真・幻想創星録 (青銅鏡(銀鏡))
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第零章 死亡、そして・・・
第一話 転生・・・?


 私をご存知の方はお久しぶりです。それ以外の方は初めまして。

 懲りろと言われるぐらい進歩が見えない文章ですが、ゆっくりご覧下さい。

 尚、設定は大きく変わっております。

 また、ガバガバ時間投稿も健在です。


 

 

 ・・・俺は目を覚ますと、見知らぬ場所にいた。壁全部が白く、まるで箱のようだ。

 

 

 「えぇ・・・」

 

 

 呆れた言葉しか出ない。落ち着いて記憶にないこの場所を思い出せるか考えていると、ふと脳裏に一つのシーンが浮かんだ。

 

 

 ・・・燃え盛るビルの中、泣きわめく女の子の上に覆いかぶさろうとしていた焼けた柱を支える高校生らしいが高校生に見えない老け気味の男。

 

 

 やがて消防士らしき人物が女の子をを抱え上げるが、男のほうを見ると頭を垂れた。死んでいたらしい。わあ不憫。・・・って俺じゃん。そこに身長2メートル以上はある大男・・・?が壁を粉砕して現れる。

 

 

 そこでシーンもとい回想が終了する。待って最後の誰!?

 

 

 しかし・・・確定した、ここは死後の世界だ。その割には体が軽いとかいう事はないが・・・さっきの誰よ。

 

 

 まあ金輪際どうでもいい。女の子はおそらく無事だろう。なら思い残すことは・・・

 

 

 「ないわけねえよな畜生!ありまくりじゃい!」

 

 

 クソッ、彼女は出来なかったし、妹が産まれたメールの直後に死んじまうし、読み終えてない本があるし、最後の大男が意味わかんねえし・・・

 

 

 「あー畜生、火災の元凶を末代にしてやろうか・・・」

 

 

 そう俺がブツブツと口にしていると、目の前に元からあったのか、ドアが開いた。・・・おかしい、さっきドアなかったよな・・・?

 

 

 「えーいあの野郎、連れて来いとは言ったが雑すぎるわ・・・なかったことにしたから良いものを・・・ん?」

 

 

 俺が唖然としていると、眼の前にいた男は持っていた書類をぶん投げると、湯飲みと畳が現れた。

 

 

 「座れお前さん」

 

 

 非常にこの先言われることが分かりやすかったが、俺はとりあえず座った。

 

 

 「説明しよう、お前さんは死んだ。以上」

 

 

 「・・・いや、まあ、ここどこよ?」

 

 

 「ほーう混乱せんのか。いい根性とひねくれ具合だ。「ひねくれ関係ねえだろ」・・・まあそうだけどさ、まああれだ。お前さんは死んだんだが、本来なら死ぬ必要性がなかった。数百億に一の確率で起きるラグだ。俺はその管理担当、神矢龍一(かみやりゅういち)と言う。で、このラグの修正方法がだな、転生なんだよ。謝罪を込めて、ってことでな。拒否権はなし!」

 

 

 そう男が言った後、俺は質問した。

 

 

 「譲渡権は?「あるわけねーだろ」・・・だろうな。いいや、じゃそれでお願いします」

 

 

 俺がそう言うと、龍一さんは頷いた。

 

 

 「はいはーい、じゃあ転生先については全部言うと原作再現しようとするだろうから、世界線のみ説明するぞー・・・とはいえ数時間かかる!ああめんどくせえ!俺は別の準備をするから、別のに頼むか・・・おーい!手の空いてるやつ来い!」

 

 

 そう言うと隣の部屋から2メートル以上の大男がドアを破壊して現れた・・・あいつじゃねえか。

 

 

 「おーう、暇ぜよが?」

 

 

 「お前か・・・まあいいや、こいつ・・・矢川鏡一(やがわきょういち)君に転生先の説明頼むわ後ドア直せ」

 

 

 了解、じゃがドアは知らん!と大男が言うと、龍一さんが消えた。

 

 

 「じゃー説明するんぜよが、長いんで直接流し込むぜよ」

 

 

 そう言うと大男は俺の頭に手を置くと、俺の頭の中に情報が流れ込んできた。

 

 

 「うーむ、復唱してほしいぜよ」

 

 

 「これから俺が向かうのは東方プロジェクトの世界、通称東方。そこで俺は龍神として過ごす。地球作成からスタート。他は自由。言えた・・・!?」

 

 

 何故か全部口から出た。・・・どうなってやがる?

 

 

 「おう、それ以上は面白くねーぜよから言わんぜよ!後仕組みは秘密ぜよ!」

 

 

 「終わったかー?」

 

 

 再び龍一さんが現れた。

 

 

 「あ、はい、終わりました・・・?」

 

 

 俺は果たしてこれが説明なのかどうなのか分からなかったが、取り敢えず頷いた。

 

 

 「・・・あえて聞かんぞ。どーせ雑説明だっただろ貴様、酒抜くぞ」

 

 

 しかし、龍一さんは諦めたのか俺のほうを向いた。

 

 

 「もーいいや。転生行こうか。地球の作り方とかはアシストがいるから、というか妹がいるからな」

 

 

 「え?俺に妹?「そうだよ、他に誰がいるんだよ」・・・マジか」

 

 

 龍一さんは俺が妹に会えないのを知っているのだろうか・・・それでなら、非常にいい人だと思うのだが、そうでなけりゃ相当の面倒嫌いだな。

 

 

 「・・・さて、そろそろ行くぞ。鏡一!ここを出れば俺たちのことは全部記憶から無くなる!絶対にやりたいようにやれよ!それがどんな犠牲を伴ってもだ!」

 

 

 俺の足元を光らせながら、そう叫んだ龍一さんは笑っていた。だから俺は叫び返した。

 

 

 「言われるまでもない!勝手にやらせてもらうぞ!」

 

 

 龍一さんは一瞬驚いた様子を見せると、俺の肩を叩いた。

 

 

 「よく言った小僧!貴様に俺の名前を押し付ける!好きに使え!」

 

 

 「何故そうなる!?」

 

 

 「これも決まりだ。一応な」

 

 

 取り敢えず納得し、俺は龍一さんに感謝を述べようとした。が、

 

 

 「龍一さん、今回のことはありが「故意に手が滑ったあっ!」うおわぁっ!?」

 

 

 俺は龍一さんに穴に叩き落された。案の定意識が薄れ始めた。

 

 

 「じゃあな!もう来るなよ!」

 

 

 ____________________

 

 

 

 俺は鏡一が消えていったのを確認すると、白い部屋を消滅させた。残ったのは何もない荒れ野だけ。

 

 

 「・・・礼、聞かんでよかったぜよか?」

 

 

 「・・・ああ、いいよ。もう会うこともないだろ」

 

 

 俺はふと、呟いてしまった。

 

 

 「・・・あいつは、間違えないかな・・・?」

 

 

 「知らん!・・・が、信じる価値はありそうぜよ!」

 

 

 「ああ、あいつは俺に叫んで答えた。俺は龍一に答えなかった。・・・頑張れよ、俺」

 

 

 俺は身を翻し、笑う。

 

 

 「よーし、こっちもやり直しが効くかやってみるか!」

 

 

 「応!」

 

 

 

 ____________________

 

 

 

 俺が目を覚ますと、何もない白い空間が広がっていた。

 

 

 覚えているのは基本的な知識、俺の事、俺がこの世界に転生した事とすべきこと、神矢龍一という名前だけ。淡く男二人のイメージが出るが、顔も名前も何もかもが思い出せない

 

 

 「まあいいか、地球創るか」

 

 

 ともかく、始めるか。

 

 

 

 次回へ続く

 

 




 有難うございました。

 ではでは、次回もお楽しみに・・・


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第二話 創成

 やっぱり好き勝手に書けるのはいいですね。壊れたpcは一時期700文字以降が全部ローマ字表示にしか出来なくなってましたからね・・・
 貼り付けの繰り返しでしたよ。


 まあどうでもいいので置いておいて。


 ゆっくりご覧ください。


 「よし、行くか!」

 

 

 俺は誰からだったか忘れたが、まず神力から鍛えないとこの先やってられないと言われたので、神力を上げることにした。

 

 

 上げ方は簡単らしく、死ぬと思うその先まで何かを作ると意識すれば良いとのこと。早速俺は取りあえず巨大なものを作ろうと適当に思い・・・作った。金属ブロックを。

 大きさは百メートル四方だろうか、中もしっかり金属のようで、殴っても音は響かなかった。ここで死にかけたので止めた。

 

 

 お か し い だ ろ 

 何でだよ、神力なんて初めて使ったんだが!?あれか、脳に入ってた情報曰く、死にかけの体験一回につきこうなるとか言ってたが後日のはず・・・ん?

 

 

 _____死んでいたらしい。わあ不憫。・・・って俺じゃん。_____

 

 

 「そういや死んだわ・・・!」

 

 

 どうりで既に馴染む筈だ。死んだんだもの。やがわ

 

 

 「いかん、落ち着け、取り敢えず妹が来るらしい十億年後までには地球程度なら作れるようにせねば・・・!」

 

 

 そこからまず一年後、金属、貴金属の扱いを完全に習得し、オリジナルの金属の発見に成功。同時に不眠不休が可能な体に変化。

 

 

 十年後、徐々に体の筋肉類が成長していたらしく、作った金属の塊を握りつぶせるようになった。決して金属も脆くはなく、寧ろ硬すぎるはずなのだが・・・?

 

 

 百年後、武器を作ると決めた。これから毎日半日は金属の加工に費やすつもりだ。

 

 

 千年後、あらゆる物理を操れるようになってしまった。どうしようかこれ、時間も小さい単位と仮定したせいで操れるのだが・・・?武器の進捗は普通、時間操作が可能なせいで最初の十倍の加工時間の猶予ができた。

 

 

 一万年後、あらゆる事象が操れるようになった。・・・此処まで行くと面白い、どこまでやれるか・・・?

 

 

 十万年後、ああ面白い。此処まで来ると笑える。ブラックホール作れるのかよ。より細かい作業をすると生物の細胞まで再現できた。・・・今更だが、視力などの精度も底上げされていた。

 

 

 百万年後、何故か家事炊事にハマった。料理が面白い。・・・逆を返せば非常に暇だ。

 

 

 一千万年後、明らかに性格が悪くなった気がする。思考がより外道になった。名前は忘れたが・・・書類を投げていた人に似た気がする。

 

 

 一億年後、やっと武器が出来た。拳銃二丁、スナイパーライフル一丁、打刀一振り・・・それぞれ俺にしか扱えないほど反動が大きかったり、重かったり、そもそも俺以外では機能しないなど、少し問題はあるが、それぞれ龍神になっている俺が脅迫するにはいい代物だろう。それぞれに名前を付ける。黒い拳銃を(スピリダス)、銀の拳銃を(バラウール)、ライフルを(叢雲)、打刀を(【凶刀】新月)と名付けた。それぞれ使ってみるが、まあそれなりではないだろうか・・・?

 

 

 十億年後、一億年目に比べて能力、身体能力、技術、あらゆる面が上がった。だが性格は更に歪んだ。・・・自分が満足する結果にするために手段を択ばなくなった。

 

 

 今の目的は自分の全力をもってしても倒せない奴に会う事。それだけだが実現は難しそうだ。というか永久に無理そうだ・・・

 

 

 そして今。カウントが狂っていなければ今日が妹が来るらしい日なのだが・・・

 

 

 「まあそう上手く行きはしn「にーさま?」・・・この展開知ってるぞ」

 

 

 仕方なく俺は後ろを向いてしゃがむと・・・

 

 

 「おはようございます!にーさま!りゅーかといいます!」

 

 

 即座に保護欲を叩き起こされるような可愛い子がいた。・・・え?この子が妹?嘘だろお前笑えねえよ。俺あれだぞ、メガネからコンタクトに変えると女子からイメージ違うねなんて言われる奴だぞ?絶対俺の目つき悪いんだって。釣り合わねーよ。

 

 

 といったどうでもいいことは置いておいて、俺は出来るだけの笑顔で返した。

 

 

 「おはよう。俺は龍一。・・・これからよろしく」

 

 

 何故鏡一でなく龍一にしたのかは謎だが、名乗りあうことは出来た。

 

 

 「で?りゅうか?だったっけ?会ってる?」

 

 

 「はい!りゅーかはりゅーかです!これは双子のおにーさん達から貰いました!りゅーかは見ていません!」

 

 

 そう言うとりゅうかは俺に小さな手紙を渡してきた。少し冷たい・・・凍ってるのか?

 

 

 「なーるほど、龍華ね。ふむ、俺の妹で間違いないのか・・・で、種族も龍神か・・・」

 

 

 そこには龍神の龍華と俺で地球創っとくれやと書いてあった。雑っ。挙句の果てには考えるな、感じろ!とまで書いていた。ふざけてんのか。

 

 

 「にーさま?どうかしましたか?」

 

 

 龍華が俺を何時の間にか覗き込んでいた。

 

 

 「・・・いや、何でもない。・・・地球の事は聞いてるか?」

 

 

 「はい!聞いてます!双子のおにーさんからは「へ?ああ、君のお兄ちゃんが基礎は全部やるから大丈夫大丈夫」と言われました!」

 

 

 ふざけてんのか(二回目)。誰だそう言った奴。

 

 

 だがここでできないとも言えない。既に龍華が目をキラキラさせながら見ているのだから・・・

 

 

 「あー!クソッ!分かったよ!創ってやらあ!」

 

 

 俺は右足を地面に叩きつけ、両手を合わせる。

 

 

「【地】!【火】!【水】!【木】!【金】!【生】!【死】!」

 

 

 手が足りないので腕を生やして強制的に発動させる。途中で【火】を発動した腕が炭化するが、千切って生やす。【地】の腕がペシャンコになるので再び千切り、生やす。

 

 

 「に、にーさま・・・?」

 

 

 龍華が心配そうに声を出すので笑いかける。

 

 

 「大丈夫大丈夫、もうちょいで行kクッソ【死】かよ!・・・取り入れるか!」

 

 

 取り込んだ瞬間左目から血が吹き出た。後で専用義眼創るか・・・と思っていると他六種が暴れ始めた。

 

 

 「んにゃろ大人しく組みあがれや野郎!」

 

 

 七本の手を二本に収束する。手がどうなっているか分からんがそのまま手を合わせる。

 

 

 「閉じろ野郎・・・!」

 

 

 右手に全部収束し、地面に叩きつけ、そのまま右手に重力をかけてぶん殴る。・・・重力完成。そのままゆっくりと広げていく。・・・後は、

 

 

 「よくも手間かけさせやがったなこの野郎!」

 

 

 地平線の彼方へ放り投げる。直後龍華を抱え上げ、背中の腕を分離、爆発させて風圧で逃げる。

 

 

 「にーさま!?」

 

 

 「口閉じろ!舌噛むぞ!」

 

 

 持てる力全てで離脱、ここを点壱として、安全圏を点弐とする。転移。

 

 

 「行くぞ、転送」

 

 

 瞬間安全圏に移動し、背後で爆発音が響く。これがビックバンか・・・

 

 

 背後で輝く黒い宙、徐々に宙は広がり始め、やがて一つのブロックが完成する。

 

 

 「・・・出来たぞ畜生。なーにが基礎は全部俺だ。一回手出したら全部する必要あるじゃねーか」

 

 

 出来上がった宇宙を眺めながら俺が文句を言うと、龍華が抱き着いてきた。

 

 

 「にーさま!凄いです!全部できるなんて・・・にーさまはりゅーかの自慢のおにー様です!」

 

 

 「・・・ありがとさん」

 

 

 俺と龍華がそうこうしていると、俺の頭に何かが激突した。

 

 

 「グハッ!」

 

 

 「にーさま!?」

 

 

 激突してきたものを睨むと・・・氷塊だった。

 

 

 「氷って・・・あのなぁ、どう突っ込めと言ってるんだ・・・?」

 

 

 「あ!にーさま!手紙が入ってますよ!」

 

 

 新手の嫌がらせかこれは!?

 

 

 そう思いながら氷塊を溶かすと、本当に手紙が入っていた。

 

 

 「マジか・・・すごいな龍華!」

 

 

 「ふふん、りゅーかはにーさまみたいに力はないですが、目と耳はいいんですよ!」

 

 

 龍華が胸を張る。俺はしばらく頭を撫でてやり、手紙を開いた。

 

 

 「何・・・?考えたら負けだっただろ龍一君?まあお疲れ様。この手紙が読めているなら龍華も無事だということだね。流石シスコン。ともかく!地球完成おめでとう!龍華ちゃんもお疲れ様!楽しんでおいで!・・・名前は掠れて読めんな」

 

 

 「すごくあのおにーさん達、優しかったですよ!」

 

 

 「満足してるならいいんだが・・・」

 

 

 俺は隣で嬉しそうにしている龍華から目を逸らし、龍華にあえて伝えなかった一文を眺めた。

 

 

 _____ありがとう、君のあの声で僕達もやり直せる_____

 

 

 これがどんな意味かは分からないが、龍華に言うべきではないということは分かった。

 

 

 双子に見えた男が誰かは分からないが・・・

 

 

 しかし間違いなくこの人達のおかげで地球制作が楽だったのは確かだ。挑発された意味で。

 

 

 一先ずは、礼を言っておくことにした。

 

 

 

 次回へ続く

 




 ありがとうございました。」

 正直消した前作の面影、ほとんど名前しか無いような気が・・・?


 まあ、次回もお楽しみに。


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第三話 教育

 
これから暫くはオリジナルストーリーとなっております。

ゆっくりご覧下さい。


 「・・・はい?須佐之男(すさのお)の再教育?」

 

 

 「駄目ですか・・・?」

 

 

 潤んだ瞳で俺を見つめてくる龍華。まあそもそもの何故こうなったかを説明しよう。

 

 

 地球創作の基礎(大半)を一人で創った俺は、休息と働きたいとごね始めた龍華のために仕事・・・神々の制作を任せたのだ。

 

 

 初めは大成功。見事伊邪那岐(いざなぎ)と伊邪那美(いざなみ)を作り出し、北欧、ギリシャ、中国など、様々な神を作っていた。がしかしだ。調子に乗ってドカドカ作ったせいで監視が雑になり、伊邪那美と伊邪那岐が生と死の狭間で夫婦喧嘩(俺が仲裁した)。西洋の辺ではラグナロク勃発(俺が仲裁の拳骨を入れた)。意味の分からない神話生物が出没(俺が間引き)。等々、非常に(俺にとって)面倒なことをしてくれた。しかし怒ろうとしたが・・・

 

 

 「だって、にーさまも多いほうが賑やかで楽しいと思って・・・ごめんなさい・・・」

 

 

 と泣きながら言われたので仕方なく俺があらゆる場所に介入、仲裁という武力で制圧していった。

 

 

 おかげさまであらゆる場所で龍一の名が【鎮圧神】だの【拳骨神】だの【シスコン神】だの不名誉な二つ名が誕生しまくった。全部捨てた。

 

 

 そして今度は大和で伊邪那岐の息子の須佐之男がやりたい放題。それを見てブチ切れた姉の天照(あまてらす)が引きこもり。日が昇らなくなりました。めでたしめでたし。

 

 

 ・・・と言ったわけであらゆる神が知恵を絞り、天照を出そうとしていたのを横目に俺は引きこもった先の天岩戸を粉砕、全員が驚愕する中、無理やり中に入って五時間の説教の後引きずり出した。その時【説教神】の名を賜った。捨てた。

 

 

 そして追放された須佐之男を訪ねると、なんとまあ真面目な奴だった。どうもおかしいので調べると、虚言を吐いた奴が十人ほどいた。勿論訪問した。全員説教した。十人ほどが情けなく黙っていて下さいと土下座したので龍華には伝わっていない。

 

 

 そのせいで須佐之男がまだ良くない奴と龍華は思っているらしく、須佐之男の教育を泣く泣く龍華が頼んできた・・・ということだ。

 

 

 「いや・・・教育ってなぁ、どうするのよ?」

 

 

 「だってぇ・・・須佐之男が八岐大蛇(やまたのおろち)討伐するって言ってるんだもん・・・駄目でしょ・・・?」

 

 

 確かに八岐大蛇レベルの神話生物、いや神を征伐するのはまあ良くない。しかも八岐大蛇は山神の筈・・・そんな自然の摂理を操るやつを殺されても困る。

 

 

 「・・・これで何回目かな龍華さん?」

 

 

 「・・・二十回目です」

 

 

 「・・・はぁ、仕方ねえなぁ」

 

 

 「・・・ぐすっ、だってぇ・・・にーさまが喜ぶと思ってぇ・・・」

 

 

 「あーもうぐずるな!仕方ないから全部丸め込んでやるよ!その代わりどうなっても知らんぞ!」

 

 

 龍華が今にも泣きだしそうだったので仕方なく引き受けると、龍華が抱き着いてきた。

 

 

 「・・・にーさまぁ、大好きですぅ・・・!」

 

 

 ・・・つくづく甘い兄貴だと思う。・・・だがまあ今回は須佐之男が心配なので受ける。

 

 

 ____________________

 

 

 「・・・で、お前マジで八岐大蛇狩るの?」

 

 

 俺はあの後大急ぎで須佐之男の現在位置へ移動した。須佐之男と須佐之男に飯を渡していた爺さんをたまげさせてしまった。爺さんから拳骨神様・・・!と言われたので訂正しておいた。

 

 

 「・・・申し訳ありませんが兄上、私は狩らねばならぬのです・・・」

 

 

 今更ながらどこの神も俺を兄上と呼ぶ。強制はしなかったが生みの親の龍華の兄だかららしい。後言い回しがメロスくさい。

 

 

 「まあいいけどさ。そんな場も重苦しくねえし。手伝ってやるわ」

 

 

 「本当ですか!?」

 

 

 「まーな。・・・だが、条件がある。八岐大蛇を狩る理由と、狩った後の武器をすべて寄越すこと。二つだけだ。じゃ、理由どうぞ」

 

 

 須佐之男は厳しい表情になると言った。

 

 

 「・・・先ほど食事を送ってくださった方の娘が、明日、生贄となるのです・・・そもそも娘は八人もいたのですが、ある年に突然現れ、生贄として娘を差し出したそうです。そのおかげか何事もなかったのですが、一年後、再び現れて・・・

 そういった状況が続き、次の娘が最後・・・私はそれを止めたいのです」

 

 

 「へー・・・そのために山の神を殺すか小僧。増長しておるのではないか?そもそもほかの神のテリトリーに入ること自体違法だが、どうする気だ?まさかんなどーでもいい理由だけでか?なら手伝わんぞ。帰る「惚れたからです!」・・・あ?」

 

 

 須佐之男が顔をまっすぐ上げて俺を睨む。

 

 

 「娘に惚れたから助けるんです・・・今更自分勝手が何ですか。どうだっていいです!死んでもかまいません!」

 

 

 俺は拳銃を須佐之男に突き付けた。

 

 

 「じゃあここで死ぬ?」

 

 

 須佐之男は更に俺を睨む。

 

 

 「別にいいですよ、しかし、兄上にそんな中途半端なことができますかね?「出来るんだよなあ・・・」んなっ」

 

 

 撃った。

 

 

 「・・・ん?空砲だったわ」

 

 

 「・・・ほら、やっぱり無理じゃないですか「あ、不発なだけだった」え・・・?」

 

 

 絶句する須佐之男に笑いかける。

 

 

 「まあ・・・その根性と運、気に入った。しょーもないが最高の理由だしな。受けてやる。ぼーっとすんな、狩り方教えろ」

 

 

 俺は半ば放心状態の須佐之男を揺する。

 

 

 「はっ!」

 

 

 「おい、まだ寝てんのか?狩り方教えろって言ってんだよ」

 

 

 「あ、はい!」

 

 

 須佐之男の説明はこうだった。八岐大蛇を酔わせて斬る。恐ろしい程シンプルだ。

 

 

 「酒ねぇ・・・まあ良いんじゃない?そのかわり、お前の持ってる十束の剣?だったか?折れても良いから八岐大蛇を斬ったらくれよ?危ないからな。貰っておく」

 

 

 「はい、分かりました!・・・でも、本当に協力して頂けるんですか・・・?」

 

 

 「お前もう一回撃ってやろうか?手伝うと言ったんだ。二言もクソもねえよ」

 

 

 俺は須佐之男に頼まれた酒を運びながら笑う。

 

 

 「俺も八岐大蛇を気にしてるんでな。そんな生贄欲しがる奴じゃなかったんだがな・・・」

 

 

 多少の気がかりはあるものの、俺はそれを振り払った。

 

 

 「まあ会えば分かるだろ・・・」

 

 

 そして、いざ討伐の日はすぐにやって来た。

 

 

 「須佐之男命様、どうか娘を・・・!」

 

 

 「・・・分かっている。案ずるな、約束は果たそう」

 

 

 「龍一様も何卒・・・!」

 

 

 多くの村人が須佐之男と俺に懇願してきた。・・・俺はこれが嫌いだ。

 

 

 「いーけどよ、どうなるかはお前らの日頃の行い次第だからな」

 

 

 村人の懇願がぴたりと止む。須佐之男が俺に小声で何かを言うが、無視。

 

 

 「・・・まあ死人は出さんようにする」

 

 

 どっと歓声が沸き起こる。しみったれたお願いムードは大嫌いだ。

 

 

 「行くぞ須佐之男」

 

 

 「はい!」

 

 

 俺は打刀を据えて向かった。

 

 

 ____________________

 

 

 「で?ここ?」

 

 

 「はい、このあたりの筈ですが・・・」

 

 

 「ほーう・・・あ、来たな「分かるんですか!?」分かる。片目だろうが変わらんだろ」

 

 

 義眼の設計はまだ完了していない。よって片目だが、特に支障もない。

 

 

 俺は須佐之男を茂みに引き込むと、巨影を睨んだ。

 

 

 周囲に漂う生臭い匂い、ズルズルと地面を這う音、シューという不気味な音。

 

 

 「あれ、ですか・・・!?」

 

 

 姿が見える。一つ一つが死を連想させる巨大な鎌首と十六個の不気味な光、ぬらりと輝く体、鞭のような八本の尾、どす黒い体色。

 

 

 「そうだよ、あれが八岐大蛇だよ。怖気づいたか」

 

 

 「まさか・・・!」

 

 

 須佐之男が震えながらもニヤリと笑う。

 

 

 お構いなしに八岐大蛇は俺たちの用意した酒を飲み始めた。酔い潰れた。酒、弱ッ!

 

 

 「・・・やってこい。俺の出る幕最後しかねーわ」

 

 

 「分かりました!」

 

 

 そして須佐之男は十束の剣を構え、振り下ろした。

 

 

 飛び散る血飛沫、のたうち回る斬られた頭部。見ていい気はしない。

 

 

 そして須佐之男は、最後の頭部を

 

 

 「終わりだ!」

 

 

 斬り落とした。

 

 

 

 次回へ続く




前の失敗作をご存知の方はご存知と思いますが・・・

ここの主人公、クソ野朗(自称)です。


次回もお楽しみに。


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第四話 神であるということ

 前書きって、何を書くものでしたっけ・・・


 ゆっくりご覧下さい。


須佐之男の振り下ろした十束の剣は最後の八岐大蛇の首を捉え、分断した。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・兄上、やりました!」

 

 

「お疲れさん」

 

 

俺は冷や汗まみれの須佐之男を労い、八岐大蛇に合掌する。

 

 

「須佐之男、下がってくれ。アイツは俺が供養する・・・アイツも神だからな」

 

 

「・・・分かりました、お願いします」

 

 

俺は俯きながら下がる須佐之男の背後に声をかける。

 

 

「神が何であるか、何故俺達がいるか・・・見て考えてくれや」

 

 

横たわる八岐大蛇の胴体に右手を当て、ゆっくりと【生】を流し込む。

 

 

「聞こえるか八岐大蛇?聞こえるなら出てきてくれ。俺だ。神矢だ」

 

 

すると、八岐大蛇の胴体が割れ、男の姿が現れた。

 

 

「神矢・・・?そんな蕎麦屋ありましたか?」

 

 

透き通った、それでいて毒を含んでいそうな声が響く。

 

 

「・・・拳骨神だ。この名前使わせんな」

 

 

「あー、龍一さんね。・・・隣の若造は?」

 

 

「す、須佐之男命です。・・・八岐大蛇、なのですか?」

 

 

困惑する須佐之男の質問に、八岐大蛇は軽く答えた。

 

 

「んー、まあそうですかね?正しくは八岐大蛇の精神体ですかね、そこの龍神の能力に効果で精神だけ生き返ったんですよ」

 

 

ともかく討伐お見事です。と、皮肉にも受け取れる賞賛と共に、須佐之男の前へ近づいた。

 

 

「・・・で、どうですか?山を殺した気分は?」

 

 

八岐大蛇はニヤリと笑いながら、須佐之男に囁く。

 

 

「んなっ・・・」

 

 

 「当然ですよねえ?私は一応ここら一帯の神ですから。・・・もうじき山の自然は崩壊し始める。うーん、長い間住んでた場所が壊れ去るのは心苦しいですねえ・・・

 まあ仕方ありません。誤解とはいえ村娘を七人も死なせてしまったツケですね」

 

 

 「誤解・・・!?」

 

 

 「ああ、ご存じない?・・・丁度七年前、ここに村を作った者たちがいたのですが、あまりにも動植物を殺すもんですから注意しに行くと、何故か村娘が捧げられたんですよねぇ。しかも村娘も相当怖かったのか気を失ったまま死んでしまいましてね・・・それが続々と七年間続いたんですよ。別に要らないから自重してくれと言いに来たのに・・・この下には彼女らの墓があります。そして今年も捧げると聞いて、今回はそっぽを向いてやろうと思ったのですが・・・酒が置いてありましたので、どうせ罠であろうとわざと引っかかるとこの始末。・・・この先、山がどうなるかどうか・・・」

 

 

 「・・・そんな、では私は妻を手に入れるというくだらない理由で貴方を、いや、多くの生き物を・・・!?」

 

 

 「そういうことだ。・・・神を殺すということは、そいつの全てを背負う事に等しい」

 

 

 須佐之男は俺に掴みかかる。

 

 

 「兄上は・・・ご存じでそれを言って下さらなかったのですか!?」

 

 

 俺は須佐之男の腕を振りほどいた。

 

 

 「聞く必要ねえだろ。村と森、お前は村を選んだ。何も間違っちゃいねえんだからな。どっち選んでもどっちかは滅ぶ。・・・両方なんてな、お前にゃ無理だ」

 

 

 須佐之男が膝をつく。それを八岐大蛇は面白そうに見て笑う。

 

 

 「何、文句を言う気は毛頭ありません。・・・龍一殿、あれを」

 

 

 八岐大蛇が本体の尾の部分を示したので、俺は須佐之男を立ち上がらせる。

 

 

 「おら、落ち込んでねえで来い。さっさとあの尻尾斬れ」

 

 

 フラフラの須佐之男は何とか十束の剣を尾に向けて振り下ろす。が、尾が切れることはなく、十束の剣の切っ先が折れた。

 

 

 「は・・・!?」

 

 

 「おお、刀まで折れるんですか・・・」

 

 

 困惑する須佐之男、感嘆する八岐大蛇を横に、俺は新月を抜き放ち、尻尾にそっと当て、硬いものに当たらないように引いた。骨ごと斬り落とせた。数億年の加工の末完成した刀の前ではどんな骨も岩も無に等しい。

 

 

 「兄上の刀の切れ味おかしいですよ!?」

 

 

  

 「これから渡すものが霞むものを出すのを止めていただきたい・・・」

 

 

 結果は文句だらけだが。

 

 

 「まあ結果オーライ。須佐之男、これやる」

 

 

 俺は八岐大蛇の尾から抜き取った大刀を投げ与えた。そして俺はその隣の宝玉を取り出し、近くの血溜まりから血をすくった。

 

 

 「え?兄上、これは一体・・・?」

 

 

 「私の尾に生成されていた刀です。どうせ使えませんし、死んだ身です。譲りましょう」

 

 

 「・・・というわけだ。十束の剣は預かる代わりにその剣で代用してくれ。・・・そして、今回の件についてだが、この山の辺りは大丈夫だ」

 

 

 俺はすくった血を飲んだ。途端に体と拒絶反応が出るが抑え込む。

 

 

 「んなっ・・・!」

 

 

 「おえっ・・・これで八岐大蛇の一部は俺の体だ。いいな?八岐大蛇?」

 

 

 「構いませんよ。どうせ死にましたし」

 

 

 八岐大蛇が頷いたので、八岐大蛇の死骸を燃やした。

 

 

 「なら終了。お前も色々言いたいだろうが・・・今回は受け付けない。お前の殺した八岐大蛇とここいらの山は全部俺がどうにかする。「兄上・・・」お前はこんなことより告白と龍華のところに行くのが最優先だ。そうこうしてる間に龍華が泣きそうになるんだがなぁ・・・泣かせてみろ、どうなるか・・・「今すぐ向かいますっ!!」いってらー」

 

 

 全速力で飛び去る須佐之男を見送ると、八岐大蛇の方に向いた。八岐大蛇は・・・笑っていた。

 

 

 「若いっていいですねぇ・・・あ、龍一殿、見て下さい、日が昇ります。・・・ここで日を眺めて山を見るのも最後ですね・・・」

 

 

 ・・・俺がこいつと会ったのは数百年前だ。俺は龍華のせいで跋扈した神話生物を消しまくっていたのだが、こいつは・・・森に愛され、逆に森を愛していた。自然に被害を及ぼしていたやつらが多かったのにだ。俺が初めてこいつを見たとき、こいつの体には多くの生物が乗り、遊んでいた。ゆっくり近づいた時も、こいつは何もして来ないばかりか、逆に歓迎をしてきた。

 結局少ししか話せなかったが、こいつは森を離れる気はなく、骨もここで埋めると、何もしないと笑っていた。だから、俺はこいつが生贄を求めているというのは疑わしかった。結局のところこいつは無実だった・・・安心したが、結局殺さなければならなかったのは少なからず俺にしても苦痛だった。

 

 

 「そうだな。・・・とは言わんからな。八岐大蛇・・・俺の旅路に付いてこないか?」

 

 

 「旅ですか・・・」

 

 

 「ああ、・・・いつかはあの甘えたがりおてんば娘も独り立ちせにゃならん。・・・ここで黄泉に行くなら、俺の傍で日を眺めないか?」

 

 

 八岐大蛇はしばらく悩んだ表情を見せたが、俺の前で膝を折った。

 

 

 「・・・八岐大蛇、龍神の武器となりましょう。・・・その十束の剣に入れてください」

 

 

 「・・・そうか。なら行こうか」

 

 

 俺は宝玉をかみ砕いて飲み込み、折れて八束程になった刀に八岐大蛇を取り込んだ。

 

 

 「これで完全に俺の眷属だ。・・・お前とは神話生物の間引き以来だったが・・・これからは物として使わせてもらうぞ、相棒」

 

 

 俺が鞘に収めた剣に向けて言うと、かたり、と剣が揺れた。

 

 

 ____________________

 

 

 「てなわけで八岐大蛇の入った八岐の剣は俺が使うから。異論は認めん」

 

 

 「にーさま滅茶苦茶です・・・」

 

 

 俺が八岐大蛇のいた森を調べ、七人の娘の墓に合掌し、山の動植物に八岐大蛇の死を伝えていると、丸二日かかった。

 

 

 結果須佐之男は大和に帰ることができた。嫁の櫛名田比売(くしなだひめ)を連れて龍華のところにも向かったらしく、龍華は俺が帰って来るや否や「にーさまのおかげで須佐之男が帰って来ました!」と笑いながら抱き着いてきたが、明らかに異様な八岐の剣を見つけると後ずさり、「捨ててください!」と叫ばれた。妖気が駄々漏れらしく普通の神、妖怪、人間は生理的にすら受け付けず、神経を逆撫でされるとか。まあ確かに冗談半分で龍華の前で刀を抜くと泣いた。なだめるのに数時間かかった。

 

 

「まあ・・・怖がらせたのは反省する。だが・・・間違いなくこの先もクソ面倒な案件が続々とやって来る。それを俺が一々解決できるわけじゃない。・・・俺はお前の目の届かない案件を抑える。・・・俺からのお願いだ。目の届く問題の一つや二つ、お前で解決しろ」

 

 

 俺がそう言うと、ショックを受けたように龍華が俯いた。

 

 

 「そんな・・・りゅーかは一人では何も・・・」

 

 

 うつむく龍華の頭を、俺はガシガシと撫でる。

 

 

 「・・・須佐之男の異常に気付けたのはお前だ。確かに俺よりお前は筋力云々はないが・・・俺よりも優しい。お前の前では誰もが口を自然に開く。・・・俺には到底出来ない。俺ができるのはお前の知らなくていいところにいる奴らの話を聞くだけだ」

 

 

 「でも・・・りゅーかはにーさまみたいに止められません!」

 

 

 龍華の気持ちも汲んでやろうと思ったが、俺は突き放した。

 

 

 「お前には・・・伊邪那岐がいる。伊邪那美がいる。須佐之男がいる。月読命(つくよみ)もいる。天照もいる。・・・お前は近くに俺以外の奴がいる。・・・困ったら俺以外の奴も頼れ。お前は一人じゃない。・・・頼むから、俺が帰ってきたとき、大きくなりました!って言ってくれよ・・・な?」

 

 

 「にーさまは、絶対に帰ってきてくれますか・・・?」

 

 

 「いつか偶然会うこともあるだろう。だが・・・約束してやる。絶対にいつか会いに行ってやる」

 

 

 龍華はいつの間にか流していた涙を俺の服で拭くと、にっこりと笑った。

 

 

 「分かりました!りゅーかは大きくなります!旦那さんも見つけます!」

 

 

 「そうか・・・だが俺の服で涙を拭いたのは駄目だ。旦那探しも許さん」

 

 

 「何でですか!」

 

 

 「お前料理出来ないだろ!誰だ卵焼きで炭素の固形物作ったのは!流石にあれを料理とは言わん!錬金術だ!」

 

 

 「うぅ・・・」

 

 

 だが正直、俺を恋愛対象から外してくれたことは少し嬉しい。前まではにーさまと結婚するの一点張りだったのだから・・・

 

 

 「・・・明後日、俺はここを離れる。・・・ちょっとだけだが遊んでやる」

 

 

 「本当ですか!?」

 

 

 目を輝かせて飛び跳ねる龍華に頷く。

 

 

 「今回だけな。何したい?」

 

 

 世の兄からしたら、甘すぎるのかもしれないな・・・

 

 

 

 次回へ続く





 ありがとうございました。

 
 次回もお楽しみに。


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第一章 龍神、天より下る
第五話 下界降臨


 下界に降りると決めた龍一、

 しかしまあまともなことが起きることもなく・・・


 「じゃあ、約束通り行くからな。・・・良い子にしてろよ」

 

 

 約束した俺が下界に降りる日、見送りは龍華だけだった。

 ・・・まあ俺がほかの奴らには黙ってるからだが。何を言われるか分からないのでさっさと準備をし、旅(半分失踪)の準備は完了した。

 

 

 「はい!・・・にーさまもお元気で!」

 

 

 龍華はあえてなのか笑って俺を見送りに来ていた。俺に心配をかけたくないとでも思ってくれているのだろうか・・・目元に浮かんでいる涙は黙っておこう。

 

 

 「ああ。じゃあな」

 

 

 俺は目の前の空間を削り取り、トンネル状に仕立て上げた。

 

 

 「あ、そうだ。龍華こっち来てくれ」

 

 

 「何ですか?」

 

 

 俺は龍華を近づけ、そっと頬に口づけをした。

 

 

 「ふぇ!?にににににーさま!?」

 

 

 「・・・悪い悪い、ちょっと前キスしてくれとか言われてたなーと思ってな」

 

 

 龍華は白い肌を真っ赤に染めながら俯いた。

 

 

 「千年も前のことじゃないですかぁ!・・・にーさまの女たらし!意地悪!」

 

 

 龍華が怒りながらも目元に涙を浮かべていないのを確認すると、俺は笑ってトンネルに入った。

 

 

 「ハハハ!じゃーな!」

 

 

 俺がトンネルに入ると同時に、トンネルの入り口が閉じ始める。ふと龍華が口を開けて何かを言った。

 

 

 「・・・大好きです、にーさま」

 

 

 聞こえはしなかったが、龍華は笑っていた。

 ・・・今度会ったら聞くことにしよう。

 

 

 ____________________

 

 

 「・・・長っ、まだつかねえのか・・・?」

 

 

 正しい方法で下界に降りようとするには膨大な時間がかかるらしい。・・・前まで紐なしバンジーで降りていたが、やはり歩くとなると時間がかかるのか・・・此処にも課題はあったな。(尚十分でつく模様。バンジーは十秒)

 

 

 俺は時間をつぶすと同時に、拳銃とスナイパーライフルのリロードをし、八岐の剣の鞘に貼りつけたオーラを抑える札を確認、背中に装着し、新月を腰に下げる。

 

 

 「さーて、何度か降りたが・・・行きますか!」

 

 

 トンネルがゆっくりと開き始め、俺は駆け出した

 

 

 「到着・・・ん?」

 

 

 俺が到着してすぐに周囲を見渡すと森。ついでに目の前には角を生やした猪らしき妖怪と、背後には人間が一人いた。ちなみにトンネルは龍華と俺以外は見えないので、瞬間移動してきたように見えているはずだ。

 

 

 「な、なんだテメエ!何処から出てきた!俺は今そいつを狙ってるんだ!人の獲物を捕ろうとするんじゃねえ!」

 

 

 そう叫びながら猪は俺の背後の人間を指す。・・・ん?俺、妖怪として見られてる?

 

 

 ・・・逆に最高かもしれない。

 

 

 「ああ!?誰がお前のだって?ええ!?早く仕留めたもん勝ちだろうがマヌケェ!」

 

 

 そう言うと、俺は人間を・・・女性なので抱き上げ、全力疾走で木々を躱しながらその場を去った。

 

 

 「ハハハハハ!頂いていくぞノロマァ!」

 

 

 テメエエエエ!と叫ぶ声をバックコーラスに俺は百メートルを五秒フラットで走る速さで上半身を微動だにさせずに逃げた。目指すはさっきから五百メートル先で匂う人間の匂い。

 

 

 「あ、あなた一体何者!?」

 

 

 腕の中から驚愕のこもった叫び声が聞こえたので、軽く返してやる。

 

 

 「矢川鏡一!普通の人間だ!別に妖怪じゃねえぞ!」

 

 

 「何処が!?」

 

 

 「おっしゃる通りですわぁ!」

 

 

 そりゃそうだ。百メートルを五秒フラットで走る人間を俺はコブラしか知らない。走ること二十秒、大勢の人影が見えた。

 

 

 「見えたぁっ!」

 

 

 さすがに時速七十キロで走るやつの言葉を信じはしないだろうから減速。一般男性の速度で近づく。

 

 

 「おーい!」

 

 

 俺が大声で叫ぶと何人かの人間は振り返ってくれた。

 

 

「こっちだこっち!」

 

 

俺の姿を確認すると、困惑したようだが、あの人は!と俺の抱える女性に何かあるのか騒ぎ始めた。

 

 

「おい・・・エイリン様じゃないのか!?」

 

 

 「じゃああの男は何だ!?何で人一人抱えてるくせに俺らと同じぐらいの速度が出せるんだ・・・!?」

 

 

 「馬鹿!エイリン様が軽いからだろ!」

 

 

 「ゴチャゴチャ言ってねえで助けろ!後ろからしつこいのが来て・・・来てるじゃねえか!」

 

 

 俺はエイリン様と呼ばれている女性を立たせ、銀銃のスピリダスを構える。

 

 

 「あんたら!武装してるなら俺の指示分かるな!?文句は聞かんぞ!エイリン様囲え!」

 

 

 「・・・どうするよ、隊長死んでるからどうしようもねえぞ・・・」

 

 

 「いや待て、ここで従えばエイリン様を助けられるかもしれんぞ!」

 

 

 「俺らの株も上がるんじゃ・・・」

 

 

 俺はスピリダスを一発ぶっ放した。

 

 

 「じゃかあしい!従えやお前らぁ!」

 

 

 「「「い、イエッサー!」」」

 

 

 半ば強制的に従わせ、一個小隊ほどもないメンバーに隊列を組ませる。

 

 

 「いーか、貴様らがどんな素質を持っとるか知らんから、俺が全部やる」

 

 

 「マジすか!?・・・えー・・・お名前は「矢川鏡一」矢川さん!?」

 

 

 「ノープロブレム!何かあれば俺を捨ててオッケー!」

 

 

 俺はグーサインをして叫ぶ。

 

 

 「出てこいやノロマァ!」

 

 

 「誰がノロマだ!・・・すげえ、こんなに餌がいやがる・・・!なああんた!まさかこの為に!?」

 

 

 そういやこいつは俺を妖怪だと思ってたな・・・利用する必要もないな!

 

 

 「・・・俺も腹が減ったんでな。食いたいんだ。・・・牡丹鍋がな!」

 

 

 猪に急接近、銃口を密着させ、脳を抉る。

 

 

 「俺が食いたいのはお前だ。・・・人間なんぞ不味くて食えるか」

 

 

 猪が倒れ伏す。

 

 

 「すげえ・・・一撃だぞ!?」

 

 

 「・・・あの隊長よりやべーんじゃねえのか・・・?」

 

 

 「凄い・・・!」

 

 

 どっと歓声が沸き起こるが、俺は一喝する。

 

 

 「まだ来るぞ!・・・油断を襲う賢い奴がな!・・・今回は焼き鳥だがな!メニュー追加ぁ!」

 

 

 上空に銃弾をぶっ放し、高速で飛んできた巨大怪鳥に直撃、けたたましい奇声とともに墜落する。

 

 

 「・・・終わり。編隊を解け!」

 

 

 「「「イエッサー!」」」

 

 

 俺の掛け声に従い、メンバーを自由行動にさせる。

 

 

 「・・・で、今更だが・・・何で従ってんの!?」

 

 

 俺は猪と鳥の血抜きをしながら小隊に聞く。

 

 

 「いや・・・何か・・・なあ?」

 

 

 「・・・俺ら何で従ったっけ?」

 

 

 「それより矢川さん、俺腹減りました「あ、俺も」「俺も」「俺も!」」

 

 

 「何故それを俺に言うんだ・・・火を用意しろ」

 

 

 おおっ!と全員が感嘆の声を上げる。その間に俺は肉を捌き終える。

 

 

 「でもたいちょ・・・矢川さん、材料はどうするんすk「いまここにあるだろ?」・・・マジすか?」

 

 

 俺は捌いた肉の塊を指差す。

 

 

 「え、いや・・・妖怪っすよ?」

 

 

 「文句言うな。「というかもう捌かれてるじゃない!?」「早っ!?」・・・焼くぞ、俺は食うからな」

 

 

 焼いた肉の匂いが周囲に広がる。・・・誰かの腹が鳴った。

 

 

 「誰だ?「・・・俺っす」・・・食え」

 

 

 俺は焼き鳥と牡丹汁を差し出す。~っすが口癖の奴は戸惑ったが・・・食った。

 暫く無言で食っていたが、ぼろぼろと泣き始めた。

 

 

 「・・・美味い、美味いっすよ・・・!」

 

 

 「泣くほど美味いのかお前・・・しょうがねえな、もっと食えよ」

 

 

 一人が食い始めると、何人もが食い始めた。どこからも咀嚼音と美味いという声が聞こえてくる。

 

 

 「・・・妖怪、だよなこれ?」

 

 

 「ああ・・・俺変な夢見てんのかな」

 

 

 俺は砂肝を食いながらその光景を眺めていた。・・・しばらく食っていると、女性が俺に声をかけてきた。

 

 

 「・・・ええと、あの・・・さっきはありがとう、助かったわ。矢川さんだったかしら・・・?」

 

 

 「おう、あんたは・・・エイリンだっけ?」

 

 

 「ええ、正しくは八意永琳(やごころえいりん)、本当にありがとうね」

 

 

 「・・・いやまあ、あの状況は助けるべきかと思ってな・・・」

 

 

 永琳とそんな話をしていると、小隊のメンバーが俺の前に集まってきた。数えると十四人。・・・少ないな。そいつらが同時に膝をついた。顔を上げたのは最初に飯を食った奴だった。

 

 

 「矢川さん・・・俺達、あなたに惚れました!隊長と呼ばせてほしいっす!」

 

 

 ・・・?

 

 

 「・・・俺?」

 

 

 「あなた以外誰がいるんっすか!?」

 

 

 「いやいやいや!考え直せ!お前らはどこの誰かもわからん奴に惚れるのか!?従うのか!?・・・お前ら薄々気づいてたが控えめに言って馬鹿だろ!「はい!」はいじゃねえ!思考が追い付かんわ!そもそもお前らは何だ!?「自由にやっていき隊です!」・・・名前までぶっ飛んでやがる!何だお前らは!碌な奴はおらんのか「全員何かの部門で首席でした!」尚更馬鹿だろお前らぁ!?その能力をほかに生かせんのか「無理です!」言い切るな!そもそも俺を隊長と呼ばせてたまるか!「じゃあ料理長!」じゃあってなんだ!・・・てかお前らどこから来たんだよ!「向こうにある月読命様の都です!」クソエリートかつ知り合いの都だった・・・!何だ貴様ら・・・?と言うかお前らの隊長は?「隊長は・・・左手を前に出してうつ伏せに倒れて亡くなりました・・・!」聞いたことあるなぁ!?じゃあ俺を隊長にしてどうするんだ!?「そりゃもちろん鍛えてもら・・・失礼、美味しいご飯を創ってもらう為です!」逆!本音と建前逆!「次ステーキで!」食堂行けばいいだろ!」

 

 

 無茶苦茶すぎる。永琳を見ると苦笑していた。

 

 

 「・・・お似合いなんじゃない?」

 

 

 「どういう意味だよ!」

 

 

 変な奴繋がりか、否定できん!・・・しかも、圧倒的に良い条件だ・・・変人部隊なのが腹が立つ。

 

 

 「考え直せない奴、挙手」

 

 

 「「「はい!」」」

 

 

 「声はいらん!全員かよ!?・・・仕方ないな、向こうが許可下ろしたら仕方なく受けてやろう。だが八意永琳を守り隊の名前は変えよう。「はい!じゃあ矢川さんの飯食い隊で!」ネタにしか振れんのか!・・・変人部隊だ。変・人・部・隊!まともな奴いないんだから文句なしだ!」

 

 

 「・・・俺いいと思います!」

 

 

 「私も!・・・やっぱあの部隊名おかしかったんですよ!」

 

 

 「そうっすよね・・・酒の席で決めるもんじゃねえっすよ」

 

 

 碌な事が聞こえてこない・・・なんだこいつら・・・

 

 

 「まああくまでも・・・入国出来たら、の話だぞ?」

 

 

 「「「はい!」」」

 

 

 ____________________

 

 

 「止まれ貴様!ついでにその部隊も止まれ!・・・おお永琳様!どうぞお通り下さい」

 

 

 「お前ら怪しすぎる!・・・貴様らあの自由にやっていき隊か!」

 

 

 「入れるわけにはいかん!」

 

 

 ・・・理由があれば諦めたが、

 

 

 「入りたくばこの都を落とすんだな!ハハハハハ!「よし、三日だ」・・・は?」

 

 

 碌な理由じゃないなら・・・

 

 

 「明日もう一度来る、三日で陥落させてやるよ。・・・市民への弁解でも考えてな.

・・・二度と笑えなくしてやるよ」

 

 

 喧嘩売ってやるよ。

 

 

 

 次回へ続く

 

 




 ・・・説明嫌い、性格悪い、脳筋。の癖しやがって実力は高い・・・

 駄目だなコイツ。(オリキャラに文句言うオリキャラ作者の図)

 次回もお楽しみに。

 


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第六話 首都襲撃

あー、今更なんですが、受験の結果、志望校受かりました。

課題で窒息寸前です。


まあ、ゆっくりご覧ください。


 「・・・それでは、首都陥落の計画を伝える」

 

 

 「・・・マジでやるんっすか?」

 

 

 俺が指示を出そうとすると、飯を食って泣いた男・・・佐々木(ささき)が重い表情で俺に問いかける。

 

 

 「ああ、やってやる。俺はともかく貴様らが入れんかった理由が分からん。そして門番の奴が言った。首都を落とせるなら話は別だと。・・・ならやるのが人間だろ」

 

 

 俺はそう言いながら掌で続々と火器を作り出す。

 

 

 「・・・不要な心配すんな。向こうの上層部としても万が一俺らに陥落させられてみろ?メンツ丸潰れだ。そうなれば演習だった・・・とかでもみ潰さないワケがない。逆にこれは新生変人部隊のまたとない門出だと思うが?」

 

 

 「そりゃあ・・・そうっすけど・・・でも、難しいっすよ!綿月姉妹(わたつきしまい)も向こうっすし・・・」

 

 

 「・・・綿月?「はい、俺達変人部隊はある一部はダントツで得意なんすが、あの二人は総合の成績がダントツなんっす。神の依り代となる妹の綿月依姫(わたつきよりひめ)と、事象を操れる姉の綿月豊姫(わたつきとよひめ)・・・流石に隊長でも無理っすよ」

 

 

 俺はその言い方に少しイラッとし、両手からゴトリとキャノン砲を出し、周囲が飛び上がる。

 

 

 「俺でも無理・・・とな?言うねぇ、俄然やる気が出た。・・・俺がその二人の相手をしてやる。・・・おそらく軍のトップだな・・・見てろ、最初からやる気ならもう・・・」

 

 

 俺は叢雲にペイント弾を装填し、一番巨大な建築物の最上階の窓ガラスに向けて撃つ。

 

 

 「落ちてる。・・・今頃月読命様が狙撃されかけたって大騒ぎじゃねえかなあ?」

 

 

 事実都からけたたましいサイレンの音が響き渡る。

 

 

 「・・・これでトップの綿月姉妹もうかつに動けんだろ「・・・マジか、向こうまで何キロあるんだよ・・・」「多分十キロ以上あるぞ・・・」「狙ってましたか・・・?」「そもそも隊長、狙撃もできるのかよ・・・」「てかさっきから料理長の手からやべーのがドカドカ出てるぜ・・・」「隊長・・・素敵・・・!」・・・ゴチャゴチャうるせえ。行くか、行かんのか、どっちだ」

 

 

 「・・・私、行きます!」

 

 

 一番端にいた女の子・・・浅野(あさの)が手を挙げる。

 

 

 「・・・私、隊長について行きます!・・・こんなこと、初めてですから!」

 

 

 「俺も・・・!浅野だけに危険な事に参加させてたまるかよ!」

 

 

 「高澤(たかざわ)君・・・ありがとう」

 

 

 「・・・お前ら熱いのはいいけど料理長見てるぞ・・・あ、俺も行きます、俺料理人志望だったんで・・・飯の作り方教えて下さい。こいつらの結婚式の飯は俺が作るんで」

 

 

 高澤、岸田(きしだ)も賛同する。岸田には料理教えてやるか・・・

 

 

 「僕も行きます!」

 

 

 「私も!」

 

 

 「俺も!」

 

 

 「俺も!高木(たかき)も頑張ってくれるよな!?」

 

 

 武田(たけだ)、名桐(なきり)、澤田(さわだ)、類土(らいど)からも賛同の声が続々と上がる。・・・まーた聞いたことある名前があるんですがねぇ・・・

 

 

「・・・隊長、俺ら九人しかいないっすけど・・・全員やる気っす。・・・お願いするっす!」

 

 

俺は両手から戦車を生産し、ニヤリと笑う。

 

 

「っしゃ、じゃあ作戦詳細は明日の朝から!得意武器のある奴は勝手にそこにあるのから拾うか、俺に注文しろ「「「イエッサー!!」」」良い返事だ!」

 

 

____________________

 

 

明朝、俺は作ったブラックボードに図を描いた。

 

 

「いいか?ここを最終目標として・・・まず二人がそこに作った戦車に乗り込み、兵士に砲撃、注意を引く。するとまあ戦車に行くはずだから、その間に俺を含んで残り八人は突入。この時に俺がスピーカーで民間人に嘘の避難勧告をする。この時に三人が閃光爆弾を投げる。そして避難勧告でターゲットの軍事基地・・・で良いんだな?「そうっす!」そこに逃げさせる。流石に民間人の前で実弾ドンパチはしないだろうから元からペイント弾の俺らが攻める。ここに五人。本陣は俺一人で行く。後はなすがままだ。・・・質問は?「昼飯は?」持参。「おやつは?」五百円まで。「バナナはおやつに入りますか?」マトモな質問しろ!」

 

 

類土が手を挙げる。

 

 

「団長・・・じゃなかった、隊長は能力持ちですか?」

 

 

「能力・・・ああ、一つ目が【なんでも生み出せる程度の能力】だな「反則じゃないっすか!?」「待て、今一つ目って言ったぞ・・・」で、まだ完成してないが・・・義眼の開発が終わると能力が安定する。そこまではまあ体力で抑えてる感じだな。まだ義眼は使い分けにゃならん。今つけてる黒いのは重力管理。「うっそだろ・・・」「何やってんだよ!隊長!」いいから行くぞ!次の質問!」

 

 

「はい!・・・この作戦の前に、正式に隊長になって頂けますか?」

 

 

名桐の質問に、ほんの少し押し黙ってしまう。

 

 

「・・・私は、二度と隊長を失いたくありません。今隊長がここでそうなさって下さらなければ、私はずっと隊長なしの部下です。・・・お願いです隊長、私が、私達がはっきりする為にも・・・」

 

 

背中の八岐の剣を地面に突き立てる。途端に周囲の自然がざわめく。

 

 

「ああ分かったよ!なればいいんだろ!どうせここまで来たらもう後戻り出来ねえ・・・連れて行ってやるよ!」

 

 

俺は草むらに向けて発砲する。すると鹿のような妖怪がどかりと倒れる。

 

 

「まずは飯だ・・・行くぞ!」

 

 

「「「イエッサー!!」」」

 

 

少しだけ、八岐の剣が揺れた気がした。

 

 

____________________

 

 

1100、都正門前。固く閉ざされた正門前には数十人の兵隊と、数人の不気味な武器を構えた集団が集まっていた、その集団の中心には、龍一が立っていた。

 

 

「よお、・・・来てやったぞ。約束どおりに、な」

 

 

「まさか貴様!本気で襲撃を・・・?」

 

 

あたぼうよと龍一が言い、拳銃を両手に構える。

 

 

「行くぞ!変人部隊、GO!」

 

 

龍一が上空に拳銃を向けて叫ぶと、爆音と共に戦車が飛び込んで来た。

 

 

「行くぞ高木!」

 

 

「おう!任せろ類土!」

 

 

戦車は轟音を上げながら、門に砲撃、破壊した。その煙に紛れて龍一が率いる残り全員が突入した。

 

 

「結構曇るじゃねえか・・・頼んだぞ!」

 

 

「「はい!団長!!」」

 

 

龍一は都市内に突入すると、拳銃を上空に乱射した。

 

 

「非戦闘員に勧告!これより抜き打ち軍事練習を開始!直ちに避難せよ!繰り返す!直ちに避難せよ!・・・避難しねえと事故るぞ!」

 

 

そう言うと類土が砲手を務める特注品の戦車から爆音が聞こえた。先程の類土達の戦車のレールガンの音だろう。

 

 

それに続き、武田、名桐、澤田が閃光爆弾を投擲する。閃光爆弾は炸裂し、その間に龍一、佐々木、浅野、高澤、岸田が突入する。

 

 

「隊長!ここは何とかしやすぜ!約束どおり、薬頼みますぜ!」

 

 

「あーあ、悪いにいちゃんだな・・・隊長!あとお願いします!」

 

 

「隊長!私・・・今度は守りきります!」

 

 

・・・武田は重病の妹の世話をしており、変人部隊に入ったのもより多くの金を手に入れる為だった。澤田は五人兄弟の長男で、何とか家系をやりくりする為に所属していた。それを知った上で龍一が叫ぶ。

 

 

「頼んだぞ!お前らに全部預ける!行くぞ佐々木!」

 

 

「イエッサー!」

 

 

 

 

1200、都軍事基地司令塔

 

 

「メリークリスマス!早すぎるサンタのプレゼントだ!」

 

 

警戒状態の軍事基地の窓ガラスが崩壊し、龍一が飛び込んだ。龍一は煙幕弾を持っており、地面に叩きつけた。

 

 

「佐々木!「イエッサー!」・・・上等!」

 

龍一の掛け声と共に飛び出した佐々木が三節棍を振るう。瞬く間に周囲の半径三メートルの兵隊が気絶する。

 

 

「どうって事ないっす!「いえ、確かにお見事です」「そうね、見事だわ」・・・っ!?」

 

 

嬉しそうにする佐々木の背後から二人の女性の声がし、佐々木が凍りつく。

 

 

「・・・謀られたかね・・・佐々木、下がってろ、作戦変更、お前らは武田達に合流し、引きつけてろ」

 

 

龍一は凍りついた表情の佐々木を揺すると、二人の女性に向けて拳銃を構える。

 

 

「あんたらが・・・綿月姉妹かな?」

 

 

答える間も無く発砲した。

 

 

「危なっ・・・!貴方!会話する気は「微塵もねえ!」っ!?」

 

 

綿月姉妹の1人が文句を言おうとするが、龍一の拳銃に封殺される。

 

 

「ある訳ねえ!俺はともかくこいつらを締め出した軍隊の奴の話は聞かん。・・・さっさと月読命様でも呼べ」

 

 

そう笑うと龍一は、

 

 

「ま、断っても行くんだがな。作戦実行!」

 

 

拳銃を右手に、新月を左手に構え、拳銃を綿月姉妹に撃った。

 

 

 

 

次回へ続く

 

 

 




ありがとうございました。

次回もお楽しみに。


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第七話 面接(攻撃態勢)

 文化祭の準備で折り紙一人六十枚切ってね☆と言われて百枚ほど渡された私です。後の四十枚も切れとそうですかそうですか死ぬわ。


 まあ期限は一か月先ですがね。


 そんな事はどうでもいいので、ゆっくりご覧下さい。


 ・・・なーるほど、佐々木の言う通り強いわ。綿月姉妹。

 

 

 「・・・いきなり本気の攻撃ですか、ならこちらも容赦はしません!」

 

 

 まあ流石に銃弾斬られるとは思わなかったけどさ!?・・・対人用ショック弾が悪かったのかもしれんが・・・

 

 

 「・・・タイム!二人はせこい!・・・まあ強制的に一人になるんですがねぇ!」

 

 

 俺は義眼を光らせ、義眼の能力の重力で銃弾を切った妹の綿月依姫を地面に押し付け、姉の方の綿月豊姫に向けて接近する。

 

 

 「ぐっ・・・!?姉さん!」

 

 

 地面に伏せられってもなお依姫は戦意を捨てず、慌てたらしい豊姫はそれでも俺に剣を向け、斬りかかってくるが、金属に変えた腕で弾く。自然の摂理を操作可能になったので、当然のように分子の結合を変化させて金属化できる。

 

 

 「依姫を抑えたままでこの動き・・・!?」

 

 

 ・・・やはりというか、期待外れと言うか、この姉妹、実践慣れどころか戦闘が今のところ下手にしか見えない。戦闘は能力に頼っていたのだろうか?ならそれは俺の獲物だ。

 

 

 「・・・ずいぶんと慣れていらっしゃらないようで?どうしました?・・・狩っちまうぞオイ」

 

 

 俺は金属化させた腕で豊姫を壁まで殴り飛ばし、その間に無駄に撃った拳銃を装填する。

 

 

 「ぐっ・・・!中々どころか・・・異様なほどの実力ね・・・!」

 

 

 壁に叩きつけられた豊姫はそう言うと扇を取り出した。

 

 

 「・・・本当は人間には使ってはならないのだけれど・・・貴方なら別ね、使わないと都が危うい・・・!」

 

 

 小手調べに拳銃を撃つが、豊姫が扇を一振りすると消えた。

 

 

 「・・・ほー、そうでないと面白くないが・・・何だそれは?」

 

 

 「これは一振りで森を素粒子に変えられる扇。これで正面からの突破は不可能!」

 

 

 ・・・不可能、だと?

 

 

 「・・・無理、ねえ・・・」

 

 

 俺は拳銃を腰に下げると、豊姫に正面から殴りかかった。

 

 

 「・・・んなっ!?くっ・・・!」

 

 

 やはり予想外だったのか、豊姫は困惑し、雑に扇を振った。扇の攻撃は俺に掠り、右半身が損傷する。が、雑に振ったせいか傷は浅く、左の拳銃は豊姫の扇を捉えた。

 

 

 「痛って・・・!だが貰った!」

 

 

 銃弾は扇を弾き、体勢を崩した豊姫を俺は取り押さえ、後頭部に拳銃を向ける。

 

 

 「右半身の損傷は擦り傷だけか・・・あぶねえあぶねえ。だが俺の勝ちだな、能力にまで頭回らねえのが残念だな」

 

 

 「・・・降参、するわ・・・」

 

 

 その声を聴いて俺は拳銃の引き金を引き、気絶させた。・・・おそらく依姫には俺が打ち抜いたように見えただろう。事実依姫は叫んだ。

 

 

 「姉・・・さん?」

 

 

 「あーあ、もう終わりか。・・・次お前か?」

 

 

俺はあえてニヤリと笑い、依姫の重力を元に戻した。

 

 

「・・・貴様・・・!姉上を・・・!」

 

 

「いいじゃん!盛り上がって来たねえ!・・・殺しに来いよ、な?」

 

 

「黙れっ!!」

 

 

依姫が怒りに任せて刀を振りかぶる。俺はそれをバックステップで躱し、新月で斬りつける。

 

 

「甘過ぎるぞ依姫様ぁ!?肩書きは飾りかぁ!?」

 

 

斬撃を回避した依姫に弾丸を二連射するが、依姫の目の前で燃え尽きる。

 

 

「へぇ・・・軻遇突智か?神の依り代ってそういう意味かよ。直に降ろすのか・・・逆に都合が良い!」

 

俺は拳銃と新月を異空間に放り込み、八岐の剣を背中から外す。

 

 

「依姫・・・吐くなよぉ?」

 

 

八岐の剣をゆっくりと鞘から抜き始める。すると、周囲に超高濃度の妖気が充満する。

 

 

「う・・・あ・・・!?」

 

 

依姫の膝がカタカタと震え始め、軻遇突智の炎は霧散する。

 

 

鞘を抜き終えた時には、依姫は膝をついて震えていた。

 

 

「吐きはしなかったか・・・通してくれるか?」

 

 

「・・・よくも、姉さんを・・・」

 

 

依姫は俺を恨めしそうに睨む、が、その目に覇気は無かった。

 

 

「よく言うぜ。ガタガタ震えてるじゃねーか「黙れ・・・!」・・・いい加減にしろよ?」

 

 

俺は八岐の剣をゆっくりと降る。途端に目の前の空間に穴が空いた。依姫は口を開閉させるが、何も話さない。

 

 

「・・・力の差を見抜けんくせに突っ込むんじゃねえよ。それは勇敢の勇ではなく、一時的な匹夫の勇だ。そんなしょーもない勇気なんぞ消せ。・・・ついでに言うとな、お前の姉さんなんぞ殺してねえ、寝てるだけだ。先に姉を見ろ、な?」

 

 

依姫はふらふらと立ち上がり、豊姫に近づいて、笑った。

 

 

「姉さん・・・無事、だったんですね・・・」

 

 

そう言うと依姫は崩れ落ちた。

 

 

「・・・チッ、これじゃ消化不良だ。・・・さっさと佐々木んとこ行くか・・・」

 

 

____________________

 

 

 

「隊長!?綿月姉妹はどうなったんすか!?「倒した」マジっすか!?「何やってんだよ!団長!」「料理長・・・ひでえな」「誰が料理長だ、てか普通に気絶させただけだって」・・・隊長、何者っすか・・・?」

 

 

基地から出ると、入り口にいた佐々木と岸田と門周辺を殲滅したのかこっちまで戦車で走って来ていた類土にツッコミをくらうが、知ったこっちゃない。後高木は休め。あの野郎運転全部一人でやりやがって・・・

 

 

「まあいい、お前らはここで待機な。俺が最後の仕上げをしてくる。・・・実際、作戦成功だな。まさか俺入れて九人で落とせるとはな、しかも半日。・・・昔に自分の兵法と十六人程度で城を落としたすげえ人もいたが、流石にそれ以上とは呆れたもんだ」

 

 

俺達が笑っていると、名桐が俺の背中を叩いた。

 

 

「これで改めてよろしくですね!隊長!」

 

 

「・・・ああ、そうだな」

 

 

とかいう事は置いといて、

 

 

「オールァ挨拶に来たぞ月読命殿ぉ!「・・・!?」いたな月読命ぃ!」

 

 

俺は本題の月読命のいるであろう部屋のドアを豪快に開き、睨みつけてきた月読命に向けて叫んだ。

 

 

「・・・いきなり何者ですか?「お前の兄貴だ!」ひゃいっ!?龍一兄様!?」

 

 

俺は途端に飛び上がって慌てる月読命の頭を掴み、ガシガシと撫でた。

 

 

「久しぶりじゃねえか。元気だったか?」

 

 

「え、ほ、本当に兄上です!お久しぶりです!」

 

 

 月読命は龍華と同じような笑顔を咲かせると、俺に飛びついてきた。

 

 

 「・・・お前なぁ、俺とその他に対する反応が滅茶苦茶だぞ。「龍華様の言うツンデレと言うやつです!」惜しい!ちょっと方向が違う!「そうなんですか!?」・・・知らなくてよろしい!」

 

 

 月読命は何と言うか・・・龍華よりは大人の対応ができるが、ちょっと抜けた残念な女の子だ。冷静な判断と洞察力の高さは素晴らしいが、須佐之男と俺にだけこうなる。・・・まあブラコンだ。あとちょっとアホ。

 

 

 「で、用事なんだが、「はい!・・・あ」・・・言い残すことは?」

 

 

 「や、優しい兄上のほうが・・・好きですよ?「よかろうデコピンだ」え?」

 

 

 俺は呆けた顔をしている月読命の頭を鷲掴みにし、デコピンを食らわせた。激痛に月読命がのたうち回るのを横目に、俺は月読命に続きを伝える。

 

 

 「で、俺含めた九人で都落ちたんだけど、俺変人部隊の隊長にしてくれ「大歓迎です!!」る?・・・はえーよ」

 

 

 赤い額のまま月読命が即答した。まだ痛いのか若干涙目だ。

 

 

 「大歓迎します!おそらく薙ぎ払った「薙ぎ払ったっておま・・・」・・・倒したでしょうけど、綿月姉妹の師匠もお願いします!「いやお前、都が落とされたことに対するショックとかは・・・」微塵もありません!そんなもの捨てちまえです!「捨てるな!」・・・正直兄上に天照たち全員でも勝負して勝てるわけねーどころか疲れさせられねーですのにあの二人とこの都の兵隊じゃ無理です!兄上の方に佐々木たちがいれば猶更無理です!都が滅びます!」

 

 

 言い切ったよコイツ・・・

 

 

 「なので兄上に鍛えていただきます!「なんで俺!?」・・・普通私達三貴神がデコピンでのたうち回らねーですよ?どんな力持ってるんですか、拳骨神兄上。「・・・チッ、じゃあ条件」何ですか?私を撫でるですか?「違うわ!・・・てかしてほしいのか・・・食堂を貸してくれ。浅野と高澤の結婚式の飯を岸田が作るからその指導。ついでに軍の飯も賄ってやるよ」兄上お料理上手ですもんね・・・私も上手かったらなあ・・・「お前と龍華は駄目だ。大人しく誰かに作ってもらえ。なんでお前らはサラダ作ったら燃えるんだよ。火の要素がねえだろ」・・・むー」

 

 

 俺は呆れながら重力の黒い義眼を外し、右目と同じ色の義眼に付け替える。ちなみにデフォルトの右目は灰色。

 

 

 「兄上、まだ左目が無いのですか?作れるんですよね?」

 

 

 「まあ作れんこともないが・・・こうでもしねえと生きていけないようなとこに足突っ込んでるんでな。この八岐の剣とかもそうだな「・・・あの龍華様を泣かせた剣ですか、確かにちょっともう怖いです・・・」だろうな。しまっとくわ。・・・神人間妖怪問わず斬られたら絶対に絶命するから」

 

 

 心なしか月読命がぐったりしているように見えるので、八岐の剣を異空間に立てかける。異空間には一応和室があるが・・・別にあいつしか使っていない。あの野郎武器になるとか言いながら一人になったらダラダラしやがって・・・

 

 

 「ふぅ・・・やっぱりあの刀危ないです。もう見せないで下さい・・・」

 

 

 「分かった分かった。・・・まあ暫く居候するからよろしく」

 

 

 「はい!よろしくです!」

 

 

 これにて都陥落作戦成功。使用時間はよく考えたら三時間ぐらい。・・・啖呵切った意味なかったな。

 

 

 

 次回へ続く




 ありがとうございました。

尚龍一はこの後月読命を撫でてあげた様子。

次回ぐらいに取り敢えず主人公とその武器の紹介でも挟みます。
 
 変人部隊も紹介しようかな・・・


 次回もお楽しみに。


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第八話 龍一、変人部隊+αの紹介


 取り敢えず、龍一とその妹二人と変人部隊の紹介に移ります。

 ・・・まあネタキャラが二人いるんですがね。

 ゆっくりご覧下さい。


神矢 龍一(変人部隊内は矢川鏡一)

 

身長・198センチ

 

体重・70キロ

 

・・・少数精鋭部隊、通称変人部隊の隊長兼団長兼料理長。口は悪い上に性格も悪い(自称)隊員からの評価は高い。

事実、部隊指揮から奇襲、戦術、戦闘、流言など、あらゆるものに対応、こなすことが出来る。

武装は拳銃二丁と打刀と折れた大刀、スナイパーライフルの五つ。

噂ではあるが、都最強と謳われていた綿月姉妹を数時間で倒したと言われている。本人は否定。

と言ったのが仮の姿であり、実際は最高神である龍神の神矢龍一。今回は地上にいる妖怪を式神にするためと旅をするために襲来した。今回の件はたまたま。

性格は粗雑さが目立ち、やや残酷かつ卑怯、神かと疑う性格ではあるが、実は自分以外に対しては優しかったりする。実際に妹の龍華が懐いているのが証拠。本人は強く否定。

現在のところ世界上で最年長。おおよそ千億程度は生きている。

その代わりか異常に戦闘能力が高い。綿月姉妹をのめしたのも事実。

別称の拳骨神の名に負けず、拳一つであらゆる神の意識を奪い、説教神矢の名に勝り、説教一つであらゆる神の足を痺れさせる。

片目が義眼であり、義眼の色ごとに扱う能力が変化する。地球創作の七属性、ベクトル、重力、時間、空間など。

武装は拳銃の【スピリダス】と【バラウール】、スナイパーライフルの【叢雲】、凶刀【新月】、八岐の剣。

拳銃二丁は爆発的に重く、銃弾の種類によっては一撃で山を砕く。

スナイパーライフルは地上から土星までなら狙撃可能。拳銃と同じく威力は銃弾で左右される。

新月は数億年かけて鍛え上げられた名刀どころか化け物刀。刀を持って当てるだけで地層が切れる。その割に軽く、棒を振り回すように斬れる。

八岐の剣は元十束の剣。八岐大蛇の血を吸って妖刀と化した。内部に八岐大蛇の思念が残留しており、神々にとっての最大の天敵。掠っただけであらゆる生命体は基本絶命する。

能力は【万物を創る程度の能力】であり、金属系統の生成が最も得意。

 

 

八岐大蛇

 

身長・190センチ(以前は山八つ)

 

体重・80キロ(以前は測定不能)

 

・・・龍一に使役される神。性格はやや皮肉屋だが、根本的には優しい。須佐男に仕留められた後、龍一に取り込まれ、膨大な神力と妖力を与える代わりに、自由な時は神界に住ませてもらえることになっている。能力ではないが、自然の摂理と地殻を操ることが可能。本人に戦闘意欲はないが、一度暴れると動くだけで山が崩れ、叫ぶだけで海が割れる。ただし睡眠時間が長いのと酒に弱い。

 

 

神矢龍華

 

身長・150センチ

体重・0キロ(龍一測定)

 

・・・龍一の妹。どうすればあの兄にこんな妹ができるのかと龍一が悩む程の聖人君子。虫も殺さない、いや、殺せない。

性格は少しやんちゃ。極度のブラコン。兄貴もシスコン。

絶賛彼氏募集中。ただし兄以上の男に限る。多分いないんじゃないですかね。

 

 

月読命

 

 

身長・160センチ

 

体重・0キロ(龍一測定)

 

 

都の最高指導者。性格は冷静で大人しく見られ、冷たいイメージが噂されるが、兄と弟に対しては活発かつ甘えたがり。

龍華よりも大人びた性格で落ち着いているが・・・少しアホ。ちょっと抜けていることが多い。ただし仕事はちゃんとするらしい。

 

 

変人部隊

 

・・・矢川鏡一の指揮する特殊部隊。編隊は九人と非常に少ないが、全員が何かの分野で軍学校主席。数名は能力を所持。

 

佐々木三郎(ささきさぶろう)

・・・変人部隊副隊長。性格は明るく陽気。〜っす。が口癖。【自身の重さを無くす程度の能力】を所持。能力と相まって身軽で戦闘能力と跳躍力が高く、得意武器の三節棍やナイフで遊撃を務める。好物は焼き鳥。変人部隊最古参。

昔名桐に告白されたが、恐ろしく鈍感で分からなかった。今も分かっていない。ただし何かと名桐につるむ。

 

 

名桐陽子(なきりようこ)

・・・変人部隊通信長。性格は冷静で真面目。分析力が高く、各隊員に正確な指示を送ることが出来る。好物は煮魚。

変人部隊入隊前、変人部隊との合同演習に参加していたが、通信室に妖怪が潜入。もう少しで襲われるところを勘で気がついた佐々木に助けられる。佐々木に惚れて変人部隊に入隊。その後佐々木に告白したが、佐々木が鈍感過ぎて失敗。・・・今もほんの少しだけ好意を寄せている。

 

 

岸田洋平(きしだようへい)

・・・変人部隊見習いコック。性格は大人しく仲間思い。好物は味噌汁。浅野と高澤とは幼馴染み。料理が上手く、一度月読命に専属料理人に推薦されたが、浅野と高澤の為に飯を作る必要があるんで、お断りします。と拒否。以後も料理の修行中。龍一に弟子入り。

 

 

浅野瀬名(あさのせな)

・・・変人部隊救護係。性格は内気で恥ずかしがり屋。好物はホットケーキ。【傷を治す程度の能力】を所持。高澤と岸田とは幼馴染みで、高澤と婚約。変人部隊への入隊以前も以後も、あらゆる男からナンパされるも、高澤君がいるから・・・で全員撃沈。笑顔でどんな悪人も浄化される。

 

 

高澤禊(たかざわみそぎ)

・・・変人部隊近接戦闘担当。性格は物静かな熱血でど一途。好物は焼きそば。【塞ぐ程度の能力】を所有しており、両手から自分の意思で決めた形の盾が出せる。盾で殴ることも可能。その戦闘力の高さと能力の便利さから綿月姉妹にスカウトを受けるが、・・・浅野がこっちにいますから、無理です。と辞退。

 

 

武田勝也(たけだかつや)

・・・変人部隊中間戦闘担当。性格はやや軽めの不良。好物は鍋料理。【弱点を見抜く程度の能力】を所持。その能力を生かし、毒槍を装備し、更に相手の急所を正確に抉る腕を持つ。昔は殺し屋を経営していたが、持病を持つ七歳の妹の病状が悪化、より金の入る軍に所属。

今は龍一が妹の病気を完全に治療し、その事に感謝して残っている。

 

 

澤田嶺二(さわだれいじ)

・・・変人部隊火器担当。性格はマイペースで優しい。好物は辛い物。武器は爆弾やロケットランチャーなど。火薬系統の扱いに長けており、使用するのは勿論、爆弾解除もそつなくこなす。五人兄弟の長男であり、少しでも生活を楽にする為に軍に入隊。いわば口減らし。

今は襲撃成功によって自分が賞賛された為、家族への仕送りが倍増。時々里帰りもしている。変人部隊には面白いからと言う理由で残っている。

 

 

高木宇野(たかきうの)

・・・変人部隊機械担当。性格は努力家。好物は焼肉。戦車やコンピューター、電子機器の全てのメンテナンス、修理が出来る。捨て子だったのを前隊長に拾われ、以後機械類に留まらず、あらゆる雑用をこなす。変人部隊では類土と同じ最年少。類土とは親友。

 

 

類土昌(らいどます)

・・・変人部隊偵察担当。性格は口が悪いが仲間思い。好物は肉まん。偵察、その後の図説が上手く、絵も達者。高木と同じで捨て子だったところを前隊長に拾われ、雑用、偵察をこなす。高木とは親友。

 

前隊長

 

・・・名前は不明。ただし隊員からは白い紙と前に付いたブーメランのような髪がトレードマークとの事。

 以前の訓練時に建築物が崩壊し、他の隊員をかばい死亡。最後に止まるんじゃねえぞ・・・と言い残し、左手の人差し指を立てて前に出して倒れた。

 射撃の腕は高かったらしく、変人部隊全員の射撃指導をしていたため、変人部隊の射撃の腕は高い。

 

 

 次回へ続く





 ありがとうございました。

 次回はストーリーに戻ります。

 次回もお楽しみに。


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第九話 戦闘講座

文化祭で折り紙六十枚切ってねー☆と言われて百枚渡されたので全部切ってやりました。

ちなみに変人部隊の最初の名前、実験部隊にするつもりだったんですが、シンプルにふざけた名前にしました。鉄華団にしようとかは全く考えてませんでした。ええ、全然考えてませんでしたよ?


ゆっくりご覧ください。


 「と言ったわけで、彼は私が辺境で雇った直属の戦闘員です。文句のある方は出頭してください。以上」

 

 

 後日改めて俺は月読命に呼ばれ、朝の10時頃から軍の集会か何かに連れていかれた。・・・どうでもいいが話の焦点のずれた先生からの話四十分とかあったな。あれはただの漫才だな。

 てか、依姫と豊姫が恨んでる目ではないが睨んできてるんだが・・・

 

 

 「・・・あ、後矢川君は綿月のところに行ってください「へ?」・・・お願いしますあの二人睨んできてこえーです」

 

 

 せっかくキメてたのに全部台無しだな我が妹よ。やっぱりどっか抜けてるなあ・・・

 

 

 結局俺は月読命に押されて豊姫と依姫の前に出された。

 

 

 「・・・えー、あのー、すいませんでし「「鍛えていただけますでしょうか!?」」ヘアッ!?」

 

 

 意味が分からない。取り敢えず謝罪しようと思ったら鍛えてくださいと帰ってきた。ここ日本なのか・・・?

 

 

 「いやまあ良いんすけど・・・「敬語はなしです」・・・良いけどよ、ボロクソに言うぞ俺は」

 

 

 「構いません!・・・姉さんと私を焦ることなく倒した貴方に指導してもらえるなら・・・」

 

 

 「・・・ええ、流石手も出せずに負けました。のままじゃ悔しいわ」

 

 

 「・・・左様ですか。じゃあ場所移すか・・・」

 

 

 俺は灰色の義眼を外し、赤銅色の義眼に変える。

 

 

 「この辺りで良いか・・・転送」

 

 

 赤銅色の義眼の効果は空間操作。依姫と豊姫を指定し、都の外に転移させる。

 

 

 「え?」

 

 

 「何ぼーっとしてんだ、行くぞ」

 

 

 俺は藍色のベクトル操作の義眼に装着し直す。依姫と豊姫が揃って口を開けている。・・・やっべちょっとツボ入った。いかんいかん堪えねば・・・

 

 

「・・・じゃあ訓練行くぞ。一時間攻撃避けろ。「え、ちょ、いきなり過ぎじゃ」スタート」

 

 

俺は指を打ち鳴らし、周囲一帯にペイント弾を生成、発射する。

 

 

初めからこれですか・・・!?と刀を振りながら躱す依姫。殺す気かしら・・・!?と空間を開いてペイント弾を仕舞い込む豊姫。確かに鬼かもしれんが、ちゃんとペイント弾のペイントは水性にしてある。

 

「ちゃんと水性になってるから当たっても大丈夫だぞー「なら安心ね・・・」「って姉さん、そこじゃないですよ!」仲良いなお前ら・・・あ、タライ行きまーす「タライ!?」「うぐっ!」はい依姫にヒット。次、枕なー「タライは痛いですよ・・・何落としてるんですか!?」「わぷっ!・・・これはこれでイライラするわね・・・!」はい豊姫アウトー、次・・・どうしようかな。「アドリブですか!?」「これ、訓練なのかしら・・・?」文句言うな。行くぞー」

 

呑気な会話に見えるが、俺はタライ以外は全て高速で飛ばしている。

 

「あーあ、全然駄目じゃん。・・・お、佐々木みっけ」

 

 

開始から50分後、俺は近くの門へ猪の妖怪を持ち込もうとする佐々木をダッシュで捕まえた。

 

 

「ちょ!なんすか隊長!俺飯の補給してたっすよ!?」

 

 

俺は依姫と豊姫がペイント弾を避けている場面を見せる。

 

 

「・・・ごめん、手本見せてやってくれ。あいつら思ったより能力でごり押ししてやがった」

 

佐々木は猪の妖怪を地面に置くと、しょうがないっすね・・・と三節棍を構えた。

 

 

「・・・猪肉料理、岸田に頼んでたんっすがね・・・「俺作ろうか?」マジすか!?じゃあやるっす!」

 

 

佐々木が引き受けてくれたので、俺はペイント弾を止め、インクまみれの依姫と豊姫を呼ぶ。

 

 

「お前ら回避というか戦闘経験が浅すぎる。たまたま佐々木がいたんで十分だけ佐々木に手本をしてもらう「・・・いやいや、あいつらって綿月姉妹のお二人っすか!?無理っすよ手本なんて!?」良いからやれ。俺と手加減抜きの一騎打ちでも良いぞ「やらせて頂くっす!」・・・よかろう」

 

 

佐々木は綿月姉妹に一礼をすると、三節棍を構えた。

 

 

「そんな参考にならないと思うっすけど・・・」

 

 

「良いから、じゃあ行くぞー・・・スタート!」

 

 

数百のペイント弾の雨が降り注ぐ。佐々木は三節棍を長めに持つと、回転させ始めた。

 

 

「セイヤッ!」

 

 

佐々木はそのまま移動し、より弾幕の薄いエリアへと移動した。

 

 

「はいタライターイム。避けろ」

 

 

俺は佐々木の頭上にタライを生み出すが、佐々木は跳躍し、逆にタライの上に乗って回避した。

 

 

「んなっ!?」

 

 

「凄い、あんな方が・・・!?」

 

 

依姫は驚愕の叫び声を上げ、豊姫は感嘆の声を漏らし、俺は枕を佐々木の真横に生産する。

 

 

「でっ!枕っすか!?」

 

 

佐々木は困惑したが、三節棍を一節分短く持ち、片方を振り回したままにし、片方で枕を吹き飛ばした。

 

 

「お、流石にやるな・・・追加注文、コンニャク行きまーす「だーっ!?」ごちゃごちゃ言うな。背中に行ったぞー」

 

 

流石のコンニャクは誰もが予想しなかったらしく、佐々木にも当たると思ったが・・・

 

 

「ええい!頂くっす!」

 

 

食いやがった。流石にコンニャク食うのは予想外だった。出した俺も俺だが、食った佐々木も佐々木だ。こいつ中々の実力者じゃないのか?

 

 

「佐々木・・・思い出しました!戦闘トーナメントで私と姉さんと対決する予定だったのが、両方前日に腹痛と寝坊ででリタイアした方です!」

 

 

「確かに、彼はトーナメントでも見た事がないわね・・・」

 

 

「どうでも良いっすけどもう十分超えてるっすよ!?」

 

「いっけね。・・・ラスト俺行きまーす!」

 

 

俺は新月を抜刀し、佐々木に斬りかかる。

 

 

「ぜーったい今考えたっすよね!?・・・結局一対一になるじゃないっすか!」

 

 

そう言いながらも佐々木は三節棍を振り回して俺の新月をはたき落とす。が、既に俺は新月から手を離しており、振られたのを確認して三節棍の下をくぐって拳銃を突きつけた。

 

 

「はいアウト。新月を正確に叩いたのは賞賛に値するが、俺の武器は刀だけじゃねーぞ」

 

 

佐々木は諦めたのか三節棍を放り投げた。

 

 

「・・・流石にもう無理っすよ。後、飯の件はいいっす。そのかわりに昼過ぎに変人部隊の部屋に来て欲しいっす」

 

 

「オッケー・・・いきなり悪かったな。昼過ぎなら武田との用もない。了解した」

 

 

「特に何も要らないっすから、頼むっすよ〜」

 

 

そう言いながら佐々木は猪肉を担ぎ上げて跳躍で飛び去った。

 

 

「・・・ぐらいしてくれないと面白くないんだが?」

 

 

「「出来てたまるかっ!!」」

 

 

強烈な叫びありがとうございます。だが無意味だ。

 

 

「まあ大丈夫。多分あれぐらいまでは教えられるから・・・そうだな、後一時間ここにこの空間置いとくから使っといてくれ。俺は武田に呼ばれてるんでな」

 

 

「・・・急ぎの用があったんですね、引き止めて申し訳ありませんでした・・・」

 

「また改めてお願いするわ・・・」

 

 

「ああ、すまんな」

 

 

俺は青銅色の義眼に入れ替え、磁力の反発で都の一箇所・・・武田との待ち合わせ場所に飛んだ。

 

 

飛ぶ直前飛べるの!?とか言うツッコミは聞こえなかった。聞こえるわけがない。

 

 

到着すると、既にいた武田がソワソワしていた。

 

 

「あ、隊長・・・俺ここきついんすけど、場所変えてもらっていいすか?」

 

 

「きついって・・・何が?」

 

 

「人多いじゃないっすか、俺無理なんすよ・・・前の仕事のせいなんすけど」

 

武田は以前は都の幹部すら暗殺する凄腕の殺し屋だったらしい。それを佐々木が捕まえ、前団長が証拠がないのを良い事に給料が上がるぞと雇ったのだとか。ホント変人部隊にろくな奴いねえな。誰も反対しないのがいかれてやがる。

 

 

「職業のせいってお前な・・・」

 

 

「仕方ねえっすよ。・・・俺、親が居なかったんでどう話したらいいか分からねえし、佐々木に目つけられるまで妹としかほとんど話してなかったっすから・・・後は薬屋の永琳先生ぐらいしか話してねえんです」

 

 

そう言って武田は感情の薄そうな顔で笑った。

 

 

「お前な・・・」

 

 

俺はなんとなく腹が立って武田の頭を雑に撫でた。

 

 

「んなっ・・・隊長?」

 

 

「この野郎、若い癖にそんな台詞吐くんじゃねえよ。・・・永琳にお礼言いに行くんだろ、さっさと行くぞ」

 

 

「・・・うっす」

 

 

ほんの少しだけ武田の顔が緩んだ。・・・武田は最年少の高木と類土よりは年上だが、一番幼さが見えてしまう。

 

 

「隊長、俺、ちゃんと働きます」

 

 

「・・・そうか。無理するなよ」

 

 

そう言って俺の腕を掴む武田は、やっぱり子供に見えた。

 

 

 

 

次回へ続く

 

 




予想外かもしれませんが、佐々木は相当な実力者です。

・・・まああまり戦闘はさせませんが。

次回もお楽しみに。


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第十話 都にて・・・①

いっやー、テスト中だったの忘れてました。

しかも新人PCがアップロードとか言って動かなかったんですよ。
三日間。


 なんか前作よりも展開遅いんですよね。ゆっくりご覧下さい


「そういや武田、お前の妹ってどんな奴だ?」

 

 

俺は武田に永琳の家に案内される道中で尋ねた。俺は武田の妹を治療したのだが、薬を作っただけで実際には会っていない。

 

 

「あ、そうでしたね。・・・俺の妹は血ぃ繋がってねーっす。あいつは俺の前の寝ぐらの前に捨てられてたんで拾っただけです。永琳先生曰く、妹のことで難しい事になってるらしいんすけど・・・俺は馬鹿なんでよく分からないんです」

 

 

「マジか・・・」

 

 

俺が呟いていると、武田は俺を見ていた。

 

 

「じゃ、俺からも聞きますけど、隊長ってどこから来たんですか?」

 

 

「俺・・・?」

 

 

・・・ミスった。龍神なんて言えねえ。

 

 

「・・・まさか、隊長、人間以外っすか?」

 

 

「・・・まさか、んな訳ねえだろ。俺は辺境の村にいたのを月読命様に見つけられただけだぞ?」

 

 

「・・・そうっすよね!・・・すいません、忘れてください」

 

 

・・・危ねえ、武田の奴、なかなかに鋭い・・・!?

 

 

「・・・おう」

 

 

「あ、着きましたよ。・・・先生ー、俺です、武田です」

 

 

武田がそう言いながら戸を叩くと、永琳が現れた。

 

 

「待ってたわよ、武田君。・・・鏡一さんも、改めて挨拶がしたかったしね?」

 

永琳はそう言うと、俺と武田を手招きした。

 

 

 部屋に入ると、武田は包みを取り出した。

 

 

 「じゃあ俺から用事いいですか?」

 

 

 「・・・?ええ、気になってはいたけれど、何かあったかしら・・・?」

 

 

 武田は用があるとか言ってたが、永琳は知らんのか・・・?

 

 

 「これです。・・・妹の薬代。「え!?受け取ってるわよ!?」・・・駄目です。それは俺が裏で稼いだ金で、昔に言ったはずです。あれは取りあえずの金だって。先生にそんな汚い金で払いました。なんて言えません。・・・こっちは軍とバイトで稼いだほうです。受け取ってください」

 

 

永琳は首を横に振って、包みを武田に返した。

 

 

「・・・先生!「私は要らないわ」でも・・・!」

 

 

永琳はそっと武田の手を握った。

 

 

「気持ちは嬉しい。・・・でも、こんな事に大金を使うなら・・・妹に使ってあげなさい。今でも貴方だけには彼女は会いたがっているんだから」

 

 

武田は俯くと、包みを仕舞った。

 

 

「・・・すいません。そう言われると何も言い返せないです。・・・輝夜に会って来ます」

 

 

「そうしなさい。・・・きっと待ってるわよ」

 

 

武田は俺と永琳に一礼すると、立ち上がって人外並みの速さで走り去った。アイツも人外かよ・・・

 

 

俺が呆れながら武田の後ろ姿を眺めていると、永琳に呼ばれた。

 

 

「改めて・・・私は八意永琳。この都で医者と科学者をやってるわ。この前はありがとう。そしておめでとう、隊長ですって?」

 

 

悪戯っぽくからかってくる永琳に俺は顔を顰める。

 

 

「やめてくれ。・・・まさか簡単に都が落ちるとは思わなかったんだよ」

 

 

 ああ、三日だ。とか言って半日で都を落としたのがつい最近のようだ・・・つい最近だわ。

 

 

 暫くお互いの情報交換と言うか、お互いの近況を報告をしつつ身近な人物の恥ずかしい話を暴露していると、ふと永琳が真面目な顔になった。

 

 

 「・・・ところで、この話はしたかしら?」

 

 

 「ん?依姫がいい年こいて町で迷子になって半泣きになった奴か?それとも豊姫が食堂でつまみ食いしすぎて出禁になった話か?」

 

 

 「・・・違うわ。武田の妹ブフッ・・・ごめんなさい、急に依姫のその話するから、思い出し笑いが、止まらな・・・」

 

 

「で何の話だっけ?」

 

 

俺は一瞬で真顔に戻る。

 

 

「貴方機械じゃないの・・・?武田の妹の事よ」

 

 

「・・・まだ聞いてないな」

 

 

そう・・・と永琳は今までの中で一番暗い表情になった。

 

 

「彼の妹はね・・・貴族なのよ」

 

 

「へ?」

 

 

・・・いや、タイム。そんな英語の基本学ぶための例文みたいなことある?しかも貴族?どこの学校の例文ですかねえ。ヒズシスターイズノーブルってか。

 

 

「貴族ってあの、気品漂うイメージのあれ?「そうよ」・・・うへえ」

 

 

武田が凄いのかその貴族の妹がすげえのか分からんな。

そう思っていると、永琳が話し始めた。

 

 

「武田君は・・・それはもう月読命様ですら手の出せない殺し屋だったのよ。どんな警備で守っても、必ずターゲットが死ぬ。そして追っ手を必ず振り切る・・・都では泣く子に言うことを聞かないと殺し屋が来るよ。という躾言葉が出来たぐらいよ」

 

 

「化け物じゃん」

 

 

「貴方が言うの?・・・戻るけれど、逆に武田に守られる、つまり保護対象として認識されると・・・絶対に安全なのよ。・・・それを利用されたのよ」

 

 

 

「・・・つまり、武田は貴族の間の問題に巻き込まれたって事か?」

 

 

「ええ、それも大貴族の問題にね。都で相当な位にいる蓬莱山家の跡取り娘なのよ。武田の妹は。・・・でも、他家とのゴタゴタで命を狙われ始め、家臣たちが武田の所へ逃がしたのよ。武田もこっちの仕事に文句を言わない、という体で承諾したらしいわ。・・・初めは驚いたわよ。いきなり殺し屋がやってきて薬を要求するんだから」

 

 

 無愛想な顔で薬を請求する武田か・・・完璧に笑いを取るつもりだったな。

 

 

「しかも訳を聞くと拾い子の世話。おまけに病状も分からない・・・で、見に行ったら行方不明になってた貴族が大人しく座ってるんだもの。更に武田に懐いてる上に、武田も私以外に触れさせようとしない。おかげで大混乱よ・・・」

 

 

「・・・それで武田が俺にも来るなって言ったのか。どうりで佐々木も名桐も顔知らんのか・・・」

 

 

「ええ、そうなるわ・・・」

 

 

「あれ?じゃあ何でお前は知ってるんだ?」

 

 

永琳はきょとんとした表情をした。

 

 

「あれ?言わなかったかしら?私はその娘の教育係よ。貴方と会った時はその娘の為の医療薬の原料探しに出てたのよ。・・・あそこにいた全員、武田の妹を見たことはないけれど、助ける事は出来るって血眼で原料探しと妖怪の殲滅をしてたのよ」

 

 

・・・ほんとうちの変人部隊、やることなす事特殊な奴等だな。

 

 

「ん?じゃあ何で武田の奴は変人部隊に?」

 

 

「いつも通り武田が薬を買いに来た時に胃腸薬を頼んでた佐々木と付き添いの高澤が来たのよ。高澤が気がついて佐々木が捕まえた感じね。・・・ところが佐々木が「もう雇えば良くないっすか?」とかで雇ったそうよ?だから武田だけ傭兵扱いだったはず・・・」

 

 

「また佐々木か・・・」

 

 

正直変人部隊の前団長ばっかりに注目してたが、佐々木の方がヤバイんじゃないのか・・・?

 

 

俺が頭に手を当てていると、名桐から渡されていたトランシーバーらしきものが鳴った。

 

 

「次から次へと問題か・・・?俺だ、矢川だ。「あ、ちょっと佐々木!」「うおわあっ!?」「・・・何やってんだよ!副隊長!?」・・・電源切るぞ。「あー!待ってください!隊長ですね!佐々木が言ったと思いますが、今日の夕食がまだでしたら変人部隊の司令室に来てください!」・・・ごめんどこ?「ちょっと佐々木!?」「あ」「あ、じゃないわよ馬鹿!・・・今どこですか?時間になったら私が行きます!」「伏せろ名桐!」「へ?・・・きゃああっ!?」おい!どうした!?「・・・俺です、高澤です。名桐通信長が火薬の暴発で吹っ飛んだので俺です」無事なのそれ!?「多分」確証薄っ!?「まあクラッカーなんで大丈夫ですよ」音がロケットランチャーだったんだが・・・?「とりあえず・・・あ、名桐無事でした。名桐が向かうと思います」・・・了解。武田は?「居ますよ。妹も連れてます」んー?「あ、またクラッカー爆発するんで切ります」どんな状況だよ!?・・・マジで切りやがった」

 

 

フリーダム過ぎない?クラッカー爆発って何だよ。ロケットランチャーをクラッカーとは言わんのだがな・・・武田も妹で大変なんだな、支えてやらないと・・・って思ってる時に妹連れてくるんかい。感情を返せ。

 

 

「賑やかな電話ね「騒がしいの間違いだろ?・・・でも、嫌いではないな。・・・ヘリの音がするのは夢だろうしな」「隊長ー!」「ごめん正夢だわ」そうみたいね・・・」

 

 

何処のバカが俺を迎えにくるのにヘリ呼ぶかなぁ?

 

 

「・・・ごめんなさいね。長くなっちゃって」

 

 

「いや、こっちも無知だったんでな。色々知れた。ありがとう。・・・迷子と出禁の件は墓まで持って行くわ。「ちょっとそれやめて・・・!」・・・また来ると思う。じゃあな」

 

 

俺は永琳に礼を言うと、玄関を出てバリバリうるさいヘリに飛び乗った。中には高木と名桐が居た。

 

 

「あ、隊長!名桐通信長に頼まれて持って来ましたよ!ヘリ!「ちょっと高木・・・」「ほほーう」・・・なんかまずかったですか?」

 

 

俺は何でもない、ありがとうと高木に礼を言うと、高木は眩しい笑顔を向け、俺は冷や汗を流す名桐の頭を掴んだ。

 

 

「でお前は?・・・覚悟出来てんのか?」

 

 

「い、いやこれはあれですよ!車が全部出払ってたんです!「え?たくさんありましたけど?」「遺言は?」ごめんなさい悪かったですもうヘリできませんから「鎮圧」へぶっ」

 

 

俺は謝罪する名桐を頭突きで黙らせ、苦笑している高木に発進を求める。

 

 

「このTPOわきまえない馬鹿は無視して発進してくれ。なんかすまんな」

 

 

「いえ!通信長がこんなに騒いでるの久しぶりで、俺も嬉しいですから!」

 

 

高木が眩しい。ここに類土もいたら浄化されてるレベルだぞこれ・・・

 

 

 「じゃあ、行きます!」

 

 

・・・何故だろうか、ヘリにはニトロが積んであった。

 

 

高速で飛び回るヘリの中、俺は確信した。

 

 

駄目だわこの部隊。頭いかれてるんじゃねえの?

 

 

何故かブーメランを想像しながら、俺はそんな事を考えた。

 

 

 

 

 

 

ついでにヘリは着陸時に爆発した。

 

 

 

 

次回へ続く

 




 ありがとうございました。平和回でした(?)

 次回も多分平和回です。

 次回もお楽しみに。

 

 


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第十一話 都にて・・・②


うーん、今更ながらネタ、どっから出てたんですかね・・・

あの頃のようなイカれたネタが出ない・・・


なんとか取り戻します。ゆっくりご覧ください。


 「・・・ゲホッ!誰だよヘリに自爆機能つけたのは・・・!?」

 

 

 着陸後、ヘリはプロペラが爆散し、爆発のカウントダウンを始め、大急ぎで高木と名桐を担ぎ上げ脱出した。けが人はゼロなのが今回のラッキーだった。・・・まあそもそもヘリのニトロが爆発するってのが異常なのだが。そらプロペラぶっ壊れるわ。

 

 

 「・・・まあ今回は不問にするか。ところで、俺呼ばれた理由って何?」

 

 

 ついさっき気絶から復帰した名桐に尋ねると、嬉しそうに答えた。

 

 

 「何って・・・!隊長の歓迎会ですよ!せっかくだからお祝いするんですよ!」

 

 

 「・・・マジで言ってんの?」

 

 

 「当然じゃないですか!ねえ?高木?」

 

 

 「そうですよ!団長は俺達のこれからの生き方を変えてくれたんです!だったら恩返しするのが筋ってもんですよ!」

 

 

 「・・・ああ、そうか・・・?」

 

 

高木もそう言いながら嬉しそうにする。都陥落作戦の事だろうか・・・?まあいいか。

 

 

「あ!着きましたよ!」

 

 

高木の弾んだ声で俺は思考を止め、高木と名桐がここだと言い張る要塞を見上げた。

 

 

「・・・これが?要塞じゃなしに?」

 

 

「違いますよ隊長!どう見てもウチの部隊の拠点ですよ!」

 

 

違う。俺の知ってる拠点には上の見えない壁なんてない・・・!

 

 

「団長、とりあえず入って下さい!」

 

 

「そうね!隊長!早く!」

 

二人に後押しされて入り口に手をかけると、

 

「団長!上です!」

 

 

「へ?」

 

 

壁が崩れ落ちてきた。殺意高ッ!!

 

 

「お前ら殺す気か・・・?」

 

 

俺は土砂崩れを何とか躱す事が出来た。

 

 

「やっぱり佐々木君がお料理しちゃダメですよ・・・」

 

 

「佐々木・・・お前もう名桐に作ってもらえ。誰にだって得意不得意はあるんだ・・・」

 

 

「もうやめてくださいよ副隊長!何で副隊長が包丁を持つと飛ぶんだよ!?せっかく高澤さんの作った壁まで壊れたじゃないですか!」

 

 

「・・・輝夜、頼むから飯作りはああならないでくれよ「はーい!」・・・佐々木副隊長、輝夜の影響に悪いから止めて下さい」

 

 

先程の壁崩れのせいか、ぞろぞろと部隊が出て来たが、瓦礫の上で座る俺を見ると、慌てて室内に戻って行った。

 

 

「佐々木君!隊長が来てる!急いでやめて!」

 

 

「お前、隊長殺しかけてたぞ・・・!」

 

 

「ブッ!マジっすか!?」

 

 

「団長に謝りに行った方が良いですって!」

 

「輝夜、絶対に佐々木副隊長みたいになるなよ「私は兄上みたいになりたい!」・・・それはそれでやめとけ」

 

 

結果、佐々木がダッシュで俺の方にやって来て、土下座した。

 

 

「申し訳ねえっす・・・!!料理してたら隊長が・・・!!」

 

 

一体どんな料理を作るつもりだったのかぜひ伺いたいが、それ以前に瓦礫の片付けだ。

 

 

「・・・いや、まあいいから片付けようぜ?後で詳しく聞くからさ?」

 

 

流石に色々あったとは言え都を落とした俺らの集まりの拠点なんだ、綺麗にしようぜ?

 

 

「そうっすね・・・お手伝いお願いするっす・・・」

 

 

「よし、任せろ」

 

 

佐々木に頼まれたのを皮切りに、俺は土砂崩れの山を消し去り、そのまま雑巾で拠点を全部拭き切った。勿論ゴミは分けてある。

 

 

「はい掃除終わり」

 

 

「「速っ!」」

 

 

女性陣の名桐と浅野に突っ込まれる。

 

 

説明しよう。俺はまあグダグタ生きてるわけで・・・家事全般は俗に言うカンスト状態だ。まだカンストしてないのは二丁拳銃と剣術程度か。その辺りはやはり一筋で生きてる奴には負ける。

 

 

「隊長・・・どうやったら天井歩いて雑巾拭き出来るんっすか?」

 

 

「掃除が好きだから?」

 

 

「いやそんな馬鹿な・・・」

 

 

「高澤さん、俺も同意見です・・・それだけでこれはちょっと・・・」

 

 

「いや、それ以前にタイムが・・・」

 

 

タイムも何も、こちとら八百万の小僧どもの身辺整理と部屋掃除を一夜で済ませていたのだ。今更拠点の一つ二つ、窓拭きと同レベルよ!

・・・なんて言えないので適当に能力で加速した。とだけ言って流した。やめろ武田、コイツヤバい奴だみたいな顔するな。元からだろ?

 

 

「そうだ!岸田は!?」

 

 

何かに弾かれたように名桐がそう言うと、澤田が答えた。

 

 

「アイツなら・・・高澤が本気で守った浅野の背後にあったキッチンで格闘してるぞ。・・・猪肉と」

 

 

またあの可哀想な猪妖怪か。・・・もう絶滅するんじゃなかろうか?

 

 

「じゃあ無事なのね?「そうだな」・・・なら、隊長を案内しましょ?いつまでも玄関じゃダメじゃない!」

 

 

掃除しましたは黙るとして、俺は案内された。

 

 

俺は流されるまま案内され、一つの部屋の前で止められた。

 

 

「ここっす!・・・てか、なんでまた俺が一番前なんすか!?「一応副隊長でしょ」・・・いや、名桐、それだけじゃ理由に「アンタの料理の余波で何か起きるかもしれないでしょ!」・・・だからこそお前に頼らずに飯の練習してるんだよ!「それぐらいさせなさいよ鈍感!」・・・んだと」

 

 

「夫婦漫才やめろよお前ら」

 

 

「高澤が言わないで!「お前が言うな!」」

 

 

「・・・すまん」

 

 

「ええい、話が進まん。・・・さっき掃除した時通ったから何ともない・・・先に入るぞ」

 

 

佐々木と名桐の漫才を流してドアを開くと、発砲音とともにクラッカーのカラーテープが俺に浴びせられた。

 

 

「・・・お、おぉ?」

 

 

「「「「「「「「就任おめでとうございます!隊長!!」」」」」」」」

 

 

クラッカーの方を見れば、料理していたはずの岸田が構えていた。

 

 

「おめでとうございます!隊長!」

 

 

いまいち状況の分かっていない俺に、名桐の賛辞と、武田の妹がしゃがめと合図してきた。

 

 

「おめでとうございます!兄上をよろしくお願いします!」

 

 

「おい、輝夜・・・」

 

 

「団長!これは俺と高木からです!」

 

 

そう言って類土と高木からは旗が渡された。

 

 

銀をベースとし、黒で作られた拳銃が二丁交差した絵の上に、俺たち全員のメンバーの名前が赤で書かれていた。

 

 

「・・・俺と高木でデザインした部隊旗です!」

 

 

「いや、ありがたいんだが、お前らさっきまで喧嘩してただろ?ありゃ何だ?」

 

 

「俺と名桐で決めたフェイク喧嘩っすよ!・・・そんな名桐と喧嘩できないっすよ、第一喧嘩しても負けるし・・・」

 

 

「ちょっとどういう意味よ!?」

 

 

「まあ落ち着いて下さいよ・・・妹の輝夜です。やっぱ隊長とみんなには伝えるべきだと思って連れてきました。妹共々よろしくお願いします」

 

 

武田が土下座しそうになったので止め、武田と輝夜に向き直った。

 

 

「武田、大変だったら頼れよ。・・・輝夜だな、お前の兄貴の隊長だ。一応な、よろしく」

 

 

「はい、ほうらいやま輝夜です!「ほうらいさん、な?」・・・名前難しいです!やっぱり兄上と同じ武田輝夜がいいです!「ダメだ」何でですか!」

 

 

「お前ら、飯出来たぞー・・・あ!隊長!飯、見てもらえますか!?」

 

 

周囲が騒がしく俺を包む。1億年以上一人だったので慣れていたつもりだったが、やはり家族以外の誰かがいると楽しい。変人しかいないのが誠に残念だ。

 

 

「よし!類土と高木の旗は採用!佐々木と名桐の喧嘩は放置!輝夜、武田ってのは軍に入らないと無理な名前なんだ、我慢してくれ。岸田!一番出せる飯と出せない飯出してこい!試しに食ってみる!以上!要件ある奴は後で来てくれ!」

 

 

「「「「「「「「イエッサー!」」」」」」」」

 

 

結局、こいつらは深夜帯まで歓迎会をしてくれた。類土と高木の旗は気に入ったし、岸田の飯も多少の修正で店が出来る程だった。

 

 

全員が酔い潰れるなり眠るなりしているところで、俺は月読命から寄越された書類を眺めていた。

 

 

妖怪、特に鬼類の行動活性化。それによって少ないが都民に被害が出ている。軍は警備体制を強化・・・

 

「・・・とか言いながら俺にだけよこすのか。要は俺に倒してくれって事だよな、これ」

 

 

鬼か・・・実物は知らないが、大男などのイメージが大きいな。・・・あり?昔に大男にあった気がするな・・・?いやでも鬼ではないよな・・・?なら何だ?

 

 

「ま、今は後回しか。そもそもそこ行くと双子ってのが意味わかんねえしな。・・・鬼、あえてぶっ倒さずに味方につけるか?それとも人質を取るか?・・・全部殺すか?」

 

 

なかなかに面白い。長くダラダラと鍛える行為しかしていなかったしな。いよいよ実践が多発するな!

俺は義眼を山吹色の義眼に変え、所有筋力を爆発的に上げる。

 

「さてと・・・明日の朝かな?軽ーく行くか!」

 

 

鬼、今までとは全く違う攻撃パターンだろうな!

とりあえず和解のパターンで行くか!

 

____________________

 

 

翌日、矢川は都の拠点から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

尚、その日の夜に戻った模様。

 

 

 

次回へ続く

 

 





ありがとうございました。


次回は戦闘・・・になると思います。ゆっくりご覧ください(戦闘描写ド下手)


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第十二話 なぐりあい地球

戦闘回になってるか分かりませんが戦闘回です。


ゆっくりご覧ください。


 

なんか都で俺がいないとかで大騒ぎになっているのを無視して、俺は朝早くから鬼の集落の近くの茂みで寝転がっている。既に鬼は現れ始めて酒盛りをしている。呑気すぎやしねえか・・・ってどっちもどっちか。

 

 

現在視認できるのは鬼が11人。その内1人が2メートル程で女性の鬼の様だ。おそらく主格だろう。・・・記憶にある大男よりは小さいが、やはりデカイ。(龍一身長198センチ)

 

 

とか言ってたら鬼達の酒盛りもそこそこ盛り上がっている様なので、そろそろ動く。手に持つのは酒の一升瓶10本。間違っても投げるわけではない。

 

 

「すいませーん!誰かいますかぁ!?」

 

 

鬼の集落に人間が酒持って叫ぶとかまあ基本自殺行為だ。自殺志願してても流石にしないだろう。

 

 

「あん?」

 

 

ほらもう目つけられた。一応前世では怪奇現象やら妖怪やらの書物は読み漁っていたので鬼は分かっているつもりだ。

 

 

「よしな。・・・お前、そこそこ変なにおいがするが、人間だね?ここが鬼の住処だって分かってるのかい?分かってないなら・・・いや、悪いね、分かってるみたいだ。変なこと言っちまった、忘れとくれ。・・・で、何の用だい?喧嘩かい?」

 

 

主格であろう鬼が俺に警告をしてくれたが、俺の持つ酒を見ると頭を下げてニヤリと笑った。

 

 

「ま、そんなもんかな。いきなりだが賭けしようぜ」

 

 

「賭け、かい?」

 

 

「ああ、丁度ここに酒がある。瓶一本ごとに一勝負。・・・最後に主格であろうアンタに勝負、これはマジもんの喧嘩を挑む。どうかな?」

 

 

「うーむ、こいつらも久しぶりに人間と腕相撲で対決出来るから文句はない。けど、アタシと勝負する時は何を賭けるんだい?」

 

 

俺は自分の胸を叩いた。

 

 

「これで。俺の命を賭ける。万が一俺が賭けに勝ったら・・・向こうにある都と同盟を組んでほしい」

 

 

主格の鬼は面食らった様な顔をした。

 

 

「それだけで賭けをしに来たのかい?その根性だけで十分受けるんだが・・・やる気みたいだね。面白い奴だ。アタシは茜。アンタ、名前は?」

 

 

俺は酒を茜に突き出して言った。

 

 

「変人部隊、隊長。矢川鏡一だ」

 

 

「へ、変人部隊!?」

 

 

鬼の一匹が叫び声を上げた。

 

 

「ん?知ってるのかい?」

 

 

「知ってるも何も茜さん、最近弱小妖怪を捕まえてはその場で料理する化け物集団ですよ!鬼の一匹が喧嘩を挑んだ時も手が硬くなるやつにやられたそうですよ!・・・そこの部隊の隊長だと・・・!?」

 

 

捕まえて料理する集団・・・間違っちゃいないがいざ言われるとぶっ飛んでるな・・・手が硬くなる奴って高澤か・・・

 

 

「尚更面白いね!・・・賭けの結果抜きで条件は受けよう!そのかわり、最後までやってくれるね!?」

 

 

「勿論。鬼は嘘が嫌い。だろ?」

 

 

俺は鋼鉄で出来た机を召喚し、腕を置いた。

 

 

____________________

 

 

結果は腕相撲全勝。義眼は反則では?と思われるかもしれないが、あくまでも所有能力を表に出すための装置だ。逆にこれがないと一般人だ。

 

 

「・・・流石にウチの自慢の奴らがやられるとやる気が出るねえ!まずは小手調べと行かせてもらうよ!」

 

 

全員に圧勝したせいか茜に気に入られ、まずは腕相撲をすることになった。机が心配だ・・・

 

 

「じゃあ、行くよ!」

 

 

右腕に他とは比べものにならないほどの凶悪な力がかかる。俺はそれを食い止めようと全力で抑える。

 

 

「重っ!!お前ホントに鬼かよ!?別の生き物じゃねえの!?」

 

「アンタこそ人間じゃないだろう!!どんな力持ってんだい!?」

 

 

「「「「「「「「「「アンタらが言うなっ!」」」」」」」」」」

 

 

次第に机が煙を上げながらメキメキと音を立てる。・・・鋼鉄だぞこれ・・・!?

 

 

「はあっ!」

 

 

「ウェイ!」

 

 

机が折れた。あーあ、デスカー・・・

 

 

「ふぅ・・・」

 

 

「ふぅじゃねえよ机壊すとかもう・・・やめようぜ?」

 

机可愛そう。後で椅子に作り変えてやろう。

 

 

「まあいいか、・・・じゃ、お楽しみの喧嘩って事だな?」

 

 

俺は踵を浮かせ、拳を構える。

 

 

「そうなるねえ・・・でも、アンタは旦那にゃ向かないね」

 

 

「ちょっと何言ってるか分かんねえ」

 

 

「なんで分からないんだい」

 

 

「いきなり結婚考えるとか馬鹿か?」

 

 

「いーや、そこそこ本気だよ。強さは申し分ないけど、もうちょっと大きい方が良いかねぇ・・・」

 

 

「どんな大男要求してんだよ!?一人しか心当たり無いし会えるか分からん、それぐらい確率低いぞ!?」

 

 

「まあのんびりと探すかねぇ・・・さ、行こうか!」

 

 

お互いに準備が出来たので、俺は受けの姿勢をとる。

 

 

「ん?来ないのかい、・・・じゃあこっちから行くよ!」

 

 

茜は体格から想像のつかない速度で殴りかかって来た。

 

 

「・・・はっ!」

 

 

俺は殴りかかって来た拳を掌で一度弾き、受け止める。

 

 

「捕まえたっと!」

 

 

俺はそのまま背負い投げに移り、投げ飛ばす。

 

 

「おおっ!?」

 

 

茜は予想外だったのか地面に背中を打ち付ける。が、ひるむ事なく俺の服を掴み、寝そべった状態のまま俺を投げ飛ばした。

 

 

「でーっ!?」

 

 

俺はそのままぶっ飛ばされたが、何とか着地した。

 

 

「痛覚ないのかよあの化け物・・・」

 

 

「アタシの拳を流すのかい・・・やるねぇ」

 

 

お互い攻めに攻めきれず、守ることも不可。

 

 

「まあこうなりますわなぁ!」

 

 

結果シンプルな殴り合いになった。一時間戦争、なぐりあい地球。

 

 

茜が殴れば俺が蹴り、俺が蹴れば茜が殴る。

 

 

周囲には殴る音と折れる音しか聞こえなくなり、お互いにフラフラになる。・・・まあこっちは今は人間のスペックなんで勘弁してくれ。

 

 

「なかなか・・・やるじゃないか」

 

 

「遅かったじゃないか、ミッター・・・ごめん間違えた。なかなかやるな・・・」

 

 

俺は大きく息を吸い、止めた。

 

 

瞬間、茜が今までの中で最も強烈な一撃を放って来た。・・逆に言うと隙の大きな攻撃を晒した。

 

 

「ッシャオラァ!」

 

 

俺はそれをしゃがんで回避し、アッパーを顎に喰らわせた。

 

 

「ッッッ・・・降、参、するよ・・・!!」

 

 

茜はしばらく耐えていたが、そう言うとやがて倒れた。

 

 

「危ねえ危ねえ・・・負けるかと思った・・・」

 

 

尋常ならん相手だった・・・てかまだボコスカやったせいで視界がグラグラする。

 

 

「オイオイオイ、勝てんわ俺ら」

 

 

「ほう・・・茜さんを倒したのか・・・やべえな」

 

 

「・・・なんかお前らざわついてるけどあれだろ?勝ったことあるだろ?」

 

 

すると鬼10人が全員首を横に振った。

 

 

「無理無理無理、俺ら10人束になってもぶっ飛ばされるわ!」

 

 

「そもそも負けたとこ見た事ねえぞ・・・」

 

 

「それ倒す人間とか意味わかんねえぞ・・・!?」

 

 

 などと言っていると、茜が起き上がった。まだ数分もたってないんですがそれは・・・

 

 

「いつつ・・・効いたねぇ」

 

 

「一般的に食らって数分で何事も無かったようにできるのを効いたとはいえないんだが・・・」

 

 

「ん?これぐらいの再生ならアタシは簡単に済ませられるよ?・・・まあまだブラブラしてた時に聞いた話によると、トウコツとか言う妖怪はアタシ達より力が強く、傷を負わない、死ぬまで戦い続ける、とか言うのがいるらしいね」

 

 

吐くわそんな奴。要は茜以上の破壊力持った奴が死ぬまで同じ火力で殴ってくるとな?死んだわ。どんな魔境よ。

 

 

「どっから聞いたんだよそのいかれた奴の話」

 

 

茜はしばらく考えた後、思い出したように答えた。

 

 

「顔は見えなかったし、声も掠れてたけど・・・ファン・・・何だっけね。あんまり聞かない名前だったね。片腕と片足がなかったね。・・・そいつがトウコツって奴と知り合いらしいけどね」

 

 

何だよファンなんとかって、ファンシン(阪神)か、ちょっと訛ったのか。いや人の名前が阪神ってのも珍しいか。

 

 

「とりあえずそのファンなんとかもやばい奴っぽいな。絶対会いたくないわー」

 

 

とか言いながらニヤニヤしてしまってる俺。バトルジャンキーじゃねえか。

 

 

「アンタ、なかなかの嘘吐きだね。・・・けど、アンタの嘘は面白い。・・・ひょっとしてウチに喧嘩しかけてきたのも・・・」

 

 

「ああ書類で頼まれたけど好奇心十割」

 

 

「無茶苦茶じゃないか・・・!」

 

 

「誰が逆に頼まれてぬけぬけと来るんだよ。そんな奴鬼に親殺されたやつしか出ないって」

 

 

すると納得したように茜は頭を掻いた。

 

 

「まあ・・・これでも鬼子母神とは呼ばれてるからねぇ」

 

 

吹いた。喧嘩相手が鬼子母神だったとか酷過ぎる。確かにリーダー格だと思ったが、こんな化け物は期待していなかった・・・!

 

 

「ゲホッ!・・・先に言えこの野郎。どーりで強いわけだ」

 

 

「まあそう言わないでくれるかい?人間に負けたのは流石に面子が立たないんだ・・・「あ、俺人間じゃないから」は?」

 

 

俺は八岐の剣を取り出すと、茜の前に翳した。

 

 

「俺は神矢龍一。まああんま知られることしてないけど「拳骨神だね?」・・・その名前やめろぉ!・・・まあそんなわけだ。嘘ついた体になっちまったな。すまん」

 

 

茜はしばらく八岐の剣をしげしげと眺めていたが、やがて天を仰いだ。

 

 

「とんだ奴と喧嘩したもんだ・・・そりゃ負けても仕方ないねぇ」

 

 

諦められた。これはこれで悲しいかな。・・・ファンなんとかとトウコツとも見つけたら喧嘩するか・・・

 

 

「・・・そのファンなんとかって奴、どこに行ったか知ってるか?」

 

 

「・・・うわ、早速しかけようとしてるよ。・・・ここからうんと西だね。海を越えた先にある陸から来たらしいよ」

 

 

すると中国付近なわけか・・・中国で知ってるの四聖と麒麟と四凶と九尾だけだな・・・四凶なんて名前しか知らねえなぁ・・・

 

 

「サンキュ、またあの都から出るときは探してみるよ。・・・ま、来年ぐらいには出そうだがな」

 

 

「うん?なら何でアタシ等と組んだんだい?」

 

 

俺は登り始めた月を指差した。

 

 

 「いずれ月に上るんだと。その時の護衛頼む」

 

 

 「月に?そりゃまたなんでさ?」

 

 

「人間は汚いな。・・・死にたくないからって穢れなき月へと逃げるんだぜ?お前等が一番汚いっての。・・・まあなかなか知り合いもいるし言えんがな」

 

 

 「要は月で永遠に繁栄ってことかい。くだらないね」

 

 

俺は月を睨むと、立ち上がって都に足を向けた。

 

 

「てなくだらない理由で大事な奴らとそのオマケの馬鹿ども守る為に帰るわ。・・・今回の件は感謝してる。また会ったら贔屓にするぜ」

 

 

茜はカラカラと笑って立ち上がった。

 

 

「龍神の贔屓かい?そりゃ楽しみだね」

 

 

「まあお楽しみにって事で。じゃあな!」

 

 

俺は山吹色の義眼を入れ替えて時間空間の銀に変え、ワープした。

 

 

トウコツにファンなんとか。意味のわからない奴らがぎっしりいるようだな。・・・楽しみだ。

 

 

俺は再び戦闘狂思考になりながら、失踪していたことを問い詰める永琳や綿月姉妹、変人部隊をなだめ始めた。

 

 

次回へ続く




ありがとうございました。


ファンなんとかの全称は後々出ます。


次回もお楽しみに。


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第十三話 乱争、故に我笑う


このまま行くと龍一が都に永住して完!
とかなりそうになって来たのでそろそろ都編シメます。

では、ゆっくりご覧ください。


 あれから一年、・・・いやだって特筆すべきことないし・・・予想通り、半年過ぎた頃から月読命に話を振られた。初めに「ふふん、兄上、月に興味はありますか?「ねえ」・・・ごめんなさいちょっと見栄張りました手伝ってくださいお願いします」は笑った。見栄かよ。

 

 

 ともかく、ロケットの作り方は俺しか知らないので適当に高木と類土と澤田と作った。

 そのせいか多少物理法則から外れた。何、たかだか重さが1トンになっただけだ。何の問題も無いだろ。

 

 

「・・・なんか静かですねえ、ここしばらく妖怪も出ないし、ロケットも完成しましたし、このまま行けますかね?」

 

 

そう言いながら類土は笑った。・・・すまん、俺には平和を喜ぶ発言に聞こえるが、不穏さしかない。

 

 

「ああ、確かに静かだな。隊長が来てから全部上手く行ってる。これからもこの道が続くと良いな」

 

 

そう澤田が続ける。何故か不安が離れない。

 

 

・・・話を戻すが、俺たち変人部隊はここ一年で特別部隊・・・月読命専属の特殊部隊に昇級した。

 

 

佐々木と名桐は二人で偵察部になった。佐々木が偵察、遊撃を勤め、名桐は通信でターゲットの位置を捉える。二つ名は飛翔の佐々木と電子の名桐らしい。・・・二つ名は全員付けられている。

 

 

高澤と浅野夫婦は・・・正確にはまだ結婚していないが、二人は動く要塞医療チームになった。高澤が壁を張り、浅野が回復する。危なくなれば高澤が鈍器で撃退する。二つ名は冷やかし八割のこもった、既婚寸前の高澤浅野だそうだ。さっさと結婚しろ。

 

 

武田はスパイ・・・月読命に頼まれて、裏切り者や不穏分子を殺す係になってしまった。輝夜が妹だというのもあり、ひっそりと・・・月読命の保護の下、表には出ずにのんびりと生活している。二つ名は恐怖十割で作り上げられた、毒殺の武田。

 

 

岸田は料理を続け、俺並みの料理スキルを手に入れた。だが妖怪を調理するのは受け入れられないらしく(当然だが)、二つ名はマッドコック岸田だそうだ。よかったな。

 

 

澤田、高木、類土は三人で装甲車を乗り回すようになっている。コップ満タンの水すら零さない高木の天才的なドライブテクニック、絶対に外さない類土の副砲の機関銃、圧倒的な破壊力と連射力を持つ澤田の主砲。三人揃って荒野の暴走族だとか。一番的確なのがツボる。今日も今日とて乗り回し、妖怪を撃退している。

 

 

依姫、豊姫もあのペイント弾レッスンでコンニャクまで到達した。時々俺が入り、佐々木と同じく接戦になっている。尚佐々木は最近常にタライの上で暴れ回る芸を身につけ、変人部隊の中では唯一飛べる変人と化した。

 

 

永琳は、俺の持つ変態科学力が気になったらしく、また俺も都の科学力が気になり、仲良く意味のわからないものを開発した。レーザーブレード、ショックガン、そして何と言っても全自動卵割り機などの傑作が出来上がった。後核。

 

 

俺は欠伸をしながらロケットを見て回り、地下に封印した核のロックを解除した。

 

 

都の奴らが月に上がったのち、ここの歴史は地上から抹消するらしい。月読命曰く、人はやっぱり自分で進むべきだと言うことだ。同感だな。だから神の関わった者達以外にはここの技術は必要ないと言うわけだ。頑張れ人間。ちなみにスイッチ押すのは俺。変人部隊の隊長に核起動スイッチ押させるとか狂ってんじゃねえの?

 

 

 

 

 

・・・なんて言えれば良かったんだがな。現実は小説より奇なり、漫画より滑稽なり、久々に食いたい稲荷。

 

 

 

さて、今までのは数時間前の回想なわけで、まあそんな上手くいくわけなく、妖怪が攻めてくるので、いやもう攻めてきたので、

 

 

「さっさとくたばれやアホ共ォ!!」

 

 

現在進行形で新月振り回してます。後撃ちまくってます。

 

 

どうなったと言われれば、普通に億単位の妖怪が群れをなして突っ込んできました。・・・としか言えん。億の対策なんてねーよ。あったら逆にそいつが首謀者だ、殺せ。

 

 

「あ!鏡一!こちら姉さんと私の部隊です!ここは食い止めますので他・・・変人部隊の方ををお願いします!私では統率が取れません!」

 

 

「鏡一さん!あの人達の為にも行ってください!」

 

 

依姫と豊姫が飛躍的に上達した剣術で妖怪を薙ぎ払いながらやってきて、そう言ってくれた。・・・と言えば優しいが、要はアイツらやっぱ纏められません頼みました!である。・・・少しは普通に活動してくれんかね、俺の部隊。妖怪が最も多い所をアイツらだけで担当していると聞くと胃が痛む。おちおち一人で一番大きな群れを壊滅させる事も二回しか出来ない。

 

 

・・・まあその場で倒した奴を飯にする奴と要塞を展開する奴と回復できる奴と戦車乗り回す奴がいれば妥当か?・・・妥当もクソもあるか。

 

 

などとしている間に依姫の炎と豊姫の扇子でゴリゴリと妖怪共が減って行く。・・・面攻撃に対してはもうあの二人に勝てる人間は都にはいないだろう。

 

 

「おーい!援護に来たぞ!大丈夫そうで何よりだ自重しろ!」

 

 

「遅いっすよ!・・・高澤!「よし来た」ナイス!」

 

 

あくまでも面攻撃は、だ。串刺しにしてはどんな力を持っているか分からない怪力で死体を遠くに投げる武田、三節棍で周囲の妖怪を転倒させ、盾で上から潰す佐々木と高澤、ここぞとばかりに爆走する装甲車に乗る高木、類土、澤田。辺りに散らばる妖怪の死骸の山。

 

「世紀末かここ?」

 

 

「何言ってるんですか。飯、出来てますよ」

 

 

そしてその場で飯を作る岸田。鬼やコイツ等。目の前で身内が殺されて即料理されてるとか最悪すぎる。

 

 

「あ、隊長、そっち行きました」

 

 

武田のやる気のない叫び声(?)の後、人型の妖怪が飛び出して来た。

 

 

「もうちょっと危機感持って叫んでくれよ・・・」

 

 

俺はそいつの顔面を殴り、怯んでしゃがんだ所を蹴り飛ばした。

 

 

「危ねえ・・・なぁ!!」

 

 

俺は蹴り飛ばされ、倒れ込んだ妖怪の頭を踏み潰した。

 

「流石にここまでやれば・・・「うあっ・・・!?」「高澤君!?」・・・クソッ!撤退してろ!」

 

 

俺は何処から湧いて来たか分からない高澤を貫いたモノを掴み、投げ捨てた。が、何故か高澤の盾を貫通し、高澤の体を抉ったモノはウネウネと動き、先端部がパックリと二つに割れた。

 

 

「隊長・・・!?」

 

 

武田と佐々木が駆けつけようとするが、あまりにもそのモノから出る瘴気が強すぎて、他のメンバーを庇いながら下がった。

 

 

「やめとけお前ら。あんな意味分からんのに敵意向けるな。・・・月読命様に伝言。至急ロケットを起動すべし。とだ。アレちょっとマズイかもしれん。頼んだ」

 

 

そうしている間にもモノは動き、周囲の妖怪の死骸を呑み込み始めた。

 

 

「隊長は・・・大丈夫なんすか?」

 

 

佐々木の心配そうな愚問に俺は笑って答える。

 

 

「馬鹿野郎。俺に任せろってんだよ。まあなんかあったら死んどくから」

 

 

「・・・了解っす」

 

 

佐々木は納得できないようだったが、高澤を担ぎ上げると、撤退した。

 

 

「・・・さて現実に戻ろうか。・・・なんじゃコイツ」

 

 

未だに謎のモノはウネウネと動きながら周囲の妖怪の死骸を呑み込み・・・いや、喰っている。膨張することもなく、真っ黒な姿を返り血で染めている。

 

 

俺が銃を構えて、ゆっくりと狙って撃った瞬間、謎のモノは俺でも目視しづらい速度で回避し、正確に俺の心臓を刺し貫いた。

 

 

「ガハッ・・・!とは行かんのだよ、てか速いな」

 

 

残念ながらこの体、心臓を貫かれてもこたえないどころか首を切られても死なない。てか任意で首外せる。そのまま放り投げ、地面に叩きつけたが、手応えがない。

 

 

「衝撃を無効化?・・・おいおい、どんな生き物だよ・・・」

 

 

そもそも生き物か疑わしい。八岐の剣でさっさと切りたいが、ここで振ってしまうと都のロケットがぶっ壊れる事間違いなし。何せ抜刀しただけで依姫が腰抜かすヤツだ。斬りつけるとか振るとか不可能。都中の人間が泡吹いて倒れる。

 

 

 ・・・なら、手は一つしかない。

 

 

 俺は名桐から渡された通信機にハッキングをかけ、月読命に繋げる。

 

 

 「はい、月読命です、どうしましたか?「俺だ」・・・兄上!?どどどどうやって通信を「名桐の奴いじった」・・・そうですか、絶対に無理なはずなんですけど・・・」

 

 

 「いや、そういうの良いから。・・・俺あれだわ、月いけねえわ」

 

 

 再び襲い掛かってきた変な奴をもう一度地面に叩きつけながら言うと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 月読命は沈黙の後、やけに弾んだ声になった。

 

 

 「あ、そーゆー事ですか!いいですよ!適当に死んだことにしてごまかすので大丈夫です!」

 

 

 「お前なぁ・・・悪いな、サンキュ」

 

 

 おそらく月読命は俺の性格を把握したうえでこう言ってくれているのだろう。じゃなけりゃただのアホの子だ。

 

 

 そう考えていると右腕が切り飛ばされる。・・・流石に鬱陶しい。

 

 

俺は八岐の剣を鞘をつけたまま取り出して、謎の生物を殴った。・・・ここでダラダラと戦って都にいる知り合いが死ぬと嫌なので、さっさとケリをつける。

 

 

殴られた生物は八岐大蛇の瘴気に触れたのか、しばらく硬直した後、その場にへたり込んだ。俺はそれを押さえつけようとして

 

 

 

 

 

首を飛ばされた。

 

 

「んなっ・・・」

 

 

俺は首のない体を動かして即座に首を拾い上げる。しかしその間に謎の生物は高速で地面を這い、都に進み始めた。

 

 

要は怯むフリと俺のスキを突ける勘が相手にあるという事。

だが・・・残念ながら這った所には俺の貫かれた心臓から出た血が水溜りになっている。これ俺じゃなかったら死んでた。

 

 

「ここまで来たら拍手もんだぞ!」

 

 

俺は自分の流れ出た血を操作して謎の生物を絡め取り、八岐の剣が振れないので鞘を口で引き抜き、至近距離で突き刺す。

 

 

「何処の何か分からんが・・・終わりだ」

 

 

しばらくの間謎の生物は苦しむように暴れ回っていたが、やがて金属的な音をたてて蒸発した。

 

 

沈静化したのを確認した俺が右腕をくっつけようとしていると、蒸発した所に何かが残っていた。

 

 

青銅でできた仮面らしき何かと、龍華ぐらいの女の子が着けていそうな、翡翠色の簪だった。

 

 

俺はふと背後に敵意の感じられない気配を感じ、振り向いた。

 

 

「・・・誰だ?」

 

振り向いても誰も見当たらない、・・・まさかと思って下を見ると、小さな女の子がいた。女の子の顔は見えなかったが、笑っているように感じた。女の子は俺の手を指差し、次に簪を指差した。くれる。という事だろうか。

 

 

俺が簪を手に取ると女の子は頷き、手を振りながら消えた。それと共に仮面らしき物は砕け散った。

 

 

俺は黙ってその場に一礼をして、簪を空間に仕舞い込んだ。

 

 

同時に、ロケットが一台空に上がる。今回あるロケットは5台。残り4台。

 

 

俺は新月を抜刀し、妖怪の群れに飛び込んだ。

 

 

 

次回へ続く

 

 





ありがとうございました。

次回もお楽しみに。


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第十四話 次の道へ


 いよいよ都編終幕・・・


 ゆっくりご覧下さい。


 ━━都、都市、ロケット内部

 

 

 「大丈夫!?高澤君!?」

 

 

 「・・・ああ、お前と結婚するまで死ねるか・・・!」

 

 

 ロケットの中では足の踏み場がない程負傷者で埋め尽くされ、高澤もそこに横たわっていた。高澤の傷は深くはないものの、浅野が苦戦するような、高澤の傷の回復を阻害する何かの術がかけられていた。

 

 

まあこの後突然現れた鏡一が治療して去ったのだが。

 

 

 

——都、ロケット前

 

 

 「・・・どうする、佐々木。高澤と浅野はもう動けない。武田も妹の件がある、もうむやみに動けん。類土も高木も休ませないとそろそろキツイ、岸田は救護班に回っちまったし・・・残ったのは俺とお前、名桐だけだ」

 

 

「・・・行く」

 

 

「お前馬鹿だろ、退けって言ってんのが伝わらんか!?ここで行ってみろ!隊長の邪魔だ!言いたくないが、・・・死戦の邪魔になる!!」

 

 

顔を歪めた澤田に佐々木が摑みかかる。

 

 

「言うな!!・・・あの人なら、言わなけりゃ帰ってくるかもしれないだろ!・・・俺は行く。あの人を引きずってでも連れて帰る!」

 

 

佐々木が澤田を振り払い、ロケット内部から出ようとした時、頭上に金ダライが落ちた。

 

 

「馬鹿野郎!寝てろい!!」

 

 

空間が裂け、鏡一が顔だけを出した。

 

 

「隊長・・・やっぱり・・・」

 

 

澤田が諦めたように頭を垂れた。

 

 

「ん、多分無理。・・・とりあえず馬鹿佐々木頼ん「なんでっすか!」・・・寝てろよ」

 

 

佐々木はふらふらになりながらも立ち上がり、鏡一を睨んだ。

 

 

「・・・俺も、行きますからね、二度と隊長置いて逃げるもんっすか・・・!」

 

 

鏡一は佐々木を眺め、舌打ちをした。

 

 

「・・・お前名桐どうすんの?」

 

 

「え?」

 

 

「いやお前ここでギャグ路線行くな。名桐だよ。どうすんの?置いて行くの?・・・それともお前、分かってない・・・?」

 

 

「え?何がっすか?」

 

 

鏡一は天を仰ぎ、澤田は佐々木の肩を掴む。

 

 

「お前・・・このクソ鈍感野郎!それでも副隊長かよ!」

 

 

「・・・お前は名桐の好意すら感じれんのか・・・!?もうこの部隊仕切る自信ないわー」

 

 

「え?え?・・・名桐が誰か好きなんすか!?」

 

 

「「お前だよ!!」」

 

 

突然に和やかと言うか馬鹿と言うか、微妙な空気になる一団。そこに間がいいのか悪いのか、名桐が現れた。

 

 

「佐々木!怪我人は全部乗ったみたい・・・って何で隊長が!?」

 

 

混乱する名桐に佐々木は駆け寄り、肩を掴んで顔を近づけた。

 

 

「名桐!・・・お前が俺の事好きって、本当か?」

 

 

名桐の顔が爆発し、鏡一は鼻水を吹いた。

 

 

「え、あうぇぁ・・・」

 

 

「おまっ・・・澤田、ティッシュくれ」

 

 

「どうなんだ!?」

 

 

声にならない声を出しながら真っ赤になる名桐、割と真面目にティッシュを要求する鏡一、クソ真面目に名桐を問い詰めるバカ。が揃う中、名桐がか細い声を出した。

 

 

「しゅ、しゅき・・・でしゅ・・・」

 

 

「・・・噛みましたね通信長「うるしゃい!」・・・隊長、ティッシュです」

 

 

佐々木は名桐から手を離すと、余計に真面目な顔になった。

 

 

「いつから?」

 

 

「・・・私が変人部隊に入隊する前の合同演習」

 

 

「・・・マジ?」

 

 

「嘘ならここで言わないわよっ!!」

 

 

佐々木は混乱したように後ずさった。

 

 

「・・・いやいや、俺は良いけどさ、お前・・・俺なんかで良いのか?お前お嬢様だから絶対他に良いやついるだろ・・・?」

 

 

「どの口が言ってんだ。お前隊長が来る前の闘技大会、3位だっただろうが。しかも男選手では1位。どこが不十分なのか分からん」

 

 

「だって、殆どの奴は私の地位しか見なかったもん。でも佐々木は私の能力を買ってくれたでしょ?結構嬉しかったのよ?」

 

 

「マジかよ・・・俺もだ・・・」

 

 

「だろうな」

 

佐々木は鏡一の方を向くと、申し訳なさそうに俯いた。

 

 

「すいません。俺・・・残れないっす」

 

 

鏡一は佐々木の肩を叩くと、大きく笑った。

 

 

「構わねえよ。・・・その代わり、大事にしろよ」

 

 

「了解っす!ところで・・・

 

 

 

 

何で隊長の上半身だけこっちにあるんすか?」

 

 

「そこ聞くかぁ・・・」

 

 

鏡一は片手を出し、空間を縦に開いた。

 

 

「後ろこうなってるからなんだけど、補足いる?」

 

 

空間の先には、もう片方の腕で拳銃を乱射する鏡一の下半身があった。

 

「てな感じで、

 

 

 

 

 

 

会話中延々と下半身は妖怪の群れを退治してた訳」

 

 

「やべえっすよ・・・」

 

 

そう言いながらも続々と発砲し、空間の先の妖怪はバタバタと倒れて行く。

 

 

「流石に下半身放置はキツい、さっきから撃ってるが全然減らん」

 

 

「いや下半身だけで倒すのがそもそもおかしいんですが」

 

 

「それ以前に今まで休みなしで戦闘してるのがおかしいんっすが」

 

 

「まあ俺だから」

 

 

「それで済まさないで頂けますか!?」

 

 

「冗談冗談。・・・これあるからもうちょっと暴れられるだけだ」

 

 

鏡一はライターの様なものを取り出した。

 

 

「まさか、核の起動ボタン・・・ですか?」

 

 

「いやこれはライター」

 

 

「紛らわしいもの出さないで下さい!」

 

 

「着火すると周囲全部燃えるけどな」

 

 

「ふざけてやがる・・・」

 

 

戦慄した顔から気の抜けた顔になる一同。暫くののち、ライターに着火し妖怪を焼き払いながら、鏡一は笑った。

 

 

「ま、もうしばらく戦えるから、お前らさっさと発進しろよ?流石にどんな駅員でも億のお客を一夜で捌ききるのは試練に近いからな、さっさと切符買ってロケット乗れ」

 

 

「隊長・・・」

 

 

涙を流しそうになる名桐の涙を、佐々木が拭いた。

 

 

「お釣りはどうするんすか?」

 

 

「コイツ・・・釣りは適当に菓子買うのに使え。バナナはおやつに入らんからな」

 

 

「了解っす。・・・良い旅をして来るっす」

 

 

「行ってら」

 

その場にいた佐々木、名桐、澤田が敬礼し、鏡一は手をヒラヒラと振る。その時弾かれたように澤田が何かを思い出し、鏡一に何かを投げた。

 

 

「あ!じゃあ隊長!これを!」

 

 

鏡一に投げられたのは・・・変人部隊の軍旗だった。

 

 

「もう使えませんから・・・最後ぐらい飾りに使って下さい、隊長!」

 

 

鏡一は暫く旗を眺め、やがて空間にしまった。

 

 

「分かった・・・縁があれば、また会おう」

 

 

鏡一がそう言って笑うと、最後のロケットが打ち上げられるベルが鳴った。

 

 

「行け!・・・永琳、綿月姉妹にもよろしくな」

 

 

「「「了解!!」」」

 

 

鏡一は黙って頷くと、空間を閉じた。

 

 

・・・それから五分後、最後のロケットが打ち上げられた。

 

 

____________________

 

 

来たァ!!やっと使えるぞオラァ!!

 

 

暫くドンパチやっていたが、一向に減らない。そして今、全てのロケットが打ち上げられた!!これが意味するのはッ!!

 

 

「行くぞ八岐の剣ィ!!」

 

 

相棒の出番だ。

 

 

 「逃げねえと死ぬし、逃げても死ぬからなぁ!」

 

 

 鞘から抜刀、構えなど二の次で縦に振り下ろす。

 

 

「オラァッ!!」

 

 

瞬く間に刀身を瘴気が覆い、刀身が伸びる。瘴気によって巨大化した剣は、都のあった周辺の大地を全て抉り抜いた。

 

 

「イヤッハー!!次行くぞオッラァ!!」

 

 

次は真一文字に掻っ切る。周囲の地面がめくれ上がり、木々が枯れ果てる。

 

 

妖怪の群れの姿は二振りで消え去った。残ったのは抉れた大地と瘴気のみ。

 

 

・・・いかん、やり過ぎた。

 

 

「・・・やっべ」

 

 

そうしか声が出なかった。流石に行けって言って五分ちょっとで全滅はヤバイ。

 

 

「・・・これからどうするかな」

 

 

ふと逃避がしたくなり、この後どうするかを模索し始めた。

 

 

まずはファンなんとかとトウコツを探すのが最優先だ。おそらく中国辺りだろう。発音的にも。

 

 

とすると移動だ。空間転移だと場所が指定できてつまらない。となると飛ぶ方法があるが、それも面白くない。

 

 

ふと空間にしまっていた核起動スイッチを思い出す。

 

 

「あ、これで飛べば良くね?」

 

 

 相当な爆発エネルギーは来るはずだ。なら完了だ。

 

 

 俺はふとロケットを見上げる。ロケットはまだ発進したばかりで、分離すらしていない。

 

 

 「・・・乗りたくない、と言えば嘘になったな」

 

 

 俺は改めて八岐の剣を構え、地面を抉り始める。

 

 

 「天まで届け、俺の伝言ってか!見えてりゃ良いなぁ!」

 

 

 変人部隊の全員の顔を思い出しながら、高速で絵を描き、大きく仕上げのバツを描く。

 

 

 次に会う機会はあるのかないのか、全くわからない。流石に俺が全能でも分かりはしない。

 

 

 だが・・・人が願えば会えると思っている。それが俺の神になった身での人の運命の考察。

 

 

 俺はガリガリと地面を削り、バツを描ききった。

 

 

 「・・・あばよ、また会えることを願うぜ」

 

 

 俺はあいつらに見えているかは分からないようにしたが、何故か見ている気がして、ロケットに大きく手を振った。

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 ・・・最終ロケットが打ちあがった後、地上は凶悪な爆風に包まれ、何も残さなかった。

 

 

 だが、ある噂が月にロケットが到着した後、騒ぎになった。

 

 

 最後の最後に殿を務めた矢川という男が、地上にメッセージを残した、と言うものだった。

 

 

 変人部隊の軍旗の中心の一人の名前に大きくバツが描かれた絵と、ごめん妖怪全部倒した、また逢えたらいいな。という気の抜けるメッセージ。

 

 

 果たしてそれは嘘なのか、真実なのか・・・

 

 

 当のメッセージを残した本人の行方は、都の人々は二度と知ることはなかった。

 

 

 ・・・十数名を除いては。

 

 

 

 次回へ続く

 





 ありがとうございました。

 ・・・前作をご存知の方は分かるかもしれませんが、そろそろ奴らの出番です。

 次回もお楽しみに。


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第十五話 悪神と変人と

 ・・・オリジナル展開が続きます。

 ゆっくりご覧下さい。


 ___???周辺

 

 

 三台の大きな馬車が、砂利道を走っていた。

 

 

 一台目には鎧を着こみ、武装した男達が談笑しながら馬車を走らせていた。

 

 

 二台目は戦闘には向かないような衣服を着こんだ、老若男女問わず様々な者たちが、子供や赤ん坊をあやしながら、馬車を走らせていた。

 

 

 三台目には誰もおらず、大量の衣服や食料が積まれており、二台目の馬車と繋がっていた。

 

 

 二台目に乗っていた物腰の柔らかそうな男が、同じ馬車に乗っているが、一人だけ身なりの違う男に声をかけた。

 

 

 「旅の人、本当に付いてくるのかい?我々は流浪の民故、定着しないよ?」

 

 

 「構わない。元から俺も元の場所には帰る気はないんでな」

 

 

 問いかけられ、答えた男は、編笠・・・虚無僧傘のようなものをかぶっており、表情は見えない。着流しのようなものを着用しており、馬車の壁にもたれていた。腰には打刀が据えられていた。

 

 

 「そうか・・・しかし、ここいらでは見ない格好だね。どこから来たんだい?」

 

 

 着流しの男は、東を指差した。

 

 

 「・・・海を越えた、東の国から」

 

 

 「え!おじさん、向こうの国に行ったことあるの!?」

 

 

 着流しの男の言葉に、一人の子供が目を輝かせる。

 

 

 「・・・ああ、あるとも。向こうは私の故郷だ」

 

 

 「じゃ、じゃあ、いっぱいお話聞かせて!」

 

 

 「おや、私も気になるね。・・・旅の人、少し話してくれるかい?」

 

 

 「・・・いいとも」

 

 

 着流しの男はもたれていた背を上げると、語り始めた。

 

 

 東の地には八首の大蛇がいたこと、それを見事神が成敗した事。

 

 

 とてつもなく文明の進んだ地が、昔はあったという事。

 

 

 鬼と呼ばれる、正直かつ喧嘩好きな妖怪がいること。

 

 

 「・・・これぐらいかね」

 

 

 いつしか馬車は止まり、男の周りには、馬車に乗っていた人々が集まり、拍手喝采が起きていた。

 

 

 「・・・凄いな!しかもまるで君がその場で見たような言いぶりで、よりドキドキしたよ!君は詩人か何かかい?」

 

 

 「・・・いいや、単なる旅人さ」

 

 

 「おじちゃん、凄い!」

 

 

 先ほど目を輝かせていた子供は、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

 

 

 「そうかい?ありがとうよ」

 

 

 着流しの男は笑うと、再び馬車にもたれかかった。

 

 

 「・・・そういえば、名を聞いていなかったね。私は張(ちゃん)、君は?」

 

 

 「・・・絶影(ぜつえい)」

 

 

 絶影と名乗った男は、横になると、眠り始めた。

 

 

 再び馬車が動き始めた。

 

 

 ____________________

 

 

 暫くして、絶影が目を覚ました。

 

 

 「おお、起きたんだね」

 

 

 周囲でも何人かは寝ており、張も少し眠そうだった。

 

 

 「ああ、少し・・・」

 

 

 絶影がそう言うと張は微笑み、そして重い顔になった。

 

 

 「・・・して、絶影君、四凶はご存知かね?」

 

 

 「・・・分からない。何なんだ?」

 

 

 張は周りを見渡すと、小さな声で絶影に囁いた。

 

 

 「・・・この国で最近最も恐れられ、恨まれている悪神さ」

 

 

 張は手で四を表すと、ゆっくりと語り始めた。

 

 

 「奴らは四人いる。混沌(こんとん)、檮杌(とうこつ)、窮奇(きゅうき)、饕餮(とうてつ)の四人・・・いや、四匹だね。彼らは四匹で行動し、数百の軍勢も、数人の精鋭も狂わせ、潰し、切り刻み、食い千切る。・・・此処じゃ死神と同じ扱いさ」

 

 

 「ほう・・・」

 

 

 絶影は僅かに檮杌という言葉に反応したが、張は気が付かなかった。

 

 

 「だから会った時のために一番前に精鋭の傭兵たち五十人を雇って・・・」

 

 

 ガタン、と一番前の馬車が止まった。

 

 

 「・・・ごめん、この話はまた後だ。どうした!?」

 

 

 張は話を切り上げ、止まった馬車の方へ絶影と向かった。

 

 

 そこには、

 

 

 「おい!何して・・・」

 

 

 惨殺された馬と、

 

 

 「あれ、あれれれれれれれれ????」

 

 

 泡を吹きながら首がねじ曲がったまま奇声を上げ、血の付いた刀を持った傭兵の一人がいた。

 

 

 「おい!しっかりしろ!」

 

 

 泡を吹いている傭兵の知り合いか、別の傭兵がその男を揺すると、

 

 

 「あ・・・が・・・???」

 

 

 泡を吹いていた男は突然離れ、踊りながら絶命した。

 

 

 「どうなって・・・」

 

 

 どうなっていやがる、そう言おうと口を開いた傭兵の首が飛んだ。

 

 

 「んなっ・・・!?」

 

 

 周囲の傭兵が戦闘態勢に移る。が、風が吹くたびに一人ずつ傭兵が切られてゆく。

 

 

 張は何かを決心したのか、二台目の馬車に向かって叫ぶ。

 

 

 「皆!!逃げろ!!」

 

 

 途端に大勢の人間が馬車から出るが、悪手だった。

 

 

 「ぬんっ!!」

 

 

 気のこもった叫び声とともに、長身の男が飛び降りてきた。さらに男が着地したときに拳を地面に叩きつけ、地面に崖を作った。

 

 

 「うわあっ!」

 

 

 「いやあっ!?」

 

 

 十名ほどが崖に落ち、五名ほどが崖にしがみつく。混乱に陥った者たちは、何かに操られたように、三台目のまだ無事な馬車の中へと逃げた。

 

 

 「くっ・・・!?」

 

 

 図られたと言わんばかりの表情をした張は、次に顔を恐怖に歪めた。

 

 

 コツコツと軽快に響く足音、ややバリトン声の鼻歌、整った人の好さそうな顔が、こちらに向かっていた。一つだけ異様な点を挙げれば、

 

 

 「おお、結構餌かかりましたね」

 

 

 彼の右肩から不気味な翼のようなものが生えている点だろう。

 

 

 「あ・・・あぁ・・・!」

 

 

 張はその場にへたり込み、呆然と翼の生えた男を見ていた。

 

 

 男は張に近づくと、優しい声をかけた。

 

 

 「・・・そんなに怯えずとも、金や食料は取りませんよ」

 

 

 男は張の手を取り、優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・美 味 し く 頂 く だ け で す か ら。・・・ね?」

 

 

 突然男の翼が巨大な顎のように開き、張を飲み込んだ。

 

 

 「・・・うーむ、そこそこですね。混沌!」

 

 

 翼の男が叫ぶと、薄目の男が現れた。

 

 

 「うーい、何ー?」

 

 

 混沌と呼ばれた男は、さも気怠そうに言った。

 

 

 「いつもの処分を」

 

 

 「いえっさー」

 

 

 翼の男が何か指示をすると、混沌と呼ばれた男は、崖にしがみついた男女に近づき始めた。

 

 

 「ねー、助かりたい?」

 

 

 男は崖の傍にしゃがみ込むと、落ちまいとする男に問いかけた。

 

 

 「ああ・・・!頼む!何でもするから上げてくれ・・・!」

 

 

 「いいよー」

 

 

 混沌と呼ばれた男は、崖際の男を掴み上げた。

 

 

 「助かった・・・!ありがとう・・・!」

 

 

 「んーん、いいよー・・・じゃ、お願いするね」

 

 

 薄目だった男は目を開くと、狂気を感じる笑顔を浮かべた。

 

 

 「んー・・・

 

 

 

 

 

 

 落ちてもらうね」

 

 

 「え?」

 

 

 混沌と呼ばれた男は持ち上げた男を崖に落とした。持ち上げられた男は信じられないという表情で落ちていった。

 

 

 「何でも。なんて言うからじゃん?」

 

 

 ケラケラと男は笑うと、他の者たちにも聞き始めた。

 

 

 「助かりたいー?」

 

 

 「ああ!頼む!」

 

 

 「お願い!助けて!」

 

 

 混沌と呼ばれた男は、微笑んだ後、四人全員に近づいて言った。

 

 

 「やだ」

 

 

 男はしがみついていた八本の手を全て蹴り落とした。

 

 

 「元から助けるわけないじゃーん」

 

 

 再びケラケラと笑い始めた。

 

 

 「お見事。・・・窮奇」

 

 

 「心得た」

 

 

 窮奇と呼ばれた髪の長い男は、斬られて瀕死の傭兵たちに近づくと、何も言わずにトドメを刺し始めた。

 

 

 「浅ましきかな。その程度で傭兵ができるものか。・・・死んで出直せ」

 

 

 男は残酷な笑みを浮かべながら、虚ろな目をした最後の傭兵の喉笛を搔き切った。

 

 

 「相変わらずですね・・・檮杌?」

 

 

 「応!」

 

 

 檮杌と呼ばれた巨大な男は、三台目の馬車の壁を、ゆっくりと壊し始めた。

 

 

 「ほれ、逃げんと死んじまうぜよよ」

 

 

 そう言いながらニヤニヤと巨大な男は笑う。等々馬車は丸裸になり、怯える子供や赤ん坊を守る女や傷を負った男の姿などが見えた。

 

 

 「こっから交代ぜよ、饕餮」

 

 

 「どうも、お疲れ様です」

 

 

 饕餮と呼ばれた、翼の生えた男はニヤリと笑うと、一人の赤ん坊を翼で掴み上げた。

 

 

 「・・・この子には罪はありませんが・・・一族郎党皆殺しなのでね。頂きます」

 

 

 母親の制止する間もなく、赤ん坊は翼に飲み込まれた。

 

 

 「うわー・・・心痛いなー」

 

 

 「ほざけ、笑っているぞ」

 

 

 「あ、いけね」

 

 

 「まああんま見てて気持ちいいもんじゃねえぜよな」

 

 

 「そりゃそうですよ。・・・じゃ、絶望して頂いたところで、

 

 

 

 

 

 

 

 全 部 喰 い ま し ょ う か !」

 

 

 翼が布のように広がったかと思うと、馬車の残骸ごと残っていた人間を飲み込んだ。勿論、絶影の話を聞いていた子供も。

 

 

 「あー・・・不味い」

 

 

 「だろうな」

 

 

「ぜーったい赤ん坊とか食べたく無いわー」

 

 

「・・・こちとら仕方なく食ってんのにそれは無いでしょう」

 

 

「まあまあ、んな事言っとる暇があるなら・・・」

 

 

ふっ、と長身の男が消え、傍観していた絶影に高速で殴りかかる。が、絶影は片手で長身の男の拳を弾いた。

 

 

「このよう分からん奴倒す方が先ぜよ!」

 

 

「よく分からん奴とは失礼な・・・」

 

 

絶影が文句を言おうとするが、頭部に浴びせられた斬撃で中断される。

 

 

「今回は檮杌の意見に賛成だ。どう考えても倒さねばマズイ」

 

「そだね、別にそこの人は気味悪いとか感じないけどさ、なんか・・・殺されそうだよね」

 

 

「そこまで言うなら潰しましょうか。・・・絶影、と仰いましたね。何か遺言はありますか?」

 

 

絶影は首を捻り、思い出したように答えた。

 

 

「じゃあ二つ。1個目は勝負して、万が一俺が勝ったら全員部下になってくれ」

 

 

窮奇が噴き出した。

 

 

「クッ・・・ハハハハハ!とんだ狂人だ!我らを悪神と知った上でそれか!・・・どうだ饕餮、貴様にも目的はあるだろうが、万が一この狂人が我々より強ければ変わるぞ?」

 

 

「窮奇・・・いいでしょう。乗らせて頂きましょう。他二人は?」

 

 

「どっちでもー」

 

 

「喧嘩できる方がいいぜよ!」

 

 

「・・・はぁ、では乗ります。二つ目は?」

 

 

絶影は虚無僧笠を脱ぎ捨てると、ニヤリと笑った。

 

 

絶影の片目は山吹色に光っていた。

 

 

「ファンなんとか、ご存知ないか?」

 

 

この言葉には饕餮が反応した。

 

 

「・・・ファンロン、とすれば、何故その名を?」

 

 

「たまたま道すがら聞いた。檮杌の事も聞いてる」

 

 

饕餮は背の翼を撫でながら言った。

 

「どうやら狂人でもないようですね・・・これは我々が一人ずつ丁寧に刃を向けるべき相手、そう捉えましょう。混沌!」

 

 

「いや、なんで僕から?」

 

 

「文句なし、さっさと行って下さい」

 

「うーわ、鬼だ・・・」

 

 

混沌はブツブツと言いながら、絶影に敵意を向けた。

 

 

「まいっか。・・・こっちも色々あるから消えてもらおっかな・・・まあ、ちゃっちゃと行こうか」

 

 

ニヤリと笑った混沌が指を鳴らすと、数百の槍が現れ、一斉に絶影に射出された。

 

 

 

 

 

次回へ続く

 





ありがとうございました。

次回、混沌戦です。


ゆっくりご覧ください。


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第十六話 自然の摂理に喧嘩売って行くスタイル

最近よく人から相談事持ち寄られます。

で、結構悩んでしまうって言う・・・

まあ、反吐がでるほどのお人好しなので仕方ないんですがね。


今回混沌との戦闘回です。重ねて言いますが、戦闘描写もド下手です。


ゆっくりご覧ください。


・・・さて、絶影と名乗ったのは良いとして、だ。

 

「行くよー」

 

 

目の前の数百の槍はどうしましょうか。・・・いや、確かに喧嘩売ったのは俺、神矢龍一には違いない。けどここまで頭おかしいのは聞いてない。何が行くよーで数百の槍出してんだよふざけてんのか。

 

 

「えぇ・・・」

 

 

俺は仕方なく抜刀した新月で当たりそうなもののみ弾く。そしてある程度弾いたのち、一本を掴み、混沌に投げ返す。

 

 

「ヘアッ!?・・・頭おかしいんじゃないの?」

 

 

ブーメランだ、誠に遺憾で仕方がない。

 

 

「お前にゃ言われたくないな!」

 

 

俺はそんな混沌に肉薄し、新月で混沌を袈裟斬りにする。が、手応えがない。

 

 

混沌を見ると確実に刃は通っている、が当たっていない。

 

 

「あー・・・僕当たり判定ないから」

 

 

クソ野郎でしたわ。当たり判定ないとか許されざる生物だ。当たり判定力学に謝れ。

 

 

「は?お前ふざけて」

 

 

文句を言おうとしたが、俺の背中を何かが貫いた。

 

 

「・・・んのか?」

 

 

ついさっき弾いた筈が俺に刺さったが、貫通したので腹から引き抜いて投げつける。勿論当たらない。

 

 

「いやいやいや、耐久性おかしいと思うけど?」

 

ふと背後を見ると、地面に刺さった槍は浮き上がり、俺を狙い始めた。重力に謝れ。

 

 

俺は新月を投げ捨て、拳銃を構える。

 

 

「あんまり手間かけると疲れるんでな。さっさと行くぞ」

 

 

一本目、切っ先を爪先で蹴り上げ、刃の部分を撃ち抜いて爆散。

 

 

二本目、バレルで切っ先を滑らせ、もう片方の手で槍の持ち手をへし折る。

 

 

三本目、そのまま撃ち抜いて破壊。

 

 

四本目以降、怠かったので地面を蹴り抜いて壁を作り、全部塞ぐ。

 

「・・・ふぅ。まさか全部追尾式とはな。恐ろしい空間認識力してるな・・・」

 

 

「そりゃどーも。・・・でもぶっちゃけこれしか取り柄ないんだよねー・・・と、言うわけで、パス!」

 

 

混沌は残念そうな表情をした後、手を打ち鳴らした。すると混沌の体を包んでいた妖気が変化する。

 

 

「・・・ったく、仕方ねえな。・・・お前か、今回のターゲット」

 

 

混沌がやや粗雑な口調になったかと思うと、一瞬で俺との距離を詰め、左手で薙ぎ払ってきた。

 

 

「ま、てめえが何かはどうでもいいわ!!殺せるなら上等だ!!」

 

 

薙ぎ払った左手はそのまま地面に打ち付けられ、逆立ちの状態で俺に蹴りを当てた。

 

 

「っ!!・・・なかなかやる・・・!ってかやり過ぎだろ。お腹いっぱいだわ」.

 

 

俺は混沌と一度距離を離し、防御のための山吹色の義眼を外し、赤色の義眼、

 

 

 

 

加えて青色の義眼を二つ同時に左目にねじ込む。

 

 

「うわ、戦闘途中に眼球抉るとかいかれてんな・・・しかも目玉二個は気持ち悪いな」

 

 

「・・・生憎義眼なんでな。そんな頭おかしくねえよ」

 

 

「そうかよ、なら余計に容赦しねえよ!」

 

 

混沌の再度の高速移動を躱し、赤色の義眼・・・炎で殴る。

 

 

「っ!火だと!?おい!パス!」

 

 

「え!?ちょ、無理!」

 

 

混沌が怯んだのを見逃さず、青色・・・水で周囲を囲む。

 

 

「逃がさねえぞ混沌。大人しく降参するかぶっ飛ばされやがれ?」

 

 

すると混沌は諦めた表情をした後、獰猛な笑みを浮かべて殴りかかってきた。

 

 

「だから無理って言ったじゃん。パス」

 

 

「・・・ここで引き下がるほど腰抜けじゃねーよ!!」

 

 

「そうかよ」

 

 

俺は水に炎を近づけて、一気に双方を覚醒させる。水蒸気爆発の完成。

 

 

「へぇ・・・んな技があるのか・・・こりゃ無理だな・・・だがなぁ!」

 

 

 混沌は中指を突き立て、ニヤリと笑った。

 

 

 「無理はいずれ可能になるからな!だがまあ・・・俺とコイツはあんたが気に入った、まだ生きてりゃ後で従ってやるよ!」

 

 

混沌は吹き飛ばされた後綺麗に着地したが、やはり爆発のダメージはあったのか、ゆっくりと地面に倒れた。

 

 

一人目。

 

 

「やられたぜよよ?」

 

 

「・・・まあ混沌は後方担当だからな。仕方ないといえば仕方なかろう・・・予想外には変わりないがな」

 

 

「・・・カッコつけるとあれですかね?

 

 

 

 

・・・だが、奴は四天王最弱。あやつを倒しただけでいい気になると痛い目を見るぞ?まだこちらには三人いるのだからな!

