Fate/Asteroid belt (アグナ)
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外典の聖杯戦争Ⅰ

やあ、私だ。
懲りずにFate/を書き、そしてエタッたり非公開したりする……そう、私だ。

言い訳はしない。
ただFGOコラボイベがくるということで書きたくなった。それだけ。
続くかどうか不明、というより十中八九続かないか、途中で作者がダウンします。はい。それでもいいぜ、出だしだけでも見るぜという心に余裕がある方のみどうぞ。

エタってばかりの駄作者の奴なんか見るかよという方は鼻で笑いながら「戻る」を推奨します。




 一言で言うならそいつは鋼の男だ。

 普通人間ってのには限度がある。どれ程の喜びも、どれ程の憎しみも、どれ程の哀しみも、時を経れば誰もが忘れちまうんだ。

 何せ人間ってのは飽きる生物だ。一つのことに固執し続けるなんて狂人でも無いと無理だろうさ。

 

 ―――だが奴は違った。

 

 狂人って訳ではない。人並みの道徳は備えていたし、喜怒哀楽も……まあ、表面だけ見りゃ十分あった。可笑しかったのはたった一つ。奴は己目標を遂げるため、ひたむきに、諦めも妥協もなくただただ歩み続けた。それは目的の無い旅路であり、辿り着くかすら定かでない航海だった。

 

 人生なんて、そんなもんだ。というにはその旅路は過酷に過ぎる、傍から見ててそう思った。数百年クラスの迷宮遺跡に単独で飛び込むわ、高位の魔術師の工房に攻め入るわ、挙句、異端狩りを生業とする代行者界隈でも危険と警戒していた死徒を一人で狩りに行っていたりもした。

 

 信心深い、では説明が使い無い。狂人か、と問われれば否と唱えるだろう。理性的思考、温和な態度、それに反する修羅道を歩むが如き難行の旅。だから奴を称するならば鋼の男だ。

 

 例えるならばそれは全てをそぎ落としたその先にある至高のような。

 例えるならばそれはこの世全ての苦行が果てに見える楽園への憧憬。

 

 奴は終始一貫してただ一つの目標がため、歩み続けた求道者だったのだ。目的のため全てを捨て、全てを賭けられる狂人とはまた別の壊れた人間。ブレーキが外れた暴走特急。たった一つの目的のために鍛えられ上げた鋼。煉獄の焔ですら溶かせないような、鋼鉄の理性で歩み往く男だった。

 

《ある代行者の友人との会話》

 

 

 

 その日は快晴だった。何処までも続く澄み切った空。緩やかな風に流され、過ぎ去っていく白い雲。そして中天に輝く太陽。天気は気分に影響を及ぼすという話を聞いたことがあったが、それを事実とするならば今日は最高のコンディションだったはずだ……時代に取り残された老いぼれに呼び出しさえ喰らっていなければ。

 

「で? なんのようだよ、ロッコ教授殿?」

 

「何の様、とは挨拶じゃの。アキラ・ソウマ」

 

 ヒョヒョヒョと笑うのはロッコ・ベルフェバンというジジィ。ここ、『時計塔』の召喚科学部長を勤める老人だ。老獪であり、この権力者たちの伏魔殿のような『時計塔』でも一定の発言権を誇っている『クソジジィ』である。

 

「今、俺は忙しいんだよ。義姉(あね)さんが極島(むこう)でまた馬鹿な散財をやらかしたせいで主に資金繰りで。要件があるならさっさと言え。知り合いの占い師曰く、今年からどうも経済が怪しくなるらしいんで、株式の整理をせにゃいかんのだ」

 

 苦々しい顔でとても現実的なことを言うアキラ・ソウマもとい、相馬晃。歴史の裏に秘せられる神秘、魔術を手繰る術師である晃だが、それだけで食ってけるほど現実は甘くない。特に彼の家のように衰退しつつある家系であるならば特に。

 

「それとも此処のコレクションを金策で悩む教え子に恵んでくれんのか? どうせ死蔵している品物だし、一つぐらいは……例えばそこにあるヒドラの幼体とか」

 

「それはレプリカじゃよ。まあ待て。話はもう一人が着てからじゃよ」

 

「……チッ、面倒な。義姉さんにぶち殺されたら末代まで呪ってやる」

 

 イライラを隠すことなく曝け出しながら黒い皮の、いかにも高そうなソファに適当に座り込む。

 

「それで、誰を待ってんだよ」

 

「ふむ、それはな……いや、来たようだ」

 

「―――邪魔するぜ」

 

 ドアをノックする音。そしてロッコの返事を待たずして、待ち人らしい男は無作法に入って来る。大柄な男だ。そして、いかにも取っ付きにくそうな男であった。顔の傷痕(スカーフェイス)に、黒いサングラス。レンズの向こうには剃刀のような鋭い目つき。そして筋骨隆々の肉体に羽織る黒いジャケット。

 

 何処かのヒットマンであるといわれてもまったく違和感のない男がそこに居た。

 

「……おいおい、ロッコ・ベルフェバン学部長殿。まさか、俺を借金取りに突き出そうってか? 悪いが俺はまだロシアの蟹漁船送りになるつもりはないぞ」

 

「何をいっとるんじゃお前は。そやつは獅子劫界離(ししごうかいり)。フリーランスの魔術師じゃよ」

 

「紹介に与った獅子劫だ。まあ、安心しろよボウズ、生憎今のところ借金の取立てを請け負ったことは無いからな。最も、金銭うんぬんの揉め事を手荒に解決したことはあるが」

 

「うっは、全く安心できねー」

 

 ニヤリと笑う獅子劫に引く晃。今気付いたが、どうも硝煙の臭いが鼻につく。成る程、戦場荒らしの傭兵。戦闘に長けた魔術師のようだ。

 

「そろったな、では本題だ。時にお主ら、『冬木の』聖杯戦争は知っておるな?」

 

「あん? 寧ろ知らない奴なんていないだろう。そもそもあの儀式のせいで今の『時計塔』は人材不足に陥っているんだし、加えて全ての始まりだしな。あの儀式は」

 

 ロッコの質問に答えたのは晃だ。『冬木の』聖杯戦争といえば言わずと知れた規格外の魔術儀式だ。七騎のクラスに当て嵌められ、召喚される英霊……人を超え、精霊種の域まで達した人類史に生まれた超人、偉人の霊体……を使役し、最後の一人になるまで戦うサバイバルゲーム。

 

 内容は単純だが、規模は規格外だ。何せ、人のみではとても叶わぬ、英霊の使役を行い、あまつさえ戦わせあうサバイバルゲームだ。その難度、危険性は魔術儀式の中でも群を抜いている。そして……

 

「何十年か前に極島で秘され、行なわれてきたそれの術式が流出。今じゃ『冬木』に限らず、世界中で亜種聖杯戦争なるモノが行なわれてやがるしな。その所為で参戦した力ある魔術師がポンポン死んで『時計塔』はてんやわんやだ」

 

 実際、王冠(グランド)階級(クラス)も軽くなった、と嘲るように言う晃。『時計塔』に所属する魔術師が得られる最高階級『王冠(グランド)』。それに相応しい真なる天才を知る身として今の王冠を名乗る魔術師を嘲っているのだ。

 

「で? その聖杯戦争がどうしたんだ? 『冬木の』聖杯戦争は第三次を以って終結したと聞く。まさか今更調査を、なんていうわけじゃあないだろ?」

 

 そう問うたのは獅子劫。腕組をし、立ち尽くしたままロッコへ問いかける。

 

「まさかよ。今更終わった儀式の調査依頼など意味が無いじゃろう。第一、『冬木の』聖杯戦争については既に『時計塔』にレポートが上がっておるわい。経過も、そして目的もな」

 

 聖杯戦争。七騎の英霊とそれを使役する七人の魔術師による闘争。始まりの御三家といわれる遠坂、マキリ、アインツベルンによって企画された儀式であり、その目的は最後の一人となった末に叶えられるという「あらゆる願いを叶えられる願望器の使用権」。

 

「最も、御三家の真の狙いは高位存在である英霊七騎の魂を以って『根源』に至る孔を空けることにあったようじゃが、まあ殆どの参加者は聖杯の、願望器としての側面に引き付けられ、呼び込まれていたようじゃが」

 

「へえ、じゃあ今世界中で行なわれている亜種聖杯戦争は趣旨がズレているってわけかい」

 

 『冬木の』聖杯戦争が元々、根源到達を目標とした儀式である以上、戦いの果てに願いを叶えるという思想の下、執り行われる亜種聖杯戦争はつまるところ原初のそれと異なり、根本から目的を履き違えていることになる。

 

「道理で儀式の殆どが不成立、ないしは失敗するわけだ。なんせ、本来の使用方法、使用目的で行なわれているわけじゃあないんだからな」

 

 亜種聖杯戦争として各地で行なわれる聖杯戦争の多くは不成立、または失敗が多いと聞く。この話を聞いて納得した。何せ、本来の聖杯戦争と目的が異なっているのだ。本来の聖杯戦争の術式を使用したまま、別の目的で聖杯戦争を執り行えばそりゃあ失敗するだろう。

 

「おいジィさん、結局のところ、俺に……とそいつに何をさせたいわけだ?」

 

 いつまでも本題をはぐらかすロッコに急くように問う獅子劫。確かに、まだ呼び出しの目的を聞いていない。

 

「うむ……三次を以って『冬木の』聖杯戦争は終結した。儀式の最中、その願望器たる聖杯が参戦した一人の魔術師によって奪取されたことによってな。そして、本題はここからじゃ(・・・・・・・・)。その奪取された聖杯がつい三ヶ月前に発見された」

 

「ほう……」

 

「……場所は?」

 

「ルーマニア、トランシルヴァニア地方の外れ、城砦都市トゥリファス。その都市最古の建築物であるミレニア城砦に『冬木の』聖杯は設置されている……宣戦布告と共に(・・・・・・・)、先方が知らせてきた」

 

「宣戦布告、穏やかじゃないな」

 

 獅子劫が神妙に肯く。そう、穏やかじゃない。正しくその通りだ。この場合、宣戦布告してきたのは今の『冬木の』聖杯の所持者。そして布告先は……十中八九『時計塔』だ。

 

「つまるところ、俺たちが呼び出された目的って言うのは命知らずの馬鹿から聖杯を取り返してこいってわけか? このおっちゃんと共闘して?」

 

「……おっちゃん」

 

「結論からいえばそうじゃ。敵の名はダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。奴は『冬木の』聖杯を旗印に新たな協会として名乗りを上げおったのじゃよ。そしてこれはダーニックだけの意思ではない……ユグドミレニア一族の総意として、とのことだ」

 

「おいおい、一族全体で『時計塔』に離反しやがったのか? 馬鹿だろ、端的に言って馬鹿だろ」

 

 心底呆れたという風に肩を竦める晃。亜種聖杯戦争の多発により魔術師不足で、この十数年で確かに『時計塔』いや、魔術協会全体として力は低落している。しかし、それでも一介の魔術一家程度が何とかできるほど『時計塔』という場所は、魔術協会という存在は甘くない。

 

「ダーニックといやあ、あの”八枚舌”のか。確かに『冬木の』聖杯なんてものがあれば、一族上げての離反するきっかけとしちゃあ十分だろうが……で? 『時計塔』はその宣戦布告とやらをみすみす受け入れたのか?」

 

「……フン、宣戦布告直後に『時計塔』は「狩猟」に特化した魔術師を五十人。トゥリファスに派遣した、が。帰ってきたのは内たったの一人。その一人も生き残ったというよりは向こうの宣戦布告に利用するため生かされたというのが正しいじゃろうな。何せ、生き残った魔術師に暗示をかけられて戻ってきたのじゃから」

 

 憮然とした表情でロッコは木製の、魔術的触媒資料でゴタゴタした教壇をコンと指で叩く。すると、それをきっかけにロッコの眼先、中空にホログラムのように映像が投影される。

 

「なんていってんだ? コイツ」

 

 映像内で傷だらけの男が虚ろな口調でぶつぶつと言う様を見て、獅子劫が問う。

 

「我々ユグドミレニアは魔術協会の下賤な政治闘争から脱し、ルーマニアにて真の魔導の道を探求する新たな協会を組織する……というような内容を永遠と。深い暗示をかけられたようでな。今は脳の洗浄中じゃよ。治療完了まで半年は掛かるかの」

 

「随分と酷い暗示だ。美しくない」

 

「まあ、伝えることが目的じゃろうからな。おぬしのように一々拘ることはせんだろうよ」

 

 暗示対象者の脳にダメージを与えるほどの負荷が掛かった暗示に晃は思わずそんなことを洩らし、ロッコは苦笑するように応える。

 

「それにしても、「狩猟」長けた魔術師が四十九人も、か。……おいジイさん、誰が、いや何があった?」

 

「サーヴァントじゃ」

 

 獅子劫の問いに間髪居れず言葉を返すロッコ。そしてその返事に獅子劫は成る程と肯き、ため息を吐いた。

 

「確かに如何に「狩猟」に特化してようが、サーヴァント相手じゃどうにもならないか」

 

 サーヴァント。それは英霊を使い魔の域に落とした存在。聖杯戦争にて魔術師の武器となり、盾となり、また参加資格兼サーヴァントへの命令権である令呪と同じく聖杯戦争参加者である証だ。英霊が相手であったなら如何に「狩猟」に長けた魔術師であれ太刀打ちできまい。人類史に刻まれた英雄、それが英霊であり、サーヴァントなのだから。

 

「それにしても実質、五十人。『時計塔』()魔術師が蹴散らかされたわけか」

 

 つまり『時計塔』はその顔に泥を塗られた挙句、子飼いの魔術師たちをも殲滅されたわけだ。もはや、後には引けまい。『時計塔』は、魔術協会は、その威信にかけてでもユグドミレニアの存在を許さない。

 

「となるとまさか、俺たちにそれをやれと? 幾らなんでも不可能だぞ?」

 

 英霊なんて存在が居る以上、相当高位の魔術師でもないと打倒は不可能。或いはその高位の魔術師でも打倒できないかもしれない。そういう存在なのだ英霊とは、サーヴァントとは。

 

「あ、それとも俺経由で義姉さんに依頼を通す気か? 無駄だと思うぜ?」

 

「ならば態々、獅子劫と共に呼びつけたりはしまいよ。ワシからの……というより『時計塔』の依頼はの、お主らに聖杯戦争に参戦してもらい、聖杯の奪取、そしてユグドミレニアの打倒をしてもらいたいという依頼じゃ、連中と同じく、サーヴァントを使役しての」

 

「目には目を、歯には歯を、英霊には英霊をってか?」

 

「うむ。じゃが、一つ問題がある。連中は既に七騎の英霊を揃えて(・・・)おる」

 

「ダメじゃねえか」

 

 聖敗戦争は七騎の英霊による生存競争。ならば既に七騎召喚し、ユグドミレニアの手勢で揃えている以上、『時計塔』の手勢が入り込む余地は無い。

 

「いや、そうとも限らん。それが今回の聖杯戦争の面白いところでの」

 

 にんまりとロッコが笑う。長らく『時計塔』に座す老人に相応しい、老獪で不気味な笑みを浮かべて。

 

「今回の聖杯戦争で召喚できる英霊の数は、なんと倍の十四騎なんじゃよ。先の生き残った魔術師が聖杯の予備システム、その起動に成功した。召喚される七騎が一勢力で統合、統制されて儀式進行が阻害された場合に備えられて用意されていたものでの、新たに七騎の英霊が召喚可能となった」

 

「つまり今回の聖杯戦争は、七対七。『時計塔』と『ユグドミレニア』陣営による陣営戦、それも英霊総勢十四騎でってか、アッハッハ、ルーマニア焦土になるんじゃね?」

 

 乾いた笑い声で晃は笑う。笑い事ではなく現実にそうなりそうなのだから笑えない話だ。

 

「事情は確認した、その上で一つ聞きたいんだが―――ジイさん、こちらが勝った場合、或いは奪取した『冬木の』聖杯はどうなる?」

 

「無論、『時計塔』で回収する。最も、万能の願望器を前にして生き残った魔術師が冷静で居られればの話じゃがの」

 

 暗にユグドミレニア打倒以降は自己責任だというロッコ。中々に老獪な誘惑だ。つまるところ最後の一人まで生き残りさえすれば、自分で聖杯を使う機械にめぐり合えるかもしれないと仄めかしているのだ。無論、ユグドミレニア打倒後直ぐに聖杯を回収する手はずは当然整えているだろうが、それでも、それよりも早く諸々を出し抜ければ……と、そんなことを考えている辺り既に魅了されていると獅子劫は苦笑する。

