インフィニット・ストラトス~【英雄】の迷い込んだ世界~ (芳奈揚羽)
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プロローグ

なろうでは芳奈揚羽という名前で書いています。以前、活動報告でネタとして描いたんですが、設定とかを固めていくうちにどうしても書きたくなったのでこちらで書かせて戴きます。


side 織斑千冬 

 

 

 2001年10月22日。この日は、私にとって・・・いや、世界にとって、忘れられない日となった。それは、私の元に届いた、ある一本の電話から始まった。

 

『♪~』

 

「織斑先生、電話が鳴っていますよ?」

 

「ん?そうか、少し出てくる・・・。」

 

 そう言いながら携帯の液晶を見た私の思考は、数秒硬直した。何故なら、そこに書かれていた名前は、【馬鹿兎】。・・・つまり、私の親友であり、世界からは【天災】とまで呼ばれている、行方不明だったはずの人間だったからだ。私からは一切連絡が取れず、偶に奴から来る連絡でしか、奴の安否を確認することは出来ない。奴がそんな簡単に死ぬとも思えないが・・・奴を狙っている人間は世界中にいるため、何が起きても不思議ではないのだ。

 

「・・・あの馬鹿兎め。何処までも自分勝手な奴だ。」

 

 内心少し嬉しかったのだが、それを押し隠して電話を取る。山田先生にはバレないようにしなければ。この馬鹿兎は世界中の人間が探しているため、何処に誰の目や耳が隠れているか分からないのだ。この馬鹿兎との会話を聞いてしまうと、彼女が危険に晒される可能性がある。

 

「生きていたか馬鹿者。」

 

『久しぶりに聞いた親友の発言が辛辣だよ~・・・。もう少し傷心の私を慰めてくれてもいいんじゃないかな~?』

 

「・・・傷心だと?何かあったのか?」

 

 私は、胸に湧き上がる不安を隠しきれなかった。この兎は身内には甘い。というか、身内にしか興味がないため、もしかしたら箒にでも連絡して辛辣な言葉を投げかけられたのかも知れない。だが、それにしては声のトーンが可笑しい。落ち込み過ぎている(・・・・・・・・・)。この楽天家が、そんなことでここまで落ち込むだろうか?何か、嫌な予感がする。この話の続きを聞いてはいけないような、そんな不安感が胸に溢れる。

 

『ねぇ・・・ちーちゃん。ちーちゃんはさ、私がどうしてISを作ったのか分かるかい?』

 

「・・・何故、だと?」

 

『だって、そうでしょ?ただ宇宙開発の為だけに作ったのなら、スペースデブリ処理のためのビーム兵器やエネルギー兵器は兎も角、近接格闘用の武器なんて必要ないじゃないか?それこそ、作業効率を上げるための工業用アームでも取り付けたほうが、簡単だし開発効率も良い。でしょ?』

 

 そうだ、それは当時から考えていた。ただ単に宇宙開発をしたいだけならば今コイツが言った事をすればいいのだ。何故、コイツは【白騎士事件】など起こした?あんな事件を起こせば、世界が宇宙開発用のスーツとしてよりも、武装として見ることはコイツなら分かっていたはずだ。コイツなら、あんな事件を起こさなくても他にやりようはいくらでもあった。それこそ、単独で宇宙開発でもして、その成果を世界に見せつければいい。それが出来る位の力と技術をコイツは持っているのだから。

 

『何で私があんな事をしたか・・・。何で、箒ちゃんや、ちーちゃんやいっくんと離れることが分かっていながらもあんな事件を起こしたのか。それはね、必要だったからだよ。』

 

「何だと・・・?必要だった?」

 

『そう。宇宙開発用スーツとしての性能と共に、兵器としての性能を見せつけることも必要だった。・・・ただ、私の誤算は、必要以上に兵器としての面が大きく見られたこと。宇宙開発用スーツとしての性能が、世界に認められなかったこと。・・・そのせいで、私の計画は頓挫してしまった。』

 

「頓挫・・・だと?お前が・・・・・・?」

 

 私は、心の何処かでコイツに出来ない事は存在しないと思っていた。この兎ならば、世界を敵に回しても勝てるだろうと思っていた。・・・コイツがここまで弱っている姿など、想像すら出来なかった。・・・一体、何が起こっているのだこの世界に!?

 

『ちーちゃん、私が作ることの出来た、最後のISを送るよ。それで、皆を守って上げて欲しいな。・・・私に出来るのは、このくらいだから。』

 

「おい束!一体何が起きている!?何がお前をここまで追い詰めた!?答えろ!!!」

 

 私の気迫に押されたのか、少しくぐもった声が聞こえて・・・そして、束は言った。

 

『絶望がやってくる。今みたいに、国同士、民族同士で争っている事ができる、【平和な世界】は幕を閉じる。これから始まるのは地獄だよ。』

 

 地獄・・・その言葉に、私は動揺した。この【天災】が地獄と称する程の絶望がやってくるというのか・・・。

 

『私は、最後の希望に掛けることにした。今日、この世界に【英雄】がやってくる。彼なら、彼といっくん達なら、この絶望を覆す事が出来るかも知れない。』

 

 束のその言葉に、私は咄嗟に返す事が出来なかった。【英雄】だと?それに一夏が関わるというのか?そんなシナリオを、束は描いているというのか?

 

『人類が生き残るためには、それしか方法が無い。彼といっくんが協力すれば、もしかしたら・・・勝てるかもしれない。』

 

「待て束、説明しろ!!」

 

『大丈夫だよ、あと数時間で分かる。・・・お願いだから死なないで。』

 

 私にそう言い残し、束は一方的に電話を切った。私は、何時までたっても戻ってこない私を探しに来た山田先生が話しかけてくるまで、そこで立ち尽くしたままだった。・・・・・・そして、その六時間後、【絶望】はやってきたのだった。

 



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何かが違う

side 白銀武

 

――――最後は、愛している男の手で死にたい。・・・お願いだ。撃て、撃ってくれ武!!――――

――――タケルちゃん、御免ね。私が原因なの。だから、私がいなくなればタケルちゃんは帰れるから。・・・だから、今度は幸せに――――

――――貴方の御陰で、あと30年は戦える。・・・有難う白銀――――

 

 あぁ・・・俺は、何一つ守れなかった。大切な人たちは、全てこの手から零れ落ちてしまった。何て中途半端な終わり方だよ?皆を犠牲にしてあ号標的を撃破しても、世界に満ちる【BETA】はまだまだ活動を続けるんだ。・・・せめて、【あちらの世界】に真の平和が訪れるまで、戦っていたかった。大切な(ひと)達が望んだ世界を、俺の手で実現させてやりたかった。・・・俺の、もう一つの故郷を、この手で救いたかった。

 だけど、後悔しても始まらない事はこの数年の生活で十分すぎるくらいに分かっている。起きてしまったことは覆しようがない。・・・もう、純夏はいないのだから。だから、俺は彼女が望んだ幸せな世界に帰ろう。そして、今度こそ彼女と幸せになろう。・・・・・・俺の持つ全てを掛けて、彼女を守るんだ。

 

☆☆☆

 ガンガンガンガン!という凄まじい音が頭に響き、俺は目を覚ました。

 

「起床ラッパか!?寝過ごした!?」

 

 何時もの(・・・・)習慣に従って飛び起きる。目に映るのは兵舎の何もない質素な部屋・・・では無かった。

 

「・・・俺の部屋・・・?」

 

 それは、何年も前には毎日見ていた筈の自分の部屋だった。壁に掛けてあるコートや制服、漫画やちょっとイケナイ本が隠してある本棚、パソコンやゲームの配置も記憶のままだ。俺は、自分が一体何故この部屋に居るのかを考えて・・・思い出した。

 

「・・・・・・帰ってきたのか、俺。」

 

 念の為、窓を開けて外を見てみる。そこに広がっていたのは荒廃した街・・・ではなく、俺の記憶の通りの落ち着いた町並みだった。不意に、一陣の風が頬を優しく撫でる。それには、硝煙の匂いも血の臭いも全く含まれていない。・・・俺は、帰って来たんだ。【平和な世界】に。あんな事になるまで気がつくことが出来なかった、愛しい日常に。

 

「武ー!何時まで寝てるの遅刻するわよー!」

 

 下の階から、懐かしい声とフライパンの音が響く。どうやら、さっきの音はこれらしい。俺は反射的にベッドから飛び降りて走った。軍隊で仕込まれた身体能力で、一階に降りるのに数秒もかからない。

 

「武、おはよう。」

 

「おはよう武。・・・どうした、何かあったのか?」

 

 ・・・そこに居たのは、俺の両親だった。一体何年ぶりに見たのだろう?体感時間で少なくとも4、5年は見ていない筈だ。実際は何度もループしていたみたいだから、10年位になるのかも知れない。

 二人を見た瞬間に、薄れていた記憶が急速に蘇る。確か、冥夜が来た時に、世界一周旅行に出かけたんだったな。あの時から、俺の日常は変わったんだ。

 

「ちょっと武どうしたの?具合でも悪い?」

 

「え・・・何でだよ?」

 

 何でそんなことを言われるのか分からず、聞き返す。

 

「だってお前、泣いてるじゃないか。・・・怖い夢でも見たのか?」

 

「え・・・?」

 

 自分の目元を触って見ると、確かに濡れていた。自分が泣いていた事に、全く気がつかなかった。

 

「は、ははは。嬉しくて・・・嬉しくてさ・・・・・・。」

 

 自分が泣いていた事に気が付いた瞬間、胸の奥が熱くなって更に涙が溢れてきた。あぁクソ、全然止まらない。両親に泣いているのを見られるのが恥ずかしくて必死に拭うが、それは寧ろ逆効果みたいだった。

 

「・・・生きていてくれて良かった。また会えて、嬉しかった・・・・・・。」

 

 もう二度と会えないかもしれないと何度も覚悟した。一歩間違えれば無残に殺されるような戦いを何度も経験した。皆で力を合わせてあ号標的を倒したが・・・皆を失った。だから、【この世界】で両親と再開出来て安心した。俺にとっての一番の日常って、やっぱりこの二人が居ないと始まらないんだ。今、そう実感した。

 

「・・・何があったんだか知らないけど、泣きたい時は泣けばいいさ。」

 

「武が泣くのを見るのはいつ以来だろうね。」

 

 そして、何時の間にか俺の事を抱きしめていた両親に縋り付いて、俺は大声を上げて泣き続けた。

 

 

☆☆☆

 

「・・・そういえば、純夏はどうしたんだ?何時もこの時間には来てたよな?」

 

 思いっきり泣いた俺は、気恥かしさを隠す為に、出来るだけ両親の顔を見ないようにして尋ねた。この二人が無事だったんだから当然純夏や他の皆も無事だとは思うが、それでも確認しておかないと不安だったからだ。

 だが、俺の質問に対して二人は怪訝な顔をした。まるで、「何言ってるんだコイツ?」みたいな失礼な顔だったのがムカツク。

 

「武、お前何言ってるんだ?」

 

 本当にそんなこと思っていやがった。

 

「そうよ。純夏ちゃんは今年からIS学園に行っているじゃない。」

 

 ・・・・・・は?

 

「しかし、純夏ちゃんも可哀想にな。いくらIS適正がSSだったからって、本人が嫌だって泣いて拒否しているのに強制入学だもんな。」

 

「噂では、他にも武の学校に入学が決定していた何人かが強制入学させられたらしいわよ?やることが酷すぎるわよね今の政府は。一体何を考えているのかしら?」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 二人で話しているのを止める。かなり分からない話ばっかりでついて行けない。

 

「聞きたいことは山ほどあるが・・・純夏が強制入学させられたって?」

 

「そうよ?まさか忘れちゃったの?純夏ちゃんあれほど「嫌だ嫌だ武ちゃんと離れたくない」って泣いていたじゃない。」

 

「・・・何処に行ったんだ?」

 

「・・・ちょっと本当に大丈夫かお前?熱でもあるんじゃないか?IS学園に決まってるじゃないか。」

 

 二人の本気で心配そうな顔を無視して、俺はなるべく心を落ち着かせて最後の質問を放つ。

 

「・・・IS学園って、何?」

 

 その質問をした瞬間、二人がすごい勢いで近づいてきて、病院に行こうとか救急車を呼ぶべきかとか五月蝿いから家を飛び出してしまった。

 

「一体、何が起きてるんだ?」

 

 何かが変だ。俺の知らない何かがこの世界にはある。それを知らないことには、純夏がどこに行ったのかを確認することは不可能だ。他の皆が無事なのかも確認する必要があるし・・・学校に行くか。・・・・・・この世界の俺が通っているのって白陵柊学園でいいんだよな?

 

 




原作をやったのがかなり前なんで、名前の呼び方とか呼ばれ方とかが若干違う可能性があります。その他にも「ここが違うよ」っていうのがあれば言ってください。出来る限り直します。
ちょっと表現がくどいかも?


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純夏の憂鬱

side 鑑 純夏

 

 

「それでは、私は箒先輩と練習をしてくる。また夜にでも会おう。」

 

「うん、また後でね冥夜さん。」

 

 パタンと扉が閉じられ、部屋に静寂が戻った。私は大きく溜息を吐く。

 

「・・・何しようかな・・・・・・。」

 

 突然告げられた臨時休校に、戸惑うしか出来ない。休校とは言っても、学校外に出るには面倒な手続きをしなければいけないし、そこまでしても許可が出ない可能性もある。ルームメイトの御剣冥夜さんは、年下だけど先輩である篠ノ之 箒さんと一緒に武道の稽古をするんだと言って道場に行ってしまったし、本格的にやることがなくなっちゃったな。

 

「・・・会いたいよタケルちゃん。」

 

 今頃タケルちゃんは学校に行っている筈。本当なら、私もタケルちゃんと同じ学校に行って、卒業して大学生になっていた。・・・それなのに、【日本全国一斉IS適正調査】とかいうので強制的にIS適正を図らされて、適正数値が高かったらしい私と榊さん、美琴ちゃんや壬姫ちゃんに慧さんも強制的にIS学園に入学させられた。しかも一年からスタートで。そのせいで、本来だったら年下の筈の人たちを先輩って呼ばなきゃいけないし・・・タケルちゃんの居ない、色あせた学園生活を送らなきゃいけなくなった。

 最初の頃は、ベッドに入る度に悲しくて声を殺して泣いていた。タケルちゃんと離れ離れになるなんて想像もしていなかった私にとって、突然訪れたこの現実は厳しすぎたから。・・・でも、その時ルームメイトだった冥夜さんが慰めてくれたんだ。冥夜さんも、私たちと同じくIS適正が高かったから強制入学させられた内の一人で、実際はなんと白陵柊学園に転入してくる気でいたらしい。何でも、会いたかった人がいたらしいんだけど・・・。自分も辛いのに私を慰めてくれるなんて、いい人だと思う。彼女を見ていると泣いている自分が恥ずかしくなって、それ以来私は泣かなくなった。

 

 毎日毎日軍隊みたいな訓練をして、疲れた体に鞭を打って勉強をする。それが終わったら電池が切れたかのように眠りにつく・・・そんな生活を続けていたら、何時の間にか指がボロボロになっていた。大型連休とかで実家に帰れるときの為に美容とかには気を使ってるつもりだけど、それでもストレスはどうにもならない。・・・今の私をタケルちゃんが見たら、一体何て言うのかな・・・。

 

『♪~♪~♪~』

 

 そういうことを考えていたとき、机の上に置いてあった携帯が鳴り始めた。もしかしたら壬姫ちゃんか美琴ちゃんから遊ぼうっていう電話かな?そう思ってディスプレイを見た私の思考は、驚きで少しの間停止してしまった。そこには・・・

 

【タケルちゃん】

 

 と書かれていたから。

 もしかしたら、タケルちゃんに会いたいという想いが生み出した幻想なのかもしれないって思ったくらい驚いた。だって、タケルちゃんから電話をかけてくるなんて始めてだったから。いつも私から連絡をしていたのに、どうして今日に限って連絡してきたんだろう?

