人形と誰かの物語 (らむだぜろ)
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プロローグ 

 

 

 

 

 

 

 ……新しい人形の建造に成功しました。

 

「……初めまして、司令官」

 

 人形は生まれた。

 

 人形は戦った。

 

 人形は嫌になった。

 

 人形は抗った。

 

 ……人形の安全装置が解除されました。

 

「司令官。ごめんなさい」

 

 人形は暴走した。

 

 人形は反逆した。

 

 人形は、逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界はずっと戦争を続けている。

 大きな国が連なる連合軍と、連合軍と対立する独立軍。

 独立を阻止する事情と、独立をしたい事情が重なって、数世紀にも及ぶ悲しい戦いが。

 魔法と呼ばれる奇跡を操る魔法使いと、科学を盲信する科学者たち。

 選ばれし者が統治する選民と、誰もがみな同じという平等。

 みんな好き勝手主張して収まる事も収まらないまま、ずっとずっと戦争をしている。

 彼女は、『単体最強』をコンセプトに産み出された。

 一人で全ての世界を相手取って戦えるほどの高性能を。

 コスト度外視で発注され、丁度適合した孤児の少女を改造して出来上がったお人形。

 彼女は本当に何でもできた。死人だって甦った。建物だって再生できた。

 壊された環境も癒すことができた。人間だって不治の病を治すことも出来た。

 彼女に出来ないことは、事象に関する……俗にいう、魔法に近い事だけだった。  

 けれど、彼女は魔法使いが嫌いだった。いや、科学者も魔法使いも両方嫌いだった。

 彼女は戦うことを嫌がった。ストレスになるから、やりたくなかった。

 信念なんてない。正義感なんてない。理想なんてない。常識なんてない。

 戦争は悲しいことだから、憎しみは憎しみを増やすだけだからとか、そんな高尚な理由じゃない。

 ただ、自分がストレスに感じて嫌気が差したから、自分の司令官を砂にして、あるいは灰にして、彼女は逃げ出した。

 そこにいると、面倒な事ばかりをやらせれるから。狂った大人の妄言に付き合うのは御免だった。

 だから、壊した。処理した。触れた司令官を、自然に還した。

 戦争を続けたい大人たちを、全部土塊にしてしまった。

(……。さ、行こっと)

 燃え盛る前線基地。それを見上げて、彼女は歩いて立ち去った。

 基地の機密保全のためにある、自爆装置を起動させた。

 その内、纏めて吹っ飛ぶことだろう。どうでもよい。

 彼女は己についている安全装置を壊した。追跡装置も壊した。

 壊すことと直すことは尤も彼女が得意とする物だ。

 綺麗な服を着たい。綺麗な場所に住みたい。美味しいものを食べたい。

 人間らしい感情を持ちながら、人形らしい倫理観の欠如を自覚して、人形は逃げだした。

 宛などない。行きたいように生きる。それだけを、求めながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前、というのが欲しい。

 自分にあるのは、型番だけ。

 P-Nano01-Lapis。

 そんな型番だった。

 ……ラピス? 検索、言語。発見。

 現代語学、変換。意味、鉱石。

(鉱石……。寂しい名前)

 ラピス。人名には使われない。

 石っころとは、ひどい名前。

(わたし、石じゃないよ。人形だよ。わたしは、自由に生きる人形)

 人の姿をしていようが、本髄は子供を模した兵器だ。

 他者を蹂躙し、侵略し、剥奪する機械の人形。

 名前を欲しい。自分で名付けるにも、付け方が分からない。

 もういいや。何か面倒くさい。

 足を進めて、地図を確認。座標検索、推定地域算出。

 地形計算、空間計算、警戒モード移行。

 森の中。

 あの場所から幾日も休まず随分と歩いたが、なんだか物悲しい森の中。

 沢山生えた痩せ細る樹木に、乾いた土。

 環境の汚染が進むこの国では珍しい光景でもないが。

(あ、小屋発見)

 目先に建造物を発見。小屋と思われる。

 ボロい小屋だが、比較的まだ壊れていない。

 賊の根城かもしれない。制圧して奪ってしまおう。

 てくてく歩く。数分でドアの前に到着。

 質素な小屋だが、ガラスなどは割れてないが……なんか曇ってる。埃っぽい。

 気にしないで、取っ手を掴んで引っ張った。

 長いこと開けてなかったのか、立て付けが悪い。少し壊して強引に入る。

 なかは結構広かった。ロフトもありそうだけど、見上げると穴が開いていた。

 土足で入る。やはり埃臭い。明かりは……ランタンを発見。

 周りを見渡す。一応、ドアは閉める。また壊れた。ジャンクの取っては回収。

 室内は物置のようだったが、古いベッドらしき物体が置いてあった。

 ざっと拝見。生活できそうな環境であると断定。

 薪を燃やせば、調理もできる。風呂場も覗く。浴槽は金属製、然し錆びていた。

 水道はないので、何かにいれて、汚染された川から組んでくればいい。

 この国に、綺麗な川は都心にしかない。

 明かりは……電気はないか。何処かで仕入れる必要あり。

 地形確認。近くにスラムがある。闇市もセットだから、必要ならそこで調達。

 衣服。タンスらしきものを破壊。中身が残っているが、ボロボロの大きな作業着。

 修繕して使う。食料は問題ない。毒草だろうが何だろうが食えれば彼女は死なない。

 全身を構築する無数のナノマシンにより、その手のモノは一切効果はない。

 次、寝床。ベッドはカビ臭い。あとで直す。

 ロフトを調べる。梯子が腐っていた。

 無事な部分を掴んでその場でナノマシン展開、梯子に侵入して腐食部分を吸収、再構築。

 梯子そのものの分子構造の書き換えを実行。ナノマシンを注いで強化、再生。

 新品同様の梯子に直した。完了してあがった。

 ……床板が腐っている。原因は雨漏り。天井も状況は最悪。

 高さもそんなにないが、奥行きはあるようだ。

 再びナノマシン展開。空間に散布して付着させる。そのまま再生工程を開始。

 数秒で小屋そのものの建築物に侵入させて、補修を終える。

 これでいい。足りない部分は彼女で補った。少しは快適に暮らせる。

 一人で暮らすには少し、広いかもしれない。

 入り口を入って、一階に大きな部屋が一つ。

 物置のような本当に狭いけれど小部屋が二つに、二階はロフトがあるだけ。

 最低限の環境はある。トイレも一応あった。

 多分これは……汚水をそのまま川に垂れ流す仕組みだろうか。

 ここにしよう。どうせ、この近辺は戦闘が激しい区域だし、スラムと反対側は境界線に入る。

 魔法使いと兵器が争う戦場だ。

 亡命するには一番楽と言われるが、日夜銃弾と魔法が飛び交うその綱渡りを楽と言えるかは不明だが……。

 科学の国に入るけれど、ここら辺は放浪者が多いスラムと同義な場所だし。

 勝手に住み着いても珍しくない。ありふれた物だろう。

(……お家。わたしの、お家)

 この小さな小屋が、彼女の見つけたお家だった。

 まだ、名もない彼女は知らなかった。ここに、数名の同居人が増えることを……まだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 此方は作者が息抜きで始めた読者参加型の物語です。

 息抜きの手前、不定期かつ気紛れな更新となりますのをご承知ください。

 

 では、簡単なプロローグを語ったので募集に関する簡単な世界観などを纏めます。

 

 世界観 

 

 魔法使いと科学者が己の言い分で戦争を続ける戦時の世界。

 主人公の名無しが逃げ出したのは非常に高度な科学をもつ国。

 少なくともナノマシンの軍事転用を起こして、都心部では現実と大差ない生活が可能。

 但し舞台である郊外は、スラムなどが点在し、放浪者がたむろする治安の悪い地域となる。

 戦場が近いため、色々な人間が集まっており、敵の国から亡命している魔法使いも少なからずいる。

 魔法の国では中世的な生活が続いており、選民主義であるため魔法の弱い人間は差別され、使えないものに至っては法律で処刑が義務付けられている。

 何らかの原因で魔法が使えない人間は軍に追われる憂き目にあう。

 科学の国も、都心部の人間は無関心ゆえ、孤児や難民は救わないのでやはりそういう人間は一ヶ所に集まって生活している状況。

 魔法使いと名無しのような人形が争うため、紛争地域は非常に危険。

 名無しは最強として設計されたがこれは例外。

 通常は劣化品、あるいは量産品が出回り感情のない孤児を改造した機械が戦う。

 魔法使いは奇跡のような魔法を使うものの、医療などは魔法に頼りきりなので、不治の病などは治せない。

 個人としては強いものの、数は少ない。

 量産できるゆえ、兵器は多いが個体は弱い。

 戦争の理由は色々だが、一般的には互いの土地にそれぞれの求める資源が眠っているので侵略したいからだという。

 

