木だった。

どうりで惹かれるはずだ・・・・そして、未来といると

なぜか懐かしい感覚におおわれるのは、当然のことだったんだと

先日会ったときの、未来の表情が脳裏から離れなかった理由が

はっきりした金木だった。

 

「なんだか私達似ているわね」

手の甲に顎を乗せ、どこか寂しげな笑顔で

金木をみつめる未来。

 

そのしぐさと表情をみた瞬間

はっとして、心臓を素手でつかまれた気がした。

 

未来の家の前に車を止めて、ゆっくり部屋に向かう金木。

 

「お待ちしていましたよ。研さん」

 

姓ではなく、下の名前で呼ばれた金木は一瞬、狼狽した。

 

「あ・・・未来さん。これ、妃乃子さんからです。

一緒に召し上がってくださいって」

 

「ありがとう・・・私はあとでいただくわ。研さん、

どうぞいただいて。いま、お紅茶を入れてくるわね」

 

(もしかして、食事に問題があるからあとで食べるって

言ってるのかな・・・)

 

「研さん、このお紅茶は伯父がイギリスに出張に行ったときに

買ってきたお土産なの。アールグレイよ。パイと合うから

召し上がって。まあ、おいしそうな匂いね」

 

「はい、いただきます。」

 

本来なら未来と一緒に食したかったが

通常食には抵抗があるやもしれぬ、そんな思いがよぎり

あえてパイを勧めなかった金木だった。

 

「気分が整ったらでよろしくてよ。セッションのタイミング」

 

「あ、ありがとうございます。僕ならいつでも大丈夫ですよ」

 

「研さん、パイがお好きなんでしょ?残りは持ち帰ってくださいね」

 

「え・・・いいんですか?」

 

「ええ。今度はあたくしがチェリーパイをご用意してお待ちするわ!」

 

「な、なんでそれを・・・・」

 

「妃乃子さんから伺ったのよ。今回は妃乃子さんが作ってくださるっていうから

ご厚意に甘えたの」

 

「そう、だったんですか・・・では、未来さんのチェリーパイも是非!

楽しみにしています。そろそろ始めましょうか?」

 

流れるような旋律が室内に響く。

静寂と情熱。静けさを打ち破るかのような未来の打音と

繊維のように細く強く繊細な金木の音質がが美しく混ざり合い

独特な空気感を生み出していた。

 

弓を動かしながら、金木はある日の事を

思い出していた。

 

「私達って似ていない?まっすぐ突き進むけど

あるとき、ふと立ち止まって、とてつもない孤独を感じる。

あなたもそうでしょ?」

 

公演のベンチに座り、子供たちが遊ぶ姿を見ながら

愛支が晧仁に寄りかかり、そうつぶやいた。

 

晧仁は愛支の涙を感じていた。笑顔でいても

心は涙であふれていた愛支を、晧仁はそっと抱き寄せた。

 

 

 

長いセッションが終わった。

 

「このセッションは、名付けてモノクロームレクイエム。

私を二度助けてくださった方々への追悼曲よ」

 

そう言いながら、ゆっくりと顔を上げ、晧仁を見つめる未来が

かつて自分が愛した愛支と重なって見えた。

 

 

 




自分で書いていて、あれ?って
内容や名前をド忘れしちゃうこと多々あり・・・
(てか、固有名詞は辞書登録すればいいだけの話)←めんどくさくて放置。単漢字で変換中。

夢だったか、現実に書いちゃってたかわかんなくなったり・・・


大丈夫か!自分・・・


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姫乃子の日記

久々の更新になります。


倉庫にあった妃乃子の日記を見つけた晧仁。


蝉の声が懐かしい季節。

晧仁達が子供のころは、どこにいても蝉の声が聞こえたものだったが

都会の研究室は、季節を感じさせない空間がどこか寂しげだ。

 

猛暑日の室内はエアコンの風が冷たすぎて

長時間同じ姿勢でいると、体が痛くなってしまう。

休日の今日は、早めに研究を切り上げ

ビールを買って、家路へと向かう晧仁だった。

 

「ただいま~。あれ?ぴの?どこいったんだろう・・

倉庫かな?」

 

妻の妃乃子の姿が、居間に見あたらない時は、

倉庫で宝探しを楽しんでいることが多々ある。

晧仁は、妃乃子を探しに倉庫の入り口をゆっくりとあける。

 

「ぴのー、あれ?いないなぁ・・・」

 

ゆっくり進むと、何か床に落ちているのを見つけた。

 

「ん?なんだこれ?」

 

手に取った革装の分厚いノートは、どうやら日記のようだ。

 

 

----------------

 

○月○日 晴れ

 

最近、体が痛い。先生がしっかり手術をしてくれた筈なのに

膵臓のあたりがきしむ。うん。きっと膵臓のあたり。

膵臓は痛みを感じない筈だけど、私にはわかる。きっと

何かが起こっている。

 

おそらく、膵臓は人工のものかなにか、先生特性の

臓器だと思う。先生の手術は完璧だけど、成長に

合わせて、たまに交換する必要があるということは

私も知っていた。ただ、先生が生きているときは

私の体はあまり成長しなかったけど

 

