ナザリック地下大墳墓の支配者 (ロウド)
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死の世界の支配者
VRMMO-RPG「ユグドラシル」。
北欧神話を題材としたオンラインゲームであり、その稼働年数は十二年。
最大の売りは、その高すぎる自由度。
広大なマップを旅するのもよし、モンスターを倒すだけもよし。
外装も自由にいじれるため、大人気を博したゲームだ。
そして、ユグドラシルで最も有名なギルドがあった。
そのギルドの名は「アインズ・ウール・ゴウン」。
かつて千五百人の大侵攻をギルド拠点「ナザリック地下大墳墓」にて迎え撃ち、逆に殲滅したユグドラシル最強のギルドだ。
だが、それも今や昔。
ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」もメンバーは既に四人だけとなり、ログインしているのもギルド長であるアンデッド系魔法詠唱者の最上位種族である
「はぁ……」
モモンガは、侵入者は誰も到達したことのない第九階層の円卓でため息をついていた。
因みに、モモンガの見た目は、黒いローブを身にまとった白骨死体を思い浮かべれば近い。
「毎日毎日、狩場と拠点の往復ばっかり。疲れたなぁ……」
非公式ラスボスだとか、魔王とか呼ばれているモモンガだが、それはただのロールプレイであって、本来は優しくおとなしめな性格なのだ。
そして、弱音を吐くこともほとんどない。
そんな彼が弱音を吐いたということは、非常にまずい状況なのだ。
例えその原因が、ユグドラシルのサービス終了が決定したことだといっても。
「……玉座の間に行こう」
ほとんど行かない拠点の最深部。
玉座の間へと、モモンガは歩いて行った。
「おぉ……」
巨大な扉が開き、モモンガは思わず声を上げた。
真っ赤な絨毯が奥まで伸び、七色に光るシャンデリアが等間隔に天井で光を放っている。
天井付近から床付近まで伸びる旗はギルメンのサインが入っているものだ。
そして、最奥部。
巨大なアインズ・ウール・ゴウンのギルドサインが入った旗が掲げられており、その前には巨大な水晶から切り出した玉座が置かれていた。
モモンガは絨毯を踏みしめながら最奥部の玉座まで行くと、腰を下ろした。
「あぁ、やはり。ここからの眺めは素晴らしい」
そう呟き、心が癒えるのを感じながら、ふと横に目を向ける。
そこには、長い黒髪に白い巻角。
腰には黒い翼が生えた絶世の美女が立っていた。
守護者統括アルベド。
拠点の最上位NPCだ。
「……全く、誰だ?」
そしてその手には四十五cm程の黒い短杖が握られていた。
それは
全部で二百しかないそれは、最多所持数を誇るアインズ・ウール・ゴウンと言えど、勝手に持ち出すことは許されていない。
少なくとも、多数決で可決されなければならない決まりだ。
「まぁ、大体予想できるけど……」
モモンガはそう呟き、コンソールを操作してアルベドから真なる無を取り上げる。
そしてしばらくそのまま玉座に座っていると、不意に立ち上がった。
「……よし、これからも頑張るぞ」
そう呟き、ふとあることを思い出した。
『一番最初のド○クエはラスボスの玉座の下に階段があって、その先に本物のラスボスがいるんですよ!』
ペロロンチーノが大変珍しく、エロゲー以外のゲームの話をした時の言葉だった。
「玉座の下、か」
自分は非公式だがラスボスと言われている存在だ。
「ははは、これで合ったら大爆笑ものだな」
冗談のつもりで、アルベドを退かし、玉座の横に移動する。
「よいしょっと」
そして、思いっきり押した。
すると、ポップ音が鳴り、目の前にウィンドウが出現した。
『緊急クエスト「ヘルヘイムの支配者」を受託しますか?』
「ほ、本当に出た……」
一瞬、呆然とするがすぐに我に返ってクエストを受諾した。
