転生したら取り敢えず原作ルートをぶっ壊すだろ (杜甫kuresu)
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case1.『ゴーストレコーダー』
chapter1『勇気が足りていない』


俺達がぶっ壊れるまでの六十日と幾年もの地獄の話。
世界に抗う彼等の物語。

――何、難しい? 大丈夫だ。
 大体纏めとくと「俺が死ぬ話」だ。


――転生。もう飽きたね、言いたいことは分かる。定番って言うなら許容したいけど、こう数が多いと食傷気味で嫌だ。俺も最近はちょっと距離を置いてる。

 そもそも輪廻転生前提かよとか、二次元に三次元の人間が馴染むわけ無いだろとか相当悲しい現実を放り出さないと読むというスタート地点にすら立てない。おっさんにはとことん優しくない分野だろう。

 

 ま、とはいえ今時な創作のスタンダード。人気狙いなら持っておきたいタグだし、要するに『無難な物語』には有って損はない。

 艦これの艦娘に転生するタイプってどう? 結構ダークなやつ多いから俺は好き、でもFateでお手軽無双する系統はちょっと…………。

 

 あ、すまん。違う世界にトリップしてた。

 

「出来たよ~」

 

 まっさらに新しい物語はもう生まれてくることはない。情報そのものが出尽くした現代では、せいぜい組み方を弄るので精一杯だからだ。

 素材が見慣れていては新品になるわけがない。

 

 といっても素人目にはよく分からないので気にはしないつもりだったが、細かく見るとどれも二番煎じと言えなくもないのだ。ホントどうでも良いんだけど。

 問題は面白いか、だろ? パクリ二番煎じ結構! それが『つまらなくなる原因』だから忌避しているだけで、根本的には興味なんぞ無いさ。

 文字を読むやつにそんな道徳観を求めるだけ無駄だろ? なあ?

 

「にしても急だったからちょっとビックリしちゃったな~」

「すまない、乱暴に扱ったりはしていないのだが…………」

 

 さて、確信へ進もう。何故俺はその話を振ったのかだ。

 正直察して。さっきも言った通り物語は組み合わせ、つまり素材は一緒で慣れれば今の状況も自ずと見えてくるはずだ。

 コレを機に読み始めるとかどうだ? いい趣味になるんじゃないか。

 

「さて、治っているはずだが…………」

 

 漫画とかでありがちな

 

『もしもの話だが』

 

 アレだアレ。大体近辺報告になるんで大人しく吐けやっていつも思う。でも気づかない方にも問題有るしやってみると気持ちはわからなくもない。

 また脱線したな。すまんすまん。

 

「…………ん?」

 

 もう逃げ過ぎだなコレ、そろそろ本題に入りたい。でも入れないこのジレンマ。

 美少女がこの手の回りくどい行動をすれば萌えるのだが、俺はおっさん近づく社会人なので特にその情報に意味はないし忘れていい。

 

 ではまず一言、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『何でカセットテープになるんですかね!?』

「……………故障、かな?」

 

 うん。もう種明かしと行こう。

 

『5W1Hはさておき、どっかの美少女愛用のカセットテープレコーダーに転生してる』

 

 な、二次創作だからって何でもありだと思うなよ? お前は何処へ向かってるんだ的な感想で叩かれまくりだわこんなくそったれ転生。

 テンプレ通り過ぎて常識外。お先は真っ暗視界も真っ暗、声はイヤホンからしか出てきてません。

 これもしかして憑依? いやでも転生の方が近そうな気がする、気が。

 

「仕方ない、一回切ろうか」

『辞めてくださいお願いしますぅ!』

 

 そして持ち主はそんなトンデモ展開に耐えれるか不安な至極真っ当な美少女の可能性が、極めて高い。

 

 

 

 

 

「誰だあなたは」

『誰? 何、じゃなくて誰なの?』

 

 そう言われると彼女は既に適応してきている疑惑が有る。確かにWhatと聞くのが正解だ、大体彼が人なのか自体が大いに怪しい。

 

 彼は最初にちらりと気に留めただけだが、返ってくる少女の声は現実世界37億人前後のそれと根本が異なる。

 頭の中でさながらオペラホールのように響く透き通る声音。言うものが違えば鈴のようと言うだろうし、今回の場合は聞くだけで落ち着くという表現が適切だ。

 

――まさか、ね。

 予想がついてしまっていた。変態的な声優オタだった前世には「こんなんクソの役にも立たんぞ」、なんて生前は豪語した彼なので、そう言い放った同士の友人に頭を下げなくてはならなくなった。

 何度照らし合わせてもその声紋の検索結果は一つ。まさかまさか~、とスルーしようとするがそれが大正解であると本人も分かっているはずだ。

 

『俺は…………まあ、後にして。そっちは誰だ?』

 

 やや狼狽え気味の調子に察したのか、特に揉めることもなく少女は返答する。

 

「私はヨークタウン型二番艦、エンタープライズ。これで名前代わりになるだろうか?」

 

 聞いた後、小さく

 

『石川由依……』

 

 と呟いて、僅かな静寂の後

 

『うぇい!?』

 

 彼の絶叫がイヤホン経由でエンタープライズの耳をダイレクトアタック、既に残りライフは僅かだ。

 

「――――ッ! 耳が痛いからボリュームを……」

『し、失礼しました』

 

 驚いたと言うだけではない。広がった感情は歓喜、驚愕、混乱、不安――――挙げればキリのない多種多様な色彩のごとく。

 舞い上がり、疑問を持ち、じわじわと増える謎に不安で思考が奪われる。人間の一生だけでは中々味わえない情報量の暴力に当然、彼は錯乱気味となってしまっていた。

 

「ああ、怒っているんじゃない。ただ本当に少し痛かったから……」

『尚更すみません』

 

 わけも分からず敬語になっていた。彼はかなり一杯一杯になっていて、それが辛うじて出来る普通の喋り方のようだった。

 エンタープライズもそれは分かるからか、怪しいはずのイヤホン越しの男の声に問い詰めるようなことはしない。

 

 一旦落ち着くまで彼女が立ち止まって待っていると、深呼吸の大きな声の後に堰を切ったように喋りだす。

 

『マジで? アズールレーンのユニオン所属のヨークタウン級航空母艦のセカンドナンバー、グレイゴースト、ラッキーE、ビッグE、ギャロッピングゴースト等々のヤバメの異名を頂戴したあのエンタープライズ?』

「やたらと詳しいな、まあそれで正しい。そのエンタープライズだ」

 

――正確にはそれこそ、それの亡霊だが。

 敢えてそれは言わない。情報量をこれ以上増やしても彼が混乱するだけなのが分かっているのだろう。

 

 実際彼もウッソだろお前、とその言葉を五回ほど繰り返して軽くショート気味だ。ドッキリを疑い始める始末である。

 とはいえ人間は『自分の常識内』での処理を優先してしまうものだからそれは仕方ないことだ。

 手足の感覚がなく、声はイヤホンから漏れているだけで視界はない。現実味が薄すぎるのだ。

 

「信じられない、とでも言いたげだな」

『え、いやそうでもないけど!?』

 

 上ずった声は怪訝を呼び込む。

――いやだって、お前はゲームの中のキャラじゃん。

 それは言えなかった。自分が言われても嫌だというのも有ったがもう一つ。

 

――見えずとも、触れずとも、匂いすらせずとも。今言葉を交わしているのは彼女は、本物だ。

 それは事実で、ゲームだと切って捨てられるほど彼は思い切りが良くない。甘いのだろうが、今言葉を交わす相手の全ての否定できなかった。

 

「変な人だ……いや、人ではないのか?」

『多分違うけど人扱いしてもらえるととても嬉しい』

「了解した」

 

 あっさりと了承してしまったエンタープライズが彼には不思議で仕方ない。

 自分だったらこの変なレコーダーを投げて叩き割る自信がかなり有るそうだ。物騒にも程があるが本人がそういうのではそれ以上何も言うことはない。

 

『俺のこと気持ち悪いとか、怪しいとか思わないのか?』

「思わないなんて言えば嘘だ、それは有り得ない」

 

 声にはしなかったが、彼の気分は重くなった。

 分かっていても確認して改めて辛いことも在る。それが例え、自分から尋ねたことなのだとしてもだ。

 

 考え出すと今後のことも不安になってきたのだろうか、ずっと考え込んで黙り込んでしまった彼に何を思ったのかエンタープライズはフッと笑う。

 

「だが、こう心細げだと怪しんでも仕方なく思えてこないか?」

 

 彼はボソリと

 

『俺だって困惑してんだよ…………仕方ねえだろ』

 

 とちょっとだけ、本当に心細さを含んで呟く。

 その様子の何が面白いのか彼女は大きく笑い出す。

 

『何がおかしいんだよ、誰でも怖いだろこんなん!?』

「すまない。思いの外しおらしくてつい、な」

 

 悪いか、と呟くといや全く?と返ってくる。

 

「人間らしくて好感が持てる。あまり常人離れしていると付き合うコッチが疲れるからな…………」

 

 唐突に深い溜息。

 

『何だ? 心当たりが有るみたいな言い草だな』

「指揮官がな…………とはいっても、あなたもどことなく似ているような気はするが」

 

――どんな奴なんだよソイツ。

 言葉にはしなかったが妙にその台詞が引っかかって仕方なかった。

 

 こつ、こつと気づけばブーツの歩く音。歩き出したらしい。

 ふと突きつけられた五感の欠落に呆然としていると、気分の良さそうな鼻歌。これもエンタープライズのもののようで、曲は何か分からない。

 

「曲は流せないのか? あなたの趣味で全く構わないのだが」

『えぇ、曲か? 何かこう、気合で流せそうな気が……』

 

 面白い仕組みだな、と楽しげな声を彼は放置する。

 何となくで埋め尽くされた感覚的な動作で気分だけが右往左往する。

 

 それほど経たない内に『LOSER』が流れ始め、エンタープライズははてと考え込む。

 

「2nd-ghostか?」

『え、何それ』

 

 知らないで流しているのか、と怪訝な顔付きで説明が入る。

 

「ネットアーティストだ。歌詞も、曲調も、リズムもテーマもまるで違う曲ばかりを出している」

『へぇ、俺は全然違うものを想像してたんだけどな』

「彼は普段は電子ボーカルで歌わせているようだが、カバーか?」

 

――むしろコッチ的には本家と言って差し支えないんだがな。

 要らないことは言わないが、世界が違うのだという妙な実感だけが頭の奥をウロウロとしていた。

 

『ともかく俺の知ってる曲以外は無理そうだ、我慢してくれ』

「ああ、問題はないよ」

 

――むしろ、チョイスとしては嫌いではない。

 軽くリズムを刻みながら歩き続ける。嫌いではないというより、実際は気に入ったようだ。

 

 しかしそれきり黙り込んでしまった彼が心配だったのだろうか、小さな声で忠告をする。

 

「あまり喋ると周りから奇異の目が寄せられてしまう。小さな声で返すぞ」

『別に無理に喋らんでも』

 

――変人扱いはされたくないだろ。

 少しいじけた口調で遠慮した彼をエンタープライズは軽く笑う。

 

「声から寂しいという本音がダダ漏れだぞ? 流石に放置できないな」

『い、いやっ。そんな事ねえし…………』

 

 クスクスと笑うエンタープライズにからかわれながら歩いていく。

 

 

 

 

 

「それにしても災難だな、突然こんな状態になって」

 

 夜。食事も終えて手持ち無沙汰となった彼女は、何というわけでもなく彼に喋りかけた。

 傍から見れば大きな独り言を言っているような形に見える、外で自重しようとするのも納得できなくはない。

 

 月を眺めながら返答をぼんやりと待つ。案外速かった。

 

『そういう事になるな。いや全く、やってられませんなハハハ!』

 

