ゆるふわ仮面ライダーワールド (空飛ぶマネッキー)
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クウガ、被害者(くるしむ)

 ここは全てのライダー達が住むとされているライダーワールド。

 しかし、どの世界にも平和を打ち砕く『悪』が存在する。だがそれに抗う市民の味方も存在するのだ。

 それが俺達『ライダー課』通称『仮面ライダー刑事』である。

 のはずなのだが……

 

 ドーナツを呑気に食べる操真晴人、ラジオで競馬を楽しむストロンガー、愛用のショットガンを磨く大門。

 

「ええい! お前達幾ら事件が起こらないからと言って……たるみすぎた!」

 

 このライダー課のボスである1号は、 部屋の中央に集まっているデスクをドンと叩いた。

 ドスの効いた声でグラサンをかけた大門は。

 

「ボス、何もないと言うことは良いことですぜ」

 

「凛子ちゃんに同じく」

 

 晴人もそれに同意した。

 ボスはストロンガーに目を向けた。

 

「走れぇぇぇぇぇブラックサタン! お前に全額つぎ込んでんだよォォォォ! あっ、やめろ、走れっ! もっと……あっあァァァァァァァァ!」

 

「お前は勤務中に何やってる!」

 

 ボスは馬券を持ちながら慌てふためくストロンガーにライダーキックをかました。

 

「うるせぇ! 今それどころじゃねぇんだよ!」

 

 するとストロンガーはすぐムクリと立ち上がり、拳にビリリと電撃が走ったのを見た。

 

「電パァァァァァァァァンチィィィ!」

 

「や、やめろストさん、その拳をおろ……ぐわぁぁぁぁぁ!」

 

 あっ、これは長引くな。

 ライダー課に初めて配属された頃は異常事態にツッコミまくりで疲れたが今となってはこの光景は日常茶飯事になってしまった。

 そんな二人の喧嘩を観ながら、晴人はドーナツを加えながら部屋から逃走しようとした瞬間。

 

 コンコン。

 

「びょうぼー(どうぞー)」

 

 ドアが開いた時に取っ組み合いになっていたとボスとストロンガーは「げふん!」と咳払いし、何事も無かったように窓の外を眺めた。

 

「入りたまえ」

 

「お久しぶりです、ボス」

 

 赤いボディに肩から担ぐタイヤの上に、ぴっしりとスーツを着こなした仮面ライダードライブがその場に立っていたのだ。

 

「うん? その声はもしかして『ドライブ』か! 久しぶりだなハハハッ、捜査一課ではどうだ?」

 

 ライダー刑事達はコードネームという物が存在する。

 例えばストロンガーはストさん、過去にストライキを起こしたからだそうだ。そして俺はウィザード、特に理由は無いと思われたがボスに聞くと「お前は30経っても何もなさそうだからなハハハッ」という酷い理由で決めつけられたのだ。

 

 そしてドライブは仮面ライダードライブ、だからではなく昔ドライブスルーでナンパをしたが相手にすらされなかった事がトラウマになっているからだそうだ。

 

「ボス、急ですみませんがこの事件を引き受けて頂けませんか? 本来なら俺も手伝いたいんですが……」

 

 ドライブは茶封筒をボスに差し出した。

 ライダー課が承る事件は大抵が怪人絡みの事件である。今回もそれなのだろう。

 

「君も忙しい身なのは理解できる。ドンと俺に任せたまえ!」

 

 安心しろと胸を思いっきり叩くボスであった。

 

 

 

 

 

 

「さぁて、あいつが残していった事件を拝見させてもらおうか」

 

 もう勤務中に競馬しませんとマスクに書かれたストロンガーが乱暴に茶封筒の中身を取り出し資料を読みだした。

 晴人もついでに後ろから覗いた。

 

「こ、これは…………」

 

 晴人が呟く。

 

「さ、殺人…………」

 

 ストロンガーも呟く。

 

「「きゃーっ!!!!」」

 

 二人は乙女のように叫んだ。

 その背後に鬼教官のような顔をした大門がショットガンで。

 

「二人共、黙れ!」

 

 晴人とストロンガーは思いっきり叩かれた。

 

「ちょ、凛子ちゃんショットガンはやめて!」

 

 頭にタンコブができるのを感じながら、晴人は捜査資料をもう一度読み始めた。

 

「今朝、事件現場はポレポレ、えーと被害者は……クウガ、死亡推定時刻は今日の午前11時から12時で現場にいた客から聞くと『店の店員さんがカレーの味見をしていた時に突然苦しみだした』らしい。カレーからは毒物が検出されたそうだ」

 

 晴人は次の資料を手に取り読み始める。

 

「容疑者は現場に居合わせたのは四名の客、全員容疑を否認しているらしい」

 

「これは難問だな……情報が少なすぎるぜ」

 

「ウィザード、カレーの仕込みはいつでも可能だ。彼らが犯人とは限らないんじゃないか」

 

 ボスの言葉に晴人は言った。

 

「いや、10時頃までにはお客さんもいて、毒物が検出されたカレーを平然と食べてたらしいですよ」

 

「ならクウガ以外の店員が入れた事にはならないか?」

 

 大門が眉にしわを寄せながらシブシブと言った。

 

「当時経営していたのは彼一人だそうだ。その肝心のマスターはチョモランマに登山しているらしい」

 

 そして刑事たちは四人の容疑者の資料を見た。

 その現場に居合わせたのは、電王、ギルス、555とギノガ………………

 

 晴人はスッと無表情のまま手を挙げた。

 

「あのー俺犯人わかっちゃったんですけどー」

 

「本当か!?」

 

「マジかよ!」

 

「本当なの!? 晴人君?」

 

「いや気づけよアンタら! どう考えてもギノガだろ!?」

 

 すると凛子はサングラスをかけて大門に変わり、ギノガについて説明をし始めた。

 

「確かにギノガは『仮面ライダークウガ第18話、第19話』でクウガを一時的にだが毒で苦しめた前歴がある」

 

「だったらそいつがホシで決まりだな」

 

「待てぇ! ウィザード……俺は見損なったぞ!」

 

 突然ボスは晴人の肩を掴み、グワングワンと何度も揺さぶりをかける。

 

「人を見かけで判断してはいけないと教わらなかったのか!?」

 

「そうだぜウィザード、人間中身が大事なんだぜ。過去の経歴よりも今だ!」

 

 ストロンガーは酷い掌返しをした挙句、ボスの肩にポンと手を置いた。

 

「うわぁー寝返ったよこの人……というか人間じゃなくてグロンギでしょ……」

 

 だがボスが言うと妙に説得力があるな……

 

「昔、とある男がいた……顔がバッタで目の下の痕が刺青と言われて銭湯に入れなかった男の悲劇を……」

 

「それボスの事じゃ……」

 

「俺はその悲劇を繰り返させないために差別はしないよう気をつけているのだ!」

 

「流石ボス! よっ殿様バッタ!」

 

 暴論だが、徐々に押され始めている。

 だがここで負けては男が廃る。

 

「じゃあ反論させてもらいますけど、電王とギルスと555が殺人を犯すように見えますか!?」

 

 そう言うと、ボスはうっ、と一歩引いたが仮面からは意地の意思を感じる。

 

「確かにそうかもしれんが……もしもの場合があるだろ! 電王が人斬りかもしれないだろ!?」

 

「どうーしてそうなるんだよぉぉぉぉぉ!」

 

「あんな生易しそうな青年は裏では犯罪行為に手を染めてるかもしれない!」

 

「さっき差別しないって言ったよなアンタ!」

 

 晴人の息が途切れ途切れとなってきた。

 このまま二体一でやられると思ったが。

 

「ボス、すみませんけど私は納得できません」

 

 大門がショットガンを肩に担ぎながら晴人の意見に賛同してくれたのだ。

 

「り、凛子ちゃん……」

 

 晴人の目が潤い、ハグしようと飛び出しそうになったがショットガンを向けられて冷静になった。

 

「ええい! ボスの言葉に背くっていうのかお前ら!」

 

「そうっすよ、ギノガが犯人だって言ってるんですよ」

 

 晴人とストロンガーの目に電撃が走る。

 

「なら、こうしよう。今から容疑者のところに向かい取り調べを行う! ライダー課、出動!」

 

 ボスの言葉が引き金となり、その場にいた全員部屋から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドライブはライダー課の部屋の前に立ち、コンコンとドアを叩いた。

 

「入ります。ボス、死んだとされていた被害者が蘇り、犯人が…………あちゃー一歩遅かったか……」

 

 

 

 

 

 

 

 




この後、結局誰が犯人だったんでしょうね


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ボス、入れ替わる(アマさんになる) 前編

 

「お、俺とアマさんの身体が…………」

 

「アマゾン……メノマエ……いる……」

 

「こ、これはまさか……」

 

 ボスは自分の頭を舐め回すように触った。

 いつもはつるっ禿げのバッタマスクのはずなのだが、突起物や急カーブした部分があった。

 

「入れ替わっているだとォォォォォォぉ!?」

 

 ボスの叫び声はライダー課の部屋前の廊下から、どこまでも響いて行った。

 

 

 

 

 これは今から数分前、物事が起きる前ボスはライダー課の部屋で一人ブラインドの隙間から窓を眺めていた。

 

「遅いな……」

 

 他の部下達は昼休みでここにはいない。いるのはカツ丼を頬張っているストロンガーだけだ。

 ボスは別の店の天丼を頼んだのだが、どうやら手が離せないほど忙しいらしいのだ。

 

「ボス、まだメシ来ねえんすか? もういつものところで食べたらいいんじゃ」

 

 いつものとはおでん店の『天堂屋』だ。

 古き良き昭和の香りがする店で、ボスはよくその店に顔を見せる。

 

「うむ…………仕方ない、注文はこちらから取り消せられるか電話してみよう」

 

 電話のダイヤルを回し、耳に受話器を当てるとすぐに繋がった。そしてすぐに取り消しを了承してくれた。

 

「さて…………しまった、もう休憩時間が……」

 

 ボスは財布を取り、すぐドアを開け飛び出したのだが。

 

「キキーッ!」

 

 突然人影とぶつかり、身体がひっくり返った。

 尻餅ついた痛みを感じながらもボスは「危ないじゃないか!」とバッタマスクの男に言った。

 

「ゴメン……イソイデタ……」

 

 カタコトの日本語だった。どうやら外国の人らしい。

 その外国人の素晴らしい肉体や惚れ惚れとするバッタマスクは確かに外国のハリウッドスターを連想させる。

 

「うむ? よく見ると2号か私と似ているな……? もしかして伝説の3号か?」

 

 ボスは少し首を傾げながらも時間が短い事に気がついた。

 

「しまった! 時間が……」

 

 このまま直行しようと思ったが、ストロンガーの一言に足を止めてしまう。

 

「アマさん……あんたそんなに話せたのか?」

 

「何を言っているストさん、アマさん等どこにもいないだろ」

 

 そう言うとストロンガーはポロっと手に持ってる箸を床に落とした。

 

「もしかしてアマさん、今ので頭やってしまったか!?」

 

「だから、アマさん等どこにも……!」

 

 叫ぶ寸前にブレーキがかかった。ドアのガラスに少し写る自分の姿が、いつもとは違っていたのだ。

 

 自分に似たバッタマスクの男をもう一度見つめた。どう見ても自分である。

 

「お、俺とアマさんの身体が……」

 

 以下略。

 

 

 

 

 

「人格が入れ替わるってそんな魔法みたいな事が……」

 

 晴人が呆れながら両手を広げた。

 

「晴人君、あなた魔法使いでしょ」

 

「そういえばそうだった」

 

 アマゾンと思わしき人物が晴人に近づいてドン! とデスクを叩いた。その振動でライダーマンであるマンさんの遺影が飾られた写真立てが倒れた。

 

「ウィザード! 俺はふざけてるわけじゃない!」

 

「いやいや、そう言われましてもそう簡単に信じる事なんて無理ですよ」

 

 その言葉にストロンガーや大門もうんうんとうなづいた。

 

「ええい! アマさんがこんなに喋ってるとかおかしいと思わないのか!?」

 

 確かに日本語を流暢に話せないアマゾンがペラペラと話すのは違和感がある。ただアマさんは朝ドラが好きで言葉を覚えたのだ、アマさんという名も海女さんが主人公のドラマから取ったものだ。

 何度もドラマを見てペラペラ話せるようになったとも考えられる。

 それなら少しカマをかけて見るか、と悪知恵が晴人の頭で働いた。

 

「それならアマ……ボス、先週連れて行ってくれたキャバクラでの指名した女の子? の名前は?」

 

「いや何故それを今、言う必要があるのだ」

 

「本物のボスならそれに答えられるはずなんですけどねーあれ? 答えられないんですか?」

 

 そういうとボスは小声でこう呟いた。

 

「………………キョウスイ……」

 

 ストロンガーも続けてカマかけに乗り出した

 

「酔った勢いで頼んだドンペリの金額は? まさか、ボス答えられないんじゃあねぇよな」

 

「………………20万」

 

「よし、本物だな」

 

「そうっすね」

 

「お前達……後で覚えておけよ……」

 

 この事はストロンガーと晴人とボスしか知らないのだ。まず、悲惨な目にあったボスが自ら言いふらす事なんてあり得ないし晴人自身話す気はない。

 ストロンガーも酷くボスから厳禁されていてその事については口を固く閉じていた。

 

「もしそうだとしたら、これは一大事すぎる! 本当にアマさんとボスが入れ替わったと言うのか!?」

 

 大門の驚愕した表情にボスが口を挟む。

 

「だからそう言っているだろ! 俺はどんだけ信頼されていないんだ!」

 

「それは信頼以前の問題じゃないかしら……」

 

 ボスは溜息をつきながら自分の椅子に座り、昼飯を食べ損ねた事やアマゾンと入れ替わった不運に嫌気がさした。

 ふと今の自分の姿でも見て心を落ち着かせようとしたが、ふとアマゾンが急いでいた事を思い出した。

 アマゾンを観ると今もアマゾンは何かを伝えたい様子で、よほど自分の姿が入れ替わった事よりも重大な事らしい。

 

「そういえばアマさん。さっき急いでいた理由はなんだ?」

 

「ショッカー………えーと、えーと……アマゾン、ニホンゴ、キライダ!」

 

「落ち着けよアマさん、俺がフォローしてやるからよ。ふむふむ…………なんだよただの銀行強盗か……」

 

 ストロンガーが呆れながら言った。

 

「銀行強盗かぁ~」

 

 晴人も呆れながら言った。

 ふと、二人は今言った言葉を確かめる為にお互いを見つめ合って。

 

「「銀行強盗!?」」

 

 

 

 

 

 

 



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アマさん、疲労(つかれる) 中編

 

 

 銀行強盗で現在分かっている情報はこれだ。

 まず、犯人は三人の男、午前12時丁度銃弾を発砲し銀行のシャッターを閉め内部は不明。

 人質は18名で犯人からの要求は現在不明。

 今の状況はとどのつまり立てこもり犯だ。

 

「ボス、一体どうします?」

 

 晴人はパトカーの中に座る、見た目はアマゾン、中身はボスに質問をしたがボスは悩ましい声を出している。

 

「今の俺はアマさんそのものだ。地位的に俺の発言力はそこまで高くはない。ウィザード、ストロンガー、大門、力を貸してくれ」

 

 そう頼むボスに三人は「了解」と声を出した。

 

「けど状況が悪い事には変わりないな」

 

 晴人は遠くに数名の刑事に囲まれる見た目はボス、中身はアマゾンのアマゾンを見た。

 どう見ても言葉が上手く話せずモタモタ慌てている。

 それをじれったいと思ったのか、後ろからストロンガーがアマゾンに近づき始めた。

 

「後は俺に任せとけ、この手の通訳においては超一流なんだ」

 

 歩いていくストロンガーを後ろに見ながら晴人は「本当か?」と呟いた。

 

「フッフッフッ、ウィザード。彼はショッカー戦闘員の言語やグロンギ語等、色んな言葉をマスターしたプロフェッサーなのだ」

 

 大門が自信ありげにストロンガーについて説明し始めた。

 

「普通に英語とか覚えた方がいいんじゃ」

 

「彼にアマさんの言葉など昼飯前……」

 

「ああ!? いいからちゃっちゃっと話せよ! だあーっ! だからよ、アンタは俺に何を伝えたいんだよ!」

 

 ストロンガーの怒声が鳴り響く。

 

「あれのどこがプロフェッサーで超一流だよ…………」

 

 大門はげふんと咳き込みながらもサングラスを外し。

 

「ストさんがマスターしたのは入門編だけなの。テヘッ」

 

「凛子ちゃん、テヘッじゃないよ」

 

 苦い表情をしながらも、晴人はストロンガーとアマゾンの元に歩いて行った。

 

「二人共、ちょっと落ち着いて」

 

「ああ!? 丁度いいとこに来たな、お前が代わりに通訳をやれ!」

 

 押し付けられん感じでこちらの意見を無視されたまま決められた。

 

「アマさん、落ち着いて、ゆっくりでいいんです。ボスが後ろから指示を出しますから、ボスのそのままを言えばいいんですよ」

 

「アマゾン、ワカッタ……イウトオリ……スル」

 

 その時、黒電話を持った一人の刑事が近くにやってきた。

 

「あのー! 犯人からの通話が来ました!」

 

「何っ!? 今が説得のチャンスだな、ボス……じゃなかったアマさん……頼んだぞ」とストロンガーが声をかける。

 

 ボスは今よりずっと昔の過去に何人もの立てこもり犯を説得させ傷つけず逮捕させた実績があるらしく、現在ボスの姿をしたアマゾンにそれを押し付けられているのだ。晴人はそんなボスの姿を見た事は一度もないが。

 

 晴人はケータイを取り出してボスにかけた。

 

「ボス、犯人からの要求がかかってきました。アマさんに指示を頼みます」

 

「分かった、今すぐアマさんにこう言うのだ。まずは人質は大丈夫なのか? と」

 

「了解」と答え、晴人はアマゾンにぼそりとボスの言葉を伝えた。

 

「ワ、ワカッタ。ハンニン…………ヒトジチ、ダイジョウブ?」

 

 すると犯人から帰ってきた言葉が。

 

「イーッ!! イーッ! イーッ!」

 

 まるで意味が分からない。

 

「犯人……ショッカー戦闘員かよ……」

 

 他にこの言語を通訳できる刑事を探したが、誰もいなかった。

 晴人が溜息を零しそうになった時、希望が現れた。

 

「フッ……俺の事を忘れてもらっちゃ困るぜ」

 

「ス、ストさん! でもアンタ入門編しか覚えてないんじゃ」

 

「フッ、甘く見てもらっちゃ困るぜ、入門編とはいえ最低限会話できるぐらいには覚えてるぜ……ナニナニ、ふーむ人質は無事だそうだ」

 

 この際、頼れる綱がストロンガーしかいないのは事実だ。綱が太いか細いか賭ける必要がある。

 

「わかった、ストさんアンタのことを信じてみる」

 

 晴人は説得の続きを聴くためケータイを耳に置いた。

 

「ボス、人質は無事らしいっす、続きを」

 

「分かった、次は犯人の要求を聞くんだ、なるべく慎重にだ」

 

 アマゾンにその事を伝える。

 

「エ、えーと……ハンニン、オウシュウ、キク」

 

「押収じゃなくて要求だ!」

 

「ゴ、ゴメン、ヨ、ヨウキュウ……」

 

「イーッ! イーッッッッッツ!」

 

 相変わらず理解できない。

 

「ストさんなんて?」

 

「もっとテキパキ話せ、それとリアカーと今朝採りたての鶏の卵を寄こせ、だそうだ」

 

 その内容を聞いて晴人は首を傾げた。

 リアカー? 鶏の卵?