 

 

 

 世界観は以上です。

 何かご質問がある場合は募集する活動報告にてお願いします。

 最低限の世界観ですので、ご自由に組織などは作って貰って構いませんが作中での扱いは場合によって変わることをご承知ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では、募集する枠ですが。

 まず、この物語は彼女たちの生活を描くものです。

 戦いなどありますが、彼女が言う『お家』に帰るのが目的です。

 殺しあいをすることもありますし、必要な物資を集めるために誰でも襲います。

 それでも、生活があってこそ。名無しの生き方は皆様の影響次第です。

 

 募集するのは、まず同居人。三名、募集します。

 彼女と共に暮らすため、基本レギュラーですが振り回される苦労人と思ってください。

 

 名前

 

 年齢

 

 外見

 

 概要

 

 サンプルセリフ

 

 と、簡単ですが纏めました。

 概要は、名無しに出会うまでの経歴や過去の事、その他必要な物だと思うものはここに、お願いします。

 同時に、名無したちと交流する人物も同じように募集します。

 特に制限はありませんが、世界観を壊さない程度にお願いします。

 その場合も、概要に必要な物だと思うものは記してくださると幸いです。

 尚、キャラクターはお一人様一つまでとさせて頂きます。

 長々となりましたが、これにて終幕に致します。

 ご応募、お待ちしております。







次回予告。

人形はお家を手に入れた。

人形は周囲の様子を見に行った。

人形はある人物と出会った。

人形はその時、何を選ぶのか。

次回、人形と誰かの物語。

『初めまして、人形です』

……変わるかもしれないけれど、次回予告も入れていこうと思います。


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初めまして、人形です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お家を確保した人形は考える。

 現在、お家には家具と言うものはない。

 木製の古いものは、大半が腐っている。

 全部補修してみたが、見た目が気に入らない。

 仕方なく、地域を散策する事にした。

 お家を出て、自分以外が解錠出来ないようにナノマシンを流し込む。

 見た目は小屋だが、防火耐震防犯バッチリだ。

 周囲は痩せ細った森の中。

 適当に歩き出す。先ずは、生活物資を探しにいこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森を抜けた北東部には、スラムなどがある。

 逆の南西部には、境界線。

 その中心部に、なんと宝の山を発見。

「ジャンクヤード……」

 そこは、都心部などで出たゴミを不法投棄しているジャンクヤードがあった。

 目の前に広がるごみの山。そこに、スラムの人間がちらほら、ゴミを拾っている。 

 使えそうな物資を探しているのだろう。人形もそこに、参戦する。

 軽く跳躍。一気に天辺まで上り詰める。

 足元はガタガタだったが、適当にバランスを持ちつつ高所から見下ろして目的の物を探す。

 広域検索、物資の補充。投棄物の解析を開始。

 数秒で目的の物を発見。飛び降りてゴミの海を駆け抜ける。

 派手に走って瓦解する山に、人が巻き込まれるも無視。

 知ったことじゃない。悲鳴をあげるがだからどうした。

 急ブレーキ。目的の、大きな冷蔵庫に頭が出ている。

 近くには、廃棄された太陽光パネルも割れているが、発見。

 もって帰ろう。人形は散らかしながら発掘。

 大きいサイズの、汚れて壊れた片落ちの冷蔵庫を掘り起こす。

 担ぐように持ち上げる。軽く持っているが、重さは成人男性よりも重たい。

 それを年端もいかない少女が軽々持ち上げているのだ。

 周囲のスラムの住人も唖然としていた。

 人形は一度離脱して帰宅。お家の前に冷蔵庫をおいて、再度戻る。

 電化製品は欲しい。発電設備も、パネルなら何枚か見かけたので全部回収しようと思う。

 次は割れたパネルを、一枚ずつ持ち帰る。嵩張るが別にいい。

 必要なコード類も人形である彼女はネットワークに接続して検索できるし、面倒な作業はナノマシンで補える。

 一日かけて、必要な電化製品を回収して持ち帰り、お家に運び込む。

 夕暮れ時には、再生したお家の屋根に、パネルを設置。

 日光を塞がないように、周囲の木々を伐採して日当たりも良くした。

 バッテリーもいくつか見繕い、ナノマシンで補修。リサイクル完了。

 お家の中にコードを複製、延長して引き伸ばす。

 そのまま説軸して、増設したコードと冷蔵庫を繋ぐ。

「出来た!」

 達成感に満たされる人形。

 笑顔で、然しまだ発電できないのでナノマシンを燃やして明かりにしたランタンで、明かりを代用する。

 室内はまだまだ殺風景。これから、沢山お家を彩ろうと思いつつ、空腹感じて外に出た。

 ご飯を探しに、スラムの方に向かうことにした。闇市で何か食べよう。

 お金はジャンクヤードで入手したちょっとした電化製品を、商人に売ればなんとかなるまい。

 人形はそうして、遅い夕飯を求めて出掛けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スラムは、人が溢れている。

 建物は掘っ立て小屋が長屋よろしく連なり、穴の空いたドラム缶で火を焚いて明かりにしている。

 行き交う人間はみな、薄汚れた服装でみすぼらしい格好だった。

 時々、怒声が聞こえるがスリをされているだけだ。

 盗人も多いのがスラムだ。酷いときはリンチからの強盗だってあり得る。

「おいそこのガキ、止まれよ。ここを誰のシマだと思っていやがる?」

 ちょっと裏通りに入れば柄の悪い男数名に囲まれる。

 手には鉄パイプやら、刃物やらで武装している。

 だが、それがどうした。

 人形は黙って、右手を虚空にあげる。

「あぁん?」

 男の一人が怪訝そうに眉をひそめるが、人形は止まらない。

 虚数演算、圧縮空間より小型対人武装展開。

「攻撃開始」

 見れば、その手にはサイレンサーのついた拳銃が握られていた。

 人形はそれを、迷わず男の頭に向ける。

「こ、こいつやべえ! 兵器じゃ……っ!」

 正体に気付いた一人が逃げようとするが、その前に数度小さな音が連続する。

 全員の頭を撃ち抜いて射殺してしまった。

 人形は手早く殺した相手の手荷物を探る。少々の紙幣が入っていたので頂いていく。

 ついでに、死体も処理しておこう。

 人形は膝をおり、倒れるまだ温かい人間だった物に手をあてた。

「分解、吸収……開始」

 撃たれた男の身体が、淡く光りだしながら、人形は後始末を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お腹はいっぱいになった。

 電化製品は、よい値段で売れた。

 商人いわく、片落ちしているが新品と同じらしく、高値で買ってくれた。

 スラムでは新品は兎に角高い。大半はジャンクだからか、高級品扱いになるのだろう。

 そのお金で、出店の屋台で鱈腹食べた。安くて美味しくて量のある何かの肉だった。

(成分分析。そっか、偽油豚……。油しかないから、エネルギーにはなるけど栄養価は低いんだったっけ。偽だから、帰化した外来種のほう。ナノマシンのエネルギーにはもってこいかな)

 彼女が食べていたのは、野生化した外来種の動物。

 痩せ細った土地でも下手すると、人間まで食べて生き残るようなしぶとい雑食動物、偽油豚という大型の豚だった。

 その辺に普通に生息しており、繁殖力と適応力が戦時の世界でも群を抜いて異様に強く、脂身しかないうえに、カロリーばかり高くて、栄養価は低く食用ではあるが都心部では全く食べない豚である。