すると、玉座が動き出し、その下に封印していた階段が姿を現す。
その先は暗闇に包まれており、それを見通すスキルを持つモモンガですら見通せない。
こういう特殊エフェクトがあるところは、相場が決まっている。
ボス部屋かその直前の部屋だ。
「……行くか」
日を改めるなどを考えたが、今やらずしていつやると己に喝を入れ、階段を下りていった。
下りると、そこは地下神殿の通路で、等間隔に柱と火が灯った燭台が並べられており、その奥に錆び付いた金属の扉があるだけだった。
モモンガはそのまままっすぐ行き、扉にたどり着く。
「罠は無しか。無いと余計に厄介なボスって事なんだよなぁ。あぁ、本当に……」
経験からの憂鬱を飲み込み、モモンガは扉を開いた。
中は真っ暗で、室内を見ることは叶わなかったが、予想していたことなのでモモンガは大して間を置かずに扉をくぐる。
すると、扉が一人でに閉まると、青紫色の炎が灯り、部屋を照らしていく。
そして。
「なるほど。支配者というのはこういうことか」
古びた呪符が巻き付き、それが天井近くまで伸びており、まるで写真で見た日本の封印のようだ。
そして呪符が巻きついているのは、骨だけでできた巨大な二足歩行の龍。
古参の廃人プレイヤーであるモモンガですら見たことのないモンスターだ。
眺めていると、イベントが発生したのかボロボロと呪符が焼け落ちていき、封印が解かれた。
「我が名はヘル。地獄の女神にして、ヘルヘイムの支配者である」
「凝った演出だな……抜かせ。我はこの墳墓の支配者たるアインズ・ウール・ゴウンの王。モモンガだ。この世界を支配しているのが貴様のような古ぼけた骨董品だと?なら、お前を倒し、この世界をも支配してやろう」
支配者ロールをしながら、そう言うが、相手はNPC。
モモンガの言葉を無視し、組み込まれた言葉を紡ぐ。
「我が封印は解かれり。そして世界に死を撒き散らさん……まずは貴様から死を与えん……!」
「来い。封印されし愚者よ」
こうして、戦いの火蓋は切って落とされた……。
「オォオオオォォォォォオォ……」
ヘルが怨嗟の声を上げながら砕け落ち、そして消える。
「っはぁー!あっぶな!回復アイテムも底ついた!やっば!」
モモンガはギリギリではあるが、勝利を収め、一息つく。
ポップ音が鳴り、クエストの終了と報酬がウィンドウに現れる。
「えーと、職業ワールドロード・オブ・ヘルヘイムへの転職可能。アイテムでコア・オブ・ヘルを獲得……これだけ?」
たった二つの知らせだけで、ウィンドウは消える。
「……まぁ、職業とアイテムを見てからか」
まずは、職業の方を見る。
モモンガはコレクターなので、正直アイテムの方が楽しみなのだ。
そして、モモンガは楽しみは後にする性格が故の行動だった。
「えーと、何々?転職条件はヘルヘイム最大級のダンジョンをギルド拠点とするギルド長であることと、アンデッド系の異形種であること、そしてレベル100であること……はぁ!?」
モモンガは何度も確認するが、全て同じことが書かれている。
「ま、まさかレベルキャップ突破なのか!?マジか!よっしゃあ!」
モモンガは思わずガッツポーズをし、よく考えずに転職ボタンを押した。
そして、ステータス欄を開きレベルが101なのを確認した。
「よしよし、レベルキャップを突破してるな。これでレベルを上げれば……ん?」
ステータス欄の端っこに、何やらコインのマークがあるのに気づいた。
「なんだこれ」
それをタップすると、三つの大きな枠が出現し、その内の一つにモモンガの姿があり、一つには男の、一つには女の基本モデルがあった。
「えーと……まさか、外装チェンジ機能?マジかよぉおおおおおおお!」
今日一番のモモンガの慟哭が響いた。
「俺、外装のつくり方なんて知らないぞ!?どうやって……あ」
そしてモモンガはまた、ふと思い出した。
『モモンガさんも外装変えようよー』