晧仁と一緒になってからは、心身共にいろんな変化があった。

先生にはあこがれと尊敬の気持ちで一杯だったけど

晧仁への想いに気が付いてからは、それが愛だということを

認識するようになった。

 

晧仁が傍にいてくれるだけでいい。それだけで癒される。

なにもかもがあたしにとって必要なんだ。

 

仕事してるときの真剣な顔、友人をねぎらっているときの優しい顔、

研究室のみんなとスポーツを楽しんでいるときの笑顔

 

どの顔もあたしの心の栄養剤だった。

臓器に異変が起きて、筋肉の質も変わろうとしているとき

きしむようなじわじわと来る痛みに悩まされていたときも

晧仁の笑顔は、私の緊張を解きほぐした。

 

自分の研究も順調に進んだ。彼は決して私を甘やかしたりしない。

なんでもかんでも教えるんじゃなくて、ヒントを与えて

私に考えさせてくれた。

 

先生と出張に出かけて行って、数ヶ月会えなかったときは

寂しすぎてどうにかなりそうだった・・・

会いたい、会いたい、そればかりつぶやいていたっけ・・・

 

最近の晧仁は、どんどんバージョンアップしている。

論文も磨きがかかっているし、研究も進んでるみたい。

すごいな・・・彼の強さってどこから来るんだろう。

 

彼のそんなところも愛して止まない。

いつも前に向かって突き進む、頼もしい彼・・・

 

あたしも、みんなの研究の役に立ちたい。

晧仁や金木君の、そして、未来さんのために。

 

膵臓交換のオペ、してくれないかな・・・

このままいったら、絶対ヤバイ気がする・・・・

 

どうやって晧仁に言おう。

きっと反対するんだろうな・・・・

金木君も晧仁と同じだろうし・・・

 

おそらく彼らは投薬で抑えようとするに違いない・・・

でも、できれば、今の臓器を摘出して

研究に使ってほしいんだけど・・・・未来さんに

移植が可能なら、不適合でないなら、是非オペってほしい・・

 

----------------

 

 

晧仁は、ゆっくりと日記を閉じ、落ちていたもとの場所に

置いた。

 

(知らないフリをして、今度採血をしてみよう。

酒の飲み過ぎだから、肝臓が心配だとかなんとか

口実つけて。この間も、みんなで飲み明かしたしな。

 

そういえば、研究室を出るときに、角刈りで真っ黒に日焼けした上井戸さんが

2リットルのペットボトルを、3本も抱えてたっけ・・・

 

いくら暑いといっても、1日で3本も飲むって・・・

どんだけだよ・・・・

 

ぴのがそれをみつけて、ケタケタ笑ってたな。

上井戸さんったら、

「何笑ってんのーーーー!」って、ぴのを追っかけていったっけ。

 

小学生かっ

 

検査技師の上井戸さんは、いつも僕らを笑わせてくれる。)

 

晧仁は思い出し笑いをしていた。

そろそろ金木と研究成果の見合わせをする時期だ。

さっき読んだ日記のことを、密かに相談しようと

晧仁は考えていた。

 

 




明るく振る舞っている妃乃子ですが、心の内に秘めている想いは
深いのですね。


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東都事変

グール実写版を見ました。

印象的だったのは金木君のセリフ
「なにか欲しいものがあれば、傷つくことを恐れずに
踏み出すことが必要なんだよ」

では、本編行きましょう~



猛暑日の熱帯夜だった昨晩、金木はなかなか寝付けなかった。

昼間、電車を降りて研究所までの慣れた道のりを

いつものように徒歩で進むのだが、コンクリートの輻射熱が体全体を覆い

まるで熱射ベルトに縛り付けられているかのような

嫌悪感が金木を一層不快にさせていた。

 

「まいったな・・・夏が暑いのは承知のことだが

こう暑すぎると、思考が停止してしまう。研究室についたら

ちょっと休ませてもらおう」

 

まさか自分が熱中症になるとは、夢にも思わなかった金木だった。

 

「おはようご・・・・・・(バタッ)」

 

「キャ~!!!!金木さん!!!!」

助手の女性が悲鳴をあげた。

 

「なんだ?どうした?」

 

晧仁があわててかけつける。

「金木!しっかりしろ!バイタルは・・・?」

 

そばでピノコが金木の脈を測る。

「脈が弱くて速いわ。呼吸数が増加。顔面が蒼白だから

熱中症の疑いがあるわ。すぐに処置室に運びましょう」

 

「そこの冷蔵庫に冷却シートがあるから持ってきて!

洋服を緩めて」

 

金木はすぐに処置室に運ばれた。

医療チームの迅速な処置のおかげで大事には至らなかったが

数日間、研究に没頭していた金木は、ろくな食事もとらず

睡眠不足だったこともあり、体力が消耗していたようだ。

 

「点滴してるし、体力戻ったら食欲もでるかと

思うけど、未来さんとの約束はキャンセルしなきゃね。

あたい連絡しとくわ」

 

「ああ、頼むよ。姫乃。」

 

ーおい・・・やめろ・・・それはやっちゃいけない!