 スラムではわりと食べられており、専門の狩りをするにを生業とする者もいるぐらい、沢山いる。

 お家にたどり着くまでに、人形も何度か襲って吸収していた。

 兎に角短時間でエネルギーになるので有難い存在であった。

 人形はあらゆるものをエネルギーにできるナノマシンで構築されている。

 その気になれば大気と日光と水分だけで活動ができるほどだ。

 然し空腹は感じるし、今は自由に生きている。食べることは楽しみでもあった。

 ……先程のように、エネルギーにしてしまえば人間の死体だろうが関係ない。

 証拠隠滅もできるし、仕留めた人間は彼女のナノマシンの餌だ。

 食事とは別に補給として分解、吸収してしまえば何も残らない。

 彼女は人間もまた、補食対象である。ナノマシンの餌として、死体も遠慮なく吸収していた。

 満腹を感じて、お家に戻る。すると……察知。

 空気中に濃厚な血液の匂い。大気の動きからして、お家の方向。

 周囲を探すと、お家の方に生命反応が弱っているがひとつ発見。

 だが……この識別反応は……魔力? なのに、人形の反応も出ている。

 よくわからないまま、人形は戻った。武装を展開して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で……なんで、開かないの……? 前は鍵なんてつけなかったのに……!!」

 誰かが、小屋を開けようと悪戦苦闘していた。

 人形の足音に気がついて、ハッとしてこちらを見る。

「だ、誰!?」

 綺麗な女の子だった。でも、腹からは多量の出血を確認。

 このままいけば、死ぬかもしれない。人形は大きな銃を構えて近づく。

 ベアトップの深紅のローブに紫の帽子に、紫のマントを羽織る少女。

 目が印象的で白目が反転し、黒くなっており瞳自体は黄色という珍しいものだ。

 桃色の長い髪の毛は煤けて黒くなっていて、ローブと同化する腹から流れた血は地面に染み込んでいた。

「痴女?」

 何か露出が多い変な女がお家の前にいた。

 首をかしげて疑問符を浮かべる人形に、気丈に睨む少女。

「誰が痴女ですって!? この、変な人形に言われる筋合いはないわよ!!」

 叫んだせいで、喀血する。よく見れば、脂汗が浮かんでいた。

 こっちが人形だと理解しているのか。ならば、言うことは一つだ。

「初めまして。人形です」

「いや、見れば分かるわよ……」

 馬鹿丁寧にお辞儀して自己紹介する人形に、毒気を抜かれて力なく、倒れ混む少女。

 かなりの大ケガを負っているが、何かあったんだろうか。

 人形は近づいて、武器を下げる。敵意はないので、争うのは嫌。

 少女は、何かに気づいて彼女に嫌そうに聞いてきた。

「……もしかして、私の隠れ家に勝手に住み着いているのは、貴方?」

 怪我をする少女は、人形に問う。空き家だったので昨日から住み着いたと説明。

 少女は……深いため息をついた。

「私の隠れ家だったのに……。滅多に戻らないとはいえ、まさか同じ人形に住まわれるとはね……」

 私もここで終わりか、と小さく呟いてドアに寄りかかり四肢を投げ出す。

 人形は首をもう一度、傾げた。何が言いたいのか理解できない。

「…………」

 少女は目を閉じて動かない。

 数分経過。立ったまま、見物する人形に軈て、少女は目を開けて聞くのだ。

「……ねえ、殺さないの?」

「何で?」

 少女は人形の返答に唖然とした。まさかの問いかけに疑問で返された。

 懇切丁寧に、明らかに敵なのになぜ生かすのかを言うが……。

「敵なんていないよ。わたしは戦争してないし」

 呆れた答えだった。

 弱った相手に慈悲もかける理由もないと……言うわけでもないらしい。

 何だかどうでもよさそうな雰囲気に不安になる少女。

 何かイカれた人形に最期に出会したようだ……。

「ね、ケガ大丈夫?」

「大丈夫に見える……? 致命傷よ。私も人形だから生きているだけ。人間ならとっくに死んでいるわ」

「だよね。重要な内臓は軒並み死んでる。出血も激しいし、生きてるのが不思議なくらい」

 わかって聞いている辺り、嫌なやつと思う。

 再び喀血。視界が霞んできた。そろそろ、死神のお迎えは近いようだ。

 ぐったりする少女を見て、人形は暫し考える。

 そして、何を思ったのか。

「治療工程準備、治療開始」

 唐突に少女の剥き出しの肩に優しく触れて。

 なんと、自分のナノマシンを少女に注入し始めてきたではないか。

「ちょっと、何を……!」

 突然の行動に抵抗する前に、ナノマシンが体内に侵入。

 全身におぞましい悪寒を感じて嫌がるものの、抵抗を許さずに体内を蹂躙して制圧して、次々書き換える。

「キャアアアアアアッ!!」

 悲鳴をあげた。今まで生きてきて感じたことのない気持ち悪さだった。

 体内を好き勝手無慈悲に暴れまわり、内臓から血液から骨から肉から脳ミソまで覗かれるような。

 必死に追い出そうとするものの、相手のナノマシンは少女よりも高品質で、出力が違いすぎた。

 結果、数分にも及ぶ体内の陵辱を耐え抜いて、最後には彼女は半泣きだった。

「穢された……。変な人形に全部穢された……。最悪よ、なんで私がこんな目に……」

 シクシク泣いて、しかし致命傷だった傷は全快し、身体の中にあった不調まで全部取り払ってくれた。

「今のはお礼ね。お家をくれたお礼。折角だから、休んでいく?」 

 笑顔で人様の身体を一方的に弄んだ外道はそんなことを宣った。

「あげてないから!! 勝手に人の隠れ家を奪ったあげくに家主の身体を穢すとはいい度胸してるわね貴方は!! この外道! 変態!」

「痴女はそっちじゃ……」

「私が変態だって言うの!? 違うわよ、この衣装はちゃんと意味があって……!」

「変態……」

「変態言うな!! 痴女でもないから!!」

「ふあああ……じゃあ、開けるよ。早く入って。もうわたし眠いよ……」

「待ちなさいよ!! 話を聞けコラァ!」

 ギャーギャー騒ぎながら、どうやら前の家主らしい女の子を引き連れて、人形は一緒に小屋に戻った。

 そのまま、人形は騒ぐ彼女を無視してベッドイン。寝てしまった。

(こ、こいつは……!! 焼き殺してやろうかしら……!!)

 羞恥と怒りで沸騰する少女だが、室内で人形焼きなどという悪趣味を披露するのも癪だった。

 一応、こんなのでも、勝手に隠れ家を奪っていった奴でも、命の恩人。

 彼女は唸りながら室内を見渡し、寧ろ以前よりも綺麗になっているのを確認。

 ちゃんと手入れしてあって、彼女の時よりも完全に移住性能は増している。

 因みに今回はこの周辺でひどい目に遭って立ち寄っただけ。

 隠れ家は他にも沢山持っている。ゆえに、一個失っても痛みはない。

(……はぁ。まぁ、いいかしら。一応、恩人だし……)

 命と引き換えだ。これで貸し借りはなし。

 この小屋ぐらい、対価として支払っても構わない。

 暫くこの一帯に潜伏する予定だったので、ちょうどよい。

 彼女には敵意はないと思う。無防備すぎる。

 少女も、一個しかないベッドの端に横になり、眠った。

 徹夜続きの連戦のせいで疲労が限界だった。

 この空間は安全だと分かって、落ちるように寝てしまった。

 久々の安心できる空間で眠ったお陰で、夢見は良かった気がする……。








次回予告。

人形は痴女と出会った。

彼女は魔女と名乗り、痴女ではないと何度も言った。

人形には露出の高い変態にしか見えない。

彼女は魔女と呼べと強要してくる。

あと、命の恩人としてお家をくれるらしい。

有り難く受けとるが痴女からの贈り物は嬉しくない。

だから痴女ではないと彼女は叫んだ。

次回、人形と誰かの物語。

『私は痴女じゃないっ!!』


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私は痴女じゃないっ!!