 

「いや、絶対要求内容間違ってるでしょそれ」

 

「ああ!? 俺の通訳が間違ってるって言うのか!?」

 

 スーツの襟を掴まれ、落ち着かせる為になだめようとした。

 

「いやでも、ストさん。常識的にそれはないですよね」

 

 そう言うとストロンガーはフンとそっぽ向いて小さく呟いた。

 

「そんな小さい性格だからいつまでたってもウィザードなんだよ……」

 

 その言葉を晴人は聞き逃さなかった。晴人の頭の大切な所がキレた気がする。

 この世で触れてはならない領域に触れてしまったのだ。

 

「ストさん……普通リアカーよりパトカーを要求すんだろ! しかもなんだよ缶を寄越せって!」

 

「はぁ!? 戦闘員がそう言ってるからそうなんだよ!」

 

「あれれー? 誰かな!? さっきアマさんの通訳できなかった刑事は?」

 

「てめえっ! 俺とやるってのかぁ!?」

 

 とヒートアップしそうな瞬間に二人の顔面に強烈な痛みが走った。

 

「グエッ!」

 

「グエッ!」

 

 二人が鼻をさすりながら何が起きたのかと思うと、アマゾンが両手でバッテンを作っていた。

 

「フタリハトモダチ、ケンカ、ダメ、アマゾン、ケンカキライ」

 

 そう言われ二人とも、何か心のシコリが取れ落ちた気がした。

 

「ストさん……さっきはすまない」

 

「ウィザード、俺もウィザード(笑)とか言って悪かった」

 

 こうして二人な手を取り合い新たな友情が芽生え始めたのだった。

 

「ってそんな事やってる場合じゃない。立てこもり犯の要求を」

 

 晴人は黒電話を耳に掲げると下っ端のライドプレイヤー刑事から「もう切れましたよ……」と何か失望の意味が篭った言葉混じりで言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええい! 貴様ら何をやっている!」

 

「すんません」

 

「サーセン」

 

 一発ヤキでも入れられそうな雰囲気だが、今はそんな状況ではない。このまま立てこもり犯をどうにかしなければならない。

 

「仕方ない……このまま強行突破を開始するしかない」

 

 ボスがそう呟き「マジかよ」と苦い表情を浮かべる晴人、大抵、強行突破する時は自分が『スモール』の魔法を使って、身を小さくして潜入するまでがお約束なのである。

 

「お前ならやれる!」

 

 ボスの応援が少々嫌味ったらしく聞こえる。もしかしてさっきキャバクラ暴露の事を根に持ってるのではないかと思いながらリングを取り出すのだが。

 

 ダーン! ドギャン! ゴガァァァン!

 

 銃声と何か破壊される音が聞こえ、その場にいた刑事皆がヤバイと感じ、言葉が苦手なアマゾンでさえ強行突破の命令を下そうとした時。

 

 シャッターが開いた。そして三人のショッカー戦闘員が逃げ出した。

 その様子に刑事たちは首を傾げた。

 

「イーッ! イーッ!! イーッ!!」

 

「早く逮捕してくれよ刑事さん、だそうだ」

 

 犯人が怯えている異常な雰囲気の中、一人の男が銀行から歩いて来る。

 灰色の作務衣を着こなしている和風チックな男だった。

 そしてその男は人差し指を天に掲げてこう言った。

 

「おばあちゃんが言っていた。不味い飯屋と悪の栄えた試しはない、ってな」

 

「イーッ! イーッ!」

 

「アイツは強すぎる、もうこんな事はやめる、だそうだ」

 

 その男は立てこもり犯の要求で一応用意した今朝の採りたての卵を籠ごと自分のもののように手に持った。

 一つ一つ手に持ち、何か満足したのかそのまま歩き出そうとした。

 

「お、おい待てよ! お前何持ち出そうとしてんだ」

 

 ストロンガーが謎の男の肩を掴み止めようとした。

 

「これは俺の卵だ、可愛い妹の為に料理を振舞わなければならくてな」

 

「いや、だからよぉ…………うん、まさか……お前が卵を要求したのか?」

 

 ストロンガーの頭の中がパズルのピースのように繋がった。

 

「ああ、買い物が遅れた分だ。リアカーはくれてやる、大切に使うんだな」

 

 最後にそう言い、片手に卵を持つ謎の男は夕焼けに溶けるように歩いて言った。

 

「ストさん…………すんません、本当にそうでしたね……」

 

「ああ、そうだな……」

 

〈スモ-ル!〉

 

「電ショッ……! ってどこ行きやがった! 逃げんじゃねぇぞ!」

 

 ストロンガーの怒声の中、小さくなった晴人はユニコーンに乗って逃げ出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……問題は解決したが、俺の身体はいつになったら戻るのか……」

 

 パトカーの中溜息をつく、ボスの前にある男の影が見えた。

 

「ボス、いい案がありますよ」

 

「お、お前は! マンさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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ボス元に戻る(しにかける)後編

 頭を隠すマスクの中見える口元がセクシーなライダー課の刑事、ライダーマンは先月、バスジャック犯と共に命を落としたはずだった。というかしょっちゅう命を落とす。

 ちなみにマンさんというのは饅頭大会で優勝したからだ。

 

「マンさん……よく生きていたな……お前のデスクはまだ残してある」

 

「感謝しますボス」

 

「話があるのなら乗るんだ。丁度ライダー課に向かう所なんだ」

 

 ライダーマンはニコリと笑い、パトカーに乗った。

 ボスは運転手の部下に発車するんだと指示を出し、パトカーを動かした。

 

「それで……元に戻る方法は?」

 

「ハハハ、簡単ですよボス。この俺の考えによると、ボスはアマさんとぶつかり合って入れ替わった。つまりそれと同じ事を繰り返せばいいんだ」

 

 その考えはなかったとボスはうんうんと感心した。

 

「だが、身が持たない場合はどうする?」

 

 改造人間だって不死ではない。お互い数百キロを超える足のスピードで何度もぶつかり合うのは想像するだけで恐ろしい。

 それにだ、一度で戻るとは言い切れない。

 

「大丈夫。この饅頭大会で優勝した俺を信じてください」

 

「それは……関係ないだろ。まあいい、とりあえずマンさんの事を信じてみよう」

 

 この際、鬼や悪魔や千翼やなんたらに縋りたい気持ちなのだ。

アマさんには失礼だがいつまでもアマさんの姿でいるのは辛い、辛すぎる。

 

「ハハハ、任せてください」

 

 何か不適な笑みを浮かべるマンさんはボスのマフラーを撫でるように触る。

 

「気持ち悪いなっ……」

 

 パトカーを走らせ20分ほどで署に辿り着き、マンさんと共にパトカーから降りようとしたのだが、少し後部席が湿っていた。

 それもマンさんが座っていた所だ。

 

「…………? ハッ!?」

 

 まさか、まさかとは思うが。

 

「マンさん貴様漏らしたなっ!」

 

「え!?」

 

「その年になってもなおっ! 下が緩み過ぎだ!」

 

「いやこれはただの汗で……」

 

「この量は汗で済む問題じゃないぞ!」

 

「嘘をつくなっ! シートの洗濯代、給料から引いておく!」

 

 ライダーマンそれでも違うと訴えてくるので「わかった、もういい」とこの話を終わらせる為に言い放った。

 

「さっさとライダー課に戻るぞ」

 

「…………了解……」

 

 

 

 ライダー課の部屋に戻ると鑑識課の仁藤攻介と大門、アマさんの三人がコンビニ弁当を食べている所だった。

 

「あ、アマさん、じゃなかったボス、お疲れ様でした」

 

 鑑識課だと強調する青い服と手にはマヨネーズを持った仁藤は真っ先にこちらに気づいた。

 その反応の様子だと入れ替わってる事を既に聞いているのだろう。

 

「そうだお前たち! なんとマンさんが帰ってきたぞ!」

 

 と一人ボスは拍手をしながら後ろにいるマンさんを見せつけるが三人の表情はあまり良いと言い切れるものでは無かった。

 

「ん? お前らどうした? マンさんが帰ってきたんだぞ、もっと喜ばないかッ!」

 

 三人の表情は作り笑いのような笑みを浮かべた。

 

「アハハハ……そ、そうね、それは良かったわ」と凛子。

 

「そうっすね……うん、うん……」と仁藤。

 

「アマゾン……ナニモミテナイ……」とアマゾン。

 

 そうやって三人はハハハハハと苦笑いしながら部屋から立ち去ろうとするのだが、ボスはそれを止めようとする。

 

「おい待て、一体どうしたんだ三人共、せっかくマンさんが元に戻れる方法を知っているというのに……」

 

 そう言うと凛子の表情がみるみる青くなっていく、まるで何かに怯えているように。

 そして怯えが限界に達したのか、なんとショットガンを自分に向けるではないか。

 

「きゃーっ!!」

 

「ま、待て、落ち着」最後まで言えずショットガンの発砲音が部屋に響いた。のだが自分に痛みなど一切ない。改造人間だからではなくそもそも当たった感触さえない。

 

「久しぶりというのに酷いじゃないか大門、私の事を忘れたのか?」

 

 マンさんの声が酷くノイズがかかっているようだった。

 ボスが後ろを振り向くと、マンさんは宙にフワフワと浮かんでいた。そして後ろの壁には穴が開いてある。

 

「ま、マンさん!?」

 

「ボ、ボス…………早くこっちに……」

 

 仁藤の側に向かおうとしたが。

 

「んぐっ!?」

 

 身体が動かなかった。

 

「せっかく、新しいボディが手に入るかもしれないというのに」

 

 マンさんは浮遊しながらボスの目の前にまで移動する。足は陽炎のように揺れて無かった。

 その姿、まさに幽霊。

 

「クククク私も運がいい、肉体を乗っ取る事ができるとはな」

 

「貴様っ!? マンさんじゃないな! 一体何が目的だッ!」

 

「いいだろう、冥土の土産に教えよう。私は貴様らによって倒されたショッカー怪人」

 

「ま、まさか死んだ後幽霊になって生き返ったとか!?」と仁藤がマヨネーズを盾にするように話す。

 

「フフフ、そう。死んだ後、私は運良くライダーマンの魂を乗っ取る事ができた。貴様らに復讐する為にな……!」

 

「な、なんて奴だ、これは前代未聞の大事件だ!」とサングラスをかけた大門がショットガンを構えた。

 

「だが……今日、1号の肉体を乗っ取りライダー課を壊滅させてやろうと思ったのだが、貴様らがぶつかったせいで失敗してしまった!」

 

「ダカラ……アマゾン、イレカワッタ?」

 

「そう! だがそれももう終わりだ……今から1号の肉体を乗っ取る!」

 

 幽霊がそう言うとボスは何かに引っ張られる、肉体ではない何かが抜けていくのを感じた。

 

「も、元に戻った……!?」

 

 自分の手や身体をペタペタと触り、鏡を覗くといつもと変わらぬ自分の顔、喜ぼうとしたが後ろには笑みを浮かべる幽霊がいる。

 

「マ、マズイ、お前たち! こいつを何とかしてくれッ!」

 

「え、えええと十字架どこ行ったかしら……」

 

「マヨネーズはニンニクの代わりになりますかね?」

 

「ならないでしょ、流石に」

 

「そうですよねー」

 

 凛子と仁藤のやり取りを見てボスの魂がより抜けていくのを感じた。

 

「お前達! ノンビリしてる場合か! ああ、マズイ! 消える俺の身体が!」

 

「フフフ、貴様の身体は私が扱ってやるよ……」

 

 頼みの綱のアマゾンを見つめるが、彼は一心不乱にカタコトのお経を言っているだけだった。

 というか南無阿弥陀仏を繰り返してるだけだ。

 

「そうだ! 塩、幽霊には塩を与えるんだッ!」

 

 ボスの言葉に一瞬、幽霊の悲鳴が聞こえた気がする。

 もしかしたら塩が最強の武器になるのでは。

 

 と三人はどこに行ったか一心不乱に塩を探すのだが一向に見つからない。

 

 もう自分の魂が8割近く消えていく感じがする。

 ああもうダメだ、ボスが死を覚悟したその時だった。

 

 

 

 

 

「ウィーっす……ストさんは……いないよな?」

 

 晴人が部屋に入ってきたのだ。

 

「って何この状況、ってかマンさん生きてたんすか」

 

「晴人君いい所に来てくれたわね! 塩持ってない!? 実はかくかくしかじかで……」

 

「ふむふむ……何っ!? ボスが幽霊でマンさんが怪人になってボスを乗っ取ろうとしている!? って何じゃそりゃ!」

 

 少し違うが、もうそれでいい、早く助けてくれ。

 もう言葉も出なくなってきた。完全に乗っ取られそうだ。

 

「そうそう、マヨネーズをかけて見たんだが全然効果なくてよ、贅沢な幽霊だ」

 

 晴人は「うし!」と気合を入れ、コネクトで召喚した魔法陣に手を突っ込んだ。

 

 そして四人分の塩を取り出し皆んなに渡した。

 

「よっしゃ行くぜみんな!」

 

 晴人の一声に全員塩を取り出し、幽霊に向けてブチまけた。

 

「ユウレイ! キライダ! キライダ!」

 

 だが、幽霊の身体には塩はすり抜けて効果を与えているなど微塵も感じなかった。

 

「アレレ……ボス、効果あるんじゃなかったんですか!?」

 

「これは……もうアレね、うん」

 

 仁藤と凛子の二人は既に諦めモードに入りかけていた。

 

 おい! 何故塩が効かんのだ!

 

「クククク、演技に決まってるだろ。今の時代塩でやられる幽霊など時代遅れだ!」

 

 うっ、意識が……消えて行く。

 ボスの意識はこうして闇に堕ちて行った。

 

「ククククク! ついに乗っ取ったーッ!!! この1号の身体をォォォ!!」

 

 幽霊はこのまま、この場にいる全員を口封じしようかと考え行動に移ろうとした瞬間。

 

「ボス、俺達は貴方事忘れないっす」

 

 晴人と仁藤はダイスサーベルとウィザーソードガンを取り出した。

 

「貴様ら薄情だな……この1号がどうなってもいいのか?」

 

 幽霊は笑みを浮かべる。こいつが信頼されてみんなから愛されているリーダーという事は知っている。これも脅しであるだろう。

 

「って痛ァァァァ!」

 

 突然仁藤の剣に切り裂かれ火花が散った。

 

「こ、こいつがどうなってもいいのかぁ!?」

 

「ボスとの思い出は忘れません」

 

 仁藤は優しそうな笑みを浮かべた。

 

「無視かよ!」

 

「色んな思い出があったなぁ……何度も立てこもりに小さくなって特攻させられたり……熱血指導と言って数十トンのパンチを生身で喰らわされたなぁ……」

 

「俺も……勝手にマヨネーズ食べられたり、高級マヨプリンも食われたなぁ確か」

 

「私もショットガン何度もブチかました事がある」

 

「アマゾン……トモダチ……」

 

「ロクな思い出がねぇな! というか大門貴様怖いよ!」

 

「この際、今までの怨みを晴らすのもアリだな」

 

 大門がポンプ式のショットガンをリロードした。

 

「ああ、少しボスには可哀想だが」

 

 ウィザーソードガンを構えた。

 

「うっし、ランチタイムだ!」

 

「キキーッ!」

 

「や、やめてくれ、身体は返す……やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 この夜、幽霊の悲鳴がこだました理由はその場にいたもの以外知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 とある病室の中、一人の男が立ち寄った。

 

「ボス、メロンでも買ってきました」

 

「おおブイさん、見舞いに来てくれたか」

 

 V3であるブイさんがメロンの入ったカゴをボスの膝の上に置いた。

 

「しかし災難でしたね、元に戻るためとはいえ全治二週間とは」

 

「ああ………………仕方ない事だ」

 

 



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ストさんの一日

 ストさん事、ストロンガーの朝は早い。最近、電波人間である嫁がバルタ○星人と付き合っていた事から別れ、今ではストロンガー一人が家事、洗濯を行っている。

 いつも雑用をこなしている時「アイツがいればなぁ……」と呟く事があるが、それを呟く度に首を思いっきりブンブン横に振った。

 

 仕事がある日は愛用のバイク『カブトロー』で署まで直行、そして何度か刑事である身ながら事故り、相手と喧嘩が起こる事もしばしば、その度にボスにこっぴどく雷を落とされる。

 反省はしているが、この街のバイクは数百キロ超えてるシナモノが多いので仕方ないだろうと反論する。

 

 ライダー課でのストロンガーの主な仕事は取り締まりである。理由は色んな言語をマスターしているのは自分以外ライダー課の中にはいないからだ。

 いつも相手の言葉を聞き取るのにストレスが溜まる。

 

「イーッッッッッツ! イーッ!」

 

「なんだぁ!? 街を一つ吹き飛ばす爆弾を作りやがったぁ?」

 

「イーッ! ショッカーの科学力は世界一イーッッッ!」

 

「最初からそれで話せよぉぉ電パァァァンチィ!」

 

 

 

 

 

「グロンギグベサグリントパバギギャンギャヂョグ(グロンギが狙うリントは会社の社長)」

 

「バビ、パヂョググガパバギジャヅゾボソグ!?(なに?波長が合わない奴を殺す?)

 

 

 

「お前が万引きをやったんだろ!」

 

「ウェ!? オベバァナニモヤッテバゼェンヨ!」

 

「このオロナミンCはなんだ?」

 

「ウソダドンドコドコド-ン!」

 

 

 

「コションジャミャションアフォショカデュショディジエジョファンシュイファン、デョブリョファエジュベシェシュンボリャエアダジュジョジャシャバリャフェン……(我が友がお腹を空かせていたのだ、人間の一匹ぐらい襲ったところで……)」

 

「なにぃ!? そんな理由でお猿さんを襲ったのかてめぇ!」

 

 そのストロンガーの奮闘を取締室の外から眺めていた晴人は。

 

「何言ってんだあの二人」

 

「ふっ、ストさんの通訳は素晴らしいだろ」

 

「いやいや凛子ちゃん、あの二人話どころか言葉すら噛み合ってないようにしか見えないんだけど」

 

 しまいに容疑者側がジェスチャーでストロンガーに何かを伝えようとしていて今にも喧嘩が発展しそうだった。

 

「ハッハッハ、何を言う。ストさんは色んな言語をマスター」

 

「ぎゃあああああああ!」

 

「いいからさっさと吐けぇ!」

 

 ストロンガーは容疑者に電気を喰らわせていた。

 いつか彼自身が容疑者になってしまいそうだ。

 

「マスターしたのは入門編だけだろ?」

 

 本当に大丈夫かと不安になり止めに入る晴人だった。

 

 

 

 

 

 

 

「うぃー…………俺様は天も地も泣く子も黙るストロンガー様だぞ!」

 

「ストさん飲み過ぎですって……」

 

 晴人は何杯も焼酎をガバ飲みしたストロンガーの肩を持つ。

 

「ウィザード……お前もよぉ……俺の事情けない先輩だって思ってんだろ?」

 

 情けないより暴れん坊な先輩だなぁとしか。

 

「ハイハイ、いいから歩いてください」

 

「今日もよぉ……通訳ミスしちまってよぉ……俺本当にこの仕事向いてんのか不安になるぜ……」

 

 今度は泣き上戸だった。

 こんなってしまってはめんどくさいと感じ、晴人は慰める事に専念した。

 

「ストさん……俺はあんたの事、ボスよりは信頼してますって。通訳だってあんた以外やれる人はいないんだし」

 

「うう……そんな事言ってくれるのはお前だけだ……!」

 

 ストロンガーが腕で顔の涙を拭った、仮面の目から涙は流れる物なのかと思ったが、まあ気にするのはやめよう。

 

「あっ……」

 

 ふとストロンガーが電撃でも受けたようにピタリと止まった。何が起きたんだとストロンガーは見ている方向を見つめると。

 

「あんた……また酒飲んでたのかい?」

 

「まさかあれって……」

 

 話に聞いていたストロンガーの元奥さんである。

 

「お、お前は……ふ、ふん! 今更あった所で俺とお前は関係ないだろ!」

 

「まだ言ってたのかいあんた……私は謝りたくてあんたの事を探してたんだよ?」

 

 そう言うとストロンガーの心がかなり揺れた。あいつから謝ってくるのなら許してやると何度も思っていたのだ。

 

「お、お前が謝るって言うんなら……ま、またやり直しても……」

 

 その時、ストロンガーの元奥さんの後ろから赤い蜘蛛男のスーツを着た男がやってきた。

 

「あっ、言うの忘れてたけど私、この人と結婚したの」

 

「えっ…………」

 

「あっ…………」

 

 晴人も釣られて言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっと酒を持ってこい!」

 

「ストさん……気持ちはわかりますけど、流石に身体を壊しますよ?」

 

「俺は改造人間だ、この程度で死ぬかよハハハハハハハ!」

 

「ダメだ、完全に箍が外れてる」

 

 いつもなら無理矢理にでも酒を止めようとするが、今回は流石に仕方ないと晴人もヤケ酒に付き合う事にした。

 

 

 

 



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Tの依頼/探偵の女運

 ビルが溶け、人が死ぬ、それはこの街ではよくある事だ。だがこの街の悲劇を拭う二枚のハンカチがこの街には存在する。

 俺の名前は左翔太郎、この街『風都』の少しは名の知れた私立探偵、猫探しから難事件だろうが俺達の手にかかれば難なく解決する事が出来る。

 だが今回は非常に厄介で非常に難しい依頼が飛んできた。

 

 それは依頼主から女心や女性を笑わせる方法云々を教えて欲しいと言った内容だった。

 この依頼は今から一時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

「いいかい翔太郎? これは僕なりの判断だが君は『男』に逃げた方がいいと思う」

 

