色あせぬ記憶の空 (solaris2代目)
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プロローグ

初めましての方は初めまして。そうでない方は……お久しぶりです!
数年前に「超次元ゲイムネプテューヌmk2 サイヤ人の力を持つ者」という題でネプテューヌ小説を執筆していたsolarisでございます。
某艦船擬人化ゲームのコラボでネプテューヌへの想いが再熱し、いつの間にか書いてしまいました。
以前の作品の要素を取り入れつつ、更に面白く書いていきますので、どうかよろしくお願いします。


 ゲイムギョウ界歴20xx年――ゲイムギョウ界は、滅亡の危機に瀕していた。

 

「……皆さん、準備は宜しいでしょうか?」

 

 プラネタワー。ゲイムギョウ界に存在する4つの国の1つ、プラネテューヌを象徴する巨体な建造物。その中にある教堂で、イストワールは5人の女神に問いかける。

 

「だ、大丈夫です……」

「もう、ネプギアったら緊張しすぎだよ! お姉ちゃんと、愉快な女神達がいるんだから楽勝楽勝!」

「ちょっとネプテューヌ! 私達を『愉快な女神』で一括りするんじゃないわよ! ていうか『愉快』ってなによ!?」

「……これから敵地に攻め込むっていうのに、まるで緊張感がない」

「ですが、ある程度のリラックスは大事ですわ」

 

 どこにでもあるごく普通の会話だか、プラネテューヌ、ラステイション、ルウィー、リーンボックスの女神が一同に集まることは滅多にない。それだけゲイムギョウ界は危機的状況に陥っているのだ。

 その理由は――人々が女神を慕う信仰心(シェア)が急激に失われているからだ。

 原因として考えられるのは、ほんの1ヶ月前に突如登場した犯罪組織マジェコンヌだ。

 彼等は出現と同時にゲームの内臓データを自由に改造、コピー出来る違法ツール、マジェコンを無造作に人々に配布した。

 その結果、人々はゲームを買う必要がなくなり、更に神ゲーからクソゲーといったあらゆるゲームを苦労せず簡単に遊べるようになってしまった。

 同時にそんな便利ツールを無料配布する犯罪組織マジェコンヌを人々は崇拝するようになり、女神への信仰心(シェア)を奪っていったのだ。

 

「皆さんに重荷を背負わせて申し訳ありません……ですが、この作戦にはゲイムギョウ界の運命が掛かっています。私にはこのようなことしか言えませんが……作戦の成功と皆さんの無事を祈っています」

 

 犯罪組織マジェコンヌの行為は許されるものではない。最悪、ゲイムギョウ界の秩序そのものが崩壊する可能性がある。

 だからこそ、ゲイムギョウ界を守護する女神として立ち上がり、快く作戦を受け入れたのだ。

 直接敵地に乗り込み、犯罪組織マジェコンヌを壊滅させる作戦を。

 

「では、転送します。犯罪組織マジェコンヌの本拠地――ギョウカイ墓場へ」

 

 女神達の準備が整うと、イストワールは(てのひら)に神々しい光を放つ、パソコンの電源マークのような結晶――シェアクリスタルを取り出す。そして掌を傾けると、重力に従ってシェアクリスタルはゆっくりと落ちていき、地面に接触した。瞬間、シェアクリスタルが弾けたと同時に魔法陣のような紋章が地面に浮かび上がる。

 

「シリーズの顔兼主人公ネプテューヌ! いっきまーす! ほら、ネプギアもやってやって!」

「えっ!? えっと……mk2(マークツー)Re;Birth2(リバースツー)の主人公ネプギア! い、行きますぅっ!」

「……何やってんのよ、この姉妹は」

「意外と流されやすいのかしら、あの子」

「はぁ……妹がいるって、羨ましいですわ……」

 

 カンガルーのように跳ねながら魔法陣の中に入るネプテューヌと釣られるネプギア。そんな姉妹に呆れた表情を作るラステイションの女神ノワール。続いてルウィーとリーンボックスの女神、ブランとベールが魔法陣の中に入る。

 

「皆さん……ご武運を」

「任せて、いーすん! ぱぱっと行ってぱぱっ帰ってくるから!」

 

 転送が始まり、魔法陣に輝きが増していく。

 ネプテューヌは無邪気に手を振りながらイストワールに別れを告げる。

 そして、光が彼女達を包み込もうとした直前、ネプギアは唐突に教堂の窓ガラスに視線を向けた。

 そこにはどこまでも蒼く、どこまでも美しい空が広がっている。それは見た者の心を晴れ晴れとさせてくれる絶景だった。それを見たネプギアは心に少しだけ清涼感が生まれ、作戦に対する恐怖を紛らわせることが出来た。

 

 

 

 

 ――その空が、ネプギアが最後に見たゲイムギョウ界の景色だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷鳴が轟く赤黒い曇天の空。

 汚染物質を含んだ黄色い液体が大地の裂け目から無限に湧き出て、川のように流れている。

 各地には古びたテレビや壊れたゲーム機、バラバラに砕けた機器が散乱している。

 

 ――ここはギョウカイ墓場。

 

 ゲイムギョウ界で死んだ者が辿り着く、文字通り死の大地であり、犯罪組織マジェコンヌの本拠地。

 

「ここがギョウカイ墓場……このような場所に拠点を立てるなんて、衛生管理もへったくりも無いですわね」

「……どうせ彼等は無法者。人の寄せ付かない所の方が、何かと都合がいいのよ……たぶん」

「でもベールの言う通り、あまり長居するのは良くないわね。さっさと大元を叩いて、犯罪組織を壊滅させましょう」

 

 ギョウカイ墓場に到着した女神達はその異様な光景に戸惑いを隠せない様子であったが、作戦を思い出し気持ちを切り替える。

 ここへ来た目的は視察でも観光でもない。犯罪組織マジェコンヌの壊滅させるという大義を持ってきている。

 それに、今こうしている間にも女神達の信仰心(シェア)は奪われつつある。早急に倒さなければならない。

 

「……はぁ」

 

 女神達が足並みを揃えて歩いていく中、ネプギアは後ろで小さくため息をする。

 これから行われるのは、恐らく命をかけた戦い。死ぬかもしれない戦いが近付いてきていると思うと、恐怖で体が震えてしまう。

 

「ネプギア!」

 

 ふと、前を歩いていたネプテューヌが近付いてくる。そして、震えるネプギアの手を握ると優しい笑みを向ける。

 

「いやー、流石のお姉ちゃんもちょっと怖くなってきたから、手を繋いでいい?」

 

 ギュッと握られた手はどこまでも暖かく、ネプギアを安心させてくれた。

 ネプテューヌは気付いていたのだ。ネプギアが恐怖を抱いていることを。分かっていたからこそ、少しでも安心出来るよう隣に立ち、手を握ったのだ。

 それを理解したネプギアは。

 

 ――ありがとう、お姉ちゃん。

 

 心の中でネプテューヌに感謝し、姉の温もりを感じながらその手を握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……可笑しいわ」