 

『♪~♪~・・・』

 

「わ、わ、わ!待って、出るから出るから!」

 

 驚いている時間が長すぎたみたいで、電話が切れそうになってしまったので、慌てて取る。

 

「・・・もしもし。」

 

『・・・良かった。あぁ・・・本当に良かった。』

 

「・・・どうしたのタケルちゃん?何かあったの?」

 

 声の雰囲気がいつもと違った。確かにタケルちゃんの声なんだけど、何か男らしくなったというか、格好よくなったというか。ちょっとドキドキしているのを押し隠して、タケルちゃんに質問する。

 

『・・・・・・いや、何でもない。ちょっと純夏の声が聴きたくなっただけだ。』

 

「え、うえ!?た、タケルちゃん!?」

 

 何時ものタケルちゃんなら、絶対に言わないだろうその台詞で、私のドキドキが加速する。や、やっぱり何時ものタケルちゃんじゃない!

 

『なぁ・・・お前、今日時間有るか?放課後にでも。』

 

「え・・・今日は臨時休校でお休みだけど・・・?」

 

『そ、そうか!それじゃあ、今から遊ばないか?色々話したいこともあるんだ。』

 

「え・・・私はいいけど、タケルちゃん学校は?」

 

 壁にかかった時計を見るとまだ十時。タケルちゃんは学校の筈なんだけど・・・。

 

『サボった。今電車に乗ってIS学園の近くまで着てる。』

 

「ちょっ・・・!?何してるのタケルちゃん!?」

 

『ハハハハハ!もうサボっちゃったもんね!いいから早く来いよ!』

 

「まっ・・・!」

 

『ブツ・・・ツー・・・ツー・・・ツー・・・』

 

 い、言いたいことだけ言って切りやがりましたですよ・・・。

 

「・・・変わって無いなタケルちゃん。」

 

 こういう強引な所は全然。

 

「・・・は、お化粧とかしなきゃ!!」

 

 少し遅れるくらいはいいよね。強引に誘ってきたのはそっちなんだし!




少し短いかな?でも投稿。
名前の呼び方とか、そういうので違和感あったら言ってください。


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世界の違い

side 白銀武

 

 

「一体どうなってるんだこの世界は・・・?」

 

 IS学園に近い駅へと向かう電車の中で、一人呟く。チラリと周りを見れば、この世界の異常性が一目で分かる。

 

「退きなさいよ。警察呼ばれたいの?」

 

「あ・・・スイマセン。今退きますよ。」

 

 先に座っていたサラリーマンらしい男性を脅してその席に座る小学生とか、俺は今まで見たこともないぞ・・・。だが、この世界ではコレが普通らしい。その原因は、【IS】と呼ばれる兵器群だ。

 

 【IS(インフィニット・ストラトス)】とは、【天災】と呼ばれる人類史上最高とも言われる大天才、篠ノ之束博士という人が作り出した【宇宙開発用マルチフォーム・スーツ】だそうだ。それが、【白騎士事件】と呼ばれる事件が切っ掛けで、宇宙開発用のスーツとしてよりも、【飛行パワード・スーツ】としての性能が見られるようになったとか。・・・問題は、それまでの兵器の性能を遥かに上回っていた【IS】という兵器が、女性にしか動かせなかったことだろう。束博士本人にも原因は分からないらしく、それのせいで、女尊男卑の社会が形成されてしまったらしい。一説には、女性と男性が戦ったら男性は3日ともたずに全滅するそうだ。・・・凄いよな、確かに凄い。【あちらの世界】の戦術機の性能を遥かに超えることは認めよう。・・・でも、可笑しいよな?それで何で女性全てが優遇されることになってるんだ?世界に467機(・・・・・・・)しか存在しない(・・・・・・・)のに。

 

 束博士は、【IS】のコアを467個作った時点で行方不明になったそうだ。なのに、何で女性であることそのものがステータスになっているのかが分からない。だって、世界に467しか存在しないんだぜ?つまり、操縦者は予備を含めても千人にも達しないだろう(候補生などを含めれば実際はもっと多いかもしれないが)。それなのに、何故世界中の女性全てが優遇されるんだ?【IS】に乗るために努力している女性が優遇されるのは分かる。だが、その一部の人の努力に乗っかって、自分は何もしないのに甘い汁だけ啜ろうという人間が多すぎるだろうこの世界は。・・・もしかしたら、【あちらの世界】よりも腐っているかもしれない。・・・勘違いしないでもらいたいが、俺は別に男尊女卑にしろとか言ってる訳ではなく、女尊男卑にしてもやりすぎだろうと言っているんだ。さっきの子供が言っていたように、この世界の女性は、男性に対して気に入らない事があると警察すら呼ぶ事が出来るそうだ。それで、明らかに女性のほうに非があっても、男性が逮捕されるなんてよくある話なんだと。・・・やりすぎだろう?

 

 実は、俺が学校をサボって電車に乗っているは、コレが原因なんだ。だって、【元の世界】では、結構仲が良かった女性生徒がかなり嫌な性格になっていたり、明るくて面白い性格だった男性の友達が、かなり暗い性格になっていたりと、兎に角居心地が悪かったんだ。しかも、純夏がIS学園に入学させられたのは知っていたが、委員長や綾峰、たまと美琴まで強制入学させられていたとは夢にも思わなかった。変わっていなかったのは涼宮と柏木くらいで、まりもちゃんや香月はか・・・先生も学校を辞めてしまったんだそうだ。

 

 正直、そんな居心地の悪い学校に何時までも居たくない。今までの【この世界】の俺だったら我慢出来ていたんだろうが、別の世界を知っている俺としては、知人の性格が悪い方向に変化しているのは見ていて辛いものがあるんだ。

 

 だから、図書室でこの世界の事を調べた後は、純夏に会いに行こうと思って電車に乗った訳だ。先程電話で話した限りでは、純夏はやっぱり純夏だったという印象だ。どんな世界でも、何処にいても、やっぱり純夏は変わらないんだと思った。多少の違いはあっても、根本的には変わらないんだと直感した。この世界でも、俺はアイツを愛することが出来るだろう。・・・だから、今日会ったら・・・

 



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変わらないもの

side 鑑純夏

 

 

「た~け~る~ちゃ~~ん!!」

 

「うおっと!?」

 

 数カ月ぶりに会うタケルちゃんに、ついテンションが上がって抱きついてしまった私は、きっと悪くないと思う。だって、今まで自分から連絡してくれなかった好きな人が、自分からデート(タケルちゃんはただ遊ぶだけだと思ってるだろうけど)に誘ってくれたんだから、嬉しくない訳がない。っていうか、IS学園は今年になってから突然教育方針を変えたみたいで、今までの【ちょっと特殊な女子高】みたいな校風から、【完全に軍隊訓練学校】へとなってしまった。そのせいで、まともな休みといえば冬休みくらいで、しかも一週間しか休みがない。それで法律的には大丈夫なのかと思うけど、【IS学園はどの国にも属さない】からいいんだって。つまり、IS学園自体が一つの国みたいなものだよね。

 

 こんなトンデモナイ学校に強制的に入れられて、しかも私達と同じことが、世界中で起こっているらしい。しかも、アメリカに第二のIS学園の建造まで決定したとか。・・・何か、嫌な事が起こりそうな気がするんだよね。こういう時の私の勘は外れない。なんだろう・・・最近、胸騒ぎが収まらない。

 

「おい俺を無視するな。」

 

 ベシ!といういい音を響かせて、私の頭にチョップが炸裂した。

 

「ちょ、ちょっと何するのタケルちゃん!!」

 

 か、かなり痛い・・・。織斑先生の出席簿チョップより痛いかも・・・。かなり本気で涙目になりながらもタケルちゃんを見ると、タケルちゃんはいい笑顔で豪快に笑いながら言った。

 

「ワハハ。俺を無視するからいけないんだ。純夏の癖に生意気なんだよ!うりうり。」

 

 そう言いながら、私の頭を楽しそうに撫でるタケルちゃん。・・・ちょ、ちょっと、せっかくセットした髪が乱れる~!

 

「いい加減にしろー!・・・どりるみるきぃぱーんち!!」

 

 私の必殺技が武ちゃんのお腹に突き刺さる・・・が、タケルちゃんは無傷!

 

「な・・・何で~?」

 

 私だって、この半年遊んでいたわけじゃない。・・・っていうか、遊べるような環境じゃなかったから、軍隊みたいな訓練をこなしてきたんだよ!?それなのに、一体何で効かないの!?っていうか、まるで鉄板を殴ったような感触が・・・。

 

「はっ・・・まさか本当に鉄板を仕込んで・・・?」

 

 気になってお腹を撫でて見るけど、別に何かを仕込んであるわけじゃなくて・・・筋肉・・・!?

 

「ほ・・・ほぇ~・・・。いつの間にタケルちゃんこんなに筋肉付けたの?」

 

 着ていたシャツを捲って確認すると、何と腹筋が六つに割れていた。私がいない間に、一体何があったんだろう?いたるところにすり傷や切り傷がある。

 

「ねえタケルちゃん、これって・・・?」

 

「いい加減にしろ!」

 

 またまたベシ!!と私の頭にチョップが炸裂した・・・(´;ω;`)。いや、本当に痛いんだけど。

 

「な、何するのさ!?」

 

「お前、今自分が何処にいるのか確認してみ?」

 

 武ちゃんの顔が若干赤みを帯びている?・・・っていうか

 

「あ・・・・・・。」

 

 街のど真ん中で、男性のシャツを勝手に捲り上げてお腹を凝視しているという、逆セクハラをしている女子の図。・・・うん、簡単に言うと、変態にしか見えないよね?

 

「う、うああああああ!?」

 

 私の顔が熱くなって、思わず武ちゃんの手を取ってその場を走り去る。うわぁうわぁ・・・知り合いに見られてないよね!?大丈夫、大丈夫だと信じる!

 

「わはははは!相変わらず純夏は純夏だな!!」

 

 でも、私の隣を遅れずに並走しているタケルちゃんの笑顔が何だか嬉しくて、ちょっと笑ってしまったのは秘密。

 




キャラの口調とか行動とかが物凄く違うとかいう意見がありましたら、感想とかで教えてください。何しろ、原作をやったのが結構前なので。
ただ、この作品の純夏は基本こんなかんじにしようと思ってます。いいよね、二次創作だし!


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遊園地 前編

side 白銀 武

 

 

 何処に行きたいかを純夏に聞いたところ、遊園地に行きたいらしい。ま、IS学園なんて特殊な学校に入れられたせいで、遊ぶ暇も無かったんだろうと思う。・・・だって、記憶ではあんなに綺麗だったアイツの手が、ボロボロになっていたんだ。今も、必死にIS関係の話題は出さないようにしているのがバレバレだし。

 

 まあ、だから純夏の希望を聞いて遊園地に行こうってことになったんだ。俺もかなり久しぶりだったしな。【あちらの世界】じゃ、遊園地どころかテレビゲームとかすら存在しなかったし。あった娯楽といえば、けん玉やおはじき程度。実は、純夏以上にワクワクしている俺だった。

 

 

 

 

「・・・なるほど、こんな所にも女尊男卑の弊害が・・・。」

 

 俺は頭を抱えて呻いた。俺たちは今、遊園地の券売機の前にいるんだが・・・男女で入場券の値段が違うんだ。それも、数百円とかじゃなく、倍以上違う。多分、女性の値段を割引した損害分を男性から搾り取ろうとしているんだろう。まぁ、遊園地に来るのなんて、基本的に家族連れか男女のペアくらいだろうから、案外釣り合いが取れているのかもしれないが・・・問題はそこじゃない。

 

 どうやら、【この世界】の俺は、今月既に新しいゲームを買ったばかりらしく、財布の中にあまり金が入っていなかったんだ。それこそ、自分の分を払っただけですっからかんになるレベル。実は密かに、好きな娘にディナーを奢るというシュチュエーションに憧れていたのだが、今回は見送るしかないみたいだ。

 

「どうしたのタケルちゃん?」

 

 考えていて動かない俺を不審に思った純夏が、顔を覗き込んでくる。黙っていてもしょうがないので、情けなさを隠しながら告げた。

 

「すまん純夏。俺の分の入場券を買うだけで精一杯だ。自分の分は自分で払ってくれ・・・。」

 

 結構落ち込んでいた俺だったんだが、純夏はポカンとして俺の顔を見続けていた。

 

「・・・どうした?」

 

「・・・やっぱり、今日のタケルちゃん何か変だよね?何時ものタケルちゃんなら、私の分まで払おうとか思うはずが無いもん。」

 

 ・・・あぁ・・・そうか、俺はそういう奴だったよなと自己嫌悪する。俺は、幼馴染という立場に甘えて、純夏に色々酷いことをしてきたような・・・。今思い出して見ると、結構やってるよな俺?

 

「でも・・・そういうタケルちゃんも新鮮でいいね!・・・じゃぁ、また今度機会があったら、その時私の分払ってね!!」

 

 と笑顔で言ってきた純夏に心が洗われるようだ。・・・自己嫌悪して立ち止まっている場合じゃないな。過去は変えられないけど、未来は変えられる。今までの俺が男としてダサかったなら、これから格好よくなればいいんだ!

