戦騎絶壊ディケイド (必殺仕事人BLACK)
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01

戦闘までいけなかった。
つか、深夜で頭がおかしい。


20xx年、人類にある天敵が現れた。

 

 

それは、奇っ怪な様々な姿形を持った怪物。意思疏通は不能。奴等は突然現れては、人を襲い、自身諸とも人間を炭素の塊へと変えて殺していく。奴等は大量に現れては、その場を一瞬で地獄に反転させる大量殺戮者どもである。

 

 

突然大量に現れて人間を襲い、時間が経てば勝手に消えていなくなる。さながら、嵐や台風のようだ。故に、それを一種の自然災害になぞらえて、奴等はこう呼ばれるようになった。

 

 

──認定特異災害ノイズ。通称『ノイズ』

 

 

各国はそのノイズに、あらゆる対策を施したが、その尽くが無意味だと知った。思い知ってしまった。

 

 

先に述べた通り、奴等は一種の災害である。そして人類は今現在まで未だに自然災害への、有効的な解決策を編み出していない。それはノイズも、同じだった。

 

 

位相差障壁──ノイズが所有する能力であり、ノイズを災害たらしめている大部分である。

 

 

簡単に言えば、ノイズはこの力で非実体と実体とを使い分けているのである。

 

 

非実体であるときは、ノイズにはあらゆる攻撃が通用しない。銃弾の雨も爆弾の熱と爆風も全てすり抜けていくいくのである。そして実体になる瞬間の大体が、人間を殺す時だけである。

 

 

これによって既存の兵器は全て無力化され、ノイズに近づかれれば瞬くまに人間は炭素の塊になっていく。これがノイズに対する全人類の認識だ。

 

 

現状、ノイズには活動時間が存在し、それを過ぎればノイズはその場で炭素変換し自壊するということが判明している。よって、ノイズが発生すれば自壊するまで逃げ回る。

 

 

以上が、現在ノイズの脅威から逃れる手段である。

 

 

人類がノイズに敵わない存在と知り、日々不定期に現れるノイズに怯えながら過ごしているとき、ある変化が起きた。

 

 

それも、全世界を揺るがすほどに。

 

 

ノイズが認定特異災害として発表されてから、十年目になってからだった。

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

とある日本の都市部。

 

 

昼下がりのどんよりとした曇天の下、人々の悲鳴が響き渡っていた。

 

 

ノイズが現れたのである。

 

 

ノイズは突然、予兆もなく現れる。それに例外はなく、ノイズは近くにいた人間を片っ端から炭素に変換して殺した。

 

 

そこでようやく、運良く巻き込まれなかった人々は、奴等がノイズだと認識し、次いで狂ったように叫びながら逃げ出した。遅れて、避難警報が鳴り渡り都市部にいた人々は、パニック陥りながら避難シェルターに殺到した。

 

 

そんな中、一人だけ人波に逆らってノイズのもとに早足で向かっている人物がいた。

 

 

ワインレッドのYシャツに薄紅のネクタイを締めた、筋骨隆々の大柄の男であった。

 

 

混雑している人波に苦もなく逆らって進み、その表情に恐怖はなく、強い決意を秘めた漢の顔をしていた。ペースを緩めず男は耳に当てている、小型通信機に指をあてながら、口を開く。周りに聞こえないよう、細心の注意払いながら。

 

 

「朔也、翼と奏はいつごろ到着しそうだ?」

 

 

『現在、一課の機動ヘリに同乗し現場に向かっています。天候は怪しいですが、このペースなら五分も掛かりませんよ』

 

 

「そうか。なら、俺の出番はなさそうだなっ、と」

 

 

人混みから抜け出し、乱れた服装を簡単に整えて男は歩行から走行に切り替える。アスファルトの路面を文字通り踏み抜きながら、風のような速度で。

 

 

ちなみに、避難に向かっていた何人かが、男の残した路面を踏み潰した足跡を見てあんぐりと口を開けて呆然としていた。

 

 

「君たち!何を突っ立っているんだ。早くシェルターに向かいなさい」

 

 

「アッ、ハイ」

 

 

驚きは消えないものの、避難誘導している自衛隊の声に我に帰り、再び足を動かす。

 

 

ん?と、自衛隊員の一人が足跡を残した潰れた路面を見て、理解し納得する。

 

 

ああ、あの人がいるんだなぁ、と。

 

 

『司令、まさかとは思いますが。ご自分でノイズの足止めをする気だったんですか?』

 

 

「まあな。一課が迅速に動いてくれたんでな。彼らに避難誘導を任せて、俺はあの二人が来るまで時間を稼ごうと思ったんだが」

 

 

全くの杞憂だったな、と男──風鳴(かざなり)弦十郎(げんじゅうろう)は不敵の笑みを浮かべていた。

 

 

『……やっぱり』

 

 

通信機の向こう側にいる若い男──藤尭(ふじたか)朔也(さくや)は弦十郎の言葉に呆れていた。同時にこの人らしいなと、納得していた。

 

 

朔也の隣にいる女性、友里(ともさと)あおいも「司令だしね」と呟きながら苦笑していた。

 

 

日本、というよりは世界には規模には差があるがそれぞれの国には対ノイズ専門の組織が存在する。

 

 

日本には特異災害機動対策部一課、二課が存在している。

 

 

弦十郎はその対策部の二課の司令官であり、朔也とあおいは弦十郎の部下である。

 

 

本来なら弦十郎は二課の本部で、前線で戦う同じ二課の人間に指示を出す役職であり、こうしてノイズ発生の最前線に居ていい人間ではないのだが。

 

 

「ったく、久々の休暇だったのになぁ」

 

 

休みだった。一組織の司令官という気を遣う立場で、多忙な仕事の日々を終わらせた弦十郎は、趣味のアクション映画のDVDを借りようとこの都市部に赴いていた。レンタルショップで、新作のDVDを手に取りかけた瞬間にノイズの避難警報が来たのだった。

 

 

警報が耳に入った途端、意識を瞬時に切り替えて店内の人間の避難誘導に入った。その後、店外に誘導し一課の隊長と合流し、誘導を任せて発生現場に向かって現在に至るのだ。

 

 

休暇を潰されたことに思うところはあれど、人命を守ることに全力で臨む。風鳴弦十郎という男は、そういう人間だからこそ、自ら進んで死地へ向かっていけるのだ。

 

 

「俺は、このまま現場に留まる。逃げ遅れた奴がいるかもしれないからな」

 

 

『分かりました、気を付けてくださいね。って、嘘だろ!?』

 

 

『司令っ、大変です!』

 

 

「どうした、何があったっ?」

 

 

『今現在、新たなノイズの反応を観測しました!?』

 

 

「何ぃ!?」

 

 

あおいの報告に、弦十郎は足を止めてしまう。

 

 

ここに来て、新手かと内心で毒づき、冷静に状況を把握する。

 

 

「あおい、発生場所は何処だ?規模はどれくらいだ、避難状況は?」

 

 

『■■地区に観測あり、数は司令の所より少し多いです。避難状況は、混乱しています。一課が向かっているのですが、間に合う頃には『司令!』──』

 

 

あおいの報告に朔也が割り込んできた。

 

 

『新たなノイズを確認された地区の近くに、二人を乗せたヘリが飛んでいます!』

 

 

朔也の「二人」という言葉に、弦十郎はすぐに決断した。

 

 

「あおい、朔也。今すぐ一課の隊員に二人を、■■地区に向かってくれと伝えてくれ。翼はノイズの殲滅(・・)を、奏は住民の避難誘導に専念するようにと指示してくれ。特に奏は念入りにな」

 

 

脳裏にあの強気な少女の顔が過る。きっと後で、何かしら文句を言ってきそうだ。

 

 

『奏ちゃん、きっと不満ですよね』

 

 

弦十郎の心の内を読んだかのように、あおいも少女に思いを馳せる。

 

 

『仕方ないですよ。状況が状況ですし。役割分担、適材適所ですよ』

 

 

「朔也の言うとおりだ。それに、今の奏は何処か危ういからな」

 

 

弦十郎と朔也の言葉に、あおいも納得し、気持ちを切り替える。

 

 

「──悪いな、二人とも。奴さん方のご到着だ。二人は、翼と奏のサポートに専念してくれ」

 

 

静かに二人に告げながら、弦十郎は前方を見据える。表情を引き締め、力強く構える。

 

 

数多の異形──ノイズが人間(えもの)を求め、波となって此方に迫ってきていた。

 

 

人間はノイズに絶望的に敵わないと、弦十郎は知っている。

 

 

ノイズには殆んどの攻撃が効かず、触れれば即座に炭素変換されることを理解している。

 

 

だから、ノイズが自壊するまで、ただただ逃げ回るしかない。

 

 

しかし、今ここで逃げたら。

 

 

弦十郎はここに来るまでの道のりを、思い出す。

 

 

恐怖に怯えきった人々の顔。

 

 

親とはぐれて泣きじゃくる子供。(ちなみに、しっかりと弦十郎が隊員に保護させ、間もなく親と再会させることができた)

 

 

そして、元は人であっただろう炭素の塊の数々。

 

 

「させんぞ、ノイズども」

 

 

今、此処で逃げ出せば更なる地獄が生まれるだろう。

 

 

攻撃が効かない?触れれば即死?

 

 

「そんなんで、ここから逃げる理由になるかよ!!元より、決死の覚悟は昔からできてんだ!!!」

 

 

全身に力を張り巡らせ、闘志の炎を宿した眼がノイズの大群を射抜く。

 

 

『『司令』』

 

 

二課本部にいる二人は、弦十郎の勇姿に覚悟を決める。そして、無事に帰ってきてくれと祈る。

 

 

その時、突如入ってきたデータを目にした朔也は、

 

 

『嘘だろ!?』

 

 

本日二度目の『嘘だろ!?』を炸裂させた。

 

 

「どうしたぁっ、朔也!?」

 

 

まさか、また新手かと戦慄する弦十郎だったが、あおいの次の報告に更に驚愕する。

 

 

『司令っ、別地区に発生したノイズの反応が全て、消失しました!』

 

 

「消失だとぉ!?」

 

 

驚きが抜けないまま、弦十郎の通信機に別の声が割り込んだ。

 

 

『おじ、し、司令っ、翼です!報告したいことが』

 

 

「翼か!」

 

 

聞こえてきたのは、弦十郎の姪の翼であった。

 

 

『司令の指示通りに、奏と■■地区に向かい、ノイズと会敵する瞬間にノイズが倒されたのですっ』

 

 

自壊ではなく、倒された?確かに、ノイズか現れてから、そんなに経ってはいないが。

 

 

「翼、ノイズは自壊したんじゃないんだな?」

 

 

『はい。はっきりと捉えられませんでしたが、高速で動く何かに切り裂か『アイツの仕業だ、旦那!』ちょ、まだ報告中よ』

 

 

聞き慣れた声に、弦十郎のことを旦那と呼ぶのは一人しかいない。

 

 

すぐに誰か分かった。

 

 

「奏か」

 

 

『旦那っ、今からそこに向かうから、アイツが現れたら『奏、落ち着いて!』翼!?通信が切れ──』

 

 

「いったい何が、ん?」

 

 

そこで弦十郎は気がついた。通信中も、油断なくノイズを見据えていたが、一向に襲ってこないのだ。ノイズは目に入った人間をすぐに襲い、殺すのだ。

 

 

今、ここにいるのは弦十郎だけである。

 

 

それなのにノイズは一向に動かない。よく見ると、怯えているように見える。

 

 

ノイズの見たことない反応に、弦十郎も理解できないでいたが、不意に奏の言葉を思い出した。

 

 

──アイツの仕業だ、旦那!

 

 

『アイツ』──まさか、

 

 

弦十郎は不意に背後に感じた気配に、振り向いた。

 

 

弦十郎の目に此方に向かって、歩いてくる存在がいた。

 

 

弦十郎はその存在を、知っていた。

 

 

マゼンタのアーマーを纏い、エメラルドグリーンの複眼。何より目を引くのは、腹部に巻いたベルト。

 

 

臆せず、迷いなくノイズを見据えながら向かってくる存在に、思わずその名を口にした。

 

 

「──ディケイド──」




次回戦闘に入る、絶対に


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02

読んでくださって、ありがとうございます。

GW?仕事フルコースでしたがナニか?


ノイズが認定特異災害として発表されてから、およそ十年。

 

 

ディケイドという存在が初めて現れたのは、米国の首都であった。

 

 

当時、米国の首都には大量のノイズが発生し建物と人々を蹂躙していた。圧倒的なビル郡の殆どは倒壊し、地には炭素の塊の山が路面を埋め尽くす程になっていた。

 

 

強大な国家の都市が地獄と化すのに、一時間も要らなかった。

 

 

当然、首脳陣は軍を派遣した。選りすぐりの兵士と最新鋭の武器を持たせ、首都に向かわせた。

 

 

 

しかし、ノイズの位相差障壁によって軍隊の武器は全て無力化された。最新鋭の武器が一瞬にしてガラクタになったのだ。兵士たちにとっては、悪夢であっただろう。

 

 

やがて、そこからはいつも通りのノイズの蹂躙劇であった。兵士たちの阿鼻叫喚をBGMにして。

 

 

兵士たちが負けじと銃弾をばらつかせても、弾丸はノイズの体を素通りしていく。そして、ノイズの殺傷圏内に入ると、痛みを感じることなくノイズと共に炭素変換させられていく。

 

 

一人、また一人とノイズの餌食になっていく。そこには最早、絶望しかなかった。兵士たちも、逃げ遅れた民間人も遺体すら残らない骸になる未来が待ち受けていると悟った。

 

 

その時、ノイズたちは一斉に動きを止めた。目の前に人間がいるというのに、ノイズたちは微動だにしない。ノイズの活動停止に疑問を覚えたとき、ソレは突然姿を現した。

 

 

その決定的瞬間を捉えたのは、物陰に隠れてスマホの録画機能を立ち上げていた、若者であった。

 

 

彼は運良くノイズの標的から外れ、この惨状から逃げ出そうと機会を窺っていた。しかし、状況の突然の変化に若者は慣れた手つきでスマホを取り出していた。なんとも、今時の若者らしい習性である。

 

 

スマホの画像から通して、若者が見たのは一つの異彩を放つ人影だった。

 

 

マゼンタのアーマーを纏い、顔には複数の細い板が刺さったような特徴的な緑の複眼の仮面を顔と頭部全体を覆い被っている。左胸には黒と白のラインが交差し、英語の「X」、十字架を思わせる刻印があった。

 

 

若者はその仮面の人物を見た瞬間、戦士だと感じた。そう思わせるだけの気迫を無意識に認識できた。

 

 

そこで若者は戦士の右手が何かを掴んでいることに気づいた。若者は息を呑んだ。戦士の近くに女性が居り、更に近くには女性を襲おうとしていたのか、奇妙な板を持ったノイズがいた。

 

 

だが、若者が驚いていたのは、戦士の手が掴んでいたのがノイズの腕であったからだ。人間からは決して触れられないノイズに、戦士は当然のように触れていた。

 

 

「ウオオオオオォォォォォッ!!!」

 

 

戦士は雄叫びを上げながら、掴んでいたノイズを思い切り投げた。そして、目で追えないスピードで戦士は走り出した。

 

 

まるでそれが合図かのように、他のノイズたちが近くの人間を無視し戦士に向かって殺到した。四方八方、あらゆる場所から夥しい数のノイズが湧き出てきた。そのあまりの数の多さに、戦士が取り囲まれるのに時間は掛からなかった。

 

 

戦士は囲まれたと悟るや、足を止めて周りのノイズたちを見渡す。

 

 

一気に距離が開き、遠目でしか見れなくなった戦士の状況に僅かに生き残った殆んどの人々は思った。

 

 

──あれでは、もう終わりだ。ならば、あの変な仮面に囮になって貰おう。

 

 

誰もがそう思っていた。誰も心配なんかせず、ただ自分だけが生き残るためだけに。

 

 

しかし、若者だけは違った。

 

 

あの戦士はあそこで終わらない。きっと奇跡を起こすのではないかと。

 

 

ノイズが戦士に向かって動き出す。

 

 

一度停まった蹂躙劇が、再開する。

 

 

但し、今度はノイズが蹂躙される(・・・・・)側となって。

 

 

人々は、その光景に唖然としていた。

 

 

ノイズの位相差障壁を無視して、戦士の攻撃を受けて次々とノイズが消滅していく。

 

 

拳を振るい、蹴りを繰り出す。戦士の一つ一つの攻撃が、確実にノイズの命を狩り獲っていく。

 

 

ノイズの数の暴力と怒濤の勢いの 攻勢に、しかし戦士には焦りや恐怖など微塵も感じさせなかった。

 

 

正確に命令をこなす機械のように、迫ってくるノイズを倒していき、着々と数を減らしていった。

 

 

やがて、わずか数分で決着がついた。

 

 

最後の一体だったのだろうか、そのノイズは戦士に触れる直前に、活動限界を迎えて自壊した。そのノイズが消滅した直後、人々はまだノイズが潜んでいないか周りを警戒した。だが、現れないことが解ると、漸く少し警戒を解けた。

 

 

あっ、と誰かの声が漏れ聞こえた。

 

 

その声で、人々は仮面の戦士が此方に体を向けて自分たちを見つめていたのだ。

 

 

そして、また言葉を失った。

 

 

人間の犠牲とノイズの消滅によって出来た煤が宙を舞い、雪のように踊り降っていた。その降ってくる黒い雪の世界で、悠然と佇む戦士の姿はとても神秘的であった。

 

 

この光景を目にした人々は、あの戦士を見てこう思った。

 

 

──救世主だ、と。

 

 

人々は戦士を都合の良い囮に使おうとしたことをすっかり忘れ、各々に戦士を崇拝しだした。

 

 

事実、戦士が現れなければ彼らは皆生き残れていなかっただろう。状況が状況だっために、戦士の存在に心を奪われるのは当然であった。未知なる存在というのがより拍車をかけた。

 

 

戦士が此方に向かって歩き出す。

人々は一様に、膝を付き崇めだす。若者もスマホを放り捨て、同じく崇める。

 

 

そんな中、戦士に向かって近づくものが一人いた。

 

 

戦士が最初に現れた、近くにいた女性であった。

 

 

あの時、ノイズに殺されるところで戦士は現れて助けてくれたのだ。これを運命と感じずにいられるだろうか。女性は正に運命だと信じきっており、恍惚とした表情が物語っていた。

 

 

戦士と女性の歩みが止まる。女性が腕を伸ばせば、指先が戦士の胸に触れられる距離だ。

 

 

女性は問いかける。

 

 

──あなたの名前は何ですか?

 

 

戦士は女性の問に、間を置いて名乗った。

 

 

 

 

「──────ディケイド─────」

 

 

戦士は名乗り終えると、用は済んだとばかりに最初に現れたとき同様に、突然と姿を消した。

 

 

残された人々は突然消えた戦士に呆然とするも、沈黙を突き破るように涙の歓声を上げた。それは、自分たちが生きている喜びではなく──

 

 

──我々は、偉大な救世主の名を聞いた、栄光在る者たちだ。

 

 

人々は合唱する。

 

 

「「「「「ディケイド様、ディケイド様」」」」」

 

 

これが最初にディケイドが現れた日であり、後に世界中に『ディケイド教』なる新たな宗教が誕生した瞬間であった。

 

 

若者が録画した動画は、すぐにネットへと流れ加速度的に、世界に知れ渡った。

 

 

そして、戦士──ディケイドが米国だけでなく、国を越えて世界中各地に現れたのを目撃され、動画の効果もあり、世界規模でディケイド教の信者が増えていったのだった。

 

 

それから、約2ヶ月──

 

 

今日も日本に発生したノイズを相手に、ディケイドが現れて戦っていた。

 

 

本人の意思かは別として。

 

 

 

■■■

 

 

 

Q.貴方の名前は?

 

 

A.門谷司です。

 

 

Q.将来の夢は?

 

 

A.仮面ライダーになること。

 

 

Q.今やりたいことは?

 

 

A.シンフォギアの世界に居るんで、ヒロイン達とキャッキャ・ウフフなイチャイチャ・ネチャネチャなプロレス(意味深)ごっこがしたい(真顔)。

 

 

Q.具体的には?

 

 

A.響ちゃんのお尻を鷲掴みしたい。

未来ちゃんの白いすべすべな肌を撫でまわしたい。

翼さんの慎ましげな胸を揉みたい。

クリスちゃんのメロンに飛び込みたい。

マリアさんのおっぱいスイッチを押してあげたい。

切歌ちゃん、調ちゃんが脚に抱きついて「お兄ちゃん」と呼んでもらいたい。

エルフナインに、「パパ」と呼ばれたい。

 

 

Q.最後に、今現在貴方は何をしていますか。

 

 

A.仮面ライダーディケイドになって、シンフォギア世界の敵、ノイズどもを破壊しております。今日で2ヶ月目に入ります。

 

 

ああ、もうっ!

 

 

いい加減、とっとと消滅しろやノイズどもぉ!

 

 

何が悲しくて、来る日も来る日もおどれらの不細工な面ァ、拝まなにゃならんのやオゥン!?

 

 

と言っている間に、正面のノイズに正拳突き!CRITICAL HIT!

 

 

ブハハハハハァァ。見ろ、ノイズが他のノイズを巻き込んで、スーパーボールのようにバウンドしているぞォ!?

 

 

だけど全く減らない。うん、知っていた。そして、変わらずノイズは俺こと、仮面ライダーディケイドに殺到してくる。無論、しっかり対応して、ノイズを殺しているよ。真の仮面ライダーは、手を緩めん!でも、やっぱ辛い。

 

 

ナニ?ディケイドにはノイズホイホイ効果もでもあんの?そんなモンよりシンフォギアホイホイ付けろや(怒)。美少女、美少女と触れ合いたいの!切!実!に!!

 

 

だけど何この状況?何で俺は後ろにいる、OTONA筆頭にして人類最強の男、風鳴弦十郎を背にして戦っていたりしているの?

 

 

この構図、第三者が見れば絶対にディケイドがオッサンを守っているように見えるよね。違くね?このポジション間違っているよね?そこは普通、女の子(美少女限定)だよ。断じて、オッサンが居座って良い場所じゃないよ!というか、むしろ俺を守って……。え、無理?諦めろ?ハイ。

 

 

でも、せめて女の子の原作キャラと逢わせて……。

 

 

ここに来る前の場所で、近くに飛んでいたヘリから翼さんが飛び降りようとした姿を見て閃いた。

 

 

「そうだ、ノイズを即行で全滅させて、翼さんとお話しよう」

 

 

そこからの、行動は早かった。

 

 

10秒で決着を着けてやるぜと、ディケイド最大の能力であり魅力である、他の仮面ライダーにKAMEN RIDEした。

 

 

仮面ライダーカブトに。

 

 

そして、安定のclock up.宣言通り、しっかりと10秒で殲滅。ちゃっかり、殲滅時間記録を最速で更新しときました。

 

 

clock upの効果が切れるまで待って、数分。いよいよ解除直前に迫ったとき、灰色のオーロラが現れた。そう、ディケイドの御話に出てくる、別の世界に渡る道。俺にとっては2ヶ月間で、すっかり馴染みになったものだ。

 

 

まあ、今の場合、世界を越えるためではなく、ただの移動の手段にしかなってない。だってほら、オーロラの向こう側?それとも映っている?どの表現か正しいか解らないが、無数のノイズの姿が確認できる。

 

 

つまり、あのオーロラをくぐればノイズの群れに移動されてしまうのだ。そして、またノイズ殲滅戦の開始。本人の意思とは、無関係に。それも、2ヶ月間ずっと。ここまで来れば、色々と察したよ。

 

 

察した上で、言わせてください。

 

 

──休ませて。もう、この2ヶ月間、フルコースなの。

 

 

【clock up】の効果が切れ、カブトからディケイドに戻る瞬間。待ってましたと、云わんばかりの猛スピードで灰色のオーロラが迫ってきた。

 

 

俺は抵抗することなく、灰色のオーロラを通り抜け、新たな戦場に到着。見れば、ノイズの大群を前に闘志を燃やして構えていたOTONAを発見。

 

 

念願の原作キャラに遭えるも、コレジャナイ感を胸に抱きながら、OTONAを放置して戦闘開始。

 

 

心も体もボロボロだけど、私は今日も憧れの仮面ライダーになって戦っています。

 

 

困った人を助けるのは、当然だよね。但し、限度がある。しかし、既にそれは取っ払われた模様(悲)。

 

 

 

■■■

 

 

 

弦十郎がディケイドの姿を初めて見たのは、二課本部で最初に現れた米国首都で戦う動画を視聴していたときだった。

 

 

多くのノイズに囲まれているというのに、取り乱さない冷静さ。ノイズの攻撃を的確に避け、確実にノイズを倒す身体能力と技術。他にも、各国に現れたときのデータも見ておりディケイドの凄まじさは理解していたつもりであったが……。

 

 

「──やはり違うな。映像と実物とじゃ」

 

 

弦十郎の目は、一人でノイズと戦っているディケイドの姿に釘付けになっていた。

 

 

あの時、後方から現れたディケイドは弦十郎の姿を見るや、無言で一瞥するのみで、ノイズとの戦闘を開始した。まるで、お前に用はないと。ディケイドの瞳がそう告げていた。

 

 

人類の殆どの攻撃を無効化する位相差障壁を、ディケイドは関係ないと云わんばかりに、ノイズに攻撃を与えている。

 

 

最早何度も見て見慣れたその現象に、弦十郎は驚きはしない。しかし、決して見逃さんと周囲を警戒しながら、ディケイドの戦いを目に焼き付けていた。

 

 

 ディケイドの鋭い拳が音速で正面のノイズに深々と突き刺さり、周りノイズを巻き添えにして吹き飛ばす。間髪入れず回し蹴りを繰り出し、取り囲んでいたノイズを一掃する。

 

 

ノイズの位相差障壁は自身の存在率を、別の世界に大半を置くことで人類の攻撃を喰らわずいられる。逆にこちらの世界に比率を上げれば、ノイズはこちらの干渉を受けてしまう状態になる。つまり、ノイズがこちらの世界に存在率を割いている状態を見切れば、ノイズに攻撃を与えることが出来る。

 

 

ようは、カウンターの要領である。

 

 

弦十郎も何度か試し、それでノイズを何体か撃退したことはある。しかし、これは博打である。弦十郎は高い実力を持った武術家であるが、何度も通用はしない。肉眼では、ノイズの存在率の変化は気づけない。ノイズに相対すれば、尋常ではない集中力で見極めなければならない。気力を大幅に消費し、確実に此方の心が折れる。

 

 

ディケイドが、貫手でノイズの体を貫く。その様子が、逃がさない掴まえてやる、と告げているように見えた。

 

 

ディケイドには、ノイズの位相差障壁が効かない。それは覆しようのない事実であった。ノイズが敷く理を破壊し、僅かな存在であろうとその手で触れてノイズを壊す。

 

 

その原理は未だに解らず、当人たるディケイドも何も語らない。

 

 

ただ忠実に、ノイズを狩り尽くしていく。作業のようにこなすその姿勢は感情のない機械であるが、弦十郎はそう思えなかった。

 

 

「ディケイド、お前はいったいどれ程の怒りを抱いているというんだ……」

 

 

あの時、弦十郎は自身を横切り過ぎていくディケイドに声を掛けようとしたが、尋常ではない怒りに気づき言葉を失った。多くの悪意や敵意を向けられ慣れているが、それを越える気配をディケイドは纏っていた。

 

 

その怒りはノイズに対するものなのか。それとも、別の何かなのか。もし矛先がこちらに向けばとゾッとするが、弦十郎はそんなことは起きないと信じたい。過去のデータでも、ディケイドはノイズに攻撃するだけで人類に危害を加えていない。希望的観測であるが、ディケイドが敵対する可能性は低いだろう。

 

 

──だからこそ。

 

 

「俺は貴方と話したい。ディケイド、貴方がいったい何のために戦っているのかを」

 

 

弦十郎は人の善性を信じている。今までの人生の中、様々な人間を見てきたが、心から平和を願い戦っている人間がいることを知っている。そして、ディケイドもその心を持っているというなら、きっと自分たちは手を取り合える。

 

 

「ハァッ!」

 

 

後ろにいたノイズを蹴り飛ばし、眼前に飛び込んできたノイズを拳が貫いた。おぞましい怒気を内包しているとは思えない精練された動きは、とても美しかった。死地であるにも関わらず、舞踏劇を観賞した気分であった。

 

 

音もなく巨大な人型ノイズが現れる。目測で5M程の高さだ。あまりの巨体に、気圧されるだろうがディケイドは動じない。

 

 

いつの間に持っていたのか、ディケイドの右手には金色のカードを持っていた。カードを勢いよく腹部のベルトに差し込むと、けたましい音声がベルトから発声した。

 

 

   

【FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE】

 

 

十枚のホログラム状の金色の壁が一列になり現れ、ディケイドは飛び上がる。巨体ノイズを優に越える高さまでいくと、金色の壁も連動して動き十枚目の壁がノイズの胸元を捉えた。

 

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

 

ディケイドが飛び蹴りの体勢で、金色の壁を潜り抜けていく。一枚潜る度に、ディケイドの右足に膨大なエネルギーが蓄積されていく。十枚目を潜り抜け、ディケイドの蹴りがノイズの胸元に直撃し貫通する。

 

 

胸に風穴が空いたノイズは微動だにせず、瞬時に全身が煤へと変わり果てた。風が吹き、舞う煤を気にせず、ディケイドは弦十郎に向き直る。

 

 

『ノイズの反応、全て消失しました。新たなノイズの感知はありません……』

 

 

『……すごい。何度も見たけどなんて殲滅速度なんだ。ディケイドが現れてから、五分も経ってない』

 

 

告げられた報告内容に、弦十郎は安堵の溜め息を吐く。しかし、まだ終わっていない。気を入れ直し、部下二人に指示を飛ばす。

 

 

「二人とも、気を緩めるなよ。ディケイドの観測、データ収集に集中しろ」

 

 

『『了解です』』

 

 

指示通りに、朔也とあおいは行動を起こす。忙しなく手を動かし、司令部の機器でディケイドの情報を収集していく。

 

 

ディケイドは動かず弦十郎をじっと見つめていた。弦十郎もディケイドに瞳を向け、口を開こうとした途端、ディケイドの足が透けていった。

 

 

弦十郎はその現象を見て、焦りだした。あれはディケイドが姿を消すときの前兆であった。

 

 

「待ってくれ、ディケイド!」

 

 

弦十郎の声は聞き入れられることなく、ディケイドの姿は完全に消えてしまった。最後まで互いに目を逸らすとこなく、見つめあっていたまま。

 

 

しばらく呆然とするも、ディケイドがいた場所を見つめながら、弦十郎は静かに笑みを浮かべた。

 

 

「礼を言う間もなく、行っちまったな」

 

 

今回、ディケイドが現れていなければ、弦十郎は確実に命を落としていた。向こうの意図は分からないが、こうして救われた以上、せめて礼は告げたかった。

 

 

「それに、ディケイドは──」

 

 

きっと、人類の敵ではない。弦十郎とディケイドの視線が交差したとき、明らかに此方への敵意は感じられなかった。そして、守る者特有の暖かさを確かに感じ取った。

 

 

未だ正体は分からないが、いつか共に戦える日を信じて。

 

 

その日まで、感謝の言葉は胸に留めておこう。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「(OTONAから逃げられたと思ったら、またノイズの群れに放置されてた。泣きたい。もう泣いてるけどっ。あ、涙凍った)」

 

 

弦十郎の気持ちなど露知らず、中の人は嘆き叫ぶ。

 

 

南極大陸の中心で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださり、有難うございます。

戦闘描写難しいです。

感想ほしいな。(返信できるか約束できない

次回は主人公の紹介と、装者の絡みを書いていきます


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03

遅れて誠に申し訳ございませんでした。

沢山の方に読んでもらい、嬉しいです。

感想、満足に返信できずすいません。

久しぶりに小説情報みたら、評価バーやお気に入りなどすごいことになってビックリしました。


まずは、ことの始まりを話そう。何事も始まりが肝心だ。長くなると思うが、付き合ってほしい。

 

 

『俺』という存在は、いわゆる転生者と呼ばれるものだ。といっても、前世の記憶は殆ど無いに等しい。覚えているのは、自分が死んだということと前世で培った膨大な知識だけ。自分に関する記憶がすっぽり抜け落ちていたのだ。自分が死んだと解っているのに、これ如何に。

 

 

昨今の転生ブームの話しに合わせれば、『俺』の場合『憑依転生』というのに当てはまるのだろう。当時5歳であった門谷司の肉体に宿ったのが、全ての始まりであった。

 

 

この頃、門谷司は交通事故に遭い命に関わる重傷を負っていた。しかも、頭部へのダメージが大きく昏睡状態になっていた。事故から約一ヶ月、唐突に病室で眠っていた門谷司は意識を取り戻した。『俺』という魂が宿り、眠っていた意識を起こしてしまったのだ。

 

 

ざっくり、思ったことを言わせて戴きたい。

 

 

──神様、余計なことすんなや。(激怒)

 

 

別に、第二の人生を得られて嬉しくないのかと言えば嘘になるけど、せめて赤ん坊からのリスタートの方がまだマシだと思えた。

 

 

だってさ、有るんだよ司くんの記憶が……。めっちゃ、優しそうな両親と笑って過ごしている司くんの思い出が

あ゛る゛ん゛だよ゛ぉ゛(泣)

 

 

もう、未来ある子供を殺したことに対する罪悪感バリバリであった。意識を取り戻したと聞いて、すっ飛んで来た司くんの両親と対面したときはその場で土下座をして謝罪したかった。しかし、泣きながら安堵し喜ぶ両親の姿を見て何も言えなくなり、混乱を避けるためにただ状況に流された。

 

 

両親は、元気がない息子を心配していたが、医師がまだ事故のショックが抜けきれないのだろうと話されていた。まあ、生死の境をさ迷う状態だったのだ。精神に大きな変化があるのは当然であろう。

 

 

──結果、両親の愛情値がフィーバー。過保護になりました。

 

 

ヤブ医者ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(酷い暴言)医師として当然の事を言ったのだろうが、俺には追い討ちにしかならんわ!?やめて、両親の愛情がとても心苦しい。これ以上は『俺』の心が耐えられない。遠くない未来に、鬱病患者になる姿を幻視した。

 

 

こうして新たな人生というには、余りにも過酷で重すぎるスタートであった。

 

 

退院後も我が心中は暗雲晴れること叶わず時が過ぎていった。入院中はもしかしたら残留している(と思いたい)司くんの意識が目覚めるのに一縷の希望を抱いていたが、そんなこと全然ありませんでした。

 

 

もう自棄になって脳外科と精神科の医師に相談したが、お菓子とジュースを奢らせられながら病室に帰された。解せぬ。ちくせう、生暖かい目で見やがって。こちとら真面目に相談したのにっ。これだから大人は……。

 

 

結局、何も改善策を見出だすことなく小学校に入学。無気力な学生生活を送っていた。学校の勉強がつまらないとかじゃなくて、このときになっても『俺』はこの転生にウジウジと悩んでいた。友達もできず、しかも笑うことがないから『笑わない子』として周囲から煙たがられた。

 

 

成績はとりあえず問題なかった。こちとら人生1回分を経験しているのだから。小学校の問題なんて余裕綽々よっ。しかし、三者面談は辛かった。母親の前で担任がクラスに馴染めていないことを話すと、涙を浮かべながら何も言わず頭を撫でてくれた。ちゅらい(号泣)

 

 

帰りの道中なんて、何て言ってくれたと思う?