 陽気に取り繕っていたが、強がりなのが透けて見えるとかえって憐れだった。

 

――この状況で平然としていられる方が不思議なくらいだ。

 彼は最初こそ無理に返事をしなくていいなどと言ってみせたものの、喋りだせばまるでノンストップだ。

 

 自分は25歳のただの冴えない会社員だったこと。今さっきまで自分がどんな状態で、どうしてこうなったかについて全くもって説明できないこと。

 未知に放り込まれたという情報が、淡々と、されど情感混じりに事細かな具合でイヤホンから届く。エンタープライズが上手く相槌を打ってやれないことも有ったというのに、それでもずっと途切れず。延々と説明が終わるまで彼は話し続けた。

 

 余程心細いのだろうと彼女には思えた。

 

『急に黙り込むなよ、怖い』

 

 不自然な無音に耐えかねた彼の泣き言すらもエンタープライズは答えない。

 

 再び喋り出すまでは何秒かかったのだろう。きっとそれほど長くなかったはずだが、彼には数分、数十分、いや数時間にすら思えた。長くて、それはとても怖いこと。

 静かな時間は長く、辛く、苦しい。彼の乾いた笑いが不安に掻き消されていく。

 

「…………私は今まで誠実に生きようとしてきたつもりだ」

 

 不安を取り払うのも、同じ彼女の澄んだ言葉。言葉は透明で、意味は明瞭で、そして彼女は純粋。

 意味もなく窓ごしの三日月を眺めて、まるで独り言のように言葉を重ねる。

 

「とても難しいことだと今でも思う」

『急に何だ、気持ち悪いな…………』

 

 尻すぼみな言葉で誤魔化そうとしても誤魔化しきれない。

 

「辛い時は辛いと叫べばいい。嫌なことは嫌だと抵抗して良い――――それを責める権利など誰にもないんだから」

 

 彼には感覚がないが、その擦れる音で彼女が両手で大事に抱えていることは分かった。

 短い時間ながら、言葉を交わした上でそれは心からの心配なのだろうと彼は確信できる。

 

 男は他人を信用しない。小さなすれ違いの積み重ねだったり、虚しい多数決の原理が原因となるがともかく信用をしない。

 その彼ですら、彼女を疑うということが出来なかった。

 ただの一つも嘘をつかなかったのだ。どれほど小さな事であれ、彼女は返事に世辞も誤魔化しも挟まずに音を奏でる。

 

 とても難しいことだなんて、彼だってよく分かっている。彼だってそうしようとして失敗した人間だからだ。

 真実は時に不用意に人を傷つける。嘘は時に自分を守るために必要となる。嫌になるくらいにその現実に打ちのめされてきた。

 

『会って一日も経たない男の弱音なんて、お前聞きたいかよ?』

 

 ヘラヘラと装って尋ねる。仮面の裏にはそれまで以上にずっと重い何かが潜んでいて、それが彼女に問いかけていた。

 

 それを彼女は恐れない。簡単だ、それでも彼女は彼に誠実に向き合うからだ。

 

「それでもだ。あなたが潰れる前に」

『言ってどうなるんだよ』

 

 どうなるんだ。

 どうにもならない、それだけだ。

 

 彼女は大きく笑って、笑って笑い尽くして涙すら流す。まるで涙で何かを洗い落としているんじゃないか、彼がそんな意味の分からないことを考えるまで大きく、朗らかに。

 

「言ってどうなるか、それは知らないな」

「したいことはするべきで、あなたは辛いのだから辛いと私に言うべきだ。それだけだよ」

 

 もちろん私もそう在るべきだが、とどこか後ろめたそうに呟く。

 

 氷が解けるように、男は取り繕っていた何かに罅が入ってしまった。

 彼は大人になってから嫌なことへの耐え方を多く学んだ。忘れる、遊ぶ、寝る、食う――――――他の何かで塗りつぶす。

 知っている、それは間違っている。誤魔化すだけでは傷は何時か膿んでいき、最後には男自身を殺す致死の毒へとすり替わる。

 

『…………そうか。そりゃご忠告どうも』

 

 だがダメだ。

 

 何故か? それは貴方が思うほど難しい理由というわけではない。エンタープライズに気を使っているだとか、言葉にしきれないとかは理由のほんの一部。末端に過ぎない。

 人間は最後の最後で単純な生命だ。もっと明快で簡単な理由で大部分が構成されている。

 

『でもよ、認めたら――――――いよいよ俺、あっという間に潰れちまうんじゃねえかな』

 

 耐えれない。それだけなのだ。

 

 誤魔化すのは最終手段だ。リカバリーも効かなくなって、死は目前で、だからせめて安楽死するための場繋ぎの手段だ。

 男は弱い。普通で、まともで、そして単純で貧弱だ。それが一般人だ。

 確かに誠実であることは素晴らしい。やりたいように出来ることは美しい。

 

 だがそれがどうした。

 

『悪いな、今ので精一杯の弱音だわ』

 

 ほら、これを見るがいい。

 一体この男のどこに、それが出来る強さが存在する?

 

 無いのだ。良い悪いなどではなくて――――――残念ながら、無いのだ。

 

「…………すまない、かえって苦しめたようだな」

『気を遣わなくてもいい、俺は面倒な男だと自分でも思ってる』

 

 違う。上手く言い返せないままその日の彼女は床についた。

 

 

 

 

 

「さて、今日はどんな曲を聞かせてくれるんだ?」

『朝だろ? じゃあ早めのテンポで威勢よく行こう』

 

 かけ始めた曲は『Super Driver』。曰く個人的に一番好きな明るい曲なのだとか。

 服を着替えてネクタイを締め。帽子を被ればもう完成で、彼女の顔は一転きりりと引き締まる。それがスイッチのオンオフというものだ。

 

 昨夜の会話から彼女が思っていたより彼がずっと考え込む性格であるのは理解していたからか、どうにも空元気という言葉が脳裏をチラついて仕方がない。

 

「ところで意外と暗いと言われたことはないか?」

『うるせえ、文句あんのか』

「いいや?」

 

 機嫌良さげにリズムを取るのは相変わらずだ。どうやら音楽という概念が好きらしく、趣味が似通っている彼としては親近感のようなものすら感じる。

 

 それでもどこか遠い存在という感覚も取れないが。

 何だか彼は生物としての質で負けているような、妙な劣等感を覚えて仕方なかった。勘違いも甚だしい錯覚ですぐに忘れることも分かってはいるのだが、刺さりっぱなしの針のようにふと痛むことが有る。

 

「自然体のあなたの方が私は好きだ」

 

 へえ、と彼は気の抜けた返事をする。

 

 もちろんすぐにあたふたとし始めたが。

 

『勝手に言ってろ!』

「声が震えているぞ? 分かりやすいな」

 

 ふふ、と小さく笑われたような気がした。

 

 

 

 

 

 さて、こうして開始した奇妙な生活は恙無く進んでいく。

 

『おかえりー。エンタープライズさん、演習どうよ?』

「全勝だ」

『何で当然みたいな感じなんですかね、これが主人公の意識レベルってやつか?』

「避けれたはずの一撃をもらってしまってな…………勝利よりもミスに目が行ってしまう」

 

 面白い話だが、彼女は別に興味本位というわけでもなくそのおかしな機械を手放さない。

 

「ヨークタウン姉さんに精神病を疑われているのだが、どうしたものか…………」

『そりゃ誤魔化すしか――って、エンタープライズちゃんは嘘が下手なんだっけ?』

「くっ…………アシストは任せた」

『任せろい! お世辞と誤魔化しの上手さこそ大人としての強さよぉ!』

 

 時に語り合い、時に相談し、時に音楽に耳を傾け合い、時に冗談で片方を赤面させる。

 

『なあ、エンプラちゃんって彼氏居ないの?』

「なっ――――急に何だ! 居ないさ、それが何か!?」

『い、いや俺が悪かったすまん。だが指揮官狙いなら諦めが肝心かと――――』

「もう良い、良いから!」

 

 そしては二人は似ていないようで、案外どこかが通じ合っているのかもしれない。

 

「今日の昼食? オムライスだったな、それがどうかしたか」

『良いなー、俺も食いたい』

「…………テープの代わりに入れればもしくは」

『なあそれ真顔で言ってる? 壊れるよ、俺壊れるよ!?』

 

 一隻は主人公で、一人はモブキャラで。

 

『艦載機ってどうやって飛ばすのよ』

「どう? どうって…………ダーンとやってシュババっと出すんだ」

『えっ、なんて? もう一回、聞き間違いじゃなければ予想の斜め上な返答だった気がするんだけど』

「いやだから、ダーンとやってシュババっと」

『は?』

 

 そして普通から外された男と、普通から外れた少女だった。

 

『目は開けられるか? 気分は良いか? 腹は冷えてないか? 腑抜けどもに目を見開かせる最高の雷撃の快感に耐える準備はオーケイ?』

「朝から元気な人だな。少し考え事は有るがそれだけだ、業務に支障はない」

『頭すっからかんになる曲をプレゼントフォーユー』

 

 独り言が増えたのではと相当数から最初は心配されたのだが、結論から言うと。

 

 

 

 

 

「姉さん、最近楽しそうだよね~」

「そうか?」

 

 昼食の最中、向かい合って歓談していたホーネットが突然ニマニマとそんな話を切り出した。

 普段から笑顔の多くてこそホーネット、という扱いでは有るがこの手の笑い方は珍しい。からかうということ自体が彼女には少ない事例というべきか。

 

 とはいえ顔から悪意は滲み出るもので、エンタープライズはもう身構えているフシすら有る。

 

「指揮官と上手く行ってるとか?」

「ホーネットまで何を言ってるんだ、私は指揮官には――――」

「私までって、他に誰が言ったの?」

 

 それはだな……とつい彼女は話してしまいそうになる。

――言ったら駄目だな、ああ。

 

 反射的に答えそうになるのは何故か考え込むが、最近の会話の半数があのレコーダーに埋められてしまったという所に行き当たる。どうやら彼女まで口がゆるくなってしまったらしい。

 

 あまりにも間抜けな理由だと思ってしまったのか、笑いながら

 

「秘密だ」

 

 と口に指を当てて悪戯っぽく答える。

 意味ありげな返事にホーネットは勿論気になるわけで

 

「えぇ~! はぐらかし方が下手過ぎ………………まさかカレシ!?」

「天地がひっくり返ってもそれはない!」

 

 声を上ずらせながら尋ねてみるが、エンタープライズの返答はご覧の通り。

――今思い浮かんだ誰かがお相手だな?

 さすがホーネット鋭い、だが微妙に違う。

 

 完璧に機嫌を損ねたエンタープライズは黙々と食事を続けているが、ただ食べているだけだと思考が誤魔化せない。段々と疑問が頭の中で膨らんでいく。

――なら、何だ?