 

「・・・わかった。その時は今度こそ俺が払う。勿論、その後の飯代まで俺が出してやるさ!」

 

 というと、何故か純夏は顔を赤らめた。

 

「・・・な、何か、デートの会話みたいだね・・・・・・。」

 

 小声だったが、【あちらの世界】で音にも敏感になった俺にはちゃんと聴こえた。・・・だから、

 

「・・・お、俺は・・・デートのつもり、だぞ・・・。」

 

 恥ずかしさを我慢して、俺の気持ちを言葉にする。・・・今までは、純夏から俺に歩み寄ってくれていたんだ。俺がどんなに酷い態度でも、コイツは俺の傍から離れないでいてくれた。融合しかけているのか、断片的に思い出せる【この世界】の白銀武の記憶からもそれは確かだ。【この世界】の純夏が、俺を好きでいてくれているかは分からないけど・・・どっちでもいい。例え今愛してくれていなくても、これから俺を振り向かせてみせるさ。

 

「・・・え?え、え・・・!?」

 

 俺の台詞に、顔を真っ赤にして俯く純夏。・・・耳まで赤く染めて俯く彼女が、愛しくてしかたない。・・・何この可愛い生物。ずっと見ていたいんだけど・・・。

 

『・・・・・・。』

 

 でも、それは無理だった。何故なら・・・

 

『何時まで券売機の前で立ち往生してる気だ?』

 

 俺たちの後ろには、何時の間にか長蛇の列が出来ていたから。しかも、そいつらから射殺さんばかりの殺気を感じる。

 

「ば、馬鹿な・・・!俺が恐怖するだと?・・・アレ程の地獄を見てきた、この俺が・・・!?」

 

 ということで、彼らが怖いので未だに固まっている純夏の分も券を購入して、その場から逃げた。

 

『爆発しろー!!』

 

 後ろからの怒声と殺気は、気のせいだということにしておきたい・・・・・・。

 

 

 




やっぱり、多少更新感覚が長くなっても、一話あたりの文章は長いほうがいいですか?書くことの出来る時間が短いのもあるんですけど、あまり長いのを書こうとすると集中力が続かないので、更新は結構遅めになるとおもいますけど・・・。


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遊園地 後編

side 白銀 武

 

 

 さて、今俺たちが着ている遊園地は、あの超有名な、東京と名のついているにも関わらず千葉県にある、某夢の国な訳だが・・・ここでも、ISによる弊害というか、俺の知る夢の国と違う部分が沢山あった。

 

「ハハッ!ミ○ーよ!」

 

「わーい!○ニーちゃんだー!!」

 

 純夏が無邪気に走っていき、着ぐるみに抱きついている。基本的に、あの着ぐるみの中に入っているのは体力のある男性なので(女性が入っていることもあるが)、ちょっと嫉妬しそうになったが・・・まぁ、着ぐるみに嫉妬してもしょうがない。

 

 ・・・俺が驚いているのは、あの天下のミッ○ーが、恋人とかいう設定であったはずのミ○ーに主人公の座を奪われていたことだ。

 

 流石に驚いた。だって、ディ○ニーの主要キャラの立場を変更してしまう程に女尊男卑が浸透しているなんて思わなかったからだ。調べた所によると、ISが登場して女尊男卑が当たり前になってきた頃に、アニメやゲーム、映画や漫画等、ありとあらゆる創作物で、男性が主役になっている物に女性からの批判が集中したらしい。彼女たち曰く、『軟弱な男性共に、こんな危険な事をする根性などあるはずがない』だそうだ。意外にも世界規模で広がったその批判の嵐に、今までの作品などでもリメイクして女性を主役にする動きが出たらしい。この夢の国もそうなのだとか。・・・いや、夢の国なんだから、せめて男性にも夢を見せてやれよと思わなくもないが。どうして遊園地に遊びに来てまで、現実を思い知らされなければいけないのか?

 

 さて、元主役のミ○キーが何となく寂しそうに見えるが無視して、アトラクションを楽しむことにしようか。

 

 

 

 

「すっ・・・・・・・・・げぇえええええええええええええ!!」

 

「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 風が顔に叩きつけられるが、そんな事を気にしている場合ではない。何しろ、俺たちの眼前には無限に大空が広がっているのだから。俺は、手元のレバーを操作して機体を傾ける。物凄い速度で向かってくるホログラムの敵を避け、時にはビームを撃って倒す。

 

 俺たちが乗っているのは、【ギャラクシー】という、新しいアトラクションだ。なんとこのアトラクション、ISの機能を一部使用しているらしく、本当に(・・・)空を飛んでいる(・・・・・・・)。しかし、PIC(パッシブ・イマーシャル・キャンセラー)とかいうISの技術の劣化版を使用しているらしく、Gがかなり軽減されている。それこそ、【バルジャーノン】レベルの揺れだ。ISという兵器が世に出てから十年、漸くこの素晴らしい技術の兵器以外の使い道を見つけたのだろうか。この【ギャラクシー】は、専用の人型機械の乗り物に乗って、客自身が操縦してゴールを目指すアトラクションだ。しかも、障害物や地面と衝突しそうになったら、A・I(人工知能)が瞬時に判断して制御して軌道を戻すため、絶対に事故も起こらないという素晴らしい使用らしい。恐らく、【あちらの世界】の技術を、【こちらの世界】は優に超越している。敵はホログラフィックの映像だし、攻撃もホログラフィックだそうだ。それで、まるで本当に敵を撃っているような臨場感を出しているんだから、この技術の大元を考えた【束博士】という人は本物の天才だな。

 

 実際に【あちらの世界】でBETAと戦っていた俺が、本物の臨場感だと認めよう。確かに、所詮は遊びだから命の危険が無いため、本物の戦いの雰囲気は無いが・・・このアトラクションは本当に凄いと感じる。

 

『お疲れ様でした。お足元にお気を付けてお降りください。』

 

 凄く楽しかった【ギャラクシー】も終わってしまった。俺たちは少しの寂しさと共に、機体を降りる。

 

『おめでとう御座います!此方のお客様が、ハイスコアを更新いたしました!!』

 

 俺たちが機体を降りると同時に、賑やかなファンファーレと共に夢の国の住人(スタッフ)が現れ、俺たちを取り囲んだ。

 

「な、何だ!?」

 

「お客様のスコアは、ハイスコア・・・というか、一度のミスもなく満点でして。スコアが一定以上のお客様には、お食事券をプレゼントしているのです。」

 

 と言って渡されたのは、この夢の国一番のホテルのディナー券。

 

「う・・・嘘。・・・凄い凄い凄い!確かここって、最低でも数万円くらいからの食事しかないところだよ!?」

 

「そ、そんな所の食事券貰っちゃっていいんですか?」

 

 と、俺が若干怯えながら聞くと・・・

 

「大丈夫です。ドレスやタキシードなども無料でお貸ししていますので、どうぞご利用ください。」

 

「あ、有難う御座います・・・。」

 

 とんでもない物貰っちまったが、まぁ純夏が楽しみにしてるし良いか。

 

「お客様、もしよろしければ、先程の映像をPVとしてテレビで放送してもよろしいでしょうか?」

 

 と、更に爆弾を投下してくる従業員。

 

「な!?」

 

「勿論、個人情報が流出するような映像や音声は全て修正いたします。先程の操作が余りにも凄いものでしたので、PVとして利用したいのですが・・・。」

 

「・・・ま、まぁ、そういうのを修正してくれるなら別にいいですよ。」

 

 断る必要もないだろ。と考えてOKしたのだが、従業員の喜びようは凄かった。

 

「そ、そうですか!有難う御座います!」

 

 そんなこんなで、俺たちは結構な戦利品を得て次のアトラクションに向かった。

 

☆☆☆

「・・・凄いですねあの男性。このアトラクションで満点を取るって、国家代表クラスでも難しい筈なんですけど・・・。」

 

「オープン前に日本代表が惜しい所まで行ってるけどな・・・。それに見たか彼らの顔?あんな恐ろしい挙動をしていたのに、二人ともケロッとした顔で、汗一つかいていなかった。」

 

「そもそも、あんな挙動をしたら、AIが危険だと判断して自動的に修正するハズなんですが・・・バグですかね?」

 

「今軽く点検しているが・・・バグのあった形跡なんて無いんだよな・・・。」

 

「・・・一体、何者なんでしょうね彼ら?」

☆☆☆

 

 

 

 楽しんだ俺たちは、少し遊び疲れてベンチで休んでいた。周囲は暗くなり始めているが、パレードなどもあるため、ここからが本番だとばかりに張り切っている親子連れも多い。あぁ・・・遊び疲れるなんて贅沢、一体何年ぶりだろうか・・・・・・?

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

 俺たちは何も喋らずに周囲の喧騒に身を任せている。だが、別に嫌な沈黙ではない。俺たちの距離は段々と近づいていって・・・何時の間にか、俺たちの手は重なり合っていた。

 

「・・・昔は、こうやって手をつないで歩いたっけな・・・。」

 

「タケルちゃんが引っ張っていったの間違いでしょ?何度も転びそうになったりして大変だったんだからね。」

 

 怒ったように頬を膨らませるも、その表情は笑っている。そもそも、俺がコイツにしてきたことの中ではかなり軽いほうなので、これで怒ってもしょうがないという考えかもしれない。

 

「・・・何時からかな、こうして手を繋ぐの止めたの。」

 

「・・・何時からかな・・・。」

 

 思い出せない。【こちらの世界】の白銀武の記憶にも、朧げにしか存在しない。・・・多分、『女と手を繋ぐのなんて恥ずかしい』みたいな考えで、俺から手をつなぐのを止めたんだろうと思う。

 

 隣に座る純夏は、少し寂しそうに

 

「何時まで私達、こうしていられるのかな・・・。」

 

 と呟いた。

 

「何時までって?」

 

「だって私・・・タケルちゃんと一緒に卒業出来なくなっちゃったじゃん。あの街からも離れて、ISなんていう兵器の適正が歴代一位だなんて嬉しくないことを言われて・・・ねぇタケルちゃん。私が動かしているのはね、戦争の道具、人殺しの為の兵器なんだよ?」

 

 それまで笑っていた純夏の表情が・・・歪む。

 

「タケルちゃんは、学校を卒業して大学生になって、恋人も出来て、社会に出て結婚して・・・何時か、私のことなんて忘れちゃうんじゃないかな・・・?IS学園に通っている以上、私は軍関係の職業に就くんだと思うし。・・・不本意とはいえ、戦争の道具を動かす練習をしている私のことなんて忘れたほうがいいとは思うけど・・・それでも・・・・・・それでもやっぱり寂しいよ。」

 

 独白を続ける純夏の瞳が潤む。俺は何時の間にか、繋いだ手に力を込めてしまっていた。

 

「・・・私達、もう普通の幼馴染には戻れないのかな・・・・・・?」

 

 ゴクリと唾を飲み込む。本当は、ディナーの後に言うつもりだった。・・・だけど、今の純夏を放っておくことは出来ない。今にも泣きそうな純夏をこのままにはしておけない。

 

 ・・・だから、言った。

 

「・・・そうだな。俺たちはもう、普通の幼馴染には戻れない。」

 

「・・・っ!」

 

 純夏が弾かれたように俺を見る。その瞳には、驚愕がアリアリと浮かんでいた。そして、その顔が更に歪んで、その瞳から涙が溢れる前に言い切った。

 

「俺はもう、お前と唯の幼馴染(・・・・・)に戻るつもりはない。戻りたくはないんだ。・・・だって俺は・・・・・・俺は、お前が好きだから!!」

 

「え・・・?」

 

「純夏、お前を愛してる!だから、今更唯の幼馴染に戻りたくはない。・・・純夏、俺と付き合ってくれ!!」

 

 一息に言い切って、深々と頭を下げる。自分では分からないが、多分俺の顔は真っ赤になっているだろう。・・・くそっ!【あちらの世界】でも純夏とは恋人になったのに、やっぱりドキドキする。【あちらの世界】の純夏みたいに断られたらどうしよう?既に純夏に好きな奴がいたらどうしよう?そんな考えばかりが頭に浮かんでは消えていく。

 

「・・・これ、夢・・・・・・じゃないんだ?」

 

 先程から自分の頬を抓るのを繰り返していた純夏は、漸くこれが夢じゃないと確認出来たらしい。

 

「え・・・え?タケルちゃんが、私のこと好きって・・・本当に?」

 

「本当だ。・・・お前が居ない世界で、俺はお前がどれだけ大切なのかを知ったんだ。俺は、今そこにある幸せを、あるのが当たり前として受け取ることしか出来なかった。身近にありすぎて、それが幸せってことなのを気づく事が出来なかった。失って始めて気が付いたんだ、お前を好きだって事に。愛しているって事に。」

 

「う・・・ぁ・・・・・・。」

 

 夢中で喋っていた俺は、純夏が顔を両手で覆ってポロポロと泣き出したのを見て混乱した。

 

「え・・・どうした純夏!?ま、マズイことを言ったか!?もしかして嫌だったか!?」

 

「ううん、違うの!・・・嬉しくて・・・・・・嬉しくて・・・。」

 

「それって・・・。」

 

 俺がその言葉の意味に気が付いたと同時に、純夏は抱きついてきた。そして、首に手を回して少しだけ離れる。

 

「・・・ぁ。」

 

 すると、俺の顔と純夏の顔が物凄く近づいた。互の吐息が感じられる程に近く、近く。こんなに近づいたのは、幼馴染人生でも始めてだと【こちらの世界】の俺の記憶が叫ぶ。勿論俺もだ。

 

「・・・・・・タケルちゃん。」

 

 真っ赤な顔をした純夏に至近から声を掛けられて、心臓が破裂しそうな程に脈打っている。いくら吸っても呼吸が苦しい。

 

「な、んだ?」

 

 それでも、どうにかその言葉を返した俺に、純夏は今まで見てきた中でも最高の笑顔と共に・・・

 

「ありがと!私も、愛してるよ!」

 

 俺の唇に、キスをしてきた。

 

「!?」

 

 本当に、唇と合わせるだけの軽いキス。だけど、俺の瞳からは何故か涙が溢れて止まらない。

 

 どのくらい続いただろうか?息苦しくなってきた俺たちは、どちらからともなく離れた。

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

 キスをした恥ずかしさからか、お互い無言・・・だけど、目を逸らさない。

 

「・・・純夏。」

 

「・・・はい。」

 

 珍しく丁寧な言葉をした純夏が可愛くて、思いっきり抱きしめながら

 

「俺と付き合ってくれ。」

 

「はい!」

 

 俺たちは、結ばれた。

 




ラブコメは・・・出来たんだろうか?これでいいのかラブは?もっと甘くしたかったけど、私には限界でした。


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始まり

side 篠ノ之 束

 

 