 

「どうじゃ? 依頼、受けるかの?」

 

「その前に幾つか質問させろ。こちら側のマスターについてだ」

 

「英霊のマスターとなる魔術師は既に決まって五人。現地に派遣済みじゃよ。『時計塔』から五人。そして聖堂教会から監督役兼マスターとして一人」

 

 『銀蜥蜴(シルバーリザード)』『疾風車輪』『結合した双子(ガムブラザーズ)』と聞いた名前を次々上げていくロッコに成る程、壮観な面子だと獅子劫は小さく肯き、ふと、気になることを思い出した。

 

「そういやボウズ、名前は? お前もここにいるってこたあ、候補だろ? 名の通った魔術師だったりするのかい?」

 

「俺は残念ながらただのパシリさ。相馬晃、極島出身の二流魔術師だよ」

 

「相馬。確かに聞かない……いや、」

 

 ふと、引っ掛かるものを感じて考え込む獅子劫。確かに、相馬晃などという魔術師の勇名に聞き覚えは無い。無いが、相馬という家に付いては何処かで。

 

「……まあいい、二つ目だ。サーヴァントについてだ。召喚する英霊には触媒が必要なはずだ。触媒となる聖遺物に関してはどうなっている?」

 

「無論じゃ、お主にはこれじゃよ」

 

 そういって机の引き出しから黒檀のケースを取り出し、ロッコはその中から慎重に、加工された木片らしき物体を取り出す。

 

「これは?」

 

「円卓だ、嘗て一騎当千の騎士らが集って会議を起こしたであろう、故国ブリテンの円卓の、その欠片じゃよ」

 

「ブリテンの円卓っていやあ……まさか、アーサー王のか!?」

 

「うっは、成る程、そいつはクールだ」

 

 思わず驚愕に声を荒げる獅子劫に同じく隠せない興奮に声を出す晃。ブリテンの円卓。それが指すものとは即ち、アーサー王の伝説に記されるそれ。一騎当千の円卓の騎士(ナイツ・オブ・ザ・ラウンド)らが揃った平等の円卓。そこに座ったのはアーサー王は勿論、ランスロット、ギャラハッド、ガウェイン、トリスタン、パーシバルといずれも名の知れた騎士らである。

 

「触媒としちゃあこれ以上ないな」

 

「うむ、問題があるとすれば円卓だとどの騎士が召喚されるか分からんことじゃが……」

 

「十分だ。円卓の騎士なら誰が召喚されようとサーヴァントとしちゃあ合格点だ」

 

 何せ、アーサー王の伝説自体有名な逸話だ。例えアーサー以外であろうと召喚されるサーヴァントは一流といえよう。

 

「態度を見るに……依頼は引き受けてくれるようじゃな?」

 

 無言の獅子劫。しかし、意図するところは声に出さずとも理解している。もとよりマスター候補に選んだ魔術師らは誰も彼も聖杯に託す願いを持つものに限っている。参戦に否を唱えるものがいるとすれば……。

 

「お主はどうする? 受けるか否か」

 

「……いいぜ、面白そうだから受ける。正直、聖杯に興味がないが、それが呼び出す存在、そのシステムには興味がある。上位存在、精霊の降霊は相馬一族として惹かれるものがある」

 

 肩を竦めながら晃もまた了解の意を示す。

 

「ただ命賭けるんだ。危険保険……じゃねえが前払いで報酬寄越せよ。そうだな、―――蒼崎名義で二千、いや三千寄越せ。関係の無い借金に追い回されんのは面倒だし、ただ働きじゃあコクトー先輩も浮かばれない」

 

 獅子劫は何気なく晃が洩らした名にギョッとする。蒼崎、その名は多少魔術社会にアンテナを張り巡らしているならば聞いた名である。特に蒼崎の姉妹に関しては。

 

「成功報酬で……」

 

「俺が聖杯戦争で時間を取られている間に義姉さんが金に困って乱入してきても俺は責任とらんからな」

 

「……いいじゃろう。それにしても前払いという割には随分ボッタくるの。まあ、良いか。了解した」

 

 顔を顰めながら要求を呑むロッコ。

 

「ならこっちも前払いだ。そうだな……これくれ」

 

 そういって獅子劫が手に取ったのは先ほど晃に偽物だと言ったヒュドラの幼体。そのホルマリン漬け。

 

「偽物だが、いいのかね?」

 

「いい。構わん」

 

 ニッ、と笑う獅子劫。先ほど以上に顔を顰めるロッコ。当然である、獅子劫の目には正真正銘本物として映っているし、事実、ロッコの態度を見るに本物で間違いあるまい。だからこそ、先ほど晃も口に出したのだ。

 

「では、お主ら。ルーマニアに飛ぶがいい。ああ、それと相馬の小僧の聖遺物だが……」

 

「自分で用意するさ。死んだ知人名義で幾つかルートがあってね。心当たりがある」

 

「そうか。ならば行くがよい。先方にはこちらから連絡を入れて置こう」

 

 ロッコの言葉を背後に聞きながら、獅子劫と晃共に部屋を後にする。七対七、英霊による壮絶なる戦いの幕が上がる―――。

 

《『聖杯大戦』、その参加者の一幕》

 



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外典の聖杯戦争Ⅱ

連続投稿。
やる気があるうちに……!


 夜。それは逢魔が時。よからぬものが彷徨う時間だ。ルーマニア某所のこの都市も例に漏れず、日の支配する時間を終え、夜に落ちた街中には怪しげな格好の男らや奇抜な衣装の女性、酔いに正気を失った暴徒と妖しい雰囲気の街に変貌している。

 

 魔性、というものは何も歴史裏に潜む魔術師や死徒、聖堂教会という世界で知られる教会の暗部だけではない。神秘に寄らない魔性。そういったものも現実には多く存在するものだ。そしてそうした空間、場所は、総じて『本当の』魔性がその姿を隠すに絶好の場所である。

 

「―――誘導されている……面白れえ、どこの命知らずかはしらねえが景気付けに一つ相手になってやろうじゃねえか」

 

 ヒヒ、と笑うのは『銀蜥蜴(シルバーリザード)』の異名を取る魔術師、ロットウェル・ベルジンスキー。今回の『聖杯大戦』に『時計塔』枠で参加する魔術師である。丁度、今日の早朝にルーマニア入りを果たしていた。

 

「ユグドミレニアの手勢か、『時計塔』の出し抜き組みか、第三者かは知らねえが……っと危ない危ない」

 

 キイ、という何かと何かが擦れる音。それはロットウェルの足元から聞こえた。ロットウェルはその音に反応するや肉体に強化の魔術を掛けすぐさま跳躍。遅れて丁度、ロットウェルが居た場所、その小道を挟むようにして民家の前に設置されていた何の変哲も無い樽が爆発し、内部に仕込んであっただろう鉛弾が爆裂する。

 

「成る程な。魔術使いか」

 

 敵が仕込んでいたであろう罠から呆気なく脱したロットウェルは鉛玉の爆裂によって窓ガラスやら外壁やらを砕かれた民家と、歩いていた小道を民家の屋根から見下ろす。

 

「俺が此処を通ることを事前に読むにはそれこそ逐次俺の位地を監視してなきゃできねえ。何せ、この夜、この場所に居るのは俺の気まぐれ、ただの散歩だったんだからな」

 

 そう、散歩、散歩だ。ロットウェルは派遣される同じ『時計塔』の魔術師よりも早くルーマニアに入った。ゆえに暇つぶしがてら、街を散策していたのだが……。

 

「初めのアクションから二十分。そろそろ顔を見せてもいいと思うんだけどなァ」

 

 二十分前。ふと、気まぐれに寄った店を出るなり、店の正面、路地裏の薄暗く見通せない先からの銃撃が行なわれた。戦闘馴れしているロットウェルは流石の反応を見せ、危機を回避し、襲撃者の追跡に乗り出したのだが。

 

「細かいトラップは都合四、直接攻撃は七。ユグドミレニアの使いにしちゃあ遠回りが過ぎる。『時計塔』の方にしてみてもこうも現代兵器をポンポン使うのは解せない。やっぱり第三者か、魔術使いっぽいしな」

 

 追跡開始からもうすぐ三十分。未だ襲撃者の姿は見えないがロットウェルは確かに、感触と言うべきものを掴んでいた。追いたて、追い詰めているという直感。どうあれ、もうすぐこの鬼ごっこも終幕を迎えると。

 

「さて、どうするよ? このままじゃあ袋小路になっちまうぜえ?」

 

 獲物を前になめずる猫のようにロットウェルは闇の彼方にいるであろう襲撃者を視る。すると、聞こえていたのか否か、バスッ、と何かがつっかえるような破裂音。音に遅れて一発の銃弾がロットウェルを襲う。

 

「おっとォ、目が良いねえ。この距離で狙えるかい」

 

 狙撃ポイントを銃弾の方角を遡って見据える。……居た。血の様に赤いフードと夜の暗闇のせいではっきりとその顔を見ることは出来ないが黒光りするスコープの付いた狙撃銃は奴が襲撃犯である証。

 

「ヒヒ、鬼ごっこも終わりだぜぇ」

 

 場所は今の場所から三軒挟んだ先にあるここらで一番大きな屋敷。恐らくは有力者の住まいか何かであろう家の屋根。ロットウェルは強化を施した肉体で軽々と民家の屋根の上に飛び移り、そのまま一軒、二軒、三軒と小道に足を下ろすことなくあっというまに跳んでいき、狙撃地点であろう屋敷の屋根の上に降り立った。

 

「そこか」

 

 そして飛び降りる。屋敷の裏。鬱蒼とした木々の生い茂る管理林に着地した。……僅かに感じる魔力の残滓。居る。この場所に。

 

「ビンゴだ!!」

 

 瞬間、銃撃。ダダダと連続する軽快な音はロットウェルを対象に精確に襲い掛かる。夜の帳が落ちた時間に対したものだ。恐らくは魔術による視覚強化をかけて狙っているのだろうが、それにしてもだ。

 

「さあて、命知らずの不届き者の顔を見させて貰おうじゃねえか」

 

 ヒヒ、と笑いながら疾走。銃撃に対し、魔術防壁を貼りながら距離をつめる。その果てに。

 

「お前かァ!!」

 

 血のように赤いフード。そこから覗く色の落ちた真っ白な髪に、血の気のない褐色肌。さらに武者にも似た鎧を着た姿は正に夜に潜み、獲物を狩るアサシンのよう。いや、狙撃の腕やらトラップやらとを使いこなす辺り本当に暗殺者なのだろう。

 

「―――――」

 

 ふと、フードの襲撃者は発砲を辞める。武器を捨てた投降? 否だ。効かぬと分かって同じ攻撃を繰り返す馬鹿は居ない。武器換装(ウェポンチェンジ)。発砲していた銃火器―――キャレコM950を放棄し、別の獲物……トンプソン・コンテンダーを手にする。

 

「馬鹿が! そんな武器が通じるか!!」

 

 取り出された武器を見てロットウェルは嘲る。銃火器程度で一流魔術師であるロットウェルの魔術防壁は破れない。たとえ武器を大型口径の銃に変更しようが、である。だが、フードの襲撃者は無反応のまま、まるで知ったことかとばかりにコンテンダーの引き金を引いた。射出、銀色の弾丸が月明かりに反射しながら解き放たれた。

 

 対してロットウェルは防壁に魔力を回す。防壁強化、これによりロットウェルの魔術防壁は鋼鉄の如く硬くなった。例え一個小隊の機関銃による総攻撃(フルバースト)であろうと耐えられるだろう硬さだ。

 

「このまま押しつぶしてやらああ!!」

 

 飛来する銀弾に挑むが如く突貫するロットウェル。防壁強化は如何なる魔術であろうと通さないために、そして強化されたこの防壁は同時に攻撃でもある。この硬度。それも強化された肉体での疾走で勢いづいたこの防壁に生身で激突されれば、それは自動車に撥ねられるも同然。防御であり、攻撃。ロットウェルの行動に油断はない。慢心は無いだが、

 

「ア?」

 

 盲点があった。銀色の銃弾をただの銃弾だと思ったこと。そして敵の攻撃を魔術で防ごうと考えたこと。成る程、前者はともかく、後者の行動は当然のものだ。身を守るために魔術を行使することは魔術師として当然であり、また敵の術師に対して魔術による対抗措置は悪手ではない。……相手がただの魔術師であったならば。

 

「が、アア、アアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 痛み、痛みのハレーション。最早、患部が、原因が分からぬほどの痛み、激痛。まるで全身の血管を鋏で切られたような、内部から発せられる痛み。

 

「ば、かな!?」

 

 痛みは引かない。だが、それでも流石は戦闘に馴れている魔術師と言うだけあって、頭の可笑しくなりそうな痛みの中でも原因を探り当てていた。―――右肩、防げたはずの銀の銃弾が貫いていた。

 

(貫通? 無効化? 幻術? なんだ? 何をされた? 何が起こった?)

 

 混乱する。まず先ほどの銀弾、アレが原因だ。魔術措置が施されていたのだろう。完全だったロットウェルの魔術防壁を突破してロットウェルを撃ち抜いた。それはいい、油断か、慢心か、相手が上手だったか、その是非は今は問うまい。問題なのはその銀弾が当たった直度、全身を乱されるような違和感と、間髪居れずに襲ってきた激痛。これはなんだ。と、

 

「ま、りょくがあ、まさか、これああ……?」

 

「―――”起源弾”……対象者の魔力を暴走させ、破滅させる」

 

 ザッ、と雑草を踏み、近寄る影がある。大地に倒れたまま、ロットウェルが目を向けると、そこには再びコンテンダーからキャレコに持ち替えたフードの襲撃者が立っている。顔を見る……ほの暗い、まるで全てに絶望したような底の無い黒い目。

 

「あ……」

 

「―――ホムンクルス」

 

 フードの襲撃者が呼びかける。すると、スッと音もなく、フードの襲撃者に従者のように寄りそうように新たな人物が現れる。灰がかった男の白とは違う、美麗な白銀の髪の女性。赤い瞳に病的な白い肌。人型でありながらしかし人間とは致命的なまでに違う何か……ここまでの完成度のそれをロットウェルはお目にかかったことは無い、無いが、その正体は分かる。フードの襲撃者が呼んでいた通りだ。

 

「ほむん、くるす、だと?」

 

 人工生命(ホムンクルス)。しかし余りにも自然で余りにも美しいそれは凡百の錬金術師に作り出せるそれとは完成度の桁が違っている。こんなものを作れる家系は早々無い。まさか、これは……。

 

「お、まえ……アインツベルンか?」

 

「………」

 

 錬金術の大家にして聖杯戦争始まりの御三家。アインツベルン、聖杯の器をも貯蔵する一千年という歴史持つ一家多き魔術社会でも群を抜いて長い歴史を誇る魔術一門。ホムンクルスがロットウェルの傍らにしゃがみ込む、今にも手折れてしまいそうな細指でホムンクルスはロットウェルの右手の甲……令呪の刻まれた場所を指でなぞり、

 

「―――Aendern(変換) Sie dise(所有権)

 

「なっ……!」

 

 感情の無い声で囁くように呟いた。微かな魔力の発動。気付いたときには既に令呪はロットウェルの手の甲にはなく、フードの襲撃者、その右手の甲に赤い光が灯っていた。

 

「置換作業、完了いたしました」

 

「下がれ」

 

「了承」

 

 役目を終えたホムンクルスは道具のように命令する主の言葉通り、現れたときと同じく気配を感じさせることなく、消失するように居なくなる。残ったのは新たな令呪の所有者となったフードの襲撃者と、身動きの取れないロットウェル。

 

「………」

 

「ま、まて、おれ、俺は―――」

 

 ターン、と夜の林に一つの発砲音。―――こうして『時計塔』の参加者枠を一つ奪い、男もまた聖杯大戦に乱入する。ロットウェルの死体は後処理班としてフードの襲撃者に同行していたホムンクルスの一団が巧妙に隠し、その死の事実が露見するのは……聖杯戦争が終わった後の出来事となる。

 

《ロットウェルの最後、数日前の暗闘》

 

 

 

 

『愛がなければ生まれてきてはいけませんか?』

 