 

 

 

・・・みたいな?まあ流石にあそこまでやられるとは思ってませんでしたね」

 

 

「なかなか板に付いてるじゃないか。饕餮」

 

 

「そりゃどうも、貴方には負けますけどね?窮奇?」

 

 

・・・いやいや、味方やられたネタで遊んでるよあいつら・・・

 

 

「おーい、次お願いして良いか?」

 

 

俺はこのままだと面倒なのでさっさと次の相手をオーダーする。

 

 

「・・・次どうしますか?私が行きましょうか?」

 

 

饕餮が名乗りあげようとするが、窮奇に止められる。

 

 

「貴様は最後だ。・・・檮杌、行け」

 

 

「おん?窮奇は行かんぜよか?」

 

 

「私はまだ行かん。時間がかかるんでな」

 

 

「なら構わんぜよ。絶影!次は俺が相手ぜよ!!」

 

 

そう言いながら檮杌は拳を打ち鳴らし、その度に空間が揺れ、鉄を打ち鳴らすような音が出る。

 

 

・・・あれ、どっかで見たような気が・・・

 

 

檮杌は拳を構え、踵を浮かせ始めた。

 

 

「仕方ない、思考は後回しだ・・・行くか」

 

 

俺は義眼を山吹色と黄色に付け替える。能力は筋力強化と電撃。そしてそのまま力を抜き、首も一度右に傾ける。

 

 

互いに構え、睨み合うこと数十分。先に檮杌が動いた。

 

「ゼアッ!!」

 

 

檮杌が蹴った地面は隆起し、砂嵐が巻き起こる。そのまま振り下ろされた凶器に等しい剛拳は間一髪躱したが、俺の真下の地面は陥没し、地震が周囲に起こる。

 

 

「チイッ、外したぜよか・・・」

 

 

「外した、じゃねえよ死ぬわ!・・・って殺す気だったなお前らは!」

 

 

「次は外さんぜよ!」

 

 

そう言いながらもう片方の凶器で俺に殴りかかる。それを俺は一度掌で衝撃を逃がすために弾き、もう片方の拳で受け止める。が、凶悪な一撃で両手が痺れる。

 

 

「うへっ・・・お前質量無視しすぎだろ・・・」

 

 

 続けざまに檮杌は甲高い空気を割く音とともに手刀を振りかざす。俺はそれを両腕をクロスして受け止めるが、またもや地面が陥没し、俺の足は半分ほど地面に埋まった。

 

 

 「ッ・・・!?」

 

 

 両腕がミシミシと音を鳴らし、より陥没した地面に沈み始める。

 

 

 「仕方ない、小細工使わせて貰うぜ」

 

 

 俺は檮杌の手刀と俺のクロスした両腕の間に電撃で創った結界を展開し、陥没した地面から脱する。

 

 

 「おお!?」

 

 

 檮杌には数百万ボルトの電撃が流れていたはずなのだが・・・傷一つどころか焦げ跡もない。さっきの混沌といい非常識すぎる。

 

 

 「・・・今のはちょっと来たぜよねぇ」

 

 

 そう言いながら檮杌は二メートルを優に超える体をパキパキと鳴らす。・・・やはりどことなく既視感がある・・・茜だろうか?

 

 

 「・・・来たとか言いながら無傷ってのは喧嘩売ってんのか?」

 

 

 「いんや、これは生まれつきぜよ「生まれつきでお前は怪我負わんのかよ!?」細かいことは後ぜよ!戦って!勝って!死ぬ!それが最上の楽しみで、俺の信念ぜよ!」

 

 

ニヤリと檮杌が笑う。・・・これは生半可な攻撃は通じるどころか弾き返されて撲殺されるとか言う最高のオチが見える。

 

「信念・・・か。最高だな。生きて、いつか死ぬ奴が持つべきものだ・・・とと、そんなの後だな」

 

俺は大きく深呼吸をし、もう一度檮杌を眺める。

 

 

「なぁ・・・俺の技、まだまだ未完成なんだが・・・使わせて貰おうか!」

 

 

檮杌が獰猛な笑みを浮かべる。

 

 

「応!何でも来いぜよ!」

 

 

俺は両手に拳銃を構え、檮杌に掴みかかる。

 

 

「ん?どう来るか分からんが・・・止めさせて貰うぜよ!」

 

 

そうして檮杌は俺の耳を掴んだ。

 

 

「しまっ・・・」

 

生物というのは耳を掴まれると自然に身体を思い通りに動かされる。

このまま殴られるか投げ飛ばされるのがオチかもしれない。

 

 

・・・まあ、あくまでもマトモな本能を持ってる生物に該当するだけだが。

 

 

「た。とでも言いたいんだが、生憎俺はマトモじゃなくてな。基本的な生物のルールに該当しない」

 

 

俺はそのまま

 

 

 

 

 

 

首を丸ごと外した。

 

 

次回へ続く




ありがとうこざいました。

混沌は作者の直したい性格から発展しました。いずれ全員のベースは出そうと思います。


次回もお楽しみに。


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第十七話 しれっと物理法則無視するスタイル

物理法則、自然法則無視の戦闘回2回目です。

ゆっくりご覧下さい。


「・・・!?」

 

 

首の無くなった胴体を見て檮杌が数瞬固まる。俺はそこを見逃さなかった。

 

 

「セアッ!」

 

 

左鉤突きが綺麗に檮杌の脇腹に刺さる。

 

 

「おおっ・・・!?」

 

 

攻撃の隙を出さないように、続けて肘打ち、両手突きからのゼロ距離撃ち、手刀、貫手、

 

 

「んん!?」

 

 

下段回し蹴り、中段回し蹴り、下段足刀、踏み砕き、上段足刀、発砲、

 

 

「隙が・・・」

 

 

振り上げ、手刀、鉄槌、中段膝蹴り、背足蹴り上げ、二連発砲、

 

 

「見つからん・・・!」

 

 

左上段順突き、右中段掌底発砲、右上段孤拳、右下段回し蹴り、左中段膝蹴り・・・

 

 

檮杌は防戦一方で、全く攻撃して来ない、いや、出来ない。

 

 

煉獄という、そこそこ仲の良かった友人が読んでいた本にあった技に拳銃を織り交ぜた連続攻撃。名付けて零獄。隙を与える暇が零なのと、自身のスタミナと集中力が零になるまで続けることから名付けられたパクリ奥義。オリジナル性は微塵もない。

 

 

先程の左中段膝蹴りで下がった檮杌の頭を掴んで、こめかみ部分を膝に打ち付け、同時に肘をもう片方のこめかみに叩きつける。通称ギロチン。そのまま少し肘の骨が食い込むように動かす。そしてもう片方の手で拳銃を構え、脳天に発砲する。

 

 

「・・・思ったより、はっきりした性格の技で気に入ったぜよ・・・!」

 

 

なおも檮杌は無傷。内臓や急所も攻撃されたような素振りすら見せない。弾痕すら残らないのは化け物の証。

 

ここまで来ると相当な恐怖だ。・・・まあこっちもまだ檮杌に首を掴まれたままなのだが。今動いてる胴体は首がない。

 

 

「仕方ない、次だ!」

 

俺は檮杌を担ぎ上げ、頭を下にする。そのまま自分は尻が地面につくように素早く足を曲げ、檮杌の頭を地面に打ち付ける。通称、スタイナー・スクリュー・ドライバー。

 

 

「ぬおっ!?」

 

 

気の抜けた叫びとともに檮杌の頭は地面に打ち付けられる。が、割れたのは地面の方だ。そのまま地面が振動したかと思うと、遠くの山が噴火した。石頭ってレベルじゃねえぞ。

 

「・・・流石に効くぜよ」

 

 

そう言いながらも檮杌は首をゴキリと鳴らすだけ。

 

 

「・・・ここから先、殺人奥義なんだけどなぁ・・・」

 

 

俺は全身に数億ボルトの電撃を流し、筋繊維を活性化させると共に、攻撃全てに電撃が入るようにする。檮杌も何度も拳を打ち鳴らし、全身から煙を上げる。

 

 

「・・・死ぬなよ?」

 

 

「こっちの台詞ぜよ」

 

 

高速で互いに接近する。檮杌は俺の心臓を狙っている様子。・・・なら!

 

「貰ったァ!!」

 

 

檮杌の拳は俺の心臓を貫く。数瞬速かった檮杌の攻撃に俺は吐血し、弱々しく檮杌の腹に掌を当てるだけになった。

 

 

そのまま俺は檮杌にもたれかかる。

 

 

「・・・終わったぜよか「いんや、ここからよ」ん!?」

 

 

放電。体内の電気を全て檮杌に流し込む。檮杌だけに電撃を絞り込み、地球程度なら焦げ付く電撃を流し続ける。

 

 

「おおおおお!?」

 

 

それでも尚檮杌の力は弱まらない。それどころか恐ろしい力で俺を離そうとする。が、電撃によって磁力も働いているため、なかなか離れない。

 

 

「このまま死ぬまでやるつもりぜよか・・・!?」

 

 

「当然!戦って、死ぬ。そうだろ!?ここで降参してくれるとありがたいんだがな!?」

 

 

檮杌は放電を喰らったまま悩み始めた。もう電撃も何とも思っていないようだ。殺人拳も世を儚んで出家するレベルの耐久性。

 

 

「・・・よし、今回は降参するぜよ!」

 

 

そう言って檮杌は抵抗をやめた。

 

 

「・・・そうか。なら、俺の勝ちかな」

 

 

俺は檮杌に首を投げてもらい、胴体に繋ぎ直す。と同時に心臓を再生させる。

 

 

「じゃが、心臓を抉っても、首取っても死なんのは流石に驚いたぜよ」

 

 

「あー・・・本体の心臓は別空間にあるから。お前が潰したのは量産品。首は元から外せるようにしてた」

 

 

「外せるように・・・って相当いかれとるぜよな・・・」

 

 

「後、どっかで会った事ないか?」

 

 

「いんや、見間違いぜよ。お前と俺は初対面ぜよ」

 

 

「そうか・・・」

 

 

俺は何故か既視感のあったのを気のせいだと意識の外に出す。

 

 

ふと、隣から拍手が起こる。いつの間にか混沌も目覚めていたようで、拍手に混じっていた。

 

 

「流石に檮杌と真正面で殴り合う馬鹿がいるとは思ってませんでしたよ・・・」

 

 

「唯の狂人にあらず・・・か。見事だな」

 

 

「いやもう・・・凄いんじゃない?」

 

「・・・まあ、俺負けたぜよから、窮奇、交代ぜよ」

 

 

窮奇と呼ばれた男は、腕を一振りすると風が吹き、手には傭兵の持っていた刀が握られていた。

 

 

「私が窮奇だ。・・・絶影と言ったな。剣客としてお相手願う」

 

 

「承った」

 

 

俺は手をかざして新月を呼び戻す。

 

 

「行くか?」

 

 

「了解した。・・・今回こそ手応えがあるのを願う」

 

 

そう言うと窮奇は消え去り、それと同時に俺の片腕の感覚が消えた。

 

 

「・・・おーう、マジか」

 

 

見ると窮奇は背後で抜刀しており、刀身には俺の血が付いていた。勿論左手は飛んでいる。

 

 

・・・剣速が見えない。

 

 

「次だ」

 

 

再び超高速で剣が振られる。俺は何とかしゃがんで回避しながら腕を再生し、義眼を無色透明なものに変える。途端に剣の振りが見える。見えるのだが・・・

 

 

 「おまっ、超高速で刀振りながら真空波も出せるのかよ・・・!?」

 

 

 しかも一振り一振りが達人の剣術に近い。何とか速度を上げて回避は出来るが、それでも体には真空波のせいで無数の切り傷が出来上がる。何とか防げているのがすでに奇跡に近い。

 

 

 「・・・仕方ないな」

 

 

 俺は義眼を発光させ、一瞬だけ窮奇の視界を奪う。その隙に俺は新月を腰に戻し、八岐の剣を鞘ごと出す。

 

 

 「剣術は雑になるが、こっちで押し切らせて貰おうか」

 

 

 八岐の剣で多少はひるんでくれるかと思ったが、逆に全員がニヤリと笑い、主に饕餮と混沌がゾクゾクしていた。

 

 

 「めっちゃ良いの持ってるじゃん・・・!」

 

 

 「おぉ・・・!?最低かつ最高の武器ですね・・・!」

 

 

「・・・業物、いや、いい意味での鈍だな。・・・行くぞ」

 

 

再度音速に近い連続斬りが襲いかかってくる。俺は回避を諦め、しっかりと八岐の剣を握りしめた。

 

 

「うおらあっ!」

 

 

横一文字に薙ぎ払う。全ての連撃を弾き返し、窮奇や他の奴らは回避したが、遠くに見えていた山が衝撃で斜めに切断され、崩れ落ちる。

 

「・・・くそったれが、剣客どころでは済まんぞ!?」

 

 

相変わらずの八岐の中の奴は容赦がないな・・・と、苦笑しつつも窮奇に斬りかかる。尚まだ鞘のついた状態。

 

 

「セアッ!」

 

 

剣と刀が激突する。やや俺が押しているが、それでも窮奇の能力には見張るものがある。

 

 

「・・・絶影、お前に頼みがある」

 

 

剣が激突していると言うのに窮奇がそんな事を言った。

 

 

「ん?何?降参すんの?」

 

 

「いや、饕餮の事だ」

 

 

窮奇はそう言うとわざとらしく鍔迫り合いの状態を作り、俺に近づいた。

 

 

「・・・おそらく私が敗れ、饕餮にもひょっとしたら貴公に負けるかもしれん」

 

 

「それが問題あんのか?なんなら引くぞ?」

 

 

「・・・そうではない。こう・・・饕餮は我々の中でも大きな傷を持つ奴でな。・・・あいつは家族を神に殺されている。それ以来神を、そして神を信仰する一族を恨み、今のように虐殺を繰り返している。・・・何の神かは分からない。が、貴公はおそらく神・・・」

 

 

鍔迫り合いのままより近づき、顔が密接する。

 

 

「良ければ・・・饕餮を部下にしてやってくれ。貴公のような神がいると分かれば、少しは元の、誰にも優しかったアイツに戻れるはずなんだ・・・」

 

 

そう言った窮奇の顔は重苦しいものだった。

 

 

「分かった・・・勝てたら良いけどな」

 

「感謝する。・・・が、これは別だ」

 

 

そう言って窮奇は俺の首を狙って来た。・・・野郎、殺す気は満々ってか・・・!?

 

 

「そうですかい、ならぶっ飛ばすまでよ」

 

 

俺は八岐の剣に力を込めて窮奇を一度遠くに飛ばす。

 

 

「何しようが勝負なんぞ勝てば良いんだよ。さっさとかかって来いよ」

 

 

俺は力を抜いて鞘の先端を地面につける。

 

 

「同感だな。・・・ハッ!!」

 

 

前兆なしに襲いかかって来た窮奇に、俺は八岐の剣を投げつける。

 

 

「貴様、武器を!?」

 

 

一瞬だけ窮奇は顔を手で覆った。その隙に俺は新月を抜刀し、窮奇の顔を斜めに切った。僅かな手応えと共に俺の横を高速で窮奇が横切る。

 

 

窮奇は足を止めると、俺の方を向いて刀を捨てた。

 

 

「降参だ。流石にあのタイミングで刀を投げるとはな・・・」

 

 

窮奇の顔には右目から左の顎にかけて、刀傷が出来ていた。

 

 

「いやいや、あの速度で襲いかかって来るとかお前しか出来ないだろ」

 

 

「そう言って貰えると励みになるな・・・悪いな、饕餮。力量足らずだ」

 

 

構いませんよ、と片翼をはためかせながら饕餮は笑って答える。

 

 

「・・・しかし、貴方もなかなかやるようだ・・・」

 

 

饕餮は翼を槍のように尖らせながら微笑んだ。

 

 

「なればこそ・・・殺す」

 

 

翼が周囲の人間の死骸や武器を取り込み始める。それはさながら高澤を貫いたあの謎の生き物のように・・・

 

 

「・・・私は、神が憎い」

 

 

徐々に翼は肥大化し、より黒さを増し、二つに裂け、さながら大きな顎のようになる

 

 

「運命が憎い」

 

 

饕餮の口角が歪み、饕餮を纏うオーラがどす黒くなる。

 

 

「自分が憎い」

 

 

周囲の天候が荒れ、次第に雨と雷を呼んだ。

 

 

「・・・さあ、止めて頂けますかね?」

 

 

俺は拳銃を饕餮に向けた。

 

 

 

次回へ続く




ありがとうございました。

次回、自然法則、物理法則無視の戦闘回のラストスパートです。

次回もお楽しみに。


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第十八話 世界に中指立てるスタイル

さて、饕餮戦となります。


ゆっくりご覧ください。


 

「さあ、止めて頂けますかね?」

 

 

そう言いながら翼を蠢かせる姿はまさに・・・化け物。

 

 

俺はゆっくりと義眼を外し、黒色と藍色・・・重力操作とベクトル操作に変える。

 

 

「さて・・・行きましょうか」

 

 

饕餮は自分の背後のぬかるみ始めた地面に翼を押し付け、バネの様に反発させて俺に襲いかかって来る。

 

 

俺は気休め程度に五発拳銃を放ったが、全て翼に塞がれ、取り込まれる。

 

 

「だよなぁ!?」

 

 

やはり見たことがある。それも碌な思い出じゃない。・・・あの高澤を貫いた謎の生き物とほぼ性質が近い筈だ。事実饕餮は一枚しか翼が見えない。

 

 

「そりゃそうでしょう。そんな武器では致命傷は受けるでしょうが、当たらないので倒せませんよ」

 

 

そう言いながら饕餮は翼を地面に突き刺し、ブレーキをかけながら俺の胸に吸い込まれる様に蹴りをねじ込んだ。

 

 

「ゴッ・・・!?とはならんのよ」

 

 

俺は受け身を取って構え直し、饕餮に直接拳銃を放とうと近づく。

 

 

「近距離・・・まあ守備圏内ですね」

 

 

饕餮は翼を地面に突き刺し、岩を掘り出し、翼で投げつけてきた。

 

 

「お前、岩は雑すぎるだろ・・・!?」

 

 

「雑も何も・・・殺せりゃ良いんですよ」

 

 

そうして殺意全開で襲いかかって来る。正直翼が第三の腕のようになっており、本物の腕の手刀との乱撃が上手い。俺は岩を殴って粉砕し、饕餮の乱撃に備えた。

 

 

手を躱せば翼が、翼を躱せば手刀が襲いかかってくる。

 

 

「しっかし・・・驚いてる割にはよく躱せますね?」

 

 

「・・・以前似たようなのと戦ったんでな」

 

 

それを聞いた途端に饕餮は一度下がり、俺を殺すような目つきで睨んだ。

 

 

「貴様、今なんと?」

 

 

「見たことがある。倒したら青銅の破片が出てきたぞ「貴様ァッ!!」いやいや理不尽!」

 

 

饕餮の乱撃がより熾烈になる。中には噛み付くという攻撃や、飲み込もうとする即死技が混ざり始めた。

 

 

「貴様もか!!貴様も・・・彼等を・・・!」

 

 

何か盛大に勘違いされてる気がする・・・!!

 

 

「ちょ、待てよ!俺は見た事あるだけでお前みたいな人型とは戦った事ねーよ!「口を閉じろッ!!」・・・話聞けやボケナス!!」

 

 

もうダメだ、キレるわ。話ぐらい聞けや・・・!

 

 

俺は饕餮を蹴り飛ばし、八岐の剣を構える。

 

 

「そっちがその気なら・・・こっちだって遊んでんじゃねーんだよ」

 

 

饕餮の妖気が、殺意が、さらに増し始める。

 

 

「・・・チッ、やはり貴方も神ですか・・・殺す」

 

 

饕餮は以前以上の速度で飛びかかってくる。が、

 

 

「なっ・・・!?」

 

 

今は雨、ぬかるんだ地面が饕餮の速度を緩める。

 

 

「馬鹿め!俺の雨男スキルを舐めてんじゃねーぞ!!」

 

 

八岐の剣の効果で第六感が劇的に上がり、更に速度の下がった饕餮を俺はバッティングの要領で吹き飛ばす。尚雨が降ったのは饕餮の力でもなく、偶然。強いて言えば、俺が雨男だから。

 

 

「んなっ・・・!?」

 

 

不意を突かれたような表情をしたまま、饕餮は瓦礫を作りながら地面に激突した。

 

 

「・・・はぁ、とんでもない化け物だな・・・「まだだ・・・!」・・・うっそだろお前!?」

 

 

終わったかと思ったが、八岐の剣の打撃を食らって尚、饕餮は瓦礫を翼で持ち上げ、立ち上がった。

 

 

「終わるわけには・・・行かないんですよ・・・!」

 

 

しかし饕餮はその場に座り込んだ。翼は瓦礫を支えており、動けない。

 

 

「なあ、これで終わり・・・とは言わないが、一度話し合わないか・・・?」

 

 

俺は饕餮に近寄り、ゆっくりと語りかけるように話す。饕餮は頷いた。

 

 

「ええ・・・とりあえず終戦は受け入れましょう。流石にあれをもう一度は目的を果たせずに死にますから・・・」

 

 

「・・・成立だな」

 

 

俺は饕餮の手を取り、

 

 

「まあお返しはしますよ」

 

 

取った手から出た黒い物に刺し貫かれた。

 

 

「・・・!」

 

 

翼だった。俺は瓦礫を確認するが、そこにはちゃんと翼があった。

 

 

「あー・・・理解が追いついていない様子。簡単ですよ?

 

 

誰がコレが一つだけだと言いました?」

 

図られた。コイツはずっとこの瞬間を狙っていた・・・?

 

「お前、まさかコレを・・・!?」

 

 

「ええ、狙ってましたよ。・・・まあ効いてなさそうですので万策尽きて降参ですね。後四枚ありましたが正直今では倒せません」

 

 

そう言って翼は俺から引き抜かれる。相変わらずこの見たことのある黒いのは再生を阻害するらしい。まあ臓器がここに無いので無意味なのだが。

 

 

そう考えていると雨は止んだ。

 

 

「やれやれ・・・とんだ化け物並の神と対峙したもんです」

 

 

「まー、いずれやられただろうし?そろそろ切り替えても良かったんじゃない?・・・一般人殺すの飽きたし」

 

 

「確かに、お前と違ってこっちは闘争を求めてるんでな、そろそろ手応えが欲しい」

 

「それ以前に俺らは負けたんぜよから、さっさと従事するぜよ」

 

 

そう彼らは言うと、膝をその場に折った。

 

 

「我ら四凶、貴方に従い」

 

 

「余裕があれば裏切り」

 

 

「理不尽な命には逆らい」

 

 

「勝手気ままにやらせてもらいまーす」

 

 

「よって我ら、貴方にテキトーについていきます」

 

 

清々しい程心のこもっていない誓約だった。

 

 

「へーい。了承。四凶に所有妖力の一割を配布」

 

 

俺も詠唱は苦手なので軽く了承する。

 

 

「・・・おお!急に力が溜まった感じぜよ!」

 

 

「これが主上の力、か・・・ますます裏切るのが楽しみになってきた」

 

 

「怖い事言うなよ・・・じゃあ名前付けるから一列に並イェ゛ァ゛!?」

 

 

自分でも訳の分からない奇声を上げながら後頭部に何か直撃した。

 

 

青銅の塊だった。

 

 

「まさかこれからのマスターは厄病神かな?」

 

 

「クソが・・・!どうせこれまた手紙だろ・・・!」

 

 

案の定青銅の塊は崩れ、手紙が現れた。

 

 

中には名前リストと書かれた手紙と、定番の訳の分からない事が書かれた感謝状らしきものが入っていた。

 

 

「えー・・・混沌は幻夜(げんや)、檮杌が壊夢(かいむ)、窮奇が風魔(ふうま)、饕餮が侵二(しんじ)・・・って誰だこれ送ったの?」

 

「んー・・・幻夜っての悪くないかなー」

 

 

「壊夢・・・か、良いぜよな!」

 

 

「変わった名を付けたな?だが風魔か、気に入った」

 

 

「侵二ですか・・・良い名前ですね」

 

 

満足してるようなので何よりだが・・・俺が鉄の塊をぶつけられたことにはノーコメントか。

 

 

「まいっか・・・じゃ、それで名前決定。後は・・・これ持ってくれ」

 

 

俺は四人にそれぞれ違った色の首飾りを渡す。それぞれ緑色、白、紅、黒で刀を象ったデザインのものだ。

 

 

「何ですか?これは?」

 

 

侵二が黒の首飾りを眺めながら質問する。

 

 

「お前らのこれからの武器・・・の元。握りしめてみろ」

 

 

しばらく無言で振り回していた幻夜が初めに握りしめると、首飾りが発光し、長さが二メートル半程の青白い槍になった。

 

 

「はえ〜」

 

 

気の抜けた返事をしながら幻夜が振ると、周囲の地面が凍りついた。

 

 

「おひ〜」

 

 

「お、じゃあ次は俺ぜよ!」

 

 

壊夢が潰しそうな握力で首飾りを握りしめると、首飾りが音を立てて割れた後発光し、手甲に変化した。案の定それを装着した壊夢が拳骨を地面に叩き込むと、周囲の地面が爆散した。

 

 

「おー」

 

 

「次は私か・・・」

 

 

風魔が首飾りを握りしめると、刃長一メートル程の長い日本刀に変化した。風魔が無造作にそれを振ると、暴風が巻き起こった。

 

 

「不足無しだな」

 

 

「じゃ、私ですかね・・・っと」

 

 

侵二が首飾りを握りしめると、ごく一般的な細剣が現れた。唯、一般的でないとすれば・・・

 

 

「じゃ、振りますね」

 

 

振った瞬間に周囲一帯に黒い雷が落ちるぐらいだふざけんな。

 

 

「まー・・・殺しきれそうなんで良いですね」

 

 

侵二は細剣を鞘にしまうと、俺の方を向いた。

 

 

「さて、・・・貴方は一体何の神なんですか?」

 

 

「龍神。神谷で通るか?」

 

 

「成る程、龍神でしたか・・・ん?」

 

 

侵二は一度納得した表情をしたが、事のおかしさに気がついたのか俺に近づいた。

 

 

「いやいや、龍神ってのはちょっとご冗談が過ぎませんか?「・・・諦めろ。さっき調べたら神谷ってのは龍神の兄の名字だ」・・・それ本気で言ってます?」

 

 

風魔がどこから盗んできたのか、やけに煌びやかな辞書らしきものを捨てると、俺に溜息をついた。

 

 

「しかしまあ貴方がかの有名な拳骨神とは・・・壊夢が勝てんわけだ」

 

 

「え?マジ?これからの上司拳骨神なの?」

 

 

「拳骨神言うな」

 

 

俺は高そうな辞書らしきものを掴み、俺のページを開き・・・よく見れば龍華の事も細やかに書いてあったので・・・破り捨てた。

 

 

「・・・こんなもんどっから持ってきたんだよ・・・」

 

 

俺は思考を変える為首を横に振り、四凶の方を向いた。

 

 

「まあ良いか。・・・何か未練とかある?」

 

 

「あ、私良いですか?」

 

侵二が手を挙げた。

 

 

「・・・長く戻らないとすれば、殺すつもりだった相手が居るんですが・・・今、主上によって増やされた妖力がある状態なら間違いなく、すぐに殺せます。行かせて頂けますか?」

 

 

初手殺害協力かよ。まあ長くフラフラしてたせいで全く戦闘意欲が満たされていないから上等なのだが。

 

 

「殺るんだな、侵二?」

 

 

「ええ、とうとう殺せるんですよ・・・」

 

 

「よく分かんないけど遊べそうだねー」

 

 

「要はぶっ殺せばええぜよな?」

 

 

「血気盛んなのは良いが、何を殺るんだ?」

 

 

侵二は微笑んだのち、右手を握りしめた。

 

「麒麟」

 

 

____________________

 

・・・余談だが、割れた青銅の中の手紙にはこう書かれていた。

 

 

お疲れ様です。さて、四凶の名前を推薦します。

 

幻夜、壊夢、風魔、侵二。この四つです。誰に何を付けるかはお任せします。

 

・・・よくもまあ一人で無茶な事やりましたね。お疲れ様です。

 

 

_____こちらもやり直しが効き始め、あと半分程、それで・・・

いや、言うのは不粋ですね。いずれ改めてお話しましょう。 貴方の旅に騒乱あれ、また会える事を楽しみにしています_____

 

 

・・・コイツらは一体何者なのだろうか。コイツらは口を揃えてやり直しがどうだと言う。何をやり直しているか、それも分かっていない。

いつか分かるのだろうか?

 

 

 

次回へ続く

 

 




ありがとうございました。

もう少しこのくだりのストーリーは続きます。


次回もお楽しみに。


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第十九話 初仕事

・・・いやーもう、兵庫県在住なんですが、クソですねクソ。素直にクソです。

初日警報でテストキャンセルで喜んだのも束の間、誰が三日ほどブッ続きで警報出せと言ったよ。家の近くで崖崩れ起きますしね。土曜は警報の需要ないので帰って下さい。まさか龍一の雨男スキルのせい・・・?
皆様は大丈夫でしたか・・・?

はてさて、これで四凶の話は一度落ち着きます。

ゆっくりご覧ください。


「あー・・・あったあった。ここです」

 

 

侵二率いる四凶に案内され、今目の前に巨大な宮殿が見えている。視界前面全部覆ってんじゃねえか。

 

 

「・・・サイズデカすぎない?」

 

 

「まあ確かにデカイよねー・・・潰し甲斐があるってことでどう?」

 

 

「どう?ってお前な・・・」

 

 

幻夜の適当な発言に文句を言っていると、壊夢が何処から掘り返したのか巨大な柱の素振りを始めた。

 

 

「待て待て待て!どっから持ってきたんだよ!?」

 

 

「焦るな壊夢。それに・・・」

 

 

風魔が俺を指差す。

 

 

「今回の指揮は主上だ、多少の融通は変わるぞ」

 

 

「そうぜよなぁ・・・期待しとるぜよ」

 

 

「そうですね。さて主上、ご命令を」

 

 

俺はごく落ち着いて壊夢に言った。

 

 

「壊夢「応!」建築物跡形もなく崩せ「おお!良いんぜよか!?」風魔、「何だ」雨降らせろ「それで良いのか?」構わん。盛大にな。侵二と幻夜は一旦待機」

 

 

「えー・・・まいっか」

 

 

「ちゃんと麒麟は殺させて頂けますか?「勿論だ」了解、任せます」

 

 

今回使用する策はとある家庭製品からアイデアを貰っている。

 

 

「っしゃ!行くぜよ!!」

 

 

壊夢が凶悪な体格と筋力で跳躍し、縦に振られた柱は宮殿を屋上から一階まで粉砕した。ケーキ入刀。

 

 

「本当に降らせるぞ?・・・破ッ!」

 

 

風魔の掛け声と共に暴風雨が吹き荒れ始める。既に宮殿にいたであろう天女のような姿をした人々や翼の生えた虎などの神獣は逃げ惑い始めている。まあ半数は瓦礫の下で潰れてるか柱の直撃喰らって死んでますわな。

 

 

「よし幻夜・・・地面を凍らせろ」

 

 

「なーるほどねー・・・了解っ!」

 

 

たちまち土砂降りで湿った地上は凍結し、人間や神獣は足を取られる。

 

 

「おー・・・やってるやってる。侵二、大体分かってるだろうが・・・」

 

 

侵二は頷いた。

 

 

「・・・驚いた。正面から襲いかかるつもりだったんですがね・・・ここまで効率的で残酷な発想はすぐには出ませんね」

 

 

侵二は細剣を地面に向けると、放電した。

 

 

周囲一帯が電撃の海と化し、足を取られていた人間や神獣は影を残して消え去る。

 

 

尚、参考はゴキブリホイホイと電撃が流れるハエ叩きからだ。凄いよねあの二つ。

 

 

「おひ〜・・・もう何も残ってなくて笑うんだけど」

 

 

「そうですねぇ・・・まさか龍神から全部滅ぼそうぜとの命令を遠回しに受け取る日が来るとは思ってませんでしたね・・・」

 

 

「まあ龍神だって生きてるから。そもそも神は理不尽で傲慢なものだから仕方ない。・・・そこに奇跡を見出すのが人。面白いな」

 

 

「絶対龍神が言っちゃいけない事言ったよこの人・・・」

 

 

「くぁ・・・しかし、肝心の麒麟が見えんぞ?」

 

 

「そうぜよなー・・・人間と神獣しかおらんぜよ」

 

 

死骸を刀でつつき、蹴って転がす風魔と壊夢。二人の表情はいかにもつまらなさそうで、風魔は欠伸までしている。

 

 

「そうですね・・・逃げられた、ってことですかね」

 

 

 「いや?案外そうでもねえぜ?・・・なあそこで蹲ってるお嬢さん?」

 

 

 「ひっ!?」

 

 

俺は倒壊した建物の瓦礫を蹴り上げ、蹲っていた女の子を引きずり出す。

 

 

「な、何をするのよ!この麒麟である私に対して「お久しぶりですねぇ」ッ!?」

 

 

麒麟と名乗った女の子は強めな姿勢を見せたが、侵二の一声で表情を恐怖に変えた。

 

 

「随分と呑気そうではないですか、ええ?」

 

 

「なん、で、アンタが、ここに・・・!?」

 

 

侵二はさも面白く無さそうな表情で翼を撫でる。

 

 

「愚問ですね。踊りに来たように見えますか?」

 

 

侵二は細剣を抜き、麒麟の喉元に近づけた。

 

 

「あの件のツケに決まってるでしょう」

 

 

「ッ・・・親の事ね?」

 

 

麒麟は細剣を押しのけ、立ち上がって離れようとした瞬間、

 

 

「逃げの一手は無しでお願いします」

 

 

幻夜の氷で足を固定された。

 

 

「・・・!?」

 

 

「ツケ・・・と言って理解出来てないんですか?返してもらうのは確定事項なんですよ?」

 

 

侵二は可哀想な奴を見るような目で麒麟を眺めると、細剣を麒麟の喉元に近づけた。

 

 

「まあ一々説明する必要性も無いですね。・・・どうせ死にますしね?」

 

 

「な、何よ!たかがあんな汚い奴一匹消しただけで・・・婚約者の私を捨てて、殺すっての!?あまつさえ神にまで逆らうの!?」

 

 

叫んだ麒麟をいかにも馬鹿にするように侵二は見下ろして言った。

 

 

「だからどうした、飯が食えなくなるのか?」

 

 

「は・・・!?」

 

 

「婚約者だからなんだって言うんだ?・・・いつ、どこで、殺すななんて決められたんだ?いつ、神に逆らうなと命じられた?誰も言ってないな。多少常識に逆らうだけで飯が食えなくなるわけではないだろう?・・・それに」

 

 

侵二は細剣を麒麟の喉元に当てた。が、そこから進まなかった。

 

 

「俺はお前を殺すとは言ってない。単に、ツケを返してもらいに来ただけだ」

 

 

侵二はしばらく睨んでいたが、苦笑して首を振りながら細剣を投げ捨て、麒麟を抱きしめた。

 

 

「やめだ。いきなりすまんな。・・・俺はこの国を出る。お前にあの件で負い目があるなら、裏切られたとはいえお前は信用した相手だ。・・・攫いに来た。来るか?」

 

 

しばらく麒麟は両手の行き場を無くし呆けていたが、頷いた。

 

 

「・・・アンタがどうしてもって言うなら、行っても良いわよ。・・・悪かったわね。アンタの事、裏切って」

 

 

「・・・ありがとう」

 

 

「ううん、・・・やっぱり、貴方が好きかな」

 

 

侵二は俺たちに顔を向けるように麒麟を抱きしめていたが、

 

 

「なら・・・逝こうか」

 

 

麒麟と顔を合わせた時の表情は、本当に感謝して、やや涙声になっている声の割には口が歪みきっており、そっと抱きしめていた麒麟から離れ、顔を合わせ、静かに口を大きく開いた。

 

「俺も裏切るからドローだな。俺はお前の事」

 

 

何が起きているか分からないような表情を浮かべた麒麟を、翼が押さえつけ、侵二は牙をそっと首筋に近づけた。

 

 

「初めから大嫌いだったな。あの世でもツラ見せるな」

 

 

・・・数瞬の後、麒麟だったモノは翼に飲み込まれ、侵二の口元は血で汚れていた。

 

 

「・・・親を殺した事は良いさ。俺を裏切った事も別に良いさ。けどな・・・」

 

 

侵二は血を拭い去り、暗く笑った。

 

 

「ツケは返してもらうって言っただろ?・・・それに、喰わないとは言ってない、って感じですね」

 

 

侵二はニヤついた笑いを浮かべると、宮殿の残骸を雷で破壊した。

 

 

「・・・満足したか?」

 

 

「まあ・・・満足ですね」

 

 

「良かったのか?婚約者を殺して」

 

 

「・・・ええ、まあ彼女が私に恋愛感情を抱いていたのは予想外でしたが、生憎答える気はありませんでしたから。・・・なら、殺してやった方が楽です・・・ってのが建前で、死んで頂いてとても嬉しいですね。食事が進みます」

 

 

「生粋のクズじゃん。・・・お前の頼みってのはこれで終わりか?」

 

 

俺が問うと、侵二は天を仰ぎ、微笑を浮かべて俺に向き直った。

 

 

「ええ。完全・・・とは言えませんが、現在殺せる相手を考えるなら最上の状態です。・・・では主上、改めて私は・・・」

 

 

侵二は俺に膝をついた。

 

 

「饕餮、もとい侵二。永久に従う事をここに誓約します。・・・こんな生物のレールから外れた上に、目的の為に数千年付き合ったのち裏切る事も厭わない化け物ですが、よろしくお願いします」

 

 

「・・・ああ」

 

 

俺は何故かふと、かつて倒した謎の生物の落とした簪について問おうと思ったが、顔を上げた侵二には一切の迷いが見えず、優しくも残酷な笑みを浮かべていたので、黙っておくことにした。逆に悪い影響を与えてしまうかもしれない・・・そう思った。

 

 

「ねー・・・まだその重いの続くのー?」

 

 

「・・・すみませんね」

 

 

「まあ良いけどさ。・・・でも、侵二ってお嫁さんになる予定の人いたんだねー」

 

 

「まあ・・・そうなりますかね」

 

 

いいなー、と幻夜は本気なのか分からないトーンで呟く。

 

 

「・・・ま、僕にお嫁さん出来たら奇跡だけどね。花の好きな娘なら誰でも良いかな・・・」

 

「・・・お前の条件が軽すぎて大半が該当するぞ」

 

 

「そーかなー?じゃ、そう言う風魔は?」

 

 

風魔は面喰らった表情をした後、クソ真面目に答えた。

 

 

「価値観を共有でき、人を思いやれる奴なら良い。・・・自然が好きな奴ならなお良いな」

 

 

「へー・・・」

 

 

じゃ、壊夢はー?と幻夜は質問を続ける。

 

 

「俺より力のある奴「無理でしょ」「寝言を言うな」・・・そこそこ力のある奴ぜよね。後は根腐れ無いのが良いぜよかな」

 

 

「ふーん。・・・ちょっと二人とも以外「ええ根性しとるぜよな」「斬る」ちょっとタイム!そうじゃなくて・・・一人で良い、とか考えてそうだったからさ・・・」

 

 

風魔は馬鹿にしたように幻夜を眺め、壊夢は面白そうに幻夜を見た。

 

 

「あくまでも理想論だ。あるわけがなかろう」

 

 

「まー・・・遠い理想ぜよから、俺はどっちでも良いんぜよ」

 

 

「えー・・・みんな夢ないなぁ。どうせ叶わないんだしもっと言おうよ。ふと座ってたら隣でスヤスヤ寝てるとかさ良いと思わない?絶対無理なんだからガンガン考えよーよ」

 

 

「それ貴方が一番否定してますよ?」

 

 

「そだね。・・・まあ何処の誰が頭おかしくてこんな意味不明の団体に好きですとか言うのさ?言わないと思いまーす」

 

 

「お前らそれ俺も入れてんのか?」

 

 

「バカ言え、何処に壊夢と殴り合って、幻夜の攻撃でくたばらず、私の斬撃を見切って、侵二に投了させる一般人がいるんだ。いや、龍神だったな」

 

 

そう言うと馬鹿らしくなったのか、風魔は苦笑した。

 

 

「・・・全く、つまらなさ過ぎて笑えてくる」

 

 

「まあまあ・・・では主上、話を変えますが・・・次は如何なさいますか?」

 

 

俺は八岐の剣を取り出し、地面に突きつけた。すると八岐の剣は東に倒れた。

 

 

「よし、向こうだ「行動原理雑ッ!?」「身勝手の極意極まれりだな」・・・だって予定ないし、フラフラしようぜ」

 

 

風魔は苦笑し、幻夜はニヤニヤと笑い、壊夢は面白そうに笑い、侵二はやれやれと首を振ったのち笑った。

 

 

「御意、では行きましょう。主上」

 

 

俺達は歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

海を。

 

 

 

次回へ続く

 




さて・・・どうしようかなこの非常識メンバー(定番の後先放置)

侵二はまあ、バツイチと考えて下さい。相手の顔写真にバツが入った方のですが。


そう言えば七夕でしたね。織姫と彦星のくだりは今年は現実の天気では会えなさそうですね。・・・そういえばこの前、とあるホテルの短冊に願い事を書くコーナーに、パパのお友だちが働いてくれますようにって短冊があったんですね。真面目に何があったか問い詰めたいです。どうなってんですかね。
・・・おじいちゃんとおばあちゃんが長生き出来るように、医者になるので応援してくださいってのもありました。いい子ですね。誰だか分かりませんが眩しすぎて溶けました。


次回もお楽しみに。


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第二十話 四凶紹介

さて、純粋なクズ共の紹介となります。

ゆっくりご覧ください。


__________世界に見放された不純物【混沌】こと「幻夜」

 

 

身長・・・175センチ

体重・・・0〜45キロ

 

・能力

【万物を欺く程度の能力】

 

・概要

四凶の一角。基本はサポート兼中、遠距離担当。

外見は若葉色の髪に、水色の目をしている。

俊敏性、跳躍力、回避に優れており、翻弄してからの急所への一撃を得意とする。

能力は生物を対象とするのに留まらず、物理法則、自然の摂理等にも関与する。そのため存在が曖昧で、あらゆる攻撃を逸らす事が可能。

本人曰く多重人格であり、裏の性格は表のマイペースさとは裏腹に凶暴かつ粗雑な性格。(通称裏)

裏の状態では瞳の色が紅く染まり、槍主体の中距離戦から爪による斬撃やアクロバティックな格闘など、近距離戦に変わる。

炎を苦手とし、逆に水を好む。四凶内ではトップクラスの泳ぎスキルがあるとか。

混沌一族は幻夜を除いて全滅しているが、理由は不明。

語尾が伸びるクセがある。意味はない。

武装は短槍。一振りで周囲の地面を凍土と化す。また、刃の部分に氷を纏うことによって武器の形を変える。銘は凍結槍(とうけつそう)。

性格は呑気でマイペース。裏は粗雑で凶暴。

植物が好きで、時々育てていたりする。

 

目標は【のんびり、満足できるように生きる】

 

 

__________折れる事のない頑固者【檮杌】こと「壊夢」

 

 

身長・・・210センチ

体重・・・95キロ

 

・能力

【万物を貫く程度の能力】

 

・概要

四凶の一角。常に先陣を切って突っ込む猛将。超至近距離タイプ。

外見は赤髪に黒い目をしている。

俊敏性は低いものの、それを補って尚余るような怪力と耐久性を持ち、受けてからの一撃必殺を主軸とする。

能力はあらゆるものに拳を当てられる・・・と言うのが本人の使い方だが、どうやら事象も貫通できる模様。

要は不可能を可能に出来る可能性を秘めている。

檮杌一族の若棟梁だったらしいが、縛られることに飽きたので逃げてきたらしい。

苦手なものはなく、あらゆる攻撃で傷を負わないと言う特異体質持ち。よってほぼ不死身に近い。

ぜよ口調は癖であり、特に意味もない。

武器は手甲。一発で山を崩し、湖を干上がらせる。地面に拳を埋める事で地面を赤熱化、溶岩として射出する事も可能。銘は壊山(かいざん)。

性格は豪快でやや頑固者。

凶悪な酒飲みで酔う事がなく、自分で酒を作る事もある。

 

目標は【戦って死ぬ】

 

 

__________音すら越える刃【窮奇】こと風魔

 

 

身長・・・194センチ

体重・・・50キロ

 

 

・能力

【災害を司る程度の能力】

 

・概要

四凶の一角。空、地上関わらず駆け巡り、高速戦闘を行う。近距離タイプ。

外見は紺色の髪に緑色の目をしている。龍一との戦闘で右眉から左の顎の下までかけて刀傷が残っている。

速さに関しては他の四凶はおろか龍一すら上回っており、刃物を持たせての斬撃は空間すら断つ。

能力で操れるのは、暴風、大雨、火災、地震、火山噴火、疫病、大雪、雹、吹雪、洪水、竜巻・・・と言ったように、災害ならなんでも操る事が出来る。

その為出身の地方では風神として崇められていた。本人はそれを嫌がっている。

他の四凶と違い、【窮奇】は風魔ただ一人を指す。

大陸出身であるが、やや日本人に近い素質を持つ。

武器は大太刀。刀身が1メートルを超える、少し特殊な刀。一振りであらゆるものを切断し、暴風を巻き起こす。銘は無し。

性格は冷静で熱血。

大の読書好きで、文化、宗教、心理にも精通している。

 

目標は【馬鹿らしく生きる】

 

 

__________神を恨み、神に仕える異端者【饕餮】こと侵二

 

 

身長・・・195センチ

体重・・・65キロ

 

・能力

【有象無象を喰らう程度の能力】

 

・概要

四凶の一角で四凶のリーダー格。何事もそつなくこなすオールラウンダー。

外見は黒髪に金の目をしている。

特に秀でた能力はないが、どれも四凶の平均以上で、特に能力は数倍の凶悪さを誇る。

能力は単純で、背中から生えた翼で対象を捕食する。翼は基本は一枚だが11枚存在し、袖に隠す、腕に纏うなど、汎用性は高い。

翼に喰われた場合、勿論消化され、余すところなく侵二のスタータスの強化に用いられる。尚吐き出す事も可能。

能力を捕食された場合や、属性を捕食された場合、しばらく侵二の能力として追加される。

更に、捕食を行う部位は翼だけでなく、侵二自身の口でも可能。

・・・麒麟を含む神に家族、一族を全て殺されており、非常に恨み、同じ目に合わせる事を目的としている。その為、かつて恨みを抱いた相手は何があっても殺そうとする。例え婚約者でも容赦をしなかったのがその一例。本人曰く美味かったそうな。

そのせいか神に対しての知識は高く、なおかつ神相手は非常に容赦がない。

武器は細剣。一振りで黒い雷を落とし、あらゆるものを炭に変える。銘は雷斬刀(らいざんとう)。

性格は基本的に優しく、物腰も柔らかく丁寧で、です、ます口調が口癖。ただし時々残虐かつ無慈悲な性格になり、です、ますは消失する。

 

 

目標は【落ち着ける場所を探す】

 

 

全体について

 

・衣服

 

幻夜・・・灰色のフード付きパーカーに紺のジーンズ

 

壊夢・・・赤染の着流しに、ところどころ甲冑が下に着込まれている

 

風魔・・・蒼染の着流し

 

侵二・・・黒を基調とした漢服

 

 

・伴侶を作るとすれば?

 

幻夜・・・「んー・・・出来るかわかんないけど、一緒にいて楽しければ良いかな?」

 

壊夢・・・「よう分からんが、楽しけりゃ誰でも良いぜよ!」

 

風魔・・・「私の我儘を許してくれる相手なら・・・離れなくなるだろうな」

 

侵二・・・「さっき婚約者殺した奴に聞きますか普通?・・・まあ、種族としての私ではなく、私自身を評価してくれる人・・・ですかね?後神以外でお願いします。神はもうお腹いっぱいです。色んな意味で」

 

 

・年齢。()内は人間換算

 

幻夜・・・2億と8700万年(17歳)

 

壊夢・・・2億と8900万年(19歳)

 

風魔・・・2億と9000万年(20歳)

 

侵二・・・2億と9100万年(21歳)

 

 

 

次回へ続く

 

 




ちなみに四凶の性格は、それぞれ自分の悪い性格を突き詰めたものをいい方向に変えたものです。
マイペースで周りに乗らない、変なところで頑固、他人に冷たい、他人に対して表として見せている自分・・・など、碌でもないものから作られています。ちなみに作者の理想の人間像は幻夜です。

次回もお楽しみに。


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第二十一話 指名手配

さて、平和回です(強要)

やっとネタがちょろちょろと出てきました・・・

ゆっくりご覧下さい。




・・・本日はお日柄も良く、素晴らしい日だと存じ上げます。小鳥は飛び、魚は跳ね、木々は揺れ、雲が動く、そして人が飛ぶ。

 

 

「壊夢!さっさとぶっ飛ばせ!」

 

 

「応!ぬえりゃあっ!!」

 

 

・・・訂正、本日はお日柄も良く、クソみたいな日々と存じ上げます。鳥たちは種に関わらず共に命懸けで飛び去り、魚は危機感のあまり水の流れを無視して飛び跳ね、木々どころか山と地面が揺れ、雲が霧散し吹き飛ばされる、そして人が吹っ飛ぶ。

 

 

・・・何故こうなったか、それは単純かつ長い話になる。

 

 

まず簡単に言うと・・・

 

 

「大和がなんぼのもんじゃい!こちとら向こうの悪神ぜよ!」

 

 

単に壊夢が喧嘩してると言うべきだろう。では、簡単に回想しよう。

 

何、数分前の事だ。

 

 

____________________

 

 

丁度彼等を配下にしてから日本に帰った後、俺たちは暫くする事もなく、様々な村を転々と渡り、一応四凶は渡来人のような扱いなので知識を広め、悠々と過ごしていた。そうして軽く一年、今もとある村で居候をする代わりに農作業の手伝いをしていた。

 

 

「マスター、今日の分の収穫もそろそろ冬用に備えるー?」

 

 

「・・・んー、備えるのも妥当なんだが、ここ最近の疫病で他の村から難民が来るかもしれんしな・・・とりあえず蔵で保留な、俺ちょっと客迎えるから」

 

 

「はーい」

 

 

軽く返事をした幻夜を横目に、何故かふんぞりかえった男が来たので壊夢に作業を切り上げさせて同行させる。予備として風魔も上空で待機させて男に近づく。

 

 

「お客さんなら向こうを通って頂けるか?出来れば手続き等もしてほし「貴様が向こうの地から帰った男か?」・・・話聞けや」

 

 

俺の営業スマイルを粉砕し、偉そうな奴は俺を馬鹿にしたような目で見る。

 

 

「確かに俺がそうだ。とりあえずそこに立つのやめてもらえるか?その辺耕したばっかなんだ「やはりそうか!なら、我々の下に下れ!」・・・テメエさては大和のモンだな」

 

 

この感覚は話を聞かない大和の馬鹿小僧とアホ小娘のものだ。さてはどっかの馬鹿が調子こいて戦力増やして権力上げようぜーとかほざいたに決まってる。

 

「いいから離れろって、種も植えたんだよ「我は大和の天照大御神様の使者!貴様、あの方に仕えられる事を光栄に思え!」・・・だからどけって「さあ急げ!あの方も待っておられ「じゃかあしい!!」ガハッ!?」・・・ホームラン」

 

 

結果行くとも言っていないのに連れて行こうとした使者は、

 

 

「大和がなんぼのもんじゃい!こちとら向こうの悪神ぜよ!」

 

 

本気の壊夢の回し蹴りを喰らって飛び去った。これにはライト兄弟もびっくり。人類最古の飛行はここだった。尚さっきの場面はここに繋がる。

 

 

さて、天照の誘いを文字通り蹴ったらどうなったか。

 

 

「・・・ねぇ、結構この村気に入ってたんだけど?」

 

 

「また旅路か・・・」

 

 

「まあ、今回は仕方ないですね・・・」

 

 

「・・・すまん」

 

 

「いいから逃げるぞお前ら。チンタラやってるとまた五人ぐらい蹴り飛ばす事になるぞ!」

 

 

神に逆らった反逆者として指名手配をくらい、村から逃げるどころか常に大和の阿呆どもを蹴り飛ばすハメになった。妹の国に指名手配くらうって何だよ。

 

 

「・・・いけね、食料ないぞ」

 

 

「どうします?ここらの動物は狩れるだけ狩りましたし・・・」

 

 

「・・・お?そろそろアレ?」

 

 

「仕方ねえな・・・」

 

 

よって、俺たちは常に村や町を転々とし、足りなくなった食料をその場辺りの妖怪から取るか村をこっそりと襲撃する盗賊集団と化した。しかし中には気前よく食料や物資を分けてくれる村もあった。そんな村には俺たちの持つ食料の作り方を教えた。そう、米だ。

 

 

まさか米を広める人間になるとは思っていなかった。いや人間じゃないか。道理で渡来人から教わったと教科書にあったわけだ。あながち間違いではない。

 

 

「そうそう、で、水一回抜いて、苗を強靭にして「来たぞ」・・・また水を入れてやるんだ。とりあえずまとめた書物渡しとくわ。悪いけど時間だ」

 

 

村に数日間の間だけ滞在し、米を広めてはやってくる大和の兵を迎撃、逃走、蹴り飛ばし、撃退する。

 

 

そうこうしているうちに、島根から長野ぐらいまでの距離を逃走していた。歩いて。逃げる気が無いのがバレる。

 

 

「ねー、何処まで逃げるの?正直もう打って帰って攻めれば良くない?」

 

 

「・・・いや、それもありなんだが、折角だしこのままこの国巡ろうかと思ってな?」

 

 

そうは言ったものの、やはり特別な理由がないと妹の国を攻めたくない。と言ったわけで理由探してるのが本心である。クソ野郎とでもなんとでも言え。

 

 

「主上、この辺だと・・・向こう東に三キロ程が妥当ですね。それ以外に村はあまりありません、ど田舎ですね」

 

 

「だよなぁ・・・じゃあまず、そこに向かって恵んで貰えるか様子見るか・・・」

 

 

俺たちは逃走している奴らの割には堂々と侵二が発見した村に向かった。

 

 

「んー・・・この辺りなんですけどね」

 

 

「まさか前でよく見る軍隊がいるとこじゃないよね?」

 

 

「多分そこですね」

 

ふざけてんのか。生憎タイミングが悪かったらしく、大和が勧誘に来ているらしい。俺たちがすごすごと引き上げようとすると、何やら様子が変だった。

 

 

「・・・ん?ちょっとお前らストップ。早速盗賊の準備するな。勧誘に乗らんようだぞあの村・・・」

 

 

「まさか、このご時世あの国に従わないってのは滅ぶのと同じですよ?」

 

 

「いや、でも村の奴が湯のみ投げてるんだが・・・」

 

 

「・・・本当に投げてますね。滅ぶつもりでしょうか?」

 

 

「とりあえず見に行かんのか?運が良ければ儲けが出るかもしれんぞ?」

 

 

「さんせー」

 

 

「・・・まあ、行ってみるのもええんじゃないぜよか?」

 

 

「そうだな、とりあえず向かうか」

 

 

して、湯のみ投げ村(仮名)に近づくと、やはりよく見て蹴り飛ばす大和の兵に、住民が湯のみだけに留まらず、ちゃぶ台まで投げていた。

 

 

「帰れ!うちにはあんたらを信仰する奴らはいない!」

 

 

そう湯のみちゃぶ台投げ村(仮名)の村人達は叫んでいた。

 

 

「貴様ら・・・!我々に逆らうとどうなるか・・・」

 

 

「それ俺ら捕まえてから言えよ」

 

 

折角なので場を掻き乱そうと湯のみを投げられた奴の背後に着いた。恐る恐るこちらを振り向いた大和の兵は、俺を確認した途端、驚愕の表情に変わった。

 

 

「貴様・・・!?まさか指名手配中の・・・」

 

 

「左様。絶影で「妖怪蹴り男か・・・!?」ネーミングセンスクソかよ!お望みどおり蹴り飛ばしてやるよ!ブラジルまで飛んでいきやがれ!」

 

 

俺は左足を軸にして回転し、高速回転したまま右足で兵の腹を蹴った。男はくの字になりながら猛スピードで飛んで行った。・・・あれだとブラジルの東側の海に落ちそうだな。

 

 

「あーあ、これで通算482回目の撃退ですね。馬鹿なので一人ずつ来るので全く問題ないんですがねぇ、ここまで来るとスコア大会だと錯覚しますね」

 

 

「あ、あんたら・・・一体何者だ!?」

 

 

ちゃぶ台村(省略形)の爺様にたまげたような表情で見られる。・・・これは案外チャンスかもしれない。

 

 

「詳しいことを話したいんだが、いかんせんこっちも追われてる身でね。飯食ってないんだ。・・・悪いが恵んでくれんかね?」

 

 

____________________

 

 

「いやー申し訳ない。ウチも同じような事やって指名手配食らったんですわ」

 

「そうでしたか・・・ここは大和の神々が統括していない地・・・洩矢諏訪子(もりやすわこ)様が治められる地でしてな。それを彼らは度々要求するのです。今回は助かりました。ありがとうございます」

 

 

「いえ、あんまり気にすることないですよ。おかわり下さい」

 

 

気にする事は無いと、今回12杯目のおかわりをしながら侵二が微笑む。お前大食いかよ。爺様引きつってるだろ。

 

 

「・・・まあアイツが言う通り気にする事はないさ。こっちだって飯がなくて軽く困ってたしな」

 

 

「そうですか・・・ではお礼はここらで控えさせて頂きます。ところで、諏訪子様が是非貴方方にお会いしたいと仰っているのですが、お時間よろしいでしょうか?」

 

 

「いいんじゃない?どうせ暇だし。あ、僕もおかわりお願いしまーす」

 

 

「・・・そうだな。ではお願い申し上げる」

 

 

・・・大和の息のかかっていない神と会うのはこれで二度目か。まあ一度目の奴はここにいるのだが。

 

 

かたり、と八岐の剣が揺れた。分かってる、お前みたいに特殊な神の様子見ろってんだろ・・・

 

次回へ続く




ありがとうこざいました。

そろそろ暴れたいですよね(急患)

次回もお楽しみに。


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第二十二話 依頼

自分で前作を見返して、この頃の四凶のキャラがガバガバだったのに苦笑しつつ恥ずかしさを感じました。今もこんなモノ投稿してて恥ずかしいです。

ゆっくりご覧ください。


・・・彼女はそこに鎮座していた。

 

彼女は祟り神、太古から周辺の地を治め、今もこの地を治めている。

 

 

今回は村の者達を救った奇妙な一団がいると聞き、対談を求めた。

 

 

今は大和が勢力を広げている状態。彼女としても協力者が欲しい。

 

 

よって、威厳を持ち、相手に舐められないような気迫で対談を始めようとした。

 

 

「お邪魔しまーす。あ、八岐の剣引っかかった。・・・あ」

 

 

「龍神様ーッ!?」

 

 

最も、入ってきた奴の持っていた刀で誰か分かってしまったのでそんな事する必要がなかったのだが。

 

 

____________________

 

 

「こ、此度は八岐大蛇を鎮め、使役せし龍神様、わざわざこのような村に来ていただき誠に感謝存じ上げます・・・」

 

 

そう言って俺の前で龍華並みの身長の金髪の女の子が平伏している。運悪く彼女は祟り神だったらしく、その辺神々の頂点に君臨する八岐大蛇のせいで気づかれてしまった。控えろ八岐。

 

 

「やめてくれ恥ずかしくて死ぬ。もう隠す必要ねえな。最近大和に指名手配されてる一団のリーダーの・・・神谷龍一だ。後ろで正座してるのが向こうの国から連れてきた一団のボスの侵二、茶を飲んでるのが風魔、朝から酒飲んでるのが壊夢、欠伸してるのが幻夜だ。今回は村に入れてくれるようにしてくれて助かった」

 

 

何とか彼女・・・洩矢諏訪子には顔を上げてもらう。

 

 

「後敬語は無しで頼む。ギスギスして仕方ない」

 

 

「えーっと・・・これで良いのかい?」

 

 

「すまんな。・・・お前ら、一応自己紹介しとけ」

 

 

「ういーっす。どーも、幻夜でーす。混沌でーす」

 

 

「壊夢ぜよ。檮杌っちゅう妖怪ぜよ」

 

 

「風魔だ。窮奇と呼ばれる者だ」

 

 

「どうも。侵二と申します。饕餮でございます」

 

 

「以上。まあお互いに大和に逆らった者として宜しく。・・・けどあれだな、腑に落ちてなさそうだが?」

 

 

諏訪子は頷いた。

 

 

「・・・まあね。確かに私はここを昔から治めて、ずっと信仰されて来た。けど、今此処で大和に逆らうと、勝てたとしても被害は出るだろうな・・・と思ってさ。だったら、大人しく此処で私が降参して、村の皆に危害を加えたくないな・・・と思ってね。私は消えるけど、それが良いんじゃないかと思っちゃってさ」

 

 

「・・・自らの大事な物のために、自分を捨てる、か」

 

 

俺もその心は持っているので、否定し辛い状態になっていると、隣の風魔が嘲笑した。

 

「馬鹿か祟り神」

 

 

「んなっ・・・!?」

 

 

あのな、と風魔は頬杖をつく。

 

 

「確かにその心得は良しとしよう。だがな、それを持ってして置いていかれた奴がどうなるか、特に戦が関わった状態だとどうなるかを仮定しろ。昔から仕えていた上が殺されて、大人しく新しい指導者に下ると思うか?特にこの国は仁義に重いらしいな。なら尚更のこと村の奴らは反抗し・・・全滅するだろうな。何ともまあどいつもこいつも思い通りに行かない下らん結末になるわけだ」

 

 

風魔は頬杖を解き、腕を組んだ。

 

 

「自己犠牲を考える暇があるなら、他国に協力を求めるなり善処しろ。・・・最も、そんな酔狂な国はないな。国は。だがな。入国していきなりの罵声で申し訳ないが、それが率直な意見だ」

 

 

風魔は言い切ると、再び茶を啜った。

 

 

「・・・まあ風魔の言う通りな訳で、あんまり良くはないだろうな。で、どうする?このまま俺らみたいな犯罪者置いておくと、確実に滅ぼされますが?」

 

 

諏訪子は頭を垂れたのち、俺たちに平伏した。

 

 

「・・・勝手なのは分かってる。けど、お願いします。・・・協力してもらえるでしょうか・・・!?」

 

 

仕方ないので俺は拳銃を構えた。

 

 

「理由は?」

 

 

「・・・勝手だよ?やっぱり自分の村は最後まで見たくてさ。・・・消えたくないって思っちゃったよ」

 

 

俺は拳銃を袖にしまい込んだ。

 

 

「須佐男よりはしっかりしてら。・・・良いぜ。とりあえず俺は手伝う・・・お前らはどうする?」

 

 

風魔は溜息をつき、苦笑した。

 

 

「火をつけたのは私だからな。それに、国はないと言ったが、個人はないとは言ってないのでな。・・・手伝おう」

 

 

すると、壊夢はバンと膝を叩いた。

 

 

「よし!俺も乗るぜよ!」

 

 

侵二は悩んでいたが、凶悪な笑顔を浮かべ、頷いた。

 

 

「・・・八百万が相手ですか。勝算を主上が覆すと仮定すれば行けますし・・・殺せるとすれば、ちょっと楽しみですねェ」

 

最後に、幻夜が立ち上がった。

 

 

「・・・んー、面倒だし嫌だな。ご飯貰ったけど、そこまでする義理ないし・・・別行動しても良いんでしょ?」

 

 

「別に口挟む義理は無いしな。抜けるんだったら別に良いぜ。どうとも思わない」

 

 

「オッケー、じゃあ抜けよっかなー」

 

 

「そう・・・かい。でもありがとう」

 

 

「ありがとうの意味が分かんないね。まあ、無理せず頑張ってね・・・そこの四人で済むと思うしね」

 

 

そう言って幻夜が退出しようとすると、7歳ぐらいの女の子が駆け込んで来た。緑色の髪で、7歳の割にはしっかりしていそうな子だ。

 

 

「諏訪子様!大和と立ち向かうってのは本当ですか!?」

 

 

「・・・このちっちゃいの誰?」

 

 

幻夜が目を細めて聞くと、諏訪子は答えた。

 

 

「・・・ウチの巫女だよ。縁、この人達は協力してくれる人達だよ」

 

 

そう諏訪子が言うと、縁と呼ばれた女の子は、ぺこりと挨拶をした。

 

 

「初めまして!東風谷縁(こちやえにし)と申します!」

 

 

縁は挨拶をすると、幻夜をキラキラした目で見た。

 

 

「貴方も助けてくれるんですか!?」

 

 

「え、いや・・・」

 

 

面倒だし辞めようかなー、と言う幻夜の小声が聞こえなかったのか、縁は幻夜にお辞儀をした。

 

 

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

 

 

「・・・こーゆーのせこいと思います。・・・僕も乗るよ。やだなぁめんどくさいなぁ・・・」

 

 

幻夜はそう言うと、縁を抱え上げ、部屋に中央に戻ってきた。

 

 

「・・・保育士幻夜「ちょっと侵二黙ってくれる?」・・・では主上、全員乗ると言う事で行きましょう」

 

 

「ドンマイ幻夜。「煩いなぁ」「どうかしましたか?縁が悪いことをしてしまったのですか・・・?」「大丈夫、してないよ!」・・・フヘッ」

 

 

変な声が出た。幻夜がイライラしながらも縁に笑顔を見せ、俺に文句を言った。

 

 

「何鼻で笑ってんのさ、・・・仕方ないなぁ、殺せば良いんでしょ?」

 

 

「本当にありがとう・・・!」

 

 

「礼は全部済んでからだな。・・・さーてお前ら、今から何をするか分かってるな?」

 

 

「カチコミぜよな!「馬鹿者、暗殺だろう」「落ち着いて下さい、誘拐からの脅迫ですよ」「違うでしょ、昼寝でしょ?」」

 

 

「誰一人合ってねえよ!食料の補給からだろ?・・・ああそれかみたいな顔するな!掠ってもいねえよ!そもそもお前らの考える作戦は何だよ?」

 

 

「では聞いて頂けますか?」

 

 

「良いよ、聞いてやるよ。まず壊夢、「正面から殴り合いぜよ!」何人相手すると思ってんだ、却下ァ!風魔、「主格暗殺からの残りの殲滅」良さげに聞こえたが主格が俺の妹なので却下!侵二、「主格誘拐からの脅迫で対等に」緩いから却下。後俺の妹に怪我させない方針で。幻夜「もう僕らであらゆる面で本拠点攻めれば良くない?」半分採用して後半分は面白み無いので却下!」

 

 

「じゃあどうするの?あんまり働くの嫌だよ?」

 

 

ブツブツと嬉しそうに撫でられている縁を撫でながら幻夜が質問してくる。

 

 

「・・・普通に相手の本拠点を封鎖して信仰減らしてからの疫病と食料、水不足で和平を懇願しに来たタイミングで乗り込んで決着だろ。「どこが普通だ」「鬼じゃのお・・・」「相変わらず酷い作戦だ・・・」「縁の教育に悪そう」「・・・流石に龍神の作戦としちゃエグい気がするよ?」・・・文句言う割には嬉しそうにしてる三人は何だ。後幻夜はいつから縁の親になった」

 

 

「だって可愛いし。将来こんな子が欲しいなー」

 

 

そう言いながら幻夜は縁の頭に顎を置く。縁は少しだけくすぐっそうにする。

幻夜がどこか別の次元に目覚めそうなのでさっさと引き戻そう。

 

 

「まあ計画の話に戻る。結果準備に三年、封鎖に一日、兵糧攻めに三年、疫病に一年、よって七年と一日で完了予定とする計画だ「戦争でもここまで伸びんぞ。戦乱時代か?」「えらく長い間かかるのぉ・・・」「やっぱ鬼畜じゃないですか」「それなら縁も変なとこ見なくて良さそう「何がですか?」んーん、何にもないよえーちゃん」「別にそこまで悪意丸出しで村守ろうとまでは思ってなかったんだけどね・・・後、ウチの巫女を勝手に手懐けるのはやめてくれないかい?」そろそろ落ち着けや幻夜ァ!」

 

 

幻夜が戻ってこない。

 

 

「冗談冗談。えーちゃんは向こうで待っててねー「また後で遊んで下さいますか?」当たり前じゃん、また遊んだげる。「分かりました!」・・・ちょっと本気出すわ」

 

 

保育士がアップを始めました。

 

 

「やる気満々で嬉しいんだが、準備にかかるぞ。これから三年程かかるが大丈夫か「一日で行けるよ」・・・寝言やめろや」

 

 

寝言じゃないよと幻夜が手をコキリと鳴らす。

 

 

「あれでしょ?米五千人分のを三年分でしょ?終わる終わる。・・・じゃあ行っきまーす!」

 

 

幻夜が侵二から増殖用の米粒を受け取ると、宙に放り投げ、指を鳴らした。

 

 

「促進!どんどん増やしちゃおうねー」

 

 

空から投げた米が落ちて来る。数億倍以上になって。

 

 

「はあ!?お前そんな能力あったのかよ!?」

 

 

いんや、と幻夜が稲の雨の中首を振る。

 

 

「植物に季節が巡ったと誤認させた。つまり、勘違いさせて大急ぎで種から成体まで成長させただけだよ。後は回収場所考えれば完璧だよ。じゃあえーちゃんと遊んで来まーす」

 

 

そう言って大量の稲の山を残したまま幻夜は去った。化け物かあいつは。化け物だったわ。

 

 

「じゃあ回収が私が・・・」

 

 

そう言って侵二は翼を広げる。

 

 

「この中に入れて下さい。一応これは胃と繋がってない奴です」

 

 

「じゃあ入れていくぜよ!」

 

 

「そうだな」

 

 

そう言いながら、風魔が米を風で脱穀して樽型に圧縮し、それを壊夢が担ぎ上げ、翼に放り込む。見ているうちに米の山は消え去った。

 

 

「・・・龍一、アンタ、変なの連れて来たね・・・」

 

 

今後悔してるからそれは言わないで欲しかったかな。

 

 

 

次回へ続く

 

 




まあ普通配下にしたって面倒だったらサボろうとする奴居ますよね。てな訳で幻夜は基本私利私欲で従います。まあ他の奴らも自分勝手ですよ。


次回もお楽しみに。


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第二十三話 平和の中に見える狂気

そう言えば、テスト期間だったんですよね(過去形)。無視して書いてました。

そして増える相談客。一々相談内容が重い!(生きる事に疲れた云々)


ゆっくりご覧ください。


「よっと、・・・こんなもんか?」

 

 

俺は朝から金属の塊を生成し、壊夢に見せる、壊夢は拳を振りかざし、拳骨で金属を破壊した。

 

 

「駄目ぜよ。全然足らんぜよ」

 

 

何をしているかと言うと、兵糧攻めをする時に国ごと囲うつもりなので、その為の柵を作っており、確認として壊夢に殴ってもらっている。尚1258回全部敗北。物理攻撃力カンストやめろや。

 

 

「お前なぁ・・・もうお前が地盤掘り出して囲えよ」

 

 

そう言いながら俺は1259回目の金属塊を作り上げる。

 

 

「別に構わんぜよが・・・お?これは凹まなかったぜよ!」

 

 

そう言いながら拳を下ろした。成功か・・・!?

 

 

「じゃあ頭突きぜよな。ぬんっ!」

 

 

崩壊しました。(1259敗)さあ残り何試合するんだろうか。

 

 

「主上、疫病を作れと言っていたから作ったが・・・本当に植物相手だけで良いのか?」

 

風魔が不思議そうに草木を黒く変えながら質問して来る。風魔には疫病の生産を任せ、見事に可食部位のみが酸化するという嫌がらせウイルスの完成を目標としている。もう完成してら。

 

 

「ま、善後策って奴だ。終わってからウイルス感染して人が死ぬとか言うバイオ展開嫌だしな「心得た。他に注文は?」感染から発症までを遅めに頼む」

 

 

そう言っている間に1300回目の金属塊を生成、やはり頭突きで破壊される。そして侵二が砂煙を上げながら、翼で地面を噛んでブレーキをかけて下がって来た。

 

 

「失礼しますよ主上。・・・はっは、諏訪子殿ォ、その程度じゃまだまだですよォ!」

 

 

「えっ、ちょ、ひえっ!?」

 

 

「その程度か祟り神ィ!?もっと来ねえと神同士でも殺せねえぞォ!?」

 

 

そう言いながら飛んで来た侵二は諏訪子の攻撃を全て受け流して再び接近し、諏訪子の会心の一撃を受け止めて再び砂煙を上げて下がる。侵二は念の為諏訪子の戦闘力も上げようという事で容赦なく鍛え上げている。まあ基本カウンターと受け流しからの一撃でボコボコにしている。侵二の狂い咲きの笑顔が最高に怖いです。

 

 

「諏訪子様ー!頑張って下さい!」

 

 

「頑張れー・・・縁、お団子要る?「頂きます!」はい、どうぞ」

 

 

そして、幻夜はサボり・・・あ?サボり?

 

 

「働けや幻夜ァ!!」

 

 

「やべっ!何で能力で違和感ないように欺いてんのにバレるかなぁ!?」

 

 

「現役プロ詐欺師が詐欺にかかるわけねえだろ、そもそも俺騙すってのが間違ってるんだよ。さっさと米の管理して「終わってるよ」・・・お前変なスイッチ入るとやけに働くなオイ。あと団子とかどうしたよ「作った」お前は目的を見つけると全能か」

 

 

幻夜には米の増殖を任せる筈だったのだが、縁と遊ぶから、とかぬかして俺でも2日かかる作業を半日で終わらせやがった。何故指を鳴らすだけで代償なしにアイツは米を出せるのか、指を鳴らすだけで冷凍保存出来るのか不思議でならない。俺でも生命体の生成は生贄というか依り代が必要なのだがな・・・こいつまさかその常識を欺いてんのか?

 

 

「てな訳で仕事終わってるんで、えーちゃんと遊んで来まーす。じゃ、行こっか」

 

 

「はい!諏訪子様!頑張って下さい!」

 

 

「ありがとう、頑張るよ「よそ見するとは余裕ですねェ!?」すいません許して下さい!」

 

 

「侵二、口調荒れてるよー・・・ちょっと手抜いてあげてね」

 

 

「・・・おや、いけませんね、どうも神相手だと叫びたくなりますね・・・更に力を加え過ぎましたね。諏訪子殿、申し訳ない・・・「まあ口調面白いからそのままで良いよ」行くぞ祟り神ィ!武器の在庫は十分かァ!?」

 

 

幻夜が冷ましたのか油を注ぐのか分からない台詞を嬉しそうに言うと、縁と手を繋いで村に入って行った。侵二大発狂。

 

____________________

 

 

そして夕方。

 

 

「し、死ぬ・・・」

 

 

諏訪子は満身創痍で倒れていた。周囲の地面は陥没し、地割れを起こし、引っ掻き傷のような跡が残っていた。

 

 

「お疲れ様です。まー筋は悪かないですね」

 

 

対する侵二は無傷どころか土汚れ、汗すら無い。

 

 

「・・・何で侵二は投げた鉄の輪を人差し指と中指で掴み返せるんだい」

 

 

戦闘中、諏訪子は鉄で出来た輪を投げる、地面を盛り上げてぶつける、などの様々な技を繰り出していたが、どれも婚約者を喰った奴には効かなかった。

 

 

「二指真空波と行ったものです。矢などを掴んでそのまま投げ返す技ですねー・・・まあ主上のが上手いですが」

 

 

そう言いながら侵二は翼を一枚を除いて全て収納する。ちなみに俺も倒れて口から魂ぐらい出そうな状態だ。結局5692回目の生成で見事頭突きで破壊されなかった。え?無傷ではないのかって?思いっきりへこんだんだよ畜生が。

 

 

「・・・畜生、攻撃力どうなってんだよ」

 

 

俺は壊夢を睨むが、壊夢は腕と首を回して音を鳴らす以外、全く疲れた様子もない。そこに風魔が飛んできた。

「・・・やれやれ、疫病の製作が終わったと思って戻れば地獄絵図か」

 

 

そう言いながら風魔は煙管を咥え、白い息を吐く。

 

 

「・・・お前、煙草吸うのか?」

 

 

「詳細に言えば身に纏う風の湿度調節だな。この白いモノは水蒸気だ。細菌の調節に湿度云々が必要でもあったしな。・・・威嚇にもなるだろう?」

 

そう言いながら風魔は白い煙の形を変え、周囲に漂わせる。にしては変態的な湿度調節だな・・・と思いながら俺は起き上がる。多少ではあるが身体中が痛い。

 

 

「ただいまー・・・わお、マスターの目と諏訪子が死んでる」

 

 

「生きとるわ。・・・お前は何してたんだよ?「ん」・・・おう」

 

 

幻夜は背中を顎で示す。そこには寝ている縁の姿があった。

 

 

「山と湖まで遊びに行ってたんだけど、帰りに疲れて寝ちゃってさ。道中大和に会ったから大変だったよ。縁起こさずに蹴るのって難しいね」

 

 

そう言いながら幻夜は背中を揺らす。

 

 

「えーちゃんの事聞いたけどさ・・・もう、親がいないんだね」

 

 

幻夜は倒れている諏訪子を抱え上げながら悲しそうな顔をする。

 

 

「・・・そうだね。この子が3歳の時、妖怪に襲われて・・・ね。でも強い子だよ。妖怪に親を殺されても、会った妖怪は悪い妖怪かそうでないかを確認してる。絶対に親の事で泣かない、本当に強い子だよ・・・」

 

 

諏訪子は少しだけ悲しそうに笑う。

 

 

「・・・そっかー、僕とは違うのか・・・」

 

 

幻夜はそう呟くと、俺の方を向いた。

 

「ねぇ、その・・・ちゃんと働いて頑張るからさ、今やってる事終わったら、お願い聞いてもらえるかな?」

 

 

「・・・別に構わんが、馬車馬のように働いて貰うぞ」

 

 

俺は意地悪く幻夜の肩を叩く。

 

 

「酷いなぁ・・・「じゃあ早速仕事。縁寝かしてこい」・・・ん?」

 

 

「何ぼさっとしてんだ。さっさと行け、保育士幻夜」

 

 

俺は幻夜の背を押してやり、手を振る。

 

 

「・・・もー、人使い荒いなぁ。そんなんだから拳骨神なんだよ」

 

 

「おうこら何ほざいた貴様」

 

 

幻夜はにっこりと笑うと、舌を出した。

 

 

「そのままだよー!じゃあ縁、先に帰ろっか」

 

 

「・・・お父、さん・・・」

 

 

縁の寝言に幻夜は悲しそうな表情をしながら、上半身を微動だにさせずに走って行った。

 

 

「・・・縁には良いお父さんかな。・・・龍一、助けてくれるのは感謝して当然なんだけど・・・縁の事もありがとう」

 

 

諏訪子が幻夜の舐め腐った、それでも縁に気を配る態度を見て微笑んでいた。

 

 

・・・生前、こうして感謝されることは少なくは無かったが、今回はやけに照れ臭かった。

 

 

「・・・やめてくれ。感謝は色々と終わってからだ」

 

 

そう言いながら、俺は箒を諏訪子と幻夜を除く四凶に投げ渡す。

 

 

「てな訳で掃除するぞ。終わってから飯と休憩な」

 

 

「え、ちょ、休憩なしかい!?」

 

 

「会話中休めただろ。さっさと片付けるぞ。俺は腹減ったんだよ」

 

 

「鬼だ・・・」

 

 

「龍神なんだよなぁ。お前らも片付け手伝えー」

 

 

頭を垂れる諏訪子を横目に、侵二達も動き始めた。

 

 

「そう言えば今更ですけど、なぜ私達はここの言語が喋れるんですかね?」

 

 

「話が進まな「それ以上はいけない」まあ俺の神力多少渡してるし、なんかこう補正が入ってんじゃねえの?「ガバガバだ・・・」うるせえよ。それ言ったらお前の翼こそガバガバじゃねえか。概念喰うって何だよ」

 

 

侵二はこれですか?といつも一枚だけ出している翼を撫でる。

 

 

「まあ色々あるんですよ。そもそも饕餮は龍と言えば龍、神と言えば神のようなものですから。多少なりの神としての能力はありますよ。これもその一つです。・・・最も、これ以外の能力はとうに喰いましたがね」

 

 

侵二は後半を暗く言ったが、すぐに頭を振り、諏訪子を翼でつまみ上げた。

 

 

「やめやめ。さっさと片付けしましょう。諏訪子殿」

 

 

「・・・侵二に殿つけられるとさっきのせいで違和感があるんだけど「じゃあさっきので行きます?祟り神ィ?」勘弁してください」

 

 

途端に侵二が刃物のような笑顔を向けると、諏訪子の全身から冷や汗が流れ出す。

 

侵二はそのまま諏訪子をつまみ上げた状態で掃除を始めた。

 

 

「ちょっと!下ろしてくれないのかい!?」

 

 

「やかましい、怪我人は多少休んでなさい。私はあそこの龍神の部下ですけど、命令にはあまり従わないので。・・・どうせこうする気だったでしょう?」

 

 

翼に引っかけられバタバタする諏訪子を無視し、侵二が微笑を浮かべる。

 

 

・・・簡単な事ではないかもしれないが、このままこの平和が続いて欲しいと思う。

 

次回へ続く




ありがとうございました。


次回もお楽しみに。


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第二十四話 それとこれとは別

この前友人から電話がかかってきたんですけど、寝ぼけていたせいで、誰?の質問に俺俺、と返してきたのでウチは蕎麦屋ですと返しました。じゃあうどんお願いしますと帰ってきました。どっちもアホですね。


ゆっくりご覧ください。


確かに平和が続けば良い。とは言った、言ったよ?

 

 

「疫病、完成したぞ」

 

 

「諏訪子殿の強化、そこそこ出来ましたよ」

 

 

「もう米倉に入んないぐらい米できたよ・・・てか、縁もおっきくなったねー」

 

 

戦争をしないとは言ってないからな。さあ準備は出来た。

 

 

あれから四年と少しが経った。この計画に問題点があるとすれば壊夢だった。やけに火力が高いと思い、試しに地球を殴ると言うシミュレーションを行った。

 

 

地球が割れた。

 

 

・・・そらなかなか壁も完成しねえわ。やっと壊夢の頭突きを五発耐えられる設計になったが、たかが五発だ。デスメタル流しながら壊夢が踊れば多分世界が終わる。よって一年遅れたが、何処かの保育士が米を一日で三年分の作業を圧縮して行ったので、結局二年早く済んだ。

 

 

「僕が背が低いってのもあるけど、大きくなったねー」

 

 

「そうですか?ありがとうこざいます!」

 

 

縁ももう10歳になるらしい。どうも龍神になってから時間の感覚がおかしい。後別に幻夜の背も低くない。

 

 

そう言いながら縁を撫でる保育士、もとい幻夜はこちらを向いた。

 

 

「でもさ、よくよく考えるとこの計画穴空いてない?・・・いつ大和来るかなんて分かんないじゃん?」

 

「甘い、甘いぞ幻夜くん、「ウザっ」団子に砂糖をかけたぐらい甘いぞ「それゲロ甘じゃん」・・・もう既に手は打ってある」

 

 

「そうなのかい!?そこまで考えてくれてたのか・・・」

 

 

諏訪子は驚いたような表情をする。簡単だから自慢できることでもない。

 

 

「ただ単に対談を諏訪子が望んでるって言う文を送っただけだぞ?」

 

「・・・手回しが早いんだよね」

 

 

ああ、そう言うことか。

 

 

「あ、そっか、てっきり生首でも送るのかと」

 

 

「お前はその発想を治せ。対談するって言ってんのにいきなり身内の首はねえだろ」

 

 

そだねー、と、聞いているのかいないのか分からない返事を幻夜が返していると、村人の爺様が駆け寄ってきた。

 

 

「諏訪子様!大和の者が来ました!」

 

 

・・・挨拶や事前連絡もなしに訪問とは無作法だな。・・・無作法で始まるなら無作法で返そうか。

 

 

「よーし、お前ら、まともに対応すんなよ。・・・行くか、諏訪子」

 

 

諏訪子は今更ながら少し緊張したのか、表情が硬くなっていた。

 

 

「う、うん・・・」

 

 

迎えるのは俺たちが即席で作った屋敷だ。

 

 

俺はあえて風魔から借りた水蒸気調節の煙管を借り、袖に入れながら待機した。他の奴らは俺と諏訪子が並ぶ一歩程後ろで正座している。なお縁は無理矢理幻夜の上。満更でもなさそうだから幻夜に弄られてるんだぞ縁。

 

 

「ねー、そう言えば八岐大蛇倒してお嫁さん作ったの須佐男君だっけ?いくつなの?」

 

 

「須佐男君ってお前な・・・7000万年ぐらいか?」

 

 

「あっそ、じゃあ年下かぁ・・・」

 

 

お前いくつだよ、と聞きたかったが、確か2億以上だったので馬鹿らしくて言わなかった。すると引き戸が開いた。入って来たのは、如何にも態度の悪そうな若い神と・・・

 

 

「失礼します。大和からの使いの者です」

 

 

須 佐 男 じ ゃ ね え か 。良かったな幻夜、須佐男君だぞ。

 

 

俺はついさっき顔を変えたので、向こうからすれば絶対に分からないはずだ。・・・しかし、前にも増して逞しく、それでいて優しい声をしている。お前もう俺と立場変われ。龍神変われ。

 

「此度はわざわざのご来村、大変に御礼申し上げます。洩矢諏訪子様の従者、矢川と申します。神の前に人間が姿を出すなど、恐れ多い事ですが、お許しを」

 

 

「よく分かっているではないか、「こら、やめなさい」・・・はい」

 

 

「申し訳ない。今回は対等な立場としてお願いします。・・・私の尊敬する方の言葉を借りると、敬語なしで頼む。そう言うのやなんだよ。です」

 

 

泣くわ。流石に目の前で言われると恥ずかしいわ。

 

 

「・・・ありがとうございます。では、諏訪子様、後はお願いします」

 

 

俺は須佐男には悪いが、若い方から言質を取るために下がった。既に若い神は俺や侵二、縁達がいるのが気に入らないらしい。と思い幻夜を見ると欠伸している。そら怒るわ。

 

 

「・・・では諏訪子殿、念の為読ませて頂きますね。その一、我々はやはり服従出来ないので、大和の傘下には入らない。その二、その代わり、信仰分に値するものは献上する。その三、以上二つが認められないなら、一戦どころか殲滅も辞さない。四凶・・・っ!?」

 

 

須佐男は最後の文に何か引っかかったのか、俺を含めて男衆を目を見開いて凝視する。

 

 

「・・・我慢ならん!」

 

 

若い神が立ち上がり、諏訪子を指差す。

 

 

「我々は対談をしに来たが、服従以外の意見は求めていない!そもそも一戦も辞さない?貴様如きが我々に敵うものか!そもそもそこにいる小娘程度の巫女しか生まれぬところに意味などない!」

 

 

「やめなさい!対談しに来たのですよ!そのような態度ではなりません!」

 

 

「いいえ!この様な村ほどこうしておかねば!」

 

 

ふらりと幻夜が立ち上がり、縁を壊夢に預けた。俺は煙管を咥えた。

 

 

「ちょっと縁の目隠ししてて」

 

 

そう幻夜は言うと、若い神に近づいた。

 

 

「ねー、・・・こっち見ろや」

 

 

「何だ!人間が気安く語りかけるな!それに無礼だぞ「オラアッ!」ガッ!」

 

 

幻夜の膝蹴りが男の腹に刺さった。そして蹲った背中に肘鉄を当て、流れるように首を掴み、幻夜は背中から落ちた。男は受け身が取れず、顔面から落ちた。

 

 

「縁馬鹿にしたよね?「バカにしたな」だよね」

 

 

幻夜は立ち上がると、悶える神を蹴り始めた。骨がバキリと折れる音がする。

 

 

「怒らないようにしろって命令されてるんだけどさぁ、もう無理かな。ちょっといい加減にしなよ」

 

 

須佐男が立ち上がろうとするが、既に首には風魔の刀が突きつけられており、背後にも侵二が構えていた。その為動けなかった。

 

 

「動くな。・・・礼節を重んじる奴は斬りたくない」

 

 

「いや、いっそ一回殺しましょうよ?」

 

 

「やめろ、お前ら」

 

 

俺が一喝すると、幻夜が足を止める。

 

 

「誰も許可してねえぞ。こうなるとお前らが勝手に喧嘩してることになるだろ?「・・・ごめん」「すまん」「申し訳ない」改めて命じる。盛大にやれ」

 

 

「やったぜ」

 

 

幻夜は嬉々として若い神の鳩尾を蹴った。ひでえ。

 

 

「・・・其方から仕掛けて来ましたからね。須佐男殿」

 

 

「何故私の名を・・・!?いや、まさか貴方は・・・!」

 

 

驚愕の顔を浮かべる須佐男の前で、俺は立ち上がる。

 

 

「さて、何のことでしょうか・・・?幻夜、もう気絶してるから止めろ。「えー・・・」風魔、帯刀。侵二、下がれ。壊夢、目隠し解除。撤収」

 

 

全員が跳躍し、俺の背後に座る。

 

 

「では須佐男殿。残念ながら交渉決裂ですね。・・・質問ですが、貴方だけなら受けて下さりましたか?」

 

 

須佐男は困惑したようだが、頷いた。

 

 

「ええ、・・・これも私の尊敬する人の受け売りですけどね。・・・では、一戦交える事になりますね。互いの健闘を祈りましょう」

 

「ええ。・・・しかし、あまりその尊敬する方の言葉を信じない様にして下さいね。盲信は身を滅ぼしますから。・・・食料にはご注意を」

 

 

俺はそう言い、須佐男に礼をする。と同時に倒れている男に煙管の煙に回復薬を混ぜ込み、煙を吹きかけて回復させる。須佐男も礼をした後、若い神を連れて退出した。

 

 

「・・・ごめんねー、縁。流石にあんなの言われたら怒るよ」

 

 

幻夜は縁に頭を下げる。縁は笑った。

 

 

「いいえ、そこまで怒って下さってありがとうこざいます。私なんかの為に・・・」

 

 

そう言い微笑んだ縁は、幻夜を見て俯いた。

 

 

「あの、話は変わるんですが・・・その、幻夜さん、良かったら・・・」

 

 

縁が顔を赤く染め、幻夜に抱きつく。

 

 

「・・・お父さんって、呼んでいいですか?」

 

 

「・・・ホント縁はずるいなぁ、良いよ」

 

 

幻夜は微笑みながら、縁を優しく抱きしめる。

 

 

「はいはい、意味わからないラブロマンスとも言えないものやってないで、主上、例のやつ使うためにやりましょう、殲滅」

 

 

感動しそうな流れを侵二がぶった斬りながらも微笑んでいる。狂い咲きの方で。

 

 

「そうだな。ここから先は、たまたま諏訪の国に居候していた犯罪集団が、たまたま大和に攻めに行くだけだしな」

 

 

周囲の奴らから興奮と殺意が溢れるのを感じる。

 

 

「よし、行くぞ。・・・一夜で国外の奴ら締めちまおうぜ」

 

 

俺たちは諏訪子に手を振り、大和へ向けて全速力で走り始めた。

 

 

次回へ続く




須佐男が私の知る神話と性格が真逆になってるんですよね・・・

まあ、駄作ぐらい無茶苦茶で良いですよね。


次回もお楽しみに。


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第二十五話 開幕


さてさて戦争です。

ゆっくりご覧ください。


 

「・・・ふぁ〜、何人殺ればいいの?」

 

 

上半身を固定して腕を組みながら編隊を組んで走っていると、幻夜が訪ねて来た。

 

「武闘派が日替わり交代だから・・・100万ぐらいじゃね?」

 

 

「桁おかしくない?別に嫌じゃないけど面倒だなー」

 

 

風魔が口を挟む。

 

 

「数が多いのは結構だが、どうせ力量なしの雑兵共だろう「辛辣すぎるわ。お前らのスペックが高いんだよ」そうか?まあ特に疲れんだろう」

 

 

侵二が前進し、俺に問いかける。

 

 

「万が一須佐男殿が先陣におられたらどうするのですか?」

 

「殺す、どうせ生き返るならシメる・・・そんな助けるとか甘くねえよ。・・・多分察して内部で飯作るだろうがな」

 

 

俺が即答すると、侵二は更に問いかけて来た。

 

 

「・・・生き返らない場合は?」

 

 

「何言ってんだお前。殺すに決まってるだろ。・・・ただし、責任を持って生き返らせる。そんだけだろ」

 

 

「・・・主上は強いですね」

 

 

まあそもそもこの問いかけが確実に無い事なので言い切れる。

まあそうであってもシメるんだが。

 

 

「・・・なら従ってくれると助かる。正直お前が一番信用出来るからな」

 

 

風魔には私より侵二を、と頼まれたし、壊夢は思考が真っ直ぐすぎて時折衝突するし、幻夜はそもそも思考が読めない。心を読める奴もこいつにはお手上げだろう。

 

 

「御意。殲滅でも虐殺でも流言でもお任せを。・・・貴方は私が目指すべき相手のようですから」

 

 

隣で風魔が嬉しそうにしているが、何かあるのか・・・?

 

「つまらん!まだぜよか!?」

 

 

「焦るな。この森を抜けたらすぐだ・・・抜けた!来たぞ、全体ッ!」

 

 

「了解!幻夜、左!」

 

 

「承知!風魔、右!」

 

 

「応!壊夢、中央!」

 

 

「御意!侵二、主上の支援ッ!」

 

 

「命令!老若男女構わず殺れ!」

 

 

「「「「応!!」」」」

 

 

丁度森の先は崖だったらしく、壊夢は崖を滑り、風魔は飛翔し、幻夜は跳躍し、俺と侵二は先制攻撃として跳躍しながら雷撃と銃弾を浴びせる。大和は敵襲だのなんだの騒いでいるが、もう遅い。

 

「よーし、ちょっとだけ頑張るかー・・・半分だけ出すとか久しぶりだなァ!幻夜ァ!」

 

 

まず俺と侵二は左に向かった。幻夜は多重人格か何かを半分暴走させ、精密に凍結させた後、強化された膂力で振り回す槍で粉砕する。

 

 

「お、マスター「マスター、久しぶりだなァ!」この辺りは大丈夫っぽいよ「幻夜、後方見ろ。ついでにその後右な」見えてるよ!「やるな。まあそりゃお前だしな」まあお前もいるしね、相当な事ないと吹っ飛ばされないって」

 

 

「大丈夫そうだな。・・・侵二、タイム減少のためにアレをやるぞ」

 

 

御意!という叫び声とともに、侵二が翼を広げ、固定するように地面に突き刺す。俺は侵二の背後に回り、侵二に背中を押し当て、固定する。

 

 

「では主上、よろしくお願いします」

 

 

侵二は細剣を地面に突き刺し、右手で柄を持ったまま、左手を突き出した。侵二の左手は帯電し始め、バチバチと音を鳴らす。

 

 

「では大和の方々・・・良い旅を。照射ァ!!」

 

 

侵二の左手から極太の電撃レーザーが発射され、同時に俺の背中に強烈な衝撃が襲いかかり、侵二の翼もガリガリと地面を抉る。レーザーは射線上のあらゆる物を消し去った。射線上にいた数万の大和の神々も一発でかき消えた。

 

 

地面には凶悪な爪痕が刻まれており、侵二の左手は黒く炭化している。

 

 

「あいつつつ・・・あ、崩れました」

 

 

 侵二の腕が粉末になって消え去る。

 

 

 「右手消える出力の光線とかふざけてんのかよ・・・」

 

 

仕方なく俺は自分のリペアの右腕を取り出し、今の腕を外して侵二の腕に変質させて差し出す。リペアは自分に付け直した。

 

 

「はい新しい腕」

 

 

侵二は苦笑しながら腕を受け取った。

 

 

「どうも。・・・どうしてもこの出力だと体が耐えませんねぇ」

 

 

「人の持ち場でやりたい放題の大暴走やめてくれない?「まあそう言うなよ、縁のとこさっさと戻るんだろ?」そだね。・・・じゃあマスター、侵二、後はこの辺任せてー「この辺は俺らで行けるから、二人はほかの奴を頼む」・・・てなわけでまたねー」

 

 

地面を凍結させ始めた幻夜を背後に、俺たちは左に向かった。

 

 

 ____________________

 

 

「おお、主上か。この辺りは特にすることもないと思うが・・・どうせタイム短縮だろう。頼むぞ」

 

 

 風魔は太刀を翳し、脚部に風を纏わせて暴発的な速度で距離を詰めて斬殺しながら欠伸をかみ殺したような声で言った。

 

 

 「まあそう言うなよ。じゃあ俺の番だな」

 

 

 俺はいつも通り八岐の剣を抜刀する。

 

 

「侵二、風魔、下がってろ。・・・じゃあ今回も行きますか!」

 

 

「なっ!?まさか貴様・・・いや、貴方様は!?」

 

 

大和の数名に勘付かれた様な気はするが、逆に流言に使えそうなので放置。

 

 

「聞こえねえなぁ!ザクッと行くぞ!」

 

 

そして安定の横薙ぎ払い。周囲の神々は死ぬ。ついでに付近の動植物も死滅する。申し訳ないがこれも兵糧攻めの一環だ。

 

 

「・・・狂い過ぎだな。主上、本当に龍神か?」

 

 

風魔が刀の血糊を拭きながら問う。

 

 

「一応龍華の兄貴だしなぁ・・・龍神じゃね?」

 

 

「種族も確証がないのか貴様は」

 

 

「はいはい、深いところ聞いてごちゃごちゃ言わない。時には種族詐称もあるでしょう?」

 

 

「・・・お前に言われると終わりだな」

 

 

「はて、何のことでしょう」

 

 

侵二と風魔が意地の悪い笑顔を浮かべて睨み合い、武器を構えて互いに背後に近づいていた神を斬る。

 

 

「・・・細かい詮索は無しだったな。ここらで控えておこう」

 

 

「助かります。貴方も妖とは言えませんしね」

 

 

 返り血が無ければ完璧だった。

 

 

「・・・さて主上、大掃除をしてくれたようだが、後は中央・・・そして本陣のみだ。さっさとここは鎮める、壊夢の所へ行ってやってくれ・・・まだ数分しか経っていないが、地面が耐えん」

 

 

そう風魔が言った数瞬後に地面が揺れ、中央付近に巨大な針のような山が盛り上がる。

 

 

「それ見ろ、急げ。おそらく今の余波でどこかの地面が凹んだぞ。主上の言う滋賀辺りではないか?」

 

 

・・・アイツこの国に持ってきたらダメだったんじゃなかろうか。あの野郎来国早々山と湖作りまくったからな・・・絶対今ので琵琶湖出来たわ。

 

 

「まあともかくだ、さっさとアイツを止める必要があると思うんだが」

 

 

そう言いながら風魔は周囲一帯を焼き払いながら苦笑した。苦笑しながら焼くな。苦焼ってか、やかましいわ。

 

 

「じゃあ止めて来る。侵二、行くぞ」

 

 

「はいはい。では風魔、後は頼みます」

 

 

「心得た」

 

 

____________________

 

 

「おお!こっちは特に問題ないぜよ!」

 

 

そう言いながら振った拳で衝撃波を飛ばし、手刀で神々を切断する。

 

 

「南斗恐ろしい拳かよ。お前暗殺拳まで習得すんな」

 

 

まあ気にしたら負けぜよ!と、壊夢が再び拳で地面を揺らす。

 

 

「国が耐えんわ。・・・侵二、例のをやるぞ」

 

 

「例のって、将棋ですかじゃなかった、正気ですか?」

 

 

「正気正気。じゃあ行くぞー・・・【流れ星】」

 

 

俺は赤銅色の義眼を装着し、空間を圧縮。周囲の塵や土を収束させ、一つの塊を作り上げる。

 

 

「ほいよ」

 

 

完成した土の塊を上空に打ち上げ、侵二に合図をする。

 

 

「御意。【星落とし】」

 

 

侵二の翼が伸び、打ち上げた土塊に突き刺さる。そのまま侵二はお辞儀をするように頭を下げると・・・

 

 

「では、お覚悟を」

 

 

超高速で土塊が落下、地面に激突、大爆発を起こす。

 

 

「はいヒーット!!ざまあみやがれってんだ!」

 

 

「おお・・・エグいことするのぉ」

 

 

結果中央は全滅。遅れて左、右と制圧完了の報告が出た。

・・・ここからが心をいつも通りにして対応せねばならない。

 

 

というわけで俺は大和の門の前に立ち、予め捕獲しておいた男女一人ずつの神の口、手足を縛り、足の下に置いた状態で拳銃を構え、サングラスをかけた状態で叫んだ。下でんーん呻いてるがどうだっていい。

 

 

「・・・聞こえてるか大和ォ!?こちとらお前らに村追われた絶影とその一行だ!今回は挨拶改め貴様らに喧嘩売りにきたァ!てな訳で今からお前らの選択肢は降参一択になる!さっさと出る事をお勧めする!てな訳で10数える!10!終わりだ!「鬼じゃん」知るかァ!」

 

 

俺は壊夢に指示を出し、壊夢の強烈な地ならしと共に正面だけ透明にした金属の壁を大和を囲むように出現させる。と同時に俺の叫びで突入した風魔が疫病をばら撒き、疫病ごと密封する。

 

 

「出たけりゃ力ずくで出るか!それとも降参するか!落ち着いて考えなァ!・・・尚!これ以降貴様らを見つけ次第、こうするからな!」

 

 

俺は下にいる神二人を射殺し、飛び散った血を透明な金属にへばりつかせる。何人かが向こうで失神したようだが、全く興味ない。

 

 

「弱者は強者に蹂躙されて当然だよな?お前らがそうしてきたんだからな」

 

 

やる事が間違っているのは分かっているし、決して評価される事ではないのも当然だ。

 

 

「おーおー、結構面白い状態だね」

 

 

「よく思いつく。この狂人が」

 

 

「エグいぜよなぁ・・・」

 

 

「本当に貴方に飽きそうにないですねぇ」

 

 

だが、あくまでも大和の奴らは強者だったから態度が大きく、勝手な事をした。多少は逆転して反省するのも有りだろう。四凶も面白そうにしてるので万事解決だ。てか俺も何となくそうしたかった。

 

 

尚遊び半分だ。鬼畜でも鬼でも屑でもなんとでも呼べ。

 

 

 

 

次回へ続く

 

 




外道を好まない主人公と優しい仲間達。どっからどう見ても無血勝利ですね。


次回もお楽しみに。


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第二十六話 延長戦

最近観葉植物を買いました。部屋に飾ってみたんですが、結構良いですね。

付けた名前はアルストロメリア・・・ではありません。名前つけてないですね。


全く関係ありませんが、ゆっくりご覧ください。


大和の完全封鎖が完了した頃には、既に夕方だった。遅いな。

 

「お父さーん!!」

 

 

「もう一回本気出すね」

 

 

それぞれがそこそこ疲れていたが、幻夜は愛娘(血縁関係なし)の声を聞いた途端風魔も口を開く速度で疾走した。

 

 

「アイツのスタミナは無限か」

 

 

そのまま幻夜は縁を抱え上げ、戻ってきた。

 

 

「ただいまー」

 

 

既にその他には団子が握られており、縁の手にも団子が握られていた。

 

 

「お父さん・・・大丈夫だったんですね」

 

 

「ん、そりゃ縁が待ってるからねー」

 

 

幻夜はニコニコと笑顔を浮かべながら縁の頭を撫でる。

 

 

「龍一!無事だったのかい!?」

 

 

遅れて走ってきた諏訪子は驚いた様子で俺たちを眺める。

 

 

「無事も何もなあ・・・「「「「無傷」」」」なんだよなぁ・・・」

 

 

「まさか、あんな奴らにやられるとでも?」

 

 

「いや、流石に無傷はないだろうなぁ・・・って思ってたんだけどね」

 

 

「アレで傷を負うのはないと思うぞ。この刀疵だけで充分だ」

 

 

そう言って風魔が俺のつけた刀疵を指す。

 

 

「その傷深過ぎないかい・・・!?まあ良いや、ところで大和は?」

 

 

「檻の中「・・・心中察するよ」ハハッ、ワロス」

 

 

現在壊夢が見回りをしており、これ以降幻夜を除いて月毎にローテーションをする事となった。ここから一ヶ月が壊夢、次が俺、次が風魔、最後が侵二だ。幻夜が入ってないのは現在愛娘の面倒に忙しいからだ。元から乗り気でなかったので今回は許可している。次はない。

 

 

「ところで壊夢は?「あいつなら外壁蹴って恐怖感あおってるぞ」ちょっとやり過ぎじゃ・・・」

 

 

壊夢が喜んでやってるから仕方ない。因みに風魔は毎回悪天候にしてやると、侵二は毎回一匹捉えて足の指から一本ずつ潰して切り刻んでやるっておい待て。明らかに殺意が違うだろうが。神に親殺されたみたいな表情しやがって殺されてたわ。

 

 

「で、これからどうする気だ。大和も封鎖し終えたが、特にすることも無くなってしまったではないか」

 

 

「そう言えばそうか。じゃ、ここから3年間自由行動で。「適当か」めんどくさいしいいじゃん。「放任か」魂を鎮める。「鎮魂歌」種を飛ばす。「ホウセンカ」ごめん悪かったから突っ込んでくれ」

 

 

「冗談だ。・・・では、山にでも行くか・・・」

 

 

風魔はそう言い残すと残像を残して消えた。

 

 

「じゃ、俺もちょっと外すぞ」

 

 

「そのまま死なないようにお願いします」

 

 

「しばらく帰ってこなくて良いよー」

 

 

もう心配の声か罵声か適当に返しているのかわからない声を聞き流しながら俺はワープした。

 

 

「・・・ん?おお、主か!頭の上はやめて欲しいぜよな!」

 

 

飛んだのは壊夢の頭上。転移をシンプルにミスった。

 

 

「すまんすまん。3年間の休暇を出したって事の連絡な。月交代の見張り以外は休んでて良いぞ」

 

 

「了解ぜよ!・・・ところで主、今ちょっと良いぜよか?」

 

 

壊夢が俺に聞いてきたので、俺は別に良いと答えた。

 

 

「助かるぜよ」

 

 

壊夢は頷くと、俺を睨んだ。

 

 

「お前は家族にこんな事しとるが、なんとも思わんのぜよか?」

 

 

つまり、俺がやり過ぎではないかと言う事だろう。そらそうやろな・・・失礼、そりゃそうだろう。やることなす事が全部鬼畜の所業なのは百も承知だ。

 

 

「そりゃある程度は思うぞ?・・・けどまあ言い方悪いけど、口で言ってもわからない奴はやっぱ体に覚えさせるべきだと思うから・・・相当残る形で仕込んでるだけだな。不満があるならいつだって俺ぶん殴って貰って良いぜ?」

 

 

「いんや、単なる疑問ぜよ。別に納得が行かんわけでは無くてのぉ、一応俺も檮杌の頭領だったぜよから・・・ちと家族について気になったぜよ。主には親はおらんぜよよな?」

 

 

俺は前世を思い出し・・・苦笑する。本当に良くしてもらっていた割には俺は特に何も出来なかった。そのせいで親がクソ野郎なら良かったと思ったぐらいだ。要は良い親すぎた。送れたのは俺が死んだ保険金だろう。・・・こりゃ万が一帰った時ぶっ殺されるな。

 

 

「いない・・・な。この世界の始めが俺だからな。そういや俺が最年長になるのか・・・」

 

 

そうか、神がアダムとイブを作り出したのは単なる気まぐれの暇つぶしか。すると神の加護はペットに餌をやる感覚、又は作った人形をおままごとに使い、ご飯をあげるようなものか。天罰待った無し。

 

 

「変な龍神ぜよなぁ・・・」

 

 

そう言いながら壊夢は微笑んでくれた。

 

 

「お前だって変だろ。何なんだよ、斬りつけても電撃流しても無傷ってよお。長い間聞くのやめてたがやっぱり聞くぞ。何だそれ?」

 

 

壊夢は拳を開いて閉じてを繰り返しながら、首を横に振った。

 

 

「詳しいことは分からんぜよが、そもそも檮杌っちゅう種族は雇われて戦うような種族なんぜよ。そのせいか体は頑丈で、死ぬまで同じ力が出せるようぜよ。まあそのせいでいつ死ぬか分からんと全滅したんぜよがな。ま、能力に近いもんぜよ」

 

 

ふざけた能力だ・・・と俺は笑ってしまう。何なら理性を飛ばせば死ぬまで暴走する化け物になると言うことに気がついているのだろうか?

 

 

「そうか・・・ま、お互いおかしい奴って事だな。・・・ダメだ暇過ぎてイライラして来る。さっきからおかしいと思ったんだ。三年待つ方が向こうには精神的にもキツイのは分かるがこうも長いとイライラしてくんだよなぁ・・・」

 

 

拝啓、前の世界のキチガイ友人達へ。昔からよく言っていましたが、どうやら俺はどうしようもない変人のようです。てかもう狂人です。何デフォルトだと?うるせえお前らのゲームソフトのデータ消すぞ。龍神補正でバッテリーも壊すぞ。

 

 

などと考えながらイライラしていると、偶然壊しやすくしておいた地面から何か出てきた。

 

 

「で、出れた・・・!よし、皆!早くこの壁を壊しに行く「ほほーう」ッ!?」

 

 

丁度いいタイミングで脱走者が出た。しかも百人も出た。正直この程度は蟻の巣を潰す感覚と同じだ。

 

 

「なあ壊夢、半分くれない?「構わんぜよ」やったぜオラアッ!」

 

 

前略、両親へ

何かとありますが、愚息はやはり異世界でも変人のようです。とりあえず元気です。え?勉強しろ?・・・ちょっとトイレ。

 

 

・・・などとしょうもない事を考えながら刀を振り回し、笑ってしまう。

 

 

「ダメだわ、もう刀振ったりして暴れてねえとイライラする!」

 

 

返り血を浴びた互いを見合い、ニヤリと笑い合ってしまう。

 

「仕方ねえぜよな。・・・さーっさと荒らすぜよ!」

 

 

俺は側にいた神を一人掴み、同じように壊夢が掴んだ神に向かって投げる。壊夢も投げ、互いに激突する。

 

 

「な、何なんだ貴様らはぁ!?」

 

 

俺は最後の神に優しく微笑み、刀を翳す。

 

 

「単なる通りすがりのぶっ殺し担当者だ。まあ詳しくは三年後かな、龍華か須佐男にでも聞け」

 

 

俺は刀を振り下ろし、消滅させる。

 

 

「主、龍華って八百万しか知らん名じゃないんぜよか?」

 

 

「あ゛」

 

 

「あ゛、じゃねえぜよ」

 

 

まあ仕方ない。龍神と呼ぶと拗ねるからなアイツ。他にも須佐男は八岐殺し、天照は引きこもり大神、月読命はアホブラコンと呼ばれると拗ねる、まあそんな事俺しか言わない。いや言えない。

俺はその代わりクソ兄貴、にーさまの事嫌い、死亡詐欺と返される。二番目以外はどーでもいい。須佐男はなにも言わない。自分が悪いからってか?気に入らんやつは初手殴れと教えた筈なのだが・・・

 

 

「・・・まーいいや、俺だと分からねえよ多分、おそらく、きっと「どんどん不安になってるぜよ」いいいいいや、だだだ大丈夫だろ」

 

 

今更になりながらも事の重大さ(八百万封鎖は除く)に俺は気がつき、手が震えて視界が歪んで意識が宇宙に・・・ではなく単純に冷や汗ダラダラである。

 

 

やれやれと壊夢に首を横に振られる。返り血が無ければ日常だった。

 

 

「じゃ、この仕事が終りゃ、休んどくぜよ」

 

 

「おう、そうしてろ・・・俺はどうにか誤魔化す方法考えとくから」

 

 

結局何も思い浮かばず三年経過。アホらしい。

 

 

 

次回へ続く




で、まあ、可愛がってます。自称ゴミ部屋もここぞと物を捨てまくり、何とかマシになりました。何故引き出しから染色液、タンスからスライドガラスが出てくるんですかね。・・・私は一体何をしてたんですかね。

次回もお楽しみに。


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第二十七話 説教or戦争




ゆっくりご覧ください。


朝だ。清々しい朝だ。朝っぱらから侵二が神の公開処刑をしていなければ最高の朝だった。

 

 

「お前、こんな朝早くから殺すなよ・・・」

 

 

侵二は申し訳ありませんと頭を下げ、俺に手紙を差し出す。

 

 

「これを今殺した奴が所持していました」

 

 

俺はよれよれかつ血塗れの手紙を開くと、血文字で書いてあった。相当消耗してんなぁ。

 

 

「・・・ん、対談の時期かな。野郎集めてくれ」

 

 

「御意」

 

 

俺は血だらけの手紙を書いたシーンを想像してお悔やみ申し上げようと思ったが体は正直で笑ってしまう。次に侵二が現れると、やけにテンションの低い幻夜を除いて諏訪子を含め、全員揃った。

 

 

「あー・・・やる気ないわぁ」

 

 

「お前は朝から何テンションだだ下がりなんだよ」

 

 

「縁が好きな子出来ましたーだって。萎えるわあ〜、もうやる気ないわぁ〜。しかもその相手もしっかりしてるからなんとも言えないんだよねぇ〜」

 

 

「・・・孫の顔見れるんじゃね?「よし頑張ろう」手順飛び過ぎで笑うわ」

 

 

逆にテンションが跳ね上がった幻夜に安心し、俺たちはとうとう大和を封鎖していた鉄板を下ろす。彼らからすれば三年ぶりの直接の日差しだろう。喜べ、俺が帰ってきた。

 

 

たちまち何人かの神が現れ、俺たちの姿を見た途端、その場に平伏した。・・・どうやら恐怖は染み込んだらしい。

 

 

「悪い気分じゃないね。縁馬鹿にした奴は何処かなー」

 

 

「この程度では満足しませんが、やはり神を折るのは楽しいですね」

 

愉悦部に推薦される二人組が人相最悪の笑顔を浮かべていると、一人の神がやつれながらも正装で現れた。

 

 

「・・・お久しぶりでございます。そして、今回の和平、いえ、正直に言えば降伏を認めてくださり大変ありがとうございます。私が案内させて頂きます」

 

 

髪や髭は伸びていたが、須佐男だった。須佐男は諏訪子に一礼し、俺にも一礼して案内を始めてくれた。

 

 

「・・・正直に言いますと、貴方達の策略で、ウチは大荒れです。一月降り続ける大雨、数名が攫われいつしか死体になってその場に捨てられる事もあり、時に鳴る轟音で姉・・・天照を含め、皆疲弊しております。この効率だけを求めた見事な策略はいったいどなたが?」

 

 

「私・・・いや、俺だ。なかなかに悲惨になったな、須佐男。嫁さんはどうだ?」

 

 

やはり、と言ったように須佐男は天を仰ぐ。

 

 

「やはり兄上でしたか・・・櫛名田は大丈夫ですよ。元はといえ大和の神ではありませんから、丁重に、そして愛しています」

 

 

そう言いながら須佐男は照れ臭そうに頬を掻く。

 

 

「なら良いんだがな。・・・で、疫病はどう?」

 

 

「疫病・・・ああ、食物の腐るアレですか。おかげ様で食料は全部ダメですね。そのせいで半数が使い物になりません」

 

 

隣でガッツポーズをする風魔に苦笑する。

 

 

「じゃあ、おそらく諏訪子のトコに攻めようという意見を出した引きこもり大神は?」

 

 

「引きこもり・・・姉上は奥で待っておられます。兄上の正体は私しか存じていませんので・・・」

 

 

構わんよ、と、俺は背後の化け物を指す。

 

 

「こいつらは諏訪子やあの村に何かあればお前の国ごと滅ぼす。特に、そこでにこやかに笑ってる一見紳士的に見える奴は親を神に殺されてるせいで異様に殺意が高い。お前も前の訪問で運や態度が悪ければ頭からモグモグされてたぞ」

 

モグモグ・・・と、引きつった笑いを浮かべる須佐男と駄弁っていると、目の前に大きな引き戸が現れた。

 

 

「ここですね。・・・先に挨拶をさせて頂きます。洩矢諏訪子殿、此度は我々の高圧的な態度、本当に申し訳ありませんでした。私個人から、謝らせて頂きます」

 

 

「よ、よして下さい。私なんかの祟り神なんかにそんな・・・ちょっと龍一・・・」

 

 

「お前須佐男には敬語で俺はタメ口かよ。謝罪は受け取っておけよ。今回お前は本格的に被害を被ってんだ。たまたま俺らが暴れてお灸どころか溶けた鉄を据えてやったからなんとか収まったがな」

 

 

俺は慌てる諏訪子の頭を掴んで押さえ、須佐男に顔を上げさせる。

 

 

「お前の誠意は染みるほど知ってるが、あいにく大和のお偉いさんから謝って貰わんとこっち、主にそこの娘を弄られた幻夜が納得いかん。入らせてもらうぞ?」

 

 

「元よりそのつもりです。これは私のケジメですね。・・・姉上!客人です!「入れ」・・・失礼します」

 

 

「し、失礼します・・・」

 

 

「失礼します」

 

 

「失礼させて頂きます」

 

 

「邪魔するぜよ」

 

 

「入る」

 

 

「おっ邪魔ー」

 

 

役三名クソみたいな挨拶をするが、目の前のバカシスターはなんとも思っていない様子。なお隣のアホブラコンはてんてるだいじんの隣に座っている。そして周囲にはやや高位の神が座っているように見える。

 

 

「よかろう、座れ」

 

 

あまりのてんてるの威圧のショボさに俺は欠伸しそうになるが、隣の諏訪子に効いているのだから相当だろう。俺はそのまま座った。

 

 

「・・・まず、此度の策、見事だった。我々も流石に疲弊し、もうこれ以上は戦えぬ」

 

 

「それはどうも。まあ生物を苦しめることが私含め犯罪者、絶影一団の特技ですから」

 

 

「・・・どうだ?我々の下に下らぬか?地位や神としての立場は保証する、悪い話ではないはずだが?」

 

 

天照の微笑みながらの提案に、俺は微笑み、諏訪子を野郎共に囲ませて、舌打ちをした。

 

 

「いきなりそれですか?こちらの言い分はどうなりました?」

 

 

「・・・それは、受け入れることは出来ん」

 

 

「何故?」

 

 

「申し訳ないが、大和としての威厳が落ち」

 

 

無言で発砲。天照が絶句し、周囲の神も硬直する。

 

 

「すみません、私は月に落とした針の音が聞こえるぐらい耳が遠いものでして、もう一度お願いします」

 

 

月読命は俺が誰か分かったのか、口をパクパクさせている。

 

 

「だ、だからだな、我々大和の長い歴史に傷が」

 

 

2連写。天照の背後の障子がズタズタに破れ、俺は唾を吐く。

 

 

「ケッ、威厳、歴史、そんなんで飯が食えるかっての。それしか言えんのか?ええ!?」

 

 

何人かの神が立ち上がるが、瞬く間に喉元に侵二の翼が突きつけられ、硬直、数名は失神してしまう。

 

 

「そんな事しか言えないようなら・・・いっそ滅びろ。さぞ貴様らの生みの親もクソであろうな」

 

 

俺の言葉に天照を覆う威圧が変化する。

 

 

「黙れ!貴様、いや、アンタなんかに龍一兄さんの事が分かるもんですか!」

 

 

「やめなさい天照!この人はダメです!」

 

 

俺は仕方なく、息を大きく吸った。

 

 

「分かってねえだろうが引きこもり大神ィ!!」

 

 

俺は立ち上がり、天照に詰めかかる。

 

 

「なーにが兄さんの事が分かるものか!だ!本人前にして言うセリフじゃねえだろうが!!それになんだ、上から目線で会話しろって誰が教えたゴルァ!!」

 

 

「まさか・・・あ、兄上・・・!?」

 

 

「あ?今更かよ?周りのお前らもだ!ブッ殺すぞ!」

 

 

天照は俺の威圧、というか説教に硬直する。周囲の神もようやく俺が何なのか分かったようで、騒ぎ始める。そして、別の部屋からトテトテと音が響き、天照の背後にあった障子の引き戸が激しく開かれた。俺の発砲もあったせいか引き戸が壊れた。

 

 

「にーさまーっ!!」

 

 

もちろん龍華だ。慌てる神々と天照と諏訪子を無視して俺は飛び込んでくる龍華を掴むと肩車し、天照を睨みつける。

 

 

「天岩戸の時みたいに長い説教喰らうのと、ここで土下座するの、どっちが良い?」

 

 

「兄さん・・・よしてやって欲しいです。天照、説教は私も嫌です」

 

 

天照は、

 

 

 

土下座した。

 

 

 

____________________

 

 

「オルァ!皆の者!俺の帰還だ!覚えがなくても懺悔しろ!!」

 

 

あの後、俺は土下座した天照を担ぎ上げ、大和の神々をこぞって引きずり出して目の前で正座させている。約八百万人の神が正座するのもなかなかシュールだ。

 

 

「まず天照。なんだあの態度は!!ええ!?教育し直すぞオルァ!」

 

 

「ご、ごめんなさい・・・」

 

 

「次やったらマジで夢に出るぐらいな事するからな!次に月読命!お前も止めろぉ!!何隣に座ってんだオルァ!!」

 

 

「もうしません・・・」

 

 

「次すると二度と来国してやらねえからな!んで須佐男ォ!は除外して、「はあ!?」「ずるーい!」黙ってろアホ二人!!残りの貴様らァ!!調子乗りすぎじゃオルァァ!!」

 

 

周囲一帯が全て平伏する。

 

 

「次やると一回死んだ奴もまだ死んでない奴も一回モグモグされる事になるからな!以上!解散!八岐殺しとアホブラコンと引きこもり大神と龍華は残れ!「あー!またその名前で呼んでますー!」「その名前で呼ぶのやめてよ!」「その名前は勘弁してください・・・」「はーい!」元気でよろしい。では龍華、デコピンだ」

 

 

「ええー!?」

 

 

「ええー!?じゃねえんだよ馬鹿野郎!龍華、お前何してた?」

 

 

「ちゃ、ちゃんとお仕事してました!」

 

 

「どこがちゃんとだ。声を大にして言ってみろ。ええ?」

 

 

「あうぅ・・・ごめんなさい・・・」

 

 

「即落ちかよ!・・・まあいい、歯ぁ食いしばれよ。ほらよ!」

 

 

最低火力のデコピンを叩き込み、龍華がその場で悶絶する。

 

 

「うにゅぅ・・・」

 

 

「気の抜けた声出すな。・・・で、御三方、色々あるが・・・久しぶりだな」

 

 

「お久しぶりですよ兄上〜!私は元気でしたよー!」

 

 

「先ほども言いましたが、お久しぶりです、兄上。・・・私も特には何も」

 

 

「・・・久しぶり、兄さん。その・・・ごめん」

 

 

無事どころか死人が出まくった大惨事ではあるが、何とか交渉には成功したようだ。

 

次回へ続く




ありがとうございました。
平和回にまた戻ります。


次回もお楽しみに


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第二十八話 嘘と誇張

相変わらずなんの脈絡もない話ですが、つい最近テレビで本当にあった怖い話があったので。


私は一度霊に取り憑かれた事があります。


ゆっくりご覧ください。


俺は先の交渉を終えたことを諏訪子に伝え、諏訪子を含め審議するとの事なので、俺は龍華を連れて四凶たちの所へと戻った。

 

 

「うーっす、ただいまー」

 

 

「おかえりー、って何?誘拐?」

 

 

「お前にだけは言われたくないな。妹の龍華だ」

 

 

龍華は肩車から離れると、どこで覚えたのかスカートの裾を上げ、優雅に挨拶をした。

 

 

「始めまして。私は龍一の妹、龍華と申します。兄がお世話になっております」

 

 

「兄に反してよく出来た妹殿だ。「どういう意味だコラ」拙僧は風魔と言う。主上にはこちらこそ世話になっている」

 

 

「ええ子じゃのお。俺は壊夢って言うぜよ」

 

 

「僕は幻夜。マスターと違って縁ぐらい可愛いね」

 

 

「私は侵二。・・・饕餮と言った異形のモノですのでご存知かもしれませんが・・・これから主上の世話になります」

 

 

「饕餮・・・?あ、黄龍のおじちゃんが言ってた妖怪かあ、んんっ、存じ上げております「やめていいぞその口調」うん、知ってるよ。でも・・・ごめんねおじちゃん、言うね。おじちゃん泣きながら全滅したって言ってたけど、生き残り?」

 

 

「ええまあ・・・私の親族全て、ね。黄龍が知っていたのは遠い親戚が黄龍の家系だとか。特に黄龍の持つ二人息子のうち一人は饕餮の血を引いているそうなので、きっと息子さんも亡くなったのでは?」

 

 

「そう、かな?でも、遺体も骨どころか髪の毛一本まで見つかってないらしいけど、侵二さんは何で無事だったの?」

 

 

首を傾ける龍華に、侵二は暗く微笑む。

 

 

「集落が襲われた日、私は別の場所にいたんですよ。最も、幸か不幸か皆の死んだ姿を見てしまったんですけどね」

 

 

「そっか・・・ごめんなさい。つい最近黄龍のおじちゃんが亡くなったから、聞いておこうと思って。今度お墓まいりの時に生き残りがいたよって言っておくね。ホントは誰にも言っちゃダメって言われたんだけど、侵二さんなら良いよね?」

 

 

「全滅の件はお気になさらず。・・・黄龍が死んだんですか?」

 

 

侵二は目を見開くと、静かに項垂れた。

 

「・・・そうですか。今度帰郷したら、情報の礼として花でも添えましょう。・・・あ、黄龍のご子息は?」

 

 

「ん?あのちょっと嫌な人?即位するって。知り合い?」

 

 

「まさか、あんなゴミの事知りません。私が知っているのは先代だけですよ」

 

 

そっか、と、俺に龍華が向き直ると、俺を見上げてきた。

 

 

「にーさまは凄いですね。こんな凄い妖怪さんがお友達なんて。私も欲しいなぁ・・・」

 

 

俺が返事に困っていると、幻夜がすっと龍華に目線を合わせた。

 

 

「じゃ、僕となる?お友達」

 

 

「いいのですか?」

 

 

「いいも悪いもないよ。お友達に決まりなんて無いからね。良いでしょ?」

 

 

そうですね、と侵二、壊夢や風魔も龍華に目線を合わせる。

 

 

「俺もなりたいぜよ!」

 

 

「私もだな。龍華が良ければだがな」

 

 

「私も貴女と友達になりたいです。・・・主上、良いですか?」

 

 

「・・・俺が許可するもんでもないだろ」

 

 

「じゃ、龍華が良いならお友達になる?」

 

 

龍華は嬉しそうに頷いた。

 

 

「はい!!」

 

 

幻夜は微笑むと、龍華の手を握った。

 

 

「じゃ、向こう行こっか!侵二はダメでしょ?」

 

 

「ええ。・・・ごめんなさいね龍華、私はちょっとお兄さんと話してから向かいますね」

 

 

「はーい!じゃあ、幻夜、風魔、壊夢、行こっ!!」

 

龍華は俺と遊ぶ時のように、嬉しそうに去っていった。

 

 

「・・・さて主上。龍華殿の話していた事、少し話させて頂きます」

 

 

侵二は溜息をつくと、睨みだけで人を殺せるような顔になった。

 

 

「まず軽く。私は饕餮です・・・が、前は饕餮ではありませんでした。その件についてはお話出来ません。そして饕餮一族は黄龍の息子とその妻の麒麟に殺されました。現在即位した黄龍の事です。名を黄正(こうせい)、彼には兄・・・そう、饕餮の血を引いた男がいました。そっちは龍信(りゅうしん)、大人しい息子だったそうです。若くして消えましたけどね。消息が絶えているそうです。おそらく死んだかと」

 

 

そして、と、毒でも吐きそうな顔で侵二は目を細める。

 

 

「その龍信には義理の妹がいたそうです。名を立花と言い、饕餮の間での噂では龍信は妹も殺され、全てを呪いながら死に、今も亡霊として彷徨っているとか、饕餮を全部喰って化け物になったとか、今も何処かに隠れているとか、もう死んでいるとか、悪い噂の絶えない方です。・・・流石にそこまではないですけど、同じく黄龍を恨んでいる身としては面白いものです。まあ私はその事故の時に偶然生き残った饕餮なので、その気持ちはよく分かりませんがね」

 

 

そう言いながら侵二は目を伏せる。

 

 

「はぁ・・・よりによって殺害対象が即位とは運が悪い」

 

 

「・・・ま、いざとなったら俺も手伝って潰してやるよ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「後、嘘はダメだからな。お前ある程度はホントだけど、ある程度はウソだろ。龍華に話してる時も、今話した事も矛盾点が何個かあるぞ」

 

 

「・・・はは、手厳しい。では後程」

 

 

侵二は溜息をつくと、黙っててくださいね、と微笑み、龍華のいる方向へ足を向けた。

 

 

しばらく一人で復興にいそしむ神々を眺めていると、諏訪子がやってきた。

 

 

「あ、龍一、ちょっと良いかい?」

 

 

「ん?何だ?」

 

 

諏訪子は隣にいた神を指すと、申し訳なさそうに笑った。

 

 

「この神と一騎打ちしてさ、負けたら国を譲ることにした」

 

 

「お前アホか?譲りたくないって言ったのに何やってんの?」

 

 

いやさ・・・と、諏訪子が頭を掻く。

 

 

「ずっと頼るのも申し訳なくてさ・・・ちょっとやってみようと思って。あ、でも国は全部譲るんじゃなくて、表向きは私で、裏に大和が付くって感じになるんだって」

 

 

「それ考えた賢者誰?「須佐男だって」あいつもう俺と変われ」

 

 

どこかでクシャミが聞こえた。俺は頭を抱えて頷いた。

 

 

「まあ・・・妥当だよな。良いぜ、好きにしな。・・・で、隣のお前は・・・八坂だっけ?」

 

 

「はっ!八坂神奈子(やさかかなこ)であります!龍一様!「やめろ虫酸が走る!あ゛あ゛っ!」大丈夫ですか!?」

 

 

強烈な虫酸を何とか抑え、神奈子に微笑む。

 

 

「大丈夫・・・多分。悪いと思うなら敬語抜いてくれ」

 

 

「分かり・・・ました、いや、分かった。・・・これで良いのか?」

 

 

「ああ、何とかな。お前なら不正もしないだろうから、正々堂々と出来るだろうな。頼んだ」

 

 

「ああ、こちらこそ受け入れてくれてありがとう。では諏訪子、よろしく頼む」

 

 

「ん、よろしく頼むよ。・・・で、日程だけど、「私に任せてください!」わっ!?」

 

 

「兄上!私がやるです!」

 

 

「お前は復興をだな・・・「こんなチビ助に出来ることがねーです!ぜーんぶ須佐男がしてくれたです!その代わりにここは私がまとめるです!」じゃあ頼んだ。そして最後まで話を「はいです!」聞けって言ってんだろ!」

 

話聞かずの永久乙女の月読命。大和の話聞かず理解できずの代表だ。他にも難しいことわかりません龍華、カタカナ語理解不能の天照。どうすんだコイツら。

 

 

俺は話し始めた3人から離れ、ふと誰もいない壁の上に座り、息を吐いた。

 

 

全員が何かの仕事をして復興しようとしている。それは素晴らしく、俺がそうあれと望んで言い続けた事だった。残念ながら拳で思い出させたのが心残りだ。

 

 

少しだけ嬉しく笑ってしまう。ふと隣に冷たい風が流れ、横を見ると、同じ姿勢で八岐大蛇が座っていた。

 

 

「ああ、お久しぶりですご主人。・・・ちょっと刀の中も飽きまして、久方ぶりに見に来ました」

 

 

八岐は照れ臭そうに頭を掻く。

 

 

「飽きたってお前な、普通精神体で刀の中に家作って住むやついないからな?そもそも今元気に生きてる上に出てきた時点で世界に中指立ててるからな?」

 

 

いやあ、と、八岐は気の抜けた声を出す。

 

 

「見逃して下さいな。それに、前の私は祟り神の頂点みたいなモノでしたから」

 

 

そう言いながら微笑む八岐から瘴気が流れ始める。

 

 

「・・・綺麗ですね。あの時の朝焼けには負けますが、また良い景色だ・・・」

 

 

「・・・また、見に来るか?」

 

 

「ええ、色々な景色、見せて下さいな。あ、あと言伝お願いします。堅物のあの青年に、奥様とよろしくとお願いします」

 

 

八岐はそう微笑むと、瘴気と共に刀へと還った。

 

 

俺は八岐と同じ日を眺め、自然に頬が緩んだ。

 

 

「綺麗な眺め、か・・・」

 

 

「にーさまーっ!」

 

 

「主上ー!貴方の姫君が呼んでますよ!」

 

 

俺は下で叫ぶ声に苦笑し、向かう事にした。

 

 

次回へ続く




場所は伏せますが、中学の修学旅行先で着物の女の人に憑かれました。おそらく歳は30代後半か40代ですかね。

とある場所に観光に行って、体が重くなって、それ以来夢に出てくるようになり、とうとう旅行中のホテルの鏡に映りました。悪い人じゃなかった上に、肩が重かっただけなんですけど、初日は驚きました。よく亡くなった曾祖父の影を見たりもするので、霊感と言うかこの世のものじゃないモノを寄せるんでしょうね。この前の5月16日に離れた夢を見ました。ちょくちょく頭に入って来てたんですが、私と似た息子さんがいたそうで、置いて亡くなったことが気がかりだったそうです。


では、次回もお楽しみに。


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第二十九話 勝ちの価値

台風で隣の家のガレージの屋根が吹き飛びました。ウチは元気です。

何故こうも今年はデカイのばかり来るんですかね・・・


ゆっくりご覧下さい。


私はゆっくりと目の前の敵に視線を合わせる。相手は明らかに私より実力は上。勝機など一つもない。

 

 

「さてさて、ではお二方、心の準備は?」

 

 

それでも、前よりは勝率はあるかなと、私は苦笑する。

 

 

突如現れ、私の、私の村の窮地を救ってくれた人、どうしてもあの人に、私だってやれると見せたくて、

 

 

「私は出来てるよ。諏訪子は?」

 

 

だから勝負を挑んだ。これは負け戦、私個人で争った時の結果の証明。分かってる。けれど、

 

 

「出来てる。じゃ、お願いするね」

 

 

今、まるで子供を応援するように旗まで振って応援してくれる縁や、旗を寝ずに作ってくれていた龍一を見ると、どうしても、負けたくないと思った。

 

 

「では、始めましょう。・・・始めッ!!」

 

 

だから、やれるだけやるっ!

 

 

____________________

 

 

「負けだなあれは。全然ダメだ」

 

 

復興の遅さにしびれを切らし、全てを素手と拳で直した変態のせいで早まった一騎打ちを眺め、つい本音を漏らしてしまう。

 

 

「まあ、無理だろうな・・・だが」

 

 

あれを見てはな、と、風魔は隣を指す。

 

 

「諏訪子様ー!!頑張って下さいー!!」

 

 

「諏訪子なら行けるよー!頑張れー!!」

 

 

遠くに座りながら叫ぶ幻夜と、その上に座りながら必死に旗を振る縁を見ると、どうもそう言えなくなる。

 

 

「ま、こういうのを見ると応援したくなるのも仕方ねえぜよな!気張れよ諏訪子ォ!」

 

 

「そう、だな。行け!諏訪子!」

 

 

「侵二の練習活かせよ諏訪子!!」

 

 

ついつい応援してしまう。向こうの大和の奴らの叫び声のせいでほとんど聞こえていないかもしれないが、きっとまあ、一個ぐらい届くだろう。

 

 

____________________

 

 

・・・圧倒的だ。やっぱり私の地面を動かしての攻撃、侵二に教わった付け焼き刃程度の体術では、神奈子の御柱を使っての攻撃には刃が通らなかった。それどころか周囲一帯の土ごと吹き飛ばされる。

 

 

「やっぱ・・・ダメかな!?」

 

 

あまりの絶望に私苦笑しそうになる、が、神奈子の見せた御柱の攻撃の後のぐらつきを見ると絶望は吹き飛んだ。

 

 

「ダメじゃないね!」

 

 

私はここぞとばかりにあるものを取り出す。

 

 

ふと、あの時の回想を思い出す。

 

 

-----仕方ねえな。神奈子と喧嘩するんだろ、何個か貸したりプレゼントしよう。

 

 

-----じゃあまずこれをやろう。【鉄の輪】だ。

 

 

「はあっ!!」

 

 

私は龍一から貰った鉄の輪を回転させて神奈子に投げる。一個は避けられたものの、もう一つは神奈子の体勢を崩し、ダメージを与えた。

 

 

「よしっ!!」

 

 

「っ!やるじゃないか!」

 

 

再び回想が流れ、袖に隠していた物を取り出す。

 

 

-----後、面白い物を貸してやろう。これを見ろ。

 

 

-----何、殺しはしないだろう。

 

 

-----八岐大蛇の牙で作ったナイフだ。

 

 

が、袖のものを捨てる。やっぱりダメでしょ!

 

 

-----てめえ何捨ててやがる。

 

 

直接脳内に話しかけてて回想じゃなかった!?

 

 

-----まーいーや、ちょっと俺らの方見てみろ。

 

 

私はその声通り、龍一達の方向を見る。

 

 

「諏訪子様ー!頑張って下さいー!」

 

 

「ぜーったい行ける!頑張れ!」

 

 

「いっちょかましてこいやオッルァ!」

 

 

「さっさと行けや祟り神ィ!」

 

 

「そんなもんじゃねえぜよが!もっと行けるはずぜよ!」

 

 

「駆けろ!祟り神!!」

 

 

少しトラウマを呼び起こす様な激励は混じっているけれど、それでも、皆応援してくれている。

 

 

「・・・ありがと。これじゃ負けられないねえ!」

 

 

私は再度鉄の輪を投げる体制に移りながら神奈子に突撃した。

 

 

「行くよっ!!」

 

 

「来い!」

 

 

____________________

 

 

強すぎる風圧と土煙の中、鉄の輪や御柱が飛び、俺に向けてナイフが投げつけられ、俺の手元に戻ってくる。

 

 

「あーもう滅茶苦茶だよ。全然見えないね」

 

 

「それでも応援は届いてますよ」

 

 

「そだね!頑張れー!・・・ん?」

 

 

叫ぶ幻夜に御柱が飛び込み、顔面に直撃する。

 

 

「お父さーん!?」

 

 

だが、御柱はぶつかった途端に重力に逆らって静止する。そのままパキパキと音を立てながら御柱は崩れ始める。

 

 

「大丈夫だよー・・・で、変化した?」

 

 

鼻をさすりながら幻夜が問いかけてくる。俺は首を横に振った。

 

 

「いや、相変わらず見えねえ・・・っと、今クソデカい爆音したな。決着かもな」

 

 

それから数分、物音が感じられなかったので、俺は風魔に指示を出した。

 

 

「風魔、薙ぎ払え」

 

 

「承知」

 

 

人が吹き飛んでもおかしくない突風が吹き、周囲の砂埃や土が巻き上げられ、何処かへ飛んで行く。

 

 

「あーっ!!」

 

 

煙が晴れた先には、倒れた姿で動かない神奈子と、立ったまま気絶した諏訪子がいた。

 

 

「同率・・・ですかね?」

 

 

「いや、神奈子の勝ちだ。「そんな!?」・・・見ろ、動いた跡がある。途中で力尽きたんだろ」

 

 

「じゃあ負け、ですか・・・?」

 

 

縁が残念そうに言う。しかし、幻夜はやんわりと縁の頭を撫でる。

 

 

「負けは負けだよ。けど、負けだって悪いわけじゃないし、相手を追い込んでの負けは惜しい。諏訪子は凄く強いって事だよ、誇っていいよ」

 

 

「そう・・・ですか?」

 

 

「そだよ。その辺にいるのが最強目指してたり、敗北は死と考える奴だったり、勝たないと生きていけないやつがいるから縁がそう思ってるだけで、他の価値観もあるからね?僕はまあ、裏も兼ねて勝てたら勝って、負けそうならさっさと降参するか適当に足掻くだからね」

 

 

勝ちに対する価値の価値観は違うわけだ(激ウマギャグ)

 

 

「・・・色々あるのですね」

 

 

「そりゃ十人十色、色々あるよ。・・・もっともその10色全部一人で兼ねるど変人もいるけどね」

 

 

そう言いながら指は俺を指す。誰がど変人だ。

 

 

「勝者、八坂神奈子!第1試合終了っ!」

 

 

審判だったため土煙を払いのける侵二がそう言うと、大和から歓声が起きる。

 

 

・・・諏訪子はよくやった。諏訪子を背負いながらやって来る侵二に、少ないが大和からの拍手もあった。

 

 

「コレでいいんだよコレで。・・・じゃ、ちょっと席外すわ」

 

 

「続いて第2試合、須佐之男命対神谷龍一、両者前へ」

 

 

天照と月読命が茶を吹いたのが見える。呑気に茶なんか飲むなと言いたいが、隣で団子食ってる親子がいるので何も言えない。

 

 

「え!?龍神様も出るんですか!?」

 

 

「まあな。そりゃ・・・負けっぱなしも癪だろ?なぁ須佐男くぅん?」

 

 

俺は須佐男ににっこりと笑顔を見せ、げっそりとした須佐男が首を振る。

 

 

「確かに成長を見て頂きたいと言いましたが、兄上の本気でとは言ってませんよ・・・」

 

 

「馬鹿、四割だ四割。指パッチンで山割る程度だ」

 

 

「何処が程度ですかっ!!」

 

 

「へーへー、お堅いこって」

 

 

俺は新月の形を変えて須佐男に突きつける。

 

 

「ま、やるんならさっさとやろうか!なあ!」

 

 

渋々としていた須佐男だが、草薙剣を抜き、獰猛な顔になった。

 

 

「ええ、折角ですし、お願いします!」

 

 

「暑いんでやめてください。始め」

 

 

やる気のない審判の声と共に双方が動く。

 

 

「行きますっ!」

 

 

初撃は須佐男が草薙剣を縦に振った、それを新月をチェーンソーに変えたもので受け、刃で草薙剣の刀身を噛む。そのままエンジンを回して刀身を流す。

 

 

「っ!?流され・・・」

 

 

「膝蹴りいッ!!」

 

 

刃をガッチリと噛んだ鎖の流れで体制を崩した須佐男の腹に膝蹴りを叩き込む。須佐男は衝撃で身体をくの字に折る。

 

 

「ゴッ・・・!」

 

 

「肘打ちいッ!!」

 

 

折れ曲がった須佐男の背骨の筋に肘鉄を打ち付け、そのまま右膝に須佐男の胸を乗せる。

 

 

「ウゲァッ!?」

 

 

俺の膝の上に胸を乗せた須佐男にトドメを刺す。

 

 

「再度の肘鉄と膝蹴りのギロチンを喰らえッ!!」

 

 

「うあっ・・・!?」

 

 

腹部を肘と膝打ちに挟まれた須佐男はその場にぶっ倒れる。

 

「はあ・・・さて、決着ーッ!!なななんとっ!僅か数瞬でダウンーッ!この勝負、龍一の勝利ッ!!」

 

 

溜息からのいきなりテンションのぶっ壊れた審判の叫び声が響き、月読命はその場に突っ伏し、天照はあまりの出来事に気絶した。

 

 

「ええーっ!?」

 

 

「でーっ!?」

 

 

衝撃の叫び声をあげる縁と、コイツやりやがったみたいな叫びをあげた、ついさっき目覚めた諏訪子の叫び声が響く。

 

 

「あーあ、また簡易デスコンボやったよ」

 

 

「・・・予測可能、回避相当不可だからな」

 

 

「予想では肋骨5本と背骨折れてますね。骨髄大丈夫ですかね?」

 

 

「俺は更に連撃喰らったぜよが、アイツ生きとるぜよか?」

 

 

「んな事言う暇があったら介抱ぐらい手伝って欲しいですよッ!」

 

 

慌てて介抱を始める月読命が悲痛な叫びを上げるので、仕方なく俺は須佐男に俺の生命力を流し込み、回復させる。やべえ骨髄折れてた。

 

 

「っ、はあっ!・・・あれ、兄上と姉上?・・・あ、負けたんでしたね」

 

 

「無事そうだな。「何処がですか!!」どっからどう見ても「死にかけてましたよッ!」お前弟の事になるとうっせえよな」

 

 

「大事だからですよ浮浪者兄上!「んだとアホブラコン!テメエもやんのか?ええ!?」・・・や、やってやりますよ!」

 

 

「よーし言ったなど阿呆。一撃で潰す」

 

 

「か、かかって来いで「始め」ちょっ!?「ほらよ!」うにゃっ!?」

 

 

相棒のど外道のアシストもあって、一撃でデコピンを決めて悶絶させた。

 

 

「・・・ったく、悪かったよ。お前も無理して意地張るなよ」

 

 

「それ、デコピンしてから言わないで欲しかったですぅぅ・・・」

 

 

「わりーわりー、そういや須佐男」

 

 

「何ですか?」

 

 

「刀からお前に向けて、奥さんとよろしくだと」

 

 

「・・・っ!・・・ありがとうこざいます」

 

 

「俺に言うな。あの山に酒でも添えとけ」

 

 

はい!と言って頷く須佐男は笑っていた。凄えな半死半生まで追い込んだのに。てかほぼ死んでたのに。

 

 

「龍一ッ!何やらかしてるんだよって、持ち上げるな!」

 

 

俺は血相を変えて押しかけてくる諏訪子を軽く持ち上げ、ニヤリと笑う。

 

 

「じゃあこの先の事も決まったし、ちょっとぐらい酒飲むか!」

 

 

「無視するなー!」

 

 

この言葉に、俺は後悔することになった。

 

 

次回へ続く




ありがとうございました。


皆様も台風にはお気をつけて。


次回もお楽しみに。


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第三十話 アルハラ

相変わらず適当な時間に投稿してますが勘弁してください。


ゆっくりご覧下さい。






昨日宴会を開いたせいで頭が痛い。所謂二日酔いと言ったものだろうが、全く記憶がない。

 

 

目が醒めると龍華と天照と月読命が俺にしなだれかかっていたが、特に何もなかった。・・・筈だ。別に大した事もしてないだろう。3人も何も覚えていないらしく、頭に何か心地の良い物が乗っていた感覚しか残っていないらしい。さては酔い潰れるまで撫でてたなこりゃ。流石に龍神もあの酒の量は無理か。

 

 

侵二は駄目どころか事故だった。昨日周りに囃し立てられて二人で飲み比べをしたせいで理性が崩壊。ゆうべはお楽しみどころか大惨事でしたね何やってんだテメエと言ってやりたいが、そんなこと言うと喰われるのでやめておこう。天鈿女を代表として侵二に様付けし始めただけだ。アイツは餓狼をも喰らう餓狼だった。

大丈夫、お前は悪くない。お前の顔と性格と喰われた奴らが悪い。

・・・だからそこらの女神に甘い言葉かけて気絶させたのは黙っといてやるよ。な?

 

 

幻夜は縁と終始いたため、酔うどころか酒を飲んだかも怪しい。と言うか二人揃ってスヤスヤと寝ていたので何もしていない。願わくばそのままでいてくれ。良心を守ってくれ。

 

 

で、本題の壊夢と風魔の馬鹿野郎だが、双方揃って大惨事どころか大災害を引き起こした。

ほろ酔いで目に付いた奴を捕まえては酔い潰れるまで飲ませ、手加減の無くなった拳骨と飛行で暴れ回った。更にコイツらは酒樽換算で1000は潰しているのにほろ酔いで済んでいるのが怖い。現在八岐の協力の下謹慎中。

被害者は知っているだけで神奈子、諏訪子、須佐男の3人もいるうえに隣で死んでる、と言うか幻夜と縁以外みんな目が死んでる。

 

 

「・・・クッソ頭いてえ」

 

 

「酒のせいとはいえ、恐ろしい事をやってしまった・・・」

 

 

「諏訪子様、お水です」

 

 

「ごめんありがとう・・・うぷっ」

 

 

「滅茶苦茶じゃん。何したの?」

 

 

「筋肉馬鹿と刃物馬鹿にやられた」

 

 

「察した」

 

 

頭がガンガンと鳴り、何度も吐き気が襲ってくる。初めての二日酔いか、最悪だな。

 

 

「あぅ・・・にーさまが2人いますぅ」

 

 

「月読命は全然酔ってないれすよぉ〜」

 

 

「兄上ー、私にも構ってくれていいじゃないですかぁ〜」

 

 

もう色々と酷い。絶対これ後で酔い冷めて自分の言動を殴りたくなる奴だ。絶対そうじゃねえか。特に天照なんかはツンデレを目指すとか言ってんのに大丈夫か?元から大問題だ(自己完結)

 

 

「うっ・・・兄、上」

 

 

「お前もかよ。どした?」

 

須佐男が死んでるのか生きてるのか分からない顔色のまま俺に寄ってきた。

 

 

「今、回、は、ありがと、う、ござい、まし、た」

 

 

絶命。悲惨の一言。目を回して気絶。人間なら急性アルコール中毒待った無し。死にたい奴からウチに来い。

 

「にーさまぁ〜」

 

 

「やめろフラフラすんな。仕方ねえから担いで送ってやるよ」

 

 

「わーい」

 

 

もう何と言うか、聞いてるのか聞いてないのかわからん。

そのまま龍華を背負い、右肩に月読命、左肩に天照を座らせて目の前へ空間を開く。

 

 

「じゃあお前ら、先に諏訪子のとこに戻っといてくれ」

 

 

「うーい。じゃ縁、死にかけの神様と社会的に死にかけながらも何人も落とした奴連れて帰ろ」

 

 

「はい!」

 

 

「ちょ、後の奴って私ですか「きっこえませーん」はぁ・・・」

 

 

「じゃ、お前らも帰るぞー」

 

 

「お〜」

 

 

龍華達は神界に捨てて帰った。

 

 

____________________

 

 

「で、命令だ。申し開きせよ」

 

 

「別に後悔も反省もしていない。そもそも酒の量を指定しなかった奴らが悪いし、あの程度で酔うのが悪い」

 

 

「別にこりとらんぜよ。また今度もやりたいぜよなぁ」

 

 

「クソかよ」

 

 

捨ててから小一時間経ち、侵二のテンションが再生した頃に八岐に預けておいた二人を戻し、反省したかどうかの確認をしたが、全く反省していなかった。

 

 

「謝罪しろと強要したら?」

 

 

「強要出来るか?「しばらく禁酒、禁煙な」申し訳ない。・・・いつか殺す」

 

 

「仕方ねえぜよな。今回は申し訳・・・やっぱ無理ぜよ!」

 

 

「嘘はつけないってか!正直者だなやかましいわ!」

 

 

何だコイツら。嘘がつけないせいで反省できないやつと、形だけ謝罪して殺害予告、お前ら悪魔かな?

 

 

「そもそもどいつもコイツも酒に弱すぎる。男なら川を酒に変えたものを飲み干すくらいの強さでいないと困る」

 

 

「開き直んな。どこにそんな侵二の翼を口につけたような奴がいるんだ。そもそもお前らの持ってる酒の度数が高すぎる。どっから盗って来やがった」

 

 

「壊夢作だ」

 

 

「最悪だな地球作り直すわ。絶対お前ら生まれる世界間違えてるわ。適当に異世界行って無双でもして来い。片道切符を売ってやる」

 

 

「結構だ。どうせ法外な請求をして来るだろう?私はここで生きてここで殺してここで死ぬ。私の最期の世界・・・いかん忘れてくれ」

 

 

「おい待てやそれだとお前が異世界転生繰り返してるように「そんなわけ無いだろうが。元々風神から人斬りの悪神に堕ちたもんでな。どうもその辺りで世界が変わった気がする」お前なぁ・・・ところで八岐のとこで何してたんだ?」

 

 

「ああ、アイツなら」

 

 

「酔い潰したぜよ」

 

 

「八岐ァ!!」

 

 

畜生ここに極まれり。ふざけんなよてめえら死ね(致命的な語彙力の欠損)、慌てて八岐覗いたら中指立てて気絶してるじゃねえか。

 

 

「子供の馴れ合いのような話はやめんか?・・・すまん、悪かったからその生卵を下ろせ、投げようとするな」

 

 

「誰のせいだ誰の!まあいい、話逸らすが・・・俺はそろそろ何処かに行くつもりだ」

 

 

「唐突過ぎる。・・・そうか、ならば前に何かほざいていただから卵を下ろせ。・・・前に言っていた自由行動だな?」

 

 

「そうなるな。幻夜はここ数年は諏訪子といるだろうからな。流石に色々仕切ってるのにもう首ぶっこむ必要もないしな」

 

 

「だろうな、私も少し遠出する。何か悪い事があれば連絡はしよう」

 

 

「・・・お前とは対立戦争しそうで笑うわ」

 

 

「まさか。そんな事あるまい」

 

 

「「ハッハッハ」」

 

 

とか言いながら絶対そうなるよななんて思いながら冷や汗を流す。やめろ風魔、お前も勘付いて鞘に手をかけるな。お前がやめろと言っている生卵投げるぞ。さっき持ってたのは茹で卵だけどな!

 

 

「じゃ、俺もちと・・・決めとらんがどっかに行くぜよ」

 

 

「では私は主上と。よろしいですか?」

 

 

「構いやしねえよ。幻夜、聞いてたか?」

 

 

「聞いてたよー・・・ああもう諏訪子、お礼言おうとして立つんじゃないよ。酔ってるんだから良いよ。どーせまた会うだろうし、僕は残るし」

 

 

「いや、でも言葉で言えないぐらいお世話に・・・おえっ」

 

 

「ごめんゲロりながら感謝食らっても気分複雑過ぎるし、何もありがとうとか言うもんでもねえだろ。また会えたら良いねぐらいで行こうぜ。どーせまた会うんじゃねえの?それに幻夜いるしな」

 

 

「・・・そう、だね。ありがとう。また会えたら良いね」

 

 

「そうそう、それで良いんだよ。・・・じゃ、行くぞ侵二」

 

 

「御意」

 

 

「え!?もう出ちゃうんですか!?」

 

 

驚く縁を幻夜が撫で、にこりと微笑む。

 

 

「思い立ったら出て行くのしかいないからね。ま、僕は残るけどねー」

 

 

「分かりました・・・龍神様!ありがとうございました!」

 

 

「はいよ!じゃ、何かあればお祈りでもしなさいな!ある程度は解決してやろうじゃないか!」

 

 

俺はほんの少し神様っぽいことを言い、やっぱり似合わなくて苦笑する。

 

 

「ダメだ似合わん。・・・じゃあな!」

 

 

俺は背中に羽を生やし、ゆっくりと羽ばたく。同じようにして侵二も翼を広げ、ゆっくりと空を飛び、縁と諏訪子が見えなくなるまで手を振った。

 

 

「・・・さて主上、どちらへ?」

 

 

「そうだな・・・行きたい所はあるか?」

 

 

「そうですねぇ・・・って、集落も少ないのにですか?」

 

 

「だよなぁ・・・」

 

 

「では、しばらく籠りましょうか?」

 

 

「山とかにか?・・・悪くはないな。じゃあそれで」

 

「御意。・・・どうせなら山一個落としましょう」

 

 

「結局それだろ戦闘狂」

 

 

「そのままお返しします」

 

 

何というか、馬鹿が集まると馬鹿な案しか出ないことを再認識しながら、手頃な山へと激突しに行くのだった。

 

 

このせいで後々事故を起こしたのは言うまでもない。

 

 

 

次回へ続く




ここから視点がポンポンぐちゃりと飛びます。先ずは風魔ですかね。

次回もお楽しみに


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第三十一話 山割って山河消す

予定通り風魔の休暇です。

ゆっくりご覧下さい。


主上と離れてから、私はふらふらと山や川を訪ねていた。

 

 

今も私は新しい山・・・と言っても前々から目をつけていた山に登っていた。川などは無いが、木々が鬱蒼と茂り、心地よい風を吹かせている。特に私からすれば高いわけでも無かったので、楽に崖から登ることが出来た。道中巨大な岩はあったものの、切り捨てた。

 

 

頂上は少し平たくなっており、山頂の景色を一望できた。あらゆる所から獣の声が聞こえ、自然を感じられる。

 

 

「・・・斬るのも良いが、こう言ったものも良いものだな」

 

 

などと考えていると、近くに妖の気配を感じた。上手く人間に化けているようではあるが、どことなく人間では無いように感じられる。

 

 

相手は一人。殺るかと物騒な思考が真っ先に出るが、何となく話してみようと思い、そっと気配を消して近づいた。

 

 

念の為大太刀はその場に捨て置き、登山時に切り出しておいた岩の破片を構え・・・

 

 

「動くな。動けば喉をぶった斬る」

 

 

「ひっ!?」

 

 

対象の背後に回って優しく無力化する。女か。

 

 

「・・・あ、貴方は何者ですか?」

 

 

「旅の人間だ。何となくこの山の景色を見に来た」

 

 

呼吸するように嘘を吐く。すると対象の彼女は少しだけ力を抜いた。

 

 

「貴方もですか。私もこの景色を見に来たんですよ。・・・あの、私も人間なので下ろしてもらえますか?」

 

 

「・・・すまんな」

 

 

ここで貴様妖の癖に嘘をつくななどと言って叩き斬るのも気が引けたので仕方なく岩の破片を捨てた。

 

「ふぅ・・・ありがとうございます。ここにはよく来るんですか?」

 

 

「いや、今回が初めてだな。・・・いつも来るのか?」

 

 

「はい!ここは私が悩んだ時によく訪れる場所ですから」

 

 

異様な高さを誇る山である上に途中の岩を無視している時点で人間かは疑わしいし、よく来ると言ったワードで私は妖ですと自白しているようなものだが、コイツさてはアホなのではと思ったので余計な心配をやめる。

 

「そうか。・・・私はカザマ。お前は?」

 

 

「えっと・・・い・・・シオリです」

 

 

詰まっている時点で偽名だろうがと突っ込みたくなるが、再び抑えて私も微笑み、彼女を眺める。何せ私も偽名だからな。

 

 

外見は17歳程度だろうか、背も平均的で顔も幻夜の愛娘並みに良い。黒い長髪が目立つ女性だ・・・と思いながら、さては天狗とやらかと勝手に邪推する。

 

 

「そうか。先程は申し訳無かった。怪我は?」

 

 

「大丈夫です。・・・えっと、その、良ければ案内しましょうか?」

 

 

「良いのか?」

 

 

「はい。・・・その代わりと言っては何ですけど、後でお話を聞いていただければ幸いです」

 

 

「その程度ならいくらでも問題ない」

 

 

「では、案内しますね!」

 

 

飛翔の予備動作を行いそうになって、ハッとしたのか躓いたふりをして歩いているのを半目で眺めながらシオリに着いて行く。コイツさてはアホだな(二度目)

 

「今の躓きは飛ぶ気か?」

 

 

「ま、まっさかぁー」

 

 

断定、アホだ。

 

 

____________________

 

 

「この辺りが一番綺麗ですよ!・・・滝は枯れちゃってますけどね」

 

 

シオリが紹介してくれたのは、岩の切り立つ崖の上だった。丁度山の外と、山の森林を同時に見られる場所だった。

 

 

「・・・いつから滝が枯れたんだ?」

 

 

「にじゅ・・・二年前です」

 

 

隠す気ないのかコイツは?

 

 

「・・・やはり滝はあった方が良いか?」

 

 

「そうですね・・・あの時の方が綺麗でしたね。でも、今後ろにある岩のせいでちょっと・・・」

 

 

「なら壊せば良いんだな?」

 

 

「そうですね・・・へ?」

 

 

抜刀、人間よりやや上の筋力をつけ、跳躍する。

 

 

「セアッ!」

 

 

縦一閃。岩はズルリと縦に割れ、ガラガラと崩れ落ちる。

 

 

「これで直るだろう」

 

 

「いや、え?ええ!?」

 

 

「・・・どうした?人間なら誰にでも出来るはずだな?」

 

 

「そ、そうですよね!「そんな訳ないだろうが天狗」へ!?」

 

 

シオリは私を見て何故分かったのか分からないような驚愕の表情を見せる。

 

 

「アホか。間抜けすぎて丸わかりも甚だしい。私が岩を切れたのは元々そういった仕事、まあ石工をしていただけで、一般の人間には無理だ。人間のフリをするならもっとまともにやれ」

 

 

「てへへ・・・ばれちゃいましたか。でも何で斬らなかったんですか?」

 

 

「・・・元々妖怪だろうが何だろうが気にせんクチでな。単なるアホと認識していた」

 

 

「そうですか・・・って、誰がアホですか!」

 

 

「フッ」

 

何ですかその笑い方ー!と、シオリが俺を蹴る。全く痛くない。

 

 

「で、俺をどうする気だシオリ。喰うのか?やめとけ腹を壊すぞ」

 

 

「た、食べませんよ!・・・ちょっと人間と仲良くなりたかったんです」

 

 

「で、俺を見つけて背後を取られて見破られると。散々だな」

 

 

「うぅ・・・」

 

 

「・・・まあ、友人になるなら良かろう。よろしくな」

 

 

「へ?い、良いんですか!?」

 

 

私は呆れて息を吐く。

 

 

「嫌ならとっくにバッサリ斬ってるぞ。俺の知り合いの妖怪ならお前は今頃頭からボリボリ喰われ終わってるだろうがな。今は骨も残ってないな」

 

 

「ぼ、ボリボリ・・・嫌です」

 

 

遠くから失礼な、そんないきなり食べませんし、モグモグですよと声が聞こえた気がするが幻聴だろう。いきなりじゃなければ食べるのか。

 

 

「ところで・・・お前はいくつだ?」

 

 

「女の子に年を聞くんですか?顔が良い割には失礼な人ですね「抜刀」すいません許してください170歳です」

 

 

「何だ、まだ小娘か」

 

 

「こ、小娘って、人間に言われたくないですよ!「私の知り合いに億を超えた奴がいるが?」・・・それ誰の事ですか?」

 

 

「ふむ・・・かの有名な元凶悪犯罪者、絶影だな」

 

 

「ぜ、絶影って、あの四人の妖怪と暴れまくった人ですか!?」

 

 

「そうだ。性格の一致で知り合った。・・・今は犯罪容疑も無し、ゆったりと山にでも籠っているだろう」

 

 

そうですか、とシオリは引きつった笑顔を見せた。・・・まずかったか?

