アニメ星のカービィ (屋根裏部屋の鼠)
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物語の幕が上がる前に、小話を添えて
名もなき旅人


アニメ『星のカービィ』の二次創作です。
初投稿なので及ばぬ点は多々あると思いますが、温かい目で見守って頂ければ幸いです。


 春風とともにその旅人はやってきた。

 

 

 時に、旅人は国の秘宝と食べ物を奪って独り占めにした大王を懲らしめた。

 

 時に、旅人は悲しいすれ違いを経て人々から夢を奪った大王をやっつけた。

 

 時に、旅人はボールとなって夜空に浮かぶ星々を盗んだ大王をとっちめた。

 

 時に、旅人は虹の島々の宝物を全て隠した闇の一族の者と戦って勝利した。

 

 時に、旅人は国家転覆を企む騎士を止め銀河の掌握を望む道化を排除した。

 

 時に、旅人はたくさんの友人と達冒険をして零の名を持つ強敵と出会った。

 

 時に、旅人は妖精の星を救うべく結晶を集め零の名を持つ強敵を退治した。

  

 時に、旅人は鏡の国の中心で精神の名を冠する闇の一族の者を屠り去った。

 

 時に、旅人は自分から手足を奪い絵画の世界に閉じ込めた魔女を討伐した。

 

 時に、旅人は怪盗団と菓子を巡り争った後に零の名を持つ敵を蹴散らした。

 

 

 旅人の快進撃は未だ止まらない。

 草を蹴散らし野原を駆け巡った。

 山を只意味もなく登り降りした。

 海を踏破し幾多の生命と会った。

 風を操り敵を吹き飛ばしもした。

 土を掘り星のへそすら踏破した。

 水中で泡を飛ばす遊びを作った。

 金属すら何のそのと踏んばった。

 火を使い沢山の爆弾を破壊した。

 

 

 砂の渓谷だって、ソーダの海だって、地面の下だって、木のうろの中だって、お空の上だって、夢だって、悪夢だって、工場だって、理不尽なやり直(0% 0% 0%)しだって、戦艦だって、ブロックで出来た世界だって、絵画の世界だって、毛糸の世界だって、蔦葉に覆われた世界だって、機械に侵された世界だって、邪な心に皆が汚染された世界だって、銀河の果てだって。

 その全てを踏破し、時に破壊し、時に修復し、何十回と異なる事件の下手人を撃破してきた。

 

 

 

 その星で彼の旅人を畏れる者もいるだろう。

 その星で彼の旅人を讃える者もいるだろう。

 その星で彼の旅人とは敵だと言う者もいるだろう。

 その星で彼の旅人と友人だと言う者もいるだろう。

 その星で彼の旅人の名を知らない者はいないだろう。

 その星で彼の旅人の雄姿を忘れる者はいないだろう。

 

 

 

 人々を守り、星々を守り、夢を守る。

 まだ若く勇猛果敢で食いしん坊な勇者。

 そんな彼の旅人の、話をしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───いや。

 

 

 

 どうせなら、そんな旅人の“も(IF)も”の話をしよう。

 

 

 もし、彼が若い旅人ではなく、“幼い戦士”だったら。

 もし、彼が住むことになるプププランドという星が、ププビレッジという名前の村しか存在しない小さな国だったら。

 もし、彼のライバルであり親友でもあった大王が、悪逆の限りを尽くす愚か者になっていたら。

 

 

 

 そんな有り得べからざるお話を、しかし確かに存在していた話をしよう。

 

 

 

 

 

 

 




この作品は星のカービィ25周年を記念して執筆し始めたものです。
ストーリーの展開の大まかな方針は基本的にアニメ本編に沿ってお話を進めていき、所々にオリジナルエピソードやオリジナル魔獣を交えたお話を差し入れていきたいと思っています。

また「こんな展開を見てみたかった」「あの魔獣(雑魚敵)が出演してたらな」「◯◯の出番や絡みをもっと増やして欲しかった」といった要望や願いがあれば、どんどん物語に取り入れていきたいと思いますので宜しくお願いします。

※ただし更新は不定期かつ亀です



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物語の幕が上がるその前に

アニメ本編の時代より前のちょっとした昔話。
ストーリー本編は次話からとなります。



 遥か昔のこと。

 