 口に含んでいたコーヒーが霧となって吐き出した。

 

「な、何言ってんだフィリップぅ! 変な冗談言いやがって!」

 

 フィリップと呼ばれた中性的な少年とも青年とも言える男性は普段は興味を持つ物には子供のような満面の笑みで調べるが、今回はかなり真剣な表情のまま話し出す。

 

「少々失礼な物言いだが君が好意を示す女性は皆何かしら問題を抱えている、それに君はネギで……これはやめておこう」

 

「それがなんだってんだ……」

 

「この際はっきり言っておこう、君は女性に関して軽いトラウマを抱いている。ちなみに男性同士でも恋愛は可能だ、国によっては結婚も可能だ」

 

 そう言われ、翔太郎は面倒な事になったと頭を描いた。

 

「いや相棒……お前が心配してくれてんのは分かってるが流石に人のプライバシーまでは縛られたくねえんだ」

 

「分かっているさ、僕も本気で言ってるわけじゃない。でも本題はそこじゃないんだよ。君が女性にトラウマを抱いているところだ、そこを変えない限り君に春は訪れないと言えるだろう」

 

「んなこたぁ分かってる……」

 

 否定しようと思ったが確かに女に対しての悲劇が脳内でフラッシュアップする。そして何故かネギ。

 悔しいがフィリップの言うことは正しい。

 けど急に女性に対してトラウマや云々は急すぎないか。

 

「とゆーか急にどうしたフィリップ? お前、今までこの事に滅多に口出ししなかったはずだろ」

 

「ああそれは、最近女運のない男について興味を持ちはじめてね、検索よりも身近に体験した翔太郎の方が大量の知識を得られると思ったんだ」

 

 そしてフィリップは最後に保険をかけるように冷静に言った。

 

「けど心配しているのは本当だ」

 

「はぁ……ったく何てもん興味持ってんだ……」

 

 気分転換に本棚の推理小説に手を取ろうとしたが、インターホンの音が鳴り響いた。

 客人がやってきたという事だ。

 

 話を折り、一体どんな客か姿を見ようとした。

 少年と青年の中間と言ったところか、フィリップよりも少し幼さを感じる赤いマフラーをした少年だった。

 

「あ、あの、ここ探偵事務所って」

 

 少年は緊張しているのか少し口調が硬い。

 恐らく依頼なのは確定だろう。

 こういうのは第一印象が肝心だ、翔太郎は帽子を手で抑えながら自分が思うカッコいいポーズを取る。

 

「ああ、俺は鳴海探偵事務所所長の左翔太郎、どんな依頼も確実にこなす、ハードボイルドな探偵さ」

 

 実際所長は別にいるが今は休暇中で翔太郎が『代理』所長という事になっている。嘘はついてない。

 後ろでフィリップが笑ってるような気がするが気にしない気にしない。

 

「じゃあ……俺の依頼もちゃんと聞いてくれるんだよな」

 

「大船に乗った気でこの俺に……任せな!」

 

 そして翔太郎は少年をソファーにまで連れて行き依頼内容を聞こうと話を始めた。

 

「俺の名前は千翼、知り合いからここならどんな依頼だって聞いてくれるって言ってたんだ」

 

「千翼……か、今日はどういった用で?」

 

 千翼は小さい写真を取り出し机に置いた。

 無表情で人形のような子と千翼が写っているプリクラ写真だった。

 

「イユって子がいるんだ……俺、その子と今度水族館に行くんだけど……全然笑ってくれなくて……」

 

 イユと言うのは一緒に写っている女の子だろう。

 

「俺、あんまりデートとかした事ないし何をしたらいいのかわからないし……」

 

 うんうんと首を軽くうなづきながら話を聞いているとマキシマムドライブ級のワードが翔太郎を襲った。

 

「女心を教えて欲しいんだ」

 

「そうかそうか……えっ?」

 

 一瞬、思考が止まった。

 今なんつった。女心って言わなかったか。

 いや、大丈夫だ。大人の男で先輩であるこの自分なら大丈夫だと何度も言い聞かせたが自身は湧かない。

 

「探偵には程遠い変わった依頼だね、けど君なら今回も了承するんだろ?」

 

 後ろからフィリップが小さい声で囁くように呟いた。

 平然を装いながらも何当然だと少し笑った。

 

「ったく何当然のこと言ってんだ。街からは小さな悩みかもしれねぇがあいつにとっては大きな問題だ。ここに来たって事は助けを求めてるって事だろ? 俺達が聞いてやらなくて誰が聞いてやるってんだ」

 

 すると千翼は明るい表情を浮かべていて翔太郎も少し嬉しくなった。

 

「んじゃ、俺はちょっと席を外す。後は頼んだぞ相棒」

 

 すさすさと探偵事務所の外に出て、かもめビリヤード場と書かれた看板の下に翔太郎は立って。

 

「っあああああー!!」

 

 どうしてこうなったと叫んだ。

 

「いや落ち着け俺……ま、まだ希望はある……」

 

 震える手で携帯電話をピポパポ鳴らした。

 

「何の用だ左、俺は今仕事中だ」

 

 照井竜という男と繋がった。

 

「あいにく俺も依頼中な、ん、だ、よ」

 

「ならさっさと要件を言え」

 

「なあ、お前どうやって亜希子と結婚できたんだ?」

 

「……俺に質問するな」

 

 そう言われてプツッと切られた。

 くそ、と地面を踏みながらまた照井に電話をかけたようとしたがフィリップの声に手が止まった。

 

「翔太郎、ここは僕に良い考えがある」

 

 これは悪魔の囁きなのだと、この時に気づいていればよかったのだと全身骨折で入院した後に後悔する事になると今の俺には知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Tの依頼/悪化するトラウマ

 

 喫茶店の外の机の席にに翔太郎含めた三人は席に座りそれぞれ飲み

 

「それで、お前の案ってのはまさかあの事じゃねぇよな?」

 

 喫茶店の外には何人かの通行人がいた。そしてフィリップが歩きながらある単語を呟いたことがある「ナンパ」と。

 

「君にしては勘が鋭いじゃないか、そうだよナンパだよ」

 

「ったく、良い案があるってついて行った結果がこれかよ……つかホントにやんのか?」

 

「うん、この際君の女性不信のトラウマをついでに克服させようと思って」

 

 溜息を一つつき、コーヒーを口に流し込んだ。

 ナンパという行為に慣れていない千翼はキョロキョロしがちなどこかしら心配そうな表情であった。

 そして慣れなさそう敬語を使いながら話す。

 

「それで俺は何をすればいいん……ですか?」

 

「千翼、君は一度女性に声をかけてみるべきだ、君は女性に対して興奮が多いから慣れるのが一番いい」

 

 フィリップはこのまま検索したナンパの必須方を千翼に教えていくがあまり翔太郎は乗り気じゃなかった。

 依頼人の為とは練習で女性と関わるのは心を弄んでいるみたいであまりいい気分じゃない。

 

「これを頑張ればイユが笑って……」

 

 千翼も色々とイユって子の事で追い詰められているのかハァハァ息が荒く絵面がヤバイ。

 ナンパ必須法を伝授された千翼はそのまま白いノースリーブの綺麗な腕が似合う女性に近づいて行った。

 

「オイオイ、本当に大丈夫か?」

 

「ナンパ必須法をマスターした僕が思うからには……ダメそうだ」

 

「ったく、通報されてもしらねぇぞ……」

 

 翔太郎は隠れながら千翼のそばに近づいた。

 本を落とした女性の本を拾って、なんやら話しかけようとしているが後一歩の所で戸惑ってる感じだった。

 

「行けっ行け……もう少しだっ……」

 

 そして相手が不思議そうに首を傾げた時、千翼は口を開いた。

 

「あの…………腕、綺麗ですね……」

 

 息苦しそうにハァハァ言う姿は気持ち悪かった。

 

「ええ!?」

 

「う、腕が白くて綺麗ですよね……」

 

 相手の女性が君悪く引くが、千翼も引いておけばいいもののこんな時に限って積極的だ。

 

「う、腕が綺麗ですね」

 

 三回も言うんじゃねえよ。

 

「ヤベェ、これ以上はサツの世話になる羽目になる……!」

 

 翔太郎は勢いよく飛び出して、今にも女性を襲いそうな絵面のヤバイ千翼の腕を掴み「いやぁすいませんね……」と無理矢理その場から離れ出した。

 少し離れて元の席に座り、反省会。

 

「最初に出会って褒める言葉が腕が綺麗って流石に気持ちわりぃよ……!」

 

「いや……フィリップさんが、女性の綺麗なところを褒めろって……」

 

「ああ、確かに僕は言ったね」

 

 フィリップはそう言いながら、本を読み始めている。

 

「おめぇのせいかよ……つぅか、褒めろつっても限度ってもんがあんだろ……! なんだよ三回も連呼する必要ねぇだろ」

 

 だがフィリップの物言いによると「褒めろ」とだけを言ってアドバイスしたのだろう。

 後は千翼のアドリブと言ったところか。

 

「ハァ…………」

 

 少し厄介な依頼になりそうだ。

 今回で千翼が女性に慣れる事が出来なければ、俺達は当日のデートを後ろからバックアップする事になるだろう。

 だがそうなっては余計に悪化しそうな気しかしない。

 

「仕方ねえ……やるしかねぇな」

 

 と翔太郎は立ち上がり、ドヤ顔を見せる。

 今の俺はトラウマの向き合う時かも知れねえ。

 

「見とけよ千翼! この俺が、ナンパって奴を一から叩き込んでやるよ!」

 

「あ、ああ」

 

 狂ったテンションの翔太郎に少し引き気味な千翼だが、翔太郎は本気で自分のためにやっている事なのは理解できた。

 そして翔太郎は店の近くにある噴水の階段に座る黒いストッキングの足が光る女性に声をかけた。

 

「そこのレディ……少しいいかな?」

 

 と長い黒髪の女性に声をかけた。すると女性は「はい」と緊張しながら答えてくれた。

 翔太郎は名刺を取り出しながら語り出す。

 

「俺は私立探偵をやってる左翔太郎だ。アンタも困ったら俺のとこにやってきてくれ」

 

 ここまでは順調だ。だが肝心のナンパが成功していないがこれも自分の作戦のうちだ。

 

「それと最近この辺にはよくねぇ事件がよく起きる。男の俺はアンタのような可憐な女性は放っておけねぇんだ、もしよければメールアドレスでもを教えていただいても?」

 

 これで成功しない女はいない、と少し口元が緩んだがその女性はちょっと困った顔をしていた。

 ふと翔太郎は何段階も飛んでいきなりメールアドレスを聞いたのは不味かったのではと気づいた。テンションが高ぶりすぎたせいだ。

 失敗した、と諦めかけたその時、女性は少し裏返るような低い声で名刺を見つめて何かに気づいた。

 

「あっ、もしかして鳴海探偵事務所の人!?」

 

 予想外な返事に少し驚いたが。

 

「そ、そうそう、そこの探偵」

 

「私も昔、そこの前の探偵さんに助けてもらった事があるんです。そこの関係者なら……まぁ」

 

 そう言い女性はメモに書いたメールアドレスを翔太郎に渡した。

 過ぎ去っていく女性の後ろ姿を見ながら。

 

「やっぱおやっさんには敵わねぇな……」

 

 彼女も翔太郎の師に助けれられた一人なのだろうと、まだ自分は全然追いつけていないなと自嘲気味に二人が座る席に戻った。

 

「どうだ、メールを聞いてきたぜ? これでもまだトラウマを持ってんだって……」

 

 最後まで言おうとしたがフィリップが話し出す。

 

「翔太郎、君はナンパしに行くと言ったはずだがメールアドレスを聞いただけじゃないか」

 

 せっかく人が頑張ったというのに、その言い草はなんだと文句を言いだしかけたが一言にその感情は打ち消される。

 

「それに彼女はおそらく男だ」

 

「ハァ!? 何言ってんだよ相棒、あんな可憐な女性が男なわけねぇだろ?」

 

「翔太郎、あまりこの事は言いたくないが僕は何度も女装したからこそ分かる、彼はカツラを被っているしストッキングを履いているのも毛を隠すためだろう。声の時点で疑問に思わなかったのかい?」

 

 よくよく思うと確かに彼女、彼の声は男のような低い声だった。テレビのオネエタレントが無理して高い声をあげるのと似ていた。

 

「マジかよ……

 

 翔太郎はその事実に頭を抱えた、が違う考えが頭に浮かんだ。

 

「なら相棒、一回お前がナンパのお手本って奴を見せてくれよ」

 

 流石にアイツにナンパは無理だろうと謎の勝利感を味わっていたが。

 

「わかった。やってみよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィリップは小さい自分よりも少し年下であろう女性と仲良く話している。最初の始まりは趣味の一致だそうだ。

 翔太郎は陰ながら悔しそうに視線を当てた。

 

「フィリップの野郎口が達者すぎんだろ……」

 

 フィリップは言葉通り有言実行してみせた。なのに俺はナンパの一つすらできねぇのが心からの悔しみをより湧き上がらせた。

 

「なんで……なんでだよ……チクショォォォォォ!」

 

 翔太郎はその場でコケコッコと鶏のように叫んだが余計虚しくなるだけだった。

 

「でも俺は、探偵さんが一生懸命俺のためにやってくれてる事はわかってるから……」

 

 後ろから千翼が俺を慰めてくれた。自分より年下に慰められるのは余計傷つくが、それでも自分のためにやってくれてるのだ。

 

「お前本っっ当にいい奴だな……」

 

 千翼の手を握り、やはりここは漢を見せなければならないと歩道に移動した瞬間、何かにぶつかった。

 恐らくぶつかったのは女性の胸で一瞬「ヤベッ!」と声を出しそうになったがもしかしてこれはチャンスではないかと思考を切り替えた。

 

「おっとすまねぇ、俺はあんたの魅力に目を奪われてたようだ」

 

 とズレた帽子を元の頭の位置に戻しながらぶつかった女性の顔を見た……見上げたが。

 

「あらぁぁ、大胆な男ってSU、TE、KI!」

 

 これはどう言えばいいんだ。

 目の前にいるのは確かに女性だ。だがあまり言いたくないが凄くアレな女性だった。

 肉つきは空気を入れたようにパンパンで、顔はどうみてもゴリラを切り取ったようなゴリラ顔で、何より身長が2メートル以上ある。

 ガイアメモリでもキメてんのか。

 

「ねぇねぇ、貴方の名前は!?」

 

 ゴリラ顔の女性は大胆に近づいてきて翔太郎を口出しさせないよう言葉のマシンガンを浴びせる。

 

「おかしいと思ってたのよ。私みたいな綺麗な女性に男の影がいないなんてねぇ! でも良い男はやっぱり見る目があるよねぇ!」

 

 一体どうすればいい、泣きそうな顔で後ろの千翼に助けを求めようとするが向こうもどうすればいいのか困惑していた。

 

 クソ、どうすればいい今すぐこの状況から抜け出さなければ。

 いや、待て顔だけで判断するのは男のする事じゃねえ。

 

「千翼。見とけよ女性は見た目じゃねえ……一番大事なのはココ

、ハートグァァァァァァァァァァ!」

 

 千翼にかっこいい所を見せようとしたら、ゴリラからハグをされた。

 いやコレはハグじゃない。ミキミキ背骨や両腕の骨も鳴るしもうベアハッグだ。俺のハートが先に砕けちまう。

 

「こ、これ以上は……死ぬから!」

 

 千翼が止めにかかって来てくれたので助かった。

 骨抜きになった翔太郎が地にドンと落とされ身体中が軋む中ゴリラは冷酷に言い放って来た。

 

「あらごめんなさい。私つい力強すぎちゃって……でもちょっとの力しか出してないのにアンタ弱いじゃない。私、弱い男嫌いなのよね……」

 

 そしてそのまま翔太郎の背を向け「さようなら……」と歩いて行った。

 

「く、つっっ……ふざけんな! これじゃあ俺がフられたみたいじゃねえか!」

 

「大丈夫?」

 

「んなわけねぇよ……ったく……」

 

 背中がズキズキ痛むのを我慢しながら立ち上がって溜息を一つついた。

 そんな中、千翼はぼそりと不安そうに呟いた。

 

「本当にこんな感じで大丈夫かな……イユはどうすれば……」

 

 そんな千翼の様子に少し今の自分を連想させた。だから翔太郎は自分に言い聞かせるよう本音を伝えるべきだと思った。

 

「大丈夫かそうじゃないかは俺達が決める事じゃねえ。お前が自分の意思で決めるんだ、俺達がやってやれる事は背中を押してやれるだけだ」

 

「最後は俺が決める……」

 

「ああ、一回ぐらいイユって子に砕けるぐらい思いをぶち当ててみろ!」

 

「俺が……」

 

「ああ」

 

「俺が」

 

「ああ!」

 

「俺が!」

 

「よっしゃあ行ってこい!」

 

 翔太郎の掛け声気合いが入った千翼は何処かに走り出して行った。何処に向かってんのか分からないがこれで大丈夫だろう。

 

(失敗したら、慰めてやるから頑張れよ)

 

 翔太郎は心の中でエールを届けた。

 

「青春っぽくていいじゃねぇか……」

 

 痛む背中をさすりながら噴水前の石段に横になる。これはフィリップに迎えに来てもらわないとちとキツイ。

 連絡を取ろうとクワガタ型携帯電話のスタッグフォンを使い電話をかけた。

 

「あーフィリップ? ちと色々あって腰がいてえんだ……こっちまで来てくれねぇか」

 

「わかった、すぐに向かうよ」

 

「場所はそっからちょっと歩いた先にある噴水……」

 

 最後まで伝えようとしたが突然目の前に現れた影に声が止まっ

た。

 

「あ、アンタは……」

 

「あらぁさっきはごめんなさい? やっぱり弱い男性も悪くないかなって思って」

 

 ゴリラ顔の女だった。

 

「フ、フィリップー! はやく助けに来てくれ!」

 

「翔太郎!? 一体どうしたんだい?」

 

「いいから来てくれ!」

 

「私が怪我を治してア、ゲ、ル! こういうのは逆方向に身体を曲げればいいのよ!」

 

「フィ、フィ、フィリップゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!! や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない、これは本当に僕のせいだ。因果応報という言葉を鵜呑みにするのなら本来は僕が受けるべきだった」

 

 フィリップはそのまま話を続けた。

 

「…………けど悪い事だけじゃない、今回の依頼人の千翼は君の言葉のおかげで上手くいったそうだ」

 

 フィリップは小さい病室でぐるんぐるんのミイラ男になった翔太郎を見た。

 

「そうか……ちゃんと成功したんだな……なぁフィリップ……」

 

「?」

 

「あの女の顔が……夢に何度も出てくるんだよ……」

 

 トラウマが悪化してしまったようだった。

 すると隣のベッドのバッタマスクの刑事である男がこちらの話に入ってきた。

 

「青年、君も苦労しているんだなっ……!」

 

 その男も大怪我をして入院しているようだった。



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変態(カズミン)は変態に巡り会う

 

 ある男の影がカフェ店『nascita』に近づいた。その男は不敵な笑みを浮かべある手紙を取り出した。

 

「フフフ……みーたん……いや石動美空、これで貴様の怨みを果たす」

 

 

 

 

 

 

 コーヒーの香りが漂う良き店内、内装は洋風でUの形をしたカウンター席に猿渡一海はコーヒーを楽しもうとしていた。

 だがカウンターの上のコーヒーはそんじゅそこらのコーヒーじゃない、自分が愛するネットアイドル石動美空ことみーたんがわざわざ自分のために淹れた奴だ。

 

「ああ……これがみーたんの淹れたコーヒー……」

 

 もう香りだけで満足しかけている俺の前に座る桐生戦兎は、引きつった顔でこちらを見ていた。

 

「何コーヒー1つでそんな大袈裟な」

 

 そんな言葉に少しイラッと来てドンと立ち上がった。

 

「戦兎てめぇ! これはなぁ!? みんな大好きみーたんが淹れたコーヒーなんだよ! もうこの一杯だけで10万ドルク、いや金額じゃ表せねぇ……心火を燃やすどころかハイになっちまうぐらい価値ある一杯なんだよ!」

 

 するとビクッと後ろに下がった戦兎は呆れた表情を浮かべた。

 

「おおっ…………分かったからさっさと飲めよ」

 

 確かにそろそろ冷めてきて本来あるべきのコーヒーの味が落ちてしまう、いや、アイスコーヒーにして……

 とそんな事考えながらも口につけ、みーたんのコーヒーを楽しもうとした。

 味はみーたんが淹れたんだ不味いわけは、不味かった。

 