 

 

「しかし、友と言ってもどうすれば良い?」

 

 

「えっと・・・お話を聞かせて頂ければ、それで良いです。私、この山と向こうの山以外、出た事がなくて・・・」

 

 

「・・・なら、好きなだけ聞かせてやろう。・・・何なら、案内してやるから山を出るか?」

 

 

「口説いてるんですか?「そうかもな」へ!?」

 

 

別に悪くはないだろうと思いながら、結局どうなんだと聞く。

 

 

「いえ・・・そうしたい気持ちは山々なんですけど、私、そろそろ嫁ぐんです。他の山の天狗と・・・」

 

 

「ふむ・・・なら良いではないか、良かったな。口説き損ねた」

 

 

「そう・・・ですね」

 

 

シオリが顔を俯かせる。

 

 

「嫌か?」

 

「・・・でも、お仕事ですから。相手の顔も見たことありませんし、どんな人かも知りませんけど・・・」

 

 

・・・何故か分からんが、胸糞が悪くなった。

 

 

「・・・決めた、貴様を奪い取る。口説き損ねたから実力行使だ」

 

 

「へ!?い、いきなりにゃにを!?」

 

 

「奪い取って様々な場所を見せる、貴様の隣にいてやる。貴様を嫁にする」

 

 

「よ、嫁ーっ!?・・・い、いや、確かに見た感じ良い人ですけど、無理なんです!天狗は天狗か、それより上位の者としか結婚できないんです!・・・特に、私は良いとこで育ったせいで、嫁取りをするなら私の山の天魔様を倒さないとダメなんです!・・・カザマさんが上位の妖怪なら喜んでましたけど・・・人間ですし」

 

 

「・・・倒せば良いと?」

 

 

「そうですけど!天魔様は風魔と呼ばれる化け物を倒したそうですよ!流石に人間なのでカザマも無理です!」

 

 

ほんの少しガラにもなくキレそうになるが、しっかりと抑えてシオリに微笑む。

 

 

「案ずるな。貴様が嫌でないなら奪い取る。斬って奪る。・・・私は風魔を知っている。と言うか一番奴のことを知っているかもな」

 

 

「お友達なんですか?」

 

 

「いや・・・まあ、特別だな」

 

 

私は大太刀を改めて背負い直し、首をコキリと鳴らす。さて、すると天魔は倒したと嘘を言っていた奴が知った状態で嫁をもらいに来るとやって来るのか。最悪の場面だな。

 

 

「か、カザマ・・・」

 

 

「何、私は嘘吐きでな。保証はせんぞ」

 

 

腕を回し、手足もゆっくりと回す。煙管を咥え、すっと雲を作り上げる。

 

 

「・・・申し訳ないが、案内を頼む」

 

 

「・・・はい」

 

 

私はシオリに連れられ、別の山へと降り立った。

 

 

____________________

 

 

「・・・ここです、あの、今からでも逃げて「聞け!天狗共!侵入してやったぞ!」えーっ!?ちょっと!」

 

 

瞬く間に犬の様な耳の生えた天狗に囲まれる。

 

 

「来たか。・・・では、せいぜい天魔が出るまで釣り餌になって貰おうか!」

 

 

大太刀を構え、高速で峰側でぶん殴る。周囲の木々丸ごと吹き飛び、相変わらず地面が抉れ飛ぶ。

 

 

「な、何だアイツは!?急いで上に連絡しろ!」

 

 

「ちょっとカザマ!何してるんですか!?」

 

 

「聞け貴様らァ!「カザマ!?」私は女を貰いに来たァ!話がしたい!天魔を出せッ!さもなくば皆殺しだッ!」

 

 

伊織を横に抱え、山を駆け上がる。道中の羽の生えた天狗を蹴り上げ、犬の様な天狗を吹き飛ばし、道中の滝を止めて壁走り、崖を粉砕して登り、川を割って駆け抜け、森の隙間を縫って走り去る。

 

 

「出て来い天魔ァ!その首寄越せえッ!」

 

 

 

次回へ続く

 




翼でモグモグは蛇が卵を飲み込むようなイメージだと考えて下さい。なお食べられるのは人間の様子。


次回もお楽しみに。


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第三十二話 覚えのない再戦


一回くらい悪役のこいつやるな、みたいなセリフ、言ってみたいですよね。

ドン引きされますけどね。


ゆっくりご覧ください。


 

 

「天魔ァ!」

 

 

風魔は峰打ちとは言え大太刀を振り回し、崖を文字通り粉砕して舗装しながら高速で駆け、天魔の家だとシオリから聞いていた屋敷に突っ込んだ。

 

 

「頼もーッ!天魔!許可を求める!許可せねば首貰い受けるッ!」

 

 

蹴破られる引き戸、腕の中で気絶するシオリ、風魔の過ぎ去った、まるで舗装された様に伸びる道、そしてギラギラと目を光らせる風魔。側から見ても何があったか分からない。

 

 

「拙僧カザマと申す、ここにいるはずの天魔を出せ」

 

 

「痴れ者が!この場で消え去れ!」

 

一人の鴉天狗が風魔に刃を向ける。

 

 

「ここの奴らは暴力で会話するのか?」

 

しかし風魔は気怠そうな声で一瞥し、シオリを右手で抱えたまま左手の手刀で刃を受け流し、腕を掴んで引き寄せ、肋骨の継ぎ目に膝蹴りをねじ込んだ。鴉天狗は崩れ落ちた。

 

 

「天魔を出せ」

 

 

シオリを揺すって起こしながら、相変わらずの気怠そうな空気を纏って屋敷の中を歩き始めた。とりあえず引き戸を直せ。

 

 

「・・・だんまりか。仕方ない、表へ出ろ!さもなくば、こちらで預かっている天狗の娘をここで斬る!「え!?ちょっと、聞いてないですよ!?」・・・十数える、出ろッ!・・・いーち、にーい、さーん、しーい、・・・飽きた、十」

 

 

瞬間風魔はシオリごと暴風に吹き飛ばされた。

 

 

「・・・この私にまだ挑むと言うか、痴れ者が。どこの妖怪かもわからぬ奴に、私の道具はやらん」

 

 

風魔は瓦礫から無傷のシオリを下ろし、血混じりの唾を吐き、暴風を起こした男を睨みつけた。

 

 

「ならせめて被害を最小限に抑えろ、後道具を乱暴に扱うな。馬鹿が」

 

 

「ふん。・・・しかし、私の道具である女を貰うと言っていたが・・・伊織(いおり)の事であったか。尚更やらん」

 

 

「伊織・・・?シオリ、貴様偽名なのは分かっていたが、伊織と言うのか「何で分かってたんですか!?」気にするな。・・・ところで天魔だったか、貴様、風魔と呼ばれる妖怪を倒したとか」

 

 

天魔はさも誇らしげに笑った。

 

 

「そうよ、この我があの風魔を倒したのだ。今更真実と知って怖気付いたか?」

 

 

「いや、貴様を殺す必要が出来た」

 

 

風魔は苦笑すると、大太刀を一度鞘に収め、構えた。

 

 

「で、どうだ天魔とやら、私は貴様を知らんし、負けた記憶もないが、再戦する感想は」

 

 

「どう言う意味だ?」

 

 

「つまり・・・本来なら風魔は貴様と面識がなかったのだが、いつのまにか貴様に倒された事になっており、疑問を抱いたまま・・・今ここにいるんだ。分かったか?」

 

 

さっと天魔の顔が青く染まる。

 

 

「ば、馬鹿を言え!まさか、貴様がそんなはずは・・・」

 

 

「拙僧、カザマ改め、風魔と申す。で、再度問おう。私は貴様を知らない。再戦の感想はどうだ?」

 

 

天魔は首筋に刃物を突きつけられたような殺意を向けられ、動けなくなる。

 

 

「あ・・・う・・・」

 

 

風魔は苦笑し、更に殺意を向けた。

 

 

「もういい、見たところ肩透かしなのは染みるほど分かった。それに貴様が天魔なら、貴様を討って伊織を貰う」

 

 

風魔は天魔の首を掴み、微笑んだ。

 

 

「肉片も残さずに塵となって死ね」

 

 

風魔の姿が揺らぎ、次の瞬間天魔は空で塵になっていた。

 

 

「へ?」

 

呆ける伊織の隣でいつのまにか風魔は立っていた。

 

 

「さて、伊織、騙していたが私が風魔だ」

 

 

「いやいやいや!それも大変ですけど!!それ以前に大変な事ですよ!?天魔様が亡くなったらどうしたら良いんですか!?」

 

 

「お前か私が天魔になれば良い。そしてどちらにしろ私がお前を貰う。・・・問題あるか?」

 

 

「い、いや・・・無い・・・のかな?いやでも・・・やっぱり無いのかな?」

 

 

風魔に言いくるめられているのか、それとも事実だから仕方ないのかわからないまま、伊織は頷いた。

 

 

「そら見ろ無いではないか。・・・では伊織、私はお前のアホさと純粋さを一目見て気に入った。お前が良ければお前を貰う。どうだ?」

 

 

「・・・よ、よろしくお願いします・・・?にへへ・・・」

 

 

伊織は困惑しながらもこくりと頷いた。良いのかそれで。

周囲も大困惑とツッコミ待った無しだが、誰一人止めに向かうものはいなかった。と言うか止めたら斬られていたのは間違いない。皆が本能レベルで危険を察知していた。事実二人に近づいた羽虫がいつのまにか惨殺された。

 

 

「ところで・・・遺体を細切れにして焼いたから何が起きたか分からんかっただろうが、知り合いが死んだ感想は?やはり嫌だったか?」

 

 

「・・・あの人は確かに私の育て親でしたけど、生みの親を殺して奪ったそうですし、あんまり良い思い出もありませんでした。・・・でも、供養だけはします。育ての親なのは間違いないですから」

 

 

「そうするならそうすれば良い。止めん。・・・ところで、なぜ私で良かったんだ?」

 

 

「え?・・・その、ひ、一目惚れでしゅ・・・」

 

 

風魔はそうかと嬉しそうに笑い、そう言えば貴様の婚約予定相手は別の山の天狗かと呟き、叫ぶ。

 

 

「この山の天狗共!おそらく状況は把握しただろう! 私に喧嘩を売る気がないなら集え!嫌なら逃げろ!」

 

 

風魔が大太刀を地面に突き刺し、腕を組む。暫くの後、風魔の前には数百の天狗たちが揃っていた。

 

 

「ふむ、やはり何百人かは逃げたか。・・・さて問おう、ついさっき私は天魔を殺した貴様らの仇であり、貴様らの恐怖する悪神の風魔だ。確定事項として、私は伊織を貰う。・・・それとしてだ、天魔に誰がなるか・・・何だ貴様らそのあなたがやってくださいみたいな目は。それで良いのか、私は天狗じゃないぞ?」

 

 

その場にいた如何にも高齢な鴉天狗が声を出して微笑んだ。

 

 

「・・・昔、天魔を討ち取ったものが新たな天魔になるという決まりがありました、あのお方もそうでしたので、面倒なのでそれで行きませぬか?別に風魔様なら文句を言う者も居ますまい」

 

 

「面倒!?暴れまくった側から言うと変だが、それで良いのか!?」

 

 

周り全てが頷く。

 

 

「そもそもそういったのを受け付けないお堅いお偉いさんは逃げてますぜ、天魔様」

 

 

若い鴉天狗がニヤリと笑う。

 

 

「天狗は仲間意識の強い、他の妖怪をあまり受け入れない誇り高い奴等だと聞いていたんだがな・・・「誇りは高いかもしれませんけど、それどこの冗談ですか?」・・・お前まで言うならここは別例なんだろうな」

 

 

風魔は笑いながら溜息を吐き、真面目な顔になる。

 

 

「では、これより私が天魔だ。改めて問うが、文句はないんだな?文句があるなら出てきてもらって構わんのだぞ?」

 

 

誰一人前に出なかったので、風魔は苦笑した。

 

 

「飲み込みの早い良い奴らだ。では受付を締め切る。これより私、風魔がこの山を仕切る。よろしく頼む。・・・では手始めに山の舗装から始める。すでに道は敷いておいたから、そこを綺麗にして行こう。その次は伊織の婚約者の山を潰す」

 

 

____________________

 

 

と言ったものの、そこそこ山は酷い有様だった。叩き切った岩を筆頭に大量の岩石、流れのない川、滅茶苦茶に生えた木々。殺した先代は才能なしかと馬鹿にしながら、今は何人かの鴉天狗に囲まれていた。なぜ女ばかりなんだ。と風魔は疑問に思う。

 

 

「天魔様はあの風魔なんですよね!他の絶影さん達は何処にいらっしゃるんですか?」

 

 

「まずマイペース馬鹿の幻夜は娘と生活「娘!?」義理だ義理。暴力馬鹿の壊夢は里帰り。主人の絶影と大食いの侵二は散歩だ」

 

 

「風魔様は何をされていたんですか?」

 

 

「前までは主上と共に喧嘩三昧だったな。つい最近は山の上の景色を見るためにのんびりとしていたな」

 

 

私は手が空いたので、キセルを口に咥え、火をつけようとする。するといつのまにか隣にいた伊織が火をつけてくれた。

 

 

「どうぞ」

 

 

「あ、ああ・・・ありがとう。・・・ん?お前、さっきまでいなかったんじゃないか?」

 

伊織は何故か不機嫌そうに私の目を見る。

 

 

「さっき来ました」

 

 

「・・・そうか。・・・何か怒っているのか?」

 

 

「ちーがーいーまーすー。無理矢理私なんかを妻にしてくれた旦那様が構ってくれなくて妬いてるんですー」

 

 

私はむせた。言ってるではないか。

 

 

「ゲホッ!・・・お前、まだそんなに離れてないだろうが。そもそも無理矢理嫁にしたのに、嫌ならわざわざ甘えに来る必要は無いんだぞ?」

 

 

伊織はやけに不機嫌そうに俺にしがみつく。・・・全く分からん。

 

 

「嫌ならお受けしていませんー。私も嬉しかったんですー」

 

 

「・・・どういう意味だ?」

 

 

「だからですねー、・・・あのですね、その、あの・・・私も風魔の事、良いなぁーって思ってました。一目惚れだと言いましたけど、本当になるとは思ってなくて、ほんとはもっと甘えたいんれすー」

 

 

「大事なところで噛むな」

 

 

「う、うるさいです!」

 

 

「・・・面倒な奴を嫁にしてしまったな。やれやれ・・・」

 

 

私は話を聞きに来ていた天狗達に謝り、すまないが話を聞きたければ日を改めてくれ、今は嫁がうるさいと伝える。数名は気分を損ねたのか、舌打ちや惜しかったと呟きながら去っていった。・・・申し訳ないな。

 

 

「・・・伊織、なんのつもりだ?」

 

 

「ただのマーキングです。風魔はもう私の旦那様です」

 

 

「はあ・・・」

 

 

若い男衆から、「この辺りは我々が何とかするんで、惚気はあの屋敷でやってて下さい」と言われたので、仕方なくベッタリの伊織を抱えて天魔の屋敷へと帰った。

 

 

「ふーうーまー・・・ふふふ」

 

 

「まさかこんな奴だったとはな・・・」

 

 

次回へ続く

 





次回もお楽しみに。


・・・ところで、北海道滅茶苦茶揺れてましたね。
私の中学時代の先生のご両親も北海道在住だとか。
北海道の皆様の無事と、早くの復興を願います。


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第三十三話 私の妻

まーた台風でしたね。頭イかれてるんじゃないですかね。

来る日も来る日も台風台風、もう通学路ドッロドロですよ。


ゆっくりご覧ください。


「風魔ー、お暇ですかー?」

 

 

「バカ言え、補修の仕事だ」

 

 

「・・・私と仕事、どっちが大事なんです「仕事」ひどい!」

 

 

風魔だ。先日の天魔殺害から早くも一年。あれ以来伊織が常にこの調子で困る。

 

 

「良いですよーだ。私は文ちゃんと遊んでますー」

 

 

「文を巻き込むな。アイツも仕事だ」.

 

 

私の殺した先代の対応不足のせいで山は大荒れだったので、今は伊織を除く誰もが多忙を極めている。伊織の仕事?私の食事作りと買い出しだ。

伊織の言っている文とは、私がこの前抜擢した伊織直属の配下・・・まあ言い方を変えると伊織の相手をする者で、射命丸文(しゃめいまるあや)と言う。若くして天狗の能力が優れており、明るい性格や人妖分け隔てなく話しかけるところを気に入って登用した。とはいえ世話係も仕事は別にある為、非常に厳しい仕事となっている。

 

 

「ただ今戻りました!」

 

 

「ご苦労。早速で悪いが嫁が煩い。構ってやってくれないか?」

 

 

「はい!」

 

 

彼女には申し訳ない。本来なら特別に給与を与えるはずだったのだが、彼女が伊織のいない時に頭を撫で、膝枕をしてくれるだけで良いと恥ずかしそうに言ってくれたので、給与増加とそれで我慢してもらっている。

・・・しかし、何故私の膝枕程度でそこまで働けるのかは分からない。男衆も私と握手する事、褒められることを至上としているとか。まったく意図が読めん。

 

 

「文ちゃーん、風魔ったら酷いんですよー!私より仕事が大事なんですってー!」

 

 

「・・・それって、早く仕事を終わらせて、伊織様に構ってやりたいから心を鬼にしておられるのではないですかね?」

 

 

「そうなんですか風魔!?」

 

 

何やら話が捻れてはいるが、この際都合がいいので頷いておいた。

 

 

「・・・ごめんなさい風魔ぁー!私が悪かったから頑張ってー!」

 

 

都合のいい嫁だ。まったく・・・と思いながら、文にはハンドサインで感謝を示しておいた。また後日給料を上げねばな・・・

 

 

「あ、ところで風魔様。周囲の観察に向かっていた同僚からの連絡です。遠く離れてはいますが、何者かが天狗の山を襲撃、一夜で陥落させたそうです。・・・逃げた妖怪はゼロだそうです」

 

 

「そうか。その後の動きは?」

 

 

「それが・・・それ以来動きはありません」

 

 

つまり理解不能な行動だと。そうなると知り合いしかいない。と言うか喰ったなアイツ。

 

 

「なら警戒は最低レベルで良い。・・・たまには休ませてくれんかな。・・・そう思わんか?」

 

 

私が文に愚痴をこぼすと、文は苦笑した。

 

 

「そうですけど・・・風魔様が書類を全て担当され始めたから、風魔様が忙しいんですよ?本来なら我々がすべき事をされているだけですので、いつでもお休みになられて良いんですよ?」

 

 

「まあそうだが。上司がちゃんと仕事をしないと、部下に示しがつかんからな。・・・いわば私は部外者であるべき存在、そんな私が信用を得るにはこのような仕事、当然のようにすべきだ。お前達にもいち早く休んで欲しいしな」

 

 

「・・・皆気にしてないんですけどねぇ」

 

 

「そうは行かんだろう」

 

 

堅物ですねぇ。と、文に笑われる。そうだろうか?

 

 

「ところで文、最近私が外に出ると女性ばかりが寄ってくるのだが、私は何か良くないことをやらかしたか?」

 

 

「・・・さあ」

 

 

何故目を逸らす。

 

 

____________________

 

 

しばらくすると、伊織が立ち上がった。

 

 

「そろそろ私もお暇なので散歩ついでに見てきますねー・・・じゃなかった、風魔、少し外を見てきますね」

 

 

「一々言い換えずとも良いだろうに・・・気をつけてな」

 

 

「はい!」

 

 

伊織は私に軽く口づけをすると、外へと出て行った。

 

 

「・・・行きましたか?」

 

 

伊織が出て行くと同時に、文が視線をキョロキョロと動かし始めた。

 

 

「あのな・・・何でそうやましい事をしているような言い回しで言うんだ?」

 

 

「そりゃ、バレたら怒られるからですよ!」

 

 

「よく分からんな。単に撫でるだけだろうが。・・・まあ良い、好きなように座れ」

 

 

私がそう言うと、文は私の肩に頭を寄せた。

 

 

「・・・今日も、良いですか?」

 

 

「いつもすまんな。・・・しかし、本当にこれだけで良いのか?他にも何か頼みたいことがあれば言ってもらって良いのだが?」

 

 

文が首を横に振った。

 

 

「いえ。・・・ここが落ち着くんです。まるで、父や祖父みたいな・・・そんな安心感があるんです」

 

私が頭を撫でてやると、文は嬉しそうに目を細めた。

 

 

「よく分からんな・・・そんなものか?」

 

 

「んっ、分からなくて結構ですよ。・・・しばらくこのままでお願いします」

 

 

「そうか、分かった」

 

 

しばらく文をそのままにしながら書類を書き、終了して伸びようとすると、左肩から静かな寝息が聞こえてきた。文が頭をもたれかけたまま眠っていた。

 

 

「・・・やれやれ、面倒な嫁の次は、疲れ気味の部下か。・・・まあ、人徳と見るか」

 

 

苦笑しながら文を抱きかかえ、客人用の布団を出して寝かせる。こうして疲れていると言うことは他も同じ。ここ一週間ほど休むべきかもな・・・

 

 

「今戻りましたー・・・あれ、文ちゃん寝てます?」

 

 

伊織がわざとらしく戻ってきたので、私は口元に人差し指を立てる。伊織は察してくれたのか、小声になった。

 

 

「寝てるぞ。・・・ちょっと無理をさせたかもな」

 

 

「まあ、皆ここ一ヶ月お休みないですからね。・・・それより、前々からですけど、文ちゃんと何してるんですか?」

 

 

伊織がジト目でこちらを見てくる。・・・特に何もしていないはずだが?

 

「頭を撫でただけだが・・・」

 

 

「そうですか。・・・喜んでました?」

 

 

「こうして寝てるんだ。落ち着いたのかもしれんな」

 

 

伊織は微笑むと、座っている私の膝の上に乗った。

 

 

「なら良いんですけどね。風魔はちょっと自分の顔をみた方が良いですよ。その顔と性格でで撫でたり口説かれたら、大抵の人が勘違いしちゃいますよ。そんな軽い人にはなってほしくないです」

 

 

「そんなものか?」

 

 

「ええ、特に風魔はそれが分かってないから女の人が寄ってくるんですよ。・・・文ちゃんはお父さんみたいだと思ってるみたいですけどね。まあ風魔は大人びてますからね」

 

 

「そうか・・・すまなかったな、軽率だったかもしれんな」

 

 

「ちゃんと反省してくださいっ」

 

 

伊織に指摘されたところを思い返し、確かに悪かったなと反省する。・・・嫁がコイツで良かったかもしれない。

 

 

「・・・で、お仕事は終わられたんですか?」

 

 

「終わったぞ。約束・・・何をしてほしい?」

 

 

「そうですねぇー・・・じゃ、お買い物行きましょう!」

 

 

「声が大きい。・・・分かった、すぐ準備する」

 

 

「はーい」

 

 

嬉しそうに走っていく伊織を見て、まだ子供だなと苦笑し、そんな子供に惹かれた私も子供だなと、更に笑ってしまった。

 

 

「で?何処に行くんだ?」

 

 

「食器やお布団を買いに行きます」

 

 

「そうか。買えるのか?」

 

 

「風魔のお財布でお願いします」

 

 

「最初から私頼みか!」

 

などと言っていると伊織は私の腕に絡みついてきた。

 

 

「いーじゃないですかー・・・」

 

 

「はあ・・・適当な数にしておくなら構わん」

 

 

「やった!「だから声を下げろ」・・・はーい」

 

 

眠っている文を確認し、私は伊織の手を取って外へ出た。

 

 

____________________

 

 

「あ、そうだ。風魔って幾つなんですか?私よりは歳上ですよね?」

 

 

「ふむ・・・」

 

 

千から先は数えていないな・・・龍、いや、侵二と会ったのが五千万年前か、そしてあの里から出たのが一億、出る前に一億以上は居たから・・・

 

 

「二億と・・・九千万ぐらいか?知り合いの中では二十歳扱いだったが。そうだな、あの五人だと上から三番目か」

 

「に、二億・・・!?」

 

 

「ああ。・・・お前を小娘と呼ぶ理由が分かったか?お前とは比べ物にならん程長く生きた。生き過ぎた。もう老害だ。・・・お前に惹かれたのは、止まり木を探していたのかもな」

 

 

「な、何ですかその言い方・・・照れるじゃないですか。後、老害は言い過ぎですっ」

 

 

「ハハハ、そうか」

 

 

「でも、そんなに生きて、寂しくなかったんですか?」

 

 

「・・・そうだな。ある程度は辛い時もあったか・・・」

 

 

一人で刀を振っていた事を思い出していると、伊織が俺の頭を必死に撫でようとしていた。

 

 

「ぐぬぬ・・・!」

 

 

「・・・何してるんだ?」

 

 

「撫でようとしてるんです・・・!」

 

 

私は微笑ましさに口が緩み、そっと頭を下げた。すると、優しい手つきで私の頭に触れた。

 

 

「届いた・・・あのですね、風魔、私は独りぼっちがよくわからないのであんまり言えないですけど、無理したら怒りますよ」

 

 

「・・・そうか、ありがとう」

 

 

「じゃあ、お買い物続けましょう!」

 

 

私の嫁は面倒だ。だが、良妻だ。

 

 

次回へ続く

 




ありがとうございました。

妹の自然学校のため、また来るかもしれない台風が消え去る事を願います。


次回もお楽しみに。




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第三十四話 拝啓、最愛の人へ

全話から更に何年も飛びます。

ゆっくりご覧ください。


・・・縁が20歳になった。もう十三年も前の話から、こんなにも進んだ。

 

____________________

 

えっとね・・・初めは、正直やる気が無かった。諏訪子の事も、村の事もどーでも良かった。別に滅びようが気にせずご飯も進めれた。なのに君に会った途端・・・どうでも良いとは思えなくなった。

可愛かった、愛しかった、ギュってしてあげたかった。・・・でも、今はもうそんな事しなくても良いよね。

本当に大きくなった。

ちょっと昔話しよっか。

 

 

・・・十歳の時、君は初めて僕をお父さんと呼んでくれた。呼んで良いですかって言ってくれた。とても嬉しかった。そりゃもう叫びそうになるくらいヤバかった。後で風魔にどつかれた。凄く痛かった。

あの時一緒に食べたお団子は、とても美味しかった。

 

 

十四歳の時、僕は君におぞましい姿を見せてしまった。神奈子の御柱を凍結させて砕いた。それから数ヶ月後、やってきた妖怪をズタボロにした。目玉くりぬいたりした。

気味悪いよね。親が異能力を持ってるってのはさ。でも君は・・・凄いと、本当に尊敬の眼差しを向けてくれた。すごく照れ臭かった。

その時食べたお団子は、なんだか熱かった。

 

 

十四歳の時、僕と諏訪子と神奈子が大喧嘩した。理由は縁が誰が一番好きか言い争った事からの喧嘩だった。あの時君は全員選べないと言った。諏訪子や神奈子に並べて嬉しかった。

・・・ま、ここだけの話、あの後こっそり僕が一番って恥ずかしそうに言ってくれたけどね。残念だったねお二人さん?今どんな気持ち?

その時食べたお団子は、甘い蜜の味がした。

 

 

十六歳の時、僕と君は喧嘩した。理由は覚えてない。けど、君からは、こんな親要らない、出て行く。僕からは君なんか娘じゃない、出て行け。そう言った。

・・・凄く、悲しかった。

喧嘩してその日の夜、ヤケクソに行きつけのお団子屋に入ったら、ばったり相席になって、お互いテーブルに頭ぶつけて謝り倒したっけ。こっちが悪かった、いやこっちが悪かった、ってね。店長にも笑われたよね。

あの時食べたお団子は、ちょっとしょっぱかった。

 

 

十八歳の時、君は彼氏を連れてきた。

・・・いやもう、あの時はごめんね?こんな世界要らないって言って暴れたよね。彼氏君・・・いや、今は旦那さんか。旦那さんが吹雪吹き荒れる凍土の中、土下座してお付き合いさせて下さいッ!って言ったよね。羨ましかった。微笑ましかった。・・・だから認めたけどね。

その日のお団子は、ちょっとほろ苦かった。

 

 

ここまで話したけど・・・一つだけ、君に隠してた事があるんだ。

僕は君の義理ではあるけれど、お父さんなのは間違いない。そうなれるよう努めてきた、理想のお父さんのために頑張った。

でもね・・・一個だけ、言えなかった事があるんだ。

 

 

 

僕は君を好きになっていた。親としてじゃなく、魅力的な女の子として、異性として。お嫁さんにしたいぐらいね。君が僕をそう想っていた事も知っている。けど、僕じゃダメだったからさ・・・

今更だよね?それに僕は君のお父さん。ホントはそんな事思っちゃダメなのにね。ごめんね?

・・・あれ、なんで泣いてんだろ。

 

 

ともかく!僕は君の事が好きだったよ。でも君は彼氏君を選んで、旦那さんにしようとしている。悔しい、羨ましい、妬ましい。

・・・でも、とっても嬉しい。君が幸せになってくれて、本当に嬉しい。

 

 

・・・二十歳になってそして今、君は他人の物の女の子になろうとしてる。奥さんになろうとしてる。

結婚しようとしてる。

・・・良かったよ。僕は人並みにお父さんになれたらしい。ダメダメなお父さんだったでしょ?

まあ諏訪子と神奈子よりはご飯上手かったと思うけどね!ねえ諏訪子!神奈子!ちゃんと料理しなよ!

・・・その、最後になるけどさ。僕は君に会えて良かった。君というかけがえのない娘に会えて良かった。君という女の子に恋ができて良かった。

君のお父さんになれて、良かった。

こうして今、手紙を読んでいるのは

 

 

「違和感まみれなんだけど、一応君の一番の保護者だからね。・・・さてと、彼氏君、君は縁を選んだ。ありがとう。これからお願いね。・・・一応言うけどさ、泣かせたら一族友人動植物まで全部氷漬けにするからね?僕は君がすごく羨ましい。でもね、・・・まあその、なんだろ、君にお父さんって呼ばれるのは、嫌じゃないよ。嬉しい。君なら仕方ないと思うしね。縁の隣が君で、すっごく安心する。・・・カッコつけて言うと、娘をよろしく頼む。なーんてね、へへっ」

 

 

僕は微笑み、式場中央で涙ぐんでいる縁を見て微笑む。

 

 

「じゃあ最後に一言。縁、これからは僕の娘じゃなくて、彼氏君の奥さんとして、幸せになってね」

 

 

「・・・っ、はいッ!!」

 

 

縁が不細工なほど涙を流し、僕にしがみつく。

 

 

「・・・はあ、えーにーし、今抱きつくのは彼氏君でしょ?何でそこでこっち来るかなー」

 

呑気に言っているものの、僕の目からも涙がボロボロと流れる。

 

 

「お父さん、ありがとう・・・私、貴方の娘で良かった・・・!」

 

 

「ちょっと、やめてよー、泣くじゃんかー・・・大好きだよ、縁」

 

結局式は僕と縁が泣きじゃくって滅茶苦茶。ごめんね彼氏君。

 

 

____________________

 

 

「・・・落ち着いたかい?二人共?」

 

 

「申し訳ありません、諏訪子様、神奈子様・・・」

 

 

「いやー、ごめんごめん、なんかごめんね、彼氏君」

 

 

諏訪子と神奈子に呆れられ、彼氏君には大丈夫ですよと微笑まれる。

 

 

「・・・まあ、幻夜が寝る間も惜しんで作った手紙だからねえ、そりゃ泣くさ」

 

 

「ちょっと神奈子、その話はやめてってば」

 

 

縁に驚いた顔をされるので、僕は笑って誤魔化す。

 

「まあ、ね・・・ちょっと欲張り過ぎちゃったけどね」

 

 

二十歳になっても変わらない縁に、昔通り軽い口調で笑う。

 

 

「もう、幻夜さんはいっつもそうです!ちゃんと休んでください!」

 

 

縁も同じように子供の頃の口調で返してくれる。

 

 

「フフフ」

 

 

「んー?フフッ」

 

 

二人して微笑んでしまう。・・・でも、そろそろお別れの時だ。

 

 

「・・・さて、縁、ホントに申し訳ないんだけどさ、「知ってます、そろそろ村を出るんですね?」・・・うん」

 

 

「行ってきてください。お父さんにはお世話になりました、もう頼り切ってはいられません!」

 

 

「そっか・・・そだね、じゃあ、また今度遊びに行くね!」

 

 

「はい!・・・あ!お父さん、一つお願いが」

 

 

「ん?」

 

 

縁は申し訳なさそうに頬を掻いた。

 

 

「あの、勝手なんですけど、娘、その先の家系も・・・困ったら助けてあげて下さい。初めて私がお父さんを人間として見ないお願いです」

 

 

僕は微笑んだ。

 

 

「しょーがないなぁ・・・分かった。困ってたら守るよ。お父さんとのお約束だ。その代わり、僕が混沌だと言うことは伏せてね。これを知れば君の家族は歪んでしまう。・・・まあ、分かってくれてるよね」

 

 

「はい!・・・幻夜さん、大好きです!」

 

 

「彼氏君が妬くよー?・・・僕も大好きだよ」

 

 

僕は笑って、いつも食べているお団子を人数分取り出す。

 

 

「じゃ、今日も思い出作り。皆で食べよっ!」

 

 

「はい!」

 

 

 

この日食べたお団子は、今までの中で一番美味しかった。

 

 

 

____________________

 

 

「・・・って事があって、今もお爺さんは何処かで見守ってくれているのよ」

 

 

「へえー・・・ねえお母さん、お爺ちゃんは今何してるの?」

 

 

「そうねえ・・・いつも何してるか分からないからねぇ・・・」

 

 

母と思わしき女性は、娘の頭を撫でた。

 

 

「でも、きっと見てくれているわよ。・・・私との約束だもの」

 

 

「良いなぁー・・・あ!お母さんって、お父さんとお爺ちゃん、どっちが好きなの?」

 

 

「え?それは・・・」

 

 

「どっちー?」

 

 

「んー・・・やっぱりお父さん、かな?」

 

 

「そーだよね!聞いた!?神奈子様、諏訪子様!お母さんお父さんの方が好きなんだって!お母さんとお父さん、ラブラブだねー!」

 

 

「そーだねー。ホント昔からだねえー」

 

 

嬉しそうに笑う娘を見て、母親は微笑み、内心少し舌を出した。

 

 

「(そりゃあの人の方が好きよ。でも、お父さんはそれ以上、他と比べられない程大好きなのよね!)」

 

 

何千年も先、この母親とその父の約束は果たされることになるが・・・

 

 

「っくしゅん!・・・誰か噂してんのかな?」

 

 

 

それはまた、もっともっと先のお話。

 

 

次回へ続く




ありがとうございました。

まだまだ完結しませんからね?


次回もお楽しみに。


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第三十五話 初めまして


幻夜視点、まだまだ続きます。

ゆっくりご覧ください。


 

縁と離れて以来、ちゃんと連絡はしているものの、やっぱり寂しいね。

え?縁の事が好きだったのかって?あれは・・・嘘だよ。縁に諦めさせるためだよ。・・・前々から、特に17頃から僕の事気にしてたのは知ってたから、あの場所で敢えて、ね。酷い親だなぁ・・・やっぱろくな親じゃないね。全然見てないくせに、変なタイミングで心配しないようには心がけてたけど、難しいね。

 

「・・・まあ、娘としては凄く好きだったしなぁ・・・嘘ではないかもね」

 

 

あれから早くも五年。縁は無事第一子を出産。女の子だった。もう見て死ぬかと思うほど可愛かった。彼氏君感動でガン泣きしてたな。やっぱりあの子で良かった。ちなみに僕もガン泣きした。

 

 

そんな中、僕は面白い情報を手に入れた。何しろこの辺りに「花妖怪」がいるとか。しかも滅茶苦茶美人で滅茶苦茶強いとか。

・・・そんな事聞いたら見たくなるよね!って事で、絶賛その妖怪のいる「太陽の畑」探し中なんだよね。でも中々見つからない。

 

 

「何処かなー・・・」

 

 

いつも通りフラフラと歩いていると、綺麗な向日葵の花を見つけた。

茎はしっかりと伸び、力強く支えている。

花弁は太陽をそのまま下ろしたような鮮やかさを持つ黄色で、一枚一枚が気高く咲いている。茎から生える葉も大きく、青々としており、虫食いの箇所が一つもない。

 

 

「凄い・・・これを育てたのは天才かな?」

 

 

いやもう凄いね。こんな綺麗な向日葵初めて見た。それも辺り一面。よく見ると、目の前の金色の地面は全部向日葵だった。

 

 

「ひょえー・・・」

 

 

僕が気の抜けた声を出していると、畑の右側から誰かが歩いて来た。目が合った。

 

 

「あら、こんな所に何者かしら?・・・でも、向日葵は悪い人ではないって言ってるものね・・・貴方、何しに来たの?」

 

 

縁のような緑髪、僕より少し低い身長、ちょっと鋭いけれど、綺麗な赤い瞳、優しそうな顔・・・

 

 

「・・・い」

 

 

「何?聞こえないわ」

 

 

「・・・めっちゃ可愛いッ!!」

 

 

やばい死ぬ。縁の娘くらい可愛すぎて死にそう。浄化されて死にそうなくらい可愛い。あー、笑顔で溶けそう・・・そりゃ作る向日葵も綺麗だよね。

 

 

「ちょっと!?貴方!?」

 

 

「はっ!?・・・ごめんなさい。ついつい向日葵と君が綺麗なもんで、ちょっと死にそうに・・・」

 

 

「向日葵はともかく、私で!?」

 

 

驚く顔も可愛い。もう死んでもいいや。これが一目惚れって奴かあ・・・

 

 

「・・・んんっ、ともかく、貴方は向日葵を見に来たのね?何もする気は無いと?」

 

 

咳払いも可愛い、じゃなくて!

 

 

「そだね。向日葵と言うか、綺麗な花畑を見に来たんだよね。後、君の噂聞いてかな。噂以上に可愛くて死にそう」

 

 

「そんな理由で死なれても困るのだけれど・・・」

 

 

「そだね、ごめんね」

 

 

彼女はふうと息を吐いた。可愛い。さっきの困り顔も可愛い。もう抱きついて頭撫でたい。・・・落ち着いて、リラックス、リラックス・・・

 

 

「・・・まあ、良いわよ。花を見に来たのよね?案内してあげるわ、私の作った花畑をね!」

 

 

誇らしげに笑う彼女も、やっぱり可愛らしい。理性大丈夫かな。

 

 

____________________

 

 

「そう言えば貴方、名前は?」

 

 

一通り見せてもらい、僕も彼女も満足していると、彼女がふと聞いて来た。

 

 

「んっとね・・・幻夜。まぼろしの幻に、夜って書いて幻夜。君は?」

 

 

「幻夜ね。私は風見幽香(かざみゆうか)、幽霊の幽に、香りの香よ。幻夜、聞いたことがあるわね」

 

 

「そー?結構いる名前なんじゃない?・・・ところで幽香はいくつ?」

 

 

幽香はいたずらっぽく微笑んだ。

 

 

「いくつに見えるかしら?」

 

 

「んー・・・十、八?」

 

 

幽香は嬉しそうに笑った。

 

 

「お世辞でも嬉しいわ。・・・でも、ここに来たからには、私が妖怪なのは知ってるわよね?本当は幾つだと思う?」

 

 

僕はキョトンとして首を傾げた。

 

 

「・・・まさか、本当に言ってるの?」

 

 

「え?そうじゃないの?・・・なら、十九!」

 

 

幽香は僕を見てポカンとした顔をして、クスリと笑った。

 

 

「貴方、子供みたいね。・・・私は三百十八歳よ。残念ね。・・・貴方は幾つかしら?」

 

 

僕は幽香に似せて、悪戯っぽく笑った。

 

 

「幽香は幾つだと思う?そもそも何者だと思う?」

 

 

そうねえ・・・と、幽香は顎に手を当てて考え始め、すぐに答えた。

 

 

「旅の人間・・・かしら?歳は十七?いや、それだと若過ぎるわね・・・子供っぽい二十一、かしら?」

 

 

「残念。人間じゃないよ。・・・歳も、幽香より上、かな?」

 

 

「本当に!?私より上なんて初めて聞いたわ!」

 

 

「そう?えっとねー・・・聞いたら戻れないけど良い?」

 

 

「何それ?変な感じね。・・・気にしないわよ、教えてくれる?」

 

 

じゃあ良いやと思って、僕は微笑んだ。

 

 

「はーい。・・・改めて、僕は幻夜、混沌さ。歳は二億と八千七百万・・・くらいかな。お嫁さん探してまーす」

 

 

幽香が腰を抜かした。

 

 

「こ、混ッ・・・混沌!?」

 

 

「うんそう。混沌。ついこの前まで指名手配犯だった混沌」

 

 

そうなの・・・と、幽香が立ち上がろうとするので、僕は手を貸してあげる。・・・すっごいスベスベな手だなー

 

 

「ありがとう。・・・ちょっとイメージと違うわね。もっとこう、粗暴で悪そうなイメージだったわ、ごめんなさいね」

 

 

「いーよ。でも僕だって生きてるからさ、植物とか好きだし、花を見たら和むよ?」

 

 

「そうよね。・・・変に境界を引いちゃってたわね。今度友達に教えてあげないといけないわ」

 

 

「そーそー、悪いイメージばっか言われると、こっちもへこむからね。まあ嬉々として受け入れてる奴もいるんだけどさ」

 

 

ところで、と僕は幽香に質問をする。

 

 

「幽香は彼氏とか旦那さんいるの?」

 

 

「ブフッ!?」

 

 

幽香が噴き出した。・・・そんな変な事聞いたかなー

 

 

「ゲホッ、ゴホッ、・・・いないわよ。いきなりで驚いたじゃない」

 

 

「ごめんごめん。まあつまり、僕にもチャンスはあるわけだね」

 

 

「ブッ!」

 

 

再度幽香が噴いた。

 

 

「・・・嫌?」

 

 

「ゲホッ、・・・別に嫌とかそんなのじゃなくて、突然過ぎるし、早過ぎるわよ」

 

 

「そっかー」

 

 

嫌ではないと遠回しに言ってくれているので、内心ガッツポーズのまま踊ってる。

 

 

「・・・そもそもそんな事言われたの初めてだから、どうしたら良いか分からないじゃない・・・!」

 

 

幽香は何か言ったみたいだけれど、聞こえなかった。

 

 

「・・・じゃあ、またこよっかな。今日は帰るね」

 

 

「そう?別にいつ来ても構わないわよ。私の家はあそこね。また来てくれるなら歓迎するわ」

 

 

「ほんと?やった!」

 

 

僕は嬉しさで飛び上がり、危うく幽香に抱きつきそうになって自制する。危ない危ない、嫌われるとこだった・・・

 

 

「・・・そこは抱き付いて来ないのね・・・っ!」

 

 

あれ?またなんか言ったけど聞こえなかったや。

今度遊びに行く時、何お土産に持って行こうかなー

 

 

____________________

 

 

帰ってから何となく、僕は風魔に連絡をした。理由は無かったけど、一番しっかり対応してくれそうだったからかな。いやまあ他にロクなのいないからなんだけどさ。

 

 

「・・・何だ、幻夜か。久しいな」

 

 

「うん、おひさー。・・・あのねあのね、聞いてくれる?」

 

 

「話にもよるが、構わんぞ」

 

 

「えっとね・・・好きな人、見つけた」

 

 

「そうか、お前もか。良かったな」

 

 

「うん、それでどうしたら・・・ん?貴様、も?」

 

 

僕は風魔の言葉に耳を疑い、再度聞いてしまう。通信の奥で、風魔がああそうかと言ったのが辛うじて聞こえた。

 

 

「お前達に言ってなかったな。・・・私に嫁が出来た」

 

 

「・・・嘘でしょ!?待って、早くない!?」

 

 

「奪いたくなったから奪い取った。特に後悔もない」

 

いやそんな後悔云々じゃないでしょ・・・そもそも奪ったって何さ・・・

 

 

「待って待って、じゃあさ、結婚したの?」

 

 

「したな。もう数年過ぎる」

 

 

まさかの一番は風魔かぁ・・・負けたなぁ。って早過ぎるでしょ。

 

 

「そっか。じゃあ尚更質問なんだけど、好きな子にはどうしたらいい?」

 

 

風魔は悩んだ後、少し待てと言った。

 

 

「伊織、知り合いから通話が来たんだが、普通女性は何をされると喜ぶ?」

 

 

向こうから声が聞こえるが、何を言っているかは分からなかった。風魔が戻ってきた。

 

 

「今嫁に聞いた。まずは話す種を持って、よく話す事だそうだ。特に相手の趣味に合わせたものをだそうだ。・・・後はまあ、ちょっとしたボディタッチだそうだ。嫌われていれば嫌がるし、そうでなければ手を繋ぐ、程度なら行けるだろう。・・・何せ嫁にしたせいで何をしても喜ばれるのでな」

 

 

「ふーん・・・ありがと、ちょっと参考になった。すごい惚気だね」

 

 

「そうか。・・・結婚した身から言おう。悪くはないぞ」

 

 

「何それ、自慢?」

 

 

「そうかもな」

 

 

風魔の笑い声が聞こえ、ついつい僕も笑ってしまう。

 

 

「ありがとね、また連絡するかも」

 

 

「好きにしろ、お前なら多分大丈夫だ」

 

 

風魔との通信を切り、僕はごろりと借りた家の床に寝転んだ。

 

「好きって・・・難しいなぁ」

 

 

どうすれば幽香、喜ぶかなぁ・・・

 

 

 

次回へ続く

 




ありがとうございました。

悪天候で通学路が沼地と化しました。


次回もお楽しみに


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第三十六話 手を取って


一年前大阪に引っ越した親友が久しぶりに遊びに来ました。

やっぱり会えると嬉しいもんですね。


ゆっくりご覧下さい


風魔に色々とアドバイスを貰ってから一ヶ月、僕は朝早くから幽香の家に行くことにした。

時刻は午前五時。幽香にはいつでもおいでと言われていたので、家の前でかまどを作ってご飯を作る。作っているのは縁の好物でもあった山菜炊き込みご飯と味噌汁。

 

 

「ゼンマイにワラビにウドにアブラコブシ、後は・・・タマゴタケかな。後松茸」

 

 

いつも通り山菜やキノコを放り込み、さっと醤油をかけて炊く。空気を伝って山菜やキノコのいい匂いが辺りに広がる。

 

 

「さてと、その間に・・・」

 

 

ここ三日間で遠出して取ってきたワカメを入れ、砂を抜いたアサリを解凍して放り込む。その間に大根、タマネギを切って入れる。味噌は特製のものを使う。

 

 

「・・・んー、まあまあかな」

 

 

口に含むと、塩辛さと少しの苦さが広がる・・・甘い以外の味わかんないや。

 

 

「ふぁ・・・何?この匂い・・・」

 

 

幽香がお目覚めらしく、眠そうなまま家から出てきた。

 

 

「あ、やっほー」

 

 

「幻夜!?・・・っ!」

 

 

幽香は何を思ったのか、大急ぎで家の中へと戻った。・・・あ、出てきた。さっきと違って幽香から、ほんの少しだけいい匂いがする。香水かな?

 

 

「ど、どうしたの?こんな時間に・・・」

 

 

「朝ご飯。幽香、食べる?」

 

 

丁度ご飯が出来上がり、蓋を開くと暖かい風が吹く。

 

 

「・・・これ、作ったの?」

 

 

「うん」

 

 

くるりと幽香のお腹が鳴った。幽香の顔が赤くなる、

 

 

「食べる?」

 

 

「・・・貰うわ」

 

 

幽香がお椀によそったご飯にそっと手をつける。

 

 

「頂きます」

 

 

幽香が少し口に運ぶ。咀嚼、飲み込んで・・・

 

 

「・・・」

 

 

無言でご飯を食べ始めた。あれ、美味しくなかったかな・・・

 

 

「・・・どう?美味しい?」

 

 

幽香がハッとしたように茶碗を置き、顔を赤く染めて頷く。

 

 

「・・・ええ」

 

 

「・・・・やっ・・・たぁ!」

 

 

滅茶苦茶嬉しい。まあそもそも僕が食事をしないせいで味がよく分かってないので、結構手探りだったけどね。食事をするのは侵二だけ、他はみんな食べなくても大丈夫だから、余計にみんな味覚がおかしい。甘いものは分かるんだけどね。

 

 

「そ、そんなに嬉しいの?・・・凄く美味しい」

 

 

「え、ホント?」

 

 

もう一度口に入れる、やっぱり分からない。

 

 

「んー・・・美味しいが良くわかんないな」

 

 

「・・・今まで、こっちに来るまで何を食べてたの?」

 

 

「え?変な匂いする水でしょ、その辺の枯れた草でしょ、死んだ動物のカビの生えた肉とか、蛆這ってる骨とか・・・最近は団子かな。甘いのは分かるんだよね」

 

 

幽香に微笑むと、何故か頭を抱きしめられた。

 

 

「・・・ねー、いきなり何するのさ」

 

 

「ごめんなさい・・・でも、なんでかこうしてあげたくて・・・」

 

 

偏食って言いたいのかな?・・・嫌でもわかってるけど、これくらいしか胃が受け付けなかったんだよね。色々あるんだよ。

 

 

「・・・しばらくこのままにして。なんか気持ちいい」

 

 

幽香に抱えられていると、なんだかとても眠くなったので、そのままゆっくり目を閉じた。

・・・あれ、何しに来たんだっけ。

 

______________________

 

 

私は朝から急に眠り始めた彼を見る。

彼が悪名の高さで有名な混沌。昔の私に混沌に会うなどと言うことが予想できただろうか?

 

 

「・・・変わった人ね」

 

 

初めて彼がこの花畑に来た時、頭のおかしい人間か、暇を持て余した妖怪かと思っていた。

ところがどうだ、彼は私と私の畑を見に訪れた。とても嬉しかった。自分以外にも花を、植物を好む妖怪がいるのが嬉しかった。

・・・まあ、彼の最初の一言が可愛いで困惑したのだが。

 

 

「でも、嫌な感じでは無いのよね・・・」

 

 

幻夜は多少目は細いものの、とても綺麗な顔をしている。しかも軽い言動の割にはしっかりしているので、嫌な感じは全くしない。付き合ってと時々言ってくるが、断ってはいるものの満更でもない。

ふと、幻夜が片目だけ開いた。しかし、様子がおかしかった。

 

 

「意識が取れたって事は・・・また寝てやがる。しつこいほど縁のトコに・・・あ?」

 

 

さっきの幻夜とは打って変わって荒い口調、幻夜は片目だけを私に向けて驚いた表情をしている。

 

 

「・・・幻夜?」

 

 

「あー・・・女、いや、お嬢さん、詳しい説明は今からする。まず、名前なんて言うんだ?」

 

 

何かの冗談かと思ったが、幻夜の目が泳ぎもしないので、ちゃんと答えた。

 

 

「風見幽香。前に言ったはずだけど、忘れたの?」

 

 

幻夜は目で苦笑していいや、と答えた。

 

 

「コイツは忘れてない。けど、俺はお前とは初めて会うんでな。・・・俺は幻夜の中に入ってる別人だ。名前はねえ」

 

 

「別人・・・?」

 

 

「おう、多重人格と考えてもらっても良いぜ。で、幽香、あんたはコイツの嫁か?娘か?」

 

 

私は噴きそうになった。

 

 

「何で変な選択肢しかないのよ!?」

 

 

「ああ、それか。幻夜が人前で寝るってのは、信用できる奴と、好きな奴の前だけだぞ。・・・ま、見た限り会ったばっかりみたいだし、信用されてるのかもな。珍しいなこの野郎。後マジで寝るな。体動かねえじゃねえか」

 

 

幻夜に信頼されていると言われた時、少し嬉しくなった。

 

 

「・・・で、まあ、俺がコイツの中にいるのも事情があってな」

 

幻夜が目を閉じて、心なしか暗い顔をした。

 

 

「・・・コイツは一族全員と違った生き物になってしまったし、一族全員を目の前で殺された。俺はそこで精神崩壊を防ぐためにいる」

 

 

「・・・っ!?」

 

 

「そのせいかは分からんが、コイツは家族や友達に憧れている。・・・本人では無理と決めつけているが、実際コイツは義理の親をやった。・・・多分、諦めてないと思うんだよな」

 

 

だから、と幻夜が目だけで私を見上げた。

 

 

「もし、コイツの事を信用してるなら、同情してやってくれるなら、友達でも良い、コイツの憧れるものになってくれないか?・・・俺は正直コイツに黙ってこうして話してはいけないんだが、これだけは伝えたくてな」

 

 

私は震えそうな声で聞いた。

 

 

「分かったわ。私も幻夜は嫌いじゃないし、むしろその・・・気に入ってる。・・・で、その、幻夜の一族を殺したのは、誰なの?・・・何人居たの?」

 

 

幻夜は片目を見開き、そして凶悪な笑みを浮かべた。

 

 

「そりゃ・・・俺が殺した。一人で全員殺した」

 

 

____________________

 

 

二度寝から目が覚めたような気分で目を開けると、僕の頭を撫でる幽香がいた。

・・・そっか、朝ご飯作って寝たんだ。いや何してんだ僕。

 

 

「んー・・・おはよ。ごめん、寝てた・・・」

 

 

「・・・良いのよ」

 

 

幽香の返事が素っ気ない。

 

 

「・・・怒ってる?」

 

 

「・・・怒ってない」

 

 

あれー!?怒ってるよね!?やっぱり朝ご飯作って寝るのはダメだったかな?

 

「その・・・ごめん」

 

 

幽香は不機嫌そうなまま、首を傾げた。

 

 

「何が?」

 

 

「朝ご飯作って寝た事です・・・」

 

 

「幻夜」

 

 

「はいっ!?」

 

 

幽香に肩を掴まれた。あれこれぶっ飛ばされるかも。

 

 

「幻夜、正直に答えて」

 

 

「・・・うん」

 

 

「私にどうして欲しい?」

 

 

「へ?」

 

 

幽香が顔を赤くしながら僕の肩を揺さぶった。滅茶苦茶視界が揺れる。

 

 

「だから!貴方は私に何をして欲しいか聞いてるの!怒ってないわよ!」

 

 

え、ええー・・・?

 

 

「・・・な、何で?」

 

 

「良いから!」

 

 

・・・えー、これ、どうなってんの?ねえ?

 

 

「んー・・・お友達、かな」

 

 

「そんなので良いの!?」

 

 

「僕に何を要求してんのさ!?」

 

 

ホント意味分かんないや・・・何?なんかやったっけ?山菜に変なの混じってたとか!?

 

「う、うん、友達で「付き合ってくれ」ちょおっ!?」

 

 

何やってんのさ裏!

うっせえさっさと付き合え!

 

 

「・・・良いわよ」

 

 

やったぜ。

え!?ちょっと、ホントどうなってんの!?ねえ!何したの裏!?

 

 

「い、良いの・・・?」

 

 

「良いわよ!逆に私が惹かれてんのよ!」

 

 

ええー!?

・・・うせやろ?もう結婚しろよオメー

 

 

「え、じゃあ、付き合って頂けますか?」

 

 

「・・・喜んで」

 

 

言い表せない程飛び上がりたくなり、幽香に抱きついた。

 

 

「やった!じゃあよろしくね!幽香!」

 

 

あと裏はちゃんと説明してね?

・・・黙秘権を行使する。

情報開示の義務を作りました。許可しません。

クソが。

 

 

結果、望んではいたけれど、予想外の結果で幽香とお付き合いする事になった。

でも、何でか知らないけど、幽香がやけに僕を気にするように・・・心配するようになった。疲れてないか、とか、眠くないか、とか、寂しくないか、とか。

間違いなく裏のせいだよね。僕が寝てる時出たんだろーね。

・・・うっせ、今の嬉しさ噛み締めとけや。

うん、ねえ。

・・・あ?

 

 

「僕は君の事、嫌じゃないよ」

 

 

「・・・嫌がれや」

 

 

次回へ続く




尚この頃風魔は既に結婚して数年経つ模様。彼は何もかも最速を狙ってるんですかね(白目)


次回もお楽しみに


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第三十七話 戦いましょう

姿があって滅茶苦茶強い奴が喰い殺しにくるのと、姿が無くて何をしてくるかわからない奴が殺しにくるのって、どっちが怖いんですかね。

ゆっくりご覧ください。


幽香と付き合って一週間、前と同じように朝ご飯を作っていると、幽香が僕に言った。

 

 

「幻夜、勝負してみましょう」

 

 

「えぇ・・・」

 

 

僕は断ろうとしたけれど、幽香が元から戦闘好きだったらしく、引き下がってくれなかった。

・・・だから花畑行くって言った時に人間はやめとけって言ったんだね。

まあ気にすることはねーだろ。

君は黙ってて。勝手に話したことまだ許してないからね?

・・・チッ、悪かったよ。

 

 

「じゃ、ご飯食べてからやろっか」

 

 

二人で和やかに食事をして、一度紅茶を飲んで落ち着いて・・・

 

「さーてと、ここで良いかな?」

 

 

さて勝負だ。挑まれたからには負ける気は無い。

けど、怪我させるのもなぁ・・・

 

「ここなら良いわね。さてと、どっちかが気絶、又は降参までするわよ良い?」

 

 

「もー、しょーがないな・・・いいよ。その代わり怒らないでよ?」

 

 

幽香は僕に笑った。

 

 

「勝負の勝ち負けで怒らないわよ」

 

 

「オッケー。じゃ、行こっか」

 

 

因みにだけれど、僕等四凶には転変という能力がある。人間の姿に加え、獣の姿に変わることが出来る。おぞましいけど。

例えば、壊夢は人間の顔をして、猪の牙を生やした虎、風魔は背中にハリネズミの針が生えた翼のある虎、侵二は・・・人間の目のない顔と爪、虎みたいな牙、頭に生えた曲がった角、羊みたいな体、脇についた目、そして顔についてる青銅の画面。人間みたいに器用には動けなくなるけど、力が増す感じ、かな?

因みに僕は体にあるはずの穴のない犬。目も鼻も耳もない。おまけに尻尾咥えてグルグル回ることしか出来ない。

見たら頭おかしくなって狂死するみたいだけど。要は使い物にならない。

 

 

それは置いておいて、幽香が日傘を振り上げて突っ込んで来た。

・・・いやいや、そっち系!?幻惑させて不意打ちじゃなくて、力押し!?その日傘鈍器!?

ボケ!騒いでねえでトラップ!

 

 

「ッ!」

 

 

左足を踏みならし、地面を凍結させる。幽香の足元も一瞬凍りつき、体制が僅かに揺らぐ。その隙にダッシュで幽香に接近する。

足裏に氷の刃物を展開して滑る。地面を滑走して幽香の周りを回って攻撃を躱す。時折幽香がその華奢な体のどこから撃ってるのか分からない光線を撃ってくるけれど、僕は氷を前に置いて屈折させて避ける。

そして回りながら時々接近し、幽香に霧をばらまく。

じわじわと霧は幽香を取り囲み、やがて周囲が霧で見えなくなる。

 

 

「よーし、出来たかな」

 

 

____________________

 

 

幻夜に行動を抑えられ、霧に囲まれてしまった。おおよその位置は分かるものの、視界が効かない。なのに幻夜の声、氷を滑走する音が聞こえる。

そう考えると、ほんの少しだけ背中に何かが這い上る気がした。

どこから来るか分からない、怖い。何があるのか分からない、怖い。寒い。怖い。寂しい。怖い。だれかたすけて。

 

 

ひざがふるえる、なにもみえない、こえもきこえない、こわい。

 

「・・・落ち着いて、殺さないから」

 

 

こえがする、こわい。

 

 

「ダメだって、震えないで、大丈夫だから」

 

 

さむい。

 

 

「ごめんよ、ちょっと目を覚ましてね」

 

 

みみもとになにかがちかづいて、ふうといきをはいた。

 

 

「・・・っ!?」

 

 

・・・何、今までのは。

ぼんやりとしていた意識から目が覚めたけれど、やはり何も見えない。

何度も戦いをやり続けたのに、こんな気分は初めてだ。

本能的な恐怖。徐々に何を相手しているか、わからなくなってきた。幻夜が相手なのは間違いない。なのに、今いるのは幻夜では無いような気がして仕方がない。

蛇に囲まれているような寒気、氷を滑走する音が蛇の鳴き声にも聞こえる。

怖い。今すぐに叫びたい、なのに声が出ない。

 

 

「・・・降参する?」

 

 

ふと聞こえた優しい声が、天使の声のように聞こえた。

私は、頷いた。

 

 

____________________

 

 

寒さと恐怖で震える幽香の手を取り、ゆっくりと暖かい場所に座らせる。

戦わずして勝つを体現化した、相手が一瞬でも恐怖を感じると発生する僕の技。

発動条件は簡単、霧を相手に吸わせる事。霧は相手のこうなるんじゃないか、という負の予想を倍加して幻覚として見せる。

お察しの通り、恐怖心のない奴、ネガティブな思考が微塵もないバカには効かない。壊夢とか効いた試しがない。

幻覚は様々で、それぞれ一番起きると嫌な事が起きるらしい。

幽香は思考の停滞、寒さ、見えないという恐怖だったみたいだね。

本来ならここで止まった相手をグサッとやる。

 

 

「大丈夫?」

 

 

ゆっくり幽香の手を取ろうとするけれど、幽香が驚いて飛び跳ねる。

 

 

「っ!?」

 

 

「ごめんね、こうなるからあんまり戦いたく無かったんだけど・・・」

 

 

幽香がジワリと目元を潤ませる。ヤバイ、泣かせた・・・!

うーわ、泣かせてやんの、最低だな。

煩いな、じゃあどうすれば良かったのさ、日傘で殴られたら流石に飛んで行くんだけど?

・・・それもそうか。まーいーや、責任取れよ。

 

 

「えっと、その、ごめん!」

 

 

僕が頭を下げると、突然幽香に抱きつかれた。慌てて声が出そうになるが、震えているのに気がついて、ゆっくりと抱きしめ返す。

 

 

「・・・怖かった?」

 

 

「・・・うん」

 

 

「ごめんね?」

 

 

「・・・うん」

 

 

「どうしたら許してもらえる?」

 

 

「・・・今日は泊まって。幻夜がいなくなりそうで怖い、隣で寝て」

 

「分かった。・・・うん?」

 

 

うん?ねえ、おかしくない?

良かったな、朝チュンチャンスだぞお前。さっさと寝ろ。

どっから仕入れてんのさその知識!?

 

 

「ね、ねえ、流石にそれはマズイと思うんだけど・・・?」

 

 

「嫌、幻夜がいないと怖い・・・」

 

 

お前、これまだ術解けてないんじゃねえの?

あっるえー?おかしいな・・・?

 

 

とは言いつつも、幽香が震えているので仕方ない。別に嬉しいとかそんな下心はない。多分。決して滅茶苦茶嬉しくない。おそらく。

てか、ホントにまだ解けてないのかな・・・?

 

 

「幻夜、だっこ」

 

 

「おかしいよね!?ねえホントに解けてないの!?」

 

 

「・・・さむい」

 

 

「あーもー!分かったよ、行くよ!」

 

 

「ふふふ、やった」

 

 

おい、幻夜、ひょっとして幽香の奴とっくに解けてんじゃねえの?

うるさい、幽香が解けてないなら解けてないの!

 

 

この後事あるごとに僕に何かを要求し、断ろうとすると寒いと怖いで封殺された。

ほら、やっぱ解けてんじゃん。

うるさい、別に良いの。

 

 

____________________

 

 

夜、幽香のベッドに乗せられ、程のいい抱き枕にされていた。

 

 

「ねえ、幽香」

 

 

「何?」

 

 

「もう寒くないでしょ?」

 

 

「・・・さむい「もういいから」・・・分かってたのね」

 

 

幽香は諦めたように僕を離し、僕の背中にピタリと張り付いた。

 

「でも、怖かったのは本当よ。・・・初めて泣くかと思ったわ」

 

 

まだ少し、幽香の手が震えている。

 

 

「そんなに?」

 

 

「ええ・・・自分が何を相手しているか分からなくなって、ここが何処か分からなくなって、自分が何を考えているか分からなくなって・・・凍えそうだった。このまま一人で死ぬのかも・・・って思っちゃった」

 

 

幽香の微かな嗚咽が聞こえてきた。僕は幽香に向き直り、しっかりと抱きしめる。

 

 

「ごめん。ホントにごめん。・・・大丈夫、僕が絶対一人にさせないから・・・」

 

 

「うん・・・ありがと・・・」

 

 

結局幽香は僕にしがみついたまま寝てしまった。

・・・改めて、僕が異形の化け物だということを認識した。

霧一つで、こんなにも心を蝕めるのは僕だけだろう。

悪神。呼ばれ慣れてはいたけれど、こんなにも恐怖の代名詞になるとは思わなかった。

 

 

「ねえ、裏」

 

あん?

 

 

「僕ってやっぱりおかしいのかな」

 

 

受け取る奴次第だろ。少なくとも俺からするとお前は普通に悩む妖怪だぜ。

 

 

「ありがと」

 

いーから寝ろ。

ん、お休み・・・

 

 

翌日の朝、誰もが期待してるような朝チュンは無かったよ!残念でした!まあ元から期待してないか!

でもなんで朝起きたらちょっとだるかったのと、幽香がツヤツヤしてたんだろ?

・・・知らない方が良いぞ。幻夜。

えー、そうなの?

そんなもんだ。

 

 

まだ分かんないことも多いね。

 

 

次回へ続く

 

 

 

 




特に身体能力が高くない幻夜があのメンバーにいるのは、この技で大半が死ぬからです。
体術は自前。誰も見ていない時、こっそり努力しているのです。


次回もお楽しみに。


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第三十八話 時過ぎて

またまたポンポンと時間軸が飛びます。


ゆっくりご覧下さい。


時間は風魔が天魔を殺った次の日に遡る。

とある山で、虐殺が起きていた。

 

 

「ハハハ、ハーッハッハ!!」

 

 

百を超える天狗や化け猫、巨大化した猪などの死体の山の中心に、全身を返り血で染め、高らかに笑う男がいた。

侵二だ。口元や翼は赤く染まっており、心なしか満腹のようだ。

 

 

「うえっ・・・ちゃんと片付けろよ・・・」

 

 

その死体の山を前にして、龍一は顔を顰める。

 

 

「ああ、すみません、久し振りにお腹いっぱい食べたのでつい・・・」

 

侵二は頭を下げると、周囲に飛び散った血や死体を翼を使って貪り始めた。

 

 

「これでこの山は貰いましたね。ご馳走様です」

 

 

「あのな・・・確かに山の中で俺らそっちのけで別の山の天狗を嫁入りさせるだの伝統が廃れるだの喧嘩してたけどな、流石に横槍大虐殺ご馳走様はねーだろ」

 

 

仕方ないじゃないですか、と侵二が口を尖らせる。

 

 

「私は風魔や幻夜と違って燃費が悪いんで、こうして時々食べないとダメなんですよ。・・・まあ、天狗は人間と違って保有している妖力等は多いので、あと一万年は大丈夫ですかね」

 

 

「・・・果たしてそれは燃費が悪いというのか、疑問だな」

 

 

「風魔は風から摂取しますし、幻夜は水から取りますし、壊夢は溶岩に浸かってると取れますから。私も同じように何とかなりますけど、力は出ませんね。そりゃ他の三人も食べますけど、他は一人食べれば満足しますから」

 

 

「そこまで行くと燃費云々の話じゃねえだろ。なんだよ風と水と溶岩からって。生き物じゃねえだろ」

 

 

「一度に200人食べる私も生き物か怪しいですけどね」

 

 

「違いねえな」

 

 

二人が笑っていると、草むらががサリと揺れた。

 

 

「あれ?食べ残しですかね?」

 

 

「食べ残しってお前な・・・まあ生きてるだろうな」

 

 

龍一はゆっくりと草むらに近づくと、何かを察したのか苦笑した。

 

 

「お前・・・体格考えて隠れろよ。角はみ出てんぞ」

 

 

「およ、ほんとだねえ、気をつけるよ」

 

 

そんなのんびりした応答と共に、草むらの後ろの木のから巨体が現れた。

 

 

「久しぶりじゃないか、龍一」

 

 

「生きてたんだな、茜」

 

 

茜と呼ばれた巨大な鬼は、ニヤリと笑った。

 

 

「ああ、ちゃーんと生きてたさ。・・・で、そっちのは・・・ん?あの時の「初めまして、侵二と申します」侵?・・・人違いだ、ごめんごめん。・・・そう言えばちゃんと足も手もあるね」

 

 

「初対面にかける挨拶が酷い。そして侵二も食い気味の挨拶すんな。茜も茜で足も手もあるねってお前・・・あー、成る程な、あの檮杌探してた奴か。似てんのか?」

 

 

茜は首を捻り、答えた。

 

 

「ちょっとね。声は分からなかったし、顔も見てないからどうとは言えないけど、見た感じ似てたんだよね・・・でも名前がファンで始まったから、全然違うね、ごめんよ」

 

 

「いえ、お気になさらず。・・・ところで、どういった要件で?」

 

 

それなんだけどね・・・と、茜は頭を掻く。

 

 

「ウチの下っ端とかがバカやっちまってね、人間と折り合いつけてたんだけど、追い払われたのさ。他の奴らは下で待ってるんだけど、泊めてくれないかい?」

 

 

龍一はニヤリと笑った。

 

「前言ったよな、贔屓にするって。ちと血の匂いが残ってるが、元々ここを落とすことにしか興味がなかった、山ごとやるよ」

 

 

「正気かい?」

 

 

「狂気だ」

 

 

「そうだったね、じゃあありがたく頂いとくよ」

 

 

「ほいよ、けど、俺と侵二も適当なとこに住むからな」

 

 

「そりゃ当然さね。・・・あ、後もう一個頼みがあるけど、良いかい?」

 

 

面倒そうに龍一が頭を掻く。

 

 

「なんだ、喧嘩なら悪いけど今度にしてくれよ」

 

 

「違う違う。前に住んでたとこで河童を拾ってね。何人かいるんだけど、一緒に入れても良いかい?」

 

 

「山やるって言ったはずだぞ?勝手にしろ、俺は知らん」

 

 

「ありがとね」

 

 

「礼言われる要素ねえぞ」

 

 

龍一はぶっきらぼうに答え、茜は苦笑する。

 

 

「昔からそこは変にこだわるねえ。助ける癖に変な理由つけて、俺は知らんって、子どもかい?」

 

 

「るっせえやい。俺は悪役でいいんだ上等だろ」

 

 

「間違いないですね。そんな主上に朗報です。風魔が結婚しました」

 

 

「ブハッ!」

 

 

龍一が鼻から鼻水を噴いた。汚い。

 

 

「お前、それいつの話だ・・・」

 

 

「昨日です」

 

 

「昨日!?」

 

 

「おや、知り合いが結婚かい?めでたいねえ」

 

 

「めでたいってなぁ・・・侵二、風魔が女捕まえたのはいつだったか?」

 

 

「昨日です」

 

 

「ほら見ろおかしいじゃねえか!何で二十四時間過ぎずに結婚してんの!?」

 

 

「顔に似合わず掻っ攫ったんじゃないですかね」

 

 

「適当か!」

 

 

「まあまあ、そんなに騒がなくて良いじゃないか」

 

 

「おう、じゃあ風魔の山攻めるか」

 

 

「いやいやいや」

 

 

茜が龍一の肩を掴み、問い詰める。

 

 

「攻める理由が何処にあるのさ!?なんならそっとしておくべきなんじゃないかい!?「風魔なら秘蔵酒とか持ってるだろうな」詳しく聞かせとくれ」

 

 

サムズアップをする主人に侵二は苦笑し、めでたく結婚した友人に哀れみの念を送る。

 

 

「よーし!なら落ち着いたら風魔のいる山に攻めるぞー!」

 

 

「はいよ!」

 

 

____________________

 

 

「っ!?」

 

 

「風魔、どうしたんですかー?」

 

 

「いや、気のせいかもしれんが、寒気がな・・・」

 

 

「んー?確かにちょっと冷えてきましたねー・・・まさか風邪ですか!?そこに寝っ転がって下さい!おかゆ作ってきまキャアッ!?」

 

 

「伊織様ーっ!?あーっ!?書類がー!」

 

 

「・・・これでは寝てられんな」

 

 

____________________

 

 

「ん」

 

 

「どうしました?お義父さん?」

 

 

「いんや、ちょっと寒気が・・・」

 

 

「縁!義父さんが風邪だ!「何ですって!?お父さん、大丈夫ですか!?」く、薬を買ってくる!」

 

 

「・・・二人揃って元気だねー」

 

 

「そんな事言ってないで横になって下さい!・・・あーっ!?卵が焦げてるーっ!?」

 

 

「ちょっと元気すぎるねー?」

 

 

___________________

 

 

「今間違いなく二人ほど嫌な予感察知しましたね」

 

 

「んなアホな」

 

 

「何意味のわからない事言ってるんだい!さっさと準備手伝っとくれよ!」

 

 

後日同じようにこの空気を海を越えて察知した筋肉馬鹿がダイナミック帰投の準備をするのは言うまでもない。仲良しか。

 

 

____________________

 

 

その夜、侵二が岩に背を下ろし、息を吐いていると、茜が現れた。

茜の表情は引き締まっており、目は鋭かった。

 

 

「・・・やっぱ、あん時の鬼だよな。あの時は世話になったな」

 

 

侵二はいつもと違い、砕けた口調で茜に声をかけた。

 

 

「そうさねえ。で、お前は何をしてるんだい、今は侵二か。侵二」

 

 

「あの時と一緒だ、アイツらを殺す為に、今ここで主上に仕えてるだけだ。別に復讐に飽きたとかじゃねーよ」

 

 

「そうかい。・・・疲れてないかい?」

 

 

「鬼に言われる筋合いはねーけどな・・・ありがとな、俺は大丈夫だ。・・・まさか腕と足千切れてた時に助けて貰った鬼にまた会うとはな」

 

 

「なら良いけどね。・・・変な巡り合わせもあるもんだね」

 

 

「そうだ、鬼」

 

 

「あたしゃ茜だよ」

 

 

「そうだったか?・・・まあ良い、檮杌を探してるらしいな」

 

 

「うん?そりゃあんたから話聞いてから探してるけど、それがどうしたんだい?」

 

 

侵二はにっと笑い、親指を立てた。

 

「約束通り見つけたぞ。しかも嫁探し中と来た。・・・気になるんならさっさと取りな。アイツはダチだからな、紹介してやるよ」

 

 

茜の頭が爆発した。

 

 

「ななな、何を言いだすんだい!?あたしゃ確かに檮杌を探してるけど、そんな嫁とか・・・奥さんとか、向いてないよ!」

 

 

侵二はやれやれと首を振り、茜の肩を叩いた。

 

 

「うっせえ鬼、さっさとてめーも身固めろ。いつまでもそんな体と性格して独身名乗ってんじゃねーぞ」

 

 

「・・・相変わらず口悪いねえ。まあ、ちょっと考えよう・・・かな」

 

 

「ウブなこった。後口悪いのはてめーに何回もお節介食らったからだからな」

 

 

「アンタはどうなんだい?」

 

 

「俺か?・・・許嫁殺ったんでな、今は良い。・・・どうせなら同じように世間揺るがせた奴が欲しいがな」

 

 

「あんたらしいねぇ・・・ま、元気そうで良かったよ。ところで・・・お前が黄・・・アレって事は龍一には黙ってた方が良いかい?」

 

 

侵二の顔に翳りが見える。

 

 

「・・・一応、な。この状況であの人にコレを抱えさせるのは色々とややこしいからな・・・悪いな、嘘嫌いな奴にこんな事頼んで」

 

 

「構わないよ。嘘は嫌いだけど、つかなきゃいけない嘘ぐらいは分かるさ」

 

 

そう言って手を差し出す茜の手を、侵二はしっかりと掴んだ。

が、彼等にも一つだけ誤算がある。

 

これ、俺が聞いてるんだよなぁ・・・

非常にそこが残念だ。

まあしばらく黙っておいてやろう。

 

 

 

・・・俺は神々も、そして俺も見捨てる程のクソ野郎だからな。

隠し事した事を後悔すんなよ。クソ野郎。

 

 

 

次回へ続く

 




壊夢サイドは書きません。


次回もお楽しみに。


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第三十九話 客人

四凶トップレベルのジジイ臭い風魔。

ゆっくりご覧下さい。


「客?」

 

 

「はい、男女二人ですよ。夫婦ですかね?」

 

 

「んな事は聞いとらん。何の用だ?確か入り口に舗装中、入るなと書いておいたはずだが?」

 

 

「それが、欲しいものがあるから取って欲しいそうです」

 

 

伊織を嫁にして早数年、ある程度伊織も落ち着いている時、そんな連絡が来た。

 

「欲しいもの・・・?まあ直接聞くか、案内してくれ」

 

 

「はーい」

 

 

___________________

 

 

「で、訪ねて来た奴が貴様とは恐れ入った。隣のが例の方か」

 

 

「こっちも顔見知りで恐れ入ったよ。そだよ、めっちゃ可愛いでしょ?」

 

 

いざ客を迎えると、知り合いも知り合い、腐れ縁の友人だった。

 

 

「風魔、お友達ですか?」

 

 

「友達・・・と言えるのか分からんが、まあ古い付き合いだ」

 

 

「そーそー。ま、悪友って感じかな。君が伊織だよね、僕は幻夜。前から風魔のお嫁さんの話は聞いてるけど、こんな可愛い子をねぇ・・・結構やるじゃん」

 

 

「・・・かく言う貴様もな。あの連絡は驚いたな」

 

 

「いーでしょー?・・・じゃ、改めてみんな挨拶しよっか。僕からね。幻夜、混沌やってまーす」

 

 

次に幻夜の隣にいた緑髪の大人びた女性が名を名乗った。・・・幻夜は緑髪に愛着でもあるのか?

 

「私は風見幽香。花妖怪よ。よろしくね」

 

 

「私は風切(かざきり)伊織、鴉天狗です!後、風魔のお嫁さんです!」

 

 

「・・・最後は私か。風切風魔、窮奇だ。幽香だったか、そこのバカが世話になっている」

 

 

「バカって、相変わらず酷いよねー」

 

 

「面の張り紙を見て来た時点で馬鹿だろうが。で、何用だ」

 

 

あ、そうそうと幻夜が思い出したように手を叩いた。馬鹿かこいつは。

 

 

「んーとね、キノコと山菜取りに来たんだよね。良いかな?」

 

 

馬鹿だこいつは(断定)

 

 

「そうか。相変わらずどうしようもない奴だな。勝手に取って帰れ」

 

 

「お酒とお茶持って来たのに?」

 

 

「寛いで行け」

 

 

「早変わりすぎでしょ」

 

 

「黙っていろ。・・・伊織、私の食べずに溜めていた茶菓子を出してくれ」

 

 

しかし、伊織は目を逸らしたまま動かない。

 

 

「・・・ました」

 

 

「・・・もう一度」

 

 

「食べちゃいました」

 

 

「買い物延期な」

 

 

「ええー!?」

 

 

____________________

 

 

週末に一度楽しみにしている私との買い物を延期され、いじける伊織を放っておいて、幻夜に近況を訪ねた。

 

 

「あの馬鹿は放っておいて、最近変わったことはあるか?」

 

 

「んー・・・無いかな。幽香と付き合ったくらい?あ、それで思い出した。カビ生えたなんの肉か分からない腐肉とか食べて、数十年放置された泥水とか飲むのって異常?」

 

 

「異常、らしいな。昔はよく食ったが、このご時世ありえんらしいな。・・・たしかにあれは不味かったな」

 

 

「だよねー。そう考えると最近のご飯は美味しいのかもね。・・・あ、そうだ。天狗の山一個滅んだの知ってる?」

 

 

「あの逃げた奴が一人もいないあれか?どうせアイツの腹の中だろう。・・・ところで、壊夢について何か知らんか?」

 

 

「まあね。・・・壊夢は全然知らないな。何処行ったかは知ってるだろうけど、後は全然。音沙汰もないよ」

 

 

正直なところ侵二が数百人喰おうが大したことじゃない、今最も重要なのは壊夢の位置。拳一つで文明を終わらせる力を持つあの馬鹿は、音沙汰もなく里帰りした。以後、消息不明。

 

 

「はあ・・・奴が意味の分からんタイミングで牙を剥くと考えると、あまりゆっくりしてられんな・・・」

 

 

「・・・ところで風魔、さっきから気になってたんだけどさ」

 

 

幻夜が顔を顰め、私の腕を見る。

 

 

「その腕に刺してるの何?」

 

 

「・・・点滴だ」

 

 

「おかしくない?」

 

 

「そうか?」

 

 

「壊夢来る前に死にそうじゃん、一週間くらい休みなよ」

 

 

恥ずかしい話ではあるが、つい昨日倒れた。原因は多分過労、そう言えばここ数年、伊織に寝ると言いつつ寝ずの残業ばかりだったか・・・

伊織に泣かれ、文に号泣され、多くの天狗に頭を下げられ、仕方なく今日一日は仕事を半分にするつもりだったのだが・・・

 

 

「・・・休んだ方が、良い、のか・・・?」

 

 

「当たり前じゃん」

 

 

「ほら!やっぱり休めってお友達も言ってるじゃないですか!」

 

 

「うーむ・・・しかし、今日の分の仕事が・・・」

 

 

「風魔はあれです!わーかなんとかです!」

 

 

「ワーカホリックだろう。失礼な」

 

 

「そうそれです!いーえ、たまにはそっちのお二人みたいに仲良くお出かけしたいです!風魔の言ってたでえととやらがしたいです!」

 

 

「ちょっ、貴女、これは別にそんなのじゃ・・・」

 

 

「え・・・?違う・・・の・・・?」

 

 

「なんでそこで幻夜が落ち込むのよ!?・・・ああもう!そうよ!」

 

 

顔を赤くさせた幽香から幻夜は顔を背け、私にペロリと舌を出した。

相変わらず子供っぽい奴だ・・・

 

 

「そこまでこぞって言うか・・・なら一週間だけ休むか」

 

 

「そうです!ちゃんと休・・・え?一週間、ですか!?」

 

 

伊織が信じられないものを見るような目で私を見る。

 

 

「ああ、明日から休めばよかろう」

 

 

「う、嘘です!今まで私の休みは年に一度で構わんだろうとか言ってた風魔が一週間なんて・・・!!」

 

「頭に蛆湧いてんじゃん」

 

 

「もう病気ね」

 

 

「黙れ貴様ら。・・・嫌なら返上して休まないが、どうす「お休みしましょう!でえとしたいです!と言うかこうでもしないと風魔が死にます!」・・・分かった」

 

 

「中々やるじゃん」

 

 

「何について褒めているのか意味がわからん」

 

急に出かける事で拗ねていたはずなのに引っ付き始めた伊織を撫でながら放っておき、幽香に目を合わせる。

 

 

「ところで幽香殿、二人はどこまで進んだ?」

 

 

「ブッ!?」

 

 

「あ、それ私も気になります。キスしたんですかー?」

 

 

幽香殿の顔がみるみる紅くなり、リンゴのようになる。やがて噛み噛みだったが口を開いた。

 

 

「て、手をちゅないだのと、一緒に寝てるだけ・・・でしゅ」

 

 

「一緒に寝てるんですか!これは負けていられません!風魔!私達も一緒に寝まし「却下。寝たいならその絶望的な寝相の悪さを直せ、何故お前は枕返しがいないのに180度回転する」うぐぐ・・・」

 

 

幽香の頭から湯気が出始める上に、顔は噛んだこともあったのか、さらに紅くなり、溶けた鉄のように紅くなる。

 

 

「幽香、大丈夫?」

 

 

「すまんな、変な事を詮索してしまった「ねえ幽香、ホントに大丈夫?結婚する?」幻夜ァ!」

 

 

「ッー!?」

 

 

私は明らかわざとに大丈夫?結婚する?を言った幻夜に拳骨を振り下ろし、当たる直前に当たり判定を消されて躱される。隣で恥ずかしさからか幽香殿は気絶した。

 

 

「ちょっと、当たると痛いかもしれないからやめてよ。そうだ、・・・人払いお願い」

 

 

私は思考を切り替え、瞬時に伊織の口を口で塞ぎ、そのまま気絶するまで塞ぐ。

 

 

「むぐっ。・・・んーッ!んーッ!?んっ・・・」

 

 

「・・・これでいいか」

 

 

「うん、倫理的にアウトかな。後でどうなっても知らないよ?」

 

 

「気にするな」

 

 

やれやれと首を振りながら、幻夜は片手を顔の右半分に当て、微笑んだ。

 

 

「じゃ、本題ね」

 

 

すぐに手は顔の左半分に当て直され、口元が歪む。

 

 

「って事で、久しぶりだな、風魔」

 

 

「ああ。会話は100年ぶりか?」

 

 

「あー、そこまで行くのか。寂しいねえ。・・・なんて事はどーでも良いんだ。コイツにゃ適当な理由付けさせたが、そもそもコイツが来たのは俺と会話するためだ」

 

そう言うと幻夜、正確には幻夜の身を借りた何かは目を細め、口を引き締める。

 

 

「で、何の用だ?」

 

 

「コイツらが結婚しようとしねえ・・・!」

 

 

「帰れ」

 

 

私が即座に切り返すと、幻夜擬きは爆笑し、首を横に振った。

 

 

「ハハハ、冗談だって、冗談!・・・まあ、なんだ、俺って必要か聞きたくてさ・・・」

 

 

「要らん」

 

 

「酷えなオイ!・・・まあ、そうだろうな」

 

 

いや、と私は首を振る。

 

 

「この世の物全てが要らん。考えてみろ、生物がいるから優劣が出来、戦争が起きる。物があるから必要不必要が出来る。そもそもこのような世界があるから概念、法則が生まれる。つまり皆不必要だ、この世に一つも必要なものなどない」

 

 

「・・・何言ってんだお前?」

 

 

「つまりだ、お前は自分が不必要かと聞くが、答える奴もまた不必要なものしか答えない。無意味だ。あえて聞くなら私が今会話する相手が必要なのだから必要だろう」

 

 

「悪いが全く分からん」

 

 

「ふむ・・・例えばだが、私達のいる世界、もしこれがあるものの妄想の上で成り立つものだとしよう。するとこの世界はその妄想する人間の思いのまま。どこで誰が何をするのも決められている。お前が存在意義で悩む事もその製作者の妄想に既にあるのだ。そしてまたその妄想している製作者の住む世界もまた箱庭のようなもので、製作者は妄想しているのを自分の意思でしていると思っていても、箱庭を作っている何かがそう考えさせている。そしてその箱庭を作った何かも同じような箱庭にいる。・・・つまりお前や私が何を考え、何をしようがそれは既に何かによって決められているだけの事。必要不必要ではない。全ては操られており、そこに意志はあれど、その意思も作られたものであり、意味はない」

 

 

幻夜擬きは溜息を吐き、仰向けに寝転ぶ。

 

 

「はぁ・・・つまり必要性は皆無くて、他人にあるなら俺にも必要性はあるって事か。なんか適当に励まされるより腹立つな・・・」

 

 

「必要と思うなら必要だろう。しかし全ては無意味であり、無価値だ。話を変えるが、そうシナリオにあるなら仕方ないが、子孫を残す理由が分からん。生物など天寿を全うしてさっさと滅べば良い」

 

 

「お前それ結婚してから言うなよ・・・」

 

 

「まあな。私は子孫を残すつもりは今はない」

 

 

「あっそ、お前ホントに意味分かんねえな。何回か死んだとか?」

 

 

「・・・元からだ。それに、先程言ったことはあくまでも私の考えだ。全ては自由であり、しかしながらその自由は何かに既に決められているシナリオ、ゲーム内のイベントの一つ・・・そう考えると面白いと思わんか?」

 

「そーですか。助かりましたって一応言っとくわ。じゃ、最後に一つ」

 

 

「何だ」

 

 

「近々てめえのとこに龍一と侵二が攻めるぜ。これもげえむの中のしなりおとやらだな」

 

 

過去最大の勢いで噴いた。

 

 

 

次回へ続く




まあ、なんと言いますか、世界で起きること全てが何かによって決められていて、又その何かのする選択もその上にいる何かに決められている。それが延々と続いていると一体最初が何なのか分からなくなって面白くない?ってのが風魔、まあ私の幼稚な考えです。
追加しますと、つまり私達はゲームの中の住人の様なもので、心霊現象はバグ、没設定、イベントで消えた(死亡した)キャラ。そして霊の見える人、霊感のある人はそのバグ、没設定、イベントに制作時に関係性を持たされていたキャラクターと考えてます。そしてこの世界のゲームの製作者もまた同じようにゲームの中にいると思ってます。頭おかしいと思います。ここに何長々と書いてるんだって話ですね申し訳ありません。
名前つけると、この世界はゲームの中のゲーム説ですかね。

次回もお楽しみに。


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第四十話 静寂を破って


最近冷えてきましたね。
って言おうとしたらここ数日暑くなりました。喧嘩売ってるんですかね。


ゆっくりご覧ください。


「・・・どう言う意味だ」

 

 

「いんや、そのまんまよそのまんま。あの二人がふざけて遠方の山陥落させて統一、鬼引き連れて来てるぜ」

 

 

私は予想外のクソ具合に頭を抱える。

 

 

「何をやっとるんだアイツらは・・・!?」

 

 

「知るかよ。しかも続報、壊夢が帰国する」

 

 

「終わった・・・ッ!」

 

 

何故こうもアイツらは準備でもしたかのようにこぞって暴れるのだろうか・・・

 

「あ、そろそろ時間なんで戻る。じゃあな!」

 

 

幻夜から彼が消え、幻夜が元に戻る。

 

「およ、お話終わり?」

 

 

「・・・終わったぞ、とんでもないプレゼントの報告ついでにな」

 

 

「え、何々?気になるんだけど「主上、侵二、侵攻開始。壊夢帰国寸前」・・・聞かなきゃ良かった」

 

 

幻夜がその場に突っ伏し、伊織がむにゃむにゃと目を覚ます。

 

 

「なんかすっごい大胆な事されて寝た気がします・・・あ、風魔、おはよーございます」

 

 

「おはよう。悪いが休みの後は働いてもらうぞ」

 

 

「ぅん・・・?何かあったんですか?」

 

 

「龍神と饕餮が攻めてきて、檮杌が乱入してくる」

 

 

「ヘえ〜・・・大変ですねぇ・・・って、それホントに大変じゃないですか!?」

 

 

伊織が私の襟を掴み、ぐわんぐわんと揺すり始める。

 

 

「だから言ってるだろうが。そもそも寝た理由を思い出せ・・・やめろ思い出すな!」

 

 

「え?・・・あ、・・・ッッッ〜!?」

 

 

いつもの癖で勝手にうたた寝する伊織に理由を思い出させようとして、今回は私の所為だったのを思い出して制止する、が時既に遅く、伊織は思い出してしまった。

 

 

「・・・伊織?」

 

 

「やめてください、恥ずかしくて顔見れないです・・・」

 

 

「すまん」

 

 

「謝られると余計恥ずかしいですぅぅぅ・・・」

 

 

「やーい、天然ジゴロー!」

 

 

光速で幻夜の背後に回り、首をシメる。

 

 

「グフッ!・・・ちょっ!ギブ!ギブ!伊織ちゃん助けて!」

 

 

しかし、伊織は私のせいで動けない。と言うか一人でブツブツ言っている。

 

 

「あれは風魔のお誘いと受けても良いんですかねでもどうせなら二人きりが良かったですしもっとムードが欲しかったですし嫌でも嬉しかったですしオッケーにしましょうかね「ちょっと伊織ちゃん!?」・・・はっ!?あ、幻夜さん、大丈夫ですか?」

 

 

「大丈夫なら呼んでないよ!?」

 

 

「仕方ない、こっちで勘弁してやる」

 

 

私は立ち上がり、同じように立たせた幻夜の腕を掴み、アームロックをかける。

 

 

「ちょっ!?痛い痛い!!やめて折れる!」

 

 

「それ以上はいけません風魔。・・・ごめんなさいこっち見るのは待ってください」

 

 

やはりと言うか、伊織に顔を背けられる。と同時に幻夜の腕が折れた。

 

 

「があああ!」

 

 

「遊ぶな」

 

 

「ちえっ、分かったよ。・・・ほいっ」

 

 

ボキリと言う音と共に幻夜は折った腕の関節を外し、ポキリと組み直した。

 

 

「んでさ、どーすんの?あの二人来たら流石の風魔も負けるんじゃない?」

 

 

「まあ、な。主上も侵二も再生力が高過ぎて、アイツらでも受けきれない光速で飛べばどうにかなるだろうが・・・再生されて、それの繰り返し。決定打は無いな。そのまま体力切れで詰みだ」

 

 

「渡り合ってる時点でおかしいんだけどね。あの二人に霧って効くのかな・・・」

 

 

「やめておけ、効かなかった場合リンチ間違いなしだ」

 

 

「それ困るね。まあいつ来るか分かんないし、あんまり気にし過ぎてもダメなんじゃないの?・・・後幽香はまだ寝てるの?そろそろ起きなよ、お茶冷めるよ?」

 

 

幻夜が幽香をゆすり、幽香がうっすらと目を開く。

 

 

「ん・・・」

 

 

「あ、起きた。お茶冷め「ッー!?」ウボアッ!?」

 

 

強烈な幽香の張り手で幻夜は吹き飛び、幻夜の激突した壁がへこんだ。

 

 

「貴様!人の家の壁をなんだと思っている!」

 

 

「風魔、そこじゃないで振り向かないで下さい!」

 

 

「ねえ!?僕の心配無し!?なんで幽香も吹っ飛ばしたのさ!?」

 

 

「か、顔が近かったから・・・恥ずかしくて・・・っ」

 

 

「惚気か貴様ら!家の壁を代償にふざけるのも大概にしろ!」

 

 

「ふざけて壁にぶつからないんだけど!?後幽香もよく考えると酷くない!?」

 

 

「全く・・・伊織、それに幽香殿、話を聞いてくれるか?」

 

 

「い、良いわよ。・・・けど、座る位置を変えて頂戴。伊織、変わってもらえる?」

 

 

「あ、良いですよ」

 

 

伊織が幻夜の隣に座り、私の隣に幽香殿が座る。

 

 

「これならお互いに大丈夫でしょ?」

 

 

「・・・やっぱダメです!」

 

 

伊織が私の隣に座り、それでも納得行かなかったのか私の膝に座る。

 

 

「・・・こ、こうじゃないとダメです!」

 

 

「クソ面倒な嫁だな」

 

 

「文句は聞かないです!」

 

 

「いーなー」

 

 

「ならさっさと結婚しろ「ッー!?」ああ、すまんな幽香殿、他意はない」

 

 

「ほらそう言うとこですよ、風魔に女の人が寄ってくる理由」

 

 

「ま、風魔は女の子相手でもズケズケ言うからね。仕方ないね」

 

 

「・・・意味がわからん」

 

 

そんな話をしていると、窓ガラスが割れた。

 

 

「風魔様!伊織様!一大事で・・・その前に!お客様とお話し中に窓を割って入ってきました!申し訳「許可する。それなりの訳があるだろう?」はっ!」

 

 

「その場で謝れば済むんだ・・・」

 

 

文が前々から教えた通り、一大事に飛んでくるのは良いが、窓を割るなら割ったと先に言えと言った事を遵守している事に感心しながら文に焦る理由を聞いた。

 

 

「報告です!きょ、巨大な黒い蜘蛛が接近中です!」

 

 

私は窓を全開にし、麓を見下ろす。

 

「あれか」

 

 

ギシギシと金属の錆びた音でも鳴りそうな黒光りするフォルム。低い山一つ程度の高さの脚一本を上げて下げるたびに奇妙な機械音を鳴らす関節。足跡に何一つ残らず、木々を削り取る脚先。

脚に比べて小さな胴、そこに背中で繋がり、ぶら下がる人型の何か。

 

 

「・・・幻夜」

 

 

「ごめん僕あれが何か分かる」

 

 

「私もだ」

 

 

「風魔(様)!あれが分かるんですか!?」

 

 

「幻夜も分かるの?」

 

 

「・・・一緒に言うか?幻夜」

 

 

「うん、せーの」

 

 

「「侵二」」

 

 

的中した。どう見てもあの蜘蛛は脚ではなく、侵二の羽だ。

 

 

「隠密に来ないのかあのアホは」

 

 

「無理でしょ。ただでさえ歩いてたら勘の良い妖怪が逃げるんだよ?」

 

 

「それもそうか、だからわざと威嚇性のある外見にか。多少は考えるようになったな」

 

 

「マスターに仕えてからちょっと丸くなったよね」

 

 

山を巨大な蜘蛛と化して歩いてくるのを丸くなったとは言えないがな・・・

 

 

などと考えていると、羽の一枚が家の窓に引っかかり、それをフックのように、スルスルと男が上がってきた。

 

「御機嫌よう。私、侵二と・・・やっぱり風魔でしたか。後幻夜も、お久しぶりです」

 

 

「久しぶりー、また背伸びた?」

 

 

「久しぶりだな、失せろ」

 

侵二がケラケラと笑う。

 

 

「酷い挨拶ですねぇ。ま、取り敢えず、ご結婚おめでとうございます。まさかテメエが先に・・・んんっ、まさか先に貴方が結婚するとは思っていませんでした「おい口調」で本題ですけど、近々、まあ来月ぐらいに侵略しますので。ではまた」

 

 

私は刀の鞘に手をかける。

 

 

「無事に返すとでも?」

 

 

侵二も細剣に手をかける。

 

 

「ここで殺るんですか?」

 

 

場の静寂。何処かで水の流れる音が聞こえそうなほど音が消え、誰もが息をする事を忘れるような雰囲気に呑まれる。

 

 

汗が垂れる。

 

 

「風魔!」

 

 

伊織が私にしがみつく。

 

 

「バカ者・・・ッ!?」

 

 

咄嗟に抜刀、侵二を迎え撃とうとするが、侵二は動かない。

 

 

「いやいや、そんな奥様に驚いた相手斬るぐらい酷くないですよ。・・・まあこれ以上騒がせると困るので失礼しますね。・・・次会ったら勝負かもしれませんね。ではまた来月」

 

 

侵二が微笑み、窓から飛び降りて飛び去る。途端に周りの音が戻り、体の力が抜ける。

 

 

「っ、はあ・・・」

 

 

しゃがみ込もうとするが、伊織が裾から手を離さない。

 

 

「・・・どうした?」

 

 

「・・・風魔が死んじゃうかと思いました」

 

 

「・・・勘だけは鋭いな」

 

 

「私はあの人・・・苦手です」

 

 

「初対面でアレは確かにキツイが、悪い奴ではないんだがな・・・」

 

 

「風魔」

 

 

「ん?」

 

 

「置いてかないで下さいね」

 

 

「・・・分かった」

 

 

この時伊織が何に怯えていたのか、私は分からなかった。

・・・もう既に、あの侵二に慣れすぎていたのだろう。

 

 

尚幻夜と幽香殿は山菜とキノコを与えて無事に送り返した。

幻夜は「また来月」と言い残し、幽香殿と歩き去った。

 

 

次回へ続く

 




伊織は天狗ですので、風魔と同じように相手の周りの風、まあ相手の雰囲気がなんとなしに分かるんですね。
人でいうオーラ、ですかね。


次回もお楽しみに。


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第四十一話 偶にはこんな風に

平和回挟みます。


ゆっくりご覧ください。


 

朝、と言っても午前四時。昨日まどろっこしい点滴を飲みながら仕事をしていた身からすると厳しい時間帯だが、隣の天狗に起こされる。

 

 

「風魔!起きてください!出かけますよ!」

 

 

そう、小娘(伊織)だ。昨日の夜から眠れませんとほざいていたこいつは、嫌だという私の布団に潜り込み、掛け布団を吹っ飛ばした後、私の首に腕を置いて寝た。私?寝られるか馬鹿者。

侵二の宣戦布告の件から、念の為休みは返上、終戦後に改めて休む事にし、今日は仕方なく一日休む事にした。

 

 

「・・・まだ四時だぞ」

 

 

「今から行きたいとこがあるんです!行きますよ!」

 

 

私は仕方なく着替え、玄関でウロウロしている伊織と共に街に降りた。

 

 

____________________

 

 

「ここです!ここ!」

 

 

眠い目を擦りながら私の来たところは饅頭屋だった。

 

 

「ここです!ここのお饅頭は一日二個限定で売ってるんです!」

 

 

「そりゃ御苦労な事だ」

 

「じゃあ行ってきます!おじさん!限定饅頭下さーい!」

 

 

私が伊織の元気さに呆れながらも感心していると、トボトボと帰ってきた。

 

 

「・・・早かったな」

 

 

「売り切れでしたぁ・・・!」

 

 

どんな馬鹿がこいつより先に買いに来たのだろうか。どう見ても落ち込んでいる伊織を慰めようと手頃な店を探すために伊織を置いて歩く。が、いかんせん四時。どこも空いていない。そもそも饅頭屋が開いているのがそこそこおかしい。

 

 

「・・・あれ、風魔に伊織殿じゃないですか。昨日ぶりですね」

 

 

今一番会いたくない奴に会った。侵二は何かを考えていたが、何か閃いたのか、手に持っていた小包を渡してきた。

 

 

「見た感じ伊織殿が落ち込んでるとか言う程でしょう?これでも食べて元気出して下さい。店主と仲良くなったのでまた作って貰えますしね」

 

 

侵二は小包を私に押し付け、手を振ってすたすたと去って行った。・・・何がしたかったんだ?

 

 

「お饅頭〜」

 

 

「ええい、泣くな。・・・とある店がある、行くぞ」

 

 

私が落ち込む伊織を引いて連れて行ったのは開いているのを思い出した服屋、それも女性向けのものが多い店だった。

 

 

「・・・好きな物を選べ」

 

 

「・・・ホントに良いんですか?」

 

 

「まあな」

 

 

「・・・っ!行ってきますっ!」

 

 

嬉しそうに跳ねながら店に入る伊織に苦笑しながら店を見渡していると、店員らしき人間に声をかけられた。

 

 

「何かお探しですか?」

 

 

「いや・・・そこで着物を見繕っている奴に似合う服とは何か考えていてな」

 

 

「娘さんですか?」

 

 

「いや、嫁だ」

 

 

「奥さんでしたか・・・随分と奥様が若く見えたものでして、すみませんでした」

 

 

「いや良い。逆に誇らしくもあるからな。・・・で、あのおてんば娘に似合いそうなものはあるか?」

 

 

「ありますよ!ちょっと値は張りますが、こちらなどは・・・」

 

 

「・・・買った」

 

 

「・・・え?お買い上げですか?」

 

 

「ああ。買う。後そこの簪と手鏡も頼む」

 

 

「あの、お客様、勧めた側としてはどうかと思われるでしょうが、この三点ですと相当お値段が・・・」

 

 

顔を強張らせる店員に、私は優しく笑う。

 

 

「大丈夫だ。こう見えても貯めてある」

 

 

____________________

 

 

本当に売れた事が信じられないような顔をする店員に会釈をし、伊織が選んだ5着も買い、店を出た。

 

 

「ホントに5着も良かったんですか?」

 

 

「気にするな、本来なら年に一度使う分だからな、そこそこ溜まってはいる」

 

 

「風魔、買うのはお酒とちょっとのご飯ですもんね・・・後、その持ってるのは何ですか?」

 

「これか?まあ・・・私物だ」

 

 

「そうですか。あのお店の前の着物も綺麗でしたねー」

 

 

「そうだな。似合いそうだったしな」

 

「そうですねー・・・買えないですけどね」

 

 

残念ながらお買い上げ済みだ。

 

 

____________________

 

 

「お昼はどうしますか?」

 

 

「そうだな・・・」

 

 

昼過ぎ、活気の溢れ始めた街を眺めていると、とある屋台に目が行った。

 

 

「・・・何故あんな店がある」

 

 

「え?あの【らあめん】ってお店ですか?聞いた事ないですね」

 

 

何故!飛鳥時代に!ラーメン屋がある!

 

「風魔?どうしました?」

 

 

「・・・気にするな。思い違いかもしれんからな、入ってみるか」

 

 

中華、と大きく書かれた暖簾をくぐる。

 

 

「らっしゃーせー」

 

 

店員が!主上ッ!何を考えている!?

 

 

「お、新しいお客さんか。何注文するんだい?」

 

 

「えっと・・・風魔、分かりますか?」

 

 

「・・・味噌か、塩か、醤油か、豚骨。どれが良い?」

 

 

「冷やし中華もあるぜー」

 

 

主上!自重!この時代に冷やし中華は無い・・・っ!

 

 

伊織は首を捻って悩んだ後、私に向き直った。

 

 

「・・・よく分からないので、風魔と同じのにします」

 

 

「店主、豚骨二つ」

 

 

「あいよ」

 

 

伊織が店を見回している間に、主上に小声で話す。

 

 

「何故貴様はこの時代にラーメン屋を開いている・・・!?江戸時代頃ではなかったのか・・・?せめて握り寿司・・・いや、今の時代だと熟鮓か。ともかく時代を考えられんのか?」

 

 

「良いじゃねえか別に。あんまり気にするとハゲるぞ」

 

 

「ハゲるか馬鹿者。・・・それに、一ヶ月後に攻めてくるのではないのか?」

 

 

「だからって今からギスギスしたくねえじゃん。俺はこうして店開きたかったから開いたんだよ。攻めるのはまあ、傍迷惑だろうが遊びたいんだ。・・・ま、平和に行こうや」

 

 

そう言って主上は出来上がった伊織の分のラーメンに、焼豚を増やして入れてくれた。

 

 

「仕方ないな。今回だけ遊びに来い」

 

 

「サンキュ。・・・はいよ、ラーメン二丁」

 

 

「これがらあめんですか・・・」

 

 

「ああ、火傷しないようにな」

 

 

「あちっ!」

 

 

「火傷するなと言っただろうが」

 

 

____________________

 

 

「ご馳走さまです!」

 

 

「美味かった、ありがとう」

 

 

「まいどありー」

 

 

帰っていく二人を見て、龍一は微笑み、ふと風魔の食べた後の器を見た。

 

 

「・・・あれ、そういやなんでアイツ、ラーメンがこの時代の料理じゃないこと知ってたんだ?俺ラーメンの話したっけ?」

 

 

いや待てよ、と龍一は首をかしげる。

 

 

「なんで未来の江戸時代の事と、寿司の出来た頃知ってるんだ?」

 

 

___________________

 

 

そのまま昼過ぎまでふらふらとしていると、突然伊織が山に行きたいと言い始めた。

 

 

「山・・・か?」

 

 

「はい!初めて会った山です!歩いて登りますよ!」

 

私は伊織に手を引かれ、山を登る。

 

 

「ぜえ・・・ぜえ・・・早く行きましょう!」

 

 

「その割に苦しそうだな。・・・仕方ない」

 

 

私は伊織を下から持ち上げ、歩き始めた。

 

 

「ちょっと風魔!?恥ずかしいです!降ろしてください!」

 

 

「誰も見てないだろうが。それに、急ぐのだろう?」

 

 

「そ、そうですけどお・・・」

 

 

どうこう言いながらもしっかりと抱きついている以上、嫌ではないらしい。

そのまま登っていると、伊織が不思議な事を聞いてきた。

 

 

「風魔」

 

 

「ん?」

 

 

「・・・前会った侵二さんは、何か悪いところでもあるんですか?」

 

 

「ん?アイツ?・・・いや、特に持病も無いが」

 

 

「そう、ですか・・・なんだか侵二さんが病気みたいな気がしたんです。ちょっと無理してるみたいな・・・」

 

 

「無理、か・・・まあ確かに無理はしているだろうな」

 

 

「怖かったんですけど、ちょっと悲しそうでしたし・・・」

 

 

「・・・理由は知っているが、墓まで持っていく事なんでな」

 

 

私を含め、四凶の奴らは碌な過去がない。その中でも侵二は最悪。メンタルの弱い人間ならば聞くだけで気絶するような事ばかりだ。

産まれてから今まで、間違いなく被った血は侵二が一番多い。

そんな奴が悲しげに見えるのは、あながち間違いではない。

 

 

「なら聞きませんけど、風魔はなんで知ってるんですか?」

 

 

「・・・山頂だぞ」

 

 

「あ!降ろしてください!」

 

 

「分かった分かった。・・・ここは?」

 

 

「風魔が景色を見てたところですよ!忘れたんですか?」

 

 

「そうだったか・・・」

 

 

山頂に上がると、日は暮れ、丁度夕日が沈み始めていた。

 

 

「綺麗ですねー」

 

「お前の方が綺麗だがな」

 

 

「い、いきなりずるいです!」

 

 

私は笑いながら、侵二に寄越された小包を渡し、近くの岩に座る。

 

 

「菓子だ。食べるか?」

 

 

「お菓子?・・・こ、これって、朝買えなかったお饅頭じゃないですか!?」

 

 

「早並びの馬鹿はアイツか・・・!!」

 

 

まさか並んでいたのが侵二とはな。そりゃ売り切れていたわけだ。

 

 

「こ、これを何処で!?」

 

 

「侵二がこれでも食って元気を出せ。と渡してきてな」

 

 

「・・・侵二さんって優しいんですか?」

 

 

「まあな。私達と主上、信用した相手、後は敵として認めていない相手には優しいな」

 

 

「不思議な人ですね・・・やっぱり怖いですけど」

 

 

「違いないな」

 

 

饅頭を口に入れる。もちもちとした食感、そして中の白餡が見事に混ざり、あっさりとした甘味が口の中を埋め尽くす。

 

 

「・・・美味いな」

 

 

「美味しいですー!」

 

 

伊織が嬉しそうに足をパタパタと動かす。

 

 

「あれ、なら隣のお荷物はなんですか?」

 

 

「これか?・・・まあ、帰ってから着れば良い。お前の服だ」

 

 

「わ、私のですか?」

 

 

「ああ。後は簪と、手鏡か」

 

 

「そんなにですか!?」

 

 

信じられないようなものを見るような伊織の顔に失笑してしまう。

 

 

「クッ、ハハハ!」

 

 

「な、何笑ってるんですか!」

 

 

「いや、すまんすまん、今の顔が面白くてな・・・」

 

 

笑っていると、伊織に頭を掴まれ、無理やり膝の上に頭を乗せられる。

 

 

「・・・伊織?」

 

 

頭を上げようとするが抑えられ、優しく撫でられているので大人しくしながら聞く。

 

 

「風魔が頑張っているので休ませてあげているんです。いっつも無理して、昨日は点滴までしてるんですよ!?」

 

 

「いや、まさか点滴までするとは私も思わなかったがな・・・」

 

 

「無理しすぎなんですよ・・・天狗でも無いのに、私達のことばかり考えて、その度に当然だとか言って寝ずに仕事して、私だけ寝させて・・・」

 

 

「いや・・・」

 

 

「ホントに風魔はバカです」

 

 

反論しようとしたが、ここで返すのもあれだと思い、頷いた。

 

 

「そうだな・・・いつもすまないな」

 

 

「分かれば良いんです」

 

 

伊織の手が止まり、私の頭を持ち上げ、伊織の肩に乗せられる。

 

 

「今日はここで早めに寝ましょう」

 

 

「寝相は?」

 

 

「うっ・・・ちゃんと大人しく寝ますよ!」

 

大事な所で押し黙る伊織に笑いながら、私は目を閉じた。

 

 

「伊織」

 

 

「はい?」

 

 

「・・・すまん、このまま寝る」

 

 

「ええ、どうぞ」

 

 

その日は今までにない程、安らかに寝ることが出来た。

ついでに次の日、例の服をこっそり見た伊織が驚きのあまり、私の体を半日揺さぶり続けた。

 

 

 

次回へ続く




そろそろブタクサとかの花粉が飛んできますね。
毎回悩まされます。あれどうにかならないんですかね、ならないんですね。
そう言えば、やっとこさ40話過ぎたんですね。遅い。
過去駄作なら一月近くで到達してましたね。


次回もお楽しみに。


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第四十二話 防衛戦


最近色々と妖の出てくるアニメを見ていますが・・・
ウチの四匹は破綻してますね。もうこれ生き物か怪しいですね。悪神ですけど。


ゆっくりご覧ください。


休暇を楽しんで早一ヶ月。本当に幻夜が居座り始めた。

 

 

「また来るって言ったけど、すぐ帰るとは言ってないしねー。あ、伊織ちゃん、そこの座布団借りていくねー」

 

 

私がやれやれと頭を振っていると、幽香殿が頭を下げる。

 

 

「ごめんなさいね、急に上がり込んで・・・」

 

 

「いや、元々私達の喧嘩にわざわざ加担してくれるんだ、多少の無理は受け入れよう」

 

 

「あ、このテーブルも借りるねー」

 

 

「まあ、少しは自重しろとは思うがな」

 

 

まあそもそも。

 

 

「今このタイミングで借りても意味が無いと思うが?」

 

 

「いや、そこは雰囲気をね?」

 

 

と言っていると、丁寧に引き戸を開け、靴を脱ぎ、猛ダッシュで走り、部屋の前の襖をそっと開けて文が現れた。

 

 

「お父さん!一大事です!」

 

 

「ん?・・・んんっ、どうした?」

 

 

「鬼が来ました!現在麓付近で白狼天狗が接敵中です!」

 

 

「分かった。聞いたな?」

 

 

「はーい。じゃあ文ちゃん、案内してくれる?」

 

 

「え!?そ、その、お客人様も!?」

 

 

「出るぞ?ついでに私も出る。幽香殿、申し訳ないがもうじき帰ってくる伊織殿と本陣からの援護を頼む」

 

 

「ええ。無理はしないで頂戴ね?」

 

 

「それは幻夜に頼む。行くぞ」

 

 

窓を開け、一気に飛び降り、滑空する。

 

 

「あの、風魔様、隣のお客人のお名前を伺っても・・・」

 

 

「幻夜。混沌の馬鹿たれだ。接敵するぞ、我が娘」

 

 

「え?・・・ッー!?」

 

 

やっと文が初めに呼び方を誤ったことに気がつき、顔を赤くしたまま滑空した。

既に麓では大乱戦。何名かは吹き飛ばされてはいるものの、私が天魔になる事に二番目に賛同したあの若い鴉天狗、鞍馬(くらま)の小僧とその悪友の白狼天狗、犬走(いぬばしり)の小僧に指揮され、個々で攻撃してくる鬼に対し、盾を構え壁となって迎撃。優勢だ。

 

 

「歯ぁ食い縛りやがれ!あとちょっと耐えりゃ天魔様の来襲よ!」

 

 

「左翼中央!一度下がって半円で囲め!」

 

 

「おー、やってるやってる。・・・出る?」

 

 

「好きにしろ」

 

 

「んじゃ・・・」

 

 

幻夜が愛用の槍を抜き、二つに分解して両手に構える。と同時に幻夜の顔半分が歪み、声が二重になる。

 

 

「「行くかぁ」」

 

跳躍。その跳躍は既に人型の跳躍ではなく、まるで四足の獣のように跳ぶ。

4足で着地した幻夜は、両腕に槍を凍らせて接着させており、そのまま腕を振り回した。

 

「久しぶりにテメエとこうして殺るなぁ?」

 

 

「ん、まあね、でも体半分借りるって、昔はやんなかったよね?」

 

 

「気が変わった!この方が面白いだろ?」

 

 

「まあね!」

 

 

まるで動きの速い熊が暴れるように鬼の軍団を薙ぎ倒す幻夜から一度離れ、鞍馬と犬走に声をかける。

 

 

「無事か鞍馬、犬走」

 

 

「へいよ!怪我人は点々と出てますが、基本無事ですぜ!」

 

 

「鞍馬貴様、もっと敬語を使えんのか・・・」

 

 

「ならテメエもだろ?テメエも白狼天狗のクセに俺に暴言かよ?」

 

 

「馬鹿に使う敬語はない」

 

 

「んだと!?」

 

 

いい意味での馬鹿二人組に苦笑し、肩を叩く。

 

 

「引き続き防衛は任せる、良いか?」

 

 

「りょーかい!聞いたなテメエら!天魔様のお頼み事だ!」

 

「御意。鞍馬、半分は頼む」

 

 

「頼みます。だろうがよ!了解!」

 

 

そのまま天狗達は一つの波のように鬼を襲い、じりじりと後退させ始めた。

そこまでは良かった。

 

 

「「全員姿勢低くッ!」」

 

 

突如の幻夜の叫び、それに数瞬遅れての轟音と雷撃。しゃがむのが間に合わなかった天狗、それに留まらず鬼の数名が吹き飛ばされた。

それと同時に何者かに奇襲される鞍馬。

 

 

「鞍馬!上だ!」

 

 

「うおっ!?・・・悪いな犬走!」

 

 

鞍馬は回避に成功するが、鞍馬のいた場所には小さなクレーターが出来ていた。

 

 

「はあ・・・指揮者が二人でしたか。参ったな・・・」

 

 

クレーターの中心にいた人物はゆらりと立ち上がると、細剣を抜いた。

 

 

「作戦変更です。てな訳で作戦B行きましょう。光線」

 

 

「マズっ・・・」

 

 

侵二は口をパカリと開き、犬走へ光線を放つ。口から。

勿論口から出るなどと予想もしていなかった犬走は避けられず、一気に距離を詰めた私が犬走を突き飛ばし、私が焼かれることになった。

幸い犬走の耐久を考慮したのか光線の威力は低く、怪我の程度は軽く済み、再生を始めた。

 

 

「あらら、失敗です」

 

 

「いきなり現れてそれか。ボケナスが・・・」

 

 

侵二の口から煙が漏れ、侵二の呼吸と共に煙が吹き出し、さながら機械の冷却システムのように次の光線が装填される。

 

 

「天魔様・・・っ!?」

 

 

「良い。そのまま指揮を続けろ。何があってもだ。・・・幻夜」

 

 

「「ん?」」

 

 

「狩るぞ」

 

 

「「了解」」

 

 

一閃。弾かれるのは承知の上で侵二に横薙ぎの斬撃を叩き込む。

が、案の定10を超える翼で完全に防がれ、再び侵二の口が光る。今度は私に対応した破壊力だ。

 

 

「幻夜!」

 

 

「はいはい!」

 

 

しかし発射される直前に幻夜は私と侵二の足元に現れ、侵二の顎を下から蹴り上げる。と共に爆発。

 

 

「「行った!?」」

 

 

幻夜が姿勢を立て直し、私も一度下がって構えると、上を向いたままの侵二が正面に顔をギギギと戻した。

 

 

「イマノハ効きましタよ・・・下から蹴るとか反則ですヨ反則」

 

 

煙が晴れ、侵二の顔が露わになる。整っていた顔には傷一つなく、口から煙は出ているものの、所々黒い何かが揺らめいているだけで、大きな損傷はない。

 

 

「流石に幻夜と風魔は荷が重い・・・やはり本陣破壊一択ですかねえ!」

 

 

「止めろッ!」

 

 

侵二の翼が地面に突き刺さり、侵二自身は本陣へ細剣を向ける。

私は侵二の体制を崩そうと斬りかかるが、侵二の翼が網のように張り巡らされ、通らない。

 

 

「ではドカンと行きましょうッ!雷げ・・・おや?」

 

 

侵二が体制を崩し、ぐらりと斜めに傾く。そのまま雷撃は放たれ、山の頂上を僅かに掠めて雲を貫き、周囲一帯を閃光が包む。

 

 

「・・・オイオイオイ、嘘だろ?」

 

 

「あれが、饕餮・・・!?」

 

 

口を開き、化け物だと絶望している二人を置いて、当の侵二は首を傾げながら右脚をプラプラとさせている。

 

 

「・・・骨抜けてますね」

 

 

ふと隣を見ると、顔の半分を歪ませた幻夜がいた。

 

 

「・・・クソッ、間に合ったぞ幻夜」

 

 

「ありがと」

 

 

どうやら幻夜擬きが何かしたらしく、侵二の右足の骨が消えた。

 

 

「まあ再生しますけど。・・・これから発射前に骨抜かれるんでしょうね。・・・このまま戦っても間違いなく2対1で不利、どうしましょうか・・・」

 

 

帰って欲しいところだが、何か策でもあるのか、侵二は不敵に笑いながら翼を蟷螂のように擦り合わせる。

 

 

「・・・うわッ!?」

 

 

突然幻夜の位置に巨大な気配を感じ、身構える。しかし既に幻夜は何者かに襲われ、近くの木に叩きつけられていた。

何処からか聞こえてくる、この場に合わない鼻歌。ガチャガチャという金属音。

 

 

「よーっす、遊びに来たぜー」

 

 

主上(龍神)だった。

 

 

「貴様・・・」

 

 

「やめろよ、そんな怖い顔すんなって。・・・ま、遊びに来たんだけどさ、降伏しねえ?」

 

 

「するか」

 

 

私が吐き捨てると、主上は笑った。

 

 

「だよなあ・・・」

 

 

欠伸をしようとした主上に、鞍馬と犬走が同時に左右の上空から太刀を振りかざした。

 

 

「取っ・・・「あっぶね」!?」

 

 

「馬鹿な・・・!?」

 

 

しかし鞍馬と犬走の奇襲は失敗し、額に拳銃を突きつけられた。

 

 

「おいおい、血の気多いな」

 

 

主上はニヤリと笑うと、そのまま引き金を引いた。

 

 

「バーン」

 

 

ゆっくりと鞍馬と犬走の体が仰向けに倒れる。

 

 

「・・・空砲か」

 

 

「そそ。・・・いやだってさ」

 

 

主上は頭を掻いた。

 

 

「まさか鬼、第一陣全滅とか思わないじゃん?」

 

 

主上は溜息を吐くと、いつの間にか木に寄って眠っている侵二を叩き起こした。

 

 

「んあ?・・・引き上げですか?」

 

 

「あったりめーだろ、逃げるぞ」

 

 

「はいはい」

 

 

侵二は悪戯っぽく笑うと、口を開いた。

 

 

「ごめんなさいね、第1軍は元々調査隊。私が乱入したのは時間稼ぎですよ」

 

 

そう言って笑うと、主上と共に消えた。

 

 

____________________

 

 

「と言ったわけで一度退いた。また来るから備えろ」

 

 

「そうですか・・・怪我はないですか?」

 

 

「鞍馬と犬走が気絶した。後は白狼天狗14名、鴉天狗3名が軽傷。後そこで包帯巻いてる馬鹿が重傷。私は軽い火傷だ」

 

 

「いやいや、僕だけ本気で掴みに来たんだよ?そりゃこうなるって・・・イテテ、幽香、ありがと」

 

 

「そうですか・・・これからどうなさいますか?」

 

 

私は顎に手を当て、考えていると幻夜が手を挙げた。

 

 

「はーい。ちょっと思いついたんだけど、いい?」

 

 

____________________

 

 

前回の侵攻から2日後、雨が降ったこと以外は何もなかった。

再び鬼達は山を侵攻するが、その足が止まる。

 

 

「おい・・・こんなとこに池なんかあったか?」

 

 

鬼達の前に立ち塞がるのは池だった。底は濁っており、泥沼に近い。

鬼達は迂回しようとするが、他の道は崖ばかり。仕方なく渡ろうと、鬼の一人が足を踏み入れた。

 

 

「お客様ご案内ーッ!」

 

 

案の定何かが飛び出した。飛び出した幻夜は鬼の足を掴むと、そのまま引きずり込んだ。

 

 

「おい!大丈夫・・・うおっ!?」

 

 

慌てて駆け寄ろうとした鬼もまた、幻夜に引き込まれた。

 

 

「今だ!囲んで沈めてやれ!」

 

 

風魔の号令と共に、木の上に隠れていた鴉天狗達が風で鬼達を飛ばし始めた。

 

 

____________________

 

 

「沼に近い池を作れだと?」

 

 

「そそ、池。水中戦なら侵二にも負けない自信あるよ?」

 

 

「でも、そんなもの作っているとバレバレじゃないですか?」

 

 

「そうね・・・でも川じゃ大きさが足りないわね」

 

 

「そうなんだよ、そこで風魔なんだよね。・・・伊織ちゃんは風魔の能力知ってる?」

 

 

「えっと・・・災害を操るんでしたっけ?」

 

 

「あっ」

 

 

「幽香は分かったみたいだね。じゃあヒント。端的に言うと雨でもなんでも水が欲しいんだよね」

 

 

「あーっ!!」

 

 

「分かったっぽいね。じゃあ風魔・・・」

 

 

____________________

 

「まさか、自然現象に見せかけて雨を使うとはな」

 

 

「いや、マスターが俺は雨男だって言ってたから、これぐらいなら自然現象だと思うかなーって」

 

 

私が幻夜の奇才に呆れていると、本題がやって来た。

 

 

「ああ・・・罠でしたか・・・どうも鬼は強いですけど、集団では使いにくいですねえ・・・」

 

 

侵二が呆れながら二枚の羽を網のようにして鬼達を掬い上げ、そのまま私達に「出直して来ます」と言い残して消えた。

再び迎撃する事が出来た。

 

 

そんな時だった。

 

 

「風魔様ーッ!報告ですーッ!」

 

 

アレが来たのは。

 

 

 

次回へ続く

 

 





侵二の口から光線の案は、この前体調不良でゲロ吐いた時に閃きました。発想の元が汚い事が第一の欠点ですけどね。


次回もお楽しみに。


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第四十三話 乱入


そこそこ早めの連続投稿です。
またズルズルとネタを引きずり出していきます。ロクなネタ出ませんけど。


ゆっくりご覧ください。


 

 

「壊夢が・・・!?」

 

 

「あ゛!?あの馬鹿帰ってきたのか!?」

 

「は?頭おかしいんじゃないの?」

 

 

「ダメですねこりゃ、アイツ来たら負けです負け」

 

 

彼方此方で壊夢が来たとの連絡を受けた、又は知った彼らは、各々の言葉ではあるものの、おおよそ馬鹿が帰って来たと捉えた。

 

 

「壊夢という方がどのような方かは分かりませんが・・・現在進路上の海を割って何かが来ています!」

 

 

風魔は頭を抱え、舌打ちをした。

 

 

「全員を下げろ!死にたくなかったら山頂へ退避!幻夜!」

 

 

「ほいさ!」

 

 

「幽香殿の所まで戻るぞ。いいな?」

 

 

「はーい。流石に壊夢はねぇ・・・」

 

 

____________________

 

 

「てな訳で戻ったよー」

 

 

「悪いな。とんでもないことになった」

 

 

「とんでもないこと・・・ですか?」

 

 

「うん。山壊れるかもよ?」

 

「妥当だろう。・・・アイツが何をしたいか分かるか?」

 

 

幻夜と風魔は互いに首を横に振り、苦笑した。

 

 

「だな。全く、もう少し大人しく里帰りをしていれば良いものを・・・」

 

 

「そだね、連絡も無かったから、余計アレじゃない?マスターとか噴いてんじゃないの?」

 

 

「だろうな」

 

 

「で、ホントにどうすんの?このままだと山どころかここら一体消えるんだけど」

 

 

「仕方あるまい、主上を呼ぶか「その必要はねえぞ。あんなしょーもない喧嘩してる暇ねえ程やべえからな」・・・来たか」

 

 

伊織や幽香が顔を強張らせて声の主を探すが、何処にもいない。

 

 

「・・・良いから出て来てくれ。妻が落ち着かん」

 

 

風魔が手をヒラヒラと振ると、風魔の目の前に男が二人現れた。

 

 

「わりーわりー」

 

 

「久しぶりですね、風魔、幻夜、伊織殿、幽香殿」

 

 

「あっ!ラーメン屋の人ですよ!風魔!」

 

 

「お、覚えてくれてんのか?嬉しいねえ」

 

 

龍一と侵二だった。

 

 

「にしてもまあ、まさかお前らが嫁を持つとはねえ・・・「まだこっちはしてないよー」・・・そうだったな、じゃあ彼女か」

 

 

「主上、流石に今はやめときましょう、割と真面目に全部吹っ飛びます」

 

 

「いやまあそうだけどな。じゃあ風魔、条件提示」

 

 

侵二が世間話をしようとする龍一を諫め、龍一はやれやれと首を振り、手に紙を出した。

 

 

「心得た。・・・一応引き分けではあるが、貴公ら、まあ要するに鬼を入れる事を仕方なく許可。その代わり殺害は御法度だ。一人でも意図的に殺した場合、私が全員の首を即、落とす。居住区は指定しない。そちらは?」

 

 

「よし、じゃあ此方はお前らのとこにあるらしい酒を要求「それが目的だな」ご明察ゥ!・・・後は仲良くしようぜって事ぐらいか。元々酒狙いで攻めるというか、脅しに来ただけだしな「傍迷惑な」だまらっしゃい」

 

 

「伊織、何か問題はあるか?」

 

 

「えっとですね、鬼の所に河童も入れて下さい。あの子達もウチの住人になるんです」

 

 

そうか、そうだなと風魔は苦笑した。

 

 

「そこまで回らなかったな。助かる」

 

 

「もっと褒めて良いんですよ?」

 

 

「後でな。・・・さて、本題だ」

 

 

龍一の目つきが鋭くなり、ニヤリと笑った。

 

 

「ああ、現在進行形で帰国中の化け物をどうするかだな?侵二!」

 

 

畏まりましたと、侵二が紙を開いた。

 

 

「こちら、今回の妖怪の山のそちらの兵力総合図と、此方のメンバー確認の為の名簿となります」

 

 

「貴様いつの間にそんな物を!?」

 

 

侵二はにこりと笑い、悪どい笑みを浮かべた。

 

 

「企業秘密です。どうやって作ったかも黙秘権を行使します」

 

侵二が地図を指差し、説明を始める。

 

 

「先ずは様子見・・・と言いたいですが、別にここはげえむとやらの世界ではありませんので、初めから全力で潰します「壊夢からすると無双ゲー確定だな」「違いないな」・・・では一軍から。天狗総兵力480名、鬼、過半数の230名総出撃。二軍、鬼120名、その中に副大将の伊吹萃香(いぶきすいか)、星熊勇儀(ほしくまゆうぎ)、それと私、主上、幻夜、幽香殿。三軍、風魔、伊織殿、此方の総大将、茜殿。これで行きます」

 

 

一つ質問よろしいですか、と、伊織が手を挙げる。

 

 

「風魔から聞いてるんですけど・・・ここまでする程、その、壊夢さんとやらはやっぱり危険なんですか?」

 

 

風魔は苦笑し、真顔で答えた。

 

 

「ああ、危険だ。細かく言ってなかったな。アイツがその気なら山なんぞ拳圧ですっ飛ぶ。・・・まあその点で言うと、私だって片手で集落一つを滅ぼせるし、幻夜なら山一つを氷山に変えられるし、侵二なら山一つの住人全部を喰ってしまうな」

 

 

「あ、もうそれ頂きました」

 

 

侵二がにこりと微笑み、伊織が固まる。

 

「まさかお前、コイツの結婚予定の相手の住んでいた山から逃げた奴が居なかったとの連絡があったが、まさか・・・!?」

 

 

「ああ、なんか入れるか入れないか喧嘩してましたねそんな事で。関係なく全部胃の中ですね。ご馳走様でした」

 

 

近くにいた野郎共以外、つまり幽香と伊織が戦慄し、微かに震える。

 

 

「落ち着け伊織。・・・で、何人喰った」

 

 

「大丈夫、幽香。僕がいるから・・・で、何人?」

 

 

「そうですねえ・・・270ぐらいですかねえ」

 

 

侵二が微笑み、伊織と幽香に軽く声をかける。

 

 

「安心して下さい、もう暫くはこんなに食べませんから」

 

 

侵二のその声が聞こえたのか、聞こえなかったのかは分からない、そもそも関係ないのかもしれないが、突如地鳴りが響いた。

 

 

「来たぞ馬鹿野郎が・・・!!」

 

 

「ちょっと、今のなんですか!?」

 

 

「壊夢が上陸した音だ」

 

 

「大き過ぎますよ!!そもそもここ海から離れた山ですよ!?と言うか何で壊夢さんとやらが来たのが分かったんですか!?」

 

 

「壊夢が海を渡る」

 

 

龍一が葉巻を咥えて左手が光線銃になっていそうな男の様なポーズを取り、片足をテーブルに乗せて地平線の方を向いた。

 

 

「渡るとどうなるんですか?」

 

 

「知らんのか」

 

 

龍一は振り向き、やけに余裕そうな顔で冷や汗を流しながら口を開いた。

 

 

「海が割れる」

 

 

誰だってこう思う。左手が銃の男だってここにいたら流石に思うだろう。

おかしいだろと。流石に葉巻きぐらいは落とす。

 

 

「海・・・割るんですか?」

 

「んー、多分歩く度にちょっと力入れた足踏みの風圧で水が逃げるんじゃねーかな」

 

 

誰だって震える。ターバンのガキが聖帝の足にナイフを刺す位置がズレるほど戦慄する。刺された場所がいつもと違った方の聖帝様だって戦慄する。隣でピラミッドの頂上を支えてた人も驚く。お師さんも驚いて蘇生する。

 

 

「いやそんなまさか・・・」

 

 

「それを軽い感覚でやるから凄いんだよねー」

 

 

もうこうなると頭を撃たれて失った、顔が人に近い水の上を歩く鹿も怯える事は間違いなく、光線を口から三度撃って虫を焼いて崩れ落ちた生物も撃つ前に自決し、天空に浮いていた石で浮かぶ城だって落ちる。メガネかけた大佐が目をやられる前に落ちる。

 

 

「そ、そんな化け物が、来るんですか・・・?」

 

 

「そろそろ来てんじゃねーの?」

 

 

再び地鳴り。幽香と伊織は飛び跳ねて驚く。

 

 

「こ、今度は!?」

 

 

「アレは・・・飛んだ音ですね」

 

 

「なんだ・・・飛んだだけですか・・・ん?」

 

 

伊織が安心の溜息を吐くが、ダメなことに気がつく。

 

 

「壊夢さん飛べるんですか!?」

 

 

「そりゃ飛べますよ。海割れるなら飛べるでしょう」

 

 

絶対に怒りで湖を割った石像様には真似して欲しくないことをしながら、とうとう壊夢が三度目の地鳴りを起こした。

 

 

「ちゃ、着陸、ですか?」

 

 

「いや、クシャミだ「クシャミ!?」・・・冗談だ、降りて来たな」

 

 

「準備は終わってますよ。そろそろ来るでしょうね」

 

 

全員が息を呑む中、先程よりは弱いが、連続して地鳴りが響く。龍一が張り詰めていた空気を破った。

 

 

「・・・走って来てね?」

 

 

「来てるな」

 

 

「全速力で来てますね」

 

 

「めっちゃ走ってるね」

 

 

「「「「・・・・」」」」

 

 

「ヤバくね?」

 

 

「マズイですね」

 

 

「ダメだな」

 

「絶対危ないよね」

 

 

「「「「・・・・」」」」

 

 

「伊織、天狗は全員だったな」

 

 

「はい」

 

 

「侵二、鬼は230だったな?」

 

 

「そうですね」

 

 

「「「「・・・」」」」

 

 

「伏せろおっ!!」

 

 

龍一の絶叫が響き、その場の六人は伏せる。

直後の轟音と風圧。

 

 

「な、なんなんですかこれ・・・!」

 

 

「この風圧、本当に生き物なの・・・!?」

 

 

突風、それにより屋敷は軋み、天狗や鬼の絶叫が響き渡る。

 

 

そして突風が収まった頃には、一軍として出ていた天狗と鬼は、

 

 

全滅。

突風によりそこいらの木々に引っかけられ、そのまま気絶。

 

 

「お、終わったんですか・・・!?」

 

 

「何よ、今の・・・!?」

 

 

侵二が飛び散った紙を整えながら、溜息を吐き、龍一が腰を叩きながら立ち上がった。

 

 

「主上、アレは間違いなく」

 

 

「ヘッドバンキング、まあ何もないところに対しての頭突きだな。それによって頭の先の空間に真空のエリアが発生し、一気に物が吸い込まれ、後ろから来る頭突きの風圧で全部が吹っ飛ぶ。「頭突き!?」「生き物が出していい頭突きじゃないわよ!?」予想通りの感想だが、やっぱ頭振ってアレとかふざけてんのかね」

 

 

壊夢が頭を上げたであろう直線上には、木、岩、崖、天狗、鬼・・・

 

 

何も無く、誰もいなかった。

 

 

 

次回へ続く

 

 





頭突きの時に振り下ろす頭が速すぎるため、空間が歪んで真空が出来る・・・
壊夢はよくゲームとかである真空波を頭で作ってるんですね。
頭の使い方が違いますよ。頭が。
で、書いてから。
何故頭突きに拘ってるんですかね?


次回もお楽しみに。


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第四十四話 畏れ見よ、壊山の体現者を

今回の戦闘の最大の抜け穴で、戦闘思考全振りのアホの集まった結果です。


ゆっくりご覧ください。


第1波の全滅。それはあまりにも早く、あまりにもありえない話だった。壊夢以外なら、の話だが。

 

 

「嘘・・・ですよね!?」

 

 

「悪いけどこれ、現実なのよね・・・って事で第2波。萃香と勇儀いるから大丈夫だろ」

 

 

再度強烈な風圧と衝撃。爆音が後から響く。しかし今度はそれで終わらず、何かと何かが殴り合う音が聞こえる。

 

 

「ごめん全然大丈夫じゃねーや。もう少ししたら裏から茜が来る。行くぞ、幽香、ボケナス、虫ケラ」

 

 

「「了解、チキン」」

 

 

「了解です、ヘタレ」

 

 

「りょ、了解よ・・・?」

 

 

龍一が頭から飛び降り、侵二が再び蜘蛛のような形になり、幻夜が幽香殿を担いで飛び降りた。

 

 

____________________

 

 

幽香を抱き抱えながら空気を踏んで跳ねていると、幽香が囁いてきた。

 

 

「幻夜。貴方は壊夢って人を抑えて。私は後ろから撃つから・・・」

 

 

「うん。無理しないでね?」

 

 

「ええ。・・・幻夜も」

 

 

地鳴りが響く。徐々に壊夢が近くなってきた。

 

 

「よーし、行くぞてめえら!」

 

 

「あ、そうだ。2軍と3軍ってどうやって決めたの?」

 

 

侵二が僕に微笑んだ。

 

 

「ダイスですよ」

 

 

選択理由が酷かった。だから2軍に侵二とマスターが同時にいるのか・・・

幽香を担ぎながら地面に着陸すると、女の子二人が壊夢と殴り合っていた。

 

 

「全然効かんぜな!」

 

 

もう何というか相変わらずで、どう見ても僕なら一発でノックアウトされるような打撃を喰らっても仰け反るどころか、微動だにしない。逆に笑う始末。もう生き物辞めてない?

 

 

「あれはもう・・・ダメですねえ」

 

 

「あいつ里帰りして何したんや、減量してるし、オーラが倍近くに見えるんだが?」

 

 

更に壊夢は前よりも細くなって、がっしりとしていた肩幅や浮き出ている筋肉は無くなっていた。待ってそれであの筋力とかゲテモノじゃん。しかも二メートル超えてるとか何?動く木?大自然そのもの?

 

 

「セアッ!」

 

 

減量した壊夢は今まで以上に早く、そして力が増していた。

 

 

「ぼさっとしてねえで行くぞっ!」

 

 

マスターが拳銃を持って接近し、壊夢に連射する。侵二が羽をバネにして突撃する。弾丸は壊夢に当たるものの、銃弾がぺしゃんこに潰れた。

 

 

「行くよ!幽香!」

 

 

僕も接近し、壊夢の足元を凍らせる。

 

 

「ぬん?・・・幻夜に、侵二、主ぜよか!」

 

 

「正解ッ!って事でくたばりやがれ!」

 

 

マスターのかかと落としが壊夢の頭に命中し、侵二が満身創痍の女の子二人を掠め取る。壊夢はメキメキと当然のように凍らせた地面を粉砕してマスターに襲いかかる。当然のように十八番封じるのやめてくれない?萎えるんだよ?

 

 

「大丈夫ですか?御二方」

 

 

「おっ、侵二かい!助かったよ!」

 

 

「あれ何なんだい?茜より頑丈な奴とか初めて見たよ?」

 

 

「まあ、あれが俗にいう檮杌です。そこにいるのが援軍の混沌、幻夜。そしてそのガールフレンドの幽香殿です」

 

 

「よろしくー、伊吹萃香と星熊勇儀だよね?どっちがどっち?」

 

 

二人のうち子供の時の縁ぐらいの大きさの子が答えた。

 

 

「私が伊吹萃香。そっちが星熊勇儀だよ。・・・もっと混沌って人相悪いと思ってたよ」

 

 

「よく言われるよ。後そんなぼーっとしてるんだねって言われる」

 

 

そんな人相悪いと思う?・・・まあ命令されるなら殺すような僕だけどさ。

 

 

「自己紹介してるのは良いけどよぉ!俺が一人でやってんの忘れんなよ!?」

 

 

もう筋肉馬鹿と呼べない程細マッチョになった壊夢の拳骨を受けながらマスターが叫ぶ。

 

 

「あ、幽香!行っちゃって!侵二もちょっと手貸してあげて!」

 

 

「はいはい。こうですか?」

 

 

幽香が日傘を構え、その背後に侵二が立って幽香の手を取る。

・・・なんかすっごい嫌な気分。

 

 

「ええ。・・・【マスタースパーク】」

 

 

侵二が口から発射していた光線の倍以上の火力の光線が射出され、壊夢とマスターを包む。マスター共々食らってて笑う。でもなんかイライラする。

 

 

「侵二、幻夜、貴様等アッ!?」

 

 

マスターの壮絶な叫び声と共に壊夢はしめやかに爆発。

そして当然のように咳き込みながら出てくるマスターと、豪快に笑いながら無傷のまま出てくる壊夢。揃いも揃って頭おかしいと思う。

 

 

「ゲホッ!壮絶なフレンドリーファイアを見たぞ貴様等・・・」

 

 

「ハッハッハ!!何とも景気のいい一撃ぜよなぁ!?」

 

 

幽香は愕然とし、侵二はやれやれと首を横に振る。

 

 

「そんな・・・無傷なの!?」

 

 

「呆れました、クソ程も効いてませんね。主上、どうします?」

 

 

「知るか。こうなりゃタコ殴りして諦めてもらうしかねえだろ」

 

 

そう言って侵二とマスターが消え、壊夢の周りを走る。仕方なく僕も混ざって壊夢を囲むように走る。

そのまま三人のうち誰かが壊夢に攻撃を仕掛けていく。一度当てると再び周りを走る。何度も何度も壊夢に攻撃があたり、壊夢が少しだけ後ずさる。マスター、侵二、マスター、僕、僕、侵二、僕、マスター・・・連撃を続けていると、壊夢が右足で地面を踏みしめた。

直後三人共吹っ飛ばされた。

 

 

「ゴホッ・・・!?」

 

 

何が起きたか分からなかったけれど、外傷がない事から、壊夢の衝撃波だと分かった。ふざけないでよ。

壊夢がいる位置から半径一メートルの場所は、何かに押されているように凹んでいた。

 

 

「気を高めて周囲に強烈な重力空間を作り上げるってか・・・ざけんな、どんな化け物だ」

 

 

マスターが血混じりの唾を吐き、手をプラプラとさせる。

 

 

「俺はこの狭いとこじゃ能力的に鎮圧は無理。ついでに肋骨と鎖骨折れた。侵二?」

 

 

「こっちは骨折はなし、・・・ただ、強烈に頭を打ちました。ちょっと視界歪みます。戦闘継続に支障が出ます」

 

 

「幻夜は?」

 

 

「大丈夫・・・だけど、アレは無理。それに萃香と勇儀と幽香連れ帰んないと」

 

 

「アタシもさっきの時に腕をやられてね・・・行けるかい、萃香?」

 

 

「私も無理だね。そもそも最初の頭突きか分かんないなんかで肋骨がね・・・」

 

 

「そもそもなんで突っ込んできたの?・・・ねえ壊夢、何で来たの?」

 

 

壊夢は僕に振り向くと、拳を打ち鳴らした。

 

 

「ちと面白い噂を聞いたぜな、鬼子母神っちゅう奴を見に来たぜよ!」

 

 

「あれこれ俺ら要らなくない?」

 

 

「ですね」

 

 

「まさか聞かずに対策してたの?脳筋じゃん」

 

 

「それな」

 

 

途端に頭が痛くなる。馬鹿な僕だってわかる。無駄な事やってたんだよね。これ全部。そもそも壊夢が帰国したからってそんな戦乱に首突っ込むような奴じゃないし、よくよく考えると危険なのは危険だけど、挑まなければ良いよね。

ひょっとして伊織ちゃんの言ってた壊夢さんは危険なんですかの質問はこの意味だったのかも。もうみんな戦闘に汚染されてる?

 

 

「これどうすんの?」

 

 

「面白いからほっとこうぜ。なあ壊夢!山吹っ飛ばす気あるか!?」

 

 

「ねえぜよ!壊すとマズイぜよか?」

 

 

「風魔が結婚してな!ここに住んでるんだ!」

 

 

「おお!なら壊さんように鬼子母神とやらと喧嘩するぜよ!」

 

 

もうなんか色々と酷い。普通に話通ってるじゃん。吹っ飛んだ鬼と天狗無意味じゃん。すごい可哀想なんだけど。後風魔何も知らずに喧嘩するじゃん。もっと苦労してるじゃん。泣いて良いよ。

侵二が山頂に失敗のサインを出す。と同時に山頂から何かが飛び出して空に消え去り、しばらくして成層圏から紅い何かが突っ込んでくる。

 

ん?成層圏?

 

 

「貴様等・・・!!良い加減にしろおアッ!!」

 

 

奇声を上げながら燃える風魔が落ちてくる。

・・・さっきまでの聞こえてたの!?

 

 

「許さんぞ貴様等ッ!?こぞってふざけおって!受ける側の身になれっ!!鬼は許そう、幻夜も幽香も非がない、壊夢も許そう。だが貴様等は許さんッ!!」

 

 

徐々に接近する隕石、もとい風魔。それはマスターと侵二を狙って落ちてくる。

 

「オイオイオイ・・・侵二?」

 

 

自分の死期を悟ったような表情をした龍一が侵二に笑うと、侵二も微笑み返す。

 

 

「動けません。ダメでしたねえ・・・ダイスで決めちゃダメですね!」

 

 

「全くだ」

 

 

「でありゃアッ!!」

 

 

そうして火の玉となって落ちてきた風魔を、

 

 

「まあまあ、待つぜよ」

 

 

壊夢が片手で止めた。もうやだこのメンバー。これだから混沌の僕まで魔境入りしてるって思われるんだけど。入ってないから。

 

 

「離せっ!私はそこの二人を斬らなければ済まんッ!」

 

 

「風魔クッソキレてんじゃん」

 

 

「風魔人怒る!ですかね?」

 

 

「ア゛ァ゛ッ!?」

 

 

「・・・すいませんでした」

 

 

「大変申し訳ございません」

 

 

風魔が生き物かどうか怪しい脅しの声を上げると、流石のマスターと侵二も頭を下げた。メラメラと燃えていた風魔はどんどんと収まり、火が消え始めた。

 

 

「・・・チッ、このど畜生共が。壊夢、貴様もだ!元から鬼子母神と喧嘩したいと言えばよかろうに、何故わざわざ荒らしに来た!と言うか何故痩せた!?」

 

 

「いやー、鬼子母神とやらのいる場所がいまいち分からんかったんぜよ。痩せたのは修行ぜよ!」

 

 

修行とか笑うしかない。どうやったらあのバッキバキの筋肉が落ちて痩せた癖に前より化け物並みの筋力がつくんだろーね。

 

 

「このボケナスが・・・やめだやめ!馬鹿らしくて斬る気にもならん!・・・中学生じゃあるまいし、気分で動くな」

 

 

風魔は煙管を取り出して吸いながら、大きなため息を吐いた。

 

 

「壊夢、頂上に茜殿とやらがいる。それがお前の探している鬼子母神だ。・・・その辺りの広場は使わせてやる。巻き込まずにやれ」

 

「お!?ええぜよか!?」

 

 

「嫌という程鬼畜ではない。・・・好きにしろ」

 

 

そうして嬉しそうに拳を振るう壊夢に対して微笑んでいる風魔は、ちょっと呆れ顔が見えたけれど、本当に楽しそうだった。

 

「めでたしめでたしだな。じゃあ帰るか「待て」・・・何でございましょう風魔さん?」

 

 

風魔は僕と幽香を指差して言った。

 

 

「この二人は別として、片付けるよな?」

 

 

マスターに向けて笑う風魔は、いつも通り楽しそうなとっても悪い笑顔を浮かべていた。

 

 

次回へ続く




はい、そうですね。
一言も誰も壊夢が山を滅ぼしに来たか確認してませんでしたね。
馬鹿です。固定観念って怖いですね。


次回もお楽しみに。


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第四十五話 夢


皆様、元気でしょうか。
私は瀕死です。


ゆっくりご覧ください。


「じゃあ鬼、天狗の皆様が全員無事に見つかったので始めます。・・・全くなんで一々私を審判にするんですがクソが。しかも?試合するのは茜殿と壊夢?勝者は敗者に一個言う事を聞かせる?いつからそんなくっだらない事やり始めたんですかね?「掃除させるぞ」・・・分かりましたよ、適当に引いたラインから出たら負けですからね?初めっ!」

 

 

そう言いながらもやる気ゼロの侵二が欠伸をしながら手を振る。

と同時に痩身の壊夢が右足を踏みしめ、周囲に岩の破片が浮かぶ。

 

 

「茜・・・お前さんと戦うのは心待ちにしとったぜよ!」

 

 

「アタシもだよ!・・・まさか、檮杌に目をかけられてるとは驚いたけどね!」

 

 

茜が接近し、かつて俺と戦った時とは比べ物にならない・・・具体例で幻夜が八人、八幻夜が吹き飛ぶ程の勢いで拳を振る。壊夢はそれを真正面から受け止め、暴風と衝撃を巻き起こす。

 

 

「やるのぉ・・・やはり鬼っちゅうのは強いぜよなぁ」

 

 

続いて壊夢が膝蹴りを茜に打ち込む。威力は九幻夜。

茜は両手で受け止める・・・が衝撃で浮かび上がる。

 

 

「お!?」

 

 

「どありゃあっ!!」

 

 

そのまま壊夢は茜の服を掴み、上空で一回転、地面に叩きつける。

割と真面目に速度とアクロバティックさが不足していた壊夢にアクロバティックの能力を入れないで欲しい。まだ遅いものの基本速度も上がってしまった。

 

 

「ッ・・・!!」

 

 

そのまま壊夢は着地。しかし叩きつけた筈の茜はすぐに起き上がり、壊夢を掴んだ。

 

 

「貰ったあっ!」

 

 

茜による背負い投げが成功し、壊夢が逆に地面に叩きつけられる。しかし壊夢は投げた茜から手を離さず、そのまま巴投げに持ち込む。

ちなみにそれぞれの破壊力は、壊夢の回転叩きつけが十二幻夜、茜の背負い投げが七幻夜、巴投げが五幻夜だ。

火力バカの壊夢は勿論、茜もかつて筋力を底上げしたスペックの俺と一時間殴り合った事があるので火力耐久力共に負けていない。もうお前日本最強妖怪や。

 

 

「・・・こうして殴り合える奴に会えるとは、夢にも見とらんかったぜよ」

 

 

「そうかい?私も好みの大男と戦えて満足だね!・・・アンタはコレ、耐えられるかな?」

 

 

茜が一度息を吸い、次の瞬間揺らぎ、消える。

 

 

「破ッ!!」

 

 

「・・・ッ?」

 

 

そして周囲一帯への衝撃、その中心には腹、内臓に掌底を受けた壊夢。

周囲への衝撃で既に十二幻夜。恐ろしい威力なのが分かるが、更にとんでもない事になっていた。

 

 

壊夢が俺と出会ってから見た限り、初めて顔を歪めた。

・・・あの耐久バカが痛みを感じた。あの痛覚ガン無視筋肉バカが、だ。

 

 

「馬鹿な・・・」

 

 

「おやおや・・・」

 

 

「・・・凄いじゃん」

 

 

他の四凶も異常に気がついたらしく、久しぶりに皆鋭い眼光になっていた。

何より壊夢が一番驚いていた。

 

 

「・・・おお?」

 

 

壊夢がぐらりと膝をつく。壊夢はしばらく困惑していたが、やがて虎程度なら目が合っただけで死にそうな眼光を光らせながら立ち上がった。

 

 

「・・・これが、痛みというもんぜよな・・・確かに痛いぜな!」

 

 

「あんた・・・立つのかい・・・!?」

 

 

茜が驚きの呻き声をあげる。・・・それもそのはず、圧縮された推定百幻夜の威力が腹にぶち込まれて、あの怪力バカは立っているのだ、てかここまできて未だ無傷なのはナメてんのか?

 

 

「応、効いたぜよが・・・まだ倒れはせんぜな!」

 

 

痛みを訴えているものの、当然のように吐血も骨折もしていない馬鹿は拳骨を構える。壊夢の全身から煙が上がり、拳が局所的に赤熱化する。

壊夢の掌から汗が垂れ、汗は地面を熱で溶かしながら蒸発する。

壊夢が僅かに動くにつれ、熱気が周囲を包む。

 

 

「・・・さて、こっちも一発行くぜよッ!」

 

 

壊夢が足を一歩踏み出し、一歩で茜の目の前に迫る。

 

 

「なっ・・・」

 

 

茜の顔面へ拳が放たれる。

同時に拳圧が周囲を襲い、熱気が周囲の気温を十度上げる。

本題の拳は周囲の空気を燃やしながら突き進み、茜の顔面へ迫る。

 

 

「っ・・・」

 

 

がしかし、当たる事は無かった。壊夢はすんでのところで止めており、顔はにこやかに笑っていた。火力二百五十幻夜。

 

 

「足が線から出とるぜよ」

 

 

「え?あ?は?・・・確かに出てますね。決着。壊夢の勝ちです」

 

 

決着。周囲が完成と安堵に包まれる。そりゃ誰だって燃える拳を喰らう茜なんて見たくないからな。安心するわ。

 

 

「負けた・・・か。実力もだけど、気合も足りないって事だね・・・」

 

茜が少し残念そうに、それでも嬉しそうに笑う。

 

 

「戦えて良かったよ、ありがとう」

 

 

「おう!こっちも楽しかったぜよ!・・・後、これから頼むぜよ!」

 

 

「え?これから・・・かい?」

 

 

すかさずと言ったように、ニヤニヤとしながら侵二が壊夢に歩み寄る。

そして茜を馬鹿にするように眺めながら、壊夢に笑った。

 

 

「では勝者壊夢。茜に要求するのは?」

 

 

「応、茜、お前を貰うぜよ」

 

 

「・・・へ?」

 

 

ポカンとした茜を放置したまま侵二は微笑み、高らかに宣言する。

 

 

「勝者壊夢の宣言ッ!この試合において勝った壊夢は、茜を要求ッ!よって茜の意思関係なく、自動的に茜は壊夢の妻となるッ!」

 

 

「は、はぁぁっ!?」

 

 

巻き起こる歓声。やっとあの茜さんに旦那が出来たと嬉し泣きをする鬼達。くっそー負けたーと言いながらも幽香と拍手を送る幻夜、やれやれと首を振りながら拍手する風魔と、嬉しそうに拍手をする伊織。

これでもう鬼が攻めてこないと別の事に安堵するも、賛辞の拍手を絶やさない天狗達。

 

 

それぞれ勝手ではあるものの、茜と壊夢に拍手を送った。

 

 

「・・・いや、その、待ってくれないかい!?」

 

 

しかし、突如の茜の叫びに場は静まり返る。

 

 

「え、そんなに静かになるのかい・・・?あの、壊夢、アタシて良いのかい?その、飯も下手だし、風魔の隣にいる奥さんみたいに出来ないだろうし、可愛くもないし・・・」

 

 

ポン、と身長が220センチに伸びた壊夢が195センチの茜の頭を撫でる。デカイ。

壊夢は頭を撫でながら、にこりと笑った。

 

 

「ほんなら俺は、顔も良くない、風魔みたいに真面目でもない、侵二みたいに優しくもない、主みたいに賢くもないぜよが、本当に俺で良いぜよか?俺はお前みたいな奴を嫁にできるのに、これで満足出来んのはそうそうおらんぜよ。・・・俺は茜、お前が欲しいぜよ。俺で構わんか?」

 

 

茜は少し涙を滲ませて、頷いた。

 

 

「そこまで言われちゃ、仕方ないね・・・」

 

 

「良かったな、鬼」

 

 

「だから茜だって・・・まあいいか、ありがとね、侵二、こんな巡り合わせ、すると思ってなかったよ」

 

 

ん?巡り合わせ?

 

 

「おい、侵二、巡り合わせってお前・・・」

 

 

「ああ、壊夢を呼んだのは私です。来ないなら諦めるつもりだったんですけど、お前に会いたい女がいるって伝えたんです」

 

 

「すると貴様が主犯か・・・」

 

 

ゆらりと風魔が立ち上がり、侵二を睨む。侵二は悪びれもなく答えた。

 

 

「そうなりますね。・・・ごめんなさい、風魔」

 

 

ぺこりと侵二が頭を下げると、風魔は目を見開いた後、微笑んだ。

 

 

「そんな顔を見たのは久しぶりだな・・・構わん、許そう」

 

 

そんな顔と聞いて侵二を見て、俺は絶句した。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

いつもなら静かな微笑みで済ますような侵二が、まるで悪戯が見つかり、ちょっと照れ隠しに笑っている顔があった。女なら惚れてた。

 

 

「んじゃ風魔、契約通り住みたい鬼は住ませてやっていいか?」

 

 

「好きにしろ。壊夢、貴様も茜殿とここに残るか、新しい場所を探すか、選べ。・・・まあ、初めは慣れんことも多いだろうから、ここに残る方を勧めるがな」

 

 

どいつもこいつもイケメン過ぎる。・・・前世には、こんな骨の髄まで仲のいい奴らは俺には居なかったな。キチガイの親友はいたけどな・・・

 

 

「・・・じゃ、しばらく世話になるぜよ。じゃが家は・・・」

 

 

「しばらく私と風魔のを使ってください!ウチ、とっても広いんです!」

 

 

「・・・ええんぜよか?」

 

 

「コイツがいいと言うなら良いんだろう。半分使え」

 

 

風魔が頷きながら煙管を咥え、伊織に手を叩かれ、渋々と諦めて煙を吐き出す。吸ってんじゃねえか。

 

 

「・・・すまん、借りるぜよ」

 

 

「ようこそ、我が家へ」

 

 

やけにラスボス感満載の声と笑顔で風魔が壊夢を歓迎する。良い事だと思い、次の瞬間後悔した。

 

 

「では壊夢の歓迎会と洒落込んで飲むか」

 

 

「おお、ええぜよな!」

 

 

勿論、この後酔い潰された。

 

 

次回へ続く





左人差し指を突き指で痛め、右肩が肩凝りで上がらず、花粉で鼻と目がイカれ、腹痛で寝れません。

去年無病息災だったツケですかね。


次回もお楽しみに



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第四十六話 悪夢


右腕がこう、バキョッって音出して治りました。
これ無事なんですかね。


ゆっくりご覧ください。


別に、人生に飽きたとかそんなんじゃない。普通に楽しい事も面倒な事もあるし、退屈していない。

別に辛いわけでもない。話せる親友や友達は多い、家族はいる。いじめられたりとかそんなのもない。あっても逆にからかってる。

別に死にたい訳じゃない。死んだら読みかけの本はそこで終わり、友達や家族とも話せない。書きかけの小説と言えないものも書けない。ゲームもまだ発売前のがある。楽しみにしている。

別に病気でもない。至って健康で馬鹿は風邪ひかないを体現したようなものだ。怪我すらない。

 

きっかけは分からない。そもそも何故この思考に行き着いたかも覚えていない。

単に深夜、ぼーっとしていると、死ぬ時どんな感じなのだろうかと思っただけだった。

その時はそんなくだらない事がどうしても知りたくなった。

死ぬ前はどうなのか、苦しいのか、楽なのか、何も感じないのか、眠いのか。

死んでからどうなるのか、本当に意識は無くなるのか、それとも地獄に行くのか、天国に行くのか。はたまた別世界か。転生とは本当にあるのか。

 

本当に何となく、自分が何なのか知りたくなった。

今自室から空を見上げているとして、空を見上げている私は誰なのか、と考える私は誰なのか?と考えるのは誰で、何故そんな事を考えるのか。

そしてふと周りを見渡すと、自室がある。そこに無造作に置いてある本があるとして、それは本当に自分のものか?

いや、今、何を考えている?その考えている主は本当に自分か?

 

 

自分でも何を考えているか分からなくなってきたので、軽く座っていた椅子から立ち上がる。

向かうのは洗濯物を部屋干しする為に吊るしてある紐。

それをロフトにかける梯子に結びつけ、取れない事を確認する。

キャスター付きの椅子を梯子に密着させ、足場にする。

紐を自分の首にかけて、外れない事をチェック。遺書は無し。

椅子の上に立って、紐を首にかけたまま椅子を蹴って離した。

ぐっと首に紐がかかる。頭がくらっとする。

 

 

プツリと首を吊ろうとした紐が切れた。

 

 

_____________________

 

 

・・・久し振りに前世の夢を見た。何せ火事で死んだ俺は、その前日に自殺しようとしていた。

と言っても特に嫌な事はなく、自殺するとどんな感じかが取り憑かれたように気になって実行した。

今考えると滅茶苦茶おかしい。

結果は失敗。うまく死にかけたが、紐が元々洗濯物を干すためのものだったので千切れた。細い上に脆かった。

おかげで落ちた後も特に何もなく、ああ失敗したという感情だけだった。もう一度やる気は馬鹿らしくなったのか、無かった。

深夜二時。親にも誰にも気付かれず、俺の自殺は失敗した。終わってから少し、笑ってしまった。

その日の違和感を払拭するために次の日にデパートに行ったのだが・・・まあそこで死んだ。結構火傷が痛かったような気がする。あまり記憶にない。あるのは焦げ臭さが残るだけの記憶。やはり死ぬ瞬間と死後すぐはよく分からなかった。

・・・だから物を殺すのに抵抗がないのかもしれない。誰も死ぬ瞬間が分からないから。殺したタイミングが分からないから。

 

 

・・・寝覚め最悪の夢から覚めた俺は、相も変わらず酒のせいで死屍累々となって、朝日で不気味に照らされている天狗や鬼を片っ端から起こし、風跡がないので今回はおそらく単独犯の壊夢を起こす。

 

「・・・おお?主ぜよか?」

 

 

「ぜよか?じゃねえんだよこのクソ野郎。人のこと言えんが宴会後に100人ぐらい潰すのやめろや」

 

 

壊夢を再度蹴ろうとするが・・・隣で茜が寝ているのを見て諦める。

まさかと思い周りを見渡すと、寄り添って寝ている風魔夫妻、眠りながら座っている幽香に膝枕されながら寝ている幻夜、立ちながら大人しく眠っている侵二がいた。

・・・全員無事かよ。

 

 

「くぁ・・・おはようございます。今回は何もしてませんよ?」

 

 

侵二が欠伸をしながら起床。顔色も悪くなく、どこかのんびりとしていた。

 

 

「らしいな。・・・まあここでやらかすとそこで寝てる夫婦と壊夢にぶっ殺されるわな」

 

 

苦笑していると、風魔が起きた。

 

 

「ん・・・?」

 

 

「よう、動くと嫁さんが起きるぞ?・・・今回はめでたく皆無事だ」

 

 

「らしいね。おはよー」

 

 

いつもの野郎達は全員起きた。幻夜も幽香を起こさないようにそっと起きると、プラプラと手を振った。

 

 

「およ、今回はみんな二日酔いじゃないんだね?」

 

 

「らしいな」

 

 

「・・・すまんが、片付けるなら頼んでもいいか?・・・嫁が、な」

 

 

「仕方ねえな。じゃあ新婚も休んでろ。侵二、お前頭大丈夫か?」

 

 

「至って正常で・・・ああ、壊夢の衝撃ですか。大丈夫ですよ。そもそも大丈夫じゃなかったら審判なんてしませんって」

 

 

「それもそうか。・・・さてと、片付けるか」

 

 

俺は能力を使い、酒樽の残骸や食べカスを浮かせ、炎の義眼で一気に焼く。

 

 

「・・・あれ、なんか、マスター顔色悪くない?」

 

 

「そうか?気のせいだろ」

 

 

「そう?・・・なんか変な夢でも見た」

 

 

何でもない幻夜の心配に、ピタリと手が止まってしまう。

 

「あ、やっぱそうなんだね。・・・どしたの?」

 

 

「いや・・・別に怖い夢でもないし、トラウマでもないんだが、懐かしい夢を見てな」

 

 

「懐かしい夢でそうなる?・・・まさか、自殺しようとしたとか「っ!?」当たりかぁ、まああるよねー」

 

 

俺が幻夜を睨むと、幻夜はぺたりと地面に座った。

 

 

「僕も死のうとしたからねー。まあ止められたんだけどさ」

 

 

「・・・俺は吊り損ねて紐が切れた」

 

 

「あー、まあありそうだよね。・・・世の中結構同じのと会うよ?」

 

 

「・・・らしいな」

 

 

「まあ自殺しようとした奴なんて珍しくないよ」

 

 

そうかもしれない。前世では自殺しようと言って集まる時代だった。

集まる理由が分からないが、まあ死にたくなることはあるだろう。俺は興味本意で死のうとしたが。

 

 

「でも、死ねば終わりなんだよね。死んだら何しようが、仲良く死のうが肉と油の塊。周囲から悼まれても、慰められても、慰められるのは肉の塊。生きていた僕じゃない。・・・肉の塊になって死ぬより、無様に生きて、慰めてもらえ。・・・って言われたんだよね。僕は」

 

 

そう言って幻夜は左半分の顔を指差す。

 

 

「ま、そんなわけで、変な夢とか、悪夢って考えなくてもいいんじゃない?多分そこで立って寝てたのはもっと変な夢見てるだろうし」

 

 

「・・・だな。すまんな、変な話して・・・ん?お前か、話振ってきたの」

 

 

「そだね。まあ解決したなら万事解決だね」

 

 

「そこー、サボってないでさっさと燃やして下さーい」

 

 

「はいよー」

 

 

あらゆるゴミを焼却し、山の抉れた地形を戻し、終わりかと思った途端、力が完全に抜け、動かなくなった。

 

 

「・・・何寝てるんですか、体でも悪いんですか?」

 

 

「・・・かもしれん。壊夢、お前俺に何本飲ませたー?」

 

 

壊夢は不思議そうに首を傾げた。

 

 

「俺は飲ませておらん。主は一本も飲んどらんと思うぜよが?」

 

 

「マジ?」

 

 

なら何処か悪いのかと思って体を動かすと、一箇所だけボキリと鳴った。

 

 

「・・・やべ、首の骨折れてら」

 

 

「はあ?」

 

 

どうやら脳に繋がる全神経を骨が圧迫していたらしく、再生させると力が入り始めた。

 

 

「おー、治った治った。すまんな」

 

 

「・・・とんでも無いことやらかしたのの分かってます?」

 

 

「神経が圧迫されてる状態で動いてるってことだろ?そりゃ痺れてた上に視界もグラグラだったけどな、まああの時よりは痛くな・・・あれ、あの時っていつだったか」

 

 

最近分かったことだが・・・生前の記憶が曖昧なところが多い。

何故か、と言ったのは分からない。どんどんと生前の記憶が薄れ、親の顔や親友の事が分かっていても顔が出ない。

転生してしまうとこうなるのだろうか・・・

 

 

「痴呆?早すぎない?」

 

 

「もう爺ですか?やめて下さいよ?」

 

 

「痴呆なのかねえ・・・」

 

 

ふと視線を感じて振り返ると、風魔が俺を見ていた。

まるで久しぶりに知り合いを見たような顔で、その割には顔を顰めていた。

 

 

「お前も・・・か」

 

 

「何?風魔も痴呆?やだねえ爺ばっかで」

 

 

「ほざけ叩き斬るぞ」

 

 

「わーこわーい」

 

 

「良いから早く最後まで片付けろよォ?」

 

 

「悪かったから羽開くな」

 

 

結局この日、俺はなんとなく別の場所に行きたくなったので侵二を連れて山を離れた。

正直、風魔に話くらい聞けばよかったと思う。

 

 

 

次回へ続く




辛い事がないのに自殺しようとする現代人って、やっぱりいないもんですかね・・・?