 

 何処とも知れぬ宇宙の中で、ある男が会社を立ち上げだ。

 男の名は『ナイトメア』

 夢を操る悪魔であり、夢でのみ生きられる存在であり、夢の中でのみ死ぬことを許された概念たった。

 

 創られた会社の名は『ホーリーナイトメア社』

 株式会社としての体裁を持つその会社は、ナイトメアのある思惑を達成する為だけに創られたと言っても過言ではなかった。

 

 

 それは────全ての銀河の征服。

 

 

 ともすれば大言壮語とも捉えられかねない目標ではあったが、彼と彼が創設したホーリーナイトメア社にはそれを成し遂げられる十全な準備と十分な能力があったのだ。

 

 手始めに、彼は生命という種の根源要素を改変する力の体系化に着手した。

 彼がそこで目指したモノとは、生物を遺伝的レベルに改造する技術をより飛躍させたことにより生じる、既存の種の改新と新な種の創造だった。

 

 そして彼の目論みは見事成功を果たし、やがては古代に栄え亡んだあの惑星ハルカンドラの科学技術にも引けを取らない程の、もはや魔法の域に足を踏み入れた超技術を得るに至った。

 残念ながら技術体系そのものの名称や、その技術自体の呼称は明らかにされていないが……一つだけハッキリしていることがある。

 

 その技術によって製造、いや生産された()達の名は『魔獣』と呼ばれていた。

 

 

 ホーリーナイトメア社は何千、何万、何十万と大量に生産した魔獣達によって瞬く間に周辺の惑星を侵略し、次々とその支配下においていった。

 

 彼の傘下に下った国や星や銀河の数は数知れない。

 彼に反旗を翻し儚くもその命を散らした者も、また数知れない。

 そして何十、何百、何千年と時が経つ間に、彼───ナイトメアは何時しか『闇の帝王』と呼ばれ畏れられるようになっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

    ◯ △ ◯ 

 

 

 

 

 

 ホーリーナイトメア社によって大量に創られた魔獣達には様々な種が存在している。

 また各々の種はそれぞれ異なる能力を保有しており、中には単独で国や惑星を滅ぼせる者もいた。

 

 巨大化する能力を持つ者。

 類い希なる剣技と剣才を持つ者

 金属すら容易く切断する爪を持つ者。

 大岩を軽々と持ち上げる程の膂力を持つ者。

 星を強制的に氷河期へ変えるほどの冷気を持つ者。

 

 「彼等の存在が無ければホーリーナイトメア社の征服範囲は今ほど広がっていなかっただろう」そう言われる程にホーリーナイトメア社にとって魔獣は欠かせない存在となっていた。

 事実、火や水や氷やガス等で構成された厳しい環境の惑星に暮らす住人達を素早く制圧・征服しえれたのも、多種多様な能力を持った彼等が大量に居たからこそ為しえたモノであるのは自明の理であっただろう。

 

 

 

 

 ────だが、ここでナイトメアが想定しなかったイレギュラーが起こることとなる。

 

 幾多もの能力を持ち、数多もの素質を持った魔獣達。

 そんな彼等を造っていくうちに“ある能力”を持った魔獣が生まれてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 そう、『正義の心』を持つ魔獣の誕生である。

 

 

 

 

 

 正義の心を持った魔獣達の行動は迅速かつ精確に行われた。 

 同じ意思を持つ者同士で徒党を組み、未だホーリーナイトメア社に抵抗していた国々と結託して徹底交戦を開始したのである。

 

 圧倒的な物量によるナイトメアの征服の前に、しかし彼等は臆せず挑み続け、戦況は均衡を保っていった。

 不思議なことに正義の心を持った魔獣達は、 “個としての質” が通常の魔獣と比べて異様に高かったのだ。

 

 自称か、はたまた他称かは分からないが、何時しか正義の心を持った魔獣である彼等は『星の戦士』と呼ばれ、そんな彼等が集った組織のことを『銀河戦士団』と人々は呼ぶようになっていた。

 

 

 