(うっ……いや待て、ここで飲むのをやめるのはみーたんファンである俺がやってはいけねえ、全部飲むんだ、飲んで『旨かったぜ……みーたん』って伝えるんだ。そうなりゃみーたんも『カズミン素敵!』って俺を…………)

 

 カップの中身が半分になった時、突然冷蔵庫が開きその中から汗だく姿の万丈龍我が出てきて「プロテインプロテイン」っと一度冷蔵庫を閉じ、また開いてプロテインを取り出した。

 

「うわ汗くっさ……」

 

「筋トレしてたんだから当然だろ?」とプロテインを飲み出す万丈。

 

「そんな格好でお客様の接客できるわけないでしょ、さっさとシャワーでも浴びて着替えてこいよ」

 

 コーヒーを飲み続ける俺は客はあまり来ない事にはツッコンだ方がいいのかと思った。

 そしてプロテインを飲み干した万丈はコーヒーを飲み続ける俺に視線を向けた。

 

「おい戦兎、お前が俺のコーヒー飲みてぇ言い出したのに何カズミンに飲ませてんだよ。まぁいいけどぉぉぉ!?」

 

「ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?!?」

 

「汚ねえ!」と万丈。

 

 その言葉を聞いた途端口からコーヒーを吐き出した。

 吐き出した同時に戦兎がマズイといった顔をした。

 

「ちょ、隠してたのに何言ってんだよこの筋肉バカ!」

 

「はぁ? 誰が筋肉バカだよ、バカって言うのはなバカって言う方がバカなんだよ! この科学バカ!」

 

「バカ! 今はそれどころじゃないんだよ! ああ!」

 

 コーヒーがゲロのように不味い理由が分かった。

 万丈はコーヒーを作るのが致命的に下手なのだ、この店のマスターも下手だから娘もそうなんだろうと思ってたがよくよく考えると義理の親子だった。

 

「み、みーたんのじゃなくてこのバカが作ったのかよ…………」

 

 怒りよりも吐き気がした。

 俺はこんなコーヒーを喜んで飲んでいたのか。

 

「おい、せっかく人が淹れてやったってのにバカってなんだよ」

 

「みーたんの一杯……貴重な一杯……を……テメェ!」

 

「いや本当に騙されるとは思ってなくてさ、思ったより万丈並に騙されやすいんだな」

 

 この悪魔の科学者は謝るどころか開き直って余計に煽る。

 

「みーたんの怒りを受けてみやがれ!」

 

 愛の拳の右ストレートが炸裂してパーンと大きな声がなったが、片栗粉の入ったボウルに受け止められ、右手が死んだ。

 

「ぐぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 白く濁った液体がかかった手を握って俺が床をのたうちまわっている中。

 

「戦兎、なんだそれ」

 

「ん、ダイラタンシー現象」

 

「ダイターンスリー現象?」

 

「違う違う、ダイラタンシー現象! お前にも分かりやすく説明するとローグの胸と同じ、衝撃を与えるとカチーン! と固くなる奴だ」

 

 すると万丈はポンと手を叩き。

 

「ああー。ローグを幾ら殴っても全然ひるまなかったなー、で、その片栗粉はなんだ?」

 

「あんかけに使う、今日の晩飯あんかけうどん」

 

「プロテイン入れていいか?」

 

「勝手に入れなさいよ」

 

 二人がそんな会話を続けてる中、俺はぜぇぜえ言いながら立ち上がった。

 

「けっ……なかなかやるじゃねぇか……今日はこの辺で勘弁してやるよ……」

 

 重い足取りで出口に足を進めて外のドアに手をかけて外に出た。

 それを見た万丈は首を傾げながら「あいつ何しに来たんだ?」

 

 

 

 

 

 一海は外に出て少し陽の暖かさが混じった空気を吸った。そのまま近くでも散歩しようかと考えた時、nascitaの灰色のドアに何か付けられてる事に気付いた。

 

「ん?」

 

 ドアに貼り付けられた黒い封筒に手を取ると、宛先は『石動美空ことみーたん様へ』とだけ書かれていて差出人の名も住所も書かれていない。

 

 見るからに怪しい、考えなくても怪しい。それに何故噂のネットアイドルであるみーたんの本名と住所を知っている?

 

 これは中身を覗くしかないと封筒に手をつけようとしたその瞬間。

 

「どうかした? カズミン」

 

 突然背後から声がして咄嗟に手紙を背中に隠した。

 

「紗羽さんか……なんでもねぇ……」

 

 背後から声をかけてきたのは滝川紗羽で、何やら彼女は嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

「これ、何だと思う?」

 

 ニヤニヤしながら二枚の紙切れを揺らした。

 

「温泉?」

 

 よく見るとそう書かれていた。

 

「そう! さっき商店街の福引きで当たったの。しかもペアで! せっかくだから美空ちゃんも誘っちゃおうかなーって」

「へぇよかっ………………み、みーたんとオ、ン、セ、ン!? つ、つまりみーたんはは、裸に……いや待て待て! 何考える俺はァ! そんな邪な目で見るなんて最低だ……あ……でも想像するだけなら…………」

 

 ああダメだ、一度みーたんと温泉という言葉を聞いてからは脳内が止まらない!

 

「気持ち悪い…………」

 

 そんな考えから現実に戻してくれたのは紗羽さんの辛辣な一言だった。

 

 

 

 

 

 

 俺は現実に戻ったその後、公園のベンチに座り黒い封筒を見つめた。居場所や本名を知っていたり冗談抜きでみーたんのストーカーの可能性が高い、だからこそ安全かどうか俺が最初に確かめる。

 

 黒い封筒を開けた跡がつかないようにこっそりと開け、中身を取り出した。

 

「ふむふむ……『予告状、石動美空事、みーたんの入浴写真を撮らせてもらう怪盗K』…………なぁぁぁぁぁ!?」

 

 俺は言葉を失った。一体これはどういう事なのかと。

 怪盗Kとかいう奴がこれを描いたっていうのか、馬鹿げている今更怪盗だなんて。

 だが入浴写真という単語に引っかかった。さっきの紗羽さんはみーたんを温泉に誘うと言った。

 

「ヤベェ……! 特に理由はねぇがヤベェ……!」

 

 偶然にしては出来すぎている、今すぐにでも辞めさせないと。

 nascitaの店までダッシュで走り、息切れになりながら店のドアを開けた。

 

「グリス? どうしたの?」

 

 店内は既に閉店寸前、客も誰もいないのでみーたんは堂々と店内のテーブルに座っている。

 俺はみーたんと同じ丸テーブルの椅子に座り、今すぐ温泉はやめるように言い出そうとした。のだが。

 

「そういえばさっきね、紗羽さんから温泉旅行一緒に行こうって誘われたんだ! 私、一度も旅行に行った事ないから今からすっごい楽しみなんだけど何持っていけばいいのか分からなくて……まずトランプでしょ、UNOでしょ、それにそれに……」

 

 そんなみーたんの無垢な笑顔を見ると今すぐやめろと言い出せるはずもなかった。

 

「そうそう! ちゃんとみんなのお土産も買ってくるから楽しみにしててね」

 

「ああ、みーたんは俺達の分も楽しんできてくれ」

 

 そのまま笑みを浮かべたまま俺はnascitaから出て行った矢先。

 

(カッコつけたのはいいがどうすりゃいいんだ! あんな笑顔を俺に向けてくれるなんて……! いや今はそれどころじゃねぇ、みーたんに旅行を楽しませて盗撮もさせない、俺が犯人を見つけ出すんだ。やるしかねぇ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の公園に一人待っていた。そしてざっざっと足音がしてそちらに顔を向けた。

 

「何の用だジャガイモ」

 

 俺が呼んだ男は氷室幻徳、ヒゲ男だった。

 

「俺が呼んだ用はこいつだ」

 

 俺は予告状を手裏剣のように投げヒゲはそれをキャッチした。

 

「なんだこれは」

 

「しらばっくれんじゃねぇ、テメェがやった事だろ」

 

「何の事だ? くだらん話なら帰らせてもらう」

 

 これでもシラを出さないつもりらしい、なら証拠を並べてやる。

 

「テメェは過去に紗羽さんをホテルに誘ったんだろ、紗羽さんだけじゃなくみーたんにまで手を出そうとしてんだろゴラァ!」

 

 襟を掴みグワングワンと揺らしながら問い詰める。

 

「うっ……本当に何の事だ! この事と俺は無関係だ!」

 

 だがヒゲの反応を見るに嘘をついてるとは到底思えない。やはりヒゲが犯人ではないのか。

 なら他に誰がこのイタズラの犯人なんだ、紗羽さんのアリバイは辻妻が合うし商店街で福引きがやっていたのも確認した、nascitaの連中達がドアに予告状を貼る隙が無いのは自分が知っている、つまり俺の知らない第三者が。

 

「ワケを説明しろ」

 

 これ以上自分一人背負っていても仕方ない。

 

「ああ、わかったよ」

 

 俺はそのまま知っている事を説明した。

 

「イタズラじゃないのか?」

 

 まずヒゲの物事を聞いた後の第一反応は当然これだった。

 

「最初は俺もそう思ったぜ……だが余りにも偶然が重なってんだ気味悪いほどにな」

 

 ヒゲは少し眉間にシワを寄せた。

 

「仕方ねぇ……あいつらも呼ぶか」

 

 俺は電話を取り出した。

 

 

 

 

 

 

「こんな時間に何の用だ? 話ならnascitaですればいいじゃないか」

 

 戦兎と万丈は面倒そうな表情でこっちに来た。

 特に戦兎は何かの修理中に突然呼ばれたらしく気分が悪い。

 

「今からそれを話すから黙ってろ」

 

 俺は戦兎達に事情を話した。そしてもう一つ。

 

「俺たちはみーたんを守るために隠れながらみーたん達の温泉旅行について行く」

 

 それを言った途端、三人共目を丸くした。

 

「みーたんは今世紀最大のピンチに陥ってんだ。だからお前らも手ェ貸せ」

 

「それってイタズラじゃないのか?」

 

 戦兎がヒゲと同じような質問を返して来た。

 

「それならそれでいい、みーたんに危険は及ばねえしそれが一番いい。だが本当だったらどうすんだよ、清純派で売ってるみーたんがヌード写真なんて違法販売されたら人気ガタ落ちになるだろぉが!」

 

「美空が普通の女の子になるんだったら丁度いいタイミングじゃねぇか?」

 

「万丈お前古いよ。まあ俺も半信半疑だな、もし心配なら行かせなければいいだけなんじゃ」

 

「みーたんが楽しみにしてんだよぉ! 言えるワケねぇだろ!」

 

 ゼェゼェ息が上がってきた、仕方ない、奥の手を使う。

 

「てめぇら……相手はみーたんの正体を知ってる奴だ。男達と同棲してる事だって知ってるかもしれねぇぞ!」

 

「だからそれの何が……ハッ!?」

 

 戦兎はやっと事の重大さに気づいたらしい。

 

「万丈……戦兎……nascitaの売り上げだけで食ってく自信あんのかぁ!?」

 

 万丈もそれに気づいたらしく口を開けた。

 nascitaはゼロという訳ではないが、本当に客が来ない。今までどうやって食って来たんだと心配になるレベルでだ。

 だがそれもみーたんの支援のおかげという事も俺は知っている。

 

「万丈……俺達で美空さんを守るぞ!」

 

「今の俺たちから盗撮できる気がしねぇよな!」

 

 戦兎と万丈の二人はヘイヘーイとハイタッチをし合っている。

 

 この酷い掌返し、俺は一発殴ってやろうかと拳を滾らせたがヒゲが首を横に振った。

 

 この四人でやるしかねぇ。俺は軽く溜息を吐いた。

 

「なあ」

 

 ヒゲが話しかけてきた。

 

「俺も必要か?」

 

「ああ、お前も必要だ。一緒に来いよ」

 

 その時のヒゲは苦笑いしたが少し嬉しそうな表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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ものすごく近くて、ありえないほど気づかない。

 そして待ちに待った温泉旅行の日、貧乏ながら泣く泣く出費を払った一海達は現在、電車に乗っている。別の車両にみーたんと紗羽さんがいる。

 

 一応変装の為ヒゲはヒゲを剃りサングラスにアロハシャツ、戦兎は髪を佐藤太郎風にして、万丈は学ランを着て、俺はバイオリニスト風に見せる為バイオリンのケースを背負っている。ちなみにケースの中には着替えを入れた。

 

「で……俺たちの目的は? 言ってみろ」

 

 戦兎、万丈、ヒゲの順で三人は答えた。

 

「旅行」

 

「温泉」

 

「パフェ」

 

「だっ違えだろ! みーたんを守護すんだよ!」

 

 そう言うと万丈は頭を掻きながら口を開いた。

 

「つーか守護するつったってどうすりゃいいんだよ」

 

「そりゃ勿論後ろから付けて怪しい奴がいねぇか……」

 

「お前が一番怪しいよ」

 

 と戦兎に頭を叩かれた。

 今から行く温泉街のガイドブックをパラパラと読むヒゲは渋々と言った。

 

「落ち着け、奴の予告状は『入浴』時以外では手を出さないと書いてある、そのタイミングを見計えばいい話だ」

 

「そんな上手く行けばいいけどな」

 

 目的である温泉街の駅に着き四人はこっそりと降りた。

 みーたん達が向かう宿は温泉街の突き当たりに当たる高級旅館だが様子を見るにまずは観光して行くようだだった。

 そしてみーたん達はとあるスイーツ店「BARON」に入って行った。俺たち四人は店の外から腰を屈めてこっそりと隠れる。

 

「さっきの続きだけどよ、その紙切れを信用すんには情報が少な過ぎんだろ?」

 

 そう言うと万丈は欠伸しながらこう言う。

 

「ふぁぁぁぁ~けどよ、ずっとこんな事すんのか? さっさと温泉入りてえよ」

 

「その隙にみーたんが襲われたらどうすんだよこの頭チンパンジー!」

 

「誰がチンパンジーだよこのドルオタ野郎!」

 

「落ち着け二人共、既に手は打ってある。葛城」

 

 ヒゲが戦兎の名を呼ぶと、待ってましたと言わんばかりに戦兎は服のポケットから一円玉サイズの機械のような物を取り出した。

 

「これは美空に付けた発信機で盗聴器だ、これとビルドフォンを繋げてるからいつでも気づく事ができる」

 

 少し犯罪スレスレな気もするが、二人も守るためだと自分の心に言い聞かせた。

 

「本当に使えんだろな?」

 

「ああ、水にでもかからない限り故障する事も」

 

「あっ、美空が水こぼした」

 

 万丈のその一言にその場の空気がかなり淀んだ。

 

「HAHAHA、俺は天才物理学者ですよ? あの角度の水からかかるわけないでしょ」

 

 戦兎はビルドフォンのアプリを起動させ、みーたんの会話を試し聞きしようとするが。

 

『ザ……ザザザーガザザザザー』

 

 砂嵐のノイズしか聞こえなかった。

 

「………………(戦兎)」

 

「………………(幻徳)」

 

「………………(一海)」

 

「仕方ない、こうなったら予備の発信機を美空に付けるしかないな」

 

 さっきの事は忘れたように気を取り直した戦兎はもう一つの発信機を取り出した。

 

「作戦でもあんのか?」

 

「みーたんにバレるやり方なら承知しねえぞ」

 

「なーに極めて簡単な話だ」

 

 戦兎はポケットからラビットボトルを手に。

 

「ボトルを使えばいいだけだ」

 

「さすが物理学者だな!」

 

 万丈が感心したように言い出し、俺はそれにツッコミを入れる。

 

「物理学者の物理はその意味じゃねぇよ」

 

「マジで!?」

 

 佐藤太郎ヘアの戦兎は笑みを浮かべボトルを振りながら人間には反応すらできない高速移動を始め店内に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「んでさー戒斗、神様仕事も楽じゃ無くてよー」

 

 BARON店内でオーナーと一人の客が会話してるのが見えた、客の方はどっかで見たような気がするが、今は美空に発信機件盗聴器を付ける事に必死だ。

 

 店の端、チャンスは一瞬、水こぼしても大丈夫なように背中に発信機を……!

 だが、何者かに手を掴まれた。

 

「なっ……!?」

 

 驚きのあまり声が出てしまった。そして掴んだ相手の顔を見るとヤバイ、前に一度大きな事件で会った事がある神様、葛葉紘汰だった。

 

「もしかしてアンタ……戦兎じゃないかー!? おー! 久しぶりー!」

 

 突然肩を組まれて、マズイと冷汗が出る。

 

「戦……兎……?」

 

 聞き慣れた声が聞こえてより一層冷汗が増した。

 

 

 

 

 一方、別班。

 

「みーたんにバレた……何やってんだよ戦兎…………!!」

 

 俺は覗いてる双眼鏡を板チョコのように折り、あれだけ自信満々に言った後で失敗するとは、心の怒りがほとばしった。

 

「いや、桐生戦兎のボトルを使った速度は生身では史上最高だった。あの男が異常すぎる……高速移動する葛城の手を普通に掴んだ」

 

「クソッ……こうなったら全部洗いざらいみーたんに吐くしかねぇか……」

 

 俺はこのまま店に乗り出そうとしたがヒゲが俺を止めた。

 

「待て、まだ終わってない」

 

 

 

 

 

 

「えっ戦兎君……?」

 

 紗羽さんの目を丸くした顔と普通に疑問に感じる美空の視線が痛い。

 だが俺はてぇ~んさい物理学者、こんな時のための対処法は知っている。

 

「えっ!? 俺っすか? おれは佐藤太郎っしょ!」

 

 ここは自分が知ってる限りの佐藤太郎像を演じきるしかない。

 

「もしかして人違いか?」

 

 神様は首を傾げる、よし次!

 

「もっ、も、も、も、もしかしてそこにいるのはみーたん!?」

 

 ズタタタタとゴキブリのようなスピードでそちらに近づき。

 

「俺もバンドのトップ目指してるんっす! よかったらサインください! 俺のサインももらってください!」

 

「あっはい」

 

 美空は着ている服の背中に店のマジックでサインを書いてくれた。

 

「ヒャッホーウ! フッフゥゥゥゥ!」

 

 サインが終わった後、バカのような喜びを見せながら店の外に出て行った。

 

 戦兎が去った後、店内で紗羽は「マスクだけじゃなくサングラスもつけとく?」と美空はそれに「うん」と引き気味にうなづいた。

 

 

 

 

「一体何の騒ぎだ、葛葉」

 

「いや、なんか知り合いかと思ったら別人でさー、あ、そうそうアスガルドって国で……」

 

 

 

 

 

 

 戦兎が息切れになりながらこちらに戻ってきて、様子を見るに佐藤太郎を演じ、バレずに済んだようだ多分。

 

「ヒャッホーウだってよ……くそっ……」

 

 万丈は戻ってきた戦兎をからかうように笑い、戦兎はムッとしている。

 

「万丈にやらせりゃよかった……」

 

「だが葛城よくやった。発信機を付けた後は一旦ここから離れるぞ」

 

 俺もそれに同意で、次にバレたら誤魔化しきれる自信はない、四人揃って他人の空似は無理がある。

 

「えっ……」

 

 離れると言った瞬間、戦兎は驚きの声をあげた。そして手のひらを見せた。

 何ということだろう、発信機は戦兎の手にあるではないか。

 

「最悪だ……」

 

「またふりだしか……」

 

 ヒゲの言葉に全員がどんよりとして、溜息が出た。

 

「だったら次はどうすんだ?」

 

「遠くから遠距離狙撃……」

 

「このヒゲ! みーたんに怪我させてぇのか!」

 

「だったら変身して透明化、瞬間移動、時間停止……はダメだあの神様が対応してくる」

 

「葛城、あの男は一体なんだ?」

 

「説明すると長くなるからその話はまた今度な」

 

 三人が議論していく中、万丈一人が言う。

 

「外出た時に狙えばいいんじゃねぇか?」

 

 その言葉に俺たちはなんでそんな簡単な事に気付かなかったのだろうかと後悔した。

 

「だがあの男が邪魔する可能性もある、だったらこうすっぞ」

 

 俺の言葉に三人は耳を傾けた。

 俺は自分の考えた作戦を言い出す。

 

 みーたんと紗羽さんが外に出たその瞬間、まず既に変身したビルドが発信機を豪速球で投げた! 

 そして次にローグがダイヤモンドの力を使い、発信機を反射させる!

 最後は跳ね返った発信機を消しゴムフルボトルで姿を消したグリスが走りながらキャッチして、みーたん達二人の横を通り過ぎた!

