対巨人戦役特別選抜部隊、“特新隊”の隊長であり、現在の調査兵団のを作った人物として大衆より絶大な信頼を集める英雄。
圧倒的な戦闘能力と兵団屈指の頭脳を持つ稀代の天才である。
しかし、彼のプライベートを記す資料はほとんど残っておらず現在の消息は未だ掴めていない
――⚫⚫⚫著『双翼の記』より抜粋――
――844年――
――ウォール・ローゼ付近――
殺伐とした空気が頬をピりつかせる感覚が後ろに控える新兵たちにほどよい緊張与えてくれる。
ふと辺りを見渡すとこちらを見て手を振る子供達や、祈るような眼差しで見つめる老人たちが目に入る。
一体いつからだろう。この国に若者が溢れなくなったのは…
この国の現役世代の殆どは、軍属、若しくは炭鉱夫や商人、及びそれに準ずるものである。
正直言ってしまうと、この国には生きる気力が、夢を見る希望が無い。
職業こそ壁外への進出を後押ししてるかの様に見えるものの、その実、壁内での生活のため、生きていくためといった消極的な理由で働くものが殆どである。
“誰も壁外の自由など求めていない”
まるでそう言っているかのように思えて仕方がないのだ。
だが、そうであってはいけない
我々は断じて自由を諦めてはいけないのだ。
「隊長、門が開きますよ」
隣にいる金髪の青年―ファーラン―の呼ぶ声でふと我に返る。
「すまない、少し考え事をしていた」
呆れた、とでもいうかのように俯くファーランだったが、すぐに気を引き締め直すと、後ろを振り返り息を大きく吸い込む。
「これより、第23回壁外調査を開始する!今回の作戦内容はウォール・ローゼ郊外の巨人討伐、及び残存資源の奪還だ!」
「しかし!」
そう言って一旦言葉を区切るファーラン
「我々の目的は、新兵の育成である。未来ある君たち若者を死地に送り出し無駄死にさせるわけにはいかないのだ。」
ファーランの言葉を継ぎ、静かに、しかし凛とした声で隊長―フォルカー・ブランク―はそう告げる。
彼の言葉に巨人を駆逐すると息巻いていた新兵たちに冷静さが戻ってくる。
「だからこそ我々は生き残らなければならない!よく聞け諸君!人が生きる場所は壁内のみにあらず。だが、人の死に場所は壁外ではない。
諸君らの背負う翼に誓え、必ず生きて還ってくると!
私が生きている限り、諸君らが勝手に死ぬことは断じて許さん!」
先程とは違う、覇気を持った声でフォルカーは叫ぶ。
この演説こそが彼がこの“特新隊”の隊長たる所以なのだ。
士気を高めるだけでなく、“生き残る”という明確な意志を芽生えさせる彼のこの言葉こそが新兵死亡率6%という数字を叩き出しているのである。
「「「我ら人類のため、誇りのため、自由の翼を背負い、いざ羽ばたかん!」」」
兵士達が特新隊の掲げる軍規を謳い、壁外調査へ走り出した。
――同刻・シガンシナ区――
「すっげー!見たかミカサ!あれが本物の特新隊かぁー」
彼らが門を出たあと、一人の少年が目を輝かせながら隣にいる少女へ叫ぶ。
このご時世にしては珍しく、調査兵団を目指すこの少年―エレン・イェーガー―と隣の少女―ミカサ・アッカーマン―は3ヶ月ほど前から一緒に住んでいる。
その理由は凄惨なもので、未だ9才の子供が抱えるには大きすぎる程の経験であるのだが、しかし確かに、この経験こそが彼らの自我を保つ安定剤となってしまっている。
無論“殺人”という罪がどれ程のものなのか理解していないわけではない。
否、理解しているからこそ彼らはそれを肯定できるのである。
両親の仇、殺らなければ殺される、そういった類いのモノでは断じてない。
彼らのソレは明確な意志、つまり、生存本能と呼べる領域に存在するモノ―――正にこれこそがフォルカーの望む人類の希望である。
―――壁外―――
「隊長!右側後方に巨人を肉眼で確認。距離1.3㎞、15m級と推定されます!」
右側後方?確かあそこにはフラゴン分隊長らがいたはず…
「了解、ファーラン!」
「はい!既に準備万端です!」
ほう、話が早いな。
だが、やはりイザベルのことが心配か…とすると
「隊長!リヴァイのやつが巨人を討伐しやがりましたよ!」
おっと、どうやら心配はなさそうだな。
だが、、、
「いや、喜ぶにはまだ早い。直に雨が降ってくるはずだ。この状況で視界を遮られるのはまずい。」
それだけじゃない。嫌な予感がするな…
「よって本隊は現刻を以て、資源調達任務を破棄、諸君らはファーランに従いただちにキース団長らと合流、エルヴィン分隊長考案の新陣形、“長距離索敵陣形展開”に移行せよ!」
「隊長はどうなさるおつもりで?」
ファーランが訪ねるように聞いてくるが、答えは分かっているはずだ。
恐らくこれは他の新兵たちを納得させろという意味なのだろうな。
全く、フラゴンたちに何を言われたのかは知らんが、もう少し自信を持ってくれ。副官が頼りないと俺がツケを払うことになるだろうが
「私はフラゴン分隊長らのもとへ向かい被害状況の確認をしてくる。その後はそのままエルヴィン分隊長の下へ向かう。諸君らははそこで待っていろ!」
本来私がここを離れるわけにはいかないのだがあそこにはリヴァイやイザベルがいる。巨人を討伐したのはいいが問題を起こされるわけにはいかないからな
「「「了解!」」」
「頼んだぞ!ファーラン!」
(イザベルのことは任せろ!必ず連れてくる)
「ッ!了解ッ!」
(任せましたよ、隊長!)