 存在を散らすその寸前、小さな子供の霊体で構成された悪霊は、悲痛な笑みで微笑んだ。救われぬ悪霊。罪はなく、しかし人の世に害成す悪霊。母の愛を知らず、刹那の快楽がため、愛の消費される穢れた宿屋の片隅で彼女達は静かに息を引き取った。

 

「…………」

 

 そして残されたのは一人の魔術師。救われぬ子供を祓い、殺した(・・・)一人の魔術師。名も無き、勇名も無い、極々有り触れた一人の―――――。

 

 

………

……………

…………………

 

 

「問おう、お前が(オレ)雇い主(マスター)か」

 

 莫大な神秘の渦を発生させながら男は現れた。黒いマントにコウモリを模したようなアイマスクを付けた灰色の髪を持つ男。さながら物語の中で見かける怪盗か怪人のような男。

 

「………あ」

 

 それを、茫洋とした表情で彼女は見詰める。命を散らす間際、計らずとも出た彼女の心から零れ落ちた小さな願い。それを叶えた怪人に女は熱の無い視線を向ける。

 

「……再び問おう、お前が」

 

「違う! 俺だッ!!」

 

 ドンと、彼女―――六導玲霞(りくどうれいか)は不意に押しのけられる。その一幕にピクリと怪人が反応する。

 

「違う、違うぞふざけるな! 何故お前に、生贄でしかないお前に令呪が発現する!? それは俺のものだ、返せ、返せ、かえ―――」

 

「黙れ」

 

 ザシュ。怪人が何処からか用意した血濡れのナイフで喚き散らす金髪の男を切り裂く。頚動脈を一閃、立て続けに頭蓋にナイフを突き立てる。流れるような殺人術。

 

「……大方、魔術師。それも生贄を必要とする辺り(オレ)が最も嫌う輩か」

 

 まあいい、とマントを翻し、未だ茫洋とありえない事態を他人事のように見送る玲霞に怪人が歩み寄る。そして黒いグローブに覆われた右手を差し出し、

 

「立てるか?」

 

「……ええ、大丈夫よ……それよりも、貴方は……」

 

 幸い、殺される寸前に怪人が召喚されたお蔭で彼女の身に怪我は無いが、逃走を封じるための措置だったのか、未だ身動きを鈍くする魔術により動作がいつも通りとは行かない。それでも彼女は怪人の手を握って立ち上がり、問いを投げる。只者で無いだろうその男に。

 

「了解している。貴方は正規のマスターではないのだろう。(オレ)は”黒”のアサシン、此度の聖杯大戦、”黒”の陣営として召喚されたサーヴァント、英霊だ」

 

「……聖杯大戦?」

 

「端的に言えば合計十四の英霊と十四の魔術師による願望器を巡る殺し合いだ。貴方はその戦いに……”黒”の陣営が本来の魔術師の変わりに選ばれた”黒”のアサシンのマスターとして」

 

「貴方のマスターとして……」

 

「そうだ。予期したことではないとはいえ……すまない、貴方を何の関係もない戦いに巻き込んでしまった」

 

 許せ、と小さく顎を引き謝罪する怪人……もとい”黒”のアサシン。魔術師……というのは何時の日からか己と同棲していた男、目の前の死体「相良豹馬」のことだろう。

 

「英霊……貴方のような存在のことかしら? 人間ではないの?」

 

「ああ。(オレ)は英霊、掻い摘んで言えば過去に存在していた人間、歴史に名を残すような偉業を残した存在を使い魔として召喚したもの、それが(オレ)のようなサーヴァントだ。サーヴァントはそれぞれ七のクラスに当て嵌められ、各々がその逸話、特性に見合ったクラスに召喚される。剣に優れていればセイバー。弓に優れていればアーチャーとな。そして名乗りの通り(オレ)は”黒”のアサシン、つまるところ」

 

「暗殺に優れた、特化した英霊ということね」

 

「そういうことだ」

 

 ”黒”のアサシンは語る。七つのクラス。即ちはセイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー。本来は七つ七騎、それぞれのクラス特性にあったサーヴァントな七騎がマスターによって現世に呼び込まれ、最後の一騎になるまで戦う、そんなゼロサムゲームこそが聖杯戦争であると。

 

「だが、今回に限り事情が異なる、それが陣営。”黒”と”赤”、此度の戦争は七対七による陣営戦であるということだ。(オレ)も事情を詳しく知るわけではない、が持てる知識から此度がかなりのイレギュラーであることは理解している」

 

「いつもはサバイバルゲームだけれど、今回に限ってはチーム戦、ということね。そして貴方を召喚した私は”黒”のチーム」

 

「理解が早くて助かる」

 

 茫洋とした態度から少しずつ理性の色を取り戻しながら状況を把握していく玲霞。それに対して”黒”のアサシンは密かにたいしたものだと感心する。

 

「目的は、聖杯かしら? 『聖杯』大戦、聖杯っていうのはもしかして……」

 

「真贋で言えば贋作だ。聖人が血を酌んだ杯ではなく、魔術師が作った万能の願望器。それを聖杯と呼称している。持ち主の願いを叶える万能の願望器だ。戦争も大戦も、形式は異なっているが、最終目標は変わらない、聖杯を手にすること、そして願いを叶える事。それが魔術師と召喚された英霊との共通した目的だ」

 

「………」

 

 万能の願望器。甘美な響きである、命を賭すには十分なほどに。ふと、玲霞は一切の無駄なく一瞬で殺害された相良豹馬の死体を見る。彼は魔術師であり、聖杯大戦へ挑まんとする参加者だった。ならば彼にも賭けるべき願いがあったのだろう。

 

「―――今回の召喚はそこの魔術師により偶発的に発生した予想外だ。ゆえに貴方が望むならば大戦の監督役たる聖堂教会に申し出るか、或いはここで令呪を行使しきるか、そうすれば(オレ)との契約は此処で断たれる。もとより、被害者でしかない貴方に罪は無い。(オレ)と契約し、血みどろの戦場を歩むよりかはここで日常に戻るがいいだろう」

 

「令呪……」

 

 手の甲。そこには刺青のような聖痕が刻まれている。恐らくこれが令呪。相良豹馬が求めたサーヴァント、”黒”のアサシンとの繋がり。使い切るということがどういうことかは分からないが、察するに参加資格なのであろう。

 

「貴方は? 貴方はどうするの? こうして呼び出された以上、聖杯大戦に望むために現れた以上は貴方にも願いがあるはず、その貴方はもし私がこの戦いを降りたならばそうするのかしら?」

 

「さて、もとよりこの身はアサシン。短い時間ならば顕現できようが戦うには足りず、かといって新たな主を見つけるにもこの身は有用とはいえぬ。いずれは英霊の型を失い、幻霊として世界から弾き出されるであろうよ。が、是非もなし。罪深きこの身、願いを叶えることは勿論、機会を頂くことすら業腹と言うものだ」

 

 冷たい冷笑を浮かべる”黒”のアサシン。全てに疲れ切ったような、諦めきったような憂いの瞳は玲霞と何処か似ていて、しかしその奥に潜む隠れた本音は玲霞のような人間とは全く違った命を捨ててでも叶えるべき願いがある男の目。

 

 ―――玲霞は人生を流されるように歩いてきた、両親の死、転落する人生。その果てに魔術師と言う魔性にめぐり合い、英霊と言うひとつの究極にめぐり合った。運命と言うにはこの出会いは偶然過ぎる。己の意思で、己の理由で歩み続けた果ての出会いならば正しく運命(Fate)であろうが、ただただ流された果てに出会った其れは偶然(幸運)に過ぎない。しかし……

 

 彼女は初めて己の意思で、己の理由で願った。彼はそれに応じて呼び出され、己に己のマスターであるかと問いかけた。ならばそれは、彼女が生まれて初めて行なったかもしれない選択である。そして流れ着いた先の偶発的な出会いであろうとも……願い、選択したのが彼女の意思であるならばそれは……。

 

「―――ねえ、教えて? さっき貴方はサーヴァント、英霊は過去に存在した人間、歴史に名を残すほどの偉業を成した存在を使い魔にしたものがそうだと言ったわ。ということは貴方には本当の名前があるんじゃないかしら? クラスとは、アサシンとは別の名が……」

 

「それを聞いてなんとするか。まさか貴方は……」

 

「―――教えて頂戴?」

 

 真っ直ぐと、両者の視線が中空で交差する。気付くと、先ほどまで茫洋としていた玲霞の瞳の中に理性の、意識の輝きを見た。

 

「―――ジャック。先ほどは歴史に名を残す偉業を成した存在を英霊と呼んだが、それに比べて余りにもささやかな、限りなく凡夫に近い名も無き魔術師だよ」

 

 ジャック。イギリスやアイルランド辺りでは有り触れた、何の変哲も無い当たり前の名前。日本で言うところの「何とか太郎」のようなものだ。ジャック・オー・ランタンやジャック・ザ・リッパーはつまりそういうことである。即ち正体不明の怪人(JACK)。これを名乗るということは実質名無し同然。

 

「少しばかり目立つ都市伝説に依存して降臨しているに(オレ)は過ぎないよ。本来ならばサーヴァントとして呼び込むことなど不可能であるが……フフ、悪運が過ぎたな。どうやらこの場に生きていた魔術師が呼び出そうとしていたものに依存した形で変則召喚を可能としたらしい」

 

 相良豹馬が呼び出そうとしていた本来のアサシン、その名はジャック・ザ・リッパー。”黒”のアサシンとは縁深い英霊だ。何故ならば……或いは彼こそが(・・・・)ジャック(・・・・)()()()リッパー(・・・・)だったかもしれない(・・・・・・・・・)のだから。

 

「問うわ、貴方。願いがあるのね?」

 

「―――そうだ」

 

「それは命を賭しても叶えたい?」

 

「―――無論だ」

 

「そう、なら決まりね」

 

「……貴方は」

 

「私は、生きたい。そう願った、そして貴方はそれに応じ、貴方もまた願いを携えて此処に居る……なら、私は貴方のマスター(・・・・・・・・・)よ。ジャック」

 

「……そうか、ならば是非もなし。貴方が(・・・)()()マスターだ(・・・・・)。血生臭く、守るには余りにも罪に濡れているが……それでも、貴方の命を守ると誓おう―――我が雇い主(マスター)

 

 極島・新宿。夜をも照らすハイライトが絶えない魔都の片隅で名も無き怪人と天然怪物が契約を交わす。生まれて初めて選んだ、自らの往くべき道……六導玲霞に迷いは無く、葛藤はなく、ゆえに彼女はこの選択に後悔を覚えず。

 

 ―――血の匂い咽ぶ中の契約は彼女らがこれから行く道を暗示しているようだ。たとえ罪に濡れようとも両者の願いに罪は無く、純粋無垢な祈りに悪を唱えられるものはない。怪人と怪物は己が願いのため暗い闇に蠢きだした。

 

 

《新宿、”黒”のアサシン召喚》




拳銃を平気で持ち出し、満身創痍に止めを刺すアインツベルンのホムンクルスと共に行動する容赦のない魔術使い……一体何者なんだ!?

六導さんはジャック(ちゃんではない)と契約。
そのためジャックちゃんに出番はないかと言われると一応出番はあります。

それで許してくだされ、ジャックちゃん好きの方々。


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外典の聖杯戦争Ⅲ

かなり短めだがFGOコラボイベが一段落したので。
え? ケイローン先生? アキレウス?

何をおっしゃっているのか……(白目)


 ルーマニアは地方都市、トゥリファス。その街を崖下に見下すが如く君臨するこの街最古の建築物ミレニア城砦こそが、旧きに渡り魔術社会に君臨してきた魔術協会に反乱の狼煙を上げた千年樹ことユグドミレニア一族が支配する城であった。

 

 地下工房に、此度の戦に参加する魔術師の各部屋及び工房に、サーヴァント用の個室まで間に合わせるこの城は巨大だ。窓の外、光の落ちた街を見下ろしながら通路に立ち尽くす少女、沙上霧絵(さじょうきりえ)は馴れない城砦の荘厳さにため息を吐く。

 

「流石は歴史あるユグドミレニア。所詮は東京の一角にあるだけの魔術一家とは訳が違うか」

 

 懐かしきアジア圏屈指の都市を脳裏に思い浮かべながら、反転して中世街並みを思わせるトゥリファスの景色を見る。

 

「さて、故郷に帰れるか……やれやれ、今更未練か、何を……」

 

 フッ、と何処か陰気のあるため息を洩らしながら僅かに震える腕を利き手である左で咄嗟に押さえる。……聖杯大戦、此度の戦い、勝利せねば沙上の家に未来はない。ユグドミレニア一族を頼り、衰退の道を必死に押さえてきたが、霧絵の代で……もう。

 

「―――げ」

 

 唐突に―――そんな乙女の憂いに似合わない、雰囲気外れの少年の声が響いた。……霧絵のため息、今度のそれは未来に憂うためのものではなく、呆れの。

 

「人が思い憂いている時に「げ」は無いんじゃないか、カウレス」

 

「……こんなところで何してんだ、沙上」

 

 余人が震え上がる氷の冷笑を浮かべながら霧絵が問うと、少年……カレウス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは後頭部を掻きながらさも嫌そうに応対する。

 

「フン、相変らず間の悪い。シスコンに空気が読めないとは、終わっている。少なくとも私的には零点だ」

 

「別にお前に受けようとは思っちゃねえよ。それとシスコンは余計だ、シスコンは」

 

 苦々しい顔を浮かべるカウレス。それを見て霧絵は僅かに笑みを浮かべる。多少の溜飲は晴れたようだ。……人に嫌がらせをして溜飲を晴らすのが良いか悪いかを置いておいて。

 

「それにしてもこんなところで、とはこちらの台詞だ。君は姉君のバックアップとして呼ばれたと聞く。マスター権を持たないとはいえ、こんなところでウロウロしていて言い身分ではあるまいよ」

 

「召喚開始までまだ一時間ある。落ち着かないからこそ、こんなところに居るんだよ。姉さんやお前と違って、こっちは平凡なただの魔術師だしな」

 

「さて、何を持って平凡にするかだが……それに魔術師の才の有無を問うならば、君の方に軍配があるだろうさ。魔術の才はともかくとして」

 

「……お前」

 

「他家の事情に口出しする気は無いが、アレはこのままでは崩れるぞ。特に此度のような純粋極まりない殺し合いにおいては」

 

「………ガッツリ口出ししてるぞ、それ」

 

「おっと、これは失礼」

 

 全く悪気がなさそうな調子での謝罪。カウレスは疲れたように息を吐いて、それから。

 

「第一、ウロウロしている余裕が無いのはそっちの方じゃないか、バーサーカーのマスター」

 

「ああ、それならば問題ない。魔術回路は良好、戦前ということで平時よりも気分が高揚しているし、いつ召喚の時が訪れても問題ないよ。触媒もね」

 

「そうかよ……ならいいさ」

 

「なんだ、心配してくれたのか?」

 

「違う。いずれ敵同士になるとはいえ、まずは共闘する中なんだ。味方に足を引っ張られた結果負ける、なんていうのは困るからな」

 

「ん、ハハ、言うようになったなカレウス。思わず殺したくなる」

 

「……勘弁してくれ」

 

 朗らかな笑みで殺意を口にする霧絵に思わずカレウスは肩を下げる。一見、ふざけた雰囲気、軽い冗談のように余人は聞くだろうが、彼女が殺意を口にするのは即ち、本気と言うこと。ここで失言を重ねれば迷わず霧絵は得意の黒魔術を行使してカウレスの命を奪うだろう……ということはそこそこ付き合いの長いカウレスは承知しているので、危機は見誤らない。

 

「それで、バーサーカーのサーヴァントは、何を召喚するつもりなんだ? サーヴァントの触媒は各々のマスターが確保する。……当然、入手済みなんだろ」

 

 話を即座に転換する。こういう時は意識を切り替えるように全く別の話題を投げればいい。

 

「ああ無論、さっきも言ったように抜かりはない……が、何故今に? いずれ明かすとはいえ、敵情視察か?」

 

「単なる興味だ。英霊召喚は参加できないとはいえ、目の前で行なわれるんだ。魔術師として儀式に興味を持つのは当然のことじゃないのか?」

 

「ん、まあそれもそうか……さて、召喚の触媒だったか」

 

 話題転換のための話題であり、別に英霊の触媒について聞けなくてもカウレスは良かったが、霧絵は律儀に応じ、懐から一枚の写真を取り出し、カウレスに投げつける。カウレスは反射的に受け取り、次いで目を落すと写真の中身は……。