ありがとうございました。
次回もお楽しみに。




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第四十七話 無理難題

久し振りにぐっすり寝れました。腹痛の罪は重い。


ゆっくりご覧ください。


侵二と山を離れ、適当に借りた家で駄弁っていると、侵二が変な話を持ち出してきた。

 

 

「そう言えば・・・最近、人間と妖怪が共存できる理想郷を作ろうとする妖怪がいるそうですよ」

 

 

「ふーん」

 

 

「興味無さそうですね」

 

 

侵二が面食らった表情をするので、俺は横になりながら答える。

 

 

「だってよ、無理だろ。俺の力を持てば楽に出来上がるさ、それも半日もかかりゃしねえ。・・・だが、それは本当に理想郷か?共存は互いに認め合って、やっと成り立つものだろ?それを俺が力で圧して作ったとする。それは単なる独裁国だ。多分完璧に望み過ぎてるんだろうが、果たしてそれを理想郷と言うのか」

 

 

「・・・要は、何かをして作るのではなく、理想郷は自然に作るものであると?」

 

 

「んー・・・ま、そうだな」

 

 

他人にメスを直接入れて、創り上げるのは俺は理想郷だとは思わない。

成してきた事、それが寄せ集まって出来上がるもの。それが理想郷だと俺は思っている。

まあ、アホな理想家だな。

 

 

「人為的に作るのが悪いとは言ってねえよ?ただ、間違いなく理想郷を作ろうと思えば、障害になる生物や人がいる。果たしてそれを打ち砕いてでも全て平等の理想郷なのか。って事だな」

 

 

「他人の犠牲のもとに成り立つのは理想郷にあらずと」

 

「まあな。・・・って言っても、俺が作りたくないだけなんだがな」

 

 

「何故です?」

 

 

「怖いからさ。あたりめーだろ?理想郷を作るための土地、人、生き物、それら集めていざ作って失敗しましたごめんなさいなんて、俺は無責任過ぎて言えない。・・・成そうとする奴は、相当な馬鹿だろうよ。色んな意味でな」

 

 

「・・・では、会わせた方が良いですかね」

 

 

「は?」

 

 

侵二が空間を開き、何かを掴む。

 

 

「ついこの前誘拐されかけまして。あまりにもド下手な誘拐だったので、食べようとしたら女の子だったのでそのまま優しく話聞いてあげたら、今主上の言った面白い理想を持ってたので、狙ってました。話します?」

 

 

「話します?ってお前な・・・もう掴んでんだろ」

 

 

「まあそうなんですけど。んじゃ紫(ゆかり)殿、どうぞー」

 

 

侵二が腕をしならせて放り投げると、俺の目の前に15くらいの女の子が突っ込んできた。

 

 

「やめろや」

 

 

俺は飛んできた奴を掴み、布団にぶん投げる。

 

 

「何しやがるボケ。疲れるだろうが」

 

 

「申し訳ない」

 

 

「ちょっとは私の心配をしないの!?」

 

「おー?」

 

 

聞き慣れない声が聞こえたので、面倒だが視線を当てる。

 

 

「そもそも、誰が私を・・・ヒイッ!?饕餮ッ!?」

 

 

「お前怖がられてるぞ」

 

 

「そりゃまあ骨まで食べるぞって脅しましたけど」

 

 

「酷えな。・・・おい、紫って言ったか?」

 

 

「へ?あ、はい!」

 

 

「初めまして。龍神の龍一だ」

 

 

「は、初めまして、紫(ゆかり)です・・・って、りゅ、龍一・・・!?」

 

 

「あ、そう言うの良いから。後いきなりで悪いけど・・・早めに理想郷作るの諦めろ、人格破綻するぞ」

 

 

「なっ・・・!?」

 

 

「やめろ。作るな」

 

 

「どうしてよ!?」

 

 

「無理だから。それ以上もそれ以下もあるか?」

 

 

紫は俺を睨み、親の仇を見るような目を向けた。

 

 

「何なのよ・・・っ!」

 

 

「龍神。絵に描いた餅を喉に詰まらせる様な事言ってんじゃねえよ」

 

 

「いきなり何なのよ!急に連れ出して、「連れ出したの侵二な」・・・理想郷を作るのをやめろ!?ふざけないでよ!私がどんな気持ちで作ろうと思ってるか分かるの「理不尽さを救いたい」っ!」

 

 

「ある日人間と仲良くなったのに、妖怪だとバレるとすぐに殺されそうになる。逆に人間は妖怪の餌。どうして共存しないの?どうして手を取り合わないの・・・っ!とでも考えてるんだろ。アホか、古代人がマンモス狩るのと同じ事だぞ」

 

 

俺はそんな事をさせないように中指を立てる。

 

 

「永久に不可だ。それは焼いた魚に泳げと言うようなもの。分かったらその理想を実現しようとするな。大人しく妖怪国家でも作れ。・・・もし嫌なら・・・」

 

 

俺は突き立てた中指を地面に向ける。

 

 

「俺を監視すれば良い。無理な事を証明してやる」

 

 

「・・・最っ、底!」

 

 

「聞こえませんなぁお嬢さん?何もやめろとは言ったが、やめさせはしねえし、ここで俺の目にかかるのも面白い。呼べば助けてやろう。そして己の無力さを知り、理想を抱いて溺れろ」

 

 

紫は俺を殺そうとせんばかりに睨んでくるが、生憎生まれて100を過ぎた程度、強能力持ちの妖怪如きに負けはしないし、既に侵二が一撃で仕留められる位置についた。向こうもそれを分かっているのか、動かない。

 

 

「一個だけしつこく言う。人と妖怪が互いにしっかりと手を取り合うのは不可だ。そして出来上がったとしても、その下には数多の死骸が積み重なり、死骸の分、憎悪と絶望と悲しみがある。・・・そんな事、誰も知らなくて良いし、体験して欲しくない。・・・尚作りたいなら、勝手にしろ」

 

 

「まさか、貴方・・・」

 

 

「さあな、俺はお前の事は面白いと思うし、別に嫌いじゃないかもしれんが、その理想は大っ嫌いだ。クソ女」

 

 

「・・・私は貴方のことがとても嫌いになったわ、ゴミ男さん」

 

 

「言うじゃねえか。理想以外は気に入ったぜ、年増」

 

 

「なっ・・・ジジイ!」

 

 

「fuck you」

 

 

「ふ、ふぁ・・・?ッ、屑ッ!」

 

 

紫は吐き捨てると、自分で空間を開いたのか、去っていった。

 

 

「うわ、予想以上に荒れましたね」

 

 

「お前わざとだろ」

 

 

「ええ。そりゃあもう」

 

 

「はぁ・・・無理なんだよ」

 

 

「理想郷が、ですか?」

 

 

「ったりめえだろ。人間ですら内で騙しあって刃物刺し合うんだぜ?それ飛ばして妖怪と、とか無理無理。・・・俺が何もせずに数百億年待って世界を作ると思うか?」

 

 

「無理だったと?」

 

 

「無理。身内でぶっ殺しあって終わり。オマケでいうとどの種族もそう」

 

 

「・・・そうですかぁ」

 

「そう。・・・いつまで覗いてんだ年増」

 

 

「なッ!?」

 

 

侵二がゆっくりと小さく声のした方を振り向き、首をかしげる。

 

 

「いたんですか?」

 

 

「そりゃばっちりと。・・・箱庭を作った奴が、上から見れないわけがないだろ?」

 

 

「どーりで、義眼なんですね」

 

 

「まあな」

 

 

俺は紫を心の中の面白い奴リストの一番上に登録し、まあせいぜい挫折しろと、罵声をかけてやるのだった。

 

 

「絶対に諦めるな」

 

 

敢えて棒読みで言ってやったが、まだそこでコソコソと様子見をしている紫には、どっちとして捉えたかね。

 

 

____________________

 

 

・・・最悪だった。

 

 

始まりはある日、人間世界にうまく溶け込んでいる妖怪を見つけたと思い、少し攫って話を聞こうとしたら、逆に襲われた。しかも相手は悪名しかない饕餮だった。喰われるかと思ったが、勘弁してくれた。

 

 

饕餮・・・侵二と名乗った人は、何故侵二さんを攫おうとしたかの理由ついでに私の理想を聞いて、ほぉ、と頷きながら聞いてくれた。

侵二さんはまた主上に会わせてみましょう。と言って微笑むと、私を解放してくれた。

そして今日、龍神様に顔を合わせ、困惑している間に、

 

 

「理想郷作るの諦めろ」

 

 

そう言われた。何故かと噛みついて聞いた。龍神は面倒そうに欠伸をしながら、無理だから。とだけ答えた。

 

とても怨めしくて、憎くて、私の気持ちが分からないのにと叫んだ。

しかし見透かされた。全部当たっていた。あの人も同じ所を見ていた。けれど諦めていた。

何も言えず、睨んだ時に目が合った。

 

 

何も写していなかった。

死んだ目でもなく、かといって片方の目のように作り物でもない、吸われそうな、何処までも透き通った目だった。

まるで私の理想を実行し、諦めたような・・・

でも、真っ向から私を否定される事は無かった。あくまで理想だけを否定された。

私の事は嫌いではないと笑った。

しかし、クソ女と呼ばれるようになった。

気に入らない。

 

 

「絶対に諦めるな」

 

 

そう言われた。

 

 

・・・私はあの人が嫌いだ。龍神が嫌いになった。

今度、友人に愚痴と一緒に悪い噂を流してやろうと心に誓った。

 

 

____________________

 

 

痛快だった。頑固者のぶつかり合い。馬鹿と馬鹿の言葉の殴り合い。

攫われた時は驚きはしたものの、攫い主は少し脅すだけですぐに恐怖で染まった。

主上に理想郷が何故作れないかを聞き、そして言い合う姿を見て、笑いそうになった。

 

 

「絶対に諦めるな」

 

 

何のつもりで言ったか、私には分かりませんでしたが、どちらの意味で言ったかは、すぐに分かりました。

 

 

理想郷を作らんと志している者と、作って諦めたモノ。

やはり巡り会わせて良かったと、私は一人笑った。

 

 

きっと、二人は仲良くなれますね。

第一印象はどう見ても最悪ですけどね。

 

 

 

次回へ続く




ありがとうございました。
そして書き終えた頃に発熱しました。

次回もお楽しみに。


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第四十八話 衝撃

投稿時間で遊びました、申し訳ありません。

ここいらから紫さん視点が出始めます。

ゆっくりご覧下さい。


「か、彼氏っ・・・!?」

 

 

「・・・そうよ、何か不満?」

 

 

昨日の気に入らない龍神の愚痴を言ってやろうと、親友・・・風見幽香に会いに行くと、何故か幽香の隣に前会った侵二さん並みのイケメンがいた。

幽香は私を歓迎してくれて、愚痴も聞いてくれると言ってくれたのだ。

そこで私は幽香の隣にいる人が気になりはしたが、とりあえず今までの侵二さんを捕まえようとして逆に捕まり、今日も捕まったと言う軽い愚痴から始めたところ、まだ隣の人が残っていたため、なんとなしに聞くと、そんな答えが帰ってきた。

 

 

「・・・幽香だけ、ずるい。こんな綺麗な人・・・」

 

 

滅茶苦茶友人に負けた気がする。幽香はそうかしら?とか言っているけれど、そんな隣で微笑ましくニコニコしているイケメンを羨ましく思わないはずがない。

 

 

「そんな事を言ってくれるなんて、嬉しいねえ」

 

 

イケメンさん・・・幻夜さんと言うらしい。幻夜さんは私にありがとうと言いながら、お茶を出してくれた。

 

 

「どうぞ。元になったお茶っ葉は幽香のだから美味しいんだけど、淹れたのが僕だから美味しくないかもしれないけど、どうぞ」

 

 

何と言うか、眩しい。それに対して私は、食べられそうになり、理想を否定され、クソ女と呼ばれ・・・散々だ。

 

 

「貴女が愚痴を言いに来るなんて珍しいわね?相当嫌な事があったの?」

 

 

「そうなのよ!あの龍神!私の夢の理想郷をいきなり現れて否定したのよ!「ごめん」・・・なんで幻夜さんが謝るのよ」

 

 

「それ僕の主人」

 

 

冷や汗が首筋を伝うのを感じながら、私は幻夜さんに尋ねる。

 

 

「あの、もしかして・・・」

 

 

「そだよ、混沌だよ」

 

 

侵二さんに続いてとんでもない人に会ってしまった。しかも滅茶苦茶軽い。混沌は姿形のない化け物だと思っていた。

 

 

「え?・・・え?」

 

 

「なんか主人がごめんね?何か粗相やらかした感じ?」

 

 

「・・・多分、紫は人と妖怪が共存できる世界を作るって言ってるんだけど、それを全否定されたのよ」

 

 

「あー・・・マスターならするかも」

 

 

「そ、そうなのよ!理想郷なんて無理に決まってるだろって・・・!」

 

 

幻夜さんは私を見ると、首を傾けた。

 

 

「無理じゃないの?」

 

「なっ・・・」

 

 

「例えば、理想郷を作るとする。でも完成したのを壊そうとするのは必ずでてくるし、作る途中で邪魔するのもいる。そいつらを薙ぎ払ったとして、その殺したやつら、どうなっちゃうの?」.

 

 

「それは・・・」

 

 

「数多の死骸の上で出来上がった理想郷を果たして理想郷と呼べるのか。そうマスターは言いたかったんじゃないの?まあ憶測であるし、理想見過ぎだけど」

 

 

あの口の悪い龍神にそんな意図があったのだろうか・・・

 

 

「後、多分だけど、侵二何も言わなかったよね?遊ばれてるよ?」

 

 

「遊ばれてる・・・?」

 

 

「うん、普通龍一が無茶苦茶言えば侵二が止める。止めなかったってことは、龍一がそこまで本気じゃなかったってこと。後話聞いてたら侵二が会わせた感じだよね?喧嘩するのわかってたんじゃない?」

 

 

「そ、そう・・・なの?」

 

 

「多分、試したんだと思う。ヘラヘラそんな事言ってるのか、糞真面目に考えてるのか。龍一、最後になんて呼んだ?」

 

 

「えっと・・・ファックユーと、クソ女と、年増・・・」

 

 

幽香が噴き出した。

 

 

「ブッ!年増・・・!!」

 

 

「煩いわね!」

 

 

「気に入られてるよ」

 

 

「え?」

 

 

驚いて幻夜さんに目線を合わせると、幻夜さんはにっこりと笑った。

 

 

「龍一が酷いあだ名つけたり、邪険に扱うのはそこそこ気に入った奴だと思うよ」

 

 

「そう・・・なの?」

 

 

うん、と幻夜さんは頷く。

 

 

「罵声暴言は当然。わざとしてるからね。変な奴だよ」

 

 

幻夜さんが突然ぴったりと幽香にくっつく。

 

 

「普通にこうやって愛情表現すればいいのにねー」

 

 

「あれ・・・どっちが先に惚れたの?」

 

 

「僕」

 

 

「そうなの!?」

 

 

「うん。一目惚れ、かな。・・・いやもう見た瞬間可愛くてさ、ギュってしたくなった」

 

 

長い付き合いではあるが、久しぶりに幽香の顔が赤くなったのを見た。隣で幽香が爆発している。と言うか私も恥ずかしい。

 

 

「あれ、また赤いけど、熱?大丈夫?結婚する?」

 

 

「・・・だからこれは、違うのよ・・・」

 

 

幻夜さんと言うとんでもないイケメンが隣にいる幽香を羨ましいと思っていたけれど、これだけは要らないかな・・・と思ってしまった。

聞いている私も恥ずかしいと感じてしまう。(ごく一般的な常人の思考です)

 

幻夜さんはニコニコと笑いながら、私の方を向いた。

 

 

「で、ゆかりんは「ゆかりん!?」いいでしょ?ゆかりんは結局理想郷を作りたいんでしょ?」

 

 

「それは・・・勿論!」

 

 

「なら良いの。理想郷がもし出来たら僕も誘ってよ。幽香と行くから。・・・あ、後ここから東に飛んだ先の天狗が多い山にも知り合いがいるから、住人が欲しけりゃ行けばいいよ」

 

 

でも、と幻夜さんが続ける。

 

 

「風魔って奴には真正面から語り合わないと全部見透かされるよ。回りくどい事言ってると風魔は手伝ってくれないと思うよ。ま、そのかわりちゃんと頭下げて、意思を伝えたら何かと助けてくれると思うよ。同じ山に壊夢ってのがいるけど、それは多分何言っても乗ると思うよ。・・・よ。ばっかりだな僕」

 

 

「ありがとうございます・・・」

 

 

「良いの良いの。正直面白そうだし、僕も乗るよ。・・・龍神も何かとブツブツ言いながら手伝ってくれると思うよ。優しいから」

 

 

「そうよね。紫、あんた何か龍一さんに失礼な事したんじゃないの?」

 

 

「何もしてないわよ!そもそも侵二さんに突然捕まって龍神に投げられたの!」

 

 

「・・・巡り合わせだね」

 

 

「え?」

 

 

幻夜さんがお茶を啜り、目を細める。

 

 

「君が捕まえようとした妖怪は侵二で、侵二は僕らと出会って見境なく食べる事をやめていて、僕らは龍神と出会って、面白そうだからこっちに来た。それは言えば君と龍一が出会うのはこの巡り合わせがあったからこそ。そして僕達はたまたま鬼や天狗と言った妖怪達と知り合い。偶然にしては、よく出来てる」

 

 

天の配剤って知ってる?と、幻夜さんが笑う。

 

 

「天は程よく巡り合わせの機会をくれる。そしてゆかりんはその良い巡り合わせを引いている。・・・出来ない人にはこんな巡り合わせはないさ。・・・出来るよ、頑張れ」

 

 

涙が溢れた。

 

 

「・・・あれ!?何か泣かせるような事しちゃった!?」

 

 

「ううん・・・その、初めて応援されたから・・・」

 

 

「・・・ん?それは違うよ。初めては龍一だ。嫌味に混ぜてると思うけど、「信じられないなら俺を見ろ」みたいなこと言わなかった?」

 

 

私は涙を拭きながら、あの龍神の言葉を心の中で反芻する。

 

 

「確かに言ってたけど・・・」

 

 

「困ったら役に立たんかもしれんが参考にしろ。って意味だよ。口悪いからよくわかんないだろうけど、万が一の時、頭下げて頼んでごらん?多分嫌味言った後にどうして欲しいか聞いてくるから」

 

 

不器用なんだよ。と幻夜さんは笑った。

 

 

「龍一は同じ立場の生き物がいないからさ、常に畏れられて、信仰される。・・・それが嫌だから、わざと冷たかったり、嫌味吐いたりするんだよ。多分」

 

 

まあ、理想郷を作るなら手を組まないと難しいよ?と幻夜さんは真面目な顔をして言った。

 

 

「ま、いきなり名乗ってそれは怒るよね。侵二も分かってるなら止めて欲しいんだけどね・・・」

 

 

幻夜さんは溜息をつき、突然立ち上がった。

 

 

「じゃ、あとは積もる話もあるだろうから、二人でゆっくりしててね。僕はちょっと買い物に行くから。このキャラ疲れたし」

 

 

そう言うと幻夜さんは手を振って歩き去ってしまった。

 

 

「・・・いい人でしょ?」

 

 

幻夜さんが去った後、幽香が先ほどと同じように少しイライラさせる笑顔を見せた。

 

「ええ、初めて会った時にいきなり殴ってくるような暴力的な貴女には勿体無いわね」

 

 

「・・・そうよね」

 

 

殴ってくるかと構えたが、幽香はそのまま頷いた。

初めて彼女に会った時、問答無用でぶっ飛ばされかけた。しかしなんとか勝負を引き分けに持ち込み、なんやかんやあってそのまま仲良くなった。少し暴力的な筈の彼女が殴ってこないのは珍しい。

 

「・・・ねえ、紫」

 

「・・・何?」

 

 

「す、好きな人とのキスって、な、何年付き合ってからすれば良いのかしら・・・」

 

 

「・・・勝手にしてなさいよ」

 

 

私から見ても美人で、それでいて優雅で力強い筈の彼女。それがどうだ、目の前で見たこともない程焦った表情で、いきなり恋愛話を持ち込んで来た。明日は吹雪だろうか。

 

 

「そもそも向こうが好きになったから、貴女は受け身で付き合ったんでしょ?なら貴女からキスするくらい良いじゃないのよ。そもそもどれくらい好きなの?」

 

 

「べ、別にそんな、すごく好きじゃないわよ!?・・・ただ、私より強くて、朝起きると朝ご飯作ってくれてて、笑いながらおはようって言ってくれて、水やりしてる時も、日差しが強い時にそっと日傘添えてくれたり、私がありがとうって言うと、凄く綺麗な笑顔を見せてくれたり、眠い時に頭撫でて寝かせてくれたり、逆に時々私の膝の上で、私の名前を呼びながら眠ったり、子供みたいに甘えてくるのが良いなって思うくらいで、私から求めてるんじゃないのよ?別にそこまで・・・」

 

 

「ベタ惚れじゃないのよ」

 

 

一体幽香に何があったんだろうか。少し前までは想像も出来なかったと言うのに。

幻夜さんが混沌なのも納得が行く気がしてきた。

あの人は幽香をも落とす、根っからの魔性の人だ。

 

「・・・なんか、最近変な事ばっかりね」

 

 

まるで別人のような友人を見ながら、私は深い溜息をついた。

 

 

次回へ続く

 

 





年下の異性に対しては比較的優しい幻夜君。
尚同年代や年上の同性にはボロクソに言いまくる様子。
・・・ダメだ相当のクズだ。


次回もお楽しみに。


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第四十九話 異物

今日この時間がそう、前作の私と言う産業廃棄物が書いた小説が誕生した日です。もう・・・二年前ですね。

二年で投稿速度だけが売りだった駄作のくせしやがって凍結させてんじゃねえよ。って感じですけどね。


ゆっくりご覧下さい。




幻夜さんに風魔さんと壊夢さんを紹介されて一週間後、私は風魔さんの下へ向かった。

私は妖怪の山を登るが、すぐに違和感に気がついた。

 

 

「よう、お嬢ちゃん、天魔様のとこまで行くんだよな?この先川だから気をつけろよ」

 

 

「この先は入り組んでいる。あの鞍馬のアホはそこまで気が回らんかったようだから、私が案内する。足元に気をつけろ」

 

 

前までは多種族を受け入れず、ピリピリとしていたはずだったのに、異種族どころか部外者の私を迎え入れてくれた。

 

 

「・・・あの、天狗は多種族を受け付けないのではないんでしたの?」

 

 

「ああ、そんな時期もあったな。・・・今の天魔様が「阿呆が」と一喝され、廃止された。正直今の方が正しいと我々は思っている。・・・天狗でも無いのに、あの人は凄い方だ」

 

 

白い狼のような天狗の犬走と名乗った人はそう言うと、しみじみと上を見上げて笑った。

 

 

「後、この先の沢には河童がいる。今はまだ引っ越して間もなく、風魔様が湖を作ったばかりなので、会うことはできんがな」

 

 

犬走さんはそう言うと、洞穴を指差した。

 

 

「そこには鬼達がいる。・・・身分上彼等が上だが、鬼の頂点に座する人も変人でな。我々に簡単に頭を下げるような人だ。・・・何故か此処は、鬼、河童、そして我々天狗がまあ仲良く過ごしている、不思議な場所だ」

 

 

犬走さんは誇らしげに笑うと、目の前の館を指差した。

 

 

「風魔様に用件だったな。少し待ってくれ」

 

 

そう言うと犬走さんは跳躍し、二階の窓を割って飛び込んだ。

・・・いやいやいや!?窓割ったの!?

しばらく何かを話す声が空気の通りが良くなった窓から聞こえ、やがて声が聞こえなくなり、再度窓から犬走さんが降りてきた。

 

 

「上がって来て構わない。迎えの一つも出せずにすまない。だそうだ。・・・すまんが、今日は特別風魔様がおかしい日でな。まあ気にしないでくれ」

 

 

私は混乱しながら犬走さんに案内されると、既におかしかった。

散乱する書類の山・・・ではなく、検と判子の押されたきっちり重ねられた書類の山、小気味良い判子の押される音、隣で叫ぶ女の人の声。

 

 

戦慄しているうちに、犬走さんが戸を開くと化け物がいた。

 

 

「二万と三千四百八、二万と三千四百九、二万と・・・」

 

 

「そろそろ寝てくださいー!私が一週間休みましょうって言ったのは謝りますからぁ・・・!」

 

 

「風魔様、お客様です」

 

 

「待て。二万と三千四百十・・・終わった」

 

風魔と呼ばれた人は、首筋に二本ほど何かを刺し、目の下に真っ黒なクマを見せながら血走った目を気味悪くギラつかせていた。

 

 

「風魔様、よろしいですか?」

 

「・・・あ、ああすまん寝た」

 

 

目の前に寝たと言いながら書類を纏め上げ、横に乗せた目の前にいる人、いや亡者。

この人が風魔・・・?と思っていると、ニヤリと笑われた。

 

 

「今、この人が風魔・・・?と思ったな。残念だが私が風魔だ。此処一ヶ月の仕事を全て終わらせようとしていただけだ。あと首のは点滴だ。まあ体に注射する飯と考えればよかろう」

 

 

点滴と呼ばれた袋を握り締めながら風魔さんが笑い、まあ座れと促した。

 

 

「主上から話は聞いている。壊夢は二つ返事で「応、理想郷の完成、楽しみにしとるぜよ」との事だ。・・・さて、私からだ。無茶だと思うが、何故作ろうと思った」

 

 

「・・・今の人と妖怪の関係に、違和感を感じたからです」

 

 

「それは?」

 

 

「人は妖怪を恐れ、妖怪は人を食べます。それは不変ですが、その間に起きる友情などを、無下にはしたくないのです」

 

 

「ふーむ・・・まあ悪くはなかろう」

 

 

チラリと風魔さんは隣の女性に視線を移し、下がってくれと言った。

 

 

「・・・さて、これはとあるお伽話だ。まあ、参考にならんかもしれんが、聞くといい」

 

 

風魔さんは眠そうな目を擦りながら、小さく笑った。

 

 

「・・・ある所に男がいた。その男は若くから兵士として働き、何度も戦場を掻い潜り、戦場で死んだ。・・・ところが男は目を覚まし、次に目を開けると、子供になっていた。しかも周りを調べると、自身がいたところよりも未来に、だ。男のいた時代は過去として歴史に刻まれていた。成人したのち、此処でも男は戦場に直面した。休みなしの仕事、朝から晩まで低い賃金での労働。次第に心と体はボロボロになり、自ら命を絶った。その後も何度も男は死んでは別の時代へ飛び、様々な方法で死んだ。・・・面白い事に、男は常に人間であり、人が争いをやめない事を熟知した。・・・奇跡か、転生を百ほど繰り返した男は人間以外に転じた。今までの記憶から、人間の事はとても知っているそうな」

 

 

語り終えた風魔さんはふうと息を吐くと、厳しい顔になった。

 

 

「このように、人生を百ほど繰り返した中でも、人間の争いが無い時代はなかった。・・・地獄だぞ?利があれば簡単に裏切る、殺す。自分さえ良ければと簡単に人を売る。・・・美しい面もある。だがクソ程汚い事もある。それを受け入れてこその理想郷だが、それでもするのか?・・・ついでに言うと妖怪の方もクソさは似たようなものだぞ?」

 

 

私は頷いた。

その程度の苦行は分かっているし、その覚悟もできている。

 

「なら良い。・・・さぞこの話に出た男も見てみたいだろうよ。適当な援助はしよう。後、暇を持て余して何処かに行っただろうが、隣にいたのは嫁だ。伊織と言う。まあ仲良くしてやってくれ」

 

 

風魔さんはそう言うと、椅子にもたれ、息を吐いた。

 

 

「好きに見回るといい。多分もうすぐ伊織が帰る・・・案内を頼めば受けてくれるだろう・・・すまん、寝る」

 

 

そう言い残すと風魔さんはぐらりと揺れ、机に突っ伏して動かなくなった。僅かに寝息が聞こえ、風魔さんが寝たのだと分かる。

 

 

「・・・もー!ほんとに寝てどうするんですか!・・・あ、紫さんですね!私は伊織です、そこで寝てる風魔の奥さんです!」

 

 

「はい、紫と言います。・・・あの、風魔さんが伊織さんに案内してもらえと・・・」

 

 

「聞いてますよ!じゃあ行きましょう!」

 

 

そう言うと伊織さんは私の手を掴んで強く引っ張ってきた。

 

 

「とりあえず上から見て行きましょう!」

 

 

私が伊織さんに引っ張られていくときに、後ろで書類を持ち上げる風魔さんが見えたのは気のせいだろうか。

 

 

____________________

 

 

「あとは此処ですね!此処は鬼が住んでます!」

 

 

伊織さん・・・いや、伊織に連れられ、山の中腹辺りに来た時に、巨大な穴があった。

 

 

「ここは壊夢さんが拳骨一発で開けたんですよ。・・・茜ー!いますかー!?」

 

 

伊織の叫びは洞窟に反響し、何度も木霊する。

しばらくすると巨大な人影が奥から見え始め、洞窟の前に現れた。

 

 

「何さね、伊織?」

 

 

「お客さんです!壊夢さんはいますか!?」

 

 

「いるよ。・・・壊夢!客だよ!」

 

 

茜と呼ばれた人は伊織と比べ物にならない声量で叫ぶと、洞窟の奥で巨大な闘気が動いた。

・・・と言うか、今まで分からなかったが、奥になにかとんでもないのがいる。

 

 

「おーう。・・・お、前に幻夜の言うとった妖怪ぜよか!俺が壊夢、こっちが嫁の」

 

 

「茜。一応鬼子母神だよ」

 

 

とんでもなかった。てか目の前の女の人もとんでもなかった。

 

 

「・・・で、幻夜の言ってた妖怪ってのはなんだい?私ゃ初耳だよ?」

 

 

「おお、そうだったぜな。・・・こいつは紫。妖怪と人間が共存できる理想郷を作りたいっちゅう妖怪ぜよ!」

 

 

「面白いね。・・・私も見れるなら見てみたいねぇ」

 

 

「おお、やっぱそう言うぜよか!って事でもう手伝うって言っとるぜよ!」

 

「お、ならいいね!・・・私も一度とんでもないのと喧嘩したからね!もう一度、今度は本物と会いたいね!」

 

 

「とんでもないのってなんですか?」

 

 

「ありゃ?伊織には言ってなかったかな?一回大昔に、私をぶっ飛ばした人間がいたんだよね!」

 

 

「どんな人ですか!?」

 

 

私は咄嗟に口を開いてしまった。そんな人がもし本当にいたなら、理想郷設立に大きく近づける。

茜さんは驚いたようだったが、すぐに壊夢さんを指差した。

 

 

「こいつの主人だよ。あの時、わざわざ人間に体を置き換えて喧嘩しに来たんだよね。・・・まあ、純粋な人間ではないよ」

 

 

またあの龍神かと、そう思ってしまった。

 

「そう、ですか・・・」

 

 

「あの時は・・・そうそう!人間と一旦手を組んでほしい!みたいな事を頼まれて受けたんだった」

 

 

「の割に、俺らが向こうで人間殺しとったのを見せてもなんも言わんかったぜよから、何がしたいか正直分からんぜよ」

 

 

「風魔がいるって知ってるのに攻めてきたりもしてましたしね」

 

 

「まあ、聞きたけりゃ侵二か起きとる風魔に聞けばええぜよ」

 

 

尚更あの龍神の事が分からなくなった。

一体・・・何なのだろうか、あの人は・・・

 

 

次回に続く




ありがとうございました。
良ければ産業廃棄物と駄作をこれからも宜しくお願いします。


次回もお楽しみに。


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第五十話 幻想


つい先日、クラスメイトとモン○ンの話になりまして、4○しようぜ○G!と言うことになって、何故か後半ゴグマジオ○のソロ狩りを実演してました。しかも「死んだら明日覚えとけよ」とか言う謎の脅迫。結局なんか勝ちました。面白かったです(小学生レベルの締め方)

関係ないですがゆっくりご覧ください。


「主上のことが聞きたい?」

 

 

「はい、幻夜さんや風魔さん、壊夢さんから話を聞いていると、どうしても意味がわからなくなって・・・迷惑でしたか?」

 

 

翌日の昼過ぎ、侵二さんが一人になるのを狙い、話しかけてみると微妙な顔をされた。

 

 

「いや・・・ねえ?特に行動理由もクソも無いような自称馬鹿の変態ですから、どんな人と言われても一様にこう!とか言えないんですよね・・・」

 

 

侵二さんは唸りながら首を捻った。

 

 

「うーむ。まあまずは殺しに抵抗はないですね、欠伸しながら百は殺してます。後は気分屋ですかね、気が向いたら動き始めて、気が乗らなければずっとぼーっとしてますね。他は・・・ああ、やけに人脈が広いですね。大半が知り合いだったり、何処かであったりしてますか「侵二、面白いの見つけたから出るぞ・・・ってクソ女か、何しに来やがった。生憎こっちは急いでるから相手してやらねーぞ?」何故床から出てくるんですかね・・・主上の事を聞かれたんですよ」

 

 

「マ?」

 

 

「なんですかその返事は・・・まあとりあえず聞かれてました。って事で紫殿、正直それくらいしか言えません。聞くなら主上と別の時に関わった人間に聞けば良いかと思います」

 

 

「ありがとうございます。・・・後、貴方に用はありません」

 

 

「そんなにキレてると将来シワだらけだぞ?・・・まあどうでもいいや、侵二、ちょっと面白い事やってるから来い。・・・お前も来たいなら勝手に来い」

 

 

やはり口の悪さは変わらず、私はここで帰るのも負けた気がするので、歩いて何処かへ向かう龍一に付いていくことにした。

 

道中、突然団子を渡された。

 

 

「何・・・これ?」

 

 

「団子だ。見てわかんねえのか?勝手に食え」

 

 

「・・・別に悪意はないんで、普通に食べてください」

 

 

侵二さんに囁かれ、幻夜さんから聞いた話もあったので、口に入れた。

今まで食べた中で一番美味しかった。

余計訳がわからなくなった。

 

 

「・・・!」

 

 

「何にやけてやがる。・・・てめえもだ侵二、ぶっ飛ばされてえか?」

 

 

「嫌ですよ。・・・ところで、面白い事ってなんですか?また殺しても良い神様が見つかったとかですかァァ?」

 

 

侵二さんの声に鳥肌が立つ。一瞬だったから良かったけれど、長く聞けば気絶しそうだった。

 

 

「ちげーよ。それはまた今度。・・・ま、仕事だ仕事。竹から生まれたお嬢様を求婚者から護衛するのが仕事。嫌か?」

 

 

「ンー・・・ま、良いですよ。でも求婚者から護衛ってなんですか?夜中に襲われるんですか?「やめようか侵二君。あながち間違いでないから怖い」・・・はいはい。でまあ見つけたら食べろと「・・・それ物理的な意味で捉えて良いよな?」どうでしょう?」

 

 

龍一が珍しくやれやれと首を振る。あれでも常識はあるんだ・・・

 

 

「・・・んだよクソ女、文句あんのか?」

 

 

「常識はあるのね」

 

 

「お前に言われたかねーな」

 

 

龍一が中指を立てて来たので、同じように中指を突き立て返す。

それを見た龍一は憎らしく鼻で笑うと、大きな屋敷に足を踏み入れた。

 

 

「雇われ者志願者ですけどー、誰かいますかー」

 

 

龍一が叫ぶと、屋敷の中から何処にでもいそうな優しげなおじいさんが現れた。

 

 

「おお、わざわざの御足労、感謝します」

 

 

「まあ、当然ですから。・・・失礼、名を先に。拙僧は矢川。向こうに控えるのが侵二。そして隣にいる娘は侵二の妹でございます」

 

 

突っ込もうとしたが、侵二さんに止められ、申し訳なさそうな顔をされた為、やめることにした。

 

 

「おお、二人も!?・・・失礼、私は・・・翁とでも申しましょう。立ち話もなんです、ささ、おあがりください」

 

 

龍一は頭を下げると、私達にも来るように合図を促した。

 

 

____________________

 

 

「いやはや、護衛を受けて下さる方がいて助かりました・・・何せうちの娘に求婚するのは貴族の方々が多いので、どうしても護衛は嫌だと言う方ばかりでして・・・」

 

 

立ち話もなんだと言っていた割には廊下で立ち話をしている龍一と翁さんを見ていると、龍一が面倒そうに顔を顰めた。

 

 

「それはまあ、目をつけられたくないでしょうから当然でしょうな」

 

 

「しかし、そちらの妹さんも中々の美人ですな。・・・貴女も求婚されないように気をつけてくだされ」

 

 

見知らぬ貴族に求婚されるのを想像し、私が引きつった笑みを浮かべていると、龍一がぽんと私の頭の上に手を置いた。

 

 

「悪い虫がつかないように、二人で守りますけどね」

 

 

・・・一瞬どきりとした。

建前なのは分かっているけれど、それでも私の脈を早くさせるには十分だった。

・・・いつもの口調を思い出すと、すぐに冷めたけれど。

 

 

「それはさぞ頼もしいでしょうな。・・・こちらが娘の部屋になります。護衛の方には失礼でありますが、仕事の間も簾を隔てての会話でお願いします」

 

 

「なんとも厳重ですね」

 

 

「はい・・・前に一度、護衛と称して娘を攫おうとした者がいましたので、二度と同じことは起きて欲しくないのです」

 

 

なら護衛雇うのやめろやという辛辣な正論を龍一は呟きながら、にこりと微笑んだ。

 

 

「で、報酬は?」

 

 

「そう、ですね・・・このくらいで良いでしょうか?」

 

 

「口調を崩させて頂く。・・・高すぎる。もっと下げてくれ」

 

 

「そうですよね、ではもう少し・・・今、なんと?」

 

 

龍一は欠伸を噛み殺しそうな声で言い直した。

 

 

「高すぎる。こんなに貰っても困る」

 

 

「し、しかしですな・・・」

 

 

「ぶっちゃけ貴族様に楯突くワケだから、俺らいつ死んでもおかしくないのよ。そんないつ死ぬかわからんのに金貰っても使い道なくて困る。・・・受けたのは金欲しさじゃないって事だけ念頭に置いてもらえりゃ良いぜ」

 

 

「で、では何故・・・?」

 

 

「貴族に喧嘩売れるなんて、ここでしか体験できないからな。な?」

 

 

「・・・そのために呼んだんですか。頭沸いてますね。あ、私は翁殿の家の裏に生えてる筍を貰えれば、他は要らないですね。実は筍食べた事ないんですよ」

 

 

「た、筍、ですか・・・?」

 

 

この人達は正気なんだろうか。確かに妖怪や龍神からすればお金は必要ないかもしれない。だからと言って、これから先の観られ方が決まる物事としてもおかしくなく、命の危険も無くはない事を、貴族に喧嘩売れるから、筍が食べられるからという理由でふざけて受ける気なのだろうか。

侵二さんも相当ではあるけれど、龍神が気分屋というのがなんとなく分かった。

 

 

「わ、分かりました・・・」

 

 

自称馬鹿の意味もなんと無く分かった気がするが、ここまで馬鹿だとは思わなかった。

と言うか侵二さんも混ざるのが信じられなかった。

 

 

「ま、多分お嬢さんと顔合わせるなっての、無理なんですけどね」

 

 

「は?今なんと「お父さん!お客様!?」・・・あ」

 

 

快活な女の子の声と共に、長い黒髪の、それは世の男性なら呼吸をするのを忘れる程の美少女が現れた。龍一はやれやれと首を振りながら、呆然とする翁さんの肩に手を置いた。

 

 

「申し訳ない、俺は引き運が悪いらしくてな、時々こうなる。可愛らしい娘さんだな」

 

 

「その悪運どうにかしましょうか。・・・こんにちは、今日から護衛を務める侵二と・・・」

 

 

侵二さんがちらりと龍一を見やる。龍一は何を言いたいのか分かったらしく、女の子の方を向いた。

 

 

「ああ、鏡一だ。よろしく」

 

 

「鏡・・・矢川さんですか?」

 

 

「ん?作用であるが、なぜ存じていらっしゃるんです・・・ああ!武田のか!」

 

 

龍一・・・今は鏡一ではあるが、鏡一は何かを思い出したようにぽんと手を叩いた。侵二さんは二人を見やると、何か分かったのか、唖然としている翁さんに耳打ちした。

 

 

「・・・一度彼の部下の武田という男が道に迷いまして、その時にお嬢さんに道を聞き、助けてもらったそうなんです。・・・多分、その時に矢川の名を知っていたのかと」

 

 

「そ、そうなのか?輝夜、矢川さんと会うのは初めてなんだね?」

 

 

「えっと・・・そうね!武田さんから聞いただけだもの」

 

 

「いやはや、驚きました・・・てっきりお知り合いかと」

 

 

「まさか。こんな綺麗なお嬢さんに会っていたら覚えていますよ」

 

 

「まあ、冗談が上手いのね」

 

 

「そりゃあどうも。・・・お嬢さんを部屋に送りましょうか?」

 

 

翁さんはしばらく戸惑っていたが、女の子の表情を見て何か思うところがあったのか、頷いた。

 

 

「お願いします。・・・良ければ娘と話してやって下さい」

 

 

「承った」

 

 

鏡一はにやりと笑うと、女の子の手を取った。

 

 

「じゃ、案内してくれ、蓬莱山」

 

 

次回へ続く





ありがとうございました。
やっぱり○ンハンを大勢でワイワイすると楽しいですね。大半が使おうとしないランス使って驚かせるの楽しいです。

さて、二周年に続いて五十話目でした。過去作はこの辺までその日に書いての毎日投稿だったんですよ。・・・そりゃあの駄作は一発発射の情景描写ペラッペラの作者特有の寒いネタばっかのスリム作品になりますね。
お寒いのはご勘弁。本人は面白いと思ってるんです。

次回もお楽しみに。


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第五十一話 久しぶり


先日、念願のドクターペッ○ーを飲むことが出来ました。


ゆっくりご覧下さい。


 

 

「久しぶりね!隊長さん!」

 

 

「・・・ほんとにな。まーさか生きてるとは思わなかったろ?」

 

 

「ううん!佐々木さんはどーせ生き残ってるっすよ。とか言ってたよ!」

 

 

「あんにゃろぶん殴ってやる」

 

 

私は困惑していた。龍一は何かを思い出したように目の前の少女・・・蓬莱山輝夜(ほうらいさんかぐや)と言うらしい・・・に話しかけている。

それも昔のことを話すように。

 

「知り合い・・・なの?」

 

 

「うん?・・・ま、知り合いってとこだな。お前よりは人脈広い自信あるぜ。あ、輝夜、左にいる男が侵二、今の部下だ。前にいるのが紫。まあ・・・なんだ、ついてきてる知り合いだな」

 

 

龍一は私を指差すと、で、と輝夜に向いた。

 

 

「あのアホ達とは会ってんのか?」

 

 

「佐々木さんと名桐さんとは良く会ってたけど・・・あ、二人結婚したよ!「そうか。そりゃ良かった」高澤さんと浅野さんは会ってないけど・・・結婚式には呼ばれたから、結婚してたよ!「祝わねえとな」あとは・・・岸田さんは食堂やってて、類土君と高木君はそこのお手伝いさんで、澤田さんは機械いじってるんだって。みんな元気だよ!」

 

 

「いやお前、元気って・・・武田は?名前ねえじゃねえか」

 

 

輝夜は武田と言う名前を聞くと、顔を暗くした。

 

 

「・・・分かんない。ここに来る一年くらい前から全然」

 

 

「そうか・・・あのアホ、連絡無しか・・・」

 

 

死んでんじゃねえのか・・・と龍一は小さく呟いた。

 

 

「ま、それは良いんだ・・・なんで降りてきてんだ?穢らわしいから月に行ったんだろ?何も降りてこなくても・・・」

 

 

はたと龍一が手を止め、輝夜を睨んだ。

 

 

「・・・まさかお前、武田探すために蓬莱の薬飲んだんじゃねえだろうな・・・!?」

 

 

「・・・うん」

 

 

「ど阿呆ォ!・・・だからあんな全自動卵割り機の叡智の足元にも及ばないゴミ捨てろって言ったのによ・・・!チクショ、何番飲んだ!?」

 

 

「・・・一番」

 

 

「そこはましなの飲んだんだな!」

 

 

「ちょっと、さっきからなんの話?蓬莱の薬って何?」

 

 

龍一は私を見ると、少し落ち着いたように、それでも忌々しげに吐き捨てた。

 

「飲むと永久の命を授かり、老いることも、死ぬこともない薬。・・・俺と永琳が誤って開発して捨てたはずなんだが、上のお偉いさんが回収したらしい。この世に三本。それぞれ番号が振ってるんだが、問題がある。一番はプロトタイプ、特に身体に異常もなく、よく出来てるんだが、月の民が嫌う穢れを発してしまうゴミだ。で、二番。解毒薬。ただしこれだけを服用すると不老不死になる。この時解毒成分が変に反応して体と髪の色が白く、目が赤くなる。穢れも出る。最後の三番、巻き糞の一番下並みのゴミ。飲むと身体能力が鬼並みに上がるが五感が弱体化する。特に味覚と痛覚に異常が発生し、味が分からなくなる。痛みを感じなくなる。そして穢れを発する・・・って言う世界最大のゴミだ。あんなもんさっさと土の中に入れりゃ良かったんだ」

 

 

龍一は頭をガリガリと掻くと、二番と三番は?と輝夜に聞いた。

 

 

「・・・二番はまだあるよ。けど三番が・・・」

 

 

「行方不明ってかクソッタレ!あんなアニメと映画のギャップが強すぎるコック兼パイロットの主人公になるような薬要らねえんだよ!」

 

 

侵二さんが混乱している私に近づくと、耳打ちをしてくれた。

 

 

「主上が言っているのは一万年程前、月読命の統治していた都市での出来事です。・・・今は地上にはなく、月にあるらしいのですがね。この世のあらゆる穢れを嫌うような所ですよ」

 

 

すると彼女は月からやって来たのだろうか・・・?

 

「んで?プロトタイプ飲んだお前はどうしてここに来たんだ?」

 

 

「飲んだのが分かって、よく分からない人たちに捕まりそうになって、佐々木さんがこれで降りて逃げろ、隊長が運よく見つけてくれれば助かる・・・って」

 

 

「人頼りかあんのコンニャク回避隊長は!・・・クソが、話聞いてまさかと思ったんだよ!」

 

 

龍一は床を殴りながら舌打ちし、話を変えるぞと言った。

 

 

「まあ守ってやるのは確定事項として・・・どうやって求婚者を退けるかだな・・・今もあれだろ?結婚したいのは兄貴だろ?」

 

 

「そ、それは・・・そう、だけど・・・」

 

 

「なら全員薙ぎ払うぞ。適当に持ってこれないもん持ってこいでも言え。なんなら混沌の髪の毛引っこ抜いて来いとか、饕餮の歯を抜いて来いとか、檮杌の爪持ってこいでも良いんだぞ?後、ク・・・紫は前に出るなよ?」

 

 

「どうしてよ!?」

 

 

「そりゃお前、お前みたいな奴がいたら困るだろ」

 

 

私は龍一の言いように流石に怒りを覚え、掴みかかろうとした。

 

 

「は!?何を「だってお前、お前が隣にでもいたら求婚者の数が数倍になるだろうが。綺麗なくせしやがってそこも考えられねえのか?」・・・は、何、言ってんの・・・?」

 

 

私が突然の龍一の発言に思考が追いつかず、顔が熱くなっていると、龍一がこれ言っちゃダメなんだったなと呟いていた。

 

 

「いや、すまんすまん。これダメなんだったな」

 

 

「そうですよ。全く・・・」

 

 

侵二さんにごめんなさいねと言われるが、そんな事を考えていられる暇がない。

龍一はある一部を除けばおそらく優しく、しかも顔も良い。

そンな奴に嫌っているとはいえ、言われると顔くらいは熱くなる。

私は咄嗟に目を逸らし、気がつかれないようにする。

 

 

「・・・なしてコイツは目逸らすん?」

 

 

「どこ弁ですかそれ・・・女の子には秘密くらい沢山あるんですよ」

 

 

「そんなもんか・・・分かんね」

 

 

「重症ですね・・・」

 

 

全くだ。

と私が思っていると、龍一はブツブツと何かを言い始めた。

 

 

「求婚者門前払いとして・・・月のをどうするかだよな・・・待てよ、確かこれどっかで聞いた事ある物語に・・・ああかぐや姫か、なら来るやつも分かるし、月からも間違いなく来る・・・クソが、対空機銃でもパクってくれば良かった」

 

 

龍一は何かを言うと、巨大な黒い何かを取り出した。

 

 

「対物兵器なんぞこれしかねえぞ・・・使うのも万単位で久しぶりだな・・・」

 

 

「あ、それ、佐々木さんが練習してた奴!」

 

 

「マ?あの近距離バカがライフルの練習か・・・ん?近距離バカのライフル、か・・・ん、まあ良いか。ところでさ」

 

 

龍一が庭を指差す。

 

「あっこで遊んでる女の子誰?」

 

 

視線の先には黒髪の4歳くらいの子がいた。侵二さんは幻夜のゾーンですねと何やら言っている。

 

 

「私、妹なんていないよ?」

 

 

「だよな。一応幻夜呼ぶ?」

 

 

龍一はこちらに気がついた女の子においでと言いながら侵二に向いた。

 

 

「・・・ま、そんな頼りにしなくても良いんじゃないですかね?主上について来てますし」

 

 

「だな、こんにちは」

 

 

「こんにちは!」

 

 

女の子は綺麗な笑顔を見せてくれながら、私達に挨拶をしてくれた。

 

 

「何かここのお姉さんにご用?」

 

 

「んーと、父さまと来た!」

 

 

「って事はあれか?知り合いか求婚者か?・・・あ、そうだ、お父さんの上の名前は?」

 

 

「ふじわら!」

 

 

「おう求婚者の娘だ。お父さんは?」

 

 

「あっち!」

 

 

そう言って彼女が指差した先では、いつの間にか喧騒が起きていた。

誰かが妹紅と叫んでいるが、この子の名前なのだろうか。

 

 

「ねえ、向こうで妹紅って聞こえるけど、あなたの事?」

 

私は女の子に聞くと、女の子はこくりと頷いた。

 

 

「うん!」

 

 

「左様か。まああの様子だと上がってくるし、待つか」

 

 

龍一は胡座を組み直すと、侵二さんの背中に背中をもたれかけた。

 

 

「わりー、ちょっと枕しろ」

 

 

「枕するって動詞、初めて聞きましたよ」

 

 

「うっせ、他にもたれるのがねえだろうが」

 

 

「まあ私も疲れてますし、同じくもたれますよ」

 

 

「どーぞどーぞ」

 

 

そのまま龍一と侵二さんは背中合わせのまま息を吐いた。

 

 

「・・・二人共、疲れてるの?」

 

 

私がそう聞くと、侵二さんが答えた。

 

 

「いやまあ、変な妖怪退治受けまして、疲れたんですよね・・・影鰐でしたっけ?」

 

 

「そうそう。影鰐。アイツ影しかないからすーぐ逃げるんだよな」

 

 

まあ捕まえて俺が食べたけどさ、不味かったぜ。と龍一がカラカラと笑った。

 

 

影鰐はそこそこ名の通ってはいる妖怪だった。それを疲れただけで仕留めたと言うことだろうか。

表情には出さなかったが私は困惑していた。

私は二人の実力を推し量ってはいるが、本当に目にする事はしていない。

 

 

この時の私は、後日目の当たりにする事は予想していなかった。

 

 

次回へ続く





で、○クターペッパーの味なんですけど・・・

杏仁豆腐か薬のシロップみたいな味でした。
飲めなくないですし、凄く美味しくもないです。
正直美味しいならもっと美味しいで、不味いならクッソ不味いぐらいが良かったんですけどね。


次回もお楽しみに。


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第五十二話 詠

転生ってどんな気分なんですかね。
別に異世界には行きたくないんですけど。
死後の世界には行ってみたいですね。


ゆっくりご覧下さい。


私達がぼんやりとしたまま待っていると、小走りでこちらに来ている足音が聞こえた。

即座に侵二さんは輝夜を簾の奥に、私は龍一の着ている服の中に隠される事になった。

元が嫌いな奴なのに、やけに良い匂いと気分の良くなる暖かさに包まれているのが腹立たしい。

 

 

「妹紅?・・・いかん此処はダメだ!」

 

 

貴族のイメージでは小太りの人を考えていたが、そのイメージとはかけ離れた痩身の男性が部屋を覗き込み、奥に輝夜がいると悟ったのか引っ込んでしまった。

龍一は面白そうに開いてますよと言うと、おずおずと痩身の男性が現れた。

 

 

「いやはや、申し訳・・・妹紅!?」

 

 

「あ、お父さん!」

 

 

妹紅と言うらしい女の子は痩身男性にしがみついた。

父親であろう痩身の男性は安心したようにその場に膝をつき、息を吐いた。

 

 

「やめておくれ妹紅、心臓に悪いよ・・・」

 

 

男の人はしばらく膝をついていたが、どう言った場所なのか思い出したのか、慌てて立ち上がった。

 

 

「すいませんでし・・・んんっ、此度は本当に申し訳ありません。無礼をお許しください」

 

 

許す、と簾の奥で輝夜が言うと、龍一が吹き出しそうになっていた。

 

 

「いやはや失礼致した。・・・ところで、奥におられるのは輝夜姫か?私は藤原不比等(ふじわらのふひと)と申す。野次馬根性で・・・おっと失敬、是非一度見てみたいと思って尋ねようとしておりました。ではこれで」

 

 

龍一さんがずっこけた。え?いやおま、求婚は?と何か言っている。

 

 

「・・・お付きの人、如何されました?」

 

「いや、求婚は?しないとかバンブーテイクストーリー崩壊必至なんだけど?」

 

 

「バンブー・・・ん?」

 

 

私や輝夜、妹紅、それに侵二さんも何を言っているか分かっていないようだったが、不比等さんは龍一を信じられない目で見ていた。

 

 

「何故英語を?」

 

 

「ふむ?・・・今は昔、竹取の翁といふものありけり」

 

 

「の、野山にまじりて竹を取りつつ、よろずのことにつかひけり」

 

 

「貴様、さては二度目だなとなんいひける」

 

 

「その同類の人に、マジ同じ人いると思わなんだりける」

 

 

龍一と不比等さんはしばらく睨み合っていたが、やがて服の下に隠していた私を出して硬く手を繋いだ。

 

 

「オメーもか。まさか俺以外に普通の奴がいるなんてな」

 

 

「驚きましたぞ。・・・ああ、この口調は何せ長年貴族として過ごしたせいで染み着きましてな・・・直らないのです」

 

 

「まあ大して気にしないぞ?・・・ってかなして輝夜に求婚しないんだ?」

 

 

「いやいや、流石に偽物を作って送って給料をよこせと迫り来る職人のせいで失敗するのは真っ平御免でしてな。そもそも私に今妻がいることが奇跡です。・・・何故藤原家の重役に生まれたのかは分かりませんが、全うするつもりではあります」

 

 

「やっぱ普通に人間に生まれ変わることもあるよなあ。聞いて驚くなよ?二回目が龍神だぜ?俺は一般人矢川さんだったんだぞ?」

 

 

「龍神・・・とはまた驚きましたな。すると貴方は龍一殿ですかな?」

 

 

「ん、まあせやな」

 

 

「お疲れ様ですな」

 

 

「まあ面倒だが、好き勝手出来るからなぁ。・・・まあ世界征服とか怖くて出来んけどさ」

 

 

「でしょうな」

 

 

あんな凄い事無理無理、と龍一は笑うと、不比等さんもつられて笑った。

 

 

「あ、そうだ。・・・輝夜、別に出たいなら出て良いぞ。このおっさん・・・?「前と合わせると40は超えてますな」おっさんは結婚する気微塵もねえぞ」

 

 

龍一はそう言い切ると、まさかねえ・・・と楽しそうではないけれど、笑った。

しばらく輝夜は迷っていたようだが、やがて簾を上げた。

 

 

「ほぉ・・・綺麗ですな」

 

 

「そんだけ?」

 

 

「そんだけ」

 

 

「ほら見てみいや。この野郎既に今の人生で満足してやがる。はい、求婚者リスト一人減らすぞ」

 

 

そう言って龍一はいつ作ったのか一枚の紙にバツ印を付けた。

後は頭下げて断るのが一人、市場崩壊させて壊すのが一人、幻夜に沈めてもらうのが一人、と次に行くたび物騒になっていく方法を呟く龍神様に私は頭を抱える。この人頭おかしい。

 

 

「・・・あ、で、不比等さん、この世界が東方プロジェクトって言うの知ってるか?」

 

 

「東、方・・・知人が知っていましたな。ゲームだったと思いますぞ」

 

 

「ほー、そう言う世界なのか。何せ前世じゃ死ぬ前は銀英伝しか見てなくてな。原作読んでさあアニメ・・・ぐらいでこんがり焼けて死んだ」

 

 

「残念ですなぁ・・・私は老衰でしたからなぁ」

 

 

「うーわ羨ましい」

 

 

ふと横を見ると、侵二さんがとても嬉しそうに笑っていた。

侵二さんは私が侵二さんを見ているのに気がついたのか、にこりと私に笑った。

 

 

「どうしました?」

 

 

「いや、その・・・嬉しそうだなって」

 

 

「そうですねえ。主上が珍しく話が合う人と会って話してますからねぇ。そりゃ主人が嬉しけりゃ部下も嬉しいですよ」

 

 

その後もしばらく龍一は不比等さんと話し、いつのまにか日が暮れていた。

 

「やべ、もうこんな時間かよ。・・・なんかすまんな、変に話し込んで」

 

 

「いやいや、こちらこそ楽しかったですぞ。まさか同じ境遇の方と会えるとは・・・さ、妹紅、帰るぞ」

 

 

「また来ても良い?」

 

 

「うーむ・・・「好きに来ていいと思うぜ。輝夜も姉になったみたいで面白がってるしな」・・・ではお言葉に甘えます」

 

 

「おう。んじゃ侵二、俺送ってくるからクソ・・・んんっ、紫と輝夜頼むわ」

 

 

「畏まりました」

 

 

龍一はそう言うと不比等さん達と去って行った。

私はそれを見届けた後、侵二さんに聞いた。

 

 

「どうして侵二さんはアレに仕えてるの?」

 

 

あ、私も気になるーと輝夜も賛同してくれた。

侵二さんはあー、と呟きながら私の方を向き、侵二さんは自分の顔を指差した。

 

 

「では、私のここをよく見ておいて下さいね」

 

 

侵二さんがそう言ったのち、私は吐きそうになった。

動いている。それも侵二さんの顔ではなく、皮膚の下に何かが這っているようで、モゾモゾと蠢いている。

更にそれに留まらず、侵二さんの口が横に割れ、人一人の頭を飲み込めそうなほど開いた。

輝夜も同じ感想なのか、顔を青くしていた。

やがて侵二さんだったものは地面から響くような声を出した。

 

「このように、ご存知の通り私は化け物です。そりゃもう神々がその場でゲロ吐く程の醜悪さです。・・・これ見て主上、なんて言ったと思います?」

 

 

侵二さんは元に戻ると、ニヤリと龍一っぽく笑った。

 

 

「ほお、見世物小屋に出れば長蛇の列で、飯食う時もばっくり行けるな。ですよ?笑いましたよ」

 

 

「あの人は私を私として見ている。異形の饕餮ではなく、一人の部下の侵二として。・・・後は単純に私をすっ飛ばしたぐらいですかね」

 

 

侵二さんはそう言うと、さらに続けた。

 

「他のも同じですよ。・・・指先一つで生物の人生を左右できる幻夜、欠伸しながら国を一つ滅ぼせる風魔、笑いながら拳骨で地面を割る壊夢。・・・本来ならあんなに世界に馴染めないはずだったんです。正義を称した殺戮者に倒されるべき存在だったんです。・・・ところがあの主人は我存ぜぬと言わんばかりに全てを薙ぎ払ったのち、配下に我々を置いた」

 

 

「我々を初めて生き物として見てくれた人。それが主上なんです。だから、と一様には言えませんが、まあ原因としては大きいでしょう」

 

 

侵二さんはそう言って微笑み、答えになりましたか?と聞いてきた。

私は頷いた。

 

 

「なら良かったです。・・・主上は日の当たるところにいる者たちからすれば、厄介者であり、理不尽の象徴でしょう。しかし、我々のような日陰で生きる様な者にとっては・・・間違いなく唯一無二の神様です。それはもう日を求める我々にとって唯一の光なんです」

 

 

そう言って笑う侵二さんはどこか悲しそう、と言うか、なんとも言えない、それでも暗い表情をしていた。

 

 

次回へ続く

 

 




ありがとうございました。

野郎の目が殆ど死んでるんですけど、過去作もこうしたかったんでしょうね(諦め)


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第五十三話 全能か、無能か

よく神様は人間なんてものを作りましたよね。
ゆっくりご覧下さい。


 

「・・・すると、かの輝夜姫には想い人が?」

 

 

「そうなりますね、如何なさいますか?」

 

 

「うむ、そこに横槍を入れるのは野暮であろうな。諦めよう。・・・一つだけ、本心から愛しようとした、とだけ伝えてくださいな」

 

 

侵二の向かった先の石上麿足はきっぱりと諦め、

 

 

「・・・こ、これはまさか・・・!?」

 

 

「左様。龍神の鱗の首飾りである。・・・こちらを譲ろうと思いましてな」

 

 

「い、いくらだ!?いくらで売る!?」

 

 

「輝夜姫への求婚を諦めて頂きたく」

 

 

「う、・・・うーむ・・・」

 

 

「ちなみに姫には想い人がおられる」

 

 

「なら聞くまでもない!退こう!その首飾りも求めん!」

 

 

「ならこちらは差し上げます。「良いのか!?」その御心への代金です・・・感謝します」

 

 

風魔の向かった阿倍御主人も俺の鱗の首飾りのおかげかそうでないのかすっきりと諦め、

 

 

「旦那様!?如何なされました!?」

 

「・・・輝夜姫への求婚をやめる」

 

 

「な、何故でしょうか・・・?」

 

 

「私が関わると輝夜姫に被害が及ぶ夢を見た。・・・神のお告げかもしれん。悔しいが諦めよう」

 

 

幻夜が手を下した大伴御行は何故か諦め、

 

 

「龍神より命ずる。あの者にこれ以上関わるな。関わってみろ・・・いずれ貴公の心臓を刺し貫く者が現れるぞ」

 

 

「は、ははっ・・・!!」

 

 

石作皇子殿には俺直々に脅させて頂いた。本当に申し訳ない。

結果としては全員に諦めて頂いた。

あとはアゴ・・・人違いだな。帝殿のみだ。さて如何するべきか。

 

 

「で、どうすりゃいいと思う?」

 

 

「捕食」

 

 

「ぶん殴る!」

 

 

「斬る」

 

 

「悪夢で睡眠不足にする」

 

 

「鬼畜かおめーら。あと上院議員混じってんぞ」

 

 

じゃあどーすんのさと幻夜が不満そうに呟く。コイツ曰く変なこと考えてそうな男の夢なんぞ弄りたくないと言うことだ。失礼だろ。

 

 

「あの、私に考えがあるんだけど・・・」

 

 

手を挙げたのは紫だった。まああれこれ言いたいが手伝うと決めたので聞いてやる。

 

 

「どうする気だ?」

 

 

「・・・私の【境界を操る程度の能力】で、その人から輝夜への関心を消せばいいと思うのだけど・・・」

 

 

「お前天才か?」

 

 

そ、そう?と照れくさそうに紫が頭を掻く。

本当に理想以外は完璧だと思うので、問題の理想をさっさと捨てて頂きたい。

 

 

「それ男にしか興味持たなくならない?」

 

 

「それは大丈夫です!ちゃんと絞って発動できます!」

 

 

「ゆかりん凄いじゃん」

 

 

正直強能力程度と決めていたが、紫は相当強力な能力を持っている。

それはもうこの世界の均衡が整っているという世界線と整っていないという世界線をごっちゃにして世界を滅ぼせるような。

ま、全能の俺に言われても嬉しくあるまい。・・・なんだよ他人の持つ能力の上位互換を必ず会得するって。そんなに龍神様は頂点に立ちたいか。俺は龍神だが立ちたくねえぞ。

 

 

「・・・幻夜が紹介した理由も分かった気がするな。どうなんだ主上、認めてやらんのか?」

 

 

「は?寝言は寝て言えやアホ。お前理想郷作るのがどれだけ面倒か書類にまとめてやろうか?」

 

 

「言われずとも分かっている。だからこれ以上書類をよこすな」

 

 

しばらく書類は見たくないと言った表情の風魔に苦笑し、俺は紫に向く。

 

 

「んじゃクソ女、任せた」

 

 

言われなくてもやるわよ!と紫に叫ばれて紫が空間内へ消えた。

空間は俺と同じように紫の固有するものらしく、スキマと言うらしい。悪趣味な目玉模様をなぜ辞めないのか。これが分からない。

俺の空間は模様のない真っ白な空間だ。目玉模様とか使いにくいだろ。

 

 

「・・・隊長さんはあの人嫌いなの?」

 

 

俺が出て行った紫にやれやれと首を振っていると、輝夜が不思議そうに訪ねてきた。

 

「・・・いや、別に嫌いってわけじゃねえし、好きってわけでもない。・・・逆になんだと思ってんだ?」

 

 

「お嫁さんかなぁって」

 

 

隣にいた風魔と幻夜に爆笑された。尚壊夢は帰宅、侵二は紫を確認しに向かっている。

 

 

「クハハ!そうか嫁か!確かにそう見えるな!」

 

 

「に、似合ってるんじゃないの?・・・ダメだお腹痛い」

 

 

「誰がお似合いだ。あとアイツにキレられんぞ。こんな奴が旦那なんて嫌!ってな。俺も嫌だな、まだアイツの事よく知らんし」

 

 

「そうなの?」

 

 

てっきり口悪いから仲良いのかと・・・と輝夜が言っているが、俺は気に入った相手には序盤から口が悪い。仲良くなればもっと悪くなる。

 

 

「ま、そんな訳だ。って事で絶賛嫁さん募集中だ、「永琳は?」無理。見りゃわかるだろ?互いに趣味や性格はまあ一致するとして異性としての意識が微塵もない。永琳は初めはあったものの、玉子割り機開発時はもう無かった。今更好きですなんて互いに言わんし言う気もねえだろ。言えば結婚するんじゃねえの?」

 

 

その辺りを行くと豊姫や依姫も無理だ。さて次は諏訪子辺りか?聞かれるだろうが俺は神と結婚する気は無い。

 

 

さて結果的に俺の条件だ。

神以外。これに限る。あとは誰でもいい。

ふむ、確かに輝夜の言う通り紫がそう見えてもおかしくないのか。一応条件に当てはまっているわけだな。

 

 

「ふーん・・・じゃ、隊長さんには好きな人いるの?」

 

 

「いる訳ねえだろ」

 

 

だからといってアイツがどう。とかではないが。

 

「なんで?」

 

 

「怖いから」

 

 

本心を言うと、一人を愛するのが怖い。

期待に添えなかったら、裏切ってしまったら、泣かせてしまったら。

そんな事を考えるから付き合えないんだと前世でも悪友に言われたが、怖い。

多分俺が好きになる相手は、きっとそれら全てを受け入れてくれて、伴侶になった奴だろう。

 

「愛する者を守る・・・とか言ってみたいけどな?実力が伴わずに言うのはダサいと思うのよ。その点野郎共はしっかりしてるから様になるんだが、どうも俺はな・・・無理だ」

 

 

俺は強い。間違いなくこの世界で一番強い。不老不死も不死身も欠伸をしながら殺せる。本気を出せば兆単位の命を指一つで消せる。冗談や見栄を抜いて野郎共を瞬きで消すことが出来る。気分一つで世界を終わらせる事が出来る。

造作もなく世界の生き物を皆殺しにして、その後何事もなかったかのように全員を生き返らせる事も出来る。

 

だが弱い。残念ながらこの最高で最悪の能力を扱うのは俺。それはどうあがいても本来人間の俺。

精神が、思考が、全てが追いつかない。

 

 

「自分の能力一つまともに管理できない奴がな、好きな奴を作っちゃならねえと思ってる。・・・だから俺は愛する人を作る気は無い。作る時は・・・この世界の終末を迎えたとしても笑えるようになった時だ」

 

 

全能を羨ましいと思った事があったが、手に入れて分かった。

全能は【何もできない程度の能力】だ。

全能故に全てに責任が、何かが背中にのしかかる。知らんと言い切って荷を捨てれば楽だろうが、俺は捨てられない。だから何も凄い事は出来ない。こんなもの無能と同じだ。だから俺は殺す事は人の為にしかしない。

 

 

「・・・だから、多分俺は結婚する事はねえだろうし、付き合う事もない。この理由は誰にも理解されやしないからいい」

 

 

自分勝手。

万人が俺にそう言うだろうが、んなこと言うなら龍神やってみるかと言ってやりたい。

俺は不可能だと分かっているけれど、龍神を辞めたい。

 

 

「・・・それは違うと思う」

 

 

「・・・ん?」

 

 

「隊長さんは私を、私達を助けてくれた。それは私達を大事に思ってくれたからじゃないの?」

 

 

「・・・まあ、そうだが」

 

 

「だから・・・その、なんだろ、どう言ったらいいのかな」

 

 

しどろもどろになった輝夜の言葉が気になった。俺は輝夜を注視するが、続きは隣から聞こえてきた。

風魔だった。

 

 

「お前が助けた奴らに、お前の愛は無かったのか。と聞きたいんだ」

 

 

風魔が続ける。

 

 

「何も私から伊織へのような愛だけではあるまい。私で言えば・・・鞍馬や犬走。あいつらも私は愛していると言えるが、主上はどうなんだ?」

 

 

「・・・そりゃ、あの馬鹿共もお前らも大事だが」

 

 

「なら私達と共闘している時点で守っているのではないか?」

 

 

「それは・・・」

 

 

「主上、貴様は自分に自信を持て。貴様は自分が思っている以上に力を持ち、それを制御している。そして意思がある。・・・世界にいる自分の意思を持たずに集団と共に賛同と批判しかしないクソ共に比べると、お前の考えはいたってマトモだとは思うがな」

 

 

俺は黙って風魔の目を見る。

 

 

「つまり、だ。お前は優しすぎる。常他人の事しか考えていないではないか。お前だけの理由で誰かを殺した事があるか?」

 

 

無い。考えずとも言える。八岐大蛇も、都も、野朗共との殲滅も。

 

「・・・おそらく無いだろう。そう言う奴だお前は。・・・龍神の名を背負いすぎるのも大概にしろ。たまには好きに生きれば良かろう。誰も文句は言わんさ。・・・たとえ今ここで世界を滅ぼしてもな」

 

 

俺は自分の頬を掌でパチンと殴り、風魔に笑う。

 

 

「確かにそうだな。俺はちと気遣いが過ぎたかもしれん。輝夜もありがとうな」

 

 

「分かればいい。・・・で、気になる奴は?」

 

 

風魔と笑いあっている輝夜を見て、それが魂胆かと俺は苦笑し、さらりと答えてやる。

 

 

「紫。面白い奴だとは思ってはいる。・・・一応条件にも該当してるしな」

 

 

「やはりか。ならば彼女に見えるのもおかしくなかろう」

 

 

やけに静かな理由が眠っている幻夜だったのに気がつき、俺は苦笑する。

 

 

「まあアイツが良いとは言えんしな・・・じゃ、俺も相手探してみるとするか!」

 

 

輝夜姫の求婚される姿を見て、伴侶を探そうとするのは俺ぐらいだろうな。

 

 

次回へ続く

 




本当によく人間って出来てますよね。
でも神と違って意地汚さとかあるので、出来損ないの創作物ですかね?神話を元にしたら。の話ですけど。

・・・ところで、評価バーって赤くなるんですね。都市伝説だと思ってました。
・・・あああああ!?赤!?こんなゴミクソが!?
・・・こんな駄作が大作と評価で並んで調子乗るんじゃねえよと叩かれる事必至ですね。即青になるでしょう(確信)



次回もお楽しみに。


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第五十四話 自分勝手


よ、良かった、バーの色が赤くなくなった・・・
ちゃんと一夜だけの赤でした。やっぱり駄作でしたね、安心しました。
どう考えても身の丈に合ってませんでしたよね。


ゆっくりご覧ください。


紫の提案は成功し、帝殿が輝夜の元に来ることは無くなった。

案外コイツなら理想郷設立もやりかねんと思うようになった。一厘ぐらい。

 

まあ理想郷云々は置いておいて、だ。

妹紅に懐かれている輝夜と紫、翁殿を除く男衆を見ながら俺は質問する。

 

 

「輝夜をこのまま月に返す気のある人」

 

 

誰も手を挙げない。

 

 

「返す気ねえに決まってるだろハゲって言う人「はい!はい!はい!」うるせえ!」

 

 

いかにもわざとな幻夜を押さえつけていると、紫と男衆が手を挙げた。

 

 

「じゃあ月の連中薙ぎ払えますって自信のある人」

 

 

不比等さんと紫が手を降ろす。まあ逆に挙げられると困る。

逆に言えば野郎共は全員手を挙げたままだ。

 

 

「じゃあぴったり一ヶ月後に予定空いてるよって言う人」

 

 

侵二以外が手を降ろす。

 

「はい決定。じゃあ侵二、また追加業務な」

 

 

「訴訟「取り下げ」・・・分かってますよ。了解」

 

 

さて、何の話をしているかと言うと・・・今朝俺宛に手紙が届いた。月から。しかも槍に結ばれた状態で。

そこには端的に「一ヶ後蓬攫」と「永共来薬三飲謝」とだけ書いていた。

一つ目を訳せば「一ヶ月後蓬莱山攫う」と言うことだ。つまりお迎え(本人望まず)が来るわけだ。

俺は手紙を輝夜から遠ざけ、野郎共のみを招集し、この手紙を見せた。

そして一芝居打ってもらったわけだ。

つまるところ、一ヶ月後輝夜を攫わんと月から迎えが来る。

 

勿論考えなしではない。ゴリ押せばまあお帰り願うことは造作もないのだが。

さて、二つ目を訳せば「永琳共に来る薬三号飲んだ謝る」と言うことになる。

今更だがこの文の書き方は変人部隊にしか教えていない。そして変人部隊で槍を使っていた奴は俺は一人しか知らない。

まあ武田だろう。あのアホ薬まで飲みやがった。

 

 

と言うわけで迎撃の算段はついているので、なるべく輝夜に武田の事を隠すようにする為に、計画しているフリを見せている。

 

 

そして予定通り侵二と俺の迎撃担当が決まった。ちなみに元から幻夜はデート、風魔は一ヶ月分の休暇で嫁と旅行、壊夢は山以外の住処探しで忙しいので元から計画する必要もなく俺と侵二だった。

 

 

「・・・本当に大丈夫?」

 

 

「お前な、元変人部隊部隊長舐めんじゃねえぞ?伊達にあのアホ共纏めてねえよ」

 

 

心配と不安の残る表情の輝夜ににっと笑うと、俺は不比等さんに向く。

 

 

「で、不比等さんにも頼みたいことがある。・・・輝夜の近くにいてやってくれ。クソ女もつけるから何とかなるだろうが、万が一だ」

 

 

「まあつまり肉壁ですな。承りましたぞ」

 

 

「申し訳ない」

 

 

まあそんな事はさせない。そんな事が万が一起きれば風魔が文字通り飛んで来ることになっている。

続いて俺は紫に向く。

 

 

「んじゃクソ女、運が良ければではあるが、俺らの悪名高さの理由見せてやるよ」

 

 

紫は俺を一瞥すると、そうね、と頷いた。

前までそこそこ噛みついて来ていたが、野朗共に何か吹き込まれたか、俺を観察するようになった。面白くない。

 

 

「張り合いねえな・・・」

 

 

こうなるなら幻夜達に口封じをすべきだったと後悔する。

しかし後悔してばかりでは仕方ないので俺は終了と叫んで外に出る。

何となく空を見上げていると、幻夜が俺の背後に現れた。

 

 

「ちょっといい?」

 

 

そう言いながら幻夜は顔の左半分を指差した。

 

 

「なんか用か?」

 

 

「まあね。変わるよ」

 

 

幻夜が顔に手を置くと、瞳の色が紅く染まり、目つきが鋭くなった。

 

 

「って事で、よう、久しぶりだなマスター」

 

 

「久しぶりだな」

 

 

幻夜・・・の中にいる誰かが俺に笑いかける。俺はまだコイツが誰か知らないし、名乗るつもりもないようなので幻夜で統一して呼んでいる。

 

 

「で?何の用だ?白昼堂々とお前が出てくるなんて珍しいな」

 

 

「ああ、それなんだがな・・・俺が幻夜から独立しそうなんだよな」

 

 

「独立・・・って、自称幻夜の裏人格じゃなかったのか?」

 

 

いやまあそうだったんだけどな?と幻夜が頭を掻く。

 

 

「幻夜にも幽香がいるだろ?・・・二人っきりにしてやろうと思ってな、永久に多重人格で通すつもりだったんだが、無理そうなんで出ることにした」

 

 

「じゃあお前は何だ?」

 

 

幻夜は口角を上げて笑った。

 

 

「混沌を絶滅に追いやった張本人さ。・・・俺は本来生まれるはずのない生き物なんだよな」

 

 

手をプラプラとさせながら幻夜は笑った。

 

 

「まあ・・・そうだな、恐ろしくちっちゃい生き物、だったな。しかも脳味噌の出来た。挙げ句の果てに運悪く、周りの食事と言える養分が無くてな、こいつの体内だった」

 

 

水に混じってたみたいでな、と幻夜が笑った。

 

 

「んで生存能力が働いて、当時脳細胞が発達してなかった俺は周囲のこいつ以外の混沌に飛沫から寄生して成長したのよ。・・・んで元々あらゆる生物に変形できる混沌の細胞を食ったことで脳細胞、身体細胞が発達して俺が出来た・・・って事だな」

 

 

「・・・すると昔はその辺の埃並みのサイズだったのか?」

 

 

「そそ、それが今はこれよ。・・・ま、それでこいつも俺も火に弱いんだよな」

 

 

まあそんな事は良いんだよと幻夜は顔を顰める。

 

 

「今はこいつに聞こえてねえから言えるが、俺は混沌をこいつ以外殺した。いくら生存本能でしたなんて言っても殺したのは違いない。だから独立したら遠くに出ようとしてるんだが、どうすりゃ良いと思う?」

 

「・・・出りゃいいさ。好きに生きればいい。誰も知らないところでもいいし、俺たちの知っている世界に紛れてもいい。そんなもんはお前の自由だ。・・・何人殺そうがな、別に誰も怒ってないんだから勝手に生きればいい。恨まれるなら恨まれる道を選べ」

 

 

俺は軽く笑い、幻夜の肩を叩く。

 

 

「案外、店でもやれば良いんじゃねえの?」

 

 

幻夜は何か考えていたが、やがて頷いた。

 

「そうだな。・・・どっちにしろ暫く一人で考えてみる。コイツにはまた縁あれば帰るって言っといてくれ」

 

 

そう言いながら幻夜の耳から透明なミミズのようなものが這い出し、人の形を作った。

・・・いやお前、アメーバかよ。

 

 

やがて幻夜から出たアメーバは幻夜そっくりの姿になると、これで大丈夫だなと笑った。

 

 

「じゃあな!俺に用があるなら一応行くぜ!」

 

 

そう言うとアメーバは地面に溶け込み、姿を消した。

 

 

「・・・あれ?話終わったの?・・・あれ、いないんだけど」

 

 

「・・・縁あればまた帰るだとよ」

 

 

「あっそ。・・・ありがとうぐらい言いたかったな」

 

 

幻夜は残念。と呟くと、輝夜を指差した。

 

 

「僕もさ、輝夜みたいな普通の何の特徴も持たない生き物だったんだよね。混沌の失敗作ってのが妥当かな」

 

 

そもそも本来の混沌とは、他の生物に体組織を変え、その生物と子孫を残して混沌を増やすという必ず変化が出来なければならない種族だと幻夜は説明してくれた。

 

 

「ところが僕は変化出来ない。・・・そのせいで結構生き残るのが絶望的だったんだよね」

 

 

その時来たのがアレだったんだよね。と幻夜は言った。

 

 

「そりゃ親とか親族殺されてるわけだけどさ、僕を助けてくれた事の方が嬉しかったんだよね。・・・今じゃアイツから力も貰ってさ、それでやっと侵二とかに並べるんだよ?アイツ強すぎない?」

 

 

幻夜は笑うと、天を仰いだ。

 

 

「・・・またね、初めての友達。今度会ったら息子見せてあげようかな」

 

 

そう言いながら天を仰ぐ幻夜は

 

 

「おう待てや。良い話で終わらせようとすんな」

 

 

・・・そんな事は省く。

 

 

「何?息子がなんだって?子供出来たのか?」

 

 

「んーん、もうちょっとしたら作る」

 

 

「は?」

 

 

等々縁の親代わりをしていた記憶が暴れ始めたのだろうか、真面目に親になろうとしている。しかも俺らのメンバーの中で一番頭のおかしい奴が、だ。風魔でも作らんと明言してるんだぞ?

 

 

「お前大丈夫か?前クソ女から聞いたらキスもまだだって言ってたんだが?」

 

 

「あー、あの後した」

 

 

「何やってんだお前」

 

 

割と真面目なようだ。まあ真面目じゃなければ許さんのだが。というか絶対これでアメーバの奴が出て行く決心しただろ。

 

 

「・・・んじゃ、結婚が先か?」

 

 

「そーだねー・・・まあ多分・・・千年は後だろうね。幽香が恥ずかしがってるし」

 

 

「はいはい惚気惚気」

 

 

「お粗末さまでした。・・・ま、そんな訳で、産まれたらよろしくって事で」

 

 

「へいへい」

 

 

俺は適当に返し、いつの間にか明日が突っ込んでくる日になっている月の事を考えた。

 

 

尚、既に翁殿は幻夜の洗脳により輝夜が帰ることは仕方がない事だと思い込ませている。すまんな爺さん、俺はヒーローになりすました悪役だ。

でもまあハッピーエンドだよな。そもそも輝夜は武田と結婚したいんだからな。

 

 

 

次回へ続く




ありがとうございました。
でもまだ身の丈に合ってないですよね。
いつか身の丈に合うように精進して行きます。一世紀くらいかかりそうですけど。



次回もお楽しみに。


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第五十五話 望まぬ迎えは唯の誘拐


最近あらゆる吉事が巡ってきてます。
ああ来年が怖い。


ゆっくりご覧ください。


夜だ。

万人が来ることに何も感じず、数名が来ぬことを願っていた夜だ。

だが、俺と侵二は間違いなく望んでいた夜だ。

 

 

先日竹林に館を設立し、以後ここに隠れられるようにした。

その為月からの迎えと称した程のいい研究サンプルの捕獲は今回で最初で最後という訳だ。

 

 

俺はゆっくりとライフルを構え、スコープを覗き、降りてくるはずのロケットのアンテナに狙いを定め、造作もなく引き金を引いた。

もう勝ったも同然だ。

 

 

「・・・はい、終わり。あとは降りてきたら消すだけ。簡単だな」

 

 

「お疲れ様です」

 

 

既に戦勝ムードなのに違和感を覚える奴もいるだろうが、どう見ても勝ちだ。

俺はかつて月で開発仲間の永琳とあらゆるものを作ってきた。

・・・つまり、俺は大半の月の兵器の欠点を知っている。いや、あえて作っていた。非国民待った無しだ。

例えば今降りてこんとするロケットは四つエンジンがあるのだが、上から見て右上のエンジンは起爆しやすい。後はアンテナが外部付けなのでロケット内は広いがアンテナが破損すると通信機能が断絶する。

永琳は薄々気がついていたようだが、今のロケットを見て確信した。わざと作り直していない。

 

「・・・こりゃ悪友確定だな」

 

 

初めての異性の悪友に若干心が踊りつつ、俺は永琳が元気であることを願う。

出会いはトーストを咥えて角を曲がって激突するようなありえない展開だったが、技術関連を含めば仲良くなるのは当然で、永琳は最初で最良の友人だ。元気であれば挨拶の一つや二つは送ってやりたい。

 

 

・・・さて話を戻して、他にも月の兵士の欠点はある。

所持しているライフルは二発撃つたびに一秒のクールタイムを要し、装備している電磁ナイフは水に濡れると放電する。双方バカ火力なのだが、このようにちゃーんと欠点がある。

変人部隊のアホ共には俺特注の欠点のない武器しか寄越していないので、ある意味俺の残した爆弾は持っていない。

 

 

やり方が卑怯なのは承知しているし、とても人間とは思えない行為なのは分かっている。

だが俺はそうしないと勝てないし、そもそも龍神だ。何をしようが、

 

「俺の勝手だ」

 

 

通信機能を失ったロケットを眺めながら、俺は着陸するのを待った。

 

「龍一!聞こえる!?」

 

 

待っていると、突然脳内に声が響いた。

 

 

「うっせーぞクソ女、んな騒がずとも聞こえてらい。・・・着いたか?」

 

 

「一々うるさいわね・・・着いたわよ、そっちは?」

 

 

「もうちょい。後永琳が元気なのは間違いないって輝夜に伝えといてくれ」

 

 

「分かった。・・・実力、見せてもらうけど無理しないでね」

 

 

「ありがとよ、お前もな。・・・明日は吹雪だな」

 

 

何ですって!?との叫び声を無視しながら紫が掛けてきた脳への通信を切る。これ以上は罵声の応酬になるのでやめだ。

 

 

やがて不細工にも頂点が破損して焦げたロケットが降り立ってくる。

ドアが開いたかと思うと、十数名が現れた。目を引くのは二人。

片方は言わずもがな永琳だ。都と同じ衣服に同じ弓を担いでいる。

もう片方は他十名と衣服は違っていない。しかし空気が一人違う。そいつは出てきた十数名の最後尾に並び、静かに俺を品定めするように眺めている。顔はフルフェイスのヘルメットで見えない。

 

 

「輝夜姫を差し出せ」

 

 

「拒否する。うちは蕎麦屋だ」

 

 

一人の男が口を開く。が予想していた発言だったので即回答する。

男は顔を歪めた。

 

 

「私は冗談は嫌いだ。差し出せ」

 

 

「俺も冗談は嫌いだ。うちは蕎麦屋だ。輝夜姫なんかいねえよ」

 

 

刹那の発砲。全て俺に命中し、レーザーが俺を貫通する。痛いのでとりあえず倒れておく。どれくらい痛いかは・・・そうだな、道で転んだ程度だろうか。

 

 

「貴方何を・・・!?」

 

 

慌てて永琳が制止しようとするが、男は返事もしない。

 

「隣の男に聞く。輝夜姫はどこだ」

 

 

「うちは蕎麦屋です」

 

侵二がどこから持ってきたのか看板を掲げて微笑む。どっから持ってきやがった。

やがて三連続蕎麦屋の回答はマズかったのか、男が地団駄を踏んだ。

 

 

「いい加減にしろ!さっきから貴様らはずっと蕎麦屋だ蕎麦屋だと!我々はわざわざ穢れた地にまで漫才を見にきたのではない!正直に言え!さもなくば貴様も殺す!」

 

 

俺死んだ事になってるよ。

侵二は寝そべった俺を見ると、合点した表情を一瞬見せて微笑んだ。

 

 

「すみませんでした。中華蕎麦屋ですね」

 

 

その通りだ。俺は一時期時系列滅茶苦茶の元のラーメン店を開いていた。ラーメンは中華蕎麦だ。と言うかよく見ると侵二の持っている看板は俺の店のだ。違うそうじゃない。

 

 

「・・・っ!やれ!」

 

 

理不尽にも光線が侵二を刺し貫かんとした時、永琳が直接止めた。

 

 

「やめなさい!」

 

 

「ええい黙っていろ!貴様も撃つぞ!」

 

 

しかし激昂状態の男は永琳に銃口を向けた。

瞬間俺の体が動き、俺は男の銃を奪った。

 

 

・・・念の為行っておくと、俺はこの時銃を奪っただけだ。手を下してはいない。

 

 

「あ・・・?」

 

 

ところが、男は倒れ伏した。と言うか死んでる。

俺はキレすぎによる心筋梗塞を疑ったが、どうやら違うらしい。

刺し傷があった。それも心臓を正確にブチ抜いた小さな穴が。

 

 

「ど、どうなって・・・!?」

 

 

「まさか、この男が・・・?」

 

 

俺に警戒の視線が向けられるが、生憎そんなこんにちは死ね!みたいな事はしない。隣で看板担いでるやつはこんにちは頂きますをやりかねんがな。

 

 

「いやいや、俺してないからな?そもそも撃たれて動いてることに先驚けば?後こいつの背中に刺し傷あるぞ刺し傷」

 

 

兵達がどよめく。

 

 

「このやり方・・・武田上級大尉じゃないのか・・・?」

 

 

「まさか、病死したはずだろ・・・?」

 

 

「いや、今も月読命様の下で働いてるって聞いた事が・・・」

 

 

色々と飛び交うが、一人の男が手を挙げた。

 

 

「と、ともかく、我々は蓬莱山の回収を・・・」

 

 

「いやまあさせないんだけどさ」

 

 

俺は侵二から看板を取り上げ、動こうとした男に投げつけて武器を弾く。俺の身体能力に違和感を感じているようだが、この時代にライフル担いでる違和感を先に察しろ。

 

 

「貴方・・・」

 

 

永琳は何かに気がついたのか、頭を抱えた。多分考えてる事合ってるんだよなあ・・・

 

 

「あ、バレた?隠す必要もないな。・・・御機嫌よう、いつぶりかね。変人部隊の元ボスの矢川だ」

 

 

「・・・ん」

 

最後尾の男が反応した。もう察した。薄々分かってたが確信した。

武田だ。

 

 

「鏡一・・・ふふっ、元気だったのね」

 

 

俺だと分かって永琳は笑った。

 

 

「ああ。文字通り倒し過ぎて生きてたぞ」

 

 

「皆喜ぶわね」

 

 

「行かねえけどな」

 

 

「・・・まさか、矢川准将が生きて・・・!?」

 

 

待てや、准将とか聞いてねえぞ、前は大尉だったのに何階級上がった。と言うかやはり、俺が死んだと言う話が表面的にあるらしい。

 

 

困惑していた兵士たちが俺の指差した先を見る。

その先には空気のおかしい奴が立っていた。

 

 

「お前がやった。間違いないな武田」

 

 

「・・・はい」

 

 

久々に聞いた部下の声は硬い金属のような声だった。

昔とまるで違う。やはり薬を飲んだのは間違いないようだ。黒百合にでも乗ってろ。

 

 

「飲んだな」

 

 

「すいません」

 

 

「アホ」

 

 

「はい」

 

 

「良いよ。困るのはお前だ」

 

 

俺は兵士達を見ると、武田と俺が生きていたことがどうしても信じられないようで、まだ騒いでいた。

やがて落ち着いたのか、俺達に向かって手を上げた。

 

 

「我々は降伏、このまま撤退します」

 

 

「およ、良いのか?」

 

 

若い男・・・さっき看板を投げつけた奴が口を開いた。

 

 

「はっ。私は月読命様から蓬莱山の安否確認のみを命じられておりました。・・・更に私情ではありますが、私は御三方に憧れておりました。こうして会っておられるのを妨害する事こそ違反と判断しました。全体撤・・・!?」

 

 

男がそう叫ぼうとした時、2台目のロケットが降り立った。

 

「なっ・・・!?」

 

 

出てきた集団は瞬く間に俺たちを囲み、そのうちの一人が笑った。

 

 

「そこまでだ。蓬莱山は我々化学班が回収する。軍は下がってもらおうか」

 

「なっ・・・!そんな事が許可されると思っているのか!?」

 

 

「思ってないからこうして強硬手段に出ているのであろう?・・・拘束しろ!」

 

 

何やら様子がおかしい。軍の奴らも知らなかったらしく、拘束され始めている。

 

 

「しゃーねーな」

 

 

俺はこちらを見つめている武田に笑う。

 

 

「慌ただしいがやるぞ」

 

 

次回へ続く

 

 





ありがとうございました。
来年腕とかボッキリいきそうです。


次回もお楽しみに。


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第五十六話 共闘

肩凝りが酷すぎて腕が上がらなくなりました。
いやもうホントに体いかれてるんじゃないですかね。


ゆっくりご覧ください。


「元気そうなのは良かった」

 

 

「隊長も。元気そうで良かったです」

 

 

「おう、やるぞ」

 

 

「はい」

 

 

会話はそれだけ。直後武田は短槍を背中から取り出し、フルフェイスヘルメットを投げ捨て、短槍を構えて突撃し、龍一はスナイパーライフルを構えて突撃した。

武田の槍が兵士の武器を突き落とし、龍一のライフルの弾丸が至近距離で放たれる。兵士は頭が爆散した。

明らかに使い道を間違えたライフルを龍一は構え直し、バレルで横から突撃してくる二人目を撲殺する。

武田はその間に跳躍しており、横薙ぎに振った龍一のライフルのバレルを足場にして、化学班と名乗った集弾の最後尾、狙撃手の胴体を刺し貫いた。

 

 

「腕は落ちてないな」

 

 

「そりゃ訓練は裏でもやめてないですよ」

 

 

「なら良い」

 

 

続いて龍一は片手で拳銃を取り出し、武田を取り囲む七人のうち二人を撃ち抜く。そして龍一はライフルを上空に投げ捨て、同時に武田が跳躍、残りの五人を刺殺し、ライフルを再度足場にして龍一の前に降り立つ。落ちてきたライフルを龍一は一度蹴り上げ、装填して片手で受け止める。

 

 

「ナイス」

 

 

「どうも」

 

 

龍一は拳銃をしまい、武田の肩を叩き、ニヤリと笑う。

武田も僅かに頬を緩める。

 

 

「じゃ、侵二」

 

 

「ご友人ですか、お願いします」

 

 

「人使いの荒い・・・」

 

 

龍一が侵二を指差し、次に驚愕している指揮官を指差す。

 

 

「こんな奴らがいたら月読命の仕事が増える。食っとけ」

 

 

直後、突然現れた化学班と名乗った奴らは全て消えた。残るのは咀嚼音と、骨か何かが砕ける音。美味しいのだろうか。

 

 

「了解です」

 

 

「おお」

 

 

「サンキュー」

 

 

侵二はにこりと微笑むと、手を合わせた。

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

「ん。じゃ、兵士諸君ご苦労。今回は我々変人部隊が鎮圧した。あ、武田、変人部隊専用の電話機、あるなら貸せ」

 

 

「はい」

 

 

武田が通信機を渡すと、龍一はゆっくりとダイヤルを回し、電話をかけ、深呼吸をした。

 

 

「・・・はーい。あれ、珍しいですね、武田くんですか?月読命で「何しとんのじゃど阿呆ォ!!」ヒアッ!?」

 

 

龍一は通信先の相手が出た瞬間、叫び始めた。

 

 

「地上に何ゴミ送ってきてんだ阿呆ォ!おかげで掃除する必要が出来た上に、蓬莱山と永琳が怪我しかけたぞボケェ!何を管理しとんのじゃワレェ!?しかも普通の使者の奴らまで怪我しかけただろうが!何考えとんのじゃ!」

 

 

「え、ええ!?地上に降りるなんて、そんな事一切聞いてないですよ!?「現に来とるやろがい!それに武田まで降りてきとんのはどない説明するんや!?」そ、そんなぁ・・・た、武田君、説明してください!」

 

 

「俺が貴女に休暇を命令された時に止められた仕事から出たボロです。今いる兵は以前月読命様に蓬莱山の安否を確認せよと仰ったメンバーです」

 

 

「あ・・・そんな事もありましたね。・・・はっ!?」

 

 

「アホがァ!何適当に休ませとんのじゃ!その上命令を忘れとんのか!プレミアムフライデーで強制的に休ませて、仕事の進行は無視して、後で取り返しつかなくなったら部下を責めて、しばらくしたらその事すら忘れる上司か己はァ!?」

 

 

「何言ってるか分かりませんし、やけに細かすぎますよぉ・・・」

 

 

「あー畜生が。・・・んで、ウチにゴミが降りてきたから処理した。兵は帰らせるが武田送り返・・・どうする?」

 

龍一は輝夜を一瞥し、月読命に質問する。

 

 

「ふぇ?じゃ、じゃあそのまま残し「仕事どうすんのじゃ」・・・じゃ、じゃあ送って下さ「輝夜どうすんのじゃ」意地悪です!!」

 

 

「俺が中継地点になって、とりあえず今の仕事まで武田行き来させるっちゅう案は無いんか?「それありなんですか!?」知るか。出来るならありだ」

 

 

「無茶苦茶ですよぉ〜」

 

 

「るっせ、俺が出来るといえば出来る。無理といえば無理。俺主軸に回っちまってんだから仕方ねえだろ」

 

 

龍一は半泣きの声になった月読命にそう吐き捨てると、左目を抉り取り、武田に突き出した。

 

 

「やる」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「あ、あのー、説明は要らないんですか「要らん」凄く兄上怒ってません!?」

 

 

龍一は知るかと吐き捨てると、通信機の電源を切った。なんて兄貴だ。

 

 

「これ、隊長が瞬間移動する為の奴だと思うんですけど、俺が貰って良いんですか?」

 

 

「ああ・・・それな、別のが出来たからやる。今の一々変えにゃならんのを全部まとめた奴が出来たから、それで済ます」

 

 

「貰います」

 

 

「良かろう」

 

 

武田は無愛想に頭を下げると、龍一は懐かしそうにニヤリと笑った。

 

 

「じゃ、お前の妹のとこに行くか」

 

 

「・・・良いんですかね」

 

 

「味覚消えようが、痛覚なくなろうが、お前はお前だ。気にせず前みたいに接してやれ」

 

 

「はい」

 

「んじゃ、のんびり行くぞ。侵二、一応座標指定」

 

 

「はいはい。ここですよ。永琳殿も」

 

 

「ん、じゃあ行くぞ。・・・あ、そこの士官、名前と階級は?」

 

 

龍一は撤退を判断した若い男に問う。

 

 

「はっ!加藤(かとう)軍曹であります!・・・あの、鏡一准将でありますよね?「あ、正確には神矢。・・・龍一な。悪いけど隠してた」龍一・・・っ!?」

 

 

「龍一って事は月読命に聞け。加藤だな、名前覚えた。お前部隊持ったら多分俺よりいい部隊長になるわ。後で月読命に連絡しとく。そこで立ってるお前らも佐々木の下での労働と進級は覚悟しとけよ!解散!」

 

 

「はっ!」

 

 

その声を聞いたか聞かなかったのか、次の瞬間四人は消え、静かな夜が残った。

 

 

____________________

 

 

紫達が逃げ込んだ竹林の少し手前に四人は現れた。

 

 

「よっ・・・と。ほれ、行くぞ」

 

 

「はい・・・」

 

 

「・・・全然乗り気じゃないみたいですね」

 

 

そりゃそうです、と武田は動かない表情筋を今以上に硬くした。

 

 

「・・・今まで死んだなんて情報を流して、今更帰ってきたよ、なんて言えるわけないじゃないですか。最後まで見てやらなくちゃならなかったのに、仕事を優先して輝夜を危ない目に合わせた。兄失格ですよ。永琳様には伝えましたけど・・・隊長も兄貴だから分かりますよね」

 

 

違う、と龍一ではなく侵二が武田の肩を掴んだ。

 

 

「・・・違います、貴方は間に合ったんです。・・・真に兄失格は間に合わなかった時です。妹の危機も知らず、危機に合わせた相手に復讐もできず、喪失感に打ちひしがれるだけ。・・・貴方は間に合った。それで良いじゃないですか。ね?」

 

武田に微笑みを見せる侵二の瞳は側から見ると黒く透き通っていたが、武田には中に何かが蠢いているように見えた。

 

「侵二さん・・・」

 

 

「聞かないでください。それに、今はそれより妹に会いなさい。・・・いや、愛する人の所へ」

 

 

「はい」

 

 

武田の顔がわずかに緩んだ。

 

 

「・・・ほれ、そうと決まれば早く行くぞ、武田」

 

 

「はい!」

 

唐突に武田は笑顔を見せ、驚いた二人を置いて地面を蹴り、馬並みの速さで駆けた。

 

 

「お前笑っ・・・てそう言う意味じゃねえよ!早くの意味が違うわ!・・・この馬鹿野郎!永琳、行くぞ!」

 

 

「ええ!」

 

 

龍一はそう言いながら笑い、永琳の手を取って武田に追いつくように駆けた。

侵二もやれやれと首を振り、何かを思い出すように空を見上げた後、同じように翼を蜘蛛の足のように地面に突き刺して駆けた。

 

 

「馬鹿、武田、止まれ!お前はこう一歩ずつ近づくとかのムードは気にしねえの侵二キモッ!!カサカサ動くんじゃねえよ!」

 

 

「虫みたいね」

 

 

「結構永琳殿辛辣ですね・・・仕方ないでしょう、私は二人と比べて走るのは普通なんですから「何処がじゃい!」まあまあ。武田君、ちゃんといつも通りただいまって言うんですよ!」

 

「はい」

 

 

「そこさっきみたいに笑えよ!」

 

目線の先に何かが見え始めた時、突然侵二の翼がわざとらしく竹に引っかかり、バランスを崩した。

 

 

「あ」

 

 

そのまま躓いた翼を除く7枚の翼は武田を縦横無尽に避けながら、正確無比に龍一に絡みつき、龍一ごと転倒する。咄嗟に龍一は永琳から手を離し、永琳は優雅に着地し、龍一だけが巻き込まれた。

 

 

「あ。も何も武田避けてる時点でわざとだろテメェェェェ・・・!!」

 

 

そのまま龍一と侵二は一つの球体になりながら、武田を追い抜いて転がっていき、紫達のいるはずの見えていた屋敷に激突した。

 

 

「やっぱり鏡一ね」

 

 

「た、隊長・・・?」

 

 

永琳は笑い、武田は困惑しながらも足を緩めず、すぐに追いついた。

そして相変わらず金剛石並みに硬い表情をさらに硬くした。

 

 

「た、隊長さん!?・・・紫さん、大変よ!隊長さんが転がって来たわ!」

 

 

目の前に妹がいる。それは武田にとってとても喜ばしく、待ち望んで来たことだが、どうしても近づけなかった。やがて先に輝夜が気づいた。

 

「っ!?こ、この人に手を出さないで!」

 

そう言って輝夜は小刀を取り出し、武田に向ける。輝夜は武田だと分かっていないらしく、武田もまた動かなかった。

 

 

「・・・あ、貴方一人だけなんて、怖くないんだからっ!」

 

 

そう叫んだ輝夜は武田に突進し、手に持つ小刀を武田に向けて突き刺す。

武田は小刀を急所を外して腹部に受け、接近した輝夜を抱きしめる。

 

 

「っ・・・!」

 

 

殺される。武田だと分かっていない輝夜は目を閉じたが、いつになっても襲ってこない。それよりも何故か安心感が体を包む。

懐かしいような匂いが輝夜を包む。

しばらくすると、輝夜の頭にぽんと手が置かれた。輝夜はその手を覚えていた。

 

 

「・・・兄、上?」

 

 

返事はなかったが、手が優しく輝夜の頭を撫でた。

やがて、聞きたかった声よりは硬かったが、それでも誰だか分かる声が聞こえた。

 

 

「・・・ただいま、輝夜」

 

 

「ぁ・・・」

 

 

会いたいのに会えなかった寂しさがこみ上げ、今ここにいる嬉しさと、何故連絡をくれなかったのかと言う怒りが入り混じり、輝夜は武田の横っ面を思いっきり張った。

 

 

「遅いよ・・・!」

 

 

ごめんなと武田に言われる。そうじゃないと輝夜は言いたかったが、涙が溢れて声が出ず、武田にもたれかかってしまった。

 

 

「・・・ごめんな」

 

 

そうして、一晩中輝夜は泣き続けた。

 

 

「やっぱ、輝夜姫には月からの迎えが来ねえとな」

 

 

月を見上げながら通信機を片手に龍一は笑った。

 

「これも兄上のツキの良さのおかげですね、月だけに!・・・なんちゃって」

 

 

「20点。後加藤含めて階級上げて佐々木の下な。・・・あの人材こんな仕事に使うの勿体ない。そしてお前はギャグセンスを磨け」

 

 

「やっぱり怒ってません!?」

 

 

 

次回へ続く

 




ありがとうございました。

次回もお楽しみに。


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第五十七話 竹取物語、終始


表情筋金剛石


ゆっくりご覧ください。


朝、小鳥達の囀りにより、輝夜は目を覚ました。

眠い目を擦りながら顔を上げると、見慣れていた顔が見下ろしていた。

 

 

「兄上・・・?」

 

 

「おはよう」

 

 

武田は金剛石と化した表情筋を緩めながら、優しく声を出した。

 

 

「ずっと起きてたの・・・?」

 

 

輝夜が申し訳無さそうに聞くと、武田も申し訳なさそうに笑った。

 

 

「・・・悪かったか?」

 

 

「ううん・・・ありがとう」

 

 

そう笑う輝夜だったが、昨日の小刀の事を思い出し、さっと顔色が悪くなる。

慌てて武田の腹部を見るが、出血はおろか傷口も無い。

 

 

「どうした?」

 

 

「え、だって昨日・・・刺して・・・」

 

 

武田は表情を金剛石を砕きそうな程固めて真面目な顔になった。

 

 

「・・・飲んだんだ。お前と同じように、あの薬。三番無かったろ?」

 

 

「何で!?」

 

 

武田は表情を暗くした。

 

 

「すまん、言えないんだ・・・」

 

「・・・頼んでも?」

 

 

「・・・ごめんな、俺からは言えない」

 

 

輝夜は頷くと、武田の膝に頭を乗せた。

 

 

「怖かった・・・」

 

 

「・・・すまん」

 

 

謝らなくていいのよ、と輝夜は笑った。輝夜は武田の腹部に顔を埋め、嬉しそうに身じろぎをした。

 

 

「兄上」

 

「ん?」

 

 

「大好き・・・」

 

 

「・・・なら結婚するか?」

 

 

冗談かと思って、それでも本当だったら良いなと思った輝夜は顔を上げ、武田の顔を見た。

 

 

「そうねぇ・・・兄上なら良いかなぁ・・・あれ?」

 

 

笑って冗談を受けようとしたが、武田の目が一切の冗談を殺していた。

本気と書いてマジの目だった。輝夜は混乱した。

 

 

「え・・・?」

 

 

「駄目か?・・・まあ、殺し屋だったからな。こんな奴は嫌だろう」

 

 

「そ、そうじゃなくて・・・なんで?」

 

 

武田は不思議そうに首を傾げた。

 

 

「だってお前、昔から俺と結婚するって聞かなかったじゃないか。俺もお前が良ければ悪く無いと思ったから待ってたんだが」

 

 

「・・・兄上に結婚してくれって言った人は居なかったの?」

 

 

「いた。死亡したと書いていたはずなんだがなんか沢山いた。殆どは覚えてない。冗談気味に依姫様と豊姫様に聞かれたが、断って以来は誰からも来てない」

 

 

それ本気だったんじゃないの・・・?と輝夜は言いたかったが言えない。

というか目の前の兄貴は自分の幼少期からの我儘を真面目な発言として受け取っていたのだろうか。嬉しいのは間違いないが申し訳なくなってくる・・・というかアホなのかと、輝夜は思った。

 

 

「で、どうだ?冗談だったならまあ仕方ない「本気よ!」・・・なら結婚するか」

 

 

「へ?・・・私で、良いの?」

 

 

「ん?逆に断ると思うか?」

 

 

「ホントに?」

 

 

「ああ」

 

 

結婚するかと聞いてから終始表情筋を動かさない義兄の筈なのに何故か照れてしまい、輝夜はこくりと頷く。

 

 

「ならよろしく頼む。輝夜」

 

 

「よろしく、えーっと・・・」

 

 

「勝也・・・いや、偽名で、そもそも武田じゃない」

 

 

「へ?」

 

 

数千年は読んだ名前を偽名だとさらりと暴露する義兄に輝夜が混乱していると、義兄は輝夜の手を取った。

 

 

「月野、月野守(つきのまもる)。・・・どっちでも良い」

 

 

「守・・・」

 

 

「うん?」

 

 

ほんの少し表情筋の動いた義兄・・・旦那に笑ってしまい月野の服をぎゅっと握りしめる。

 

 

「ずっと側に居て。・・・何処にも、行かないでね・・・?」

 

 

言えなかったあの時の言葉、それが今、すらりと言えた。

月野はしっかりと頷き、輝夜の頭を撫でた。

 

 

「分かった。・・・もう、俺は何処にも行かない。ずっと側にいる。・・・世界が終わっても」

 

 

輝夜はありがとうと言いたかったけれど、昨日から自重しない涙腺が再び動き、ボロボロと大粒の涙を流してしまった。

 

 

「な、泣くな・・・ああ、どうすれば・・・」

 

 

ひょっとして昨日もこんな感じだったのだろうかと、同じように泣いた自分に困惑して表情筋が動き、どうにか涙を止めようとする月野の顔が容易に想像出来て笑ってしまった。

 

 

こうして、輝夜姫は月の迎えが来たのでした。

 

 

「・・・お熱いところ悪いんですが、朝食は冷めるので早く来てくださいね」

 

 

「ヒアッ!?」

 

 

その後、武田改め月野は、蓬莱山守。と言うことになった。

 

 

竹取物語、完。

 

 

「おい、ところで蓬莱の薬2号何処にやったんだ?」

 

 

「そこに・・・あ、今妹紅が取ってるのです・・・あ、飲んだ」

 

 

「うえっ、この薬あんまり美味しくない・・・」

 

 

「でーっ!?吐き出せ妹紅!それは冗談にならん!」

 

 

完。完といったら完。

 

 

____________________

 

 

「本当に申し訳ない、不比等さん!」

 

 

場所変わって藤原家、龍一が不比等の前で頭を下げていた。

目の前には短刀。そして龍一の隣には妹紅に見える少女が座っていた。しかし少女は目が紅く、髪と肌が異様なほど白かった。

 

 

「妹紅・・・なのか?」

 

 

「左様でございます。ウチの薬を飲んでしまいまして、はい・・・こうなりました。知ってたみたいですはい。その短刀で俺ぶっ刺して貰って構いません、なんならここで指詰めます」

 

 

「・・・ふーむ、別に問題なく、ヨーロッパ辺りの美人にも見えるし良いのではないですかな?「は?」・・・それより、その薬はうちの娘が勝手に飲んで良かったのですかな?」

 

 

「いや、それは良いんですよ。あのですね、補足があるんですわ。・・・娘さん、不老不死になりました。「なんと!それは面白い!」お前の親父さんやべえんじゃねえの?」

 

 

龍一は初めこそ丁寧に謝罪していたが、不比等の的外れな発言につい妹紅に悪口を言ってしまう。妹紅は今になってとんでもないことをしたと分かったのか、頭を下げている。

 

 

「と言うのは冗談で。「マジすか」妹紅、大変なことをしたのは分かっているかい?・・・不老不死、とは聞けばとても甘美で素晴らしいように聞こえるが、それは決して良いものではない。死ねなくなる。とは辛いものだと私は思う。歌も死ぬことを考えて読めず、大切な人を全て失ってしまう。・・・無論、私も死ぬ。すると私は決して・・・向こうの国でもお前と会えなくなる。とても悲しい」

 

 

しかし、と俯く妹紅の頭を不比等が撫でる。

 

 

「寂しいのは私の心だ。歌を詠んで美しいだのなんだの言うが、美しいさ。しかし歌の本意は本人しか密接できない。心はその人しか分からない。なら私が寂しいと思うのは私だけの感情だ。お前には・・・喜ばしいことではないが、同じような境遇の人が三人はいる。似た境遇の人は一人いる。・・・これは奇跡だ。・・・妹紅、その姿になれば、私は分かるが他人はあの妹紅だと分かるまい。よって縁を解く。・・・されど私はいつまでもお前の父だ。縛り付けて悪かった、好きに生きなさい」

 

「父上・・・?」

 

 

妹紅が不比等をおずおずと見上げる。

不比等は笑顔だった。

 

 

「どうした?何も自分を責めることは無い。・・・まあ人様の薬を飲んだのはどうかと思うがね、良い子だよお前は。・・・龍一殿、いえ、龍神様、娘が世話になると思います。どうか末長く見守ってやって下さい。なんと言いますか、向こうの国のよしみか何かでお願いします」

 

 

「言われずとも承りましょう・・・あ、こっちか。んんっ、・・・良かろう、その願い聞き届けた」

 

 

「ありがとうございます。・・・では妹紅。お前はここから出ればもうここには戻れない。私はそろそろ仕事がある、ではな」

 

 

立ち上がって去ろうとする不比等を妹紅が呼び止めた。

 

 

「待って」

 

 

「・・・どうした?」

 

 

「今までありがとう。父上」

 

 

「いささか親バカと思うが、お前はきっとあの集まりにずっと居たかったのであろうな。・・・生まれてきてくれてありがとう、妹紅」

 

 

嗚咽を漏らす妹紅に不比等はそうだと手を打ち鳴らした。

 

 

「妹紅に一つ仕事を任せよう」

 

 

「仕事・・・?」

 

 

「うむ。・・・もしお前がこの先、お前のような目にあった子や、辛い思いをした子を見つけたら、私のように・・・いや、おこがましいな。私が霞むほどの優しさを持って助けてやりなさい。それが仕事だ」

 

 

「・・・わかった、頑張る!」

 

 

「うむ、良い返事だ。・・・では龍一殿、さらばです。案外この時代も愉快なものですぞ」

 

 

そう言うとそそくさと不比等は退出し、龍一も妹紅を連れて退出した。

それから数分後、不比等は戻り、妹紅のいた場所を眺めた。

そして、大粒の涙を一粒流した。

 

 

「娘に涙を見せるまいと思ったが・・・危なかったな。・・・お前がいて、本当に良かったよ・・・」

 

 

不比等は空を見上げ、何かを閃いたようにニヤリと笑った。

 

 

「・・・ふむ、ここは一つ、あの輝夜姫の物語を誰かに書かせてみるか・・・」

 

 

きっと面白いことになるし、未来で娘も読んでくれるだろうな、私、いや、求婚した私達をとても滑稽にしていたなと不比等は一人微笑んだ。

 

 

「ふむ・・・私は計画が金を払わなかったせいで失敗する。といったものだったな・・・輝夜姫のお付きの人と兄上の事は伏せよう。龍神様にも自重していただこう」

 

 

ああしようこうしようと様々な考えを練る不比等の足取りは軽かった。

それから時は過ぎ、竹取物語と呼ばれる文献が未来に残るのは言うまでもない。

・・・蛇足ではあるが、その裏でまことしやかにBambooprincessと呼ばれる物語が出たと囁かれている。

誰だそんなもの書いたやつは。

 

 

竹取物語、始

 

 

次回へ続く




勝手に竹取物語の解釈をしました。
尚武田は初期は初めから月野迎(つきのむかえ)にするつもりでしたが、中性的になるのとどう見てもその辺から付けたっぽくなるので、もういっそ初めは偽名にするか!って感じでした。守は蓬莱山を守る→蓬莱山守
とまあちょっとキザにしました。わあい恥ずかしい。これで表情筋金剛石の味覚なしとかおかしいですよ。全身黒い甲冑に身を包んでシールド手に張って殴るんじゃないですかね。

ありがとうございました。
次回もお楽しみに。


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第五十八話 竹取後日談


そろそろクリスマスですね。皆様予定はお有りですか?

私?
・・・有るんですよねこれが。


「んで・・・まあ色々騒がしかったけど、久しぶりだな、永琳。あの後全自動卵割り機の改造は出来たか?」

 

 

私や不比等さんの隠れていた屋敷の一室で、私と侵二さん、龍一、永琳さんが座っている。

 

 

「そうねぇ・・・前言ってたレーザーで割ってその熱で焼けるようになったのと、割った直後に温泉卵になるように出来たくらいね・・・」

 

 

「お、結構改造されてんじゃん。じゃあ次はどうするかな・・・」

 

 

「そうね・・・」

 

 

龍一と永琳はしばらく唸っていたが、馬鹿らしくなったのか互いにクスリと笑った。

 

 

「やめやめ。もうあの傑作品は忘れよう」

 

 

「ええ、そうね。・・・てっきり死んだと思ってたわ」

 

 

「ばっちり生きてたんだよなぁ・・・しかもドッキリ、俺は龍神様だ」

 

 

「さっき姫様から聞いたわ。・・・驚いたけれど、月読命様を見ればそんな神様もいるわよね。って思ったわ。特に丁寧にする必要もないでしょ?」

 

 

「その通りだ。助かるぜ。何せ常に龍神様なんて言われてみろ、蕁麻疹が出る。龍神とは本来干渉しない崇高なものであるべきなんだよ。俺は暇だから降りて遊んでるだけ。そんな崇高なんぞ合いもしねえ、逆に崇高という文字に中指立ててるもんだ。神界で舞見て軽く酒飲んで楽しむより、地上で馬鹿騒ぎして酔い潰れて雑魚寝したいね俺は。てか切実に龍神辞めたい」

 

ま、身勝手だけどな、文句あっかと龍一は笑う。

永琳はいいえと笑う。

 

 

「ま、そんな訳で俺は単なるアホだから放置してろ。・・・んで、隣に控えてるのが侵二。知ってるかもしれんが、地上で悪名高い饕餮だ。侵二、こっちは八意永琳。俺と一緒に薬や道具の開発をしてた・・・友達、いや・・・親友と呼んで良いのか?」

 

 

「あら、そんなに思ってくれてたの?嬉しいわ、親友でオッケーよ。で、隣が饕餮さんね」

 

 

「初めまして。侵二と申します」

 

 

「初めまして。紹介に預かった八意永琳よ。よろしく」

 

 

侵二は優しく永琳に微笑んだ。

 

 

「主上や輝夜殿から聞いてはいましたが、綺麗な方ですね」

 

 

「お冗談が上手いのね」

 

 

「本心ですよ」

 

 

侵二は再び微笑むと、さて、と大きな欠伸をする。

 

 

「どうするんですか、この先」

 

 

「そうだな・・・しばらくはまた隠居だな」

 

 

する事ねえなぁ、と龍一が呟く。

その時「だから唐揚げにレモンかけないでよ!・・・あ、マスターに手伝って貰わないと詰むよ」と叫ぶ幻夜さんがフラッシュバック(?)し、頼まないと詰む、という言葉が浮かぶ。

 

 

どうしても癪だったが、私は龍一に向いた。

 

 

「・・・頼みがあるの」

 

 

「あ?」

 

 

私は馬鹿にするような目で見下ろす龍一に頭を下げた。

 

「お願いします。・・・理想郷を作るのを手伝って頂けますか?」

 

 

「えー・・・」

 

 

「あら、龍神様がお願いを断るの?」

 

 

「断るわいあほう」

 

 

いいじゃないですか、と意外にも侵二さんが龍一の肩を叩いた。

 

 

「お暇ですし、手伝ってもいいんじゃないですか?」

 

 

「・・・暇だけどなぁ、あんまり干渉したくないしなぁ、それに一人で作れないのか・・・?」

 

 

予想通りの龍一の質問に私は唇を噛む。答えは無理だ。

前にボロクソに言われた時にしっかり考えると、やはり一人ではどうもできない課題が多かった。

 

 

「・・・無理です」

 

 

「無力だと認めるんだな?」

 

 

「・・・はい「よし侵二、ボケとクソとアホに連絡通せ」・・・!?」

 

 

龍一は私を見て、言えればよろしいと、ニヤリと笑った。

 

 

「聞こえるか、ボケ、クソ、アホ」

 

 

「こちらアホ、聞こえてるよゴミクズ。唐揚げ食べてるから早くしてね」

 

 

「こちらクソ、何の用だ虫ケラ。寝させろ」

 

 

「おう!こっちはアホぜよ!何の用ぜよかウジ虫?」

 

 

龍一が掌を開くと、残像のようなものが幻夜さん達の形をとって現れた。

 

 

「元気な罵声だなぶっ殺すぞ。・・・さて、おそらく理想郷の話は来てるな?」

 

 

全員が頷き、龍一は笑った。

 

 

「手回し早くて結構。協力することになった、異論は?」

 

 

誰も何も言わなかった。

 

 

「決定、解散、失せろ」

 

 

龍一が手を閉じると、残像は消えた。

龍一が私を振り返り、中指を立てた。

 

 

「じゃあ手伝ってやるよクソ女」

 

本当に幻夜さんが言った通りだった。

なにかと言われたが、龍一は協力してくれるようだ。

 

 

「んじゃ俺の事は・・・まあなんでもいいや。ご主人様と呼べとか言おうと思ったが、お前に言われると気持ち悪い」

 

 

また何か言われたが、龍一は笑っているので悪意がないのはよく分かった。・・・だからと言って煽られるのが嫌ではなくなった訳ではない。

 

 

「ではまず、人間と妖怪の力の均衡を一定にする為の方法例をいくつか考え、一週間で軽く纏めろ。野郎共に協力を求めるのは禁止するが、まあ・・・永琳とか友人関連なら手伝ってもらっても構わん。それがステップその一だ、まあこれなら一人で考えつくだろ。良いな?」

 

 

「ええ」

 

 

「よろしくね、紫。・・・あ、私の事は呼び捨てで良いわよ」

 

 

「はい、よろしくおね・・・よろしく」

 

 

龍一に返事はしたものの、確かに最優先に解決すべき方法だ。

・・・一つだけ考えてはいるが、幼稚だと笑われるだろう、他にも考えてみようと決断する。

 

 

「んじゃその間に・・・待てよ?」

 

 

「あら?妹紅のお世話?なら受けてるわよ?」

 

 

「違う。・・・お前、蓬莱の薬飲んでねえか?」

 

 

永琳さんは優しく微笑みながら龍一に答えた。

 

 

「飲んだわよ。新しく作ってね」

 

 

龍一さんが永琳さん・・・永琳に摑みかかる。私は止めようとするが、龍一に睨まれて動けなくなった。一瞬だが双六ほどの小ささまでバラバラにされそうな威圧感があった。

 

 

「お前もか・・・っ!なんで飲みやがった!?あんな争いしか作らん駄作を・・・っ!」

 

 

「・・・作るためよ」

 

 

「アァ!?」

 

 

「姫様と、月野の不老不死を解くため。・・・欠点はあったけれど、解毒薬が一度作れたのよ?きっともう一度作れる。だから完成させるまで死なないって決めたの。・・・私が一番と二番と三番の死なない性質を作っちゃったんだもの、責任は待つわ。・・・でも、申し訳ないけど貴方の力は借りない。貴方は解毒薬を作れたけれど、私は作れていない。・・・悔しいから作るのは一人よ」

 

 

龍一は永琳を睨んでいたが、やがてため息をつき、優しく離した。

 

 

「・・・そういや、お前はそんな研究馬鹿だったな。仕方ねえ、不問にしてやる。・・・ならちゃんと四人分作れよ」

 

 

「分かってる。・・・相談すべきだったわよね、ごめんなさい」

 

 

「気にすんな。・・・そもそも今会えたのがそこそこの奇跡だろ?ま、本気で行き詰まったら作るのは手伝うぜ」

 

 

「ありがと」

 

 

「まあな。・・・俺は確か紫蘇と筍、そこにみりんと醤油、砂糖、塩をぶち込んだはずだ。参考にしてくれ」

 

 

「料理じゃないの?」

 

 

つい指摘してしまうが、龍一は頭をガリガリと掻く。

 

 

「仕方ねえだろ、一番の薬が不味かったから味付けに放り込んだんだよ。・・・妹紅にゃ不評だったけどな!」

 

 

龍一はさも悔しそうに床を殴った。正直それで美味しくなると薬の味を疑う。

 

 

「龍一は料理が荒いのよ。岸田も最初は混乱してたでしょ?」

 

 

「・・・あんなもんガッてやってバッてブチまけてザクッと切ってザッとまいてガーッと混ぜるだけだぞ?」

 

 

「擬音語が多いのよ。後それ、炒飯だったかしら?」

 

 

「分かるじゃねえか「そりゃ研究所でそれしか作らないもの」・・・楽なんだよ。そもそも俺料理要らんし」

 

 

龍一が料理出来るというのは意外だ。てっきり侵二さん辺りにさせているのかと思っていたが、違うようだ。

 

 

「誰か分からんが俺が侵二に飯作らせてたと思ってたみたいだな。まあ構わんが」

 

 

私を見ながら言っていたので、間違いなくバレたのだろう。

私はやっぱりこの人は化け物だと認識することになった。

 

 

と言うか家事できるわ頭いいわ運動できるわ顔いいわ背は高いわの龍一の性格の悪さに残念感を感じた。

 

 

次回へ続く

 





予定というのがクリスマスに【クリボッチ救済の会】を開く事になったので、馬鹿同士で騒ぐ事になりました。私は副会長です。
・・・私は本性の所為なのは分かってるんですが、馬鹿共がモテないのが意味わからないんですよね。


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第五十九話 弾幕ごっこ①


なんとか戦闘シーンの立体感を出したくて自爆しました。



ゆっくりご覧下さい。


期日一週間後、ちゃんと紫は俺の借りている家に書類を纏めて提出してきた。

 

「んじゃ、じっくり見せてもらうぞ・・・」

 

内容は要約する。

 

 

1枚目

妖怪と人間の世界を分割し、各々が望んで出入りする事が出来る。それぞれの地域ごとに指導者を設置。統括させる。

その時、各エリア毎に監視員を配置し、人と妖怪の監視を行う。

エリア区分

・人里

・魔法の森

・妖怪の山

「ボツ。これじゃ単なる何個かある王国だ。ただしエリアの分割はまあ良し。より細かくすれば分割法は活かせる。次」

 

 

2枚目

一切の争いを禁じ、争い、又はそれに近い行為を行った場合、監視員に処刑される。

 

 

「おい・・・完全に人間よりじゃねえか。しかもこれだと平和を強要してるからボツ。後監視員俺らだろ」

 

 

3枚目

争い等に禁止事項は無し、ただし、身分差はないものとする。

 

 

「手抜きか?・・・妖怪よりでボツ。・・・ってもう終わりか?おい、ふざけんなよ?」

 

紫は仕方なさそうにため息を吐き、最後の一枚を取り出して俺に押し付けた。

やけに分厚い。

 

 

「・・・新システム、弾幕ごっこ・・・?」

 

 

弾幕ごっこ(仮名)

理想郷内で争いが起きた場合に実行する対戦。全てはこの勝負で決定される。

この勝負では技の美しさ、優雅さで競う。

 

 

「・・・絵空事極まれりだな。恥ずかしくないか?」

 

 

「・・・恥ずかしいわよ」

 

「システムは採用な。一週間で纏めろと命令してこの出来は良い方だ」

 

 

続き。

又、弾幕ごっこに乗じない場合、相応の罰が施行される。

勝負方法は弾幕ごっこの範囲内では許可。ただし弾幕ごっこ中の殺害は禁止。

人間と妖怪の力量バランスを取るために、人間側に強力な存在を配置、以後人間側の象徴の一部とする。

 

・・・軽くにしては出来が良い。他にもぎっしりと書き込まれていたが、文句のつけるところは殆んどない。

 

 

「中々やるな・・・」

 

 

俺は紫に対しての評価を上げ、じゃあ、と立ち上がる。

 

 

「んじゃこれを目処に協力する。そこで、まずは弾幕ごっことやらを実演してくれ。的は俺で良い。・・・多分だが殺さないように軽く痛い弾幕で良いんだな?」

 

 

「・・・大雑把にすればそうね。じゃあ外に出ましょ」

 

 

瞬間俺は術を展開し、家ごと別空間に移転する。

 

 

「・・・あれ?ここ、外よね?」

 

 

「さあな。ま、対戦に不自由はねえだろ?・・・じゃ、説明してくれ」

 

 

まず紫に飛べと言われたので、飛ぶ。つまり空中戦になる訳だ。

 

「・・・じゃ、どうぞ」

 

 

紫が弾幕を放つ。一つ一つが楔形で綺麗だ。

俺は弾幕を緩やかに回避し、挑発の体制をとる。

 

 

「ま、面白いんだが・・・俺はそんなんじゃ当たらんぞ?」

 

 

「小手調べだもの・・・じゃ、本気で行くわよ?」

 

 

途端に弾丸並みの速度で波のように飛んでくる。ただしちゃんと回避可能な場所、弾幕にムラがある。回避不可弾幕は禁止って事か?

 

 

「ふーむ・・・ぶっ放してみるか」

 

 

俺も面白くなってきたので弾幕を放つ。出すときはこう・・・髪の毛を尖らせて飛ばすような感じだろうか。針形の弾幕が形成され、射出される。それを紫は能力で躱す。

 

 

つまりこうか。

俺は紫に接近しながら縦に回転し、指先から弾幕を放つ。紫は受けようとするが数発掠る。

紫は反撃と言わんばかりに追尾式の弾幕を放つ俺は引き下がるようにバックし、ロールと旋回を繰り返して弾幕をぶつけ、直撃弾を徐々に減らす。

 

 

「どうよ?俺も下手くそじゃねえだろ?」

 

 

「・・・くっ!」

 

 

再度加速して紫に急接近。しかし今度は紫の直前でバックし直して追尾式の弾幕を放つ。追尾式の弾幕は不規則な機動を描いて紫に襲いかかる。

同時に俺の後背の空間数カ所に大きめの弾幕を設置、そこから弾幕を撃ちまくる。

あらかた撃ったのち、俺は紫の目の前で捻りこむように上昇する。紫が防ぐように放った弾幕は下がると思っていたのだろうか、俺が下がっていた時に当たったであろう位置に放たれる。そして俺と先程紫の撃った追尾式弾幕がほぼ同時に紫に当たる。

 

そう言えば前世ではパイロットになりたいとかほざいてた時期もあったな。

・・・今では実現出来ないが、な。

鉄の塊に乗って、空を飛んでみたかったな・・・

 

 

思考を切り替えて紫に弾幕を指先から掃射する。

こう考えるとガンポッド辺りが欲しい。これで三段変形が出来れば完璧○クロスの○ルキリーだな。

 

 

「・・・何処でそんな技を覚えたのかしら」

 

 

「独学と・・・風魔だな。あのアホ、元が飛行機乗りか何なのか知らんが、異様に上手くてな。アイツならお前をもう墜としてるんじゃねえかなあ」

 

 

「飛行機・・・?まあ、確かに風魔さんなら即やられてるわね。だから適当に手を抜く貴方に頼んだのよ」

 

 

「そりゃ確実だな。本気なんか出してたまるか」

 

 

俺は徐々に空中機動のコツを掴み、自由に動けるようになっていた。

今なら三段変形も出来る気がする。

 

 

俺は決着をつけるために紫に突進し、途中でワープゲートを開き、紫の目前に瞬間移動し、そのまま懐に潜り込んで顎に指を突きつける。

 

 

「動くな。ぶっ放して顎割っちまうぞ?」

 

紫は俺を見下ろす構図で睨んできたが、やがて諦めたのか手を挙げた。

 

 

「勝てると思ってたけど・・・やっぱり最強の龍神ね。負けよ」

 

 

「やっぱり龍神とはなんだクソ女。そんなたかが最強の龍神に負けてどーすんだよ。そんなんじゃ理想郷無理だぞ?」

 

 

「な・・・っ、うるさいわね!そもそもあんな変態飛行しながらの回避なんて出来ないわよ!」

 

 

「○野サーカスを変態飛行で括るんじゃねえよオラァン!?」

 

 

それはもう雨霰のように飛んでくるミサイルを躱す技。見て感動してどうしてもやりたくて、そして今出来た。

普通に嬉しいが、よく考えてみると飛ぶことがほとんど無かった。

こうして移動ではなく、何かをするために飛ぶのは案外気持ちが良い。

 

紫が地上に降りたので、俺も名残惜しいが地面に降り立つ。

 

「それはさておき・・・うん、なかなか良い。楽しかった」

 

 

「・・・どうしたの?いつもより口、悪くないけど・・・」

 

 

紫に見当違いな質問をされるが、今はそんな事どうでも良い。

楽しかった。それはもう、ちょっと泣きそうなくらい。

 

 

「採用。間違いなく採用。・・・俺もやりたくなった。もっと詳細まで突き詰めてくれ。必ずこれで通せるように俺たちも務める」

 

 

「そ、そこまで言うなら・・・頑張る、かな?」

 

 

翌日、俺は野郎共にこの案を伝えると、風魔を筆頭に賛成の声が上がった。

多少俺の我儘が押していた気はするが、目を瞑ってもらおう。

 

 

____________________

 

 

「で、私も紫殿と試せと」

 

 

「おう。一番最適なのがお前の気がしてな。断るか?」

 

 

「紫殿は?」

 

 

「お前相手だとやりやすいから賛成だと」

 

 

「・・・分かった。乗ろう。・・・刀は捨て置いてやってみるか」

 

 

風魔が賛同したので足元に空間を展開、ボッシュートになります。

 

 

「・・・いつ来てもつまらん不気味な空間だな」

 

 

「そうか?」

 

 

風魔に俺の空間が不気味だと指摘される。俺の空間は真っ白で、何もないだけなんだが。つまらんのは賛同する。

 

 

「・・・あ、風魔さん」

 

 

「さん付けはしなくても構わんぞ?・・・さて、話は聞いている、行くぞ」

 

 

風魔が跳躍し、風が吹く。それと共に風魔は浮き上がり、風魔の周りを紙でできた式神が飛び回り、風魔を囲む。

 

 

「紫、準備は?」

 

 

「出来てるわよ!」

 

 

「なら、始め!」

 

 

俺の合図と共に紫は弾幕を展開。昨日俺がやった自分以外に弾幕を射出する弾幕を展開し、より密度を増やしている。

やはり紫は学習能力と知力が高い。何の妖怪か分からないが、ぬらりひょん程度なら知恵比べで勝つのではないだろうか。尚参謀の侵二。

 

 

「疾ッ!」

 

 

風魔が歯切れの良い息を吐く、すると式神は編隊を組んで紫に襲いかかる。

紫の形成した弾幕に当たっては式神は砕け、まるで人参を厚く皮を剥きすぎたように式神は削れ、少なくなっていく。

一見弾幕は紫が優勢だが、風魔がいない。

 

 

「・・・ん?」

 

刹那俺の目の前を掠める何か。それは風魔が飛ばしていた式神で、紫に削られている集団とはまた別の集団が紫の横に迫っている。

中には風魔。

さながら紙で折った龍のような姿になりながら、風魔は式神と共に弾幕を避け、直撃弾を式神を盾にして防ぎ、紫に特攻する。

そして紫に激突する直前、風魔は左に傾いた。

 

 

「終わりだ」

 

 

紫から見て右真横を掠めながら飛び去る風魔。慌てて紫は風魔を目で追うがそれは悪手。

風魔の周囲と背後につきまとっていた式神が一斉に紫に襲いかかる。

それと同時に紫の弾幕を潜り抜けた数発の弾幕が同じく肉薄して自爆する。

そして式神が通過した後には落ちていく紫。ここまで一分未満。

 

 

「おい!気絶させてんじゃねえぞ!」

 

 

慌てて俺は紫の座標の高さ分一つ下の位置に転移し、紫を抱え上げる。

 

俺が紫を抱えたまま地上に降りると、霧散していく式神と共に降り立った風魔は頭を掻きながら苦笑した。

 

 

「いささかやり過ぎたな」

 

 

「当たり前だろがど阿呆」

 

次回へ続く




ありがとうございました。

次回もお楽しみに。


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第六十話 弾幕ごっこ②

空飛べたら超高速で無人機に激突するか、摩擦熱で燃え上がりながら爆発したいですよね。


ゆっくりご覧下さい。


眼が覚めると、身体中を痛みが襲った。

 

 

「・・・ッ!?」

 

 

痛みで動こうとするが、余計に痛むので動けない。しかも枕らしきものが硬い。

 

 

眼だけで枕を確認するが、私は固まってしまう。

 

 

「ん・・・?お、起きてんのか。おはよう」

 

よりによって龍神だった。咄嗟に離れようとするが、龍一に押さえつけられる。

 

 

「バッカ動くな、今治療中だ」

 

 

そう言って龍一に頭を動かないように押さえられたまま動けなくなる。ところが龍一の顔が近く、恥ずかしい。

 

 

「お、いけね、近かったな」

 

 

龍一は今まで気がついていなかったのか、顔をどけた。

分かってくれるのは嬉しいが、ここまで何の動作もなく顔を近づけたり離したりされると私に魅力がないのではと思ってしまう。

 

そんな事を考えながら仕方なく龍一の膝枕に押さえつけられていると、徐々に痛みが引き始めた。

 

「お、効き始めたな」

 

 

「何を・・・?」

 

 

してるの、と聞こうとすると、龍一は遮った。

 

 

「俺の細胞を経由してお前の細胞を活性化、再生させる成分を流し込んだ。皮膚接触や手を繋ぐだけで回復できる」

 

 

説明していた龍一だが、突然閃いたようにニヤリと笑った。

 

 

「唾液や血液などの体液経由で摂取するのが一番早いんだが、どうかね?」

 

 

勿論拒否しておいた。ついでにはっ倒した。

 

 

____________________

 

 

「懲りろや」

 

 

紫を細胞活性で回復させた翌日、再び弾幕勝負をすると言い張り始めた。しかも次は侵二を所望した。死ぬ気かコイツは。

 

 

「だって、貴方に負けっぱなしだと癪に触るもの。・・・それに、理想郷を作るとしたら、このルールを広めた本人が強くなければ意味がないのではなくて?」

 

 

「・・・へーへー、左様ですか。口は達者だな」

 

 

俺は紫の態度にある意味で降参し、侵二の肩を叩く。

 

 

「んじゃ相手してやってくれ」

 

 

侵二の口が一瞬だけ耳元まで裂け、いつも通りの静かな声が聞こえた。

 

 

「了解」

 

 

「んじゃスタート」

 

侵二が先に動いた。侵二は指を鳴らすと共に電撃で出来た丸い弾幕を背後に展開、一気に射出した。

 

 

紫は先日の風魔戦と同じく、背後からレーザーに近い弾幕を放っている。ところが射出する場所が扇の形になっていたりする辺り、美しさも上げているのだろう。その前に侵二に挑むのをやめて欲しかった。

 

 

「ふーむ・・・こうですかね?」

 

慣れていない奴が言いそうな台詞とは裏腹に慣れた手つきで侵二が極太雷撃を放つ。紫はある程度は理解していたらしく、同じ様に極太レーザーで止めようとしたが、拮抗する暇もなく侵二の火力に潰される。流石遠距離火力バカ。

紫は無理だと悟っていたのか空間に逃げ込んだ。

 

 

そして侵二の背後からの奇襲。流石の侵二も弾幕には対応できなかったのか、はたまた今日の晩飯の事を考えていたのか、一発髪の毛の先に掠った。

 

 

「おっと・・・お、今日はサバの味噌煮にしますか」

 

 

後者らしい。侵二は晩飯を決めたらしく、いつも通り肩から生えている翼を・・・全部出した。計十一枚。

 

 

「そこですかね?」

 

 

侵二の翼のうち一枚が伸び、紫がいたのか空間ごと喰い千切る。

 

 

「ッ〜!?」

 

 

紫は噛まれたらしく、出血はしていないものの右足が無かった。

 

 

「おや、当たった。・・・さァてと、まァこれで終わりとかほざかないですよねェ?」

 

 

侵二の口が再度裂け、翼全てが顎を開き、バチバチと電撃の音を響かせる。

やがて侵二が片腕を上げると、それに呼応する様に翼が伸び、紫に襲いかかった。

 

「ッ!」

 

 

翼の噛みつきを回避し、背後から別の翼の電撃を受け流し、上下から二枚同時の雷撃弾を弾き、右足の死角から侵二の口からの電磁波を喰らう。口から吐くな。

 

 

「あうっ・・・」

 

 

よろけた紫に容赦なく翼は襲いかかり、雷撃弾、電撃、噛みつき、電磁波を浴びせんと迫る。

紫は何度も受け流し、回避し、急所を外して受け、逆に侵二を攻撃せんと弾幕を放ち、弾幕を喰われ、舌打ちする間も無く噛みつきを躱す。

 

 

初めこそ接戦ではあったものの、侵二の無尽蔵のスタミナと翼の獰猛さに紫は疲弊し、次第に電撃にも当たる様になった。

 

 

「まだ・・・まだぁ!」

 

 

「・・・心苦しいですねェ、でもまァ挑んだのは貴女からですからァ?ちゃんト降参は言ってもらわないと困りますからねェ」

 

 

耳まで裂けた笑顔を見せながらより侵二は鋭く、素早く、容赦なく紫を襲う。

やがて雷撃を回避した時に体勢を崩した紫の左腕に翼が喰らい付いた。

 

 

「ああぁぁッ!?」

 

 

絶叫し、翼に決死の弾幕を当てる紫、しかし翼は離れる事なくそのまま暴れ狂う。何度も空間の地面に叩きつけ、雷撃を流し、行動不能にさせようとする。

しかし紫も紫、気絶する事なく叫びながら翼に弾幕や直接攻撃を与え続ける。

 

 

「あああっ!!」

 

 

絶叫しながら放った紫の弾幕が、左手を咥えている侵二の翼にクリーンヒットし、翼が体勢を崩し、地面に落下、口を開いて倒れ伏す。

紫は口から左手右足を失った状態で這い出し、息も絶え絶えに立ち上がろうとし、気絶する。損傷が酷すぎる。

 

 

「お前なぁ、女の子やぞ?」

 

 

「しかシ妖怪ですかラ、そんなに心配せずとも治るでしょう。・・・まあ、いささか殺しにかかりすぎた気はしますケド」

 

 

すみません、と侵二は頭を下げながら耳まで裂けた口を戻す。

俺は仕方なく紫の体に手を当て、自分の左眼にも手を当てる。

 

 

「あんまりやると地獄からクレームが来るんだよな・・・転移」

 

 

ふっと俺の左目の視界が消え、見える様になった時には紫の欠損していた体や傷は再生していた。

代わりに俺がボロボロ・・・と言うわけではなく、至って健康的だ。

端的に言うと左眼が怪我を吸った。属性で言えば【死】に該当したため致命傷を吸うことが出来た。

今この様なことが出来たのはこの前武田に送りつけた義眼の代替品、全属性をねじ込んだ銀色の義眼だ。これによりあらゆる行為に応用を働かせることや、複合させることが容易になり、更に能力のレベルが上がった。ただし俺以外が扱おうとすると地球が爆発する。

 

さて【転移】についてだが、勿論欠点もある。

致命傷にしか通用しないのと、俺に効かない。つまり怪我を誰かに押し付けることは出来ない。使えねえ能力だ。

更に俺の命を誰かに押し付ける事も可能、つまり死んだ奴を俺が生き返らせる事ができる。俺死ぬけど。それで良いのか龍神。

 

 

「うーむ・・・誰か丁度いい相手はいないんですかね・・・」

 

 

侵二が頭を掻きながら思案する。俺も考えるが、誰一人思い浮かばない。

そもそも俺たちが頭百個分くらいブチ抜いたせいでこの程度の弾幕、お遊び程度である。

侵二はおそらく俺たちとやる場合、本体も動く上に、翼の何枚かは更に裂けて網目の様な状態で襲ってくるのではないだろうか、詰みです。

風魔も風魔、あれはもう試合開始の合図で即叩き斬られる。

あれがもしガンポッドやミサイルを持とうものなら殺戮兵器へと変貌する。

尚幻夜は絶対怪我させちゃうからと拒絶、壊夢は加減がど下手くそだがやる気あり、あと目処があるならアメーバかもしれない。

俺もほんの少し集中してしまうと周囲が止まって見え、弾幕がただのオブジェクトになってしまう。自立型弾幕も馬鹿に長い生活で百個同時に個別で動かせるようになってしまったので文字通り弾幕になる。

 

 

「アメーバ野郎呼ぶか?」

 

 

「うーん・・・でも今忙しそうですしねぇ」

 

 

「だな。・・・殺さないように頑張るか・・・」

 

 

それから二時間後、紫は目を覚ました。

 

 

「・・・ッ!?」

 

 

「おはよう。昨日もこれやったな」

 

 

「あ・・・また、寝てたの?」

 

 

「寝てたぞ。二時間ぐらい」

 

 

紫は自分の体を見回すと、大きな溜息を吐いた。

 

 

「はぁ・・・。結局一発も当たらなかったわね」

 

 

「まあそもそも俺らに勝とうってのがおかしいんだな。これからしばらく遊び相手になってやるから倒してみろ。後、明日は多分壊夢な」

 

 

まさかの壊夢参陣とか言う事故発生である。空間崩壊の一回や二回は考えた方が良いかもしれない。

なおアイツは弾幕が出せない。出来ないではなく下手といったのは波動砲みたいなのしか出ない。何故か弱く撃てない。

 

 

「・・・そう。ありがとう」

 

 

「まあ頑張れや。んでさっさと理想郷諦めろ」

 

 

「諦めないわよ」

 

 

「そーですかい。・・・ま、死んだら俺が面白くねえから死ぬなよ」

 

 

「・・・ありがと」

 

 

「・・・おう。・・・ダメだキャラに合わん!」

 

 

ガラじゃないセリフを吐いた事に嫌気がさし、俺はしばらく寝てろと紫に吐き捨て、瞬間移動で空間に篭った。

・・・体温、心拍数上昇か。ガラじゃねえって言ってんのにこれかい。

 

 

「・・・チッ、どうなってやがる」

 

 

よく分からんがイライラしする。しかし八つ当たりするものもないので新しい空間を生成して握り潰した。

 

 

 

次回へ続く

 




ちょっとだけデレたか分かりませんが人間らしい事になった龍一。
まあ最近キチガイっぷりしか見せてませんでしたからね。


次回もお楽しみに。


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第六十一話 共同戦線

後五話ぐらい書き溜めしてるとか何してたんですかね、一応テスト期間だったんですよ?

ゆっくりご覧下さい。


「今回はお前と組む」

 

 

侵二さんにも叩きのめされた次の日、私は再度龍一に頼んで弾幕勝負の場を整えてもらっていると、そんな事を言われた。

 

 

「え?どうして?」

 

 

「・・・俺もやりたくなったが、お前は既にのめしたからってのと、今日来る奴が変わったからだな」

 

 

そう言いながら龍一が空間を開くと、侵二さんと風魔さんが現れた。

 

 

「壊夢がちょっと無理って事でこの二人が来た。・・・しかもコイツらが組みたいだと。んで1対2も嫌だろうから俺が味方。・・・ま、邪魔にならんようにする」

 

 

何故か龍一の声に覇気が無かったが、何故かと聞くと急に暴れそうだったので頷くだけにした。

 

 

「・・・あー、クッソ、おら、てめえらさっさと来やがれ!」

 

 

「夫婦漫才中に構わんのか?」

 

 

「んだと殺すぞァァ!?」

 

 

「餓鬼か」

 

 

「よし決めた殺す。ぜってえ地面に這いつくばらせてやる」

 

 

「やってみるといい」

 

 

「お望み通りにしてやらァァ!・・・さてと、んじゃやるか」

 

 

先程まで風魔さんに第三者の私でも凍るような殺意を向けていた龍一だったが、首を曲げた瞬間いつも通りに戻った。

 

 

「チッ、煽りは無効か」

 

 

舌打ちをする風魔さんに龍一は中指を立てた。

 

 

「見え見えなんだよ、バーカ。おい紫、さっさとしろ」

 

 

それでもやっぱりいつもと何か違う龍一に急かされ、私は弾幕を構えた。

 

 

「んじゃ行くぞ」

 

 

刹那龍一と風魔さんの姿が消え、侵二さんの翼十一枚が上空を駆け巡る。

一瞬困惑する私だが、すぐにその原因が分かる。

上空で龍一と風魔さんの腕が激突し、その背後で数百の弾幕が相殺し合い、再度二人の姿が消え、別の場所で弾幕と共に再度激突する。そして一瞬前激突していた場所を侵二さんの翼が襲いかかる。

 

 

「くたばれや鳥がァ!」

 

 

「誰が鳥だ!」

 

 

「うーん、速いですねぇ」

 

 

見えない。その事に衝撃を覚え、相手されていない事に怒りが沸き立ち、一瞬隙を晒した侵二さんに弾幕をぶつける。咄嗟に避けた侵二さんに何発か当たったが、以前には感じられなかった、どろりとした沼に沈められているような殺意の目を向けられた。

 

 

「おや失礼。相手してあげましょう」

 

 

刹那目の前を黒い何かが襲いかかり、私は首元に何かを引っ掛けられて引っ張られる。引っ張られる先を見ると龍一が風魔さんとぶつかりながら私を掴んでいた。そしてさっきまで私のいたところは翼で地面ごと無残に貪られていた。ゾッとした。

 

 

「馬鹿野郎!・・・って言っても俺が悪かったな!弾幕掃射準備!」

 

 

「え?」

 

 

「いいから撃つ準備してろよ!三秒前!」

 

 

龍一が風魔さんと離れ、私を放り投げる。私は飛ばされながらも命令通り弾幕の準備をする。

 

 

「撃てッ!」

 

 

龍一の叫んだ瞬間、私は龍一の空間で瞬間移動させられ、龍一と激突している風魔さんの背後に移動する。

私は龍一の意図が分かり、そのまま掃射する。

 

 

「何ッ!?」

 

 

直撃。当てた感覚と龍一の指示が分かった事に少し嬉しさを感じていると、目の前に翼が現れた。

 

 

「馬鹿め、読めてんだよ!次四秒前!」

 

 

再び龍一に掴まれ、龍一の背後に戻される。しかし今度は持たれているわけではなく、自由に動けと言う事らしい。

 

 

「死にそうになったらまた掴んでやる!好き勝手に突撃してこい!」

 

 

風魔さんに膝蹴りを叩き込みながら、龍一が笑顔を見せた。

・・・ほんの少し胸騒ぎがした。

 

 

「セアッ!」

 

 

「馬鹿め!拡散眼光!」

 

「何の光ぃ!?」

 

 

気のせいだと思いたい。目から光線を出して風魔さんを怯ませる奴なんかにドキッとしたくない。

 

 

そして四秒経過。再度私は瞬間移動し、今度は侵二さんの目の前に現れる。

目が合った。

 

「うぷっ・・・!?」

 

 

吐きそうになった。侵二さんの顔は半分黒い靄に侵食され、この世のものとは思えない威圧を放っていた。

ところが私の顔を見ると、ハッとしたかのように靄が消えた。

私はともかく弾幕を放ったが、全て紙一重の無駄のない動きで躱されてしまった。

 

 

「おや失敬。変なものを見せてしまいましたね。・・・どうも本気を出すとああなってしまう。どうにかならないですかね」

 

 

「知るか」

 

 

翼を振り回すのに飽きたのか、極太レーザーをあらゆる方向から乱射してくる侵二さんの攻撃を躱しながら、やはり風魔さんと激突する龍一が侵二に吐き捨てる。

ふと龍一の後ろに風魔さんの式神が迫っているのに気がつく。

 

 

「龍一!背後に一秒!」

 

 

「何ぃ?」

 

 

しかし龍一は瞬間移動で私を動かしてくれる。そこで私は空間内で自分の空間を開き、龍一の背後に回り、奇襲をしようとしていた式神を弾幕ではたき落とす。

 

 

「うへえ、ここに来て式神か。敵さん何体いますかぁ?・・・ちくしょ、泣けてきた」

 

 

龍一が嘘泣きの表情をしながら風魔さんの式神を掴み、逆に風魔さんに投げつけた。

 

 

「やるな」

 

 

「なんてな!紫!二秒から続いて三秒!俺とぶつかるんじゃねえぞ!?」

 

 

再度慣れた手つきで龍一に射出され、私は弾幕を再度準備する。

目の前に空間が現れ、そこに突入する。すると目の前を龍一が掠め、空間を出ると私のいた場所から現れた龍一が風魔さんを花瓶で殴っていた。

 

 

「ゴッ・・・!?貴様何処からそんな物を・・・!?」

 

 

そこに私の弾幕が迫り、風魔さんは墜落した。

 

 

「ざまあみやがれってんだ!後花瓶は俺の部屋の奴な!」

 

 

後は侵二さんが降参し、私達の勝ちとなった。

 

____________________

 

 

「おい、クソ女・・・じゃなかった、紫」

 

 

「え、え?私?」

 

 

「お前自分の名前も忘れたのか?中々やるじゃねえか。初見で俺の秒式移動術に気づいたのお前だけだぞ」

 

 

終わって一息ついていると、龍一にそう言って褒められた。

ちょっとだけ嬉しい。

 

 

「・・・別に。偶々分かっただけ」

 

 

「そうか。ま、その勘があるのはいい事じゃねえかな」

 

 

続いてボソリと呟いた龍一の言葉に私は食いついた。

 

 

「・・・案外、お前なら理想郷作れるかもな」

 

 

「本当!?」

 

 

「いきなり食いつくな!びっくりしたじゃねえか!」

 

 

それで理想郷作れんのかよ・・・と龍一に言われ、少しむっとした。

 

 

「何よ。珍しいのに褒められて嬉しいから喜んでるのよ」

 

 

「・・・それもそうか。確かに褒めたのは珍しいな。問題行動ばっかだからな」

 

 

まあその方が可愛気があるからいいんじゃねえの?と龍一が笑った。

もうなんかダメだった。

 

 

見たことない顔で笑われた。いつもは顔の半分に影が覆うような笑顔しか見たことのなかった龍一が、眩しい微笑みを浮かべていた。

これでいつも馬鹿にされる事と理想を否定された事を除き、目から光線を出しているところを見ていなかったら惚れたかもしれない。

そしてタイミング悪く昨日膝枕をされていた事を思い出し、頭が熱くなった。

 

 

「どうした?侵二の殺意で体壊してたか?」

 

 

「・・・いや、違う、大丈夫・・・」

 

 

「あ?絶対大丈夫じゃねえだろ?頭借りるぞ?」

 

 

龍一に額を当てられた。

もうダメだった。爆発した。

 

 

「ほら見ろ熱出てるじゃねえか!ったく、さっさと永琳のとこ行くぞ!」

 

 

追い討ちのように龍一に背負われ、半分気絶した状態で永琳の所まで運ばれた。

初めは慌てて診断していた永琳だったが、気がつかれてしまったのか、途中から温かい目で見られてしまい、今も龍一と診断室に座っている。

 

 

「龍一、これはさっきから熱が?」

 

 

「多分。さっきまで元気に風魔と侵二とぶっ飛ばし合ってたからな」

 

 

「そう。一応薬は出しておくけれど・・・龍一、紫が貴方に恋愛感情を抱いていて、貴方にされた一連の行為が恥ずかしかったと推測出来ないかしら?」

 

 

吹きそうになった。

 

 

「は?お前頭やったか?頭借りるぞ」

 

 

龍一は私と同じように永琳に額を当てたが、龍一は顔を顰めながら離れた。

 

 

「・・・正常だな。そんな事ねえだろ」

 

 

「あくまでも仮定よ。恋愛感情を抱いてなくてもその程度ならなるわ。後あんまり異性にそうして熱を測ることはないと思うわ。私は貴方をそんな目では見ないから大丈夫だけど。・・・少し自重したらどうかしら?」

 

 

「・・・そんなもんだったか?「貴方完全に龍華様と月読命様に毒されてるわよ。普通しないわよ」・・・そうか」

 

 

龍一は私に向き、ごめんなと頭を下げられた。

 

 

「い、良い、大丈夫・・・」

 

 

「すまんな。これから自重する」

 

 

「そうして頂戴。・・・龍一、武田が呼んでたから向かってくれるかしら?」

 

 

「ん、了解。あと紫頼むわ」

 

 

龍一が姿を消すと、嬉しそうに永琳が私に微笑んだ。

 

 

「で、実際のところどうなの?」

 

 

「へ?」

 

 

「龍一の事。好きなの?」

 

 

再度爆発しそうになったが、落ち着いてよく考える。

別に顔は悪くない、むしろ好みではある。

運動神経は文句なし。

性格は拒絶していたけれど、近くにいると唯の口が悪いだけの悪人を装った良い人な気がする。というか多分根本的には優しいのだろう。

理想を馬鹿にはしたが、正論しか言わなかった上に協力してくれている。

 

・・・好きかどうかはよく分からない。

 

 

「・・・嫌い、じゃない」

 

 

「そう。・・・今はそれで良いと思うけれど、多少焦った方が良いわよ。本人が一人を愛するとか責任重大過ぎて無理って嫌がってるけど、何人も龍一に心臓を心理的に撃ち抜かれているから、本気で近づくなら急ぎなさいよ。・・・まあ、龍一も見た様子固まってはいそうだけど。しばらくその為にまた鍛えてるんじゃないかしら」

 

 

物理的に撃ち抜いたのには劣るけど、撃ち抜いたのは相当じゃないかしら、八百万の女神全員に一度は言われたらしいから。と永琳は笑った。笑い事じゃない。

 

 

「もしそうなるなら応援してるわ。じゃあこの薬、龍一に渡して頂戴」

 

 

永琳に笑われながら、私は龍一を探す為に部屋から出た。

 

 

次回へ続く




壊夢は弾幕が単発でしか出せません。
近接オンリーキャラですね、岩投げますけど。


次回もお楽しみに。


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第六十二話 転機

とうとうクリスマス間近ですね。
昔食虫植物ってのをお願いしてました。
めっちゃ後で謝りました。


ゆっくりご覧下さい。


 

「ったく、料理教えて下さいだぁ?あんの箱入り娘に軍隊男、炒飯も作れんのか」

 

 

ぶつぶつと呟く龍一の隣に付き添いながら、私と龍一は龍一の家へ帰る道を歩いていた。

 

 

「お前だって作れるよな?」

 

 

「え?・・・あ、うん」

 

 

「・・・お前永琳に言われた事まだ気にしてるんじゃねえだろうな」

 

 

「べ、別に、そんな・・・」

 

 

龍一に呆れたような表情で見られながら否定したが、否定出来たようには思えない。

龍一がはぁ、と溜息をついた。

 

 

「・・・別にお前が俺の事どう思おうが構わんがな、俺は悪人だからな。理想郷作ろうとしてる奴が悪人に惹かれるんじゃねえよ「悪人じゃない」・・・んだと?」

 

 

「龍一は悪役のフリをしてるだけじゃないの?」

 

 

龍一が私を睨む。殺気は侵二さんを上回るほど凄まじかったが、吐き気のない寒い殺気だった。私は言い続けた。

 

 

「私にとって貴方は嫌な人。でも結局は応援してくれるし、私を否定しない。それに、悪人ならあんなに知り合いや仲の良い人はできないと思うけど?」

 

 

「・・・何が言いたい」

 

 

「貴方はもっと自信を持たなきゃならないと思う。それは私から言うのはおこがましいかもしれないけれど、貴方は龍神様なんだから。ある程度は優れていると見せなきゃ、他の人達まで自失してしまうと思うの」

 

 

「・・・ほう」

 

 

龍一は驚いたような顔をしながら、私を眺めていた。

 

 

「だから・・・その、何、言えない、その・・・」

 

 

どうしても伝えたかった事があるはずなのに、どうしても言えなかった。言葉に出来なかった。

しかし、龍一は笑った。

 

 

「・・・もっと自分を誇れ、か?神様の癖に下ばっか向くなと」

 

 

龍一は突然に私の頭を撫でた。

いつもの口の悪さを忘れそうなほど優しく、ゆっくりと撫でられた。

 

 

「そうか。そうだな。俺は間違いなくゴミクソの悪人のどうしようもないクソッタレだ。それは否定させない。・・・けど、確かに龍神様なんてご大層な肩書き持ってりゃ多少は胸張らねえとな。嫌だけどな!」

 

 

龍一は笑いながら、めんどくせえ種族だぜやめてえなぁ・・・と呟いている。

 

 

「良いだろう。面白かったから最後まで手伝ってやる。それに成功できるよう尽力してやる。命張ってやろう」

 

 

「命は言い過ぎよ。・・・でも、ありがとう」

 

 

「気にすんな。龍一様の気まぐれだ」

 

 

微笑む龍一を見ていると、永琳に言われた事が引っかかって離れず、自然と口から言葉が出ていた。

 

 

「・・・ねえ、龍一」

 

 

「ん?」

 

 

自分で言っているのか分からない。分かるのは速過ぎる動悸と燃えるように熱い体。

私の口はそのまま続けていた。

 

 

「もし、私が理想郷を作る事が出来たら・・・」

 

 

付き合ってもらえますか?

 

 

そう口にした私は当然恥ずかしくなり、龍一から顔を背けた。

龍一は爆笑した。

 

 

「プッ、ハハハハハ!!」

 

 

「な、何よぅ・・・」

 

 

涙を流すほど笑った龍一に文句を言おうと睨もうとしたが、その前に龍一に再び頭を撫でられた。

 

 

「別にバカにはしてねえよ。・・・何万年、何億年でも待っててやるよ。だが、俺と付き合うなら俺は結婚まで持って行くからな。その辺りまで覚悟できたらまた来な。・・・だが、俺も自信がない。ま、頑張ってその気にさせてくれ。俺は気まぐれだからな。後ちゃんと理想郷作れよ」

 

 

龍一はそう言うと、俺とお前だけの秘密な。とウインクされた。

やっぱりその顔で簡単にウインク等をするのはズルイと思う。

 

 

「んじゃ、それまでに俺は人脈を増やすか。・・・今回のでまあ面白くはなった上に落ち着いたから、しばらく俺は失せる。困ったら侵二にでも言え」

 

 

龍一は真面目な顔に戻ると、じゃあこの話を次するときは理想郷完成だなと私に伝え、私が頷くと笑った。

 

 

「じゃ、俺は後百年程したら海を越える。それまでにどれだけ頑張れるか、見せてくれよ?」

 

真っ白な龍一の空間を歩いていたが、龍一の笑顔はそれより白く見えた。

 

 

___________________

 

 

「龍一、私式が欲しい」

 

 

それは置いておいて、それから一ヶ月後、私は龍一と侵二さんに頼み込んだ。

 

 

「式・・・つまり主上にとって我々の事ですね。まあ確かにアシストや支援、常に行動する時に隣にいる人がいるのは良いでしょう。で、オスですか、メスですか?そもそも性別無しですか?」

 

 

侵二さんの真顔の強烈な質問に私は吹きそうになった。

 

 

「ま、まだ決まってないけど、女性の方が良いかな・・・」

 

 

「ほう?すると意中の男性を他に見つ「くたばれ」・・・冗談です」

 

 

龍一はやれやれと立ち上がりながら、侵二さんの頭を殴った。

 

「アホか。いきなりオスかメスかは違うだろ。紫も真面目に答えんな。・・・んで、目処とかはあんのか?」

 

 

「・・・一応。でも人間として過ごしてるから、今行くのは悪いかな・・・って思って」

 

 

「ちなみに種族は?」

 

 

「・・・九尾の狐、だと思う」

 

 

質問した侵二さんが顔を顰めた。

 

 

「・・・狐、ね。まあ良いんじゃないですか。私はあんまり勧めませんけど」

 

 

「お?どうした侵二、昔に狐にフラれたか?」

 

 

「違いますよ。クソ昔からずっと生きてたと思いますけど、知り合いに狐がいたんですよ、尻尾十本の。まあ妖術やら翼の使い方とか教えてくれた一種の師匠なんですよね。ドのつくクソジジイですけど」

 

 

九尾は確かに頼もしいですけどこぞって性格悪いですよー、と侵二さんが首を横に振る。

絶対侵二さんと龍一の方が性格悪い。と言おうとしたが飲み込んだ。

 

 

「今私が性格悪いと思いましたねその通りですよ」

 

 

「お前俺も性格悪いと思っただろ。当たりだ」

 

 

バレた上に肯定された。

 

 

「まあ良いんじゃねえの?紫のになるんだから、そこまで勧める勧めないも無いだろ。式についてアドバイスするならコイツら式にしない方が良かったとだけ述べておこうクソ共。身の丈と自分の性格にちゃんと合わせるように」

 

 

「そりゃ我々を配下にしてるならそれなりの対価と実力は要りますよ。逆に言えば報酬さえあれば裏切りますよ?あ、なんなら心臓くれます?」

 

 

「ほぼほぼフリーの傭兵じゃねえか。リペアの心臓要るか?」

 

 

「言葉の綾です。要らないです」

 

 

まあそんな事どうでも良いんですと侵二さんが笑った。

 

 

「その娘が良いと思うならその娘にしましょう。そこでバカやってる主人も我々が良いと言って叩きのめして来ましたから」

 

 

叩きのめすまではしなくていいですよ?と侵二さんは微笑んだ。

笑うところではないし叩きのめす気は元からない。

 

 

「いや、でも・・・万が一、いや億が一性格の優しい娘だと良いんですけど。ジジイの直系家族だと困るので見てきましょうか?」

 

 

私は侵二さんにお願いした。

 

 

「はいはい、分かりました。・・・ジジイの孫娘とかじゃなけりゃ良いんですけど」

 

 

侵二さんはらしくなく耳をほじりながら歩いて行った。

そんなに九尾が嫌いなのか。

 

 

翌日、龍一の家に帰ってきた侵二さんが化け物を直視した人間のような目をしていた。

侵二さんは私を見ると、恐る恐る口を開いた。

 

 

「・・・あれは九尾じゃないです」

 

 

「な、なんだったの!?」

 

 

侵二さんはまだ信じられないと言った顔で首を横に振った。

 

 

「あんな真面目そうな子が九尾な訳ないです・・・!」

 

 

「固定観念酷すぎないかしら?」

 

 

侵二さんの頭の中は九尾=性格悪いなのだろうか。風評被害が過ぎると思う。

 

 

「悪い夢でも見てるんでしょうか・・・!?あの娘、私を見ると会釈したんですよ!?しかも貴族の奥さんなのに!私の知ってる奴らはまず唾を吐いてケッ、とガンを飛ばしてくる奴らですよ!?」

 

 

これは夢だと今までの中で最も深刻な表情のままぶつぶつと呟く侵二さん。多分今の侵二さんが一番夢でいて欲しい。

 

 

「で、何?一目惚れ「馬鹿言っちゃいけません。だれが九尾の旦那持ちなんかと。神様は嫌だと言いましたね。付け足します、九尾も嫌です。あのジジクソの家系なら余計に嫌ですね」・・・お前精神状態おかしいよ」

 

 

「あんのクソジジ、くたばる前に急に表情変えて、何が「孫辺りを頼む」ですか。嫌ですよ。あんな家族がいるのに私庇ってくたばったクソ野郎・・・さっさと私を見捨てりゃ良かったんです」

 

 

・・・いや、侵二さんはどこもおかしくなかった。

やっぱり気の優しい人ではあるみたいだ。

 

 

「・・・んじゃ、やっぱり紫には向いてるんだな?」

 

 

「悔しいけど向いてますよ。後しばらく私も様子を見ます。・・・あのクソジジイの家系かどうか見極めてやりますよ。あわよくば十年分の仕返しを・・・」

 

 

訂正、やっぱりおかしかった。

 

 

次回へ続く

 




侵二は結構好き嫌いが多かったりします。
てか前作の龍一朴念仁過ぎましたね、反省。


次回もお楽しみに。


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第六十三話 狐と狼

メリークリスマス(早とちり)


ゆっくりご覧下さい。


次の日の昼前頃、龍一は「幻夜のクソ野郎に依頼された荷物をぶち込みに行く」と朝からおらず、侵二さんに「九尾を見に行きますが来ますか?」と聞かれたので行く事にした。

 

 

侵二さんは頷くと、何処からか編笠や修行僧の服を取り出し、それを着込んで行きますよと言われた。

侵二さんについて行くと、道行く人たちに声をかけられた。

 

 

「お、侵さんかい!今日は早いねえ!」

 

 

「あ!侵にーちゃんだ!おーい!」

 

 

「侵さん、また暇なら影鰐みたいにお祓いしてくれないかい?」

 

 

侵二さんはいつ行動していたのか、人脈が広かった。侵二

さんは、今日は仕事がありまして。おはよう、今日は忙しいからまたな。明日ならお祓いしますよー。と、それぞれに微笑むと、すたすたと歩いて行った。速い。

 

 

ここでふと気がついたのだが、龍一は私に歩幅を合わせるためわざとゆっくり歩いていたのかもしれない。その事に少し嬉しさと照れ臭さを感じる。それはともかく侵二さんの足が速い。

 

 

「・・・およ、紫殿、遅いですよ?」

 

 

「侵二さんが速いんじゃないの・・・?」

 

 

おやそうですか?と微笑む侵二さんに私は聞いた。

 

 

「侵二さん、人間と仲よさそうだけど、どうしてるの?」

 

 

「んー・・・人心掌握って言うんですかね?帝王学にそんなのがあったので使ってるだけですよ」

 

 

「帝王学?侵二さん王族なの?」

 

 

「・・・貴女みたいに勘のいい子は嫌いじゃないですよ。内緒です」

 

 

侵二さんは少し悪戯っぽく笑うと、大きな屋敷の戸を叩いた。

 

 

「以前玉藻様から呼ばれた侵ですー。入りますよー」

 

 

侵二さんは私を連れてずかずかと屋敷に入り、奥の部屋の引き戸を無言で開けた。不敬過ぎる。

 

 

「・・・ほら、あそこで寝てるのが九尾ですよ。クソジジの家系じゃないと良いんですけど」

 

 

侵二さんは九尾だと指し示した女性の肩を掴むと、強めに揺すった。

九尾だという理由だけであたりが酷い。

 

 

「玉藻殿ー、起きてくださーい。侵ですよー」

 

 

「うん・・・お、おお!侵殿!」

 

 

今まで突っ込んでいなかったが、よくここまでスマートに名前詐称が出来るものだ。もうなんかこの人は色々と酷い。

 

 

「はい、おはようございます」

 

 

「うむ。・・・ん?隣の女性は?」

 

 

「ああ、私の師匠の奥様です。彼女との散歩も兼ねておりまして。無論事情も存じております」

 

 

私は吹き出すのを精一杯堪えた。

シンプルに嘘をつく上に今は違うものの否定出来ない嘘をついてきた。侵二さんは知らないはずだが痛いところを突かれた。

 

 

「そ、そうか。・・・申し訳ないな、急に呼んで」

 

 

「いや、良いんですよ?既に防音しましたし」

 

 

この人は呼吸するように嘘をつき、片手間で防音結界を張るのだろうか。やはり龍一の言う通り龍一の式に常人がいない。侵二さんを良心だと思っていた私を殴りたい。

 

 

「そうか。なら早い。・・・何故私が狐だと分かったのだ?」

 

 

「獣臭かったんで」

 

 

「デリカシー無いの!?」

 

 

玉藻と名乗った狐も狐で、そうか・・・臭うか。とか落ち込まないでほしい。

 

 

「まあ冗談ですけど」

 

 

冗談が過ぎる。やっぱり狐というだけで辛辣過ぎる。

 

 

「前に依頼で旦那様に憑いてた蜘蛛をた・・・んんっ、祓った時に別の気配がしたので、まさか・・・といった次第です」

 

 

この人絶対蜘蛛を食べたと言おうとした。

 

 

「まあそれはそれとしてですね。聞きたい事があるんですよ」

 

 

「なんだ?」

 

 

「クソジジ・・・じゃなかった、貴女はひょっとして十尾の狐の子息だったりしますか?」

 

 

「な!?何故曾祖父の事を」

 

 

侵二さんが頭を抱えた。

 

 

「クソジジの家系か・・・!」

 

 

どうやら侵二さんの因縁の相手らしい。侵二さんは軽く舌打ちをすると、玉藻を眺めた。後口調が崩壊している。

 

 

「あのジジイのひ孫にしてはいろんな意味でよく出来てるな・・・まあ良いか。ジジイから聞いた事あるんじゃねえか?ジジイの元弟子の侵二だ」

 

 

「侵二・・・?まさか、四凶の・・・!?」

 

 

「おおそうだ。ジジイにゃ色んな意味で世話になった。俺はその借りを返しに来た・・・」

 

 

侵二さんの周囲の気温が一気に下がる。

私は唾を飲み込んだ。

 

 

「とかじゃなくてだな、お前この人の式にならんか?」

 

 

飲み込んだ唾でむせた。

周囲の気温が下がったのは・・・

 

 

「あ、やべ、バーイ」

 

 

唐揚げにレモンをかけない幻夜さんだった。と言うか龍一と用があったのではないのだろうか。

 

 

「式・・・?」

 

 

「ああ・・・じゃなかった。ええ、演算の式ではなく式神の式です。・・・まあ腐っても饕餮の前で要求を拒否するのがどういった行為かはジジイから聞いてるとは思いますが。・・・如何なさいます?」

 

 

勧誘じゃなくて脅しだ。酷い、ひたすらに酷い。

 

 

「うむ・・・、もう少し待ってくれないか?」

 

 

「良いですよ。理由を聞いても?」

 

 

いや緩い。そこはかとなく緩い。

 

 

玉藻はしばらく唸ると、首を横に振った。

 

 

「私は今の旦那と離れたくない。・・・私の外見しか見てはいないが、悪い奴ではないから。捨てるのは相手に悪い・・・」

 

 

「・・・お前まさか九尾にもなって男も捨てられない処女か?」

 

 

条件反射で侵二さんの後頭部に肘鉄を当てた、が受け止められた。後九尾に対しての意識がおかしい。

玉藻は恥ずかしそうに俯いた。

 

 

「そ、そうだ。・・・悪い、か?」

 

 

「聞くなそんなこと。俺が知るわけなかろうが」

 

 

侵二さんは欠伸をしながらやれやれと首を振り、ニヤリと笑った。

 

 

「なんなら・・・今喰ってやろうか?」

 

 

流石に酷かったので壊夢さんの拳骨と侵二さんの後頭部をスキマで距離を無くし、壊夢さんの素振りが直撃した。慌ててやり過ぎたかとスキマを消した。

侵二さんはもろに喰らったが微動だにしなかった。

 

 

「あ、いや、その・・・」

 

 

「・・・すまん、流石にやり過ぎた。そんな反応をされると困る」

 

 

侵二さんがぽかんとした表情をしながら謝った。

待った、喰ってやろうかとはつまり

 

 

「あの、侵二さん・・・その、食べたこと、あるの?」

 

 

「・・・どっちの意味でも食べましたけど」

 

 

聞くんじゃなかった。

 

 

「言いませんでしたっけ?私に元婚約者がいた事」

 

 

「え!?侵二さんに!?」

 

 

「と、饕餮殿に相手が!?」

 

 

「なんで九尾のお前まで食いつくんだ。・・・いたぞ。両方の意味で喰ったけどな」

 

 

私と玉藻の顔が赤く染まり、次に二つ目の意味を受けて青く染まる。聞くんじゃなかった。

 

 

「・・・数億も生きてりゃ当たり前だろうが。年中睡眠欲以外枯れてる風魔と情緒不安定の幻夜と興味なしの壊夢と下界前は身内ばかり、下界に来てクソ忙しい主上じゃあるまいし。紫殿もあるでしょう?」

 

 

「無いわよ!」

 

 

「こりゃ失敬。・・・あると思ったんですけどねえ」

 

侵二さんはわざとなのか自然にしているのか頭を書きながら唸っている。

この人相当おかしい。

 

 

「あ、あの、饕餮殿!」

 

 

「侵二で良い。・・・なんです?」

 

 

「今、侵二殿にはお相手は・・・その、いるのか?」

 

 

「いませんよ。なんです?紫殿と付き合ってるように見えましたか?」

 

 

「い、いや、そうではなくてだな・・・その、昔から曾祖父から貴方の事を聞かされていてな」

 

 

「はあ」

 

 

「優しく、強く、美しい人だと聞いていて・・・」

 

 

「うん。・・・うん?」

 

 

「今直に会って・・・」

 

 

「待てそれ以上言うな。・・・あのクソジジイ、やっぱ孫辺りに俺の要らんこと吹き込んでんじゃねえか。・・・あのな、俺は独り身で通す。昔主上にタイプを聞かれたがあんなもの適当だ。要らん」

 

 

侵二さんが玉藻の言葉を遮り、あのクソジジ・・・とまた呟いていた。

 

 

「やはり良い人だと思った」

 

 

「続けんなって言っただろ!?そうだよ見ての通りクソ野郎・・・あ゛?」

 

 

侵二さんが一瞬牙を剥いたが、すぐにいつもの顔に戻った。

 

 

「曽祖父から聞いていた通り。割と口は悪いものの気を遣い、相手を傷つけない限度を守る。やはり良い人だと私は思う」

 

 

「チッ、あのジジイ・・・」

 

 

言葉とは裏腹に侵二さんがほんの少しだけ照れているように見える。

などと思っていたら睨まれた。

 

 

「率直に答えてくれ・・・俺を見てなんだと思った」

 

 

玉藻は答えた。

 

 

「饕餮だとは思えなかった。貴方は本当に饕餮か?」

 

 

「・・・ああ」

 

ジジイに似やがって・・・と侵二さんは舌打ちをした。

 

 

「式の件、また来る。紫殿、話すことがあるなら話しておいでください。私は帰ります」

 

 

「帰ってしまうのか?」

 

 

「まだ昼だが仕事を頼まれた。・・・男と付き合うなら尻尾を出すなよ、九尾だけにな!」

 

 

侵二さんに似つかわしくない台詞を吐き捨てながら侵二さんは去っていった。

 

玉藻は咳払いをすると、私に深々と頭を下げた。

 

 

「せっかくのお誘いを断る事になって申し訳ない。また別の機会にお願いします」

 

 

「あ、はい。こちらこそお騒がせしました。・・・侵二さんの事が気になるのですか?」

 

 

「あ、いや、別に・・・いや、でも・・・また来て欲しいと言ってくれないか?」

 

 

「分かりました。伝えておきます」

 

 

その日以来今までの敬語は何処へやら、行きたくねえー!と叫びながら侵二さんが玉藻の所へ行く姿がしばしば見られるようになった。

 

次回へ続く




侵二のこれをツンデレというのか、単に付き合い方が分からないのか、どうなんですかね。


次回もお楽しみに。


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第六十四話 様子見

昔知ってた知り合いが口悪かったのに、その弟とかが口悪くなかったら混乱しますよね。
あ、メリークリスマス(遅刻)
イブと当日はモン○ンXXオールナイトやってました。リアル友人の非リア共と超特殊許可ザザミ誰が最速タイムでソロクリア出来るかな企画やってました。
勝ってやりましたよ、ギルドチャアクブレイブ太刀ブレイブヘビィの集う中、ストライカーランスで。


ゆっくりご覧下さい。


「あー行きたくねえ!」

 

 

侵二が奇声を発しながら貸家の引き戸を開け、頭を掻きながら外へと歩いて行く。

ここ最近侵二の調子がおかしい。言うまでもなく玉藻が原因なんだろうが、侵二も侵二でキャラ崩壊気味が強くて吹きそうになる。

今も行きたくねえと叫びながら向かっている。塾に行きたくないのに成績が落ちるから仕方なく行くような心境だろうか。それにしても笑いそうになる。

 

 

俺は侵二が夜な夜な茶を淹れる練習をしている理由に何度目か分からない程笑いそうになりながら、今日は暇なのでそっと後をつけた。

 

さも当然のように変装をしながら侵二は街中を歩く。

道行く人には明るく挨拶をし、道中なーんか見たことのある奴から菓子を買っていたが、屋敷の前で凶悪な面に変わった。こええよ。

 

 

「入るぞ」

 

 

はい不敬。クソ野郎もいいところである。引き戸を横に力任せに開き、引き戸をぴしゃりと閉め、ツカツカと玉藻の前に座った。

 

 

「お、おお!侵二殿!」

 

 

対する玉藻はあの野郎の何処がいいのか、嬉しそうに侵二を迎えた。

おそらく出身地が同じだからだろうが、侵二の対応が酷いあたり玉藻は侵二曰くのクソジジイの曽孫あたりだったのだろう。

 

 

「うるせ・・・ああ。言われた通りまた、な。別に旦那は構わんのか?」

 

 

「ああ。私は我儘を言わなかったから、この事は許して貰っている。・・・最近、旦那の調子も悪いしな」

 

 

「調子が悪い?病気か?」

 

 

「いや・・・昔から体が悪いらしい。最近更に増して・・・だな」

 

 

「さっさと見限ってやれ。・・・なんなら殺してやろうか?」

 

 

「それは出来ない!・・・あれでもいい奴なんだ。私は信じてる」

 

 

信じる、ね。おそらく侵二も同じ事を考えているはずだ。

くだらん。結局この世はアホなお人好しはいても、大抵は利害の一致が必要だ。俺がアイツらを配下に入れる代わりに、給料を与えるのと同じ。いくらお人好しでも、仕事をやっても給料をもらおうとしない奴はいまい。つまり信用するだけでは世界は回らない。

それでも信じるバカがいるなら俺もバカになって手伝うが。まあ多分旦那病死するけど。

 

 

「・・・俺はどうでもいいが、それで身を滅ぼすなよ。紫殿の式がいなくなる」

 

 

「わ、分かっている・・・」

 

チッ、と侵二は舌打ちをすると、服の裾から菓子を出した。まだ出してなかったのかよ。

 

 

「まあどうなろうが俺は気にしない。勝手に生きて勝手に死ね」

 

 

言ってることとやってる事が違う。暴言を吐きながら茶を淹れるな。

 

 

「・・・侵二殿は優しいな」

 

 

「あ?」

 

 

「言い方はどうにしろ、こうして私と正面から向き合って話してくれる。・・・昔から種族や、ほんの少し周りよりも綺麗なだけで敬われ、妬まれ、媚びへつらわれてきたのに、侵二殿はいつも厳しい口調で私を評価してくれる」

 

 

それが嬉しい。と玉藻は微笑んだ。

侵二が頭を抱えながら悶えていた。笑うわ。

 

 

「てめえみたいな九尾がいてたまるか・・・!!」

 

 

侵二が呪詛のように声を絞り出し、舌打ちをした。

やがて負のオーラが全て乗ったような溜息を吐くと、落ち着いた声で話した。

 

 

「・・・別に、九尾だからって偉いか?饕餮だから崇められて当然か?違うだろ?・・・俺は実力や才能が無いくせに人の上に立つ奴が反吐がでるほど嫌いだ。纏めるのが上手ければ良いさ。ただし自分にその才があると信じ込み、自分の力量不足を下の責任にする。自分以外を人として見ない。んなもんゴミだ。・・・だから俺は相手が上だろうが下だろうが、多少は外見の評価もするがそいつの中身しか関心はない。お前は俺が個人的に種族に借りがある故好ましく無いが、中身は悪くない」

 

 

お前はある点以外クソジジイに似ていないなと侵二は微笑んだ。

 

 

「・・・ありがとう。・・・ところでその、曽祖父と似ているのはどの辺りなんだ・・・?」

 

 

「クソ程お人好しなところさ。あのクソジジイ、口は悪いわ俺を煽るわ隙あらばどつき回してくるわのクソ野郎だったが、変なところは優しかった」

 

 

侵二が懐かしそうに言いながら、玉藻を指差しニッと笑う。

 

 

「俺は個人的に狐を好かんが、周りから見ればしっかりした良い奴だ。さぞクソジジイも誇らしいだろうよ」

 

 

「ありがとう。そう言われたのは初めてだ・・・」

 

 

「・・・やめろ、次に何言えば良いか分からんだろ」

 

 

「あ、その、すまない・・・」

 

 

「・・・謝んなよ」

 

 

沈黙。なんだこいつら。なんだこいつら(二回目)。

そのまま侵二がイライラと頭を掻きながら話題を考え、玉藻は恥ずかしそうに顔を俯かせている。

・・・今まで見た限り、二人の相性は良さそうだ。

侵二は一線を引きたがっているようには見える。多分異性なのを意識し始めたことに嫌気がさし、離れようとしているのだろうが、玉藻がショックを受けるのを分かっているので離れられない・・・といった感じか。余程疲れているようだ、未だに俺に気がついていない。

 

「そ、そうだ!こ、この前貰った菓子、美味しかったぞ!」

 

 

「お、そ、そうか。なら良かった・・・」

 

 

なんだこいつら(三回目)。

 

 

「う、うむ!あの菓子はどこの物なんだ?」

 

 

「ああ、あれか・・・今回のもだが、知り合いの傘屋の試作品らしい」

 

 

そう言って侵二は一枚の紙を取り出した。

 

 

「この店だ」

 

 

「傘屋、・・・幽夜?」

 

 

また吹きそうになった。見たことあるとは思ったがどう考えてもアメーバだ。

好きにしろと言ったが何してんのアイツ?しかも試作品と称して菓子作るのか。宿主並みにハイスペックかよ。しかも傘屋かよ。

 

 

「ああ。目つきとガラは最悪の男だが、仕事は素晴らしいと言われてるらしいな。贔屓にしてやってくれ」

 

 

目つきとガラは最悪。目つきとガラは最悪。

つよい(語彙力欠損)。

 

 

「・・・ん?しかし、前聞いたのは幻夜殿というお名前だった筈だが、別の人か?」

 

 

「別人っちゃ別人だな・・・まあ双子みたいなものだな。顔は目が開いてるか開いてないかの差。幻夜は薄目だ。幽夜は髪を全部後ろで纏めているのと、目が紅いこと程度だな」

 

 

「・・・変わった見た目の方だな」

 

 

「俺の前で言うか?」

 

 

「確かに侵二殿は綺麗な目をしているな」

 

 

「人がこの色なら気にしないのだが・・・俺は自分のこの色が大嫌いだ。俺もアイツらに近いと思うとイライラする」

 

 

侵二が金は嫌いだと吐き捨てる。多分麒麟の色が金に近いこともあるのだろう。侵二は黒が好きだと言う。

 

 

「・・・髪も黒なら良かったんだがな」

 

 

「?髪は黒だぞ?」

 

 

「・・・ああそうか、勘違いしてたな」

 

 

侵二はそう微笑みながら視線を落とす。

最近、いや初めから分かっていたものの、侵二の闇が深過ぎる。

風魔はゆっくり触れてやれと言うが、次第に暗黒面が増している気がする。

特に増すのが妹を主にした家族の話。麒麟に殺されたとは聞いたが、それにしては底が見えないほど悪意に染まっている。

俺は読もうと思えば心を読める。だが侵二は読まずとも俺並みに馬鹿に長生きすればわかる。

アレは何かに憑かれているように、まるで自分を殺しているような顔で笑う。

 

 

・・・最も、今玉藻の前でつまらない話をしている時は、一切そのそぶりは見えない。

おそらくこの時だけ忘れられているのだろう。口では嫌だの好かんだの言っているが、落ち着けているのだろう。ツンが殺意を含むツンデレかな?