 時は流れ。

 ホーリーナイトメア社と銀河騎士団との戦いは依然として苛烈さを極め、両陣営ともに多くの犠牲を強いられていた。

 血で血を洗い、互いの屍で星々を埋めつくし、涙を流さんと見開いた瞳で敵を睨む、終わりの見えない血みどろの戦争。

 後に『銀河大戦』と言われる宇宙史上最大規模のこの大戦は、無力ながら天に縋ろうと伸ばす手首すら無惨に切り落とされる悲しき戦争だった。

 

 

 そんな膠着状態が続く最中、とある一人の剣士が伝説の武器を手に入れることで戦況は大きな転換を余儀なくされる。

 

 その剣の名は『宝剣ギャラクシア』

 

 光の種族フォロトンが鍛造した神秘の剣であり、ナイトメア本人をして宇宙征服の可否を握る鍵だと断じた至高の武器であった。

 

 

 

 

 

 

   ・ × ・

 

 

 

 

 

 抜刀時に雷を纏い刀身を形成する摩訶不思議な魔剣にして、相応しき所有者にのみ己が力を明け渡すと云われる宝剣ギャラクシア。

 そしてその伝説の剣の所有者として選ばれた剣士によって、長らく続く銀河大戦という名の天秤は漸く銀河戦士団の優勢へと傾くかと思われた。

 

 

 だが、現実はそれほど甘くはなかった。

 

 

 確かに宝剣ギャラクシアの性能は素晴らしかったのだろう。

 確かに伝説の剣に選ばれた剣士の才覚は目覚ましいものだったのだろう。

 確かに銀河戦士団の必死の抵抗には目を見張るものがあったのだろう。

 

 

 しかし忘れてはならない。 

 もはやホーリーナイトメア社の顔とも言える、強力な力を持った魔獣達。

 そんな様々な能力を持ち多種多様な特性を有する魔獣を、ホーリーナイトメア社は大量に生産することが可能だったのである。

 それこそ、()()()()()()()に。

 

 

 魔獣を1体倒されたなら、魔獣を10体作れば良い。

 魔獣を10体倒されたなら、魔獣を100体作れば良い。

 魔獣を100体倒されたなら、魔獣を1000体作れば良い。

 

 ホーリーナイトメア社がとった方法は策も戦略もへったくれもない、極めて原始的な人海戦術ではあったものの、戦力の補給が容易に出来ない銀河戦士団にとってそれは致命的とも言えるモノであった。

 

 倒せども倒せども一向に数が減らず、むしろ次第に苛烈さを増していく魔獣達の猛攻。

 銀河戦士団の団員はホーリーナイトメア社の攻撃の前に一人また一人と力尽きていく。

 

 

 

 ……そして、遂に崩壊が始まった。

 

 

 

 銀河戦士団の中でトップクラスの実力者である『戦士ジェクラ』、彼はナイトメアによって洗脳され味方を襲い出し貴い犠牲となった。

 

 諜報や暗殺において右に出るものはいないと言われ敵味方問わず恐れられていた『忍者ヤミカゲ』、彼は銀河戦士団を裏切りナイトメアの刺客となった。

 

 銀河戦士団で名実ともに最強と呼ばれた『パルシパル卿』、彼は当初はバラバラだった戦士団を纏めあげ皆を率いて戦ったリーダー『オーサー卿』と共に消息を断った。

 

 魔獣『キリサキン』による宝剣ギャラクシアの強奪。

 

 勇猛な女戦士『銀河戦士ガールード』の戦死。

 

 銀河戦士団きっての実力者『ノイスラート卿』と『パラガード卿』の行方不明。

 

 星の戦士の殺害に特化した魔獣『マンビース』の一斉投下による下級団員の大量虐殺。

 

 

 まさに阿鼻叫喚としか言えない惨状を前に、残された銀河戦士団の団員達は為す術がなかった。

 間もなくして銀河戦士団という組織は瓦解し、所属していた星の戦士達は全滅の一途を辿ることとなる。

 

 

 こうして弱き人々の希望の星『銀河戦士団』は“全滅”し、歴史の表舞台から姿を消していくのであった。

 

 

 

 

 ────およそ今から数万年前の話である。

 

 

 

 

 

 

   × ◇ ×

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡り、現在。

 