 

「棺桶……?」

 

「そうだ、不実の夫に振り回された狂乱女王……その聖遺物さ。バーサーカークラスでその聖遺物を用いた召喚で呼び込まれるのは恐らく一騎。神代の英霊や歴史の勇者と比べれば見劣りするが、こと使いやすさでは思いつく限り随一だ」

 

 自信満々に笑みを浮かべて断言する霧絵。召喚に適応するサーヴァントには彼女の口にしたキーワードから多少は察せられるが答えには届かない。とはいえ、これだけ自信満々に口にするのだから相応の英霊を呼ぶつもりなのだろう。

 

「使いやすさって……バーサーカークラスは狂化スキルのせいで殆どの場合で制御不能に陥る。そんなバーサーカーに使いやすさを優先するのは間違ってるんじゃないのか? そりゃあ、強力なだけだと魔力の消費がバックアップありきでもキツイだろうけど」

 

「そうとは限らないさ。固定観念に縛られると魔術師として成功はないぞ。バーサーカー、元々は弱い英霊を狂化、そして強化することで並とするサーヴァントクラス。その制御の難しさと魔力消費量から忌避されるクラスではあるが、過去には強力なサーヴァントを敢えてそのクラスに据え、手のつけられない化物にした例もある」

 

「でもそういうのって、大概、マスターの魔力が持たず、結果敗退したんじゃ」

 

 バーサーカー。制御不能という点に目を瞑れば凶悪な兵器となるサーヴァントクラス。過去、バーサーカーのマスターは悉く戦争終盤まで勝ち上がることが常であったという。しかし、この長期間のゼロサムゲームだ。サーヴァントと言う埒外の存在をこの世にとどめるための魔力消費は尋常ではなく、さらにバーサーカーはその中でも指折りだ。最後は多くが自滅に沈んだと聞く。

 

「まあね。強力な英霊をそうすれば、例に漏れず私も終盤で倒れるだろうが……幸い、今回はチーム戦だ。バーサーカーが最強である必要はない、他でどうとでも賄えるからね。それに今回のようなケースの場合、生き残ることに主眼を置いた方が勝ち残れるものだよ、どうせダーニックや君の姉辺りが相応の英霊を呼ぶだろうから、敵対する強力な”赤”のサーヴァントはそちらにやらせればいい」

 

「だからこその使いやすさか。でも……」

 

 霧絵の作戦には幾つかの穴がある。それを言い募ろうとカウレスが言葉を重ねようとした瞬間、

 

マスター殺し(・・・・・・・)」 

 

 不吉を彼女は口にしていた。陰気な笑みを浮かべながら霧絵は。

 

「ようは勝てばいいのさ。どだい、これは戦争。ルールはあっても倫理は無いようなもの。ましてや魔術師同士の戦争ともなれば、ね」

 

 極島の魔女は笑う。ようは、敗北しなければいいのだと。邪悪を思わせるその笑みにカウレスは思わず口を閉じ、言葉を無くす。

 

「そうさ、生き残る。何をしてでも、どんな手段を用いても―――」

 

 

《ミレニア城砦より、極島の黒魔女と三流魔術師》

 

 

 

 

『相馬の血は呪われている』

 

 物心付いた頃、父に言われた言葉だった。震えるように、怯えるように、旧き巫女の、鬼の家系の当主は次なる生贄であった息子に告げる。

 

『《公》の呪いは絶対だ。私もあいつもお前も亜紀も誰も逃れられない』

 

 生まれ以って強大な魔力。霊体に対する卓越した被霊媒体質。そして家に遣える強力極まりない使い魔たち。凡百の魔術一家では到底及ばない歴史と強さを誇る相馬の家はその実、たった一人の呪いに怯え、恐怖し、畏れ続けるだけの憐れな生贄集団。

 

『皆、須らく巫女なのだ。あの方の、あの者の、あの()の………』

 

 相馬の血は呪われている。皇国に剣を向けたあの男の血脈ゆえに。

 相馬の血は呪われている。あの怖ろしき荒御魂、最強の怨霊に。

 相馬の血は呪われている。―――――ゆえに誰も逃れることは出来ない。

 

『いずれ、お前も《公》に飲まれる……だから』

 

 好きに生きろ。……それが父が息子に贈れる最大にして最後の愛だ。

 

 

………

……………

…………………。

 

 

「聖杯がつかめるかどうか……それを除いてもこれが最期の人生になりそうだ」

 

 悔いだらけで涙が出るとルーマニアの首都、ブカレストに到着するなり、実家から送られてきた大量の資金でもって都内最大最高のホテルの一室を獲得した相馬晃は部屋を見た瞬間、そんなことを呟いた。ホテルで一息つこうとした矢先にこれだ。……あるはずの無いその存在に思わず天を仰いだ。

 

 ―――それは旧い刀だった。無骨な何の変哲も無い日本刀の源流と呼ばれる毛抜形太刀。黒い漆の鞘に収まり、柄はまるで何かを封印するが如く急急如律令と刻まれた呪符と薬師如来の種字がこれでもかとばかりに描かれている。

 

 銘は無い。が、相馬では怖ろしき魔性との縁の証であることから『天魔刀』と呼称される刀である。見るものが見ればさぞギョッとするだろう……この『天魔刀』、並みの英霊が持つ宝具の神秘を遥かに上回っている。それこそ魔剣クラスに優るとも劣らない。

 

「ついに俺の元に飛んできたか……さて、せめて戦争中は俺が俺でありますように」

 

 そして願わくば、この呪いが今は唯一となった家族、妹の元に渡りませんように。最早、己の生存は断たれた。ならば聖杯に託すべき願いはただ一つ。

 

「宿業両断、と行けばいいんだが……」

 

 『天魔刀』を手に取る。……怖ろしく手に馴染み、同時に何処かで男が嗤うような嫌な気配を感じる。手先から肉体を侵される感触。怖ろしき荒御魂はどうやら完全に晃を認めたようだ。全く嬉しくない。

 

「………竜角、麗冥」

 

 ふと、無人の一部屋で晃は何者かに呼びかける。すると、彼の背後。両脇にザザッと何者かの気配が瞬いた。その魔力量、サーヴァントと見劣りしない。当然である、背後の従者が彼の想像通りの存在であれば、歴史にして五百年を越える相馬に家に仕え続ける最高階級(クラス)の鬼、否、犠牲者達。

 

「……………」

 

 僅かに感じる感情の揺らぎ。背後の鬼達の感情。……憐れみ、悲しみ、畏れ、嘆き。

 

「ハッ」

 

 その一切を鼻で笑う。

 

「上等だ。やってやるさ。相馬の呪いは今代で終わりだ」

 

 最愛の家族に幸い在れ。たとえ己がここで堕ちようとも。続く家族だけは救って見せると、最早運命が定められた少年は普段の調子に見合わぬ決意を固める。

 

「―――数百年の清算だ。ここで、我が家の宿業を解く」

 

 

《相馬、呪われた血族の》




死亡フラグ回。

……そこ、相馬くんを雁夜くんっぽい何て言わない。
次回辺りで英霊召喚とジャンヌ嬢辺りの話をやりたい。



つーか話進まねー。(自業自得)


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外典の聖杯戦争Ⅳ

やりたい放題!


 これは誰もが知る当たり前の話であるが、社会と正義は仲が悪い。

 

 社会とは群衆、社会とは混沌である。当然そこでは陰と陽、光と闇、正義と悪の二つが均衡する形で存在し、清濁併せ呑む群衆の一個を人は社会と呼ぶ。

 

 ゆえに社会において当たり前の正義を求めることは愚行だ。善性だけで構成された世界など狂っている。混沌こそが社会の在り方ゆえにそれがどちらか両極端に傾くことなどありえないし、あってはならない。

 

 だからこそ此処に『システム』があるのだ。世界の均衡、人類の在り方、混沌が混沌であるための制御装置。悪に寄らば悪を抹消し、善に寄れば正義を堕す。人は人であるために混沌を壊す全てを壊す。

 

 ―――これこそ矛盾。世界の在り方。破滅も完成も許容しない人類と言う混沌の在り方。数多の魔術師は怨嗟の声を、救罪を求めた求道者は絶望を、そして悪を背負うものは感覚で感じ取る。遍く世界に偏在する人類が人類を守るための矛盾装置。

 

 人これを―――『抑止力(アラヤ)』と呼ぶ。

 

 

《ある魔術師のメモ》

 

 

 

 

『素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。手向ける色は”赤”/”黒”』

 

 ―――奇しくもその儀式は同日の同じ時間、同じ瞬間に行なわれた。『聖杯大戦』が主役と呼べる超常の存在……英霊(サーヴァント)。その召喚は”赤”と”黒”問わず、図らずしも同刻に―――先に召喚されているものらを除き―――開始した。

 

『降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国へ至る三叉路は循環せよ』

 

 そこはユグドミレニアが本拠地ミレニア城砦。マスターとして一族の命運を背負いし魔術師が在った。

 

 

 セイバー枠・マスター、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニア。

 

 アーチャー枠・マスター、フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア

 

 ライダー枠・マスター、セレニケ・アイスコル・ユグドミレニア

 

 バーサーカー枠・マスター、沙上霧絵。

 

 

 緊張の貌で、しかし高揚と興奮を隠さず、己の身体を犯す魔力の猛りに歓喜しながら詠唱する。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する』

 

 そこは墓地。死霊魔術師(ネクロマンサー)・獅子劫界離は己が最高の波長、最高の相性を誇る地で魔術師にとっては一世一代という大儀式に踏み込んでいた。

 

『―――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うのならば応えよ』

 

 そこはホテル。呪われし血筋、大怨霊より血を分けた相馬の子が最後の賭けに挑む。その姿を無感で見守る二体の護法―――何処かで、誰かがカカと嘲笑う声がした。

 

『―――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者』

 

 そこは教会。紅き神父の福音の下、紅き殺し屋が祈りを捧げる。正義は此処に、今聖杯戦争中最凶の陣営は謀略の女帝と恐ろしき劇作家に見守られながら静かに動き出す。

 

『―――されど汝はその眼を混沌に曇らせ、侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者』

 

 付け加えるは狂乱の詠唱。バーサーカーに対象を絞る追加詠唱が沙上霧絵によって行なわれる―――その様に、姉のバックアップとしてこの場に居合わせるカウレスが何とも言えない表情を浮かべ、目を細める。

 

『―――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!』

 

 かくして魔力が満ち、奇跡が降りる。最高級にして最強の神秘を掴む感触を魔術師たちは味わっていた。―――見よ、頭を下げ、忠誠を誓う美しく恐ろしい存在を。

 

 彼らこそ、人類の最強の剣にして盾。

 武・勇・智という英雄の条件を満たせし領外の存在。

 超常の存在、即ちそれ、英霊と呼ぶ。

 

………

……………

…………………

 

 

「しかし随分と深い業を背負ったマスターに呼ばれたものだ。遊星の仔も大概であったがおんしもおんしで大変そうだ。同情してやろう」

 

「率直な感想どーも。ありがたくて涙が出て来る」

 

 フムフム、と肯きながら晃を観察する女。

 

 ―――首元には「頭」であることを周囲に喧伝する華美な首飾りをしている。知的な光を灯す蒼玉(サファイア)の瞳に東洋風の顔立ち。日に焼かれた肌は褐色であり、白い衣装によって健康的な肌が映える。何よりそんな美女然とした彼女を目立たせるのはその格好。豊満な肢体は殆どが隠すことなく晒され、胸元のチューブトップ風の衣装と下半身を最低限隠すパレオの如き頼りない布切れのみ。

 

「なんっつーか……男に優しくない格好だ」

 

「フム、貴女は魅力的ですという褒め言葉として受け取って置こう。若い男に褒められるとは……ふふっ、私もまだまだ捨てたものではないらしい」

 

「そうですか。で? 一応聞いておくとアンタが俺のサーヴァントで相違ないか? ライダー」

 

「いかにも。この身はサーヴァント・ライダーに相違ない、我が主よ。真名は……まあ、西洋の杯にて私を召喚したのだ、相当の酔狂者だろうから態々明かすまでもないか」

 

「応ともさ。アンタが実際に召喚されるかは割りと賭けだったが……ま、実在したようで何より何より」

 

 軽い口調とは裏腹にふぅーと息を吐く晃の頬には汗が流れていた。聖杯戦争の英霊召喚は確かに緊張する上、失敗できない儀式であるが、それとは別に晃にとって……というより相馬一族にとって降霊は鬼門なのだ。何故なら罷り間違えば先祖たる『 』に繋がりかねない。

 

「取り敢えずは俺の自己紹介だけ。俺は相馬晃だ。クソッタレな血脈に生まれた不幸で不運な魔術師さ。どうもアンタの目は特別らしいからある程度こっちの事情は察しているんだろうが、礼儀は礼儀だからな」

 

 晃は魔術師……陰陽師の類である。ゆえに人間の究極。精霊に等しい現象を前に『礼』を払う。それは古来より変わらぬ極島の魔術師にとっては当然とも言える行為であった。

 

 神、精霊、鬼、怨霊問わず、多くの災厄、多くの災害が多発する特異点が一つ極島において人より高位の存在は総じて奉り、崇め、利用するもの。その力の使い方を間違えないように極島の魔術師は『礼』を払い、自らに境界を引くのだ。

 

「うむ、その『礼』確かに受け取った。頭を上げよ、我が主。今の貴方は我がマスターである、その事実に是非は問わぬ」

 

「ありがたく―――と、挨拶はこの辺りで良いか。召喚して早々行動も移すのもアレだし、それに召喚で魔力も結構持ってかれたからな。ま、それ(・・)のせいで落ち着かない部屋だが、まずはゆるりと休もうぜ」

 

「了解した……しかし今世の宿場とはこんなにも豪勢なものなのか、流石に知識と実感では差が出る」

 

 晃の言葉に否を突きつけることも無く、”赤”のライダーは晃と向かい合う形で対のベッドにソファ代わりと座る。

 

「そりゃあ四、五世紀中ごろの時代と現代じゃあ差違も大きいだろうよ。一応、聖杯のシステムに干渉したわけじゃあないから正規の英霊と同じくエラーは無いはずだが、不備があったか?」

 

「否。主の召喚は完璧だ。血筋を利用した西洋圏以外の英霊召喚。そこに不備は無くエラーは生じていない。単純に知識として知っているのと実感するのでは違いが大きいという話だ」

 

「成る程ねえ、それならこの後は市内探索と洒落こむかい? 流石に高層ビル並ぶ魔都は紹介できないが中世の街並、少なくともお前さんが生きた時代より発展した現在を見せることは出来るぜ?」

 

「悪くないな。極島では腹が減ってはなんとやらと言うと聞く。戦前に英気を養っていくのも悪くはないか。それに……」

 

 一度、言葉を切り、自分を見下ろすライダー。

 

「当代の礼装も欲しい。霊体化はどうにも落ち着かず、かといってこのままではおんしも困るであろう? 市内を歩くからにはまず衣服をどうにか見繕ってもらいたい」

 

「それぐらい構わないぜ? 金は腐るほど有り余ってるし、金なんて使ってなんぼだしな」

 

 相馬の家は歴史もそうだが、資金も豪邸を数件建築できるほどには有り余っている。曰く、第二次世界大戦前は華族であり政治にも軍事にも多くの繋がりを持っていたため、権力も資金も有り余るほどにあったという。その名残で相馬の家系は未だ西洋の貴族(ロード)と張り合えるほど潤沢に資産を補充しているのだ。

 

「そうか、ならばその言葉に甘え夜が明け次第、市内を回ろうか……幸い、多少の星は動くようだが、外部からの調律者が来るまではどの陣営も動きはしまい」

 

 引き込まれるような蒼い瞳で虚空を見据えながらライダーは言った。まるで未来を予知するかの如き言い様であり、彼女は真実、未来を見ていた(・・・・・・・)

 

「元未来視の使い手に心当たりはあるが……アンタの精度はどれぐらいだ? ライダー?」

 

「流石に世界を見据える『千里眼』には及ばんさ。とはいえ、当代の星詠みよりかはその力も精度も高い。それと私のは『視る』より『占う』に近いのだ。星の動きから起き得る未来を読み取る……そういうものだ」

 

「……形態としては予言の未来視に近いのか。占うってことは……ああ、視た未来をどう解釈し、読み取るかは受けて次第ってことね、それでスキル『星詠み』か」

 