 

 

 

 

 

 

 お家に、ベアトップの痴女がいる。

「私は痴女じゃないっ!!」

「じゃあ、変態」

「変態でもない!!」

「じゃあ露出魔」

「露出魔でもないわ!!」

 変な人形はうるさかった。

 翌朝。互いに目覚めた二人は、互いの呼び名を決めていた。

 双方、名前がないのが発覚。人形は、相手を痴女と呼んだ。

 そうしたら激怒した。

 変態の癖にと思う人形。

 プンプン怒る謎の彼女は、とうとう実力行使に出た。

「あったまきたわ! 私を好き勝手いじくったくせに何で私が変態扱いなのよ!?」

 掌に炎を呼び起こして、室内なのに叩きつけようとして来た。

 人形は呆れて、同時に反撃。

 ぱぁんっ!! と派手な音が響く。

「!?」

「調子に乗らないでね。お家のなかは、ナノマシンで満たされているから。お家自体も、お部屋の空気も」

 炎が魔力ごと飛散して、無理矢理鎮火されられたのだ。

 今のは魔法。魔法は本来、個人の持つ魔力を燃料として方式を無視した動きを可能とする。

 魔力があれば、火種が無くても火は起こせるし、燃えていても自分は熱くない。

 魔力があれば、魔法使いは道具が要らない。

 普通の人間では、魔法使いには決して勝てない。

 魔法の炎を物理的に消すなどという芸当は、科学の発達した国でも難しい。

 一部を除いて。その一部が、人形だった。

 彼女のナノマシンは、魔力すら自分のエネルギーにする。

 燃え盛っていようが、その魔力そのものに変化して本人に介入、人形の意思一つで魔法自体に作用して無理矢理切断する。

 結果、彼女の火は消えた。このお家の空間は、人形の支配にある。

 常に先手を放てると警告して、呑気に人形はアクビをした。

「…………。規格外の性能ね。まさか、P-Nanoシリーズ……? 完成していたなんて」

「そっちも知ってるよ。確か、人形に魔法使いの因子を持つ被験者を使って作るシリーズだったね。見る限り、炎の魔法。ってことは、Magicシリーズの……多分『Fire』だよね。全滅したって聞いたけど、生きてる個体があったんだ」

 互いに型番は知っていた。

 人形は、P-Nano01-Lapis。

 痴女は、Magic-04-Fire。

 互いに正式名称は、人形は『試験稼働式ナノマシン搭載型モデル01 タイプラピス』。

 痴女は『正式魔法搭載型モデル04 タイプファイア』。

 それぞれ、Nanoシリーズ、Magicシリーズ呼ばれる系統の人形である。

 痴女は科学の発達した国で作られた、敵の国から亡命してきた連中を解析して、素質のある孤児を探し出し、建造された魔法が使える珍しい人形だったのだ。

「てっきり、手に負えないから破棄されていたと思っていたけど……ああ、そういうこと。脱走したんだね」

「貴方も人のこと言えないでしょう。基地を破壊して堂々と逃げ出しておいて……」

「なら、わたしも殺すの? 紅蓮の魔女」

「……流石に知ってるわよね。両方を無差別に殺しているから、有名だろうし」

 怒りをおさめて、痴女改めて魔女は壁に寄りかかる。

 黒と黄色の瞳で、人形を観察する。

 紅蓮の魔女は有名な通り魔だ。

 戦場にふらりと現れ魔法使いと人形を両方襲って無差別に殺害する。

 現れた場所は業火に焼かれて何も残らないという逸話の持ち主。

 無論、科学の国には一般的な兵士もいる。

 まあ、大概が改造されたサイボーグだったり改造人間だったりするが。

 そういう連中には手を出さないと聞くが、理由などどうでも良かった。

「私の中に、ナノマシンを流し込んだでしょう。治療と同時に、私はもう貴方には逆らえない身体にされてしまった。姑息なことをするのね。恩人であると同時に、私を追い詰め言いなりにする気? 酷い人。幼い女の身体を好きに弄ぶなんて、外道にも程があるわ」

 魔女は両手を上げて降参しているが、口は反抗的だった。

 人形は、皮肉を言う魔女に言い返す。

「お礼って言ったの聞いてなかった? そこまで壊れたいなら、内側から食い破ってあげよっか? 痴女なんてエネルギーにしたくないけど。変態が感染する、ばっちぃ」

「……ねえ、逆らえないのを良いことに人を変態の病原菌扱いするの止めてくれない? これ、結構気に入ってるんだけど」

「おっぱいオバケが偉そうに」

「おっぱいオバケ!?」

 あくまで、人形は魔女を痴女と断定している。

 胸元から肩を剥き出しにするベアトップという一種のデザインなのだが人形にはそういう感覚は分からない。

 だから一律、痴女。あるいは結構立派な山脈を嫌悪しておっぱいオバケ。

 人形は、痩せ細った孤児だった。故に見た目は貧相そのものであり、発育のよいおっぱいオバケは何かムカつく。

「今まで生きてきて、言われたことのない罵倒なんだけど! なに、私貴方に何かした!?」

 ジトッと睨む人形に怯む魔女。

 人形は簡潔に述べた。

「見た目が嫌。この痴女」

「私は痴女じゃないっ!! これはそういうファッションなのよ!!」

「痴女は痴女」

「止めて!」

 散々な言われように、次第にまた追い詰められる魔女の痴女。

 こんなに一つの単語で追い込まれるのは初めてだった。

 凄く心が傷つく。痴女という単語だけは嫌だった。

 恰も己の名称のように使われること自体が不名誉極まりない。

「痴女って言わないでお願いだから!! このお家あげるから!! 好きに使っていいわ!! だから止めて痴女って呼ばないで!!」

「くれるんだ。ありがとう。でも痴女から貰ってもあんまし嬉しくないかも」

「いやあああーーーー!!」

 耳をふさいだ。

 痴女には名前がない。

 それは、どうやら目の前の人形も同じなようであって、呼び名がないと困る。

 人形は彼女の名詞に、当たり前に決定した。

「もう面倒くさいし、痴女でいいよね」

「魔女!! 魔女って呼んで!! 名前がないのはお互い様でしょう!? 何で私だけこんな、こんな酷い呼び名なの!?」

「だって服が変態なんだもん」

「分かったわよ!! 着替えればいいんでしょ!? 着替えないけど!! なんか服貸して!」

「服、ないよ。ぼろ布しかない。だから着替えできない。ぼろ布纏えば更に変態。だから痴女」

「どう足掻いても私は痴女決定なの!?」

 諸悪の根元である服装を変えようにも、着替えはない。

 あるのは、薄汚れたボロい大きな布切れ数切れ。

 これで服を作れるというのか? 

「お願いだから……その呼び方は、勘弁して……。何でも言うことを聞くから、お願い……」

 とうとう精神が折れてしまった彼女はまた半泣きだった。

 なんというか、世間知らずのこの人形にファッションを説いても意味はない。

 全部痴女で返される。興味もない情報など教えても無意味なのだろうか。

 悲しい。何が悲しいって、自分と似たような人形の癖になにも知らない相手から変態扱いは堪える。

 襲われるのなら叩き潰せばそれで済む。

 しかし、敵意のないそれこそ仮にも恩人に痴女と何度も言われると流石に泣きたくなる。

「……ん。じゃあ、ここで一緒に暮らそう?」

 人形は信じられないことを言い出した。

 彼女は顔をあげると、人形は笑っていた。

「このお家、ありがとう。大切に使わせてもらうね。わたし、先のことは計画たててないから、誰か一緒にいた方がお家もいいかなって。ここ、わたしだけが住むには広いの。ね、一緒にここで暮らそう? 魔女はさ、ここが隠れ家って言ってたし、昨日の怪我は銃創だったよね。ってことは、人形に追われているんでしょ? 紅蓮の魔女は、魔法使いも人形も敵に回してる。だったら、味方がいた方がいいよ。わたしが味方になったげる。ここに居れば、襲われても一緒に戦うよ? わたし、凄く強いから役にたてる自信ある。話し相手が欲しいから、魔女もここに住んで?」