 みーたんと紗羽さん二人は強い風が通りかかったと思い顔をしかめる。

 その瞬間にグリスはみーたんの服に発信機をつけた。そして即退散。

 

「俺の出番はどこだよ?」

 

「へっ、ゴリラに出番なんざ必要ねえ、どうせカンペねえと忘れんだろ」

 

「はぁ!? 俺だってなカンペあればできる男なんだよ!」

 

「カンペ必要だって言ってんじゃねぇか!」

 

「いやいや、発信機が先に壊れるよお二人さん……って幻徳どこ行った?」

 

 いつのまにかヒゲの姿が見当たらなくなっていた、作戦会議まではいたはずなのだが。

 

「あっいた」

 

 戦兎が指した先はヒゲがBARONの入り口の自動ドアから出てくるのを見た。

 

「さてはあいつ……バカだな!」

 

「すげぇな、正面突破しやがった」

 

「んな事言ってる場合じゃねぇだろ……!」

 

 だがヒゲは澄ました顔でこちらに戻ってきた、そして第一声が。

 

「石動美空に発信機を付けてきた」

 

「マジかよ……」

 

「マジで?」

 

 と戦兎がビルドフォンを取り出しアプリを付けると。

 

『さっきの人、どこかで見かけたよね……』

 

『誰だったっけ……』

 

「マジだ」

 

「一体どうやってやりやがったんだ」

 

 笑いながら俺はヒゲに話しかけると、ヒゲは暗く淀んだ声で喋り始めた。

 

「どうやらあいつらは…………俺の事をヒゲで区別していたようだ……」

 

「まさかのヒゲ>>>幻徳!?」

 

 確かにヒゲは変装の為剃っていて、ヒゲが無いと一瞬誰か分からない。それにアロハシャツにサングラスまで付けていると別人に近い。

 

「サインをくれと石動美空に接近した結果……成功した」

 

「マジかよ……ヒゲの存在感すげぇなおい」

 

 そんな話を続けている中、俺はみーたん達がお会計を始めようとしているのに気づいた。

 

「さっさとずらかるぞ……」

 

 その言葉に三人共頷き、その場から自分達が一晩過ごす予定の宿に足を向かわせた。

 

(だがまだ問題は終わっちゃいねぇ…………今晩が勝負どころだゴラァ……)

 

 時間が1時を過ぎ、緊張感が高まる一海だった。

 



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変態の中の戦争

 温泉街はある山から降りると直ぐそばに存在している。

 そんな温泉街である男はすれ違った石動美空を見つめた。

 いつもと変わらぬ天使のみーたん、すれ違うだけで癒される。だが彼女は私の全てを奪った憎い女でもある、だからこそ復讐しなければ私の気が済まない。精々盗撮されるのを知らぬまま、つかの間の旅行を楽しむがいい。

 だが、少々厄介な邪魔者が予想より増えてしまった、予告状の渡し方を正直ミスった。というか何故渡した、あの時の私は力を手に入れ有頂天になりすぎた。

 まあいい、全員が相手だろうと倒せばいいだけの話だ。

 男は邪悪な笑みを浮かべ、今日ベストショットを取れるある場所への移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらに何買って帰るか……」

 

 一海達は交代交代でみーたんに異変が無いのか宿で監視し、一人づつバレないよう一時間自由行動を入れる事にした。

 俺はそんなものは必要ねえと言ったが、三羽ガラスや猿渡ファームのみんなの事を考え素直に受け入れる事にした。

 

 で、今はお土産コーナーに顔を出し何を選ぶか考えてる途中だ。

 温泉饅頭、クッキー、珍しいラムネ味のキャラメルまで見かけた。

 

(どれにすっか悩むな……キーホルダーはよくわかんねえし、ここは食えるモンにすっか)

 

 財布の中身の金額を見ると、もう帰りの賃金しか残っていない。見るからに悲惨である。

 

(走って帰るか……)

 

 温泉饅頭やひよこ饅頭やプリンやらを買い、あいつらの喜ぶ顔を浮かべながら袋を持って外に出ようとしたが。

 

(ヤベェ……! みーたんだ)

 

 みーたん一人が外の路地を歩き、この店を通りかかろうとしていたのだ。お土産コーナーの棚の後ろに隠れ、来るな、来るなと祈っているところ、一瞬みーたんの隣のみーたんTシャツを着たメガネ男がにやけていた。

 だがそのにやけはみーたんに気づいたからじゃない。悪意と下心が感じられた下品な笑みだ。

 

(まさかみーたんに気づいたか……?)

 

 そう思ったが男は何もみーたんに話しかけるような事は無く、通っていくみーたんを見つめていた。

 

(怪しい…………あいつが予告状を送った奴か? そうじゃなくてもみーたんに危険が及ぶかもしれねぇ……)

 

 俺は今すぐにでもそいつを取っ捕まえようとしたが。

 

「父さん……ハァハァ、探したよ……嶋さん達がそろそろ宴会を始めるから早く戻らないと」

 

 肩を掴まれて、振り向くと青年とも大人とも言い難い中性的な男が、なんと俺を父親と言ってきたのだ。

 

「おい、俺を誰かと勘違いしてねえか」

 

「確かに…………よく見ると……父さんに似てるけど違うようなそうじゃないような……」

 

 はっきりしろよと呆れかけていた頃、後ろから笑い声が近づいてくる。

 

「オー! 我が愛しい息子よ、そんな所で何してる?」

 

「あっ父さん」

 

 そう後ろから声がして、誤解が解けたのだと振り向くと一瞬驚きの声が出てしまうほどに俺と似ている男だった。

 

「うん? なんだ、ハンサムな男だと思えば俺に似てるな? 世の中三人の同じ顔が存在すると言うがそれは本当らしいなアッハッハッハ」

 

 顔は似てるが根本的な何かは似てないだろう。

 

「さっきは勘違いしてすいません……」

 

 息子らしき男が頭を下げるが、父親らしき男はまだ二十代ほどの若さである、何か事情ありなのか。

 

「ああ気にしてねえよ……だがお前の親父と俺は本当に瓜二つだな」

 

 アッハッハッハと笑う俺に似た男は馴れ馴れしく話しかけて来る。

 

「俺は過去に顔占いをやっていた、本来なら男はパスだが俺に似てるのは何かの縁、この俺が直々お前の恋愛運を占ってやろう」

 

「えっ、父さん占いなんてやってたっけ……」

 

「渡、父さんはな、お前が知らない間に色んな経験を積んでるんだぞハッハッハッ」

 

「いや、俺はすぐに追いかけてえ奴がいるんだが」

 

「なあに遠慮するな、この俺が見てやるって言ってるんだ。ふむふむ……」

 

 俺に似た男は真剣な顔でジロジロ見つめてくる。そして結果発表。

 

「ほうほう……喜べ、お前のモテ期は4回だ」

 

 半分占いなんて信じてないが、少し胸がドキリと高鳴り、心の中でガッツポーズした。

 

(まさかみーたんと4回チャンスがあるのか……!)

 

「1度目失恋、2度失恋、3度目失恋、4失恋だ」

 

「なぁっ……!?」

 

「と、父さん! ご、ごめんなさい、悪気はないんです多分、本当にごめんなさい!」

 

「おーっと引っ張るな渡、服が伸びる。うん、何だ何だ? 宴が始まる? 丁度いい、別れの切符として俺の演奏をみんなに聴かせてやろう! 行くぞ渡ー!」

 

 そう言って、親子二人は俺から去って行った。

 

「俺は…………占いなんて信じてねぇ……ぞ」

 

 心が少し痛かった。

 というよりそんな事を考えている場合じゃないと、外に出てメガネの男を探したが、どこにも見当たらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿に戻った一海は冷蔵庫にお土産を入れ、状況報告を聞いた。

特に変化はないそうだ。

 こちらもメガネの男の事を話した。

 

「なんだよ結局取り逃してんのかよ」

 

「面倒な親子とぶつかっちまったんだよ……」

 

「まあまあ落ち着きなさいよ、仮にそいつが怪盗Kだとしても美空の周りにはグレートクローズドラゴンが監視しているんだ、そう簡単には危機は及ばないはずだろ」

 

「俺の相棒だからな」

 

「俺の開発品だからな」

 

 その時、襖の戸が開きヒゲが帰ってきた。

 

「遅かったじゃねぇか、そろそろみーたん達風呂に入るかも知れねえぞ」

 

「ああ、少し周辺を警護していたんだ」

 

 と鼻にイチゴのクリームを付けた男が言う。

 多分BARONのイチゴパフェでも食べに行ったのだろう。

 俺は鼻のことを言ってやろうかと考えたそんな中、万丈が容赦なくぶった切った。

 

「アーッハッハッハッ! お前、鼻にクリームついてんぞ」

 

 一瞬眉を引き上げ、驚きながら鼻を摩るヒゲ。

 俺は机に置かれたポッドのお茶を飲んでいる中、発信機から新たな声が聞こえた。

 

『私、露天風呂初めてだから緊張しちゃうな~』

 

「ハッ!? あっつ!」

 

 お茶を膝にこぼし、熱さに耐えながらティッシュで拭く。

 気を取り直し。

 

「よし、てめえら準備はいいな? 俺たちがみーたんを守らなければnascitaは潰れ、俺たちのみーたんの人気はガタ落ちする! 俺たちがやるしかねぇんだよ、分かったなぁ!?」

 

「「オオー!」」

 

 万丈と戦兎の生活がかかった気合いの入った叫びを上げる。

 

「だったらさっさと作戦通りのポジションに行くぜぇぇ!」

 

「「オオー!」」

 

 そして二人共気合いを入れながら走り出す、自分達の明日を繋ぐ為に。

 

「この事件、本当に俺には関係ないな……」

 

「行くぞ、ヒゲ無し」

 

「ヒゲ無し……?」

 

 ヒゲのショックを受ける顔をみた気がするが、今はみーたんだ。

 俺達は作戦通りのポジションに向かった。

 俺達が考える作戦はこうだ。

 まずボトルで姿を消した戦兎は女風呂の前に立ち、怪しい男が来ないか見張る。

 そしてヒゲとバカは露天風呂の外の山から降ってきた怪しい奴が侵入しないか見張る、そして俺は遠くから撮影されないよう周囲を見張り続ける。

 

 よし完璧だ。

 そう確信し、発信機を予備のビルドフォンに繋げてみーたん達の状況を確認する聞く。

 

『美空ちゃん……着痩せするタイプなんだ……結構スタイルいいから羨ましいなぁ』

 

 バキャッ

 

 驚きのあまりビルドフォンに力を込め粉砕してしまった。

 

「しまったぁぁぁぁ!」

 

 もう少し聞いていたかった。いやそれよりもこれでこちらからみーたんの状況を確認する事は不可能になってしまった。

 

(落ち着け、まだみーたん達は露天風呂に入る途中だ。後は戦兎達からの連絡は待つ……それか俺が犯人を取っ捕まえる……それで終わりだ)

 

 ビルドフォンは砕けたが、ケータイはまだ生きている。

 

 

 

 

 露天風呂の女湯ののれんの前に立つ透明な戦兎は軽く発信機の調子を確認した。

 断じてやましい心があるわけじゃない、念のための確認してだった。

 

(ん? なんだあの人、変にキョロキョロしているな)

 

 発信機を確かめる前、少し痩せた男がハアハアと肩で息をして、深呼吸をし始めた。

 

「よし……み、み、み、みーたぁぁぁぁぁん!」

 

 戦兎は変質者はコイツだと確信して、のれんに突入する男は後一歩の手前で戦兎の足に引っかかった。

 

「ゲェッ!」

 

「女湯に飛び込もうなんて変な事するんじゃないよ。気持ちはわかるけどな」

 

 戦兎は姿を表して、変質者の腕を掴みながら立ち上がらせた。

 

「な、なんだよあんた!」

 

「最近生活が苦しい天才物理学者ですが何か?」

 

 男の手を掴みながらビルドフォンで他のメンバーに連絡を告げようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい見ろよ、あいつ女湯に特攻しようとしてねえか!?」

 

 美空達が入る露天風呂は山の景色が見える位置にあり、旅館の露天風呂ののれんから二、三分歩けば露天風呂に着くのだが、当然覗くとすれば裏側からが当然だ。

 その男が、露天風呂の裏側の湯が流れた先の川を走り、露天風呂にまで突撃しようとしている。

 

「万丈龍我! 今すぐ止めるぞ!」

 

「言われなくても分かってんだよ!」

 

 今すぐにダッシュで走り、万丈は変質者の男を腰からタックルさせその場にこけさせる。

 

「離せ! 離せっ!」

 

「っ離すわけねぇだろ!」

 

 もつれあっている中、氷室が何か女湯側から異変を感じた。こちらに近づいて来る音がする。

 

「万丈龍我! はやくしゃがめ!」

 

「なぁ!?」

 

 万丈が気づいた頃には紗羽さんがこちらに向かって来ていた。

 

「クソ!」

 

 変質者と一緒に頭をしゃがめ、何とかこの場をどうにかしようとしたが。

 

「きゃあ水死体!」

 

(咄嗟にその言葉が出るあんた怖えよ!)

 

 紗羽さんが一旦その場から美空を呼ぶために離れるチャンスを見て気絶した変質者を抱えながら急いで岩に隠れて氷室と合流した。

 

「あれ……? 確かあそこにいたはずなんだけど……」

 

「疲れてるんじゃない?」

 

「そうかな……」

 

 

 

 

「あー……疲れた……さっさと終わらせて温泉入りてぇーな……」

 

 風呂上がりに飲むプロテイン牛乳が本当に愛おしい、この温泉街にあるかわからないが近所の銭湯ではあったんだしあるに決まっている。

 

 氷室に変質者を捕まえたと連絡を任せ、万丈はその場で座り込んだがこっちのビルドフォンの着信音が先に鳴った。

 

「あっ戦兎」

 

 氷室の連絡は一海に任せて戦兎と通話を繋げるが。

 

「あーあーもしもし、万丈だな?」

 

「ああそーだよ、一体何の用だ? もしかしてこっちが先に捕まえたから嫉妬してんのか?」

 

「何言ってんだよバカ、変質者はこの俺、桐生戦兎がちゃんと捕まえましたよーだ」

 

 少し会話が組み合わない。

 

「そりゃこっちのセリフだ。今さっき変態は俺たちが捕まえたんだぞ?」

 

「……まさか…………複数犯か」

 

「ハァ? まだこんな奴がうじゃうじゃいんのかよ」

 

 また面倒な問題が増えたと頭を掻いたが、自分達の生活がかかってるのだからやるしかないと気合いを入れようとした時、氷室から奴のビルドフォンを見せられた。

 

「オイオイ……マジかよ…………戦兎、今すぐにみーたんで検索してみろ」

 

「……? わかった、一旦切るぞ」

 

 氷室のビルドフォンの液晶画面には『みーたんがお忍び温泉旅行!?』とネットアプリに写真ありで投稿されていた。

 

「投稿約三十分前か…………大したものだな」

 

「三十分でここまで追いかける気力ってスゲーな、バカだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……わかった。そっちは死んでもみーたんを守れよ」

 

 戦兎から今の現状の連絡を貰った一海は少しイラついた。

 戦兎達が捕まえた変質者の中に眼鏡男はいなかったという。

 

 

 ケータイで戦兎に連絡をかけ、自分の考えた策に手伝ってもらおうとするが。

 

「あ、ちょっとタンマ! 電話来た、戦いストップストップ!」

 

 何やら通話の向こうでは騒がしい音がする。武器と武器がぶつかり合うような金属音や弾け散る火花。

 

「どうなってんだ戦兎!」

 

 まさか怪盗が正面突破でも仕掛けてきたのか。

 

「いや……だから待てって言ってるでしょうが!」

 

 強力なビーム音が聴こえて一旦静かになる。

 

「ふぅ…………」

 

「何があったんだよ……」

 

「それがな……難波のブロス兄弟がこちらにやって来てよ……多分、難波のお偉いさんがみーたんの入浴写真を手に入れたいとかなんとか」

 

「もう潰れちまえよ難波重工」

 

 すると電話の向こうから「全ては難波重工のために!」という声が聞こえる。今日は一段と虚しく聞こえた。

 みーたんの入浴写真を手に入れたい気持ちは痛いほど分かるが、お前達はそれでいいのか。

 

 一度電話を切り、俺は頭を落ち着かせた。

 

(戦兎達が捕まえたみーたんオタクはぜってぇカモフラージュだ。あの眼鏡は一体どこにいやがるんだ…………俺があいつならどう考える? 俺がみーたんを撮るとしたら…………)

 

 俺はふと、露天風呂から真っ直ぐ見える綺麗な景色の山を見た。

 

(一か八か賭けるしかねぇ……)

 

 

 

 

 

 

 メガネをかけた男は、少し露天風呂から離れた真っ直ぐ先の山から双眼鏡で覗いていた。外は私の流した情報で奴らが人間相手や地獄兄弟相手と戦っている、ある男の手伝いのお陰で難波の兵器を騙し優秀な駒となってくれている。

 いつかはここもバレると思っていたからカモフラージュには丁度いい。

 

 そろそろみーたんが騒ぎに気づく頃だろう、ので今のうちにカメラで抑えておこう。

 

 高性能のカメラでみーたんの白い裸体を捉え、このまま数枚取ろうとしたその瞬間。

 

「させるかゴラァァァァァ!!」

 

 その声が聞こえたその時、顔に強烈な痛みが走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 肩で息をしながら、ようやく怪盗Kと対面できる事が出来たと少し笑みが浮かんだ。

 

「ネタはもうあがってんだよ怪盗野郎」

 

 メガネを吹き飛ばされた男はメガネをかけ、不思議そうな顔を浮かべていた。

 

「何故私の居場所がわかった?」

 

「そーいうと思ったぜ、簡単な事だ。みーたんを綺麗に撮るとしたらここしか考えられねえんだよ。ベストな位置、居場所、向き、全てがここに揃ってやがる、欠点といやあ距離が離れすぎてその辺の使い捨てカメラじゃあ届かねえぐらいだがな」

 

 それにこいつはみーたんのTシャツを着るぐらいのファンだ、ファンなら完璧に撮りたがるに決まっている。

 

「貴様……私と同レベルの変態か!」

 

「一緒にすんじゃねぇよ! 後は俺がてめぇを街で見かけたのが運の尽きだな」

 

「まさかバレてたとはな…………フフフフ……ハァァァーッハハハハハ!」

 

「何笑ってんだ、気持ち悪いな」

 

「あの女は……私の全てを奪った女なのだ! ここで止まる訳にはいかないのだよ!」

 

 男は手に『ネビュラスチームガン』を持ち、二つのボトルをネビュラスチームガンに交代交代にはめ込んだ。

 

「何……っ!?」

 

「フフフ…………変……身!」

 

 男を囲む無数の歯車が男の体に吸い込まれ、男の体は超人へと変わっていた。

 姿はヘルブロスと変わらないのだが色が違う。右半分は銅、左半分には銀、顔は金色の三色の怪物に変わっていた。

 

「これがケルベロス……私の力だ……!」

 

「てめぇ……どこでそれを手に入れた……!」

 

 言う気配はない、むしろみーたんの事を言い始める。

 

「なら無理矢理吐かせるだけだ……ゴラァ!」

 

 俺はスクラッシュドライバーを付けロボットスクラッシュゼリーを入れようとするが。

 

「もし、私の邪魔をしなければみーたんの写真をタダで譲ろう! それプラス、販売する気のない写真だって譲ろうか?」

 

 一瞬揺れた。

 

「けっ、俺が見たいみーたんの裸はそんなもんじゃねぇ、ちゃんとした段階で見せてくれる裸なんだよ! 行くぜ……変身」

 

 一海はグリスへと変身し、右手に力を込めた。

 俺がここで負けたらみーたんの裸を取られる危険がある。負ける気はしないが、時間稼ぎでいい、みーたんが入浴を終える時間まで稼ぐだけで俺の勝ちだ。

 入ってから10分は立つ。優勢なのは俺の方なのだ。

 

「心火を燃やして……ぶっ潰す……!」

 

 

 

 

 

 

 



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変態!変態!変態!

