それでもなお、闘争を求め (逸般ピーポー)
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始まり

始まります


特異点F。冬木。

 

焼け崩れた景色の広がる、まさに現世の地獄と言える様相を呈する中に、一人の男が立っていた。

名を政文(まさふみ)。名字はなく、ただひたすらに世界を旅するーーーーー、否。世界に弾かれ、世界を渡り歩かされる(・・・・・)、流浪の民。

いくつもの世界線を渡り、それでもなお求めるものは闘争。腰に凪いでいる、無銘だが長く使っている刀と共に、時に山賊を薙ぎ、時に人斬りを撫で、また時に権力者を斬る。

 

「権力ってヤツか…」

 

なお、遊戯王は関係ない模様。

 

「しっかし…」

 

どうすっかな、と。

口の中でだけ転がすように紡いだ言の葉に、彼の心情が籠っていた。

 

右も左も焼け崩れた景色一色。食事処どころか、人の気配すらしないなかで、それでも彼の感覚は人ではない者共の気配を感知した。

 

数は五。

人型。移動速度は人型にしてはやや速く、まだこちらを捉えた訳ではなさそうだがーーーーー

 

「…来た」

 

見つかった。

パチパチと辺りの火のはぜる音の中、わずかに聞こえるカシャカシャという軽い音。金属の擦れる音はなく、鎧を着た敵はいないと見える。

 

さて、この世界の初戦闘だ、などと。軽い感じで嘯くそこに、緊張の色はなく。向かい来るまだ見ぬ敵に向けて愛刀を抜く。

 

視認した。人体の骨で構成された、いわゆるスケルトン、というやつだろう。どのような原理でこちらを捉えているのかはわからないが、間違いなくこちらを確かに捕捉している。

後続はなし。

 

さて、と。

 

「やりますか」

 

軽く首を動かし、自然体に。

十五メートル。握りを確かめる。

十メートル。まだ遠い。

八メートル。肩の力を抜く。

六メートル。あと一歩。

五メートル。来た。

 

ドンッ!と音が鳴るほどに強く地面を踏み抜くように駆ける。先頭の兜付きがすぐさま手にした直剣を振りかぶるもーーーーー

 

「遅い」

 

一閃。袈裟懸け。胸の中心を一刀の元に斬り伏せる。正面に斧。右からは槍。槍のが早い。わずかに左に身体を傾けつつ、更に前進。斧を持つ骨も同じく袈裟。左前に跳んで残心。残り三。

先頭は先ほどの槍。僅かに遅れてもう一体の槍。その後ろには…弓、か?

何故弓が?疑問が首をもたげるが、構わず前進。槍の突き。正中。右に身体を捻り、槍の引きに合わせて胸を突き。後ろの槍持ちに当たり、隙が出来る。

好機。

 

先頭の槍持ちがすぅっと黄金色の光になって消える中、後ろの槍持ちに近付く。槍の突き。牽制。甘い。

 

()ッ」

 

更に一歩。鋭く。踏み込みつつ横一閃。

その直前に気付く。矢が飛んで来ている。右脇。身体の軸を僅かに左にずらしつつ、右手は振り切る。残り一。

その距離は僅かに十メートル。

 

「この距離は…」

 

駆ける。駆ける。ただ迅く。もう一矢。右前に滑りこむように頭を落とす。ダッキング。

そこから弧を描くようにして頭を上げる。一歩の間合い 。

ただ強く腕を伸ばす。刺突。

 

「俺の距離だ」

 

弓兵が光となって消える。

 

残敵無し。

周囲を見渡し、他に動いているものがないことを確認してから、息を溢す。

 

 

 



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一つ目

じわです


政文がスケルトンを軽い様子で片した後。

その様を見ていた術師は呟きを溢した。

 

「ーーーーへぇ。ま、やるじゃねえの」

 

この近辺での動体の数はおよそ五。

一つは自分、一つは刀を持った少年。一つは少女三人に魔術的なパスの繋がっている団体。残りの二つはアインツベルンの城に居る、ギリシャ神話の頂点と、ニヒルな皮肉屋気取りの紅い弓兵と黒化した騎士王だ。

 

「さて、」

 

どっちにすっかな。

そう溢す彼はキャスター。この聖杯戦争の正当な参加者であり、既におかしくなったこの聖杯戦争の生き残り。その瞳には理知的な輝きを灯し、リネンのローブからは僅かな野生味が滲み出ていた。

 

おそらくこの異常と化した世界をなんとかしに来たのは三人組の少女達。そのうち一人からは、自らと同じ英霊の持つ独特の存在感もある。不可思議なのは、英霊でありながら生身の人間でもある、という事だがーーーーー。

 

「関係ねえか」

 

てんやわんやしている少女達の元へと、キャスターは駆けることにした。だが、その前にーーーー

 

「素直に行かせる気はねえ、ってか!」

 

現れるは黒い影が五体。サーヴァント以下、しかし雑兵ではないーーーー。その身は影。シャドウサーヴァント。

この聖杯戦争に参加していた、ハサンの影ども。

 

「吹っ飛べ…。アンサズ!」

 