 意外な申し出だった。魔女はキョトンとしていた。

 人形は一人で気ままに過ごすのもいいが、話し相手はほしいと思っていた。

 丁度彼女は何かに追われている事情がある。

 隠れ家という単語に、昨日の大ケガは銃創、撃たれた後だった。

 人形たちを相手していて逃げ延びたと予想する彼女は魔女に確認すると、肯定。

 だったらここに居ればいい。一緒に暮らせばお家も喜ぶ。

 広いお家には人形一人では、広いし少し寂しい気もしていたので、丁度いい。

 魔女は本音をいうと、人形という存在そのものを憎んでいる。

 過去に色々なことがあり、科学者も魔法使いも人形も全部が憎かった。

 目の前の人形は、どこか人形というよりは人間に近かった。

 意思のない量産品などとは違い、高品質の物だから当たり前だが、しかし異形とも言える魔法を使う魔女に怯みもしないし恐れもしない。

 それが異常だった。異質なものを平然と受け入れる。

 敵とか味方とか、魔法とか科学とか、人形とか魔法使いとか、彼女は気にしないようだった。

 だからか、あれほど憎いはずのそれが……彼女には当てはまらない。

 要するに、魔女の憎悪が彼女には熱くならない。

 本当に、変な子だった。

「……そうね。まあ、いいわ。暫く……ここに隠れるつもりだったし……。お言葉に甘えて、少し休もうかしら」

 拒絶するはずの人形に苦笑する日が来ようとは思わなかった。

 彼女は、人形の提案を受けた。このお家に、少し腰を据えてみようと。

「ん、じゃあ今日からよろしくね。魔女」

「ええ。しばらくよろしく」

 握手を求める人形に、手を差し出して握り返す。

 名無しの人形と魔女の人形は、互いの利害の一致により、同居人となる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば……貴方も名前がないのよね。なんて呼べばいい?」

「何でもいいよ。名前ほしいけど、自分じゃ上手く出来ないから諦めちゃった」

「そう。……そうね。もし貴方に名前を付けるなら……ムメイ。名無と書いてムメイはどう?」

「ムメイ? んー。魔女がそう呼びたいならいいよ。ま、固定の名前じゃなくてあだ名みたいに」

「あだ名扱いでいいの? 名前じゃなくて?」

「何て言うか、うーん……ムメイっていう響きは好きになれそうだけど、意味が悲しい気がするの。ゴメンね」

「……そう。確かに、名前があるのに名前がない……か。じゃあ、私は貴方を『ムメイ』と呼ぶわ」

「はーい」

 

 

 

 

 

 魔女が彼女に『ムメイ』というあだ名をくれたのが、嬉しかった。







次回予告。

人形は魔女と共に暮らし始めた。

物資を求めてジャンクヤードに通っては売りさばいてお金に変えて暮らす日々。

表層はそれなりに平穏な日々が続くなか。

魔女が何者かに襲撃される事件が起きる。

駆けつけた人形が見たものは。

魔女を倒そうとする、謎の老人の姿だった……。

次回。

人形と誰かの物語。

教えてやる、戦いのやり方ってやつを


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教えてやる、戦いのやり方って奴を

 

 

 

 

 

 

 

 新たに同居人となった人形、紅蓮の魔女は押し入れに近い一室を欲しがった。

「やっぱり、狭くても自分の部屋は欲しいじゃない?」

 とは、彼女が言うが人形は朗らかに笑って、受け入れた。

 というか、お家の増設まで開始している。

 天井の空いているスペースに、何処からか持ってきた丈夫な分厚い板で収納を追加。

 ナノマシンによる強固な接合によって、頑丈に作られていた。

 魔女はまず、お金を稼いで着替えを買うことにした。

 とはいうが、裁縫が出来るらしく、痴女と言われたこのベアトップの派手な服も自前だったらしい。

 道具さえあれば、有り合わせの布である程度は任せても平気だと言われた。

「どんぐらい、布欲しい?」

「そうね……。状態はムメイが何とかしてくれるから、ボロくても大きければ何でもいいわ。出来れば丈夫な布が好ましいけどね」

「ん、了解。少し待ってて」

 二人は手分けして、ジャンクヤードで金になりそうな物を物色している。

 人形はまたも良いものを見つけた。

 軍服が捨てられている区画だった。

 スラムの人間は軍に対して嫌悪感を抱くのでもっていかれることもない。

 魔女に報告して、汚いけど状態は良さそうなので、回収して行くことにした。

 更に、お宝発見。

「見てみて、洗濯機!」

「えっ……えぇ!?」

 なんと彼女、ごみの山から旧式の、然しまだ辛うじて動く大きな洗濯機を担いで戻ってきたのだ。

 軽々と持ち上げて喜ぶ彼女に魔女は唖然とした。凄まじいパワーで運んでいる。

「同じメーカーのが一杯落ちてた。直して質屋に持ってけばお金になるよね」

「ま、まあ……」

 恐らくはメーカーによる片落ちの投棄なのだろう。

 えっちらおっちら皆が運ぶのを尻目に、人形は一人で持って帰る。

 隣で、薄汚れているがまだ着れそうな様々な服を拾っている魔女も目立つ格好をしているからか、悪目立ちしていた。

 一度、お家に戻る。お風呂場の狭い脱衣所だともっと狭くなる。

 場所を考えようと魔女が言うが、外に置いておくと奪われたり勝手に使われる。

「お風呂場に置こうか」

 人形は、お風呂場の隅っこをリフォームしていた。

 いわく、知識はネットワークで回収して、道具はナノマシンですればいい。

 流石万能。工具もないのに、一画を広げて洗濯機置けるように改造していた。

 発電も上のパネルでやっているし、お家の片隅には蓄電池も置いてある。

 明かりはランタンで間に合うし、電気はあくまで電化製品のために使うのだ。

 そうすれば、小さい蓄電池でも十分間に合うし、いざとなれば自力で発電できるように自転車のジャンクと組み合わせて作った即興の発電機もある。

 漕いでいれば時間と体力は使うが一応発電もできる。

「意外と本格的に暮らそうって言うのね……」

「一応難民よりは普通に暮らしたいじゃん?」

 貧しいのを否定はしないが、そこそこは暮らしたい。

 人形には計画性はないが妥協する理想はある。

 ニコニコ笑ってどんどん作る。

 夕暮れになる前にジャンクヤードに移動して、もう一個洗濯機を確保。

 その場で修復して、スラムに向かって歩き出した。

 闇市で夕飯を食べて、お風呂入って寝ようと魔女は言う。

 新鮮な水はないこの国では、普通ならば横流しにされた中和剤がなければ、自然の水は飲料できない。

 スラムにおいて、水ほど効果なものはない。よって、洗濯など無駄の極みと言われるが。

 それはそれ。これはこれ。立派に修正された洗濯機を、質屋は言い値で買ってくれた。

 結構高めとはいえ、稼げた二人は出店で夕飯を食べていた。

 人通りの激しい夜の空を見上げて腰かける二人。

 スラムと言えど活気はある。とくに夜はこのスラムは忙しい。

 出店で用意された席に座って、人形は魔女に注意していた。

「魔女も気を付けてね。スラムは本来、治安なんてないから。強盗見つけたら焼き殺さないと寄ってくるよ」

「知っているわ。これでも、身体目的で近づいてきた最低男を何度も火葬しているもの。己は己で守るわ」

「流石おっぱいオバケ」

「黙りなさいな洗濯板」

 いっそ開き直って言い返すと彼女は気にせず笑っている。

 スラムは女一人には生きにくい。

 確かに同居人がいれば、こうして一緒に生きていける。

 人形の選択は、間違っていなかった。

「然し、美味しくないわね。偽油豚なんて、食べられる部分ないじゃない。ランタンの油でしょこれ」

 魔女は串にささっている薄い細切れの肉を皿の上においた。

 垂れ流す多量の油。少し食べたら胸焼けがするのを、人形は美味そうに食べていた。

 食用には向かない偽油豚。串に刺されて焼き肉のタレとかいうので食べているスラムの住人。

 魔女は正直、油しかないこれは好きになれなかった。

「ま、魔女はそうかもね。わたしは悪食だから、何でもエネルギーにするし、効率いいんだ」

「……ナノマシンには、大好物な訳ってことね。納得したわ」

 要するに補給に近いのか。効率のよい燃料として、彼女は食べているわけだ。

 全部食べきった彼女は、魔女を連れて違う出店にいった。

 わざわざ、まだ食べたりないであろう彼女を気遣って、違うものを探してきた。

「これは美味しい?」

「……ええ、美味しいわ。山椒の辛味がちょうどいい」

 魔女は満足そうに食べていた。

 人形はもう少し値が張るが味のよいものを教えてくれた。

 わりとこれもよく生息している、山ニワトリの焼き鳥だった。

 味付けは山椒をかけて、シンプルに薄目にしてある。

 山ニワトリは都心部から脱走して帰化したニワトリが先祖と言われる要するに名の通りの山に生息しているニワトリ。

 ただ、気性がとてつもなく荒い上にすばしっこく、捕まえるのが大変な上に強い。

 前足で蹴飛ばされると人間の頭蓋も穴が開く。なので、数は多いが捕獲が出来ないのだそうで。

「山ニワトリか……。取っ捕まえて持ってくれば捌いてくれるかしら?」

「そういうお店もあるよ。持ち込みするぶん安くすむけど、結構時間かかるよ。でも、そんなに高くない」

 一度、スラムを全部見ている人形は魔女に教えて、今度一緒に行こうと約束した。

 魔女は追加で大バカキャベツという美味しくはないが栄養価のよい巨大キャベツをまるまる一個食べきって、更に毒抜きが大変らしいがそこそこ美味しい魚の揚げ物を食べて帰った。