 

 

 

 

「だーいじょうぶ♪司は優しくて良い子なんだから、きっとすぐに友だちが出来るわよ♪友だちが出来たら、お母さんに紹介してね?」

 

 

 

 

もうね、限界です。(ナニがとは言わない、察しろ)

 

 

家に帰った後、母が父に面談の内容を報告。父にも励まされて、『俺』の涙腺は崩壊し、盛大に泣きまくりました。両親が優しくて抱き締めてくれたのを覚えています。

 

 

こうなったら、メモリブレイクだ。『俺』に。そうすりゃ、司くんの意識も戻るだろ(錯乱)

 

 

そんな『俺』に転機が訪れたのは、8歳の頃テレビでやってた国連の重大発表の生中継を視聴していたときだ。

 

 

『今日この日、有史以来の謎の存在を、認定特異災害ノイズに認定しますっ!』

 

 

認定特異災害ノイズ、ね〜〜。どっかで聞いたなーその単語、とジュースを飲んでいた。

 

 

 

 

その時、不思議なことが起こった!

 

 

 

 

最早、失われた前世の一部の記憶がリカバーし、言葉に出来ない情熱が胸の奥に灯った。そして、その情熱の熱が何故か下半身に集中した。

 

 

 

「認定特異災害ノイズ、ノイズ、……ノイズ、ノイ……ズ?…………ハッ」

 

 

 

 

思い…出した!

 

 

 

 

「戦姫絶唱シンフォギアァァァァァァァァァァァァァァ(ここ、シンフォギアの世界だったんかい!)!!!!」

 

 

 

 

転生してから、約三年。『俺』は初めて喉がはち切れんばかりの雄叫びを上げた。あ、両親は共働きなんでこの時はお家にいらっしゃいません。

 

 

説明しよう、『戦姫絶唱シンフォギア』とはという長ったらしい説明する気なし!アニメ見ろ、円盤買って見ろ!適合者は円盤を買うのデース!

 

 

どうしてもというなら、説明してやらぁ!

・モブが大量に死ヌぅ!

・美少女たちが歌いながら、ノイズと戦ウぅ!

・ゲッターなOTONAが登場人物で最強ぅ!

以上!

 

 

この時、俺は確信した。前世の俺は相当なアニメ・特撮オタクであったのだろう。シンフォギア以外にも数えるのがアホなくらいの作品数が、頭の中で渦巻いていやがる。特に仮面ライダーへの思い入れが深い。甦った前世の断片的な記憶には、将来の夢は「仮面ライダー」になりたいとほざいている自分の姿が。やだ、恥ぢゅかちい。

 

 

って、恥ずかしがってる場合じゃねぇ!今の『俺』は全てのオタクが夢見ている、アニメの世界に行きたいという願望を現在進行形で叶えているのだ。

 

 

ならヤるっきゃねえな!(唐突な使命感)

 

 

それはつまり──

 

 

「シンフォギアキャラの女の子とにゃんにゃんしたい」

 

 

それは正に、生きる希望を失っていた俺に相応しい今世の新しい目標であった。それを邪魔する奴は、たとえ神だろうが仏だろうがOTONAだろうが、排除してやらぁ。……やっぱりOTONAは来ないでください。

 

 

とにかく、こうして『俺』は本当の意味で『門谷司』として新生した。降って湧いたチャンスを物にするために。フッフッフ、溢れ出るリビドーが下半身に集中していくぜ……。

 

 

という訳で、司くんキミはゆっくりお休み(にっこり)。これからは、『俺』が門谷司になってキミの分まで生きていくから(ゲス野郎)。むしろ目覚めんな(悪魔)。

 

 

…………………………………………………………………………………………………………すんません、調子乗りました。

 

 

いや、確かにそういう欲望はありますけど、まだ司くんの意識が戻るのを諦めてませんよ?ただね、だらだら過ごすんじゃダメだと思ったんで、とりあえず目標を掲げただけなんです。でも、最終的にはそうなればイイナーと思ってるんですけど、ってああ!

 

 

やめて!オーロラさん!ノイズの影をちらつかせながら、ジリジリ近づかないで。俺、今お風呂入ってんのっ。全裸なの、ZENRAなの!?南極大陸という極寒の地で戦って、冷えた体を暖めている最中なんだけど。俺に安息はないんですか、オーロラさん?

 

 

というより、今日の昼前からノイズさんたちと戦い続けていたんですけど……。いつも通りにオーロラを潜ったら、いきなりエジプトの砂漠に放り出されて大変でしたよ、もう。足場は悪いし、ガチの蟻地獄に遭うわで。極めつけはあれだな、巨大ピラミッドが近くにあったことだ。もしあれに傷をつけたらファラオの怒りを買いかねん。スフィンクスに踏まれたくないです。

 

 

その後は、日本に帰国しまた本日二回目のノイズ殲滅戦を開始。すぐに終わらせたけど。だってさ、スレンダー美少女な風鳴翼さんが近くにいると分かればお近づきになりたいだろ?だっつーのによおぉ、蓋を開ければ風鳴は風鳴でもむっさいおっさんとお近づきになるってどゆこと?俺にはイケメンおっさんとのBとLな趣味はねえし、おっさんのタマを守る気もなかったんですけどぉ?ノイズが襲ってきて(俺を)、仕方なく戦って守ってあげましたよ。死なせたら翼さん悲しむだろうし。……死ぬよね?

 

 

でも納得シネー。何で念願の原作キャラの初邂逅がおっさんなんだよ?こういうのは普通、女の子の筈なんだけど。

 

 

おかしい、俺の中ではこんな風になるはずなのに……。

 

 

〜門谷司の頭の中〜

 

 

ノイズに襲われて、絶体絶命な原作キャラの美少女!(この際誰でもいい)

 

 

そこに颯爽と現れる長身脚長なイケメンの男!(つまり俺のこと)

 

 

かっこよくディケイドに変身し、ノイズを華麗に倒す!

 

 

そして、変身を解いた俺に抱きついてくる原作キャラの美!少!女!それに対し、静かに微笑む俺!(おにゃの子の柔らかい肉感を堪能しながら)

 

 

そして、原作キャラの美少女からこう言われるんだ。

 

 

『かっこよくて優しいだけじゃなく、凄く強いなんて!素敵!抱いて!』

 

 

『イイゼ、なら俺の城でたっぷり愛してヤるぜ』

 

 

お姫様抱っこで俺の城(2LDKのマンション)に連れ込み、キャッキャ・ウフフのイチャイチャ・ネチャネチャなズッコン!バッコン!による清純ラブストーリーが始まるのだ!

 

 

〜注意:これはあくまで妄想です〜

 

 

そうか、これは罰なんだ。未だに原作キャラの女の子に逢えず、むさいおっさんとしか関わっていない不甲斐ない俺への……。だから南極大陸に飛ばされたんだ。

 

 

……南極大陸で思い出したが、マジ最悪な!あそこほど戦い辛いと思ったのはこの2ヶ月で初めてだったよ!だって滑るもん!一つの動作する度にツルッて足が取られたよ。滑り転ばないように踏ん張ったら腰がグキッてなりましたよ。完璧に腰痛めたなって思いました。でもさ、俺頑張ったよ?じいさんみたいに腰曲げながらノイズと戦いましたよ?腰の痛みに耐えながら戦っていたら、いつの間にか我が家であるマンションの部屋に居た。

 

 

時計を見れば午後の21時になっていた。がむしゃらに戦っていたが、物凄く時間が経っていて吃驚としたよ。まあ、全滅させたと思ったらその場で新たな団体(ノイズ)の到着。その後も続き、まさかの5セットである。そりゃ時間も掛かるわ。

 

 

それで帰って来た俺は、疲れを癒すために風呂場に直行。寛いでいたら、地獄の案内人と化したオーロラさんが現れて今に至る。

 

 

ほら、俺ってもう充分戦ったでしょ。だから一回くらい休んでも罰は当たらないと思うのですよ。それに俺、裸だし。いくら長身で脚が長くて顔がイケメンで「マゼンタのトイカメラがあれば門矢士じゃね?」くらいの容姿でも裸は不味いよ。オーロラの先で命が終わるどころか、社会的にも終わるわけでして、だからこっち来んなオーロラさん!?

 

 

イヤだぁ、もう限界なのぉ。死にたくないんだよぉ(2つの意味で)。

 

 

……………………わかりゃぁしたぁ、やりゃぁいいんでしょう、殺りャァ(ぶちギレ)。だからまずは服を着させてくださいと言ったそばからヤメローーーーー!!!!!!

 

 

 

 

■■■

 

 

 

天羽奏という少女にとって、ノイズとはこの世から絶対に駆逐すべき害物である。

 

 

それは、ノイズが人類の天敵だからという一種の防衛本能から来る思いからではない。極めて誰もが持っているであろう、個人的な感情だ。

 

 

幼き頃、天羽奏の家族はノイズに殺された。

 

 

両親は、幼き自分たちを守るために、身を呈してノイズの攻撃から庇い煤へと変わった。そして、自分が守るべきだった妹は、自身が気づかぬ間に命を奪われていた。

 

 

今の時世、ノイズによって身内を亡くすのは珍しくない。家族をノイズに殺された遺族は、大小違えどノイズに憎悪を懐くのもまた珍しくない。

 

 

ただし、天羽奏という人間を知っているものからすれば、彼女の憎悪は常軌を逸していた。

 

 

家族を亡くした天羽奏は、生前に両親と縁があった人物の伝手でとある組織──特異災害機動対策部二課に保護されていた。

 

 

そこで天羽奏は、二課がノイズに『対抗できる力』が在ることを知った。当の本人は記憶が薄れているが、当時はかなり暴れていたらしい。その話を聞いた途端に、天羽奏は司令官に着任したばかりの風鳴弦十郎に掴み掛かっていた。

 

 

制止する大人たちを殴り飛ばして、噛みついたりと暴れまくっていた。仕方なく椅子に拘束させ、弦十郎は彼女を説得しようとした。

 

 

──俺たちが君の家族の仇を討つ、と。

 

 

結果から言わせもらえば、逆効果であった。むしろこれが天羽奏の人生を決定付けてしまったのではないかと、当時も今も弦十郎はそう思って後悔している。

 

 

『あたしがぁ、やらなきゃいけないんだよっ。ノイズを、殺してやる………。この世から、一匹残らず駆逐してやるっ!』

 

 

その後も、説得という名の奮戦は虚しく弦十郎たちは折れてしまった。

 

 

そうして、天羽奏が力を手にする機会を得てから時は流れ──。

 

 

今現在、天羽奏は夜の戦場に姿を現していた。

 

 

場所は自衛隊の演習場。時間は既に午後の21時半を過ぎていた。

 

 

天羽奏が此処にいる理由はただ一つ。この場に現れたノイズを倒すためである。

 

 

奏が辺りを見回すと、無数の煤の山が出来上がっていた。それが、元は人間だった(・・・)モノと即座に把握すると奏は唇を強く噛んでいた。唇が切れて、血が顎にまでつたって流れ落ちる。流れた血が、血涙のように見える。しかし、奏の目には涙はなく、代わりにどす黒い炎を瞳の奥に滾らせていた。

 

 

この光景を見るたびに、家族を失ったあの日を思い出す。それだけで、奏の心身は怒りと憎悪に染まっていく。此処に来るまでは緊張や恐怖などが小さく湧いていたが、今ではすっかり消え失せた。

 

 

「──アタシはもう、あの時の無力なアタシじゃない。こうして力を手に入れて、再び地獄に戻ってきた……。ノイズ(おまえら)を殺してやるためにっ」

 

 

蠢くノイズの大群を睨みながら、奏は首に描けてあるペンダントを握りしめる。

 

 

──今から此処はアタシの戦場(復讐)だ。だから、誰にも邪魔はさせない。たとえ、この場にディケイドが現れても、獲物を譲る気はさらさらない。その時はアイツごと殺してやる(・・・・・)

 

 

一体のノイズが奏を見つけ、高速で近づく。だが、遅い!

 

 

「──Croitzal ronzell Gungnir zizzl──」

 

 

心の奥底から浮かんだ聖詠(うた)を口から紡ぎだし、ペンダントを中心に光が発生して奏を包み込む。近づいてきたノイズはその光によって、あっけなく焼きつくされた。

 

 

変化は一瞬であった。光が収まると、オレンジ色をベースにしたスーツを身に纏い、身体の各部にはヒーロー物を連想させる機械が装着されていた。そして、姿を変えた奏の手には一振りの槍が握られていた。

 

 

──FG式回天特機装束。通称、シンフォギア。

 

 

二課に所属する、女科学者『櫻井了子』が造り上げた、対ノイズ決戦兵器である。神話に名を残した道具──聖遺物の欠片を加工し、現代の科学力と櫻井了子の技術によって誕生した。

 

 

これの最大の特徴は三つ。

 

 

一つは、ノイズの炭素変換を無効化するバリアコーティング機能。

 

 

二つは、シンフォギアから放たれる特殊音波でノイズを強制的に実体化させる調律機能。

 

 

三つは、シンフォギアを装着した者──『装者』が歌うことによってポテンシャルが上がる特殊機能。

 

 

歌いながら、奏は高く跳び上がる。シンフォギアによって格段に身体能力が向上している今、一っ飛びで3M以上まで跳び上がるのは造作もないことだ。

 

 

空中で投擲の姿勢を作り、間髪いれずに奏は槍をノイズの大群に向けて投げ落とした!

 

 

   

【STARDUST∞FOTON】

 

 

持ち主の手から離れた槍が、大量に複製され文字通り槍の雨と化して、ノイズに降り注いだ。降ってきた槍がノイズを刺し貫き、身体を煤へと変えて次々に消滅していく。

 

 

宙を蹴り、奏は地に刺さっている槍の傍に降り立つ。槍を持ち直し、討ち漏らしたノイズを奏の槍が殺していく。一つ振るえば、複数のノイズが切り裂かれていく。

 

 

シンフォギアに内蔵された通信機に、二課本部から通信が入ってくる。

 

 

『──奏、あまり飛ばすな。余力を残しながら戦うんだ』

 

 

二課の司令官にして、天羽奏の現在の保護者である風鳴弦十郎からであった。

 

 

入ってきた通信の内容に、一瞬顔をしかめた。

 

 

一応、自分は冷静に努めているが弦十郎からはそう見えないらしい。

 

 

ノイズを殺す手を緩めず、奏は弦十郎に言葉を返す。

 

 

「分かってるよ、旦那。でも、アタシが此処でペースを緩めたら、コイツ等のせいで被害が拡大しちまうぞ?」

 

 

『後から増援が来れば、先にお前の方が力尽きてしまうぞ。そうなれば、今よりも被害が拡がる』

 

 

「──それは、【時限式】であるアタシへの皮肉かい?」

 

 

『違う!もっと自分の身を大事にしろと言ってるんだ!』

 

 

我ながら、何て嫌味を言ってしまったのだろうと、奏は内心で後悔する。風鳴弦十郎の人柄について、奏は充分に理解していた。彼の言葉が、真に自分のことを想って言ってることを。

 

 

しかし、彼の言葉は奏の怒りを治めるには至らない。ノイズに相対すれば、頭で考えるより先に憎悪によって身体が突き動かされる。

 

 

半ば弦十郎の言葉を無視するように、戦闘に専念する。

 

 

   

【LAST∞METEOR】

 

 

奏の手にしている槍の穂先が回転し、竜巻を生み出して集団で固まっているノイズに向けて放たれる。コンクリートの地面を破壊しながら、竜巻に捕らわれたノイズは刃と化した風に切り刻まれていく。

 

 

「ちくしょうっ、まだ多く残っているな……」

 

 

到着した時に比べれば、大分数は減っている。だが、未だに数は五十はいる。

 

 

その時、手に持っている槍が重く感じ、腹部から熱い何かがせり上がり、堪らず吐き出してしまった。

 

 

「ゴフッ……、もう、時間切れなのか?」

 

 

地面に吐き落とした自身の血を見て、奏は呆然と呟いた。次第に身体がだるくなり、力が抜けて膝をつく。

 

 

『奏ちゃんのバイタルに異常発生!大丈夫?奏ちゃん!』

 

 

あおいの安否の問い掛けに返す力が、今の奏にはなかった。口を動かすのも、億劫だった。気を抜けば、身体が倒れてしまう。

 

 

奏の攻勢が止まり、生き残ったノイズはゆっくりと()に近づいていく。その様はまるで、食事を楽しもうという風で、奏は激しい屈辱感を味わった。

 

 

『適合値は安定しているのに、何でこんな急にっ』

 

 

『それは多分、奏ちゃんの肉体が先に限界を迎えてしまったのね。LiNKERの効果が切れる前に……』

 

 

あおいの疑問に答えるように、色気を感じさせる女性の声が、奏の耳に入る。シンフォギアを開発した張本人、櫻井了子だ。

 

 

『今までのLiNKERの過剰投与のせいね。いくら体内除去をしても、確実に身体へのダメージが蓄積されていたようね。……だから、訓練を控えるよう言ったのに』

 

 

『呑気に解説している場合か、了子君!今すぐ撤退できるか、奏!?』

 

 

弦十郎の焦った声を聞き、朦朧とした意識が少しだけ覚めた。

 

 

「いや、無理っぽい……」

 

 

全身が鉛のように重く感じ、立ち上がる気力すら起きなかった。この危機的状況を奏は、どこか他人事のように思えた。

 

 

『朔也、翼に至急奏の救援に向かわせろ!』

 

 

『了解!』

 

 

別地区に発生したノイズに対処している、もう一人の装者──風鳴翼に応援を頼むも、奏は間に合わないと確信している。

 

 

だって、ほら──

 

 

「まさ、か。最期、に、目にする、のがノイズ(おまえら)、なんて、な……」

 

 

既に一体のノイズが、奏の眼前に佇んでいた。

 

 

ノイズの顔らしき部分を眼に捉えると、殺意が膨れ上がっていく。それとは裏腹に、身体はちっとも動いてくれない。

 

 

シンフォギアがいくら防御力に優れていようと、ダメージは無効化できない。五十余りのノイズに攻められれば、想像を絶する苦痛が待ち受けるだろう。ならば、自分が死ぬまでコイツ等を呪い続けてやる。それが、自分にできる最後の足掻きだ。

 

 

覚悟を決めて、奏はノイズを睨む。そして、ノイズも奏を喰らわんと覆い被さろうと──しなかった。眼前のノイズは突如として、動きを止めた。周りのノイズも、一斉に停止した。

 

 

この状況の変化に奏は、困惑するもすぐに察した。

 

 

「まさ、か?」

 

 

その声を合図に、全てのノイズが奏を無視してまったくの別方向に動き出した。まるで、すぐ其処に極上の餌が在るかのように。

 

 

   

【ATTACK RIDE BLAST】

 

 

マゼンタ色の無数の光弾が、ノイズのみを狙い撃ち貫いていく。風穴を空けられたノイズが、呆気なく炭素の山に変わり崩れ落ちる。風が吹き、煤が舞い上がっていく。

 

 

「……ハハ」

 

 

渇いた笑い声を上げながら、奏は光弾の発射元に顔を動かす。その瞳に、確かにその姿を捉えた。

 

 

「──救世主(ヒーロー)は、遅れてやって来るっ、てか?」

 

 

気づけば身体を蝕んでいた倦怠感が消え失せ、奏はその存在から目を逸らさないまま立ち上がった。

 

 

「……ふざけるな。お前は断じて、救世主じゃない」

 

 

無双の槍(ガングニール)の穂先を向け、確実に殺すと意思表示する。

 

 

「お前は、悪魔だ!──────ディケイドォ!!」

 

 

月明かりに照らされ、佇んでいるディケイドに迫る。ディケイドは、何も語らず殺意を纏った奏をただ見つめていた。

 

 

 

 

「──────────(悲報、初対面なのに奏ちゃんから悪魔呼ばわり。てか何で、奏ちゃんからこんなに憎まれてんの?危なかったから、助けたのにぃ(泣)……なるほど、これがお礼参り、というやつか。て、ふざけている場合じゃねぇ。今ここでダメージ喰らって、変身解けたら命が終わる前に社会的に終わる。だって、ライダースーツの中、俺、全裸だもん!)」

 

 

 




中途半端な終わりかたですいません。

ここで少し補足を、現時点の天羽奏はシンフォギアを手に入れてからそんなにたっていません。そして、LiNKERも天羽奏用に調整されてないほぼ初期の頃のものです。ですから、身体への負担が大きく効果が切れる前にダウンしてしまった……という設定です(震え声

時系列的にはまだツヴァイウィングを組む、一年前ほどに当たります。


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04

この作品を読んでいただき、有難うございます。

評価や感想、お気に入り登録してくださり身に余る光栄です。

新しく書き直しました
戦闘のクオリティが低くて申し訳ありません


8/1 誠に勝手ながら奏視点を追加しました。理由としては、次話の文字数がえらいことになりましたので、急遽このような措置をさせてもらいました。


余談ですが、事故に遭い現在入院しております。怪我のお陰で只でさえ熱いのに、高熱で魘されていました。今は、微熱ですけど。次話はなるべく今月中に投稿できると思います


ヤッベーイな状況な、仮面ライダーディケイドこと門谷司です。何がヤバイって?それはギランギランに目を輝かしながら、殺意100%でこちらに向かって奏ちゃんが駆けて来ているからです。

 

 

どう見ても、俺をヤる気ですね。訂正、殺る気だ。別にいやらしい意味でわざと言った訳じゃないんだけど、どうせならそっちの方がいいなぁ。平和的だし、俺も得してとてもwinwin(ニヤニヤ)なかんけ──

 

 

「死ね──!」

 

 

死んでたまるかぁ!(真顔)

 

 

俺の心臓に目掛けて突き出された槍を、右手でポンと弾く。一見、軽く弾いたように見えるけど、実際かなり力を入れているかんな?

 

 

流石、シンフォギア。現行兵器を凌駕するという、謳い文句は伊達ではない。手がむっちゃ痛いです!漫画やアニメだと手自体が大きく腫れ上がって、赤くなっているに違いない。

 

 

それにしても、こう近くで見るとやっぱシンフォギアスーツはエロいな。どっかの影の国の女王バリに、ピッチピチ。スタイルが良ければ尚更ね。

 

 

はあ〜、最近ノイズの不細工な面を見ることが多かったからホント目の保養になるわ。もう、どこのどいつだよノイズがかわいいと宣った奴は……。いざ対面するとかなり気持ち悪いからな!

 

 

ウッ!……フゥ。目の保養だけじゃなく、荒んだ心も癒やされるわぁ。何か、段々と下腹部にも熱い血が流れ込んでいるのを感じる。

 

 

心が落ち着くに連れて我が息子が起き上が──

 

 

「──────!?」

 

 

らなかった。急速に萎えたせいか、少し痛かった。

 

 

槍を弾いたと思ったら、奏ちゃんは身体を翻し、遠心力を乗せた槍を思い切りフルスイングした。俺の頭に向けて……。俺はもう無意識に近い反射で腕で槍をガードしたが、勢いを完全に殺せず左側に多少よろけた。

 

 

マジでチビりそうになった。この攻撃、防いでなかったらほぼ確実に頭が飛んでいた。千切れた頚から、血がプッシャー案件である。……笑えん。ガードした腕が地味に痺れており、より一層先の一撃が本気だと伺えた。──俺を殺すことに……。

 

 

タラリ、と背中に冷や汗が流れた。

 

 

ヤバいヤバい奏ちゃんがガチで俺を殺しに来ている!俺、奏ちゃんに恨まれるようなことしたっけ?此方は一方的に知っているけど、対面するのは実質これが初なんだけど?ううむ、まったく心当たりがないんだけって!?痛い!ちょっ、奏ちゃん、空いた手で本気顔面パンチはやめてっ。ディケイドに変身しているとはいえ、シンフォギアで強化されたパンチは洒落にならんっ。

 

 

 

「──チッ」

 

 

イケメンフェイスを傷つけさせたくないので、少し反撃します。まだ押し付けてくる槍を、ガードしていた腕で押し返してやる。押し返されるとは思わなかったのか、「うわっ!?」と声をあげて体勢を崩してしまう。その隙を突き、回し蹴りを奏ちゃんにお見舞いする。……槍の方に。だって身体に当てて怪我させたら嫌じゃん。女の子の身体は宝物なんだよぉ!

 

 

「しまった!?」

 

 

おぉ、と俺は心の中で声をあげた。綺麗に回し蹴りが炸裂し、槍が放物線を描きながら宙に舞い上がった。やっぱり僅かな時間でも、カブトのライダーキックを真似て練習した甲斐があった。

 

 

「くそっ」

「────」

 

 

奏ちゃんが槍を取り戻そうと跳び上がり、俺が距離をとるために跳び下がったのはほぼ同じタイミングであった。取り敢えず、此処は逃げるに限る。俺にしてみれば彼女と戦う理由は一つもない。まだ他の場所でノイズと戦うかもしれないし、体力は温存しておきたい。

 

 

姿を消してやり過ごそう。

 

 

この時、俺は気づくべきだった。いつもならノイズを殲滅するとすぐにオーロラが現れて次の戦場に行くか我が家に戻っていたということを。──つまり、

 

 

……しかしまぁ、奏ちゃんよぉ敵(じゃないけど)がいるのにその行動はアカン。それじゃ襲ってくださいと言っているようなものだよ?俺?もちろん襲うけど、襲うならベッドの上でと決めておりますが?こんな所で襲ったら犯罪じゃん。

 

 

しかも俺、仮面ライダーだよ?やってしまったら全てのライダーからぶっ殺の刑(オールライダーキック)不可避である。あっでも変身解除して某進撃の奇行種の動きと奇声を上げて襲えば心神喪失で無罪を勝ち取れるワンチャンあり?(白目)

 

 

……これ以上此処にいたら変な下心が芽生えてしまう(既に大輪)。早くここから立ち去ろう。ずっと働いて、疲れているんだ。

 

 

左側のサイドバックルに手をやり、メカメカしいブックカバー──ライドブッカーを手に取る。ライドブッカーを開き、目的のカードを探す。ええと、インジビブルは何処だっけ?

 

 

 

 

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

突然の奏ちゃんの雄叫び。少し、気になってしまい目をやると、俺は言葉を失った。

 

 

見ると奏ちゃんはオーバーヘッドキックの体勢で、こちらに向かって槍を蹴〜り出したではあ〜りませんか。しかも、穂先はちゃんと俺の方に向けられている。地味に凄い……。

 

 

まぁ、驚きはしたが焦るほどではない。槍一本、避けることなんぞ余裕余裕♪なんなら、後ろ向きながら華麗に回避してやろうか?失敗したら、その槍に尻から刺されてやんよ〜。(笑)

 

 

   

【STARDUST∞FOTON】

 

 

ちょ、それ反則!?槍を増やすなんて惨いことすんなや!女なら、正々堂々槍一本で勝負せんかい!(暴論)イヤァァァァ、あ、雨が、槍の雨が降ってくるぅぅぅぅぅ!だが、切り札は常に俺の中にあるっ。

 

 

   

【ATTACK RIDE BALIA】

 

 

【BALIA】はディエンドだけかと思った?残念、ディケイドも持ってました。実はこの間カードを確認していたら見つけたんだ。それにしても、流石あの仮面ライダーBLACKのライダーパンチを防いだバリアーさん。(お前のじゃないけどな)どしゃ降りの如く降ってくる槍を見事に防いでくれてる。

 

 

──これで紙耐久だったらドライバー外して、イッテイーヨ!になっていたからな?ドライバーさんが。

 

 

つか、逃げるタイミングを失ってしまったな。あんまり彼女とは戦いたくないんだよな。防がれて驚いてる顔しているけど、俺の方が驚きだわ。だって、奏ちゃんの顔がもう絶唱顔になりかけてるもん。目や鼻と口、耳からも血がドバドバと垂れ流してるし……。もしかして、此処に来る前に絶唱を歌ってた感じ?