「・・・私一人の力じゃ・・・未然に防ぐ事なんて出来なかった、か・・・・・・。」

 

 私は、ちーちゃんとの通話を切って深く嘆息した。全身を酷い倦怠感が襲う。・・・こんなに疲れたのは何年ぶりだろう?今までは、この後に起きるであろう地獄を未然に防ごうと奔走していた。疲れなんて感じている余裕なんて私には無かったけど、この数年間の苦労が殆ど水の泡となった今は、もう何もやる気が起きない。霞ちゃんと夕ちゃんは【英雄】さんに会いに行っていてここには居ないので、今私がやるべきことは何もない。

 

「・・・どうしてこうなったのかなぁ・・・?」

 

 私は、世界に負けた。一国や二国が相手なら、例えアメリカにさえ負ける気はない。でも、世界全てが私の敵となったなら話は別だった。だって、所詮私は【天災】などと呼ばれていても、個人の科学者であることには変わりないんだから。圧倒的に人手も資材も足りない。機械などである程度代用出来ると言っても、それには限度がある。更に、私に自分たちの目的を邪魔されないようにと世界全てが私の事を捜索しているこの状況では、落ち着いて研究も出来ない。・・・アイツ等は、敵の力を分かっていない。ただ、未知のテクノロジーを持つ獲物がやってきたと思っているだけだろう。絶対に勝てると(・・・・・・・)・・・そう思い込んでいる。

 

「・・・皮肉な物だよね・・・。私の技術力が認められたのに、それが原因でこうなるなんて。」

 

 本当なら、地球に奴らがやってくる前に仕留めるべきだった。私の作ったISが、元々の役割である【宇宙開発用マルチフォーム・スーツ】として役目を果たしていれば、それが可能だったはずなのに。それこそ、宇宙空間に迎撃するための戦艦を作って、奴らをコロニーごと全滅させることすら可能なはずだった。元々ISの武装類は、迎撃に失敗したときの保険のつもりで制作した代物だったのに。

 

 ・・・それなのに、ISは世界に(・・・)認められ(・・・・)すぎてしまった(・・・・・・・)。ISさえあれば、多少の犠牲が出たとしても勝てると、そう思われてしまった。苦労せずに未知のテクノロジーを手に入れる事が可能だと思われてしまったのだ。だから、世界とは別に、地球に着陸する前に殲滅してしまおうという私を牽制し、邪魔してきた。そのせいで、私の計画の一つは頓挫した。

 

 ・・・彼らがそんなに奴らのテクノロジーに拘るのは、十一年前、ISを世界に発表した学会で私がウッカリ口を滑らせた【ある言葉】も原因だとは思うけど。

 

 私は、人類なんて正直どうでもいい。ちーちゃんや箒ちゃん、いっくんや夕ちゃんまりちゃん、それと霞ちゃんが居れば、他には誰も要らない。・・・でも、私が大切なその人たちには、他の人間が大切で、必要なんだってことも分かっている。誰も一人では生きていけないから。私は食料も全部自給自足出来るし、有象無象の人間なんていてもいなくても大丈夫だけど、ちーちゃんや箒ちゃん達には、【人と人の繋がり】っていうのが大事なんだって分かってる。だから、私は人類を助けたいんだ。

 

 ・・・だから、【英雄】さん。私にその力を貸して欲しいな。もう、それしか道が無いから。

 

☆☆☆

 

side 織斑 千冬

 

 

 束からの連絡から数時間、私の心は嵐の海のように荒れ狂っていた。それこそ、山田先生を始めとした他の教師陣や一般生徒が、私の顔を見た瞬間に悲鳴を上げて逃げ出す程だ。・・・そんなに恐ろしい顔をしているのだろうか?

 

「どうしたんだよ千冬姉?何かあったのか?」

 

 後ろから掛けられた声に振り向くと、私の弟である一夏と、シャルロット・デュノアの姿があった。一夏は私の顔を見ても普通にしていたが、デュノアは完全に怯えていたな。ただ、今の私は一夏の顔を見たせいか多少は落ち着いたつもりなんだが。コイツの笑顔は、何故か人の心を穏やかにする。

 

「・・・いや、馬鹿兎から不吉な話を聞いてな。少し気が立っている。」

 

「・・・束さんから?一体何を言われたんだ?」

 

 束という名前を聞いて、デュノアが驚いている。・・・まぁ、こいつらは去年の臨海学校の時に始めて会った訳だし、あの時にアイツの性格を目の当たりにしても、やはりアイツはIS乗りにとっては雲の上の存在だ。それこそ、世界各国が躍起になって捜索するほどの。その名前が出てくれば驚きもする、か・・・。

 

「・・・一夏、そしてデュノア。本当はこの話は機密事項になるので教えられないんだが、お前たちにだけは教えてやろう。恐らく、他のメンバーも巻き込まれるかもしれん。奴らにも伝えておけよ。」

 

「・・・何だ?」

 

 自分たちが巻き込まれると聞いて、一夏の目が真剣なものになる。・・・まったく、コイツのこの瞳に、一体何人の女性が犠牲になってきたのかと、思考が脱線してしまう。が、今はこんなことを考えている場合ではないことを思い出し、頭を軽く振って余計な思考を追い出す。

 

「束はこう言っていた。・・・・・・絶望が、地獄がやってくると。これまでの平和な世界は終わりを告げる。人類が生き残る為の鍵は、お前達と【英雄】だ、と。」

 

 一夏は、酷く狼狽している。デュノアは、何故一夏がそこまで慌てているのかが分かっていないようだ。・・・だが、それも仕方がない。

 

「マジかよ千冬姉。あの束さん(・・・・・)が、地獄だって言ったのか!?大抵のことなら何でも一人でどうにかしてしまう【天災】が!?」

 

 何故なら、あの【天災】の事をよく知っている人間で無ければ、この感覚は理解出来ないからだ。今まで、奴に不可能など無かった。気に入らない人間は叩き潰し、自分の見たいものだけを見てきた。やりたい事だけをやり、したくない物は捨ててきた。最後には、世界をISなどという超兵器で変革し、今も行方不明になって世界を翻弄し続けている・・・最凶最悪の【天災】。そんな奴が、地獄だと、絶望だと言って、一夏達と、謎の存在である【英雄】とやらに世界を託した(・・・・・・)のだ。

 

 そして、何時の間にか私の部屋に転送されてきていた、世界で468番目のIS【白雷(びゃくらい)】。今は私の首に、銀十字型のネックレスとして装着されているこれは、【赤椿】、【白式】と同じく第四世代のISだった。コレを秘密裏に送ってきたということは、本当に何か大変な自体が起きるのだろう。・・・だが、人をこんなに不安にさせておいて、何が起きるのかを言わないとは何事だあの馬鹿兎め!今度会ったら頭をかち割ってやる。

 

『織斑千冬先生、校長室へおいで下さい。校長がお呼びです。』

 

 その時、放送が鳴って呼び出された。一体何だというのだ?

 

「スマンな、呼び出しだ。」

 

「あ、あぁ。俺は箒達に今言われたことを伝えてくる!・・・そうしないと駄目な気がするんだ。」

 

 そう言って、一夏はデュノアを連れて走り去っていった。

 

「・・・全く、廊下は走るなと言っているだろうに・・・。」

 

 だが、今は怒る気にもなれないので見逃すことにした。

 

☆☆☆

「・・・今、何と言いましたか校長?」

 

 私は、校長室で、信じられないような言葉を聞き、思わず聞き返していた。

 

「ですから・・・。」

 

 だが、校長は軽薄な微笑みを浮かべて、もう一度同じことを繰り返した。

 

「異星人との戦争が始まります。・・・異星人狩りの始まりです♪」

 

 だが、この時はあんなことになるとは、一部の人間しか分かっていなかっただろう。

 




・・・まだ短いかもしれないけど、自分的に一話はこれくらいかなって。まぁ、戦闘が入ればもっと長くなると思います。


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世界の意思

今回の話はかなり無理があったか?でも、この世界の科学力なら、マジで地球に来る前に落とすのも夢じゃなかった気がするんですよね。先ずハイヴが地球に来てくれないと話が進まないし、それをこじつける為の話でした。
・・・っていうか、校長のキャラが変わりすぎだろう。


side 織斑 千冬

 

 

「・・・は?」

 

 ・・・何を言っているのか分からなかった。私には、目の前でニヤニヤと笑っているこの女性が、一体何を言っているのか分からなかった。欲に目が眩んだ人間を今までに何人も見てきてはいたが、この女性の醸し出す雰囲気は尋常な物ではなかった。・・・狂っていると評してもいいかもしれない。

 

「ところで織斑先生。話は変わりますが、貴方は十一年前に、学会で束博士が発言した『迷言』を知っていますか?」

 

「は?『名言』・・・ですか?」

 

「違います。『迷言』・・・つまり、コイツは何を言っているんだ?という意味のほうですよ。実はあの時、束博士はISの説明の他に、【ある言葉】を言っているんです。その時は、ISなんて夢物語だ、子供の作った玩具だと笑われましたが、それは後に起こった【白騎士事件】で事実だと認めなくてはならなくなりました。・・・ISに(・・・)ついてのみ(・・・・・)、彼女は認められたんです。その時には彼女の突飛な性格は知れ渡っていましたから、その『迷言』は彼女の冗談の一つだと思われて忘れられた。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて、つい数年前まで忘れられていたんですよ。」

 

 正直に言って、あの馬鹿兎の話す事柄がマトモだったことなど殆ど存在しない。アイツは完全に自分の感性の導くままに話すので、ある程度の天才でないと話について行けないのだ。私はそれでも付き合いの長さから、大体何を言いたいのかが分かるが、普通の人間ではそうもいかないだろう。日常生活で話す大抵の事が『迷言』であり、一体どんなことを言ったのか見当もつかなかった。

 

「フフフ・・・分からないと言った顔ですね。・・・・・・いいですか、彼女はね、その学会中に学者の一人が遊び半分に言った『何故ISなんて作ったのか』という質問に、『宇宙人が攻めてくるからそいつらを撃退する兵器を作るための補助の為に作った』と言ったのよ。」

 

「・・・何だと?」

 

 宇宙人が攻めてくると、十一年も前から既に分かっていたと?・・・いや、ISを研究、制作するための年月を計算すれば、それよりも遥か昔に今の状態を予測していたことになる。いくら【天災】といえども、そんな事が可能なのか?

 

「その時は、学会に参加していた学者の殆どが爆笑したらしいですけどね。そのあと、先程の質問をした学者が笑いながら『何故、そいらが襲ってくると知ることが出来た?いつ襲ってくるんだ?』と聞いた所、彼女は『襲っている映像を見て、体験したから。それは、もう私にも見れないから証拠は無いけど信じて欲しい。何時襲ってくるかは分からない。』と言いました。この時点で、彼女は神聖な学会を汚したとして会場を追い出され、二度と入ることが禁止されました。・・・【白騎士事件】でISの性能が本物だと証明されるまではね。」

 

 彼女は、そこで一度言葉を切ってお茶で喉を潤した。そして私にも飲むかと問いかけてきたので、有難く頂戴することにした。・・・正直、訳の分からない話を聞かされて喉が乾いていたのだ。

 

「・・・それで、束の言った事は事実だったのですね?」

 

 喉を熱い緑茶で潤し、少し落ち着きを取り戻した私は質問する。

 

「そうよ。何処がどういう手段で発見したのかは機密事項だから言えないけど、地球からそう離れていないある惑星の近くで、例の学会で束博士が出した映像とほぼ同じ形をしたコロニーを発見したの。しかも、そのコロニーは確実に地球に近づいていることも分かった。・・・だから、各国は、その地球外生命体を、地球に降下させることにしたの♪」

 

「・・・な、何だと?」

 

 何故、そんな危険な真似をするのかが分からない。確かに、その地球外生命体が、人類に友好的という可能性もある。下手に攻撃をすれば、無闇に敵を作ることにもなりかねない。・・・が、先程の【異星人狩り】という言葉からすれば、少なくとも各国はソレを敵性と看做しているのだろう!?ならば、態々地球に降下させなくても構わない筈だ。そんな状態で攻撃すれば、人間に少なくない被害が出ることは明白。ISという、【宇宙開発用マルチフォーム・スーツ】があれば、そんなことをする必要もないだろう。宇宙空間での戦闘も出来るように作られているのだから。

 

「だって、私達が欲しい物は、そのコロニー自体なんだもの。宇宙で戦って、もし壊しちゃったらどうするの?残骸を回収するのにも手間とお金が掛かるし、やっぱり、自国にあったほうが他国に邪魔されずに研究を進めることが出来るじゃない♪」

 

「・・・まさか、それだけの理由で?」

 

 信じられなかった。いや、信じたくなかった。世界がそれ程に愚かだったとは、信じたくはなかった。だが・・・

 

「あのね、束博士は、例の学会を追い出された時に、もう一言話しているの。かなり小声で、それこそ独り言レベルだったんだけど、偶然にもそれを録音していた人がいたのよね。・・・で、その内容なんだけど・・・要訳すると、『ISはその地球外生命体の持つ物質から作られている』ということだった・・・らしいわ。」

 

 そこで、校長は席を立った。今までの何処か澄ましていた態度はナリを潜め、狂気が見え隠れする表情で叫ぶ。

 

「その殆どがブラックボックスに包まれるISコア!武装のほうは私達でも何とか技術が追いついて進化させることが出来た。でも、ISコアは別なのよ!?世界中の科学者が雁首揃えて研究しても、材質すら掴めなかったその未知の技術が地球にやってくるの!それさえ手に入れて研究することが出来れば、束博士しか作れなかったコアを私たちの手で作る事が出来るかもしれない!ねぇ貴方ならこの意味がわかるでしょ!?今まで個数が限られていたISが、金と権力さえ有れば幾らでも手に入る未来がやってくるの!やつらのコロニーを手に入れた国が、世界の覇権を握ると言っても、過言じゃないのよ!?」

 

 確かに、その可能性はあるだろう。今世界一の大国と言われれば、殆どの人間がアメリカだと答えるだろうが、他の国がそのコロニーとやらを手に入れれば話は別だ。今の世界最強の兵器はIS。それを量産出来るのならば、例え小国ですら世界に勝つことが可能かもしれない。・・・だが、

 

「ですが、それは勝てればの話でしょう。それに、住民に被害が出ない筈が有りません。やはり、コミュニケーションを取るなどの安全策を取るか、地球に辿り着く前に宇宙で撃墜するほうが確実で安全です。・・・地球での戦争は、それらがどちらも上手くいかなかった場合の最終手段とするべきでは?」

 

 狂ったように叫んで踊っていた(かなり恐ろしかった。私が恐怖を覚えるのは何年ぶりだ!?)校長が、壊れた人形のような緩慢な動作で此方を見る。・・・だから止めてくれ!明らかにホラーだぞ!?