「ノワールに友達がいないことが?」

「えぇ、そうよ……って、誰が友達がいないって!? そうじゃないわよ!」

 

 数十分、ギョウカイ墓場を探索した時、ノワールが異変に気付く。

 

「ここは敵の本拠地なのよ? なのに、あまりにも静かすぎるわ」

「……言われてみれば、モンスターを1匹も見ていないわ。これは……」

 

 ノワールの疑問にブランが心の(うち)で手を()った。

 幾ら無法地帯のギョウカイ墓場とはいえ、見張りどころかモンスター1匹と遭遇していないのは明らかに不自然だ。

 彼女達はどういう訳かと思考を巡らせるが、その答えは簡単に導かれた。

 

 

「――来るのは分かっていたぞ……女神共」

 

 

 ドスの効いた女性の声。心臓を締め付けるような圧迫した空気が5人の女神を包み込む。

 背筋の凍る感覚を覚えながら彼女達は一斉に声の聞こえた方向に体を向ける。するとそこには、壊れた機器が積まれた丘の上に、黒み掛かったツインテールを靡かせ、右目に眼帯をし、その華奢な体からは想像が付かない程の巨大な鎌を持つ女性がいた。

 

「やっぱり罠だったようね。あなた……何者かしら?」

「……我が名はマジック・ザ・ハード。犯罪組織マジェコンヌの首領を務めている」

 

 ノワールの問い掛けにマジック・ザ・ハードと名乗った女性は丘から飛び降りると、ゆっくりと浮遊した後、女神達に対峙するように降り立つ。

 全てを見下す視線。その瞳の奥底に宿す邪悪な意思。彼女の体から溢れ出る悪の力。その全ては女神と相反するものだった。

 

「まさか、いきなり犯罪組織のボスに出会えるなんて……ついてますわね」

「全くだわ。……ここであの野郎をぶっ殺せば、全て丸く収まるってわけだっ!」

 

 それは僥倖(ぎょうこう)か、物怪の幸いか。罠だったとはいえ、目的の存在と邂逅した。

 その瞬間、ベールはそれまで淑やかだった口調から高圧的なものに。ブランは粗暴な口調に変化する。

 

「あなた達の存在は、ゲイムギョウ界の未来を脅かすことになるわ。だから……今この場で壊滅させる!」

「まっ、私達女神が揃えば百人力! 負ける気がしないよね!」

 

 同時にノワールから真面目な雰囲気が払拭され、態度が好戦的なものに。反対に優しさを秘めたネプテューヌの瞳が鋭い戦眼に変化する。

そして。

 

「私は……私達は、ゲイムギョウ界に住む人達の夢を、希望を護ります!」

 

 瞼を閉じ、浮かび上がるは仲間、友、家族。護るべきものを脳裏に浮かべ、ネプギアはカッと目を見開く。

 女神達はそれぞれの信念を胸に抱いた瞬間、その身が眩い光に包まれた。

 

 ――そして彼女達は、ゲイムギョウ界を守護する女神として降臨する。

 

 個人差はあれど、大きく変化した容姿。色は違えど統一されたレオタードを身に纏い、背中にはプロセッサユニットと呼ばれる羽根を装着している。

その美しい戦乙女は、まさに女神の姿だった。

 

「5対1、か。流石に骨が折れそうか……」

「私達を相手に1人で戦う気か? テメェ、舐めてんのかっ!?」

 

 女神5人を相手取ろうとするマジック・ザ・ハード。あまりにも自分達を見下した態度にブランが――ホワイトハートが憤激を露わにする。それは他の女神も同じだった。

 女神とはゲイムギョウ界を守護する神。当然戦闘能力も他の生物に比べて秀でている。幾ら女神の力が信仰心(シェア)に左右されるからといって、それは変わりないこと。

 

「そう思うのであれば、御託を並べず掛かってくるがいい。そして我が1人で戦ったことを後悔させてみろ」

 

 だが、マジック・ザ・ハードは薄ら嗤いを浮かべながら毅然とした態度を取る。

 余程自信があるのか、或いは信仰心(シェア)を奪われた女神など敵ではないと思い込んでいるのか。

 どちらにせよ戦えば分かる。戦って、マジック・ザ・ハードの鼻をへし折り、犯罪組織を壊滅させる。

 女神達は腕を突き出し、何もない空間に手を(かざ)す。すると掌に光の粒子が集約され、それぞれ得意とする武器が顕現される。

 

「――私達の、女神の力……思い知らせてあげるわ!」

 

 ネプテューヌ――パープルハートが先陣を切ってマジック・ザ・ハードに突撃して行く。

 それが合図となり、5人の女神とマジック・ザ・ハードの戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘はあまりにも一方的だった。

 女神達の連携には隙が無く、一切の無駄がない。尚且つ、洗練された一撃には必殺と殺意が込められており、容易に防げるものではない。

 

 

「――先程の言葉、訂正しよう。5対1……人数では貴様等が勝っていたが、大した問題ではなかったか」

 

 

 だが、その全てが、マジック・ザ・ハードには通用しなかった。

 それどころか女神達が一方的な蹂躙を強いられていた。

 

「な……何なのよ、こいつ……強すぎるわ……っ!?」

 

 ノワール――ブラックハートが嘆くのも無理はない。

 戦闘が始まって10分も経ってない。だというのに――既にホワイトハートとグリーンハートが倒されてしまっていたのだ。

 しかも女神達は既に息を切らしているのに対し、マジック・ザ・ハードは呼吸を一切乱していない。

 それは女神達の信仰心(シェア)が低下しているから、その一言では説明が付かない。元々の女神とマジック・ザ・ハードの実力が……あまりにも離れ過ぎていたのだ。

 

「くっ、何とか私達だけでも……」

「――キャァァァッ!」

 

 完全に手詰まり状態。この状況を打破するため、パープルハートは視線をマジック・ザ・ハードに向けたまま、策を講じた。

 その瞬間、彼女の右隣を赤い斬撃が飛び、ブラックハートの身を切り裂く。

 

「ノワール!」

「どこを見ている?」

「ッ!?」

 

 咄嗟に視線をブラックハートに移したのが悪かった。一気に詰め寄ったマジック・ザ・ハードはパープルハートの喉を左手で掴み取り、力任せに締め上げていく。

 

「あ”っ……ガ”ッ”、ハ”ァ”……」

「……この程度か。女神の力とやらは」

 

 目つきだけで人の命を奪いそうな冷たい視線を送るマジック・ザ・ハード。

 苦しみにもがくパープルハートは左手に拳を作り、マジック・ザ・ハードの腕を幾度も叩く。しかし、その程度で力が緩むことはなく、遂にこと切れたようにパープルハートの腕が垂れ下がる。

 

「そ……そんな……女神が……お姉ちゃん達が……手も、足も出ないなんて……」

 

 ただ1人残ったネプギアは、地獄絵図の如く光景に恐怖しか抱くことが出来ない。

 自分にとって絶対である姉が、ゲイムギョウ界の希望である女神が1度に敗北するなど。

 絶望に支配されたネプギアには、最早戦う意志は残っていなかった。

 