 敢えて避けていた、忘れていた――――そういう質問が頭をぐるぐると回り始める。

 

 何なんだと言われても返答に困る。ただの友人と言うには距離感が近いだろうし、恋人などと言うにはそもそも異性として意識すらしていない気がする。

 しかし喋っていてもそれ程不快ではない、どころか安心する時すらあるぐらいだ。

 

「……………何だろうな、彼は?」

「え?」

 

 何でも無い、と誤魔化して話を切り替えた。言うまでもなくホーネットは何度か質問をしたが、エンタープライズ自身が不思議な顔で

 

「いや、説明が色々と難しい人だ」

 

 と答えるのでは引き下がる他ない。

 

 残念ながら、彼との関係について言葉に表すには彼女達の知る『日常』があまりにも足りなさすぎる。

 例えば『家族』だとか、そんな言葉を知る機会すら彼女達には無かった。




テーマ曲は「ゴーストルール」。最初は真面目にあとがきもカッコつけてたけどメンドイ。あらすじも自分で馬鹿だと思ってる、インパクト求めすぎだろ。っていうかあらすじとタイトルで本文が想像できなさすぎるぞ。
例えどれだけ憑依と言われても転生だと言い続ける。

序盤正直つまんないけど終盤で殺すから頑張ってほしい。内容はいつか書いた短編のリベンジ。

ところで人生って意外と何も変えられなくてつまんなくない?
同意の人、奇遇だな。今回はそういう話になる。


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chapter2『この身にある力』

俺とお前の世界を騙すゲーム。
あの日を俺達はきっと超えるだろう。


「エンプラちゃん、最近調子いいな」

 

 優しげな指揮官の声で昼の執務室が色づき始める。数少ない無色のエンタープライズははて、と小さく首を傾げる。

 

 指揮官はどの艦にも甘い。コレに関しては軍的に賛否両論で、ユニオン出身贔屓の者からは彼は相当な言われようだ。

 甘ちゃん、腑抜け、へっぴり腰、ただの産業廃棄物。最早ただ罵倒されたことも有ると言うし、このやり方を良いことに言われたい放題もまま有るそうだし、重桜出身というだけで貶された時も有ったという。

 それでも腐らず、反骨心も見せず、やる気もない。曰く

 

『いや、俺が頑張るのは良いんだぞ? でもお前らがもしついてきてくれたとして、俺をバカにしたりふんぞり返ってるだけのアレがお前らに何かしてくれると思うか?』

 

 とのことだ。やったことには結果が帰ってこないと嫌だというのは彼の性格がよく出ている所だろう。

 その返事をする時の眼は、英雄とさえ呼ばしめた父親のそれとまるで同じだ。

 

 実際甘いし腑抜けであったわけだが、どれも突き抜ければ支持を得るに足る。あんまりな言われように、彼に代わって動き出したのは配属艦の方だったというのがオチである。

 自由を掲げるユニオンらしい部下の自主性でパールハーバーの隅のぼろ小屋の主から、今では一大拠点の管理をするようになった男というわけである。

 

 彼としては『無理に頑張るなよ』とのことで、逆に言えば努力することにもそうとやかく言うつもりはないらしい。

 結果としてはバカにしていた軍人より今の彼はずっと高い地位にいるので、当人達としては大満足の実績が上げられているようだ。

 

「そうだろうか、自分では実感がないな」

「独り言が増えた辺りからでしょうか――――とかヨークタウンさんは言ってたぞ」

「うーん…………?」

 

 明らかに答えあぐねているエンタープライズを見ている間にどんな心境の変化が有ったのだろうか、手でニヤつくような笑いを隠しながら目を細めて尋ねる。

 

「もしかして彼氏か?」

「なっ――――あなたまでそれを言うのか?」

『なあ、お前行き遅れ扱いだぞ』

 

 それなりに鋭く失礼極まりないそんな一言は、幸いにもポケットの中でイヤホン越しに虚しく響くばかり。

 

 あたふたとしているエンタープライズを愉快だと言わんばかりのこらえ笑いとともに指揮官は眺めていたが、いよいよ発艦手前に近いのではという剣幕が見え始めた辺りで手を上げて降参の意を見せる。

 

「後は音楽聞くんだって? 2nd-ghost好きなのか?」

「――――あ、ああ。最近は好きだな」

 

 一瞬戸惑ってしまう。

 

 彼女と会話をするのは百歩譲ったとしても、彼の存在がバレると高確率で解体されてしまう。

 常に音楽を流しているのは、怪しまれても音楽を聞いているだけという建前を作っている一面もあるのだ。

 実際何隻かはイヤホンを手にとっているのも有って、それが指揮官の耳にまで届くのは大して不思議な話でもない。

 

「良いチョイスだって評判だぞ――――いやあ、照れますなあ」

 

 頭を掻いて何だかニマつく指揮官は気色が悪いが、それよりも意味がわからなかった。

 エンタープライズは眉をひそめて尋ねる。

 

「何故指揮官が照れる」

 

 あ、いや。と手をブンブンと振り回してあからさま過ぎる誤魔化し方をする。

 

「ほ、ほら! お前って何か妹みたいで心配だしさ! 褒められると俺も鼻が高いと言いますかね!?」

「誰が妹だ…………全く」

 

 満更もなさ気な溜息に、鼻持ちならない彼はと言うと

――なーんかうさんくせーのー。

 このようにもう完璧に嫉妬している。何なんだお前。

 だいたい俺のチョイスだし―、とかもう笑えてくるほどに不機嫌。子供か。

 

 異性として意識しているかと言われたらお互いに少し考えて

 

『「それはひょっとしてギャグで言っているのか?」』

 

 とかなり淡々とした口調で返されるのだろうが、こうべったりだと互いを一番理解しているのではないか――――なんて思うのも有り得る話だし、実際その可能性はある。

 

 とは言っても指揮官とエンタープライズはお互いに初陣からの関係なので、距離が一番近いのは彼らなのも同じように疑う余地がない。

 

「でも溜息も多いって心配のお便りも来ているんだが、大丈夫か?」

 

 エンタープライズは突然歯切れが悪い返事をして誤魔化そうとする。

 

――そういや俺と喋ってる時もその気配はするな。

 勿論彼だって少しだけ怪しんでいたところだ。悩み事を隠しているというところまで突き止めても、それから先に進めない以上は触れるべきではないだろう。

 

 彼女が隠し事をすること自体がおかしいのは二日目で分かりきっていたことだが、彼は大人だ。

 解決もできないことに首を突っ込んだ後の惨状を、よく知っている。

 

「た、大したことではない。コンディションに影響はない、はず」

 

 ふーん、と察したような顔付きで指揮官はエンタープライズの眼を見つめる。

 段々と目をそらされてしまったのを切り目に

 

「まあ、今は()()()()()()()()()()()()()()いいや」

 

 と言った後、ポケットに入れていた彼の方へと視線を向ける。

 

――気づかれている? いやまさかな。

 この見透かされているような感覚は今に始まったことではない。

 着任当初からエンタープライズの事について指揮官は妙なくらい察しが良い。なぜかと尋ねてもマトモな返答が返ってきたことはなく、適当にはぐらかされてばかりだ。

 

 逆に言えば長い間そんな感じだから、今更違和感を感じるわけでもないのだが。

 

「えー、まあ姉妹には心配掛けないようにな。質問は終わりだ、時間を取って悪かった」

「こちらこそ要らない心配をかけさせてすまない」

 

 そう言ってエンタープライズは部屋を後にする。

 

 

 

 

 

『俺絶対あんな奴に似てないけど。ってか指揮官ってカッコいいのか?』

「顔のことか? まあ、世間ではそう言われているんじゃないか?」

 

 やっぱりな、と機嫌が悪そうに黙り込む。彼女は普段と同様、月明かりが差した窓際の机で頬杖をつく。

 

 いつも夜になると、彼は何かに備えたようにおしゃべりになる。とりとめもなければ、とめどないそれにエンタープライズも慣れてしまっていた。

 

――子供みたいだな、全く。

 ふふ、と小さく笑ってしまったから彼がまた質問攻めにする。

 

「何だ、妬いてるのか?」

『妬いてるって、まず彼氏でも何でもねえぞ俺』

「分かりやすいな、前からそうだったのか?」

 

――分かりやすいとか言われたこともねえよ。

 強がってそう答えて黙り込む。

 

 もちろん音楽が鳴り始めたりするわけもないので、対応に困って更に苦笑い。

 

「悪かった悪かった、そうヘソを曲げられると困る」

 

 最初は無視を決め込んでいた彼だったが、エンタープライズにどうせ時間を置けば機嫌も直る、と決め込まれているのを察したらしい。

 少し経ってからゆっくりと尋ねた。

 

『…………それはそうとして。結局悩み事は一体何なんだよ』

 

 ころりと変わった話題に、エンタープライズの顔がピタリと固まる。

 

――やはり指揮官に、どこか似ている。

 普段のおどけた口調でこそ分かりにくいが、真面目に喋りだすと指揮官そっくりに彼女には聞こえる。

 

 心配性で、どこか適当で、人をからかうのが好き。もしかすれば彼女は重ねている部分もあるのかもしれない。

 

「今日が何日か知っているか?」

『お前日付の話は敢えて避けてたろ』

 

 分かるわけねえよとぼやくと、気づかれていたかとエンタープライズが困ったように笑う。

 本来の彼はそこまで頭が回る男ではなく、変化に敏い方でもない。

 

――状況が功を奏したな。今回は。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()。本来脳が処理するはずの膨大なデータは与えられず、自然と彼の全ては思考と相手の言葉へと集約されていくことになる。

 

 視覚だけなら分からない、触覚だけなら分からない、味覚だけなら分からない、嗅覚だけなら分からない。

 

 偶然だ。彼は偶然、そのどれも持ち合わせない。言語と思考が彼の全て、あまりに大きすぎる犠牲でありながら――――故にこそ、男は本来辿り着けない地点までその感覚が到達していた。

 日付の話がない程度、普通は偶然で済ませる。

 だが彼にはそれが意図的だと言える理屈と直感、確信がある。どんな細やかなものだとしても、今の彼は見逃さない。見逃せない。

 

November 7(11月7日).といっても、これだけでは分からないか」

『――――真珠湾攻撃か?』

 

 エンタープライズの紫水晶の目が見開かれる。

 

「知っているのか」

『色々あんだよ。それで、まさか『再現』されそうとかいうオチか?』

 

 返事はない、男は息を呑んで黙り込んだ。

 

 真珠湾攻撃。

 彼は知っている。正史のそれではなく、この世界で起きる地獄の幕開けを。

 血反吐を吐くほど何度も何度も繰り返す、殺戮と硝煙の記憶。彼はゲームをそれほどやり込んだ覚えはないが、永遠に繰り返すものであることは記憶していた。

 

 理由は単純。結論としてそれは『セイレーン』のマッチポンプによる実験であるから。

 ただの観察対象であることを、他人事に彼は把握している。

 

「重桜の動向が妙だ。連合の中でも険悪なもので、指揮官も帰国できない状況が続いている」

『ふーん、ハッキリ言えよ。要するに『何とかしたい』って事だろ』

 

 そういう事だ、重い返事。

 話は聞いてみたものの、考え始めると彼も気が重い。

 

――止めれるもんならな。意味もなく死ぬ美少女を眺めてたら俺の善良心パラメータが振り切れて爆発事故を起こす。

 しかし悲しいかな。男は今となってはただの喋るカセットテープレコーダーに過ぎない。

 

「最近は同じ夢ばかりだ…………血と油の匂いで噎せ返る海でいつも一人きり。時には死骸を眺め、残骸を見つめ、ただ意味もなく歩くだけ――――正直、散々だ」

『そりゃお前が主人公だったところで嫌だろうな、当たり前だ』

 

 彼女は両肩を抱きながら小さく震えた。

 

「アレは夢の筈なのにとても鮮明で…………ああ、思い出す。血でべたつく体に、鼻の曲がりそうな油の匂い。硝煙で目が痛くて『嫌だ、嫌だ、こんなはずじゃ』と頭で繰り返して前に歩いていく」

「こういうのは――――何て言うんだろう」

 

 震えた言葉に男の最後の(パーツ)がガンガンと揺さぶられていく。

 

 当然だよな。

 殺戮の記憶が染み付いても。

 幾ら強くなっても。

 乗り越えたつもりでも。

 運命が決まっていると分かっても。

 それでも尚進むと決意したところで。

 

――お前は、唯の女の子だもんな。

 

『怖い、だろ』

「怖いか――――ありがとう、ずっと分からなくて」

 

――理解できてないんじゃねえ。教えられないし、お前らも理解したくないんだ。

 だって解れば海の上に立つ度自覚して、呑まれて、次に今の全てを呪いたくなる。

 