 

 という私の内心を知る由もなく、校長はニヤリと笑う。・・・その瞬間、私の背に言いようのない寒気が走った。

 

「もう遅いわねぇ・・・。だって、あと数時間で地球に来るし。到達地点と思われるアメリカと中国には、既にドイツの第三世代機である【シュヴァルツェア・レーゲン】のAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を搭載した機体が複数待機しているよ?流石に、あの質量が普通に激突したら周囲に及ぼす被害が半端じゃないからねぇ・・・。まぁ、二つの大国に落ちるのがほぼ確定した状態だから、宝くじに外れた心境の他の国は、今更だけどこの作戦に反対しているけどね。誰だって、自分たちが甘い汁を吸いたいけど、他人がそれを吸っているのを見ると羨ましくなるのよねぇ・・・。まぁ、その反対派も押さえ込んでるんだけど。」

 

「なっ・・・・・・!?じゃぁ、ラウラが特別任務だと言って一昨日から国外へ出ているのは・・・!?」

 

「流石ブリュンヒルデ、察しがいいねぇ。彼女はアメリカの方へ手伝いに行っているよ。まぁ、任務の内容までは知らなかったみたいだけどね。」

 

 絶句している私に近づき、囁くように喋る校長。・・・今の私には、コイツは悪魔か何かにしか見えない。

 

「もう、戦争は始まっているんだよ?もしもの時は、君も出撃してもらうからそのつもりでいてね?ブリュンヒルデ(世界最強)。・・・勿論、君に拒否権などない。そんなことをしたら、君の大切な人間がどうなるか分からない君じゃないだろう?・・・いくらブリュンヒルデといえども、【天災】さえ負かした【世界】という強大な力には敵わないんだからさ。」

 

 アハ、アハハハハと笑いながら部屋を出て行く校長を、私は黙って見逃すしか出来なかった。・・・体中に、ビッシリと冷や汗をかきながら。

 



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ラウラの不安

side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

 

「それでは、これで最終確認を終了する!」

 

 そう言って、今回の作戦の最高司令官が作戦司令室を出て行く。それに続いて他の作戦隊員も部屋を退出していく中、私は席を立たずに考え込んでいた。

 

「・・・キナ臭いな。どうにも嫌な予感がする。」

 

 そもそも、今回の作戦は最初から穴だらけだ。作戦内容は飛来する隕石を我々ドイツの第三世代兵器であるAIC(アクティブ・イマーシャル・キャンセラー)によって受け止め、地域への被害を最小限に防ぐというものだった。しかも、アメリカと中国に同時に落ちてくるため、急遽我々のAICのデータなどを他国に提供し、一時的に作戦に参加する他国のISが使用出来るようにするという、国益度外視、完全無視の作戦だ。

 

 上層部はこの作戦によって世界に恩を売ることが出来るとか喋っていたが、そんな薄っぺらな言葉に惑わされる人間が居ると思っているのか?AICの性能を知っている我々ドイツ軍人の中に、この作戦には裏があることを疑っていない人間などいない。

 

 だってそうだろう?そもそも、ISという兵器は元々【宇宙開発用マルチフォーム・スーツ】として開発されており、ちゃんと実験までして宇宙空間でも性能を十分に発揮出来ることを確認しているのだ。専用の装備さえ有れば単独で大気圏を突破出来るのだから、それこそAICを所持している我々ドイツ軍が宇宙に出て、その隕石の慣性を停止させて別の方向に少し押してやるだけで良い。それだけで、地球に迫る未曾有の危機を回避出来るのだから、ドイツは世界中に多大な恩を売ることが出来るはずだ。ただ慣性に従って浮遊進行しているだけの存在と、地球という巨大な物体の重力に引かれて加速した存在、どちらがより対処し易いかなど、子供でも分かる事だ。

 

 なのに何故、態々AICという我々の技術の結晶を提供してまで地球に近づける必要がある?どんな契約を交わそうとも、必ずこの機構の詳細な情報は盗まれる。そうすれば我が国が他国に有するアドバンテージの一つを失う事になるのだぞ?それが分からないほどに無能な政治家たちではないだろう。つまり、この作戦にAICを投入することで、損失を上回る利益を得るということか?それは一体何だ?AICと引き換えにした他国の第三世代兵器の情報だろうか?それとも何らかの権益だろうか?

 

「・・・駄目だな、考えても答えは出ない。」

 

 そこで私は無駄な思考を打ち切った。元より考えても無意味なことだったのだ。私達軍人は命令には絶対服従。それが例え、死ねという命令でも拒否することは出来ないのだから。・・・まぁ、あの学校(IS学園)で人間の生き方、楽しみという物を知ってしまった私としては、何があろうと絶対に死ぬ気はないのだが。・・・そう、何があろうと、どんな汚い手を使おうとも、絶対に生還してみせるとも。あの暖かい日溜まりに戻るためなら、私は何だってするさ。

 

 待っていてくれ、皆。

 




マジで短いですね。まぁ、あんまり間が空くのもアレなんで、これで投稿します。
・・・あと、実際ISって大気圏突破出来るんですかね?・・・まぁ、私の作品では出来る設定です。


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予感

side イルマ・テスレフ

 

 

「・・・もう、笑うしかないわね。」

 

 乾いた笑いしか出てこないこの状況。しかし、私以外の殆どの人間が同じ心境のようだった。

 

 やっとのことで手に入れたアメリカ国籍。優秀なIS乗りに与えられる自由国籍権を手に入れることが出来た時には、これで家族にも楽をさせてあげられると喜んだものだけど・・・今のこの状況を考えると、素直に自国で大人しくしていたほうが良かったのかもしれない。例え生活が苦しくても、こんな・・・命を投げ捨てるかのような作戦に参加しろと強制されるよりは、そっちのほうがマシだったのかも。

 

 既にISを展開して空に上がっている私達は、人工衛星から送られてくる映像を見て、唖然とするしか無かった。・・・隕石の大きさが、報告にあったものよりも遥かに巨大だったからだ。

 

 落ちてくる隕石は二つ。一つはここカナダのサスカチュワン州アサバスカに。もう一つは中国の新疆ウイグル自治区喀什(カシュガル)に落ちるだろうと予測されている。この二つのポイントでは、既にドイツの第三世代兵器AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を無理やりダウンロードした機体が、アメリカ・ドイツ・中国・ロシアの合同軍の計30機配備されている。・・・世界征服が楽に出来る戦力が一度に集まるこの状況に、恐ろしい物を感じる。

 

 ・・・しかし、この作戦はそもそも穴だらけだ。それこそ、子供が考えたのではないのかと疑いたくなるくらいに。

 

 いくつかある問題点の中で一番の問題は、落下する地点が正確にはわからないこと。

 

 今私たちは、15機の機体で、落下予想地点のほぼ全域をカバーしている。軍用のISは、モンドグロッソ用にリミッターを掛けられている訳では無いので、スピードはかなり出る。それこそ、超音速くらいまでなら出せる。でも、隕石が地球に近づくにつれて落下予想地点が正確にはなっていくけど、流石に範囲が離れすぎていて、そこに間に合うかどうかが微妙なラインなのだ。

 

 そもそもAICとは、慣性停止結界の名の通り、慣性を停止させるフィールドのような物を発生させて、それに触れた物の慣性を消し去る兵器だ。当然、一度に発生させられるフィールドの大きさは決められている。普通のIS戦ならばそれでも十分な強さを発揮するが、今回の対象である隕石はそれとは比べ物にならない大きさだ。当然、一機や二機程度のAICでこの隕石を受け止めることは不可能。

 

 例えば、今回のように上から物凄いスピードで降ってくる物体の、たった一部分だけを止めたとすると、どうなるか分かるだろうか?・・・そう、千切れる。今回の隕石は、何と横幅が5km程もあり、総重量など考えたくもない。・・・要所要所にAICを発生させることが出来なければ、千切れた隕石が大地に降り注ぎ、甚大な被害を被ることになるだろう。・・・そういえば、恐竜が絶滅した原因の考察の一つに、巨大な隕石が落下して、巻き上げられた土砂によって太陽光が遮られた結果、地球全体の

温度が低下して氷河期になった為に凍死した・・・とかいうのがあったけど、今回の事を失敗したら、どれだけの被害になるのかなど、想像したくもない。人類滅亡の引き金を自分の手で引くことになるかもしれないと考えると、体が震えてくる。

 

 ・・・あぁ・・・・・・どうしてこんなことになっちゃったのかなぁ?

 

☆☆☆

 

「イルマ、バイタルが乱れているぞ。緊張するのは分かるが気をしっかりもて。そんな様じゃ、成功する作戦も成功しないぞ。・・・ほら見てみろ、ドイツの黒兎なんか落ち着いたものじゃないか。確か、IS学園に通っている子供なのだろう?年長者のお前がそんな状態でどうする?」

 

「アルフ・・・。・・・・・・貴方は怖くないの?私たちが成功しなければ、何千、何万人という人間が死ぬかもしれないのよ?」

 

「ふん、そんな覚悟、軍属になったときに済ませているさ。・・・いいかイルマ、どう取り繕おうと、ISは兵器だ。しかも、原爆を除き、人類史上最強最悪の性能を持った兵器だ。今はアラスカ条約で戦争に使用出来ないことに表向きはなっているが、軍用のISなんてものを作っている時点で、各国の思惑など見え見えだろう?・・・・・・お前も、何時までもそんな甘えが通用すると思うなよ?」

 

 プライベート・チャネルで話しかけてきたのはアルフリーダ・ウォーケン少佐。私の上司で、親友だ。慣れない国で右往左往していた私に優しく手を差し伸べてくれた優しい女性。でも、ここぞという時には心を鬼にして叱ってくれる、頼れる存在だった。

 

「・・・そんな、人を殺すしか出来ない私たちが、今は人類の為に力を使えるんだ。これを喜ばないで、何を喜ぶというんだ?」

 

「・・・そうね、そう考えないとやっていられないわよね。」

 

 と言った瞬間、アルフが苦笑した。

 

「どうしたの?」

 

「・・・いや、何でもない。ほら、緊張はほぐれたか?」

 

 そう言われ、私はもう自分の体が震えていないことに気が付いた。

 

「・・・そうね、もう大丈夫みたい。有難う。」

 

「気にするな。・・・そろそろ切るぞ。」

 

 回線が切られた。・・・確かに、もう落下予想時刻まで三十分もない。ここからは集中しなきゃ。

 

 絶対に、成功させてみせる。

 

 

☆☆☆

 

 

side アルフリーダ・ウォーケン

 

 

「・・・全く。私も、そう言うふうに楽観的に考えられたら良かったのに、な・・・。」

 

 だが、あの話を聞いてしまった後では、そう言うふうに考える事も出来ない。・・・私は偶々聞いてしまったのだ。あのドイツの黒兎の隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒと、副隊長であるクラリッサ・ハルフォーフの会話を。

 

 別に、盗み聞きをしようとした訳ではない。人気のない廊下を歩いていたら、聞こえてきただけだ。それは、クラリッサがラウラに感情をあらわにして叫んでいるという光景だった。それを見た私は驚いたものだ。どこの世界に隊長に叫ぶ副隊長がいるのか?階級が絶対である軍で、プライベートならまだしも軍務中にそんなことをする人間には思えなかったのだ。本来ならば軍の機密事項などを聞いてしまう可能性があるために急いでその場を立ち去るべきだった。・・・しかし、次に聞こえてきた言葉は、私にとって衝撃的だった。

 

「出来ることなら、隊長にはIS学園に戻って貰いたいです。・・・今回の作戦は何もかもが変です。今回の作戦のキモであるAIC。それを使用すれば、宇宙空間での隕石撃退も可能だというのに・・・いいえ、そちらのほうが明らかに簡単でリスクが少ないにも関わらず、何故リスクの高い作戦をゴリ押しするのか?・・・各国上層部は、何か我々の知らない情報を握っている可能性があります。・・・貴方は、あの学園で大切な物を見つけたのでしょう?」

 

「それがどうした。今更私だけ学園に逃げ帰れというのか?我々は軍属だ。上の命令には従うのが仕事。ここで話すような内容ではない。これ以上話したいのならばプライベート・チャネルを使用しろ。・・・軍法会議ものだぞ?」

 

「・・・失礼しました。」

 

 ・・・それからは秘匿回線で話をしたのか、一言も口を開くことはなかったが、私の心を揺さぶるには十分な会話だった。

 

 何か一つのミスで大勢の命が失われる現状。これを作り出したのが各国の意思だとするならば、そこまでして欲しいものとはなんなのか?嫌な予感がした。途轍もなく嫌な予感が。

 

 ・・・そして、この予感は当たっていたのだと気がついたのは、この後すぐの事だった。

 




気が付いた人はいると思いますが、この二人、12・5事件のアメリカ軍の二人だったりします。アルフさんは性別変わってますがね。・・・それに、正直名前だけの存在なんですが。


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悪夢の始まり

・・・スミマセン!
隕石(着陸ユニット)の落下シーンを書いては消し書いては消しを繰り返して十数回。ちょっと隕石の落下イメージが掴めなくて書けませんでした。・・・で、結局落下した後からスタート。
しかも、コメントには書きましたが、落下してきた直後の記述が見つからなくて、完全に想像、妄想です。「おい、落下シーンこんなんじゃねぇだろ!」とか思うカモしれませんが許してください。



side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

 

 高層ビル程の大きさがある巨大隕石を、周囲にあまり被害を出さずに地上に下ろす事に成功した私たちは、喜びに満ち溢れていた。本来なら馴れ合う筈のない他国の軍人とも、ISごしに抱き合う者が出る程である。

 

 ・・・しかし、それも致し方ないことだと思い、説教などはしない。・・・なぜならば、私も内心では飛び跳ねるくらいには喜んでいるのだから。・・・・・・私も、あの学園に通う事で、何かが変わったのかもしれんな。

 

 今回の作戦は、今までの中でも特に危険な物だった。最高レベルだったと言ってもいい。

 

 銃弾飛び交う戦場に飛び込むわけでもなければ、違法な研究をしている研究所に乗り込むわけでもない。だが、それらと変わらない・・・ヘタをすれば、それよりも上、それ程の危険性を持った作戦であり、一歩間違えればこの辺一帯が焦土と化していた可能性だってあったのだ。ISの絶対防御だって、あの質量の隕石に衝突されたり、ましてや押しつぶされたりすれば間違いなく命を落とす。あくまで絶対防御は、シールドエネルギーを過剰に放出して、操縦者が致命傷に陥るのを防ぐ能力しかない。

 