「ひっ……」

 

 気を失ったパープルハートを投げ捨て、ネプギアに大鎌を近付けるマジック・ザ・ハード。

 女神が敗れた今、ゲイムギョウ界を守護する者はいない。このままでは犯罪組織にゲイムギョウ界を壊されてしまう。

 

「……お願い……誰か……」

 

 大きく振り上げられた大鎌を確認したネプギアは、恐怖から逃れるために目蓋を閉じる。

 そして……誰でもいい。ネプギアは心の奥底で悲愴の叫びを上げた。

 

 

 

 ――誰か……助けて……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、女神は敗北した。

 そして、これを機に犯罪組織マジェコンヌは急激に勢力を伸ばし始めた。

 ショップは枯れ、クリエイターは飢え、ほとんどの人々が犯罪組織マジェコンヌを信仰するようになった。

 最早この流れは誰にも止められない。

 ゲイムギョウ界は……ゆっくりと滅亡の一途を辿るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――この時、人々は、そしてゲイムギョウ界の歴史を記録するイストワールでさえ知らなかった。

 ゲイムギョウ界が滅亡の危機に瀕したのは、これが初めてではないということを。

 過去に1度だけ――滅亡寸前まで陥ったことがあったのだ。

 それは、ネプギア達が女神として誕生するよりも昔のこと。

 

 

 

 

 

 ――ある1つの出来事が『伝説』として記録される、遥か古のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連なる岩山、平地を走る溝、丘の上に隠れたくぼ地。

 ここはゲイムギョウ界のどこかに存在する荒野。

 特別何があるわけでもない、普通の荒野だ。

 だが、その上空では、普通ではあり得ない光景が広がっていた。

 それは――静かに揺らめく赤い炎とバーナーの如く激しく燃える黄金の炎が、光を遥かに超越した速度で縦横無尽に動き回っていたのだ。

 更にその2つの炎が重なった時、ゲイムギョウ界の大地が悲鳴を上げると共に大きく割れ、空から雷鳴が轟く。

 

「――くぅっ、改めて確認したよ……途方もない『気』の高まりだ……ッ!?」

「――そう言うお前こそ、少しはまともに戦えるようになったじゃねぇかァ……ッ」

 

 決して交わることのない2つの炎が重なり合った時、その炎の中から2人の男が姿を現す。

 

「だけど……僕は負けない! 何としても君を止めて見せる!」

「ハッ、多少パワーアップしたぐらいで……調子に乗るなァァァァッ!」

 

 2人の男は内なる力を高め、咆哮を上げた。

 その瞬間、始まったのは一瞬の隙すら与えない殴打や蹴撃(しゅうげき)の乱舞。

 互いの拳が重なれば鋭い轟音が響き渡ると同時に衝撃波が生まれ、一帯の岩山が消し飛ぶ。回し蹴りが(くう)を切れば、遥か上空に浮かぶ雲海が2つに割れる。2人が距離を取ったかと思えば掌に光弾を作り出し、それを目の前の敵に向けて連射する。

 彼等が繰り広げているのは戦闘。しかし、それは戦闘と呼ぶにはあまりにも人智を逸脱した――神の如き戦いだった。

 

「どうした! オレを止めるんじゃないのかァ!」

「ッ!?」

 

 怒りに満ちた表情を作りながら、黄金の炎を纏う男の拳が、赤い炎を纏う男を捉える。

 咄嗟に両腕を交差し、ガードするがその威力は凄まじいもので、いとも簡単に身体が吹っ飛ばされる。

 

「くっ……!」

 

 赤い炎を纏った男は、空中で受け身を取ると重力に従ってそのまま落ちていき、岩山にその足を付ける。

 

「……その力、その姿。どこか女神に通じるものを感じる。……お前、何をしやがった?」

 

 女神と同じ力を――神の力を集約させた細い体格。揺るぎない意志と闘志に燃えた()()()()()を持つ男は、ゆっくりと別の岩山に降り立つ黄金の炎を纏う男を睨む。

 

「……いや、今更お前が何になろうがどうでも良い。オレの目的はただ1つ――お前を殺すことだァッ!」

 

 この世の全てを照らしてくれそうな赤髪の男とは対照的に、全てを飲み込んでしまいそうな黒い瞳に獅子のような黒髪。そして、上半身には野生的な()()()()を生やした男は、怒りと殺意をぶつける。

 

「……どうしてだ……どうして僕達は戦わなくちゃいけないっ!? 一体君に何があったんだ!?」

「……何があった、だと? ……オレは裏切られたんだよ――お前等になァァァァァッ!!」

 

 怒りの咆哮を上げた時、黒髪の男が纏う炎が激しく燃え上がり、彼を中心として暴風が吹き荒れる。

 

「オレは裏切られたんだッ!! 信頼していた仲間にィッ! 唯一無二の家族にィッ! ……一番の友だった、お前に……ッ!」

「……っ!?」

 

 行き場のない憤懣(ふんまん)……そして悲愴に満ちたその感情は、言葉で鎮めることは出来ない。

 最早黒髪の男を鎮める方法はたった1つ――戦い、勝利すること。

 それ以外の方法が、赤髪の男には思い付かなかった。

 

「オレは許さない……オレを裏切ったお前をッ! 殺してやる……お前と、お前が護りたがっている女神共を……破壊してやるぞ……ゲイムギョウ界をッッ!!!」

「そうはさせない! 僕は護るっ、ゲイムギョウ界を!」

 

 2人の男は戦闘の構えを取る。

 互いに放つ炎は彼等の髪を靡かせ――『尻尾』を大きく揺らめかせる。

 

「――僕を信じる仲間を……家族を!」

「何が仲間だッ! 何が家族だッ! ――何が友だァァァァッ!」

 

 燃え盛る2つの炎が再び激突する。

 死闘が繰り広げられ、ゲイムギョウ界という1つの次元がその余波で揺れ動く。

 闘争に満ちた精神。抑えられぬ本能。

 そんな、荒れ狂う彼等の心情を知ってか知らずか――。

 

 

 

 

 ――ゲイムギョウ界の空は、どこまで美しく、どこまでも晴れ晴れとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、女神達と1人の男の物語。

 

 

 

 いつかあるかもしれない、あったかもしれない。

 

 

 

 遥かなる空の中に刻まれた――色あせぬ物語。

 

 




久しぶりに書いてみて、やっぱり難しいなって思いました。
他の作者さんが羨ましいです……。でも頑張るぞ~!