 本当はそういう地獄を歩いているのを、必死で誤魔化してるだけなんだから。

 

『逃げ出しちまえ、何でもどうにかなったらそれこそ問題だぞ』

「――――――逃げれるなら私だって逃げてるよ!」

 

 初めての彼女の大声は、彼を確かに驚かせる。反省して、戒める。

 

――そうだった。お前は強いんじゃないんだった。

 全ての心有る者は原初から変わらず、死ぬまで貧弱に過ぎる。

 生き続けようとそれは変わらない。傷はつき続けて、残り続けて、ただそれを誤魔化して傷まないと思い込む方法論を身を以て覚えているだけだ。

 

 だがどうだろう、凄惨ばかりを記憶とされた彼女達は。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 たった一つの心では耐えきれないものを背負っている。元からそれは危うい存在なのだ。

 

「でも逃げて別の誰かに押し付けたくない! 誰かが死ぬのを当然のように受け入れられない!」

「何も解決しない、意味がない――――!」

 

 必死に叫ぶ。ただのワガママなんて分かりきったことで、それでも唯の少女は叫ぶ。

 しかし当然の願いだ。どうして誰かがそんな意味のわからない戦争で死ぬ必要がある、そう思って何がおかしい。誰が否定できる、恐らくできないだろう。

 

 不可能だ。どれほどワガママで、理想論だとしても――――それは悲しいほどに蔑ろにされ、忘れ去られた正当な願望なのだから。

 

「でも止める方法も分からない。時間は止まってくれない、焦って正解なんてもうさっぱりでやってられない!」

「でも――――――そうだとしても!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………?」

 

――いいえ? 全く正当なお願い事だろうさ。

 男は言葉を挟まない。嗚咽を聞き、言葉を吟味し、慰めもせずに思考する。

 

 どうしてやるべきなんだ?

 慰め? 否。

 逃げ道を教える? 否。

 否、そうじゃねえ。足りない頭を使え、漸くマトモな頭の使い方だろうが。

 

――俺の話はバッドエンドにまっしぐら? いいや、絶対違うね。

 

『仕方ねえなあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 溜息を付いて、仕方ないなと笑いながら。

 エンドロールは笑ってさようなら。最後は皆で幸せに。向かうはトゥルーエンドじゃなく、グッドエンド。

 

――()()()()()()()()()()()()()

 

 エンタープライズが息を呑んで目を丸くする。

 

『いや、だからそんなに嫌なら俺らがどうにかするんだよ。人任せは性に合わないだろ? やってやろうぜ』

 

 そこに理屈はない。

――まあ、俺ってバッドエンドに向かってもキャラ的に面白くないしな。

 つまらない冗談はいつも虚栄。失敗を悔やんでも、不幸を恨んでも仕方ないから――――失敗絶えないソイツはそれを知っていた。

 

『この足りない頭とお役立ち付録なトンデモ情報は全部くれてやる』

『隠し事はナシだ。やるなら全力でぶっ潰すぞ』

 

 彼女は答えない、嗚咽は少し小さくなっていた。

 気を遣ったつもりなのだろうか、彼は下らないことを言って誤魔化す。

 

『ま、取り敢えず鼻水でも拭いてこい。出てたら幾ら美少女でもブッサイクだからなあ』

「…………空気読んでよ」

 

 ちょっとだけ、その声は弾んでいた。

 

 

 

 

 

『よし、じゃあまずは俺が隠してた情報を全部教えてやる』

 

 彼が語ったのは、文字通りの全てである。

 この世界がゲームとほぼ同一であること、エンタープライズを以前から知っていること、予想通りの戦争は起きるであろうこと。

 

 セイレーンの目的も分かる限り。そして戦争は繰り返されているとことも。

 自分が眺めているだけの傍観者であったことも、全て、全て洗い浚いに。

 

「…………俄には信じがたいな」

 

 当然、エンタープライズの反応は芳しくない。彼からすればむしろ戯言と切って捨てないだけタフだと感心するほどだ。

 

 世界が創作物である、もしくはそれをモデルにしたものであるという発想自体がトンデモナイものだ。かの安心院なじみでもなければ、それを嬉々として受け入れるほうが気味の悪い話だ。

 ましてや――――自分もそんな世界のパーツなのだと認めるのは、とても難しいことだろう。

 

『少なくとも俺から見ればそうだ。ゲームやってた頃は胸をひたすらタッチして反応を見てニヤついてたぞ?』

「――――このヘンタイ」

『最高の褒め言葉をどうも』

 

 完璧に顔を真赤にしているエンタープライズを彼は知ることはない。

 彼もこうなってからつくづく思っていることだが、表情から得られる情報量は思いの外多いらしい。

 

「――それで、一応聞くが…………私とは、その」

『ケッコンしてた☆』

「ゲームとは言え相手を選ぶんだ私…………」

 

――え、そこまで言っちゃう?

 普通の反応だ。セクハラばかりする上司とケッコンするというのを一般的な常識に当てはめれば分かるが、相当にやばい。

 

 若干ショックを受けているのはさておき。

 

『えらくあっさり信じるんだな、コイツいよいよ頭が――――とか思わないわけ?』

 

 侮ってもらっては困るな、とエンタープライズが鼻で笑う。

 

「あなたがこんなタイミングで巫山戯ないのは分かっている」

「情報じゃない、あなたを私は信じているんだ」

 

 うぐ、と彼が言葉を詰まらせる。

――これだから主人公は駄目なんだ、人誑しめ。

 

 表情が彼に見える訳がないが、少なからず彼には不敵に笑っているように思えたしそれで正解だった。

 

『何、俺狙いなの? 指揮官諦めた感じ?』

「…………? すまない、聞きたくないから聞こえなかった」

『辛辣ゥ!』

 

 段々と二人でハハハハ、と薄っぺらい笑いをして話はお流れとなる。

 

「それで、私は何をすれば良い?」

 

――何をすれば良い、ね。

 彼にはそう思う感覚がなくなっていた。もう自分の行動で何かを変えることを忘れていたのかもしれない。

 

 居もしない過去の自分を見つめて、小さく笑いながら彼は答える。

 

『だから要するに、セイレーンが出てこざるを得なくすればいい』

 

 その心は、と表情を崩さずに続けて尋ねる。

 

『簡単簡単、同じ敵がいればみんな仲良しアルヨ?』

「そんな適当な……」

『ところがどっこい、歴史を見ても内輪もめなんて大体『外敵が居ない』から起きちまいがちなんだ』

 

 世界史のうろ覚えで彼は喋っていたが、その発送は意外と的を射ていたりする。

 ナポレオンが諸外国へ向かう頃に大きな反乱は起きていない。ローマが分裂したのは明確な敵が射なかった頃だ。

 

 極端な外敵を前に混乱する場合もなくはないが、大抵ぬるま湯につかった集団の間で内輪もめは起きる。

――意外と言えているな。

 

『数十年も戦えば間延びしてくるし、最近は対抗でき始めちまったんだろ? もう今揉めるしか無いじゃんってタイミングだし対処法も単純だろ』

「…………珍しい、納得できた」

『あのね俺だってハートってもんがあるんだぜ分かるか!?』

 

 それはすまなかった、と笑い混じりの謝罪が響く。

 あまり反省しているような調子ではないが、彼はもう諦めることを覚えてしまっている。

 

――まあ、妥協妥協で俺らは生きるもんな。

 彼女は今回は偶々、それでは納得できなかっただけ。

 それでも。だけど。理屈じゃない。嫌だから。そんな理由で動くことを段々と人は無意識に辞めて行ってしまうようになる。

 

 世界を動かしてきたのは、いつだってそうして今を否定してきた一人からだった筈なのに。

 

『まあ…………要するに予定外で引っ張り出す。その為には実力が必要になる』

「どれだけの力が有ればいい?」

 

 紫水晶の眼が爛々と輝く。それはどんな要求でも応えてやろうという自信と、どんな旅路でも走り抜けるという覚悟。

 見えない彼にすら届くその光は眩しくて、ついつい目を逸らしそうになる。

 

――俺も昔はこうだったのかもしれない。

 眼は希望に煌めき、表情は期待にはにかみ、心は未来に昂ぶる。

 知っている、それは今でも変わらないのに、男自身がもうしなくなっただけなのだと。

 

 虚無感に食いつぶされて、じき呑み干した。今は自分のことではなくて彼女のことだ。

 

『もちろん誰も沈めるな、誰も失うな。今じゃ全然足りない、もっと先に行かなくちゃダメだ』

「そうか、あなたが望む限りに私は応えてみせよう」

『頼もしい返事だ、道は頑張って考える。だからお前も頑張れ』

 

 バカバカしい、彼のどこかが自分を嘲る。

――自分でできないのにこんな娘にしろって言うのか、俺。

 

 つい最近、自分と大差ないことを思い知ったばかりなのに。自分と変わりないただの子供に、自分は出来なくてしもしないことをしろと?

 滑稽で、卑怯だな。

 

――でも、何だか夢は有る。

 

「他の艦にも伝えるべきではないか?」

『却下。あんま目立つ妙な動きは勘付かれる、俺達が最大単位の規模だと思ったほうが良い』

 

 問題は山積みだ。

 男の計画は果たして正しいのか。

 少女はそれについて来られるのか。

 走り抜けた先で、それでも後悔しないのか。

 わからないことばかりで彼ら自身、立ち止まってしまいそうなくらい嫌になる。

 

「…………壁だらけだ。これだけ情報は有るのに」

『馬鹿言え、強くてニューゲームな俺と世界最強の空母だぜ――――――何にも変わらなかったら、世界が間違ってるんだ』

 

 最強の空母様と来たか、とエンタープライズは小さく笑う。

――そんなものだったのかな、私達。

 

 二人はその地獄で、尚不敵に笑う。

 道は続く。雲は空を覆って、霧は一歩先すら隠して、雨は彼らを濡らして、風はいつも向かい風。

 それでも笑った、何故って――――。

 

「あなたがそう言うと、妙な自身すら湧いてくるな」

『空元気と虚栄が偉業の第一歩だ、気楽にやろうぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし地獄は地獄。それだけで現実は変わらない。

 

『今日の演習の結果は?』

「横のサラトガが中破。ダメコンも怪しかったな」

『ダメだ、もっと早く潰すのが手っ取り早いかな』

「了解した」

 

 だが、彼らの道は変わらない。

 

「セイレーンの発生場所は不定期だったが、確かに大きな海戦には現れている」

『だろ? 打電記録は何冊読めた?』

「すまない、一日の空いた時間では二冊が限界だ」

『十分十分、体調は崩さないようにな』

 

 一日、二日、三日。地獄が迫るごとに、彼らは息を切らして走り続けた。

 雲を切り裂き、雲を払い、雨を弾き、風を穿つその未来だけを瞳に移して。

 

『体調崩すなって言っただろ? ほら、ろれつも回ってないし早く寝ろ』

「そう、だな…………」

『あ、おい! すげえ音したけど大丈夫か!? ちゃんと毛布は掛けて寝ろよ、頼むから!』

「わかっている、すこしたおれそうになっただけだ……」

 

 無理はした。挑戦もした。絶望だってした。それでも互いに肩を押した。

 

 少女は見えぬ先行きに嘆息した。男は飲み物もよこせない無力に苦悩した。消耗して、もう倒れそうだった。

 それでも止まりはしなかった。

 