 

 

【STARDUST∞FOTON】の攻撃が止み、一本の槍が不規則な軌道を描きながら、奏ちゃんの手に戻っていく。不覚にも、何だかカッコいいと思ってしまった。

 

 

「……まったく、こっちは必死でやってるのに、全然意に介してないって感じだな」

 

 

気にするな、俺が強いだけだ。──なんて、口が裂けても言えんな。というか、意に介してない言っているけど、そんなことないよ?滅茶苦茶、ハラハラドキドキしております。もしやこれが、恋!?……何か、死にたくなってきた。

 

 

未だに状況を完全に把握してないけど、これだけは分かる。奏ちゃんが如何に危険な状態なのか。彼女の瞳から感じられる、怒りやら殺意は一切の衰えを感じさせない。

 

 

それとは裏腹に槍を持つ手は震え、立っているのがやっとといった状態だ。顔色も悪いし、絶対に命に関わるほどの重体だろこれは。マジで早く二課スタッフ助けに来いや。

 

 

「……ハァ。そんだけの力があるアンタが、凄く羨ましい。聞かせてくれよ、アンタがその力で戦う理由を」

 

 

喋るのが辛いはずなのに、奏ちゃんは俺を見つめながら問いかける。

 

 

何か羨ましいという単語が聞こえたんだけど。そうかぁ、奏ちゃん俺のことをそう思ってくれてたんだ。ちょっと嬉しくて、顔がニヤついてしまう──わけない。いや、奏ちゃんの目が「ふざけた理由なら、ただじゃおかない」と伝えてくるんだもん。

 

 

じゃあ話すのかと言われれば、話すわけないじゃん。これでも俺は正体を掴まれないように終始無言を貫いているんだから。ま、まあ最初の時は状況がわからずつい「仮面ライダーディケイド」と名乗ってしまったが、反省して今は無言の戦士スタイルを崩さないよう必死こいてます。

 

 

「だんまり、か。まあ、最初から返事が来ないのは分かってたんだが……」

 

 

なら聞くなよ。

 

 

「でもさ、こうやって隙だらけなのにアンタは何もしてこない。なら、少なくとも話を聞いてるつもりなんだろ?」

 

 

ええ、ええ。そりゃ、聞きますとも。奏ちゃんの生ボイスを聴く機会なんて滅多にありませんからね。しっかりと脳内にサンプルボイスとして保存して、それを元に後で思い切り達しますとも!

 

 

「アンタにはそんだけの力があるのに、何でここはこんな有り様なんだよ」

 

 

見渡せば、俺達の足元には無数の煤の山がある。それは元が人間であり、ノイズに殺された者の末路。中にはノイズがひとりでに自壊した物も含まれているが、人間の物の方が多いだろう。

 

 

不意にある記憶が蘇った。それは俺がディケイドになって、一週間位の頃。

 

 

俺もよくわからないが、ディケイドにはノイズに対し誘引効果がある。だから、いつも現場に行くとノイズが俺に寄って集る。だが、俺は見てしまった。ノイズが俺に向かう道程に、運悪く人間が居たことを。

 

 

気づいた時には、既に手遅れ。その人は近づいたノイズを察知するも、恐怖に染まった顔のまま炭素の粉に変わり果てた。もし俺がもっと早く気づければ助けられたかもしれない。そんな考えが、ずっと頭の中にこびりついて離れなかった。

 

 

……何で、あの日の記憶を思い出したんだろう。奏ちゃんの言葉から、あの日のことを無意識に連想してしまったのだろうか?

 

 

つまり、あれだな。俺の対応がもっと早ければ、犠牲者の数はもっと減っていたんじゃないのか?とか言いたいのかな。

 

 

奏ちゃんは俺に槍を向ける。槍を持つ手に、震えはなかった。

 

 

「──アンタ程の力があれば、アンタがもっと早く来ていれば……ここに居た人達を、誰一人死なせずに済んだんじゃないのかっ!!」

 

 

……心の中で申し訳ないけど、まず先に謝るわ。そして、その上で言わせて戴きたい。

 

 

無理だし、無茶だし、俺の心情的にも負担を掛けたくない。

 

 

これを言ったらガチで叩かれるだろうが、ぶっちゃける。

 

 

『俺』は、他人の命より司くんの命が大事なんだよ!元を辿れば全部『俺』の自業自得だけど、『俺』は今でも司くんの意識が蘇るのを信じている。そのときが来るまで、この身を危険に晒したくはない。絶賛死地に飛び込んでるけどなっ。

 

 

別に他人の死に対して何も感じないわけではない。悲しむし、場合によっては後悔することもある。それでも、『俺』には司くんのこれまでの人生を奪ってしまった責任がある。だから、何があってもこの身命を失わせない。

 

 

今更だけど、俺は仮面ライダーを名乗れないし、名乗る資格も最初からなかった。もはや前世の残り火に等しい、仮面ライダーの憧れで司くんの命を好き勝手にするわけにはいかない。

 

 

それでも、今まで戦ってきたのは憧れを捨てきれなかったから。だから、立ち回りをしっかり考えてなるべく【KAMEN RIDE】の使用を控えた。ホントのことを言うと、他のライダーに変身したのって今日の昼頃のカブトが初なんだよね。

 

 

考えてみて欲しい。世間ではディケイドがノイズを倒す驚異の謎の戦士として認識されている。そんな謎に満ちた存在が別の姿になり且つ新たな能力を披露すれば確実に世間は騒ぎだす。やがて、きっと誰かは思う筈だ。

 

 

──ディケイドはいつか、自分達に敵対するのではないか?

 

 

実は自宅の風呂場から最初に転移されたのって、バルベルデ共和国だったんだよね。そこでノイズと戦っていたらさ、バルベルデの軍隊が攻撃してきたんだよ。最初はさ、俺の近くにいるノイズどもを狙っていたと思ったんだ。でも、砲弾やミサイルが飛んできた時、明らかに俺を捉えていると分かった。お陰で、爆風やらなんかに邪魔されて随分と時間を掛けてしまった。

 

 

最近、ディケイドが戦っている動画が何本もあることを知り、俺は撮影者に対して危機意識足りねぇなぁなんて気楽に考えてた。

 

 

だが、バルベルデの戦闘時に俺が軍隊に攻撃して、更にそれが動画に撮られてそれを広められたら?芽生えた不安が現実のものとなり、世界のディケイドに対する警戒度は飛躍するだろう。

 

 

そこで【KAMEN RIDE】して、特に龍騎でドラグレッターを召喚してみろ。世界中パニックに陥るよ。そしたら捕獲どころではなく、脅威認定されて討伐対象になるだろうな、きっと。

 

 

つまり何が言いたいのかというと、目立てば目立つほど『俺』は司くんの首を締めてしまう。

 

 

ディケイドの力を十全に引き出せば、奏ちゃんの言葉通り、犠牲者を出すことなく解決できるだろう。その分、狙われるリスクは増してしまい、司くん第一に考えている『俺』にとっては決して無視できない問題だ。

 

 

「いつも遅すぎるんだよ、お前はっ。今も、あの時も!本当に来て欲しいときに、お前はいなかった!……そんな奴が、救世主(ヒーロー)?ふざけんなぁ!」

 

 

なんか、ホントに心にグサグサ刺さってくるよ。確かに、家族をノイズに殺された人から見れば、俺のやってることって中途半端に見えてしまうんだろうな。ノイズと戦える力があるのに、死人を出した後に悠々と姿を現して、ノイズを倒したらさっさと消える。……マジで、自分の中途半端ぶりに嫌気が差してきたわ。

 

 

「ディケイド、アンタには捕獲命令が出ている。でも、アタシ的にはアンタを一回、ボコしてやらないと気が済まないっ」

 

 

そうかぁ、捕獲命令が出ているのかぁ。もしかして、ここが潮時なのか?二課って良心的な人物が多いから、事情を話せば悪いようにならないかな。……ラスボスがいる時点で不安だが、優秀なOTONAがいるから何とかなるか?うん、信じよう。上手くいけば、原作キャラと繋がりが持てるかもしれないし。(現実は甘くない)

 

 

よしっ。そうと決まったら、ちゃっちゃと投降しよう。もうこんな状況にはうんざりだ。け、決していつでも突撃出来る構えをした奏ちゃんに臆しているわけではないからね?(ブルブル)

 

 

投降の意を示すために、俺は両手を挙げようとして次の瞬間には後悔した。

 

 

後に、俺は語る。ミンナ、伝えたいことがあるなら口に出して伝えようね。

 

 

「っ、させるか!?」

 

 

奏ちゃんが一気に距離を詰めて、槍を突きだす!槍の穂先は、また俺の心臓に向けられている。ナシテ?俺は降参しようと手を動かしただけなのに、どう曲解すれば反意があると思われるんだよチクショウ!

 

 

というか、捕獲命令が出ているのにこの子、俺を本気に殺しに来ているんだけど……。最初の時点で俺に「死ね」って言ってたな、そういえば。きみ、一応組織に属している身なんだから、上の命令には従おうよ、ね?もし俺が捕まっても、弁護する気ZEROだからな。どうしてもというなら、その時の弁護代を君の身体で払ってもらおうか、グェッヘッヘ〜。

 

 

迫り来る槍、距離的に完全には避けきれない。ならば多少のダメージは覚悟して奏ちゃんを無力化するしかない。そんで駆けつけてきた二課に素直に身柄を預けよう。本っとうにごめん!司くん。……あと、奏ちゃんも。

 

 

腰を低く落とし、心臓に向けられた槍が俺の左肩上を掠りながら通過していく。ディケイドボディのお陰で痛みはないけど、衝撃が半端なく目の前に火花が散っておっかない。ヤベ、チビッタ。

 

 

すかさず、槍を掴んでいる手を俺の手が掴み取り、態勢を戻すと同時に奏ちゃんを引き寄せる。

 

 

奏ちゃんの顔がドアップ。俺の方が身長高いから、奏ちゃんが見上げる形になっている。なんだろう、イケナイコトなのに血塗れの奏ちゃんの顔を至近距離で見たら、胸の高鳴りガガガガガガァ、お、俺にリョナ趣味はねぇのに。

 

 

そして、もっと凄いことに気づいた。俺と奏ちゃんは互い向かい合ったまま、密着しているのだ。お分かりいただけただろうか?

 

 

奏ちゃんのおっぱいが、俺の胸に当たっているんです。

 

 

アーマー越しに感じる、密着している事によって潰れている奏ちゃんのおっぱいの感触。奏ちゃんが俺の拘束から逃れようと動き、それに追随して形を変えるおっぱいの感触。それを感じとる度に俺の背筋に甘美な電流が走り、下腹部に到達する。

 

 

なんかもう、こっから背負い投げしたりとか腹パンして気絶させようと思ったけどそんなことはどうでもよくなった。

 

 

今は俺のお稲荷さんが起き上がらないようにせねばぁ!

 

 

もしこの状態で起き上がったら、確実に奏ちゃんにバレる、当たっちゃう!そうなったら、謎の戦士から変態仮面にジョブチェンしてまう!?それだけは嫌だあ!

 

 

じゃあ離れろって?………………それも嫌じゃあ!!だって、俺がディケイドになってからずっと働きづめで癒しが全然ないんだよ!これくらいのご褒美は、当然じゃろ!?もっと味わいたーい!え、駄目?

 

 

い、いかん。空いてる方の手が奏ちゃんのお尻に向かってしまう!触ってしまったら最後、俺の性剣エロスキャリバーが奏ちゃんに突き当たってしまう!

 

 

あわや大ピンチ、指先が触れようとしたとき──

 

 

 

 

 

 

 

『奏ぇ!今すぐそこから離れろぉ!』

 

 

 

 

 

 

 

気 づ い た ら 、 奏 ち ゃ ん を 後 ろ に 投 げ て た 。

 

 

 

 

 

その通信機、オープンチャンネルになってたのかビックリしたわぁ!!

 

 

つい、OTONAが近くにいると思って命の危機を感じて、弁解するために奏ちゃんから離れるためにぶん投げて、土下座しようとしてけどOTONAの姿を探したけどいなくて、まったくの杞憂だなって安堵したのも束の間で奏ちゃんをぶん投げたことを思い出して、こうなったら奏ちゃんお尻を触っとけば良かったなーとか後悔したりしてなかったり、おっぱいあざっしたと最期に伝えたかったなぁetc…。(落ち着け)

 

 

取り敢えず、心の中で「ごめん」ねと謝っとこ。

 

 

心の中でな!

 

 

 

 

 

ごフッ。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

自分の無力さを、天羽奏は家族を失ったあの日から、ずっと呪い続けた。

 

 

それはシンフォギア(ちから)を手に入れた今でも……。否、手に入れたこそ、より自らの無力さを叩きつけられた。

 

 

最初の頃はシンフォギアを使える資質はあれど、扱えるだけの素質は奏にはなかった。それでも、ノイズへの憎しみは消えずに、むしろそれを糧として奏は力を求め続けた。

 

 

血を何度も吐き出し、身体が鉛のように重くなろうとも止まることはなかった。身を削りながら、戦う術を自身に叩き込み、奏は漸くシンフォギアを使えるに足る力を身につけた。

 

 

ガングニール。北欧の主神、オーディンが持っていたとされる無双の槍。奏が使うシンフォギアは、その槍の欠片をもとにして創られた。

 

 

だが、そのような努力の果てに力を手にしても奏の心は晴れる事なく、より一層の暗雲が立ち込めた。

 

 

初めての実戦を経験して得たものは、僅かな達成感と己の無力さ。

 

 

ノイズを自身の手で殺した時、奏は歓喜した。あの憎き害物を、自分の力で駆逐できたこと。強大な力を秘めたシンフォギアを扱えていることによる、毒々しい万能感。命を懸ける戦場にいるにも関わらず、戦いの最中奏の心は酔いしれていた。

 

 

戦闘を終えた後、奏は避難所で泣いている女の子を見て酔いからすぐに覚めた。

 

 

聞けばその女の子の家族は、その子を残してノイズに殺されてしまったと。

 

 

奏はその子にかつての幼き自分の姿に重ねてしまった。

 

 

幼き自分が、奏に言った。

 

 

『──どうして、私の家族を助けてくれなかったの?』

 

 

その言葉を聞いた日から、天羽奏は消えない苦しみを懐きながら、戦うようになった。

 

 

助けてあげられなかった罪悪感を振り払うように、奏は戦場で歌い続けた。

 

 

奏は気付いていないが、心の奥底ではこれ以上誰かを悲しませたくないと優しい想いを持っている。

 

 

力を手に入れたのは、憎しみだけでなく、力なき人たちを守りたいという願いもあったからだ。

 

 

だからこそ、奏はディケイドに惹かれていった。

 

 

何者をも寄せ付けない、その圧倒的な強さに。

 

 

絶望的な状況に、希望を抱かせてくれる存在感。

 

 

ディケイドか見せたその在り様は、奏の理想形と過言してもいい。

 

 

同時に、奏は思う。ディケイドの成すことを見る度に、己が酷く無様な戦い方を晒しているのを嫌でも自覚してしまう。だから、更に戦いに身を投じた。

 

 

しかし、奏が何度戦おうと救えなかった命が多すぎた。それに伴い、何度も遺族の涙を見てきた。

 

 

その光景に奏は徐々に追い詰められていき、力を付けるために過剰な訓練を行った。周りの制止を振り切って、がむしゃらに槍を振るい続けた。

 

 

そして、演習場でディケイドを見た瞬間、気づいたら戦いを挑んでいた。自分の力が理想にどれだけ近づけたかを。そして、少しでも弱い自分を否定したかった。それを証明するために、殺す気でこの力を振るった。

 

 

それでも、届かなかった。姿を捉えられなかったが、昼時に見せた圧倒的な殲滅力。そして、今いる演習場での闘い。

 

 

此方の攻撃は悉くいなされ続け、闘う気はないのか、ディケイドの攻撃は槍を蹴り弾いた時だけ。

 

 

遊ばれるどころか相手にすらしていない、そんな錯覚を覚えた。いや、実際そうなのだろう。元から判っていた実力差を痛感させられ、最早心は限界に達し、歌を紡ぐことすら今の奏には辛く血を吐き出すのと同じだった。

 

 

認めたくなかった。あんなに身を削って得た力で、救えなかった命の多さの現実と己の限界に。今の自分はただ力を持った子供に過ぎないのだと。

 

 

結局、何も変わらなかった。家族を失ったあの日から。今の自分は誰よりも死に近い場所にいるというのに、失われる命は周りにいる人々だけ。

 

 

無様にノイズを殺していくことしか出来ない自分の姿を思い出し、奏の頭はぐちゃぐちゃになり何も考えられなくなっていた。

 

 

だから、言ってしまった。

 

 

『アンタにはそんだけの力があるのに、何でここはこんな有り様なんだよ』

 

 

自分が口に出した言葉に、奏は心の中で愕然とした。そして、堰を切ったように続けてしまった。

 

 

『──アンタ程の力があれば、アンタがもっと早く来ていれば……ここに居た人達を、誰一人死なせずに済んだんじゃないのかっ!!』

 

 

今すぐ自分の喉を、手にしてる槍で刺し貫きたかった。今でも生き恥を晒しているのに、自分はなんと子供じみたことをしているのだろう。自分ができなかったことを他者のせいにしている。なんと最低な人間か自分は。

 

 

ディケイドという存在は、自分に出来ないことをやり遂げている。それも何度もだ。そんな存在を自分が責め立てるのは、筋違いだ。

 

 

それでも言ってしまう奏の姿は、感情が抑えきれない幼子のようだった。

 

 

──自分に失望してから、奏は夢を見るようになった。家族の夢だ。それも、過去の幻影ではなく、『もしも』の情景。ノイズに人生を歪ませられなかった、あり得たかもしれない(みらい)

 

 

──どこかの花が沢山咲いている野原。そこで走り回る妹とその妹を追いかける(あたし)。そんな二人を優しく見守る両親。そして、その光景を見つめる(じぶん)

 

 

──妹を抱きしめ頭をガシガシと乱暴に、されど愛を籠めて撫でる(あたし)。その顔は笑っており、今の(じぶん)には決して出来ないだろう。

 

 

『いつも遅すぎるんだよ、お前はっ。今も、あの時も!本当に来て欲しいときに、お前はいなかった!……そんな奴が、救世主(ヒーロー)?ふざけんなぁ!』

 

 

ふざけているのは、自分の方だろう。随分と無茶なことを言ってしまっている。

 

 

それでもそんな事を言ってしまったのは、やはりディケイドに助けてもらいたかったから……。

 

 

もし、『あの時』にディケイドが助けに来てくれたなら、今の自分はあの夢のような自分になることができたのではないか……。こんな中途半端な人間にはならなかったのではないか。

 

 

言ってしまった事実は消えない。奏は後悔しながらも、誤魔化すようにまた槍を振るった。

 

 

結局、またいいようにあしらわれ、ディケイドに投げ飛ばされた。投げられて数瞬の浮遊感を味わっていた時、奏は聞こえた。聞こえてしまった。

 

 

「ごめん」

 

 

誰かのという言葉は愚問だ。何故なら、ここにいるのは二人だけだ。自ずと誰が謝罪の声を発したのかすぐに理解できた。

 

 

瞳を此方に向けて、ディケイドは本当に申し訳なさそうに奏に謝罪を送った。

 

 

(違うだろっ。アンタは何も悪くないんだ……)

 

 

初めての名乗り以来、漸く口を開いたディケイド。その第一声が謝罪とは。ある意味貴重な体験をしているというのに、奏はそんな事を言わせた自分自身を責め立てた。

 

 

自分の無力さを認めたくなくて。

それを否定するためにタチの悪い八つ当たりを行い。

恥ずかしげもなく言葉の裏に無茶な助けの声を乗せて。

挙げ句に見当違いな謝罪をさせてしまった。

 

 

(あたしは、いったい何をしたかったっていうのさ……)

 

 

憎しみに駆られ、死者への罪悪感に囚われ、自分の愚かさを目の当たりにし、最後に戦うべき理由を失ってしまった。

 

 

奏の戦意が無くなれば、必然的にシンフォギアも解除される。コンクリートの地面に、受け身もとらず転がり、止まると同時に奏の姿はラフな私服姿に戻っていた。

 

 

仰向けになった奏の瞳には、夜空から奏に向かって(・・・・・・・・・・)ノイズが飛来してくるのを捉えた。

 

 

(もう、アタシが生きる意味はどこにもない。あの時家族と一緒に死ぬのが、正しかったんだ)

 

 

ノイズに殺されるというのに、奏は恐怖も屈辱も感じない。ただ、潔く迫り来る死を受け入れた。

 

 

受け入れたというのに──

 

 

「……どうして、こんなアタシを──」

 

 

死は振り払われた。

 

 

暗い夜を切り裂くように、マゼンタの光弾が飛来してきたノイズを撃ち殺す。

 

 

再び現れた大量のノイズが我先にと奏に近づこうとする(・・・・・・・・・・・・・・)が、ノイズが奏に触れることはなかった。

 

 

仮面の戦士が奏を守るように立ち阻み、ノイズの攻勢を食い止めていた。

 

 

「たず、げっで……ぐ、れ"るん、だ?──ディケイドォ」

 

 

自分を守ってくれるあまりにも偉大な背中を見て、奏は涙を溢れさせながら問いかけた。

 

 

「────」

 

 

ディケイドは何も語らない。黙々と、奏を守るために拳を振るい続けるだけだ。

 

 

成人男性並の背丈のノイズを右アッパーで空高く吹き飛ばし、ディケイドが思うことは一つ。

 

 

「(翼さぁん!!早く貴女の片翼を助けに来てぇ!!?)」

 

 

本音は?

 

 

「(逆羅刹をしてもらい、アソコの食い込み具合を拝見したい)」

 

 




【捕捉】主人公は死者を出しているといっていますが、これまでの戦いで、死者0でおさめたことは何度もあります。ですが、戦闘している時に同時に別の場所でノイズが現れるため、結果的に死者を出してしまっています。そして、奏はそれを理解した上でああいうことをいってしまいました。


次回は奏視点で始まり、奏がディケイドに何を想っているのか明らかにします。そして、それが終わったら原作ライブになります。


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05

待ってくれていた方々、お待たせしました。

言い分けはしません。本当に待たせて申し訳ございません。

感想の返信も満足に行えませんでしたが、皆さんの感想は励みになりました。

お待たせした挙げ句に、今回の話しは出来に自信はございません。戦闘シーンは短いです。


「クソ、クソッ。どうなってやがんだ、これは!」

 

 

演習場の全体を見渡せる、演習場の離れた高台に一人の少女がいてかなり焦っていた。

 

 

綺麗な銀髪を揺らしながら少女は手に持っている奇妙な杖を地面に叩きつけていた。しかし、余程頑丈なのか少女の筋力とはいえ硬い地面に何度叩き付けられても傷一つ付かない。精々土で汚れる程度だ。

 

 

「ノイズをディケイドのいる場所に出現させれば、ディケイドだけを狙うんじゃないのかよ!」

 

 

『それは、貴女がなにかヘマをしたからじゃないの?クリス』

 

 

「っ!?……フィーネっ」

 

 

クリスと呼ばれた少女の頭の中に、女性の声が響く。だが、今いる場所にクリス以外の人間は存在していない。

 

 

クリスはそんな事態にさほど驚いていない。むしろその声を聞いて、幾分か落ち着きを取り戻した。

 

 

「フィーネ、アンタの言うとおりにアタシは演習場(あそこ)にノイズを出した。それだけしかやってねえよっ」

 

 

『貴女の言うとおりだとしても、本来ならディケイドだけを狙うはずよ。なのに、ほとんどのノイズは天羽奏を狙っている。狙う対象を選べるのは、今貴女の持っている【ソロモンの杖】だけよ』

 

 

「だからわかんねぇんだよ!ノイズを出したら、真っ先にあの女を殺そうとしたんだよ!?第一、この杖はまだ正確に対象を選べる段階じゃないと言ったのはアンタだろ?」

 

 

『確かにそう言ったわ。でも、貴女が嘘をついている可能性も否定できないわ。もしそうだとしたら私の愛が貴女に届かなかったのね……。とても残念よ、クリス』

 

 

姿なき声の雰囲気が変わり、身も凍える冷たさを孕んでクリスの頭の中へ告げていく。

 

 

クリスは出そうになる悲鳴を必死で押し殺し、無意識に自分の身体を抱きしめながら応える。

 

 

「ほ、本当だっ。アタシはノイズを出した以外、なにもしてないんだ。信じてくれよ!」

 

 

目尻に涙を浮かべながら、切実に自らの無実を訴える。身体は震えて、手にした杖を地面に落としてしまう。

 

 

『…………そうよね。可愛い貴女が私を裏切る筈はないわよね。ごめんなさいね、クリス』

 

 

クリスの反応からして、本当のことだろうと察して謝罪する。

 

 

「グスッ、……ううん。気に、しなくていい」

 

 

『ありがとう、クリス。なら、今すぐ其処から離れなさい。二課が演習場に向かっているわ。また後でね♪』

 

 

「……わかった、フィーネ。また、後でな」

 

 

涙を拭い、落とした【ソロモンの杖】を拾って、クリスは足早にその場を去り、夜の闇に溶け込んだ。

 

 

『(クリスの言うとおりだとして、何故ノイズは天羽奏を狙う?今までのデータから、その場にディケイドが存在すれば人間を無視してやつに向かっていった筈だ。アレで対象を選定していなければこんな現象は起きない。原因の究明は後回しだ。今は天羽奏をなんとしても生き延びさせなければ……。私の悲願成就の為にも、ディケイド。お前の力を頼るしかない。もし天羽奏を失う事態になれば、容赦する気はない)』

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

──やめてくれ。

 

 

「──────」

 

 

──アタシは、アンタに守ってもらう資格なんてない。

 

 

迫り来るノイズに、ディケイドは確実に攻撃を当て、最短最速の立ち回りでノイズの魔手から奏を守り続けていた。

 

 

ディケイドの姿を瞳に納めれば、次第に惹かれていった。先ほどまでディケイドに悪感情を抱いていたのに、それを忘れるくらいディケイドの力は凄まじかった。

 

 

同時に自分の醜さを直視している気分であった。自分勝手な理由で攻撃を仕掛けた自分に、ディケイドは何も言わずに奏を守っている。対して、自分はどうだ?戦う意思を失くして、無様に地面を這いつくばっている。守られているのだ、本来なら戦う力が有るというのに。

 

 

「……やめてくれ」

 

 

なんと、情けない。

 

 

「あたしは、自分の無力さを──」

 

 

首に掛けているペンダントを握りしめても、なんの力も湧いてこない。

 

 

「あた、しがっ。出来なかっ、た、ことを、あ、んたのォ……せ、いに、してぇ!」

 

 

声を出すのが、辛い。口から何度も、吐血してしまう。これまでも何度も血を吐いてきたのに、今回のは更に辛い。

 

 

「だ、れかを、救え、なかった……ゴフュ!」

 

 

一際大きい血塊が、口から零れ出てきた。一瞬、息が詰まりかけたが、吐き出されたことによって呼吸が楽になり、奏は言葉を繋ぎ続けた。

 

 

「現、実をぅ、認めたく、なかったぁ!」

 

 

最初は復讐を果たせれば、それで良かった。でも、あの女の子の悲しむ姿を目にし、自分のやっていることが実に愚かしいことかを薄々感じ取っていた。自らの願望で、助けを求める人間を果たして無視していいのだろうか?

 

 

「──あたしには、無理、だった」

 

 

結局、天羽奏は自身の人生を復讐に捧げることは出来なかった。それは、罪悪感から来るものであったし、彼女が本来持ち得る善性であったかもしれない。

 

 

だからといって、それでナニかが変わったということはなかった。残酷な言い方をすれば、苦しみが増えた。それだけのこと。

 

 

力を手に入れながら、目の前のたった一人の人間を救えなかったこともあった。

 

 

対して、ディケイドは今もこうして、天羽奏を守ってくれている。

 

 

この差はなんなのか、残念ながら今の奏には考える余裕はなかった。

 

 

今は、それよりも──

 

 

「誰かの命を満足に守りきれないあたしが、アンタにとやかく言う資格なんて最初からなかった……。だから、謝るのはあたしなんだよっ」

 

 

「─────」

 

 

「ごめんなさいッ、ディケイド。父さん、母さん、湊ぉ、アタシは何も変わらなかった。あの時の、無力な弱いままのガキだったぁ、ぁぁぁぁぁっ」

 

 

涙が溢れだし、雫が地面を濡らしていく。最早、心に秘めた想いも止まらずに出てくる。

 

 

「あたしの歌じゃあ、何も、救えない。救えなかったぁ!!もう、嫌だ。目の前で、誰かが死ぬのはぁ!」

 

 

「──────」

【ATTACK RIDE BLAST】

 

 

奏の慟哭を背にして、ディケイドは銃──ライドブッカー・ガンモードを構える。照準は迫り来るノイズの群勢にしっかりと定められている。

 

 

トリガーを引けば質量をもった銃身の幻影が4つ現れ、無数の光弾が放たれた。ノイズは回避する間もなく次々と風穴を開けられていく。ディケイドも容赦なくトリガーを引き続けノイズを殲滅していく。

 

 

為す術もなく光弾の嵐によってノイズはこの場から全て消滅した。ディケイドは銃を構えたまま残敵がいないか確認するがその気配はない。

 

 

警戒を怠らないまま、静かに銃を仕舞うディケイド。そして、ゆっくりと後ろを向きその瞳で奏の姿を捉えた。

 

 

ディケイドの瞳に見られただけで、まるで金縛りにあったかのように全身が硬直して動けない。

 

 

そして、ディケイドはゆっくりと奏へと向かって歩き出す。

 

 

「っ!」

 

 

奏は息を呑み、身体を起こそうとするが、意思に反して動こうとしてくれない。それが余計に、奏の中に芽生えた恐怖を肥大化させていく。

 

 

『奏!聞こえるか、返事をしろ!奏っ』

 

 

焦りだした奏の耳に慣れ親しんだ男の声──風鳴弦十郎の呼び掛けが届いた。発声源は、奏の目前にある二課のスタッフ専用の通信機からだった。

 

 

私服のズボンのポケットに入れておいたはずだが、ディケイドに投げ飛ばされた拍子に落としてしまったのだろう。

 

 

思わず奏は弦十郎の問い掛けに答えようとするが、その直前に状況が一変した。

 

 

目前にあった通信機を、此方に近づいていたディケイドに拾われてしまった。ディケイドは手にした通信機を一瞥すると、

 

 

「────」

 

 

一切の躊躇なく、ディケイドは通信機を握りつぶした。掌の中から壊された通信機の小さな部品が地面に音もなく洩れ落ちていく。そして、掌の中に残っていた部品も容赦なく振るい払った。

 

 

「………………」

 

 

奏は完全に言葉を失ってしまい、一種の絶望感が心を覆っていた。

 

 

奏とディケイドの間の距離は、そんなに開いていない。故に、奏が再び聖詠を唱えようとしても唱え切る前にディケイドが素早く対応してしまうだろう。

 

 

ディケイドが倒すべきノイズは、既にここにはいない。ノイズを殲滅すればすぐ消えてしまうのに、未だに奏の眼前に留まっている。何か理由があるのか解らないが、少なくともディケイドはしっかりと奏の存在を認識していた。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

互いに見つめたまま、沈黙が場を支配する。この時の全ての一瞬が、奏にとっては生きた心地がしなかった。

 

 

無感動なディケイドの瞳が奏を見つめ続けている。

沈黙を破ったのは、奏からだった。

 

 

「何なんだ、お前はっ」

 

 

奏の声には確かな怒気が宿っていた。先ほどまで心に恐怖心が巣食っていたのが嘘のように思えた。ディケイドは、そんな奏の怒りに臆した気配が微塵にも感じていないように見えた。

 

 

その様子に、奏の心は次第に荒れ始めてきた。

 

 

「さっきから、何なんだよお前はぁ!黙りしたままっ、そんな目であたしを見るんじゃねえ!」

 

 

助けてもらった恩を忘れ、奏はディケイドに掴み掛かった。身体は既に限界に達していたのに、驚くほどの身軽さで立ち上がっていた。しかし、その場かぎりの力だったのかすぐに前に倒れそうになってしまう。

 

 

だが、倒れそうになった身体は目の前に立っていたディケイドにぶつかる形で、怪我もなく阻んでくれた。

 

 

体勢を戻そうにも、そんな力は湧いてこなかった。奏は顔だけを動かし、ディケイドの顔を瞳にとらえていた。ディケイドも、同じように奏の顔を無感動な瞳で見つめていた。

 

 

ディケイドのそんな瞳が、奏には気に入らなかった。何を考えているのか分からない。自分にどのような感情を向けているかを分からないからこそ、恐怖を抱いてしまい誤魔化すために無理矢理に怒りを奮い起たせた。

 

 