 宇宙の片隅にある辺境の銀河の中に小さな影が浮かんでいた。

 それは星を模した形を持つ黄色い宇宙船だった。 

 そして丸みを帯びた5つの突起が特徴的なその宇宙船を良く見てみれば、中央にある透明な防護壁からピンク色の影が覗いていた。

 

 影は一体何者かのか。

 影がこれから何を為すのか。

 

 

 それはまた、後のお話。

 

 

 




作中でちょっとづつ小出しされ、語られていた銀河大戦の流れを大雑把に纏めたものです。

アニメ本編を見たことある方の中でもこのエピソードだけ聞いてピンとくる方は少ないかと思われますが、『戦士ジェクラ』という名前は正確に言えば誤りであり真の表記は『ナックルジョーの父』となっています。
あの公式本のプププ大全でも使われている名称なのでこれが正しい名前なのでしょうが、如何せん格好良く無いなという理由から海外ファンの間で呼ばれている(らしい)名称で本作品では呼称していきます。

また本作品はアニメ本編が100話もある超大作のため、自分の力だけでは作中の情報を全て集めきれないという理由から、幾つかはwikiやまとめサイトの情報を参考にしています 。
なおタグに独自解釈とあるように『ホーリナイトメア社の設立理由』や『マンビースの大量投下』など、原作では一切語られていない追加設定もちらほらあります。


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【第一話】出た!ピンクの訪問者!
羊たちの悲劇


星のカービィ27周年、そしてカービィお誕生日おめでとうございます。


 

 

 銀河の片隅のその更に片隅に位置している小さな星。

 その名も『ポップスター』

 

 豊かな自然と豊富な資源に恵まれたその星には一つだけ、これまた小さな村が存在していた。

 村の名は『プププビレッジ』

 

 住民の大半が主にキャピィ族とワドルディ族で構成された多民族村落であり、時に「呆れ返るほど平和な村」とさえ称される程にのどかな場所だった。

 

 ここはそんなプププビレッジの一端に位置する、なだらかな丘の上に作られた広大な牧草地。

 村の纏め役であるレン村長が所有する、主に羊の畜産を営むための放牧地だ。

 そしてこの物語の始まりであり、全てのことの発端は、そんな僻地で起きたとある怪事件だった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 放牧地の片隅には小さく簡素な作りの小屋が建っていた。

 小屋には一人の青年が住んでおり、彼はレン村長が経営する羊牧場の管理を任された羊飼いだった。

 

 彼の朝は早い。ともすれば彼は村唯一の郵便配達員であるモソ爺さんや、毎日早朝から棚卸しを欠かさないタゴよりも早い時刻から活動しているかもしれない。

 村人達に語って聞かせたことは無いが、村外れにある小屋に居を構える彼の胸中にはそんな自負が少なからず存在していた。

 

 

 その日は淡い光を放つ三日月がよく映える静かな夜だった。

 ふと、男は目を覚ました。

 何やら小屋の外が騒がしく、その喧騒に叩き起こされたのだろう。

 

 

(……なんだ?)

 

 

 違和感は直ぐに訪れた。

 壁を丸く堀抜いた穴に木枠を嵌め込んだだけという、簡素な作りの窓から覗く夜空は深い藍色で満たされており、その夜空の真ん中には三日月が高く浮かんでいるのだ。

 明らかに夜明けどころかまだ深夜の真っ只中であった。

 

 てっきり早朝に羊達が騒いでいるのかと思えば、現在の時刻が恐らく夜更け頃であった事実に男は疑問符を浮かべる。

 少なくとも男が羊飼いを務めている間に、このような夜間に羊が煩く騒ぎたてるのは記憶になかった。

 

 

(…少し様子を見に行くか)

 

 

 彼は細かく動く度に木材特有の軋みをあげる寝台から降り、そのままややガタつく床板を大股に踏みしめて作業台の前に立った。

 作業台とその周りの壁には、男が羊飼いを営む上で乗用している道具類が沢山置かれていた。どの道具もきちんと整備されているのが見てとれる事から彼の性格が伺える。

 

 ところで、羊飼いが羊の飼育をしていく上で扱う道具の種類は決して少なくはないのを知っているだろうか? 