――それだけは出来ない相談だ。

 これだけが、彼らの共通意見だったからだ。




やっとあらすじ回収。お前早く面白くしないと読者離れるってそれ何度も。
エンタープライズ素の口調は普通疑惑の取扱いに困ってる。変に使えない……。

抗ってこその人生。人をやめて人の在り様を知るなんて、面白い男だよなあ。


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chapter3『思い通りにならないこと』

俺のたった一つの大きな嘘。
待っているさ、何時迄も。


『んじゃあ真珠湾攻撃のおさらいな。まずエンタープライズは方向間違って事故るんだな?』

「や、やめてくれ……。そう何度も言われると少し恥ずかしい」

 

 俯いてボソボソと懇願が聞こえた。夜、机上の男の説明には容赦がなかった。

 もう時は近い。最初の関門は後1週間も経たない内にやってくることになるというのが日付上の現実だ。

 

 彼はスイッチを切り替えるとむしろ彼女が見劣りするほどサバサバとしていて、エンタープライズがもじもじとした様子であろうが何の躊躇いもなくぶった切る。

 

『しゃあねえだろ。本番でミスるな、そして頑張れ。航路は無視れよ、トラブったらもう終わりだし』

「わ、分かっている……」

 

 史実の上での彼女は戦闘機を送り届ける帰り道に真珠湾攻撃が起きている。

 その時の給油作業には天候不良で遅延が発生しており、さすがに救援に向かう気ならば忘れて航路を変更するしかない状況なのだ。

 

「指揮官には怒鳴られるだろうなあ…………」

『仕方ない。此処についたら後は気合で何とか頼む、海上戦は門外漢だし』

 

――分かっているつもりだが、命令違反は殆したことがない。

 さすがにとやかく言うことはないが、少し抵抗は在る。

 

 んーっと、と彼は記憶の糸を手繰りながら話を進める。何せメモすらすることが出来ないのだ、今までの会話は必死で記憶して何とかしている状況だ。

 元より眠ることのない彼にとっては一夜を暗記に費やすなど造作もない。ただ心中で呟く、以外の暗記法がないのは随分悩まされていたが。

 

『ま、とりあえずこっから6月までが勝負だ。俺も戦場には行けないからな…………』

 

 彼の声が暗くなる。

 命令ばかりで手を貸せないことを気に病んでいるようで、彼女が居ない時の彼は溜息ばかりが目立っていた。

 サバサバしているのも、それくらい極端に切り替えないと本音が漏れるからなのかもしれない。

 

 それとなく気づいていたエンタープライズが、頬杖を突いて冗談交じりに励ます。

 

「出来ることをしてくれるだけで十分過ぎるよ。元は私のワガママじゃないか」

『そうは言われても参加しちまうとなあ? この体はもどかしいぞ…………』

 

 らしくないな、とポケットから取り出して机に放り投げる。

 痛くはないのだろうが痛っ、と彼が呻く。

 

『カセットテープレコーダーは投げるものではなーいッ!』

「明るい曲はないか? 夜は気分が落ち込んで良くない」

 

 話を聞いてくれよ、と少し弱々しい口調で呟く。

 

 しかしエンタープライズが鼻歌を始めた時は曲を流さないと取り合わないのは分かっていたからか、仕方なく『成るがまま騒ぐまま』を流し始める。

 

「明るい選曲だ、悪くない」

『時々扱い悪いよなお前…………』

 

 とは言っても最初はそうでもなかった。

 釣り合いが取れないと思っているのを察して、あえて乱暴に扱っているのだろうか――――なんて彼は思ったことも有るが、にしたって遠回し過ぎて困る。

 

 結局ただの理不尽という事で彼の中では済まされている。

 

『っていうか早く寝ろよ。体調崩されたらパーだって何回も言ってるだろ』

「少し夜更かししたぐらいで寝込むほどヤワじゃないぞ、私達は」

 

――ちょっと前に熱出したくせに。

 聞こえない声で悪態をつくが、イヤホンでは意味がない。

 

 それに、()()()()()()()()()()()()()

 

「…………夜は眠れないのだろう?」

『うん? そうだな、つまんなかったぞ。最近は忙しいけど』

 

 主に暗記に。

 

「あなたは寂しがりやだからな、一人は嫌じゃないか?」

『いや? そんなことは――――』

 

 良いから、とそのまま彼女は目を閉じて音楽に聞き入る。

 彼には行動決定権というのは特に無いので、諦めて彼も静かに音楽を聞く。

 

――よくやったなあ、このまま寝ることも多かったっけ。

 もう遥か彼方の記憶にさえ感じていた。最近の忙しさというのは彼にとって中々のハードワークな部分もない訳ではなかったが、それは同時に濃密な時間を過ごすことにも繋がっていた。

 

『…………俺はこれでもキツかったが、充実はしてたな』

 

 エンタープライズが静かに頷いて月を見る。あの日と同じ三日月、一月過ぎたのだから当然のことだ。

 

「奇遇だな、忙殺されて何も覚えていないかと思ったが――――案外覚えているものだ」

『俺は目標意識を持って生きたのが久しぶりだったし尚更な』

 

 社会に出てからの彼という奴は全く目的意識を持てなかった。

 別に社会に絶望しただとか見失ったのではない。忙しかった、疲れていた、考える気力がなかった。

 

 虚無漂う生活、それに直結する空ろな労働。特にやりがいはないが、家に帰れば好きなゲームが出来る。

 料理は面倒だから買ってきた惣菜だらけ、後悔はまああまり無い。

 無い、無い、無い。

 

――そうだったな、俺はそれに不満を持てなかった。

 ある意味男は気づかぬ内に錆びていて、嫌なことは嫌だと抵抗することを忘れていたようだ。

 

『…………今この瞬間に元に戻れたなら、神様も偶には拝んで良いんだがなあ』

 

 返答はなく、代わりに聞き慣れた穏やかな寝息。

――ずっと頑張ってたもんな。

 何も言わず、ただ覚えている限りで一番静かな音楽を流し始めた。

 

 彼らの共通点というのはそう多くないのだが、辛うじて見つけるならこれらだ。

 

『止まらず、悔いず、知ろうとする』

 

 それだけでこの二人には十分すぎた。

 

 

 

 

 

 

 

「――――止まれ」

 

 静かな威圧。世界に向けられたその明確な絶対命令に艦載機達は為す術無く飛び踊り、墜ちて行く。

 水面の上の彼女はさながら虚像のように微動だにしない。

 

 その紫水晶は決意に研ぎ澄まされ、靡く髪はさながら死装束。手ごと下げられた弓は殺意を象徴し、飛び回る艦載機は『駒』。

 少女は漫然たる死。ただ触れぬのみ、偶然その手が何も刈り取らぬのみ。

 

 向かい来る異形の艦載機など燕と同義。

 

「機体ネーム『SBD』の自動操縦を解除、これよりエンタープライズの指示による手動操縦に移る」

 

 途端に飛び回っていた彼女のSBDドーントレスが怪しく赤に光る。それを見ていた指揮官は後に持ち合わせいた雑紙にこう書き記す。

 

 その揺らめく残光はまさしく亡霊だった。本来誰もが避けてきた『手動操作』に切り替えられたヤツラは、まさしく空の死神へと成り代わっていたに違いなかろう。

 言うならば変態――――――それは漠然とした殺意の兵器から、その時だけは真の死神へと昇華されていたはずなのだ。

 

「続き、『F4F』の自動操縦も解除。同じくエンタープライズの手動操縦に変更する――――存分に疾走れ」

 

 少なくとも二十。その数を『全て目視で』彼女は制御していた。

 

――流石に神経に負担がかかるか。

 頭の奥が熱を持って仕方ない。それでも彼女は『駒』を手に取り一手を指し続ける。

 止まるな、突き進め、立ち塞がるならば砕け。

 

 これは元は彼の提案だ。手動操作をやけっぱち気味に試して倒れたその日に

 

『むしろ動かせるだけスゴイんだが、もうちょい出来るようにならないのか?』

 

 と言われてこの方式を確立した。

 勿論、修羅の道にほかならない。元々難しく形骸化していた機能であり、難しいからこそ発展しない。だから尚更難しいの無限地獄だ。

 

 見ての通り脳に尋常ではない負担がかかり、見合った成果は基本得られない。機種単位でしか制御を切り替えられない開発の遅延も手伝い、難易度は明らかに高い。

 しかし彼女はそれを遂行した。

 

――それが、成すべき事だから。

 

「邪魔だ」

 

 撃ち漏らしかねた機体を後ろから追跡する。この状態から追われる側が攻撃に移ることは困難であり、実質的に彼女の勝利だ。

 

 本来は盤面で考えるのがセオリーである航空戦を、彼女はルール違反で覆した。

 今この瞬間だけは、全ての駒が――――『エンタープライズ』の意思そのもの。

 

「どうした南雲機動部隊。機体性能ばかりで操縦がおざなりだぞ?」

 

 その笑みはただ無感動。見るものに恐怖すら呼び起こし、かの名を叫ばせる。

 遠目から僅かにその歪な姿を観測した一航戦は小さく

 

「まさしく『灰色の亡霊(グレイゴースト)』だな――――!」

 

 そう呟いた。

 

 まさしく亡霊。実体など無く、されど確実に恐怖を与え、そして誰にも侵せず忘れ去れない海の悪鬼。

 聞こえていたのか、そうではないのか。定かではないがエンタープライズはその時確かに

 

「お褒めに預かり光栄だ、一航戦」

 

 そう答えた。しかしその余裕とて長くは続かない。

――そろそろ灼ききれるか?

 

 長く続ければ死に至るだろう。倒れたエンタープライズが艤装の担当に言われた言葉だ。

 幾らエンタープライズが優秀であるとは言え規格そのものは一般の航空母艦。決して不可能を可能にできるほどではなく、現実をひっくり返す物は何も手にして居ない。

 

 唯無理をしているだけに過ぎないのだから。

 

「不味いな…………『SBD』を自動操縦に切替!」

 

 激痛に歯を食いしばりながらF4Fワイルドキャットを操作し続ける。

 

――もう少しだ、もう少し動け!

 脳裏で叫んでひたすら捌く。手動ならば的確に致命傷となる部位に機銃を叩き込めるのを見込んで、ひたすら撃ち落とす。

 機銃の音。ジュラルミンの空を切る音。どんどんと音が彼女から消えていく、体の機能に支障が出ていた。

 

 だがキリなど無い。あの時とは違い四隻で済んでいるとは言え、艦載機の総数は彼女の倍などでは済まない。

 

 限界だ。一隻が潜り抜けて、寮舎に向かって爆撃を敢行する。

 

「――――逃がすか!」

 

 それは彼女の部屋も含まれていたように見えた。

――彼が居るというのに!

 

 急いで撃ち落とすが現実は変わらない。

 

「クソォ!」

 

 彼女は動かない。火煙を眺めようと、抉れた部屋が見えようと決してもう振り返らなかった。

 事前に彼が言っていた言葉が脳裏を走り回る。

 

『俺に何か有ったと思っても忘れろ。足枷になる為に此処で待つ訳じゃない』

『お前が思いっきり戦えるように、邪魔にならないように此処に居るんだ』

 

――ああ、やってやるさ! 壊れていても知らないからな!

 涙は出なかった。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ…………!」

 

 息も絶え絶えに脱力しながら砂浜から歩き出す、行き先は言うまでもない。

――まさか壊れていないだろうな!?