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第1話 失意の女神と尾の生えた青年

 犯罪組織マジェコンヌの本拠地――ギョウカイ墓場。

 雷鳴が轟く赤黒い曇天と壊れた電子機器が永遠に広がる死の大地。生物が生存していくにはあまりにも劣悪な環境であるこの世界に場違いと言えるほど清潔で、手入れが行き届いた身なりの良い2人の女性がいた。

 

「やっと着いた……ここがギョウカイ墓場ね」

「ふぇぇ……お、可笑しいのがいっぱいいるですぅ……」

 

 短パンと組み合わせた青いロングコートを身に纏い、腰上程の茶色い長髪に緑色のリボンを若葉のようにして結んでいる女性、アイエフ。

 ニットを着衣し、青ざめた顔で体を震わせながらも、ほんわかな雰囲気を醸し出すピンク色の髪を持つ女性、コンパ。

 

「まったく、だから大人しく待ってろって言ったのに。言うこと聞かないんだから」

「ま、待っているだけなんて嫌です! 私だって女神さん達を……ねぷねぷとギアちゃんを助けたいんです!」

「……私も同じ気持ちよ。あいつ等ったら、3年間も音沙汰なしで……私達をこんなに心配させて……」

 

 アイエフは自然と握り拳を作り、女神達に対して憤りを感じるが、同時に安否が不安でしょうがなかった。

 3年――という年月は、2人にとってあまりにも長すぎた時間だった。

 ネプテューヌとネプギア……プラネテューヌの女神と女神候補生であり、2人にとって親友だった彼女達が消息不明になったのは、今日で丁度3年前のことだ。

 

 この3年間で、ゲイムギョウ界は大きく変わった。

 

 犯罪組織マジェコンヌが勢力を拡大し、女神の力の源であり、人々の夢と希望の象徴と言える『シェア』を根こそぎ奪っていったのだ。

 それに比例ように、人々のモラルは低下の一途を辿り、小学生の8割がマジェコンヌを崇め、寧ろ親が邪教と知りつつ子供に推奨するなど、ゲイムギョウ界は無法世界と同レベルにまで落ちぶれてしまっていた。

 更に、こんな状況にも関わらず、3年も姿を見せない女神に人々は疑義の念を抱くようになり。

 

 女神はゲイムギョウ界を見捨てた。

 女神は犯罪組織マジェコンヌに屈した。

 そもそも女神は犯罪組織マジェコンヌを崇拝している。

 

 などとありもしない噂が流れ、人々の心が女神から離れていった。

 

『大丈夫です。きっと彼女達は無事ですよ』

 

 突如、アイエフが持っていた通信機から幼くも落ち着いた少女の声が聞こえた。アイエフは通信機を取り出すと、空中にディスプレイが現れ、宙に浮かぶ本の上に座った妖精の姿をした少女が映し出された。

 

『……3年前、ギョウカイ墓場を最後に消息を絶った女神達の捜索と救出……危険が伴うこの依頼を引き受けてくださり、本当にありがとうございます』

 

 そう言って、画面越しに頭を下げる少女。

 彼女は女神達をギョウカイ墓場に送り込んだ人物であり、プラネテューヌの教祖を務めるイストワールである。

 

「気にしないでください、イストワール様。私はイストワール様の部下ですし……何よりこんなに私達を心配させたのだから、直接行って1発くらい殴らないと気が済まないですし」

「ねぷねぷとギアちゃん……女神さん達を助けるためなら、どんな所でも行くですよ!」

『ふふ、頼もしい限りです』

 

 2人の威勢の良さに、思わず笑ってしまったイストワール。

 だが、すぐに教祖の顔に戻り、2人に指示を出す。

 

『アイエフさん、コンパさん。女神達の捜索、及び救出をお願いします。仮に女神を見つけましたら、お2人に渡したシェアクリスタルを使えば、多少ではありますが女神達のシェアを回復することが出来ます』

 

 イストワールに言われて、アイエフはロングコートのポケットから。コンパは鞄の中から神々しく輝くシェアクリスタルを取り出す。

女神を想う信仰の力を結晶化させたもの。それがシェアクリスタル。ビー玉程度の大きさだが、これさえあれば女神を助けられる。

 

「よし、コンパ。さっさとあいつ等を探し出して、引き摺ってでも連れて帰るわよ!」

「はいですっ!」

 

 シェアクリスタルをしまい、意気揚々と歩き出すアイエフとコンパ。

 それから1時間、怪しいと思った所は徹底的に調べながらギョウカイ墓場の奥へと進んでいった時だった。

 

「あいちゃん! 今、人の声が聞こえたですっ!」

「声……? どこから聞こえたの!?」

「こっちです!」

 

 コンパが聞こえたという人の声。もしかしたら、という期待が2人の胸を膨らませる。

 そして、コンパがアイエフを先導する形で走っていき、2人が辿り着いた先で……3年も行方をくらませていた女神達はいた。

 

「ネプ子っ!」

「ギアちゃん……女神さん達もいるですっ!」

 

 女神が纏うレオタードは至る箇所が破け、全身を電気コードのような触手で拘束されている。

 その弱りきった姿は、見るに堪えないものだった。

 

「酷いです……誰がこんなことを……」

「ネプ子! 今助けるから! ……くっ、何なのよこの触手は!?」

 

 自身の得物であるカタールを顕現し、女神達を拘束する触手を斬ろうとするが、見た目に反して硬度が高く、簡単に弾かれてしまう。

 

「仕方ないわね……これを使うしか……」

 

 力ずくでは無理と判断したアイエフは、シェアクリスタルで拘束を解こうと考える。

 そして、シェアクリスタルを取り出すため、ロングコートのポケットに手を伸ばした。

 

「――2匹、虫ケラが死にに来やがったかァァッ!」

 

 その時、2人の頭上から荒々しい雄叫びと共に巨大な黒い物体が出現し、対峙するように降り立った。

 それは人の形を模った漆黒のメカの身体を持つ男。右手には巨体に似合う得物、ハルバードが握られており、その矛先を2人に向けている。

 

「フ、フハハ……ハアッハアッハアアッ! 3年間……ジィッと待たされていたんだァ……貴様等全員、血祭りに上げてやるぞォォォッ!」

「よく分からないけど、頭のネジが何本か飛んでることだけは分かったわ。コンパ! 私がこいつを引き付けるから、その間にシェアクリスタルで皆を!」

「わ、分かったですぅ!」

 

 アイエフはコンパに指示した後、カタールを持ち直し、黒い人型のメカに突撃して行く。

 

「ハアッハアッハアア! いいぞォ! まずお前から血祭りに上げてやるッ!」

 

 対して黒い人型のメカは狂喜に満ちた表情を作ると、迫り来るアイエフにハルバードを振るい、2人の得物が激突した。

 

「お願いです……これで目を覚まして下さい!」

 

 アイエフが時間を稼いでいる間、コンパは大事に鞄の一番下にしまっていたシェアクリスタルを取り出し、パープルシスターに(かざ)す。するとシェアクリスタルは眩い光を放ち、同時にパープルシスターを拘束していた触手が粉のように消えていく。

 

「……う……ぁ……コンパ、さん……?」

「ギアちゃん! 目を覚ましたですか!? 良かったですぅ!」

 

 シェアクリスタルにより体内に宿るシェアを多少回復したパープルシスターは意識を取り戻す。しかし、完全とは言えず、視界は歪み頭痛も酷く立つことさえままならない。

 だがコンパは、目覚めたパープルシスターに安堵の表情を浮かべ、同じように拘束されている女神達にシェアクリスタルを翳そうとした。

 

「キャァァァッ!」

 