―――10分前・フラゴン分隊―――
「分隊長!前方に15m級出現!既に二人が捕食された模様!」
壁外へ出た途端の突然の襲来にフラゴンは焦っていた。
(まずいな…出だしで巨人と遭遇とは。しかしここで死ぬわけにはいかない!)
「行くぞ!サイラム!殺るしかな…」
「おい!リヴァイ!イザベル!どこに行くんだ!貴様ら巨人を甘く見ると痛い目を…」
フラゴンの命令を無視して走る2頭の馬と素人のゴロツキ二人。
幾人かは愚か者と内心見下している者もいるが、フラゴンは胸に宿った期待を抑えきれずにいた。
元々、フラゴンはエルヴィンの聡明さを認めてこそいるが地下のゴロツキを引き抜くことには反対していた。
まして、正規の訓練を積んだ訳でもないやつらが立体起動を扱えるなんてことが信じられるわけないとすら思っていたのだ。
だが、そんな彼らの実力を一番知っているのもまたフラゴンなのだ。
エルヴィンが新陣形の調整があるため代わりという形で自分のもとに配属されたため、短期間の関係でしかないのだが、たった数週間の訓練の様子からでも彼らの実力の高さは感じられた。
最も、ファーランはフォルカーが引き抜き、イザベルは女性陣が指導しているため直接指導するのはリヴァイだけなのだが。
フラゴンから見るリヴァイは間違いなく実力者である。
ゴロツキだというのが癪ではあるが、認めざるを得ない。
特に立体起動時のスピードは自身をも上回ると評価しており、その事に関しては直接褒めたことすらある。
だが、フラゴンにとってのリヴァイの脅威はそこではない。
“逆手持ち”である。
通常、ブレードによる斬撃は正面、或いは上からが主流であるため振り下ろす形で攻撃するのだが、リヴァイはその常識を覆した。
逆手持ちによって可能となる正確無比な回転攻撃は立体起動時の空中戦であっても初速を殺さないため、リヴァイは迅速な討伐を得意とする。
また、二刀流という扱いづらさを遠心力によってカバーできるため、体躯が小さく剣術の練度の低いリヴァイであっても絶大な膂力を誇るのである。
誰よりもリヴァイのソレを見てきたからこそわかることだが、逆手持ちはリヴァイだけの特殊技能だろう。
何度が試しにやってみたが、既存の訓練を施された体では順応することは不可能。つまり、正規の訓練を積んでいないリヴァイだからこそできるものなのだ。
“変革の一翼”
ふと、フラゴンの脳裏をそんな言葉がよぎる。
正規の訓練を積んだ者ではないからこそ辿り着ける領域、自身や周りの人間とは違う感性。
エルヴィンが言っていたことの正体が分かった気がする。
そして同時に、見てみたくなった
リヴァイの戦いを、自分とは違う戦いを…
「分隊長!奴ら死にますよ!援護しに行きましょう!」
「いや、その必要はない」
一人の兵士が痺れを切らして援護に向かおうとするがフラゴンはそれを制止する。
「よく見ておけ、これが、変革の一翼、新しい調査兵団の戦い方だ」
フラゴンが言い切ると同時にイザベルの斬撃が巨人の機動力を奪う。そして間髪を入れずにリヴァイがうなじを削ぎ落とした。
リヴァイたちの活躍を見ていた兵士たちは唖然とした表情で彼らを見つめる。
しかし、その顔には軽蔑はなく、驚嘆と喜びに満ちていた。
「まずい、雨が降ってきたな。とっととエルヴィンたちと合流するぞ!」
「「「了解」」」
思わず口元が緩むフラゴンだったがすぐに気を引き締め直す。
戦場に油断は禁物なのだ。喜んでいる暇はない
だが、このあとフラゴンはこの一瞬の油断を後悔することとなる…
―――もしこの時雨に紛れて去っていくリヴァイと行く手に忍び寄る影に気づくことが出来ていたならば、と―――
なんか、書きたくなって書きました。後悔はしてません。
好評だったら連載しますが、自信がないので皆さんのアドバイスめちゃめちゃ欲しいです。
批判でもなんでもいいのでお願いします。
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