 

 虚ろな目つきで寮舎に向かう彼女をヴェスタルが止める。羽交い締めにされるだけで普段からは想像つかないほどにあっさりと引き止められてしまった。

 当たり前だ。

 

「エンタープライズちゃん! ボロボロなんだから今は休んで!」

 

 そんな事は彼女が一番知っている。

――空襲が終わってからも体が痛い、頭が重い、意識は今にも飛びそうで、吐き気は止まらない。

 体からは血が流れていた。流れ弾が掠ったのだろう。辛い、倒れそうだ、もう意識を繋ぎ止めるので精一杯。

 でも、でも。

 

「ヴェスタル、分かってるよ。分かってるから今だけ歩かせて――――ッ!」

 

 執着に似た異様な炎が瞳に灯る。写したのはあの無機質な姿。

――やったんだ。完璧ではなかったけど、あの程度で艦が機能不全になんてなる訳がない。

 やっと希望に近づいた。彼に伝えなくては、誰よりも傍で懸命に支えてくれた彼には、最初に言葉にしなくては。

 

 例え体が軋もうとも、その先に何も待っていなかったとしても。そうしようとしなくては――ダメだった。

 

「一旦休んで、ね!?」

「駄目だ――――――今だけは、駄目なんだよ…………!」

 

 ヴェスタルを振り解いて歩き出す。

 明らかに体の全てに負担がかかっていて、そんな力も残っていないはずなのに。ヴェスタルの顔が驚愕に固まってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおいエンプラちゃん、無理はするもんじゃないぞ?」

 

 一瞬だけ、それが彼の声だったように錯覚を起こした。

 すぐに現実に引き戻されて、それが指揮官であることを思い出す。何故かそれに落胆すら覚えて、不思議な気分で頭の隅が覆われる。

 

――本当に紛らわしい人だ。

 

「なんのようだ…………」

「何の用だとは随分だなあ。労いに来たんだよ」

 

 後にしてくれるか、と立ち塞がる指揮官を横に押しのけようとするが力が弱々しすぎて彼は微動だにしない。

 そのまま倒れ込んでしまうのを、急いで指揮官が抱きかかえて支える。

 

「どうした? そんなになってまで向かう場所はどこよ?」

「…………私の、へや」

 

 霞む視界の中で小さな声で応える。もう何と言ったのかすら彼女には上手く思い出せない。

――ああ、歩けないな。

 動け、動けと何度言っても自分の足だと思えないほど動かない。苛ついて、けどその感情すら続く気力がない。

 

 その小さな言葉に応えたように体が急に浮遊感に包まれる。

 

「よいしょっと。あ~、何か痛い所ある?」

 

 指揮官が彼女の足と肩に手を回して持ち上げていた。

 要はお姫様抱っこの形になる。

 

 空ろな意識のまま、エンタープライズが少しだけ恥ずかそうに彼から顔を逸らす。

 

「ない、けど…………」

「よっしゃ、じゃあ行こう」

 

 エンタープライズが意識朦朧と抜け出そうとするのをしっかりと支えたまま、指揮官は寮舎に向かって歩き出す。

 

 ヴェスタルが何かを言おうとしたが、後ろに振り向いた指揮官の

 

「すぐ戻ってきます。俺もエンプラちゃんが心配ですからね」

 

 やれやれ。そんな困ったような笑みを見て、口を噤んでしまった。

 

 

 

 

 

「はい、到着ですよお姫様」

「冗談はいいから……」

 

 疲労なのか羞恥なのか顔を紅くしたままのエンタープライズを、硝煙臭い部屋に指揮官は降ろしてやる。

 フラフラとした足取りで壁にもたれて立ち上がる彼女に肩を貸す。

 

「全く、何時までたってもお前は変わんないなあ……やる時は後先考えない」

「うるさい……」

 

 ゆっくりとした足取りで、角の欠けた机に歩いていく。

 すぐ横まで抉れているし、僅かに小火は見えたが無事だった。

 

 勿論、上に置いてあったそれもだ。

 

「無事だったか…………」

「おっとっと!」

 

 バランスを崩すエンタープライズの体に手を回して指揮官が持ち上げる。

 それすら気にも留めず、彼女はイヤホンを片方だけ取って、右耳に付ける。

 

「無事か…………?」

『おいおい、お前こそ大丈夫かよ!? 息荒いぞ、ってか何かちょっと燃えてる音して怖いし!?』

 

 心配性な彼の声。

――安心した、何時も通りだ。

 

 小さな声だったが、それでもしっかりとした声で。彼女はカセットテープレコーダーを口元に当てて

 

「まずは第一関門、突破だぞ…………」

 

 そう呟いて倒れた。

 

『おいイケメン声! ちゃっちゃか診てやれよバカ!』

 

 彼の叫びは指揮官に届かなかったはずだった。はずだったのだが。

 

「言われずともそうするさ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 気味の悪い笑顔を添えて小さく指揮官は答えた。

 

 

 

 

 

「…………まだ体が重いな」

 

 呟いて肩を回す。鈍い痛みと共に、動きの劣化がひしひしと感じ取れる。

 ベッドの上というのはとても暇だった。ましてや彼女の状況は尚更だ。

 

 今回の脳の酷使は中々効いているようで、体の調子が戻るまでの1週間は絶対安静を言いつけられていた。

 

「今日は何日だ?」

『まだ二日ですよお嬢様、落ち着いて下さい』

 

 誰がお嬢様だ、呆れたような口調で返す。

――いや実際お嬢様だよなあ。

 

 彼はこの二日間、彼女の話し相手を延々と続けていた。幸いというか彼にとっては不運か、ここには食事と見舞い以外に誰も来ないのも有って彼に黙る権利は無かった。

――まさかここまでお喋りになるとは。

 

 朝も、昼も、夜も、眠れぬ宵闇も。

 ほらそこ羨ましいとか言わない、当人がどう思うかは別問題だ。

 

『…………何、寂しいわけ?』

「い、いやっ。そんな事無い…………」

『どっかで聞いた台詞ですな』

「しつこい」

 

 へい、と気圧された彼は黙ってしまう。

 

――しっかし不思議なもんだ。上手く行ってるんだな、これで。

 重桜は結論から言って、急襲にも関わらず真珠湾攻撃に失敗した。

 彼も似た歴史を辿った国民として呆れているものだが、それでも重桜はアズールレーンを脱退した。つまり、予定通りに事は進んでいた。

 

「指揮官は怒ると怖かったな…………」

『怒鳴り声で誰だお前はって思ったね俺は』

 

 情け無用の男かもしれない。ちょうどユニオンだ、いやあれは東○版か。

 しかし彼としてはその怒鳴り声に妙な聞き覚えが有るとも言う。エンタープライズはさっぱりだと首を傾げていたが、どうしても心の片隅に引っかかっているらしい。

 

――聞き慣れたと言うより、知り尽くしてるような?

 うまく説明はできない。

 

『まあでも、その後はよく頑張ったなって言われてたじゃん』

「30分も連続で怒鳴られていた後では魂が抜けていた…………」

 

 そりゃ言えてるな、と彼は苦笑い。

 

――褒められてた時のニヤけづらが思い浮かぶようだぜ。ケッ。

 傍から見ると明らかに気が緩んでいたらしい。にしてもこの男もしつこい。

 

 どうやら普通に狙っている男が悪いと心配しているようだ。別に彼氏面というわけでも何でも無いらしい。

 

『ウェーク島とか細かい所は大丈夫かねホント…………』

「細かな戦闘全てが正史に則った戦闘は資料を見た限りでは無かった、何よりもう歴史は狂い過ぎも良いところだ」

「しっかりと腰を据えて、やってくる状況を迎え撃つしかあるまい」

 

――何だそのスーパー主人公なイケメン台詞。

 とはいえ忙しなく話しかける理由も不安というのが少ならからず有るわけで、実際は強がりも良いところだ。

 

 弱音を見せても仕方ない。

 

『ゲームだと…………次はドゥーリットル空襲だな』

「またアレか…………バカなのか、人類は?」

『アレをやり遂げたお前らにも問題は有るぞ絶対』

 

 命令はこなすものだ、と淡々とした返し。思わず彼はため息。

――にしても『再現』ってのは一体どこまでやるもんなんだ。

 

 エンタープライズの資料漁りの見聞だけではさっぱり彼には掴めない。間違いないのは「第二次世界大戦は再生される」という漠然とした事実だけ。

 本当はこれが正解なのかもわからない。エンタープライズが守ったことで実質的に増えた戦力は相当数有る。果たして影響しないのかだって、本当はさっぱりだ。

 

 まるで霧の中で薄氷を歩くような賭けだ。どこが薄くて、どこが行き止まりで、どこが穴なのか。

 その想像に呑まれた彼の不安は伝染する。

 

「…………これで良いのだろうか」

『何だ、今更弱気な』

 

 仕方ないじゃないか、弱気な声。

――俺にだって分かるか、んなもん。

 

 本当はここに強い誰かなど居ない。

 居るのは普通を捨てた少女と、普通に放り出された男だけ。本来とても弱くて、互いに手を引っ張って辛うじて動くような小さな歯車。

 幾らそれが虚栄で大きく見えたとしても――――二人はそれでも、ただの人間と、ただの普通の空母だ。

 

 たった二人で偉業を成し遂げるほどの存在ではないはずなのだ。

 

「不安になる。これがもっと恐ろしい結果を呼び込んでいるとしたら?」

『分からん』

「何の意味もなかったら?」

『分からん』

「現実に勝てなかったら!?」

『分からん!』

「だけど、あり得る!」

『だから、分からんと言ってるだろうが馬鹿娘!』

 

 

 

 

 

『ああーもう! 俺はかっこつけた言葉はそうホイホイ言いたくないんだ! 仕方ないやつだな!』

 

 彼は音漏れなんて次元じゃないほどの大声を出す。彼女の鼓膜はそれに苦痛すら訴えて、それでもイヤホンで耳をふさぐ。

 

 世界を塞いで、男の言葉を聞き続けた。

――その方がマシだった。

 

『良いか!? やったことが正しいかなんて将来どっかの誰かの手前勝手な判断基準で決められるつまらんもんだ!』

『今のお前は成し遂げたいことのために全力で、それの何が違う!? おかしいか!? お前は何か間違ったことをしていると今この瞬間に思うのか!?』

 

――贅沢な悩みなんだよ。そんだけやれるのに。

 動く気力の作り方も忘れて。やりたいことを忘れて。生きるだけになって。そうじゃないと躍起に思い込んで。それで結局突然こうなって。

 

 それでも彼は生きている。不安なんて山ほどあって、それでも戦って生きていく。

 下らないことに悩んで、死にたくなったりしながらでも結局生きている。やる気が無いことにすら悩むやる気を無くしてそれでも生きていく。

 

 腐ったように、死んだように。さながら亡霊のように男はただの記録装置だった。

 以前から。彼女と出会ってから。今も結局そう。

 

『お前は俺を信じると言った! だから俺はお前にその言葉に対して誠意で返してやる!』

 

――ヒーローには贅沢な悩みすぎるぜ。

 お前はもっと、もっと先へ翔べるヤツのはずなんだ。

 せっかく出来るんだから、こんなヤツになる前に先へ行ってくれ。

 

 お前がこんなレコーダー以下になったら、それこそ世界はお先真っ暗だ。

 

『俺はお前を必ず信じる! 机の上でもゴミ箱の中でも待ってやる! 待ち続けてやるから――――――お前もお前自身を信じろ!』

 

 静寂が生まれた。男の叫びは所詮イヤホンの上で、言葉は彼女の中で反響した。

 嫌になるほど反響して、それに心臓が動き出して、幾年過ぎただろう。分からないほど長い静寂を彼は静かに待った。

 

 故に、彼女も答えた。

 

「…………何だそれは? 告白か?」

 

 笑いながら、「もう大丈夫だよ」と。

 男も笑う。

 

『好きに受け取れ。誠実なお言葉をお待ちしております、だ』

「おが多いな」

『バカ、巫山戯てるけど真面目だぞ?』

 

 きっと彼は自分に人間のカタチが有ったなら。

 死ぬほど真っ赤な顔をしてただろうと思った。人間じゃなくて、本当にラッキー。

 

『頑張れ、エンタープライズ』

 

 

 

 

 

 

 

 これが男の最後の言葉。それきりカセットテープレコーダーは、何も返事をしなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

「何故、答えない」

 