「……哀れんでいるのか。見下しているのか。嘲笑ってるのか。お前は一体、何を思ってるんだっ。どうして、あたしをそんな目で見るんだ?……もう此方にノイズはいない、消えるんならとっと消えてくれよ!」

 

 

止まりかけていた涙が再び溢れ出そうになりながらも、奏の言葉は止まらなかった。

 

 

「ノイズが憎くてこの力を手に入れたのにっ、何人もの命を蔑ろにして、そのことを後悔して!だから、今度こそ救おうと思ってぇ、でも、……出来なかったっ。あたしは、復讐も人助けも満足にこなせない、最低な中途半端な人間だ」

 

 

自覚がなかっただけで、奏の心は既に限界だったのかもしれない。今宵の戦闘で、ノイズを前に不様を晒し、助けることが出来なかったこの場の人間の死によって今までのストレスに潰れかけていた。

 

 

今さらながら、ディケイドへの八つ当たりはきっと、そんな自分の心を守るために行ってしまったのだろう。相手からしたら堪ったものでないが。

 

 

遅かれ早かれ、奏は遠くない未来に限界を迎えていただろう。どう取り繕うとも、悪足掻きに過ぎない。

 

 

あの時の謝罪の言葉も、そんな自分の心が生み出した幻聴──

 

 

「──それでも、誰かを助けようとしたんだろ?」

 

 

その声が誰のものかを理解する前に、奏の両肩を無骨な両手が掴み、ゆっくりと身体を後ろに動かした。

 

 

静かにディケイドの身体から離され、奏は真正面からディケイドを見つめてしまうことになった。しかし、今のディケイドの瞳に熱が籠っているように感じ、奏は視線を逸らせなかった。

 

 

先ほどまでの冷たい瞳とは思えない変化に戸惑うも、更なる衝撃が襲い掛かった。

 

 

「──たとえ、中途半端な気持ちだろうと、誰かを助けるために戦ったんだろ?」

 

 

聞き間違いではなかった。確かに今、眼前にいるディケイドから、奏に対し言葉をかけた。初めて表舞台に現れて自分の名を告げて以来、何も語らなかった戦士がはっきりと言葉を紡いだ。

 

 

その事実に呆けてしまい奏は、ただディケイドの問いに頷くことしか出来なかった。

 

 

頷いた奏を見て、ディケイドが笑ったような気がした。

 

 

「何もしなかったんじゃない。たとえ中途半端だろうが誰かを助けようと戦ったのは事実だ。ならきっと、そんなお前に救われた人間がいたはずだ」

 

 

「────ぁ」

 

 

『ありがとう』

 

 

いつだったか、誰かに感謝を伝えられた気がする。

 

 

ボロボロで死の恐怖で憔悴していたのに、感謝を告げてくれた人は笑みを浮かべながら言ってくれた。

 

 

『もう駄目だと思った。だけど、アナタの歌から力を貰ったんだ』

 

 

──生きることを、諦めない力を。

 

 

確かにいつの日か、そう言ってくれ人がいた。自分の憎しみに塗れたこの歌が誰かの希望になれたのが、凄く不思議な感覚であった。

 

 

それでも、悪い気がしなかった。

 

 

多くの地獄をこの目で見てきた。失った命は数知れず、されど確かに救えた命もあった。

 

 

「全ての命を救うことなんて、大層難しいことだ。それでも口だけで動こうとしない奴より、力及ばずとも行動できる奴の方がよっぽどマシだ」

 

 

過去に確かに救えた人たちの顔を思い出し、そして、ディケイドの言葉で奏の心に光が射し込んできた。

 

 

だからだろうか、奏は一切の悪感情を抱くことなくディケイドに言葉を掛けた。

 

 

「……どうして、アンタはあたしをそんな気に掛けてくれるんだ?」

 

 

何故ディケイドが自分にこんなにも気にかけてくれるのか、奏には見当がつかなかった。自分はディケイドに随分と酷い言いがかりを投げつけてしまったのだから。自分が謝罪しても、そんな資格は得られないのだから。

 

 

「さぁ、な……。オレにも分からん」

 

 

自嘲気味に言いながら、肩を竦める。

 

 

「もしかしたら、羨ましいのかもしれないな。命だけでなく、心も救える力を持っているお前が」

 

 

──羨ましい。

 

 

ディケイドから放たれた予想外の言葉に、奏は何度目かわからない胸の高鳴りを感じ、頬に熱が集中する。

 

 

「助けたい人たちのために、全力で戦えるお前はすごい奴だ。……オレには、それすら出来なかった。助けることができたであろうその命を、その人たちの心を、オレ(『俺』)はっ、見殺しにしたんだ!」

 

 

血を吐き出すかのようなその独白はまるで先程の自分自身のようで、だからこそ奏は驚き、理解できた。

 

 

「(ディケイドも、あたしとおんなじなんだな)」

 

 

強大な力でノイズを倒し、瞬く間に世界中の人間の希望となったディケイドに奏は自分たち人間とは違う高位な存在だと思った。しかし、今の奏には目の前の存在が強大な力を持っただけの、何処にでもいる人間のように思えた。その事に、失望や落胆は感じなかった。

 

 

それどころか、奏はディケイドが人の痛みや苦しみを理解できる存在であることが嬉しく思えた。反対に苦しみに気づかず仕方ないとはいえディケイドに自分勝手の悪意をぶつけた罪悪感の重みが遥かに増してしまい、意識した途端に奏は顔を伏せてしまう。

 

 

ディケイドもまた、誰かを救えなかった現実に地獄を味わい続けているのだ。それこそ、奏とは比べ物にならないくらい。それなのに、ディケイドは立ち止まることなくノイズと戦い続けている。そして、そんな苦しいメンタルの状態で愚かな自分に、自分のやってきたことを認め折れ掛けた心を修復しようと言葉を尽くしてくれた。

 

 

奏は顔を上げて、ディケイドの目に合わせる。

 

 

「許してもらおうなんて、思っちゃいない……。けど、言わせてくれ。本当に、ごめんなさい。そして、ありがとうな。今さらだけど、大事なこと思い出せたよ。アンタのお陰で」

 

「謝る必要も、お礼を云われる筋合いもないんだが……。まあ、いいか。おい、…………槍女(やりおんな)、お前はこれからも、戦い続けるのか?」

 

「ああ。あたしはこれからも戦い(歌い)続けるよ。ノイズを殺せるなら、あたしは望んで地獄に居続ける。そして、全力で助けを待つ人の命と心を救ってみせるさ。アンタと比べればあたしのできることなんざ、微々たるものだと思うけどね」

 

「(そこまで過小評価しなくてもいいんじゃね?)そうか。なら好きにしろ。お前がこの先どうなろうと知ったことじゃないが──」

 

 

ディケイドの指が、奏の胸に優しく突きつけられる。

 

 

「自分の歌と、仲間を信じてみろ。少なくとも、お前は決して一人じゃないんだから……」

 

 

仮面の奥に隠されたディケイドの顔が笑っているような気がして、奏も釣られて笑みを浮かべる。

 

 

再度、奏の脳裏に助けることができた人たちの顔が浮かび上がり、次に特務二課の面々が思い浮かんだ。

 

 

奏の胸から指を離し、ディケイドは静かに後ろに振り返る。そして、何も言わず奏に背を向けながら歩きだす。

 

 

やるべきことはやった、と背中が語っているかのように奏とディケイドの距離が開いていく。

 

 

静かに去り行くディケイドに、無粋だと思いながらも奏は何かを語りかけたかった。

 

 

ディケイドの背中は、今日この夜までの戦いが嘘のように綺麗だった。だが、ディケイドのあの独白を聞いてしまい、償いも込めて何かを伝えたかった。

 

 

言葉がうまく見つからず、ディケイドはどんどんと離れていく。焦りが募り、奏は堪らず呼び止めてしまう。

 

 

「ディケイド!アンタはいったい、何のために戦っているんだ?」

 

 

……何を言っているんだ自分は、と奏は自分を殴りたくなってしまう。自分は素直に気の利いたことすら言えないのか。改めて自分の本番の弱さと不器用さに怒りを抱いた。

 

掛けるべき言葉を間違えてしまい、奏はどうか自分を無視して早く去ってくれと切に願う。だが、願いに反してディケイドはその場で止まり、背を向けたまま奏の質問に答えてくれた。

 

 

「──オレ、『俺』はヒーローなんて柄じゃない。別に、ノイズに対して憎しみを持っている訳でもないしな。だから、『俺』には誰かの助けを求める声に颯爽と駆けつけられない」

 

 

疲れたように言葉を紡ぎながら、ディケイドは奏の方に振り返る。

 

 

──奏はその一瞬のことをきっと、忘れないだろうと思う。

 

 

振り返ったディケイドの横に、名も顔も知らぬ青年の姿を幻視した。

 

 

「『俺』は、ただの通りすがりだ。その道中に困っている奴がいれば、出来る範囲で助ける。きっと、『俺』が消えるその時まで、それは変わらんだろう」

 

 

そんな当たり前のような答えに、横にいる青年は幼子のような無邪気で誇らしいながらも、どこか悲しい笑みをディケイドに向けていた。

 

 

ディケイドの背後に灰色のオーロラのようなものが出現する。確かな速度でディケイドに迫りだし、数秒で衝突するだろう。

 

 

迫り来る灰色のオーロラを察知したのか、ディケイドは別れを告げる。

 

 

「じゃあな。──また、会おう」

 

 

その言葉を皮切りに、オーロラがディケイドを潜らせると「(あっれー、まだ終わりじゃないんすかぁあぁアッツィィ??!!ナズェ火の海ナンデスクワァ!!?)」、ディケイドは音もなくそこから姿を消した。

 

 

突然消えたディケイドに驚きながらも、いつもの消え方だとわかるとすぐに納得してたら力が抜けて、その場で尻餅を突く。

 

 

夜空に浮かぶ三日月を見上げながら、奏はディケイドの言葉を思い出していた。

 

 

「──困っている奴がいれば、助けるか……。やっぱ、凄いな、ディケイドは」

 

 

生きていれば何度でも、何処でも聞くようなありふれた台詞だ。だが、ディケイドから放たれたそれは何よりも重みがある。

 

 

今の人類にとってノイズは最大の死の象徴だ。そんな向こうから這い寄る災いを、自衛にではなく助けるために使える。果たして、他の人間がディケイドの力を手にしてそれを何人が実践できるだろうか。

 

 

「……こりゃ、旦那が惚れ込むわけだ。まあ、あたしもなんだろうけど」

 

 

全ての人間を救うと宣う奴より、手の届く命を全力で救い尽くすと頑張れる奴の方が個人的には信用出来る気がする。

 

 

「だっはーっ、いろいろ疲れたぜぇ、今日は」

 

 

倒れ込むようにその場で横になり、言葉とは裏腹に奏の顔は晴れやかだった。

 

 

「またな、ディケイド。今度は仲間の翼と一緒に、アンタと共に戦えるのを願うよ。……いつになるか分からないけどさ」

 

 

 

既にその再会は、約束されている。ディケイドたる『彼』にとっても、避けられない全ての始まりの歌劇の日に。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

どーも皆サン、『俺』の身体(タマシイ)がボドボドを越してヂリヂリな門谷 司ドゥエスッ。

 

 

今の『俺』はある究極の選択を迫られていた。

 

 

1.世界の中心でラスボスに責任転嫁させたい気持ちを叫ぶ。

2.特務二課に「ラスボスは身内にいるぞ」と告発する。

よし、1だな(即答)

 

 

そうと決まれば、善は急げだ。時は有限どころか、どっかの時空では最低最悪の魔王が支配してるしな!(白目)時間を奪われる前に、未来を掴み取らなければ!(混乱)

 

 

ふう、よし。

 

 

では、せーのっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

どれもこれもなにもかも、いつもどこも行動を邪魔され、念願の原作キャラ初邂逅がおっさんなのも、翼さんに会えず会話どころか逆羅刹披露からのあそこの食い込み具合を拝見できなかったのも、奏ちゃんに出会いなんやかんやかでおっぱいを堪能してウハウハしながら………そこだけは感謝、するがぁっせっかくの決心が揺らいでチャンスを無駄にしかねなかったのはぜーんぶ!

 

 

 

 

 

フィーネってやつのせいなんだぁ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

仰々しく両腕を精一杯広げて、溜まりにたまった怒りと怨みと憎悪とミジンコ一匹分の感謝を全て吐き出す。

 

 

世界(俺の家)中心(リビング)大地の(テーブルの)上で……。全裸で。

 

 

ブゥゥゥゥゥゥン。(ベルトを外す音。口で発音しながら)

 

 

はあーー。はあーーーーぁぁぁぁぁぁぁ。

 

 

風呂に入り直そ。

 

 

さっきまで、火の海どごろか炎の海の真っ只中にいたけど、流石になにも着ずにテーブルの上で精神統一(30分)をすれば身体が冷えるわな。

 

 

まったく、極寒のつぎは灼熱地獄に落とされるとか最悪すぎる。普段から健康第一の生活を送っている『俺』でなければ司くんの身体が持たなかっただろうな。

 

 

カァァァァっ、ペッ。

 

 

あ゛あ゛っ、今でも思い出すと腹が立つ!

 

 

あの炎の海にいたあの白いモンスターがっ。あいつのせいで、あいつのぉっ、せいでぇ。

 

 

奏ちゃんのおっぱいの感触を、ほぼ忘れっちまっただろうがぁっ!!

 

 

ただ大きいだけのノイズだと思ったのになんかしぶとすぎて殴りあう羽目になったし!なんかちょっとブヨブヨしてたから強制的に感触が上書きされちまったよ。

 

 

…………まぁ、一番の問題はあの場で【KAMEN RIDE】してしまったことなんだけど。

 

 

てっきり、あそこなんか事故が起きたっぽい場所だからもう避難が済んでるとばかりに仮面ライダーアギトになったんです。

 

 

そしたら、割りとすぐ近くにいたんです。目や鼻や口から夥しく出血されてる小さい女の子が。

 

 

思わず両手で顔を覆っちゃったね、「オォー」と呻き声を漏らしながら。

 

 

結局、状況が状況なだけに変身解除しないでサクッと白いモンスターをコロコロしてその女の子に「内緒だよ」と約束だけはしといた。その後にすぐ意識を失ったその子をお姫様抱っこで運びだし、またまた近くにいた姉らしき小さい女の子と瓦礫の下敷きになった妙齢の女性を助け出した。合わせて3人を火の手の届かない場所に避難させ俺はその場を去った。というよりオーロラさんから還された。

 

 

あの場で思わぬ失態をしてしまったわけだが、実を言うとそんなに気にしていないのが本音。まず、第一目撃者の女の子は見られた時点で意識が朦朧としていたからはっきりと覚えていないだろうことが半分。もう半分が、覚えていて話したとしても頭の悪い大人なら極限状態が見せた幻だと結論付けること。

 

 

更にその女の子の姉は誰なのか分からなかったみたいだし。妙齢の女性は変身する前から意識を失っていたぽい。

 

 

精々、『俺』が心配しているのはちゃんとあの三人が保護されているかなんだが。

 

 

保護といえば、奏ちゃんはちゃんと二課の人間に保護されたかな。(されてます)

 

 

お風呂に浸かりながら、今日の演習場での戦いを思い出していた。

 

 

はっきり言えば、俺は奏ちゃんのことを無視して問題なかった。いきなり仕掛けられたときは焦りまくって撤退出来なかったが、そのあとのノイズを殲滅したら普通に去って良かった筈なのに。

 

 

奏ちゃんを守っている最中に奏ちゃんの抱いていた想いを聞いて同情はしたが、それ以上に二課の人間や日本政府の人間にあの時の『俺』は怒っていた。

 

 

いくら戦える力があっても、どれだけノイズを憎んでいたとしても、天羽奏はまだ子供なのだ。マトモな感性を持つ人間ならば容易く命を奪い遺体すら遺さないノイズによって引き起こされる惨状を果たして耐えられるのか。それも、子供がだ。

 

 

家族を失い、力を手に入れたにも関わらず目の前で人が死んでいく。それをまざまざと見せつけられてきたのだと思うと、その苦しみは想像すらできないものだ。

 

 

だけど、戦場に出続けたのは奏ちゃんの意思だ。拒否権などはきっとあった筈。それでも貫き通そうとするなら、もうそれは本人の問題だ。

 

 

にしても、せめてメンタルケアはしっかりとした方がいいけどな。心理学に疎い『俺』でもわかるくらいヤバめだったんだから。

 

 

一応、『俺』は奏ちゃんに言われたことは全然気にしていない。むしろあの場で奏ちゃんの想いの吐露を受け止めなければいけない緊急性を感じられた。下手したら、二度と戦線に復帰出来ないくらいに。

 

 

お陰で、無言の戦士キャラが唐突に終わっちまったよ!(謝罪の言葉は無意識に出たものです)

 

 

現時点で天羽奏に戦線を離脱されるのは非常に不味いのだ。

 

 

漸くなんだ。『俺』が司くんの肉体から消え去る方法を見つけたのは。

 

 

その為には最低でもこの世界の物語を始動させて本筋通りに進める必要がある。だから、原作すら始まってない時点で躓くわけにはいかないのだ。

 

 

これが、『俺』が奏ちゃんを放っておけなかった理由。

 

 

そんなこんなで『俺』が奏ちゃんに立ち直ってもらうために組み立てた即行の作戦。

 

 

作戦名『実はお前は俺よりもすげぇんだよ!』

 

 

要約すると、落ち込んでいる自分よりも駄目な奴が自ら駄目なところを言い出して相手の良い点を褒めちぎり優越感に浸らせるのである。

 

 

そうするとあら不思議。落ち込んでいる自分がアホらしく感じ、逆に相手の駄目な所をネチネチ指摘するほどに自信を取り戻すのだ。

 

 

本当に緊張したもんだぜ。『俺』の語りは事実を99‰嘘を1‰織り交ぜたからなあ。だからといって、あれで個人を特定できると思えんし。念のために通信機を破壊したから俺の声でディケイドの正体に近づけるはずがない。

 

 

そもそも『俺』がこんなことをする羽目になったのもぜーんぶフィーネのせいだしな!

 

 

いつか後顧の憂いがなくなった時に直接叩きのめす。あくまで願望だが。

 

 

まぁ、その役目はきっと主人公が果たすだろう。

 

 

『俺』はただ、祈ろう。

 

 

『俺』は仮面ライダーではない。『俺』は小さい幼子の人生を奪い続けている。『俺』は助けられた命を確実に見殺しにした。

 

 

天羽奏の言うとおり、『俺』は悪魔だ。

 

 

だから、悪魔らしく最初の祈りを呟いた。

 

 

 

天羽奏。

『俺』のために死んでくれ。

 

 




読んでくださり、有難うございます。

怪我や仕事も漸く全てが落ち着き、執筆を再開できました。誤字脱字を修正しながらやっていきます

これからも、よろしくお願いします。

捕捉:天羽奏が口にした湊という名は奏の妹の名です。もし、正式名称をご存知でしたら教えてくれるとありがたいです。


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06

注意:時間飛んでいます。この作品のツヴァイウィングの人気ぶりは、作者の妄想過多です。


かの天羽奏との出会いから約一年近く。あれ以来、『俺』は天羽奏とは接触していない。こちらは変わらず、ノイズ殲滅活動(強制)に精を出していた。もしかしたら、戦場でまた鉢合わせするかもしれないと不安を抱いたが、それは杞憂であった。

 

 

いや、正直に言おう。実は彼女に出会えなくて、とても残念がっている。戦場に出る度に不安はあったが期待の方が大きかった。

 

 

更に正直に言おう。奏ちゃんのおっぱいに触りたい。

 

 

もうこちとら本当にあれから、ただただノイズと戦う味気ない日々を送って、もう限界であった。

 

 

あの感触(あじ)を覚えてしまった『俺』は、戦場に出る度に天羽奏の姿を探し回ったもんだ。あわよくば風鳴翼とも出会えるのを期待して……。まあ結局、会うことはなかったんだけどね(泣)

 

 

とりあえず、『俺』がそんな代わり映えのない日々を送っているのに対し、世間では目まぐるしい変化が起きていた。

 

 

その世間を今一番騒がしているのが、『ツヴァイウィング』だ。

 

 

「戦姫絶唱シンフォギア」の適合者(ファン)なら知らぬどころか、シンフォギアシリーズにおいて最重要な歌手ユニット名なのだ。知らない奴がいたら、不適合者の烙印を押されかねない超大事な存在なんだ。

 

 

メンバーはご存知の風鳴翼と天羽奏の、二人一組のユニットである。

 

 

ディケイドとして最初に活動していた頃は、まだ存在していなかったが、結成した時期はなんと天羽奏との初邂逅からの数ヶ月後だったのである。

 

 

そして、結成当初から現在に至るまでのツヴァイウィングの人気の高さは留まることを知らずにいる。

 

 

デビューシングルのCDが発売されたときは、一週間も掛からずに全国のCDショップからツヴァイウィングのCDが完売されるという盛況ぶり。

 

 

次に音楽番組に出演されたときは、その番組の視聴率が過去最高の視聴率を叩きだし。

 

 

ツヴァイウィングのインタビュー記事が載っている雑誌が発売されれば、ファンたちが全国の書店の前で開店前から手に入れようとするために待ち構える程の熱狂さ。

 

 

ざっと3つ程、喩えを述べてみたが盛りすぎだろって、思うよな?

 

 

…………………………、事実だよ。

 

 

原作知識でツヴァイウィングの人気ぶりは知っていたが、実際に本物が存在しているこの世界に生きている『俺』にとって、世間のツヴァイウィングへの熱狂ぶりは度肝を抜かされた。

 

 

ツヴァイウィングの人気の高さは少なからずとも『国』が絡んでいるとは思うが、その他全部は彼女たち二人の自身の力だ。

 

 

容姿端麗で歌も上手いし、唄いながらのパフォーマンスは運動能力の高さもありとても流麗なのだ。まぁ、これだけならば、大体の歌手が持っているありふれた魅力さだ。

 

 

なら、何がツヴァイウィングをここまで飛躍させたのか。それは世界的にも有名なアーティストがある番組でツヴァイウィングと共演してからの、とあるインタビューの質問で答えてくれた。

 

 

『ツヴァイウィングの歌には血が流れているような、歌そのものに命が宿っているような、そんな力がある。きっと誰もが彼女たちの歌声を直接聴いてくれたら、私の気持ちが解ると思う』

 

 

そんなインタビュー効果もあってか、ツヴァイウィングの記念すべきドームライブはとんでもないことになったのだ。

 

 

ライブチケットは即日完売で、買えなかったファンたちは兎に角、荒れに荒れた。ネットオークションでは馬鹿にならないほどの額が提示され、借金をしてまでライブチケットを買うファンが続出するなどネットは大騒ぎ。

 

 

ライブ前から洒落にならない大騒動を起こしながらも、時は着実と針を進めて、今日のこの日で遂にドームライブの日を迎えたのだった。

 

 

世間ではめでたいこの日に、『俺』は複雑な思いを抱えていた。

 

 

原作知識によれば、戦姫絶唱シンフォギアの物語が始まるのは、ツヴァイウィングのライブからなのだ。正確にはプロローグに当たり、本格的に始動するのは更に2年後だが。だからといって、今日のライブがそのプロローグになるとは限らないからだ。

 

 

残っている原作知識でも、どの時期のライブで始まるのか明確に描写されてない。それでも、『俺』には言葉に出来ない予感みたいなのが、胸の中で燻っている。そのライブがどうなるか知っているがぶっちゃければ、『俺』のメンタル状態は過去最低と言っていい。

 

 

原作開始のライブでは、物語通りならライブ途中に大量のノイズが出現し、天羽奏と風鳴翼は観客たちを救うためにシンフォギアで戦うのだ。その戦いの結果、天羽奏は死んでしまうのだ。

 

 

そして、事故による偶然からライブに来ていた少女に天羽奏の力を受け継がれ、更に2年後にその少女が力に覚醒し、ノイズとの戦いに身を投じていく。

 

 

その少女こそが主人公であり、戦姫絶唱シンフォギアの御話しが真に始まるのだ。

 

 

『俺』の目的達成の為には、ちゃんとこの世界の物語を正しく始めて、筋書き通りに話を進めていく必要がある。だから、原作通りに天羽奏は死んでもらい、主人公に力を渡してもらいたい。

 

 

無論、『俺』がなにもしなければ普通にそうなると思うんだが、その『俺』自身に問題がある。『俺』というよりディケイドか……。どっちでもいいや、うん。

 

 

……ご存知のとおり、ノイズ在る処にオレ参上!みたいに、ノイズが出現すれば勝手に戦場に送られて強制戦闘に発展してしまうのだ。『俺』だけが。

 

 

おかしい。ノイズとはそもそも人間だけを殺すために、活動しているのに、『俺』がその場にいるだけで此方に殺到してくるのだ。確かに司くんの肉体はちゃんと人間だけど、なぜ此方ばかり狙うのか理解できん。

 

 

兎に角だ。原作通りにライブ会場にノイズが現れたら、ノイズどもは揃ってディケイドに突貫してくるし、『俺』も死ぬわけにはいかないから、結局戦うしか道がない。そうなれば天羽奏と風鳴翼の負担は確実に減ってしまい、天羽奏の生存率が大幅に跳ね上がる。

 

 

原作通りに進めたいのに、他ならぬ『俺』がその妨害をしているというこのジレンマ………………これも、フィーネのせいなんだ!(最低な責任転嫁)

 

 

誰にも訊かれていないが──天羽奏を死なせることについて、なんとも思わないのかだって?

 

 

ふぅむ。思うところがないといえば、嘘になるな。

 

 

なにせ一夜だけとはいえ、身体を重ね合った仲だし。(注意!身体が密着していただけです)

 

 

お互いの本音を語って、相思相愛だってことに気づき。(注意!慰め合っただけです)

 

 

何よりも奏ちゃんがオレの励ましで、「これからも頑張りゅ!(はぁと)」と決意を新たに立ち直ってくれたし。(妄想が含まれてるが、事実!)

 

 

『俺』自身、天羽奏のファンだし。それ故に、原作キャラとの邂逅を望みながらも、敢えて意識しなかった。これから死ぬ人間に本気で好意を抱いたら、立ち直れそうにない。つか、死ぬわ(真顔)

 

 

ホントにあの夜に、天羽奏を無視して立ち去らなかったことを激しく後悔した。お陰で、未練がたらったらだよ!

 

 

だからさぁ、そんな『俺』のメンタル状態を気に掛けて、今日のライブまでは、休ませてくれませんかねえ!!!!!?????

 

 

今もこの瞬間、だらだらと『俺』の心中を吐露している間も手足を動かしてヒイ゛ヒイ゛しながら戦ってるるるんんだべぇ?!?!?????

 

 

じがぁ゛ぶぉっ(しかも)七徹ぅっ!!

 

 

その全部が、ノイズとの戦闘との詰め合わせバーゲンセールスケジュールとかぁ、頭おかしくねぇ!?休憩時間あるけど、オチオチ眠れもしない。眠っている間にもこの七日間、オーロラさんが迫ってくるんだよ!変身の有無にも関わらず、戦場に送り出させるし。変身して戦わないと、死んじゃうし帰れないだから、戦いは避けられないし。

 

 

気づけばライブのある七日目。原作通りのライブならば、そこに絶対喚ばれるし……。

 

 

もう、今何時なんだろ?二日目あたりで、体内時間がポゥズしちゃってるけど、今自分がいるところはほぼわかる。

 

 

米国のどこかの森林地帯だろ、ここ。

 

 

それだけでわかるのかだって?やば、眠気が──

 

 

眠気に負けてカクッと、首が前に折り倒れた瞬間。オレの頭上で音を置き去りしながら、鎌の刃が猛スピードで通過した。

 

 

「よ、避けた!?後ろに目でも付いてるデスかっ?」

「(アッぶなぁ!眠気サン、ナイスぅ!)」

 

 

即座に意識が再覚醒し、身体を翻す。オレの瞳に、黒と緑のシンフォギアのスーツを纏った少女の姿が映り入る。

 

 

トンガリ帽子を思わせるヘッドギアに金髪緑眼の少女は、手にした鎌を振り抜いた姿勢のまま驚きの表情でこっちを見つめていた。あ、目合った。

 

 

「ピィッ」

 

 

なんか可愛い悲鳴なんだが、そんな怯えなくとも……。確かに眼は血走ってると思うんだが、ディケイドマスクで気づかないはずだが。

 

 

「切ちゃん、下がって!」

 

 

上から聴こえた声に従い、金髪少女がバックステップで距離を取った。間を置かずに上から、目視だけで十以上の小型の高速回転した丸鋸が降ってきた。

 

 

発生源に視線を向けると、月を背にして宙に飛んだ状態で黒とピンクのシンフォギアスーツを纏った黒髪の少女が、オレを睨み付けていた。

 

 

【α式・百輪廻】

 

 

ツインテール型のヘッドギアから、休むことなく小型丸鋸を放ち続ける。撃ち落とすか考えたが、銃弾が当たってしまうと大変だ。

 

 

当たりそうな丸鋸を見切り、刃のない側面を殴って軌道を逸らしながらオレも後ろに跳ぶ。

 

 

「ッ、当たらない」

 

 

顔をしかめながら黒髪少女が着地すると、すぐさま金髪少女が黒髪少女の隣に並び立つ。

 

 

「ごめんなさいデス、調。ディケイドを仕留め損なったデス」

 

 

「ううん、私もダメージを与えられなかったからおあいこだよ。切ちゃん」

 

 

落ち込みながら謝罪する金髪少女──暁切歌。

謝罪する切歌に慰めの言葉を掛ける黒髪少女──月読調。

 

 

そう。この二人が今この場にいるのが、オレの現在位置が米国にあるのだという証拠。

 

 

この二人が所属している組織は米国政府管理のFISという、聖遺物を研究する機関である。この二人はある目的のために、幼少期にFISによって拉致誘拐され、彼女たちが本編に登場するまで過酷な実験と訓練を課された日々を送って来たという同情必至な境遇なのである。

 

 

原作知識ならば、彼女たちはまだこの時期は米国のFIS本部にいるはずなので、自然とオレも現在位置をなんとなく把握できたのだ。

 

 

こうして遇える可能性が現時点で低かった二人に出会えて狂喜乱舞したいが、残念ながら『俺』にそんな気力はなかった。

 

 

眠いしノイズとの戦闘中だし、攻撃してくるしあとちっさい。ちょっぴり、怒ってもいる。

 

 

だってさ、オレがノイズとの戦闘をしていたら二人ともいきなり武力介入して、オレに攻撃してきたんだぜ!?おかげさまで、二人の攻撃を気にしてロクにノイズの数を減らせなかったんだからな!

 

 

ほら、今もオレの後ろで生き残っている数百のノイズがオレの背を狙っているよ。というか、ノイズくんたち大人しいね。こんな時だけ、空気を読むんじゃないよ。君ら二人も、お兄さんの邪魔をするじゃありません。許して欲しかったら、マリアさんを連れてきて『俺』にマリアさんの身体を触らせなさい。

 

 

ああ、マリアさんのおっぱいを揉みしだいて、おっぱいスイッチを押したい。(そうしたら、今日のことは水に流してあげるから)

 

 

おっと、本音と建て前が逆になっちまった。

 

 

「それにしても、ノイズがまわりにいるなかでディケイドを捕獲するなんて、結構無茶苦茶デスよ」

 

 

「うん。でもマムの言うとおり、ノイズはディケイドしか狙ってない。だから私たちは、ノイズの攻撃に巻き込まれないように隙を窺って──」

 

 

「ディケイドに仕掛けて、指示通りに捕獲!デス」

 

 

やっぱ君ら二人にも捕獲指示が出てたんだネー。嬉しくない予想が当たっちまったよー。

 

 

そして、ノイズどもよ何故そんなに大人しいのかね?