 瞬間、時間稼ぎをしていたアイエフが悲鳴を上げ、パープルシスター達の前まで吹っ飛ばされる。見ればロングコートの至る箇所に斬られた跡があり、肌には血が滲んでいる。

 

「アイ……エフ、さん……? アイエフさんっ!?」

 

 パープルシスターがコンパ、そしてアイエフの存在を確認した時、意識が完全に覚醒し、倒れたアイエフを抱き寄せる。

 

「ネプギア……目を覚ましたのね……良かった……」

 

 アイエフの手がパープルシスターの頬を撫でる。気丈に笑って見せるが、パープルシスターの眼には心配掛けまいと、痛みを我慢しているようにしか見えなかった。

 

「弱い……弱すぎるぅぅぅ! その程度のパワーではオレを満足させることは出来んッ!」

「……よくも……アイエフさんをっ!」

 

 仲間を、親友を傷付けられたことに激怒したパープルシスターはアイエフをコンパに預け、プロセッサユニットを展開。更に刀身と銃が一体化した純白の武器M.P.B.L.(マルチプルビームランチャー)を右手に顕現し、黒い人型のメカに突撃して行く。

 

「ネプギア! くっ、1人で無茶して!」

 

 目覚めたばかりで力を発揮出来ない状態で戦うのは危険だ。アイエフは痛む肉体に鞭を入れ、パープルシスターに加勢するため立ち上がる。

 

「あ、あいちゃん……シェアクリスタルが……」

 

 その時、コンパがすすり泣く声でアイエフを呼び止める。

 見れば女神達に翳していたシェアクリスタルに輝きが失われている。シェアクリスタルの力が足りなかったのだ。これでは女神達を拘束する触手を取り除くことも目覚めさせることも出来ない。

 だがシェアクリスタルを持っているのはコンパだけではい。アイエフはロングコートのポケットに手を入れ、もう1つのシェアクリスタルを取り出す。

 

「コンパ、これを――」

「――ガハッ」

 

 使って。と言い掛けた時、パープルシスターが黒い人型のメカの一撃を受け、剥き出した岩肌に背中を強打。苦痛で顔を歪ませ、前のめりに倒れ込む。

 

「この程度か……? この程度なのかァァァツ!?」

「このままじゃ……私、また負けちゃう……い、嫌……!」

 

 自分の無力さに涙を流すパープルシスター。そんな彼女に近付き、ハルバードを振り上げる黒い人型のメカ。

 アイエフは今、苦渋の選択を強いられていた。

 持っているシェアクリスタルをコンパに渡せば女神達を救うことは出来るが、パープルシスターは確実に死ぬ。逆にパープルシスターに渡せば助かる可能性は高まるが、それは同時に女神の救出が不可能になる。

 パープルシスターを救うか、女神を救うか。2つに1つの選択。アイエフにとってはどちらも大事。故に選ぶことが出来ない。

 

「あいちゃん」

 

 煩悶(はんもん)するアイエフに、コンパが優しく語り掛ける。

 2人は幼馴染であるため付き合が長い。故に目を見れば相手の想いが分かる。

 

 ――目の前で消えそうな命を、助けてあげて。

 

 コンパの目を見て、そのように感じ取ったアイエフは

 

「ネプ子……ごめん! ネプギア! これを使いなさい!」

 

 アイエフはシェアクリスタルを――パープルシスターに投げ渡した。

 

「こ、これは……シェア……?」

 

 受け取ったパープルシスターは即座にそれが女神の力の源であるシェアであることを理解する。

 そして、シェアクリスタルはパープルシスターの身体に溶け込み、力に変換されていく。

 

「もういい……弱い奴の相手などつまらぬッ! 死ねェェ!」

「――えぇぇぇいっ!」

 

 黒い人型のメカが振り上げていたハルバードをパープルシスターに落とした。圧倒的な力量を持つその一撃はパープルシスターなど簡単に真っ二つにすることが出来るだろう。

 しかし、実際にはそれは叶わなかった。何故なら直撃する瞬間、パープルシスターの体から視覚限界とも言える光が放出され、黒い人型のメカの目を潰したからだ。

 

「グアァァァ! 目がアァァ!」

「間に、合った……の? ……ぁっ」

 

 ハルバードを手放し、両手を目に当て身悶えする黒い人型のメカ。

 辛うじて命を繋ぎ止めたパープルシスターであったが、全てのシェアを使い果たしてしまい、その姿をパープルシスターからネプギアに戻り、再び意識を失ってしまう。

 

「許さん……絶対に許さんぞ虫ケラ共ォォ! 目が治ったらなぶり殺してやるッ!」

「くっ、コンパ! ネプギアを連れてここから離れるわよ!」

「は、はいですぅ!」

 

 今の彼女達ではどうすることも出来ない。

 アイエフとコンパはネプギアをおぶり、黒い人型のメカの視界が戻る前にその場から……ギョウカイ墓場から撤退した。

 

 

 

 

 

 

 

「……そうですか……ネプギアさんしか救出出来なかったのですね」

「はい……申し訳ありません」

 

 プラネテューヌに戻ったアイエフは治療を受けた後、イストワールに依頼の報告をしていた。だがアイエフは依頼されていた女神の救出を全うすることが出来ず、期待に応えられなかったため、少し項垂れていた。

 

「そんなに落ち込まないでください。ネプギアさんを助けられただけでも、十分な成果ですよ」

「……イストワール様、私達はこれからどうすれば……」

 

 ネプギアを救出したとはいえ、女神が犯罪組織に囚われていると言う事実が明らかになった。これを国民に公開すれば、女神は犯罪組織に勝てないという事実に、人々の心はますます女神から遠のいてしまう。

 どうすれば良いのか。アイエフはイストワールの指示を煽る。 

 

「既に手はあります。しかし、今は休息が必要です。ネプギアさんが目を覚ましたら、全てをお話しします。……それに、3年前に何が起きたのか伺わなくてはいけません。辛い思いでかもしれませんけど……」

 

 ネプギアは今、コンパの看病の元、プラネタワーの自室で眠っている。

 1日2日で起きることは無いほど疲労しきっているが、コンパが付いていれば直ぐ目を覚ますだろう。

 全てはネプギアが目覚めてから。それまで彼女達はゆっくり休息を取るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おはようございます……」

 

 5日後。コンパの看病の甲斐があってか、ネプギアは遂に目を覚まし、自分の足で歩き、アイエフ達の前に姿を現した。

 

「ネプギアさん、もうお身体はよろしいのですか?」

「はい、もう大丈夫です。あの、私……ごめんなさ……」

「申し訳ありませんでした……全ての責任は私にあります。皆さんを無謀な戦いに行かせてしまった……」

 

 ネプギアが頭を下げ、迷惑を掛けたことに関して謝ろうとした時、先にイストワールがネプギアに本当にすまなさそうに謝った。

 

「そんな……いーすんさんは悪くないです! 私の力が足りなかったから……」

 

 非力故に今回のことを招いた。ネプギアはそう思っているようだが、イストワールは元より、アイエフとコンパ、この場にいる者は誰もそのようなことなど思っておらず、ネプギアを責めるつもりもなかった。