 次の日。

 尋ねた。音信不通。

 

「恥ずかしいのか? 別に忘れても良いんだぞ」

 

 また次の日。

 言った。音信不通。

 

「オーケーといえば良いのか? 言ってやるぞ、それくらい」

 

 やはり次の日。

 願った。音信不通。

 

「なあ!? どうしたんだ、何か答えてくれ!」

 

 そして次の日。

 怒鳴った。音信不通。

 

「お願いだから…………今更、置いていかないでよ……ッ!」

 

 それでも次の日。

 嘆願した。音信不通。

 

 

 

 

 

 男は普通だ。まあ何処にでも居る。

 子供の頃の夢は漠然と寿司屋だったという。そこらへんの寿司屋がたいそう美味く思えてのことだったそうだが、大人になった彼はその味を思い出せない。

 仕事はつまらない営業マン。残業はそこそこ多くて働き先は恐らくややブラック。しかし死にもしないのでそれに対応はしない。

 部活は未所属。中学時代は剣道部だったが、高校では幽霊部員の漫研。大学とうとう未所属故に実質的なやり通したことなど無い。

 顔、普通。年収、そこそこ。背丈、やや低い。体重、少し痩せすぎ。

 

 趣味はゲームとツイッターに流れる色彩豊かな絵を眺めること。ゲームは流行りものに乗っかり倒していて、艦隊これくしょん、グランブルーファンタジー、Fate/Grand Order――――そしてアズールレーン。

 特段ガチ勢ではないが、必ずログインはしていた。エンドコンテンツはじっくりと、一年で一個終わるか終わらないかのペースだった。

 

 ビミョーな彼が一個だけ特筆するなら、たった一つの空母への入れ込みようだ。

 装備は最強、レベルはマックス、ケッコン済みで親愛度最高。

 ボイスはたまに聞いていた。何故か安心したらしい、周りからはその話をするとよく呆れられていた。

 

――その空母の名はエンタープライズ。

 そう、彼女だ。

 

 

 

 

 

 彼にとって彼女が届かないものであったように。その日。

 彼女にとって彼は届かないものになったのだ。

 

 恐らく、最悪のカタチで。




もう落ち見えた人もいるのかもしれない。ステイ、捨てい。

見てるだけの貴方は亡霊。書いただけの俺も亡霊。喋るだけのアイツも亡霊、戦うだけのアイツは亡霊。
これはゴーストレコーダー(亡霊達の記録係)の物語。

せいぜい頑張って終わりを見届けましょうよ、傍観者(亡霊)同士。


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chapter4『命の果てのその先で』

死んだら終わり? 死ぬまで走り続けろ?
いいや違うね、俺達は死んだって走り続けるエンドレスな大うつけさ。


「ああ、もう大丈夫だ」

 

 執務室。椅子に座って心配げに見つめる指揮官に、出来うる限り柔らかい笑顔で返事をした。

 カセットテープレコーダーは未だにポケットに入ったままだ。今では全く知らないボーカルの曲ばかりが収録されたただの記録媒体となってしまったが。

 

 2nd-ghostのことだが、アレには熱狂的なファンというのが少なからずいるらしい。

 どれだけ人気が出ようと「私は譜面を書き写しただけです」と言ってデビューも取材も断るのだとか。

 話のせいでゴーストライターやコピーが疑われたものの、出処はゼロ。不思議な話だが、そのアーティストは今でもそんな距離を置いたコメントを添えて作曲を重ねているそうだ。

 

 それはまあ良い。ともかく、彼が好んだ曲はそういう作曲家によって作られたもの、ということだ。

 

「本当か?」

「ああ」

「精一杯泣けたか?」

「ああ」

 

 彼は何も問わない。私もそれで良くて、有り難い。

 恥ずかしい話だが、突然居なくなられると「そこに居た安心感」みたいなものがぽっかりと穴を開けてしまって、私は軽く塞ぎ込みかけた。

 

――告白しそこねたのはどっちなんだか。

 笑い話だ、笑ってくれていい。重い女のつまらない話でもある。

 

「次も中々大規模だ。というかこれからバカバカしいほど戦闘に駆り出される――――大丈夫か?」

「二言はない。やってみせるさ」

 

 それは良かった、と悪戯をする子供のように笑う。

 

 彼曰く、私の奥の手は瞬く間に世界に広まって有名なのだそうだ。

 レッドアクシスとしては私はサンプルとして入手したいぐらいだとか。あまり気分は良くないが立ち回る上で都合は良い。

 

 こっちも容赦するのだから、アッチにも躊躇いが有ってもらわなくては困る。さすがに南雲機動部隊全員の全力を受け止める自信はない。

 

「じゃあ命令する」

 

 彼は顔を引き締めて姿勢を正す。

 誤解されがちだが、彼は実は平和主義でも何でも無い。

 

 単に私達が望む通りに在る事を願うだけ。戦わなくて良い世界を、誰も死ななくて良い世界を。

 故に今回の命令は決まっている。私達が、いや私以外が望むのは『反撃』なのだから。

 

「エンタープライズ――――()()()()()()()()()()()()

 

 もうあの空元気だらけだった男の声はない。知っている、目の前の彼はきっと別人で、私は無理に重ねているだけだ。

 それでもその妙に捻った言い回しは――――何だか彼を思い出す。

 

 きびきびと命令を受けるべき所を、何故か笑ってしまった。涙なんて出ない、泣いたらまたからかわれそうだ。

 

Of course.(言うまでもないな)

 

 てっきりおかしなものでも見る目つきが返ってくると思っていたが、指揮官はニヤリと笑った。

 

「よし、じゃあ続けるぞ。遊ばれっぱなしじゃ終われねえしな!」

 

 また戦いは再生されていく。

 

 

 

 

 

 私は戦った。これは文字通りの意味だ、ただ叩いて出る杭を打つ作業。

 不思議な話だがこの『再現』に明確に気づいているのは私一人だったらしい。誰もがその起きる状況に当然に対処し、当然に行動し、当然に享受した。

 

 むしろその重なりに深読みしていたのは私と彼のみ。何かに都合良く踊らされているような気分がするな。

 

「げっ、またお前狙われてるけどどうする?」

「迎え撃つに決まっているだろう?」

「うわーこわーい」

 

 気づけば秘書艦だった。どうやら先日の防衛がよほど過大評価されたらしい、半分ほどは彼の功績なのだが口に出してもどうしようもないことで、少しだけ申し訳ない気持ちにもなる。

 柔軟なのは彼だった。私は名実ともに刃物のようなもので、担い手も恐らく彼だというのに。

 

「やっぱり怪我してるじゃねえか! ほら早くヴェスタルさん呼ぶぞ!」

「心配性だな、指揮官は」

「知るかよ、心配されてるだけ愛されてるんだよ!」

「なっ――――!?」

 

 多少道は逸れていたものの、セイレーンの攻撃が激しくなったせいで実質戦力は並んでいた。

 彼がボソリと

 

『再現っていうくらいだし、多少のイレギュラーを飲み込む何かが在るんだと思うぜ』

 

 そう言っていたことを思い出す。

 戦い、守り、されど殺さず。彼に言われたことを記憶の砂場から掘り出しては、時々嫌になりながら走り続ける。

 

 もう居ない。中途半端に音楽だけ残されたあのガラクタは、今でも捨てられそうにない。いつも夜はイヤホンを耳に当てて考えた。

 

【孤独な夜はきっと辛かっただろう】

 

 眠れはしないその時間を、全て私の無理な願いに充てるなど辛いことだと思った。元々強くない人なのは私が一番知っていたはずなのに。

 残酷だったのかもしれない。もっと優しくするべきだったかもしれない。もっと――――正直に、話すべきだったのかもしれない。

 

 しかし後悔なんて遅すぎる。鳴り始めた楽曲は止まらない、サビを迎えてそして静かに幕を終えるその時まで鳴り響くのだから。

 

「今でもあなたはわたしの光――――か」

 

 聞いていた曲の結びの一言をポツリと呟く。返事はなく、まだサビに入ったばかりのその曲の名前は「Lemon」なのだという。やはり2nd-ghostの曲だ。

 

 あなたが好きで、居なくなって悲しいです。そんな事をずっと歌い続けている曲で、面白い話だが私はこの曲がこのカセットテープの曲の中で一番好きだった。

 自己陶酔も甚だしくないか、と知らない誰かが頭の中でずっと呆れて溜息を付いている。彼の残像の声のようにも思うが、よく似た別人でしか無いだろう。

 

「待っていて、くれるんだろう」

 

 この時ばかりはそれも返事なんてしない。それでもただ進んだ。

 

 いつしか指揮官の顔ばかり見ていた気がする。元々からかわれていた辺り、以前から気配は合ったのかもしれないが。

 我ながら気の多い女だと呆れはしたが、彼に言ったなら

 

『居ない男引きずってるほうが怖いわ』

 

 と返されるのが脳裏に声音まで浮かんできて、クスリと笑ったら心配事は消えていた。都合のいい妄想だな、全く。

 結局助けられたままで、何も返せないまま。

 

 時は過ぎていく。予想通り、予定通り、あのレコーダーの杜撰で壮大で、無理難題だった筈のあの計画は――――順調に、彼の消えた後も進んでいった。

 私達を操っているのは、死んだはずの亡霊でレコーダーなのだ。非常にバカバカしい話だが、それぐらいで世界は良いのだろう。

 

 

 

 

 

『姉さん、最近は失恋した顔してた』

「あのなホーネット、私も怒ることはあるぞ?」

 

 誰が失恋しただ。まず返事を聞くどころか言ってもいないというのに。

 全く――空襲前に馬鹿なことばかり言っているものだ。しかもこれ無線だぞ、そう乱用して良いものでもないだろうに。

 

 これに付き合う私が大概? そうだろうな、もう彼でおどけた調子に慣れてしまったのかもしれないな。ははは、笑えないからなそれ。

 後遺症が尽きないよ、本当に。

 

『それにしても姉さん達も無茶言うよね、人を殺さない空襲って何?』

「どうせ勝つ、無駄な人死は避けて当然だ」

 

 うわー、と何か呆れたような感嘆符が無線から飛んでくる。

――実際、マトモにやりあえば悪いが圧勝できる。アッチは本気だと言うのに私は常に半殺しで止めているからな。無理ゲーだと思わなくも…………。

 

「…………無理ゲー、か」

 

 彼がよく言っていた言葉だった。意味は何やら長く語られた気がするが、要旨しか覚えていない。

 

『後ね、喋り方が軽くなった』

「こう縛りプレイばかりしていては気楽にしていないとやってられないさ」

『縛りプレイ?』

 

 ああそうだ。

 ってまた彼の言葉遣いが移ってる。なんでなんだ、もう。

 

 居ない男の口調に似るなんてさっぱりよろしくない。まるで引きずっているみたいじゃないか、腹が立つ。

 何でって、それは――――――何でだろうな? まあ答えは透けているが。

 

 下らないことばかり喋りながら索敵を続けて走っていると、どうやら目的地点までやってきたようだ。私が止まると無線越しからホーネットも止まる音。

 

「そろそろ無線を切る頃合いだ」

『っぽいね、じゃあそっちも無事で』

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 どうでも良いので独断で割愛させてもらうが、この後は『正史通り』に見つかって暴れざるを得ない羽目になる。

 戦果を聞いた指揮官からは

 

『最早動く半殺しそのものだよお前』

 

 と言われた。失礼な人だ、私だってそういう風に扱われると傷つくことは有るというのに……。

 

 

 

 

 

 

 

「最後の戦い、か…………」

 

 思わず息が漏れる。もうすぐ大詰めに入るのだと思うと気分が重くて仕方ない。彼に昔言われて気づいたが、緊張に弱いらしい。

――結論から言うと、正史に比べると私は随分と暴れすぎた。現在MI海戦の前、私の渾名は何だと思う?