 

 

「というわけで、ディケイド。珍妙にロープでクルクルされるんデース!」

 

 

【獄鎌・イガリマ】の聖遺物を核としたシンフォギアを纏う暁切歌が、

 

 

「──覚悟して、ディケイド」

 

 

【魔鋸・シュルシャガナ】の聖遺物を核としたシンフォギアを纏う月読調が、

 

 

「「「「「────────────」」」」」

 

 

何故か一斉にピコピコと光だしたノイズが、

 

 

「(やばい、眠りそう。二度と目覚めない意味で)」

 

 

オレ──ディケイドに向かって再び動き出した。

 

 

頼むからぁ、もう来るなぁ!

 

 

最初に攻撃を届かせに来たのはなんと鋸、ではなく調ちゃん。歌を口ずさみながら、アームドギアを変形させていく。

 

 

【非常Σ式・禁月輪】

 

 

頭部と脚部から円形ブレードを展開し、摩訶不思議な組み立てで巨大な一輪バイクに変形し、調ちゃんが内側に乗り込む。地面に鋭利な切断痕を描きながら、オレに向かって突っ込んでくる。

 

 

後ろにはノイズの群れ。左右に避けても、後ろのノイズとすぐに接触する。

 

 

だから、上に避けるしかなくオレは跳んで、既に次に何が来るか予測をする。

 

 

避けられた調ちゃんは、【非常Σ式・禁月輪】を解除することなくノイズを轢殺しながらの軌道修正を行い、「切ちゃん!」と叫ぶ。

 

 

「今度は私が、上から攻める番デス!」

 

 

距離は開いているがオレより高く飛んだ切歌ちゃんが、鎌の刃を三枚に展開して待ち構えていた。

 

 

【切・呪りeッTぉ】

 

 

鎌を大きく振るい、三枚の刃が投擲される。回転しながら迫る刃に狙われるのは、勿論オレだ。空中に身を任せるしかないから、避けられないと思っているのだろう。

 

 

オレは素早くライドブッカーを手にし、剣へと変形させ、すかさず三枚の刃を切り払った。獲物を失った三枚の刃は落下地点にいたノイズを巻き込む形で、地面に落ち果てた。

 

 

それに続くように着地したオレは、剣で周囲のノイズを切り裂いていった。ノイズが炭に変化し、粉塵のせいで視界が阻まれる。

 

 

剣で粉塵を振り払おうとして、身体を強引に捻った。

 

 

【γ式・卍火車】

 

 

粉塵を切り裂いてオレの前と背中すれすれで、高速回転した二枚の鋸が振り下ろされた。回転に伴う風が粉塵を吹き払い、視界が確保されると調ちゃんが信じられない物を見る目でオレを見つめていた。

 

 

「今の攻撃、察知できるものなの?」

 

 

安心して。オレも今の攻撃を避けれると、思えなかったから。

 

 

半ば奇跡に感謝しながら、オレは呆然とした調ちゃんの細腕を掴み、ノイズとは逆側に投げ飛ばした。投げた方には切歌ちゃんが、こっちに走り向かっていた。

 

 

「!?きゃあああああ!」

 

 

「調ぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

鎌を放り投げ、切歌ちゃんが調ちゃんを見事キャッチする。勢いを殺せず、後ろに数歩下がり切歌ちゃんは尻餅をついてしまった。

 

 

とりあえず、調ちゃんを無事に切歌ちゃんが受け止めてくれたのを確認し、ノイズへと向き直る。

 

 

「女の子を投げ飛ばすとか、アンタには血も涙もねーデスか!!」

 

 

あるよぉ!血も涙も、あるよぉ!

 

 

槍に変形して飛来するノイズを剣で斬り伏せながら、心の中で反論する。

 

 

「ごめんね、切ちゃん。もう一度ディケイドに、あぐっ」

 

 

「調!?だいじょ、デスゥ?!?」

 

 

あれ、二人の様子がおかしい。

 

 

ノイズの攻撃を捌きながら、調ちゃんと切歌ちゃんの姿を視界に入れると、二人のシンフォギアスーツから紫電が発生していた。

 

 

思い出した。原作ライブや眠気の一杯一杯で忘れていたが、あの二人のシンフォギアって時限式だったんだ。

 

 

あの現象と二人が感じている痛みは、シンフォギアの制御時間が過ぎてしまったことを意味している。もし、無理して使い続ければ身体にダメージが蓄積して、最悪死に至りかねない。

 

 

大人しくしていれば少なくとも痛みは和らぐはずだが、二人は痛みに耐えながら立ち上がろうとするではないか。

 

 

「ここで、ディケイドを捕まえないと……」

 

 

「このチャンスを逃したら、駄目デス。でないとみんなが」

 

 

「みんなが、また……辛い目にあってしまう」

 

 

「私たちが力を示せば、大人たちもわかってくれるんデス」

 

 

「力を認めてくれれば、みんなをもっと大事にしてくれる!」

 

 

「辛くて苦しい、訓練が減ってくれるかもデス」

 

 

「美味しいご飯を、みんなで食べられるかもしれない」

 

 

大半のノイズを漸く斬り伏せて、オレは二人の想いに聞き入っていた。僅かにノイズが残っているにも関わらず、オレは手を止めてしまった。

 

 

……凄いと思った。きっと、まだ小学校に通っているはずの年齢なのに、ボロボロになりながら誰かの為に戦える二人に。今の自分たちにできる精一杯を、一所懸命にやる意思の強さに。

 

 

「「だから!」」

 

 

ふらつきながらも、決意を秘めた顔つきで立ち上がる。

 

 

ああ、やっぱりこの二人は最高だな。謝ろう、ちっさいと心の中で思ったことに対して。そして、『俺』がいなくなった後も、どうか司くんの生きる世界を守ってくれ!

 

 

今のオレが出きることは、すぐにこの場からディケイドであるオレが去ることだ。そうすれば、二人ともシンフォギアを解除せざるを得ない。

 

 

だから、早くノイズを殲滅して立ち去らなければってタァ!?

 

 

剣を持っている手に痛みが走り、剣を手放してしまう。足元には見慣れた小型の丸鋸が、落ちていた。

 

 

視線を向けると、ヘッドギアから丸鋸を放ったであろう調ちゃんの姿が。

 

 

そして、突如オレの身体に緑の鎖が何重にも巻かれて動きを拘束している。巻いてる鎖の内の二本が前方斜め上に伸びており、眼で辿るとギロチンの刃と鎖が連結し刃のない部分に切歌ちゃんが両足を掛けて立っていた。

 

 

「お願い、切ちゃん!」

「これで決まり、デース!」

 

 

【断殺・邪刃ウォttKKK】

 

 

肩部のプロテクターに内蔵されたブースターを噴射し、自身ごとギロチンの刃と一緒に突撃してくる。このままでは、ギロチンの刃で両断されてしまいオレの上半身と下半身が泣き別れてしまうだろう。

 

 

と、ここまで来てオレは漸く状況を理解できた。あまりにも突然の状況変化に、置いてけぼりを食らってしまった。

 

 

…………………………冷静に状況分析してる場合かぁ!というか君らさぁ、捕獲指示が出てんのに何で殺傷力の高い技ばかりブッパするの!?デースじゃなくてDEATHになってるよ切歌ちゃんや!今すぐ拘束解いて、こっち来なさいよ切歌ちゃん。お尻ペンペンの刑に処したるんだからな!オレぁ知ってるんだぞキミが、周りがドン引くくらいのドM属性を隠し持っていることをなぁ!!その柔らかいお尻をペンペンしてあまりの気持ち良さに、アへ顔をさらすのじゃあ!そんで、そのアへ顔を写真で撮って、後でオカズとして使わせていただきます(合掌)

 

 

調ちゃんはぁ!………………なんか、将来的な報復が怖いのでやめとこ。

 

 

あ゛あ゛、そしてノイズは「スキありぃ!」とばかりに飛び掛かるしさあ!今日のノイズどもはホントに、空気を読むなあオイ!

 

 

うわぁぁん!もう、謝るからぁ!二人のことをホントは、お胸がちっパイから全然そそらねえなあと思っていたことを謝りますからぁ!!誠心誠意の土下座もつけるから拘束はずしてください、まじでマジで外せや(ドス声)

 

 

しかし、残酷かな。迫り来る死の刃どもに、拘束されたオレはあまりに無力すぎた。

 

 

引くもノイズ。左右にもノイズ。前方にはドMデスっ娘。というか動こうにも、拘束されて動けないんだけどね。極めつけには上から光の雨が…………光の雨!?

 

 

ノイズと切歌ちゃんとオレを巻き込むように、光の雨が猛烈な勢いで降り注いだ。よく見ると、光の雨の正体は白い光を纏った短剣であった。

 

 

降り注いだ短剣の雨は、周囲のノイズを全て切り裂き炭素の塊に早変わりされた。更にはギロチンの刃に数発の短剣が命中し、強い衝撃だったのかギロチンが叩き落とされ切歌ちゃんは空中に投げ出された。

 

 

オレもダメージを覚悟したのだが、運良くオレ自身に当たらずに拘束していた鎖を切り裂いてくれた。何本か鎖は残ったが、拘束力が弱まり力づくで鎖を破ることができた。

 

 

鎖を引きちぎる拍子で、オレは大きく腕を広げた。何故って?ばっか、切歌ちゃんを受け止める為に決まってんしょ!

 

 

カモン!イガリマ シンフォギア!デスガール オブ デスサ~イズ!(戦極ドライバー風)

 

 

さぁさぁさぁ、切歌ちゃん。(ネットリ)キミのそのプリティなお尻をペンペンさせておくれ。ペンペンしてモミモミし、調ちゃんの前であられもない姿を晒すのだ!たとえ調ちゃんに嫌われても、オレが目一杯に可愛がってあげるから(真性のド屑)

 

 

──この時のオレは、気づいてなかった。先の光の雨によってこの場にいるノイズが、すべていなくなったことに。ノイズの全滅により、オレはその場に居続けられない。その事をすっかりと忘却していたオレは、盛大なミスを犯してしまった。

 

 

どこからか発生したオーロラさんが、かつてない超高速でオレへと迫り、別の場所へと転送。

 

 

転送したことに気づかなかったオレは、腹部に強烈な衝撃と痛みを感じたところで我に帰った。

 

 

草木が生い茂った森林ではなく、荒れ果てたどこかの開けた建物の中。天井は大々的に開かれ、夕焼けの太陽がこの場を色濃く照らしていた。風が強く吹き出し、黒い粉がまるで何かの演出のように舞い上がっていた。

 

 

オレのすぐ前には、どこか奇妙な威圧感を放つ黒いノイズ。黒いノイズの遥か後方には、大型と中型と小型が全て揃った数えきれないノイズの大群。

 

 

動こうとすると、腹部に痛みが走る。視線を動かすと、オレの腹部が背中まで黒い剣のようなもので刺し貫かれていた。その剣は、黒いノイズから生えていた。

 

 

「ディケイド……?来て、くれたのかぁ?」

 

 

「ディケイド?何故今になって、まさか奏とあの娘を守るために?!」

 

 

未だに上手く状況が飲み込めないなか、二つの驚愕を含んだ声がディケイドになって強化された聴力が拾った。

 

 

声の方向に目を向けると、離れた所に青と白のシンフォギアを纏った少女──風鳴翼が。

 

 

もう一つの声は後からで、朱色のシンフォギアを纏った少女──天羽奏が。

 

 

そして、その天羽奏の後ろには一人の少女がいた。瓦礫できた壁を背にして座り込み、左胸から夥しい量の出血が確認できた。少女の胸が僅かに上下に動いてるのを見て、まだ生きているのが分かる。

 

 

『俺』はその少女──立花響から目を逸らして、場違いながらもマスクの下で笑った。

 

 

──まさか、このタイミングでの原作ライブ会場に現れるとは。だけど、あの立花響の様子じゃ、どうやらしっかり力を受け継がれたっぽいな。

 

 

身体を刺し貫かれているも、痛みなんかより安堵の方が大きかった。懸念されていたことが、クリアされたのだから。

 

 

あとは、天羽奏が絶唱を放って、ノイズを殲滅してもらう。それで、天羽奏はここで終わる。

 

 

なにも、問題はない。オレもちょうどいい怪我を負っているし、ここだけのリタイアだ。

 

 

腹部に刺さっていた剣が抜かれ、黒いノイズは剣に変形させた腕から血を振り払い、ノイズの大群に合流する。

 

 

風穴を開けられて、洒落にならない血を流しながら、オレはマスクの下で穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 

「……良かった(これで、やっと寝れる!)」

 

 

 

■■■

 

 

 

 

──ディケイドが去った後の、FIS組の装者。

 

 

「──どうして、邪魔をしたの……?」

 

 

「あとちょっとで、ディケイドを捕獲できたのに……。どうしてなんデスか、セレナぁ!」

 

 

調は信じられないという表情で、切歌は怒りに奮えた眼差しで目の前の女性に問い掛けた。

 

 

森林地帯であるこの場所で、ラフな私服に身を包みながら調と切歌と相対する背の高い女性。

 

 

名をセレナ・カデンツヴァナ・イヴ。二人と同じ所属のシンフォギアの装者であり、先の光の雨を発生させたのは彼女のシンフォギアの力である。

 

 

セレナは冷静に、二人の問いに答えた。

 

 

「私は邪魔したつもりはないよ、二人とも。ただ、あの状況は危なかったの。二人とも、時間が切れてたでしょ」

 

 

「時間切れでも切ちゃんは、ディケイドの動きを封じていた。セレナが割って入らなければ、あの場でディケイドを捕まえられたはず」

 

 

「あのディケイドが、そう簡単に縛れると思えるの調?

拘束されたと見せかけての罠だったら、限界の切歌が危険だったよ?調は切歌がそんな目にあっていいの?」

 

 

「っ、それは……。切ちゃんが、怪我するのは絶対駄目」

 

 

ディケイドとの戦闘を思いだし、セレナの答えに納得してしまう。ノイズとの戦闘中に、調と切歌の攻撃をなんなく捌き続けたのだ。あのとき、ディケイドの動きを簡単に封じこめていたことに疑問を持つべきだった。

 

 

下手をしたら、切歌が帰らぬ人になっていたかもしれなかったのだ。

 

 

「でもでも、わざわざノイズを全滅させる必要はないデスよ!セレナがノイズを巻き込んだせいで、ディケイドがどこかに行っちゃったんデス!」

 

 

「あのまま突撃したら、切歌だってノイズの攻撃に巻き込まれるところだったのよ?ギアを纏っているとはいえ、下手をしたら切歌はあの場で死んでたかもしれないよ」

 

 

先の状況を思い返し、顔を青ざめる切歌。シンフォギアの力があるとはいえ、あの時点で性能はガタ落ちしていた。ノイズの炭素変換を防ぐバリアコーティングも、下手をしたら機能せずに切歌は黒炭になっていただろう。

 

 

「「ごめんなさい/デス」」

 

 

死ぬつもりは更々なかったが、知らぬ間にあの世への道を突っ走りかけていた。そんな二人を善意で止めてくれたセレナに、切歌と調は申し訳なさから謝罪する。

 

 

謝罪する二人をセレナは優しく抱いてあげた。

 

 

「私の方こそ、ごめんね。二人の頑張りを無駄にしちゃって。でも、二人が無事で本当に良かった」

 

 

セレナから感じられる優しさがそうさせたのか、二人はやっとディケイドと相対した恐怖を吐き出すことができた。

 

 

「……ディケイドに腕を捕まれたとき、腕を折られるじゃないかって思った」

 

 

「ディケイドに、に、睨まれたときは生きた心地がしなかったデス」

 

 

ノイズを倒し、人間を守ってくれる存在とはいえ、そんな強い存在に刃を向けるのにどれだけの勇気がいるだろうか。

 

 

二人の震えを感じて、セレナは更に二人を強く抱き締めた。

 

 

「大丈夫だよ。もう、ここにディケイドはいないよ」

 

 

(ごめんなさい、ディケイド)

 

 

言いながら、セレナは心の中で謝罪する。

 

 

ディケイドはセレナにとって、命の恩人なのである。その命の恩人に対し、二人を守るためとはいえ刃を向けてしまった。

 

 

自分が幼い頃、とある聖遺物の実験事故によって命を散らしそうになった。そんなセレナの窮地を救ったのが、ディケイドであった。

 

 

当時は自分も重傷を負い、幻を見たのかと思った。事故現場には、ディケイドがいた痕跡はなかったのだ。

 

 

それが、一年前のあの日の米国首都のノイズの蹂躙劇で、セレナは再会したのだ。

 

 

実はその当時は、米国史上最大最悪の被害が出るのを恐れ、政府がFISに秘密裏に装者の出動を要請し承ったのがセレナであった。

 

 

しかし、現場につくとセレナは戦えなかった。崩れた建物と、瓦礫の下敷きになって亡くなった人々。ノイズによって、次々と命が奪われていくその光景は、セレナにとって幼い頃に刻まれた死の恐怖を思い出させるのには充分だった。

 

 

恐怖に震えて動けないセレナを殺そうと、ノイズが触れようとしたときにディケイドは現れたのだ。

 

 

ノイズを殲滅したディケイドの姿は、かつて自分を救ってくれたものと同じだった。

 

 

ディケイドが歩き自分の方まで来たときは、心臓が激しく鼓動して息がつまりそうだった。それでも、セレナはなにか言葉を発しようと、考え抜いて問い掛けた。

 

 

──あなたの名前は何ですか?

 

 

命を二度も救ってくれた、恩人の名前を訊きたかった。かつて訊くことが出来なかった、この機会に。もう一度会わせてくれたこの運命に感謝して。

 

 

『──────ディケイド───────』

 

 

──ディケイド。それがあなたの名前なんですね。

 

 

過去を思い返し、調と切歌を抱き締めながら、セレナは未来に思い馳せる。

 

 

──また、あなたに逢えますよね?私の、王子様。

 

 

 

 

 




次回は、ディケイドが戦っていた間のライブの話をしていきます。

尚、次回『俺』くんは【KAMEN RIDE】する決意をする模様。



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07

いろんな意味で謝罪を……。

本当にすいませんでした。

相変わらずの文才のなさに、投稿速度が遅いこと。感想の返信が滞ったこと。

そして、両翼が作者の性癖の犠牲になったこと。

今回は世界がディケイドをどう思っているかの巻。

後書きにて、一番重い罪の告白をいたします。(ガタガタ)


時は、一旦遡る。

 

 

■■■

 

 

──思えば、この一年間は色々と大騒ぎだったな……。

 

 

ディケイドと出会って、ノイズと戦って、その最中に相棒である風鳴翼と共に歌手活動の日々。

 

 

そして、今日は歌手として活動している『ツヴァイウィング』の記念すべきドームライブ。

 

 

そのライブのリハーサルを先ほど終えた奏は、相棒の翼を探しながら物思いに更けていた。

 

 

首の下から足首までを白いローブで身体を覆う格好で、照明器具やケーブル、慌ただしく準備を進めるスタッフたちの間を縫うように奏は舞台裏たるこの場を闊歩していた。

 

 

ローブの下は既にライブ衣装に身を包んでおり、本人的には今すぐ本番が始まっても構わないほど準備万端であった。

 

 

すれ違うスタッフに挨拶しながら、奏は目的の人物を見つけた。

 

 

「お、いたいたっ」

 

 

蒼く美しい長い髪を結い、今の奏と同じローブで身体全体を覆っている少女は、隠れるように壁を背にして体育座りでそこにいた。

 

 

蒼髪の少女──風鳴翼の表情が暗いことを察し、奏は苦笑しながら彼女へと話しかけた。

 

 

「なんていうか、いつまで経っても慣れないよな。この本番までの数時間はさ」

 

 

「……奏っ」

 

 

話しかけられるまで気づかなかったのか、翼は驚いた顔で奏を見た。

 

 

奏は「隣、失礼するぞ〜」と翼がなにかを言う前に隣に座り込む。

 

 

「さっきのリハーサルでの勢いはどうした〜翼ぁ?もしかして、緊張してるのかなぁ?」

 

 

「あ、当たり前でしょ。今日のライブがどれだけ重要なものか……。逆に訊くけど、奏は緊張してないの?」

 

 

「全っ然!むしろ、早く暴れたくてウズウズしてるよ、こっちは」

 

 

「…………張り切り過ぎて、失敗しそうで不安なんだけど」

 

 

「そういう翼は、真面目が過ぎるなぁ。ま、そういう所が可愛いんだけどな」

 

 

「〜〜〜!奏は、すぐそうやって!」

 

 

頬を赤らめて翼は、奏から顔を逸らした。その様子に奏は笑い、翼は恨めしそうに視線を送る。が、すぐに翼も釣られるように笑みを浮かべた。

 

 

「二人とも、ここにいたか」

 

 

赤いスーツに身を包んだ男──風鳴弦十郎が二人に近づく。

 

 

「お、旦那か」と、奏が。

 

 

「叔父様っ」と、翼が。

 

 

弦十郎の登場に会わせて、二人が立ち上がった。

 

 

奏と翼の良い表情に、弦十郎は柔らかい笑みを浮かべた。

 

 

「二人とも、先ほどのリハーサルは見事だったぞ。本番もあの調子でな。なにせ、今日は──」

 

 

「人類の未来が懸かっている、だろ?この間から耳にタコが出来るくらい説明されたから、わかってるって」

 

 

ヒラヒラと手を振りながら、奏は得意気な顔で弦十郎の言葉を遮った。

 

 

そんな奏を、翼はジト目で見つめながらさらりと告げる。

 

 

「奏は、ほとんどの説明を居眠りして聞いていなかったじゃない」

 

 

「うっ」と喉を詰まらせたような呻き声を出し、固まってしまう奏。図星である。

 

 

奏のその様子に呆れながらも、いつもの二人のやり取りに弦十郎は安堵する。

 

 

今日行われるツヴァイウングのライブに併せて、裏側にて二課にとっての大きな試みが行われる。それこそ奏が述べた通り、これからの人類の未来を左右する程の価値があるのだ。

 

 

そのことは奏も翼も理解しており、弦十郎は気負いすぎていないか心配し、こうして直接確かめに来たのだ。

 

 

──今回は二人の活躍が、『実験』の成功に繋がるかに懸かっているからな。

 

 

弦十郎としては、そんな『実験』のことを気にせずに今日のライブを楽しませてあげたいのが本音だ。奏は17歳、翼は今年で15歳になる。まだ子供の二人に過酷な役目を背負わせたことに、深い申し訳なさを感じている。

 

 

スーツの胸ポケットから通信機を取り出し、実験の準備を進めている同僚に繋げる。

 

 

『はぁ〜い。こちら、『出来る女』で有名な櫻井了子で〜す。実験準備の確認かしら、弦十郎くん?』

 

 

「ああ、そちらの方はどうなんだ了子くん?」

 

 

『こっちはもう、準備万端よ。弦十郎くんの方は?二人とも、特に翼ちゃんはダイジョブそうかしら?』

 

 

「ははっ、翼は真面目すぎるからなぁ。了子さんも、心配だよな」

 

 

「さ、櫻井女史まで……。私はそんな柔な鍛え方をしてきたつもりはありません!」

 

 

「まったく、お前らは」

 

 

奏と翼も耳につけてる通信機をONにして、弦十郎と了子の会話を聞いていた。

 

 

通信機の向こう側にいる櫻井了子の心配に、奏は同意し翼は更に顔を赤く染める。弦十郎は苦笑しながらも、二人に言いたかった言葉を掛ける。

 

 

「……俺が言えた義理ではないが、二人は今日のライブを存分に楽しんでこい。難しいことは、俺たち大人の仕事だからな」

 

 

『私も弦十郎くんと同じよ。奏ちゃん、翼ちゃん。こっちのことはそんなに気にしなくていいから、二人は存分に羽ばたいてきなさいな』

 

 

「あんがとさん、二人とも」

 

 

「……叔父様、櫻井女史。ありがとうございます」

 

 

大人二人の温かい激励に、奏と翼の中にある不安が鳴りを潜めていく。

 

 

二人の柔らかくなった雰囲気を察し、弦十郎も肩の荷が少し軽くなった気がした。

 

 

『それじゃ、私も個人的に最終確認したいから通信を切るわね。バ〜イ♪』

 

 

了子の方から通信を終わらせ、弦十郎も通信機を仕舞う。

 

 

「さて、そろそろ俺も場に戻るか。二人とも今日のライブを無事終えたら、何か奢ってやるからな!」

 

 

「ナハハ、そりゃ楽しみだ!旦那、こっちはあたし達に任せな!」

 

 

「ありがとうございます、叔父様。奏と共に、歌女として全力を尽くします」

 

 

二人から返ってきた言葉に、弦十郎は力強く頷くと背を向けて自分の持ち場へと戻った。

 

 

「──ありがとう、奏」

 

 

弦十郎が立ち去った後、翼は奏に礼を告げた。突然礼を言われた奏は理解できず、首をかしげる。

 

 

「どうしたのさ、いきなり」

 

 

「今の私がこうしていられるのは、奏のお陰だから。きっと私一人じゃ、ここまで来られなかったから……」

 

 

天羽奏と一緒なら、自分は何でも出来る気がする。

 

 

「それは……、あたしも同じだよ。翼がいなければ、あたしもここまで辿り着けなかった」

 

 

それは天羽奏も、同じだ。自分一人の力が、どれだけちっぽけなのかを思い知っているから。

 

 

「たった一人じゃ、出来ることは少ない」

 

 

「でも、私たち両翼が揃えば──」

 

 

「『ツヴァイウィング』は、どこまでも飛んでいける!」

 

 

お互いの手を握りしめ、互いの存在を改めて確かめ合う。

 

 

「頑張って、楽しもうな翼!」

 

 

「うん!頑張ろうね奏!」

 

 

そして、全ての準備が整う。

 

 

始まるはどこまでも羽ばたく両翼が奏でる、歌の祭典。

 

 

しかして、待ち受けるのは絶望の宴。

 

 

だが、安心召されよ。

 

 

その惨劇は必ずや、絶望のままに終わらせないと。

 

 

 

■■■

 

 

 

ライブが始まると、大した時間も掛からずに観客は盛り上がった。

 

 

曲が流れた途端に、観客たちは喉がはち切れんばかりの歓声を上げ、上から降ってきたツヴァイウィングの二人を迎えた。ライブ衣装に付けられた白い翼を拡げながら降りてくる二人は、まるで天使のようだと誰もが思っていた。

 

 

奏と翼が地上に降り立ち、歌い始めると観客たちは更に色めき立つ。

 

 

開始早々から、異常な熱気が巻き起こるライブ会場の地下では、とある実験が人知れず行われていた。

 

 

地下深くにて行われている実験場には、風鳴弦十郎がいた。そして、その隣には眼鏡を掛けて白衣を着こなしている女性──櫻井了子の姿も。他にも専門の何人ものスタッフが、様々な計測器の機械を忙しなく操作していた。

 

 

地上のライブとは大分差のある、緊迫した空気がこの場に張り詰められていた。

 

 

しかし、それも仕方のないこと。先の弦十郎の言葉通りに、この実験は人類の未来が懸かっている。それほどの価値があり、この場にいる者全てが固唾を飲んで成功を祈っている。

 

 

完全聖遺物『ネフシュタンの鎧』

 

 

現存、または新しく発見された聖遺物は経年劣化により激しく損傷しており、ほぼ欠片となった状態がほとんどだ。

 

 

だが、ごく稀に損傷がなく当時の状態のままの聖遺物が存在している。それを区別するために、便宜上『完全聖遺物』と呼ばれている。

 

 

現在の聖遺物は、余程のことがない限り基底状態で秘められた力を眠らせている。聖遺物を目覚めさせることが出来れば、化石燃料や核を越える『新エネルギー』の可能性と称される力が発揮される。

 

 

極僅かな聖遺物の欠片を核とした、シンフォギアは正にそれを証明した。天羽奏と風鳴翼はの二人は、前に演習の名目の下に旧式とはいえ自衛隊の戦車隊を苦もなく鉄屑にしたのだ。

 

 

では、欠片ではない『完全聖遺物』だとどうなるのか?