 ライダーが有するスキルの一つ『星詠み』。そのため、大魔術師や賢者が保有する『千里眼』に及ばずしも彼女は未来を見ることができる。しかも、それは『直感』のような瞬間的なものや『啓示』のような使命を上手く運ぶための限定されたものではない。彼女は視ようと思えば視える。そういう限定性のない能力である。

 

詠み(・・)逃がしでもしない限り私の未来視は外れん。それに先も言ったが大きな星の動きは今のところ見えないからな。小波程度の星の動きなら尚のこと私の未来視は外れない。安心していいぞ」

 

「じゃ、信頼させてもらいますか。これから背を預けあう仲だしな」

 

「うん。その信頼、受け取ったぞマスター」

 

 晃の言葉に薄く微笑みながら言葉を返すライダー。その様に、思わず一瞬見惚れながら、コホンと、わざとらしく咳き込んで己を立て直した。

 

「さあてと、まずは夜明けまでの退屈凌ぎに飯にしよう。高級ホテルのスイートだけあって、結構な夜更けでもルームサービスは効くんだぜここ。ま、アホな時間に付き合ってくれる従業員に対する多少の感謝(チップ)は必要だけどね」

 

「ほう、今代の食事か。朝食……には些か早すぎるが、日中市内を歩くことを考えるに先立つエネルギーは必要か」

 

 ニヤリと笑いながら部屋に備え付けられていたメニュー表を差し出す晃にライダーも同様に笑みを返し、メニュー表を受け取る。

 

 ”赤”のライダーとそのマスター。夜が明けるその時まで彼らは親睦を深めながら食事を楽しむ。付き合わされるウェイトレスは若干疲れ気味に、されど身振りの良い、良客相手と言うことで根気よく彼らの宴を見送る。

 

 聖杯大戦初日の夜はこうして夜明けを迎える。

 

 

《英霊召喚、星詠みのライダー》

 

 

 

 

「―――これで、六騎。いずれアサシンも間もなく到着するでしょう」

 

 ミレニア城砦、王の間。その玉座に座すはユグドミレニアの当主ではなかった。病的な白い肌と幽鬼の如き黒い貴族服に身を包む男……ルーマニアに君臨した小さき竜公、英霊・ヴラド三世その人である。そしてその玉座を真の如く見上げ、礼を払うものこそユグドミレニアが当主にして”黒”のランサー・ヴラド三世のマスター、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアである。

 

「ダーニック、今の余がどんな気分か、分かるか」

 

 口元に微笑を浮かべ、さも機嫌よさ気に語る”黒”のランサー。そんな護国の英霊にダーニックはいえ、と謙遜で言葉を濁す。途端、僅かに”黒”のランサーの機嫌が害された。

 

「追従も度が過ぎれば程度が知れるぞ。確かに余はこの国の領主(ロード)であるが、お前が我が主人(マスター)である事実を否定するつもりはない」

 

「……は」

 

 内心失態を働いたことを悔やみつつ、しかしそれを一切表に出さずしてさながら王の臣として完璧に礼を払うダーニック。確かに度が過ぎたことは認めよう。だが礼を払うに越したことはあるまい。相手はあの恐ろしい串刺し公。二万人にも及ぶ侵攻者たちを杭に刺し掲げた恐ろしき君主なのだから。

 

「ふん……だが、許そう。そのような瑣事を気に留めぬほど今日の余は気分が良い。英霊……生前の余にあの者らのような者が一人でも在れば我が身が幽閉されることも無かっただろう」

 

 僅かな悔いにと共に過去に馳せる”黒”のランサー。王が見守る中行なわれた数刻前の英霊召喚。一騎当千の将らとの出会いは、マスターだけではなく、既に召喚されていた彼にも影響を与えたのだろう。感慨に耽るその姿はそれほどに珍しい。

 

「中でもセイバー、ジークフリート。伝説に名高き勇者が我が陣営にあるとは……!」

 

 素晴らしい、と喝采する”黒”のランサー。その思い、ダーニックとて理解できないものではない。

 

 ニーベルングの指環に伝わる邪竜ファフニールを討伐せしめた竜殺しジークフリート。正に最優のクラス・セイバーに相応しい英雄である。伝説に曰く、その背のみ、弱点と成り得るが竜の血で鎧を纏うが如く、堅牢な肉体と竜を殺した魔剣の二つは弱点を補って余りある。……ただそれがゆえにその召喚者に対してダーニックは僅かに懸念を持つ。ジークフリートに不備はない、だが、そのマスターとなると……。

 

「セイバーだけではない。ギリシャ神話の賢者ケイローン、シャルルマーニュ十二勇士のアストルフォ、キャスター・アヴィケブロン……そして、狂乱女王(ファナ・ラ・ロカ)……愛に狂う女王。皆、素晴らしい将だとも」

 

「皆、公の配下、公の将にございます。必ずや彼らは敵対する”赤”の七騎の英霊打ち倒し、万能の杯たる聖杯を公に齎すでしょう」

 

 ダーニックの言葉に”黒”のランサーは満足げに肯いた。

 

「そう、そしてその時こそ、我が血塗られた忌み名。穢れたあの名を雪ごう」

 

 瞬間、昏い光を瞳に灯す”黒”のランサー。民がため、そして信仰のために槍を手に立ち上がった。にも関わらず後世の創作家により、彼には一つの迷信、悪名が付き纏っている。彼はその名を完膚なきまでに葬り去るがため聖杯を求める。あらゆる願いを叶える願望の杯を。

 

「残りはアサシンが揃う時を待つのみ、か」

 

「はい―――ジャック・ザ・リッパー。百年前、英国を震わせたかの連続殺人鬼(シリアルキラー)、彼の者もまた公に勝利を齎す剣となりましょう」

 

 

 

 

 ―――かくして夜が明ける。地平に上る輝きは異形たちの行動を抑圧するように地上の一切を照らし出す。これにて、今晩の宴は終わり、日の光は新たな始まりを告げる合図だ。

 

 さあ……聖杯大戦を始めよう―――最後の役者は、夜明けと共に舞台に上がった。

 

 ―――検索開始

 

 ―――検索終了

 

 ―――一件一致

 

 ―――体格適合

 

 ―――霊格適合

 

 ―――血統適合

 

 ―――人格適合

 

 ―――魔力適合

 

 適合作業終了―――全工程完了……。

 

 サーヴァント・ルーラー、現界―――――完了。

 

 

 フランスの地にて乙女(ラ・ピュセル)が目覚める。

 

 

《開幕の夜明け》




スキル・『星読み』

対象者を中心にその人物の未来に関わる、或いは縁を持つモノを如何なる存在か問わず『星』という形で認識し、その巡りを詠む未来視予言系の能力。
近未来という時空限定ではあるが起こりえる未来をIFを含めて観測する高精度の未来視。
しかし、『星詠み』は詠み取る能力であり、未来を確定させるわけでも回避するわけでもなくただ詠むだけの能力。加えて感覚的に捉えるがため、未来の受け取り方は本人の解釈によるもの。そのため未来視に不備は無くとも使用者が「詠み逃がす」ことで予見した未来から外れる場合がある。


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聖杯大戦Ⅰ

久し振りに投稿。相変らず進まない。


 シギショアラは今回の聖杯戦争が舞台、トゥリファスに最も近く、かつユグドミレニア一族が統べる領域ギリギリ、境界の対極に存在する街である。”赤”の陣営の多くは来るべき戦いに備え、この敵地ギリギリに存在する都市で戦いのための英気を養うと共に陣営を整えている。

 

 既にマスターの九割は此処に終結しており、共に戦う同盟者と顔を合わせるため、予め決められていたシギショアラが名所の一つ、山上にある教会へと集結を始めていた。”赤”のセイバーのマスター、獅子劫界離もその一人である。

 

『……マスター、ちょいと頼みがあるんだが』

 

「おう。なんだ?」

 

 左右頭上の三方を木製の外壁で囲まれた山の上の教会に続く階段を歩む最中、姿無き声に獅子劫は疑念を浮かべることなく応対する。というのもこの姿無き声の主と理由を獅子劫は弁えているのだから当たり前の話である。

 

『服買ってくれ』

 

「なんで?」

 

『霊体化はむず痒い。地に足が付いてないと落ち着かない。ついでに言うならこの格好のままだと昼間に街を出歩けない』

 

 霊体化。それはサーヴァントが魔力による擬似的な実体化を解き、本来の姿たる霊体に成る事。つまるところこの姿無き声の正体はサーヴァント。獅子劫が召喚した”赤”のセイバー、その人であったのだ。

 

『頼むぜマスター。オレのマスターは服を買う程度の散財に渋る吝嗇家じゃないと信じているからな』

 

「……しょうがねえな」

 

 何処か幼稚な、そのささやかな我侭に獅子劫は僅かに嘆息しながら了承する。まあ、ここで揉めて今後に影響するよりかは数千円の金銭で少しの信用を得る方が良心的だろう。

 

 そんなやり取りをしているうちに獅子劫は山の上の教会……”赤”の陣営の集合地点に到達する。魔術師が教会に訪れるとは、と少し皮肉に笑いながら獅子劫は教会の扉に手を掛け、中に入る。

 

 教会内部は典型的なあった。祭壇まで続く身廊、左右に並ぶ長椅子。時刻は九時で今日は晴れ、だが居つくものがものの所為か、心なしか薄暗く鬱蒼としていている。居心地の悪さに少し眉を顰めながら獅子劫は一歩足を踏み出し……ふと、異物に気付いた。

 

 ―――赤が居た。

 

 右側最前列の長椅子。顔を伏せ、座り込む様はまるで神に懺悔する罪人のようだ。或いは旧きより戒律を守る聖人か。赤はまるで石造のように動かず、黙している。その、最早洗い流せない血と怨嗟の呪いを纏った人物に、獅子劫は既知感を覚え……やがて絶句した。

 

「おいおい、なんでお前さんが此処に居る? 協会からはお前さんのことなんて聞いてないぞ? 魔術師殺し(メイガスマーター)

 

「……―――死霊魔術師(ネクロマンサー)、獅子劫界離」

 

 赤いフードと灰色の包帯で顔の大半を隠した、さながら兵士(ソルジャー)のような格好をした男……魔術師殺し(メイガスマーター)と呼ばれた男は呼ばれたことに僅かに反応し、再び石像のように動かなくなる。

 

 しかし淡白な反応をする魔術師殺しと相反して獅子劫は戦慄と共に冷汗を浮かべていた。それも当然、目前の男は荒火事場に身を置く魔術師ならば誰もが一度は聞いたことがあるほどに悪名高い。

 

『……おいマスター、知り合いか?』

 

 己のマスターの反応に訝しげに”赤”のセイバーが問いを投げる。すると、獅子劫は念話でセイバーに言葉を返す。

 

『直接的な面識は無い、が、その筋じゃあかなり名の通った魔術師だ。―――魔術師殺し(メイガスマーター)。魔術師専門の殺し屋で目的のためならば手段を選ばないことで有名でな。過去には目的の魔術師を殺すために一般乗客も居た旅客機を撃墜した、なんて逸話もある奴だ』

 

 加えて、高位の魔術師も既に彼の手によって何人も消されている。それこそ『封印指定』されるような実力者も含め、だ。やり方はどうあれ、こと対魔術師において屈指であることに異論は無い。

 

『……チッ、気にくわねえ。陰鬱なあの面、アグラヴェインの奴を思い出す。気分悪い』

 

『アグラヴェイン……お前さんと同じ円卓の騎士か』

 

『フン、まあな。別に嫌ってたわけじゃあないさ。ケチで融通の利かない奴だったけど、よく知らんが気ぃ使われていたのは気付いてたからな。だが、それはそれとしてあの分からず屋の面は気分悪い。昔、アイツを一人置いて円卓面子で遊びに出た次の日の目を思い出す』

 

『…………』

 

 反応に困る獅子劫。彼とて、アグラヴェインに関しては伝承上で知っているが、所詮伝聞。多くは語れない。とはいえ、少なくともセイバー……その真名・モードレッドの性格と言い分から察するに恐らくは苦労人だったのかもしれない。

 

『その面を見たガレスの奴が……ああいや、この話は別に良い。とにかく気をつけておけよマスター。あの面をしてる奴は大概面倒くさい奴だ。間違いない、オレが保障する』

 

『……そうか』

 

 主観と言うか、私情言うか、別の意見も混ざった警告のようにも聞こえるが、それでもセイバーには『直感』というスキルがある。それに聞く悪名から少なくとも目の前の魔術師殺しが油断なら無い人物であることに疑いは無い。

 

「―――ようこそ」

 

 と、そんなやり取りをしながら立ち尽くしていると祭壇の横についていた扉から声が掛かる。ぎい、と木と木が擦れる音を立てながら扉の向こうから現れたのは神父服を纏った一人の青年……いや、少年。年若く、しかし老齢の神父のような柔らかな笑みを浮かべながら、

 

「初めまして。今回の聖杯大戦の監督役でシロウ・コトミネです。”赤”のマスター、獅子劫界離さん、で宜しいですか?」

 

「ああ。自己紹介はいらないみたいだな」

 

「ええ、まあ」

 

 暗にこちらのことは調べているだろうという嫌味にも神父は柔らかな笑みで答えるのみ。胡散臭い奴だと獅子劫は内心で感想を言う。少なくともまだ二十代か、それよりも若いだろう少年が浮かべて良い笑みではない。

 

「お連れのサーヴァントを実体化させないのですか?」

 

「いや、別に―――」

 

『実体化させろ。マスター、どうも嫌な感じだ』

 

 セイバーの警告。魔術師殺しの時とは違い、明確な敵意を浮かべた警告だ。どうやらこの胡散臭い神父を前に何かを嗅ぎ取ったようだ。獅子劫は否を唱えることなく、即座にラインを通して魔力を供給、”赤”のセイバーを実体化させる。

 

「おや……」

 

「………」

 

 実体化した”赤”のセイバーに神父は一瞬疑念の表情をし、顔をしかめる。その場に居合わせる魔術師殺しも僅かに反応するものの、それだけだ。

 

「……いえ、いいでしょう。それでは私もサーヴァントをお見せしましょうか……実体化しなさい、アサシン」

 

「心得たぞ、我が主」

 

 獅子劫はギョッとして身を引く。背後、神父の声に反応して浮かび上がった気配は獅子劫の直ぐ傍にあった。ついで、神父が口にしたクラスで事態を把握する。

 

「ちっ。アサシンか」

 

 クラス別スキル『気配遮断』を保有するクラス、アサシン。攻撃態勢に移らない限り魔術師は勿論、サーヴァントですら感知が困難なサーヴァントである。その特性上、極めてマスター殺しに特化しており、過去のアサシンの戦いはもっぱら対魔術師であったと聞く。

 

「我は”赤”のアサシン。よろしく頼むぞ。獅子劫とやら」

 

 暗闇が如きドレスと退廃的な雰囲気。万人を蕩かすような妖艶さでアサシンは笑う。その様に引き攣った笑みで獅子劫はどうも、と答える。文字通り、背後を取られたのだ。しかもマスター殺しのアサシンともなれば友好的になど出来ない。

 

「チッ、そこの魔術師殺し(ダンゴムシ)より気にくわねえ」

 

 ボソッと誰にも聞こえないような声で一人愚痴るセイバー。偶々聞き届けた獅子劫はその言葉に不意に噴出しそうになる。

 

「アサシン」

 

「分かっておる。分かっておるとも」

 

 獅子劫の態度に神父はアサシンを諌めに掛かる。コツコツとヒールの音を立てながらアサシンはくつくつと笑いつつ獅子劫から離れ、神父の傍に控える。

 

「さて、早速ですが情報交換と行きましょう」

 

「その前に一つだけ、俺は魔術師殺し(メイガスマーター)が聖杯大戦の参加者だ何て聞いていないぞ」

 

「ああ……確かに、まずはそれを説明すべきでしたね」

 

 獅子劫の問いに神父は一度、魔術師殺しに目を向け、困ったような笑みを浮かべつつ話し始めた。

 

「彼の参加は確かに予定さているものではありませんでした。私自身、そのような話は聞いていませんでしたからね。ですが、彼からの自己申告でして、ロットウェル氏からマスター権を買い取ったとのことで……今回、”赤”のアーチャーのマスターとして参戦する形と成りました。令呪もきちんと手にしていますからね」

 

「買い取った、ね」

 