「外がちょっと騒がしくない?」

 

 美空ちゃんが少し不安そうな表情を浮かべていた。おちょこを口につける私はそんな事よりも温泉を楽しみたかった。

 

「近くでやってる花火じゃない?」

 

「いや空に何も浮かんでないし爆発音も聴こえるし……」

 

「そうかな……?」

 

「紗羽さんお酒飲みすぎでしょ……」

 

 

 

 

 

 

 

「てめえには一切容赦はする気はねえ……!」

 

 グリスは足場を蹴り、一気にケルベロスの間合いに入り込んだ。

 

「なにっ!?」

 

「遅えんだよ゛!」

 

 ケルベロスが驚きの声を上げた瞬間、グリスは両手が分身したと錯覚するレベルのラッシュを繰り出した。

 

 相手のガードする手が弾かれた瞬間、体を浮かばせ回し蹴りで首を狙う。

 ガッ! ズザザザザザザザザとケルベロスは右手でガードして後ろに吹き飛んで行った。

 

「ハッ! 中々やるじゃないか(手がぁぁぁぁ!)」

 

 俺は本気でケルベロスを殴りにかかった。だが全てを受け止められた。

 それに何度かカウンターを狙う隙だってあった。

 それをしない理由は単純だ、要はナメられている。

 

「気に入らねぇなぁ゛加減のつもりか?」

 

「フッ、チャンスタイムだよ、チャンスタイム(右肩が…………上がらない……)」

 

 だがこれは時間稼ぎのチャンスにもなる。この際、話題を持ちかけてやるのも悪くねえ。

 

「チャンスタイムか……なら、みーたんを狙う理由を聞かせろ」

 

 ケルベロスの笑みで仮面の奥の余裕が目に浮かんだ。

 

「もしや時間稼ぎのつもりだろう? そんな暇があるわけないだろう!(よし、痛みが引いた!)」

 

「チッ……」

 

 グリスはケルベロスの攻撃に耐えるよう身を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで最後か……」

 

 ローグが無数に現れたハードガーディアンの最後の一体を破壊して、変身を解いた。

 

「守る事には成功したがこの騒ぎ、石動美空には気づかれただろうな」

 

「これで気づかねえ方が馬鹿だろ……」

 

 その場で大の字で寝転がる万丈龍我はむくりと身体を起き上がらせて、肩を回した。

 

「けどよ、これで俺たちも温泉を楽しめ……」

 

 ドカーン! チュドーン! 

 

 巨大な爆発音が鳴った。戦兎が戦ってる方向と山の方向にだった。

 

「またかよ……」

 

 万丈龍我はいい加減にしろとうんざりしていた。無理もない、俺もそう思う。

 

「俺は葛城の方に向かう……お前は山の方を頼む」

 

「あっちはスゲー遠いじゃねえか、お前が山いけよ」

 

「……お前は空を飛べるだろ」

 

「あっそっか」

 

 

 

 

 

 

 

「そこだ!」

 

 木に隠れみーたんのベストアングルな位置から離れるよう走っていたが、銅と銀の歯車の形をした攻撃がグリスに当たる!

 

「ぐわぁ!?」

 

 その場に転がり、起き上がる隙も与えずケルベロスは空から右手を振り上げて落ちてくる。

 

(避けれねぇ……!)

 

 一か八かその場でグリスは両肩の噴射口から油を出しながら後ろに下がる。

 

「何!?」

 

『スクラップフィニッシュ!』

 

「こ゛れ゛で゛も゛喰゛らいやがれえぇぇぇぇぇ゛!!」

 

 必殺技の蹴りを食らわせて、ケルベロスは木をなぎ倒しながら数十メートル吹き飛んだ。

 

「これでくたばっちまえばいいんだがな……」

 

 だが奴はまだ立ち上がるが、すぐにのたうち回った。

 

「痛あァァァァァァァァ!! クソッ! クソォォォッ!」

 

 そろそろみーたんは風呂から出る頃だろう、それを抜きにしてもあの騒ぎじゃ温泉に入っている場合じゃねぇと気づく。

 

「何故貴様は邪魔をする? 貴様の何が突き動かすのだ!?」

 

「簡単な話だ、性欲! 盗撮! 変態! それしかねえてめえなんかに負けるわけにはいかねぇんだよオラぁ!!!」

 

 グリスのパンチにケルベロスは吹き飛び地面を舐めるように倒れた。

 

「ぐっ……黙れ! 貴様に何が分かる! あの女に与えられた苦しみを……! 恨み! 苦痛を!」

 

「みーたんはそんな事する子じゃねぇ! ただの勘違いに決まっんだろ!」

 

 グリスは次は八つ当たりのように飛び蹴りを食らわせた。

 

「ちょ、ちょっと……待ってくれ……話をしてる時に攻撃はやめてくれ……」

 

「だったらさっさと話やがれ!」

 

「ならお望み通り聞かせてやろう…………私は……私は……!」

 

 ゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「あの女の笑顔のせいで…………貢ぎすぎて借金して東京湾に沈められる寸前だったのだぁぁぁぁ!!!!」

 

「ただの逆恨みじゃねぇぇぇかぁぁぁ!!」

 

『スクラップフィニッシュ!』

 

「ぎいやぁあああああああああ!!」

 

 ドガーン!! と強烈な爆発音が鳴り、怪盗、いや最低野郎を倒したのだった。

 

「これでみーたんに危険は……」

 

 疲れ果てて、その場に倒れそうになった瞬間だった。

 ケルベロスはムクリと亡霊のよう立ち上がり。

 

「裸…………裸…………写真……!!」

 

「何っ!?」

 

 突然の事に避ける暇もなく、相手の攻撃に対応しきれず、身体がとてつもなく吹き飛んで行くのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで……邪魔者は消えた……………………」

 

 私は歩く、裸を手に入れるために。借金を返すために、ここまで来たのだ。

 

「ここからなら……撮れ……」

 

『ボルケニックアタック!』

 

「え……?」

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 山で強力な爆発が起こった……私はもう動ける力はこれっぽっちも残ってない。負けてしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はどこまで吹き飛ぶんだ、くそっ、早く体制を立て直してどうにかしねえと。

 だが身体が言うことを聞かない。

 俺がもうダメかと一瞬諦めかけたその時、クローズが自分の隣を素通りするように飛んでいくのを見た。

 

「後は俺に任せてろ!」

 

(仕方ねえ……ここはあいつに任せるとすっか………………どこまで飛んでるんだ)

 

 本音を言えば助けろよと言いたかった。

 だがそろそろ速度が緩み、角度が落ちていくのを感じて衝撃に備えようとした、後ろは温泉。

 

 しかも女風呂だ。

 

(ラッキー! んなわけねぇ……)

 

 流石にみーたん達は騒ぎに気づき風呂から出ている。絶対そうだ、絶対にそうに決まって……

 

 ボチャーン!!!

 

「がぁっ……はぁ…………はぁ……」

 

 生身になった一海は墓から這い出るゾンビのように湯から上がった。

 這いずるようにここから出ようとしたら後ろから聞き慣れた声で一番嫌な予感が的中してしまって泣きてえ。

 

「なんでいるの……」

 

「み、みーたん…………こ、これはナイル川よりも深いわけがあって……」

 

 バスタオルで身体を隠していた二人は、もうまるで汚物を見るような目で、みーたんにならその目で見られても悪くないと思った。

 

「いやっだから、みーたん達を変態から守ろうとしただけで……」

 

「変態はそっちでしょ……?」

 

 みーたんの瞳の色がエメラルドグリーンに変わった。

 

「ま、待ってくれ、本当に守ろうとして…………」

 

 耳を傾けてはくれなかった。確かにこれで信じろと言うのが酷かも知れない。これから起こる運命を受け入れてみーたんのバスタオル姿を目に焼き付けた。

 

 

 

 

 

 

「ほらよっ」

 

 全てが終わり、一海がどこかに吹き飛んで行ったのを気づいてない戦兎は、万丈からプロテイン牛乳を投げ渡された。

 

「やっと終わったな」

 

 イチゴ牛乳を片手に格好つける幻さんに少し苦笑いしかけながらも本当に終わったのだと実感ができた。

 

「ああ、俺たちは美空を守り俺たちの明日をビルドしたんだ」

 

 一見いい風に言っているが、理由を知るとかなり下衆いセリフに聞こえる幻徳は考えることをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待った! 今のちょいーと待った!」

 

「はっはっはっ、左君。男の世界には待ったはないんだろう? だからダメだっ!」

 

「ちくしょう……これで22敗目かよ……」

 

「違うな、23敗目だっ」

 

 ある事情で病院を入院していた翔太郎とボスはドラマの話をするに打ち解けて今では仲良く将棋をする仲にまで発展した。

 たまに刑事ドラマと探偵ドラマで争うことはあったが。

 そういえば今日、新しい入院患者がこの部屋にやってくると聞いた。確か名前は猿渡と。

 

 

 

 

 

 

 



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異世界編1
晴人異世界(てんい)る


 

「うい~っ……次行くぞ次ィ!」

「ストさん……アンタもう飲み過ぎだって、さっさと帰りますよホラ」

「うるせぇ! てめぇに俺の気持ちなんてわかるわけないだろ……うう……クソったれ!」

 

 ベロンベロンに酔ったストさんの肩を担ぐが、彼は本当に酔っていて手に負えない。

 そういや改造人間は酒を飲んでも酔えないんじゃなかったのか。

 

「うう…………俺だって……本意で言ったわけじゃねぇのによ……」

 

 ストさんは奥さんと別れたが、今日偶然久し振りに会い仲を修復出来そうな雰囲気だった、が元奥さんは新旦那とよろしくやっていた。そしてこうなった。

 

「はいはいわかりましたから」

 

 無理矢理引っ張り、青になった信号を急いで渡ろうとする。急いで歩かないと信号が変わりそうだ。

 

「うっぷ……」

 

 信号の中程でストさんの容態が急変した。

 

「ちょ、ここでリリースは勘弁してくださいよ……」

 

「ダメだ…………出……る」

 

「なんのための改造人間なんだよ……!」

 

 晴人は急いでゲロを吐かせない為に魔法で処理しようと指輪を手にはめたが。

 

 キキーッ!!

 

 突如嫌な音がして身体がすくんだ。

 背後から強いエンジン音が聞こえた同時に身体に強い衝撃を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 微かに木々から覗ける青い空が見える。

 強い日差しを顔に感じて、晴人は目を覚ました。

 

「あー…………頭が……」

 

 ストさんと共に酒を飲まされすぎたせいか頭が痛い、今すぐ顔でも洗おうかと身体を起こした。

 鳥の泣く男、どこか爽やかな風が吹き、都会とは違う空気が美味い。

 

「どこだ……ここ……」

 

 晴人が目を覚ましたとされる場所は森の中だった。

 横たわっていたのは自分の知るベッドでもソファーでもない、枯れ葉の上で、一体ここはどこなのか理解ができなかった。

 晴人は一度落ち着いて、昨日何があったか思い出そうとする。

 ストさんがオンドゥル語解読に失敗して、違う、戻りすぎだ知りたいのはもっと後、ストさんが酔っ払った後だ。酒を飲まされ自分も酔っ払った後に、確か車かトラックに轢かれた気がする。

 

「……天国?」

 

 いや違う、俺は主人公なのにあんなアッサリ死んでいいのか?

 

「いや違うっ! 貴様は勇者剣士ウィザードだっ!」

 

 ふと隣の湖から聞き慣れた渋い声が聞こえた。

 なんと湖から小さくセミのような羽が生えたボスが出てきたではありませんか。

 

「ボス、怪我が酷いと聞きましたが……そんなに酷かったとは……!」

 

 おそらく怪我を治すための手術でミニサイズになってしまったんだ。

 

「だから違うっ、ここは別世界で私は精霊ボスだ」

 

「別世界……? 精霊ボス……?」

 

 意味がわからなかった。

 

「うむ、ここは勇者剣士ウィザードの住む世界とは違う並行世界だ」

 

「ほーうどうでもいいっすけど勇者剣士なのにウィザードって矛盾してますね」

 

 精霊ボスはううっ、と図星を突かれたような声を出した。

 

「細かいことは気にするな」

 

「そうっすか」

 

 晴人はこのボスも自分の知るボスと同じ性格をしているのだと気づいた。

 

「まあ、急で悪いが勇者剣士ウィザードにはこの世界を救ってもうっ」

 

「本当に急だなオイ……!」

 

 何故この世界に連れて来たのか普通は話の順序を踏むだろ。それを二、三段階蹴飛ばしている。

 

 晴人は理解できるようで理解しづらいこの状況にため息をついた。異世界に行った事は何度もあったが、一人だけ異世界にいるのは心細さを感じた。

 

 ザッザッザッ。

 

 ふと背後から強い魔力を感じ、晴人は危険を感知する。

 三人、いや、三体の足音。

 

「危ない!」

 

 晴人は手づかみサイズの精霊ボスを突き飛ばして、晴人も後ろからの火球を避ける。

 横に転がり、放った方向に目をやると、そいつは三体のグールだった。

 晴人の世界にも存在する下級ファントムであり群れで動く習性を持つ。魔力以外では倒せぬ敵だ。

 

「ボス……ファントムはこの世界にも存在してるのか」

 

「そっ……そうだ。もう少しまともな助け方はないのか……」

 

 助けた勢いで湖に落ちたボスがゼェゼェしながら這い上がる。

 奴らが何故存在するのか分からなかったが世界を救って欲しいという理由が曖昧ながら理解できた。

 この世界は分からないが、自分のやるべき事は分かった。

 

『ドライバーオン! プリーズ!』

 

 晴人は手にウィザードリングをはめ、グール三体に向かい合う。

 

「ボス、俺は希望の魔法使いだ、ここが俺の世界じゃないとしても俺のやる事は変わらない」

 

 そう、この世界に絶望があるのなら、俺が希望に変えてやる。

 

『シャバドゥビタッチヘンシーン♪シャバドゥビタッチヘンシーン♪』

「変身」

 

 腰に現れた手の平の形をしたベルトに指輪をかざし、赤い魔法陣が現れる。

 

 はずだった。

 

『エラー』

 

「え?」

 

 晴人は驚いた顔でもう一度かざす。

 

『エラー』

 

『エラー』

 

『エラー』

 

『エラー』

 

 グールがもういい? と言わんばかりの顔をしている。

 

「どういう事だ……?」

 

 晴人は変身するのに魔力を使う。エラーが起きるという事は魔力不足を示すアンサーだ。

 グール相手には生身でも対処は可能だが、ここ数日間で大量に魔力を使った覚えなどない、そっちの方が気になる。

 

「あーごほん、勇者剣士ウィザードよ」

 

 晴人が知りたがってる事を知ってそうな表情だった。

 

「ステータスをオープンするのだ」

 

「はあ? 頭打ったんすか」

 

「ステータスオープンしろっ!」

 

「ステータスオープンってどうす……ええ……出てきた」

 

 晴人の目の前に、3D映像のような立体的プレートが浮かび上がった。

 自分についてのステータスというのが書いてあった。やけにゲームな世界観で少し混乱しそうだ。

 冷静に書かれた文字を読もうとしたが、グールの放った火球が余裕を与えてくれない。

 晴人はボスをキャッチしたまま走り、火を防いでくれそうな岩の後ろに隠れた。

 

「ふぃー……」

 

 一息をついてステータスを見たが、頭が余計痛くなった。

 

 勇者剣士ウィザード レベル1

 HP145 MP24

 

 スキル 変身50MP

     ドライバーオン10MP

     コネクト5MP

 

 変身できない理由は明白だった。MPが足りなかった。

 

「一体なんなんだよこの世界は……」

 

「こういう世界なのだ勇剣ドーよ」

 

「もうちょっとマシな略し方ないんですか」

 

 晴人はウィザーソードガンをコネクトで取り出し、火球で砕かれる岩から離れ、距離を取った。

 そしてジャキンと剣を持ち、三体のグールに立ち向かった。接近戦となり、晴人は剣でグールの槍を捌く。

 一体のグールは槍を晴人に突き刺そうとしたが、晴人はその槍を足場として利用してグールの頭上までジャンプし晴人は銃弾をグールに食らわせる。

 血飛沫のよう火花を散らした一体のグールは爆発し、地面に着地した瞬間に晴人は残りのグールに数発の銃弾を放った。

 

 グールは変則自在に動く弾丸を阻止しようとするが、弾丸はそれを許さない。

 盾とする槍をすり抜け、グールの肌に着弾していき爆発した。

 

「ふぃー……これで終わりか」

 

「おー! 流石勇剣ドー! この程度の敵はたわいもないなっ!」

 

 木の後ろで隠れていた精霊ボスが、無邪気に喜ぶがこっちは割としんどいのが本音だった。

 グールの槍捌きがいつもより早く、重く、硬く、敵の強さがおかしかった。

 いや違う、敵が強いんじゃない。

 自分が弱くなったんだ。

 

「精霊ボス、取り敢えず何故俺がこの世界にやってきたか教えてくれますか」

 

 この時空では珍しくシリアス顔をする晴人に精霊ボスも釣られて真剣な表情をする。

 

「そうだな、あれは今から三日前……あれ、二日前、一年前だったか……」

 

「どれだけボケ入ってんだ」

 

「ボケてなどいないっ! うむ……? ハッハッハ、思い出したぞ、勇剣ドーよ。あれは今から一週間前のことだ。私は突然神のお言葉を貰ったのだ、一週間後にこの世界を救う勇者が現れるとなっ! そして現れたっ! 終わりだっ!」

 

「いやいや、アンタが俺を連れてきたんじゃないのかよ」

 

「そうだなっ、だから帰し方も知らん」

 

 異世界から元の世界に帰る方法は、まあ魔法で何とかなるからいいとして、問題はこの世界の事情だ。

 ファントムが現れるという事はあまり良い世界とは言えないだろう。

 

「じゃあ、この世界について説明を」

 

「おお、乗り気だな、俺は嬉しいぞっ」

 

 またいつものように喜で話すのだろうと思ったがボスの声は低くシリアス口調である。

 

「あれは……今から数年前の事だ」

 

「その説明好きっすね」

 

「いいから聞くんだ、この世界の名前は異世界ライダーワールド、平和が全てな世界だったがある日、四人の魔王が誕生してしまったのだ」

 

「四人の魔王……?」

 

「ああ、そいつらは酷く恐ろしい力を持ち、人々を恐怖で支配して絶望の世界へと塗り替えて行ったのだ」

 

 ボスの手から何故か世界観ぶち壊しのスマホが登場した。

 

「こいつらがあの悪魔のような魔王の一人、マヨネーズの魔王のビーストだ」

 

 ボスのスマホを覗くと画面に、辺り一面、黄色い液体に浸かる満面の笑みを浮かべた男の写真が現れた。

 

「ええ……」

 

 写真の男は晴人の知る、仁藤攻介事仮面ライダービーストそのものだった。

 よく見ると黄色い液体はマヨネーズだ。つまりこれはマヨネーズ風呂……?