 それは、IS同士の戦闘や、戦闘機などの他の兵器との戦闘でなら絶大な効果を発揮するだろうが、全てのシールドエネルギーを費やしても防御しきれない攻撃や、継続してダメージを受け続ける攻撃には効果が薄いのだ。

 

 その意味で、今回の作戦目標であるこの隕石は、我々の天敵とも言える存在であった。普段IS乗りは命の危険に晒される事が、普通の兵士よりも少ない―――だからこそIS学園などという、中学を卒業したばかりの小娘が通う事の可能な学園が運営できるのだが―――為、久々に命を掛けた実戦において、ただの一人も脱落者が出なかった事は僥倖だ。

 

「・・・しかし、あの嫌な予感は杞憂だったか。」

 

 各国の上層部は何かを企んでいるのかもしれないなどと考えていたのだが・・・いや、本当に何かを企んでいたのかもしれないが、私たちに影響が出ないのならそれはそれでいい。後は偉い人間の仕事である。私たちに与えられた仕事は終わったのだから・・・早く嫁に会いたい物だ。

 

 

 

 

 ・・・などと、この時の私は愚かにも気を抜きすぎていたのだ。

 

 

★★★

 

 ピシリ・・・と音がしたと思うと、唐突に隕石に罅が走った。

 

『・・・!』

 

 何の前触れも無かった為に驚いた我々だが、良く良く考えれば、宇宙空間を飛来してきた挙句に大気圏に突入したのだ、岩に罅位は入るだろうと思った。

 

「各自、AIC起動準備!この質量の隕石が割れたら破片も相当な量になる!いくらISでも、それだけの量を受けるのは危険だ!」

 

 運悪くまだ隕石の近くに待機していた我々は、降り注ぐ岩石から身を守る為に、自身の上方に向けてAICを展開する。これで、少なくとも押しつぶされる危険性は無くなった筈だ。

 

 流石に、割れた破片が地面に降り注ぐのまではどうしようもない。暫くは破片の撤去で人が住めない地域になるだろうが、我々の責任ではない。

 

「・・・なんだコレは?」

 

 崩れゆく隕石を見つめていた私は、可笑しな事を発見した。・・・岩が崩れた場所から、ダークブルーに鈍く輝くナニカが見えているのだ。・・・拡大して見るとそれは金属のように見えた。

 

「ちょ・・・っ!なんだよこれ!?」

 

「・・・嫌な予感がする・・・・・・。」

 

 まるでゆで卵のようだ・・・と思った。岩盤という名の殻が外れると、そこに存在したのは鈍く輝く白身(ナニカ)。隕石だった状態よりも一回りほど小さくなったとは言え未だに巨大なナニカ。ほぼ完全な円形といえるソレは、とても自然に出来た物だとは信じられない。

 

「・・・・・・人工物?」

 

 どう見てもソレは人工の・・・少なくとも知性あるナニカによって作られたであろうソレの壁が・・・ドロリと崩れ去った。

 

「え・・・?」

 

 という声が突然聞こえたかと思うと、ゴキャッ!という金属がひしゃげるような音が鳴り響き、隕石の近くに居た部隊のISから反応が消えた。

 

「・・・は?」

 

 あまりに突然の状況の変化に、誰もついて行けなかった。兵士としては作戦場所で気を抜く、茫然自失となるなどは最低の行いではあるが、一歩間違えれば地域環境を変化させるレベルの大災害が起きる可能性すらもあった今回のミッションを無事成功させたことで、皆例外なく安堵し、精神的に疲弊しきっていたのだ。それに加えて先程からの不可解な現象。我々の精神は、未知という名の毒物によってこれ以上ないほどに弱らされていた。

 

 だから、目に映るこの巨大なモノ(・・)は一体なんなのか、その足元にある潰れた空き缶のような物体が何なのか、私には即座に判断が出来なかった。それを考えることだけで頭が一杯になってしまったからこそ、この後の被害を余計に拡大してしまったのだ。

 

「■■■■■■■!!!!」

 

 優に十メートル以上はあるであろう緑色をした四足歩行の化け物。歪な星型のような形をした鋼殻のような物が付いたその怪物が叫んだと同時に、その場所から一番近くに居た私の部隊に突進してきたことで、私の意識は漸く覚醒した。

 

「・・・っ!全機、退避ーーーーーー!!!」

 

 私の命令と共に、その怪物の近くに居た全ての機体が飛び立つ。・・・しかし、

 

「きゃぁ!!」

 

 飛び立つのが一瞬遅れた部下の機体が、その怪物と衝突する。

 

 ゴシャ・・・

 

 また、先程の鈍い音が響く。しかし、何が起きたのか今回は見ることが出来た・・・いや、出来てしまった。

 

「一撃で・・・シールドを抜いたと言うのか・・・!?」

 

 ただの体当たり。なんの変哲もない、原始的なその攻撃は、現代最強の兵器を鉄屑に変えた。

 

 衝突された瞬間、あのISの絶対防御が発動した事は、共有している情報で分かっている。しかし、彼女は運が悪かったというべきなのか・・・衝突された衝撃で地面に叩きつけられた後に、あの巨体に踏み潰されたのだ。

 

「・・・何、これ・・・・・・!?」

 

 怖い。怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い!!

 

 今まで経験したことの無いほどの恐怖が私を縛る。たったの一体。その一体に、最強の兵器が成すすべもなく破壊されたのだ。ISの特徴とも言えるシールドも役に立つとは思えない。運が良ければ一撃は耐えられるだろうが、その瞬間戦闘不能になるほどの負傷を負うかも知れない。・・・そうなれば、後は蹂躙されるのを待つだけなんじゃないのか・・・?

 

「たい・・・ちょ・・・・・・。」

 

 恐怖で叫びだしそうになった瞬間に、途切れ途切れの通信が入った。

 

「・・・!」

 

 その声が聴こえた瞬間、私の意識は覚醒する。

 

「・・・っ!惚けているな!黒兎隊はAICにより化物の動きを抑えるぞ!ウォーケン隊は済まないが戦線離脱した機体の救助に向かってくれ、まだ息があるかもしれん!

その他の機体は我々黒兎隊が奴を食い止めている間に攻撃しろ!」

 

 その叫びによって、あまりにも想定外の事態に停止していた他の面々も動き始める。

 

『了解!』

 

 我々は、はるか後方で動きを止め、此方に方向転換しようとしている化け物に向かって全速力で飛んだ。

 

「止まれーーーーーー!!!」

 

 今回の作戦によって、全ての機体にAICを搭載したと言っても、所詮は付け焼刃。本来のAICの半分程度の性能しか出せない事は、既に分かっていた。それは当然なのだ。我々のISは、このAICを最大限に使いこなせるように最初から設計されている。AICを使いこなすためだけに創られた機体と言ってもいい。だから、他国の機体がコレを積んだところで、思う存分に使いこなせない事は明白。逆に、我々が他国の第三世代兵器を搭載したとしても、その性能を思う存分発揮することなど不可能なのだ。

 

 だからこそ、部下をやられた怒りはあれど、足止めに徹する。我々がコイツを足止めすることで、被害を結果的に少なく出来るのなら、彼女もそれを望んでいる筈だ。

 

「■■■■ーーーーー!?」

 

 我々のAICによって一切の動きを止められた化物は、前後左右から友軍による攻撃を浴びせられた。そのうち、前方からの攻撃は、恐ろしいことに殆ど弾き返していたのだが、その他の部位にはちゃんと攻撃が通るらしい。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

 そして、抵抗らしい抵抗がなくなり・・・ほぼ全員が持っていた武装のマガジンを一つ使い果たした時、それは起こった。

 

「気をつけろ!出てくるぞ!」

 

 後方で救助に当たっていたウォーケン隊から悲鳴が上がり・・・振り返った私は見てしまった。

 

 あのダークブルーの物体から、先程の化け物がゾロゾロと出てくるのを。その数は10?20?いいや、まだ足りない。そんなチンケな数ではない。

 

 凡そ100。それだけの数の化け物が、大地を埋め尽くさんとしていた。

 

 この時、私は私の直感が正しかったことを知る。

 

「・・・本当に、卵だったのか・・・。」

 

 上層部が何らかの意図を持ってコイツラを地球に降下させたことと、あのダークブルーの球体は正しく卵、もしくは巣のような物だった事を。

 




・・・嘘だと疑われるかもしれませんが、一応報告しておきます。
・・・・・・また仕事場の副店長が変わります。

昨日仕事場に行ったら、転勤のお知らせとかでその人が居なくなって新しい人が来ると書いてあり、私も今(゚д゚)な状態です。
・・・だって、その人が前の副店長と変わってからまだ一ヶ月たってないんだよ!?しかも、店長も2、3ヶ月前に変わったばっかりなのに、何で!?何で!?
ということで、15日以降はまた更新が遅れそうです。・・・どういうことなの?

あと、コメントで指摘してもらった部分については修正しました。有難う御座います。忘れている事が多々あると思うので、これからも何か有れば宜しくお願いします。


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悪夢再び

side 白銀武

 

 

「う・・・・・・ん?」

 

 ボンヤリとする意識を無理矢理に繋げる。気を抜けば閉じてしまいそうな瞼を気合で開け、周りを見渡した。

 

「・・・・・・?何処だ、此処・・・・・・?」

 

 知らない場所だった。俺が今いる部屋はかなり広く、学校の教室の二倍位の大きさだろうか?様々な機械群が乱雑に放置されており、ケーブルや工具などが散らばっていて歩くのにも苦労しそうだ。部屋は薄暗く、機械のモニターなどの光のみが光源となっている。

 

 どうやら俺は、白い巨大な椅子に座らされていたらしい。この椅子からもカラフルなケーブルがむき出しになっているし、頭上には一体何に使うのか考えたくは無い、ヘルメット型の機械が威圧感を出している。

 

「・・・おいおい、アレってまさか・・・・・・!」

 

 その部屋の中で、一際存在感を放つ物。それは、今日俺が調べたこの世界の根幹を成す成分にして、女尊男卑の世界にした元凶。

 

 待機状態の【インフィニット・ストラトス】が、そこに悠然と佇んでいた。

 

「・・・・・・マジかよ。」

 

 片膝を突き待機するそのISは、やや流線的な形状で純白。その気高さを感じる姿は、まるで自分の主君を待つ騎士や武士のようだった。

 

 世界にたったの497機しか存在しない筈のソレが目の前にあるのだ。驚かない訳がない。本来なら、一般人がこんなに近くで見ることが出来る物ではないのだから。世界を変えるほどの力を持ちながら、世間とは遠い存在、それが【インフィニット・ストラトス】なんだ。

 

「・・・でも、凄いな。」

 

 【あちらの世界】で嫌というほど数々の兵器を見てきたし使ってきた。・・・だけど、コレは別格だ。ただ兵器という言葉の枠に嵌めてはいけない存在のような気がする。ただそこにあるだけなのに、有り得ないほどの存在感だ。

 

 白い装甲はキラキラと光を放っているように見えるし・・・それに、コイツは俺を呼んでいるような気さえするんだ。

 

「・・・お前は、何だ?」

 

 近づきながら俺は尋ねる。ISは兵器だ。俺の質問になんか答えてくれる訳がない。それが分かっていながらも、質問せずにはいられなかった。・・・答えてきても、可笑しくないような気がしていたのだ。

 

 まるで何かに誘われるように俺はISに近づき・・・誘惑に負けて、俺はそのボディーに触れた。

 

「・・・なっ!?」

 

 その瞬間、頭に何かが流れ込んでくる。莫大な量の情報の渦。そして、それと同時に、目の前にある機体の姿も変化していく。まるで、蛹が蝶に変わる瞬間を早回しで見ているような錯覚。今までは何処か丸っこいフォルムだったその形状が、急激に変化していくのだ。

 

 ―――皮膜装甲(スキンバリアー)展開―――成功

 ―――操縦者の潜在意識よりイメージ抽出。全身装甲(フル・スキン)へと変化―――

 ―――推進機(スラスター)正常作動―――確認

 ―――ハイパーセンサー最適化―――終了

 

「・・・・・・まさか。」

 

 ソレが形作った物を見て、俺は言葉を無くした。

 

「・・・・・・【武御雷】。」

 

 【あちらの世界】では、日本帝国の将軍家と斯衛にしか使用を許されていない廃スペックな特注品。

 全身に纏ったスーパーカーボン製ブレードエッジと、00式近接戦闘用短刀6振りにより、全身凶器と言ってもいい世界最高峰の機体だ。

 

 5m程の大きさにまで小さくはなったし、装甲にも所々違いがあるが・・・それでも、俺が【武御雷(コイツ)】を見間違える筈がない。俺は結局乗ることは無かったが、月詠さんたちが貸してくれたこの機体が無ければ、最後のあの作戦が成功することは無かっただろう。

 

「・・・何で、俺がコイツを扱えるんだよ・・・?」

 

 ただ展開出来ただけじゃない。俺はこの機体を十全に扱えると、既に確信(・・・・)している(・・・・)。ISは女性にしか扱えない兵器だったはずだ。例外として去年、織斑一夏という人物がISを動かしたらしいが、各国が行なった、他の男性でもISが扱えるんじゃないかという実験でもそれ以来誰も起動出来なかったはず。

 

「確かに俺は(・・)その調査を受けていないが・・・。」

 

 俺はその時にはこの世界の住人では無かった。恐らく【こちらの世界】の白銀武は嬉々として実験に参加したんだろうけど、結局は適正なしということだったらしい。そして、何故かこの世界にやってきて【こちらの世界】の白銀武(オレ)を乗っ取ってしまった俺には適正があるだと?

 

「成程ね、確かに束の言うとおりになったわ。」

 

「誰だ!?」

 

 その時、突然背後から声を掛けられた俺は、咄嗟に前方に転がり、即座に後ろを向いて腰に手をかけ・・・そこで止まった。

 

(しまった、銃もナイフも持ってねぇじゃん!)

 

 いつもの癖(・・・・・)で距離を取ってしまったことを後悔した。今は武器を何も持っていない。だから、離れるんではなく逆に距離を詰めて、近距離攻撃(インファイト)で押さえつけるべきだった!部屋が暗くて敵の姿がよく見えないが、声からして女性のようだ。

 

「へぇ・・・流石に奴ら(・・)と戦っていた兵士は動きが違うわね?この世界の白銀武とは根本的に違うじゃないの。・・・ねぇ【英雄】さん?」

 

「・・・・・・夕呼先生?」

 

「別に呼び捨てでもいいのよ?今の白銀に呼ばれるなら気にならないし。」

 

「・・・突然出てきてそんな事を言われても、どうすればいいんですか・・・・・・?取り敢えず夕呼先生で。」

 

「あら、そう?私が呼び捨てにさせるなんて滅多にない光栄なことなんだけど?まぁいいわ。」

 

 正直、反応に困る。聞きたいことは山ほどあるんだ。さっきの夕呼先生の話し方で、恐らく彼女は俺がこの世界の住人ではないことを確信している。それどころか、【あちらの世界】で何があったのかも知っている?・・・・・・まぁ、夕呼先生だしな。どんな非常識な事だろうと、彼女なら知っていても可笑しくはない・・・か?