 

 

例を上げるなら、ギリシャ神話の海神ポセイドンが所持する『トリアイナ』が完全聖遺物であるとする。『トリアイナ』が無事に覚醒されれば、逸話の通りに大海を操れる力を手に入れられる。津波、渦潮、海上の嵐となんでもござれの天変地異を引き起こせる。

 

 

完全聖遺物はそれだけの力があり、故に弦十郎の言葉に偽りはない。

 

 

強化ガラスに隔てられた、化石と化した『ネフシュタンの鎧』を弦十郎が厳しい目で見守っている中、実験は順調に進んでいく。

 

 

地上で行われているライブ、天羽奏と風鳴翼の歌。二人の歌声に感情を昂らせていく大勢の観客たち。歌と大多数の感情がエネルギー──フォニックゲインに変換されて、『ネフシュタンの鎧』へと注がれていく。

 

 

結果だけを言えば、実験は成功であった。

 

 

世紀の大実験を成功したという事実に、実験室は所員たちの歓声に溢れ返る。

 

 

今回の実験の一部始終を見守っていた了子は、ネフシュタンの鎧の起動を確認すると柔和な笑みを浮かべた。

 

 

だが、隣にいる弦十郎の顔は目覚めつつあるネフシュタンの鎧を、複雑そうな表情で見つめていた。そんな弦十郎に、了子は不思議そうに問い掛けた。

 

 

「弦十郎くん。あなた、あまり嬉しそうじゃないわねぇ」

 

 

「……そうか?俺も、今回の実験の成功に喜んでいるよ。これで我々人類はまた、ノイズに対抗できる力を得たんだからな」

 

 

「そう、これは喜ばしいことよ。ふふん♪出来る女であるこの櫻井了子の理論じゃ、完全聖遺物には人の手による細工なしで、ノイズと戦える力を秘めているわ!」

 

 

今回のネフシュタンの鎧の覚醒実験は、ノイズに対抗する新戦力の開発という名目だ。成功すれば、シンフォギアのように特定の資格を持たない者でも、ノイズと戦えるようになる。その事だけを考えれば、弦十郎も手放しで喜べた。

 

 

しかし、今の弦十郎は素直に喜ぶことができない。覚醒したネフシュタンの鎧が、ノイズの戦闘以外に使用されることを知っているからだ。

 

 

「ま〜だ、納得してないのね。完全聖遺物を、ディケイドとの戦闘・捕獲に用いられるのが……」

 

 

「ふっ。了子くんには敵わんな」

 

 

弦十郎の心の内を読んだかのように、了子は彼の心中を言い当てた。それに対する弦十郎の返答は肯定であり、苦笑しながら肩を竦めた。

 

 

弦十郎と了子は改めて、今回の実験に下された命令を思い返した。

 

 

『ディケイドの確保をより確実にするため、特異災害対策機動二課にネフシュタンの鎧の起動を命ずる。

 

尚、起動した際には特例として鎧を用いディケイドとの戦闘を許可し、ディケイドの捕獲に尽力せよ。生死は問わないものとする』

 

 

ディケイドが現れてから、早くも一年が過ぎ去ろうとする今日。

 

 

今の時勢では世間、いや世界中の人間にとってディケイドを知らぬものはいない。もし、仮にディケイドを知らないという者が存在すれば、現代の最大級の恥晒しと周りから謗られるであろう。

 

 

曰く、人類最後の守護者。

 

曰く、絶望を払う真の希望。

 

曰く、厄災を打ち砕く破壊者。

 

 

等々と、多くの人間がディケイドのことをそう評している。殆どが、ディケイドを称えるものばかりである。

 

盛りすぎ、過剰な美色をしていると思われるが、実際にディケイドはその賛辞を贈られる程の行いをこれまでに幾度も繰り広げたのだから。

 

 

人類の天敵たるノイズに、人は成す術もなく殺される。自衛として戦おうにも、奴らにこちらの攻撃は通用しない。

 

 

しかし、ディケイドだけにはその道理が存在しない。ノイズに敷かされた法則を完全に無視し、徒手空拳の格闘で、時にはディケイドの専用武装であろう剣と銃でノイズを悉く葬り去る。

 

 

軍隊の大隊規模並の数のノイズが出現しようと、ディケイドはたった一人で完全殲滅を成し遂げる。

 

 

絶望的な状況であろうと、勝利を約束されてるかのようにディケイドはノイズに決して負けることなく、人類の天敵を打ち倒した。

 

 

そして、何よりノイズが現れれば、何処であろうとも必ずディケイドが参上する。国境を越えて、地球の裏側だろうとすぐに来てくれる。

 

 

いつしか世界の殆どの人々は、ノイズが現れようと、ただ恐怖による絶望に全てを諦めなくなった。恐ろしくあれど、必ず救世主が来てくれると信じているからだ。

 

 

その願いに必ず応え、ディケイドは現れてくれる。そうした状況に遭遇すれば、もうディケイドという存在に惹かれても仕方ないだろう。

 

 

弦十郎もその一人であり、天羽奏も同じだ。少なくとも、二課の人間でこの二人だけが、ディケイドを完全に敵視していないだろう。

 

組織に属している以上、上の立場の人間の命令は従わなければいけない。故に、いつかディケイドと戦うときに、完全聖遺物の力をぶつけるのは躊躇われる。かの存在の強さは知っているが、万が一ということは有り得るものだ。

 

 

「……誤解されない内に言わせてもらうけど、私だって本当はあまりディケイドと接触したくないわよ?戦うなんて、もっての他。藪をつついたら蛇どころか、もっと凶悪なのが出てきそうじゃない」

 

 

「そこまでか。まぁ、この一年でディケイドのことは、まだまだ解らずじまいだ。お上の方はどうしても、最悪な事態を想像してしまうんだろう。理解は出来るが、あまり深いところは理解したくないな……」

 

 

「あ、そこは同意するわ。ディケイドが善良な存在かはともかくして、私も同情するわ。奏ちゃんの話が事実ならね……」

 

 

「まったく、まだ根に持っているのか了子くん。結果的に一年前、ディケイドが奏を助けなければ、我々はこうして笑って過ごせなかった筈だ」

 

 

「そりゃ、感謝してますとも〜。でもね、少なくともディケイドのせいで私たちがこの一年、どれだけ苦労したかを知らないなんて言わせないわよ!」

 

 

両頬を大きく膨らませて、ジト目で虚空を睨んだ。きっと何処かで戦っているであろう、ディケイドに胸中で恨み節を吐き出しているに違いないと、弦十郎は思った。

 

 

一年前、奏とディケイドの戦闘はある意味、二課の存続に関わる程であった。

 

 

簡単に言えば、シンフォギアの実用性を政府の高官たちに疑われてしまったのだ。

 

 

あの戦闘での奏はコンディションが最悪だったとはいえ、ディケイドに大敗を喫した。即ち、それはシンフォギアの性能がノイズに通用しないのではないかと、元々不信感を抱かせていた官僚に火を付けてしまった。

 

 

元々シンフォギアがノイズ用の対抗兵器ではあるが、その真価を発揮した回数は実は多くなかったりする。というのも、国内に現れたノイズをディケイドが殲滅してくれたお陰で、ある意味シンフォギアの見せ場を奪ってしまうという、実は弦十郎自身もどうしたものかと頭を悩ませる事態に陥っていたことがあった。

 

 

無論、ノイズを倒してくれるのは有難い。弦十郎や了子や二課のスタッフも、年端のいかない少女二人を戦場に向かわせる状況が少ないことに感謝さえしていた。だが、それは個人的にであり組織を纏める人間と所属している人間は、組織の存在意義を失いかねないことだ。

 

 

そこに、ディケイドからもたらされた敗北の二文字。それをネチネチと指摘され、主に了子や了子の部下は大いにストレスを溜め、それを爆発させた。

 

 

結果、この一年は正に全スタッフの人生で忙しいものであった。

 

 

ある意味、今回の実験の下準備を兼ねた歌手ユニット『ツヴァイウィング』のサポート活動に、装者たちのノイズ戦の徹底支援。

 

 

シンフォギアシステムの信頼・信用を取り戻すために各所に東奔西走。了子もシンフォギア基本性能の改善と、奏に合わせたLiNKERの調整を手掛け。

 

 

改めて、シンフォギアの有用性を示すために、自衛隊のプライドを折りかねない模擬戦で圧倒的勝利を納め。

 

 

更にその後に現れたノイズを殲滅する様を、多くの官僚に見せつけ証明せしめた。

 

 

お陰で、シンフォギアシステムの凍結が見送られ、その功績に免じて今回の実験に命令という形で許可が降りた。但し、条件付きで。

 

 

それが今しがた目覚めた最高戦力で、ディケイドを手に入れることであった。

 

 

弦十郎や了子、二課のスタッフは上から下された命令の真意に感ずいている。

 

 

ディケイドの力を独占するためだ。その企みは既に日本だけでなく、各国の首脳陣がディケイドを狙っている。

 

 

今やディケイドは世界にとって無視出来ない、多大な影響力を持つ存在だ。加えて、その正体は謎に包まれている。

 

 

その謎に付け込み、仮にディケイドを我が国が開発した、或いは固い繋がりがあると世界に示せば、その国はこの世界で大きな発言力と権力を得られるだろう。

 

 

加えて、理不尽な暴力をその国は手に入れられる。ディケイドの転移能力を兵器に転用出来れば、回避しようのない奇襲戦略が実現できる。

 

 

そういった、下手をすれば世界大戦が起こりかねない最悪な未来がくる。弦十郎は腕を組みながら、疲れを隠しつつ祈るしかない。ディケイドがこのまま、国の陰謀に巻き込まれないことを。

 

 

「一応、訊くけども奏ちゃんや翼ちゃんは、そんな陰謀論のこと知らないわよね?特に、奏ちゃんの方」

 

 

「──恐らくは、な。かといって、教える気は微塵もない。きっと責任を感じてしまうからな」

 

 

「そう……。なら良いのだけれど。あの子も、漸く復讐以外の道を見出だし始めたのに、また苦しんで欲しくないからね」

 

 

了子の心配に、弦十郎は一年前の奏のディケイドに関する報告を思い出した。

 

 

──ディケイドには明確な意思・人格があり、口頭による言葉の意思疏通が可能。そして、ディケイドには人間に敵対する意思はない、か……。

 

 

弦十郎自身も言葉を交わしたことはないが、薄々と意思と人格があるのではないかと思っていた。人間に敵対してないことも、過去の戦闘映像で明らかだ。

 

 

そのディケイドと直接言葉を交わした奏は、世界中の誰よりもディケイドの言葉を信じているのだろう。

 

 

「(今思えば、本当にあの時の俺は愚かだった。この報告をお上にしたことで、強行手段に出るのを躊躇われることがなくなったんだろう)」

 

 

どうせ向こう側は、こんな曲解をしたに違いない。

 

 

『ディケイド自身が、こちらに攻撃しないのであれば好都合。例え、自衛されても被害は最小限だと予想でき、恐らく死者は決して出さないはず。故に、接触した場合、全力を持ってディケイドを鎮圧と確保できる可能性が高い。また、明確な意思・人格が在るならば捕獲後も、懇切丁寧に説得すれば(・・・・・・・・・・)協力関係を結べるかもしれない』

 

 

──自分たちの被害が少なく済む可能性が高い。

 

 

お上に報告するのも仕事であるが、結果としてディケイドの捕獲に本腰を挙げさせる羽目になった。

 

 

翼と奏はこの事を知らない。今回の計画が対ノイズの新戦力の獲得がただの建前であり、本当の目的はディケイドを手に入れる為の切り札を目覚めさせる物だと。

 

 

事実を知れば、二人は赦さないだろう。自分達の歌が、大人たちの汚れた陰謀にあまねく利用され尽くされたのだ。しかし、やがて近い内に知ってしまうだろう。

 

 

訪れる最低最悪な未来に、気が重くなる。避けられないのならば、甘んじて二人の怒りを受け止めようと弦十郎が改めて決意した瞬間、状況が一変した。

 

 

室内にけたましい警報音が鳴り渡り、職員たちが何事かと騒ぎ出す。

 

 

「落ち着けっ!いったい何が起こってるのか、直ぐに把握するんだ!」

 

 

弦十郎が冷静に、職員たちに原因究明の指示を飛ばした。油断なく身構えながら、ネフシュタンの鎧に視線を移した。

 

 

「た、大変です!ネフシュタンの鎧、上昇するエネルギー内圧に、セーフティが持ちこたえられません!」

 

 

一人の職員が悲鳴じみた報告に、この場にいる全員に戦慄が走り渡った。

 

 

「今すぐエネルギーの送射を止めなさい!」

 

 

「やっていますが、状況に変化はありません!」

 

 

了子が各々に指示を飛ばすが、状況は悪化の一途をたどり続ける。やがて、時が満ちたかのようにネフシュタンの鎧から眩い光が放たれた。

 

 

皆がその光景に目を奪われるなか、了子と弦十郎だけがうわ言のように声を溢した。

 

 

「ネフシュタンの鎧が、完全に目覚めたのか?」

 

 

「──いいえ、これは暴走よ…………」

 

 

次の瞬間、実験室が爆発した。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

地上のライブ会場のボルテージは、最高潮に達していた。

 

 

天羽奏と風鳴翼──ツヴァイウィングの歌に魅入られた観客たちは、はち切れんばかりの歓声で歌い終わった二人に応えた。

 

 

『皆さん。今日はこのライブに来てくださり、本当にありがとうございます!』

 

 

『まだまだ宴は終わらないからな〜。みんな、最後までついてきてくれるかぁ?!』

 

 

『『『『『ツヴァイウィング!ツヴァイウィング!ツヴァイウィング!』』』』』

 

 

異常な熱気で会場全体が盛り上がる最中、大勢の観客の中の一人でサイリウムを握りしめていた少女が、瞳を輝かせながらツヴァイウィングを見つめていた。

 

 

ツヴァイウングが奏で唄う歌の迫力に感動し、言葉がでなかった。最初はツヴァイウィングのことをよく知らなかった少女であったが、今ではすっかり虜になってしまっていた。

 

 

「これが、ライブ!これが、ツヴァイウィングの歌!!」

 

 

今日この日の感動を絶対に忘れることはないだろうと──立花響は思った。

 

 

次の曲のイントロが流れ出し、他の観客に合わせてサイリウムを振るい、響が精一杯の歓声を上げようとした瞬間。

 

 

会場の中心が突如として、爆発した。

 

 

あまりにも突然の事態に、会場全体が騒然として誰も動けずにいた。翼と奏も曲の流れを無視し、歌わず食い入るように爆心地を視線を向けていた。

 

 

人々が混乱しながらも静寂とも呼べる空気が漂い始めた数瞬に、状況の変化に気づいたのは奏と翼だった。視界の端に風に流された煤を捉えて、二人の背筋が凍った。

 

 

「──これは、まさかっ」

 

 

「ノイズが、来る──!」

 

 

二人の口から零れた言葉通り、爆心地の近くにいた人たちが炭素の塊に変えられて、粉塵となってその場で崩れ落ちた。

 

 

次いで爆煙が晴れて観客たちも、何が起こり何が現れたのかはっきり認識させられてしまった。

 

 

『の、ノイズだあっ』

 

 

認定特異災害『ノイズ』

 

 

人類の天敵にしてこの時代最大の死の宣告者が、よりによって大勢の人間がいる中心に出現するという、最悪の状況が発生してまった。

 

 

観客たちは悲鳴を喚き散らしながら、ノイズたちから逃げ延びようとする。しかし、無慈悲にもノイズは人々に死の魔手を伸ばした。近くにいる人間から片っ端に命を奪い尽くした。

 

 

ノイズの発生源から離れていた一人の観客は思った。こんなに離れているんだから自分は逃げられる、と安堵して身を翻した途端、意識が途切れた。否、死んだ。

 

 

その場にいた人間が、その人物の死に絶句しながらも思わず空を見上げてしまった。茜色に染まった空を悠々と飛行している、数多の飛行型ノイズの姿が確認できた。

飛行型ノイズは高速で急降下を行うと、地上とは違い無差別に各所で観客を殺し尽くす。

 

 

何処へいようとも何時でも死を訪れさせる惨状に、この場が先の活気溢れた歌の祭り場であったと誰が思えるだろうか。

 

 

「歌うぞ、翼!」

 

 

「奏、歌うって……。それに、司令からの許可が──」

 

 

「今ここで、歌わなきゃみんな死んじまうんだ。あたしたちの歌を聴きにくれた人たちを、守れるのはあたし達だけだ!」

 

 

「────!そうね、私たちの歌を認めてくれた人たちを、こんな理不尽に遇わせるのは腸が煮えかえるわ」

 

 

シンフォギアの力は強力であり、それ故に力の行使に多くの制限が設けられている。

 

 

二人は自分が持っている力の重要さを理解してる。それでも、目の前の命を奪い続けるこの惨状に何もせずにいられなかった。

 

 

「ディケイドがここにいないってことはさ、きっとこことは違う場所で戦ってるってことなんだ。だから、尚更あたしらがやらないといけない。どうせなら、ディケイドが来る前に終わらせてやろうぜ!翼と一緒なら、どんなことでも乗り越えられるからな!」

 

 

「今まで私たちの見せ場を横取りされ続けたもの。叔父様たちの頑張りに報いるために、この状況をなんとしても打開してみせる!」

 

 

以前までの奏を知っている翼は、これまでにない澄んだ力強い声音に内心驚いていた。復讐の為に戦っていた親友が、ここまで変わったのはやはりディケイドによるものか。

 

 

翼はディケイドにあまり良い感情を持っていなかった。奏ほど拗らせてはいないが、目的の見えないディケイドの振る舞いに翼は苛立ちを募らせていた。

 

 

戦場に突如として現れ、用が済んだらフラりと消える。ノイズを倒してくれるのは、翼も有難いと思っている。だが、ディケイドが何の為にその力を使うのかが定かではない以上、最悪の状況を想定し余計な警戒もしなければいけない。

 

 

それでも、感謝しているところもある。一年前、ノイズの渦中で行動不能に陥った奏を救ってくれたことを。救援に駆けつけようとしていた翼は、道中に出現していたノイズの対処に追われていた。間に合わないと思っていた矢先に、本部からの通信でディケイドが奏を助けてくれたのを聴いたときは思わず呆けてしまった。

 

 

その後の奏からの報告には、かなり驚かされた。疑っているわけではないが、もし対話の可能性が在るならば翼もその場にいたいと思う。大切な相棒をあの時に助けてくれたことに、直接礼を伝えたいと。

 

 

だから、対話を望むなら対等な関係でなければ望めない。

 

 

歌おう。人々の命と心を救うために。

戦おう。それがディケイドに近づけると信じて。

 

 

『Croitzal ronzell Gungnir zizzl』

『Imyuteus amenohabakiri tron』

 

 

奏と翼から紡がれるは、災厄をはね除ける聖詠。

 

 

フォニックゲインが噴き荒れ、鎧として形成されていく。

 

 

戦衣(シンフォギア)が姿を現す。

 

 

【撃槍・ガングニール】の聖遺物を核とし、オレンジを基調としたシンフォギアを纏う、槍を携える天羽奏。

 

 

【絶刀・天ノ羽斬】の聖遺物を核とし、蒼色を基調としたシンフォギアを纏う、刀を携えた風鳴翼。

 

 

此処に戦姫が、戦場にて歌い舞う。

 

 

「うぉらァ!」

 

 

烈迫の勢いで奏が駆け出し、ノイズの群れに豪快な槍の一突き。一体だけでなく周囲のノイズを巻き込んで、一掃する。突きを放った槍の刀身の上に、翼が軽やかに踏み乗った。

 

 

「翔ばして、任す!」

 

 

「承知!」

 

 

翼を乗せたまま、奏は全力で槍を振り上げた。翼も全身のバネを使用し槍の勢いを加算し、空に放り上げられるように跳躍した。

 

 

空中で脚部の展開式ブレードを展開し、備えられたブースターが発動して更に加速・上昇する。滞空している飛行型ノイズ郡を置き去りにし、更に上へ翔んで一時的な制空権を握った。

 

 

会場全体を見渡せる高さにて、翼は一瞬でノイズの規模を確認する。

 

 

「小型、中型に大型も……。飛行型と合わせれば、とてつもない数ね」

 

 

眼下では会場の半分以上が、ノイズに埋め尽くされていた。その中で、未だに逃げ遅れている観客たちの姿も多く見られる。

 

 

「まずは、天の憂いを絶つ!」

 

 

心の奥底から浮かぶ歌を口ずさみ、フォニックゲインを急速に高め、飛行型ノイズ全てに狙いを定める。

 

 

【千ノ落涙】

 

 

無数の剣状のエネルギーが出現し、飛行型ノイズに降り注ぐ。

 

 

飛行型ノイズは成す術なく、剣に刺し貫かれ空中で身体を崩壊された。

 

 

重力に従い翼は落下し、討ち漏らした飛行型ノイズを切り払いながら次の獲物を狙う。

 

 

「今度は大物を──!」

 

 

アームドギアたる刀剣が翼の身の丈を超える大剣に変化し、蒼色のエネルギーを纏いわせて剣を振り下ろした。

 

 

【蒼ノ一閃】

 

 

巨大な蒼色のエネルギー刃が、芋虫を思わせる大型ノイズを縦一閃に切り裂いた。続けざまに傍にいた同型のノイズに向けて、手にしていた大剣を投げ放つ。放たれた大剣は更に巨大化し、大型ノイズを斬殺する。

 

 

まるで殺されたノイズの墓標のように突き立つ己の得物を一瞥し、一先ず安堵する。

 

 

大型ノイズは大体において、小型ノイズを産み出す手段を持っている。この状況で増援が湧き続ければ、一気に翼と奏の手に負えなくなる。幸い数が少なかったお陰で、その不安をすぐ取り除けた。

 

 

地上に近づくにつれ、地上のノイズが翼に目がけて飛びかかる。翼は持ち前の身体能力と、脚部ブレードのブースターを上手く使い、空中で舞うような動きでノイズを避け、すれ違い様にノイズを脚部ブレードで切る。

 

 

空中での舞踏を演じながらブースターで速度を落とし、逆立ちの要領で着地を行い次に繋げる。両脚を大きく開き脚部ブレードを展開したまま、独楽のように回転する。

 

 

【逆羅刹】

 

 

翼の近くに存在するノイズを一息に切り裂き、切り進みながら翼は巨大化して突き立っている剣の下へ近づいていく。

 

 

呼応するかのように大剣がサイズを縮め、翼がたどり着いた時には元の大きさに戻っていた。

 

 

【逆羅刹】を解除し、柄を握ると抜き様に周囲のノイズを切り払う。

 

 

右も左も前後もノイズだらけ。翼が今いる場所はノイズの発生源近くであり、無数のノイズが蠢く群れの中だ。絶え間なく襲い来るノイズを切り殺しながら、翼は思う。

 

 

恐らく、これがディケイドの見ている世界なんだと。

 

 

翼は間違えて、ノイズの群れに迷い混んだのではない。一体でも多く観客たちから狙いを逸らすために、囮を買って出たのだ。観客たちとノイズの入り乱れる状況で、被害を減らすためには獲物が最も近くに居るのだと、ノイズに認識させ誘わせるしかない。

 

 

ディケイドにはノイズに対する誘引能力があり、それのお陰で人的被害がここ近年で格段に減少した。一般人たちが入り乱れる状況において、ディケイドの力は正にうってつけだ。たとえ、遠くにいようともたった一人の存在に惹かれてくるのだ。

 

 

シンフォギアにはノイズと戦える力があろうと、ノイズを惹き付ける力はない。必然的に、多くのノイズが翼を狙っているが観客に近い位置に居るノイズは翼から離れていっている。

 

 

だが、翼は信じている。最高の相棒が、自分の代わりに彼の槍で以て人命を護っていると。

 

 

「うらぁ!」

 

 

翼の信頼に応えるように、正に観客の一人を殺そうとしていたノイズを奏が撃退した。

 

 

「早く、逃げろ!」

 

 

「は、はいっ」

 

 

恐怖で動けなくなっている観客に、怒鳴り気味で逃げるように促す。観客は驚くも、恐怖から我に返り一目散に駆け出した。

 

 

槍を構え直し、奏はノイズの軍団を睨んだ。

 

 

「本当にオマエらってさ、来て欲しくないときに来やがって」

 

 

自身の身体から沸き出る痛みと気持ち悪さを感じながらも、ソレを忘れるように槍でノイズの数を減らす。槍を一度振るうだけで激痛が全身に走りわたる。

 

 

──今の奏はLiNKERを施しておらず、既に活動限界を迎える寸前であった。全力を出しきれず、相棒に危険な役回りをさせている不甲斐なさに、反吐が出そうだ。

 

 

それでも、奏はそんな悔しい思いをバネにして人命救助に全力を注ぐ。

 

 

「きゃっ!」

 

 

小さな悲鳴が聞こえ、奏の意識がそちらに向けられる。

 

 

奏が視線を動かすと、転んで怪我をしたのか足を押さえて動けずにいる少女──立花響がそこにいた。そして、彼女の悲鳴に釣られたのか、ノイズが立花響に狙いを定めた。

 

 

「っ、やめろぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

全身の痛みを無視して、奏は全力で疾駆する。然れど、奏の心の中は『間に合わない』と絶望の影が差し込んだ。

 

 

「だとしてもぉぉぉぉぉ!」

 

 

少女に訪れる結末を覆すために、一縷の望みを懸けて槍を投擲する。風を切りながら一気に距離を詰めた槍の穂先がノイズを貫こうとした瞬間、ノイズは突如として後ろに大きく飛んだ。

 

 

投げた槍は当たらずとも、ノイズから逃れた少女の姿に安堵する。庇うように奏が立花響の前に立ち、槍を持ち直しながら奏は飛んでいったノイズに目をやり言葉を失った。

 

 

ノイズを惹き付けていた翼も、周囲のノイズが突然自分を無視して動き出したことに困惑していた。

 

 

奏と翼を挟み込んだ距離間の中心で、ノイズが吸い込まれるように押し付け合いながら集合していた。

 

 

この会場にいる全てのノイズが集結し、前触れもなく全てのノイズが一斉にその身を弾けさせた。大量の煤が宙に舞い、意思を持っているかのように動き回り何かを形作る。

 

 

「おいおい、一体何がどうなってんだ?」

 

 

本当なら後ろにいる少女をすぐにでも安全な場所に連れていきたいが、目前で起きている不可解な現象に奏は警戒を解けずにいた。もし、少しでも意識を逸らせば命取りになりかねないと、奏の勘が告げていた。

 

 

翼も同様の理由で、その場に止まりいつでも対応できるように臨戦態勢を解かない。

 

 

唐突に状況が動き出した。

 

 

「うぉ!?」

 

 

「これは!?」

 

 

ノイズたちが固まっていた中心に、黒いノイズが立っていた。

 

 

奏と翼がよく相対するヒューマノイド型であるが目にいれるだけで、二人の背筋が冷えた。立花響も、黒いノイズに言い様のない強烈な不安感を抱いていた。

 

 

明らかに、あの黒いノイズは別格であると装者としての警鐘が鳴っていた。その警鐘に突き動かされるように、奏は黒いノイズへ駆け出した。

 

 

得体の知れなさ故に、早急に対処する。

 

 

奏の槍の穂先が回転し、風を巻き起こす。

 

 

【LAST∞METEOR】

 

 

これまでに何度も数多のノイズを屠ってきた技を、迷うことなく黒いノイズへ放つ。地面を抉り削りながら暴力的な竜巻は、黒いノイズが腕を一振りしただけで掻き消された。

 

 

奏が驚く間もなく黒いノイズは瞬時に距離を詰め、その勢いを乗せて剣に変形した腕を奏の槍に突き刺した。

 

 

穂先から柄の根元まで、あまりにも脆く砕かされた。奏にしてみれば、堅牢な城壁に槍をぶつけたような衝撃が手から全身に伝わってきた。

 

 

破壊された槍の破片が四方八方に飛び散り、その一つが立花響の胸に刺さった。胸から血を噴き出しながら、吹き飛ばされて瓦礫の壁に背中からぶつかった。これまで味わったことのない痛みに、立花響は悲鳴も出せずにいた。

 

 

怪我の痛みは激しいのに、それに反して眠ってしまうように意識が薄れていくのを感じる。瞼が重く、静かに閉じられようとしていた。

 

 

「(……私、ここで死んじゃうのかな?)」

 

 

このライブに誘ってくれた親友の顔を思い浮かべる。本来なら親友も一緒にここへ来る約束だったが、家族の都合で来れなくなってしまった。寂しいと思いながらも、今は安堵している。親友がこんな痛くて、怖い思いをせずにすんだから。

 

 

親友を思いながら、立花響はそっと意識を手放──

 

 

「おい、死ぬなぁ!」

 

 

せなかった。閉じかけた瞼が、止まった。

 

 

半壊した槍を後ろに飛んだ際、苦し紛れに黒いノイズに投げつけて奏は立花響に駆け寄った。

 

 

「させんぞ。黒きノイズよ!」

 

 

無防備な背中を見せる奏に追撃しようとするが、黒いノイズの背後から翼が奇襲を掛けて阻止する。

 

 

奏が立花響に近づき、必死に呼び掛ける。だが、立花響の顔色は更に悪化して再び目が閉じられようとしていた。呼吸も確実に浅くなり始めている。

 

 

「死んじゃダメだ!──生きることを、諦めるなぁ!」

 

 

奏の目には立花響が亡くなった妹に重なって見えた。あの時、妹の近くにいながら守ってやれなかった悔しさと哀しみが生々しく甦る。

 

 

だから、もうあんな想いはしないと誓ったのだ。こんな理不尽な災厄で、誰かの未来を奪わせたくなかった。

 

 

「………………かはっ」

 

 

祈りが通じたのか、立花響が息を吹き返す。予断を許さないが、何とか峠を一時的に乗り越えてくれた。そのことを察した奏は涙を流しながら、安堵の笑みを浮かべた。

 

 

得物である槍は壊され、自身の身体も最早限界だ。

 

 

黒いノイズは翼が抑えてくれているが、状況は芳しくなさそうであった。

 

 

激しい剣戟を繰り広げているが、翼が攻めあぐねているのが見て理解できた。次第に黒いノイズが押し始め、翼が劣勢に立たされていく。

 

 

槍を砕かれた衝撃は、今もはっきりと覚えている。黒いノイズの攻撃をまともに食らえば、翼の命が奪われてしまう。

 

 

「──観客は少ないけど、聴き手は極上だ」

 

 

覚悟を決めた。

 

 

あの黒いノイズを、今ここで確実に殺すために命を燃やす。

 

 

「が、ぐうぅっ!」

 

 

黒いノイズの攻撃は凄まじく、遂に翼は均衡を崩されてしまった。

 

 

鳩尾を狙った刺突を真正面から剣で受け止め、衝撃を殺せず後方へ弾き飛ばされた。

 

 

桁違いの威力で放たれた斬撃を何度も斬り結んだお陰で、翼には満足に武器を握る力は残されていなかった。

手から剣が滑り落ち、苦悶の表情を浮かべる。

 

 

「──ディケイドならば、また違っていたのだろうか」

 

 

認めたくないが、翼はこの黒いノイズに勝てないのだと悟った。

 

 

奏と連携して当たれば可能性あったのだろうが、それでもこのノイズを足止めするだけで精一杯のような気がする。

 

 

そうすると残るはディケイドだけなのだが、その存在は此処にはない。

 

 

「打つ手なし、ではある。さりとてこの身は、人命を守護する防人だ!悪いが、この剣が果てるまで付き合ってもらう!」

 

 

翼の人生は殆ど流されて生きてきたようなモノだった。しかし、幼少から戦士として鍛練に費やし、この身を守りし者として生きてきた誇りがある。

 

 

目の前の脅威から、逃げる理由は存在しない。

 

 

地に落ちた剣を拾い上げ、再び構え直した瞬間。

 

 

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

 

会場全体に、荘厳でありながらも悲壮感を孕んだ歌声が響き渡る。

 

 

──その詩を翼は知っている。

──その詩がどういうモノなのか理解している。

──その詩を唄っているのが誰なのかを、翼は直ぐに分かってしまった。

 

 

歌声の発声源に目を向けると、穏やかな表情で詩を口ずさむ奏の姿が。

 

 

その穏やかさとは真逆に奏の身体から膨大なフォニックゲインが溢れ、激しく奏の身を傷つけながら荒れ狂っていた。

 

 

シンフォギアに備えられた決戦兵装──『絶唱』システム。

 

 

特定の詩編を唱えることで、フォニックゲインを限界を越えて高めて、一気に放出するという最大最強の攻撃手段である。しかし、高めたエネルギーによって歌い手の身体に最大の負荷が与えられ、使い時を見誤れば命を落としかねない諸刃の剣でもある。

 

 

LiNKERの不使用により、奏は戦いの始めから自分自身にダメージを与え続けていた。そんな状態で絶唱を唄えば、奏の肉体が耐えられない。

 

 

「唄っては駄目っ、奏ぇ!その詩を唄ったら貴女が!」

 

 

その事実に気づいたからこそ、翼は奏に制止の言葉を投げる。

 

 

大切な相棒を死なせたくない。もっと二人で歌い続けていたい。だから、その詩で命を燃やし切らないで。

 

 

「(ごめんな、翼)」

 

 

翼の想いを奏は痛いほどに理解しているが、この状況を打破するにはこれしかない。何時来るかわからないディケイドを待っていたら、この会場にいる人々は殺し尽くされてしまう。

 

 

心の中で翼に謝り、奏は最後の一節を紡ごうとする。

 

 

翼の祈りは届かず、奏の命の灯火が消えかかる。

 

 

黒いノイズは奏からただならぬ気配を感じたのか、翼を無視して奏に急接近する。

 

 

歌いきる前にあの黒いノイズの凶刃は、自分を刺し貫くだろう。

 

 

ならばと、奏は覚悟を決める。刺し違えてでも、奴を道連れにする。

 

 

「Emustolronzen fine──」

 

 

翼もダメージが残っている身体に鞭を打って、黒いノイズに追走するも間に合うことのない現実を無意識に見いだしてしまう。

 

 

誰でもいい、自分の大切な親友を救ってくれと、翼は誰にでもなく願った。

 

 

奏は直ぐに訪れる痛みを受け入れるように、唄いながら目を閉じた。

 

 

黒いノイズが、右腕の凶刃を突き出し──

 

 

「el」

 

 

ドォン!