 

「仁藤じゃないすか、どう見ても仁藤っすよね」

 

「誰だそいつは、勇剣ドーよ、奴は恐ろしい魔王なのだぞ。民のマヨネーズを奪い取り幸福を奪おうとする絶望の魔王なのだぞ」

 

「そんな理由で……? というかこの世界マヨネーズあるんすね、世界観ぶち壊しだろ」

 

「細かいことは気にするな」

 

 ボスはそう言いながらスマホを使っている。もうこの際何が起きても不思議じゃない。

 

「次にこいつは森の魔王のバロン、森の番人だったがある日を境に魔王へと変わってしまった」

 

 バロンという男も俺たちの世界で何度か共に戦った事がある男だ。

 

「奴は、弱い人間が許される世界を作るために、全人類を運動音痴に変えようとしてる恐ろしい奴だっ!」

 

 頭が痛くなってきた。俺はこの世界を救わなくてもいいんじゃないかな、既に救われてる気がする。

 

「そして三つ目、最強の魔王のレンゲルだっ、魔王の中では一番弱い」

 

「どう突っ込めばいいんすか」

 

「そして最後の魔王、NTRの魔王タドルファンタジー。思い人を取られたことで闇落ちした元勇者だ。今は怪我人を治療する医者として精を出しているぞっ」

 

「いやもう最後の魔王ただの被害者でしょ!」

 

「つまり、勇剣ドーよ。貴様はこの魔王を倒して世界を救うのだっ」

 

「いやいや最後の魔王はただの死体蹴りじゃないっすか!」

 

 思い人寝取られて悪魔になったと思えば医者として活躍しているただの良い人を倒してどうする。

 それにだ、他の魔王も頭のネジが緩んでるだけで悪事は行ってないように思える。

 

「ふむ……確かにそうかもな」

 

「そうかもなじゃなくて絶対そうでしょ!」

 

「なら、こうしよう、魔王を説得して心を入れ替えさせるのがお前の使命だっ!」

 

 晴人はこの世界にプレーンシュガーはあるかないか、どうでもいいことを考え出した。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 私立探偵、左翔太郎は束の間の休息を楽しんでいる。

 だが、あの街には探偵が必要である、誰もが探偵の復活を待ち望んでいるだろう。しかし探偵には休息も必要なのだ。

 

 そう、俺はある事故と言っていいのだろうか、それのせいで大怪我を負って入院している。

 

 まぁ、今は溜め込んだまま開くことのなかった推理小説でも気ままに楽しもうか。

 本を開こうとした時である、相棒からの電話が来た。

 

「なんだフィリップ、俺は怪我してんだ。検索の手伝いはもうしねえからな」

 

「違うよ翔太郎、事件だ」

 

「何っ?」

 

 フィリップは軽い依頼なら相棒一人で解決できるだろう。だが俺を頼って来たということは何か危険な匂いを嗅ぎつけたという事だ。

 

「ここ最近、行方不明者が増えてる事に気付かないか?」

 

「あー確かにニュースでよく見かけるな」

 

「それはトラックメモリの能力の可能性が高い」

 

「メモリが関係してんのか?」

 

「うん、トラックに轢かれた人達はみな何処かに消えている。だが本来のトラックメモリに轢いた相手を消去させる能力など存在しない」

 

「まさか、適合率か……」

 

「ああ、メモリの適合率の高さにおける突然変異の可能性が高い。僕はこれからその事を調査しに行くけど、いつでも変身できるように準備してくれないか」

 

「わかった、何かあったら教えてくれ」

 

 その言葉を最後に会話は終了した。

 翔太郎は怪我のせいで何もできない自分にもどかしさを感じた。

 

 

 



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街、厨二る(こごえる)

 

「まずは、戦力を集めるぞ。必ず魔王に敵対心を示す兵士や冒険者が存在する……はずだっ」

 

「するはずじゃダメだろ」

 

 太陽の日を程よく遮ってくれる落ち葉の道を歩きながら晴人はボスの話を聞く。

 晴人自身、一応元の世界に戻るために魔王を説得するという事に納得はした。

 

「伊達に魔王の肩書きを持っているだけはある」

 

 ボスの言う話によるとこの森を抜けた先には最初に最弱の魔王が支配する氷の街に辿り着くそうだ。

 そこの酒場で味方を雇うという、なんというゲーム感。気にするだけ無駄だろう。

 

「ふむ、そろそろ景色が変わってきたな」

 

 ボスがそういい森を抜け外を見回すと「おお……」と晴人は感慨深い声を漏らした。

 確かに街並みは全てが水晶のように透き通った氷でできており、氷の街という名が似合う印象だった。

 そして街には冷たい風。

 

「寒っ…………なんでもアリっすねこの世界」

 

「フフフ美しいだろ勇剣ドーよ、だがこの街は魔王のせいで街人の会話が全て厨二っぽくなってしまっているのだ。はやく救わなければ悪化して大変な事になってしまうっ!」

 

「アーソウデスネー」

 

「なんだ、そのどうでも良さそうな返事は……俺が叩き直してやうぉっ!」

 

 晴人はボスの昆虫のような羽をつまみ、無表情のままブンブン振り回した。

 

「やめろっ! やめろっ! 話せばわかる!」

 

 そのまま手を離し、ボスは空でぐるんぐるん回った。

 

「はぁはぁ……この街は寒い、薄着のお前にこれをやろう……」

 

 一瞬、光が現れたその瞬間に肌色のフードのついた外套が現れた。

 

「四次元ポケットみたいすね」

 

「私はタヌキなどではない!」

 

 晴人は無視してスーツの上からその外套を羽織る。この氷一色の街にスーツ一枚じゃ辛いので助かる。

 晴人はこのままボスに氷の街について軽い説明を聞いた。

 氷の料理が上手いそうだ。氷の肉、氷のスープ、ただの冷凍した奴なんじゃとあまり美味しそうには聞こえないが。

 街に近づくほど雪や氷の色が増え、街中に入るときは氷一色で染め上げられた。

 

 氷の煉瓦で作られた建築物に、全体的にこの街の環境に適した白い怪人達や厚着をする人間。この街の怪人は案外温厚なのが多いのだろうか、仲のいい両種族を見るに人間と共存しているように思える。

 

 ふと、あまりジロジロ見ないようにしていたが、逆に一人の人間に向こうから見られた。細くて気弱そうな青年だ。

 

「ああ、もしかして君も観光者? ここ、結構変わってる街だよねー」

 

「結構……確かに、怪人と人間が共存する街は見たことない」

 

「あれ、そっち? 僕が言ってるのはこの街の状況の事だったんだけどな、もしかして遠い国から来たのかな? よかったらインタビューしていい? 僕の名前はコタロウって言うんだけど」

 

 青年は頭を掻いて苦笑いをした。

 どうやらこの世界は全体的に怪人と人間は共存しているのだろうか。

 

「勇剣ドーよ、さっさと行くぞっ」

 

 後ろでボスが痺れを切らしていたのを見た。

 

「はいはいボス」

 

 晴人は申し訳無さげにインタビューを断ることにした。

 

「用があるんだ、インタビューはまた今度って事で」

 

 そのまま去ろうとしたが、青年に呼び止められ。

 

「じゃあ時間があったらまた連絡してくれない? だってこの街の人たち呪いにかかってるのが多くってさ、取材しても何言ってるのかわかんないんだよ、そこの宿泊宿にいるから」

 

 『BODOBODO』という宿泊宿のメモを渡されコタロウはせっせと歩いて行った。

 

「呪いって……厨二っぽくなる奴っすか」

 

「そうだ、この街に長い間滞在するほど悪化するのだ。彼の様子を見るにこの街に来て最近なのかもしれないなっ」

 

 ボスは酒場にまで飛んでいき、晴人はそれをついて行った。

 五分ほど歩いた先に『酒場』と何故か漢字で書かれてあった看板を見たが、さっきもアルファベットで書かれていた看板があったのだ。突っ込むのは足を進めた。

 酒場の中に入ると意外にも変わっていた。

 晴人の予想では店も氷で建築されていたので中身も氷だと思ったが、店内は木製で西部劇にありそうな酒場を連想させられた。

 

 ボスはL字のカウンター席に座り、晴人も隣に座った。

 茶色いマリオのクリボーのようなライダーのマスターが顔を出した。

 

「やぁ、いらっしゃい迷える子羊達よ。今日の店のオススメは暗黒面のブリザードスープが人気だな」

 

「なんだよそのスープ」

 

「食ってみると意外といけるぞっ」

 

 ボスは身体が小さいのでカウンターのテーブルに座り、メニューを手で触れずにめくる。

 

「なら私は極熱筋肉のマグマスープでも……」

 

「って暖かいのがあるのなら先に言ってくださいよ」

 

 そう呆れながらも晴人はボスと同じスープを注文した。

 ボスはスープ以外も何か頼もうとしていたが、突如電波を受信したような反応をした。

 

「ううっ? なんだとっ!」

 

「ボス、どうしたんですか」

 

「勇剣ドー、少し私は席を外す。用事ができたっ」

 

「用事?」

 

「後で説明するっ」

 

 突然、ボスはそう言ってパタパタ飛んで行くがこちらを振り向く。

 

「私のスープを勝手に呑むなよ! 絶対にだ!」

 

「はいはい」

 

 そう言い、ボスが去った後一人になった晴人は暇になったので自分のステータスを見ることにした。

 

 勇者剣士ウィザード レベル3

 HP214 MP 40

 

 スキル 変身50MP 

     ドライバーオン10MP

     コネクト5MP

     ディフェンド5MP

     スモール3MP

 

「おっ、増えてる」

 

 よく見るとスキルにディフェンドとスモールが追加されている。レベルが上がっただろうか、だがそれでも変身には届かない。

 

 晴人が苦い顔をしてる途中、自分のカウンターテーブルの上にはスープが置かれていた。

 

「フッ、心に龍を宿す剣士よ。貴様の顔を見れば歴戦の勇者の一人という事が魔眼を持つ我には理解できる。邪悪なる心の奥底に眠る我の悪魔の魔眼ならな……フフッ」

 

「どうも」

 

 晴人は取り敢えず平然を装いながら返事をしてマスターが調理場に戻ったのを見てポツリと呟いた。

 

「ヤバイなこの街」

 

 街中に彼のような人物がいるのなら正直、魔王をどうにかしないとダメだなと初めて感じた。

 自分もこの街に長いこと滞在するとああなるのかと考えながらスープに目を落とす。

 

 氷の容器の上にはグツグツとマグマのように燃え滾るスープ。辛そうだが温まりそうではある。

 スプーンを手にしてスープを掬おうとした。

 

「あーん……もう一度言ってぇ?」

 

「へへっなんだよ……まぁーた言って欲しいのか? いいぜ……天が呼ぶ、地が呼ぶ人が呼ぶ、悪を倒せと俺を呼ぶ……ヒィーック」

 

 その声を聴いた途端、晴人は即スプーンを聞き慣れた声のする方に投げた。

 理由は少し腹が立ったのもある。

 

 カン。

 

 バチバチっと電気が走る音がした。

 

「なんだぁ……てめぇ……俺様に喧嘩売ってんのか……?」

 

 その声の主はドンドンと晴人に近づいていき、ドンとカウンターテーブルを叩いた。

 

「って……お、お前は……まさか」

 

「そのまさかっすよ、こんなところで何やってんすかストさん」

 

 そう、声の主は晴人の知るストさんだった。

 

 

 



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店、凍(こわ)れる

「そんな事俺が知るかぁ!」

 

 この世界の事やすべき事を全て話した反応がこれだった。

 

「いやいやいやストさん。このままじゃ元の世界に帰れないんですよ?」

 

「けっ、どうせ俺が帰ったところで誰も俺を必要としねえだろ」

 

 おそらくフラれた事がかなりダメージに来てる、絶対そうだ。

 

「それにここには俺を見てくれる女がいるんだ」

 

 隣に座る女性にコンタクトアイをするストさん。酔っ払ってる事もあってか色々拗らせ過ぎだろ。

 

「俺たちライダー課のみんなだってストさんを必要としてますよ……多分、それにストさん以外に誰が通訳やるんすか」

 

「お前がやれ」

 

「俺、ストさんにまだなんも教わってないすよ」

 

「いいからてめえがやれぇ!」

 

 机をドンドンと叩き今にでも突っかかって来そうな雰囲気だった。

 

「けっ、てめえはコヨミちゃんや大門がいるからそんな事言ってられんだよ……」

 

「ええ……」

 

「コヨミちゃんにフラれても大門がいる、大門にフラれてもコヨミちゃんがいるてめえにんぞに……俺の気持ちわかるわけねぇだろお!?」

 

「いやいや、なんで俺が二股してることになってるんですか」

 

「くそッ、言ってると腹が立ってきやがった……お前なんか二人にフラれちまえ!」

 

 勘違いされてるようだがカチンときた。

 

「ストさん……アンタは『元』奥さんがバルタン星人と付き合ってただけで別れるとか……ハッ、器が小さすぎだろ」

 

「ァァ!? 円○だぞ、東○じゃねぇんだぞぉ!?」

 

「そこが小さい、小さすぎる……権利の一つや二つ、愛でなんとかしてみろって言ってんすよ!」

 

「やんのかテメェ!?」

 

「やっーてやろうじゃないすか!」

 

 晴人とストさんは立ち上がり、お互い肩を掴みいがみ合うが突然、ガシャンとビンが砕け散る音に手が止まった。

 

「隙ありィ! 電ショッォォクゥゥゥ!」

 

『ディフェンド』

 

「熱っ! 何これアチィ! アチイ!」

 

 晴人はディフェンドでストさんの攻撃を防ぎながら割れた方に目をやる。店の酒の棚がポカリと円形の穴を開けていくつかの酒が無駄になってしまっていた。

 

「イーッ!」

 

 店の入り口にどこかで聞いた声がして振り向くと、三体の青い姿をしたショッカー戦闘員がいた。

 そして戦闘員達は六つの氷柱を宙に浮かせていた。まるで生身ならアッサリと貫かれそうほど鋭利な氷柱。

 戦闘員が晴人の方に指を指し、嫌な気がした。

 案の定、氷柱は晴人に向かってくる。

 

「マジかよ……」

 

 弾丸の速度で飛ぶ氷柱を炎の盾で凌ぐ。

 隣のストさんはしゃがんで氷柱を避けた。

 

「うぉっ! なんだよこの状況!」

 

「俺が聞きたいっすよ!」

 

 晴人はウィザーソードガンを取り出しディフェンドからはみ出る氷柱を砕いていく。

 

 店内は案の定大パニックを起こし、客達は逃げる。だがこちらを支援してくれるものもいた。

 ボスの話通り味方を集めるには丁度いい場所だ。

 

「おいウィザード! てめえの恨みに俺も巻き込むんじゃねえ!」

 

 隣でストさんが電気をまとった拳で、文句を言ってくるがそれはこっちのセリフ。

 

「俺だって恨みは……買うことはありますけど命狙われるほどダメな魔法使いはしてませんよ……」

 

「じゃあなんだぐぇっ!」

 

 ストさんが隣で氷柱にぶつかったがマジギレしてるのを見て大丈夫だと安心した。

 すると隣でマスターとは違う人物の茶色いライダーが話しかけてくる。

 

「剣士よあれは、恐るべき悪魔、この街を支配する暗黒の輩の眷属、奴が来るという事はこの街も……」

 

「いや何言ってんのかわかんないんだけど」

 

「ふむ、つまりは……ぐわぁぁぁぁぁぁ!」

 

 茶色いライダーは隣で突き刺さって飛んで行った。

 

「肝心なトコ聞き逃した……」

 

 晴人はさっきのライダーを助けるためディフェンドを盾にしながら後ろに下がり全部ストさんに任せた。

 

「ウィザードっ! てめぇ!」

 

「うっ……私を救済してくれるのか……」

 

 晴人は肩に突き刺さっている氷柱を切り落とし、血が出る傷口に回復薬を塗る。

 

「助けれる人を見捨てるほど人間腐ってないんでね」

 

「ちっ……俺がやるしかねぇか……いいぜぇストレスが溜まってたんだ」

 

 ストさんがバシンとパーの拳にグーを叩き込み、電撃がストさんの周囲にハジけて向かって来る氷柱が全て砕け散る。

 

「頼みますよーストさん」

 

「仕方ねぇな! 観とけよ後輩、先輩が全部持っていってやるぜ……エレクトロファイアー!」

 

 ストさんが両手を擦り合わせて地面に腕を深く突き刺す。

 電撃が地を走る技である。

 晴人もストさんのエレクトロファイアーを間近で見るのは初めてでどういうものかと見ようとした。

 

「やべえ……何も出てこねぇ!」

 

「まさかここでMP切れ……」

 

「ぐぇっ!」

 

 ストさんが氷柱に壁にまで吹っ飛ばされ晴人を守ってくれる味方は今は存在しない。

 

「クッ……」

 

 晴人は武器を持ち怪我人の前から動けないまま氷柱を砕いていく。

 何度も、何度も、何度も雨のように降り注ぐ。

 腕が痺れる、疲れる、少しピンチだなと、この状況を打開する方法を考える。

 方法はある、ストさんの力を借りる事だ。

 

「ストさん!」

 

 晴人はストさんの吹き飛んだ方向に目を向ける。

 

「うぃ~……いい酒だなこれ……」

 

「何酒飲んでんだゴラァ!」

 

 晴人はウィザーソードガンを向けストさんに数発撃つ。

 

「ってオイ何しやがんだ! って前!」

 

「あ……」

 

 しまった、いつものノリでツッコミを入れたせいで氷柱の存在を忘れていた。今更避ける事は少しキツイ。

 せめて、致命傷を避けようと身体を捻ろうとするが……

 

 肌色の布がムチのように氷柱をはたき落した。

 

「えっ」

 

 何が起きたのだと自分の真横に浮かぶ外套を見つめる。ボスがくれた外套が何故が助けてくれたのだ。

 

「流石ファンタジー……」

 晴人は驚きながらも氷柱を剣で切り裂く。

 外套は布の端、つまり腕の部分なんだろうか、端で胸を叩きドンと任せろと言っているようだった。

 

「じゃあ彼を任せた」

 

 浮かぶ外套に怪我人を守ってほしいと命令した。

 外套は怪我人を守ってくれるところかぐるぐる簀巻きにして外に飛んで行った。

 

「案外ボスもまともなプレゼントをしてくれるじゃないの」

 

 晴人は武器を手に敵の近くまで走り出す。

 四人ほどのライダーや怪人が戦闘員二人と戦いを繰り広げている。真ん中の戦闘員が厄介なだけで他の二体はなんとか晴人の邪魔が入らないよう抑えてくれている。

 

 今がチャンスだと、武器を持ち氷柱を破壊しながら走り出す。

 戦闘員との距離が後数メートルになり、晴人は武器で切り裂こうとする。が戦闘員の手に角砂糖くらい小さい氷が握られていた。

 

(なんだ? アレ? ま、でも俺の方が速い)

 

 晴人は戦闘員が異変な行動をしでかす前に剣で縦に切り裂こうとするが小さい氷が横長に巨大化した。

 ソレを見た次の瞬間、晴人の身体は痛みを感じながら空を飛んでいた。

 何があったと一瞬の出来事に記憶を辿る。

 横長になった氷でボディをバットのボールのように殴られたのだった。

 

「ウワー(棒読み)」

 

 晴人は酒を飲んでいたストさんに激突して酒がかかる。

 

「アァ゛!?」

 

「つつ……ストさん、アンタも手伝ってくださいよ……」

 

 晴人はストさんの上で身体が絡まり身動きできずにいた。

 

「重いんだよ! 気色悪りぃ!」とストさんはバンバン背中を叩く。

 

「って……まだ来てますよっ!」

 

 氷柱の攻撃がまだ地を這う蛇のようにこちらに向かって来ているのだった。

 

「だぁーっ! テメェ俺ごと道連れにするつもりか!」

 

「俺だってこんな女々しいカブト虫と心中なんて真っ平すよ!」

 

「後で覚えとけよてめぇ!」

 

 この状況でストさんは両手を擦り合わせる。

 そして床に手を突っ込むと電撃が走り、氷柱が電撃によって破壊されて。

 

「MP残ってたんすか?」

 

「ちげぇよ回復したんだよ、これでなっ」

 

 やっと身体が離れたストさんは酒瓶を手に持ちコルクを親指で弾くように抜く。

 そのままガブガブと飲み出した。

 

「あーそういうことか」

 

 晴人はここを一瞬のゲームの世界として例えて見ることにした。それならまだ理解しやすい。

 

「流石っ、俺……ストさんのことフラれた事を何度も引きずり有給取れないだけでストライキ起こす情けない先輩だと思ってました……流石です!」

 

「おう…………ってそんな風に思ってたのかてめぇこの野郎!」

 

「おっと次来ますよ」

 

 晴人は氷を作り出していく戦闘員に目を向けた。

 相手は1分ほどなら何度でも氷柱を放つことが可能だが、その度に何秒か力を溜める必要があるようだ。

 だがそれを死守する氷が存在する。

 

「ストさんどうします?」

 

 晴人はそういいながら隙だらけの戦闘員に弾丸を放つ。

 そして氷が平べったい盾になりそれを止めた。

 

「けっ、簡単なこった」

 

 ストさんはそういいながら倒れている店のマスターに軽い電気を食らわせ目を覚ませた。

 

「うう……我は何を……? ここはヴァルハラか」

 

「店長、この店保険入ってんだったよな?」

 

 上手く事情が飲み込めてないマスターはコクリと。

 

「ああ、この店は加護されている」

 

「じゃあ任せとけぇぇぇ!」

 

「って投げた!?」

 

 ストさんがマスターをぶん投げて外に放り投げたのと同時に氷柱は放たれる。

 

「けっ、遅えんだよ」

 

 ストさんが手を擦り地に付けた時は既にエレクトロファイアーは放たれていた。

 地が目にも見えない、枝分かれした電撃は一瞬のうちに戦闘員の近くまで走り小さい氷もそれを反応する事はできない。

 

 戦闘員、三体はエレクトロファイアーを喰らい倒れた。

 

 そして爆発した。

 

「「えっ」」

 

 

 

 

 

 晴人はかつてさっきまで店だったものから顔を出す。

 

「もうちょっと手加減してくださいよ」

 

「これでもかなり弱ってる方なんだよ、それに爆発したのは俺じゃねえよ」

 

 氷の街なだけあって爆発の後は氷が溶けるのだと思っていたが溶けることはなく普通に崩れて特別な氷でできてるのだろうか。

 晴人に続き、他の客達も店から顔を出して行く。見る限りちょっと焦げただけで犠牲者はゼロだ。

 

「よしっ、怪我人はいねえな」

 

「被害は酷いっすけどね」

 

 晴人はチラリと別方向を見る。

 

「我の……我の店ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

「酷い被害が出たなっ、勇剣ドー」

 

 晴人の肩にボスが座りボスの発言に同意する。

 

「そうっすね……ってえええ! ボス!」

 

「うおっ、耳元で大きな声を出すなっ」

 

「どこ行ってたんすかこの一大事に」

 