 

 

「・・・髪の話はやめだ。まあ・・・お前の髪は綺麗だと思うぞ」

 

 

「・・・あ、ありがとう」

 

 

「だからやめろって・・・」

 

 

なんだこいつら(四回目)。

侵二も侵二で自爆するなら言わなければ良いのに自爆し続ける。

これが永琳に綺麗な人ですねと本心込みの冗談をかましていた奴だとは俺は思えない。

そして玉藻も初々し過ぎる。婚約したばっかの夫婦かこいつらは。

と言うか侵二が弱過ぎる。いつもの皮肉と冗談全開の食えないやつはどこへ行った。

 

 

そもそも俺の周りが最近おかしい。

紫は突然付き合ってくれるかと聞いてくるわ、侵二は弱くなるわ、アメーバは傘屋開くわ・・・

転機でも来ているのだろうか。まったくもって理解し難い。

・・・とは言え俺も紫に好感を抱いてないのかと聞かれると何とも言えない。

俺も人の事言えんなと笑いながら、俺は最後まで気がつかない侵二の観察を続けた。

 

帰り道に即バレた。

 

 

 

 

 

 

 

だがこの時、侵二は最大のミスを犯した。

 

 

次回へ続く




期末は赤点なし、首の皮一枚つながりました。
赤点だったら非リア共とそんなことやらないですけどね。




次回もお楽しみに。


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第六十五話 What was it?

皆様丁度いかお過ごしでしょうか。
私は絶賛馬鹿どもと通話しながら、鐘が鳴るタイミングでジャンプして、今年初めは宙にいたぜ!みたいなクッソくだらない事シリーズで、今年はどうしようかの相談をクソ真面目にしてます。

さてと前置きはここまでにしましょう。
こっからぶっ壊れていきます。
ブラウザバックボタンに手をかけて、作者に唾を吐きながらご覧ください。生卵は持たないでください。



前に侵二が玉藻のところへと向かって早一ヶ月。

侵二も一ヶ月前に会って以来落ち着いたのか、紫が行くようになっていた。

 

 

「・・・残念だな、向こうはお前の事好きだと思ってたんだがな」

 

 

「・・・無理ですよ。私が妻を持つのは無理だと言ってるんです」

 

 

それに、向こうには旦那がいるでしょう?と侵二は微笑んだ。

 

 

「まあそうだけどよ・・・」

 

 

侵二とそんなくだらない話をしていだが、俺は会話をやめて外を見る。

既に日はどっぷりと暮れており、流石に紫も帰ってきてもおかしくない時間だ。

 

「・・・何かあったか?」

 

 

「まさか。紫殿に限ってそんな訳ないですよ」

 

 

・・・なら良いんだが、と俺が返し、侵二がそうですよと外を見た直後、尻に火がついたように立ち上がった。

 

 

「狐の血の匂いッ・・・!?」

 

 

「おい、どうした?」

 

 

「・・・主上、これが終われば私をぶっ殺してください」

 

 

侵二は蒼白な顔でそう言うと、戸を開けようとしたので俺が止めた。

 

 

「待て待て待て、どうした?」

 

 

「防音結界が破られていました。・・・紫殿と玉藻が危ない」

 

 

次の瞬間俺と侵二は座標移動で紫のいる位置に移動。

 

 

そこには

 

 

罵声と怒声を響かせる人間達と、

 

 

今すぐにでも殺されんと追い詰められている、至る所に軽傷の見られる玉藻と紫がいた。

 

 

「あ、あ・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!貴様らァッ!!」

 

 

突然様子のおかしかった侵二が叫び、玉藻を襲おうとしていた人間を縦に引き千切り、その引き千切った肉片を他の奴らに叩きつけた。

罵声と怒声がさらに強まるが、既に十名は侵二に蹴散らされている。

引きちぎられ、頭を喰われ、腕の力で埋められ、脚で首を切り飛ばされ、翼で頭を刺し貫かれ、放り投げられた後に頭から喰われ、抵抗する間も無く月明かりに照らされ黒く光る鮮血を散らして死んでいった。おいまだ殺されかけただけで・・・ってダメだ。

 

 

「おい大丈夫か!」

 

 

俺は咄嗟に我に帰り、紫と玉藻に声をかける。やはり玉藻が擦りむいた以外ケガはなさそうだ。

 

 

「だ、大丈夫・・・いきなり襲って来たのよ」

 

 

「だろうな。侵二が急に発狂してアレだ。・・・何しろ結界を壊されたのに気がつかなかったらしい」

 

 

未だに侵二は暴走し、叫び続ける間に一斉に除霊の札を投げられ、刀で斬られ、槍で突かれ、矢で射られ満身創痍になるが、それでも動きを止めず、自分の血なのか返り血なのか分からない程濡れた侵二が暴れ狂う。

 

 

「まただ!また俺は・・・!また・・・!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!てめえああっ!!」

 

 

その辺りの妖怪が霞んで見えるような醜悪さと邪悪さを纏った侵二から数名が逃げようとするが、まるで動いたものは皆殺そうとせんばかりの僅かに金の残った黒い瞳をギラつかせながら襲いかかる侵二から逃げきれず、両腕を掴まれ背中に足を置かれ、そのまま腕を肩からもぎ取られ、同時に背骨を折られて死んだ。

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

 

侵二の顔の左半分から金属質の音が鳴り響き、そこから蛆のように闇夜の中でも一際黒いと感じられるような、そんな何かが這い出し、侵二の顔でグズグズと蠢いている。同様に腹部、右手、左足からも同じように何かが這い出し、外へ出たいと言わんばかりに暴れている。

それと同時に侵二は両手を地面につき、獣のように吠えた。

 

 

それは既に生き物の鳴き声とは言えず、まるで金属と金属が擦れ合うような甲高い音で、黒板に爪を立てるような不快感を伴う音を響かせた。

 

 

侵二はそのまま暴虐の限りを尽くし、周囲を黒と血と肉片で染め、二足歩行に戻り、一人荒い息を吐きながら這い出た何かを両手で抑えようとしていた。しかし蛆のようなものは腕をすり抜け、何匹かが地面へと落ち、奇声をあげながら動かなくなった。

 

 

「し、侵二殿「見るな!!」え・・・」

 

 

玉藻が声をかけようとするが、侵二は叫んで遮った。しかし既に遅く、玉藻や俺、紫は侵二を直視した。

何かに喰い千切られたようなギザギザが侵二の左半分の顔に浮き上がり、同様に手や足にも噛み傷のようなものが浮かび上がっていた。

更に顔は陶器を割られたように所々にヒビが入り、金色だった目は血の色に染まり、そこから赤い涙を流していた。

まるで誰かの皮を被っていたのが剥がれたように、侵二の顔や体は歪んでいた。

 

 

「侵二、さん・・・!?」

 

 

紫が信じられないような叫び声を絞り出す。侵二はそれには答えずに、俺達を見て震えていた。

 

 

「や、メ、ろ。ミ、る、な。コ、ナ、いで、クレ・・・」

 

 

侵二はまるで何かに怯えるように俺達から後ずさると、そのままブツブツと何かを呟き始め、同時にパラパラと顔からカケラが落ちていった。

 

 

「ああ見られた見られたミラレタどうしたらイイワカラナイまただまた守れなかったまただ同じことばかりコトバカリ何故だなぜだなぜだこわい見るなやめろ来ないでくれやめろやめろやめろそうだこれが俺だいつもまもれないくせに変なチカラダケ手に入れてツカイキレナクテツメが甘くてどうしようもなくてだから玉藻の曾祖父さんを殺したんだ俺はああどうしようどうしようどうしようさむい寒いサムイまだ見てるやめろ見るな離れろこないでくれかかわっちゃいけなかったンダ俺がカカワルトみんな死ヌもうイヤだ死にたい死にたい兄さんは頑張っただろやすませてくれリッカいやまだだまだ殺してナイアイツを殺してないだったらころさないとでも今はこわいやめろミルナたすけてくれほうっておいてくれころしたくないもうめのまえでシンデホシクナイ」

 

 

「侵二!!」

 

バチコンと強烈な音が響くと侵二の顔から再度金属質の音が鳴り響き、侵二の動きが止まった。

正確にはヒビだらけで信じられない表情をしながら、頬を叩いた玉藻を殴った相手に対して攻撃しようとする自身の翼から守っている侵二だった。

 

 

「な、んだよ・・・来るなよ・・・だから関わりたくないって言ったのによ・・・」

 

 

侵二がその場に崩れ落ち、力が抜けたように顔や手足で蠢いていた何かも消えた。そしてソレが止めていたのか、侵二の怪我から血が流れ始めた。

 

 

「だから関わりたくなかったんだ。九尾相手ならこうなるって分かってた、でも言わなきゃならんことがあったんだ。でもやっぱり俺なんかが関わらなければ良かった。見ぬふりをすべきだった・・・」

 

 

侵二は首を横に振ると、俺に頭を下げ、抜けますと無表情な顔のまま言い、立ち去ろうとした。

咄嗟に侵二の目の前に近づいて顎に掌底、仰け反った腹に肘打ち二発、落ちてきた頭を掴んで膝に三発当てて顔を割り、再度仰け反った時に右足を掴み、そのまま投げ捨てて仰向けになったところで脇腹を踏み付ける。と同時に俺の右腕が飛ぶ。

起き上がった侵二の顔は再生していた。

 

 

「残念、退会宣言から一ヶ月は抜けられんぞ」

 

 

「・・・何故ですか」

 

 

見れば分かったでしょう?と侵二が泣きそうな声を出しながら覇気のない、怯えしか見えない目で俺を睨む。

 

 

「私はこんな奴なんです。自分勝手なクソ野郎です。玉藻殿に近づくだけ近づいて、言うことも言えずにダラダラと過ごして怖くなって逃げて、そしてこのザマですよ、そう、あのクソジジイ・・・いや、師匠の時もそうだった・・・!あの時も私がもっとしっかりしていれば師匠は死なずに済んだんです!」

 

 

もう嫌なんですと侵二が涙を流す。

 

 

「私の大事な人をこれ以上傷付けたくないんです、殺されたくないんです。もう大事な人は作りたくないんです・・・!」

 

 

侵二が涙を流しながら絞り出すように叫び、下を向いた。

そんな侵二の頭を掴んだ奴がいた。

玉藻だった。

 

 

「侵二殿・・・」

 

 

「・・・やめろ、見ないでくれ。俺の事も忘れてくれ、もうお前の家系に迷惑をかけたくない「いい加減にしろ!」な・・・?」

 

 

「私は迷惑など受けていない!むしろ感謝することばかりだ!お前だけの物差しで勝手に考えるな!」

 

 

「嘘をつけ・・・」

 

 

「嘘ではない!・・・一人だった私に飽きずに話をしてくれた!褒められたことしかなかった私をちゃんと評価してくれた!私はお前の前で心の底から笑う事が出来た!側にいてくれるだけで暖かかった!」

 

 

「そんな事、誰だってできる・・・!」

 

 

「出来ない!出来るわけがない!だって私がお前の前で笑いたいと思ったから!お前の目の前で本当に笑いたいと思えたから!・・・お前の事が大好きになったから!」

 

 

「玉藻・・・?」

 

 

「私はお前が好きだ!今の旦那なんてもう目じゃない!笑ってくれて、馬鹿にしてくれて、威張らないでくれて、結局今も助けてくれて!・・・そんなお前が大好きなんだ!一目見た時から好きだ!」

 

 

玉藻は言い切ったように大きく息を吸うと、天を貫きそうな声で叫んだ。

 

 

「私は!お前が!大好きだ!」

 

 

言い切り、荒い息を吐く玉藻に、侵二は聞いた。

 

 

「こんな奴でもか?」

 

 

「そうだ」

 

 

「突然奇声をあげて人間を八つ裂きにする奴がか?」

 

 

「愛嬌だろう」

 

 

「ひどい愛嬌だな。・・・ってんなわけ無いだろ」

 

 

侵二は笑った。

 

 

「・・・血生臭いだろう?特に髪が」

 

 

「気にしない」

 

 

「気にしろ。お前・・・バカだろ」

 

 

侵二は涙をボロボロと流しながら微笑むと、抱えるようにしていた玉藻に頭をもたれさせた。

 

 

「バカ、本当にバカだ。・・・あのクソジジイもそう、俺のどこがいいのやら・・・」

 

 

侵二は目を一度閉じ、再び開くといつも通りの金色に戻っていた。

その透き通った目で侵二は俺を見据えた。

 

 

「主上」

 

 

「あ?」

 

 

「退会届、キャンセルしていいですか?」

 

 

「・・・手数料で今月の給料抜き。後右腕の弁償で死ぬまで退会禁止な」

 

 

「・・・御意。後給料抜きは訴訟も辞さないです」

 

 

次回へ続く




はい。ご覧の通りこんな奴がいます。
こんなもん東方じゃねえよというか元から何書いてんだテメエ生卵投げるぞという方、生卵を下ろして引き返して下さい。何を言っても甘んじて受けるので卵は投げないでください。どうしてもここに行き着くんです。

それでもいいよと言う方は、生卵を出来れば下ろしてください。笑いながら投げないでください。
次回もお楽しみに。
そして良いお年をお迎えください。


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第六十六話 神隠し

あけましておめでとうございます。
新年一発目からこれ、頭沸いてるんじゃないですかね。
さーて、おみくじは・・・

大吉でした。
凶が良かったんですけどね・・・



ゆっくりご覧下さい。


回復したものの失血が多く、まだ体調の悪そうな侵二さんを玉藻が奥の部屋に連れて行ったのを確認したかのように、龍一は私に悲しそうな笑顔を向けた。

 

 

「・・・アレを見ても、万人を理想郷に受け入れるか?」

 

 

無理だろ?とでも言わんばかりの龍一の目を私は睨んだ。

何度も染み入るように分からせられる。あの侵二さんですらこんな暗部を抱えていたのだ。どれだけ理想とする道のりが長いのか、遠いのか、手に取れるかわからないものなのか。

それでもやはり作りたいと思い、龍一の目を正面に捉える。

 

 

「・・・出来なくてもやってやるわ」

 

 

「なら良いんだ」

 

 

龍一はニヤリと笑うと、上を見上げた。

 

 

「正直な・・・俺もよく分かっていなかった。侵二にどんなトラウマがあるか、何に恐怖しているのか、どうして九尾を嫌うのか・・・嫌、嫌ってなかったな、あれは嫌われたかったんだ」

 

 

「分かんねえ事ばっかだったよ」

 

 

けどな、と龍一さんは手を握りしめた。

 

 

「俺はアイツら抱えて暴れるって決めたから、あのクソどもは俺が管理する。・・・だが今回は助かった。ありがとうな」

 

 

龍一さんはそう言うと、お前と玉藻の分の飯作ってくるわと立ち上がった。

その時、ふと気になって私は龍一を呼び止めた。

 

 

「待って・・・」

 

 

「あ?飯済ましてきたか?」

 

 

「・・・玉藻の旦那さんはどうしたの?全然その話が出ないけど・・・」

 

 

私がそう聞くと、龍一はわずかに目を見開き、目のハイライトがわずかに消えた。

 

 

「・・・お前みたいな勘良すぎる奴は嫌いだよ。俺は侵二みたいに優しくねえんだ」

 

 

「まさか、殺したの・・・?」

 

 

私の絞り出すような問いにまさか、と龍一は笑う。

龍一は両手を広げ、口元を歪ませた。

 

 

「全ては神が決めた事だ。神の気まぐれ、神のダイス、神にとって造作もない事。ふと面白くなったから人を消す。それは誰のせいでもなく、神に見初められたから消えたのである。また逆も然り、気に入られたからこそ生き延び、幸福を掴んだのである。そこに差はない。あるのは神に見初められた、見られた、気に入られたと言う事象のみ。気に入ったから殺し、気に入らなかったから消し、気に入ったから重罪を背負わせ、気に入らないから幸福にさせて目につかないようにする。この世界で大きな幸や不幸に巡り会わせたものは等しく神の慈悲を与えられたのだ。やれ身勝手だ悪魔だとなんとでも言え。全ては神の気まぐれである。そして関わった者たちの記憶からも消え去る。是即ち神隠しなりや。なんてな。何言ってるかわかんねえな。つまり神様はとある人間一人くらい、ぱっといきなり消すんだよ。気に入ったからとかの理由でな」

 

 

だが、と龍一は更に笑った。

 

 

「関心が湧いた故そいつの運命を捻じ曲げたのを殺したと言うならば・・・」

 

 

殺したな。消してやった。と龍一は顔を歪ませた。

 

 

「だがそれを知りえて何とする?俺を殺すか?見ぬふりをするか?感謝するか?否。そんな塵芥の存在共から言われる筋合いはねえ。龍神が直接手を下してるんだ、他は知らなくていい」

 

 

忘れろと龍一は私に近づき、トンと人差し指で私の額を突いた。

 

 

「俺が消すために殺した奴は無かったことになるんだ。これからずっと、な。・・・喋りすぎた。消させてもらおう」

 

 

・・・あれ、何を考えていたのだったか。

ふと龍一を見上げると、何か薄気味悪く笑っている。何かされたのだろうか?いや、しかしさっきまで話していた気がするので違うのだろう。

・・・ああそうだ、龍一は食事を作ると言って立ったんだ。

 

 

「・・・じゃ、お前と玉藻の分の飯作ってくるからな」

 

 

去っていく龍一の背中に違和感を覚えながらも、私は姿勢を崩し、仰向けに寝転がった。

疲労が一気に襲ってきて瞼が重い。

そのまま私は目を閉じた。

 

 

____________________

 

 

紫が眠ったのを確認し、俺は長い息を吐いた。

 

 

「はぁー・・・ったく、なんでそこに気がつくかねえ」

 

 

先程、まあ忘れてはいるが紫に説明した通り、

 

 

俺は世界から玉藻の旦那を存在ごと消し去った。

何、造作もないことだ。向こうは死ぬだけ、こっちは忘れるだけ。覚えているのは消した本人、そう、俺だけ。はい解決。

ま、俺が、俺だけの意思で直接殺した生物の事とその生物に関連のある事しか消せないのだがな。だから武田と潰した月の兵やらは消せない。それにこれからも消す気は無い。これは今回が特例だったためだ。侵二と玉藻の恋路の邪魔になったから消した。

よくあるだろう?唐突に誰かが不慮の事故で死ぬ事。ありゃ神様の気まぐれだ。

 

 

・・・クソだの外道だの何を今更。神様ならきっと誰だってする事だ。まさか神様に転生してヘラヘラしてこの先をエンジョイ出来ると思っているのだろうか?

まさか。悪く言えば前世よりハードだ。スペランカー並だ。

俺だって前世にラノべくらい読んだし、俺はそこで異世界転生をこう感じた。

ああ主人公はさも造作もなく別世界とは言え他人を倒すのかと。その倒した相手にいたはずの友、妻子、親はほったらかしかと。盗賊を倒してヒロインにチヤホヤされても盗賊の事を知っている友や親からすれば主人公こそ盗賊だ。倒すべき悪魔だ。

主人公という存在は味方からすれば謎の力で活躍する英雄ではあるが、蹂躙された敵軍から見た主人公は突然現れた化け物だ。絶望する。

とは言え血生臭い異世界なら不殺は無理だ。そこまで来ても不殺思考なら素晴らしい人間だ。是非その秘訣をご教授願いたい。俺より間違いなく強いだろうよ。龍神代われ。譲ってやるよ。

・・・だから俺はそんな恨みから逃れたいというクソみたいな願いと自己満足の為、世界の記録のページを破る事を覚え、習得した。

それらの生きてきた記録を破り、捨てる。無かったことにする。

向こうが抵抗し、なかなか死なないなら本心で殺してやろう。だが向こうが造作もなく死ぬなら・・・

 

 

俺は最後にそいつの歩いてきた人生丸々一ページを破り捨てる。

それが龍神様の出来る事。俺というイレギュラー個人の意思に殺された弱い奴を助ける方法。

エゴでもおかしくてもなんでもいい。俺はこうすると決めたから。

だから今日も俺はこの本のページを破った。

この世界のあらゆる生き物の歩いた道を記す、創星録を。

 

「今、最高に悪い顔だろうな」

 

 

さも当然のように、俺の思ったページしか出ない創星録は何も動かない。

ちっとは動いて助けてくれるとかの奇跡はないのかね。俺が作っといて言うのもなんだが、そろそろキツイぜ?

 

 

今度こそちゃんと、俺は飯を作りに向かった。

寝室がやけにうるさかった。

 

____________________

 

 

「はいお待ちどおさん。今日の晩飯な」

 

 

私が目を覚ますと、龍一は既に料理を出していた。

龍一は私を見ると、軽く笑った。

 

 

「お前も寝てねえで食えよ」

 

 

私は横になっていた体を起こし、置かれていた箸を使って龍一の作った食事を口に入れる。美味しい。さっきの疲労もあってか食欲が増し、龍一に笑われながら食事を口にかき込む。

 

 

ところが私が食事をかき込んでいるというのに、玉藻は手をつけていない。

 

 

「・・・どうした?俺からまだ血の匂いがするか?」

 

 

少し・・・いや相当スッキリした顔の侵二さんがそう聞く。玉藻は首を横に振る。そうじゃなくてだな・・・と玉藻は何かを言おうとするが、言えないようだ。

龍一がなぜか顔を顰めている。

 

 

「・・・わりー、火の元見てくる」

 

 

龍一が立ち上がり、食卓から去っても、しばらく玉藻は食事に手をつけなかった。

ふと台所で紙を破るような音がすると、玉藻は首を傾げ、食事に手をつけ始めた。

 

 

「いやー・・・火の元は良かったが水零したままだったぜ。また拭き取り用の紙買わんとな」

 

 

「珍しいですね水をこぼすなんて。明日は霰ですか?」

 

 

「うるせーぞ。・・・後玉藻の周りに何個かある俺の料理が塵に見えるほど出来の違うのは侵二の作った奴の作り置きだからな」

 

 

「ブホッ!?ちょっ、主上!?」

 

 

「いいじゃねえか互いに独身なんだからよ。あ、お前はバツイチだっけ?」

 

 

「赤いバツで殺一じゃないですかね」

 

 

「違いねえや」

 

 

サツイチなどと笑う話ではない。事実玉藻が引きつって笑っている。

 

 

「・・・そういや、結局玉藻は紫の式にならんのか?」

 

 

「む?・・・ああ、確かに断る理由は無かったはずだな、不思議だな・・・」

 

 

「じゃあ、私の式になって貰えるかしら・・・?」

 

 

「お前に拒否権はないぞ」

 

 

「わ、分かっている!・・・紫様、私を式に、どうかよろしくお願い致します」

 

 

「分かったわ・・・籃(らん)」

 

「籃?」

 

 

侵二さんが不思議そうに首を傾げたので、説明しておいた。

 

 

「あの、私の名前が紫って言う色だから、式も同じ色関係が良いかなーって・・・」

 

 

「それで藍か。・・・いいんじゃないですかね」

 

 

侵二さんが玉藻よりマシですと笑った。

ふと龍一は何か閃いたのか、ニヤリと笑った。

 

 

「で、お前ら向こうで何してたんだ?」

 

「ナニをしてたんですよ。文句ありますか?」

 

 

玉藻が突っ伏し、私も吹き出した。

 

 

「・・・ああそうか」

 

 

龍一は羞恥で真っ赤な藍と澄まし顔の侵二を見比べ、やれやれと首を振った。

 

 

「ちゃんと片付けとけよ。後あんまり騒がしくすんなよ」

 

 

「ッ〜!?」

 

 

「了解です」

 

 

藍が羞恥のあまり顔を俯け、頭から煙が出そうなほど熱くなっていた。

侵二さんは面白そうにしながらそんな藍の隣に座り、箸を持った。

 

 

「んじゃ私も頂きますね」

 

 

そのまま何も言わずに食事を始める侵二さんを見て、この人もやっぱり大概だな・・・と思った。

 

 

次回へ続く




・・・主人公はそれはそれはとても自分勝手です。
でも彼だって仕方ないのです。中身は神様みたいに些細ごとを気にしないわけじゃない、矮小で臆病で心優しい人間のままなんですから。
でもそれを知らない人達は、彼を崇め、愛し、中には恨み、妬み、殺意を持ちます。
彼はそれが実はとても怖く、そして誰にも同じ事を背負わせたくなくて、誰にも話せないでいます。
だから今日も、決して見破られる事のない空元気を振りまくのです。

何百年も、何千年も。これから先ずーっと。日に日に壊れていく彼の心を差し置いて。
本当に彼の叫びを聞いてあげられる人が現れるか



世界が壊れた彼の手で終わるまで。


次回もお楽しみに。


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第六十七話 真相


案外、言いたかった事はさらっと言えるってのが一番良いですよね。


ゆっくりご覧下さい。


気絶してから藍が目を覚ますまで1分もかからなかった。

凄えな九尾(感心の方向音痴)

 

 

「・・・ん、起きたか」

 

 

「あ、ああ。・・・ッ!?」

 

 

侵二の顔を見た途端再び顔を赤くする藍の隣で俺に茶碗を突き付ける侵二に呆れながら、俺はメシをよそう。神谷龍一はメシをよそえた。

 

 

「・・・お前から誘っておいてその反応は流石に傷つくんだが」

 

 

「す、すまん・・・侵二殿「侵二な。いつまで殿呼びしてんだ」侵二」

 

 

方法はともかく、侵二と玉藻こと藍の中が縮まったのはよろしい。方法はともかく。てか侵二は受けかい。

 

 

「飯の途中に寝るなよ。・・・ああ、後コイツの式になったからコイツ同様当たり強くするからな」

 

 

「やっぱり私に当たり強いわよね!?」

 

 

隣で紫がギャーギャー騒ぐが口に海老天を押し込んで黙らせる。揚げたて熱々だが火傷しない熱さの海老天をな!

 

 

「見せつけますねぇ」

 

 

「何処をどう見ればお前らみたいな関係に見えるんかね。・・・てか紫、お前いつから俺の隣にいるんだよ」

 

 

「ひゃっひははよ」

 

 

「食ってから言え」

 

 

「んっ・・・さっきからよ。二人のところにいるの肩身狭いのよ」

 

 

「だとよお二人さん」

 

 

「主上で我慢してください」

 

 

紫が啜った茶を俺に吹きかけた。

 

 

「おい」

 

 

「ゲホッ、ゲホッ・・・やめてよ侵二さん!こ、こ、こんな奴となんか嫌よ!」

 

 

「拭けや」

 

 

「おや、そうですか?なんか最近主上が紫殿の事をクソ女と呼ばなくなったのでてっきり紫殿から何か仕掛けたのかと」

 

 

「べ、別に何も・・・」

 

 

「拭けって言ってんだろアホ!」

 

 

俺は自分を一気に乾燥させ、台所のふきんを引力を操って紫に投げる。ふきんは紫の顔に直撃した。

 

 

「な、何するのよ!?」

 

 

「吹いたお前が言うんじゃねえよ!テーブル拭けアホ!」

 

 

「誰がアホよ!」

 

 

「ええから拭かんかいやゴルァ!」

 

 

俺が紫と睨み合いながらふきんで吹き出した茶を拭き取らせていると、藍がクスリと笑った。

 

 

「なにわろてんねん」

 

 

「・・・申し訳ない。その、こうして笑いながら食事をしたのが久し振りでな・・・」

 

 

ずっと一人で食べていたからなぁ・・・と藍は寂しそうに笑った。

侵二がそんな藍を見てニヤリと笑った。

 

 

「じゃあ食べさせてやろうか?・・・ほれ、あーん」

 

 

侵二がニヤリとしながら箸で油揚げを藍に差し出す。

藍は顔を真っ赤にさせた。

 

 

「要らんか?なら俺が「あ、あーん・・・」・・・っ!?」

 

 

侵二は無理だろうとたかをくくっていたのか、口を開けた藍を見て固まった。自爆じゃねえか。

 

 

「・・・ほれ」

 

 

「んっ・・・美味しい」

 

 

「そうか・・・」

 

 

「うむ・・・」

 

 

もう結婚しろよ。コイツらは事あるごとに互いに羞恥で真っ赤になる癖でもあんのか。というか侵二のイタズラが空回りしているのは中々に面白い。

 

 

「・・・何見てるんですか」

 

 

「いや?別にぃ?」

 

 

侵二が俺を睨むが、羞恥で少し赤くなっているので全く効かない。そもそも効かない。丸くなったなコイツも。

俺がニヤニヤと侵二を眺めていると、横から紫につつかれた。

 

 

「あ、あーん」

 

 

・・・さて、コイツは何をしているんだろうか。

そうか、さては俺も赤くなるかの検証か。

 

 

「はいあーん」

 

 

俺は口を開き、紫の差し出した海老天を口に入れた。

逆に紫が赤いのが笑える。

 

 

「うん、美味い。・・・残念だな、俺はこの手は慣れてるんでな」

 

 

大体妹共のせいでな!あいつら三食はおろか入浴と就寝まで付き添おうとするからな!

 

 

「・・・チッ」

 

 

「聞こえてんぞ三下」

 

 

「これは失礼」

 

 

侵二が残念そうに舌打ちをする。お前とは血縁関係の怪しい異性に絡まれてた年季が違うんだよバカめ。

 

 

「・・・お前も残念そうにしてんじゃねえよ」

 

なしてこいつまで残念そうにするん?期待されても困る。

 

 

「で、どうなんですか?紫殿と主上」

 

 

「別に?」

 

 

「そ、そうよ!別に何も・・・無い、わよ」

 

 

嘘つくの下手かコイツは。

侵二はしばらく俺達を品定めしていたが、ニヤリと笑って首を横に振った。

 

 

「今回は主上に免じて何も無いことにしておきましょう「だから何もねえって言ってんだろ」・・・割と無さそうですね。行き違いですか?」

 

 

「知るか。俺が知らんと言ったら知らん。知りたきゃ幻夜でも連れてきて吐かせてみろ。俺はどれだけ絞ろうが出んがな」

 

 

紫に告白された。それは違いないがそれ以外何も無いんだから仕方ない。

逆にそれだけでここまで慌てる紫はなんだ?乙女か?乙女ではあるな。ちとアホだが。

 

 

「そう言えば侵二、お前これ終わったら殺してくれって言ってたよな」

 

 

「ああ、言いましたね「ダメだ!」・・・は?」

 

 

俺が退会届よろしく殺害依頼をどうするか冗談交じりに聞くと、藍に侵二を庇われた。

俺が悪役みたいじゃねえかその通りだけど。

 

 

「し、侵二は、私の・・・だ・・・」

 

 

消え行くように藍は言うと、顔を俯かせた。

 

「・・・だからやめろって言ってんだよ」

 

 

「す、すまない・・・」

 

 

このやり取りを何度やれば気が済むのか。懲りろ。

 

 

「てか侵二、お前相手作らないんじゃ無かったのか?」

 

 

「なら良かったんですけどね。・・・あれだけ本性を見られると、まあ仕方ないかみたいな感じってのは建前です。アレがあったんで付き合う気が無かったんですけど、ああも真正面から受け止めて貰えると・・・ね、流石に甘えたくなりました。藍、改めてよろしくお願いします。・・・後、サラッと言うようで申し訳無いのですが、お前の曾祖父さんに俺は間違いなく助けられた。どれだけ言えなかったんだって話だがな。・・・【ありがとう】」

 

 

「っ、あ、ああ!」

 

 

「って事です。・・・正直こんなにいい奴がいたとは思いませんでした。ジジイの子孫なのが残念ですけど」

 

これは侵二がデレたという事で良いんだろう。

デレるまでに費やしたのが時間ではなく血の辺り侵二らしい。

何人死んだよ。

言いたかったのはありがとう。か。・・・謝るよりはきっといい言葉だと思う。

 

 

「・・・まあアレです、私の本性を知ってしまった責任、取ってくださいね。後言っときますが紫殿から離れると文字通り喰うんで」

 

 

「せ、責任なんてとんでも無いぞ!私は、その、嬉しいから・・・」

 

 

「な、なら良いんだがな・・・」

 

 

「飯食うかいちゃつくかどっちかにしろ」

 

 

結局侵二はおとなしく飯を食い始めた。

 

 

____________________

 

 

「そういや、お前リッカって言ってたけどさ」

 

 

食事を終えて食器を洗いながら、俺は座っている侵二に声をかける。

侵二はリッカという言葉にピクリと反応した。

 

 

「言いましたっけ?」

 

 

「言ってた言ってた。あの頭おかしい状態の時にしっかり言ってたぞ。ありゃ誰だ?」

 

 

「・・・どうしても聞きたいですか?」

 

 

「おう」

 

 

「私も聞いておきたい」

 

 

いつのまにか侵二の隣に藍が座っており、じゃあ紫はと横を向くと食器を俺と同じように洗っていた。紫は洗い終えたのか食器を俺に差し出した。

 

 

「はい」

 

 

「お前も洗ってたのか・・・まあ良いか、サンキュー。で、聞きたいって事だが答えてくれるかね?」

 

「・・・まあ良いですけど、面白く無いですよ」

 

 

侵二は溜息を吐くと、目を鋭くした。

 

 

「リッカ・・・とは、六に花で六花と書きます。妹ですね」

 

 

「・・・お前妹持ちか?」

 

 

「ええ、まあ、はい。・・・死にましたけど」

 

 

侵二が顔を落とす。道理で武田、もとい月野に俺より先に激励してたわけだ。

 

 

「理由は前に主上に言ってたとは思いますが、黄龍一族の次男、黄正による饕餮の殲滅。私は偶々生き残ったんですね。・・・ま、それが理由で黄龍を筆頭に神が嫌いなんですけど。・・・生き残って彷徨っているその時に偶々六花の遺体を見つけまして、コレを受け取ったんです」

 

 

侵二の肩からいつもの一枚の翼が生え、侵二に甘えるように頬擦りをする。

 

 

「コレは六花の翼です。・・・元は二枚だったんですけど、昔は体が弱くて、二枚同時に受け入れたせいで体食いちぎられまして。その時の傷が顔のやつなんですけどね。・・・で、いつの間にか一枚消えてしまってたんですよね。もう片方曰く、このままだと俺が死ぬから離れたそうなんですけど」

 

 

ま、そんな感じですと侵二は話を切った。

おそらくだが話したく無いことが山々なんだろう。

と言うか大昔に成敗したのはコイツの翼か?

 

 

「まあ纏めると死んだ妹ですね。復讐云々は妹を殺した奴、またはそれに関与した奴、又は関与した奴らを信仰する一族郎党の皆殺しですね。信仰する一族と許嫁は皆殺しにし終えたので、一旦身を潜める事にして主上に従事してます。風魔達は直接的に黄龍に何かされては無いですけど、多彩な理由で嫌ってます」

 

 

こんな感じです、おしまい。と侵二が横になった。

 

 

「・・・聞きたく無いが、他の奴らが黄正を嫌う理由は?」

 

 

「まだ聞くんですか?えーっとですね・・・幻夜が「自分の事をモテると思っているボンボンは嫌い」で、壊夢が「大した事も考えられなさそうな面が気に入らん」、風魔が「井の中の蛙は嫌いだ」だそうです。壊夢は少し分かりませんが、皆嫌ってますよ」

 

 

どいつもこいつも酷い。コレだけ見ると【自分をイケメン超人だと思い込んでいる一般人】になってしまうのだが、おそらく基準値が侵二なんだろうそうだろう。

 

 

「後はアレですね、黄正の嫁、麒麟です。前私の殺した奴の姉ですね。・・・藍がいなけりゃ首絞めて水に沈めながら四肢食い千切って何も言わなくなるまで犯して半殺しのまま海にでも放り込んで、絶望しながら沈み、死んでいく面を眺めながら笑ってやろうと思ってたんですけど、犯すのはやめましょうか」

 

 

「・・・お前ホント抵抗なく残虐な事言うよな」

 

 

「主上はゴミを捨てる時にああこのゴミ可哀想だと思いますか?」

 

 

「・・・思わんな」

 

「それと一緒です「言うと思ったわ!」御察しのいい事で」

 

 

笑う侵二は清々しかった。

それと共に俺はコイツの背負っているものに遅れて気がついた。

 

 

後夜中はうるさかったんで紫と家を出て一泊した。

防音結界張れや。

 

 

 

次回へ続く




侵二には妹がいた。それは嘘なのか、本当なのか、誇張なのか。
でも妹の名前、何処かで一度出ているんです。発狂時と病み上がりの侵二はその事を忘れていたようです。
龍神様はそれを知りました。


次回もお楽しみに。


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第六十八話 整理


こんな遅くて何をしていたか、ですか?
申し訳ありません、A群溶連菌性咽頭炎、つまり溶連菌に感染してました。
一日中頭痛で呻くわ喉は爛れるわ熱は三十九度越えるわ・・・
皆様も体調には気をつけて下さいね。
朝早くの投稿も薬の副作用で夜がキツイからです。もうすぐ治りますけどね。


ゆっくりご覧下さい。


「さて、どーこーあって百年が過ぎた訳だ。全員状況報告」

 

 

侵二と藍の間で色々あったあの日から百年が過ぎた。毎度毎度野郎全員を集めては百年に一度集まって酒盛り・・・もとい報告会をすることになっている。そこ、めんどくさかったから飛ばしただろとか言うな。

逆にここ数年騒がしかっただけだから。

 

 

「じゃあまず新入りの・・・幽夜」

 

 

「へいよ」

 

 

後日、具体的には八十三年前に改めて傘屋として経営していた幽夜が参上。

考えた挙句俺に仕えることにしたのだと。野郎曰く、「なんか最初に殺そうとした時に仕えるって言ってたし、今更それなしにするのも仁義に反するだろ?金貰うけどな!」と言い、幻夜にも挨拶をして完全に配下に。

ただし他の四凶と違い式ではないので、完全に傭われものだ。

アメーバが仁義持ってくるとは変な世の中になったもんだ。

 

 

そんな幽夜が口を開いた。

 

 

「俺のとこは普通に傘屋やってるだけだが、なんなんだ?傘屋だって言ってんのに菓子買いに来る奴がいるんだが。・・・そのおかげで経営の方は大繁盛。てかお前から教わったしゅうくりいむ?あれバカみてえに売れるんだが」

 

 

「・・・外国の料理だな」

 

 

「あんなもんあるんだな。・・・戦闘分野については新しく取り込んだ。取り込んだのは土蜘蛛の脚、蟹坊主の遺骸、後このメンバーの髪の毛。ただしリーダーと侵二のは取り込めず」

 

 

「了解。まあ好きにしといてくれ」

 

 

次に幻夜が口を開いた。

 

 

「じゃあ僕からは・・・まず訃報。・・・縁がこの前天寿を全うしたよ。ちゃんとあの子の孫まで出来たよ・・・」

 

 

「そうか。大丈夫か?」

 

 

「うん。幽香連れて行ってお母さんになるかもしれない人見つけたよって言ったら、笑ってくれた。・・・でも、もうちょっといたかったな」

 

 

だからって人から外すのは嫌だけどね、と幻夜は寂しそうに笑った。

 

「次の縁の娘は弥生、その娘は五月ね。・・・このままずーっと幸せだと良いな」

 

 

「だな」

 

 

後は・・・と幻夜が一変して照れくさそうな顔になった。

 

 

「えっと、だからって訳じゃないけど、幽香がお嫁さんになったよ・・・」

 

 

「おめでとさん」

 

 

「おめでとうぜよ!」

 

 

「おめでとうございます」

 

 

「お前もか。幸せにな」

 

 

「・・・おめでとう」

 

 

「ありがと。・・・その、いざ結婚してって言うのさ」

 

 

滅茶恥ずかしかった・・・!と幻夜が顔を覆った。お前そんな奴じゃねえだろ。

 

 

「・・・あ、後しばらくオランダに行ってきまーす。向こうの植物調べるのと・・・後、子供出来そうだから。静かなとこでって考えてて・・・」

 

 

「了解。ちゃんと外出届出せよ。後俺もそろそろイギリスに行く予定だからな」

 

 

「はーい。あ、誰も殺してませーん」

 

 

「よろしい」

 

 

次に壊夢が口を開いた。

 

 

「次は俺ぜな。俺んとこは何もねえぜよな。じゃが喧嘩はしたぜな」

 

 

「何処と?」

 

 

「地面の下で鬼が住めるとこを作ろうと思ったんぜよが、灼熱地獄に穴あけちまって、マジモンの喧嘩しちまったぜよ。死神と殴り合って、地獄の鬼捻って、阿呆と揃って閻魔大王のとこまでカチコミしちまったぜよ」

 

 

「で、負けたと「制圧したぜよ」勝った!?地獄制圧したのお前!?」

 

 

「応、灼熱地獄跡地貰ったぜよ。俺が軽く地面殴ったせいで地下の流れ殺して地熱止めたぜよ。火も出んようになったから責任を取って受け取れって言われたから、代わりに新しいとこに灼熱地獄作ってやったぜよ」

 

 

この野郎、良い話っぽくまとめたが地獄を一つ潰してやがる。しかも灼熱地獄。控えめかと思いきや有名どころ潰しやがった。

 

 

「殺しはしとらんぜよ。・・・気ぃ失って二日寝込んだ奴はおったぜよ」

 

 

「そいつ大丈夫か?」

 

 

「応、閻魔大王だったぜよが、目え覚ました時、ぽかんとして笑って飲み仲間になったぜよ。あいつも酒強いから騒げるぜよ」

 

 

「お前なぁ・・・」

 

 

どっと疲れる。なんだこいつ。殴り合えば友達とかこいつだけじゃねえの、実演できるの。

 

 

次は私か、と風魔が口を開いた。

 

 

「私はここ百年で天狗界を統括した。「は?」今は安に関西と九州、権左に関東と東北を任せ、「ヤクザか!」冗談だ。各々に神格化された天狗達を置いている。各々を組として纏めさせ、年に一度集まっている「なんだ組って!ヤクザか!」・・・まあそう言うわけで、やっと平定出来た。やっと、だ。・・・ああ疲れた寝させろ」

 

 

「お前それ単なる不眠症だろ。クマひどくなってんぞ」

 

 

「・・・分からん。最近事があれば昼寝はしているんだがな、寝れん。伊織に迷惑をかける気は無いのだが寝れん。・・・ああ、殺しは三桁だな。統治に血を流し過ぎた。こっちは怪我はないがな。・・・ところで、月侵略云々で何人か出したが、放っておいて良いのか?」

 

 

「あとで睡眠薬永琳から出しとくからな。・・・月侵略の話は参加しなくて良い。今回は紫一人で頑張るらしいからな」

 

 

「お、何?デレ期?」

 

 

「殺すぞ幻夜」

 

 

正確には紫含め数名がコソコソと動いているのを俺が知らないふりをしているだけだ。

ちゃーんと野朗共の配下の奴らは顔写真を撮ってこいつらだけ返せと変人部隊の武田を通じて佐々木には送っているので不安要素はなし。

そもそも月の戦闘員のうち九割が名桐の指示にしか動かないとか言う新情報を聞いたのでさらに不安要素は消え去った。が逆に月軍に不安を感じた。

俺ら出る幕ねえや。

ま、怪我がないのが一番だ。

 

 

「私は・・・言うことあります?正直報告することあります?」

 

 

「無い。何せここ百年お前は直属だったからな」

 

 

「はい、僕聞きたいことあるんだけど」

 

 

侵二の報告を無しにしようとしたが、幻夜が手を挙げた。

 

 

「藍ちゃんとは何処まで行ったの?ちゃんとしてあげてる?」

 

 

「・・・失礼な。ちゃんと仲良くしてますよ。それはそれは互いが一日離れるだけで落ち着かなくなるぐらいにね。ところで何処まで進んでいてほしいですか?」

 

 

「おー、侵二ってちゃんと優しいんだね。・・・そーだね、キスはしてるかな?」

 

 

「んなもん初日に終わらせてますよ。やりましたとでも言いましょうか?」

 

 

「・・・結構侵二って積極的なんだね。うん、もう良いよ。あんまり深く聞くとカウンターでこっちまで聞かれそうだし」

 

 

「そう言った貴様はどうなんだ?幻夜?」

 

 

「やめてよ風魔。滅茶ニヤニヤ笑ってるじゃん。・・・別にこれといったことはないよ。やったけどさ。そう言う風魔は?」

 

 

「やらん。「そこから!?」・・・うむ。隣で寝させてくれるだけで良い」

 

 

「・・・結構風魔も優しいよね」

 

 

念の為言っておくが、これは朝からの会話だ。決して夜中に酒を飲みながら話しているわけではない。

朝から飲んで話しているのだ。なんだこの意味わかんねえ奴ら。

 

 

「ところで壊夢は?」

 

 

「俺か?・・・よう分からんが仲良くしとるぜよ」

 

 

「壊夢のとこだけ異性の意識ないよね。まあそれも羨ましいけどさ」

 

 

「で、主上はどうなんだ?まさか今までに告白された事がないわけではあるまい」

 

 

風魔が俺を見て笑う。こいつ知ってんじゃねえのか。

 

 

「まあな。言っちゃあれだが俺でも性格を除けばお前らに匹敵するとは思ってるからな。・・・相手は適当に察しろ。向こうの為に言わん。当てられたなら別だが」

 

 

「ゆかりんだよね」

 

 

「違いないですね」

 

 

「当ててくるんじゃねえよ」

 

 

こいつらエスパーか。一発で当ててくるんじゃねえ。

 

 

「やっぱ?だってこの前マスターの好きな花について聞いてきたし、まさかねーと思ったけど、そうなの?ちゃんと答えてあげた?」

 

 

「・・・アイツが幻想郷作るまではダメって言ったぞ」

 

 

「・・・妥当だとは思うけど、ちょっと意地悪に聞こえるよね」

 

 

「まあ主の癖だから仕方ねえぜよな。紫も紫で意地を通そうとしとるぜよから邪魔になるのはいかんぜな」

 

 

「んー・・・そんな感じなのかな?んまあそう・・・よく分かんない」

 

 

「分からなくても良いさ。・・・そもそもこんな事例になるのは主上だけだからな」

 

 

「そうだよ。・・・ほっとけ」

 

 

そんな話をしていると、家の戸がノックされた。

 

 

「どうぞ」

 

 

戸を開けたのは武田。それに続いてぞろぞろと見知った顔が気絶した紫たちを連れて出てきた。

 

 

「隊長。・・・依頼通り全員殺さず返しに来ました」

 

 

「おう、ご苦労「待て待て待て」・・・なんだよ」

 

 

風魔が今日一番の微妙な顔をしながら口を開いた。

 

 

「どうやってこいつらが来た?」

 

 

「そりゃお前」

 

 

俺は立ち上がり、月の見知った奴らが出てきたのを確認して引き戸を指差した。

 

 

「直接月に繋いでるからだろうが」

 

「引き戸だけ繋ぐな」

 

 

「家ごとだドアホ」

 

 

「威張るなドアホ」

 

 

「・・・うわ、マジで外見た事ない場所じゃん。あの青いのが地球って奴かぁ・・・」

 

 

窓を開ける幻夜が呆れたようにそう零した。

 

 

「・・・さては主上、もし紫殿に何かあれば、駆けつける気満々でしたね?」

 

 

「うるせ」

 

 

侵二のニヤニヤしながらの質問に、俺はそう答えることしか出来なかった。

 

こうしている間にも地球は回っている。

ピーストゥオールワールド。

 

 

次回へ続く

 




ありがとうございました。


次回もお楽しみに。


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第六十九話 だから嫌いなんだ

誰も自分の事を微塵も理解してくれていないから、周りから離れるのか。
無理矢理押し通して、世間から白い目で見られるのか。
それとも周りを理解しようとして合わせて、自分が常に心の何処かで苦しむのか。
そもそもの変な自分をなかった、夢だと言い聞かせ、自分の中からも全部消してなかった事にしてしまうのか。
いっそ命を絶って来世に賭けるか。

変人も拗らせると辛いですね。



ゆっくりご覧下さい。


「・・・いや何いい話で終わらせようとしてるんすか。ダメっすよ」

 

 

ピーストゥオールワールドで締めようとしたら佐々木に止められた。何でだ。

 

 

「・・・ダメか。まあ良いや、久しぶりだな佐々木。つか変人部隊の馬鹿野郎共」

 

 

九人が敬礼する。・・・懐かしいなこの意味わからん状況。

敬礼をやめると名桐が突っ込んできた。

 

 

「隊長ー!」

 

 

俺は突っ込んできた名桐を受け止め、佐々木に押し返す。

 

 

「お前はそっち。一々抱きつこうとすんな。・・・で、変人部隊、折角なんで戦果報告」

 

 

まず武田が動いた。

 

 

「元変人部隊、化学特殺班上級大尉、武田。破壊三百、行動不能二十、連絡機能停止」

 

 

「続いて変人部隊、防衛班大尉及び救護班中尉、高澤禊「た、高澤瀬名!」行動不能三十八。「救護五百」自軍損壊率九十%カット」

 

 

「続き変人部隊砲術班少佐、澤田、「同じく砲術班大尉、類土!」「機関長、高木。階級は大尉」破壊一万「は?」行動不能二百三十」

 

 

「俺は別ですよ。変人部隊兼、月面軍料理長岸田。料理数五万「休めや」破壊百「〆て料理してんじゃねえよ」行動不能「飯でか」十」

 

 

「俺っすね。変人部隊隊長、佐々木少佐。破壊二万、行動不能一万。・・・後、申し訳ないことをやらかしたっす。後で説明するっす」

 

 

最後に名桐、改め佐々木が書類を纏めて立ち上がった。

 

 

「最終報告!変人部隊、破壊三万四百、行動不能一万二百九十八、救護五百、食事五万食、敵軍通信機能破壊、自軍損壊率九十%カット!・・・申し訳ないですが、完勝です!」

 

 

でしょうね。九人で四万以上相手してんじゃねえよ。後なんだ破壊二万って、一人のスコアかそれが。

 

 

「色々と突っ込みたいことはあるが、まず佐々木、やらかしって何をやらかした?」

 

 

それなんすけど・・・と佐々木が外を指差し、どうぞっすと声をかけた。

 

 

「いっやー、やらかしましたぜ風魔様!」

 

 

「暴れすぎてしくじりました」

 

 

「馬鹿か貴様らは」

 

 

出て来たのは片腕のない犬走と翼のない鞍馬・・・に抱えられた文だった。

 

 

「あまりにも強かったんで、武田と俺と高澤で二時間やったんすけど・・・武田も一回死んだ上に、高澤も二回盾ぶっ壊れて、俺も腰の骨折れたっす。・・・まあ瀬名に助けてもらったっすけど」

 

 

「いやー、マジで龍神様に聞いてたけど、なんだよ月の兵、強すぎだぜ。まっさか生き返る上にアホみてえに硬い上に重力無視するとか、流石に羽に毒食らっちまって腐り落ちたぜ。まあ俺らの勝ちだけどな!」

 

 

「引き分けにしただろうが馬鹿者。しかしまあ・・・まさかあらゆる残骸を纏めて潰しに来るとはな。流石に腕が潰れた」

 

 

「・・・って訳で、二人の抱えてる女の子を殺そうとしたように見えて、ブチ切れた二人と殺し合って怪我させたって話っす」

 

 

「まあ、俺の姉貴の残した娘がやられると思ってまあ・・・な?」

 

 

「・・・久し振りに荒れたな。まったく、お前だけだぞ、あんな大荒れな戦闘をするのは。だから合わせられるのは私だけなんだ。空間を風と見て跳躍する変態にな。・・・まあ、貴様にだけ空は任せられるがな」

 

 

「わりーわりー。しゃーねーだろ、お前だけなんだぜ?俺の真空波に盾合わせて反響させて武田君一回殺すなんてよ。お前しかいねえんだよ、安心して足元任せられるのはな。・・・相棒」

 

 

「黙れ相棒。・・・文は?」

 

 

「無傷。まあ風圧で寝てるがな。・・・すまんな、無理させて。もうこりゃ引退だぜ?」

 

 

「仕方ない。・・・という訳です、風魔様。鞍馬文和(ふみかず)、犬走桂(かつら)、本日をもって退役します」

 

 

「はぁ・・・これから書類整理に回れ」

 

 

「さ、流石に書類整理は・・・」

 

 

「やめてくんねえかな風魔様」

 

 

「冗談だ。しばらく休暇を満喫していろ」

 

 

風魔が軽く手を振って出ろと促す。

鞍馬と犬走が退出した。

 

 

「・・・やれやれ、天狗界の最古参二人が引退か。全く、紫殿もよくやったものだ」

 

 

「ウチもヘラヘラ笑いはしとったが、勇儀も萃香もボロボロになったったぜよ。中々月も凄いぜなぁ・・・」

 

「・・・あんにゃろ、どつき回してやる」

 

 

「まあまあ。・・・変人部隊の皆様には良いんですか?」

 

 

俺は変人部隊に笑ってやる。

 

 

「お生憎様、俺はもう死んでるはずなんだ。だから死人に口なしってな。・・・まあなんだ、元気でやれよ馬鹿野郎共。後佐々木、高澤、幸せにな。・・・じゃあ失せろ、てめえらは敵軍の将だ」

 

 

「了解。・・・あ、加藤が入隊したっす。まあ今回は陽子の仕事させてたっすけど」

 

 

「加藤君中々頑張ってくれたんですよ!・・・でもなーんか私が指揮執る時より女の子はウケいいんですよね。男の子はあんまりなんですけど。可愛いとかで人気ですよ」

 

「新しい扉を開かせるな馬鹿野郎。また月が割れたとかなら連絡しろ。それ以外すんな。新しく旧上官からの命令、死ぬな」

 

 

「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」

 

 

変人部隊は後腐れなく敬礼し、手を振りながら帰って行った。

・・・一センチほど悲しくもあるが、誇らしい。そのまま月の覇権握れ。

 

 

「・・・キャラ濃いねー」

 

 

「オメーが言うなよマジキチ幻夜」

 

 

俺は呟く幻夜に吐き捨て、紫の頬をつねって起こす。

 

 

「おいこら、起きろ、ボケ、アホ、クソ女!」

 

 

「はっ・・・!?」

 

 

目を覚ました紫は辺りを見回すと、顔を青くした。

 

 

「あ、皆んなは・・・!?」

 

「大半死んでるわバーロー。てめえも俺が手回ししてねえと今頃・・・そうだな、武田に四肢を串刺しにされ、高澤に押し潰され、岸田に激辛料理を口に入れられ、澤田率いる暴走車両にぶっ飛ばされて死んでたな。佐々木なら目もくれてねえよ」

 

 

アホ。と俺は紫を小突く。

 

 

「てめえの力量ぐらい測っとけバカ。だからクソ女だって言ってんだろ。・・・失望した、俺今からイギリス行くわ。侵二、死者リスト任せた「待って!」待つかボケ。・・・せめて賢者と言われるぐらい努めろ。それまでツラ見せんな」

 

 

俺は泣きそうな表情をする紫をあえて睨み、中指を突き立てて空間に入った。

が、言い残したことがあったので顔だけ出す。

 

「あー、最後に一つ」

 

 

ほんの少し顔を上げた紫を無視して俺は顔を顰める。

 

 

「諸君、本日の定期報告会ご苦労。次回含めしばらくは報告会はなし、あばよ」

 

 

完全に落ち込んだ紫を放置して俺は消え去る。

 

 

____________________

 

 

「・・・本当に良かったので?」

 

 

空間内をイライラしながら歩いていると、侵二からログが入ってくる。

 

 

「じゃあなんだってんだ野郎。慰めろってか?力量誤って事故った馬鹿を?・・・アホらしい、事あるごとに慰めて何か解決すんのか?しねえだろ。・・・これは俺の責任でもあるんだ、アイツに甘くし過ぎた。だからしばらくアイツはお前に管理してもらう。・・・ってのは建前。何を言えばいいか分からんかった。・・・正直アレに接してやれる自信がねえ。頼む」

 

 

「手を出す可能性がありますが?」

 

 

「お前それマジで言ってる?」

 

 

「冗談ですよ。・・・分かりました、私が見ておきます。・・・ところで、本当に帰ってこないつもりで?」

 

 

「逆に帰ってくるとでも?何も用事ねえだろ?てか帰りたいと思うか?・・・じゃあな、また何かあれば言え」

 

 

俺はログを切り、自分でもわかるほどヤケクソ気味に空間内を走る。

 

 

「あーっ・・・!たくよ!ちったあマシなこと言えんのか俺はァ!何が二度とツラ見せんなだ何様のつもりだ俺はァ!結局一番クソ野郎だろ俺ェ!・・・畜生がよォ!」

 

 

ほとほと自分に嫌気がさす。何だ俺は、龍神だからって調子乗ってんのか。

アイツだって怖かったろうに、励ましもなしか!

俺は完璧ってか?そうかそうか、大層なご身分だな!死ねばいいのに。

 

「結局、俺が!アイツの芽を潰してんじゃねえか・・・ッ!!」

 

 

ダメだ。こんな奴と一緒にいれば紫の芽をさらに潰す。

 

 

「そもそも俺だってアイツのこと好きなのぐらい分かってんだよクソが!今これ程までに正直に言えんのを呪ったことはねえやど畜生ォ!俺だってお前の事が好きだよってなんで言えねえかなぁ!?そして言わない挙句にあの言い草か!そら前世でもモテねえわなぁ!今は紫しか興味ねえけどなぁ!」

 

 

クソが、クソがクソがクソが。もうガキと変わんねえじゃねえか。

 

 

「・・・クソッ、クソッ、クソォッ!」

 

 

どうしていいか分からず地団駄を踏む。踏むたびに空間が揺れて変な音をたてる。それすら今は煩わしい。

 

 

「・・・どうしろってんだッ!」

 

 

ああもう本当に最悪だ。

今すぐ気に入らん奴を見つけて滅多刺しにしてやりたい。

気に入らん事をしてる奴を泣き叫ばせたい。

目に付いた奴を場所構わず殴り倒したい。

刺したい、蹴りたい、食い千切ってやりたい。

刺した後に困惑しているのを遠くに蹴り飛ばしたい。

燃やしたい、思いっきりブン殴りたい。

でも考えていることが、今時分にしてやりたい事ばかりなのが更に腹が立つ。これぐらいで許されると思っているのか。

 

 

「ああもうイライラするなんなんだよこの気分は鬱陶しいなボケが!もう死ね!全部死ね!世界滅びろ!消えろッ!死ねえっ!このクソ野郎がッー!」

 

 

そのまま十時間程最悪の気分のまま辺りに叫び散らした。

まるでオモチャ買ってもらえなくて駄々こねるガキだな。

 

 

 

次回へ続く

 




ありがとうございました。
龍一の自己嫌悪度が上がりました。(100→1000)


次回もお楽しみに。


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第七十話 逃げた先は


何故遅れたか。
エースコンバット7やってましたごめんなさい


エースコンバット7、気が狂うほど楽しいですね。
無理な体勢からの敵の変態ターン、水際で撃墜すると飛び跳ねる水飛沫の墜としてやったぜザマミロ感、落雷でくたばるHUD、20ぐらいいるんじゃないかと言う無人機の群れ、レーダーがほぼ死ぬ砂嵐、UGB炸裂後の爆風の爽快感、雲に入ると水滴のつく画面、クセの強い仲間達。
今までに無いような変な縛りやシステムが沢山出てますね、クッソ楽しいです。
空の色は何色か。
きっと最後には自然に答えられるんじゃないですかね。

最高です。自分は5しかプレイしていなかったのですが、買ってない人は買うのも良いのではないでしょうか。


さて、ゆっくりご覧下さい。


やっと落ち着いた。

だがまだイライラする。

ここで野盗だのを見かけてしまうときっと壊滅させてしまう。

そう考えながら空間を出た。

 

 

「いたぞ!一匹たりとも逃すな!殺せ!」

 

 

「この化け物め!」

 

 

俺は息を吸った。

 

 

思いっきり叫んだ。

 

 

「どーでもいいわ俺の目の前で暴れやがって死ねや貴様ラァッ!」

 

 

____________________

 

 

「クソが、数だけ揃えやがって、多いんだよ、このボケナスが・・・!」

 

 

まあ当然気持ちの管理も出来ていない俺が安定して戦えるわけもなく、気分だけが疲れて殲滅した。

 

 

「はぁ・・・これから気が重いんだよなぁ」

 

 

「・・・すまんが貴公」

 

 

「あ?・・・ってリンチされかけてたおっさんか。この辺野盗多いみたいだから気をつけな。・・・っておっさん人間なわけないか。何?狼男?」

 

 

「ヴェアウォルフならもっと毛深いだろうに「それもそうか」・・・吸血鬼だ。私はオルゴイ・スカーレットと言う。貴公は?」

 

 

「神矢。神矢龍一。龍神」

 

 

「そうか。・・・見たところ行く宛が無さそうだが」

 

 

「そう言う痛いとこ突く?見ての通り女と喧嘩して飛んできたの。行く宛どころか目的すらねえよ」

 

 

なら、とオルゴイと名乗ったおっさんが笑った。

 

 

「ウチに一度泊まるといい。今さっきの恩だ」

 

 

「・・・嘘つけ、あんな群れ片手で潰せただろうに」

 

 

「言い訳は不要、と言うわけだな。貴公に興味が湧いた、泊まるといい」

 

 

「寝かす気ないのに泊めるってのもまた面白いもんだ。・・・悪いが泊めてもらおうか。・・・後、あの群れは殺してたか?」

 

 

「不思議な事を聞くな。・・・まあ潰していただろうな」

 

 

じゃあ創星録破らなくていいか。

ああ・・・御察しの通りまた俺の人格は再構成された。

とと、説明していなかったが俺の人格は数百年おきに崩壊する。

理由は簡単、ベースが人間だからだ。生まれてすぐ龍神なら良かったんだが、それはそれは大昔の十五年のうちに形成された人間としての人格が邪魔をしている。そのため人格は人間のまま。

・・・まあ無理をすると壊れる。創星録だと二ページ破るともれなく崩壊する。

するとそれを記憶して新しい人格はそれに対抗して形成される。

創星録を破りまくればその分次の人格は創星録を破る事に抵抗を感じなくなる。

優しくし続ければ次は優しくなりすぎて脆くなる。

原初の人格、つまり最初の十五の間の人格をベースにしているので一人称やらは変わらないが、そういった細かいところは変質する。

正直おっそろしく怖い。徐々に人間からと言うか、普通の生き物のレールから外れている気がする。そしてその恐怖も人格が再形成される度薄れていく・・・今も薄れ始めている。何もしなくてもより龍華達に近づいていく。正確には食べた八岐大蛇の体に近づく。

まあ多分、最後辺りは何も怖くなくなるんじゃねえかな。

生き物のレール外れるけど。

 

さて話を戻そう。言い方はあれだが俺は女と喧嘩して逃げてきたわけだ。・・・ああまたイライラしてきた。

そこに吸血鬼を名乗るおっさんが現れ、うちに泊まれと申した。

まあ泊まっていいだろ。

 

「んじゃ案内してもらっていいか?なんでも作れるがあんまり荷物増やしたくねえし、そもそも暗くて気味が悪い、吸血鬼でも出そうだ。というか俺の機嫌が悪過ぎて国一つ消しかねん」

 

 

「それはいかんな。ちゃんと吸血鬼を避けて帰らねばな」

 

 

「当人が言ってりゃ世話ねえわな」

 

 

「相違ない」

 

 

それに、このおっさんとは気が合いそうだ。

「フフフ、オルゴイ!今日こそ貴様を「こーゆー奴いるよなー」ウガアッ!?」

 

 

「うむ、多くて困る」

 

 

いきなり出てきた吸血鬼らしき男にペペロンチーノを投げながらオルゴイに確認する。やっぱ多いのか。

結局似たような案件で十回足止めをくらい、オルゴイの屋敷に着くときには朝日が昇りかけていた。七回目あたりで再度俺がキレた。

 

 

「クソが。お前の敵多過ぎだろ・・・てか、朝日登ってるけど大丈夫か?灰になるんじゃねえの?後ニンニク嫌いってマジか?さっきの奴銀混ぜたペペロンチーノで死んだけど?」

 

 

「順に答えよう。私の敵は多い、と言うよりも私を敵にしたがる奴は多い。何しろ以前に来た吸血鬼征伐軍とやらを一人で潰してしまってな、それ以来吸血鬼側からも狙われるようになった。後、朝日で死ぬのは下等吸血鬼だ。完璧な上位者になれば、朝日などどうと言うことはない。それにニンニクが効くと言う稚拙な噂は国民の健康促進のための噂に過ぎん。私には効かん。逆に好む。・・・ペペロンチーノで死んだのは混ぜた銀のせいだろう」

 

 

「ニンニク好きな吸血鬼もどうかと思うがな。・・・するとアンタは相当な強さか?」

 

 

「ふむ・・・どうであろうな。今は亡くなった嫁の方が強かった。そこいらのハンターより嫁が怖かったな。病弱であるはずなのに事あるごとに殴られた。・・・良き妻ではあったがな」

 

 

「そりゃお疲れさん。だが女から逃げてきた奴に話す事じゃねえぞ。・・・てか、アンタの屋敷デカ過ぎやせんか?」

 

 

「昔は妻を守る最後の砦でもあったからな。・・・まあ、深い話は入ってからで良いだろう。美鈴、客だ。後定時だ、屋敷に入れ」

 

 

いや門の前で百人ほど新しい死体があるんですけど。てか門番らしき女性がやったのは想像つくが定時ってなんだ定時って。

 

 

「ありがとうございます。・・・ところで、隣の方はお知り合いですか?」

 

 

「ああ、龍神だ。特に怒らんだろうが丁重におもてなししてくれ。あとで皆を集めて自己紹介はさせる」

 

 

「龍神様!?あ、あの檮杌師匠の主人ですか!?」

 

 

「誰やねん檮杌師匠って・・・って壊夢か。あの野郎大陸でんなとんでもねえ事やったのか?」

 

 

「はい!檮杌師匠は親族の方々に「なーにが檮杌は最強じゃい!んなもんとーっくに変わっとるぜよ!」と叫びながらご親族を全員吹き飛ばし、山を割り、川を作ったんですよ!・・・あれ、どうかしましたか?」

 

 

誰か胃腸薬をくれ。死ぬ。親族を吹き飛ばし?山割って?川作った?んで弟子持ち?

・・・あ、いつも通りだわ胃腸薬いらね。

 

 

「・・・美鈴、客人の胃を痛めてどうする。いいから龍一殿も上がれ」

 

 

オルゴイに蹴り飛ばされ、美鈴の旦那様!?という叫び声を横に俺はドアに激突した。ちゃんと冷めた。

 

 

「だ、大丈夫ですか!?ちょっと旦那様!お客様を蹴飛ばすのは流石に・・・」

 

 

「いや、大丈夫。ちゃんと覚めたわ。すまんがオルゴイ、案内してもらえるか?・・・後何年か泊めてもらえる?女から匿ってくれ」

 

 

「良いだろう、適当に案内するから気に入った部屋を選べ」

 

 

「助かる」

 

 

俺はドアに激突した衝撃で冷めた頭で再度思考し、これからについて考えながらオルゴイに屋敷内を案内され始めた。

 

「まあアレだよな。条件良すぎるよな。何か目論見でもあんのか?」

 

 

「まさか、単に貴公に関心が湧いただけだ。・・・まあこのご時世、吸血鬼である私がそんなことを言うと顔をしかめられるのだが、私は興味のあることはとことん知りたくてな。一度人間界に住んだ事もある」

 

 

「お前頭おかしいんじゃねえの?」

 

 

「妻にも言われた。・・・ここが大図書館だ」

 

 

オルゴイが重そうな扉を開けると、ギッシリと本が棚に詰め込まれ、延々と棚が続いているように見える。そんな広い図書館に出た。

 

 

「は?」

 

 

「よく言われる。次だ。と言っても紹介出来るのは後は客間しか無いがな。使っていない部屋が後・・・いくつだったか。忘れた」

 

 

「あっそ。・・・あんまり広いと不便じゃねえの?」

 

 

「死ぬほど不便だ。何が悲しくて置いたワインを探すのに100部屋回らねばならんのか・・・」

 

 

まあ言った通り私は吸血鬼の上位者であるからある程度の威厳は出さねばならんのだとオルゴイは苦笑した。

龍神のくせしやがって貸家に住んでいる俺とは大違いだな。まあこの前貸家買ったけど。

 

 

「さて、そろそ朝餉だが、何か好まぬものはあるか?後、何か食べたいものは?」

 

 

「嫌いなものは特に。・・・食べたいものは上品なものでなけりゃいい。上品なものが並ぶとどうも食べられん」

 

 

「了解した。やはり貴公は変人だな」

 

 

「常人にゃこの仕事務まらねえよ」

 

 

それにそう言う問題ではなく、いきなり朝から「ブルターニュ産 オマール海老のコンソメゼリー寄せ キャヴィアと滑らかなカリフラワーのムースリーヌでございます」なんて言われてみろ、食えるか?俺は無理。なんなら「おにぎりでございます」や「焼いたトーストでございます」で落ち着く。「シュールストレミングでございます」は無理。

 

「まあ食事は見繕っておこう。・・・では食卓に向かうか。うちでは食事は皆揃って食べると言うルールがあるのでな」

 

 

「お前のとこも変じゃねえか」

 

 

「それは承知している。・・・しかし誰であっても食事を共にせねばここの住民とは言えぬだろう。それにこれは妻の遺言だ」

 

 

「冷や汗でてんぞ」

 

 

「・・・失礼、殺されかけたのを思い出した」

 

 

微笑むオルゴイはどう見ても嫁に尻に敷かれていたおっさんの顔だった。

その顔はどこか、暖かかった。

 

 

次回へ続く

 

 





ありがとうございました。
ちなみに作者のエスコンシリーズお気に入り機体はRAFALEです。
・・・実はモンハンもその名前だったりします。


次回もお楽しみに。


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第七十一話 狂っているのは


紫「東の空に明るみが…朝が来る。」
龍一「…俺らの喧嘩もそろそろ終わる」(終わらせません)
龍一「見てえなあ。一番綺麗な朝焼けを! 」
風魔「朝は訪れ続けるさ。変わらぬ太陽がこれからも、な」
龍一「そうだ、来週誕生日だったんだ…作者」
風魔「見ろ。生きていればいいことがある」(作者関係なし)
???「兄貴が…ユーク大陸から帰ったらお袋、喜ぶでしょうね」
龍一「おい今モノホンいたぞ。ブレイズ呼んでこい」
風魔「お前自身がお袋さんを喜ばせろ。あとちょっとだ」
龍一「乗るな風魔」


はい、私青銅鏡、2月4日生です。
んなことどうでも良いですけどね。


ゆっくりご覧下さい。



「ところで龍一よ」

 

「なんだ、おっさん」

 

 

食事前に部屋を見繕い、適当な部屋に腰を下ろしていると、オルゴイが口を開いた。

 

 

「・・・神とは、なんだと思うかな」

 

 

「神とは主に人間を救済し、等しく信じるものに愛を与える者のことを表す。・・・なんて言えばいいのか?素晴らしい存在だと思うぜ?・・・作った覚えがねえけどな」

 

 

俺は龍華と龍華の作った天照達しか知らない。それ以外が生まれた事を知らない。生まれればある程度何か感じるが何も感じない。

今オルゴイの問う神とは、信仰上神であるが神ではない奴らのことを指し示すのだろう。

よほど神様より神様らしいことをしている。

 

 

「ただ、神様とて生きている、又は生きていたんだ。どれだけ崇高な神様でも、結局生きているんだ。俺が創りだした事には間違いない」

 

 

ならば何故、と俺はわざとらしく言葉を切り、人差し指を立てる。

 

 

「神が狂わないと証明できようか。・・・要は全部俺の玩具だ。意思一つで狂わせて宗教戦争だって起こしてやるよ、滅ぼしてやるよ。結局生きてる以上モノだ。この星、この俺から生まれた事には相違ない。・・・神が何かと聞かれれば、なんと答えれば正しいのだろうな」

 

 

俺はほんの少し思考し、これが適切だと思い、笑う。

 

 

「ふむ、俺の創ったものの一つ。だな」

 

 

「・・・やはり、とんでもないモノを屋敷に招いたのか」

 

 

「モノとは失礼な。殺す・・・ぞ?」

 

 

「何故疑問形なのか・・・」

 

 

首を横に振ったオルゴイだったが、ニヤリと笑い返してきた。

 

 

「それに龍一、お前には私は殺せん」

 

 

「言うねえ。能力か何かか?」

 

 

「そうだな。私の能力は【運命を壊す程度の能力】だ。人生のレールから外れることの出来る、逆に言えばそれしか出来ない能力だ。今龍一に殺されるという運命が生じれば、私は殺されない事になる」

 

「強っ」

 

 

「馬鹿を言うな。逆に言えばこちらからは何も出来ないのだ」

 

 

「最強の盾、って事か」

 

 

「そうなるな。・・・面白い事にな、これがあれば生き死に以外は変えられるのだと」

 

 

「・・・つまり生き返らせるのは無理だが、死ぬ運命は破壊出来る。と?」

 

 

「まあそうだな。「オルゴイ様、お食事が出来ました」分かった、わざわざありがとう。・・・さて、ここまでだ、行くか」

 

 

「お、飯?」

 

 

「そうだな。・・・さて、長話は酒を飲んでからでも良かろう、行くぞ」

 

 

____________________

 

 

「さてと皆、久方振りに新しい住人が来た。期間はわからんが、まあ仲良くしてやってくれ。龍一氏、挨拶」

 

 

「ああ。俺の名前は神矢、神矢龍一。龍神。よろしく」

 

 

言う側でもつまらないと感じる程つまらない挨拶は、拍手で迎えられた。

 

 

「・・・さて、では紹介していこうか。まず私、オルゴイ・スカーレット。まあ吸血鬼だ。そして私の両隣が娘達。左がレミリア・スカーレット、左がその妹のフランドール・スカーレット。仲良くしてやってくれ。・・・次、例の図書館在住の大魔法使い、パチュリー・ノーレッジだ。ウチのレミリアと友人関係にある。・・・そして始めに挨拶した、門番の紅美鈴だ。・・・その他は今はおらん」

 

 

オルゴイの言う通り、屋敷の割には人気が少なく、ガランとしていた。

 

 

「では、食事を頂こう。・・・ああ、龍一殿、話に付き合ってやってくれ」

 

 

そうして目の前に並んだ食事を食べていると、やはりと言うか話しかけてきた。

まず話しかけてきたのはパチュリー・ノーレッジと言う少女だった。

見た目は色白で髪色を含め紫という印象で、少し病弱そうな子に見えた。色が紫という事で紫が出てくることに俺は自分が嫌になった。

 

 

「・・・龍神なのよね?」

 

 

「ああ、一応な。・・・ん?その手に持ってるのって召喚魔法系の魔導書か?」

 

 

「え?分かるの?」

 

 

「まあな。・・・知り合いにネクロノミコン書いた馬鹿(幻夜)がいるしな」

 

 

「書いっ・・・!?」

 

 

「まあある程度ならわかるから、また何かあれば話そうぜ」

 

 

「え、ええ!是非!」

 

 

パチュリーは激しく頷くと、嬉しそうに顔を緩めた。

・・・チッ、紫の顔がちらつく俺が鬱陶しい。

 

 

「ねえ。貴方は神様なの?」

 

 

次に俺に話しかけてきたのは、フランドール・スカーレットと言う女の子だった。

金髪で紫を思い出したので時間を止めて一度叫んでから話し返した。

 

 

「んー。まあ、そうなるかな?」

 

 

「すごーい!ねえねえ!神様って何か出来るの!?」

 

 

「・・・なんでも出来るよ?」

 

 

「え!?そうなの!?じゃあじゃあ!こう、バビューンって凄いの見せて!」

 

 

バビューンってなんだよ(困惑)

ともかく凄いのをご所望のようなので、俺はフランドールを屋上まで飛ばした。

 

 

続けて俺も向かうと、フランドールははしゃいでいた。

 

 

「凄い凄い!」

 

 

「まだまだ。・・・さてと」

 

 

俺は指を打ち鳴らし、目の前に五尺玉を形成する。俺はそれを斜め前の上空に投げ、爆発させた。

飛び散るカラフルな炎。何かが爆発するような轟音。

まあ、つまるところ花火だ。

 

 

「ふわぁぁぁぁ・・・!」

 

 

フランドールは感動したような声をあげると、俺の手を掴んで上下に強く振り始めた。

 

 

「貴方すごい!私こんなの初めて見た!・・・あ!私貴方のこと龍一って呼ぶね!私はフランって呼んで!」

 

 

「・・・そうか。フラン、これからしばらくよろしく」

 

 

「うんっ!」

 

 

その笑顔が眩しくて、ほんの少し紫に重なったので時間を止めて再び叫んだ。

 

 

「あーっ!一々思い出すんじゃねえよクソがァ!」

 

 

叫び終え、ちゃんと時間を戻してフランと手を繋いで屋敷に戻ると、レミリアが話しかけてきた。

 

 

「こ、この度は龍神様、お、お越し頂きこ、光栄にございま「・・・レミリア、もう少し落ち着け」う、うるさいわね!お父様は黙ってて!」

 

 

「・・・これはこれはレミリアお嬢様、私しがない龍神ですが、御目通り願うどころか、こうして会話を交わせること、光栄の極みでございます。・・・みたいな?」

 

 

俺が微笑みながらそう返すと、レミリアが憧れを見るように俺に近づいた。

 

 

「すごい!龍神って威張るだけだと思ってたわ!」

 

 

「・・・結構傷つくな。龍神様だって美辞麗句くらい言えるさ。あと俺は威張るのが下手くそだ、すぐボロが出る」

 

 

「そう見えるな」

 

 

「だーっとれおっさん。・・・まあ、なんだ、これからよろしく、レミリア嬢、フラン嬢」

 

 

「ええ!」

 

 

「うん!」

 

 

まあなんだ、ある程度やって行けそうだと俺は思った。

 

 

____________________

 

 

それから、何千年前かのお得意の物語(絶影状態)でレミリア達に昔話を語り、また今度聞かせてとのアンコールを頂いて、俺は再びおっさんと座りながら対面していた。

先程と違うのは双方ワイン片手に駄弁っているという点か。

 

 

「・・・さてと。正直能力についてはもう語ることは無い。・・・龍一、貴公には聞きたいことがある。何故女と喧嘩した?」

 

 

「・・・十割俺が悪りぃ。正確に言えば喧嘩した、というより、俺があいつを突っぱねちまったんだ。・・・昔は言えてた筈なんだけどな、今、弱さに挫けそうな奴になんて言えばいいか、分からねえんだ。俺は最強だ、仕方なく認めてやる。・・・だからその分、弱い奴にどうすればいいか、弱気になった奴への接し方を失った」

 

 

今まで・・・前世なら、俺の方が出来ないから。俺だって苦手だから。そう言って励ませた。

だが今はなんだ、そんな事言えば嫌がらせだ。この種族が今は凄く恨めしい。呪わしい。変わってほしい。

だがそんな事を言えばふざけた奴だと理由も知らないくせに叩かれる。それは別に構わないが、龍華達にその罵声を吐くクソ共が何をするか分からない。妹やら弟がいなけりゃ既にやめてる。

 

 

「・・・普通とは言いがたいが、皆の考えるこの世界の創世者ではなさそうだな。・・・まるで、昔は弱者として生きていたような、そんな気がする」

 

 

「・・・大体合ってる。・・・なあ。さっき神様がどうとか言ってたけどさ?・・・やっぱ、俺が全部おかしいのかもしれねえ。俺がなんか鑑賞してるのかもしれねえ」

 

 

だって、俺はこんなにも壊れているんだから、作った世界が壊れていないわけがない。

でもそれを認めるのは嫌だ。肯定すればアイツらも壊れていることになってしまう。

馬鹿なら良かったのか?もっと自己中なら良かったのか?自らを一切省みない聖人なら良かったのか?

 

 

なあ神様、俺を産んだ何処かの誰かさん。

・・・なんで、俺なんだよ。

 

 

 

次回へ続く





ありがとうございました。

次回もお楽しみに。



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第七十二話 第1回単細胞お悩み相談室(打ち切り)

最近呼吸するたびに肺が痛み始めました、どうなってるんですかね、私の体。

ゆっくりご覧下さい。


場所外れて日本。

 

 

 

「何?永琳殿が私と」

 

 

「俺?」

 

 

風魔だ。鞍馬から永琳さんから呼ばれてますぜ、と言われ、何故か幽夜が犬走に連れられ、何故か人選の分からん二人で永琳の屋敷へ行く事になった。

 

 

「なんかやらかしたか俺?」

 

 

「知るか。・・・ところで幻夜はどうした?あいつは元気か?」

 

 

「ああ、幻夜ならオランダにいやがるぜ。・・・めでたく第一子を授かったんだとよ」

 

「そうか」

 

 

幻夜に子か・・・世も変わったものだ。

あの二人が名をつけるとしたら・・・男なら幸せな夜を名にするであろうな。

 

 

「なんて話してたら着いたぜ。まあさっさと終わらせようぜ。・・・はーあ、俺にも可愛い子出来ねえかなー」

 

 

「まあ・・・無理ではないだろうな」

 

 

「あれだ、控えめな子。んでもって人間以外で健気でちょっと抜けててあだ名で呼んでくれる癖に恥ずかしがり屋な子。それぐらいかねえ?」

 

 

「訂正、無理だ。限定的すぎる」

 

 

「えー・・・」

 

 

幽夜とそんな事を呟きながら、永琳のところへ向かうと、何やら顔を顰めていた。

 

 

「・・・来たのね」

 

 

「ああ、呼ばれたからな」

 

 

「まあそりゃ来るだろ、で永琳はなんで俺とこいつを呼んだの?共通点異常さしかねえよ?」

 

 

「それに関しては申し訳ないわ。・・・でも、二人にしか頼めなくてね。龍一にも無理な、貴方二人にしか出来ない事よ」

 

 

「何?俺として嬉しいのは女の子のカウンセリングとか?そんなわけねえな俺向いてねえし「大体そうね」・・・マ?」

 

 

「・・・尚更分からんな。何故私が?」

 

 

「・・・龍一には無理な相手なのよ。その子は・・・」

 

「ストップ。そう言うの本人から聞いた方が良いじゃん?やっぱ名前聞くのも向こうからでしょ。・・・って事で何も聞かなくて良いじゃん、行こーぜ」

 

 

遮った幽夜が立ち上がり、部屋どこだ?と永琳に聞く。

永琳は見てわかるほど困惑していた。

 

 

「だ、大丈夫なの?言っておいてあれだけれど、中々大変な頼み事よ?」

 

 

幽夜は不思議そうに首を傾げ、笑った。

 

 

「女の子が泣いてたら助けるのが俺だぜ?下心しかねえけどな!」

 

 

・・・こいつもいい馬鹿なのかもしれない。

 

 

____________________

 

 

「とは言ったぜ風魔」

 

 

「言ったな」

 

 

「流石に一時間反応なしはきついだろこれェ!?」

 

 

断言しよう。俺、幽夜にとって目の前の女の子はドストライクで好みである。紫に近いロングヘアー、紅い目、控えめそうな顔、触れば壊れそうな程綺麗な肌、そして頭で今現在垂れている兎の耳。全てに惹き込まれた。そしてたしかに大人しい方が良いと言った。

 

 

だが何も一時間怯えながら時々こっちをチラチラ見るレベルの控えめさは求めてない。まだ名前も聞けていない。

 

 

「まあそう焦るな。・・・じっくり聞けば良かろう」

 

 

風魔はそう言うが、正直俺は凹む。

何が悲しくてドストライクで今惚れた女の子に怖がられなきゃならんのだ。ええい畜生悲しいかな。

 

 

「なあ、お嬢ちゃん、名前だけ頼むよ・・・」

 

 

女の子はやはりビクリと震えておしまい。駄目だ進まねぇ〜

 

 

「帰るぞ」

 

 

「マジ?」

 

 

風魔に帰るぞと促される。何もしてねえぞ俺は!?

 

 

「・・・まあ何も始まらねえからな。帰るか」

 

 

結局風魔に促され、部屋を出た。

肩を落とす俺に、風魔が耳打ちした。

 

 

「・・・また明日向かえば良い。一日一時間、毎日毎日。向こうが呆れて何か言うか、怒るか、それとも警戒を解くか。・・・それは向こう次第ではあるが、クソ長い時間を無駄にする必要はない。これで良い。・・・嫁に見つかると厄介だが」

 

 

苦労してんなぁ風魔も。

 

 

「お前もまた来い。そして口説け」

 

 

「・・・へーい」

 

 

____________________

 

 

「りんご」

 

 

「ゴンザレス」

 

 

「酢味噌」

 

 

「素数」

 

 

「鰻」

 

 

「ギャラクシー」

 

 

「神経性ストレス」

 

 

「スイカ」

 

 

・・・今丁度風魔としりとりをしている。終わらねえ。

互いにネタが多い。

 

 

・・・なんて事をやっていても女の子は何も言わない。

仕方ないとは思うものの、こっちもキツい。目があった、ハーイ。

・・・野郎二人でする事なくてしりとりはキツい。死ぬ。

 

 

「烏」

 

 

「ストレス」

 

 

「ススキ」

 

 

「鬼畜」

 

 

「くる病」

 

 

「・・・一時間だ。また来る」

 

 

「あ、終わりか、またな」

 

 

「・・・!」

 

 

女の子が何か言おうとしたが、風磨の指示通り無視して退室。・・・心苦しいが風魔に任せると万事うまくいきそうなので任せる。

・・・何もしなくて良いのかと風魔に聞いたが、「開いてからが問題」とだけ言われた。

・・・まったく、この人を目の前にしてると何でもかんでも見透かされそうで怖い。何回かこの人は死んでるんじゃねえのか。

 

 

「・・・で、お前の熱は?」

 

 

退室し、いつも通り解散する前に風魔に聞かれた。

 

 

「ハハッ、最高潮。いつでも死ねる。・・・正直な、幻夜の気持ちがあんま分からなかったがな、あんなに心臓打ち抜かれるとな、語彙力抜けて死ぬ」

 

 

外見だけで惹かれたってのも向こうには失礼かもしれねえ。

だが惚れた。俺は言い訳なく惚れた。一目惚れした。単細胞生物に恋愛感情があるか不安だったがあった。

 

 

「バカだな。・・・明日またここだ、良いな?」

 

 

「りょーうかい!」

 

 

____________________

 

 

「れ、鈴仙・優曇華院・イナバ(れいせん・うどんげいん・いなば)です!」

 

 

「・・・やっと吐いたか」

 

 

「今日もしりとり始まるとこだったぜ?」

 

 

ひいごめんなさいごめんなさいと鈴仙・・・れいちゃん?が謝る。

まあ中々喋らなかった。めでたく八日目である。なげえよ。

 

 

「さて、鈴仙と言ったな。こちらも名乗ろう、私が風魔で・・・」

 

 

「俺が幽夜。よろしく」

 

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

 

「じゃあ早速聞きたいんだけどさ、れいちゃんのその兎の耳ってさ、飾り?それとも初めからついてんの?」

 

 

「え、は、はい!・・・も、元からです!・・・れ、れいちゃん?」

 

 

「あだ名つけた方が仲良くなれるじゃん?だかられいちゃん。・・・元から耳ついてんのか」

 

 

「そ、そうですね。・・・えっと、私の種族は玉兎って言うんです。兎、に、近いのかな・・・」

 

 

「まあ可愛いから良いとして、何を怖がってたんだ?俺の顔か?風魔の顔か?」

 

 

「か、顔は別に・・・わ、私、男の人が無理で・・・」

 

 

良かった、顔なんて言われてたら凹んでたぜ・・・

 

 

「・・・そうか。ところで、お前は何故ここにいる?何、悪い意味で聞いているのではない。生い立ちを聞けと永琳に頼まれた」

 

 

れいちゃんは綺麗な顔を俯けると、小さく零し始めた。

 

 

「私は・・・月の軍にいたんです。自慢じゃないですけど、月の方ではちょっと有名なぐらい銃の腕も良かったんですけどね。・・・いざ実戦になると怖かったんです。シュミレーションでは、やったハイスコアだ!なんて言えてたんですけど・・・」

 

 

れいちゃんは涙で滲み始めた目を俺に向けた。

 

 

「でも、全然違ったんです!目の前で殺されそうな私ぐらいの女の子の前に庇うように降りてきて、羽を吹き飛ばされて肉片にしながら、血塗れで叫んで、走って、基地に身体だけで突っ込んで、全身血だらけになって、それでも叫び続けて、同じように腕のない人と一緒に、暴れながら周囲をズタズタにして、吹き飛ばして・・・!」

 

それが思い出してはいけなかった事のように鈴仙は絞り出し、震えていた。ついでに風魔もついさっきまで咥えていた煙管を落としていた。・・・だろーね、犬走と鞍馬だろーよ、壮絶すぎるわ。

 

 

「分かりますか!?目の前で人が暴れて、殺されそうになる怖さが!殺す怖さが!」

 

 

「たわけ小娘」

 

 

「ひっ!?」

 

 

「おい、風魔・・・」

 

 

「何が分かりますか!?だ。貴様の心境などどうでもいい。それに、ここに似たような境遇の馬鹿がいる、独りよがりで話すな」

 

 

「・・・いや、確かに俺は風魔達と違って完全にフリーランサーだけどさ。んな似たような境遇か?」

 

 

なんて言ったら風魔に呆れられた。

 

「貴様は・・・全く、ならお前がそうして今の姿なのは望んでか?」

 

 

「ああ・・・要はあれか、無理矢理かそうでないかか?」

 

 

当たりだ、と風魔に笑われた。

 

 

風魔は完全に怯えきった鈴仙にすまんなと笑うと、俺を指差した。

 

 

「コイツもお前に近い。・・・もっとも、コイツは怖いなど言う暇もなかったがな。何せ生まれた時から敵まみれ・・・だったか?」

 

 

「まあな。・・・どこ行っても俺を喰いに来たからな。・・・ま、落ち着いて聞かせてくれ、分かる分からねえじゃなくて、お前の話をさ。また明日な」

 

 

れいちゃんはポカンとした顔で俺を見ると、小さく頷いてくれた。

 

 

 

 

次回へ続く

 

 




ありがとうございました。

タイトルは思いつかないわ頭は痛いわ肺が軋むわ滅茶苦茶ですが、一ヶ月投稿なしは無い予定です。
しかし遅くはなりますので、次回も長い目でお待ち下さい。


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第七十三話 喧嘩するほど

勿論不眠症奴が嫁に見つからないわけがなく・・・

ゆっくりご覧下さい。


「で、風魔は新しいお嫁さんを作ったと」

 

 

「まだ作ってないと言っているだろうが」

 

 

「まだってもう言ってるじゃないですかぁ!」

 

 

帰宅して伊織に抱きつかれ、「他の女の匂いがする」と勘づかれ、そして今に至る。やはり駄々をこねられた。お前は犬か。単に依頼と言っただろうに。

 

 

「嫌です嫌です!風魔は私のです!誰にもあげません!」

 

 

「だから違うと」

 

 

「何が違うんですか!女の子悲しませちゃダメなんですよ!」

 

 

「・・・じゃあどうしろと」

 

 

「・・・と、とりあえず結婚はダメです!」

 

 

「だからなぁ・・・」

 

 

伊織と騒いでいると、鞍馬が窓を割って現れた。

 

 

「窓割りましたァ!「よろしい」・・・痴話喧嘩やめてくださいよ、下にまでクッソ聞こえてますよ。恥ずかしくないんすか?・・・後、伊織様。なんなら俺に相手変更しません?俺は絶賛相手募集中っすよ?」

 

 

「鞍馬みたいな節操のないチャラ男は嫌です!」

 

 

「んだとこっちがやだよぶん殴るぞロリババア!」

 

 

「だ、誰がロリババアですか!」

 

 

「貴様も喧しいぞ鞍馬「黙れや寝取り野郎!」・・・あ?」

 

 

更に戸を開けて現れた犬走にも飛び火し、三人が口喧嘩を始める。

 

 

「誰が寝取り野郎だ!貴様に魅力が無かったからだろうが!」

 

 

「んだとテメエ!椿ちゃんとは種族の違い以外完璧だったんだよ!それを同種族のテメエが横から・・・」

 

 

「横からとは失礼な事を言うな!貴様が椿を想う頃から私も想っていた!」

 

 

「そうか!そう考えると俺とお前と椿ちゃんと伊織とで集合写真撮ってたあの頃から取り合ってたわけか!ドッロドロだな!」

 

 

「それじゃあ私が魅力ないみたいじゃないですか!」

 

 

「「椿(ちゃん)に勝てる訳ないでしょうが(ねえだろ)ロリババア!!」」

 

 

「言いましたね老害に永久独身!」

 

 

「残念ながら同い年です伊織様!よってあなたも婆です!」

 

 

「だってよ伊織バアさん!悪いが俺は独身だが未だにバカみてえに若いのからも人間からもモテるんでな!まあ文が結婚するまでしねえけどな!」

 

 

「むきーっ!減給です減給!」

 

 

「パワハラだぜロリババア」

 

 

「それは問題行為ですな」

 

 

「私は風魔の奥さんだから良いんですー!二人共クビです!「それはやめろバカ者!首が回らん!」・・・じゃあトイレ掃除に左遷です!」

 

 

「んだと調子乗りやがって!ムカデぶつけんぞ!」

 

 

「ムカデはやめてください!」

 

 

「ところで犬走!椿ちゃんどうだった!」

 

 

「最後までいい嫁だった!」

 

 

「羨ましいなチクショウ!亡くなる直前入隊試験だったからなぁ!」

 

 

「だがな!」

 

 

「なんだ!」

 

 

「死ぬ間際、名前を呼んだのは・・・お前の事だった。頑張れだと」

 

 

「・・・テンポ下げて言う事じゃねえよ。俺はな、椿ちゃん幸せにできるか自信なかったんだよ。だからお前に渡した。分かってるけどな・・・やっぱ同じ種族だったお前が妬ましいよ。俺も白狼天狗が良かった」

 

 

「私も、最後に名前を呼ばれた貴様が妬ましい」

 

 

「・・・なんで愛する人まで同じかねえ」

 

 

「全くだ」

 

 

「・・・ま、幸せなら良かった。ちゃんと楓ちゃんもその娘の椛ちゃんも大事にしてやれよ」

 

 

「言われなくとも。・・・しかし、他に愛する相手など考えなかったな・・・」

 

「・・・二人共、別に私でも良かったんですよ?」

 

 

「「それは勘弁」」

 

 

「なんでですか!胸ですか!椿ちゃんみたいにボンキュボンが良かったんですか!」

 

 

「そりゃまあ理想だろうぜ伊織様よぉ!伊織様は控えめに言ってまな板だからなぁ!」

 

 

「やめろ鞍馬、慎ましいと言え」

 

 

「・・・ッー!嫌いです!二人共嫌いです!大っ嫌いです!」

 

 

「おやおやおやぁ?良いんですかぁ?風魔様に酔い潰れた時の伊織様の話しちゃいますよぉ〜?」

 

 

「普通に寝るだけだろうが「あっ!てめ、裏切ったな!」元から敵だ、シスコン」

 

 

「んだと!今テメエシスコンバカにしやがったな!?「否定せんのか貴様!?」するかボケェ!」

 

 

「そう言えば鬼灯さんの娘が文ちゃんでしたよね。・・・あー、だからあんなに大事にしてたんですか。お姉ちゃんそっくりだから「うるせえ!姉が好きで何が悪りぃ!?」・・・文ちゃん、鞍馬くんの事好きみたいですよ?」

 

 

「ッ、バ、バカ言うんじゃねえ!誰がアイツなんかと・・・「はて?俺の大事な奴に触れんじゃねえ!と言って月で暴れて羽が千切れた奴は誰だったか」テメエエエッ!?」

 

 

「文も文で貴様ににお茶に行こうなどと誘うが、お前はいつも他の女を侍らせているからな。「うっせーぞハゲ!侍らせてるんじゃなくて飛行指導だって言ってんだろ!テメエが俺に合う時刻が女性の指導の時なんだよ!俺は断じて鬼灯姉と文以外に・・・って最後まで言わせようとしてんじゃねえよぶっ殺すぞ薄毛!」誰が薄毛だ!」

 

 

「あ、確かに犬走くん、ちょっとハゲましたよね。白狼天狗は年取るの早いですねー」

 

 

「だとよ!ハ・ゲ!後ジジイだってな!ほんと笑えるぜ!何せ最近若い奴らに俺とお前が同期だって言うと腰抜かされるもんな!」

 

 

「喧しい!歳のせいだ!仕方ないだろうが!」

 

 

「だからって抜けすぎなんだよ!孫に嫌われるぞ!」

 

 

「なんだと貴様アッ!?」

 

 

「やんのかコラァ!?」

 

 

「あ、殴る蹴るの喧嘩はダメです!」

 

 

「うっせえぞガキ!「ガキ!?」お前だけ俺と並んでたら娘さんですか?って聞かれたの覚えてるからな!」

 

 

「何?お前もか?・・・まあ私はお孫さんですか?と若いのに聞かれたがな!」

 

 

「もうこりゃロリババア確定だな!これで最高齢近くとかほんと笑えるぜ!もうちょい大きくならなかったんすか?色々と!特に胸!」

 

 

「キーッ!風魔もなんとか言ってください!」

 

 

私は長い息を吐いた。吸った、吐いた。

 

 

全員の頭を殴った。

 

 

「喧しいわ馬鹿共。仲が良いのは分かった「「「何処が!」」」そこがだ。・・・で、鞍馬「あ、へい」どうすれば良いと思うか?」

 

 

「いきなりマジな話に戻すんですかい。・・・そこのロリババア捨てるのが最適かと「くーらーまー!」「すまんが冗談はやめてくれ」へーへー、お熱いこって。・・・まあ、出会ってすぐみたいですし、しばらく見てやってりゃ良いんじゃないですかね?そのまま風魔様のお相手二人目じゃないですかね?」

 

 

「だから・・・もういい、お前らわざとだな。「解ります?」解るわ阿呆。犬走「はっ」・・・お前の妻は椿とか言ったな」

 

 

「・・・既に風魔様が来られる前に亡くなってはいますが」

 

 

「今度墓を教えてくれ。挨拶していない」

 

 

「はっ・・・!」

 

 

「俺も混ぜろ犬走。よく考えたらちゃんと入隊試験に受かった話してねえ」

 

 

「後、伊織」

 

 

「は、はい!」

 

 

「お前は体つきを気にしているようだが。「そ、そりゃ大きい方が良いですよね?」否定はしない。だがな、私はお前の中身に心奪われたと言っていなかったな「へ?」・・・言った通りだ。見ての通り私は不眠症だ。それはそれは夜寝る度に悪夢を見て寝れん程のな。・・・しかしお前が隣にいると、自然と悪夢を見なくなる。安心出来るんだ。お前は私にとってかけがえのない嫁だ。そこまで体を気にするな、どんな姿でも私はお前を愛する」

 

 

「にゃ、にゃんでそんな事すらすら言えるんですかぁー・・・」

 

 

伊織が私に向かって倒れこみ、鞍馬がやれやれと首を振り、犬走も苦笑した。

 

 

「・・・ロリババアに手を出さなかったのは、愛らしすぎたからなんすけどね。羨ましいですよ風魔様」

 

 

「まあな。あの頃伊織様は鈍感だったからな。・・・百は告白されていたな」

 

 

「そうそう。毎度毎度「お手紙くれましたー!好きですって!嬉しいですねー!」で済ませたもんな。一番とんでもねえぜこの人が」

 

 

「風魔様のように貴様を奪う。嫁にする。ぐらい言わなければ分からんかったのだろうな。何故そうも言えたのかは謎ですが」

 

 

「・・・それは、語れん」

 

 

「なーんかあるぜ絶対。てか、かく言うお前もだよな、犬走。・・・まあ椿ちゃんにど一途だったしな。死んでから大荒れだったもんな」

 

 

「・・・あの頃はまだ若かったからな。お前も。・・・正直私がアイツを嫁にして良かったのか?」

 

 

「何今更言ってやがる。おせえよ。それに、俺はお前に託したの。・・・お前なら大丈夫だと思ってな。この話広めんなよ、俺は振られた役でいいから」

 

 

「はぁ・・・いつもそうだな。何か閃いては上層部へ昇格し、何か意図の読めんことを成し遂げる・・・待て、まさか貴様、近親者間の婚約の法を書き換える気か・・・!?」

 

 

鞍馬は悪戯のバレた子供のように笑った。

 

 

「書き換えたんだなコレが。先代天魔様の時に金貢いで酒貢いで汚ねえ仕事して。・・・あ、風魔様、汚職やってたんでクビにしてもいいっすよ」

 

そう言えばそんな法が書き換えられた跡があった気はする。

正直仕事を増やさんならなんでもいい。

 

 

「・・・ここまで仕事の片棒担がせておいてぬけぬけと言う。クビにするなどこっちの首が回らん。せいぜい墓まで持って行って働け」

 

 

「クソブラック企業じゃねえすか」

 

 

「ざまあないな」

 

 

「笑いやがったな?・・・ま、ぶっちゃけ風魔様に言っても切られると思ってたんすけどね」

 

 

「私は来る前の悪事は知らん。何をしようが使えれば雇う。その代わり死ぬまで働いてもらう」

 

 

やだねえと言いながら、鞍馬は嬉しそうに笑った。

 

 

「やれやれ・・・これじゃ、天魔様殺害計画がおじゃんになるのは仕方なかったな」

 

 

「何?お前もか?」

 

 

「そりゃ伊織ちゃんあの野郎に取られるのは気に入らねえよ。あの野郎鬼灯姉にも色目使ってやがったからな。・・・オイ、お前もか?」

 

 

「考えることは同じか。・・・話を戻しますが風魔様、もう少し見守ってやるのが年長者の務めでしょう。レンゲ・ウドンイン・イナフ殿と話すのを見守ってやればいいでしょう」

 

 

「お前名前間違えてるぞ。レンコン・オオキメニ・キレバですよね?・・・てかあの美青年がその子と結婚するとどうなるんです?何処が性ですかその子?」

 

 

「誰がレンコンを大きめに切るんだ。鈴仙・優曇華院・イナバだ。まあ良い、助かった。また明日向かうからその時にでも話す。・・・後、幽夜は私と同い年に近いからな「マジすか?」マジだ」

 

 

「私も行きます!」

 

 

「・・・起きていたのか」

 

 

私も行きますと私の目を見据える伊織を見て、まだ気づいていないのか。これはまた荒れるなと苦笑した。

 

 

「あ、そうだ風魔様。あの話はどうなんですか?」

 

 

「・・・貴様らも来るなら来いとのことだ。強制はせん」

 

 

「了解」

 

 

次回へ続く




既に椿さん、鬼灯さんは亡くなっております。
現在の天狗最年長は喧嘩三人組です。

参考に・・・
鞍馬・・・185センチ
犬走・・・178センチ
伊織・・・149センチ
風魔・・・1 9 4 セ ン チ←渾身の設定時の10センチミス(184センチだった筈)


・・・ああそう言えば、今日はバレンタインデーでしたね。
どうでした?え?私?
ある人からのもの以外は本当に求めるものではないので、はい。ま、その人からは貰えないんですけどね。


次回もお楽しみに。


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第七十四話 第2回単細胞お悩み相談室(打ち切り)

落ち着いて深呼吸するとテスト期間真っ最中でした。


打ち切りシリーズ続投です。
ついでに単細胞の異常性が露呈するやも・・・
ゆっくりご覧下さい。


「・・・だから伊織さんもいるのな。お久しぶりです」

 

 

「久しぶりですねー幽夜君。この前のお菓子美味しかったですよ!」

 

 

「そりゃどうも。・・・で?なんで来てんの?」

 

 

「・・・不倫容疑をかけられた」

 

 

「草」

 

 

昨日ぶりに風魔と落ち合っていると、嫁を連れてやって来たと思いきや不倫疑惑かけられたは笑うしかない。

 

 

「え?なんで?なんでお前不倫疑惑かかってんの?」

 

 

「・・・鈴仙の匂いがしたらしい」

 

 

「把握」

 

 

隣で伊織さんがぷりぷりと怒っているのはそういった理由なのか。

てか鞍馬の兄貴と犬走の兄貴は訂正しなかったのか。ぜってーわざと訂正してねーじゃん。

 

 

「まあ・・・私は貴様の身の上話を聞く気はない。二人きりで話せ」

 

 

「・・・ん?鈴仙ちゃんは、幽夜君と仲良しなんですか?」

 

 

「そうだぜ?風魔はその中継ぎをしてくれてるだけだが?」

 

 

「そうなんですか!?」

 

 

「だからそう言ったろうに」

 

 

やれやれと首を振る風魔に、行けと促され、俺はれいちゃんの部屋へと入った。

真ん中には座布団が三枚置いてあった。

れいちゃんは俺が入ってきた瞬間びくんと肩を震わせたが、俺であるのを確認したのか、硬い動作で座布団に座った。

 

 

「・・・今日は風魔は来れねえよ。嫌なら出るが?」

 

 

「いえ、その・・・幽夜さんなら、大丈夫、です・・・」

 

 

「サンキュ。・・・じゃあ昨日約束した身の上話をしようか」

 

 

____________________

 

 

まず、俺はフリーランサー・・・つまるところ金を貰って働く何でも屋だな。それをやってる。本業は傘屋なんだが、まあ色々あってな。

 

 

で、まあ風魔の言うれいちゃんに似た境遇ってのは・・・多分まあ生まれた後の事だろうな。

俺は親の顔も親族の顔も同族の顔も見たことが無い。

俺は生まれた時、一つの細胞だった。

 

 

ところが、なんだったかな・・・γ線?を体に多量に浴びて体が突然変異。生物が持てば完璧な、自己再生、自己増幅、自己進化の性質が発現し、そのまま俺は進化。

ただ、この頃は体を維持できなくてな。なにかを食べなければならなかった。

 

 

土、草、水、木、森、土地、次第に要求が強くなり、やがて・・・

俺は他の生き物を食べ始めた。

 

 

すると他の生物を食べる度に体のバランスが安定し、その生物の情報が俺に入り込んでくる。

そうしていくうちにな、俺はとある事をしでかした。

昔の文献見れば分かるだろうが、何個か村が消えていたり、集落が壊滅しているんだ。

ありゃ多分全部俺。全ての生き物の力を得ようとして体が暴れた末路。

そしてな、全て食い終えてから俺は流れて行く記憶で見たんだ。

残骸と化した人の住んでいた集落、誰かのつけていたであろう装飾品、逃げ回っていた事を思わせる数多の足跡。

 

 

・・・もう、なんとも思えなかった。

食わなきゃ生きていけねえ。だが食おうとすれば集落が一つ、また一つと滅びる。

次第に殺すと言うことがなんなのか分からないようになった。だからもう怖くはない。

でもな、目を閉じると思い出すんだ。

子供を守ろうとして庇うように抱え、その顔は恐怖に歪んでいた母親。親を先に食われ、泣き叫びながら親を探す子供。子を失い、狂乱して俺の体に襲いかかる憤怒の形相の親。

・・・今でも夢に出るんだ。

 

 

なあ?俺、後何回殺せば夢から出れると思う?

それとも、殺さない方が良いんかね?

 

 

____________________

 

 

「・・・って事で、俺はそれを探すために傭兵稼業に携わってんの。このまま百年間夢から出れなければ傭兵をやめる。出れれば傭兵を続けて慣らす。・・・ま、正直ろくな奴じゃねえわな」

 

 

夢の話は慣れているつもりだったのだが、無様に手が震えている。

 

 

「・・・辛くないんですか?」

 

 

「いや、まあ辛いけど。何もやらないままだと何も始まらねえし」

 

 

何に関しても仕方ない、やらないよりマシで割り切って生きてきた。

それは仕方ない事だろうと思っていると、手を握られた。

 

 

「・・・それじゃ、壊れちゃうじゃないですか・・・!?」

 

そう言って必死に俺の手を握るれいちゃんを見て、いままで感じたことのない不思議な気分にさせられた。

俺はこのままこの手を握り返して良いのだろうか?

 

 

「・・・ごめん、時間もらっていいか?」

 

 

俺はその部屋から逃げ出した。

 

 

____________________

 

 

「くそ・・・いきなりなんなんだよ」

 

 

目の前に殺した人達の顔が浮かぶ。忘れたくて恐怖も忘れたはずなのに、体が震える。

 

 

「割り切ったつもりなのになぁ・・・」

 

 

やっぱり、人を苦しめた奴が幸せになっちゃならねえんだろうか。

 

 

「・・・はい、はい、こっちは特に何も・・・ゆうちゃん?」

 

 

「・・・あ、あー。たっちゃんか」

 

 

俺が昔の事を思い出していると、たっちゃん・・・月野、今は蓬莱山に声をかけられた。

 

 

「・・・どうした?こんな所で落ち込んで」

 

 

「・・・過去って、どうすりゃ拭えるのかね」

 

 

「過去は無理だろう。膨大な過去は膨大な未来によって拭われる筈」

 

 

「・・・月野」

 

 

「俺はゆうちゃんがどんな悪事を働いたか知らない。でも、だから止まったら申し訳ない。俺も何人も殺した、潰した、苦しめた。挙句死ねなくなった」

 

 

たっちゃんは微笑んで、空を仰いだ。

 

 

「だから悩むことはないと思う。・・・鈴仙も、みんな何か抱えてるさ」

 

 

「お前微笑とか出来たんだな」

 

 

「出来る」

 

 

「・・・なーんだ、毒抜かれちまった。・・・よっしゃ!れいちゃんとこ行ってくる!」

 

 

____________________

 

 

幽夜が立ち去り、その後奥の部屋でれいちゃーんっ!という叫び声を聞きながら、月野は固まっている表情筋を僅かに緩ませた。

 

 

「・・・頑張れ、ゆうちゃん」

 

 

「・・・守〜!どこー?」

 

 

「ん、輝夜」

 

 

「ん、じゃないわよ!さっきのあの叫び声何?」

 

 

「奥の部屋で友達が告白しそう」

 

 

「今!?」

 

 

「今」

 

 

「・・・若いって良いわねー」

 

 

「お前はまだ若いだろう?」

 

 

「何?・・・褒めても何も出ないわよ?」

 

 

「お前がいればそれで良い」

 

 

「・・・ずるい」

 

 

「・・・?」

 

 

「っ〜!もう!」

 

 

輝夜が一人でわたわたと動き、月野は不思議そうに首を傾げていた。

 

 

「・・・ところで、何持ってるの?手紙?」

 

 

「・・・ゆうちゃん宛の手紙」

 

 

「勝手に開けたの!?」

 

 

「・・・事が一大事なんだ」

 

 

「・・・何?どうしたの?」

 

 

「ゆうちゃん宛に依頼が来た。内容が今渡すと良くない」

 

 

月野の手には、【月侵略支援依頼】と書かれた紙が握り締められていた。

 

 

____________________

 

 

はあ。とさも面倒そうに若葉色の髪を揺らしながら青年が仰向けに寝転がり、溜息を吐く。

 

 

「ねえー。僕は今すぐ幽香と幸夜(こうや)のとこに行きたいんだけどー。つまんない用事だったら帰るよー?」

 

 

「まあまあそう言わずに。報酬は言い値で主上の財から引きますから。・・・それに、このままだと紫殿が思い詰めて何するか判りませんので。多少なりとも戦果報告が出来るように、というのがまあ、本心ですかね」

 

 

「・・・まあ、そーゆー事なら仕方ないか。でも僕だけで良いの?二人じゃ足りなくない?正直僕前線だとクソカスだよ?」

 

 

「そこで貴方は変人部隊の足止めに回ってもらいます。正確に言えば上官やラスボス級のメンバーの足止めです。勿論単独行動になりますけど、大丈夫ですか?」

 

 

「・・・ちなみに時間は?」

 

 

「二時間。行けます」

 

 

「・・・報酬は幽香との生活を邪魔しないこと。いい?」

 

 

「了解です。ちなみに風魔にはすでに話を通してますし、例のあそこで集めてるんでまあ、大丈夫でしょう」

 

 

「あそこって・・・掃き溜めでしょ?犯罪者とか極悪人蔓延るあの臭い場所だよね?」

 

 

「そうですが?ちなみに幽夜もあそこに登録してますよ?」

 

 

「そうなの?・・・何というか、あそこは苦手かな。お酒飲む時は良いんだけど、日常はうんとはいえないかな。人の事言えないけど」

 

 

「ま、荒れてますからね」

 

 

侵二がクスリと微笑み、お願いしますと幻夜に頭を下げ、幻夜も頷いて立ち上がった。

 

 

「ところでさ、予定いつ?」

 

 

「来年あたりです」

 

 

「了解」

 

 

 

次回へ続く

 




まあリベンジマッチしますよねえ?(全員侵略側とは言ってない)

次回もお楽しみに。


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第七十五話 第3回単細胞お悩み聞いてもらう相談室

この前、ふとなんとなく母親に大好きです、とメールを送り。
ありがとう。と言う五文字の返信だけだったのに、何故か泣いてしまいました。


ゆっくりご覧下さい


「・・・さっきは、ごめん。確かに無理してた、かもな」

 

 

「いえ・・・私こそ、いきなりごめんなさい」

 

 

そう言って微笑むれいちゃんにつられて笑いそうになったが、俺はぐっとこらえ、れいちゃんの目を真正面から見た。

 

「・・・俺は、れいちゃんに言われて嬉しかった。・・・あのさ」

 

「・・・はい」

 

 

「・・・その、友達に、なって、くれる、か?」

 

れいちゃんはぽかんとした表情で俺を見つめ、やがて何がおかしかったのか吹き出した。

 

「な、何で笑うんだよ・・・」

 

 

「フフフッ。だって幽夜さん、話し方と違って控えめなんだなって・・・」

 

 

「う、うっせーやい。・・・女の子の友達なんて初めてなんだからよ」

 

 

「私だって男の人のお友達は初めてです。上司や先輩はいましたけど、友達はいなかったですから。・・・よろしくね。ゆ・・・ゆう、ちゃん?」

 

 

刹那俺は自分の頭を床に叩きつけ、吹き飛びかけた理性を呼び戻した。危うくクリティカルで社会的抹殺待った無しで押し倒すかと思った。

 

 

「ちょっ・・・!?血?みたいなの出てる!?何それ!?水!?」

 

 

「体液「体液!?」・・・はは。反則だぜいきなりその呼び方は・・・」

 

 

「あ、ご、ごめんね?嫌、だった「いえそのままで」あ、うん。良いよ」

 

 

人外で良かったと初めて思った俺だが、それ以上に今、言い表せない喜びに包まれている。

・・・そう言えば、夢に出ようが俺に干渉して来ねえよな。殺した奴らは。寝ようと思えば寝れるんじゃねえか?

・・・なんだ、優しすぎただけか。肉焼いて食うのに一々牛可哀想なんて思わねえもんな。

・・・あ、そうか。どうでも良いんだ元から。文句言う奴は叩き潰せばいないのと等しいもんな。なんだ簡単じゃねえか。しかもよく考えれば覚えのない奴の死体が横になってる記憶もある。 どっかで人間の複雑な感情を写したのか?・・・まさか龍一か?まあ良いや、どーでも良い。だって俺は餌を殺しただけなんだから。恥じる必要も自らを悔いる必要も、

 

 

 

無い。

 

 

 

「・・・なんだ。簡単だ」

 

 

こういう時なんて言うんだったか。

 

 

「・・・どうしたの?」

 

 

そうだ。

 

 

「いや?殺した人の分、幸せに生きよう(他人の命を糧にして生きよう)と思ってさ」

 

 

何故悩んでたのか分からなくなってきた。いや、なんだこの記憶。俺のか?誰のだ?

 

 

妹が死んだ、なんでだ

なんで一々誰かを助けなきゃならねえんだ

疲れた、休ませてくれ

誰もが俺を見て化け物という。そんな事言われなくても分かっているのに

もう独りぼっちはやだよ、独りにしないで・・・

アイツだけは許さない、絶対に殺してやる

人生に飽きた、何もやる気が出ない

名前、なんだったっけ?

○○、元気かな・・・

誰か・・・助けて

 

 

・・・ああ、なんだ。全部知ってる奴(野郎達)の記憶か。

そうか、俺じゃないんだ。

俺は何も知らない。壊れた記憶は、全部、人のモノなんだ。

 

 

「・・・なあ、れいちゃん」

 

 

「・・・何?」

 

 

「俺、君の事が好きかもしれない」

 

 

今俺はここで過去に決着をつけた。誰がなんと言おうがつけた。

だから俺は後悔する前に、れいちゃんに伝えた。

 

 

「・・・それは、お友達として?」

 

 

「・・・いや、女の子として」

 

 

「そっか・・・」

 

 

ごめんね、とれいちゃんに謝られた。

 

 

「・・・だよな」

 

 

人の記憶だっただの偽っても、俺は人を殺したのには違いない。

 

 

やっぱり、釣り合わないよな。

 

 

「私は、ゆうちゃん・・・ううん、幽君の事、もっと知りたい」

 

 

「・・・ん?」

 

 

「私は幽君と話してまだ一週間も経ってない。お互いの事知らないのに、付き合うのは、嫌かな・・・」

 

 

もっと知ってから、ね?と照れくさそうに笑うれいちゃんの顔は真っ赤だった。

 

 

「・・・うん、そう思うなら、そうなんだと思う。・・・聞かせてほしい、れいちゃんの事」

 

 

「私も聞きたい、幽君の事」

 

 

「話そう、沢山の事」

 

 

「うん、お互いの知らない事がないくらい」

 

 

「・・・それちょっと怖くね?」

 

 

「あ、それもそっか・・・」

 

 

俺も顔が熱いのに、頬が緩んでくすっと笑ってしまった。

・・・あれ、俺こうやって笑うの初めてかもしれないな。

 

 

_____________________

 

 

「・・・幸せそうですね」

 

 

「ああ」

 

 

「・・・お話も聞かずにここまで来ちゃいました。ごめんなさい」

 

 

ぺこりと伊織が頭を下げる。

私は伊織の頭を撫で、ニヤッと笑う。

 

 

「別に構わん。説明不足の私も悪かった」

 

 

そのまましばらく撫でていると、ふと伊織がボソリと呟いた。

 

 

「なんで、風魔は私を選んだんですか?」

 

 

「・・・む」

 

 

「私は沢山風魔とお話ししました。結婚してからでしたけど、私は風魔の事を沢山知ってます。・・・でも、選んだ理由は知らないです。なんで私なんですか?」

 

 

難しく話すのは嫌ですよ。と伊織に答え方を絞られ、正面から見つめられて退路を塞がれた。

 

 

「・・・全部俺の勝手だ」

 

 

「良いです。・・・私が聞きたくないことでも良いんです。・・・知らないままは嫌です」

 

 

私は胸の中でドス黒い何かが蠢くのを感じた。

これは・・・二百と五十くらい前か。

 

「分かった」

 

 

私がとある仕事で山へ登る一人の青年だった時。まだ人間だった時、まだ転生に疲れていなかった頃。

 

 

「私は、未来のお前に惚れた」

 

 

____________________

 

 

一目惚れだった。長い黒髪、優しそうな口元、幼さを残すのにどこか大人びた雰囲気を見せる彼女に。

 

 

私はその時の人生は行商人だった。神妖怪人問わずモノを売りに行く変な行商人だった。理由は何度も何度もそのような境遇に立たされたから。単なる慣れだった。

その日はとある天狗の婚式に参加し、花嫁に見合うモノを着せる。というのが仕事だった。

何度も似たような事をしていたし、基本綺麗な女性ばかりだったから、特に嫌でもなく、緊張するという事も無かった。

筈だった。

 

 

その時花嫁の化粧室にいたのが、伊織だった。

私が人の嫁であるのに一目惚れしたのはその時だ。惜しむらくは、

 

 

目が死んでいた事。

 

 

私は震える手で伊織の姿にあったモノを見繕い、着せ始めた。

喋らないのもアレだったので、何度か話をした。

次第に打ち解け、やれこれが良いだの良くないだの二人で騒いで決めた。

 

そんな事もあり、私がいうのもなんだが完璧な姿になった伊織は、言い表せない程美しかった。

 

ありがとう。そう彼女は言うと、不思議な事を言った。

 

 

「私、結婚したくない」

 

 

聞けば全て血筋の為だという。

私は何度も見聞きした事だったのに、その時は呆然と聞いていた。

もっと自分が素敵だと思う人が良かった、もっと外を見たかったと。

私は答えに詰まって、本当に馬鹿な事を聞いた。

 

 

「もし自分があなたの旦那になる予定だったら、受け入れてくれますか?」

 

 

嫁入り前の人に聞く事じゃ無かった。

だが彼女はこう答えた。

 

 

「貴方なら良かった」

 

 

その時、私は胸の中が真っ黒になるのが分かった。

私は更に恥ずかしい事を続けた。

 

 

「もし私が過去に生まれ変わったら、有無を言わせず貴方を攫います」

 

 

彼女は笑った。

 

 

「待っています」

 

 

そう答えてくれた。

もう、心が割れそうだった。

今彼女と結婚する相手が憎くてたまらなかった。彼女を結婚させようとする奴を切り刻みたかった。私なら彼女の瞳を輝かせられるのにと思った。

だが、私は人間、ここでそう叫ぼうが彼女の前で血の花を咲かせるだけだ。

だから私は彼女に聞いた。

 

 

「・・・昔の貴方がいるであろう場所はどこですか?」

 

 

・・・彼女は、とある場所を指した。

 

 

 

 

 

そうだ。

 

 

 

 

お前と私が出会ったあの山だ。

 

 

 

 

全部知っていた。お前がもうすぐ結婚する事も、もし私が向かわなければ結婚させられる事も。

・・・犬走、鞍馬が反乱を起こし、無事な奴がいない程荒れる事も。

 

 

だから、次会う時は必ず幸せにすると誓った。

後の九千七百五十の生、全てにおいて妄執に囚われたまま捧げた。

全ては次の機会、お前に会うために、攫うために。何%か分からない賭けを繰り返した。

そして、一万一回目、つまり今。

 

 

 

 

お前を見つけた。

 

 

 

____________________

 

 

「・・・とまあ、お前は知らないが、私は八割お前に会う為に、全てあの時の目的を果たす為に捧げた」

 

 

全ては自分が伊織を笑わせられるという謎の自信から。

ただそんな妄執に近い話をした後。予想通り伊織は顔を俯けていた。

 

 

「・・・風魔は、やっぱり私に一目惚れしたって事ですか」

 

 

「・・・ああ」

 

 

「そんな事のために、人生を無駄にしたんですか?」

 

 

ふと私の何かが切れた。

 

 

「黙れッ!何がそんな事だッ!」

 

 

「だってそうじゃないですか!何時逢えるか判らない、ただ少し話した女の子の為だけにそんな事して!他にもいたんじゃないですか!?」

 

 

 

「いいや!他にいないッ!私にとって、空虚だった私にとって、お前は・・・ッ!私の目的で、間違いなく一本の光だったんだ・・・ッ!」

 

声を大にして叫んだ。

 

 

異端者だと言われても、変質者だと言われても構わない。

ただ、お前に幸せに生きて欲しいだけだから。

 

「お前が、笑ってくれるなら・・・ッ!!私は・・・ッ何度だって死んでやる!!」

 

 

「・・・バカですよ、風魔は。ホントに、バカです・・・」

 

 

私を転生させる何かをクソ野郎だと割り切った七千二百回目の生以来だ。

こんなにこの力が苦しいと思ったのは。

 

 

次回へ続く




さあ軽くなってまた重くなって参りました(安定の東方要素ゼロ)
背負うべき物を背負っていかなくても成長はすると思うんです。クソ野郎になりますけど。

まあ駄作の中では死ぬ程重いのはオリキャラで良いんです。原作キャラには笑ってもらわないと。


次回もお楽しみに。




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第七十六話 男数年会わざれば

優しい狂人達のお話。


ゆっくりご覧下さい。


「もういいです。元信君がそんなに苦労してたのは分かりましたから」

 

 

伊織が何かを切るように顔を上げた。

・・・いや、それよりもだ。

ここにおいて私の人生などどうでも良いような事を耳にした。

 

 

「お前、どうして私の名前を」

 

 

私が行商人だった時の名前。景浦元信(かげうらもとのぶ)。

誰も知り得る筈のない、腐った数百の名前のうちの一つ。

 

「何故知っている。その名前はあの時の世界の奴らしか、永久に関わらない別の世界の者しか知らない筈、なんで、お前が・・・?」

 

 

伊織は溜息を吐くと、気づいてないんですか?待ってたんですよ。と微笑んだ。

 

 

「だって・・・私も待ってたんですから。いつか元信君が私を攫いに来るのかな・・・って。・・・なんででしょうね、私は一回死んだのに、またこうして私として生きている。元信君は姿を変えて、私を攫いに来た。風魔って言ってましたけど、見て分かりましたよ、あ、元信君が来たって。・・・私、とっても嬉しいんです」

 

 

・・・笑う筈なのに何故涙しか出ないんだろうか、私は。

今空っぽだった何かが満たされていく。黒い何かが消えて行く。

 

「・・・どう、して、ここに」

 

 

「・・・私も聞きたいです。でも今、元信君、いいえ、風魔は目の前にいます。約束通り、私を攫って、奥さんにまでして。とっても幸せです。・・・ごめんなさい、隠してました」

 

 

ふざけるな。なんでそんな事を。

 

「・・・許さん。絶対にだ」

 

 

「じゃあどうしたら許してもらえますか?」

 

 

なんでそんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな、奇跡のような事は本当にあるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・これからも、ずっと側で笑って居てくれるなら」

 

 

伊織は笑った。目から水を流しながら。

互いにだらしない顔をしながら笑った。

ごちゃごちゃになっていた糸が、全て解けたようだった。

 

 

「当たり前じゃないですか。私は風魔に攫われたんです。囚われのお姫様は大人しく攫った人の前で生きるんです。とっても幸せに。・・・風魔」

 

 

「伊織」

 

 

本当にあったんだな。こんな事。

 

 

「「この世界に産まれる前から、ずっと好きでした」」

 

 

互いにそんなことを言って、笑う。

一万回貧乏くじを引かされ続けたんだ。

一回だけ当たっても、バチは当たらない筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、重ーい話はやめましょう!さあ帰りましょう風魔!せっかくのお休みです!幽夜君のお店でお菓子食べましょう!でえとですよ!デート!後お洋服と、あ、久しぶりにあの山も行きましょう!」

 

 

「・・・馬鹿者、その菓子屋の幽夜が部屋の中にいるからここに来たんだろうが」

 

 

「あ・・・忘れてましたぁ・・・!風魔、どうしましょう・・・!」

 

 

「死にそうな顔をするな阿呆。・・・菓子は私が作ろう」

 

 

「え!?作れるんですか!?」

 

 

「バカ言え。作れるに決まっているだろう。私はお前の望む事はなんでもできるぞ」

 

 

何千回という人生は、お前を笑わせるためだけに、お前の目を輝かせる為だけに費やしたのだから。

掌返しが激しいが、私を転載させたクソ野郎はしばらく許してやろう。

だが会えば斬り殺す。

 

____________________

 

 

その日の夜。

 

 

「戻った」

 

 

「お帰りなさい。随分と伊織殿と仲睦まじい事で何よりです」

 

 

「まあな。本当に夢物語のような事があるとは思わなかった。後は壊夢か?」

 

 

「そうですねぇ。・・・まあ、壊夢はここしばらく何もなさそうですねぇ」

 

 

「ああ。・・・だが、我々は皆脛に傷しかない奴らだ。何かしらあるとは思った方がいいな」

 

 

「ええ。ま、私が一番重いでしょうけど」

 

 

「・・・まあ、な。紫殿は?」

 

 

「イギリスの方角向いてますよ。なーんで互いに一歩踏み出せないんですかね。・・・いや、主上が逃げてるだけですね」

 

 

「ヘタレが」

 

 

「おや、今回は珍しくズバッと言いますね。何かありました?」

 

 

「む?・・・まあな。歪んだ独りよがりの愛情ではなかった事が、何より嬉しくてな」

 

 

「しょっちゅう風魔は訳わかんない事言うよねー。・・・あ、そうだ、ミルク離れした子供の離乳食ってさ、何食べさせればいいの?」

 

 

「・・・歯が生えていないから、消化のいい柔らかいものだった気がするが。・・・龍一に聞けばどうだ?」

 

 

「えー・・・、今めっちゃ不機嫌そうじゃん。多分目についた悪人虐殺してると幻夜君は思うんですけど。それに風魔はなんでも知ってるんでしょ?」

 

 

「人間の知識についてはな」

 

 

「なんか、伊織ちゃんを神様として見てるみたいだね。人生を費やして幸せにするって。ちょっと怖いけどカッコいいなあ」

 

 

「神か・・・、成る程、だから私は神を信仰しなかったのかもしれん。伊織しか私には必要なかったからな」

 

 

「伊織ちゃん神格化して見てんの?」

 

 

「そう言いなさんな、最終確認しますよ?」

 

 

「了解。幻夜、コールサインはアンノウン。目的は名桐ちゃんをメインに変人部隊及び綿月姉妹の存在する基地の通信妨害、制圧、時間稼ぎ。だよね?」

 

 

「続いて風魔。コールサインは月破。目的は鞍馬と犬走を合わせての総合指揮。他の妖怪に最も知られ敬われているのが私というだけでこれだ。まあ駄弁っておく」

 

 

「そして今不在の壊夢、コールサインは摩天楼。後半以降後方で殿と防壁を頼む予定です」

 

 

「んじゃ、侵二はなんて呼ぶのさ?」

 

 

「私は・・・まあ、石頭かサンダーヘッドで」

 

 

「了解。・・・結局幽夜は来ないんだね?」

 

 

「おそらく。・・・それが我々龍一に仕えた集団の特徴でもありますから。・・・相棒達であり、敵であり、親友であり、邪魔者である」

 

 

「だね。ちょっと残念だけど。・・・じゃあ、また次は一年後かな?」

 

 

「ええ。また会いましょう」

 

 

____________________

 

 

私がぼーっと窓を見ていると、藍が隣にやって来た。

 

 

「紫様、お茶です」

 

 

「・・・ありがとう」

 

 

藍が淹れたから美味しいはずなのに、何故か味がしない。

挙句には龍一に淹れてもらった紅茶の味を思い出したくて、これ以上飲みたくなくなって来た。

言い表せないイライラ感に包まれた。

 

 

「・・・また龍神様の事ですか?」

 

 

「・・・うるさい。あなたは良いわよね、侵二さんがいるから」

 

 

む、と藍が顔を顰めた。

 

 

「そりゃ、紫様みたいに駄々こねませんから」

 

 

私も言い過ぎた気はしたけれど、藍のその言葉で更にイラっとした。

 

 

「・・・何?私が面倒な女だって言うの?」

 

 

「そう聞こえましたか?」

 

 

「戻りましたー」

 

 

「別に?侵二さんが可哀想だって思っただけよ?」

 

 

「・・・何故そう思ったんです?」

 

 

「聞いてますー?」

 

 

「・・・そりゃ、侵二さんからの不満がないんでしょ?貴女が尻に敷いてるんじゃないの?」

 

 

「失礼な!」

 

 

「失礼なのはそっちよ!」

 

 

「あのー」

 

 

「何よ」

 

 

「やるんですか?」

 

 

私と藍が睨み合い、摑みかかろうとした時。

 

 

「話聞けって言ってんだよ聞けやァ!」

 

 

目の前に雷が落ち、頭の上に鈍い衝撃が襲いかかった。

 

 

「ッ〜!?」

 

 

「いっ・・・!?」

 

 

目の前が点滅しながらも辺りを見渡すと、犬歯を覗かせた侵二さんが仁王立ちしていた。

 

 

「ギャーギャー喚きやがってェ!良い加減にしろよお前ら、ええ!?」

 

 

「ちょっ、侵二さん、口・・・」

 

 

「るっせえぞ紫ィ!なんだって人諌めるのにも敬語使わなきゃなんねえんだ、今こっちの方が楽だからこうしてるんだろうが!後藍!」

 

 

「っ、はいっ!」

 

 

「従者があの程度で腹立てて反発すんな!流石に使えんだのクソだのクビだの言われりゃキレていいさ、だがなぁ!?ある程度従者になってからは我慢すんだよ!」

 

 

「・・・もしかしてお前、龍一殿に・・・」

 

 

「鬱憤溜まってるに決まってるだろうがァ!!あんの野郎笑えねーくらい仕事持って来やがって。そのくせマトモに休暇とらせるせいで文句言えねえしなァ!!」

 

 

マトモな職用意しやがって・・・と喜んでるのかキレているのか分からない表情で侵二さんがブツブツと呟き、ほれ。と私と藍に紙束を投げつけて来た。

 

 

「な、何・・・?」

 

 

「最近紫と同じようにアイツらも俺も鬱憤が溜まってきてな。月行くぞ月」

 

 

「月!?」

 

 

「待ってくれ侵二!あれは紫様が走り回って人を集めたんだ!明らかに人数が足り「足りる。こっちで雇った。老害をナメないで下さい」しかし、紫様はあれを気にして・・・!」

 

 

「良いのよ、藍」

 

 

「しかし・・・!」

 

 

「・・・侵二さんは、この事を龍一が見てくれると思う?」

 

 

「断言します。アレは自己嫌悪で一切見にこないです。しかし紫殿にとっては少なからず学習する場にはなるかと。ぶっちゃけうじうじしてるのにも飽きたでしょう?私達も暇な時期が来そうなんですよ」

 

 

来ますか?と犬歯の引っ込んだ、いつもの優しい侵二さんが微笑んだ。

私は頷いた。

 

 

「・・・侵二、紫様が行くなら私も行く。それはいつだ?」

 

 

「お前は仕事ないと思うぞ?一年後だが」

 

 

一年後なの!?

 

 

 

次回へ続く




神様に殺意沸くヤベー奴と、親族皆殺しにされて味覚壊れてるヤベー奴と、何度も転生しまくって好きな子を笑わせることに人生費やしたヤベー奴とパワーに全振りしてるまだ事情抱えてるヤベー奴と八つ当たりで世界粉砕するヤベー奴と遂に人殺しの抵抗と恐怖を割り切ったヤベー奴の完成です。
ろ く な の が い ね え や 。


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第七十七話 払拭


とあるアニメの最終回が作者の心を刺し貫いたというかぶち抜いたので、そのダメージである事について考えが変わりました。
いい意味で刺し貫かれました、そして貫かれて苦しいです。


ゆっくりご覧ください。


「は・・・!?侵二らが侵略・・・!?」

 

 

幽夜があまりにもふざけた連絡に顔を歪めて叫ぶ。

月野はそれを制止し、幽夜に囁いた。

 

 

「・・・声が大きい。この前ゆうちゃん宛に手紙が来てたんだ。あの【報酬は言い値】って奴の。とりあえず座ろう」

 

 

「おう。・・・俺を雇う気だったのか。割とマジのメンバーが来るかもな・・・」

 

 

「と言うのは?」

 

 

幽夜は指を三本立てた。

 

 

「まあ知り合いなんだが、そのぶっ飛ばされやすさと異様な生存力で有名な【オメガ11】の鎌鼬。抜きん出て詐欺に優れた【公喑偽小】のぬらりひょん。酒癖の悪さ以外は強力な【酒乱】の牛鬼。ま、その辺だろうな。ぶっちゃけよっちゃんととよちゃん・・・依姫と豊姫でもめんどくせえんじゃねえかな。どーせ幻夜が管制室に突っ込むだろうから動けねえだろうしな。月だろ?フルで来るぜフルで。あの四人見ただろ?」

 

 

「・・・確かに。あの四人は、怖かった」

 

 

「たっちゃんでも怖がるレベルか・・・」

 

 

「・・・行くのか?」

 

 

「バカ言え何が悲しくて初恋の女の子の祖国攻めにゃならんのじゃ。キャンセルだキャンセル。そんな悲惨な話物語だけでいいんだよ」

 

 

「じゃあ関わらないのか?」

 

 

「・・・無理。多分何かしらの形でれいちゃんにバレる。オメガ11辺りが空気読まずに絶対にここまで来やがる」

 

 

「友人をオメガ11って呼ぶのはどうなんだ?」

 

 

「なんかダメなのか?」

 

 

「ああ、知らないのか・・・」

 

 

幽夜は月野からオメガ11の説明を軽く受け、微妙そうな顔をした。

 

 

「敵陣に着陸して帰ってくるとか、そいつ白兵戦のが強いんじゃねえの?」

 

 

「まあ、確かにそうだが。・・・しかし、良いのか?ほっといても問題はあると思うが」

 

 

「あるか?」

 

 

「俺か鈴仙がスパイだと疑われる可能性が高い」

 

 

バン!と幽夜は床を叩いた。

 

 

「ざけんな。それは許さん。・・・チッ、侵二の野郎、ここまで読めてんのか。少なくとも俺は見ないフリは出来ないと。・・・動かなきゃならんな」

 

 

「なら、行くのか?」

 

 

月野が残念そうに幽夜に尋ねる。しかし幽夜は首を横に振った。

 

 

「いや、多分それを侵二は心から深くは望んでない。望んでるっちゃ望んでるだろうが、多分向こうからすればもっと心から望んでるネタがあるだろうよ。・・・そう、俺が月側につくとか」

 

 

「まさか」

 

 

「俺は傭兵だぜ?金さえありゃ何処にだって参加する。サブに伝えてくれ、俺を雇わんか、とな。・・・事情は伝えるな、伝えりゃ間違いなく幻夜がどっかでデマ流して余計に混乱する。そうなりゃ蹂躪されるだろうからな」

 

 

「分かった、隊長に伝える。・・・ゆうちゃんは随分と優しいよな」

 

 

「そうか?」

 

 

ああ。と月野はほんの少しだけ表情筋を緩ませて頷く。

 

 

「下界は穢ればかりだと言われるが、どうも俺はゆうちゃん達が穢れているように見えない。・・・俺たちは体は綺麗だが、心が穢れている気がする」

 

 

「そう貶すもんじゃねえぜ。・・・俺からすりゃ、変人部隊の皆んなが綺麗だよ」

 

 

「ありがとう、ゆうちゃん」

 

 

「よせやい、照れるぜ」

 

 

ふと、幽夜は背後の目線に気がつき、ニヤリと笑いながら手を振る。

 

 

「よう、輝夜」

 

 

「久しぶり、幽夜」

 

 

輝夜は月野の隣に同じように縁側に座り込むと、幽夜に向いた。

 

 

「ねえ、幽夜。・・・軽い自分勝手、した事ある?」

 

 

「軽い自分勝手?」

 

 

そう。と輝夜は昼の空に白く浮かぶ月を見上げた。

 

 

「アレが欲しいって言って駄々をこねる、とか、人の言う事を聞かない、とか、とっても小さい事。した事ある?」

 

 

私はしたよ。と輝夜は微笑むように月野に笑った。

 

 

「ずっと守に、アレ買って、とか、抱っこ、とか。命に関わることじゃない事。・・・ある?」

 

 

幽夜は暫し顎に手を置き、唸り、無いな!と笑った。

 

 

「小さい事はねえな!クソ程勝手しまくったが、全部人生かかってたな。・・・で、それが?」

 

 

「じゃあ、好き勝手しない?」

 

 

「・・・待て待て、話の脈絡が読めんぞお転婆娘。何が言いた「好きに暴れればいいじゃない」・・・あ?」

 

 

だから、とつまらなそうに輝夜は月野の背中を何となくバシバシと叩く。

月野の痛いと言う痛覚のないくせにぬかす小さい嘘を無視しながら輝夜は続けた。

 

 

「だーかーら、別にどっちにつく!じゃなくて良いんじゃないの?幽夜は幽夜で好きにすれば?一々佐々木に言わなくても良いんじゃない?私の知ってる前の守の隊長は唐突に突っ込んできて好き勝手やって帰るけど、幽夜はしないの?」

 

 

「押しかけ強盗みてえに言うんじゃねえよ!そう思えてきたじゃねえか!」

 

ああクッソ龍一の評価が酷えと幽夜は笑いながら、それでも何かを見出したように顔を上げた。

 

 

「俺はそんな事はしねえ。唐突に押しかけて好き勝手して金請求してやる。金が出せねえなられいちゃんを貰うって月に突っ込んでやる」

 

 

「あら、大胆」

 

 

「お前が焚きつける事言ったんだろ!」

 

 

輝夜がまるで初めて聞いたかのように口に手を置いてわざとらしく驚いたのに、幽夜は叫ぶように突っ込んだ。

それを月野は面白そうに見ながら、笑った。

 

 

「「・・・たっちゃん(守)が笑った!?」」

 

 

「だからなんでみんな驚くんだよ・・・」

 

 

「そら、お前が、なあ?」

 

 

「ねえ?」

 

 

「納得行かん・・・」

 

 

まあ気にすんな、と幽夜はニヤリと笑い、人差し指を立てた。

 

 

「あ、さっきの話。サブに伝えなくて良い。・・・俺単独で突貫する。お前らと俺は関わりがない、単なる仲間割れ。良いな?」

 

 

「・・・ちょっと隊長に似たな、ゆうちゃん」

 

 

「そりゃ、俺は近くにいる人の遺伝情報を写して本質を変えるからな。ずっとたっちゃんといれば、多分俺は笑わなくなるし、ずっと輝夜といれば、お転婆になる。・・・今回はそこそこ龍一といる事が多かったからな、少なからず反映はしてる」

 

 

「あ、じゃあ聞きたいんだけどさ、今旅に出てる妹紅が隊長さんと会って気づいたって言ってたんだけど・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近、隊長さんの調子、悪くない?」

 

 

「・・・そうか?常日頃あの性格だぜ?あの人は」

 

 

「うーん・・・そうかな?なんというか、しんどそうと言うか、疲れてると言うか・・・永琳も気にしてるのよ。何か知らない?」

 

 

「・・・最近侵二等の戦闘能力が上がったことぐらいか?」

 

 

「それ関係あるの?」

 

 

「いやまあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍一の負のオーラの量で侵二等のスペック変わるからな」

 

 

どう言う意味?と輝夜は月野の背中にもたれながら首をかしげる。

 

 

「だから、龍一の持つ負の感情が増える程、侵二の等の妖力が増す。だから龍一の調子が悪いと、あいつ等の調子が上がる」

 

 

「・・・それ大問題じゃないの?」

 

 

「いや、()()()()微々たる変化だから、あんま関係ねえんじゃねえか?」

 

 

「そう?永琳がホント最近そればっか気にしてるのよね。あの人はほっとくと死にそうになるから・・・って、好きじゃないくせに不思議よね」

 

 

「龍一もそこは何も言わねえからなぁ。・・・まあ、何もないと思うぜ?そんな大した事もないだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第一何かあれば人に頼るだろ」

 

 

「そうよね。気のせいって永琳にも言っておくわ」

 

 

「おう。・・・でさぁ、いつから聞いてる?れいちゃん」

 

 

「はひっ!?」

 

 

縁側の角で僅かに揺れる兎の耳を見て、幽夜は仕方なさそうに笑う。

 

 

「ひょっとして突貫の話も聞いてた?」

 

 

「は、はい、全部・・・」

 

 

「ありゃ、隠す計画頓挫したわ、たっちゃん」

 

 

「そりゃ、あんなに叫べばバレるさ」

 

 

「あー・・・今の壊夢の遺伝子のせいってことに」

 

 

「ならないわね、現実は非情よ」

 

 

「ですよね畜生!たっちゃん、なんかフォローとか無い?」

 

 

「・・・すまん」

 

 

「一番傷つくなぁそれ!」

 

 

「おーい幽夜ー!話聞いてると思うが、いるか「テメエはタイミング読めえ!吹っ飛べェェ!!」エンゲージッ!?」

 

 

廊下を曲がった先から幽夜を呼ぶ影は、姿を見せる事なく幽夜に吹き飛ばされた。

 

 

「はーっ、はーっ、はーっ・・・失せろ、オメガ11」

 

 

「もう飛んでいってるわよ」

 

 

肩で息をする幽夜に輝夜が突っ込み、鈴仙はあたふたと周囲を見渡す。

 

 

「え、あのその、お友達吹っ飛ばしたんですか?「あんな奴友達じゃねえよ、仕事仲間だ仕事仲間」・・・何のお仕事ですか?傘屋じゃないですよね?」

 

 

「墓穴掘ってどうするのよ貴方」

 

 

「クソムーブだぞゆうちゃん」

 

 

「るっせえわボケ!・・・傭兵。頼まれた仕事引き受けて誰でもぶちのめしに行く方の仕事。今回頼まれたのは、月侵略作戦への参加」

 

 

「え!?」

 

 

「・・・キャンセルして迎え撃つけどな。「ええ!?」一年後だが、そんなクソみてえな事してたまるか」

 

 

「・・・分かった、あんまり無理して欲しくないけど、頑張ってね」

 

 

「ああすまんコレ一年後」

 

 

「一年!?」

 

 

 

次回へ続く

 




ありがとうございました。
とあるアニメはタイトルが蛇の名前ですね。

次回もお楽しみに。


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第七十八話 金


第二次月侵略戦争開幕。


ゆっくりご覧下さい。


「・・・えー、この度は集まった金に卑しい皆様方、一年前からの準備、そして今お集まり頂いてありがとうございます。敵地に突っ込んで死んでください」

 

 

前から一年後。侵二さんが山の麓、集まった目付きの悪い人や妖怪達にそう言いながら親指を下に立てる。

妖怪や人間達からはそりゃねえぜと卑しい笑い声混じりの叫びが聞こえる。

 

 

「やかましい。貴方達はいわばクソです。第一次月侵略の時に金が出ないからと早々に立ち去ったクズ、易々と裏切って逃げ延びたゴミ、かろうじて逃げ帰った死に損ない、そもそも参加していないのに参加しにきたアホ、どいつもコイツも死んで構わないのしかいないじゃないですか。文句があるなら帰ってください。今ここで求めるのは金の亡者だけです」

 

 

文句に近い叫び声が多かった割には、誰も帰ろうとしなかった。

それどころか、辺り一帯が怪しい笑みで包まれている。

 

 

「うーわ、これぜーんぶ金の亡者ですか、汚ねえですね。・・・はあ、仕方ない。今から第二次月侵略戦争を行います。総指揮官は風魔、参謀は私です。勿論私は最初から捨て駒感覚で扱うのでよろしく」

 

 

またふざけんなやら文句があちらこちらで叫ばれる、侵二さんはそれを嬉しそうに聞き流しながら、中指を立てた。

 

「モノが勝手に喋るんじゃありません。指揮官からのお言葉です。ちゃんと聞くように。聞かなければ独房入りです」

 

 

侵二さんはそう言って一歩下がり、代わりに風魔さんが前へ出た。

途端に妖しい笑みを浮かべていた者達は顔が引き締まり、何かを求めるギラついた目で風魔さんを見る。

風魔さんは大太刀を地面に突き刺しながら、ニヤリと笑って喋り始めた。

 

 

「さて・・・侵二はどうこう言っているが、貴様らの腕、は。頼りにしている。あまりにも強すぎて人間界から追放された人間、常独りを好む好戦的な輩、戦闘場所が限定されすぎてあまり争わない危険な輩、・・・武器、戦力として、は、不足なしだ。侵二、編成を言え」

 

 

「了解です。まず拠点ですが、向こうになんかあった海とします。よって赤えい氏を幻夜が脅し・・・んんっ、勧誘しておりますので、すぐに拠点は作れます。勿論護衛に磯撫殿も、そして第一次月侵略で暴れまくった犬走殿と鞍馬殿もおりますので、安心して死にに行ってください」

 

 

「初めましてだな。風魔様からボロ布みたいに使ってもくたばらない奴らって聞いてるから精々頑張ってくれよな」

 

 

「今一つ貴公らの扱いがよく分からんが・・・よろしくな」

 

 

次に戦闘員ですが、と侵二さんが何かの紙を読み上げ始めた。

 

 

「オメガ11の鎌鼬殿含め、足の速いと自負しているものは風魔に、泥田坊殿のように力があると自負しているものは壊夢に、ぬりかべ殿のようにこの能力は誰にも真似できまいと言うものも壊夢の元へ。・・・で、報酬を言い値で貰いたい欲深な奴は突っ込んでください。戦闘に自信のないものは報酬は減りますが赤えい氏の背中へ、そこではボロ布のようになった奴らをひたすら治療しまくる仕事をしてもらいます。もちろんそこで働けば報酬は増やします。では行きますよクソ共、良い報告しか待っていません。終わったら酒でも飲みましょう」

 

 

侵二さんがそう締めくくると、怪しい人たちは歓声に包まれ、侵二さんの開いた空間の門に順に入り始めた。

 

 

「紫殿はこっちです。なんなら傭・・・んんっ、あの道具達の使い方を教えますんで」

 

 

私は侵二さんに連れられ、その人達とは別の場所に移された。

 

 

____________________

 

 

「さてと。では紫殿、お茶でも飲みながらとっても軽く前の反省会をしましょう。実力を除いて何がいけなかったと思いますか?」

 

 

侵二さんにそう言われ、私は頭をひねった。

 

 

「・・・目的が、曖昧だったこと?」

 

「うーん、それを言えば今回の私たちの群れも目的はありません。一つ答えを出しましょう。一つ目は情報を封鎖しなかった事。適当に嘘やらを流して混乱させても良かったんです。情報が勝負を制しますから。他には?」

 

 

「指示が届かなかった事?」

 

 

「・・・では、何故指示が届かなかったのですか?」

 

 

それは、何人かが指示に従わなかったり、無視して動き始めたから、なのだろうか。

 

 

「人のせい、なの?「そう思うならそうなんでしょう。合ってますよ」・・・指示に逆らう人がいたから?」

 

「ええその通りです。要は雇うのを間違えたんですよ。ああいった勝算不明の戦闘に普通の出しても逃げるか死ぬだけですから。それは指揮官のミスですけど、まあ今働いてる奴等は紫殿は主上が隠していたせいで知りませんでしたもんね。許しましょう

 

 

「龍一が・・・?」

 

 

「・・・あんな掃き溜めと紫殿を会わせたくなかったんですよ。・・・あそこにいた、今回我々が雇ったのは私達と同じ、皆脛に傷持つ奴等ばかり。国を滅ぼすべきだと思考して追いやられた政治犯から賭け事バカの危ないやつもいますし、詐欺で捕まった奴もいますし、常戦うことしか考えてないのもいます。中には冤罪の者もいますけど。表世界で生きれなかった裏社会の住人達。表から爪弾きにされた奴等。それを今私は雇ったんです。合言葉は「報酬は言い値」。表世界の一流なら受けるはずのない怪しい仕事のイメージを表しています。何しろ、言い値だとバカ高く請求すれば明日死ぬかもしれませんから。低ければ儲けない。そしてこの手は危険な仕事が多いんですよ」

 

 

「・・・それは、その人達は幸せなの?」

 

 

「そんなもんテメエが物差し出して決めんじゃねえよ。・・・と言うのが彼等の言葉です。食事は臭かったり、寝床は固かったり、確かに見れば幸せじゃないかもしれませんが。時折こうして儲け話が出て、終われば酒を奢ってもらい、騒ぎながら飲む。案外危ない奴ばっかりですが、仲間は多い。奢ってもらう、騒ぐ。その幸せのために生きてるんです。ある意味人妖関係なく皆平等ですよ、あそこの中では。・・・フリーランサーの幽夜もここで仕事をしてますよ。金儲けのために」

 

 

「・・・幽夜さんが?」

 

 

「ええ。ついでにあそこのオーナーは私です。だから今回は本当に極秘裏に危ない仕事しかしない奴等ばかり。例えば風と共に掠った際に小さな切り傷を着けるだけで良いのに、真っ二つに斬るせいで爪弾きにされた鎌鼬。他より抜きん出て詐欺に長けた為に危険視されたぬらりひょん。お、今丁度第一ポイント制圧完了予定時刻ですね。ちょっと失礼」

 

 

侵二さんは咳払いを一つすると、上を向いて話し始めた。

 

 

「えー、第一拠点制圧完了予定時刻です。ちゃんと落としてますね、ご苦労。とりあえず最低限働いてくれましたね。さっさと補給して残り二拠点制圧して帰りましょう」

 

 

今丁度攻め終えたと言う。なのに、ここには誰一人叫ぶものはいない。この先は戦争だと言うのに、こんなに静かなのだろうか。

前の私が仕切っていた時はとは大違いだ。

 

 

「聞こえておるか、饕餮」

 

 

「なんです詐欺師のぬらりひょん。今お茶飲んでるんですけど」

 

 

侵二さんが机を叩くと、いつも龍一が使っているような画面が現れた。龍一・・・

 

 

「奇襲成功、第二拠点も終わった。報酬は弾んでくれるか?」

 

 

「嘘じゃないですよね?「殺した記録は誤魔化すが、流石に集団は誤魔化さんよ」・・・ワインボトル開けましょうか。「心得た。・・・そこの隙間妖怪」呼んでますよ紫殿」

 

 

「は、はいっ!?」

 

 

「主の兵法は面白かった。龍神も褒めておったぞ、誇れ」

 

 

「・・・え?」

 

 

「おお、これは禁句だったな。・・・何、龍神は」

 

 

突然ぬらりひょんからの連絡画面が消えた。

 

 

「・・・ロスト。死にましたかね?」

 

 

「え?死・・・!?」

 

 

「こちらオメガ11の鎌鼬!侵二の兄貴に繋いでくれ!」

 

 

「こちら侵二。ぬらりひょんがロストしましたけど、なんですか?」

 

 

「目の前、第三拠点前本陣に化け物がいやがる!ぬらりひょんの野郎は生きてるがぶっ飛ばされた!右手が蟹の鋏で左手が巨大になってる最中に蜘蛛の脚と鳥の翼生やした訳わかんねえ奴のせいで今もなお前線崩壊中!まずい!こっちに来」

 

 

「・・・鎌鼬ロスト。こりゃいけませんね。・・・あー、あー。こちら侵二。聞こえてますか。全員一度退避。壊夢突撃。確認求めます「応!」・・・さてと、マズイですね」

 

 

侵二さんがガリガリと頭を掻いた。

藍と何処かに出かけることが多くなり、露骨に口が悪くなり、叫ぶことの多くなった侵二さんにしては珍しい行動だ。

 

 

「おう!こちら壊夢ぜな!」

 

 

「はい、こちら侵二。何がいました?」

 

 

「幽夜ぜよ!」

 

 

「なんで!?」

 

 

なんで幽夜さんがいるのか。しかも敵側に。

私が困惑のあまり叫ぶと、壊夢さんが高らかに笑った。

 

 

「クッ、ハハハハハ!仕方ねえぜよ紫!幽夜は今回参加しとらんかった!どこにつこうがアイツの勝手ぜよ!」

 

 

「ま、目的なく彷徨う我々につきまとう事例ですね。壊夢、対応してください。後気をつけてくださいね。彼は我々の遺伝子を取り込んでます」

 

 

「そういやそうだったぜな!・・・侵二、マイクいるぜよか?」

 

 

「・・・繋がるなら」

 

 

「応」

 

 

侵二さんが不思議そうにマイクの指示を出すと、幽夜さんが叫んでいるのが聞こえた。

 

 

「俺はお前に惚れた!お前が月の住人だろうがなんだろうが関係ねえ!お前が月に攻めてくる奴等が怖いと言うならば、戻るのが怖いと言うならば!俺が敵を全て受ける!俺が居場所を作ってやる!何、会えなくても良いさ!会えずとも俺はお前をずっと見上げる!それで上等だろれいちゃん!少なくとも俺はそれで幸せだからな!・・・俺は、お前が、好きだ!聞いてるかてめえら!特に月の奴ら!俺はここでこいつを貰うからな!!」

 

 

「・・・なんすかこれ」

 

 

「・・・告白ぜよ」

 

 

「なーんでこの場でしてるんですかねぇ!?風魔、さっきから念の為繋いでるログで笑ってますけど何か知ってるんですか!?」

 

 

「フハハ。・・・あのな、四年ほど前幽夜と私が永琳殿に呼ばれてな、その時月から逃げてきた娘に、ブッ、幽夜が、惚れたんだ。・・・まさかこのタイミングで再度クサい台詞とは、天を貫くど阿呆だな。ハハハハハ!」

 

 

「笑い事じゃないんですよね、これ。・・・あーもうアホらしくなりました!全員撤収!満足するまで拍手と冷やかしと口笛吹いたら撤収!帰りますよ馬鹿野郎達!ちゃんと気絶してロストしてる奴らも回収してくださいね!「待つぜよ」・・・なんですか壊夢」

 

 

「あのまま言うだけだと俺が許さんぜよ。・・・俺が試すぜよ」

 

「・・・ッッッ〜!ああもう揃いも揃って馬鹿ばかり!ええいクソ拍手しながら全員逃げなさい!今晩私が奢るんで逃げなさい!てか逃げろ!風魔は後背の援護ッ!壊夢ッ!十分が限界です!それ以降は認めません!後それぐらいで幻夜の抑えてた変人部隊が来ますッ!そこ誰かわからんがブーケ投げるなッッ!女郎蜘蛛お前ッ、ケープ織るな!ぬらりひょんテメエエエエ!形式上ロストしてんだから大人しく帰れエエエ!!オメガ11の上に乗ってケープ届けんじゃねええええ!!」

 

 

発狂して徐々に口の悪くなる侵二さんに、いつもなら笑って済ませたけど、どうしても龍一の事が引っかかって、心がチクリと痛んだ。

 

 

 

次回へ続く




第二次月面侵略作戦も失敗。
敗因、情報漏洩と離反者の出現。



次回もお楽しみに。


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第七十九話 障害


日が日なのでとある事を暴露します。
私は嘘つきです。


ゆっくりご覧ください。


目の前にいるのは壊夢。

俺は拍手と口笛と何故かウエディングケープと冷やかしの飛び交う中、壊夢を睨んでいた。

壊夢は心底腹の立つような物を見た顔をしていた。

 

 

「・・・幽夜」

 

 

「・・・なんだ、壊夢」

 

「中々ええ事言うぜよなあ」

 

 

「そりゃどうも「じゃが」・・・分かってる」

 

 

壊夢がギャリリと拳を打ち鳴らす。決して出て良い音じゃない。

その辺の妖怪なら見ただけで死ぬような、奥底に秘められた明確な憤怒の色を表す目に見据えられる。

 

「力を見せろ、だよな?・・・たっちゃん、れいちゃんを頼む。下がっててくれ」

 

 

「・・・俺は死なんからよく分からんが、死ぬなよゆうちゃん」

 

 

「・・・ああ」

 

 

たっちゃん・・・正確には月野にれいちゃん・・・鈴仙を安全な場所に移してもらう。

ふと、れいちゃんに呼び止められた。

なんでケープ被ってんの?死ぬよ俺?