 

 取り敢えず、疑問を一個ずつ解消していくか。

 

「何で俺は此処にいるんですか?此処は何処ですか?」

 

 と俺が聞くと、何故か彼女は顔を引きつらせた。

 

「・・・あれ?薬の配分間違えたかしら?・・・記憶が飛んでる?・・・・・・・・・まぁいいか、何とかなるでしょ。」

 

「小声で言っても聞こえてるからな!軍隊育ちなめるなよ!?」

 

 薬ってなんだ薬って!?俺は一体何をさせられたんだ!?

 

「ま、細かいことは気にしない。それより質問に答えるわよ。まず最初。『何故俺は此処にいるのか?』ね。この質問に対しての答えは、『お前が必要だったから、私が攫ってきた』よ。」

 

「平然と言うね!?」

 

 対BETA戦を基本にして訓練していたとはいえ、元軍人だぞ!?その俺を、大した怪我もさせずに連れ去ったっていうのかよ!?相変わらず謎の行動力だなオイ!

 

「次の質問。『此処は何処か?』だったわね。答えは、『世界を変えた天災、篠ノ之 束と、香月夕呼の共同ラボ』よ。」

 

「・・・は?」

 

 篠ノ之 束?世界中が指名手配している、あの稀代の大天災?

 

「見なさい。世界は私達の言葉に耳を傾けず、破滅への道をひた走っている。・・・本当なら無視してもいいんだけど、生憎私たちにも守るべき大切な者が出来てしまってね。」

 

 夕呼先生が白衣のポケットから出した小さなリモコンを操作すると、近くの壁に映像が映し出された。

 

「・・・・・・嘘だろ。」

 

 そこは戦場跡。焼け爛れ、破壊されて荒廃した大地がそこには映されていた。・・・だが、そこまでなら世界で普通に起きているただの戦場(・・・・・)だ。俺の目を引いたのは、そこに転がる無数の残骸(・・・・・)

 

 数え切れないほどの数を見てきた、忌まわしい敵の姿。

 

「BETA・・・・・・!!!。」

 

 俺の戦いは、まだ終わっていなかったようだ。

 

 




もしかしたら夕呼先生のキャラが違うか?まぁ、平行世界ということで納得していただければ。後から出てくる束博士はかなり性格違いますからね。



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懐かしい顔

side 白銀 武

 

 

「何で・・・何で、BETA(お前ら)が【この世界】にいるんだ!!」

 

「それは必然だよ?遅かれ早かれ、この日は来た。明日か明後日か、十年後か二十年後かは分からなかったけど、必ずBETA(やつら)はこの地球(ほし)に襲来した。これはもう運命だったんだよ?」

 

「誰だ!?」

 

 夕呼先生のものじゃない声が響き、俺は反射的に後ろを振り返った。

 

「・・・兎、だと・・・・・・!?」

 

 そこにいたのは、兎。何処からどう見ても兎。デフォルメされた兎の着ぐるみだった。真っ白でフワフワそうなボディーで、頭には小さなシルクハットを被っている。・・・ここまで見ればかなり可愛い部類の着ぐるみなのだが・・・何故か、何か(・・)で赤く染まった巨大なスパナと、チェーンソーを持っている。ファンシーな見た目とミスマッチなその工具のせいで、ホラーのような見た目になってしまっているのだ。

 

 ・・・え、マジで何これ?子供が見たら泣いて逃げるレベルだぞこれ?

 

「・・・もう一度聞く。アンタは何だ?」

 

 俺を薬で眠らせて誘拐するような奴らだ。夕呼先生が敵か味方か分からない以上、油断するわけにはいかない。

 

 何が起きても即座に動き出せるように構えたところで、その兎の着ぐるみが小刻みにブルブルと震えだした。

 

 ・・・・・・怖ええよ!マジで不気味すぎる!

 

 内心恐怖で冷や汗タップリの俺だったが、出来るだけ表情に出さないように睨みつける。

 

「フフフフフ・・・。なんだかんだと聞かれたら!答えてあげるが世の情け!」

 

 突然、叫びながら、謎のポーズをキメ始める着ぐるみ。

 

「世界の破壊を防ぐため!世界の平和を守るため!」

 

 ブーン・・・と、不穏な機械音が兎の着ぐるみから聞こえてくる。それと同時に、体の節々からモクモクと煙が吹き出してきた!

 

「チョッ・・・!」

 

 咄嗟に距離を取ろうとしたが・・・時すでに遅し。

 

「愛と真実の悪を貫く!ラブリーチャーミーな敵役!」

 

 とうっ!という掛け声と共に、凄まじい跳躍力を見せる兎の着ぐるみ。そして・・・

 

 ゴーン・・・!!と、咄嗟に耳を抑えても耳が痛くなるほどのとんでもなく大きな音と煙を出し、その着ぐるみは大爆発した。

 

「ゲホッゲホッ・・・!一体何だよこれー!」

 

「宇宙最高最凶最悪の科学者!束博士なんだよーーーーー!!!」

 

 空調設備が自動的に起動したのか、驚く程速やかに煙は排出されていった。そこには、ドドドドドドドとどこからか聞こえてきそうな程完璧な『ジョジョ立ち』をしている女性の姿があった。純白のワンピースを着ていて、何故か頭にはウサ耳。普通に見れば凄い美人さんなのに、この状況で見ると変態にしか見えないという矛盾。

 

「・・・・・・いや、もう何から突っ込んでいいのかわからん。」

 

 俺は、考えることを放棄した。

 

 

 

 

 

「さて、説明を始める前に、先ずはオシオキから始めないといけないわよねぇ?そうでしょ束~?」

 

 と、それまで沈黙を保っていた夕呼先生が、フフフと不気味に笑いながら束博士と名乗った女性に近づいていく。よく見ると、彼女は先程の爆発の煽りをくらって、衣服は汚れ髪はボサボサ、顔には煤が付いている。・・・多分、俺も見たような格好だろうな。

 

「・・・・・・?『束博士』?・・・っておい、【天災】かよ!?」

 

 俺の驚愕の叫びも完全に無視して、二人は暴走していく。

 

「ゆ、夕ちゃん夕ちゃん?私は確かに天才だけど、肉体強度は一般人と同じなんだよ~?どっかのツンツン頭の不幸な学生みたいに、どんだけ死ぬだろって攻撃を受けても数日後にはピンピンしているような不死身の体を持っている訳じゃないんだよ?超電磁砲(レールガン)なんて喰らったら、生身の人間なんて跡形もなく吹き飛んじゃうんだけど、其の辺どう思ってるのかな~・・・?」

 

「大丈夫よ貴方なら。きっとこの攻撃を受けても無事でいられるわ。たったの一発で勘弁してあげるから、キッチリ受け止めなさい?これだけで許してあげるなんて、なんて優しいのかしら私は。」

 

「や、優しい人は人に超電磁砲(レールガン)なんて向けないと思うんだよー!?」

 

 夕呼先生の右腕が、突然鈍いメタルの輝きを放つ機械の腕へとへと変化した。・・・いや、装着したのだ。そして、肩の辺りに巨大な機械の筒が出現する。夕呼先生の身長の二倍程もありそうなその筒は、しかしその見た目の重量とは裏腹に、空中に浮遊しているのだ!

 

「なっ・・・・・・!?」

 

 調べて知ってはいたけど、これがISか・・・!<<素粒子による物質の形成>>など、これは既に【あちらの世界】の科学技術を軽く超越している・・・!これを創り出したのが、目の前で夕呼先生に脅されて半分泣きが入っているこのふざけた女性だなんて、誰が信じられる・・・!?

 

「さぁ、地獄へ旅立つ準備は出来たかしら?」

 

「殺す気満々じゃないですかいやだー!」

 

 キィイイイイイイイイ・・・!!と、エネルギーを充填し始めた筒。今にもその凶弾によって、束博士の命運が尽きようとしたそのとき・・・

 

「止めなさい!!」

 

「痛!!」

 

 束博士の命を救ったのは、痛烈なチョップだった。いきなり横から走ってきた何者かが、夕呼先生の頭部を強襲したのだ。一切の無駄がないそのチョップは俺も見蕩れるほどの完成度を誇っていて、この攻撃にどれだけ慣れているのかを悠然と物語っていた。・・・つまり、普段からこういう騒ぎは日常茶飯事ってことか?

 

「白銀がアンタたちのテンションについて行けずにポカンとしてるじゃない!いいから早く事態の説明しなさいよ!」

 

『はーい。』

 

 なんだか・・・保護者みたいだ。怒る女性を見ながらそう思ってしまったのも無理はないだろう。しかし、何だかとても懐かしい雰囲気がする女性だ。

 

「・・・・・・?」

 

 っていうか、まさか・・・・・・

 

「まりもちゃん・・・・・・?」

 

 俺が呟くように呼ぶと・・・その女性はユックリと此方を向いて・・・

 

「どの世界でも、白銀は白銀だったか。・・・これからよろしくね?」

 

 と、苦笑しながら挨拶をしてくれたのだった。

 




いやー、物凄くおそくなりました。しかもこれだけ時間掛けて短いっていう・・・。これからも結構遅くなることはあると思いますが、待っててくれると嬉しいです。

最初のほうの束の暴走は、全く意味ないです。ただ単に、どんだけテンションが高いかを表現したかっただけ・・・なんですけど、この場面に一番時間かけてるっていう。


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運命の女神には嫌われているらしい

side 白銀 武

 

 

「まりも・・・ちゃん。・・・・・・無事で、本当によかった・・・!」

 

 俺が【あちらの世界】で一番不甲斐なかったこと。情けなかったこと。自分を殺したいほど憎んだ事。それは一体何だと問われれば、俺は間違いなくあの事件を上げるだろう。

 

 ・・・そう、俺が考案し、夕呼先生が組み上げた新型OSXM3(エクサムスリー)。その性能実験トライアルのことだ。

 

 あの時、突如として襲来したBETA群。俺は咄嗟の事態に頭が混乱して、暴走してしまった。実際は、元々【あちらの世界】にいた白銀武(オレ)が、純夏を救おうとしてBETAに殺された時の恐怖を、『因果導体』として受信してしまっていた事によるPTSDが原因だったのだが、それは言い訳にしかならない。

 

 混乱し、錯乱しながら俺は、模擬戦専用の武器だけを手に、機体駆動だけでBETAを相手にし続けた。・・・もし、あの時冷静に対処出来ていたなら・・・?自慢じゃないが、俺の操縦技術はあの時点で世界でもトップクラスだった。だから、俺が囮になり、味方が武器を持ってきてくれる時間を稼ぎ・・・そのあと、制圧することだって出来たんだ。実際、あの時だって結果的には同じことが出来た訳だし、あと少し・・・あとホンの少し冷静になることが出来れば、衛士の犠牲だってもっと少なく出来た。

 

 ・・・そうすれば、全てが終わったあとに、あんな場所で放心状態になどなっていなかった筈だ。BETAの生き残りがいる可能性だって考えつけた筈だった。俺を見かねて神宮寺軍曹が慰めにくることなど無かったのだ。

 

 ・・・・・・神宮寺軍曹は、BETAに殺された。俺の目の前で。それは、酷い死に様だった。

 

 アレは俺のせいだ。それなのに俺は、彼女が死んだ事実から逃避し、目を背けた。ガキみたいに泣き喚いて、【元の世界】に帰った。

 

 ・・・だというのに、そこでも運命は俺を許してはくれなかった。俺が『因果導体』だから。俺が<<まりもちゃんは死んだ>>と認識してしまっていたから。だから・・・彼女は殺されたんだ。

 

 耐え切れなかった。何で俺だけがこんなに辛い思いをしなければいけない!?家族にも、友人にも、純夏にすら忘れ去られた俺は、そこで夕呼先生に言われて気がついたんだ。

 

 責任を取らなくてはいけないと。

 

 例え、こうなった原因が俺じゃないとしても!俺が【元の世界】に災いを持ち込んだのは変えられないのだから!まりもちゃんを殺し、純夏を傷つけたのは、他ならぬ俺なのだと、そう気づかせてもらった。

 

 【世界を元に戻す】。

 

 この覚悟が無ければ、俺はきっと『あ号標的』を倒せはしなかっただろう。俺のせいで狂ってしまった大切な人たちの人生を取り戻す為だからこそ、俺は命をかけることが出来たのだから。

 

 ・・・なのに、

 

 【こちらの世界】では、純夏の無事しか確認出来ていなかった。何故、【元の世界】がこうまで変わってしまったのかは分からないが、せめて皆の無事だけでも確認したかったのだが、純夏しか不可能だったのだ。

 

 何故か携帯のアドレス帳がまっさらだったためだ。純夏の携帯番号も入って無かったのだが、そこは幼馴染の特権を利用した。純夏の家に行き、彼女の母親に番号を教えてもらったのだ。

 

 他のみんなには学校であえるだろうと思っていたのに、皆も純夏と同じくIS学園に入学しているし、夕呼先生やまりもちゃんは学校を辞めていた。だから・・・この二人の無事を確認出来て、本当に良かった・・・!

 

「ほ・・・本当に・・・本当に良かった・・・・・・!!」

 

「白銀・・・。」

 

 思わずポロポロと涙を流してしまう俺。この年齢になってこんなふうに泣くのは恥ずかしいとも思うけど、それでもやっぱり止まらないのだ。

 

「恥ずかしくなんてないわ。思う存分泣いてもいい―――」

 

 とは言っても、どうやら運命の神様とやらは俺のことを大層嫌っているようで、

 

「泣いてる時間はないわよ?貴方には、やってもらわなきゃならないことがあるんだから。」

 

「そうだよ?一分一秒も無駄に出来ないんだからね?君はこれから、【こちらの世界】も救わなきゃいけないんだから。」

 

 悪夢のような状況は、どうやら【こちらの世界】でも変わらないようだ。

 

 ・・・俺も運命の女神(おまえ)なんて大っ嫌いだよバーカ!!!