「ハッハッハッ、私は予言で魔王の手下がここを襲撃すると知ってな。いち早く退散しようと……待てっ、その武器を向けるんじゃないっ」

 

「じゃあ敵が来るって言ってくださいよ」

 

「それじゃあレベル上げにならないだろ」

 

 マスターが側に近寄りボスを睨む。

 

「やめろっ、私をそんな目で見るなっ! わかった、わかった直すからやめろっ」

 

 ボスは突然空を飛び、店だった場所の真上に浮かんだ。

 

「エロイムエッサムエロイムエッサム」

 

「悪魔でも召喚する気か」

 

 ボスが呪文を唱え終えると上空から黒い魔法陣が現れ店だった場所をくぐり終えると元の店に戻っていた。

 

「おお……流石精霊」

 

「ふんっ、見たか、コレが俺の力だっ!」

 

 直ったのを見てマスターはボスの前で膝をつき。

 

「か、感謝する精霊様、我の店を修復してくれて……」

 

 掌返しがすごい。けど、まいいか。

 

 さっきの騒ぎで街の人たちが壁を作ろうとしているのを見てこれ以上居座るとこの世界の警察にでも捕まりそうだ。と退散しようとしたが。

 

 ストさんはボスを見て口をポカンと開けている。

 そのままボスの羽を掴み、回し、叩く。

 

「ってボスゥゥゥゥゥゥゥゥ!?」

 

「何をするっ、私はボスなどではないっ! 精霊ボスだ!」

 

 晴人はふと精霊ボスのことはストさんに説明するのを忘れていたことに気づいた。

 

「あっ、それはつまりかくかくしかじかで」

 

 

 

 

 

「…………という事です」

 

「よしわかった! 俺帰るわ!」

 

「ぬうっ!? そこは普通仲間になるパターンじゃないのか!」

 

「知るかチビボス、俺はこの世界から帰る気ねぇんだよ! 魔王退治なんぞ勝手にやってろ!」

 

「あー色々あって抉られちゃって」

 

「じゃあな! お前らとは二度と会わねえと思うけどよ! マイハニーィ! 待ってろよ今帰るぜ!」

 

 ストさんは後ろ向きで手を振ってずしずしと歩いて行った。

 溜息をしようかと思った時、手に何か握られていた。

 

『エクステンド』

 

 その指輪をベルトにかざした晴人はびよーんとゴムのように伸びた手でストさんの頭を引っ叩いた。

 そしてすぐに戻す。

 

 ストさんは「誰だぁ喧嘩売ってる奴は!」と野次を飛ばしている。

 さてと、気が晴れたし今は宿でも探すか。出来るだけ迷惑をかけずに隠れれるような宿があればいいのだが。

 今夜は野宿かも。

 

「さっきの店は……出禁かもしれんな……いいだろう、私のとっておきの店を紹介してやろう」

 

「今度は頼みますよ、冷たいのより暖かいのを……うん?」

 

 まあ野宿でもなんとかなるだろうと考えた晴人の目の前に銀色のクワガタで菱形を連想させるライダーが立っていた。

 敵か、と構えようとしたが。

 

「今、魔王を倒すと聞いたが……それは本当か?」

 

 ここは答えるべきか。

 

「まあ、うんちょっと事情があってね」

 

「俺も仲間に入れてくれないか?」

 

「…………アンタの名前は?」

 

「ギャレンだ」

 



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原因(なかま)現れる

 

 晴人とボスはギャレンという男の後ろをついて行く。

 男は狭い路地裏に入り、先の角を右に曲がる。そして一つの宿が目の前に見えた。

 名前は「BODOBODO」どっかで聞いたような……

 

「俺はここに身を隠している、ついてこい」

 

 晴人はふーんとした顔をしながらも本当に信じていいのか考える。裏切られた時はその時考えよう、ギャレンには敵意は感じられない。

 それに身を隠していることは彼も事情がある。

 

「お邪魔します……」

 

 宿に入ると受付場に座るクリボーみたいなライダーがいた……さっきの店のマスターと同じ顔だ。この街はみんなこんな感じなのか、少し区別しづらい。

 

「あ、ギャレン殿、今宵は戻らぬと心配しておりました。あと少し遅ければ私の邪眼が輝くところでした」

 

「すまない」

 

「そちらの方は?」

 

「知り合いだ」

 

「そうですか、では後に神のエールでも渡しにでも行きましょう、禁断の果実や肉を添えて」

 

 ギャレンは受付に軽い会話を交わし奥の階段に上がって行った。

 

「勇剣ドーよ、本当について行っていいのか?」

 

「何かあったら、ま、そん時に考えますよ」

 

 この建物は二階建てで部屋は数十あるかないかのごく普通の宿、ギャレンの後ろをついて行き通路の一番奥の部屋のドアを開けようとした時に。

 

「あれ? ギャレンさん? 帰ってきた?」

 

 隣の部屋から青年が顔を出した。

 

「「あっ」」

 

 晴人は青年とあって驚いた顔をした。

 さっきインタビューされたコタロウという青年だった、この宿の名前をどこかで聞いたデジャヴを感じたのも思い出した。

 

「もしかしてインタビューOKかな!?」

 

 コタロウは喜んだ顔をした。

 

「あーまあ、それは後で」

 

「そっか、それよりもギャレンさんと知り合いだったんだね。僕も知り合いでさー世間って狭いなあー」

 

「俺もそう感じる」

 

 そう言って晴人はギャレンの部屋に入って行った。

 部屋は木のベッドに椅子に机だけの簡素な部屋模様で私物は少ない、あまり長く滞在してないのか。

 

「さて、とアンタの目的を教えてもらおうか」

 

 ドアを閉めて晴人は冷静に話し出す。敵意は感じないがもしものために何か探っておきたい。

 

「目的か……簡単だ、俺は魔王を止めたい」

 

 倒したいじゃなくて止めたい?

 

「ふむ、事情がありそうだなっ」

 

「ああ……」

 

 ギャレンが重い腰を下ろして話し出す。

 

「魔王レンゲルを生み出してしまったのは俺のせいだ」

 

「なにっ!? 貴様がこの街の黒幕というわけか! そうかっ貴様を倒せば最短ルートでクリアできるという事かっ!」

 

「そんなわけないでしょボス」と興奮させパタパタ羽を羽ばたかせるボスを軽くはたく。

 

「いや……俺は黒幕といっても過言ではない」

 

「やはりそうかっ!」

 

「……話が拗れるから大事な部分だけ言ってくれない?」

 

「わかった」

 

 ギャレンは一呼吸置き、喋り出す。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 あれは今から半年前だと言う。

 ギャレンはガンナーとしてアンデッドを退治し、その弟子だったレンゲルも共に戦っていたと聞く。

 だが、ある日レンゲルは力に固執しすぎて闇の力に呑まれてしまったのだ。

 そんなレンゲルを止めたくてギャレンは立ち向かったが敵の数が多く敗北、レンゲルを止めるチャンスを狙う為に今まで身を隠していた、それで今日晴人と出会った。

 

「話をまとめるとこんな感じか」

 

 晴人は干し肉を噛みながら宙でウトウトしているボスを叩く。

 

「はっ、敵襲か!?」

 

「違いますよ」と晴人はボスの肉を奪い取った。

 

 ただ、ボスが眠ってしまうのも仕方ない気がする。なにせ二時間ほど話を聞かされたのである。

 レンゲルとの出会いから割と関係ない修業内容、朝まで続ける気なのかと終わりが見えるまで思った。

 

「すまない、どこから伝えるべきか悩んだ」

 

「それでも長すぎじゃない? ただ、おたくの事情はあらかじわかったよ」

 

「そうか……手を貸してくれるか?」

 

 晴人はうなづいた。

 

「俺があんたの希望になる」

 

 そしてギャレンは晴人に手を差し出してくる、晴人もそれに答え手を握った。

 後ろでボスが本当に信じていいのかとうるさかったが、元々アンタが仲間を増やせと言ったんだろ。

 

「それで何かいい案は」

 

「前に一度、俺は馬車に捕まりながら侵入したが捕まった、二度も同じ作戦は通用しないだろう」

 

 つまり、無いという事か。

 

「なら正面突破ならどうだっ」

 

「無茶だ、奴らの戦力はこちらの数十倍に及ぶ、最強の魔王だけでもだ」

 

 晴人はうーんと悩んだ、いっそスモールで全員侵入する作戦もありだが戦力的にそこから問題だ。

 侵入の後は無茶よりも無謀に近い。

 

 すると、ドンドンとドアを叩く音がして。

 

「ギャレンさん! 僕にいい作戦があるよー!」

 

 声を聞いた途端、敵ではないと判断して武器をその場に置いた。

 その声はコタロウだった。

 



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仲間(めんどくさいの)増える

 

 聖職者、その男は過去にチェックメイトフォーという詳しくはわからないが、とてつもなく強いその一人を倒したらしい。

 彼は世界平和の為に魔王を討伐しようと考えている。そして彼はかなり強いが魔王に敵意を示し、現在身を隠して刃を研いでいるそうな。

 

 ここまでが晴人達が聞いたコタロウの話だが、ボスの便利な探知能力のおかげであっさり居場所が掴めた。まだ街中にいるそうな。

 取り敢えず、彼のいる場所に出向く事にした。

 

「ふわぁぁ~」

 

 軽いあくびが出た。昨日から今では少ない魔力を使いすぎで身体に負担が来ている。

 

「朝から若者が欠伸など情けないぞ!」

 

 昨日はギャレンと同じ宿で寝たが宿代をケチってボスと同じ部屋で寝た。イビキが酷かった。

 

「すいませんね、昨日は全然寝れなくて」

 

 すると隣で顔から全身まで外套で隠したギャレンが話しかけてくる。

 

「二人とも、バレないように静かにするんだ」

 

「いやいや、寧ろ怪しいって……」

 

 頭辺りの布に二つの穴があってそこから見てるのだろうか。

 晴人はコタロウに貰った地図を見た。ここから西側にボスが探知したバツ印が付けられている。

 

「地図を見ると……このまま真っ直ぐ行って角を左に曲がり……」

 

 この街は外面は全て氷でできていて分かりやすい目印が本当にややこしいのだ。全て建物の色も薄い水色である。

 

「違うぞっ! こっちだ!」

 

「いやでも地図はコッチって」

 

「俺が言うからこっちだ!」

 

「ハイハイ……アンタもそれでいいか?」

 

「ああ」

 

 ギャレンの了承も得て、パタパタ空を飛ぶボスについて行き突然その場で止まった。そこは喫茶店であった。cafe mald`amourと書かれてある。

 

「カフェマルダムール……?」

 

 ギャレンが呟き、晴人はボスにこう言う。

 

「ここに何かあるんすか?」

 

「そうだっ、私の感がそう言っている!」

 

 晴人は気乗りしないままも氷のドアを押して店内に入る。

 カランカランと客の出向きを報せる音が鳴り、中身は当然氷じゃなくてごく普通の少しレトロな喫茶店。

 

「あらいらっしゃい」

 

 カウンターの奥で本を読んでた眼鏡をかけたオネエっぽい人間の店長?が声に寄せられるままカウンター席に座る。

 勢いで座ってしまったが、ボスは何しに来たのだろうか。

 チラリと隣を見る。

 

「ほう、今はナポリタンが行けるのか……食後のコーヒーが格別なんだっ」

 

 いや、流石にただ食事しに来ただけじゃないと願いたい。今までのボスを信じれば……………………無理だな。

 痺れを切らした晴人はボスに質問をする。

 

「で、どうすれば? まさかこのままコーヒーを飲みに来たわけじゃ」

 

「ここは喫茶店、注文しないなら帰ってって」

 

「ナポリタン、コーヒーも注文するが、コーヒーは食後に頼むっ」

 

「じゃあ俺はコーヒー」

 

 そこから数十分後、コーヒーとカフェオレとナポリタンが運ばれてきて、3人はそれぞれ飲む、食う、飲む。

 ボスは器用に右手サイズの身ながら爪楊枝を使い食べる。

 だが小サイズなのか半分は残してコーヒーを啜り。

 

「ふぅ、ここのはかなりいけるなっ、帰るぞっ!」

 

「待て待てぇ!」

 

「ハッハッハッ、冗談だっ」

 

「そうなのか」とギャレンが落ち着きながら言うが、アンタも納得するなよ。

 

「さて、本題に参るか店長よ」

 

「はい?」

 

「ナゴ=イクサを知らないか?」

 

「何の事? 私そんな人知らないわよ?」

 

 一体どういう事だ、晴人は少し頭を巡らせるが多分ボスが一人知っているパターンなんだろう。

 暫くはボスに任せてみよう。

 

「知らないって言ってるでしょ」

 

「いやしかし、ここに確かに反応があったのだっ」

 

「だからしつこいわね! 知らないって言ってるでしょ!」

 

「そ、そうなのかっ……」

 

「コレクッテモイイカナ?」

 

 いやなに押し負けてるんすかボス。ってギャレンは何ボスの残り食べてるんだよ。

 ボス、アンタがここに反応あるって言ったのに俺たちはフォローのしようがないすよ。

 残ったコーヒを一気に飲み干そうとしたらスタスタスタと下から足音がした。

 ギャレンもそれに気づいたのか腰のホルダーから銃を取り出す。

 

「もういいマスター」

 

 突然、晴人の隣の床に窪みができてライダーの顔が飛び出した。

 

「うおっ」と晴人は驚く。

 

「お前は何者だ」

 

 ギャレンの静かな口調にライダーは答える。

 

「私の名前はイクサ、世界平和を遂行する聖職者だ」

 

 確かにイクサと名乗るその男は、胸に十字架を宿し聖職者に似合ってはいるかもしれない。

 後ろでボスの笑いが聞こえる。

 

「ハッハッハッ、私の言った通りいたじゃないかっ」

 

「そうっすね」と適当に返す。

 

「とりあえず、はやく出て来なさいよナゴくん」

 

 ナゴ=イクサは床から身を出して窪みの部分をハメた。

 

「要件を聞こうか」

 

「簡単な事だっ、私達の味方になるのだっ!」

 

 単刀直入すぎだろと思いながらも晴人はフォローを入れる。

 

「ん、まあそんな感じかな。簡潔にまとめるとアンタの強さを借りて魔王をどうにかしたい」

 

「断る」

 

「なっ!」とボスの声。

 

 晴人も驚きかけたが面倒な人なのであらかじめ予想はついた。

 

「何故だ? お前も魔王レンゲルには不満があると聞いた」

 

「当然だ、正義を蝕む魔王など……存在してはならない」

 

 ナゴ=イクサの声が落ち着いた物から怒りへと変わっていく。

 

「魔王は……奴は俺のこの手で倒す」

 

「それ、利害の一致じゃない? なら手を組んだ方がいいんじゃないの」

 

「素性の知らない君達と手を組む訳にも行かない、名乗りなさい、そして君たちが信用できるか私に証明してみなさい」

 

 

 



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ストさん狙われ(じごうじとく)る

 

「証明……か」

 

 証明と言われて少し悩んだが、相手の立場に立ってみると彼の言うことももっともである。

 つまりは自分達の事を話せばいい。

 晴人はギャレンに話を任せたが、話が長いことを忘れて同じ話を聞かされる事になった。

 そんな中イクサは静かに聞いていたが、1時間を超えた時に。

 

「君たちの事情は大体わかった、だが手を貸すには二つ条件がある」

 

「二つだと……なんだと言うのだっ」

 

「もう少し魔王城に攻め込むのは待ちなさい、そして私の弟子になりなさい」

 

「弟子だとっ!? 私を誰だと思っている! 私は……んがうぐっ! 話せ勇剣……ぐがっ」

 

 晴人はボスの口を抑えたまま話しかける。

 

「わかった、その条件を呑もう。ギャレン、あんたもそれでOK?」

 

「ああ」

 

 仲間が増えるのなら好条件だ。

 弟子になるぐらいならそこまで気にする程でもない。

 するとイクサは嬉しそうに「いいでしょう」と答えた。

 ボスが指を噛んできて痛い。

 

「っ、何するんすかボス」

 

「あの信用ならない男の条件を呑むのかっ!?」

 

「探し当てたのはボスでしょ!」

 

 晴人とボスのやり取りを見ていたイクサは不満そうな声でこちらに放つ。

 

「君達が弟子になる気がないなら、この話はこれでおしまいになる事に」

 

「なるからなるからって、噛まないで下さいよ……!」

 

 ボスはクラッシャーを開けて何度も噛み始める。

 

「聞こえないな、もっと大きな声で弟子にしてくださいと言いなさい」

 

 流石に晴人もこれには困惑してボスを抑える手が緩みそうになった。

 なんでアンタにそれを言わなきゃいけないんだと煽る気満々のセリフが頭に浮かんだが堪える。

 

「弟子に……してください」

 

「もっと大きな声で!」

 

「弟子にしてください!」

 

 半分ヤケクソだった。

 

 

 

 

 

「あいつ変な奴だったな」

 

 全身ローブで体を纏うギャレンがそれを言うかと晴人は思ったが確かに変な奴だった。

 

「ま、今は猫の手も借りたい状況だから仕方ないさ」

 

 戦力的には強いのは確かなのだ。

 レベルも36もあった。

 

「ふんっ、私達だけで魔王レンゲルは倒せるはずだ」

 

 さっきからボスは拗ねているが相手しても面倒なので無視だ。

 今はそれより、ドーナツを食べたい。ギャレンに聞くと似たようなお菓子はあるそうだ。

 名前は……シューティングリングスノー、意味がわからない。

 けどこの街に来てからは気にすることをやめることにした。プレーンシュガーに変わりはないのだ。

 晴人はボスの愚痴が長引きそうだったので逃げるように一人行動をして、氷で作られた出店に顔を出した。

 【スノーポアトリン】と書かれたドーナツ屋だ。

 名前を見て、嫌な記憶が蘇りそうになった。

 

「あらぁ~いらっしゃっい」

 

 そのオカマの店長は晴人の世界でも知る行きつけのドーナツ店【はんぐり~】店長と同じ顔をしていた。

 

「いつもの、って言っても通じないか。これ一つ」

 

 と言ってこの世界のプレーンシュガーを一つ頼もうとしたが店長はぐいぐい別の商品を薦めてくる。

 

「私的にオススメなのはね、このブリザードクラウンゴッドっていう……」

 

「シューティングリングスノーで」

 

 キッパリ言うと不満気な口をしながらもプレーンシュガーを用意してくれた。

 店の隣の氷の椅子に座り(何故か冷たくはない)のんびりと暖かい飲み物とプレーンシュガーを楽しもうかと思った瞬間。

 

「緊急事例だ!」

 

 一口加えた瞬間に甲冑を纏った氷の兵士らしき人間二人が大声を放った。

 もぐもぐと口に含みながらなんだなんだと晴人は見るが。

 

「あら……また兵士達だわ、最近多いのよねえ……私の聖なるお仕事まで邪魔されちゃったら困るわ」

 

 兵士一人が何か丸まった紙を出し、元に戻していく。これは手配書だった。

 紙には顔が描かれていた。うん、嫌な予感がする。

 

「この者は、我ら魔王レンゲル様に敵意を向けた愚か者である! 此奴を捉えた者にはレンゲル様の氷の神器を側で見る事ができるのだ! 貴様らのレンゲル様の忠誠を誓え! もし匿ったりするのならヴァルハラへと送り込まれる事だろう!」

 

 笑えばいいのか、同情すればいいのか。

 晴人はプレーンシュガーが喉に入らなくなった。

 

 何故かって言われると、ストさんだ。

 ストさんの顔が手配書に書かれてあったのだ。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「ハァハァ……畜生! 俺が何やらかしたってんだよ!」

 

 後ろから二、三人、怪人の足跡がする。

 俺が何やらかしたんだ。ただ酔っ払ってダサい魔王の銅像を壊してやっただけじゃねぇか。

 どれだけの敵を倒したかはわからないが今の自分はかなり力が衰えて、パワーアップのチャージアップすらままならない。

 今は逃げるしかない。

 

「ハァ……くっ」

 

 路地を抜け大通りの人混みに隠れようとしたが前方に後方、どちらにも氷の怪人に行く手を阻まれてしまった。

 

「ちっ……仕方ねえな……俺様の本気を見せてやるか!」

 

 これはハッタリだが案外効く。

 

「行くぜ! 電パァン……」

 

 1秒の出来事だった。白の聖職者に似た甲冑を纏ったライダーが音を超えた速度で走り、音を超えた速度で斬撃を繰り出したのだった。

 1秒の間に雑魚どもはみんなやられていった。

 

「逃げ切りたければ来なさい」

 

 白い聖職者の助け舟にストロンガーは悪運があるなと思った。

 



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