 

「聞かせて、頂けますか? 3年前、ギョウカイ墓場で一体何が起きたのか」

「……っ」

 

 イストワールのその発言に、ネプギアは大きく動揺する。

 思い返すはあの地獄。振り返れば絶対の恐怖。ネプギアにとっては忘れたくても忘れられない思い出が脳裏を過る。

 

「ギアちゃん、だ、大丈夫です?」

 

 体が震え、顔が青ざめたネプギアを心配そうに、だが優しく声を掛けるコンパ。

 ネプギアはゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後、3年前に起きた出来事を彼女達に語る。

 

「嘘……女神達がたった1人相手に負けたっていうの……?」

「信じられないです……あの強い女神さん達が……」

 

 赤裸々に告白した事実に、アイエフとコンパは動揺を隠せなかった。

 ゲイムギョウ界の守護神である女神が、1人相手に全滅したなどと。

 そしてネプギアは、女神がいなくなっていた3年間のゲイムギョウ界の現状をイストワール達から知る。マジェコンの普及率は8割以上。犯罪組織を信仰する分、女神への信仰が少なくなっていること。犯罪組織の目的は、犯罪神と呼ばれる神の復活。

 話を聞いた限り、これではまるで、法律が存在しない無法世界ではないか。

 ゲイムギョウ界は、ネプギアが思っていた以上に深刻な状況だった。

 

「……もう、どうしようもないんですか……?」

 

 完全に手詰まり状態。失意に落ちるネプギアは小さく嘆く。

 

「いいえ、私達にはまだネプギアさんをはじめとした女神達の妹、女神候補生が残されています」

「え……? 私以外にも、女神の妹が?」

 

 それはネプギアも知らない事実だった。

 国が4つ存在することから女神が4人居ることは知っていたし、そもそも3年前に顔を合わせている。

 しかし、女神候補生が自分だけだと思っていたネプギアは、他の国にも女神候補生が存在していたことには意外だった。

 

「女神がいない今、シェアを集められるのは女神候補生だけ。人々のシェアを取り返していけば、犯罪組織も弱体化していくはずです。そしてもう1つ。各国にいるゲイムキャラの協力を仰ぎ、力を借りるのです」

 

 ゲイムキャラ、という新しい単語にネプギア達は首を傾げる。

 

「ゲイムキャラとは、今からおよそ1000年前に古の女神様達が生み出した、世界の秩序と循環を司る存在です。悪を滅ぼすだけの力を秘めているのですが……正確な所在はまだ掴めていません。今もプラネテューヌのゲイムキャラの行方を追っているのですが……」

 

 存在自体がトップシークレットであるゲイムキャラは、イストワールですら所在を掴めていないらしい。

 結局、情報が入るまではプラネテューヌのシェアの回復とネプギアのリハビリを兼ねて、ゲイムギョウ界中の様々な依頼が集まる場所、ギルドでクエストをこなすことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラネテューヌの西に存在する、心地の良い風が吹き抜ける広大な草原――バーチャフォレスト。

 ここにアイエフとコンパ、そしてネプギアがクエストのため訪れていた。

 

「到着っと。ネプギア、クエストの内容はちゃんと覚えてる?」

「えっと……スライヌの討伐、でしたよね?」

 

 プラネテューヌのシェアの回復とネプギアのリハビリとして選ばれたクエストはスライヌの討伐。最近、旅人が襲われる事件が急増しているため、至急解決望む、とのことだがスライヌ自体それほど強くないため、リハビリとしては丁度良いとアイエフとコンパは判断し、クエストを受注した。

 

「そう。でも、スライヌだからって油断しちゃ駄目よ? あいつ等無駄に数だけ多いんだから……っと、噂とすれば」

 

 アイエフが歩きながらネプギアに説明していると、彼女達の眼前、草原の真ん中に犬の顔と耳、尻尾を持つスライム型モンスター、スライヌの群れが現れる。数は50匹程。スライヌの群れとしては少ない方だ。

 

「早速出て来たわね。2人共、準備は良い?」

「はいですぅ!」

 

 クエスト開始、と言わんばかりにアイエフはカタールを、コンパは身丈程の巨大な注射器の武器を顕現し、スライヌの群れに対峙する。

 

「……」

「ネプギア、どうかした? あんたも構えなさい」

 

 心ここに在らずかのようにぼーっと虚空を眺めるネプギア。そんな彼女の様子にアイエフは疑問を抱き、心配そうに顔を覗かせる。

 

「えっ……? あっ、はい!」

 

 アイエフの顔が視界に入ったことで意識を戻したネプギアは、慌てるようにビームソードを取り出す。

 

「それじゃ……行くわよ!」

「はいですぅ!」

「は、はいっ!」

 

 3人が武器を手にした時、アイエフが戦闘開始の産声を上げ、スライヌの群れに突撃して行く。それに続くように、ネプギアとコンパも得物を握り締め、バーチャフォレストを駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻――ギョウカイ墓場

 

「クソがッ! 奴等、次会ったら絶対ブッ殺してやるッ!!」

 

 5日前、ネプギア達を相手取り、圧倒的な強さを見せた黒い人型のメカ――ジャッジ・ザ・ハードは怒り狂ったかのようにハルバードを振り回し、自身の身丈以上の岩石やゲーム機の残骸で造られた山々を破壊していた。

 

「ハァツ、ハアァァッ」

「……女神候補生1人とはいえ、油断して逃がすとは……呆れたな、ジャッジよ」

 

 暴れ疲れたジャッジ・ザ・ハードはハルバードを地面に突き刺し、杖代わりにして激しく空気を吸っていた時、背後からナイフのように鋭く、冷たい物言いをする女性の声が響き渡る。

 

「テメェ……オレを馬鹿にしてんのか!? 殺されてぇか!? マジック!」

 

 ジャッジ・ザ・ハードは怒りのままにハルバードを抜き、女性の――マジック・ザ・ハードの喉に刃先を突き立てる。だがマジック・ザ・ハードは微動だにせず、寧ろジャッジ・ザ・ハードの怒りの炎すら消してしまいそうな冷たい視線を送る。

 

「……威勢の良さだけは認めてやろう。だが、戦う相手を見てから言葉を発しろ」

「……チッ」

 

 マジック・ザ・ハードの強さは桁が違う。戦っても負けるのは目に見えている。ジャッジ・ザ・ハードは怒りを胸に潜め、ハルバードを引く。

 

「っで、テメェがオレに会いに来るのは珍しい。用でもあんのか?」

「……女神候補生1人を逃がしたが、最早どうでも良い。我等が犯罪組織の悲願が……遂に達成される。貴様も()()()()に仕える者として、立ち会うのだ」

 

 マジック・ザ・ハードの口元が歪み、薄っすらと嗤いが零れる。

 あのお方。それを指すのは誰なのか、ジャッジ・ザ・ハードは即座に理解する。

 