輝くはルーン。それを杖でブーストし、緑色をした光が実体を持たぬ影達を消し飛ばす。残り二。

飛んで来たダークを杖で弾き飛ばし、こちらへ向かって来ていた一体の足を射つ。そして再びのルーン。付与する属性は貫通。

 

「おらよっ!」

 

今度は蒼色の光が影を撃つ。足を止められた影に当たる事を確認した後ろの一体は動き出そうとしてーーー

予想外に飛んで来た蒼弾に頭部を撃ち抜かれ、黄金色の光となって消滅した。

 

「…」

 

見られている。

間違いなく、かの弓兵だ。そう分かる。分かる程度には視線に感情が乗っている。いや、あえて分からせているのか。

 

「まあ、構わねえよ」

 

どちらにせよ、やることは変わらない。

そろそろ魔力も四割を割る所だ。早いところ、魔力供給は必要になる。ヒステリーを起こしていたり、何が何やらよく分かっていない様子だったりするお嬢ちゃん達だがーーーーー

 

「動けているなら上等」

 

 

自分や刀を持った少年あたりなら、軽く蹴散らせる(スケルトン)共。それに集られてなんとか応戦してはいるが、この様子なら長くは持つまい。が。しかし。

眼が死んでいない。なら、間に合う。

それになによりーーーー

 

「英雄ってのは、こういう時に力を貸してやるもんさ」

 

 

少女達の元に、ケルトの頂点が一が馳せるーーーーー。



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闘争

じわです


巌のような身体。鋼のごとき肉体。身につけているのは腰ミノと巨大な石剣。いや、斧とも剣とも表現し難いそれは、しかして彼の暴力的なまでの圧倒的武力を象徴しているかのようだった。

 

ヘラクレス。

 

正規の聖杯戦争であれば、勝利が約束されうる鬼札(ジョーカー)

そんな彼は、手足の先が黒く、首を絞めるようにまとわりつく黒い(もや)に侵食されていながら、アインツベルンの城を背に仁王立ちしていた。

 

そこにジャリ…と瓦礫を踏みしめながら近付く一つの影。

手には一振りの日本刀。

その眼光は鋭く、無銘の業物たる愛刀にも劣らない鋭さと鈍い輝き。

政文は、一つ軽く息を吐き。そして。

 

「参る」

 

ドンッ!

音がする。瞬間、彼我の距離を半分に、刀を構えた政文が迫る。敵はいつの間にか、斧剣を構え、いつでも迎撃せんとする体勢となっている。

 

ーーーーー構うものか。

 

距離が詰まる。三足長。まだ遠い。

しかし敵にとってはそうではなかった。そこから僅かに踏み込んだ、瞬間、来た。

一息に荒れ狂うように乱れ切り刻む剣戟の嵐。

間髪入れずに一太刀合わせーーーーー後ろへ翔ぶ。

 

ザリッ、と大地を踏みしめながら睨むと、敵は悠然と、ともすると泰然と、斧剣を地面に片手で突き立てて立っている。まるで構えていないようで、その実即座に戦闘に移ることが出来るーーーーー。

 

実に厄介極まりない。が。

 

「ーーーーーふ」

 

そんなことは知らぬと言わんばかりに、政文は口の端を吊り上げた。そうでなくては。

ここに来るまでに斬ったものども。人骨のスケルトン、影のような人型、人以外の骨から出来た兵士。どれもこれも、彼の闘争本能を満たすものは居なかった。だが。

 

「ようやくだ」

 

見つけた。自身の命に釣り合う結び手。斬り合うにふさわしい技量の持ち主。自我があるようでないような、いまいちよくわからない感触ではあるがーーーーー、

 

「充分だ」

 

ドンッ!と。

再び政文は地を駆ける。先ほどよりも速く。低く。鋭く。

再びの迎撃。

もう一度合わせて飛び退こうとしてーーーーー、

 

「チッ!」

 

追い付かれる。先ほどよりも速くなったことを警戒したか。必滅の意志が狂気に染まった瞳の中に見え隠れする。左手がこちらを捕まえんとして構えられたまま、こちらへと迫り来るその圧力や。しかし。

 

「フッ、クク…」

 

見える。僅かに傾いだ縦一閃。斬りの目。斬れる間合い。自らの距離。一刀一足。ここだ。

シン、と静かに、されどその巌がごとき肉体を確実に斬る、その一閃。

振り切ったと同時に悟る。

 

 

 

(浅い…!)