 歩行の助けとなる杖を始めとして、躾の際に振るう鞭、石や硬い果物を入れた武器にもなる小袋、羊への指示を行き届かせるための笛等々。

 重装備とは言えないだろうが、多少の手間暇や携行力を必要とされはするだろう。

 

 

 とはいえ先日、紙舟を川に浮かばせる仕事に勤しんでいたブンやホッヘといった村の子供達に「交通整理中のボルン(立ったまま居眠りをす)署長と同じ様な職業(るだけの簡単なお仕事)の人」と出合い頭に揶揄されてしまい、微妙な顔を余儀なくされたのは彼の記憶に新しい。

 

 確かに羊飼いという職は端から見れば日がな一日中ボーっとしているように見えるかもしれない。

 だがいざ真面目にやるにはそれなりの道具と能力が必要な職種でもあると、彼は己の職に少なからずの矜持を抱いていた。

 

 もっとも、この村の住人の特徴である短絡的で騙され易い思考と、異常なまでに平和惚けした頭をもれなく持ってしまっている彼にとって、その矜持とやらは水に浮かぶ紙舟よりも心許ないモノなのだろうが。

 

 

(…取り敢えず杖と笛だけは持っていこうか)

 

 

 外の様子を視認してから細かいことは考えるとして、とりあえず適当な道具だけ持って小屋の外に出よう。

 少しの間どの道具を持っていくかで悩んでいた男が、そう結論づけて作業台の上に並べられた道具へ手を伸ばした──その時だった。

 

 

『メ、メェェエェェーーーーー!』

 

 

 小屋を隔てて立つ男の耳朶を強かに打ち付ける羊達の大きな悲鳴。

 男は咄嗟に伸ばしかけていた手を引っ込めると、直ぐに駆け出し、あわだたしい足取りで入口の扉を開け放った。

 羊達の身に一体何が起きているのだろうか?

 

 混乱した頭で寝間着姿のまま小屋の外に足を踏み入れた男は、次の瞬間には自身に降り注いできた白い塊に驚き思わず尻餅をついてしまう。

 白い塊はカラカラと軽い音をたてて次々と地面に散らばっていき、すぐに腰ほどの高さまで積み上がり小山を形成していった。

 

 目まぐるしく変化する現状に目を白黒させる男だったが、次の瞬間“あること”に気がついて凍りついてしまう。

 

 

 己の周りに散乱している白い塊はここで飼育していた羊達の白骨であり、そして───この惨状を築き上げた下手人が、今己の目の前にいるという事実に。

 

  

 ()()は夜の闇に深紅を混ぜたような赤黒く禍々しい体色を持ち、本来は胴体である場所には黄色に怪しく光る二つの目があった。  

 ()()は未だに触腕で捉えていた羊()()()ものを無造作に地面へ打ち捨てていた。

 ()()は大きなタコだった。

 

 それも1mや2mといったちゃちな大きさではなく。

 触腕一本一本が羊飼いの全長を優に越える巨駆を誇っており、そして如何にも怒り心頭とばかりにその鋭い相貌と漏斗官を以って此方を倪下していた。

 

 

「オアアァァァァァ!!?!」

 

 彼は咄嗟に両手を頬に当て、喉からはち切れんばかりに叫び声を溢れさせていた。

 見る人が見れば“ムンクの叫びみたいだ”と揶揄られただろう姿勢を取る彼だったが、腰が砕けてしまったのかその場から離れる事はかなわなかった。

 

 巨大なタコは暫く何をする訳でもなく彼を睨んでいたが、やがてふいと興味を無くしたかの様に顔を背けたかと思えば、ふわりと浮かび上がりそのまま夜空に飛びさって行った。

 

 徐々に、しかし圧倒的な速度をもって闇に姿を溶かしていくタコの行方を呆然と追いかける彼の目は、恐怖からか朧気ない視界を通して“ある建物”を捉えていた。

 

 

 ここらの村では明らかに浮いている建築物であり、村からやや外れた絶壁の上に居を構えるその建物の名前は──“デデデ城” と呼ばれていた。

 

 

 

 



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忍び寄る赤い悪魔の影


星のカービィ28周年、そしてカービィお誕生日おめでとうございます。
友人から「星で年一投稿とか七夕伝説みたいだな」と謎の煽りを受けたので初投稿です。
流石に短すぎるから後で書き加えるかも