 

 

重々しい衝撃が発生し、奏の身体に生暖かい液体がへばり付いた。不思議と痛みは感じなかった。疑問を抱き、奏は目を開けて絶句した。

 

 

奏の目の前に、見覚えがありすぎる背中が視界に入り込んだ。

 

 

絶唱の最後の一節を止めてしまう程に、奏は今の状況を受け止めずにいた。それでも、その背中を見間違うことなどあり得ず、思わず声を出して確かめてしまった。

 

 

「ディケイド……?来て、くれたのかぁ?」

 

 

そして、今の状況の全体を見れる位置にいる翼もディケイドの出現に、驚きのあまり立ち止まってしまった。

 

 

黒いノイズの進行を阻むように立ちはだかっているディケイドに、翼はディケイドに対して有り得ない思いを口から漏れ出ていた。

 

 

「ディケイド?何故今になって、まさか奏とあの娘を守るために?!」

 

 

本当にまさかなのかと、疑ってしまう。ただの偶然に違いないと思っているのに、翼はもしかしたらと感じずにいられなかった。

 

 

自分の祈りが通じて、ディケイドが来てくれたのだと。

 

 

現に奏は絶唱の完成を止め、黒いノイズの凶刃から守られた。絶望的な状況を跳ね返し、翼の中のディケイドへの不信感が払拭されていく。

 

 

そして、二人は現実を思い知る。

 

 

奏は己の不甲斐なさが故に。

翼は祈りの代価だというように。

 

 

奏は自分の身体に付着した液体が、何なのか気づいた。

 

 

血だ。

 

 

確かに自分の身体は傷ついているが、己の身体の殆どを赤く染める程ではない。

 

 

答えは目の前に存在した。

 

 

黒いノイズの凶刃が、ディケイドの腹部から背中まで刺し貫いていた。ディケイドの後ろの地面は、夥しい量の赤で扇状に染まり、奏の後ろにも血飛沫が広がっていた。

 

 

ディケイドは腕を広げながら、刺し貫かれたまま微動だにしていなかった。まるで、奏をこの凶刃に触れさせまいと。

 

 

そして、奏はこの状況を改めて理解して、身体を赤く染め上げた血が誰のものかを認識した。されてしまった。

 

 

再びノイズの大群が出現する。

 

 

黒いノイズはディケイドから凶刃を引き抜き、ノイズの大群に合流する。

 

 

翼も見せつけられてしまった。ディケイドが、その身を犠牲にして奏と立花響を助けてくれていたことを。

 

 

ディケイドが、ゆっくりと顔だけを振り返り、奏と立花響を見つめた。

 

 

「……良かった」

 

 

それは今までにない安心できる、それでいて慈愛に満ちた言葉であった。

 

 

ディケイドは自分が負った傷を気にも留めず、ただただ他者を案じていた。

 

 

「あ、あぁ──!!」

 

 

「私は、なんて……ことをっ」

 

 

奏はかつて、命を賭けて守ってくれた両親の姿を重ね──。

 

 

翼はディケイドの高潔さに、自身を比較してディケイドへの猜疑心を抱いていた己を恥じて──。

 

 

胸に浮かぶ詩が、聴こえなくなっていた。

 




【KAMEN RIDE】せず、申し訳ございませんでした。(超土下座)

作者は罪悪感による依存系ヒロインが大好物。(唐突な告白)

おら、『俺』くん。ハーレムへの布石を打ってやったぞ喜べ(白目)

ps,作中ではディケイドドライバーは通常の白い方にしています。(随時、必要な箇所は修正していきます)


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08

遅れて申し訳ございません

たくさんの感想に感謝感激です。


今回はちょっと無理矢理感が強いです。

後、中二病が再発した


天羽奏はディケイドの姿に、両親の最期の姿を想起して心の奥底に眠っていたトラウマを呼び起こされた。

 

 

風鳴翼は大切な親友を救うために、自身ではなく他者にその身を傷つけさせて助けてくれたことに深い罪悪感を抱いた。

 

 

目映い光が二人を包み込んで、シンフォギアが解除された。戦衣から美しいライブ衣装へと変わり、それが戦う意志を失ってしまったことを証明していた。

 

 

今の二人が先程まで歌で多くの人々を魅了した歌姫で、その歌で人々を護っていた戦姫であったことなど誰が信じられるだろうか。

 

 

顔に飛び散った血を、奏は汚れるのを躊躇うことなく手で拭った。手に付着した血と、刺し貫かれたディケイドの傷を見つめ奏は何も言えなかった。ただ、後悔だけであった。自分がもっと早く絶唱を歌う決意をしていれば、深手を負うことはなかった。

 

 

「(死んじゃう、あたしを守ってくれたせいで……。父さんや母さんみたいにっ!)」

 

 

人々を守る防人であらんと、風鳴翼は常日頃から自分自身に言い聞かせていた。それが、己を盾にするでもなく他者にその役割を身勝手に押し付けてしまった。それがディケイドであっても、風鳴翼は自分を許せなかった。ディケイドが溢した案ずる言葉に、自分の愚かしさを盛大に呪った。

 

 

「(あの刃に貫かれるべきは、私だった。あんな己よりも他者を重んじられる、強き優しさを持つ存在がこんなところで消え行くべきではない!)」

 

 

腹部から背中まで貫かれたその傷は、どう見ても致命傷であるのにディケイドは痛みに苦しむ態度を表さなかった。ただ静かに、黒いノイズと大群のノイズを睨んでいた。その姿勢は、明らかに戦意を衰えさせていなかった。

 

 

二人の目にはそう見えて、間違ってはいなかった。

 

 

ディケイドが動き出した。

 

 

淀みのない歩きで、ノイズの大群に近づこうとする。対してノイズ大群の方は黒いノイズと一緒に動かずにいた。来れるものなら、来てみるがいいと挑発しているのかではないかと錯覚してしまう。

 

 

きっと、戦いが始まればディケイドは殺されてしまう。

 

 

ディケイドが深手を負っている状態で、尋常ではない戦闘力を持つ黒いノイズにノイズの大群とも相手しなければいけない。

 

 

そんな構図で、勝利を想像できる筈もない。

 

 

「行かないでくれ、ディケイドっ。アイツ等と戦ったら、アンタが死んじまう!」

 

 

「その傷で戦うのは無茶だ!止めてください、ディケイド!」

 

 

態々死ににいくようなディケイドに、二人は必死で止めようと言葉を尽くす。

 

 

それでも、ディケイドは立ち止まることなく歩みを進めていく。

 

 

自分たちが戦えれば、どれだけ良かっただろうか。身体を包んでいる、この小綺麗な衣装が恨めしい。これを着ているだけで、自分たちが蚊帳の外にいるのだと思い知らされていく。

 

 

「お願いだ……行かないでっ。あたしの心を救ってくれた、アンタが消えたらあたしは、耐えられないんだよっ。アンタがその身体で、そこまでして戦うことはないんだよ!」

 

 

「今ここで立ち去っても、誰も責めることはありません。なのに、何故そこまでしてアナタは戦うんですか?」

 

 

「──────」

 

 

ディケイドが歩みを止めて、ゆっくりと二人の方に振り返った。制止に従ったわけではなく、ただ二人の問いに答えるために立ち止まった。

 

 

世界の誰も、ディケイドのことなんて本質的な意味でわからないままだ。

 

 

何故、ディケイドがノイズと戦うのか。

 

 

天羽奏のように、復讐の為に戦うのか。

 

 

風鳴翼のように、防人として生きてきたが故の使命感からか。

 

 

「こんな『俺』でも、守りたいモノがあるから。それだけだ」

 

 

その言葉に怒りや悲しみは見出だせず、使命感のような息苦しさは感じられなかった。

 

 

ただ大切なモノを守りたい。そんな当たり前の、ありふれた想い。

 

 

「いつでも何処にも共に在る『命』を、『俺』は守りたいって思ったんだ」

 

 

誰かに言われたのでもなく、憎悪に突き動かされたわけじゃない。

 

 

心の底からその力を、ノイズから人々(いのち)を守りたいと思っているから使う。

 

 

綺麗ごとだと、誰もが思うだろう。

 

 

両翼は、そんな事は微塵たりとも思っていない。

 

 

奏は知っている。一年前、守れなかった者たちのことを想い、苦しんでいたことを。

 

 

あの時のディケイドの言葉を思い出す。彼はただの通りすがりで、その道中で困っている人がいれば助けるだけだと。

 

 

ディケイドが現れるときは、いつだってノイズに苦しめられている人々の中心だ。そして、いつも現れてはノイズを倒して、人々から絶望を払い除ける。誰に頼まれたわけでもなく、ただそうしたいだけだと言うかのように。

 

 

だから、これもいつもと同じなだけだ。この会場に残されている人々を守るためにディケイドは戦うのだ。その中に奏や翼も、絶対に含まれているのだろう。

 

 

翼は思い知った。死んでしまうかもしれないあの凶刃を、身を呈して庇い奏と立花響を守った姿を。

 

 

「(──あぁ、今やっとわかった。叔父様がディケイドから感じたという怒りと、その中に宿らせていた暖かさが……)」

 

 

翼の叔父──風鳴弦十郎がディケイドと初めて出会った際、彼から尋常ではない怒りを発していたと翼は弦十郎から聞いていた。

 

 

その怒りとはきっと、ディケイドが大切だと感じている人々(いのち)を守れなかった自分自身に抱いていたのだと。

 

 

そして、その暖かさは彼が何処までも怒りに染まりきらない、人々(いのち)を守りたいという慈しみの心を持っているから。

 

だから、もう言葉が出なかった。何を言ってもディケイドを止めることは、出来はしないのだと。

 

 

翼もようやくディケイドの事を理解し始め、ディケイドから放たれた言葉に二人は心を締め付けられた。

 

 

「……残念ながら、オレは戦うことしかできない。だから、代わりにその子を助けてあげてくれ」

 

 

──自分にはもう、その子を助けてあげる力がないのだと。

 

 

二人は、ディケイドの言葉に含まれた意味を理解して深く頷いた。

 

 

ディケイドがこんな子供二人にお願いをすることなんて、きっと二度とないだろう。それでも、頼まざるを得ないのだ。

 

 

あの黒いノイズと他のノイズの大群を相手にするには、命を懸けなければいけない。たとえ、自分が死ぬことになるのだとしても。

 

 

そこまで察することが出来た奏と翼は、悲痛な表情を浮かべながら自分を責め立てた。自分たちのせいでディケイドを傷つけ、結局最後にはディケイドに頼ってしまっている。挙げ句の果てに心を折ってしまい、戦うための力を自ら手放してしまったことは生涯消すことができない汚点だ。

 

 

ならばせめて、自分たちの使命と償いも併せて立花響を守らなければ。

 

 

それが、今できる最善だった。

 

 

ディケイドは二人の顔を見つめ、最後に立花響を見て頷いた。

 

 

覚悟を決めたように。

 

 

静かにディケイドはノイズたちへ向き直り、再び歩みだした。

 

 

本当に死にかけの傷を負っているのかと疑うほど、ディケイドの身体がぶれることはない。着実にノイズとの距離を詰めていき、ディケイドが会場の中心地に至るところで、黒いノイズが動き出した。

 

 

他のノイズが微動だにしないなか、焦れったいような身ぶりをした直後に駆け出した。早く、ディケイドの息の音を止めたいと。

 

 

もう僅かで接触するその瞬間、ディケイドの手には一枚のカードが握られていた。

 

 

「──────変身──────」

 

 

手慣れた動作でカードを翻して、腰に巻かれたドライバーに差し込んだ。

 

 

【KAMEN RIDE AGITO】

 

 

黒いノイズの凶刃がディケイドの左胸に突き出された瞬間、会場全体が光に包まれた。

 

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

 

無限に連なる並行世界の何処かで、その黒いノイズは──カルマノイズと呼ばれていた。

 

 

通常のノイズが黒く染まっているだけのように見えるが、カルマノイズは他のノイズと違い自壊はしない。

 

 

活動限界が存在せず、無尽蔵に本能のまま人間を殺し尽くす。カルマノイズを倒すことでしか、その凶行を止めることしかできない。

 

 

しかし、それも困難を極めていた。カルマノイズ自身が高い戦闘力を持ち、別の世界の数多の戦いを経たシンフォギア装者が苦戦を強いられる強さがあった。

 

 

それだけでなく、カルマノイズは人に『破壊衝動』を植え付ける。人間が持つ怒りと悲しみ、不安と恐怖など負の感情を肥大化させて暴走させる。

 

 

そして、このカルマノイズは、『他の通常型ノイズを取り込むことで強くなっていく』のだ。

 

 

出現直前に会場全てノイズがカルマノイズに集束され、その強さはシンフォギアを圧倒し、ディケイドの鎧を刺し貫くまでに至った。

 

 

通常のノイズと同じく、カルマノイズも本能のまま人間を殺す。

 

 

そう。だから、カルマノイズの凶刃がディケイドの胸を刺し貫くことなく、凶刃が片手で止められていても疑問も思わない。

 

 

戸惑いも不安も何も感じず、本能が素直に告げた。

 

 

──コレ、コロセナイ。

 

 

凶刃を形成している腕を掴まれたまま、力強く引き寄せられた所でカルマノイズの腹部に拳の重い一撃がめり込んだ。

 

 

カルマノイズが軽々と吹き飛び、後方のノイズの大群に戻されながらカルマノイズは目にする。

 

 

ディケイドのバックルから目映い閃光が収まった後、そこにいたのは見慣れない存在だった。

 

 

引き締まった肉体を金色の外装に覆われ、強靭な目力を感じさせる真っ赤な複眼、そして、頭に金色に輝く二本の角。

 

 

その者の姿を言葉に表すとしたら──黄金の戦士。

 

 

そう呼称するに相応しい威厳を、黄金の戦士は備えていた。

 

 

名前など知らない。

 

 

この世界の誰もが、その姿の名前を知る由もない。

 

 

何故なら、それはこことは違う世界の戦士の姿なのだから。

 

 

知る者がいるとすれば、黄金の戦士へと姿を変えたディケイド自身だろう(・・・・・・・・・・)

 

 

その姿の名は、『仮面ライダーアギト』

 

 

人が持つ光によっていずれ辿り着く進化の可能性の姿。

 

 

そして、神と呼ばれた存在と戦い続け世界を救った戦士の名である。

 

 

悠然と歩くその姿に、カルマノイズが刺し貫いた傷が見当たらなかった。まるで、最初から存在していなかったかのように。

 

 

黄金の戦士となった姿に、ディケイドの面影は見られない。唯一腰に巻かれたドライバーが変わっておらず、それがあの姿もディケイドなのだろうという証明に見えた。

 

 

距離が縮まるに連れて、ノイズたちも動き出した。ディケイドアギト(以後、Dアギト)に近いノイズたちがその身を槍へと変えて、Dアギトに飛来する。

 

 

歩みを止めずにDアギトは右手で手刀を作り、槍に変わったノイズたちを切り払った。

 

 

次々と射出される槍の攻撃にDアギト片手のみで対応し、彼の通った道には一塊の炭素の粉の山が何個も出来上がっていた。

 

 

ノイズたちの攻撃にやがてタイムラグが生じ、その一瞬の隙を突いてDアギトが一跳躍で一気に距離を詰めた。自分からノイズの大群に飛び込むなど、誰にもできないだろう。

 

 

Dアギトはたまたま直ぐ目前にいたノイズに、一切の容赦なく拳を見舞う。

 

 

仮面ライダーアギトのその黄金の姿には、大地の力が宿っているという。

 

 

不動の大地と化して、邪悪を打ち砕かん。

 

 

超越肉体の金(グランドフォーム)、顕現。

 

 

風のように疾く、大地の如く重い拳撃。そんな威力を宿した一撃は、たったの一発で前方に蠢いていた数十体のノイズを吹き飛ばして殺した。

 

 

それが合図かのように、ノイズたちはDアギトを囲み四方八方から攻撃を繰り出していく。

 

 

ノイズの怒涛の攻撃の手にDアギトは、恐ろしく洗練された最小限の動きで避けて、カウンターの要領でノイズを殺していく。

 

 

ただの偶然か、それとも先読みでもしているのか。ノイズが攻撃を繰り出そうとした瞬間には、まるで誘い込まれたのかようにDアギトの拳撃と蹴撃が待ち構えていた。

 

 

Dアギトの動作は決して激しくはない。だというのに、ただの一撃のだけで次々と数十体ずつノイズを殺し、確実に数を減らしていった。

 

 

深手を負い、数においても圧倒的な有利があったノイズの群勢が瞬く間に形勢を逆転されている。

 

 

ノイズたちも学習したのか、直接攻撃から射撃へと攻勢を変えた。

 

 

Dアギトから離れていたノイズたちは、次々と白い光弾を放ち、安全圏からDアギトを追い詰めようとするも──、

 

 

【FORME RIDE AGITO STORM】

 

 

Dアギトが一枚のカードをドライバーに挿入すると、姿を変えた。

 

 

外装が金色から青色へと移り変わり、Dアギトの左手には両端に刃が備えられた棒状の武器──青嵐の戦槍(ストームハルバード)が握られていた。

 

 

その身を嵐と化して、邪悪を振り祓わん。

 

 

超越精神の青(ストームフォーム)、顕現。

 

 

青嵐の戦槍(ストームハルバード)を豪快に横へ振り、迫っていた全ての光弾を切り払った。

 

 

そして、光弾に追従していたノイズたちは青嵐の戦槍(ストームハルバード)を振るった際に発生した風の壁に衝突し、呆気なく圧死した。

 

 

「ハアァァァッ!」

 

 

両手で青嵐の戦槍(ストームハルバード)を左右に振るい旋風を起こし、やがてDアギトを中心にした嵐を誕生させた。

 

 

 

嵐の化身(ストームフォーム)の異名に偽りなく、Dアギトには風の──暴風の力が宿っている。

 

 

上空にいた飛行型ノイズたちは流れが変わった風に強引に引かれ堕ち、嵐はノイズの大群に向かって動き出す。

 

 

嵐へと接触したノイズたちは、嵐を構成する無数の風の刃によって次々と微塵切りにされていく。嵐から逃れようとするも、風の檻に捕らわれてしまいその身を嵐へと投げ出されてしまった。

 

 

 

自然発生する嵐には物の数分で、小さな集落を更地にする力を秘めている。そんな風の暴力に曝され続け、嵐が晴れた時にはノイズの大群は殆んど消えていた。

 

 

小型、中型、そして飛行型ノイズの姿は、嵐の消失と共に姿を消していた。Dアギトによってノイズたちはその場に炭素の粉を遺されることなく、消滅していた。

 

 

それでも、ノイズはまだいる。

 

 

圧倒的な質量で構成されている大型ノイズたちは、あの嵐の猛攻に耐え抜いていた。体の半分以上を削り抉られたが、辛うじて身体を動かせている。

 

 

「……ハァ、ハ、ァ」

 

 

対してDアギトは左手の槍を地面に突き刺し、右手を腹部に当てながら荒い呼吸と共に肩を上下させていた。その様子に、真っ先に思い浮かんだのはカルマノイズにやられた傷だ。

 

 

どれほど取り繕い、傷痕を無くしてもカルマノイズの凶刃は確かにDアギトの身体を蝕んでいた。

 

 

痛みで動けなくなったDアギトに、大型の巨人型ノイズたちが迫り来る。

 

 

その内の一体が残された片方の右腕を、Dアギトに伸ばす。成人男性をまるごと包み籠める掌が、Dアギトを覆い包もうとした瞬間、Dアギトの右手にカードが握られていた。

 

 

【FORM RIDE AGITO FLAME】

 

 

カードをドライバー挿し込んだ次の瞬間には、巨人型ノイズの腕は切られていた。手先から肩まで切られた巨人型ノイズの前には、右手に剣を握りしめて上に振り抜いているDアギトの姿が存在していた。

 

 

外装が青から赤へと移り変わり、左手に持っていた槍が消えた代わりに、右手には剣──赤火の絶剣(フレイムセイバー)を携えていた。

 

 

その身を火と化して、邪悪を焼き祓わん。

 

 

超越感覚の赤(フレイムフォーム)、顕現。

 

 

「ハアァァァ!」

 

 

右手に力を込めると、刀身が赤熱を帯びる。両手で赤火の絶剣(フレイムセイバー)を持ち、両腕を喪った巨人型ノイズに袈裟斬りを放つ。

 

 

振り下ろそうとした瞬間、火柱が生まれた。その火柱はDアギトの剣から発生し、火柱は刀身の延長として形成されていた。

 

 

文字通り火の剣となって、七千度の斬撃に巨人型ノイズは溶断された。切口から燃やし尽くされながら灰の代わりに、大量の黒粉が降ってくる。

 

 

巨人型ノイズが消滅した時、狙い澄ましたかのように左右から一体ずつ、更にまた前方から同型のノイズが迫り来ていた。更に間の悪いことに、向かい風が吹き出し先の巨人型ノイズの黒粉が、Dアギトを隠すように躍り舞った。

 

 

Dアギトの視界が遮られ、最大の機会を逃さんと残りの大型ノイズたちはDアギトに飛び掛かった。

 

 

しかし、黒粉の即席の結界から火柱が伸びて前方の大型ノイズの胸を刺し貫いた。

 

 

前方の大型ノイズを起点に、火柱が時計回りに動いた。左右から来ていた大型ノイズも、火柱を避けることが出来ず横一文字に切り裂かれた。三体同時に炭素の塊に変わると、一拍開けて火柱が消え、Dアギトを覆っていた黒粉の中から光が溢れだしていた。

 

 

黒粉が晴れると、最初に変身した黄金の姿となって奏と翼と立花響を見つめていた。

 

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

 

ほんの数刻前。

 

 

ディケイドがノイズの大群に歩き出した時には、奏と翼は立花響を安全な場所に連れていこうとしていた。

 

 

丁度その時に通信機に連絡が入った。

 

 

二課のエージェントにして、ツヴァイウィングのマネージャーの緒川(おがわ)|慎次(しんじ)からであった。

 

 

二人は簡潔に状況の説明をし、応急処置を施した立花響を連れ出そうとしたが、緒川から通信機越しに止められ、緒川側の状況を聞かされた。

 

 

避難口前で大多数の観客の暴動が起こり、避難が進まず人身事故が多発していると。その状況下で重傷人である立花響を連れてくるのは危険であり、何とか救護が来るか暴動が収まるまで持ちこたえてほしいとのことだった。

 

 

二人は歯痒い想いを抱きながら、立花響の意思力と生命力に祈るしかなかった。

 

 

その時、ディケイドとノイズの群勢との戦端が開かれた。

 

 

そして、戦いが終えたときにはディケイドとノイズの群勢の戦況を見守っていた奏と翼は言葉を失っていた。

 

 

ディケイドがノイズの大群に勝利を収めるこの光景は、二人にとっては見慣れているはずだった。だから、このように茫然自失するほど、衝撃的ではないのだ。

 

 

二人の心を支配しているのは、ディケイドの姿が変わり、その姿形の恩恵によってもたらされた、先の蹂躙ぶりだろう。

 

 

黄金の姿はただの一発一発の攻撃で、数十のノイズを纏めて葬り。

 

 

青い姿は槍を振るい、嵐を起こし圧倒的な災害となってノイズを一掃し。

 

 

赤い姿は剣を振るい、巨大な質量を誇る大型ノイズを苦もなく斬滅させ。

 

 

ノイズを殲滅した今、最初に変身した黄金の姿となって三人を見つめていた。

 

 

「姿が変わることによって、あれだけの力が出せるのならば、何故今までああしなかったの、ディケイドは?」

 

 

「…………あれだけの力(・・・・・・)だからこそ、なんじゃないか」

 

 

翼が口にした疑問を、奏がディケイド──Dアギトの周囲を見て翼に指し示す。

 

 

Dアギトが踏み込んだ地面は大きくひび割れ、嵐によって多くの瓦礫が上の階の観客席に吹き飛ばされていた。Dアギトを囲うように火の剣によって作られた、焼け焦げた地面が夕陽の光で照らされていた。

 

 

幸い一般人が巻き込まれておらず、安堵したところで翼は気づいた。ディケイドが今まで、あの姿と力を晒さなかったのか。

 

 

「……周りの被害を、人々を巻き込まないように力を抑えて、今まで戦ってきたというのっ!?」

 

 

信じられなかった。

 

 

過去に幾度も出現したあのノイズの大群を、そんな状態で戦い続けてきたことに。

 

 

自分の首を絞めるようなやり方に、それを承知で戦い勝利してきたこと。

 

 

思い返せばディケイドが現れてから、人命だけでなく建造物の損壊被害も格段に減少していた。

 

 

たとえ自分が苦境に立たされても、人とその帰る場所を傷つけないように戦えるその姿に翼は心酔する。

 

 

──守るためとはいえ、人々と国土を己の力であれ傷付けるのを厭う。それがディケイドの、防人としての心か!

 

 

対して、奏はディケイドに後ろめたさを抱いていた。翼も同じ事を思い始めたのか、顔を伏せてしまう。

 

 

今までディケイドが己に課していたものを、自分たちが破らせてしまった。

 

 

あの黒いノイズだって、ディケイドが万全であれば対処出来ていた筈だ。

 

 

それ以前に、ディケイドが来る前に倒せていればこんなことは起こらなかった。挙げ句の果てにはディケイドに傷を負わせる不始末。

 

 

重傷な状態では満足に戦えないから、ディケイドは周囲を破壊する力を使わざるを得なかった。最悪の結果、ノイズによる殺戮をこれ以上引き起こさないために。

 

 

そして緒川から聞かされた、恐怖からの観客たちの暴動。ノイズを素早く殲滅し、歌姫として人々に安全を伝えていれば招かなかった惨劇。

 

 

──歌姫としても、戦姫としてもまるで役立たず。

 

 

二人はディケイドに、遅れて現れたことに文句を言う気は更々なかった。

 

 

奏が言っていた通り、ノイズが出現してもディケイドが現れない状況は、ディケイドが別の場所でノイズと戦っているからだ。

 

 

二人の手の届かない所で、人々を救うディケイドに何かを言う資格は最初からないのだから。

 

 

だから、Dアギトがこちら側に歩き出したことには驚いた。

 

 

「はは、まさかなぁ……」

 

 

奏は既知感を抱いた。まるで、一年前のあの夜と同じ状況に似ていることに乾いた笑い声が漏れでた。

 

 

翼は言葉が出てこず、ディケイドが近づいてくる事に戸惑いを隠せなかった。翼の目には何かをするがために、こちらに歩いて来ているように見えた。

 

 

こちら側に来て、何かをするつもりのDアギトの進行を止める者がいた。

 

 

Dアギトの背後、会場の端に出来上がっていた瓦礫の山が吹き飛んだ。正確にはそこに埋もれていた黒いノイズ──カルマノイズが飛び出してきた。

 

 

体にDアギトの拳撃によって作られた陥没した痕を残しながらも、恐るべき跳躍力でDアギトの背に飛び掛かった。

 

 

余りに早い襲撃速度に、奏と翼もDアギトに伝えようとするも、発する前にカルマノイズの右腕の凶刃が振り下ろされた。

 

 

頭から切り割らんと降ってきた凶刃は、

 

 

「──フッ」

 

 

時間を置き去りしたかのような早さで繰り出された上段回し蹴りによって、へし折られた。折られた刃先がDアギトの前面を、際どい間隔で通過してDアギトの拳撃を浴びせられる。

 

 

拳の連打と共に重々しい音が響き渡るも、カルマノイズはそれでも消滅することなく耐えていた。せめての反撃として折れた凶刃を突き出すも、Dアギトの腕で逸らされガラ空きとなった胴体に正拳突きを叩き込んだ。

 

 

まともに喰らい、カルマノイズは背中から倒れて砂煙を巻き上げながら、後方にスライドしていく。

 

 

恐らく世界で初めてディケイドに傷を負わせたカルマノイズが、最初に感じられた威圧感と脅威さが今では見る影もない。

 

 

Dアギトの手に金色のカードが握られ、勢い良くドライバー挿し込まれた。

 

 

【FINAL ATTACK RIDE A A A AGITO】

 

 

Dアギトの頭部の二本の角が、六本に展開される。

 

 

大地が鳴動し、Dアギトの足元に六本角を模した紋章が浮かび上がり、紋章を形成している莫大なエネルギーが右足に収束する。

 

 

Dアギトは大きく跳び上がる。

 

 

宙に飛んでいるDアギトは、夕陽の光で全身を浴びながら右足を突きだした。

 

 

ライダーキック。

 

 

音を置き去りにして放たれた蹴りは、起き上がっていたカルマノイズの胸に直撃し、風穴を空けながら後ろに飛ばされて轟音を伴って爆散した。

 

 

音もなく着地したDアギトは、そのまま奏と翼と立花響を一瞥した直後、静かにその場から消えた。

 

 

それと入れ替わるようにして、弦十郎を伴った救護班がライブ会場に到着した。

 

 

立花響は直ぐ様、ドクターヘリで病院に搬送されて、何とか一命を取り留めた。

 

 

そして、奏と翼も病院に搬送され治療を受けながら、入院することが決まった。

 

 

ただ、二人は退院するその日まで、抜け殻のような精神状態であったと言う。

 

 

余談ではあるが、このときツヴァイウィングの二人はディケイドから流れ出ていた血の痕跡がなくなっていることに気づかなかった。

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

『俺』(ワタクシ)なーんにも、間違ったことは言っとりゃせんっ。いつでもどこでも共にある『司くんの命』を守りたいから、戦ってるんですよ。周りの人が助かっているのはそうした結果であって、天羽奏を助けてしまったの仕方のないことなんです。ハイ。断じて。ええ、断じて!天羽奏が死なずに済んだのは嬉しいなんて、思って!いない!んです!から!ね!『俺』は悪く〜〜ない!

 

 

 

 

 

 

Q.本音は?

 

 

 

 

 

 

メッチヤ嬉しいに決まってんジャアンキルシュタイン!

FOOOOOOO───────!!YEAH───────!!!

今夜はツヴァイウィングの全曲エンドレスリピート再生っしょぉ!やったぜ、これからもツヴァイウィングの新曲を聴けるだけじゃなく、諸手を振ってライブに行けるZE!!ライブ衣装奏ちゃんの生上チッチ!翼さんの生ァ脚!パイに興味ないの?デカパイしか興味ねえ!(最低発言)ヤベェ、このあっつい衝動が留まるところを知らねえ!こうなったら、ツヴァイウィング全曲を今から歌ってやるぞ、こら。おら、こら!さあ、マイクを準備して、CDをセット。

 

 

マイク!CD!ベストマッチ!!

 

 

 

 

Are you ready?

 

 

 

 

 

だが寝る!

 

 

 

 

今更、天羽奏を助けて恥も罪悪感もないんすかねぇ(真顔)

 

 

というかなんで、オレは仮面ライダーディケイドアギト──長いからDアギトな──のまんまで、殺人現場みたいに血まみれな自宅のリビングの血を拭き取っているんだろうね。

 

 

皆まで言うな。この血が誰のかは分かっている。

 

 

ハイ、司クンの血デス。(震え声)

 

 

オレが自宅に着いた直後、オーロラさんが態々回収してくれたみたいです。ご丁寧に血が乾ききる前の状態でこの部屋にぶちまけてくれましたよ。

 

 

うん。嬉しいよ。そりゃ嬉しいよ。

 

 

通常型ノイズを全滅させた後、ぶちまけてしまった司くんの血を秘匿せねばと、あの三人のところに歩いたからね。走らなかったの、だって?ハッハ、腹に風穴状態で走れないよ(遠い目)

 

 

その後に襲ってきた黒いノイズをブッ殺して、いざっていうときに、まさかの強制帰還。あの時は絶望して、思わず血反吐を吐いちゃったね。マスクで見えんけど。(代わりに窒息しかけた)

 

 

帰還直後に部屋が血みどろになって、もうビックリしたよ。オーロラさんや、せめてこの血を海とかに捨ててておいてもらうとマジ助かるんすよ。

 

 

ナニ?自分の不始末は、自分でしろと?仕っ方ねぇじゃん!

 

 

あん時、切歌ちゃんを受け止めるために、動かざること山の如し状態になって全身で踏ん張ってたんだよ!次の瞬間には切歌ちゃんの柔こいボディを受け止められると思っていたら、まさかの黒いノイズの攻撃を受けると誰が思う!?全身力んで固まってたお陰で、衝撃を逃がせず貫かれたんですぅ。普通だったら食らっても火花散らして後ろにのけぞっていましたァ!

 

 

ちゅーか、オレは今その時の傷を治すせいで、仮面ライダーアギトのオルタリング(偽)の力を借りて、延命と傷の治癒をしているんですよ!

 

 

絶賛治療中なのに不始末の責任を取れとか、オーロラさんやアンタは鬼か。元から、悪魔で鬼だったか。

 

 

だがこの際だから言わせてほしいぞ、オーロラさん。アナタがホイホイとオレを送り飛ばすお陰で、現在進行形でオレにはあらぬ罪が重なり続けていると!

 

 

不法入国という大罪がなぁ!それも割りと洒落にならん数でなぁ!

 

 

最近たまに居合わせる、外国の軍人さんが物々しい雰囲気しているなあと思っていたら、気づきたくない真実にたどり着いてしまったんだよ糞がァ!

 

 

違うんです。オレは無罪なんです。全部オーロラさんのせいなんです。ヤッベ、証拠がねぇ。死刑不可避やん。あ、『俺』だけの死刑ならOKなんで(*^^*)

 

 

てな感じで、裁判沙汰になったら司くんの命が危ないんだよ、わかってんのかオラァン?

 

 

はぁ。

 

 

そういえば、司くんの命を助けるためとはいえ、奏ちゃんを助けることになるとは。

 

 

最初は奏ちゃんに絶唱してもらって、The END の予定だったんだ本当に。

 

 

でもさ、あそこで奏ちゃんと翼さんの変身が解けるとは思わないじゃん。

 

 

その時に『俺』は思ったね。これ、オレが戦わないと司くんが死ぬぞってね。

 

 

知っての通り、ノイズは執拗にディケイドを狙う。まともに攻撃を食らえば、当然ダメージを貰う。しかも、割りと重傷だったし冗談抜きで死ぬ。

 

 

だから、戦った。アギトの力を借りて何とか延命治療をしながらなぁ!