 




で、今回も短め。次も説明回です。


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束の絶望

遅くなりました。なんでこんなに期間があいたのかは、自分でも分かりません。ボーッとしてたら、何時の間にか時間がすぎていました。


side 白銀 武

 

 

「話が長くなるし、お茶でも飲みながら話そうか。」

 

 まりもちゃんがそう言うと、何処からか高級そうなテーブルと椅子が出現した。

 

「・・・魔法かよ!?」

 

「んなわけないでしょ。・・・まぁ、言い得て妙だけどね。『進化しすぎた科学は魔法と見分けが付かない』っていう言葉もあるし。ま、座りなさいな。」

 

 夕呼先生にそう言われ、席に付く俺たち。何時の間にかテーブルの上には、人数分の珈琲と紅茶、そしてお茶菓子が用意されていた。

 

「・・・。」

 

 もう突っ込まない。どんな不思議な事があろうとも、此処では普通のことなんだと自分に言い聞かせる。こんな些細な事で驚いていたら、この先身が保たない予感がするからだ。ほら、この中では比較的マトモそうなまりもちゃんですら、平然と席に着いているじゃないか。

 

『・・・・・・。』

 

 暫くの間、カチャカチャと食器の音だけが響いた。誰も何も喋らない。この重苦しい空間のせいで、美味しい筈の珈琲や菓子の味が全く分からなかった。

 

「ねぇ・・・私はね、貴方たち(・・・・)がBETAと呼称していた、あの存在が、許せない。」

 

 ポツリと、束博士が零したその言葉。俺は、深く頷いていた。

 

「・・・当たり前です。人類は、奴らに滅ぼされかけていた。コチラがどんな対策をしても、それを嘲笑うかのように悠々と上を行く。何億、何十万という人間が死んだんだ。・・・・・・俺の目の前で、何人も、何人も・・・死んでいった。」

 

 手に、力を込める。戦場で、見ず知らずの兵隊が死んだとき。街を襲われて、生まれたばかりの赤ん坊を抱いた母親が、瀕死の重傷を負いながらも、我が子を生かそうと、必至で這いずっていたとき。俺の力が及ばず、A-01小隊の仲間が死んだとき。・・・そして、俺の腕の中で、純夏が死んだとき。

 

 何度も何度も続くやり直しの記憶。あまりに長すぎたせいで、擦り切れている部分もある。その中で俺が一番多く覚えているのは、人が死ぬという感覚。

 

 虚無感。無力感。絶望感。

 

 言い表せないほど、とても多くの感情を感じた。そしてその度に、敵を討つ為に奮戦した。・・・でも、いくら敵を討とうとも、一度失った人間は、もう二度と笑ってくれない。

 

「奴らのボスと、話をしました。・・・その時に、あの化け物は言ったんですよ。『我が主の命令により、生命体を傷付ける事はしない』って。ハハハッ!俺たちは、『生命体とは認められない』そうです!!奴らにとって、俺たちは【害虫】という生命体ですらなく、自分の邪魔をする【自然災害】や【病原菌】のような存在なんですよ!」

 

 挙げ句の果てに、『お前らが生命体であるという証拠を出せ』ときたもんだ。・・・巫山戯やがって。

 

「・・・私がアイツらを嫌いなのは、人間を殺すからじゃないよ。」

 

「・・・え?」

 

 俺は、自分の耳が信じられなかった。今、この人は、何て言った?

 

「私に関係のない人間が、幾ら死んでも構わない。私と、私の大事な人たちが無事なら、それで構わない。私は、生きていくのに他人を必要としていない。極論、ちーちゃんと箒ちゃん、いっくんと霞ちゃん、香ちゃんがいれば、別に人類が滅亡しようとも一向に構わないんだよ。・・・まぁ、私は兎も角、ちーちゃん達は、他の人間がいないと寂しいだろうから、出来る限りは協力するけど・・・。」

 

「人類が滅んでもいいって・・・・・・!!!」

 

 テーブルを叩き、俺は立ち上がった。それは、俺たち(・・・)全員に対する、最大の侮辱だったから。人類が勝ち残る為に、命を削った【英雄】達へ、唾を吐く行為だったから・・・!

 

「止めなさい。貴方には貴方の意見があるだろうけど、束には束の意見がある。別に、人類が戦っているのを傍観するわけじゃないんだから、今は大人しくしていなさい。・・・むしろ、束は世界で一番、人類に貢献している人間だと言えるのよ?」

 

 夕呼先生に腕を掴まれ、俺は止まった。・・・危なかった、今止めて貰えなければ、最悪殴っていたかもしれない。

 

「別にいいんだよ香ちゃん。有象無象に理解して貰おうとは思わない。貴方たちが理解してくれれば、私はそれでいいんだから。・・・それに、怒らせるようなことを言っちゃったしね。」

 

「・・・スミマセンでした。・・・死んだ仲間の事を考えたら・・・。」

 

「コッチも、ゴメンね。」

 

 なんだか妙な雰囲気になってしまったが、気持ちをどうにか立て直す。これぐらいで狼狽えているようでは、あの世界で生き残る事は出来なかった。

 

「・・・それでは、何故BETAの事が嫌いなんですか?」

 

「私には、夢がある。・・・ううん、あった、というのが正しいかな。その夢を、奴らにぶち壊された。」

 

「夢・・・?」

 

 そう聞くと、束博士はとても辛そうな顔をした。・・・この人も、こんな顔をするのか。

 

「私の夢は、無限の空へ飛び立つ事。どこまでもどこまでも飛んでいって・・・何時か、【宇宙の果て(終点)】をこの目で見ること。」

 

「・・・・・・・・・っ!?」

 

 それは、子供でも見ないような夢物語。果てしのない宇宙(大空)へ心を奪われた狂人の夢。だが・・・だが、この人ならば、やるんじゃないか、とも思える。それ程、可能性を秘めた人間なのだ、束博士という人物は。

 

「でも・・・それは既に叶わぬ夢。私は既に・・・絶望を知ってしまった。私は、私に絶望を与えたBETA(アイツら)が憎い。だから、戦うの。」

 

 それは、とても硬い決意をした人間の瞳だった。【あちらの世界】で何度も見た、命を掛けた人間だけが見せる瞳。

 

「私は、知ってしまったんだよ。」

 

 ゴクリと、俺が唾を飲み込む音が部屋に響く。

 

「既に、奴らのせいで飽和状態なの。・・・宇宙は。」

 



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束の秘策

公務員試験の一次試験が終わりました。まぁ、終わったと言っても
、二十九日にまたあるんですけど。
・・・というか、活動報告で、”公務員試験があるのでしばらく更新しない”と報告したつもりだったんですが、やってませんでした。弟と共同でパソコンを使用しているので、弟は頻繁にこのサイトに来ていたようですが、私は二、三ヶ月程開いていないので、『更新待ってます』というメールが来ていたことにびっくり。
返事を返せなくてすいませんでした。


side 白銀武

 

 

「飽和状態・・・?まさか、そんなわけがないだろ。宇宙がどれくらいの広さを持ってると思っているんだよ?」

 

 束博士の言葉は、戯言・・・というようにしか感じなかった。いや、宇宙全体・・・ではなく、既に太陽系全体を掌握されているという意味か?確かに、俺は頭脳(ブレイン)級から、やつらの数が数えるのもバカらしくなるほどの数だとは聞いていたが、それでも、宇宙全体を埋め尽くすほどとは思えないんだが・・・。

 

「信じられない?それとも、信じたくないのかな。」

 

 束博士は、俺を馬鹿にしたかのように吐き捨てると、指をパチンと鳴らした。すると、新たな空間モニターが出現し、そこには大量のBETA群と、廃墟の数々が写っていた。

 

「確か、君のいた世界は、現在からすでに三十年後だったっけ?記憶を盗み見させてもらったけど、あ号作戦で君が―――仮に、頭脳級(ブレイン)と呼称するけど―――あの化物に教えられた宇宙のBETA総数が、『10の37乗』だったよね。その総数というのが、あ号標的みたいな頭脳級(ブレイン)のことを指すのか、それとも一般的なBETAのことを指すのかは別としてさ。当然、今はその時の数よりも少ない訳だ。」

 

 周りの夕子先生たちも、暗い顔をして黙ったまま。それは、束博士が言おうとしていることを、肯定しているということにほかならない。

 

「でも、それなら聞くけど、十年後は?」

 

「・・・は?」

 

「二十年後は?三十年後は?・・・百年後は、どうなるのかなぁ?」

 

 言われた意味が、理解出来なかった。いや、先程彼女が言った通り、理解したくなかっただけ(・・・・・・・・・・・)かもしれない。恐らく俺はすでに、彼女の言いたいことが分かってしまっていたのだろう。・・・だから、こんなに冷や汗が止まらないんだ。

 

「一つのハイブが、BETAの許容量をオーバーすると、奴らは新しいハイブを形成するために新しい土地を目指すよね?それは、どれくらいの周期だった?君たちがあんなに(・・・・・・・・)一生懸命奴らを(・・・・・・・)殺しまくったからこそ(・・・・・・・・・・)あの程度の増殖率で抑えられていたんだよ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

地球の人間のように敵対する生命体が存在しない惑星で、奴らが飽和するのに必要な時間は、一体どれくらいだろうねぇ?はてさて、この世界で、10の37乗の数値になるのは、一体何年後?その数を超えるのは、何年後だと思う?」

 

「・・・・・・。」

 

 ドクドク、ドクドクと、心臓の音が五月蝿かった。体中を汗が流れ続け、目眩まで起こしそうだ。・・・だが、目の前の女性は、そんな俺にお構いなしに話を続ける。

 

「”フェイズ5”と呼ばれる程巨大なハイブになると、宇宙に向かって何か(・・)を打ち上げているよね?・・・例えばアレが、増えすぎたBETAを、違う惑星に送り込むための侵略船だったら?そうやって、どんどんどんどん奴らの存在しない惑星なんて無くなっていって、最終的には消え去るんじゃないの?」

 

 彼女の言ったことを否定したかった。でも無理だ。仮定、推論に過ぎないとは言えるかもしれない。でも、奴らは宇宙から来たんだ。そして、すでに月と火星は占領されていた。奴らがいるのは地球だけじゃ無かったんだ。それを知っている俺が、どうしてこの推論を否定出来る!?

 

「数は力なんだよ。人間なんて、他の動物と比べればスペックが低い。それなのに私たちが地球の覇権を握っていられる。それは、知恵と、そして数という武器があるからでしょ?でも、BETAには勝てない。個体のスペックで完全に負けている上に、数え切れない程に数がいる。殺しても殺しても絶滅しない、まさにゴキブリのような存在だよね。」

 

 ゴキブリなんて生易しい存在じゃない。あんな奴らより、はるかにタチが悪い。

 

「理解したかな?最初から、人類に勝ち目なんてないんだよ。仮に、今地球に居る奴らを殲滅出来たとしても、次から次へと降ってくる。私たちに出来るせめてもの抵抗は、『地球に来させないこと』しか無かったんだ。・・・まぁ、人類が滅亡するまでの時間を引き伸ばすだけなんだけどね。地球に降下させずに、宇宙空間で叩き潰す。それをやれば、確かに地球の安全は守られるけど・・・私たちも、宇宙に出ることが出来なくなる。つまり、地球の限りある資源を使い切った時が、人類の最後というわけさ。」

 

 束博士の言葉を、誰かに否定して欲しかった。そう願って周りを見たが、夕子先生もまりもちゃんも、全員が俺から目をそらす。

 

「・・・何だよそれ・・・。つまり、あの世界の戦いは・・・全部無駄だったってことか・・・?」

 

 言いようのない、深い絶望感が俺を襲った。あれだけの犠牲を出した戦いが・・・ほぼ無意味?何だそれは?どういう冗談だよオイ・・・!!!

 

「別に、無意味というわけではないよ?既に地球に居る奴らを殲滅した後で、地球全てを守る防衛線でも作ればいい。・・・まぁ、そのことにあの世界の人間が気がつくかどうかは分からないけど。”地球の敵は倒した!ヽ(*´∀`)ノワーイ。これで人類は安泰だ!”なんて考えてたら、間違いなくBETAの第三陣によって絶滅すると思うけどね。」

 

 彼女の話には、容赦というものがない。落ち込む俺を歯牙にもかけず、淡々と事実だけを突きつけてくる。

 

「まぁ、ここまでが、消極的な話。結局、なんの解決にもなっていない、ただの時間稼ぎ。人類が宇宙に進出することはなく、緩やかな滅びに向かって行ってしまう、最悪の未来の話。・・・だけどね。」

 

 そこで、彼女は俺を見つめた。その姿からは、気圧される程の気迫が漂っていた。

 

「私は、こんなところで夢を諦めたくはない。私は宇宙に行きたいの。誰も見たことがない、未知の物を追いかけたい!あんな怪物共に、私の道を閉ざされるなんて我慢出来るものか!!!」

 

「!!!」

 

 その迫力に、俺は気がつかないうちに後ずさっていた。これが、この人の本気。本性。冷徹な仮面の裏側に隠した、熱く燃えたぎる心。

 

「何のためにISを作ったと思っているの!?人類同士で戦うためじゃない!BETA(あいつら)を退けて、安全を確保して、宇宙に出るための翼として作ったんだ!!!有象無象が私の行動を邪魔さえしなければ、今頃は解決しているハズだったのに!!!」

 

 その叫びの中に、俺は聞き逃せない言葉を見つけた。

 

「今頃は解決しているハズだった?・・・ちょっと待ってくれ。どういうことだよそれは・・・!」

 

 解決しているハズだった?つまり、俺の知らない間に地球に降下していたBETAを、殲滅出来ていたハズだということか・・・!?

 

「本来の私の目的は二つ。・・・一つは、【IS】による、【地球絶対防衛網】の構築。つまり、地球に奴らが入ってくる前に、宇宙空間でトドメを指す。それによって、取り敢えず地球を守ること。」

 

「取り敢えずってなんだよ・・・?」

 

 俺の質問に答えたのは、束博士ではなく、先程から沈黙を保っていた夕子先生だった。

 

「さっきも言ったでしょ?これは時間稼ぎにしかならないの。宇宙()にいる化物が怖くて、地球()から出られなくなってしまう。でも、いつかは地球だって寿命がくるわ。・・・まぁ、それはずっと先の話だから、私たちには関係ないんだけど・・・、それでも、”資源の枯渇”という問題が浮上してくる。いつまでも引き篭っているわけには行かないのよ。」

 

「それに、そんな悠長なことをしていたら、私の夢が潰えてしまう。・・・幼い頃からの夢。それを実現させる為に、今までの人生全てをかけてきた。あいつらなんかに邪魔されたくないの。」

 

 束博士が言葉を続ける。

 

「私の二つ目の目的。・・・それは・・・。」

 

「・・・それは?」

 

「BETAの親玉に、”人類を生命体として認識させること”だよ。」

 

 その言葉に、俺は言葉をなくしたのだった。



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