 

 

「ねえ!」

 

 

「・・・ん?」

 

 

れいちゃんは震えながら俺に笑ってくれた。

俺はケープを被っているれいちゃんに心から震えそうだ。

 

 

「・・・ちゃんと帰ってきてね。話したい事、まだ沢山ありますから!」

 

 

「・・・おうっ!」

 

 

今はそれがすごく嬉しくて、なんなら壊夢も倒せそうで。

 

「ッシャァコラァかかって来いや壊夢コラァ!」

 

 

「行くぜよッ!」

 

 

俺の右拳と壊夢の右拳が激突し、

 

 

俺の右拳が破裂し、戦意も崩壊した。

さらに言えば、背後の月軍の拠点も吹き飛んだ。

 

 

「 」

 

 

「ほう?今のを耐えるぜよか?」

 

 

待て待て待て。

は?え?マ?

 

 

「・・・クッソがぁぁぁぁぁあ!!?」

 

 

左腕の鋏で殴る、壊れる。再生させた右腕で殴る、破裂する、左腕、破裂、右、破裂、左、右、左、右、左・・・

 

 

拳を防ぐたび俺の体が壊れ、再生する。バカ言ったせいで引き下がれなくなった俺は、そのまま一歩ずつ前進する。

しかし壊夢は微動だにせず、逆に拳骨の威力を上げ始める。次第に壊夢の拳が繰り出されるたびに壊夢の拳が空気と擦れ合い、着火する。

そのままぶん殴られるため、熱いし燃える。

壊夢の目が殺意を帯びている。ぶっちゃけ言う、怖い。

俺の再生が徐々に追いつかなくなり、次第に体内水分が火のために減り始め、動きも鈍くなり、体の細胞が減る分眠くなってくる。

壊夢との相性は最悪だ。と言うかマジで怖い。死ぬ、死にたくない。

 

 

そして俺はこのまま、この場に倒れ伏し

 

 

「出来るか馬鹿野郎!!」

 

 

俺は再生した右腕で自分の顎を殴り目を覚ます。

何が倒れ伏すか。俺はこの程度か。それでも、

 

 

「混沌滅ぼしたのは伊達じゃねえんだよッッッ!!」

 

 

右脚の足裏から尖らせた体の一部を地面に刺し、地面に含まれる少ない水分を吸い上げる。

と同時になるべく壊夢と目を合わせながら壊夢の体をコピーしていく。俺は見るだけである程度の対象の情報を得てコピー出来る。ただし壊夢もそれは知っているためすぐに目線を切られ拳が飛んで来た。

コピー出来たのは50パーセント、痛覚云々の制御がコピー出来ず、激痛が走る事になるが知ったこっちゃない。

 

 

 

 

 

 

 

壊夢と拳を合わせる。

痺れるような痛みが全身に流れ、悲鳴が出そうになる。だが俺はそれを噛み殺し、再度拳を合わせる。

そのまま何分過ぎたか。

 

 

「いんや、伊達ぜな」

 

 

「あ゛ッ・・・!?」

 

両腕の骨が折れる。咄嗟にまだ襲い来る二撃目を脚で対抗するが三発目で折れる。やはりオリジナルには通用しない。

完全に戦闘手段を失い、壊夢の拳が目の前に迫ったが、俺の目の前で拳が止まった。

 

 

「・・・あ?」

 

 

激痛に顔を歪め、仰向けになりながら壊夢を睨み据える。とんでもなくダサい。

当の壊夢は何を考えているのか、あの明確な憤怒や気に入らないといった表情は消え、嬉しそうに歯を見せて笑っていた。それが尚更怖かった。

 

 

「悪いが時間ぜよ。中々良かったぜな」

 

 

「良いっすかお前ら!幻夜さんに止められてたぶんも仕事するっすよ!」

 

 

壊夢が示す先からは、暴走車両の上で旗を振り回しているサブの姿。

どうやら壊夢は忙しかったらしい。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・クソッ、ナメプかよ・・・」

 

 

負けた。完膚無きまでに壊夢に叩きのめされた。

どうやってもコイツには勝てないと、体がそう思ってしまった。・・・クソが、クソが、クソがァァッ!

 

 

「・・・まあそうヤケにならんでええぜよ。間違いなく俺と殴り合ってるんぜよから。・・・まあ、届きたいならさらに強くなるぜよな」

 

 

そう言って壊夢は笑うと、俺を見下す表情を冷たくして、冷たいトーンで言い放った。

 

 

「今のお前じゃあ、あの娘は守れんぜよ」

 

 

身を翻して一歩一歩着実に歩いて帰る壊夢が途轍もなく遠い存在に見えて。言われた事実が強く刺さって。

俺は一人、歯を食い縛った。

 

 

____________________

 

 

「よう、戻ったぜよ」

 

 

「・・・貴様ら飲んでるかぁァァ!?」

 

 

「・・・ああ、壊夢か。報告なら私にしろ。侵二が壊れた」

 

 

「応。・・・中々強かったぜよ」

 

 

「そうか・・・む?壊夢、貴様、右の籠手の傷はどうした?」

 

 

「おん?・・・割れとるぜよな」

 

 

「ふむ・・・まさか、な」

 

 

「・・・そうだとええぜよがなぁ。まだまだガキぜよ」

 

 

「そう言うな、見届けてやろうではないか。若者達の姿を」

 

 

「しゃーねーぜな」

 

 

____________________

 

 

俺が失意に沈み、手足を再生させて仰向けに寝転がっていると、たっちゃんが戻ってきた。

 

 

「・・・ゆうちゃん」

 

 

「・・・悪い、しばらくほっといてくれ。今すっごく誰とも会いたくない」

 

 

「れいちゃんは?」

 

 

「今合わせるツラがねえ「すまん連れてきた」アホォ!?」

 

 

俺が慌てて飛び起きると、れいちゃんが心配そうに俺を見つめていた。

次第に悔しさが再び燃え上がり、れいちゃんから顔を背けてしまう。

少なからずウエディングケープを着けているのにも問題はある。

 

 

「・・・ごめん、負けた」

 

 

ついさっき、守ると言ったばかりだったのに。形だけだった俺が情けなくて、それしか言えなかった。

 

 

俯く俺の頭に、ふと何かが乗せられた。

れいちゃんの手だった。

 

 

「あ、あのっ、その・・・私は、ゆうちゃんに守られて、嬉しかった、です」

 

 

「・・・励まし?わざと?」

 

 

「わざとじゃないです!・・・あ、ごめんなさい!」

 

 

大声を出した事に謝るれいちゃんがちょっとおかしくて。

 

 

「ははっ、はははっ」

 

 

目から熱い何かが出そうなのは分かっているのに。

どうしてか笑ってしまった。

 

「・・・むぅ、何笑ってるんですか!・・・って、ええ!?ゆうちゃん!?足折れてるじゃ・・・手も折れてる!?」

 

 

「ごめんごめん。すぐ治すからアイテテテテテテ!」

 

 

「もう!・・・んっ!?重〜いっ・・・!?」

 

 

「痛い!ちょっと!れいちゃん痛い!持ち上げようとしないで!脚変な方向に曲がってるけどもっと曲がる!さっき生やしたばっかだから痛い!脱皮したばっかの蟹みてえになる!」

 

 

「蟹・・・ふっ」

 

 

「「たっちゃん(武田さん)が笑った!?」」

 

 

「何故二人ともそこだけ合わせるんだ・・・?」

 

 

そして今はそれが、とても心地良かった。

なのに、目から何かが溢れたのは何故なんだろう。

 

____________________

 

 

「あー・・・畜生。なーんで毎度毎度飽きる事なくイレギュラーは発生するんでしょうねえ」

 

 

「侵二。疲れたのは分かってるから、その、人前で抱きつくのは・・・」

 

「うるさいですよー。なんならここで押し倒してますよ」

 

 

「お、押しっ・・・!?こ、この馬鹿!」

 

 

「ハハハー。ごめんごめん・・・」

 

侵二さんがワイングラスに注いだワインを飲みながら、生気を感じさせない目で笑い、藍に抱きついている。

あれ以来、侵二さんは人によく自分の弱さを見せるようになったけれど、私たちが信用してもらえたという事だろうか。それにしても今は酷い。

 

「おーい、オーナー!新しいボトル空けて良いかー!?」

 

 

「あー・・・テキトーに開けていいですよー!勝ったも当然なんで、じゃんじゃか飲んで報酬分飲んでくださいねー」

 

 

侵二さんがそう言いながら、私に死んだ目線を移す。

 

「・・・どうです?ここのバーの雰囲気は?」

 

 

「・・・ちょっと不思議ね」

 

 

カウンター席で幽香と話しながら眠そうに頭を揺らす幻夜さん、カウンターテーブルと呼ばれる場所の真ん中で歯を見せてお酒を飲み、笑い合う壊夢さんと風魔さん、馬鹿騒ぎしながら大量の酒を飲む妖怪や人間達。

奇妙だけれど、良いなと思えた。

 

 

「・・・ま、不思議でしょうね。ここの輩はどんだけ殺し合っても、ここに来て酒飲んだらはい仲直り。ごめんなさい、こっちもごめんなさい、じゃあ飯おごれ、やなこった、やんのかコラァどんがらがっしゃーんうるせぇぇぇぇぇでお終い。「終わってないわよね!?」性格といいますか、ここのは次へ次へと恨みや文句を引き延ばすつもりは無いんですよ」

 

侵二さんがそう言って笑うと、バーの入り口が開いた。

 

 

「まだやってるか?侵二?」

 

 

「・・・まだと言うか、今日一日ずっとやってますよ「こら侵二、私の胸の中で横着して動くな」適当にお酒開けて飲んでくださいねー」

 

 

やって来たのは幽夜さんで、隣には女の子を連れている。

女の子の方は今は垂れてはいるが頭からウサギの耳を生やし、おどおどと周りを見渡していた。

 

 

「お、今日のイレギュラーの幽夜さんじゃん。今日はよくも吹っ飛ばしてくれやがったな?」

 

 

「おお、オメガ11か。わりーわりー。ちょっと、な。ってか日課だろ?」

 

 

「誰が日課だ!」

 

 

「・・・幽夜、貴様。隣の女子は貴様の連れか?」

 

 

「さすが頭デカイだけあるな。ご名答だぜぬらりひょん。手ェ出したら殺すからな」

 

 

「ちょっと、幽夜さん・・・!」

 

 

「誰がオメーみたいな物騒な奴の女に手ェ出すかよ。なあぬらりひょん。「そうだな、牛鬼」手出す前に俺の脚が飛んでいくわ。てか似合わねえぐらい女の子大人しいな」

 

 

「ええじゃろ?やらんからな?」

 

 

「・・・畜生!俺も彼女欲しいなぁ!」

 

 

「おい牛鬼のアレがまた始まったぞ」

 

 

「アイツ見かけも中身も良いのに酒癖悪いせいで酒の席で女に逃げられるからな・・・でも濡れ女さんが牛鬼を好きだって話があるぞ?」

 

 

「は?それどこの詐欺師が流したんだよ?お前あのツンツンした人がそんなわけ・・・おいおい、濡れ女さん牛鬼のとこ行ったぞ!?」

 

 

「は?んなわけ・・・ん?」

 

 

「お?」

 

 

「これは?」

 

 

「やったか?」

 

 

「よっしゃあああっ!!」

 

 

「行ったァァァァ!!」

 

 

「キタァァァァ!」

 

 

「わ、私が奥さんになっても良いのよっ?は殿堂入りだなこりゃ・・・」

 

 

「しかも牛鬼指輪用意してたァァ!」

 

 

「準備良すぎて草ァ!しかもぴったりハマったァァ!」

 

 

「幽夜さんと一緒に同時に囲め囲め!胴上げだ胴上げ!侵二の兄貴!樽開けるぜ!」

 

 

「好きにしてくださーい」

 

 

「・・・侵二?」

 

 

「寝ます」

 

 

「そうか。お休み」

 

 

「お前ら待て!・・・おい壊夢!」

 

 

「・・・あん?なんぜよ!?」

 

 

「次はぜってー勝つからなァ!」

 

 

「・・・ダーッハッハ!!ええ根性しとるぜよ!またぶん殴ったるぜよ!」

 

 

「幽夜の兄貴が壊夢の旦那に喧嘩売ったァ!?」

 

 

「これは大波乱だぞオイ!お前ら賭けろ賭けろ!いつか結果出るぞ!」

 

 

「俺は詳しいんだ。それオメーがいつのまにか金ちょろまかす奴だろうが!」

 

 

「おいこらやめろ泥田坊!ッ!オメガ11!後ろ!」

 

 

「うわっ!?・・・あ!」

 

 

「きゃっ!?」

 

 

「・・・んだテメコラてめえられいちゃんにぶつかってんじゃねえよ殺すッ!!」

 

 

「れいちゃんってもうあだ名呼びですかァァァァ・・・!?」

 

 

「うるせえ寝させろォォォ!!喰うぞてめえラァァァァ!!」

 

 

「じゃかぁしゃい!全員ぶん殴るぞ!」

 

「酒もまともに飲まんのか貴様らァ!全員直れェ!斬るッ!!」

 

 

「うるさいよ?みんな死にたい?」

 

 

瞬く間に彼方此方で殴り合い、口喧嘩が始まって。

大乱闘と化している目の前を見ながら、龍一ならどうしていたんだろうなんて思ってしまって。

会えないのが、とても辛い。

 

 

「龍一・・・」

 

 

次会えば、龍一にどう謝れば良いんだろう。

 

 

 

次回へ続く

 




ちなみに私は嘘をつかないと思われているらしく、実はあと三年で死ぬ、と言う嘘をつくと周囲が葬式ムードになりました。そのムードは三年早いんですよ。
嫌ですねえ、私は100回中1回は嘘をついているのに。


次回もお楽しみに。


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第八十話 苦痛

さて、卒業と入学の時期も過ぎた頃ですね。
花粉症酷すぎて私は現世から卒業したいですね。


ゆっくりご覧ください。


「———と言うわけで、そこで私が提案したんです」

 

 

「お前マジで何してんの?」

 

 

オルゴイのおっさんの所に厄介になり、早くも一ヶ月ほど。

いきなり侵二から月に攻めましたと過去形で連絡された。馬鹿野郎だ。

しかし、この連絡が来た事にほんの少しある期待を持った俺は更なる大馬鹿野郎だ。

 

 

「まだ続きがあるんですよ。そこでなんと敵に回ったのが幽夜でして。「何してんのアイツ?」唐突にある女の子に告白したんですよ「馬鹿じゃねえの!?」それで拍手と歓声に包まれながら、女郎蜘蛛がウエディングケープを投げ「拍手ってお前らだよな!?お前敵に何拍手送ってんの?敵に塩を送るとかは言うけどウエディングケープ送るなんて聞いた事ねえよ!」そして満を辞して壊夢が登場「誰も待ってねえよ!脈絡もなく破壊兵器出してんじゃねえよ!」そして幽夜と対峙「主人公フラグ建設死亡ルートか!!ぶっ殺されるわアホ!」幽夜は十分耐え、倒れる。壊夢は良くやった、だが今の貴様ではあの女は守れんと身を翻して去って行った・・・「なんでちょっとドラマチックになってんの?幽夜耐えんの?」しかし、この時壊夢は幽夜に籠手を砕かれていたのでした。間違いなく強い彼に壊夢は僅かに嬉しくなり、酒場で相棒と乾杯するのでした」

 

 

「それなんて名前の主人公敗北イベント?」

 

「これを即興でするんだから参ったもんです。しかもその後幽夜が鈴仙殿を連れて登場。付き合い始めましたと酒場に言いに来ました。酒場が半壊しました」

 

 

「最後!馬鹿なのお前!?そこを聞かせろよ!あれお前の酒場だろ!?なんかこう・・・思い入れとかねえの!?」

 

 

「特に」

 

 

「特にじゃねえわ言え!今の説明だと幽夜が付き合いましたと言った途端に爆発したみたいじゃねえか!!爆ぜましたと暗に伝えてんのか下手くそか!」

 

 

「いえ。・・・もう言いますけど、幽夜が壊夢に勝つと喧嘩を売り、その後それを賭けにする為にはしゃいだ奴らが鈴仙殿にぶつかり、幽夜殿が爆発、近くで揶揄っていた為殴られた鎌鼬が壊夢と風魔のカウンター席に激突。二人が喧嘩の体制に移った時に幸せそうに眠っていた幻夜が騒音で半分キレながら起床。やかましくなった時に私の理性タガが外れてドーン。みたいな」

 

 

「みたいなじゃねえよ!八割方おめーらのせいじゃねえか!」

 

 

俺が余りにも事の顛末がアホ過ぎて笑っていると、侵二が安心したような声で呟いた。

 

 

「後、紫殿は元気です。・・・少しは正気になりましたか?」

 

 

「うっせえわ。・・・もう大丈夫だ、サンキューな」

 

 

「主人の軽いメンタルケアも従者の仕事ですので」

 

 

「本心は?「酒場の修理に自費使いたくないので励ましました修理費下さい」素直だなクソ野郎!何金あるけど使いたくないから褒めてあげました、代わりに焼肉奢ってくださいみたいなこと言ってんだクソが!勝手に俺の部屋から出して使え!」

 

 

「カギが無いです」

 

 

「ああそういやお前らが飲み代に使わないようにカギかけたなぁ!!分かった待ってろボケ!ほら今渡した・・・あ?」

 

 

侵二に言いくるめられ、空間から上半身を出して侵二に鍵を渡そうとして、

 

 

「あ、龍・・・」

 

 

「テメコラ侵二ィ!鍵ィ!後しばらく呼ぶなァ!」

 

 

侵二と一緒に座っていた紫と目が合った。

 

 

俺は即座に逃げ出そうと身を翻したが、侵二の羽に腕を噛まれた。

 

 

「まあそう逃げなくても。・・・紅茶淹れてますよ」

 

 

俺は今世紀最大の舌打ちをかました。

クッソ、はめられた。

 

 

_____________________

 

 

風魔すらもほんの少し怯みそうなほどイライラを表に出した主上は、私が淹れたと称している紫殿の淹れた紅茶を口に含み、紫殿の淹れたものだと気づき、私を睨んだ。

 

 

「・・・飲んだ、帰る」

 

 

そそくさと見かけと表情の凶悪さに反して帰ろうとする主上の足を翼に咥えさせ、ずるずると元の位置に戻す。

主上はとても不機嫌そうに肘と悪態をつきながら引き摺られ、ぶすっとした顔で紫殿から顔を逸らした。

 

 

ここまで来ると馬鹿と言うか、逆に正直過ぎて呆れてしまう。

 

 

「紅茶、久し振りにどうでした?」

 

 

「・・・〜ッ!あーくそっ!テメエ何言わせてえんだァァ!?オメーの割に不味いわ!どーせ他の奴が淹れたんだろ!?の割には美味かったぞ馬鹿野郎!」

 

 

「紫殿が淹れたんですよ」

 

 

「知っとるわクソボケが!人が総力を尽くして話さねえようにしてんのにテメエはふざけやがって!」

 

 

主上が胡座をかき、ガンと湯呑みを机の上に叩きつけて紫殿を指差した。

 

 

「言っただろ!俺はこいつに関わらんと!最早悪影響しか与えてねえだろ!だからお前に任せるって言ったじゃねえか何俺引き摺り出してまたコイツに悪影響与えてんだよ流石にテメエでもブチ殺すぞァァ!?」

 

 

「・・・例え紫殿が貴方のことを意識してしまい、一方的に突き放されて苦しんでいても、ですか?自己評価が低過ぎるんですよ貴方は」

 

 

黙っていた紫殿がピクリと揺れ動き、主上は歪ませていた顔を戻し、ポカンとした表情に変化した。

 

 

「・・・は?よせよ、冗談言うなって、そんなもん俺だけで・・・んんっ、んな訳ねえだろ」

 

 

そこで話が途切れた。しかし主上は横目で紫殿を見始めては頭を振って目を逸らし、何かを考えては舌打ちや溜息を吐くそぶりを見せるようになり、紫殿は龍一を横目に見ながらソワソワとし始め

 

 

「だーっ!!もういい!テメエ後で覚えてろよ侵二!」

 

 

バンとテーブルを叩いて主上が立ち上がり、姿勢、角度の完璧な土下座を紫殿に披露した。

 

 

「・・・本ッッッ当にごめんッッッ!!」

 

 

「・・・ふぇ?」

 

 

「全部俺の勝手なんだ。・・・実はな、お前が月侵略に行くのは知ってた。帰ってきた時はその場で叫びそうなほど安心した。言いたくなかったがお前を気にかけてた。だからこそ理想を途中で捨てた奴が近くにいていいかと不安になって、突き放しちまった。お前の為だと思って、な。・・・だが相当クソな選択だったらしい。お前は結局落ち込む事が多くなって、侵二に変な仕事回させて」

 

 

ごめんな、と主上は悲しそうに笑った。

 

 

紫殿はおどおどとしながら、ごめんなさいっ!と同じく頭を下げた。

 

 

「いや、お前が謝るなよ・・・」

 

 

「だって!龍一はそうやって私を気にしてくれてたんでしょ!?でも私はそれを乗り越えるべきだった!」

 

 

前、見なきゃいけなかったのよね。と、紫殿は笑った。

 

 

「・・・まさかそれほど俺の深い意図のない行為から見出すとは。成長したなぁ」

 

 

顔を上げた主上が嬉しそうに笑い、私がいる事を忘れているのか無視したのか、そのまま二人は見つめ合った。

 

 

「ごめんな。少なくとも俺は、お前を気にしてた」

 

 

「そう、なの?」

 

 

「前からな。・・・紫、実はさ、俺、お前の事が・・・」

 

 

「・・・うん」

 

 

「す「侵二の兄貴ー!龍神サマから金取れましたー?」・・・ーパーノヴァ!!」

 

 

「テオァァ!?」

 

 

残念ながら空気を読まず現れた鎌鼬によって二人は止まり、主上は発言を即席で詠唱に変換して爆発魔法を詠唱。鎌鼬を彼方へ吹っ飛ばした。最近彼吹っ飛んでばっかですね。イージェクト。どーせすぐ帰ってきますね。

 

 

「・・・あ、あの、龍一、す、何・・・?」

 

 

「え?あ、ああ!す、少し気に入ってたんだ!ああ!そうだ!じゃあ俺帰るわ!向こうも忙しいから!またな!」

 

 

互いに真っ赤になりながら、主上は帰ろうと準備をし、私の眉間に鍵を投げつけて去ろうとした。

 

 

「待って!」

 

 

ぴたりと龍一が動きを止めた。

紫殿は俯きながら、ボソボソと言葉を紡いだ。

 

 

い、行ってらっしゃい・・・また、ね?

 

 

「・・・おう」

 

 

主上が珍しく顔を真っ赤にさせたまま、私の眉間に鍵を叩きつけるように投げてその場から消えた。

 

 

紫殿は恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに微笑んだ。

私は紫殿に近づき、一つ質問をした。

 

 

「仲直り、できましたか?」

 

 

「・・・うんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、主上からこんな文章が届いた。

 

 

「拝啓侵二。昨日はなんかまあ、色々と助かった。後ついでに鎌鼬に謝っといてくれ。流石にスーパーノヴァは苦しい気がした。バレてないよな?・・・少なからず後十年程度はこっちで暮らすつもりだから、紫を頼む。ほかのアホ共にも宜しく言っといてくれ。この茶葉はお前にだ。中々良いものだ。残さず使ってくれ。遅れたが、ありがとう」

 

 

そう書かれた手紙と共に、大量のセンブリ茶と呼ばれる物を送ってきた。私の故郷の茶らしい。

 

 

私は手紙の内容に苦笑しながらなんだ、やっぱり気にしてたんですね。と呟き、初めて飲む主上から送られた茶を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「PS. だからと言って許しはしない。せいぜい苦しめ。面白いくらいクッソ苦いから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はこの時の味と恨みを二度と忘れないでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苦っ!

 

 

次回へ続く




ありがとうございました。

次回もお楽しみに。


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第八十一話 上機嫌

この作品も一周年ですね。
しかも偶然とは恐ろしいですね、投稿丁度一年目になると平成最後ですよ。一年前の私は予見してたんですかねんなわけあるかい。
まあその、こんな一番初めよりちょいとだけ文章マシになった駄作でも良ければ新年号でもお世話になりたいと思います。
これからもよろしくお願いします。
そして原作が遠い。馬鹿かな?


「あれ、龍一機嫌いいね?」

 

 

「んー?そうか?」

 

 

フランドール・・・フランにそう言われ、口が緩んでいることに気がつく。

どうやら侵二にセンブリ茶を押し付けられたことを思い出してニヤついていたようだ。決して紫と仲直りしたからじゃない。違うからな。変な誤解すんなよ?

 

 

この一年でフランは俺を龍一と呼ぶようになり、レミリアも俺を龍一と呼ぶ。逆に龍一さんと呼ぶのはパチュリーや美鈴だけだ。痒い。

 

 

「うん!最近すっごく嬉しそうだよ!誰かと仲良くなったの?」

 

 

「・・・仲直りは、したな」

 

 

「良いなぁ、龍一はお友達がいっぱいいて。・・・私はまだ無理だもんね」

 

 

「そりゃそんなクッソ危ない能力を使いこなせませんじゃ済まんからな。びっくりしたぜ、初めて会って二日目に爆散させられたのは。しかもおっさんからは何も言わず右手バーン!・・・復活前提で話進んでるのは面白かったぜ?笑えねえけど」

 

 

「ごめんなさい」

 

 

頭を下げるフランの頭をくしゃりと撫で、謝るなよ、と笑ってやる。

 

 

「能力を使いこなせません、暴走します、なんてのはよくいるからな。侵二とか幻夜とか俺とか。ただあれなんだよな、俺は教えるのがド下手なんで、まともに教えられんし教える事でもないからな。・・・努力あるのみ、だな。練習台にはなってやるよ。友達出来たらいいな」

 

 

「うんっ!」

 

 

「まあそれは潜在的な狂気かなんかもありそうだが・・・「何か言った?」いんや何も。そういやレミリアは?」

 

 

「お父様とお買い物!あ!パチュリーが呼んでたよ!」

 

 

「お、そうか。サンキュ」

 

 

「私も行っていい?」

 

 

「いいと思うぜ。・・・ああそうか。あの本の解読か」

 

 

「あの本?」

 

 

「知り合い作の魔道書・・・っと!入るぞー!」

 

 

俺はフランと手を繋ぎ、瞬間移動魔法(点Pの問題)を詠唱。

点Pはパチュリー付近にあるものとし、そこに飛ぶ。

 

 

「わっ!?」

 

 

「おお、すまんすまん。・・・話してた本ってどれだ?」

 

 

「あ、えっと・・・これなんだけど、どの言語にも該当しないの。分かる?」

 

 

パチュリーから渡されたのはやはり幻夜作の魔道書。

字体はドイツ語。パチュリーが読めないわけがない、ならなぜ読めないか。

別にロックがかかってるわけじゃない。

 

 

アイツは絶望的に字が汚い。

普段は普通なのだが、走り書きやメモ程度で書いたものは俺や幽香しか読めない。しかも俺は自動翻訳能力を保有しているだけなので、事実幽香と本人しか読めない。それ程までに汚い、というか癖が強い。ミミズで例えるならミミズが浪花節のテンポでポップス歌いながら踊るバレエが適当だろう。

 

 

「これドイツ語だからな」

 

 

「何処が!?」

 

 

「ほら、ここが・・・」

 

 

「半分落書きじゃないの!」

 

 

「当たり前だろ!よく見ろ!この題名!翻訳すると、【ぼくのかんがえたさいきょーのまほう】アホかァ!!クッソ誰が書いたん幻夜ァ!!」

 

 

ペラリと一ページ目を捲る。

【おさるさんでもわかるてきせいしんだん】ナメてんのかコイツは。

平仮名のあたりナメてんな。

 

 

「チッ・・・左手を掌底を撃つ構えにし、右掌を正面に突き出す」

 

 

「龍一さん?」

 

 

「そのまま百分の一秒ごとに左手を手首ごと一回転させ・・・ん?」

 

 

あれコレ関節的に無理じゃね?

いや、出来るはず、手首の関節を外して回す。

 

 

「気持ち悪っ!?」

 

 

「んで回しながら【フレア】と詠唱。・・・【フレア】」

 

 

右掌から火球が放出され、一秒ほどで消える。

 

 

「詠唱後火球が出れば最高です。尚手首を回転させたバカは魔術師に向いてないのでやめましょう。マジシャンにでもなればどうでしょ悪かったな!!」

 

 

絶対コレ俺に向けて書いてるだろ。ああ目の前にピースしながら屈伸する奴の姿が見える!!

 

「凄い!今まで見た魔法と全く違う・・・!!」

 

 

「お前さんマジで言ってる?」

 

 

聞けば今までは長い詠唱を必要とするものが多かったらしい。

つまり幻夜のような短縮された詠唱は見た事がないのだと。

尚フランはつまらなかったのか俺の肩車に乗って寝ている。

そらそうなるわ。

俺はフランを降ろし、近くの椅子で眠らせる。

 

 

「・・・ほーん。じゃあ続き読むぞ。・・・さて、そもそも長い詠唱を必要としないこの魔法ですが、自分が何をしたいかを考えるのが最も大切です・・・らしい事書いてんじゃねえよ。続き。・・・表現して名前をつけること。必殺技を考えるように純粋な気持ちでやってみましょう。簡易的な術式はのちのページに記載してあります」

 

 

ある程度ページをめくると、それらしい立派な術式が描かれていた。

最初からコレ描けや。どくそ丁寧に描きやがって。

 

「・・・!?互いに打ち消し合わないように術式が組み込まれ、最短経路で詠唱できるようになってるのね!」

 

 

「ほう」

 

 

まるでこの人が全て作ったみたい・・・!というパチュリーの感嘆の呻き声を聞き、俺は眉を顰めた。

俺もこんな術式は知らん。見たこともない。

故にあのバカを呼ぶ。

 

 

「おい、幻夜」

 

「ファッ!?」

 

 

「へ!?」

 

 

空間を貫通させて直接幻夜に問い詰める。

幻夜は奇声をあげて飛び上がり、パチュリーは信じられないものを見たような声をあげた。

 

 

「幻夜」

 

 

「え!?何!?」

 

 

「お前これ作ったな?」

 

 

「・・・あー、魔法作るのに書き換えたよ、法則。料理するのに魔法あると便利じゃん?塩胡椒少々のその少々を的確に入れてくれる魔法とかさ」

 

 

「料理一つのために世界の法則書き換えてんじゃねえよ。・・・あとでその魔法教えろ」

 

 

「はーい。もうしませーん。・・・また今度ね」

 

 

「それだけ。またな」

 

 

「はーい」

 

 

俺が空間を閉ざし、再度魔道書に目を通そうとするが、あわあわと口を開いているパチュリーが目に入る。

 

 

「い、今、ど、どうやって」

 

 

「んあ?・・・ああ、空間開いた奴な。・・・っとな、■▲■■■▲■▲▲で、▲▲■■■▲と後百二十八の術式を同時詠唱すると出来る。・・・ダメだ説明できん」

 

 

しまった、いつも通り肝心の説明部位が生物の発する事のできない言語に翻訳された。翻訳後は金属の筒の中で叫ぶような音になった。

この言語は言語とも言えない。まるで世界が俺以外に使わせないようにしているように感じる。なにせ俺もどんな発音をしているか分かっていない。幻夜より酷い。

 

 

「まあ・・・魔法っちゃ魔法だな。俺にしか使えない魔法だが」

 

 

「そうなの・・・わざわざありがとう。自分でどんな魔法が良いか考えてみるわ」

 

 

「おう。また何かあれば言ってくれ」

 

 

「あ、じゃあ一つ良いかしら」

 

 

「おうよ」

 

 

「龍一さんの使える最も得意な魔法を見せて欲しいの」

 

 

「ほいほい。・・・じゃあこれかな。【反射式独立砲撃】」

 

 

俺の頭の上に同時に三つの流線型のドローン砲と六枚の四角い小さな鏡が現れる。

ドローン砲はそれぞれ俺の意思で別々の動きをしながら鏡に向けて砲撃。

鏡も同様に動き回り、角度をずらしてドローン砲のレーザー砲を跳ね返す。そして跳ね返された先で再度鏡で跳ね返す。再びドローン砲が砲撃し、弾数が増える。

しばらくすると俺の周りを囲むようにレーザーが不規則に飛び回り、一つの防壁が出来上がる。そのまま試しにリンゴを召喚して飛び込ませるが、瞬く間に塵に変わった。

 

 

「これが俺の得意技。こうなれば俺の意思一つで攻撃と防御を切り替えられる。今このままだとこの円の中に入ろうとすると焼き切られる。攻撃は跳弾云々も可能になる。・・・問題は今ある九個の浮いてる奴をそれぞれ自分で動かさないといけない事だな。結構疲れる」

 

 

「待って。・・・これを全部?貴方が?」

 

 

「全部」

 

 

疲れるのは仕方ない。

視界も義眼を経由しているので右は景色一つ、左に景色九つとアンバランスな故頭が痛くなる。

この手に詳しい永琳曰く、最低でも一般の人間一人でするには厳しいが、慣れた人間だと出来るらしい。よって俺以外もできる。しかし誰もやろうとしない。なんでさ。

「・・・ここまで極めてるのはどうしてなの?」

 

 

「そうだな」

 

 

何故ここまで極めたか。

そんなもの他の分野でも色々と言われそうだが、答えは一つ。

 

「龍神様になりたいから?」

 

 

「・・・どう言う意味なの?」

 

 

龍神様は貴方でしょ?とパチュリーに聞かれる。

 

「・・・その、な。俺自身が龍神とは何か分かってないんだ。どこまで強ければ龍神として名乗れば良いか分からない。無論誰も教えてくれないから、とりあえず万人が辿り着けない場所に行こうとしてる・・・んだと思う」

 

 

実際、俺には分からない。

龍神様ならきっとなんでも出来る。そう思ってなんでも出来るように。

でも足りない。まだ出来ない。しかもそこに私情が入る。

やっぱり龍神向いてないよ俺。(安定のリピート)

 

「・・・少なくとも、私は龍一さんは十分凄い人に見えるわよ。神様である点を除いても、その努力精神は凄いんじゃないの?」

 

 

「・・・!おう、そうか。うん、そうか。すまん、用事できた、抜ける」

 

 

俺はまた後で、と自分の空間に入った。

 

「・・・ふふっ」

 

なんでだ、いきなり何を俺は笑ってるんだ。

あ、そうか。褒められたからか。

 

 

そっか、そうか。そうか・・・

褒められたかったのか。

うん、馬鹿かな?うん、まあ、いいか。

 

 

 

 

 

 

・・・龍神さまでも、滅茶苦茶悪くはない、かな?

 




この龍神ちょろい。
はい、龍一君褒められることに慣れてません。
多分紫さん辺りから褒められたら嬉しくて死ぬんじゃないですかね。
ただし一時的な逃避でしかないと気がつくのはいつなのやら。


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第八十二話 新入り


お待たせしました(大遅刻)
まさか一ヶ月ちょい更新を止めるとは自分でも思っていませんでした。

前書きでサボってた理由を書いても仕方ないので、
ゆっくりご覧下さい。


僕は眼を覚ます。

実際、僕が本当に寝ているのかは分からないけれど、とりあえず眼を覚ます。

布団から顔を出し、隣に寝ている暖かいものへ手を伸ばす。

サラサラとした感触が伝わり、辺りに良い香りが広がる。

僕はその暖かいものをしっかりと抱きしめ、二度寝の体制に移

 

 

「起きろ親父、起きろ母さん、朝からイチャついてねえで起きろ」

 

 

「んぅ・・・」

 

 

ろうとして部屋を開けた奴に起こされた。

それと同時に隣に寝ていた幽香が目覚め、残念ながら幽香との二度寝は叶わなくなった。

 

 

「あのさあ、毎回起こしにくるのやめてくれない?」

 

 

「るっせえ、ごちゃごちゃ言ってねえで起きろボケ」

 

 

僕の文句に顔を顰め、ボロクソに言ってくるのは、幸夜(こうや)。

そう、僕の息子だ。

 

 

幸夜は飯出来てっからな。と言いながら部屋を出る。

僕は眼をこすりながら小さく嬌声を漏らす幽香に微笑みかけると幽香も半分寝たまま微笑み返し、僕と幽香はそのまま二度寝した。

 

 

 

 

「んで?母さんから何か言い訳は?」

 

「その、ね?その、お父さんが中々離してくれなくて・・・」

 

 

結局一時間程寝坊した僕達は、リビングに置かれた朝食を前に肘をつく幸夜の席の向かいに座り、言い訳を述べていた。

 

 

「ほーん?俺親父が起きてるのは見てたけど?何?親父あの後熟睡した?」

 

 

「んーん「ちょっ、幻夜・・・」・・・ん、いや、寝た気がする」

 

 

僕が否定しようとすると、テーブルの下で幽香が僕の手を強く握ったので適当に仄めかした。

幸夜はじとっと僕を見たが、はいはいご馳走さまご馳走さまと言いながら、表情を崩し、笑顔になった。

 

 

「もう良いよ、二人が仲いいのは知ってるから。冷めたけど朝出来てる。適当に食べといて」

 

 

「ごめん、ありがと」

 

 

「んな事言う必要ねえよ。じゃ、いつも通り散歩行ってくるから」

 

 

幸夜はぷらぷらと手を振りながら部屋を出て、そのまま窓から見えるように空へと飛んで行った。

幸夜は実の僕と幽香の子だ。

僕の性質上大丈夫かと思ったが、幽香の遺伝子を継いだのか、生まれた時に無形、なんて事はなかった。

幸夜は今産まれて十五年目。成長速度は僕を継いだらしく、すくすくと育ち、幽香に似たイケメンになった。

性格も口は悪いけれども優しく、その優しさはほんの少しだけ縁を思い出させた。

今も縁の家族は健康そのもので、みんな笑っている。

話を戻そう。

幸夜は二人の能力は引き継がなかった。つまり僕の中にいる誰かを継いだのか、それら全部が混ざったかもしれない。

結果、【あらゆる手にした物を兵器に変える程度の能力】が発現した。

己が武器の知識を持っていれば、原材料か性質が一致した時連想した武器、兵器に変わる。と言う常に頭を使う能力。

実例とすれば、フォークを持たせる。金属の刃物でナイフ。終わり。

知識があると、フォーク、刺すから槍、先端部を変えて十文字槍、日本の槍は重さで殴る事もあったから、殴り殺すでメイス、ぶつけると言う観点から投石機。なんて考えれば考えるほど変わる。強くなる。使いやすくなる。

 

 

ついさっき幸夜が散歩と言ったのは、その能力を使いこなす為に街まで行って知識を得ている。

口に出すのは恥ずかしいが、僕と同じ努力家らしい。

幸夜の作った朝食を食べ終わり、ふう、と上を向く。

強くなりたいと言うのは幸夜の強い意志だ。ところが僕は能力任せ、幽香は日傘と近接と光線のため、割と幸夜の能力に向かない。

幸夜の意思を汲むなら、誰かに預けた方がいい。と言うか龍一に預ければいいと思う。

 

 

「幽香」

 

 

「なあに?」

 

 

幸夜の去った方向をぼんやりと眺めている幽香に声をかける。

幽香は振り向くと、僕に微笑んだ。

僕はそんな幽香を抱き寄せながら、口を開く。

 

 

「あのね、幸夜が強くなりたいって言ってるでしょ?」

 

 

「ええ」

 

 

「だから、幸夜が望んだらの話だよ?」

 

 

「・・・うん」

 

 

「龍一に預けようかなって」

 

 

幽香は答えなかった。

僕はダメかな、と思ったが、幽香はクスクスと笑った。

 

 

「良いわよ、別に。・・・勿論寂しいわ、でも、だからって幸夜の好きにさせないのは、嫌よ」

 

 

「じゃあ、聞いてみる?」

 

「ええ」

 

 

そう言って幸夜の飛んでいた窓の方を再度向く幽香の顔は、一瞬陰って見えた。

かく言う僕も、少し辛い。

 

 

「・・・いや、もしかしたら幸夜が女の子連れてくるかも」

 

 

「笑って送ってあげましょう」

 

____________________

 

 

「って事で息子の事よろしくぅ!」

 

 

「お願いね、龍一さん」

 

 

「ざけんな」

 

 

昼。

レミリア、フラン、オルゴイのおっさんが心安らかに眠る中、人様の、それも俺が居候している相手の家のガラスを粉砕し、幻夜がやって来た。

幽香と見慣れない緑髪のガキ連れて。

 

 

「いやさ、幽香と相談して、ここはよりよく息子、幸夜って言うんだけどね?「どうも、幸夜です」この子を強く出来る人に預けようと思って。勉学も兼ねてマスターんとこなら良いかなって」

 

 

「お前にしては珍しく合理的な判断だな。強いて言うならその知恵を社会性の学習に少しでも使ってくれりゃ助かるんだがな」

 

 

無理☆とシリアスと常識をぶち壊してほざきやがる幻夜を頭から地面に埋め、気をつけの姿勢のまま幻夜を白い目で見る幸夜と名乗ったガキ、もとい少年に声をかける。

 

 

「よう、俺は神矢龍一。龍神様。今言われたからお前の師匠になる。よろしく」

 

 

「どうも。風見幽香の息子の幸夜です。よろしくお願いします」

 

 

「幻夜、お前こいつ攫い子じゃねえだろうな」

 

 

「失礼な!その髪の色、顔つき。どう見ても幽香の子でしょ?」

 

 

「お前の子じゃない可能性」

 

 

「それは無いわよ、この子の目。どう見ても幻夜じゃない」

 

 

「・・・へーへー。んじゃ、幸夜だよな。「はい」お前今日からこの館で勤務な。俺は基本この館の図書室で魔道書弄ったり、この館のお嬢様と遊んだりしてるから、お前も多分何かしら働くと思う。ま、よろしく」

 

 

「はい」

 

 

俺は指で幸夜に来いと指示し、眠る美鈴を無視して門を開く。

幸夜が美鈴に変な目を向けていたが無視。

 

 

「ほらよ。とりあえず俺の部屋はお前に譲る。こっから左に行けば図書室で、そこに一番近い部屋になってる。ま、好きにしろ。館への挨拶は今日の夜だな。まあ、そんな大したもんじゃねえ、気にすんな」

 

 

「了解です」

 

 

こいつほんとに幻夜の息子なんだろうか。

返事も普通、態度も良く、別段異常性もない。

 

 

「龍一、おはよー・・・」

 

 

などと考えていると、フランドールがトコトコと図書室へと歩いていた。

幸夜が眉を顰めていたので、俺は紹介した。

 

 

「フラン、今日来た新しい家族だ。・・・幸夜。この子が現当主の次女。仲良くしてやってくれ」

 

 

「幸・・・夜?幸夜!よろしく!」

 

 

「おう、よろしく」

 

 

フランドールが手を出し、幸夜がその手を掴んだ。

 

 

「ッ!?」

 

 

瞬間バチリ、と何かが弾けたような音がし、幸夜は手を離した。

フランドールも何か感じたらしく、不思議そうに手を眺めていた。

 

 

「・・・?今、手がビリビリってしたよ?」

 

 

「俺もだ・・・」

 

 

「もう一回!もう一回繋ごっ!」

 

 

二人が恐る恐る再度手を繋ぐ。

何も起こらなかった。

 

 

「あれ?」

 

 

「・・・何も起きねえな」

 

 

「そう、だね?・・・あっれー?」

 

 

フランはともかく、幸夜まで不思議そうに首を傾げていたのが面白くなってしまい、俺は吹き出した。

 

 

「クッ、ハハハ!単なる静電気だったんじゃねえの?」

 

 

「せいでんき?」

 

 

「あれだよ、フランドール「フランでいいよ!」フラン、時々ドアを掴んだ時にバチってなるような奴だよ」

 

 

「そっか!・・・ねえ幸夜、遊ぼ!お姉さまもお父さまも寝ててつまんないの!」

 

 

「・・・良いっすか?」

 

 

「お前だんだんと口調荒れてきたぞ「いっけね」・・・やっぱりお前幻夜の息子だわ。良いぞ、行ってきて」

 

 

幸夜はニッと笑い、フランドールを持ち上げた。

 

 

「じゃあ行こうかフラン!何して遊ぶんだ!?」

 

 

「んーとね!鬼ごっこ!」

 

 

「良いぜ!じゃあ行くぞ!」

 

 

二時間後、図書室で肩で息をする幸夜と、嬉しそうにその幸夜の周りをくるくる回るフランドールが見れた。

 

こいつある日突然逃げるな。(突然の冴えた思考)





遅刻理由はストーリーどん詰まりだったから。と言うのが主な理由で、後は作者のリアル事情ですね。忙しいと言うより、良い意味でも悪い意味でもパニックになることばかりでして。

さて、なるべくネタも引きずって出していきますので。
次回もお楽しみに。


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第八十三話 幻夜の子

このところ投稿が遅れていますね。申し訳ありません。
五月中盤ごろから文化祭に使う映像をパワーポイントで単独制作しておりまして、つい最近完成、文化祭も無事終えました。
いやあ、序の序の部分のオープニング、四十五秒に合計半日以上の時間がかかるとは。
と言うわけで投稿速度を戻したいのですが、何せここ一ヶ月分程度サボったことになるのでどうなるやら・・・

長くなりました。
ゆっくりご覧下さい。


「イーッハァ!」

 

 

幸夜の家族入り挨拶もそこそこに済ませ、幸夜も住人全員と馴染み始めた頃、そこそこ久しぶりに吸血鬼ハンターが来た。オルゴイと会ったあの時以来だろう。

ここ最近この館以外の吸血鬼制圧にご執心だったらしく、もうここを残して最後。というところまで来たらしい。オルゴイ魔王扱いかよ。

 

 

そして斥候なのかなんなのか分からないが五、六人が来たので幸夜に試しに任せた。

と言うわけで今に至る。

 

 

「シャアラアッ!」

 

 

誰も貸し出した迎撃武器にモーニングスターなんて混ぜてなかったと思うんだが。

 

そんな事は我関せずと言わんばかりに、モーニングスターはナイフになり、ナイフが伸び、ロングソードになりハンターの一人を斬った。

続けざま斬ったハンターの持っていた弓を奪い取り、弩に変えてハンター二人を貫いた。

風魔や幻夜と比較すれば未熟だが、己で武器を研究して修行した形跡が見える。

 

だがここまでやるなんて誰が思おうか。

昔の俺TUEEE無双していた屑の時の俺を思い出して恥ずかしいが、幸夜は似て異なる。そりゃそうだ。

幻夜に聞けばそんな息子知らない。の一言。そこは適当なやつじゃないので、現地に適応するために暴れまくっているのだろうか。

 

トドメと言わんばかりに壊夢二人分はある大斧を振り下ろし、残り全員を粉砕して地面を割いた。

幸夜は振り下ろした大斧の上に立ち、首を鳴らしながら口を吊り上げて俺を見た。

 

 

「どうだ?龍神サマ?」

 

 

「七十点」

 

 

「マジか」

 

幻夜から能力は聞いていたが、ほぼなんでもありなのでは無いだろうか。

図書室でパチュリーから神話本でも借りれば使えたりしてな。

ただ問題点はある。

 

 

「能力を活かしきれてない。手にしたものを武器に出来るなら風もいけるとしよう。・・・刀砕いて破片風で浮かばせといて触れたら武器増やす方が良く無いか?」

 

 

「は?」

 

 

「いや、だから」

 

 

俺は倒れているハンターの刀を左手に取り、風を右手で掴む。

右手から旋風が吹き荒れ、俺の周囲を巻き上げるようになる。

俺は続けて左手の刀を砕き、鉄粉を風に巻き込む。

鉄粉を摘み取り、鉄粉からロングソードを取り出して右で投擲、その間に適当な鉄粉を掴み取って左にバトルアックスを出して地面に叩きつける。

続けて槍、ショーテル、大鎌、三節棍、薙刀。

ある程度実演を終えたので鉄粉を集結させ、元の刀に戻す。

 

 

「はい」

 

 

「はい。で済まねえと思うんですけど」

 

 

「戯けが。お前このくらい出来ねえと俺の部下にエンカウントしたら死ぬぞ」

 

 

「地獄かよ」

 

 

「ちなみにお前と遊んでたフランドールはあらゆるものを破壊、その姉のレミリアは運命を操作、その親父は確実な運命から脱却するからお前負けるぞ」

 

 

「地獄かよ」

 

 

「そらお前より長く生きてるからな。・・・そりゃ、フランドールはお前よりも精神状態は幼いが、長く生きればその分アドバンテージは少なからずあるからな」

 

 

マジかぁ・・・と、呆れるように天を仰ぐ幸夜。

しかしその口は笑っていた。

 

 

「で、正直嫌なら送り返すけど、働く?」

 

 

「働きます。・・・まあその、フランと遊ぶのも面白かったので、とりあえず働いてみようと思います」

 

 

「よし。じゃ決定な」

 

 

俺は空間からナイフを取り出し、幸夜に手渡す。

幸夜はしげしげとそのナイフを眺め、目を細めた。

 

 

「なんだこれ、普通のナイフか?」

 

 

「十握剣の欠けた切っ先を八岐大蛇の血で磨いたナイフ」

 

 

幸夜が俺に投げ返した。

 

 

「んなもん渡すなよ!?」

 

 

「やる」

 

 

「えぇ・・・」

 

 

おずおずと幸夜が両手を差し出す。

俺はその上にそっとナイフを乗せた。

 

 

「大半の武器は使えば血を浴びるよな?」

 

 

「いやまあ、そうですけど」

 

 

「なら血を浴びせたこの武器が変化できねえ武器はねえよな?」

 

 

「なんでだよ」

 

 

俺は最近使い忘れていた新月で土を切って穴を掘り、ハンター五人全員を埋葬し、手を合わせながら答えた。

 

 

「いやお前、刀は人を殺すもので、斬れば血が流れる」

 

 

「そりゃ、当然でしょう」

 

 

「なら最初から血浴びせときゃ変わんねえだろ」

 

 

「それもそうか」

 

 

幸夜は納得したように俺のナイフをしまった。

ようやく厄介払い、もとい必要な人間に譲る事が出来て良かった。

俺は地面を平坦にしながら死んだハンター達の上に石を乗せた。

 

 

「・・・ところでさ、龍神様」

 

「あん?」

 

 

「その地面ならすのってどうするんだ?」

 

 

「魔法。パチュリーのいる図書室に本あるぞ」

 

 

「読んでいいんすか?」

 

 

「お前があそこで働くんならな。ちなみにお前の親父の著書だからな「は?」そんな顔するな。・・・そこの種取ってくれ」

 

 

俺はハンターを土に還し終わり、地面に幸夜から受け取った草木の種を植える。

幸夜は俺のやっている事が分からないのか、不思議そうに首をかしげながら開口した。

 

 

「・・・何してるんだ?」

 

 

「人を土に還して種を埋めてる。こうしときゃ十年、百年、千年もすれば木が生えて林が育ち、森が出来る。・・・まあそうだな、埋葬と葬儀も兼ねてだな」

 

 

「なんでそんな事を?」

 

 

「俺の自己満足に決まってんだろ?・・・まあその、いざ死ぬ時、誰にも葬儀されずに死ぬってのも悲しいからな。俺は」

 

 

「ふーん・・・」

 

 

「まあなんだ、神様にゃ色々あるんだよ。・・・そろそろ帰るぞ。後口調丁寧にするか雑にするか統一しろ。「どっちのが良いんですかね?」丁寧語は侵二と昔の部下を彷彿とさせるのでやめろ。雑でやれ雑で。後龍神様と呼ぶな」

 

 

「んじゃ先生で」

 

 

「なんでや」

 

 

幸夜とどうでも良いことを喋りながら紅魔館の門の前へと戻る。

門では美鈴が両腕を組んで立っており、視認すると笑顔で会釈してくれた。

 

 

「お疲れ様です。龍一さん、幸夜君」

 

 

「おつかれさん」

 

 

「お疲れ様です」

 

 

「妹様が幸夜君を呼んでましたよ。一緒に遊びたいそうです」

 

 

「了解。じゃあ・・・「行ってこい」了解。行ってきます」

 

 

幸夜は駆け出し、その場から居なくなった。

俺が幸夜の消えた先を眺めていると、真横から拳が飛んできた。

俺はそれを掌で受け止め、攻撃先を見やる。

 

 

「お手合わせを」

 

 

「導入ヘタクソの不器用さんかよ」

 

 

俺は美鈴の拳を手から離し、足払いをかける。

美鈴は前に跳躍し、そのまま俺に膝蹴りをかけた。

俺はそれを避け、反撃をかけようとして顔を掴まれた。

 

 

「ッ!!破ッ!!」

 

 

そのまま腹に顔を掴んでいない方の掌底を当てられ、気か何かをぶち込まれる。

 

 

「ブッ!」

 

 

背骨を通って足先まで痺れるように痛むが、俺は両手で掌底を出した方の腕を掴んでやり、そのまま両足で美鈴の腹を蹴る。顔から手が離れる。

ただし美鈴に当てられた気が足にもきていたらしく、あまり効果は見られなかった。

もし美鈴が壊夢だったと思うとゾッとする。美鈴も流石のダメージだが、チョップで地球割る奴には叶うまい。実際弟子らしいからな。

 

 

口から溢れる血を飲み込み、俺はまだ掴んでいる美鈴の腕を二の腕と手首を抑え、肘関節を逆に曲げる。

最早関節もクソもない硬さの壊夢、関節が逆に曲がる侵二と幻夜と違い、美鈴にはダメージが入った。

当然の事なのだが、やはり驚く俺は異常だ。

 

 

「ッー!?」

 

 

「更に手首!からの人差し指、薬指、親指ィ!」

 

 

ポキポキとスティックの菓子を割るように関節と逆に折り曲げる。

美鈴の顔も激痛で歪み、手に力が入らなくなる。

まあ折れてない中指と小指だけでは何も掴めまい。

 

美鈴は俺から距離を取るように後ろに飛び退いた。

ここで掴みに来ない辺り壊夢より優しい。アイツなら突っ込んで来て俺の頸椎と背骨ぐらい折ってから下がる。

俺もそれに備えていたので猫が毛を逆立てるような前屈姿勢になり、右手にベクトル操作能力を流し込む。

背後に下がった美鈴が悪手だと悟る時既に遅し。

 

 

「腕が折れた程度で下がるな。っても俺らと一緒にすんのも失礼か。奥義【反転衝破】、最早二発目は不要。俺の勝ちだ」

 

 

地面を強烈に踏み抜き、美鈴の軸を歪ませる。そのまま拳を美鈴の腹に押し当て、一気にベクトル操作で衝撃を美鈴の背に向けて打ち出す。続けざまベクトル操作で衝撃を手前に戻す。一フレーム毎にベクトルの向きは百八十度反転し、俺の放つ拳骨は一発だけだが何度も殴られたような痛みが美鈴に当てられる。

同じ場所を正確に何度も殴られるのだ、多分痛いだろう。壊夢にゃ効かんが。

 

 

「カッ、ハ・・・!?」

 

 

美鈴はたたらを踏み、吐血しながら俺と目を合わせる。

効いているが倒れない。だがやはり余力はないようだ。

 

 

「・・・っ!!」

 

 

「いや、そう強敵を見たようにならんでくれ。・・・俺は美鈴や壊夢みたいに格闘技を極めた訳じゃない。強いて言うなら他人より高いスペックで暴れてるだけなんだよ。・・・正直俺が美鈴と同じ身体能力だったらボコボコなんだが」

 

 

「・・・釈然としませんね」

 

 

「やめろよ。マジで俺なんも出来ないからな。・・・お疲れ様」

 

 

「ありがとうございました」

 

二階あたりで絶叫する幸夜の声を聞き流しながら、俺は美鈴に手を振って屋敷の中へと戻った。

 

 

「ちょっ、先生、いつ休みあるんですかここ?」

 

 

「お前これから修業のためにしばらく飯抜き睡眠禁止だからな」

 

 

「・・・え゛」

 

次回へ続く





ありがとうございました。
そもそもパワーポイントで映像を作るのがおかしいんですが、何しろ設備がありませんでしたからね。

次回もお楽しみに。


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第八十四話 逃亡


投稿速度遅ッ!?
と言うわけでまた遅れました。本当にすみません。
この先も遅れます。

ゆっくりご覧下さい。


「行ってきまーすッ!」

 

 

幸夜はそう叫び、美鈴を騙し、レミリアとフランを撒いて、館の門を飛び越えて走り去っていった。

要は逃げた。フラグ回収が早えんだよ。しかも強えんだよ。

 

 

「アイツなんとなしに逃げやがった。やっぱ幻夜の息子だわ」

 

 

「流石に百日間一切合切の睡眠、食事、休憩を禁止しての鍛錬は誰でも逃げると思うが」

 

 

「俺を先生と仰ぐ上に幻夜の息子ならこの程度出来んと困る。・・・いやまあ五十日以上耐えたのは予想外だったけれども」

 

 

俺はオルゴイと向き合って座り、テーブルの中心に森へ向けて疾駆する幸夜を上空から見下ろす形で追尾している蝙蝠と視界を繋いだ水晶玉を乗せながら、右手でワインを飲んだ。マッズ。

 

 

「やっぱまっずいなコレ。毎回飲んでるけど」

 

 

「なら飲むな。・・・む、龍一。幸夜が倒れた」

 

 

「あー・・・?」

 

 

オルゴイに言われ水晶玉に目を向けると、空腹と眠気と疲労のせいか幸夜が森で倒れていた。

そらそうなるわな。

 

 

「どーすっかな」

 

 

「助けんのか?」

 

 

血の入ったグラスを片手に持ちながら水晶玉を覗くオルゴイが首を傾げた。

 

 

「いや、此処で誰かが幸夜を見つけて助ける・・・なんて展開があれば面白いなー・・・と思ってな」

 

 

「そうか。幸夜と同じような歳のか?」

 

 

「ん?まあな」

 

 

「女か?」

 

 

「お前何言ってんの?」

 

 

オルゴイに視線を向けるが、オルゴイは水晶玉を眺めたままこちらを見ない。

別に構わないのでワインを再度口に含む。やっぱりマズイ。

 

 

「金髪か?」

 

 

「お前ほんとに何言ってんの?それお前の趣味?」

 

 

「・・・金髪で色白、人形のような少女か?」

 

 

「お前それひょっとして紫の事言ってんじゃねえだろうな」

 

 

殴らねばならなくなって来たので銀弾を右手の拳銃に装填し、左拳を握りしめると、オルゴイは顔を顰めて水晶玉を指差した。

 

 

「はやるな馬鹿者、幸夜を見つける者の話だ」

 

 

「ああなんだ、紫じゃねえのか。良かったああいやなんでもねえ忘れろ。・・・そりゃまあそんな子だと面白くなりそうだな。まあねえよそんな大当たりみてえな事。そもそもあの森にいるのなんて魔獣か魔法使いかだろ?魔法使いに会うので当たりだと思うが、ハズレの魔獣に会うと思うぜ俺は」

 

 

「いや、もう拾われてるぞ」

 

 

「あ、マジ?さて、どんな魔獣かな・・・」

 

 

「魔獣に拾われた前提で話すな。因みに拾ったのはさっき特徴を言った者だ。慌てて担いで行ったぞ。魔法使いかもしれんな」

 

 

「大当たりじゃねえか」

 

 

女運は親父譲りらしい。

突然後ろから刺されて死ねばいいのに。

 

 

・・・そういや、ここ最近魔女狩りの話を聞いたな。

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

言いようのない殺気に襲われた気がして俺は目を開いた。

上は天井。見た事ない気がするが、空腹と眠気で思考が回らず、俺は横を向いた。

そこには幾多もの小さな人形、そして落ち着いた雰囲気を漂わせる部屋。

 

 

あ、ここ知らねえ家だわ。

一気に覚醒した俺は頭を上げ、身体を確認した。

怪我はなし、盗まれたものもない。

まあ盗まれる物なんて俺と先生以外が触ると祟られるナイフしか無いけどな。

俺を拾った人は敵意はなさそうなので、そのままベットの上で事のあらましを思い返していた。

 

 

俺は先生こと龍一さんに修行だと言われ、百日間一切合切の睡眠食事休憩を禁じられたまま修行に勤しんでいた。

で、命の危機を感じて逃げた。

ただなんか今もうちょい行けそうな気がして来た。帰ろうかな。

と思い立ち上がろうとして、力が入らない。

 

 

「・・・やっべ、動けねえ」

 

 

疾走した時に力が無くなったらしい。

と言うかあれだけの余力があったとすると、案外百日間一切合切休憩なしも行けたかもしれない。

とはいえ今現在空腹で動けず、どうするかぼんやりと考えていた。

 

 

部屋のドアが開いた。

 

 

「ただいま・・・あ!貴方やっと起きたのね!」

 

 

「・・・あー、俺を拾った人か?」

 

 

「そうよ。ビックリしたのよ?あんな深い森に人間がいるなんて・・・」

 

 

はい、と俺を拾ってくれたらしい人、金髪で色白の人形のような女の子は俺に水とスープを出してくれた。

 

 

「貴方、この辺りの人?それとも別の国の人?」

 

 

「・・・ああ。近くに住んでるし、生まれはこの辺なんだが、親が東の果ての国だからな」

 

 

「へえ・・・あ、スープ飲める?熱くない?」

 

 

「ああ、大丈夫・・・」

 

 

ゆっくりと湯気を立てるスープを口に入れる。

約八十日ぶりの食事に胃が暴走するが、吐き気もなく、そして何より美味しい。

 

 

「・・・美味いな。ありがとう」

 

 

「気にしなくていいわよ。そう言えば、貴方名前は?」

 

 

女の子が青い瞳を俺に向ける。

赤色の母さんや緑色の親父と違って青いんだな。

 

 

「幸夜」

 

 

「幸夜?」

 

 

「ああ。アンタ、いや、君は?」

 

 

「私?私はアリス・マーガトロイド」

 

 

「そうか、ありがとうな、アリス。青い目って綺麗だな」

 

 

「へ?」

 

 

「うん?・・・不思議なこと言ったか?」

 

 

「・・・あ、いや、なんでもないわよ?・・・と、ところで、貴方は人間?」

 

 

ちょっとだけ動きがせわしなくなったアリスは俺にそう聞いてきた。

これ回答間違えると死ぬ奴じゃないのか。多分人間ですって言えば死ぬと思うんだな俺は。

 

 

「妖怪だな」

 

 

それに人間です、なんて名乗りたくない。

 

 

「妖怪?・・・妖怪って、あの手が四本あったり、すごく大きかったり、目が一つしかなかったりするアレ?」

 

 

「どんな印象抱いてんの?」

 

 

俺の両親はしっかり人型だったんだが、もしかして俺がおかしいのか?いや、しかしオルゴイさんやレミリアやフランも人型だし、美鈴なんて完全な人型だ。

あくまで人型なのであって、人間型ではない。そんな事はあってたまるか。

 

「え?違うの?」

 

 

「んー・・・?あってるとは思うんだけど、俺の知り合いは全部人型なんだよな・・・」

 

 

「そんなに!?」

 

 

「ああ。親父は街で花屋開きながら過ごしてたから、バレてねえんじゃ」

 

 

「街!?街に行ったことあるの!?」

 

 

「うおっ!?ちょっ、なんだなんだ?そんな街に行ったのが珍しいか?」

 

 

アリスは身を乗り出し、俺を押し倒すように顔を寄せてきた。

あれこれ人間ですって言っても死ななかったパターンか。と言うかそんなに街に憧れるもんか?

 

 

「え、あ、ごめんなさい!」

 

 

アリスは俺から跳びのき、恥ずかしそうに両手の人差し指の腹を合わせ、口元に置いた。

 

 

「あのね?・・・私、街に行った事がない、ううん、この森から出た事がないの」

 

 

「・・・誰かに捕まえられてんのか?」

 

 

「・・・ううん、ちょっと、一人で行くのが怖くて」

 

 

「何かあったのか?」

 

 

聞けば昔、人形のように美しすぎて人間に石を投げられたらしい。

要は化け物扱い。弱者故の恐怖なのは分かるが、ならば触れなければ良いのに。

噂しなければ良いのに。

関わらなければ良いのに。

 

 

アリスはそれ以来恐ろしくて出られない。か。

やはり人間は屑のような種族であると認識する。

何故それを親父や先生は愛するのか分からない。

先生から話を聞けば、全て先生が神として与えたものは風化し無駄になったと言うのに。このナイフの元の刀で切られた奴が不憫でならない。

 

 

「・・・でも、でもね?優しい人もいたから、また街に行きたいなって・・・」

 

 

なのに、何故コイツも同じ轍を踏もうとするんだろうか。

俺がまだガキだからだろうか、人間を信じる事がなんの利益になる。そう思ってしまう。

 

 

「・・・なあ、そんなに人間が好きか?そんなに人間はいいか?」

 

 

「こ、幸夜・・・?」

 

 

嫌悪感で顔を顰め、アリスに怯えられる。

そんな時俺の腹が鳴った。空気読めや。

とは言え前述通り何も食べていなかったので、俺は何も言い返せず黙ることになった。

 

 

「・・・あ、先にご飯ね。ちょっと待ってて」

 

 

「・・・すまん」

 

 

その後持ってきてもらったリゾットを掻き込ませてもらい、話は後日という事で寝かされた。

自分でも恐ろしいほど深く眠った。

やっぱ後二十日休憩なしとか死んでたわ。

 

 

 

 

次回へ続く





ありがとうございました。
ここ最近割とクソ忙しい上に強烈な無気力感に苛まれ、危うく自殺を・・・計ってないですよ?やっだなあするわけないじゃないですかハハハ。

いつも通りの体調不良だとでも思ってやってください。
本当に作者が気狂いのど阿呆で申し訳ないです。


後、七夕でしたね。
皆様の願いが叶いますよう。


次回もお楽しみに。


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第八十五話 伝聞と自己判断

話も纏まらない、頭は痛い。
相変わらずの無気力感。
ただ書けそうな気はしてきましたね。頑張ります。


ゆっくりご覧下さい。


翌日。

あまりにも久々の食事と睡眠により体が驚いたのか、力が入らず寝たきりになった俺が寝ているところに、アリスはやって来た。

拾われの身で申し訳ない。動けん。

 

 

「おはよう。・・・あの、大丈夫?」

 

 

「大丈夫じゃない。ぜってー先生しばく」

 

 

そ、そう・・・と苦笑いを浮かべるアリスだったが、真面目な顔に変わった。

何かと思えば、昨日の続きだった。

 

 

「幸夜は、どうしてそんなに人間が嫌なの?」

 

 

「あ?・・・まあそうだな、己らが強者に虐げられた時は不平等だと喚き散らし、他生物の上に立って優位性を持てばその地位が揺らぐことを許さない。必ず自らより下の他者が欲しい。平等な中でも誰かが何かに僅かに優れていたらそいつを妬む。逆にコレをどう愛しろと言うんだ」

 

 

ただ、親父初の養子、つまり俺の義理の姉らしき人は俺の認識する人間とはかけ離れている。つまり、いつどんな状況でも悪に落ちない人達は嫌悪感が湧かないから嫌いではない。

あとは子供。アイツらは何も悪くないから嫌ではない。

俺が疎ましく思うのは成人し、俺みたいなガキよりも賢く、優れているのに悪事を働く奴ら。俺が嫌悪する事全て網羅するのだから、意味がわからない。

まあ、四割が記憶と伝聞からなので、俺もよくわからないが。

 

 

「・・・まあつまり、俺ら妖怪には少なくとも強者には逆らえない。みたいな弱くはあるが格差があるんだよ。人間はそれを望んで省いたくせにその後を考えていない。故に小さく意地汚い格差が生まれているってのが俺が最も嫌うポイントだな。後正当防衛以外の無駄に壮大な縄張り争いによる殺し合い」

 

 

俺が言いたいように毒を吐いていると、アリスは俯いていた。

 

「・・・私ね、人間なの」

 

 

「だろうな。助けてもらったやつの台詞じゃないが、こうして謎に助けるのも人間がよくする事だ」

 

 

先生もさっさと人間焼却すればいいのに、何をしているんだろうか。

意味がわからない。

 

 

「私の事、やっぱり嫌?」

 

 

なんて事を考えていると、予想斜め上の質問が来た。

 

「いや待て待て。だから、俺が嫌いなのは残念ながら大半を占める汚い人間であって、アリスや子供みたいな人間は嫌いじゃねえし、むしろ好きだぜ?」

 

 

今なんかすげえまずい事した気がするが、気の所為だろう。

 

 

「・・・!そ、そうなの?」

 

 

「そりゃそうだろ。こうして寝る場所も、飯も与えてくれる。逆に好感持たずしてどうすんだよ」

 

 

そ、そう?ありがとう。と言いながらアリスが部屋を出て行った。

まずい事をしている気はするが、何かわからない。分からなければ背後から刺されるような嫌な気配を感じるが、なんなんだろうかコレは。

 

 

「はい、紅茶淹れて来たわよ。飲む?」

 

 

「おお、貰う。・・・なんかすまんな」

 

 

「ううん、全然気にしてないわ!・・・ところで、幸夜」

 

 

「ん?」

 

 

「その、魔法使いって信じる・・・?」

 

 

アリスは恥ずかしそうに俺を見た。

普通なら「いるわけねーじゃん!」と笑って済ませるんだろうが、親父が魔法に両手突っ込んで当たり掴んでるような人の上に、現在逃亡した職場にもバリバリの魔法使いがいる。

つか先生も半分魔法使いの気がする。あの人基本なんでも出来るし。

 

 

「・・・いるんじゃねえかな。会ってみたいと思うぜ」

 

 

「そ、そう?・・・ま、まあ私は人間なんだけどね!あ、おかわり入れてくるわね!」

 

 

嘘つけ奥からエリクサーの匂いすんぞ。

などとは言わない。この森の中で一人暮らししてる時点で魔法使い確定だなんて言わない。

と言うか言える空気じゃない。

嬉しそうに何故かスキップして紅茶のおかわりを入れに行ったアリスに顔が緩む。なんで笑ってんだ俺は。

 

 

・・・全く。ここ最近俺は落ち着かないことが多くなって来た。

何故か急にイライラすることが増え、戦闘時も自分がわかるほど凶暴化し、その割にしきりに誰かに甘えたくなり、言い表せない気分が俺を包む。情緒不安定な時期なんだろうか。

先生に尋ねても「さっさとラブコメしに行け」しか返ってこないし、オルゴイさんに聞いても「若かりし頃誰にでもあるもの」なんて意味分からんことしか言われない。

人嫌い、母さんと親父以外からあまり褒められたこともなく、褒められる事を望んでいなかった俺が今更なんなのだろうか。

何を誰から求めるのか。

やはり母さん・・・

 

 

 

 

 

 

待て。

今何故アリスが浮かんだ。

・・・なんだこの感情、気持ちが悪い。

思考が冷静に取れない。おいなんだ、アリスが頭から離れない。

 

 

「はい、おかわり持って来たわよ。・・・幸夜?」

 

 

「え?あ、ああ!ありがとな!」

 

 

・・・落ち着け落ち着け落ち着け。

そもそも愛の感情が上手くわかってねえだろうが。

ただでさえ親父の記憶共有してるせいで感情が不安定だってのに。今もちょっとおかしかった。

まず深呼吸。吐いて、吸って、吐いて。

・・・っしゃ、落ち着いた。

最後に大きく吸って、

 

 

「そう言えば、幸夜に好きな人はいるの?」

 

 

吹いた。

全部出そうになった。

 

 

「っは!?ゲホッ!お゛はっ!?・・・バッカ、いきなり何行ってんだ、危うく吐くとこだったじゃねえか!」

 

 

吹き出したけどな!

 

「あ!ごめんなさい!・・・でも、折角こんな所に来てくれたから、聞くのも良いかなって」

 

 

「やめろください。・・・ったく、いねーよ。そもそもこの辺に来たのがまだ二、三ヶ月前なんだから、早々に出来るわけないだろ」

 

 

「そ、そうよね。ごめんなさい・・・」

 

 

「謝る事じゃないと思うんだが・・・」

 

 

そんな出会って即娘認定、即告白の親父じゃあるまいし。

畜生今すぐ親父と縁切りてえ。不穏な気配しかしねえ。つーか何故母さんはあのハイスペック放蕩親父と結婚したんだ。

顔か、強さか、性格か、なら仕方ねえな(誠に残念ながら非の打ち所なし)。

 

 

・・・だーっ、クッソやっぱ親父のせいで俺の理想像のハードル上がるじゃねえか。なんなんだよ世界が勘違いしてるから不死身、世界の法則書き換えたから魔法使える、そもそも、僅かにでも生きるものの恐怖対象になれれば万能とか。何をどうすればんな人類悪も顔真っ青の化け物になるんだよ。

そしてそれを片手で使役する先生と、先生と劣勢ながらも杭で一回殺せた互角のオルゴイさんはなんなんだよ。何故俺の周りの男はハイスペックばっかなんだよ。

 

 

「あ゛ー・・・」

 

 

なんなんだろう、この言い表すことの出来ない違和感と辛さは。

そもそも、なんで俺は先生の元へ来たんだったか。

強くなりたかった、何故?

親父に勝つため、何故?

・・・何故だろう。

俺は親父に勝つ事を目標にしてきたが、果たしてそれは俺のやりたい事なんだろうか。

俺は何がしたいんだろう・・・

 

 

「幸夜・・・?」

 

 

考えれば考える度分からなくなってくる。

そもそも、人嫌いと言うが、俺はほとんど街の人間と関わったこともない。

親父と先生の記憶と伝聞のみ。

結局俺自身が経験し、知ったことじゃない。

 

 

・・・知りたくなってきた。

人間が果たして滅ぶべき存在か。俺の存在する意味は何か。

この身の内に巣食う感情はなんなのか。

それは、自らで知らなければ分からないのではないだろうか?

伝聞のみで物を決めるのは人間と同じではないか。

 

 

「・・・アリス」

 

 

「ひゃっ!?な、何!?いきなり喋ってどうしたの!?」

 

 

「そんな人を無口キャラみたいに言うな」

 

 

確かに物思いに沈んでいた俺も悪いが、だからって喋って驚かれるのはどうなんだろうか。

いや、今はそんな事重要ではない。

俺は軽く咳払いをし、アリスの方を向く。

 

 

「本当になんとなくだが・・・街に行かないか?」

 

 

_____________________

 

 

「あーっ、幸夜が外に出てる!ずるーい!」

 

 

「お父様、見てる限りなさそうだけれど・・・幸夜は帰ってくるの?」

 

 

「・・・そうだな、些かあの歳と心持ちでここで働くのもあれかもしれんな。龍一、奴をここで働かせるのは後日にしてもらえるか?」

 

 

「その硬い面持ちでレミリアとフラン肩に乗せてんじゃねえよ」

 

 

ワインの口直しに紅茶を流し込み、水晶玉を見やる。

中では幸夜とアリスと名乗った少女が楽しそうに話している。

ま、レミリア達が良いなら良しとするか。

 

 

「・・・ま、その辺はそっちに任せる。幻夜の奴、案外人間と接点少ねえからな。そりゃ息子もああなるってもんだ」

 

 

「すまんな」

 

 

「こっちこそ悪いな」

 

 

・・・とりあえず、次帰ってきて鍛える時があれば飯と休息の禁止はやめておこう。

 

 

 

次回へ続く




ありがとうございました。
この前道にコマチグモと言う毒蜘蛛がいたので捕まえて観察していました。
噛まれてたら何か閃きましたかね。クソ痛いらしいですけど。

次回もお楽しみに。


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第八十六話 散歩

ウチのアリスは外を知らない箱入り娘みたいになってしまってますね。


ゆっくりご覧下さい。


「・・・ッ!?凄い!これが街!?」

 

 

「街というよりは村だけどな」

 

 

アリスに街に行かないかと誘った翌日の日が昇りきった頃、俺は街に行くという提案に嬉しそうに乗ったアリスと田舎町へと向かっていた。

町は牛や豚が草原の草を食み、農家が柵で囲った中で麦を栽培し、子供達が広場を駆け回っている。

まあ、なんだ、この感じは悪くない。アリスにとっても初めから大都会は厳しいだろう。

 

 

「ねえ幸夜!これが牛よ!牛!」

 

 

「そうだな、牛だな」

 

 

「あーっ!鶏よ鶏!さ、触って良いのかしら・・・!?」

 

 

「下手に触るとつつかれるぞ」

 

 

「ひゃあっ!?」

 

 

アリスにとっては全部が初めて見る景色なんだろうか。

鶏につつかれ、悲鳴をあげながら飛び上がり、オロオロとしている様を見ていると、つい口が緩んでしまう。

 

 

「あんた・・・ゲンヤさんかい?」

 

 

「・・・ん?いや?俺は幸夜だぜ?親父の名前は幻夜だが、何か用か?」

 

 

そんなアリスを見続けていると、農家のおばさんに話しかけられる。

俺は聞き慣れた名前に疑問を抱きながら、おばさんに答えた。

 

 

「そのお父さんってのは、髪が緑色の目の細い人かい?」

 

 

「・・・喋り方の軽い、やけに子供に優しい?」

 

 

「そう!そうだね!なんだ、アンタあの人の息子かい!?」

 

 

そりゃ一大事だ!とおばさんは笑い、大声で叫んだ。

 

 

「ゲンヤさんとこの息子が来たよー!」

 

 

畑を耕していたおじさんや、豚の世話をしていた若い男性達が瞬く間に集まり、鶏と打ち解けたのか鶏を抱えるアリスと俺を囲んだ。

 

 

「あのゲンヤさんに息子がねえ!まあ奥さんも美人さんだったからねえ!」

 

 

「ゲンヤさんは元気か!?あの人俺たちの村に突然麦の種をばら蒔いたんだぜ!」

 

 

「そうそう!それで奥さんの方も瞬く間に麦を育ててねえ!確かにゲンヤさんに似てるよ!あの人に似て目が鋭いねえ!」

 

 

「しっかし、ゲンヤさんと同じように綺麗な人連れてるよなぁ!」

 

 

わいわいと俺とアリスを囲み、親父や母さんの話をする。

要は親父が気まぐれか何かで不作の続いたこの村に麦の種をぶちまけ、母さんが育てたらしい。揃いも揃って訳分かんねえことしやがる。

唐突に種蒔きを始めるのは流石の一言に尽きる。

 

 

「・・・あの、俺は親父や母さんと違って種を育てる力は無いですし、隣にいる子も嫁とかじゃありません。俺はただ街を見たことのなかったこの子と偶々訪ねただけです」

 

 

「良いんだよ!あたしらからすればあのゲンヤさんの知り合いが来たってのが嬉しいんだから!ド田舎だけどゆっくりしていきな!」

 

 

「嬢ちゃん、つまるところ牛の世話とかをしたことないんだろう?折角だからうちに来な!コウヤさんと一緒においで!えっと、嬢ちゃんの名前は・・・」

 

 

「あ、アリス、アリスです!」

 

 

「そうか!アリスちゃんか!早速来るかい!?」

 

 

「はいっ!」

 

 

元気に牛の世話をしていた男の人に返事をしたアリスは、俺の手を引いて駆け出し始めた。

よっぽど嬉しいらしい。

念の為言っておくが、俺の意思で手にした物は武器に変化するので俺がアリスの手を掴んでも武器になることはない。なったら怖い。

 

 

____________________

 

 

「コウヤ!お前鬼な!」

 

 

「さんを付けろちびっ子共ー!」

 

 

「うおっ!速っ!?」

 

 

「ハハハ!そら逃げろ逃げろ!」

 

 

牛の世話を終え、アリスは農家のおばさんと麦を刈りに、俺は広場を走っていた子供達に集られ、仕方なーく病み上がりの体で鬼ごっこに興じている。

 

 

「ほいっ、捕まえた!」

 

 

「コウヤ速すぎ!手加減しろよ!」

 

 

「そうだそうだ!大人気ないぞ!」

 

 

「ざんねーん、まだ十五くらいですー。お前らより七つくらいしか年上じゃねーんだぞー」

 

 

「私と同い年なの!?」

 

 

「どおぁっ!?」

 

 

後ろからアリスに声をかけられ仰け反ってしまう。

 

 

「あ!ご、ごめんなさい!」

 

 

「・・・いや、気にしてねえけどよ。俺幾つだと思ってたんだよ」

 

 

「二十、五?」

 

 

「老けてんなぁオイ!?」

 

 

「でも、同い年で良かった!」

 

 

「・・・そうかよ。麦刈りは?」

 

 

「終わりよ。楽しかったわ!」

 

 

ついアリスの笑顔から顔を逸らしてしまった。

何をしてるんだか。

 

 

「あっ、コウヤ顔赤いぜ!」

 

 

「ほんとだ!赤いぞー!」

 

 

「マジか!?そんなに赤いか!?」

 

 

「照れてやんのー!でもアリス姉ちゃんならしかたねーよなー!・・・アリス姉ちゃん!姉ちゃんも鬼ごっこやろうぜ!」

 

 

「良いの?」

 

 

「良いの良いの!コウヤが速すぎるからみんなで逃げるんだぜ!「おい待て小僧俺が鬼のままか」行くぞーっ!にげろーっ!」

 

 

十人程度の子供達とアリスが蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

 

「・・・逃げられると思ってんのかぁ!?待てコラァ!」

 

 

「「「キャーッ!」」」

 

 

この後全員捕まえたのと、

アリスの足が相当遅かった事を記しておこう。

 

 

____________________

 

 

「またなコウヤ!」

 

 

「さん付けろって言ってんだろ小僧!」

 

 

「アリス姉ちゃんはもっと足速くなれよー!」

 

 

「バーカ!か弱い女の子に足速くなれとか言うんじゃねえよ!それに俺から逃げ切ってから言ってみろ!ノロマ!」

 

 

「・・・チクショーッ!次は逃げ切るからな!」

 

 

「やってみろちびっ子共!」

 

 

「今日は助かったよ、またおいで!」

 

 

「はいっ!」

 

 

「いやあ俺たちも人形みたいな綺麗な顔見れて満足だよなぁ!いやあ眼福眼福!嫁さんより綺麗なんだもんなぁ!」

 

 

「貴方・・・?」

 

 

「ヒッ!?・・・いやあそんな事ないじゃないか今のは言葉の綾というかその場のノリというか美辞麗句と言うかだからその手を何卒お控えくださガッ!?」

 

 

「・・・まあ、毎度毎度五月蝿いが、また来な、嬢ちゃん、坊主」

 

 

「なーにカッコつけてんだい!禿げるよ!」

 

 

「う、うるせえやい!せめてジジイにカッコつけさせろい!」

 

 

「あ、あはは・・・」

 

 

まあね、と最初に会ったおばさんが俺とアリスの肩を掴んだ。

 

 

「またおいでよ!いつでも待ってるからね!」

 

 

その時抱いた感情は、親父の持っていたものに少し似ていた。

 

 

____________________

 

 

「・・・ところで、アリスってなんでこの前魔法使いの話振ってきたんだ?」

 

 

「え!?」

 

 

アリス宅。

今日の事が相当楽しかったのか、日記のようなものを書いていたアリスの手が止まった。

 

 

「い、いや、べ、別に他意はないのよ!?」

 

 

「じゃあそこの棚の上のエリクサーは?「嘘!?あそこのはちゃんと隠して」あるじゃねえか。隠した事バラしてどーすんだよ」

 

 

しまったというようにアリスの顔がこちらを向いた。

その顔が余りにも驚いていたので、俺は吹き出した。

 

 

「ぷっ、なんだよその顔。顎外れそうじゃねえか」

 

 

「・・・っ!し、失礼ね!」

 

 

「わりーわりー」

 

 

「・・・いつから分かってたの?」

 

 

アリスの声が若干重くなったので、俺も真面目モードに変える。

 

 

「前から。細かく言うと二日目辺りからそんな気はしてた」

 

 

「ほぼ最初じゃないの!」

 

 

「あんなの見つけられない方がおかしいんだよなぁ」

 

 

むう、とアリスは頬を膨らませた。

・・・だからそこで心拍数増えるんじゃねえよ。

 

 

「・・・なんで指摘しなかったの?」

 

 

「俺の知り合いに魔法使いがいるんだよ。親父は親父で魔道書の原点書いた人だしな。少なからず魔法ってのに接点はあった。俺は使えねえけどな!」

 

 

親父と違い世界を書き換えるなんて事が出来ないので、俺はごく一般的な魔法に関しては非才の妖怪だ。

親父が使えないくせに使えることにしたせいで崩壊しているだけであって、そもそも妖怪が魔法を使えるなんて事は滅多にない。

 

 

「お父さんがゲンヤって聞いたけど、もしかしてあのゲンヤ?」

 

 

「どの幻夜だよ。緑髪に細目、おちゃらけた常子供みたいな奴のくせにある地方で守り神認定されてるガーデニングが趣味の妖怪か?」

 

 

「後半は全然知らないけど、前半なら聞いた事があるわよ。やっぱりゲンヤさんがお父さんなのね」

 

 

「俺からすればマイナスでしかないけどな」

 

 

「そうなの?」

 

 

「まあな。色々あるんだよ」

 

 

親父に挑み、早くも数千敗。未だに無勝。

年の差、経験の差、能力の差。そんな言い訳じみた理由が全て重なり、親父を越える事がほぼ不可能でそれを認めるのに腹が立つから。

アイツが親父でなければ今の強さでも少しは誇れたのに。

そんな単純な癇癪じみた惨めな理由。

先生やオルゴイさんには常に言ってきた事なのに、何故かアリスには会いたくなかった。

理解不能だ。

 

 

・・・気分が悪い。

話を変えよう。

 

 

次回へ続く




最近精神不良が続いております。
ひょっとしたら二ヶ月ほどお休みを頂くかもしれません。



次回もお楽しみに。


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第八十七話 魔法

私絵を描くと人の目を潰せる自信があるんですが、絵の上手い人って本当に凄いですよね。
羨ましいですね。


ゆっくりご覧下さい。


「ところで、アリスが使う魔法ってなんなんだ?」

 

 

「わ、私?」

 

 

俺は話を変え、アリスについての話題に変えた。

 

 

「ああ。いやなんだ、俺の知り合いは火やら水やらを扱うのを得意としてるんだが、世の中には力の向きを変えたり事象を書き換えたりする魔法使いがいてだな。そう考えるとアリスも変わった魔法を使うかもって思ってな。興味本位だから嫌なら流してもらっていいぜ」

 

 

「良いわよ。えっと、簡単な治癒魔法と・・・見てもらった方が早いわね。見てて」

 

 

ぴょこり、と俺の座っていた椅子の横の人形が立ち上がる。

僅かにアリスの手の指が動いており、それに呼応するように人形は動き始めた。

いやすげえなオイ。

 

 

「ど、どう?」

 

 

「・・・わりー、普通に感動した。というかそんな精巧な魔法があるんだな」

 

 

「そ、そう?」

 

 

にへら、とアリスの頬が緩んだ。

可愛い。

 

 

「・・・じ、じゃあ、幸夜は特技とかあるの?」

 

 

俺は言葉が詰まった。

 

 

「・・・いや、無い。強いて言えば親父の身体能力を引き継いでる程度だ。親父みたいなふざけた能力は持ってない」

 

 

「そうなの?・・・お父さんもそんなふざけた能力なの?」

 

 

「親父の能力は一人で成り立ってるものじゃ無いからな。親父に恐怖した人間の数親父は強くなるんだ。そんな能力が遺伝するわけもなく俺は能力無し。ただちょいと運動能力が高いだけだ」

 

 

・・・何故だろう、また俺の何かが能力を言うことを拒んだ。

何がしたいんだろうか、俺は。

確かにドン引きされるだろうが、そんなに嫌がる事だろうか?

いやまあ?最近面白かったから神話やら伝説やら読み漁ってたら武器の知識増えたけど?

普通木槌でかのミョルニル出るかね。そりゃ槌繋がりだが。

尚、親父は俺が出した武器と全く同じ武器を無から生み出して相殺してくる。ボケが。

 

 

話を戻そう。

深層意識なのか意思と本能が背反しているのかは分からないが、語ろうとしないなら語るのをやめておこう。

確かに、アリスに能力で避けられるのは嫌だな。

理由はわからんが。

 

 

「ところでさっき、人形動かしてたよな?あれどうしてるんだ?からくり人形みたいな奴か?」

 

 

「そうよ?なんで分かったの?」

 

 

「親父が何もなしの遠隔操作で物を精巧に動かすのは苦行って聞いたからな。出来る可能性はあったが、それなら人形は一体で良いからな。大勢いるってことは全部動かせるんだろ?」

 

 

「まあね。・・・やっぱり何もなしで遠隔操作は誰でも厳しいのね」

 

 

百個程度なら己の意思で生きてるように動かせる人いるけどな。しかも片手間に。

まああの人は人間じゃないけどな。神様だし。

 

 

「・・・ま、十分人形を動かせるってので凄いと思うけどな。憧れる」

 

 

「そ、そう?・・・えへへ」

 

 

ん゛ッ・・・!?

今のは分からなくもないが、こうしょっちゅう精神面でエラーが出るのはやめてほしい。

照れてるのか俺は?

 

 

はにかむアリスに笑いながら、俺はぴこぴことアリスの感情に呼応するかのように動く人形を見て更に精神をやられた。

可愛すぎかよ。

 

 

「しかし・・・この人形、もしかして全部手作りか?」

 

 

「あ、分かった?」

 

 

「いやマジかよ」

 

 

冗談で言ったんだが。

しかしよく見ると少しだけ髪型が違っていたり、目元が違っていたりする。全く同じ子がいない。人形への愛が深い。

 

 

「凄えな。これもう一種の芸術だろ」

 

 

「そんな、そこまで褒めなくても・・・」

 

 

その嬉しそうに顔隠すのやめてもらえませんかね。直視出来ない上に頭が熱くなるんだが。

ええいなんだこの感情は。

・・・愛情ヤデ

誰だお前!?

 

「えへへぇ・・・あれ、幸夜?」

 

 

「わっ、とっ、たっ!?な、なんだ!?」

 

 

ホントに誰だ今の。

脳内でのコメディじみた会話に気を取られていたせいで、アリスに呼ばれ慌ててしまった。

アリスは俺を見ると、首を傾げた。

 

 

「何慌ててるの?」

 

 

「いや、なんでもない」

 

 

アリスは、へんなの。と言い、話を変えた。

 

 

「ところで幸夜、体は大丈夫?」

 

 

「ん、ああ。街にも行けたしな。ほぼ問題ない。ありがとな、アリス」

 

 

「いいえ。良かったわ」

 

 

「ああ。・・・そろそろ潮時かな」

 

 

「・・・そっか」

 

 

「今までありがとな。楽しかったぜ」

 

 

身だしなみを整え、体の関節を回して状態を確認する。まあ子供と走ってたけどな!

異常がないのを確認し、俺は玄関へと向かった。

 

 

「あのっ・・・!」

 

 

「ん?」

 

 

アリスに呼び止められ、俺は振り向く。

 

「あっ・・・その、あの、元気でね!」

 

 

「・・・ありがとう」

 

 

俺は玄関のドアを開け、森を駆け抜ける。

館までそれほど帰るのに時間はかからなかったが、ずっとアリスの最期に見せた顔を思い返していた。

なんで陰ってたんだろうか。

そして何故、俺も気分が陰ってるんだろうか。

 

 

____________________

 

 

「・・・と言うわけで、こう言った経緯がありました。お騒がせしました。帰ってきました」

 

 

「戯けが。皮を剥いで串刺しにするぞ」

 

 

「戻れ馬鹿野郎」

 

 

「・・・え?」

 

 

俺が経緯を説明し、帰ってきたことを述べると、オルゴイさんは顔を顰め、先生はそれがマシに見えるほど顔を歪めていた。と言うかオルゴイさんから殺意溢れてるんですが。

やがて先生が溜息を吐き、首を横に振った。

 

 

「お前さ、最期にその子はどんな顔してたんだ?」

 

 

「・・・陰ってました」

 

 

「理由が分かるか?」

 

 

「・・・いえ」

 

 

「お前俺が言うのもアレだがクソ野郎だな。お前な、あんな辺境の森に一人で生活してて寂しいとか思わんのか?」

 

 

「それは・・・」

 

 

「口閉じろ反論すんな。あの子からすればお前は珍しい来客で、相当仲良くなってるんじゃないのか?それでお前は唐突に帰るわ、ありがとう?そりゃまあそう言って帰ればいいさ。・・・ただ、女の子悲しませるのはよろしくないと思うんだなこれ俺の事じゃねえか。・・・ともかく、もう一回行ってやれ。・・・あかん、肝心の話が出来ん、オルゴイ、パス。そして祖先の串刺し公風はやめろ」

 

 

「私か?んんっ。・・・幸夜。お前は帰る時、その子が気にならなかったか?ああ、私には答えていいぞ」

 

 

「・・・確かに、頭の中には残りました。後、何度か知らない感情も湧き出てきましたし、なんかこう、なんでこんな事考えるんだって事ばかり出てくる不思議な時間でした」

 

 

「もう一度会いたいと思うかね」

 

 

「そりゃ・・・まあ、会えるなら」

 

 

うむ、とオルゴイさんが頷き、先生が俺に鞄を投げた。

 

 

「ならば行ってきなさい。幸夜。我が家で働くのはその後だ。その感情が何か、その気持ちにどう向き合うか。そういったとき、お前が何を重んじて何をすべきか考えるといい。それが終わってから再度来なさい。今ではここで働くのには不十分だ。私が欲しいのは働く者であって、戦闘人形ではない。戦闘は事足りているからな。であるな、龍神」

 

 

「・・・要はクビだクビ。一旦出直してこい。お前はまだ十数年しか生きてねえんだから、ソレ体験するのはいい経験になるさ。親が教えられるものじゃねえからな、それは」

 

 

「そんなものがあるのか・・・?」

 

 

「まあな。親だって万能じゃねえんだよ。お前に親が向ける感情と、他人がお前に向ける感情は似て異なるものだ。それは親から伝えるのは難しいからな。もうそろそろ年なんだから、親に依存すんなよ」

 

 

「さっきから若いだのそろそろ年だの無茶苦茶ですね」

 

 

「そんなもんなんだよその年齢は。行くか?」

 

 

俺は頷いた。

俺自身の感情が気になったのもあるし、何より、アリスの事が心配になってきた。そもそも知ろうとしたばかりではないか。今帰る場所が強制的に無くなった今、尚更良い機会ではないか。

・・・そうだよな、あんな顔してたのに帰ってくるのは最低だな。

 

 

「んじゃ、今回は直接送り届けるぞ。・・・お前ら一切合切余計な事喋んなよ。・・・紫、いるか?」

 

 

先生が空間を開き、誰かの名前を呼んだ。

 

 

「龍一・・・元気かな・・・」

 

 

「っっっ・・・悪いけど今呼んでるんだよなあ」

 

 

「ぴゃぁぁぁぁぁ!?」

 

 

紫と呼ばれた女の人は空間の奥ですっ転びながら先生に迫った。

 

 

「りゅ、龍一!?な、なんで今呼んだの!?」

 

 

「手伝って欲しい事があってな。幸夜をある場所まで送り届けて欲しいんだ」

 

 

「いいけど・・・私、そんな正確に送れないわよ?」

 

 

「気にすんな、俺が場所を指定するから、そこに送ってくれ」

 

 

「あ、なら出来るわよ。・・・ところで、幸夜って幻夜さんの子供の?」

 

 

「そうそう。いま二十歳の前。ああ、幸夜、挨拶はしてもいいぞ」

 

 

「そうなのね・・・あ、幸夜君、今日は。私は八雲紫。幻夜さんの知り合いで、その、龍一の・・・」

 

 

紫と名乗った綺麗な金髪の女の人は、先生をちらちらと見ている。

なるほど、つまりそういう事か。

 

 

「奥さんですか?」

 

 

「奥っ・・・!?」

 

 

「テメッ・・・バーカ!このお前、バーカ!余計な事喋んなっつったろ友達だ友達!後俺の弟子な!良いから送れ!」

 

 

「そ、そうよね!!じゃあ送るわよ!幸夜君、荷物は持った!?」

 

 

「あ、はい。奥さんと間違えてすいません。・・・後、俺を送る作業、失礼ですけど先生だけでよくないですか?」

 

 

紫さんは一瞬ぽかんとした表情になり、先生の方を向いた。

 

 

「確かにそうよね!?なんで私呼んだの!?」

 

 

「・・・別に」

 

 

「何よ別にって!気になるじゃないの!」

 

 

先生は苦虫を噛み潰して味わっているような顔をして、すぐに顔を背けた。

 

 

「・・・お前の顔が見たかっただけだよ」

 

 

「・・・はひ」

 

 

「・・・っ!転送ォ!全部テメエのせいだクソガキ!失せろクソボケがァ!」

 

 

「今ですかァ!?」

 

 

結局、俺は紫さんに送られる事なく、謎にキレた先生に吹っ飛ばされるように森の中へ送られた。

そのまま景色が変わり、森になった直後地面に激突し、地面に仰向けに寝転んだ。

 

 

顔を上げると、ついさっき離れた家と、離れた相手が呆然と俺を見ていた。

とりあえずどうしたら良いのか分からなかったので、俺は微笑んだ。

 

 

「ただいま、かな・・・?」

 

 

次回へ続く




オマケ

龍「お前の顔が見たかっただけだよ」
紫「・・・ホントに、それだけ?」
龍「・・・おう」
紫「ありがと。・・・その、元気でね」
龍「お前もな。・・・あのさ、紫」
紫「え?」
龍「俺、お前の事が・・・す」
フ「お父様!お絵かきしよー!」
レ「あ!こらフラン!今はダメ・・・!?」
紫「す?」
龍「・・・すっげえ心配だったんだ!元気そうでよかった!」
紫「そんなに!?「おうともよ!」ふふっ、・・・ありがと。大好き」
龍「・・・そうか」(内心発狂中)
オ「(アホかこの龍神)」

この後それぞれが見えなくなってから自分の空間に逃げ込んで悶絶する龍神とスキマ妖怪までがワンセット。
今回喜ぶべきは饕餮がいなかった事。


次回もお楽しみに


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第八十八話 お世話になります


この前歯科医に行ったんですが、未だに一度も虫歯だと言われたことがないんですよね。
あれ個人差があるんですかね。


ゆっくりご覧ください。


「おかえり・・・じゃなくて!どうして帰って来たの!?」

 

 

「え?ああ、その、心配だったから?」

 

 

「何が?」

 

 

「・・・アリスが?」

 

 

「わ、私?」

 

 

先生に吹き飛ばされ、アリスの目の前に帰ってこれたのは良いが、到着早々変な雰囲気になって来た。

ええい、さっきから体がウズウズする。

 

 

「な、なんで私?」

 

 

「え、いや、分からん、が、気になって仕方がなくなって来た、から?」

 

 

「な、何を心配してたの?」

 

 

「・・・なんだろうな」

 

 

「・・・変なの。・・・上がる?」

 

 

「良いのか?」

 

 

「何躊躇するのよ・・・上がりなさいよっ!」

 

 

何故か口調が強くなったアリスに急かされるようにアリスの家に飛び込んだ。

アリスの顔が赤いのはなんでだろうか。やはり怒らせたか。

 

 

「・・・で、本当に、その、わ、私が心配なだけで、来たの?」

 

 

椅子に座らされ、紅茶を出してもらい、さて何か怒られるかと身構えていたが、アリスからはそんな質問が帰ってきた。

 

 

「ん?まあ、館に帰る時にちょっと引っかかったからな。帰ってすぐ・・・あ、 迷惑だったか?」

 

 

「そんな事ない!・・・あ、ごめんなさい。その、すごく嬉しいんだけど、本当かどうか気になって・・・」

 

 

「そんなくだらねえウソつかねえって」

 

 

「そ、そうよね!・・・その、ありがと。心配してくれて」

 

 

「お、おう・・・」

 

 

なんだこの空気。・・・なんだこの空気!?

気まずい、と言うか凄まじいほど居心地が悪い!不機嫌な先生とオルゴイさんに挟まれて茶を飲む時より異物感が強い!

 

 

「・・・あー、その、アリス?」

 

 

「な、何っ!?」

 

 

「紅茶・・・美味いよ、ありがとな」

 

 

「え!?ああ、そそそう!?・・・お、お代わり入れてくるわね!!」

 

 

ガチャガチャと前までならあり得なかった慌てようでアリスは俺とアリスのカップを持ち、新しく淹れに向かった。

 

 

「・・・なんだこの空気は」

 

 

急にこんな空気になるとか聞いてねえんだけど。

先生の言う感情ってこのことか。

苦しい上に気持ち悪い。

ただ、居心地が良いのは否めない。

 

 

「い、淹れてきたわよ!?」

 

 

「あ、ああ、サンキュー!」

 

 

俺は一度思考を止め、あとで考えようと思い、手元のカップとアリスが飲んでいるカップを見て俺は言った。

 

 

「あの、アリス」

 

 

「こ、今度は何!?」

 

 

「カップ逆なんだけど」

 

 

「ブッ!?」

 

 

アリスの吹き出した紅茶が顔に掛かり、紅茶の香りが俺の嗅覚を埋め尽くす。俺は目をやられて立ち上がった。

アリスは小さく悲鳴をあげ、俺はわずかに目を開く。アリスは立ち上がると、タオルを持って俺に駆け寄ろうとして蹴つまずいた。

怒涛の展開すぎる。

そのままアリスは俺を押し倒すように倒れ、俺は床に背中を打ち付け、上にアリスが乗ってきた。

顔と顔が密着しそうになり、目が合った。

赤くなるアリスと、紅茶の匂いをまだ振りまく俺。

・・・などと考えとる場合かぁッ!?

え?これどうすんの、ファッ!?ワッッ!?

 

 

「幸夜・・・」

 

 

「・・・別に、このままでも良いけどな」

 

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?なんで!?アリスもアリスでそのまま離れずになんでそのままもたれかかってくんの!?

てかその後喋ってんの誰!?俺!?

このメチャクチャな思考の中俺の体は何をしてんの!?

 

 

「幸夜」

 

 

「アリス」

 

 

そのままアリスは目を閉じ、俺も目を閉じ・・・

え?マジ?マジでやるの?この空気で?流石に親父もやらないかなーと。ああはい、やるんですか俺の体は。

 

 

紅茶に入っていたレモンの味がした。

 

 

____________________

 

 

「で、(俺も含めて)頭大丈夫?」

 

 

「・・・ごめんなさい」

 

 

俺はようやっと渡してくれたタオルでべたついた紅茶を拭き取り、アリスにジト目を送る。

いやまあ俺も頭の中は混乱してたけどね!

 

 

「その、嬉しかったの」

 

 

俺は改めてちゃんと入れ替わったカップで紅茶を飲んで飲んどる場合かぁッ!?

 

 

「・・・何が?」

 

 

「・・・初めて、私を気にかけてくれた人が出来たから、その、こんな気持ち初めてで・・・」

 

 

「そうか・・・。でも流石にあれはないと思うんだよなぁ」

 

 

「う・・・貴方も避けなかったじゃない」

 

 

何カッコつけてんですかね俺は。

おそらくアリスより脳味噌混乱してたと思いますけどね。

・・・まあともかく。俺も理解不能な状態ではあったが嬉しかった。

 

 

「ごめんって。・・・そのな、俺も嬉しかった。初めてこんなに気になった相手がいて、揃いも揃って慌てて騒いで。・・・街に一緒に出たのも楽しかったしな」

 

 

ただこの感情は如何様にして表すのか。

友達で良いんだろうか。まあ俺は何を隠そう人間の友達いないんですけどねぇ!!

 

「だからその、なんだ?さっきのも嫌ではなかったんだが。・・・こう言う時ってなんて言えばいいか・・・ああくそっ、なんだ」

 

 

「私は幸夜が好き」

 

 

「んあ?」

 

 

「だから。・・・私は幸夜といて楽しくて、心配してくれるのが嬉しくて、ちょっと格好良い幸夜に対して、私は好きだと思ったの」

 

 

「何処が格好いいのやら。・・・じゃあ、俺も好きって奴なのかもしれない。でも、そんな時って何すりゃいいんだ?何か言うべきことでもあるのか?」

 

 

アリスは紅茶を一口飲み、笑った。

 

 

「しばらく、一緒にいてくれる?」

 

 

「・・・そんな事で良いなら、喜んで。元からそのつもりだったからな」

 

 

「・・・ありがと」

 

 

「ああ。・・・そう言えばさ、俺が紅茶淹れてみても良いか?前までほぼ寝たきりで何も返せてないからさ」

 

 

「淹れられるの?」

 

 

「お前俺をなんだと思ってんの?」

 

 

俺の評価どーなってんだろうな。と思いながらティーポットとカップに湯を注ぎ、別の容器で水を沸かす。

ポットの湯を捨て、中に茶葉を一摘み入れて沸騰した湯を注ぐ。

蓋を閉めて時間を置き、蓋を開けてスプーンで軽く混ぜ、茶葉を漉して紅茶の準備は完成。

 

 

「んで・・・どうするんだったかな」

 

 

アリスが驚いた表情で俺を見ている。

まあおそらく俺ってこんな丁寧に紅茶淹れるんだ。辺りだろう。

母さんは勿論、腹立つ事に親父も上品なせいで俺は外見の割には作法頭に入ってるからなぁ。

 

 

左手でカップの湯を捨て、俺の腰辺りにまで下げ、右手でティーポットを持ち、頭の上まで持ち上げ、ゆっくりとその高さから紅茶を注ぐ。

 

 

「え、ちょ、溢れ・・・」

 

 

紅茶の滝は吸い込まれるようにティーカップめがけて流れ落ち、ティーカップに徐々に紅茶が満たされていく。

やがて紅茶で満たされたカップをそっとアリスの前に置くと、アリスは硬直した。

 

 

「・・・いや固まるなよ、飲めよ」

 

 

「あ、ごめんなさい!・・・頂きます」

 

 

アリスが一口紅茶を含む。

何も言わなかった。

そのままアリスは紅茶を飲んでしまい、結局飲む間感想を述べなかった。

アリスは俺を睨むと立ち上がった。

 

 

「・・・すごく美味しかったんだけど」

 

 

「睨みながら言う台詞じゃねえだろ」

 

 

良かった。美味かったらしい。

 

 

「だって予想できなかったんだもの!!と言うかさっきの曲芸みたいな淹れ方は何!?」

 

 

「貴族の嗜み」

 

 

「嘘言わないで!あんな事する貴族がどこにいるの!?」

 

 

「冗談通じねえなあ。親父からだよ親父から」

 

 

「そこで冗談言う必要無いじゃないの!」

 

 

「ごめんって。そう怒るなよ」

 

 

「・・・だって、これじゃ、私が幸夜に紅茶淹れてあげる意味ないじゃない」

 

 

しょぼくれたようにアリスがそっぽを向く。

え、何この子。・・・何この子。・・・なんやこいつゥ!?

いや、え?え?・・・え?

俺にこれから常淹れてくれる気だったの?わざわざ?そんな健気に?

 

 

「俺これからコーヒーしか淹れねえわ」

 

 

「なんで!?」

 

 

「そんな事言われて紅茶淹れる気になるわけないだろ!はい決めた!俺これからアリスが淹れた紅茶しか紅茶は飲まない!今決めた!」

 

 

「そんな・・・え、ちょ、そこまでする!?」

 

 

「やる(即答)」

 

 

「そ、そう・・・?」

 

 

俺の勢いに困惑しながらも、アリスはふにゃりと顔を緩めた。

コーヒーしか入れなくなるのは当たり前だよなぁ?ナイス判断俺。珍しくよくやった。

 

 

「そ、そこまで言うなら、よ、喜んで淹れてあげるしかないわよね・・・」

 

 

「ッッッー!!・・・はい落ち着け幸夜、俺は親父じゃない俺は親父じゃない俺は親父じゃない・・・セーフ。んじゃ代わりに今晩は飯作ろうか?」

 

 

「作れるの!?」

 

 

「お前俺をなんだと思ってんだ!」

 

 

流石に怒った。

後料理は満足頂けたようだが怒られた。

 

 

難しい。

 

 

 

次回へ続く





ありがとうございました。


次回もお楽しみに。


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第八十九話 狩人

幾分か書けるようになりました。
最近ダラダラ投稿でしたからね、申し訳ありません。


ゆっくりご覧ください。


アリス宅。

病床を除き改めて在住して既に二日。

俺はアリスの代わりに力仕事を手伝っていた。

 

 

「・・・じゃ、薪切ってくるわ。・・・外に出るなよ」

 

 

「どうして?いつも出てるわよ?」

 

 

「表に熊の爪痕があった。薪切りも兼ねて狩ってくる」

 

 

「・・・大丈夫なの?」

 

 

「熊程度楽勝に決まってんだろ。そもそも向こうの理解が速けりゃ追い払うだけだしな。心配してくれてありがとな。・・・昼過ぎには帰る」

 

 

俺はアリスから借りた鉈と鋸を担ぎ、狩りに向かう。

暫くすると、焦げ臭い匂いが木々を抜けて鼻をついた。

一番嫌いな奴らの匂いだ。

 

 

「・・・ダボカスが。熊で良かったのにここまで狩りに来やがって」

 

 

鋸と鉈の両方を右手に持ち、形を変える。

ノコギリ鉈の完成。こいつは基本糸鋸の様な形に巨大な鋸刃が付き、伸ばせば鉈になる。

薪より脆く、しかし切りたくないものを切るために俺は姿勢を低くする。

獲物は四匹。

 

 

目前の草が揺れた直後俺はそれに飛びかかった。

鋸刃を押し当て、そのまま縦に引き下ろす。

絶叫と血が噴き出し、俺の顔と服を染めた。

ガシャガシャと剣が抜かれる音がしたが、俺は抉り引き裂いた鋸を鉈に変え、二匹分の首を力任せに吹き飛ばした。

 

 

最後の一匹は背後にいたらしく、剣を振りかざして俺に迫る。

俺はノコギリ鉈で受け止め、近場の木に剣を叩きつけてめり込ませた。

空いた腹部に右腕をぶち込み、内臓を引き千切り地面に叩きつけ、鉈を振り下ろしてトドメを刺す。

血を浴びて全身が汚くなった。

 

「・・・ッ!あ゛ーっクソ!汚ねえなあ!」

 

 

息を吐き出し、言いたい罵声をひたすら口に出して吐き出しまくる。

狩った相手は既に物言わぬ骸になっているので、遺骸を四匹のつけた火の中に放り込んだ。

そしてこれ以上火が広がらないように周りの木を刈り取り、俺は川でノコギリ鉈にこびり付いた血と肉を洗い流し、元の鋸と鉈に戻した。

 

 

無論、今先程狩り倒したのは人間であり、ここ最近増えた奴らだ。

何故か知らんがこの森を燃やし、やれ異端は狩るだの神の名の下にだの吠える。

俺にとっての神は先生のみであり、それ以外は害なすものであれば唾を吐き、殺れるなら殺る。親父にもそう教えられてきた。

と言うわけで熊より弱く数の多い獣だ。数が増えると猪よりは面倒だ。

 

 

それはともかく、アリスにどう言い訳をつけようかと血で固まった髪を水で洗い流していると、薪が流れてきた。

人が作ったような枯れ木を割ったものではなく、まるで生きていた木を切ったようなものだ。

しかも切り方は刃物で切ったというよりは、自然に落ちたような形だ。

・・・この森は確かに異端で、害になるのならそれはとんでもない脅威だろう。

だがまあそんなに悪い奴でもない。

 

 

「・・・貰ってくぞ。解決はしてねえが、ありがとな。なんかあったら言えよ」

 

 

ほんの僅かに木の葉が揺れた。

 

 

____________________

 

 

「って事で、四メートル越えの熊に襲われ、襲い返して仕留めたものの、返り血で血みどろになった。川で洗ったが俺で分かるくらい獣臭いし血生臭いから寄るなよ。後何本かその時に濡れて、表で薪干してるから、もうじき更に使えるぞ」

 

 

「・・・だから水でぐしょ濡れなの?」

 

 

「まあな。粘着質の赤い液体よりは幾分かマシだろ。・・・ああ、後鉈と鋸汚しちまった。悪いが新しいの街に買いに行くわ」

 

 

「幸夜が無事なら、別に鉈程度良いわよ・・・」

 

 

アリスが恥ずかしそうに顔を逸らす。

俺も恥ずかしくなり顔を逸らす。

うわ、くせえ。血の匂い落ちてねえじゃねえか。台無しだよ馬鹿野郎。

 

 

「・・・すまん、着替えてくる。流石に匂いがキツすぎる」

 

 

「替えあるの?」

 

 

「同じのが何着かな」

 

 

短いマントのついた長袖長ズボンの黒いコートは俺のお気に入りだ。

先生が似たようなのを着ていると言うのもあるし、何より血が払いやすい。夏は暑いが。

先生はグレーを愛用しているが、よく血で汚れている。親父曰く先生は血を流さず相手を殺せるはずなのだが。

 

 

俺はアリスから借りている物置兼俺の部屋に入り、まだ血の匂いのするコートを脱ぎ、新しいものをクローゼットから出す。

そういや親父は同じ服装を続けてしないが、あの人何着あるんだろうか。

 

 

「幸夜ー、パイが焼けたけど食べるー?」

 

 

「食べるー」

 

 

「じゃあ降りてきてー」

 

 

ま、どうでも良いか。

アリスの声に応答し、俺は階段を降りる。

 

 

一階に降り、いつもの椅子に座る。

テーブルにはアップルパイが置かれてあり、アリスの人形の一体、上海が紅茶を運んでいた。

 

 

「ありがとな、上海」

 

 

「シャンハーイ」

 

 

「お前喋れたのか」

 

 

「何言ってるの?上海が喋るわけないじゃない」

 

 

「ん?」

 

 

「え?」

 

 

今こいつ喋った気がするんだが。

当の上海は首を傾げ、俺にだけ見えるように人差し指を口元に当てて自分で動いてんじゃねえか!

つまりアリスの魔法は完成していた・・・?

いやまあ良いか。上海が黙ってくれとこうしてジェスチャーしているわけだし。

 

 

「・・・いや、空耳だわ。まだ耳に水入ってた」

 

 

「そう?・・・もし一人でに喋ってたら気絶するわ。私」

 

 

おい上海、アリス気絶するってよ、喋るっきゃねえぞ。

上海に視線を移すと、器用にアリスから見えないようにティーポットに隠れて首を激しく横に振っていた。

分かってるって。

 

 

「・・・」

 

 

分かった黙るから!だからなんで知ってるか分からんがノコギリ鉈の構えを取るな!

・・・なんでコイツはノコギリ鉈を知ってるんだよ。さては俺の部屋の血塗れコートの下の設計図勝手に覗いたな?

とりあえず黙っとくよ。

 

 

「シャンハイッ」

 

 

よろしい!みたいなイントネーションで言うな。

 

 

「とりあえず食べましょ?感想も聞きたいから」

 

 

「はいよ。いただきます」

 

 

____________________

 

 

幸夜が食べ終えた食器を片付け、安楽椅子の上で眠る幸夜を眺める。

疲れていたのか、小さく寝息をたてて眉一つ動かさない。

私に警戒していないのが見て取れる。

 

 

そう言えば、今まで訪ねてきた人は皆私を警戒し、ぎこちない笑い方をするだけか、家を出るときに口汚く罵るだけだった。

そんな所も私からすれば新鮮で、心惹かれたのかもしれない。

 

 

「アリス・・・」

 

 

どきりと心臓が跳ね上がる。

ここ最近、幸夜に名前を呼ばれるだけで動悸が激しくなり、顔を見るだけで体が熱くなってしまう。

けれど、それが心地よく、私が幸夜を好きなんだとより強く思わせる。

 

 

「幸夜」

 

 

つい幸夜の名前を呼び返してしまい、口もとがにやけてしまう。

今誰も見ていないのが救いかもしれない。

待って、今幸夜と私しかいないのよね。

・・・もしかしても、今何してもバレない、のかしら・・・?

 

 

「落ち着きなさい私・・・!そんな事しちゃダメに決まってるじゃない!そ、そんな、寝てる間にキスなんか・・・!?」

 

 

・・・ああ、そう思うだけで恥ずかしくなってきた・・・!

いや、でも、頬くらいなら、バレない・・・?

 

 

「・・・そ、そうよね。寝てる幸夜が悪いんだもの。・・・ちょっとくらい、良いわよね・・・?」

 

 

「何が?」

 

 

「ぴゃぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

「シャンハイ!」

 

 

「バッ・・・オメーは黙ってろ!うるせえ!みてえなイントネーションで言うな!」

 

 

な、なんで!?ナンデ!?

こ、幸夜起きてる!?起きてる!?

じゃ、じゃあさっきの聞かれて・・・っ!?

と、とりあえず聞く・・・!?

 

 

「こ、幸夜?い、いつから起きてたの・・・?」

 

 

幸夜は気まずそうに顔を逸らした。

え、もしかしてまさかそんな

 

 

「幸夜。から」

 

 

「全部じゃないのよぉぉぉぉ・・・っ!?」

 

 

ぁぁぁぁぁ・・・

 

 

「ま、気にすんなよ。んで、恐らく壮大な脳内ドラマを展開されてたアリスさんや。・・・するか?やりたいなら俺は良いけど?」

 

 

ん゛っっ・・・!

目を逸らし恥ずかしそうに頬を掻く幸夜に全てを持っていかれ、抱きついてしまった。

 

 

「なんだ、そっちか・・・」

 

 

「違うに決まってるでしょ!」

 

 

幸夜と唇を重ね、より強く幸夜にしがみつく。

幸夜もしばらくした後、私を優しく包んでくれた。

 

 

「・・・こ、こっちに決まってるじゃない」

 

 

「・・・さいですか。・・・ちょっと眠気覚ましに外行ってくる」

 

 

「あ・・・」

 

 

するりと私の腕の中から幸夜が抜け出して行く。

私が名残惜しいせいで声を漏らしてしまうと、幸夜が咳き込んだ。

 

 

「う゛ぇっほ!?・・・あーもう!すぐ帰ってくるからその名残惜しそうな声やめろ!クソ恥ずかしいから涼みに行くんだよ!」

 

 

「・・・私も行っちゃダメ?」

 

 

「意味ねーだろ!!そろそろ暴走するぞ!?」

 

 

「・・・優しくしてくれるなら、良いわよ?」

 

 

「やめろって言ってんだろ!!」

 

 

幸夜は玄関を飛び出し、姿が見えなくなってしまった。

私は幸夜の椅子の前にいた上海を抱きしめ、呼吸を整えた。

 

 

「恥ずかしかった・・・っ!?」

 

 

暫くすると、狼のような咆哮が響き、幸夜は帰ってきた。

 

 

次回へ続く




さーて、また話がポンポン飛ぶと思います。
ご了承下さいませ。


ありがとうございました、次回もお楽しみに。


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第九十話 序列


幾分か書けるように(大嘘)
申し訳ありません。自分でも驚くほど時間がありませんでしたね。
以降も無くなりそうです。

ゆっくりご覧下さい。



最近、唐突ではあるが俺はアリスとかなり離れた別の場所に住むことになった。

とはいえ仲が悪くなったのでも、居心地が悪くなったのでも無い。

 

 

理由は二つ。

一つはアリスが魔法の研究を行うから。

研究する人間には床、壁、天井、あらゆる所に髪を貼り付け書きまくる人間が時々いる。

例えば親父とか、先生とか。

アリスもその癖があるらしく、部屋が散らかる。

それを俺が踏んで邪魔するわけにも行かないからと言うのが一つ。

 

 

二つ目は魔女狩りが目に見えて増えたと言う事。

最近の行いを振り返れと言われるかもしれないが、運良く魔女狩りに躍起になっていた人間たちは、手から武器を出す男を探している。

俺ですね。魔女じゃねえんだけど。

その為囮も兼ねてかなり離れた場所に情報を漏らしながら住んでいる。ちなみに吸血鬼狩りはここ周辺からいなくなった。不思議ですね。

 

 

無論、会えなくなる時間の方が多いので困るのだが、親切なことに紫さんがアリスの家に行く時に送ってくれることになった。

そう言えば先生の彼女っぽく見えたかと聞かれてはいと答えると嬉しそうに消えていった。あの人先生の事好きだよな。多分先生もだと思うんだけどな。なんで付き合わねえんだろ。

 

「なんて考えてると必ずと言っていいほどお客が来るんだよなぁ。休みねえのかな」

 

 

ベッドに寝転がっていると、鎧の音、足音、松明の炎とその匂いが俺の感覚を埋め尽くす。

俺はベッドから起き上がり、天井にぶら下がる紐を引いた。

 

 

「うわあ!?」

 

 

悲鳴が聞こえ、高いところから金属が落ちたような音と、肉が潰れる鈍い音がする。

紫さんとアリスの家への転送の話を先生の家でしていると、部屋にいた刀をぶら下げた刀傷の目立つ男の人に呼び止められ、お前は糸が使えるかと聞かれ、使えると答えた。すると糸を使う罠を教えてもらった。

先生、オルゴイさん、親父と違い、身体的なスペックで間違いなく負けると確信した相手だった。確か風魔だったか。

 

 

ついで机の上を掌で叩くと、落とし穴の中に落ちた生き残りの上にタライが落ちていく。ついで水が穴を埋め、やがて物音がしなくなった。

もう一度机を叩くと土が上から降り注ぎ、穴を塞いだ。

 

 

「誰だよこんな罠考えた奴・・・タライはいるのかよ・・・」

 

 

水を打ったように静まり返った広場を眺め、俺はコーヒーを淹れようと立ち上がり、豆を切らしていたのに気がつき、舌打ちをする。

 

 

「チッ、茶葉はあるんだがな・・・淹れたくねえしなぁ」

 

 

「お困り?」

 

 

「ああ、紫さん、ご無沙汰してます。今お茶淹れますね。俺が飲まなきゃ良い話なんで」

 

 

「いいわよ、お構いなく」

 

 

すっ、と机の横から紫さんが現れた。

冷静に対応できたが心臓に悪すぎる。

 

 

「まあ余ってるので、どうぞ。・・・で、なんのご用です?先生は来てませんよ」

 

 

「違っ・・・んんっ、そうじゃなくてね。アリスの事よ」

 

 

「アリスが?」

 

 

「ええ。・・・魔女狩りが増えてるのは、分かってるわよね?・・・最近あの子の方じゃ見なくなってるけど」

 

 

「まあその為に引っ越しましたしね。・・・まあ、最近食事の回数並みに来るようになりましたけどね」

 

 

「まあ、そうなのよ。・・・だから、あの子、ウチに誘わない?」

 

 

「ウチ・・・?」

 

 

紫さんは優しく微笑んだ。

 

 

「ええ。人と妖怪、誰もが笑える世界。それを今、私は作っているの」

 

 

「それ土地と人と実力と人のツテが要りますよね」

 

 

「ええ。確かにね。・・・否定はしないの?」

 

 

「否定出来るのは一度作ったことのある人くらいだと思いますけどね。第一そんな壮大な話、俺には良くわかりませんし。まあとんでもなく難しいんじゃないですか?」

 

 

「作ったことが・・・ええ、そうね。ありがとう。・・・今、八割程出来ているの。形は取れたから、人を集め始めているのだけれど、どう?」

 

 

「前提としてアリスが行きたいと言う事。魔女狩りに一度でも加担した人間がいない事。それさえ出来れば快く送りますよ。つか八割って凄いっすね」

 

 

まあ、と俺は一呼吸起き、紫さんに笑った。

 

 

「そん時は、俺もそっち行きますけどね」

 

 

紫さんは満足そうに微笑み、机に出したハート形クッキーを一つ食べた。

 

 

「そう。それは心強いわ。私としても実力者の知り合いが多いのは嬉しいもの。・・・あら、美味しい。見た目も可愛らしいわね」

 

 

「先生の手作りです」

 

 

「え?」

 

 

「先生が「紫がお前んとこに来るときに何も出せませんじゃ失礼だろ、これでも出しとけ」と家に置いていかれました」

 

 

紫さんは慌てたようにクッキーをもう一つ取り、俺とクッキーを順に眺め、恐る恐るといったように口を開いた。

 

 

「・・・じゃあ、これは、つまり、そう言う、事?」

 

 

「そうじゃないんですかね」

 

 

「ちょっとごめんなさいね」

 

 

紫さんが消えた。

五分が過ぎ、五十分が過ぎ、さらに三十分過ぎ、痩身の男の人が困ったように笑いながら、後ろに紫さんを連れて帰ってきた。

 

 

「・・・これは失礼、幸夜」

 

 

「・・・あんたは?」

 

 

「龍一の部下、侵二です。まあ覚えてませんよね。一応貴方を抱き抱えた事はあるんですが・・・」

 

 

「親父の同僚、って事だよな?・・・ああ、聞いたことあるぜ、饕餮だよな」

 

 

「ええそうですね。喋り方もそれでよろしいかと。・・・ほら紫殿、いつまで照れてるんですか。仰りたい事があるんでしょう?」

 

 

「そ、そうだけど・・・そ、その、ね?幸夜君、そのクッキー、余ってたら、分けて、貰える?」

 

 

俺は侵二を見た。少し申し訳なさげに笑っていた。

 

 

「・・・良いですよ。元々紫さんにって先生が渡しに来たものですし、欲しければどうぞ。後奥の本先生の日記です」

 

 

「ありがとう!」

 

 

嬉しそうに笑い、クッキーと余計な物の場所を教えるとその部屋に入っていった紫さんを確認し、侵二に聞いた。

あの部屋先生の私物ばっかだから仕方ないな。

 

 

「なんで先生と付き合ってないんです?」

 

 

「大人の事情です」

 

 

「そうっすか」

 

 

「およ、深入りしないんですね」

 

 

「まあ、あの人なら明確な理由あるんだろうなーと。・・・そういや侵二さんは紫さんの理想に協力してるんです?」

 

 

「ええ。まあ彼女の右腕とお付き合いしてますので、立場上手伝う必要がありますからね。個人的にも面白そうなので見たいんで、そこそこ尽力してますよー」

 

 

「割と適当なんだな」

 

 

「んー、まあ、そうですかねえ」

 

 

あの人も適当でしょう?と侵二は笑った。

確かに。

あ、そうだ。

 

 

「先生って紫さんに好きって言ったことあるのか?」

 

 

「ありません」

 

 

成る程俺に説得力が無いと言っていたのはこの事か。

 

 

「ちなみにいつから紫さんと?」

 

 

「百年以上前です」

 

 

そりゃ説得力無いわ。と言うかなんでそこまで時間かかるんだ。

 

 

「・・・まあ、主上の愛情論が歪んでるから拗れるんですけどね。大人の事情なんて誤魔化しましたけど、話しましょうかね」

 

 

俺は紫さんと侵二用に紅茶を出し、自分には水を注ぐ。

侵二は紅茶を啜り、聞きます?と笑った。

俺が頷くと、侵二さんも頷いた。

 

 

「今紫殿いるんで後でいいですか?」

 

 

「紫さんならあの部屋から多分出て来ねえぞ」

 

 

「・・・そうみたいですね。何があるんです?」

 

 

「先生の日記」

 

 

「ああ・・・」

 

 

どちらかというと日常の日記というか俺の成長記録を書いているのだが、紫さんの話がしょっちゅう出るので多分紫さんは出てこない。

と言うかホントに紫さん、先生が関わると十七、八の女の子みたいになるなあ。

 

 

「さて、じゃあ話しましょうか。あれは今から三十六万、いや、一万四千年前でしたかね」

 

 

「そんな前なのか」

 

 

「・・・うーむ」

 

 

侵二が渋い顔をした。

なんで?

 

 

「実はツッコミポイントなんですよ」

 

 

「・・・あ、マジか。・・・んで実際何時頃なんだ?」

 

 

「百年くらい前です「最近じゃねえか!」それが聞きたかったんですよ」

 

 

満足げに侵二が笑った。

意地悪りぃわ。

 

 

「えーまあ、さっさと述べますと。主上は特定の一人を愛することが出来ません」

 

 

「クソ野郎じゃねえか!」

 

 

「ん?ああ失礼。言い方が悪過ぎました。正確には個人を愛せないんです」

 

 

「・・・今してると思うんだが。言い方も悪意があったぞ」

 

 

「心情的にはそうでしょうし、私達から見てもどう考えても紫殿が好きなのは分かります。ただまあ一応証拠を出せということのようで。好きと直接言ってやっと愛した判定になるそうなんですよ」

 

 

「・・・そんなのが世界作ってて良いのかよ」

 

 

「そこは堪えてください。・・・ま、そういう訳でして、主上は好きと言うと世界と紫殿の優先順位を変えてしまうわけですよ。紫殿の方が世界より好き、なんて言うのは仕事上よろしくないと思ってるんでしょうね。あくまで神様として頑張ってるみたいですよ。人間臭いですけど」

 

 

「いやまあ人間だよな先生は」

 

 

「ま、そんなわけで、簡単には言えないんじゃないですかね」

 

 

「・・・そんなもんか」

 

 

「何が起きるか知りませんから、あんまり覚悟無しに言いたくないんじゃないですか?」

 

 

「そうだよな。・・・ちなみに侵二は?」

 

 

「言うに決まってるじゃないですか。世界なんて知ったこっちゃないです」

 

 

すっ、と侵二に録音機を手渡された。

 

 

「これでもし今の話が出たら、録音しといてください。上映会するんで」

 

 

「ひっでえなアンタ」

 

 

「悪神ですから。しばらくしたら事は起こると思いますよ。風魔がそう言うので」

 

 

「何者だよあの人」

 

 

 

次回へ続く。




以前から学生と名乗っていたのですが、ここ最近進路が大幅に変わりまして、その進路の為に作るモノをここ最近作り始めております。
遺憾せん私が脳味噌に茸生やしたような奴なので、ソレの制作にクソ程時間がかかっております。
以降おっそろしく遅れますが、どうかご容赦のほどよろしくお願いします。


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第九十一話 す・・・?

絶賛進路用の作品作りで泡を吹いております。
何故パワーポイントでアニメーションを作ろうとしたのか。


ゆっくりご覧下さい。



ぐつぐつと土鍋から煮える音がする。

俺は隣で土鍋を珍しそうに眺めるアリスをあえてスルーして、目の前に何故かいる不機嫌な先生と上機嫌な紫さんに向いた。

俺とアリスは先生に招待され、先生の家らしい古い家で食事を奢ってもらうことになっている。

 

 

「あのですね、先生」

 

 

「・・・んだよ」

 

 

不機嫌そうに先生が俺を睨む。

 

 

「なんで俺とアリス呼んだんです?」

 

 

「・・・紫と飯食うついでに誘ったんだよ」

 

 

「先生」

 

 

「なんだ」

 

 

「なんすかこの料理」

 

 

「すき焼きだ。しかも鉄鍋じゃなく土鍋でやってる」

 

 

「・・・先生」

 

 

「・・・しつこいぞお前。なんだ」

 

 

「なんで先生はすき焼き食う為に俺とアリスと紫さん誘ったんだよ!?」

 

 

「・・・察しろ」

 

 

察したわ!

マジか!マジなのか先生!

侵二さんから聞いてたけどここまでクソ雑魚なのか先生!

しっかりしろよオイ!

後もうちょいで世界と優先順位変えれたじゃねえか!

いや変えるのもあれか!

 

 

「龍一、すき焼き好きだったの?」

 

 

「・・・まあな。一人でつつくのもあれだし、たまにゃ良いと思ってな」

 

 

そう言って先生は笑い、そう。と紫さんは照れたのか顔を逸らした。

だからなんでそこまでして付き合ってねえんだよ!逆にこっちが居心地悪いわ!

 

 

「あ、で、そう!はじめましてよね!アリスさん!私は八雲紫、隙間妖怪よ。で、こっちが」

 

 

「俺は神矢龍一。幸夜から聞いてるかも知れんが、コイツの先生兼ねてる龍神だ。今日は急に誘ってすまんな」

 

 

「あ、いえ!大丈夫です!私はアリス・マーガトロイドです!・・・あの、土鍋って鉄鍋とは違うんですか?」

 

 

「そうよ。土鍋は・・・「基本粘土」そう、粘土で作られてるのよ!大体はティーカップや食器と同じ感じで作ってると言っても間違いではないわね」

 

 

「へぇ・・・凄いですね!」

 

 

まさか先生、「す」の後に続く言い訳の候補で素焼き入れてたんじゃねえだろうな。そうならよくご存知ですね。早く世界より愛してやれよ。

 

 

「実はね、この前龍一から素焼きの話を聞いたのよ」

 

 

よくご存知ですね。

馬鹿だなこの龍神様。多分暴走時の俺もそんなことしない。

 

 

「さっきから何チラチラ見てんだお前は。失礼な事考えてんじゃねえだろうな。木に変えるぞ」

 

 

「いや全然。ウチでも滅多にすき焼きなんてしなかったんで、珍しいなと思っただけです」

 

 

ああそう。と先生は疑わしそうに言った。

 

 

____________________

 

 

「そう言えば、紫さんと龍一さんはお友達なんですか?」

 

 

すき焼きが完成し、アリスに一通り箸の使い方から食べ方を教え、俺が肉とタマネギをつついているとアリスが爆弾を投下した。

俺はむせかえるのを堪え、先生と紫さんを見た。

 

 

紫さんは予想通り俺と同じく咳き込み、先生は硬直していた。

やがて先生が口をギギギと音が鳴る程引きつった口を開いた。

 

 

「・・・まあな。そこそこ長い友人ではある」

 

 

「そうなんですね!」

 

 

いや先生。確かに今の質問は俺も驚きましたけど、俺の責任じゃ無いですよ。

だから目で殺そうとしてくんのやめてもらえますかねえ!?

 

 

「あ、お付き合いはされてないんですか?」

 

 

俺が目で殺される前に先生が死んだ。

紫さんは激しく首を横に振り、先生はテーブルに頭を叩きつけた。

 

 

「・・・そう、見える?」

 

 

紫さんはゆっくり顔を上げ、アリスと俺を見た。

 

 

「見えます!」

 

 

「まあ見えなくはないですね」

 

 

「・・・ふふ、ありがと」

 

 

先生が死肉を漁る犬にも劣らない勢いですき焼きを食べ始めた。

聞こえないフリでもしてるんだろうか。

 

 

「悪いけどその話は・・・「紫さん、龍一さんが好きなんですか?」・・・」

 

 

間髪入れずにアリスが爆弾を叩き込んだ。

アリスはこうして大人数で食卓を囲んだ事と、女子同士で話した事がないらしいから、話したいんだろうなーと思いながら俺は笑うのを堪えた。

先生が弱すぎる。

 

 

「あぇ、あの、それ、は・・・そう、ね」

 

 

先生が出て行こうとしたが、紫さんは聞いて欲しいのか、龍一の服の裾を掴んだ。小動物かな?

アリスはそれをわー、と言いながら眺めている。クッソこっちも可愛い。なんの意図もないんだろうがあざとい。

 

 

「その、龍一。私は貴方が好き」

 

 

「・・・おう」

 

 

先生は頷いたが、紫さんは首を横に振った。

 

 

「・・・龍一は?」

 

 

「あ?」

 

 

「龍一は、私のことどうなの?」

 

 

「そりゃ、お前と同じだ」

 

 

これはチャンスかな。

俺は侵二さんから譲ってもらった録音機を起動させ、そっと机の下に置いた。

予想通り紫さんは先生を正面から見据え、口を開いた。

 

 

「私、龍一から私の事どう思ってるか聞いたことない。・・・お願い、聞かせて」

 

 

「・・・いや、あのな・・・」

 

 

「幸夜は私の事好き?」

 

 

何度目かわからない爆薬入りました。やめてください。

何故か俺に好きかどうか聞いてくるアリス。

俺に飛び火すんのやめてくれませんかね。

 

 

「ああ。好きだぜ。・・・ん、ああ、そういうことか」

 

 

ああ、そうか。成る程な。

アリスはここまで読んで俺に聞いたのか。

世界がかかってると知ればそんなことしなかったとは思う。思いたい。

 

 

「私も好き!」

 

 

でもそれ俺に対してのダメージが一番デカイと思うの。

ああ脳が削られていく。

・・・ともかく、これで先生の逃げ道は絶った。

 

 

予想通りアリスは紫さんの方を向きピースサインをした。

クッソ可愛い。魔女扱いされるのも納得のあざとさ。魔女だったな。

 

 

「・・・ねえ、龍一、どう、なの?」

 

 

じわ、と紫さんの瞼に涙が滲む。

先生は顔が青くなり、そして赤くなった。

 

 

「・・・す」

 

 

「す?」

 

 

「すk・・・クッ、ああっ、このクソッ!」

 

 

先生が言えずに地面を殴った。

そりゃ世界かかってますもんね。差し伸べる手は無いですけど。

 

 

「・・・良いか、マジでどうなっても知らねえからな。正直なところ俺も言いたいが何が起こるか知らんからな」

 

 

「・・・え、ちょっと、どうしたの、龍一「お前が好きだッ!!」・・・ふぁい」

 

 

おめでとうございます。

やっべえ世界終わるわ。

 

 

アリスが隣で拍手し、俺が世界の優先順位が入れ替わったさまをぼんやりと見ていると、先生の体がぼんやりと光り、しばらく光ったのち消えた。

先生がぼんやりと光った体を眺め、おもむろに口を開いた。

 

 

「・・・俺不死身じゃなくなったわ」

 

 

「それマジで言ってます!?」

 

 

なんだよすき焼き囲んで意中の女の人に告白して不死身じゃなくなる人って!つか前提条件として不死身なのがおかしいじゃねえか!

・・・そもそも人じゃねえのか。

 

 

「・・・え、なんで、不死身じゃ・・・」

 

 

「要は俺が世界捨てたからこっちから願い下げだって世界に弾かれたんじゃねえかな。・・・おいそんな顔すんな。いずれ言うつもりだったんだから二日三日の差だろ・・・あ」

 

 

「言うつもりだったのね、龍一さん」

 

 

「いや、今のは言葉の綾と言うか、その、なんというか場所しのぎというか・・・」

 

 

「・・・違うの?」

 

 

「逃げ道ィ!・・・ああもうクッソそうだよ!そんな顔すんな!言うつもりだったよ!幸夜送る前も!すき焼き食う前も!全部、好き。って言い損ねて事故ったんだよ俺が!」

 

 

「そうなの!?」

 

 

「いやお前知らんかったんかい!」

 

 

「幸夜は知ってたの!?」

 

 

「薄々勘付くわ!何お前今の今まで無自覚爆弾発言してたの!?」

 

 

「爆弾発言って、何?」

 

 

「そうだよな!アリスにゃわかんねえよな!」

 

 

アリスの予想外の反応に俺が混乱し始めた。

しかし最も混乱しているのは紫さんだろう。

 

 

「・・・もしかして、素焼きの話も?」

 

 

「・・・そうだよ」

 

 

「ずっと、言おうとしてくれてたの?」

 

 

「グダグダだけどな。・・・まだ気ぃ抜けねえから付き合えねえけど、俺は俺自身が作った世界より、また新たに世界を作ろうと躍起になってるお前が好きだぞ。・・・ったくこう言うことは俺はヘタレだからなぁ。いやしょっちゅうか」

 

 

自嘲気味に軽く笑う先生。

紫さんは何を思ったのか口にネギを咥え、先生に突き出した。

 

 

「ん」

 

 

「ん?」

 

 

「ん!」

 

 

恥ずかしそうに先生は紫さんが口に咥えて突き出したネギを食べた。

ネギを食べるにしてはやけに長かったし粘着質な音がしたが多分気のせい。

 

 

「・・・私もしていい?」

 

 

「まあ、アリスが良いならいいけど・・・ってお前それ煮えたコンニャク!」

 

 

「あちっ!?」

 

 

アリスの方は失敗した。

紫さんの選んだ具は適切だったわけだ。二人揃って別の具食ってるけど。

 

 

 

次回へ続く




あと半年程この作業が続きますので、長〜い目で勘弁してください。


次回もお楽しみに。


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第九十二話 後悔、執念

書き溜め其の二です。


ゆっくりご覧下さい。


『お前が好きだッ!!』

 

 

「クッハッハッハッ!」

 

 

「もう一回!もう一回!」

 

 

『お前が好きだッ!!』

 

 

「フハハハハ!!やめろ!止めろ馬鹿者!」

 

 

「よくもまあド派手に言い切りましたね。録音お疲れ様です」

 

 

「・・・バレてたら死んでたんですけど」

 

 

「バレないバレない!僕の息子なんだから!」

 

 

親父に背中をバシバシ叩かれながら、侵二に労われ、風魔に爆笑される。

事の発端は先生がすき焼きを囲いながら好きだと叫んだあの時。

俺は録音していた音声を侵二につき出すために紫さんに侵二を呼んでもらうとおまけで二人が来て、風魔の家に案内された。

 

 

「・・・まあしかしな、龍一の不死性が無くなったというのが本当であれば、大惨事だぞ?」

 

 

「殺し合えませんからね」

 

 

「違うわ馬鹿者」

 

 

「じゃあ何さ。別に問題なく無い?」

 

 

「あ、紫さんの事か?」

 

 

風魔が俺を見て面白そうにニヤリと笑った。

 

 

「ほう?お前の息子はお前より賢いらしいな。「ひどっ!」その通りだ幸夜。これから紫殿の為に龍一は奔走する。タガが外れたから尚更だ。すると当然考え無しに肉壁になりそのまま死ぬ。なんて事が起こりかねん。・・・ただ一応龍神の補正は残っているようではあるから、その補正を貫通してくるものが無ければ死なんだろうがな」

 

 

「まあ、それが出来るのは僕らだけだよね?流石にいないよね?」

 

 

「多分。ですけどね。私より風魔が詳しいのでは?主上を殺せる何かをご存知ですか?」

 

 

「伊織に関係ないから知らんぞ」

 

 

「この狂人が」

 

 

「ほざけ」

 

 

「やめなって、沸点低すぎだよ」

 

 

風魔と侵二がケラケラと笑い、やれやれと親父が首を横に振る。

親父が突っ込み役なのに俺は内心驚愕した。

 

 

「・・・で、二度目だが。お前の息子、大きくなったな」

 

 

「まあそうだね。結局龍一に預けて正解だったかも。幽香は時折寂しそうにしてるけどね。ちょっとは顔出してあげてね?」

 

 

「・・・分かってるよ」

 

 

「ん。・・・でさあ、彼女とはどうなのさ?」

 

 

「・・・ん?」

 

 

侵二の方を見るが、首を横に振られる。

風魔も同じだった。

 

 

「言ってないですよ」

 

 

「知らんぞ」

 

 

「・・・誰から聞いた?」

 

 

親父を問い詰めようと胸ぐらを掴むと、親父はするりと抜けてピースサインを向けて来やがった。

 

 

「ふっふーん。・・・僕にバレないと思ってんの?」

 

 

「クッソがァ!!」

 

 

成る程な、見つかっていたらしい。クソが。

 

 

「ちなみに幽香には話してません」

 

 

「つまり俺が母さんに会いに来た時アリスのことをひた隠しにしてたの見て笑ってたなテメエ・・・!!」

 

 

「そーなるね」

 

 

「なんて野郎だ・・・」

 

 

「で、どーなのさ」

 

 

「・・・先生と同じくらい?」

 

 

「早くない?」

 

 

「・・・文句あるかよ」

 

 

「んーん?・・・まあちょっと嬉しいかな」

 

 

「あっそ」

 

 

照れ臭くなり、親父から顔を背ける。

 

 

「・・・ところでだ侵二」

 

 

「はい?」

 

 

「私はお前に呼ばれて来た。そうだな?」

 

 

「まあそうですね」

 

 

「次に、幸夜はお前に頼まれて録音した。だな?」

 

 

「そうですよ?ボケましたか?」

 

 

「いや」

 

 

最後に・・・と風魔は親父を指差した。

 

 

「コイツは知ってたんだな?」

 

 

「ええ。知ってましたよ。私と幻夜の二人で仕込んだ事ですから」

 

 

「そうか」

 

 

ゆっくりと風魔が立ち上がり、だそうだぞ。とおもむろに窓を開けた。

直後全身に虫が這い回るような悪寒と、血が抜けていくような喪失感に苛まれる。

そんな中、窓に誰かが手をかけた。

 

 

「そうかあ・・・お前らかぁ・・・」

 

 

「草」

 

 

「・・・呪いますよ風魔」

 

 

「知るか。気づかんお前が悪い。・・・部屋を変えるぞ、幸夜」

 

 

おかしくなったように笑う親父と、僅かに笑いを堪えながら風魔を睨む侵二を残して、俺は風魔に来いと指示された。

 

 

「こ、ろ、す」

 

 

顔面が歪みきった先生が見えたような気がするが無視。

生々しい殴打の音と床を踏む音もするが無視。

 

 

「・・・はぁ。幸夜」

 

 

「ん?」

 

 

「あまり父親に乗せられるなよ」

 

 

「・・・そりゃ揶揄われるなって事か?」

 

 

「いや。・・・父親をお前の知る父親として見るな。という事・・・よく分からんだろうな」

 

 

「ああ。全く分からん」

 

 

「だろうな。言葉では足りんな」

 

 

ゾッ、と寒気がした瞬間。俺はどこから持ってきたか分からない刀を喉元に突きつけられていた。

風魔はこう言う事だ。と笑い、刀を仕舞った。

 

 

「今はお前の親で、ヘラヘラと生きているが。・・・忘れるなよ、あれは私と、侵二と、龍一と同格の男だ。アイツが本当は何をしたいのか。誰も知らん事だ・・・」

 

 

「・・・分かった。とりあえず気を付けておく」

 

 

「ああ。・・・まあその時が来れば、無意味かもしれんがな。・・・お前の名前をよく考えるんだな。そしてあまり人を信じるな。お前は優しすぎる」

 

 

「なんだよ、それ」

 

 

「さあな」

 

 

____________________

 

 

「何してるの?」

 

 

「・・・ん、ああ。ちと考え事」

 

 

「この前の?」

 

 

「・・・なんか言ったっけ?」

 

 

「ううん、変な顔してたから・・・」

 

 

「あっそ。・・・なんでもねえ。ぼーっとしてただけだよ」

 

 

あれ以降、ぼんやりと風魔の言葉を反芻するのだが、未だに真相が分からない。

親父を親父として見るな、か。

なら何として見れば良いのか。先生に仕える同僚か?

 

 

「・・・あるいは、外敵か」

 

 

親父が俺に害なすとして、どうするのか・・・

そもそも何故害するかの理由もない。

それに名前をよく考えろ、って言われてもなぁ・・・

 

 

「なあアリス」

 

 

「ん?なあに?」

 

 

「俺の名前ってなんか不思議か?」

 

 

「んー、そうね?」

 

 

しばらく机に頬杖をつきながら考えていたアリスだが、ポンと手を叩いて口を開いた。

クッソかわいい。

 

 

「そうね、個人的に不思議に思うわ」

 

 

「お、何が?」

 

 

「幽夜さんって人がもう一人の幻夜さんみたいにいるんでしょう?」

 

 

「らしいな。一応家族にもなんのかね」

 

 

「幻夜さんは貴方の事産む事を考えてたのよね。だったら幽夜、って名前を子供の方につけると思わない?」

 

 

「・・・いやいや、そんなの個人の感想だろ。とは言いつつも母さんから文字取らねえのも親父らしくないな・・・」

 

 

「でしょう?・・・他の家族の名前が入ってたりしてね」

 

 

「いねー、よ・・・?」

 

 

いや待った、確か亡くなってはいるが姉がいたんだったか・・・?

いやしかし、最初のが俺の姉であって、後はその姉貴の子孫みたいな話を親父から聞いたような・・・?

 

 

「・・・いるの?」

 

 

「ん、あー・・・いるかもしれん」

 

 

「なんでそこ不明瞭なの!?」

 

 

「ウチの家族意味不明なんだよ」

 

 

「・・・とにかく、いるならその人の名前から取ってたりしないの?」

 

 

「幸なんていないと思うけどなぁ」

 

 

「あ、サチ。とか?」

 

 

「尚更いねーよ!」

 

 

「じゃあ、高、とか?工とか?」

 

 

「随分と日本語達者になったなお前・・・つか書いてもらわねえとどのコウか分かんねえよ」

 

 

アリスが読み方がコウの漢字を並べていく。

ついでにヤの方も並べられていった。哉とか、はあるにしろ、八もあるのか。

 

 

「うーん・・・高八とか、工哉とか、工八?」

 

 

「誰だよ」

 

 

主に最後が酷え。カタカナのエハに見えて仕方がない。誰だエハって。

 

 

「・・・まあ、そこまで気に病むことじゃないと思うわよ?」

 

 

「いやまあそうなんだがな」

 

 

「・・・そう言えば、幸夜って自分のこと話してくれないわね」

 

 

「そうか?」

 

 

「そうよ。・・・結局私、幸夜がどんな人で何をしてきたか全然知らないもの。えっと・・・不安で仕方ないわ」

 

 

「それ付き合ってから言うセリフじゃ無いと思うけどなぁ」

 

 

「む。・・・聴きたいから遠回しに聞いてるのよ。教えて?」

 

 

「・・・マジでくだらねえぞ?」

 

 

「教えてくれるの?」

 

 

「まあな。・・・波乱の人生とかは期待するなよ」

 

 

俺の人生、家族、そんな辺りを話していると、いつのまにかアリスは寝ていた。

やっぱり寝るじゃねえか。

 

 

「・・・能力について再度聞かれなかったのはマシか」

 

 

ただやっぱり喋っている間に寝られたのはムカついたので、毛布をかけてほっぺたをこねくり回してやった。

 

 

次回へ続く。




ありがとうございました。

もう書きだめもありませんので以前も申し上げた通りクッソ遅くなります。
ご注意下さい。


次回もお楽しみに。


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第九十三話 手は口程に物を言わず


 明けましておめでとうございます(激遅)
 今更文と呼べるものも書けねえ奴が何のつもりで帰ってきやがったと言うレベルですが、

 万が一それでもよければ、また、ゆっくりご覧下さい。


 _____少し前の話

 

 

「・・・で、何か言う事は?」

 

 

「いやあ、直で聞きたかったよね「もういっぺんぶん殴るわ」ごめん悪かったからやめて。そろそろ当たる」

 

 

「・・・お前は」

 

 

「いやまあ。・・・おめでとうございます?」

 

 

「普通に返すなぶん殴るぞ「おお理不尽」るっせえ」

 

 

無罪主張をした風魔と、完全に操られていた幸夜が去った後、俺はボケ二人を一通り殴り倒し(不発)、正座させていた。

 

 

「・・・でもさ。大丈夫なの?」

 

 

「何がだよ」

 

 

「不死身じゃなくなったんでしょ?」

 

 

「まあ、な」

 

 

幻夜に痛いところを突かれ、少し口籠る。

幻夜はやれやれと首を振り、正座を崩して寝転がった。

 

 

「分かってたけどバカだよね。・・・今ゆかりんとどうしてんのさ」

 

 

「・・・俺はまだ向こうにいるつもりだから会ってもないが。それが?」

 

 

「はぁー・・・。もう同棲しなよ」

 

 

「ばっ・・・!!お前、まだアイツとは付き合ってねえぞ!?」

 

 

「もう付き合ってるようなもんでしょ」

 

 

いやいやそんな付き合ったとしてハイレベルな事出来てたまるか。恥ずかしくて死ぬわ、俺が耐えきれんわ。

 

 

「・・・まあ主上は優しく言って奥手。普通に言うとヘタレのカスですからね」

 

 

「おいなんだ最後のカスってのは。喧嘩売ってんのか」

 

 

「ならさっさと紫殿と同棲したらどうなんですか。事実上付き合ってんですから。それとも?まだ紫殿を焦らすつもりですか?あれだけ必死にしているのに?」

 

 

・・・こいつ。

 

 

「なんも言い返せねえだろうが。・・・分かってるけどどう誘えばいいか分かんねえんだよ・・・」

 

 

「惚気かな」

 

 

「真面目に聞いてんだ。髪の毛燃やすぞ」

 

 

はいはい。と頭を手で守り、幻夜が気の抜けた返事を返しながら、普通に誘いなよー。と言った。

無理に決まってんだろ。

 

 

「無理無理。俺だぞ?」

 

 

「じゃあどうするんですか。正直それ以外手は無いですよ。・・・ほら早く決めてくださいよ。また勝手に財産使いますよ」

 

 

「・・・分かった。普通に誘うよ。・・・横槍入れたら串刺しにするからな」

 

 

「はーい。しないよ。そろそろ忙しいからね」

 

 

 

____________________

 

 

 

「・・・いきなりどうしたの?龍一」

 

 

「ん、ああ。まあな」

 

 

八雲紫がこの前の龍一の言葉を反芻していた時、当人が現れ、大事な話がある。家で待ってる。とだけ言い残して消えた。

彼を追い、通い慣れた龍一のボロ屋の中に入ると、龍一が一人机の前に座っていた。

龍一に座れと促され、紫は龍一に向かうように座った。

 

 

「大事な話・・・つうか、何と言うか・・・」

 

 

紫が座ると、龍一が頭を掻き、目を逸らす。

最近、彼女自身が迫り、彼に好きと言わせてから目を逸らす事が多くなった。

真意を半分程は理解可能な侵二からすれば爆笑モノなのだが、理解にはまだ一歩不足している紫へは不安を煽るだけだった。

 

 

「・・・俺は、お前の事が好きだって言ったよな」

 

 

「・・・っ、え、ええ」

 

 

違う。とでも言いたいのかと紫は更に不安になったが、龍一が言ったのは放心するほど別のものだった。

 

 

「だから、その、お前が良かったらでいいんだが、前みたいに俺の家で、寝る、か?」

 

 

「・・・へ?」

 

 

「もう一回、俺の家に住みに来ないか?いやこれ合ってんのか言い方・・・?」

 

 

龍一が思考の海に入ろうとしたが、紫が何も答えないのに気がつき、慌てて付け加えた。

 

 

「ああいや、別に侵二と藍の四人でも良いんだが。・・・その、なんだ。俺の我儘でもあるんだが。・・・やっぱ嫌か?」

 

 

「・・・初めてよね」

 

 

紫がゆっくりと口を開いた。

顔はどこか笑っていて、龍一は数瞬戸惑った。

 

 

「え?何が?」

 

 

「龍一の我儘。私初めて聴いたわ」

 

 

「・・・マジ?そんな無欲じゃねえんだけどな・・・?」

 

 

「でも、嬉しい」

 

 

「・・・って事は、いいのか?」

 

 

「・・・ええ!でも、私と龍一だけよ!藍も侵二さんもダメよ!」

 

 

「正気か?」

 

 

「当たり前でしょ!?・・・それとも、龍一が嫌?」

 

 

「・・・んなわけあるかよ。・・・分かった、侵二にもそう言って「その必要はありません」・・・死ね。真面目に死ね。普通に玄関から入ってくんな。能力暴走して死ね」

 

 

「主上」

 

 

「あ゛?」

 

 

「天井裏に風魔」

 

 

 龍一がゆっくりと上を向くと、屋根裏の板がすっと、一枚横に動いた。

 

 

「すまない」

 

 

「・・・死ね。お前らホント死ね。ゴキブリかよ。毎回毎回訳分かんねえとこにいやがって。空飛びながら大気圏で発火して燃えながら死ね」

 

 

「やけに細かいな・・・」

 

 

「・・・ま、ともかく私は家を出ればいい訳ですね。では風魔、お世話になります」

 

 

「お前が家に来るなど心から不快だが仕方あるまい。・・・そして主上。咄嗟に隠れたのだが本当にすまなかった。・・・ただ、今のを見て安心した、おめでとう」

 

 

「・・・クソッ。毒抜かれたわ。・・・後、そんなとこまで行ってないからな、勘違いするなよ」

 

 

「フハハ。・・・そこまでいくとその差は些事というものよ。紫殿、幸せにな」

 

 

風魔はニヤリと笑いながら、侵二を連れて立ち去った。

二人が立ち去ると、龍一は溜息を吐いた。

 

 

「・・・調子狂うなぁ」

 

 

「そう?」

 

 

「お前が一番狂うけどな。・・・好きに家具でも買ってきて置いとけ、前にあったのは侵二らの私物だからなんもねえぞ」

 

 

なるほど確かに、二人で囲っていた机と、物を冷やすらしい箱と、台所の食器の無い食器棚だけだ。

 

 

「いいの?」

 

 

「いいも何も、もうお前の家だろ。既に周りの店にもお前が買いに行くって言ってる。俺は外壁の塗り直しと中の掃除だ、お前だけと住むんじゃカビくせえしボロくてしょうがねえ。まさかこうなるとは予想してなかったからな」

 

 

「え、でも私、この辺り龍一と店に行った事しかないわよ?」

 

 

「・・・俺の彼女だって言えば通る。まだ約束上付き合ってねえけどな」

 

 

少し恨めしげに龍一は言い、指を鳴らした。

すると紫は優しく玄関の外まで押しやられた。

 

 

「悪いがカビが飛び回る、汚れるから出てろ」

 

 

虚を突かれ、動きを止めた紫の前で、戸はぴしゃりと閉じられた。

しばらくして、溶けたように紫の口元が緩んだ。

 

 

「・・・ふふ」

 

 

そのまま紫は飛び上がりそうなほど軽快に駆けて行った。

その日、龍一の連れを名乗る女性が傷ひとつない龍一の家に大量の家具を運ぶ姿が人々には見られたという。

 

 

____________________

 

 

二人が机を囲んで座るのは、日が沈みかける頃だった。

龍一は紫の前に湯呑みを置き、熱いぞ、と言った。

 

 

「ありがと」

 

 

「ん。・・・しかし、よくもまあこんなに運んだな、お疲れさん」

 

 

「私だってこれくらい持てるわよ」

 

 

そう言いながら紫は背後にそびえる箪笥をバシバシと叩いた。

龍一は苦笑した。

 

 

「そうか。・・・ちょっとお前をか弱く見すぎたかもな」

 

 

ふふん。と胸を張る紫だったが、やがてしおらしくなってしまった。

 

 

「・・・その、でも、良いの?」

 

 

「何が?」

 

 

「私が、その、付き合ってって初めて言った時、理想郷が出来るまでって約束だったのに・・・」

 

 

「・・・ああ、その話な。真面目な話をするとな、実は受ける気が無かった。割と戯言だと思っててな、断る気だった」

 

 

悪いな、と龍一は頭を掻いた。

その顔には申し訳なさが浮かんでいた。

 

 

「本来なら、俺は誰とも特別な関係になる事も、誰かを愛する事も無かれと思ってたんだ。お前が理想郷を作り終えた後、何処か一人になるために消えようと思ってたんだ。・・・いやまあ侵二らは残すつもりだったけどな」

 

 

ただなぁ、と龍一は寝転がり、天井へ手を伸ばした。

 

 

「恥ずかしい話、俺がお前に惹かれてしまったんだよ。・・・素戔嗚もこんな気分だったのかねえ。あー恥ずかしい」

 

 

冗談なのか、本当に照れ隠しなのか、龍一はケラケラと笑いながら腕で顔を隠した。

 

 

「・・・ありがと。その、好きになってくれて・・・」

 

 

「よせよ。・・・さてと。恥ずかしがるのはここで終了」

 

 

龍一が勢いをつけて起き上がり、照れていた顔から一転し、ニヤリと笑った。

 

 

「そんな訳でだ。俺もお前の事が好きになってしまったんだ。お前も惚れてたかは知らんが・・・あの話と状況が変わったから無しだ。じゃなきゃ俺が空虚感で死ぬ」

 

 

今までと違い、ど直球に好感を寄せてくる龍一に紫は微笑みながら、こくりと頷いた。

 

 

「うん。・・・ありがとう、龍一」

 

 

「ありがたがられる事じゃねえよ。・・・さて、お前今日何処で寝るんだ?俺ここで寝るが」

 

 

「・・・ん」

 

 

「まあそうなるよなあ。・・・別に良いけどな」

 

 

龍一が布団を敷くと言った位置を当然のように叩く紫に、龍一は笑った。

 

「一応言うが俺は寝相悪いからな。潰されても知らんぞ」

 

 

「ん」

 

 

「・・・へいへい」

 

 

 苦笑する龍一。

 そんな龍一の手を、紫は掴んだ。

 

 

 「龍一、一つだけお願い」

 

 

 「あん?」

 

 

 「死なないでね、龍一」

 

 

 それは龍一に対して無理をするなと遠回しに伝えたのか、または不死性の潰えた龍一に対してのそのままの意味なのか。

 ともかくそれを受けた龍一は、紫の頭を力強くくしゃりと撫でた。

 

 

 「わっ・・・」

 

 

 「ハハハハハ!んじゃ風呂入るからな!覗くんじゃねえぞ!」

 

 

 「あ、ちょっと・・・」

 

 

 結局、龍一は返事に応えることはなく、大声で笑いながら浴室へと去ってしまった。

 その後ものらりくらりと返事を躱され、龍一が返事をする事なく時は流れ、紫は深く寝息をたてる龍一の隣に横になっていた。

 ただ、その夜。

 微睡の中、それでも意識のあった紫の手を、龍一が握りしめてきた。

 

 

 龍一が静かに握ってきた手には、強い力が込められていた。

 

 

 

 次回へ続く




 ありがとうございました。
 前書き、本文でバックする事なく此処まで読んでくださった方々、ありがとうございます。
 おかげさまで、ほんの少しではありますが、私の都合も減ることになりました。


 また次も長くなるとは思いますが。
 次回もお楽しみに。


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第九十四話 災禍襲来


 同じく書き溜めとなります。
 ゆっくりご覧ください。


 「それでね?龍一ったら私と付き合えないと空虚感で死ぬ、ですって。凄く嬉しかったのよ!」

 

 

 「ほんと重いなあの先生。いや、死ぬ事が落ち込むことと同じ頻度で起きてるのか・・・?じゃなくてですね!なんでいつものことのように昼から俺の家に来るんです?」

 

 

 先生が紫さんにあの言葉を言って以来、何故か俺の家に紫さんがよく来るようになった。惚気話をするために。

 

 

 「え?あ、そうね。気になるから、かしら?」

 

 

 「嘘つくときに目右に寄せる癖やめた方が良いっすよ「え、嘘!?」嘘です」

 

 

 しまったと言わんばかりに俺を見る紫さん。成る程確かに先生が不安になるわけだ。

 

 

 「御本心は?まあ多分惚気過ぎて他に追い出されたんでしょう?」

 

 

 「・・・さ、さあ?どうかしらね?」

 

 

 「そんなプルプル震えられながら言われても返しづらいだけなんですけど」

 

 

 「だ、だって!しょうがないじゃない!私ずっと待ってたんだから!それなのに藍ったらしばらく用がある時以外は来るな、幽香に至ってはしばらく出禁よ!?伊織ちゃんも茜さんも仕事で忙しいし、もう貴方しかいないのよ!」

 

 

 涙目になりながら叫ぶ紫さんの理由はクソみたいな理由だった。

 要は先生の土に埋まるほど奥手な恋愛に耐えきれなかったわけですね。

 先生殺すか。いや逆に殺されるわ。

 

 

 「アテの中に俺の知らない人いるんすけど・・・いやまあ、アリスの家通うときにお世話になってるんで良いっすけど、先生何も言わないんすか?」

 

 

 「え?」

 

 

 「いや、付き合って間もない彼女が別の男と一緒にいるの、多少は気になると思うんですけど。紫さんも気になるんじゃないですか?」

 

 

 「え?全然?だって私みたいなの好きになるの龍一だけでしょ?龍一もそう、あんなの好きになるの私だけよ」

 

 

 「そこだけ熟練なのかよ・・・」

 

 

 初々しいのか慣れてんのか分かんねえな・・・

 

 

 「ところで、さっきから持ってるその箱は何?」

 

 

 「ああ、これは・・・」

 

 

 俺が紫さんの質問に答えようとすると、親父が当然のように上から落ちてきた。

 

 

 「あー、ゆかりんもいるのね。・・・久しぶり。元気?」.