俺がなんとかするから!堪えるんだ・・・

あともう少しなんだ・・・もう少しで完成するから

だから、手を出すな!!!それだけは・・・・だめだ!!!!-

 

朦朧とする意識の中で金木は叫んでいた。

 

「おい、大丈夫か?金木?」

 

意識の戻った金木は、あたりを見回すと

 

「え?俺、何やってんだ・・・ここは・・・」

 

「熱中症で倒れたんだよ。金木ん。もう、無茶するから。

血圧も体温も正常に戻ってるから。あとは栄養と休養とれば

大丈夫。」

 

「あ・・・姫乃子さん・・ご面倒かけちゃって

ごめんなさい」

 

「謝るんだったら、とっとと体調戻して、研究室に

戻ってくるんだな」

 

「晧仁君も・・・すまない。迷惑かけちゃったな」

 

金木の意識が戻り、晧仁も姫乃子も安堵していた。

 

そんな中、ニュース速報が流れた。

6区付近でで殺人事件が起きた。

 

一同はかたずをのんで速報に聞き入っていた。

 

「そういえば・・・東都6区って・・・未来ちゃんの

家の近くよね?晧仁?」

 

「あ、ああ・・・物騒だな。こう暑いと人間も

おかしくなったりするのか・・・とにかく俺たちも

気を付けないとな」

 

金木は二人の会話をききながら、全身が震撼しているのを

感じていた。

 

(まさか・・・まさかそんなこと・・・あってはいけない。

あるはずがない。きっと思い違いだ・・・俺が考えすぎなんだ。

変な夢をみたから、そのせいだ・・・)

 

金木の脳裏に浮かぶ光景は、まるで真夏の蜃気楼のようだった。




暑い暑い暑い
わかってるから暑いって言うな!


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襲撃事件

どうもきな臭い・・・


東都6区の襲撃事件は皆を震撼させた。

なんとライフルを所持した男が

通りで乱射したらしい。

 

被害者は2人、一人は大腿部を打ちぬかれ

もうひとりは、鎖骨付近を打たれた。

 

犯人は逃走中に、パトロール中のCCG捜査官によって

取り押さえられた。

 

襲撃現場はなんと、未来の家のすぐ目の前だったため

未来邸は報道陣に取り囲まれていた。

当然、彼女の家にも取材陣が詰めかけた。

 

「あのお!お話聞かせていただけませんか!

お宅の目の前で襲撃事件があったんですよ!」

 

インターホン越しに、取材班の男が声を荒らげる。

応対したのは、未来の家の執事だった。

 

「わたくし共は当時、室内にいて音量を上げ

映画鑑賞をしておりましたので、外での出来事には気づいておりませんでした。

申し訳ございませんが、ご協力できかねるかと存じますので

どうぞお引き取りください。」

 

「そのあとは、なにか変わったことはありませんでしたか?」

 

執拗にくらいついてくる記者の質問に、淡々と応じる執事。

 

「なにもございません。それでは(ぶちっ)」

 

執事はインターホンの受話器を置き、記者とのやりとりを終了させた。

 

テレビで混沌とした状況をみていた晧仁、姫乃子そして金木は

ニュース映像を食い入るように見ていた。

 

「ここ・・・未来ちゃんの家だ・・・・」

 

「ああ。間違いない。でも、犯人は捕まったんだよな」

晧仁が二人に確認するかのように、声を発した。

 

「パトロール中のCCGが捕まえたって言ってる・・・・

まさか・・・・犯人は・・・・」

 

金木は青ざめた顔で、ペットボトルの水を口に含んだ。

 

CCGとは、グール捜査官であり、特殊な能力と武器をもったチームを持つ。

彼らは特別な訓練を受け、グールと同等、もしくはそれ以上の能力を持ち、

グールを仕留めるのが仕事である。

 

CCGに捕まったということは、もしかして、この狙撃犯が

グールだったのかもしれないとの憶測が、当然、晧仁、姫乃子、金木の脳裏をよぎった。

 

「グールそのものとの共存、捕食の開発、グールDNAの解析を進めて

一人でも多くの命を救うことはできないのだろうか・・・

 

もちろん、無差別に人間を食い荒らすグールは捕まえて成敗するのは

人間の犯罪者とて同様の措置が必要ではあるが・・・」

 

晧仁は、ため息交じりにつぶやいた。

 

「愛する人がもし、グールだったら・・・たまたま愛した人がグールだったら・・・

またその逆だったら・・・そう思うと、1日も早く開発をすすめなくちゃって

あたいも焦るばかりなの・・・先生もきっとそれを望んでいたんじゃないかって

思うの」

 

姫乃子も目頭を熱くして、唇を震わせながら語った。

 

「晧仁君、姫乃子さん、僕に考えがあるんだ」

 

金木はまだ完治していない体を起こしながら、何かを決意したかのように

晧仁と姫乃子に話を始めた。

 




東都6区襲撃事件はグールとなにか関係があるのだろうか。


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