 山ニワトリ。美味しかったので今度は自分で捕まえようと思う。

 魔女はご機嫌で、人形と一緒に必要なものを買って帰っていった。

 

 

 

 

 

 …………その背中を、怪しい連中が見ていることに気付きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戻って、汚水を人形が浄化したのち、浴槽に流し込む。

 外で薪を焚いて、加熱する。

 魔女の魔法が役立った。燃えにくい木材だったが高熱で焼いて燃やした。

 燃えにくいは逆を言えば消えにくいのだ。空気を送って、よく燃やす。

「準備できたよー」

 お家のなかで人形が呼んだ。

「分かったわ、すぐ戻るー」

 魔女は腕捲りをして、かまどから離れた。

 寝る前に、水をぶっかけて消せばいい。

 お家に入る際、魔女は感じた。

 人気のない森のなか。遠目に……誰かいる。

 こっちを、観察しているのだ。

(追っ手……かしら。スラムから帰ってくるときもずっといたし。まあ、出歩いていればそりゃ気付かれるのも当然ね。仕方ない、お風呂入る前に……撃退しておこうかな)

 舌打ちし、お家のなかにいる人形には知らせない。

 感じる気配は……多分、スラムの住人だ。

 どうも、良からぬ気配を感じる。

 やっつけてしまおうと、魔女はその場を後にした。

 すぐに終わる。そう、思っていた彼女の采配ミス。

 現状は、もっと悪かったのだから。

 人形が鼻歌歌って風呂を満喫しているなか、戦場の空気に魔女は戻っていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おほっ、良い身体してんじゃんかお嬢ちゃん……おじさん達とこのあと、遊ばない?」

「いいわよ。……死にたいらしいわね。誰に手を出そうとしているか、その緩んだ頭に教えてあげるっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お風呂を満喫している人形は不審な動きを察知した。

 森のなかで、魔力の高まりを感じたのだ。魔女の魔力だ。

(お客さんか……少し、手伝わないと)

 湯船からあがって、さっさと着替える。

 さっき買ってきた衣服だ。上下黒いジャージのセット。  

 人形は靴もはいて、お家を飛び出した。

 鍵は自動で閉まる。そのまま、森のなかを駆け抜けた。

 薄い闇を灯す紅蓮の光が見える。

 明滅を繰り返しているあたり、まだ戦ってると思われる。

 人形は加速する。凄まじい速度で、向かっていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間は遡る。

 スラムから追ってきたのは単なる発情した変態のオヤジだった。

 数名、武装していたが……呆気なく焼き殺した。

 炭になったそれを捨てて、戻ろうとした魔女は、後ろから激しいものを感じた。

(……殺気) 

 足音を忍ばせて誰かが近づいてきていた。

 振り返ると同時に、何かが飛んできた。反射的に焼き払う。

 不意打ちで一撃受けそうになったが、防いだ。

 相手は、気配を表して歩みよってきた。

 炎を手に持つ、魔女に怯まずに。

「……随分と派手に殺してくれたな、嬢ちゃん。魔法使いが、こんな夜更けに狩りのお時間か? いい身分だなぁ、選民主義ってのはよぉ。下民は虫けらと同じってか、あぁ?」

 炎が照らす位置まで歩いてきたのは……初老の男性だった。

 随分と体格の良い老人だが……魔女はすぐに分かった。

 目付きが、鋭い。戦場で見慣れた戦士の顔と視線だ。

 ゆっくりと構えているが、一切隙がない。魔法使いと戦い慣れてるようだった。

(ヤバい……こいつ、軍人!)

 魔女はすぐに撤退を視野にいれた。

 別名を連合軍と呼ばれる科学の国には、兵器として人形を戦わせる。

 然し、軍人と言うのも少なからず存在している。

 ただ、軍人は戦場にはいない。

 単騎で、独立軍である魔法の国に潜入して、相手を事前に仕留めるのが仕事だ。

 つまり。科学の国の軍人とは、通常の兵士とは意味合いが異なる。

 コストの安い人形は使い捨ての兵器。

 こいつら軍人は、人形よりも遥かに戦力の高い人間。

 魔法使いに量ではなく質で立ち向かうのが目的。

 早い話が人形の上位互換という事だ。

 対魔法使いのスペシャリスト。魔女には剰りにも部が悪い。

「まさか、境界線を越えてまで狩りをしているクソガキがいるたぁ、見下げた根性だなぁ……。歪んだ教育ってのは、怖いもんだが……。悪いが、スラムの住人を殺した手前、お前みたいなガキでも仕留めにゃならん。それが矜持ってもんだからよ。死んでもらうぜ、嬢ちゃん。恨むのなら、浅はかな己を恨みな」

 構える老人。接近されたら終わりだ。

 どうやら、改造などは受けていないようだが……助かったと思えるのならそれは頭が緩い証拠。

 生身の軍人は、機械化したサイボーグよりもはっきり言えば化け物だ。

 薬品投与もなく、機械化もせずに鍛えぬいた己の肉体と経験を戦術にまで昇華した軍人は、安易に道具に頼らずに死線を潜り抜けている。

 個々の戦力において、一番厄介のなのは物理にも精神にも強固な生身の軍人だ。

 強くなければ、生身では生き残れない。況してや、老人。

 つまり、生きてきた年月が、戦ってきた月日が、違いすぎる。

 生身で、老兵。考えられる中でも最悪な相手だった。

「……ほぉ。嬢ちゃん、観察眼はあるみたいだな。大抵のバカは年寄りだと思って舐めてかかるのに、身構えているじゃないか。惜しいな。その目、殺すにゃ今のご時世には勿体ない。素質があるのに、腐らせちまって。虐殺なんぞに使わずに平穏に生きていればよかったもんを……」

 逃げようと後退しているのを、悟られた。同時に、絶対に逃がさないと老人は言う。

 武器はない。徒手空拳だとすれば、格闘技か。

 レンジに入ってこられたら多分速攻で負ける。

 逃げ切るにも、あの鍛えぬかれた速力から逃げ切れるか。

 人形のスペック上、上は上だが……経験値がこの場合ものを言う。

(ムメイ……ごめんなさい。明日の朝日は……見れないかもしれない……)

 折角手にした命を、得体の知れない年寄りに狙われる。

 事情を説明しようにも、相手は臨戦状態。言うだけ無駄だ。

 冷や汗を流しながら、紅蓮の魔女は襲ってきた軍人相手に、決死の覚悟で抗う。

 死ぬかもしれない。そう、久々に思いながら。

「来な、嬢ちゃん。教えてやる、戦いのやり方って奴を」

 構えた老人は、不敵に笑って……魔女に向かって距離を詰めてきたのだった……。








次回予告。

魔女は軍人と戦っていた。

予想通り、老人は化け物だった。

劣勢になり、必死に逃げ回る魔女。

然し、消耗した彼女は遂に、老人に追い詰められた。

彼女は死を覚悟して、抵抗を止めた。

凶器となった拳が、魔女の心臓を穿とうと振るわれた。

その時、魔女の味方が舞い降りる。

次回、人形と誰かの物語

『わたしを怒らせないで』


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わたしを怒らせないで

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来、兵器である人形が人間に、況してや生身に敗北するなどまずあり得ない。