 月が高く登り、時刻も夜遅くを過ぎた頃のこと。

 村外れの断崖に居を構えるデデデ城はにわかに騒がしくなっていた。

 レン村長の牧場の羊飼いを筆頭に、村の若い者達が押し寄せた為である。

 

「何?巨大な怪物が羊を食ったでゲスと?」

 

 遅めの夕食をとっていた城主のデデデ大王に代わって彼らを迎えたのは、プププビレッジの宰相エスカルゴンだった。

 エスカルゴンは村人達の言葉に眉根を潜め、不機嫌だと言わんばかり背中に背負う大きな殻と口髭を震わせている。

 

「は、はい!その怪物は確かにこのお城に──」

「ハンッ、だまれい! そんな怪物がこのデデデ大王様のお城の何処に居ようぞ!」

 

 衛兵のワドルディから分捕った槍を使い村人を威すエスカルゴン。今夜に限り幾度か繰り返されたその口論をいよいよ終わらせようとばかりに語気を強め、その剣幕に村人達も一人一人と口を閉ざし始めていた。

 

「待ちなさいよドクターエスカルゴン!少しは話を聞いてあげたら?」

「そうだ、偉そうに!」

 

 と、諦めて踵を返そうとする村人達はエスカルゴンを諌める少女の声で足を止める。

 騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう、エスカルゴンを制止させる様に隣に並び立った少女の名前はフーム。このプププビレッジの大臣であるパーム大臣の子女であった。

 

「生意気なフームにチビのブン。お前らの出る幕ではないわ!子供は子供もらしくさっさと寝るでゲスな」

「ぬぬぬ……パパ、何とか言ってやってよ!」

 

 エスカルゴンは姉の言葉に元気よく合いの手を打つブン共々横目で見やると、下卑た笑いを浮かべて一蹴する。

 突き放す様なエスカルゴンの言に返す言葉が見つからなかったのか、フームは同じく騒ぎを聞きつけてやって来ていた父親──パーム大臣へ助けを求めた。

 

「怪物かあ、多分陛下の仕業だろうなあ」

「それしかないわねぇ」

「こっこの!仮にも陛下にお仕えする大臣の癖に!大王様、コイツラは皆極刑でゲスな!」

「ぐあっはっはっはっは!まあ待てゾイ。その怪物とはこいつのことか?」

 

 パーム一家の言動に思わずいきり立つエスカルゴン。そんな彼を止めたのは食事中のデデデ大王であった。

 デデデ大王は右手に肉の塊を刺したナイフを掲げ、左手に持ったフォークで行儀悪くも部屋の壁に設置された水槽へ指し示す。

 水槽の中にはフーム握りこぶし2つ分ほどの小さな赤いタコが浮かんでいた。

 

「あっアイツだ!アイツが羊を食べたんだ!」 

「ぐあっはっはっはっは!これはワシの可愛いペットのオクタコちゃんゾイ。ほ〜らおいちいシシャモでちゅよ〜」

 

 食器を置き椅子から立ち上がったデデデ大王が猫なで声で懐からシシャモを取り出しオクタコに餌をやる。

 甘えた顔でシシャモを口にするオクタコは、村人達から見てサイズ的にも基質的にも羊を食うようには見えなかった。

 

「こんな可愛いペットがどうやって羊を食べると言うゾイ、でゅあははははは!」

「全くでゲスな。ほら、早く下がらんと裁判抜きで極刑的でゲスよ!」

 

 エスカルゴンは今度こそ話は終わりだと今度はパーム一家も含めてまた衛兵の槍を使って村人を追い立てる。

 その槍の合間を掻い潜りデデデの目を盗んで水槽に近づいたフームはじっとオクタコを見つめた。

 

(またぞろデデデとエスカルゴンが悪巧みにしてるに決まってるわ)

 

 プププビレッジの住民なら共通認識である大王への不信感を込めて睨みつける様に見つめ続ける。

 オクタコは焦げたようにくすんだ赤い体色に呑気そうな顔が特徴的だ。だがフームには何処か自分を睨み返しているようにも見えていた。

 結局エスカルゴンに見つかり追い出されるまでフームはオクタコから目を離す事ができなかった。

 

 



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