 

 

 「ノックくらいしろ」

 

 

 はいはい。と聞く気のない返事を親父は出し、俺にバスケットを突きつけた。

 中はハーブや紅茶の葉が詰められていた。

 

 

 「はい、いつもの」

 

 

 「はいよ、いつもの」

 

 

 俺は手に持っていた箱を親父に手渡した。

 親父は微笑むと、紫さんにもバスケットを渡した。

 

 

 「はい。たまたま持ってたからゆかりんにも。すぐ腐るから龍一と食べてね」

 

 

 「あ、ありがとう・・・」

 

 

 じゃあね、と親父は言い残し、今度は玄関から消えた。

 俺がため息を吐くと、紫さんが笑っていた。

 

 

 「幻夜さんの物だったのね・・・」

 

 

 「あっちじゃ山菜やらは採れませんからね。採れても質が悪かったりしますし。変わりに採りにくいハーブやら貰ってるんですよ」

 

 

 「幸夜も植物は好きなの?」

 

 

 「ま、母さんの能力ですしね。嫌いではないですよ。アリスも好きですし」

 

 

 へえ、と先程から一転して暖かい目を向けてくる紫さん。

 面白いなこの人。

 

 

 「もしかして幸夜、料理は得意なの?」

 

 

 「そうですね。一応妖怪なんて言いつつ、生活は人間のそれですからね。変ですか?」

 

 

 「ううん、そうじゃなくて、ね・・・」

 

 

 言葉を濁す紫さん。

 そしてこの前すき焼きを用意したのが先生である点と、料理の話で紫さんのはどうかと聞くたび真顔になり、一応食えると述べる先生から推測するまでもなく推測すると。

 

 

 「さては紫さん、料理出来ませんね?」

 

 

 「うっ・・・」

 

 

 「そして立場上何も言えないと。・・・和食は無理ですけど教えましょうか?」

 

 

 「え、い、良いの?」

 

 

 「まあすること無いですし。毎回先生が微妙な表情するのもアレですし。良いですよ?」

 

 

 「あー、じゃあその、お願いして良いかしら?」

 

 

 「了解です」

 

 

 ちなみにこの後俺自身が紫さんを呼ぶ原因を作ったことに気がつき、俺は凄まじく面倒になり、己の短絡さに嫌気がさした。

 ・・・後でアリスんとこ行こう。

 

 

 ____________________

 

 

 「なんて事があってさ。とりあえず料理してもらったんだよ、何が出てきたと思う?」

 

 

 「・・・何が出てきたの?」

 

 

 「紫色と緑色の物体。・・・俺は確かに紫さんがトマトを持っていくのを見たんだ。なんであんな事になるんだ・・・」

 

 

 アリス宅、少し床や壁に走り書きされた紙が散乱しているものの、アリスと幸夜の二人は安楽椅子に座りながら談笑していた。

 最も、幸夜は目が死んでいるのだが。

 

 

 「一応な、味も確認したんだ。色がおかしいだけで味はまともなんじゃないかって。変な匂いしたけど。・・・俺初めてだわ、口に入れちゃならんもの食ったの」

 

 

 あれ完食できる先生はなんなんだよ・・・と安楽椅子に座りながら幸夜は俯いた。

 実際幸夜が口にしたものは、紫自身が食べ物の境界を捻じ曲げたとしても食べ物と認識されないであろうレベルのものだった。

 幸夜は味か、それとも匂いを思い出したのか、軽くえづいた。

 

 

 「そ、そんなに・・・?」

 

 

 「そんなに。体力もごっそり持っていかれた気がする。・・・すまん後生だ、今日の晩は何か消化に良いものにしてくれ・・・」

 

 

 「そんな後生とか大層なこと言わなくても・・・別に構わないわよ?少しは食べられるの?」

 

 

 「食べる事は出来る。が、味が多分わからないのと、胃が動けるかどうか・・・」

 

 

 「分かったから。少し休んでて?」

 

 

 悪い、そうする・・・と言いながら幸夜は机に突っ伏した。

 アリスはそんな幸夜に苦笑しながら、エプロンの紐を締めた。

 次に幸夜が目を覚ましたときには、既にちゃんとした色合いの料理が目の前に置かれていた。

 

 

 「・・・起きてるよな?」

 

 

 「起きてるんじゃないの?まだ寝てるの?」

 

 

 「いや、夢じゃなさそうだな・・・」

 

 

 頂きます。と幸夜はリゾットを口に含み、そして安堵の溜息を吐いた。

 

 

 「ああ・・・美味いわ」

 

 

 毒気が抜けたように幸夜は微笑み、そしてリゾットを口にかき込み始めた。

 アリスはそんな幸夜に苦笑し、自分も席についた。

 

 

 「・・・うん、美味しい」

 

 

 「そりゃお前が作ったんだから違いねえだろ」

 

 

 「ふふ。ありがとう」

 

 

 あ、そういや紫さん繋がりなんだが、と幸夜が思い出したように口を開いた。

 

 

 「紫さんから何か言われてねえか?引っ越しの類の話」

 

 

 「え?・・・あー、言われたわ、確かに」

 

 

 「今絶対忘れてたろ」

 

 

 「そ、そんな事ないわよっ!・・・で、そ、それがどうかしたの?」

 

 

 「受けたか?受けなかったか?」

 

 

 「えっと・・・「ほらみろ忘れたんじゃねえか」う、うるさいわねっ!・・・そ、そう!受けることにしたわ!」

 

 

 「そうか。その方がいいしな」

 

 

 「その、幸夜は?どうするの?」

 

 

 「俺?・・・俺はもうちょっと残るかな」

 

 

 「そうなの?」

 

 

 「まあな。・・・実を言うとオルゴイさんとこの仕事くり上げてこの生活してるからな。お前が安心して住める場所に行くなら、それなりに向こうで働いてからそっちに行くさ」

 

 

 「そうだったの、ごめんなさい」

 

 

 「謝る事じゃねえだろ。・・・御馳走様。食器流しに置いといていいか?」

 

 

 「ええ、何かするの?」

 

 

 「ちと外の空気を吸いに。これでもまだげっそりしてるんでな。今ちょっと何が来ても対応出来そうにない」

 

 

 幸夜はアリスに軽く手を振りながら、外へ出た。

 外は日が傾きかけており、何処かで烏が鳴いていた。

 

 

 「もうこんな時間かよ。・・・寒っ、さっさと戻ろ」

 

 

 一つ身震いをした後、幸夜が家に戻ろうとした時、ふと視界が揺らぎ、視界が赤くなった。

 

 

 「あ・・・?」

 

 

 糸が切れたように前のめりに倒れる体。

 不自然に体が重く、そして意識が薄れていく。

 

 

 「あ、くそっ、不意打ちか・・・」

 

 

 ひとまず地面しか見る事が出来ない顔を横に動かそうとして、幸夜は頭に謎の突起がある事に気がついた。

 

 

 「これは、毒矢か・・・!!」

 

 

 酷い耳鳴りが響く中、何人かの足音と、アリスの悲鳴が聞こえる。

 咄嗟に幸夜は立ち上がろうとするが、せめて手を頭に当てられる程度で、体が動かない。

 

 

 「クソッ、しくじった・・・」

 

 

 玄関からアリスが引きずり出されていく。

 そして倒れ、頭部に矢が貫通した幸夜を見て、悲鳴を出す事なく意識を失った。

 気絶したアリスを見る事しか出来ず、とうとう指一つ動かなくなった幸夜は、そのまま倒れ続けた。

 

 

 

 

 次回へ続く

 





 ありがとうございました。
 次回もお楽しみに。


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第九十五話 災禍は急速に

 消えるのか、広がるのか。


 ゆっくりご覧下さい。


 熱い、熱い、熱い。

 脳が焼きつくほど熱い。

 耳鳴りも酷く、周りの音は何も聞こえず、ただ金属が擦り合うような音しか聞こえない。

 体はピクリとも動かず、今こうして思考出来ているだけで十分な驚きだ。

 なんなら、まだ生きていることが不思議だ。

 今このまま倒れていたとしても、もって数十分だろう。

 せめて、アリスだけでもなんとかならないものか。

 

 

 奇跡でも起きれば、話は別なのだが。

 

 

____________________

 

 

 アリス・マーガトロイドは目を覚ました。

 手足は鎖で繋がれており、何か箱の中に乗せられて運ばれているようであった。

 彼女と同じように鎖で繋がれている者もおり、その中の一人、彼女より小さな少女は泣いていた。

 アリス自身も不安ではあったが、その少女に声をかけた。

 

 

 「貴女、大丈夫?」

 

 

 アリスが声をかけると、少女はさらに泣き出した。

 慌てながらもアリスは少女をあやし始めた。

 それは幸運にも、倒れ伏した幸夜の事を、暫しの間忘れさせてくれた。

 

 

 「どう?落ち着いた?」

 

 

 「うん・・・」

 

 

 少女が泣き続ける事十分。ひとしきり泣き終えて落ち着いたのか、少女は目を腫らしてはいたが、アリスの問いかけに頷いた。

 

 

 「そう。良かった」

 

 

 それにしても、とアリスは周囲を見渡した。

 大半の拘束されている人間は女性であり、どうやら人攫いか、それとも魔女狩りか。

 どちらにしろ碌なものではないとアリスは思った。

 途端に怖くなり、無意識に体が震えた。

 しかし隣で自分よりも不安そうにする少女を見て、その気は少し紛れた。

 

 

 「私、どうなるのかな・・・」

 

 

 ぎゅう、とアリスの衣服を少女が握る。

 その手はやはり震えており、また、目には再び涙が滲んでいた。

 

 

 「お母さん・・・」

 

 

 気がつくと、アリスは少女の肩を掴み、震えながらもにっこりと笑っていた。

 少女のぽかんとする表情を前に、アリスは言葉を紡いだ。

 

 

 「大丈夫。きっと、助けが来るから・・・」

 

 

 当然それは幸夜の事で、来れないことなど分かり切っているのだが、彼女はそう言い、目の前の少女を、そして自分を励ましていた。

 少女は何も言わず、頷いた。

 

 

 「・・・なんだか、止まってない?」

 

 

 そんな時、アリスは他の女性がそう言うのを耳にした。

 実際、先ほどまで揺れていたが、今は揺れていない、それに何より、外がどうしてか騒がしい。

 

 

 そっとアリスは壁の隙間から外を覗くと、数十人の兵士が剣や松明、槍を構え、周囲を警戒していた。

 

 

 「何かいるの・・・?」

 

 

 警戒の様子は非常に緊迫しており、物音が一つでもすれば、皆そこに殺意を向けそうなほど、兵達は顔を険しくしていた。

 

 

 「いやあ、緊張してるねえ」

 

 

 どこか聴き慣れた、それでいて聞いた事のない声が背後からして、アリスはその場から飛びのこうとした。

 しかしその声の主はそんなアリスを抑え、近くで固まっていた少女の頭を撫でた。

 

 

 「ごめん、大丈夫大丈夫。今は何もしないよ。アリスってのは君?」

 

 

 アリスの背後から囁くような声がしたので、アリスは振り向く事なく頷いた。

 声は嬉しそうにそっか。とだけ言うと、アリスから手を離し、少女を抱き抱えた。

 

 

 「そのまま叫ばないようにしてこっち向いてね」

 

 

 アリスが恐る恐る振り向くと、目の前に男が立っていた。

 その姿は一瞬幸夜かと思ったが、目や髪の色が若干違っていた。

 

 

 「あなた、は・・・」

 

 

 「僕?僕は幻夜。幸夜の父親だね。・・・ここにいる理由は待ってればわかる。僕がするべきことはここで君達の拘束を解くことと、君達を別の場所へ連れて行く事だからね。・・・君もちゃんと連れて行ってあげるからね」

 

 

 幻夜は人懐っこそうな笑みを浮かべると、アリスや少女達の拘束を解き始めた。

 最初に解かれたアリスは鎖を凍らせて砕く幻夜に問いかけた。

 

 

 「あ、あのっ、幸夜は・・・」

 

 

 「ん?幸夜がどうしたの?」

 

 

 「あの、その、頭に矢が刺さって、その」

 

 

 「そうだったね。とりあえず能力で耐えてたみたいだから抜いておいたよ。・・・おーよしよし、怖かったねー」

 

 

 「能力?」

 

 

 「ん?あの子言ってなかったの?」

 

 

 幻夜がそう答えると、外で兵士の一人が悲鳴を上げた。

 ついで甲高い金属音が鳴り響き、再び悲鳴が聞こえた。

 

 

 「お、来た来た。・・・詳しい話は当人に聞いたらいいよ。まあとりあえず、死んではないからね」

 

 

 幻夜はそう言うと、アリスの背後の壁に手を置き、氷壁を作り上げ、叫んだ。

 

 

 「ここにいるぞ!ここにいるぞ!ここにいるぞ!」

 

 

 三度、幻夜が叫んだ。

 すると、氷壁の一部にヒビが入り、タイミングを見計らったように幻夜が氷を解くと、氷壁を張った部分のみ崩れ去り、太刀を持った男が納刀していた。

 

 

 「おい、幻夜、お前の息子をどうにかしろ。止める気にならんので御しきれん」

 

 

 「はいはい。ちょっと見てくる。後お願いね」

 

 

 「・・・子供は苦手なのだが」

 

 

 「いい子だから大丈夫」

 

 

 そう言い残して幻夜は跳躍して男の横を通り過ぎた。

 太刀持ちの男はゆっくりとアリスの前に立つと、無事か。と顔を顰めた。

 

 

 「あ・・・はい。あの、貴方は・・・」

 

 

 「風魔。龍一と幸夜と幻夜の知り合いだ。・・・よく無事だった」

 

 

 風魔は優しく微笑むと、少女達に口を開いた。

 

 

 「お前たち。もうしばらくここで待っていろ。じき左右で瞳の色の違う奴が来る。そいつに故郷を聞かれたら、帰りたいところを言うといい。・・・すまないが、時間がない。失礼する」

 

 

 風魔はそう言うと、その場から姿を消した。

 

 

 そしてふと、アリスは悲鳴や喧騒が消えていることに気がついた。

 聞こえるのは少女達の安堵の囁き声と、足音だけ。

 その足音はしだいに近づいてきており、やがて止まった。

 

 

 「・・・悪い、遅くなったな」

 

 

 氷壁があった穴から覗いた顔は、申し訳なさそうに笑った。

 

 

 「ごめんね、ちょっと暴れてたから抑えてたんだよね・・・」

 

 

 「幸、夜・・・!?」

 

 

 「・・・何故か知らんが生きてた。ご都合主義甚だしいが・・・偶然親父がいたらしい」

 

 

 「ほんと、ちょっと様子見に来たら玄関で頭に矢が刺さってたんだから。・・・良かったね、偶然僕が人体にそこそこの理解があって、偶然脳が取り返しのつかないギリギリ前で、偶然僕が傷を治せたんだから。ほんと幸運だよね。・・・一応言っとくけど、まだ軽く縫ってるだけだから、あんまり動かさないでね。追い追いの話は帰ってからしておいで。あと今しばらくは勢いよく抱きつくのなしね。傷口開くから」

 

 

 幻夜はそう言って微笑むと、それじゃ他の人達は安全なとこまで案内しまーす、とアリスを除く他の少女達を先導し始めた。

 幸夜は気まずそうに頬を掻くと、アリスの手を取った。

 

 

 「とりあえず・・・帰るか?」

 

 

 「ええ!」

 

 

 ____________________

 

 

 アリスの家に戻り、改めて座り直した二人。

 そして幸夜は頭を下げた。

 

 

 「改めて・・・申し訳なかったと思う。お前を守れなかったのもあるし、死にかけてたのもそうだし、何より、怖い目に合わせてしまった。・・・ごめんな」

 

 

 「その、確かに怖かったし、不安だったわ。・・・けどそれより、幸夜は?頭は大丈夫なの?」

 

 

 「え、俺の方?・・・いや、確かに脳に当たって貫通はしてたが、まあ、偶然親父がいたからな。今は大丈夫だぜ、ただの深い切り傷しか残ってねえからな」

 

 

 そう言いながら苦笑し、幸夜は頭の包帯を軽く触る。

 包帯に血は滲んでおらず、傷口付近を触れても、幸夜は顔を顰めなかった。

 

 

 「・・・そう。良かった」

 

 

 手を貸して。とおもむろにアリスは言った。

 幸夜は首を傾げて右腕をテーブルの上に出すと、アリスはその手を両手で握った。

 幸夜の顔が曇った。

 

 

 「・・・怖、かった」

 

 

 「ああ」

 

 

 「死んじゃったかと思った」

 

 

 「ごめん」

 

 

 「生きてて、良かった」

 

 

 「ああ」

 

 

 「ちょっと、このままにして・・・」

 

 

 「・・・ああ」

 

 

 二人はそれ以上何も言わず、ただ黙っていた。

 そんな二人を窓から覗いていた風魔は、溜息を吐いた。

 

 

 「・・・やはり少なからず、負担はあったか」

 

 

 「まあ、そりゃあね。アリスは人間なんだから」

 

 

 二人がどうなっているかは当に理解出来ていたのか、風魔の背後で幻夜は首を横に振った。

 風魔は僅かに顰めた顔を窓から逸らすと、真顔のままの幸夜を振り返った。

 

 

 「しかし。よく間に合ったな」

 

 

 「何が?」

 

 

 「幸夜の怪我だ。あと少し遅ければ死んでいたんだろう?」

 

 

 「まあね」

 

 

 「そこで、ふと疑問に思ったんだが」

 

 

 「今回の首謀者、お前ではないのか?」

 

 

 

 次回へ続く

 




ありがとうございました。
 次回もお楽しみに。


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第九十六話 獅子身中の

 自分にとって大切なものが生まれると、それを大切にするでしょう。
 そうして大切なものを失った時、その絶望から立ち上がり未来へ進むか、絶望の中の今で立ち止まるか。
 どちらにしろ、それが人間でしょう。
 決して過去へは進まないのです。進めないのです。


 ゆっくりご覧下さい。


 ぴくり、と幻夜が動きと表情筋をを止めた。

 風魔は表情をより鋭いものに、そして口元に笑みを浮かべながら、自身の頭を指先でつついた。

 

 

 「ここに一本、アリス達を襲った矢がある。形状は一般的。鏃もしっかりしたものだ。・・・ただな、何処から撃ったか分からんが、距離十メートルとして、弓はまあ、強弓が必要だろうな」

 

 

 まあつまりだ。と取り出していた矢をへし折った。

 

 

 「幸夜の頭を横に貫通する事は、不可能に近いのだが。幻夜」

 

 

 「・・・だから僕がやったとでも?向こうに大男がいたら解決する話でしょ?」

 

 

 「まさか。それが証拠にならん事くらい誰にだってわかる。実際大男が放ったようだからな。本題はその続きだ。・・・お前、今日アリス以外の少女達をどうした?」

 

 

 「ん?だから龍一のとこに連れて行って「そこがおかしい」・・・チッ。と言うのは?」

 

 

 いや何、と風魔は口元を更に吊り上げた。

 対して幻夜は不快そうに口を真一文字に引き締めた。

 

 

 「今日、龍一は紫殿とずっと一緒にいた」

 

 

 「あっそう。ならなんで来なかったの?感知できるよね?」

 

 

 「もっともだ。だがしかし決定的な理由がある」

 

 

 「私が直接私一人で済むから来るなと言った」

 

 

 風魔のその言葉に、はあ、と幻夜は長い息を吐き出し、ガシガシと頭を掻いた。

 ひとしきり頭を掻いた後、風魔を睨み上げた。

 

 

 「明らかに人選ミスったなあ。侵二は知ってそうだし、壊夢は勘でバレそうだったんだけど、可能性に賭けすぎた。・・・そうだね、君は見ていたんだね。そりゃあ怪しまれる」

 

 

 「まあ、偶然だったのだがな。・・・しかし、何が目的だ?残念ながら私はあの風景を見た訳ではなかったので憶測だった。お前の目的はなんだ?よもや二人の仲を深めると言った理由ではあるまい?」

 

 

 「先に言い訳潰すんだもんなあ。・・・そうだよ。そんな理由じゃあない。・・・それに、言わなくても分かってんじゃないの?答え合わせしてあげるから言いな?」

 

 

 ふむ、と風魔は調子を取り戻したかのように口元を吊り上げ、目を細める幻夜にニヤリと笑った。

 

 

 「・・・私は、女性を主とした人間の確保、だと思ったのだが」

 

 

 「うん。二割正解。ただそれじゃ全く本質に近づいちゃあいないよ」

 

 

 「・・・何?」

 

 

 「うんまあ、今の一件のみで二割正解は凄い。折角だし、五割分、つまり残り三割までは教えてあげよう。・・・今風魔は人間と言ったけど、別に喋る人間なんか要らないんだよ。生きてても死んでても良い」

 

 

 トントン、と幻夜は胸を叩いた。

 

 

 「肉が要ったんだよ。小さな女の子、若い女性、壮年、中年、高齢、そして僅かながらも男性。・・・肉という言い方はあれだね。要は皮膚内臓筋肉が要ったんだよ。更に言うと脳以外全て」

 

 

 「いや元々細々と拐うつもりだったんだけどね?まあ偶然アリス狙ってるって話聞いたから、折角だし・・・と思ってね。いやあ人ってほんとに動かしやすいねえ」

 

 

 まあおかげで二つ目の目的も同時進行出来たんだけどね。

 と幻夜は不快な笑みを浮かべている。

 風魔は笑ったまま、そうか、とだけ答えた。

 

 

 「成る程な。・・・しかしそんなもの何に使う?それに、お前が大切に抱き抱えていた子供もいたが、大丈夫なのか?」

 

 

 「やだなあ風魔。僕がロリコンみたいじゃないか。・・・僕が真に愛するのは自分の子だけだよ。・・・それと幽香以外、どうだっていい」

 

 

 「狂っているな」

 

 

 「そう?」

 

 

 「ああ。私達はよく丸くなったと言い、言われるが。・・・お前は逆だ。よりおかしくなった。不思議な事だ」

 

 

 「獣が中途半端に人間性を得るととんでもない事になるって言ういい例だね。ま、僕自身もこうまでおかしくなるとは思ってなかった。・・・でもね、欲しいんだよ」

 

 

 幻夜は空を仰ぎ、より一層口を笑みの形にした。

 

 

 「あの瞬間が、あの日々が。今度はきっちり三人。二人なんてこともなく、欠けることなく、そして三人がすぐに別れる事もないように。それで、今度は僕を一番愛してくれたらなって。・・・その為なら人間十数人、なんなら数万人なんてどうだっていい。逆にあんなとこに連れてかれてるってのは要は爪弾きものだったり厄介払いされてる人ばかりだ。有効活用されてるんだから感謝して欲しいね」

 

 

 「龍一が聞けば、なんと言うだろうなぁ・・・?」

 

 

 「さあね。知らない。・・・で、今僕の残り三割の秘密を知った訳だけど?どうするの?」

 

 

 幻夜の更に細められた目から、刺すように警戒と殺意が風魔を射抜く。

 しかし風魔は当然動じることなく、軽く鼻で笑った。

 

 

 「くだらん。何故こんなクソ程つまらんことを一々報告せねばならん。勝手にしろ」

 

 

 「む、報告されると思って・・・殺す気だったんだけど」

 

 

 「馬鹿が。誰が貴様ごときに。・・・似たものを持っている気がした。気のせいかも知れんが。故に見なかったことにしてやろう。そして、いざその時、私も混ぜろ」

 

 

 「おっと、共犯って事かな?・・・ねえそれマジで言ってんの?」

 

 

 「ああ。・・・ただし、全てが終わってから。私は全員に平等。ただ一人しかいない。悪いが最後に回すぞ?・・・その時私にはおそらく斬りたいものがあるのでな」

 

 

 「はぁ・・・」

 

 

 呆れ返ったように幻夜が今日一番の長い息を吐き、舌打ちをする。

 

 

 「受け入れるしかないじゃん。断ったら今この場で殺されるんだから。・・・ホント、あらゆる生物の反射神経を凌駕し、あらゆる位置にゼロコンマ一秒で到着して首を斬る。反則なのわかってる?」

 

 

 「しかしお前が私に気がつかない確率はゼロではない。違うか?・・・要はその場の勝負だ、幻夜」

 

 

 「そう言うの気疲れするから嫌なんだよ・・・」

 

 

 「同感だな。・・・で、受けるか?」

 

 

 「話聞いてた?受けるって言ったじゃん」

 

 

 「そうか。・・・そうだ、一つお前の聞きたいことをなんでも答えてやろう。代わりに一つ答えろ」

 

 

 「えー・・・」

 

 

 まあいいか、と窓の外から気を取り直したアリス達を一瞥すると、幻夜は風魔の頭を指差した。

 

 

 「んじゃ質問。・・・どこまで見えてる?」

 

 

 ニイ、と風魔の口が裂け、ずい、と幻夜の瞳を覗き込んだ。

 

 

 「お前が死ぬまでだ」

 

 

 「ふーん・・・ならやりたい事も見えてるのかな。まあいいや、ありがと」

 

 

 「うむ。では私だ。・・・残り五割の目的。そして総合的にお前が何をしたいか、正確に言え」

 

 

 「ちぇー。なんかそれ僕に不利な気がするなー。しかも見えてなかったのね。謀られてんじゃん。・・・まいっか。答えてあげるよ、仕方ない」

 

 

 幻夜は口を尖らせたのち、風の音と人の囁き声と機械音が入り混じった奇妙な音を二度発した。

 

 

 「残り五割は■■■■■■を■る■■」

 

 

 「本来は・・・」

 

 

 「■■■き■■■■た■」

 

 

 「・・・そうか、お前はそこに行き着くんだな」

 

 

 「悪い?人は正の感情と未来に希望を持てるけど、化け物は負の感情と過去にしか希望が持てないんだよ。そこを理解して、そして人間的には理解しないでね。君は人に近いんだから。後、さっき後回しみたいなこと言われたけど、誰?」

 

 

 「侵二」

 

 

 「侵二も?・・・まあいいか。どうせすぐ終わるでしょ」

 

 

 「どうだか。・・・まあせいぜいそれまで死なんようにな。お前のすることは龍一の逆鱗に触れるのだから」

 

 

 「はいはい」

 

 

 なら良い。と再度風魔は口を吊り上げると、付近の落ち葉を巻き上げた。

 落ち葉が皆落ちる頃には、風魔は消えていた。

 また同様に、幻夜も姿を消していた。

 

 

 ____________________

 

 

 「ん?」

 

 

 「・・・どうしたの?」

 

 

 二人が消えたのとほぼ同時に、幸夜は窓の外を見た。

 窓の方に近づいて外を見ると、少し風が吹いたのか、落ち葉の位置が変わっている程度だった。

 幸夜は首を傾げたが、まあ良いか、と呟いた。

 

 

 「いやなんでもない。誰かいるような気がしたんだが・・・特になんの跡形も無いから、気のせいみたいだけどな」

 

 

 「そう?・・・あ、そうだ、幸夜」

 

 

 「おう?」

 

 

 「貴方、能力は何?」

 

 

 「・・・確か最初に無しって言わなかったっけ「幻夜さんがあるって」なんだ、バレてんのか。・・・まあ悪かったよ、黙りっぱなしで。俺もちゃんと能力がある。ま、それはそれは酷い能力だがな」

 

 

 「・・・だから、言わなかったの?」

 

 

 「まあな。・・・つっても今この場でダンマリでもそれはそれで良くねえからな。ちゃんと説明するよ、俺の能力」

 

 

 次回へ続く




 幻夜の能力の補足
 ・万物を欺く条件は、【その事象が100%不可能なこと】ではない事。
 ・過去どんな事であろうと、【誰かが一度達成したことがある】場合、代償無しに肉体的に再現可能。精神的なものが関連すると不可。



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第九十七話 またいつか、そしてもう一度


 これでアリスはしばらく見納めとなりますかね。


 ゆっくりご覧ください。


 「触れたものを?」

 

 

 「そう。【手にした無機物と有機物を兵器に変える程度の能力】。簡単に言い換えりゃ【触れたものを武器にする程度の能力】だな。ちょっと複雑ではあるんだが、例えば今ここにフォークがあるよな?フォークは金属なのでナイフに変えられるし、形を持つ前の液体にも出来る。ただし何か関連がないと武器に変換は出来ない。連想ゲームみたいな奴だな」

 

 

 「それで、どうして言わなかったの?」

 

 

 「そりゃ怖がられるかなーと思ってたからな」

 

 

 「どうして?」

 

 

 「血ってのは少なからず金属が混じってる。つまるところ俺からすりゃ武器の素なんだよ。人の手に触った瞬間針だらけにすることも出来る。その辺りの牛肉一つから武装した肉人間を作り出せる。・・・なんて言ったらドン引きだろ?握手したくねえだろ?」

 

 

 「・・・確かに、会って初めてで言われたらそうだったかもしれないわね」

 

 

 「だろ?この際正直に言うが、時々鉈ダメにしたのも武器に変えてたからだ。割と鎧とか斬ろうとするとすぐボロボロになるからな」

 

 

 「そうだったの・・・」

 

 

 「悪いな。・・・で、どうだ?俺の能力は?」

 

 

 「さっきも言ったけど、今更よ。今から何言われたってもうなんとも思えないわよ。・・・受けたものが多かったしね。ありがとう」

 

 

 「・・・そうかよ」

 

 

 幸夜は頷き、目線を鋭いものへと変えた。

 

 

 「じゃあ、俺からも良いか?」

 

 

 「なあに?」

 

 

 「・・・まだ人間、好きか?」

 

 

 「ええ」

 

 

 「バカだな」

 

 

 「・・・かも、ね」

 

 

 「だが俺の方がバカだな」

 

 

 はあ、と短く幸夜は息を吐いた。

 

 

 「・・・そりゃ、そんな返事が返ってくるよな。アリス」

 

 

 「ええ。確かにひどい事はされたけれど。・・・でも、その分あの村で素敵な人にも会う事は出来た。貴方からすればプラスマイナスでマイナスの方が大きいと思うかもしれない。そうかもしれないけれど、私は嬉しかった」

 

 

 恥ずかしそうに、しかし何処か誇らしげにアリスはそう言うと、にっこりと笑った。

 

 

 「だからね。私は絶対人間を嫌いにならない」

 

 

 ごめんね。とアリスが言うと、幸夜は笑いを堪えるように口に手を置き、肩を震わせた。

 

 

 「いいさ。それを決めるのはお前なんだから、どうこう言いやしねえよ。・・・ただ、危なくなったら直ぐに助けを呼んでくれよ。特にこの先!・・・しばらくお前とは会えないから」

 

 

 「・・・ええ。約束するわ」

 

 

 「なら大丈夫。先生と風魔が来てくれる事になってるから、また会う時までは二人に何か用があるなら言ってくれ」

 

 

 「ええ。・・・幸夜、一つお願い」

 

 

 「ん?」

 

 

 「貴方も・・・心から、人間を嫌わないであげて?」

 

 

 「・・・へっ、お前に言われたらしょうがねえ。分かったよ。・・・ただし、一線は引くからな?」

 

 

 「ありがとう・・・」

 

 

 「何、有り難がれる事ですらねえ。惚れた弱みだよ、コレは」

 

 

 自嘲する様に幸夜は呟くと、席を立った。

 

 

 「じゃあ、またな」

 

 

 カツン、と足音を軽く鳴らし、幸夜はアリスに背を向ける。

 アリスはそんな彼を見送ろうとして立ち上がりかけたが、何故か今立っては、今だけはもう一度顔を見ては行けない気がして、彼女は黙って見送った。

 

 

 この時の彼女は正解だった。

 

 

 アリスからは視認できない位置で、幸夜の顔が窓に映り込んだ。

 その顔は、目を細めて口角を薄く上へと曲げ、さながら■■のような姿を映した。

 

 

 「それじゃあ、行きますか」

 

 

 少し調子の上がった声を口から出すと、幸夜は地面を蹴った。

 それきり、森は静かになった。

 

 

 ____________________

 

 

 「で、この場所に帰ってきたと言うわけか。大した奴だな」

 

 

 「まあそう言うな、風魔「これでも褒めているのだがな・・・」これは失礼」

 

 

 「・・・あの、なんで風魔さんが居るんです?」

 

 

 幸夜が紅魔館に戻ると、奇妙なことにオルゴイと風魔が出迎えた。

 風魔はオルゴイと向かい合い、碁を打っている。

 横には将棋盤やチェス盤も置かれ、将棋盤は風魔が、チェス盤はオルゴイが勝利した状態で置かれていた。

 

 

 「何、お前の体調を見にきただけだ。・・・何度か会ったが改めて。いや態度の変わった貴様からすれば初めてか?最初は名乗り忘れるわ、前の時はバタバタしていたからな。私が風魔だ。よろしくな、幻夜の息子」

 

 

 「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。・・・それでオルゴイさん、働く話なんですが。ホントに大丈夫ですか?」

 

 

 「うむ、負けそうなのだが「仕事の方ですよ。後今置こうとしてるとこの二つ右です」・・・む。別に構わん。前からその予定であったし、見たところ・・・強くなってきたようだからな。ここか」

 

 

 「そう、ですか?そこです」

 

 

 「要らんものまで背負ってきたようにしか私は見えんがな」

 

 

 風魔はぴしゃりと言い放つと、盤面を一睨みして負けだ。と囲碁板の上に石をジャラジャラと撒いた。

 

 

 「よくもまあ今見ただけで局面を理解したものだ。得たのはいいが、過ぎた観察眼はろくなものにならんぞ。時には見ぬふりをせんと、な。・・・邪魔をしたな、吸血鬼」

 

 

 「何、楽しかったよ、風魔。また教えてくれると助かるな」

 

 

 「ああ、貴公がそれを望むなら。その囲碁板と将棋盤は渡しておく。代わりと言ってはあれだが、またチェスも教えてくれ。中々面白かった」

 

 

 風魔は一つ微笑みをオルゴイに負けると、姿を消した。

 

 

 「幸夜」

 

 

 「はい」

 

 

 「風魔と言ったあの男、未来が見えるのか?」

 

 

 「はい?」

 

 

 幸夜が不審そうに顔を顰めると、オルゴイは手を軽く振って忘れるように言う。

 次いでオルゴイは引っ込めていたオーラを放出し、幸夜に浴びせかけた。

 

 

 「うおっ」

 

 

 本来なら対等な立場のものでも屈するカリスマを、幸夜は強風を受けたかのように仰反るだけで、膝を折る事は無かった。

 

 

 「・・・本当に、逞しくなったな」

 

 

 「一回死んだようなもんですからね」

 

 

 そうか。と少し嬉しさと心配の入り混じった微笑をオルゴイは浮かべると、放出していたオーラを引き下げた。

 

 

 「これより・・・お前をこの館の使用人と認めよう。念の為、私の命には従うように「はい」・・・まあお前には言う事はないな。娘達や美鈴、パチュリーに顔を合わせておけ。知り合いではあるがな」

 

 

 後一つ。とオルゴイは頭を掻いた。

 

 

 「親馬鹿。と言われればそれまでなのだが、レミリアが面白い未来を視たらしくてな。三桁目の年にはなりそうなのだが、その時にはお前に一番働いてもらう」

 

 

 「・・・多分世の中の何処にも百年先の仕事頼まれる奴いないでしょうね。とりあえずよくわかりませんが分かりました。その時はやろうと思います」

 

 

 「その時はお前にとっても意味のある時だとは思うが、些か説明しづらいのでな。異様な言い方ですまないな」

 

 

 「いえ。・・・それでは、顔合わせしてきます」

 

 

 背を向け立ち上がる幸夜。

 その後ろ姿に、ハッと目を見開いたオルゴイは、狼狽したように僅かに口を開閉し、そして声をかけた。

 

 

 「幸夜、お前は・・・「幸夜だー!」っ」

 

 

 「わっ、とっ、たっ!・・・おお!久しぶりじゃねえか!・・・んんっ!お久しぶりですね、フラン様、それに・・・レミリア様」

 

 

 「ええ。本当に久しぶりね、幸夜。少し強くなったの?」

 

 

 「ん、ああ・・・そうですね。ちょっとだけですけど」

 

 

 「そうなの!?じゃあ幸夜!向こうで鬼ごっこしよー!」

 

 

 「ああ、ちょっと待ってな。・・・良いですか?オルゴイさん・・・じゃなかった、オルゴイ様」

 

 

 「む、ああ、良いぞ。好きにするといい。ただし外には出ないようにな」

 

 

 「りょ・・・畏まりました。では行きましょうか、フランお嬢様、レミリアお嬢様」

 

 

 誰から教えられたのか、美しい礼の体制を取ると、幸夜が帰ってきた嬉しさを顔に出すフランドールと、フランドール程ではないものの、嬉しそうに微笑むレミリアを連れて幸夜は退出した。

 

 

 「幸夜・・・お前に混じってるのは、誰だ?」

 

 

 オルゴイの呟きは部屋の壁に吸い込まれ、幸夜達に届く事はなかった。

 オルゴイはハッとしたように首を横に振ると、いかんな、と苦笑した。

 風魔から話を聞けば、幸夜は瀕死の傷を負ったという。そこで多少なりとも他の人間の血を入れたかもしれないのだ。

 

 

 「今彼はここにいる。信用せずしてどうする」

 

 

 娘達も気がついていない程違和感は微弱なものだ。何もないだろうとオルゴイは思考を止め、散らかった囲碁板を眺めた。

 

 

 「どう見ても、後二、三手私が置いたら、私が負けていた筈なのだがな・・・」

 

 

 

 次回へ続く

 





 さて囲碁の結果は、見えたのか、知っていたのか。


 次回もお楽しみに。


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第九十八話 壁





 

 

 「・・・げ、無い」

 

 

 「どうしたの?」

 

 

 家具が増え、少し古臭さの消えた龍一の家。

 龍一に対して紫が問うと、龍一は頭を掻いた。

 

 

 「いや、幸夜の家に預けてた荷物全部取ってきたから、要る物と要らないものの整理してたんだが、多分本が一冊」

 

 

 「大事なもの?」

 

 

 「いや、日記やら術式の記録やらみたいな物じゃない。未来の武器についての資料やらまとめた本」

 

 

 「幸夜が借りたとか?」

 

 

 「ん。そういやその線があったな。まあそれ自体本来ないものなんで大事ではあるんだが、唯一無二の物じゃあないしな。借りてんならそれでいいか。ああ確かに納得がいく」

 

 

 「じゃあ大丈夫?」

 

 

 「大丈夫。そもそももう要らんしな。さてと、今んとこ理想郷どうなってるんだ?案内してくれるんだろ?」

 

 

 えっと・・・と紫はスキマと龍一の名付けた空間を開き、地図を取り出した。

 

 

 「この前アリスが来たから・・・これね。見る?」

 

 

 「おう」

 

 

 龍一が紫から地図を受け取ると、二、三度端から端まで目を通し、ほう、と言葉を漏らした。

 

 

 「結構いるんだな。割と人と妖怪のバランスも悪くねえし、いいと思うぞ。・・・んで、今理想郷にいるのが、幽夜と風魔と壊夢と侵二か。って、侵二と幽夜は人間のエリアに住んでんのかよ」

 

 

 「ええ。幽夜さんは商売上の理由で、侵二さんは監督役って事になってるの。駄目?」

 

 

 「駄目じゃねえし、口出しはせんが・・・ん?そういや幻夜は?」

 

 

 「幻夜さんは幽香と来る予定なんだけれど、もう少ししてからだそうよ。だから今はいないわ」

 

 

 「成る程な。・・・んじゃとりあえず直に見せてもらおうかな。結構期待はしてるぜ?」

 

 

 「・・・ええ。期待に添えると、良いけれど・・・」

 

 

 ほんの僅かに表情を曇らせる紫に、龍一は肩を強く叩いた。

 

 

 「バーカ。そもそも完璧な理想郷なんぞ期待してねえよ。ある程度良けりゃ俺はそれで満足するさ。最もお前が満足行かんなら好きにいじれば良いだろうしな。・・・お、ここ良いかもな。最初ここでいいか?」

 

 

 「・・・ええ!勿論!」

 

 

 その言葉に紫は安堵したのか、眩しい笑顔を見せて、ゆっくりとスキマを開いた。

 龍一もまた微笑み、紫がスキマを通ったのを見届けた後、彼自身も潜り抜けた。

 そして二人がスキマを抜け出した時。

 先に龍一が口を開いた。

 

 

 「ぁ・・・」

 

 

 小高くなった全てを一望出来る丘の上、桜の花弁が風に揺られ、龍一と紫を覆う中。

 それはいつもの軽口でもなく、褒める言葉でもなく。

 龍一がつい漏らした言葉だった。

 

 

 「・・・龍一?」

 

 

 「ん、あ。ああ悪い悪い。・・・正直、驚いてる。今、俺の付近で未来に発生する凶事が視えるようにしたんだ。今後数十年がとりあえずの山場ではあるんだが、その先。何も凶事が見えない。・・・これ程安定する場所なんて出来たんだな」

 

 

 「・・・それって」

 

 

 「感動した。つまるところ、お前は本当に全てを平等とする世界を作ったんだよ。いやはや、よくやったよ」

 

 

 マジかよ、とまだ少し信用しきれないのか、それとも嬉しさを紛らわせるためか、龍一は呟くと、にっこりと笑った。

 

 

 「しっかしまあ・・・ああ、うん、良いじゃないか」

 

 

 ふらり、と龍一は崩れ落ちるように仰向けに倒れ込み、ははは。とどこか乾いた笑い声を漏らした。

 

 

 「出来たんだなあ。ああ、よくやったよ、うん、良くやった・・・」

 

 

 龍一は青い空に右手を伸ばし、掌で太陽を遮った。

 口は少し歪み、良い表情とは言えるものではなかった。

 しかし、紫からは龍一の表情は見えなかった。

 

 

 「龍一・・・?」

 

 

 「え!?ああすまん!・・・悪いけど、ちょっと此処で一人で眺めてても良いか?」

 

 

 「・・・良いけど、大丈夫?」

 

 

 「大丈夫も何も問題ねえよ。・・・ただちょっと、二時間くらい?視たいだけだから」

 

 

 そう?と紫は不思議そうに首を傾げると、二時間したら呼んでね、とスキマの中へと消えていった。

 龍一はそれを横目で確認すると、つう、と涙の筋が右目から流れ落ちた。

 

 

 「ああ、ちょっと先が視えるだけだったのになあ」

 

 

 龍一の顔は徐々に歪み、苦しそうな顔へと変わっていく。

 拳は強く握られ、体は震えていた。

 それでも、誰かに見られても良いように、口角だけは吊り上げた。

 

 

 「俺、いないのかあ・・・」

 

 

 どこか理解はしていたつもりだった。

 紫の理想の為には、犠牲はつきものだと。

 その犠牲に、自らを差し出す事になるかもしれないのは、分かっていた。

 

 

 けれど、龍一の目からとめどなく溢れるものは、それを否定していた。

 

 

 「折角頑張って言えたのになあ。俺はどうして居ないんだろうなあ・・・」

 

 

 神界へ帰ったのか、何処かでふらついているのか、それとも。

 いつも通りの事。視たくないものが、ほんの少し見えた。

 そして、夕日の中、泣く紫の顔がちらついた。

 

 

 「嫌だよ、死にたく、ない・・・」

 

 

 もう、その時にはこの世にいないのだろうか。

 後悔が、喪失感が、彼の厚く隔ててきた壁に覆われた心を刺し貫いた。

 そして何よりも、仕方がないかと何処かで思う自分が怖かった。

 

 

 「嫌、だ。離れたくない・・・!!死にたくない・・・!!」

 

 

 数億年以上の間、龍一が隠し続けていた、殺し続けていた感情。

 生物が本能的に必ず持つ感情。死への恐怖が、再び戻ってしまった。

 

 

 龍一の長年閉じ込められてきた恐怖の感情は、声にならない泣き声になり、しばらくの間、紫が戻る一時間前まで泣き続けた。

 

 

 ____________________

 

 

 「・・・龍一?迎えに来たけど・・・、あ」

 

 

 いつもなら五分前には何かしらのアクションを起こすはずの龍一が音沙汰もなかったので、少し不安になった紫は龍一のいた場所へと戻り、そして言葉を呑んだ。

 

 

 「すぅ・・・」

 

 

 龍一が、寝ていた。

 右腕で顔を隠すようにして眠っているので、寝顔は見えない。

 しかし寝息から眠っているのは確かなようで、疲れていたのだろうか、と紫は思った。

 起こさない方がいいと思い、また様子を見に来よう、と隙間に戻ろうとした時だった。

 

 

 「ゆ、か、り・・・」

 

 

 紫の心臓がどきんと跳ねた。

 起こしてしまったのか、そんな不安もよぎったが、ただの寝言だと理解し、安堵して、そして微笑んだ。

 

 

 「いるわよ、ここに」

 

 

 そっと龍一の隣に腰を下ろし、空いている左手をギュッと握る。

 すると、龍一の左手は紫の手を強く握り返した。

 

 

 「・・・?」

 

 

 そこでふと、龍一の左手が昨日と同じように、少し震えているのに気がついた。

 すっ、と紫の背中を不安感が突き抜け、そして彼女は、そっと、しかし素早く龍一の右手を顔から離した。

 そして彼女は、見た。

 

 

 「ゆかり・・・」

 

 

 彼女が今まで見たことが無いほど、龍一の顔は負の感情で溢れていた。

 涙の跡が何重にも残り、悪夢でも見ているかのように苦痛で顔が歪んでいる。

 何故か吊り上がった口は僅かに開閉しており、何かを呟いていた。

 彼女は耳を近づけた。近づけてしまった。

 

 

 「死にたく、ない」

 

 

 たった六文字が、強烈な術式を持っていたかのように紫をその場に縫い付けた。

 紫の顔から冷や汗が流れ、呼吸が浅くなる。

 昨日もこうだったのか。

 そうだ、いつか龍一は言っていなかったか。自分は元人間だと、本当は神様なんかじゃなかったと。

 その時は冗談として受け取っていたが、もし本当だとしたら?

 もし、それで今の六文字を封印していたとしたら?

 それは誰にも理解されず、そして、

 

 

 「龍一ッ!!」

 

 

 「え、ぁ、ゆか、り・・・夢?」

 

 

 どれだけの傷を彼に刻み込んでいたのだろうか。

 紫は眠る、というより気を失っていた龍一を叩き起こすと、強く、今までで最も強く、骨が折れそうになるくらい抱きしめた。

 

 

 「あ、紫、痛い!痛い!痛いから離せ!」

 

 

 必ず今のことを聞けば、彼はそれを隠そうとするだろう。

 彼女にはその確信があり、そして、隠させまいとすることを誓った。

 だから、この場だけ知らないフリをする事にした。

 

 

 「いつまで寝てるのよ馬鹿!案内するから早く起きて!」

 

 

 「え、あ、ああ!ごめんな紫!今起きるから!」

 

 

 がばりと起き上がる龍一から離れると、急かすように爪先を地面に何度も叩きつける。

 ごめんなさい。私には今、こうする事しか思い浮かばないの。

 そして、後で、話したくなった時にちゃんと聞かせて頂戴。

 紫は龍一に心の中で謝ると、声を張った。

 

 

 「ほら!行くわよ!お昼もここで食べるからね!」

 

 

 いつもより積極的に紫は龍一を引っ張る。

 そんな紫を見て、龍一は少しだけ微笑んだ。

 

 

 「分かったよ。折角なんだから良い場所教えろよ」

 

 

 「勿論!えっとね!ここからあそこに見えるのが人里よ!行きましょ!」

 

 

 ああ、どうか、と紫は誰に願うのでもなく、一人心の中で呟いた。

 ・・・龍一と、離れることがありませんように。

 

 

 「・・・ごめんな」

 

 

 視えていることを知らずに、彼女は願うのだった。

 

 

 次回へ続く




 そりゃ人間ですから。
 幸せなときは死にたくないですよね。


 次回もお楽しみに。


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第九十九話 限られた時間

 絶望に打ちひしがれて止まるのか、希望を持って前に進むのか。
 彼は、アレとは違うから。


 ゆっくりご覧ください。


 紫にやや強引に連れられ、俺は人里を引き回されていく。

 引き回される身ながらも人里の様子を見ているが、どこも活気に溢れていて、俺の最初の印象は良い場所だった。

 ただやはり、紫がいても、侵二がいても、俺はその風景にいない。

 そして、紫はこちらを向いて笑っている。

 忘れられているのか、俺がいつか忘れさせるのか。それとも、新しい人がいるのか。

 いずれにしろ現実に打ちのめされそうになるが、俺を掴む紫の手が震えている以上、表に出すことなど出来ない。

 嬉しさと悲しさが俺の胸の中で対立する中、紫は足を止めた。

 

 

 「ここにしましょ。・・・伊織さん!空いてるー?」

 

 

 「はーい。あー!紫ちゃんと龍一さんじゃないですかー!向こうの席が空いてるのでどうぞー!・・・風魔ー!言ってた通り龍一さんが来ましたよー!」

 

 

 紫が足を止めた先の食堂からは、俺の知り合いであり、風魔の嫁の伊織が現れた。

 彼女はにこやかに迎え入れてくれると、お冷を出してくれた。

 

 

 「好きなの頼んでくださいねー」

 

 

 伊織は俺達にお品書を渡しながら言うと、忙しそうにぱたぱたと厨房へ消えて行った。

 俺は紫にそっと耳打ちした。

 

 

 「紫、どうなってんだ?」

 

 

 「・・・形は出来たけど、まだ理想郷は完成してない。だから非常事態に備えての監視ということで、少し居てもらってるの」

 

 

 成る程、と俺は厨房で鍋を掻き混ぜる風魔を見て苦笑した。

 

 

 「ご注文は決まりましたかー?」

 

 

 「ええ。あ、龍一は?」

 

 

 「決まってる。先にどうぞ」

 

 

 「ありがと。それじゃあ・・・」

 

 

 ____________________

 

 

 「御馳走様。確かに美味かった」

 

 

 「それなら良かったわ。あ、お代は私が払うわね」

 

 

 「いや・・・ああ、うん、そうしといてもらうわ」

 

 

 「それで良いのよ」

 

 

 俺も払う、と言おうとしたが、紫の目が明らかに不満そうになったので、甘えておくことにした。

 

 

 「・・・悪いな」

 

 

 「良いのよ。・・・ちょっと言ってみたかったしね」

 

 

 にこりと微笑む紫の顔を正視出来ず、俺は顔を逸らした。

 ふと、逸らした先で風魔と目が合った。

 来い、と目が語っていた。

 

 

 「・・・すまん、紫、ちょっと風魔と話してくる。しばらく伊織とでも頼む」

 

 

 「え?・・・どうしたの?」

 

 

 「ちょっと風魔に呼ばれた」

 

 

 俺は紫に微笑むと、席を立った。

 向こうも手配していたのか、すぐに伊織が紫に話しかけにきていた。

 俺はそのまま厨房のカウンター前に立ち、風魔に話しかけた。

 

 

 「・・・久しぶりだな。美味かったぜ」

 

 

 「そうか、それは何より。そして少し気になっていたが、仲も良さそうだな」

 

 

 「ん、まあな。おかげさまで。「何もしとらんよ」ありがとな。・・・で、なんだ?俺呼んどいてそれだけじゃないだろ?」

 

 

 俺がそう言うと、比較的喜色だった風魔の顔が瞬く間に消え去り、無になった。

 風魔はそのまま目を細めると、機械的に口を開いた。

 

 

 「どんな視たくないものを視た」

 

 

 「な、お前・・・」

 

 

 「その通夜帰りのような面で隠せると思ったか、馬鹿が。・・・視たのだろう?お前のいない、お前だけがいないこの先を」

 

 

 風魔のその言葉に返す言葉もなく、カウンターを叩いた。

 

 

 「・・・じゃあなんだってんだよ!」

 

 

 俺が叫ぶと、風魔は慌てて俺の口を押さえた。

 

 

 「馬鹿、声を大きくするな・・・!?んんっ、なんでもないぞ、すまんな。・・・だから今焼くのはお節介だ。いつ死ぬか分からんなら好きなようにやれ。死ぬ時はある日突然来るのだから」

 

 

 「んな事言われても、分かんねえよ・・・」

 

 

 「まあそうだろうな。・・・まあ、なんだ。お前が最後にやりたいことをやれば、それなりに結果はついてくるさ。私が四桁目で上手くいったんだ、お前なら大丈夫だ。私よりも性根は真人間なのだから」

 

 

 「・・・そう言うんなら、そうかもしれねえけどさ」

 

 

 納得のいかない俺に、風魔が気を遣ってくれたのか、俺の頭の上に風魔は手を置いた。

 力強く置かれ、その手を払おうとしたが、どうしてかそれが心地良かった。

 

 

 「あまり言うと干渉になるから嫌なのだが。・・・お前は、満足して死ぬぞ。中途半端な終わりでも、その時お前はきっと笑う。私が知っているお前は、笑っていた。ただ悲しみに暮れて泣きはしない」

 

 

 しかし、お前もまだ子供だったんだな、とカラカラと笑う風魔に、俺は顔を俯けて頷くことしか出来なかった。

 

 

 「学生から精神面はあまり成熟せずか。まあ無理もない。割りかし不安定な状態だったのだな」

 

 

 「まあ、多少はな。・・・で、なんでお前は学生だったことも知ってるんだよ。何処から見てた」

 

 

 「・・・お前の学校の知り合いに、田中というのがいなかったか」

 

 

 「いなかったか、ってお前、なんで俺のクラスメイトのこと・・・っておい、まさか」

 

 

 「三十八度目の私だ」

 

 

 「知るかそんな事」

 

 

 冗談だ、とカラカラと風魔が笑う。

 

 

 「その田中の友達が私だ」

 

 

 「知らねえよ」

 

 

 冗談になってねえぞコイツ。

 そう思いながら遠くの席で談笑する伊織と紫を見て、自然と笑みが漏れる。

 

 

 「どうだ、私の嫁は美人だろう」

 

 

 「馬鹿言え、紫のが美人に決まってんだろ」

 

 

 珍しくレベルの低い冗談と言えない冗談を風魔が言うので、俺は風魔に冗談とは言い難い冗談を返した。

 そんな中、俺は呟くように言葉を漏らした。

 

 

 「・・・俺、アイツに何してやれるのかな」

 

 

 「さあな。私は物を残してやりたいと思うがな」

 

 

 いかんせん思い出は酸いも甘いも過去含めて多すぎてな、と自嘲気味に言った。

 

 

 「俺は、思い出かな」

 

 

 「なら作ればいい。もっとも、今まで以上の思い出を残せるかは怪しいがな」

 

 

 「違いねえや」

 

 

 二人して綺麗とは言い難い笑い声を上げると、俺は風魔に背を向けた。

 

 

 「んじゃ、そろそろ戻るわ。・・・ありがとな。ちょっと考えてみる」

 

 

 「うむ。・・・そろそろ向こうの話が惚気に近づいた。流石に店内で言われると気まずいのでな。ついでに伊織を連れて来てくれると助かる」

 

 

 「はいよ」

 

 

 風魔に言われ、伊織も送り出そうと紫の側に歩くと、話し声が聞こえて来た。

 

 

 「それでですね、私がどうしようか考えてると風魔が急に手を掴んできて、「嫌か?」って笑いながら聞いて来たんですよ!」

 

 

 「良いなぁ・・・」

 

 

 「あの人、いっつもお仕事ばっかりですけど、時々そうやってしてほしい事分かってくれるんですよね。だから大好きなんですけどね」

 

 

 「龍一は、どうなのかな・・・」

 

 

 「龍一さん、すっごく控えめですもんね・・・」

 

 

 「・・・悪いけど、そろそろ止めてくれない?伊織は気付いてるよな?」

 

 

 「はひっ!?」

 

 

 「お話ししてたら来ましたねー」

 

 

 飛び上がる紫と、待っていたかのようにニコニコと笑う伊織。

 風魔の影響か、伊織も掴みにくいようになった気がする。

 

 

 「そろそろ他のとこに行こうと思ってな。・・・後伊織、風魔が呼んでたぞ」

 

 

 「はーい」

 

 

 「じゃ、行くぞ、紫」

 

 

 俺は紫の固まった手を握ると、軽く引き上げた。

 

 

 「わ、え、ちょ、手・・・」

 

 

 「嫌か?」

 

 

 「・・・う、ううん!!」

 

 

 目視できるほど赤くなった紫と手を繋ぐ俺に、伊織は目を輝かせていた。

 

 

 「ほわぁぁぁぁ・・・って!龍一さん、そんな事出来たんですね!」

 

 

 酷い言われように過去の行いの酷さを痛感する。

 ただ、ふざけんなと暴言で返すのも簡単だが、折角なので軽く気取って返すことにした。

 俺は紫の手を引いて思いっきり引き寄せ、肩に手を置いて薄く笑った。

 

 

 「まあね。・・・御馳走様」

 

 

 固まる紫をそのままに、軽く紫を引っ張るように、しかし躓くことが決してないように俺は店を出た。

 しばらくの間固まっていた紫だったが、宛てもなく歩き回っているうちに、俺の腕を引っ張って来た。

 俺が紫の方を向くと、満面の笑顔を咲かせて俺の腕に腕を絡ませてきた。

 嬉しそうで良かった。

 

 

 ____________________

 

 

 龍一が店を出た後、ふらふらと伊織が厨房に戻ってきた。

 僅かに頬は紅潮し、嬉しそうに顔を緩めていた。

 

 

 「・・・上機嫌だな」

 

 

 「そうなんですよ!聞いてください風魔!あの龍一さんがですよ!こうやって・・・ちょっと来てください。「こうか?」そう、こうして腕を引いて肩に手をおいて、『まあね』ですよ!なんであんな急にカッコよくなったんですかあの人!?」

 

 

 「・・・元が良かったから吹っ切れたんだろう」

 

 

 「吹っ切れたとしても凄すぎですよ!あんなの風魔がいなかったら落ちてます!」

 

 

 「そうか。・・・まあ、アイツが吹っ切れたなら何よりだ」

 

 

 龍一が去った方角を眺めていると、そう言えば、と伊織がやや声のトーンを落とした。

 

 

 「龍一さんが貴方と話してたこと、本当なんですか?」

 

 

 「聞こえていたか。・・・アイツが死ぬ事か?」

 

 

 「・・・まあ、そうなりますね」

 

 

 少し顔を暗くする伊織に苦笑し、答えてやった。

 

 

 「知らん。誰がアイツの未来を知っとるんだ。そう奇跡的に奴に会うわけが無かろうが」

 

 

 「だって、田中って人のクラスメイトのって・・・」

 

 

 「田中なら何処にいてもおかしくなかろう。それに、クラスメイトの友人だ。そんなもの誰が誰かわかるまい。要は龍一からすれば他人なのだから」

 

 

 ハッとしたように伊織は顔を上げ、私の服を掴んで前後に揺らした。

 

 

 「また騙されましたー!」

 

 

 「何もお前を騙しとらんだろうが。それに、アイツの未来も知らん。せいぜい己の顔でも洗えばいい」

 

 

 「もしかして意味深な事言ってますー?」

 

 

 「さあな。言えばつまらんだろう」

 

 

 むう、と頬を膨らませる伊織に、私は笑った。

 

 

 次回へ続く。




 彼は、まだ人間なのだから。


 次回もお楽しみに。


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第百話 振り返らずに

 生きて、前を見たい。


 ゆっくりご覧ください。


 「あ、あの、龍一?」

 

 

 「ん?」

 

 

 「その、急に、どうしたの?」

 

 

 紫と密着したまま人里を歩く中、奇異と恐らくではあるが・・・羨望の目で見られる中、紫がまだ少し照れた様子のまま俺に聞いてきた。

 

 

 「あのその、嫌なんじゃなくてね?・・・今まで、龍一からしてくる事なんて無かったから、どうしたのかな、って」

 

 

 「あー・・・そうだな。まあ色々あるが、ようやく自分にちょっと自信がついたって言うか。・・・このままだと後悔するなって思ったから、な」

 

 

 俺を見上げる紫の髪を軽く撫でる。

 触れた瞬間は声を出したものの、払い除けることもなく、目を細めていた。

 

 

 「んっ・・・自分が凄いってようやく分かったの?」

 

 

 「いや・・・いや、うん、まあ、そうだな」

 

 

 「・・・自分の顔、ちゃんと鏡で見てる?」

 

 

 「見てない」

 

 

 「なんでよ!?」

 

 

 「龍神は髪が乱れる事はおろか、皮膚の劣化もねえんだよ。だから身嗜みを整えるために鏡見る必要がねえの」

 

 

 「だからあの家、鏡が無かったのね・・・」

 

 

 やれやれと言わんばかりのため息を紫が吐く。

 仕方ないだろ、と言う言葉は飲み込み、悪かったよ、と笑う。

 

 

 「まあこれからも善処はしないが・・・お」

 

 

 「ちょっとはしなさいよって、どうしたの?」

 

 

 俺の背後からは見えないので、しばらく飛び跳ね、やがて何故か俺の背中に飛び乗り、俺の見ていたものを見た。

 

 

 「おい、なんで乗るんだよ」

 

 

 「貴方で見えないからでしょ。・・・花?」

 

 

 「ああ。家の窓際にでも、と思ってな」

 

 

 「ふーん・・・」

 

 

 「意外か?」

 

 

 「ううん、そうでも無いわ。・・・何がいいの?」

 

 

 紫の質問に、俺は顎に手を置いて考える。

 しばらく考えたのち、三つほどに絞られていた。

 

 

 「梅か桜、後はフジの花かな。・・・お、コレとかどうだ?」

 

 

 俺は花瓶に入った藤の花を指差す。

 しかし紫は不思議そうにしていた。

 

 

 「藤の花、好きだった?」

 

 

 「・・・ああ、前は桜とか言ってたかもな。ああそうだ、お前の名前に似てるか・・・ら・・・」

 

 

 「・・・似てる、から?」

 

 

 「・・・好きになったんだろうな。コレにするか」

 

 

 「ええ」

 

 

 ほんの少しぎこちなくなったものの、俺は買った藤の花を受け取り、先に家に置いておいた。

 しばらく歩き回り、少し人里から離れた丘に二人で座り込んだ。

 日は傾き始め、ほんの少し空は茜色に染まり始めていた。

 

 

 「いやあ歩いた歩いた。滅茶苦茶広いじゃねえか」

 

 

 「気に入ってくれた?」

 

 

 「ああ。今まで見た中で一番いい場所だよ。半分くらいデートみたいになっちまったがな」

 

 

 「!?そ、そうね・・・」

 

 

 「・・・悪い、軽率だったわ」

 

 

 「べ、別に気にしてないのよ?・・・けど、その、ほんとに変わったなって・・・」

 

 

 「かもな。・・・なにせ」

 

 

 死ぬからな、と言いかけて俺は口を塞いだ。

 

 

 「死ぬからな、かしら?」

 

 

 「っー!?ばっ、よせよそんな冗談!」

 

 

 紫の横からの発言に、慌てて笑おうとするが、笑えなかった。

 紫の顔は真剣そのもので、冗談を言ったとしてもすぐに冗談だとバレそうな程に目が据わっていた。

 

 

 「本当に、冗談?」

 

 

 「あ・・・いや、その」

 

 

 「本当に?」

 

 

 「・・・」

 

 

 俺が無言になると、そう。と言って紫は悲しそうな顔になった。

 

 

 「私には、言えない?」

 

 

 やめてくれ、そんな顔で見るな。

 紫の少し潤んだ瞳、それでいて引き締められた口許を見て、まるで胸がナイフで刺されたように痛んだ。

 声も掠れそうになり、呼吸も荒くなる。

 そしてまた隠していた恐怖が溢れ出した。

 

 

 「おれ、は、死にたく、ない」

 

 

 やめろ、耐えろ。

 意識は拒否を起こしているはずなのに、色々なものが溢れ出していた。勝手に口が動いていた。

 

 

 「まだ、紫、といたい」

 

 

 紫の手が俺の頬に置かれる。

 その瞬間、耐えようとしていた俺の意識は拒否できなくなった。

 

 

 「死にたくない・・・っ!」

 

 

 ついさっき。一人で嘆き、叫んでいたよりも更にひどく、激しく、苦しいものが吐き出されていった。

 それを紫は全て受けて、優しく頭を撫でてくれていた。

 そして、それに甘えるように、俺もずっと叫び続けた。

 

 

 

 叫び終わる頃には日が暮れ、茜色の空に闇色が混じっていた。

 俺は紫の膝枕の上で、呆然と空を眺めていた。

 そんな俺に気がついたのか、紫はクスリと笑い、俺の頭を撫でた。

 

 

 「少しは、良くなった?」

 

 

 その言葉に再度溢れそうになるが、やっとの事で堪えて首を縦に振った。

 紫は再び微笑み、ごめんなさい。と言った。

 

 

 「聞いちゃったの。貴方が死にたくないって、寝言で呟いてたのを」

 

 

 「・・・いつ頃?」

 

 

 「今日のことよ。・・・どうして笑ってるの?」

 

 

 「いや、流石にバレるの早いなあ、と」

 

 

 俺は力なく微笑み、視線を横にする。

 日は更に地平線に吸い込まれていき、俺は息を吐いた。

 

 

 「幻滅したか?」

 

 

 「ううん。・・・龍一も生き物なのねって、安心したわ」

 

 

 「・・・なんか弱み握られたみたいで嫌だな、それ」

 

 

 「実際そうじゃないの?」

 

 

 「そうだな。・・・だからさ、俺、いつか死ぬかもしれないけどさ。大丈夫か?」

 

 

 「なにが?」

 

 

 「いつか会えなくなるからさ。それも、割と早いうちに」

 

 

 

 「だから何が?」

 

 

 「・・・お前の隣に居続けるのが、だよ」

 

 

 「良いわよ、別に。貴方は?」

 

 

 「俺?・・・正直に言うと、最後まで看取って欲しいかな」

 

 

 「・・・なら、確定ね」

 

 

 「だな」

 

 

 紫の微笑みに俺は再度上を向いて微笑み返す。

 ただでさえ美人の紫が、いつも以上に綺麗な気がした。

 

 

 「・・・綺麗だな」

 

 

 「え?何か言った?」

 

 

 俺が聞こえないように言った呟きは、当然紫に聞こえることなく、紫は耳を俺の顔に近づけた。

 だから、紫の顔を掴み、正面に向けて、

 

 

 「お前が綺麗だって言ったんだよ」

 

 

 思いっきり引き寄せて、唇を合わせた。

 口を離した頃には、紫の顔と空の色が見分けられなかった。

 

 

 「・・・予備動作も、準備もなしにやったのは、初めてだな」

 

 

 俺が悪戯っぽく笑うと、紫は両手で口許を押さえてポロポロと涙を流したまま、笑った。

 

 

 「もう、馬鹿・・・」

 

 

 さてどう返そうかと内心でニヤついていると、ふと目の前の光景が、視えてしまった未来のワンシーンと同じであることに気がついた。

 

 

 「・・・なんだ、コレじゃないのか」

 

 

 安心からか、また一筋だけ涙が溢れ出した。

 そんな俺を不思議そうに見つめる紫に、なんでもないよ、と初めてスッキリした顔のまま答えることができた。

 

 

 ____________________

 

 

 「なんてことがあってさあ!いやあクッソドキドキしたわ!てかバレるもんだな!隠し事!」

 

 

 「・・・珍しく今日の後に酒に誘われたと思ったらそれか、龍一」

 

 

 「まあまあ。良いじゃないですか」

 

 

 「俺は酒が飲めるから、龍一の惚気でも歓迎じゃがな!」

 

 

 通称妖怪の山、風魔宅。

 龍一と幻夜を除く四凶が、久方振りに酒盛りをしていた。

 特に龍一が多量の酒を飲み、頬が紅潮していた。

 

 

 「まあ、恋愛クソザコ大明神の主上には良い転機なんじゃないですか?」

 

 

 「違いねえぜな、それにしては積極的になりすぎとる気もするがな。盛った猿ぜよか?」

 

 

 「相変わらず恋愛沙汰になると口が悪くなるな貴様らは。ここぞとばかりに上から見下ろすな」

 

 

 侵二と壊夢の暴言に風魔は苦笑し、当の龍一は笑ったままだった。

 

 

 「良いんだよ風魔、事実言われてるだけなんだから。・・・で、とりあえず惚気はここまで」

 

 

 「急に落ち着くな」

 

 

 「それどうにかなんねえぜよ?」

 

 

 「温度変化おかしいんですよ」

 

 

 「いっぺんに罵声吐くないっぺんに。・・・そのさ、俺が死んだら、お前らどうするんだ?一応俺の配下だから言う事聞いてくれたと思ってるんだが、あのまま理想郷に残るのか気になってさ。・・・残ってくれるなら、壊さないでほしい」

 

 

 龍一の顔は真剣なものだったが、侵二達は吹き出した。

 

 

 「・・・アホですか貴方は。そんな事しませんよ」

 

 

 「同感ぜな」

 

 

 風魔も無言で頷き、侵二が言葉を続ける。

 

 

 「私らは従ってるんじゃあないですよ。私達も場所は違えど理想郷に魅入られたんですよ。だから、言われたからとかじゃなく、居場所見つけたからいるんです。今更何言われようが残りますよ。・・・逆に滅ぼせと言われれば、貴方を殺すくらいはね」

 

 

 「そう、か」

 

 

 「・・・ってのは私は半分ですね。まあ、なんです。私個人としては、主上にはお世話になったのでね。ろくな恩返しじゃあ無いですが、私の目が黒いうちはなんとかしますよ」

 

 

 「俺もまあ、地上は知らんが地底はどーにかしといてやるぜよ」

 

 

 ほら見ろ。と知っていたかのように、風魔は杯の中の酒を一気に飲み干した。

 

 

 「だから言っただろう。好きに生きろと。残りの時間は今までのように長くはない。まあ急かされながら生きるんだな」

 

 

 「急かされるのは、散々慣れてるよ・・・っと!」

 

 

 龍一は酔いを覚ますように自分の頬を叩き、ニヤリと笑った。

 

 

 「んじゃ、今日はもうちょい飲むか。ツマミ持ってきたんだぜ」

 

 

 「お、なんですかなんですか」

 

 

 「紫の作ったチーズリゾット」

 

 

 龍一が米櫃に入れて持ってきた物に、三人は顔を暗くした。

 

 

 「いや、ちょっとそれは・・・ね?」

 

 

 「ちと酒と合わんから、なあ?」

 

 

 「上機嫌で持ってくるなそんな物。米櫃に入れるな」

 

 

 「お、なんだお前ら、知らんのか?めっちゃ料理上手くなってんだぞ」

 

 

 笑顔のままリゾットを口に入れる龍一を前に、半信半疑のまま三人はそっとリゾットを口にした。

 

 

 「「「!?」」」

 

 

 「な?」

 

 

 その後、珍しく酔った龍一は、空になった米櫃を脇に抱え、ほんの少し誇らしげに帰宅するのだった。

 

 

 

 次回へ続く。




 「だからそこ!なんで野菜炒めそんな強火でやるんです!」
 「やっちゃダメなの?」
 「強火でやったって時間短縮になんないんですよ!ああほら米がスープ吸ってますよ!スープ足して!」
 「あ、はい!・・・あ、幸夜、このスパイス借りていい?」
 「ろくに作れもしねえのにアレンジしてどうするんですか!」

 なんて事があったり無かったり。


 次回もお楽しみに。


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第百一話 抜け殻

 

 

 

 

 激しい雨の降る夕暮れ、とある葬式を僕は家の影から覗く。

 棺桶の側には老年の男性と、若い男女がしがみついて泣いており、きっと、旦那さんと娘、娘の伴侶だろう。

 亡くなった彼女もまた幸せだった事に安堵し、静かに目を閉じる。

 ふと、背後に気配を感じ、僕は振り返った。

 

 

 「久しぶりだね、幻夜」

 

 

 諏訪子だった。

 彼女は僕の横にしゃがみ込むと、濡れた髪をかき上げながら小さく笑った。

 

 

 「やっぱり、慣れないな・・・」

 

 

 「・・・そうだろうね」

 

 

 良い子だったよ。と諏訪子は呟いた。

 

 

 「信仰自体が薄れ始めた時代にさ、私がいるって信じてくれて、毎日欠かさず来てくれて。苦労も多かっただろうに、何一つ愚痴も言わないで」

 

 

 「・・・知ってるよ。見てたからね」

 

 

 「ああ、そうだよね・・・」

 

 

 会話はそこで一度切れた。

 しばらくして、僕の方から口を開いた。

 

 

 「・・・少し、後悔してることがあってさ」

 

 

 「・・・なんだい?」

 

 

 「もし、僕が縁の隣にいたら、こんな光景見なくて済んだのかなって」

 

 

 ずっと、彼女も、そしてその子孫も、人間という短い命の中で終えることなく、もっと好きなことができただろうに。

 

 

 「なんで人って、すぐに死ぬのかなあ・・・」

 

 

 本当は選んで欲しかったのかもしれない。

 本当は娘として見ていなかったかもしれない。

 でも、自分は結論を持つことなく逃げた。あの子をそう見ている自分から、あの子から。

 

 

 「幻夜・・・」

 

 

 「だからさ、逃げない事にしたんだ」

 

 

 今、隣には幽香がいる。

 しかし彼女は僕にとって一番ではあるけれど、彼女は今、僕が一番なんだろうか?

 一番は幸夜に向いてはいないだろうか?

 それは嫌だ。一番がいい。

 

 

 「もう一回。今度は迷いなく。大切な娘として、一緒に」

 

 

 分かってる。これは嫉妬だ。

 中途半端に人の感情を知ってしまったが故の、汚い感情なんだ。

 それでも自分は。幽香と、僕と、幸夜と、あの子で、

 

 

 「素敵な時間を過ごしたいんだ」

 

 

 「幻夜・・・?」

 

 

 雷鳴が鳴り響き、僕の背後に落下する。

 突然の光のせいか、諏訪子の顔が怯えているように見えた。

 

 

 「・・・やっぱり、僕は人の心がはっきりと分からない。だって今持ってるこのモヤモヤした気分をどうしたいか分からないんだもん」

 

 

 「それ、は・・・」

 

 

 「だからさ、もう一回やり直してみたいなって」

 

 

 「・・・駄目だよ、幻夜。それは、駄目だ・・・」

 

 

 諏訪子が否定するように首を激しく横に振る。

 

 

 「どうして?・・・ああ、失敗するかもしれないから?大丈夫。今は失敗してるけど、ちゃんと練習してるから。本番は絶対成功するようにね」

 

 

 「そんな事・・・!!」

 

 

 「もうちょっとだよ、きっと。何千年もかかったけど、きっと後百年ちょっとで成功する。諦めなければきっと成功するんだよ」

 

 

 いずれ訪れる未来を想像してか、自分の顔が今までにない程吊り上がる。今笑えば、歯茎まで見えそうになるくらいに、体の底から湧き上がってくるものがある。

 

 

 「あと少し、そうあと少しなんだ。そしたらきっと、幽香と、三人で・・・!」

 

 

 「駄目だよ!あの子はそんな事望んでない・・・!!」

 

 

 ふらふらと歩み寄り、諏訪子が僕の服を掴む。

 僕はそれを払いのけ、逆に手を握った。

 

 

 「・・・嫌だなあ、諏訪子。望んでないなら望ませれば良いんだよ。・・・そもそも、僕が望むことをあの子が望まないわけ無いじゃないか」

 

 

 にっこりと、諭すように諏訪子に微笑む。

 しかし沸き上がるものが抑えられず、満面の笑顔になってしまう。

 それ程までに、僕は楽しみで嬉しくて抑えられないのにどうして、どうして諏訪子は怯えているの?

 

 

 「なんで怯えるのさ?・・・ああ、叶うかまだ不安なんだね!大丈夫大丈夫!僕は信じてる!だから叶う!だって僕が望んだことは叶って来たんだから!」

 

 

 信じていれば夢はきっと必ず叶うはずなんだから。

 だから、怯えなくていいんだよ。

 

 

 ____________________

 

 

 「ただいま」

 

 

 「あら、お帰り、幻夜。何処に行ってたの?」

 

 

 「ちょっと日本にね」

 

 

 オランダの何処かの花畑。幻夜がその中にポツンと建つ自宅のドアを開けると、幽香が出迎えた。

 

 

 「そう。誰かと?」

 

 

 「うんまあ、古い馴染みになるのかな」

 

 

 「楽しかった?」

 

 

 「うん。楽しかったよ。あ、これお土産ね」

 

 

 「ありがとう。しまってくるわね」

 

 

 部屋から退出していく幽香の後ろ姿を眺め、次いでテーブルの上に置いてある写真立ての写真を眺めた。

 そこには微笑む幽香と、幸夜の頭を撫でる幻夜。

 そして鬱陶しげにしながらも笑う幸夜が写っていた。

 幻夜は微笑むと、ちゃんと空いてるね。と呟いた。

 

 

 「悪いけど、ちょっとだけ借りるからね」

 

 

 写真の中の幸夜を指で撫でると、幻夜は紅茶を淹れ始めた。

 とは言え指を一つ鳴らすだけで、暖かい紅茶が二杯完成していた。

 そして幽香が部屋に戻ってくるのは、それとほぼ同時だった。

 

 

 「ただいま・・・あら、いいの?」

 

 

 「うん、どうぞ」

 

 

 ありがとう。と幽香は言うと、紅茶に息を吹きかけて、一口コクリと飲んだ。

 幻夜もそれに次いで紅茶を一口飲み、息を吐いた。

 

 

 「あのさ、幽香」

 

 

 「なあに?」

 

 

 「未来の話になるんだろうけどさ」

 

 

 「うん」

 

 

 「もう一人、僕とも幽香とも血の繋がってない子供が来たとしたら、嫌かな?」

 

 

 「・・・どうしてそんなこと聞くの?」

 

 

 「ううん。ちょっと知り合いとの話の中でそんな話になってね」

 

 

 そう。と幽香は紅茶をテーブルに置き、微笑んだ。

 

 

 「私は良いわよ。貴方がそうしたいなら、すればいいと思うわ。・・・ただ、ちょっとだけ私がお母さんとして上手く出来るかは分からないけれど、ね?」

 

 

 後半恥ずかしげに声の小さくなっていく幽香に、幻夜は嬉しそうに口角を上げた。

 そっか。と幻夜は言うと、幽香の隣に席を移した。

 

 

 「君が隣で良かったよ、幽香」

 

 

 「・・・ありがと」

 

 

 「その時は女の子になるだろうから、きっと幽香も大丈夫だよ」

 

 

 「やけに決まってるのね?」

 

 

 「うん?そうかな?」

 

 

 楽しみで、つい考えすぎちゃったんだよね。と幻夜は恥ずかしそうに笑った。

 

 

 ____________________

 

 

 「それじゃ、ちょっと用事があるから。また後でね」

 

 

 「ええ」

 

 

 幻夜にとって幸福な時間を過ごし終えると、さて。と幻夜は空間を飛んだ。

 飛んだ先は時代に似合わない機械的な設備から、古臭い呪文の書かれた木箱などがずらりと並べられている場所だった。

 

 

 「ここは・・・失敗か。そしたらこっちは、お。形ができてる」

 

 

 幻夜が歩いた先には、水槽のようなものの中に生き物が浮いている不気味な設備が並んでいた。

 その中で両生類に近い形になっている水槽に近寄り、コンコンとガラスを叩く。しかし反応はなく、残念そうに幻夜はため息を吐いた。

 

 

 「おーい、おーい・・・これもダメか。あんまり上手いこと行かないなあ。・・・やっぱり種類とか出身とか関係あるのかな」

 

 

 するとこっちだよね。と幻夜は別の方向の水槽に近寄る。

 げ、と幻夜は顔を顰めた。

 そこには山羊の頭と人間の頭を一つずつ持つ、烏の羽を生やした四足歩行の犬が浮かんでいた。

 

 

 「・・・気持ち悪っ。やっぱり他の生き物だと馴染まないんだね。でも魚も混ぜたけど出てないな・・・遺伝力が弱いのかな?」

 

 

 パチン、と幻夜が指を鳴らすと、失敗だと言っていた水槽の内部が凍りつき、次いで鳴らすと水槽は空になった。

 はあ、と木箱の上に腰を下ろすと、ガリガリと頭を掻いた。

 

 

 「まあ素材はまだあるし、大丈夫大丈夫。落ち着いてやればきっと成功するさ」

 

 

 新しいの取りに行こう。と木箱から降り、密かに呻き声や鳴き声のする扉の前で止まった。

 

 

 幻夜はドアをそっと開き、中を見渡し、なにかを見つけたのか、微笑んだ。

 

 

 「うん。次は君だ。おーよしよし、怖くないからねー」

 

 

 幻夜はそれに手を伸ばすが、激しく抵抗される。

 しかし幻夜は笑顔を曇らせることなく、それを抱え上げた。

 

 

 「うんうん。前に抱き抱えた時よりも軽くなってたりもしないね。おーよしよし、すぐに連れていくからねー」

 

 

 幻夜はドアを閉め、それを抱え上げたまま、コツコツと水槽の奥に歩いて行った。

 しばらくして何かの悲鳴が響いたが、それっきり。それに反応するものはなにもなく、ただ不気味に水槽の液体が時折音をたてるだけだった。

 そして、彼の叫び声が響く。

 

 

 「・・・やった!!反応した!!」

 

 

 その声は歓喜に満ち溢れ、まるで子供が精一杯の努力を重ねて綺麗な泥団子が完成したように。

 

 

 「成功だ!!成功だッ!!・・・僕は、僕はやったんだァァァッ!!」

 

 

 完成した。

 そんな叫び声が聞こえるのも、もう遠い話ではない。

 

 

 次回へ続く

 




 諦めなければ夢は実現する。
 人間では限界があっても、果てしない時間があれば大丈夫ですね。


 次回もお楽しみに。


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第百二話 離れていても


 はい、また遅刻です。
 申し上げることもございません。
 それでも良ければご覧ください。



 「・・・夜さん!幸夜さん!」

 

 

 「ヘアッ!?」

 

 

 「ひゃっ!?」

 

 

 突如耳元に聞こえた声に起き上がると、声の主がひっくり返ってしまった。

 俺は慌てて思考を引き戻すと、ひっくり返った耳に新しい声の主を起こした。

 振り返ればソファーに痕が残っており、眠っていたらしい。

 

 

 「すまん、小悪魔。ちょっと寝てた」

 

 

 「だ、大丈夫です!こちらこそ起こしてしまって・・・」

 

 

 「だからそんな頭下げないでくれって・・・」

 

 

 俺の前でペコペコと頭を下げているのは小悪魔と呼ばれる少女。

 つい先日、パチュリーが召喚に成功した、紅魔館の新しい住人だ。

 俺よりも後輩にあたる彼女は、何かと仕事を共にすることは多いのだが、いかんせん悪魔と名のつく割には、腰が低すぎる気がする。

 

 

 「・・・で、どうしたんだ?俺午後から仕事あったっけ?」

 

 

 「いえ、あの、その、呻かれていたので・・・」

 

 

 「・・・マジで?」

 

 

 おずおずと小悪魔の差し出してくれた鏡を受け取る。

 顔面は蒼白になり、冷や汗が所々滲んでいた。

 

 

 「うわ白っ!」

 

 

 「ですので、体調が悪いのかと・・・」

 

 

 「・・・いや全くそんな感じではないんだがな。・・・あ、でも変な夢は見た」

 

 

 「夢ですか?」

 

 

 「ああ。訳わかんねえ場所で、ひたすら肉の塊で何か作ってる夢なんだが、こう、やけにリアルでな・・・」

 

 

 「きっとお疲れなんですよ」

 

 

 「かなあ・・・」

 

 

 原因を頭の中で探っていると、そうだ、という何かを思い出したかのような小悪魔の声に引き戻された。

 

 

 「さっき、幸夜さん宛にお手紙が来てましたよ。二通」

 

 

 「・・・二通?」

 

 

 「はい。読まれますか?」

 

 

 「・・・貰おうかな。ありがとう。・・・あ、暇なら座って休憩にしようか」

 

 

 「はい!」

 

 

 俺はソファーの端に寄り、小悪魔もソファーに座る。

 俺は二通の手紙を受け取り、一通目の封を開く。

 ふわりとラベンダーの香りが広がり、送り主が誰かすぐに分かった。

 内容は簡潔で、こちらは元気です。働くからにはしっかり頑張りなさいよ。という内容。そして同封されたラベンダーの押し花を使った栞。

 紛れもなく母さんからだった。

 

 

 「・・・相変わらず手紙になると口数減るなあ」

 

 

 「幸夜さんのご家族ですか?」

 

 

 ラベンダーの香りが気になるのか、首を傾げる小悪魔。

 俺は肯定し、頑張れよだってさ。と笑う。

 

 

 「母親からだな」

 

 

 「お母さんだったんですね。・・・どんな人、なんですか?」

 

 

 「そうだな。優雅をそのまま人にしたような人かな。あんまり人前で笑わないし、慌てる事もないし。・・・でも、俺と親父の前ではよく笑って、よく慌てて、よく泣いてさ。世間一般的にどうかは知らないが、いい母親だと思ってる。・・・後そんな感じの割にパワフルでな。親父より力強いんだよ」

 

 

 大抵能力無しの夫婦喧嘩になると親父の腕が固められる。そんで折れる。

 その時のみ優雅さは消し飛び、震え上がりそうな笑顔と共に快活さを持っているような気もする。

 

 

 「喧嘩するたび毎回親父が腕固められててな。酷い時は腕が折れる」

 

 

 「お、折れ・・・っ!?」

 

 

 「そうそう。でも俺は大事にされてるんだよな。時々とんでもねえ事してくれるけどさ」

 

 

 「あはは・・・」

 

 

 苦笑いを浮かべていた小悪魔だったが、話を変えるように、もう一通は誰からですか?と聞いてきた。

 俺はもう一通の手紙の封を開け、差出人のところを見て、きっとだらしがないと言われるほど、口が緩んだ。

 ゆっくりと手紙を開き、文章を読んでいく。

 そこには向こうの現状が書かれていて、つい最近一人で村に遊びに行った事も書かれていた。

 そして最後に、ずっと待っています。という一文で締め括られており、読み終える頃には胸の奥が少し暖かくなっていた。

 

 

 「・・・大事な人からですか?」

 

 

 「へ?あ、顔に出てる?」

 

 

 「はい。すっごく出てます」

 

 

 「マジかあ・・・」

 

 

 へへっ、といつもなら決して出ない笑い声が出る。

 手紙をくれた事も、元気である事も、待ってくれている事も、それら全てがどうしようもなく嬉しくて、照れ臭さを覆い隠すほど口元はニヤついてしまう。

 

 

 「・・・大事な人からだよ。この手紙は。待ってくれてるってさ」

 

 

 「そっか・・・お仕事中は会えませんもんね」

 

 

 「いやまあ初めて会ったときは仕事から逃げて会ったんだけどな?」

 

 

 「逃げたんですか!?」

 

 

 小悪魔のツッコミに堪えきれず笑いながら、逃げたよ。と返した。

 

 

 「九十日間一切の飲食を禁止した状態で、身体能力の向上に努める。・・・途中で逃げはしたけど、フラッフラでな。そん時に倒れてたのを拾ってくれたんだよ」

 

 

 「飲食禁止・・・!?」

 

 

 「んで、向こうも人との関わりが無かったから仲良くなって、元気になったんで戻ろうとした時、やけに後髪引かれる気分でさ。その時、ああ俺あいつの事好きになったんだなって。・・・あ、悪い。惚気になってたわ」

 

 

 「そ、それで!それでどうなったんですか!?」

 

 

 「やけに食いつくなおい。そっから・・・まあ、ちょっとあってな。悪い、そこは相手の話にもなるから、あんまり喋れねえんだが。両想いだった。・・・んで、今はここにいるが、後百年したら、その、なんだ。・・・気が変わってなくて、一緒に暮らせるなら暮らそうかって話になったん、だが・・・」

 

 

 話の半ば辺りから急に照れ臭くなったので、俯いて適当なところで話を止める。

 

 

 「・・・やめだ、やめ。恥ずかしくて堪ったもんじゃない。・・・おいにやけてんじゃねえ」

 

 

 顔を上げると、小悪魔は本で口元を隠していた。だがしかし口は隠しきれないほどニヤついていた。

 

 

 「だって、意外だったんですよ。幸夜さんが照れてそんな話するの。・・・てっきりそんな人はいないと思ってましたよ?代わりに愛人が多いみたいな、そんなイメージでした」

 

 

 「ねえそれわりと失礼じゃない?俺そんな風に見えるか?」

 

 

 「ちょっとだけ見えます。態度というか、普段の話し方からも」

 

 

 「ええ・・・」

 

 

 そんな風に見えていたのか、と少し肩を落とす。

 そこでハッとしたように、小悪魔がフォローし始めた。

 

 

 「あ、で、でもですよ!話してたらああ真面目ないい人なんだなって思うんですよ!何というか面倒見が良いお兄さんみたいな人で!」

 

 

 「ああ、そう?別に妹とかいねえんだけどな」

 

 

 「あれ、一人っ子だったんですか?」

 

 

 「あん?・・・フランドールにもレミリアにも言われたが、俺は一人っ子であって、誰かの兄貴とかじゃないぞ」

 

 

 あ、この手紙の主の話は内緒な。と笑うと、小悪魔は快く返事をしてくれた。

 

 

 「はい!」

 

 

 「無駄だと思うわよ」

 

 

 「ぴっ」

 

 

 快く返事をした小悪魔の背後に、パチュリーが立っていた。

 小悪魔は驚いたように飛び跳ね、俺の背後に回り込んだ。

 

 

 「おい」

 

 

 「・・・主人に対して驚くのはどうかと思うわ」

 

 

 「そ、それはあ・・・」

 

 

 しゅんと項垂れ、俺背中から出て謝罪する小悪魔を横目に、パチュリーに取り繕うように真面目な顔で問いかけた。

 

 

 「どっから聞いてました?」

 

 

 「・・・手紙を読んでる辺りからかしら。それに隠さなくてもみんな知ってるわよ」

 

 

 「マジかよ笑えねえなあ」

 

 

 嘆息し、ヤケクソ気味に口角を上げて、手紙をコートのポケットに仕舞い込んだ。

 

 

 「・・・それじゃ、仕事してきますね。水銀もらっていきますよ」

 

 

 「ええ。瓶、一本だけは残しておいてね」

 

 

 「了解っす」

 

 

 水銀の瓶を片手に手を振り、図書室から退出する。

 

 

 

 彼の背後を見送りながら、小悪魔は不思議そうに首を傾げた。

 

 

 「お仕事に水銀なんて使われるんですか?」

 

 

 「・・・そうね。貴女は幸夜の仕事、まだ見てないものね」

 

 

 パチュリーは納得したかのように幸夜の退出したドアに視線を移し、口を開いた。

 

 

 「彼、基本的に使用人みたいな事して昼には寝てるけど。時々遠出して仕事しに行くのよ」

 

 

 「なんで遠出するんです?」

 

 

 「それは・・・本人に聞きなさい。本棚の整理終わったの?」

 

 

 「あ、まだです!やってきます!」

 

 

 パタパタと駆けて去っていく小悪魔を見送り、パチュリーは嘆息した。

 日の沈みきらない中、小悪魔が幸夜の姿を見て悲鳴を上げるのは、想像に難くない事だった。

 

 

 

 次回へ続く





 ありがとうございました。
 次回もお楽しみに。


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第百三話 対策

 また遅れました、どうしようもないですね。


 ゆっくりご覧ください。


人里。

 数多の人間が通る大通りから少し離れた所に、大きな酒場がある。

 その前は人通りがなく、お世辞にもまともとは言えないような雰囲気を放っていた。

 一人の影がそんな酒場の前に立ち、キイと軋むドアを開けた。

 

 

 「あ、いらっしゃいませ!」

 

 

 人影に言葉をかけたのは、酒場には似つかわしくない、純粋そうな少女。

 彼女の頭からは兎の耳が生え、僅かに揺れていた。

 

 

 「えっと、今幽夜を呼んできますね!」

 

 

 奥の部屋へと消えて行こうとする兎耳の少女、鈴仙は奥の部屋へと消えると、すぐに幽矢を連れて戻って来た。

 

 

 「・・・ここに来るとは、珍しいな」

 

 

 「ま、そうかもな。水でも入れてくれ」

 

 

 「酒場で最初に水頼むんじゃねえよ」

 

 

 人影の正体、龍一はニヤリと笑うと、カウンターの席に腰掛けた。

 幸夜はそんな彼の前に冷えた水を置くと、話は?と問いかけた。

 

 

 「別にねえ。ただの時間潰しついでだ」

 

 

 「・・・なんだよ、久しぶりに来たから何かあるのかと思ったじゃねえか」

 

 

 「ねえよ別に。・・・あ、待て、あった」

 

 

 「お?」

 

 

 「近いうち、俺死ぬから」

 

 

 バリン、とガラスの割れる激しい音が酒場に響き渡る。

 そしてぬらりひょんと鎌鼬、大男が龍一の側に近寄った。

 

 

 「冗談ではない、のだな?」

 

 

 「龍神がジョークで死ぬ死ぬ言わんだろ。ほんとに臨終するかもしれん」

 

 

 「不死だったんじゃねえのかよ・・・?」

 

 

 「紫に告白したら死ぬようになった。龍神補正が一個消えたわけだ。・・・んで、お前はなんで来たんだ、塗り壁」

 

 

 塗り壁と呼ばれた男は、目線を合わせるために龍一の前に膝をついた。

 

 

 「死ぬ、事が、気になった、けど。・・・それより、紫。どうする、の?」

 

 

 塗り壁はほんの少し表情を哀しげなものにして、龍一に問いかけた。

 龍一は嘆息し真正面から塗り壁を見た。

 

 

 「俺なりにけじめをつける。ひとまずは俺が死ぬのがいつか分からんから、しっかり大事にするつもりなんだが。・・・お前はやっぱり紫に思うところあるのか?」

 

 

 第一回月面戦争の生き残りだろ?と龍一が軽く笑うと、塗り壁は首を横に振った。

 

 

 「逆。あの事、は、忘れて、楽しく、生きて、欲しい」

 

 

 「そうか。俺が相方で大丈夫そうか?」

 

 

 「ふふ。変なこと、言う、ね。龍一以外、誰、が、つとまる、の?」

 

 

 「そうかよ、ありがとな」

 

 

 塗り壁は微笑み、膝をついたまま龍一の隣に並んだ。

 ぬらりひょんも龍一の反対側の隣に座り、鎌鼬はその横に座った。

 しばらく黙っていた幽夜だったが、四人の様子を見て、ニヤリと笑った。

 

 

 「ま、ともかく元気そうなのは良かったぜ。久しぶりのここはどうだ?」

 

 

 「当たり前っちゃ当たり前だが、メンツもガラッと変わってるな」

 

 

 「そりゃ二百年もすりゃ色々死ぬさ。あの時のメンバーは、もうここにいる三人と牛鬼と濡れ女しかいねえぞ?」

 

 

 「泥田坊のジジイは?」

 

 

 「老衰。息子がもうジジイくらいの歳。塗り壁の事を後輩だと思ってる以外なんともねえぜ」

 

 

 「お前後輩だと思われてんのか」

 

 

 「まあ、ね。訂正は、しない」

 

 

 「そうか。まあ好きにしろ」

 

 

 そういや、紫さんは?と鎌鼬が聞くと、龍一は気まずげに答えた。

 

 

 「永琳のとこに行ってる。・・・まあ、正直あの二人を長ーい事会わせたくないんだよな」

 

 

 「と、言うのは?」

 

 

 ぬらりひょんが興味ありげに首を傾げると、龍一は空を仰いだ。

 

 

 「根本的に価値観が違うんだよあの二人。誰であれ死を当然としてるのと、大切なものに対しての死を極端に嫌がるのと。死生観に始まり、他にも色々対立する事が多い」

 

 

 成る程な、と鎌鼬が手を叩いた。

 

 

 「紫は永琳さんのとこに薬貰いに行ったのか」

 

 

 「でも、永琳、は、薬での、延命、嫌う」

 

 

 「・・・そう言う事だ。きっとここ一番で永琳が言い合いに勝つだろ?んで、多分。落ち込んで帰ってくるんだろうな」

 

 

 はぁ。と龍一は嘆息し、カウンターに突っ伏した。

 

 

 「分かりきってんのに止めねえって、割と酷え事してるよな」

 

 

 「・・・まあ、紫さんにも踏ん切りつける場所いるんじゃねえの?」

 

 

 「で、良いんかねえ・・・」

 

 

 再び嘆息し、机に顎を乗せ、ぼうっと龍一はカウンターを眺める。

 抜け殻のような龍一に幽夜は頭を掻き、どうすべきかをぬらりひょんと鎌鼬と塗り壁に目で問いかけた。

 ぬらりひょんが頷き、龍一にむけて口を開いた。

 

 

 「ところで、龍一」

 

 

 「・・・んあ?」

 

 

 「何故お前は永琳と親しいのだ?」

 

 

 「あ?まあ性格が合うってのが一因。互いにいいライバルだったからなあ。・・・まあそのせいで不老不死の薬なんぞ作ったんだが」

 

 

 その手の話はねえぞ。と龍一は乾いた笑い声を出す。

 

 

 「俺と永琳は互いに同性扱いだからな。最初こそ意識してたもんだが、慣れてからはそうだな、畳の上で揃って雑魚寝なんて日課だったな。風呂も広けりゃ一緖に入る。とりあえず互いに研究に必要ない時間は減らそう精神だったからなあ」

 

 

 「期待してなかったが、二人ともサラサラし過ぎだろ」

 

 

 「あくまでもアイツは俺の親友だからな」

 

 

 龍一は水を飲み干すと、さて。と体を伸ばした。

 そして顔付きを真剣なものにした。

 

 

 「で、俺からも延命対策を練ってるんだが。何かないかね」

 

 

 「・・・そこまで考えてる上で思いつかねえなら、ねえな」

 

 

 「私も、ちょっと・・・」

 

 

 「そもそも龍一はいつか死にてえんだろ?それなら何も策なんかねえと思うがな」

 

 

 「鎌鼬、の、割に、良い事、言う。・・・悪い、けど、僕、もない」

 

 

 「私もないが、まあ一つこれをやろう」

 

 

 全員が首を横に振る中、鎌鼬は一冊の本を龍一に突き出した。

 

 

 「なんだこりゃ」

 

 

 「地獄についての伝聞録だ。死なないように、ではなく、死んでからを考えるのも策かと思ってな。事前に知っておく事で案外対策できるのではないか?」

 

 

 「お前の中で俺は地獄行きで確定してるんだな」

 

 

 「何、天国や煉獄なら適当に逃げ出すであろう?」

 

 

 ニヤリと笑うぬらりひょんに、龍一は苦笑した。

 

 

 「図星だな。・・・さて、そんじゃ、お前らの手も借りるとするか。地獄対策の相談。・・・何か事前情報ある人」

 

 

 「は、い」

 

 

 「なんだ、塗り壁。・・・ああそうか、お前一回死んでるもんな。生き返らせたけど」

 

 

 「うん。・・・向こう、でも、体格は、同じ。能力も、地獄は壊せないし、鬼も倒せない、けど、使える」

 

 

 「妖怪でそれなら神の補正を入れるか?」

 

 

 「それは却下だ幽夜。補正なしで想定しておこう」

 

 

 「・・・この針山ってキツイのか?」

 

 

 「別に、なんとも、なかった」

 

 

 「手が刃物になる奴と壁にとっちゃどうでも良いわな」

 

 

 「血の池とか普通じゃねえの?」

 

 

 「黙れ半液体」

 

 

 「舌抜きとか、痛そうですし、喋れなくなりそうですね・・・」

 

 

 「龍神は舌が二枚あるから問題はないぞ」

 

 

 「そうなんですか!?」

 

 

 「遠回しに俺が嘘つきって言うなぬらりひょん」

 

 

 「この、最後の一人に、なるまで、殺し合う、の、大変、そう」

 

 

 「俺だぞ?」

 

 

 「・・・訂正。楽そう」

 

 

 「これ落ちたら上がってこれるのか?そこも懸念点じゃないか?」

 

 

 「それは落ちる前の安全な場所に一度でもいればワープ出来るから、なんとかなる」

 

 

 「・・・あの、どちらかと言えば鬼と龍一さんの根比べになりそうですね・・・」

 

 

 「何その見たくもねえ泥展開」

 

 

 「鬼、かわい、そう」

 

 

 「俺の心配は?」

 

 

 「不要」

 

 

 「スッと言葉切らずに言うな馬鹿」

 

 

 龍一は嫌そうに顔を顰めると、ぬらりひょんの持っていた本を取り上げた。

 

 

 「とりあえず・・・もらっておく。また頼みにくるかもしれんが、まあその時は助けてくれたら、助かる」

 

 

 龍一はそう言うと、外へ出ようとした。

 しかしそれをぬらりひょんが制し、龍一に対して口を開いた。

 

 

 「龍神。・・・俯瞰風景を楽しむのも、時にはいいと思うぞ」

 

 

 「なんじゃそりゃ、頭おかしくなったか?」

 

 

 「顔を洗えという事だな」

 

 

 「それ、風魔にも言われたよ。なんだか知らんが覚えておく」

 

 

 龍一は退出した。

 そしてそれをぬらりひょんは見送ると、再び各々のする事のために散った面々に聞こえない声で低く笑い、呟いた。

 

 

 「・・・死なんよ、貴方は」

 

 

 

 

 次回へ続く




 ありがとうございました。

 どのくらい次の期間が空くかわかりませんが、お時間を頂けるならお待ち下さい。


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第百四話 対立


 同時刻、紫は何をしていたか、という話です。


 ゆっくりご覧ください。


 「駄目ね」

 

 

 「どうしても?」

 

 

 永遠亭の一室。

 八雲紫が椅子に座り、紙束を手に持ち見下ろしてくる永琳に目を向ける。

 永琳は目を逸らす事なく、首を横に振る。

 

 

 「ええ。例え龍一の命に関わるとしてもね」

 

 

 ぐっ、と紫は手を強く握り締め、悔しそうに唇を噛み締める。

 そんな彼女を横目に、永琳は紙束に目を落とし、ペラペラとページをめくった。

 

 

 「わざわざ足を運んで貰って申し訳ないけど、何度も言うわ。龍一に対して不老不死の薬は提供しない。いえ、誰であろうと提供しないわ」

 

 

 「・・・どうして?」

 

 

 「死ぬ事はあらゆる生物に対して起きるの。それが誰であれ、本人の意思なくねじ曲げる事は許されない。そう思うからよ。一人生き返らせるなら、一人殺す、それぐらい必要なのよ」

 

 

 「なら、私「私が死ぬから薬を頂戴、なんて舐めた事言うと半殺しにするわよ。貴女何のためにここまでしたの?理想郷はもういいの?」それ、は・・・」

 

 

 押し黙り、俯く紫に対して、永琳は深いため息を吐いた。

 

 

 「目の前の欲のために夢を捨てるとはふざけた奴ね。龍一はなんでこんな奴選んだのかしら」

 

 

 「なら、貴女は良いの?」

 

 

 「何?」

 

 

 「龍一が、死んでもいいの?」

 

 

 きっ、と自身を睨み上げる紫の威圧感と殺気に、永琳はほんの少しだけ微笑み、それを上回る威圧感を放った。

 

 

 「ええ。構いやしないわ。・・・そんなチャチな威圧でなんとかなると思わないでくれるかしら」

 

 

 にこり、と永琳は微笑んだかと思うと、紙束を激しく机に叩きつけた。

 

 

 「龍一は人よ。分かってるの?」

 

 

 「元人間って事でしょ?そんなことわかってる」

 

 

 「違う。今も人間よ」

 

 

 「・・・どう言う意味よ」

 

 

 悔しそうに口を歪めながらも己の理解していない事は認める紫に対し、永琳はほんの少し評価を上げた。

 

 

 「根底が人間のままなのよ。だから人を殺せば罪悪感に苛まれるし、人を助ければ喜ぶ。あまりにも人間らしすぎて、そもそもその辺の神と思想が違うの。・・・龍一は不死なんて望まない。いつかは死にたいの」

 

 

 「それは・・・そうかもしれない。けど、だからって今死ぬのは」

 

 

 「ええまあ、今は死にたくないでしょうね。けどね、だからといって、再び不死身になるのは、もっと嫌なのよ」

 

 

 不死は片道切符なのよ。と永琳は首を横に振る。

 

 

 「今のところ、不老不死の薬の解毒剤はない。私はそれを作るためにこうしてるけど、いつ出来るかの保証もない。・・・私はね、そんな不確定な事象に賭けたくないし、龍一も飲んではくれるでしょうけど、望んではないでしょうね。不老不死が任意で消せないんだもの」

 

 

 「分かるの?」

 

 

 「なによ、ちょっと羨ましそうな顔して。・・・そりゃあアイツは私の一番の親友だもの。ある程度思考は読めるわよ」

 

 

 永琳は苦笑し、穏やかな表情で紫の前に座る。

 

 

 「龍一はね、貴女が理想郷を作りたいように、馬鹿らしいけど死にたい願望がある。まあ今こそ貴女と生きたいって望むでしょうけど、その先の話ね。置いてかれるのが嫌みたいなのよね」

 

 

 まあ、貴女の知った事ではないでしょうね。と永琳は少し意地悪そうに微笑んだ。

 紫は嘆息し、しょうがないわね。と笑った。

 

 

 「そうね。私だって龍一生きたまま置き去りにしたくないわ。今生き延びても結局龍一は後悔するんでしょ?それじゃあそんな薬飲ませられないってことよね。・・・確かにそうね」

 

 

 永琳は少し面食らったように瞬きをして、そして吹き出した。

 紫はそんな永琳を不思議そうに見つめると、永琳が目尻に涙を溜めながら口を開いた。

 

 

 「ふっ、ふふ・・・。ごめんなさい。正直貴女のこと、もっと癇癪起こす子供だと思ってたわ」

 

 

 「なっ・・・」

 

 

 「ああ気に障ったならごめんなさいね。そうね、なんと言えば良いのかしら。龍一がそう思うのはわかるけど、でも今すぐ別れるのは嫌。とかなんとかいって泣くと思ってたのよ。でも、そうね。貴女はそう思うところはあるんでしょうけど、龍一の触れて欲しくない、理解されることのない所には触れないでいる。・・・アイツに対して一番良い付き添い方なのよ、貴女のしてること」

 

 

 「・・・別に、私は相手の全部を理解できるとは思ってないもの。龍一だって私の思い出したくないことは私から掘り返した時だけ思い出したようにそのことについて話してくれるから。その、あんまり探るのも、嫌なのよ。龍一は今私の夢を応援してくれるなら、私も龍一の夢を応援・・・したくないけど、止めたくはないもの」

 

 

 「・・・貴女が龍一の隣にいて良かったわ。そうね、確かに龍一が貴女に好意を持つのもおかしくない。成る程ね、貴女たち似てるのね」

 

 

 「私が・・・?」

 

 

 「ええ、やりたい事見つけると馬鹿正直に走り抜けるタイプ。一見自分しか見てないように見えて、そのくせ夢の為に踏みにじった他人を忘れず、悔やみ続ける。自分が死ぬのも他人と理想のためならよしとして、他人が死を躊躇う理由になる。ただのバカよ、バカ」

 

 

 永琳は嘆息すると、小さな液体の入った小瓶を紫に突きつけた。

 

 

 「まあ、私はそんな馬鹿を見るとほっとけない馬鹿なんだけどね。不老不死はあげないけど、これならあげるわ」

 

 

 「ありがとう・・・」

 

 

 「・・・感謝の前に薬の中身聞きなさいよ「あ、えっと、中身は?」説明しましょう。即死以外の死に対して耐性のつく薬よ。とは言え龍神補正の前には効かないかもしれないけど、何もしないよりマシでしょ?要は気休めよ気休め」

 

 

 小瓶の中の液体は鈍く輝き、ゆっくりと波をたてていた。

 紫は小瓶をそっと握り締めると、永琳に頭を下げた。

 

 

 「その、ごめんなさい。ホントなら最初に見せた態度でつまみ出されても仕方なかったのに、その、ここまでしてもらって・・・」

 

 

 「あんなの気にしないで頂戴。・・・それにナメないでくれるかしら?あの程度じゃ私は怯まないわよ、脅して薬を取るなら侵二さんでも連れてきて殺しなさいよ。それでもあげないけど。なにせ不死身だから」

 

 

 永琳はニヤリと笑うと、また来なさい。と手を振った。

 紫はそんな永琳にぱっと笑顔を見せると、スキマをくぐって消えていった。

 残された永琳はそんな彼女の消えた姿を見て、何もない空間に嘆息した。

 

 

 「そりゃ、龍一もあの子を好きになるわね・・・」

 

 

 何よ最後の顔。と呟き、永琳は微笑して紙束を手に取った。

 

 

 「さて、仕事仕事」

 

 

____________________

 

 

 スキマから飛び出すように紫が現れた先では、龍一が一人座椅子に座り、本を開いていた。

 龍一は気配に気がついたのか、おかえり。と微笑んだ。

 

 

 「ただいま、龍一」

 

 

 龍一はそれ以降追求する事はなく、静かに本のページをめくった。

 紫は深呼吸をすると、龍一に声をかけた。

 

 

 「あのね、永琳に薬を貰いに行ったの」

 

 

 龍一は手を止め、紫の方を向いた。

 その顔には申し訳なさが少し浮かんでおり、それで?と呟いた。

 

 

 「不老不死の薬、貰ってこようと思ったんだけどね。でも、それじゃあダメなのは永琳から聞いて、それで・・・」

 

 

 コレを。と紫は龍一に小さな小瓶を差し出した。

 龍一はそれを受け取ると、何も言わずに飲み干した。

 

 

 「え、あ、ちょっ、飲むの!?なんの薬か言ってないのに!?」

 

 

 龍一は飲み終えると、にっと笑った。

 

 

 「お前が持ってきたんだから、そりゃ飲むよ。すまんな、色々心配かけて。俺が薬もらって不死になりゃいい話なんだがな・・・ってやめろその顔。わかったよ、今の嘘。・・・ありがとな、紫」

 

 

 「どういたしまして。龍一」

 

 

 それで、何読んでるの?と紫が龍一の手元の本を覗き込んだ。

 タイトルは分からなかったが、地獄について語っているような本だった。

 

 

 「地獄についての本。とりあえず死んでもさっさと帰ってくればなんとかなるんじゃねえかと思って、予習をな」

 

 

 「参考になるの?それ」

 

 

 「分かんねえけどとりあえずな。・・・まあ今んとこ、知らねえ空見てその上でお前が俺の顔覗き込んでるとこまでしか見えなくなってるな。変な死に方じゃねえからなんとかなる気はしてきた」

 

 

 紫は龍一の奇妙な言い回しに苦笑し、隣に座った。

 

 

 「だったら良いわね」

 

 

 ああ。と小さく龍一は呟き、重いため息を吐いた。

 そんな龍一に何か思うところがあったのか、紫は閃いたように口を開いた。

 

 

 「あ、そうだ、龍一」

 

 

 「ん?」

 

 

 「ちょっと来て欲しい所があるんだけど、行く?」

 

 

 「なんだそりゃ、デートか?」

 

 

 「半分くらい、そうなるわね」

 

 

 次回へ続く





 この世界線の永琳は、輝夜や妹紅を不老不死にした事に罪悪感を感じてはいます。が、だからといってその話を聞いた第三者にどうこう言われて謝罪するか黙っている気はさらさらありません。
 自分でやらかしたんだから罪を償うために治す薬作ってんだよ文句あんのか。と言うスタンスで生きてます。


 次回もお楽しみに。


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第百五話 一撃滅殺

 ちょっとだけ話が進みます(進んだ覚えがない)


 ゆっくりご覧ください。


 ザア、とどこか生暖かい風が吹き、はるか先まで伸び続ける石階段。

 顔を斜めに通るような切り傷を持つ男は、先の見えない石階段を見上げ、目の前に立つ壮年の男を見やる。

 

 

 壮年の男は二振りの刀を構え、切り傷を持つ男を睨みつける。

 そんな姿を見て切り傷を持つ男、風魔は、どこか気怠げな、しかし興奮を秘めた表情で、背に掛けていた大太刀を抜いた。

 

 

 「客、なのだがな。まあそれを理解した上でも、貴様は私にソレを向けてきた、な・・・ああまったくもって剣士らしいではないか。素晴らしい」

 

 

 「名を名乗らない無礼に始まり、数々の無礼を先に詫びさせて頂く。しかし、どうしてもこの気は抑えきれぬのです。一手、お願い致す」

 

 

 「構わない。私が死ぬか、貴様がぶっ倒れて寝るまでだ。五つ数えたら行くぞ」

 

 

 すう、と互いに神経を尖らせ、刀を鈍く輝かせる。

 そしてほぼ同時に、二人は動いた。

 

 

 「セアッ!」

 

 

 先に一撃を振り翳したのは風魔だった。

 その姿、身に纏う気迫からは感じられないような激しく、力任せの一撃。

 縦に振り下ろされた大太刀は壮年の男から逸れ、目前の石階段を叩き切った。

 更にそれに留まらず、振った衝撃は暴風へと変わり、切り裂いた石を巻き込んで吹き飛ばした。

 常人ならば反応すら出来ない即死の一手。規格外の一撃を放った風魔だったが、壮年の男には通じず、逆に刀を振り下ろしたが故の隙を晒した。

 

 

 「はあっ!」

 

 

 壮年の男が太刀を閃かせ、風魔の右腕を断たんと横に薙ぐ。

 しかし風魔は振り下ろした大太刀の勢いを全て殺し、振り上げ、男の太刀を受け止めた。

 

 

 「なっ・・・!?」

 

 

 「戯けが。この私を並大抵の人外の物差しで測るな」

 

 

 あまりにも無理矢理な太刀の受け止め方に男はほんの少し後退る。

 風魔は再度大太刀を振り翳し、叩き切るように見せかけて再度勢いを殺し、横に振った。

 男は瞬時に反応して受け止めるが、そのあまりにも法外な腕力と速度に吹き飛ばされた。

 男は口に溢れる血を吐き捨て、体勢を立て直し風魔に飛び込んだ。

 

 

 風魔は再度尋常ならざる速度で大太刀を振るう、が。

 大太刀は何に掠ることもなく、逆に己の肩に刀傷が現れていた。

 風魔は目を見開き、男の姿を追った。

 男は風魔の横薙ぎをしゃがんで躱し、あまつさえ背後に立ち、その刀には風魔の血がついていた。

 風魔はそれを見て、苦笑しながら口を開いた。

 

 

 「どうやら、私も人の事を言えんようだ。互いに力量を測り損ねていたようだな」

 

 

 「そのようです」

 

 

 互いに振り返りざま刀を振る。

 しかし以前とは違い、男の剣はより速度を増して鋭く、風魔の剣はより軽いものを振っているかのような振り方に転じた。

 キィン、と甲高い金属音が鳴り響き、火花が散る。

 互いに瞳孔の開ききった目で睨み合い、口元は吊り上がっていた。

 そして数百合はいとも簡単に石段ごと切り結び終えた頃、男が飛び退いた。

 風魔は追う体制を取り、空気を蹴って男に迫る。

 男は目を閉じ、居合の姿勢で構えた。

 

 

 「セルァッ!!」

 

 

 「断ッ!!」

 

 

 風魔の衝撃を全て乗せた、全てを叩き切らんとする振り下ろし一閃。

 それに対して居合の体制から抜き放った、男の横薙ぎの一撃。

 互いに一撃で相手を仕留める技を放った。

 男の一撃は衝撃波となり、風魔の一閃を真正面から受けた。

 衝撃波は霧散し、風魔は吹き飛ばされるように背後に退いた。

 しかし、霧散した衝撃波から男が飛び出して来たのには一瞬判断が遅れ、再び構えるのが遅れた。

 風魔はそれに苛立ったのか目を細め、鋭く息を吐いた。

 

 

 「加速」

 

 

 「・・・ッ!?」

 

 

 直後、風魔の頭部が斬り払われた。

 しかし男は霞を切ったような感覚を風魔に覚えた。

 現に風魔の頭を二つに断つように深く切り裂いたはずだったが、なんの手応えもなく、出血もなかった。

 それはまるで、風魔がそこから消えたようだった。

 直後、風魔は男の目と鼻の先に迫っていた。

 そして、男の腹部に意識を刈り取るに十分な横薙ぎの一撃が叩き込まれた。

 

 

 男は目を見開き、悔しそうに、そして名残惜しそうに歯を食いしばると、ゆっくりと前のめりに倒れた。

 風魔はそれを良しとせず、倒れそうになる男を支え、肩に担ぎ上げた。

 

 

 「空間はまだ斬れんか。・・・さて、もう向こうはくつろいでいる頃だろうな」

 

 

 風魔は飛翔しようと構えるが、肩に担ぐ男を見て躊躇したのか、ゆっくりと一歩ずつ石階段を登り始めた。

 粉々になり、ところどころ階段の役目を果たせていない段を飛び越えながら、肩の上で呻く男に呟いた。

 

 

 「中々楽しかったぞ」

 

 

 男の呻き声が止まり、鼻で笑った。

 そしてそのまま、気を失った。

 

 

 ____________________

 

 

 「はい、お茶」

 

 

 「ん、サンキュー」

 

 

 粉雪が降り積もる中、紫から湯呑みを受け取る。

 そんなこの場所は冥界。死者の魂が辿り着く場所であり、そして、紫の友人がいる場所だ。

 今回は後者の理由でここに呼ばれ、その件の友人、西行寺幽々子(さいぎょうじゆゆこ)と話していた。

 

 

 「へえ、それじゃあ龍一さんはあの龍神様なのねえ」

 

 

 「今となっちゃ、ただの化け物に成り下がってるがな。・・・しかし外でとんでもない音してるが大丈夫か?」

 

 

 「妖忌(ようき)なら大丈夫よ。あの子強いもの」

 

 

 「だといいんだが、相手がな・・・」

 

 

 何処かで空気を破る音が鳴り響き、再び瓦礫が崩れるような音が鳴り響く。

 そしてそれ以降音が消えたため、決着が付いたのだろうと思っていると、肩に妖忌を担いだ風魔がいた。

 風魔は幽々子を一瞥し、妖忌を縁側に置く事を伝え、当人は庭の玉砂利の上に座り込んだ。

 

 

 「勝った」

 

 

 「・・・みたいだな。その肩は?」

 

 

 「斬られた。・・・中々に疲れた」

 

 

 風魔は苦笑して肩の傷をなぞると、瞬く間に傷は消え、跡形も無くなった。

 幽々子はそんな風魔を見て、まあ。と掌を口元に置いた。

 

 

 「あらあら、妖忌より強い剣士さんがいたのねえ」

 

 

 風魔はそれを聞いて恥ずかしげに口元を吊り上げ、首を横に振った。

 

 

 「剣士と呼ばれるなどおこがましい。いざと言う時になれば己の魂の刀すら棒切れや包丁同然に扱う奴に、剣士と名乗る資格などない。人しか剣士とは名乗れんよ」

 

 

 「随分と真面目そうな方ねえ」

 

 

 「何、これくらい言わねばただのろくでなしだろう?」

 

 

 「自分にも厳しい人なのね」

 

 

 「さあ・・・生憎他人にしか分からんからな。そう思うならそうなのだろう。・・・だが危うく、此処を斬られかけた。それは流石に譲れなかったのでな。まあ空間を断てるようになれば別だが」

 

 

 トントン、と風魔が龍一に向けて顔に浮かぶ切り傷を指した。

 俺は嫌そうに口を横に引き結び、首を横に振った。

 

 

 「あーおっかねえ。そんな強くねえっての。武器のおかげだ武器の」

 

 

 風魔がそうか?と笑っていると、幽々子は首を傾げた。

 

 

 「その傷は龍一さんがつけたものなの?」

 

 

 「ん?ああ、その通りだ。その時私はコイツを人間くさい神様としか思っていなくてな。その時はいかにも斬られたような流れでいたが、中々の衝撃だった」

 

 

 「・・・やっぱり強いじゃない」

 

 

 「マグレだっつってんだろ。後やっぱりってなんだやっぱりって」

 

 

 「事実じゃない。あんまり強いって実感させることがここ最近なかったんだもの。・・・でも、やっぱり龍一は強いのね」

 

 

 「あらあら、惚気話なんて聞くとは思ってなかったわ」

 

 

 「これ惚気なら全部惚気だろ」

 

 

 くすくすと幽々子が笑い、それにつられて恥ずかしそうに紫も笑う。

 そうしているうちに妖忌が目を覚まし、風魔を相手に謝罪し、そして談笑する。

 俺はその光景に満足し、遙か先にそびえ立つ花のない桜の木を眺めて笑う。

 

 

 そして確信する。

 あれこそが、幾度も見たあの光景の舞台。

 ようやくか、と吐き捨てたくなる不快な光景。

 

 

 俺、神矢龍一は、

 

 

 

 

 

 

 

 もうじき死ぬ。




 はい。


 次回もお楽しみに。


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第百六話 指切り






 

 「風魔」

 

 

 「なんだ」

 

 

 月見桜と洒落込み、冥界に咲く桜達を縁側に座り、眺めながら飲んでいた。

 俺の呼び声に対してすぐに現れた風魔は、その横に座った。

 

 

 「お前から私を呼ぶのは大抵惚気か真面目な話だが、どっちだ?」

 

 

 「真面目な方」

 

 

 「そうか、聞こう」

 

 

 俺は風魔に対して器を差し出したが、風魔は珍しく受け取らなかった。

 風魔なりに真面目に聞くという意思表示なんだろうが、少し寂しい。

 

 

 「飲めよ、こんな桜滅多に見れねえぞ」

 

 

 「いい」

 

 

 「頼むよ、最後なんだから・・・あ」

 

 

 はっとして口を塞ぐが、時すでに遅く。

 風魔は俺から器をぶん取ると、酒をつげと言うように突き出した。

 

 

 「・・・で、あの桜か」

 

 

 風魔の問いに頷き、酒を注ぎながら遙か先の桜を見やる。

 

 

 「・・・多分な」

 

 

 「そうか。そうか、あの桜がな・・・」

 

 

 どう死ぬ?と風魔が聞いてくる。なので、鮮明に見え始めた未来視を遺憾なく発揮して事のあらましを説明する。

 

 

 「ここの冥界の今の管理人はあくまでも幽々子なんだが、何処から狂ったのか、あの桜、歴代の管理人の・・・魂を吸った事になってんのか。今こそ幽々子が冥界の管理人だが、あの桜はその次の管理人という立ち位置になっている。それであの桜は幽々子の魂を吸い始めてる」

 

 

 「つまりなんだ、幽々子が侵食されており、しばらくすると冥界の管理人があの桜になると?」

 

 

 「そうらしい。で、そうなる場合・・・アレだな、いつものメンバーだとお前しか役に立たないな」

 

 

 「私がか?」

 

 

 「なんかその辺はよく見えないんだが、お前以外を連れて行くと余計に大惨事になる」

 

 

 「・・・ふざけた事を言うな、お前は。幻夜のような天性の才能もなく、侵二のような凶悪な能力もなく、壊夢のような強靭な肉体のない私がか?」

 

 

 「その代わり莫大な知識と技量で補い、肉体は気力で補っている。・・・あれ、違う?」

 

 

 「否定はしない、が。私を使うべきではないと分かる筈だが?」

 

 

 いや、と俺が言葉を区切ると、風魔が面食らったように眉を顰めた。

 

 

 「なんか、こう、うまく言えないんだけどな?・・・壊夢連れて行ったらな。アイツ、怪我するんだよ」

 

 

 「・・・何?」

 

 

 「幻夜が出ても攻撃が当たる。侵二が出ると侵二含めて他への被害が広がる。・・・なんかこう、偏った奴連れて行くと大惨事になる未来しか見えてないんだよな」

 

 

 「・・・それで?」

 

 

 「だから、お前が適役かなと。・・・俺が死ぬ事真っ先に見抜いた奴だし、・・・死んだ後の紫のフォローも、一番上手いかなと」

 

 

 俺が最後の言葉を消えるように呟くと、風魔は苦笑し、激しく肩を叩いてきた。

 それはいつものような冗談の軽い叩き方ではなく、力強い叩きだった。

 

 

 「馬鹿が。最初から死ぬつもりで動いて、未来が良い方に傾くわけがないだろうが。お前が死んだ後もこの世界は続くんだ。・・・いいか、ここで冗談を言ってやろう。お前は死なずに紫に頬を叩かれる。そして私にぶん殴られる。・・・これが終われば四凶の中で一番中途半端な奴扱いしたことに対して殴らせてもらう。死ぬなよ」

 

 

 「・・・わかったよ、生きるよ」

 

 

 風魔に向けて苦笑し、小指を突き出す。

 

 

 「・・・なんだ、女々しいな。そう言うのは紫が言うのであって、お前がするべきではないと思うがな」

 

 

 「うるせえ、割と怖えんだよこの状態。縋らせてくれ」

 

 

 「強いのか弱いのか分からんなお前は」

 

 

 「メンタル面は弱いって言ってんだろ。今までよくもってるよ」

 

 

 「そうだな。・・・で、この話は広げるのか?」

 

 

 「・・・いや。他言無用にしといてくれ。あんまり長い間この話を考えたくないし、確証もない話だからな。無闇に不安を煽りたくない」

 

 

 風魔は呆れたように笑い、頷いた。

 

 

 「良いだろう。酒の席の戯言として受け取っておく」

 

 

 「すまんな」

 

 

 「まあ、貸し一つだ」

 

 

 「ありがとな」

 

 

 「酒の席で礼を言うな。素面で言え馬鹿」

 

 

 そうして二人で乾杯をして、再度酒を煽る。

 またこうして飲みたいと、珍しいことを考えてしまった。

 

 

 ____________________

 

 

 それから二日後。

 幽々子が少し体調を崩し、妖忌と、そして何故か風魔が幽々子の面倒を見るために忙しなく動いていた。

 妖忌曰く、客人に世話をさせるわけにはいかないとの事だったが、風魔に「敗者がほざくな」と言われ、渋々風魔のみ手伝いを承諾したらしい。本当に意地の悪い奴だ。

 

 

 そしてその結果、紫と俺は特にすることもなく、ぼんやりと縁側でお茶を飲むはめになった。

 

 

 「幽々子、大丈夫かしら」

 

 

 「どうだろうな。あんまり冥界で人が調子悪くなるなんて話聞いたことねえからなあ」

 

 

 「そうね。・・・そう言えば、幽々子と会った話、龍一にしたっけ」

 

 

 「全然?そういや俺、お前の昔の話聞いた事ないな」

 

 

 「そう?・・・えっとね、幽々子は龍一と会う前に会ってたのよ」

 

 

 「ほう?」

 

 

 紫はその事を想起したのか、さも懐かしげに目を閉じ、すらすらと語り始めた。

 

 

 「私、初めの頃は普通に人間とか食べる妖怪で、よく襲ったりもしてたんだけどあてもなくフラフラしてた時に幽々子と会ってね?最初はいつも通り襲おうとしたんだけど、私の姿見て笑ったのよ?」

 

 

 「・・・それで?」

 

 

 「『ご機嫌よう』って言ったのよ。私もなんかそれで気が抜けちゃって。ちょっと喋ったらあの子外の事なんにも知らなくて、だから私が時折話しに来てたら、今みたいになったのよ。・・・だから幽々子が私にとって初めての妖怪以外の友達だったの。それ以来、きっと幽々子みたいに誰にでもこんな事があるのかなって思うようになって、その、恥ずかしいんだけど、理想郷の話に続くの・・・」

 

 

 「成る程。そんなに付き合い長かったのか。・・・ま、理想郷の話は所々失敗してはいるけどさ、お前と幽々子みたいな出会いはあるだろうな」

 

 

 「そう、かな」

 

 

 「ああ。お前がその話を持ち込んだから、幽夜の酒場の奴らは知り合った。壊夢が帰ってきて茜と巡り合った。侵二が藍と顔を合わせた。俺がお前と会った。・・・作る前からこんな事が起きてるんだ。さぞ今から楽しくなるだろうよ」

 

 

 「そう、・・・そうよね!きっとそうなるわよね!」

 

 

 「ああ。きっとな」

 

 

 そっか、と紫は淡く笑い、そして悲しそうな顔になった。

 

 

 「・・・龍一は、そこにいてくれる?」

 

 

 「・・・どうだろうな。何をしてももうじき死ぬって未来は、変わってないからな」

 

 

 そうよね。と紫は呟き、俺の服の裾を掴んだ。

 やはりというか、その手は震えていた。

 俺はそんな紫の手を、初めて強く握り返した。

 

 

 「龍、一?」

 

 

 紫も予想外だったのか、目を大きく開いてこちらを見た。

 その目尻には涙が溜まっていたが、俺はそれを拭い、いつも通り、やる気のない顔で笑った。

 

 

 「だがな?死ぬと思うから死ぬんだとよ。風魔のやつ適当な事言うよな。・・・要は、死なないって信じてれば死なないって事だ。と言うわけでだ、俺は死なない」

 

 

 「ほんとに?」

 

 

 「ほんとに」

 

 

 「約束してくれる?」

 

 

 「何すりゃいい?」

 

 

 「指切り」

 

 

 「よし来た」

 

 

 紫が突き出した細く白い子指に、俺の子指を絡ませて指切りをする。

 

 

 「ゆーびきーりげーんまん、嘘ついたら・・・どうする?」

 

 

 「えっとね・・・侵二さんと幻夜さんと壊夢さんと風魔さんが一発ずつなーぐる!指切った!」

 

 

 「壊夢で死ぬんだよなあそれ」

 

 

 「だから死なないんでしょ?」

 

 

 「あー、そうだな。んじゃ死ななかったらどうする?」

 

 

 「んー・・・あ!」

 

 

 「ん?」

 

 

 「龍一が昔住んでた場所、知りたいかな」

 

 

 「いや別にいいけど、人柄が壊滅的に悪いぞ?」

 

 

 「そんなに?」

 

 

 「石器時代のがよっぽどいいな」

 

 

 紫は目を点にしていたが、やがて気を取り直したのか首を横に振った。

 

 

 「でも、やっぱり気になる」

 

 

 「・・・分かったよ。ただその時は一人でうろつくなよ」

 

 

 「それってデート?」

 

 

 「最近それしか言わねえな。そん時はそうだな」

 

 

 それも約束だな。と俺は笑い、紫と指を絡ませた。

 

 

 

 

 

 次回に続く




 
 この話の中で風魔は四凶で一番中途半端だと述べていますが、一対一で戦闘した場合、風魔は幻夜に、幻夜は侵二に、侵二は壊夢に、壊夢は風魔に対して有利です。


 次回もお楽しみに。
 
 


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第百七話 西行妖

 私が書くと必ずこいつがボス扱いになってますね。


 ゆっくりご覧ください。


 西行寺幽々子が死んだ。

 それは紫と妖忌にとってはあまりにも唐突で、風魔と俺からすれば、知っている未来の中で最悪の未来だった。

 

 

 「・・・急ぎすぎよ」

 

 

 あんなに元気だったのに。と紫が暗い顔で呟く。

 当然だ。確かに少し寝込んではいたが昨日まで、正確にいえば十時間ほど前までは、俺と彼女が初めて顔を合わせた時となんら変わっていなかった。

 死因は不明。死に方を表すならば、突然死んだ。としか言えない死に方。

 外傷もなく、持病もなく、ただ手に桜の枝を持って死んでいた。

 言わずもがな、その桜の枝は俺を殺すはずの桜の枝だ。

 実際、例の桜は以前まで葉の一つもつけていなかったのが嘘のように、花が三分咲きほどになっている。

 紫と妖忌もその異常さに気がついたのか、幽々子が亡くなってから重苦しい空気に包まれた二日間を通り越し、強張った、紫に至っては涙の跡を残したまま、俺と風魔の前に現れた。

 

 

 「・・・どうした、そんな仇討ちに向かうような顔で」

 

 

 風魔の言葉に、妖忌が膝をつき、頭を垂れる。

 

 

 「お願いがございます」

 

 

 「堅苦しく言うな。なんだ」

 

 

 「力を、貸して頂きたいのです」

 

 

 私からも、と紫が俺の前に立ち、凛とした顔で俺を見上げる。

 

 

 「私からもお願い。・・・幽々子を、取り返したいの」

 

 

 風魔が俺の方を見る。

 それはどうするのか聞くためではなく、行く。と言う意思表示だった。

 

 

 「・・・構いやしねえが、何をどうするんだ?」

 

 

 俺の質問に紫は少しだけ表情を緩め、何が起きているのかの説明を始めた。

 

 

 「・・・昔、幽々子が言ってたんだけど、あそこの今咲いている桜。あそこで幽々子のご先祖様が何人も亡くなっているの」

 

 

 「実際何人ほどだ」

 

 

 風魔の問いに、妖忌が続けた。

 

 

 「十数名亡くなっております。・・・桜の下で自害する者、病に伏す者。理由は様々ではありますが、皆あの桜の下で亡くなることがございました」

 

 

 「それで、この二日の間に私が幽々子の生気の残りを辿っていたのだけれど、幽々子の持っていた枝には、一つもついてなかったの」

 

 

 「そりゃ枝が吸ってるってことか?」

 

 

 「ちょっとだけね。・・・幽々子自身は、あの桜に吸われてるの」

 

 

 そうしてあの桜を指差し、紫は目つきをより真剣なものにする。

 

 

 「だから、私達はあの桜を・・・西行妖を倒そうと、思うの。だから!・・・龍一くらいの力がないと、無理なの」

 

 

 再度風魔がこちらを向く。

 その顔は確認でもなく、少しだけ歓喜が混じった質問だった。

 

 

 「だそうだ。どう殺す?」

 

 

 「・・・一回亡き者にしてから、幽々子の生気取り出しても大丈夫じゃねえかな。逆に不用意に軽く封印して後々フルパワーで復活されてもなあ。気が狂うだろ」

 

 

 「ならば仕留めるのだな?」

 

 

 「まあそうなるだろうな」

 

 

 まあ勝てばいいのよ。と俺は笑い、紫の頭を軽く撫でる。

 

 

 「ただ何もせずに人一人殺せるような奴相手にするんだ。全員死ぬ気で働いてもらうからな」

 

 

 「ええ!」

 

 

 「無論、そのつもりです」

 

 

 「・・・死ぬ気で、とは縁起が悪いな。死なない程度に働く、にしないか?」

 

 

 「・・・わかったよ。んじゃ死なない程度に働いてもらって倒すからな!」

 

 

 風魔がニヤリと笑い、頷いた。

 

 

 

 ____________________

 

 

 

 西行妖の真正面。西行妖に俺が近寄るたび、不自然に枝が靡く。

 それは警戒してはいるが、いつでも付け入る隙があれば襲ってくる。そんな風に見えた。

 自身の指先を軽く切り、滲み出した血で創造していた小さな弾丸を包む。そして使うのはいつぶりか忘れるほどに使っていなかったライフル銃、叢雲に装填する。

 照準を合わせ、ライフルを構える。

 そして引き金を引く直前、西行妖が動いた。

 数百にも分かれていた枝が幹を守るように。それらに美しく咲いていた花弁は、サメの歯のような形に変わり、俺へと切っ先を向けて飛んだ。

 

 

 「今!」

 

 

 枝ごと幹を粉砕せんと、引き金を引いて飛び出した弾丸は直進する。

 当然防御の姿勢を取らなかった俺には数多の花弁が突き刺さらんと迫り来る。

 だが、それらは俺と西行妖の間に開いた裂け目に当たると消え、俺の背後に飛んだ。

 そして横合いの桜の木に隠れていた風魔と妖忌が飛び出し、花弁を残さず切り捨てた。

 風魔の背後には、こちらの様子を見て心配したような紫がいた。

 

 

 「・・・間に合った?」

 

 

 「余裕で間に合ったぞ。引き続き下がってろよ」

 

 

 「あんまり無茶しないでよ?」

 

 

 「囮程度で無茶もないと思うが、無茶しないようにするさ。・・・さてどこ見てんだ西行妖?よそ見してるともう一発ぶっ放すぞ?」

 

 

 弾丸は幹には届いていなかったが、枝を半分程粉砕していた。

 その破壊力に警戒を向けたのか、枝は全てこちらへと向いた。

 

 

 「まあ植物がどこ見てるか分かんねえんだけどな!っと!」

 

 

 枝の一つ一つが鋭利な槍となり、俺を地面ごと縫い付けようと襲い掛かる。

 指を打ち鳴らし、周囲に六角形の薄い小さな防壁を展開、枝の突き刺さるであろう地点に移動させて攻撃を防ぐ。

 花弁がこちらに来ていないのは確認済みなので、紫達の方を振り返る。

 

 

 「セアアッ!!」

 

 

 妖忌が二振りの刀を振り回し、周囲の空間ごと粉々に切り裂く。

 紫はスキマを花弁の迫りくる方向に展開し、花弁が花弁と激突するように位置をズラしていた。

 巨大な根が一本だけ紫に襲いかかったが、紫を守るようにいつの間にか立っていた風魔の前まで迫ると、見事に切り裂かれた。カッコいいじゃねえかよ。

 

 

 「もう一発行くぞ!」

 

 

 囮の俺は枝を防ぎ切り、装填を終えたライフルを再度放つ。

 同じように枝を盾にして受けに来たが、初撃よりは盾が薄かった。

 再度盾を貫通した弾丸は、今度は幹に突き刺さった。

 それを皮切りに、西行妖の枝がいとも容易く防壁を破壊した。

 

 

 「マジか・・・ッ!?」

 

 

 このタイミングで未来視が発動し、やはり自身が倒れることを予測する。

 咄嗟に幹に突き刺さった弾丸を引き寄せ、そのまま周囲の枝を砕くように進行方向を操作。はるか彼方の空へと飛ばす。

 

 

 「避け・・・るわけねえだろ!」

 

 

 次いで目前に迫る新しい枝と花弁。

 花弁を蹴り上げて弾き返し、枝を跳躍して避けようとすると、背後の妖忌に照準を変える事を視た為、枝を避けることを止めて花弁を蹴り上げた脚を振り下ろして踏み砕く。次いで風魔、妖忌、風魔と順に全て違う死に方を視るので八岐の剣を顕現させ、右手で下から上へと体を後ろに捻りながら振り上げる。

 三日月状の軌跡を残して放った斬撃は、ほんの僅かに周囲のただの桜に擦り、根こそぎ吹き飛ばした。

 そのまま剣を左手に持ち替え、右手の時の回転と合わせて一回転になるように振り抜いて枝を斬り裂いた。

 

 

 「次いで俺が半身ぶっ飛んで風魔の目が潰れて妖忌の腕が飛ぶ・・・クソゲーだなこれ!」

 

 

 背後の空間を異次元に繋ぎ、そこからいつぞやの流線形の物体と小さな鏡を以前よりも莫大な量、それぞれ百枚程度を周囲に飛ばす。

 そして流線型の物体からコンマ一秒ごとに遅れてレーザーを放ち、各々を鏡に反射させて縦横無尽に飛び回らせる。

 脳に数百の視覚情報が一気に追加され、脳が熱くなっていく。

 しかし一発も地面に当てまいとレーザーを反射させ、それ以上の数で殺しに来る枝と花弁と根を焼き切っていく。

 しかし当然、操作している間は動きが遅くなる俺は、レーザーの雨の中心地で防壁を展開して目の前に重ね掛けしていく。

 

 

 「・・・ッ!」

 

 

 そうしているうちにも映画であれば左端に爆発するカウントダウンでもついていそうなほど、未来はより濃く、確定しつつある。

 ただ死んでなるものかと頭の中では反抗し続け、更に防壁へと力を注ぐ。

 

 

 

 神矢龍一が倒れるまで、後七分。

 

 

 次回へ続く。




 ※龍一の血に火力が上がるバフ効果はありません。


 次回もお楽しみに。


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第百八話 会心の一撃

 別段特殊な力も要らず、ただ一撃を放つのみ。


 ゆっくりご覧ください。


 

 龍一の言っていたことはこれか。と風魔は自嘲ぎみに笑い、目の前に迫る花弁を断つ。

 切り裂いた花弁は、ほとんど自身の剣速と同じ速度で迫ってきていた。

 それはまるで自身の放った攻撃がそのまま返ってきているようで、自身の切り札以外では、妖忌や紫に飛ぶ分を防ぐ事は中々に難しかった。

 切り札を使うたびに、爆音が耳を襲い、内臓が骨に押しやられ、骨が軋む。

 だがそれでもある程度の負荷ならなんとも思わない領域には達していたので、まだ暴れる事が出来ていた。

 

 

 「確かに、侵二や壊夢ならどうなっていたかわからんな。つまるところ自身の最高火力を直接放てば最高火力が帰ってくるのだからな」

 

 

 成る程、龍一の考えは正しいなと風魔は思った。

 もし壊夢ならば、拳を放つたびにそれと同じ拳が飛んでくるだろう。

 侵二がなんでも喰い荒らす羽を幹に突き立てれば、同じく向こうも全てを喰い荒らそうと迫るだろう。

 幻夜がどれだけ幻術を使おうが、それを無い物にされてしまい、いともたやすく殺すだろう。

 よって、特に特殊な技もなく、ただ刀を振り下ろすだけの、自身に力をぶち当てる事で切り札を使う自分にとっては、西行妖は都合が良い相手だった。

 

 

 目を閉じ、自身の周りに小さく、しかし強烈な風を纏い、移動する。

 そして刀を振れば、鈍い音と共に紫と妖忌の前に迫る花弁は消え失せた。

 

 

 「無事か」

 

 

 「・・・ええ、ひやっとしたけど、ありがとう」

 

 

 「助成、感謝致します・・・が、貴方こそ、それは大丈夫なのですか?」

 

 

 妖忌に指を指された所に、風魔が手を当てる。

 赤い液体が風魔の手に当たり、それは口から零れ出ていた。

 鈍い音はこれか、と風魔は自嘲の笑みを浮かべた。

 

 

 「ん・・・大丈夫だ。ただの自爆技の副作用だ。それより警戒しろ、とんでもない一撃が来る」

 

 

 風魔が龍一を睨むと、龍一は目の前に数百にも連なる防壁をぎっちりと一箇所に収束させ、未だに薄くはあるものの、拳程度のサイズに防壁が展開されていた。

 龍一が足を一歩突き出し、右拳を構える。

 西行妖もそれから身を守るように、再び枝と根を壁のように構える。

 

 

 龍一が地面を蹴る。

 それを追うように流線型の物体も龍一の前に飛び出し、レーザーで円を描いた。

 円の先の風景は、ほぼ無防備な西行妖の幹が晒されていた。

 龍一は今まで使っていなかった転送を自身にかけて行った。

 

 

 龍一と西行妖の間には、何もなくなった。

 

 

 ____________________

 

 

 現状、龍一が西行妖の保有する能力に関して、大半を未来視により理解していた。

 一つ、西行妖の行う攻撃は全てが狙った対象に対してのみではあるが、即死である。

 二つ、西行妖に直接危害を与える系統の能力、攻撃は、全く同じ出力で返される。

 三つ、西行妖が危険だと指定した能力は、殺される。つまり、無効化される。

 以上の点を見れば、一見何をしてこようがカウンターで返し、即死攻撃は無効化され、向こうの攻撃は全て即死だと言う事になる。

 ただし、それぞれ欠点はあった。

 

 

 龍一が今まで転送を使わずに戦闘をしていたのは、その理由の一つ。

 西行妖は視認して自己に危機を与えると判断した危険技しか殺せない事。

 事実西行妖は龍一の隠していた転送が何であるかを理解出来ず、転送に対して対処が遅れた。

 防壁を大量に重複させていたのも、それ自体の攻撃力は皆無なため。

 西行妖からすれば、ただ盾を必死に一列に並べていたようにしか見えなかった。いざとなれば防壁を無効化してやろうと思っていた。

 故に、

 

 

 「くったばれえぇ!!」

 

 

 防壁を押し込む拳は西行妖に当たった。

 防壁と拳、同時に二つの攻撃は無効化出来なかったのだ。

 そのため、龍一の血と銃弾の破壊力の二つを織り交ぜた弾丸は防げず。風魔と妖忌の技量という能力外のものは消せず。紫の能力も龍一が優先されたため無効化出来ず。

 龍一に防壁を圧縮した鈍器で殴られるほかなかった。

 

 

 「折れろおおおぉ!!」

 

 

 枝を防ぎ切る硬度の防壁がねじ込まれたため、西行妖の幹に突き刺さり、そして龍一の拳によって放たれた破壊力以外は十分の素早い一撃により貫かれた。

 相手を殺すために防壁を消すか、攻撃を止めるために拳を無い物にするか。

 片方さえ殺せば致死に至る筈がなかったのに、どちらを殺すか数瞬迷った西行妖の、初めて戦闘を行なったが故の判断力の遅さが敗因となった。

 そのまま龍一は拳を横に引き、西行妖の根本を半分ほど砕き、小さな魂のようなものを抜き取った。

 

 

 西行妖は最後の抵抗と言わんばかりに、龍一へと防壁と同出力の枝を飛ばす。

 しかし、防壁の硬度だけ、拳の速度だけのどちらかのみを跳ね返した枝は、最早龍一を傷つけるには不十分、ましてやレーザーの壁を潜り抜けるのは不可能だった。

 

 

 龍一は嘆息すると、風魔達に振り返り。

 

 

 「勝ったぞ」

 

 

 親指を立てた。

 龍一の姿を見て、紫は安堵の溜息を吐いた。

 そして、自身の上からひらひらと落ちてくる、一枚の美しい桜の花弁を見上げた。

 

 

 

 

 

 あるはずが無い桜の花弁を。

 

 

 

 

 

 「・・・しまっ」

 

 

 花弁は当然形を変え、道連れで紫の心臓を刺し貫かんと言わんばかりの鋭利な刃へと変貌し、加速する。

 風魔が対応しようとするが、折れかけの西行寺が再度根を伸ばす。

 既に自身の掌の上に落ちてきそうなほどの距離にいたため、妖忌はともかく、当然紫が反応するのは難しく。風魔は桜を刈るために龍一の背後へ動き。

 唯一自由に動いた龍一の左腕だけがそれを庇った。

 

 

 「いっ・・・」

 

 

 「龍一!?」

 

 

 左手甲に深々と食い込んだ花弁は、しかしそれだけに留まらず。

 誰の心臓でも構わないのか、心臓めがけて左腕の中を貫き、心臓に迫っていた。

 咄嗟に龍一の左肘を抑える紫だったが、抵抗虚しく皮膚の下を泳ぐように花弁は左肩まで迫る。

 龍一は脂汗を流しながら、しかしニヤリと笑う。そして突然紫を突き飛ばし、右手人差し指を上から下へ向けた。

 直後、上空から現れた弾丸が速度を保ったまま龍一の左肩を貫き、左肩を胴から吹き飛ばした。

 左腕が飛び、それを跡形もなく砕くように弾丸が貫き暴れ回る。

 やがて弾丸の先端に貫いた桜の花弁をつけた弾丸は、花弁を下に地面へと、穴だらけの左腕と共に落ちた。

 そして風魔の斬撃により、完全に西行妖は沈黙した。

 

 

 「バカめ、弾丸を殺せばただの血だったのにな。ど素人」

 

 

 ぐらり、と龍一が膝をつき、左肩から滴り落ちる血が地面を紅く染める。

 西行妖の攻撃は基本即死であり、紫を狙った一撃だったので、龍一がまだ生きていた。それはほぼ偶然に近かった。

 

 

 そのまま仰向けに倒れそうな龍一を、紫はそっと抱き抱え、しかし顔は血の気を失い、呆然としていた。

 龍一が視た未来と同じ光景だった。

 

 

 「・・・龍、一」

 

 

 「・・・あ?左の方持つなよ、血で汚れる」

 

 

 「そんなの、今はどうだって・・・」

 

 

 「なんだよ、それ洗うの誰だと思ってんだ」

 

 

 いいじゃない。と言おうとした紫は、龍一の呟いた言葉にはっとして笑った。

 

 

 「・・・そうね。貴方よね」

 

 

 「だろ?だからやめてくれ、流石にこの量の血は困る」

 

 

 龍一が苦笑していると、風魔が龍一の顔を覗き込んだ。

 

 

 「斬ったぞ」

 

 

 「ああご苦労。怪我は?」

 

 

 「肋骨が二本」

 

 

 「お互い大怪我だな」

 

 

 「何、貴様には負ける」

 

 

 風魔が呆れたように笑い、そして少しだけ真面目な顔に戻る。

 

 

 「どうだ、気分は」

 

 

 「最悪だな。今にも気を失いそうで、頭が回らずろくに目も見えん。だがまだ死ねない。死なない。違うか?」

 

 

 「それだけ言葉をすらすらと吐けるようなら大丈夫そうだな」

 

 

 「眠いけどな。・・・あ、そうだ。妖忌」

 

 

 「・・・は」

 

 

 「神妙そうに答えるのやめろ。さっき西行妖を砕いた時にな。見覚えがあるの掴んで、外に出しといたんだよ。・・・ちょっとあの部屋見てきた方がいいんじゃねえかな」

 

 

 「それ、は・・・」

 

 

 「まあここで言ってもあれだし、見てこいよ。ほら、紫も。・・・ちょっと俺は気絶する。死ぬんじゃないからな?気絶だからな?その辺の土に埋めるなよ?遺骨を海に撒くなよ?」

 

 

 「埋めるわけない・・・って、聞いてないわよね」

 

 

 埋めるわけないでしょ。ともう一度紫は呟き、気を失い、眠っている龍一に笑った。

 

 

 

 次回へ続く

 




 ありがとうございました。

 次回もお楽しみに。


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第百九話 箱庭の中

 ただでさえ何がしたいか分からないこの作品の中で、更に訳がわからない展開となります。

 それでもよければゆっくりご覧下さい。


 龍一が目を覚ますと、一面白い壁に囲まれた小さな部屋だった。

 机が一つ、椅子が二つ。机の上には湯気の立つコーヒーカップが一つ置いてあるだけで、他には音も、匂いも、何もなかった。

 その片方の椅子に龍一は座っていて、ふと目の前の椅子に誰かが座った。

 

 

 「初めまして、龍一君」

 

 

 「貴方は・・・あの時の?」

 

 

 「ん?・・・あー、なんと言うのか。お前が最初に転生して来たときに会った奴ではないからの?」

 

 

 「・・・?」

 

 

 「まあとりあえず落ち着くといい。元気か?」

 

 

 少しだけ、龍一の思考が止まった。

 目の前の人物は、かつてこのような世界にいたある人物に姿形はともかく、放つ空気はどこか似ている。

 が、しかし向こうは初対面と言う。

 

 

 「元気、でしたね」

 

 

 「まあそうだろうとは思ってたが、見てないうちに何かあると困るからな。・・・んで?一応魂抜けてここにおるが、どうじゃった?」

 

 

 「・・・次はもっと普通の人間が良かったですかね。龍神はちょっと疲れました。と言うか語尾それなんですね」

 

 

 「直せと言われたら治せるが、これがいつも通りじゃな。それにその答えも予想通りじゃ」

 

 

 苦笑する龍一の目の前の男は、呆れたように笑った。

 

 

 「耐えられるなんて思っとらんからな。そりゃあ」

 

 

 龍一の笑顔が固まる。

 男はやれやれとばかりに首を振ると、勘違いしてないか?と笑った。

 

 

 「誰も、『龍神としての責務を全うせよ』とは言ってないからの。あやつも龍神として。しか言っておらんぞ」

 

 

 「な・・・でも、あんたは俺と違うからやり直せって」

 

 

 「ん?ああ・・・もしやまだ勘違いしておるか?俺・・・儂は転生させたあの龍一じゃない。なんならそ奴の知り合いですらない。儂はただの神様だ。確かに龍一は儂がつけた名前ではあるが・・・そもそもだ。もしそんな奴なら初めましてから始めないのではないか?」

 

 

 男はニヤリと笑い、指を打ち鳴らした。

 すると、男の周りにいくつもの地球らしき球体のものが現れ、男の周りを漂った。

 

 

 「まず、お前と儂は同格じゃあない。儂の方が客観的に上なんじゃよ。何しろお前を神様に出来るのは儂なんじゃから。つまるところ、儂お前の作者になるわけじゃな」

 

 

 「作者・・・?」

 

 

 「うむ。この私の住む世界には、お前同じような境遇の人間が沢山いる。それこそお主がかつていた世界の人口を超えるほどとは言わないが、それなりにな。それらを全て管理しているのが、儂と言うことになる。お前が会った龍一さんと言う奴もまたお前ではあるのだが、あくまで幾層にも並べられた世界の中の別の龍一に過ぎんのじゃ。詳しく言えば三人目じゃな」

 

 

 「・・・?」

 

 

 「あー、おそらく理解しとらんだろうから補足する。お前の世界をRPGのゲーム内とするじゃろ?お前は主人公としてその世界に転生して行くが、お前を直接転生させた龍一はそのゲームの所有者。まあ未来の自分でいいじゃろ。そしてそのゲームはゲーム内のキャラクターが持っているゲーム機であり、その所有者が儂じゃ。・・・まあ当然この上もおるんじゃがな」

 

 

 その話は置いといて。と男は笑った。

 

 

 「そりゃあ自覚が無ければ責任を持とうとするじゃろ。ただお前にそんな権限は初代じゃあるまいし、渡しておらん。あの創星録だったか、アレで生殺与奪の権限取りに来るのは見事だったが、そもそもお前が本当に全ての権限を持つ神様なら、死ねと思った相手はすぐ死ぬし、自分の不死性が剥がれることもないじゃろ。・・・自惚れるな、人間。お前はたまたま初代龍一に似ていたからこの世界線に放り込まれているだけで、特に選ばれた存在とかそんなんじゃあないぞ」

 

 

 と言うわけで文句はあるかの?と男は口角を吊り上げて笑う。

 龍一は拳を握り締め、しかし困ったような顔で嘆息した。

 

 

 「なら、今まで龍神らしくしてたのは無駄だったんだな?」

 

 

 「まあそうじゃな。儂らから見ればロールプレイングしてるみたいでネタ性は抜群だったが。一人悶絶しておったが見てて楽しかったの」

 

 

 「そうか。・・・なんか、紫に申し訳ない事したな」

 

 

 「ほお、お前も紫の話を出すか。大切な人か?」

 

 

 「ああ・・・大事な人、かな」

 

 

 「初代の龍一がそう答えるのじゃが、それはお前の命よりか?」

 

 

 「そりゃ言い方が悪い。死ねばあいつが泣く、だがあいつの方が大事だ。なんて言えばいい?」

 

 

 「ほう・・・では、お前自身、儂に恨み言は?」

 

 

 「別に」

 

 

 「儂はお前を玩具にしとるんじゃぞ?言えばお前が誰を救おうがそれを全てしょうもない事って言い切っとるのじゃぞ?」

 

 

 「言われて初めて知ったくらいだから、どうとも思えない。しょうもない事してるのも事実だしな」

 

 

 「・・・お主も中々面白いな。基本これくらい言うと自分より上がいる事に腹が立って殴りに来るか、自分を玩具だって言われて怒るかくらいすると思うんじゃがな。まあ謝るとしてもすまんなテヘペロ程度で済ますんじゃが。ブン殴られるのがオチじゃがな」

 

 

 龍一はよく分からないと言うふうに首を横に振る。

 男はほんの少し瞠目し、そして苦笑した。

 

 

 「・・・分かった。本当に儂を恨んでないのだな。ならそのまま向こうの世界で生きてもらおう。そもそも死にかけたからどうするか聞くために呼んだだけじゃしな。それにお前は生きておる方が面白い。せいぜいネタになるような事を見せてみよ。一つ前の世界よりも面白くなりそうじゃ」

 

 

 「期待に沿うつもりはないし、特に何も出来ないとは思うけどな。・・・後、死んでないんだな、俺」

 

 

 「そりゃあ当然じゃろ?お主が死ぬ事を望んでないんだからそんなさっくり死ぬわけないに決まっておろう。そもそも死んでも百年経てばなんか復活するわい」

 

 

 そうか。と龍一は微笑し、男に向けて質問した。

 

 

 「ちょっと聞いていいか?」

 

 

 「なんでも言うといい」

 

 

 「お前の上には何人いるんだ?」

 

 

 「さあ。儂もただの一人の神じゃからな。ただ上の位、上司みたいな奴らは数えきれないほどおる。お前も含めて儂ら、そしてそれ以下らはただの塵に過ぎない。ゲームの中のNPCがゲームしてるようなもんじゃな。後輩は一人おるぞ」

 

 

 「そうか。・・・そう言えば、風魔はどうなってるんだ?」

 

 

 「風魔?・・・ああお前の横に時々おる奴か。あ奴は・・・珍しく前世の記憶を忘れんタイプの人間じゃな。・・・ふむ、前の世界にもおったようじゃから、お主と生きたのではなく、先代の龍一を見ておったのではないかの」

 

 

 「そっか。・・・じゃあ、なんで俺は死ぬ未来を見たのに死んでなかったんだ?」

 

 

 「それは視点の問題じゃな。鏡か何か通して未来視使ってみろ。と言うか他にも言われた筈じゃが。そもそも死ぬ未来なんか見とらんのじゃよ」

 

 

 「鏡を見ろとしか」

 

 

 「揃って遠回しに言うのが好きな奴らじゃの。ちゃんと未来視まで使うといい」

 

 

 「分かった。・・・他はない」

 

 

 「・・・うむ、質問は終わりか?・・・それでは元から怒ってないとは言え、許してくれているお前に面白い話をしよう。今後とも儂的には面白い事が続々と起きる予定じゃ。ただお前の仲間には自分の利益の為に人を殺す悪人はほとんどおらん。それだけ伝えておこう」

 

 

 「・・・正直、今もよく分からないが、ありがとう」

 

 

 「うむ。まあ二度とここには来ないだろうから、達者でな。後二度と権利侵害をするなよ、その時は上の次元の作者として創星録を消滅させるからな。使うとしてもあと一回だぞ。後始末も二人で出来るとはいえ面倒なんじゃ」

 

 

 「あんなもん二度と使うわけないだろ」

 

 

 「さあ、分からんぞ?では引き続き幸運を。龍一」

 

 

 「わかったよ、神様」

 

 

 「ああ、儂には名前があっての・・・ってもうほぼ話す事も出来んほど消えてしまいそうじゃの。それじゃあ向こうのほうも適当に目を覚まさせるか。ほれ」

 

 

 男が掌を閉じると、龍一のいた場所には何もなくなった。

 その様を眺めていた男は、嬉しそうな顔で一つの球体を手前に寄せ、机の上に浮かべた。

 それはまるで、過去の誰かを思い偲ぶようだった。

 

 

 「おい■■、遊んでるならこっち手伝え」

 

 

 「遊んどらんぞ。これはそもそもお前が途中で壊したからこうなっとるんじゃが」

 

 

 「そんな昔の話よく覚えてるな」

 

 

 「ここではお主らの一年が一日じゃからな。友との思い出を忘れる馬鹿が何処におるんじゃ。引き続き生き延びさせるから、お主が見なかった百年間、せいぜい眺めて悶絶するといいわ」

 

 

 「冗談キツいぜ」

 

 ____________________

 

 

 目を覚ます。

 先程までの夢のような場所とは違い、風の音がする。

 ぼんやりとして立ち上がることの難しそうな感覚の中、左肩から先の感覚がない事に気がつき、戻ってきたのだと理解する。

 ゆっくりと頭を上げ、周りを確認する。足元には布団がかけられており、枕元には食事を置いてくれていた。

 

 

 「いただきます」

 

 

 右手だけでおぼつかないものの、茶碗の米を咀嚼し、味噌汁を飲み、少し焦げ目の多い焼鮭を頬張る。

 全て食べ終える頃には、感覚ははっきりとして、難なく立ち上がる事が出来た。

 食事を載せていた盆を片手に持ち上げて、物音のする部屋へと向かう。

 長い廊下を通り、障子の開け放たれた部屋に向かうと、風魔と妖忌、幽々子が談笑していた。

 風魔と最初に目が合い、すぐさま風魔は幽々子と妖忌に人差し指を見せ、静かにのジェスチャーを取った。

 妖忌と幽々子は不思議そうに風魔を見て、そして此方とも目が合った。

 

 

 「りゅ・・・んんっ、失礼」

 

 

 うっかり妖忌は口を滑らせかけたのか、俺の名前を呼びかけ、そして口を塞いだ。

 幽々子は楽しげに手で口元を隠しながら、奥の調理場を指さした。

 そこには食器を洗っている紫が背を向けていた。

 幽々子を振り返ると、にこにことしたまま行けと指し示してくる。

 当然風魔も乗り気で、妖忌も止める気は無さそうだったので、紫に声をかけた。

 

 

 「御馳走様。食器どうすればいい?」

 

 

 「あ、そこ置いてくれる?」

 

 

 「はいよ」

 

 

 「美味しかった?」

 

 

 「ああ。味噌入れない味噌汁作ってたのにな。上手くなったな」

 

 

 「でしょう?」

 

 

 紫がこちらを見ずに、嬉しそうにふふんと鼻を鳴らす。

 しかししばらくしてその一連の会話がおかしいと思ったのか、こちらを振り返った。

 

 

 「・・・あ、れ?」

 

 

 「おはよう、寝坊したわ」

 

 

 返事はなく、体当たりだけが返ってきた。

 

 

 次回へ続く




 この話に対して、良くわかんねえよボケが。と言われそうなのでヘタクソながら説明させてもらいます。
 第一話で鏡一を二話以降の龍一にした旧龍一
 この話で龍一と話している神様は別人です。

 旧龍一と龍一は権限的には同じ位置の別世界として属しますが、流れている時間のみが違います。旧龍一の世界の西暦2000年が龍一の世界の始まりとなっています。当然旧龍一の前の龍一も何人かいます。具体数的には三人いる事になります。
 そしてこの話の神様は、旧龍一よりも更に前の、最初の世界の矢川鏡一を龍一にした存在です。
 龍一の今の世界を作り上げ、長々と管理し続けるのが神様の立ち位置です。
 つまり龍一と旧龍一の間は先輩と後輩、龍一と神様は生徒と教師の位置づけになります。当然教師の上に教頭がいるように神様に上もいますし、教師内でも先輩後輩がいます。


 なら神様は誰か。
 初代龍一だけは、別の神様に任命された事になります。
 そんな任命するキャラブレブレのジジイみたいな神様、どっかにいましたね。


 次回もお楽しみに。


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第百十話 理想郷

 そろそろ全権と全責任を持つ神様の話も終わりになります。


 ゆっくりご覧下さい。


 「はい、紫の分ね」

 

 

 「ありがと。・・・その様子だと全然不便そうじゃないわね」

 

 

 「そうねえ。体もぜーんぜん軽くなったしね」

 

 

 幽々子の出した湯呑みを、紫は受け取って口をつける。

 龍一が左腕を吹き飛ばして倒れている間に、幽々子は復活。と言うよりは、魂が肉体の上に戻っていた。

 本来ならば西行妖に吸われていたはずの魂は、龍一が西行妖を引き裂いたときに解放されたようだった。

 

 

 「私にとっても龍一さんは恩人になったわねえ」

 

 

 「そうね」

 

 

 「お似合いだと思うわよ?」

 

 

 「ありがと」

 

 

 幽々子は期待通りの反応が来なかった事に少し瞠目し、しかし話を変えるように、ところで。と口を開いた。

 

 

 「あれ、いつ終わるのかしらねえ」

 

 

 「・・・木刀が折れるまでだそうよ。そろそろじゃないかしら」

 

 

 二人の目の前では、話題の人物龍一と、風魔が木刀で斬り合っていた。

 しかしただ斬り合うだけでなく、隙さえあればぶん殴り、投げ飛ばし、蹴り上げるような、ほとんど喧嘩状態で勝負していた。

 

 

 「妖忌も混ざる?」

 

 

 「幽々子様。それは冗談が過ぎます。確かに剣術のみなら立ち会えはしますが、アレは無理です」

 

 

 「それもそうね。流石に妖忌があれに参戦できたら私も驚くわ」

 

 龍一の膝蹴りが風魔の鳩尾に刺さり、風魔は怯んだ頭をそのまま龍一の頭にぶつける。

 互いに後方に飛び退がり、第二ラウンドと言わんばかりに大振りの一撃を互いに振り下ろす。

 そして当然、二本の木刀はへし折れた。

 

 

 「げ」

 

 

 「む」

 

 

 数瞬のうちにアイコンタクトが風魔と龍一の間で行われ、再度拳を構えて互いに殴りかかる。

 拳が互いの顔を捉え、ぶつかる直前。彼等は謎の裂け目に吸い込まれ、紫と幽々子の横に落ちた。

 

 

 「おや」

 

 

 「おっと」

 

 

 殴り合いが中断され、紫が嘆息して首を横に振る。

 

 

 「なんであそこで『やっぱ殴るわ』『私もだ』で止まらず殴ろうとするのよ。折れたら終わりじゃなかったの?」

 

 

 「いや、『殴るぞ』『来いよ風魔』だからな今回は」

 

 

 「逆でもなんでもいいのよ。なら尚更やめなさいよ。大体まだ左手ないのに何してるの?風魔さんも伊織に言いつけるわよ?」

 

 

 「悪かった」

 

 

 「はい。それじゃあお茶にしましょ。二人の分淹れてくるわね」

 

 

 「私もおかわり」

 

 

 「分かったわよ、妖忌は?」

 

 

 「私はまだあるので結構です」

 

 

 「はーい」

 

 

 お茶を淹れるために席を離れる紫。

 そんな彼女が遠くに行くのを確認してか、風魔が小声で囁いた。

 

 

 「貴様の扱いが上手くなってないか?」

 

 

 「知るか。急に何言い始めんだお前は」

 

 

 「いや何、揃って逞しくなったなと」

 

 

 「俺は別になんだがな。強いて言えば俺より上を見たせいか」

 

 

 「・・・そう言えばど直球に鏡を前に未来視を発動させろと言った奴がいたらしいが、そいつか?」

 

 

 「そうだな。俺より一回り上の権限持ちだとよ」

 

 

 「冗談にしては笑えないな。そんな吐き気のする奴がいるのか」

 

 

 「更に上もいるとか」

 

 

 「・・・クソか?」

 

 

 風魔が如何にも不思議そうに罵声を吐いていると、紫が湯呑みを置いてくれた。

 

 

 「何がクソなの?」

 

 

 「こっちの話。上には上がいるんだなあって事をな」

 

 

 「龍一より?」

 

 

 「・・・さてはちょっと聞いてたなお前。そうさ、俺より上がいるんだとよ」

 

 

 「どんな人?」

 

 

 「語尾が『じゃ』の特徴のない、それこそ弱体化した俺みたいな奴」

 

 

 「ただの歳とった人間だなそれは」

 

 

 「そうね」

 

 

 「ど辛辣だなお前ら。多分上で笑われてるぞ」

 

 

 「笑っているなら別にいいだろう。・・・さて、妖忌。私は今さっきの消化不良で非常に誰かを倒したい。前のように石段前で付き合え」

 

 

 「・・・幽々子様、構いませんか?」

 

 

 「いいじゃない。私も見に行こうかしら」

 

 

 「従者が倒される所をか?」

 

 

 「あら、それはどうかしら」

 

 

 幽々子と風魔の間に異様な空気が走り、幽々子は微笑んだまま、風魔は口元が吊り上がったまま立ち上がった。

 

 

 「行くわよ妖忌。私も混ざるわ。見てたら久しぶりに動きたくなっちゃったわ」

 

 

 「・・・は?」

 

 

 「風魔さん、私は弾幕しか出来ないけれど、いいかしら?」

 

 

 「それは楽しみだ。弾幕もそこの二人の相手をするのにも飽きたのでな。二対一とはまあなんとも、負けそうではないか」

 

 

 「・・・しかし、風魔殿「桜を刈ってやっただろう」・・・意地の悪い人ですね。幽々子様も今回限りですからね」

 

 

 妖忌は嘆息し、しかし立ち上がった。

 

 

 「・・・それでこそだ。行くぞ」

 

 

 龍一と紫を置いて、三人は歩いて行ってしまった。

 龍一はそんな彼女らを見送り、そして苦笑した。

 

 

 「幽々子、元気そうだな」

 

 

 「・・・ええ」

 

 

 「そういやさ。俺、どれくらい寝てたんだ?」

 

 

 「丸一日よ」

 

 

 「マジかあ。啖呵切った割には死にかけてんだよなあ」

 

 

 恥ずかしそうに頭を掻く龍一に、紫は小指を突き出した。

 

 

 「でも、生きてるでしょ?」

 

 

 「・・・まあな?そりゃ死にたくなかったからな。誰がこんな幸せな状態で死ぬかよ」

 

 

 「ふふ、何よそれ」

 

 

 「言葉通りの意味だな。肩の荷も余計に背負ってただけだったからなあ。・・・程のいい抜け殻になっちまったな。前まではやりたい事が欠けてたのに、次はすべき事が欠けてる」

 

 

 「いい休憩になってるんじゃないの?」

 

 

 「だな。死ぬ前の約束はともかく、これからどうするかな」

 

 

 「そうね・・・」

 

 

 バン、と石段の方角へと雷が落ちる。

 更にその場所にのみ豪雨が吹き荒れ、紫と龍一は顔を合わせて苦笑した。

 そして、ふとしたように龍一が口を開いた。

 

 

 「・・・あ、そうだ。紫」

 

 

 「何?」

 

 

 「ちょっと前に話した、理想郷の名前の話なんだが」

 

 

 「うん」

 

 

 「幻想郷っての、どうだ?」

 

 

 「幻想郷?」

 

 

 「ああ、その、なんというか、特に意味はないんだけどさ。似合うかなって」

 

 

 「・・・悪くないわね」

 

 

 「なら良かった。・・・紫?」

 

 

 少し照れ臭そうに微笑む龍一に、紫がそっと肩を寄せる。

 龍一が驚いたように紫に顔を向けると、少ししおらしく、恥ずかしそうに口を開いた。

 