 

 灰色の亡霊(グレイゴースト)だ。早い、この時期にまで呼ばれていた覚えはないぞ。

 誰が亡霊だ、一度たりとも大破相当の傷すら負っていない。勝手に殺さないでくれ。というかゴースト要素はどこなんだ、それほど神出鬼没だろうか?

 

『間違いなく神出鬼没だぞ。それはそうとエンタープライズ、聞こえてるか?』

 

 突然無線が繋がる。指揮官のもののようだった。

 

――おかしい、まだ始まるはずではないが。もう嫌というほど時刻表まで思い出してきたのだ、私の記憶に狂いはない。

 本来は私に関わる事は全く起きていないはずだ。

 

 まさかと思い、声を出しあぐねている彼に尋ねる。

 

「何だ、まさかセイレーンが来たとか言わないだろうな?」

『…………大当たり。帰ってきたらゲーム機買ってあげるな』

「要らない」

『そう言わずに。一狩り行こうぜ』

 

 まあ、偶には悪くないか。

 

 そこから始まった指揮官の話は散々なものだった。

 どうやら南雲機動部隊がこちらに向かう途中で『歴史上類を見ない数』のセイレーンが侵攻してきたらしい。

 現在重桜はつまり交戦中、予定上にある地点では戦闘どころか空母すら来ないということになる。

 

 重桜からも救援要請が来ているらしい。私達の内輪もめも彼の予想通り『外敵の来襲』でピッタリとストップしてしまったわけだ。

 

「――――はは」

『――? それでだな、俺達は助けに』

「向かうさ」

 

 向かわせてもらわなくて困る。

 何せやっとタイミングが来たのだ。此処までバカバカしいことを続けてきた甲斐が有った。

 

 今やらなくて、いつやるんだ。

 ここで逃げてみろ。待っている彼に申し訳が立たないぞ?

 

「やっと本気でやっていいらしい――――ッ!」

 

 全ての艦載機を手動操縦に切替えた。

 都合のいい話だが、私の事例で手動操縦の研究は進んだらしい。どうやら使いこなせる空母が居ないからこそのこのおざなり具合だったようで、実質的に私専用として開発が進んでいる。

 

 今では一機ごとに操作形態を切り替えられるし、しかも負担も大きく減ったのだ。あの時の彼が聞けば驚くことだろう、いつか聞かせる機会でも有れば――――――。

 

「…………また、彼のことか」

 

 嗚呼、笑いが止まらない。

 結局引きずって此処まで来た。無傷なのに傷だらけで、満たされたようで伽藍堂。

 

 八つ当たりの相手は散々探していたんだ。何せ敵を落としては本末転倒だからな、私も調整が実に面倒で大変だった。

 ずっと、消化不良だった。

 

「では、死んでもらおうか。セイレーン諸君」

 

 独りの戦争も漸く終わりだ。

 

 次の敵は決してそんな見えないものじゃない。

 

 明確な敵だ。素晴らしい、幾ら壊しても良いそうだ。

 

――彼は、それを知る日が来るのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「うお、エンプラちゃんすげえ勲章の数!」

「またコレクションが増えてしまったな、はは」

 

 指揮官のもとへ届けられていた勲章を、執務机の上に並べて彼らは眺める。

 数を数えるのも億劫なのは誇らしいことだが、如何せん目がチカチカとして非常に目に悪い。

 

 椅子の後ろで見つめながら関係のないことを考えていたエンタープライズに、指揮官がニコニコとして話しかける。

 

「何だ、言うほど嬉しくなさそうだな」

 

 自覚していなかったのだろうか、そんな事はと首を振る。

 

「そういうわけではないぞ。ただ――――」

「ただ?」

 

 指揮官が顔を覗き込むと、少し顔を赤くして逸らしてしまう。

 

「見せたかった人が居てな、見せられそうにもないのが残念だ」

 

 瞬く間に暗い顔をした。

 

――アレからどうなったのだろうか。

 元の世界に戻ったのだろうか。それとも本当にアレで彼の人生は終わり?

 そもそも何故彼は現れ、そして消えた。何か役割が有ったのか?

 

 分からなかった。分からなかったし、何を言われても上手く納得できる自信がない。

 

「…………見えねえよ、なんて言うのかな」

 

 自然と彼女の頬に涙が伝う。理由なんて無い、ただ悲しいだけ。

――彼の人生は何一つ良いことがないじゃないか。

 

 確かに彼は会いたかった者と出会えたのだ。

 しかも一緒に頑張った。

 きっと悔いはなかった。

 

 だがしかし。それでも彼女は報われていないと思う。

――誰かの為に懸命になれる人だったんだ。

 ただの他人だった彼女に彼は本気で手を貸した。

 それはあまり上手くなかったかもしれない。それまで頑張っていないのだからこんな時ぐらい当然かもしれない。

 今までの人生は何も出来ていなかったかもしれない。本当は駄目な人間なのかもしれない。

 

 でも、それでも。

――()()()()()()()()()()()()()()

 たとえ他の何がどうであれ、それは彼女の中で変わらない絶対的な評価だった。

 

「…………おいおい、泣くなよ」

 

 指揮官が背中を擦ってやる。気づけば背中は丸くなっていて、手が目を覆っていた。

 

――何故だ。

 何故報われない。

 何故この景色も見られない。

 何故あんな境遇だったんだ。

 何故私と出会ってしまったんだ。

 何故私は彼を助けてやれなかった。

 

 彼がどういう人物だったかなど彼女に分かるわけがない。

 ただ間違いないのは、彼女にとっては彼も居なくなって欲しくない誰かの一人だったということ。

 

 

 

 

 

 

 

 さて。

 少し話を濁そう。

 

 男は普通ではない。絶対何処にでも居るなんてことはない。

 子供の頃の夢は無い。何せ今現在、男の脳構造で子供時代というのが実質存在しない。あえて言うなら指揮官だった、一応。

 仕事はつまらぬ職業軍人。あんまり無茶をしない方針でやらせたかったのに気づけば皆が勝手に頑張ったらしく、男はそれなりに高い地位。まあ死ぬわけでもないので対応する気はない。

 部活は中学で柔道。高校で剣道。指揮官になるのは資質さえ有るならそんな事しなくても割と行けると聞いて、涙ながらに高校剣道は趣味の領域。とはいえ柔道も剣道も地区大会までは行ったらしい。

 顔、普通にイケメン。年収、そこそこ高い。背丈、やや高い。体重、少しマッチョすぎ。

 

 趣味は艦を眺めること。何度か通報されかけてはいるものの、温情で何とか許されている。

 好きな女のタイプは――――まあ、もう良いだろう?

 

 たった一隻。一隻の彼女のためだけに男は人生を決定し、今度こそその体を使って手を貸し続けたというわけである。

 

 さあ、()()()()()()()()()()()()()()

 全てが都合がいい? 違う。

 偶然上手く行った? 違う。

 物語だから当然か? 違う。

 違う。彼らは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「言っただろ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って」

 

 希望は常に消えたりはしない。

 突然何かが解決したりしないように、突然何かが終わりになることもない。

 

 思わず指揮官の顔を見る。その顔はいつもと同じ気の抜けた笑い顔、なのに何だかぜんぜん違うものに見えた。

 違うものが重なって見える。

 

「な、何故あなたがその言葉を」

 

 ん、と指揮官は涙を流しっぱなしのエンタープライズの眼を覗き込んで首をかしげる。

 

「あれ? さすがに少しぐらいはバレてるかなって思ってたわ。やっぱり予想外ってのは良くないのか?」

「な、何を言ってるんだ指揮官。意味が分からないぞ」

 

 呆けた顔で尋ねるエンタープライズに指揮官は困ったように頭を掻いた。

 彼女の頭が酷い空回りでオーバーヒートを起こす。言動意図をどれだけ考えてもまるで分からなくて、まるでわざと分からないように考えているんじゃないかとひとりでに錯覚してしまうほどだ。

 

 指揮官は仕方なさげに机の前に直立不動の姿勢。そしてわざとらしい敬礼をする。

 

「えぇ――――では、種明かしと行きましょう!」

「え? は? 何?」

 

 エンタープライズが意味もわからず疑問符を重ねていく。

 指揮官が何処か困ったように笑う。

 

「私、指揮官こと小野也人はですね――――この齢二十五、ひたすら一人の少女を待ち続けておりました!」

「というのも前世でおっかなびっくりな別れを告げてしまいましてですね、こりゃ不味いと思ったわけですわ!」

 

――何、何の話だ。何故今のタイミングで巫山戯る?

 完璧に不明のマークで埋め尽くされてしまって、もう正常な思考ができていなかった。

 

「最初はまあしかたねーなーとか思って生きてた、ごめんな? ですがなんと此処! 前世と同じ世界じゃありませんか!?」

「しかも名前、ちょろっと聞いたあのイケメン声と同じじゃね? と気づくのに生まれてから6年! いやー遅い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――と、言うわけで。おかえり、エンタープライズ」

「お望み通り、お前の勲章は舐め回すように見せてもらったぜ」

 

 結構高く売れそうだな、と気の抜けた笑い。それは確かにあのレコーダーのそれにそっくりだった。

――紛らわしいな、もう。

 

 そう思えば、確かに全てが繋がった。

 何故出会った当初から彼女を知っていたのか。

 何故彼の存在に気づいていたのか。

 何故彼の役目ではないのか。

 何故、彼が彼女の不審な行動を許し続けたのか。

 

 そういう事である。

 男は人生を懸けて、彼女の願いのために走り続けた。

 それは以前と一緒で報酬など無い。苦労の連続で、しかもやったこともないのだから苦労も人一倍。

 でも彼は死に物狂いで支えた。

 

 分かっている策略に引っかかって、部下に迷惑をかけるのは気が引けた。

 見えている戦況を指摘できないのも気が引けた。

 彼女に変に喋って安心させてやれないのも気が引けた。

 

 彼は一度大人になってから嫌なことへの耐え方を多く学んだが――もう一つ学んだことがある。

 

「いやあ、デカイ夢も()()()()()()()()で意外と叶うもんだな! お前やっぱ主人公だわ!」

 

 そう答えた彼に、彼女はすぐさま抱きついた。

 顔を真赤にして男が抵抗する。

 

「え、いや、あの!? 勘弁してください現在は男ですから俺も色々だな…………ッ!」

「好きだ」

 

 彼女が小さく呟いた。彼が下を見つめると、彼女も顔を真赤にしていたのが分かる。

 心臓の鼓動がお互いに聞こえる。触れた肌の温かさが伝わる。その表情から、言葉の真意が読み取れる。

 鼻腔には慣れたはずの彼女達の甘い匂い。視界には、手を出すには美しすぎる少女が一人。

 

「次に会えたときには、必ず言おうと思っていたんだ」

「あなたは――――――どうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大人をからかわないでくれますかね!?」

 

 では始めよう。

 男の人生はまだ、たった25年しか過ぎていないのだが……。

 

 あなたは彼らを見て、一体どうするべきだと思う?

 時間は多く有る。存分にこのレコードを吟味し、考えていこう。




俺バッドエンド嫌いなんすよ(何急に)。
というわけで円満ハッピーエンド。末永く爆発しろ、以上! エンタープライズが甘えるなんて日はいつ来るんですかね…………ウェディングドレスボイス(ボソッ)

これ書いた結論を言いますと「たかだか人生一個で夢は叶うパターンが多い」。
どうせ来世が有るんだくらいの勢いで好きにいきましょうや。

次回作決まった。ちょっと毛色を変えようね、タイトル詐欺かまそう。
サブタイトルは『ジャンキーロジック』。

あ、『ゴーストルール』聞いてみよう。とんでもないリンク具合だから。


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