 『銀蜥蜴』ロットウェル・ベルジンスキーといえば少し面識がある。過去には亜種聖杯戦争で優勝した経験も在り、火事場馴れした魔術師と記憶している。性格を思い出すに金を詰まれてマスター権を譲るような相手ではないが……。

 

「ま、了解した」

 

「ありがとうございます。では、本題に移ってもよろしいでしょうか?」

 

「ああ。問題ない」

 

「では……」

 

 一拍前置き。そしてシロウ神父は語りだす。

 

「既にユグドミレニア一族は六騎のサーヴァントをそろえています。アサシンを除き、既に”黒”はセイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、バーサーカー。アサシンは召喚済みのようですがどうやら国外での召喚だったようで、合流にはしばしの時間が掛かるでしょう」

 

「真名は?」

 

「今はまだ戦闘も行なわれていませんので何とも。ステータスぐらいは把握済みですが……ただ、ランサーに関しては此処がルーマニアであると考えると」

 

「ふむ……」

 

 シロウ神父は一枚の紙を取り出し獅子劫に手渡す。目を通すとそこにはサーヴァントらのステータスが表記されている。取り分けセイバーとアーチャー、ランサーのステータスは流石は三騎士と呼ばれるクラスだけあって高い。特に話題に出たランサーは一つ頭を抜けて高い。

 

「ワラキア公、ヴラド三世。此処がルーマニアであることを加味すれば召喚しない理由はないか。聞くがこっちのランサーは……」

 

「こちらのランサーは負けず劣らず優秀ですが……真名はヴラド三世ではありません」

 

「となると、やはり”黒”か。剣や弓の逸話は無いし、他三騎のステータスはセイバーやアーチャーと比べても劣る、やはり……」

 

「串刺しの逸話を考えるに”黒”のランサーがヴラド三世である可能性は高いでしょう」

 

 トルコがオスマン帝国と呼ばれていた時代。恐ろしきその侵略よりルーマニアを守った英雄、それこそがヴラド三世だ。神の信仰者であったヴラド三世が信仰を弾圧するオスマン帝国から自国を守ったという逸話から時にキリスト世界における世界の盾と呼ばれることもある大英雄。知名度も影響する聖杯戦争において、舞台に伝承する英雄の知名度補正は最高値。間違いなく、ステータスに一、二段階。大幅な強化がなされているはずだ。

 

「こちらのサーヴァントはどうなっている?」

 

 サーヴァントのステータスを記憶し終えた獅子劫は紙を投げ渡しながら次いで、自陣営の状況を問う。

 

「悪くありませんよ。向こうのランサーに負けず劣らず優秀です。アーチャーもヴラド三世に拮抗できる力を持つと断言できます」

 

「―――へえ」

 

 断言するとはよほど強力な英霊を引き連れてきたと見える。アーチャーと名が挙がった時、獅子劫はチラリと、そのマスターらしい魔術師殺しを見るが反応することなく無言で座している。

 

「ともあれ、これで七騎。”赤”のライダーのマスターはまだ合流できていませんが”赤”の陣営はサーヴァントを揃えた事になります。では獅子劫さん、セイバーの真名を教えていただけますか?」

 

 同盟者として陣営内での真名開示は最初から約束されていたことだ。なのでシロウ神父の言葉に疑念を抱く余地は無いのだが……どうもシロウ神父とそのサーヴァント・”赤”のアサシンを見るに意見は変わった。加えて、傍に居るセイバーは敵愾心満々である。さらには魔術師殺しの乱入……当初聞いていなかった人物の参加は獅子劫に”赤”の陣営への不信を抱かせるには十分すぎる。

 

(陣営か、信用か)

 

 ”赤”のセイバーを見る。頭から足まで鎧で包む重装備。体躯は小さく、獅子劫より頭一つ二つほど低いが放たれる威圧、そのステータスは最優とも呼ばれるセイバーのサーヴァントに相応しい。

 

 一瞬の思考。手を取り、足並みを揃えて当初の予定道理、陣営につくか。或いはこの同じ戦場を駆け抜ける相棒の信用と直感を取るか。前者を取れば信用が、後者を取れば最悪、十三対一という不利と共に手と目が足りなくなる。

 

『マスター。どうするんだ?』

 

 セイバーからの念話だ。

 

『あー、お前さんはどう思う?』

 

『嫌だ』

 

『理由は?』

 

『直感だ。突然現れたダンゴムシも神父もアサシンも揃いも揃って胡散臭い』

 

『成る程な……。お前の直感は信用できるな。よし、決めたぞ』

 

 獅子劫は神父ら二人に背を向ける。その行動にシロウ神父はおや、と眉を顰める。

 

「どちらへ?」

 

「ああ、俺たちは俺たちで勝手にやる。幸い、俺のサーヴァントはセイバーだからな。単独行動に支障ない」

 

 最優のサーヴァント・セイバー。その実力は一度に数騎のサーヴァントを相手取っても戦いになるほど。多対一は勿論、どのサーヴァントと戦おうとも敗北の可能性は低い。

 

「すると、共同戦線を取るつもりは無いと?」

 

「ああ、どうやらそっちのサーヴァントも相当に優秀みたいだからな。なんの問題もないだろう」

 

「参りましたね……確かにその通り名のですが」

 

「………」

 

 困ったように頭を掻くシロウ神父。彼以外にも獅子劫の言葉にアサシンは不快気に顔を顰め、石像のように身動きを取らなかった魔術師殺しが僅かに身を動かす。

 

「お主は我々の助力を不要と申すのだな。情報は勿論のこと、こちらの他サーヴァントの戦力も」

 

「まさか情報は欲しいし、力を貸してくれるってんならそれに越したことはないさ。足並みも、まあ多少合わせることに嫌は無い。なんなら買いとってもいいぜ、情報」

 

 獅子劫の言い分にますますアサシンは不愉快気に態度を示す。しかしアサシンが口を重ねるより先にシロウ神父が手で遮る。

 

「残念です。貴方と共に戦いたかったのですが……情報に金銭は不要です。定期的にこちらからそちらに送ります。宜しいですか?」

 

「ああ、それで良い」

 

 じゃあな、と一声。”赤”のセイバーを霊体化させつつ、獅子劫は教会を離れるため、足を踏み出す。その時に一瞬、アーチャーのマスターと目が会う。死んだように黒ずんだ目。だが、その奥に潜む眼光には危険な色を感じた。

 

(シロウ神父に、魔術師殺し、か)

 

 頭の痛い話だと、獅子劫は内心で愚痴りながら最早敵地同然となった教会を離れるため足早に去っていく。

 

 

《”赤”の会合、謀略の気配》

 

 

 

 

「……どうやら、勘付かれてしまったようですね」

 

 教会を後にする獅子劫を見送った後、”赤”のアサシンと魔術師殺しが居残る教会でシロウは困ったように呟いた。そんな主の態度にアサシンは眉を顰めながら、

 

「そうと分かって何故手を打たない。この場で仕留めることも出来ただろうに」

 

「今は同じ聖杯を目指し戦う仲間ですよ?」

 

「ハッ」

 

 シロウの言葉にアサシンが鼻で笑う。そう、確かに仲間だ……()は。しかし彼らには少なくとも何かがあると勘付かれた。今回の計画のためには不確定要素は可能な限り排除すべきだろう。ならば多少のリスクを背負う負ってでも仕留めるべきだとアサシンは進言する。

 

「幸い、こちらにはアーチャーとランサーが居る。如何にセイバーとはいえ、あの二騎を相手に勝ち目など無い。或いは……そこな男を差し向ければ楽してセイバーを手に収める事も叶うやもしれんぞ? のう、どうなのだ、塵殺者」

 

「……同意見だ。綿密な計画においてイレギュラーはあるだけ脅威、あの男を殺しに行くことに異論は無い。無為な殺戮を好まない、という理由で程度(・・)で躊躇っているならば同盟は廃棄させてもらうぞ、神父」

 

 今まで石造のように何も口にせず、身動き一つ取らなかった魔術師殺しが冷たい口調で言い放つ。その、殺しに何の躊躇いも見せない言い方は正しく戦場を駆け抜け、死生の尊厳を合理で踏みにじる兵士のそれだ。

 

「無為な殺戮を好まない、というのは否定しませんが、それよりもこの場で仕留めるには些か場所が悪い。此処で三騎士クラスのサーヴァントが戦い合えば人の目に間違いなくつくでしょう。秘匿の観点から見て、ここで手を打つのは愚作だというのが一つ」

 

「ならば夜間に襲えば良い。今からでも使い魔で追える。そうすれば人の目に付くことなく、速やかにあの者共を排することが出来よう」

 

 神秘とは隠すもの。暴かれた神秘はその力を失う。そう言った性質上、魔術世界の知恵を、技術を、技を表社会に持ち出すことは最大のタブー。流出させた者も、それを知った表社会の人間も問答無用で殺される。それが魔術社会である。

 

 元より『時計塔』もそのために存在し、また聖杯戦争における監督役というのも魔術師たちとサーヴァントが行なう大規模かつ苛烈な戦いを人の目に洩らさないために存在するのだ。

 

「使い魔を出せば疑念が確信に変わりかねません。警戒される分には問題ありませんが、勘付かれれば脅威です。今はまだ、余計な手を出して薮蛇に噛まれるより準備が整うまで隠す方が先決です。”黒”の陣営と明確に組まれるか、或いは未だ合流できていない”赤”のライダーのマスターと組まれるとそれこそ厄介だ」

 

「その”赤”のライダーはどうなっている?」

 

「さて、ルーマニア入りをし既にサーヴァントを召喚していることも確認できていますが、位置までは。ブカレストに居るようですが……」

 

「フン、我の使い魔でも姿が確認できん。察するに結界か何かで姿を隠しているのだろうが、イレギュラーといえばこちらも負けず劣らずと言えよう。この時点で計画に気付かれたとも思えん。最初から足並みを揃えるつもりが無いのではないか?」

 

「その可能性が一番高いでしょうね。……貴方はどうお考えですか? 宜しければ意見をお伺いしたいのですが……」

 

「ライダーのマスターであるはずの相馬晃は魔術師だ。それも根源にしか興味のない生粋の魔術師。そう考えればこの場に姿を見せず単独で行動することに違和感はない」

 

 シロウに対し、魔術師殺しは端的に答える。恐らくは敵も味方も調べ尽くしているのだろう。

 

「生粋の魔術師ですか。成る程」

 

「根源を目指す以外に盲目な魔術師ならば確かに利益を優先して単独行動もありえるか、マスターはどのような意見なのだ?」

 

「概ね同じく。相馬晃は極島の、五百年と続く魔術師家系に生まれた魔術師です。時計塔では十代でかなり優秀だと聞いています。こと、霊体に関する理解はそれこそ一流の魔術師とも比肩すると。しかし腕や伝え聞く賞賛に反し彼の研究や成果に関しては殆ど資料がありません。優秀にも関わらず研究や成果が見ないところから彼が極めて利己的な魔術師であることに疑いはありません」

 

 相馬晃はエルメロイⅡ世率いる新世代(ニューエイジ)こと『エルメロイ教室』や名だたる使い手として勇名があるわけではないが、講師陣からの信頼厚く、その成績はトップクラスだと資料には残されている。しかしそれに反して、それ以上の殆ど情報は殆ど出てこない。これは彼が自らその手を隠しているということで間違いあるまい。

 

 加えて、派閥争いで忙しい策謀権力が渦巻く時計塔において彼は学徒以上に関わりを持っていない。これは彼があくまで魔術の研究のためだけに時計塔に所属していることを示している。

 

「ならば目下の脅威は……」

 

「―――馬だ(A_horse)! 馬を引け(A horse)

 馬を引いてきたら王国をくれてやるぞ(My kingdom for a horse)!」

 

 策謀に耽る三人が居合わせる場に場違いなほどに喧しい声が響く、次いで乱雑にバン! と開け放たれる扉。しん、と静まり返る反応をする一同の中、シロウがおずおずと申し訳なさそうな表情で口を開く。

 

「……自作の台詞ですか?」

 

 その言葉に乱入者……”赤”のキャスターは何とも芝居がかった過度な態度で失望を見せる。あからさまに肩をガクッと下げながら、

 

「何と言うことだ! 我が傑作劇を今に生きながらご存じないと仰るか! マスター(・・・・)! どうかこれをお読みになってください―――求道者殿も如何かな?」

 

 既にアサシンのマスターを名乗ったシロウを奇怪なことにマスターと呼ぶ男は懐から本を取り出しつつ、二人にその本を薦めに掛かる。

 

「……『リチャード三世』は既に概要は知っている。”赤”のキャスター、君は邪魔をしに来たのか?」

 

「おお! 我が作品をご存知であったか求道者殿! しかしこれには他にも我が傑作劇が多く記されております! ささ、お読みになるとよろしい。マスターもどうぞ」

 

 『ハムレット』や『リア王』と比べると知名度はさして高くない史劇のタイトルを既知と口にした魔術師殺しに”赤”のキャスターは手を叩いて喜び、一冊の本『シェイクスピア大全集』を差し出す。

 

 ―――最早疑うまでも無いだろう。この本に記された作品らを「我が傑作劇」などと呼べる者はこの世にたった一人、作者以外にありえない。”赤”のキャスター、真名をシェイクスピアは苦言を呈する魔術師殺しをもろともせず本を握らせるように手渡し、シロウ神父にも差し出す。

 

「お主。本当に何をしに来たのだ? よもや塵殺者の言うように邪魔をしに来たのではあるまいな?」

 

「まさか! アッシリアの女帝よ。悲しいことを仰らないでいただきたい! 私はただマスターのため、大急ぎで駆けつけたまで! ハハ、「恋人も狂人も頭が沸騰している(Lovers and madmen have such seething brains)」というように、狂戦士のような存在は―――」

 

「前置きは良い。答えろキャスター。何があった」

 

 深淵のように深く底の見えない瞳でキャスターを睨むように冷たく魔術師殺しが言い放つ。

 

「おおっと失礼。我輩としたことが「森には時計なんてないよ(There's no clock in the forest)」! つまり時間の流れは場所と人とで違うと―――ああ、そんなに睨まないでください! 我輩、荒事はからっきしでありまして」

 

「ええい! さっさと話さぬか!」

 

 一々本筋からズレるキャスターに遂にアサシンも耐え切れなくなって詰め寄る。宮廷道化もかくやというキャスターはにまにまとへつらう様に笑いながらいよいよ声高に告げる。

 

「バーサーカーがトゥリファスに向け、歩き始めました。どうやら仕留めるべき相手を見定めたようで……」

 

「な―――」

 

「………」

 

「おや、困りましたね」

 

 反応は三者三様。しかし共通事項として皆驚愕を浮かべている。バーサーカーも含むサーヴァントたちには未だこれといって命令を出してはいない。にも関わらず待機から行動を起こしたバーサーカーは間違いなく、

 

「暴走……か」

 

「ええ、ええ! 今は求道者殿のサーヴァント、東方の大英雄殿が急ぎ追い出しましたが、押し留めるならばともかく連れ戻すとなれば……恐らく失敗に終わるでしょうな!」

 

「笑い事ではないぞキャスター」

 

 単独での襲撃。しかも敵の本拠地への。まだ準備も整っていない段階でのそれは十中八九失敗に終わるだろう。何せ、向こうは本拠地のテリトリーに加え、六騎のサーヴァント。バーサーカー単騎駆けで攻略することなど不可能だ。

 

「……ああ、そうか。分かった。お前は一度、こちらに戻って来い、アーチャー」

 

「ふむ? 求道者殿?」

 

「理性を吹き飛ばしたバーサーカーに説得は効かない。追うだけ無駄だ。それならバーサーカーが落ちた事を前提にこれから作戦を組む方が建設的だ」

 

 恐らくは念話だろう。アーチャーに戻るよう命令する魔術師殺しにキャスターは疑念の顔で問いを投げるが、にべも無く端的に魔術師殺しはバーサーカーを見捨てる選択を選んだ。

 

「勝手な―――」

 

「いえ、構いません」

 

 その行動にアサシンが目くじらを立て物申そうとするがシロウはそれよりも早くアサシンの言葉を遮り、

 

「ですが、無為に一騎落すわけには行きません。敵情視察を兼ねて、可能なら倒してしまっても構いませんが……お願いできますか?」

 

「……いいだろう。体制が整い次第、僕が対応しよう。ランサーは……」

 

「ええ、貴方の判断にお任せします。―――衛宮さん」

 

「………」

 

 スッと立ち上がり、それ以上言葉を重ねることなく魔術師殺しと呼ばれる男―――衛宮切嗣は教会を後にする。残ったのはシロウとアサシン、そしてキャスターだけ。

 

「正しく「災厄よ、(Mischief,)やっと動き出したか。後は汝の思うがままに(thou art afoot, Take thou what course thou wilt)!」……というわけですな」

 

「―――やはり唆したのは貴方ですか、キャスター」

 

 シロウの言葉にキャスターが目を逸らす。

 

「トゥリファスの場所を教えたのか、全くお主は―――」

 

「ハハ、我輩と言う男は正にトラブルメーカー、或いはトリックスターですからな!」

 

 悪びれない態度のキャスター。いよいよアサシンも額に青筋を浮かべるが、シロウはその一連の会話を眺め、軽く首を振りつつ、アサシンに向けて命令する。

 

「アサシン、使い魔で暫くバーサーカーの監視をお願いします。深追いはせず、位置情報だけを突き止めていただければ構いません。何かあれば衛宮さんに。私は監督役の仕事に追われるでしょうから」

 

「フン、了解したぞマスター。ついでに獅子劫とやらにも件のことを伝えておこう」

 

「ありがとうございます―――それからキャスター」

 

「おお、なんでしょうかな? マスター。我輩、残念なことに物語を記する以外には点で役に立てませんぞ?」

 

「分かっています。貴方の物語へ対する欲も。ですから此度の一件は不問とします……そう焦らずとも、間もなく聖杯大戦は始まります。七騎と七騎の、最大規模の戦争。聖杯大戦―――この戦いは必ずや貴方を満足させるでしょう」

 

 柔らかな笑みで神父は告げる。その笑みは澄んでいて、純粋で、危うい(・・・)。まるでその戦いのためだけに生きてきたかのような、戦を望むが如き底知れない言葉に狂言回し(シェイクスピア)は、

 

「それは、それは―――」

 

 一種、狂気さえ思わせる笑みで深く、深く笑う。

 

「さあ、始めましょう。聖杯大戦を―――」

 

 

《”赤”の陣営、邪な気配》

 

 




……あれ?

