鬼人正邪の革命のすゝめ (10キョウ01)
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反逆の天邪鬼
重い空気が立ち込める部屋の中で、私、四季映姫《しき えいき》はとある問題に直面していた。ドアのノックの音と共に、私の部下、小野塚小町《おのづか こまち》が入ってくる。
「小町……調査の結果は?」
私が小町に問うと、小町は申し訳なさそうに顔を上げた。
「……監視カメラに奴の姿は無し。やられました、脱獄です」
「そう……ですか」
ふと先ほどまで見ていた資料に視線を落とす。
「囚人番号451番、鬼人正邪。『最弱にして最悪の革命家』、ですか。最近やけに大人しいなと思っていましたが……」
いささか窮屈すぎる制服の下で、冷たい汗が一筋、背中を流れ落ちるのがはっきりと感じられる。
「(しかし、参りましたね……この件は我々のミス。監獄の信用に関わる)」
私は勢いよく立ち上がると、小町に指示を出す。
「小町、脱走犯『鬼人正邪』を幻想郷中で指名手配し、迅速に身柄を確保するように」
小町は、敬礼をすると、「失礼しました」と言い残し、部屋を出て言った。
それにしても、鬼人正邪の脱獄にはいくつかの疑問が残る。もし仮にやつが能力を使って外に出ようとしても、此処では能力を使った瞬間に私に伝わる仕組みになっている。だから、単独での脱獄はほぼ不可能なのだ。ましてや奴は、戦闘力は高くはない。
「(誰か手引きした者がいますね…)」
最悪な夜は、まだまだ始まったばかりであった。
《同時刻 船の上》
穏やかに揺れる船の上で、私、鬼人正邪は約半年ぶりとなる外の空気を満喫していた。
「いや〜捕まった時はどうしようかと思ったよ。お前さんの道具には本当に助かった、ありがとうにとり」
船を漕いでいた少女、河城《かわしろ》にとりは振り返り、こちらを見ると照れ臭そうに笑った。
「困った時はお互い様だろう。私としても、大切な盟友を失いたくはない。それに、こんな世の中だ、弱い者同士仲良くやろう」
そういうとにとりは、「あまり良い物とは言えないが……」と言って、懐から酒瓶を取り出した。
「正邪、君の脱獄を記念して、ここはひとつ月下の夜会と洒落込もうじゃないか」
ふと夜空を見上げると、今日は満月だった。まるで私たちを祝うかのような、綺麗な満月。
「いいな、それ」
私が賛成すると、にとりはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「それでは盟友、鬼人正邪の帰還を祝いまして……」
「「乾杯」」
最高な夜は、まだまだ終わる気配はない。
ちなみにひとつ、言い忘れていたことがある。この幻想郷には、弱者への配慮とも言えるルールである、『スペルカードルール』が、まだ存在しない。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
黒歴史確定のなんちゃってストーリーですが、ぜひお付き合いいただけると大変嬉しいです。
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復活の天邪鬼
元あった話から変更している点が多々ありますが、ご了承ください。
では、お楽しみください。
その後私はにとりと共に、地下街に来ていた。いや、戻ってきたという方が正しいだろう。街の奥へ進むと、徐々にその屋敷は姿を現す。
誰が通ることを想定して作ったか分からない巨大な門の前に立つと、にとりが門を開け、そこには1人の鬼が立っていた。
長身で筋肉質な女の鬼は、私を見ると笑みを浮かべ、口を開く。
「やぁ正邪、ようこそ星熊組へ」
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「しかしまぁ、にとりから連絡を受けた時には正直驚いたよ。まさか本当に脱獄しちまうなんてねぇ」
星熊勇儀《ほしぐまゆうぎ》という鬼はそういうと、巨大な盃に溢れんばかりの酒を注ぎ、豪快に笑い飛ばす。ここ、星熊組(要するにヤクザみたいなものなのだが)では、私を歓迎する宴会が開かれていた。
「まあね、四季映姫んとこの牢獄はちと私には狭すぎたみたいだ」
すると、横から自慢げににとりが顔を出す。
「ま、正邪の脱獄には私も一枚噛んでるんでね」
勇儀は愉快そうににとりに笑顔を向ける。それを横目に、私は昔の彼女の姿を重ね、あることを思い出す。
「それにしてもあんた、確か体が悪いんじゃなかったか?そんな酒飲んで大丈夫なのかよ」
私が監獄に入れられる前、彼女の体はすでに長年の戦闘の傷や、生活の乱れなどによってボロボロだった。本当なら、こんなに馬鹿騒ぎしていい体ではないはずなのだ。
すると、勇儀は少し考えるような素振りをすると、優しい、子供のような笑顔を浮かべる。
「私にとっちゃ体なんざより、こうして昔の仲間が帰ってきてくれたことの方が大事なのさ」
「……そうか」
敵わないな、この人のこういうところには。私が気を許せる数少ない友人の中でも、彼女の心の広さは私の大きな支えとなってくれていたと思う。だからこそ、脱獄後もこうやってここに戻ってきてしまったのだ。
私には、この場所が大切なんだと思う。
少し照れくさそうな表情の勇儀は、盃を持って立ち上がると、手を上に突き上げ、口を開く。
「それじゃ改めまして、鬼人正邪の復活を祝いまして、乾杯! 」
他の組員たちも勇儀の掛け声に合わせ、盃を交わす。
その後も皆眠りこけるまだ騒ぎ続け、ついにはにとりと勇儀、そして私の三人だけが残った。星熊組創設当時のメンバーの生き残り三人である。数多くの仲間を失って、生き残ったのはたった三人。
ふと勇儀を見ると、少し悲しそうな顔をしていた。
思い返せば、あの時から勇儀の胸には一つの大きな穴が空いたままなのかもしれない。
同時刻。門の前には二刀を腰に携えた白髪の剣士が一人。
そのことに気づいたものは、誰一人いなかった。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
感想欄にて感想、またはアドバイス等頂けると嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。
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