「――犯罪神様が復活なされる」

「ッ!? ク、クハハッ! そうか、遂に犯罪神様が復活されるのか! ブレイブとトリックの野郎にはもう話したのか?」

「話は既に付けている。どちらも犯罪神様が封印されている領域に到着している」

 

 そう言って、マジック・ザ・ハードは犯罪神が封印されている領域へ歩き出す。

 

「クククッ、笑いが止まらねぇ……遂に始まる……ゲイムギョウ界の滅亡が、血沸き肉躍る戦いがッ!」

 

 顔を手で押さえ、狂笑するジャッジ・ザ・ハードも付いて行く。

 遂にカウントダウンが始まってしまった。ゲイムギョウ界の滅亡が……犯罪神の復活が。

 

 

 

 

 

 

 犯罪神が封印されている領域――そこはギョウカイ墓場の最奥に存在し、ドス黒い魔法陣が地面に浮かび上がっている。

 

「……ようやく来たか」

「何!? ちょっと待て! 今幼女とあっはんうっふんな妄想に浸っていて……あっはん」

 

 到着したマジック・ザ・ハードとジャッジ・ザ・ハードの眼前に存在する2つの巨体。

 ジャッジ・ザ・ハードとは対照的に白い機械的な体を持ち、ロボットアニメに出て来そうな風貌の男、ブレイブ・ザ・ハード。そして中年太りのような堕落した体に鞭のようにしなる長い舌、カメレオンのような顔を持つ男、トリック・ザ・ハード。

 

「アクククククッ、犯罪神様が復活なされば、我輩の計画も容易く成功するというわけだぁ!」

「……一応聞いてやるが、お前の計画とやらは一体なんだ?」

「よくぞ聞いてくれた!」

 

 大方の予想は付くものの、ブレイブ・ザ・ハードはトリック・ザ・ハードが企てるの計画を聞く。

 

「我輩の目的は、ゲイムギョウ界中の幼女を集め、我輩だけの幼女帝国を築き上げ、永遠に不滅にすることなのだぁ! アクククククッ……あーう(^q^)」

「おい、ブレイブ。こいつの頭どうにかしてやれ」

「これが生まれ持ったこ奴の性だ。俺にはどうすることも出来ん」

 

 恍惚に満ちた表情を浮かべ、自身が幼女帝国の王になっている妄想をしているトリック・ザ・ハード。そんな彼にジャッジ・ザ・ハードとブレイブ・ザ・ハードは呆れた表情を作る。

 

「お喋りはそこまでにしろ。――犯罪神様が、復活する」

 

 マジック・ザ・ハードは冷徹な口調で3人を黙らせる。瞬間、魔方陣から黒煙が吹き出し、同時にギョウカイ墓場そのものが揺れるほどの巨大な地震が発生する。

そして――。

 

『オオッ、オオオオッ……―――――』

 

 1分程続いた地震は止み、魔方陣から黒煙が途切れる。

 そして、空中を漂う黒煙は突如、意志を持ったかのように蠢き、1つの生物へと姿を変えていく。

 

「おおっ……犯罪神様……っ!」

 

 それまでポーカーフェイスを保っていたマジックの顔が歓喜に満ちる。

 十数メートルはあろう巨体は彼等すら凌駕し、生物と呼ぶにはあまりにも禍々しい姿。しかし犯罪組織にとっては崇高なる神。ゲイムギョウ界の悪の体現者。

 

――犯罪神マジェコンヌが、復活を遂げた。

 

「……犯罪神様。ご復活、おめでとうございます」

 

 復活した犯罪神が魔方陣の上に着地したと同時にマジックは跪き、続いて3人も同じく跪く。

 

「ご復活したばかりでありましょうが、女神共は我等が手中にあります。犯罪神様のお力があれば、女神の存在しないゲイムギョウ界など容易に掌握出来ましょう。どうか、我等にお力添えを」

 

 復活したばかりで本来の力を発揮出来ないが、それでも絶大な力を持つ犯罪神。

 これで、ゲイムギョウ界は犯罪組織のもの。彼等の未来には、破壊と混沌に溢れるゲイムギョウ界の未来が見えていた。

 

『……ああっ、あ、アアアッ……』

「……犯罪神様?」

 

 突如、犯罪神から苦しみ(もが)く声が聞こえてきた。

 様子が可笑しい。彼等は犯罪神へと視線を移す。

――その時。

 

 

『――ア”ア”ア”ア”ア”ッッッッ!!!』

 

 ギョウカイ墓場の大地が軋む程の爆音の如く悲鳴を犯罪神は上げた。

 その(つんざ)く声に彼等は思わず両手で耳を押さえる。

 時間にして5秒。犯罪神が叫び終えると、禍々しい瞳が赤く光り、ある一点――空を見つめ。

 

『す……いぱ……っぷ……すべ……を……たの……だよ……』

 

 今度は反対に聞き取れない程か細い声を発した。

 そして、全てを言い終えた時――犯罪神の肉体が熔けるように崩れ落ちた。更に崩れる肉体は魔方陣の中で消えていき、瞬く間に彼等の前から犯罪神は消え去り、再び封印されてしまった。

 

「おい、どうなってやがるッ!? 犯罪神様は復活したんじゃねぇのかよ!?」

 

 ジャッジは現状が理解出来ず、声を荒げる。しかし、理解出来ないのはブレイブ・ザ・ハードとトリック・ザ・ハードも同じ事。

 犯罪神は確かに復活したはず。なのになぜまた封印されたのか。

 

「……力」

 

 ふと、マジックは呟く。その体は怒りで小刻みに震えている。

 

「……何者かの力が、犯罪神様の力を押さえ込み……再度封印したのだ」

「馬鹿な! そんな事はありえんっ!?」

 

 突拍子のない発言にブレイブは反論する。

 復活直後とはいえ、犯罪神の力は世界を終わらせられる程の絶大だ。それを押さえ込むということは、犯罪神を超えることを意味する。それはどれ程の力なのか、想像も付かない。

 

「ア、アククククク……ま、まさか女神ではないだろうな?」

「それはありえん。今の女神共では犯罪神様を封印するどころか、我等にすら勝てぬ脆弱な存在。……どちらにせよ封印されたのは事実。だがその力は弱い。今まで通り活動を続けていけば、再び犯罪神様は復活される」

 

 そう言って、マジック・ザ・ハードは体を反転し、1人歩き出す。

 

(何者かは知らんが、犯罪神様の復活を妨げた罪……(あがな)って貰うぞ……!)