 

 

結果的に奏ちゃんを助けることに、繋がったけど。

 

 

奏ちゃんが生きてくれて、そりゃ嬉しいよ。でも、本当に『俺』にとっては今更どの面下げてという気持ち。

 

 

セレナ・カデンツァヴナ・イヴを見殺しにした『俺』は、到底許容できそうになかった。

 

 

一年前、奏ちゃんに言った言葉は『俺』に対して言った言葉でもある。

 

 

呑気に見殺しにした奴が、今更甘い想いを抱かせないように言った言葉。

 

 

当然、セレナちゃんが死んだ年には『俺』はディケイドの力を持っていなかった。

 

 

でも、一年前に奏ちゃんに会った時にこう思った。

 

 

もっと早く、ディケイドの力を手に入れていればセレナちゃんを助けてあげられたのではないかと。

 

 

過ぎたことは、最早仕方ない。

 

 

というか、G篇に突入したら『俺』は罪悪感でマリアさんとまともに戦えなさそうな気がする。

 

 

ガングニールで貫かれる未来しか見えん。

 

 

うーん、死ぬのならばたやマ状態のマリアさんの胸に沈み込みながら死にたい。もとい、イガリマの刃で死にたい。

 

 

ところでさ、オレはいつまでDアギトの姿で掃除しなきゃならんの?

 

 

だいぶ傷も治りかけてるけど、なんかオーロラさんがチラホラとノイズの影を見せびらかす──

 

 

この後、メチャクチャやった。




その後、ちゃんと8時間寝た。

次回は未定です。

そろそろ、原作に入らないと不味いですね。


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09

お待たせ致しました。


皆さん、感想と誤字報告いつもありがとうございます。

忙しくて感想の返信が出来ず申し訳ございません。

お待たせした挙げ句に、話は余り進んでいません。話の中では一応2年間は経過し、原作開始間近です。


久しぶりに書き上げたせいで、文体がおかしくなっているとおもいます


それは、あのライブ会場からの次に送られた新たな戦場である南極大陸に到着したときだ。

 

 

「死ぃぃねっっっうえええぇおやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっっっ!!!」

 

 

【FINAL ATTACK RIDE A A A AGITΩ】

 

 

一人の人間がここまで発露させるかと言う程の怨念めいた絶叫を放ちながら、眼下に広がるノイズの群勢の中心地に向けてDアギトのライダーキックを喰らわせる。

 

 

ノイズの群勢の真上上空に転移された直後に、一切の容赦どころか完全に殺意マシマシに必殺技を使い出した。その様は流星の如くに降り注ぎ、ノイズにとっては向こうから勝手にやって来た死兆星として映り込んだろう。

 

 

音速の壁を容易に超えたDアギトの一撃は一体のノイズに着弾し、氷の地面に音もなく打ち付けた。発生した衝撃はキックを受けたノイズだけに留まらず、波紋のように瞬く間に広がり周囲の全てのノイズに浴びせられた。

 

 

破壊の衝撃波がノイズの身体を通り過ぎた頃には、全てのノイズは崩れ落ちていた。Dアギトの周りには氷雪の大地を埋め尽くす大量の黒い粉塊が、風に踊り吹かれながらも白から黒に染め上げていた。

 

 

その光景に、何も思うことはない。ただ極寒の環境に放り出されたお陰か、熱くなりすぎていた頭が冷静さを取り戻したことで気付きたくない事実に直面してしまった。

 

 

この瞬間に、『俺』──門谷司(偽)は思い出した。

 

 

戦姫絶唱シンフォギアの物語の始まりである、ツヴァイウィングのライブコンサートの惨劇の後で世間では何が起こりだすのかを。

 

 

ライブ会場のノイズ被災に遭った、被害者たちへのバッシング。

 

 

あの惨劇からどれだけの期間まで明確に続くかは不明だが、しばらくの間は世間ではこの話題に持ちきりだろう。

 

 

かのツヴァイウィングのライブ会場を襲った惨劇によって、確かに多くの人が亡くなってしまったのは事実である。しかし、ノイズによって亡くなった人間はそれほど多くはなく、逆に避難していた際の人身事故による被害が凄まじかったなど云われている。

 

 

避難路を巡ってのトラブルによって混雑し、その騒ぎで将棋倒しの事態が起きたことに多数の人間が圧死、更には我先にと避難しようと他人を暴力的に押し退けたことによる重傷害事故の発生。

 

 

その事を週刊誌に掲載されたことによって、一部の世論が騒ぎだしていた。掲載された内容は正確な事実であるが、悪い意味で煽るような文章により大多数の人々はライブ会場の生存者たちを『悪』だと断じ始めた。

 

 

何故なら生存者たちは生き残るために、他の人間を蹴落としころしたのだと言っているようなものだから。

 

 

それに加えて被災者や遺族に莫大な補償金が支払われたことにより、世論は彼らに自己責任論を打ち立てた。

 

 

ネットから始まったそれは瞬く間に苛烈さを増し、遂にはライブ会場の災害に関係のない多くの人間が憂さ晴らしのように、生存者たちを激しく責め立てた。

 

 

『ライブ会場で生き残った奴等は、皆人殺し』

 

 

 

『人殺しといてお金もらえるとか、ぜってぇ許されることじゃねえだろ』

 

 

 

『マジ最低な奴ら、お前らが死んどけよ』

 

 

 

『自業自得乙ww』

 

 

正しさを振りかざし、中世の魔女狩りを彷彿させる正義の暴力で生存者たちを糾弾する民衆。

 

 

 

それは戦姫絶唱シンフォギアの主人公である立花響も、例外なく対象にされている。

 

 

 

詳しい原因は思い出せないが、同じ学校の生徒からの八つ当たりがきっかけだったはず。

 

 

学校では毎日壮絶な嫌がらせを受けて、家庭内でも大きな問題が多発していた。

 

 

最たるものは父親の失踪だろう。仕事に出掛けた矢先に、その日から帰ってくることはなくなったのだ。

 

 

まだ子供である立花響には、あまりにも辛い出来事だ。

 

 

 

学校では年の近い者たちから侮蔑と嫌悪の嘲笑を見舞われ、家には石と罵詈雑言が飛び込んでくる。

 

 

 

こうして客観的に捉えると、確かに立花響を何とかして助けたくなる。だって『俺』は全て知っているもの。

 

 

 

立花響は何も悪くない。むしろ人殺しどころか、死にかけたんだぞ、あの子は。生きていることを喜びこそすれ、責められる謂れはない。

 

 

 

じゃあどうするべきか。イヤ、何もしないけどね。

 

 

 

本音は滅茶苦茶、立花響を助けてあげたいけど、『俺』にはそれができない理由が3つあった。

 

 

 

一つ目は、原作の内容が変化してしまうこと。下手に『俺』が介入して全く知らない展開になってしまったら、計画に大きな支障をきたすかもしれないから。まあ、結果的に天羽奏を助けた時点で、完っ全に原作崩壊しているけどな。マジで悪い方向に改変していないことを祈りたい。

 

 

 

二つ目は、普通に現実的な問題。立花響の住んでる場所を知らない。千葉県に在住なのは原作知識で把握しているが、流石にどの辺りに住んでいるかはまったくもってご存知ない。知っていたら今すぐにでも近所に引っ越して、立花響と小日向未来を四六時中見守ってあげたい。

 

 

 

そして三つ目、立花響を助けてあげる大義名分がまるでない。仮に二つの条件をクリア(或いは無視)して助けたとして、助けられた本人は果たしてどう思うのだろうか。不審人物確定です。誠に嬉しくない称号あざマース。冷静に考えて今までの人生で接点のなかった人物(司くん東京都在住)が態々千葉に赴いて、名前も知らない一人の女の子を助けに行く。なんだろう、新種のストーカーですか。ポリスメンな赤いライダー二人がフルスロットルで振り切って来る爆散逮捕案件(『俺』が)じゃねーか。そんな形でレジェンドと会いたくねーわ。

 

 

という訳で、これが『俺』が立花響を助けない理由。明日のパンツと女の涙より、司くんの肉体返却が最優先事項なんだよ。外道だろうが悪魔だろうが罵ればいいッ。

 

 

 

なんて言われようが、『俺』は梃子でも動かねーよ!どうせ近い未来に出会うのは確定してるんだからな!多分!

 

 

 

というか立花響には、小日向未来という嫁がいるじゃないか!楽しいとき辛いとき悲しいときにぃ、優しい陽だまりの如き存在が立花響を救い癒してくれるんだろう⤵……………………嗚呼、うぅぅぅらやましいなぁあああ!!幸せぇぇぇぇぇっ!!!嗚呼っじあ゛わ゛ぜえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

 

 

 

というかそんな理解あるヒロインがいたからこそ、立花響の物語が始まるまでの2年間を耐えることができたのだろう。

 

 

 

────さて、お気づきだろうか。この世界の「戦姫絶唱シンフォギア」の物語が本格的に始動するのはあと2年の歳月が必要不可欠なのである。

 

 

 

そう、2年。あと、2年間。日数、約730日。

 

 

 

つ・ま・りぃ〜、『俺』はもう2年ほどノイズとの戦いを続けなければいけないのが確定している。

 

 

そのことに気づいた瞬間、気づけば氷の地面に膝を付いていた。

 

 

 

いや、マジでねぇ……。もうなんて言えばいいんだろうねぇ、この言い表せない気持ち。へへっ、この胸の高鳴りが激しすぎるし、何だか涙が出てきてうまく言葉に表せフザケルナァァァァァ!(唐突なブチ切れ)

 

 

この馬鹿野郎!(氷の地面に右拳ドォン!)

 

 

この馬鹿野郎!(氷の地面に右拳ドォン!)

 

 

何だか足場がミシミシと音を立てているが、気にシナーイ!

 

 

『俺』にもう2年も孤独に戦えと?もう、やめて限界なんですけど。

 

 

肉体的にも精神的にもなんだか超越しそうなんだけど。アギトだけではなく、鬼にもなれと申す気かオォン?

 

 

というか本当な話し、これからもノイズがこのペースで出現するなら絶対に耐えられない。最初の一年はなんとかやり遂げたけどさ、こっちもこっちで門谷司としての生活があるのよ。そんな中さ、こちらは結果的に世のため人の為に、無償でノイズどもを駆除してるんだからな。無償で!(大事なことなので2回も言う)

 

 

 

最早憧れとかでの心境で耐えられる状態とか、そういう次元の話じゃない。

 

 

はっきり言おう。二課のスタッフの男どもが冗談抜きで憎い。今すぐにでも呪いの藁人形で男ども一人一人を釘で打ち付けたい。

 

 

 

だってぇ、今をときめくアイドル歌手ユニットと同じ職場で働けて、あのエッチィスーツをリアルタイムでしかも本人達も公認でガン見出来るんすよ?殺意を覚えるなと言うのが無理な話じゃありません?(変態的正論で殴ろうとする悪質なファン)

 

 

 

そんな女の子たちと日常的に会話出来るどころか同じ空気を吸えるとか、なんでファンを生殺しにするような酷いことが出来るの?ただの一ファンなら涎垂らすだけじゃなく、下半身が勝手に自家発電する案件よ?(←この男だけです)

 

 

 

あぁ、翼さんや奏ちゃんと他の装者たちに慕われる風鳴弦十郎が妬まじぃ。

 

 

 

あぁ、翼さんの下着に触れる(掃除的な意味)緒川さんのそのポジションを譲って欲しい。

 

 

 

あぁ、隣で友里さんと一緒に仕事が出来る藤堯朔也を殴り飛ばしたい。エルフナインを隣に侍らせて仕事する藤尭朔也のイスを思いっ切り後ろに引きたい。切歌ちゃんにおんぶされる藤尭朔也を蹴り抜きたい。二次創作で切歌ちゃんとのカップリングが多い藤尭朔也をマジで爆殺させてほしい。させてください。マジさせろ。サセレヤ。(マジトーン)

 

 

藤尭朔也という男が、どうしようもなくゆるせねぇっ!

 

 

 

ナニ、なんなのあの男は!情報戦とか事務作業とか人間離れしとるくせに装者たちや友里さんに愚痴をぶちまけちゃってさぁ!

 

 

 

こっちには愚痴をぶちまけられる人がいないどころか、秘密を共有できるような人間すらいない!端的に言えば癒やしが足りない!異性と過ごす時間がナッシング!ノオォ!!

 

 

 

謝れ!!詫びれ!!藤尭朔也ぁ、貴様は毎度毎度の如く天国みたいな職場にいるのにブラック企業の社員みたいに愚痴をこぼしてんじゃねぇええええ!!異性と同じ空間にいて、同じ時間を共有して、異性の零れた息が混ざった空気と匂いを吸えて、装者たちシンフォギアスーツを映像でドアップで見ても変態&変質者扱いされないという、こんな理想的な職場があるだろうかっ?!

 

 

 

いや、ない!!!(氷の地面にライダーパンチ!)

 

 

 

あと、給料も出るし(とっさに取り付けたような言い方)

 

 

 

せめてこちらにも癒やしが、ヒロインが欲しい(超本音)

 

 

もうね、我儘言いません。ヒロインとのアレやコレな関係を作りたいとか思いません。ただただ普通に交流したいのです『自分』は……。

 

 

ビッキーの笑顔に癒やされたい。

 

未来ちゃんにお帰りなさいと言ってもらいたい。

 

翼さんのはにかんだ顔を拝みたい。

 

奏ちゃんのライブ衣装の上乳を覗き込みたい。

 

クリスちゃんの運動中の乳揺れ具合を動画に永久保存したい。

 

マリアさんを『俺』の料理で餌付けしてゴールインしたい。

 

調ちゃんに割烹着を着てもらって料理中の後ろ姿でエロエロしたい(?)

 

切歌ちゃんのシンフォギアスーツのタイツをパッツンしたい(!?)

 

エルフナインの破廉恥ルックなおパンティを思い切り上に引き上げたい(……)

 

友里さんに温かいものどうぞとして欲しい(結婚しよう)

 

大人キャロルの胸に触れて、胸の大きさについて語り合いたい(敵キャラにまで……)

 

サンジェルマンとバラルの呪詛からの解放について朝まで語り合いたい(ホテルで)

 

カリオストロと大人な情熱的な夜を過ごしたい(ホテry)

 

プレラーティはファウストローブの露出を増やして(純粋な意見)

 

 

 

こんな普通なことでいいから、せめて交流させてください!!

 

 

 

それだけで『俺』は月が墜ちてくる頃まではマジで戦えるから!

 

 

そして何故まだ南極大陸にいるのかね『俺』は。もしかしての同じ場所での第2ラウンドかぁ〜?Ok!なんだか胸の内を少し(?)吐き出したおかげで気を持ち直せたぜ!

 

 

 

さあ、ノイズ共。掛かって来やがれ!

 

 

 

Dアギトの姿のまま立ち上がり、足に力を入れた瞬間。

 

 

足場の氷が砕けた。

 

 

 

その後のことは、正直あまり覚えていない。

 

 

 

覚えていることといえば、冷たい水の中でノイズの群勢が待ち構えていたこと。

 

 

気がついたらDアギトの姿のままで我が家のリビングの長テーブルの上で、打ち上げられた魚のようにビクついていたことだ。尚、腹部貫通の傷はこの時点で完治していた。

 

 

この時の『俺』は思いもしなかった。これから数カ月後に、あるヒロインと出会い、原作開始まで交流を持ち続ける未来が待っていようとは。

 

 

 

■■■■■■■■■■■

 

 

そうして、時は2年が過ぎて

 

 

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認定特異災害ノイズの出現は、本来ならそう頻繁に確認されることはなかった。

 

 

しかし、三年前に起きた米国首都のノイズ災害より前から、小規模ながら世界各地でノイズの出現が確認されていた。緩やかながら出現頻度が増えていき、人類は少しずつノイズの脅威を芯に染み込まされ、米国に訪れたノイズ災害で恐怖のドン底に叩き落とされた。

 

 

ノイズの脅威が決して他人事なのではないと示すかのように、ノイズの大群は米国首都を蹂躙した。人々を瞬く間に殺戮し続け、米国の選りすぐりの軍隊はノイズに成す術なく国土蹂躙を許してしまう。

 

 

その光景はノイズにギリギリ気づかれない範囲で飛んでいた報道ヘリによって、世界中にノイズが引き起こした地獄を映像として配信された。

 

 

世界の中心たる米国が、ノイズに滅ぼされてしまう。誰もがそう思い、米国現大統領も絶望に暮れていたという。人類の叡智が通じない存在に、人々はノイズが絶対的な死の象徴として心に刻まれた。

 

 

だからこそ、ノイズを倒せるディケイドの存在は世界に衝撃を与えた。

 

 

拳や剣と銃といった原始的な戦い方でありながらも、ノイズを全て打ち倒した存在に、人々はディケイドを神と崇め始めることとなった。

 

 

米国を発端に、世界各地で現れたノイズを倒し人々を護ってくれていた。大小の規模は関係なく現れ、何度も災害を打ち払った。

 

 

今ではすっかり人々はディケイドを讃えているが、当然、最初はディケイドの存在に懐疑的だった。

 

 

アレは一体何者なのか。

アレは何故ノイズと戦うのか。

アレの──ディケイドの目的はなんなのか。

 

 

人知の及ばない理解不能な存在は、人間社会にとっては未知なる恐怖をディケイドは孕んでいた。歴史においても、人というものは異端な存在に厳しい。その存在がいずれ自分達に害を及ぼすのではないかと、嫌な可能性をそれでも考えてしまうからだ。

 

 

それでも、ディケイドは戦い続けた。たとえ後ろ指を指されようとも、人を襲うノイズを阻むように戦うディケイドの姿は、なんとも頼もしくやがて希望を抱かせてくれた。

 

 

ある軍人は語った。

──ディケイドのお陰で家族を悲しませることなく、今もこうして国防に励むことができると。

 

 

ある家族は語った。

──逃げ遅れた自分達を、ディケイドが身を呈してノイズの攻撃から庇ってくれたと。

 

 

ある子供は語った。

──怖くて泣きじゃくっていた自分をディケイドは、何も言わず頭を撫でて慰めてくれたと。

 

 

ディケイドは何も言わないし、語ってもくれない。それでも、ディケイドのやっていることに希望を抱きかける。

 

 

本当にディケイドは、自分達を守るために戦ってくれているのではないかと。

 

 

人知れぬ場所でもディケイドがノイズと戦ってくれていることに気づき、信頼し始めた。

 

 

小さな芽吹きから始まり、それは世界に広まった。

 

 

ノイズ在る所に、ディケイドは現れ人々を守護する。

 

 

たとえ未だにディケイドを信用しない者が多かろうと、ディケイドは必ず来てくれると信じていた。

 

 

そして、今日もディケイドはノイズから人々を守るために戦っている。

 

 

──本人の意思かは別として。

 

 

 

■■■■■

 

 

 

日本某所の山間部にて、ノイズの出現が確認された。

 

 

人がまだ活動する夕方の時間帯のお陰と幸いにも最初に人里から離れた場所に現れたため、特異災害機動対策部一課の迅速な避難誘導のお陰で民間人の死傷者を出すことはなかった。

 

 

しかし、安心するのはまだ早い。一課の活動目的は民間人の防衛とノイズの殲滅。殲滅と言っているが要はノイズが自壊するまでの時間稼ぎである。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

恐怖が混ざり合わさった咆哮を上げながら、一課の一人隊員がライフルを進軍してくるノイズの群に向けて発砲している。他の隊員たちも同じように所持しているライフルの銃口をノイズに向けて掃射していた。

 

 

放たれた無数の銃弾は全て、小型ノイズの群に吸い込まれるように迫るも、銃弾はノイズの体をすり抜けていく。一発もノイズにダメージを与えること叶わず進み続ける群勢に、間断なく発砲を続ける一課の隊員たちは焦りと死の恐怖を募らせていく。

 

 

ここにいる一課の隊員たちは皆、自分達が手にしている武器がノイズに通用しないということは百も承知している。それでも彼らは戦わなければならない。自分達がここを退けばノイズは近くにいる人間──避難所にいる民間人に向かって迷わず前進する。

 

 

そうなれば多大な犠牲者を生み出し、多くの人間が悲しみと恐怖に暮れる。尊き人命を守るために国防の組織に皆、属している。いざとなればこの身を盾にしてでも、ノイズから人を守る覚悟を隊員たちは胸に秘めている。

だが、覚悟を決めているとはいえ迫り来る死の恐怖に隊員たちの顔が曇る。

 

 

銃弾を砲弾をミサイルを何度も撃ち放ってもノイズの数は減らず、それどころか一課の攻撃で山の木々を燃やし民間の建物を倒壊させていく。これだと一課側が無駄に被害を拡げているだけだ。

 

 

「(やはり、通常兵器ではノイズの足止めすらままならんか!)」

 

 

現場の指揮を執っている一課の隊長は、忌々しくノイズを理不尽たらしめている能力──位相差障壁の存在に歯噛みする。

 

 

日々の訓練の賜物か未だにこの部隊に死傷者は出ていないが、攻撃が効かない以上追い詰められるのも時間の問題だ。距離を十分に取って応戦しているものの、ノイズが攻撃行為に入れば直ぐに殺傷圏内に入れられる。

 

 

人間がノイズに触れれば死ぬ。その身を炭素の塊に変えられて、風が吹けば粉となって散りゆく。亡骸も残らず誰の遺骸かも分からなくなる。

 

 

ノイズと対峙する度に、一課の隊長は聞こえる筈のない声が聞こえてくる。

 

 

──お前たち人類の死など、何の価値もない。

──ただ黙して塵芥となり、何処かへ消えろ。

 

 

幻聴の内容の通りにノイズの無法を許し、いよいよもってこの残酷な現実に膓が煮え繰りかえそうだった。

 

 

人類には目の前の災害に、抗う権利すらないというのか。

 

 

そんな一課の隊長が小さく抱いた憤りに応えるかのように、ノイズたちが攻勢に躍り出た。

 

 

数多のノイズがその身を紐状に形状を変えて、前線で応戦している一課の隊員たちに飛来した。充分な距離を取っていたとしてもノイズ相手には距離感など関係ない。超高速で距離を詰め、奴等は無慈悲に人間の命をこれまで奪ってきたのだから。

 

 

前線にいる一課の隊員たちがノイズが攻撃してきたと認知する頃には、もう回避は間に合いそうになかった。動きたくても動けなかった。諦めの意識と死の恐怖が身体をその場で縫い止めされていた。

 

 

覚悟していた。ノイズ相手には、人間はあまりにも無力だ。それでも奴らに奪われる命を少しでも減らすために、この身を盾にしてでも人々を救おうと。だというのに、彼らが最後に心から湧き出したのは死にたくないという当たり前の感情だ。この瞬間、誰かの為という崇高な使命感は吹き飛んでいた。

 

 

そんな覚悟を容易く吐き捨てるような自分たちに奇跡が起きるはずはない。

 

 

ノイズの攻撃が少しでも触れれば、瞬く間にその身は炭素の粉塊に成り果てるだろう。

 

 

    

【KAMEN RIDE DECADE】

 

 

その最悪の未来は訪れることなく、一課の隊員たちは命を繋げていた。

 

 

ノイズの攻撃が彼らに接触する寸前、突如その軌道を全て変えて、一箇所に集中された。

 

 

位置は丁度、ノイズと一課の隊員たちに挟まれた場所。そこには一つの人影があった。マゼンタを基調とした配色の鎧を身に纏い、左胸に十字架を彷彿させる刻印を持った存在。

 

 

その存在は、四方八方から飛来してきたノイズの攻撃を全て拳戟と蹴撃で撃ち落とした。倒されたノイズの黒い粉塵が晴れだすと、一課の隊員の誰かが漸くその存在の名を口にした。

 

 

「でぃ、ディケイド……?」

 

 

その名を持つ存在はこの世界に突如として現れた、人間に迫る災厄を振り払う戦士。

 

 

絶対的な危機的状況に颯爽と駆けつけてくれる、希望を背負ったヒーロー。

 

 

こんな状況はテレビの絵空事だけだと思っていた大人になった彼らは、さりとて現実となったこの現状に童心に帰ったような胸の熱さが込み上げていた。

 

 

 

名前を隊員が呟いたのを耳に拾ったのか、ディケイドが静かに一課の隊員たちの方に振り向き、彼ら全体を見渡してゆっくりと頷いた。

 

 

『無事で良かった。後は、自分に任せてくれ』

 

 

ディケイドの仕草がそう語っているかのように思えて、一課の隊員たちは改めてディケイドを見て涙ぐむ。胸に抱くのは迫りきていた死の瞬間が消えた安堵と、それを齎してくれたディケイドへの感謝だった。

 

 

ディケイドは何も言わず、ノイズの群勢に向き直りライドブッカーをソードモードに展開し右手に持つ。その瞬間に全てのノイズが人間からディケイドに、標的を変えた。

 

 

たった一人でノイズに立ち向かうなど、と誰もが思うだろう。だが、この場にいる人々は知っている。

 

 

これまで幾百のノイズとの戦いで、ディケイドが負けたことはないのだと。だからこそ、彼らの目に不安はなど宿らず、希望の眼差しをディケイドの背中に向けていた。

 

 

「────────」

 

 

手にしている剣の刀身を撫で、ディケイドが駆け出す。

 

 

『『『『『#®>†¥=·£©¿℃+·&』』』』』

 

 

声とは言いづらい音声を発しながらノイズの群勢も、人間たちを無視してディケイドに向かって動き出す。

 

 

今ここに、今宵最後の戦いが幕を開けた。

 

 

 

■■■■■

 

 

 

「(奏ちゃんと翼さんは、いねぇんかぁいっ!!)」

 

 

迫り来ていた先頭のノイズをライドブッカー・ソードモードの剣で切り裂き、すぐに大袈裟に身体を翻しながら周囲のノイズ共を横から真っ二つにする。

 

 

最早悲しさすら感じるほど長い戦いの中で鍛えられた体捌きでもってノイズの攻撃を躱し、次々とノイズを屠っていく。

 

 

あのツヴァイウィングのライブの惨劇から早2年。あれ以来、出現頻度が減ってきたとはいえ、相変わらずオレはノイズと戦い続けていた。しかも、ごく稀に厄介な奴が現れるようになったから、出動回数は減っても戦闘後の疲労が改善されてない。むしろ悪化している!主に精神的に…………。

 

 

そして、この2年間のノイズとの戦闘でまーーったく、奏ちゃんと翼さんに出会えていない!

 

 

酷い。これは酷い。司くんの身体に風穴を空けてまで生かして助けたのに(事故です)、翌日以降の出動では二人の歌声すら聴かせてくれないこの仕打ち。放置プレイだとしても、これだと発狂するね!『(オデ)』ノ人格(ココロ)ハ、ボドボドダァ!

 

 

しかし、こんな現実を嘆いても何も変わらない。あ、いやオレの戦闘スタイルがドンドン変わっているな。悪化している的な。

 

 

「ディケイドぉ、そこだぁイケェ!」

 

 

「危ない!上から降ってくるぞディケイド!」

 

 

「もう、アンタしかいないんだ。頼む頑張ってくれぇ!」

 

 

うぅるっぜぇえっぃぁぁ!!!外野、黙れ!野郎の声援なんて全っ然嬉しくないのじゃボケナスがぁっ。『俺』/オレに声援を送っていいのは、子供と美女とエルフナインちゃんと友里さんと三人娘とシンフォギア装者たちだけなんだよぉ。それ以外はノーセンキューだ。野郎から声援貰うと、『あの日』のOTONAを背にして戦った記憶が生々しく蘇るからスゲぇイヤなんだよ。

 

 

あと、アンタらもとっととどっかに行ってくれないかなぁ。そのまま現場に居られると余計な仕事が増えるからさ。

 

 

右手に持った剣を逆手に持ち変えて、後ろから飛びかかってきたカエル型ノイズを背を向けたまま刺殺し、2Mの巨体ノイズを左の拳で撃ち抜いた。ライドブッカーをガンモードに変形させ空中に浮遊している飛行型ノイズの群れを纏めて、銃を乱射して一掃する。

 

 

遅れて降ってきた炭素の粉を見て、オレはマスクの中で薄く笑っていた。

 

 

いやあの人らの声援が実は嬉しくて笑ってるんじゃなくて、呆れたほうの笑いだから。

 

 

胸の中でギャーギャー喚いておきながら、身体はしっかりとノイズの動きに対応して攻撃を繰り出す動きに我ながら慄く。

 

 

無意識下でも完全に動いてしまっている体は、もう後に戻れないほど社畜化が進み出しているのか。ノイズと戦わなければ、いずれ心身が震いだすほど戦いを求めてしまうのだろうか。

 

 

…………無我の境地に達したことにしよう()

 

 

うん。そうしよう。身体に変な癖が付いたんじゃなくて、護身術が最高位に辿り着いたことにすればなんにも可笑しくない(現実逃避)

 

 

ただただノイズを倒し続けて、数がだいぶ減ったのが目に見える頃になると嫌な予感が湧いてきた。

 

 

「(居ないよね?今日は来ないよね!?)」

 

 

ノイズの攻撃に注意しながら周囲の様子を迅速に探るが、“例の黒いノイズ”の姿がないことに深く安堵する。

 

 

現れる兆候も感じず、これならばなんの憂いもなく戦いに集中出来る。

 

 

というか本当にこのまま終わらせてくれ。増援とかもナシの方向で。

 

 

これから大事な約束があるんだから、絶対に破るわけにはいかない!破ったらもう泣いちゃうからね、相手の女の子が!

 

 

まぁ、約束もあるけど個人的には“例のノイズ”に物凄くトラウマを抱いてるんじゃが。こっちは勝手にアルファもどきと呼んでるが、二課の方ではなんと呼んでるんだろうね。

 

 

ちなみに『俺』が何故そんな命名にしたのかというと、あの黒いノイズに腹部貫通されたから……。うん。冷静にその時のことを思い出したらスグにあの赤いアマゾンを連想しちゃったんだよ。

 

 

マジでこの世界にアマゾン細胞とか存在してないよね?

 

 

Amaz○nはあっても、アマゾンは生息してないよね?

 

 

ディケイドの力を手に入れてから、もしやと思いライダー界の危ない組織を探したが野座間製薬はなかった……はず。いや、野座間製薬はなくともアマゾン細胞を扱った別の組織の可能性もあるのか?

 

 

もしそうなら、狩り尽くして潰すしかない。冗談抜きでこの世界にアマゾンズ要素を存在させたくない!あんな救いのない血みどろ展開は断固として願い下げだ。

 

 

まぁ、そのことは頭の片隅に追いやってさっさとノイズを片付けよう。

 

 

山火事は酷いが、そこはプロの一課に任せよう。他人事みたいだけど、流石にこちらにも用事があるからそちらを優先したいので。

 

 

何故ならこちらはもうすぐ、響ちゃんと未来ちゃんのお食事会の約束があるからな!絶対にドタキャンするわけにはいかねぇ!

 

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………健全的な意味でだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■

 

 

 

 

 

「えへへ〜楽しみだなぁ、司さんのっごっ飯♪」

 

 

「響、はしゃぎ過ぎだよ。それと司さんが相手でも、少しは遠慮するんだよ。こっちから半ばお願いしちゃった形なんだから」

 

 

「もちろん、わかってるよ未来。フフン、でもねぇ司さんなら何だかんだで豪勢な料理を用意してると思うよっ。名探偵の推理に間違いはないよ!」

 

 

「う〜ん、確かに司さんならそこまでしそうな気がするけど。でも明日は入学式なんだから、食べすぎには気をつけてね」

 

 

「はぁ〜い。なんだか、未来がお母さんと同じことを……」

 

 

「響がだらしなく過ごさないよう、響のお母さんに頼まれてるからね。この際だから、司さんにも余り甘やかさないようにお願いしちゃおっかな♪」

 

 

「そんな〜酷いよぅ未来ぅ」

 

 

 




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尚、立花響と小日向未来の出会いは、次話か次々話に持ち込みそうです。申し訳ない。


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