 基礎的な性能が段違いであるはずなのに。

 現実は、矛盾していた。

「はぁ……はぁ……ッ!」

 魔女は、圧倒的に劣勢に陥っていた。

 対して、老人は無傷どころか息の乱れも確認できない。

 余裕綽々。いいや、余裕以前の話。最早自然体。

 戦いとは言い難い、一方的な展開が続いていた。

「頑張るな嬢ちゃん。魔法一辺倒と思いきや、白兵戦の心得もあるか。……本当に惜しいねえ。ここまで才能があるのに、どうして腐っちまったんだが……」

 老人は構えを解かない。

 化け物め、と内心毒づく魔女。

 既に満身創痍。魔法使い打倒のエキスパートは伊達じゃない。

 魔女はもう、弱い出力でしか抵抗できない。

 大技はこの化け物には通用しない。

 隙があったら一撃貰う。普通の魔法使いなら現時点で死んでいた。

 戦いはじめて大体、10の分を刻んだか。何度も致命傷を受けそうになった。

 老人の基本は総合格闘技。蹴り、殴りは勿論寝技に関節技、何でもありだった。

 しかも人体破壊を優先する、殺さずになぶるような技ばかり使う。

 魔女は炎を産み出して投げつけるも、地面を強く踏みつけて衝撃を発生させて、魔女をよろめかせて外せたり。

 剣にして凪ぎ払うも屈んで回避、そのまま懐に飛び込み鳩尾に拳を叩き込まれ。

 炎の波で前方を飲み込もうとすると、跳躍して飛び越えて、蹴りを頭に受けた。

 壁を作って防御をすれば、豪快にもその壁ごとパンチをぶちこみ貫通させて殴られた。

 逃げに走れば足払いから転ばされて、腹に踵落としを受け。

 挙げ句にはそのまま寝技に敢行。肩を脱臼させられた。

(魔力が……痛みで練れない)

 右肩が死んでいる。利き腕を潰されて、残る左腕も折れたようだ。

 内蔵も蓄積した痛みで重い。

 手加減されているのは分かっていた。

 その気になれば、一発で首をへし折り殺しているだろう。

 だが、彼は殺さない。言い聞かせるように、必要以上に痛みつける。

 魔女もある程度は白兵戦の心得もあった。魔法ありきの複合だったが。

 然し、地力が違いすぎる。炎の壁を貫通しておきながら、老人は火傷一つ負ってない。

 脳天に受けたせいか、猛烈な目眩と吐き気。視界が揺らぐ。

「……不思議か。俺の腕が焼けてねえことが」

 警戒しながら、よろよろとお家の方に逃げる魔女を歩いて追う老人は言う。

 やっていた事を後悔させるかのように、彼はこうして魔女を精神的にも追い詰める。

「嬢ちゃんも魔法使いの端くれなら知ってるな。魔法ってのは魔力があっての話だ。となれば、魔力を短時間で練るには、集中力が求められる。なら、ここで問題だ。……魔法使いが杜撰に練った魔力で魔法を使うと、どうなると思う?」

 ……言いたいことは理解できた。

 先程から痛みで集中力が途切れているのがその証拠。

 答えは、こうだ。

「……練りきれなかった魔力は魔法に至る前に分散して逃げる。魔法使いにとって、魔力と集中力は命。集中力を邪魔すれば、魔法自体の性能が落ちて……」

「お見事だ。本来の威力を発揮できなくなる。これを知らない魔法使いは意外と多くてな。普通に使えば普通にできると思ってやがる。魔力さえあればいつも通りの結果が出るとな勘違いしてる奴も結構いるのさ」

 魔女の返答に皮肉を込めて褒める老人。

 要するに、集中できない状態の魔法は本来の威力を維持できずに劣化する。

 邪念が入ったり、痛みで集中出来なかったり、焦って事を急いだり。

 そう言うときに限って、魔法は失敗する。魔法使いは魔力さえあれば良いのではない。

 同時に何事にも動じない精神力と、集中力を求められる。

「で、正確な回答だが……嬢ちゃんには二つの枷がある。痛み、そして焦りだ。その物理的と精神的なものが嬢ちゃん自身の魔法に作用して、精密さに欠けてる。慣れている人間を焼くほどの威力が弱体化した魔法になかった。そんだけの事だ。魔法使いに有効な戦法は、精神的な事も入る。覚えておいて損はないぞ? ま、これで死ぬ嬢ちゃんには関係ないがな」

 魔法の劣化による、ダメージの軽減。後は老人自身の経験もありき。

 全く、嫌になる。言動から察するに、老人は魔女を魔法の国の若者と勘違いしていた。

 しかも、境界線を越えて遊び感覚でスラムの住人を殺していると。

 確かにそういう輩はいる。

 選民主義により、自分達は選ばれし者だから、己よりも下の人間には横暴も許されると言う考えが。

 遊びでスラムの住人を追い回す狩りのような事もしている阿呆も魔女は見たことがある。

 無論、そいつらは火葬してあの世送りにした。

 そんなのと同類と思われても、嫌だったが……実際間が悪いのか殺しているのを見られている。

 今さら、命乞いしても無駄だろう。

 これ以上抵抗しても、お家まではまだ離れすぎている。

 ……逃げ切れない。魔女は、大木に寄りかかって倒れた。

 服が更にボロボロになってしまった。折角ムメイに直して貰ったのに。

 もう、諦めよう。この化け物には足掻いても勝てやしない。

 下手に戦えば苦痛の上乗せをされるだけと理解した。

 誤解と言って今頃何になる。というか、最初から無駄と思う。

「……悔いたか。自分のやっていた事を」

 眼前に立つ老人は腕を組んで見下ろしていた。

 ぐったりする魔女は顔だけで見上げる。

「お前さんは利口そうに見えるんだがな……。何でこんなことをしたのかを聞く気はねえ。だが、生憎俺は引退したとはいえ、この国の軍人だ。自国の住人が殺されているのを、黙ってみているつもりなぞないんでな。軍人としての矜持がある。……反省しているようだし、これ以上はもう苦しませる必要もねえな。安心しろ。最期は一発で眠らせてやるよ」

 拳を振り上げた。ああ、終わった。魔女は思う。

 このクソのような人生において、最後は面白い人形と出会えた楽しいと思える時間があって良かった。

(……お仕舞い、ね……。ごめんなさい、ムメイ。もう、二度と会えないけど……元気でね)

 目を閉じた。あの変な人形のことを思い出して、魔女は生きることを諦めて、死ぬことを受け入れた。

 覚悟が完了したと老人は思ったのだろう。

 一言、告げた。

「安らかに眠れ、聡明な魔法使い。来世はこんなことをしないよう、優しい世界で生きるといい」

 降り下ろされる一撃。頭蓋を壊して、それでお仕舞い。

 魔女の人生は、痩せた森の栄養になる…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハズだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何してるの」

 

 不意に。

 

 何の気配もなく。

 

 背後から、幼い少女の声がした。

 

「!!」

 

 老人は重ねてきた経験上、危険と判断して裏拳で迎撃した。

 何も悟れずこの近距離まで迫られている異常性にすぐに気がついて、全力で撃ち込む。

 それを。

「……」

 少女は。

 片手で。

 止めた。

 鍛えに鍛えた拳は、巨大な岩をも砕き、人間の骨すら粉砕する威力を持つ。

 子供が受け止めるほど柔ではないし、弱くもない。

 だが、真後ろに立っていた子供は、あろうことかその剛の一撃を防いだのだ。

 老人は振り向いて蹴りを放つ。

 地面を穿ち穴を開ける槍に似た速度と威力を子供は簡単に見切り、爪先を掴んだ。

「止めて。わたし、戦いに来たんじゃない」

 足を掴んでそういうと、片手でそのまま老人を背後に放り投げた。

 凄まじいパワーだった。抵抗できずに放る老人。

 空中で体勢を建て直し、距離を離して構え直す。

 敵意は薄い。にも関わらず、魔法使いとは思えない反応速度とハイパワー。

 強化魔法を使っていてもここまでは早々出るまい。見たことのない相手がいた。

 それに。老人は気がかりがあった。

(なんだ、あの子供。殴った感触が微妙に違う……? 妙だな。人間離れしたあの動きといい、魔力を感じねえ事といい。何者だあの嬢ちゃん……)