 

 「私の事、好き?」

 

 

 龍一はほんの少し瞠目し、そして照れる動作もなくにこりと笑った。

 

 

 「好きだよ」

 

 

 この一言を言うために、何年馬鹿なことしてたんだろうな、と龍一は心の中で苦笑する。

 紫はその言葉を受けて固まり、そして嬉しそうに微笑み、目から一筋の涙を流した。

 

 

 「いや、悪かったからさ・・・泣くなよ」

 

 

 「悲しくて泣いてるんじゃないからいいでしょ?」

 

 

 「そうか。どっちにしろ、えらく待たせたな」

 

 

 「そうよ。ちゃんと責任取ってよね」

 

 

 「どこまで?」

 

 

 「えっ、どっ、何処まで・・・?」

 

 

 恥ずかしさと真面目な思考が混ざり合い、複雑な顔をしてぶつぶつと呟く紫。

 そんな彼女を愛おしそうに龍一は眺め、紫の方を右手で引き、より密着するように肩を合わせた。

 紫は驚いたように龍一を見るが、龍一の顔を見た途端、再びにこりと微笑み、龍一の肩に頭を乗せた。

 

 

 「龍一」

 

 

 「ん?」

 

 

 「今までありがとう。・・・その、これからもよろしく、ね?」

 

 

 「・・・こちらこそ。今までありがとう。これからもよろしくな」

 

 

 ____________________

 

 

 それから一時間程が過ぎると、所々煤に塗れてはいるものの、ほぼ無傷の風魔達が石段を登り、龍一達のいる縁側へと帰ってきた。

 

 

 「強かったわねえ風魔さん」

 

 

 「あれほどの剣劇を行いながら、あれほどの弾幕を張るとは。やはり私はまだまだのようですね」

 

 

 「何、中々骨のある勝負だった。しかし幽々子がそこまで弾幕が上手いとはな」

 

 

 「昔に紫から教えて貰ってたもの。私も好きよ、これ」

 

 

 「そうか。・・・む」

 

 

 和気藹々と話す風魔達。

 しかし風魔が龍一に声をかけようとして、足を止めた。

 

 

 「あら?どうしたの?」

 

 

 「何かありましたか?・・・おや、これは。幽々子様、あそこです」

 

 

 不思議そうに同じく足を止める二人だったが、妖忌も気がついたのか微笑んだ。

 

 

 「なあに?・・・あらあら。仲良しねえ」

 

 

 風魔が足を止めた前には、紫が龍一の肩に頭を乗せ、手を繋ぎあったまま、静かに微笑みながら眠る二人の姿があった。

 深く眠りについているのか、起きる様子は少しもなかった。

 

 「・・・起こすのも気の毒だ。離れておくか」

 

 

 「なら奥の部屋が空いておりますので、そちらにしましょう」

 

 

 「・・・つついてもいいかしら」

 

 

 「幽々子様。駄目ですよ」

 

 

 「分かってるわよお」

 

 

 風魔達が龍一に背を向けるのを確認し、幽々子が振り返る。

 すると、紫が片目を開き、にこりと笑っていた。

 二人は互いに口に人差し指を立てると、面白くなったのか、幽々子はクスクスと微笑んだ。

 

 

 

 次回へ続く




 これにて、この世界に対しての全権と全責任を持つ龍神の話はおしまいです。
 これからは弱く、人間くさい龍神の話となります。


 次回もお楽しみに。


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第百十一話 お久しぶり


 前回と間が空き過ぎに加え、いつにも増しての低クオリティです。
 
 ゆっくりご覧ください。


 

 

 「でね、その時龍一が・・・」

 

 

 「紫さん」

 

 

 「あ、なあに?」

 

 

 「なんでまた急に俺を話し相手にしてるんです?」

 

 

 霧に包まれたロンドンの街の中、幸夜自身がそうツッコむ。

 ツッコまれた相手、紫は申し訳なさそうにスキマから顔を覗かせ、微笑んだ。

 

 

 「その、また追い払われちゃって」

 

 

 「でしょうね」

 

 

 やれやれと幸夜は嘆息し、まあ仕方ないかもしれないですね、と言った。

 

 

 「あの先生が正直になったんですからね。聞くのが片手間になりますけどどうぞ」

 

 

 「・・・いいの?」

 

 

 「ま、気持ちも分からなくはないですからね」

 

 

 ポケットから指抜きを取り出し、右手人差し指に嵌め込んだ。

 指抜きからは細い糸が伸びており、街灯に照らされ、時折輝いていた。

 

 

 「んで、今はどうしてるんです?」

 

 

 「なんと言ったらいいのかしら。・・・そうね、二人で人里から離れた所で過ごしてるわよ。龍一もすぐに周りに打ち解けたし、ある程度慕われてるみたいよ」

 

 

 「そりゃ何よりです。・・・あ、ちょい耳塞いどいて下さいね」

 

 

 くい、と幸夜が指抜きから伸びていた細い糸を引いた。

 直後背後の建築物は爆散し、ある程度の爆風と轟音が紫と幸夜を襲った。

 

 

 「・・・今のは?」

 

 

 耳を押さえ、やや控えめに紫が幸夜に問う。

 幸夜は足早に歩きながら紫に返答する。

 

 

 「アリスやオルゴイさんの所に押し掛けてくる奴らへの仕返しですよ。それにこうするとヘイト管理にもなりますしね」

 

 

 幸夜は背後の人影に視認することなくナイフを投擲する。

 何かに刺さった音と呻き声がすると、幸夜は駆け出した。

 そんな幸夜の横を追走するように、紫は幸夜以外には見えないように空を飛んで追いかける。

 

 

 「こっちに逃げる?走らなくて済むわよ?」

 

 

 「いや、あんまり追われてなさそうなのでいいです。それに今からが楽しいんですよ」

 

 

 幸夜のコートの右袖からアンカーが射出され、ロンドンの住宅街の屋根に引っかかる。

 幸夜は右腕でアンカーに繋がるワイヤーを巻き取りながら、灰色の霧に包まれる街を見下ろした。

 

 

 「そう言えば紫さん、この後も暇ですか?」

 

 

 「え?ええ。今日は特に何もないわよ」

 

 

 「なら折角なので、このまま俺の部屋に来ます?コーヒー御馳走しますよ」

 

 

 「・・・そうね、お願いしようかしら」

 

 

 「仰せのままに」

 

 

 幸夜は家の屋根に辿り着くと更に跳躍し、夜空に紙片をばら撒く。

 それらは規則正しく真っ直ぐ飛ぶと、幸夜の目の前に、まるで道を作るように空に浮いたまま固まった。

 

 

 「・・・また上手くなった?」

 

 

 「触れたらなんでも出来るようになってきましたね。なんもないとこからは流石に無理ですけど」

 

 

 おかげで体が重いのなんのって、と幸夜は苦笑し、夜空へ駆けて消えていった。

 

 

 

 ____________________

 

 

 「はい、コーヒーですけどどうぞ」

 

 

 「ありがと。・・・なんか、随分本が多いのね」

 

 

 「確かに増えたかもですね」

 

 

 三つ置かれたコーヒーカップのうち一つに口をつけ、一息ついた幸夜が軽く息を吐く。

 紫もきょろきょろと部屋を見回し、机の上に積まれた本を一冊開き、そして目を見開いた。

 

 

 「これ、確か龍一の・・・」

 

 

 「そうですね、銃のパーツの図説です。まだそんなに出回ってないので、先生やら親父やら経由してます。未来の本もあるので持ち出し禁止にしといてくださいね」

 

 

 「へえ・・・こっちは?」

 

 

 「そっちは魔道書です。血液を使う種類しかないんで偏ってますけどね。それはここの魔法使いのパチュリーから借りてます」

 

 

 「へえ・・・」

 

 

 物珍しげに部屋を見回し、紫もコーヒーに口をつけた。

 

 

 「・・・ま、それはともかく。最近どうです?」

 

 

 「そうね、龍一はよく笑うようになったし、よく泣くようにもなったし、よく愚痴も言うようになったわね。人間だった頃の話とかも、時々するようになったしね。私はこの前龍一の故郷に行ったのよ。まだ龍一が生まれるより、およそ百年も前の場所だったけれどね」

 

 

 「ああ、見たんですね。どうでした?」

 

 

 「龍一の言う通り、私の作った幻想郷・・・あ、理想郷の事ね?幻想郷とはかけ離れてたわ。私が作ろうと思い立った時代より、人がせわしなくて、妖怪なんて出る幕もなくて。・・・とてもではないけれど、龍一がつまらないって言うのも少し納得しちゃったの」

 

 

 紫は嘆息し、続けた。

 

 

 「・・・あの場所を見てからなら、私も理想郷なんて無理じゃないかって諦めてたかもしれない。龍一が最初に無理だって否定したのも、ようやく納得が行った」

 

 

 「ま、地獄っちゃ地獄ですからね。簡単に指一つで人が死ぬ時代になりましたから」

 

 

 「それで・・・最近思ったことがあってね?」

 

 

 「なんです?」

 

 

 「私の理想郷の中では、きっとあんな事は起きない。・・・けど、幻想郷に連れてこれる人って限られてるじゃない?・・・不平等かなって」

 

 

 「ああ成る程。理想郷に全員連れてこないと不平等じゃないかと。考えるまでもなく馬鹿ですね」

 

 

 「結構真面目に聞いてるのよ?」

 

 

 「長く生きてない俺だってわかりますよこんな事。紫さんは神様ですか?」

 

 

 コン、と幸夜はコーヒーカップを机に置き、紫の目をやけに冷たい目で見据える。

 紫は息を呑み、いいえ、と呟いた。

 それに幸夜は頷くと、父親の面影がはっきりと浮かぶ笑顔を口元に刻んだ。

 

 

 「なら質問ですけど。世の神様が一度でも過去未来現代、全ての人間を助けたことがあります?ああいや聞くまでもなかったですね。ありません」

 

 

 先生ですら救えない。と両手を開き、刻まれた笑みを更に吊り上げる。

 

 

 「それを?神ですらない妖怪の貴女が成し遂げる?・・・寝言はいけませんよ紫さん。そんなに手で掬えるものは多くないんですよ」

 

 

 俺だってそうです。と幸夜は首を横に振る。

 

 

 「人は誰しも救える量に限界がきっとあるんです。手元の人を救わずに、はるか先まで見るのは、まあ賢いとは言えませんよね。きっと先生も紫さんもそんなに掬えない人なんじゃないです?もうそれは正直、掬える人に掬って貰った方がいいですよ。んでいつか全てを救えた人が手伝ってくれって言われた時、幻想郷に全ての人を連れてくる。・・・それでいいんじゃないです?」

 

 

 俺は十人くらいが限界ですね。と幸夜は刻まれたような笑みを消し、弱々しく笑う。

 紫は暫し目を閉じてていたが、やがて頷き、笑った。

 

 

 「そうね。私が考えるには役不足な話ね」

 

 

 「そう言う事です。理想郷は理想から程遠い人間が夢見てこそ理想郷になるんですから。完成させたからそこで完結なんです。あんまりその先気にしちゃダメですよ。理想郷が消えることになりますから」

 

 

 幸夜はカップに残ったコーヒーを飲み干し、再び息を吐いた。

 既に残った一つのコーヒーカップからは湯気が消えていた。

 

 

 「うん・・・そうね。龍一の性格が移っちゃったのかもね」

 

 

 「そうかもしれないですね」

 

 

 「まあ、こんな事年下に教えられてどうするんだって感じだけどね。ごめんね、変な時間取らせて」

 

 

 スウ、とスキマを開き、紫はその中へと体を入れた。

 

 

 「いえいえ、俺も世話になってますからね。いつでも歓迎しますよ」

 

 

 紫が完全にスキマへと入り込み、幸夜以外の姿が見られなくなった頃。

 へっ。と幸夜は笑い、一つ余っていたコーヒーカップのフチを軽く指で弾いた。

 するとコーヒーから再び湯気が立ち昇り、一人でに浮き上がった。

 

 

 「いつまで姿消してるんです。もう帰られましたよ」

 

 

 「・・・お前、親父に似てきたな」

 

 

 その声に反応したかのように、ゆっくりとコーヒーカップを持ち上げていた存在の姿が浮かび上がる。

 浮かび上がった存在はコーヒーを啜ると、やや嬉しそうに口の端を吊り上げていた。

 

 

 「概ね先生の予想通りの悩みようでしたね。なんで先生もですけどああいう思想になるんです?」

 

 

 「馬鹿だからだな」

 

 

 「なるほど」

 

 

 「少なくとも侵二達はそうは考えねえだろうしな」

 

 

 「先生はまだ全部救えると思ってるんですか?」

 

 

 ああ?と龍一は苦笑し、首を横に振った。

 

 

 「全く思ってない。俺が救えるのは紫と、紫が大事にするもんだけだな」

 

 

 「前まで全然だったのに言うようになりましたね」

 

 

 「ほっとけ」

 

 

 

 次回へ続く





 ありがとうございました。
 
 次回もお楽しみに。


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第百十二話 遥か先へ

 ゆっくりご覧ください。


 「んで、先生自体の用はなんです?何も紫さんが気になってここまで足伸ばしてるわけじゃないですよね」

 

 

 「ん、まあな。どっちかと言うとお前の問題なんだが」

 

 

 「俺?」

 

 

 湯気立ち昇るコーヒーを再び啜り、龍一は自身の首の前で親指を横に引いた。

 

 

 「心当たりはあるだろうが、お前狙われてるぞ」

 

 

 「でしょうね」

 

 

 当然の報いだと言わんばかりに幸夜は苦笑し、龍一の飲み干したコーヒーカップを回収する。

 龍一はサンキューと呟くと、話を再開した。

 

 

 「かと言ってお前が死ぬ恐れがあるかと言われると、ない」

 

 

 「まあ、あったら先生一人で来ませんよね」

 

 

 「そうだな、あの目つきと口が悪い右腕が付き添いで来るわな」

 

 

 遥か遠くで誰かのクシャミがしたようだが、気にすることなく龍一は更に続けた。

 

 

 「まあ、注意するに越した事はないってだけの話なんだが。一回死にかけてるし、な?」

 

 

 「ああ、ありましたねそんな事。・・・そう言えばあの時、なんで普通の人間の弓が頭に刺さったんですかね」

 

 

 「さあな。あり得ない話ではないだろうから、偶然としか言いようが無いんだな、これが」

 

 

 「ですよねえ。・・・んで、用件それだけです?それだけなら手紙とかでもいいですよね?」

 

 

 「いや後ちょっと紫との話聞いてもらおうかと」

 

 

 「あんたもか」

 

 

 バツが悪そうに龍一は視線を逸らし、幸夜は嘆息して、そして笑う。

 

 

 「ほんっとに変わりましたね。先生ってそんなでしたっけ」

 

 

 「あー、前まで口に出してなかっただけで、今口に出すようになったくらいか?」

 

 

 「常このテンションかよ。よく言わずに耐えてましたね」

 

 

 「まあ・・・紫が俺のことそう見てたと理解するまではちょっとキツかったがな。それ以降はまあ、お前らと真面目な話してるときに会いたいとか二回に一回くらい考えてただけだしな」

 

 

 「二回に一回」

 

 

 「普通だろ?」

 

 

 「急に惚気るようになりましたね」

 

 

 「そうか?」

 

 

 そうでもないと思うんだけどなあ。と呟く龍一の顔は、誰が見てもわかるほど蕩けていた。

 幸夜は早々に自分の師が手遅れであることを察して内心十字を切った。

 

 

 「だってしょうがねえじゃん、誰があいつの事逆に好きにならねえのよ。自らの理想の為に遮二無二突っ走って、人の為に容易く膝折って、そのくせメンタルは弱くてすぐ落ち込んで。今みたいに有り得もしない事考えて苦悩して。全部愛おし過ぎるんだよな。そりゃ気になって他より注目するだろ?」

 

 

 「なんか、やけに上から目線というか、上位視点から見てません?」

 

 

 「そりゃ、長年俯瞰して世界見てたからな。・・・あいつみたいな奴しかいない世界だったらなあ。どれだけ良かったことか」

 

 

 「先生も紫さんに要らないこと考えすぎだって言えないじゃないですか。普通そんな事考えませんよ」

 

 

 「無理言うな、元々そう言う立ち位置だったんだからぼんやりと考えちまうんだよ。ああコイツは世界に必要ねえわ。とか、コイツみたいな奴がもっといたらなあ。とかな」

 

 

 「なんか、大変だったんですね」

 

 

 「って事を考えとかねえと紫の事が単純に好きって事になってただろ?」

 

 

 「逆かよ。勝手に考えてしまうとかじゃなくてごまかす為に考えてたのかよ」

 

 

 「・・・てな具合に適当な事言ってるとどっちが嘘かわからんだろ」

 

 

 「うわタチ悪いなこの人」

 

 

 元からこんなだぜ。と龍一は笑い、続けた。

 

 

 「まあ、この誤魔化し方はどっちにしろ紫が好きだってことは変わらねえんだけどな。まあその辺は仕方ねえよな」

 

 

 「頭のネジ飛んでます?」

 

 

 「至って正常だが?・・・いやちょい恥ずかしいか」

 

 

 「ちょっとで済むのか・・・」

 

 

 人が変わったように惚け、嬉しそうに微笑む龍一に、幸夜は呆れたと言わんばかりに嘆息した。

 そしてしばらく龍一の惚気話を聞いていた幸夜は、思い出したかのようにふと立ち上がった。

 

 

 「あ、そうだ」

 

 

 ふらりと幸夜は自室の棚に並ぶ瓶を一つ取ると、龍一の目の前に置いた。

 

 

 「これなんですけど」

 

 

 「・・・どっからどう見ても水銀だな、それが?」

 

 

 「水銀って、飲むと血液内に溜まるじゃないですか」

 

 

 「ああ、そうなるな、多分」

 

 

 「その他の体液にも水銀って影響します?」

 

 

 「いや、多分内臓系に溜まることになるから出ねえと思うけどな・・・って知ってどうすんだそんな事」

 

 

 いやね?と幸夜がおもむろに自身の右人差し指をポケットから出したナイフで切り、血を落とす。

 血は幸夜の掌を滑り落ちると、赤かった血は銀色に、そして個体へと変形した。

 

 

 「こうなったんですけど、大丈夫ですかね」

 

 

 「何してんだお前」

 

 

 こうですよ、と目の前で幸夜が水銀の入った瓶を口につけ、水銀を飲み干した。

 毒を体内に入れると言う動作からか、幸夜の体は少し揺らいだものの、しっかりと両足で立った。

 

 

 「いや、俺の能力って手に触れたものを武器にするじゃないですか。だったら最初から自分の血液に毒なり水銀なり含ませてりゃ、体そのものが武器になるんじゃないかと。・・・その分体に異常は当然出ますけど」

 

 

 「・・・そりゃそう考えるのも間違ってはいないが、だからってほんとにやらんだろ。いくら人間じゃないからって、結局毒飲んでることには変わりないんだが?」

 

 

 「ただ、こうでもしないとあんたらに追いつけないでしょう?」

 

 

 幸夜の悔しさが少し入り混じった呟きに、龍一は瞠目し、そして穏やかな目つきへと変わる。

 

 

 「・・・ああ、そうだな。追いつけるわけがないな。費やす年月が数十倍長くてようやく追いつくような存在には。そしてお前は俺より遅く生まれたもんな」

 

 

 「そう。年老いることがほぼなく、未だ羽を休めないあんた達に、年月で勝る事はできない」

 

 

 幸夜は、幻夜と風見幽香の息子である。

 風見幽香と言う存在自体、日本の、それも大妖怪の間柄では名を知らない者がいない程の実力はある。それが彼の母だ。

 それに加算して、今やその名は捨てられたものの龍神に並ぶ実力者の幻夜が、彼の父だ。

 幸夜自身にどれだけセンスがあろうが、どれだけ強かろうが、比較される対象が空の彼方にいる。

 そして更に上が、今幸夜の目の前にいる。

 

 

 「俺は先生の事を尊敬してるし、人間的にも好きだよ。・・・ただ、龍神のあんたが凄く羨ましいし、妬ましい。きっと気の遠いような時間を鍛錬に費やしたんだろうけど、誰よりも先に場数を踏めた」

 

 

 「ま、そうなんだよな。・・・おそらくお前が俺と同じ時期に生まれてたら、比較にならないほど強くなってるだろうな。なにせ場数だけが俺の取り柄だからなあ」

 

 

 「それは言い過ぎだと思うんですけどね。ただ、俺はアリスを守ると言った限り、どんな理不尽が来ても負けるなんて事はあっちゃいけないと思ってる。・・・ま、そんなわけで俺の体も賭けに出したんですが、流石にアリスに自分から毒飲みましたとも言えないんで、上手いこと誤魔化せませんかね」

 

 

 「・・・お前も人の事言えねえな。ほらよ」

 

 

 龍一が指を鳴らす。

 すると、幸夜は一度大きくふらついた。

 

 

 「おっと・・・?」

 

 

 「とりあえず解毒と、血液内にしか循環しないようにしておいたから、要望通りにはなっただろ。・・・ただ、その分血液内の水銀濃度は高まったから、以前よりコントロールの勝手が変わる。そこは勘弁しろよ」

 

 

 「いや、ありがとうございます」

 

 

 「ああ。・・・まあ、くれぐれも無茶して死ぬなよ。先生より先に死ぬ生徒なんぞ許さんからな」

 

 

 「それは保証出来ませんね」

 

 

 自分を入れた算数が出来ないような、侵二や風魔に似た笑顔を見せる幸夜に、龍一は諦めたように嘆息し、笑った。

 

 

 「やめてくれ、お前みたいなやつはもう腹いっぱいなんだ。・・・と、そろそろ帰るとするか。紫が心配する」

 

 

 思い出したかのように龍一はコーヒーを飲み干し、幸夜に背を向けて一歩前に歩く。

 それだけで龍一はその場から消え、空のコーヒーカップのみが残っていた。

 幸夜はそんな龍一に実力とはまた別の羨ましさを感じ、そしてそれに気がついた自分に馬鹿ではないかと自嘲した。

 

 

 

 次回へ続く




 ありがとうございました。

 次回もお楽しみに。


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第百十三話 刺客


 ゆっくりご覧ください。


 

 満月が三百ほど顔を出した頃、幸夜は武装するように言われ、オルゴイに呼び出されていた。

 幸夜がオルゴイの部屋へ向かう間にも既に、外で騒ぎが起こっているのをなんとなしに感じていた。

 オルゴイの部屋に到着すると、彼は愉快そうに外を眺めながら、幸夜に声をかけた。

 

 

 「さて。・・・幸夜。お前が呼ばれた理由は分かるな?」

 

 

 「・・・あの例のレミリアお嬢様が視たっていう未来の話でしょう?外ほったらかしていっていいんです?」

 

 

 ガシガシと頭を掻き、仕え始めた頃よりも素がはっきりと出た幸夜にオルゴイは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 「何。行く、ではない。外の彼らがそうなのだ。迎え撃て」

 

 

 「ああ・・・了解。これ終わったら有給取ってアリスのとこ行きますからね」

 

 

 二つ返事で了承し、幸夜はオルゴイの横を走り抜け、窓ガラスを自身が通る瞬間のみ砂に変換し、再度ガラスへと戻して外へ飛び降りた。

 

 

 遅れてきた風圧で髪を揺らしながら、オルゴイはニヤリと口角を上げた。

 

 

 「・・・やるではないか」

 

 

 当の幸夜が飛び降りた先では、既に何十人かの人間を葬り去ったのか軽く息の上がった美鈴が拳を構えていた。

 周囲には頭部を潰された、または頭から地面に埋まり、動かない人間が数十体は転がり、奥には美鈴の勢いに怯んだのか更に数十人が後退りをしていた。

 

 

 「悪い、遅れた。調子はどうだ?」

 

 

 美鈴は頬についた血を拭うと、闘気を放ったまま、にっこりと笑った。

 

 

 「近接は倒しましたが、やっぱり遠距離は苦手です。・・・後、奥の子が少し厄介で。この通りちょっとやられちゃいました」

 

 

 美鈴が数カ所の刺し傷が見える右腕を幸夜に見せると、幸夜は少し顔を顰め、そしてニヤリと笑った。

 

 

 「・・・交代だ、美鈴。いくら即再生するからって言ってもあれだからな」

 

 

 「良いんですか?」

 

 

 「コレは俺の客らしいし、どうせ遠距離しか残ってねえんだ。楽しくもない泥沼合戦も嫌だろ?あとは任せとけよ。それとも俺じゃ不足か?」

 

 

 幸夜の軽口に、美鈴は苦笑した。

 

 

 「まさか。有り余る援軍です、ありがとうございます。有り難く先に上がりますね。・・・それと、幸夜さん。あの女の子、何か特殊な能力を使うようですので、お気をつけて」

 

 

 美鈴が示す先には、明らかに目立った銀髪の少女がいた。

 

 

 「おうよ。・・・絶対あいつなんだよなあ」

 

 

 さて、と幸夜は呟くと、目の前に立つ数十人の男女に貴族式の礼をした。

 

 

 「挨拶が遅れ申し訳ございません。・・・ご機嫌よう、皆様方。ただ今より門番に変わりまして、ただの使用人の私がお相手致します。・・・で、何の入り用だ?」

 

 

 幸夜が目立った武器を持っていないと踏んだのか、拳銃を構えた男が幸夜に銃口を突きつけ、ニヤリと笑った。

 

 

 「お前もここがどこか知っていて仕えているなら、理由は決まっているだろう?」

 

 

 「まあそうだが。・・・後悔すんなよ」

 

 

 ガチャリ、と幸夜は灰のコートの両袖からライトマシンガンを取り出した。

 そして地面を蹴り、茂みに飛び込んだ。

 男は幸夜が銃を構える頃には拳銃を放っていたが、コートを掠めるに留まった。

 

 

 「まあまあってとこか。しかしほんとに世間一般的に拳銃が普及するんだな。恐ろしい世の中になったもんだ」

 

 

 幸夜は木を背にして弾丸を塞ぎながら、右人差し指を噛み、血を滲ませた。

 それをコートの内側にぶら下げていたガラス瓶に流し込み、血の入った瓶に栓をした。

 

 

 「そらよ!」

 

 

 木から飛び出し、瓶を男達の上に投げる。咄嗟に第二射を男達は放とうとするが、それより早く幸夜が瓶を左手のマシンガンで打ち抜いた。瓶は爆散し、男達の上には幸夜の血が飛び散った。

 そしてそれらは弾丸へと変形し、たっぷりと幸夜の血に含まれる水銀が変質した。

 男達の上空から放たれる水銀製の弾丸の嵐。なす術なく肉の塊と化し、奇跡的に掠めるだけで済んだとしても、毒が体を容赦なく壊す。

 

 

 「おのれっ!」

 

 

 男達の更に背後にいた者は、一斉に何かの術式を唱えて火炎弾や電撃弾を飛び出した幸夜に打ち出した。

 しかし幸夜は左手のマシンガンを投げ捨てると、一発の電撃弾を掴んだ。

 ジュウ、と幸夜の掌が焼ける音と焦げたような匂いがするが、すぐにそれはかき消された。

 

 

 「返品だ。持って帰ってくれ」

 

 

 幸夜により投げ返された電撃弾は打ち出された時よりも十倍程の大きさへと膨れ上がり、他の火炎弾や打ち出した者達を巻き込んで、地面に着弾した。

 

 

 「さて、と」

 

 

 投球フォームのまま固まった幸夜は、その硬直を狙っていたかのように眉間に放たれたナイフを焼け焦げた左手の甲で受けると、血のついたナイフを引き抜いた。

 

 

 「・・・やっぱりお前だよなあ」

 

 

 幸夜の目の前には、美鈴が指を指していたのと同じ、透き通るような銀髪に、ルビーのような赤い瞳の十歳ほどの少女がいた。

 身なりはお世辞にもまともとは言えず、ボロを着ているようだった。

 

 

 少女は無言のままに右腕を再生させる幸夜に走り寄ると、幸夜の視界から消えた。

 

 

 「あ?」

 

 

 直後全身への衝撃に幸夜は瞠目した。

 見れば体のあらゆる所にナイフが突き刺さり、また首筋はナイフで斬られていた。鮮血が噴き出し、幸夜は膝をつく。

 少女はいつの間にか幸夜の背後に移動し、警戒を続けるかのように幸夜にナイフを向けていた。

 

 

 「お、こりゃ、また・・・」

 

 

 震える右手で幸夜は致命傷を負った自分の首筋を抑え、左手を地面につく。

 すると吹き出していた血は止まり、地面に落ちた分も体内へと戻り始めた。

 また、ナイフも皮膚から押し出されるように抜け落ちて行き、抜けた所には傷は残っていなかった。

 

 

 「厄介な奴だな」

 

 

 「・・・!?」

 

 

 「悪いな。俺はそのサイズの刃物じゃ死なない」

 

 

 再度少女は姿を消した。

 しかし今度は幸夜は地面に手を置いていた。

 直後、甲高い金属音とともに、幸夜の周囲の地面にナイフが突き刺さった。

 よく見れば、幸夜の周囲一帯には黒い粉が飛び回り、地に落ちたナイフにも大量に付着していた。

 少女が構えていたナイフにも付着していたのか、幸夜の手に握られていた。

 

 

 「親父以外の奴の二回目は通用しないぜ。残念だったな」

 

 

 「何、を」

 

 

 「あ?聞きたいか?・・・残念ながら教えませーん。今この状態でバラす程舐めたことも出来ねえんでな」

 

 

 幸夜が浮遊したかと思うと、少女は組み伏せられていた。

 抵抗しようとするが、幸夜が組み伏せる重さ以外にもなんらかの重さがのしかかり、少女の指先一つ動かなかった。

 

 

 「はい、確保。動かねえとこを見ると、時間か空間干渉系だな、お前の能力」

 

 

 ぴくり、と少女が僅かに反応した気がして、幸夜は長い息を吐いた。

 

 

 「当たりっぽいな。・・・いやあ風魔並みの能力持ちかと思ってヒヤヒヤしたが、アレなら組み伏せるのも察知するだろうし・・・そもそもこの程度の拘束で動けねえ訳がねえからな」

 

 

 馬鹿な、と少し離れたところで声がする。

 幸夜が振り返ると、銃痕だらけの男が、苦しそうに呻いていた。

 

 

 「何故だ、そいつの能力を持ってしても・・・!?」

 

 

 「答えは単純。コイツ以外の能力が軒並み低いんだよ。全員この子レベルに上げてから来りゃよかったな。・・・お前だけアンデッドみたいだが・・・まあ俺の血には水銀がたっぷり混じってるから、コレで終わりだな」

 

 

 少女の近くに落ちていたナイフを拾い、おもむろに左肩にナイフを突き刺した。

 べっとりと血のついたナイフは男に突き刺さり、男は崩れるように絶命した。

 幸夜は暫し目を閉じると、少女の頭を掴み上げた。

 

 

 「んで。どーするよ、お前。お仲間全滅だが、まだやるか?」

 

 

 ギッ、と動けないままではあるものの、殺意の溢れる目を幸夜に向けた。

 幸夜は溜息を吐くと、少女を地面に置き、軽い手刀を少女の頭に落とした。

 

 

 「そんな顔するな」

 

 

 幸夜の叱責に、少女は困惑した。

 今まで叱られた事もなかった上に、怒られた理由が分からなかった。

 きょとんとした顔で幸夜を見上げると、幸夜は軽く笑った。

 

 

 「なんで怒られた。みたいな顔してるな。そりゃお前その年でそんな顔したら怒るに決まってんだろ。どんな世の中だ。・・・とりあえずウチに来い。さっきはどうするか聞いたが、そもそも選択肢がなかったんでな。・・・まあ痛いことはしねえよ。ちょっとばかし面倒なことはさせるがな」

 

 

 幸夜はそう言い、少女を立ち上がらせた。

 そして、困惑して立ちすくむ少女の手を取ると、館の中へと連れて行った。

 

 

 ____________________

 

 

 「ッー!!」

 

 

 「はい外れ。そろそろ話聞けって」

 

 

 それから数分後、気を取り直した少女の投擲したナイフが空を切り、幸夜の背後の壁へと突き刺さる。

 幸夜は呆れたかのようにナイフを壁から抜き、液体へと変質させた。

 

 

 「やれやれ。もう一回言うが、何もお前をぶっ殺そうって訳じゃないし、そのナイフを俺に向けないなら何もしねえ。まあこの部屋に居座るならコレを一通りやってもらう必要はあるけどさ」

 

 

 ひょい、と幸夜は未だ敵意を向ける少女の前に多数の本を投げた。

 それは子供が読むような絵本であり、少女からすれば見たことのないものだった。

 

 

 「・・・なに、これ」

 

 

 「本だ。館の主曰く、お前にはここにいてもらう事になりそうでな。・・・俺がその年に何読んだかは覚えてないが、とりあえず持ってきた。借り物だから破るなよ?俺が怒られるんだから」

 

 

 「・・・あなたは、だれ」

 

 

 ほんの少しだけ殺意の薄れた睨みを受け、幸夜は苦笑する。

 

 

 「幸夜。ここの館の召使いだ。そっちの仕事してるなら聞いたことあるだろ?」

 

 

 

 次回へ続く





 ありがとうございました。

 次回もお楽しみに。


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第百十四話 後輩

 
 相変わらずの感覚クソ開き投稿です。
 入試関係が一段楽着きましたので、なんとか復帰できました。

 ゆっくりご覧ください。


 「幸、夜・・・」

 

 

 少女は瞠目し、目の前で薄く笑う存在を改めて見上げる。

 

 

 「なんだ?見てくれが人間に近くて意外か?」

 

 

 幸夜。

 紅魔館を拠点に活動し、ふらりと下町に現れては人外を殲滅し、害なす人間を蹂躙する為、多額の懸賞金がかけられている。

 人外に少しでも関わったことのある人間ならば、知らない方がおかしい程の憎むべき人物。そんな言葉を数度ならず聞いたことがある。

 それが目の前にいる。

 彼女はやや絶望したように顔色を青くしながら、それでも睨み上げる。

 

 

 「なにを、するつもり」

 

 

 「いや、だから・・・お前を雇おうとしてるの。よく分からんが、旦那様がお前を連れて来いと言ってたんだよ。・・・んで、その為には真人間になってもらう必要があるから、とりあえず軽いものから勉強して欲しいんだな。ちなみに拒否権もあるぞ?何もせずに帰ってもいいし、俺と館の主人を殺して帰る事も選択肢にはあるが、悪いことは言わない。殺して帰るのはやめとけ」

 

 

 俺じゃない方で詰むぞ。と幸夜はどこか死んだ目で笑い、部屋のドアを開き、退出する。

 退出する間際に、また後で見に来るから、それまでに帰るなら帰れよ。と言い残すと、ゆっくりとドアを閉じた。

 取り残された少女はぽかんとしたように幸夜を見送り、暫し放心していた。

 

 

 ____________________

 

 

 「・・・んで、どうするんですかあの子供。同僚目の前で殺されてますし、はい喜んでって両手挙げて受け入れるとは思わないんですけど」

 

 

 再びオルゴイの寛ぐ部屋に来た幸夜は、跪く事もなく、コーヒーを啜りながらオルゴイに質問した。

 

 

 「確かに、喜んでとは行かないだろうが、あの子はこの提案を受け入れる。そう運命は決まっているのだよ」

 

 

 「お嬢様が聞いたら悶え苦しんで死にそうな台詞ですね。確定してるんです?」

 

 

 コーヒーの渋さか、それともオルゴイの台詞に顔を顰めたのか、渋い顔のまま質問した。

 オルゴイはそんな表情の幸夜を見て薄く笑うと、頷いた。

 

 

 「ああ。きっとあの子は受け入れてくれるだろう。もしそうなったら、お前に教育係を頼むつもりでもあるぞ」

 

 

 「・・・美鈴じゃダメなんです?」

 

 

 「美鈴もお前に勝るとも劣らない立派な使用人なのだが・・・遺憾せん戦闘になると、言葉が足りなくなってな」

 

 

 「ああ、擬音で説明する奴ですか」

 

 

 「・・・うむ。小悪魔もパチュリーの召使いという点で、教育係にさせるわけにも行かんからな。それに振り回されそうだろう?」

 

 

 「成る程ね、それで俺と。・・・ほんとにここ、辞めれます?」

 

 

 「その時はどうにかするし、私が使用人になればなんとかなる」

 

 

 「使用人いなくて自分が使用人になる館の主とか見たくないっすよ」

 

 

 なら、その為にも育成を頼むぞ。とオルゴイが笑うと、幸夜はぐ。と呟き、了承した。

 そして再度少女の部屋へ向かう間、苦笑した。

 

 

 「口先も回るよなあ、あのおっさん。・・・まあそもそも、帰ってるかもしれねえってのにな。入るぞー」

 

 

 幸夜が部屋に入る。

 そしてほんの少しだけ目を見開いた。

 

 

 「・・・残るんだな?」

 

 

 「残る」

 

 

 「そうか。それじゃあ「続き」あ?」

 

 

 「これの続き、どこ」

 

 

 ぐい、と少女が幸夜に本を押し付けるようにして渡す。

 幸夜はそれを受け取り、そして少女の頭を手で軽く押さえつける。

 

 

 「待て待て。先に挨拶だ。・・・俺は幸夜だ。よろしくな」

 

 

 「・・・よろしく」

 

 

 幸夜の突き出した手を、恐る恐る少女が掴む。

 幸夜ニヤリと笑うと、少女の手をしっかり掴み、軽く引いた。

 

 

 「んじゃ、この本の続き取りに行くか。その後はお前の服な」

 

 

 「服・・・?あるけど、どうして?」

 

 

 「館に残る以上それなりの服を着て貰わねえと困るのよ。本読んでる間に髪の毛整えたりもするからな。ボサボサで見てらんねえ」

 

 

 「・・・ん」

 

 

 「よし、じゃあちゃんと掴んでろよ」

 

 

 ____________________

 

 

 幸夜に言われたように手を繋ぎ、新しい本を取り、身だしなみを整えられた少女は、自身の髪を梳く幸夜に、やや言葉が途切れ途切れになりながら質問する。

 

 

 「貴方は私の事、気味悪がらない。何故?」

 

 

 「・・・髪と目のことか?」

 

 

 「そう」

 

 

 「・・・まあ確かに銀髪に赤目は珍しいわな。尚更人の子なら、気味悪がられるか。なんで俺が気味悪がらないかってのは、単にそう言うのもいるって思ってるだけだぞ、多少は珍しくは思うさ」

 

 

 「いるの?」

 

 

 「人じゃあないけどな。色素抜けたように白い髪に、同じく色のない目。そんな人もいれば、緑色をした髪の人もいる。・・・まあなんだ、大抵の人には変だと思われるかもしれんが、俺はそれだけじゃお前を否定しねえよ」

 

 

 終わりな。と幸夜は少女の髪の一部を三つ編みにし終えると、ぽんと背中を押した。

 少女は幸夜が目の前に置いていた鏡の前に立つと、不思議そうにくるりと回った。

 

 

 「・・・私?」

 

 

 「そ。まあ割と身なりも良くなったんじゃねえの?」

 

 

 「そう」

 

 

 明らかに質感の変わった自身の髪を触りながら、咲夜は幸夜の方を見た。

 

 

 「貴方を殺すべきだと思ってた」

 

 

 「そりゃ悪名高いしお前の敵だった奴だ、仕方ない」

 

 

 「けど、今は殺すべきか分からない。・・・それでもここにいていい?」

 

 

 「何度も言うがこっちはウェルカムだ。俺が責任持って面倒見るからな」

 

 

 「うん。・・・ありがとう?」

 

 

 「どういたしまして。・・・しばらくは俺と行動を共にするのだけはよろしくな」

 

 

 「わかった」

 

 

 ____________________

 

 

 「それで・・・その子が私の言ってた子、なのよね?」

 

 

 「そうなりますね。違いました?」

 

 

 「いいえ?私が視た時よりも小綺麗だと思ったのよ。貴方やっぱり妹とかいない?」

 

 

 「それよく言われますけど、いませんからね」

 

 

 大図書館にて、珍しくレミリアに呼ばれた幸夜は自身の隣に少女を置いて、テーブルを挟んで会話していた。

 付近には読書をしながら時折こちらを確認するパチュリーとその側に立つ小悪魔。近くのソファーでオルゴイの膝の上に座りながら本を読むフランドールがいる。

 

 

 「・・・それで、今幸夜の横にいるってことは、予想通り受け入れてくれたのよね?」

 

 

 「そうなるんじゃないですかね。大丈夫だよな?」

 

 

 「大丈夫。幸夜の言う通り殺さないし襲わない」

 

 

 「ほら、大丈夫でしょう?」

 

 

 「貴方いなかったら襲ってきてるじゃない」

 

 

 呆れたようにレミリアは嘆息し、しかし面白げに少女を見る。

 少女はやや警戒はしているものの、幸夜が横にいるせいか、殺意や敵意を向けてはいなかった。

 

 

 「それで、幸夜から見ればこの子はどうなの?」

 

 

 「・・・俺みたいな召使いにするなら五年は確実にかかりますけど、ただの迎撃用にするなら一ヶ月で済みますよ」

 

 

 「五年・・・思ったより早く済むのね」

 

 

 「人間からすりゃ中々だと思いますけどね」

 

 

 「それもそうね。で、やってくれるの?」

 

 

 「そこで本読み聞かせてる方からのご依頼でもありますからね。ちゃんとこなしますよ」

 

 

 「ありがとうね、幸夜」

 

 

 「従者として当然の事ではあるんですが、礼を言われるのは有り難いですね。いい新当主に恵まれました」

 

 

 「休みは増えないわよ」

 

 

 「前言撤回、鬼です」

 

 

 冗談だし私は吸血鬼よ。とレミリアは笑い、幸夜もつられて笑う。

 少女はそんな二人を不思議そうに眺めていた。

 やがてレミリアは席を立ち、少女の前に立つ。やや少女に緊張の表情が浮かび上がるが、レミリアはそれをほぐすように微笑んだ。

 

 

 「初めまして。私が幸夜の主人で、貴女の主人でもあるわ。これからしっかり働いてもらうから、頑張って頂戴ね」

 

 

 「・・・わかった」

 

 

 「ありがとう。・・・それじゃあ幸夜、後は任せるわよ」

 

 

 「御意」

 

 

 やけに大仰に幸夜は頭を下げ、細く、しかし優しい視線を少女へと向ける。

 しかし、それからしばらく彼はこの行動を軽く後悔することになる。

 

 

 次回へ続く

 




 ありがとうございました
 次回もお楽しみに


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第百十五話 理由付け

 
 今回はまだマシな速度で投稿できました。
 ゆっくりご覧ください


 「どこだクソ餓鬼!!」

 

 

 ガン、とバケツと雑巾を持ちながら、幸夜が図書室の戸を蹴り開けた。

 ぴっ。と小悪魔が飛び跳ね、幸夜から十メートル離れた所で銀髪の少女が隠れるように逃げ、パチュリーは煩そうに眉を潜めた。

 小悪魔以外を幸夜は確認できなかったのか、飛び跳ねて硬直した小悪魔に凄まじい剣幕で詰め寄った。

 

 

 「小悪魔、あの最近来た銀髪のガキ見なかったか」

 

 

 「あ、あっち!あっちに逃げました!」

 

 

 「ありがとさん。・・・捕まえて廊下掃除させてやる」

 

 

 待てやコラァ!と叫びながら少女を追いかける幸夜を見送り、へなへなと小悪魔は尻餅をついた。パチュリーは嘆息した。

 そして二分後、打って変わって上機嫌な幸夜に首根っこを掴まれて連行される少女を小悪魔は見る事になった。

 

 

 青筋を立てていた幸夜に捕獲され、バケツの中に立つモップを一瞥し、少女は不審そうに呟いた。

 

 

 「掃除は必要なの?」

 

 

 「必要。お前個人の部屋の掃除ではないからな。これは仕事だ」

 

 

 「そう」

 

 

 少女は頷き、大人しくモップで長い廊下を拭き始めた。

 幸夜は納得したように無言の少女を見下ろし、自身もモップをかけ始めた。

 ある程度掃除を終えた頃、少女は口を開いた。

 

 

 「ねえ」

 

 

 「あん?」

 

 

 「貴方は強い」

 

 

 「お前よりはな」

 

 

 「殺すつもりはないのは分かる、けど・・・それじゃあどうして、旦那様達を殺そうとしないの?」

 

 

 幸夜の手が止まり、ゆっくりと少女を見る。

 少女もまた手を止め、幸夜を見上げていた。

 

 

 「なんもされてないからだな」

 

 

 「・・・?」

 

 

 「・・・お前は、旦那様達に危害加えられたか?」

 

 

 少女は横に首を振った。

 

 

 「でも、吸血鬼は殺すべき。そう言われた」

 

 

 幸夜は嘆息し、まあ仕方ねえか。とモップを再度動かした。

 

 

 「んじゃ、今はなんで殺してねえんだ?」

 

 

 それは、と少し複雑そうに少女はいい淀み、呟いた。

 

 

 「幸夜に殺すなと言われたから。私も旦那様達は嫌いではないけど殺すべきなのかなと思う。・・・よく、わからない」

 

 

 「・・・そうか。そんじゃしばらくそのまま殺さないように。何故殺さないのか教えるには、まだちょいと勉強する必要があるだろうからな。ところで挨拶はちゃんとしてるか?」

 

 

 「してる。おはようございますと、こんにちはと、こんばんは」

 

 

 「えらいぞ。・・・よし、それじゃ掃除再開な。サボった分窓拭きもするからな」

 

 

 少し嫌そうに頷く少女を見て、幸夜は苦笑した。

 

 

 ____________________

 

 

 「幸夜、コーヒー」

 

 

 「ん、サンキュー」

 

 

 三年の歳月が過ぎた頃。少女は少し背が伸び、身嗜みもかつての時よりも更に綺麗なものになっていた。

 少女の置いたコーヒーを手に取り、幸夜は本を片手に一口飲んだ。

 

 

 「ん。美味い。上手くなったな」

 

 

 「ありがとう」

 

 

 「ああ。・・・お嬢様達とは最近どうだ?」

 

 

 「・・・言われた通り、幸夜の仕事と同じことをしてる。けど、敬語が難しい。おっしゃいます、と申し上げますが使い分けしにくい」

 

 

 「まあ、慣れだな。ただしいつかはちゃんと完璧に使えるようにな」

 

 

 「はい」

 

 

 「んじゃ、午後からは掃除か?」

 

 

 「ううん。休み」

 

 

 「そうか。・・・そういや最近、お嬢様から名前貰ったんだってな。俺が呼ぶ時はお前呼びだったもんな。どんな名前貰ったんだ?」

 

 

 少女は動きを止め、その時を想起するかのように天井を見上げ、つぶやくように答えた。

 

 

 「咲夜。十六夜咲夜(いざよいさくや)」

 

 

 「良い名前じゃねえか。日本名なんだな」

 

 

 「幸夜と同じ国の名前」

 

 

 「・・・日本生まれじゃねえんだけどな」

 

 

 「どこ?」

 

 

 「オランダ。母さんは日本生まれで、親父は中国生まれ」

 

 

 「そう・・・?」

 

 

 「よく分かってねえなさては」

 

 

 「わからない」

 

 

 「言い切るなよ」

 

 

 やれやれ、世辞の一つも覚えさせにゃならんな。と幸夜は首を振り、本を置いて軽く伸びをした。

 振り向く咲夜に外を指し示し、久しぶりにするか?と聞いた。

 咲夜は頷き、幸夜は行くか。と外へと歩き始めた。

 正門を通り抜けると、幸夜は立っていた美鈴に会釈をした。

 

 

 「よう、お疲れ」

 

 

 「お疲れ様、美鈴」

 

 

 「あれ、幸夜さんに咲夜さんじゃないですか。お疲れ様です。・・・お出かけですか?」

 

 

 「違う美鈴。幸夜と勝負」

 

 

 咲夜が食い気味にそう答えると、美鈴は微笑みながら幸夜を向いた。

 

 

 「またするんですか?」

 

 

 「まあな。息抜きになってんだからいいだろ」

 

 

 足首を回し、二度深呼吸をすると、幸夜は右人差し指を軽く切り、突き出して構えた。

 

 

 「そんじゃ、互いに決定打になる一撃を叩き込んだらな。いつでも来ていいぜ」

 

 

 「お願いします」

 

 

 とん、と咲夜が地面を蹴り、後ろに飛び退いた。

 すかさず感知できない間に数十のナイフが出現、幸夜に向かって飛来する。

 幸夜は右人差し指で円を描くと、零れた血が指を追うように線を引き、指から途切れると肥大化し、鎖に変化した。

 幸夜はその鎖を掴むと、数本は急所を逸らしたのを良しとして自身に突き刺さるのを見逃し、遠くにあるナイフを叩き落とした。

 その下から、咲夜は飛び出した。

 

 

 「おっと!?」

 

 

 咲夜の突き出したナイフは幸夜の右脇腹に突き刺さる。

 幸夜は咲夜の手を掴もうとしたが、背後に飛び退いた。

 

 

 「・・・っ!?」

 

 

 しかし、飛び退いた後から動かなかった。否、動けなかった。

 咲夜の手にはいつかのように黒い煙が巻き付き、凄まじい力で下に引っ張られていた。

 

 

 「また・・・!?」

 

 

 「ま、お前の能力じゃ防御不可だからな。はいこれで負け。刺したつもりな。敗因は筋力不足」

 

 

 ペシ、と自身の肩から引き抜いたナイフを拭い、腹の部分で咲夜の頭を叩いた。

 咲夜は残念そうに嘆息し、ナイフから手を離した。

 ナイフは黒い煙に包まれ、地面に吸われるように落下してカランと音を立てた。

 

 

 「お疲れ様です。・・・そういえば幸夜さんの使ってた黒い煙ってなんなんです?」

 

 

 「ああ、これか?」

 

 

 ゾゾ、と地面から蛇が鎌首をもたげるように、黒い煙が立ち昇り、咲夜と労いの言葉をかけてきた美鈴に近づいた。

 恐る恐ると言ったように咲夜がそれを触ると、ざらりとした感触だった。

 

 

 「砂?」

 

 

 「それじゃあ私も・・・ん?これ、砂鉄ですか?」

 

 

 「正解。足から触れた地面を起点に砂鉄を吸い上げて、武器として動かしてる。・・・多少は手から離れても扱えるようになったから割と重宝してるんだよな。俺は自傷技が多いからな。貧血にならないこれは重宝するんだよ」

 

 

 「はあー・・・砂鉄なら大半の地面に埋まってますからね」

 

 

 「ま、そう言う事。本来活かすべき方向じゃねえんだけどな。実際人間の子供くらいしか押さえられねえし」

 

 

 使う気もさらさらねえけど。と幸夜は苦笑し、咲夜の背を押して屋形の中へと歩き始めた。

 

 

 「んじゃ、俺掃除してくるわ。おつかれ」

 

 

 ___________________

 

 

 それから幸夜と咲夜は館の中を巡り、外を見れば既に日は完全に傾いていた。

 

 

 「掃除終了。・・・なんだが。いつまで俺の事見てるんだ?」

 

 

 「・・・別に、殺そうとかじゃない」

 

 

 「たりめーだろアホ。・・・なんだ、この手が気になるのか?」

 

 

 「うん。どうなってるの?私と同じような、変わった力?」

 

 

 幸夜が自身の掌を咲夜に広げて見せると、咲夜は頷いた。

 幸夜は納得したように頷き、自身の手の説明を始めた。

 

 

 「そうだな。俺は見せたように手で触れたものを武器にできる。関連性さえあればほぼなんでも、な。まあメチャクチャな能力だな。実際強い」

 

 

 ただし、と幸夜はおもむろに木製のモップを掴み、案山子に変えた。

 

 

 「まあこれを人間だと思ってくれ。・・・んで、こう」

 

 

 案山子の頭を幸夜が掴む。

 すると案山子の形を作っていた木が爆発したかのようにささくれ立ち、とても人型だったとは思えないような無残な形になっていた。

 

 

 「すげえだろ。人間も化け物も触れたら即死だ。・・・そんなわけで、お前が考えてるようにやろうと思えば旦那様だってお嬢様だって殺せる。語る間も無くお前も殺せた」

 

 

 けどなあ、とどこか幸夜は気が抜けたように笑い、血の気が僅かに引いていた咲夜の頭を撫でた。

 

 

 「せっかく話が合う奴殺すのも寂しいだろ?・・・過ぎたる力は自らを滅ぼす。人を愛せないものは自らを愛せず、人に愛されることはない。・・・なんか遠回しだな。あー、要は自分がどんだけ強くても、無闇矢鱈に殺すのはやめようって事だな」

 

 

 「・・・初めて、そんな事言われた」

 

 

 「だろうな。だが俺に負けてここにいる間はそれを守るようにな。自分が楽しいからって理由で他者を傷つけたりするとバチが当たるぞ」

 

 

 「バチ?」

 

 

 「ああ、本物の神様が手下を連れてやって来る」

 

 

 「神様・・・」

 

 

 「咲夜の前の上司達の知る神様じゃあないけどな。その神様達と同じように俺達を視てる。・・・なんてな。この後も暇だろ?掃除終わってるから飯行くぞ」

 

 

 「うん」

 

 

 「後勘違いしてるかもしれんが、俺より旦那様のが強いぞ」

 

 

 「・・・本当?」

 

 

 「疑うのは結構だが、戦わせようとすんなよ。死ぬからな、俺が」

 

 

 「お嬢様と妹様・・・後、パチュリー様は?」

 

 

 「だから死ぬって。万能だと思うなよ」

 

 

 「・・・嘘っぽい」

 

 

 んな訳あるかよ、と幸夜は笑い、身を翻して廊下の奥へと歩き去っていく。

 咲夜は幸夜の背中を眺めながら、それを追いかけた。

 

 

 

 次回へ続く

 

 





 ありがとうございました。

 次回もお楽しみに。


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第百十六話 いざ我らも

 ゆっくりご覧ください。
 


 「シッ!」

 

 

 銀のナイフの壁が幸夜へと直進する。

 幸夜は瘴気の漂うナイフを内ポケットから取り出し、軽く縦に振る。

 するとナイフは長く伸びると、蛇腹剣のようにうねり始め、独特の軌跡を描いてナイフを全て薙ぎ払った。

 薙ぎ払い終えた蛇腹剣は、上へと刃を飛ばし、そして肥大化した。

 より重く、より大きくなった蛇腹剣は、目の前のメイド服に身を包んだ十五は超えたであろう少女、咲夜へと叩きつけられた。

 斬ると言うよりは叩き潰すように振られたそれは、しかし地面を荒く削るのみに留まった。

 

 

 「流石ですね、先輩」

 

 

 「お前も相変わらず策なしだと相手しにくいな」

 

 

 蛇腹剣はいつの間にか直剣へと変化し、幸夜の肩に乗せられている。

 そして直剣を上段に構えると、ナイフを投擲し始める咲夜へ飛び込み、直剣を振り下ろした。

 咲夜は投擲する予定だったナイフで受けようとする。

 しかし幸夜は直剣を再度変質させて質量の塊、鉄槌に変えた。

 

 

 「しまっ・・・」

 

 

 直剣とは比較にならない質量が、咲夜の上へと降りかかる。

 咲夜は悔しそうに口を歪め、能力を行使、回避した。

 能力解除と共に、超巨大な質量の塊は地面へと叩き込まれた。

 

 

 「後もうちょいだったんだがな。つってもお前も能力使わされたのが悔しいって感じだな」

 

 

 周辺一帯の地面が吹き飛び、大きく大地が歪む。

 そんな中鉄槌を双刀に切り替え、両手でもて遊ぶ幸夜。

 咲夜は滴り落ちそうな冷や汗を拭うと、再度鋭く光るナイフを構えた。

 

 

 直後放たれるナイフの嵐。

 幸夜はそれに動じる事なく、双刀の刃を自分に向け、深々と腹に突き刺した。

 当然背中まで貫通した傷からは血が吹き出し、双刀を紅い血で染める。

 幸夜は表情を一つも変える事なく双刀を二本同時に引き抜き、嵐へ向けて大きくバツ印を描くように振り回した。

 

 

 双刀に付いた血が飛び散り、周囲一帯に霧のように広がり、また双刀自身も刃が伸びたように血で軌跡を描く。

 それらは赤く光ると瞬く間に爆発し、ナイフの嵐を吹き飛ばした。

 そして、霧だったものはは短刀へ、まだ少し残る軌跡は刃へ。

 瞬時にして嵐を上回る数の飛び道具を生み出し、それら全てが咲夜へ殺到し、爆風で視界を奪われた咲夜には、完全な不意打ちとなった。

 

 

 「・・・どうして先輩は勝ったのに、私より瀕死なんです?」

 

 

 結果、短刀と刃は咲夜の目の前で元の血へと戻り、地面にボトボトと落ちた。

 咲夜はそんな幸夜の気遣いに嘆息しつつ、腕を組みながらも明らかに人間なら致死量の血を流し、顔色の悪い本人にさらに嘆息した。

 

 

 「手持ちのナイフは猛毒みたいなもんだし、これはそう言う技なんだよ。こうでもしないとまた能力で逃げられるだろうが。砂鉄も集まる前に散らされるし、そもそも大したこと出来ないし、事前に罠仕掛けてないとこれしかねえのよ。・・・ああいてえ、ちょっと向こうに置いてる鞄から予備の血取ってくれるか?」

 

 

 「・・・さっきの金槌で吹き飛びましたよ?」

 

 

 「おいマジか。・・・仕方ねえな」

 

 

 ゆっくりと幸夜は肩を回し、二、三度喀血し、気を取り直したかのように歩き始めた。

 

 

 「まあしばらくは歩けるだろ。止血はしてるから、倒れたら後頼むな」

 

 

 「別に良いですけど・・・」

 

 

 「ありがとよ。・・・しかしこんなにちっちゃかったのに大きくなったよなあ」

 

 

 「そりゃあ、私だって十年ちょっとあれば大きくなりますよ」

 

 

 咲夜は幸夜の肩あたりまで伸びた身長を、ふふん、と誇らしげに言い、胸を張る。

 幸夜は以前までは腰あたりまでしかなかった少女に笑うと、軽く頭を撫でた。

 

 

 「まあ俺からすりゃ子供なんだがな」

 

 

 「・・・なんですか、倒れても運びませんよ?」

 

 

 「そう言うとこが子供だって言ってんのさ」

 

 

 ほんの少しむくれる咲夜に幸夜はより一層苦笑し、ふらふらと幸夜は館の中へと入っていく。

 道中すれ違った美鈴に呆れた顔をされ、半泣きの小悪魔に叱られる姿は、咲夜にとって見慣れた光景となっていた。

 

 

 ____________________

 

 

 「・・・はぁー、なんとかマシになったな」

 

 

 クローゼットに衣服と同じように提げられていた輸血パックで輸血を終え、顔色が戻り始めた幸夜はゆっくりと立ち上がり、体に異常がないか確認していた。

 腹部の傷は既に塞がり、念の為と包帯が巻かれていた。

 そんな自身が死に瀕したと思ってすらいない幸夜に、咲夜は詰め寄った。

 

 

 「先輩、お願いですから手合わせ中に死にかけないで貰えますか?」

 

 

 「無理。だってこうでもしねえとお前に勝てねえもん。それに、あそこから死ぬまでは結構遠いぞ」

 

 

 「そう評価して頂けるのは嬉しいんですが、それで手合わせしてもらっても素直に喜べないんですよ」

 

 

 先輩が死ぬの嫌ですし・・・と顔を逸らして呟いた咲夜に、幸夜は笑った。

 

 

 「お前残して死なねえよ、俺は」

 

 

 「そう、ですか・・・」

 

 

 「他にも大事な約束があるしな?」

 

 

 「・・・そこで私以外の女の人の話をするのって割と酷いと思うんですよ」

 

 

 ふいと顔を背け、少しむくれた表情をする咲夜に、幸夜はやれやれと言わんばかりに首を横に振った。

 

 

 「・・・なーんでお前はそう一見クールに見えるのに子供っぽいかなあ」

 

 

 「ふふ、冗談ですよ」

 

 

 「・・・ああヤダヤダこんな後輩。小悪魔みたいな素直な子が良かったなあって痛っ!?おい馬鹿脛はやめろ脛は!やっぱ子供みてえな癇癪起こしてんじゃねえか!」

 

 

 「そろそろお嬢様達を起こす必要があるので失礼します」

 

 

 「子供みたいな言い訳やめろ。もう旦那様と起きてたろうが」

 

 

 不機嫌そうに幸夜の脛を蹴り、かかとで幸夜の爪先を踏みつけると、咲夜は姿を消した。

 幸夜はそんな後輩に溜息を吐くと、何処か嬉しそうにニヤリと笑った。

 

 

 「・・・ま、子供らしくなってくれて嬉しいんだけどな」

 

 

 その言葉は誰にも聞かれる事なく、夕暮れの空に吸い込まれていった。

 

 

 ____________________

 

 

 

 「・・・って感じで、策なしで俺が確実に自傷しないと勝てなくなってるんで、ほぼ一級の実力なんじゃないです?メイドとしても文句なく、紅茶はともかくコーヒーは俺より上手く淹れるようになってますしね」

 

 

 「ふむ、そこまで見事に育つとは。・・・流石と言うべきかな?」

 

 

 「いや、アイツ自身が稀に見る素直さだったってのもあると思いますよ。・・・今はちょっと俺に対して子供っぽくなるのがアレですけど、元々表情一つそんなに変えない上に、意図なく旦那様方殺そうとしてた掃除から逃げるクソガキだった頃思うと、いい傾向なんじゃないですかね」

 

 

 月が煌々と輝き、咲夜も仮眠を取っている頃。相変わらずオルゴイに呼ばれ、幸夜は召使いにあるまじき言動で咲夜に対しての評価を述べていた。

 

 

 「なら、そろそろお前もお役御免。と言った辺りかな?」

 

 

 「事実上のクビっすね、それ。・・・ま、そろそろ俺がいなくなっても大丈夫だと思いますよ」

 

 

 「少し、寂しくなるな」

 

 

 「急にしんみりすんのやめてもらえます?と言うか知ってるんですよ紫さんに幻想郷に勧誘されてるからそろそろ向こうに行く話。俺もそろそろ幻想郷に行こうかなって言ってんのに同じとこ行ってりゃ寂しいもクソもないでしょう。俺が泊まって働くか時々面見せに来るかの差でしょうに」

 

 

 「なんだ、知っているのか」

 

 

 「知ってますよそりゃあ。週に何回あのクソ甘カップルが二、三時間俺の部屋にいると思ってるんです。居心地いいからって週五ですよ週五。土日以外休ませる気ねえんですよあの人」

 

 

 「クク。難儀だな」

 

 

 「ホントですよ。・・・まあその分世話になってるんで、止めろとは言わないんですけどね」

 

 

 「ふむ・・・」

 

 

 幸夜。とオルゴイが名を呼ぶ。

 しかしそれは先程までの会話とは違い、柔らかさが消え、何処か命令を下す王のような威厳を持った呼び方だった。

 幸夜もそれに気がついたのか、身なりと姿勢を整え、館の当主の前に膝をついた。

 

 

 「なんでしょう、ご主人」

 

 

 「少し、幻想郷の賢者殿に頼まれたシナリオを変えさせて貰おうと思ってな」

 

 

 「と言いますと?」

 

 

 「我々が幻想郷の一員となるその時に、お前を紅魔館の一員として持ったまま挨拶へ向かいたい。どうかな?」

 

 

 「それはつまり、俺を紅魔館の保有する戦闘員として使わせてくれって事ですね?何かしら起こすから幻想郷に牙を向けと言う事ですね?」

 

 

 「それ以上は私からは言えんな。・・・まあ、賢者殿の旦那には一泡吹いてもらいたいのだよ」

 

 

 幸夜は呆れたように首を横に振り、獰猛な笑みを浮かべ、瞳孔の開いた目をギラつかせた。

 

 

 「ええ、ええ。いいでしょうともよ。ならば条件は言わずもがなでございますね?」

 

 

 「ああ。幸夜、その時は貴様に紅魔館の全権を預ける。そして勝て」

 

 

 「御意」

 

 

 「・・・と、どうだろうか。まだ威厳は落ちてそうにないか?」

 

 

 「現役じゃないですかね。いやあ俺も一回言いたかったんですよね、御意って」

 

 

 明るい笑い声が、屋形の一室から響く。

 彼等が幻想郷へ現れるのも、そう遠い話ではない。

 

 

 次回へ続く

 




 ありがとうございました。
 次回もお楽しみに


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第百十七話 幻想郷


 ほぼ二月ほど空きました、申し訳ありません。
 ギリギリと言えないレベルで年末に滑り込みました。
 お時間があればゆっくりご覧ください。
 


 

 幻想郷。

 八雲紫の下、人間と妖怪が共存を可能とする、理想郷に近い場所として作り上げられたこの場所。過去には理想郷と呼ばれていた事もあった。名が変わったのはとある理由のため。

 人間からすれば長く、妖怪からすればまだ短いような年月が、幻想郷というものが誕生してから過ぎることとなった。

 そこに中心部分があるとすれば、中心から少し離れた小さな丘の上。

 ひっそりと建つ神社の境内を、一人の少女が掃除していた。

 

 

 「ふぅ・・・」

 

 

 彼女の名前は博麗霊夢。

 幻想郷に構える、博麗神社と呼ばれる小さな神社の巫女。

 彼女は幻想郷にて、人間と妖怪の調和を図る存在として存在し、その務めを果たしている。

 そして現在、幻想郷内とはいえまだ成人していない彼女には保護者のような立場として八雲紫が様子見に来ることがしばしばあるのだが、

 

 

 「お疲れ様、霊夢」

 

 

 「また様子見に来たぞ、元気か?」

 

 

 その八雲紫の隣に、ほぼ毎回龍神がいる。

 最初こそ彼女も龍神の自己紹介に目と耳を疑ったが、ある程度慣れてしまえば、ただの気の優しい年上の男の人でしかなかった。

 ちなみにその事を本人に言うと、非常に機嫌を良くしたらしい。

 

 

 「また来たのね。まあ適当に座ってて」

 

 

 「そうさせてもらうわね」

 

 

 「毎回悪いな。・・・ここまで持ってくるのも重いだろうし、土産持ってきたんだが、裏の倉庫に放り込んで大丈夫か?」

 

 

 「いいわよ別に。そっちも親切心で様子見に来てくれてるんだし、龍一さんは紫と違って気の利いた事してくれるしね。良かったら入れといてくれる?」

 

 

 「・・・紫と相談して持ってくるもん決めてるから、気を利かせてる点では俺と変わらんと思うがな。・・・短時間で腐る物は持ってきてねえから慌てて消費しなくて良いぞ」

 

 

 「はーい。と言うか、相変わらず龍一さん、紫に甘いわよね」

 

 

 「まあ惚れてるしなあ。・・・紫ー!荷物これで全部だよな!?」

 

 

 「そうよー!?さっきから何話してるのー!?」

 

 

 「秘密ー!!」

 

 

 「ずるーい!」

 

 

 「ガラにもねえ事言ってんじゃねえよバーカ!座って待ってろ!」

 

 

 「はーい!」

 

 

 ほんの少しだけ口角を上げる龍一に、霊夢は呆れたように目を細めた。

 

 

 「・・・なんだよ、よくもまあそんな恥ずかしいやり取り出来るなってか?」

 

 

 「もう慣れたわよ。なんでこんな奴らが幻想郷作って、神様やってるか疑問に思っただけよ」

 

 

 「そりゃ俺らが一番疑問に思ってる事だな。なんで俺が龍神様なんだろうなっと」

 

 

 博麗神社の縁側、紫が座っていた横に龍一が座り、龍一の反対側に霊夢が座る。

 そして紫と霊夢は同時に視線を龍一に向けた。

 

 

 「なんだ、茶入れろってか?」

 

 

 龍一は面白そうに二人を眺めると、ケタケタと笑いながら立ち上がった。

 

 

 「はいはいかしこまりましたよーっと。龍神に茶入れさせるとはおっそろしい神社だな」

 

 

 「龍一さんが入れる方が美味しいからしょうがないわよ」

 

 

 「私はお客だものね」

 

 

 「その理論でいくと俺も客なんだがな。・・・ほら、火傷するなよ」

 

 

 「ありがと」

 

 

 「ありがとね、龍一」

 

 

 はいはい。と笑ったまま龍一は紫の横に再度座り、長い息を吐いた。

 それを見た霊夢は、ニヤリと笑った。

 

 

 「また出た。龍一さんのやけに長いため息」

 

 

 「あー?」

 

 

 「それもよ。そのやけにくたびれたオッサンみたいなの、なんとかならないの?」

 

 

 龍一はきょとんと首を傾げるが、やがて苦笑いをしながら頭を掻いた。

 

 

 「実際もうオッサンだからなあ。それにこう、ここに足をつけて百年ちょい経つが、やっぱこう平和だと気が楽だなあって思ってな」

 

 

 「毎回そんな事言うけど、逆に龍一さんの今まではどれだけ平和じゃなかったのよ」

 

 

 「・・・責任と不安と身分に押しつぶされた人生」

 

 

 「ホントに神様なの?」

 

 

 名義上はな?とカラカラと笑う龍一に、不審そうに霊夢は目を細めた。

 そしてそんな龍一をどこか嬉しそうに眺めながら、紫は茶を啜った。

 

 

 ふと、龍一は近づいてくる三人分の足音に気がついた。

 龍一はゆらりと立ち上がり、霊夢はそんな龍一を不思議そうに見上げた。

 龍一は先程の表情よりは少し硬くなり、しかし何処か歓喜に溢れた表情をしていた。

 紫はそんな龍一に嘆息した。

 

 

 「霊夢が掃除してたのよ。荒らさないでよ?」

 

 

 「向こうも多分理解してるさ。・・・まともにやりあうのは十五年ぶりか。相変わらず老けねえなあ」

 

 

 石畳の上に立ち、龍一はいつ取り出したのか、腰に打刀を提げている。

 そしてそれに手をかけ、構えた。

 

 

 「龍一さん、何して」

 

 

 次に霊夢の視界に入ったのは、龍一にシンプルな作りの大太刀を振り下ろし、やや長めの打刀に受け止められた男。

 その男はさも突然現れたかのようにしか見えず、今になってようやく打ち合った音が鳴り響いているのに気がついた。

 男は龍一に笑うと、大太刀を背に仕舞いながら背後に飛び退いた。

 龍一も刀を鞘に仕舞うと、はあ。と息を吐いた。

 

 

 「・・・腕は落ちていないようだな、龍一」

 

 

 「そっちこそな、風魔。・・・んで、これで終わりか?」

 

 

 「続行だな」

 

 

 「だろうな」

 

 

 カラン、と互いの得物を投げ捨て、龍一は木刀を一本ずつ頭上に落とす。

 二人はそれを手にすると、再度石畳を蹴り、木刀のぶつかり合う甲高い音が鳴り響いた。

 予測の難しい連撃を龍一が叩き込み、風魔はそれらを確実に受け流し、弾き返す。

 風魔が間隙を突くように度々鋭い一撃を放つが、龍一はさも予測していたかのように避け、風魔もそれを見越して更に鋭い突きを放つ。

 

 

 「貴様、未来視は使わんのではないのか?」

 

 

 「視えるもんは仕方ねえよなあ?そっちこそ何手先まで予測してやってんだ?」

 

 

 「読めるものは仕方ないだろう」

 

 

 「互いに難儀だなあ!」

 

 

 打ち合いは更に加速し、紫からしてもそろそろ目視出来ない速度へと達していく。

 そんな中、残りの二人組は霊夢の隣に一人座り、紫の横に一人立った。

 

 

 「よお霊夢」

 

 

 「あら、珍しく歩いてきたのね」

 

 

 「途中で侵二さんとそこで龍一さんと打ち合ってる人に会ったからな。道も知らないのに先に飛んで置いてくってのもアレだろ?」

 

 

 霊夢の隣に座ったのは霧雨魔理沙、魔法使い。

 彼女は霊夢の友人の一人であり、度々と言うよりはほぼ毎日、彼女の所へ遊びに来ていた。

 そんな魔理沙に湯呑みが出され、霊夢と魔理沙は顔を上げる。

 

 

 「お、ありがとな、侵二さん」

 

 

 「いえ、主上が適当に残していた急須がありましたから。・・・霊夢も元気そうですね、何よりです」

 

 

 「そう言う侵二さんもね。今日は何しに来たの?」

 

 

 侵二と呼ばれた男は困ったように笑うと、木刀で斬らず刃風で斬る男を指差した。

 

 

 「久しぶりにあの男・・・風魔ですね。風魔が主上に挨拶に行くとの事で、道案内として来てたんですよ。まあ薄々分かってたんですが、目視して早々アレですよアレ」

 

 

 ついに木刀が力尽きたのかへし折れ、二人は再び飛び退く。

 そして龍一が再度木刀を出し、再開した。

 

 

 「龍一も最近動いてなかったから、暇だったのかしら」

 

 

 「どうでしょうね」

 

 

 それきり座ろうとする侵二と、茶を入れ直そうとする紫に、堪えきれなかったのか魔理沙が口を開いた。

 

 

 「いやいやいや!ちょっ、止めないのか?」

 

 

 「無理よ。挟まれたら私でも死ぬわよ」

 

 

 「まあ、そうなるのね。侵二さんも論外だし・・・」

 

 「そりゃそうだが、だからってアレ放置するのも不味くないか?弾幕勝負以外であんなスピード感溢れる勝負見た事ないぜ?」

 

 

 「止めて来ましょうか?」

 

 

 ぴたり、と霊夢の動きが止まり、信じられないような表情で侵二の方を向いた。

 それと同時に魔理沙もやや引き気味に侵二を見た。

 侵二はさも不思議そうに首を捻ると、やがて得心がいったように手を打ち鳴らした。

 

 

 「・・・もしや、二人とも私の事を人間だと思ってました?」

 

 

 「そうに決まってるだろ!?」

 

 

 「確かに藍の彼氏だったり、龍一さんとやけに仲良いのは知ってるけど、アレと一緒の部類なの?」

 

 

 「アレって言い方も言い方よねえ」

 

 

 「なるほど、それで・・・とりあえず止めて来ますね」

 

 

 呆れたように紫が笑い、侵二は微笑んだまま龍一の元へ向かう。

 霊夢達の制止する間も無く、侵二は手を伸ばせば龍一に触れ合う距離まで近づいた。

 そして両手が消えたかと思うと、侵二は二本の木刀を掴み上げていた。

 

 

 「ストップです、主上、風魔」

 

 

 「む」

 

 

 「あ、悪い。熱中してたわ」

 

 

 「それは結構なんですが、会って早々始めると言うのもキリがありませんし、また都合を合わせたらどうです?」

 

 

 「そうするとして、お前の事だから仕事が埋まってるだろ」

 

 

 「馬鹿言え、理想郷に呼ばれて尚仕事に潰されてたまるか。ここが私の理想郷だ。・・・理想郷に来る前に大半を終わらせて来た

 

 

 「おい今最後なんて言った」

 

 

 龍一の言葉を咳払いと共に聞き流した風魔は、霊夢と魔理沙の前に立ち、刀傷が薄く浮かぶ顔で見下ろした。

 

 

 「おそらく侵二から名前程度は聞いただろうが・・・名乗らせて貰う。風魔だ。以後宜しくだな、博麗に霧雨」

 

 

 ニイ、と威圧を放つ姿に反し、柔らかく笑う風魔に、霊夢と魔理沙は頷くしかなかった。

 

 

 次回へ続く





 今年もありがとうございました。
 また良ければ来年もよろしくお願い致します。


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第百十八話 羽休め

 新年最初の話となります。
 今年も良ければ拙作を宜しくお願いします。


 「なあ、龍一さん」

 

 

 「俺か?」

 

 

 魔理沙が紫と談笑している俺に声をかける。

 俺が魔理沙の方を向くと、魔理沙は興味ありげに風魔の方に目を向け、俺に質問する。

 

 

 「風魔さんと知り合いなんだろ?何年ぶりとか言ってたし。長い知り合いなのか?」

 

 

 「風魔、ねえ。直接聞けば?」

 

 

 「いや、さっきの見ると直接はな・・・」

 

 

 魔理沙はほんの少しだけ恐怖するように目を逸らす。

 風魔を見やると、ややしょぼくれたように眉を下げた。知らんがな。

 

 

 「そんな悪い奴じゃねえんだけどなあ。・・・ああ、風魔とは侵二と同じ時、つまり千年以上前からの知り合いだな。滅多に会わないのはこいつが天魔に就任してるせいで多忙だからだな」

 

 

 「天魔ってのは聞かなかったことにしとくぜ。けど、昔聞いた話だと侵二さんはこの辺の生まれじゃないんだろ?けど風魔さんは見た限り侍とかの格好に近い気がするんだが、どうなってんだ?」

 

 

 「ああ、侵二含めてさっき言った奴ら、だから壊夢と幻夜もだな。は日本生まれじゃねえのは確かだぞ」

 

 

 「それじゃあ風魔さんもそうなるんじゃないの?」

 

 

 「霊夢も聞いてたのか。・・・確かに霊夢の言う通りなんだが、俺と風魔ともう二人、まあ一人は死んでるはずだが・・・はこの人生が一回目じゃないんだよな」

 

 

 「・・・うん?」

 

 

 「時折あることなんだが。前世の記憶ってのがあるんだよ、俺らは。俺は確実的な要因があって、今回で二回目なんだが、風魔に至っては、あー・・・何回だった?」

 

 

 「千から先は忘れた。・・・ただ、最初と一番記憶が鮮明な人生が日本なのでな。龍一と同じ出身となる」

 

 

 「って訳だ。だから何かと話が合ってな」

 

 

 「ちょっ、ちょっと待って!?じゃあ風魔さんはその前世の記憶全部覚えてるってこと!?」

 

 

 「ああ。流石に何回目の人生の何年何日目の食事で最初に何に手をつけたかまでは覚えていないが、大体はな」

 

 

 「それ、記憶は大丈夫なの・・・!?」

 

 

 霊夢の言う事はもっともだ。

 二度目三度目はまだマシかもしれないが、徐々に百年二百年千年という膨大な記憶が生まれた瞬間に捻じ込まれるのだ。器によっては精神が即死する。

 だが風魔は問題なさげに一笑する。

 

 

 「何、生まれてしばらくしたら自然に歩けていたようなものだ。記憶の形をして残ってはいない。必要時に勝手に浮かぶ。それに、目的が有れば苦ではなかったしな」

 

 

 「目的?」

 

 

 「ああ。・・・現時点では私は天魔の地位も得ているのだが、しっかり残った記憶だけでいうと、生まれ変わりを繰り返して二百五十回目。それ以降はある世界のある時間軸の天魔を殺す為だけに生き始めてな。ついに狙い通り同じ時間軸で天魔に再び会い、殺した。つまり目的を達した。と言うわけだ」

 

 

 「・・・そこまでして、何がしたかったんだ?」

 

 

 「惚れた相手を獲りに行った」

 

 

 にしては天魔が人違いかのように弱かったせいで、無駄に強くなりすぎたがな。と自嘲気味に風魔は笑った。

 

 

 「・・・なんか、思ってたより熱い人なんだな。もっと冷たそうに見えたぜ」

 

 

 「そうか。見かけが冷たそうとはよく言われる」

 

 

 「いや、見かけだけってのは分かったぜ。・・・その、それで、今その人はどうなったんだ?会えたのか?」

 

 

 「ああ。奇縁もあったものでな。私が天魔殺害を決めた時と、中身も同じだった。さっきの話で言う、前世の記憶持ち、三人目だったわけだ。今の妻だ」

 

 

 何処かほっとしたような表情の魔理沙と霊夢に、風魔と俺は小さく笑いそうになる。

 霊夢は風魔に質問を続けた。

 

 

 「それで・・・強くなりすぎたって、どう言う事?」

 

 

 「・・・速くなりすぎた、と言えばそれらしいか」

 

 

 「速い?」

 

 

 「見ての通り私は剣士だ。立ち回りの軸を居合いにしたが故に、抜刀が速ければ速いほど良いのだが、いかんせん速くなりすぎてな」

 

 

 この通り。と風魔が言い終える頃には、霊夢達には風魔は十歩ほど先に立ち、そして既に抜刀しているように見えた。

 

 

 「見ての通りだ。・・・まあ、同格辺りなら、ただの子供騙しでしかないんだがな。剣術も適当に振り回しているだけだ。流派もクソもない」

 

 

 瞬く間に風魔は座り直し、湯呑みの茶を少し啜る。

 霊夢と魔理沙は湯呑みを持っていれば、間違いなく取り落とすほど放心していた。

 

 

 「後は・・・先読みか」

 

 

 「え、ああ。・・・先読み?」

 

 

 「ああ。ただ先が見える。ただ未来視と違うのは・・・例えば未来視なら明確にどこで何が起きるかを見る事が出来るが、先読みはまあ、相手の手がなんとなしに読める。漠然と何をしてくるかが分かるから先手を打てる。と言ったものだろうか。ほとんど年寄りの勘だな」

 

 

 「・・・先読みして隙を晒す場所をなんとなしに読んで、そこに合わせるように見えない速度の一撃を当てるってことか?」

 

 

 「基本そうなる。一々抜刀するのも面倒なので適当にぶん回すこともあるが」

 

 

 「いやいやいや!誰が勝てるんだよそんな奴!?」

 

 

 「まあそう思うよなあ」

 

 

 呆れたように風魔に叫ぶ魔理沙。

 そんな魔理沙に苦笑していると、霊夢が呟いた。

 

 

 「逆に単純な話、隙を消せば勝てるってこと?」

 

 

 「そうだな博麗。理論的にはそうなる」

 

 

 「確かにそれは私も軽く考えたけど、それって出来るもんなのか?」

 

 

 「まあ無理よね。瞬き一つが隙になるし、一手間違えたら強烈な一撃が飛んでくるんでしょ?まだ弾幕ごっこなら弾幕の速度分どうなるかは分からないけど。それにいつまでその集中を保てるかって話にもなるわよね。風魔さんから仕掛けて来た場合には話は変わってくるし、無理なんじゃない?」

 

 

 「霊夢の集中力を持ってしても厳しいってとこか?・・・ああ、だから龍一さん達は勝てるんだな?」

 

 

 そうね。と霊夢が魔理沙に賛同する。

 俺はそれを肯定し、続けた。

 

 

 「それはまあ、俺と侵二は呼吸止めて隙が無い完全な集中状態をある程度作る事はできる。まあ侵二に至ってはわざと隙らしいものを見せて引っかかったら殺しに来るんだが。風魔はその集中力と攻撃動作上長くは持たねえからな。まあ人外の尺度で測ってるから長くは持たないとか言いつつフルで集中して三日稼働できたりするんだがな」

 

 

 だよな?と風魔の方を向くと、軽く頷いた。

 

 

 「勿論弾幕ごっこなら不可避の弾幕は禁止されてるから、斬撃含めて風魔の持ち味がフルに生かされることはない。その代わり能力が活かされることになるから厄介さはどっこいどっこいなんだがな」

 

 

 「・・・これに重ねて能力まであるのか。優しい能力だとありがたいが、どんな能力なんだ?」

 

 

 「よく自分でも限度が分からんのだが、あえて言うならば災害を操る事が出来るくらいだろうか。これまでに暴風、疫病、大雨、洪水は試したが、さあどうなることやら」

 

 

 「まだ霊夢にも勝ててないが、もっと勝てそうに無いのが出てきたぜ・・・」

 

 

 「風魔に勝てるように、なんてのは人間だと無理かもな」

 

 

 「買いかぶり過ぎ、と言いたいが。人間に負けるつもりはない」

 

 

 そうだろうな。と俺が笑っていると、頭を抱えていた霊夢が悪事を思いついたようににやりと笑い、少し慣れたのか、風魔と侵二と魔理沙を呼び、耳打ちした。

 魔理沙も同じように笑い、風魔と侵二は面白そうに俺を見た。

 紫はきょとんとしたまま、俺の方を見ていた。

 

 

 「ねえ、龍一さん」

 

 

 「あん?」

 

 

 「紫とは何処で会ったの?」

 

 

 「・・・あー、そう言う話か。侵二が連れて来た」

 

 

 「そう言えばそうですね。確か最初は紫殿、私を食うつもりだったらしくて」

 

 

 「そうだったわね。あの時は私もまだ一端のちょい強めの妖怪くらいだったから、侵二さんが人間の皮被ってるとは分からなかったのよ。ただやけに保有してる霊力が多いと思って狙ったら、ものの見事に襲い返されたのよ」

 

 

 「なんか半人前の紫って思いつかないわね」

 

 

 「まあそうかもな。馬鹿だったが愚鈍では無かったし、大妖怪の見込みはあったからな・・・悪い、今の忘れろ」

 

 

 「ありがと」

 

 

 「忘れろって言ってんだよなあ。・・・まあ、そんで俺の前で幻想郷の第一歩みたいな話して来たから、否定してやったら噛み付いて来やがったのさ。別にそんな外堀から埋めようとしなくても大丈夫だぜ?聴きたけりゃ何処が好きになったか教えてくれとでもなんとでも聴けばいい。もう隠す事も無いしな」

 

 

 「・・・なんだ、思ってたよりあっさりね」

 

 

 「だな。もっと誤魔化すタイプだと思ってたぜ。んじゃどっちが先に好きになったんだ?」

 

 

 「さあ・・・同じぐらいか?」

 

 

 「多分・・・そうなるわね。私が永琳と知り合った時くらいでしょう?」

 

 

 「あー、そうだったかな。なんかその辺で、もし理想郷が出来たら付き合ってもらえるか。みたいな話したから、ああ良いよ作ってみやがれって返してしばらくしたら俺が惚れてた。龍神様が無理って言ったこと一部とは言え、完璧ではないとはいえ成し遂げると思わねえじゃん?」

 

 

 「その割に一定の時期冷たい対応されてましたよね」

 

 

 「あー・・・その話はあんましたくねえんだわ。俺の対応が子供過ぎたんだよ」

 

 

 「なんだそれ?今までの中で一番気になるんだが。あ、嫌ならいいぜ?」

 

 

 「・・・なんでも聞けって言ったの俺だしな。よし、笑い話として繰り出してやる」

 

 

 少し申し訳なさそうに笑う紫の頭を撫でながら、俺は再び口を開いた。

 

 

 

 次回へ続く




 ありがとうございました。
 今年も辞める事なく投稿して行くつもりでありますので、宜しくお願い致します。


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第百十九話 故に龍神は


 六年間音信不通だったクソ馬鹿野郎からの電話に情緒を掻き乱されまくりました。

 ゆっくりご覧ください。


 「・・・とまあ、紫の自惚れ故の事故とはいえ、対応が酷過ぎて見せる顔も無くて海外に逃げたのさ」

 

 

 「・・・あんまり龍一さん悪くないんじゃない?」

 

 

 「叱り方が悪くて気まずくなって立ち去ったって事だよな。・・・あんまり気に病むこと無かったんじゃないか?」

 

 

 「・・・まあ、そう言われるとそうなのかもしれねえけどさ。理想郷作ろうとした奴にそんな対応したら、諦めるんじゃないかって思ってさ。・・・せっかく頑張ってるのに芽を潰した気がして嫌になったんだよなあ、確か」

 

 

 苦く微笑む龍一に、魔理沙と霊夢は顔を見合わせ、笑い声を抑える風魔と侵二の方を向く。

 

 

 「おや、二人ともどうされました?」

 

 

 「いや・・・あのな?ほんとに龍一さんって龍神か?」

 

 

 「限りなく人間に見えるんだけど」

 

 

 そう見えますか。と侵二は頬を掻いた。

 

 

 「・・・ですよねえ。なーんか変な所律儀なんですよ、主上は。もっと傲岸不遜でいいと思うんですけどね」

 

 

 侵二が笑いながら首を横に振り、で?と龍一に続けさせた。

 

 

 「で?もなにも逃亡中に侵二に連れてこられて、当然のように紫がいて・・・もうそん時は一応好きだったってことになるんかね。言おうとして知り合いに邪魔された」

 

 

 間が悪すぎるんだよなあ。と龍一は笑い、少し驚いたようにする紫に、なんだよと少し眉を顰めた。

 

 

 「ほんとに?」

 

 

 「あ?お前いつからだと思ってたんだ逆に」

 

 

 「いや、その、気のせいかなって思ってたから・・・自身があったのはその後しばらく経ってくらい?」

 

 

 「んなわけあるか。・・・ま、ことごとく失敗してるから、なんとも言えねえんだけどな」

 

 

 はは。と龍一は恥ずかしそうに笑い、このくらいか?と霊夢、魔理沙に問いかける。

 霊夢は頷き、魔理沙は不思議そうに、更に龍一に聞いた。

 

 

 「なんか、転機とかあったのか?ここからチャンスってのもおかしいけど、その、なんだ。急に仲良くなった時、とか?」

 

 

 「ああ・・・」

 

 

 「死ぬって言った時ね。龍一が」

 

 

 「言うのか・・・」

 

 

 質問に答えたのは紫で、龍一は自身の頭に手を置き唸った。

 

 

 「死・・・?もしかしてもうすぐ死ぬのか!?」

 

 

 「・・・焦るなよ。あくまでも死ぬ筈だったって話だ。百年くらい前だよな、あれ」

 

 

 「多分ね。理想郷のお披露目中に龍一、ちょっと一人にさせてくれって言うから一人にさせたら。次見に行ったら見たことない顔で死にたくないって呻きながら寝てたのよ」

 

 

 「まああれは能力が強すぎたのと効果を理解しきれてなかった上での勘違いなんだが、その後マジで死にかけてな。数日寝込んだんだが・・・起きたらなんかこう、死んでないって思うと吹っ切れてな?もうなんか神様気取るのも面倒になったんで、馬鹿正直にやりたいようにやってるのが今。仕事はちょっとだけしてる」

 

 

 「・・・やっぱり人間みたいだぜ」

 

 

 「初期が人間だったからだろうな。・・・って感じか?」

 

 

 変わってんなあ、と魔理沙は呟いた。

 

 

 「よく言われる」

 

 

 コトンと龍一が湯呑みを置き、ゆっくりと息を吐く。

 そして、再び龍一が口を開いた。

 

 

 「・・・今日はお前ら以上に珍しい奴も来るんだな」

 

 

 龍一が新しく湯呑みを生成し、ゆっくりと茶を注ぐ。

 淹れ終えた頃には、少し身を刺すような冷たい風と共に、片手を鎌にした細身の男が立っていた。

 

 

 「やあ紫さん、本日も見目麗しうございま」

 

 

 「口で紫に触れるな。いつも通りすっ飛べ」

 

 

 男は気取ったように片膝をつき、紫の右手の甲に口づけをしようとして龍一の手の一振りで吹き飛ばされた。

 吹き飛んだ男は再び吹いた風と共に戻っていた。

 

 

 「挨拶だな。ちょっとした冗談だよ冗談」

 

 

 「相変わらずその態度通してんのな。久しぶり、鎌鼬」

 

 

 「久しぶりだな、龍一さん」

 

 

 鎌鼬と呼ばれた男はニヤリと笑うと、唖然とする霊夢と魔理沙と紫、そして呆れたように声を殺して笑う風魔と侵二を交互に見やり、溜息を吐いた。

 

 

 「相変わらず御三方は可愛い子侍らせてるようで。羨ましい限りですねまったく」

 

 

 「もっかい飛んでくか?」

 

 

 「そりゃ勘弁「なら自己紹介しろ」おっと失敬。俺は龍神様お抱えの妖怪、鎌鼬。よろしくな、お嬢ちゃん方」

 

 

 「コイツは・・・そう、さっき言ってた邪魔した知り合い張本人だ」

 

 

 鎌鼬は鎌になっている方の手を胸に当て、仰々しく頭を下げた。

 霊夢はまだ唖然としていたが、ハッとしたように魔理沙は声を返した。

 

 

 「よ、よろしくな。私は霧雨魔理沙ってんだ」

 

 

 「ほーん・・・はじめまして、んでよろしく、魔理沙ちゃん「ま、魔理沙ちゃん・・・?」後まだぽかんとしてる横の子は・・・遠目に見たことあるぜ。博麗の巫女か?」

 

 

 「え、あ、そうよ。私は霊夢、博麗霊夢。よろしく・・・鎌鼬さん?」

 

 

 「ああよろしく、霊夢。「なんで私だけちゃん付けなんだ・・・?」霊夢にゃ同族が何回か悪さしてぶっ叩かれてるってんでお世話になってるぜ。・・・悪いね、鎌鼬にゃ俺除いて馬鹿しかいなくて」

 

 

 「お前もその馬鹿だろう?」

 

 

 「そりゃあんたらが賢すぎるんだわ。・・・と、いけね。先に連絡させて貰いますね」

 

 

 気を取り直したように鎌鼬は差し出された茶を飲み干し、咳払いを一つ、侵二と龍一に向けて膝をつく。

 

 

 「塗り壁から報告。見覚えのない赤い建造物を新たに発見、との事。建築様式は西洋寄りだそうで・・・どうされます?」

 

 

 「何かしてきました?」

 

 

 「いえ、塗り壁からはまだなーんにもされてないと。俺もちらっと見かけただけです。そもそも塗り壁に無駄に喧嘩売る奴もいないと思いますけど?」

 

 

 「それもそうですね。・・・主上、どうされます?」

 

 

 「俺?・・・ま、ほっとけば何かアクション起こすだろうし、しばらく様子見で・・・そうか。いや、紫が直接見るわ。お前らは何もせず撤収」

 

 

 「・・・了解。それで良いですか?」

 

 

 「了解でーす。撤退させときますね」

 

 

 「ご苦労様です。・・・以上でしょうか?」

 

 

 「以上っすね。んじゃこれ以上長居すると邪魔っぽいですし、また改めて来るってことで。お茶ご馳走様でした。またな人間のお二人さん」

 

 

 カツン、と鎌鼬が踵を合わせ、頭を下げる。

 すると三度目の風が吹き、鎌鼬は消え去った。

 

 

 「・・・なあ、なんで霊夢は呼び捨てで私はちゃん付けなんだ?」

 

 

 「それなりな年下に見えたんじゃね?「はぁー!?」・・・んで?俺に対しての質問は終わりか?今日しかなんでも答えるつもりはねえから、聞きたけりゃ聞いとけよ」

 

 

 恥ずかしくてやってらんねえからな。と笑う龍一に、霊夢とやや不満げな魔理沙は顔を見合わせ、そして一言二言言い合うと、互いに了承したのか、霊夢が口を開いた。

 

 

 「じゃあ、これで最後ね。・・・龍一さん、紫の事どう思ってるの?」

 

 

 「はぇ」

 

 

 「難しいこと聞くなあ」

 

 

 ピシ、と紫は固まり、龍一は眉を顰め、顎に手を置いた。

 風魔は歯を見せて静かに笑い、侵二は吹き出しそうなのを堪え、口を手で覆った。

 

 

 「何を基準とするかだよな。好感度なのか、重要性なのか、優先度なのか。・・・そういやあんまり考えた事なかったな。風魔ならどう言う?」

 

 

 「人生の道標」

 

 

 「オーケイ聞く相手間違えたわ。侵二は?」

 

 

 「唯一手駒として使えない人ですかね。他は容易いので」

 

 

 「だーめだロクなのいねえ。鎌鼬・・・は帰ったもんな。と言うかアイツそう言う関係のやついたっけ」

 

 

 「人間の伴侶が今までにいたかと」

 

 

 「アイツ人間好きだったな・・・といかん。話が逸れた。・・・いや、無理だろ。どう言えと」

 

 

 いやなあ・・・と龍一はぶつぶつと呟き始め、気づいているのかいないのか、口から漏れ出たああでもないこうでもないと言う中々に遠目に見れば恥ずかしい発言を垂れ流し続け、耐えられなくなったのか、人間二人組が制止した。

 

 

 「ごめんなさい、もういいわ」

 

 

 「お?まだ思いついてないんだが?」

 

 

 「いや、もういいぜ。よーく分かった」

 

 

 「ああそう・・・?んじゃいいか」

 

 

 隣で放心している紫には気付いていないのか、龍一は立ち上がり、そして軽く伸びをする。

 骨の鳴る小気味良い音が龍一の背中から響き、龍一はよっこいしょと振り返り、そして紫を見て顔を顰めた。

 

 

 「・・・なんでボケっとしてんだこいつ」

 

 

 あんたのせいだろうよ。

 霊夢と魔理沙はそう言いたかったが、更に惚気が詰まった言葉で返されるのが容易に想像できて、口にすることはなかった。

 

 

 次回へ続く





 六年間毎年手紙送りつけても入院してるわ家にいねえわ散々振り回して来やがったくせに電話した感想が久しぶり。声が聞けて嬉しい。でした。
 誰のセリフだと思ってんだ。


 次回もお楽しみに。

 


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第百二十話 察知


 非常に投稿が遅くなりました、申し訳ありません。
 まさか新学期になって、ここまで走りまわる時間が来るとは・・・


 

 

 夏、太陽が強く地面を照らす季節。

 初めにソレに気がついたのは幻想郷の管理者ではなく、その隣にさも当然のようにいる龍神でもなく、ただ騙すことが得意な彼だった。彼は読みかけの本を閉じると、薄暗い部屋から外へと出た。

 日は傾き始めているものの、まだ夜更けには遠い、そんな時間。彼は伸びを一つして、目の前に果てしなく広がる花畑の中を歩き始めた。

 季節通り故か、身長よりも大きく育った向日葵の間をさも何もないかのように彼は通り抜け、目的地の向日葵を愛おしそうに撫でる女性の前で足を止める。

 

 

 「今年も、大きくなったねえ」

 

 

 声を聞き、彼女、風見幽香は夕陽を受けてもなお目立つ緑色の髪を揺らしながら、声の主へ返した。

 

 

 「そうね。・・・この子達の反応からするとまたすり抜けてきたのかしら?それに、用事はもう大丈夫?」

 

 

 「すり抜けないといつ油断して踏んじゃうか分かんないからねー。用事はもういいよ。夏場はあんまり細かく取り出すと腐るの早くなるし、今はそれどころじゃないっぽいし」

 

 

 「そう?・・・何かあるの?」

 

 

 「幽香もそろそろ分かるんじゃないかな。向日葵もあの子達もしばらく変な天気になるだろうから、より面倒見てあげたほうが良いかもね」

 

 

 彼、幻夜は幽香の花畑に水をやる人影達に手を振り、夕空を見上げながらほんの少し嬉しそうに頬を緩めた。

 その様子に幽香は不満げに小さく眉を顰めた。

 

 

 「何よー、分かってるなら言いなさいよ」

 

 

 「今回はダメでーす。喋ると後の楽しみが無くなるからね」

 

 

 一足先に見にいこうかな。と、頬を膨らませる幽香に背を向け、幻夜は誰に言うわけでもなく内心呟く。

 空の端が、少し紅く染まっていた。

 

 

 ____________________

 

 

 

 それから数日。あと一日で満月になる、そんな夜。

 ほんの少しだけ欠けた月が全て写るほど大きな窓を背後に、コウモリのような羽を生やした少女が言葉を紡いでいく。彼女の開いた口からは、鋭い牙が覗いていた。

 

 

 「全員・・・揃ってるわね。よし。・・・んんっ、貴女達、準備はいいかしら?」

 

 

 コクリ、と中華風の衣装に身を包んだ少女が頷く。

 メイド服の少女が、うやうやしく頭を下げる。

 紫髪の少女が面白そうに笑い、従事していた頭に小さな羽をつけた少女は、ややこわばったように頷く。

 宝石のような羽を持つ少女は、にっこりと笑い、頷いた。

 その他数十にもなるメイド服に身を包んだ小さな少女達も、まばらに頷いた。

 

 

 「良さそうね。・・・それじゃあ、異変を始めるわよ!」

 

 

 バッ、と少女が両手を激しく開き、それに呼応するように月がゆっくりと紅く染まり始めていく。

 それは明日になれば、きっと真っ赤に染まっている空と同じく、月全てを染めるような、そんな霧を放った。

 彼女らは満足げに頷き、それぞれが準備をするように動き出す。

 

 

 「・・・それで、幸夜、いる?」

 

 

 コウモリ羽の少女だけが動かず残る中、ふと天井の板が横に動き、逆さまに頭が降りて来た。

 

 

 「はいはいお嬢様、なんでしょう」

 

 

 「・・・もうお嬢様は良いわよ。と言うかなんで天井から?今びっくりしてちょっと固まっちゃったじゃない」

 

 

 「ああそりゃ失礼。いやちょっとトラップの最終確認の方をね?」

 

 

 「ああ・・・ってまだやってるの!?この前ちょっと触りますって言ってから一ヶ月は経ってるわよ!?」

 

 

 「俺の部屋を見る前に、ちょっと近場の湖から生活用水引いてたら時間かかって・・・」

 

 

 「え、待って、そんな事してたの?」

 

 

 「まあ先生に見つからないように自分らで引っ越したのもあって、館を土地から引っこ抜いて別の位置にポンってわけにゃ行かなかったんでね。飛び立つ鳥の最後の仕事ってことで。んで、なんだレミリア、要件は?」

 

 

 「ああ、要件ね。・・・私達も負けるつもりはないけど、それでも貴方が舞台に出た時、勝てそう?」

 

 

 「集めたデータに不足なく、相手が俺を知らなければ、な」

 

 

 幸夜は屋根から飛び降り、レミリアの前に立つ。

 彼の着る黒いロングコートからは、動くたびに金属が擦れる音がした。

 

 

 「そう、なら安心ね「どこ聞いてそう思ったよ」・・・ところでお父様は?」

 

 

 「それならここに。呼ばれてますよオルゴイさん」

 

 

 「なんだ、呼んだか?」

 

 

 「ちょっ・・・さも当然のように床から出てこないで?」

 

 

 「ハッハッハ、すまない。幸夜を手伝うのが存外面白くてな。・・・しかし、その分しっかりと仕込ませて貰ったからな。なあ、幸夜?」

 

 

 幸夜は顎に手を置き、しばらく思考したのち呟いた。

 

 

 「・・・まあ、龍神の片腕ってとこですかね、しっかり取れるのは」

 

 

 「ほう、そこまで行けるのか。楽しみだな」

 

 

 「龍神の片腕なんてトカゲの尻尾みたいなもんですよ?控えめに負けって言ってんです、負けって」

 

 

 無理無理、と言いながらも、未だ策を練り続けているのか、常に口角の上がった幸夜にオルゴイは苦笑する。

 

 

 「最高で、どうだ?」

 

 

 「・・・四凶を十としたら、八を確殺、九を片腕と差し違え、くらいですかね。今は。ただ今回じゃ無理です。仕込みが後百は要る」

 

 

 それに、そんなんいても困りますけどね。と幸夜は笑う。

 レミリアは幼い頃から住み込みで働いていた彼を相応に信頼し、だからこそこういった場面で嘘はつかないと知っていた。

 故に、淡々と冗談にしか聞こえない戦果予想を述べる幸夜の事も、しっかりと信頼していた。

 またそれに応えるように、幸夜もレミリアへ微笑んだ。

 

 

 「・・・あ。ところで幸夜、いい?」

 

 

 「なんだ?」

 

 

 「お父さんと探してる子には会えた?」

 

 

 「・・・いんや、親父には多分視認されたが両方ともにまだ会ってない。ただ、なんとなしにそれらしい話は聞いたし、いる場所がわかった気がするから、これが終われば行ってみようかと」

 

 

 「そう。探してる子は元気そうだった?」

 

 

 「・・・話を聞いてる感じは、な。あいも変わらず人間達と関わってるらしい。バカだなあアイツ」

 

 

 幸夜は優しい表情を浮かべ、窓の外、その遥か先を眺めて、目を細めた。

 レミリアはそんな幸夜に苦笑し、先に会いに行ってもいいのよ?と揶揄い半分に言う。幸夜は首を横に振った。

 

 

 「お断り。まだいると分かったわけじゃあねえですし、何より仕事が残ってますんで」

 

 

 「真面目ね」

 

 

 「仕事なんでね。・・・それに、どこまで届くか見定めたいんだよな」

 

 

 幸夜は表情を硬くし、レミリアに膝をついた。

 

 

 「では、ここいらで失礼。願わくば勝利後にお会いしましょうや」

 

 

 「ええ、よろしく」

 

 

 ____________________

 

 

 博麗霊夢が明らかな異常に気がついたのは、遥か先で行われた会話から一時間程経った頃だった。

 ここ数日から空が紅く染まりつつはいたものの、月すらも染め上げられた今この時は、ただ紅いだけではなかった。濃密な妖気が織り交ぜられ、なんの力も持たない常人なら激しい倦怠感に襲われるような重苦しさを持っていた。

 

 

 彼女の友人、霧雨魔理沙も同じく異変に気がついたのか、身支度をする霊夢を縁側で待っていた。

 ふとそんな二人に、一人の男が声をかけた。

 

 

 「よ。・・・珍しくもないが夜更かしか?」

 

 

 「流石にこんなに空が紅くちゃ寝るもんも寝れない。だからサクッと解決してぐっすり寝るつもりだぜ」

 

 

 「お待たせ。・・・龍一さんも分かってて聞いてるでしょ?」

 

 

 「ん、まあな。こうも目に悪いと流石にな」

 

 

 「それだけってのもあれだが、確かに悪趣味な色だぜ」

 

 

 龍一の意見を肯定するように魔理沙は頷き、龍一は微笑する。

 そしていつも通り縁側に腰掛けると、息を吐いた。

 

 

 「まあ、気張りすぎんなよ。いつも通り行ってこい」

 

 

 龍一の言葉に二人の少女は頷き、各々の方法で空へと飛んでいく。

 それを見えなくなるまで見送ると、彼は屋根の上で気配を消していた男を呼んだ。

 

 

 「・・・そんで、お前は?まさか楽しそうだから異変解決に行くなんて言うなよ。お前が出たら一分もたたずに解決しちまう」

 

 

 男、風魔は一つ押し殺した笑い声を出すと、龍一の前にいつの間にやら立っていた。

 そして龍一の横に座ると、いや。と返答した。

 

 

 「見知った吸血鬼、知り合いの息子と斬り合っても、なんら面白くない。やり飽きた。・・・それに、私が行く前にお前が行くだろうよ」

 

 

 「まああいつらとは飽きるほどやってたからなお前は。んで、俺が行く?そりゃ笑える話だな」

 

 

 まさか。と龍一は笑い、首を横に振る。

 風魔も笑みを崩さず、わざとらしく何かを思い出すかのように腕を組んだ。

 

 

 「碁を打っていた時に相手から聞いた噂だが、例の館の主人は吸血鬼ではないらしい」

 

 

 「・・・うん?」

 

 

 「更に奇妙な話、先日館を使用人の男に譲ったらしい。それもなんと、ここ一ヶ月の間のみ、と言ったなんとも不思議な譲り方をしてな」

 

 

 ところで、と風魔は続ける。

 

 

 「紫とお前が奴らと約束した話では、館の主人が異変の首謀者になる、だったらしいな。と言う事はその譲られた小僧が首謀者になる訳だな?」

 

 

 短い舌打ちが風魔への返答となり、龍一はゆっくりと立ち上がる。

 周囲の音が消え、それまで穏やかさを残していた周囲の空気が鋭くなり、龍神が口を開いた。

 

 

 「・・・悪いが少し席を離れる。紫には聞かれたら言っといてくれ」

 

 

 「良いだろう。・・・さぞアイツも楽しみにしているだろう」

 

 

 「だろうな。全くめんどくせえ。・・・ぶちのめして来る」

 

 

 龍一が大地を蹴り、斜め上へと跳躍する。

 その動作に重さはなく、そのまま空を走るようにして消え去った。

 

 

 

 次回へ続く

 





 ありがとうございました。

 次回もお楽しみに。


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第百二十一話 必然殺し

 

 

 

 すっかり紅くなった空を、二人の少女は飛び抜けていく。

 そのうちの一人の金髪の少女は笑いながら、もう一人の黒髪の少女へと声をかけた。

 

 

 「今んとこ、大したやつは出て来てねえな。てっきりこの霧のせいでどいつもこいつも気性が荒くなってると思ってたぜ。さっきの相手、ルーミアだっけ?まあそいつも比較的おとなしかったしな」

 

 

 「そうね。思ったよりは被害がまだ少なめね・・・ってちょっとそこの人!何してるの!?」

 

 

 霊夢は魔理沙に返答し、口を開いたその最中、老年に近い男が歩いているのを視認し、下降した。

 男は霊夢達を見上げると、小さめに手を振った。

 

 

 「何人間が呑気に手振ってるのよ・・・人里で外出禁止の令が出てるの知らないの?」

 

 

 「何、そこまで事になっていたか。いやはや余計な心配をかけた。だが少し落とし物をな・・・」

 

 

 「落とし物?」

 

 

 「どこに落としたか分からんくなってな・・・やはり、諦めて向かった方が良いか?」

 

 

 霊夢は頭を抱え、魔理沙はそんな霊夢を励ますように苦笑し、男に声をかける。

 

 

 「あのな、じいさん。こいつは仕事上人間に怪我されると困るんだ。私も寝起きが悪くなるし、人里もすぐそこだ。異変が終わったら探し物くらい手伝うし、悪いこと言わないから避難しててもらえないか?」

 

 

 男は顎に手を当て、分かった。と頷いた。

 

 

 「これ以上余計な世話をかけさせるわけにはいかんな。ならば一人で帰っておく。それで大丈夫か?」

 

 

 「だとよ。一人で帰らせるか?」

 

 

 「・・・さっきまでの道には何も出なかったから、大丈夫でだと思うけど・・・いい!?この空が収まるまで人里から絶対出ちゃだめよ!?」

 

 

 霊夢が男に指を突きつけ、男は頷く。

 二人は顔を見合わせると、再び飛翔し、遥か先へ飛び去った。

 そしてそれを見上げていた男は、困ったように頭を掻いた。

 

 

 「あれが異変解決者か。良い人間の中では強いのは違いないが、思っていたより若いな・・・」

 

 

 やや役不足かもな。と男は右手で頭を掻きながら呟き、左手を横に広げた。

 すると左手に黒い霧が集まり、一本の長槍を創り上げた。

 

 

 「さて。あの二人には悪いが、もう少しここに居させてもらおうか。・・・奴を落とす必要があるからな」

 

 

 刹那。男は槍を霊夢達が来た方向の上空へ投げる。

 槍は加速し、軌道を曲げ、槍の軌道上に入った人影へと空気の破裂音を響かせながら迫った。

 しかし人影は槍を回避し、あまつさえ掴み、男へ同速で投げ返した。

 

 

 「ほう。落ちんか」

 

 

 寸分の狂いもない槍の投げ返し。このままいけば男の心臓を貫く筈だった槍は、しかし何故か軌道を歪め、空気を裂きながら隣の大地へ突き刺さった。

 上空の人影は、それより遅れて男の前に立った。

 

 

 「・・・いきなり挨拶だな。久しぶりだって言うのに感傷に浸る時間もねえじゃねえか」

 

 

 「何、こうでもせねばあの二人に追いつくだろう?時間稼ぎだ、時間稼ぎ」

 

 

 「・・・やっぱお前が仕込んだんだよな。オルゴイ」

 

 

 「なあに、少し試してみたかったのだよ、龍一。・・・【私は致命傷を負う運命から逃れる】」

 

 

 龍一と呼ばれた男は舌打ちすると、現れた拳銃をゆっくりと構えた。

 オルゴイと呼ばれた老年の男は、槍を軽く横に払った。

 

 

 「貴様の絶対と私の必然殺し、どちらが勝るだろうな」

 

 

 「邪魔くせえこと仕掛けんじゃねえよ」

 

 

 龍一は素早く拳銃の引き金を引き、オルゴイの周辺に散るよう弾丸を放った。

 オルゴイは微動だにせず、愉快そうに龍一を見据えていた。

 弾丸は直進することなく、オルゴイを追尾するように弾丸が進んだ。

 

 

 「ふむ」

 

 

 弾丸はオルゴイに迫り、確実に眉間を貫く軌道に入った瞬間、弾はねじ曲がり、オルゴイの右肩を掠めるに留まった。また、その傷も瞬く間に再生した。

 

 

 「やはり重症には至らんな」

 

 

 「当たれば死ぬからな」

 

 

 「次は、そうだな・・・【この槍は当たらない運命から逃れる】」

 

 

 オルゴイは再び槍を生み出し、踏み込みもなく紙飛行機を飛ばすように龍一に投げた。

 やんわりと、しかししっかりとした軌道で宙を舞った槍は、突如加速して龍一を貫いた。

 龍一は腹部を貫かれたが、眉一つ動かす事なく槍を引き抜き、投げ返した。

 同様に加速し、当たらない事が無い槍は、オルゴイの目の前で捻じ曲がり、槍とは呼べないものになり、地に落ちた。

 

 

 「これは・・・つまらんな」

 

 

 「馬鹿野郎が。最初から火を見るよりも明らかだったろうが。先行くからな」

 

 

 「ううむ・・・」

 

 

 少し残念そうにオルゴイは唸ったが、すぐに言葉を吐き出した。

 その言葉を言い終える頃には、龍一は何処からか現れた鎖でその場に繋ぎ止められた。

 

 

 「【龍一が十分間、先に進む運命から逃れる】」

 

 

 「おい」

 

 

 「仕方あるまい。このままならお前は無視して通るだろう」

 

 

 「そりゃ好んで特点がお互い絶対に入らないクソ試合する奴いねえだろうよ」

 

 

 「だから勝負はやめとして、少し話さんか?」

 

 

 「・・・お前それ、問答無用で拘束した奴に言う?」

 

 

 「ダメか?」

 

 

 「ダメもクソもあるか。解け」

 

 

 「なんと言ったか忘れた」

 

 

 「コイツ・・・まあいい、分かったよ」

 

 

 どうせ動けんし、ちょっとだけな。と龍一は鎖に絡め取られたまま、その場に器用に座り込むと、大きな溜息を吐き出した。

 オルゴイも微笑むと、ゆっくりと地面に座った。

 

 

 「で?」

 

 

 「何、少し明るくなったと思ってな」

 

 

 「何が?」

 

 

 お前の事だ。とオルゴイは首を傾げる龍一を指差した。

 龍一は少し空を眺め、納得したようにそうか。と呟いた。

 

 

 「幻想郷に根を降ろしてから会わなくなったもんな。確かにちょっとばかし変わったよ、俺は」

 

 

 「その様だ。ミス八雲も元気か?」

 

 

 「なんだその呼称。忙しくはなったが、元気は有り余ってるな」

 

 

 「そうらしいな。・・・楽しいか?」

 

 

 「変なこと聞くなぁ。頭でも打ったか?」

 

 

 「いや、気がかりでな」

 

 

 「・・・そうだなぁ」

 

 

 なかなか楽しいぞ?と龍一はカラカラと笑う。

 

 

 「そのようだ。・・・変わったな」

 

 

 「ああ。それともう一つ言うなら・・・ちょっと力を入れればお前の能力に縛られなくなった。この通りな」

 

 

 ジャラジャラと龍一を押さえ込んでいた鎖が解け、龍一から離れるように飛んでいく。

 少し驚いたように目を見開くオルゴイに、龍一は笑った。

 

 

 「もう解かれたのか。【神矢龍一は一時間この場から動けな「おい」・・・冗談だ。これは私の負けだな」

 

 

 「いんや、解くには時間がかかる。俺相手に二分は大きいだろ。ま、どっちにしろ後八分は動かんけどな」

 

 

 約束だし、と龍一は片目、銀色の瞳を光らせると、瞳から光が伸び、地面に映像を映し出した。

 そこには奇妙な雰囲気を放つ館と、少し上気した二人の少女がその館の門を開けるところまで映り込んでいた。

 

 

 「ふむ、予定通りだな」

 

 

 オルゴイがそう呟くと、龍一は無言で映像に手を当てた。

 すると映像は少し巻き戻され、霊夢と魔理沙を相手に弾幕を徒手で叩き落とす、壁を蹴って弾幕の間をすり抜けるなど、一般的な妖怪では有り得難い体術を活かして立ち回る美鈴の姿を映し出した。

 

 

 「・・・おい待て、前より強くねえかあの子」

 

 

 「美鈴か?彼女も相当にうちの使用人と鍛錬はしていたからな。・・・それと彼女への命令は「異変中、私以外の館の出入りを禁止」だ」

 

 

 「そうか。なにがなんでも使用人と霊夢達をぶつけてえんだな」

 

 

 「ああ」

 

 

 手を月に翳し、オルゴイは口を吊り上げる。

 

 

 「見たいからな。我が館、自慢の使用人の最後の舞台をな」

 

 

 「ろくな事しないと思うがな」

 

 

 残りの八分が経過した頃。そろそろ行くわ。と龍一が立ち上がり、瞳の映像を切る。

 オルゴイも頷き、ゆらりと立ち上がる。

 

 

 「私はあの二人と約束をしたのでな。少し、人の営みを見に行くとしよう」

 

 

 「人里見てくるってスッと言え。厨二病か?」

 

 

 「吸血鬼なぞそんなものだろう?」

 

 

 聞きたくなかったわ。と龍一は笑い、飛び去る。

 オルゴイはそれを見送り、やや早足に人里へと歩いていった。

 それからしばらくして、子供や幼い妖怪に懐かれる老人が時折人里で見られるようになったのは、また別の話。

 

 

 

 次回へ続く

 

 





 ありがとうございました。
 次回もお楽しみに。


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第百二十二話 紅魔の門番

 「流石に入り口からは変わってねえか。・・・よう美鈴」

 

 

 「あ、龍一さん、お久しぶりです」

 

 

 オルゴイと離れて二十分後。龍一は紅魔館の門前に降り立つと、見知った姿に会釈した。

 会釈された相手も会釈を返し、そしてそれが当然であるように彼女は、紅美鈴は拳を構えた。

 

 

 「・・・さっき見た感じ霊夢と魔理沙には負けて通らせてるっぽいし、ついでの保護者枠で俺を何もせず通してくれるってのは」

 

 

 「無いですね。「だよなあー・・・」それに、龍一さんならわざわざ門を通ってくる必要なんてないはずでは?この館の中に一瞬で行くくらい、造作もないですよね?それに龍一さんの事です、もう少し早く来れましたよね」

 

 

 「あー・・・流石に不躾だと思ったからってのと、ああそう、道!道に迷ったんだよ・・・いやこれ無理あるな」

 

 

 「・・・質問するのも失礼かも知れませんが、最初からそのつもりでしたよね。龍一さん」

 

 

 バレたか。と龍一は笑う。

 その笑みは申し訳なさから来るものではなく、今から起こりうる現象への隠しきれない期待だった。

 美鈴が横へと歩き、森を背に拳を構えた。龍一は残念だという台詞を吐き続け、美鈴に向けて一歩足を踏み込む。

 

 

 「このまま通り抜けると霊夢達より先に着いちまうし、それはオルゴイは望んでねえし・・・しょうがねえよなあ?」

 

 

 「そうですね」

 

 

 空気が破裂したような音とともに、龍一は美鈴へと接近し、右手を突き出した。

 美鈴は全身に気を込め、龍一の右拳を回すように受け流した。

 直後龍一の突き出した掌底は背後の木へと直撃し、木は拳の直撃した裏側が破裂し、木屑を飛び散らせながら音を立てて倒れた。

 美鈴は受け流した龍一の右腕に自分の手を絡めて引き寄せると、龍一の頭部へと蹴りを突き出した。

 それに対して龍一は大袈裟に音を立てながら右腕の関節と背骨を外し、絡められた手をすり抜けて上体を折り、背後へと飛び退いた。しかしわずかに蹴りが頬を掠め、傷口から血が滲んでいた。

 

 

 「おーおー、やるじゃないの」

 

 

 本来噛み合うはずのない歯車を無理やり噛み合わせるときのような音を鳴らしながら、龍一は右手の関節と背骨をはめ直す。

 人の形をしているだけで人の動きをしない龍一に、美鈴は呆れたように笑った。

 

 

 「相変わらず無茶苦茶なことをしますね。無茶な点では師匠そっくりです」

 

 

 「一緒にするなあんなのと。・・・これで行くか」

 

 

 人間ならば脱力しきったポーズから龍一は飛び出し、脱力しきった左右の腕を鞭のように振り回し、美鈴の払おうとする腕を逆に避け、叩き返した。

 骨が抜けたようにしなる龍一の腕を受けた美鈴は、強く顔を顰め、しかしゆらゆらと揺れる龍一を拳圧で遠くへと弾き出した。龍一の手が叩きつけられた箇所は、妖怪であり頑強な体を持つ筈の美鈴の皮膚を赤く腫らし、痣を作り出していた。

 

 

 「流石・・・ですね」

 

 

 「伊達に歳食ってねえからな。時間だけがあったのよ」

 

 

 再び龍一は美鈴へと迫り、同様に体ごと叩きつけるように左手を不規則に振り回す。

 しかし今度は見切られたかのように美鈴へ当たらず、また美鈴も龍一の不規則な軌道を予測し始め、左手による横への薙ぎ払いを避けた。

 直後、龍一は左手の勢いに振り回されたかのように反時計回りに身を捻ったが、突如加速し左足を軸に一回転、浮いていた右足を地面に叩きつけ、そのまま最初に放った拳の倍の勢いはある一撃を放った。

 

 

 「・・・そこっ!」

 

 

 だが、相手は紅美鈴。彼女は紅魔館の門番を務める妖怪で、何より龍一すら凌駕する格闘技術を持つ壊夢と手合わせし、更に気に入られた事のある存在。

 故に力任せの一撃は、彼女からすれば単に壊夢の下位互換に過ぎず、龍一の一撃を衝撃を逃しながら完全に受け止め切った。

 龍一は暫しその事に目を見開いたが、一転。先程までとは違い、行動の一手一手が加速し始めた。

 岩を砕く一撃が岩を貫く一発に、鞭のようにしなる一撃が空気を裂く一閃に。

 

 

 「・・・いやあ、失礼な話だが油断してたわ。そういや壊夢の技を目の前で見てんだから、あんな中途半端な一撃止められるわな」

 

 

 「全然中途半端とか呼べる技じゃなかったですし、今されてる事は全く見たこと無いですけどね!?ほとんど斬撃じゃないですか!」

 

 

 「そりゃあの火力バカがこんな技覚えたらもういよいよ終わるぞ。・・・んで、見た事ないって言う割には避けてるんだが?」

 

 

 「無論、ここを守る門番ですからね!」

 

 

 「要塞かよ・・・いや、そうだな」

 

 

 会話の通り、龍一の刃物と化した素手の連撃。それを美鈴は数発掠めるのに留まり、致命に至る一撃は必ず受け流し、躱している。

 

 

 「・・・アレ行くか」

 

 

 龍一の斬撃が止み、美鈴はその瞬間龍一へと右拳を放つ。

 それを飛び退いて躱し、龍一は右拳を構えた。

 両者共に構えつつも距離を取り、隙を見計らっていた。

 

 

 「次のでラストな。これ受けて立ってられたら帰るしかねえわ。受け止められたら、な」

 

 

 「なら、受け止めましょう!」

 

 

 構えを解かない龍一の拳の前に、薄いガラスのような小さな壁が展開されていく。

 それは数十枚にもなり、やがて龍一の拳の前には数十層の壁で作られた盾が完成する。

 美鈴も全身に気を巡らせ、先程以上の闘気を放ちながら、構え続ける。

 

 

 ふと、龍一が動いた。

 踏み込む事なく行われた縮地により、まるで龍一は美鈴の目の前に瞬間移動したかのように第三者がいたならば見えた事だろう。

 そして右拳を下から突き出し、美鈴はそれを顔の前で受け止めた。

 直後、一発。ではなく、二発。

 打突の一撃とその衝撃に合わせるように防壁が激しく割れる。それにより放たれた衝撃波が一撃。

 ズレた二撃により、美鈴は脳が強く揺らされる事になった。

 

 

 「ぐっ・・・!?」

 

 

 辛うじて構えを維持して立つ、が龍一は一撃を放った反動で背後に跳ね、何故か空中に貼り付けられたように停滞している木屑を蹴り、再度同じ構えをして迫っている。更に先程の衝撃で割れた防壁は一枚。

 受けて立っていられたら帰る、がそもそもこの連撃を受けさせる布石だった事に気がつき、美鈴は苦笑と共に手を下ろす。

 

 

 「降参です、流石に何度もは受け止められません」

 

 

 「そりゃあ助かった」

 

 

 美鈴の横を龍一が通り過ぎ、右拳を地面へと押し付ける。

 すると防壁が割れる音が何度も鳴り響き、拳の置かれていた場所は泥のように地面が軟化していた。

 

 

 「・・・まあ、ほとんど門番って立場のお前を利用した俺の反則勝ちなわけだが」

 

 

 「いえ、連撃ではなく一撃だと思った私のミスです。確かに受け止めたら帰る、は意地悪な言い方でしたが・・・やっぱり壊夢さんの主人ですね」

 

 

 「もうとっくに体力の全盛期過ぎてるんだがな。あいつらまだついてくる気でいやがる」

 

 

 「性格の方ですよ?」

 

 

 「おっと喧嘩をお売りか?この俺を優柔不断のクソカスと?」

 

 

 「そこまで言ってませんが!?」

 

 

 「冗談冗談。性格が悪いってのは百も承知よ。また壊夢に顔見せてやってくれ。・・・それじゃ、入らせてもら」

 

 

 龍一が閉ざされた格子の門へ手をかけた刹那、地面から人間一人を容易く挟み込めるような巨大なトラバサミが地面から飛び出し、龍一へ襲いかかった。

 門にかけた手を残してトラバサミの中へ消える龍一、何が起こったか理解していない美鈴。

 ほぼ反射的な反応として、美鈴は叫んだ。

 

 

 「りゅ、龍一さんっ!?」

 

 

 ギギ、とトラバサミが軋み始め、中からこじ開けた龍一があからさまに怒りの表情を携えて現れる。

 

 

 「もらいたかったんだが・・・こんなダメージも期待できないしょうもない古風な罠を、よくもまああの小僧は」

 

 

 やってくれるじゃねえか、と恐らく何も知らなかったであろう美鈴に微笑み、再度門に手をかける。

 

 

 「あっ、あの、私こんなとんでもないの仕掛けられてるの知らなくて・・・」

 

 

 「分かってるよ。どうやらあの弟子は俺専用の罠を他の誰にも知られずにいくつか仕込んでるらしい。あいつの事だろうから俺じゃないと反応しないようにしてるだろうけど、美鈴も気をつけてな」

 

 

 そんじゃ、改めてありがとよ。と龍一は言い残すと、今度こそ門を開く。

 そして唐突に高圧電撃の流れる館の扉を怒声と共に蹴り開け、龍一は館の中へと消えていった。

 それを見送り、美鈴はこじ開けられたトラバサミに目をやる。それはどう考えても美鈴でも、場合によっては大妖怪でも大怪我を負う規模のものであり、更に毒が塗られている。しょうもない罠と一蹴した龍一の事を思い出し、やはり壊夢さんの主人なんだな、と小さく苦笑する。

 

 

 ふと、やけに冷たい氷のような風が吹いたが、誰も気がつくことは無かった。

 

 

 

 次回へ続く



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第百二十三話 侵入成功

 全話とそんなに期間が空いていない筈なので、此方に前書きを連結します。

 本当に投稿がカタツムリよろしく遅れていて申し訳ありません。
 このご時世運良くバイトが見つかりまして、学生生活での単位に怯えながら出勤を繰り返しているとこのザマになりました。
 どちらにも慣れましたので、なるべく早く書いて出していこうとの所存でありますので、良ければよろしくお願いします。


 


 「なんなのよこの館!」

 

 

 少し時間は遡り、龍一が美鈴と打ち合っている最中、霊夢は館の内部で立ち止まり、憤慨に近い叫びを上げた。

 無理もない。この後美鈴に勝利した龍一はトラバサミに挟まれ、高圧電流の流れた扉で感電するのだが、つまるところ館に悪質な罠が所々に仕掛けてある。そしてそれは九割が龍一のみに向けられたものであったが、残り一割は霊夢と魔理沙を対象にしたような罠だった。

 ドアノブを一回転させなければ開かないドア、通常のドアに見せかけた引き戸などの軽い嫌がらせに始まり、浅い落とし穴、立ち止まって居眠りしなければ潰されることは無さそうだが、音で常に意識させる床へ下がる天井、飛行を妨害してくる謎に突き出した柱などの行動を制限してくるものもある。

 要は罠屋敷と化している紅魔館に、霊夢は耐えきれず爆発していた。

 

 

 「まあ落ち着けよ。確かに癪に触るけど、しょうもない嫌がらせだろ?気楽に行こうぜ気楽に」

 

 

 「アンタねえ・・・」

 

 

 「こんなちっちゃい事でカリカリしてたら老けるぜっ・・・!?」

 

 

 霊夢を揶揄うように魔理沙が笑い、壁に手を置いた直後。

 銅鑼の音が鳴り響き、金だらいが魔理沙の脳天を直撃した。

 

 

 「くっ・・・!」

 

 

 館の雰囲気に一切合わない爆音と気の抜けた金属音に霊夢は噴き出した。

 しかし当の魔理沙は崩れた帽子を直すと、にっこりと笑った。目は笑っていなかった。

 

 

 「・・・カリカリしてたら老けるんじゃなかった?」

 

 

 「溜め込んでたほうが老けるに決まってるだろっ!!」

 

 

 魔理沙が痺れを切らしたように八卦路を取り出し、通路の先へと向けて放つ。

 扉や壁はわざとらしく吹き飛び、何もない一本道が出来上がった。

 

 

 「・・・よし!さっさと元凶シメて帰るぞ!」

 

 

 「それは同感ね。・・・とはいえ、面倒なのがいるみたいね、前に」

 

 

 霊夢が目を細め、手に持つ幣に力を込める。

 その視線の先には一人、メイド服に身を包んだ銀の髪の少女が立っていた。

 

 

 「・・・それは、私の事かしら?」

 

 

 「アンタ以外に誰がいるのよ。と言うか、さっきから狙ってたんじゃないの?」

 

 

 「ああ・・・流石に気付いてたのね。てっきりそこまでボケ通すものだから、何も考えて無かったのかと思ってたわ」

 

 

 柔らかく、しかしどこか意地の悪さを秘めた笑みを浮かべ、メイド服の少女は笑う。

 明らかな悪意に霊夢は眉を顰め、魔理沙は軽く笑った。

 

 

 「おいおい、口の悪い挨拶だな。そんなんでメイドしてて大丈夫なのか?」

 

 

 「ええ。ある人曰く、「客は丁重に心を、招かれざる客は確実に心臓を掴め」と言われましたので」

 

 

 それでは口調も改めまして、と少女は笑い、数多のナイフを手元で輝かせる。

 

 

 「私、十六夜咲夜がお相手を務めさせて頂きます」

 

 

 その言葉に返事はなく、弾幕が返答となった。

 

 

 ____________________

 

 

 

 「・・・なんだこの館!人を殺す気か!」

 

 

 それからしばらくして、龍一も館の中へ辿り着き、激昂に近い叫び声を挙げた。

 無理もない。館で足を一歩進めるたびにほとんどの確率で壁から、廊下の先から突っ込んでくる大槍。歩くと唐突に縦横無尽にぶった斬らんと壁から飛び出すギロチン。床には竹槍の敷き詰められた落とし穴に、天井から降り注ぐ硫酸。挙げ句の果て鋼鉄製の部屋に閉じ込められ、四方八方から現れて、弾丸を撒き散らす砲口と、明らかに殺すことを目的とした罠に、龍一はかなりの嫌がらせを受けていた。明らかに怒るなどと言うレベルではない。

 もっとも、彼が嫌がらせで留めているのが異常なのだが。並大抵の妖怪ならば瞬く間に死ぬ。

 

 

 そんな彼は霊夢と魔理沙が咲夜と弾幕勝負を繰り広げている最中、明らかに潰すつもりで落ちてきた天井に道を阻まれ、舌打ちし、回り道を余儀なくさせられていた。

 

 

 「ったくなんなんださっきから、どこもかしこも罠仕掛けーッ!・・・てやがる。ワンパターンか!」

 

 

 龍一が派手な館の中でも一際目立つ大きな扉に手をかけると、最初のように高圧電流が流れ、龍一は感電する。

 しかしそれには大して怒ることはなく、扉の先が大図書館であると言うことに安堵の息を吐いた。

 

 

 「・・・やーっと休憩地点か。流石にあのバカタレも図書館は弄らんだろ」

 

 

 龍一は懐かしげに数に限りがないように見える本棚を眺めながらゆっくりと歩く。

 そして本棚のない少し開けた位置に置かれたテーブルと椅子、そしてそこに静かに座る少女の背中に対して、声をかけた。

 

 

 「よう、パチュリー。覚えてるか?」

 

 

 パチュリーと呼ばれた少女は振り向き、やや疲労の浮かぶ男の顔を見て、少し呆れたように笑った。

 

 

 「あら。・・・ええ。勿論よ、龍一さん。お疲れみたいだけれど、もしかして館の中で罠にでもかかった?」

 

 

 「嫌がらせか?全部知ってるだろうが」

 

 

 「ごめんなさいね。あの子がどうしても仕事納めに仕掛けたいって言うから、皆何も言わなかったのよ」

 

 

 「・・・あいつが仕事納めじゃなくて仕掛けたいって言ったら?」

 

 

 「好きにしろって言ったわね「なんも変わんねえなあ?」そうなるわね」

 

 

 薄く笑うパチュリーに、龍一は舌打ちを一つ、指も一つ鳴らし、その場に現れた椅子に座り込む。

 そしてしばらく息を吐いていると、パタパタとこちらへと走る足音が聞こえてきた。

 

 

 「龍一さん!お久しぶりであっ!?」

 

 

 「おー、久しぶぬおわっ!?」

 

 

 幾つかの本を抱えたまま走って来た少女、小悪魔は龍一に声をかけ、振り向かせたところで盛大にずっこけた。

 そして本は龍一の顔に突っ込んだ。

 

 

 「あ、あわわ・・・す、すいませんっ!!」

 

 

 「あー・・・良いよ良いよ。気にすんな。にしても、今日はツイてねえなあ」

 

 

 龍一は疲れ切った様子で立ち上がり、飛び散った本を拾い上げ、耳に手を当てている小悪魔に渡す。

 その様子をパチュリーは面白そうに眺めながら、ねえ。と声をかけた。

 

 

 「ん?なんだ?」

 

 

 「来てくれたのは嬉しいわ。でもここに来て、これからどうするご予定?」

 

 

 「ああ、そうだな・・・とりあえず数分ほど休憩したら、臨時の館の主人さんをしばきに行くつもりだな。どうせここはクソみてえな罠なんぞねえだろうし、しばらく休ませてもらいたいんだが、良いか?」

 

 

 それなら好きにどうぞ。とパチュリーは微笑し、小悪魔も龍一へ紅茶の入ったカップを出す。

 龍一は最初からこうだったらなあ。と叶うはずもない願望を呟いた。

 

 

 「ところで、貴方は元気にしてたの?」

 

 

 「あ、俺か?それなりに元気してるぞ」

 

 

 「あの人とも順調?」

 

 

 「まあ、多分な。長年バカやりすぎてなーにが順調かわからなくなってるけどな。パチュリー、お前の魔法の方は?」

 

 

 「ある程度は、ってところかしらね。まだ果てには至らないけれど、貴方や幸夜の使う簡易的なものと、その複合までは模倣できるようにはなったわよ」

 

 

 「上々だな。・・・ところで、霊夢や魔理沙がここに来ないってことは、誰かとやってんのか?」

 

 

 「多分咲夜でしょうね。あの子も中々やるようになったわ。ただね・・・」

 

 

 「ただ?」

 

 

 龍一の問いにパチュリーは頭を押さえて唸る。

 そんな姿に小悪魔は苦笑し、代わりに回答した。

 

 

 「幸夜さんにものすごく似たんですよ。戦い方が」

 

 

 「マジか・・・」

 

 

 「だから、中々その霊夢さんと魔理沙さんでも進まないと思いますよ」

 

 

 「なら好都合だ。先にしばいてさっさと終わらせるか。龍神様の愉快な日常話はまたの機会にな」

 

 

 「それは残念ね。書き留めるくらいには中々に好きだったのに」

 

 

 龍一が休息をやめ、椅子から立ち上がる。

 それと同時にパチュリーも立ち上がり、手にしていた本を閉じ、指を鳴らした。

 すると扉があった場所はただの壁になり、パチュリーの手には鍵が握られていた。

 小悪魔も耳に手を当て、何かを呟いていた。

 

 

 「それに悪いけど、好都合ってわけでもないかもしれないわね」

 

 

 「ごめんなさい、龍一さん」

 

 

 「・・・なーるほど?罠はないが、お前らがそもそも足止めか」

 

 

 どいつもこいつも、と龍一は笑い、両手を広げ、背後に大量の弾幕を召喚した。

 

 

 「仕方ねえ、愉快な話はできねえが、相手してやるよ」

 

 

 冷たい風が、図書館の中に入り込んだ。

 

 

 次回へ続く



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第百二十四話 メイド長、十六夜咲夜

 龍一がパチュリーと戦闘を始めてから少し。

 霊夢と魔理沙は目の前のメイド、十六夜咲夜を相手に、攻めきれ沙いる、さらに悪く言えば苦戦していた。

 と言うのも、咲夜の特技はナイフ投げ。それに目をつけた幸夜が、彼女のナイフ投げに軽い手を加えたのだ。

 

 

 「ただのナイフならまだマシだったかもしれないが、避けても邪魔だぜこのナイフ!」

 

 

 魔理沙が床に突き刺さったナイフに一瞥をくれる。

 ナイフは持ち手の部分に細いワイヤーらしきものが繋ぎ止められており、床に刺さったナイフのワイヤーは、同じく壁に刺さったナイフに繋がり、飛行や跳躍の妨害の為の即席の格子になっていた。

 ただ妨害になるだけならばまだ良かったのかもしれないが、咲夜自身はワイヤーを最大限に活用して来る。

 投擲したナイフのワイヤーを掴み、途中で止めて薙ぎ払う。ワイヤーを足場にして相手の弾幕を躱し、自分のナイフをワイヤーに当てて跳ねさせて軌道を変える。自分自身への攻撃はワイヤーの網で受け止める。

 キレのある弾幕に加えられたそれは、異変解決においての実力者である二人の動きを止めるのに、十二分に役割を果たしていた。

 

 

 「ほんっと、鬱陶しいわね!」

 

 

 「避けられない弾幕を打ってるわけじゃ無いってのが、また巧いとこ突いてるよな。さっき掠ったぜ」

 

 

 「褒めてもらって光栄ね。・・・最も、褒められるだけなら聞き飽きたのだけれど?」

 

 

 「言うじゃない。だったらそれだけじゃないようにしてやるわよっ!!」

 

 

 「それに関しては同感だな!」

 

 

 咲夜には異端の技を持つ師がいた。ただ、それは対峙する霊夢にも同じことが言える。

 霊夢の放った幾つもの陰陽玉、そのうち二つが異様な軌道を描き、咲夜の左右に飛ぶ。

 龍神から技を教わった霊夢に対抗する為、自らの研究と鍛錬の末新たな技を得た魔理沙も同様に、彼女の放つビーム状の弾幕がヒビ割れ、放射状にばら撒かれる。

 

 

 「へえ?」

 

 

 咲夜は笑みを漏らすと、放射状に飛んでくる弾幕を上空や地面に張ったワイヤーを飛び移るようにして回避し、次に攻撃してくるであろう左右の陰陽玉に目を向ける。

 おそらく同時に攻撃してくるか、弾幕を放つと想定してナイフを向けた瞬間、彼女は瞠目した。

 

 

 「あんまりすると疲れるんだけど、ね!」

 

 

 陰陽玉は弾幕を放つことも、自ら攻撃することもなく。更に一回り小さな陰陽玉を吐き出した。

 それもその数、合わせて二十。

 咲夜の周囲をほぼ完全に覆うそれらの陰陽玉が、一気に光線を放った。

 

 

 「チッ!」

 

 

 計二十の光線、更に上下の逃げ道を塞ぐ放射弾幕。

 咲夜は舌打ちを一つ。予定通りナイフを投擲、大元の陰陽玉二つを弾き飛ばし、能力を使用した。

 

 

 故に次の瞬間、霊夢と魔理沙は突然咲夜が背後に移動したように見えた。

 

 

 「はあ!?」

 

 

 「・・・おいおい、マジかよ」

 

 

 霊夢と魔理沙は再度驚愕の念に襲われる。しかし先ほどと違うのは、咲夜も同じ状況だと言うことだ。

 咲夜は未だ余裕そうに、しかし先程よりは緊張の見える顔で霊夢達に微笑みながら能力を行使しつつナイフを投擲していく。

 

 

 霊夢と魔理沙は視線を合わせると、一先ず弾幕に対抗するように左右に分かれて飛んだ。

 互いに攻め手に欠け、このまま手札の出し合いが続くかと思われた頃。

 

 

 「・・・なあ霊夢。三秒だけ咲夜の動き、止めてくれるか?」

 

 

 「何?さっきの瞬間移動の対策でも閃いた?」

 

 

 「まあな。霊夢が言う勘、私の推理が当たってりゃ、多分ガッツリ効くぜ」

 

 

 霊夢はそう。と短く答えると、先程咲夜を能力行使まで追い詰めた陰陽玉を五つ展開した。

 

 

 「二秒よ。流石にそれ以上は面倒」

 

 

 「仕方ねえな、それで良いぜ」

 

 ____________________

 

 

 同時刻、大図書館内。

 早々に龍一の膨大な弾幕にやられ、目を回している小悪魔を横にパチュリーはカードを翳した。

 

 

 「火符【アグニシャイン】!」

 

 

 パチュリーのスペルカード宣言と共に炎の渦が周囲へ拡散、龍一へと迫る。

 龍一は明らかに嫌そうな顔で指を鳴らした。

 

 

 「・・・邪魔くせえなあ。無明【深度八千の海の底】」

 

 

 ぞろり、と龍一の背後から、まるで闇を切り取ったような暗い色をした水球が現れ、炎の渦を消さんがために殺到した。

 水球は炎の渦に当たるたびに、唸り声に似た、やけに脳に響くを鳴らしながら蒸発、炎の渦ごと消滅した。

 やがて一つだけ残った水球は自然消滅し、大型の水で出来た音の主、鯨がゆっくりと飛び出すと、一気に炎の渦へとのしかかり、炎の痕跡は勿論、水の痕跡すら消し去った。

 

 

 「・・・流石幸夜の先生ね。スペルカード一つでもこんなに疲れるなんて」

 

 

 「狙ってるわけじゃあねえんだけどな。・・・まあ、完璧な龍神に成ろうとしてた時に作ったカードだから、ある程度は歪んでるだろうな」

 

 

 次、と龍一はスペルカードを翳し、宣言した。

 

 

 「理想【完成された演算式】」

 

 

 電子音が鳴り響き、パチュリーを囲うように数字型の弾幕が展開される。

 弾幕の形は8。直線的にしか飛ばない弾幕は中央のパチュリー目掛けて突進するたびに形を変え、数は減少し、やがて1になる。

 パチュリーは難なく弾幕を相殺、回避していたが、カウントが1になったその直後。全ての1がパチュリーの方向へ向き、一斉に先程とは比較にならない速度で襲いかかった。

 

 

 「ッー!?日符【ロイヤルフレア】っ!!」

 

 

 それに対し、中央から外へと円状に弾幕を放つスペルカードで受けようとするパチュリー。

 目論見通り弾幕は1を正確に正面から弾き、上手く受けることに成功していた。

 が、1は終わりではなく、0へと変化した。

 

 

 「あっ・・・!!」

 

 

 1から0へ。中央に大きな穴を拵えた弾幕は、パチュリーの弾幕をその穴で何事もなく通過させ、中央でスペルカードを構えていたパチュリーへと襲いかかる。

 観念したように嘆息するパチュリーだったが、突如感じた冷気と共に、自身の放ったものも含め、全ての弾幕の動きが固まった。

 それもただ固まったのではなく、凍りついているのだと目前まで迫った0から漂う冷気で勘づいた。

 己の熱量を持つ弾幕すら凍らされたと言う事実まで理解が及んだ彼女は、自然と言葉が漏れ出ていた。

 

 

 「・・・なに、が、起きたの?」

 

 

 それに答えたわけでは無かったが、結果的に龍一の絞り出した、呆れと緊張の混じった声が彼女への回答になった。

 

 

 「あーあー、最高にめんどくさいのが来た。・・・一応聞くが、テメエいつから沸いた?」

 

 

 再度、冷たい風がパチュリーの横を通り抜ける。

 次に聞こえたのは、先程までの空気に合わない、やけに気楽な声だった。

 

 

 「そりゃあ、龍一が正面入り口で美鈴と戦ってた時からさ。よーく見てたよ。・・・いやはや、我が息子がこちらを視認しているかもしれない。って想像をしてくれたおかげで見つけるのは楽だったね。ところで沸いたって失礼じゃない?蟲じゃないんだけど?」

 

 

 「その因果捻じ曲げるクソふざけた能力を知れば沸いたって言いたくなるだろうがよ。帰ってくれりゃ助かるんだが?」

 

 

 幻夜と呼ばれた男は顎に手を置き、少し唸ったのち、首を横に振った。

 

 

 「うーん・・・ダメだね。そのセリフを言う前に「幻夜が龍一の邪魔をしに来た」「幻夜がパチュリーを助けた」って認識が入ってきた。だからその通りに動くとしよう」

 

 

 「んじゃ、早々に負けるって俺が考えりゃ、負けてくれるんだな?」

 

 

 「いや、それはないね。特大の認識が僕を覆ってる」

 

 

 巨大な氷の結晶を背後にいくつも浮かべながら、幻夜は龍一に笑う。

 

 

 「僕が滅多に負けないって、僕の大切な人達が信じてるから」

 

 

 周辺一帯が、凍土となった。

 

 

 次回へ続く




 無明【深度八千の海の底】
 龍一の所有するスペルカードの一つ。計十個の大型水球を放ち、そこから噴き出す小型水球が対象を追尾する。どんな弾幕でも大型水球に命中した場合、大型水球は霧散する。ただし一つでもスペルカード終了直前に残っていた場合、鯨が出現、周辺一帯を押し潰す。
 発動中鳴り響くのは鯨の鳴き声。
 龍神たれと己を殺し、先へと進んでいたが、誰にも辿り着くべき先が分からないと言うことを知ってしまった龍一の精神状態と、先の見えない深海とが混在したカードになっている。
 
 理想【完璧な演算式】
 龍一の所有するスペルカード。8の形をした弾幕が対象を囲むように出現、数発が対象へ直進するが、直進するたびに数字は7、6と減少する。カウントが1になった瞬間一斉に対象へ直進。直後に0へと形を変える。
 8から始まるのは、龍一が龍神たれと自己を完璧なものにしたかったが、理想の8割程度にしかなれなかった、という皮肉から。


 龍一は「龍神に成ろうとしていた時」と「龍一で在ろうと決めた時」の二種の精神状態でそれぞれスペルカードを制作した。そのため陰鬱な弾幕と軽快な弾幕の二種が存在する。
 精神上、「龍神に成ろうとしていた時」のスペルカードの方が攻撃性が高い。
 


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第百二十五話 万能の無能

 なるべく早く(大嘘)
 このサイトに来られるのが2ヶ月ぶりとか頭おかしいんじゃないですかね。
 何十年かかろうが死なない限り書き続けますので、今後ともよろしくお願いします。


 紅魔館、凍土と化した大図書館内。

 氷を背後に出したまでは良いものの、構えることもなくのんびりと立つ幻夜に、龍一は小手試しと言わんばかりに打刀を翳し、横一文字に薙ぎ払った。

 

 

 「ほいっと」

 

 

 幻夜は避けることもなく、その刀を身に受ける。

 が、刀は幻夜の体を割くことはなく、ただ空を切った。

 

 

 「いやあ、相変わらず凄いね。これを傷一つなく受け止める壊夢はなんなんだって話になるよね」

 

 

 「そうだな」

 

 

 龍一が横に凪いだ刀はいつの間にか拳銃へと持ち替えられており、鬼や天狗ですら撃った反動で体が浮く威力の弾丸を片手で放った。

 最早大砲と呼ぶべき破壊力の弾丸は幻夜の額に吸い込まれるように飛び、そして再度幻夜に当たる事なく背後の壁どころか、館の外壁まで容易く破壊した。

 

 

 「・・・こっわ。え、ねえ、僕が失敗したら死ぬのわかってる?」

 

 

 「ああ。しないだろ?」

 

 

 「まあね」

 

 

 ひょい、と幻夜はいつの間にか手にしていた短槍を龍一に向けて突く。龍一はそれを蹴り上げ、幻夜の突き出した腕を掴み、床に放り投げた。今度は幻夜は何も出来ず、地面に叩きつけられた。

 

 

 「ぐえ。・・・ちょっと、あんまり痛い技仕掛けるのやめてくれない?」

 

 

 「んじゃなんで来たんだよ。時間稼ぎするならするで、もうちょっと真剣に止めろよ」

 

 

 「いや・・・ほら、僕ってあの子と幽香の評価的に優しいお父さんじゃん。息子、娘のためならなんだって出来るような。でも世間的な評価は龍一に向けてここ数千年牙を剥かない部下って評価を受け始めたたんだよ。・・・ただの優しい妖怪になってるんだよここ最近の評価。もうちょい凶暴だって印象を植え付ければ良かった」

 

 

 「・・・便利だと思ってたが、不便な能力だな」

 

 

 「まあね。人格が他者の評価を丸ごと受けるってのがね。・・・後悔はしてないよ?」

 

 

 「そうだろうな。じゃ、これでどうだ」

 

 

 龍一はおもむろに拳銃を壁に向ける。その行動になんの意味があるのか、パチュリーと少し前に目を覚ました小悪魔には分からなかった。

 だが、幻夜は。息子より二手三手先を読める男は理解した。

 銃口の方角は、霊夢達が戦闘している廊下へと向けられている。

 

 

 「なるほどね」

 

 

 幻夜は龍一の拳銃へと人差し指を弾く動作をし、それと同時に幻夜の指先の空気が凍結、小さな氷の弾丸が龍一の拳銃を弾いた。

 しかし既に引き金は引かれ、再度大砲並みの音を響かせ、壁を破壊しながら霊夢達へと直進した。

 そののち、破壊された壁は幸夜が何か仕込んでいたのか、自動で新たな壁がシャッターのように降り、修繕されていった。

 

 

 「・・・今、俺は霊夢と魔理沙を相手してる奴に、意図して撃った」

 

 

 「その子は偶然女の子だった。だから僕はあの子を助ける為に、君を止める。そう、僕は縁、女の子を見える範囲で命の危機に合わせない。・・・これ相当なこじつけだけど、そもそも僕に騙されてるの分かってる?「幻夜と対決しなければここから移動できない」って認識が発生してるのはわかってるよね?」

 

 

 分かってらあ、と龍一は笑い、幻夜に剣先のように尖った視線を向ける。

 

 

 「だから先に進むためにテメエを倒すんだろうが。お膳立てはした。早く来い」

 

 

 「・・・勿論。この幻夜、時期が来るまで君を足止めする」

 

 

 ____________________

 

 

 幻夜が龍一と正面からぶつかるほんの少し前。

 霊夢の放った自律軌道を描く弾幕が咲夜を捉え、魔理沙から注意を離し始めていた。

 その霊夢の少し背後で魔理沙は手を後ろで組み、その手には八卦路を構えている。

 おそらくこの場に龍一がいれば、顔を顰めて弾幕全てを薙ぎ払う選択をしたであろう密度の弾幕は、咲夜に能力を使わせる事は簡単だった。

 そして、手元のナイフが残り数本になった咲夜は、仕切り直しも兼ねて能力を行使する為に、僅かに視線を手元に落とした。その瞬間。

 

 

 「貰ったあっ!」

 

 

 カッ、と魔理沙の突き出した八卦路が光を放ち、光線が炸裂する。

 しかし咲夜は既に能力を行使。つまるところ、時を止める事に成功していた。

 霊夢は弾幕に意識を割き、魔理沙は正面に集中している。このまま二人の周囲に弾幕をばら撒けば勝利はほぼ確定していたが、それは不可能だった。

 十六夜咲夜は安堵する暇もなく、能力を直ちに解除するしか無かった。

 

 

 「くうっ・・・!!」

 

 

 それどころか、咲夜は何かを喰らったように、顔に手を当て、背後へと後ずさった。

 だが、彼女はナイフを何も見ずに標的に当てることなど造作もない。

 故に、時間停止から解除され、先程と動きも意識も変わらない霊夢と魔理沙に命中する軌道で、ほぼ勝利への王手をかけるナイフを全て投げた。

 ただし、この状況で彼女の師匠が咲夜の立場だったならば、一本ずつしか投げなかった。

 それは、何が起こるか分からないから。

 

 

 「取っ・・・」

 

 

 轟音と共に廊下の壁を何かが突き破り、霊夢達と咲夜の間を凄まじい衝撃が通り抜ける。

 それは、図書館から無造作に龍一が放った弾丸だった。

 しかし彼女達はそんな事を知る由もなく、咲夜の投擲したナイフが全て衝撃であらぬ方向に飛ばされた、という結果のみが残った。

 

 

 暫し呆然とする三人だったが、やがて咲夜は自嘲の笑みを浮かべ、両手をヒラヒラと振った。

 

 

 「降参するわ。降参」

 

 

 「っ、はぁ!?いや、そりゃ助かるけど、なんで!?」

 

 

 「なんでって、もう出せるものが無いのよ。終わりよ、終わり」

 

 

 「・・・今のがなけりゃ、私達は負けてたと思うが?」

 

 

 「それは結果論。それに、これだけ仕込んで万策尽くしてやっと互角よ?今の意味不明な何かで戦意なんて吹き飛んだわよ」

 

 

 「いや、まあ。私も今の状況であんなのに切り札潰されたら、嫌になるぜ」

 

 

 「でしょ?」

 

 

 ほんと何よあれ。とぼやきながらもあっさりと敗北を宣言する咲夜に魔理沙は苦笑し、霊夢は目を見開いた。

 

 

 「・・・それじゃ、先に進んで良いのね?「ええ、どうぞ」ありがと。ところで魔理沙、あの切り札ってなんだったの?」

 

 

 「んあ?ああ、あれか?ただのマスタースパークの火力を極限まで弱くしただけの目眩しだぜ。・・・あのタイミングで、咲夜だっけ?「ええ、合ってるわよ」咲夜の能力は分かってなかった。それで、もし瞬間移動なら私達の背後に回るだろうし、もしそれ以外で動きを止められる手段があるとしたら、時間かもなって」

 

 

 「それで目眩し?・・・ああ、成る程。時間が止まったなら、そのまま眩しさが残るって考えたのね」

 

 

 そう言う事。と魔理沙はニヤリと笑い、しかし次には肩をすくめた。

 

 

 「ま、ただの一点読み。ダメならダメでまた考える必要あったけどな」

 

 

 「あんたねぇ・・・」

 

 

 「それよりさ、咲夜「ん?何?」さっき、意味不明な何かって言ってたよな」

 

 

 「ええ。それが?」

 

 

 「んじゃ、私達以外に誰か入ってきたって事か?」

 

 

 「そうね」

 

 

 「そうね。・・・って、それで良いのか?」

 

 

 「ええ。ここまで言うと仕込んだようで悪いのだけれど、私が貴女達二人を相手するのは事前に言われていた事で、おそらくもう一人程度侵入者が出る事も、あの人、そうね、私の先輩は予測して待ち構えてるのよ。だからおそらくだけど、二人は落とし穴か何かで必ず二人で行動させられた、みたいなこと、なかった?」

 

 

 「・・・ありまくりね。すると何?あんたの先輩は全部ここまで、私達が二人で、なおかつこの場所まで来る事を予想してたの?」

 

 

 「ええ。私がナイフをトラップに仕立て上げたように、入念に、緻密にね」

 

 

 「最悪だなそいつ。よっぽど性格も悪いんだろ?」

 

 

 「ええ。戦闘になると最悪よ。何をしても勝とうとするから、あの人は。・・・色々とひどいことになるのよね」

 

 

 咲夜は少し誇らしげに言い、苦笑する。

 霊夢と魔理沙は互いに顔を見合わせると、軽く笑った。

 

 

 「それで?私達は次どう行けば良いの?」

 

 

 仕込まれてるんでしょ?と霊夢はやや諦めたように肩をすくめ、それを見た魔理沙がやれやれと首を振る。

 咲夜はそんな二人に頷き、頭を下げて一礼した。

 

 

 「勿論です。この先は対化け物専用の罠ばかりですので。当館のメイド長、十六夜咲夜が責任を持って、御二人を目的地まで安全にお連れ致します」

 

 

 「よろしく・・・待って、化け物専用?」

 

 

 「ええ。先輩曰くもう一人の侵入者専用らしいわよ。ほら」

 

 

 床に落ちたナイフを拾い上げ、咲夜は進行先の通路へと軽く投げる。

 ナイフは途中まで難なく宙を舞ったが、突如上下左右から高速で突き出た壁に押し潰され、床に出来た落とし穴へとただの鉄の塊は吸い込まれていき、何かに切り刻まれる音とともに消えていった。

 その明らかに殺す事に重点を置いた罠に、霊夢と魔理沙は乾いた声を漏らした。

 

 

 次回へ続く

 




 【万物を欺く程度の能力】について。
 他社の想定する、彼なら出来るかもしれない、彼ならやるかもしれない、もしかしてこうなってしまうのでは、などといった思考に現れる予想を自動的に具現化、ある程度を選んで具現化出来る能力。
 周囲の評価、つまるところ予想をそのまま受ける事になるので、万が一世界中の人間が幻夜は腕が四本ある、と考えると、いつの間にか腕が四本になっている。その中から四本の腕はそれぞれ別の生物の腕、機械の腕、と言った認識を選び、適応させる事が可能。
 自身を信頼し、また自分自身も信頼する相手の予想ほど効力が強く本人の意思もあり具現化されやすい。
 そのため、彼は一番最初に溺愛した人間の考えた通り、永久に優しい父親であり続ける。
 
 逆に自己のイメージを周囲に押し付けることも可能であり、幻夜はその能力を大昔から使用し続けている。


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第百二十六話 幻日

 
 新年初投稿となります。
 まあ二十日吹っ飛んでるわけですが。


 ゆっくりご覧下さい。


 概念の枷が外れ、跳躍した幻夜と龍一が空中で激突する。

 龍一の膝や肘を主に使用した抉り込むような一撃は、それを鏡で跳ね返したように、幻夜に同じ部位で受け止められた。

 龍一は自身が作り上げた空気の壁を蹴って加速し、幻夜は空気中の水蒸気を凍らせ、小さな氷を蹴って移動する。

 

 

 「相変わらずなんでも出来やがるなお前は!これ見よがしに同じ場所で防御しやがって!」

 

 

 「鏡がどんな動作にも合わせられるんなら僕も合わせられる。結構不便だけどいいよ、決まり切った概念が自分にかかるのは」

 

 

 それに、と続けながら地上に降りた幻夜は巨大な剣、それも壊夢が持つような剣を何処からか生み出し、片手で軽く振るう。

 

 

 「僕の身体能力がどこまでかをほとんどの人が知らない。壊夢並みかもしれないし、能力で物の重さを誤魔化すひ弱かもしれない。だから両方できる」

 

 

 幻夜は重さを無くした大剣を跳躍しながら軽く振り上げ、叩きつける瞬間、重さを元に戻す。

 質量の塊が龍一に振り下ろされ、龍一は飛び退く、が、地面に叩きつけられた大剣は衝撃波で周囲を吹き飛ばした。

 

 

 「っー!?」

 

 

 衝撃は大図書館中に及び、小悪魔とパチュリーも吹き荒れる本と棚から身を守るように手を翳し、暴風の中辛うじて目を開ける。

 しかし風が止んだ後には、何一つ散らかることもなく片付いていた。

 

 

 「荒らすな、馬鹿タレが」

 

 

 時間操作。図書館内の生物を除いた全てが元の状態に戻った。

 風切り音と共に、龍一は抜き身の打刀を取り出す。

 幻夜は大剣を木の枝のように、事実木の枝程度に軽くなっている大剣を振り回しながら、少し微笑んだ。

 

 

 「久しぶりじゃん、それ使うの」

 

 

 「あっちが危なすぎてここじゃ使えねえからな。そもそもお前らにはよく使うが、ありゃ本来禁じ手だ。それに、紫を見てたら案外こっちも相応に使える気がしてな」

 

 

 準備もなく龍一は最高速で飛び出し、幻夜へと刀で斬りかかる。

 幻夜はそれでも大剣を盾にするように構えた、が、大剣はいとも容易く両断された。

 

 

 「お?」

 

 

 その後も素早く振るわれた刀は大剣を微塵に刻み、幻夜の右腕へと振り下ろされる。

 幻夜は瞬時に存在を曖昧にして実体を無くしたが、だからなんだと言わんばかりに右腕は斬り飛ばされた。

 

 

 「やっぱりな。なんでも斬れる刀なんだから、こうしねえと」

 

 

 「へええ、風魔の居合い、侵二の捕食、壊夢の拳すらスカせる技を斬れるってのは凄いね。何したのさ?」

 

 

 右腕から出血はなく、飛んだ右腕が吸い寄せられるように幻夜へと近寄り、切り口同士が結合されながら、幻夜は龍一の刀を指差した。龍一は少し誇らしげに、簡単さ、と返した。

 

 

 「紫は境界を操ることができる。だから固有の空間、境界の狭間も持てるし、空間をつなげる、なんてこともできる。多分物の創造と破壊もキャパシティさえあれば可能なはずだ。・・・だったらアイツの隣に立つ俺が出来ないわけないよなあ」

 

 

 再度龍一は刃を輝かせ、幻夜の首と胴、右足を分断する。

 幻夜はそれでも結合し直すが、明らかにヘラヘラとした表情は抜け始めていた。

 

 

 「物がある、ない。もしそれを調節し、なおかつ可視化できるなら、この刀の力も合わさって、なんでも斬って壊せる。だろ?」

 

 

 「要は視えてるんだね?」

 

 

 「ああ。よーく視えてる。どこを斬ったらお前の体を分断できて、有効な致命傷を残せるか。もう出し惜しみする意味もないんでな」

 

 

 「・・・やっぱあれだね、吹っ切れてから強くなったね」

 

 

 「そりゃあそうだろう。俺は世界より紫を優先したんだ。何に配慮する必要がある」

 

 

 「・・・いいね、凄くわかるし、羨ましい」

 

 

 幻夜の顔から笑みが消え、漂っていた陽気さが凍りつく。

 龍一も再度白刃を構え、幻夜の動きを探る。

 

 

 「だからこそ、僕もあの子達の事を何よりも優先する」

 

 

 幻夜は龍一へと一歩足を踏み出し、形を無くし、居なくなった。

 そして数瞬ののち、真正面から龍一に近づいていた幻夜は、龍一の腹部をにこやかな笑みと共に氷で刺し貫いた。

 

 

 「・・・何しやがった」

 

 

 「簡単なことさ。消した。今常世にいる全ての生命体から、それこそ君も幽香も関係なく、僕の記憶と実体を。だから今僕が君の体を貫くまで、確かに僕は存在してなかった。だから斬れる斬れないの境界はおろか、消えてた時の記憶もないでしょ?一歩踏み出した後には刺されてた。違う?」

 

 

 「・・・この世全ての生物の記憶を曲げたんだ。そのまま消えっぱなしかもしれなかったぞ?」

 

 

 「・・・いや、それはない。常世に僕の記録がなくても、向こうに一人、僕のことをお父さんとして残してくれている子がいる。だから必ず帰ってこれる。大事な命綱はちゃんとある」

 

 

 「そうか、お前、ずっとその因果を抱えてたのか」

 

 

 自分に刺さった氷を無理やり引き抜き、傷を修復する龍一は優しく笑う。

 幻夜は誇らしげに、しかしどこか困ったように笑う。

 

 

 「うん。僕はいつまでもあの子のお父さんだから」

 

 

 ____________________

 

 

 小悪魔からすれば、何が起きているのか分からなかった。

 幻夜とは過去に数度面識があり、幸夜の父親なのは知っている。その彼が、先程から気がついた時には龍一へと攻撃を加えていたり、遠くに離れている。

 

 

 速いと言うよりは、咲夜の時止めのような違和感。だがそれに怯むことなく、龍一は攻撃を避け、あらぬ方向に斬撃を放つ。

 到底戦闘しているとは言えない光景のような視界に困惑しているが、主人であるパチュリーも同様らしい。攻撃が及ばぬよう防護壁は築いたものの、呆然としている。

 次元が違う。と呟きそうになったのも、仕方がないと小悪魔は思った。

 それ程までに何をしているか分からないが、熾烈な勝負が繰り広げられているのは、自分が動けないことで確定していたから。

 

 

 「・・・そろぼち鬱陶しいぞ幻夜ァ!」

 

 

 「性分だから勘弁してほしいなぁ!?」

 

 

 姿形はおろか、小悪魔の記憶内の幻夜のイメージでさえ歪みきった幻夜の、おそらく手だと、なんとなしに脳が辛うじて理解したそれが、龍一の喉笛に迫る。

 龍一はその手を掴み上げると、地面へと叩き付けた。

 

 

 『・・・おい、聞こえてっか、小悪魔』

 

 

 ふと、耳鳴りのように声が響く。

 はっ、と小悪魔は耳に手を当てると、声は強くなった。

 

 

 『聞こえてるっぽいな。さっきから何回か連絡も通してくれてたみたいだし、助かったぜ。そんで報告だ。・・・お嬢様と妹様が負けた。見た限り本気で相手したようだったから、まさかの結果だ。つうワケで、俺は予定通りトラップを異変解決者のお二人に注ぐ。そこで質問なんだが、先生は何してる?予想してたより十分も遅い』

 

 

 「えっと・・・先程からここにいらっしゃるんですが、私とパチュリー様は負けました。今は何処からか現れた幻夜さんが相手されてます」

 

 

 『げんっ・・・マジぃ?』

 

 

 「先程からその状態が続いてます。何が何やら・・・」

 

 

 『・・・了解。今、通路に仕掛けといたもの全部外しといたから、後は親父に退いてもらいたいんだが・・・どうやって伝えるかなあ』

 

 

 「いいよ」

 

 

 「ぴっ」

 

 

 短い悲鳴と共に、死んだ。と小悪魔は思った。

 背後に気配はなく、まだ龍一が動いているのは間違いない。

 それでも恐る恐る背後を向くと、幻夜はやはり龍一への攻撃の手を止めていなかった。

 ただ、こちらを向いてはいたが。

 

 

 『・・・小悪魔共々心臓止まったかと思ったわ。んじゃ言えば止めてくれるんだな?』

 

 

 「・・・そりゃあね?息子の晴れ舞台な訳だし。小悪魔も悪かったね。急に声出して。でも龍一に隠れてこっそりやり取りするのは感心しないね、僕は。何使ってるの?」

 

 

 『・・・小悪魔に小型マイク持たせたんだよ。「凄いじゃん」・・・親父は当然のように電波に入り込むな』

 

 

 「そりゃ失敬。じゃあ今の喧嘩、止めるよ?」

 

 

 『・・・正直助かる。頼んだ』

 

 

 直後、なんのつもりだ、と背後で龍一が問いを幻夜に投げるあたり、本当に動きを止めたのだろう。

 幻夜は陽気さを取り戻した声で返す。

 

 

 「いやね?・・・もう龍一を止める必要が無くなったからね」

 

 

 「・・・ああ、そうか。してやられたワケだ」

 

 

 どこか諦めたように、それでも何処か、実は期待していましたと言うような顔で、龍一は武装を解いた。

 

 

 「何処だ」

 

 

 「多分ねぇ・・・こっから先のあの辺?」

 

 

 「了解した」

 

 

 龍一は飛び上がると、空を蹴って開いた扉から消え去っていった。

 幻夜はやれやれと首を横に振り、誰に言うでも無く、空へと呟いた。

 

 

 「・・・勝てなくても誰も責めない。けど、頑張りなよ」

 

 

 『言われなくても』

 

 

 次回へ続く

 

 

 





 ありがとうございました。

 次回もお楽しみに。


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