 

 先延ばしになったとはいえ、ゲイムギョウ界の滅亡を妨げられたマジック・ザ・ハードは、心に煮えたぎる怒りを覚える。

 得体の知れない力の存在。必ず見つけ出し、消す。マジック・ザ・ハードは自身の神である犯罪神にかけて誓った。

 

「……むっ? あれは……」

 

 それは突然の変化だった。赤と黒で塗り潰されたギョウカイ墓場の空が――美しい青色に染まった。

 その原因を作っているのは、どこからともなく出現した流星だった。青く輝く流星は空を泳ぎ、光を追い越し、時を翔んでいく。

 やがて流星がギョウカイ墓場を通り越し、吸い込まれるようにゲイムギョウ界のある場所へ向かっていく。

 流星が向かうその到達地点には――バーチャフォレストがあった。

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁっ!」

「ヌラララー」

 

 ネプギアがビームソードを水平に振り、最後に残ったスライヌを斬る。

 

「これで終わりっと。結構闘えるじゃない、ネプギア」

「そ、そうでしょうか……?」

「ギアちゃん、もっと自信を持つです!」

 

 スライヌの群れと闘い始めて30分。全てのスライヌを倒したネプギア達は、武器を収め、軽く汗を拭う。

 

「このまま行けば、すぐに昔の調子を取り戻せるわよ。さて、クエストも達成したし、ギルドに報告しに行きしょう」

 

 目的が達成したため、もうバーチャフォレストに居る必要はない。ネプギアのリハビリもこの程度で良いだろうと判断したアイエフは小休憩を取った後、来た道を戻って行き、コンパも続く。

 しかし、ネプギアだけはその場に止まっていた。

 

「……やっぱり、私……」

 

 ネプギアは自分の両手を見る。手が小刻みに震えていた。

 スライヌとの闘いが……いや、戦いそのものが怖かったのだ。もしかしたら負けるかもしれない。負けたらアイエフとコンパが危険に晒されるかもしれない。

 ネプギアは戦闘中、そればかり考えていた。

 

「こんな調子じゃ、お姉ちゃん達を……助けることなんて出来ないよ……」

 

 脳裏に浮かぶは、女神達が敗北した地獄の光景。植え付けられたトマウマはそう簡単に克服することは出来ない。

 弱い自分が憎い。だがどうすることも出来ないネプギアは失意に落ち、肩を落としながらアイエフ達の後を追った。

 

「――ヌラ」

 

 その時、森林から1匹のスライヌが姿を現した。既に討伐のクエストは終えているため、これ以上スライヌを倒す必要はない。だから無視しようとした。だが、ネプギアは無視出来なかった。

 

「……アイエフさん、コンパさん。スライヌがいるんですけど」

「もうクエストの数はこなしたから、無視しなさい」

「でも……ペンダント付けてますよ? しかも、髭も生えてます」

「……何ですって?」

 

 どういうことだ。ネプギアの言葉に反応してアイエフとコンパは同時に振り返る。

 そして視線の先、森林近くを確認すると、確かにスライヌがいた。

 人間の老人の如く白い立派な髭を貯え、美しい白い丸型の宝石が埋め込まれ、周りを青色で塗られたペンダントを頭部に装飾しているスライヌ。

 明らかに普通ではないそのスライヌに、一同は目を奪われた。

 

「……ヌラっ!? ヌラララっ!」

 

 髭の生えたスライヌは空を見つめた時、突如慌てるような仕草を見せると、森林の中へ潜って行ってしまった。

 

「な、何だったんでしょう?」

「分からないけど、あのペンダント……もしかすると襲われた旅人から奪ったものじゃないかしら?」

「だ、だとしたら、持ち主に返さないといけないですぅ!」

 

 スライヌ討伐の内容には、最近、旅人が襲われる事件が急増していると書かれていた。だとしたら物珍しさに1つや2つ、奪い取ったと考えても不思議ではない。

 

「これはクエスト外だけど、きっとペンダントを奪われて困っている人がいるはずよ。さっきのスライヌを倒して、持ち主へ返してあげましょう」

「「はいっ!」」

 

 持ち主が誰なのかは不明だが、きっと困っているはず。

 3人は意を決して森林に紛れた髭の生えたスライヌを追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヌラッ、ヌラッ、ヌララッ!」

「スライヌのくせに、すばしっこいわね……!」

「スライヌさーん、止まってくださーい!」

「ま、待ってーー!」

 

 草木をかぎ分け、髭の生えたスライヌを追い掛ける3人。だが、まるで地元走りの如く最短で進んで行くため、中々距離が縮まらない。

 悪戦苦闘する3人であったが、髭の生えたスライヌが森林を抜け、草原に出たのが見えた。

 開けた地形ならこちらに分がある。3人は急いで森林を抜けて行った。

 

「さあ、追い詰めたわよ。大人しくそのペンダントを渡しなさ……い」

 

 森林を抜けた先で髭の生えたスライヌが止まっていた。

 先に到着したアイエフはカタールを取り出し、髭の生えたスライヌに近付いて行こうとしたが、目の前に広がる光景を目の当たりにし、動きが止まる。

 

「はぁ、はぁ……アイエフ、さん……どうしました……か」

「はふぅ……あいちゃーん、ギアちゃーん、待ってくださ……い」

 

 遅れてやって来たネプギアとコンパも、目の前に広がる光景に圧巻され、言葉を失った。

 彼女達の視線に映っていたもの。それは――壁画が描かれた、巨大な門扉だった。

 20メートルはあろう、岩石で出来た門扉が、広大な草原の中にポツリと建っていたのだ。

 

「こ、これは一体……」

「大きいですぅ……」

「この絵って、女神と……『尻尾』が生えた男の人?」

 

 圧倒されるアイエフとコンパであったが、ネプギアは門に描かれた絵に注目していた。

 左の門扉に描かれているのは、女神化した女神に良く似た女性。そして右の門扉には、人間の姿をした『尻尾』の生えた青年の絵。その2人が閉ざされた門扉の中心で手を取り合っている絵が描かれていた。

 

「……ヌラ」

 

 門、そして壁画の存在に困惑する3人。

 すると髭の生えたスライヌはおもむろに顔を上げた。その行為に何の意味があるのか理解出来なかったが、釣られるように彼女達も顔を上げた。

 広がるのはどこまでも広く、美しい青い空。そして――青く輝く流星。

 

「……うん? 流星……流星!?」

「はわわ、こっちに来てるですぅ!?」

「に、逃げましょうっ!?」 

 

 まるで吸い込まれて行くように流星が迫って来ている。

 大した大きさではないが、地面に激突すれば衝撃は恐ろしいものになる。

 3人は森林の陰に隠れ、様子を窺う。髭の生えたスライヌは流星をじっと見てその場から動こうとしないが、この際どうでも良い。

 そして、流星は時間と共に接近してきて――草原に激突した。

 

「……あら? そんなに衝撃がない?」

 

 地面が揺れ、草原に数メートル程のクレーターが出来る。だが、彼女達が思っていた大きい衝撃は襲って来なかった。

 彼女達は森林から出て、流星の衝突で出来たクレーターに近付く。砂煙が舞う中、彼女達の体を風が優しく吹き抜け、同時に砂煙を払う。その時、クレーターの中心に()()はいた。

 

「ひ、人です! 人がいますよ!?」

 

 ネプギアは驚きの声を上げ、中心を指す。

 そこには確かに人が横たわっていた。

 だが、それはただの()()ではなかった。

 獣の皮を剥いだ野性的な服装。どこまでも暗い黒髪。鍛え上げられた筋肉質の体。

 

 

 そして、門扉に描かれた青年と同じ――茶色い『尻尾』が生えていた。

 

 



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