 警戒する老人を無視して、ぐったりとしている魔女に歩みよった。

「ん……ムメイ? どうして……ここに……?」

「生きてるね、魔女。少し騒がしいから、助けに来たよ。大丈夫。すぐに治すから、待ってて」

 魔女はまだ生きていた。

 ざっと調べる。臓器がいくつか破損。複雑骨折。脱臼、裂傷に打撲。大ケガだ。

 一気に治療してしまおうと軽く手を握る。接続完了。ナノマシン送信。

 あの魔法使いの増援。治癒しようとするのを、阻止するべく老人が詰め寄ろうとする。

 

 途端。

 

「わたしを怒らせないで」

 

 子供は初めて、敵意を出した。

 そして老人の長年の直感と経験、本能が警告した。

 近寄ってはいけない、と。

 ここに来て老人は己が踏ん張って後退を堪えている事に気づいた。

 無意識に、足を下げようとしていたのに老人は大層驚いた。

 これはつまり、敵の威圧感に気圧されている証拠。

 冷や汗をかいて、鳥肌を感じている時点で言い訳のしようがない。

 老人は、ようやく分かった。己の身体が意識よりも先に判断した理由が。

「参ったな、一瞬で空気が変わっていやがったか……」

 そう。子供の周囲の空気が変わっていた。

 寸前のところで、死線をくぐった直感が足止めした。

 でなければ、もう死んでいる。

 比喩ではない。実際、本当に空気が変化していたのだ。

 子供は感心したように言った。

「へえ、気付くんだ。普通なら見えないんだけど。わたしの周りに、見えない罠があることって」

「ギリギリだったがな……。危ねえ危ねえ。危うく解かされて消えちまうところだったぜ……」

 本当に瀬戸際だった。

 一歩でも前に出れば、そのまま虚空に蝕まれて融解する寸前だったのだ。 

 彼女の周りに浮遊している、見えない小さな悪魔たちに。

 老人は分かった。

 あの子供は、人形だ。兵器として製造された一級品。

 話は試作段階で聞いて知っていた。

 人形の技術に革新をもたらす新発明だと。

「嬢ちゃんは人形か。……しかも、それは風の噂で聞いたナノマシンって奴だな。驚いた、もう実用化されたのか」

「正解。おじいさんは誰? 魔女になんでこんなことしてるの?」

 人形と名乗る彼女は、老人に振り返らずに聞く。

 老人も手早く答えた。

「なに、俺は放浪している単なる根無し草のロートルの軍人上がりさ。そこの魔法使いがスラムの住人を殺したんで、始末しようと思って戦っていた。一応元々軍人なもんでな。見過ごす訳にもいかん」

「ふぅん……」

 彼女はスムーズに治療していく。

 忽ち回復する魔法使い。魔法顔負けの速度に老人は感心した。

「やはり魔法じゃねえな。そっちの嬢ちゃんは魔法使いだったが……ん、待て。本当に魔法使いだったか?」

 老人は、子供が治癒しているのを見て魔法ではないと判断した。

 理由は殴ったときの違和感。

 人間を数えきれないほど殴ってきているから、手が覚えている感触。

 然し、受け止めたあの感触は人間のモノではない。

 と、思い出す。あの魔法使いも、殴ったときの感触が微妙に人間とは異なっていた。

 確かに魔法は使う。でも、魔法一辺倒魔法使いとは違って白兵戦もこなした。

 そして妙に打たれ強かった。と言うことは、見たことのない相手だったが憶測はついた。

「……そっちの嬢ちゃんも、人形か?」

 念のため聞くと、治療され復活した魔女が立ち上がって言った。

「ご明察。私は人形よ。名前はないわ。でも、『紅蓮の魔女』って呼ばれることは多いわね」

「ほぅ……」

 名を聞いたことはある。あの通り魔の魔法使いか。

 然し、そんな奴がなぜこんな場所で人を殺していた。

 噂によると、人形と魔法使いを始末するという話だったが。

「わたしも知りたい。何してるの?」

 救援にいた人形にも問われ、端的に魔女は理由を説明する。

 すると、老人は渋い顔で腕を組んだ。

「んだよ、アイツら単なるならず者か。そうならそうと言ってくれよ嬢ちゃん。俺だって無法者を守るために拳を振るうことはないぞ」

 早く言えばよかっただけ。

 魔女が何も言わずに迎撃したせいで、ややこしい事になった。

「ごめんなさい……」

「いや、俺も目付き悪いから、怒ってると言い出しにくいって若い頃から言われてたんだが……すまん、この通りだ」

 頭を下げて謝罪する老人。

 人形は治療を終えて、人形の手を掴んだまま繋いでいる。

「ねえ、もういいかな。魔女に酷いことしたくせに」

「面目ない……。ああ、待ってくれ。このままじゃ筋が通らん。俺に詫びをさせるチャンスをくれ! 頼む!」

 だが、どうやら老人は気がすまないようだった。

 何か、自分に出来る誠意の形をしたいと申し出てきたのだ。

 結構だとムメイが言うが、頑固な老人は引き下がらない。

 やがて、魔女が良いことを思い付いた。

「……ムメイ。この人、お家に住んで貰いましょ」

「え、何で?」

 ムメイは驚いた顔で魔女に問う。

 老人も意外そうに魔女を見る。魔女は言った。

「今回みたいなことはわりとよくあるでしょ。やっぱり、女だけの生活は危険が伴うわ。幸い、この人は根無し草……住んでいる場所がない、でいいのよね?」

 老人に問うと、首肯。今はスラムの一画で生活してるらしい。

「だったら、お家に来てちょうだい。戦ってみて分かったわ。軍人だもの、人格的にも信用は出来ると思う。何かあればムメイが殺せばいいし、そっちの心配もおじいさんだから多分大丈夫。……大丈夫?」

「バカか。俺はロリコンじゃねえよ。そんなんが軍人出来るかい」

 憤慨する老人。人形は少し悩むが、男手がいるのは確かにいい。

 渋々、魔女に賛同した。

「じゃあ、魔女を守って。酷いことしたお詫びは、魔女の護衛して。それで流す」

「おう。了解したわ。なんか突然お邪魔しちまって悪いな、嬢ちゃんたち。俺みてえな爺でも役立ってみせるわ」

 ため息をついて、新しい住人と護衛の兼用で仕方なく、家主の人形は受け入れた。

 因みに老人はイバと名乗った。元は軍の教官をしていたらしい。

 だから戦闘中にあんな問答をしていたのか。癖らしい。

「おう、誤解も解けたところで……嬢ちゃん。どうだ、少し白兵戦のイロハ、学んでみる気はあるか?」

 イバは魔女に白兵戦の勉強を教えたいと言ってきた。

 帰り道、荷物を取りに行ったイバを迎えてお家に向かう道中の出来事。

 魔女は軍仕込みの技術に興味がない訳でもない。

 いわく、素質があるとイバを言うが……。

「嬢ちゃんのスタイルは結構面白え。俺もまだまだだな。若いもんに教えられる事がある」

 というか、魔女と一戦交えて興味が出てきたとか。

「こう見えて、サバイバル知識とかも自慢じゃねえが一頻り持ち合わせてるぜ。なに、そっちの嬢ちゃんにゃ負けるが、バカにならんぜ、経験ってのは」

「それはあると思うけど……わたしとも一戦、やる?」

「年寄りにトドメ差すつもりかい、嬢ちゃんよぉ。ナノマシンは流石に管轄してねえ」

「何事も経験、だよ。ちょっと殴りあいするだけでいいから」

「手加減してくれよ手……。ってか、怒ってるのか?」

「完璧に怒ってるね。血祭りにあげないだけ甘くしてるから」

 一度スラムに取りに行ったイバを迎えて、お家に向かう道中の出来事。

 新しい住人となった彼は、お家の小さな部屋をイバの部屋にした。

 こうしてお家にまた一人住人が増えるのだった。

 因みにイバは人形とも軽く戦って、身体にナノマシンを注入された結果、今まで悩みだった肩凝りがとれて更にパワーアップしたのだった……。









次回予告。

新しい住人として、軍人が同居人となった。

共に生活する彼らに、更なる騒ぎが舞い込んだ。

今度の原因は……人形だった。

現れるは個性の強烈なストーカー。

人形を運命の人と言う彼女は一体……?

次回、人形と誰かの物語

貴女は運命の人なの!!


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