『そんな、急に言われましても……外装データもないですし』
『そういうと思って……はい!外装データ!』
『え。これどうしたんですか?ホワイトブリムさん』
『ふっふっふー。モモンガさんにも外装を変えることを楽しんで欲しくてね』
『あぁ、それはありがとうございます。見ても?』
『もっちろん!』
『わぁ、いっぱいある……って、なんで女の子もあるんですか!?』
『つい』
『というか、男も女も数十はあるように見えるんですけど!?』
『つい』
『ついで済む量じゃないですよね!?』
『たまにはメイド以外もいいよね!』
『ちょっこの人、自己崩壊してる!大丈夫か!?』
「そうそう。あの後、ホワイトブリムさんが五徹してたのが分かって、ログアウトさせて休ませたんだよなぁ」
モモンガは懐かしむように頷き、外装の問題は片付いたと独りごちる。
「他にはっと」
ワールドロード・オブ・ヘルヘイムの持つスキルなどを確認し、モモンガはガッツポーズをした。
「最高だ。ワールドチャンピオンと同等のクラスを手に入れるとは、素晴らしい」
すっかり上機嫌となったモモンガはお楽しみのものを見る。
「コア・オブ・ヘル。どんなものかなっと……んん?」
説明欄を見て、モモンガは愕然とした。
「ヘルを召喚するだけ、だと?」
ヘルを召喚すると言うのは予想通りだった。
だが、職業があれほどのものだったのだ、他にも何かあると思うだろう。
緊急クエストのボスと言えども、モモンガ一人で勝てるほどの相手を召喚してもなぁと思うモモンガ。
「……拠点NPC枠じゃないし、レベル上げも兼ねて連れて行くか」
それに、ヘルは恐らく一点もののモンスターだ。
コレクターであるモモンガはレアを手に入れたと思うことにして上機嫌にアイテムを使用した。
すると、目の前にウィンドウが出現し、外装を変える欄が出現した。
「こいつも外装を変化させることができるのか」
少し驚きながらも、モモンガは少し考えて、とりあえず外装データを取りに行った。
「よし、これでいいな」
色々と弄りまくり、ヘルを完成させるとモモンガは終了ボタンを押した。
すると、目の前に一人の少女が現れた。
長く鮮やかな紫色の髪に血のように赤黒い瞳をした美少女。
それがヘルに設定した外装だ。
「次に俺は……」
男の外装は、優男風の長い紫色の髪に血のような赤黒い瞳をしたさわやか系美青年。
女の外装は、長く鮮やかな紫色の髪に赤黒い瞳のヘルを成長させたような美女を設定する。
「最後にヘルの設定をっと」
最後にヘルの設定を書き込んで完了する。
「ふぅ……思ったよりも時間がかかったな。今日はこれで終わりにしよう」
そして、その日はログアウトした。
その後、モモンガは拠点の維持費とレベル上げを兼ねて毎日ヘルを連れて様々な場所へと向かった。
ヘルは召喚したとはいえ、特別なようで、最初はレベル1。
その後、どんどんとレベルが上がって行き、最終的にはレベル125となった。
モモンガ自身は様々な職業を手に入れ、レベル150まで上がり、最終日を迎えた。
「楽しかったなぁ……」
ユグドラシル最終日。
多くのかつての仲間たちが訪れ、モモンガが手に入れた職業とヘルを見て盛り上がり、そして去っていった。
最後の仲間を見送り、モモンガは専用武器として作られたギルドひとつにつき一つしか持てないギルド武器を片手にオーバーロードの姿で玉座に座っていた。
横にはアルベドとヘルが、玉座へと至る階段の下には執事であるセバスとその部下戦闘メイド「プレアデス」の面々が跪いている。
残り時間も既に十数秒。
(さらばユグドラシル。さらばナザリック地下大墳墓。さらば……アインズ・ウール・ゴウン)
そして……。
「お兄ちゃん?」
「え?」
死の世界の支配者は降臨した。
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