おかしいな、またジャンヌ嬢が出なかった……。
何がどうなっているんだ!?(懲りない)



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聖杯大戦Ⅱ

久しく投稿。




 深夜。静まり返ったシギショアラの街を徘徊する一つの影があった。何処か憂いを帯びた表情の女性。ふわふわと現実感を欠いた雰囲気で道往く様はさながら蠱惑的な花の如く。夜の街を往く誘蛾灯のようだ。

 

 実際、彼女の雰囲気に釣られてふらふらと酒精を漂わせる男たちが香りに寄せられやってくるが、声をかける直前、それが憐れな虫を引き寄せる誘蛾灯そのもの(・・・・)であることに気付き、離れていく。しかし察しの悪い者……いや、この場合は彼女に魅入られた運の悪い者はその危険に気付かずふらふらと彼女に下卑たる欲望を抱きながら近づいていって―――。

 

「あ?」

 

 即座にその場に倒れ落ちる。彼女に手が届く寸前、誘蛾灯に釣られてきた男たちはまるで身体の血をごっそり持っていかれるような全身から力が抜ける虚脱感を感じつつ、次の瞬間には意識を失っていた。

 

「これで足りるかしら?」

 

 ふと、倒れ落ちた男たちを見下ろして小首を傾げる女性。その様は可愛らしいというより、妖艶といった雰囲気だ。水商売を生業としてきた彼女は最早習慣の域で、動作一つ一つで男を掻き立てるような仕草をする。しかし、問いかけられた方はそんな彼女に魅入られた様子一つなく、淡々と返す。

 

『問題ない。(オレ)はそう対した英霊でもないからな。消費魔力が少ないのが唯一の利点みたいなものだ。実際、この調子ならば一度だけならば宝具を使用した戦闘が可能だ』

 

「そう、でも多いに越したことは無いのでしょう? 私たちがどの陣営にも所属していない以上、連戦や混戦も考えて集められる時に集めた方がいいんじゃないかしら?」

 

『道理だな。確かに後、数人ばかりの魔力を貰っておいた方が良いかもしれん。本格的に聖杯大戦が始まっていない今が大胆に動ける時だからな』

 

「じゃあもう少し集めて回りましょうか」

 

 姿無き声―――”黒”のアサシンと会話する女性、六導玲霞は夜のシギショアラで”黒”のアサシンのため、魔力を集めて回っていた。魔術師でない彼女はアサシンに対して魔力供給が出来ない。そのため、彼女は夜の街を徘徊し、寄って来る男たちから生命力、即ち僅かばかりの魔力を回収して回っていた。

 

 魔術師でない人間から魔力を回収するには手っ取り早く魂食いをさせた方が早いのだが、必要以上の殺しを好まない”黒”のアサシンに合わせ、精々二、三日寝込む程度の生命力のみを奪って、”黒”のアサシンの現界魔力として補充しているのだ。外道であるが殺して回るよりかは甘い方法を取っているのに間違いは無い。

 

「しかし、(オレ)が居るとはいえ、対した度胸だ。夜の街を徘徊することで起きるリスクは(オレ)たちのような常識からはみ出た者共だけではあるまい。真っ当な常識に存在する脅威もあろう」

 

 法治国家として規格外の安全性を誇る日本と違い、外国の夜に徘徊するのは魔術師などの非常識だけでない。寧ろ常識に存在する脅威の方が魔術師よりも危険だ。人攫い、暴漢、詐欺師、ギャング、果ては殺人鬼。他にも彼女のような見麗しい女を集団で襲う下衆も居よう。実際、先ほどから絡もうとしてくる男どもはそういう部類だ。如何にアサシンが居るにしても彼女は毛ほどの恐怖を漂わせていない。それが”黒”のアサシンには不思議であった。

 

『勇気ある、というわけではあるまい。もしや、その雰囲気は真に現実感を欠いているというのか?』

 

「どうかしら? 確かに聖杯大戦なんて、今まで生きてきた経験(じんせい)を引っくり返すような摩訶不思議なことだけれど……」

 

 ”黒”のアサシンの言葉に彼女は朧げな返答でしか返せなかった。実際、彼女は自分が何故、こうも脅威も恐怖も感じないのかが不思議だったからだ。危機感がないというわけではない。彼女の頭には常に捕まったらどうなるかとか、魔術師が襲い掛かってきたらどうするとか、危険に対する対応と対処方法が常にシャボン玉のように浮かんでは消えていく。

 

 例えるならば自分とは別の場所に居る自分が冷静に現実を俯瞰している感じ。思考と行動が別にあるから動作一つ一つがかみ合わず、結果的にふわふわする。玲霞の現状は正にそのように例えられる。

 

『まあ良い。その行動が勇気であれ、狂気であれ、常に冷静であるという点は(オレ)としても好ましい。いざ、戦闘が始まれば君には逃げ回るか隠れ潜むかをしてもらわなければ困るからな。何せ、(オレ)の本分は暗殺。真っ当な戦闘、まして主を庇いながらなど群雄割拠する一騎当千の英霊達に演じられるはずも無い』

 

 彼は”黒”のアサシンだ。隠れ潜み、速やかにターゲットを狩る事にかけては一級品だが、戦闘能力は決して高くない。魔術師程度ならば数秒と有さず刈り取ることは出来ようが、英霊相手では話が違う。彼らは”黒”のアサシンと違い、多くが歴史に華々しい功績を残し、後代に名を残した強兵達。所詮はある都市伝説と殺人鬼の伝承に残る辛うじて英霊足り得る”黒”のアサシンとは文字通り格が違うのだ。

 

「そうね。まだ本格的に始まっていないといっても浮いた駒を始まる前に狩って置くということもあるもの。次で今日の魔力回収は最後に―――」

 

『―――いや、済まない雇い主(マスター)。一手、遅かった……結界だ』

 

 警告と同時、玲霞は空気が変わるのを肌身で感じる。魔術師ではないが、此処が先ほどまで居た場所と異なる雰囲気であることは容易に感じ取れた。先ほどが文明の闇という冷たさならば、今はそれら人の営みに寄らない夜の静寂だ。まるで街から離れた山奥にでも入り込んだような、そんな気配。結界、とは良く分からないが人並みには書物を読む彼女はそれが仏教の用語であり、伝奇小説などでいうところの向こうとこちら、言ってしまえば現実に空白を作るものであることは理解できる。

 

 詰まる所、既に敵の掌。何処の誰かは知らないが待ち構えていた自分たちと同じ常識に不在する者の仕業であることは間違いない。

 

「チッ、これでも魔術にはある程度、心得があったのだがな。察するに特定の条件が揃って初めて機能する結界か。この場合は(霊体)が踏み入ることで発動するといったところか。しかも、これは―――」

 

「―――あれ? アサシンかと思ったけどキャスターだったのか? まあ、どちらにせよ”黒”であることには間違い無さそうだ。それも俺たちと同じはぐれ者」

 

 敵地に踏み入ってしまったことを察知するなり実体化した”黒”のアサシンは即座に眼を光らせ、結界の正体を見切る。そして、その言葉に想定していなかった第三者、即ちこの結界を仕込んだであろうものが声と姿を露わにして答え合わせとばかりに自ら結界の正体を晒す。

 

義姉(あね)さんから以前、視覚効果と物体配置だけで作る魔術を使わない結界の話を聞いてね。幸い、東洋の魔術はその手の儀式系魔術に富んでるんで、自分なりにアレンジを加えたそれを再現してみたんだが、どうやらサーヴァントの目も誤魔化せるようだねえ。いやあ、俺の腕も捨てたもんじゃないと、そう思わないか? ライダー?」

 

「準備に半日を要したがのう。それも私の占いで予め、そちらが通ると分かった上での準備だ。そういう意味ではおんしの腕にのみ寄ったとは言い難いのではないか?」

 

「おいおい、そこは大したもんだと世辞でも褒めるのが良い女なんじゃないのか? 男を立てるという感じで」

 

「ふふ、生憎この身はサーヴァント。戦況を冷静に評価し、マスターを勝利に導くための剣であり盾。男を立てるお役は今は御免だ。そうさな、当代風にいうならば管轄外じゃ」

 

「そいつは残念。だったらお役目をきちんとこなしてくれよ、ライダー?」

 

「任されよ」

 

 玲霞らが立っている通りから見上げた住宅の屋根。そこに月をバックに二つの影が立っていた。楽しげに軽薄な口調で喋る少年とその少年と同じく楽しげに会話に興じる女性。両者は余裕有りげに、しかし張り詰めた緊張を途切れさせることなく玲霞と”黒”のアサシンを見下ろしている。

 

「”赤”のサーヴァント……ライダーか」

 

「しかり、そういうそちらは”黒”のサーヴァントに相違ないな」

 

 ”黒”のアサシンの問いかけに隠すことなく飄々と返す”赤”のライダー。誰にでも親しげな雰囲気であるが、身構えた彼女の立ち振る舞いに隙はなく、いつでも戦闘を始められるといった姿勢だ。それに思わず”黒”のアサシンは表情は鉄面皮のまま、心の中で舌打ちをする。極めて近接戦闘に優れたセイバーやランサーでなかったのは幸いだが、だからといって正面からアサシンが叶う相手ではない。

 

 加えて、彼らの言葉から察するにこちらがこの場に現れることを事前に読んでいたらしい言い分だ。感知か、或いは未来予知か、どちらにせよこちらの行動が事前に読まれているということはそれだけで脅威だ。ライダーのマスター曰く、この結界が予め用意されたものだというならばその、予め用意したものが結界だけとは限らない。

 

 完全に後手に回ったことを”黒”のアサシンは悟った。それは彼のマスターも同じらしく、ふわふわとした雰囲気は相変らずにしかし、僅かに厳しげな表情になっている。

 

「おっと、身構えないでくれよ。そっちが手出さなきゃこっちから手を出す気はないからさ」

 

 よっと、警戒するこちらに反するように掛け声と共に同じ視線に降り立つ”赤”のライダーのマスター。彼は十数メートルの間合いを、仕掛けても仕掛けられても大丈夫な間合いを保ちつつ、親しげに声をかけてくる。

 

「ほう? ことを構える気はないというか”赤”のマスター」

 

「少なくともこっちからはな。そっちがやる気なら話は別だが」

 

 両手をひらひらとさせる”赤”のマスター。どうやらやる気が無いというのは本当らしい。そもそも、冷静に考えれば結界にも彼らにも気付かれなかった段階で、彼らはいつでも奇襲できた。そしてライダーと魔術師、両者の完全なる奇襲を前にマスターを守りながら対応することは如何に”黒”のアサシンでも不可能。先手を取られ、しかし仕掛けてこなかった時点で戦闘とは異なる思惑があるのは間違いない。

 

「………若いのね? 貴方が”赤”の陣営の」

 

「その通りだ”黒”のマスター。立場のみなら似たもの同士だぜ? 同じ日本人、同じはぐれマスターだからな」

 

 玲霞の呟きに応える”赤”のマスター。彼女の日本語で呟いた独り言を聞き、流暢な日本語で返すこと、そして自己申告からして彼もまた日本人らしい。だが、重要なのはそこではない。玲霞はふわふわした印象とはちぐはぐな思考の冴えでしっかりと彼の言葉を聞き届けていた。

 

「同じはぐれマスター? ということは貴方も”赤”の陣営には属していない”赤”のマスターだということ?」

 

「その通り。セイバーのマスターはともかく、どうもこっちの陣営は怪しくてね。ライダーの見立ても考慮して距離を置かせてもらってるのさ。共同戦線を張るつもりはあるが仲良く”黒”をってつもりはない。そっちも事情は異なってもはぐれなんだろ? ミレニア城砦に引きこもってるであろうサーヴァントのマスターたちが、”赤”の陣営の膝元で暗躍しているっていうのは可笑しいし、そこのサーヴァントが単騎駆けでならともかく、マスターもってことはな。それにどうも魔力の気配も感じないし」

 

 察するに正規のマスターではないだろ。と意図も容易くこちらの事情を察する”赤”のマスター。どうやら持ち得る情報も、判断能力も向こうが卓越している。こちらより情報を多く持ち合わせて居たにせよ、あっさりこっちの事情を察する辺り歳若い割には経験も潤沢なのかもしれない。恐らく、戦闘経験も。

 

「それで、そんなはぐれマスターさんは私たちに何の用かしら? 戦闘をする気はないみたいだけれど……それとも単に見かけたから世間話? 貴方、そういうの好きそうだわ」

 

「まあ嫌いじゃないねえ。特にアンタみたいな色気のある女性とは是非ともお近づきになりたいとも! だけど今回は残念ながらただの商談さ」

 

「商談。こちらに対する益もある交渉ということね」

 

「へえ、いいねえ。察しの良い相手は嫌いじゃない。やりやすいし、実に無駄が無い」

 

 無駄が無いのは美しい。と気分良さげに言う”赤”のマスター。その隙に玲霞は素早く”赤”のマスターから視線を外し、周囲を窺い、逃げ道や利用できそうなものに気を配った後、”黒”のアサシンに気を向ける。彼は黙りこくり、”赤”のマスターと自分のやり取りを静観しているが警戒は解かず、いつでも戦いを始められるように気構えている。玲霞の様子に気付くとこちらに向けて僅かに肯いてみせる。どうやら荒事対応は任せろとのこと。では、そちらに甘えて、こちらはこちらの役目を果たそう。

 

「そう、じゃあ提案を聞きましょうか。若い”赤”のマスターさん」

 

「話が早くて助かるぜ。色気のある”黒”のマスター殿。まあ、なんだ、端的に言ってさ―――――俺たちと手を組まないか? 同じはぐれ同士、さ」

 

 

《首都の夜》

 

 

 

 

「おらぁ!」

 

 チンピラめいた掛け声と共に土くれにて製造された魔術人形、ゴーレムが一体粉砕される。”赤”のセイバー、モードレッドの体躯は小柄でその体躯を遥かに上回るゴーレムを相手に、しかし圧倒していた。拳を振るえば粉砕され、蹴りを食らわせれば吹き飛ぶ。それは彼女の持つ『魔力放出』スキルによる威力補正であった。これによって彼女の五体は並みの怪力よりも強力な力をその五体に宿しているのだ。加えて、彼女は嘗て誉れ高きアーサー王伝説に幕引きを与えた叛逆の騎士。その戦いがゴロツキめいたチンピラのそれであってもたかだかゴーレム風情に劣るわけもなく、ただただ圧倒していた。