 

 

再びの仕切り直し。

だがここで政文は気付いた。

目の前の相手の技量は自らよりも高く。

ともすれば、死ぬかもしれないということに。

 

 

「フフフ…!」

 

狂気的な笑みがこぼれる。

確かに己は死ぬかもしれない。だが、斬り結んで分かった。まだ強くなれる(・・・・・・・)。己が死ぬことよりも、それは遥かに重要だった。

 

「良い…!良いぞ…!!」

 

一閃。

 

捌き切れないーーーーーそう感じた時には、斬りの目をただ斬る。

そして、やがて一合、二合と、捌ける剣戟の数が、ほんの僅かに、されど確実に。少しずつ、少しずつ増えてゆく。

 

永遠にも思えるほどに斬り結び、ついに五合まで応じられるようになった瞬間。

死角から飛来する何か。意識の間隙を衝く、見事なまでの不意討ち。

 

だが。

 

不意討ち、奇襲上等。かつて転がり込んだ江戸の街では、新撰組がその戦法を多用した。

 

「ーーーーーフン」

 

敵の脇をすり抜けるように跳び抜ける。その巨体が己に反応すれば飛来する攻撃をその身に受ける軌跡。

だが、政文は測り間違えた。

飛来した何かは、巨体を巻き込むようにして突如爆発した。



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飛来

じわです


「ぐっ…!」

 

爆風とともに、瓦礫に吹きとばらされた政文は、それでもなお生きていた。

突如として飛んできた剣らしき何か。その存在を察知し、当たらない紙一重に避けるーーー

それが仇となった。

 

躱した瞬間、爆発。

確かな熱量と衝撃を伴うそれは、咄嗟に飛び出した上から政文に確かなダメージを与えていた。

 

眼前には巨軀の巌、遥か遠くからは正確な狙撃。

いや、それよりもーーー

 

(…なるほど、爆発するのか。あれ)

 

幸いにして、手は動く。脚も付いている。額を切ったか、やけに額の左上が熱いが、視界に影響はない。右手には、確かな(相棒)の感触。充分だ。

 

「…行くぞ!」

 

整息。調息。

狙うは巌がごとき大男、その首級。

厄介な狙撃手も居るが、しかし。

 

その程度(・・・・)

理不尽な程の戦力差のある戦場ではなく。

不条理な程の悪条件な環境でもない。

それに、これ程の実力者との手合わせとなれば。

 

これこそが。そう、これこそが。

求めたもの。我が闘争。

 

駆ける。翔ける。

己が目指すは武の頂き、そこへ到らんがために。

 

 

「オオオオオォォォッ!」

「■■■■■■ーーー!!!」

 

咆哮。

常人であれば、思わず脚がすくむであろう威圧。

されどここに常人は居らず。

堕ちた英雄、狂気に浸された大英雄、その残滓。

そして、武の頂きを目指すに狂う、闘争者のみ。

 

遠くからの狙撃手(臆病者)など知らぬ。

意に介すことなどなく。また、気にする気もなく。

生きているだけで充分。戦があればそれにかち合うのみ。

厄介なことは間違いなく、しかしてそれも織り込み済みに駆ける。

ここは戦場(いくさば)。命ぶつかる場所故に。

 

風圧が荒れ狂う。

両者の戦いは、熾烈さを増してゆく。

 

 

***************************************

 

 

「………チッ」

闇の(もや)に包まれた紅い弓兵は舌打ちと共に内心毒づいた。

 

(…あれほどまでに至近戦をされると、爆発させるだけで間違いなく両者を撃てる。それがあの着物の男だけなら問題ないが、残滓とはいえ、かの大英雄が万が一にでもこちらへ来ることになれば厄介だ)

 

チラ、と視界をやると、リネンのローブを被ったランサー…いや、キャスターが、ルーン魔術にてスケルトンを蹴散らし、時に牽制しながら火柱を立てて危うげなく戦っていた。

それも、こちらを見ながら(・・・・・・・・)

 

(…本命はあちらの光の御子だろうとは思うが。陽動である可能性を捨てきれない以上、どちらにも意識をせざるを得ない…)

 

「...フン」

 

それでも。

それを含めてなんとかするのがーーーーー

 

(私の仕事だからな...!)

 

故に焦らず、そして驕らず。

注意深く両者を見やる。

そう、今は動けない彼女に代わって。

 

 

*************************************

 

およそいったいどれほど剣を交わしただろう。

政文は、朦朧とした頭で、それでもなお大英雄と対峙していた。

 

ひりつくような、というのも生ぬるいほどの、異様とも言えるほどの緊迫感のなかにあってなお。

正気を失わず、一度たりとも剣先が鈍ることもなく。

 

執念。

 

政文を支えていたものは、およそそう呼ばれる類のもので。

そしてそれは、眼前の大英雄には薄くしか残っていないものであった。

 

とはいえ、技量の差は歴然。

和服の袖や裾は破れ、擦り切れ、全身で傷の無い箇所はない。

あちこち焼け焦げ、何箇所かからはとめどなく血も流れている。

 

(…まずいな)

 

このままでは、遠からず死ぬ。

朦朧とした意識は多くの出血によるものだろう。ふらつくのは全身におった怪我のせいだと予想できる。ともすると、無事でない骨の一本もあるかも知れない。

 

政文は、別に命懸けで目の前の敵を倒したい訳ではない。強くなるために、命を懸けて闘っているだけだ。

 

(どうする)

 

考えている間も止まぬ剣戟。勢い良く迫りくるそれは、まさに暴力の嵐。

決して落ちず、刀で合わせ、それでもなお防ぎきれぬ、爆発的な奔流。

 

(どうする…っ!)

 

政文が眉間に皺をより深く刻んだその瞬間。

地面が、爆ぜた。



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