 

「これで十一っと! ハッ、これで終いかよ。大したことねえな、全く」

 

 ミレニア城砦眼下に広がる街並み、トゥリファス。ミレニア城砦から出てこないユグドミレニアのマスターらの動向を探るため、かの城塞を観察するに適した場所を探している時に襲い掛かってきたユグドミレニアが差し向けただろうゴーレムは以って呆気なく全滅した。

 

「そっちも終わったみたいだなセイバー」

 

「あたぼうよ……って、へえ。中々やるじゃねえか死霊魔術師(ネクロマンサー)

 

 潔くゴーレムを全滅させたセイバーに獅子劫が声を掛ける。セイバーはその声に鼻を鳴らしながら当然とばかりに返し……獅子劫の足元に転がっているホムンクルスらの死骸を見て感心した。

 

「ま、これぐらいじゃあな。どうやら、襲撃者はこれで全滅みたいだな」

 

「ああ。ったく、この程度の連中でオレが倒せるとでも思ったのかよ」

 

「ただの威力偵察だろう。丁度、単独で動いていたからな。お前さんがどれ位やるのか、向こうも気になってしょうがないだろうし」

 

 セイバー、といえば聖杯戦争において最優と呼ばれるクラスのサーヴァントだ。その身には多く対魔力と呼ばれる魔術に対する高い耐性を持ち、総合的ステータスも高い。七騎の聖杯戦争においてもセイバークラスを召喚したマスターは悉くが最後まで生き残る、または勝利をその手に収めるほどだ。

 

 無論、これは聖杯大戦。七騎対七騎の勝負であり、如何に強大なセイバーが相手でもチーム戦である以上、複数で掛かれば倒せぬ敵ではない。しかし、優れたサーヴァントであるゆえに戦いを左右する切り札であることには違いなく、ともすれば敵方の切り札がどの程度やるのか測りに来るのは陣営として当然といえよう。

 

「しかし、このゴーレム……古いな五百年、いや八百年以上か。”黒”のキャスターか他のサーヴァントが召喚した使い魔だろうが、ってあちィ!?」

 

 セイバーによって悉く粉砕されたゴーレムの中からコアの部分に当たる品を取り出し目利きする獅子劫。しかしその最中、勝手に燃焼し消滅してしまう。

 

「ふう、証拠隠滅ってか」

 

「んなこたあどうでも良いんだよ。それより今日はもう終わりか。思ったより味気ないんだな聖杯大戦ってのは」

 

「まだまだ序盤も序盤。お互いが手の内を読んでいる最中って言ってもお前さんにとっちゃあ確かにつまらない状況か」

 

 戦い方が表すようにセイバーはやや粗野で好戦的。そんな彼女からすれば相手にもならないゴーレムを潰すだけの戦闘とさえ言えないものは拍子抜けの極みなのだろう。

 

「さて、そろそろ帰るぞ。ここに使い魔たちが居た以上、向こうさんも此処が攻城拠点になり得るってことは想定内ってことだ。城砦攻略をするにしても此処は使えない」

 

「へいへい。ま、今日のところはこれぐらいで満足しておくか。石人形の相手は初めてだったが、数合持つとは思わなかった」

 

「へぇ、お前さん相手に数合ね」

 

 セイバーは真名をモードレッドとだけあってそのステータスは平均的なサーヴァントのステータスを遥かに上回っている。ともすれば、凡百のサーヴァントを一蹴する程度には。それを相手に数合持たせられるという時点で彼女を相手取ったゴーレムが優れているのは間違いない。

 

「ゴーレム使いのサーヴァントか。これだけじゃあ名前は絞り込めんが、対策は取れるかな?」

 

 どのサーヴァントかまでは分からないが敵に少なくともゴーレムを使うサーヴァントがいると分かっただけで甲斐はあった。ともかくこれを戦果に一旦拠点に戻るべきだろう。

 

「その辺はマスターに任せるさ。それより終わりか? 終わりで良いんだな? いい加減、この兜を被ってんのも―――いや、なんだよ。向こうも多少はやる気じゃねえか」

 

「何? それはどういうことだセイ」

 

 急かす様に帰還の雰囲気を漂わせていたセイバーの言葉に突如として緊張と喜悦の色が混じる。その雰囲気の変化を問いかけようとして、獅子劫が呼びかける寸前、その理由が向こうからやってきた。

 

「Aaaaaaaaaaaaaaaa―――――」

 

「ハッ、石人形にホムンクルスと続いて今度は動く死体(・・・・)かよ。いい加減物言わぬ人形ばかりは芸が無いぞ”黒”の連中。で、どうするんだマスター、これ、死霊魔術師(マスター)の得意分野だろ?」

 

 ガキンと得物たる大剣―――銘を王剣クラレント―――を肩に背負いながら楽しげに己がマスターに問うセイバー。彼女の眼先、そこには黒い煙と腐臭を漂わす死体とした称せないものが居た。口から怖気の奔る呻き声を上げつつ、ゆらゆらとこちらに近づいてくる様は一昔前のゾンビ映画のようだ。

 

「使い魔? いや、サーヴァントなのか?」

 

「どっちでもいいさ。それよりどうするんだ。向こうはやる気満々みたいだぜ?」

 

「Oooouuuuuuuuuu―――」

 

 ゆらりと不気味なそれは手を中空に彷徨わせる、と次の瞬間、黒い煙が収束したと思えばいつの間にか何もなかったその手にボロボロの槍が握られていた。見れば姿も所々欠損(・・)があるとはいえ、何処か騎士然としている。腐敗が進みボロボロだが、顔も見れば元は良かっただろうことも分かる。

 

(俺と同じ死霊魔術師(ネクロマンサー)の仕業か? にしてもこれ、ただの動く死体じゃねえな)

 

 動く死体(リビングデッド)など死霊魔術師である獅子劫にとってさして珍しいものではない。しかし、この死体はどうにも不気味だ。薄気味悪いというか怨念めいているというか狂気めいているというか。さながら恨み辛みで『場』そのものに縛られた自縛霊の如く。もしや、これも敵サーヴァントの?

 

「セイバー、気をつけるよ。よく分からんが、そいつ。さっきの連中とは違うぞ」

 

「分かってるよ。見りゃあ分かる、けどなァ……動く死体程度じゃオレは取れねえぞッ!!」

 

 ズドン! と強烈な踏み込みと共に先手を往くはセイバー。『魔力放出』によって高められたスタートダッシュは用意に音速の域に踏み入る。一瞬で中距離の間合いに到達したセイバーはクラレントに魔力を叩き込む……クラレントの能力、赤雷が迸る。それを、

 

「喰らいやがれ!!」

 

 動く死体に叩き付けた。セイバーは粗野で好戦的であるが、決して愚かではない。未知の相手に極近距離で剣を振るえるほど慢心はない。仕留める気で、しかし様子見も兼ねて一定の距離を保ちつつ、中距離で攻撃するという選択肢は決して間違いではない。

 

「Aaaaa―――――Urrrrrrrrrrrrr!!!!!」

 

 明確な敵対行為に動く死体の緩慢な動作が消え、同時に壮絶な咆哮と共に迫る赤雷に踊りかかる。朽ち果てた槍を横なぎに一閃し、払う。バチバチと強烈な音を立てながらセイバーが放った赤雷は呆気なく払い退けられる。

 

「ハッ、ちったぁやるじゃねえか」

 

「―――!!!」

 

 大気の壁に何かが激突するような衝撃音。次いで攻撃を払い退けた動く死体の極近距離からセイバーの声が聞こえた。驚愕の意か、喉を抜ける音を洩らす動く死体が気付いた時には中距離に居たはずのセイバーが自分の目の前に存在していた。認識が遅れたこともそうだが、まるで画面のコマ飛ばしのように現れたセイバーの機動性にも驚異を覚える。

 

「喰らえ!」

 

 セイバーはクラレント……ではなく、右拳を振りかぶって動く死体の頬に叩き付ける。小さな体躯からは想像もつかない一撃に動く死体は吹き飛ばされ、

 

「まだだぜ……もう一撃ィ!!」

 

 ガッ、と捕まれる足。動く死体が後方に吹き飛ぶよりも速くセイバーは叩き付けた右拳を開き、動く死体の足を繋ぎ止めていた。そしてもう片手、今にも暴発しそうなほど放電するクラレントを無防備な動く死体の胴体に叩き付けた。スパークしながら切り付けると言うより叩き斬る勢いで打ち付けられたそれは石作りの地面に葉脈のような亀裂を張り巡らした後、動く死体の肉体を雷で焼きながら止まった。

 

「ゴッホゴホ。ふう、どうよ?」

 

 土煙の所為か咳き込みながらセイバーは剣を地面に突き立て、数十メートル先の建物の影までいつの間にか避難している己がマスターに自慢げに問う。

 

「……やり過ぎだ。どうすんだよそれ」

 

 獅子劫の目線の先には砕け散った通りの石畳。文字通り陥没したそれはセイバーの一撃が如何に強力であったかを示すと同時に手慰み程度の魔術では修復不可能であることを示している。

 

「お前さん、加減ってモンを本当に知らないのな。さっきの一撃、結界を張ってなきゃどうなっていたか」

 

「おいおい、マスター。向こうから仕掛けてきたんだぜ? だったらこっちに非はねえ。えっと、せいとうぼうえーって奴だ」

 

「過剰防衛の間違いじゃないのか? いや、良い。それで? 仕留めたか」

 

「おう、手ごたえはあったしな……けほ、ゴホ」

 

 その言葉通り、土煙が晴れるなり、そこには文字通り粉微塵となった死体が転がっている。いや、もうこうなっては死体とさえ呼べない。

 

「なんだったんだ一体? つーか、見てくれは驚いたが、こいつも大したことなかったな。けほけほ」

 

「ああ。それにしてもゴーレムを使うサーヴァントに死体を操るサーヴァントか……こっちは戦果としちゃあまあまあだが、最後のコイツは何だってこのタイミングで仕掛けてきやがったんだ? 偵察ならさっきのゴーレムで十分だっただろうに」

 

「さあな。大方、ゴーレムが余りにも呆気なくやられたんで勝ち急いだんじゃ、ゴッホ! ねえのか、ケホ……」

 

「それもあるだろうが……なあセイバー」

 

「どうした?」

 

「お前さん、その咳どうした?」

 

 咳き込むセイバーに獅子劫は訝しげに問いかける。土煙はとっくに晴れたというのにいまだ咳をするセイバーに違和感を覚えたのだ。

 

「あぁ、なんか変なところに吸い込んだ。大したことはねえから大丈夫だろ、ケホ」

 

「……ならいいけどよ」

 

「それよりさっさと帰るぞ、この兜息苦しいんだよな」

 

 そういって兜を脱ぐセイバー―――モードレッドの宝具『不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)』は一部ステータスを隠蔽することができる宝具だ。真名や固有スキルなどを隠せるこの便利な宝具は兜と鎧、この二つをセットの状態で脱いだ時、初めて解除される宝具であり、鎧を外し現代の衣装を纏って兜が無く、かつ武器が手元に無ければ兜が無くても宝具として機能するのだ。なので、セイバーはあっさりと兜を脱ぎ、鎧姿から獅子劫に仕入れてもらった現代の衣装に換装した。

 

「やっぱり苦しいのか、兜」

 

「慣れればなんとでもなるさ。戦場で一々窮屈だなんのっていって兜外してて負ける、なんて間抜けをこくよりははな。ケホ、それよりマスター。オレはどうよ、どうだったよ」

 

「あん?」

 

「オレの戦いぶりはケホ、どうだったかと聞いてる」

 

「おお、それか。流石は最優のサーヴァントってところだ。文句なし、素晴らしい」

 

「おうよ……!」

 

 もうじきに朝日が昇る。地平線に臨む光に影を伸ばしながら二人は帰路についた。今日の戦闘に一切の油断も不足もなく、序盤も序盤の戦いはこれにて終了……強いて彼らの不覚(・・)を唱えるならば……敵が一手、上手であったことだけである。

 

………

……………

…………………。

 

「流石は、最優のサーヴァントというところか」

 

 ミレニア城砦広間、玉座に腰掛けた”黒”のランサー、ヴラド三世は投影されるセイバーの交戦映像を眺めながら感心の吐息を洩らす。その反応に追随するようにマスターたるダーニックもまた同意を示す。

 

「幸運を除き、C以上。まさに剣の英霊に相応しいサーヴァントです。さらに注目するべき点としてステータスの一部を隠蔽していることでしょう。こうしてマスターである我々が目にしても真名や宝具はともかく、スキルの一部が見通せない。何らかの隠蔽宝具があると見て間違いないと私は愚考します」

 

「ふむ……他の者らはどう見る」

 

「難敵であることには違いありません。ですが、後は宝具の性質さえ読めればさほど問題が無いと思われます。仕込み(・・・)も上手く言ったようですしね」

 

 そう応えるのはギリシャ神話の半人半馬(ケンタウロス)にあって大賢者と讃えられ、数多くの英雄を送り出した偉大なる師ケイローン。射手座に召し上げられた世界屈指の弓兵である。

 

「”黒”のバーサーカーの宝具か。バーサーカーのマスターよ、彼女の宝具は如何かな?」

 

 突如として話を振られたのは”黒”のバーサーカーのマスターとして居合わせる沙上霧絵。ヴラド三世の王威に当てられ、若干竦みつつも自身の意見を言葉にする。

 

「宝具が破壊された(・・・・・)以上、問題ない(・・・・)と私は考えます。”赤”のセイバーの様子を見るに後はバーサーカーと相対すればそれだけで恐らく」

 

 片が付きます、と流石に言い切ることは押さえ、言葉を止める。が、ランサーは言葉尻に付け加えるべき言葉を悟り肯く。

 

「結構。ならば、セイバーのマスターはどう見る? 解除できるものでは無いにせよ、セイバーの変調に気付くかも知れぬぞ? ふむ、確かセイバーのマスターは……」

 

「獅子劫界離。死霊魔術師(ネクロマンサー)にして、フリーランスの賞金稼ぎにございます」

 

 ダーニックは恭しげにランサーにセイバーのマスターの情報を口にする。獅子劫界離は俗に言う魔術使いという奴だ。魔術師とは根源の渦、ひいては『』に至るため一族諸共神秘を探求する学者を指すがそれとは別に、魔術そのものを目的と学び、それを道具と扱うものたちがいる。それを魔術使いという。探求者たる魔術師とは異なる人種だ。

 

「魔術で金を稼ぐ、薄汚い商人め」

 

 映像に映る獅子劫を目の仇にするように”黒”のセイバーのマスター、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアが吐き捨てる。魔術師とはあくまで神秘の探求者。その傾向が強ければ強いほど、魔術を道具と使い捨てる魔術使いは魔術師にとって、軽蔑の対象なのだ。生粋の魔術師であるダーニックとて思うところが無いわけではない。しかし、一度は聖杯戦争に身を投げ出し、サーヴァントを操る魔術師らとの交戦を経て、ダーニックは冷静に魔術使いの脅威を認めていた。

 

「強いな」

 

「……そうみたいねえ」

 

 ホムンクルスをあっさり散らした獅子劫。魔術の冴え、立ち振る舞い一つとっても実戦慣れしていることは見て取れる。本分が学者たる魔術師と異なり、魔術を道具に賞金を稼ぐ魔術使いの方が戦闘馴れしているのは当然であり、獅子劫は時計塔でも名の通った傭兵であると調べがついている。その勇名に全く偽りが無いことをダーニックは確認した。そんな彼に同意するように黒魔術に長けた”黒”のライダーのマスター、セレニケ・アイスコル・ユグドミレニアも肯く。

 

 サーヴァント戦も始まってない序戦も序戦。されど、サーヴァントと言うものが戦うところを実際に目の当たりにし、マスターらは勿論、”黒”のサーヴァントも思うところがあるのだろう、皆、何処か思案している。そんな雰囲気の中、ランサー、ヴラド三世は、ボソリとやがて来るだろう戦の気配を感じてか、

 

「……近いな」

 

 そんな一言を口にしていた。そしてそれはこの場に集う皆が感じ取っていたことだ。大規模であれ、小規模であれ、戦いの気配はすぐそこまで迫っていると確信した。

 

 

《構えるは千年樹》




ぜんぜん進んでねえ……(書き終わった後で)!

次回、次回こそジャンヌ嬢を!
書けば当たると聞いているので……!!(水着ジャンヌを見ながら)


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